問題児に紅茶、淹れてみました(休載) (ヘイ!タクシー!)
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守護者も箱庭に来るそうですよ
プロローグ


初めてですが暖かい目でお願いします

てか改めて読み直したら駄文過ぎてヤバい

少しずつ手直ししていきます。


丘の上、朝日により二つの影が射す。

 

 

side遠坂

 

「答えは得た」

 

「大丈夫だよ遠坂、オレも、これから頑張っていくから」

 

そう言ってあいつは消えてしまった。きっと、これからも救われずに、アーチャーは求められてる仕事をこなして、苦しんで、そしてまた殺すのだろう。

アーチャーはそんな事わかってるのに、それでも、あいつは私に微笑んで還っていった…。

 

ホント…負けず嫌いよね…

私のサーヴァントのままでこれからも私を支える選択肢だってあったのに…

ホント意地っ張りよあんたたち。

...いいわ、未熟者のあんたを絶対に幸せにしてやるわ。

だけど、覚えてなさい。

私はね、妥協が嫌いなのよッ。

あいつだけじゃない、いつか絶対あんたも助けてやるんだからッ。

 

 

______________

 

 

 

英霊の座に返る時、英霊たちの記憶は記録として残る。

それはどんな英霊も例外はない。

 

よって遠阪凛のサーヴァントとして戦ったアーチャー _______________真名エミヤ_______________もまた例外ではない。

 

 

一面、砂漠と化した世界

風が吹く度に砂埃が舞いこの空間をがひたすらに虚しさを感じさせる。

英霊の座ーーーーー守護者と呼ばれる世界の掃除屋によりそれほど高尚ではないーーーーーという、現世とは異なる時間軸で存在する空間にて。

遠阪 凛のサーヴァントとして戦いに参加したあの男の本体は、守護者としての役目を全うしていた。

紅い外套に紅い腰マントをたなびかせ、中に黒いボディアーマーを着た男は座していた。

 

「ふっ...答えを得た、か。

答えを得た所で何も変わらないというのに...

私は何処までも本質は変わらないらしい。」

(まあ、すでに何回も自分殺しは失敗に終わっているのだ。正義の味方を望んだ者など、結局、磨耗しながら消えていく運命、ということの方が世界のためだろう。)

そう一人呟いている。

 

「...ん?」

 

そんな時、彼の視界の端に異物が現れた。

異物というには、あまりにも異質。それは大きくなり空間の裂け目と認識できる程度になっていた。

 

「なんだ、これは...」

 

空間の裂け目はさらに大きくなり、その中から人ひとり入りそうな箱と、折られた手紙が一枚落ちてきた。

 

「...」

今までにない初めての現象に暫し硬直する。

 

暫く経って彼は近くによりその手紙を開いた。

 

____________________

 

 

 

アーチャー、私よ。あんたのマスター遠阪凛よ。

いきなりだと思うけど、私はあんたのご主人様として。

あんたをその世界から引っ張り出してやることにしたわ。

私はね、マスターとして、あんたを救い出す義務があるのよ。なぁのに私に文句も言わせずに勝手に消えやがって...

ホンッットにイラついたんだから。

だからね、私も勝手に動いてあんたに仕返ししてやることにしたの。

これは、ある手紙を解析して得た限定的な第二魔法で使えるようになって送った手紙と、

 

アーチャー。あんたの肉体をそっちに送ったわ。

 

 

 

「...............」

 

よくわからない手紙だった。

おかしな文が綴られているが、そこに書いてある話は事実。この場所に出てきた事が証明しているのだろう。

 

____________________

 

あんたの肉体、といっても別に士郎の体じゃないわ。

 

あ、もしかして欲しかった?

でも士郎は、「あいつに

身体(からだ)なんて渡したくない」、ってすごく嫌そうにしてたからごめんね。

 

 

 

「急すぎて要領をえんが…」

 

とりあえず殺るか

あの男、私をなんだと思っている。

 

____________________

 

 

まあ、色々と根回しをしてルヴィアやら、ロードやらに頼んでできた事なんだけどね。

大変だったわよ。

肉体も青崎燈子の作品を貰ったり、あのルヴィアに頼んだりして…

宝石は底をつきるわ、借りができたやらホントに…

 

あっ、今は箱、開けないでね。そっちだと現実と違うから特殊な礼装で弾かれるのをジャミングしてるんだから...

色々言いたいけどメンドくさいから愚痴を言うのは止めてあげる。

あ、今さら余計なお世話って言うのは無しね。ここまでやってあげたんだから私の好意を素直に受け取っておきなさい。

それと多分そろそろ手紙がもうひとつ来ると思うからそれ、開けなさい。ちなみに私宛だけど気にしないでね。

 

 

 

PS

 

裏切ったことと、縛って放置したこと、忘れてないから

 

____________________

 

 

 

「………ハア。」

(私がいつ救って欲しいと頼んだりしたのだ。まったく。彼女はやはり強引な所があるな。

まあ、あの紅い悪魔がここまでお膳立てしてくれたのだ。全くもって急過ぎて付いていけんが…最後が怖いが素直に受けとるとしよう。)

そう彼が考えていると、また一つ手紙が落ちてきた。

 

「開けたらどうなるか想像もつかんが…まあ、凛からのありがたい褒美だ。黙って受けよう。」

 

そう呟き、"遠坂 凛 "殿へ

と書かれた手紙を開けると

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの〝箱庭〟に来られたし』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ?」

 

気付くと彼は、上空4000メートルほどからヒモなしバンジージャンプをしていた。

 

 

 

………またか。

 

 

 

 



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2話 状況を確認しました。

がんばるよ

ちょっと会話に変なところ見つけたのと
地の文、編集しました。


 side遠坂

 

 はぁ、ちゃんと送れたかしら?

 まあ後はあの手紙を送ってきたやつにしかわからないから、なんとも言えないんだけど。

 とりあえず肉体の方も平行世界に転移したときに合わせてちゃんとアーチャーが受肉できるように、燈子に頼んだわけだし大丈夫よね。

 

 にしてもアーチャーのやつもあの身体になったら驚くわよね♪

 ザマァみなさい。

 あのスカした顔がどんなことになるか見れないのが残念だけど…

 

 …ここまでお膳立てしてあげたんだから絶対幸せになりなさいよ、アーチャー…

 

 

 あ、アーチャーにここの世界には転移しないって言ってなかったわ…

 ま、まあこれもあいつへの仕返しよね。

 それにあいつもなんだかんだ器もデカイしで許してくれそうよね。

 胸も大きくなったことだしね!

 

 …上手くないしスゴく腹が立ったわ…

 なんで今まで努力もしてなかったやつがあんな胸デカイのよ!

 ふざけんじゃないわよ!

 

 …呪われろ

 

 ____________________

 

 

(何故かわからないが寒気がしたぞ………いや、それはは置いておくとしても……凛に召喚される度に私は上空から落とされる運命なのか…)

 

 彼は落下しながらも、周りを一度観察する。

 

 眼前には見たことの無いような景色。

 視線の先に広がる地平線は、世界の果てのような断崖絶壁。

 眼下に見える、縮尺を見間違うほど巨大な都市。

 彼の前に広がるのは見たこともない異世界だった。

 

(…どこだ?ここ。私はこんな場所、というかこんな"世界"知らないぞ。…まさか、凛のうっかりで別の世界に飛ばされたのではあるまいな)

 

 ーーーーー凛ならありそうで恐い

 そう独りごちた。

 

(というか私は今"受肉"しているんだったな。………かなりの速度で落下しているが大丈夫なのか?)

 

 彼の落ちる速度は空気抵抗があるとは言え、かなり速い。普通の人間が地面に当たれば、地面に血の花ができるだろう。

 しかし、彼は英雄である。こんなことでは揺るがない。

 まあなんとかなるか、そう呟きながら腕を組もうとすると

 

 ーーーーームニュンーーーーー

 

 妙に柔らかい感触が腕に当たった。

 

「………は?」

 

 余りの事態に、一度思考を停止させる。

 もう一度確かめるように、しかし恐れながらも、手を胸に持っていき。

 モミッ

 

 …………………

 モミ…モミモミモミモミ……

 柔らか…ハッ(゜ロ゜;

 

「これは!」

 

 なんという胸筋!!

 

(いや、胸筋ないがね。嘘ついた。

 ヤバいな、なにがヤバいってキャラ崩壊してるのがヤバいんだ。作者も私が戸惑うとどーなるかわからないところがヤバいんだ。

 メタ発言するんじゃないって?

 固いこと言うなよ他の外伝なら大量にメタ発言してるだろう?

 私は見たことないがな

 

 ハッ、私は何を!

 …と、とりあえず。)

 

「同調・開始《トレース・オン》」

 

 

 ____________________

 

 

(…ふむ、見事に女性になってるな。

 魔術回路がなんか増えてるとか、とか。どーでもいいぐらいになってるな。)

 

 ……………………………………………

 

「おのれぇ、りぃぃぃぃィィィィイイィィィィイイイイイインンンン!!!!」

 

 あまりの現象に戸惑いを隠せず、落下地点に用意された多くの薄い膜が重なってできたクッションにすら気付かない。そのまま速度が減少していく。

 

 "バシャン!"という音と共に、湖の水面に五つの小さな水柱が立っていた。

 ____________________

 

 

 柱を作った四人の少年少女達。彼らは近くの陸に上がり各々が言いたいことを言っていた。

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

 美しい黒髪に赤いリボンを左右に付けた、どこか気品があるが気の強そうな美少女が言う。

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場で即ゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

 対して、ヘッドホンを付けた金髪に学ランのイケメンが発言した。

 また、もう一人の少女。ボブカットの茶髪にスレンダーでどこか大人しそうな、可憐な女の子。彼女は一緒に落ちてきた猫を助けていた。

 

「…………大丈夫?」

 

『じ、じぬがぼおぼた………!』

 

 少女は無事を確認してほっとする。

 そんなやり取りを他所に、先程の少女と少年が話のやり取りを続けた。

 

「……いえ。石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

 二人の男女は互いに鼻を鳴らして、服の端を絞る。

 その後ろに続くように、先ほどの三毛猫を抱いた少女が陸に上がり、同じように服を絞っている。

 

 そんな状況の中、エミヤはと言うと。

 

(ふむ、これが今の私か…………巨乳だぁ………)

 

 水面に反射した自分の身体を見て、悲しんでいた。

 

 ____________________

 

 服を絞る作業が終わると、各自で回りを確認し始めた。

 

「此処……どこだろう?」

 

「さぁな。まぁ世界の果てっぽいのが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?……まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。ーーー私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「……春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。次に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとうよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶暴で快楽主義者と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

「お願いしとくわ。最後に……というか、貴女もそろそろ水から上がれば?」

 

 煌めく銀髪を左右から前に少し垂らし、後ろを三つ編みでまとめた美しい女性は顔をあげた。

 ____________________

 

 

(ふむ、だいぶ混乱したが状況は把握した。奥で話してる彼女らと、手紙の内容曰くここは別世界のようだな。

 宛先が凛と言うことは、彼女に送ろうとした手紙を凛がすっぽかして私に渡したということか………なるほど、"あちらの世界"には未熟者もいるわけだからな。英霊の状態ならともかく、受肉してる状態では世界の修正を受けるかもしれないからな。正しい判断だろう。)

 

 アーチャーは状況を整理する。

 

(ただ、凛め。この身体はやつのうっかりではなく確信犯だな………赤い悪魔を怒らすと骨の髄までしゃぶられる、と言うことなのか…………言葉だけ聞くと完全に妖怪だな)

 

『ンだとこらぁぁぁ!』

 

 ビクン

 

(また、寒気が…お、恐ろしい……何故かはわからないがとてつもなく恐ろしい……。

ま、まあとりあえず、だ。遠坂 凛として呼ばれたならそう名乗らなければいけないだろうが…………そうだな、エミヤ・リン・トオサカとでも名乗っておけば良かろう。すでに外見も違うんだ。誤差の範囲だろう)

 

 そう考えていると、エミヤは、陸に上がっていた面々の一人に呼ばれた。

 

 

 



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3話 自己紹介でした。

とりまがんばる

というか、話をする時いちいち地の文に名前ぶちこまないと駄目ですかね?

編集しました。
バニーガールって適当に書いてたけど全然バニーじゃねー


「貴女もそろそろ上がれば?」

 

 そう呼ばれ、彼女は顔を上げる。

 

(綺麗な銀髪ね。話に入ってこなかったぐらいだし外国人かしら?)

 

(大きい……)

 

(年は16.7ぐらいか?)

 

 上から、飛鳥、耀、十六夜の各々がエミヤを見て思考を巡らせた。

 そんな彼等を他所に、エミヤは飛鳥からの返事を返すために口を開いた。

 

「ふむ。そう…ですね?…だね?…かしら?」

 

「いや、私に語尾を聞かれても…ほらとりあえず手、貸すから上がっちゃいなさい」

 

 そう言うと飛鳥はエミヤに手を出す。エミヤはその手を取り湖から上がる。そんな彼女は陸に上がると、紅い外套と腰マントの水気を取るために布を絞る。

 

(やっぱり外国人?でも日本語は流暢だし…服装は見たことないのよねぇ。)

 

(……なんか変な服)

 

(コスプレか?いや、似合ってはいるとは思うけど)

 

 そんな服について失礼な感想を持たれていると。

 エミヤは水気を幾分か取り除けて満足したのか、絞る作業を止めた。そのまま目の前にいる飛鳥に視線を向ける。

 

「さっきはありがとう。そうだね……君たちは自己紹介をしていたのだろう?遅くなってしまったけれど私も混ぜてもらって構わないだろうか?」

 

「ええ、いいわよ。まず私の名前は久遠飛鳥よ。で、そこの猫を抱えてる人がーーーーー」

 

「……春日部耀。以下省略」

 

「次は俺だな。逆廻十六夜だ。よろしくだお姫様。」

 

「…………ん?お姫様?」

 

 エミヤがそれぞれの自己紹介を聞いていると、十六夜から無視できない呼び方を聞いて反応してしまった。

 

「ああ、なんか世間慣れしてなさそうな感じがそこのお嬢様と似てるからな。ただ、あんたはお嬢様ってより、ホンワカしてそうでお姫様ってのがしっくり来るからな。」

 

 ヤハハと、どこか軽薄そうに笑う十六夜。

 それを見た飛鳥は嫌そうに十六夜に目を向けた。

 

「あら、やっぱり野蛮人なのかしら?初対面でこうもズカズカ言うなんて、呼び方は別にしても決め方が最低ね。」

 

 フンと、高圧的な態度を崩さない飛鳥。

 

「(…なんか私だけ)……差別。」

 

 どこかズレた感じの声を呟く耀。

 そんな彼女たちを見張る者が、物影から彼女らを鋭く観察していた。

 

「(うわぁ……なんだか一癖も二癖もありそうな問題児ばかりみたいですねぇ……)」

 

 鋭く観察している。本人は鋭く観察してると思っている。

 

 ____________________

 

 会話に参加してからエミヤは重要なことに気づいていた。

 

(くっ、口調はどうすればいいんだッ。見た目が女性になったのだから、今までのようにはいかないだろうし………幸い、一人称は日頃から私だから問題ないにしても………と言うかホンワカしているとか…く、屈辱だ!)

 

 内心荒れるも、なんとか表情には出さない彼女。

 

「まあ、お姫様云々は置いておこう。私の名前はエミヤ・リン・トオサカ。気軽にエミヤとでも呼んで欲しい、かな?」

 

 あやふやだが、全力で妥協した女言葉を用いて、フレンドリーに接しようとするエミヤ。心なしか彼女の顔が引きつってるように見える。

 彼女が名乗ったのを聞いた十六夜がそれに反応する。

 

「ミドルネームって、お姫様はハーフなのか」

 

「………名前を教えたのだから、ちゃんと呼んでほしいのだけど……」

 

「ケチケチすんなよお姫様。まあ、そんな事は置いておいてだな。」

 

(置いておくのか………。こいつは飛鳥の言うとおり野蛮人というか、問題児と言うか………)

 

 エミヤが何となくだが早くも彼の特性を理解していると、十六夜はいい加減話を進めようと進言した。

 

「とりあえず、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「………この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

「(全くです)」

 

 耀の言葉に便乗してこっそりツッコミを入れる青髪ウサ耳の少女。

 

「そんじゃ、そこでコソコソ隠れてるやつに聞こうぜ?」

 

「あら、貴方も気づいてたの?」

 

 ギクッ

 

「当然。かくれんぼは大の得意だぜ?」

 

「…風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「こう見えても、私は"眼が良い"のでね。あんなあから様に動かれたら、誰だってわかるさ。」

 

 ビクッビクッ!

 

 理不尽な招集(エミヤ:よくあることだ)を受けた十六夜・飛鳥・耀の三人は、殺気の籠った冷ややかな視線を隠れている青髪ウサ耳の少女に向ける。

 

 美しさと可愛さが合わさったような少女。赤いミニスカートと、黒いガーターソックスで美しい脚を扇情的に見せ、黒のベストのような服で、谷間を魅せるエロいボディ。

 そんなエロボデーを持つ少女は怯えながら、彼らの前に現れた。

 

「や、やだなあ御三人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んでしまいますよ?

 ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵で御座います。

 そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いて頂けたら嬉しいで御座いますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「御断りします」

 

「君たちはもうちょっと穏便にできないのかい?ああ、私は怒ってないから安心して欲しい」

 

「あっは、取り付くシマもないですね、と思ったら優しい方がいた!」

 

 バンザーイ、と降参のポーズを取りながらも少し安堵する青髪ウサ耳の少女―――黒ウサギ。

 彼女は明るく接しながら、どこか冷たい眼で四人を値踏みする。

 

(あれは此方を見定めている目だな…。その奥に…不安が見えるのは何か事情でもあるのか?)

 

 その状況で、値踏みする視線に気付いたエミヤもまた、そんな彼女に対して考えを巡らせていた。

 

 

 



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4話 もうルールめんどくさいんでダイジェストでした

 彼女が思考に耽っていると。

 

「えい」

 

「フギャッ」

 

 耀が黒ウサギの背に忍びよりその可愛らしい耳を引っ張っていた。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

 そう言って、今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。

 

「………じゃあ私も」

 

「ちょ、ちょっと待―――!」

 

 今度は飛鳥が左から。左右に力一杯引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。

 そんな黒ウサギは、考え事をしているエミヤに助けを求めた。

 

「そ、其処の方、助けて欲しいのです!!」

 

「……む。ああ、すまない。少し呆けていた。ハァ………君たち、いい加減にしたらどうだ?」

 

 そう言って黒ウサギの耳を掴む手を離して(十六夜と耀はガッチリ掴んでいたのではたき落として)、黒ウサギを抱くと、その場から跳躍して離れた。

 

「おいおいお姫様。俺たちの耳を横取りするなよ。」

 

「いつから貴方たちの耳になったんですか!?」

 

「ふむ。そうは言ってもだね、十六夜。君は仮にも男なのだからもっと丁寧に……というか、異性相手に軽々しく触れるものではないよ」

 

「やだね」

 

「そうです。そう、って即答!?こ、この問題児様ぁ!」

 

 黒ウサギは涙眼で叫ぶ。

 そんな悠長に突っ込みをいれている彼女に、エミヤは助言をした。

 

「黒ウサギ、君も早く説明を始めるのお勧めするよ。早くしないとまた襲ってくるぞ。現に耀と飛鳥は既に左右から迫ってきてる。」

 

「ひっ!言います言いま「貰ったぁ!」「させるか!」うぎゃぁぁぁ。」

 

 黒ウサギの悲鳴を聞きながら突進する十六夜に、回避するエミヤ。

 

  「言いますから!説明しますからハイ、ストップ!!」

 

 そう言って黒ウサギの声が響いた。

 ____________________

 

 黒ウサギはこの世界のルールなどを説明し始めた。

 エミヤは、腕の中にいる黒ウサギの話を聞きながらその説明を簡潔に頭の中で整理していた。

 

 

 〝ギフトゲーム〟。それは特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた〝恩恵〟を用いて競い合うためのゲーム。

 〝箱庭〟の世界とは、強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク(あまり重要ではないが)生活出来るために造られた舞台ステージ。

 そしてこの〝箱庭〟で生活するにあたっては、数多とある〝コミュニティ〟に属さなければならない。

 〝ギフトゲーム〟の勝者は、ゲームの〝主催者ホスト〟が提示した賞品を手に入れることが出来る単純シンプルな構造というものだった。

 その〝主催者〟は様々で、暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもあるらしい。

 

 前者は、自由参加が多いが〝主催者〟が修羅神仏なだけあって凶悪且つ難解なものが多く、命の危険もあるが、その分、見返りは大きく〝主催者〟次第だが、新たな〝恩恵ギフト〟を手にすることも出来るという仕様。

 後者は、参加のためにチップを用意する必要があり、参加者が敗退すればそれらは全て〝主催者〟のコミュニティに寄贈される仕組みシステムがあるそうだ。

 

 チップは様々で、金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭け合うことも可能。但し、ギフトを賭けた戦いに負ければ自身の才能も失ってしまう。 ゲームの始め方は、コミュニティ同士のゲームを除けば、其々の期日内に登録すれば可。商店街でも商品が小規模のゲームを開催しているらしい。

 この〝箱庭〟の世界でも強盗や窃盗は禁止、金品による物々交換も存在する。ギフトを用いた犯罪などはNG。そんな不逞な輩は悉く処罰される。

 だが、〝ギフトゲーム〟の本質は真逆で、一方の勝者だけが全てを手にする仕組みシステム。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能。

 但し、〝主催者〟は全て自己責任でゲームを開催しており、奪われたくなければゲームに参加しなければいいだけのことと言うわけだ。

 

 ____________________

 

 

 

(これだけ聞くと、実に平和的なのだが……多分、あまり強くない恩恵を持つ者や役に立たないと判断される者は、コミュニティに入れて貰えない、又は差別の対象となる実力主義の世界なのだろうな。

 現に黒ウサギも何かを隠すように説明しているからな……まあ、それもまたどこも一緒か)

 

 そうエミヤが箱庭のシステムについて思考していると。

 

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界に於ける全ての質問に答える義務が御座います。

 が、それら全てを語るには少々御時間が掛かるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。

 ここから先は我らのコミュニティで御話させて頂きたいのですが………宜しいです?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ。」

 

 静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。

 

「………どういった質問です?ルールですか?ゲームですか?」

 

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問い質したところで何かが変わるわけじゃねえんだ。

 世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。

 俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

 そう言って、十六夜は視線を黒ウサギから外し、飛鳥・耀・エミヤの順に見回し、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。

 そして彼は何もかもを見下すような視線で一言、

 

「この世界は………面白いか?」

 

 それに黒ウサギは笑顔で答えたのだった。

 

「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加出来る神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証致します♪」

 

 

 



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5話 箱庭インしました(嘘)

 そうして黒ウサギの話は終わった。

 

「ところでー……庇ってくれたのは嬉しいのですがぁ……」

 

 話し終わると、黒ウサギはしおらしくエミヤに語りかけた。

 

「そろそろ離して欲しいなぁーと思いまして……ああ!別に貴女様とくっついているのが嫌とかではごさいませんよ!むしろとても柔らかなものが頭に押し付けられて気持ちいいと言うか……心が落ち着くと言うか……白…様の気…が…………できたというかぁ…」

 

「ああ、すまないね。忘れていたよ。君の抱き心地がとてもよくて。つい……ね。」

 

「いえいえ!滅相もございません!またいつでも抱いてくれて構いませんよ!!ええ!」

 

 黒ウサギが叫んだ。それを聞いて自己解釈した問題児たちは、

 

「黒ウサギ(淫)ね。」

 

「エロウサギだね。」

 

「いやいや、エロウサギ(淫)だろ」

 

「だまらっしゃい!!」

 

(いや、君のその遊び人ような格好もどうかと思うがな)

 

 そう言って煽り始め、黒ウサギの突っ込みの叫びが周囲の森にこだました。

 

 ____________________

 

 

 その後一段落黒ウサギが興奮した状態から冷め、一同は黒ウサギの案内のもと、箱庭に向かっていった。

 

 

 森の中を進む道中。

 

「おい、お嬢様たち。俺はちょっくら世界の果てまで行ってくるから。止めてくれるなよ。」

 

「ええ。」

 

「わかった。」

 

 そう、十六夜が言い放った。

 黒ウサギは上機嫌で前を歩いて気づいていない模様。そんな十六夜と黒ウサギを交互に見るとエミヤはどうすればいいか迷った。

 

(十六夜を止めるのは悪いし、黒ウサギに言えば止めるだろうしな……さて……)

 

「十六夜。私も一緒に行こう。なに、別に監視しようと言うわけじゃないよ。ないとは思うが、君が黒ウサギたちと合流できないときのために "眼"は必要だろう。それと、二人は黒ウサギに伝えといてくれると嬉しい。」

 

「ああ、別に俺はいいぜ。」

 

「わかったわ」

 

「うん」

 

 十六夜は付いてくると言ったエミヤに了承し、残った二人はどこか興味無さそうに返事した。

 

「んじゃぁ、行くかお姫様。ちなみに俺は相当速いがついて来れるのか?それとも運んでやろーか?」

 

 そう言って十六夜は軽薄そうに手をワキワキさせてエミヤに尋ねる。

 

「安心して欲しい……とは言ってみたが、一応身体の調子を確認したいのでね。少し手加減してくれると嬉しい。」

 

 そう言ってエミヤは、十六夜のセクハラ発言に拒否の意思を返した。

 

「そうか。まあいいや。少し手は抜いてやるが…遅れんなよお姫様!」

 

 そう言って十六夜はコミカルな音とは裏腹に地面を足で砕き、飛んで行った。

 エミヤも彼に引き離されないよう、力強く地面を蹴って移動するのだった。

 

 

 ____________________

 

 森を抜けた世界の果て近くの川の周辺にて、エミヤと十六夜は立っていた。

 

「十六夜、君はかなり速いな」

 

「そーいうお姫様もな。なんだ?それがお姫様のギフトに関係あるのか?」

 

「そうではないよ。いや、貰ったという意味ではそうかもしれないが、まあこの身体そのものの能力さ」

 

「へぇ、詳しいことは知らんがギフトはまた別ってことか?抑えたとは言え俺の速度に着いてこられるなんて相当だな」

 

「そういう君のそれは、ギフトなのかな?」

 

「まあ、厳密には違うがそれの一端てところだな。」

 

「ほう」

 

(英雄並の速度と先のあの力がその一端か……十六夜は英雄の域に片足を突っ込んでるかもしれないな…………と言っても経験不足なので、片足程度だがな)

 

 エミヤはそう分析していると

 

「見つけましたよぉ!」

 

 先程の青髪が、急に緋色の髪に変わった黒ウサギが、憤怒の形相と共にエミヤ達が通ってきた森から凄い勢いで飛んで来た。

 

「あれ?黒ウサギ髪色ちがくないか?」

 

「ふむ……蒼かったあの髪もとても似合っていたが、その朱色もとても君に似合っているよ、黒ウサギ」

 

「あ、ありがとうございます………じゃなくて!何処まで来てるんですか!」

 

「世界の果てまで来てるんですよっと。そういえば黒ウサギ、お前もなかなか速いな。なんだ?箱庭の住人はみんなそうなのか?」

 

「い、いえ!箱庭広しといえど黒ウサギに勝る脚力を持つ生物は中々いないのですよ!」

 

「ふーん。道理で良い脚してると思ったぜ。」

 

「………黒ウサギ。彼は変態だ。気を付けなさい。」

 

「オイコラオヒメサマ?誰が脚フェチだ。どっちかっていうと俺は胸の方がだな………」

 

「やはり変態じゃないか。…こら、胸を触ろうとするんじゃないこの馬鹿が。」

 

 バシッという音と共にエミヤの手が十六夜の手をはたき落とした。

 

「ちっ」

 

 アホな会話をしているがその実、エミヤは内心では黒ウサギを誉めていた。

 

(多分、あの様子だと飛鳥と耀は箱庭に着いてから私たちの事を話したと思うが……それを考慮すればこの短時間で私たちを見つけ出すのは凄いな。獣のごとき敏捷さ。純粋な速さだけで言えばランサークラスの速さか………)

 

 そう黒ウサギを評価した。

 

「ま、まぁ、十六夜さんとエミヤさんが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んでしまったかと思って肝を冷やしましたよ。」

 

「水神?」

 

「ーーーああ、アレのことかな?」

 

『まだ……まだ試練は終わってないぞ、小僧共ォ!!』

 

 川の水面で横たわっていた、身の丈三十尺はある巨躯の大蛇が勢いよく飛び出してきた。それは彼女の言う水神だった。

 

「水神……!ってどうやったらこんなに怒らせられるんですかお二人とも!?」

 

「いや、ここに着いたら急に出て来て『試練』がどうとか言い出したから、俺を試せるかどうか試させてもらった……まぁ、結果は大したことなかったがな」

 

「私が何かする前に十六夜が倒してしまったのさ」

 

『貴様ら……付け上がるな人間!我がこの程度で倒れるか!!』

 

 蛇神の甲高い咆哮とともに、巻き上がる風が、川の水を大量に吸い込むかのごとく、水柱を上げて立ち昇る。あの大量の水でできた荒れ狂う水流に巻き込まれたら最後、普通の人間ならば容易く千切れ飛んでいくだろう。

 

「十六夜さん!下がって下さい!」

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺らが売って、アイツが買った喧嘩だ。部外者引っ込んでろよ。」

 

 そう十六夜は傲慢に似た面持ちで宣言した。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様らの勝利を認めてやる』

 

「寝言は寝て言えよ駄蛇。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者が決まって終わるんだ。」

 

(俺、ら?)

 

 私はもっと穏便に事を構えるつもりだったのだが…

 当事者たちが盛り上がっている中、エミヤは独りごちる。

 

『フンーーーその戯言が貴様の最期だ!』

 

 蛇神の雄叫びに応えて嵐のように川の水が巻き上がる。

 竜巻のごときその水柱は蛇神の背丈をも超えてなお高く舞い上がる。

 竜巻く水柱が三本。

 それぞれがまるで、化物が他を補食するかのように十六夜に襲いかかる。

 

「十六夜さん!」

 

 黒ウサギが叫ぶ。その時、黒ウサギと蛇神は十六夜が粉々になるのを幻視する。

 しかし

 

「はっ、しゃらくせぇ!」

 

 そう言い放って、十六夜は竜巻く激流の中、ただの腕の一振りで嵐をなぎ払った。

 

「嘘!?」

 

『馬鹿な!?』

 

「ほう」

 

 驚愕する二つの声と、感心するような声が一つ上がる。

 それは最早人智を超越した力だった。

 

「むっ」

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

 大地を砕くような爆音。地面を蹴って勢い良く胸元に飛び込んだ十六夜は、そのまま蛇神に蹴りを放った。

 それが当たれば、例えこの大蛇さえブッ飛ばされそうな威力のある蹴りだった。

 当たれば、のはなしだが。

 

「十六夜。この神は先の攻撃を防げば勝利を認めると言ったんだ。それにこの神も既に戦意は無い。」

 

 その瞬間、エミヤも同時に十六夜の目の前に接近し、彼の蹴りを鋭い蹴りで弾きながら言い放った。

 

「あん?邪魔すんなよオヒメサマ?これは俺の喧嘩だ」

 

「君はさっき"俺らの"と言ったはずだが?それに先に一撃いれたのは君だ。そして、この神も一撃のみと言ったんだ。フェアではないだろう?…………それとも、君は相手の戦いに合わすことが出来ないほど自分に自信がないのかな?」

 

 そう言ってエミヤは、美しい銀髪をたなびかて、不敵に微笑んでいた。

 

 

 




あれだね。
問題児っぷりを出す会話がわかんない

ちなみにエミヤさんはこのまま常識?人で行こうかと。

まあ、たまにキャラ崩壊させたいのですがw


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6話 水神さまは褒美を与えた


話が進まない…


てか一行の空きが凄い目立ちますねええ。

改善しましたがおかしかったら言って欲しいです。


十六夜は彼女の言葉で一時的に止まっていた。

 

(単なるお人好しが喧嘩に止めようとした、という構図だが……へえ、これは俺を試しているのか?いや、試すというよりは見極めてるってとこか………オヒメサマの発言を鵜呑みにするのは気にくわないが……)

 

プライドを煽るのが目的なんだろ、と。彼の持ち前の頭脳で相手の発言を冷静に理解する。

 

(手加減したとは言え、あの一撃を止める"ギフト"に、強かなこの性格。……面白いな。)

 

そう考えて彼は臨戦態勢を解いた。

 

「…いいぜ。この喧嘩はやめだ。確かに俺だけ二回も攻撃するのはフェアじゃない。」

 

「そうか。君もそれで構わないか?水神よ。」

 

『あ、ああ………そ、そうだな。見事、ゲームをクリアした貴様等に褒美をやろう。受け取れ。』

 

蛇が偉そうな言葉を言い放つと共に、"水樹の苗"をエミヤに渡した。

 

『では、さらばだ』

 

そう言い放ってすごすごと水中に帰っていった。

 

____________________

 

 

黒ウサギは放心していた。

先の一撃を防いだ十六夜と、その力で蹴り上げようとした一撃を、大気を震わせるほどの蹴りで弾いたエミヤに驚きを隠せなかった。

 

そんなアホ面を晒していても美人に代わりないことを、己の顔で実現させている黒ウサギに、忍び寄る影が。

 

「おい、どうした?ボーッとしてると胸とか揉むぞ?」

 

「えっ、きゃあ!」

 

「止めなさい、戯け者」

 

黒ウサギの胸に迫っていた魔の手を、エミヤがはたき落としていた。

それに気づいた黒ウサギは何処からともなく出したハリセンで頭を叩いていた。

 

「なっ、ばっ、このお馬鹿様!

二百年守ってきた黒ウサギの貞操にキズをつけるおつもりですか!?」

 

「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい。」

 

「このお馬鹿様ぁぁぁ!!」

 

(おお、"射殺す百頭《ナインライブズ》"もかくやの連続技だ)

 

黒ウサギは突っ込みと同時にハリセンを振るう。

____________________

 

 

その後、エミヤは落ち着いた黒ウサギに苗を見せた。

すると、

 

「やりました!"水樹の苗"を貰えるなんて!これで水不足も解決です!」

 

うきゃーー!と叫び嬉しそうにはしゃぐ黒ウサギ。

 

そんな黒ウサギとは対照的に、不機嫌そうになる十六夜。

 

「な、なんですか十六夜さん?怖い顔をされていますが、何か気に障りましたか?」

 

「……別にィ。なんかお姫様に良いところ持ってかれたとか思ってないぜ。まあ、そんな事は置いておいてだな。黒ウサギ。」

 

一転、十六夜の表情から軽薄なものが消え、ひどく真剣なものになる。

 

「オマエ、何か決定的な事をずっと隠しているよな?」

 

「……なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」

 

そこにエミヤが割り込む。

 

「なら、君たちのコミュニティのことも教えてくれるのかな…例えば、今のコミュニティの現状とか。」

 

彼女の言葉に黒ウサギは一瞬で青ざめる。

 

「な…何故、それを………」

 

「やはりな。てか、お姫様も気付いてたのか。」

 

「まあ、あれだけ明らさまなら気付かない方がどうかしているわ………(あれ?今私は"わ"って言った?えっ?ドユコト!?)」

 

だが、さっきまで真剣な態度でいた彼女は自分の素の発言を聞いて勝手に戸惑い始めた。

 

彼女をおいて話は続いてしまった。

 

「まぁ俺はほぼ勘だが、黒ウサギのコミュニティは弱小チーム、もしくは故あって衰退している。だから俺達を呼んで、組織の強化を図ろうとした。………そう考えれば、黒ウサギがどこか必死になるのもさっきの喜びようも合点がいく」

 

「っつ!」

 

「そしてそれを隠してたってことはだ。俺達にはどのコミュニティに入るのかを自由に選ぶ権利があると判断できるんだが、その辺どうよ?」

 

「………」

 

「沈黙は是、だぜ。黒ウサギ?この状況で黙りこんでも状況は悪化するだけだ。俺達が他のコミュニティに入ってもいいのか?」

 

「や、だ、駄目です!いえ、待って下さい!」

 

「おう、待ってやるから、さっさと話せ。」

 

その言葉を聞いて躊躇いがちにだが、黒ウサギは十六夜に決心した表情を向ける。

 

「………話せば、協力していただけますか?」

 

「ああ。面白ければな」

 

「…わかりました。この黒ウサギが精々オモシロオカシクコミュニティの惨状をお話ししましょう。」

 

そう言って黒ウサギは放心してるエミヤに気付かず話始めた。

 

____________________

 

黒ウサギ、説明中

 

____________________

 

未だ隣で話している二人を置いてエミヤ混乱を続けていた。

 

(くっ、これが体に引っ張られていくと言うことか!?

いや、と言うよりこれは……呪い、か?………またか、またなのか凛!しかも………これは………価値観や口調が身体に引っ張られつつも男性視点が失われないビミョォォォに嫌な呪いじゃないか!これは故意なのか?それともうっかりなのか?………クソっ、どちらにしてもだ!!地獄に落ちろマスターッ!!!)

 

____________________

 

 

「と言うことでございますですよ…」

 

「ふーん………コミュニティは魔王により誇りもメンバーも何もかも奪われ衰退。しかも黒ウサギは仲間が戻ってくる場所を守りたいためにも、その"ノーネーム"という状態でのせいで仲間が集まらない。コミュニティでゲームができる存在は二人。その現状で復興させる……か。崖っぷちだな♪」

 

「ホントですねー♪」

 

エミヤが気が付くと話はほぼ終わっていた。ちょうど十六夜が話をまとめていたようだ。

 

 

 




ちょっとずつエミヤさん体に引っ張られていく

コミュニティの現状をもっと詳しく知りたい人は他の人の作品見て欲しいですね。


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7話 やはり正義の味方でした。

今までの話全部編集しました。
内容事態は変わってませんが、めんどくせーなーって思って本作のセリフ部分コピーしてたらスゲー変なことになると気づいてやめました。

あと地の文強化してみたのでぜひ読んでくれれば。
変なとこや、表現力が足りないなと思ったらまた修正していきます。




「おっ?やっとお姫様復活したか?真面目そうなのにやっぱりどこか抜けてるな。」

 

ヤハハと軽薄そうにした様子で笑う十六夜。それに反応したエミヤは申し訳なさそうに言った。

 

「…すまない。少し思うところがあったのでね。もう大丈夫だ。」

 

「少しどころじゃなかったがな。まあいいや、お姫様。

話は戻すが、実は黒ウサギのコミュニティが昔、東側最大の勢力を持っていたそうなんだが…箱庭にいる魔王様とやらがもってる"主催者権限"って言う物でな、ゲームを強制させられて負けたらしい。

そして人員とそのコミュニティの誇りである"名"を奪われ、マシな連中がコイツと後一人しか残って無いんだってよ。」

 

そう言って十六夜はエミヤに黒ウサギのコミュニティの現状をまとめて言う。

 

「そこで俺達が呼ばれたってわけだ。俺達はコイツの仲間達を全員集めつつ、魔王様をぶっ飛ばそうすのが役目ってことだ。

シンプルで実にオモシロそうじゃねーか?」

 

十六夜はとても楽しそうに言い放った。それを聞いた黒ウサギは驚き声をあげて十六夜に聞き返した。

 

「い、十六夜さん!今、仲間を集めるのに協力してくれると言いましたか!?」

 

「ああ言ったぜ。それともなんだ、俺なんて別に要らねえってか?失礼な事言うと本気で余所行くぞ。」

 

「だ、ダメですダメです!十六夜さんは私たちに必要です!」

 

「おう、素直でよろしい。………ところでだが黒ウサギ。さっきまであんなバカみたいに喜んでいたが、それなら何で自分で倒しに来なかったんだ?お前の方がかなり強く見えるが。」

 

ウキャーーって言ってたぞ、お前?

そう十六夜が聞くと顔を赤くして反応してしまう黒ウサギ。

 

「わ、忘れてください!…そ、そうですね。それはウサギ達が"箱庭の貴族"と呼ばれる事に由来する、特権を持ってるからです。ウサギ達には"主催者権限"と同じく"審判権限《ジャッジマスター》"があり、ゲームの審判を勤める事ができるのです。」

 

えっへん!という音が黒ウサギから聞こえそうなほどに胸を張る彼女。

 

「…やはり、お姫様と黒ウサギがタメを張る感じか。」

 

「へッ?………てどこを見てやがりますかお馬鹿様!」

 

「胸だ。」

 

「だまらっしゃい!!」

 

そう言って何処からともなく出されたハリセンが神速の速さで十六夜の頭を襲う。そして手から消えるハリセン。

 

「(さっきから気になっていたが何処から出しているんだアレ。そしてなぜハリセンを持っている…………)

十六夜。話を脱線させないで欲しいのだけど。」

 

彼女が万人から弄られる生粋の"箱庭貴族(笑)"と言われる由縁のせいで、ハリセンを持つ理由をまだ知らないエミヤは疑問に思いながらも話を戻しにかかる。

 

「そ、そうですね。話を戻しますよ十六夜さん。………それでですね。ゲームの審判勤めた場合、主催者と参加者は絶対にギフトゲームのルールを破ることができなくなり……いえ、正しくは違反者がその場で敗北します。」

 

「ってことは、ウサギと共謀すればギフトゲームで無敗にできるのか?」

 

「違います。そこまでうまい話なんてありません。ルール違反=敗北なのです。ウサギの眼と耳は箱庭の中枢に繋がっており、違反者が出た瞬間、ウサギ達の意思無関係に敗北が決定してチップを取り立てることができるのです。それも無理に判定を揺るがすと……」

 

「揺るがすと?」

 

「盛大に爆死します。」

 

「まじか。爆死か。」

 

「それは…見たくないな…」

 

ウサミミ美少女の爆発死は、全うな人間ならトラウマものだろう。さらに、黒ウサギの説明により審判権限の代償による縛りが明かされていく。

 

 

一つに、ギフトゲームの審判を務めた日より15日間はゲームに参加できない。

二つ目に、"主催者"側から認可を取らねばゲームに参加できない。

三つ目に、箱庭外にて行われるゲームに参加できない。

 

 

他にも色々あるが、蛇神に挑戦できなかった主な理由がこれらの条件らしい。

 

「なるほど、それで参加できなかったのね。」

 

そう納得するエミヤ。

 

「ふーん。理由はわかった。それで?それを聞いたお姫様はどうするんだ?」

 

そう言ってエミヤに話をふり、期待と興味、それと共にどこか確信したような表情で顔を彼女に向ける。

 

「そうだな………まず、世界の果てとやら行かないか?

そもそもの目的をさっさと果たした方が良いと思うけど」

 

そう言って十六夜達を促すと、彼女は世界の果てにある滝ーーーーートリトニスの大滝に向けて足を進めた。

 

____________________

 

川辺を人間には真似できない速さを平気な顔をして走る。まだ決めていないのかと思った黒ウサギは十六夜に話を振るう。

 

「十六夜さん。一つ質問があるんですけどいいですか?」

 

「んー?なんだ?」

 

「十六夜さんはどうして黒ウサギ達のコミュニティに入ることを決めてくれたんですか?」

 

「ああ、それはな…そっちの方がロマンを感じたからだ。ぶっちゃけ、さっきまで忘れてたが"世界の果て"を見たいってのもそこにロマンを感じたのが理由だな」

 

俺は快楽主義者だからな。

そう呟いて、ヤハハと笑うと、話をつづけた。

 

「元の世界には俺を満足させる物は殆ど堀尽くされていたんだよ。だからこの世界になら"俺並みに凄い物"があるかもしれないと思ったのさ。俺は生きていくのに感動がある程度必要なんでな」

 

「な、なるほど…」

 

「流石十六夜だな。私には真似できんよ」

 

「そういうお姫様はもういいのか?ま、最初から決めてますって顔してるが」

 

そう言ってエミヤに面白そうな顔をする。

 

「まあ、そうだな。私の意見は最初から決まっている……む、そろそろ着くようだぞ。」

 

そう言ってエミヤは持ち前の眼で河の終わりを視認する。

 

「お、まじか。先行くぜ」

 

そう言って十六夜は地面を凹ませ、さらにスピードを上げて瞬く間に滝にたどり着いた。

「おお……すげぇな。」

 

「これは……」

 

円形に広がったトリトニスの滝は、先ほど通ってきた大河や他の川がすべて合流して、大瀑布さながらに流水が河口へと投げ出されていた。

跳ね返る大量の水飛沫は、夕焼けによって眼下に広がる視界を朱色の霧で幻想的に染め上げる。

滝の向こうは彼方まで広がり、エミヤの眼をもってしてもその視界に赤く染まった雲以外移さない。

 

「どうですか?横幅約2800メートルもあるトリトニスの大滝です。このような滝は見たこともないのでは?」

 

「…ああ、俺の世界でもここまでのは流石になかったぜ…」

 

十六夜は茫然自失という言葉が似合いそうなほどに"世界の果て"を見る。それを観察した黒ウサギは、エミヤにも顔を向ける。

 

「エミヤさんもどうですか?」

 

「…………そうだね。これ程の滝は、世界中を旅していたが見たこともないよ……。いや、見ていたとしても私は何も感じることはなかっただろうけど………」

 

女言葉になっている事にも気付かずエミヤも呟く。

 

「そうだね………長いこと"感動する"という行為を忘れていたけど、それを思い出させる程にこの滝は凄いよ」

 

(まあ記録とはいえ、最後に記録したのがあの男との戦い、というのがそれを後押ししてるのかも知れないけどね。)

 

ーーー時間をかけずにこの世界に来れたのが良かったのかも知れない。

そう考えていると、先の言葉を聞いた十六夜がエミヤに興味深そうに聞く。

 

「それじゃあお姫様はここに来る前は何をしていたんだ?」

 

「そうだね…」

 

(ここでなら、世界の掃除屋と皮肉を込めた言葉を今までの私なら吐き出すのだろうけど…)

 

思い起こすのは、磨耗してなお色褪せない記憶。蔵の中で会合した神秘。煌めく金髪に、その存在を表すかのごとく際立つ青。凛々しくも強く輝く姿をした、美しい情景を思わせる彼女。

この滝を見ても、優るとも劣らないと思わせる、セイバーとの出会い。

全て繊細に思い出せる、エミヤシロウを形作った一つの光景だ。

 

「そうだね。これは黒ウサギのコミュニティにも関係するのだけど、私は正義の味方をしていたの。私は困っている人を見ると助けたくなってしまうバカでアホで未熟な性格をしていたのさ」

 

その性格で成ってしまった、今まで守護者として殺してきた過去を噛みしめ、哀愁の感じる表情で言うが、

 

「だからね、黒ウサギ。これは同情と思われて仕方ないのかもしれないけど、それでも私は貴女達を助けるためにコミュニティに入ると決めたよ」

 

最後には黒ウサギに対して彼女は微笑んだ。

それを見た黒ウサギは、感情が昂ったのか頬を染めると勢い良くエミヤに抱きついた。

 

「…ホントでございますか?嘘じゃないですよね!?やったー!凄く凄く嬉しいです、エミヤさん!!」

 

その表情は、とても純粋な笑みが浮かばれていた。

 




かつて何話も続けてここの蛇神登場シーンを書いた作家は居るだろうか…
まあ、1ページの文字数が少ないせいなのだけれども。

今回は普段より多めに書いてしまいました。


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8話 箱庭インして白夜叉登場!

大分執筆の仕方がないわかってきたようなぁ、わからないようなぁ。そんな感じです。
ぶっちゃけ本文確認しないせいですね、ハイ。


所変わり、急ぎ帰って来た黒ウサギ達は箱庭内の噴水広場で合流していた。その場で黒ウサギがジン達に何か変わったことは無かったか聞いた時、それは説明された。

 

「な、なんであの短時間で"フォレスト・ガロ"のリーダー相手に喧嘩を売る状況になってるのですか!?

しかもゲームの日取りは明日!?しかも敵テリトリーの中で戦うなんて!一体どういうつもりですか三人とも!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。反省はしてます。」」」

 

「黙らっしゃい!!」

三人の息を合わしたような返事に激怒する黒ウサギ。

それを見て何が面白いのか、ニヤニヤする十六夜と、我関せずの態度で見ているエミヤ。

「別に良いじゃないか。別に見境なく喧嘩売った訳じゃないんだし。」

「十六夜さんは面白そうだから良いかもしれませんけど

、この"契約書類"を読んでください!」

 

そこには、ゲームのチップと商品が書かれており、内容曰く。

参加者《プレイヤー》が勝利した場合、主催者《ホスト》は参加者側が言及した全ての罪を認め、箱庭の法の下、罰を受ける。

主催者が勝利した場合、参加者は罪を黙認する

と、書いてあった。

「確かに時間はかかりますけど、彼らの罪は必ず暴かれます。その…子供達はもう…」

そこまで黒ウサギが話すと、今まで話に参加していなかったエミヤが代弁した。

「その子供達は既に殺された後。そこを責めれば必ず此方が勝てる、か。

まあそうだな。此方に直接的なリスクが無かったとはいえ、わざわざこんな事をしなくても良かっただろう。

それに、だ。ジンくん。」

そう言ってエミヤはジンを呼び掛けた。

 

「は、はい。何でしょう?」

「今回は此方にリスクが無かったから良かった物の、君達が最初に景品を相手に提示させて喧嘩を吹っ掛けたんだ。

それはこの世界のルールだと、吹っ掛けられた相手が好きに此方のチップを決められるという事で良いはずだ。それを、リーダーである君は考えなかったのか?」

「そ、それは…」

エミヤはその美貌のまま眼を鋭くして、ジンを見る。

「十六夜曰く、マシな者が黒ウサギともう一人居ると聞いていたんだが…これは宛が外れたか?」

 

それに対して黒ウサギはエミヤに注意する。

「エ、エミヤさん!ジン坊っちゃんはまだ10を越えてそんなに経ってないのですからもっと優しく…」

「だけどね、黒ウサギ。このコミュニティのリーダーはジンでしょ?なら、甘やかしてはいけないんじゃないかと思うけど。

それに、普段"コレ"がコミュニティの方針を決めているんだろう?」

 

そう言ってジンに視線を向ける。

「…普段は黒ウサギが参謀役をしてその方針を僕が決めています。」

「しかし、今回は独断だ。これで相手が此方を"黙らせるために全員殺す"という負けた時の条件を出してきたらどうするのだ?」

そう鋭く言い放っつ。

 

「しかも、相手がルールを決められるという不利なこの状態でだ。確かに二人のお蔭で勝ち目があるとは言え、もしそのアドバンテージが無くなるようなゲームを出された場合。

私達は君の軽はずみな決定で死ぬのだが。」

そう言ってエミヤは生前、鷹の眼と呼ばれたその瞳でジンを射ぬく。その眼力に加え、あったかもしれない可能性を考え、顔を青くし怯んでしまうジン。

 

「あう…」

「エ、エミヤさん…その辺でもう…。そ、それに十六夜さんとエミヤさんがいれば"フォレスト・ガロ"相手なら楽勝でしょうし!」

そう言って黒ウサギは努めて明るく言い放った。

 

「あん?何言ってんだ黒ウサギ。俺は参加しねーぞ?」

「私もよ、黒ウサギ。今回はリスクが無いのだし、リーダーの成長を少しでも願って参加しない。」

「そうね。当たり前だわ。これは私達が売って、相手が買った喧嘩だもの。」

二人は黒ウサギの弁に否を唱え、飛鳥は微塵も負ける気がしないとでも言ってるように答えた。

 

「そ、そんな!エミヤさんはわかりますけど、でも、御二人は仲間なのだから。」

「さっきお嬢様が言ってたろ?コレはコイツらが売った喧嘩だ。横槍を出す無粋な真似は俺のポリシーに反するんでな。」

「私も、十六夜に同意するよ。それに…ここまで悪条件で勝つ気でいるんだから。喧嘩を売った本人の手腕を見ないとコレから先安心できないわ。」

「なら、二人に見せて上げるわ。勝利の白星ってやつをね♪」

そう言って二人に不適な笑みを向ける飛鳥。

 

「…もうお好きにどーぞです…。」

そう言って黒ウサギは肩を落とした。

 

____________________

 

コホンと咳払いをした黒ウサギは、全員に切り出した。

「そろそろ行きましょう。本来なら色々と歓迎する予定でいたのですが…今日はお流れになってしまいました…」

それを聞いて、全く悪びれもせずにいる十六夜と、本気で焦るエミヤの対称的な図が出来上がった。

 

「ああ、すまない黒ウサギ!そんな事があるとは露知らずに…」

「別に良いのよエミヤさん。黒ウサギに無理をしてまで

歓迎されるとわかったら素直に喜べないわ。」

それを聞いた黒ウサギは頭を下げた。

「申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが……」

「もう気にしてないから良いわ。」

「私も気にしてないよ。黒ウサギ。」

飛鳥と、耀は黒ウサギにそう言って慰めた。

「ありがとうございます御二方様!」

それを聞いていたジンは、黒ウサギに今後の行動をどうするか提案を求めた。

 

「それじゃあ今日はどうするの?」

「あ、ジン坊っちゃんは先にお帰りください。

ギフトゲームが明日あるので皆さんの鑑定をしに"サウザンドアイズ"に行こうかと。」

 

それを聞いたエミヤ達四人は首を傾げる。

「どこだ、そこ?コミュニティなのか?」

「YES。サウザンドアイズは特殊な"瞳"をもつ者達の群体コミュニティ。箱庭東西南北・上層下層のすべてに精通する超巨大コミュニティです。

皆さんの力の正しい形を把握した方が、引き出す力の大小も変わってきますし。皆さんも自信の力の正体は気になるでしょう?」

 

そう言って黒ウサギはサウザンドアイズが在るであろう道に向けて歩き始めた。

四人は思うところもあるだろうが、特に反論する材料もなく、黒ウサギに付いていく。

 

____________________

 

彼らは、現代でいう少し昔のヨーロッパの文化が根付いたような建物で囲まれた道を歩く。脇には、桜が満開に咲いた時に似た花を咲かせる木が綺麗に植えられていた。

 

「これは…桜の木?でも今って真夏よね?」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ?気合の入った桜があってもおかしくないだろ。」

「……?今は秋だと思うけど?」

「すまない耀。此方に同意を求められても、私は季節がわかる状況では無かったから困ってしまうのだけど…」

「そうなの?でもコレはどういう事なんだろ?」

3人が噛み合わない現状に首を傾げていると、黒ウサギが説明した。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から呼ばれたのデスよ。

多分、時間軸以外にも歴史や文化や生態系など、色々違う所があると思いますよ?」

「パラレルワールドってやつか?」

「近いですが違いますね。正しくは立体交差平行世界論というものです。」

二日ほどは説明が必要なのでそれはまた今度、ということでお願いします。

そう付け加えた後に、

「皆さん見えましたよ。あの旗の店が"サウザンドアイズ"デス。」

 

旗には蒼い生地、絵は向かい合う二人の女神が写されている。

 

その店の前で看板を降ろそうとしている割烹着の女性に、待ったをかけようとする黒ウサギ。

 

「ま」「内は既に営業時間外です、お客様。」

間髪入れずに宣言する店員。

「そんな!まだ閉店五分前デスよ!?

飛鳥、十六夜はそんな店員の態度に少し苛立ち、耀は我慢せずを貫く。エミヤは、それは客として微妙ではないか、と思いが過り、会話を観察していた。

 

そんな耀とエミヤを除き、黒ウサギは抗議し、店員は侮蔑を込めた眼で対応する。

「なるほど、"箱庭の貴族"を蔑ろにするのも気が引けますね。中で許可を取りますのでコミュニティの名を言ってください。」

「うっ。」

黒ウサギは焦る。

(確か"サウザンドアイズ"はノーネームはお断りだったはず…不味いです。)

 

そんな黒ウサギにかわって十六夜は何のためらいもなく言った。

「俺達はノーネームってコミュニティ何だが。」

「そうですか。どこの"ノーネーム"様でしょうか?宜しければ旗をお見せしてもらえないでしょうか」

 

(…なるほど。コレが名と旗を奪われた"ノーネーム"の末路か)

そうエミヤが考えていると。

 

「いいいぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉい黒ウサギィィィィィィ!!」

そんな声が聞こえた思ったらまた遠ざかっていた。

同時に白い髪をした幼女が黒ウサギを拉致ると共に川に突っ込んでいった。

 

 




やっと白夜叉登場ですね。
道のりが長かった。


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9話 白夜叉は君臨す

やっとここまで来たね。
といってもエミヤさんはまだ戦いません。
てか、白夜叉の帯どうなってんの!?




「黒ウサギィィィィィィィィィィィィ!!」

クルクルと黒ウサギ共に空中回転ひねりで、店前の道の向こう側を流れる水路に幼女が突入していた。

下がミニスカートになっている黒い着物を纏い、胴を巻く部分の帯は朱色に、余った水色の部分の帯は尻尾のように垂れている。

髪も眉も輝いた白銀色で、ちょこんと白銀の頭から黒い角を生やしていた。将来絶世の美女になるであろう、少しヤンチャさが残った顔は、黒ウサギに抱きつきながらもその豊満な胸に埋まっていた。

 

その光景に十六夜は眼を輝かせ、店員は頭を抱えた。

「……おい店員。ここの店はドッキリサービスが」

「ありません。」

「何なら有料でも」

「やりません」

「じゃあ、お姫様が「しない。」ちぇ。」

 

そんなカオスな空間の中、幼女は顔を胸に擦り付ける。

「白夜叉様!どうして貴女様がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来るだろうと予想してな!!

フフフッ、スーハースーハースリスリ、フホフホ。やはり、ウサギは抱き心地が違うのう!!ほれここかぁここがエエんかぁ!」

親父セリフと共にスリスリと顔を埋める幼女"白夜叉"。

「白夜叉!いい加減離れてくださいッ!!」

頭を掴んだ黒ウサギが、ブオンッ!と音がなりそうな勢いで白夜叉を投げる。クルクルと回転して進むその延長線上には、

 

 

エミヤがいた。

錐揉み回転して来た白夜叉を優しく抱き止めるエミヤは、そんな見た目幼女な白夜叉をあやす。

「白夜叉と言ったかな?危ないから人に勢い良く飛び込んではダメだよ。」

完全に子供扱いしていた。

「おお、すまんの。………む。この感触はッ!?」

白夜叉はエミヤの胸にも顔を埋める。

それを見たエミヤは"オカン"が刺激される。

性別も相まって助長され、ヤンチャな子供を相手にする、ある種"母性本能"が開花された。

 

白夜叉もまた"オヤジ"が再び呼び起こされる。流石に初対面相手に黒ウサギにする態度は表さないが、しかし

「…黒ウサギと同等の大きさかの?……しかぁし!この跳ね返すかのようなハリと、それに相反するかのような本人の包容力……良いのぅ良いのう!!」

しっかり分析する当たりは白夜叉ならではである。

オカンとオヤジ、夢のコラボが実現された瞬間だ。

 

「よし!この娘も黒ウサギとセットで買ったッ!!!」

「買った!ではありませんこの御馬鹿様ぁ!!!」

上がってきた黒ウサギのハリセンが白夜叉の頭を一閃する。白夜叉を抱いたまま二人を見て、仲が良いのかという思考になり、生前の鈍感ぶりを発揮するエミヤ。

 

「君はこの店の人なのかな?」

「ムフフ…ああ、そうだとも。サウザンドアイズの幹部の一人である白夜叉様だ。今はおんしのお蔭でとても気分が良い!仕事の依頼なら只で引き受けよう!!」

「オーナー。売上が伸びません。」

釘を刺す店員。

ハリセンを仕舞い、濡れた衣服を悲しそうに絞る黒ウサギ。

「私まで濡れるとは…」

「罰よ黒ウサギ。」

「因果応報かな。」

『お嬢の言うとおりや』

そんな中、白夜叉は名残惜しそうに一度エミヤから離れ、彼女達をーーー特に重点的にエミヤと飛鳥を見回してニヤリと笑う。

「おんしらが黒ウサギに呼ばれた新しい同士か。中々どうして、良い発育をもつ者が現れた者だ………

コレは黒ウサギが私のペットに!!」

「なりません!どんな理由ですか!」

 

ウサミミを怒天を突くかの如く怒る黒ウサギに、白夜叉は笑いかけながら彼女達を店に招待すると、

 

「良いんですか、オーナー?規定では"ノーネーム"は」

「良い。意地の悪い性悪店員の詫びだ。責任も私が取るしの。」

その言葉に拗ねる店員だが、悪びれることもなく店に入っていく面々の中、

すまなそうに店員に頭を下げるフォロミヤに溜飲を下げた。

気品の感じる和風の中庭を通り抜け、襖で閉まっている部屋の前で止まる。

「生憎、暖簾は降ろしたのでな。」

ーーー私室で勘弁してくれ。

そう言って襖を開け放ちながら、畳の敷かれた大きな和室に入る。

部屋の中ではお香が焚かれており、落ち着きのある香りがエミヤ達を歓迎する。

白夜叉を上座に、その正面に座り込む五人。

 

「さて、改めて自己紹介をしようかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えるコミュニティの幹部、白夜叉だ。以前から黒ウサギを弄っていたのでな。コミュニティ崩壊後も、ちょくちょく贔屓してくれる美少女と認識してくれ。」

「ハイハイ。いつもお世話になってるのですよー。」

二人は軽いじゃれあいが出来る程度に仲が良好のようである。最も、弄られる黒ウサギが敬意を払う事がバカらしくなっただけかもしれないが。

 

その会話の中で気になった事に質問する耀。

「その外門って?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市中心部に迫り、同時に強大な力をもつ者達が、本拠やコミュニティを構えているのです。

箱庭は外壁から数えて七桁・六桁を下層とし、五桁を中層、それ以降の数字の桁を上層と区別して強さを分けているのです。

四桁ともなれば修羅神仏が数多くいる化物の巣窟なのですよ。」

そう言って紙に描いた図を彼らに見せる。

それを見て、各々が感想を述べた。

「……巨大玉ねぎ?」

「いやバームクーヘンだろ。」

「そうね、バームクーヘンね。」

「的を得てはいるけど…情緒の欠片も無いな…」

 

「ふふ、その例えでいくなら此処七桁の外門は一番薄い部分かの。一つ付け加えると、東西南北四つに別れており、ここは東側に当たる。その外側には世界の果てがあり、黒ウサギが持つ水樹の苗の持ち主もいるぞ。」

 

その言葉に少し興味を傾ける十六夜。

「なんだ?あいつの知り合いか?」

「そうだのう。そもそも奴に神格を与えたのは私だ。何百年前の話だったか忘れたがな。」

 

神格とは、生物に与えれば、その種が到達する最高ランクにまで種を底上げるギフトだ。

蛇は蛇神に。

精霊は神霊に。

鬼に与えれば鬼神と化す。

 

「ってことはお前はあの蛇より強いのか?」

「当然だ。私は"東側階層支配者"。つまり東の四桁以下コミュニティ全ての頂点に立つ者だ。そんじょそこらの神と同レベルに考えてもらっては困る。」

胸を張り宣言する白夜叉。

 

"最強の支配者"

 

その言葉に眼を輝かせる、十六夜、耀、飛鳥。

「……そう。つまり貴女に勝てば実質私達が最強になるということかしら?」

「無論そうなるな。」

「いいなそれ。手間が省けたぜ。」

三人は勢いよく立ち上がり、白夜叉に対し不敵な笑みを浮かべる。

「挑戦欲のある童たちだな。だが、面白い。」

白夜叉もそれを受け入れるかのように彼らに見回す。

それに気づいた黒ウサギは焦り始めた。

「ちょっ、白夜叉様!?それに御三方まで!エ、エミヤさんも止めるのを手伝ってください!」

 

今までのやり取りを傍観していたエミヤは、黒ウサギに苦笑した。

「まあ、まちなさい黒ウサギ。これもまた経験だ。」

オカンに見捨てられた黒ウサギが落ち込む中、彼らの話は進む。

「そうかそうか。私相手に勝負を挑むか。ーーーーーだがその前に一つ聞きたい。」

 

そう言って立ち上がり、"サウザンドアイズ"の旗が記されたカードを取り出し"壮絶な笑み"を彼らに向け宣言する。

 

「おんしらが望むのは"挑戦"か?それとも

ーーーーーーーーーー"決闘"か?」

 

瞬間、景色が様変わりした。

回る視界。様々な景色が視界の端から端へどんどん移っていく。

そして視点が定まる。

ーーーーー一面雪景色に染まった世界。遠くには、巨大な湖畔、その奥は雪で染まった山脈が白夜に照らされ幻想を醸し出す。

 

余りの現象に呆然とする三人と、驚愕しながらも冷静に考察するエミヤ

(私と同じ…ではないな。これは空間転移に似た力か…

魔法の域に到達する力をこうも軽々と連続でこなすとはな。これは、流石に彼らも分が悪いだろう。)

 

そんな彼らを尻目に白夜叉は笑みを絶やさず、彼らを圧倒する。

「今一度名乗ろう。私は" 白き夜の魔王"。太陽と白夜の星霊・白夜叉。

おんしらが望むのは試練を受ける"挑戦"か?それとも。対等な"決闘"か?」

そう言って彼女は両手を広げ、君臨していた。

 

次いで十六夜も意識を戻した。普段とは違った雰囲気で彼もまた冷静に状況を分析する。

「水平に廻る太陽……そうか。"白夜"と"夜叉"。あの廻る太陽やこの土地は、差し詰めお前を表した世界と言うことだな。」

「如何にも。この白夜と湖畔、雪原の世界こそが、私のもつゲーム盤の一つだ。」

 

星霊と呼ばれる、惑星以上の星に存在する主精霊存在する。妖精、鬼、悪魔などの中でも最上級の種である。

そして"夜叉"のと言う水と大地、鬼神を示す"神霊"。

数多いる英霊の中でも神霊として存在する者は多くない。

 

そんな二つの面をもつ白夜叉は、箱庭にいる魔王の中で上位の存在だろう。

 

「さて、そろそろ決めようではないか。」

彼女は笑みを絶やさない。

 

 




オカンが進化した。


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10話 エミヤに嬉しいギフト

オリジナるか原作するか迷う

耀の出番全然出せなかったので今回はまあまあだす。

それよりもグリフォンの速度がわかんないんですけど。


白夜叉は彼らに問う

「さぁ、どうする?挑戦か、決闘か」

 

三人は冷や汗を流しながら、この現状を打開しようと考えを巡らせた。

そんな静寂の中、最初に口を開いたの十六夜だった。

「参った。降参だ白夜叉。こんな演出されたんだ。あんたには俺を試すだけの資格がある。『今回だけ』は素直に試されてやるぜ。」

「フフフっ……そうかの。して、残った小娘達はどうする?」

可愛らしい意地の張り方に笑みをこぼしながら、二人に問う

 

「……わかったわ。私も試されてあげる。」

「……右に同じ。」

「そうかそうか。最後におんしは?」

そう言ってエミヤを見る白夜叉。

「む?私か?…私はそもそも無用な争いは避ける主義なのだけど。…まあこの流れだ。興は乗らないけどその試練、受けようじゃないか。」

巻き込まれた感じになったが、エミヤも試練を受けることを決めた。

 

一連のやり取りをハラハラと見ていた黒ウサギは、ここでようやく心を落ち着かせ、十六夜達に文句を告げる。

「もうっ!お互い相手を選んでくださいませ!"階層支配者"に喧嘩を売る新人と、それを買う"支配者"なんて冗談にしてもやりすぎです!!

それに白夜叉様が魔王だったのは何千年も昔の話じゃないですか!」

「なんだよ。元魔王様だったってことか?」

「そう言うなよ黒ウサギ。私も遊びには飢えていたのだ。」

そう白夜叉が笑っていると。

彼方にある山脈から甲高い鳴き声が聞こえた。獣とも、鳥とも思わせる声に反応したのは、耀だった。

「今の鳴き声。初めて聞いた。」

「あやつか。…おんしらを試すにはちょうど良いかの。」

そう言って、パンッと言う手拍子を白夜叉が行った瞬間。目の前に体調五メートルはありそうな、半身が鷲で獅子の手足をもった獣が、一瞬にして現れた。

「グリフォン!!」

耀は何時になく興奮して、その存在の正面に移動しグリフォンを食い入るように眺める。

「さて、早速始めるかの。」

そう白夜叉が宣言すると白い羊皮紙が彼らの前に落ちてきた。

『ギフトゲーム名 "鷲獅子の手綱"

 

プレイヤー側

 

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

エミヤ・リン・トオサカ

 

・クリア条件

グリフォンの背に跨がり、湖畔を舞う

・クリア方法

"力" "知恵" "勇気" のいずれかでグリフォンに認められる。

 

・敗北条件

プレイヤーが降参、もしくは上記を満たせなくなった場合

 

宣誓 誇りと御旗と主催者の名の下にギフトゲームを開催します。

"サウザンドアイズ"印

 

「私がやる」

耀は真っ直ぐ綺麗に挙手したのだった。

『お、お嬢大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうや…』

三毛猫がにゃーにゃー言う。

「大丈夫問題ない」

キラキラとした瞳でグリフォンを見続ける耀。それを見た三人は耀にこの場を譲った。

「失敗しても骨は拾ってやるよ、春日部。」

「何事も挑戦だ。そう気負うことはないさ。」

「頑張って」

残った三人は各々エールを送る。

そうして耀を残し少し離れる。

 

「初めまして。私、春日部耀です。」

『!?』

耀の言葉に反応したグリフォンはその顔に、驚愕の表情を張り付ける。

その顔を見ながら耀は彼に提案する。

「貴女が私を背に乗せて、誇りを賭けて勝負をしませんか?

内容は、あそこの山まで私を背負ったまま往復してここまで帰って来る。それにまでに貴女が私を振るい落としたら貴方の勝ち。帰ってこれたら私の勝ち。」

そう言って、遠くにある山脈の内、こちらから見える手前の山に指を指す。

 

『……ほう。勝負の内容は構わない。だが、お前は誇りを賭けるといった。少女1人落とせないのでは私の誇りは失墜する。それと同等の誇りにお前は何を賭ける?』

「命を」

そう宣言した。

その言葉を聞き、グリフォンは耀の瞳を見つめる。

そしてグリフォンはその言葉を受け止めた。

『いいだろう少女よ!その覚悟見せてもらうぞ!』

 

そして耀とグリフォンの誇りを賭けたゲームが始まった。

____________________

 

耀がグリフォンに跨がり空を駆けてすぐ、影も形も見えなくなった。

 

「さて、どうなるかの。」

「うう、心配です……」

「春日部もああ見えてギフト持ちなんだろ?なら、何かしら手は打ってるさ。」

「そうだと良いのだけど…」

「そう心配しないで、黒ウサギ、飛鳥。今のところ寒そうにしているけれど、かなり余裕を保ってるよ。」

 

励ましを送るエミヤ、それに待ったをかける十六夜と白夜叉。

 

「まてお姫様。もしかして見えてるのか!?」

「そうだけど、なにか?」

「なにか?じゃないぞおんし。ここからあの山までどれぐらいあると思ってる?」

「大体30㎞程度ね。そんなことより、もう折り返してる。」

 

エミヤの眼には、グリフォンがスタートの倍以上の速度で、上下左右に耀を振り落とそうとする光景が見えていた。

その速度はマッハ3と同等。氷点下の温度とも合わさって、体感温度は計り知れない。

 

そしてどんどん距離を詰め、グリフォンは戻ってきた。

それを認識したグリフォンは諦めと共にゲームに耐えきった耀に労いの言葉をかける。

『喜べ娘よ。』

そう言って振り向いた瞬間。耀は手綱を離し落下していた。

しかし、すぐに足で空気を踏みしめ、空を歩いた。全員が絶句してその光景を見る。

耀はそんなエミヤ達の目の前で着地すると、

「ブイ。」

指でVの字を作り此方に宣言した。

 

____________________

 

 

「いやはや大したものだ。まさか友となった者のギフトを手に入れるとは。しかし、そのギフトは先天性の物か?」

「違う。父さんが作った木彫りのおかげ。」

「ほほう。それは面白そうじゃの。見せてもらえぬか?」

耀は頷き、白夜叉にその木彫りのペンダントを渡す。

十六夜達も横からそれを覗きこんだ。

「複雑な模様ね。」

「意味は昔教えて貰ったんだけど忘れちゃったの。」

 

そんな飛鳥と耀を尻目に、他の面々は神妙な顔をしてそれらを鑑定、解析している。

「この中心を目指す幾何学線……そして中心の円の空白。耀さん、お父様の知り合いには生物学者が?」

「うん。私の母さんがそうだった。」

「この図形は系統樹を表してるのか白夜叉?」

「おそらくの……いやはやこれは凄い!おんしの父は希代の大天才だ!!まさか人の手で独自に系統樹として確立させ、それをギフト化してしまうとは!!

これは正真正銘"生命の目録"と言っても過言ではない一品だ!!」

興奮覚めやまぬ白夜叉に、耀は疑問をぶつける。

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ?でも母さんの作った系統樹の図はもっと樹の形をしてたと思うけど。」

「うむ。それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表したもの。

再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化遂げて進む円の中心、即ち世界の中心を目指して進む様を示しておる。

中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、はたまた生命の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成だからか。

ーーーーうぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されたぞ!実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

「ダメ」

拒絶の意を示す耀。それを聞き残念そうに白夜叉。

 

「で、結局どういったギフトなんだ?」

そう十六夜が呟くと、隣のエミヤが説明した。

「私も解析していたが何しろ物が物な上に専門外だったのでな。

わかることは、動物と話せること。友となったギフトを貰うこと。それらを重ね合わせ独自の系統樹を創造することができるといった具合だな。」

 

「へぇー。…なんだお姫様。鑑定のギフトかなんかもってるのか?」

「いや、鑑定と言うより解析だな。それにコレはギフトじゃない。」

それを聞いていた黒ウサギは思い出したように白夜叉に語りかける。

「そうでした!白夜叉様、今日は鑑定をお願いしにやって来たのです!」

 

それを聞いて明らかに嫌そうな顔をする白夜叉。

「よりにもよって鑑定か。専門外どころか無関係も良いところなのだがの。」

 

そう言って白夜叉は四人を観察する。

「どれどれ……うむ。四人とも素養が高いのはわかったが何とも言えん。おんしらはどの程度把握している?」

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

「異議無し」

「うおおおぉい!?確かに対戦相手だった者にギフトを教えるのは気が引けるのかもしれんが、話が進まんだろ。」

「人に値札貼られるのは趣味じゃないんでな。」

「私は大体の力は把握しているし、起源もわかってる。今さらリスクを侵して自分の能力を晒す気はないの。」

十六夜とエミヤの言葉に同意する後の二人

 

困った白夜叉だがピンッと妙案が浮かんだ。

「ふむ。試練をクリアした者達を只で追い返すのは主催者としての名折れ。贅沢だがコミュニティ復興の前祝いだ。」

白夜叉がパンパンと手を打つ。すると四人の前に光り輝くカードが一枚ずつ現れた。

 

コバルトブルーのカード

逆廻十六夜

ギフトネーム"正体不明(コード・アンノウン)"

 

ワインレッドのカード

久遠飛鳥

ギフトネーム"威光"

 

パールエメラルドのカード

春日部耀

ギフトネーム"生命の目録(ゲノム・ツリー)"

"ノーフォーマー"

 

シルバーのカード

エミヤ・リン・トオサカ

ギフトネーム"無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)"

"抑止の契約"

"全て遠き理想郷"

"魂の器"

 




エミヤさんの視力は鷹の目と魔術で強化されたご都合主義です。

今作品のエミヤさんのイメージカラーは紅と銀です。
アチャ子と言えば銀かと。赤銅色は似合わん。


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11話 レティシア登場!

わーい、良い評価増えた。
ありがとうございます。

だいぶエミヤさん女言葉になれてます。

アヴァロンさんは箱庭の神秘在りまくり世界で勝手に能力上昇させました。

↑止めました。


("全て遠き理想郷"か。……大層な物を渡してくれたものだ。これからの事を考えれば、凛と、甚だ不本意だが未熟者には感謝しないとだがな。)

今回だけなんだからね!と、どこぞのツンデレを思い出させる様に考えるエミヤ。

 

カードを受け取った彼らは物珍しそうに観察する中、黒ウサギはそれらをを見て驚いた。

「ギフトカード!!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「違います!なんでそんなに息揃ってるんですか!?

まったく……これはギフトカードと言って、顕現しているギフトを収納出来る超高価なカードです!耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、それも好きな時に顕現出来るのですよ!」

「つまり素敵アイテムって事か」

「……四次元ポケット?」

「だから何でそんな適当な反応なんですか!?あーもう、そうですよ!とても便利な超素敵アイテムですよ!」

 

(耀は上手いこと例えるな…つまり私の投影品もストックできて魔力を抑えられる上に、好きな時に取り出せると言うこと……超素敵アイテムじゃないか!)

エミヤもその機能を理解し内心興奮していた。

 

「我らの双女神の紋のように、本来ならコミュニティの名と旗も記されるのだが、おんしらは“ノーネーム”だからの。少々味気なくなってしまっておるが、文句は黒ウサギに言ってくれ。

そのカードの正式名称は"ラプラスの紙片"と言い、全知の一端だ。本人との魂と繋がれるため、ほとんどのギフトはその正体がわかるぞ。」

「へえ、じゃあ俺の場合はレアケースってわけだ。」

そう言って十六夜はカードに書かれた文字を見直す。

 

「?ちと貸してくれ……"正体不明"だと?どういうことだ………?」

(ギフトの無効?しかし、それだけではラプラスが何かしら答えを出すはず……)

白夜叉が十六夜のギフトに考えを巡らせていると。

「ま、良いじゃねーか。そんなことよりも俺は未だに謎のお姫様のギフトが知りてーしな。」

「……おお、そうじゃったな。娘はあの距離を目視していたのだろう?"サウザンドアイズ"のメンバーとして少し興味があるな。」

「ハイ!黒ウサギも興味があるのです。」

一度思考を止めた白夜叉と黒ウサギもエミヤに興味を向ける。

 

「私か?そうだな……色々あって、余り大っぴらに話したくないのだけど、まあ良いか。」

そう言って、彼女達に自分のカードを渡した。

 

「……"無限の剣製"に"抑止の契約"?なんだそりゃ。」

よくわかっていない十六夜だが、白夜叉と黒ウサギは神妙な顔でギフトカードを凝視する。

 

「エミヤさん……この"抑止の契約"とはどう言ったものか聞いてもよろしいですか?」

「……聞いても面白い話じゃないよ黒ウサギ。それにそう悪いものじゃない。デメリットは"全て遠き理想郷"で抑制されてるからね。」

そう言って安心させるように黒ウサギに微笑む。

 

「そ、そうですか……なら良かったです。」

そう言って安心する黒ウサギだが、白夜叉はどこか納得してない様にエミヤに顔を向けていた。それを見てエミヤは黒ウサギに急かすように話しかける。

 

「ほら、黒ウサギ。もうかなり遅くまでここに留まってしまったんだ。これ以上は店に悪いし、そろそろ店から出た方が良い。」

「あ、そうでしたね。白夜叉様、私達は帰りますので一度戻りませんか?」

「む。そうだな。」

白夜叉はパンッと手を叩いた後、彼らは白夜叉の私室に戻ってきた。

その後、店前に移動し、彼らは白夜叉に礼をした。

 

「今日は楽しかった。また遊んでくれると嬉しい。」

「あら、ダメよ春日部さん。次は私が挑戦するんだから。」

「そうだな。吐いた唾を飲み込むなんて格好つかないからな。次は渾身の大舞台を用意しといてくれ。」

 

「ああ、任せておけ。……ところで。」

そう言って白夜叉は彼らを真剣な顔で見回す。

「今更だが、聞かせておくれ。おんしらは黒ウサギ達のコミュニティの状態と方針がどうなってるか、理解して加入するのだな?」

「そうよ。だって、魔王討伐なんて格好いいじゃない。」

「……格好いいで済む問題じゃないのだがの。勇ましいと言えば良いのか、無謀と笑えば良いのか……

まあ別に止めはせんが、そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ。」

断言する白夜叉。その顔には反論は許さないと言うようないあつかんがあった。

 

「魔王に挑む前に様々なギフトゲームを挑んで力をつけろ。そこの小僧と…エミヤは別だが、おんしらはまだ弱い……。

嵐に巻き込まれた弱者が無様に弄ばれて死ぬのは、いつ見ても悲しいものだ。」

「…肝に銘じておくわ。次は私が貴方の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しなさい。」

「ふふっ、望むところよ。私は三三四五外面にて、おんしらを待っているぞ。……その時は黒ウサギとエミヤを賭けてもらうがな!!」

それを聞いていた黒ウサギとエミヤは反応する。

 

「嫌ですよ!!」

「全くだ。」

即答で返す二人。

「つれないこと言うなよぅ。私のコミュニティに入れば、私は二種類の胸を堪能できるし、おんしらは三食首輪付きの個室も用意されるんだぞ?」

「それもう白夜叉様の愛玩動物です!!」

「だから、なぜ私まで巻き込まれるの。」

「そこは私も否定してくださいエミヤさん!」

 

____________________

 

その後、彼らは白夜叉と不機嫌そうな店員に見送られた。

黒ウサギ達のコミュニティに戻る道中、

「黒ウサギ。申し訳ないのだけれど、サウザンドアイズに私のペンダントを置き忘れちゃった。取りに戻って良いかな?」

「そうなのでございますか?なら待ってますよ?

「いや、いいよ。ついでに白夜叉に聞きたいこともあるし。……そうだね。コミュニティの前に、この剣を置いて貰えれば見印になる。」

そう言って、先ほど誰にも気づかれずに投影してギフトカードに入れていた剣。

巨大な岩から削られてできたような、三メートルはある斧剣を取り出し、十六夜に託す。

「うおぉぉ。いつこんなもん拾ったんだ?……ああ、コレが"無限の剣製"ってやつか。…剣ってより岩だな。」

「ええ……。本人と剣の外見が全く一致しないわね…」

『ひょぇぇ。なんやさっきのグリフォンの旦那も真っ二つにされそうな剣やなぁ』

二人と一匹が感想を漏らす。

黒ウサギはそれを了承し、

「わかりました。先に帰ってますので、エミヤさんもお気をつけください。」

「ああ、わかった。できるだけ早くもどるよ。」

そう言ってエミヤは来た道を戻った。

 

____________________

 

"サウザンドアイズ"前にて、

「きたか」

「やあ白夜叉。御大層なメッセージカードを受け取ったのでね。行かなきゃ気が引けるさ。」

そう言ってエミヤは店に出る時にポケットに入れられた紙を見る。

「それで?用件は?」

「まずは私の部屋に戻ろう。丁度、心配性な者にも会わせたいのでな。」

そう言って、白夜叉達は店に入っていく。

 

 

襖を開けて部屋の中に入ると、金髪に赤い瞳をした幼女が座っていた。

綺麗な金の髪は黒い大きなリボンで結ばれ

「戻ったか白夜叉………なぜその娘も一緒にいる?」

「なに、心配性なお前さんに一つ負担を減らしてやろうと思ってな。

エミヤよ、この娘はレティシアと言ってな。"ノーネーム"の古参の1人で、おんしの先輩だ。」

 

そう言われたレティシアも立ち上がり、自己紹介をする。

「ご紹介に預かったレティシア・ドラクレアだ。先輩と言っても、今は他人に所有される身分なので君達の助けになれないがな。」

そう言って少し残念そうな顔をするレティシアは白夜叉に目を向けた。

「それで?なぜこの娘を私と会わせたのか聞いても良いか白夜叉?」

「ああそうだの。……エミヤよ、聞きたいことは"抑止の契約"についてだ。なに、こやつは"ノーネーム"の為なら自分を事など省みない馬鹿者だ。下手に情報は漏れないだろう。それに1人ぐらい、おんしらのコミュニティのメンバーが聞いておかないと、ちと安心できん内容だしな。」

そう言ってエミヤに話し始める。

 

「この箱庭にも"抑止"と呼ばれる存在はおる。"天軍"など、各神群によって構成された武神集団の連合コミュニティが有名だ。彼奴ら"階層支配者"ですら手に終えない魔王が現れた時に、"抑止力"としてここ下界に派遣される。

……"抑止"とはそういった神々の存在だ。箱庭では、大っぴらに特異な事が起こる分"抑止"は多くいるし、抑制するやり方は苛烈だが、中々に寛容な部分もある。

しかし、おんしの世界では知らないが。…いや……そういった存在が、箱庭より否定される世界だからこそ、苛烈で強引な行動を取るだろう。

エミヤよ……。おんしはその存在と何を契約した?

おんしは、場合よっては危険極まりない存在になる。」

 

嘘を吐くことは許さん、とばかりに白夜叉は神気を身体から外へ放出させる。

エミヤは白夜叉を落ち着かせるために真実を話し出す。

「……心配せずとも、君が警戒する事は何もないよ。私と契約したのは、霊長の世界の存続を願う願望。アラヤと呼ばれる人類の無意識の集合体だ。よって、世界の特異を修正する為に、『その者達を皆殺しにする。』等と言った考えは持っていないさ。」

 

それを聞いて少し安心する白夜叉。

「そうかの。……まあ、そこまで心配してはおらんかったがな。もしそんなことがあれば、最初から黒ウサギや十六夜達を殺していただろうからの。」

そう言って白夜叉は沸かしていたお湯でお茶を注ぎ、エミヤとレティシアに渡す。

 

「だ、そうだぞレティシアよ。おんしが心配せずとも、黒ウサギは"抑止"のお墨付きを貰う程の存在を呼んだのだ。早々簡単に潰れはせんだろ。」

レティシアに話し掛け、茶を啜る白夜叉。

レティシアとエミヤもそれを見て、貰った茶を飲み始める。

「そうだな。神々に実力を買われる程だ。少し安心したよ。」

レティシアは美味しそうに茶を啜った。

 

 



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12話 白夜叉が挑戦します

話がなげーよマジでー。未だに本拠に入れないとかどーなってんだよー。ぜってー子供達おねんねの時間だよー。
つまりR15の時間だ。




「安心したついでに、疑問なんだが。エミヤはどんな契約をしたんだ?差し支えなければ教えて欲しいのだが。」

少し経った後、レティシアは契約内容に興味を持った。

「……特別大それた事じゃないよ。ただ、死ぬはずの運命を待つだけだった人達のために延命を願い出た、それだけだよ。」

「ほほう。何か大切な人でもいたのか?」

「いや、特別そうだった訳じゃないの。……そろそろこの話も良いでしょ?そんな事よりも、私は白夜叉に頼みたい事があってきたの。」

そう言ってエミヤは、内心の気持ちを悟られない内に話をずらした。

 

「ほう?おんしには会った時に至福の時間を堪能させて貰ったのでな。可能な限りだが、頼みを聞こう!」

そう言って会った時の感触を思い出し、下卑た表情をする白夜叉。

 

「余り気にしていなかったのだけど、ここ箱庭では何が起こるかわからないわ。今は二つのギフトのお陰で大丈夫だけど……もし私が何かしらの方法で魂を抜かれた場合、私は抑止力によって魂だけ戻されてしまうかもしれないの。」

「なんじゃと?それは、一大事ではないか!?」

「そう。そのために私の魂を箱庭と繋ぐための存在が一人欲しい。だから、出来れば魂と魂を繋ぐ強力なギフトか何か持ってないかしら?」

「む、そんなので良いのか?ふむ…箱庭には色々な

物があるからの。……一番代表的なのは魂の隷属かの。だが、同時に主従関係にもなってしまうのでな。お勧めはせんよ。」

「いや、それで構わないよ白夜叉。私は昔執事をやっていた経験があるからね。そう言った主従関係には慣れてる。そうだな……レティシア。君が私のマスターをやってくれないかい?」

「なぜ私なのだ?それに今は他人の所有物だと言っただろう。」

そう言ってNoを示すレティシア。

そこに白夜叉が吼える。

 

「では私が貰おう!!こんないたいけな少女を所有物に……夢が膨らむではないか!!

貰った!是非貰った!!」

「君は別のコミュニティだろう?それは流石にノーネームに対する裏切り行為。ノーサンキューよ。」

そう否定するエミヤだが白夜叉引かなかった。

「むう。なら魂の繋がりだけで良い!!是非、是非にお願いします!!」

(そしてゆっくりと懐柔してやろう)

白夜叉はエミヤに向かって飛び上がると、綺麗な空中回転捻り土下座を敢行する。ズザァァァァッ!!とした音と共に土下座の体勢で着地する白夜叉は、その下を向く顔にとんでもなく悪どい表情を張り付けていた。

そんな攻め攻めな白夜叉に、エミヤは焦る。

「わ、わかったよ白夜叉。それで頼む。」

((この娘押されやすい))

白夜叉とレティシアの思考が揃った。

 

「それでは早速行うかの。では、舌を出せエミヤ。」

「……はっ?」

余りの発言に、コテンッと首をかしげる。

 

その瞬間を狙って白夜叉はエミヤに飛びかかり、顔を近付け、口づけする。

脅威の感じなかった(鈍感)エミヤ、容易く唇を許してしまう。

「……んっ……」

白夜叉は半開きになった口に容赦なく舌を入れ、口の中を蹂躙する。

「んむぅ!……んあぁ……ひゃめっ……ひろやひゃ………ふぅぅ……」

くちゅくちゅと口の中を蹂躙されるが、そこは元エロゲーの主人公。無意識にもスイッチが入り、白夜叉の口へ強引に舌を入れる。

「んんん!?……ふぁぁ……んくっ……みゅあぁぁ………こにょっ、ンあッ!……ンンぅ……」

 

そんな光景を外野にいたレティシアが、顔を真っ赤にしながらチラチラと視線を向ける。

「お、お前達……せめて私がいないところでやってくれ……」

 

____________________

 

 

最終的な勝者は主人公スペックをもつエミヤに軍配が上がった。

同時に、幼女を傷物にしてしまったという罪悪感で四つん這いになり、項垂れていた。その横で顔を真っ赤にし、放心状態で仰向けに転がっている白夜叉。

その光景に、どうして良いかわからないレティシアはあたふたしていた。

 

 

「……バカな……こんな、こんなことがあって良いのか……。いや、良くない。如何にも生娘感丸出しのこやつに負けるなんて……私は……私はッ!!」

そう言って立ち上がる白夜叉。

「これもまた乙だな!!」

グッと拳を握り閉め、宣言した。

 

そんな光景に呆れながらも、目的が無事終了したか聞くレティシア。

「………これで、終了したのか白夜叉?」

「ん?……ああそうだの。自分達の体液の一部を媒体にして、魂と魂、両方にそれぞれの繋がりが浸透した。これで、ある程度の意志疎通も出きるようになったぞ。

ーーーーー見えない赤い糸で繋がってる、と言うやつじゃな。」

フフフフッと笑っていた。

 

____________________

 

「今日は、ありがとう?と言っておくわ。……それと、ああいったことは人助けとは言えもう誰かにしないで。

別にキスするぐらい私は良いのだけど、会って間もない者に簡単に唇を許すのは良くないわ。

……特に外見上、ディープキスはアウトだよ。」

「フフッ、自分の唇を奪った者に心配するとはの。お人好しなのか危機感が足りんのか………。

安心しろ。今のところ気に入った女にしかヤル気はないよ。むしろ、おんしの方こそ心配だ。前の世界では知らんが、此方では私以外にヤルのは許さんからな。」

「肝に銘じておくよ……。では、そろそろ帰るよ。黒ウサギ達も心配しているだろうしね。」

 

そう言って立ち上がったエミヤに、少し待ったをかける白夜叉。

「む?もう行くのか?それならレティシアも連れてってやってくれないかの?こやつは今脱走した身分なのでな。此方で匿っているのがそろそろバレる。その前に引き取ってくれんか?

……魂の繋がりで少しだけわかったが、おんしの強さは上層でも通用するだろう。」

そう言って視線をレティシアに移す。

「……そうだな。いつまでも他のコミュニティに面倒をみて貰うのは気が引ける。……だが今は彼らに会いたくないな…。白夜叉よ。小さくなる呪いを弱めにかけてくれないか?」

「ああ、わかった。弱い呪いだから、おんしがその気になればすぐ戻るだろう。」

そう言って白夜叉は呪詛の念をレティシアにこめた。

レティシアは、しゅるしゅると擬音が付きそうな早さで小さくなっていく。

掌に収まるほど小さくなると、レティシアは黒い翼を背中から生やし、エミヤの顔の前まで飛び、一度ターンして止まった。

「エミヤ。一度隠れるので、君の衣服の何処かに潜ませて欲しい。」

「ああ、了解した。襟の部分に入ると良い。」

そう言ってエミヤは、黒のタートルネックの襟を引っ張った。そこの中に入り、もぞもぞと定位置を確認するレティシア。

「暑くないかな?」

「大丈夫だ。」

「そうか。それじゃあ黒ウサギ達の所に帰ろう。夜分遅くまでありがとう白夜叉。」

「構わんよ。私は階級支配者様だからな。これぐらいの事など全く問題ない。」

えっへん、と小さい身体で無い胸を張る白夜叉。

なんだか子供っぽく見えたエミヤはその頭を撫でた。

「お、おおっ?……これ、エミヤよ。流石に子供扱いはよせ。こう見えても私はおんしより何千何万倍も歳が上なのだぞ。」

「ああ、すまないね。勝手に手が動いてしまったの。だけど私もかなり長い時間を過ごしてきたのだ。それこそ、千年単位では効かないほどだ。君が思ってるほど若造ではないよ。」

そう言って手を離したあと、白夜叉の部屋から退出していった。

「ではまたな。」

 

____________________

 

エミヤ達は店を出て、襟から顔を出したレティシアの説明を聞き帰路についた。

 

ノーネームの門前にて、一つだけ異様な気配を放つドでかい剣が地面に飾突き刺さっていた。

 

「な、なんだこのバカデカイ剣は……。」

「ああすまないね。これは目印にと、黒ウサギ達に頼んでおいた物だ。」

そう言って、巨大な剣を持ち上げてギフトカードにしまうエミヤ。その光景を見ていたレティシアは尋ねた。

「その大剣と呼ぶにはデカ過ぎる剣がお前の得物か?」

「いや。これはある技を使用するために必要な剣であって、メインではないよ。私は大量の剣を備蓄しているのでね。これもその一つだ。」

「ほう?……差し支えなければ後で見せて欲しい。」

「いいよ。」

そう言ってエミヤは門を開けて進もうとしたが、その先の光景を見て立ちすくんだ。

 

「これは……」

その光景を見ていたレティシアも、辛そうな顔を浮かべていた。

「………これが魔王と戦ったその爪痕だ。この光景がたった三日間の内に行われた。

……エミヤも覚えておけ。魔王と戦うとはどれ程危険で、身を滅ぼすことであるかという事にな……」

 

____________________

 

エミヤ達は大きなホテルのようなノーネーム屋敷にて、黒ウサギと合流した。

途中、不審者を見つけたが、十六夜が別の屋敷の門前にて仁王立ちしていたので大丈夫だと思い無視した。

 

「あっ、エミヤさんお帰りなさいませ!これから飛鳥さんと耀さんと一緒に大浴場に行くのですがご一緒しませんか?」

「ただいま黒ウサギ。そうだな……一度、部屋の方に行ってみたいので後で入るよ。誘って貰って恐縮だけどごめんなさいね。」

「そうですか…残念です……。あ、部屋でしたね。こちらについてきてください。」

ガールズトークをしたかった黒ウサギはとても落ち込んでいたが、気を取り直してエミヤを部屋に案内した。

 

_________________________

 

 

ノーネーム門前の道

 

マイケル「なんだこのバカみたいな大きさの物体は!?」

ジョン 「おいおい……これ剣だぜ!?どこのだ?」

マイケル「旗に何も描かれてねーじゃねーか。ってことはノーネームか?」

ジョン 「なら、いただいちまおうぜ。こんな所に置いてる奴等が悪いんだしな。それに、もしかしたら違うかも知れねーし。」

マイケル「そうだな、うばっちまうか。見たことねー剣だし高く売れるかもな。でも持ち手の部分届かなくね?」

ジョン 「側面がこんなゴツゴツしてんだ。手を引っ掻けて持てばいいだろ。そっち持て。」

マイケル「おう……ふんがぁぁぁぁ!!おもてぇぇぇ!びくともしねえぇぇ!」

 

ジョン 「……まあ、そうだろ。物理的に考えて気づけ馬鹿。」

マイケル「え……なに?俺騙されただけなの?てか、親友に悪事働かせようとするとか、酷くない?」

ジョン 「ドンマイ♪」

マイケル「ドンマイ♪、じゃねぇぇぇぇぇ!!」

____________________

 

通りかかった"ラプラスの小悪魔"の記録から抜粋

 

ちなみに小悪魔はこの記録をマイケルに脅して梨ゲッツ!!

その後、彼は捕縛された。

 




書いたのは深夜。
ちなみにエミヤさん海外で色んな所に行っていたことがあるのでキスは中々に寛容です。

最後ノリで入れたけどなんでだろ?
疲れてんのかな?

盗みとかすんなよ♪byまりさ


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13話 マジ投影(笑)ッス

ここの世界でのエミヤってかなりチートですよね。
解析し放題、投影し放題。
まあ、星霊とかふざけた存在がこの世界には多くいるので正直いうと標準レベルですが。

エミヤとレティシアの会話を考えてる時、どこぞのモニキと羽虫を思い出してしまう。
まあ、巨乳とひんぬー、(吸血)鬼と精霊なんで、ほぼ正反対と言って良いんですけどね。



部屋に入ると、レティシアも服の中から出てきた。

「さて、黒ウサギ達が出てくるまで、まだ時間があるだろう。先に君の剣を見せてもらえないか?」

そう言ってさっきの話を覚えていたレティシアは、目を輝かせていた。

彼女はかなり武器マニアである。今は名のある武器を所持していないが、昔は多くの武器を手にしていのだ。

 

「そういえばそういう約束をしていたね。少し待ってほしい。」

 

そう言ってエミヤは彼女に聞こえない声で魔術名を告げる。手の中で練られた魔力が形となり、剣の姿を表す。その剣を部屋の中に置いてあった、丸い机の上においた。

その内装された神秘と迫力を前に興味深そうに観察するレティシア。

 

「『絶世の名剣(デュランダル)』だ。と言っても贋作だが」

「これがかの名剣か!……ん、贋作?コレがか?……この存在感、それに……神格が付与されてるだと!?」

「なに?……ああ、この剣は"絶対に折れない剣" "必ず刃こぼれしない剣"の概念が込められているからね。それかもしれない。」

「な、なるほど……」

 

そう言ってまたしげしげと観察するレティシア。

 

「まあ、私の世界ではこの贋作に、ここまでの性能は無かったのだがね。」

(……箱庭に来てから魔術の負担もかなり減った。やはりこの世界が神秘を肯定する世界だからか…。まあ、私としては嬉しい誤算なんだが。)

 

「なるほどなるほど。これがお前の切り札の一つと言うわけだな。確かにこれほどの名剣をいくつか所持しているのであれば"ノーネーム"としてもかなりの戦力になる。」

 

うんうんとレティシアが頷いていると、

 

「いや、これが特別大事という訳ではない。確かに切り札の一つであるが……君は剣に興味があるみたいだったからね。親しみを込めてこの剣は渡そうと思ってだしたのだ。」

 

エミヤの処世術その1

上下関係のある組織に引っ越しした際、目上の者には消費しない物や壊れない(概念的に)物を渡すと組織に馴染みやすい。

を実行した。

 

「本当か!?いや、今の私は優れた武器が無いからとても嬉しいのだが……そう言えばお前のギフトは "無限の剣製" だったな…………まて。と言うことは時間をかければ神格の付いた武器が何個も作れるのか!?」

「まあ、時間(魔力の回復時間のみ)をかければ何個か作れるよ。」

「そうか……。なら、これはありがたく受け取ろう。ありがとうエミヤ。……んしょっと。」

 

そう言ってレティシアは小さな両腕で剣を持ち上げ、それをギフトカードにしまう。

その光景を見ていたエミヤは、ついでに他の宝具も投影してギフトカードに保存しようと考えた。

が、

 

(固有結界を出して入れた方が魔力を抑えられる上に、手っ取り早いのではないか?……試してみるか。)

 

そう考えたエミヤは結界の範囲をできるだけ小さく絞り、魔術回路に彼女の人生そのものと言える魔術を発動する。

 

「I am the bone of my sword.」

「ん?何か言ったかエミヤ。」

 

レティシアの質問を無視して、魔力を練りあげ始める。

 

「Steel is my body, and fire is my blood.

 

I have created over a thousand blades.」

 

「おーい。無視するなよ。……なんかお前から霊格の高まりみたいなのを感じるんだが、何か作るのか?」

 

それを無視して更に魔力を高める。エミヤの魔力により、空気が圧迫されて起きた風が部屋のカーテンを揺らす。

 

「Unknown to Death. Nor known to Life.

 

Have withstood pain to create many weapons.

 

Yet, those hands will never hold anything.」

 

部屋の中が魔力で満たされ、濃密な青い魔力がレティシアにも視認できた。

 

「…………えっ、ちょっ、エミヤ何するの?なに?何なの!?え、まってまってまって。怖い!果てしなく怖い!せめて何かするのを説明してくれ!!なんか爆発しそう!なんか爆発しそうぅぅぅ!!!!!!」

魔力が最高潮に達する。

 

「So as I pray,

『UNLIMITED BLADE WORKS.』 」

 

____________________

 

ビクッ。

「どうしました十六夜さん?」

「なんか……超ビッグイベントを逃した気がする……。」

「……?」

ジンは、突然何かに反応した十六夜に質問してみたが、よく分からない答えが返ってきたので放置することにした。

____________________

 

エミヤが宣言した瞬間、世界が部屋の中から果てしなく広がる無限の荒野へと変貌する。

広がる視界は砂漠と無限にある墓標のように突き刺さる剣。それが世界の果てまで続き、空は暁に染まり、果てに見える空には巨大な歯車が並んでいる。

周りにある剣は、名のある名剣から始まり、聖剣、魔剣、名刀、妖刀、から果ては聖槍、魔槍、等の槍や、巨大な斧、薙刀、等の剣ではない物もちらほらと確認できる。

 

「…………………………」

「ふむ、固有結界の発動、維持もしやすい。異能者に取ってこれほど良い環境は無いだろうね。しかも、宝具のランクが上がっている。……神秘が上がってるからだろうか。こう改めて見ると、中々に壮観だね。」

 

周りを見回し、エミヤは独りごちる。

急に世界が変わることが慣れているレティシアとは言え、周りにある圧倒的存在感を放つ名剣や名刀が無限に刺さっている光景は見たことがない。

この世界だけで、どんな観賞館をも越える価値がある。観賞一回に対して全財産を投げうつ者もザラに出るだろう。そんな世界が現れたのだから、茫然もするだろう。

 

「さて、さっさと入れるか。まずは投影に一番負担のかかる物から容れてしまおう。」

 

そう言ってエミヤは、『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』や、『永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)』など、記録で解析、投影した神造兵器の贋作や、剣ではないためとても投影しにくい『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』や、『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』を呼び寄せ、ギフトカードに容れていく。

 

「………ハッ!」

近場で威圧を感じて復帰したレティシアはエミヤに近寄る。

「……エミヤ。この世界はなんだ?というか、この武器達が全てお前が造った作品なのか?」

 

「まあ……造ったと言うには語弊が生じるが、概ねその認識でいてくれて構わないよ。ただ私の場合"贋作"だからね。何かを1から造ることはできない。要はランクの下がった模造品を造れると思ってくれてれば良いよ。」

「それでもこの量は破格だぞ……それに、この質。

これは箱庭でもかなりヤバい代物だ。公にすればどのコミュニティからも狙われるだろう。」

 

そう言ってもう一度周りを見回した後、エミヤが入れようとしている宝具を見る。

 

「だろうね。だから、黒ウサギ達に会った時もこの事は黙っていて欲しい。時が来れば私が話す。

……それに、これを見た十六夜達が黙っていないだろう。絶対、何か言ってくるに違いない。」

(例えギフトについて聞かれても嘘を教えよ)

そう考えるエミヤだった。

 

____________________

 

その後、黙々とエミヤが容れる宝具を観察するレティシアと、宝具を黙ってギフトカードに容れるエミヤの図ができあがる。

 

そろそろ黒ウサギ達が風呂からあがるかな?と思われる時間で結界を切る。

世界が、剣の荒野からエミヤの部屋に切り替わった。

 

「……凄い体験をさせて貰った。これは白夜叉にも黙っておくのか?」

「……まあその方が良いでしょう。今のところノーネームの古参である君一人にしようと思ってる。……黒ウサギはああ見えて何処かぬけてそうだしね。」

「まあ、黒ウサギだからなぁ。」

レティシアは黒ウサギの過去に起こったミスの数々を思い出した。

ゲームを初めて体験させた時、重要な鍵をなくして涙目でオロオロする黒ウサギ(幼)。

初めてのスキーで、意気揚々と滑り出したは良いが、止まり方がわからずオロオロする黒ウサギ(号泣)。

何故か知らないけど、とりあえずオロオロする黒ウサギ(泣)。

その光景が脳裏に浮かびながら、

「そうだなぁ……黒ウサギ(萌)だからなぁ………」

そう呟いた。

 

そんな黒ウサギを思い出していると、部屋の扉が開いた。すぐにエミヤの服の中に飛び込むレティシア。

 

「エミヤさーん。十六夜さんの後になってしまったのですが、お風呂空きましたよー。」

開けたのは黒ウサギだった。

「そうか、なら私も入るとするよ。すまないね、黒ウサギ。」

「いえいえ。全く問題ないので大丈夫ですよ。それと、明日エミヤさんを子供達に紹介したいので覚えておいてください。」

「ああ、わかった。」

「よろしくお願いしますね。それでは、浴場に案内するので付いて来て下さい。」

黒ウサギ達は部屋を出て大浴場に向かった。

 

____________________

 

オリジナル展開

 

箱庭では、投影した瞬間に神秘が後押しされ、性能があがる。

ただし、二回連続で投影すると、後押しされた神秘がもう一つと等分される。

これは、箱庭にある知名度が決まっているため、数に応じて分割されてしまうから。

ちなみに、『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』を行えば神秘が解放される。

 

真名解放は性能が上がった分、使う魔力も多く消費される。

_________________________

 

サウザンドアイズ

 

マイケル「待ってください白夜叉様!これは嵌められたんです!俺は悪くない!」

白夜叉「黙れ。おんしは私の領域で盗みを行ったのだ。認めろ。それにネタは上がっているんだ。小悪魔よ。」

 

『なんだこの《ジョンの》《パンツ》は!?』

マイケル「まてまてまて!え、なに合成してんのコイツ!?つーかなんでジョン!!」

ジョン「僕っ、いつもこの人に下着盗られてて……ぐすっ……怖くてぇっ!」

白夜叉「ほれ、こうして本人の証言と明確な証拠が挙がっているんだ。罪を認めろ。」

マイケル「ちょっ、待ってくださいマジで!!つーかお前はキメェ!」

白夜叉「まだ認めんか。ならこれを東側全てに放送して

マイケル「まてやぁぁぁ!!!つーか誰も信じねーよこんなの!」

 

『《うっひょぉぉぉい!》うばっちまうか!』

マイケル「まって!ほんとまって!!ガチで洒落になりませんから!」

白夜叉「さあ、物理的に死ぬか社会的に死ぬか。どっちにする?」

マイケル「究極の二択!?」

白夜叉「そうかどちらもか……チャレンジーだな。」

マイケル「いや、死ぬのにチャレンジーとかないから!」

白夜叉「では死ね」

マイケル「あああああああああ!!!!!!」

 

 




はい、かつて無いほどに効率の良い(無駄な)固有結界が出ましたね。

ぶっちゃけ、美遊兄の方が詠唱好きなんですが、まあこんな緊張感の欠片もない所で出しても意味無いんで。
アチャ子さんが命を削らないと勝てない戦い時のみに詠唱する感じで使おうかと。あの人エミヤさんに置換されましたしね。

やっぱ最後のは茶番感半端ねーッス


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14話 ケモナー勝負

結構オリジナル展開になってきたけど大丈夫かな?
体は剣で出来ている(下ネタ)は書くの止めた。


エミヤがレティシアとお風呂に入り、泡で埋まるレティシアを助けだし、お風呂から出てレティシアと一緒にin the bedした翌朝。

エミヤと、特に潰されることなく安眠できたレティシアは、お互い起床の挨拶をして起きる。

 

エミヤの姿は、お風呂から出た時に置かれていた下着と、白のノースリーブに赤のショートパンツと言ったラフな格好であった。

女性物の下着を着る時、特に抵抗なく着れたのは身体のおかげか。はたまた磨耗した記憶が疼く、凛と金髪の女の子の顔のせいなのか。

 

レティシアはエミヤが即席で作った服を着ていたが、今は赤のジャケットに黒のYシャツをネクタイで締め、白のスカートを履いていた。

つまり昨日と同じ格好なのだが、彼女の服には自動洗浄効果と持ち主の身長にあわせて伸縮するギフトが付いているためだからだった。

 

身仕度を整えた二人は、胸ポケットの中に入ったレティシアの案内のもと、一番大きな談話室に入った。

中には十六夜と、ジンが二人で何か話しているところだった。

 

「おう、お姫様。おはよう」

 

「お、おはようございますエミヤさん」

 

エミヤの存在に気づいた十六夜と、若干エミヤに苦手意識があるジンは挨拶した。

 

「ああ、おはよう。二人は何の話をしていたんだ?」

 

「んー……まあ今日のゲームに向けてコイツにアドバイスしてたのさ。それとお姫様……俺は今回、コイツらが負けたらコミュニティから脱退する事にしたからソコんとこ宜しく。」

 

「そうか。妥当な判断だね。十六夜は"ノーネーム"にいても得られるのは"箱庭の貴族"と白夜叉の後ろ盾のみ。…………まあ、正直言うと君はこういう崖っぷちな展開が好みだと思ってたんだけどね。宛が外れたかな?」

 

「いや、合ってるぜ。ただ、俺以外まともにギフトゲームに勝てないコミュニティじゃあ、上には上がれない。

"俺の足元並み"の実力があれば文句は無いんだがな……。そうだ、お姫様。お前も一緒に出よーぜ!」

 

「十六夜さん!?」

 

エミヤと十六夜の会話を黙って聞いていたジンだが、あまりに身勝手な十六夜の発言に流石に横槍を入れた。

 

「なんだおチビ様。言っとくが、これは冗談じゃねーぞ。………チラホラとお姫様の力を観察していたが、コイツは底辺で埋もれて良い存在じゃない。お姫様のためを思うんだったら、ここはお前が引くべきだ。それに俺がまだお姫様の全力を観ていない!!」

 

「……絶対最後が目的だよね。……まあ、ステキなお誘いではあるよ。十六夜という戦力が消えて、現実不可能な目標を目指して皆が死ぬぐらいなら、"サウザンドアイズ"幹部である白夜叉の庇護かに入って君達を支援するぐらいの方がちょうど良いだろうし………実際、私は彼女に誘われているしね。」

 

 

そう言ったエミヤに絶望を感じて青ざめるジンだったが、

 

「だけど。……私は黒ウサギに恩があるし、ノーネームの一人と密接な関係を築いた手前、それは出来ないよ。

私は自分の命と親友なら命を捨てられるようなバカだから。すまないね十六夜。」

 

その言葉を聞いて彼は安心するのだった。

十六夜は口を尖らせて残念そうに呟く。

 

「じゃあ、しょうがねーか。その親友とやらも一緒にお姫様を拉致るだけにしとくぜ。」

 

「やめてください!!」

 

朝の"ノーネーム"屋敷にてジンの悲鳴が響いた。

 

____________________

 

その後、エミヤが子供達に紹介され、黒ウサギ達はゲームが行われる"フォレス・ガロ"を目指していた。

途中、ガルドにゲームを申し込んだ時に3人が知り合ったらしい"六本傷"の喫茶店の店員からエールを貰うなど合ったが無事相手の本拠門前に着いた。

 

そこの門は蔦で覆われていて、門の向こうに見える景色は深い森だった。

 

「……ジャングル?」

 

「虎の住むコミュニティだし、おかしくはないんじゃないか?」

 

「いや、おかしいです…“フォレス・ガロ”のコミュニティの本拠は普通の居住区画だったはずなのに…。それにこの木々は…」

 

ジンがそっと樹木に触れる。

樹木の表面が脈打ち、まるで生き物の鼓動のようですらある。

 

「やっぱり…“鬼化”している。いや、でもまさかーー」

 

「ジン君、ここに“契約書類”が貼ってあるわ」

 

鶴で覆われた門の柱に貼ってあった羊皮紙を見つける飛鳥。そこに書かれていたのは、

 

『ギフトゲーム名 “ハンティング”

 

・プレイヤー一覧

久遠 飛鳥

春日部 耀

ジン=ラッセル

 

・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐

 

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約”によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

 

“フォレス・ガロ”印』

 

「ふーん、指定武具ねぇ…」

 

「ガルドの身をクリア条件にーー指定武具で討伐!?」

 

「こ、これはまずいです!」

 

ジンと黒ウサギが悲鳴のような声をあげる。

 

「このゲーム、そんなに危険なの?」

 

「いえ、危険度はそれほどでは。問題なのは、このルールーーーー指定武具です。ルール上、飛鳥さんのギフトも耀さんのギフトも通じないということです」

 

「………どういうこと?」

 

「“恩恵”ではなく、“契約”によってその身を守っているのです。例え神格保持者であろうとも手は出せません。自分の命を勝利条件に組み込むことで、それ自体を自らを守るための鎧としたのです!」

 

そう言って説明する黒ウサギに、ジンは青ざめていた。

 

「………すいません、僕のせいです。はじめに“契約書類”を作った時にルールを決めておけばよかったのに……!」

 

エミヤに言われた事を思い出して、ジンは後悔する。そんな彼らを尻目に、エミヤは小声でレティシアと会話していた。

 

「さっきジンが鬼化しているとか言っていたけど、これはどうなっているの?」

 

「……すまない。彼らを試そうと思って私が、ガルドと森全体を吸血鬼化させたのだ……」

 

「そうか……。まあ、奴は犯罪者だったから良いけど。君は吸血行動が必要なの?」

 

「いや、私達"純潔の吸血鬼"は相手に"鬼化"のギフトを与える時に吸血行動をとる。基本的に食事は他の者と一緒だ。まあ、たまに主食が血と言う者も居るがな。」

 

「なるほど、箱庭の世界ではそれほど吸血鬼も危ない訳ではないのね。」

 

「そうだ。私達が昼間から外に出られるのも、箱庭全体に覆われている天幕のおかげだ。故に、私達は箱庭の安寧を守るための存在として、"箱庭の騎士"と呼ばれている。」

 

「そうか……」

 

そうやってエミヤがレティシアに質問している時でも、話は進む。

 

「敵さんは捨て身で五分に持ち込んだわけか。中々やるじゃねえか」

 

「気軽に言ってくれるわね…条件は厳しいわよ。指定武具がどんなものかも書かれていないし…このままでは厳しいかもしれないわ」

 

綺麗な顔を歪ませている飛鳥。自分が売った喧嘩だけに、彼女は責任を感じていた。

 

「だ、大丈夫ですよ!“契約書類”には『指定』武具と書かれています!最低でも何らかのヒントはあるハズです!もし無ければルール違反となり“フォレス・ガロ”敗北が決定!この黒ウサギがいる以上、反則は見逃しません!」

 

そう言って愛らしいステキ耳をピコピコさせる黒ウサギ。

 

「そうだね。別にもう負けが決まったわけでは無いのだから、そうマイナス方面に考えを持っていく必要も無いよ。」

 

そう言ってレティシアとの会話を終わらせたエミヤも、彼女達の会話に参加する。

 

「何よ。貴女が最初に難癖付けてきたんじゃない。」

 

そう言って噛みつく飛鳥だったがーーーー

 

「私が言ったのは最悪の条件で挑まれた時の話だよ。別に今回は命を賭けてる訳じゃない。なら、自分達が不利の状況で勝つ良い練習になる。そうプラスに考えていた方がいいよ。」

 

「……まあ、言いたいことはわかったわ。そもそも私達が負けるわけ無いのだから、そんな悲観にならなくてもよかったわね。」

 

黒ウサギとエミヤに諭されて強気に戻った。

それを見ていた耀も

 

「……私も大丈夫。黒ウサギとエミヤが励ましてくれた分は応えるつもり。」

 

そんな風に鼓舞し鼓舞される女性達を余所に、十六夜はジンに何か話しかけていた。

 

____________________

 

3人が森の中に入っていくのを見守った残り組は、フォレス・ガロの門前で、森の奥を観察しながら結果を待っていた。

 

「暇だ……。」

 

「こればっかりはどうしようも無いので……」

 

「おい審判。お前、中に入れないのか?」

 

「黒ウサギのステキ耳は万能なので、半径一キロの情報を意識すれば判断できます。よって入ること無く中の情報を確認できるのです。」

 

えっへん。と可愛らしくその大きな胸を張る黒ウサギ。

それをひと通り観察すると、十六夜はエミヤに愚痴る矛先を向けた。

 

「お姫様ならその視力で中を確認できるんだろ?黒ウサギもそうだしなんかズルくねーか?」

 

「まあ、木がかなり邪魔だけど、私なら今も彼女達が見えてるよ。と言ってもただ歩いているだけだから面白味もないけどね。」

 

「ふーん。やっぱりそうなのか。つーかギフトに載ってなかったけど、お姫様の視力は人間辞めてるだろ。なんで何にも載らねーんだ?」

 

「いや、一応"魂の器"に入っているよ。ただコレは、私本来の動きやスキルを使えるようにするのが目的に作られているから、厳密には違うけどね。」

 

「"魂の器"、ね……」

 

何かを考えた十六夜は一度静かになった。

 

「そう言えば黒ウサギはまだお二方のギフトを詳しく知らないのですが、どう言ったものか聞いても宜しいですか?」

 

黒ウサギも暇なのだろう。黙っている二人に話を振った。

 

「あー…俺も今一よくわかって無い部分があるからな。

説明となるとなんとも言えん。」

 

「そうなのですか。…エミヤさんは?」

 

「まあ、私はわかってるよ。そうだね……"無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)"は自分が作った剣を貯蔵する、と言ったギフトだよ。それ以外は………まあ、色々あって今は省くけど、身体能力に影響する類いのものと考えてくれれば良いよ。」

 

「そうなんですか?………エミヤさんからは身体能力向上では利かない、私達と同じ力を感じるんですが?」

 

「へぇ…………その力ってのはどういった類いのモノなんだ?」

 

「そうですねぇ……何かこう英雄と呼ばれる人たちの霊格というか…その人たちに由来する物を感じるというか…」

 

「鋭いね黒ウサギ。撫でてあげる。」

 

そう言ってエミヤは黒ウサギに近付いて頭を撫でる。

ぶっちゃけ、さっきからピクピクと動く黒ウサギの耳が可愛くて仕方なかったのだ。

 

「エミヤさん!?あうぅ……」

 

顔を真っ赤にして大人しく撫でられる黒ウサギと、恍惚な顔で撫でるエミヤの図が暫く続いた。

 

 




絶対黒ウサギ可愛いよね。
ケモナーな私には黒ウサギを見ているだけで耐えられないだろうよ。


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15話 王道ロリ吸血姫

なんだろ。レティシアのセリフ書いてるとき、エミヤが浮かんでくる。

……やっぱり話数書いた方が良いですかね。私は誤字多いんで……


「エミヤさぁん……きもちいいですぅ……」

 

「ふふっ、可愛いね黒ウサギ。」

 

「えへへ……ふにゅ……うぅぅ………」

 

(白夜叉の時も思ったが、何か手慣れているな……)

 

 撫でる度に耳がピクピク動いて止められないエミヤと、テクニシャンな撫で方に、もっともっととばかり額をエミヤの胸に擦り付けてせがむ黒ウサギ(欲)。

 そんな黒ウサギが愛しいと撫でる、無限ループが続いている。

 百合百合しいカップルを暫く観察していた十六夜は話を戻しにかかる。

 

「そんでお姫様。さっきの英雄云々に心当たりでもあんのか?」

 

「……む?……ああ、そうだね。私は末端とは言え英雄と呼ばれる存在だったのでな。その力の気配とはそれだと思うよ。」

 

「え、お姫様英雄だったのか?……んー……でもなぁー。エミヤもトオサカも聞いたことないぞ?」

 

「まあ、どちらかというと反英雄に近いかもしれないね。最後は悪の首謀者にされたし。」

 

「へえ、面白いことになってんのな。まあ、俺も子供の頃は色々やんちゃしたしなぁ。」

 

「それか、私の方が後に生まれた可能性もあるよ。私も制服を着て高校に行っていたしね」

 

「マジか。学校行くついでに英雄やって最後は悪役とか、どこのラスボスだよ。」

 

 そんな話をしていると、森の奥から獣の咆哮がここまで聞こえてきた。その声を聞いて黒ウサギもナデナデから復帰する。

 

「今の叫びは…」

 

「ああ、今のは十中八九、虎のギフトを使った春日部だな」

 

「いや、まって十六夜。飛鳥に命令されたジンという可能性もある」

 

「なんでここでボケに走るんですお二方様!!というかエミヤさんがここでボケるなんて!?」

 

「ごめんね黒ウサギ。君の反応が可愛くてついボケてしまったの」

 

「……うぅうぅ……。そんな言い方はズルいですエミヤさん。」

 

「ハイソコ。百合に走るな。」

 

 また、変な空間が出来そうになった所でツッコミを入れる十六夜だった。

まあ確かに不謹慎だと思ったのだろう。エミヤは真面目に戻ると、その鋭い目で森の中に目を向けた。

 

「……どうやら耀は怪我を負ってしまったみたい…。しかもかなり深傷だよ。早くしないと不味いかもしれない。」

 

「お三方様、頑張って!!」

 

「お嬢様達はかなり手こずってるみたいだな。勝てそうか?」

 

「……今、飛鳥がギフトを使ってガルドを誘導した。……どうやら無事勝てたみたい。急ごう。」

 

 そう言ってエミヤ達は森の中へと駆け出した。

 

 ____________________

 

 ゲームが無事終わり、耀も黒ウサギが抱えて、コレまでに見たこともないもないスピードでコミュニティに戻っていった。

 

 その後。十六夜が考えていた、対魔王コミュニティとしてガルドに支配されていたコミュニティに名乗り、彼らの旗と誇りを一つ一つのコミュニティに返却した。そのリーダーであるジンの名を売り込んで、だ。

 

 十六夜の大まかな作戦はこうであった。

 名前と旗のない"ノーネーム"を、ジンの名前で対魔王コミュニティとして売り込み、対魔王の意を掲げるコミュニティと連携して登り詰めよう。と言った作戦である。

 

 今のノーネームに圧倒的に足りないのは人材と、横の繋がりだ。経済面などは十六夜達がゲームに参加すれば何とかなる。ただ、これはどんな魔王相手にも依頼を受けて戦うと宣言しているので、かなり博打の賭けであった。

 

(そこが十六夜らしいけど、中々良い作戦でもある。実際上に上がるなら、ある程度の実績と知名度が必要だ。まあ穴はかなりあるけど、そこを補強していくのが私達の役割だろうし。)

 

 後ろで十六夜達を見て分析していたエミヤ。

 帰る道中

 

「レティシアはこの結果で満足したの?」

 

「……なんとも言えないな。本来なら、ゆっくり育てていけば戦力になるのは間違いないだろう。だが……」

 

「まあ、そこは君や黒ウサギが支えていけば良いだろう?険しい道のりだが可能性はある。」

 

そう言われてレティシアは暗い表情が一層濃くなった。

 

「……エミヤ。私はノーネームに帰れない。前にも言ったが私は所有物。こうして匿ってくれるのは嬉しいが、帰らないと行けない」

 

「…………何とかならないの?」

 

「私を所有しているコミュニティ"ペルセウス"が"サウザンドアイズ"主祭の下、ギフトゲームで私を商品に出そうとしたのだが……高く私を買う、買い手が見つかってな。中止になりそうなんだ 」

 

「それは………いいの?サウザンドアイズはかなり大手のコミュニティなんでしょ?」

 

「ああ、奴等はこの買い手から多くのギフトを買い取って"サウザンドアイズ"傘下から抜けるつもりだろうな」

 

「……どうにもならないの?」

 

「コレに関してはどうにもならないな。」

 

「そう……1日だけど、君とは布団を共にした仲だったから……とても悲しいよ。」

 

「そう言ってくれると私も嬉しいよ。」

 

 その後、二人はノーネームに帰るまで無言を貫いていた。

 ____________________

 

 帰ったあと、耀の無事を確認してから、飛鳥は一度部屋に、ジンは子供達の状況を観察しに、他二人は黒ウサギと合流してから談話室に向かった。

 その後、十六夜がジンに頼まれていた、レティシアが景品にされたゲームが中止になる事を黒ウサギから聞き、つまんなそうにしていた。

 

「そう言えばその元魔王だった仲間はどんな奴なんだ?」

 

「そうですね……一言で言えば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すととても肌触りが良くって……湯あみの時は星の光でとても幻想的に映えるんですよ。それに、黒ウサギの事をとても可愛がってくれた先輩なので一度お会いしたかったです……。」

 

 黒ウサギがそう呟くと、

 

「可愛いこと言ってくれるじゃないか黒ウサギ。」

 

 バッと声の聞こえた方向に振り向く2人。

 振り向いた先にはソファーに座ってくつろいでいるエミヤがいた。

 

「今……レティシア様の声が……」

 

「いい加減私の後ろに隠れてないで出てきたらどうだい?レティシア」

 

 そうネタばらしすると、ソファーに座っているエミヤの後ろから、大きさが戻っていたレティシアが出てくる。

 

「久しぶりだ黒ウサギにジン。まあ、さっきからずっと傍にいたので私的には違うがな。」

 

「……レティシア様。いつからエミヤさんの後ろに……?というか、いるなら言ってください!!」

 

 あまりの事態についていけない黒ウサギだったが嬉しさの方が勝りレティシアの下に近づく。そして企みが成功したと嬉しそうに笑うレティシア。それらを横目で見ながら、エミヤが彼女達に説明した。

 

「故あって、白夜叉のところで会った時に友達になったの。それからずっと一緒にいたよ」

 

「ふーん…この金髪ロリが黒ウサギの言っていた元魔王様でお姫様の親友って奴か。……評判通りの美少女だな」

 

十六夜が興味深そうにレティシアを観察する。視線を受けたレティシアは十六夜に気付き、彼に目を向けた。

 

「君が十六夜か。白夜叉に聞いたよ。なんでも、神格持ち相手にギフトで勝ったそうじゃないか。」

 

「あれくらい大した事じゃない。……それにしても…」

 

「どうしたの十六夜?」

 

「いや、こうしてお姫様と並んでるところを見ると凄い目の保養になるなぁと。」

 

「お二方様とも凄い綺麗ですもんね。私じゃ敵わないです。」

 

「何を言う黒ウサギ。君はとても綺麗で可愛いんだから自信を持てば良いよ。ねえレティシア?」

 

「そうだな。黒ウサギは愛らしくて可愛いが、自分に自信が無いのが珠に傷だ。」

 

そう言って黒ウサギを撫でる二人。それ黙って受けるも、黒ウサギは半ば確信した考えでレティシアに聞く。

 

「あの鬼化した森はレティシア様がギフトを与えたのですね?」

 

「ああそうだ」

 

 そこに十六夜も混ざる。

 

「へえ、 あれはレティシアのギフトなのか?」

 

「そうだ。私は純血の吸血鬼なのでね。」

 

「なるほど。金髪吸血鬼のお姫様か……。だから美人設定なんだな。」

 

「は?」

 

「え?」

 

「……十六夜。気持ちはわかるけどそれはダメだよ…」

 

「ヤハハ。悪いな」

 

 そう言って全く悪びれる態度を見せずに謝り、十六夜話を続ける。

 

「んで?お嬢様たちを試した元魔王様はどう思ったんだ?」

 

「……ガルドは当て馬にすらならなかったからな、判断に困る。私は君達に何て言葉をかければ良いのか」

 

「違うね。」

 

 十六夜はどこか軽薄な表情でレティシアの言葉を否定した。

 

「アンタは古巣へ言葉をかけたくて来たんじゃない。仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見たかったんだろ」

 

「………そうかもしれないな。解散を勧めるにしても、ジンの名前が知れ渡った今では意味が無い。だが仲間の将来を託すには不安が多すぎる」

 

「その不安。払う方法が一つだけあるぜ」

 

 そう言って、十六夜は不敵に笑った。

 

 ____________________

 

 その後、十六夜と"エミヤ"が屋敷の外で対面していた。

 レティシアと黒ウサギは少し離れた位置からそれを見守る。

 

 

 こうなった経緯は、十六夜がレティシアに勝負を吹っ掛け、彼女が応じようとするが、

 

『まって、レティシア。その勝負を私に譲ってくれない?それに君は"本来の力"を取り戻して無い様に見える。』

 

『気づいていたか……』

 

『あん?どう言うことだ?』

 

『……レティシア様。ギフトカードを少し拝見させてもらいます』

 

 そう言って黒ウサギがレティシアのギフトカードをくすねた。

 

『あ、こら!』

 

『……やっぱり、ギフトがほとんど残ってません。"純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)"と、"絶世の剣"それ以外は一般的な武器がある程度……どうしてこんなことに?』

 

『……その話は後でする。今は十六夜達の勝負を見よう。それに個人的にはエミヤの実力はとても興味があるからな。』

 

『俺以上に注目されるのは釈だが、確かに俺も興味あるな。やろうぜお姫様』

 

 と言うことだ。

 

 

「さて、勝負の内容を確認するぞ。双方が共に一撃ずつ打ち合い、それを完璧に受け止めた方が勝者とする。」

 

レティシアは二人の間に入りルールの内容を確認した。

 

「お先にどうぞ、十六夜。」

 

「では、お言葉に甘えて。………お姫様、何か使わない剣持ってないか?」

 

「どれくらいのものがほしいの?」

 

「そうだな。個人的にはあの大剣がいい。」

 

 そう言って十六夜はノーネーム門前に突き刺したあの剣を思い出す。

 

「わかった。」

 

 エミヤはギフトカードに入れていた剣を取りだし、十六夜に投げる。

 これで場は整った。

 

「んじゃあお姫様。ーーーー死ぬなよ。」

 

 そう十六夜が宣言すると跳躍し、持っている大剣振りかぶった。そして大剣はエミヤに向かって第三宇宙速度の速さで放たれる。

 

「っ!!!」

 

 それを瞬時に理解したエミヤは、一瞬でギフトカードから"アイアスの盾"を1枚取り出し、自分の身を守る。

 どんなに速度があるとは言え、片や少し神秘が内蔵された大剣。片や、1枚とは言え概念的に"投擲物に対して無敵の守り"を誇る盾だ。

 瞬間、『ドコォォン!!』という凄まじい音が辺りを響かせた。インパクトを防いだ盾はびくともせず、剣は跳ね返され地面に突き刺さっていた。

 

 ______________________

 

 箱庭における投影の説明2

 

 箱庭で投影された宝具は、増えた神秘と知名度の補正が馴染むのに時間がかかるが、馴染めばそのまま内蔵されるため、再びの投影でお互いを干渉することはなくなる。

 馴染むのにかかる時間は宝具のランクによって決まる。

 神造兵装並の宝具は神秘の量+名前も有名なため時間がかかるが、干将・莫耶などランクの低い+知名度が殆どない宝具は速攻で馴染む。

 

 

 

 




今になって鶴翼三連を思い出した。
前々から投影の条件は入れようとしていたんですが干将・莫耶を思い出して今入れました。
ちなみに箱庭は大量に神秘があるのでその武器のための神秘は補充早いんですが、知名度がゆっくり回復するので時間かかるのです。


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16話 ルイルイくん登場だってよ

ちょっとwiki見たけどやべーな。まだラストエンプリオ読んでないけど殿下とかエグい存在じゃん。エミヤさんアルジュナとかもいるし勝てなくね?まあ、やりようなら幾らでもあるから良いけどさ。


「…ハッ、スゲー盾だなお姫様。それにその剣もそうだが、俺の一撃を受けてどちらも原型を留めているとはな。お姫様の腕はかなり確からしい。」

 

「……こちらもかなり驚かされたよ……まさかあれほどの一撃を起こすとは……。アイアスが無ければ私は再起不能になっていたかもしれないね」

 

「そいつはありがとよ。んじゃあ次はお姫様だぜ」

 

 そう言って十六夜はどこまで唯我独尊を貫いて、エミヤを見下していた。彼は余裕に腕まで組んでいる。

 

「……少し調子に乗らせてしまったようだね。」

 

 魔力を右掌に溜める。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 現れたのはドリルのように螺曲がっている剣だった。それと同時に投影した黒い弓に宛がい、高く跳躍する。

 弓を引くのと同時に剣は捻れ伸び、その先を十六夜の頭もろとも地面を穿つように狙う。

 

I am the born of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

 

 瞬間、十六夜はエミヤから過去最大の脅威を感じて臨戦態勢を取ろうとするが、エミヤが先に魔力を剣に流し真名開放する。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ)

 

 十六夜は本能に従って伏せた。その頭上を先程の速度を超える速さで"空間を削り取りなから"剣が通過し、地面を穿つ。

 剣は箱庭の地を貫き、遥か彼方まで飛んでいった。

 

「…………」

 

(やはり、強化された宝具の真名開放は魔力を余剰に喰う分、威力が上がるな。)

 

 そう分析していると、

 

「……な、な、なななななな何してるんですかエミヤさん!!十六夜さんを殺す気ですか!!」

 

「十六夜にも驚いたが、エミヤには更に驚かされたな。正直ここまでとは予想してなかったぞ!」

 

「これは私の能力というよりは宝具の能力なんだけどね。……これでも魔力は抑えたつもりなんだけど(ボソッ)」

 

「なるほどな。これがお姫様がギフトで産み出した武具の力か……」

 

 そう言って十六夜も少し口を尖らせながら近付いてくる。だがその目はエミヤを狙い定めた好敵手のように見ていた。

 

「そうだよ。あれは私が造った剣の中でも最強の宝具の1つ。切り札でもあったからあれを防がれたら私も少し落ち込んだかもね。」

 

「……さっきカラドボルグと聞こえたんだが、その名前は俺の知識では剣だったはずだ。出した時は剣だったし。それを矢のように飛ばしてきたのはどう言うことだ?」

 

「あれはまあ、私が使いやすいように改造したと言うか……」

 

 どうやって説明したものかとエミヤが考えた瞬間。懐かくも少し違う脅威を感じ取った。

 十六夜達もそれを感じ、そちらを振り向くと、褐色の光が射し込まれた。

 

「あの光はゴーゴンの威光!?見つかったか!!」

 

 レティシアは3人を庇うように動こうとしたが、

 十六夜が先に前にでて、その光を踏み抜いた。

 

 ガシャン!!という音と共に、天地を覆う褐色の光はガラス細工のように砕けた。

 

「「なっ!!!」」

 

 あまりの光景に黒ウサギとレティシアは声をあげる。

 

「今俺は、興奮とイライラで感情がごちゃ混ぜなんだよ。そんな時にフザケた物持ち込んできやがって。何処のどいつだごらぁぁぁ!!」

 

 十六夜が吠えた。

 光が迫ってきた方向に、羽の生えた具足を着け、甲冑をと兜を着けた騎士のような者達が遠方から近づいてきた。そして、ゴーゴンの首を掲げた旗印。"ペルセウス"の者達とわかった。

 

「いたぞ!奴だ!」

 

「石化してないぞ!?」

 

「例の"ノーネーム"もいるな」

 

「構わん。邪魔する奴は切り捨てろ」

 

「オイオイ何なんだ一体?」

 

「とりあえず、屋敷に戻りましょう。」

 

 サウザントアイズの幹部である"ペルセウス"相手に揉め事を起こしてはいけないと思い、そう言ってエミヤを促し十六夜を屋敷に戻そうとするが。

 

(あの足具に兜は……)

 

 エミヤは解析の魔術を行い、彼らのレプリカ品に目を着けた。

 エミヤはレティシアの前に出て。

 

「少し待って欲しい。君達は"ペルセウス"コミュニティの者達だな?君達のリーダーと交渉をしたい」

 

「"ノーネーム"が我らのリーダーに交渉だと!?部を弁えろ!!名無し風情が!!」

 

「何を交渉するのか知らんがその商品は既に、箱庭の外にある一大国家クラスのコミュニティと契約を取り付けたんだ!!今さらお前達などと

「箱庭外ですって!?」

 

 突然のエミヤの奇行に慌てていた黒ウサギだが、彼らの言葉を聞いて横槍を入れた。

「彼女達"箱庭の騎士"は箱庭の中でしか生きられません!なのに箱庭の外に売りつけるですって!?」

 そう言って邪魔になると感じた"ペルセウス"メンバーは、敵意を向けた目で彼女を見る。

 

「我らが当主が決めたこと。部外者は黙れ。」

 

 そう言って空で舞う彼等は各々の武器を構える。

 

 本来ならば本拠への不当な侵入はコミュニティの侮辱であり、世間体もよろしくない。

 それに、大手商業コミュニティ"サウザンドアイズ"は信頼を大事にする。その傘下である"ペルセウス"がこんな暴挙に出るのは、完全に"ノーネーム"を見下しているということだからだ。

 

「このっ!これだけ無礼な行いを働いておきながら、非礼を詫びる一言も無いのですか!?」

 

「ふん。こんな下層に本拠を構えてるコミュニティに礼を尽くしては我らの旗に傷が付くわ。身の程を知れ"名無し"」

 

 その言葉を聞き、黒ウサギの堪忍袋も切れた。いきなりの襲撃と暴挙。それに加えて数々の侮辱発言には流石の温厚な黒ウサギもキレる。

 

「あり得ない……あり得ないですよ。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われた"月の兎"をコレほど怒らせるとはッ……!!」

 

 黒ウサギが右手を掲げた瞬間。閃光が迸り、雷鳴の爆音が周囲を襲う。そして現れたのは雷を纏うが如く輝く槍だった。

 

「雷鳴と共に現れるギフト……インドラの武具だと!?」

 

「ばかな!最下層のコミュニティが神格を付与された武具をもつなど!!」

 

 エミヤも黒ウサギの槍を解析していた。

 

("インドラの槍"!?いや、姿形は私の知ってる槍ではないし、そもそもレプリカだけど……それでも破格の神秘と性能だ。………これは、少し不味いかも。黒ウサギか"ノーネーム"が、かの大英雄に関係するとしたら………魔王は最悪、あの英雄王と同等とも言われる存在を負かす実力の者と言うことになる。

 脅威とは言え、"老化を進行させる"程度のギフトだと思っていたけど……悠長なことを言ってられなくなった)

 

 そうエミヤが考えている中。

 黒ウサギがインドラの槍を彼等に受かって撃ち出そうとすると、

 

「てい」

 

「フギャア」

 

 十六夜が後ろから耳を引っ張った。

 

「まてよ黒ウサギ。コイツらは俺が最初に因縁つけた相手なんだぜ?それにコイツらを殺すと後々面倒なことになるだろ?」

 

 そう言って黒ウサギをレティシアの所に投げる。

 

「いたぁ!ちょっ十六夜さん!!もうちょっと私のステキ耳を労ってください!!」

 

「ほら黒ウサギ。痛かっただろう?」

 

「レティシア様ぁ」

 

 レティシアは投げられた黒ウサギを撫でて愛でる。

 

「さて、先に手を出してきたのはそっちだ。先ずは取っ捕まえてコイツらの無礼な行いの証拠を、コイツら自身に証言してもらうか。」

 

 そう言って十六夜は拳を鳴らして彼等に近づいていった。

 

 ____________________

 

 

「さて、良い感じにぶちのめして大人しく言うことを聞くようになったし。コイツらの主に会いに行こうぜ」

 

「い、十六夜さん……恐ろしい子っ」

 

 黒ウサギは十六夜の拷問に戦慄した。

 その後。十六夜達は飛鳥も誘い、事を説明してから"サウザンドアイズ"支店に向かった。

 

 

 五人が"サウザンドアイズ"に着くと、店先で迎えたのは例の無愛想な店員だった。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです。」

 

 そう言って黒ウサギ達を、中庭を通り抜けた先にある別館に案内した。

 中に入ると、迎えた酷く軽薄そうな男が黒ウサギとエミヤを見て歓声を上げた。

 

「わぉ!これが噂の"月の兎"か!ミニスカにガーターベルトとか超エロいじゃん!!それにこっちのグラマスなおねーさんも綺麗な銀髪にエロい胸が良い感じだ!

 僕は"ペルセウス"のルイオスって言うんだけどさ。君達、僕のコミュニティに来ないか?君達が良ければ三食首輪付きで飼ってやるぜ?」

 

 開口一番その男ーーーールイオスは、好色そうな視線で黒ウサギとエミヤを舐め回した。不躾な視線から守る様に、飛鳥が二人の前に立ちふさがる。

 

「これはまた随分と分かりやすい外道ね。断っておくけど、二人の美脚と巨乳は私達のものよ」

 

「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!!」

 

 突然の所有宣言にツッコミを入れる黒ウサギ。そんな二人を見ながら十六夜は呆れて溜息をつく。

 

「そうだぜお嬢様。二人の美脚と胸は既に俺のものだ」

 

「なら、私が二人をいい値で買おう!!」

 

「売・り・ま・せ・ん! なんで皆様でふざけ合っているんですか!」

 

 そんな彼等のやり取りを見たルイオスは、ポカンとした顔の後に唐突に爆笑しだした。

 

「あっははははは! え、何? “ノーネーム”って芸人コミュニティなの? そうなら纏めて“ペルセウス”に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベッドで毎晩好きなだけ開かせてもらうし、その胸も好きなだけ堪能させてもらうけどさ。」

 

「お断りでございます。黒ウサギは礼節を知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありませんし、エミヤさんもこんな殿方に、このエロエロで包容力のある胸をあげるつもりは毛頭ありません!!」

 

 嫌悪感を吐き捨てる様に高々と宣言する黒ウサギ。

 

「お前がボケるなよ黒ウサギ。と言うかそんなエロい衣装着て誘ってないとかないだろ」

 

「これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この恰好を常備すれば賃金を三割増しすると言われて………」

 

 そう黒ウサギがゴニョゴニョと反論すると、十六夜は白夜叉に目を向けて

 

「超グッジョブ」

 

「うむ」

 

 サムズアップし、それにサムズアップで応える白夜叉。

 

「……いい加減、本題に入らない?」

 

 エミヤはこの茶番を終らせた。

 ____________________

 

 

 念のためレティシアを別室に待機させていた四人は座敷に招かれて、〝サウザンドアイズ〟の幹部二人と向かい合う形で座る。長机の反対側に座るルイオスは舐め回すような視線で黒ウサギとエミヤを見続けていた。

 黒ウサギは悪寒を感じるも、ルイオスを無視して白夜叉に事情を説明する。

 

「―――〝ペルセウス〟が私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。御理解頂けたでしょうか?」

 

「う、うむ。〝ペルセウス〟の所有物・ヴァンパイアが身勝手に〝ノーネーム〟の敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際に於ける数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

 

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。〝ペルセウス〟に受けた屈辱は両コミュニティの決闘を以て決着を付けるべきかと」

 

 レティシアが敷地内で暴れ回ったというのは勿論捏造だし、彼女にも了承は得ている。本当はレティシアを悪く言うのは黒ウサギとして心苦しかったが、彼女を取り戻す為には形振り構っていられ無かったのだ。

 

「〝サウザンドアイズ〟にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし〝ペルセウス〟が拒むようであれば〝主催者権限ホストマスター〟の名の下に」

 

「嫌だ」

 

 唐突にルイオスはそう言った。

 

「………はい?」

 

「嫌だ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠が有るの?」

 

「それなら彼女の石化を解いてもらえれば」

 

「駄目だね。アイツは一度逃げ出したんだ。出荷するまで石化は解けない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃないか。そうだろ?元御仲間さん?」

 

 嫌味ったらしく笑うルイオス。筋は通っているがしかし、現在レティシアがノーネーム側に居ることを彼は知らない。

 

「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ?実は盗んだんじゃないの?」

 

「な、何を言い出すのですかッ!そんな証拠が一体何処に」

 

「事実、あの吸血鬼はあんたのところに居たじゃないか」

 

「……そうですかあくまで白を切るつもりですね」

 

「切るも何も僕は本当のことを言ったまでだよ?」

 

「では、……その当事者と貴方達のメンバーの一人に証言を貰います。」

 

「はっ?」

 

 そう言うと、黒ウサギは十六夜に目配せする。十六夜は立ち上がり部屋を出た。少しするとレティシアと顔以外ボコボコにされた"ペルセウス"メンバーの一人を連れてきた。

 

「なぁ!?お前!」

 

「ルイオスさんよ。コイツらから既に言質は取ってあるんだ。必要ならもっとお前のお仲間さんを呼ぶぞ?」

 

 




エミヤの投影品。疑似神格って書いたけど神格に変更させました。


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17話 交渉に入るようですよ?

そりそり1巻分が終わりますね。
やっとですよええ。

前々から思ってたんですが"全て遠き理想郷"って、聖杯化進むの遅らしたりできる、とかあるけどどーなってんですか!持ってる時は外界からいっさいの傷を受け付けないだけの性能じゃなかったんですか!
剣特性なのに鞘持ってる士郎さん盾投影したりとか、なんか矛盾した設定多すぎでしょ!!作者、もうどこまでご都合主義させれば良いのかわかりません!

という訳で、私は抑止力デメリット無効についての盾性能云々の話をカットしようと思いますが良いですよね?いいんです。
ていうか、作者あんまりご都合主義派ではないので、極力減らしたい。速度とか被害範囲とか問題児に合わせるから仕方がなくやってるのです。




「……………確かにそいつは僕のメンバーだし、どういう訳か石化されなかった商品もいるようだ……。だがな」

 

 そう言って一拍入れてからルイオスは勝ち誇ったように喋り出す。

 

「そんなに決闘がしたければ、その吸血鬼から話を聞くんじゃなくて"サウザンドアイズ"にちゃんと調査させればいいよ。………尤も、ちゃんと調査されて一番困るのは全く別の人だろうけど?」

 

「そ、それは………!」

 

 黒ウサギは視線を白夜叉に移す。逃げてきたレティシアを匿っていた事実は、幹部である白夜叉にとってかなりの責任問題だった。

 

「さて、んじゃ僕は帰るよ。これでも僕はやることが一杯なんでね。さっさと商品を箱庭の外に送る準備もしないとだし。」

 

「貴方正気ですか!?"箱庭の騎士"は箱庭の外だと……」

 

「そうだね。でも仕方無いじゃん。取引相手は箱庭の外にいる奴だし?それに愛想無い女って嫌いなんだよね、僕。特にソイツは体も殆んどガキだしねえ―――だけどほら、それも見た目は可愛いから。その手の愛好家には堪らないだろ?気の強い女を裸体のまま鎖で繋いで組み伏せ啼かす、ってのが好きな奴も居るし?太陽の光っていう天然の牢獄の下、永遠に玩具にされる美女ってのもエロくない?」

 

 ルイオスは全く悪びれた様子も無く、更に挑発半分で商談相手の人物像を口にする。

 案の定、黒ウサギはウサ耳を逆立てて叫んだ。

 

「あ、貴方という人は………!」

 

「しっかし可哀想な奴だよねーソイツも。箱庭から売り払われるだけじゃなく、恥知らずな仲間の所為でギフトまでも魔王に譲り渡す事になっちゃったんだもの」

 

「え?それは………本当ですか、レティシア様?」

 

 黒ウサギは恐る恐るレティシアに訊くと、彼女は無言で目を逸らした。それを黒ウサギは是と取り動揺した。

 そしてルイオスは黒ウサギのその動揺を見逃さなかった。

 

「報われ無い奴だよ。〝恩恵ギフト〟はこの世界で生きて行くのに必要不可欠な生命線。魂の一部だ。それを馬鹿で無能な仲間の無茶を止める為に捨てて、漸く手に入れた自由も仮初めのもの。他人の所有物っていう極め付けの屈辱に堪えてまで駆け付けたってのに、その仲間はあっさり自分を見捨てやがる!その女は一体どんな気分になるだろうね?」

 

「………え、な」

 

 黒ウサギは絶句しレティシアを見る。やはり彼女は目を逸らして悔しそうな表情のまま何も言わない。

 蒼白になった黒ウサギにスッと右手を差し出し、ルイオスはにこやかに笑って、

 

「ねえ、黒ウサギさん。このまま其処の彼女を見捨てて帰ったら、コミュニティの同士として義が立たないんじゃないか?」

 

「………?どういうことです?」

 

「取引をしよう。その吸血鬼を〝ノーネーム〟に戻してやる。代わりに、僕は君が欲しい。君は生涯、僕に隷属するんだ」

 

「なっ、」

 

「一種の一目惚れって奴?それに〝箱庭の貴族〟という箔も惜しいし」

 

 再度絶句する黒ウサギ。飛鳥とレティシアもこれには堪らず怒鳴り声を上げた。

 

「外道とは思っていたけど、此処までとは思わなかったわ!もう行きましょう黒ウサギ!こんな奴の話を聞く義理は無いわ!」

 

「ああ。黒ウサギが私なんかの為に犠牲になるのは間違っている!私のことはいいから早急に帰ってくれ!」

 

「ま、待って下さい飛鳥さん!レティシア様!」

 

 黒ウサギの手を握って出ようとする飛鳥と、それを催促するように言うレティシア。だが黒ウサギは困惑していて動かない。

 それに気付いたルイオスは厭らしい笑みで捲し立てた。

 

「ほらほら、君は〝月の兎〟だろ?仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ?君達にとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」

 

「………っ」

 

「ねえ、どうしたの?ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ?安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!?箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!?ホラどうなんだよ黒ウサギーーーー」

 

「"黙り「待って飛鳥。」」

 

 飛鳥のギフト"威光"が発せられる前にエミヤが止めた。

 そのまま黒ウサギを背に庇い告げる。

 

「一目惚れ云々は置いておいて。君達"ペルセウス"は、要は強大なギフト、もしくはそれに関する武具物品が欲しいのだろう?」

 

「あ?なに?もしかしておねーさんが変わりになるの?まあ、俺の好みではあるけどただ可愛いってだけじゃーーーー」

 

「その前にこれを見てから発言して欲しいな。」

 

 そう言ってエミヤは投影した剣を彼の前に置いた。その剣はかつて英雄王から解析した無銘の剣。しかし彼の宝物庫に入ってあるだけに、英雄すらまともに斬られれば死ぬ程の内蔵された神秘と性能があった。

 

「……これは!?」

 

「君は"不可視の兜"や"飛翔する具足"をレプリカとは言え量産に成功したコミュニティの長だ。当然、この剣の価値もわかるだろう?」

 

 ルイオスはその剣を手に取り、白夜叉も気になったのか横からそれを観察した。

 

「オイオイ……これは神格のギフトが付与されてるじゃないか……これをどこで……」

 

「それに剣自体もかなり優れておるな……」

 

「これは私が生涯かけて造った剣の一振りだ。気に入ってもらえたかな?」

 

「なんじゃと!?おんしが造ったのか!?神格を付与させる人間など聞いたこともないぞ!」

 

「……そうだ。それにこれだけじゃ黒ウサギと釣り合わないさ」

 

 白夜叉が良い感じに持ち上げたのも良い誤算であると考えたエミヤは、ここで持ちかける。

 

「まあ、そうだろう。だからそこで交渉だ"ペルセウス"の当主ルイオス殿。私はこれと同等の、生涯かけて造った剣があと数点だが持っている。それとレティシアを交換してはくれないか?」

 

「まだあるのか!?」

 

 ルイオスはエミヤの発言に、彼女の価値を見定めようと考えを巡らせた。

 

(オイオイ……ホントに何なんだこの女は。神格を付与させるギフトやこの剣を造る程の刀鍛冶能力を持ってるなんて……こんな下層にいて良い人材じゃないぞ!?上層、それも幹部候補のお誘いが来てもおかしくない才能だ!)

 

 エミヤに誤算があるとしたら、この男のコミュニティが下層に落ちる危機を孕んでいたことと、自分を卑下するあまり、彼女自身が誘われる等、露とも考えていなかったことだ。

 

(欲しい……この女は是非とも欲しい!!それにノーネームと言う無名の状態なら他のコミュニティに邪魔されず獲れる!!)

 

「……確かにその交渉に乗っても良い。だけど、その武器じゃなくて、君そのものが欲しい。」

 

「なんですって!?」

 

「ルイオスよ。それはちと虫が良すぎじゃないかの?」

 

 ルイオスの出した提案に堪らず声をあげる飛鳥と、見兼ねて敵意を持って睨む白夜叉。

 

「そんなことはないさ。君達はそのレティシアが箱庭外に売られるのが嫌で、更には戻ってきても欲しいんだろ?なら物々交換といこうじゃないか。

 それに、君もこんな下層のコミュニティにいるより、もっと上の所で活躍した方が良いだろ?」

 

「……この品々では不服だと?」

 

「いや、そんなことはない!ただこれは提案だ。君をこんな下層なんかに燻らせておくのは勿体無いと思ったまでさ。」

 

「貴方達は……何処まで此方を見下せば気が済むのですか!!」

 

「待って黒ウサギ。………いいよ。その提案、此方の条件を飲むのなら考えてあげる。」

 

「ちょっ、貴女正気!?」

 

「そうです!エミヤさんが行ってしまうならいっそ私が!」

 

「それじゃあ早速……」

 

 エミヤの発言に、事態が収集付かなくなりかけた瞬間、

 

「黙れ!!!」

 

 白夜叉が一喝した。それに反応して、皆が一度黙った。

 鎮まった部屋の中、白夜叉は冷静に発言の続きを促す。

 

「……して、エミヤよ。その条件とはなんだ?」

 

「……ルイオスくん。その条件をのむかわりに、私と対等な決闘を申し込みたい。私が賭ける物は私自身。君が賭けるのは……そうだね。君達コミュニティが持つ品を三点、私が選んでそれらを貰いたい」

 

「……三品だと?」

 

「そうだよ。そちらが勝てば私と漏れなく私が造った剣が貰えるんだ。そちらの方が遥かに利点が多い筈だよ?」

 

「……確かにな。良いだろう!その条件を飲んでやる!」

 

「待ってください!……エミヤさん、それは私やレティシア様のためですか?それなら私は認めません」

 

「そうよ!黒ウサギもエミヤさんもあっちに渡すなんてあり得ないわ!それに貴女が勝手に決めて良い問題でも無い。これはもうノーネーム全体の問題よ!」

 そうエミヤに文句を告げる黒ウサギと飛鳥だが、

 

「君達は1つ勘違いをしてるよ。私は別に黒ウサギの為でもレティシアの為でもない。あくまで彼の持つ品に興味があるんだよ。それに飛鳥。これは私の個人的な交渉だ。君達が何か交渉に挟める品がない以上、黙っていてくれないかな」

 

 それに、と付け加える。

 

「なぜ私が負ける前提なのか知らないけど、要は勝てば良い。それとも私が負けるとでも思っているのかな?」

 

 そう言って自信満々な態度をとった。

 

「…………」

 

 そう言われては押し黙るしかない二人。そこに十六夜が二人を説得させるために動いた。

 

「まあ、良いじゃねーか二人とも。さっきお姫様が言った様に勝てば良いんだ」

 

(……それにこんなところで消えるようじゃ、俺の目は節穴だったって事だしな。)

 

 そう言って二人の肩を掴み後ろに下がる。

 彼等の話が落ち着いたことで、ルイオスは決闘を催促した。

 

「じゃあ早速始めようか。白夜叉、何か舞台を整えてくれないか?」

 

「……別によいが。エミヤよ。ホントに良いのだな?」

 

「くどいよ白夜叉。私が出した提案だ」

 

 そう言って、もう口を挟むなとばかりにルイオスを見ようとするが、クイッと袖を引かれた。見るとレティシアが不安そうにエミヤを見上げていた。

 

「エミヤ……。先程見た実力だから負けるとは思ってないが、万が一と言うこともあるんだぞ?」

 

 それを聞いて、エミヤは彼女の頭に手を乗せて撫でる。

 

「安心して欲しいレティシア。……と言っても安心できないか。なら、ここで誓いを立てよう」

 

 そう言って、エミヤはレティシアに跪き、口上を述べた。

 

「エミヤ・リン・トオサカの名を持ってここに誓おう。我が剣をもって敵を討ち果たし、我が友レティシア・ドラクレアにその武功を捧げよう」

 

 その姿はまるで、姫を守る為に戦に赴く騎士のような姿だった。

 

 ____________________

 

『ギフトゲーム名"英雄ペルセウスと守護者の決闘"

 

  プレイヤー一覧

 "ノーネーム" エミヤ・リン・トオサカ

 "ペルセウス"ルイオス

 

  ルール説明

 両プレイヤーが決闘を行い、プレイヤーの一方が、降参または戦闘続行不能になった場合、もう一方のプレイヤーが勝利する。

 

 "ノーネーム"側が勝った場合、"ペルセウス"コミュニティから物品を三品選んで、"ペルセウス"はその三品の所有権と物品を渡す。

 

 "ペルセウス"側が勝った場合、"ノーネーム"側参加者は"ペルセウス"コミュニティのメンバーとなる。

 

 宣誓 上記のルールに則り、〝ルイオス〟〝エミヤ・リン・トオサカ〟の両名はギフトゲームを行います。

 

  "サウザンドアイズ "印 』

 

 

 場所は白夜叉の手によって、巨大な闘技場のようなゲーム盤に移動した。

 エミヤとルイオスは30メートルほど離れた間合いで相対していた。審判は黒ウサギが務めている。

 

 闘技場の観客席では"ノーネーム"メンバーとレティシア、白夜叉が二人の準備が整うのを待っていた。

 

「エミヤさん。ああは言ってたけど大丈夫かしら?」

 

「まあ、あんなに自信あるみたいだし大丈夫だろ。それにあのルイオスって奴からは小者臭がするしな」

 

「確かにあやつは全く強くないが……問題は奴のギフトだな。あやつは魔王を一人隷属させている。」

 

「へぇ……ってことは相手はアルゴルの悪魔か。」

 

「おんし。気付いていたのか?」

 

「いや、白夜叉の話で確信が持てただけだ。流石に時間は足りなかったが、"ペルセウス"に"ゴーゴンの石化"のギフト。本来の神話なら、戦神に奉げられたゴーゴンの首はこの世界に存在しないはずだが、あのギフトを所持しているなら辻褄が合う。」

 

「おんしは博識だの。それでエミヤにはその事を教えたのか?」

 

「いや?今言ったろ。確信が漸く持てたってな。だからお姫様には報告はしてないぜ。」

 

「そうか……果たしてあの娘が霊格落ちしたとは言え星霊に勝てるかどうか…」

 ____________________

 

 変わって闘技場。黒ウサギは二人の準備が終わったのを確認してからお互いに問いをなげた。

 

「お二方、準備は宜しいですね?」

 

「ああ」

 

「OKだよ黒ウサギ。」

 

「では……決闘開始!」

 

 




なんかレティシアさんが一番一緒にいる分、ヒロインポジになってきた。

ちょっと今、予期せぬエミヤインフレ化の設定練り直します。次とその次は書ききってますがその後は更新遅れるかも。



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18話 英雄の決闘

アルゴールとの決闘は果たしてどうするか。

前回の投稿時間ミスってた。夜じゃなくて朝に設定してた


 黒ウサギが宣言した瞬間、ルイオスは足具のギフトで素早く飛翔した。

 

「なんだい?いきなりの逃げかな?ペルセウスの名が泣くよ?」

「ふん。僕が馬鹿正直に真っ正面から戦うように見えるかい?それに空にいてもヤることはあるんでね。」

 

 そう言ってルイオスは"ゴーゴンの首"の紋が入ったギフトカードから、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。

 

「メインで戦うのは僕じゃない。そして君が今から戦うのは、かの星霊だ。」

「っ!!」

「……なに?」

 

 審判役である黒ウサギは焦りだし、エミヤは何のことかわからないとばかりに疑問の声をあげる。

 黒ウサギが想像するのは最悪の事態。ルイオスが持つのはギリシャ神話の神々に匹敵するほどの凶暴なギフト。

 

 ルイオスは首に付いたチョーカーを外し、それに付いた装飾品を掲げた。その瞬間、掲げたギフトが光始める。光は強弱を付けながらそのギフトの封印を一つ一つ解いていく。

 エミヤは隙だらけのルイオスを撃ち落とそうか、と考えたが、一度そのギフトを確認しておこうと思い、止めた。

 

 光の強さが最大になった瞬間、その"知っている気配"を感じ臨戦態勢をとるエミヤ。

 獰猛に嗤ったルイオスはそのギフトの名前を告げた。

 

「目覚めろーーーーーーーー"アルゴールの魔王"!!」

 

 光は褐色に染まり、エミヤの視界を染めた。

 闘技場の隅々まで響き渡る様な甲高い声が耳を揺さぶる。

 

「ra………Ra、GEEEEEYAAAAAAAAAaaaaaaaa!!!」

 

 現れた女は、身体中に拘束具と捕縛用ベルトを巻いて、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせていた。

 謳う様な、そして叫ぶ様な女の声に堪らずに耳を塞ぐ黒ウサギ。エミヤはその霊格を肌で感じ、叫ぶ。

「これは……メドゥーサか!!」

 そして一瞬で投影した干将・莫耶を振り、石化して落ちてきた雲を切り捨てる。

 

「いやぁ、飛べない人間て不利だよねぇ。落下してくる雲も避けられないんだから。」

 

 エミヤの頑張りを見てルイオスは嘲笑っていた。

 

「星霊・アルゴール………白夜叉様と同じ、星霊の悪魔。不味いですよエミヤさん……!!」

 

 1つの星の名を背負う大悪魔、箱庭最強種の一角である"星霊"こそがペルセウスの切り札だった。

 

「RAAAAAALaaaaaa!!」

 

 そんな彼等を無視して、エミヤは未だ叫ぶアルゴールに哀れみの視線を向けた。

 

「メドゥーサ……君はこちらでもマスターに恵まれなかったのか……本来の君はこんな姿ではないはずなのに……」

 

 そう呟くとルイオスに敵意の視線を向ける。向けられたルイオスは不適に嗤った。

 

「さあ、どうする刀鍛冶師くん?」

「……予定が1つ変わった。本来ならもう少しじっくり様子を見ようと思ったけど、止めた。」

 

 そう言って干将・莫耶を消し去った。唐突に己の得物を消したエミヤを疑問に思ったルイオスは。

 

「ん?どうしたの?諦めたかな?」

「戯け。そうではないわ」

 

 エミヤは弓と剣を投影した。その瞬間、ルイオスを五つの赤い閃光が襲った。

 

「あ?…………ぁぁぁぁがあああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 四肢と腹が灼熱で焼けるような感触と、遅れてやって来た貫かれた激痛で、靴の制御がとれずルイオスは落下する。

 

「うぐぅぁぁぁぁ……うっぐ、ぼがぁぁ!!」

 

 口に溜まった血を吐いてのたうつ彼に、エミヤは冷静に聞いた。

 

「私は弓兵なのでね。あんな撃ってくださいとばかりに空中に留まるなんて愚の骨頂だよ。」

 

 そう言ってから一拍空けて、エミヤはルイオスに問う。

 

「さて、ルイオスくん。四肢と、内蔵ごと腹を貫いたんだ。このまま放置すれば出血多量で死ぬよ。それに早く処置しなければ四肢が壊死するかもしれない。さっさと降参することをお勧めするよ。」

 

「……ぐぅぁ……ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!!終らせろアルゴ」

 

 ルイオスがその言葉を聞き、絶叫しながらアルゴールに石化の呪いを行わせようとした瞬間。

 ルイオスの前に出て守っていたアルゴールがいる方向とは別の、全く予期しなかった方角から、捻れた剣がルイオスの顔すぐ傍の地面に突き刺さった。

 

「ひっ!」

「次は当てるが、どうする?」

 

 そう言ってアルゴールの隙間から此方を狙うエミヤが見えた。

 

「わ、わかった!降参だ!!だから助けてくれ!!」

「そうか。では早速品を受け取ろうかな。」

 

 そう言って、エミヤは弓と剣を持つ腕を下ろした。

 

 

 

 

 

 呆気なく終わった決闘に観戦していた白夜叉達は呆然としていた。

 一番早くに復帰したのはレティシアだったが、彼女は早々にエミヤの下に飛んでいってしまった。

 まず、口を開いたのは飛鳥だった。

 

「……よ、弱くないかしらあの男」

「……いや、そうではない。油断していたとはいえ、本人とアルゴールが反応できない速度で矢を射たのだ」

「そうだぜお嬢様。あの光の軌道、見えたのか?」

「うっ……」

 

 実際見えていなかったのだろう。飛鳥は押し黙ってしまった。だが、十六夜もこの結果に味気無いものを感じていた。

 

「まあ、それにしても呆気なく終わっちまったがな。もうちょっと星霊の実力ってのを見てみたかったぜ」

「いや、無理じゃよ。ルイオスはあの魔王を完全に御しきれていないからの。見ろ。あの数々の拘束具がその証拠だ」

「なんだ。結局アイツが弱かったのが敗因てわけか。……まあ、こうなったら後は、お姫様が何を奴等から取るかだな」

「一つはレティシアだとしても、残りは何を選ぶのかしら?」

 

 彼等はエミヤが求める物に意識を向けた。

 

 ____________________

 

「エミヤ!!」

 

 レティシアが凄い勢いでエミヤに飛び付いてきた。

 彼女は飛んできたレティシアを受け止めて、彼女に注意した。

 

「レティシア。危ないから、いきなり飛び付いて来ないでよ」

 

 だがレティシアはそんな余裕がないのだろう。エミヤの発言を無視して彼女の胸ににすがり付きながら捲し立てる。

 

「良かった。ホントに良かった!……エミヤが私のせいで石にされて………連れて行かれるのではないかと気が気でなかったぞ!」

 

 そう言ってエミヤに顔向ける。その目には少し涙が浮かんでいた。

 レティシアは仲間を失うのを二度も経験しているのだ。そのトラウマが甦ってきたのだろう。

 その顔を見て罪悪感が沸いたエミヤは、慌てて彼女をあやす様に喋る。

 

「ご、ごめんなさいレティシア。まさか君がそんなに私の事を心配してくれるなんて思わなくて……。ホントにゴメン」

「……うぅぅ…」

 

 エミヤが慌てていると、黒ウサギも彼女に抱き付いてきた。

 

「全く!エミヤさんはここぞと言う時に無茶してっ!私も心配したんですからね!!」

「ああ、ごめんね黒ウサギ。……いや、そうじゃないよね。」

 

 そう言って此方を見るレティシアと黒ウサギに告げた。

 

「心配してくれてありがとう。」

 

 ____________________

 

 その後、白夜叉の手を借りて応急手当てを受けたルイオスに、エミヤは報酬の内容を告げる。

 

「ではまず、レティシアを貰おうかな」

「ハイハイ。勝手に持ってけよ……はぁ」

「ああ、そうするよ。それと後二つが、"不可視の兜"のオリジナルと、"魔王アルゴール"の所有権だ。」

「はぁ?…………はあああああぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

エミヤの発言を理解した瞬間、堪らずルイオスは絶叫した。

当たり前だが、彼女は"ペルセウス"の主戦力だ。彼女を失うことは"ペルセウス"の瓦解を確定させるのに等しい。

それを理解している他の面々も少し口元を引くつかせていた。

 

「おお………随分とデカイ要求をしたなお姫様」

「まて!あれは僕ら"ペルセウス"の切り札だぞ!?それを持っていくなんて………」

「そう言う割には、彼女の力を全く制御できていなかったじゃないか。私の知ってるメデューサは、英霊に格が落ちてたとは言えもっと強かった。君が持ってるだけ宝の持ち腐れだよ」

「うぐぅ……」

 

 至極真っ当なことを言われて黙るルイオス。

 

「まあ、そんなわけでそれらを貰うよ。悪いね"ペルセウス"くん」

 

 そういった直後、エミヤの前に彼が付けていたチョーカーの装飾品と、オリジナルの"不可視の兜"が現れた。

 それをギフトカードに入れたエミヤは、"ノーネーム"の面々に振り返り、満面の笑顔で、

 

「それじゃあ帰りましょうか!それとレティシア。"ノーネーム"復帰おめでとう!!」

 

 そう告げた。

 

 ____________________

 

 その後、サウザントアイズ主催のゲームを中止させ、取引相手との交渉が破談になった"ペルセウス"は、"ゴーゴンの魔王"のギフトも無くなったのも相まって、六桁の外門にまで本拠が移された。

 閑話休題。

 

 エミヤが勝利してから二日後の"ノーネーム"談話室にて

 

「……………ぶぅ……」

「まあそんな落ち込むなよ春日部。二日間でこんなにイベントがあったんだ。その内、オモシロイ事がやって来るさ。」

「そうよ春日部さん。今回は仕方がなかったけど、また何時かエミヤさんの活躍も見えるわ。」

「………私だけ除け者にされた。」

「ち、違うのよ春日部さん!今回はエミヤさんが独断で急に行ったからであって、春日部さんを除け者にしようだなんて考えて無かったわ!」

 

一人置き去りにされた燿は盛大にブー垂れていた。

それを必死になってあやす飛鳥はとても友達想いであろう。

そんな二人を端から見ながら、エミヤは何とも言えない表情をしていた。

 

「……まあ、今回は私に非があるので認めるが……なんで私は執事の格好をさせられているの?いや、メイドとかじゃないから構わないんだけどさ」

「いやぁ、……あの姿を見たらなぁ。騎士はガチャガチャしてあれだから執事にしてみた」

「……どこから持ってきたの?」

『私だよ、エミヤ!!』

 

 ビクッと、エミヤは急に頭の奥から響いた大きな声に反応してしまう。

 

「あん?どうしたお姫様。」

「いや……今しがた諸悪の根源がわかったところだよ…………で?なぜ私はこの仕切りの前に立たされているのかな?」

「まあ、今回した独断専行の罰ゲームだな。場合によっちゃあ、俺たちは優れた鍛冶師を失うことになったんだぞ。」

 

 そう言われてはエミヤは黙るしかなかった。だが、仕切りの向こうでは黒ウサギとレティシアが何やら騒いでいるので、彼等がやりたいことが何となく察していた。

 

(……白夜叉。いきなり叫ばないでくれないかな?)

(む……ビックリさせたかったのになんだか反応が淡白だの。これが俗に言う倦怠期か)

(十分反応したよ…………ちなみに私は君と結婚した覚えもないけど?)

(連れないこと言うなよぅ。ディープなキッスをした仲じゃないか)

(……どうすればコレを切れる?)

(酷い!私との関係は遊びだったと言)

 

 エミヤが凄く拒否りたい思いを白夜叉に送ると、白夜叉との念話が切れたようだ。

 

「……それで十六夜。いつまで待てば良いの?」

「そうだな……。黒ウサギ!まだか!?」

 

 そう十六夜が仕切りの向こうにいる黒ウサギに話しかけると。

 

「ちょっと待ってください!!……レティシア様、なんで私まで!?」

「お前も一緒に抱き付いた仲じゃないか。それにエミヤはそっちの気がないか気になったのでな。ついでだ」

「ついでとか酷くないですか!?」

「開けるぞー」

 

 それを聞いた十六夜はもう我慢できないのか、仕切りを開けた。

 

「ちょっ、まっ、十六夜さああぁぁぁん!!」

 

 四人の視界に現れたのは、黒のドレスに花の装飾品が胸元であしらわれた姿のレティシアと、なぜか黒のメイド服に白のエプロンとカチューシャを着けた黒ウサギだった。

 

「わあ…………なんて可愛らしいのかしら!金髪のメイドも見てみたかったけど金髪のお姫様も棄てがたいわね!」

「…………レティシアも黒ウサギも可愛い。」

「テーマは美しい主従だな。ほら、お姫様も黒ウサギの隣に並べ。白夜叉に、『服を提供する代わりに写真撮ってくれ』って頼まれてるんだ」

「やはり彼女か……」

 

 それぞれが感想を述べた後、エミヤをレティシアの後ろ、つまり黒ウサギの隣に行くように押した。

 エミヤが傍に来て、レティシアは嬉しそうに聞く。

 

「どうだエミヤ?似合っているか?」

「ああ……二人とも、とても綺麗だよ。本当に絵本から出てきたお姫様とその従者のようだ」

「……黒ウサギはなんか複雑ですよ……でもその言葉は嬉しいです!ありがとうございます、エミヤさん!」

「ふふっ。エミヤも中々似合ってるよ。……まあ、男性物を似合っていると言っても微妙な褒め言葉だけどな」

 

そんなレティシアの言葉を聞いて、エミヤは嬉しいような、でもなにか違うと哀しんでるような、そんな表情を浮かべる。

 

「…いや、素直に喜んでるよ。うん……」

「でも、流石に胸とかお尻の方が窮屈そうですね。……お尻のラインが浮かんで妙な色気を醸し出してます……」

「………そうか……」

 

 彼女はその後終始無言でいた。

 彼女達が撮られた写真は全て、白夜叉の秘蔵コレクションの中に封印されたとかなんとか。

 

 




あと1話くらいで1巻分終わりですね。
なぜか2巻買ってなかった+受験勉強の気分転換で書いてるので更新速度遅くなるかと思いますが、どうぞこれからも良しなに


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19話バイバイ、ペルセウス

19話とか切り悪い……と思ったけど20話が2巻からだと思うと意外といい気がしました作者です。

大分執筆に慣れてきたと思ってますが、2月後半になればもうちょい見やすくなると思うので、それまでこの書き方で我慢してください。
まあ自分でハードル上げといて結局変わらないオチな気がしますが。


 写真撮影から三日後。“ノーネーム”のメンバーは敷地内の噴水前広場にいた。労働を担当する子供達を含め、その数は128人+1匹。数だけならば、ちょっとした中堅コミュニティになる。

 

「えー、それでは! 新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めたいと思います!」

 

 黒ウサギの開始宣言に、子供達がワッと歓声を上げる。屋外に運び出された長テーブルには、ささやかな宴会料理が並んでいた。そんな離れた位置から、一人仏頂面で立っているエミヤにレティシアが近づいた。

 

「………………(不満顔)」

「どうしたのだエミヤ?そんな明らかに、私不満です、の顔をして。」

「ああ、レティシア……普段は子供達の仕事を奪ってはいけないと思い、家事を自制してるんだけどね……

 ……今回はお祝いと聞いて、私も久々に料理を振る舞う機会だと思ったんだ…………だけど……黒ウサギが………うわあぁぁぁぁああ!!!!」

「落ち着けエミヤ!普段絶対しない取り乱し様だぞ!」

「………だって……だってッ!!………私は……家事を自分でやらないと持病がぁぁぁぁ!!!」

「どんな禁断症状だ!?いいから落ち着け、ほら。」

 そう言ってレティシアはエミヤを抱き寄せてあやす。

 

「レティシアぁ……私は……私わぁぁッ!」

「うんうん。わかってるよエミヤ。今度、私のために料理をしてくれ。」

「……良いのかい?こんな……こんな薄汚れた私なんかの手で作った料理を…………君は食べてくれるの?」

 

 どんな落ち込みようだ。と内心呆れるが、普段は凛としたエミヤのネガティブっぷりが愛らしいと思ってしまう自分がいることに、少し笑ってしまうレティシア。

 

「フフッ、お前の気が済むまで作ればいいさ。いつでも歓迎するよ。」

「うぅぅぅ……れてぃしあぁぁ……グスッ……ありがとう…」

「よしよし。」

 

 そんな光景を離れた位置から見守る四人。

「………なんかカップルみたい。」

「みたいじゃなくてカップルなんじゃない?」

「流石にそれはないとは思いますが……でもレティシア様は親友と言うには少し近すぎるかもしれませんし、あんなレティシア様は見たこと無いですし……なんか複雑です(ボソッ)」

「女性はなんでもかんでも色恋沙汰にしなきゃ気がすまねーのか?」

 女性三人がエミヤとレティシアの関係を疑う中、十六夜はその議題に茶々を入れた。

 

「いえ、あれは少し近すぎるわよ。」

「何て言うか、エミヤは性格が男っぽいからそう見えるんだよね。」

「そうですね。ボーイッシュと言うか、どこかキザな男の人らしいと言うか……。何となく女性にモテるんですよエミヤさんは。」

「まあそうかもな。流石の俺でも、お姫様が言った様な台詞は吐けないわ。」

「まあ今はそのキザな騎士さんもあんなんだけどね。」

 彼等はもう一度エミヤを見る。

 膝をついて幼女に抱き付く銀髪女の子と、それを受け止める金髪幼女。

 

「「「和むわぁ」」」

 

 そんなエミヤは、見られているとも知らずにレティシアに抱き締められながら、ある会話を行っていた。

 

(ねえねえヤー君)

(……なんだいメドゥーサ)

(そんなにご飯作りたいならアルちゃんにも作ってよー)

(別に私は構わないよ。というか作りたい位だし)

(本当?わーい\(^^)/)

(………前から思ってたけど、その口調はどうにか出来ないの?君を前の世界で知ってる分、とても違和感が……)

(えーー。だってアルちゃん元からこの口調だしぃ。て言うか神話の時の私に会ったことあるって言ったけどー、それ多分、可能性の分体でしょ?)

(……まあ、そうだね。君は彼女に比べて幼いから。)

 そう念話で話をしながら、エミヤはメデューサ改めアルゴルの悪魔顕現時を思い出す。

 

 ____________________

 

 白夜叉ゲーム盤"草原と荒野の狭間"にて

 

 白夜叉とエミヤはある準備をしていた。

「……で、本当におんしは奴の意識を起こすのか?悪魔に霊格を落としたとは言え、かなりの問題児だぞ。というか"箱庭三大問題児"の一角だぞ。」

「……一応、彼女と面識はある。もしかしたら違う人物なのかも知れないけど……まあ、霊格落ちした彼女なら此方に主導権がある以上、なにも心配要らないと思うよ。」

 

「甘い。わたあめに蜂蜜とガムシロップと砂糖と生クリームをかけた後それを捨ててコーヒーを飲むくらい甘い!」

「苦くなってるじゃないか。」

「自分の考えの甘さに気付き、苦くなるんだ。」

「……ああ、そういう……」

 

「まあ、おんしを認めてるからこのような場所を貸して魔王顕現の手伝いをしようとしているのだ。ありがたく思えよ。」

「うん。感謝してるよ白夜叉。」

「……まあ報酬は貰えるから別に良いが……それにしても憂鬱だ。あやつともう一度顔を会わせることになるとは……」

「そんなに嫌なのかい?」

「会えばわかる……」

 そう言ったっきり、白夜叉は黙ってしまった。

 

 エミヤは、ブレスレットに加工した"アルゴール"が封印されてる装飾品を天に掲げ、封印を開いた。

 装飾品は輝き続け、光が最大になった後。

 エミヤの目の前に、黒く所々破れたローブを被る女の子が現れた。紫色の艶のいい髪を垂らし、大人しそうな可愛い顔をローブの隙間から覗かせる。

 

「……メドゥーサ。意識はあるかい?」

「………………」

 アルゴルは辺りをキョロキョロと見回してから、エミヤと白夜叉を見て言った。

 

「アルちゃん大復活ぅぅ!!!」

 

 その言葉と共に、右手をピースの形にして目の横に持っていき、腰に左手を当てて足を開くポーズをとった。キラリッと星が出そうな程、見事なポーズだった。

「……………」

「……………」

「フフフフフ。アルちゃんの可憐さに言葉を失っちゃった?ホントはもっと美しい大人の身体をしてたけど、この身体でも十分アルちゃんの魅惑を引き出せてるようね!!さっすがアルちゃん、マジ罪な女の子!!」

 

 白夜叉とエミヤはアルゴルの登場に言葉か出なかったが、一応知人である白夜叉はエミヤより先に回復した。

 

「……ウザイ。」

「なにこのお子ちゃま?うーーん……もしかして白夜王?……アハハ!!こんなチンチクリンになっちゃってウケるぅーー。」

「おんしも同じだろうが!!」

「アルちゃん、あんたと違って美人だしぃー。おんなじにしないでほしいなー。」

「……ここで殺すぞ?」

「あーパス。私は今ちょー霊格落ちてるし。ってあんたもか。まー、あんたは"アレ"持ってるだろうからやっぱパスだわー。」

「…………うぜぇー……」

 

 白夜叉がマイペースなアルゴルに脱力していると、エミヤも会話に混ざった。

 

「君がメドゥーサだね?私の知ってる存在とは全然違うが、まあよろしく頼むよ。」

「はぁ?随分昔の名前を出すわね、あんた。と言うか昔のあたしを知ってるの?」

「いや、君を知ってる訳ではないよ。君の可能性の一つである存在と、殺しあった事があるぐらいだね。まあ、容姿は君が大人になった時の顔をしていたけど。」

「へぇ……私と殺ったことあるんだ。それって私がアテナの呪いにかかる前だよね?」

「多分そうだろうね。そう言う君も化け物らしくない格好になってるけど、なんでだい?」

「あったり前じゃない!!あんな化け物みたいな格好、私が意識のある時になるなんて絶対御免だわ!!」

「なるほど。凄い胆力だ。」

 プンプン怒るアルゴルを眺めるエミヤ。しかし、脳内でアテナを罵り尽くしたのだろうか。エミヤに顔を向けて言う。

 

「そう言えばあんた。私の意識戻してるけど、私に殺される覚悟はある?」

「いや、ないよ。なんだい?意識を取り戻したくなかったのかな?」

「まっさかー。でも、私は人間なんかに縛られるつもりもないわよ。つー訳で、ハイ石になって」

 そう言って彼女の瞳に霊格の高まりが生じるが

 

「悪いけど、そう易々と石化されるわけにはいかないからね。」

 視界に二つの剣、干将・莫耶の切っ先が写った。

 

「これは対怪異用の宝具なの。格を落とした怪物"アルゴルの悪魔"である君に絶大な効果があるけど、試してみる?」

「……………まあ、そうだよねー。昔の私と殺りあって生きてるわけだし、対処法ぐらい知ってるよねー。」

 そう言って瞳に込めようとした能力を解く。

 

「それに私は普通の人間じゃないさ。過去に英雄と呼ばれた存在だから。」

「うげぇ………アルちゃん英雄嫌いなんですけどー」

 エミヤは剣を持つ手を下ろしてから干将・莫耶をギフトに入れる。

 

「まあ、君が思ってるほど清く正しい英雄じゃないよ。私は結局悪役になったしね。反英雄、もしくは英雄の紛い者かな。」

「ああ……なんか納得だねー。君は何となく()()()()感じがするねー。

 うーーーん……………親近感が沸いたよ。しばらく君を殺すのは止めて厄介になろうかな。」

「そっか。……人を呪う悪魔と人を救う為に殺す英雄。いいコンビになるといいね。」

 そう言ってエミヤは握手を求めようとするが、

 

「あーでもアルちゃんあんま表出ないよ?私の美貌で虫どもが勝手に騒ぐのは全然いいんだけどー。アルちゃん、アテナのブスに面倒事持ってこられるのヤだから。それに封印されてて思ったんだけど動くのダルい。」

 そう言ってすぐエミヤのブレスレットに戻っていった。

 

(ちなみに会話はブレスレットを通してねー。んじゃあアルちゃん寝るからお休み。)

 

 そう言ったきり、彼女は意志疎通を拒んだ。

「……嵐のように去っていったのぅ………」

「……まあ、意外と協力的だったのは嬉しいけどね。」

「そうだの……時間が奴を変えたのか、エミヤに何かしら感じたのか知らんが……あやつも大人になったということか……」

「…………引きこもりは大人になったのかい?」

 

 ______________________

 

(……………)

 

 それから少し時が経ち、何故か知らないがアルゴルはなついた。

(ねえねえヤー君。)

(なんだいメドゥーサ)

(さっきからこの吸血鬼の胸に顔擦り付けてるけど良いの?無いチチだけど。)

「…………………(赤面)」

 レティシアは自分の胸にずっと顔を埋めてる(スリスリしてるだけで埋まるほどは無い。でもちょっとある)エミヤに、流石に恥ずかしさを感じてプルプル震えていた。それを見たエミヤは、

 

「………とても、良い、心地、です。」

(……しまった!選択肢を誤った!殴られる!)

(ヤー君ウケるwww)

 

「………まあ、別に女性同士だからな。やましいことは何もないし別にいい。」

「…………あれ?良いのかい?私の経験上、殴られると思ったのだけど。」

「なんだ?何かイヤらしいことでも考えてたのか?」

「そんな事はないぞ。うん。決してない。」

「…………そうか。」

「………そうだよ。」

 

(アルちゃんもう寝るね。)

(待ってメドゥーサ!この空気の中寝ないで!!)

 …………………………

(寝やがった!?)

 エミヤを助ける者がいなくなり、この空気をどう払拭しようか考えを巡らせていると、宴もいよいよたけなわとなったのか、黒ウサギの声が辺りに響いた。

「それでは、本日のメインイベントが始まります! みなさん、箱庭の天幕にご注目下さい!」

 

 星々が瞬く、綺麗な夜空が広がるなか、やがて---

 

「あ・・・・・・・・・!」

 

 その声は誰のものだったのか。それが合図だったかの様に、一つ、また一つと流星が箱庭の天幕を迅る。

「流星群か……懐かしい。」

「なんだ?お姫様は見たことあるのか?」

 そう言って近くに来たのは十六夜だった。彼もまた星を見上げていた。

「……終わりの見えない、旅をしていたときにね。」

「へえ。ロマンチックな旅だな。」

「そんないいものではないよ。まあ、この光景は中々に壮観だからね。」

 そう言ってエミヤは心底懐かしそうに目を細めて天を見上げている。そんな彼等を尻目に黒ウサギは説明を続けた。

 

「箱庭の世界は天動説の様に、全てのルールが箱庭を中心に回っています。先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティはその責から“サウザンドアイズ”から追放され、あの星空からも旗を降ろす事になりました!」

「……それは悪いことをしたね。(……いや、黒ウサギは怒ってたからそのせいかも。私のせいではないはず。)」

 

 そう思って黒ウサギを見ると、どこか晴れやかな顔でいた。きっと彼女は、レティシアの事やコミュニティに対しての数々の暴言に意趣返しができて満足なんだろう。

 

 もう一度空に視線を移すと、夜空にあった筈のペルセウス座が"アルゴルの首"部分の恒星を残して消え、代わりに夥しい数の流星がそこにあった。

 

「今夜の流星群は、“サウザンドアイズ”から“ノーネーム”の再出発祝いも兼ねています。鑑賞するも良し、流れ星に願いを託すも良し。皆で心ゆくまで楽しみましょう♪」

 黒ウサギの音頭と共に、子供達が高々と杯を掲げ合う。

 

「空から星座を無くすなんて……あの星の果てまで、箱庭の為の舞台装置だというの?」

「そういうこと……かな?」

 アハハハ……と、エミヤ達の近くに来ていた飛鳥と耀も力なく笑い合う。

 

「星を観察してアルゴルの星が食変光星じゃない事は分かっていたが…………まさか星座まで造られたものだったとはな」

 先ほどまでペルセウス座が輝いていた空を見上げ、十六夜は感慨深げに溜め息をついた。

 

「箱庭にある物全てがゲーム盤……。随分スケールの大きいゲームだね。」

「そうだろう?これが箱庭だ。修羅万物全てが集まりゲームを行うのだから、星の一つや二つじゃ足りないさ。」

 エミヤもこの現象に驚き、レティシアはどこか誇らしそうに呟く。

 そんな彼等にサプライズが成功したと、耳をピクピクさせて喜びを表現しながら近づいてくる黒ウサギ。

 

「ふっふーん。驚きました?」

 そんな黒ウサギに、十六夜は降参と言わんばかりに両手を上げる。

 

「やられた、とは思っている。最果ての大瀑布に、水平に廻る太陽、大陸を貫通させる剣、…………色々と馬鹿げた物を見てきたつもりだったが、まさかこんなショーが残っていたとはな。お陰でいい個人的な目標が出来た」

「おや? それは何でございましょう?」

 

 十六夜の発言に他のメンバーも気になり耳を傾ける。彼はペルセウス座の消えた夜空を指差し、

 

「あそこに俺達の旗を飾る、というのはどうだ?」

 

 そう言って心底()()()()に笑って言った。黒ウサギは驚いた顔になったが、すぐに笑顔になって頷く。

 

「それは・・・・・・・とてもロマンがございますね♪」

 

(私のはもう飾ってあるけどねwww)

(良いこと言ってるんだから黙ってなさい。)

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 少しだけギフト説明

 

 "無限の剣製"

 言わずと知れたアレ

 彼女が解析・貯蔵した剣が内包された世界。また、この世界ならば剣以外でも投影の負担が減る。

 普段エミヤが出している剣は魔術によって投影された剣であり、この世界から溢れ落ちた物。

 

 "抑止力の守護者"

 エミヤシロウが生前人を助けるために抑止力と契約した物。

 死後、守護者として人に仇なす外敵を排除する掃除屋を全うする。

 

 "抑止の契約"

 守護者と呼ばれる存在として契約していたエミヤは、箱庭に来るときの強制的な移動で抑止力とのパスが切れたことにより、ギフトの変質を起こした。

 彼女が危惧している、戻される現象も起きることはない。

 

 彼女の契約内容がこの世界でどう言ったものなのか、何者と契約しているか不明。

 

 "全て遠き理想郷"

 詳細不明

 

 "魂の器"

 青崎橙子が造った最高作品の人形。エミヤの身体を元に造ってあるが、色々と謎の多い器。

 

 




1巻終わりましたね。さて、次は私にとって(ここのみ)未知の巻でございます。他の方々の作品見ながら書いていこーかなーって思ってます。
とりあえず14、15終わってから投稿かな。
勉強の合間のみでよく頑張った私。



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火龍誕生祭
20話 北側初上陸


2巻入りました。問題児もブック◯フで買いました。

作者は昨年から受験のためグランドオーダー全くやってないのであまりグランドオーダーの話を作者が入れてくれると思わないでいて欲しいです。
ぶっちゃけキャラクター知ってるくらいですね。

干将・莫耶はオリジナル設定加えました。


決闘から数週間後のサウザンドアイズ支店にて、エミヤは白夜叉の下へ訪れていた。と言うのもエミヤの剣が白夜叉の目に留まり、剣を造る度にその剣を卸して貰うよう、エミヤと契約をしていたのだ。

彼女は1週間に一度、戦場や掃除屋の時に見てきたそこそこの名剣を数本と、宝具D~Bランク程の剣を一本、白夜叉に渡していた。

今日はその卸す日であり、彼女はサウザンドアイズに来ていたのだ。

 

「やあ、白夜叉。今週の分を持ってきたよ」

 

「おお、そうか……。今日はその日だったな。おんしは他のメンバーよりも色々な要件を持ってくるついでに、私の手伝いをしてくれるからの。ついつい忘れてしまうわ」

 

「いつも世話になってるよ。それに個人的に君とは友達だと思ってるんだ。持ちつ持たれつの関係はとても私としては嬉しい。それとも、階層支配者である君に不敬かな?」

 

「そんな事はないぞ。ここ最近は友と呼べる存在とあまり会ってないからの。私としても、おんしの存在は嬉しいさ。それにおんしは常識人だからのぉ……」

 

そう言って白夜叉はお茶を啜る。

 

エミヤは剣を卸す以外にも、最近になって気づいた、自分の英霊としての霊格が上がってる事を知るための情報や、箱庭における刀剣類から始まり盾、鎌、鎧などの武具も観察させてもらっているのだ。

 

白夜叉曰く、出自によるものと、ギフトのせいであるらしい。元の世界で幾度と無く人類の危機を救った功績。前者はコレによるものと彼女も気付いた。

しかし後半のギフト云々については心当たりがなかった。

 

また、武具類も"ノーネーム"の倉庫にも優れた武具はかなり多く揃っていた。だが、彼女は一度見ればその武具の性能から使い手の経験までも解析できるのだ。

もう見るものが無くなってしまったエミヤは、白夜叉に頼んで彼女のコレクションやら、知り合いの者に頼んでもらった武具を観察したりしている。

 

その代わりと言ってエミヤは、階層支配者に来る案件の書類の手伝いをしていた。

流石にコミュニティの内情関係などはエミヤに届かないが、箱庭はイベント事に事欠かないため、その分の案件が非常に多い。

 

「白夜叉これが今週の分だよ。ちゃんと"ギフトを消す"ギフトには消される恐れがある注意事項を書いといてね」

 

「ああ、わかっとるよ……それにしても変な作り方をしているな、おんしは。それが神格を与える条件だとは言え、見たこと無いギフトだ」

 

そう言って白夜叉は渡された剣を一つ一つ観察しながら話す。

 

「まあ、ほとんどの神格武具はギフトを消されるとそれ自体も壊れることの方が多いから、あまり気にすることでも無いんだがな。おんしの場合、材料無しは狡すぎるが」

 

「まあ、私の場合は自身の魔力で剣を構成しているから材料無しではないけどね。その代わり、壊れるのではなく消えるけど。」

 

「そこじゃよ。箱庭広しと言えど神格付きの剣を造る人間などあり得ん。ほとんどの有機無機物を創る時は、その物質の性能をある程度引き出すくらいだ。おんしのように自からを糧にして神格を造り出す者など星霊だけだ」

 

「……それにしては、飛鳥のギフトも変わってると思うけどね。言葉一つで人や物を操ったり、性能を上げたりできるんだから。」

 

「……まあそうだな。良くも悪くもおんしら"ノーネーム"は飽きさせない存在だ」

 

そう言ってある程度観察を終えた白夜叉は剣をギフトカードの中に入れた。

 

「どれも質が良いので良い額で買い取ってくれるだろう。それとこの神格付きは上層に持っていく。良い結果を期待してくれ。………ところでエミヤよ。おんしは北の"火龍誕生祭"を聞いたことはあるな?」

 

白夜叉は一旦剣の話を切り上げ、別の会話に移った。

 

"火龍誕生祭"ーーーーーーーー数々の鬼種、精霊種が造り出した美術工芸品の展覧会・批評会が行われ、それに合わせて様々なギフトゲームが街全体で主催されると言った、お祭りである。

 

「あれだけの事務処理を手伝ったんだよ?内容くらい知ってるさ。」

 

「まあそうだの。……エミヤよ。その展覧会におんしの優れた剣を出しては見ないか?おんし作の剣が広まれば必然的に対魔王コミュニティの名前も広がる。そしてこの祭は名前を売るのにかなり良い条件だ。やってみんか?」

 

「………前にも言ったけど、私のは贋作だよ。なんと言うか、各々が本気を出して造った作品の中に贋作を入れるのは気が引ける」

 

(ええー良いじゃん別にー。ヤー君のなら見たこと無い剣だから誰も気にしないよー。それにこの世界なら同じ名前の模造品もいっぱい売られてるよ?)

 

(まあ、そうだけどね……なんと言うか良心が……)

 

アルゴルが賛成的な悪魔の台詞を吐く。

エミヤが良心と悪魔の言葉に板挟みされていると、

 

「まあ、良いと思うぞ。確かに褒められた事ではないが、未知の剣を見てみたい者も多い。それに己の才能で造った物は箱庭では認められるからの。例え模造品でも本物より良ければそちらが認められる。そう言う世界だ」

 

箱庭は何万年も生きている者が多いし、全体が広すぎる。よって著作権など無い。なので、彼等が求めるのは自分が銘を付けた作品がどれだけ箱庭に轟くか。それだけである。

 

「…………わかったよ。ノーネームの為でもあるし、その件に乗るよ」

 

「そうかそうか。まあ、おんしの出場枠は既に入れてあったから了承を得られて良かった」

 

「…………私が断っていたらどうするつもりだったの?」

 

「その時は泣きつく」

 

「…………………」

 

「ちゃんと造った物は返ってくるから安心しろ。それで、何を出す?今から造るのでは間に合わないだろう?」

 

白夜叉はエミヤの最高作品に興味があるらしい。目を輝かせている。

 

「…そうだねー……。確か、北側は過酷な環境に耐えるためのギフトが重宝されるんだよね?」

 

「うむ、そうだの」

 

「ならそう言う剣にしておくよ。その方が注目度も上がるだろうしね」

 

「そうか、是非頼んだぞ。それと後一つなんだが、これは"ノーネーム"にも招待状を送ったのだ。聞いとるか?」

 

「まあね。レティシアといる時に黒ウサギが持ってきてたのを覚えてるよ。ただ境界門(アラストラルゲート)はお金がかかるから行かないと言ってたけどね。」

 

そう言って思い出したように呟く。黒ウサギに十六夜達問題児には黙っていてくれと頼まれたのだった。

 

箱庭は大きすぎるため、街も都市も何もない、野ざらしな部分が大半を占めているが、それでも都市などはかなり広い。北の境界線までここからだと約980000㎞あるらしい。よって何処かの都市に行く場合は境界門(アストラルゲート)と呼ばれる!外門と外門同士を一瞬で繋ぐシステムを使うのが常識だ。これにより、どんな遠くの場所でも行き来が楽になる。

ただし、通る度に"サウザンドアイズ"発行の金貨を1人1枚支払わなければいけない。

 

「まあ資金関係はこういう時の為に、剣を君らに売っていたから大丈夫だって言ったんだけど、拒否られてしまったよ。なんでも、『エミヤさんの個人的なお金だから受け取れません』と言われてしまった」

 

「ハハハ、黒ウサギらしいな…………だが、今回はちと訳があってな。おんしらには来てほしいのだ」

 

「白夜叉の頼みと言うなら黒ウサギを説得させるけど、なんでだい?」

 

白夜叉は真剣な表情になってエミヤを見る。

 

「実はの、"サウザンドアイズ"の私の同士がある予言を出したのだ。『火龍誕生祭にて、"魔王襲来"の兆しあり』とな」

 

「…………なるほど、それで対魔王コミュニティである私達にその話を振ってきたんだね」

 

「うむ。私も行くから多分大丈夫だと思うが、万が一の時がある。それにおんしらには私がいる分、丁度良い初陣になるだろうしな。送り迎えもしてやるぞ」

 

そう言って白夜叉は鼻を高くしてふんぞり返った。

エミヤはそれを見て、考えの余地があるだろうと思い、黒ウサギにこの話を持っていくことにした。

 

「わかったよ白夜叉。この件、さっきの件も含めて黒ウサギに言ってみるよ。それとコレ、渡しとく」

 

エミヤは立ち上がり、ギフトカードから赤く燃え盛る剣を出し白夜叉に渡す。

 

「あん?……おおっ、これまたすごい剣だな。これを展覧会に出すのか?」

 

「そうだよ、だから大事に扱ってね。……私はそろそろ帰るよ。多分、北に行くための準備とかもしないとだし。準備ができたらみんなで来るね」

 

「うむ、またの」

 

そう言ってエミヤは"サウザンドアイズ"をあとにした。

 

彼女がもう少し遅くに出ていれば。帰り道、アルゴルが出て来て、欲しい物を買ってあげなければ十六夜達に会っていただろうに。

 

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"ノーネーム"屋敷内

エミヤが帰ってくると、なんだか屋敷の中が慌ただしくなっていた。

 

「あっ!エミヤ様おかえりなさい!」

 

「ただいまリリ。なんでこんなに屋敷の中が慌ただしいんだい?」

 

エミヤの前に慌ただしく走っていた、割烹着を着た狐の耳と尻尾を生やす少女ーーーーーーーーリリが足を止めて挨拶した。

 

「そうですっ!エミヤ様は十六夜様達を見ませんでしたか!?」

 

「いや、見てないよ?何かあったの?」

 

「大変なんです!!飛鳥様が十六夜様の側頭部にシャイニングウィザードを仕掛けたら、十六夜様がジン君を盾にしてジン君の側頭部にシャイニングウィザードがっ!!」

 

「落ち着いてくれリリ。わけわからないことになってるよ」

 

「とにかく大変なんです!!エミヤ様も十六夜様達を」

 

「エミヤさぁぁぁぁあああんん!!」

 

「ん?っがフッッ!!!」

 

「キャアッ!」

 

リリィが焦りながらもエミヤに説明しようとすると、それを遮った黒ウサギが振り返ったエミヤにダイブし、そのまま二人揃って壁に激突した。

 

「エミヤさん大変なのですよ!!」

 

「た、確かに大変だね……主に私の鳩尾がッ」

 

「十六夜さん達に手紙の事がバレました!!コレ見てください!!」

 

そう言って黒ウサギは苦しんでるエミヤに手紙を突きつけた。そこには、

 

『黒ウサギへ。

北側の4000000外門と東側の3999999外門で開催する祭典に参加してきます。貴女も後から必ず来ること。エミヤさんとレティシアもね。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合()()()()()()()()()()()()退()()()()()死ぬ気で探してね。応援してるわ。

P.S ジン君は道案内に連れていきます。』

 

「………………なんて面倒な」

 

そう手書きで書かれていた手紙があった。その文面がいかにも問題であり、エミヤは力無く呟くのだった。

 

____________________

 

「それで、どうするんだい?白夜叉にはタダで送って貰うと言われてたから、彼等は既に北側にいると思うけど」

 

「当然捕まえます!!北に行くのは構いませんが、今回の事は許しません!!」

 

「……わかった。私も彼等にお灸を据えてやろう」

 

その後、レティシアとも合流して、境界門にエミヤのお金で通って北側にむかった。

 

北側に着くと、熱い風が頬を撫でた。彼等はすぐ高台にある北のサウザンドアイズ支店に向かうが、その途中、エミヤは高い場所に移動した時、そこから北の風景を眺めた。

 

北側と東側を区切る、天を突くかというほどの巨大な赤壁。

鉱石で彫像されたモニュメント。ゴシック調の尖塔群のアーチ。

外壁に聳える2つの外門が一体となった巨大な凱旋門。

色彩鮮やかなカットグラスで飾られた歩廊。

昼間にもかかわらず街全体が黄昏時を思わせる色なのは、おそらく朱色の巨大なペンダントランプのせいだろう。

その光景に少し足が遅れる。

黒ウサギはそんなエミヤにも、レティシアがエミヤに合わせて速度を落としたことにも気付かず、突っ走っていった。

 

ズドォン!!という爆撃のような音が遠くから聞こえてエミヤも正気を取り戻した。彼女が音の方向を持ち前の視力で見ると、黒ウサギが般若の顔で耀を捕まえて、白夜叉に投げ飛ばしているところだった。十六夜達はどこにもいない。逃げたのだろう。

 

「遅れてしまったか。ごめんね、レティシア」

 

「いや、初めて北側に来たのだからしょうがないさ。早く黒ウサギに追い付こう」

 

「レティシアはそのまま追いかけて欲しい。私はサウザンドアイズ前の高所から君らを援護する。」

 

「え、?……援護するってエミヤ……こんなところで弓を使うのか?」

 

「安心して。一般人に当てるようなヘマも、物を壊すような事もしないから」

 

「………まあ、あの二人が穏便に終わるわけでもないしな。エミヤがストッパーになってくれ」

 

そう言ってレティシアは黒ウサギの後を追った。

 

「さて、どうせ今回の抜ける云々も十六夜の提案だろう。少しお灸を据えねばね。」

 

(わあー、ヤー君ドSの顔してるよー。そんなところもカッコいいよー)

 

(黙ってて)

 

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(どうやら黒ウサギとレティシアは二人を見つけたか。…………飛鳥はレティシアが捕まえたね。黒ウサギと十六夜だけ屋根に登って何か喋ってるけど、とりあえず一発ぶちこむか。)

 

(ヤー君過激ぃー!そんなところに痺れる憧れるぅー)

 

ちょうど黒ウサギと十六夜が何かゲームをしたのだろう。二人の手元に羊皮紙が現れていた。

 

(まあ、私には関係ないよね。興味ないし)

 

(そうだねー。関係ないよー。だからやっちゃえー)

 

どういうわけか十六夜が黒ウサギを追いかけ始めたが、エミヤはとりあえず十六夜を貼り付けにすれば良いだろうと思い、弓と剣を取り出す。

 

(ま、ここは街だし、一応外すことがないよう注意しなきゃね。という訳でまずは一発。)

 

(ヤー君頑張ってぇー。)

 

捻れた剣を弓にあてがい、切っ先を十六夜に向けた。

 

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十六夜視点

 

「おい、どういうことだ黒ウサギ!スカートの中が見えないじゃないか!!」

 

「フフフッ!これは白夜叉様に貰った、絶対に見えそうで見えない鉄壁のミニスカートなのですよ♪」

 

「ちっ!あのやろうチラリストかよ!こうなりゃあ、あのスカートの中に顔突っ込むしか!」

 

「だまらっしゃい御馬鹿様!!」

 

(やはり黒ウサギは後ろに跳んだか。)

 

どちらが先にお互いを捕まえるかというゲームを十六夜と黒ウサギは始めていた。

黒ウサギはその耳で十六夜の位置が常にわかるため、必然的に身を隠す行動をとる。十六夜はそうはさせまいと黒ウサギを追う形になった。

 

(このゲームはどちらが優れた体を持っているかで決まるわけだ。いいねぇ。そう言うのは俺様嫌いじゃない)

 

そう十六夜が、黒ウサギを追いながらスカートの中に突っ込む事も考えていると、視界の端に、光る物体が音速を軽く超える速度で迫ってくるのが見えた。

十六夜は反射的に掴もうとするが、その瞬間ソレは爆発した。

 

「いってぇ!」

 

慌てて掴もうとした左手を見れば、掌が少し焼けていた。

 

(今のは捻れた剣だった。しかも剣が爆発する能力を持っていた……こんなもん持ってんのは)

 

「オイオイお姫様!ここから何㎞離れたところから狙ってんだよ!いねーよそんな狙撃手!」

 

十六夜は襲ってきた方向、サウザンドアイズ支店がある高所の方向を見た。

そこから、更に色とりどりの閃光が此方に飛来して来るのが見えた。

 

 




なんかエミヤが……

この捻れた剣はカラドボルグじゃないっすよ
捻って伸ばした剣ですよ


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21話 十六夜さんストーカーしたそうですよ?

センターおわったー
てか補充分無くなった。調子に乗って文字数増やしてたらプロローグの3倍なんだけど


「やっぱり壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)でも火傷程度か……。まあEランク程度ならこれくらいかな。」

 

そう言ってエミヤは次々と剣を投影しては弓につがえ放つ。

 

(ヤー君のその手どーなってんの?なんか気持ち悪いことになってるよ?)

 

(ちょっと黙ってて)

 

エミヤは最初に放った剣よりランクを上げた宝具を放つ。

 

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「くそがぁぁぁぁ!!!」

 

夥しい量の剣が十六夜に迫る。十六夜は走って避けようとするも、まるで此方を追尾してくるかの如く十六夜の体に到達しては爆発する。

 

「お姫様やりすぎだろ!どんだけハッスルしてんだ!」

 

(しかもこれだけの量を射てんのに百発百中とか、少し頭おかしいだろ!)

 

十六夜は爆発に吹っ飛ばされないよう、踏ん張りながら黒ウサギを追う。が、迎撃しようとした瞬間に爆発されるので、腕が学ランの袖もろともボロボロ。ダメージの蓄積が十六夜の重石となる。

 

「おいコラ黒ウサギ!!これはズルくねーか!!?」

 

十六夜はたまらず声をあげ、なんとか黒ウサギについていく。

 

「く、黒ウサギも流石にこれは想定外なので御座いますよ!!忠告しようにも遠すぎてどうしようも…………この場合、事情の知らない第三者の介入は、この場の環境の問題となりますので問題ありません!!」

 

「くそっ!確かに環境云々に文句は言えんがこれはハンデありすぎだ!!」

 

黒ウサギと十六夜は爆発音に負けないよう声を張り上げる。

 

ドドドドドドドドッ!!!!!という音と共に爆発が十六夜の周りで起こり、ボロボロになっていく十六夜。それを見た黒ウサギは内心思う。

 

(エミヤ様…………いきなりのコミュニティ抜ける発言に相当キレてるのですか!?)

 

 

 

(どんどんやっちゃえヤー君!そこだー!!いけえー!!芸術は爆発だー!!)

 

(ええ!どんどんやっちゃうよ!!)

 

アルゴルに後押しされてハイになっているエミヤ。一応周りに被害が出ないよう宝具のランクを押さえているが、

バババババババッ!!!と音が付きそうな程、剣がどんどん発射されていた。

この光景を見ていた白夜叉と耀はと言うと。

 

「………いや、街に被害がなければ良いのだが……」

「あ、危なかった…………」

 

白夜叉は双眼鏡で、耀は鷹の目で十六夜の状況を確認して、その光景に圧倒されていた。

迎撃しようにも爆発し、避けようにも剣が予知したかのように十六夜を貫こうと翔んでくる。どうしようもなかった。

元凶は、今日中に捕まえなければ脱退する宣言した彼らだが、この光景は少し同情を誘う。

 

「中々持ちこたえるね十六夜。流石にこれ以上宝具のランクを上げるのは、周りに被害が出るからね………どうしたものか」

 

そう言ってエミヤは剣を投影するのを止めた。

 

(ええー?もう終わり?)

 

(いや、まだだよ?幻滅する前にコレを見てから言ってね。)

 

そうアルゴルと会話した彼女は、腕に魔力を溜める。

 

「I am the bone of my sword.」

 

 

(なかなかに辛いが、なんとか持ちこたえられる!あとはお姫様にひいて油断してる黒ウサギを取っ捕まえれば……!)

 

そう十六夜が考えていると、爆撃が止まった。

 

「………なんだ?」

 

十六夜が走りながら訝しんでいると、今までとは異なる程の速さで此方に飛来する黒く所々反しがついたような剣に、十六夜は迎撃の拳を放った。予想以上の衝撃に拳が弾かれるも、先に疑問がでる。

 

(爆発しない?)

 

そのまま剣は彼の後方に弾き飛ばされた。

 

「なんだお姫様、とうとう弾切れか?なら今の内に黒ウサギをッグぅぁ!」

 

突如、十六夜の背中に衝撃が襲う。

彼は屋根から地面に向かって吹き飛ばされ、路上に三メートル程のクレーターを作った。

「ゴハァッ!!」

 

 

剣は切っ先が丸くなっていたため、刺さってはいなかったものの、混乱している十六夜を少し留めておくには十分だった。

彼の背後から弾かれた剣が迫るのを見ていた黒ウサギは、先回りして地面に寝っ転がっている十六夜を捕まえた。

 

『『勝敗結果:黒ウサギ 勝利。〝契約書類〟は以降、命令権として使用可能です』』

 

「………………」

「………………」

 

後に残ったのは無言の二人と、十六夜が走る度に踏み抜いたボロボロの屋根、十六夜が作ったクレーターの被害であった。

 

____________________

 

騒ぎを聞き付けた、この地を警備しているだろう集団ーーーーーーーー炎の龍紋を掲げ、蜥蜴の鱗を肌に持つ者達。北側の"階層支配者""サラマンドラ"のコミュニティーーーーーーーーがクレーターの周りを囲んだ。

黒ウサギが逃げていただけのため、十六夜のみ黒ウサギストーカーのレッテルを貼られて連行されていった。

 

「終わったかの?」

 

「ああ……白夜叉。さっきぶりだね。」

 

「もっと前からいたぞ…………全く、おんしはアレだな。敵に回したくない相手だ。小僧がかなり不憫だったぞ」

 

「………まあ、私も少しやり過ぎたと思う。後で謝っておくよ」

 

「そうしておけ。…………さて、さっき春日部耀の小娘にも言ったが、おんしも創作ギフト持ちだからの。この祭を盛り上げるために、このギフトに出て欲しいのだがどうだ?」

 

そう言って白夜叉はチラシを着物の袖から取り出してエミヤに見せた。

 

 

『ギフトゲーム名"造物主達の決闘"

 

 ・参加資格、及び概要

  ・参加者は創作系のギフトを所持。

  ・サポートとして、一名までの同伴を許可。

  ・決闘内容はその都度変化。

  ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず。

 

 ・授与される恩恵に関して

  ・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

"サウザンドアイズ"印

"サラマンドラ"印』

 

「ふーーん………………これに私か、耀がどちらかのサポートに回って出場して欲しいと言うことかな?」

 

「いや、小娘は1人で出ると言っててな。おんしは"サウザンドアイズ"の客分として出て欲しいのだ。」

 

「…………なんで?」

 

「おんしの剣が中々に評判でな。"サウザンドアイズ"贔屓の鍛治師として唾を付けておきたいのが一つ。それと、おんし作の剣に箔をつけるのが理由かの」

 

 

「…………私も君経由で"サウザンドアイズ"に高めの額で卸させて貰っているから文句は言えないけど、少し強引過ぎじゃないかな?」

 

「すまんの…………これはコミュニティの幹部総意によるものでな。神格付与の鍛治師は確保しておきたいんじゃよ。その代わりと言ってはなんだが、客人となれば"サウザンドアイズ"は"ノーネーム"にはある程度の贔屓と、おんしの要望を可能な限り受け付けていく方針だ」

 

「……………随分と此方に利がありすぎないかな?逆に怖いのだけど………」

 

「それ程おんしのギフトが異彩なのだろうよ。正直言うと、コミュニティに抱え込みたいぐらいだしの。まあそれは置いといてだな…………出るのか?」

 

「………そこまでお膳立てされてるなら出ないわけには行かないよね…………わかった、出るよ」

 

「おおそうか!では早速頼むぞ!」

 

「ん?」

 

「もうこの後すぐなのでな。私も主催者の1人として顔を出さないといけないから、すぐ行くぞ。」

 

そう言って白夜叉はエミヤの手を掴んで飛び出した。

 

____________________

 

境界壁・舞台区間、"火龍誕生祭"運営本陣営。

事情聴取のため十六夜は縄で、黒ウサギは被害者として、"サラマンドラ"コミュニティに連れられて来ていた。

 

巨大で真っ赤な宮殿は本部として設けられ、ゲーム会場と直結している。会場は大きなコロシアムのように舞台が客席に囲まれていた。そこの舞台上では決勝枠の最後の席を賭けて争いが行われていた。

 

 

『お嬢おおおおお!!そこや!今や!回し蹴で飛ばしたれええええ!!』

 

 レティシア達についてきた三毛猫がセコンドで叫ぶ。

現在、舞台で戦っているのは"ノーネーム"の春日部耀と、"ロックイーター"のコミュニティに属する自動人形オートマター、石垣の巨人。

 

「これで、終わり………!」

 

 耀はグリフォンから貰ったギフトで旋風を操り、石垣の巨人の背後に飛翔。その後頭部を蹴り崩す。加えて耀は瞬時に自分の体重を"象"へと変幻させ、落下の力と共に巨人を押し倒す。石垣の巨人が倒れると同時に、割れるような観衆の声が起こった。

 

『お嬢おおおおおおお!よくやった!お嬢おおおおおおおお!』

三毛猫は耀の雄姿に雄叫びを上げる。他の人にはニャーニャー言ってるだけに聞こえるが、耀はその鳴き声にサムズアップと微笑みを向ける。

 

声が鳴り止まぬ中、宮殿の上・主催者席のバルコニーから見ていた白夜叉が柏手を打つと、観衆の声が止んだ。

白夜叉は朗らかに笑いかけ、耀と一般参加者に言った。

 

「勝者は"ノーネーム"出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームルールは………ふむ。ルールはもう一人の"主催者(ホスト)"にして、今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

白夜叉が振り返り、宮殿のバルコニーの中心を譲る。舞台会場が一望できるそのテラスに現れたのは、深紅の髪を頭上で結い、色彩鮮やかな衣装を幾重にも纏った幼い少女。

 龍の純血種―――星海龍王の龍角を継承した、新たな"階層支配者(ホストマスター)"。

 炎の龍紋を掲げる"サラマンドラ"の幼き頭首・サンドラ=ドルトレイクが玉座から立ち上がる。

 緊張した面持ちのサンドラに、白夜叉は促すように優しく笑いかける。

 

「ふふ。華の御披露目だからの。緊張するのは分かるが、皆の前では笑顔を見せねばならぬぞ。我々フロアマスターは下層のコミュニティの心の拠り所なのだからな。私の送った衣装も、その様な硬い表情では色褪せてしまうというもの。此処は凜然とした態度での」

 

「は、はい」

 

 サンドラは大きく深呼吸。鈴の音の様な凜とした声音で挨拶した。

 

「ご紹介に与りました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事が出来ました。然したる事故もなく、進行に協力くださった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様には、この場を借りて御礼の言葉を申し上げます。以降のゲームにつきましては御手持ちの招待状をご覧ください」

 

 

『ギフトゲーム名 "造物主達の決闘"

 

 ・決勝参加コミュニティ

  ・ゲームマスター・"サラマンドラ"

 

  ・プレイヤー・"サウザンドアイズ"《客分》

  ・プレイヤー・"ウィル・オ・ウィスプ"

  ・プレイヤー・"ラッテンフェンガー"

  ・プレイヤー・"ノーネーム"

 ・決勝ゲームルール

  ・互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う。

  ・ギフトを十全に扱うため、一人まで補佐が許される。

  ・ゲームのクリアは登録されたギフト保持者の手で行う事。

  ・4つのコミュニティがゲームを行い、そのゲームの勝利者が優勝。

  ・優勝者はゲームマスターと対峙。

 ・授与される恩恵に関して

  ・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します。

"サウザンドアイズ"印

  "サラマンドラ"印』

 

____________________

 

十六夜と黒ウサギは長い長い事情聴取が終わり、運営本陣営の謁見の間に連れてこられていた。そこにはジンも"ノーネーム"のリーダーとして呼び出されていた。

 

「見てたぞ小僧。ストーカー容疑でお縄とは………クフッ」

 

「笑ってんじゃねーよ白夜叉。こちとら、このお祭りを盛り上げるために暴れようとしただけなのに……」

 

「ひ、1人で盛り上がるのはッ……ち、がうぞッ……ブハッ」

 

「そ、そう、ですよ十六夜さんッ……ククッ……人様に迷惑かけちゃ、だ、ダメです、よッ……」

 

「テメーらいい度胸だな。表に出やがれ………ってか黒ウサギは否定しろよ!」

 

哀れ十六夜。ストーカー容疑は晴れず未だに拘束されていた。普段問題を起こされる側の黒ウサギは、この状況に面白がり否定しないでいた。十六夜の普段の行いがここでツケを払う形になった。

 

白夜叉は必死に笑いを噛み殺しつつ、真面目な姿勢を見せる。今は誕生祭の主賓であるサンドラ嬢もいる。はしたない真似はできないのだろう。

白夜叉は、彼らとの会話が落ち着くとサンドラに目配せした。

サンドラは謁見の上座にある豪奢な玉座から立ち上がると、黒ウサギと十六夜に声をかけた。

 

「"箱庭の貴族"とその盟友の方。此度は"火龍誕生祭"に足を運んでいただきありがとうございます。盟友の方が傷つけた屋根と公道ですが、白夜叉様のご厚意で修繕してくださいました。また、"箱庭の貴族"にストーカー行為を働いた容疑も、本人から否定の言葉を頂きました。よって、この件に関しては私からは無罪及び不問とさせて頂きます。」

 

「…………ありがとよ」

 

「今回は私の知り合いが怪我人をつくること無く事を納めてくれたのでな。公共の道と屋根の修繕費はその者の働きのお陰と思ってくれれば良い。」

 

「…………納得いかねぇッッ」

 

十六夜は凄く不満顔で言い捨て、黒ウサギはあまり事が大きくならないでいてくれてホッとした。冷静に考えれば、頭に血が上っていた黒ウサギと問題児の十六夜がガチの追いかけっこをしたのだ。建物1つ分くらい折れてても不思議ではない。

 

「………ふむ。私が要請したコミュニティも集まったことだし、いい機会だ」

 

そう言って白夜叉は目配せし、"サラマンドラ"の面々を下がらせた。

この場に残ったのは"ノーネーム"の黒ウサギと十六夜、ジン。

"サラマンドラ"からは主催者のサンドラとその側近である軍服姿の男ーーーー十六夜を連行した時に集団を指揮していた者ーーーーサンドラの兄、マンドラ。

"サウザンドアイズ"からは白夜叉と、装飾の付いた黒の兜に黄金の甲冑に紅い腰マント、鎧の隙間から紅い服と黒いズボンが見える格好をした騎士が残った。

 

サンドラは人がいなくなると、固い表情と口調を崩し、玉座を飛び出してジンに駆け寄った。

 

「久しぶりジン!コミュニティが襲われたって聞いて凄く心配してたよ!」

 

「ありがとう。サンドラも元気そうで良かった」

 

サンドラはその愛らしい顔でジンに微笑み、ジンも同じく笑顔で返した。

 

「本当は魔王に襲われたって聞いた時にすぐ会いに行きたかったんだ。でも、お父様の急病や継承式で忙しくて………」

 

「それは仕方ないよ。だけどあのサンドラがフロアマスターになってるなんて-------」

 

「そのように気安く呼ぶな!名無しの小僧!!!」

 

二人が親しく話していると、マンドラが牙を剥き出しにして怒鳴り、帯刀していた剣をジンに向かって抜くが、ジンに辿り着くまえに黄金の騎士がその腕を掴んだ。

騎士はフルフルと横に首を振る。

 

「"サウザンドアイズ"の客人が我等の問題に横槍を入れるな!!"名無し"如きが北のマスターであるサンドラに馴れ馴れしく接しているのだぞ!これを放っておいては"サラマンドラ"の威厳に関わる!!部外者は引っ込んでおれ!」

 

そう騎士に睨みを利かせるマンドラ。

 

「大体、"名無し"のクズがこの場にいること自体気に食わん!」

 

そう発言したマンドラに、サンドラが慌てて止めに入る。

 

「マンドラ兄様!彼らはかつての"サラマンドラ"の盟友!此方から一方的に盟約を切った挙げ句その様な態度は我等の礼節に反します!」

 

「礼節より誇りだ!その様な軟弱な態度だから周囲から見下されると」

 

「これマンドラ。いい加減下がれ。」

 

白夜叉が仲裁に入ろうとするも、なお激情を露にするマンドラ。

 

「"サウザンドアイズ"も余計なことをしてくれた。同じフロアマスターとは言え、『南の幻獣・北の精霊・東の落ち目』とはよく言ったものだッ!しかも此度の噂の為に、こんな素性の知れない者を客人として招待するなど!」

 

そう言って先程、彼を止めた騎士を睨む。騎士は素知らぬ様子で肩を竦める。

マンドラはその態度に更に怒りが籠るが、サンドラが叫ぶように注意する。

 

「マンドラ兄様ッ!いい加減にしてください!!」

 

"サウザンドアイズ"客人相手にまで暴言を吐くのはいくらなんでもやり過ぎたと思ったようだ。

だが、事情を知らない"ノーネーム"一同は顔を見合わせて首を傾げる。

 

「おい、噂って何のことだ?俺達に協力を要請したことに関係あるのか?」

 

「………この封書に、おんしらを呼び寄せた原因が書いてある。見てみろ」

 

そう言って白夜叉は真剣な表情で、彼らに手紙を渡した。

 

『火龍誕生祭にて、"魔王襲来"の兆しあり』

 

そう書かれていた。

 




ここで新たなオリキャラか!?(棒読み)


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22話 露天風呂らしいですよ?

お風呂が……思ったより長くなってしまった。


"サウザンドアイズ"露天風呂

飛鳥は、昼襲われた時に汚れてしまった体を清めていた。

 

彼女がレティシアに捕まった後、一緒にクレープを食べていたのだが、妖精を見つけて追いかけたらレティシアとはぐれてしまう。

その後、追いかけた妖精ーーーーコミュニティ"ラッテンフェンガー"所属らしい妖精と友達になった飛鳥は、展覧会場の大空洞で、彼女のコミュニティ作の鋼の巨人に見いっていたが、そこをネズミの集団に襲撃された。

 

ネズミ達は飛鳥の"威光"が効かず、生傷を作りながらもガルド戦の時に手に入れた白銀の剣で抵抗するが、劣勢に立たされてしまう。

運よく追い付いて、大人の姿になったレティシアに助けられたが、"サウザンドアイズ"に戻るとそのまま割烹着の例の店員によって、風呂に連行されて今に至る。

 

 

「ふぅー………………」

 

飛鳥は体を綺麗にして、治癒の効果のある湯殿に浸かりながらネズミ襲撃の件について考えていた。

 

(さっきのネズミ…………私のギフトが通用しなかった……)

 

飛鳥の"威光"はあらゆる人・物に干渉するモノだが、霊格の高い存在または、物品に対しては通用しない場合がある。

 

"ノーネーム"工房に眠る宝剣・聖槍・魔弓と言ったギフトや、エミヤが造った宝具などが例である。

 

(霊格と言うのが未だよくわかってないけど、私が鼠如きに劣るとは思えないわ…………)

 

"霊格"とは世界に与えられた"恩恵"。生命の階位である。

霊格を得るには主に2つの条件の内、1つを満たす。

 

一つ、世界に与えた影響・功績・代償・代価によって得る

二つ、誕生に奇跡を伴う遍歴がある。

 

前者は仙人や、英雄。

エミヤはこれに当たり、抑止力と契約して輪廻の枠から外れた守護者としての"代価"と、霊長類の危機を幾度も救った影響による"功績"によって彼女の霊格が本来よりも上がっている。

 

後者は、神の子孫などにあたる存在。

"施しの英雄"カルナなどは、"功績"もあるが"太陽神の子"としての影響が強い。

 

飛鳥も、黒ウサギ曰く霊格を持っているらしく後者の条件が濃厚らしい。

 

(私は高い霊格を備えてるって黒ウサギが言っていた…………。それでも鼠を操れなかったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うこと………)

 

それでも彼女はその存在と相対しないといけない事情があった。

 

(鼠はあの幼い妖精を狙っていた。そうなればまた彼女を襲ってくるはず…………その時には……!)

 

飛鳥が思考を整えていると、

 

「飛鳥さん!お怪我の程は大丈夫でございますか!?」

 

手拭いで身体を隠した黒ウサギが勢い良く飛び込んできた。

 

「待て待て待て黒ウサギ!!家主より先に入浴とはどういう了見だいやっほおおおおお!」

 

「きゃああああああ!!」

 

 バシャン、ズゴン!!

素っ裸な白夜叉に背後から強襲された黒ウサギは、二人共にくっついたままトリプルアクセルで湯船にダイブ。特に黒ウサギは頭から飛び込んだように見えた。

致命的な音を聞いた飛鳥は、慌てて黒ウサギに駆け寄る。

 

「ちょ、ちょっと黒ウサギ!大丈夫!?湯船の底に頭が突き刺さってるわよ貴女!」

 

「だ、だびぼぶでごばいばぶ!(だ、大丈夫でございます!)あぶばばんごどきぶはだいぼうぶでぶが!?(飛鳥さんこそ大丈夫ですか!?)」

 

 湯船の底に頭を突っ込んだ黒ウサギは、その状態でも飛鳥の心配をする。次いで入ってきたエミヤが黒ウサギの頭を腕で抱えて引き抜く。

ポンッと、いう音と共に黒ウサギが湯船から引き上げられ、飛鳥の肩を掴んでボディチェックを行う。

 

「き、傷は大丈夫でございますか?細菌は問題ないですか?乙女の肌に痕が残るようなものは御座いませんか?痩せ我慢していませんか?本当に大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ。湯船に浸かったらすぐ治ったわ」

 

「私も心配したよ。レティシアから聞いた話では、体中に傷を負ったらしいじゃないか」

 

「心配かけてごめんなさい……」

 

 黒ウサギに無遠慮な程に身体をまさぐられ、エミヤには身体を細やかなところまで観察されるが、疚しい気持ちが無いので突き放せない。

 

「…………………」

 

そんな光景を白夜叉は黙って観察していた。

そんな白夜叉にエミヤは疑問を挟んだ。

 

「どうしたの白夜叉?」

 

「………飛鳥は15とは思えん肉付きだ。エミヤも顔に似合わずかなりのブツを持っている事はわかっていたが……着痩せするタイプかッ」

 

「はっ?」

 

「飛鳥の身体は鎖骨から乳房まで豊かな発育をしているしエミヤは垂れること無く張りがあり上を向く巨乳を持ちながら二人は乳房から臍のボディラインには一切の崩れが無くされど触れば女人の肉であることは間違いなくしかも臀部から腿への素晴らしい脾肉を揉みほぐせば指と指の間に瑞々しい少女の柔肌が食い込むのは確定的に」

 

スパァアンッ!!

木製の桶が二つ、白夜叉の顔面に見事直撃。始終一秒と掛からないセクハラ発言。

飛鳥は頬を紅潮させるが、まるで生ゴミを見る様な冷瞳で白夜叉を見下す。

 

「………え、何?白夜叉ってこんな人だったの?」

 

「ええ、まあ。凄い人ではあるのですが。それ以上に残念な御方なのでございます」

 

そう、と冷たく相槌。そのまま湯殿から出て扉にむかう飛鳥。

エミヤはその痛みの経験がある分、思いっきり顔面に桶が直撃して湯船に突っ込んだ白夜叉を介抱していた。

 

「白夜叉大丈夫!?」

 

「がフッ……エミヤよ……私はもう、ダメかもしれないッ……」

 

「しっかりして!傷はまだ浅い!!」

 

「何をしているんだお前達は……」

 

そんな茶番に興じていると、レティシアが二人にツッコミを入れながら湯に入ってきた。

その他にも耀や、とんがり帽子の小さな妖精も入ってきた。見れば出て行こうとした飛鳥も妖精に引っ付かれてまた湯船に浸かっていた。

 

「さてエミヤ。まだお前は身体を洗っていないだろ。ついでだし私が洗ってやる」

 

「ん?………それは流石に悪いよ。私が洗ってあげるからレティシアはそこに座って」

 

「いやいや……この前も私の部屋を掃除してくれたり剣を造ってくれたりするお礼だ」

 

「でも……」

 

渋るエミヤに見かねて白夜叉が助言を入れた。

 

「まあ、そう言うなエミヤ。こういう時は素直に気持ちを受け取っておくのも礼儀だ。そうだの…………私も普段のお礼だ!洗ってやるぞ!もちろん前をなッ!!」

 

「え……白夜叉もかい?いつも助けられてるのは私なんだから、それこそ悪いよ」

 

白夜叉のセクハラ発言にナチュラルに断るエミヤ。

だが白夜叉は知っている!この娘は押せば弱いと言うことにッ!!

 

「ならおんしも「では私も洗いますよエミヤさん!!」ぬうぅ……」

 

白夜叉の発言が黒ウサギの元気の良い声で阻まれてしまった。

 

「うーん……じゃあ代わりに私も二人を洗うよ。そうしよう」

 

「まてエミヤ!!私も入れろ!!」

 

「……そんなに洗いたいの白夜叉?」

 

(アルちゃんも洗ってよヤー君!)

(洗うからちょっと待ってて)

 

場が混沌としてきた中、飛鳥と耀はその光景を端から見て呟いた。

 

「………飛鳥、私と洗いっこしよ………」

 

「………ええ、そうね……」

 

____________________

 

「前々から思ってたけど……レティシアが大人の姿になるのは慣れないね……」

 

エミヤはリボンを解いて大人になったレティシアを見て少し頬を紅く染めた。

今のレティシアは出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んだ長身のモデル体型である。

普段のギャップがある分、元男として照れてしまうエミヤだった。

 

「ん?そうか?たしかに伸長は伸びるがそこまで変わるか?」

 

「いやいや……おんしのその体型も中々よな。スラッとした手足にエミヤや黒ウサギ程ではないが大きく綺麗な形をした胸。色白でクビレた体はプラチナブロンドの髪なのも相まってとてもエロい」

 

「そうだね。前に黒ウサギも言ってたけど、濡れた髪が月明かりに照らされてとても綺麗だよ。どんな宝石よりも輝いて見える」

 

「…………そうか」

 

少し照れた様子で返すレティシア。白夜叉は無視した。

 

 

レティシアはエミヤの背中を洗い、エミヤは白夜叉を洗っていた。

 

「ん………気持ちいいよレティシア。とても上手だね」

 

「まあな。前にメイドをやってみたいと思っていた時があってな、その時に練習したんだ」

 

「そっかぁ………あっ!そこはッ!」

 

「フフッ。エミヤは中々敏感だな。さっきからビクビクしてるぞ?ほらここなんか」

 

「ひゃっ!?首筋はッ!!」

 

「レティシア!おんしズルいぞ!!私にも代われ!!」

 

「良いじゃないか白夜叉。エミヤに洗われているんだから」

 

「まあそうだが…………たしかに、頭にある柔らかい感触はなんとも心地良いがな!!」

 

ちなみに白夜叉は後ろが終わり腕を洗って貰っていた。子供の体型である白夜叉は膝の上に抱えられて、必然的に頭の位置にエミヤの胸が当たる。

 

「もう良いぞエミヤ。後は自分で洗うからな」

 

「んッ……そっか……ぁ……れ、レティシア少し、んん……くすぐったいよっ」

 

「ここがいいのか?ほらほらエミヤ。もっと鳴くがいいさ」

 

「あうぅ…………れ、れてぃしぁ…?」

 

「………………おんしら!私を放っておくとはいい度胸だな!とうっ!!」

 

白夜叉はエミヤに飛び付き、顔を谷間に突っ込みモミシダク。

 

「白夜叉っ!や、やめぇッ!!」

 

そのままエミヤの悲鳴が鳴り響き続けた。

 

隅っこでは、体を洗われるのを待っていた黒ウサギが、危険を感じて巻き込まれないよう飛鳥と耀の洗いっこに参加していた。

 

____________________

 

風呂から上がった面々は先に上がっていた十六夜、ジンと合流。十六夜はセクハラ発言してハリセンを叩き込まれたのはご愛嬌だろう。

 

来賓室へ移動した面々は、木で出来た長テーブルの回りを囲んで、畳の上に座った。

上座に座る白夜叉が音頭をとる。

 

「それでは皆のものよ。今から第1回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

 

「始めません!」

 

「始めます」

 

「始めませんっ!!」

 

悪ふざけする白夜叉とそれに悪乗りする十六夜にツッコミを入れる黒ウサギ。

 

「もうっ! 魔王襲来に関する重要なお話かと思っていたんですよ!?」

 

「いやいや、審判の話は本当だぞ? 実は明日のギフトゲームの審判を黒ウサギに依頼したいのだよ」

 

「あやや、それはまた唐突で。何か理由でも?」

 

「おんしらが起こした騒動のおかげで〝月の兎〟が来ていると公になってしまっての。こうなったからには出さぬわけにもいくまい。無論、別途応酬も出るので安心せい」

 

 白夜叉の言葉になるほどと納得した一同。

 

「分かりました。明日のゲームの審判・進行役はこの黒ウサギが承ります」

 

「感謝するぞ。・・・・・・それで審判衣装だが、例のレースで編んだシースルーの黒のビスチェスカートを」

 

「着ません」

 

「着ます」

 

「断っ固着ません!もう、二人ともいい加減にしてください!」

 

「「チッ」」

 

舌打ちする二人。

すると、先程まで全く無関心だった耀が口を開き白夜叉に問う。

 

「ねぇ、白夜叉。私が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」

 

「すまんがそれは教えられん。〝主催者〟である私がそれを語るのはフェアではないからの。教えられるのはコミュニティの名前までだ」

 

 白夜叉がふと指をパチンッと鳴らすと、耀の前に昼間のゲーム会場で配られたものと同じ羊皮紙が現れた。

 その羊皮紙に書かれているコミュニティを見て、他の面々も驚く様子を見せた。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"に――"ラッテンフェンガー"ですって?」

 

「それに"サウザントアイズ"って……どういうことですか!?」

 

この二つのコミュニティはここの一つ上の階層――六桁の外門から参加しており、"サウザントアイズ"は言わずもがな、実質耀たちの各上の存在である。

一方、十六夜が"契約書類ギアスロール"を見て、物騒に笑い言う。

 

Rattenfänger(ラッテンフェンガー)――ドイツ語か。なるほど、なら明日の敵はさしずめハーメルンの笛吹きか」

 

「「へぇ」」

 

飛鳥と耀はどうでもいいようなリアクションを取った。だが、黒ウサギと白夜叉は驚嘆の声を上げる。

 

「ハ、"ハーメルンの笛吹き"ですか!?」

 

「どういうことだ小僧」

 

二人のあまりの驚きように、十六夜は思わず瞬きをしてしまう。

十六夜の様子に気づき、白夜叉が声のトーンを下げ説明する。

 

「すまぬ。召喚されたばかりのおんしらは知らんのだな。・・・・・・〝ハーメルンの笛吹き"とは、とある魔王に仕えていたコミュニティの名だ」

 

「何?」

 

十六夜は、魔王という言葉に目を細める。

 

「その魔王は、全二〇〇篇以上にも及ぶ魔書から悪魔を呼び出し――"幻想魔道書群グリムグリモワール"というコミュニティを率いておったのじゃ」

 

「しかし、その魔王はとあるコミュニティとのギフトゲームで敗北し、この世を去ったはずなのです」

 

「魔王が死んだ以上、"ハーメルンの笛吹き"も力を失ったはずじゃが・・・・・・」

 

白夜叉は十六夜の方を向き問う。

 

「そもそも小僧。なぜ"ラッテンフェンガー"が"ハーメルンの笛吹き"なのだ?」

 

十六夜はしばし考えた後、隣にいたジンの頭に手を掴み、

 

「ふっ・・・・・・それは、我らがおチビ様が説明する」

 

「え? あ、はい」

 

ジンは、突然の事にキョトンとしたもののすぐに十六夜の提案に承諾した。

コホンと一度咳払いをし、ダボダボのローブを整え、ゆっくりと語る。

 

「"ハーメルンの笛吹き"という物語がグリム童話にあるのはご存知ですね? "ハーメルンの笛吹き"のハーメルンとは、実際に物語の舞台となった都市の名前です。そして、町の石碑にはこう書かれています」

 

『一二八四年 ヨハネとパウルの日 六月二六日 あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した』

この碑文はハーメルンの街で起きた実在する事件を示すものであり、一枚のステンドガラスと共に飾られている。

 

「このグリム童話の笛吹き男がラッテンフェンガー――ネズミ捕りの男。このネズミ捕りの男とは、グリム童話の魔書にある "ハーメルンの笛吹き" を指す隠語です。それは、グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです」

 

(ネズミを操る・・・・・・ですって?・・・・・・)

 

飛鳥は、ジンの説明を聞き息を呑んだ。

先程の襲撃が飛鳥の脳裏を掠める。そして、襲われている時に不協和音のような笛の音がかすかに聞こえていたのを思い出す。

飛鳥はふと手元を見る。そこには、付いてきたトンガリ帽子の精霊が気持ちよさそうに眠っていた。

飛鳥はこの精霊と仲良くなった時、この子の名前を聞いた。名前はなかったが、コミュニティの名前を聞いた。その時に彼女が口にしたのは――

 

『ねぇ。あなたはなんというコミュニティに所属してるの?』

 

『らってんふぇんがー!』

 

 ――ラッテンフェンガー。まさに件のコミュニティの名前である。

 

(・・・・・・ラッテンフェンガーが魔王の配下? なら、この子は――――?)

 

 飛鳥の疑問、焦りはよそに話は進んでいく。

 

「ふむ。"鼠捕りの道化(ラッテンフェンガー)"に"ハーメルンの笛吹き"か…………これが予言の魔王かどうかはともかく"幻想魔道書群(グリムグリモワール)" の残党が忍んでおる可能性が高い」

 

そうある程度推測をつけていると、

 

(白夜叉)

 

(なんじゃエミヤ?)

 

(たしか君達の"主催者権限"で参加者を絞っているはずだったよね?)

 

(そうだ。私と"サラマンドラ"が認めたコミュニティ以外は参加できないし、勝手に街の中でゲームを主催できないようになっている。)

 

(では魔王は"主催者権限"が発動できないと言うことであってる?)

 

(うむ)

 

(なるほど……今回の襲撃には魔王も本来の実力が出せないと言うことか…………)

 

(どうしたのじゃ?エミヤ)

 

(…………白夜叉。確かに準備も万端だが何事も例外はある。最悪、警戒心が緩んでいる時に襲われて全滅、何てこともある。私も気を付けるが君も慢心はするなよ)

 

(………わかった)

 

そう言ってエミヤは白夜叉との内話を切った。

 




なぜだろう。レティシアとか白夜叉は台詞が浮かんでくるのに他の主力メンバーの台詞が出てこない。



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23話 アンダーウッドで迷路をやるそうですよ?

以外と進まない……

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『長らくお待たせいたしました!火龍誕生祭のメインギフトゲーム・〝造物主達の決闘〟の決勝を始めたいと思います!進行及び審判は〝サウザンドアイズ〟の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお務めさせていただきます♪』

 

 黒ウサギが満面の笑みを振り撒くと、

 

「うおおおおおおおおおお月の兎が本当にきたあああああああぁぁぁぁああああああ!!」

 

「黒ウサギいいいいいいい!お前に会うため此処まできたぞおおおおおおおおおお!!」

 

「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおお!!」

 

 観客は奇声じみた雄叫びを上げた。それに黒ウサギは笑顔で、だがウサ耳を垂れさせ怯んだ。

 そんな光景を、運営側の特別席のバルコニーから"ノーネーム"の十六夜と、飛鳥は見下ろしていた。

 

「……………………………………………。随分と人気者なのね」

 

『L・O・V・E 黒ウサギ(ハァト)』の文字。それを掲げた観客を飛鳥は生ゴミの山を見るような冷めきった目で見下ろす。

 

(これも日本の外の異文化というものなのかしら………頭を柔軟にして受け入れないと……)

 

 黒ウサギは事実可愛いから文句のつけようもない、と飛鳥は思う。

 一方、十六夜は観客の様々な雄叫びのような声を聞き、ハッと重要なことを思い出す。

 

「そういえば白夜叉。黒ウサギのミニスカートを絶対に見えそうで見えないスカートにしたのはどういう了見だオイ。チラリズムなんて趣味が古すぎるだろ。昨夜に語りあったお前の芸術に対する探究心は、その程度のものなのか?」

 

「そんなことを語っていたの?」

 

 お馬鹿じゃないの?と飛鳥は言うが、二人には届かない。

 一方、白夜叉は後ろに控えている、黄金の騎士に頼んで渡された双眼鏡から視線を外して、十六夜を不快そうに一瞥。その表情には、彼に対する明確な落胆の色が見え隠れしていた。

 

「フン。おんしも所詮その程度の漢であったか。そんな事ではあそこに群がる有象無象となんら変わらん。おんしは真に芸術を解する漢だと思っていたのだがの」

 

「………へえ?言ってくれるじゃねえか。つまりお前には、スカートの中身を見えなくすることに芸術的理由があるというんだな?」

 

 無論、と首肯する白夜叉は、まるで決闘を受けんばかりの気迫で凄んだ。

 

「考えてみよ。おんしら人類の最も大きな動力源はなんだ?エロか?成程、それもある。

 だが時にそれを上回るのが想像力!未知への期待!知らぬことから知ることの渇望!!小僧よ、貴様程の漢ならばさぞかし数々の芸術品を見てきたことだろう!!その中にも、未知という名の神秘があったはず!!例えばそう!!モナリザの美女の謎に宿る神秘性ッ!!ミロのヴィーナスの腕に宿る神秘性ッ!!星々の海の果てに垣間見るその神秘性ッ!!そして乙女のスカートに宿る神秘性ッ!!

 それらの神秘に宿る圧倒的な探究心は、同時に至る事のできない苦渋!その苦渋はやがて己の裡においてより昇華されるッ!!何物にも勝る芸術とは即ち―一―己が宇宙の中にあるッ!!」

 

 ズドオオオオオオオオオオン!!

 という効果音が聞こえて来そうな雰囲気で、十六夜は自分の知らない新境地に、

 

「なッ………己が宇宙の中に、だと………!?」

 

 衝撃を受けて硬直。

 一方、別の意味で衝撃を受けるサンドラ一同。

 

「し、白夜叉様………?何か悪いものでも食べたのですか………!?」

 

「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」

 

 マンドラは不安そうなサンドラの顔をそっと隠し、何も知らぬ存ぜぬの姿勢を貫くが、その視線は冷え切っていた。

 白夜叉の客分である黄金の騎士も、流石に不敬な物言いのマンドラに注意を促すことができなかった

 だが白夜叉は気にせず握り拳を作って、己の説法をこう締めた。

 

「そうだッ!!真の芸術は内的宇宙に存在するッ!!乙女のスカートの中身も同じなのだ!!見えてしまえば只々下品な下着達も―――見えなければ芸術だッ!!!」

 

 ズドオオオオオオオオオオン!!

 白夜叉は言い切った。そして十六夜にもう一つの、騎士に渡された双眼鏡を差し出す。

 

「この双眼鏡で、今こそ世界の真実を確かめるがいい。若き勇者よ。私はお前が真のロマンに到達できる者だと信じておるぞ」

 

「………ハッ。元・魔王様にそこまで煽られて、乗らないわけにはいかねえな………!」

 

 ガッ!と双眼鏡を受け取り、二人は黒ウサギのスカートの裾を目で追う。

 騎士は、頼まれて渡した双眼鏡達をどこか悲しそうに見ていた。

 

 ____________________

 

 耀は舞台袖で、セコンドについたジンとレティシアと、対戦コミュニティの相手について情報を貰っていた。

 

「―――〝ウィル・オ・ウィスプ〟に関して、僕が知っている事は以上です。ただ、"サウザントアイズ"の客分に対してはわかりません。それらしき人は昨日会ったのですが、黄金の騎士と言うことしかわかりませんでした…………」

 

「大丈夫。ケースバイケースで臨機応変に対応するから」

 

「本当にサポートがいなくて大丈夫か?万が一と言うこともあるぞ?」

 

「大丈夫、問題ないよ」

 

 舞台の真中では黒ウサギがクルリと回り、入場口から迎え入れるように両手を広げた。

 

『それでは入場していただきましょう!まずは〝ノーネーム〟の春日部耀と、〝ウィル・オ・ウィスプ〟のアーシャ=イグニファトゥスです!』

 

 呼ばれた耀は舞台に出る。その瞬間、彼女の眼前を高速で駆ける火の玉が横切った。

 

「YAッFUFUFUUUUUuuuuuu!!」

 

「わっ………!」

 

 堪らず仰け反り尻もちをつく耀。

 強襲した人物―――〝ウィル・オ・ウィスプ〟のアーシャは、ツインテールの髪と白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートを揺らしながら、愛らしくも高飛車な声で嘲った。

 

「あっははははははははは!見て見て見たぁ、ジャック?〝ノーネーム〟の女が無様に尻もちついてるよ!素敵に不敵にオモシロオカシク笑ってやれ!!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 

 煽るアーシャに盛大に笑う火の玉。

 一方、耀は火の玉の中心に見えるシルエットに釘付けだった。

 

「その火の玉………もしかして、」

 

「はぁ?何言ってんのオマエ。アーシャ様の作品を火の玉なんかと一緒にすんなし。コイツは我らが〝ウィル・オ・ウィスプ"の名物幽鬼!ジャック・オー・ランタンさ!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 

 アーシャが腰かけている火の玉へ合図を送ると、火の玉は取り巻く炎陣を振りほどいて姿を顕現。

 轟々と燃え盛るランプと、実体の無い浅黒い布の服。

 人の頭の十倍はあろうかという巨大なカボチャ頭。

 

 それを見た飛鳥は興奮気味にはしゃいでいた。

 

「ジャック!ほらジャックよ十六夜君!本物のジャック・オー・ランタンだわ!」

 

「はいはい分かってるから、落ちつけお嬢様」

 

 らしくないほど熱狂的な声を上げて十六夜の肩を揺らす飛鳥。十六夜はそれに苦笑する。

 

 一方、アーシャが耀を嘲笑して言った。

 

「ふふ~ん。〝ノーネーム〟のくせに私達〝ウィル・オ・ウィスプ〟より先に紹介されるとか生意気だっつの。私の晴れ舞台の相手をさせてもらうだけで泣いて感謝しろよ、この名無し共」

 

「YAHO、YAHO、YAFUFUUUuuuuuuuu~~~♪」

 

『せ、正位置に戻りなさいアーシャ=イグニファトゥス!あとコール前の挑発行為は控えるように!』

 

「はいは~い」

 

 アーシャは小馬鹿にしたような仕草と声音で舞台上に戻る。耀も舞台に上がり、円上の舞台をぐるりと見回し、最後にバルコニーにいる飛鳥達に小さく手を振った。

 それに気が付いた飛鳥は耀に手を振り返す。

 その仕草が気に入らなかったのか、アーシャはチッ、と舌打ちして皮肉気に言う。

 

「大した自信だねーオイ。私とジャックを無視して客とホストに尻尾と愛想ふるってか?何?私達に対する挑発ですかそれ?」

 

「うん」

 

 カチン!と来たように唇を尖らせるアーシャ。効果は抜群らしい。

 黒ウサギもそのやり取りを見た後、次のコミュニティを呼ぶ。

 

『次は"ラッテンフェンガー"の……と言いたいところですが、諸事情により今回は棄権と言うことになりました。よってゲームは三つのコミュニティで優勝を争うことになります。』

 

 黒ウサギの説明に観客も動揺する声があっちこっちから上がる。

 しかし、その雰囲気を吹き飛ばすために黒ウサギは努めて明るく宣言した。

 

『なので最後のプレイヤーになります!今回の"主催者"である白夜叉様が呼んだ謎多き人物。"サウザントアイズ"《客分》の無銘です!』

 

 黒ウサギが入場口を見る。そこには…………誰も現れていなかった。

 

『あれ?』

 

 バルコニーに座って観戦していた一同は、白夜叉の後ろに控えている黄金の騎士に「なぜここにいる?」とばかりに視線を送る。

 騎士は白夜叉に「なぜ自分をここに呼んだ」とばかりに困った視線を送る。

 視線を受け取った白夜叉は、

 

「よし"無銘"よ!ここは一つ、私の客分として盛大な登場をしてくれ!」

 

 そんな無茶ぶりを騎士に言い放った。

 

「……………………」

 

 助けてくれとばかりに主賓のサンドラに、兜の中で懇願の眼を向けるも逸らされた。隣のマンドラを見るも逸らされる。

 

「……………………」

 

 十六夜を見ると「楽しみにしてるぜ!」とばかりにサムズアップされ、飛鳥を見ると「が、頑張って」と応援された。

 

『…………………ハァ』

 

 男とも女とも判断のつかないくぐもった声で溜め息を吐く、紅い腰マントをたなびかせた黄金に輝く騎士。その輝きはどこか鈍くなっているように見える。

 

 騎士はその場から舞台に向かって高く跳躍した。

 いきなり主催者席からの登場に観客が驚く。

 無銘はギフトカードから取り出した剣を、舞台の中央に着地すると同時に構える。

 そこから曲芸じみた動きで剣を縦横無尽に振り、ブオオオオオオオアア!!という音と共に大気が巻き上げられ、最後に剣を高く突き上げる。

 剣先から天を突くかの如く極大の光の柱が昇った。

 日輪のように辺りを照らす閃光に、悲鳴やら歓声やらが観客から上がる。

 

「………綺麗」

 

「……………ッ!」

 

「Yaho…………」

 

 最後に剣を振り払って地面に突き立てた後、騎士はそのまま直立不動でいた。

 

『……………ハッ!あ、ありがとうございました…………コホン。それではゲーム開始前に、白夜叉様から舞台に関してご説明があります』

 

 そう言って黒ウサギは復帰すると、白夜叉にゲーム解説を求めた。

 

「うむ、承った。そして私の期待に応えてくれてありがとう無銘よ。ーーーーーーーーそれでは、まずは手元の招待状を見てほしい。ナンバーが書かれているはずだ。

 そしてナンバーが3345番になっておる者はおるかの?おるのであれば招待状を掲げ、コミュニティの名を大きな声で言ってくれ」

 

 しばらくして、樹霊の少年が招待状を掲げ、叫んだ。

 

「こ、ここにあります!『アンダーウッド』のコミュニティが、3345番の招待状を持っています!」

 

 それを聞いた白夜叉は一瞬で少年の前に移動し、ニコリと笑いながら声をかけた。

 

「おめでとう、『アンダーウッド』の樹霊の童よ。後に記念品でも届けさせてもらおう。よろしければおんしの旗印を拝見してもよいかな?」

 

 頷きながら少年はシンボルの彫られた木造の腕輪を差し出す。

 少しの間、その旗印を見つめた白夜叉は腕輪を返し、一瞬で元の位置に戻った。

 

「今しがた、決勝の舞台が決定した。それでは皆の者。お手を拝借」

 

その言葉に会場の客が手を構え、『パン!』と、盛大に手を打ち鳴らす音が会場に響く。

 瞬間、世界が一変。舞台は樹の根に囲まれた場所になった。

 

『ギフトゲーム名〝アンダーウッドの迷路〟

 

 ・勝利条件 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る。

       二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。

       三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)。

 ・敗北条件 一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

       二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

「―――"審判権限"の名において。以上が三名不可侵で有ることを、御旗の下に契ります。御三人とも、どうか誇りある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します」

 

 黒ウサギの宣誓が終わり、ギフトゲームは開始した。

 二人は他のプレイヤーを睨み、一人はただ突っ立っているだけで、膠着が生まれた。

 暫しの空白後、動いたのは小馬鹿にした笑いを浮かべるアーシャだった。

 

「睨み合ってても進まねーし、先手はどっちかに譲るぜ?」

 

「………………貴女は"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダー?」

 

「え?そう見える?嬉しいんだけどさぁ♪残念だけどちが」

 

「そう。わかった」

 

 アーシャはリーダーと思われて嬉しかったのか上機嫌で答えようとしたが、耀は会話をまともに聞かずに背後の通路に疾走した。無銘もその後に続く。

「え…………ちょっまっ……………」

 アーシャは一人だけ残されて唖然とするも、すぐに我に返り、怒りに身を任せて叫ぶ。

 

「…………お、オゥゥゥウウウケェェェイ!!バカにしやがったこと後悔させてやるぜぇ!いくぞジャック!人間狩りだ!!」

 

「YAHOHOhoho!!」

 

 ツインテールを逆立たせて猛追するアーシャ。樹の根の隙間を次々と昇る耀に、それを追う無銘。その後ろから追うアーシャは叫ぶ。

 

「地の利は私達にある!焼き払えジャック!!」

 

「YAッFUUUUUuuuuuu!!!」

 

 アーシャが左手を翳し、ジャックが右手のランタンとカボチャ頭から溢れた悪魔の業火が、耀と無銘を襲う。

 だが、無銘は振り返ると、ギフトカードから取り出した名剣で炎を切り払う。耀もまた最小限の風を起こし、炎を誘導して避けた。

 

(なんだ?騎士の野郎は剣技で避けたのはわかるが…………今の風……それがヤツのギフトか?)

 

 アーシャは業火を避けられ舌打ちする。対して、耀は既にジャック・オー・ランタンの秘密に気が付き始めていた。

 

 Will o' wisp と Jack o' lanternの伝承

 

 生前のジャックは二度の生を大罪人として過ごし、永遠に生と死の境界を彷徨うことになる。それを哀れに思った悪魔が与えた炎こそ、ジャックのランタンから放つ業火。

 ―――〝伝承がある"という事は〝功績がある"。その法則に則るなら〝ウィル・オ・ウィスプ"のコミュニティのリーダーは、『生と死の境界に現れた悪魔』のはずだ。

 

 しかし、彼女はリーダーではないと宣言した。

 

(ならあの子は違う悪魔か種族のはず…………)

 

「あーくそ!ちょろちょろと避けやがって!三発ずつ同時に撃ち込むぞジャック!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 

 アーシャが左手を翳し、次に右手のランタンで業火を放つ。勢いを増した炎を、無銘は先程同様に剣で切り払うが、耀は異能ギフトすら使わずにすり抜ける。

 

「………な………!?」

 

『…………………』

 

 絶句するアーシャと興味深そうに耀を見る無銘。

 一方で、耀は今度こそ業火の―――篝火の正体に行き着いた。

 

(やっぱり。あの炎は、ジャックが出してるんじゃない。あの子の手で、可燃性のガスや燐を撒き散らしてるんだ)

 

 "ウィル・オ・ウィスプ"の伝承の正体とは―――大地から溢れ出た、メタンガスなどの、可燃性のガスや物質の類である。

 本来は無味無臭の天然ガスだが、嗅覚が人間の数万倍の感覚を持つ耀はその違和感を感じ取っていた。その嗅覚で耀は炎の軌跡を予測し避けた。

 グリフォンの異能で軌道を曲げる事が出来たのは、噴出したガスや燐を発火前に霧散させていたからだ。

 種を見破られた事を察してアーシャは歯噛みする。

 

「くそ、やべえぞジャック!このままじゃ逃げられる!」

 

「Yaho…………」

 

 走力では俄然耀が勝っている。

 豹と見間違う健脚は見る見るうちに距離を空けて遠ざかる。さらに耀の五感は外からの気流で正しい道を把握しているため、最早迷路の意味は既にない。

 

 しかし、ここで問題なのは黄金の騎士・無銘の存在であった。

 耀の脚力に余裕で付いてくる脚力。鷲獅子のギフトで妨害しても、何処吹く風で耀にピッタリとマークする。

 耀の中で一番警戒しなければいけない相手だった。

 そんな離れていく二人を見つめるアーシャは、諦めたように溜め息をを吐いた。

 

「…………くそったれ。悔しいけど後はあんたに任せるよ。本気でやってくれ、ジャックさん」

 

()()()()()()

 

 そうジャックが言うと、一瞬にして無銘と耀の前に現れた。堪らず止まる耀と、それを見て止まる無銘。

 

「嘘」

 

「嘘じゃありません。失礼、お嬢さんと騎士の御方」

 

 ジャックの真っ白な手が、強烈な音と共に二人をなぎ払う。

 樹の根に叩きつけられる耀は意識が飛びそうなほどの衝撃を受けてケホッと咳をつく。事実、無銘はその一撃で意識を失ったように兜が下を向いていた。

 

「さっ、早く行きなさいアーシャ。このお嬢さんは私が足止めします」

 

「すまないジャックさん。本当は私の力で優勝したかったんだけど…………」

 

「それは貴女の怠慢と油断が原因です。猛省し、このお二人のゲームメイクを少しは見習いなさい」

 

「了解…………」

 

 そう言ってアーシャは根を登っていく。

 

「まっ」

 

「待ちませんよお嬢さん」

 

 そう言ってジャックは先程と比べ物にならないほどの熱量と業火を出すが、

 

()()()()()()()()()()()()

「「なっ!?」」

 

 いつの間にか意識を取り戻した(正確には気絶したフリ)無銘が、炎で視界が狭まった瞬間に二人を追い抜く。その時、知らない間に上空に浮かんでいた矢や槍が放たれた。その武具はアーシャのゴシックロリータの服を貫き、袖とスカートの部分を重点的に樹の根に縫い止めた。

 

「ふぎゃぁッ!!」

 

「アーシャ!!」

 

 さらに注意が彼らに向いている耀にも、後ろに浮かんでいる夥しい量の肥大したグレートソードが狙っていた。

 剣群はドガガガガガガガガがガガがッ!!という重い音をたてて、彼女が一分の隙も動けない様に回りに突き刺さる。

 

「ッッッ!!?」

 

『さて。これで私以外のプレイヤーは動けなくなったな。"ノーネーム"の彼女が先に進んでくれたお陰で、大まかな出口もわかった』

 

 無銘は淡々と己の仕事をやり遂げたように呟いた。

 それを聞いても、もがくにも剣で切れてしまうため動けない耀と、もがいても抜け出せないアーシャは悔しがる。

 

「くっ!!」

 

「なんだよこの矢とか槍は!!手が動かせねぇ!!」

 

「アーシャ!!今助けーーーーー」

 

『させると思うかい?』

 

 そう言って無銘はジャックの前に出る。

 先程とは真逆の構図が出来上がってしまった。

 

 ____________________

 

 装飾付きの黒い兜

 

 装備中に、認識阻害及び元の存在が世界から希薄になる能力を持つ。

 個人ではなく世界に干渉を及ぼすため、ギフト無効でも条件を満たさなければ気付くことは困難。

 本来は世界から存在を消す能力だったが、劣化してしまった模造品

 




無銘まじ悪役

まさか7000文字超える日が来るとは……


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24話 魔王襲来らしいですよ?

うわああ…………初めてのガチ戦闘回


 無銘とジャックは、お互いに牽制しながらも会話を続ける。

 

『ごめんね。此方としても白夜叉に優れた剣を紹介しつつ、優勝してくれと頼まれているんだ。悪く思わないでくれ』

 

「YAHOHO…………それは別に構いませんよ。しかし解せません…………なぜアーシャを人質に獲らないのですか?」

 

『それは騎士道に反すると思わないかい?それに私は剣を紹介しないといけないんだ。つまり、この中で強い君を倒して優勝しないといけないんだよ』

 

「………なるほど。いいでしょう!!

 いざ来たれ、名も無き騎士よ。聖人ぺテロに烙印を押されし不死の怪物―――このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!」

 

 そうジャックが宣言すると、轟々と燃え盛る炎を背に作り出し、大炎上する樹の根の空洞。

 

『ふむ、不死の怪物か…………でも知っているかい?怪物は騎士に討たれるのが物語の筋書きなんだよッ!』

 

 無銘はギフトカードから白銀に輝く剣を取り出してジャックに迫る。

 ジャックは、先程のアーシャとは比べ物にならない程の圧倒的な熱量と密度を持つ、"地獄の業火"を右手のランタンから召喚し、無銘に浴びせようとする。

 それを無銘は取り出した剣で切り払う。

 先も見たような光景だが、ジャックは驚いた。

 

(地獄の炎を切った!?バカな!)

 

 そう考えてる暇もなく、無銘は射程範囲に届いた距離で剣を振るう。ジャックはランタンでそれを防ごうとするも、ランタンごと右腕を切り飛ばされた。

 

「くっ!」

 

 更に返す刃を、ジャックは素早く逆手で持ったナイフで防ぐ。

 キュインッと響く刃物同士の衝突音と火花。

 無銘は止まらずに斬撃を浴びせ続ける。ジャックもナイフで応戦するが、数が増す度に押されていくのはジャックだった。炎を召喚する隙を与えない猛攻がジャックをを窮地に立たせる。

 剣とナイフが振るわれる度に大気が震える。その合間に少しずつカボチャが切られ、破片が飛ぶ。

 

『ふっ!』

 

「ぐっ…!」

 

 無銘が重い一撃をジャックに叩き込みジャックも負けじとその一撃を止めた。

 そのまま鍔迫り合いになる。力押しでは互角のようだが、ジャックのナイフを見れば、幾度と剣の嵐を防いだナイフが刃こぼれを起こしていた。ナイフは既に使い物にならない状態だろう。

 

「なるほど、切れ味は相当良いようですねッ………!」

 

『どうした?不死の怪物もその程度かな?』

 

「世迷い事を……私はそんなに優しい怪物ではないですよ!」

 

 そう言って力を込めて無銘を吹き飛ばし、復活した右腕と左手を広げる。空中で体制を戻して、着地した無銘の回りに、大炎上する七つの炎柱が召喚された。

 

「食らいなさい!『七つの業火(ゲヘナ)』!」

 

 宣言した瞬間、無銘の回りを取り囲んでいた燃え盛る炎の柱は、密度を増し無銘に迫る。

 直後、回りを取り囲んでいた炎の前方が吹き飛ばされた。剣圧で吹き飛ばされて細かくなった炎は辺りの樹の根に燃え移る。

 

「なぁ!?」

 

 今度こそ声を出して驚くジャックの目の前に、炎から飛び出してきた無銘は剣先をジャックに向ける。

 

『どうやら君は私との相性が最悪の様だね』

 

「くっ…………」

 

(地獄の炎を切る剣と、それを十全に扱う持ち主の剣技…………私本来の力を出せないとは言え、まさかこれ程に格差が出るとは……)

 

 ジャックは相手の力量を考えて決断を下した。

 

「……私の負けです。素晴らしい剣と剣技でした…………」

 

 そう言ってジャックは手を上げて降参の意を示した後、アーシャのところに飛んでいった。

 それを見届けた無銘は、動けない耀にも視線を向ける。

 

『"ノーネーム"の君はどうする?………と言っても、その状態じゃ動けないだろうけどね』

 

 そう無銘に言われて耀は悔しそうな顔をする。

 この状況を抜けることも、無茶をすれば可能ではあった。が、あの騎士の底が未だ見えない上、体術では敵わないとわかった。

 

「……私も降参する」

 

 そう耀が宣言すると、世界が元のコロシアムのような舞台に戻った。

 観客席が静まり唖然とする中、黒ウサギは宣言する。

 

『勝者、無銘!!』

 

 それを聞いた観客席から、割れんばかりの歓声が会場を包んだのだった。

 

「いやはや、お見事でした」

 

 ジャックは落ち込んでるアーシャを連れて無銘の前に来た。

 

『そうでもないよ。力量差はあっても君の本質は不死だからね。君一人であったなら、わからなかったかもしれない』

 

「それでも、ですよ。それにその剣は……貴方が造ったのですか?」

 

 ジャックは無銘が持つ『無銘』と側面に書かれた剣を見る。それに対して無銘は肩を竦めて言った。

 

『いや、この剣は君の連れと話している"ノーネーム"のメンバーが造った剣でね。私は白夜叉に箔付けを任されて出たに過ぎないよ』

 

「ほう、そうですか……」

 

 ジャックは耀に眼を向ける。

 そこでは、耀に向かってライバル宣言するアーシャと、首を傾げる耀が映った。

 ジャックは微笑んでいるような雰囲気を出して、その光景を見守った後、最後に無銘に言った。

 

「いつかこの借りは返させて貰いますよ。貴方程の相手と相対して、アーシャが無傷でいられたのは正直ホッとしましたしね」

 

『そうか……楽しみにしているよ』

 

 そう言ってジャックはアーシャのところに戻り、無銘は白夜叉の元に戻った。

 

 ____________________

 

「春日部さん………負けてしまったわね……」

 

「そういう事もあるさ。後で励ましてやれよ」

 

 気落ちする飛鳥と、軽快に笑う十六夜。

 それをみたサンドラと白夜叉も励ます。

 

「シンプルなゲーム盤なのに、とても見応えのあるゲーム。貴方達が恥じることは何もない」

 

「うむ。シンプルなゲームはどうしてもパワーゲームに成りがちだが、中々堂に入ったゲームメイクだったぞ。

 "ウィル・オ・ウィスプ"は六桁の中でも最上位の一角。その主力であるジャックは業火と不死の烙印を持つ幽鬼。

 あの騎士も、エミヤが造った剣を十全に使いこなしていたからの。今回は敵が悪すぎたな」

 

「やっぱりあの剣はお姫様のだったか。…………まあ、お姫様は剣を矢として使うトリッキーな戦法だからな。創作ギフトの名前を売るためのゲームでは、剣の紹介に使えないか」

 

「そうだ。だから今回は"サウザントアイズ"のツテで呼んだ騎士に出てもらった」

 

 その時、舞台から飛び上がってバルコニーに着地した無銘が、白夜叉の後ろに控えた。

 そんな騎士に十六夜は声をかける。

 

「よう無銘とやら。あんた中々強いな」

 

『そうでもないさ。今回は君達の仲間の剣が良かったお陰だ。礼を言う』

 

「いやいや。それを使いこなすおんしも素晴らしかったぞ。私が目を付けただけはある」

 

 そう白夜叉も労いの言葉を無銘にかける。無銘はそれに返答しようとしたが、

 

『…………白夜叉。どうやら最悪の事態が起こったぞ』

 

「なに?」

 

 無銘が空に眼を向けて白夜叉に呼び掛けると、白夜叉も空を見上げる。

 遥か上空から、雨のようにばら撒かれる黒い封書。観客の中からも異変に気付き、空を見上げる。

 傍に落ちてきた紙を、黒ウサギはすかさず手に取る。

 

「黒く輝く"契約書類(ギアスロール)"………ま、まさか!?」

 

 笛を吹く道化師の印が入った封蝋を開封した。

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟

 

 ・プレイヤー一覧

  ・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

 

 ・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

  ・太陽の運行者・星霊 白夜叉。

 

 ・ホストマスター側 勝利条件

  ・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

 ・プレイヤー側 勝利条件

  一、ゲームマスターを打倒。

  二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印』

 

 観客の中から一人、弾けるように叫び声を上げた。

「魔王が………魔王が現れたぞオオオォォォォ――――!!!」

 

 ____________________

 

 境界壁・上空2000メートル

 

「プレイヤー側で相手になるのは………〝サラマンドラ〟のお嬢ちゃんを含めて五人ってところかしらね、ヴェーザー?」

 

「いや、四人だな。あのカボチャは参加資格がねえ。特にヤバイのは吸血鬼と火龍のフロアマスター、それと黄金の騎士だ。―――あと事のついでに、偽りの"ラッテンフェンガー"も潰さねえと」

 

 露出が多く、布の少ない白装束の女―――ラッテンの問いに、ヴェーザーと呼ばれた男が答える。

 

 ラッテンは白髪の二十代半ば程に見える女。二の腕程の長さのフルートを右手で弄んで舞台会場を見下ろしていた。

 ヴェーザーは短髪黒髪の黒い軍服を着た男。長身の男と同等の長さがある笛を握っていた。

 陶器の様な材質で造られた滑らかなフォルムと、全身に空いた風穴。全長五十尺はあろうという巨兵―――シュトロム。

 その三体に挟まれる形で佇む、白黒の斑模様のワンピースを着た少女―――ペスト。

 ペストは三体の顔を一度ずつ見比べ、無機質な声で、

 

「―――ギフトゲームを始めるわ。貴方達は手筈通り御願い」

 

「おう、邪魔する奴は?」

 

「殺していいよ」

 

「イエス、マイマスター♪」

 

 ____________________

 

 

「な、何ッ!?」

 

『っ!?白夜叉!』

 

「白夜叉様!?」

 

 突如黒い球体に包み込まれる白夜叉。咄嗟にサンドラと無銘が白夜叉に手を伸ばすが、吹き荒れる黒い風はそれを許さない。

 黒い風は勢いを増すと、白夜叉と剣で風を切り飛ばした無銘以外の人間をバルコニーから押し出す。

 

「きゃ………!」

 

「お嬢様、掴まれ!」

 

 空中に投げ出された十六夜はすかさず飛鳥を抱き抱えて着地。さらに遥か上空の人影を睨んだ。

 

「ちっ。〝サラマンドラ〟の連中は観客席に飛ばされたか」

 

 十六夜は舞台袖から出てきたジン達を確認、黒ウサギに振り向く。

 

「魔王が現れた。………そういうことでいいんだな?」

 

「はい」

 

 黒ウサギが真剣な表情で頷き、メンバー全員に緊張が走った。

 観客席が大混乱。我先にと蜘蛛の子を散らすように散開。

 阿鼻叫喚する最中、十六夜は軽薄な笑みを浮かべる。だが瞳に余裕が見られない。真剣な瞳の視線を黒ウサギに向ける。

 

「白夜叉の"主催者権限"が破られた様子は無いんだな?」

 

「はい。黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、誤魔化しは利きません」

 

「なら連中は、ルールに則った上でゲーム盤に現れているわけだ。………ハハ、流石は本物の魔王様。期待を裏切らねえぜ」

 

 

 

バルコニーにて、無銘は白夜叉を解放しようと剣を振るっていた

 

『白夜叉大丈夫か!?』

 

「ああ…………エミヤよ。おんしの言うとおりになってしまったな。どうやら私はここから出られんらしい」

 

 そう言って白夜叉は、自分を包む黒い風の球体に触れるが、弾かれてしまう。

 無銘も剣で切り飛ばすが、すぐに新たな風が白夜叉を包むため手の施しようがなかった。

 

『ダメか…………白夜叉。私はこれから敵主力を叩きに行く。何かわかれば"会話"をして』

 

「わかった。おんしも気を付けるのだぞ」

 

 無銘が他の面々を見ると、十六夜は敵に突っ込んでいき、レティシアもそれに続くように飛び立っていた。

 無銘は、十六夜は大丈夫だと思いレティシアの後を追う。

 

 ____________________

 

 レティシアは落下してきた陶器の巨兵と斑模様のワンピースを着た少女と対峙していた。

 二対一という構成だが、

 

「シュトロム!」

 

「BRUUUUUUUUM!!!」

 

 迫る危機に気付いた少女がその巨兵に呼び掛ける。シュトロムと呼ばれた陶器の怪物は、乱気流を発生させ周囲の瓦礫を吸収、圧縮して散弾を地上に放った。

その進行方向には、唐突に二人目掛けて様々な剣群が向かって来ていた。

 しかし、地上から降ってくる大剣の束が次々と瓦礫の散弾を貫通・吹き飛ばし、シュトロムを襲った。

 

「Buuu…………」

 

 そのまま串刺しにされ動かなくなる。

 

「ちっ。やっぱり粒が揃ってるわね。…………中々どうして、強いじゃない。念力のギフトかしら?」

 

 斑模様のワンピースを着た少女ーーーーーーーー"黒死班の魔王(ブラック・パーチャー)"・ペストは舌打ちと共に興味深そうに地面に視線を向ける。

 その方向には、黄金の甲冑に紅い腰マントを靡かせた騎士ーーーー無銘が胸の前で腕を組み立たずんでいた。

 

 注意が無銘に向いている隙に、レティシアはペストの懐に入る。

 

「あれ?」

 

「謝らないからな。注意を怠った自分を恨め」

 

 レティシアはギフトカードから取り出した"絶世の名剣(デュランダル)"をペストに振り下ろす。

 ペストはその剣に危機感を感じとり、黒い風の塊を自分の前に発生させるも、レティシアは風ごとペストを切り裂く。

 

「やったか!?」

 

「いいえ。やってないわ」

 

 ペストの切り裂かれた部分が瞬時に癒されていく。

 そのまま手をレティシアに翳し、黒い風が彼女を捕縛せんと迫る。

 レティシアは一度下がり、剣を一閃させて黒い風を吹き飛ばした。

 

「その剣…………かなり良い得物を持ってるようね」

 

 ペストはレティシアが持つ剣を見つめて感想を溢した。

 

「バカな…………効いてないだと?」

 

「いいえ。痛かった。凄く痛かったわ。…………貴女もあそこの騎士も良い手駒になりそうね」

 

 微笑み、両手から黒い風を更に発生させるがーーーーー紅い閃光がペストを襲う。

 

「ふっ!」

 

 風で防ぐペスト。

 そのまま襲ってきた上空を見上げれば、轟々と燃え盛る炎の龍紋を掲げた北側の"階層支配者"ーーーーーサンドラが、炎を身に纏い見下していた。

 

「待っていたわ。逃げられたのではないかと心配してしたところよ」

 

「…………目的は何ですか、ハーメルンの魔王」

 

「それ間違いよ。私のキブトネーム正式名称は"黒死病の魔王"・ブラック・パーチャーよ。それに目的なんて言わずともわかるでしょ?太陽の主催者・白夜叉の身柄と星海龍王の遺骨、貴女の龍角が欲しいの」

 

 だから頂戴?とばかり軽い口調でサンドラの角を指差す。

 

「魔王と名乗るだけある、ふてぶてしい態度。だけど、秩序の守護者として見過ごせない。我らの御旗の下、必ず誅してみせる」

 

「素敵ね。フロアマスター」

 

 荒ぶる火龍の炎と、黒い風が辺りに撒き散らされる。直後、

 

『《審判権限》の発動が受理されました! これよりギフトゲーム《The PIED PIPER of HAMELIN》は一時中断し、審議決議を執り行います。プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中断し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください! 繰り返します』

 

 雷鳴と共に拡張された黒ウサギの声が響き渡った。

 




今回はちょい少なめだったけど、まあ……ね

てか明日の更新できないかも


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25話 ハーメルンの街での闘いらしいですよ?

ペスト編終わるのハェェ


 運営本陣営、大広間。

 宮殿内に集められた参加者達。負傷者が多数いる中、"ノーネーム"一同も合流していた。

 

「十六夜さん、大丈夫でしたか!?」

「ああ。他の連中は?」

「……あまり良い状況ではないです。耀さんは意識を失い、飛鳥さんは行方不明…………」

「私も周囲一帯を探してみたんだけど、やっぱり飛鳥の姿は確認できかったよ……」

「そうか。お姫様でも見つからないか…………」

 

 考えられるのは捕まったか、殺されたか。前者はまだ助ければ良いのだが、後者の場合は最悪だ。一同は可能性に賭ける期待も込めて思考を切り替えた。

 ちょうどその時大広間の扉が開いた。入ってきたのはサンドラとマンドラ、それと無銘であった。

 サンドラは緊張した面持ちで参加者に告げる。

 

「今から魔王との審議決議に向かいます。同行者は4名。"箱庭の貴族"黒ウサギと、"サラマンドラ"からはマンドラ。この二人以外に"ハーメルンの笛吹き"に詳しい者がいるなら参加してほしい。誰か立候補する者はいませんか?」

 

 参加者の中でどよめきが広がる。

 名乗り出るものがいない中、十六夜はジンの首根っこを捕まえ高らかに名乗りを上げた。

 周りの者からまたどよめきが起こるも、そのまま会話は進む。

 結果、ジンと十六夜が二人と一緒に出ることになった。

 

 四人が出ていった後の大広間。

 

「おいおい……ノーネームが行ってホントに大丈夫かよ……」

「そもそも何で"サウザントアイズ"の無銘は参加しないんだ?」

「くそっ。こんなところで死にたくねーぞっ」

 

 周りがサンドラと無銘を遠巻きに見ていると、レティシアとエミヤは二人の前に出てきた。

 

「やあサンドラ。さっきも見たが、昔に比べて成長したな」

「レティシア様!お久し振りです。今回、魔王討伐に参加していただきありがとうございます」

「そんな畏まらないでくれ。君は今、フロアマスターなんだ。そんな態度では下の者に示しがつかないだろう?それに無銘が援護してくれたからな」

 

 そう言ってレティシアは隣でコソコソ話している二人に目を向けた。つられてサンドラもそちらを見る。

 

「お二人は………どう言った関係なんですか?そちらの方は見たことないのですが。」

「ああ、すまないね。はじめまして。私は無銘の剣を造った鍛冶師のエミヤ・リン・トオサカ。前線には出れないけど、後方支援なら任せて欲しい。」

「貴女が白夜叉様の言っていたエミヤ様ですね!貴女の剣の噂は耳にしています。此度のゲームでも我らの為にその剣の力を発揮して下されば……」

「まあ、使うのは私ではなくこの騎士だけどね」

 

 そう言ってエミヤは無銘に眼を向ける。それを受け止めた無銘は、サムズアップをエミヤに向けた。

 その金の籠手はとても輝いていた。

 

 ____________________

 

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟

 

 ・プレイヤー一覧

  ・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ(〝箱庭の貴族〟を含む)。

 

 ・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

  ・太陽の運行者・星霊 白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)。

 

 ・プレイヤー側・禁止事項

  ・自決及び同士討ちによる討ち死に。

  ・休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。

  ・休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より500m四方に限る。

 ・ホストマスター側 勝利条件

  ・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

  ・八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。

 

 ・プレイヤー一覧 勝利条件

  一、ゲームマスターを打倒。

  二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 ・休止期間

  ・一週間を、相互不可侵の時間として設ける。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印』

 

 

 日が暮れて、エミヤが宛がわれた自室にいると、

 

(エミヤァァーーー…………凄く暇なのだが)

(…………これは接触の内に入らないよね?)

(入らんさ。これは心の繋がりを通しているだけだからな。そんなことより…………戦況はどうだ?)

 

 白夜叉がとっても暇そうな念話を送ってきた。

 白夜叉はどこか真面目な態度になり、エミヤに状況を聞く。

 

(………あまり良いとは言えないけど………最悪の一歩手前と、言ったところかな。まだわからないが黒死病のこともある。これでどれだけの主力が当日動けるか………)

(そうか…………………エミヤ。おんしのギフトは魔力を使うのだったよな)

(そうだよ。私のギフトの根底と言っても良い)

 

 エミヤが答えると白夜叉は覚悟を決めた雰囲気で彼女に告げた。

 

(今からおんしとの接続を強める。これで私の魔力は常におんしに行くことになる。それで今回の件を納めてくれんか?)

(それは………いいの?私は"サウザントアイズ"の客分になったとは言え、所詮、部外者だよ?)

(今回は私に責がある。相手を甘くみていた私への戒めだ。それに、階層支配者として魔王からなんとしても守らなければならないからの。一分でも為になってくれれば私はそれで良い)

(でも………)

(それに友であるおんしが、少しでも生存する可能性を私は選びたい。私はおんしに生きてほしい)

(…………そっか……フフっ。……そういうところが好きだよ白夜叉)

(むぅぅ……………おんしは私をからかいたいのか?)

(いやいや。正直な気持ちを言っただけだよ)

(……………拘束されたこの身が憎いっ!抱きつきたい!やはり嫁になれエミヤ!!)

(じゃあ切るね。魔力のことお願いね)

(え、ここで切るのかおんーーーーー)

 

 エミヤは会話を切った。

 

 ____________________

 

 交渉から四日。

 暁の麓。美術展、出展会場・大空洞。魔王本陣営。

 ペスト、ラッテン、ヴェーザーの三人は展覧会場に居座り、その展示物を鑑賞していた。

 

「ああ、いいわぁ。流石はフロアマスターの誕生祭だけあって、造り手の気合いが違うわねぇ。特にこの"ウィル・オ・ウィスプ"製作の燭台!悪魔の蒼炎をあえて銀の燭台に刻む挑戦的な姿勢!この職人に"クリムグリモワール・ハーメルン"の旗印を刻ませたい!」

「そりゃ無理だ。それを造ったのはジャック・オー・ランタンだろ?あいつは参加者じゃねーからな。………おいおい、これ見てみろよ!この剣!」

 

 ヴェーザーは素っ気ない声でラッテンを相手していたが、飾られた轟々と燃え盛る剣を見て声を上げた。

 

「どーしたのよヴェーザー?………わあ、この迫力はすごいわねぇ。なになに?銘は………レーヴァテイン!?な、なんでこんな下層にこんな神器が置いてあるのよ!?」

「いや、多分レプリカだとは思うが………わからねぇな。神格付きの剣ということはわかっているんだが」

 

 二人が話しているところを見ていたペストも、思い出したように呟いた。

 

「………そう言えば私が相手をした吸血鬼も、かなりの名剣で私のギフトを切り裂いたわ」

「製作者は『無銘』………あの騎士か……」

「へぇ………」

 

 ペストはあの時の光景を思い出したのだろう。恍惚な笑みで言った。

 

「フフフッ………楽しみだわ。この戦いで全てを手にいれたら、どんな気分なのかしらね」

 

 ペストは不気味に微笑んでいた。

 

 ____________________

 

 ゲーム当日

 

 大広間にて参加者が集まる中、サンドラは彼らの前に出てゲームの方針を宣言した。

 

「今回のゲームの行動方針が決まりました。動ける参加者にはそれぞれ重要な役割を果たしていただきます。ご静聴ください………マンドラ兄様。お願いします」

 

 サンドラが促すと、傍に控えていたマンドラは軍服を正し、読み上げた。

 

 

「其の一。三体の悪魔は〝サラマンドラ〟とジン=ラッセル率いる〝ノーネーム〟、それと"サウザントアイズ"の無銘が戦う。

 其の二。その他の者は、各所に配置された一三〇枚のステンドグラスの捜索。

 其の三。発見した者は指揮者に指示を仰ぎ、ルールに従って破壊、もしくは保護すること」

「ありがとうございます。―――以上が、参加者側の方針です。魔王とのラストゲーム、気を引き締めて戦いに臨んで下さい」

 

 おおと雄叫びが上がる。クリアに向けて明確な方針が出来た事で士気が上がったのだろう。

 魔王のゲームに勝つため、参加者は一斉に行動を開始する。

 

 __________

 

「マスターマスター。どうやら連中、私達の謎を解いちゃったそうですよー?」

「チッ。ギリギリまで最後の謎は解かれないだろうと踏んでいたんだがな」

 

 ラッテンは配下のネズミに情報収集させ、ヴェーザーは黒い短髪を掻き上げ愚痴る。

 ペストは立ち上がり、後ろで両手を組む。

 

「………構わないわ。最悪の場合は皆殺しにすればいいだけよ」

 

 悠々としたその姿勢のままヴェーザーとラッテンに振り返り、

 

「―――ハーメルンの魔書を起動するわ。謎を解かれた以上、温存する理由はないもの」

 

 ペストの言葉に、ラッテンとヴェーザーは凶悪な笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「ふふ~ん。いよいよもって盛り上がってきましたねーマスター♪」

「おい、油断するなよラッテン。参加者側には〝箱庭の貴族〟もいる」

「………やっぱり凄いの?〝月の兎〟って」

「ああ。一度戦っているところを見たが、並みの神仏じゃ歯が立たん。アレは正真正銘、最強種の眷属だ。授けられているギフトの数が違う。俺やお前じゃ、とても抑えられんだろうな」

 

 苦い顔で呟くヴェーザーとラッテン。

 そんな二人に、ペストは微かに笑い掛けた。

 

「そっ。なら魔書の他に、もう一つ策を設けるわ」

「策?」

 

 ペストは悠然と歩み寄り、綺麗な指先を伸ばしてヴェーザーの額に押し付ける。

 

「ヴェーザー。貴方に神格を与えるわ。開幕と同時に、魔王の恐怖を教えてあげなさい」

 

 __________

 

「なっ………何処だ此処は!?」

 

 参加者の誰かが、驚愕の声を上げた。

 見渡せば数多の尖塔群のアーチは劇的に変化し、木造の街並みに姿を変えている。

 黄昏時を彷彿させるペンダントランプの煌めきは無くなり、パステルカラーの建築物が一帯を造り変えている。 

 境界壁の麓は全く別の街へと変貌していた。

 ステンドグラスの捜索側に回っていたジンは、蒼白になりながら叫ぶ。

 

「まさか、ハーメルンの魔道書の力…………ならこの舞台は、ハーメルンの街!?」

「何ッ!?」

 

 マンドラがその声に振り返る。その間も混乱は広がりをみせ、士気高く飛び出した参加者達は余りの劇的な変化に出鼻を挫かれたように足を止めた。

 

「こ、ここは一体!?」

「それに今の地鳴りは!?」

「まさか魔王の仕掛けた罠か!?」

 

 ザワザワと動揺が感染していく。マンドラはチッ、と舌打ちしながらも一喝する。

 

「うろたえるな!各人、振り分けられたステンドグラスの確保に急げ!」

「し、しかしマンドラ様!地の利も無く、ステンドグラスの配置もどうなっているか分からないままでは、」

「安心しろ!案内役ならば此処にいる!」

 

 ガシッ!とマンドラがジンの肩を持つ。

 

「え?」

「知りうる限りで構わん。参加者に状況を説明しろ」

「け、けど、僕も詳しいわけでは、」

「だから知りうる限りで構わんと言っているだろうがッ。貴様が多少なりとも情報を持っている事は既に知れ渡っている。お前の言葉ならば信用する者もいるだろう。とにかく動きださねば、二十四時間などすぐに過ぎ去るぞ!」

 

 ぐっとジンも反論を呑み込む。十六夜なら………と捜すが彼は此処にはいない。時間も決められているから悠長にしている暇はない。

 ジンは意を決したように捜索隊の前に立つ。

 

「ま、まずは………教会を捜して下さい!ハーメルンの街を舞台にしたゲーム盤なら、縁のある場所にステンドグラスが隠されているはず。〝偽りの伝承〟か〝真実の伝承〟かは、発見した後に指示を仰いでください!」

 

 ジンの一声で捜索隊が一斉に動き始めるのだった。

 

 

「へえ………?地精寄りの悪魔とは思っていたが、地殻変動そのものを引き起こすとは恐れ入った。そんな地力があったなんてな。それにこの街の建築様式………ハッ、なるほど。ゴシック調の街からルネサンス調に変われば、そりゃ仕込んだ種も割れるって話だ」

 

 街中で一番大きな建物に登り、一帯を見回す。

 ハーメルンの伝承に基づいた場所だけは精巧に造り出されていた。

 

「街道は結構滅茶苦茶だが………あそこにあるのがマルクト教会に、ブンゲローゼン通りかな。押さえるところは押さえているって訳か。さて、どっちから向かうべきか―――」

「―――その前に、決着と行こうぜ坊主ッ!!」

 

 一喝、十六夜の足場にしていた家が真下から吹き飛んだ。

 建築物の地盤ごと砕かれ、木造の建築は跡形も無く粉砕する。

 声に反応した十六夜は反射的に上空へ跳び退いたが、追い打ちをかける様に地面から飛び出したヴェーザーに顔を掴まれる。

 

「テメェ………!」

「前回のお返しだ!先手は譲ってもらうぞッ!!」

 

 棍に似た巨大な笛で、十六夜の腹部を強打する。

 先日とは比べ物にならない巨大な力が宿った一撃は、超振動のように十六夜の身体に浸透し、十六夜はハーメルンの街に流れるヴェーザー河の水面を何度も弾いて、対岸に叩き付けられる。

 ペッ、と血反吐を吐き捨てて十六夜は立ち上がり、口元を拭いながら睨んだ。

 

「………やるじゃねえか。今のは相当効いたぞ」

「当たり前だ。前回と同じと思って油断なんかすんじゃねえぞ坊主。こっちは召喚されて以来、初めての神格を得たんだ。簡単に終わったら興ざめするってもんだ」

「何?」

 

 十六夜が訝しげにヴェーザーを睨むと、ヴェーザーはクックッと牙を剥いて笑って棍を横一閃に薙ぐ。

 すると大地は地鳴りを始め、震動を起こし始めた。

 

「ああ、そうだ。これが〝神格〟を得た悪魔の力……!クク、とんでもねえぜ坊主!一三〇人ぽっちの死の功績なんざ比較にならねえ!今の俺は、星の地殻そのものに匹敵する!」

 

 更に横一閃。星の地殻変動に比するという衝撃は大気を伝達し、ヴェーザー河を叩き割って氾濫させ、河の流れさえも逆流し、隣接する建造物を軒並み粉々に打ち砕いた。

 目に見えて立ち昇るヴェーザーの力に、十六夜は不敵な笑みを零す。

 

「………ハッ、なんだよ。少し楽しめればそれでいいと思っていたのに、随分と俺好みなバージョンアップをしてきたじゃねえか。嬉しいぜ、本物の"ハーメルンの笛吹き"」

「謎を解いたのはやはりお前か、坊主」

「ああ。だけど土壇場まで騙されてた。お前以外のメンバー全員は偽物。十四世紀以後の黒死病の大流行と共に後付けされた、一五〇〇年代以降のハーメルンの笛吹きの伝承だったのさ」

 

 

 

(一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二六日

 あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した。それがハーメルンの伝承の真実と十六夜は言ってたの。)

(ふーーん)

 

(本来の伝承と碑文には、()()()()()()()()()()()()()()()()()らしいよ。そして、ハーメルンの笛吹きにネズミとネズミを操る道化師が現れるのは、黒死病の最盛期である一五〇〇年代からの事。

 本来の真実から離れた時代で起こったことらしいのさ。

 グリム童話の魔書に描かれてる、伝承とは異なる童話の悪魔。それが〝ネズミ捕りの道化〟と呼ばれる偽のハーメルンの笛吹きだね)

(つまりネズミ使いの人が偽物ってことが成立するんだね)

 

(そして、ハーメルンの笛吹きの考察に黒死病が現れたのは、斑模様であること以上に、()()()()()()()()()()だった。これを加味すればペストも真実から後に出てきた偽物ということだね)

(残り一つだね)

 

("シュトロム"。つまり嵐。これは本物かと見せかけてフェイク。何故かというと、碑文の"丘の近くで姿を消した"の一文の"丘"はヴェーザー河に繋がる丘を指すのだと十六夜が言っていた。

 "丘"は天災で子供達が亡くなった象徴とされる事で、シュトロムもまた、ヴェーザー河の存在を指す事になる)

 

(じゃあ意味が被ってる"シュトロム"なんてハーメルンにはいないってこと?)

(時と場合によるのだと思うよ。今回はヴェーザーがいる分、いない場合と言うことになるね)

 

 

『そして、君はハーメルンとは別の存在である黒死病の魔王、と言うのが私達の推論なんだけど………当たっているかな?』

「………もうそこまで気がついたのね。やはり貴女達は欲しい手駒だわ」

 

 場所は変わって対峙するペストと、無銘、黒ウサギ、サンドラはハーメルンの街の屋根上にて縦横無尽に飛び回っていた。

 轟く雷鳴を響かせた黒ウサギの"疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)"が放つ轟雷がペストを左から襲い、右からはサンドラの"龍角"が放つ紅蓮の炎が襲う。

 黒い風の球体を纏っているペストは、二つの奔流を余裕で遮断する。

 

「貴女達も飽きないわね。そこの騎士を見習えば?徒労なのに無駄なことを………」

 

 ペストは四本の黒い竜巻を起こしサンドラに飛ばす。無銘は彼女の前に出て、輝く剣で切り飛ばした。

 先程から何度も行われている光景が続いていた。

 

「ねえ、そこの騎士さん。もっとお喋りしましょうよ。私、退屈になってきたわ」

「このっ………ふざけた事を抜かすなっ!」

「神格級のギフトで二つ同時に攻撃してもびくともしないなんて………」

『それだけじゃないよ黒ウサギ君。私の剣で風ごと本体を切ってもすぐ回復していた………」

「………そうですね。やはり彼女は………」

 

 サンドラは変わらない状況に焦り始め、黒ウサギと無銘は戦況を冷静に観察していた。

 

「………"黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)"。貴女の正体は神霊の類いですね?」

「えっ?」

「そうよ」

『やっぱりね』

「えっ!?」

 

 三人のやり取りに付いていけないサンドラ。

 

『君は最初から神性を帯びていたからね。だからハーメルンとは別の黒死病であることも検討は付いていた』

「つまり貴女は14世紀から17世紀に吹き荒れた黒死病の死者ーーーーー8000万の死者の功績を持つ悪魔ですね」

 

 




間に合ったっすね。
これからは文字数減らしていくかも。といっても今回も7000文字だけどね!


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26話 魔王討伐したらしいですよ?

受験終わるまでは投稿遅くなると思います。


 8000万の死者。その功績を聞いてサンドラの顔が蒼白になった。

 

「そんなに!?………それだけあれば、神霊への転生も」

「無理よ」

「無理です」

 

 キッパリ否定されたサンドラ。近寄る無銘がしょんぼりしたサンドラを撫でた。

 

「最強種以外が神霊になるためには"一定数以上の信仰"が必要です。いくら死の数を増やし収集しようと、神霊にはなれません」

「………」

「確かに恐怖をもって奉られる神仏はいますが………医学が発展した世界で、黒死病が成り上がるための恐怖も信仰も足りなかった」

 

 黒ウサギはペストを見た。

 

「だから貴女はーーーーー」

「違うわ」

「…………はい?」

「私が神霊になったのは完成された形骸を使って………とか言いたいんでしょ?残念。私は呼び出されたただけよ。"幻想魔導書群"を率いた魔王にね………」

 

 黒ウサギが推測していた話と別に進んでいき呆気にとられる。わかっていない無銘とサンドラも黙って続きに耳を傾けた。

 

「かの魔王は"8000万の死の功績を持つ悪魔"ではなく、"8000万の悪霊群"代表の私を死神に据えれば、神霊として開花すると思ったんでしょうね」

「………まさか」

「そう。私は黒死病の死者の代表にして、最初の感染者。それが"黒死斑の魔王"よ」

 

 ____________________

 

「はぁー………。皆が命懸けで戦っているのに思うところはあるが………こうも何もないと暇だ」

 

 白夜叉は未だ黒い風の球体の中に閉じ込められていた。

 ギフトカードに何かしら入っているから色々と困ることはないが、とにかく白夜叉は暇だった。

 白夜叉か戦っている者達に考えを巡らせていると、彼女の視界が急にノイズかかる。

 

 ーーーザッザザーーーーー

 

「なんだ?」

 

 ーーーーザッザザザザーーーーーーーーーー

 ーーーーーザザザザッッザザザザーーーーーーー

 

 ノイズがどんどん激しくなり、世界がノイズで埋め尽くされる

 

 ザザザザザザザザザザザザザザザーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 酷いノイズの映像を見ている気分になっていた白夜叉だが、急に視界が戻る。

 ノイズが少し走っているが大分クリアになった。

 しかし、彼女が見ている光景は黒い風と、バルコニーではなかった。

 

 古びた木の家に、藁のベッド。視線は高くなり、ある少女を見下ろしていた。

 少女は赤い髪に、くすんだ白いワンピースを着ていて、尻餅を付いていた。

 身体は病的なまでに痩せ細り、黒いアザのような斑点が肌を露出している部分から少し見えた。見る人が診れば黒死病の症状だと気づくかもしれない。

 その少女は自分を見上げて怯えていた。正確には、手に持っている剣を見て怯えていた。

 

「………こ、殺さないで………!」

 

 少女は剣を持つ人物から離れようと後ずさる。

 だが、白夜叉の意思関係なく身体は動き、無情にも彼女にゆっくり迫る。

 

「いや………死にたくない……!だれか、誰か助けて………!!」

「悪いがこの村の者達は全員殺した。君を助ける者は誰もいない」

「……………なんで」

「……………」

「……何でこんなことするの?………私達が何をしたというの?」

「………今の世界では黒死病は防げない。それだけだ。恨むなとは言わないし、許しも乞わない」

 

 そう言ってその身体の人物は持っている剣を振り上げた。

 逃げようにも身体が思うように動かないのだろう。赤い髪の少女は酷く緩慢な動きで床を這っている。

 

「もし、生まれ変わっても私を覚えているなら私を殺しにこい。もし覚えていないなら……君の来世に幸あらん事を願う」

「いやっ!いやぁぁぁ!!いッ………………」

 

 そう言ってその者は剣を振り下ろし、無様に逃げながら涙を流す少女の首を飛ばした。彼女の身体は発火し、最後はモノ言わぬ灰と化した。

 

「……………すまない。本当に……すまない………」

 

 残ったのは風で飛ぶ灰と懺悔を繰り返す者のみだった。

 

 ザザザザザザザザザザザザザザーーーーーザザザザザザザッッーーーーーーーー

 

 

 

 白夜叉の視界が戻る。

 

「……………今のは………エミヤの過去か?」

 

 自分に心当たりの無い記憶だった。そして、魂の繋がりから不安定な魔力を確認していた。

 思うところは幾らでもある。しかし、今の光景を思い返した白夜叉は妙な胸騒ぎを覚えた。

 

「エミヤ………どうか無事ていてくれッ………!」

 

 ____________________

 

「私達の"主催者権限"………死の時代に生きた全ての人の怨嗟を叶える権利………黒死病を世界中に蔓延させて飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源ーーーーー怠惰な太陽に復讐する権利が私達にある!誰にも邪魔はさせないわ!!」

 

 そう宣言したペストが己の霊格を解放し、黒い風が吹き荒れる。

 黒ウサギは風で煽られた髪を後ろにかき上げながら言った。

 

「太陽に復讐とは随分と大きく出ましたね。神霊一匹程度ではどうにもなりませんよ?」

「出来る出来ないは貴女が決めることではなくて、私が決めることよ?」

『………………………』

「ど、どうするの?」

「どうもしませんよサンドラ様。全力をもって倒

『いや、黒ウサギ君。ここは私に譲って他のメンバーの手助けに行ってくれ』

「「えっ?」」

「あら?」

 

 黒ウサギが戦闘続行しようと構えたが、その前に手を翳して彼女を止めたのは無銘だった。

 唐突の決闘宣言に唖然とした三人。そんな彼女達を置いて無銘はペストのいる屋根の上に飛び乗った。

 

『黒死病の魔王。一度、君と一対一でお相手したい。デートのお誘い、引き受けてくれるかな?』

「ええ………と言いたいところだけど残念。流石に部下の一人に神格を与えているとは言え、あの二人まで参加してしまったら分が悪いわ。ノーサンキューよ」

『そっか。なら、強制的にしてもらうよ』

 

 そう無銘が宣言すると、知らない間に浮いていた剣が彼らの立つ家々に突き刺さり爆発した。

 

「なッ!!?」

「今のは!?」

「ゲームで見た彼のギフト!」

 

 その光景を見た黒ウサギは十六夜とのゲームを思い出し、サンドラは造物主のゲームを思い浮かべた。

 いつの間にか空中に存在し発射される剣。今のところ全容が掴めず、ペストも念力に似たギフトとしか思い浮かべられずにいる謎のギフト。

 それによって爆発したエミヤ製の剣は、屋根と無人の家を破壊し、爆発と煙で四人の視界を覆う。

 

I am the bone of my sword(身体は剣で出来ている).

 

 Unknown to Death(ただの一度も敗走なく).

 

 Nor known to Life(ただの一度も理解されない)). 』

 

 声が響き、無銘の霊格が膨大に膨れ上がる。

 その英雄と同等の霊格を肌で感じた三人は、見えない空間の中で警戒する。

 

「くっ………なにをする気か知らないけどこんな煙!」

 

 ペストが風を起こそうとする前に、無銘はまだ空中に残っていた剣を爆発させ、爆音の中そのギフト名を告げる。

 

 

『"unlimited blade works(無限の剣製)."』

 

 青い炎の爆風が起き、黒ウサギとサンドラの視界が晴れると、残りの二人が消えていた。

 

「あれ!?あの二人は!?」

「うそ?"主催者権限"でこの地から離れられないはず………………。サンドラ様、もしかしたらここから離れた街の何処かにいるかもしれません。だから私達は無銘様の言に従って行動すべきかと」

 

 サンドラは二人が突然いなくなった事に困惑し、黒ウサギは"境界を操る"系のギフトと考え、サンドラに意見を述べた。

 

「でも………良いのかしら?………"サウザントアイズ"の客人を一人で戦わせて何かあったら………」

「多分、心配には及ばないと思いますよ。かの騎士はあの剣技に"境界を操る"ギフトを持っていると推測出来ます。それほどのギフト持ちなら大事には至らないかと………」

 

 そう言って黒ウサギは先程二人がいた空間を見つめた。

 

 ____________________

 

 青い風が吹き上げたと思ったら、視界には荒野と、墓標の様に突き刺さる剣群、空に見える巨大な歯車で構成された世界に変わっていた。

 周りには夥しい程の名剣類の数々が存在を主張していた。

 

「…………な、何なのよここは!?それにこの剣達………そもそも私の主催者権限で違う土地に移動できないはずじゃ!!?」

『ここは私の心象世界だよ。現実の空間を絞り拡張させた私の世界。つまり、私達は一歩も動いていないから安心して欲しい』

 

 そう言って無銘。つまりエミヤは兜と甲冑を消し去り、普段の赤い外套に腰マント、上下は黒のタートルネックにスカートといった格好に戻った。

 

「さて、ペスト。残り時間ゆっくりと私とのランデブーを楽しもうじゃないか」

 

 エミヤは、ペストを見て悲しげに冗談を告げた。

 

 ____________________

 

 十六夜と飛鳥がペストの配下の悪魔達を倒した後、"ノーネーム"のメンバーと黒ウサギとサンドラは合流して戦況を報告していた。

 

「おい黒ウサギ。駄騎士と魔王様はどこに行きやがったんだ?勝利条件は一つ満たしたがこれで終わりなのか?」

「Yes。一つ満たしたので負けた時のペナルティを受けることはありません。後は制限時間を待つか………無銘様がペストを倒すかで終わります」

「それでその騎士様は何処に行ったのかしら?」

「それが………わかりません。少なくともこの街にいることは確かなのですが………」

 

 そう言って質問を返す度にしょんぼりしていく黒ウサギ。

 他のメンバーもこれ以上わからない事を聞くのは不毛だと思い聞くのを止めた。

 

 それから10分程経っただろうか。参加者には、もうゲームが終わったと楽観視する者。緊張の糸が切れて気を失う者などが続出した。

 "ノーネーム"のジンや飛鳥も気を抜いており、十六夜も治療系のコミュニティに怪我を診てもらっていた。

 その中で、フロアマスターであるサンドラと、黒ウサギ、レティシアはハラハラしながらも結果を待っていた。

 すると、唐突にそれも終わりを告げた。

 

『ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"

 

 ・勝者、プレイヤー側:ホスト指定ゲームマスター 太陽の運行者 星霊 白夜叉

 

 勝利条件が全て満たされました。』

 

 そう書かれた"ギアスロール"が街中にバラまかれた。

 

 ____________________

 

 

 ゲームが終了して一日後

 

 街は魔王討伐の成功によりどこもお祭り騒ぎになっていた。はしゃぐ者、踊る者、暴食いする者、一日中酒を飲み酔っぱらう者。

 そんな喧騒の街の高台。"サウザントアイズ"支店の客室で、エミヤと白夜叉は相対していた。

 

「エミヤよ。まずはフロアマスターとしてお礼を述べよう。今回、魔王討伐を担ってくれて助かった。ありがとう」

「なに、大したことはしてないよ。多分だけど、黒ウサギのインドラの槍でもペストは殺せただろう。その役割を私が横から獲っただけだよ」

「それでもだ。おんしらのお陰で、魔王の被害で出た死者は0。私は何も出来なかったのによくやってくれた」

「君は魔力を供給してくれたから、何もしてない訳では無いと思うけどね。まあ、お礼は受け取るよ」

 

 白夜叉は頭を下げてお礼を述べ、エミヤは礼儀に反すると思い、その礼を受け取った。

 白夜叉は頭を上げる。が、少し気になることもあり話は続いた。

 

「…………それでだが、おんしに聞きたいことがある。……………ペストはどうなった?」

「隷属権を得てこの中に封印されているよ」

 

 エミヤは、ギフトカードから取り出した黒い指輪を白夜叉に手渡した。

 エミヤがゲームを終了させた時に彼女の前に現れた"黒死病の魔王"の隷属の証である。

 白夜叉はそれを受け取り眺めた後、エミヤに視線を向ける。

 

「なるほど、確かに隷属されておるようだの…………おんしはペストを殺したのか?」

「……………なぜそんなことを聞くの?」

「いや、どうやって打倒したのか気になってな。神霊を倒す一撃は、殆どがその者を殺す一撃ーーーーー星を割る程の一撃で無ければ倒せん。だからどうやったのかと思ってな」

 

 白夜叉はエミヤの顔を伺うように見て言った。エミヤはそれを見て疑問に思う所があったが、構わず告げた。

 

「…………そっか。まあ、甘いと思われるかもしれないけど殺さなかったよ。ある剣を使って気絶させただけだならね」

「…………なに?神霊を殺さずに意識を刈り取るギフトだと?………………そんなものがあるのか?意識を刈り取るだけのギフトでは、最強種である神霊の意識を奪えるとは思えん」

 

 ホッとした白夜叉だが、倒した方法に疑問が残り、それはあり得ないと断定した。

 

「私もその程度で神霊を倒せるとは思ってないよ………………私の奥の手、と考えてくれれば良い。まあ、読んで字の如く諸刃の剣ではあったけどね」

 

 そう言ってエミヤはタートルネックの襟部分を引っ張り、首下の肌を白夜叉に見せる。そこには包帯が巻かれており血が滲んでいるのが見えた。

 

「なっ………………おんし正気か!?」

「まあ、しょうがな「そんな手当てで乙女の肌に傷が残ったらどうするのだ!!?」………はっ?」

 

 白夜叉は焦ったように近づき、エミヤの服を脱がしにかかる。

 

「おんし、この服の下にもまだ傷があるのだろう!?見せてみろ!!私が傷一つ残らないよう全て治してやる!脱げッッ!!!」

「えっ、ちょっ………白夜叉?」

「ええい、もたもたするな!」

 

 そう言って白夜叉は抵抗しようとしたエミヤを押し倒し、彼女の両手を頭上で抑える。片手で外套のボタンを外し、手刀でタートルネックを左右に切り裂く。その中からエミヤの大きな山とそれを覆う紫色の布、傷を覆う包帯が現れた。

 

「まって!流石に誰か入ってくるかもしれない部屋でこんなッ!!」

「グフフフ………………一つ一つ丁寧に治してやるから覚悟しろよエミヤ」

「やめっ………」

「さあ!余すところなくその身を

「白夜叉。入るぞ」

 

 白夜叉が全てを脱がしにかかろうとすると、世界の修正が働いたのだろう。

 襖が開き、そこからレティシアと例の割烹着の店員が入ってきた。二人の視界に写ったのは、顔を真っ赤にし涙目で両手を抑えられた半裸の美少女と、襲いかかる美幼女もしくは上司。そんな光景が飛び込んできた。

 

「なっ………」

「エミヤ!」

 

 店員は赤面し、レティシアは乗っかっている白夜叉をぶっ飛ばしエミヤを助け起こした。

 

「ブバッ!」

「………れてぃしぁ………」

「エミヤ………こんな………」

 

 レティシアはエミヤの肌を見て絶句した。肩や腹に包帯が巻かれており、包帯からは何ヵ所か血が滲んでいる部分も見える。普段なら扇情的に見える格好も、今はとても痛々しい。

 

「お前………こんな大怪我をして………。正体を隠すためとは言え何故私にも言わなかった!」

 

 レティシアはエミヤ向かって泣き叫ぶ様に言う。それを聞いた彼女は困った顔をレティシアに向けた。その表情を見て、更に激情する。

 

「お前の考えも理解している!だけど……………なぜ魔王に一人で挑んだ!!私がその報告を聞いてどれ程心配したか………案の定こんな大怪我までして…………何故私をッ!!」

 

 彼女は堪らず目に涙を溜めてエミヤにすがり付く。

 何故私は魔王本人と戦わなかったのか、あの時自分がエミヤの傍にいれば、等と後悔するように言葉を吐いた。

 

「………ごめんね」

「っ!………私がどんな気持ちでお前の帰りを待っていたと思っている!ゲームが終わっても姿を現さないしっ!………………私がどれだけッ………!」

「………ありがとうレティシア」

 

 エミヤはすがり付くレティシアを抱き寄せて、安心させるように、自分は大丈夫だと証明するように彼女を強く抱き締めた。

 

「………もう無茶はしないと誓えエミヤ」

「それは………出来ない相談だね。私は死んでも直らない性格だから」

「では、無茶をする時は必ず私の傍にいろ。でなければ許さん」

 

 そう言ってレティシアは睨むが、目の下に隈を作った涙目の睨みでは全く迫力が無かった。エミヤはそんな彼女に苦笑してしまう。

 

「それは…………後がとても怖いね。出来る限りは善処するよ」

「………まあ、許してやる。約束だぞ」

「ええ、約束だよ」

 

 金髪と銀髪の少女が見つめ合っている光景はとても絵になるが、その雰囲気をぶち壊した白夜叉。

 

「おいおんしら。私を吹っ飛ばした挙げ句放置とは良い度胸だな」

「む?………ああ、忘れてたよ白夜叉」

「…………黒ウサギといいおんしらといい、最近私の扱いが酷くないか!?というかもっと敬え!私はフロアマスターだぞ!?東側最強だぞ!?」

 

 涙目で手を上げて抗議する白夜叉。

 威厳も何も無い、幼い少女が体を使って怒る表現に、先程の事も忘れて微笑ましさを感じてしまうエミヤだった。

 




戦闘シーン結構飛ばしたから速攻で終わってしまった………。という訳でアンダーウッド前までもうちょい入れます。


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27話 東にもゲームはあるそうですよ?

今思うと二巻入ってから1話1話の文字数増やし過ぎた。



 誕生祭、魔王襲来から二週間後

 

 "ノーネーム"メンバーは本拠に戻っていた。また、誕生祭から新たに加わったメンバーーーーー

 ーーーー飛鳥と一緒にいた幼い妖精メルン。

 飛鳥がギフトゲームで手に入れた、"ラッテンフェンガー"の群体精霊が星海龍王より授かりし鉱石で鍛え組み上げた神珍鉄製、伸縮自在の自動人形。紅い鋼の巨人"ディーン"が加わった。

 

 二人がコミュニティに入ったことにより、"ノーネーム”の砂漠の様に土が死んだ農園が復興させられる状態になった。

 メルンが持つ開拓の功績を利用して土地の再生が少しずつ進み、ディーンの巨体を活かした膨大な土作業が楽になる。

 また、ディーンは飛鳥の"威光"と相性がよく、そのまま戦力となっていた。事実、ディーンの活躍により飛鳥はラッテンを倒したのである。

 

 二人が加わった"ノーネーム"の主力メンバーは、ここ最近はギフトゲームに参加したり農園復興を手伝ったり昼寝したりと穏やかな時間 (黒ウサギはあまり穏やかではなかったが、エミヤとレティシアの尽力によりそこそこ穏やか) を過ごしていた。

 その一人であるエミヤも、今日も変わらず"サウザントアイズ"の白夜叉の下へ足を運んでいた。

 

 

 

 

 "サウザントアイズ"支店

 

 今日の催しの為に朝早くから出向いたエミヤは、白夜叉がいるであろう執務室に向かった。

 扉にノックして返事が返ってきてから開ける。

 

「おはよう白夜叉。今日はサウザントアイズ主催のゲームの手伝いに来たよ」

 

「おーうエミヤ。おはよう」

 

 エミヤは中に入ると、椅子に座って書類を読んでいる白夜叉の隣まできた。

 

「おんしも毎度毎度飽きないな。病み上がりだと言うのに」

 

「君の方が大変なのによく言うよ。それに傷ならもう癒えた。そんなことより、今日のゲームについて何か手伝える事はあるかな?」

 

「んー………特に無いな。まあ、主催側が大変なのは準備と事後処理だからな。この書類も殆ど確認済みだ」

 

 そう言って白夜叉はペラペラと自分が読んでいた紙をエミヤにみせる。

 

「ふぅん。疲れたでしょ?紅茶淹れてあげる」

 

「すまないな。私は緑茶派なんだが、おんしの淹れた紅茶は美味しいから嬉しいぞ」

 

 エミヤはお湯を沸かしに一度執務室を出ていった。

 そして少しした後、再び扉が開く。

 

「できたかエミ………なんだおんしか。どうしたのだ?」

 

「オーナー。少し問題が発生しました。"クイーン・ハロウィン"の者が境界門を通ってきたと情報が」

 

 入ってきたのは例の割烹着の店員だった。彼女は白夜叉の前に来ると、すぐに問題の情報を告げる。

 それを聞いた白夜叉は訝しげな目で店員を見る。

 

「………それは真か?ふむ…………もしかしたらあの野郎、私の挑戦権の噂を何処からか知ったか。不味い………どの辺りの序列の者が来たか知らんが、三桁の者が相手では下層は誰も勝てんではないか………どうしたもんかのぉ………」

 

 上層、それも三桁のコミュニティのメンバーともなれば、下層の者ではどんなに足掻いても勝てないのが常だ。

 

白夜叉が、このままではクイーンが一人勝ちして、些か盛り上がりに欠けるのでは?と考えている時だった。

 再び執務室の扉が開き、ティーセットのワゴンを押して戻ってきたエミヤが見えた。

 

「白夜叉、ティータイムの準備が出来たよ……む?君もいたのか。ちょうど良い、飲んでいくかい?」

 

「ええ、いただくわ」

 

 エミヤは店員を見てお茶を誘い、店員も気軽に頼んだ。サウザントアイズの客分+仕事の手伝いをしてくれるエミヤは、店員とこの2ヶ月程でとても仲が良くなっていた。今では砕けて話すぐらいには仲が宜しい。

 そんな二人を見ていた白夜叉はここでピンッと来た。

 

「エミヤ。話があるんだが良いか?」

 

「いいよ。紅茶を飲みながらで構わないかな?」

 

 そう言ってエミヤは、紅茶を淹れたティーカップとソーサを白夜叉の座る仕事机の前に音をたてず置く。

 白夜叉がそれを飲み、店員もそれを見てから受け取ったカップに口をつけた。

 

「やはりおんしの淹れた紅茶は旨いな。仕事が一段落ついた後の一杯は格別だ」

 

「ええ、本当に美味しいわ」

 

「フフッ、ありがと」

 

 エミヤも二人の感想を聞いて嬉しそうな表情を浮かべた。

 一度彼女達が飲み干した後、話を聞いた。

 

「それで白夜叉。話とは?」

 

「うむ、それなんだがな」

 

 ____________________

 

『ーギフト名 "Raimundus Lullus"ー

 

 参加資格E:力ある者

 

 敵対者:

 ・善なる者。

 ・偉大なる者。

 ・継続する者。

 ・知恵ある者。

 ・意思ある者。

 ・徳ある者。

 

 敗北条件:"契約書類"の紛失は資格の剥奪に相当。

 勝利条件:全ての"ルルスの円盤"を結合し、心理ならざる栄光を手にせよ。

 

 ゲーム補足:

 全ての参加者の準備が整い次第ゲーム開始。

 ゲームの終了は全ての参加者達が敗北した場合。

 

 宣誓 上記を尊重し誇りと御旗の下、"サウザントアイズ"はギフトゲームを開催します。

 

 "サウザントアイズ"印』

 

 しばらくして。そう書かれた黄金盤と、"善"と"意思"の資格がある黄金盤を手に、街を徘徊するこれまた黄金の騎士がいた。

 

 周りの街並みには、リトルゲームの準備を開催しようとする商業コミュニティや、ゲームに挑まんとする武道派のコミュニティの喧騒で賑わっていた。

 

 このゲームの期間中、黄金盤の資格を賭けてそれぞれが参加資格の意味に殉じたリトルゲームを開催する。

 それによって勝って集めた資格を七種類揃えれば勝者となるわけである。

 

 リトルゲームとは、ゲーム中に行われる簡易ゲームのことだ。

 

 黄金の騎士ーーーー無銘もまた先程、"金の騎士と銀の鍛冶"と言われる噂の実力を確かめようと、"力"で挑んできたコミュニティを二つほど潰していた。

 

(ハァ…………私にも剣を売り捌くという大事な仕事があったのにまったく……)

 

(ええー、良いじゃん別にぃー。あっちが勝手に売り捌いてくれるんだし、こっちの方がアルちゃん的にも面白そうだし)

 

(気楽に言ってくれるけど………メドゥーサはそのコミュニティの強さを知ってるんでしょ?)

 

(まあねー。来てる奴が女王本人じゃないからどんな奴か知らないけど、中々強いと思うよ?なんせアイツが選んだ選り優りの騎士、"女王騎士(クイーンズナイト)"だと思うからね)

 

(ふぅん…………君が言うほどの騎士達なのか)

 

(そうだよ。あとはケルトの英雄が多いね)

 

 アルゴルが気楽にエミヤに話すと、凄く嫌そうな顔をされた。

 

(うげぇぇ…………ケルトとか……もしかして"クランの猛犬"とかいたりする?)

 

(さぁー……。そこまではわからないけどアレはいるよ。スカサハ)

 

(…………あれだよね?クーフーリンが師事していたという影の国の王だよね?それはちょっと………)

 

(うーん………どうなんだろうね?やっぱり本人と会ったことあるの?まあ、ヤー君が知ってる奴じゃないと思うよ?あいつ執事やってるし)

 

(そっか………でも、ケルトかぁー………)

 

 若干…いや、かなりテンションが下がりながらも白夜叉が示した目的地へと足を進める無銘。

 その目的地が近くなってくると、爆音と共に家越しに人間が吹っ飛ばされている光景が見えた。

 

『あれか………憂鬱だ』

 

 そのまま開けた広場まで行くと、結構な数の人だかりができていて、その広場を囲っていた。

 その人垣を抜けて出ると、複数人の男が倒れているのとローブを頭まですっぽり羽織った怪しい出で立ちの女がいた。

 女は無銘が出てくるとそちらを向き、そのローブの中から覗く仮面が見えた。女は尋ねる。

 

「貴女が次の相手ですか?今のところ私は"力"と"知恵"と"偉大"を持っていますが、それ以外は持っていますか?」

 

『(なんだろ…あなたのニュアンスが……)……ああそうだよ。私も三つ持ってるけど、被ってないのは"善"と"意思"だね』

 

「そうですか。この時間帯で既に三つとは素晴らしいですね。ではどのようにしますか?貴女が選んでいいですよ?」

 

『………そうだね。では"力"で構わないかな?』

 

「わかりました」

 

 そう言って仮面の女は鞘から剣を抜く。その際、ローブの下から白の手甲と白の騎士甲冑、ドレススカートが見えた。

 それを確認した無銘もギフトカードから金の鍔があしらわれた剣を取り出した。

 

 そのまま無銘が一歩踏み出すと、十六夜ですら視認するのがやっとの速さの一閃が彼女を襲う。

 

『……………』

 

「やりますね」

 

 動体視力のみなら十六夜を超えるその目で、剣の軌跡を予想し、手に持つ剣で白騎士の一撃を受け止めた。

 

「なるほど。その仰々しい姿は見かけ倒しでは無いようですね」

 

 騎士は一度離れながら剣の柄を捻る。すると刀身が緩み鞭状に刃が分解される。その連接剣が後退しながら振るわれ、鞭の様にしなる剣が先程の速さで迫る。

 

 無銘はそれをいなし、追撃の返す刃を弾く。さらに弾いた一瞬の隙を抜って、女騎士に一撃を入れようと肉薄する。

 がしかし、騎士は忍ばせたギフトカードから二本の長槍に持ち替えると、無銘の剣と槍の刃が衝突した。

 衝突により起きた衝撃波が大気を震わせ、周りの野次馬からも悲鳴があがる。

 

 騎士は二本の槍で無銘を刺し穿とうと、嵐の様に槍を迸らせ、無銘はもう一本取り出した二本の剣でその猛攻をいなし、弾く。

 電光石火の速さで振るわれる槍の突進と、堅牢な守りで迸る剣が、かち合う度に衝撃波を起こし周りで観戦している人々を魅了した。

 が、その均衡から押され始めるのは無銘だった。

 

(くそッ………この1ヶ月で大分馴れたとはいえ……やはり持ち主を真似た剣技では限界があるか!)

 

 押されてきた無銘は堪らず後ろに跳んで距離をとる。

 しかし、一瞬で弓に持ち替えた騎士が、空中にいる無銘に剛弓から放たれた矢の雨を浴びせる。

 相手が弓を構えた事に気付いた無銘も、弓と矢を取り出す。そこから持ち前の連続投射で全ての飛んでくる矢を打ち落とし、残った矢が騎士に迫る。

 

「ッ!?」

 

 騎士がすぐに持ち替えた槍で叩き落とすと、無銘はその隙に周りにあった一軒の屋根に着地した。

 

 

 

 

 ローブを羽織った白い騎士ーーーーーーーーフェイスレスは仮面の下で驚きの表情をしていた。

 

(強い………まさか下層にこれ程の武芸を持つ者がいるとは驚きですね。しかも弓技で私が劣るとは………)

 

 今の攻防でわかる、無駄の無い動きと研鑽された技。久しく見ない武芸の達人。それも自分と同等の腕を持つ者に、フェイスレスは嬉しさを感じた。

 どんなに腕が立つ者でも、相手がいなければ鈍る。しかし、こんな下層でこの様な強者に会えたのは幸運だと感じたのだろう。

 

(女王の気まぐれには辟易してましたが………これは嬉しい誤算ですね。それに良い土産話にもなりそうです)

 

 そう考えると、フェイスレスは無銘がいる屋根まで跳んだ。

 そのまま無銘の前に着地すると、改めて彼女は口を開いた。

 

「強いですね。武芸の達人………それもこんな下層で会えるとは思いませんでした」

 

『君も大概だと思うけどね。しかも槍に連接剣に弓と…………一度の戦闘で近中遠の得物を隙無く使い分けられる者は中々いない。それに全てが一級品とはね………』

 

「それは貴女もでしょう?剣技では守り、弓技では私を超えてくる。戦法が似ているのはとても親近感が湧きますね」

 

 ですが、と付け加えて槍を構える。無銘もまた、武芸の勝負で馴れていない剣で争うのは不利と感じ、干将・莫耶を取り出して構える。

 

「今度は短剣ですか………やはり多芸です、ねッ!」

 

 そう言って突進してくるフェイスレスの槍を、無銘は干将・莫耶で捌く。再び嵐のような激突が始まり、その衝突で屋根がボロボロになっていく。

 無銘は堅実な守りで槍をいなし続けると、後退するように地面に向かって跳ぶ。フェイスレスは持ち替えた連接剣で空中の無銘を襲い、その剣閃は干将・莫耶に叩き落とされた。

 

 そのまま広い道に出ると、フェイスレスも跳んで無銘に迫り、二本の長槍を上から落とす。

 短剣を交差させてまともにその一撃を受け止めると、彼女の足下の地面が陥没した。

 無銘は槍を横に弾き、空中にいるフェイスレスを蹴りでふっ飛ばす。

 瞬間、両者は弓を取り出し矢を射る。次々と矢が発射されては衝突して辺りにばらまかれた。

 

 やはり弓では不利と感じたのだろう。着地したフェイスレスが連接剣を取り出し、鞭の様に剣を操り、矢を必要最低限の動きで叩き落としていく。が、弾幕が厚く狙いが必中なために中々進めない。

 

 一度弾幕が途切れると、フェイスレスは素早くエミヤに迫り、しなる剣を一閃。

 すぐに干将・莫耶に持ち替えた無銘は、剣閃を弾き飛ばしそのままフェイスレスに突進する。

 槍と剣の衝突音が辺りに響いた。

 

 ____________________

 

 "ノーネーム"本拠・貯水池前の憩いの小屋

 

 エミヤを除く主力メンバーは、リリの淹れたお茶と煎餅をお茶請けを手に集まっていた。

 ちなみに、先程黄金盤を奪いに来た他のコミュニティの者達を返り討ちにし、今回の"サウザントアイズ"主催のゲームの内容を詳しく聞いた後である。

 

「さて、そんじゃあ"勝った奴、黒ウサギが1日服従権"を賭けてゲームに参加しに行くか」

 

「行きませんお馬鹿様!!」

 

 飲み干した十六夜は立ち上がり、黄金盤を手に街へ繰り出そうとするが、スパァン!と黒ウサギのツッコミが彼の頭を捉えた。

 

「ええ、早く行きましょう。私もその権利欲しいし」

 

「そうだね。急ごう」

 

「私も早くエミヤを見つけたら勝ちを狙いにいかねば」

 

「ノリノリで行かないでくださいこのお馬鹿様方!!」

 

 今日も平和に黒ウサギのツッコミが響く。

 

 




ガチ戦闘回だけど………大丈夫ですか?ちゃんと書けてる?
ちなみに剣の存在は忘れてませんよ私


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28話 決着するそうですよ?

2月入ったら下旬まで投稿が疎かになります。
ちなみに黒ウサギは尻尾があるらしいです。


 外門・噴水広場前。

 

 白夜叉のゲームによって、この広場は近年稀に見る大盛り上がりを見せていた。

 別の外門から来たゲーム参加者によって人通りが増えた商店街も、店員が忙しなく走り回っていた。この最下層ではとても珍しい光景である。

 

 そんな中で、十六夜は"六本傷"の屋台でサンドイッチを買いながら、売店の猫娘ーーーーー"フォレス・ガロ"のゲームの時にエールを送ってきた人物ーーーーキャロロに声をかけた。

 

「よう。盛況じゃないか」

 

「そりゃあもう!これだけ大規模なリトルゲームは中々ありませんからね!大御所のコミュニティが幾つか来てますから、うちとしてはとても嬉しいですよ!!まあ、大御所と言っても主に商業コミュニティですけどね!」

 

「………へぇ?大御所と言うと?」

 

「六桁からはうちの"六本傷"、"一本角"、"ウィル・オ・ウィスプ"。五桁からは北の"鬼姫"連盟の傘下と"ケーリュケイオン"。この辺りが有名ですが………なんと言ってもメインは三桁の"クイーン・ハロウィン"ですかね!」

 

「……なに?三桁だと?」

 

「はい!なんでもゲーム開始あたりから、そのメンバーと白夜叉様が御贔屓している"金の騎士と銀の鍛冶"の一人と決闘しているそうですよ?」

 

「へぇ……無銘か?」

 

「そうです!相当激しく闘っている様で、どちらが勝つか賭博も行われてるらしいです!ただ、近寄れないらしく遠くから観戦しているそうですが」

 

 そう言ってキャロロは一際騒いでいる方向に目を向ける。十六夜もつられてそちらを見ようとすると、

 

「おい、早く見に行こうぜ!さっさとしないと終わっちまうよ」

 

「わかってる!あっちだよな?」

 

 そう言って十六夜の脇を通り過ぎていく男達が見えた。それを確認した十六夜はというと。

 

「そろそろ行くぜキャロロ。情報ありがとよ」

 

「またのご来店をー」

 

 男達が走っていった方角に跳んでいった。

 

(白夜叉が主催したゲームって言うからあんまり乗り気じゃなかったが………三桁とあの騎士。今ならどっちも相手できるってことだよな)

 

 そう言って遠巻きに眺めている観戦者達を飛び越えて、爆音が響く中心へと走っていった。

 

 ____________________

 

 無銘とフェイスレスは未だ激しい戦闘を繰り広げていた。

 剣と槍が振るわれる度に突風が起こり、蛇蝎の連接剣が道を舗装する石畳を陥没させ、矢が剣山の様に道いっぱいに刺さっている。

 

(非才の身でここまで私と互角に張り合うとは………どれ程の修練を修めたのか………)

 

 フェイスレスは闘いの最中、無銘に剣の才能が無い事に気付いていた。

 しかしそれと同時に、彼女は相手の剣技に感銘を受けていた。

 無銘の、何処までいっても二流を出ない才能。それに抗って修めただろう剣技。数々の戦闘で培われた守りに特化した技は、同じ武芸を極めた者として目を見張る物がある。

 

(才能の無い者が地獄の修練で修めた技術の極致………とても美しいですね)

 

 無銘もまた相手の力量に舌を巻いていた。

 

(接近戦では勝てないか………相手も此方を殺す気が無い以上、私の戦法も使えないし………救いは私の身体能力が向上した事だな)

 

 今のところ、接近戦ではフェイスレスが勝っているが、未だ無銘の堅牢な守りは突破出来ないでいた。

 次いで、遠距離戦では無銘が勝っているが、二人は周りの被害を考える分、決定打に欠けていた。

 そのまま膠着状態が続く中、残るは体力勝負になる訳だが、体力では俄然無銘が勝っていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

『ふぅ………大分息が上がってきたね。まあ、流石の君も、こんなに長引く戦闘はしてこなかったようだね』

 

 剣道の試合でも、普段は三分の時間制限がある。そのまま延長戦まで長引くと、お互いの動きは悪くなるし、酷い時は十分程で脱水症状になる者もいる。

 それに比べて二人は真剣を使い、かつ絶え間なく身体を動かしている。

 常人では到底保てない状況で息が上がらない方がおかしい。

 この場合、守りに特化した技術による影響で、普段長引く戦闘に馴れた無銘に軍配が上がったのだろう。

 

「ハァ………フゥゥ………その体力、化け物ですね。……それに貴女の技術も驚嘆に値します」

 

『いやいや……私は剣に関しては二流止まり。君のような達人に褒められるほど良い剣ではないよ』

 

「ですが、それ程の域に至るには相当の修練が必要だったのでしょう?同じ技術派として尊敬します」

 

『そう…………ありがとうと言っておくよ』

 

 フェイスレスは更に会話を挟む。

 

「宜しければ名前を教えていただけないでしょうか?さぞ有名なコミュニティに在籍しているのでは?」

 

『いや………今の私は客分の身だけど、在籍してるコミュニティは"ノーネーム"だよ。ちなみに今の名前は"無銘"で通っている』

 

「貴女が"名無し"……?それに"無銘"ですか……」

 

『そう。無い無いで洒落ているでしょ?まあ、今は"サウザントアイズ"の客分として働いているんだけどね』

 

 なるほど、とフェイスレスは独りごちる。

 ただ、思ってしまうのはその名前である。奇妙な縁を感じた彼女は、その名を深く頭に刻み、自分も名乗り上げた。

 

「では私も名乗りましょう。"クイーン・ハロウィン"直属の騎士、"女王騎士団(クイーンズナイツ)"第三席。クイーンより与えられた騎士号は"顔亡き者(フェイスレス)"です」

 

 そう言って仮面の騎士はローブを脱ぎ捨て、高らかに名乗り上げる。

 その姿は、穢れを知らぬ純白のドレスアーマーに、燃えるような赤い色の舞踏仮面。流れるような銀髪は太陽によって輝き、神聖さを漂わせている。

 黒いリボンのポニーテールを靡かせたフェイスレスが見せた騎士の姿に、無銘は兜の中で眩しそうに目を細めた。

 

『君は………』

 

「無い無い同士、仲良くしましょう。と言いたいところですが………まずはこの決闘に決着を着けましょうか」

 

 そう言ってフェイスレスは連接剣を構えた。それを見た無銘も干将・莫耶を構え、前に出ようとする。

 

その時だった。

 

 

 

 

「その決闘、俺も混ぜろやゴラァァァ!!!」

 

 その叫び声と共に二人の間を第三宇宙速度の速さで物体が通過した。

 

「ッ!?」

 

『ッ!………チッ、十六夜か』

 

 二人は後ろに下がり、物体が飛んで来た方向に目を向ける。そこにいたのは仁王立ちした十六夜であった。

 

「おうおう。楽しそうなことやってんじゃねーか、お二人さん。その決闘、俺も混ぜてくれよ」

 

 そう言って十六夜は唯我独尊の態度で二人に発言した。

 二人とも気分が乗っていた時に横槍を入れられて、頭にきたのだろうか。ギロリと十六夜を睨み付ける。

 

「何処のどなたか知りませんが邪魔です。帰ってください」

 

『そう言うことだ"名無し"の十六夜君。さっさと帰って黒ウサギに説教されてこい』

 

「おおう、中々辛辣だな………だが断る!」

 

 その光景を見ていた観戦者達もまた、引っ込めと野次が飛んだり、ダークホースとして賭博が盛り上がったりしていた。

 それらを他所に、十六夜は挑発する。

 

「さっさと構えてくれよお二人さん。それとも疲れたから二人がかりで来るか?俺はそれでも構わないぜ」

 

「……………ハァ……無銘さん。先にこの邪魔者を排除してから仕切り直しとしましょう」

 

『それで構わないよ。では十六夜君、覚悟しろ』

 

 そう言ってエミヤはギフトカードから最近使う剣を取り出して十六夜に突貫する。

 一閃された剣を迎撃しようと拳を振るったが、その拳が浅くだが切られる。

 

「ッ、中々の切れ味じゃねーか騎士様!」

 

『君のメンバーのおかげだよ』

 

 そう言って、返す刃を十六夜に放つ。彼は剣の腹を弾くが、すぐ戻された刃で右腕を切り裂かれた。

 接近戦では分が悪いと感じた十六夜が、後ろに跳躍して距離を取る。すると、今度はフェイスレスが放った矢の雨に襲われる。

 

「ちっ!」

 

 十六夜は次々と降り注ぐ矢群を弾き、躱していく。

 そのまま近場にあった屋台まで移動した。骨組みである鉄骨を二本折り、二人にブン投げる。

 第三宇宙速度で飛ぶ鉄骨が二人に迫るが、フェイスレスは槍を巧みに操り、鉄骨の軌道を柔らかな仕草で上空に逸らす。無銘もまた同様に剣の切っ先で逸らした。

 

 フェイスレスはすぐに連接剣に持ち替え彼に接近すると、蛇蝎の剣閃が十六夜に迸る。

 十六夜は屈んで避けるが、返す刃が彼の太腿を削り取った。更に剣が振るわれ、十六夜を刺し穿とうと蛇のような軌跡を描いた剣先を、なんとか彼は蹴りで弾き飛ばす。

 すると、視界の端で迫ってくる無銘を視認する。

 

「ハ――――しゃらくせぇ!!」

 

 視認した瞬間、十六夜は地面を殴り周囲一帯の地盤を吹き飛ばした。

 響く轟音と、弾ける道の石畳に、巻き込まれて倒壊する周囲の民家。

 

「なッ……!?」

 

『ぐッ……!』

 

 二人は足場ごと吹き飛ばされ、為すすべもなく宙を舞う。

 十六夜はこの状態を好奇と捉え、倒壊する民家の瓦礫を空中で掴みとり、二人に投げた。

 圧倒的スピードの瓦礫が二人に迫るが、既に宙で身を翻して体制を整えていた二人は、己の得物でそれらを逸らしていく。

 

 十六夜は反撃する隙を与えない為に、新に瓦礫を掴んでは投げ、掴んでは投げの行動に移った。

 瓦礫の群れはそのスピードに耐えられず、散弾のように散って彼女達に迫る。

 

 ____________________

 

 "サウザントアイズ"支店、白夜叉の私室

 

 白夜叉は自分の部屋で、無銘とフェイスレスの決闘を観戦していた。

 彼女が持つギフトカードの中には、友達から貰った"ラプラスの瞳"と呼ばれる情報収集に特化したギフトがある。それで監視精霊を飛ばして二人の戦闘を観戦していたのだ。

 余談だが、普段はもっぱら覗き用として使われているらしい。

 

 お茶を飲みながらテレビの様な物で観ていると、エミヤを探しに来たのだろう。レティシアが店員に連れられて白夜叉の部屋に入ってきた。

 

「白夜叉、エミヤはいるか?」

 

「ん?レティシアか。あやつは今いないぞ。ほれ、ちょうどここでゲームをやっておるよ」

 

 そう言ってレティシアに隣に座るよう促しながら、テレビの方を目を向ける。

 レティシアもテレビを眺めながら座り、白夜叉に疑問を挟んだ。

 

「剣を売る予定では無かったのか?というか、アイツとまともに勝負しているこのローブの者は誰だ?」

 

「今エミヤと闘ってる奴が問題でな、エミヤに仕事を依頼したのだ。ちなみにこやつは"クイーン・ハロウィン"のメンバーだ」

 

 クイーンの名前を聞いたレティシアは驚愕の表情を白夜叉に見せた。

 

「はぁ!?なぜここに三桁、しかも女王の配下がいるんだ!?」

 

「私への挑戦権を聞いて来たのだろうよ。まあ想定外ではあったが、二人のお陰で大分盛り上がっているからな。よかったよかった」

 

「どちらもやるな…………私も本来の力があれば対戦したいのに……」

 

「まあそう言うな。今は二人の激闘を見よう。上層でも達人同士の決闘なんぞ中々見れないからな」

 

 そう言って茶を啜りながら白夜叉は眺めていると、女がローブを脱いでその全容を明らかにした。

 

「………第三席か。かなり上の者が来たのだな」

 

 そう言って白夜叉は一度思考する。

 

(第三席か………。それほどの者とエミヤの武芸が互角となると……あやつの事だから何かちょっかいかけてきそうだな。まあ、そういう時の為の"客分・無銘"だから大丈夫だと思うが……もしもの時は……)

 

 白夜叉が思考に没頭していると、

 

「ーーーーい、おい!白夜叉!」

 

「んあ?なんだレティシア?そんな大きな声を出して」

 

「観てなかったのか?十六夜が乱入してきて民家を巻き込みながら暴れてるぞ!」

 

「なんですと!?」

 

 慌ててテレビを観れば、瓦礫と化した周囲の家々と、移動しながら瓦礫を掴み・投げて、更に被害を与える十六夜の姿が映った。

 

 ____________________

 

「オラオラぁ!ぶっ飛べや!」

 

 無銘とフェイスレスは十六夜との距離を詰められないでいた。

 というのも、第三宇宙速度というふざけた速度で飛んでくる瓦礫の散弾と、余りの速度に叩き落とせず一つ一つ逸らさなければならない現状に因るものだ。

 更に十六夜も移動しながら瓦礫を作っているので、距離の差を縮められない。

 

『フェイスレス!このままじゃジリ貧だよ!流石に集中力が持たない!』

 

「わかってます!せめて散らなければ……」

 

 無銘は長剣を二本持ち、フェイスレスは連接剣を伸ばし散弾を逸らしていく。

 その一つ一つが絶技である動作を、神経を磨り減らし行い続けるのは流石の二人も辛いらしい。

 

『一度私の分も担ってくれないか。彼を沈める』

 

「わかりました!頼みます!」

 

 現状を打開しようと無銘が出した提案に乗るフェイスレス。そう会話をすると、一瞬の隙を見つけて無銘はフェイスレスの後ろに下がる。

 彼女が散弾を相手にしている間、無銘はギフトカードから岩のような巨大な斧剣を取り出して横に移動する。ひとつ小さな声で呟くと、そのまま剣を十六夜の足下目掛けてぶん投げた。

 

「うぉっ!」

 

 十六夜が慌てて超スピードで飛んで来る巨大な剣を横に避けると、すぐさま距離を詰めた無銘が、地面に埋まった斧剣を掴み十六夜に迫る。

 

全工程投影完了(セット)

 

 瞬間、十六夜の背中に悪寒が走った。

 臨戦態勢を取る十六夜に、無銘は必殺の剣技を宣言する。

 

『"是・射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)"』

 

「ッッッッ!!?」

 

 神速で放たれた九連撃が十六夜を襲う。

 彼は超人的反射神経で一撃・二撃目を、拳が破壊されながら防ぎ、更に続く連撃を六度目まで足を犠牲に防いだ。

 しかし、残り三連撃をモロに受けた十六夜は、彼が補充していた瓦礫の山へと突っ込んでいった。

 轟音が辺りに響き、土煙が無銘の前方を覆った。

 近づいてきたフェイスレスはその方向を一瞥すると、無銘に話しかけた。

 

「……………少しやりすぎでは?」

 

『………まあ、彼の身体能力なら大丈夫だと思う。六撃まで防がれたし……』

 

 無銘は辺りを見回して、一度視線が"サウザントアイズ"の門に止まり、次いでフェイスレスの方に顔を向けた。

 

『大分移動したね。すぐ近くに"サウザントアイズ"まであるじゃないか』

 

「そう言えば貴女は"サウザントアイズ"の客と言ってましたね。………私の討伐でもご依頼でもされたのですか?」

 

『討伐というか、足止めかな。下層で君に暴れられたらゲームも盛り上がらないしね……………気を悪くさせたかな?』

 

「なるほど………ですが、貴女程の強者と知り合えて私は満足していますから、それほど悪い気持ちではありませんよ」

 

 無銘はフェイスレスの言葉を聞き、少し安心したような表情を浮かべた。

 お互いに武を競い合い、一時とはいえ共闘した仲になったため、無銘個人としても良好な関係を構築したいと思っていた。

 そんな中で相手に悪い印象を与えたく無かったのだが、そんな事も無く安心したのだった。

 ここらで仲を進展させようと無銘が口を開きかけた時。

 辺り一帯に地響きが鳴った。

 

『……なんだ?』

 

「………まさか」

 

 地響きが鳴る方向。未だ周りが煙で覆われて視界が悪い場所から鳴っていると二人は気づく。

 目を凝らせば、十六夜が吹っ飛んだ瓦礫の近くにある、無事であった三階建ての建造物が音の発生原だとわかった。その建物はなぜか傾いていたが。

 

『ヤバい!』

 

「嘘!?」

 

 すると、音を響かせた犯人である十六夜がその建造物を二人に向かって第三宇宙速度で投げつけた。

 フェイスレスは連接剣の柄を操り、最大まで剣の領域を広げた。

 建造物は勢いだけで壊れ、大量の巨大な散弾となって二人に襲い掛かる。

 

(防ぎきれるか……!?)

 

 今までの散弾と規模が違う大きさの物体が、広範囲に渡り大量に押し寄せるのは悪夢でしかなかった。

 その物量では、先程のように柔らかくいなす事はできず、ありったけの力で破壊して避けるしかない。

 

 そう考えたフェイスレスだったが、無銘はすぐに取り出した"アイアスの盾"を自分とフェイスレスの前に構えた。

 次の瞬間。今日最大の爆音が辺りに響き続ける。

 自分達を覆う盾の強度を見て、安心したフェイスレスは無銘にお礼を述べた。

 

「………すみません」

 

『いや、適材てッ!?』

 

「オラぁ!!!」

 

 無銘が言い返そうとした瞬間、血濡れで破けた学ラン姿の十六夜が一気に間合いを詰めて、その盾を殴り飛ばした。

 踏ん張りが効かず盾に巻き込まれた二人と、未だ飛んでくる瓦礫に巻き込まれた十六夜が、"サウザントアイズ"の門を破壊しながら敷地に侵入するのだった。

 

 




段落ごとに1文字空けてくれる便利な機能をここで初めて知りました


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29話 知らない間に黒ウサギ達はタダ働きになったそうですよ?

今回は短め。
例の店員の名前を勝手に決めて良いのかしら?


「ってアホかおんしはぁぁああああ!!!!」

 

 ズパァァァァン!!と白夜叉の扇形ハリセンが十六夜の頭に炸裂する。

 叩かれた十六夜は"サウザントアイズ"の門前の敷地でレティシアに正座させられていた。

 

 顔から血を流しているグロテスクな十六夜は、なんとも不満そうな顔を白夜叉に向けていた。

 何故なら、叱られるべきはずの二つの影がその場に無いからだ。

 

「…………なんで俺だけ叱られるんだ。俺が来る前からあんだけ暴れてたのに……………こういうのは連帯責任じゃねえのか?ふつう」

 

「馬鹿か!!建物関係壊したのは殆どお前だ!」

 

「レティシアの言うとおりだ大戯け!多少ゲームが白熱して被害が出るのは致し方無いにしてもだ!ここまで壊す奴があるか馬鹿がッ!!」

 

 ぐぅ、と二人に責められて黙るしかない十六夜。

 確かに彼女達は路上の石畳や屋根を壊すか、矢を撒き散らしただけであった。大きい被害は逸らした瓦礫が民家に突っ込んだ位だろう。

 それらを省みて、今回はやり過ぎたと思うが未だ納得のいかない十六夜。

 

「たしかにそうだが…………あの二人と暴れて、これだけの被害と怪我人無しで済んだんだから儲けもんじゃね?」

 

「それはあやつらが被害がでないように行動していたからだアホ!」

 

「なに?」

 

 十六夜は先程の戦闘を思い出す。自分は瓦礫を集めたりで気付かなかったが、確かに彼女達は瓦礫の散弾をわざわざ上に軌道を変えたり、無人ぽい民家に逸らしたりしていた。

 

「バカな…………全然接近してこないとは思っていたが、あの状況で周りを気にする余裕があったとは……」

 

「あれだけ観戦に来た者がいて、巻き込まれない方がおかしいだろ。あの嵐の中を避けて進む事だってあの二人ならできたはずだ」

 

「そう言うことだ。そういう戦法を自然と取るとは……素晴らしい騎士道精神であったな。…………おんしも良い勉強になっただろう?」

 

 二人にそう言われた十六夜はバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「ハァ………まあ、いいか。次があればもっと上手く闘ってやる」

 

「そうだな。その時にまたやればいいさ。そんなことより今は…………」

 

 白夜叉が一枚の羊皮紙を袖から取り出し、それを十六夜に渡した。それを訝しげに手に取ると、彼の唇の端がヒクついた。

 

「…………おい、白夜叉様。なんなんですか、この凄い請求額は」

 

「今回の弁償金額だ。公道破壊、民家破壊、公共建造物破壊、それと我ら"サウザントアイズ"の門の破壊。耳を揃えて払ってもらおうかの」

 

「これは払える範囲で私達も払うが…………十六夜はこれから超メイドだ。盛大にこき使ってやる」

 

「…………マジか。せめて執事だろそこは……」

 

 十六夜は両手を広げて天を仰ぎ、厄日だと呟いた。

 

 ____________________

 

 メイン路地から外れた狭い路地裏で、無銘とフェイスレスは忍んでいた。

 

『…………冷静に考えれば、私は逃げる必要が無かった気がする……』

 

「良いじゃないですかどうでも」

 

『投げやりだね』

 

「私の任務が失敗で終わりましたからね。まあ、いい土産話ができたので良いですが」

 

『………君はこの後どうするの?』

 

「時間も差し迫ってるので、付き添いの者と帰ります。それと、帰る前に貴女にこれを」

 

 フェイスレスはギフトカードから何か文字が書かれたカードを取り出して、無銘に渡した。それを受け取った彼女は訝しげに聞く。

 

『………ルーン文字?このカードがどうかしたの?』

 

「これは通信用のルーン魔術が施されたカードです。私としか通信できませんが、これを貴女に差し上げます」

 

『魔術………いいの?こんな最下層の相手と関係を築くなんて……』

 

「これも何かの縁です。それに貴女とは友達としても好敵手としても好ましいと思ってますから」

 

『…………ありがとね』

 

「……用事も済みましたし、私は行きます。また機会があれば会いましょう」

 

 そう言ってフェイスレスは路地を抜けて人だかりに消えていった。

 それを見送った無銘は辺りの気配を探り、誰もいないことを確認してからいつものエミヤスタイルに戻った。

 そのまま彼女は"サウザントアイズ"に戻るためにに路地裏を出たのだった。

 

 ____________________

 

 "サウザントアイズ"門前

 

 エミヤが帰ってくると、壊れた門は綺麗に撤去されていた。店内に続く敷地内がよく見えて、何処か頼り無い感じかする。

 そんな野ざらしになった敷地で、点検を行っていた例の店員がエミヤに気付いた。

 

「ああ、エミヤさん。帰ってきたのね」

 

「ただいま…………あの後どうなった?」

 

 恐る恐るといった風に店員に話しかける。

 店員はため息を一つ吐き、意識を切り替え返答した。

 

「ハァ………賠償請求は"ノーネーム"宛に送りました。それを受け取ったレティシアさんと、件の問題児は治療を行った後、帰りましたよ。彼の方はまだ足を引きずってましたが」

 

「あの技を受けてよく平気だったな十六夜は。殺さない様に急所は外したけど、最低でも一日は起きないと思ったのに……………化物だな……」

 

「まあ、彼の事はいいです。それと、此方で売られた商品の利益は今度渡します。次いでご依頼の報酬ですが……」

 

「わかってるよ、白夜叉には後で内通するから。………じゃあ、私は戻るね。十六夜が心配だ。」

 

 そう言ってエミヤは"ノーネーム"本拠へと足を向けたのだった。

 

 ____________________

 

 祭も終わり、街が夕焼けに染まった頃。

 朱色の街道の真ん中で黒ウサギは盛大に泣き叫んだ。

 

「い、十六夜さんのお馬鹿様お馬鹿様超特大お馬鹿様ああああああああ!!!!」

 

 スパパパパパパァーン!と、軽快な音を立てて十六夜の頭にハリセンが迸った。

 

「せ、せっかく………せっかく、皆さんで稼いだ復興資金と黄金盤が……………!弁償代で全て没収されてしまったのですよぉ…………!」

 

 というのも、黒ウサギと飛鳥と耀は他の商業コミュニティと契約し、出店代理店として一日中"超メイド"姿で働いていたのだ。

 

 今回、白夜叉主催のゲームの内容はというと、黄金盤を集めつつ売り上げを最も出した商業コミュニティが勝者に選ばれる、というものだった。

 

 三人はそれを逆手にとり、色んなコミュニティの店から商品を代理として売ると契約して、全てを売り捌いたのだった。報酬は利益の二割と黄金盤を貰うこと。

 

 彼女達はその可憐な容姿を生かして、スカートの丈が短く露出の多い超メイドとなり、客を集めてそれらをやりきった。

 

 特に、飛鳥は花も恥じらう財閥の元令嬢にして昭和女子代表。

 普段はロングスカートを着てガードが固い。そんな彼女が衆人環視の中、太腿を晒して羞恥に顔を染めながらその偉業をやりきったのだ。

 

 三人は十六夜に極寒の目線を向ける。

 その視線を受けた十六夜が針の筵の状態でいると、ここで救世主(メシア)が現れた。

 

「まあまあ三人とも。それぐらいにしてあげなよ」

 

「いいえ、だめよ。こういうのはちゃんと責任を取らせないと。……それに大変だったのよ!あんなは恥ずかしい格好させられるし…………というか、エミヤさんは今まで何処行ってたのよ!!」

 

「そうだよ。エミヤはいないしレティシアは探しに行っちゃうし。…………せっかく今日のご飯は豪勢にしようと思ったのに…………」

 

「うぐっ!」

 

 二人の言を聞き地味に心のダメージを受ける十六夜。

 

「い、いや……私も剣を売っててね………それはそうと今まで私が剣を売って稼いだお金が余ってるから、それを復興資金に使えば良いしご飯も食べれば良い」

 

「…………ですがそれはエミヤさん個人のお金では…………」

 

「大丈夫だよ黒ウサギ。また貯めればいいし、今回は知り合いのせいでもあるからね。謝礼金として受け取って欲しい」

 

 そうエミヤが言い、納得いかないながらも黙る黒ウサギ。残る二人は納得いかない顔していたが、レティシアもエミヤの加勢に入る。

 

「エミヤの言うとおりだ。私も途中から抜けたので強く言えないが、所詮はあぶく銭。容易い儲けは容易く消えるし、それを復興に割り当ててもありがたみが無いだろう?」

 

 そう言われて二人も矛を納める。

 

「………わかったわ。でも、これは貸しよ?十六夜君から私達全員に、ね」

 

 黙って成り行きを見守っていた十六夜も顔をあげる。

 

「ああ。何時か埋め合わせは必ずする」

 

「…………なら良し。じゃあ早くご飯食べに行こ。働いてお腹すいた」

 

「そうね。おすすめはあるかしら黒ウサギ?」

 

「そうですねー…………」

 

 そう会話をしながら、彼女達は日が沈む方向に足を進めたのだった。

 




次回アンダーウッド編
前半の物語がすごく面倒です。


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十三番目の太陽を撃て
30話 新しい仲間が増えたそうですよ?


30話で三巻開始………良いですね。
でも、章の最初ほどめんどくさい話はないと嘆いております。
一、二章でも思いましたが話の土台を書くのがこれほどダルいとは………!!
最初はなんでもめんどくさい


 ーーーー"黒死斑の魔王"との戦いから一ヶ月ほど経った頃。

 

 十六夜達は今後の活動方針を話し合うため、本拠の大広間に集まっていた。

 大広間の中心に置かれた長机には、上座からジン=ラッセル、右側に十六夜、飛鳥、耀の順で座り、左側にはエミヤ、レティシア、黒ウサギ。その横に子供達の年長組筆頭に撰ばれた狐娘のリリが座っている。

 本来なら"ノーネーム"では会議の際、コミュニティの席次順に上座から横一列に並ぶのが礼式であるが、前々から机の位置を変えていた。

 

 また、リーダーから左右に近い席に十六夜とエミヤが座っているのは理由がある。

 二人は水源の確保(エミヤは場の仲裁)に加え、十六夜は神格保持者を一人で倒した功績と、作戦を考える参謀の役割を担った。エミヤは同士の奪還に、"サウザントアイズ"とコミュニティ間の関係を強め、あの事件以降"ノーネーム"の安定した財政収入を担っていた。

このため今の序列が出来上がった。

 

 その席順に飛鳥はやや不満そうに、エミヤは居心地悪そうに座っていた。

 そしてリーダーであり旗頭であるジンだが、ガチガチに緊張していた。

 

「どうした?俺より良い位置に座ってるのに、気分悪そうじゃねーか」

「だ、だって旗本の席ですよ? 緊張して当たり前じゃないですか!僕はまだ戦果を挙げてないんですよ?」

 

 ローブの袖を握り反論するジン。

 それを聞いたエミヤも言葉を告げた。

 

「それを言えば私もこの席が嫌なんだが………替わってくれないかレティシア?」

「何を言う。お前はこのメンバーの中でも一、二を争う功績を残してるじゃないか。その席は私なんかには恐れ多くて座れんよ」

「君、古参の一人じゃないか………」

 

 そんな二人を他所に、十六夜はジンの発言を聞いてゲンナリする。

 

「あのなぁ御チビ。お前はこのコミュニティの旗頭であり名刺代わりだ。俺達の戦果は全て"ジン=ラッセル"の名前に集約されて広がっている。そのお前が上座にいないでどーすんだよ。………一人勝手に噂になってる姫様がいるが」

 

 そう言って十六夜は前に座るエミヤにジト目を送った。エミヤはそれに気付きすぐに目を逸らすと、発言しようとする黒ウサギが見えた。

 

「十六夜さんの言う通りです!事実、この一ヶ月で"ノーネーム"に届いたギフトゲームの招待状は、半分はジン坊っちゃんの名前で届いております!」

 残り半分はなんだと言いたいが、格好が付かないため無視して進める。余談だが、"サウザントアイズ"宛に送らないコミュニティが悪いのだ。

 

 ジャジャンと黒ウサギが見せたのは五枚の招待状。驚くべきことに、三枚は参加者扱いではなく貴賓客として送られてきた。旗印を持たない"ノーネーム"にとって破格の待遇だ。

 黒ウサギは大事そうに招待状を抱き締めた。

「苦節三年………とうとう我らにも招待状が………!それもジン坊っちゃんの名前で、です!だからジン坊っちゃんは堂々と胸を張って上座にお座りください!」

 

 しかしジンは先程よりさらに思い詰めたように俯く。

 それを見た飛鳥は急かすように会話に横槍を入れた。

 

「それで? 今日集まったのはどんな話し合いなのかしら?」

「あ………す、すいません。そうでしたね。ゴホン……今日はその招待状について説明する為に集まっていただきました。黒ウサギ?」

「わかりました」

 

 黒ウサギがジンに呼ばれて立ち上がり、話を始めた。

 

「皆さんも知っての通り、一ヶ月ほど前に戦った魔王が推定五桁だったため、かなりの報酬が出ました。それに伴い、農園もメルンとディーンのお陰で1/4ほど復興が進み、農園に設ける備蓄も揃いました。そこで今度は一般の物と違う特殊栽培の特区を設けようかと思うのです」

「特区?」

「YES! 主に霊草・霊樹を栽培する土地ですね。例えばーーーー」

BLACK★RABBIT EATER(ブラック★ラビット イーター)だね」

「YEs…ってなんですかエミヤさんそれ!?ピンポイントで黒ウサギを狙った嫌がらせですか!!」

「それいいなお姫様。採用だ!」

「画期的ね」

「うん。とても実用的」

「良い発音だったな」

「な訳ありますかこのお馬鹿様方!!」

 

 うがーッ!!とウサ耳を立てて怒る黒ウサギ。その光景を見てエミヤは小さく、「え?あるのに………」と呟いた。因みに彼女は"サウザントアイズ"でその苗を見た。

 レティシアにのみそれが聞こえたが、話が進まないと思い、十六夜達に率直に告げた。

 

「つまり、私達は特区にふさわしい苗や牧畜を手に入れればいいのだ。」

「牧畜って、山羊や牛のような?」

「そうだ。都合のいいことに、南側の"龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)"連盟から収穫祭の招待状が届いている。連盟主催とあって収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多い」

「珍しいものや面白いゲームがいっぱいあると白夜叉も言ってたよ」

 

 なるほど、と頷く問題児達。

 それらの会話を一通り観察していたジンは発言した。

 

「方針については一通り説明は終わりました。……ですが、一つ問題があります」

「問題?」

「はい。この収穫祭ですが、二十日間ほど開催される予定で、前夜祭を含めれば二十五日。約一ヶ月行われることとなります。この規模のゲームはそう無いですし、出来れば最後まで参加したいのですが、コミュニティの主力が長期間不在なのはよくありません」

 

 そう言って一度メンバーを見回してまた話始めた。

 

「黒ウサギは"箱庭の貴族"として、レティシア様は"箱庭の騎士"として、エミヤさんは"銀の鍛冶"として呼ばれているので本拠に残れません。なので三人から御二人、せめて御一人は残って欲しい――――」

 

「「「嫌だ」」」

 

 即答だった。

 その光景に若干気圧されるジンだったが、これだけは譲れなかった。

 コミュニティが力を付け始めた今だからこそ、"フォレス・ガロ"のような子供達を拐う犯罪組織や、天災の魔王からコミュニティを守る戦力を残さないといけなかった。

 それを理解していたレティシアはジンに続きを話すよう促す。

 

「そのための妥協案があるのだろう?」

「は、はい。………でしたら日数を絞らせてください」

「というと?」

「前夜祭を二人、オープニングセレモニーからの一週間を三人、残りの日数を二人が参加する、というのはどうでしょうか?」

「………それだと一人だけ全部参加できるってこと?どうやって決めるの?」

 

 耀がそう聞き、口ごもるジン。本来なら席次順で決めるのだが、それを三人に言うのも躊躇われる。

 ジンが考えあぐねていると、十六夜が提案した。

 

「ゲームで決めようぜ。前夜祭までの期間で最も戦果を挙げたものが優先的に日数を決められる」

 

 それはとてもわかりやすく、何より不満もあがらない。行きたければ権利を勝ち取れ、という彼の挑発に飛鳥と耀は承諾した。

 

 ____________________

 

 結果だけ言えば、十六夜の圧勝であった。

 

 彼は白夜叉に頼んで、問題児達が箱庭にやってきて早々に十六夜が倒そうとした蛇神ーーーー白雪の隷属を正式なゲームで勝ち取り仲間にした。

 それに加えて、外門の利権証である"地域支配者"の権利を白夜叉から授かった。

 

 外門利権証とは、“地域支配者”が“階層支配者”の提示するギフトゲームをクリアすることで与えられ、箱庭の外門に存在する様々な権益を取得できる特殊な“契約書類”。外門同士を繋ぐ“境界門”の起動や広報目的のコーディネートなどを一任できる権利である。

 

 他の二人もかなり必死で戦果を挙げようとした。

 飛鳥は牧畜として高価な山羊を十頭手に入れた。耀は以前北で一度対決した《ウィル・オ・ウィスプ》からの招待を受け、ゲームに見事勝利。炎を蓄積できるキャンドルホルダーを獲得した。

 

 しかしそれを差し引いても十六夜の戦果が一番大きいだろう。これによって勝者は十六夜となった。

 

 ____________________

 

 その夜、外利権を得た黒ウサギがテンションを上げて小さな宴を設けたのである。加えて今回の料理は全て黒ウサギが用意した。

 余談であるが、黒ウサギの手伝いを行おうとしたエミヤは、満面の悪意なき笑みで自分が全てやりたいと黒ウサギに言われてしまい、レティシアの胸の中で泣いた。

 

 

 宴を終えた夜、三毛猫は眠った耀に抱きしめられていた。

 

 ――――三毛猫。私はあんまり凄くないね。

 

 耀は寂しそうな声でそう言っていた。

 彼女はここ最近特に悩んでいた。自身がここ一番で活躍出来ないことに。十六夜とエミヤが水を用意し、飛鳥が土を蘇らせた農地に、彼女だけが関われていないことを。己の弱さを、思い悩んでいた。

 

 だから、今回の勝負で誰よりも勝ちたかった。

 そう彼女は言った。

 

 一日でも長く南の収穫祭に参加して、多くの幻獣と友達になり力をつけると同時に、農地のための種や苗を獲得して、自分は《ノーネーム》の一員であると皆に認めて欲しかったのか。

 それもまた違う、と彼女は言った。

 

 彼女はただ安心したかった。今回の勝負で一番になることで、自分は足手まといではなく立派な主力の一人だと自分自身に認めさせたかった。

 

 それでも、結果は負けてしまった。

 当初の目的である収穫祭の参加日数は最大を獲得出来た。でも、()()()()()()()()()()()()でさえ一番にはなれなかった。

 それが悔しい、と彼女は言った。

 

 そう言葉を漏らす耀を見て、三毛猫はあの時の姿に似ていると思ってしまった。

 今の、動物達に劣らない能力を得て強くなり、同時に優しさを持った彼女ではない。

 昔の彼女。歩くことさえ出来なかった初めて出会った頃の彼女。今の耀はまるでその頃の姿に似ていると。

 

 だからこそ三毛猫は思ってしまった。奴が許せないと。

 

 __________

 

 翌朝。出発の時刻。

 何故かヘアバンドを頭に乗せた十六夜が蛇神・白雪と共に彼女達を見送る側にいた。

 というのも昨日の夜、彼が入浴中にヘッドフォンが無くなってしまったらしい。それを探すために彼は残ると言ったのである。

 

「十六夜………本当にいいの?」

「まっ、仕方ねーよ。ヘッドホンが無いと俺も落ち着かねーしな。その代わり、俺の分まで前夜祭楽しんでこいよ?」

「わかった。十六夜の代わりに頑張ってくる。行ってきます」

 

 耀は十六夜に微笑み、六人は本拠を後にした。

 

 




白雪さんが出てこない……だと!?


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南側初上陸ですよ?

今回は長め

"ノーネーム"の席順ですが、作者は会議室と言うものに入ったこと無いので、矛盾を感じた人は脳内補正して自分で席の順番を決めてください。



 七七五九一七五外門"アンダーウッドの大瀑布"フィル・ボルグの丘陵

 

 六人は丘陵の境界門を抜けた所から眼下を見下ろしていた。

 頂上の見えない巨大な水樹が大量の水を吹き出して、網目模様に大樹の根に沿って流れた水が、地下都市へと落下していた。都市を通る水路は加工された翠色の水晶でできている。

 水を生む大樹と、河川の隣を掘り下げて作られた地下都市。

 これら二つを総じて"アンダーウッド"と呼ぶ。

 

「わぁ…………」

「凄い……………」

「……大きい樹だね」

「そうだろ?この光景がアンダーウッドと呼ばれる由縁だ」

 

 初めて見た大樹に圧倒される四人。レティシアは感慨深く眼下の街を見て、ジンは久しぶりのアンダーウッドに少し興奮していた。

 そうやって彼女達がその場に立ち止まっていると、旋風と共に耀にとって懐かしい声が上からかかった。

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 

 旋風を巻き起こした巨体な存在、"サウザントアイズ"で初めてゲームを行った時の相手である、巨大な鷲の翼に獅子の体を持つ幻獣・グリフォンが耀達の前に現れた。

 

「久しぶり。ここが故郷だったんだ」

『そうだ。収穫祭では"サウザントアイズ"も参加するのでな。戦車を引いて私もやって来たのだ』

 

 二人は仲良さげに話しているが、黒ウサギと、限られた種の翻訳ギフトを持つレティシア以外には、グリフォンが何を言っているのかわからなかった。

 耀と話が一通り済んだらしいグリフォンーーーー名前が"グリー"らしいーーーーは耀のお願いにより彼女達を乗せて地下都市まで送ってくれるらしい。

 とは言え、流石に六人を乗せるのは厳しいらしく、一人で跳べる耀と自前の翼で翔べるレティシアは自分でついていく事に。

 黒ウサギはグリーの頭に乗り、手綱を命綱にした飛鳥とジンは背中に乗った。

 因みにエミヤは、乗っていけと大人verレティシアに言われて、彼女にお姫様抱っこされている。

 

「れ、レティシア…………流石にこれは………せめておんぶに…………」

「そう恥ずかしがるなエミヤ。いつも十六夜にお姫様お姫様と言われてるんだから馴れてるだろ?」

「それとこれとは話が違う!!」

 

 空中では抵抗できないため、エミヤは大人しくレティシアにさせるがままだった。普段ならその光景を見てニヤニヤする問題児二人だが、今はその余裕が無かった。

 グリーの速さについていくのがやっとの耀に、ジンの様に早々落下して宙吊り状態になるのが嫌な飛鳥はそれどころではなかったのだ。

 

「グリーさーーん。気持ちいいですよーー!」

 

 はしゃいでいるのはこれより速く移動できる黒ウサギのみだった。当然、ただの猫である三毛猫も例外ではなく、風圧でもがき苦しんでいた。

 そのまま、一同を街の宿舎の前に送り届けたグリーは、再び空へ舞い上がり行ってしまった。参加者に害を為す可能性がある殺人種、ペリュドンが境界を越えて街に近付いているので、彼の騎手と共に追い払ってくるとのことだ。

 

「殺人種何て生物もいるのか。……私も撃ち落としてこようかな……」

「まあそう言うなエミヤ。確かに奴等は人類に仇なす者達だが、下を辿れば被害者だ。奴等は呪われて生まされた哀れなモンスター。追い払うくらいでちょうど良いのさ」

「…………」

「そう難しい顔をするな。ここの警備はしっかりしているからな。奴等に襲われる者など殆どいないし、お前が気にすることではない」

「………わかったよ」

 

 そうエミヤとレティシアが話していると、見知った声が掛かった。

 

「あーー!お前耀じゃん! なんだよ?お前らも収穫祭に」

「アーシャ、そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 

 そこには、北で出会った"ウィル・オ・ウィスプ"のコミュニティである、カボチャ頭のお化けジャックと、ヒラヒラした服を着る少女アーシャが宿舎の窓から手を振っていた。

 そのままアーシャは窓から飛び降りて耀達の前に現れた。

 

「アーシャ、君も来てたんだね」

「まあねーこっちにも事情があってさー。ところで耀は出場するギフトゲームは決めたか?」

「ううん。今来たばっかり」

「それなら"ヒッポカンプの騎手"には出ろよ!」

 

 耀達は聞きなれなかったが、なんでもヒッポカンプとは水を走る馬で、別名"海馬"と呼ばれる馬らしい。因みにアーシャが言っているゲームは、水上・水中を駆ける彼等に乗って行われるレースで、『ヒッポカンプの騎手』と呼ばれるギフトゲームだ。

 

「前夜祭の中じゃ一番大きいゲームだし、なにより北のときのリベンジだ! 絶対に出ろよ」

「検討しとく」

 

 耀とアーシャがそんな会話を交わしている一方で、ジャックはフワフワと麻布の体を浮かしながらジンとエミヤ、レティシアのもとへ近付くと礼儀正しく頭を下げた。

 

「ヤホホ、お久しぶりですジン=ラッセル殿。いつかの魔王戦ではお世話になりました」

「い、いえこちらこそ!」

「それとエミヤ殿にレティシア殿もお久しぶりです。…………最近、エミヤ殿の剣は北でも評判ですからね。私達とは売るジャンルは違いますが、貴女の活躍を聞いていると私もウカウカしてられない気持ちになってしまいますよ」

「謙遜しないで欲しいな。君のコミュニティの人気に比べれば私なんてショボいものさ。ああ、それとだけど、依頼の剣が新しくできたから"サウザントアイズ"経由でそちらに送ったよ」

「ありがとうございます。ウィラも喜びますよ。…………ところで貴女の相棒殿は此方には来てないのですか?」

「アレは来てないよ。まあ、アイツは"サウザントアイズ"の客だからね。大抵は白夜叉と共にいるさ」

「ヤホホ、残念です。あの方には恩がありますからね。是非とも今度お会いしたいと申し上げて置いてください。それと、フェイからも今度会えるのを楽しみにしている、と伝えておいてください」

「わかった。伝えておく」

 

 その後"ノーネーム"一同は"ウィル・オ・ウィスプ"と共に貴賓客が泊まる為の宿舎に入った。

 中は土壁と木造でできていたが、しっかりした造りで、土造りにも関わらず乾燥していなかった。それも水樹が放つ水気の因るもので、とても生活しやすい環境となっていた。

 

 彼等は一度割り当てられた部屋で身支度を整えると、ジャックのお誘いで今回の"主催者"に会いに行く事になった。

 

 ____________________

 

 彼等は翠の水晶で作られた水路の脇を通り、大樹の中心にある収穫祭本陣営に向かっていた。

 会話の最中、耀が屋台の食べ物を気づかれない様に買い食いして、それを見た飛鳥とアーシャが羨ましそうにしていた。

 また、ジャックにこの街の説明などもされた。

 なんでも、この水晶の水路は十年前の魔王襲撃の際に、北側のある人物が持ち込んで"アンダーウッド"を復興させた功績の一つらしい。

 また、今回の主賓の連盟コミュニティである "龍角を持つ鷲獅子" についても黒ウサギとレティシアの説明混じりで話された。

 なんでも"龍角を持つ鷲獅子"とは連盟の為の旗印であり、六つのコミュニティで構成されているらしい。

 

 その話を聞きながら目的地である本陣営の受付にやって来た一同。そこで受付にいた樹霊の少女に話しかけられた。

 

「"ノーネーム"………もしかして"ノーネーム"の久遠 飛鳥様ですか?」

 そう飛鳥に話しかけた。

 

「そうだけど、貴女は?」

「私は火龍生誕祭に参加していた"アンダーウッド"の樹霊です。飛鳥様には弟を助けていただいたと聞きまして……」

 

 ああ、と飛鳥は思い出す。戦闘時、巻き込まれそうになっていた少年をたしかに彼女は助けていた。

 

「その節はどうもありがとうございました! おかげでコミュニティ一同、誰一人欠けることなく帰ってくることが出来ました!」

「それはよかったわ。なら招待状は貴女達が送ってくださったのかしら?」

「はい。大精霊(おかあさん)は眠っていますので私達が送らせていただきました。他には"一本角"の新頭首にして"龍角を持つ鷲獅子"の議長であらせられるサラ=ドルトレイク様からの招待状と明記しております」

 

 少女が口にした名は一同も聞き覚えのあるものだった。思わずジンに振り返った飛鳥が訊ねる。

 

「もしかして《サラマンドラ》の……?」

「え、ええ。サンドラの姉の、長女のサラ様です。でも、まさか南側に来ていたなんて……」

 

 そういえば、南の景観の一部に北で見た水晶技術に似たものがあったのを思い出す。

 

「もしかしたら北の技術を流出させたのも――――」

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

 聞き覚えの無い女性の声に一同が振り返る。途端熱風が顔を撫ぜた。炎熱の発生源は、空から現れた褐色肌の美女が放つ、二枚の炎翼だった。

 

「さ、サラ様!」

「久しいなジン会える日を待っていた」

 

 "一本角"の新頭首にして、"龍角を持つ鷲獅子"の議長。

 姉妹であるサンドラと同じ赤髪の長髪を靡かせた彼女は、健康的な褐色肌を大胆に露出させた踊り子の様な衣装に身を包んでいた。

 本来ならばサンドラに代わって"サラマンドラ"の頭首となるべきはずだった女性。ここ"アンダーウッド"を再建した救世主――――サラ=ドルトレイク。

 

「ようこそ"ノーネーム"と"ウィル・オ・ウィスプ"の諸君。私はサラ=ドルトレイク。"龍角を持つ鷲獅子"の議長として君達を招待した者だ。……何時までも客人相手に立ち話もなんだ。中に入ってくれ」

 

 そう言って彼女は一同を引き連れ本陣の中に入っていった。

 

 ____________________

 

 本陣営、貴賓室

 

 大樹の中心に設けられた貴賓室は窓から外を見ると、網目模様の根に覆われた"アンダーウッド"の地下都市が一望できた。

 サラは、"一本角"の旗が飾られた席に座り、ジン達に席に座るよう促した。

 

「では、改めて自己紹介しよう。私は"一本角"の頭主サラ=ドルトレイク。聞いた通り元"サラマンドラ"だったものだ。次に、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが…………ジャック。彼女はやはり来てないのか?」

「はい。ウィラは滅多なことで領地に出ませんから。よって参謀である私がご挨拶をしに来ました」

 

 それを聞いたサラは残念そうに息を零す。

 

「そうか。北側の下層で最強と謳われるプレイヤーを是非とも招いてみたかったのだが」

「北側、最強?」

 

『最強』という言葉に思わず耀と飛鳥は反応した。それを隣のアーシャが自慢そうにツインテールを揺らして話し、サラも同調する。

 

「当然、私達のコミュニティのリーダーの事さ」

「そうだ。"蒼炎の悪魔"、ウィラ=ザ=イグニファトゥス。生と死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉出来るという大悪魔。噂では《マクスウェルの魔王》を封印したという話まである。それが本当なら六桁どころか五桁最上位といっていいのだが……」

 

 そう言ってサラはジャックに真偽を問うように目を向けた。

 

「ヤホホ……………さてどうでしたか。五桁は組織力が重要ですし、個人の実力ではどうにもできませんよ」

「…………まあ、いいさ。それに最近噂の"ノーネーム"を呼べたことに私は満足しているのでな。"ペルセウス"や"黒死病の魔王"を打倒した新進気鋭のコミュニティの話。此方でもよく聞くぞ、ジン?」

 

 そう言って今度はジンに話を向けた。

 

「そ、それは……」

「隠さなくていい。今の"サラマンドラ"では魔王相手に太刀打ちできないから。礼を言わせてくれ」

「いや……は、はい……」

 

 ジンに話しかけていると、サラはその奥にいる耀が、此方をキラキラした瞳で見つめていることに気づいた。

 

「どうした?私の角が気になるか?

「うん、凄く立派。サンドラみたいな付け角じゃないんだね」

「ああ、私のは自前だ」

「そういえば、君の角は二本あるけどいいのかな?"一本角"と聞いたんだけど」

 

 先程からその事が気になっていたエミヤも会話に混ざった。それを聞いて、苦笑混じりに返答するサラ。

 

「我々"龍角を持つ鷲獅子"はたしかに身体的な特徴でコミュニティを作っているが、頭の数字は無視して構わないことになっている。でなければ四枚の翼を持つ種などはどこにも所属出来ないだろう?」

「なるほど」

「あとは、役割に応じて分けられる場合かな。"一本角"と"五爪"は戦闘を担当。"二翼"、"三本の尾"、"四本足"は運搬。"六本傷"は農業・商業全般といった具合にな。それらを総じて"龍角を持つ鷲獅子"連盟と呼ぶ」

 

 それを聞いて納得する新参者三人。サラはエミヤを見て面白そうに話しかけた。

 

「しかし意外だな。"銀の鍛冶"は南側でもとても有名な鍛冶師だ。"無銘"の作品は、今や箱庭の最近のトレンドになっていると言っていい……その最先端を行く者が世間に詳しくないとは」

「まあ、新参者なのでね。そこは大目に見てほしい」

 

 それを聞いていたジャックがそういえば、と会話に混ざるように呟く。

 

「なぜ、かの騎士の名前を剣に付けているのですか?普通は作者である貴女の名前が刻まれるはずですが……」

「いや、厳密にはあの騎士の名前では無いんだよ。"無銘"は名前ではなく称号。それも造り手と担い手、二人合わせて"無銘"という称号なんだよ」

「ほう?それは面白い話を聞いたな。出来れば詳しく聞いてみたいんだが……さすがに客人を私個人のために縛るのは得策ではないからな。機会があれば聞かせてほしい」

 

 そう言って一旦話を切り上げるサラ。

 それを聞いた耀は、ポン、と両手を叩いて思い出したようにサラに聞いた。

 

「そういえば、私達は南側特有の植物を探しに来たんだけど何か珍しいものはある?例えば…………ラビットイーターみたいな」

「まだその話を引っ張るのですか!? そんな愉快に怖ろしい植物があるわけ」

「あるぞ」

「あるんですか!?」

「だから言ったじゃない」

 

 ウサ耳を逆立て愕然とする黒ウサギ。

 

「じゃあブラックラビットイーターは?」

「だから何で黒ウサギをダイレクトに狙うんですか!?」

「あるぞ」

「あるんですか!!? ていうか、エミヤさんの話は冗談では無かったのですか!?どこのお馬鹿様がそんな対兎型最強プラントを!?」

「どこの馬鹿と言われても……」

 

 サラが執務机から発注書を取り出すと、黒ウサギはひったくるようにそれを奪った。

 

『対黒ウサギ型ラビットイーター:ブラック★ラビットイーター。八十本の触手で対象を淫靡に改造す――――』

 

 グシャリ、と発注書は彼女の手によって握り潰された。

 

「――――フフ。名前を確かめずともこんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」

 

 起訴も辞さないのですよーッ!?と窓から大河に向かって吠える黒ウサギ。その背中を一同が可哀想に見つめる中、黒ウサギは振り返り、黒髪を光る緋色に変えて宣言した。

 

「サラ様、収穫祭に招待していただき誠にありがとうございました。黒ウサギ達は今から向かわねばならない場所が出来たので、これで失礼させていただきます」

「そ、そうか」

 

 若干気おされたように苦笑いを浮かべるサラ。

 

「ラビットイーターなら最下層の展示会場にあるはずだ」

「ありがとうございます。それではまた後日です!エミヤさんは確認のためにツイテキテクダサイ」

「わ、わかったよ」

 

 黒ウサギはそう言うと、ジン、飛鳥、耀の襟を持ち、エミヤを促して窓から飛び出していった。それを見たエミヤとレティシアも黒ウサギを追いかけた。

 




この話書いてる時に、一巻の最初辺りを読んだんですが…………あれですね。ヤバイですね色々と。受験終わったら早々に編集しなければ。


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巨人襲来

受験のため更新止まります


 黒ウサギがラビットイーターを全滅させた後、ノーネーム一同は辺りを散策していた。

 今は女性服を扱う店で、彼女達は姦しくも眺めたり試着したりしていた。

 

「エミヤ。今度はこれを着てみないか?」

「ハァ……レティシアは本当に私を着せ替えるのが好きだね。私は服なんて何でもいいのに………」

 

 そうため息を吐いてエミヤはレティシアが持つ民族衣装に目を向けた。因みにそれはサラが着ていたような露出のある衣装で、飛鳥はそれを見て赤面していた。

 

「前々から思っていたがエミヤは服に無頓着過ぎだ。お前はスタイルも容姿も良いんだからもっと着飾るべきだぞ?」

「…………まあ、コーディネートは全て君に任せているから反論できないけど……君も試着しないのかい?」

「む?お前はペアルックがお望みか?まあ、私は別にいいが………ふむ、ちょっと待ってろ」

 

 レティシアはそう言ってパタパタと店内の衣装を物色しに行った。

 エミヤはまだやるのか、と呆れた目でレティシアを見ていると、飛鳥達から声が掛かった。

 

「貴女達って本当に仲良しね。まあ、レティシアはわからないでもないけど、何時からこうなの?」

「それは黒ウサギも興味があるのです!」

「む…………何時からと言われてもわかんないけど……。まあ、レティシアはなんというか、落ち着くと言ったらいいのか、親しみやすいと言ったらいいのか………世話を焼いてくれる妹ができた感じがするんだよ」

「ふーん。妹さんでもいたの?」

 

 そう耀がエミヤに聞くと、彼女は目に見えて困った顔になり、黙ってしまった。

 

「……どうしたのエミヤ?」

「…………わからない」

「わからない?どういうこと?」

 

 彼女は難しそうな顔で答えた。

 

「私には記憶がないんだ」

「っ!?……聞いてはいけないことだったわね。ごめんなさい」

「あ、すいませんエミヤさん……」

「ごめん……」

 

 三人がエミヤの事情を聞いて落ち込みながら謝罪する。それを見た彼女は慌てて否定した。

 

「いや、ずっと前のことだから気にしないでほしい。それにもう馴れたしね」

「そうですか………なぜ記憶が失ったのかはわかっているのですか?」

 

 黒ウサギは原因がわかれば何かしらのギフトで記憶が戻せるかもと考えて質問した。

 

「なんと言ったらいいのかな……記憶が無いと言ったけど、私は二度記憶を無くしているんだ。症状も別だから二度目は少し覚えているんだけどね」

「そんな!?」

「………あまりいい話題ではなかったね。忘れて欲しい」

 

 そう言ってエミヤは彼女達から離れ、真剣に物色しているレティシアに苦笑しながら近づいていった。

 

「エミヤさん……」

「……黒ウサギ。彼女の記憶は戻せないの?」

「…………わかりません。ただ、二度も失っているとなると、戻した時にどんな症状がでるかわかりません。専門分野の人に頼んでみないと……」

「そう……」

 

 それっきり三人は黙り込み、二人が戻ってくるまで沈んだ空気のままでいた。

 

 ____________

 

 その後、"ヒッポカンプの騎手"を始め、幾つかのギフトゲームを申し込んだ彼女達は、一度宿に戻り解散となった。

 

 エミヤの個室部屋にて。

 エミヤはレティシアと共に部屋でくつろいでいた。エミヤは椅子に腰掛け、レティシアはエミヤのベットの上で買ってきた服を広げて、いそいそと組み合わせる服の吟味を行っていた。

 エミヤは彼女の作業を観察しながら口を開いた。

 

「レティシア」

「んしょっと。んー…?なんだエミヤ」

「今日ね、黒ウサギ達に記憶の事を少し話したよ」

 

 それを聞いたレティシアは少しだけ手を止めると、また作業に戻った。

 

「……そうか、話したのか。どこまで話したのだ?」

「本当に大雑把だけど、二回記憶を失っていることを話したよ。私は全く気にしてなかったんだけど、彼女達には悪いことをしたね。……皆酷くショックを受けてたよ」

「……それはそうだろ。誰だって驚くさ。それにお前が悪いわけでもないだろ?」

「いや……やっぱり悪いことをした。彼女達に不快な思いをさせてしまったのは私だ。……やっぱり自分の過去話なんてしなければよかったよ」

 

 それを聞いて、今日はいつになく卑屈だなと思い苦笑するレティシア。

彼女は座ってるエミヤの前に来て、腰に抱きついた。頬に柔らかい太腿の感触を感じながら、エミヤに目を向けて優しい声で話す。

 

「………お前は本当に自分の過去が嫌いだな。前にも聞いたが、なぜ過去をそんな卑屈に思うんだ?」

「…………聞いても面白いことじゃない」

「それは聞いた。聞いたが、それでは何故お前が卑屈になるのかわからない。…………私に話すのは嫌か?」

「そういう訳じゃない。……ただ……」

 

 そうエミヤが話しを続けようとした時ーーーーーエミヤの瞳に窓から見える巨人が写った。

 

 __________

 

 耀の個室部屋。

 

 耀はベットの上に転がりながら今日の事について考えていた。

 

「エミヤも……色々と事情があるんだね」

 

 普段は自分より大分落ち着いた大人っぽい印象だけど、時折見せる女の子らしい表情がとても魅力なエミヤ。

 そんな彼女にもツラい過去があるんだな……と、エミヤについて考えを巡らせていた耀。

 

「うーん……やっぱり悪いこと聞いちゃたかな……」

 

 耀はしばらくそう悩んでいたが

 

「……うん。うじうじ考えていても仕方ない。記憶が無いならこれから新しく作っていけばいいよね。エミヤを誘って野生区の幻獣に誘ってみよう」

 

 そうと決まれば着替えてから行こうと、耀は鞄の中を漁った。耀の鞄は小さく、必要最低限の生活用品しか入れていない。

 だからこそ、見に覚えのない"ソレ"が出てきたことで、耀は頭の中が真っ白になった。

 

「……………ぇ、」

 

 鞄から転がりでた"ソレ"。ここに絶対に有ってはならないソレを見て耀は酷く動揺した。

 

「あれ…………ぇっと、え?……な、んで?」

 

 耀が呆然とソレを見ていると。

 バタン!!と勢いよく扉が開いて入ってくる黒ウサギ。

 

「耀さん!緊急事態でございます!襲撃です!!"アンダーウッド"に魔王の残党が現れました!我々もすぐーーー」

 

 そう言って入ってきた黒ウサギだが言葉が途切れる。彼女は呆然と此方を向いた耀と、床に転がったヘッドホンに釘付けとなったからだ。

 

「よ、耀さん……?なぜ、此方に十六夜さんのヘッドホンが…………?」

「ち、ちが!」

 

 耀が混乱しながらも弁明しようとした瞬間。宿舎の壁をぶち抜く巨大な腕が二人の目の前に現れた。

 

 ____________

 

 エミヤとレティシアは外に出て状況を確認していた。

 

「レティシア、この巨人達はいったい?」

「魔王の残党だ。一体一体はそこまで強くないが、それでも下層の者達では手に余る。それに……数が多いな。エミヤは地上に出て防衛にあたってくれ。地下は私がやる」

「わかったよ。気を付けてね」

 

 そう言ってエミヤは跳躍し、樹の根を足場に跳びながら地上出た。

 地上はすでに乱戦状態だった。弾き合う鋼から火花が飛び散り、夜の帳を照らす。

 巨人一体に対して、獣人や幻獣が十ほど集まって漸く戦いが拮抗している状態だった。戦っている巨人達の後ろの方でも、空を翔べる幻獣類が控えている巨人達を相手にしていた。

 

「ふむ。巨人はざっと500体ぐらいかな?」

 

 エミヤは地上から露出した樹の根を駆け登り、地上を見下ろして呟いた。そのまま弓を取り出す。

 

「混戦しているからね。図体もデカイし、三分はかかるかな?……ん?あれは…………」

 

 観察していると、エミヤは一際異彩を放つ十体の巨人を見つけた。その巨人達は他の仮面をつけた巨人より幾分か小さいが、冠や杖などを装備していてる。それが敵の主力だとわかった。

 その五体程が炎の翼を広げて飛翔するサラを追いかけ、残りの五体は後方に控えて煩わしそうに飛ぶ幻獣達を相手にしていた。

 

「まずはサラを追いかけている奴等から叩くかな」

 

 そう言ってエミヤはDランク程の宝具を取り出し、弓につがえた。

 

 __________

 

 飛鳥と耀も地上から出てこの混戦に参加しようとしていた。

 

「来なさい、ディーン!」

「DEEEEEEeeeeeEEEEN!!!」

 

 召喚の呼び声と共に円陣が浮かび、中心から重厚な外装をもつ紅い鉄人形落下する。

 巨人と同程度の背丈の鉄人が大地に巨大な亀裂を作り、一帯を震撼させた。

 

「叩き潰しなさい!」

「DEEEEEEEeeeeeEEEEN!!!!」

 

 ディーンは身近にいた二体の巨人の仮面を掴み、後頭部を地面に叩きつけた。そのまま意識を失った二体を巨人が密集する場所に投げつけ、そのまま巨人達をふっ飛ばした。

 その光景を空を飛んで見ていた耀は、呆然とした様子で呟いた

 

「凄い……」

 

 ディーンはそのまま巨人達の群れに突っ込んで、巨人はをなすすべもなく吹っ飛ばしていた。

 

 それを見た耀は、飛鳥は大丈夫と判断し、サラの援護に向かおうとしてそちらに目を向ける。

 すると、突如紅い閃光の束が、サラを追う異彩を放つ五体の巨人に突っ込んでいった。

 

「ええ!?」

 

 そのまま巨人の脳天を貫通し、頭から血を吹き出して倒れる巨人達。

 その光景を見て行動が止まった耀だったーーーーが、突如、琴線を弾く音と共に唐突に現れた濃霧が視界を覆った。

 

「ど、どうして急に霧が……?」

 

 そう耀が呟くと、霧の奥から巨人の雄叫びが轟き、地鳴りと共に此方に押し寄せてきているのがわかった。それに反応した飛鳥はディーンに指示する。

 

「ディーン!ふき飛ばしなさい!」

「DEEEEEEEeeeeeEEEEN!!!」

 

 ディーンが前方に現れた巨人を殴り飛ばそうと拳を振るうーーーーが、驚愕にも巨人はディーンの拳を掴んだ。その巨人はよく見れば異彩を放つ巨人の一体とわかった。

 

「ちっ……やるわね」

「飛鳥危ない!!」

 

 耀の言葉に飛鳥は疑問の声が上がる前に気づく。左右から迫った主力の巨人がディーンに鎖を放ち、鉄人形を拘束させたのだ。

 そうなると無防備になってしまう飛鳥。それがわかった耀は、空中から旋風を駆使して急降下し、更に飛鳥に迫る主力の巨人に、"生命の目録"にある最も重い獣の一撃を打ち下ろす。

 だが。

 

「ウオオオオオオォォォォォ!!!」

「嘘っ!?」

 

 耀の渾身の一撃は容易く巨人に振り払われ、彼女を吹っ飛ばした。そのまま流れる大河の水面をバウンドしながら吹っ飛ばされる。

 何度かバウンドすると、彼女はなんとか風圧で衝撃を和らげ止まった。

 

(地面に叩きつけられたらヤバかった……。こんな一撃、飛鳥が受けたら粉々になっちゃう)

 

 そう考え早く戻ろうとするが、霧が邪魔で辺りがわからない。周りからは鋼が打ち合う音と、巨人の怒号しか聞こえないでいた。霧の混戦の中、味方側の指揮がかなり下がっているようだ。

 耀はまず霧をどうにかしようと、ギフトでありったけの風を掌に収束させる。

 

「この……吹き飛べえーーーーー!!!」

 

 集められた風が放たれ、竜巻が辺りの霧をかき回す。当然、辺り一帯を覆う霧相手に耀一人では出力不足だった。

 しかし、耀の行動を察した幻獣たちが雄叫びを上げ、同時に旋風を巻き起こした。

 

(グリーとその仲間達……)

 

 心中でお礼を告げた耀は、霧が薄くなった瞬間に飛び出す。手遅れになっていないこと願いながら、飛鳥のいるであろう方向に駆けつけるとーーーー

 拍子抜けするぐらい彼女は無事であった。

 

「飛鳥!」

「か、春日部さん!無事だったのね!」

「うん。でも飛鳥も無事で良かった……!あの状況で無事なんて、やっぱり飛鳥は凄い……!」

「……残念だけど私の力ではないわ。周りを見て」

 

 そう言って飛鳥は周囲を見ながら呟く。耀もつられて周りに目を向ける。霧は薄くなり巨人の影が見え始めるとーーーー

 

「嘘……」

 

 その光景を見て呆然と呟く。

 霧が晴れた先には、皆殺しにされていた巨人が横たわっていた。鋭利な刃物で頭、心臓、首を的確に裂かれるか穿たれているかして殺された巨人が、一体も残らず屍と化していた。

 

 

 霧が発生した直後。

 それを上から確認していたエミヤは、巨人に突っ込みながら矢を放っていた。

 そもそも体格差があるため、接近しながらでも矢を放ち次々と巨人を殺せるエミヤ。霧など問題なく、出会い頭に正確に彼等の頭を射ぬいた。

 

 そのまま巨人の雄叫びが聴こえる方へと、音を便りに快進撃を続けているとーーーーー

 唐突にその声が途絶えた。彼女は訝しみながらそのまま進むと、一体の巨人の死体が目に入る。

 

「これは……」

 

 巨人の死因を観察していると、巨大な突風が起こり霧が晴れた。そして視界に広がる死体の光景を見て納得した。

 

「なるほど……急に声が消えたのは、誰かが巨人を一掃させたからなんだね」

 

 そうエミヤが呟いていると、突如その背中から声がかけられた。

 

「そこにいる貴女は……無銘ですか?」

 

 ビクッとその声に反応してしまうエミヤ。最近聞き覚えた声に振り向くことが出来ずにいると、彼女の肩に手をかけられた。

 

「お久しぶりです無銘。衣装は違いますが、穿たれた巨人達と貴女の立ち姿を見て一発でわかりましたよ。流石私の好敵手。私が手を出さずとも貴女一人で事足りましたね」

 

 エミヤの気も知らずに、最近できた友達に会えて少し高揚したように話す女性の声。エミヤはそれを聞き、取り敢えず誤魔化してみた。

 

「ど、ドコノドナタデスカ?ワタシ無銘チガイマース!」

「?あの、急に片言でどうしたのですか?むめ」

「その名前で私を呼ばないで!」

 

 声の女性がさらに無名の名前を言おうとすると、思いっきり振り返ったエミヤが女性の口を防いだ。

 

「んぐ…………むー…?」

「そんな、どうしたのですか?みたいなニュアンスで首を傾けないでよ………見ての通り、今の私は無銘じゃないの。正体隠してるからその名前は言っちゃダメ」

 

 そう言ってエミヤは彼女ーーーーー白銀の髪を靡かせた白い騎士、フェイスレスの口から手を離してシーッ!と指を一本立てた。

 彼女はエミヤの言葉を聞き、納得したしたように微笑んで話しかける。

 

「なるほど。つまり今の貴女はオフで、だからこそその姿なのですか。………髪、私とお揃いだったんですね」

「………………そうだね」

 

「エミヤさん、その隣の人はだれ?」

 

 エミヤがフェイスレスの何処かズレた発言に脱力していると、飛鳥と耀が話しかけてきた。

 

「貴女が巨人達を倒したの?」

「…………………」

 

 フェイスレスは彼女達を一瞥して無事を確認したあと、無言でエミヤの腰を引き寄せて跳躍した。

 

「えっ、ちょっフェイ?」

「あっ、ちょっと!」

 

 慌てて制止をかけるエミヤと飛鳥だが、彼女はその発言を聞かず、エミヤを抱っこしたまま夜の地下都市へと落ちていった。

 

 




やべ、フェイスレスのキャラがフワッフワ。
やっぱりラストエンブリオ見た方が良いんですかね


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巨人達は復讐らしいですよ

まだ受験終わってませんが一様今日の分だけ。


"アンダーウッド"地下都市

 

フェイスレスはエミヤをお姫様抱っこし、巨人に荒らされてなかった民家の屋根を跳んでいた。

 

「…………今日はよく抱っこされるなぁ………」

「………先程貴女はエミヤ、と呼ばれていましたね。私もそう呼んだ方が良いですか?」

「ああ、ごめんね。口裏を合わせておくべきだよね…………私の名前はエミヤ・リン・トオサカ。好きに呼んで欲しい」

「長いですね……エーリンとエミー、どっちが良いですか?」

「………確かに好きに呼んでと言ったけど、なぜそのチョイス?あと最初のはダメ」

「ではエミーで。私のことはフェイと呼んでください」

「構わないけど………それより、どうして私のことがわかったの?」

 

エミヤはフェイスレスにずっと疑問に思っていることを聞いた。彼女は抱えているエミヤを一瞬見ると、すぐ前を向いて都市の空を跳ぶ。

 

「………貴女の立ち姿がとても凛々しかったから、ですかね。正直……直感でしたが、一目見て貴女だとわかりました」

「そんな簡単にわかっちゃうの?」

「誰でもわかる、と言うわけではないですよ。貴女の剣技、弓の構え、そして凛々しい姿が私にとって印象が強すぎましたから……」

 

そう言って、照れたような感情が彼女の仮面の奥から感じられた。

 

「それに貴女はやはり私と通ずる物が何かある。そんな気がしてなりません。だから貴女の正体が簡単にバレる訳では無いと思いますよ?」

「そっか………。あともう一つ聞くけど、これは何処に向かっているの?」

 

目の前に見える巨大な根を見て、なんとなくすでに察しているエミヤだったが、一応彼女に聞いてみた。

 

「アンダーウッドを再建させた立役者、サラ=ドルトレイクのところですよ。彼女なら此度の巨人襲撃の事情も知ってるでしょうし。中で彼女が帰ってくるのを待ってましょう」

 

____________________

 

 

「もぉーーーー!!なんだったのよあの騎士女ッ!」

「飛鳥、落ち着いて……」

 

そのころ、飛鳥と耀はアンダーウッドの地下都市に降り、彼女達が泊まるはずだった半壊した宿舎に向かっていた。

荒ぶる飛鳥を宥める耀だったが、今の彼女は何処か不安と絶望、それとほんの少しの期待がごちゃ混ぜになった感情に支配され、普段より気迫が無いように見える。

 

(十六夜のヘッドホンが何故私のバックにあったんだろう…………。ううん……ちがう。今大事なのはそこじゃない。彼のヘッドホンがあの崩壊で壊されていたら、私は彼になんて詫びれば良いの……?)

 

ヘッドホンは無事だと期待を込める一方で、壊れていると確信に似た不安に彼女は支配されていた。耀の顔は今にも倒れそうな程酷く、青白かった。

思考はどんどん不安な方に引き寄せられていく。

 

(万が一壊れてなかったらそれで良い…………でももし壊れていたら?その時私はどうすれば良いの?黒ウサギに見付けられた時点で誤魔化しはできないし、したくない。なら、直すしかない…………でも直せないほど破損していたら?あの瓦礫に押し潰されたのなら可能性は高い………)

 

どんどん彼女は思考の泥沼にハマっていく。その足取りは重く、無意識に宿舎に帰るのを遅くしようとしていた。

 

(どうすればいいの?……あのヘッドホンは十六夜が彼の親しい人から貰ったって言ってた。つまり代えは効かない………どうしようも、ない。……なんで、こんなことに………)

「ーーーーー……部さん!……春日部さん!!」

「ひゃっ!な、なに!?」

「なに?じゃないわよ。まったく………急に黙り込むし、顔色は悪くなるし、どうしたのかと心配したのよ?」

「ご、ごめん……」

「………まあいいわ。それよりどうしたの?具合悪い?」

「大丈夫だよ飛鳥」

「そう?なら早く宿舎に帰りましょう?黒ウサギ達にエミヤさんが拐われたって言わなきゃだし。それに早く私も休みたいわ」

「そ、そうだね……」

 

その返事を聞いた飛鳥は一刻も早く帰るために足を速め、耀は重い足でなんとかついていくのだった。

 

___________________

 

ーーーーー"アンダーウッド"収穫祭本陣営。

 

黒ウサギとレティシアとジンは、サラの下に呼び出されていた。

"ノーネーム"と同じく呼び出された"ウィル・オ・ウィスプ"も加わり、会談が始まる。

 

「サラ様。一体これはどういうことですか?魔王は十年前に滅んだと聞きましたが」

「…………すまない。本来は今晩に詳しい話をさせてもらおうと思っていたんだが、奴等の動きが思いの外早かった。その事で両コミュニティを招待したのに訳があったのだが……聞いてくれるか?」

「はい」

「ヤホホ…………まあ、話だけなら」

 

即答するジンと、曖昧に誤魔化すジャック。それを見たサラは一つ頷くと説明を始めた。

 

「この"アンダーウッド"が十年前に魔王の襲撃を受けていたという話は既に聞いているな?そしてその魔王も倒したことも」

「はい」

「しかし、その魔王の爪痕は今も残っている。加えて、魔王の残党が"アンダーウッド"に復讐を企んでるらしい」

「………それが先程の巨人」

「さらにそれだけじゃない。ペリュドンを始め、殺人種と呼ばれる幻獣も"アンダーウッド"周辺に集まり始めている。…………グリフォンの威嚇すら動じないとなると、何かしらのギフトで操られている可能性が高い」

「…………なるほど。しかしあの巨人族は何処の巨人なのですか?」

 

黒ウサギの問にサラは一度言葉を止める。それを見たレティシアが話を繋いだ。

 

「あの巨人達は箱庭に逃げてきた巨人族の末裔。それも混血、だな?」

 

その言葉にサラが頷く。

 

「箱庭の巨人達はその多くがケルトのフォモール族等が代表格なのだが、北欧の者達も多い。敗戦の経緯から基本的に穏やかな気性で物造りに長けた彼らなんだが………」

「五十年前に始まった巨人族の支配。"侵略の書"と呼ばれる魔道書により、彼等は一気に魔王の烙印を押された」

「レティシア様。それって……」

 

黒ウサギはあるゲームを思い出しながらその正体をレティシアに確認する。その視線を受けてレティシアは重く頷いた。

 

「そうだ黒ウサギ。ゲーム名"Labor Gahala"。それこそが"主催者権限"で土地を賭け合うゲームを強制できる魔道書。それによって巨人族は次々とコミュニティを拡大していったのだ」

 

その魔王の一族は十年前に滅んだ。

レティシアは、その残党達が復讐しに"アンダーウッド"に攻め込むのはわかるが、なぜ元は気性の穏やかな彼等が、この"アンダーウッド"に攻め込むのかがわからないとサラに質問を投げつける。

その質問を受けたサラは立ち上がり、壁に掛けてあった連盟旗を捲る。

その後ろにあった隠し金庫から、人の頭ぐらいの大きな石を取り出した。

 

「この"瞳"が連中の狙いだ」

「………瞳?この岩石がですか?」

「…………まて"瞳"だと?……まさか!」

「多分レティシア殿が想像している通りだ。今は封印されているが、開封されれば一度に100の神霊を殺すことができると言われている」

「やはり"バロールの死眼"か!!」

 

サラとレティシアの言葉に一斉に息を飲む一同。

黒ウサギ達は一ヶ月前に戦った神霊の魔王を思い出す。黒ウサギの武具やサンドラの炎も通じず、レティシアの持つ"絶世の剣"でも効果がなかった相手。

その神霊を一度に100体も薙ぎ倒す"バロールの死眼"を聞いた一同が腰を浮かせた。

 

「バ、バ、"バロールの死眼"!?」

「そんな馬鹿な!?"バロールの死眼"といえば、ケルト神群において最強最悪と言われた死の魔眼!!視るだけで死の恩恵を与える、魔王の死眼がなぜ今さら!?」

 

ジン血相を変えてサラに問い詰める。

 

バロールの死眼とは、紀元前五世紀に語られるケルト神話に記述された、巨人族の王バロールが持つ神眼である。

この瞳の瞼が開かれれば、太陽のごとき光と共に死を与えると伝承されている。

 

「魔眼はバロールの死と共に失われたはず!それがなぜここに………」

「そうおかしなことでもない。聞けば、ケルト神の多くが後天性の神霊と聞く。ならば神霊に成り上がるための霊格が確立されていることになる。第二のバロールが出てもおかしくない」

「………確かにケルト神話群は、"人が信仰を集めれば神になれる"例が顕著だ。確かにそういう事が起こる可能性は低くない」

 

そう言ってレティシアはその"瞳"に目を向ける。サラも"瞳"を見て言葉を紡ぐ。

 

「奴等はどうしてもこの神眼を取り戻したいらしい。私達が収穫祭で忙しい時を狙って、今後も襲撃を仕掛けてくるだろう」

「ヤホホ…………その襲撃から街を守るために私達に協力しろと?」

「確かにウィラ姐は強いよ。でも性格が圧倒的に戦闘向きじゃないんだ」

 

ジャックとアーシャはあからさまに嫌そうな顔をする。

彼等は本来、物造り主体のコミュニティ。つまり後方支援がメインである。だからこそ二人は難色を示すのだ。

 

「それにこの件はまず"階層支配者に相談するもんなんじゃないか?」

「それが無理だからサラ殿達"龍角を持つ鷲獅子"は私達を誘ったんだろう」

 

アーシャがサラに質問をぶつけると、その返事はまったく別の方向、入り口から入ってきた二人のうち一人から発せられた。

 

「エミヤ!大丈夫だったか!?怪我はないか!?」

「大丈夫だよレティシア。隣にいる騎士殿が助けてくれたからね」

「私の手助けがなくても貴女はまったく問題無いじゃないですか」

 

入ってきたのはエミヤとフェイスレスだった。

アーシャとジャックは二人を見て驚いたが、その前に気になることを言われてエミヤに質問をぶつけた。

 

「ヤホホ……何故貴女がフェイと共にいるのか想像ができませんが……その前に、先程の返事の意味はどういうことです?」

「簡単なことだよ。先程、白夜叉から連絡があってね。現在の南側"階層支配者"は存在しないらしい」

『………は?』

 

エミヤの衝撃の発言に一同が停止する。サラは辛そうにそれを聞くと、話を始めた。

 

「先月のことだ。七〇〇〇〇〇〇外門に現れた魔王に"階層支配者"が討たれた。さらに、その魔王の正体も不明ということだ」

「なっ!?」

 

予想外の回答に絶句するアーシャ。他のメンバーも同様だった。まさか"階層支配者"が不在になっているとは思ってもいなかったのだろう。

 

「…………それでエミヤ殿。依頼した無銘殿は来てくれるのか?」

「すまない。今回の襲撃では騎士の方は呼べない。白夜叉曰く、今の東側の主力は白夜叉以外がいない状態なんだ。その状態で"黒死斑の魔王"の時みたいなことがあると困るらしい。だからこそ"金の騎士"の存在は、魔王を倒した実績がある分、居るだけで抑止力になるからね」

「………そうか。まあ仕方がないか。北・南側と襲撃が起きたなら、今度は西か東が攻められてもおかしなことではないしな」

 

サラは残念そうだが納得した表情で頷いた。しかし、エミヤの表情は未だ険しいままだった。それに気付いたレティシアがエミヤに怪訝そうに聞く。

 

「どうしたんだエミヤ?そんか怖い顔して」

「………エミー。こう言うのは早めに言っといた方が良いと私は思いますよ」

「………そうだね」

「むっ……」

 

そんな場合ではないと理解しているが、隣にいる仮面の騎士とのやり取りをが気に食わなかったレティシアが少し苛つく。それでも年長者としての自覚があるのか、黙ってエミヤの話の続きを待った。

 

「………議長であるサラにもう一つ悲報がある。それに私達ノーネームにとっても悲報かもしれない」

「……え?どういうことですかエミヤさん?何か私達にあるのですか?」

「なんというか、経済的にあるというか……私達については一旦置いておこう。まずは報告するよ…………私の数ある作品の中でも一級品の戦力を持つ"レーヴァテイン"がここ南側の何処かにあることがわかった」

「………へっ?どういうことですエミヤさん?」

 

黒ウサギやジン達はよく分からないとばかりに首をかしげるが、レティシアはその話を聞いて反応した。

 

「見つかったのか!?お前の盗まれた武具が!」

「見つかった訳じゃないよ。ただここ南側の何処かにあることがわかっただけ。これも白夜叉から報告があったからわかったんだけどね」

「あの…………先程から話が見えないんですが、エミヤさんの武具が盗まれたんですか?しかも"レーヴァテイン"て神剣の名前なんですけど、どういうことです?」

 

レーヴァテイン。かつてエミヤが白夜叉に請われて北の展覧会に出した最高級の剣の一つである。彼等は知られていなかったが、その作品はあの事件の際に何処かの誰かがどさくさに紛れて盗んだらしい。

 

白夜叉はその際エミヤに相当謝ったのだが、エミヤは自分以外扱えないと思いそこまで危機感を持っていなかった。だから白夜叉に捜索を頼むだけだったのだが。

 

「私の剣が彼等に渡っていると、警告をしたいんだよ。それも奴等はその剣を多少だが扱えると見ていい」

 

そう言ったエミヤに、サラがどう言った反応をすればいいのかわからない顔で会話に参加した。

 

「…………えっと、少し待って欲しい。エミヤ殿の剣が盗まれて敵の手に渡ったのはわかったが…………その剣はどれ程の物なんだ?貴女が造ったそのレーヴァテインと言うのは」

「ん?箱庭ではその名前はあまり認知されていないの?」

「いえ………認知されていない訳ではないんですけど……エミヤさんの造った剣がどう言ったものなのかわからなくて…………」

 

そう黒ウサギがおずおずと発言する。ただなんとなく嫌な予感がしていた。エミヤの解説を聞けば、もう取り返しが効かないような何かを感じた。

 

「そっか。そうだね、こっちの方と違う剣かも知れないからわからないか。…………私が造った剣・"レーヴァテイン"は、北欧神話に出てくる巨人スルトが操っていた"()()()()()()()()()"を放つ神剣だよ」

 

「……………………………はい?」

 

静寂する室内の中、黒ウサギの声が空しく響き渡った。

 



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手掛かりっぽいモノが見つかったらしいですよ

今回は急いで出したんで結構荒いから後日修正するかもです。
ついでに未だ会議終わってない。


黒ウサギの声が室内に響き渡る。

それを聞いたエミヤは話し始めた。

 

「いや、だからレーヴァテインは巨人ス―――」

「それはもう聞きましたよエミー」

「今の、はい?は理解の許容範囲を越えたから漏れた疑問だぞエミヤ」

「…………わかってるよ」

 

場を和ませるためのウィットに満ちたジョークじゃないかと、ぶつくさエミヤが言っていると、復帰した黒ウサギがツッコむ。

 

「……………はっ!いや、いやいやいや!!何ですか"世界を焼き尽くす炎"の剣って!?本物のレーヴァテインじゃないですか!!」

「ヤホホ………………数々の名剣を造っているのは知ってましたが、まさか神剣を造っているとは…………」

「ああ、すまない。盛り上がっているところ悪いんだけど、私の剣はそこまでの性能じゃないよ」

 

黒ウサギとジャックがエミヤの発言に戦慄していると、エミヤが待ったをかけて発言し直した。それを聞いた一同が安堵する。

 

「そうですか………もぉエミヤさん驚かさないで下さいよ」

「ごめんね黒ウサギ。まあ、私の"レーヴァテイン"は北欧神話の剣をただ模倣した紛い物。到底あらゆる全てを焼き尽くす事はできないと言う訳なんだけど……ただ問題もあるよ」

 

エミヤは一度、皆が落ち着いたのを見計らって発言した。

 

「あの剣は使用者によっては"万物を焼き尽くす"炎を生み出す。だからアンダーウッドの要である水樹が相手でも、ここ一帯を更地にするなんてわけないの」

「へぇー…………ってお馬鹿様!!メチャクチャヤバイじゃないですか!?」

 

期待した私が馬鹿だった!とばかりに机に突っ伏し頭を抱える黒ウサギ。他の面々、特にサラとジンが真っ青になり始めた。

地獄の炎を生み出すジャックは比較的冷静だが、それでも少し焦っていた。

 

「ヤホ……不味いですね。万物を焼き尽くす、つまり水だろうと金属だろうと"全て等しく焼き尽くす"と言うことですよね、エミヤ殿?」

「うぇ!?ジャックさん、それは流石に言いすぎでしょ!」

「いや、ジャックの言うとおりだよ。海だろうと金の塊だろうと全て焼き尽くすよ。まあ、持ち主の霊格によるけどね」

 

その絶望的な言葉を聞いたアーシャも机に突っ伏し、頭を抱えた。つまり燃えたら最後、その存在がこの世から消えるまで炎は止まらないと言うことだ。

しかし、事前に聞かされていたレティシアやフェイスレスは冷静に尋ねる。

 

「エミヤ。その神剣の対策はあるのか?そもそも奴等に渡っているとしても、巨人達はその剣を操れるのか?」

「………難しいところだね。まあ、仮に操れても十全の力は発揮できないだろう。できてここの水樹を焼き尽くす程度かな」

「確か、彼等巨人族には北欧の者も多くいるのでしたね?………しかし、スルトの血統を持っていたとしても扱えるものなのですか?」

「………そもそも、レーヴァテインは神と巨人のハーフである神ロキが鍛えた神剣。それがムスペルヘイムに封印されたと言う記述しか無いんだよ。だからスルトの血縁とは関係なく北欧の巨人がその剣を操れるのかもしれないし、操れないのかもしれない」

 

そこで一度言葉を止め、エミヤは再度口を開いた。

 

「だからこそ巨人の襲撃を防ぐなら最悪の展開を予想しないといけないの。一応、制作者である私はその対策も持ってるけど、他の人が襲われたら私は何もできないよ。加えてあの霧が問題だね。居場所がわからなければどうしても対処が遅れる」

 

霧と言う単語に反応するのはフェイスレスとサラだった。二人とも混戦と化した防衛戦を見たからこそ驚異を感じたのだ。

もし仮にあの霧の中で災厄の炎が放たれれば、被害は格段に増えるだろう。ただでさえ、先の襲撃で戦闘専門コミュニティである"一本角"と"五爪"はかなり被害を受けたのだ。これ以上被害が出れば、確実にこの後の収穫祭は中止になる。

それを悟ったサラに焦燥が浮かぶ。

 

「それは不味い!仮に私達が負ければ収穫祭の中止どころか南側の安寧も乱れてしまう!!」

「……えっ?サラ様、それはどういうことですか?」

 

サラの発言に今まで黒ウサギと共に突っ伏していたジンがガバッ!っと勢い良く顔をあげた。

サラはジンを見て、少し躊躇いながらも説明のために口を開いた。

 

「………私達は以前白夜叉様に南側の新たな"階層支配者"を選定して欲しいと相談したのだ。だが、秩序の守護を司る"階層支配者"の候補は簡単に見つからなくてな…………推定五桁の魔王である"黒死斑の魔王"を倒した実績と、最近の東側の安寧を白夜叉様に代わって守護している"無銘"殿にお願いできないか聞いたのだが………」

 

サラはちらりと話を聞いているエミヤに視線を向けるが、直ぐにジンに向き直り話を続けた。

 

「かの騎士には、色々と白夜叉様に考えがあって、それは出来ないと言われたんだ。だが、そこで白夜叉様からこの状況を打破する案を出された…………それが"龍角を持つ鷲獅子"連盟の五桁昇格と"階層支配者"の任命を同時に行うと言うものだ」

 

ハッと話を聞いていたメンバーがサラの言わんとすることを察した。ジンはサラにその考えが合ってるか問う。

 

「つまりこの収穫祭の成功報酬こそが、"龍角を持つ鷲獅子"連盟の五桁昇格と"階層支配者"の任命を賭けたゲームと言うことですか!?」

「そうだ」

 

元々サラは北側出身のため、縄張り意識の強い南側でも伝統のある"龍角を持つ鷲獅子"連盟の議長になるのは殆ど不可能に近かった。

しかしサラは北側の"階層支配者"である"サラマンドラ"の元・跡取り娘。その経験を見込まれて三年間で議長の座に就いたのである。

もし仮に彼女が星海龍王の角を継いでいれば、"サラマンドラ"は最盛期を迎えただろうと言われた程の逸材だ。

 

そんな彼女のいる"龍角を持つ鷲獅子"が次期"階層支配者"になるのも不思議ではない。

しかし、当のサラは憂鬱気に苦笑を浮かべていた。

 

「次期"階層支配者"という立場を捨てて"龍角を持つ鷲獅子"連盟に身を置いた私が、南側"階層支配者"になろうとしているのは、さぞかし滑稽に見えるだろう…………。しかし今はそんなことも言ってられない。南側の安寧の為にも、どうか両コミュニティには力を貸してもらいたいのだ」

 

そう言って真摯な表情をジンとジャックに向けるのだった。

 

「と言われましてもねぇ…………」

「…………少しメンバーと相談させてください」

「構わない」

 

視線を向けられたジャックはあまり乗り気ではない様子だった。

ジンも一人で結論を出していいものかと黒ウサギやレティシア、エミヤに目を向ける。

 

「今のコミュニティのリーダーはジン坊っちゃんです。貴方が正しいと思う選択をなさればよろしいかと」

「そうだな。黒ウサギの言うとおりだ。それに今の私はコミュニティの1メンバーでしかない。参謀の十六夜がいない今、ジンが決めなければ」

 

視線を向けられた黒ウサギとレティシアは厳しくもジンの為に敢えて助言を出さなかった。それを聞いたジンは、十六夜と同じく成果を挙げているエミヤに視線を移した。

その視線を受けたエミヤは、自分の与えられた身分相応の言葉を返すつもりで返事を返す。

 

「………私も二人の意見には賛成だけど、求められた分の仕事は活躍しよう。といっても私からは情報を整理させてもらうくらいだけどね」

「構いません。エミヤさんの考えを聞かせてください」

 

そうジンに言われてエミヤは口を動かす。

 

「まず不参加の場合についてだけど、これにデメリットはほぼ無いだろうね。手伝わなかったとしても私達が訴えられる義理もないしね。神剣についても、アレは"サウザンドアイズ"と"サラマンドラ"の管理責任であって私達には関係ない。

強いて言うなら、ここの特産品とゲームの商品を得る機会が無くなるくらいかな。

………次にメリットだけど、私達は危ない橋を渡ったりしなければ、コミュニティに被害を出さず、安全に本拠に帰れるってことが最大のメリットかな」

 

エミヤの発言を聞いていたサラは少しずつ意思消沈していく。それを視界の端に捉えたエミヤは、次に、と少し強調を付けて話し始める。

 

「参加するデメリットは参加しないメリットの逆だね。運が悪ければ私達は全滅することが最大のデメリット。

最後にメリット。私達は南側に恩を売れるし、未だ評判の悪い"ノーネーム"が活躍すれば、一気に私達の当初の目標に近づく。後は南側の住人の平和を救えることかな」

 

その言葉を聞いてジンはハッとする。もしかしたら自分達の行いで南側の住人に"ノーネーム"と同じ悲劇を与えてしまうかも知れないということに気付いたのだ。

表情が変わったジンを見たエミヤは、さらにここでもう一押しした。

 

「それとこれは私の推測なんだけどね………もしかしたら元"ノーネーム"メンバーの居場所の手掛かりを見付けられるかもしれないよ」

 

そう言い放ったエミヤに、静観していた黒ウサギとレティシアも驚いた表情を向けた。

 

「そ、それはどういうことですかエミヤさん!?」

「……推測の域は出ないけどね…………簡単なことだよ。今回の襲撃と"階層支配者"の消失。それに加えて北側で盗まれた神剣レーヴァテインが相手の手の内にあるんだ。北側の魔王襲撃とは無関係では決して無いと思う」

「たしかにそうかもしれませんが……それと同士の関係は?」

「まあそう急かさないで………私はずっと疑問に思ってたんだ。十六夜も言っていたけど、"黒死斑の魔王"のゲームでは黒ウサギが"審判権限"を使用した時点で私達は負けるはずだったんだよ。

蔓延する黒死病は一部の人を除けば、1ヶ月と経たずに北側の住民全てに死を与えていた。そうなれば都市の機能は壊滅。私達は降参するしかない」

「ヤホホ…………確かに相手側の条件を飲んでいれば私達はヤバかったですね」

 

話を聞いていたジャックがあの時聞いた情報を思い出す。

 

 

"黒死斑の魔王"ペストが、ゲームを誤審で止めた対価に付けてきた条件は、30日後のゲーム開始であった。それが受理されれば北側に黒死病が蔓延してゲームオーバーであったのだが、ペストが勝った時の報酬の上乗せとゲームの時間制限を条件に、ジンが交渉を進めて事なきを得たのだった。

 

 

それをあのゲームを経験した者達が思い出している中、エミヤは話を続ける。

 

「なのに私達は勝った。じゃあなんで勝てたと思う?」

「えっと………そ、それは相手がまだ新参者の魔王で、僕達の提案に引っ掛かってくれたから、ですか?」

「それも無くもないけど、後のゲームルールだって相手にしてみたらよっぽど有利な状況だったんだ。リスクと見返りを天秤にかけただけで、悪くはない。…………私が聞いてるのはもっと根本的な理由だよ」

「??」

 

ジンがエミヤから出された質問に頭を捻っていると、それを見かねたレティシアが答えた。

 

「ゲームメイカーがいなかったから、だなエミヤ?」

「そうだよレティシア。まあもっと厳密に言うと、あのゲームを考えた人物が襲撃時にいなかったからだね。もしあの時に造った人物がいれば、ジン達の提案には乗らなかっただろうからね」

 

そもそもあのゲームは、最大の敵である白夜叉を封印したルールも、本命のためのブラフだったのだ。不平等なルールと思わせておいて、公平なルールで行われたゲームの内容全ては、"審判権限"を誤審させるための罠。

ペストもそれは聞かされていたはずだろう。それでも目先の利益に翻弄されたが故に失敗したのだ。

 

仮にあの場に制作者がいたのなら、確実にジン達の誘いには乗ってこなかっただろう。そう思わせるほどにあのゲームは緻密に考えられたモノだった。

 

「なるほど…………でもそれとエミヤさんの言っていた黒ウサギの同胞とどう関係するのですか?」

「ペスト達や今回の巨人達、それと南側"階層支配者"を襲った魔王の後ろに実力者が付いているのは確実だ。それも相当階層の高い組織だと私は予想している。

じゃないと今回の襲撃のタイミングといい、レーヴァテインといい、偶然というには出来すぎているしね。そしてそれほど大きい組織と三年前に東側を襲った魔王に接点が無い方がおかしいでしょ?」

「…………確かにエミヤの言うとおりだね。"審判権限"を持つ黒ウサギがいることを知っていて、かつ優秀なゲームメイカーがいる組織なら、私達を襲った魔王とも関係があるだろう」

「……………」

「私が出せる情報と推測はこれくらいかな。これ以上の推測は憶測になるからね。後はジンが自分で判断して欲しい」

 

そう言ってエミヤは黙った。

 

 




この作品のジンはどことなく臆病


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アンダーウッド防衛戦

久しぶりに更新!
エミヤちゃんのキャラが相変わらずぶれぶれなのでご了承下さい。てか口調が女と男で筆者が彷徨ってる。アレですわ、男の方思い出しちゃう。


 アンダーウッド根本の上にて、エミヤとフェイスレスは座って流れる大洪水と夜空に光る星を眺めていた。

 

 あの後、ジンに決断の時間を与えるためにエミヤはレティシアと黒ウサギに彼を任せ、周辺の見張りをするためにこうして地上に上がってきたのだ。

 ちなみにフェイスレスは、「関係ないので私も上に上がってますね」と言って勝手に付いてきた。

 

「昼に見た景色も素晴らしかったけど……星の光に照らされた水飛沫も綺麗だね」

 

「そうですね。ですが、その星に照らされた銀色に輝く貴女の髪も綺麗ですよ」

 

「あ、ありがと……………前々から思ってたけど、君はよくそんなことが言えるね。いや、私が言えたことでは無いんだけど……」

 

 エミヤはフェイスレスの言葉に少し頬を染め、後半の声が小さくなりながらも返答を返す。

 

「君はアレだ。不毛だと思わないのかな?私のような男口調の同姓にナンパ紛いな台詞を吐いて。そう言うのは男性……はちょっとおかしいけど、異性に言うものではないかな?……まあ、私は男なんぞに言いたくないけど」

 

「そうですか?私は普通だと思いますけど。綺麗な人に綺麗ですね、と言って何が悪いのでしょうか?」

 

「いや、悪い訳じゃ無いんだけど……なんというか、そう堂々と言われると恥ずかしいと言うか……」

 

「恥ずかしいのですか?可愛い人ですね」

 

「…………」

 

 エミヤはこれ以上話すと、さらに墓穴を掘りそうなので黙ってしまった。その彼女ようすを見てフェイスレスはさらにおかしそうに微笑む。

 

(……なんというか、レティシアが大人の姿になったときも感じたけど、私はこの姿になってから年上の女性に弱いのだろうか?精神年齢も下がったような………年下や幼女には勝てるのに……)

 

 エミヤは、性別が変わったことによって起こった現象に落胆していると、微笑んでいるフェイスレスから声がかかった。

 

「ところで、あの場にいなくてよろしかったのですか?私が見る限りあの少年はまだまだ未熟。修羅場を潜ってきた貴女もいた方が、より確実だと思うのですが」

 

「ああ………まあそこはあの二人に任せるさ。箱庭の世界ではそれこそ私は未熟者。なら、余計な事を言ってこれ以上場を掻き回すより、こうして監視に就いていた方が良いんだよ」

 

「そうですか……」

 

 フェイスレスはそんなことは無いと思ったが、本人に何か考えがあるのならと、その考えを口に出さなかった。代わり別の話に切り替える。

 

「……やはり貴女がノーネームにいるのは勿体無いと思うのですが」

 

「そんなことは無いよ。確かに私は戦闘についてはそこそこ自信があるけど、英雄のような力があるわけじゃない。それこそ凡人の域を出ないさ」

 

「そうでしょうか?少なくとも下層では貴女に勝てる者などいないと思いますが………それに貴女は強力な(ギフト)を持ってるそうじゃないですか」

 

「頼まれれば造るよ?」

 

「フフッ……では、その時にお願いしますね」

 

 その時?とエミヤが疑問に思った直後だ。スゥーっと霧が何処からともなく視界を覆い始め、琴の音色が聞こえて来る。二人がその音の正体に気付いた瞬間、眼下に巨大な黒い影の集団が現れた。

 

「ッ、フェイ!これもギフトなの!?」

 

「………そうですね。どうやら相手は移動系のギフトを持っているようです。しかも瞬間移動並のギフト」

 

 フェイスレスは冷静に相手が持つであろうギフトに当たりを付けた。

 

 このような状況に慣れているフェイスレスの様子は、見ていてとても頼もしい。百戦錬磨のエミヤでも大規模の瞬間転移はほとんど見たことがないのだから。

 

 霧と巨人達が突如現れた異常に気付いたアンダーウッドの守り手達も、霧からうっすらと見える巨人達の数に気圧されながらも、雄叫びを上げて鼓舞の叫び声を辺りに響かせた。

 

「敵襲ー!!!」

 

「巨人共の侵略を許すなあああ!!!」

 

「「「GURAAAAAAAA!!!」」」

 

 味方と敵の雄叫びが一段と増していく中、フェイスレスもその戦に参加しようと腰に力を入れた直後だった。

 

「まったフェイ………何かおかしくないかな?」

 

「?それはどういう…………なる、ほど。身体の影響ですか」

 

 エミヤは身体の違和感に気付き、フェイスレスに待ったをかけたのだ。

 どういう事か、身体の動きが少し鈍いのだ。まるで動きを何かに阻害されているような違和感があるのだ。

 

「これは……霧の影響でしょうか?」

 

「いや、たぶん違うと思うよ。それなら巨人達も巻き込まれているはず。これは指向性を感じる物がある。この動きづらさ………そうだね。身体というよりも、霊格に何らかの抑制を掛けている感じだ」

 

 エミヤがその回答にたどり着いたのと同時に、味方である幻獣種の者達の悲鳴が辺りに響き渡った。

 

「ぐあッ!!」

 

「くそっ……意識が」

 

「GAAAAAAAA!!?」

 

「ヤバイね。味方が壊滅状態だ。気乗りしないがやるしかない」

 

 エミヤは弓を、フェイスレスは蛇蝎の剣を手に取り臨戦態勢に入ると、樹の根から飛び降りて手短にいた巨人達の群れに突っ込んでいく。

 

 二人の接近に気付いた巨人達だったが、彼等は声をあげることすら叶わずはその場で絶命する。

 一体は身体から首を飛ばされ、一体は脳天を撃ち抜かれる。

 

「「「「ブアアぁぁーーーーー!!!」」」」

 

 エミヤとフェイスレスによって仲間が殺されたことで、周りにいた巨人達は怒りを露にしながら二人に襲い掛かった。

 

「ふっ!」

 

「せあ!」

 

「ッカ…………」

 

 がしかし、凡百の巨人が二人の進撃を止められる筈がない。

 先頭にいる巨人から次々と二人の餌食となっていく。その被害が霧の中で加速的に増え、彼等の血飛沫が霧を赤色に染めていく。

 

「見ろ!あの二人がどんどん巨人達を減らして行くぞ!二人の後に続け!」

 

「「「GURAAAAAAAA!!!!!」」」

 

 二人の猛攻を見たアンダーウッド側の指揮官が守備兵の幻獣達を鼓舞する。

 

 逆に二人の参戦は巨人達にとって相当な士気の低下に繋がった。

 突如現れた二人の強敵に加え、敵の士気の上昇。何千といる巨人達もこれには堪らない。

 

 戦力で言えば拮抗しているのだが、やはりエミヤとフェイスレスによる巨人達の被害は甚大だった。

 防衛線を突破していた巨人達は数を減らし続け、どんどん押し返されていく。

 

 それを黙って見守るほど敵も甘くなかった。

 

『ーーーーーーー』

 

「ぁッ…………!」

 

「この音はッ…………」

 

 二人に襲い掛かる倦怠感と意識への揺さぶり。

 琴の音色が聴こえたかと思えば、それによって味方が一気に動かなくなったのだ。

 

 逆に、巨人達は琴の音色を聴いて動きが活性化される。

 

「くそっ、また…………ぐあっ!?」

 

「GIッ…………」

 

 動きが鈍った所を巨人達に再び蹂躙され始め、追い込まれていく。

 

 エミヤとフェイスレスも鈍る身体を叱咤させながら巨人達を倒していくが、それでようやく戦線を保っている程。

 これ以上被害が出ればアンダーウッドの防衛が機能しなくなる。

 

 

 

 それを危惧したエミヤはポツリと呟いた。

 

「…………虎の子を出すときが来たかな」

 

 彼女はギフトカードからとある装飾品を取り出す。

 それを天に掲げると、中に封印されているある少女を喚び出す言葉を告げた。

 

「さあ、君の出番だよアルゴル! 巨人達を殲滅して!」

 

 エミヤの宣言と同時に装飾品から光が発生する。膨張する光が辺りを埋め尽くした時、彼女は現れる。

 

 

「箱庭一の美少女、アルちゃんふっかーつ!!」

 

 

 紫色の長髪に、幼くも美しい容姿の少女が高らかに叫ぶ。

 つまり、いつものアルゴルであった。

 

 濃密な神性の気配が漂う少女が突如現れたことで、巨人たちの群れが一度その存在を確かめようと止まる。

 彼等巨人たちは知能が低い代わり、野生の面がとても強い。だから彼等は本能的に理解したのだ。あの存在は危険だと。

 巨人達が一斉にアルゴルの下へ押し寄せる。

 

「うえぇ! 筋肉ダルマ共がアルちゃんの美貌にアテられてめっちゃ集まってくる!? 絵面的にキッッツ!!」

 

「なら早く使えば?」

 

「ヤー君つめたーい……ま、呼び出された分の仕事はしちゃおっかな!」

 

 アルゴルの目が怪しく輝く。

 直後、霧を射すような光が霧の中を埋め尽くした。

 

 それは石化の呪いの光。浴びればどんな生物であろうと石と化す災厄の光だ。物体をも突き抜ける閃光を避けることはなど、不可能に近い。

 光の直撃を浴びた巨人達は、一人また一人と声を上げることもなく石と化していった。

 

 戦場から音が無くなり、気付いた時には霧も無くなっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おつかれメドゥーサ。ありがとね」

 

「あ、また呼び方戻ってる。いい加減止めなよその呼び方」

 

 敵の居なくなった戦場を俯瞰したエミヤは、終わったことを確認するとアルゴルに労いを込めて声を掛ける。

 だがアルゴルは、エミヤが呼ぶ名前がアルゴルからメドゥーサに戻っていることに気づいて不満そうに返した。

 そんな彼女に苦笑しながら、エミヤは申し訳なさそうにする。

 

「んー……すまないね。でも君の本来の呼び名はそっちが本物でしょ? 私としては、君が醜い怪物とされた呼び名であることに違和感を感じてね。だって君、とても可愛いから」

 

「え」

 

 その一言に、さしものアルゴルも固まってしまった。

 あまりにも自然に褒められたせいなのか、かつてのブラウニーなせいなのか。

 とにかく直球で投げられた褒め言葉に、アルゴルは珍しく動揺してしまった。

 

「そ、そう…………まあ? アルちゃん超可愛いし? それに器も大きいから、ヤー君だけにならその名前で呼ばれても構わないっていうかぁ…………」

 

「ん、そっか。ならこのままメドゥーサと呼ばせてもらおうかな?」

 

 しかし唐変木な性格ゆえ、顔を赤く染めながらそっぽを向くアルゴルの様子など全く気付かないエミヤ。彼女は了承されたと言う意味以外はとくに考えもせず、言葉をそのまま受け止めてしまった。

 

「…………もういい。アルちゃん戻って寝る」

 

 それを見た彼女は再び不満そうな顔でそう言い残し、装飾品の中へと戻ってしまったのだった。

 

 





この先の物語、オリジナル展開マッハでいいでしょうか?
でないと書ける気がしない…………


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