白龍皇と姉妹猫の大海賊時代 (しろろ)
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原作二年前
1話 囚われの姉妹


初めまして、しろろです!

ふと、ヴァーリと姉妹猫をくっつけてONE PIECEの世界に入れたいな、と思って始めました!

処女作で駄文になると思いますが、よければ見ていってください!


 

 

ジョリーロジャーを掲げる1隻の船。その中には物置小屋とも捉えられるほどに薄暗く、不衛生な牢屋がある。

 

 

暗い。暗い。暗い。

 

 

天井から射す微かな光に縋るように、二人の姉妹が寄り添って互いを確かめ合う。

 

一方の白髪で小柄な少女が、細い腕を伸ばして隣に座る黒髪の少女の手を握る。

 

「・・・・・・姉さま」

 

「大丈夫にゃん、私が命に変えても守るから・・・・・!」

 

黒髪の少女は握られてきた手が震えていることに気付き、強く、それでいて優しく握り返す。

 

二人の体は見るに耐えないものだった。

 

十分に食事を取れていないためか体は痩せこけ、所々に痛々しい痣、髪はボサボサになっており服装もボロキレ同然のもの。

 

それでも姉妹は生きることを諦めてはいなかった。

 

いつかは此所から出られる。青い空の下で、二人一緒に幸せに過ごせる。

 

 

━━━━そう思って支え合ってきた。

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

今日も変わらない。

 

碌に眠ることが出来ず、目を開けても辺り一面暗く、カビだらけ。唯一光をくれるのは天井にできた小さな穴。

 

1日に貰える食事は一度だけ。固くて不味いパンが一つと少量の水。

 

これは一人1つじゃない。二人で1つ。

 

こんなのじゃ少なすぎる、そう意見したくても貰えるだけ有り難いと思った方が良いのかも知れない。

 

私達はそれを何時も半分こにして食べている。

私はまだ元気だから多く食べていいよ、と言っても妹の白音は頑なに半分渡してくる。

 

優しい妹。白音だけが私の支え。

 

白音がいなかったら私はとっくに死を選んでいたと思う。

 

 

・・・・・・ああ、早く自由になりたい。

 

白音と二人でまたお日様を見たい。

 

二人でお風呂に入ってフカフカのベッドでお昼寝したい。

 

一緒にお出掛けをして美味しいものを食べて、可愛い服を着たい。

 

白音はどんな服を着るのかな?可愛いから何でも似合うよね。何たって、私の自慢の妹なんだから。

 

「黒歌姉さま、どうしたの?」

 

顔に出ていたのか、白音は小首を傾げて見上げてくる。

 

「ううん、何でもないにゃん」

 

私はそう言って、最愛の妹をそっと抱き締める。

 

今にも崩れてしまいそうな白くて華奢な体。女の子の体に有るまじき痣の数々が烙印のように存在する。

 

 

これ以上、傷つけさせはしない。

 

 

そう決意した時『・・・・ガチャ』と、扉が開く嫌な音が小さく響く。

 

白音は小刻みに震えて私の腕にしがみいてくる。

 

食事の時間にしては早すぎる。それとも、ストレス発散でまた暴力を?

 

頭の中でぐるぐると思考がごちゃ混ぜになって、パニックになってるのが自分でも分かる。しかし、これだけははっきりしている。

 

 

妹だけは守りきる・・・・・!

 

 

その一心で白音の背中に両手を回し、相手に背を向けるようにして抱き締めた。絶対に離さないよう、一人にしないように。

 

 

「何だここは?息が詰まりそうな場所だな・・・・・」

 

 

聞きなれない声。

 

何時もの男達のようなガサツで吐き気のするような声ではなく、少し幼げで、でも頼もしくて不思議と落ち着ける声。

 

 

「換気が必要だな」

 

 

恐ろしくて振り向くことが出来ないけど、後ろにいる彼はそう呟いた。

 

その瞬間

 

 

ドゴォォォォンッ!!!

 

 

激しい破壊音が天井の方から聞こえてきた。

 

鼓膜が破けてしまうんじゃないかと思うほどに強烈な騒音に、私は目をギュッと瞑って白音を強く抱き締める。

 

「ね、姉さま!」

 

「大丈夫!大丈夫だから!」

 

自分の口癖なんか頭から抜けてしまう。

 

兎に角、必死で『大丈夫』と唱え続ける。白音を安心させる為でもあるけど、もしかしたら私自身にも言ってるのかもしれない。

 

次第に騒音は止んでいき、辺りは静寂に包まれる。

 

先に口を開いたのは後ろにいる誰かだった。

 

「これでスッキリだな。それと、そこまで警戒しなくてもいいんだが・・・・・。俺は上にいた連中(・・・・・・)と手合わせをしただけだが、正直ガッカリだった」

 

困ったように笑みを含めてそう言った。

 

“上にいた連中”?

 

それってもしかして、私達を捕まえて監禁した海賊たちのこと・・・・・?

 

いや、でもあの場には百人くらいいた筈。一人で相手が出きる筈がない。

 

「姉さま・・・・・空が」

 

「え?」

 

不意に話しかけられて白音の顔を見ると、驚愕と感動が混ざったような表情をしていた。

 

その視線の先を追うように、私も上へ視線を向ける。

 

そこには、今までの闇などなかった。ただ青く、清々しい空。まるで蓋を取り外されたかのように天井が消失していた。

 

「う、そ・・・・・。空が・・・・・見える・・・・!」

 

海賊共に暴力を振るわれても涙は決して見せなかったけれど、今この瞬間だけは涙が勝手に流れてくる。

 

空なんて何時ぶりだろうか。1ヶ月?2ヶ月?それとももっと?

 

私と白音は、果てしなく続く青空を涙を流しながら見ていると、男は此方に近づいてくる。

 

そして、初めて男の姿を見た。

 

銀、その色がまず視界に飛び込んでくる。濃い銀色の髪が、短髪でもサラサラと風で靡く。

 

肌も今の私なんかよりずっと綺麗で、顔も凄く整ってる。思わず見とれてしまったくらいだ。

 

隣を見てみると、どうやら白音も見とれていたみたい。一目惚れしちゃったのかにゃん?

 

クスリと笑んでそんなことを考える。

 

あれ、いつの間にか震えが止まってる・・・・・。

 

彼を見ていただけなのに、どうしてここまで落ち着けるんだろう。不思議。

 

彼は牢屋の扉まで近づき、平然とした様子で無理やり抉じ開けた。

 

な、なんて無茶苦茶な力!

 

声には出さなかったが、意図も簡単にこの扉を壊すその姿に驚く他なかった。今まで私達を苦しめてきた牢屋がこうもあっさり破壊されるなんて・・・・・。

 

彼はどこから取り出したのか分からないが、2つの大きめの布を私たちに掛けてくれた。

 

「俺の名はヴァーリ。行くところが無ければ俺と来るか?」

 

「「えっ・・・?」」

 

一瞬で体が強ばる。それは白音も同じで、繋いでいる手からよく伝わってくる。

 

このヴァーリという少年に着いていけば、この地獄からはお去らばだけど、でも・・・・・・。

 

本当に信じてもいいのかな。今の今まで、それこそヴァーリが来るまで空を見られなかったけど、もし嘘だったら・・・・・・。

 

「姉さま、私、行きたいです」

 

ギュッと強く手を握って、白音はそう言った。

 

「・・・・・・白音」

 

「ヴァーリ、さんは悪い人じゃないと思います。それに、黒歌姉さまと一緒ならどこだって平気です!」

 

私の妹はあまり口数が多い訳じゃない。何時も私にくっついてくる可愛い妹だけど、今は自分の意思をはっきりと口にした。

 

それがどれだけ嬉しいことか。白音が決意したのだから、姉である私がウダウダしてられないにゃん。

 

「ありがとう、白音。わかったにゃん、私も一緒に連れてって欲しいにゃ!」

 

「わかった。そうと決まれば、まずは手足の枷を外さなきゃな」

 

ヴァーリはそう言って、悠然とした態度で私の両手に付いている枷に手を置く。

 

か、顔が近いにゃ・・・・・!

 

歳の近い異性と話すこと事態久しぶりなのに、ヴァーリみたいなイケメンが触ってきたら(枷だけど)嫌でも恥ずかしくなる。

 

うぅ・・・・・、心臓の音がうるさいにゃん!

 

「よし、次は妹の方だな」

 

「えっ!もう終わったの!?」

 

「ああ、それほど難しい作業じゃないよ。ちゃんと足も外してあるだろう?」

 

両手足を見てみると確かに枷は取り外されていた。若干手形がついてグニャリと変形してるけど。

 

「そ、それじゃあ、お願いします・・・・・」

 

白音は微かに頬を赤らめ、モジモジしながら両手を差し出す。

 

え、クソ可愛い・・・・・。

 

何にゃこれ!何の癒し動物にゃん!?

 

ちょ、ヴァーリは何で反応しないのにゃ?私が男だったら即効襲いかかってるレベルなのに!

 

「枷は外した訳だけど二人は立てるか?」

 

「う、うん」

 

私は少しよろけてしまったけど、立てない程ではなかった。しかし、白音は立とうとしても上手く力が入らずにへたり込んでしまう。

 

「そうか、なら・・・・・」

 

「にゃっ!?」

 

ヴァーリは流れるような動作で白音の膝裏と背に手を回し、軽々と持ち上げる。

 

そう、女の子なら誰しもが憧れるであろう“お姫様抱っこ”だ。

 

な、なんて羨まし・・・・・男らしい。白音は恥ずかしさで悶え死にそうになってるにゃん。そんな白音も捨てがたい!

 

「取り敢えず外に出ようか」

 

ヴァーリに続いて私も外へ出る。相変わらず白音は顔から湯気が出そうな程に真っ赤っか。両手で顔を隠してる姿が堪らなくそそるにゃん。

 

甲板に出てみると、それはもう地獄絵図だった。

 

百人近くいた海賊共は、あちらこちらで気絶して誰一人意識を保っている者はいない。

 

団子のように積み上げられたり、マストや甲板に頭から突き刺さってる者。更には、私たちが閉じ込められていた牢屋の真上に位置していた所は、大穴が出来ていた。

 

ほ、本当に一人で倒しちゃったのね・・・・・。もしかして、悪魔の実の能力者なのかにゃ?

 

私が視界に広がる光景に唖然としていると、ヴァーリは目を瞑って何かに集中し始める。

 

それは数秒で済み、彼は私を近くに呼び出す。

 

「準備が出来たから移動するよ」

 

「どこに行くにゃん?この船で移動するんじゃないの?」

 

「そんな手間は掛けてられないさ。ちょっと眩しいけど、我慢しててくれ」

 

ヴァーリの優しい蒼眼で私達を交互に見てそう言った。

その時ちょっとドキッとしたのは内緒にゃ・・・・・。

 

 

そして、私たちの足元に白い紋様入りのサークルが展開される。これが何か、ヴァーリに問おうとするけど、それよりも先に閃光が私達を包み込んだ。

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

「え・・・・・・ここ、どこ?」

 

目映い光が止んだと思って眼を開けてみたら、まったく見たことの無い土地に移動していた。

 

海の上にいた筈なのに、今は暗くてじめっとして、お化けでも出そうな島にいるんですけど。何でにゃ?意味がわからないにゃん。

 

しかも、目の前には古さを感じる立派お城の門があるし。

 

ってか、お城!?

 

「聞きたいことはあるだろうけど、今は我慢して着いてきてくれ。入浴や着替え、食事の準備もしなきゃいけない」

 

「「お、お風呂!?」」

 

もしも、耳と尻尾があったらピーンと立ち上がりそうなくらいにテンションが上がる。

 

私と白音は牢屋に入れられてから、まともにお風呂には入れさせてくれなかった。女子として耐え難い事で、発狂しそうになるくらい。

 

「ヴァーリ!早く案内するにゃ!」

 

「ヴァーリさん!お風呂です!」

 

あまりの必死さに彼は私たちに気圧され気味だ。

 

しかし、それくらい今の私達にはお風呂が大事ってことなの!

 

ヴァーリを急かして浴場まで案内してもらった。

 

流石お城と言うべきだろうか。ここの浴場、大浴場は広い。広すぎて広すぎて困ってしまうほどに広い。

 

古びたお城の外装とは対照的に浴場は手入れが行き届いており、非常に清潔さが保たれている。

 

メイドか執事でも雇っているのだろうか?

 

 

━━━━と、今はそんなことよりも!!

 

 

「ひっさしぶりのお風呂にゃぁぁぁ!!!」

 

「お風呂お風呂お風呂・・・・・・!!」

 

 

あれ、白音立てないんじゃ・・・・・・?

 

ま、まあ細かいことは気にしちゃいけないにゃん。

 

 

 

それから、私達姉妹はシャワーで体を洗い流して湯に浸かっている訳だけど。何だかんだで二時間近くいるにゃ・・・・・。

 

シャワーで凄く時間掛かっちゃったし、仕方ないよね。

 

それにしても、本当に気持ちいい

 

 

「「にゃぁ・・・・」」

 

 

あ、ヴァーリにまだ自己紹介してなかった。

 

まあ、後ででいいにゃん。




最後まで読んでいただきありがとうございました!
感想や評価を付けてくれたら幸いです!


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2話 白龍皇の怒り?

「はっ・・・・はっ・・・・はっ」

 

俺、ヴァーリの一日の始まりは島を一周してから始まる。

そこそこ広い面積だからウォーミングアップには丁度いい。

 

リズムよく行われる呼吸。

今日もいつも通り、体の調子に問題は無さそうだ。

 

何をするにも体力は欠かせない。ましてや、俺ならば尚更必要不可欠なもの。

 

 

『修行熱心で何よりだ、ヴァーリ』

 

 

頭の中に直接聞こえてくる威厳ある声。

今では当たり前のように話をするけれど、幼少の頃は恐ろしくて仕方なかった。

 

俺は口には出さず頭の中で返答をする。

 

 

日課みたいなものだからな。

それに、体を動かしていた方が何かと落ち着くものだよ。

 

『血は繋がっていなくても、子は親に似るということか』

 

俺の中で笑みを含めてそう言った。

 

 

彼の名は“アルビオン”。

 

誇り高き二天龍の片割れで“白龍皇”の2つ名を有している。

 

片割れと言うことはもう片方も存在するわけで、その2つ名は“赤龍帝”。

 

それぞれが『白い龍(バニシング・ドラゴン)』、『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』とも呼ばれ、例外を抜いて最強のドラゴンとして謳われていた。

 

━━━━━が、知り得るどの書物を調べてもそんな伝承は記されてなどいない。

 

嘘かどうかと聞かれたら頭を悩ませる所だが、俺にはアルビオンが嘘をついているようには感じない。

 

なあ、アルビオン。

 

もう一度確認するが、俺の中にはアルビオンの魂が封じられた神器『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』が宿されているんだったな?

 

『ああ、そうだ。それは間違いない。間違いないのだが、不思議なことに神器が俺以外に存在しないのだ。どういう因果か、別次元の世界の人間に宿ってしまったらしい・・・・・』

 

だ、そうだ。

 

アルビオンが元々いた世界では悪魔や天使、堕天使などの異種族がいて神も存在するそうだ。

まったくもって興味深い。

 

それに、向こうでは悪魔の実が無いとのことだが、代わりに神器なるものがある。

 

能力はピンからキリまでらしいが、俺としては強いやつと戦えればそれでいい。

 

『ふっ、典型的なドラゴンの思想だな。俺もその方が暇じゃなくて助かる。それに、ヴァーリは歴代の中でも飛び抜けて才能を持っているから将来が楽しみだ』

 

そう言ってくれるのは嬉しいが、やはり赤龍帝との決着は着けたいのか?

 

俺たちと対を成す存在・・・・・、是非とも戦ってみたい。

 

『勿論だ。“赤いの”とは戦う運命になっていたんだ。運が良ければ俺のように、此方に流れ着くかもしれんな』

 

運命、か・・・・。

 

俺はこの世界では異質な力を手にしている。神器は勿論、それ以外にも他とは違う力が宿っている。

 

アルビオン曰く、“魔力”と言うものらしい。

これもその運命が原因か?

 

世界中の人にも魔力に近しいものが体を巡っているが、余りにも微弱。

殆ど無いに等しいとのことで、膨大な魔力を持つ俺は規格外だと言われてしまった。

 

『そう言えば、昨日連れてきた小娘二人も中々の魔力を秘めている。流石にヴァーリ程ではないが、鍛え上げれば新世界でも通用するレベルだ』

 

ほう、黒歌と白音が・・・・・。

 

偶々通りかかったから海賊船に寄ってみたが、どうやら正解らしい。

 

今頃、まだ二人は仲良く寝ているところかな?

余程ひどい生活を強いられてたのだろう、昨日は食事をとったら直ぐに寝てしまった。

 

親父以外に料理を振る舞ったことは無かったけど、美味しそうに食べて貰えて嬉しい限りだな。

 

・・・・・おっと、もう少しで城門前だ。少し彼ら(・・)と遊んでから食事の用意をするとしよう。

 

 

俺はペースを幾分か上げてゴール地点である城門に向かった。

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

「黒歌姉さま、勝手に外に出るのは・・・・・」

 

「にゃはははーっ、ちょっとくらい大丈夫にゃん!」

 

姉さまは私の制止の言葉なんて聞かずに、どんどんお城の出口に進んでいく。

何だかんだ言って、私も着いていくんだけどね・・・・・。

 

昨日は久しぶりにお風呂に入れて、涙が出るくらい美味しい料理を食べれて、夢のような時間だった。

 

姉さまとこうして笑顔を向け合えるのは、ヴァーリさん━━━━

 

貴方のお陰です。

 

もし、ヴァーリさんが来てくれなきゃ何時までも牢屋の中にいたかもしれません。感謝してもしきれない・・・・・。

 

そ、それに・・・・・。

 

お、お、お姫様抱っこまでしてもらって・・・・・!

 

確かに体に力が入らなかったけど、実はあの時、足が痺れてただけなんて恥ずかしくて言えない。

 

 

だからその、何と言うか・・・・・・・・・・。

 

 

ご馳走さまでした!!

 

 

思い出すだけでも頭から蒸気が出てしまいそう。

私の様子がおかしいと思ったのか、姉さまは顔を覗き込んでくる。

 

「どうしたの、白音?顔が真っ赤にゃん」

 

「い、いえ!何でもないです!」

 

「ならいいんだけど、無理はしちゃダメよ?白音が倒れたらお姉ちゃん心配するにゃん!」

 

姉さまは不安そうな目でそう言ってくれる。

 

 

私の姉さま。自慢の姉であり、理想の姉。

 

私よりも大人っぽくて、でも子供っぽくて、妹思いの優しい姉。

体は姉妹とは思えないくらいに妖艶で、そこはちょっと羨ましい・・・・・。

 

あの牢屋での生活も姉さまがいたから生きていられた。そうじゃなかったら、とっくに死んでいたかもしれない。

 

・・・・・姉さまにも感謝してもしきれません。

 

 

「姉さま、大好きです」

 

「え、ちょっ、白音!?」

 

不意にぎゅっとしたくなって抱きつくと、姉さまは突然で戸惑ってしまう。

 

けど、直ぐに優しく抱き返してくれた。

 

「ふふっ、私も大好きにゃん。白音から甘えてくるなんて珍しいにゃ〜♪」

 

そう言って、私の頭や頬を撫で回したり、頬擦りしたりと、いつも以上にスキンシップをしてくる姉さま。

 

 

為されるがままにされること10分。

 

 

「堪能したにゃぁ。よし、それじゃあ出発!」

 

「は、はい・・・・」

 

うぅ、姉さまの暴走・・・・・・・・怖い。

 

疲労困憊の私と元気一杯な姉さま。

既に城門はくぐってしまったけど、本当に大丈夫なのかな?

 

お城が大きすぎてヴァーリさんを探そうにも、此方が迷子になってしまいそう。

 

って、姉さま行くのはやい。

 

黒歌姉さまは気付けば遠くまで移動していた。

 

「迷子になっても知りませんからね・・・・・」

 

私も小走りで追いかける。

無事に追い付くことができたけど、姉さまは立ち止まって何かを手に持ってる。

 

「かわいそう、後で治してあげるにゃん」

 

手に持っていたのは、腕がとれて綿が出ているクマのぬいぐるみだった。

 

今になって周囲を見渡してみると、民家らしきものが疎らにあるのに気づく。

民家と言っても、とても生活できるとは思えない。屋根は無く、壁には所々穴やヒビがある。

 

他にも剣や銃弾の跡が痛々しく刻まれていた。

 

戦争・・・・・したのかな。

それとも海賊が荒らした?何にしても、悲劇には変わらない。

 

この島のじめっとした空気と、暗くて厚い雲が相まって、悲しく、寂しい気持ちになる。

 

すると、右手が温かい何かにそっと包み込まれる。

 

視線を移すと、黒歌姉さまの手だった。

 

「そろそろ戻ろ?ヴァーリが心配して探し回ってるかもしれないにゃん」

 

「・・・・はい」

 

優しく微笑んで私の手を握る黒歌姉さまに、自然と笑みが零れてしまう。

 

 

 

手を繋いでお城に向かっていると、私は何かに見られているような感じがした。

視線は1つや2つじゃなくもっと大量に。

 

姉さまも視線に気づいていて、歩調を速めていく。

私たちに合わせるように、“何か”も移動しているのがわかる。

 

静かだった木々がざわめき始め、土や石畳を踏みしめる音が徐々に近づいてきた。

 

 

「白音、走るにゃ!」

 

 

その合図と共に、手を引かれてこの場を駆け抜ける。

 

 

━━━━しかし

 

 

『ウウゥゥゥ・・・・・ッ!!』

 

 

っ!?

 

既に囲まれてる!?

 

 

いつの間にか、私たちの周りには数十体の猿・・・・・ヒヒが威嚇をしている。

 

ただの野生のヒヒならまだマシと思えるけど、生憎このヒヒ達は“普通”じゃなかった。

 

「武装なんかしちゃって、まるで人間みたいにゃん・・・・・」

 

黒歌姉さまは一筋の冷や汗を流してそう呟いた。

 

そう。このヒヒ達はそれぞれが武装をしている。

 

剣、槍、ナイフ、銃、ハンマー、鍵爪、おまけに防具まで。構えも中々に様になっていて、かなり知能が高そうだ。

 

 

折角助かったのに、こんなところで死にたくない・・・・・!

 

死を意識すると途端に体が恐怖で震えだす。

止めようとしても止められず、姉さまの手を強く握って立ち尽くすことしか出来ない。

 

怖い・・・・怖い・・・・怖い・・・・!

 

 

「私が引き付けるから、白音は隙を見てヴァーリを呼んできて!」

 

姉さまは近くに落ちていた木の棒を拾って両手で握る。

 

「そ、そんな・・・・!姉さま一人じゃ死んじゃいます!!」

 

「お姉ちゃんは簡単には死なないにゃん!

だから━━━━」

 

姉さまの言葉が最後まで発せられる前に、ヒヒ達は一斉に襲いかかってくる。

 

雄叫びを上げながら此方に迫ってくるその姿は、正に野生。けたたましい足音が全方位から響いてきて、その距離はすぐそこまで近づいている。

 

 

「「・・・・・っ」」

 

 

姉さまっ!!

 

迫るヒヒ達の姿が恐ろしくて、これから起こることから逃げたくて、私は目をギュッと閉じた。

 

 

・・・・・・・・。

 

 

しかし、一向に襲いかかってくる気配はない。

 

 

あ、れ・・・・?

 

足音が、止んだ・・・。

 

 

あんなに響いてきた足音がピタリと止んだ。元々なにも存在しなかったかのように静寂がこの場を包む。

 

恐る恐る目を開けてみると、そこには全身から汗を流し、私以上に震え上がっているヒヒ達の姿があった。

 

 

「これは、どういうことにゃ・・・・?」

 

 

私にも訳がわからない。

 

さっきまで私達を襲おうとしていたのに、まるで立場が逆転したかのようだ。

 

疑問が頭を駆け巡っていると、上空から声が発せられる。

 

 

 

「その二人は敵じゃない。武器を置け」

 

 

 

淡々と、しかし怒気を微かに含ませながら聞こえるこの声は・・・・・・・

 

 

「「ヴァーリ(さん)!?」」

 

 

な、なんで空を飛んでるんですか!?

 

しかも背中から翼まで生えてる!!

 

 

死への恐怖なんて何処かに飛ばされてしまうくらいに驚いてしまう。

 

ヴァーリさんは蒼白い輝きを放つ翼を広げて、完全に宙に静止している。鳥類とは違って羽毛は無いが、それがかえって神々しさを醸し出す。

 

 

『・・・・・』

 

 

ヒヒ達は次々と武器を捨て始めた。

体は震えたままで、瞳にはヴァーリさんに対しての恐怖が見られる。

 

 

「大丈夫か?怪我は・・・・・してないようだな」

 

 

音をたてずに地面に降りてきたヴァーリさんは、私達を見て安堵の息を漏らす。

 

 

「うぅ、ヴァーリぃぃ・・・・・!」

 

「ヴァーリさん・・・・・っ!」

 

 

姉さまと同時にヴァーリさんに飛びついた。

少しビックリしたかもしれないけど、彼はしっかり受け止めてくれる。

 

ホッとしたら止めどなく溢れ出てくる涙。ヴァーリさんの胸の中で小さく響く嗚咽。

 

 

「・・・・怖い思いをさせて悪かった。もう大丈夫だから泣かないでくれ」

 

 

困り、戸惑ったようにそう言ってポンと、私の頭に大きくて堅いけど、どこか優しいものが乗せられる。

 

顔を上げてみると、ヴァーリさんの手だった。

彼の綺麗な蒼い瞳と目が合って思わず見つめてしまう。

 

改めて見ても、やっぱりカッコいい・・・・・。

 

「あー!白音だけズルいにゃん!ヴァーリ、私にもやってほしいにゃ〜」

 

「ヴァーリさん、もっとお願いします」

 

「二人とも、もう大丈夫そうじゃないか?」

 

姉さまの魅惑のおねだりと、私の純真無垢なおねだりを爽やか笑顔で流して彼はヒヒ達の前に行く。

 

酷いです、ヴァーリさん・・・。

 

 

 

そして、ヒヒ達を地面に3列にして正座させ、お説教が始まる。

 

「いいか?彼女達はこれからこの島で住むことになっている。つまり家族だ。だから、もし二人をまた襲おうとしたなら俺が叩き潰す。・・・・・・わかったな?」

 

 

『ウ、ウキッ!!』

 

 

ドスの聞いた声音で警告するヴァーリさんに、ヒヒ達はブンブンと首が取れそうなくらい縦に振る。

 

「よし、分かってくれて何よりだよ。━━━━けど、彼女等を怖がらせた罰は受けなきゃいけない」

 

ヴ、ヴァーリさんが黒い笑みを浮かべてる・・・・・。

 

「それに、丁度君たちと遊ぼうとしていたから一石二鳥だ。ああ、安心してくれ、ちゃんと手加減はするから」

 

言葉の意味を理解したヒヒ達は、さらに滝のように汗を流し、体の震えも最高潮に。

 

我先に逃げだす者もいたけど、ヴァーリさんの右手から蒼白い球体が生成、発射されてそれがヒットし気絶。

 

 

「さて、始めようか」

 

 

その言葉から先は・・・・・一方的でした。

 

そして、姉さまと私は心の中で密かに誓う。

 

 

“ヴァーリさんは怒らせちゃいけない”・・・・・と。

 

 

 




ヴァーリのキャラが分からなくなってしまいました。
おまけに駄文に・・・・・。


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3話 ヴァーリも年頃の男子

原作に介入するまでどれだけ掛かるのか不安になっている、しろろです!

今更ですが、この世界のヴァーリくんは正真正銘の人間で悪魔の血は一切流れておりません。


何もない広くて白い空間。

 

村や町が無ければ、大地や海も無い。

 

ただそこには、蒼白い翼を広げ、この空間に劣らない白さの全身鎧を身に纏うヴァーリと一人の男。

 

デザインに多少の違いはあるものの、互いに鏡合わせのようにジッと佇む。

 

構えずとも二人からは莫大なオーラが放たれ、飲み込もうとするようにこの空間を覆っていく。

 

オーラとオーラがぶつかり合ってバチバチとスパークが発生。

 

 

そして、同時に動き出す。

 

 

ドゴォォォンッ!!

 

 

消えるような速度で接近し、拳と拳が衝突する光景はまるで白い閃光が走ったかのようにも思える。

 

もしも地面があったならクレーターが出来ているのは間違いない。空気は震え、木々も騒ぎ始めるだろう。

 

「ぐっ・・・・・!」

 

拮抗していたがヴァーリが僅かに押されてきた。

 

対する男は、まだまだ余裕を持て余している様子を見せる。

 

「あらよっとぉッ!」

 

豪快な声と共に腕を振り抜いてヴァーリを吹き飛ばし、すかさず右手を正面に向け照準を合わせる。

 

掌からは青黒い魔力の奔流が流れ、それが一点に集まって球状に変形。

さらに、バランスボール程の大きさがバレーボールの大きさまで凝縮され━━━━━

 

 

「こいつぁ、防がねぇと軽く死ねるぜ?」

 

 

不敵な笑みを浮かべ、男は破滅的な魔力の塊を殴りつけた。

 

凝縮された魔力は一気に解放されて、一筋の極太の光線と化し、音速でヴァーリに襲いかかる。

 

 

「なめるなっ!!」

 

 

ヴァーリは翼を使って空中で体勢を立て直し、魔力の光線に向けて右手をかざす。

 

 

『Divide Divide Divide Divide Divide Divide Divide Divide!!!!』

 

 

アルビオンの音声と共に襲いかかってくる魔力の光線はどんどん小さく、細くなっていき、終いには消滅した。

更に、それに比例してヴァーリの魔力は跳ね上がる。

 

━━━━これこそが白龍皇の力。

 

触れた相手の力を半減させ、己の糧とする。

過剰に取り込んだ力はヴァーリの背にある光翼から放出され、常にベストな状態を保つことが可能だ。

 

「おお、やるじゃねぇか!手加減はしたが、まさか消滅させられるとは思わなかったぜ!」

 

「こんなのはまだ序の口だ。俺は何れ、あなたをも越える」

 

「へっ、俺を越える・・・・・か。ガキが大口叩くようになりやがって」

 

男は嬉しそうにそう呟く。

 

ヴァーリは宙に漂いながら両手を男に向けると、白い魔方陣が展開される。

 

先ほど吸収した魔力とヴァーリの魔力が掛け合わせられ、距離を取っている男にまで力の奔流が届く。

 

「はあっ!!」

 

ヴァーリの魔方陣から複数の魔力弾が撃ち込まれ、男に襲いかかる。

 

そのどれもが殺人級の威力を秘めていた。例え、億超えの賞金首だろうとまともに受ければ重症、あるいは死に至るだろう。

 

白龍皇の力はそれほどまでに凄まじい。

 

しかし、それは相手も同じ(・・・・・・)力を持っていたら話は別。

 

 

「中々いい攻撃じゃねぇか。けどなぁ・・・・・」

 

 

男はヴァーリが半減したときのように右手をかざす。

 

 

 

「歴代最強の座はまだ譲らねぇよ」

 

 

『Divide Divide Divide Divide Divide!!!!』

 

 

男━━━━歴代最強の白龍皇、“グリット”は半減の能力でヴァーリの全力の魔力弾を全て消滅させる。

 

「な、なんだと━━━━ガハッ!?」

 

そしてほぼ一瞬・・・・・目視出来ない速度で懐まで潜り込み、グリットの拳がヴァーリの強固な鎧を容易く砕く。

 

たったの一撃。

 

だが、絶対の一撃がヴァーリの意識を無理やり刈り取った。

 

 

「まあ、俺じゃなきゃ十分すぎる威力だったぜ。・・・・・・・あと数年もすりゃ、越されちまうかもなぁ」

 

 

グリットの言葉を最後に、この空間は閉じられた。

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

「く、そ・・・・・っ!まだ・・・・・遠いのかっ!」

 

まるで赤子の手を捻るかのように軽くあしらわれた。その事が無性に悔しくて自室の壁を力任せに殴り付ける。

 

『ヴァーリ、そう気負うな。俺が宿ってきた中でグリットは間違いなく最強、あれだけ戦えただけでも十分だ』

 

アルビオンはフォローしてくれるが、彼との戦いは無様な姿を晒すばかりで気持ちが沈む。

 

戦うことは好きだが、滅多打ちにされて楽しめるほど変わった性癖はしていないつもりだ。

 

 

先ほどグリットと戦闘をした場所は神器の中。

 

戦闘経験を積むためによく神器に潜ったりするが、彼と戦うのはこれで七度目だ。何の気まぐれか、前兆もなく突然現れては勝負を仕掛けてくる不思議な存在。

 

初めて戦ったのは、確か・・・・・俺が禁手(バランス・ブレイカー)に至った時だから10歳くらいの頃だな。当時の俺は言葉通りの瞬殺で、何をされたのかも分からないくらいに圧倒的だった・・・・・。

 

禁手は、簡単に言えば神器の進化、奥の手。

俺やグリットの場合だと『白龍皇の光翼』がさっきのように純白の鎧姿『白龍皇の鎧』になる。

 

 

元の能力は“触れた相手の力を10秒毎に半減させ、自分の糧とする”ことだが、禁手だと際限なく半減させることができるんだ。

 

 

 

彼との戦いは神器の能力は互角でも、肉体面と技術面の両方で差が出てしまう。

 

だが、今回は少しだけ手応えがあった。ほとんど手を抜かれたが、5回の半減を使わせることができたのは自分でも嬉しく思う。

 

『しかし、歴代の奴等はまったく反応がないのに、何故グリットだけが意識を保っていられる?まあ、あの人外ならば何でも有りな気がするが』

 

ひ、酷い言い方だな・・・・・。

 

確かに、あの人は人間とは思えないくらい人間離れしているけど、生物学上では人間だったんだろう?

 

『信じがたいことにな。それにしても、何故“あれ”にならなかったんだ。そうすればグリットも少しは本気を出していたと思うぞ?』

 

“あれ”はまだ未完成じゃないか。

 

そんな力で勝てても俺は嬉しくない。だから、自分のものにしてからと決めたんだよ。

 

『そうか。ふっ、グリットの驚く顔を見る日が楽しみだ・・・・!』

 

ああ、次会ったときは目にものを見せてやるさ!

 

 

気持ちを入れ換えた俺は、汗でぐっしょりになったインナーを脱ぎ、新しいのに着替える。

 

ついでに昨日着た衣類も洗濯してしまうか。

 

よし、そうと決まれば早速行動あるのみ。

 

そして俺はせっせと洗濯を済ませ、次は城内の清掃に取りかかる。

 

因みに言っておくが、この城にはメイドや執事なんて都合のいい人は一人もいない。俺はいつもいつも雇えと願うが親父はそういうのをあまり好かないんだ。

 

それなのに、家事全般をするのは俺だけなのは可笑しいと思わないか?

 

親父が家事らしい家事をしたと言えば、以前に恐竜を丸々一頭持ってきたことくらいだな。

 

いや、これは家事に入るのか・・・・・?

 

それに、いま思えばどこで捕まえてどうやって運んできたのかも疑問だ。

 

まあ、親父に疑問は付き物だからそこは気にしない方がいいのかもしれない。

 

っと、そんなこんなで城の半分くらいが終わったな。

 

『相変わらず掃除速度がおかしくないか?まだ数分も経っていないぞ』

 

何を今さら言っているんだ、アルビオン。

慣れればこのくらい出来るさ。

 

『普通は出来ないから言っているんだ・・・・・』

 

何故かアルビオンに呆れられてしまう。変な所でもあっただろうか?

 

気になるが、今は掃除が先決。

それに、もう少しで昼の時間だから黒歌と白音のことも呼びに行こう。

 

 

その後も順調に掃除を進め、落ちない汚れがあった場合は汚れの落ちにくさを『半減』させて綺麗にしたりと、スムーズに終えることができた。

 

疲れるけれど、掃除は達成感があるから続けられる。初めの頃は、この城を隅から隅まで掃除するのにどれだけ時間が掛かったことか・・・・・。

 

俺は我ながら大した成長だと自負しながら厨房へ向かう。長く長く続く廊下をひたすら歩いていると・・・・・。

 

 

『にゃぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

『きゃぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 

奥の部屋から二人の悲鳴が響いてくる。

 

っ!?

 

黒歌と白音の声・・・・・!!

 

俺は神器を展開して悲鳴のした部屋へと一気に飛ぶ。その部屋は今はあまり使われていない宝物庫、という名の物置小屋だった。

 

まさかヒヒ達が?

 

いや、あれだけ教え込んだのにそれは考えられないか・・・・・。

 

何にしても、急いだ方がよさそうだ!

 

 

バンッ!!

 

 

宝物庫の扉を突き破る勢いで開けて中に入る。

 

 

「黒歌、白音!一体なに・・・・・・が・・・?」

 

 

視界に映り込んだ情報が予想外すぎて、思わず体と思考が停止する。

 

 

結果的に言ってしまえば二人は無事で、外傷もなく侵入者もいない。それだけを見ればここまで動揺することもないのだが、如何せん突然でね。

 

 

あぁ、何度見ても見間違いじゃないのか・・・・・。

 

 

 

「・・・・・何で、二人に耳と尻尾が?」

 

 

何とか頭を働かせて口に出してみる。

そう、二人の頭にはピコピコと動く動物の耳と腰辺りから生えている尻尾があった・・・・・。

 

 

「わ、私の方が聞きたいにゃん!」

 

 

「ヴァーリさん、私・・・・・獣に・・・・・」

 

 

黒歌は自身でも混乱しており、白音は生気が抜けきったかのように尻尾を見つめる。

 

二人とも耳と尻尾の色が違うな。

黒歌は黒色、白音は白色でイメージカラーというか髪の色と同じ毛色だ。

加えて黒歌は尻尾が二つもある。

 

それにしても、何でこんな事に・・・・・考えられるのは動物(ゾオン)系悪魔の実を食べるしか・・・・・。

 

・・・・・ん?悪魔の実?

そう言えば、以前に親父が海から帰ってきたときに『拾ってきた』と言って俺に譲ってくれたけど、食べる気になれずここに保管してたはず。

 

ま、まさか・・・・・!

 

「なあ、もしかして変な模様が入ったサクランボを食べたりしなかったか?」

 

「えっ?そうだけど、何でヴァーリが知ってるの?」

 

「黒歌姉さまと実を一つずつ分けて食べました」

 

うむ、どうやら確定らしい。

 

俺は思わず溜め息をついて額に手を当てる。

 

「あれはな、悪魔の実なんだよ。どんな能力か分からなかったが二人を見る限り動物系なのは確かだ。モデルはネコ科の何かだろう」

 

「「えっ・・・?」」

 

「これからは間違っても海には入っちゃダメだぞ?それから海楼石にも注意だ」

 

俺の説明を聞いていく内に二人からは血の気が引いていくように蒼白になる。

 

だけど不思議だな、一つの実から二人の能力者が出来るとは。サクランボ型だからか、姉妹だからか興味があるが今は二人を落ち着かせないといけない。

 

「ま、まあ、黒歌も白音も似合ってるからいいんじゃないか?」

 

まずい。俺、異性の落ち着かせ方なんか知らないんだった。こんな言葉を聞いたら逆に気分を悪くさせ━━━━

 

 

「そ、そう?・・・・・ならこのままでもいいにゃん!」

 

「ヴァーリさんがそう言うなら、私もこのままでいいです」

 

二人はゆっくりと尻尾を左右に振りながら頬を赤らめてそう言った。

どうやら大丈夫らしい。

 

うん、二人ともお世辞抜きで似合うな。元が美女と美少女だからこうなるのも頷ける。

 

俺はこれでも年頃の男なんだ、多少はドキッとしてしまうのは不可抗力だよ。それに何だろう、無性に守ってあげたくなるような・・・・・保護欲がくすぐられる。

 

『ほう、ヴァーリがなぁ・・・・・』

 

うるさいぞ、アルビオン。

 

 

何はともあれ、何時までも此処にいても仕方ない。今後の事を考えるのは後にして今は昼食だ。

 

「二人とも、一旦ここから出て昼食にしよう。何かリクエストはあるか?」

 

「はーい!カルボナーラがいいにゃん!」

 

「私はペペロンチーノが食べたいです・・・!」

 

右手を挙げると同時に二人の尻尾もピーンと垂直に立ち上がる。

 

すごいな、尻尾が感情豊かになってる。

 

二人がパスタ希望なら俺もミートソースにしようかな。さて、期待の眼差しが強いから張り切って作るとしよう。

 

「良ければ手伝ってくれてもいいんだけどな?」

 

「「・・・・・」」

 

「おい、何故目を合わせない」

 

不自然なまでに視線を外す黒歌と白音。

 

「だって料理出来ないにゃん」

 

「右に同じく」

 

「だからこそやらなきゃ駄目じゃないか。大丈夫、俺だって初めは碌に料理なんて出来なかったさ。何事も挑戦あるのみだぞ」

 

二人は渋々頷いて手伝いを了承してくれる。

 

 

その後、悪戦苦闘しながらも無事に三種類のパスタ料理は完成し、美味しく頂くことが出来た。

 

 




白龍皇の歴代最強はまだヴァーリでなく、オリキャラにしました。この世界のヴァーリは原作よりも魔力量は少ないけれど弱くはありません。

更に、黒歌と小猫は悪魔の実を食べるということにしました。無理矢理感が否めませんが、そこはご了承下さい。


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4話 修行の成果と気になる父


4話目にして初のまともな原作キャラ登場です。


 

黒歌と白音がうっかり悪魔の実を口にしてしまってから早一ヶ月。

 

そして、いつになったら帰ってくるのか疑問な親父が、海に出てから一ヶ月と一週間。

 

俺にとっては予想以上のことが沢山あった。

その全てが良い方という訳でもなく、少々頭を悩ませる事もある。

 

 

まず一つ。

 

元々暗いこの島が更に暗く寝静まる夜中に、こっそり俺の部屋に侵入する者がいる。

 

まあ、黒歌と白音しかいないが・・・・。よく考えて欲しい。

 

朝起きて隣を見ると黒歌の寝顔。

 

驚いて寝返りを打つとあるのは白音の寝顔。

 

加えて言わせてもらえば二人の就寝時の服装は着物だ。二人も寝返りを打つから当然着物がはだけてしまう訳で、目のやり場に困る。

 

朝から男として辛いが、これはまだマシな方だ。

 

 

一番厄介なのは二つ目

 

何と言っても入浴中に乱入してくること・・・・・・これしかない。

 

『背中を流してあげるにゃん』と言って黒歌が俺の体を撫でるように触ってきたり、『髪を洗ってください』と言って白音が膝の上に乗ってきたり。

 

気を許してくれてるのは嬉しいが、もし俺じゃなかったら野獣と化していたに違いない。自分でもよく堪えられたと思うからな。

 

 

二人は俺のことを兄のように慕ってくれる、俺にとっては妹のような存在だ。それなのに下心を抱き始めたら二人を裏切ることになる・・・・・。

 

 

ならば、確固たる意思を持って雑念を取り払ってやろう。

 

 

 

━━━━と、襲いかかる打撃と魔力弾を避けながら改めてそんな事を考える。

 

 

「ふっ・・・・・!えい!」

 

「鋭くていい拳だ。けど・・・・・まだ甘い」

 

白い猫耳と尻尾を生やした白音がスピードを生かして俺を翻弄し、隙を見て拳を放つ。

 

風を切る音が鳴るほどに澄まされているが、狙いがバレバレだ。俺は敢えて受け止めて、動きが止まった瞬間に軸足を払う。

 

白音は即座に地面に手を着いてバク転で距離を取った。

 

「姉さま、今です!」

 

 

ズドンッ!!

 

 

白音の声とともに、突然体を束縛するような重圧が襲いかかる。

 

思わず膝をついてしまった事に驚きつつ、下を見ると重圧の謎が判明した。

 

なるほど、この魔方陣は黒歌の仕業か・・・・!

 

先程から分かりやすい白音の攻撃もこの術式に誘導させるため、そして俺はまんまと引っ掛かってしまった。

 

「にゃん♪油断大敵だよ、ヴァーリ」

 

俺の後ろで黒い猫耳と二本の尻尾を生やした黒歌が笑みを浮かべて両手をかざしていた。

 

「まいったな・・・・」

 

神器『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を使えば脱出出来るが、今回は神器無しというルールだ。

 

だから、使えばルールを破った事になり俺は負け。ならば地力で抜けられるかと聞かれれば・・・・・・出来なくもないが時間が掛かる。

 

「白音、今にゃん!!」

 

「はい!」

 

黒歌と白音は俺の前後から凄まじい速度で迫ってくる。流石は動物(ゾオン)系能力者と言ったところか。

 

「くそっ・・・・!」

 

 

ビキビキ・・・・ッ!!

 

 

俺は足に万力のような力を込めて立ち上がろうとすると、地面と魔方陣にヒビが生じる。

 

あと、少し・・・・・!

 

 

強制脱出を試みたが━━━━━

 

 

ぎゅっ!ぎゅっ!

 

 

「捕まえたにゃ!」

 

「ヴァーリさん、捕まえました」

 

 

サンドイッチの具のように二人に抱きつかれた。

 

俺は一度大きく息を吐いてから再度力を込めて術式を破壊し、二人の頭を撫でる。

 

「まさか、捕まるとは思ってなかったな・・・・・。二人ともこの一ヶ月でよくここまで成長したよ」

 

「ヴァーリのスパルタのお陰だにゃん」

 

「はい、普通じゃありませんでしたから」

 

ああ、流石に俺もやり過ぎたと思った。

それでも必死に食らい付いてくる二人の気合いと底力に心底驚かされたよ。

 

 

先程の“戦闘”━━━━をイメージした遊び。

 

鍛え始めてから一ヶ月という節目に俺が考案したものだ。

 

ルールとしては至って単純、どんな手を使ってもいいから俺のことを捕まえること。

 

そして神器の使用は無し。

使ってしまえば捕まらない自信があるからだ。

 

まあ、使わずともまだ大丈夫だろうと余裕になってたらこの様さ。俺も一度、一から鍛え直してみようかな。

 

「ねえねえ、ヴァーリ。ちゃんと約束を覚えてるかにゃ?」

 

「ああ、覚えているよ。もう決めてあるのか?」

 

「はい!」

 

黒歌と白音は目をキラキラと輝かせて尻尾を振りながら俺を見上げてくる。

 

約束・・・・・・・そう、“もし俺に勝ったら二人のお願いを何でも一つ叶えてあげる”という実に嫌な予感がするものを開始前にしたんだ。

 

その時は負けるなんて微塵も頭に無かったから、すんなり了承をした。

 

『自業自得だ、ヴァーリ。油断をしなければ黒歌の術式に掛かることもなかったぞ。・・・・・・だがまあ、今は二人の成長を喜ぼう』

 

アルビオンは俺に呆れつつも笑みを含ませている辺り、まだ許容範囲ってことだろう。

 

この一ヶ月、戦闘に関しては俺が叩き込んだが、魔術はアルビオンに指導してもらった。

初めは乗り気じゃなかったアルビオンも何だかんだで生き生きとしてたな。

 

黒歌と白音から“アルビオン先生”なんて呼ばれて満更でも無さそうだったし。

 

 

「それでお願いは何なんだ?・・・・・出来れば優しいのだと嬉しい」

 

「ひどいにゃー、私たちが非情な事をおねがいするように見える?」

 

「まったくです。今まで良い子にしてたじゃないですか」

 

ふむ、非情じゃないのは分かる。良い子・・・・・?なのかは疑問に思うが一先ず良いとしよう。

 

 

「という訳で、私たちはヴァーリの一日所有権を要求するにゃん!」

 

黒歌は名探偵の如くビシッと指を俺に指す。

白音もそれに続いて指を向ける。

 

「私と姉さまで一日ずつですから、楽しみにしててください」

 

け、結構ノリノリなんだな・・・・・こういうのは恥ずかしがるかと思ってたけどそうでもないらしい。

 

 

って、一日所有権?

 

 

「それはつまり、一日中二人のものになるってことか?」

 

俺の問いに黒歌と白音は顔を真っ赤にさせてコクコクと頷く。

 

やっぱりそのポーズ恥ずかしいのか、と内心思いつつ以外と安全そうな要求に胸を撫で下ろす。

 

「わかったけど、俺の所有権なんかでいいのか?てっきり高額の宝石とかをねだるのかとばかり・・・・・」

 

「私たちにとってはある意味宝石よりも価値があるにゃん。・・・・・・・えへへ、ヴァーリと何しようかにゃ〜!」

 

「ヴァーリさんが私のものに・・・・!」

 

 

前言撤回だ、安全さの欠片も感じられないし悪い未来しか見えない気がする。

 

二人の目が獲物を狙うそれと同じなんだが・・・・・ちゃんと手加減はしてくれるのだろうか?

 

ま、まあ、きっと限度の範囲内で済ませてくれるはずだ。そう祈っておこう。

 

「はぁ、取り敢えず城に戻るか」

 

深くため息をついて、怪しげな妄想の世界に入り込んでいる二人を現実に呼び戻し城へ引き連れる。

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

「ウキッ!」

 

俺達は広間に行く道中にある廊下を歩いていると、箒と塵取りを持った一匹のヒヒに頭を下げられた。

 

「ご苦労様」

 

俺は片手を上げて返事をすると、今度は窓を拭いているヒヒに頭を下げられる。

 

「ウキャッ!」

 

「お疲れ様」

 

さっきのヒヒと同じように返す。

 

 

 

これもまた、一ヶ月の間で起きた事に含まれるな。

 

とある日にいつものように場内の清掃にせっせと取り組んでいたら━━━━

 

『毎日大変にゃん。ヒヒ達に手伝ってもらったら?』と黒歌に冗談混じりに言われたんだ。

 

しかし俺は、ナイスアイデアと思いすかさず行動した。

取り敢えず十匹程いれば十分だったため、ヒヒの溜まり場へ殴り込み・・・・・もとい訪問。

 

案外すんなり着いてきてくれたヒヒ達だったが、その行動を許さないヒヒもいた。一際大きな体と強者の匂いを漂わせるヒヒ━━━━つまりは長だな。

 

牙を剥き出しにして威嚇していたが、ちゃんと説明したら渋々うなずいてくれた。

 

そして城に連れていき、ヒヒ達に調きょ・・・・・教育を施して今に至る。

 

この島にいるヒヒは“ヒューマンドリル”という種で、人間を真似て学習する賢いヒヒだ。教えれば直ぐに覚えてくれるので大変助かる。

 

 

「まさか本当に実行するとは思わなかったにゃん・・・・」

 

 

「武装したヒヒ達を従えさせるなんて、一体何を・・・・・・・いえ、分かりきった事でしたね」

 

 

「白音、俺は暴力で全てを解決する程野蛮じゃないぞ?」

 

 

二人とも、本当に平和的な交渉だったんだよ。だからそんな目で見ないでくれ。

 

「冗談ですよ、ヴァーリさんは優しい人ですからそんな事しないってわかります・・・・・」

 

白音は小さく微笑んで此方を見上げてくる。

 

「そ、そうか」

 

ストレートに言われるとどうもむず痒い。

少し恥ずかしくなって白音から咄嗟に視線を外してしまう。

 

「白音、中々やるにゃん・・・」

 

ぼそりと黒歌が何かを呟いているが、あまり気にしない方がいい。よくあることだからな。

 

 

それから長い廊下を歩き、すれ違うヒヒに労いの言葉をかけて漸く広間に着いた。

 

広間と言っても、今では生活感溢れるリラックス空間に改造されてしまっている。

主に俺の手によって。

 

 

大きな両開き扉を開けて先ず視界に入るのは、豪華な装飾がついた長テーブルと椅子。

 

 

そして、その中でもクッション性に富んでいて見た限り一番高価そうな椅子に足を組んで座る男・・・・・。

 

整った口髭に鋭い瞳、首からは金の十字架のネックレスをぶら下げて優雅にワインの入ったグラスを口に運ぶ。

 

 

黒歌と白音にとって見知らぬ男で警戒心を高め、戦闘体勢に移るが俺は手で制止させる。

 

まったく、一言くらい掛けてくれればいいものを・・・・・。

 

 

「いつの間に帰っていたんだ、親父」

 

 

「「えっ!? 」」

 

 

驚愕する二人をよそに親父はグラスをテーブルに置いて至って冷静に返答する。

 

「お前たちが外でじゃれている時だ」

 

親父は俺から黒歌と白音に視線を移す。

 

「そこの小娘二人はどうした?」

 

「一ヶ月程前からここに住むことになった黒歌と白音だ。無断で決めたことは悪いと思うけど、どうか許してほしい」

 

親父の“鷹のような瞳”に見られて二人はビクッと肩を揺らすが、直ぐに視線を外して『好きにしろ』と一言だけ言う。

 

ふぅ、良かった・・・・。

 

もし拒否されたら説得するためにこの島の地形を変えることになるところだった。

 

 

「ねえ、ヴァーリ・・・・。私あの人何処かで見たことあるにゃん」

 

「姉さまもですか?私も見たことありますよ」

 

「ああ、新聞にもたまに載ったりするからその時に見たんじゃないか?何せ、“王下七武海”の一人で剣の腕は世界の頂点だからな」

 

「「えっ・・・・」」

 

二人が口を開けたまま固まってしまった。

前に言わなかったか?親父が七武海だってことを。

 

『言ってないから驚いているんだ・・・・・』

 

アルビオンは疲れたように言う。

 

そうか、なら教えなきゃいけないな。

 

「俺の親父は、知っての通り世界最強の剣士で“鷹の目のミホーク”の異名を持っている。それから、俺のフルネームも教えていなかったな」

 

 

一呼吸置いてから二人に告げる。

 

 

 

「━━━━━俺の名はヴァーリ。ジュラキュール・ヴァーリだ」

 

 




この世界ではヴァーリ・ルシファーではなく、ジュラキュール・ヴァーリですね、はい。


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5話 強者を求めて


早く戦闘に入りたい!


 

親父はあれから海に出ることはなくずっと滞在している。

 

今更な気もするがこの島の名前はクライガナ島、シッケアール王国という国の跡地だ。

 

何でも、五年前まで内乱が続いて滅んでしまったらしい。詳しいことは分からないが、俺と親父がここに越してくる時には酷い惨状だったさ。

 

辺り一面死体の山。

 

充満する血生臭さと火薬と鉛の臭い。

 

誰一人として生きているものはいなかった。

 

そんな人間の争いを見てヒヒ達は戦いを学習した。ヒューマンドリルは穏和な人間の側で育てば穏和な性格に。と言うことは、その逆もあるということ。

 

今では俺達の指導で清掃のプロフェッショナルに代わってしまったが、武器を持つよりはマシだろう。

 

次は料理でも教えてみるか・・・・・。

 

まあ、追々考えておくことにしよう。

それよりもだ、黒歌と白音・・・・・・頼むから親父を怒らせないようにしてくれ。

 

 

「パパ〜、お小遣いがほしいにゃん!」

 

「父さま、剣技を見せてください」

 

「小遣いなどやらん、剣技も見せるためにある訳じゃない。それにいつから俺は貴様らの父親になった?」

 

二人の上目遣いもまるで効果無し。

親父は今朝ニュース・クーから購入した新聞から目を離さずに淡々と答える。

 

まるで絶対零度だな。

 

「ヴァーリぃぃ、パパが冷たいにゃん・・・・!」

 

「父さまのけち・・・・・」

 

何度も繰り返しねだる黒歌と白音だったが敢えなく撃沈。

親父の反対側の席に座る俺のところまで来て二人はしがみついてくる。

 

「ははは・・・それは辛かったな。あ、親父、読み終わったら俺にも新聞を見せてくれ」

 

「わかった」

 

「ひどい!ヴァーリも対応があっさりしてるにゃ!?」

 

黒歌はポカポカと俺の頭を叩いてくる。

 

仕方ないだろう、黒歌。こればかりは俺でもどうにも出来そうにない。

 

強いて言うなら、せめて親父を『パパ』と呼ぶのは止めた方がいいんじゃないのか?

 

白音の『父さま』は良いだろうけど、パパって柄ではないだろ。

 

俺はじゃれてくる黒歌と白音を軽くあしらいつつ、ふと気になった事を思い出す。

 

「そう言えば、以前親父が言ってた大型ルーキー。結局七武海のメンバーに加わることになったのか?」

 

「俺の口から聞くよりも自分の目で見てみるといい」

 

親父はそう言って俺に新聞を投げてきたので受け取る。

 

パラパラとめくっていくと一人の男の顔写真がでかでかと取り上げられてるページを見つけた。

 

 

「スペード海賊団・・・・・“火拳のエース”・・・・・?」

 

白音はひょいと顔を出して新聞を覗き首を傾げる。

 

「白音は聞いたことないか?彗星の如く現れ、またたくまに名を馳せた大型ルーキーなんだが・・・・・どうやら七武海の勧誘を受けたらしい」

 

「じゃあ、そのエースって人もパパと同じくらい強いのかにゃ?」

 

黒歌も反対側から顔を出して問い掛けてくる。

 

「うーん、七武海だからって等しく実力が並ぶとも限らないし・・・・・火拳のエースも強いだろうが親父程じゃないと思う」

 

事実そうなのだろうが、親父がこの場にいるのに『火拳のエースの方が強い』なんて言えるわけがない。

 

 

俺は記事を読み進めていくと、ある部分でピタリと目の動きを止めた。

 

 

「へえ、勧誘を蹴ったのか」

 

 

そこには『海賊“火拳のエース”が王下七武海への勧誘を拒絶』と書かれていた。

 

七武海に加入すれば指名手配、懸賞金が解除されたり何かと優遇されるものだが、彼には魅力が足りないのかそれとも興味がないのか・・・・・。

 

まったく、面白いじゃないか。

 

 

「親父」

 

 

 

「・・・・・何だ?」

 

 

俺は自然に口角が上がるのを感じながら椅子から立ち上がる。

黒歌と白音は驚くが親父は普段通りのポーカーフェイス。

 

 

 

「ちょっと海に出てくる」

 

 

「そうか。言っても聞かないだろうが一応言っておく。━━━━問題は起こすな。俺が面倒になる」

 

 

流石は親父、俺をよく分かってるな。

こんな面白そうな相手と戦わずしてどうする。

 

『はぁ、そうだな・・・・・ヴァーリはそう言う性格だった。黒歌と白音が来てから大人しくなったと思えばまたこれか』

 

最近アルビオンがため息をつく回数が増えた気がする。気のせいだといいが。

 

いいじゃないかアルビオン。

日々を平和で過ごすのも捨てがたいが、俺はやはり戦いに身を投じる方がいい。

 

俺は必要最低限の準備をしようとすると、黒歌に手を掴まれた。

 

「もしかして、その子の所に行くのかにゃ?」

 

「ああ、勧誘を受けるほどの実力をこの手で確かめてみたくてね。暫くまともに戦っていなかったから疼いて仕方ない」

 

「急ですね・・・・。場所は特定しているんですか?」

 

そう言って白音も俺の服の裾を握る。

火拳のエースは海賊。二人にとって海賊は恐怖の対象に他ならない。

 

俺はなるべく安心させるように笑顔で答える。

 

「まだ新世界には入ってないそうだから偉大なる航路(グランドライン)にある島を転々と回れば何れ見つかるよ」

 

「そ、そんなの時間がいくらあっても足りないにゃん・・・・・・・って、言いたいけどヴァーリなら出来るもんね」

 

「姉さま、諦めましょう。だってヴァーリ兄さまですから」

 

黒歌と白音はふぅ、と息を小さく吐いてから手の力を緩める。どうやら二人も俺の事を随分理解してきてるらしい。

 

流石は自慢の妹たちだ。

 

よし、そうと決まれば荷造りを始めよう。

 

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

 

城から約徒歩二十分にある寂れた港。

そこでゆらゆらと揺られているのは二つの舟。

 

一つは棺桶を模したような小舟で通称“棺船”、これは親父が航海に出るときに使用するものだ。

 

その隣にある船は親父の船に比べてかなり大きく白を基調としていて、形が普通の船と異なる部分がある。

 

それはなんと言っても、右舷と左舷に取り付けられている白い翼だろう。

 

形は俺の『白龍皇の光翼』に酷似している。

 

何故翼があるのか、それは当然空を飛ぶためだ。

 

動きとしては、船底に設置されている四つの噴風貝(ジェットダイヤル)と呼ばれる不思議な貝殻から噴出される風で船を浮かび上がらせ、進む方向に俺が魔力で操作する。

 

以前は全てを魔力でコントロールしていたが、宝物庫に一つ、とある商人から二つ、見知らぬ海賊から一つ頂いた噴風貝のお陰で大分楽になった。

 

この貝殻は非常に珍しいらしいが、偶然が重なって四つも手に入れられたんだ。

 

天候次第で速度は落ちることもあるが、それでも帆船よりも断然速い。

 

丸一日掛かる航海も少し本気を出せばこの船なら数時間で到着できる。特殊な加工を施したこの船体にも多少の負荷がかかるため、滅多に本気は出さないが。

 

 

「これで最後だな・・・・・・なあ二人とも、本当に着いて来る気か?」

 

食料や着替え、それなりの額の金をヒヒ達と一緒に運んだ俺は黒歌と白音に確認をとる。

 

「勿論にゃ。海に出るのも久しぶりだし、何しろ楽しそうにゃん」

 

「姉さまと兄さまが行くのに私が行かないわけにいきません。お留守番はヒヒ達と父さまに任せましょう」

 

「けど、大丈夫なのか・・・・・?」

 

二人はそう言っているがあまり納得は出来ない。

 

海賊にトラウマを持っている黒歌と白音を海賊に会わせるのは気が引ける。それに、危険な目に合わせたくない。

 

「私たちだって強くなったにゃん。もし襲われても返り討ちにしてあげるにゃ。・・・・・それに、ピンチになったらヴァーリが助けてくれるでしょ?」

 

悪戯な笑みを浮かべて言う黒歌に俺は頭を悩ませる。

 

俺とアルビオン、途中から親父も混ざって二人を鍛えたんだ、強くなったのは確実。

 

でも、戦う術を身に付けさせたとしても怪我はさせたくないんだよ。

 

まあ、黒歌の言うとおり俺が全力で守ればいいのだが・・・・・。どうするべきなんだ?

 

 

 

━━━━━脳内で思案すること数分。

 

 

 

ふむ、結局二人も同伴することになってしまった。

 

ハイタッチをしている黒歌と白音の横で俺は海から錨を引き上げる。

一息着いてからヒヒ達のいる港の方に向いて手を上げた。

 

「それじゃあ、親父の身の回りと城の事は任せた」

 

『ウキッ!!』

 

ヒヒ達も同じように手を上げて元気に返事をする。

それにしても、いつの間にかヒヒの数が増えているような・・・・・。初めは十匹だったのに今では三十匹はいるぞ。

 

城は広いから人手・・・・・ヒヒ手は多いに越したことはないけど、君たちの長はどうした長は?

 

そんな簡単に住み処を抜け出して城に住み着いてもいいのか。怒られても俺は責任をとらないからな?

 

 

 

全ての準備が整い、いつでも舵輪の隣にある噴風貝の作動レバーを動かせる状態でいる。

 

すると、ヒヒの群れを二分して歩いてくる人影が一つ。

 

あれは・・・・・親父?

 

見送りに来てくれるなんて珍しいな。

 

「ヴァーリ、これを持っていけ」

 

親父が俺に向かって一本の刀を放り投げる。

 

「おっと」

 

危なげなく受け取ってまじまじと見つめる。

 

柄と鞘は一切の穢れを感じさせない純白さだ・・・・・。

自分で言うのも何だが、俺の鎧といい勝負が出来そうなくらいに白い。

 

すっ、と鞘から刃を全て出すと一瞬吸い込まれそうな錯覚に襲われる。

 

それほどまでにこの刀は美しい。

暗いこの島を照らし尽くしてくれそうにも思える。白龍皇にピッタリの刀だな。

 

「凄く綺麗にゃん・・・・」

 

「キラキラしてます・・・・・」

 

黒歌と白音はうっとりした表情でこの刀を見つめる。既に虜になってしまっているが、それも頷ける話だ。

 

 

試しに刀を振るってみようと柄をしっかり握る。

不思議としっくりきて相性は悪くない、というかむしろ良い。

 

 

ヒュンッ!ヒュンッ!

 

 

適当に二振りしてみたけど、見た目と違って結構重量があるが・・・・・。

 

俺にはこれくらいが丁度いい。

 

 

刀のチェックを終えた俺は鞘に納めて帯刀する。

 

 

「━━━━━その刀は大業物21工の内の一つ。名は“白火(はくび)”だ。切れ味は勿論のこと、硬度は黒刀にも引けをとらないと言われている」

 

「大業物・・・・・!そんな珍しい代物を俺の為に手に入れてくれたのか?」

 

まさか、親父が一ヶ月以上も帰ってこなかったのは白火を入手するため・・・・・だったのか。

 

 

俺の問いかけに親父は口元に笑みを浮かべながら答える。

 

「仮にも俺の子を名乗るなら刀の一つでも携えてなければな。要らなければ受け取らなくてもいいぞ?」

 

「いや、ありがたく使わせてもらうよ!」

 

親父は満足そうに小さく頷くと、何も言わずそのまま踵を返して城へと戻っていく。

 

『行ってらっしゃい』の一言でもくれれば文句無しだったんだが・・・・・・・相変わらず不器用な人だ。

 

小さくなっていく親父の背中を見て苦笑を浮かべる。

 

そんな俺の後ろで黒歌と白音がプンスカと怒りの声を上げていた。

 

「何で私達には冷たかったのにヴァーリには優しくするのか納得いかないにゃん!!」

 

「全くです。これはヴァーリ兄さまに膝枕してもらうしかなさそうですね」

 

「あと頭なでなでも追加にゃ!」

 

 

何故そこに考えがいくのかわからん。

俺はただ親父から刀を貰っただけなのに・・・・・。

 

 

まあいい、そろそろ出航するか。

何時までも駄弁る訳にもいかないし、何より早く白火を実践導入したい。

 

 

俺は元気に騒いでいる妹達をスルーして作動レバーを引く。

 

ガゴン!という音の直後に海面から次々と泡が出て来て、次第にその量も増えていく。

 

噴風貝の風圧を少しずつ強めて、船底が海面から完全に離れたことを確認したら━━━━

 

 

 

一気に風圧を高める!

 

 

 

ゴオオオォォォォオオオオッ!!

 

 

 

凄まじい音と共に船体が急上昇。

その高度はみるみる上がっていき、雲の一歩手前まで浮かび上がる。

 

もう少し出力を上げれば雲の上まで行けるが今はそこまで必要ないだろう。

 

 

「にゃ〜〜!空を飛ぶなんてやっぱり夢みたいにゃん」

 

 

「姉さま、そんなに体を出したら海に落ちちゃいますよ!」

 

 

手摺から身を乗り出す黒歌に慌てて止めさせる白音。

 

黒歌・・・・・・能力者何だから気を付けてくれ。落ちても速攻で助けに行くけど、それでも心臓に悪い。

 

 

「ふぅ、よし、それじゃあ出発しようか」

 

 

俺は船尾周辺を魔力で進行方向に押すようにコントロールする。

 

簡単そうに見えて意外と神経を使うが、慣れれば造作もない。多少魔力も消費するけど戦闘に支障が出るほどのものでもない。

 

 

天候は良好、お陰でコントロールもしやすいな。

 

 

さあ、目指すは火拳のエース。

見つけるのは一体いつになるのかな・・・・・?

 

 

 

 




噴風貝四つで船を飛ばせるのか疑問ですが、とにかく飛ばせたかったんです・・・・・。
他にも疑問に思う人もいるかもしれませんがご了承下さい!

それと、ヴァーリの船の名前をどうしようか迷い中ですので良ければアドバイスを頂ければ嬉しいです。


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6話 猫は甘えん坊

今回も戦闘らしい戦闘はありません!

そして、お気に入りが100件を越えました!!
目を通してもらえるだけでも嬉しいのに・・・・・本当に有難うございます!!



偉大なる航路のとある春島。

少々小ぶりな島ではあるが、辺りに満ちる活気はどの島にも負けていない。

 

そんな島に上陸した俺と黒歌、白音は船を停泊させて上陸。

 

記録指針(ログポース)のログが溜まるまでの間、情報収集と休憩を兼ねてぶらぶらと観光をすることにした。

 

火拳のエースとは最終的に戦えれば俺としても満足で、今すぐ拳を交えないと気がすまない、なんて気が短い訳じゃない。

 

この島に来る道中で襲ってきた海賊共で白火の試し斬りも出来たし、今はゆっくりと過ごして楽しもう。

 

 

 

広い石畳の街道の至る所に花壇が設置され、色とりどりの花達が俺達を出迎える。

 

その街道を挟むように背が似たような店が奥まで続いている。食材、服、雑貨、はたまた武具など多種多様で興味を引くものばかり。

 

「良いところだな、クライガナ島より随分明るくて綺麗だ」

 

「あそこが特別暗すぎるんですよ・・・・・」

 

「にゃははは・・・・・。正直、新鮮な空気が恋しかったにゃん」

 

白音と黒歌はそれぞれ俺の隣で苦笑を浮かべる。

 

どうやら二人にとって余り好ましい環境じゃないらしい。

 

正直言って・・・・・俺もあそこの空気には偶に、本当に偶にうんざりしてしまう時がある。

だから気分転換にこういうのも良いのかもしれない。

 

と言っても、親父がいる場所で軽率な発言をした時には無言で斬撃を飛ばしてくるから十分注意だ。

 

 

「ログは一日で溜まるそうだから行きたい所にどんどん行こうか」

 

二人にそう言うと、黒歌は何かを思い付いたのか純粋とは言えない笑みを見せる。

 

「ん〜でも〜、人が多くてはぐれそうで怖いにゃーん」

 

「く、黒歌!?」

 

何とも態とらしい口調で俺の右腕に左腕を絡ませてきた。その行為で一瞬で心臓が跳ね上がる。

 

ま、まてまて・・・・・落ち着け俺!

黒歌が完璧とも言えるプロポーションの持ち主で、その柔らかさが尋常じゃないからって相手は妹だぞ!

 

深呼吸、深呼吸だ。取り敢えず落ち着こう。

 

 

・・・・・。

 

 

よし!

 

 

「あー、私も怖いですー」

 

落ち着いたそばから棒読みの白音が反対の腕をロック。

失礼極まりないけど・・・・・黒歌と比べたら涙が出そうな程に実りの無い体だが、女子特有の柔らかさはばっちりだ。

 

くっ・・・・・!

アルビオン、俺はどうすればいいんだ!?

 

『ふむ・・・・・専門外だが、今はそのままで良いんじゃないか?。何より、二人が幸せならヴァーリも本望だろう?』

 

ま、まあ・・・・・否定はしない。

 

アルビオンの言うとおり、今はこのままでもいいか・・・・。

恐らく二人に言っても離れてくれるとは思わないし。

 

半ば諦めモードの俺は黒歌と白音と共に町を巡る。

二人は子供のように目を輝かせてあちこちへ引っ張るから俺の身が持つかどうか・・・・・。

 

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

 

一通り町を探索し終わった俺達は、町の一角にある噴水広場へ移動した。

 

そこにはアイスとクレープの屋台があり、黒歌はクレープを、白音はアイスを買って近くに設置されているテーブル付きのベンチに座る。

因みに俺は別の所でコーヒーを頼んだ。

 

「ふぅ、あまり良い情報は手に入らなかったな・・・・・」

 

カップに口をつけてコーヒーを渇いた喉に流す。

ほろ苦さが口の中に広がるが、それがまた好ましい。

 

「ヴァーリ、クレープ一口あげるから元気出すにゃん。はい、あーん」

 

黒歌は食べかけのクレープを俺の口元に近づける。すると、白音はむっとした表情でアイスを乗せたスプーンを同じように近づける。

 

「いえいえ、姉さまのより私のアイスの方が元気出ますよ。あーん」

 

「何言ってるにゃん白音?ヴァーリはクレープがほしいって言ってるにゃん」

 

「姉さまこそ、ヴァーリ兄さまはアイスが良いと言ってますよ?」

 

いや、そもそも俺は何も言ってないぞ・・・・・?

 

二人が無言で睨み合って火花を散らしているのを見て内心そう呟いた。

 

普段はべったりくっつく程に仲良しな姉妹だけど、こんな風に小さなことで喧嘩を始めることがある。

喧嘩するほど仲がいいとはこの事か。

 

でも、公共の場で口論なんかしたらいい迷惑になってしまう。流石にそれはいただけないな・・・・・。

 

俺は言い合ってる黒歌と白音の手を掴んで、クレープとアイスを同時に口の中に入れる。

 

「「えっ!?」」

 

「うん、美味いな」

 

クレープの生クリームと甘酸っぱいイチゴソース、それにバニラアイスの冷たさが口いっぱいに広がる。

 

二人もこれなら文句は無いだろう。

 

「まったく・・・・・喧嘩なんてするんじゃない。折角観光も兼ねてるんだから楽しく行かないと損だぞ?」

 

「で、でも白音が!」「姉さまが!」

 

「仲良く、だ」

 

「「むぅ・・・」」

 

俺の言葉に黒歌と白音は納得がいかない様子だったが渋々頷く。

 

「分かればよろしい」

 

そんな二人の頭を優しく撫でる。

ムスっとしていたが、次第に猫のように目を細めて気持ち良さそうに身を委ねてくる。

まあ、実際に猫なんだが・・・・・。

 

やばいな、普段も当然可愛いが今この瞬間は特に極まってる。

 

『ヴァーリは既に兄バカの域に達しているな』

 

ふっ、今の俺には誉め言葉にしかならないぞ、アルビオン。

この気持ちは実際に体験しないと分からないからな、是非とも伝えてやりたいものだ。

 

『何故だかわからんが、凄く腹が立つな。・・・・・まあいい。それよりもだヴァーリ、少々厄介な事が起きるかもしれん』

 

なに・・・・?それは一体━━━━━

 

 

 

『きゃあああぁぁぁぁぁああッ!?』

 

 

 

アルビオンに問い掛けようとする前に甲高い女性の悲鳴が遠くから聞こえてきた。

俺達を含めたこの場にいる全員が声のした方を不思議そうに向く。

 

面倒事じゃなければいいんだが・・・・・。

 

二人の撫でる手を止めて目を瞑り、周囲の気配察知に集中する。

 

親父の殺気全開のスパルタで嫌でもこの気配察知の力が身に付いたんだよな・・・・・。というか、身に付けなきゃ殺されるレベルだった。

 

黒歌と白音も気配を探れるそうだが、それは俺のと違って悪魔の実の能力の一部だ。

なんでも、“気”を操ることで出来るとか・・・・・。

アルビオンはその力を知っていて、名を『仙術』と呼んでいる。

 

「結構いるにゃん・・・・・」

 

「とても平和そうな気ではないですね・・・・」

 

名残惜しそうな顔をしていたのも一瞬の内で、二人も俺と同様に気配を探っていたようだ。

 

港付近で20・・・・・いや30人。海賊かは知らないが善人ではないだろうな。

 

先程の悲鳴で周囲がざわつき始めた時、港方面から大勢の人が我先にと地響きを起こして走ってくる。

 

「海賊だあぁぁぁ!!海賊が攻めてきたぞぉぉ!!」

 

「な、なんでこんな島に海賊が!?」

 

「知らねぇよ!?そんな事よりさっさと避難しないと殺されるぞ!!」

 

島の住人、観光客は海賊が攻めてきたことを叫びながら必死に中心部、またはその奥へ逃げていく。

 

この島だけでなく近辺の海にも海軍の支部は無いため、助けにくるとしてもどれ程時間が掛かるか・・・・・。

 

周囲が逃げ惑う中、俺達は特に焦ることもないので各自頼んだものを完食していく。

その途中で避難を促されたが、お気遣いなく、と丁重に遠慮させてもらった。

 

それから少しして、この町の男達が武器を手に持って港へ駆けていく。

 

「皆!この町を!家族を守るぞぉぉ!!」

 

『おおぉぉぉッ!!』

 

しかし、その人数は海賊と比べると少なくて十数人しかいない。それに、戦闘慣れした相手に素人が敵うとも思わない。

 

 

 

老若男女が集っていたこの噴水広場も今では俺達だけ。

 

遠くからは野蛮そうな雄叫びや銃声が聞こえてくる。

 

不愉快極まりない・・・・・耳障りだ。

とてもじゃないが心を安らげそうにもないな。

 

俺は椅子から立ち上がり、テーブルに立て掛けていた“白火”を帯刀する。

 

黒歌は首をかしげて俺に問う。

 

「助けに行くのかにゃ?」

 

「まさか。それは海軍の仕事だ。俺はただ、この耳障りな音を止めさせるだけだよ」

 

「同じようなものじゃないですか。兄さまは父さまに似て素直じゃありませんね」

 

白音はやれやれと肩を竦める。

 

白音、親父が素直じゃないのは認めるが俺はいつも素直だぞ?

それに、食後の運動として丁度体を動かしたかったんだ。

 

『コーヒー一杯とクレープ、アイスを一口食べただけじゃないか。人助けをするのに何を恥ずかしがる必要がある?』

 

俺の中にいる皇帝様がよく分からないことを言っている。

 

人助けなんかじゃないさ。

これはただの自己満足というやつだ。

 

『そうか・・・・。まあ、それが本心かどうかは知らないが、俺も戦うことには賛成だ。最近じゃ俺の力を使うほどの相手に出会わないからな』

 

アルビオンが物足りなさそうにそう言うのも頷ける。

 

戦うにしても殆んど俺の基本スペックで対処できてしまうんだ。黒歌と白音の実力も高まってるから尚更な。

 

だから今度の相手には期待したいところだ。

 

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

 

━━━━━と、思ってたんだが・・・・・・・・・。

 

 

「この程度か」

 

 

俺は眼前で気を失って倒れている29人の海賊共と、恐怖で全身が震えている船長に落胆の目を向ける。

 

俺達が港に到着した頃には海賊に挑んでいった男達が全員やられていた。

 

黒歌と白音が慌てて仙術と回復魔術で応急処置をしているから命に別状は無い筈だ。

 

その間に、何故か身体中がボロボロで包帯を巻いた海賊共と戦ったんだが・・・・・・・結果は見ての通り。

 

俺は持参してきた指名手配書をパラパラめくって本人と照らし合わせる。

 

船長は黒い髪を2本に束ねM字型の触覚のようにする特徴的な髪型、顔を見てもどうやら本物のようだ。

 

「アクメイト海賊団船長“デビル・ディアス”。懸賞金は4000万ベリー・・・・・か」

 

海軍の基準は随分と低めに定められているんだな。

 

いくら傷だらけでも本当に4000万ベリー掛けられていたのか疑いたくなる。

それに案の定、神器は使わず白火さえ引き抜かなかった。

 

デビル・ディアスは膝が笑い、手に持つサーベルをカタカタと震わせながら後退りする。

 

「ち、ちくしょう・・・・!何なんだこのバケモノは!?」

 

「俺程度を化け物と呼ぶなら親父は一体何だというんだ・・・・・。いや、考えるのは止めよう」

 

脳裏に世界最強の黒刀を持つ最強の剣士が浮かんだが一瞬で消し去る。

 

俺は掌サイズの魔力弾をデビル・ディアスに向けた。

 

「それでどうする?大人しくこの島から消えれば見逃してやるが、まだやる気なら海軍に突き出して海賊人生を終わらせてやるぞ」

 

「こ、ここから居なくなるから見逃してくれ!!おれァ監獄なんかに入りくねぇんだ!!」

 

ディアスはサーベルを投げ捨てて敵意が無いことを慌てて証明する。

 

この男には海賊としてのプライドは無いのか。

それに、仲間には目もくれず己の命だけを考えているとは、つくづく格の低い。

 

「ならさっさと仲間を連れて去れ」

 

俺は吐き捨てるようにそう言うと、ディアスは気絶している仲間達を次々に船へ乗せていった。

 

まったく、もっとましな海賊はいないのか?

せめて火拳のエースはこんな無様な男ではないと願いたい。

 

ディアスが最後の一人を担ぎ上げて船に向かう。

 

「・・・・・・・くそっ、火拳の次はバケモンかよ・・・・・!」

 

ぼそっと、それこそ自身にしか聞こえないくらいに小さく彼が呟いたのを俺は逃さなかった。

 

背を向けて走るディアスに待ったをかける。

 

「まて、いま火拳と言わなかったか?」

 

ビクッと体を震わせて錆び付いたかのように首を此方に向ける。

 

「うぐっ、た、確かに言ったぜ。そ、それがどうした?」

 

「俺達は火拳のエースを探しているんだ。何か情報を持っているなら大人しく吐け。・・・・・尤も、傷を増やしたかったら話は別だが」

 

「・・・・・!」

 

再び魔力弾をディアスに向けると首が取れそうなくらい上下に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

 

プライドの欠片もない船長、デビル・ディアスが言うには数日前に火拳のエースに挑んで返り討ちにあったんだそうだ。

 

七武海に勧誘された海賊を倒せば俺の名声が世に広まる、そう思って挑んだらしい。

 

ディアスの言っていることが本当なら、此所からそう遠くない島に火拳のエースは滞在している。

 

俺の船なら一時間弱。

明日、ログが溜まり次第すぐにここを発つとしよう。

 

それと、この島を襲った理由としては単なる八つ当たりで、偶々居合わせた俺に再度返り討ちにされてしまったと・・・・・。

 

完全に自業自得じゃないか。

 

「も、もういいだろ?教えられるような事は全部話したぜ」

 

「ああ、呆れるほどの内容だったが十分だ」

 

俺の言葉を聞くとディアスは急いで船に乗り込み、仲間を叩き起こして出航させた。

 

実に下らない戦闘だったが、それを上回るくらいに良い情報が手に入り喜びを感じる。

 

「あれ?もう終わっちゃったのかにゃ?」

 

黒歌と白音が 額に汗を浮かばせて此方にやってくる。

 

どうやら手当ては一通り終えたようだ。

 

「ああ、たった今終わったよ。二人は大変だったろう、お疲れ様」

 

「「にゃぁ・・・」」

 

頭を撫でてあげると二人の猫耳がピコピコと動き、尻尾は左右にスイングする。

 

ああ・・・・・癒しだ。

いつまでも撫でていられる。

 

「よしよし。あ、そう言えば火拳のエースの居場所が特定できたよ・・・・・・・って、聞いてないな」

 

「うにゃ〜ん♪」

 

「にゃん♪」

 

黒歌と白音は甘えのスイッチが入って俺の胸に頬擦りしてくる。

 

獣人型だと不思議なことにいつも以上に甘えやすくなるんだ。

当然、戦闘とのメリハリはつくんだが、これは悪魔の実の影響なのだろうか・・・・・。

 

スイッチが入ると殆んどが猫語で、黒歌はいつもだが白音も『にゃん』と言う。

 

白音が『にゃん』だぞ?

 

普段とのギャップで思わず抱き締めてしまったのは仕方ないと思う。

勿論、黒歌も一緒だ。

 

こうなったらとことん撫でまくってやろう。

 

 

━━━━━結局、避難していた町人が様子を見に来るまで俺は可愛さ溢れる妹達を愛で続けてしまった。

 

 

 




デビル・ディアスは懸賞金6000万ベリーでしたが、2年前だと4000万ベリーくらいですかね?

それと、今回もまったくといって良いほど戦闘シーンが無くてすみません・・・・・。
次回からは漸く戦闘に入っていけそうです。


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7話 ナースは天使

遅れてしまって申し訳ありません!
最近急がしくって・・・・・。

あと、今回も戦闘に入れず何とお詫びしたらいいのやら・・・・・。




 

「ヴァーリさん。海賊を追い払うだけでなく、怪我人の手当てまでしてもらって何とお礼を言ったらいいのか・・・・・」

 

 

ご老人・・・・・否、この町の長が曲がった腰を更に折り曲げる。

 

俺がアクメイト海賊団を追い払った少し後に、一部の町人とこの町長が様子を見に来たんだ。

 

黒歌と白音を愛でているところを見られて何とも気まずい雰囲気になったが、背を向ける海賊船を見て直ぐに歓喜に包まれた。

 

そして今、海賊を追い払った俺に町人がぞろぞろと集まりだして、町長が代表で話しているってところだな。

 

「気にしないでくれ、ただの自己満足だからな。それに手当ての事ならこの二人に言ってやってくれないか?」

 

「おお、それは失礼しました。お嬢さん方、改めて・・・・町の者を助けていただきありがとうございます」

 

深々と頭を下げる町長に、黒歌と白音はあわあわと手を振る。

 

「あ、頭を上げてほしいにゃん!私たちはただ放っておけなかっただけで・・・・・!」

 

「そ、そうですよ。お礼を言われるほどの事じゃありません・・・・・!」

 

面と向かってお礼を言われる機会が少ないせいか、二人のこんな姿は久しぶりに見た。

 

照れてる二人もたまらないな・・・・・・ん?

 

妹たちを微笑ましく見ていると、集団の中に鼻の下を伸ばしている輩を数名発見する。

 

まあ、見とれるのも無理はないか。

 

黒歌は見た目の妖艶さとは裏腹にどこか子供っぽくてよく甘えてくる。けれど、白音の姉としては頼りになるいいお姉さんだ。

 

白音は体は小さいけれど、どこか大人びている。俺と二人きりの時は服の裾をちょんと摘まんだり、膝の上に座ったり小動物のようだ。

 

まあ、つまり二人は可愛い。

その一言に限る。

 

この可愛さを共有できるのは嬉しく思うが、下心が見え見えなのが駄目だな。

 

お兄さんは妹たちを全力で守るぞ。

 

俺はその輩に向けて軽めの威圧をかけた。

 

「「「・・・・・っ!?」」」

 

すると、ビクッと体を震わせて辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

よし、そうやって探し続けていろ。

 

俺は表情を変えずに内心で嘲笑する。

 

というか、勇敢に戦った男たちはスルーでいいのか?本来は俺よりもそっちを優先すべきだと思うんだが・・・・・。

 

ふと疑問に思ったので町長に問いかけると、『あっ』と声を漏らして男たちの側に駆け寄る。

 

 

いや、町長もう遅い。

 

 

他の町人も苦笑いを浮かべて後を追いかける。

 

これ程までに悲しいことはない。

酷く傷つき、気絶している男たちの瞼の隙間から、一筋の涙が流れているのは痛みのせいか、はたまた悲しみのせいか・・・・・・。

 

どちらにせよ、少し同情してしまう。

 

俺は悲しい怪我人達を病院まで運ぶのを手伝い、序でに海賊共に荒らされた港を魔力で元通りにした。

 

修復するには破壊される前の姿形を記憶しておく必要があるが、俺は記憶力に自信があってな。

アルビオンの記憶も頼りに、無事に再現させることに成功した。

 

当然周囲の人には驚かれたが『悪魔の実の能力だ』と言えば大抵納得してくれるのが現実。

だから多少は張り切っても問題はない。

 

因みに黒歌と白音は病院でお手伝いだ。

 

ナース服を用意してもらったそうで、着替え終わって見せに来てくれたときは俺の心臓がどうにかなるかと思ったぞ。

 

二人は何でも似合うからなぁ。

 

頭の中でナース服姿の天使のような可愛さの二人が鮮明に写し出される。

 

『よくその感情を表に出さないでいられるな』

 

アルビオンは感心と呆れ半々くらいでそう言う。

 

始終ニヤけてるよりポーカーフェイスを貫いた方がいいと思うけどな。

 

まあいい。ここでの作業も終わったことだし妹たちの頑張ってる姿でも見に行くか。

 

俺は港を後にして中心部へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

 

手伝いが一段落ついた俺達は、今病院の入り口にいる。

 

ナース服だった妹たちは、黒歌が黄色い帯の黒い着物、白音が赤い帯の白い着物に着替えている。

どちらも丈が短く膝上だ。

 

ただでさえ露出が過ぎるというのに、黒歌はよく着物をはだけさせる傾向にある。

 

無論、俺がその度に正してやるけどな。

 

しっかりと正しい着こなしをしている黒歌と白音は大事そうに袋を抱える。

 

「この服、本当に貰っていいのかにゃ!?」

 

「もちろんよぉ!あなた達のお陰で凄く助かったもの!」

 

口調は女性のそれだが、容姿は筋骨隆々でスキンヘッドの男。

 

俗にいうオカマというやつか・・・・・初めて見た。

 

この男・・・・・女?いやオカマはこんななりでも腕の立つ医者らしい。

その剛腕で救ってきた人の数は数えきれないほどで、数年前まではどこぞの雪国で技術を磨いていたとか。

 

彼の経歴に興味があるが、まずは言っておかなきゃいけないことがある・・・・・。

 

俺は彼の大きい肩にポンと手を置く。

 

「ナース服・・・・・眼福だった!」

 

「うふふ、喜んでもらえて何よりよ」

 

俺達はガシッと握手して厚くて硬い友情を築いた。

 

彼の外見こそ凶悪そのものだけど、やはり人は中身だな。あ、だからってオカマが好きという訳じゃないから誤解しないように。

 

「白音、これでヴァーリを看病して悩殺するにゃん・・・・・」

 

「はい、姉さま。では仙術で兄さまの気を少し乱して風邪にしましょう・・・・・」

 

黒歌と白音が後ろでコソコソと話し合ってる。

 

仙術がどうとか言ってる気もするが・・・・・よく聞こえない。

まあ、特に変なことでもなさそうだから大丈夫か。

と、疑問を頭の隅に追いやる。

 

その後、俺達は軽く雑談してからもう一度お礼を言って彼と別れた。

 

 

 

 

 

▽▼▽

 

 

 

 

 

気づけばもう太陽が赤みがかっていた。

俺達は町長の用意してくれた宿で各自リラックスしてる。

 

一人一部屋割り当てられているが、就寝までの間は俺の部屋に集合という形になっていた。

 

黒歌はベッドにうつ伏せ。

俺はソファに座って白火の手入れ。

白音は俺の膝に頭を乗せてうつらうつら。

 

「二人とも、眠いなら部屋に戻ってもいいんだぞ?明日は早いんだから、疲れをしっかりとらないと」

 

「ん〜、じゃあ今日はここで寝るにゃん。部屋に戻るのも面倒だし」

 

「私も・・・・・」

 

黒歌と白音は気怠そうにそう言った。

 

こらこら、ここには俺しか居ないからってだらしない・・・・・と、言いたいところだが今回は仕方ない。

 

二人の頑張りに免じて許そう。

 

白火を鞘に納めて壁に立て掛け、軽い白音を持ち上げて大の字に寝ている黒歌の上に乗せた。

 

「にゃっ!何か重いものが・・・・・!」

 

「・・・・・姉さま、怒りますよ?」

 

「スミマセン・・・・・」

 

ドスの効いた声を向けられた黒歌は、清々しい程に潔く謝る。

 

これじゃあどっちが年上かわからないな・・・・。

それに、異性に対して『重い』は禁句というのを改めて認識しよう。

 

うっかり口を滑らせたら最後、どうなるか分かったものじゃない・・・・・。

 

密かに胸の内に留めていると、不意に手を引っ張られてベッドに引き寄せられる。

 

「ヴァーリも一緒に寝よ?というか、抱き枕(ヴァーリ)がいないと寝られないにゃん」

 

「ええっと・・・・俺はまだ眠くないというか・・・・・抱き枕なら白音がいるし、何よりベットが小さいじゃないか」

 

「じゃあ、こうすれば問題ありませんよね?」

 

白音はこれでもかと俺の腕に抱きついてくる。

しかもいつの間にか猫耳と尻尾を生やしているとは・・・・・。

 

くっ・・・!なんてフワフワな毛並みなんだ!?

 

それに加えて黒歌も人獣型に。

俺にこの誘惑が耐えられるのだろうか・・・・・?

 

 

 

うん、無理だな。

 

 

 

脳内で思案すること約5秒、俺はそのまま二人に挟まれて眠ることに決定した。

 

 

『これが・・・・・シスコンというものか』

 

 

シスコン?

ふっ・・・・・照れるじゃないか、アルビオン。

 

『はぁ、黒歌と白音に出会ってからいろんな意味で変わったな・・・・・』

 

なんだ、アルビオンが悲しいものを見るかのように言葉を吐く。

 

何故?

 

不思議に思っていると、アルビオンが『いや、気にしないでくれ』と言ったので特に気にしないことにした。

 

 

明日は順調に進めば火拳に出会える・・・・・・・可能性がある。

 

デビル・ディアスは火拳に返り討ちにされたと言っていたが、今もまだその島に滞在しているのか不安だ。

 

一応、町長から永久指針(エターナルポース)は譲って貰ったが・・・・・。

 

こればかりは運としか言いようがない。

 

龍を宿すものは強者を引き寄せる、そうアルビオンが言っていた。ならばこれに期待しておこうじゃないか。

 

親父達を抜かしてろくな相手に出会えた試しが無いがな・・・・・。

 

 

 



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8話 彼もまた同士

おかしいな・・・・・こんな筈じゃなかったのに。


今回、ハイスクールD×Dからお一人参戦!
色々と繋がりに疑問を抱く人もいるかと思いますが、どうかお許しを。


 

 

偉大なる航路(グランドライン)にぽつりと浮かぶ島。

そこには村が一つ、後は砂浜と森林、それに少し開けた場所がある。

 

海岸には2隻の船。

 

一つは俺達の船で、もう一つはスペードのマークに骸骨を描いた海賊旗を掲げる海賊船だ。

 

新聞を見ていなくても、この海賊船の持ち主の名前くらいは聞いたことがあるんじゃないか?

 

 

もしも知らない人がいるのなら、俺が教えよう。

 

 

彼はスペード海賊団船長『火拳のエース』。

凄まじいスピードでこの海に名を馳せ、王下七武海の勧誘を受ける程の実力者だ。

 

悪魔の実、最強種“自然系(ロギア)”の能力者であることも確認されている。

 

 

そして、シスコンまたはロリコンだ。

 

 

『最後のは余計だと思うぞ、ヴァーリ』

 

 

む、アルビオンが俺の解説に茶々を入れてくる。

 

今のどこが余計だと言うんだ。

かなり正確且つ分かりやすく彼について教えてあげているぞ・・・・。

 

それに、強ち間違ってる訳でもないだろう。

彼をよく見てみるといい、金髪幼女にデレデレじゃないか。

 

 

少し開けた場所で、俺達一行とスペード海賊団が向き合う形になっている。

 

俺の視線の先には、巫女装束姿の金髪幼女の頭をこれでもかと撫でている火拳のエースと、それを恨めしそうに眺めるスペード海賊団員10名。

 

『知りたくもない現実だ・・・・。久しぶりにまともな戦いが出来ると期待していたが、それ以前の問題だぞ・・・・・』

 

そう落ち込むな、アルビオン。

戦いになれば胸踊る高揚感に包まれるさ・・・・・たぶん。

 

 

本格的にアルビオンの力を使ってやらないと、ストレスでどうにかなってしまいそうで不安になる。

相棒として、早く解消してあげたい。

 

俺がアルビオンの心配をしていると、黒歌が隣で呼吸を荒くしていた。

 

「あぁ・・・・あの金髪ロリっ娘すごい可愛いにゃ。ぎゅっとしたいにゃぁ・・・・・私も撫で回したいにゃぁ」

 

「姉さま落ち着いて下さい。目が怖いです」

 

「ああ、俺も確かに可愛いと思うぞ。金髪というのもまた乙だ・・・・・って、痛いぞ白音。小指が砕けてしまう」

 

怪しい目付きの黒歌に同調して言ったら、白音に足の小指をグリグリと踏みつけられた。

 

「兄さまには私たちがいるじゃないですか。それともなんですか?白黒より金派ですか?」

 

おっと、白音がそっぽを向いてしまった。

 

頬をプクっと膨らませる姿が可愛すぎて何とも言えないが、取り敢えず小指から足を離してほしい。

 

普通に痛いんだ、これ。

 

「白音、冗談だ。冗談だから足を退けてくれ、そろそろ俺も辛いんだが・・・・・」

 

「じゃあ、あの娘より私の方が可愛いですか・・・?」

 

身長差から引き起こる白音の上目遣い。

踏む力は衰えていないが、顔には少し不安の色が見られる。

 

「はぁ、そんなの当たり前じゃないか。態々聞くことでもないだろう?」

 

「そ、そうですか・・・・自分から聞いておいて何ですけど、恥ずかしいです」

 

白音はうっすらと頬を赤らめて、踏みつけていた足を退かしてくれた。

 

獣人型じゃないのにあれ程の力が出せるとは、修行の賜物か、それとも嫉妬のパワーか・・・・・。

前者も喜ばしいが、後者でもお兄さんは嬉しいです。

 

 

さて。それにしても、こうして対面してるにも関わらずまるで緊張感の欠片も見当たらないのはなぜだ?

 

俺はてっきり、殺伐とした空気が蔓延るものだとばかり。

 

このままじゃ永遠に各自の世界に入ってしまいそうなので、取り敢えず声をかける。

 

「お楽しみの所すまない。結局のところ戦ってくれるのかどうかを教えてほしい」

 

そう言うと、火拳は撫でる手を止めて『おっと、こりゃ失礼』と詫びの一言を口にし、頭にあるテンガロンハットに手を置いた。

 

「俺は別に構わないぜ。お前は賞金首でも賞金稼ぎって訳じゃなさそうだが、関係ねぇ。向かってくる奴は相手してやるって決めてるからな」

 

「ははっ、そう言ってくれると信じていたよ。それに、君とは何か似通ったものを感じるんだ」

 

そう、彼を初めてこの目で見たときに一瞬で分かったんだ。『同士』だと。

 

「へぇ。と言うと、お前の連れ二人は妹か?お世辞にも似てるとは思えないが・・・・・まあ細かい事は気にしねぇ。妹は妹だからな」

 

「ああ、その通りだ。君の方も妹なのだろう?」

 

「おう、“九重”って言うんだ。訳あって俺の船に同伴させててな。どうだ可愛いだろ?」

 

火拳はニッと笑って、隣にいる九重と言う少女の頭をポンと撫でた。

 

「こ、子供扱いするなエース!九重はもう大人なのじゃ!」

 

「そうかそうか、九重は立派な大人だもんなー」

 

「むぅ・・・!全然分かっておらぬではないか!手を離せぇ!」

 

九重はブンブンと腕を振り回して火拳を叩こうとしているが、届かず。

 

かと言って、撫でている手を退かそうとしないのは嫌がっていない証拠だ。

 

ふむ、さっきから思ってたんだが、何だ・・・・・この違和感は?

 

彼女から感じられる力が普通とは大分違う。

どちらかと言うと、獣人型になった黒歌と白音に似ている。

 

『ヴァーリも気がついていたか。俺もそこの小娘を人目見て驚いたぞ。まさかこの世界にも“妖怪”がいるとはな』

 

 

━━━!?

 

 

それは本当か?

 

黒歌と白音が口にした悪魔の実『ネコネコの実“モデル猫又”』と同じ妖怪。

 

いや、あちらの方が生粋と言えるか。

 

妹たちはどうやらこの違和感に気づいていないらしい。まだまだ修行が足りないということか・・・・・。

 

 

 

「だあぁぁ!船長、もういい加減にしてくれよ!?暇さえあれば我らがアイドル九重ちゃんをベタベタと触りがって!!」

 

突如、船員の一人・・・・・名前がわからないからAでいいか。その船員Aが怒りを爆発させた。

 

それが誘発し、今度は船員Bも激昂する。

 

「そうだぞ船長!これから戦おうって時に一体何してやがんだバカヤロー!!俺だって撫でてぇよチクショォォ!!」

 

「ええい!この際、銀髪の兄ちゃんでも構わねぇ!頼むからこの腑抜けた船長を一捻りしてくれ!!」

 

 

「おい、お前らはどっちの味方なんだよ」

 

 

「「「「こっち」」」」

 

 

火拳の問いに、船員達は迷いなく俺の方を指差す。

 

おいおい、どれだけ日頃の鬱憤が溜まっているんだ。海賊の頭を即切り捨てるなんて考えられないぞ。

 

火拳は頬をひくつかせて歪な笑みを作る。

 

「いい度胸してるじゃねぇか。こいつとやり合った後・・・・・覚えとけよ?」

 

う、うん?

 

よくわからないが、いい感じに戦いのムードが出来上がってきているな。

 

此方としては願ったり叶ったりだ。

 

 

 

さあアルビオン、気合いを入れ直そう。

久しぶりの良い獲物だ。

 

火拳のエース。

願わくば、俺に禁手を使わせるくらいには楽しませてくれないと━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━すぐに終わらせてしまうぞ?

 

 

 






はい、エースさんに妹的存在を与えたかったんです。

エースファンの人にとって不満を抱くかもしれません・・・・・申し訳ないです。



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9話 白龍皇VS火拳のエース


やっと戦闘に入れました!






 

 

 ━━━少し開けた場所

 

 その中心で向かい合うのは、愛刀“白火”を抜刀するヴァーリと笑みを浮かべているエース。

 

 他のメンバーは巻き込まれないように隅に移動し、黒歌と白音はヴァーリの頼みで人避け、防壁の結界を張っている。

 

「こんなの張っても意味あるのかにゃ?」

 

「そう言わずに、兄さまの頼みなんですから」

 

 獣人型のヴァーリの妹たち。

 黒歌が結界を張ることの意味に疑問を抱いているが、それもその筈。

 

 人避けの結界は、その名の通り“人を寄せ付けない”結界だ。

 それに強度を加えたものを彼女たちが張っている訳だが、はっきり言ってこの戦いには耐えられないだろう。

 エースの火力も当然ながら、ヴァーリが少し本気を出せば脆く崩壊してしまう。

 

 二人を見ている九重が、目を丸くして問いかける。

 

「何とも奇妙な技を・・・。お主たち()妖術の類いが使えるのか?」

 

「妖術、と言うのがどんなものか分かりませんが、多分同じ感じだと思います。まあ、どれだけ持つかわかりませんけど・・・・・」

 

 九重の問いに曖昧に答えた白音は、自分達で展開した結界に不安を抱かずにいられなかった。

 先程黒歌も口にしていたが、白音だって同じように考えていたのだ。けれど━━━

 

 ━━━兄の本気

 

 今までの修行では、ヴァーリの本当の本気を見たことが無かった黒歌と白音は、不安が渦巻く中で楽しみでもあった。

 

 

 同じく隅にいるスペード海賊団員は、ヴァーリに対して『船長を倒してしまえ』等と本音8割、冗談2割で言った。

 しかし、エースの側でずっと過ごし、戦いを間近で見てきた彼らは信じ切っていた。

 直ぐに勝ってしまうのだろう、と。

 

 

 ━━━━だからこそ、この戦いは彼らを驚愕させる事になるのだ。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

「そう言えば、名乗るのが遅れたな。━━━俺の名はジュラキュール・ヴァーリ、今代の白龍皇だ」

 

「白龍皇?それにジュラキュール・・・どっかで聞いたことがあるような無いような。━━━まあいいか、俺は“ポートガス・D・エース”、海賊だ」

 

 互いに自己紹介を済ませる。

 火拳は俺の姓と白龍皇の異名に聞き覚えがあるらしく、頭を捻らせるが特に気にしない事にしたようだ。

 

「改めて感謝する、火拳のエース。殺す気は無いが、互いに殺すつもりで全力を出し切ろう」

 

「へっ、言ってること無茶苦茶だぜ。けどまあ、俺も初めからそのつもりだったけどな」

 

 俺は白火を両手で構えていつでも戦える状態でいるが、火拳は対照的に両手を広げた。

 

 その姿に、思わず眉をひそめる。

 

「一体何のつもりだ・・・?」

 

「サービスだ。一発だけ貰ってやるよ」

 

 彼の表情は自信に満ちたものだった。

 

 恐らく、海に出てから一度も敗北を味わったことがないのだろう。それか、自然系の『メラメラの実』を口にして、無駄に慢心しているだけなのか。

 

 どちらにせよ、俺を不愉快にさせるには変わり無い。

 

「そうか、分かった。ならばお言葉に甘えよう」

 

 そんな相手には、まず慢心を無くしてやる必要があるな。

 

 両手で構えていた白火を片手に持ち替え、天に向ける。日の光に照されて刀身が神々しく輝く姿は、美しくも力強さを感じさせた。

 

 自然系を相手にするには“武装色の覇気”が必要不可欠だ。まあ、彼相手なら覇気以外でも何とかなるが・・・・・。

 例えばそうだな、魔力を込めた攻撃なら自然系でも通用する。

 

 

 ━━━━こんな風に、な。

 

 

 俺は切っ先を天に向けたまま、刀身に魔力を纏わせる。青白いオーラが白火の輝きを一層引き立てて、辺りを照らし尽くす。

 

 火拳は怪訝そうに俺を見るが、広げた手はそのまま。

 

 ふん、俺が期待しすぎていたのかもしれない。

 悪いがアルビオン、今回も神器を展開するまでも無さそうだ。

 

『そうか・・・・それは残念だ』

 

 アルビオンの落胆のため息を聞いてから、俺は白火を降り下ろす。

 

 避けるか相殺させなきゃ、死ぬぞ?

 

 

 ズバアアアァァァァァアアアッ!!!

 

 

 魔力を纏っても親父の斬撃には遠く及ばないが、それなりに威力はある。

 

「━━━ッ!?く・・・ッ!“火拳”ッ!!!」

 

 

 ゴオオォォォォォオオオオッ!!!

 

 

 火拳は野生とも言える勘の良さでこの斬撃の脅威を感じ取ったのか、自身の右手から巨大な炎の拳を放ち、相殺させる。

 

 ふむ、あのまま無防備だったら期待外れも良いとこだが、流石にそこまでではなかったか・・・・・。

 

「はて、さっき俺の耳には『一発貰ってやる』と聞こえたんだが・・・・・あれは気のせいか?」

 

「は、ははっ・・・・あれは無かったことにしてくれ。それと悪かったな、正直お前を嘗めてたぜ・・・!」

 

「分かってくれたならいいさ。俺としては、君の代名詞である“火拳”を早々に見ることが出来たんだ。これでチャラにしよう」

 

 今の彼には油断の『ゆ』の字も見当たらない。どうやら先程の攻防で俺に対しての認識を改めたようだ。

 

 冷や汗を流す火拳の瞳には、まるで燃え盛る業火の如き闘志が宿っている。

 

 そう、それでいいんだ。

 油断、慢心なんてものは戦いの場に持ってくるべきじゃない。そんなのは死にたがりにだけ持たせてやれば良い。

 

「ではもう一度言おうか。━━━━互いに殺すつもりで全力を出し切ろう」

 

「ああッ!!」

 

 俺達は地を蹴り、ぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

「“火銃(ヒガン)”ッ!!」

 

 

 ドドドドドッ!!

 

 

 火拳━━━エースは両手を銃の形に構え、その指先から小さな火球を連射する。

 俺は姿勢を低くして接近しつつ火球を避けていった。

 

 当たりそうなものだけ白火で斬り、それ以外は紙一重で、被害は最小限に。

 

 エースは俺の刀が火の体を斬れる事を知っているため、そう易々と接近を許してくれない。

 

 なら、隙を作って貰うしかないな!

 

「ふん!!」

 

 三日月型の小さな斬撃を、火球を全て呑み込む数だけ放つ。

 

「うおおぉぉッ!“火拳”ッ!!」

 

 彼の右腕から、視界を埋め尽くす巨大な炎の拳が迫り、斬撃が容易く消滅していく。距離は十メートル弱、迫り来る火拳のスピードはかなりのもの。

 

 俺は足に魔力を集中させて脚力を強化し、そのまま力を込めて上に向かって跳躍した。

 

 

 ヒュンッ!

 

 

 地面に足跡がくっきり残っていたが、直ぐに火拳が通りすぎて地面は深く抉られていた。

 

 火拳は巨大故、エース自身の視界すら奪ってしまう。

 

「あいつはどこいった・・・!?」

 

「広範囲過ぎるのも考えものだな、火拳のエース!!」

 

 エースがバッと上を見上げたときには、既に俺の魔力を纏わせた斬撃が真下に放たれた後だ。

 

 その威力は初めのものとは比較にならないぞ!

 

 島を両断する勢いで放った斬撃を目にしたエースは、戸惑うことなく次の行動に移る。

 

 しゃがみこんで地面に手を着いたと思ったら、彼の周囲に燃え盛る炎のサークルが形成された。

 

「“炎戒(えんかい)”━━━」

 

 サークルで波打つ炎は段々と高さを増していき・・・・・。

 

「“火柱(ひばしら)”ァァッ!!」

 

 

 ドウウゥゥゥゥゥンッ!!!

 

 

 エースの叫びと共に弾けるように特大の火柱が打ち上げられる。

 

 押し潰さんとする俺の斬撃と、押し返そうとするエースの火柱。拮抗する赤と白だが━━━━

 

 

「ぐっ・・・・押されてるっ!?」

 

 

 次第に俺の方が力負けし始めていた。

 

 う、ぐ・・・・何て火力だ!?

 少しでも気を抜いたら一気に持っていかれる!!

 

 その爆発力は噴火の如し。

 とうとう俺は抑えきれなくなり、咄嗟に防御の魔方陣を展開して備える。

 

「うおらぁぁぁあああぁぁッ!!」

 

 エースの雄叫びで火柱の大きさ、火力は跳ね上がって俺の魔方陣を攻め立てる。

 

 

 ピシピシッ・・・!

 

 

 魔方陣にヒビが生じるが、何とか耐えきった。

 

 エースと少し距離をとった場所に着地した俺は、一度深く息を吐く。

 

「危ない危ない・・・・・防御が間に合わなければ火傷じゃ済まなかったな」

 

「ハァッ、ハァッ・・・・フゥ。俺としては自信を無くしそうだぜ。手応えあったと思ったんだけど、まさか無傷とはなぁ」

 

「それはお互い様だろう?此方も中々に攻撃を当てさせてくれないじゃないか」

 

 未だに俺達の体に傷はない。

 俺も彼も、当たれば決定打になる威力を持っている為、普段より何倍も警戒を高めているんだ。

 

 ふむ、正直彼がここまで強いとは思わなかった・・・・。

 悪く言えば能力に感けている部分もあるが、良く言えば彼自身、能力を最大限駆使している。

 

 技のバリエーションも豊富。咄嗟の判断も機転も利く。

 瞬間的な威力なら彼の方がやや上だ。

 

 これなら━━━━

 

 

『俺の出番か?』

 

 

 アルビオン、やる気は十分みたいだな。

 

『ヴァーリ一人だけ楽しんでいるのを見て、どうもうずうずしてな・・・・・。俺から見てもあの小僧は中々筋が良い』

 

 アルビオンがそこまで言うなら、彼に見せなきゃ無礼ってものだ。

 俺としては、地力で決定打を与えられなかったことに若干の悔いが残るが、致し方ない。

 

「エース、君には俺の力を見せるに値する強者だと認識しよう」

 

「お前の力・・・?その言い方だと、今のが全力じゃなかったってことか?」

 

 静かな怒りを込めてエースは俺に問う。

 

「ああ、勘違いしないでくれ。確かに俺は全力でやっていた。というか、自分で言っておいて全力を出さない訳がないよ」

 

「まあ、確かにそうだな。俺もお前からは何処と無く敬意を感じてたし」

 

 それなら一体どういう事だ?と、頭を傾げるエースに俺は笑みを浮かべて答える。

 

 

()()()()では全力だったが、まだ力の全てを見せていた訳じゃない・・・・ということだよ」

 

 

 俺はそう言うと、背中に蒼白い光を放つ光翼を広げた━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 





神器無しだとヴァーリはエースと互角かそれ以上、という感じですかね。

それと、武装色の覇気の代用として魔力が有効という事にしました。しかし、それだと覇気が要らなくなってしまいそうなので、自然系に通用させるには多量の魔力を使わねばならない、と言うことにします。

因みに、ヴァーリくんは今のところ見聞色の覇気しか使えません!

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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10話 白龍皇VS火拳のエース 決着

 

 

 

 

 何だ・・・・・あれは?

 

 

 ただただ頭の中にその言葉がぐるぐると回り続ける。

 

 俺の目の前にいる男は、爽やかな笑みを浮かべて刀を手にして立っている。それだけで絵になりそうなくらいだ。

 

 風に靡かれる銀髪はサラサラで、キラキラと輝く宝石のよう。

 

 そして、それ以上に神々しくて蒼白い光を放つ機械的な翼。

 

 考えられるのは、やっぱり悪魔の実だよな・・・・・。

 見た感じ自然系(ロギア)でも超人系(パラミシア)でもない。翼だから鳥?動物系(ゾオン)か?わからん・・・・。

 

 ジュラキュール・ヴァーリ・・・・火の俺に攻撃を当ててくる奴。

 

 これだけ強いのに名前を聞いたことがねぇ。

 いや、ジュラキュールってのに聞き覚えがあるんだけどなぁ、思い出せねぇ。

 

 うーん・・・・まあ今は戦いに集中だ!

 こいつ相手に考えながら戦ってたら一気に斬られて即終了になってしまう。

 

 それに、九重が見てるのに負けてる姿なんて晒すわけにはいかねえ!

 

 俺は両手に炎を灯し、未知の力を持つヴァーリに向かって構える。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を見て多少は動揺するものかと思ったが、案外そうでもないらしい。

 

 恐らく動物系とでも推測しているのだろう。この光翼を見たものは皆そう考える。

 

 まあ、まずそうとしか考えられないからな。

 

 逆に誰が予想できようか、俺には龍の魂が封じられている神器を有しているなんて、常識外れな事を。

 

 ━━━━っと、あちらは既にやる気満々だ。

 

 両手を炎と化してファイティングポーズをとるエース。

 考えるよりも実際に戦って得ようという魂胆か?

 

 面白い・・・ならば俺とアルビオンの力を見せてやろう。━━━だが、そのためにはまず彼の体に直接触れる必要があるな。

 

 俺の神器はそのままだと飛行能力だけで、兎に角相手に触れなければ始まらない。

 いや、飛べるだけ贅沢と思うべきか?

 

 俺はフワッと音を立てずに上昇する。

 

「やっぱり空飛べるのか」

 

「勿論飛ぶための翼だ。飾りな訳がないだろう?」

 

「そりゃごもっともで」

 

 俺達は軽口を叩き合っているが、互いの瞳に映る獲物への視線は鋭く、射殺すようだ。

 

 目には見えない殺気が肌をピリピリと刺激する。結界のお陰か、辺りは静寂に。

 

 いつ味わっても、この瞬間は好きだ。

 これだから強者との戦いは止められないし、続けてしまう。

 

 戦闘狂?

 

 いい言葉じゃないか。俺は好きだ。

 

 さて。お喋りはここまでにして、戦いに身を投じるとしよう。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

「うおおぉぉおおおぉぉぉッ!!」

 

「はああぁぁぁあああぁぁッ!!」

 

 

 ドゴォォォォオオオオッ!!

 

 

 俺の蒼白い斬撃と、エースの業火の拳が衝突する。

 

 

『Divide!!!』

 

 

「うぐっ・・・!また・・・・これか!?」

 

 俺の神器━━━『白龍皇の光翼』の能力、半減が発動してエースの火力が目に見えるように落ちていく。

 

 彼に触れてから、3度目の半減だ。

 

 一度触れれば、後は十秒毎にエースの力は半減され、俺の糧となる。

 つまり、時間が経てば経つほど俺が有利になっていくということだ。

 

「どうしたエース!どんどん威力が落ちているぞ!!」

 

 俺は吸収した分の力を魔力に変換して、斬撃に注ぐ。

 一際巨大な斬撃に成長すると、“火拳”をいとも容易く飲み込んでそのまま結界を突き破っていった。

 

 間一髪で避けたエースはその光景を見て愕然とする。

 

「な、なんて斬撃だよ・・・・・!?俺の力が急に抜けたり、お前の力が急激に上昇したり、意味がわからねぇ・・・・・!」

 

「戦いの最中に余所見とは、随分余裕じゃないか」

 

 俺は立ち尽くしているエースに高速で接近し、白火の柄を勢いそのままで鳩尾に吸い込ませた。

 

 

 ドゴッ!!

 

 

「がはっ!?」

 

「君も空を飛ぶといいッ!!」

 

 くの字に体が折れ曲がるエースの腕を掴み、上空に向かって強引に投げ飛ばす!

 

 魔力で強化した身体能力に加えて、エースから奪った力のお陰でかなり遠くまで飛んでいった。

 

 早く体勢を立て直さないと、全て喰らうことになるぞ?

 

 俺は視界を埋め尽くす程に夥しい数の斬撃を、エース目掛けて放った。

 

「な、め・・・るなぁッ!!“鏡火炎(きょうかえん)”ッ!!!」

 

 エースは広範囲に、炎の壁にも思える火炎を出して俺の斬撃を防ごうとするが・・・・・。

 

 その程度の火力じゃ、今の俺の斬撃は防ぎきれないよ。

 

 最初の数発は消滅させるも、波のように襲いかかる俺の斬撃によって、次から次へと炎が打ち消される。

 

 そして、そろそろ十秒だ。

 

 

『Divide!!!』

 

 

「━━━ッ!?」

 

 

 ガクン、と炎が弱まる。

 それを期に、俺の斬撃は一斉にエースになだれ込んでいった。

 

 

 ズババババババァァァアアァァッ!!

 

 

「ぐああぁぁぁああぁぁ・・・・ッ!?」

 

 

 全てをもろに受けたエースは、重力に従って真っ直ぐと地面に落下してくる。

 

 

 ドゴンッ!

 

 

 体に炎を揺らめかせながら、受け身も取れずそのまま墜落した。

 普通の人間なら怪我じゃすまない高さだが、火の流動する体だから問題はないだろう。

 

 

「手応えは十分だが・・・・・どうかな?」

 

 

 舞い上がる土煙が収まり、エースの状態を確認する。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 全身に出来た剣の傷。

 そこから溢れるような出血量で、当然ながら意識を手放していた。

 

 

「どうやら俺の勝ちのようだな、火拳のエース」

 

 

 恐らく聞こえていないだろうが、俺はそう宣言した。

 

 自分でやっておいて何だが、今のは下手したら死んでるレベルだったな・・・・・。

 

『そんな柔な男でもないだろう、この小僧は。しかし、久しぶりの神器使用は良いものだな。後半はほぼ一方的になってしまったが・・・・』

 

 いや、合計4回の半減をしてもあの力を出してきたんだ。十分称賛に値するよ。

 

 俺だってアルビオンがいなければ、この勝負がどっちに傾いていたか分からなかった。

 

 この神器()が卑怯だなんて言うつもりはないけれど、やはりどこか悔しく思う。もっともっと鍛練を積まなきゃな・・・・。

 

『その意気だ、ヴァーリ。俺はいつでも力を貸すぞ』

 

 ああ、ありがとうアルビオン。

 

 俺は神器を解除すると、仰向けで倒れるエースの元へ行き、回復魔術を施した。

 彼が自然系で強靭な体を持っていると言っても、この出血量は流石に命に関わりかねない。

 

 まあ、俺が出来るのは応急処置程度のもの何だけどな。

 

 暫くすると、遠くから叫び声と慌ただしい足音が響いてくる。

 

 

「うわぁぁぁああ!エース!エースゥゥッ!!」

 

『船長ぉぉっ!!』

 

「ちょ、ちょっとヴァーリ!?彼のこと殺してないよね!?」

 

「兄さま、やりすぎです・・・!」

 

 戦いが終わった俺達の元に黒歌たちが駆けてきた。

 

 九重と船員達は泣きながらエースの側に寄り、その重症の体を見てさらに涙を流す。

 

 俺は、黒歌に胸ぐらを掴まれていた。

 

「にゃぁ!ヴァーリ!!死んじゃってたらどうするにゃん!?犯罪者になるよ!?指名手配だよ!?」

 

「く、苦しい黒歌・・・・・手当てはしたから・・・・・死んでないから」

 

 妹に胸ぐらを掴まれる日が来るなんて・・・・・。

 これはあれか?噂の反抗期というやつか?

 

「えっぐ・・・・ひっぐ・・・・・えーずぅ・・・・!!」

 

「九重ちゃん、大丈夫です。命に別状はありませんから。お馬鹿な兄さまに代わって絶対に治します」

 

「うぅ・・・・・本当か、白音?」

 

「はい、任せてください」

 

 目に涙を溜めて嗚咽を漏らす九重を安心させようと、白音が優しい口調で宥める。

 

 うん、流石は白音だ。

 お兄さんは嬉しい。嬉しいんだけど・・・・・。

 

 さらっと『馬鹿』と言われた気がするのは気のせいだろうか。

 

「姉さまも良ければ手伝って貰えますか?私一人よりも二人の方が効果がありそうなので」

 

「うん、分かったにゃん。━━━ヴァーリ?後でちゃんとお説教だからね?」

 

「あ、ああ」

 

 黒歌と白音は獣人型になって、エースの体内に巡る生命エネルギー、“気”を仙術で整え始める。

 

 

 ━━━数分後

 

 

 治癒力を上げるなどをしたそうで、彼の表情は幾分か和らいだ。

 

 それに引き換え、今の俺は色々とつらい・・・・。

 

「本当にすまなかった。戦いに夢中になってしまって・・・・・その、申し訳ない」

 

 俺は地面に正座して、顔に涙の跡を残す九重に頭を下げる。

 

 

『て、天龍が、幼子に・・・・土下座だと・・・・!?』

 

 

 そうはっきり言わないでくれよ、アルビオン。

 悪いのは完全にこっち何だから、こうでもしないと顔が立たないんだ。

 

 それに、黒歌と白音が土下座しろと言うもんでな・・・・。

 

「あ、頭を上げるのじゃ。この勝負は双方の意思の確認もしていた。だ、だから・・・結果がどうであれ、謝罪は必要ない・・・」

 

 九重の顔は見えないが、微かに声が震えていた。

 

 ま、まずい!

 段々と涙声になってきてるじゃないか!?

 

 ぐっ・・・・クソッ!

 こうなればやけだ!俺の現存する魔力を全て費やしてでも即効で治す!!

 

 俺は立ち上がって、包帯で全身を巻かれているエースの所へ行き、地面に膝をついて両手を傷口に向ける。

 

 周囲からは怪訝そうな視線を感じるが、気にせず集中力を高める。

 

「ふっ・・・!」

 

 ブワッ!と、蒼白く淡い光がエースを包み込んだ。

 

 元々、回復系の魔術は得意じゃない俺が、それをカバーするために必要なもの・・・・・。

 

 

 ━━━そんなの、自身の魔力量しかないだろ!

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

「うっ・・・・・・こ、ここは?」

 

「お、起きたか。火拳のエース」

 

「・・・・・何で、勝ったお前が倒れてるんだよ」

 

 体をゆっくりと起こしたエースは、隣で仰向けに倒れる俺に対して疑問符を浮かべる。

 

「ははは・・・・まあ、色々あってな」

 

 すっかり空っぽになってしまった俺の魔力。

 これがまた面白いくらいに体が動かなくなってしまった。

 

 いや、本当に。

 指先すら動かせない。辛うじて話せるのが限界だ。

 

「俺の攻撃が効いた・・・・・って、訳ねぇか。なあ、聞いてもいいか?お前の翼、あれは一体なん「エースッ!!」━━━ぐほッ!?」

 

 彼は言い終える前に、九重が豪速球の如く鳩尾に飛び込みそのまま倒れ込んだ。

 

「エース!良かった、本当に良かったのじゃ!」

 

「く、九重・・・・・俺、怪我人だぞ。胸に飛び込んで来てくれるのは嬉しいけどよ・・・・・」

 

「怪我は全部、この者が治してくれた!魔法のようだったぞ!!」

 

 ああ、全力で治したから掠り傷一つ無い筈だ。

 たった今、鳩尾が重症になってそうだが・・・・。

 

 エースはそう言われて、自身の体を見る。

 

「鳩尾は凄ぇ痛いけど、本当に怪我は無いな・・・。どうなってんだ、これ」

 

 ペタペタと触って確かめる。

 未だに信じられないといった感じか。

 

 船のある方から、黒歌と白音が水の入った桶とタオルを持ってやって来た。

 

「もう、助けるために自分が倒れちゃ世話ないにゃん・・・」

 

「それに、私たちが治療した意味が無いじゃないですか・・・」

 

「・・・・面目ない」

 

 そう一言言うのが精一杯だ。

 恥ずかしくても顔を背けることすら出来ないとは、何とも辛い。

 

「でも、私たちが介護してあげるから心配しないでね」

 

「え・・・?」

 

「まずは、その汚れた体を拭きましょうか」

 

「いやいやいや・・・・・!?」

 

 二人は俺の服をテクニカル且つ、スピーディーに脱がしていく。その時の二人の顔はとても笑顔だった。

 

「エ、エース・・・!二人を止めてくれ・・・!?」

 

「いいじゃねぇか。妹の愛を受け止めてやれよ、()()だろ?」

 

 ぐっ・・・・俺が助けた恩を忘れたのか!

 な、なら・・・・!!

 

「はわわわっ・・・・!?」

 

 九重()の方に頼もうとしたが、両手で真っ赤な顔を覆って此方を凝視している。

 

 それ、隙間から見えてるじゃないか!

 これじゃ、彼女も期待できそうにない・・・!!

 

 残りは・・・・・・・・多分、同じ結果だろう。

 

 そして、爆笑してるそこの船員Aは覚えておけ。必ず報いを受けさせてやる。

 

 

「はあっ、はあっ、ヴァーリの腹筋・・・・!!」

 

「に、兄さまの胸板・・・・!!」

 

「黒歌、白音?息づかいが荒いぞ?落ち着こうな?」

 

 黒歌は俺の露になった腹筋を、白音は胸筋を何度も拭く。というよりも、撫で回している。

 

 

 アルビオン・・・・・俺は、どうなってしまうんだ?

 

 

『まあ、頑張ってくれ』

 

 

 相棒にまで見捨てられる俺は一体・・・・・。

 

 

 ━━━━その後、裸体に近い所まで脱がされる俺であった。

 

 

 





神器を使ったらヴァーリが圧倒的になってしまいました。これは、禁手を使う日は来るのでしょうか?

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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11話 悪者デビュー








更新が遅れてすみませんでした!



 

 

 

 煌々と輝く太陽は沈み、今は月と星が主役となっている。

 

 そんな静寂が支配しそうな時間帯だが、俺━━━ヴァーリと火拳のエースの周囲にいる者たちでお祭り騒ぎとなっていた。

 

 

「「んぐ・・・んぐ・・・ぷはぁ!次持ってこい!!」」

 

 

『うおぉぉッ!!お互い負けてねぇ!!』

 

 

 俺とエースは同時に空になったジョッキをスペード海賊団員に渡し、それを受け取った船員達は忽ち歓声を上げて、笑い声が夜空に響き渡る。

 

 

 只今、絶賛宴会中だ。

 

 

 俺の魔力がある程度回復して動けるようになった事で、エースが「宴だぁぁ!!」と突然騒ぎだし気がつけばこの状況だ。

 

 何でも、戦いと出会いには宴が付き物だとか・・・。正直嘘のような気もする。

 

 だが、黒歌と白音も楽しそうに笑っているから良しとしよう。

 九重と言う少女とも友達になれたようで、俺としては嬉しい限りだ。

 二人は仲良し姉妹だが、やはり同姓の友人は欲しかったのだろう。

 

 仲良く3人で話す姿を見て、俺は口許を綻ばせた。

 

 不意に、追加された酒を一気に飲み干したエースが、俺に話しかけてくる。

 

「そういや・・・・お前さんについて気になってた事があるんだ。聞いてもいいか?」

 

「ああ、いいとも」

 

 酔いが回っているのか、エースは呂律がやや怪しい。顔も微かに赤らめていた。

 

 ・・・・・かなりの量を飲んでいたのに潰れないとは、どうやら親父に匹敵する酒豪のようだ。

 

 反対に俺はさして強くは無いが、魔力と言う裏技で何とかやり過ごしている。

 素の状態で飲んでいたら、真っ先にダウンしていたのは俺に違いない・・・・。

 

「あの翼・・・・ありゃ一体何なんだ?動物系の能力にしか思えないが・・・それにしては異質過ぎる」

 

 ふむ、いきなり神器についてか。

 悪魔の実とは異なり、それを凌駕する力。気になって当然だ。

 特に隠す必要もない・・・・・よな、アルビオン?

 

『そうだな、ヴァーリには禁手もある。教えたところでどうにかなる訳でも無いからな。構わないだろう』

 

 相棒からの確認をとって、俺は神器の事を説明する。ただし、『悪魔の実では無い』事と『半減能力』についてだけ。

 

 アルビオンや神滅具について説明しても混乱させてしまうだけだしな。

 しかし、それでもエースは目を見開いて驚いていた。

 

「はぁ!?“相手の力を半減させて自分の力にする”!?そんなの滅茶苦茶じゃねぇかよ!━━━あ、ならあれか!突然の脱力感はお前の能力のせいだったのか!」

 

「まあそう言う事だな。直接触れなきゃ発動しないのがネックだが・・・・」

 

「それでも空が飛べるだろ?現にあの機動力に手こずったもんだぜ!」

 

 エースから羨望の眼差しで見られるが、白龍皇の光翼は欠点無しの万能器ではない。

 

 さっきも言ったように、この身で相手に触れなければならないんだ。まあ、歴代最強━━━グリットはお構い無しに半減させてくるんだが・・・。

 

 俺があの領域に達するにはまだまだ道のりは険しい。

 

 加えて、半減する度に体力が消費される。

 今は鍛えてあるから問題ないが、もしそうでなければ使用した瞬間に血反吐を吐くのは間違いない。

 

 

 ああ・・・・・神器に目覚めたての頃が懐かしいな。

 

 

「それはそうとヴァーリ。お前、俺の仲間にならないか?」

 

「いや、話が突然すぎるだろ」

 

 ごく自然に何気なく仲間に誘ってくるエース。

 そのせいで酒を吐き出すところだったじゃないか・・・!

 ムードもタイミングもまるであったものじゃないぞ!

 

「勿論、お前の妹たちも連れてだ。どうだ?」

 

 酔った勢いもあるだろうが、彼は真摯に提案してきた。

 まあ、誘われるんじゃないか?と、心の隅で思ってたりしなくもないが・・・・。

 

「悪いが、俺は海賊になるつもりは無い。君との冒険の日々も暇が無くて面白そうだと思う・・・・・けど、黒歌と白音を危険な目に会わせる訳にはいかないんでね」

 

 俺は無邪気に笑う妹たちを一瞥してからそう言った。

 

「・・・まあ、そうだよな。俺も九重が傷つく姿なんか見たくないし、早く故郷に帰してやりたいと思う。はぁ・・・兄貴は心配性になっちまうぜ」

 

 同じ兄として、やはり思うところがあるのだろう。

 それにしても、()()

 そう言えば、戦う前に「訳あって同伴させている」と言っていたな・・・・・。何か事情があるのか?

 

 エースは俺の表情で察したのか、更に言葉を続ける。

 

「九重はな・・・・・実はお姫様なんだ」

 

「可愛い妹を姫のように思うのは当然だと思うぞ?」

 

「そうじゃない!あ、いや、それもそうなんだけど・・・・・・・・正真正銘、一国の姫なんだよ!!」

 

 何やらエースが身ぶり手振りで説明してきた。

 その内容は、思わず眉を潜めてしまうものだった。

 

「━━━つまり、“キョウノ国”という国のトップの娘が九重で・・・・・・・・親と喧嘩して家出をしてきた・・・・と?」

 

「ああ、そうだ!」

 

「その九重を故郷に送り届けてあげている最中だと?」

 

「そうだ!」

 

 エースが何に対して胸を張っているのか知らんが、何とも可愛らしくもはた迷惑な事件だ。

 

 親と喧嘩して家出?

 

 内心で深く深くため息を着いた俺を許せ、エース。

 君がそこまで必死になるから、命を狙われているとか、国が戦争中で逃げてきたとか・・・・・壮絶な想像をしてしまったじゃないか!

 

「何と言うか・・・・・頑張ってくれ」

 

「ああ!これは兄貴としての使命だ!例え海軍大将が来ても返り討ちにして送り届けるって約束したんだ!」

 

 その決意は素直に尊敬できる。

 まあ、俺なら天竜人相手でも容赦なく蹴散らすくらいの覚悟はあるけどな。

 

 そもそも天竜人は好かん。

 存在しているだけで天龍の名を汚されている様な気がして、腸が煮えくり返りそうだ。

 

『それには非常に同感だ・・・!あの腐りきった人間が天竜を名乗るとは・・・・我々を侮辱している!!』

 

 と、アルビオンも大変ご立腹なんだ。

 もし実体を持てたら直々になぶり殺しにしてやりたい、と牙を剥き出しにして激怒している。

 

 俺はアルビオンを宥めた後、骨付き肉にかぶり付いているエースに一つの提案をした。

 

「君たちの仲間にはなれないが、俺たちの根城付近の島までなら同行しよう。彼女たちも折角出来た友達と直ぐに離れ離れになるのは流石に気が引ける」

 

「本当か!?よっしゃぁああッ!てめぇら!新しい仲間に乾杯だぁぁ!!」

 

「お、おい・・・・俺は仲間になるとは言って━━━━」

 

『うぉぉおおおッ!!』

 

 何て都合のいい解釈の仕方だ!

 俺は“同行する”と言ったんだぞ!?

 

 しかし、盛り上がる海賊たちは収まることを知らず、更にテンションが上がっていった。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

 宴が終わり、スペード海賊団と共に海に出てから一ヶ月は経っただろうか?

 

 俺は船を魔力で独立飛行させながら、黒歌と白音と一緒にエースの船に乗っている。

 現在向かっているのは、シャボンディ諸島。

 

 海賊がそこへ向かうということは新世界に行く為と考えていいだろう。

 

 後から知ったことだが、九重は新世界の出なんだそうだ。つまり新世界の島から家出してきた。

 考えれば考えるほど疑問尽くしになるぞ。

 

 あんな子供が一人で前半の海に来れるだろうか?

 答えは否だろう。

 

 いくら妖怪だろうと、子供は子供。俺には到底理解できないものだ。

 

 ━━━と、気になる事が山程だが、まあ今はそんな事よりも・・・・・。

 

 俺はニュース・クーから購入した新聞━━━に、挟まれていた一枚の紙に目が釘付けになっていた。

 

 

『WANTED』『DEAD OR ALIVE』

 

 

 この文字が書かれている。

 

 

 指名手配書だな。見て分かる。

 なら、この顔写真は・・・・・?

 

 

 俺の視線の先には、立派な翼を広げ、刀を構えている一人の男の顔写真。

 

 

 これ・・・・・俺だ。

 

 

「な、なななな・・・・・」

 

 

 一思いに叫んでやろう。

 柄じゃないのはわかっているさ。けど、これは発狂ものだぞ。

 

 

「何でだぁぁああああッ!?」

 

 

 俺は海に向かってそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

「数多の海軍将校を降す『白龍皇ヴァーリ』!懸賞金は1億6千万ベリー!そして、『火拳のエース』の右腕として悪名を轟かす!はははっ!最高じゃねぇか!」

 

「エース・・・・・その体、肉片に変えてやろうか・・・?」

 

 甲板の上でエースが新聞に記されている内容を熱く語る。

 

 その姿に心底苛ついて全力の殺気を放ってしまったのは仕方あるまい。

 

「ヴァーリ、これ自業自得だからね?今回ばかりは私と白音も庇えないにゃん」

 

「そ、そんな・・・・黒歌」

 

「姉さまの言うとおりです、兄さま。海軍が襲ってくるのは仕方ありませんけど、態々全滅させる必要なんてありませんからね?」

 

「し、白音まで・・・・」

 

 妹たちに嘆息されてしまう。

 

 確かに、俺や黒歌と白音が海賊と間違われて襲われたから反撃したさ。身を守るために、二人を守る為にな。

 

 その中で強者もいたから思わず楽しんでしまったんだ。それが結果的に全滅させたということになる。

 

 そして何より、おれがエースの右腕だと?

 

 とんだ勘違いをされたもんだな・・・・・。

 

「まあまあ、いいじゃねぇか。どのみち俺らの仲間なんだから」

 

「そうじゃ!黒歌と白音も一緒にいよう!」

 

 エースとエースの膝の上に座る九重が笑顔でそう言う。

 

「はぁ、何度も言っているだろ。君たちの仲間にはなれないんだ━━━と言うか、何故俺が君よりも懸賞金が低いんだ?」

 

 率直な疑問だ。

 加えて納得がいかない。

 

「そりゃお前・・・・・俺の右腕だからだろ?」

 

「だから何度言えば・・・・・はぁ、反論するのも面倒になるな」

 

「お?と言う事は仲間に「ならん」・・・・・んだよ、期待させやがって」

 

 このように、この一ヶ月間懲りずに勧誘してくるんだ。正直、その粘り強さに根をあげてしまう。

 

 もういっそのこと海賊になってしまうか?

 

 いやいや、黒歌と白音だけじゃなく親父にまで迷惑をかけるだろ、それは。

 あ、でも既に指名手配されてるしな・・・・・。

 

「見るのじゃ皆!島が見えてきたぞ!」

 

 九重の元気ある声に思考が現実に戻される。

 少し先に見えるのは、巨大な樹木の集合体の島。

 

 シャボンディ諸島だ。

 

「やっと着いたか・・・・・俺たちが同伴出来るのもここまで。物のついでだ、俺たちも観光していくか?」

 

「行きたーい!」

 

「行きます!」

 

 こうして、俺たちもシャボンディ諸島に上陸することにした。

 

 この島は近くに海軍本部もある。

 俺やエースがこの島に来ることは海軍に予想されている可能性が高い。

 だから、常に気は緩められないな。いざというときは禁手を使ってでも二人を逃がす。

 

 

 頼むから・・・・・何も起こらないでくれよ?

 

 

そんな事を思いながら、俺たちはシャボンディ諸島に向かっていった。

 

 

 

 






この頃のエースの懸賞金はいくらなのでしょうか?

最高が5億5千万だから、3億くらいですかね。
そして、海軍はヴァーリを副船長と思っているので1億6千万にしましたが、いくらなんでも低すぎたでしょうか・・・・・。

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