ハイスクールD×D イマジナリーフレンド (SINSOU)
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没案

『貴女を歓迎するわ、悪魔としてね!』

 

『え、ええ!?な、何なんですか一体!?』

 

所々に見える、塗装の剥げた壁や、蜘蛛の巣の廊下を通り、

文字の書かれたプレートのある部屋に通された私にかけられた言葉だ。

 

私にとって彼女は、声をかけられることさえ、

嬉しいと思ってしまうほどに憧れの存在の一人だ。

まるでルビーを溶かした様な、炎を纏ったような、朱い髪を流し、

全てを見通してしまうような、そんな綺麗な瞳をしていた。

 

『あらあら、〇〇〇さんは随分と緊張してますね。

 ××、〇〇〇さんは何も知らないのですから、説明しないといけませんわ』

 

『そうね▲▲、私も急ぎ過ぎたわ。取りあえず、説明するわね』

 

×××と話をしていた▲▲も、私にとって憧れの先輩だ。

長い髪を総髪にし、漆黒よりも煌びやかな黒髪で、

微笑む顔はまるで母性を表したかのように、見る者を穏やかにしたと思う。

 

『あ、あの!▲▲先輩も一緒にいますけど、こ、これはどういうことですか!?』

 

私のいるこの場所で、有名な二人の先輩を前に私は混乱した。

一体これはどういうことなの?

 

『あら■■、〇〇〇さんに説明してないの?』

 

『詳しい話は、ここでした方が良いと思いまして』

 

×××先輩に問われ、私を案内してくれた一つ上の■■先輩が答える。

■■先輩は、黄金と見間違うほどに、綺麗な金髪で、

その顔は物語に出てくる王子様のように、凛々しく、優しく、そして精鍛な顔立ちだ。

彼に恋する友達は多く、頻りにアタックをかけようとするも、

互いにけん制してるみたいで、なかなか動けないみたい。

それに、噂では×××先輩の恋人とも言われており、その噂も大きな壁になっているみたい。

 

■■先輩に×××先輩は『それもそうね』とため息を吐いて、私に振り向いた。

 

『そうね、説明させてもらうわね。でももう少し待ってくれないかしら?

 あと2人ほど来るの。』

 

『××!遅れてすみません!』

『すみません』

 

×××先輩が言うやいなや、扉が大きな音を立てて開かれ、二人が入ってきた。

そしてその2人を見て、私は驚く。

 

『え、★★★先輩に、??さん!?』

 

『〇〇〇サン・・・?』

 

私の目に入ったのは、噂に聞くセクハラすることしか能の無い悪名高き先輩と、

私のクラスの同級生、??さんだった。

 

雪のような真っ白の髪で、こじんまりとした姿に愛くるしさを覚える者も多く、

そして名の通り、小猫のようにしなやかな動きで、その愛くるしい度は更に倍増!

それゆえにマスコットとも呼ばれてもいる。

 

『あら、??、〇〇〇さんと知り合いなのね。

 思うことはあるかもしれないけど、とりあえず、〇〇〇さんに説明するからね』

 

そして説明を受けた私は多くのことを知った。

悪魔のこと、天使のこと、堕天使のこと、皆がこの町を守る為に戦っていること。

そして、私の力がそれを助けることが出来ること。

 

『わ、私、今でも何が何だか分かりません。

 で、でも!皆さんがこの町のために頑張っていることとか、

 私のこの力が、皆さんの、町のためになるのなら、協力させてください!』

 

『そう、その言葉が聞けて嬉しいわ。じゃあ、〇〇〇、一緒に頑張りましょう』

 

『はい!』

 

×××先輩の言葉に、私は皆に満面の笑みを零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!おい!起きろ!」

 

私の名を呼ぶ声に、私は閉じていた目を開けた。

目の前に入ってきたのは、黒髪に漢服を纏った時代錯誤甚だしい男。そしてこの男から紡がれる言葉は、それに相まって妄想癖を患っている。

はっきり言うと、すぐにでも病院にでもブチ込んでやった方が良いと思う。それも、頭の方の病院に。

 

 

「うるさいなぁ・・・」

 

私は眠っていた眼を開き、不機嫌な声で文句を言う。

 

「だったら会議中に寝るな。何回注意させるつもりだ」

 

私の言葉に男が反論する。私と男がいるのは趣も侘び寂びもないコンクリートで囲まれた部屋だ。

その中に、円系にしつらえた机と、それを囲むように置かれた椅子。その一席で私は寝ていた。

 

あの時の私だったなら頭を下げて謝罪しただろう。でも今は違う。

実際、会議中に寝る私が悪いのだが、生憎私は起こされて機嫌が悪い。

 

「なら眠くならない会議にしてくれなぁい?はっきり言って今日の会議は退屈過ぎ~」

 

「お前なぁ・・・」

 

私の文句に男は何かしら思っただろうが、顔に出ている時点で丸判りだ。私の培った目をごまかすには些か経験不足。

だが埒が明かないので、私は謝罪する。

 

「分かりましたぁ、次からは気を付けますぅ。で、会議はどうなったんですかぁ?」

 

「その言葉、俺は何回も聞かされているんだがな・・・。とりあえず、俺たちの行動方針は決まった。

 俺たちのやることは、勝手に人間たちを搾取しておいて、世界を守護している気でいる三勢力を打倒し、人間たちを守ることだ」

 

男の言葉を私はただ聴くだけ。

 

「旧魔王派が何やら良からぬことを考えているようだが、団の方針で互いに干渉をしないと決めているから何も言えん。

 まぁ、ことが成されれば、あいつらは俺たちの世界に干渉するのを最低限に控えると取り決めたんだ。

 そこは自分たちの沽券に係わるだろうから、信用は出来る」

 

「へぇ?信じられるんだぁ。そういう人ほど簡単に約束なんて反故にしちゃうんだよぉ?信じるだけ馬鹿だと思うなぁ。」

 

私の言葉に、男はにやりと口元を歪める。

 

「仮に約束を破ったとしたら、その時は俺たちで奴らを打倒すればいい。

 もとより、俺たちと奴らは利益のために集まっているのだからな」

 

「そっかぁ。そうだよねぇ、約束を破ったら責任を負わないとねぇ、不公平だもんねぇ、許されないよねぇ」

 

私も同じように口元を歪める。

ふと私は、話を変えようと他の派閥が起こしたことを問いかけた。

 

「ところで、あのくそ白トカゲはどこに行ったのぉ?正直、早々にぶち殺したいんだけどさぁ」

 

「まあ待て、お前の気持ちも解るが今は時期尚早だ。しかるべき時にぶち殺させてやる。

 白龍皇なら、北欧の悪神と戦うために赤龍帝のところへ行ったみたいだ。なんでも協力を仰ぐとか」

 

その言葉に私は腹の底から笑い声をあげた。なんて、なんてみっともない!

 

「あははははは!粋がっていた割にはとことん他人任せなんですねぇ!自分一人では満足に戦えない白トカゲ!出来ることは弱い者いじめの歴代最強!もういっそ一人で部屋に籠って自慰行為でもしててくれないかなぁ。いっそ死んでくれればいいのになぁ!もう諍いに託けて殺しちゃおっか!あいつらといっしょにぃ!」

 

私の言葉に、男は私をじっと見つめる。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 

「それでお前は良いのか?確か赤龍帝たちはお前の・・・」

 

「そうだよぉ?でもそれにはもう『元』が付くっていうかぁ、私はもういらないみたいだしどうでもいいよ。信じた私が馬鹿だったってだけ」

 

私の笑顔に男はもはや何も言わず、ただ黙ったままである。

 

「さて、方針は決まったんでしょ?だったら私たちは私たちのために動くだけ。そうでしょ、曹操?」

 

「そうだな。俺たちは俺たちの目的の為に動こう。いくぞ、亡事」

 

「はいはーい」

 

私は目の前を歩く曹操後ろを着いて行く。再びあの人たちに出会えることを夢見て、私の口元は三日月に裂ける。

ああ、会いたいなぁ会いたいなぁ!みんなの驚く顔を想像して私は一人楽しくなる。

まるで遠足を待ちきれない幼子のような気持ちだ。

出会ったお礼をするんだ。目一杯のお礼をするんだ。嫌がってもダメ、断ってもダメ、なにがなんでも受け取って貰うんだ。それが私からの、あなたたちへの本当の気持ちだから。

 

私の気持ちに呼応するように、私の『友達』が鼓動する。私の後ろを『友達』が歩く。

あるモノは光と闇を模した剣を、あるモノは獣の耳を、あるモノは黒い翼を生やし、あるモノはアミュレットを着飾り、あるモノは口から犬歯をのぞかせ、あるモノは紅の髪をなびかせている。

 

さあ『みんな』、一緒に行こう。



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本編
1話


「どうして?」

 

私は問いただす。

 

「どうしてですか?」

 

私は私なりに頑張ってきた。

 

「私の何が間違っていたんですか?」

 

誰かの為になると思って、この町の人を守れると思って、だから私は頑張った。

 

「教えてください」

 

私は再度問いただす。

目の前の存在は、私の視線に耐えきれなくなったのか、視線を逸らす。

 

「教えてよ」

 

それでも私は問いただす。

けれども相手は顔を背けたまま、黙ったままだ。

 

「ああ、そうなんだ」

 

私は気付いた。いえ、気付かされた。

 

私はもう

 

「いない存在なんですね」

 

世界から消えていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢殿、悪いがそこにあるプリントの束を、職員室まで持って行ってくれないか?

 量が多くて大変だと思うが、こっちも馬鹿トリオのせいで手が離せなくてな。

 手が足りなかったら他の奴に手伝ってもらってくれ」

 

「大丈夫です。問題ありません」

 

先生の頼みごとを、私は快く請け負った。

 

私は、『誰かの助けになる』ことが好きだ。

それは亡き両親の教育の賜物なのか、それとも自分の性質なのかは判らない。

でも、自分が誰かを笑顔に出来るなら、それで嬉しかった。

 

しかし、快諾したものの確かに、見るからにプリントの量が多く、

どうあっても私だけでは手が足りない。

でも私には問題なかった。

 

「さてと、頑張りますか!」

 

私にはそれが出来る『力』があった。

 

私はプリントの束を両手に抱え、自分の胸の方へと動かす。

この時、数少ない、というか極少の理由だが、自分の身体に正直感謝する。

なにせ、出っ張っていたらプリントが途中でズレテしまうからだ。

決して、現実逃避ではない、絶対にだ!

 

だが、流石に量が多くてバランスが取り辛いので、私はこっそりと『力』を使う。

 

すると、ぐらぐらしていた紙の束が、

ズレもなくスッと一つに纏まり、運びやすくなった。

 

「ありがとう」

 

私は『友達』に感謝する。

 

「これでよし、では職員室までファイトー!」

 

私はゆっくりと、慎重に職員室まで持っていった。

 

 

 

「お願い、ことなちゃん。今度のかるた大会の助っ人をお願いできないかな?」

 

「オフコース!任せたまえ!ちょっと百人一首覚えてくるから!」

 

急遽熱を出した部員の補欠として、私は何かと呼ばれることが多い。

流石に運動部や吹奏楽部といったものは無理だが、出来る限りのことはした。

 

「ことなちゃん、学校新聞で良いネタないかな?」

 

「エロトリオの一人に恋人が出来たみたいだよ。しかも、かなり美人でボン、キュッ、ボーン!

 それと、旧校舎の方で、なにやら謎の光が見えるとかあるみたいよ」

 

何かをするにはそれを知らないといけないから、私は多くのことを知ろうとした。

まぁ、流石に個人的な事まで首を突っ込むようなことはしなかった。

 

「ことなちゃん!私・・・」

 

「大丈夫、任せなさーい!」

 

自分を頼ってくれる人たちのために、私は出来ることをしようと思っていた。

 

 

『誰かのために何かできる』

それが私にとって大事なことだった。

『誰かのために何かできる私』

それが私にとって大切な自分だった。

 

 

 

 

 

 

『これからよろしくね、ことな』

 

『リアス先輩、よろしくお願いします!』

 

先輩から差し伸べられた手を、私は力強く握り返した。

 

姉妹が看板娘をしているケーキ店『カデンツァ』の大人気オレンジスコーンを家で食べるため、

偶然近道のために横切ろうとした公園での出来事。

羽を生やしたコスプレお姉さんと、朱い水溜りに倒れていた、悪名高い兵藤一誠。

そして紙から突然現れたリアス先輩。

その時の私は、まるでファンタジーの世界にいるかのようにおぼろげだった。

 

その翌日の帰り道、学園のマスコットと呼ばれる後輩の塔城小猫に引っ張られ、

私はオカルト研究部へと案内され、そして全てを教えられた。

 

悪魔、天使、堕天使、本当にファンタジーのような話を聞かされた。

正直、頭が痛くなったと思う。

それでも、私の住んでいる町を守るということは、理解出来た。

だからこそ、私は先輩たちと一緒に、町のために頑張ろうと思った。

 

リアス先輩から悪魔にならないか?というお誘いを受けた。

悪魔になれば、様々な特権や、人間とは比べ物にならない力を得られるという。

でも、私は断った。

数少ない両親の形見である、『人間』としての自分が好きだったからだ。

もちろん、先輩に直接そんなことは言わなかったが、何となく察してくれたと思う。

瀕死で止むを得ず転生してしまった兵藤は、別段気にもせず、むしろ喜んでいた。

まぁ、目の前にぶら下げられた人参につられたとしか思えなかったが。

 

その後、私は唯一の『人間』として、オカルト研究部の一員となった。

悪魔契約のスケジュール管理や備品の整理、

そして部費管理と言った事務を私は担った。

自分の力を使って、備品や書類の整理をせざるを得なかったこともあった。

時に、搭城さんや木場さんも手伝ってくれたり、

姫島先輩からは小休止にお茶を御馳走になったりと、仲が良かったのかもしれない。

 

私には他の皆のような魔力はなく、転移出来なかったせいもあり、

悪魔の契約を行うことが難しかったのだ。

それに私は、雑務の方が好きだったので、別段気にすることはなかった。

しかし、魔力が無さすぎて転移できなかった兵藤エロ誠が、

自分にドヤ顔をかましたのが気に入らなかった。

 

時折、事務だけに限らず、お菓子を作って振舞ったこともあった。

クッキーやおはぎ、頑張ってケーキまで作ったと思う。

 

マスコットの搭城さんが美味しそうに食べていた姿には、違う意味で涎が出ました。

うん、まるで小動物的な可愛さが爆発してました。リスみたいな感じ。

先輩の一人である、大和撫子を形作った姫島先輩からは、

免許皆伝を承る程にお茶を入れるのがうまくなった・・・気がする。

学園のイケメン王子様と呼ばれる木場さんからは、事務や備品類について教えて貰った。

感謝しきれないと言われた際は、本当に嬉しかった。

 

みんな、私の頑張りで笑顔になってくれていた。

 

一応、私と同時期に部員になった、一誠にも感謝はしている。

内心、エロ行為のせいで辟易しているが、それでも感謝してくれるのは満更でもないからだ。

ただ、ハーレム王に俺はなる!と宣言したことは、流石に看過されるものではなかった。

エロリーダーよ、まずは去勢されたらいいと思うんです。

 

その時の私は、本当に皆と一緒で楽しかったんだと思う。

 

 

 

 

 

私は吐いた。

今朝食べた目玉焼きや玄米、お昼に食べたトマトサンドイッチ、

夕飯に食べたフルーツが混ざった吐瀉物を、私は地面にぶちまけた。

 

「はぐれ悪魔を討伐しに行くわよ」

 

リアス先輩の言葉から始まった、町を守る為に大切な活動、『はぐれ悪魔狩り』

何でも、主のために悪魔となったが、力に魅入られて主から逃げ出し、

その力を悪いことに使う悪魔が、はぐれ悪魔という。

これから、その悪魔を捕まえるようだった。

私はよく解らなかったが、町の見回り隊みたいなものと思っていた。

エロリーダーもそんな感じだった。

 

だが、私は甘かった。

 

むせ返るような血の匂い、そして人と獣を混ぜた怪物。

それをまるで簡単に殺す先輩たち。

 

イケメン王子の木場さんが、化け物の両腕と体を切り裂いた。

怪物の悲鳴に耳を塞ぎ、切り傷から迸る真っ赤な血に、私は目を逸らした。

 

マスコットと呼ばれた可愛い搭城さんが怪物を殴り倒し、

まるで重機がぶつかったかのように、ぶっ飛ぶ怪物に私は呆然とした。

 

大和撫子と思っていた姫島さんが、楽しそうに怪物を焼いて痛めつける光景に目を疑った。

皮膚が、肉が焼け焦げる匂いに、私は口元を押さえた。

 

赤い髪を靡かせて、目の前を光景をエロ魔人に教えていたリアス先輩が、

姫島先輩によってまっ黒焦げになり、息も絶え絶えな怪物を消滅させた。

エロ魔人が、まるでカッコいい!というように目を輝かせていたが、

私は耐えきれずその場から走りだして、近くの床に吐いた。

 

リアス先輩が、そんな私を心配するように言葉をかけてくれた。

 

「ことなには刺激が強すぎたようね。

 でも大丈夫、何かあったら、私が、私たちが守るわ。

 だって、ことなは大切な家族であり仲間だもの」

 

心配してくれる先輩の言葉に、私はただ「ありがとうございます」と言うしかなかった。

 

私は、先輩たちが倒した怪物よりも、それを作業のように倒した『先輩たち』に恐怖していた。

もちろん、そんなことは言えなかった。

 

だがその日から、私の中で何かが変わってしまったと思う。

先輩たちを見る眼が、何か変わってしまったような気がする。

 

 

そしてそれを後押しするように、物事が起き始めた。

 

 

「はぐれエクソシスト・・・ですか?」

 

傷だらけの一誠を抱え、転移で返ってきた先輩たちが、私と一誠に説明する。

何でも、召喚した人の家に行ったら、その人が酷い有様で殺され、

そこにはぐれエクソシストと呼ばれる人間がいたのだという。

 

部長曰く、魔を祓う教会の戦士だが、憎しみか、それとも快楽に呑まれてしまい、

悪魔や悪魔に関わる存在全てを殺すようになる危険人物だとか。

 

「はぐれエクソシストと関わるのは得策ではないわ。

 それに、あちらには堕天使という後ろ盾がある。

 仮にそのシスターを助けようとしたら、私たちまで戦うことになるわ」

 

その言葉に、エロ魔人が黙り込む。

皆を巻き込みたくないという葛藤に苛まれているのだろうか。

 

だが、私はここで疑問が浮かんだ。それはほんの些細な事なのかもしれない。

でも、私はそれが引っかかってしまった。

 

殺されてしまった人はいったいどうなったのか?

 

リアス先輩は、一誠が無事であることを嬉しく思っている。

だが、その危険人物に殺されてしまった犠牲者に対する言葉がない。

私はそのことを尋ねてみた。

リアス先輩は『大丈夫、もう済んだから』とだけ答えてくれた。

その時の顔を、私は見逃さなかった。

私は、私たちを優しく見守るリアス先輩の姿が、少し歪に見えた・・・気がした。

 

 

 

 

 

「よろしくおねがいします、ことなさん」

 

「よろしくね、アーシアちゃん」

 

元気よく私に声をかける存在がいた。

彼女の名は、アーシア・アルジェント。

太陽の光を放つような金色の髪、全てを包み込むような、優しい笑顔を持つ、『悪魔』だ。

正確には、『元聖女という人間』から転生した『悪魔』だ。

 

兵藤一誠が、教会に連れ去られたこの子を救おうと乗り込んだので、

私も恐怖心にかられながらも助けに行ったのだ。

そこで行われたのは、一方的な戦いだった。

 

襲ってくる神父や天使たちを斬り倒し、殴り飛ばす木場さんと塔城さん。

アーシアを攫った堕天使と戦う一誠。

私は震えながらも、襲い来る神父さんたちを、どうにか『力』で気絶させていった。

バットを振り回して応戦したが、殴った感触がとても気持ち悪かった。

手に伝わった肉や骨の感触が、今でもこびり付いている。

正直、忘れられない記憶となった。

 

そして、人間を蔑視する堕天使と戦うも、アーシアは死んでしまった。

だがリアス先輩によって、アーシアは悪魔に転生し、見事助かったというわけだ。

助かったアーシアを抱きしめて喜ぶ一誠と、それを嬉しそうに見つめる先輩たち。

だが、私は気付いた。気付いてしまった。

 

『彼女の回復能力は僧侶として使えるわ』

 

リアス先輩はそう言っていた。

 

もしかしたらリアス先輩は・・・違う!そんなことはない!

私はかぶりを振った。そんなはずがない。

だってリアス先輩は、この町を守ると私に言ってくれたんだから。

人間と仲良く付き合いたいと言ってくれたのだから。

まさか、『アーシアが死ぬことを望んでいた』とか、

『死んだら貴重な力が手に入る』とか、そんなことを考えているはずがない!

きっと私の想い過ごしなんだ!

 

目の前のアーシアを見つめる私は、

彼女が助かったことに安堵する反面、彼女の行く末がとても怖かった。

そして、私が死んだらどうなるんだろうか、そんなことを、私は思ってしまった。



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2話

「おはよう!ことなちゃん」

 

「おはよう!いい天気だね!」

 

一緒に登校する友人と出会い、私は笑顔で応える。

彼女はいつも、一緒に登校しようと、自分の家の前で待っていてくれる。

なぜか、今はその姿に引け目を感じてしまう。

 

 

身体が重い。

 

 

「あら、ことなちゃん!今日も学校行ってらっしゃい!」

 

「おばさん、行ってきまーす!」

 

ゴミ袋を両手に抱えたおばさんにも、笑顔で挨拶をする。

ゴミだしの日の時は、いつも登校時間と重なって、いつも出会う。

元気の塊のような人で、その姿を見習おうと尊敬している人だ。

でもなぜか、もうおばさんの様にはなれない、と思ってしまった。

 

 

学園に行きたくない。会いたくない。

 

 

「見て!リアスお姉さまに姫島お姉さまよ!ほんと、お二人とも綺麗だよねぇ」

 

学園の門を通ろうとした際に、友人の言葉に私は一瞬身体が固まった。

 

「って、なんで変態がお姉さまたちと一緒にいるのよ!?お姉さまたちが穢されるわー!」

 

 

声の方へ顔を向けると、遠目からでも見える朱い髪をした女性が見えた。

その隣には、烏の濡れ羽色の髪をポニーテールした大和撫子。

黄金の髪を靡かせ、女子の心をつかんで離さないような美形の王子様。

そんな人たちとは逆に、こじんまりとして抱きしめたくなるような、

思わず愛でてしまいたくなるような女の子。

まるで純真無垢な女の子を体現したような、思わず頭を垂れてしまいそうな、

そんな慈悲を纏った女の子。

そして、学園二大お姉さまと一緒にいることで、顔を極限までだらしなくした変態。

 

言わずと知れたオカルト研究部の方々が、こっち(校門)へ歩いてきた。

その姿に、何故か私は一歩下がった。

私も、彼らと同じなのに。

 

 

恐い。

 

 

「ねぇ、ことなちゃん!何であんな変態が一緒に登校してるのよ!こんなの絶対おかしいよ!」

 

「ほんと、フシギダネ」

 

 

なんで、そんな顔で登校できるんですか?

私は、和気藹々のオカルト研究部に疑問ばかりが浮かんでくる。

 

 

 

あんなこと(殺し合い)があったのに。

 

 

 

 

あの時の出来事は、今でも頭にこびり付いている。

自分の行いが、両手にへばりついて消えてくれない。

相手の骨が折れる音、折れる感触、叫び声、映像、その全てが私に残っている。

 

成り行きとは言え、一緒に教会へと乗り込み、

襲ってきたとはいえ、私は相手を殴り飛ばしてしまった。

言い訳をしたところで、その事実が消えることはない。

私は自分の意志で、相手を傷つけてしまったのだ。

 

そのことを思うと、私は、

自分が犯罪者になってしまったと、自分が最低なことをしてしまったと、

自分が最低な人間になってしまったと、罪悪感でいっぱいになる。

 

私に声をかけてくれる友人や近所のおばさんに、顔を向けられなかった。

 

そんな私とは反対に、

笑顔で、楽しそうに、まるであの時のことなど無かったかのように、

学園生活を満喫するリアス先輩や姫島先輩たち、

そして一緒に登校する兵藤を、私は理解出来なかった。

 

怪物を簡単に殺し、襲ってきた人たちを簡単に殴り飛ばし、

そして、堕天使たちを簡単に消滅させた先輩たち。

なのに、なんで兵藤は一緒に笑い合ってるの?なんで楽しそうなの?

悩んでいる私がオカシイの?

 

 

どうして?私はその問いをあの人たちに訊きたかった。

でも、どんな答えが返ってくるのか恐い。だから、訊けない。

仮に訊いたとして、

 

 

それに何の意味があるだろうか?

 

 

「・とな・・ん!こ・・ちゃん!」

 

「え?」

 

不意に体が揺さぶられ、顔を上げると、心配そうな友人の顔が見えた。

 

「ことなちゃん、どうしたの?顔色が悪いけど、大丈夫?」

 

思考の迷路に足を踏み入れた私の顔が酷かったのか、友人の声に我を取り戻す。

心配する友人に対し、私は「何ともないよ」と笑顔で応える。

 

「問題ないよ。ちょっと寝不足気味だし、疲れが溜まってるのかな?」

 

眠れるわけがない。眠れるわけがないよ。

 

 

友人が私の顔をじっと見つめると、少し怒ったような顔になった。

 

「ことなちゃん、頑張るのも良いけど、自分のことも見なきゃダメだよ?

 ことなちゃんのおかげで、みんなは助かってるのも事実だけどさ。

 でも、肝心のことなちゃんが倒れちゃったら、私、心配になっちゃうよ?」

 

「ありがとうね」

 

本当に私のことを心配していくれているのか、友人の言葉が私の心を癒した、と思う。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、ことなちゃん!

 急なお願いだけ、私たち(漫研)の手伝いお願い出来るかな!?

 今、木場☓兵藤派と兵藤☓木場派で言い争ってるせいで、人手が足りなくて!」

 

「もちろんオッケーだよ。でも、その両派は滅べばいいんじゃないかな?」

 

私は、醜い争いが繰り広げられている漫研部員に笑顔で言い放つ。

人の考え方はいろいろあるけれど、流石に本の題材は隠した方がいいと思うの。

私の了承に女子部員は、言質を取ったからね?と口元を歪める。

そして『逃がさない』とでも言うかのように、私の手をがっちり握りしめ、

確実に修羅場と化している部室へと私を引っ張っていった。

 

 

 

 

「夢殿」

 

職員室にオカルト研究部の書類を届け、職員室から出ようとした際に、担任に声をかけられた。

まるでオカルト映画に出てくるゾンビのような状態の先生に、「ひっ!?」と声を上げた。

すぐに謝る私を、先生は苦笑いで許してくれた。

どうやら、何か忙しい様子であまり寝ていないのか、目に隈も出来ている。

 

「またお前に頼むのも悪いんだが、これを教室まで持って行ってくれないか?本当にすまん」

 

「はい、大丈夫です。直ぐに持っていきますから」

 

私は、先生の机に積まれている紙束を持ち上げ、教室を後にする。

その際、「先生、ちゃんと休んでくださいよ」と一言添えた。

返答は苦笑いだった。

 

 

「ことなちゃん!」

「ことなさん!」

「ことっち!」

「ゆーちん!」

 

「いっぺんに頼まないでー!私の身は一つしかないんだよー!?」

 

いつもの日常のように、私は助っ人として引っ張り回されていた。

考える余裕もなく、私は引っ張られていった。

でも、今の私にはそれが救いだった。

何かしないと、また変な思考になってしまうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

オカルト研究部の部屋で、リアスは友人であり、部員の姫島朱乃と共にいた。

一誠たちは、それぞれの仕事へと向かったため、今は二人しかしない。

リアスは、ソファに深く身体を預け、静かに待っていた。

オカルト研究部、唯一の『人間』である、夢殿ことなである。

 

部室の扉が開き、リアスがそちらへ目を向けると、夢殿ことなが息を切らして立っていた。

どうやら、急いでやってきたのだろう。

だが彼女には申し訳ないが、すでに部活の時間は始まっている為、遅刻である。

 

「あら、ことな。今日も来るのが遅かったわね。また助っ人で忙しかったの?」

 

「はい、すみませんでした。

 皆さん頼ってくるから、なかなか断り辛くて・・・」

 

最近になって遅刻するようになったコトナに、リアスは少し小言を口にする。

その言葉に、ことなは申し訳なさそうな顔をして、頭を下げる。

 

 

「一誠やアーシア、他の皆はもう仕事に出かけたわ。

 で、ことなが一番最後にやってきたの。

 学園生活を満喫するのも良いけれど、だからと言って毎度遅刻するのも駄目よ?

 あなたは私たち、オカルト研究部の部員なんだから」

 

「すみません、気をつけてはいるんですけど・・・」

 

リアスは、彼女の言葉に眉をしかめる。

内心では怒ってはいないのだが、ことなに緊張を持たせるためのポーズである。

その仕草に、ことなは一瞬、身体が固まる。

 

 

「部長、ことなちゃんも悪気があっての事じゃないのですから、それ位にしてはどうですか?」

 

朱乃の言葉に、リアスは「仕方ないわね」と溜息を吐く。

ことなにしても、悪気があって遅れてくるわけではないのだから、

そこまで怒るのも気が引けてしまうのだ。

 

「そうね、ことなの助っ人ぶりは有名だもの。それを怒っても仕方ないわね」

 

「姫島先輩、ありがとうございます」

 

「あらあら、お礼なんて良いですのに」

 

ことなは朱乃にお礼を言い、直ぐに彼女の名が貼られた机へと脚を運ぶ。

机の上には、積み上げられた契約者の願いと契約者の関する書類が置かれている。

ことなの仕事は、契約内容の吟味、内容の仕分け、

そして部員全員の一週間分のスケジュール管理を行うことだ。

彼女のおかげで、契約と町のパトロールの遂行がスムーズに行くようになった。

彼女の存在で、他にも色々と大助かりだ。

 

 

しばらくすると、部室の扉が開いた。

 

「部長!ビラ配り終わりました!」

 

「終わりました!」

 

一誠とアーシアが入ってきた。一誠は汗がビッショリであり、少し息を切らしている。

 

「二人ともご苦労様。少し休みなさい」

 

「「はい!」」

 

リアスの労いの言葉に、二人は嬉しそうに応える。

一誠に至っては、少し顔がにやけている。

 

 

 

 

「リアス先輩、書類の選別が終わったので、私は備品を整理してきます」

 

リアスたちが、一誠等と共にゆっくりしていると、ことなが立ち上がった。

見れば、大量にあった契約書は、綺麗に選別され、各棚に入っている。

思いのほか早く終わらせたことに、リアスは少し驚いた。

 

「あら、もう終わったの?だったら、ことなもゆっくりしたらどう?

 お茶とお菓子もあるわよ?」

 

「いえ、私は大丈夫ですから」

 

リアスはことなにも休憩するよう言うが、

ことなはリアスの申し出を断ると、直ぐに部室から出っていった。

 

 

その姿に、一誠は少し眉を顰める。

 

「なんだよ、ことなの奴。せっかくの部長の御誘いを無下にしやがって。

 俺だったら、部長の御誘いなら、何でも喜んで頷くってのに」

 

「あら、それは嬉しいわね」

 

「い、イッセーさん!私のお願いは駄目でしょうか!?」

 

「あらあら、私は仲間はずれですか?」

 

一誠の発言に、女性陣がやいのやいのと騒ぎ出す。

 

すると、魔法陣が光り、木場と小猫が帰ってきた。

 

 

「部長、帰ってきました・・・って、おや?お取込み中だったかな?」

 

「一誠先輩が、部長たちに絡まれてにやけています。変態」

 

「いや、違うんだよ小猫ちゃん!というか木場は俺を助けてくれ!」

 

一誠は小猫には弁解を、そして木場には救援を求めるも、

しばらくは。もみくちゃにされるのであった。



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3話

「ことな、急な話だけど、しばらくの間は部活はお休みよ」

 

「はぁ・・・・・・?」

 

いつものように、オカルト研究部へ遅れてやってきた私は、

リアス先輩の言葉の意味が解らなかった。

急な話過ぎて、頭の理解が着いて行かない。

 

「しばらくの間、私たちは修行のために山籠もりするの」

 

「はい・・・・・・?」

 

混乱する私を、リアス先輩は優しく諭すように言う。

その言葉に、私の頭は、ますます理解が追いつかなくなった。

 

修行?山籠もり?一体急にどうしたというんだ。

 

 

「リアス先輩、ことな先輩がますます混乱してます」

 

「あら、ことなには難しかったのかしら」

 

「いえ、部長、そういう問題じゃないと思いますよ」

 

搭城さんの言葉に、リアス先輩が素で聞き返し、木場さんがツッコミをいれる。

取りあえず、私は詳細な説明を求めた。

 

 

 

「というわけで、私たちはレーティングゲームに勝つために、修行するの。

 だから、10日間は学園を離れるから、それで部活は出来なくなったというわけ」

 

「・・・・・・そうですか」

 

リアス先輩の説明を受けた私は、ただただ返答するしかなかった。

そもそも、リアス先輩に婚約者がいたということ自体が初耳だ。

その上、リアス先輩の結婚契約を破棄するために、婚約者と戦う?

なんだそれは。

私にはまったく意味が分からない。

 

なんでも、リアス先輩の実家であるグレモリーの家は、

相手側であるフェニックス家(魔獣フェニックスの血を引くとか)と婚約していたと。

それは、先の戦争による純血悪魔の大半が滅び、

純血悪魔の血を絶やさない為に、両家が同意した契約だとか。

だが、それにリアス先輩が大反対。

散々駄々を捏ねるリアス先輩に我慢できなかったのか、

今日、私がいない時に婚約者が「いい加減にしろ!」と迎えに来たのだとか。

そして、両者の意見が平行線ということで、レーティングゲームによる決闘が決まったとか。

 

取りあえず、リアス先輩や部活のみんなは、

その婚約者のことが大嫌いということは何となく解った。

特に兵藤は、先ほどから人一倍熱いオーラを放っているからだ。

まぁ、ハーレムを持っているいうことらしいので、大半が嫉妬なんだろうけど。

 

 

「あの焼き鳥野郎!あんなイケ好かねぇキザハーレム野郎に部長を渡すわけにはいかねぇ!

 絶対に部長との婚約を阻止してやる!」

 

「一誠先輩、同族嫌悪って知ってますか?」

 

「どうぞくけんお・・・?ってどういうことですか?」

 

「えっと、それは僕からは・・・」

 

なにやら叫んでいる兵藤のことは放っておいていいだろう。

別段、いつものことだし。

搭城さんの皮肉を、アーシアちゃんは意味が解らなかったのか、木場さんに聞いている。

 

 

だが、リアス先輩の説明の中で、私に引っかかった言葉があった。

レーティングゲーム。

前にリアス先輩から、悪魔の駒の流れで説明して貰ったものだ。

 

 

なんでも、天使や堕天使との戦いで大半の同胞を失った悪魔たちは、

数を少なくした代わりに、その小数を即戦力として鍛え上げる方向へと転換。

その際に、人間界のチェスを参考にしたのがレーティングゲームで、

各駒に特性を与えることで、より強力な戦力として活用できるようになったとか。

 

『騎士』は速度の向上、『戦車』は身体の耐久性と攻撃力の増加、

『僧侶』は魔力の底上げ、『女王』は騎士・戦車・僧侶・兵士の特性を供え、

『兵士』は敵陣地で『王』を除いた駒へと昇格し、その特性を得られる。

 

どうして駒の特性がそうなるのかは、私からしたら全く解らないが、

基本的ルールは、私たち(人間界)でお馴染みのチェスと似ている。

 

そして、チェスという基盤を得たこのゲームは、悪魔の上流貴族の中では大ブーム。

それぞれが、自分の眷属を互いに戦わせて、その優劣競うようになった。

レーティングゲームに勝敗によって、その地位も名誉も得られるとか。

ある意味、レーティングゲームが、悪魔社会の一部となったとも言える。

 

まぁ、私が気になるのは、そんなことじゃないけどね。

 

ゲームに勝つために必要であり、自身を着飾るためのステータスとして、

優秀な『駒集め』が行われていうということだ。

 

そりゃそうだ、駒の特性があろうと、それはあくまで付加される特性だ。

基本的な能力が優れていれば、それだけで試合に有利だと私は思う。

いくら優れていようとも、人間がドラゴンと身体能力で勝てるとは思えない。

だから、他の競争相手よりも更に優秀で、より素晴らしい駒を集めようとするのは自明の理だ。

それこそ勝つために、駒集めに『血眼』になったりするんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

『ところで、仮に眷属になるのを断られた場合、どうするんでしょうね?』

 

 

 

 

 

「ことな?」

 

「あ、すみません、少し考え事をしていて・・・」

 

リアス先輩の言葉に、私は考えるのを止めた。

というか今、私は何を考えていたの?

いくらリアス先輩たちが怖いからって、考え過ぎなんじゃないかな。

 

あの時(殺し合い)は確かにショックを受けちゃったし、

今もそれが後を引いているとはいえ、リアス先輩たちは、まだ信じられると思う。

そうだよ、私たちの住んでる駒王町を守るって、リアス先輩は私に言ってくれた。

約束してくれたんだもの。

今はまだ、信じても良いと思う。恐いけど。

 

 

私は、悪い考えを払拭するように、今後の予定についてへ思考を切り替える。

取りあえず、リアス先輩と話をつけないとね。

 

「それで、みなさんは10日間も修行に出かけるということですが、

 その間の部活や部室、契約の方はどうしたらいいですか?

 私、みなさんが帰ってくる間、契約書の分類、部室の掃除とかしておきますけね。

 あと、学園へ部活動の書類を提出したいのですが、どういう風に書いた方が良いですか?」

 

「?」

 

私の言葉に、リアス先輩はまるで「貴女は何を言ってるの?」という顔をする。

まるで、私の言葉が予想していなかった、とでも言うかのように。

リアス先輩どころか、部室にいる他のみんなも、そんな顔をしている。

あの兵藤どころか、アーシアちゃんまでもだ。

 

あれ?私、何か変なことを言ったのかな?

だって、10日間、婚約を解消するためのゲームに勝つために、山に籠って修行してきます、

なんて書いて提出したら、

受理されるどころか、下手しなくても、職員室呼び出し、説教、反省文提出になる。

流石にそれは駄目だと思う。

それに、パトロールのお仕事があるし、契約の依頼は毎日のように来るのだから、

10日間も留守にしたら、契約書の束で部室が埋まってしまうと思うの。

だから、私がやっておきます、と言ったのに。

 

みんな、私を見て、おかしな顔をしてるんだよね。

まるでみんな、『私も一緒に着いて行くと思っていた』という顔をしているんだから。

 

 

 

嫌だ

 

 

 

「ことな」

 

「はい、何ですかリアス先輩?」

リアス先輩は私にゆっくりと近づいてくる。

まるで、授業で問題が解らない生徒に、解りやすく教えようとする先生の様だ。

その顔は、見る者を安心させてしまう、優しい顔だ。

優しい微笑だ。

 

 

 

嫌だ

 

 

 

「あ、あの!私、明日も、その明日も、他の人の代わりというか、助っ人をを頼まれちゃって!

 えっと・・・そう!だからあの、本当に申し訳ないんですけど、

 私はリアス先輩たちと一緒に行けないかなぁ・・・って」

 

リアス先輩が私の前に来た。

 

「だから、あの、本当に・・・ごめんなさい。

 みんなが決意をしてる中、私だけが参加できないのは、心苦しいんですけど、

 本当にごめんなさい」

 

私はリアス先輩に頭を下げた。

リアス先輩は黙ったままで、私に注がれているであろう視線に、

私は身体が震えだすのを必死に堪えている。

 

 

 

恐い。

 

 

 

「ことな」

 

リアス先輩の唇が開き、私は頭を撫でられた。

私は予想外のことに驚き、頭を上げてしまい、リアス先輩と目があってしまった。

リアス先輩は、優しい顔で私を見ていた。

 

「そんなに自分を責めなくてもいいのよ。

 正直に言ってしまうと、確かにことなにも手伝ってほしいと思ったわ。

 だって、あなたはあなたが思っているよりも、私たちにとっては凄い存在なのだから」

 

 

一瞬、私の身体が強張る。

 

 

「でもだからと言って、ことなにはことなの生活があるものね。

 それを私の都合で壊してしまうのは、私にはとても心苦しいし。

 それにことなの気持ちも、痛いほど伝わってきたわ」

 

「リアス先輩・・・」

 

「だから、私たちがいない間は、お仕事のこと、しっかりと頼むわよ。

 大丈夫、私たちは絶対に勝つんだから」

 

リアス先輩の言葉に、他のみんなが声を上げる。

 

「その通りです部長!俺があの焼き鳥をボッコボコにして、部長に勝利を届けます!」

 

「あらあら、一誠君は燃えてますね」

 

「どう見ても、ハーレムを見せつけられた恨みですよ、変態」

 

「これは僕も、一誠君を見習わないといけないのかな?」

 

「わ、私も!頑張ります!」

 

その姿に、私は少し安心した。

ああ、私は行かなくていいんだ、と。戦わなくていいんだ、と。

だから私は、リアス先輩の言葉を受け入れた。

 

「分かりました!

 夢殿ことな、みなさんがいない間、このオカルト研究部を守護します!」

 

「守護するだなんて、大げさなんだから」

 

私の言葉に、みんながくすくすと笑いだし、私は気恥ずかしさで顔を真っ赤にした。

私は、安心した。

リアス先輩やみんなの笑い声に、私は安心した。

安心して・・・しまった。



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4話

目覚ましが鳴る前に、私は目を覚ました。

不思議なことに、今日は珍しく目覚めが良いと感じる。

本当に、安らかに眠れた、そんな気分だ。

最近は、なぜか寝つきも悪く、寝ても直ぐに目を覚ましてしまうことが多かったのに。

 

早く目が覚めてしまったが、私のすることは変わらない。

いつものように朝ご飯を作り、仏壇にご飯を添える。

朝ご飯のついでに、お昼のお弁当も作っておく。

最近は、身体が不調気味だったせいか、

冷凍食品で誤魔化していたのだが、今日は時間があるから、少し手を加えてみることにする。

食べ終えた食器を洗い、歯磨きをして洗顔し、パジャマから制服に着替え、掃除機をかける。

授業の用意は、寝る前にやっておいたのだが、今一度鞄の中身を確認。

よし、忘れ物はない。

 

玄関前の姿見で自分の容姿を確認する。

髪のセット・・・よし!

制服は・・・襟元よし!皺は無し!リボンよし!イッツパーフェクト!

うん、何故か絶好調な気がする。

少し早いが、私は家の門前で待つことにした。

いつもは、友人がチャイムを鳴らしてから家を出るが、今日は自分が待ってみよう。

彼女の驚く顔が目に浮かび、私は少し意地悪な顔になった。

 

 

 

「あれー!?ことなちゃん、今日はどうしたの!?」

 

案の定、私の姿を見た彼女は、まるで珍しいモノを見たように、目を丸くして驚いた。

 

「いやぁ~、今日はすこぶる目覚めが良くてさ。だから待ってみようと思ってね」

 

「ほへぇ~、珍しいこともあるもんだね。

 なんか、私を待つことなちゃんが、すっごく違和感に思えるよ」

 

「あはは、いつもは私が待たせてるからねぇ・・・ごめんなさい」

 

「いやいや、私は迷惑だなんて思ってないから!」

 

ぺこりと頭を下げる私に、友人は焦ったようで、手を前であたふたと交差しながら否定する。

その姿に、私はプッと息が漏れた。

 

「あ、ああああー!?ことなちゃん、今笑ったでしょ!笑ったよねぇ!」

 

「ごめんごめん。慌てる姿が、あんまりにもおかしくって・・・!」

 

必死に笑いを堪えつつも、私は涙目の友人を慰め、

購買でおやつの菓子パンを奢ることでなんとかことをおさめて貰った。

 

「じゃあ、行こうか!」

 

「はいはい、そう急がなくても間に合うって」

 

急ぐように私を引っ張る友人の姿を、私は微笑ましく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

学園は、いつものように平穏だった。

いつものように騒がしく、いつものように忙しく、いつものようにゆったりとしていた。

ただ昨日と違うこともあった。

 

学園の二大お姉さまである、リアス・グレモリー先輩と姫島朱乃先輩、

学園の貴公子と陰で呼ばれている、木場裕斗さん、

学園のマスコットの扱いである、塔城小猫ちゃん、

ある意味で、学園に花を添えている方々が欠席していることだ。

 

なんでも、体調不良を起こし、その養生の為、少しの間お休みするとか。

学園を(ある意味で)盛り上げている人たちのお休みと言うことで、

殆どの生徒は、お姉さまたちの養生が、心配でたまらないという様子だった。

それにより、学園の雰囲気は割かし沈んでいる気がする。

この雰囲気に、私はみんなの影響力と言うものを少し実感した。

 

「学園の二大お姉様たちだけじゃなく、他の人たちもお休みだなんてねぇ。

 そういえば、ことなってオカルト研究部の一員だったよね?

 なにか原因とか知ってるんじゃないの?」

 

「いやいや、知ってるわけないでしょ。

 それに、所属してるといっても、私は割と幽霊部員みたいなものだから・・・。

 ほんと、一体どうしたんだろうね?」 

 

まぁ、事実を知っている私からすれば、

まさか『山籠もりしてます』と言えるわけがないので、白を切ることにする。

数少ない友人?である桐生ちゃんのジト目を受けながらも、私は誤魔化した。

 

あ、兵藤も欠席していることに関しては、寧ろ欠席したことは歓迎されていたが、

残りのエロトリオ(松田・元浜)の相変わらずの所業のせいで、

あまり気付かれなかった、と言った方が正解かもしれない。

 

憐れ兵藤。

恨むなら自分の所業を恨むがいい。

所業が多すぎて困りそうだけど。

 

 

「ことなが知らなきゃ、私が知ってるわけないでしょ」

 

私の問いに桐生ちゃんが苦笑する。

いや、桐生ちゃんなら知ってそうだから、なんて口が裂けても言えない。

カウンターで、私の乙女の尊厳と精神削られるので。

胸揉みは、女の子同士でもセクハラなんですよ・・・。

 

「あ、そうそう。

 さっき1年生があんたを探してたけど、なになに?何かやらかしたの?」

 

「桐生ちゃんが思っているようなことはないよ。

 多分、いつものように、部活か何かのお手伝いのお願いでしょ」

 

桐生ちゃんは、「あんたは相変わらずだねぇ」と半ば呆れ顔だ。

 

「いつも思ってるんだけどさ、少しは自分のことも考えなよ?

 今日は顔色良いけどさ、最近はかなり暗かったんだから。」

 

「え、ほんと?」

 

「ほんとよ。誤魔化せてたと思ってそうだけど、気付いてた子もいるんだから」

 

前にも友人に言われたが、桐生ちゃんからも言われるとなれば、

私の顔は相当酷かったのかもしれない。

 

「ありがとね。気をつけてみるよ」

 

私はお礼を言って、教室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「さて、お仕事をしますか」

 

私は一人、オカルト研究部の部屋で、一人契約書を仕分けていた。

いつもならば、リアス先輩がソファに腰かけ、その傍で姫島先輩が笑顔で立っている。

そして、木場さんや搭城さん、アーシアちゃんや兵藤が、契約のお仕事で出かけていく。

だが、今日から10日間は、みんなはいない。

だからだろうか、けたたましさはなく、まるで静寂に支配された様に静かで、

私の仕分ける紙の音や、椅子や机の軋む音が、より響いた。

だが、私は何故かそれに安らいでいた。

理由は何となく思いつく。

 

私が仕分けをしている最中、時折リアス先輩は、こっそりと私を見ていた気がする。

まるで私を監視するかのように。

遅刻常習犯の私だからこそ、見られているのは仕方がないと思うのだけど、

私は時折寒気のようなものを感じてもいた。

リアス先輩の視線は、『私ではない何か』を見ていたような、そんな気がした。

まぁ、気のせいだと思うけどね。

 

そう思っている間に、気が付けば仕分けも終わり、

後は備品の確認をすれば、私の仕事は終わりとなる。

 

「さて、早く終わらせておうちに帰ろうっと」

 

私は、気合を入れた。

 

 

 

 

そして、それから1週間が過ぎ、大きな問題もなく、私は日常を過ごせた。

いつものように先生や後輩から頼られ、忙しく駆け回っていた。

そして、いつものように、書類整理を終えると、偶然、友人と出くわした。

なんでも、彼女の部活もちょうど終わったところらしく、偶然が重なったみたいだ。

と言うわけで、珍しく二人で帰ることにした。

 

普段は一人で返っていた帰り道だが、今日は隣には友人がいる。

それだけで、何か心が落ち着いていた。

 

「いやー、ことなちゃんと帰れるなんて久々だねー」

 

「え、そう?・・・あ、確かに久々かもね」

 

話しかけてきた友人の言葉に、私は前のことを思い出した。

オカルト研究部に入る前は、偶に一緒に帰っていたかもしれない。

だが、最近では一人で帰っていた、と今気が付いた。

 

「ことなちゃん、色んなことで忙しかったみたいだしね。

 今日は元気いっぱいだったけど、前なんか倒れそうな雰囲気もあったんだよ?」

 

「え、本当に?

 前にも指摘されたし、桐生ちゃんにも言われたけど、私ってそんなに酷かったの?」

 

私の問いに、友人は「うん」と肯いた。

 

「まぁでも、今日は良い感じみたいだし、少しはゆっくりしなよ?」

 

「あはは・・・善処します」

 

友人の言葉に、私は首を縦に振らざるをえなかった。

友人を怒らせると、後が怖いことを知っているからだ。

でも、不思議と心地いい気がした。

なんだろう、私がこんなに安心できたのって、いつ以来だろうか。

 

そんな会話をしていた中、ふと何かを思い出したように友人は私に顔を向けた。

 

「そうそう、ことなちゃん!『コウモリ人間』って知ってる?」

 

一瞬、私はそれに該当する存在が頭を過るも、まさかね、と思い至る。

私は首を横に振ると、友人は顔を近づけてきた。

 

「なんでも、この町にコウモリの比翼(つばさ)を生やした人間がいるんだって。

 夜、窓の外を見たら、月にそれっぽい影が映ったとかなんとか」

 

「へ、へぇ~?でも、それっぽいだけでしょ?それだけじゃいるのか解らないじゃない」

 

私が言うと、「そうなんだよね~」と苦笑いする友人。

でも私の中では、十中八九、先輩たちだよね・・・と確信していた。

 

「それじゃもう一つ、『誘い女』ってのは?」

 

「なにそれ?」

 

 

私の表情に、友人はしたり顔で話してくる。

 

「なんでも、夜に道を歩いてると、不意に声をかけられるんだって。

 で、声の方を見ると、綺麗な女性が立っていて、

 夜道で迷子になったので家まで連れて行ってほしいって頼まれるの。

 そして、親切心から彼女を案内してしまったら、いつの間にか異世界に足を踏み入れてしまい、

 二度と帰ってこないって話」

 

「なら断ればいいじゃない」

 

私の一言に、友人は「だよねー」と苦笑する。

あれ?私はおかしなことを言っていないはずだが。

 

「でも、不思議なことに断ることが出来ないみたいで、必ず案内してしまうんだってさ。

 いやー、恐い噂だよね」

 

そう言って、自分の話に恐がる友人を見ながら、私はふと疑問に思った。

 

「でもさ、もしもそれが本当だったら、何でそんな噂が立つのよ。

 だって連れられた人は帰って来ないんなら、そんなことを話せる存在はいな「あのぉ・・・」

 

その声は、まるで艶美な声だった。

聞いた者を嫌でも惹きつけさせる、顔を向けさせるような声だった。

 

嘘だ

 

私は願った。それはただの噂話でしかないはずだ。

だって、そんな噂が立てられるはずが・・・!

 

いや、いた。

噂話を発信できる存在は、まだいた。

『連れ去る側』がそれを発信できる存在なのだ。

 

「あのぉ・・・すみません」

 

自分の身体が勝手に、声の方へと進む。

 

駄目だ。お願いだからそれは駄目だ。

 

チラリと目で友人の方を見れば、

彼女も同じように必死に抗っているも、私よりも体が進んでいる。

 

徐々に徐々に、私の身体は動き、心の中でパニックを起こしていた。

そして私は見てしまった。

 

「すみません、道を案内していただけませんか?」

 

長い髪の女性がいた。それは人からすれば綺麗と言っても良いほどだ。

だが、彼女の下半身は人ではなかった。

それは細長い足が8本、胴体から伸びており、

後ろには人間にはあるはずのないものが見えていた。

 

「にげ・・・!」

 

そう言おうとした私は、突然、腕に熱い何かを感じ、声が出なかった。

まるで熱した鉄の棒を刺されたみたいに、熱くて痛い。

見れば、細長い何かが私の右腕を貫いていた。

それは肢だった。

 

「あぶないあぶない。無駄に大声出されるのも困っちゃうのよ。煩くってね」

 

目の前の化け物は、私が叫べなくなったことに満足したのか、笑っている。

 

 

痛い

 

 

「それにしても不思議ね。私の声は特別なのに、声を上げようとしただけでも凄いわ。

 こっちの子は、私の声に意識を奪われているっていうのに」

 

目で友人を見ると、彼女の目に光はなく、気を失っているようだった。

 

「あ、なた・・・は、はぐれあく、ま、なの?」

 

 

苦しい

 

 

私の問いに相手は、面食らった顔をするが直ぐに笑顔に戻った。

 

「あら、それを知っているってことは、貴女はただの人間じゃなさそうね。

 そうよ、私ははぐれ悪魔のレディプス。

 元の主に捨てられて、はぐれ悪魔になった憐れな存在よ」

 

レディプスの言葉に、私は何かを感じたが、痛みにあえぎながらも言葉を出す。

 

「ここは、リアス・グレモリー、先輩、が、治め、る領地です・・・!

 はやく、にげない、と、直ぐに、みんなき、ます、よ」

 

私は彼女に嘘を言う。

リアス先輩たちは、後3日間は山籠もりで、本当はいるはずがない。

これは賭けだ。

私は、こんな化け物と戦えない。私の心は、恐怖に絡め取られていたから。

それでも、何とかこの場を脱しなきゃいけない。

横にいる友達を、大切な友達をなんとか助けたいから!

だから、相手が逃げるように誘導する。

 

 

恐い

 

 

「あら、そうなの?」

 

私の言葉(ブラフ)に、レディプスは考え込む。

 

「はぐれ悪魔なら、死にたくないでしょ?だったら、早く、逃げた方がいいです、よ。

 もうすぐ、リアス先輩が、みんなを。連れてきます。

 そうしたら、貴女は確実に、死にます。

 それは、貴女にしたら、嫌なはず、ですよね」

 

 

早く消えて

 

 

畳みかける私の言葉に、レディプスは「そうね」と答える。

私の右腕から、彼女の肢が抜かれる感覚と激痛に意識が飛びそうになるが、何とか踏ん張る。

 

「確かに、ここって誰かさんの領地みたいだし。逃げた方が良いかもね。私も死にたくないし」

 

よし、これで後は、彼女がここから離れてくれたら、友人を連れて病院に行かなきゃ。

もちろん、私の傷も見て貰わないといけない。

でも、どう説明しよう・・・。

私は、賭けに勝ったことに心の中で安堵した。

 

 

「でもね」

 

その言葉と同時に、私は叫び声をあげた。左脚にレディプスの肢が刺さったのだ。

レディプスは、私と友人を交互に見て、舌なめずりをした。

 

「別にあなた達を食べてからでも、逃げる時間はあると思うの。

 それに、私に口答えする存在って、なぁんかムカついて、つい虐めたくなるのよ」

 

「なによ・・・それ・・・!」

 

 

ふざけるな

 

 

レディプスの言葉に、私の心は変わっていく。

目の前の存在に対する恐怖から、怒りへと。

私の身体が震えだす。傷口が抉れて痛みを発するも、そんなことはどうでもよかった。

 

その姿に、レディプスは私が恐怖に震えていると勘違いしたのか、

綺麗だった顔を下卑た笑みに変えてこういった。

 

「そうだ!私に楯突いたお仕置きとして、こっちの子をあなたの目の前で食べてあげるわ!

 せいぜい、なにもできない自身の無力さを呪いなさい。

 でも大丈夫、その後はあなたの番だから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今こいつはなんて言った?

今こいつはなんて言いやがった?

私の友達を喰うと言ったか?

私の友達を食べると言いやがったのか?

私の日常を奪うと言ったのか?

私の大切な存在を奪うと言いやがったのか?

 

 

 

 

 

 

 

許せない

許さない

その瞬間、私の心は切り替わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駒王町近くの山では、リアス・グレモリーたちが必死に特訓をしていた。

ここ一週間、彼らは来たるライザー・フェニックスとの戦いに勝利するため、

自分たちの力を鍛えていたのだ。

そんな中、一際特訓に励むのは兵藤一誠であり、

彼は、自身の弱さを嘆きつつも、それに負けない心で頑張っていた。

 

「くっそー!なんで強くなれないんだよ!こうしてみんなと修行してるってのに!」

 

「あら、まだ話せる余裕もあるみたいだし、もう少しきつめでもいいみたいね、一誠」

 

リアスの言葉に、一誠は涙目になりつつも、

部長の為と、泣きながらランニングをしに出かけていった。

 

「一誠も頑張っているんだけど、まだあと一押しって感じなのよね」

 

「あら、それはリアス自身の勘かしら?」

 

自身の言葉を聞かれ、リアスは少し考え込むように答える。

 

「そうね、今度の戦いは一誠が要と考えても良いわ。

 だから、一誠には頑張ってほしいんだけど、まだ何かが押し切れてない気がするの。

 特訓メニューにしてもそう、一誠には基礎訓練を中心にやってるけど、

 やっぱり他の考えもあった方が良かったかもね」

 

「やはり、ことなちゃんも来てほしかったと?」

 

朱乃の言葉にリアスは、僅かながら首肯した。

ことなの存在は、思いのほかオカルト研究部に多大な影響を及ぼしているのだ。

それこそ、スケジュール管理や備品整理など、事務がメインであるが、

契約仕分けにおける、人の見る目が特に良いと思えた。

 

仮に彼女がここにいたなら、別の意見を言ってくれたかもしれないのだ。

そう思うと、ことなに断られたのは予想外のことだった。

それは仕方がないと割り切るしかない。

 

「それにしても、リアスがことなちゃんを部員にしたなんて不思議ね」

 

朱乃の言葉に、リアスは彼女の方へ顔を向ける。

 

「だって彼女はただの一般人よ?

 人間に悪魔のことを知らせるなんて、そう簡単にしていいわけじゃないわ。

 なんなら、彼女の記憶を消してしまえばよかったのに」

 

「本当に彼女、ただの一般人かしら?」

 

「えっ?」

 

リアスの思いも寄らない言葉に、朱乃は驚いてしまった。

なにせ、ことなからは別段、何も力を感じなかったからだ。

それこそ、一般人と思えるほどに。

だが、そんな朱乃にリアスは言葉を続ける。

 

「彼女、学園では助っ人として有名だけど、あまりにも量をこなし過ぎてるのよ。

 それこそ人の何倍もね。普通は倒れてしまうはずが、彼女はそれを続けている。

 それに、私と彼女が初めて会った際、私が来るまでの間、堕天使を退けていたのよ?

 普通の人間だったら、殺されていたわ」

 

リアスの言葉に、朱乃は更に驚く。

 

「じゃあ、彼女は神器保有者か、何か特別な力を持っていると?」

 

朱乃の問いに、リアスは首を縦に振る。

 

「彼女は私たちに何かを隠している。それがどんなものかは解らないけどね。 

 だからこの機会に、彼女に教えて貰おうと思ったんだけどね」

 

リアスは「結果はご覧のとおりよ」と肩を竦めた。

 

「仮に、ことな自身が力の使い方を恐れていたとしたら、

 私たちが力の使い方を教えてあげられたら、ってね。

 そうなれば、私たちは本当の意味で仲間だと思えるの。

 彼女、少し私たちに遠慮し過ぎなのよ」

 

「そうね、リアス。

 きっとことなちゃんも、私たちと本当の意味で友達になりたいと思っているわ」

 

リアスと朱乃は、互いに笑いあうと、

ランニングを終えて帰ってきた一誠に、笑顔で手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!?」

 

レディプスは突然の痛みに悲鳴を上げた。

目の前の生意気な餓鬼を刺していた自分の肢が、突然引きちぎられたのだ。

まるで、万力に握りつぶされたかのように、ぐしゃりとだ。

 

突然の出来事と痛みに混乱するレディプスだが、彼女の悲劇は終わらない。

今度は、彼女の後ろ足が一本引き抜かれたのだ。

そう、文字通りの意味でだ。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

またも謎の出来事に襲われたことに、レディプスは混乱した。

何かいる。今この場には、私や餓鬼たち以外に何かいる!

そう思い、レディプスは直ぐに思い至る。

 

まさか、餓鬼の言っていた援軍が来てしまったのか?

いやそうに違いない!くそ!思いのほか早すぎる。

クソ、もう少しで餌にありつけたというのに、くそがぁ!

自身の運の悪さを呪うが、思考を切り替えて直ぐにこの場から逃げようとする。

が、レディプスは気が付いた。

 

周りの風景が違うのだ。

さっきまでは市街地の十字路にいた筈なのに、ここはどこだ?

周りを見渡せば、炎にまかれていた。

なんだ?一体何が起こっているんだ!?

 

混乱するレディプスにもう一度悲劇が起こった。

レディプスの肢がもう一本潰れたのだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

もはや叫ぶ言葉すら失ったレディプスは、先ほどまでの余裕はなかった。

 

 

「なんだ!?なにが居るっていうんだぁぁぁ!?」

 

もはや訳が解らないレディプスは、ふと見えた。いや、見えてしまった。

 

先ほどまで自分がいたぶっていた餓鬼が、自分を無機質な目で見ているのを。

つまり、この現象は目の前の存在によるもの。

だったら!

 

「死ねぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇえぇ!」

 

レディプスは、無我夢中でその少女を殺そうと突進し、突き殺そうとその手を向ける。

結果は、自分の手が少女の頭を貫き、

自分はこのおかしな世界から解放される・・・・・・はずだった。

 

レディプスの手は、僅か数センチ、彼女の眼球の手前で止まった。

否、止められた。

レディプスの手は横から現れた『手』によって、その動きを停められたのだ。

 

「あ、あああ!?あああああああ・・・!!?」

 

もはやレディプスの思考は、ミキサーに掻き混ぜられたかのように、錯乱していた。

 

「ありがとね」

 

目の前の少女は、その『手』にお礼を言う。

まるで、心から許せる『友達』のように。

 

「なんだ!なんなんだこいつはぁぁぁぁぁ!!」

 

その言葉に、少女は面食らった顔をし、納得したような顔になる。

 

「そうだね、仲間外れはいけないね」

 

そういうと少女は、「出てきていいよ」と『手』に声をかけた。

 

その言葉を筆頭に『手』に変化が起こる。

今まで『手』しか見えていなかったのが、

少しずつだが『腕』が現れ、『肩』、『胴体』が見え始めたのだ。

 

「は、離せ!離せぇ!」

 

なにか恐ろしいものを感じ、レディプスは必死に『手』を離そうとするが、

まるで石にように、万力のように、決して彼女を離さない。

その間も、それは『脚』が、『首』が、現れ始め、そして

 

「紹介するね、私の『友達』だよ。仲良くしてあげてね?」

 

夢殿ことなは、微笑んだ。



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5話

『友達』のことに気付いたのは、子供の時だった。

 

忙しいお父さんとお母さんだったから、大半の時間を私は一人で過ごしていた。

それが私にとっての日常だった。

育児放棄をされたわけでもないし、時間があれば一緒に過ごしてくれるなど、

とても優しい両親であったことは、今でも確信できる。

お休みの日の時は、家族一緒に遊園地に行ったこともあったのだから。

 

それでも、平日は一人で両親を待っていた。

もちろん、お父さんもお母さんも大好きということは、昔も今も変わらない。

でも、静かな家で一人でいたのは、とても寂しかった。

本を読んだり、お人形で遊んだりとしてたけど、やっぱり寂しかった。

私だけしかいない家は、時計の秒針音が響く程、小鳥のさえずりが木霊するほど、

絵本の擦れ音が反響するほどに・・・・・・静かだったからだ。

 

でもある日、その子が私の前に現れた。

その子は、本を読んでいた私の前に現れた。

その子は、私に手を差し出してくれたの。まるで、握手を求めるかのように。

 

そして私はその手を握り、『友達』になった。

その子はぺこりと、私に頭を下げた。

 

 

 

 

「あ・・・あああああ・・・・・ああ・・・」

 

レディプスの目に映ったそれは、歪だった。

それは『手』も『腕』も『胴体』も『脚』も『首』もあるというのに・・・・・・、

『頭』が無かった。

そう、あるはずの『頭』が無かったのだ。

いや、『頭』に当たる部分だけが、まるで水で暈された絵の具のように、滲んで見えるのだ。

ゆえに、その表情どころか、それがはたしてヒトと言える頭なのかも判らないのだ。

そして更に歪なのは、それが服を着ているということだ。

隣にいる少女と同じ服を。

それが、それの歪や、異質さを引き立てた。

 

だが確かなことは、それは今も、引き剥がそうと必死なレディプスを嘲笑うかのように、

彼女の腕をつかんで・・・いや握りしめていることだ。

あまりにも馬鹿げた膂力を供えている。

 

怯えるレディプスを、ことなは無機質な目で見つめている。

そして、何を言おうか考えるかのように、

穴の開いた右手の人差し指を頬に当て、何度か頭を左右に揺らす。

一見すれば、カワイイと言われるだろう、この仕草。

なお、右手の甲からは血が流れ続けて、彼女が揺れる度に血の飛沫が地面を染める。

少しの時間が過ぎ、ことなはにっこりと笑う

 

「そういえば貴女、さっきなんて言ったっけ?」

 

「!?」

 

ことなの言葉に、レディプスは身体をビクンと撥ねた。

それを、無機質な目で見ながら、ことなは尋ねる。

 

「私の友達を食べる、って言ったよね?」

 

「ちが・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

レディプスの腕から、メキリと音が聞こえた。

 

「目の前で、私の友達を食べるって言ったよね?」

 

「知らない!そんなのしら・・・あぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁ!?」

 

腕が軋み、音を立てはじめる

 

「私の目の前で、私の友達を食べるって、私に言いましたよね」

 

「なによ、なんなのよ、何なのよアンタは!このばけも」

 

「そんなことは訊いてないの」

 

レディプスの右腕が、ぐるりと360度回った。

 

 

 

 

 

「ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・」

 

自分の右腕を見下し、痛みで思考が止まりそうなのを、レディプスは必死に耐える。

彼女の右腕は、一周回って元通りになっている・・・手首だけが。

そして、それをガラス玉のような目で見下す、ことなと『友達』

なお、ことなの左ももには、千切れたレディプスの肢が刺さったままである。

 

ことなは、壊れたラジオのように「ひぃ・・・」としか言わないレディプスに顔を寄せ、

まるで意味が変わらないという顔をしながら話しかける。

 

「えっと、レディプスさん・・・でしたっけ?

 ほら、正直に言ってくれませんか?『私は貴女の前で友達を食べると言いました』

 これでいいんです。正直に認めてくれませんか?

 私だって、貴女を痛めつけたいわけじゃないんですよ。

 貴女があまりにも強情で、自分が言ったことを知らないと嘘を吐くのが悪いんです。

 だったら、私だってムキになっちゃうじゃないですか」

 

レディプスは、その無機質な目に見つめられながらも、首を必死に横に振る。

両者の意思疎通は、理解されてはいても、決定的な部分でずれていた。

 

ことなからすれば、ちゃんと罪を認めてくれればいいのだ。

そう、認めてくれるだけでいいのだ。

だが、レディプスからすれば、それは死刑執行へのサインに等しいのだ。

それも自分のだ。

この状況で、仮に認めてしまった場合、確実に自分は殺されると思っているからだ。

だからこそ、認められない、認められるはずがない。

だが悲しいかな、発した言葉は口には戻せない。

言ってしまった事実は覆らない。

 

恐怖か、それとも絶望して自棄をおこしたのか、レディプスは突然叫びだした。

 

「なによなによなによ!私が何をしたって言うのよ!

 主様に認められて、私はあの方のために頑張ろうと誓った!

 なのに、あいつは私を捨てた!捨てやがった!

 『もうお前はいらない、より優れた者を見つけたから』それで私は捨てられた!

 挙句、私は主を裏切ったはぐれ悪魔?何よそれ、裏切ったのはあいつなのに!」

 

「・・・」

 

「尽くしたのに!頑張ったのに!なんで私が悪いみたいに扱われるのよ!おかしいわよ!

 だったら私も好きに生きても間違いじゃないわ!

 あいつらがはぐれ悪魔というのなら、その通りになってやっただけよ!

 それのどこが間違いだっていうのよ!

 なにがはぐれ悪魔は悪よ、それを生み出したのはお前達だろうが!」  

 

自分を見下してくることなに、レディプスは睨みつけて叫んだ。

 

「お前だってそうだ。大方、悪魔に協力してるんだろ?

 だがそんなものは悪魔には無意味だ。

 ここの領主さまのために頑張ろうが、どうせお前も捨てられる。

 いくらお前が媚びようが、悪魔は自分勝手で、自分のことしか考えないんだからな!

 あはははははははは!

 お前も私のように、大切なものを奪われる! そして私と同じになるんだ!」

 

そして、狂ったように笑いだすレディプスに、ことなは告げる。

 

「それで?」

 

「え・・・?」

 

ことなの言葉に、レディプスは燃え上がっていた怒りが、急激に冷えていくのを感じた。

 

「貴女の言いたいことは解りました。

 ですが、私が聴きたいのはその言葉じゃないんです。

 『私は貴女の目の前で友達を食べようとしました』この言葉です。

 だから早く言ってくれませんか?私だって待つのは得意じゃないんです」

 

ことなの言葉に、レディプスは目の前の餓鬼が異質な存在に見えてきた。

言葉は通じているのに、言葉が通じていない。

 

「狂ってる!お前は狂ってるわ!」

 

「だから、私が聴きたいのはそれじゃないんだってば。いい加減にしないと肢を引き抜くよ?」

 

まるで動じずに告げてくることなに、レディプスは心が折れた。

それに、これ以上をいたぶられると自分は死ぬだろう。

 

「わ、私は、ああなたのま、前で、貴女の友人をた、食べると言いました。

 ごご、めんなさい」

 

「はい、分かりました。始めからそう言ってくれれば良かったんですよ。

 それじゃあレディプスさん、一緒に病院に行きませんか?

 私も貴女も怪我をしてますし、友達もお医者さんに診て貰わないといけないし」

 

そういうと、ことなはレディプスの肢が刺さったまま、倒れている友人の元へと進み、

穴の開いている右手と無傷の左手で彼女を背負い、病院の方向へと進み始める。

が、当たり前だが、重傷のことなが出来るはずもなく、直ぐに倒れた。

その寸前で、『友達』が二人を支える。

『友達』とやらが離れたことで、

レディプスはボロボロの身体を動かして、その場から逃げ出した。

 

「なんなのよ、なんなのよあいつはぁあぁぁぁぁ!」

 

遠ざかるレディプスを見ながら、ことなは「大丈夫かな」と心配するが、

多分大丈夫なのだろう。

それよりも重要なのは、友人の容態だ。

それがことなにとって重要なのことなのだ。それに

 

「私には、悪魔なんて関係ない、関係ないの」

 

ことなは決意するように呟く。

 

「今日のことで解った。私はこの町が、友人が大好き。

 でも、それが簡単に壊れてしまうんだって。

 恐いけど、私にはこの町を、友達を守れる力がある」

 

ちらりと、ことなは自分を支えてくれる『友達』に顔を向ける。

 

「助けてくれてありがとう。そして、酷いことさせてごめんね」

 

そう言うことなに、『友達』は首を横に振る。

そして、ことなの頭をポンポンと叩き、撫でる。

 

「ありがとう、気を遣わせちゃったね。

 でも大丈夫。私だって君に頼りっぱなしは嫌だから」

 

『友達』は、撫でていた手を頭から離すと、親指を立てる。

その仕草に、ことなは少し笑顔になった。

 

「それで悪いんだけど、私たちを病院まで運んでくれないかな?

 右手と左脚が痛いし、友達を放っておけないし」

 

そういうと、『友達』は首を縦に振り、二人を抱えて病院へと跳んだ。

『友達』に抱えられながら、ことなはレディプスの言葉を思い出す。

 

『ここの領主さまのために頑張ろうが、どうせお前も捨てられる』

『お前も私のように、大切なものを奪われる! そして私と同じになるんだ!』

 

その言葉は、ことなの頭に刻み込まれていた。

彼女の言葉は、嘘偽りがないのかもしれないし、自棄をおこした戯言かもしれない。

でも、ことなにそれを考える事なんて出来ない。

なにせ、それを判断する情報がなく、そして嘘と言える自信も無かったからだ。

だからこそ、ことなは呟く。

 

「リアス先輩たちは、違うもの」

 

ことなの呟きは、空に消えていった。



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野良犬の法律

ペットは、法律的には『物』として扱われる。

飼い主(所有者)の所有物としてされるので、

万が一怪我をさせた場合は『器物損壊』、盗んだ場合は『窃盗』の罪状となる。

 

一方で野良犬は、法律では自然物『石』『木』として扱われる。

但し、自然物ではあるが、『命をあるもの』として扱われるので、

傷を付けた場合は『動物愛護』の面で罪になる。

 

『野良犬』が、元は飼い犬であり、

飼い主が世話を放棄して捨てた場合は、犯罪であるので飼い主に処罰が下される。

また、野良犬が人に危害を加え、元の飼い主が判明した場合は、

元の飼い主がその罪を償わなければならない。

 

 

『私の眷属になってくれないか?』

 

そう言われて差し出された手を、私は握った。

 

物心ついた時、私は一人だった。

私を産んでくれた両親は既におらず、気が付けば私は孤独に生きてきた。

だからだろうか、私は一人でいることが怖かった。

だからだろうか、私は言葉に抗えなかった。

 

私の声には特別な力があった。

聴いた者の動きを止める、それが私の力だ。

それ故に、私は他者と喋ることが出来なかった。

なにせ、気を許せば力が暴発してしまったことがあったからだ。

だが、私を認めてくださった主様は、私の声を気に入ってくれた。

それに、魔力が強ければ、私の声も効き難かったというのもあってか、

私は主様と会話をすることが出来た。

それは私にとって、とてもとても嬉しかったと言えるだろう。

 

さて、主様の眷属となった私だけど、私は『兵士』の役割を得た。

兵士は、他の眷属と比べて弱いものの、

昇格さえできれば、他の眷属と対等に戦えることが出来た。

それに、私の声を使えば、他の眷属の力にもなれた。

 

けれど、私がもっとも嬉しかったことは、主様の力になれたことだと思う。

一人ぼっちだった私を、主様は見つけてくれたどころか、

眷属という家族まで用意してくれたこと、忌み嫌った声を認めてくれたこと。

様々なことが私には嬉しかった。

だから私は、主様のために奮闘していった。

 

ある日のこと、主様が自身の女王と一緒にお出かけになられた。

主様の女王は、主様の自慢の眷属であり、他の眷属を遥かに凌ぎ、

私の声さえも耐えられるという、素晴らしき方だ。

主様が最も頼りにし、第一に信用しておられると言ってもいい。

私は兵士であり、立場的にも、力的にも到底敵わないにしても、気持ちだけは負けないようにと、

私はより一層、主様のために頑張ることを決めた。

 

 

 

 

「あいたたた・・・」

 

私はボロボロの身体に包帯を巻いていた。

今回、主様と主様のご友人とでレーティングゲームが行われ、

私は奮闘はしたものの、味方内で最初に脱落してしまった。

かつて猛威を振るっていた私の声は、相手方に警戒されていたらしく、

悉く防がれてしまい、相手との自力と連携の差で、私はやられてしまったのだ。

他の眷属の皆様は、それぞれ敵を撃破し、私だけがスコアを得られなかったのだ。

 

「私もまだまだって事ね。もっと頑張らないと!」

 

主様の勝利で終わったものの、私は自分の弱さを実感し、

改めて自分を見つめ、強くなろうと思い至った。

 

『いや、君のせいではないよ。相手が君を警戒していただけさ。

 それに、君のおかげで相手に勝てたとも言える』

 

そういっていただいた主様の言葉は、私を元気づけてくれた。

 

 

 

 

「よし、今日も主様のために頑張るぞ!」

 

主様の昇格を決める大事な公式試合、私は気合を入れた。

これに勝利すれば、主様の爵位も一つ上がる。

故に、ここは絶対に勝利する。

そして、活躍すれば主様に褒められる!

私は、主様に褒められる場面を想像し、顔がにやけてしまった。

それを、同じ兵士の子に見られ、弄りネタにされてしまった。

試合に関しては、私は一人を道連れにする形で倒すも、他は私よりも大きな成果を出していた。

試合には勝利したものの、私の心は晴れなかった。

試合後、しょんぼりの私を主様が慰めてくれたが、私は自分の情けなさに泣いた。

 

 

 

数日後、主様が他の子(眷属)を連れて出かけていった。

なんでも、活躍したご褒美として、主様に何でも要求できるとか。

それを聞いた私は、自分には無いだろうな、と諦めた。

ところが、主様が私の元へとやってきたのだ。

私は、嬉しさのあまり緊張してしまい、主様をあっけにさせてしまった。

混乱する私は、主様にプレゼントが欲しいと、ネックレスをいただいた。

ネックレスの光は、私の顔をにやけさせ、顔を真っ赤にさせた。

 

 

 

最近、レーティングゲームの勝率が悪い。

他の子は活躍しているのに、私だけが置いていかれる。

自分の声は相手に悉く対策され、自分は真っ先に倒されている。

どうして?私は焦った。

これでは主様のお力になれない。主様のおそばにいられない。

私の焦る気持ちとは逆に、私はどんどんと負けていくようになった。

どうして?どうして?どうして?と自分に問うも、答えは判らなかった。

 

 

ある日、主様が出かけないか?と私を誘ってくれた。

最近、他の子たちも、時折主様と出かけていたのを見ていたので、不思議に思っていた。

なんでも、眷属の労おうとしていたと、主様が答えてくれた。

 

『ありがとう。私のために頑張ってくれて。だから、私が労おうと思ってね』

 

私は、主様の言葉が嬉しく思えた。

こんな私を、主様は気にかけてくれていたということに。

そして、私は主様と一緒にお出かけした。

主様と一緒に過ごせた一日は、私を元気づけてくれた。

そして主様の御屋敷へと帰る途中、主様が私をある場所へと連れてくれた。

そこは、私が主様と出会った場所であり、主様に拾われた場所だった。

私は、あの時から今に至るまでの日々を思い出し、主様への感謝の気持ちがいっぱいになった。

 

『実は、君に伝えたいことがあるんだ』

 

そういう主様の顔は、一瞬見とれてしまうほどに美しく、

主様の言葉に、私は胸の高鳴りを覚えた。

そして主様は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君はもういらない』そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、私の耳がおかしくなったかと思った。

その言葉が理解できなかった。

何を言ったのか理解できなかった。

 

『正直、君はもういらないんだよ』

 

混乱する私に、主様は言った。

 

『拾った時は使えると思っていたし、確かに君は私の役に立ってくれた。

 だが今の君は、もう私には必要ないんだ。

 レーティングゲームに勝つためには必要なことだからね。

 今までは、他に良い駒が見つからなかったから、情けで使ってやっていたが、

 君よりももっと優秀な奴が見つかってね。

 だから、駒を確保するために、君はもういらない。だから死んでくれないか。

 それに・・・』

 

主様は一呼吸おいて言い放った。

 

『お前のような転生悪魔ごときが、私に好意向けてくるのはウンザリなんだよ』

 

 

 

私の頭は真っ白になった。

主様の言葉が、私の頭を打ち負かす。私の心を打ち砕く。

何を言っているんですか?主様、私は主様のために頑張ってきたのに。

主様に拾われた御恩を報いるために、私は頑張って頑張って・・・。

 

『大体、私のような純血悪魔が、

 お前のような転生悪魔を好きになると本気で思っていたのか?

 それこそありえない。

 お前ごとき下等な存在が、高潔な私に仕えるだけでも、

 むしろ有難く思えるべきなんだよ』

 

主様?何を言ってるんですか?私は、私は主様のことのために・・・。

 

『最初は良いものを拾ったと思ったんだがな。

 もうお前は用済みだ。だから、さっさと私のために死んで、駒の空きになってくれ。

 私の手を汚させる気か?全く、最後まで使えない駒だな』

 

私に手を向ける主様に、私は泣きながら、混乱しながら、

止めてください!と叫ぶも、主様の手には強大な魔力が満ちはじめる。

 

ああ、本気だ。主様は本気で私を殺す気だ。

先ほどの主様の言葉は、全て本当だと私は思い知った。

それこそ、私の頑張りを心底あざ笑うかのように、踏みつけるように、主様は否定した。

否定しやがった・・・!

私の恋(気持ち)が憎悪に変わる

 

「あああああああぁぁぁぁぁあぁあああぁぁぁあぁぁAHHHhhhHHhhh!!」

 

私は、全ての想い(憎悪)を込めて、声を主にぶつけた。

それこそ、全ての想い(甘い思い出)を消し飛ばすように。

 

『馬鹿が、お前の力が私には効かないとわか・・・・・・!?』

 

主様だった悪魔が、驚いた顔をする。

掌に集まっていた魔力が霧散し、そのままの姿勢で、

悪魔は石像のように固まっていた。

 

『な、なぜ動けない!?くそ!一体何が起きたんだ!?』

 

自分のことに驚いている悪魔だが、そんなこと、私にはどうでもよかった。

悪魔は、私に顔を向けると、怒鳴り出す。

 

『くそ!転生悪魔ごときが私に何をした!さっさと私を解放しろ!』

 

ああ、うるさい。

 

「黙ってくれませんか」

 

「!?」

 

すると、悪魔の口が閉じ、相手は必死に口を開けようとするも、決して開かず、

無様にウーウーという音が聞こえるばかりだ。

逆に可哀想になったので、口を開けさせる。

 

「喋っても良いですよ」

 

『はー、はー・・・。よくも私に無様なことをさせたな・・・!

 散々可愛がってやった恩を仇で返しやがって!』

 

なんか聞こえるが、私は合点がいった。

そうか、私の力って・・・

 

「折れろ」

 

『ぐギャァァァぁぁぁぁぁぁ!』

 

私の一言で、悪魔の両腕と両脚が折れた。でも倒れない。

折れたままで、悪魔は立っている。

これで私は確信した。

私の声は、相手の動きを止めるのではなかった。

まさか、この時になって気付くとは、と私は自嘲する。

私は、四肢の折れた悪魔を見つめ、可哀想だなぁと思えた。

 

『助けてくれ』

 

目の前の悪魔は私に言った。

あの時のように、柔らかで、惹き込んでしまうような声で。

 

『す、素晴らしいじゃないか・・・!

 まさか君の声にこんな力があったなんて。私が悪かった。

 君はまだ使える。だから、先の言葉は無しにしよう。

 それにこの力は、あのフェニックスにも通じるかもしれない』

 

悪魔が何か言っている。

 

『君の力があれば、私はより上へと行ける。

 だからもう一度、私の力になってくれないか?

 それに、私の力になるのは君の望みでもあったのだろう?

 今の君ならば、私の力になれる。だから助けてくれないか

 それに君は・・・』

 

悪魔が微笑んだ、あの時(私を見つけてくれた時)のように。

美しい笑顔で。

 

 

 

 

『私が好きなんだろ?』

 

「死ね」

 

私は答えた。

 

目の前には、主様『だった』肉塊が転がっていた。

四肢は砕け、首は曲がり、身体の至る部分が捻じれている。

そして、顔だった塊は、誰が見ても苦痛を感じさせた。

 

でも、それを見ても、私は何も感じなかった。

ただ、肉の塊にしか見えなかった。

私は、首にかけていたゴミを千切ると、肉塊に放り投げた。

 

「さようなら」

 

そして私は、野良犬になった。

 

 

 

ペットは、法律的には『物』として扱われる。

飼い主(所有者)の所有物としてされるので、

万が一怪我をさせた場合は『器物損壊』、盗んだ場合は『窃盗』の罪状となる。

 

一方で野良犬は、法律では自然物『石』『木』として扱われる。

但し、自然物ではあるが、『命をあるもの』として扱われるので、

傷を付けた場合は『動物愛護』の面で罪になる。

これは人間の法律であり、適用されるのは人間社会である。

 

『野良犬』が、元は飼い犬であり、

飼い主が世話を放棄して捨てた場合は、犯罪であるので飼い主に処罰が下される。

また、野良犬が人に危害を加え、元の飼い主が判明した場合は、

元の飼い主がその罪を償わなければならない。

 

悪魔や天使、堕天使における『野良犬』とされるはぐれ悪魔の場合は、

その存在が危険なため、速やかに処理することを推奨されている。

なお、どのような経緯ではぐれ悪魔になった場合でも、はぐれ悪魔が『悪』とされる。



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6話

以前出した6話に、少し変更と付け加えをしました。
再投稿に関して、申し訳ありません。


目を覚ますと、私は白い天井を見上げていた。

真っ白に塗られた天井だった。

あれ、ここはどこだろう?私は最初にそう思った。

自分の部屋の天井にしては高く、なにより白くない。

頭がボーっとする中、私は状況を確認しようとし、急に何かが身体に抱きついた。

 

「ことなちゃん?ことなちゃん!?良かった!ことなちゃんが目を覚ました!」

 

何故か身体が動かせず、自由な目だけを動かせば、

友達が泣きながら私を抱きしめていた。

 

「まい・・・ちゃん?」

 

「そうだよ!舞だよ!

 よかった!ことなちゃんが目を覚ましてくれて、本当に良かったよ!」

 

頭がふらついているせいか、私は状況が呑み込めていない。

いや、それにしてもここはどこなの?

 

「病院だよ。

 私は気を失っちゃって解らないんだけど、気が付いたら病院にいたの。

 なんでも、病院の前で倒れてたみたい。

 私は何ともなかったんだけど、ことなちゃんが怪我をしてて、血が止まらなくて・・・」

 

どうやら、病院にたどり着いた際に気を失ったようだ。

病院に着いた後の記憶が全くないのもそれが理由なのだろう。

取りあず、舞ちゃんが無事でなにより。

 

そんなことを考える私を、舞ちゃん更に力強く抱きしめる。

 

「ことなちゃんが担架で運ばれて、それから治療を受けても目を覚まさなくて、

 私、ことなちゃんが一生目を覚まさないかと心配で・・・!」

 

もはや涙声になっている舞に、私は安心させるように声をかける。

 

「大丈夫だよ、舞ちゃん。私は目を覚ましたんだから。

 そんなに泣いてると、カワイイ顔が台無しになっちゃう」

 

「そんなのどうでもいい!

 ことなちゃんが目を覚ましてくれるなら、ずっと泣いてやるんだから!」

 

完全に泣いている舞ちゃんに、私は安心した。

良かった、本当に何とも無くて。もしも何かあったら私は・・・。

舞ちゃんに抱きしめられながら、私は目だけを動かして、右手と左脚を見る。

案の定、あの出来事は夢ではなく、右手と左脚にはしっかりと包帯が巻かれていた。

 

さて、話を整理すると、私と舞ちゃんが病院前で倒れており、

私の右手と左脚からは血が流れていたと。

そして、その二つは刃物で刺された様な傷口であったと。

うん、どうみても事件ですね。

しかも、女子高生(私)が怪我を負っているということで、傷害事件です。

でも、犯人は化け物です、と答えようものなら、失血による混乱を疑われるか、

頭にも怪我をしたのか疑われ、検査を受けさせられるだろう。

それに、私が言ったところで、誰も信じるわけがないし、巻き込むわけにもいかない。

そもそも、一般人が勝てるのかどうかも分からない。

さてどうしよう、どうやって誤魔化そうか。

 

私が悩んでいると、案の定、刑事さんらしき人がやってきて、あれこれ聴かれた。

なにぶん、舞ちゃんは気を失っていたので、私に状況を聴くのは当たり前か。

まさか、怪物に襲われましたと言う訳にもいかないので、暴漢とはぐらかした。

 

私と舞ちゃんが下校中、刃物を持った暴漢に襲われた。

犯人に突き飛ばされた舞ちゃんは気を失い、

私が舞ちゃんを守ろうと抵抗し、その際に手足を傷つけられた。

犯人は私の抵抗で逃げ出し、私は舞ちゃんを病院へと運んだ。

 

うん、無理がある!でも、私はそれで押し通した。

それこそ、真実の方が現実味がないんだから。

取りあえず、事情聴取が終わり、私と舞ちゃんが病室に残った。

 

「それで舞ちゃん、私、どれくらい寝てた?」

 

「えっと、今日を入れて3日間かな。だから私、心配だったんだよ!?

 失血してて、顔色が真っ青だったんだから!!」

 

「だから、もう私は大丈夫だって言ってるでしょ?」

 

私の言葉に、舞ちゃんは声を荒げた。

 

「解ってない!解ってないよことなちゃん!」

 

「!」

 

「いくらことなちゃんが凄いからって、だからって暴漢に立ち向かうなんて駄目だよ!

 怪我だって、もしかしたら死んじゃったかもしれないのに!

 馬鹿!バカバカバカバカバカ!ことなちゃんの馬鹿!」

 

私は、舞ちゃんの姿に、あっけにとられていた。

そういえば、舞ちゃんがここまで怒ったのは久しぶりかもしれない。

つまり、そこまで私は彼女を悲しませていたのだ。

 

「ごめん・・・ごめんね。舞ちゃんごめんね」

 

「駄目、絶対に許さない。ことなちゃんが無理をしないって約束するまで、絶対に許さない」

 

舞ちゃんの涙目+血気迫る雰囲気+自分の罪悪感+その他のせいで、私は言葉が出ない。

 

「解った。もう無理なんてしないから。

 舞ちゃんを心配させるようなことはしません。

 これで良い?」

 

「絶対だからね!?絶対なんだからね!?嘘ついたら罰ゲームだからね!」

 

そして私と舞ちゃんは、同時に笑いあった。

なんだろ、久々に笑った気がした。

 

 

 

 

その後、私はもう1日の入院を経て、とりあえずは杖を突きながらも家へと帰った。

退院の際は、舞ちゃんの他、桐生ちゃんも来てくれたのが嬉しかった。

 

病院に来た桐生ちゃんからは、

 

「あんた馬鹿でしょ。というか、バカね。それも大馬鹿」と呆られながらも嫌味を言われた。

だが、事実なので何も言えないのが悔しい。

 

舞ちゃんは「だよねー」と賛同されたのが、更に哀しかった。

そこは友人として私を擁護するべきではないだろうか?

でも、事実だから仕方ないけどね。

 

「それじゃ、ことなちゃん。ちゃんと養生してよ?」

 

「はいはい」

 

そういって帰っていった皆を確認すると、私は『友達』を呼んだ。

 

「ずっと見てくれてたんでしょ?ありがとね。

 それでごめんだけど、私を運んでくれるかな?まだ脚が痛くて」

 

そういうと、『友達』は何を思ったのか、私を御姫様抱っこしたのだ。

予想外のことに私は驚いた。

 

「な、何をしてるの!?いや確かにこれは私には良いけど、だからって、は、恥ずかし・・・」

 

『友達』は私に顔を向けて、じっと見つめてくる。

 

「はいはい、解りました。ケガ人は安静にしなさい、でしょ」

 

根負けした私に、『友達』は首を縦に振る。

全く、時折お節介なんだから。

私は客間の方へ行くように頼み、ソファの上に置いてもらった。

取りあえず、今のことを考えてみた。

 

舞ちゃんが言うには、私が病院で寝ていたのが3日間、

そこに安静の為の1日を足して、私は4日間も病院にいたということだ。

つまり、リアス先輩たちの決闘?は既に終わっているということ。

そのことに、私は溜息を吐く。

 

リアス先輩たちのことだから、約束通り、ライザーさん?に勝ってるだろうし、

今は勝利に喜んでるだろうから、余計なことで水を差すのは拙いかもしれない。

それに、有耶無耶な理由をつけて参加しなかったことに関しては、

私自身、罪悪感もあり、余計に顔を合わせるのが辛い。

しかし、リアス先輩たちの不在での出来事に関しては、ちゃんと報告しておかないといけない。

 

但し、必要なことだけ。

あの時のことは、私と『友達』だけに秘めておく。

 

それに、今回のことで私は色々と思い知らされた。

だからこそ、私は行動しなくてはいけない。

だって、この町を、大切な人を守りたいから。

 

「大丈夫、リアス先輩たちは大丈夫」

 

そういって、私は頭を切り替える。

現在、私が取り組まなければいけないことは、まだまだあるのだ。

まずは、4日間も放ったらかしにしてしまった我が家のことである。

 

取りあえず、冷蔵庫の中身の確認や掃除、洗濯、その他諸々があるのだ。

4日間という日数は、それだけで脅威となる。

それこそ、冷蔵庫の中身が全滅してました!なんて可能性だってあるのだ。

それに、掃除が出来なかったせいで、所々に埃が積もっているわけで。

 

もちろん、学業に関しても同じだ。

4日間、4日間も授業を受けていないというのは、私からすればヤバい。

予習復習をやっている身とは言え、私が寝ている間に授業は進んでいるのだ。

 

「取りあえず、舞ちゃんや桐生ちゃん達に見せてもらおう・・・」

 

私はがっくりと脱力し、なにで埋め合わせをするかを考える。

特に桐生ちゃんは強敵だ、何をされるか分かったもんじゃない!

 

まぁ、分からないことを考えるのは後でもいい。

取りあえずは、私のやらなきゃいけない現状はこれでいい・・・と思う。

 

まずは、家の掃除をしなきゃね。

私はソファに座りながら、『友達』に顔を向ける。

そして、見せつけるように右手と左脚をプラプラと動かす。

 

痛い

 

だが、私は痛みを堪えながらも、見せつけるように動かす。

私は今、こんな状態だよ、と。

『友達』は、私の言いたいことを解ったようで、肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

後日、私が登校した際に知ったことだが、結婚の解約決闘はリアス先輩たちの勝ちだった。

 

なんでも、兵藤他、みんなの頑張りでライザーさんを相手に善戦したものの、

搭城さんや木場さん、姫島先輩がやられ、リアス先輩がライザーさんと一騎討ちに。

その際、助けに来た兵藤がライザーにコテンパンされる姿に、リアス先輩の心が折れ、

降伏と言う形でリアス先輩が負けたという。

 

その後、ライザーさんとリアス先輩の結婚式に兵藤が乱入。

リアス先輩のお兄さんらしい、魔王の口添えもあって、兵藤とライザーさんとの一騎討ちに。

そして、兵藤が自分の左腕を犠牲にして赤龍帝?の力を取り出し、

アーシアちゃんに貰った聖水やら十字架やらで、辛うじて勝利したらしい。

 

その後、リアス先輩の結婚話は『無事』に『荒れることなく』無かったことになった。

なんでも『急かし過ぎた』だの、『役目を押し付けてしまった』だの、

両家共に思うところがあったもよう。

その上、フェニックス家から、

ライザーさん(自分の息子)を負かしてくれたことに感謝されたとか。

そして、リアス先輩が兵藤の家に住まうことになった。

 

これが大まかに聞いたことだが、私には意味が解らなかった。

なんだそれは。まるでメロドラマのようだ。

まぁ、参加しなかった私が言うことでもないし、言う資格もないので、

私は何も言わなかったけど。

リアス先輩にとって善ければ、それでいいと思う。

 

たとえそれが、約束破りによる勝利だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

「これが、リアス先輩たちが不在の際に起きた出来事のまとめです。

 契約書類に関しては、いつものように整理しておきましたので、確認してください」

 

「ありがとう。助かるわ、ことな」

 

リアスの感謝に、ことなは「いえ、仕事ですから」と答える。

当初、ことなが部室に入ってきた際は、彼女の包帯姿に、リアスを含め全員が驚いた。

右手と左脚に包帯を巻き、杖を突きながら入ってきた彼女が、あまりに予想外だったからだ。

 

そして事情を聞いた際には、リアスたち全員が、はぐれ悪魔に憤った。

なんでも、自分たちが決闘に向けて修行していた間に、

はぐれ悪魔が侵入し、ことなと彼女の友人が襲われてしまったようだ。

なんとか、ことなが追い払ったものの、そのはぐれ悪魔は未だに逃亡中らしい。

眷属ではなくとも、オカルト研究部の一部員であることなを傷つけたということで、

リアスやその他全員は、そのはぐれ悪魔を見つけだし、然るべき罰を与えることを決意した。

ことなの傷に関しては、アーシアの神器で直ぐに治療したが、

「急に包帯を取ったら怪しまれます」とはことなの弁で、彼女はまだ包帯を巻いてる。

 

彼女のいつも通りの対応に、リアスは苦笑しつつも、紙束に受け取った。

だが、変わったこともあった。

 

 

「ことなも少し休んだら?

 いくら『力』があっても、働き詰めだと倒れてしまうわ」

 

「そうですね、じゃあ、お言葉に甘えます。

 あ、家庭科部でクッキーを貰ったので、一緒に頂きませんか?」

 

リアスの言葉に、ことなは鞄からクッキーの入った小袋を取り出して皿に盛る。

すると、ことなの後方の棚が勝手に開き、

中に置かれていたカップと皿が漂いながら宙に浮きつつ、ことなの方へと移動する。

 

『ありがとう』

 

ことなは受け取った2つのカップに紅茶を注いで、1つをリアスに、1つを自分に置く。

 

「それにしても、本当に不思議な力ね。それも『友達』が手伝ってくれたのかしら?」

 

「はい、頼りになるんですよ」

 

そう、ことなが自分たちに心を開いてくれたことだ。

 

 

なんでも、襲われた際に、色々と思うところがあったのか、

自分の大切な人を守りたいと、だから色々と教えてくださいと、彼女から願い出たのだ。

 

実は自分たちに対し、恐いと思っていたこと、

どう接すればいいのか解らなかったことを、謝罪しながら話してくれた。

正直、恐いと思われていたことはショックではあったが、自分たちは悪魔で、彼女は人間。

種族の違いからの恐怖は、仕方がないと納得した。

それに、正直に話してくれたことが、リアス自身も嬉しかったのだ。

 

その際、リアスは疑問に思っていたことを、ことなに訊いてみた。

「なにか不思議な力を持っていないかしら?」と。

合宿の際に先に話していた朱乃を除き、

部員の全員が驚く中、ことなは頭を下げながらも教えてくれた。

 

なんでも、ことなには不思議な力があるらしく、

【『友達』という存在が自分を助けてくれる】というのだ。

プリントが崩れそうな際には、何故か元に戻ったり、

備品の整理すると、いつの間にか片付いている時があるらしい。

ことなの『友達』という存在は、リアスたちには想像できなかったが、

ことな曰く「とても頼りになる、私の『友達』なんです」と笑顔で答えた。

 

その後、

「自分の力のことを皆さんに黙っていてごめんなさい。

 でも、『もしも私の力を皆さんが知ったら、一体どうするか』か、私怖くて・・・」

 

彼女の身体は少し震えていた。

リアスは安心させるようにことなを抱きしめ、

「安心しなさい、ことなに不思議な力があっても、私たちは変わらない。

 それに、こうして正直に言ってくれるってことは、私たちを信じてくれたってことだもの」と、

ことなの頭を撫でた。

「リアス先輩、ありがとうございます」と、抱きしめられたことなは呟いた。

 

こうしてリアスたちオカルト研究部は、本当の意味でことなを部員として迎え入れたのだ。

 

 

 

自分とお茶を飲みながらも談笑していたことなが、ふと思い出したように尋ねてきた。

 

「そういえばリアス先輩、前に教えて貰った勉強のおさらいなんですが、

 悪魔の弱点って、聖水や十字架など、聖なる力を持つ物なんですよね?」

 

「そうね、悪魔は基本、聖なるものには弱いわ。

 聖水・十字架に聖剣、それこそ祈りの言葉もね。

 他にも太陽光があるけれど、これは中級以下の悪魔に対してね。

 上級なら、昼間でも変わらずに活動できるわ」

 

リアスの言葉に、ことなはふむふむと頷く。

ことなが自分のことを語ってくれた日、ことなはリアスにお願いしてきた。

それは、『自分たち悪魔のこと』や、他の存在について色々と学びたい、とのことだ。

もしも事前に対策を知っていれば、今回(襲われたこと)のことにも、

もっと早く対処できたかもしれないから、という理由だった。

もちろん、リアスは快く承諾した。ことなの熱意を買ってのことだ。

こうして時にリアスは、ことなと勉強のおさらいをしているのだ。

そしてことなは、自分以外にもアーシアに聖水などの作り方も学んでいるとか。

 

「聖なる物に弱い悪魔だからこそ、天使や教会、その力を使う堕天使は私たちの天敵なの。

 だからこれらと出来るだけ相対しないようにしないといけない。

 まぁ、人間のことなには効果はないけどね」

 

「それにしても、ちゃんと復習をしてるのね、偉いわ」

 

「いえ、『大切なこと』ですから」

 

リアスの言葉に、ことなは照れくさそうに応えた。

 

勉強熱心なことなを、リアスは素直に褒めた。

仮に兵藤がこれを見ていたら、「ぶ、部長!俺も勉強してます!」と叫んだだろう。

 

「答えてくれてありがとうございます、リアス先輩。

 私、大切な人たちを『危険な悪魔』などから守れるように、もっと多くのことを学びたいです」

 

「ええ、頼りにしてるわよ」

 

「はい!」

 

ことなの言葉にリアスは頼もしさを感じ、談笑は続いた。

 

「あ、帰ってくる皆にも用意しておきますね」

 

そう言ってことなは席を立ち、宙を舞うカップとお皿の中心で、お茶の準備をしていく。

リアスからは後ろ姿しか見えないが、その光景はとても不思議だった。

どうも『友達』は、ことな自身にしか見えず、

リアスたちは、ことなの言う『友達』の姿に不思議と興味が湧いていた。

一体どんな姿をしているのだろうと。

 

「一度でいいから、ことなの『友達』を見てみたいものだわ」

 

「そうですね、『機会』があれば、紹介したいですね」

 

リアスの呟きを聞きながら、

ことなは、ガラス玉のような無機質な目で、『自身の体から生えている友達の手』を使いながら、

帰ってくる人たちのお茶を用意するのであった。



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7話

「ことな先輩、こんにちは」

 

昼放課、私が一人で弁当を食べていると、珍しく声をかけられた。

場所は、学園内であまり人が来ない中庭。

昼ごろになると、太陽の位置関係で、ちょうど陽が入ってあったかいのだが、

普段は四方を校舎で囲まれているので、薄暗くてじめっとしている印象の方が強いのだろう。

ここでご飯を食べようと、そうそう思わないかもしれない。

 

それも相まってか、静かで、若干ひんやりと涼しくも、太陽の陽でほんのり暖かい、

私のお気に入りの場所だ。

大半の生徒は教室か、校庭の方でご飯を食べている中、

こんな場所でご飯を食べに来るのは私ぐらいかと思っていたのだが。

 

「こんにちは、塔城さん。珍しいね、こんな場所に来るなんて」

 

「先輩が見えたので、少し気になりまして」

 

振り返れば、駒王学園のマスコット代表であり、

オカルト研究部の一員である、搭城小猫さんがいた。

溢れんばかりのパンを抱えて。

 

 

 

「意外ですね、ことな先輩が一人でご飯を食べるなんて」

 

「そうかな?」

 

しばらく黙々と弁当を食べていたのだが、それに耐えきれなくなったのか、塔城さんが呟く。

私としては、なんら意外性も何もないと思っているのだが。

 

「先輩は、放課後とかは助っ人で多くの場所に顔を出してます。

 ですので、交友関係が広そうで、ご飯を食べる時も、大勢の方と食べるかと思っていたので」

 

塔城さんの言葉に、私は苦笑する。

いやはや、私は塔城さんからそのような印象を受けていたのですか。

 

「あはは、私だって一人でいたい時はあるんだよ?

 例えば、今みたいなお昼の時間なんか特にそう。

 普段が忙しいからこそ、こういった時間はゆっくりしたいの」

 

私の言葉に塔城さんは、まるで予想外という風な顔をする。

別に私は悪くはないのだが、謎の罪悪感が生まれ、謝罪する。

 

「塔城さんの夢を壊してしまった・・・のかな?ごめんね」

 

「いえ、そう言うわけでは・・・ないです」

 

私の言葉に、塔城さんは戸惑ったように応える。

うん、困り顔もかわいいね。

もう少し見てみたかったけれど、また罪悪感が芽生えたので、「冗談だよ」と言っておく。

そしてまた、私たちは黙々とお昼を食べる。

 

 

「ことな先輩って、私が思っていた想像と違いますね」

 

「へ?」

 

私は突然の言葉に、呆けたような反応をしてしまった。

それはそうだろう。

唐突に「貴女は私の思っていたのと違う」なんて言われれば、誰だって戸惑う。

それこそ、失望という意味で使われることが多い言葉なので、余計に反応に困った。

 

「えっと、塔城さん?なんか私、塔城さんに失望されるようなことをしたの?

 ねぇ、正直に答えて。私、何か塔城さんを不快にさせる事でもしたのかな?

 もしもそうだったら素直に言ってくれる?

 ごめんね、今まで気付きもしないでごめんなさい。

 私、できうる限り善処するから!だから今すぐに言って!お願いだから!

 ねぇ、お願いだからさぁ!」

 

私は塔城さんに詰め寄り、顔を近づけながら叫ぶ。

 

「いえ、そうじゃないです!先輩が思っているのと違います!

 ですから落ち着いてください」

 

私の言葉に戸惑う塔城さん。

一瞬、私は時計の針が止まったかのように静止し、顔を真っ赤にする。

いけない、悪い癖が出た。

 

少し呼吸を整えて心を落ち着かせて、改めて塔城さんに顔を向ける。

 

「大丈夫・・・ですか?」

 

「大丈夫だよ。いやはや、見苦しい姿を見せてごめんね」

 

「いえ・・・」

 

少し驚いていたようだが、塔城さんは改めて語り出す。

 

 

「私が思っていたことな先輩の印象って、

 いつも走り回っていて、いつも誰かを助けていて、凄い人だなぁって思っていたんです。

 人のために何でも出来る人、そんな風に思っていたんです。

 でも、そうじゃなかったんですね」

 

塔城さんは、私に向かってクスリと笑う。

 

「先輩は凄い人です。

 でも、悩んだり、一人になりたいって思う人だったと知れて、

 なんだか近くに感じられました」

 

彼女は私をじっと見つめてきた。

 

「ことな先輩、私たちはことな先輩の味方です。だから、悩み事があったら頼ってください。

 私だけじゃないです。

 部長や姫島先輩、祐斗先輩やギャーくんに、アーシアちゃんも同じ気持ちだと思います。

 あの変態はどうだか知りませんけど」

 

「ありがとう、塔城さん」

 

私の言葉に、塔城さんは安心したような笑みを浮かべる。

ところで、今の会話で気になったのが一つ。

 

「ギャーくん?」

 

「えっと、部長のもう一人の『僧侶』です。

 理由があって、今は会えないんですけど、悪い子じゃないので安心してください」

 

「そうなんだ。ぜひ会ってみたいなぁ。私もオカルト研究部の一員だもの」

 

「そうですね」

 

私の言葉に答えるように、微笑む塔城さん。

 

 

ふと私は、この瞬間ならば聞けるかと思い、問いかけてみた。

 

「どうして、塔城さんは戦えるの?」と。

 

 

 

 

私は、その問いに一瞬戸惑った。

 

『どうして、塔城さんは戦えるの?』

 

目の前のことな先輩から問われた言葉。

その問いに、私は少し落ち着いてから、言葉を発した。

 

「部長への恩返しをしたい、からだと思います。

 私、魔王様に助けてもらったんです。その際に、部長の悪魔になりました。

 その後、部長や皆が私に親身になってくれたんです。」

 

 

思い出すのは、あの日の光景。

幼き自分の目の前には、手を真っ赤に染めた姉さまと、横たえた悪魔。

自分を見る姉の顔は、見られてしまった驚きと戸惑い、今にも泣きそうな顔だった。 

 

「ごめんね・・・」

 

そして姉さまは、私の前から姿を消した。

 

その後は、殺されそうになった自分を、部長のお兄さんであるサーゼクス様に助けられ、

部長のけん属になるということで、命を助けられた。

いわば、グレモリー家の方々が、私の命の恩人なのだ。

だから、私は恩返しとして、部長のために戦う。

 

「そうなんだ。塔城さんにとって、リアス先輩は大切な人なんだね」

 

「そうですね、でもそれだけじゃないんですけどね」

 

「?」

 

ことな先輩の首を傾げる様を見つつも、私はもう一つの理由を思い出す。

 

姉さまは、主を殺してはぐれ悪魔になり、私はその責務によって悪魔に転生した。

周りは、姉さまが力に呑まれたからと言うけれど、私はそうは思えない。

なぜなら、私に優しかった姉さまの姿が、あの時の姉さまの顔が、姉さまの言葉が、

今でも私の中に残っているから。

だから私は、姉さまに会って確かめたい。確かめなければいけない。

だから私は、負けるわけにはいかない。負けられるわけがない。

だから、私は戦う。戦わなけばならない。

これが私の、もう一つ理由。

 

私に言葉に何を感じたのか判らないけれど、何かを考えるように黙った後、静かに聞いてきた。

 

「ねぇ、塔城さん。」

 

『リアス先輩は信じられる?』

 

「!?」

 

先ほどまで、自分を元気づけるような、周りをあったかくする先輩の声が、

なぜかその言葉を聞いた瞬間、私の全身に寒気が走った。

まるで、無防備の自分の身体に、肌に、冷たい手が触れられた様な、そんな感覚。

 

私は、目の前のことな先輩を見る。

外側にはねた黒い髪のショートカットで、目元が少し上がってキリッとして、

綺麗とかカワイイという印象よりも、『元気』『明るい』といった印象を与える顔立ち。

いつもなら、その顔から見えるのは、明るい太陽のような笑顔。

でも、その時の先輩の目は、ガラス玉のように無機質に見えた。

まるで、一切の温かさが失われたような、人形のような印象。

その顔からは、自分の中を見透かされるような無遠慮かつ無機質な視線。

そして何故か、『先輩とは別の何か』が私を見ているような感覚があった。

 

時間が止まったかのような、その場だけが時間から切り離されたような、静かすぎる環境。

数秒?数分?どれくらいの時間が過ぎたか判らないが、

言葉を発せない私を見ていた先輩が、言葉を発した。

 

「なーんてね!塔城さんには不問だったね」

 

ことな先輩は、いつもと変わらない笑顔で私を見つめ、

食べ終えていた弁当をしまい、ベンチから立ち上がった。

あれ?さっき感じたのは気のせいだったのかな?

 

「あの、先輩、今の質問はどういう意・・・」

 

「塔城さん、もう昼休みも終わりそうだし、この話はもうおしまいってことで」

 

気付けば、いつの間にか予鈴が鳴る時間になっていた。

どうやら、先輩と楽しくおしゃべりし過ぎていたようだ。

 

先輩は、くるりと私の方へと向き、似合わない真剣な顔で語る。

 

「塔城さん、ごめんね。

 私、大切な人を守りたいって思う気持ちはあるの。

 でも、私は今まで戦った経験なんてないからさ。

 みんなはどうして戦えるのか、不思議に思ってた。

 だから、塔城さんの戦う理由を知りたかったから、意地悪な質問をしたの。」

 

先輩は、私に頭を下げて謝る。

 

「いえ、それならいいです。先輩も、色々と不安なことばかりですからね」

 

「そうなんだよね。いやはや、私も皆と負けないように頑張らないと!」

 

 

そう言って、ことな先輩は気合を入れる。

そして、私に向かって手を差し出した。

 

「塔城さん、私、大切な人を、大切なこの町を守りたい。

 そのために、私は、みんなをサポートするように頑張る。

 だから塔城さん、貴女も貴女の目的の為に、お互いに頑張りましょう」

 

「そうですね、ことな先輩、改めてよろしくお願いします」

 

私はことな先輩の手を握り返し、それを見て先輩がうんうんと頷く。

 

「これで塔城さんは、私の『友達』だね!」

 

私から見た先輩の笑顔は、とても眩しかった。




もしかすると、6話のように追加するかもしれません。
ご迷惑をかけますが、すみません。


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8話

修正するかもしれませんので、ご容赦ください


「夢殿さんは、部屋の隅で蹲ってるけど、なにかあったのかい?」

 

私の姿を見て、木場さんが他の人に聞いている。

その声は戸惑いと困惑、そして若干の怯えが入っているように聞こえた。

そりゃそうだ、何せ、私が部室の隅で体育座りをして蹲まり、

こっちくんな、こっちを見るな、私に関わらないでくださいオーラを全開にしているのだから。

木場さんは、私の方を見た後に、もう一方の存在に目を向ける。

 

「それに、一誠君はどうして正座をしているのかな?しかも足に備品を乗せて」

 

「ことな先輩による罰、みたいです」

 

塔城さんがその問いに答え、木場さんは、その顔に更なる困惑を刻んだ。

こうなったのは、彼らが来る前に遡る。

 

塔城さんとのお話のあと、私はいつものように駆け回った。

塔城さんの言葉と、友達になれたことの嬉しさが激励となり、

私は更なる飛躍を遂げたのかもしれない。

 

そして、珍しく助っ人活動が早く終わり、時間よりもオカルト研究部に訪れることが出来た。

ふふん、今日は嫌味を言われることもないし、みんな驚くだろうなぁ、

と意気揚々と扉を開けた私が見たのは、

 

どう見ても肌着一枚の姫島先輩が、変態兵藤の指をチュウチュウと吸っている光景だった。

その瞬間、私は全てを理解してしまった。

ああそうか、覗きや盗撮な犯罪行為や猥褻なモノを持って来ても反省しなかったわけだが、

変態はとうとう一線を越えて、変態クソ野郎になってしまいやがったのか。

しかもお相手は、学園の二大お姉さまの一人、姫島先輩ではないか。

不純異性交遊は駄目だというのに、それすらも無視して変態クソ野郎はヤリヤガッタのだ。

部室はホテルじゃないんだけど、というか学校でそんなことしてるんじゃないよ。

あ、変態クソ野郎には言っても意味ないか。

それにしても、これは言い逃れが出来ない(犯罪)現場に入ってしまったものだ。

色んな意味で大問題に発展するじゃないか。

 

目の前の光景に私は目が点になるも、直ぐに我に返り、

音を置き去りにした速さで鞄から携帯を取り出して、目の前の場面をパシャリ。

扉の音に気付き、更にカメラのシャッター音が聞こえたのか、

こちらを見ている変態クソ野郎の呆然としている顔を見つつ、私は無言で戸を閉める。

そして流れるように警察に電話をしようとして、

血相を変えた変態野郎に、決死の覚悟で妨害された。

その際、私も決死の覚悟で反抗し、『友達の力』を使ってまで抵抗を果たしたものの、

指チュパ行為をしていた姫島先輩にやんわりと制止された。

 

場面を言うならば、

 

「ことな!違う!これはえっと、そう!治療だ!俺の治療の為なんだ!」

 

「近づくな触れるな話しかけるな変態クソ野郎!どこに自分の指を吸わせる治療があるんだ。

 しかも相手は姫島先輩な上に、その先輩は肌着とかおかしいよね?

 どう見ても、誰が見ても、不純異性交遊寸前の現場だったよ!

 とうとう一線を越えてヤリヤガッタな変態クソ野郎が!

 なぜか色々とやらかしても捕まらないからおかしいと思っていたけど、

 現場写真(証拠)があるから、もう言い逃れは出来ないねぇ!

 言い訳はお巡りさんに聞かせて、後はクサイ飯を食って来なさいよ!」

 

「だからそれは違うんだって!朱乃さんも説明してください!というか話聞けよ!

 いい加減にしねぇとお前を縛り上げてでも。それ(写真)を奪うぞこらぁ!」

 

「あらあら、これはどうしましょうか」

 

「そうは問屋が卸さない!お願い、この変態を抑えて!」

 

「な!?くそ!急に体が動けねぇ!これがことなの力なのか!?」

 

「あははははははは!善行には善果を!悪行には悪果を!この世の理ここにあり!

 さぁて、今までの罪を数えておきなさい!それがお前の絶望への道よ!」

 

「あの、ことなちゃん、それはちょっと待ってくれないかしら?」

 

「は?」

 

という感じである。  

 

なお、私と変態が互いに熾烈を極めていた間、

姫島先輩はニコニコ顔でそれを見ていただけで、私が電話をかける寸前で止めに入ってきた。

ところで、胸にある胸部装甲、もといメロン、いやスイカ?を私に見せつけるとか、

私に対する嫌味ですか?嫌味ですね?刈り取ってあげましょうか?捥ぎましょうか?と、

私が曇った目で見つめるも、当の先輩は気付かなかった模様。

 

話を戻すが、学園で散々犯罪行為を仕出かしておいて、

挙句に学園の二大お姉さまの一角にわいせつ行為を働くとは、

もう変態は捕まるべきではないだろうか?然り!然り!

それこそがこの学園に平和をもたらす一歩ではないだろうか?然り!然り!

というか、さっき撮った写真をばら撒くだけでも、

変態の学園生活は一瞬で終わらせられるのだが。

そう思ったが、姫島先輩からの変態擁護により、それは哀しくも阻止にされた。

別に姫島先輩は、強制されたわけでもなく、自分から進んで申し出たとか。

そして果てには、写真は削除するようにと、事情を聞いたリアス先輩に言われた。

なんで?と理由を問いただすと、一誠が困るでしょう?との返答。

訳が解らないよ。

 

 

以前のリアス先輩の結婚騒動の際に、一誠が左腕を捧げて勝利をしたのだが、

代償として左腕がドラゴンと化したのだ。

私も見せて貰ったが、ものの見事に人外の腕をしていた。

これでは日常生活も大変だろうに、と危惧していたが、

ギブスを巻くことで、治療が終わるまでの、その場しのぎをするとか言っていたと思う。

 

いやはや、自分の腕を省みずにリアス部長を助けようとするとは、

変態も少しはやるじゃないかと、その時の私は見直したのだが・・・。

なんでも、ドラゴン化した腕の魔力を吸いだせば元に戻るということが判明。

そのため、姫島先輩がその役目を担ったとのことだ。

だが、なぜ指チュパなんだ?しかも、先輩が肌着でやる、コレガワカラナイ。

しかも、ちらっと見えてしまったが、一誠は完全に鼻の下を伸ばしていたぞ。

というか、ドラゴン化の代償って説明を受け、実際に一誠の腕を見せて貰った時は、

なんとも恐ろしいものだと思ったが、なんとも軽い代償なんだな、と私は思い至った。

 

だが不慮の事故とはいえ、私の心は深い傷を負ってしまい、

一誠の為の治療とはいえ、猥褻行為まがいのことをしていたし、

これで御咎めなしは許されない。

悪いことをしておいて、謝罪も反省もなく、

何の罰も受けないのは、私の心情からして許されない。

 

だって、『悪いことをしたら謝るのが、罰を受けるのが普通なんだから』

 

ということで、私は一誠に正座をさせ、その足の上に備品を重石代わりに置き、

リアス先輩が来るまでそのままでいることで、一応の恩赦を出した。

姫島先輩にも、お願いですから勘違いを起こすような行為をしないでください!

と文句を言っておいたが、姫島先輩はのほほんとしていた。

 

そして私は、部室の隅に体育座りで、リアス先輩等が来るまで待機していたのだ、

死んだ魚のような目で。

一誠は必死に耐えるように悶絶し、その光景を見ていた姫島先輩は、

なぜか恍惚の表情をしていたので、第三者からすれば、とても混沌としていただろう。

現に、後からやってきた人たちの反応は殆どが同じだったから。

 

塔城さんが現れた際は、「ことな先輩になにしたんですか変態」と言って変態に詰め寄り、

木場さんは先に説明した通り、困惑を浮かべ、アーシアちゃんはおろおろするばかり。

そしてリアス先輩がやってきて、私と変態の姿に目が点になった、と言うわけだ。

 

リアス先輩は、直ぐに変態を解放するように私に言ってきた。

そして、足がしびれて動けない変態を抱き寄せ、

「可哀想」だの「痛いの痛いのとんでけー」だの、心配していた。

その時、リアス先輩の忌々しい胸部装甲を押し付けられて、

変態の顔が蕩けていたのを私は見逃さなかった。

 

なお、私に対しては、「ことはなやり過ぎ」だの、「これは一誠の為」だの、

「ちょっとぐらいなら大目にみなさい」だの、色々と言ってきた。

明らかな猥褻行為をしておいて、警察に突き出されない時点で優しいと思うのだが。

というか、だったら連絡をお願いします。

やはりというか、婚約騒動の後、リアス先輩は一誠に対して甘くなった、気がする。

どうみても、アーシアちゃんと同じような雰囲気を醸しだしているので、

私は嫌でも気付かされたのだが、だからと言って公私混同は困ると思う。

それこそ、私の報告を聞きながらも上の空だった時もあったのだから。

 

そんなことは置いといて、

私はドラゴン化の治療に対して、軽い代償だなぁと感じたわけだ。

なので私は、指で魔力を吸い出せばドラゴン化が元に戻るなら、

いっそのこと、力を求めるために全部を代償に捧げても良いんじゃないですか?

それこそ、ピンチになったらポンポンと捧げちゃえば良くないですか?

指チュパや舐めれば良いんでしょうし、と思い、リアス先輩にこの考えを提案したら、

 

『ことなって、時々恐ろしいことを考えつくわね・・・』とか、

『鬼!悪魔!この人でなし!でも部長らに舐めて貰えるなら・・・ゲヘヘエヘヘヘ』とか、

『夢殿さん、それは流石にちょっと・・・』とか、

『あらあら、ことなちゃんは面白いことを考えますわね』とか、

『ことな先輩、しっかりしてください!正気に戻ってください!』とか、

『い、イッセーさんを舐めるなんて・・・!でもイッセーさんの為なら・・・』

とかドン引きされたり、私がおかしいなどと言われてしまった。

おかしい。私は最善のことを思っての発言なのだが。

 

ちなみに、私は指チュパをする相手を『女性陣』とは言っていないのだが。

それこそ、女性陣がやれば『代償』ではなく、

一誠にとって『ご褒美』になってしまうではないか。

だがそれを言ってしまうと、現状で唯一の『男性』である木場さんに被害が行くし、

私は漫研部のように腐敗していないので、黙っておくことにした。

 

 

 

「はぐれ悪魔に関する資料はありますか?」

 

「あるにはあるけど、どうして?」

 

先ほどまでの大騒ぎは収まり、私はリアス先輩に質問してみた。

他のみんなは、契約のお仕事とパトロールに出かけていて、

いつも一緒にいる姫島先輩も今はいない。

まるで時が止まったかのような、静寂が一瞬、訪れた。

時計の針の規則正しい音だけが、部室内に響く。

リアス先輩は、少し訝しげに私を見ているが、単に疑問に思ったという表情だ。

 

「私、色々と知らなきゃいけないと思いまして。

 ほら、私、友達と襲われちゃったから、先にどんな悪魔が危険か知りたいなと・・・」

 

私は、その時に怪我をした場所に手を触れる。

怪我自体は、アーシアちゃんの『聖母の微笑』で完治をしているが、未だ包帯を巻いている。

それでも、治療する前の痛みは覚えているし、襲われた時の恐怖は未だに残っている。

それこそ、彼女が私に言った事や、自分が彼女に行った事まで。

 

「そう・・・そうね。

 ことなは私たちがいなかった時に襲われてるし、なにより人間だもの。

 この前のようなことまた起きてしまったら、それこそ問題ね。

 良いわ、これがはぐれ悪魔に関する資料よ。

 読み終えたら、私に返してね」

 

「はい!」

 

私の振る舞いと表情に思うところがあったのか、

リアス先輩は私に紙束が収まった冊子を渡してくれた。

表紙を捲れば、中にはぎっしりと紙束が挿んである。

これが全て、はぐれ悪魔に関するものか。

 

「リアス先輩、ありがとうございます!」

 

私はリアス先輩に頭を下げて礼を言う。

そして、直ぐに自分の机へに向かい、さっそく読みはじめた。

私が知りたいのはいくつかあるが、まずは『現段階で認定されているはぐれ悪魔』のみ。

私を襲ったレディプスという悪魔について。

彼女の言葉を思い出しながらも、私は資料の頁をめくる。

そして見つけた、彼女(レディプス)の資料を。

 

 

 

レディプス

Bランク該当のはぐれ悪魔 

種族:元アラクネ属の転生悪魔

特徴:声を媒介とした催眠

経緯:純血貴族の悪魔の兵士であったものの、突如主に反旗を翻し、主を殺害。

   殺害された主は、四肢と首、顔を捻じ曲げられた惨たらしい姿で発見され、

   残虐な殺害方法からして、危険存在と認定。

   なお、反旗を翻した理由は不明であり、

   悪魔の力に魅入られ、快楽目的の破壊衝動によるものだと考えられる。

 

対処:レディプスの能力は能力であるが、声を媒介としたものであることから、

   彼女の発する音波や声を封じるか、聞こえないようにする必要がある。

   推奨としては、先に彼女の喉を破壊することで、危険度は格段に下がる。

   身体能力自体は中級悪魔の『兵士』程度であり、注意すべきは『声』のみである。

   

   それを考慮して、Bランクとする。

   

 

「なに・・・これ・・・」

 

私は書かれている資料内容に驚いた。

これ(資料)から受ける印象は、彼女自身からの言葉とは真逆だ。

これじゃ、彼女は残虐な冷酷悪魔にしか思えない。

彼女が言った、彼女がはぐれ悪魔になった経緯なんて解るわけがない。

 

私は混乱した。

それこそ、その時の彼女の言葉は全て出鱈目で、私に同情を抱かせるためだったかもしれない。

でも、そうは思えない。

じゃあ、これ(資料)が嘘をついているのか?

それも、簡単には判断できない。

私は、混乱する頭を休めるために、一端、自分の目を頁から離す。

すると、頁が自身の重みで勝手に捲れだす。

慌てた私は、閉じだした頁を押さえ、ほう・・・とため息を吐く。

突如慌てた私に気付いたのか、リアス先輩が自分の方を見ていたが、

大丈夫です、なんでもありませんから、と誤魔化しておいた。

 

少しも気が抜けないわね、と内心で愚痴りながらも、

私はレディプスの頁に戻そうとして、手が止まった。

私が本に指を挿んで止めた頁に、目が留まったからだ。

 

『黒歌』

SSランクのはぐれ悪魔。

その写真を見た瞬間、私は何故か、塔城さんの姿を見た、ような気がした。



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9話

すみません。
話の展開について思うところと、人称の指摘受け、
それらを修正して再投稿しました。あと、最後辺りを加筆しました。
ご迷惑をかけて申し訳ありません。


「あら、いらっしゃい」

 

カランコロンと店の入口の鐘がなり、来客を告げた。

冷蔵ショーケースに置かれたケーキの状態を見ていた店員が、

来客たちへと目を向け、挨拶をする。

来客たちは皆、見た目からして高校生くらいだった。

もしかすると、駒王学園の生徒かもしれない。

駒王学園は、ここ(このお店)からさほど遠くはないものの、

わざわざこの店を訪れる学生を、幾人かを除けば、店番である自分は知らない。

まぁ、若干隠れ家的な雰囲気と立地のせいで、一見さんがくることは殆どないのだが。

もしかすると、時折店番を交代する双子の姉ならば、知っているかもしれない。

しかし姉は今、ケーキに用いる果物の仕入れに行って、この店にはいない。

 

案の定、一人を除けば、初めてこの店に訪れたであろう他の学生たちは、

きょろきょろとお店やショーケースのケーキを見ている。

背の高い、しかも紅い髪をした女生徒は、お店の装飾に目を向けており、

彼女からの「悪くないわね・・・」との呟きが聴こえ、

同じような背の、黒髪を結んだ生徒は、「あらあら」と、にこにこと笑顔で周りを見ている。

金髪の小柄な生徒は、「こ、こんなお店に入るのは、初めてです・・・」と、

なにやら緊張した様子で固まっており、

同じように白い髪の小柄な子は、無言でショーケースのケーキを凝視している。

金髪の男子は、「初めて入ったけど、落ち着いた雰囲気だね」との声、

そして茶髪の男子は、「B・・・?いや、C・・・なのか?」と、

何故か自分の方を見て呟いていた。

 

そんな学生たちの中、彼女は顔馴染みの女生徒を見つけた。

女生徒の方も、店員である自分を見つけ、一歩前へ出る。

 

「こんにちは、リーシャさん」

 

いつものように挨拶をしてくる学生を、リーシャは笑顔で応える。

挨拶をしてくれた彼女が、リーシャが知っている、

このお店に何度も訪れる珍しい学生の一人だ。

 

「いらっしゃい、ことなちゃん」

 

リーシャは常連客の学生、夢殿ことなに、いつものように挨拶をするのであった。

 

 

 

 

「親睦会?」

 

「はい!」

 

リアスは、ことなの返事にすこし面食らいつつも、彼女の言葉を反芻する。

リアスとことながいるのは、いつものようにオカルト研究部であり、

二人の他に、朱乃や小猫もいた。

一誠と祐斗は夜の見回り、アーシアは契約のお仕事でおらず、

ことなの返事に、朱乃も小猫もこちらに顔を向けていた。

 

「私、なにか忘れてないかなと思ってたんです。

 なんというか、喉に魚の骨が刺さって、凄い違和感といいますか・・・。

 それで分かったんです!部の親睦会をやっていないんですよ!」

 

「どういうことかしら?」

 

「えっと、リアス先輩や姫島先輩、搭城さんに木場さんは、

 ずっと前からリアス先輩の眷属じゃないですか。

 だけど、へんた・・・兵藤とアーシアさん、それに私はオカルト研究部の新人です。

 なので、あまり皆さんのことを知らない部分もあると言いますか・・・。

 だから、改めて皆さんとの仲を深めるきっかけとして、何かやりたいなぁ・・・と」

 

最後には言葉がすぼんでしまったことなを見つつ、リアスは考える。

一誠とアーシアにことなを除けば、確かに他の部員は全て自分の眷属だ。

自分としても、それぞれのことは理解しているつもりだ。

それこそ、各々の傷についても。

 

だが一誠やアーシアもそうだが、何よりもことなついては、自分は知らないことが多すぎる。

それこそ、彼女の言う『友達』についてもだ。

そう考えれば、ことなの言う通り、親睦会などをすれば、

ことなを知れるきっかけになるかもしれない。

それに、一誠のことを深く知れるチャンスかもしれない。

そう考えれば、リアスからすれば、「絶対に駄目」と断る理由はない。

なぜ、ことなが急に言いだしたかは疑問だが、それは直ぐに頭の中から霧散した。

 

「そうね、お互いを知るいい機会かもしれないわね。

 それで、何か案はあるのかしら?」

 

「はい。私の案ですが、いくつか作っておきました」

 

そういうと、ことなは何枚かの紙を取り出し、テーブルの上に並べる。

なんというか、用意がよろしいというのだろうか。

そのことなの姿に、リアスどころか、他の二人もすこし驚いている。

毎度のことだが、こうしたことなの準備の良さに、何度も驚かされる。

それが彼女の能力なのかも知れない。

 

「取りあえず、まずは先輩たちで選んでください。

 後で、帰ってきた方にも聞いて、それで決めようと思うので」

 

そう言うとことなは、

「すみません、私、これから帰らないといけないので、お先に失礼します。

 どのお店か決まったら、私に言ってください」と、

頭を下げると、鞄を持って部室から飛び出していった。

まるで台風の様だ。

 

「一体どうしたんでしょうか?ことな先輩があんなに急いでいるなんて」

 

「そうですわね、あんな風なことなちゃん、本当に珍しいですわ」

 

「まぁ、ことなも色々とあると思うわ。ことなには、ことなの生活があるんだもの。

 それに関しては、私たちが口を出して良い事じゃないわ。

 それにしても・・・」

 

リアスは、ことなの計画案に目を通す。

そこには、色々とお店の名前が、写真付きで載っていた。

雑誌などで調べたのであろう、喫茶店やケーキ店などが連なっていた。

 

「どれも美味しそうなケーキが載ってるわね。

 あら、この喫茶店はこの周辺にあるみたいだけど、知らなかったわ」

 

「こっちに載ってるケーキも美味しそうです」

 

「取りあえず、まずは私たちで決めてしまいましょうか」

 

そうしてやいのやいのと話し合っている内に、残りのメンバーが帰り、

こうして親睦会のお店選びが話し合われたわけだ。

 

そしてその結果、リアスたちは『カデンツァ』にやってきたのである。

 

 

 

 

「ご注文が決まったら呼んでくださいね。

 ことなちゃんは、いつものでいいかしら?」

 

「それでお願いします」

 

ことなは、メニューを持って来てくれた店員と気軽に話す。

茶色の長い髪を一つに束ね、シンプルな白地のエプロン姿だ。

 

「いつもの?」

 

「はい。私、実はこのお店の常連で、ここだと毎回頼むものがあるんですよ」

 

「そうなの?じゃあ、私もそれにしてみようかしら」

 

「そうですわね。

 ここは、このお店を知っていることなちゃんにお任せしちゃいましょう」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!

 あの、流石にそれは拙いです!

 ほら、リアス先輩に姫島先輩、こちらの紅茶セットとか良いと思いますよ・・・?」

 

「?ことな先輩、どうして焦っているんですか?」

 

「え?いや、その・・・流石にあれは・・・」

 

「?」

 

しどろもどろのことなに、他全員が首を傾げる中、

リアスたちは店員に声をかけ、それぞれ注文をしていく。

 

オレンジジュース、アイスコーヒー、焼き菓子セットやケーキセット、

そして『いつもの』など、各々が言っていく。

そんな中、ことなだけは、「どうなっても知りませんよ・・・」とでも言うのか、

まるでこれから起きることを解っているような、そんな表情である。

 

「夢殿さん、さっきからそんな表情だけど、一体どうしたんだい?」

 

「木場さんは確か、コーヒーとケーキセットでしたよね?

 なら何とかなるかもしれませんね」

 

「えっと、夢殿さん?一体何を言って・・・」

 

「初めての先輩方はヤバイと思いますので、出来れば木場さんは援護をお願いします。

 アーシアちゃんは戦力外、搭城さんに頑張ってもらうとしても、

 木場さんと、嫌ですが兵藤の力も必要だと思いますので」

 

「それはどういうこ・・・!?」

 

そういって、木場がことなに質問しようとした途端、木場は理解した。

いや、ことなを除いた全員が、その意味を理解させられた。

 

「はい、ことなちゃん。いつもの『フルーツ山盛りパンケーキ』とハーブティーね」

 

そういってことなに置かれた皿を、全員は目を点にして見つめていた。

 

それをパンケーキと言うのは憚られた。

それはパンケーキと言うよりも、フルーツの城塞であった。

苺やバナナ、オレンジにマスカットなど、色とりどりのフルーツが、

パンケーキの上でひしめき合っていた。

もはや、パンケーキよりもフルーツが目立っている。

フルーツは土台のパンケーキからはみ出しており、

もはやパンケーキがフルーツに埋もれている。

そしてその量は、明らかにフルーツ>パンケーキだ。

 

「えっと、ことな?まさか『いつもの』って」

 

「そうです。この『フルーツ山盛りパンケーキ』です。

 常連しか知らされない裏メニューです。

 言っておきますが、食べ残しは許されませんので、ご愁傷様です。

 だから、拙いですよ、と言ったんです」

 

そういっている内に、他の注文も運ばれ、テーブルには各々の物が置かれた。

もちろん、『フルーツ山盛りパンケーキ』もだ。

 

「た、体重が・・・」

 

「あらあら・・・どうしましょう・・・?」

 

青ざめる二人を余所に、ことなはせっせと食べ始める。

 

甘くない生クリームのおかげで、フルーツの甘さがより引き立つ。

色とりどりにフルーツの酸味や甘さ、食感が食べていても飽きさせない。

もちろんパンケーキだって負けていない。

濃厚だが、かといって口に残るほどではなく、生クリームのおかげでさっぱりといただける。

これを初めて食べた際は、夕食が喉を通らなかったのだが、

今ではぺろりと平らげられるようになった。

やはり人間の適応力は素晴らしい。

 

ちらりと周りを見れば、ケーキセットを観察している木場さんや、

オレンジジュースを飲んでいるアーシアちゃん。

焼き菓子セットを口に運ぶ塔城さんや、

「あら、案外いけそうだわ」と、先ほどの怯えとは一転、平気そうに食べている先輩方や、

何故か生クリームが顔に着いた先輩方を、血走った目で見ている兵藤と、様々だった。

まあしかし、ことなとしては、それでよかった。

 

誰も自分を仲間外れと見ていないと思えたから。

 

こうした騒動があったものの、親睦会は無事成功したと言っても良かった。

各々が、互いに和気藹々と話し合い、オカルト研究部は皆、絆を深めたと思えたからだ。

そうして親睦会は終わり、カデンツァの前で解散。

それぞれが帰路に着いて行った。

 

 

 

 

 

 

「塔城さん、ちょっといいかな?」

 

「どうしたんですか、ことな先輩」

 

小猫は、帰路に着く途中で、ことなに声をかけられた。

 

「えっと、お店の時は、他の人たちに聞こえると思って、訊かなかったんだけど、

 今は先輩たちもいないし、私と塔城さんの二人しかいないから。

 だから聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「?はい、別にかまいませんけど」

 

小猫は、ことなの雰囲気に少し違和感を覚えた。

それは、前にも感じた様な感覚。確か、学園内の庭で・・・。

 

「ああ良かった。じゃあ単刀直入に聞くね。塔城さん、お姉さんがいないかな?」

 

空気が、凍った。

 

 

 

 

 

「どうして・・・それを・・・?」

 

私は、震える声で尋ね返す。

それは、ことな先輩が知るはずがない情報。

リアス部長と、変態をアーシアさんを除いた、他の眷属しか知らない情報。

ならばなぜ、ことな先輩はそれを・・・まさか!?

私はことな先輩を睨みつけ、一気に警戒する。

まさか、ことな先輩は姉様のことを、何か知っている!?

 

「ちょ、ちょっと待って塔城さん!待って待って!

 多分塔城さんが思ったのと違うから!」

 

「え?」

 

突然慌てだすことな先輩に、私は毒気を抜かれてしまった。

目の前のことな先輩は、顔を真っ青にして、

手を振り回しながらも違うと叫んでいる。

違うとはどういうことなのだろうか?

 

それに、「落ち着いて!彼女は勘違いしているだけだから!」と、

まるで誰かに言っているかの様な、変なことも言っている。

周りを見ても、私とことな先輩以外、誰もいないというのに。

 

「えっと、私が悪いんだけど、色々と説明させてくれないかな?」

 

そういうと、ことな先輩は話し出した。

なんでも、部長から貸してもらった手配書で、はぐれ悪魔を調べていた際に、

『黒歌』という悪魔を見つけたという。

そして、その悪魔を見た時、私に似ていると感じ、

もしかしたらとカマをかけたということだ。

ことな先輩曰く、本当に姉様のことは知らず、

私の態度に大慌てになったようだ。

説明後、ことな先輩はしきりに頭を下げてきた。

 

「ごめんなさい、塔城さん。

 私、興味本位とはいえ、塔城さんを勘違いさせちゃって・・・」

 

「本当です。本当にびっくりしたんですから。

 まさか、ことな先輩が・・・!?って本当に思ったんですよ?

 

「お騒がせしてすみませんでした・・・」

 

「これは何か謝罪が必要です。

 そうですね・・・。

 では後日、カデンツァで先輩の『いつもの』をご所望します」

 

「ハイ、ワカリマシタ・・・」

 

「もちろん、ことな先輩の奢りですから。

 私、結構食べますからね?」

 

「あははは・・・、勘弁してください・・・」

 

ことな先輩は。「今月は切り詰めなきゃなぁ・・・」と、暗い顔をしつつも、

私の無茶な要望を承諾してくれた。

相変わらずことな先輩は、変に律儀だと私は思う。

 

 

 

「ところで塔城さん、やっぱり黒歌さんっていうのは・・・」

 

「はい・・・私の・・・姉様です」

 

「そう、なんだ」

 

ことな先輩は、申し訳なさそうな顔をする。

その顔を見て私は、先輩は悪い人ではないと思った。

もちろん、今までのことから見ても、悪い人ではないと思っていたけれど。

 

だからだろうか、私は先輩に聞いてもらいたいと思った。

 

「あの、ことな先輩、少し聴いてもらっても良いですか?」

 

そういうと小猫は、ことなに自分の過去を話だした。

本来ならこういうことはめったに話さないのだが、なぜか小猫は話していた。

自分が悪魔になったこと、姉様に対して複雑な思いを持っていること。

 

もしかしたらことな先輩なら、何か意見を言ってくれるかもしれない。

そんな想いがあったのかもしれない。

 

「塔城さんはどうしたいの?」

 

「え?」

 

小猫は、ことなの言葉に面食らった。

 

「塔城さんの抱えている物を知れて良かったけれど、

 それは結局、塔城さんが決めることでしかないよ。

 お姉さんと出会った際、一体どうしたいのかは、

 塔城さんでしか決めるしかないと思う」

 

「そんな・・・」

 

「それに、私は思うんだけどね。

 塔城さんは、もう決心してると思うんだ。

 ただ、それが不安で仕方がないんだと思う。

 もしかしたら・・・なんて考えてるんだと思う。だから迷ってるんだよ。

 でもさ」

 

ことなは優しく笑みを零す。

 

「私が言うのもなんだけど、踏み出せばいいと思うよ。

 塔城さんのやりたいことを、やればいいんじゃないかな?

 搭城さんが求めている言葉じゃないと思うけどね。

 私は、それでいいと思う」

 

「私の・・・やりたいことを・・・?」

 

小猫の問いに、ことなはにっこりと笑う。

それを見ていると、小猫は少し背を押された気がした。

 

「ありがとうございます。ことな先輩。

 私、姉様にあったら、自分のやりたいことをします」

 

「えっと、なんかよく解らないけど、良かった。

 それじゃあ塔城さん、また明日学校で」

 

そうして私は、ことな先輩と別れた。

去っていく私を、ことな先輩は見えなくなるまで手を振ってくれていた。

 

「ことな先輩って、不思議な人ですね」

 

私は、先輩については、ただの噂でしか知らなく、曰く、

『全力疾走の変人』『部活動の女神』と言った評価や

『目立ちたがり屋』『好感度稼ぎの胡麻すり女』と陰口と、様々だった。

そして、オカルト研究部に入ってきたことで、私は先輩を知った。

 

始めは、私たちに歩み寄りつつも、かといって一定の距離を取っていた。

お菓子などを作ってくれるも、決して心の淵を見せなかった。

私だけでなく、部長もそのことを感じていたと思う。

 

でも、話してみた分かった。先輩は決して悪い人じゃない。

まだ、先輩をことをよく知らないけれど、そのことだけは確信出来る。

 

「先輩は、信じられる人」

 

私は、ことな先輩をそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、危なかったなぁ。

 ほんと、興味本位で変なことはしないようにしなきゃね」

 

家へと帰る中、私は、自分の軽はずみな行動を思い返す。

あの時、塔城さんから感じた恐怖、あれは私の言葉に対する警戒だった。

まさか、本当に家族だなんて思わなかった。

言い訳をしてしまったが、実際、知らなかったのだ。

ゆえに、塔城さんの地雷を踏んでしまったことに、私は反省する。

でも、そのおかげなのか、塔城さんから話を聞くことが出来た。

その代償に関しては、痛い出費だけど、それで済んだと割り切ろう。

実際に、私が悪いのだから。

そういったことは、ちゃんとしないと駄目だと思う。

 

それにしても、塔城さんの話を聞くと、やっぱり違和感を感じる。

優しいはずの姉さんが、どうして妹である塔城さんを危険な目に晒したんだろうか。

態々、自分で妹を不幸にするなんて考えにくい。

とすると、何かあったのかもしれない。

まぁでも、あくまで推測でしかないので、考えても仕方がない。

 

思うところは多々あれど、私はリアス先輩たちを信じるだけ。

駒王町を、私の大切な人を守れるのなら、それでいいと思う。

もしも、そうじゃなかったら・・・。

私は頭を振る。

いけない、悪い方向に考えるのは、私の悪い癖だ。

塔城さんの時にもやらかしたが、気をつけないといけないなぁ・・・。

 

 

 

それにしても、危なかった。

 

「下手したら塔城さん、襲われてたかもしれなかったし」

 

私はあの時、警戒した塔城さんの後ろにいた『友達』のことを思い出す。

もしも私が止めなかったら、一体どうなっていたんだろうか。

どう考えても、最悪のことになっていたのは明白だ。

時折、『友達』の融通の利かなさには、少し困る時がある。

もちろん、『友達』は私のことを思ってのことだから、責めることも出来ないのだが。

 

「私が気をつけないとね」

 

私は、迷惑をかけないためにも、迂闊なことをしないように、反省するのだった。



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10話

『友達』と出会ってから、私は寂しくなくなった。

お父さんやお母さんがいなかった時、一人で家にいた時、私は寂しかった。

そんな時に出会った、私の『友達』

『友達』が出来てからは、そんなことを思うことはなかった。

一緒に本を読んだり、おままごとをしたり、お歌を歌ったり、遊んだりと、

『友達』はずっと私と一緒にいたから。

『友達』は、ずっと私を助けてくれた。

寂しい時も、哀しい時も、楽しい時も、ずっと一緒にいてくれて、私を励ましてくれた。

私が小学校に行き、中学校にいき、そして高校生になった今でも、『友達』はずっと一緒だ。

舞ちゃんや桐生ちゃん等と一緒にいる時は、

私のことを思って出てこないけど、いつも私を見守ってくれている。

私のことを、私の考えを、『友達』は解ってくれる。

私にとって、かけがえのない『友達』なんだ。

 

だから私は・・・

 

 

 

木場さんの様子がおかしい。

そう感じたのは、兵藤の家でオカルト研究部の会議をすることになった後だった。

別にオカルト研究部の部室でもいいと思ったけど、

リアス部長の提案もあるし、別段、私には反対をする理由もなかった。

だから、結局は兵藤の家で会議は行われた。

 

取りあえず私は、兵藤の家にお邪魔するならと、一端は家に帰り、

着く途中で、カデンツァに立ち寄り、シュークリームを人数より少し多く買い、

お邪魔する際に、お邪魔するお礼と共に、渡しておいた。

 

そこから先は、兵藤の幼い頃のアルバム観賞だ。

いや、なんで会議から脱線したからと言えば、

兵藤のお母さんが、一誠を写したアルバムを持ってきたからである。

そこから、私を除く、リアス部長や姫島先輩、アーシアちゃんはともかく、

小猫ちゃんや木場さんまでもが、そのアルバムに釘付けである。

正直、「やめろー!やめてくれー!」と叫ぶ一誠が、少し不憫に思えたほどだ。

 

正直、私も興味はあったが、流石に気が引けたので、止めておいた。

半ばしっちゃかめっちゃか中で、私は兵藤のご両親を見ていた。

うん、いい人だと思う。本当に良い人だと思う。

というか、どうしてこのご両親から、あの変態が生まれたのか、疑問に思えるほどだ。

突然変異?チェンジリング?もしや、なにか謎の電波でも受信したのかな?

そんなレベルだ。

 

そんな大変失礼なことを考えている中、私は何かを感じ、そちらに目を向けた。

見れば、木場さんが兵藤のアルバムを、まるで射抜くように、目を凝らしていた。

殆ど見ることのない、珍しい表情の木場さんに、

私は何か面白い物でも見つけたのかな?と思い、後ろから写真を見ようと覗きこんだ。

 

「? 木場さん、何か面白い写真でもありましたか?」

 

そう言って覗きこむと、そこに写っていたのは、

やんちゃな子供が二人と男の人と、そして不思議なものだった。

兵藤のアルバムなのだから、子供の一人は、兵藤なのだろうか。

いや、これ(やんちゃな子供)がどうしてこう(覗き魔の変態)なった。

いけない、思考が変な方向に行った。私は頭を振り、写真に目を戻す。

 

もう一人の子供と男の人は、多分、兵藤の知り合いなんだろうか。

だが、それよりも気になったのは、その男の人が抱えている物だ。

それは剣だ。

色々と装飾で飾られたそれは、博物館で目にするような、

そんな雰囲気を、写真越しからでも感じた。

骨董品なのかな?

 

「これに見覚えは?」

 

その声に、私は違和感を感じた。いつもの木場さんじゃないような、そんな違和感。

見れば、兵藤も少し目を開き、戸惑っているようだ。

 

「いや、ガキの頃だから、記憶があんまなくてな・・・」

「そうなんだ。いや、思いもかけない場所で、目にするなんてね。

 こんなことってあるんだね」

 

少し苦笑する木場さん。

でも、その声は、その目は、そしてその表情は、氷のように冷たくて

 

「これは聖剣だよ」

 

私に似ていた。

 

 

 

 

 

そして、木場さんの行動は更に違和感を感じるようになった。

表面的には、いつも通りの木場さんだった。

でも、違う。

まるで同じ曲を弾いているのに、ピアノの鍵盤が1鍵変わったことで、

別の曲になってしまったかのように、普段の姿であればあるほどに、

その違和感は強くなっていく。

 

一度、尋ねてみたこともあったが、

 

「あの、木場さん?何かあったんですか?」

 

「どうしたの夢殿さん。僕は別にいつも通りだよ?」

 

まるで、こちらを阻むかのように、木場さんは笑顔だった。

でも、目が笑っていない。

 

「そう・・・ですか。いえ、なら良いんです。

 ごめんなさい、変なこと聞いてしまって・・・」

 

「そう。ならいいかな?」

 

体調を聞こうにも、適当にはぐらかされて、会話さえも続かなかった。

私に背を向ける木場さんの姿を、私は、不安に感じながら、見るしか出来なかった。

 

 

そんな中でも、色々と時は過ぎ、

実は駒王学園の生徒会長も、生徒会メンバーもじつは悪魔だったとか、衝撃的な事実が発覚した。

もう、この学園は何なんでしょうか。

いや、何度も書類を提出したり、雑用の手伝いをするなど、

私は何度も生徒会室に足を運んだわけだけど、全く気付けなかった。

まあ、私にはそんな霊感なんてないんですけどね。あははは・・・。

しかも、支取生徒会長は、実はシトリー家の次期当主だとか。

え、もしかして駒王町って、実は凄い場所だったの?

上級悪魔のグレモリー家の次期当主と、同じく上級悪魔のシトリー家の次期当主。

なんだろう、胃が痛くなってきちゃった。

 

でも、リアス先輩も、蒼那生徒会長も、この学園を、町を大切にしてくれている。

それがまだ信じられるのであれば、私にはそれでいいと思う。

それが、私が信じられることだ。

 

 

 

そして、球技大会。

私は、いつも通りに雑務に動き回り、

クラス対抗では全力を出して頑張るも、徒競走では6位中3位と、

やはり身体能力の無さにを思い知らされることになった。

舞ちゃんから「うんうん、ことなちゃんはやっぱり体力がないよねー」と、

励ましなのか、それとも止めを刺しに来たのか判らない言葉をかけられた。

取りあえず、昼食の際に、弁当のおかずを一品、奪いました。

そしてランチ戦争が勃発し、双方が致命傷を負うことで決着がつきました。

 

昼食を経て、後半の部活動対抗戦。

ドッヂボールでは、妬み恨み辛みにより、兵藤『だけ』が集中攻撃を受けていた。

まぁ、学園内で有名の変態覗き魔が、なぜか学園内で有名なお嬢様先輩たちや、

マスコット、そして金髪の転入生美少女と一緒にいるのだから、

それはそれは、相当恨まれているとは思っていたが、まさかここまでとは。

 

でも、私が見ていたのはそんな兵藤ではなく、

まるで心ここに非ずのように、ボーっとしていた木場さんだった。

やはり、木場さんは何かがおかしい。

しかも、そのおかしさが段々と酷くなっている。

そんなことを思っていると、木場さんを庇おうとして、

股間にボールを受けて悶絶しながら、引き摺られながら退場する兵藤。

ああ、合掌。

そして一誠の貴い犠牲により、その怒りから、リアス部長たちが奮起。

その後、兵藤等の復帰により、オカルト研究部は無事勝利を収めた・・・はずだった。

 

 

 

 

 

 

響き渡る音が聞こえた。

リアス部長が、木場さんを叩いたのだ。

勝利を収めたものの、木場さんの行動が、リアス部長の怒りに触れたのだ。

何度か貢献したものの、明らかにどうでもいいような雰囲気を出していた。

時折、リアス部長が注意をするも、どうでもいいような対応だったのも、

リアス部長が怒った理由の一つだと思う。

そして、一瞬だが、叩かれた後に見えた、木場さんの感情の無い顔。

 

ああ、やっぱり似てる。

 

一瞬の無表情だったが、いつも通りの笑顔に戻る木場さんに、戸惑う兵藤。

そして、戸惑いつつも、何とか会話を続けようとする兵藤を、

木場さんは、割とどうでもいいように応じる。

 

「仲間か」

 

兵藤の言葉に、木場さんは表情を曇らせる。

 

「そうだぜ、木場。俺たちは仲間だろ?

 俺たちは、互いに補っていかなきゃ、駄目なんじゃねぇか?

 仲間なんだから、木場が心配なんだよ」

 

「君は・・・熱いね。

 イッセー君、僕はずっと忘れていたんだ、自分の、本来の理由をね」

 

「本来の理由・・・?」

 

兵藤の言葉に、木場は少し口元を上げ、まるで笑っているようで、泣いてるような表情する。

 

「僕はね、復讐するために生きているんだ。

 僕を、僕らを殺した、聖剣エクスカリバー。

 それに関わらった存在、全てに復讐する」

 

そして、その表情は見て、私は、

 

「それが、僕の戦う意味だったんだ」

 

ようやく、本当の木場さんの顔を、見れた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖剣計画?」

 

兵藤の言葉に、リアス部長は頷く。

ここはオカルト研究部の部室で、

木場さんと、仕事で席を外した人たちを除いたオカルト部メンバーが、リアス部長の言葉を聞く。

 

「聖剣って言いますと、あの、よくあるゲームで出てくる武器、みたいなものですか?」

 

「ええ、ことなの言うように、ゲームなどで出てくる武器。

 聖なる力を纏い、魔族に強烈な威力を発揮するものね。でも、聖剣は実在するのよ。

 しかも、ゲームと同じように、対悪魔兵器としては必殺の兵器としてね。

 悪魔は触れただけで身を焦がし、その光ですら悪魔を弱らせ、

 斬られれば消滅させられる、まさに、魔を滅ぼすには究極と言っても良い」

 

リアス部長の言葉に、兵藤とアーシアちゃんは驚きを隠せない。

私も、ゲームや漫画、お伽話の武器が、まさに現実にあるなんて思えず、戸惑う。

 

「そして、その聖剣の代表的な物が、エクスカリバーってところかしら。

 他にも、デュランダルや天叢雲剣など、聖剣はいくつかあるわね」

 

「じゃあ、もしも聖剣を使われたら、大変じゃないですか!」

 

兵藤の言葉は声を荒げる。

私も思案する。

確かに、そんなものを持ち出されたら、

悪魔であるオカルト研究部の皆にとっては、命に係わるものだから。

兵藤の声に、リアスは落ち着かせるように、手で制す。

 

「一誠、落ち着きなさい。確かに、聖剣は私たちには恐ろしい武器よ。

 でもね、強力過ぎるが故に、聖剣を扱える存在は稀有なのよ。

 聖剣が使い手を選ぶが故にね。

 聖剣の使い手が現れるのは、数十年に一人ってほどにね」

 

「そ、そうなんですか・・・?じゃあ、聖剣計画ってのは一体」

 

少し安心した兵藤の問いに、リアス部長は応える。

 

「聖剣計画はね、数年前に教会が、聖剣の使い手を生み出すために行われた人体実験よ。

 教会が保有していた聖剣、エクスカリバーの使い手を育てる為にね。

 そして祐斗が、その生き残りなのよ」

 

「そんな・・・!教会がそんなことをするはずが・・・」

 

聖女として教会にいたアーシアちゃんが、信じられないと、声を震わせる。

確かに、信じられない内容だろう。

自分がいた場所で、まさかの人体実験が行われていたのだから。

 

「じゃあ、木場は聖剣も扱えるんですか?あいつは魔剣を使えてましたけど」

 

リアス部長は首を振る。

 

「祐斗も含めて、当時一緒にいた子供たちは全員、適性がなかったみたいね。

 だから、教会の関係者は、祐斗を含めた全ての子供たちを処分したのよ。

 聖剣を扱えない『不良品』としてね・・・」

 

「酷でぇ・・・!酷過ぎる!」

 

「主に仕える教会が、そ、そんなことをするなんて、間違ってます・・・」

 

怒りで拳を振るわす兵藤と、目に涙を浮かべるアーシアちゃん。

 

「私は、瀕死の祐斗を悪魔に転生させた。

 その時の祐斗は、聖剣に強い復讐を宿らせていたわ。

 聖剣によって全てを奪われたことに対してね」

 

リアス部長の表情が、哀しみに沈む。

 

「私は、祐斗の才能を、悪魔の生の中で、有意義に使って欲しかった。

 聖剣に捕らわれてほしくなかったから。

 祐斗の才能は、それこそ素晴らしいものと、私は思っているんだから」

 

「リアス部長・・・!」

「部長さん・・・!」

 

兵藤とアーシアちゃんの二人は、リアス部長の言葉を受け、敬意の眼差しを向ける。

 

「でも、改めて人間の悪意の恐ろしさを実感してしまうわ。

 教会の人間は、私たち悪魔を邪悪な存在と言うけれど、

 人間の悪意こそが、この世の一番の邪悪だと思うわ」

 

「部長は恐ろしくなんてありません!

 だって、俺たちのことを本当に思っていて、俺たちに優しくて!

 悪魔なんて関係ない!リアス部長は、教会の言う、邪悪なんかじゃないです!

 悪魔にだって、優しい者はいるんです!」

 

「そうです。イッセーさんは、私を助けてくれました。

 部長さんは、皆さんは、私を、受け入れてくれました。

 悪魔にも優しい人はいるんです」

 

リアス部長の憂いた顔を見て、兵藤が声を荒げ、アーシアちゃんがそれに続く。

一瞬、呆けた表情のリアス部長だが、

 

「ありがとう、二人とも」

 

と、二人に優しい笑みを向けていた。

 

 

 

 

その後、私は雑務を終わらせると、直ぐに家へと帰った。

自分の部屋で、私はベッドによこになりながら、先ほどの話を思い出す。

リアス部長はとても優しい、それは本当だと思う。

リアス部長の笑みは、安心させてしまうような、そんな力を持っている。

それこそ、兵藤やアーシアちゃんは、リアス部長を信じてる。

私も、信じてる。

 

でも、

 

『ここの領主さまのために頑張ろうが、どうせお前も捨てられる。

 いくらお前が媚びようが、悪魔は自分勝手で、自分のことしか考えないんだからな!

 あはははははははは!

 お前も私のように、大切なものを奪われる! そして私と同じになるんだ!』

 

彼女が、私に叫んだ言葉

 

『基本、利己的なのが悪魔の生き方だと思うけど?』

 

木場さんが、兵藤に放った言葉

 

そして、

 

『人間の悪意こそが、この世の一番の邪悪だと思うわ』

 

リアス部長の言葉。

 

 

「わけ、わかんないよ」

 

私は、ゆっくりと目を閉じた。



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11話

言葉を弄ったことで、特定キャラが悪くなってると思います。
もしかしたら、修正するかもしれません。


私は、目の前の光景に、雰囲気に、ただ緊張と不安でいっぱいだった。

何故ならば、目の前では、リアス部長が、

教会から派遣された悪魔殲滅者(エクソシスト)の2人と相対していたからだ。

それまでの経緯を説明するとしたら、流れはこうである。

 

木場さんとリアス部長との溝が出来た翌日、ようは昨日のことだが、

兵藤の家に、今、私の目の前にいるエクソシストが現れたという。

なんでも一方の茶髪のツインテールの女の子が、例の写真に写っていた子供だったという。

私は写真の子と目の前の子を比べてみた。なるほど、確かに判らないだろう。

写真と比べると、髪型的にも、写真的にも、男の子のようだった写真と、

今の女の子の出で立ちを見れば、同一人物と直ぐに判るのは難しい。

 

まぁ、しかし、その胸部装甲は・・・よし!同士ね!

私は影に隠れてガッツポーズをした。

・・・私は何を喜んだんだろう・・・、そして一気に自己嫌悪になった。

 

話を戻すが、なんでも、リアス部長に交渉しに来たと言う。

内容はまだ明かされていなかったらしく、明日、つまり、今日、

色々と話し合うということだった。

なんでも、相当切羽詰っているらしく、それこそ、大嫌いな、

むしろ殺したいほど憎悪している悪魔に協力を仰いだらしいのだから。

それも、リアス部長たちを殺さない、という誓いを立ててまで。

その姿勢に、リアス部長も話を聞こうとなり、交渉の場が設けられたという。

 

そうして現在、エクソシストの二人はオカルト研究部へとやってきた。

私は、そのことを今さっき知らされたので、

なにぶん急なこととは言え、心構えが出来なかったのが不安だ。

と言いますか、連絡くらいお願いします。

そして、私は何も準備をすることも出来ずに、エクソシストを迎えたのである。

入ってくるなり、二人の内、蒼い髪の子が兵藤たちには、眉を顰め、

私には、まるで不思議なものを見るような目で見られた。

 

そして、事ここに至るというわけだ。

 

しかし、いかんせん、私から見ても、この場の空気は最悪に近いと言っていい。

なにせ、ピリピリとした空気を、私の肌が感じているからだ。

まぁ、リアス部長やオカルト研究部の全員、ようは悪魔からすれば、

目の前にいるのは教会のエクソシスト。

自分たち(悪魔)を殺すために生まれた存在だ。

いくら、自分たちを殺さないと神に誓っている(らしい)とはいえ、その気になれば殺せるのだ。

どうあっても安心なんて出来ない。

 

その上、木場さんが完全に危険な状態だ。

エクソシストの二人を、まるで仇敵のような、怨敵のような視線で、

射殺すような目で、睨みつけているのだから。

下手したら、ふと瞬間に、二人へ斬りかかるかもしれない危うさを醸し出してる。

片やエクソシストの方も、蒼い髪の子は、微かに嫌悪の雰囲気を感じる。

うん、雰囲気に呑まれてしまって、私は完全に動けません。

 

そして、この雰囲気の中、話を切り出したのは、ツインテールの子。

兵藤の知り合いと言う、紫藤イリナさんだった。

なんでも聖剣エクスカリバーが強奪されたらしい。

 

・・・あれ?確かエクスカリバーって、持ち主であるアーサー王の死後、

ベディヴィエールが、湖の乙女に返却したんじゃなかったかな?

一昨日、話を聞いた後、家のインターネットで調べたら、そんなのが載ってたけど。

なんで教会が持ってたのかな・・・。

なんかややこしくなりそうだから、黙っておこう。

 

「一誠、実はエクスカリバーは現存していないのよ」

 

疑問に首を傾げていた一誠を見て、リアス部長が応え、そして紫藤さんが説明する。

なんでも、基の聖剣エクスカリバーは、かつての大戦、

ようは三勢力と二天竜の壮絶な戦争によって折れてしまったらしい。

そして、その折れた聖剣の破片を書きあつめ、新たに7本の聖剣としてつくり変えたという。

 

「これが、エクスカリバーさ」

 

すると青髪の女の子が、先ほどから背負っていた、布に包まれていた物を取り出した。

そして、その布を外すと出てきたのが、一本の長剣だった。

 

「「「「「!?」」」」」

 

「凄い綺麗・・・」

 

その剣を見て、私は言葉を漏らした。なるほど、確かに聖剣なのかもしれない。

素人の私から見ても、その長剣は見る者を惹き付ける何かが、

御利益がありそうな、神聖な雰囲気が感じられた。

ふと、周りを見ると、他の人たちは、まるで蛇ににらめれた蛙のように、固まっている。

それを見ても、確かに聖剣なのだと実感した。

 

「これが私の聖剣エクスカリバーの一つ、『破壊の聖剣』だよ」

 

そう言って、青髪の人は、再度それを布で包んだ。

すると、神聖な雰囲気が一気に霧散する。なるほど、その布で隠してるんだ。

確かに、そんなもの(聖剣)をおおっぴらに持ってたら、警察に捕まるからね。

銃刀法違反って、いったいどれくらいの罪だったかな・・・。

 

「そして、私のは『擬態の聖剣』。自由自在に形を変える力を持っているの。

 それぞれの聖剣には、それぞれ別の能力が備わっているわ」

 

紫藤さんが取り出したのは、先ほどの長剣とは違い、なんというか・・・紐のようなものだった。

でも、先ほどの長剣のように、神聖な雰囲気を感じる。

ただ、先端がうねうねしているせいか、気持ち悪いと思ったのは、失礼ではないと思いたい。

だって、蛇みたいで、私は駄目なんだよなぁ・・・。

 

そうして、同じように布で覆うと、蒼髪の人が紫藤さんに小言を言う。

どうやら、紫藤さんの方は、悪魔側には協力的で、青髪の人は、悪魔に対して懐疑的らしい。

というか、青髪の人、ゼノヴィアさんって言うんだ・・・。

 

話を聞いて、青髪の人の名前が解った私は、ふと、酷い寒気を感じた。

まるで、極寒の湖に裸で放り込まれたような、痛いと思える様なそんな寒気。

ちらりと感じた方へ眼を向ければ、木場さんが二人を、

先ほどとは比べ物にならない形相で睨んでいた。

もはや、今すぐにでも斬りたい、破壊したいという思いを、理性で必死に止めているような、

そんなギリギリ踏みとどまっている、危うい状態。

下手すれば、彼女たちの一言で、一動作で、下手すれば一呼吸をするだけで、

一瞬のうちに二人に襲い掛かりそうな雰囲気だ。

 

「木場さん、お願いです。ここは抑えてください・・・」

 

「・・・」

 

私は、ゆっくりと木場さんの傍により、声をかけるが、返答は無言だ。

若干、寒気が収まったような気はしたが、それでも肌がひりつく感じがする。

取りあえず、私はすごすごと後ろに下がった。

 

その間も、リアス部長は紫藤さんとゼノヴィアさんと対話をする。

なぜ、エクスカリバーが日本のしかも駒王町と関係するのか、

なぜ奪われたのか、誰が奪ったのか、それは色々と聞きだした。

 

なんでも、教会の各地に保管されていたエクスカリバーがそれぞれ一本ずつ奪われた。

そして、奪ったのは堕天使が組織しているという『神の子を見張るもの(グリゴリ)』で、

主犯はその幹部のコカビエルと言う。なんでも、戦争を生き残った猛者らしい。

その名前を聞いて苦笑するリアス部長だけど、私は気が気でなかった。

 

だって、そんなのは絶対に恐ろしい相手だと解るから。

そんな存在が、駒王町に、私の大切な人がいる町に来ている?そんなの絶対に大変じゃない!

しかも、ゼノヴィアさんが言うには、既に秘密裏に来ていたエクソシストが殺されているとか。

 

なにそれ。

私は一瞬だが、思考が止まった。

なによそれ。

なんでそんなことをしてるのよ。なんで、私の町でそんなことが起きてるのよ。

下手したら、巻き込まれて死ぬ人がいるかもしれないじゃない。

現に、エクソシストの方たちは死んでるのよ?

だったら、それが原因で、町の人が危険にあうかもしれないじゃない。

なのに、なんでそんな他人事みたいに言ってるのよ。

 

私は、エクソシストの二人に詰め寄ろうとして、服を掴まれた。

 

「ことな先輩」

 

見れば、塔城さんが、私の服を掴み、ゆっくりと首を横に振る。

ここは抑えてください、と、彼女が言っていると私は理解した。

先ほど、自分が木場さんに抑えるように言っておいて、私も同じ轍を踏んでいた。

私はハッとし、こちらを見ていた塔城さんに、ありがとう、と答える。

 

「ゴメンね、塔城さん。咄嗟に止めてくれてありがとう」

 

「すみません、でも、ことな先輩の顔が少し怖かったので・・・」

 

心配そうに私を見つめる塔城さんに、私は小声でと応える。

 

「安心して。もう、大丈夫だから。今は、リアス部長を信じるね」

 

「それならいいですけど・・・」

 

私と塔城さんがひそひそと話し合っている内に、

どうやらリアス部長と教会の二人との話し合いも終わりそうだった。

見ると、ゼノヴィアさん?が、リアス部長にここ(オカルト研究部)に来た理由を話していた。

 

「私たちの依頼、いや、注文だが、

 私たちと堕天使のエクスカリバー争奪戦での戦いの際、君たち悪魔が介入をしないこと。

 ようは、この事件に一切関与するな、ということを伝えに来た」

 

リアス部長の目が鋭くなる。

 

「随分な言いぐさね。それは牽制?それとも挑発?

 もしかして、私たち悪魔がその堕天使と手を組む可能性があると見ているのかしら?」

 

「可能性が無いわけではないだろう?」

 

ゼノヴィアさんが、事もなく言い放った。

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

気付けば、私は言葉を漏らしていた。

ゼノヴィアさんの言った言葉が、私には理解できなかった。

ゼノヴィアさんの言った言葉を、私は聞き取れなかった。

何?今、こいつは何を言った?

 

「ことな先・・・輩・・・?」

 

私の町に、秘密裏にエクソシストを送り込んでおいて、

下手すれば巻き込まれて、大切な人が死ぬかもしれないのに、こいつは何を言ってるの?

自分たちの不手際で聖剣を盗まれておいて、何を言ってるの?

自分たちの不手際で、無力さで、私の町を巻き込んでおいて、一切関わるな?

こいつは何を言っているんだ?

 

黒い感情が波打つ

 

「上は悪魔と堕天使を信用していない。

 聖剣という忌まわしいものを破壊できるなら、君たち(悪魔)からすれば、大きな利益だ。

 堕天使も同様、こちらの戦力を削ることは、あちらにも益になる。

 故に、手を組まれると厄介なのでね、先に牽制をうたせてもらう。

 仮に堕天使と手を組んだ場合は、先に君たちを殺す。

 障害は取り除いておくべきだ、たとえ魔王の妹であろうとね。それが上司のお考えだ」 

 

目の前の青髪女の言葉に、感情が渦巻き始める

 

確かに信用できないのは理解できる。

不意打ち、騙し討ちなんて、それこそ戦争においては基本だ。

だが、だからと言って、この町を、巻き込んで良い理由にはならない。

この町に害をもたらす奴は、私の大切な日常を壊す奴等は絶対に許さない。

『誰であろうと』絶対に

 

渦は全身へと広がり、そして引いていく

まるで、潮が引いたように

 

「・・・そう、ならば言わせてもらうわ。

 私は!リアス・グレモリーは!何があっても堕天使と手を組むことはないわ!

 グレモリーという名に誓ってね!」

 

「そうか、ならいい。

 取りあえず、情報を伝えておかなければ、いざことが起こった時、恨まれるのは私たちだ。

 先ほどもいったように、協力を仰ぐつもりはない。

 まぁ、一時的に神と手を結んだとなれば、君たちにとっても拙いことになるだろうしな」

 

お前は何を言っているんだ?

既に私の町を巻き込んだというのに?恨まれていないとでも思っているのか?

お前達にとっては、私たち(町)は恨まないとでも思っているのか?

 

「それで、そちらの戦力は?」

 

「私とイリナの二人だけだ。

 正教会としては、エクスカリバーを1本でも死守すればいいと思っているらしい。

 最悪のことを想定してね」

 

ああ、そうか、つまり、エクスカリバーを守れれば、『どうなってもいいということか』

ああ、こいつらは、私の町を、大切な人を巻き込んでも・・・

 

「どうでもいいということなのね」

 

ああ、もう駄目だ

 

「無謀ね、戦争を生き残った猛者と戦うにしても戦力不足もいいとこ。

 死ぬつもり?」

 

「その覚悟は出来てるわ」

 

「出来れば死にたくないがな」

 

リアス部長と、エクソシストの二人が話をしている。

だが私には、そんなことはどうでもいい。

私にとって、そんなことは一切どうでもいい。

信仰だろうと、使命だろうと、そんなことには興味すらない。

 

私にとって重要なのは、目の前のこいつらが『敵』であるということだけだ。

事件の犯人、コカビエルとか言う堕天使は絶対に謝らせるとして、まずはこいつらだ。

私の町を、大切な人たちを巻き込んだ挙句、

自分たちは使命を全う出来れば、死んでもいいというらしい。

じゃあ、『使命すら全うできなかったら、こいつらはどう思うんだろうか?』

ゆっくりと、私の身体が、心が冷えていく。

景色が無機質に見えていく。

そして『腕』が、『身体』が、『脚』が、

歯車のような、砂が流れるような、様々な音を立てて、形が作られていく。

 

「ことな先輩・・・?」

 

誰かの声が聞こえたが、そんなことは気にも留めない。

 

目の前の『敵』が、アーシア・アルジェントに何かを話している。

アーシア・アルジェントの顔が曇る。

 

 

 

 

 

「すっと、信じてきたのですから・・・」

 

アーシアの言葉に、ゼノヴィアは布に包まれたままの聖剣をアーシアへ向け、

慈悲深い顔で、声で、彼女に告げる。

 

「そうか、なら今すぐ私たちに斬られるといい。

 今なら神の名の元に断罪しよう。

 罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」

 

そう言ってアーシアに歩み寄ろうとするも、その間に一誠がすかさず入った。

一誠の目は、ゼノヴィアを睨みつけるように鋭く、アーシアを背にするとこで、

彼女を庇うように、守ろうとしているように見える。

 

「イッセーさん・・・?」

 

「うん?なんだ、君は」

 

「触れるな」

 

一誠ははっきりとした声で、ゼノヴィアに告げる。

 

「アーシアに近づいたら、俺がてめぇを許さない」

 

「なぜだ?元は『聖女』だとしても、今は悪魔に堕ちた『魔女』だ。

 それなのに、彼女は今も主を信奉している。

 ならば、その魂を断罪し、浄化するのは彼女にとっても救いのはずだが?」 

 

一誠は、目の前で首を傾げるゼノヴィアに声を荒げる。

 

「救いだって?ふざけるな!

 お前たちは、勝手にアーシアを『聖女』として祭り上げておいて、悪魔を救ったら『魔女』?

 アーシアの想いを知らずに、自分たちの望みと違ったら、手のひらを反して追放?

 なんで助けてやらなかったんだよ!

 なんで誰も友達になってやらなかったんだよ!?アーシアは、小さな女の子なんだぞ!?」

 

「神に愛される『聖女』は、もはや人間ではない、『聖女』だ。

 そこに他者からの愛情などは必要ない。神からの愛で生きられるはずなのだから。

 他者からの繋がりを求めた『聖女』は、ただの人間だ。 

 それゆえ、他者の愛情を、ましてや友達を求めた時点で、『聖女』の資格など無かったのだ。

 現にアーシア・アルジェントは悪魔として生まれ変わり、『魔女』になったじゃないか」

 

ゼノヴィアの言葉に、一誠は怒りを止められなくなる。

 

「なんだよそれ・・・なんなんだよそれ!

 お前らの信じる神様は全てを救ってくれるんだろ!?

 なら、必死に信じていた女の子を救わない神なんてそんなの間違ってる!」

 

「それは彼女の信仰が足りなかったからでしかない。

 それにしても、君は『魔女』の何だ?なぜ『魔女』を庇いだてる?」

 

ゼノヴィアの疑問に、一誠は胸の想いを、力の限り叫ぶ。

 

「家族だからだ!アーシアは俺の友達だ!仲間だ!家族なんだ!

 大切な家族を傷つける奴を、俺は絶対に許せない!

 お前たちがアーシアを傷つけるというなら、俺がお前達全ての敵になってやる!」

 

「イッセーさん・・・」

 

その言葉に、アーシアは目を潤ませながら、一誠を見つめる。

対称的に、ゼノヴィアはそれを鼻で笑う。

 

「それは教会の全てを敵にするという、宣戦布告かな?

 一介の悪魔風情が、大きく出たな?グレモリー?これはどうすればいいのかな?

 私たちは戦わないとは言ったが、襲われては仕方がないぞ?」

 

「イッセー、止めなさ・・・」

 

「盛り上がっているところすみません」

 

 

リアスの言葉を遮るように、冷たい声が、オカルト研究部に響き渡った。

一誠はもちろん、ゼノヴィアやイリナ、リアスや木場たちも、声の方へと顔を向ける。

 

「私としては、どうでもいいんですけど。

 これ以上ややこしくなるのなら、

 すぐにでもこの事件を終わらせて、さっさと帰ってくれませんか?

 できれば、今すぐに、この事件を解決してくれませんか?

 お願いですから、この瞬間にでもいいですから、さっさとお帰り願えませんか?

 はっきり言って、迷惑なんですけど?」

 

すると、ずっと壁際の方で黙っていた夢殿ことなが、

まるで人形のような無機質な笑みを浮かべて、自分たちを見ていたのだった。



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12話

おかしい、なんだこの主人公は・・・。


「ことな・・・?」

 

リアス・グレモリーは、目の前にいる夢殿ことなに戸惑っていた。

リアスにとって、夢殿ことなは、可愛い後輩であり、オカルト研究部の一員であり、

眷属ではなくても、大切な仲間の1人だ。

彼女のおかげで、オカルト研究部の運営は、以前よりも良くなっていると言える。

彼女の仕分けやスケジュール管理は、リアスたちにとって大助かりだったのだ。

時折、お手製のお菓子のクッキーやケーキを持って来るなど、

少し体重が気になってくるようなこともあったが、別段おかしいというわけではない。

自分たちが不在の際、不幸にもはぐれ悪魔に襲われてしまった後は、

悪魔や天使、堕天使について勉強すると言った頑張りも見せてくれた。

 

リアスから見た夢殿ことなは、それこそただの人間だ。

ただ、彼女曰く『友達』という変わった力を持っているだけの、人間だ。

少し変わった考えを持っているも、別に変と言うわけでもない。

実際、彼女は、一誠のドラゴン化を推奨しようとしたり、

ドラゴン化しても、魔力を吸い取れば問題はないじゃないですかと、

あまりにも行き過ぎた提案をしたこともあった。

 

しかし、普段の彼女を見れば、夢殿ことなは、

明るく、周りのために奔走したりと、少し変わっていても、

それが杞憂に思えてくるほど、彼女の姿は好意的に思える。

 

だが、今のことなは、その印象とは真逆だ。

感情を捨て去ったような、作り物の笑顔。

まるで、人形と向き合っているような印象を感じる。

瞳の光は消え、まるでどこまでも吸い込まれるような、無機質な黒色。

そして何より、何かを感じるのだ。

自分には見えない何かが、そこにいると感じている。

 

 

「ほう、それはどういう意味だ?」

 

エクソシストの片割れ、確かゼノヴィアと言う名前だったか、

彼女は少し眉を顰めながら、ことなに向かい合う。

その表情は、不快感が滲み出ている。

 

「この部屋に入った際に気になったが、君は一体なんだ?

 どうやら悪魔ではなく人間の様だが、なぜこの悪魔たちと一緒にいる」

 

「そんなの、今はどうでもいいじゃないですか。

 私がここにいようといまいと、貴女に話す通りなんて、今は無いでしょう?」

 

笑顔で拒絶することなに、ゼノヴィアの眉がピクリと動く。

リアスは、ことなの姿に違和感を感じる。

先ほどのことなとは、全くの別人に見える。

さっきまでは、壁際でおっかなびっくり、私たちの交渉を見ていたことなとは。

 

「いやなに。

 悪魔に転生もしていない人間が、悪魔と共にいることが不思議でね。

 君も契約者と同じように、ここにいる悪魔と契約でもしたのか?」

 

「それこそ、貴女に言う意味があるんでしょうか?」

 

変わらず笑顔で拒絶することなに、ゼノヴィアは興味を失くしたように溜息を吐く。

 

「それもそうだな。

 私には悪魔と共にいる人間について、不思議に思っていたのでね。

 ただ、理由を知りたかったんだがな。

 それで、迷惑とはどういう意味だ?」

 

「だからそのままの意味ですよ。迷惑だから迷惑です」

 

ことなの無機質な瞳が笑う。

 

「聖剣を盗まれた上に、無関係な私たちの町を巻き込んでおいた挙句、

 こちらに連絡もせず、秘密裏に活動をしておいて、犠牲者まで出している。

 しかも事が深刻になって、形振り構わなくなって私たちに頼ってきたのに、

 その交渉の内容は、信用出来ないから事件に関与するな。

 堕天使と手を組んだら真っ先に殺す。

 おかしいと思わないんですか?」

 

ことなの口元が歪む。

その姿に、リアスどころか、一誠たちや他の眷属たちも寒気を覚える。

ことなの隣の小猫は、別人のようになったことなの姿に、

彼女から離れようと一歩後ろに下がっている。

小猫の顔には、戸惑いが見えている。

 

「何がおかしいというんだ?この件は私たち教会の問題だ。

 悪魔たちが関われば、それこそ三つ巴の状態に影響が出てしまう。

 むしろ、事態をこれ以上に大きくしないためには最善だと思うが?」

 

ゼノヴィアは、まるで意味が解らんと言うように、ことなの言葉に首を傾げる。

まるで、ことなの方がおかしいという風な印象だ。

 

「そうですか」 

 

その姿と言葉に、微かだがことなの目が吊り上る。

 

「ではもう一つ、あなた方は悪魔に手を出さないと誓ったはずです。

 ですから、先ほどアーシアを浄化しようとした行為は、明らかに契約違反では?」

 

ゼノヴィアの言葉に、アーシアがビクリと身体を振るわせる。

傍にいた一誠は、安心させるようにアーシアの手をぎゅっと掴み、彼女の肩に手を置く。

 

「彼女は悪魔に転生してもなお、主を信仰している。

 ならば、その穢れた、悪魔に堕ちた肉体を浄化し、魂を主の身元へと送るのは、

 むしろ彼女にとっては救いのはずだが。

 それの何がおかしいんだ?」

 

「そうですか」

 

またしても同じように、ゼノヴィアは答える。

その姿に、ことなは一呼吸する。

すると、彼女から感じる異質さは更に強くなり、彼女の口元がゆっくりと動き・・・

 

「良いよ、出てき」

 

「ことな、止めなさ・・・!」

 

見守っていたリアスは、咄嗟に止めようと声を荒げた。

リアスは直感的に何かを感じた。それこそ、止めなければいかない何かを。

同じように、ゼノヴィアも直感的に何かを感じたのか、

布に包まれていた聖剣を構えようとし・・・

 

「そこまでだよ、夢殿さん。後は僕が相手になろう」

 

「あ・・・」

 

祐斗が、ゼノヴィアとことなの間に入る。

祐斗からは、信じられない程の殺気を放ち、その手には剣を携えていた。

そして、不倶戴天の敵を見るかのように、ゼノヴィアを睨みつけている。

 

その瞬間、先ほどまで感じていた異質さは霧散し、ことなは、ただ無言で祐斗を見ている。

その表情は、先ほどまでの姿ではないが、

まるで、やってしまった・・・と、バツが悪そうな苦い顔だ。

 

「誰だ君は?」

 

ゼノヴィアの言葉に、祐斗は不敵な笑みを浮かべる。

 

「君たちの先輩だよ。どうやら失敗作だったようだけどね」

 

その瞬間、無数の魔剣が部室に顕現した。

 

 

結果から言えば、祐斗はゼノヴィアと、そして一誠がイリナと戦うことになった。

リアスは交渉を穏便に済まそうとしたはずが、

一誠の言葉がきっかけとなり、ついでことなによる口論、

そして祐斗が口を挿んだことで拗れてしまったのだ。

自分の眷属が喧嘩を吹っ掛けてしまったため、

どうしようかと苦慮していたリアスに、ゼノヴィアが

「リアス・グレモリー眷属の力を、なにより『先輩』の力を見るのも面白い」と、

喜んでその喧嘩を買ってしまったのだ。

戦う場所は球技大会練習場で、朱乃が丁寧に結界を張ってくれた。

あとは戦う相手だが、ここで問題が発生。

木場や一誠は問題なかったのだが、問題はことなだった。

 

自身の眷属である祐斗と一誠は、

転生悪魔であり、神器持ちであり、それこそ戦いを経験している。

だがことなは違う。ただの人間であり、戦いには素人同然だ。

彼女曰く『友達』という力を持ってはいるが、

自分たちが知る限り、戦いに使えるものとは到底思えない。

もちろん、先ほど感じた異質な雰囲気は気になるが、今は置いておく。

そしてなにより、彼女はあくまで協力者であり、眷属ではない。

それこそ、眷属ではない人間を巻き込んだとなれば、自分のプライドが許さない。

ということで、対戦カードはゼノヴィア対祐斗、イリナ対一誠となったのだ。

 

肝心のことなは、ただ無言で4人をじっと見ている。

傍にいる小猫は、不安そうに彼女をじっと見ており、

アーシアは「頑張ってください!」と一誠と祐斗を応援していた。

 

「一誠、手合せとは言え、聖剣には十分に気をつけなさい!」

 

「分かりました!」

 

取りあえず、自分はもはや声をかけることしか出来ないので、

一誠には聖剣に気を配ることを言っておく。

そして祐斗の方へと顔を向けると、祐斗は笑っていた。

それこそ、不気味なまでに薄ら笑いを浮かべているが、目は決して笑っていない。

その視線は、先ほどからずっと聖剣とゼノヴィアに向けられている。

 

祐斗、あなたはそこまで・・・

 

祐斗の気持ちを知っているとはいえ、未だ彼の中に残るエクスカリバーへの憎悪に、

リアスは哀しい気持ちになる。

 

「なぜ笑っている?」

 

祐斗の表情を見て、ゼノヴィアが問う。

その答えは、薄ら笑い。

 

「ずっと会いたかった物に会えたからね。まさかこうも早く出会えるなんて思わなかったよ。

 これも、悪魔やドラゴンのおかげかな?」

 

自分と一誠に顔を向け、何かを呟いているが、生憎と聞こえなかった。

 

 

そして一方の一誠だが、幼馴染が悪魔に転生したことによるショックなのか、

イリナと言うエクソシストは、キラキラと目を輝かせながら、

何やら神聖とは言い難い雰囲気を発しながら、自分の(妄想)世界に突入していた。

 

「ああ!幼い頃、仲良く遊んでいた君と、まさかの悪魔になるなんて!

 兵藤一誠君、ううん、イッセーくんと呼んでいいかしら?

 主のお力になれるとイギリスで代行者になれたのに、帰ってきたらこうなるなんて!

 運命と時間は残酷にも、私とイッセーくんを引き裂いてしまったわ!

 でも、これは主の試練なのね!そうなのね。うん、きっとそうよ。

 この試練を乗り越えることで、私は新しい私へと昇華するの!

 イッセーくん、だから私に断罪されてね!」

 

「いや待てよ!俺は別に戦いたいわけじゃないし、

 話し合いで解決するなら良いって言ってるだけで・・・って、なんで聖剣を向けるんだよ!?

 いやだから話し合いで解決しよう・・・って、全然聞いてねぇ!?」

 

一誠は赤龍帝の籠手を顕現させ、倍加を開始。

そして、戦いの火ぶたは切って落とされた・・・。

 

 

 

結果から言えば、祐斗と一誠の負けだった。

聖剣という、悪魔(自分たち)からすれば相性が悪い相手だったのもあっただろう。

しかも祐斗は、憎しみが先に出ているせいか、普段のように速さで挑んでいたが。

ゼノヴィアというエクソシストは、それを全て切り払ってしまった。

それだけでも、彼女が相当の実力者と窺えた。

傍から見れば、双方ともに拮抗しているようだったが、悪魔である祐斗からすれば、

聖剣という、悪魔を殺す必殺の兵器に対面するだけでも、

じりじりと体力を、精神を削られていく相手だっただろう。

最終的には真正面から斬りかかるも、生み出した魔剣を破壊され、柄による腹部の殴打で倒れた。

 

一誠の方は、倍加をして身体能力をあげ、

イリナというエクソシストの動きに追い付こうと必死だったが、

彼女の軽業師のような身軽な動きに翻弄されっぱなしであった。

一誠の動きを見ると、まだまだ訓練しなければと思うも、

イリナと言うエクソシストも相当な実戦経験者だと解った。

途中、一誠が洋服破壊(ドレスブレイク)を行おうとし、彼女が避けた結果、

『偶然』にもことなから逸れて、小猫とアーシアに突っ込み、二人の服を破壊。

小猫に見事な蹴りをお見舞いされるというアクシデントがあった。

まったく一誠ってば!それなら私の服を・・・。

 

ことなが、「ありがとう」と呟いたのが聞こえた気がした。

 

そして敗北後、祐斗は私の制止を聞かずに去っていった。

去っていく祐斗の姿に、私はただ自身の無力さを知らされる。

 

「どうして・・・」

 

祐斗の中にある、エクスカリバーの憎しみはそこまで強いというの?

私はその思いに苦しくなるも、悩むなら後だ。

今は、もう一つの問題へと目を向けた。

 

 

 

「待ちなさい、ことな」

 

そう言って、リアス部長はことなを呼び止めた。

ことなの奴は、さっさと帰ろうとしていたのか、いの一番に部室へと移動していた。

 

「なんですか、リアスさん?」

 

くるりと俺たちの方へと向けたことなは、別段、普段と変わらなかった。

あれ?なんか今、凄い違和感があったような・・・。

 

「さっきのアレは何なの?」

 

「何の話ですか?」

 

リアス部長の言葉に俺は、そういえば、

さっき部室でことなから感じた異質なモノを思い出した。

それに、ことなの奴、見たこともないような恐い雰囲気だったな、まるで木場みたいに。

 

「誤魔化さないで。あの時ことなから感じた異質な感じ、アレは何なの?

 それに、祐斗が止めなかったら、何をする気だったの?」

 

リアス部長の言葉に、ことなは「ああ、あれですか」と思い出したように答える。

 

「いえ、少し話し合いをしたいなぁ、と思ったんですよ。

 それこそ、一対一で。でも木場さんに止められてしまったので」

 

ことなの言葉に、俺や他のみんな、リアス部長も首を傾げる。

 

「それはどういう意「あー!そう言えば!」

 

ことなはリアス部長の言葉を遮ると、部長の前まで移動し、頭を下げた。

 

「すみませんでした、リアスさん!

 私、リアスさんが交渉してくれてたのに、自分のせいで滅茶苦茶にしてしまって!」

 

「まあ、ことなだけのせいではないけど、それでことな、今の言葉の意味を・・・」

 

「私、自分の町が巻き込まれていると知って、それで頭がカッー!となって、

 そう思ったら、いつの間にか口を挿んでしまっていて・・・本当にすみませんでした!」

 

部長の言葉を遮ることなの言葉に、

俺は、どうやら答えるつもりはないんだな、と感じた。

部長もそう思ったらしく、半ば諦めの表情をする。

 

「まぁ、いいわ。ことなも眷属ではないけれど、私の大切な仲間だもの。

 でも次からは気をつけなさい」

 

「はい!」

 

ことなはそう答えると、直ぐに部室の方へと走って行った。

 

「今は無理でも、次の機会があるもの。

 それにしても、一体どうすればいいのかしら・・・」

 

溜息を吐く部長を見て、俺はある決心をすることなった。

木場、俺は絶対にお前をはぐれなんかにさせないぜ!

 

 

 

 

 

 

「僕は、みんなの為にも聖剣を破壊しないといけないんだ・・・!」

 

先ほどの手合いで受けた痛みが、まだ自分の身体を蝕んでいる。

当分立ち上げれないと言われたが、彼女の言葉は正しい。

なんとか動けるものの、動けるだけでしかない。

歩く度に、受けた痛みで身体がふらつき、片膝をつきかけてただろうか。

 

「それにしても・・・」

 

僕は対峙したエクスカリバーを思い出す。

破壊の聖剣だったか、地面を抉り、僕の魔剣を悉く破壊したエクスカリバー。

確かにその名の通り、破壊に特化していた。

それに、使い手であるエクソシストも相当に経験を積んでいた。

自分の攻撃を悉く防いでいくその手腕は、嫌でも強敵を思い知らされる。

一誠君の方の聖剣も、形に捕らわれないという特性は厄介と言える。

 

「それでも僕は・・・!」

 

破壊しないといけない、あの時、みんなが死んでいく中で見たあの光景を。

僕一人が生き残ってしまったという負い目を、僕は嫌でも思い出す。

皆の無念を晴らすためにも、エクスカリバーを破壊しないといけない。

そしてそのエクスカリバーが目の前にあるというのに、自分の無力さで・・・!

僕自身に対して、許せない気持ちを抱きかけた中、耳障りな声が聞こえた。

 

 

「あっれ~?こんなことろで再び出会うなんて、

 もしかして僕ちんと君って赤い糸で結ばれてるかな~?きゃー!運命って素敵!

 でもそんなの関係ねぇ!お前は悪魔なんだから、そんな運命は俺が切り裂いてやるぜ!」

 

目を向ければ、下卑顔のエクソシストがいた。

神父の服を纏ってはいるが、その雰囲気は神父とはかけ離れていた。

フリード・セルゼン

堕天使との事件で相対し、手を組んでいた堕天使を見捨てて逃げた、はぐれエクソシスト。

相も変わら、癇に障る笑い声と顔だ。

 

「この町に潜んでいたのかい?生憎と僕は機嫌が悪いんだ」

 

「あらそうなの?うん、知ってる。で、それがどうかしたの?

 俺としては悪魔の事情なんてどーでもいいんで」

 

そういうと、フリードは剣を取り出す。

僕も、痛む身体に鞭をうちつつ何とか剣を生み出す。

 

「あれ?なんか調子悪い?

 道端の生ごみでも食べた?でも悪魔らしくていいね!

 ゴミはゴミを食ってりゃいいんだよクソ悪魔がぁぁぁぁ!」

 

「相変わらず口が悪いね、反吐が出るよ」

 

「あ、そんなこと言うんだ、俺ッチ傷ついた。傷ついたから、お前をこれでミンチの刑」

 

そう言うと、フリードの持っていた剣が光を放つ。

ま、まさかそれは・・・!

 

「聖剣エクスカリバーのお目見えだよ!御代はてめぇの命だゴラァぁぁぁ!」

 

そう言い放ち、フリードは剣を振り上げる。

その光に、僕の身体は焼け付く痛みに悲鳴を上げる。

 

「それでも、僕は・・・!」

 

痛む身体をねじ伏せ、僕はフリードの聖剣を受け止めようとした瞬間、それは聞こえた。 

 

「なにを、しているんですか?」




読みづらかったら修正します。


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13話

「木場とことなが休みだって?」

 

エクソシストたちとの模擬試合の翌日、俺は二人が欠席していることを知った。

木場の方は連絡が取れず、ことなは本人から体調不良という連絡を受けたらしい。

試しに木場に電話を掛けるが、電源が切られているらしく、

掛け直してくださいという無機質な機械音声が答えるだけだ。

俺は嫌でも昨日のことを思い出す。

 

エクソシストと聖剣エクスカリバーに、背筋が凍るほどの憎悪を滾らせていた木場。

その姿を見た時、俺は嫌な予感がした。

このままじゃ、取り返しのつかないことになっちまうかもしれない。

今の木場は、リアス部長の言葉に耳を傾けないほどに、憎しみに呑みこまれちまってる。

もしかしたら、エクスカリバーを破壊するために、無茶をするかもしれない。

最悪、木場がはぐれ悪魔になっちまうって可能性もある。

それじゃ、あんまりすぎるだろ!

 

俺は昨日、決意したことを思い出す。

リアス部長はこの問題に手を出さないと言ったけど、やっぱり木場を放ってなんておけねぇ。

あいつはいけ好かないモテモテでイケメン野郎だけど、俺たちは仲間なんだ。

気に入らないけど、あいつはいい奴だって解る。

それに、リアス部長の哀しむ顔なんて見たくない。

部長、申し訳ないけど、俺はこの件に首を突っ込みます!

俺はさっそく、行動に移すことにした。

 

そして休日、俺は小猫ちゃんとあのエクソシストたちを探していた。

ついでに頼れそうな匙も仲間に加えて。

匙は「俺は関係ねぇエだろぉぉぉぉぉ!?俺はかえるんだぁぁぁぁぁ!」

と叫んでジタバタ足掻くも、小猫ちゃんががっちりと掴んで離さない。

小猫ちゃんは、俺がエクスカリバーを破壊する旨を伝えたら、

少し考え込んだ後「私も協力します」と言ってくれた。

 

「そもそもなんで俺なんだよ!これはお前らの問題だろ!?」

 

「なんつーか、お前くらいしか頼める奴が思いつかなくてさ」

 

「っざけんなぁ!これがばれたら会長に俺は殺されるんだそぉぉぉ!?」

 

匙は更にもがいて暴れるも、小猫ちゃんは逃がさない。

泣き叫ぶ匙を見て俺は、会長は部長と違って恐いのか。

部長は厳しいけど優しいからな、いやー良かったよ。

 

 

「ところでイッセー先輩、あの二人を見つけた後はどうするんですか?」

 

俺と匙のやり取りを、無表情(でも少し呆れた目)で見ていた小猫ちゃんが聞いてきた。

俺はことの詳細を二人に話した。

 

「イリナとゼノヴィアが来た時、言っていたよな?」

『教会はエクスカリバーの奪還を希望しているが、

 堕天使に利用される位なら、破壊しろとの仰せだ。

 私たちの役目としては、エクスカリバーが堕天使渡るのを阻止すればいい』

 

「これって、エクスカリバーを回収するために、破壊しても構わないってことじゃないのか?」

 

「つまり、祐斗先輩にエクスカリバーを破壊させて、想いを遂げさせる、いうことですか」

 

「その通り。木場を中心に、俺たちも奪還作戦に協力するってことでさ。

 3本も奪われてるんだから、1本くらい破壊させて貰えないかなってな」

 

俺は小猫ちゃんの言葉に頷く。

木場も思いを遂げて万事解決、いつも通りの日常が帰ってくるって寸法だ。

 

「木場の目的はエクスカリバーの破壊。

 そしてゼノヴィア達の目的はエクスカリバーの奪還。それも破壊しても構わない。

 だったら、俺たちの利点は一致してる。

 問題は、ゼノヴィア達が俺たち(悪魔)の言葉を聞いてくれるかどうかだけどな」

 

俺の言葉に、小猫ちゃんは少し考えた後に、「問題はまだあります」と言う。

 

『リアス部長には内緒であること』

 

そう、この作戦は部長にばれてはいけない。

現状、『手を出さない』という部長の言葉に逆らっているからだ。

しかもばれたが最後、色んな迷惑をかけるかもしれない。

やべぇ、今更ながら怖くなってきた。でも、やらなきゃいけない。

いつも通りの日常をとりもどすために。

 

「最悪、俺が命を賭けて何とかするさ。

 拙くなったら小猫ちゃんは、逃げてほしい」

 

「兵藤ぉぉぉぉぉ!、俺は強制参加かこのやろぉぉぉぉぉ!!」

 

「まぁまぁ、匙だって逃げても構わないけど、

 上手く行くかもしれないから、取りあえず付き合ってくれ」

 

「ふざけんな!今すぐ帰らせろ!俺を巻き込んでんじゃねぇ!」

 

叫ぶ匙を、俺は宥める。いや、頼れるのはお前くらいしかいないんだから。

 

「いえ、私は最後まで協力します。仲間の為ですから」

 

小猫ちゃんは、はっきりと俺に言ってくれた。それも真剣な眼差しで。

思うけど、実は小猫ちゃん、結構熱い心を持ってるよね。

 

「ところで、ことな先輩はどうするんですか?

 もしかしたら、先輩ならもっといい考えをくれるかもしれませんけど」

 

小猫ちゃんの提案に、俺は考える。

 

「うーん、確かにそうなんだけどさ。

 ことなの奴に言ったら、もしかしたら部長に喋っちまう可能性があるんだよ。

 ほら、部長とよく話してるだろ?

 あいつは隠し事が苦手みたいだし、部長に問い詰められたらうっかりしそうだし。

 それに、あいつは俺たちと違ってただの人間だしなぁ。

 万が一戦いになったら、怪我するかもしれないしさ」

 

「ことな先輩なら大丈夫です。

 私たちが事情を説明すれば、解ってくれると思いますし。

 先輩だって、祐斗先輩や町のことを心配してると思います。

 それに、もしかしたらリアス部長を説得してくれるかもしれません。

 戦いに関してですが、先輩を巻き込むのは駄目ですね。

 もしもの時は、私たちがことな先輩の逃げる時間を稼がないといけないと思います」

 

ことなの奴は俺たちと違って人間だけど、あいつだって俺たちの仲間だ。

小猫ちゃんの言う通り、木場のことを心配してるに違いない。

きっと力を貸してくれる。

 

「まぁでも、取りあえずはゼノヴィアとイリナを見つけないとな」

 

それにしても、あいつらどこに言ったんだ。

駒王町にいるのは確かだけど、そう簡単に見つけられ「イッセー先輩」

小猫ちゃんに声を掛けられて振り返ると、

そこには「神の御恵みを~」と、道行く人にお布施を貰おうとする二人がいた。

俺たちは何とも言えない空気に包まれた。

小猫ちゃんどころか、散々「いやだぁぁ」と暴れていた匙も黙ってしまった。

 

その間にもゼノヴィアとイリナは、やれ、

お前が怪しい絵画を買ったからだ!これは聖なるお方が書かれた絵よ!

信仰の無い国なんて私は嫌いだ。路銀の尽きた私たちは異教徒の恵みが必要なのよ。

こんなのが私のパートナーだったなんて。あなたの宗派は頭硬すぎなのよ。

なんだとこの異教徒が。何よ、この異教徒!と、やいのやいのと喧嘩する始末だ。

果てにはお金のために、寺か神社を襲撃する算段を練り始めたので、

俺たちは慌てて二人へ駆け出した。

 

その後ファミレスで、腹ペコの二人に飯を奢りつつも話あった結果、

俺たちの提案は問題なく受け入れられた。

提案を持ちかけた際にイリナが声を荒げたが、

ゼノヴィアもイリナも、今回の指令に対しては思うところがあったらしく、

秘密裏という条件の元、俺たちは二人と共同戦線を張ることになった。

ゼノヴィアが言うには、「悪魔の力は借りないが、ドラゴンの力ならいいだろ」とのこと。

うわぁ、それってすっげぇ屁理屈じゃねぇの?

イリナも同じことを言ったが、ゼノヴィアに言いくるめられてしまった。

まあ、戦争の生き残りである猛者相手に二人で立ち向かえ、

なんてのは二人からしても無茶な命令だったらしい。

いやはや、ほんと教会って奴は・・・・。

 

そんなこんなで話は纏まり、俺は木場に電話を掛ける。

何度かけても不通だったから心配したが、今回は繋がった。

 

「もしもし、一誠君かい?」

 

「良かった、ようやくつながった。木場!一体どうしたんだよ。

 学校にはこねぇし、電話は通じないで、みんな心配だったんだぞ!?」

 

「ごめん一誠君、こっちも色々とあってね。それについてはあとで話すよ。

 それで、なにかあったのかい?」

 

「ああ、実は・・・」

 

俺は木場に、二人のエクソシストと出会っていることを話す。

一瞬、受話器の向こうの木場が、息をつめたような感じがしたが、

すぐに「それで?」と会話を促してきた。

取りあえず俺は、エクスカリバーについて話があるから、ファミレスに来てくれと告げる。

 

「多分、僕のことで話があるんだろうね。話は解ったよ、ファミレスに行けばいいんだね?

 多分、そこまでかからないと思うけど、少し待っていてほしい」

 

「ああ、分かった。こっちはお前が来るまで待ってるわ」

 

「それで一誠君、これは僕からのお願いなんだけど、

 問題が無いなら、もう一人連れてきても構わないかな?」

 

「もう一人?」

 

俺は木場の言葉に、頭に疑問符が浮かぶ。

もう一人ってことは朱乃さんか?

でも朱乃さんは、今日は部長と一緒に夜の見回りに行ってるはずなんだけど・・・。

俺が首を捻っていることを、木場は受話器越しからでも感じたのだろう。

クスリと苦笑いが、向こうの受話器越しから聞こえた。

 

「夢殿さんだよ。実は今、僕は夢殿さんの家にいるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにを、しているんですか?」

 

僕は声の方を振り向いてしまった。フリード・セルゼンも同様、顔だけを動かしていた。

 

「どうして君がここに!?」

 

彼女の姿を見て、僕は驚きを隠せなかった。

まさか、僕を追って来たのか。

 

「おんやぁ?誰かと思えば、いつぞやの廃教会の時にいた、ビビりさんじゃないですか。

 え、なに?何してるんですかって?見てわからないの?馬鹿なの?

 俺ッチが邪悪な悪魔を浄化してる最中なんですが?」

 

「そうですか」

 

彼女が一歩踏み出す。

その姿にフリードは虚を突かれたようで、剣の力が一瞬弱まる。

僕は痛む身体に鞭を打ち、その隙をついて無理やり剣を押し、

フリードから距離をとりつつも、彼女を守るように前に立つ。

 

「早く君は逃げるんだ。今の僕じゃ君を守れそうにない」

 

僕は彼女に声を掛けるも、彼女は「そうですか」と答えるだけ。

 

「しっかし、何なんですかねぇ。

 あの時は漏らしそうな位に恐怖で顔を歪めてたってのに、なにその顔?

 え、もしかしてなんかヤバい感じになってる?

 はぁ?いっちょまえになんかガンギマリしっちゃったの?

 人間は人間らしく、普通の生活をしてればいいんですよ?

 まあでも、悪魔とお近づきになった奴はもれなくぶっころDEATHけどねぇ!!」

 

「そうですか」

 

フリードの言葉にも、彼女は壊れたテープのように、「そうですか」と答えるだけ。

その姿に、僕はただならぬ予感を感じた。

あの時、彼女から発せられた異様な雰囲気のような・・・。

 

そう考えてるうちに、彼女は僕よりも前に行こうとしているのに気付き、

僕は彼女を止めようと肩をつか・・・めなかった。

気が付けば僕は地面に伏し、意識が薄れかけていく。

 

「に、逃げるんだ・・・」

 

朦朧とする意識の中、僕は必死に呼びかける。

 

「大丈夫です。ただ彼に謝罪を要求するだけですから」

 

僕の声に彼女は呟く。

まるで、聞き分けのない悪い子を叱るだけですよ、とでも言っているかのように。

フリードはそんな彼女に対し、冷めた目で見据えている。

 

「あーあ、短い人間の生を悪魔と関わったせいで終わらせるなんて、ほんとに馬鹿だわ。

 まぁでも、悪魔は死ね。悪魔と関わった人間も死ね。それが俺の信条なんでね。

 間が悪かったとでも思って諦めてくれ」

 

「そんなの、私にはどうでもいいんですけど。

 私が今聴きたいのは、

 『私は貴方の大切な人を傷つけてしまい、申し訳ありませんでした』

 『私は自分の犯した罪を償います。迷惑をかけて本当にごめんなさい』という、

 貴方の心の籠った言葉だけです。

 ですので、それ以外は一切どうでもいいので、喋らないでください」   

 

「おっと、言葉の通じない馬鹿ですかあなた~?

 馬鹿は死ななきゃ治らないってか?

 なら、さっさと死んでくれませんかねぇ!」

 

その声と同時に、フリードはエクスカリバーを掲げ、彼女を袈裟切りにしようと飛び上がる。

それに対し、彼女はまるで無反応。

 

「止めてくれ・・・!」

 

もはや視界がぼやけている僕は、そのすぐ後で起るだろう悲劇に、

僕はまた大切な人を守れないのかと後悔しつつ、気を失った・・・。

 

「いいよ、出てきても」

 

気を失う寸前、彼女の言葉が聞こえた。



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14話

すみません、修正と追加をしての再投稿となります。


「私は、木場さんのことを止めるつもりはありません。

 木場さんが決めたことを否定する資格は、私には無いと思いますから」

 

僕の話を聞いて、彼女はそう答えた。

彼女の顔には、一切の憐れみも、同情も、侮蔑も、怒りもなかった。

だからだろうか、彼女の言葉は、すんなりと僕の中に沁み込んでいく。

 

「私は、この町が大切なんです。お父さんとお母さんと一緒に住んでいたこの町が、

 舞ちゃんや桐生ちゃん、オカルト研究部の皆がいるこの町が、大好きなんです。

 だから、私はこの町を守りたいんです。それが・・・私の想いです」

 

彼女の言葉に僕は黙って聞くしかなかった。

その顔は、日常の彼女とは全くの逆の印象だった。

もしかしたら、これが彼女の本当の顔なのかもしれない。

 

「木場さん、答えてください」

 

僕を、ただじっと見つめる彼女の顔。

夢殿ことなの無機質な瞳が、僕を映し出してる。

彼女の瞳に映った僕は、まるで自分が自分を問いただしているようだ。

 

「あなたのやりたいことって、何なんですか?」

 

その言葉に、僕は・・・。

 

 

 

 

 

「待たせたね、一誠君」

 

俺が電話をかけて数分後、木場が俺たちのテーブルへとやって来た。

その表情は、少し陰ってはいたが、思いのほか元気だった。

 

「木場、一体今までどこに行ってたんだよ!

 学校も休んだし、携帯には繋がらなかったしで、みんな心配してたんだぞ!」

 

「そうです。先輩が急にいなくなって、私・・・」

 

小猫ちゃんが、泣きそうな顔で木場を見つめる。

小猫ちゃんの姿に、木場は申し訳ない、という表情になる。

 

「ごめん、それに関しては色々とあってね。それは後で説明するよ」

 

「まぁ、別段何もなくて安心したぜ。それで・・・」

 

俺は、木場の後ろをちらりと見た。

 

「・・・」

 

木場の後ろでは、ことなの奴が黙ったまま立っていた。

木場と同じく、体調不良とかで休んでいたみたいだが、別段何ともないように見える。

 

「夢殿さんは、僕が付いて来てほしいとお願いしたんだ」

 

「まぁ、別にいいけどよ」

 

俺はもう一度、ことなを見る。

 

「なに?」

 

「いや別に」

 

ことながこちらを見てきたので、俺ははぐらかす様に答えた。

なんだろ、なんか違和感を感じたんだけどな。

ま、気のせいか。

 

 

 

 

 

その後は、木場とエクソシスト二人の言葉のぶつけ合いだった。

やはり木場は、エクスカリバーへの憎しみを捨てきれない様子だった。

なんとか木場を落ち着かせながらも、話は何とかまとまった。

その際、聖剣実験に首謀者の存在、

フリードと言うあのイカレ神父がこの町に来ていたことなど、色々と情報を共有できた。

 

イリナとゼノヴィアと別れた後、俺たちは木場の過去を知った。

信じていた存在に裏切られたこと、死んでいく仲間たちの姿など、

それは俺たちの想像を超えていた。

木場の過去を聞かされた俺は、それでも復讐心で生きちゃ駄目だと思った。

だってそれは、あまりに辛すぎるし、哀しすぎたと思ったから。

 

それから俺は、木場の過去に号泣する匙の、大いなる野望を聴き、俺と匙は同志となった。

その際、小猫ちゃんから「変態」と言われるが、そんなことは気にしなかった。

 

 

「じゃあ、私はグレモリー先輩を説得するわね」

 

その声の方を見ると、ずっと黙っていたことなが席を立っていた。

ずっと黙っていたせいで、いたことをすっかり忘れてた。

というか、今なんて言った?

 

「え、部長を説得?」

 

「はい、そうですけど」

 

俺はことなの言葉に少し呆けたが、直ぐに気を戻して叫ぶ。

 

「いや、駄目だろ、これは部長には秘密であって、知らせたらまずいんだって!」

 

「黙ったまま動く方が、よっぽど拙いと思うよ?」

 

「うぐっ・・・!」

 

ことなの言葉に、俺は言葉が出ない。

確かに、部長はこのことは関わるなと言った。

 

「だからって、良いわけないだろ!?木場の無念を晴らしてやりたいんだ」

 

「一誠君・・・」「一誠先輩・・・」「兵藤・・・」

 

俺の言葉に、ことなは溜息を吐く。

 

「だからって、勝手に動くのは拙いと思わないの?

 これに関しては、リアス部長の言葉を無視してるんだよ?

 まぁ、私は眷属じゃないから問題ないと思うけど。

 それに、問題になったら自分が犠牲になればいいと思ってない?」

 

「それは・・・」

 

「思いを行動に映せるのは、変態の良いところであり、悪いところだと思う。

 時には、冷静に考えることも必要じゃないの?」

 

ことなはそう言うと、俺たちに後ろを向ける。

 

「祐斗さんの決意も聞けましたから、私は私の出来ることをしようと思います。

 それでいいですね、祐斗さん」

 

「うん、よろしく頼むね」

 

木場の言葉を聞くと、ことなはそのまま出て行った。

 

 

 

 

 

「で、なんで木場がことなの家にいたんだよ。あの後、一体何があったんだ」

 

俺はことなが去った後、木場に問いただした。

小猫ちゃんも、そのことが気がかりだったようで、木場を見ている。

 

「僕もよく解らないんだ。あの後、彷徨っていたらフリードに襲われてね。 

 防戦一方だった時に、夢殿さんが現れたんだ。

 どうにか彼女を逃がそうとしたんだけど、気を失って、気が付いたら彼女の家で寝たいたんだ」

 

「なんだよそれ」

 

木場の説明に、俺は首を傾げた。

 

「ってことは、ことなが気を失ったお前を家に運んだってことになるぞ。

 しかも、あのイカレ神父を何とかして」

 

「その通りだよ。そのことを聞いたら、『友達』が助けてくれたって言われたんだけどね」

 

「『友達』ですか・・・」

 

「おいおい、何の話をしてるんだ?」

 

案の定、話に付いていけていない匙は混乱している。

取りあえず、俺はことなの力について説明した。

 

「へえー、夢殿の奴、そんな力を持ってたんだな。

 だからあいつ、あんな無茶なことも出来たんだ」

 

納得と言った様子で頷く匙を横目に、俺は疑問を口にした。

 

「なぁ、そもそもことなの『友達』ってなんなんだろうな?

 あいつが言うには、守ってくれる存在、だっけ?」

 

「はい、確かにそう言ってましたね」

 

あの焼き鳥との戦いの後、部長に質問され、しどろもどろで答えたことなの言葉。

部長曰く、ことなの力は曖昧だから、少しずつ使いこなせるようにしようと言っていた。

けど、なんか見落としてる気がする。

まぁでも、今は聖剣の方が大事だ。それに、後でことなに聞けば解ることだしな。

 

「ま、今は聖剣を何とかしないとな」

 

俺は小猫ちゃんと木場、匙を見ながら計画を考えるのであった。

 

 

 

 

「分からないんだ」

 

「分からない?」

 

僕の言葉に、夢殿さんが首を傾げた。

 

ここは夢殿さんの家で、フリードに襲われ気を失った後、

気付いたら僕は、彼女の家で横になっていた。

目が覚めた際、僕は意識が朦朧としながらも、何とか身体を起こそうとした。

でも、身体に痛みが走り、苦痛のうめき声をあげるだけだった。

 

「木場さん!?気が付いた・・・て、何してるんですか!?」

 

その声に、僕はようやく、ここが別の所にいたと気付いたのだ。

 

「夢殿・・・さん?」

 

「もう、まだ動ける状態じゃないんですよ!無茶は駄目です」

 

彼女が僕の身体に触れ、ゆっくりと横に戻す。

どうやら、布団の中にいるようだった。

 

「どうして?」

 

「そのことは後で話します。今は休んでください」

 

そう言うと、彼女は扉の向こうへと出て行った。

その後、僕はずっと夢殿さんに介抱されていった。

 

僕が彼女にお世話になっていた際、不意に彼女が訊いてきたのだ。

 

「あなたのしたいことってなんですか?」と。

 

その言葉に、僕の中には色々な感情が渦まいた。

 

聖剣エクスカリバーを破壊したい。

 

皆と一緒にいたい

 

破壊しなきゃダメなんだ

 

皆の力になりたい

 

「僕は・・・」

 

言葉が出ない。

僕の、本当のしたいことって、一体何なんだ?

 

 

「そうだ木場さん!」

 

夢殿さんの声が聞こえた。

 

「じゃあ、一緒に『カデンツァ』に行きませんか?」

 

「え?」

 

彼女の顔を見れば、彼女の目には光が宿り、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

「実は、搭城さんにおやつを奢ることになりまして・・・。

 それで、もし良かったら木場さんも一緒にどうかな?って・・・」

 

「でも、僕は・・・」

 

「この事件が終わったら、一緒にケーキを食べに行きましょう!

 約束ですよ!絶対に食べに行きますからね!

 あ・・・でも、流石に奢れそうにないので・・・すみません」

 

彼女のあたふたな姿に、僕は不思議と笑ってしまった。

僕の姿に、彼女は顔をトマトのように赤らめる。

 

「そう・・・だね。うん、約束しよう。

 これが終わったら、ケーキを食べに行く。だから、そんなに怒らないで」

 

「絶対ですよ!絶対ですからね!嘘ついたらはり千本飲ましますから!」

 

そう言って部屋を出て行った夢殿さんを見ながら、僕は思った。

もしかしたら、僕の本当の願いって・・・。

そんな時、僕の携帯電話が鳴った。イッセーくんからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人たち、木場さんに謝りませんでしたね」

 

私は、先ほど行われていた話し合いのことを思い出していた。

聖剣実験によって木場さんは、その仲間たちは死んだ。

それは変わらない事実だ。

だというのに、あの子はなんて答えたっけ?

 

「でも聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたんだっけ?成功例が生まれたんだっけ?

 当時、その研究者は異端の烙印を押された、『それだけ』でしたっけ?」

 

ああ、軽い。私は心の中で感じた。

 

私は、身体が震えだすのを感じた。

ファミレスの時から感じた、彼女たちの会話を聞いていた際にも、

私は必死に体が震えるのを堪えていた。

でも、もう我慢できず、私は地面に膝をつき、身体を両手できつく、きつく抱きしめる、

 

恐い。

 

人が死んだ。多くの人がその実験によって殺されてしまった。

毒ガスで殺されたという。生きながら、血反吐をぶちまけて。

嫌、想像しないようにしてるのに、私の頭は勝手にその光景を描く。

 

胃の中がこみあげてくる感じがして、口元を右手で塞ぐ。

 

 

生き地獄だと木場さんは言った。仲間が、友人が、死んでいく姿。

私はそれを自分に置き換えてしまった。

目の前で、舞ちゃんが、桐生ちゃんが、隣のおばちゃんが、先生が、死んでいく。

 

「おげぇぇぇえぇぇぇえぇぇえ・・・」

 

抑えきれずにぶちまけた。口の中が酸っぱくなる。

 

でもエクソシストの二人は、殺されたことが悪いみたいな言い方だった。

ゼノヴィアさんの、イリナさんの目は純粋だった。

純粋にそうだと、本心からそうだと思っていた。

虐殺があったことが悪い。全てはやった人間『だけ』が悪い。

そう思っている目立った。

 

恐い。

 

「最大級に嫌悪された事件?でも続けたんですよね、聖剣実験。

 多くの人が犠牲になっちゃったのに。

 嫌悪したのに続けちゃったんですよね。それで聖剣使いを作っちゃったんですよね?」

 

だからなんだと言うのだろうか。

嫌悪したからと言って、実際には聖剣使いを生み出した。

だから何なの?犠牲となった人たちが、それを喜ぶというの?

 

「そんなの、解るわけないじゃない・・・!」

 

それでも、犠牲者を出したことを、謝るべきじゃないの?

それとも、そのことを気にかけていないのか?

 

心が冷えていく。

 

それと話に出てきたえっと、誰でしたっけ・・・?

 

「あ、そうそう、フリード・セルゼンでしたっけ」

 

私は思い出した。

祐斗さんを追いかけて、彼を殺そうとした人。

私の日常を奪おうとした人。

必死に止めようと言ったのに、それでも聞いてくれなかった。

だったら、仕方ないじゃない・・・!

 

なんでも、天災のエクソシストで、信仰心ゼロの化け物殺し。

あまりにやりすぎと言うことで、同じく異端とされたんだっけ。

それって、あまりにも危険すぎる人じゃない・・・!

 

でも、ゼノヴィアさんは何て言った・・?

 

『処理班が始末できなかったツケを、私たちが支払うとわな』だっけ?

 

「何よ・・・それ」

 

私は呟く。

まるで面倒事のように言い放っていた。人が、仲間が殺されたのに。

 

そして、私が先ほどの会話で思ってしまった事。

今、私が震えている原因。

 

誰一人として、『町の人のことを気にかけていない』

 

エクスカリバー、エクスカリバー、エクスカリバー、エクスカリバー・・・

 

木場さんのために、エクスカリバーを破壊しよう!

堕天使に使われないために、エクスカリバーを取り戻す!

俺は部長のおっぱいを吸うんだ!

俺は会長とできちゃった婚をするのが夢だ!

 

「何よ・・・それ」

 

どうして誰も、町の人を心配しないの?

みんな、この町を大切にしてるんだよね?

なんでエクスカリバーのことしか話さないの?

 

みんな、それしかないの?

 

 

それとも、命なんて皆からすれば軽いものなの?

直ぐに消えて、気にも留めないのものなの?命って大切なものじゃないの?

 

だから、みんな必死に生きてるんじゃないの?

 

でも、私は知ってしまった、いや、教えられた。

あの、蜘蛛の人に。

私を、舞ちゃんを食べようとしたあの悪魔に。

 

命は簡単に踏みつぶされるものだと、彼女のおかげで思い出した。

日常は簡単に奪われていくことを、彼女のおかげで思い知らされた。

 

『大丈夫、私たちがあなたを守るわ』

 

「本当に、信じて良いんですか?」

 

私はあの人の言葉に問いかける。

何故か、手と足に痛みを感じた。傷はアーシアちゃんのおかげで治っているのに。

 

『私は、この件には関わることはしないわ!』

 

あの人の姿が映し出される。

私は、その人に問いかける。

 

「教えて・・・ください、リアス先輩。

 私は、先輩を信じても良いんですか?本当に、守ってくれるんですか?

 本当に、この町を、私たちを、守ってくれるんですか・・・?」

 

私は問いかける。でも、答えが返ってくることはない。

しばらくじっとしていると、少しずつだが、身体の震えが収まってきた。

 

「そう、だよね」

 

私はゆっくりと立ち上がる。

吐瀉物をまき散らしたせいか、少し身体が重い。

 

「私は、先輩を信じるって決めたんだ。

 先輩は、みんなは、この町を守ってくれるって言ってくれたんだ。

 だから、私は信なきゃ、信じなきゃダメなんだ」

 

私は落ち着くために、肺いっぱいに空気を満たし、そして吐く。

よし、落ち着いてきた。

 

ふいに、後ろから抱きしめられた。

顔を向ければ、『友達』が私を抱きしめてくていた。

 

「ありがとう」

 

私は『友達』にお礼を言う。

『友達』は、こうやって私を励ましてくれる、安心させてくれる。

私は、にっこりと笑う。

すると、『友達』は解けるように消えた。

 

「そうだね、くよくよしてもだめ。

 自分が出来ることで、この町を守っていくって決めたんだ。

 こうなりゃ、何が何でも、リアス先輩を説得しなきゃね」

 

私はそう決意すると、どうすればいいのか考えながら、帰路につくのであった。

 

 

 



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15話

協力関係を結んで数日後、俺たちは暗礁に打ち上げられていた。

いくら探しても、一向に足取りがつかめない。

フリードの野郎は、神父を狙っているということで、

神父に化けて歩いているものの、一向に襲ってくることはなかった。

あのクソ神父、さっさと出てきて木場にエクスカリバーを折らせろ。

そう思うも、気持ちだけが空回りしていた。

 

そして昨日のように収穫無いと思い、気をゆるんだ瞬間、

 

「死ね」

 

強烈な殺意が上から襲ってきた。

鋼と鋼がぶつかり、激しい音が響く。

 

「フリード!」

 

「へぇ、これはこれは一誠君じゃないですかぁー。

 これは運命的な出会いですねー?ぶっ殺してもいい?」

 

相変わらずふざけた言動のイカレ野郎だ。俺は纏っていた神父服を脱ぎ捨てる。

小猫ちゃん達も、神父服を脱ぎ捨てて制服になる。

 

「あー、あー、あー。これはいわゆる罠って奴っすか?

 へー、へー、へー。俺っち、罠にはまっちゃったんでヤンすか」

 

俺たちを見回すフリード。

 

「ところでさ、あの女いないの?」

 

「あいつ?」

 

フリードの言葉に、俺たちは首を傾げる。彼奴って誰だ?

 

「まいっか!俺をフルボッコにした礼を熨し付けて返す気だったけどさ。

 あの羊の皮を被った狼女がいないなら良いですわ。

 今回は、お前らをぶっ殺せばいいだけだしなぁ!」

 

そう言って、フリードは聖剣を向ける。

やっぱ、聖剣だけあって、剣先を向けられるだけで寒気がする。

 

だが、木場のためにも引くわけにはいかない!俺は皆に頷く。

 

「いくぞフリード!」

 

俺たちはフリードに立ち向かっていった。

 

結果としては、あと一歩まで追い詰めるが、途中でパルパー・ガリレイという、

聖剣実験の親玉が現れ、結局逃げられてしまった。

ゼノヴィアとイリナ、木場が後を追いかけ、

俺たちも追いかけようとしたんだけど、それは出来なかった。

 

そう、部長たちが来てしまったんだ。

部長は俺を問いただすも、俺は毅然として答えた。

俺は木場を助けたいと。小猫ちゃんも言ってくれた。

許して貰おうなんて思っていない。これは俺が勝手にやったことだ。

俺は、部長からの叱責を覚悟していた。でもやっぱりされるときついなぁ。

そう思っていたけど、実際は俺の予想とは違っていた。

俺は、部長に抱き締められていた。

どうやら別れた後、ことなが部長に話していたらい。

でも、命令を無視した罰として、尻叩きを千回受け俺の尻は死んだのだった。

 

 

 

 

 

一誠たちが私に何かを隠している。

リアスがそう感じたのは、自分の眷属である木場祐斗が行方をくらませた後のことだ。

木場祐斗、聖剣実験によって死に、自分の手によって悪魔になった『騎士』

 

教会から派遣された悪魔殲滅士(エクソシスト)との接触で、

彼は自分の中に燻っていた憎しみに捕らわれてしまったのだ。

リアスは、木場祐斗の中にある、拭い去れない心の闇を知っていた。

 

リアスが木場祐斗と出会ったのは偶然だった。

吹雪の中、リアスは彼を見つけたのだ。

汚れた襤褸をまとい、もはや死ぬしかない子供だった。

だからリアスは、彼を悪魔に転生させ、その消えかけていた命を救った。

その時の彼は、木場祐斗という名前ではなかった。

木場祐斗の名前は、リアスが名づけたのだから。

 

祐斗は教会の行っていた聖剣実験の被検体だった。

聖剣エクスカリバーを使うために体中を弄られたという彼は、

エクスカリバーを使えなかったために、教会によって殺されかけた。

死んでいく仲間たちを見ながら、彼はただ一人逃げ、そして自分によって救われた。

自分だけが助かってしまったという事実は、祐斗を自責の念に駆らせた。

仲間の無念を果たすために、聖剣を破壊する。そのためなら、自分はどうなっても良い。

仲間を見捨てて生き残った自分は、決して救われてはいけない。

 

リアスは思った。それはあまりにも残酷だと。あまりにも哀しいと。

リアスは、祐斗を救いたかった。悪魔として、その優れた才能を使って欲しかった。

復讐だけに囚われる生き方は、あまりにも哀しかったから。

だが、自分は彼の闇を払えなかった。

今回のことで、祐斗はその復讐心を滾らせ、復讐に身を焦がしてしまう。

このままでは大切な眷属を失ってしまう。

でも下手に首を突っ込めば、そこから三すくみの関係が崩れ、戦争になってしまうかもしれない。

 

大切な眷属を失いたくない。でも、自分の我が儘で世界を危険にさせてしまう。

それがリアスを苦しめていた。

 

こうして一人、部室で考えていても、リアスの思いは纏まらない。

自分はどうしたらいいのか?それが彼女を縛り付けていた。

 

そんな中、部室の扉が開く音がした。

目を向ければ、そこにいたのは、

 

「グレモリー先輩、少しいいですか?」

 

夢殿ことなだった。

 

 

 

 

 

「そう、一誠たちがそんなことを」

 

私は、ことなからの話を聞き、そう零した。あれほど関わっちゃいけないと言っておいたのに。

私は一誠の行動に、言うことを聞かなかったことへ腹立たしさを感じた。

そして同時に、一誠の姿に羨ましさを感じた。

一誠は、自分が罰せられることを理解した上で、祐斗を助けたいと行動を起こした。

小猫だってそうだ。

二人は、本当に祐斗のことを大切にしている。

じゃあ自分は?

 

私は自分を見つめる。

大切な眷属がいなくなってしまうというのに、自分は何もしていない。

大切な祐斗がはぐれ悪魔になってしまうかもしれないのに、私は三すくみの崩壊を恐れている。

私は・・・。

 

「グレモリー先輩」

 

黙っていたことなが、私に声をかけた。

 

「先輩は、どうしたいんですか?」

 

ことなはまっすぐ、私を見つめていた。

 

「私は、この町が大好きです。お父さんやお母さんと過ごした町、舞ちゃんや近所のおばさん等、

 先輩たちと出会えた町、私はこの駒王町が大好きです。」

 

ぽつりぽつりと、ことなは呟く。

 

「私は、自分の大切な人が悲しんでいたり、とても辛かったら、黙っていられません。

 それこそ、相手からしたら迷惑かもしれない。

 私のせいで周りが迷惑をかけてしまうかもしれない。

 それでも私は、助けに行ってしまうと思います。

 だって、私の大切な人だから。自分に嘘をついて、後悔はしたくないから。」

 

彼女の目が無機質になる。

 

「だから私、もしもこの町が危険に晒されると知ったら、私は何でもします。

 私の大切な人が傷つくなら、私は相手を許さない。何が何でも、相手を追い続けます。

 私の大切なものを奪うのなら、相応の報いを受けさせます。」

 

彼女の目が戻る。 

 

「私、このオカルト研究部の皆さんが大好きです。

 先輩はもちろん、姫島先輩や塔城さんや木場さん、変態は及第点ですが。

 木場さんがいなくなってしまうのは、私は辛いです。

 だから、グレモリー先輩に怒られても、私は木場さんのことを助けようと思います。

 それが、私の本心だからです」

 

そしてもう一度、彼女は私を見据える。

 

「グレモリー先輩が、本当にしたいことってなんですか?」

 

その言葉に、私は言葉が詰まる。

 

「今の先輩は、何て言うか、いつもの先輩らしくない気がします。

 私の知ってる先輩は、明るくて、自信に満ち溢れていて、凄く輝いています。

 今の先輩は、とても暗いです。やりたいことを、無理やり我慢してるような気がします。

 もし、何か迷っているなら、自分の思いに従ってみたらどうでしょうか?」

 

生意気なこと言ってすみません、そう言って頭を下げることな。

 

その言葉に、私は背中を押された気がした。

彼女は言った。私に怒られても祐斗を助けたいと。それが自分の本心だと。

彼女も、一誠たちと同じように、祐斗を助けたいと思い、行動している。

じゃあ自分は?眷属たちが必死なのに、主である自分は何をしている?

 

「そうね」

 

私はようやく自分の心に気付けた。

私は情愛のグレモリーの次期当主。大切な眷属を見捨てて、何が情愛だというのだ。

 

「ありがとう、ことな」

 

「いえ、どういたしまして」

 

私の言葉に、ことなは顔をにこりとする。

 

「でも、どうすればいいのかしら。

 聖剣には関わらないと言った手前、約束を破るのは拙いわね」

 

宣言した手前、後からそれを反故にすると言うのは流石に拙い。

下手をすれば、敵対行為と見做される。

 

私の言葉に、ことなが手を挙げる。

 

「グレモリー先輩、こう考えればいいんじゃないでしょうか?」

 

ことなが語る。

 

「危険な堕天使が領地に現れ、領民と領地に被害を及ぼしかねない。

 なので、領民たちを守る為に自分たちも動く。

 あくま体裁は、危険な堕天使等の排除と、領主の義務を果たしているだけ。

 それがどんな偶然か、聖剣と関わってしまったとしても、偶然なので仕方ありません」

 

「随分と屁理屈じゃないかしら?」

 

「エクソシストの方も、悪魔は駄目だけどドラゴンとなら協力しても良いって言ってましたし」

 

ことなの顔は、とても清々しい笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫・・・だよね?」

 

私は『友達』に話しかける。『友達』は何も言わず、黙ったままだ。

電灯もつけず、私は自分のベッドの上で膝を抱えていた。

リアス先輩と話し合った後、私はリアス先輩に促され、家へと帰った。

帰り際に、リアス先輩は私に言ってくれた。

 

「ありがとう」と。

 

それがどういう意味かは、私には理解できていない。

そもそも私は、リアス先輩たちを、本当の意味で理解出来ていない。

なぜなら私は人間で、先輩たちは悪魔だから。

でも、私は本心を晒した。リアス先輩に言ったことは、『私の思っていること』だ。

本心をさらけ出せば、相手も理解してくれる。お母さんが言ってくれたことだ。

だから私は語った。

出来れば、それがいい方向に行ってほしいと思う。

 

「大丈夫、だよね」

 

あの時、リアス先輩の顔は晴れやかだった。

暗かったリアス先輩の顔が、いつものように輝いていた。

それを見れただけで、私は満足していた。

 

「あとは私に任せなさい」

 

笑顔で語るリアス先輩。

 

「任せて良いんですよね?」

 

私はその姿に問いかける。

私の心は揺れていた。

目の前で楽しそうに悪魔を殺す姿を見た時も、アーシアちゃんを転生させる時も、

私たちが悪魔に襲われた時も、目の前で舞ちゃんが傷つきそうになった時も、

『友達』のことを話した私を見ていた時も、私はリアス先輩の言葉を信じた。

ぐらついたこともあった。不安になったこともあった。

それでも私は、リアス先輩を信じたい。

だってリアス先輩たちは、この町を守ると言ってくれたから。

 

「大丈夫」

 

私は何度も呟く。大丈夫、リアス先輩たちは大丈夫。

私はベッドに横になり、ゆっくりと瞼を閉じる。

 

そして私は、強烈な寒気を感じて目を覚ました。

まるで、裸で極寒の水に放り込まれたような、痛みすらも覚える寒さ。

 

「なに・・・これ・・・」

 

身体が震える。ぎゅっと抱きしめても、その震えは止まらない。

何とかベッドから起き上がり、私は閉めていた窓のカーテンを開ける。

私が目にしたのは、何かに覆われていた駒王学園だった。



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16話

月明かりと電灯の明かりを頼りに、私は学園へと走った。

 

眠ろうと目を閉じた私を襲った突然の寒気。まるで極寒の世界に裸で放り込まれたような感覚。

そして家の窓から見えた、何かに覆われた駒王学園。

私はパジャマの上から上着を羽織り、そのまま学園へと走った。

 

学園に近づく毎に、身体を襲う寒気は一層強くなり、私の足を遅くする、身体が重くなる。

でも、私の中に嫌な予感があった。

 

きっと何かあったに違いない。

だから私は、遅くなる足を必死に前へと進ませる。

きっと先輩たちも何かしてるに違いない。

だから私は、そのお手伝いをしたい。

 

いつも走っている通学路なのに、私はまるで亀のように、一歩一歩踏みしめた。

身体に走る寒気を堪えながら。

そして私の目に映ったのは、何か模様が描かれた壁に覆われた駒王学園だった。

 

「支取先輩!」

 

私は、学園の前に立っていた支取生徒会長に声をかけた。

支取先輩は、声をかけてきた私を見て、酷く驚いていた。

 

「夢殿さん!?どうしてここに!?」

 

「何か凄く寒気を感じて窓を見たら、変なものに覆われていた駒王学園が見えて。

 それで私、心配になって・・・。し、支取先輩、い、一体何が起っているんですか!?」

 

私の言葉に、支取先輩は一瞬顔を暗くするも、直ぐに何ともない顔をする。

 

「大丈夫ですよ、夢殿さん。ここは私たちに任せて、貴女は家に戻ってください」

 

「な、なんですかそれ!?こんな学園を見て、大丈夫な訳ないじゃないですか!」

 

私は声を荒げた。私の姿に、支取先輩は目を逸らした。

支取先輩の行動に私は合点がいった。

 

「リアス先輩たちがこの中にいるんですね」

 

支取先輩が私に顔を向けた。

 

「答えてください、支取先輩。この中にリアス先輩たちがいるんですね?」

 

「・・・・・・そうです、この結界の中で、リアスたちが戦っています」

 

支取先輩が、私に説明してくれた。

私が家に帰った後、件のコカビエルが宣戦布告をしてきたらしく、

リアス先輩たちがこの結界の中で戦っているという。

コカビエルは休戦中の戦争を再開したいがために、

聖剣強奪を行い、魔王の妹であるリアス先輩たちの治める駒王町に来たらしい。

 

なによそれ

 

私はその言葉を聞いて、頭が真っ白になった。

ただ戦いたいがために、この町にやって来たっていうの?

ただ自己満足のために、私の大切な町を巻き込んだっていうの?

 

黒い感情が湧く

 

そしてこの町を守る為に、リアス先輩たちはこの結界内でコカビエルと戦っているようだ。

確かに、中ではなにか激しい音が聞こえてくる。

私は震える声で、縋るように、支取先輩に尋ねた。

 

「それで支取先輩、リアス先輩たちが何とかしてくれるんですよね?そうですよね?」

 

この町を守ると言ってくれたリアス先輩の言葉を思い出し、私は問う。

だが支取先輩は、私から目を逸らした。

 

「リアスたちは、なんとか援軍が来るまで時間稼ぎをしてくれます。

 私たちは、この町に被害が出ないよう結界を維持することしか・・・」

 

「なんですか・・・それ・・・?」

 

私は支取先輩に詰め寄った。私の手は支取先輩の服を掴んだ。

 

「援軍が来るまでってなんですか?被害が出ない様にってどういうことですか?

 大丈夫なんですよね?この町を守ってくれるんですよね?

 だって、リアス先輩は私に約束してくれたんですよ?」

 

「夢殿さん、落ち着いて・・・」

 

「落ち着くってなんですか?今の話を聞いて、どうすれば落ち着けるんですか?」

 

私の心が冷えていく

心が無機質になっていく

 

突然、激しい音が響き、結界が揺れた。

私が音の方を見た瞬間、それが目に入った。

まるで怪獣映画のような巨体の三つの首を生やした犬が、

口から赤い液体を零しながら、私の目の前で塵となった。

塵となる瞬間、私はその怪物と目があった。

 

次に、まるで間近で落雷が落ちたかのような、激しい音が響き、目の前が光で満たされる。

眩しさに目を閉じ、しばらくすれば、校庭の方から一本の光の柱が見える。

 

「まさか・・・聖剣が完成してしまったの?」

 

支取先輩の呟きが私に耳に入った。

 

「聖剣が完成したら、一体どうなるんですか?」

 

「あと数十分で・・・この町が消滅します」

 

 

 

 

その言葉を私は理解できなかった。

その言葉を私は理解したくなかった。

その言葉を私は聞きたくなかった。

その言葉を私は拒絶したかった。

 

私は無意識に口元を歪めながら、支取先輩に尋ねた。

 

「消滅?何を・・・言ってるんですか?だって、この町は先輩たちが守ってくれるって・・・」

 

黒い感情が渦巻く

 

私の言葉に、支取先輩は唇を噛みしめながら答える。

 

「聖剣が完成してしまったことで、なにかの術式も完成してしまったようです。

 術式から感じる力からして、おそらくこの町を吹き飛ばすための術式だと思います。

 作動までの時間を考えると、援軍は間に合いません。

 今、この場でリアスたちが何とかしなければ、駒王町は消滅します」

 

感情が波打つ

 

「おそらく、コカビエルを倒せば何とかなるかもしれません。

 ですが、仮に赤龍帝の力を持っても、コカビエルを倒せるかどうか・・・」

 

感情が滾る

 

「く・・・こうなるのなら、早く援軍を呼ぶべきだった・・・!

 魔王様たちの迷惑になると思って躊躇した結果、この町を危機に晒してしまうなんて!」

 

感情が身体を這い回る。

目の前から、色が消え、輪郭が消え、何もかもが消えて真っ暗になる。

真っ暗になった目の前で、誰かが私に尋ねてきた。

 

またなの?

 

その声は私を問いただす。

 

また失うの?

 

その声は私を責めたてる。

 

また何もしないの?

 

真っ暗な視界が晴れ、見えてきた光景に、私は目を見開いた。

 

 

私の目に映るのは、炎の中で泣いている私だった。

周りは車の残骸で囲まれ、そこら中からは炎が舞っていた。

私はただ泣いていた。

目の前の出来事に何もできず、ただ自分の無力さを嘆いて泣いていた。

目の前の現実から目を逸らし、ただ終わってほしいと願って泣いていた。

 

泣いている無力な私を、私が見ている。

 

その光景に私は気付かされた。

 

それはあの時、何も出来なかった私が犯した、幼い時の私の罪。

 

大切な人を失ったあの時だ。

そしてまた声が聞こえる。

 

また失うの?

 

『嫌だ』私は叫ぶ。

 

『もう嫌だ』私は叫ぶ。

 

『もう絶対に失いたくない』私は声を張り上げる。

 

『もう大切なものが消えるのは嫌だ』私は喉をからして叫ぶ。

 

そしてもう一つの感情が、私の心に渦巻く。

それは私の中にある、憎しみの気持ち。

 

許せない

 

私の思考は切り替わる。

 

何もしなかった私が許せない

 

『脚』が現れた

 

何も出来なかった私が許せない。

 

『身体』が現れた

 

私の大切なものを奪う存在が許せない。

 

『腕』が現れた

 

絶対に許さない。

 

『友達』が現れる

 

ソーナ・シトリーは自分が見ている光景に戸惑っていた。

なせなら突然、夢殿ことなが自分から離れ、その瞬間に目の前に黒い人影が現れたからだ。

それこそ、何の気配も感じず、気付けばそこにいたのだ。

まるで、始めからそこにいて、自分が気付いてなかったかのように。

 

そしてその人影は、風体からして異質だった。

大きさは巨体ではなく、それこそ子供のような体格だ。

なぜか出で立ちは、夢殿ことなと同じような姿をしている。

だが、それよりも目を引いたのは、その顔だ。

それには顔が無かった。

いや顔に当たる部分に、真っ黒の靄がかかっており、顔が認識出来ないのだ。

そしてその黒い人影は、夢殿ことなの前に立っている。

 

「夢殿さん!そいつから離れて!」

 

ソーナは夢殿ことなに声を上げた。その人影は何か判らないが、何かを感じる。

まるで見てはいけないものを見てしまったような感覚。

だからだろう、ソーナは叫んだのだ。自分でも何か恐怖を感じるのだ。

ただの人間の夢殿ことなでは耐えきれないと。

だがソーナの思いは、夢殿ことなによって否定された。

 

夢殿ことなは、すっと黒い人影にに手を差し出し、こう呟いた。

 

『一緒に行こう』

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだ!」

 

僕の目の前で、木場は手にした禁手『双覇の聖魔剣』で、

フリードの聖剣エクスカリバーを叩き斬った。

砕け散るエクスカリバーをに驚愕するフリードを、僕は返し刃で斬りあげる。

フリードは驚愕の顔のまま、空が殻血の線を描きながら倒れ込んだ。

 

「よしゃぁぁぁぁ!!やったな木場!」

 

イッセー君が僕に向かって叫んだ。イッセー君は僕以上に喜んでいた。

その姿に、僕はクスリと笑いつつ、ありがとうと感謝する。

そして僕は、色々なことを思い出す。

見捨ててしまった僕を許し、最後まで気にかけてくれていた同士たち。

ありがとう、みんなのおかげで僕は禁手に至れたんだ。

そして僕を救ってくれた部長、迷惑をかけてしまったイッセー君やみんな。

ありがとう、みんなのおかげで、僕は過去を振り切れることが出来た。

『双覇の聖魔剣』を握りしめる。

 

だから僕は、この思いを胸に、部長の、みんなの剣になるんだ!

僕の想いに呼応するように、『双覇の聖魔剣』も更に光輝く。

 

僕はバルパーを見据える。バルパーは、何かに憑かれたかのように何やら呟いている。

これ以上、僕のような犠牲者を生まないためにも、僕は斬る!

だが突然、目の前のバルパーは血反吐を吐いて死んだ。

 

「バルパー、貴様は優秀だったゆえにそこまで至れたのだろう。

 だが正直言うとな、別にお前がいなくても良かったんだよ」

 

声の方を見れば、コカビエルがバルパーに掌を見せていた。

どうやら、光の槍で彼を殺したみたいだ。

 

「最初から俺一人で十分だったからな」

 

その瞬間、コカビエルから放たれた殺気に、僕は死を認識した。

フェニックスとの闘いとは違う、本当の意味での殺し合い。

これが聖書に刻まれた堕天使の強さなのか?

僕は無意識に、より強く剣を握りしめる。

 

でも、同士たちは願ってくれた。生きてほしいと。

だったら僕は生きなきゃいけない!

僕は皆の剣として、グレモリーの眷属として、みんなを守らなきゃいけないから!

それに・・・僕は彼女との約束を思い出した。

 

「夢殿さんとケーキを食べに行く約束をしたんだからね」

 

夢殿さんの、あのおっかなびっくりな姿を思い出し、僕は笑みをこぼした。

約束を守る為にも、僕はここで死ぬわけにはいかない!

僕は部長やイッセーくんたちを見回し、頷く。

みんなの気持ちは一つ、コカビエルを倒すこと。

 

「いくぞ皆!コカビエルをぶちのめして、さっさとこの戦いを終わらせるんだ!」

 

「カハハハハハ!ならば全力を持ってかかってこい!生半可ならばすぐに殺してやる」

 

コカビエルの笑い声が合図となり、僕たちはコカビエルに向かって行った。

 

 

「消し飛べぇぇぇぇぇえぇぇえぇぇ!」

 

イッセーくんの最大譲渡を受けた部長の魔力の塊がコカビエルを襲う。

それは校庭の地面を削りながら、周りを消滅させながら、コカビエルへ向かう。

 

「面白いぞサーゼクスの妹よ!その力、確かに魔王のように才に恵まれているな!だが!」

 

コカビエルは部長の魔力を両手で受け止める。

その瞬間、堕天使の持つ光力と魔力がぶつかり、その衝撃で校庭の木が数本吹き飛ばされる。

だが、次第に部長の魔力が力を失いだし、コカビエルを消滅させられずに消えた。

 

流石にコカビエルも無傷ではなく、掌からは血が流れ、纏っていたローブはボロボロ。

でも、大したダメージを追っていないことは明白だった。

 

「どうした?貴様らはこの程度なのか?ならば失望しかないな。

 これならさっさと殺した方がいいか」

 

僕たちを冷めた目で見下すコカビエル。

でも、負けるわけにはいかない!僕たちは互いに連携を取りつつ、コカビエルと戦った。

朱乃さんの雷撃を翼の羽ばたきで消し飛ばす。

その隙をついて僕とゼノヴィアが斬りかかるも、片手で僕の剣を防ぎ、

ゼノヴィアのデュランダルを避け、逆にゼノヴィアを蹴り飛ばす。

 

「おまけだ」

 

そういうと、コカビエルは、空いた手で僕を掴み、ゼノヴィアの方へと投げる。

ゼノヴィアは、蹴り飛ばされた勢いで地面に落ちるも、寸でのところで体勢を立て直す。

僕もなんとか空中で受け身を取り、着地と同時に斬りかかる。

 

「ほう、デュランダルと聖魔剣の同時攻撃か!」

 

そういうと、コカビエルは片方にも光の剣を生み出し、僕たちの剣戟を難なく捌く。

 

「隙ありです」

 

僕たちに注意を向けた隙を突き、小猫ちゃんがコカビエルに拳を振るう。

 

「甘いぞ!」

 

だが、コカビエルの12の翼が刃物の如く、小猫ちゃんを切り刻む。

刃の嵐に巻き込まれたように、小猫ちゃんの身体から鮮血が噴き出す。

 

「おまけだ」

 

1つの翼が小猫ちゃんを薙ぎ、肩から脇腹まで一線を刻まれた小猫ちゃんは、

そのまま地面に叩き付けられた。

アーシアさんとイッセーくんが小猫ちゃんに駆け寄る。

 

「小猫ちゃん!」

 

「余所に意識を向けるとは余裕だな」

 

小猫ちゃんの意識を向けたことで僕の剣は弾かれ、僕は無防備になる。

コカビエルの光の剣が、僕を断とうと迫る。

 

「させるか!」

 

けれども、僕を襲う光の剣が、ゼノヴィアによって寸でのところで防がれた。

あと少しでも彼女の援護が遅かったら、僕は真っ二つだっただろう。

 

「まさかエクソシストが悪魔を助けるとはな。だが!」

 

コカビエルから放たれた衝撃波により、僕とゼノヴィアは地面に叩き付けられた。

 

強い!僕らとコカビエルとの力の差がこんなにあるなんて!

そう思った瞬間、僕は頭を振り、その考えを追い出す。

駄目だ、相手に呑まれたら死ぬ。僕は皆と一緒に生き残るんだ!

僕は自分に発破をかけ、コカビエルを見据える。

 

「聖魔剣よ!」

 

僕は力の限りをつくし、コカビエルの周りに聖魔剣をありったけ生み出し、

コカビエルの動きを封じ込める。

だが、コカビエルの翼が難なくそれらを破壊する。

その一瞬の隙を突き、背後から斬りかかるも、

 

「ハエが止まるぞ」

 

指二本で止められる。

でも、僕はそれに笑みを浮かべる。

だってこれは僕にに注意を引きつけることが目的だったからだ。

 

「くらえ!」

 

反対からゼノヴィアがデュランダルで斬りかかった。

それをコカビエルは咄嗟に避ける。そしてゼノヴィアを斬ろうと、光の剣を生み出し、

 

「かかったね」

 

僕は止められていた剣を離し、新たな聖魔剣を生み出すと、コカビエルに向けて振り下ろした。

これが本命。

流石のコカビエルも、これには虚を突かれたのか、一瞬にして後ろへ下がる。

見れば、その顔に一筋の傷が見えた。

今の攻防ですら、それしかダメージが与えられていない。その事実があまりにも残酷すぎた。

 

だが突然、コカビエルが笑いだすと、僕たちに恐ろしいことを語り出した。

 

『四大魔王だけではなく、実は神も死んでいた』と。

 

その事実に、先ほどまで懸命に闘っていたゼノヴィアが、

剣を落とし、膝をつき、「嘘だ嘘だ」と呟いている。

アーシアちゃんも、コカビエルの言葉に放心していまい、イッセーくんが彼女を揺さぶっている。

二人は神のために生きてきた信者たちだ。

その神が実は死んでいた。それはあまりにの衝撃に違いない。

僕たちの様子を無視して、コカビエルは叫ぶ。

 

「もはや戦争はおこらないだと?ふざけるな!

 あのまま戦争が続いていれば、勝っていたのは俺たちだった!

 散々殺し合ったというのに、今更止められるわけがない!

 喪った部下たちのために二度と戦争をしない?

 アザゼル!ならば死んでいった奴等は、一体何のために死んだというのだ!」

 

コカビエルは叫び続ける。

 

「もう一度戦争を起こすために、貴様らやこの町共々生贄になってもらうぞ。

 そうすれば今度こそ決着が尽く!

 死んでいった奴等のためにも、俺たち『堕天使』が最強であることを示す!

 ふんぞり返っているサーゼクスや傍観者のミカエルを、戦場に引き摺りだしてやる!」

 

高らかに叫ぶコカビエルの姿に、僕の心は折れかけていた。

サーゼクス様にミカエル。

聖書にも記された強大な存在に、コカビエルは挑もうとしている。

勝てるはずがない。僕たちはそんな恐ろしい敵に勝とうとしていたんだ。

 

「ごめん、夢殿さん。約束、守れそうにないみたいだ」

 

僕はなぜか、その言葉をつぶやき、目を閉じようとして

 

『だから何ですか?』

 

彼女の声を聞いた。



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17話

修正するかもしれません


「夢殿・・・さん?」

 

僕は自分の目を疑った。

それは僕だけじゃなく、部長も一誠くんも他のみんなもそうだった。

だってそこにいたのは、来るはずのない夢殿さんだったんだから。

彼女の出で立ちは、寝間着だろう色柄のパジャマの上に防寒具のジャンパーを着て、

靴ではなくスリッパを履いている。

どう見ても、急いでやって来た恰好だった。

 

コカビエルの宣戦布告の際、

一般人の夢殿さんを巻き込むわけにはいかないという部長の提案で、

僕たちは夢殿さんには連絡を取らなかった。

ただの人間でしかない夢殿さんを巻き込むわけにはいかなかったからだ。

 

だからこそ、今この場にいる夢殿さんの姿に、僕たちは理解できなかった。

どうして彼女が来たのか、それ以前にどうして彼女がここに入れたのだろうか。

駒王学園は、コカビエルとの戦いの被害を抑えようと結界が張られている。

そしてそれを維持しているのはソーナ会長たち、生徒会のみんなだ。

あのソーナ会長が、危険と判っている場所に夢殿さんを入れるわけがない。

なら、彼女が無理矢理入ってきたということになる。

でもどうやって?

 

そんな考えが僕の頭の中を駆け巡る。

部長も同じように、今の状況を理解しようと必死の様子だ。

でも、今はそんなことは関係ない。

この場は夢殿さんにとってはあまりにも危険すぎる場所なんだ。

彼女をここから逃がさないと!

 

そう思い、僕はさっきまで折れかけていたことを忘れ、

生み出した剣を杖に立ち上がろうとする。

 

「夢殿さん!」

 

そう言って僕は彼女の手を掴もうとして、その手を止めた。

 

「夢殿・・・さん・・・?」

 

なぜなら僕を見た彼女の目が、まるで光すら呑みこんでしまったような、

炭のように澄み切った黒一色に染まっていたからだ。

その目を見ると、その中に吸い込まれてしまうような、そんな黒色。

 

『なんですか、木場さん?用があるなら早く言ってください。

 私にはやらなくちゃいけないことがあるので』

 

まるで人形のような無表情で、抑揚のない声で、彼女は話す。

その異常な姿に、僕は何て声を書けていいのか分からなくなった。

普段の彼女とはあまりにも違い過ぎて、まるで別人になってしまったのかと思えてしまうほどに。

 

『用がないなら話しかけないでください。私は行きますので』

 

そう言うと、彼女はコカビエルの方へと足を向ける。

呆けていた意識を取り戻し、僕は彼女の手を掴む。

 

「待つんだ夢殿さん!どうして君がここにいるのかは分からないけど、ここは危険だ!

 早くここから離れるんだ!」

 

『私に触れるな』

 

その瞬間、僕の身体は宙に浮いて、気付けば地面に倒れていた。

 

「祐斗!?」「木場ぁぁ!!」

 

部長やイッセーくんの声が聞こえる。

そんな中、痛む身体に呻きながらも目を開ければ、夢殿さんが僕を見ていた。

そこからは何も感じなかった。ただ、感情もなく僕を見ていただけだった。

 

 

「貴様、何をやった?」

 

すると、それに浮いていたコカビエルが動く。

どうやら夢殿さんが何をしたのか気になったらしい。

彼女はコカビエルの方へと顔を戻す。

 

『そんなのはどうでもいいんです。関係ないんですよ。

 今、用があるのは貴方なんですよ、コカビエルさん』

 

「ほう?人間風情が俺に用だと?」

 

彼女の言葉に興味を持ったのか、コカビエルが答える。

 

『ええ、貴方を謝らせに来ました』

 

ピシリと空気が凍った。

コカビエルの纏うオーラが、より鋭さをました。

 

「俺を謝らせるだと?」

 

『はい。貴方の自分勝手極まりない、自己満足でしかない行動に巻き込まれた私たちに対して、

 私は貴方に謝罪を要求しに来ました』

 

彼女は語りだす。

 

『戦争したいのであれば、勝手に一人でやってください。

 戦いたいのであれば、一人で勝手に突っ込んで死んでください。

 戦いたいと言ってる癖に、結局は誰かを巻き込まないと戦えない。

 カッコいいことを言っているようですけど、やってることは自分勝手なんですよ。

 正直、自分が気持ちよくなりたいだけの自慰行為の癖に、大義を語るなんて反吐が出ます。

 周りを巻き込んで、それが正しいってなんですか?

 無関係な人まで巻き込んで、傷を負った人を考えずに、自分さえよければ何をしても構わない。

 堕天使が最強?邪魔さえなければ勝っていた?

 そんなの私たちには関係ないんですよ。

 自分の鬱憤を晴らすために、人を巻き込まないでください』

 

彼女の身体から黒い何かが溢れだす。

 

『それともなんですか?

 戦いたい戦いたいと言っていますけど、

 自分一人じゃ何にもできないだけじゃないんですか?

 周りを巻き込むことでしか、自分を正当化できないだけでしょ?

 それを自己正当化するために、何だかんだで鎧を纏っているだけ。

 戦闘狂の堕天使?は?ただ自慰行為に夢中なだけ存在でしょ?』

 

夢殿さんから漏れ出した黒い何かは、まるで地面を這うように広がっていく。

 

「人間風情が俺を虚仮にするか、なら死ね」

 

コカビエルが指を鳴らすと、コカビエルの足元に黒い影が現れる。

それは僕たちがなんとかして倒した番犬

 

「ケルベロス!?まだいたっていうの!?」

 

驚く部長を余所に、ケルベロスは夢殿さんへと向かう。

夢殿さんは、ぶつぶつとまだ呟いており、ケルベロスに気付いた様子が無い!

 

「夢殿さん!早く逃げるんだ!」

 

僕はボロボロの身体に鞭を打って叫ぶ。でも声が掠れてしまい、彼女に聞こえた様子が無い。

 

「ことなぁぁぁぁ!逃げろぉぉぉ!」

 

イッセーくんが叫び、彼女に向かって走り出す。でも、どう見ても間に合わない!

僕は、みんなを守るって誓ったのに!夢殿さんを守れないのか!?

そしてケルベロスが口を開き、彼女を呑みこもうとして、

 

『お座り』

 

跪いた。

 

 

一瞬、僕たちは何が起きたのか解らなかった。

だって、夢殿さんを呑みこもうとしたケルベロスが、突如彼女の前で頭を垂れた。

いや、むしろ地面に頭を叩き付けたと言った方が正しい。

ケルベロスは必死に頭を動かそうとするけど、

まるで頭を何かに抑えられたかのように動けない。

そんなケルベロスを一瞥すると、夢殿さんは何もなかったかのように会話を続ける。

 

『そんなにサーゼクスだのミカエルだのと戦いたいのなら、

 わざわざ聖剣を奪わなくても、勝手に天界に突っ込んでくださいよ。

 わざわざこの町になんて寄り道せずに、一人で冥界に突っ込んで行ってくださいよ』

 

すぐ隣に自分を丸呑み出来る怪物がいるというのに、夢殿さんはコカビエルに喋り続ける。

その光景はまさしく異常だった。だからこそ、みんな動けない。

すると、抑えられていたケルベロスの頭の1つが、少しずつだが口が開いていく。

その口内からは赤い炎が顔を覗かせ、自分を抑えている邪魔者を焼き殺そうとする。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

アーシアさんの叫び声が聞こえる。

僕たちは、夢殿さんが黒焦げの死体どころか、そのまま灰になる姿を予期して、

炎が彼女に狙いをつけ放たれる瞬間、その首が飛んだ。

 

「え?」

 

炎を吐き出そうとした頭は、

そのままゆっくりと放物線を描き、駒王学園の野球ネットに突っ込んだ。

放たれた炎は夢殿さんを外し、校庭の一部を燃やす。

一方、さっきまで頭が付いて首には、さっきまであった頭が無く、

そこから溢れるばかりに血が噴き出ていた。

その傍にいた夢殿さんは、その血を避けることなく浴び、真っ赤に染まっていく。

 

『邪魔です』

 

その声と同時に、頭2つとなったケルベロスが真横に飛び、

校舎に衝突して瓦礫の下敷きになった。

瓦礫の下からは赤黒い液体が溢れ、地面を染めていく。

 

「ことな・・・?」

 

部長でさえ、その光景を理解するのを止めていた。

目の前にいるのは、寝間着の上にジャンパーを羽織った夢殿さん。

なのに、今の彼女は僕たちの知っている彼女ではなかった。

 

「な、なんだこれ!?」

 

下を見たイッセーくんの驚きの声に、僕らは自分の足元に目を移す。

気付けば、僕たちの足元は学園の校庭ではなく、真っ黒に染まっていた。

そしてその中心にいるのは、夢殿さんただ一人。

 

いや、違う

 

彼女の傍に誰かいる。

 

「なに、あれ・・・?」

 

それは僕たちからすれば、突然現れた存在だった。

その姿は人の姿に近く、足も手も身体もある。

大きさからして、夢殿さんと同じような大きさだ。なぜか、彼女の服装と同じ格好をしてる。

でも、彼女とはっきり違う点が一つあった。

 

「頭が・・・ない?」

 

そう、本来あるはずの頭が無いんだ。

首から上にあるはずの頭の部分が、まるで煙のように揺らめいていて、形がはっきりしない。

それこそ、それが本当に頭なのかも分からないし、そもそも人のような頭かも分からない。

ただ、それが夢殿さんの傍に立っている。まるで彼女を守るかのように。

 

『ありがとう』

 

夢殿さんがそれに声をかけた。まるでその表情からして、違和感なほどに優しい声で。

まるで古くからの『友達』のように・・・!?

 

「まさか・・・!?」

 

僕の言葉と同時に、部長も声を上げていた。

まさか彼女の言う『友達』が、

 

「あれだっていうの・・・?」

 

部長の呟きが、僕たちに響き渡った。

 

 

「ほう、随分と面白い力をもっているじゃないか」

 

空に浮かんでいたコカビエルが、面白いものを見るかのように、夢殿さんを見つめている。

 

「神器の類いか、それとも異能か知らないが、もう少し楽しめそうだな」

 

『貴方が楽しもうがなんだろうが、私にはどうでもいいです。

 今、この瞬間に貴方がするべきことは、私たちに迷惑をかけたという謝罪です』

 

「は?」

 

『私の大切な学校をこんなに滅茶苦茶にしたこと、私たちの町に迷惑をかけたこと、

 リアスさんたちに迷惑をかけたこと、色々と謝ってもらわないといけないんですよ』

 

「え?」「な、何を言ってるんだよ・・・?」「夢殿さん・・・?」

 

彼女の言葉の意味が分からない。

謝らせる?一体夢殿さんは何を言いたいんだ?

混乱する僕たちを余所に、コカビエルが大声で笑いだす。

 

「カハハハハハハ!俺を謝らさせるだと?

 先ほども聞いたが、冗談にしては些かつまらんぐがぁあぁぁ?」

 

その瞬間、宙に浮いていたコカビエルが地面叩き付けられた。

まるで地面に引っ張られたかのように。

 

『謝るんだから、まずは地面に手を付けないと駄目ですよ?』

 

土煙を見据えながら、夢殿さんは言う。

 

「吠えたな人間ごときが!ならば俺に謝罪をさせてみろ!出来るものならなぁ!」

 

少し砂を浴びたコカビエルが、両手に光の槍を生み出し、彼女を見据えている。

 

『なら謝らせます。絶対に謝らせます。何をしてでも謝罪させます』

 

そして僕たちを余所に、コカビエルと異形が激突した。



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18話

絶対に謝罪させる。

 

それが私の中で渦巻いている感情だ。

ただ戦いだけの欲求不満堕天使のせいで、私の町は危険に晒された。

 

目の前の堕天使のせいで

 

友だちの舞ちゃんや桐生ちゃんたちが、近所のおばさんが、カデンツァのお姉さんが、

駒王町に住んでいる皆が危険に晒された。

 

目の前の堕天使のせいで

 

何も悪いことなんてしてないのに、ただ一方的に巻き込まれただけだ。

 

目の前の堕天使のせいで

 

リアス先輩や皆が傷つき、学校も悲惨なことになってる。

 

これも全て、この目の前の堕天使のせい。

 

全て、お前のせい。

 

だから私は謝罪させる。絶対に謝らせる。

この堕天使の口から、ごめんなさいと言わせる。

何をしようと、どんなことをしようと、口さえ開ければ、ごめんさないの言葉は出せるよね。

今の私に渦巻くのは、ただそれだけ。

私の傍に立っている『友だち』に目を向ける。

『友だち』は微かに頷く。

ありがとう、だから一緒に行こう。一緒に目の前のこいつを折檻しよう。

 

 

 

 

両手に光の剣を携えたコカビエルと、私の『友だち』が激突する。

『友だち』の振りかぶった右腕がコカビエルへと向かう。

だが、コカビエルはそれを躱すと、逆に右腕に携えた光の剣を振るう。

金属同士をぶつけた様な、鈍い音が響く。

 

「なに!?」

 

光の剣は『友だち』を斬り裂くことが出来ず、肩から胸まで斬りられたところで止まる。

光の剣に斬られたまま、『友だち』は左腕でコカビエルを殴る。

咄嗟に腕を交差し、その拳を受け止める。

そのままコカビエルは宙を横に飛ばされるが、6枚の翼をはためかせ、そのまま宙に静止した。

と同時に、静止したコカビエルへと『友だち』が迫り、追撃。

そのままコカビエルに組みつき、6翼の内の1つを引き千切る。

引き千切られた翼を放り投げれば黒い羽根が空に舞い、千切れた傷口から赤い血が吹き出す。

 

「キサマァァァ!」

 

激昂したコカビエルは、『友だち』の首を掴むと、そのまま地面へ叩き付ける。

校庭の砂が舞い、大きなクレーターが生まれた。

だがコカビエルは手を休めず、『友だち』を持ち上げると、残った5枚翼を広げ、

塔城さんにやったように、『友だち』を切り刻む。

腕が飛び、脚が千切れて地面に転がり、残ったのは首と身体だけ。

 

「もう終わりか」

 

興味を失ったのか、コカビエルは『友だち』を校舎に向けて投げ捨てた。

『友だち』はそのまま窓を突き破り、教室へと突っ込み、椅子や机に当たっただろう、

なにやら音が聞こえた気がした。

 

「そんな・・・アレでも駄目だっていうの・・・?」

 

誰かの声が聞こえた。

 

そしてコカビエルは『友だち』が突っ込んだ方を一瞥し、私の方へと顔を向けた。

その顔は、何やら冷めてしまったかのような表情だった。

 

「俺を倒すには些か力不足だったようだな。

 こちらも痛手をくらったが、俺を倒すにはまだ足りんかったぞ」

 

コカビエルは右手から光の槍を生み出し、私に向けた。

 

「だが、俺の羽をもぎ取ったことは褒めてやる。褒美だ、死ね」

 

そしてそのまま私に射出しようとする。

 

「夢殿さん・・・逃げてくれ・・・!」

 

誰かが私に向けて声をかける。でも、私はそれを無視する。

だって、私はまだ言ったことを終えてないんだから。

そして光の塊が私へと投げられかけた瞬間、

 

『何が終わったんですか?』

 

その腕が引き千切られた。

千切れ飛んだ右手は、そのまま血のアーチを描きながら、少し離れたところに落ちた。

千切れた際に、生み出された光の槍は、その形を維持できずに霧散する。

コカビエルは、痛みに呻きながらも、傷口を押さえつける。

その顔は、一体何が起きたのか、理解に苦しんでいる表情だった。

 

「な、なん・・・だと・・・?」

 

「い、一体何が起きたって言うの・・・?」

 

リアス先輩の声が聞こえた。その声色からは、先輩たちも混乱しているととれた。

でも私は気にしない、気にもしない。何故ならこれは、私個人のお仕置きだから。

 

『なんで安心したんですか?』

 

私は目の前の堕天使に告げた。

 

『なんでもう終わったと思ったのですか?

 私はまだ、貴方から謝罪の言葉を受けていないんですよ?

 それなのになんで勝ち誇ったような顔をしたんですか?

 私は言いましたよね。絶対に謝罪させるって』

 

そう、私はまだ目の前の堕天使から「ごめんなさい」を聞いていない。

悪いことをした奴を反省させると言ったんだ。

だったらこいつが反省するまでは、私は逃げるつもりはない。

 

「ならばこれならどうだ!」

 

コカビエルは、残った左腕を頭上へと掲げる。

その瞬間、先ほど右手から生み出したものとは桁違いの大きさの槍が、出現した。

 

「あれは体育館を吹っ飛ばした奴じゃねぇか!」

 

兵藤の叫ぶ声が響く。

どうやらアレが、ここから見えている、体育館を残骸にした元凶ですか。

そんなことを思っている間にも、巨大な光の槍はその形をはっきりと顕現させた。

 

「これで死ねぇぇぇ!」

 

そして左手を振りかざせば、巨大な光の槍が私に向かって動き出す。

そう、振りかざせればの話だけど。

 

『お願い』

 

私がそう告げた瞬間、コカビエルの左足が千切れた。

突然のことにコカビエルは身体を支えられず、そのまま地面へと倒れる。

だが、コカビエルが左手を振ったのがわずかに早かったらしく、

巨大な光の槍が私に目がけて向かってくる。

 

誰かが私に向かって逃げろと叫んでいるが、

逃げたところでやりの大きさからして、逃げ切れずに死ぬのは、誰が見ても明らかだ。

だから私は告げる。

 

『砕け散れ』

 

その瞬間、巨大な光の槍は鎚で砕かれたダイアモンドのように弾け、

光の粒がそこらじゅうに散った。

 

 

「何をした?」

 

倒れたままのコカビエルが叫ぶ。

 

「一体何をしたんだ貴様は!?」

 

先ほどとは違い、コカビエルの顔はより深い混乱に陥っていた。

 

『そんなの、どうでもいいじゃないですか。気にすることでもないでしょう?

 それにしてもおかしな話です。』

 

私はコカビエルの叫びを無視し、自分の言葉を吐き出す。

 

『それで終わりだと、無力化できたと、どうして思ったんですか?』

 

私の言葉に呼応すかのように、倒れているコカビエルの背後に、五体満足の『友達』が現れる。

その姿に、コカビエルどころかリアス先輩も驚く。

 

「一体、どういうことだ!?こいつは確かに手足を切り落とした筈!」

 

先ほどまでの余裕を失ったのか、声を荒げるコカビエル。

でも、私はそんなことは気にしない。だって、そんなことは関係ないから。

私は『友達』にコカビエルを抑え込むようにお願いし、そのまま彼に向かって歩く。

誰かが私を止める声が聞こえたが、私はそれを無視する。

 

『さて、コカビエルさん』

 

私は無表情のままコカビエルを見下し、彼に告げる。

 

『これから貴方が謝罪するまで、貴方を折檻します。でも安心してください。

 貴方が反省し、謝罪し、きちんと罪を認めてくれるなら、それ以上は何もしません。

 貴方が謝罪をしてくれるなら、私はそれでいいんです。

 だからコカビエルさん、もうこれ以上はこの町を巻き込まないと、誓ってください』

 

「貴様、俺を侮辱し・・・がぁぁぁぁぁあ!?」

 

『友達』がコカビエルを持ち上げ、地面に叩き付ける。

 

『私が聴きたいのはそんな言葉じゃないんです。

 私は貴方が反省したという言葉が聞きたいんです』

 

「俺が、貴様のような人げ・・・ぐあぁぁぁぁあ!?」

 

今度は5枚の翼の内の一枚を引き千切る。

黒い羽根が舞い上がり、紅い血が噴き出す。

 

「ひ、酷い!酷すぎます!」

 

誰かが声を荒げているが、私には別にどうでもいい。

 

「何やってんだよ、何やってんだよ!ことな!」

 

誰かが私に向けて何かを言っているが、私は別に気にしない。

そしてもう一度、翼を引き千切ろうとして、

 

「すまないが、それ以上やられるとコカビエルがもたないかもしれん。

 そうなると俺の責任になる。」

 

突然、聞いたこともない声が聞こえ、何かが割れる音と共に、それから白い光が落ちてきた。

そして地面に激突し、砂煙が舞うのは、誰だって想像できるだろう。

だが、その光は地面には激突せず、そのまま地面スレスレで止まった。

そして、歪なまでに光り輝く姿を見て、兵藤の声が響いた。

 

「白い龍・・・」

 

なにやら真っ白い鎧が乱入してきた。



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19話

多分、修正すると思います。


『誰ですか?』

 

私は乱入してきた白い鎧に目を向ける。

背丈の大きさからして、私よりも高いことは確かだ。

声からして・・・男の人なのかもしれない。もしかしたら女の人かもしれない。

でも、今の私にはどうでもいい。

 

私はそれを一瞥すると、再びコカビエルへと目を移す。

ボロボロのコカビエルが、口からゲホゴホと咳き込み、紅い液体を漏らしている。

その姿は、見る人からすれば目を逸らしてしまうか、救急車を呼んでしまうだろう。

 

でも、彼はまだ謝っていない。だから私は、まだ許せない。

だから私は、三度目のお願いをする。

 

『コカビエルさん、お願いだから反省の言葉を言ってください。

 もう一度言いますが、もし貴方が反省してくれるなら、私はこれ以上は何もしません。

 幸い、怪我とかしましたけど、この町は、大切なみんなは無事だったんだから』

 

私は安心させるために、口元に笑みの形にする。

でも、肝心のコカビエルは口を歪めて笑う。

 

「舐めるなよ小娘。俺は俺のために動いただけだ。

 たかが矮小な人間がいくら死のうと、俺には知ったことか!」

 

それでもコカビエルは笑う。見るからにボロボロだと言うのに、それでも謝らない。

 

『そうですか』

 

その言葉に、私の心は更に冷えていく。

私の心に呼応するように、『友達』の右腕が振り挙げられ、

 

「それは困る」

 

その声が聞こえると、突然私の身体が後ろへと跳んだ。

後ろへと下がっていく私が見たのは、数秒前にいた私の場所を、白色の光が薙ぎ、爆発音。

横を見れば、『友達』が私を抱きかかえていた。

もしも『友達』がいなかったら、私は今の光に呑みこまれていたのだろう。

 

「俺はアザゼルから、こいつとフリードを回収するように言われているんでね。

 フリードには聞きたいこともあるらしいしな」

 

見れば、乱入した白い鎧が、コカビエルの前に立っていた。

まるでコカビエルを守るかのように、私の目の前に立ちはだった。

 

『どいてください。私はそこの人に用があるんです。まだ謝罪を聞いていないんです』

 

「悪いが諦めてくれ。俺はさっさとこいつらをアザゼルに持っていかなきゃいけないんでな」

 

白い鎧の声は、どうでもいいように答えた。

 

 

なんで

 

『ことな、誰だって間違いは犯すものだ。

 そこから反省して、もう間違えないことが大切なんじゃないかな』

 

『じゃあ、おとうさんはどうして、いっつもおそくかえってくるの?

 わたし、おかあさんとずっとまってるんだよ?』

 

『そ、それはだな、えーっと、ごめんなさい』

 

『あらあら、お父さんも反省しないとね』

 

『母さん・・・、えっと、参ったなぁ・・・』

 

チラリと見えた、幼かった私の記憶。

 

 

 

『あれはどうしようもない事故だったんだ。

 それに誰かを恨んだところで、君の両親はもう・・・』

 

『なんで、もうおとうさんとおかあさんはかえってこないの?』

 

そして

 

『俺は悪くない!そうだ!あれは事故だ!俺だけのせいじゃない!

 お前等だって悪いんだ!そうだそこのお前!

 お前の父親が注意してればこんな事にはならなかったんだよ!』

 

あの時の記憶

 

 

 

『なんで・・・』

 

私の言葉は無意識に呟く。

 

 

なんで

 

なんで、なんで

 

なんでなんでなんで!

 

なんでなんでなんでなんで!!

 

なんでなんでなんでなんでなんでぇ!!!

 

『なんで謝ってくれないんですか!なんでそうまでしてそいつを庇うのよ!

そいつは私から大切なものを奪おうとしたんだ!罪を自覚もしない!

 だったら誰かが自覚させなきゃダメだろ!もういい加減にしてよ!』

 

私は頭を抱えて大声を上げる。

反省しないと、私はそいつを許せない。なのに、そいつは反省する気もない。

あろうことか、乱入者はそいつを庇う。

 

なら、私の気持ちはどうなるの?

私の気持ちはどうすればいいのよ?

 

許せない

許せない、許せない

許せない許せない許せない!

 

絶対に許さない!!

 

『ああああああああぁあぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!』

 

「夢殿さん!?」

 

私の叫びが木霊する。私の叫びに、私以外が戸惑う。私の叫びに、『友達』が動く。

 

「ほう、面白い」

 

『友達』が白い鎧へと駆けだし、右腕を振り挙げて叩き付けた。

まるで金属同士が衝突したような音が響く。

 

「良い一撃だ。確かにコカビエルに傷を負わせられる位はある」

 

けれど『友達』の腕は、白い鎧の右手だけで止められた。

 

「だが足りん」

 

そのまま握った手を後ろへ下げたことで、腕を握られていた『友達』がバランスを崩す。

白い鎧は、その隙を突くように、左腕で『友達』を殴る。

その瞬間、『友達』の下半身が千切れ飛んだ。

 

『だから何ですか?』

 

私の声に、『友達』の残った上半身が、白い鎧を掴む。

 

「何をする気だ?」

 

『こうするんですよ』

 

私は腕を振るう。

それを合図に、『友達』の上半身から、剣山の如く突起物が出る。

 

『串刺しになってしまえ!』

 

至近距離の串刺しだ。多少なりとも傷を付けられればそれでいい。

だが私の予想を裏切るように、白い鎧は健在。

『友達』の上半身は地面に倒れている。

 

「咄嗟のことで驚いたが、鎧を貫くには至らなかったようだな。

 まあ、始めの時にくらっていたら、あるいは危なかったかな?」

 

『だったら!』

 

私は次の手を考え、それを実行しようとして・・・

 

『あれ?』

 

地面に倒れた。なんでだろう。力が入らない。

必死に身体を起こそうとしているのに、身体に力が入らない。

まるで身体が海月のようになったみたいに、必死に力を込めても動かない。

同時に、大地を黒く覆っていた影が、私へと戻っていく。

 

『なんで?どうして身体に力が入らないの!?』

 

「俺の神器の効果さ」

 

私の疑問に、白い鎧が答える。

 

「俺の神器『白龍皇の光翼』の力の1つさ。

 俺が相手に触れると、十秒ごとにその力を半減させる。そしてその力は俺の糧になる。

 どうやら俺の神器の効果は、あの黒い存在ではなく、お前の方に行っていたようだ」

 

白い鎧い覆われた顔は、私をずっと見ている。

 

「俺の名はアルビオン。そこにいる赤龍帝と対をなす二天龍の一角、白龍皇だ」

 

そう言うと、アルビオンは私を背を向けて、倒れているコカビエルと神父へと進む。

 

「それにしても興味深いな。

 腕や足が引き千切られていたはずだが、どういう訳か元に戻っている。

 まあ、死にかけではないことには、助かったがね」

 

そしてそのまま、ボロボロのコカビエルと白髪の神父を担ぐ。

私は必死に身体を動かそうとするが、私の身体はいう事を聞いてくれない。

 

「おい待てよ!」

 

なんとか視線だけを動かすと、兵藤がアルビオンに突っかかっていた。

 

「急に出てきたと思ったら、お前は一体何なんだよ!というか、何してくれたんだよ!

 お前のせいで、俺は部長の乳を・・・!」

 

なんだろう、最後の言葉が聞こえない。

それになんだろう、視界に靄がかかったようにぼんやりしてきた。

その後も、なにやらアルビオンと兵藤が何か言いあっているが、頭に入ってこない。

それでも私は、必死に声を出す。

 

「待って・・・よ!私は・・・ま、だ!」

 

それでも私は、アルビオンを捕まえようと手を伸ばす。

待ってよ、私はまだ、コカビエルからごめんなさいを聞いていない。

そうしないと、私は彼を・・・。

 

「それしても、赤龍帝だけじゃなく、随分と面白い者がいたものだ。

 案外、思いのほか楽しくなりそうだ」

 

そう言って、アルビオンは背中の光翼を開き、光となって空へと飛んで行った。

そして私の意識は、真っ暗に落ちていった。

 

 

 

 

ごめんなさい

 

私は目の前でボロボロになっていくコカビエルに謝っていた。

 

ごめんなさい、ごめんなさい

 

私は、真っ赤に染まっていく私の手を見ながら、自分の行いを見ていた。

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

痛みに叫ぶ声に耳を塞ぎたくなるが、身体がそれを許さない。

 

ごめんなさいごめんさないごめんなさいごめんなさい

 

ボロボロになっていく『友達』に私はただ謝るしか出来なかった。

私のせいで、私のせいで!『友達』が傷つき、したくもないことをさせてしまった。

 

真っ赤に染まった手で顔を覆い、私はただ謝るしかなかった。

 

そして『友達』が私の前に現れて・・・。

 

 

・・・め・・・の・・・ん!ゆめ・・・・・・ん!

 

「夢殿さん!」

 

誰かの声で、私は意識を取り戻した。

私の目の前に広がるのは、白い天井と電灯。

でも、それは病院でなく、毎日見ている天井と電灯で・・・。

 

「あ・・・れ?なんで私・・・部屋にいるの・・・?」

 

私の頭はまだ靄がかかったかのようにぼんやりしていた。

確か、私は駒王学園に走って、そして・・・。その途端、私の猛烈な吐き気に襲われた。

 

そうだ、私はあそこで傷つけた。泣き叫ぶ相手を何度もいたぶった。

徹底的にいたぶり続けた。その感触が私の手に残っている。

 

胃の中の物が出かけ、必死に両手で口を覆う。

すると、誰かが私の背中をさする。

どれだけ続いたのだろうか、ようやく落ち着いた私は、背中をさすってくれた誰かに目を向けた。

 

「落ち着いたかな?」

 

そこにいたのは、

 

「落ち着きましたか?」

 

木場さんと塔城さんだった・・・。



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20話

「どうして、木場さんと塔城さんが私の家にいるんですか?」

 

私は、木場さんと塔城さんがいることに頭が追いつかず、ただ疑問を零した。

私の言葉に、木場さんは少し口元を歪め、塔城さんの方を見た。多分、苦笑いなのかもしれない。

塔城さんの方も、何を説明すればいいのかと悩んでいるようで、

無表情ながらもどこか落ち着きのない雰囲気が漂っている。

 

何故かと思いつつも、私は今の現状を反芻してみる。

確か、私はあのまま学園で気を失ってしまったのだが、目を覚ませば自分の家にいた。

そして木場さんと塔城さんが私の部屋にいる。

ということは、二人が私を家まで運んでくれたのかな?

だったら、二人にお礼を言わなきゃいけない。

しかし、なぜ二人は私から頻りに目を逸らそうとしているのかな?

そんな二人を一瞥し、私は自分の身体の方を見る。

 

不思議なことに、私はあの時のパジャマとは別のパジャマを着ていた。

ピンクの生地に白い水玉模様のパジャマを着ていたはずなんだけど、

それが黄土色の生地に青いチェック柄のパジャマになっている。

私はチラリと二人を一瞥し、そしてもう一度パジャマを見、そして再び二人を見る。

木場さんも塔城さんも、顔を赤らめているからして、私はそう言う事かと気付いてしまった。

 

「エッチ」

 

私の言葉に、二人は全力で首と手を横に振り、

私に「誤解だよ!」「そうです、これは訳があるんです!」と言い訳する羽目になった。

そしてどれくらいの時間が経ったのだろうか、

二人が疲れはじめた頃を見て、私は話を切りあげることにする。

 

「まぁ、お二人が私の身体に興味を持っていて、寝ていて抵抗も出来ない無防備な私を、

 お二人がその手で好き勝手に弄っていたという衝撃の事実は横に置きましょうか」

 

私の言葉に、二人は「違うんだ・・・」「そうじゃありません・・・」と項垂れる。

その姿に、私は少し意地悪をし過ぎたかなと思い、苦笑を交えつつ謝罪をする。

一安心したのか、ほっと溜息を吐く二人の姿に、

私は彼らの知らなかった一面を知れたのかもしれない。

そんなことを思いつつ、私は二人にお礼を言う。

 

「木場さん、塔城さん、私を家まで運んでくれて本当にありがとうございます」

 

予定外のことで話が逸れたが、私はこの二人に助けられた。

それは本当に感謝してもしきれないこと。

取りあえず、お二人にはお茶とお菓子を出さなきゃ。

そんなことを思い、私はベッドから身体を起こそうとするが、未だに身体が重い。

何とか上半身だけでも起こそうとするも、まるで水の中を動くような感覚が身体を襲う。

 

「夢殿さん!?」

 

布団の中でジタバタする私に気付いた木場さんが、慌てた様子で私を支える。

 

「木場さん、ありがとうございます。

 出来れば、このまま起き上がりたいのですが、もう少し支えて貰っても良いですか?」

 

私はこのまま上半身を起こそうと、鈍い身体に鞭を打つ。

そんな私の姿に塔城さんも慌てたらしい。

 

「駄目ですよ、ことな先輩。先輩は今起きたばかりなんですから」

 

そう言うと、塔城さんは木場さんに私を寝かせるように言い、

木場さんはそれに従い、私は再びベッドに横になった。

 

「お二人には、色々とご迷惑をかけてすみません」

 

起き上がるのは止めて、私は二人に礼を言う。

 

「いや、礼を言うのは僕たちの方だよ。

 それに、僕たちの方こそ夢殿さんに謝らなきゃいけない」

 

木場さんは、私にお礼を言いつつも、申し訳なさそうな顔をする。

塔城さんの方も、何かしら複雑そうな顔をしていた。

 

「ことな先輩に町を守ると言ったのに、私たちの力不足で町を危険な目に晒してしまいました。

 そのことで、ことな先輩を不安にさせてしまって、本当にごめんなさい」

 

ぺこりと頭を下げる二人に私は慌て、二人に頭を上げるように言う。

 

「何はともあれ、町に被害は無かったんですから、結果オーライです。

 終わりよければすべてよし、ですよ」

 

そう、結果から言えば町に被害は起きていない。私にはそれだけで十分だった。

 

その後、私は二人からその後のことを聞かされた。

今回の件によるものか、教会から聖剣事件ついての謝罪があったとか。

とりあえず、木場さんの心が救われるきっかけになってほしいと思う。

私自身、木場さんを救いたいと思っていたのは正直な気持ちだ。

 

「これで犠牲になった同士たちも、少しは救われるかもしれない」

 

そう言った木場さんの顔は複雑そうながらも、憎しみに染まった黒い影が見えなくなっていた。

その顔が木場さんの本当の顔なのかもしれない。

 

次に、ゼノヴィアと名乗っていたエクソシストが、リアス先輩の眷属になったらしい。

私は知らなかったけれど、コカビエルから神の死を聞かされ、それを教会に問いただしたようだ。

その結果、教会から危険視されそのまま異端として追放。

信じる者に裏切られて自棄をおこした彼女は、そのまま悪魔になってしまったとか。

彼女なりに決めたみたいだけど、私としては流されてしまったように思えた。

アーシアさんを斬ろうとした彼女の姿を思い出すと、『呆気ないものなんですね』とも。

 

そして今回、駒王町を巻き込んでの事件の結末。

 

今回の事件はコカビエルの単独によるもので、堕天使側としては寝耳に水だったらしい。

そのため、早急に収拾をつけるために出てきたのが、あの白い鎧だっとか。

堕天使側としては、三すくみを壊してまで戦争を再開する意図は無いとのこと。

それを実行しようとしたコカビエルは、堕天使のトップにより、

地の底で永久に氷漬けの刑に処されたのこと。

これが、事件の顛末であり結末。

正直、納得できると言われれば難しいというのが、私の感想でしかない。

そして堕天使側から悪魔と天使側に、それらを含めて会議を開きたいとと打診されたみたい。

事件の関係者として、事件に関する報告のためにも、リアス先輩たちが招かれているらしい。

 

「それで、夢殿さんもその場に出てほしいみたいなんだ」

 

「なぜですか?」

 

私は木場さんに尋ねた。

木場さんも塔城さんの顔は、少し強張っているように見えた。

 

「ことな先輩も、あの事件の関係者という立場なんです。

 コカビエルと戦ったことな先輩が、ある意味で話題の中心になっていて・・・」

 

私の視線から目を背けながらも答える塔城さん。

その姿には、何かしら怯えのようなものが見え隠れしているように感じた。

 

「そうですか」

  

その後、会話はきっぱりと途絶え、長い沈黙が訪れた。

カチカチと部屋に置かれている目覚まし時計の音が、鮮明に聞こえるほどに。

二人の方を見ると、二人とも何か複雑そうな顔をしている。

何か言いたいのに、それを言っていいのか判らない、口元が動くも、直ぐに真一文字に結ぶ。

言いたいことがあるならはっきりと言って欲しいと私はそう思いつつも、

私を気遣ってなのか、悩んでいる姿を見ると、それが二人の優しさでもあることも理解した。

だからこそ、私から先に訊くことにした。

 

「『友達』のことを聞きたいんじゃないんですか?」

 

二人の顔は、不意打ちを食らったかのように驚いていた。

 

「木場さんも塔城さんも、本当に優しいですよね。

 二人とも私のことを思っていて、どうすればいいのか迷っている姿が解っちゃうんです」

 

私は笑う。

 

「多分ですけれど、『友達』ついて私に訊くように、リアス先輩から言われていませんか?

 私を思ってくれるのは嬉しいですが、正直に答えてください。」

 

私の言葉に、二人は何かしら言い返そうとするも、黙って首を縦に動かした。

 

「正直に答えてくれてありがとうございます。

 そうですよね、私も肝心なことは言っていませんでしたからね。

 そのことについては、私も謝らなければいけません。黙っていてごめんなさい」

 

私は身体を木場さんと塔城さんに向け、頭を下げる。

 

「これから二人に話すことは、私の『友達』についてです。

 でも、それだけだと理解され難いと思いますので、私のことについてもお話します」 

 

私の言葉に、二人の目が少し鋭くなった。

その視線を受けながらも、私は幼少の頃を語った。

 

 

幼少の頃の私のこと。忙しい両親の下で暮らしていた私。

一人で過ごしていた私の前に現れた『友達』のこと。

『友達』と一緒に遊ぶようになったこと、

幼少期から順に、時折私のことを織り交ぜながら、私は『友達』について語る。

 

・友達は、私が許可をしない限り私以外には見えない。

・見えない時の友達の行動範囲は、私から精々3メートルほど。

 その際は私の身体から手だけが出ていて、その手で物を持つことが出来る。

・基本的に、『友達』は私を守ることを優先する。

・許可を得て出てきた場合は、自分の意志を持つかのように行動する。

 その目的は、私にとって危険なものを排除するように動く。

・『友達』を出した場合、私自身の感情が抑えられない。

・『友達』を呼び出した後は、しばらくの間倦怠感に襲われる。

 

そういったことを簡単に説明していると、木場さんが手を挙げる。

 

「夢殿さん、その感情が抑えられないっていうのは・・・」

 

「言葉通りの意味ですよ。『友達』を出すと私、感情が抑えられなくなるんです。

 多分、二人とも見ていたと思います」

 

私の言葉に、二人はあの時のことを思い出したのだろう、顔が強張る。

 

「でも安心してください。二人は私の大切な人たちです。

 オカ研の皆さんも、まいちゃんもクラスの皆もそうです。

 この町の人はみんな、私にとって本当に大切なんです。

 だから、『友達』には絶対に手を出させません。それは私が約束します」

 

二人に気を使って笑ってみた。

 

「だから、安心してください」

 

その時の私は、上手く笑えていたのだろうか?正直、今でもよく解らない。

でも、二人が安堵の溜息を吐いたことで、良かったと思う。

 

「それで夢殿さん、その、力を使った後の倦怠感って言うのは?」

 

「それは私にも、正直よく解りません。

 ただ、『友達』を呼び出した後は酷い疲れに襲われるんです。

 酷い場合はそのまま眠ってしまい、気付けばずっと眠っていたこともあります」

 

「もしかすると、それは力を使った反動なのでしょうか?」

 

「おそらくはそうでしょうね。なので、正直やたら目ったら『友達』を使いたくはないんです。

 それに・・・」

 

私は口を紡ぐ。

 

「それに?」

 

「いえ、大したことではないんです。ただ、可哀想だと思うんです、『友達』が」

 

「可哀想・・・ですか?」

 

塔城さんが首を傾げる。

 

「『友達』は幼い頃からずっと、私の大切な友達なんです。

 それを、かっとなったからって、私を守るためだからって、暴力は駄目だと思うんです。

 自分勝手なことですが、そんなことのために、『友達』を利用したくないんです」

 

私の言葉に、二人は何かを言いかけて口を噤んだ。

 

「なので、正直に言います。自分勝手とは解っています。

 あくまで、人のために、町を守る為に使うなら、『友達』も解ってくると思います。

 ですが、『友達』を暴力に使えと言われた場合、私はそれを受けるつもりはありません。

 そのことは、リアス先輩にも伝えてください」

 

私は二人を射抜くような目で見つめた。

 

「解った。今言ったこと、ちゃんと部長に伝えておくね」

 

「ありがとうございます」

 

私はぺこりと頭を下げた。

 

その後、重くなった雰囲気を変えようと、

いつごろ復帰できるのか、オカルト研究部に来れるのかと、

なんとも他愛のない会話をしていると、塔城さんが声をあげた。

 

「それでことな先輩、約束の件なんですけど・・・」

 

「約束・・・?」

 

首を傾げる私に対し、塔城さんはじっと見つめてきた。

 

「誤魔化さないでください。私に『カデンツァ』のスペシャルパンケーキを奢ることです」

 

「ああ、そうでしたね」

 

じっと見てくる塔城さんの視線を受けつつ、私は何とか思い出した。

正直、今の今まで頭の片隅に追いやっていたのは黙っておこう。

 

「少し気分転換ではないですけど、今度の週末に行きませんか?

 ことな先輩も何かと大変だっと思いますし」

 

「そうですね、週末に予定はありませんし、大丈夫ですよ。

 それに、お礼はきっちりするのが、私の家訓ですから」

 

「それ、僕も参加していいかな?」

 

唐突な木場さんの言葉に、私は彼の方を向く。

木場さんは少し恥ずかしそうに顔を赤らめつつも、咳払いを一つ。

 

「今回の事件で将来のことを考えようと思ってね。

 それで参考までに、もう一度ケーキに行こうと思っていたんだ。駄目かな?」

 

頬を掻きながらもこちらを見てくる木場さんに、私は少しくらっとしかけた。

なんだろう、可愛い。

 

「驕れませんよ?」

 

そんなことを誤魔化そうとして吐いた言葉に、二人は苦笑いをしていた・・・。

 

「お大事にしてください」

 

「それじゃ、また明日来るね」

 

二人を玄関まで見送った後、私は今のソファにどさりと腰を下していた。

二人の前では気丈に振舞っていたけれど、まだ体が重い。

今の今まで、これほどまでに身体が重く感じたことは無かった。

そして身体の重みと同じように、頭も重く、眠い。

取りあえず、大事を取って明日は休むとしよう。

 

そんなことを考えつつボーっとしていると、玄関のチャイムが鳴った。

 

「ことなちゃーん!大丈夫ー!?まだ寝てるー!?」

 

声の主は、まいちゃんだった。



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21話

「ことなちゃーん!こっちこっちー!」

 

私の姿を見て、満面の笑みで手をブンブン振る舞ちゃんを見つけた。

時折ぴょんぴょんと跳ぶ姿に、私は『舞ちゃん楽しみだったんだなあ』という感想を抱いた。

私はクスリと笑いつつ、待ちあわせ場所の時計の下で跳ねる舞ちゃんに駆け寄る。

 

「ごめんね舞ちゃん。急な話なのに、来てくれて」

 

「そんなことないよ。久々にことなちゃんと買い物に行けるんだもん。

 私、あまりに興奮過ぎてぐっすり寝れたんだから!」

 

えへへと笑う舞ちゃんに、私も自然と笑う。

 

舞ちゃん、ぐっすり寝れたんだ。私はあまり眠れなかったんだけど・・・。

 

そう思いつつ、私は舞ちゃんの元気溌剌な姿に苦笑もする。

私とは違い、元気の塊な舞ちゃんの姿は、私にとってなくてはならないものだ。

もちろん、舞ちゃん自身も。

 

「それじゃいこっか!」

 

そう考えていると、舞ちゃんが私の手をぎゅっと掴む。

そのまま手を掴んで走る舞ちゃんに連れられ、私はショッピングモールへと足を踏み入れた。

 

「待って、ちょっと足が速いよ舞ちゃん、待って待って待ってぇぇぇぇぇ・・・」

 

私は半ば引き摺られていった。

 

 

 

ここは駒王町にあるショッピングモール。

いつも私が食材などを買いに行く商店街と違い、ここは日用品や衣服などの店が軒を連なっている。

私自身は、こういったおしゃれな所に来ることはあまりない。

むしろ、商店街のような雰囲気の方が好きだ。気を張る必要のない、慣れた場所だからだろうか?

でも、時折舞ちゃん等に連れられ、こうしてここに来ることもある。

最初の時は、あまりの緊張に身体が油のきれた人形のようにガチガチだったのを覚えている。

 

「ところで、ことなちゃんは何をご所望ですかね?」

 

隣で歩いている舞ちゃんが私に尋ねる。私は指を頬に当てて暫し考える。

 

「お世話になってる人に何かお礼がしたいの。それで何か贈り物が良いかなって」

 

「ほほう?それは一体誰なのかなー?もしかしてー?」

 

私の言葉に、ニヤニヤ顔の舞ちゃん。

 

「えっと、舞ちゃんが思うような人じゃないよ?単なるお礼だから、お・れ・い」

 

私の言葉に、舞ちゃんは「ふーむ」と言いたいことはあるけど、半ば納得したように口を閉じた。

が、次に満面の笑みを私に向ける。

 

「それってもしかして、木場さんのことかにゃー?」

 

「ぶっ!?」

 

舞ちゃんの言葉に、私はステーンと地面に倒れた。

 

「ななななななななな、舞ちゃん!?急に何を言ってるの!?違うから!木場さんじゃないから!」

 

「えー?そうなの?てっきり、欠席してた時のお礼だと思ったんだけどなー?」

 

私は、顔真っ赤にしながら舞ちゃんに詰め寄るも、舞ちゃんの言葉に一瞬呆ける。

そして更に顔を真っ赤にして「そう!そうなの!それなの!あと塔城さんにもね!」と捲し立てた。

 

「はいはい、そう言うことにしておいてあげるね?」

 

私を笑顔で見てくる舞ちゃんの姿に、私は頬を膨らませた。

 

「ごめんごめん、あとでクレープを奢るので、それで機嫌を直して、ね?」

 

「・・・チョコバナナミルフィーユ、トッピングにアイスもつけること」

 

「心得ました、お嬢様」

 

そして私と舞ちゃんは、堪えきれなくて一緒に笑う。

アハハと笑う舞ちゃんの姿に、私は笑い声が漏れないよう、口を押えて笑う。

これが私の大切な時間なんだ。

私は改めて実感する。これが私の大切な時間なんだ。私の大切な世界なんだ。

 

だから私は思う。絶対に壊させない、と。

 

 

 

 

 

 

「いやー、久々の買い物は疲れたね。ね?ことなちゃんや」

 

「お礼の品を買いに行くからって、じゃあ小物なんて良いんじゃない?と言って、

 お店を何件も梯子したらそりゃ疲れるわよ」

 

ショッピングモールにある公園の噴水で、私たちはベンチに座っていた。

舞ちゃんはベンチで半ば解けたアイスのようにぐでーとしている。

あれから私たちは、お礼の品を買いにいくつもの店を見て回った。

流石ショッピングモールと言うべきか、小物やアクセサリーだけでも何件もあり、

私たちはそこをぐるぐるとまわっていたのだ。

 

ああでもないこうでもないと、各々の店の品を物色する姿は、

まさに獲物を狙う肉食動物だったのではないだろうか?

 

「でも良かったね、目的の物が買えて」

 

「うん、今日はありがとね」

 

包装紙に包まれた小箱の入った袋を見ながら、私は舞ちゃんに礼を言う。

 

「私はことなちゃんと友達だからね?困っていたら、助けるのが当たり前なのですよ。

 だからことなちゃん、困っていたら私に相談すること。いい?」

 

私に笑顔を向ける舞ちゃんに、私は「解ってるよ」と言いつつ、胸がちくりと痛んだ。

 

「それで、今から木場さんと塔城さんと一緒にデートだっけ?このこの~」

 

「だからデートじゃないって言ってるでしょ!ただのお礼だから!お、れ、い!」

 

また茶化しに来る舞ちゃんに私は怒る。

そうして少し時間が経ち、舞ちゃんがすくっとベンチから立つ。

 

「それじゃ、また学校で。あと無理はしないこと!いい?」

 

そう言ってベンチから離れようとする舞ちゃんを、私は呼び止める。

そして首を傾げる舞ちゃんに駆け寄り、小さな包装紙に包まれた箱を渡す。

 

「はいこれ、舞ちゃんのプレゼント」 

 

「え?」

 

私の言葉に、舞ちゃんは少し言葉を詰まらせる。そして呆けたままの顔で、私のプレゼントを受け取る。

実は店を回っている際、こっそりと買っておいたのだ。正直、本当はこれが本当の目的だったりする。

 

舞ちゃんは、受け取ったプレゼントと私の顔を何度も見返す。

そして、ようやく理解したのか、私をがばっと抱きしめた。

 

「ちょっと舞ちゃん!?」

 

「ごとなぢゃーん!!やっばりわだじはごどなぢゃんのどもだぢでよがっだよー!」

 

そのまま大声で泣き出す舞ちゃん。

その姿に、私はぎゅっと抱きしめ返しつつ、「私もだよ」と返した。

私も、舞ちゃんの友達で本当に良かった。

 

 

「えっと、あれは一体どうしたのかな?」

 

戸惑う声に私は現実に戻された。

 

「あれって、もしかしてことな先輩じゃないですか?」

 

次に聞こえた声に、私は顔が真っ青になった。

泣いている舞ちゃんをそのままに、私は首だけをぎちぎちと動かすと、

そこには待ち合わせの時間にやって来た木場さんと塔城さんが、遠目で私たちを見ていたのだった。



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22話

「注文が決まったら私を呼んでちょうだい」

 

そう言ったウェイトレスは、私たちにメニューを渡すと、直ぐにレジの方へと歩いていった。

腰まで伸びた茶色の髪が、動きに合わせてゆらゆらと揺れる。

ウェイトレスとは言ったけど、彼女の服装は黒色のワンピースに白のエプロンを着ている。

なんと言うか、普段着の上にエプロンをつけただけのような姿だ。

そして今の仕草は、ウェイトレスとしては清々しいほどに駄目な振る舞いと言える。

多分、初めての人は失礼なウェイトレスだな!と内心で怒るかもしれない。

でも常連の私からすれば、いつも通りの振る舞いなので寧ろ安心する。

もうあの人の言動に慣れてしまったのかもしれない。

 

「あ、今日はあの日なんですね」

 

私はいつも通りの対応に苦笑するけれど、他の三人は違う。

特に一度ここに来た木場さんと塔城さんは少し戸惑っていた。

舞ちゃんはメニューの方に目を向け、「おおぉ!?パフェがある!」とはしゃいでいる。

 

私も初めての時は戸惑ったので、二人を見ていると懐かしい気持ちになりました。

 

「リーシャさん、どうしちゃったんですか?」

 

レジの方へを視線を向けつつ、塔城さんが私に尋ねてくる。

きっと今の振る舞いに、二人は彼女に何かあったのではないか?と思っただろう。

二人からすれば、一度やってきたとはいえ、朗らかで柔和だった人が、急に淡白になったんだから。

それこそ、『人が変わったかのように』。あの時の私も、今の二人と同じようにそう思った。

でも理由を知ってしまえば、なぁんだ、と納得できるものなのだけど、

大抵は戸惑いが強いせいでそこまで回らないのかもしれない。

 

私は口元に手を当てて笑いを堪えつつ、二人に事情を説明することにした。

 

「あの人はリーシャさんじゃないですよ」

 

「それはどういうことだい?」

 

私の言葉に木場さんが関心を隠さずに聞いてきた。

 

「でも、あれはどう見てもリーシャさんですよね?」

 

塔城さんも木場さんに続いて尋ねてくる。私は二人に、一端落ち着くように言い、

二人が落ち着いたのを見て、ネタばらしをする。

 

「あの人はアーリィさん、リーシャさんのお姉さんです」

 

「え?」

 

「でも、あの姿はどう見てもリーシャさんじゃ・・・」

 

「私たちは双子なんですよ」

 

「え!?」

 

突如、後ろから聞こえた声に、私を除いた三人が振り向く。

そこにいたのは、腰まで伸ばした茶色の髪を一つに纏め、メイド服のような姿のリーシャさんだ。

 

「こんにちは、リーシャさん」

 

慣れていた私は、普通にリーシャさんに挨拶をする。

 

「こんにちはことなちゃん。やっぱりことなちゃんは解ってたのね」

 

「ええ、一度体験してますから」

 

「あら、そうだったかしら?」

 

悪びれる様子もなくコロコロと笑うリーシャさん。

この人、柔和な雰囲気を醸しているけれど、結構な悪戯心をお持ちのようだ。

そんなリーシャさんに少し呆れていると、レジの方からアーリィさんがやって来た。

 

「リーシャ、確かに私も時間がある時は手伝うとは言ったわ。

 でも私には接客は向いていないと何度も言っているわよね?

 この不定期のサプライズにしても、楽しんでいるのはリーシャだけよ?」

 

「!?」

 

「おお!?そっくりです!」

 

溜息をこぼしているアーリィさんに、木場さんと塔城さんは驚き、舞ちゃんは目を輝かせた。

なにせ目の前には同じ顔が二人もいるのだから。

ただし、リーシャさんの目はたれ目で柔和な雰囲気を纏う一方、

アーリィさんの方は少し吊り目で、そのせいで少し怖い雰囲気が漂っている。

 

「で、いい加減注文は決まったのかしら?」

 

こちらを見ながらアーリィさんが、少し急かす様に言ってくる。

長身と吊り目が相まって、彼女の雰囲気はリーシャさんと真逆の印象を与えてくる。

 

「もう、姉さんたら」

 

それをリーシャさんが咎める姿は、同じ双子の姿からして異様な光景だ。

そんなことを思いながら、私たちはメニューに目をおとし、各々の注文をするのだった。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ申し訳ないです。折角のデートに私が付いてきもがぁ!?」

 

「デート?」

 

「舞ちゃん!」

 

いきなりの直球ストレートな爆弾発言をする舞ちゃんに、私は顔を真っ赤にする。

慌てて舞ちゃんの口を塞ぐも、二人にバッチリ聞こえたみたいで、

木場さんと塔城さんは首を傾げて、私の方へと視線を向ける。

二人の視線に晒され、私は顔から火が出るかのような恥ずかしさを覚え、顔を下に向ける。

ちらりと二人に視線を向けると、木場さんが何か気付いたのか、私に笑顔を見せる。

ああ良かった、木場さんは冗談だと気付いてくれたんだ。

 

「そうだね、実は夢殿さんからぜひにと誘われてね。

 でも僕だけだと楽しくないと思って、せっかくだから塔城さんも誘ったんだ。

 そうだよね、塔城さん」

 

「はい、その通りです」

 

「もう二人とも!」

 

私の想いとは逆に二人とも舞ちゃんのノリに流され、私だけが顔を真っ赤にする羽目になってしまった。

私のあたふたする姿に、他の三人が笑いだし、凄く恥ずかしかった。

丁度よくケーキやパンケーキセットが来なければ、私はもう少し弄られていただろう。

運んできたリーシャさんが、ネズミを見つけた猫のような目を私に向けていたのは、多分気のせいだと思います。

 

 

 

 

「それにしても、二人は仲良しなんだね。ええと、君は・・・」

 

「はい!私は舞、前園舞です。気軽に舞ちゃんと呼んでください!」

 

「ええと、前園さんはずっと夢殿さんと付き合いがあるのかい?」

 

木場さんの質問に、舞ちゃんはニッカリと笑い、私に両手を握る。

 

「そうです!私はことなちゃんとずっと友達なのです。!これからもずっとです!」

 

「ま、舞ちゃん・・・恥ずかしいよ・・・」

 

「あはは、本当に仲が良いんですね」

 

塔城さんの言葉に、私はこくりと頷く。

正直、舞ちゃんがいなかったら、私はあのままだったかもしれない。

もしかしたら、あのまま潰れていたかもしれないと思うと、舞ちゃんは私の恩人だ。

塞ぎこんでいた私を、強引だったけど、舞ちゃんはその手を引っ張ってくれた。だから今の私がいる。

そう思いながら私は、既に木場さんと塔城さんと笑顔で談笑している舞ちゃんを見つめた。

 

パンケーキや紅茶を飲みながら、舞ちゃんが私を膝で突っつく。

ちらりと舞ちゃんに目を向けると、プレゼントの入った紙袋を指さしている。

あ、お礼のことををすっかり忘れていた。

私は紙袋からお礼のプレゼントを取り出し、二人に渡す。

 

「これ、お二人へのお礼です」

 

「「え?」」

 

突然のことか、予想していなかったのか、木場さんも塔城さんも驚いた顔をしている。

私は二人に、私が床に伏せっていた時のお礼だと説明すると、

二人は「そんなこと、お礼を貰うようなことじゃないよ」と言い出す。

が、そこは舞ちゃんが、

「これはコトナちゃんが私を誘って買った物なのですよ。だから貰ってくれませんか?」と暴露。

「そういうことなら貰わないわけにはいかないね」とすんなり貰ってくれた。

しかし、そのために私は何度目の気恥ずかしさを味わう羽目になった。

 

 

「これは、白い馬のキーホルダーかな?」

 

「こっちは白猫の髪飾りです」

 

「おお!?これは花のペンダントではないですか!」

 

そして何を思ったのか、三人とも私のプレゼントをその場で開けたのだ。

これも舞ちゃんが、「では早速プレゼントの中身を確認しましょう!」と言ったのが原因だ。

正直、公開処刑な気分です。

 

白い馬を選んだのは、私がある店で幸運のお守りの棚で商品とにらめっこしていた際、

白い馬は良い運を運んでくれる象徴と言うのを、店の人から言われたからだ。

ペンダントや髪飾りもあったのだが、男の子なので、無難のキーホルダーにしてみた。

決して、木場=騎馬、だから馬!ではない。決してない!

 

塔城さんの白猫に関しても同上で、こっちは塔城さんの姿がアクセサリーの白猫とタブったから。

いつも髪留めをしている塔城さんを思い出し、髪飾りなら使ってくれるかな?と思ったのも理由だ。

決して、小猫だから猫!ではない。

 

舞ちゃんのは朝顔のペンダント。これはお店の人が花言葉を教えてくれて、その言葉を聞いて選んだ。

そしてこのペンダントには、ある秘密があるが、多分舞ちゃんは気付かないだろう。それでいいと私は思う。

各々が私のプレゼントに喜んでくれている。それだけで私は嬉しかった。

そんなゆったりとした雰囲気の中、私たちは時間を過ごして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ!今日は楽しかったね!」

 

そして今、私たちは家に帰る途中だ。

木場さんと塔城さんは、カデンツァの前で別れ、今は私と舞ちゃんしかいない。

 

「今日は舞ちゃんに弄られ、木場さんや塔城さんに弄られっぱなしだったよ・・・」

 

「あははは、可愛いことなちゃんが見れて、私は満足です!」

 

「もう!」

 

そんな会話を続けながら、私たちは歩いている。

そして互いの家へと向かう分かれ道で、不意に舞ちゃんが止まった。

 

「舞ちゃん?」

 

その仕草に、私は舞ちゃんに言葉を投げる。その後ろ姿に、一瞬だけど恐くなった。

 

「二人とも、良い人だね」

 

「舞ちゃん?」

 

舞ちゃんは私の言葉を無視して話す。

 

「私、ことなちゃんがまた倒れたって聞いた時、すごく、すっごく心配になったんだよ。

 この前だって、私を助けようと無茶して、怪我までして、ずっと入院してたんだから」

 

舞ちゃんの言葉は続く。

 

「だからことなちゃんが欠席したと聞いた時、本当に恐かったんだよ?

 もしかしたら、またことなちゃんが無茶したんじゃないかって。それで私、どうして?って考えたんだ。

 どうしてことなちゃんが酷い目にあっちゃう?って」

 

「舞ちゃん!」

 

「そうしたら気付いたんだ。

 ことなちゃんが怪我をするようになったのって、急に具合が悪くなったのってさ。

 『ことなちゃんがオカルト研究部に入った後からずっとなんだよ』」

 

ぞわりと背筋に緊張が走った。

 

「だから私、木場さんと塔城さんに出会えたことは幸運だと思ったんだ。

 だって二人ともオカルト研究部の人だもの。だから私、ずっと二人を見てたんだ。

 話してる時も、プレゼントを開ける時も、ケーキを食べてる時も、ずっと二人を見てたの。

 もしも二人が、ことなちゃんに怪我をさせる様な人たちだったらって」

 

そして一端、舞ちゃんは言葉を止めた。舞ちゃんの沈黙がいやに重かった。

まるで海の中にいるような、上から押さえつけられるような感覚。

 

「でもそうじゃなかった!」

 

くるりと私を向いた舞ちゃんは、いつも通りの笑顔だった。

 

「二人ともことなちゃんのことを心配してた、私にでも解るくらいにね。

 だから私、二人のことを信用しようと思ったんだ。この二人ならことなちゃんを大切にしてくれるって」

 

「舞ちゃん、まるで私がお嫁に行くような言い方だよ?」

 

「いやいやいや、ことなちゃんが私の知らない内に友達の輪を広げていたことに、私は驚いているのです」

 

「それは褒めてないよー!」

 

先ほどまでの雰囲気が嘘のように、私たちは笑いあう。薄暗くなりつつある小道で、私たちは笑いあった。

そして別れる際に、互いをぎゅっと抱きしめる。舞ちゃんの体温を感じた気がした。

 

「じゃあねことなちゃん!無理しちゃだめだよ!絶対だからね!絶対だからね!」

 

「はいはい分かってるから!それじゃあまた学校で!」

 

互いにバイバイと手を振る私たち。そして私は、嬉しい気持ちで家の扉を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は、和平会談が行われる日まで、いつも通りの日常を過ごした。

いつも通りに大忙しに学校を走り回り、桐生ちゃんからは嫌味交じりに心配されたりもした。

オカルト研究部の方は、新メンバーのゼノヴィアさんとの距離感に四苦八苦している。

やっぱり、初めて会った時の印象が未だに抜けきれていない。

でも、なぜだろうか、あの時と比べると酷くアホっぽく思ったのは気のせいだろうか?

 

また名前だけは知っていたギャスパー君とも、初めて顔を合わすことが出来た。

初めて会った時は、女子生徒の制服を着ていたので、てっきり女ことと思ったのだが、男の子だったことに吃驚。

ちらりと変態を見れば、案の定、初めて会った際に浮かれ、そしてショックを受けていたことを、小猫ちゃんから教えて貰った。

ギャスパー君は、その目に時間を止める力を持っているらしく、そのせいで酷い扱いを受けていたという。

そのせいで人見しりになり、引きこもりにもなってしまったとか。

その姿に、私はかつての自分を重ねた。それは舞ちゃんがいなかった時の私だった。

何もかもに絶望し、誰とも顔を合わせたくなくて、家に籠っていた私だ。

 

だから私は、気付けばギャスパー君を抱きしめようとして、怯えたギャスパー君に時間を止めらたのは凄くショックです。

取りあえずは、互いの距離をゆっくりと小さくするために、紅茶や御菓子を差し入れる様にした。

始めは怯えていたけれど、今では多少なりと一緒に食べれるようになったので、努力は裏切らないことが証明されました。

 

そんな日を送り、そして気付けば和平会談当日。

 

「さあ、みんな行くわよ」

 

リアスさんの言葉を受け、私たちは会議室の扉を開いた。




ラベンダー


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23話

加筆修正しました


冷えた。

会議室の扉を開けた瞬間、私の身体は氷のように、石のように、固まった。

私は無意識のうちに、自分の身体を抱きしめた。

 

まるで、極寒の世界に放り込まれたような感覚に陥った。

目の入ってきたのは、何も変わらない職員会議室。

それこそ、プリントやらを持っていくたびに何度も訪れ、何度も目にした光景だ。

もしかすると、他の生徒よりも多く訪れたかもしれない。

だというのに、まるで別の空間に感じた。

 

寒い。

 

必死に自分の身体を抱きしめるけど、それでも身体が震えだす。

チラリと他の人を見ると、私ほどではないけれど、みんな緊張しているように感じた。

特にアーシアちゃんは変態と手を繋いでいる。

多分、人見知りで恐がりなギャスパー君がいたら、その場で泣いてしまいだろう。

そのギャスパー君は、まだまだ『停止世界の魔眼』を使いこなせていないため、部室に待機している。

恐がってうっかり発動!時よ止まれ!なんて事故は流石に拙いとのこと。

 

この日のために色々と特訓をやっていたのだが、どうも成果はよろしくなかったみたい。

人見知りや引きこもによる運動不足克服の件は、流石に「私もちょっと待ってください」と言ってしまったけど。

ゼノヴィアさんがデュランダルを振り回し、塔城さんがにんにくやら十字架やらを持って、泣き叫ぶギャスパー君を追いかけ回している姿を見れば、誰だって止めると思う。

寧ろ彼の人見知りや対人恐怖症が悪化しなかったことが奇跡だと思う。

 

その後は、変態がボールを投げて、それをギャスパー君が止める。そんな特訓をしていたかな。

なんか変態が、「時間を止められたら、女の子のパンツを見放題!おっぱいも触り放題じゃないかひゃっほぉぉぉぉぉぉ!」と叫んでいたので、ギャスパー君に悪影響を及ぼさないか心配になりました。

 

話を戻すけど、そんな理由でギャスパー君はこの場にはいない。

やはり心細いのか「お、お留守番、が、ががんばりますぅぅぅぅぅぅ!」と半泣きだった。後で様子を見に行くことにしよう。私も、この中にはずっといたくないと感じたから。

そんなことを考えていると、リアスさんが中に入っていくので、私たちもそれに続く。

 

そして目に入ってきたのは、なんか豪華そうなテーブルとそれを囲むように座っている方々。

まずは、リアスさんと同じような赤い髪の男性とその隣にいる銀色の髪のメイドさん、そして黒い髪をツインテールにしている女性。

事前にリアスさんから、この会議には魔王様、リアスさんのお兄さんが出席すると教えて貰った。

そのことから、多分この人がリアスさんのお兄さんで、悪魔の魔王様なんだろう。

そしてツインテールの黒髪は、授業参観に来た人だったろうか?確か生徒会長のお姉さん?だったけ。

この人も魔王の一人らしいけれど、私の中では魔法少女コスプレの人という認識が強い。

授業参観になぜか魔法少女のコスプレをしてやってきたせいで、一騒動があったのを覚えている。

今はコスプレではなく、装飾が施されたドレスの出で立ちだけど。

 

次に、金髪で柔和な顔立ちをしている男性とその隣にいる少女。

男性の方は、絵本や漫画などでよく見るような光の輪っか頭にあり、金色の翼をしている。

その隣にいる少女は、同じように頭に輪っかがあるが、男性とは違い、白い翼だ。

多分、この二人が天使様なのだろう。

 

そして最後、背中に何枚もの黒い翼を生やしている男性。

私から見ても豪華そうなローブを羽織っている。

その姿に、私たちの町を襲ったあの堕天使の姿とダブった。その瞬間、一瞬だけど心が冷えた。

間違いなく、この人が堕天使の人だ。コイツガ止めなかったセイで・・・。

 

私は頭を振り、そんな思考を追い出した。私は今、何を思ったんだろうか。改めて堕天使の方をこっそりと見る。

 

ぱっと見た出で立ちは、なんちゃってちょい悪親父。

黒髪なのに一部を金髪のメッシュをしてるせいで、更にその印象が強くなる。

顔立ちはイケメンなので、仮に町を歩いてナンパをすれば、大抵の女性が引っかかるだろう。

でも、ニヤケタ顔からの印象からか、この人は女を泣かせるタイプと感じた。

そしてその隣に銀髪の青年。多分、この人が確か『白龍皇』という、あの白い鎧の中身だろう。これもリアスさんから聞かされた。何でも、私が事件の後に寝込んでいた間に何度かやって来たらしい。

あの時のことしか印象が無いせいか、私はこの人に対しては悪い印象が強い。白龍皇が私の方を見ると、口元を歪めた気がした。

その姿に、私は意識なくギリリと歯を噛みしめた。

 

「夢殿さん?」

 

私の名前を言われ、私ははっと我に返る。

木場さんが私を心配そう見ている。多分、ぼうっとしていたのだろう。

気付けば、リアスさんたちは壁際に設置された席へと移動している。そこには既に蒼那会長たちが座っていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、え・・・うん、私は大丈夫です」

 

塔城さんの言葉に、若干上ずったように答えたが、誤魔化す様に席へと着く。

 

 

 

 

 

そして私たちは、目の前で行われている会談を見続けている。

聞き耳を立てれば、互いに協力云々、種族を守るため云々の内容が聞こえる。

会談が始まってから何分たっただろうか?

 

魔王様、サーゼクスさん?がリアスさんに事件の説明を促した。

そこからはリアスさんが事件のあらましを説明する。私の名前が出た瞬間、私の身体はびくんと少し跳ねた。

 

「これが事件の報告になります」

 

リアスさんが報告を終えると、各陣営の人々は異なる反応をする。

溜息を吐く者、顔を顰める者、そして楽しそうにニヤつく者、全く違った。

でも、私が感じる圧迫感、見られている感覚は、各々の方向から同じように感じた。

 

サーゼクスさんがリアスさんに礼を言い、席に着かせる。

 

「まずは堕天使総督の意見を聞こう」

 

サーゼクスさんが堕天使総督、確かアザゼルさん?の方へと顔を向ける。

 

「今回の件においては、我が堕天使中枢組織『神の子を見張る者』の幹部であるコカビエルが、他の幹部および総督の俺に無断で、そして単独で行ったことだ。奴の処理は『白龍皇』が行い、その後はこっちで話し合いを行い、永久冷凍の刑に処した。もはや奴は一生氷漬けだ。これらに関しては既に送った書類に全部書かれていはずだぜ?。それが全部さ」

 

不敵な笑みをしながら、アザゼルはそう締めくくった。

 

は?

 

無意識に左腕を掴んでいた右手の力が強くなる。

それで納得しろと?それで全部終わったと思っている?ギリギリと右手の力が強くなる。

貴方のせいで私たちの町は危険に晒されたって言うのに、それなのに謝罪がないのか?

つまり、『自分は悪いと思っていないってことか?』ギリィ・・・と、歯の軋む音が聞こえた。

 

「夢殿さん!」

 

木場さんの言葉に、私は力んでいた右手を離した。隣の椅子に座っていた木場さんが、心配そうな顔で私の肩に触れていた。

 

「ありがとうございます」

 

感情に流されていた心を、私は一端落ち着ける。大丈夫、私は大丈夫。そう自分に言い聞かせる。

そんな私を置き、会談は進んで行き、気付けば、いつの間にか和平の話になっていた。

悪魔、天使、堕天使は、戦争によって大きな傷を負った。

そのせいで、もはや戦争を続けることも難しく、このまま続ければ共倒れとなる。

各陣営も、これ以上は戦争を続ける気もない。ゆえに、ここで負の連鎖を断ち切る為に和平を結ぶとか。

 

「ではここらで赤龍帝殿の意見をお聞きしたいのだが、よろしいでしょうか?」

 

ミカエルさんの言葉で、一同の視線が変態へと向く。

変態はミカエルさんに対し、どうしてアーシアを追放したんだ!どうしてこんな良い子を!と問いただす。

ミカエルさんの説明では、神が死んでしまったため、神の代わりに奇跡を行うシステムを天使たちが運営している。

だが、そのシステムは極めて繊細なため、神と同じように動かすことが出来ず、加護もかなり限定されるらしい。

そして繊細ゆえに、システムに影響を与える物を遠ざける必要があったとか。

結果、悪魔を癒す『聖女の微笑み』は極めて危険と判断し、追放という処分にしたとか。

また、神の不在を知る者も同様に危険視されたため、ゼノヴィアさんも追放処分を受けたという。

 

そしてミカエルさんの謝罪に対し、アーシアちゃんとゼノヴィアさんは、多少なりと思うところはあったらしいけど、今の生活に満足していると答えた。

確かに二人は満足しているのだろう。一緒に過ごしているとそんな印象を受けた。

 

でも私は思った。じゃあ、他の人はどうなんだろうかと。

それこそ、アーシアちゃんやゼノヴィアさんと同じように、システムを守るために異端とされた人々はいるはずだ。

信じていた者に裏切られた人たちだって、他にもたくさんいるかもしれない。

必死に祈っても、その祈りが届かずに絶望した人がいるかもしれない。

その人たちは今、幸せになっているだろうか?と。

 

そんな考えが頭が過る中、変態が今度はアザゼルさんに突っかかっていた。

結局はアザゼルさんの口に翻弄されてしまっていたが。

でも、私は確かに聞いた。

 

『たしかに俺たち堕天使は、危険な存在、害悪になる可能性のある神器保有者を始末している。だが組織としては当然だろう?将来的に危険な存在になるかもしれない者を事前に知ったら、先に始末することは。ただの人間であるお前では、赤龍帝の力を暴走させ、俺たちや世界を危険にさらすかもしれなかったからだ』

 

『それにお前が悪魔になったことを少なからず喜んでいる奴はいるぞ?』

 

その言葉は、私の中に汚泥のようにこびり付いた。

確かにそれは正論だ。危険な者を始末したくなるのは当然の理屈だ。誰が危険と判っている者を放置するだろうか?

仮にそんな奴がいるとすれば、それははっきり言って馬鹿だろう。

だから、堕天使総督の言葉は道理がある。だが私は思う。

 

それは、あなた達にも当てはまる理論ですよね?と。

 

私の心が黒く染まりだす。視界から色彩が消えだし、モノクロへと変わっていく。

目の前では、変態が「和平が一番です!その通りです!俺、部長とエッチしたいです!」とほざいている。

そんなことを聞きながら、私の心が冷えていく。

少なくとも、今の私には理由が出来た。貴方の言葉が正しければ、私もそれが出来る。

だから、これは正しいことだ。そう思いながら、私の中から『手』が伸びて

 

「で、さっきから時折、俺に殺気を飛ばしている嬢ちゃんの意見はどうなんだ?」

 

堕天使総督の視線が、私へと向けられた。



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24話

「ことな・・・!?」「夢殿さん!?」

 

「・・・」

 

リアスさんや木場さん等の言葉を聞き流しながら、私は堕天使総督の方へと目を向ける。

堕天使総督・・・確かアザゼルだったか?は、私を観ながらもそのにやけた顔を崩さない。

まるで面白い物を見るような顔。それは隣にいる白龍皇と同じような、不快な視線。

 

「お前さんだろ?俺に向かって殺気を飛ばしてたのは」

 

沈黙する私を余所に、アザゼルは話す。それは質問ではなく確認。

始めから私だと分かっている上で、ただその事実確認をしているだけだと感じた。

 

「これでも命のやり取りをしてきた身なんでね。そう言ったことには聡いんだよ。

 というか、それ位しないと伊達に堕天使総督なんてやってられねぇ」

 

自虐する様に、口元を歪めるアザゼル。その顔すらも、今の私には不快に感じる。

この人にも見えていないだろうけど、私の身体からは既に『手』が生えている。

やろうと思えば、直ぐにでもこの男へと襲いかかることが出来る。でも私はそれを抑え込む。

目の前の存在が私にとっては不快だった。でも一応、堕天使の一番偉い人なんだ。丁重に扱わないと駄目だと。

私は深く息を吸い、そして吐いた。黒く歪んだ感情は少しずつだけど静まっていき、『手』も私の中へと戻る。

良かった、なんとか落ち着くことが出来た。

 

でも、なんで私はこの人を襲おうと思ったんだろうか?あれ?なんで?

 

自分の中に起こる違和感に戸惑いつつ、私は自分の過ちを認めた。

 

「すみません」

 

そして私は、アザゼルさんにただ頭を下げて謝罪する。

もう一度確認するけど、仮にもこの人は堕天使総督。そしてそんな偉い人に対して、私は殺気を当ててしまった。

だから私は謝らなければならない。

 

「いや、別に気にすることはないぜ?誰から殺気を当てられるなんて久々なんでね。そしてその相手がコカビエルを痛めつけた件の相手となれば、気になるってもんさ」

 

当の堕天使総督は、別に気にした様子もなく、むしろ面白いというように笑う。

 

「ことな、お願いだから気をつけてちょうだい。相手は堕天使総督よ。何かあったら大問題なんだから」

 

「そうだぜことな。お前のせいで部長に迷惑がかかったら俺は怒るからな」

 

「リアスさん、本当にすみませんでした」

 

変態が何か言っているが、確かに私の行いでリアスさんに迷惑をかけてしまった。だから私はリアスさんにも謝る。

 

「でだ」

 

堕天使総督が手を一つ叩き、場を鎮めた。そして私の方へと視線を向ける。

 

「お嬢ちゃんからの意見はどうなんだい?」

 

「なぜ、私に意見を聞くんですか?私はただの一般人ですよ?それこそ皆さんとは違い、ただの人間です。この会議は悪魔・天使・堕天使が主役の筈です。一応、私はリアスさんの部員なので悪魔側として参加してますど、人間の私に発言権はないと思います」

 

「へぇ?慢心してただろうが、俺んとこの幹部を痛めつけた奴が『ただの人間』、ねぇ?」」

 

堕天使総督が溜息を吐く。

 

「一応、お前さんのことは事前に知ってるんだ。腹の探りは止めて、腹を割らないか?」

 

その言葉に私も溜息を吐く。正直に言えば、今すぐにでもここから出たい。ギャスパー君の所へ駆け込みたい。でもそれは出来ない。この状況で、私が拒否的な対応をすれば、必ずリアスさんたちに迷惑がかかる。それどころか悪魔に、ひいては世界に迷惑がかかりそうで怖い。

見渡せば、魔王様も天使様も、それこそリアスさんや支取会長達さえも私を見ている。

 

「解りました。それは『私個人』の意見を言ってもいい、という事で良いでしょうか?みなさんもそれでいいですか?」

 

「おう、助かる」

 

「ええ、私は何も言うことはありません」

 

「私としても助かるよ」

 

緊迫した空気が微妙にほぐれた・・・気がした。

でも、悪魔・天使・堕天使の偉い人たち+その他の視線を受けるとか、正直に言うと逃げ出したい。それこそ、ギャスパー君の気持ちが痛いほどに解ってしまうほどに。でも、ここで逃げるわけにもいかない。なぜなら、私なりに思うことが言える機会が来たのだから。

 

「『私個人』としては、この会議の内容に関しては何も言いません。兵藤くんの言う通り、平和が一番ですから。

それでですね、私がリアスさんたちと一緒に過ごし、今の会談から自分なりに思ったことがいくつかあります」

 

まずはサーゼクスさん等の方へと顔を向ける。私の行動に、サーゼクスさん等は微笑み、逆にリアスさんらはぎょっとしていた。

 

「実は私、はぐれ悪魔に襲われたんです。確か、リアスさんたちが婚約を破談にするための山籠もりをしていた時だった思います。確か彼女、名前をレディプスと言ってました。私が何とか退けた際に彼女が言っていたんです。自分は主に裏切られた、だから主を殺したと。サーゼクス・・・さん、私がリアスさんから聞いたのは、はぐれ悪魔は、堕落、または力に呑まれた悪魔って聞いたのですが・・・」

 

「ことな!?」

 

リアスさんが声を上げ、びくりと塔城さんが反応した。

サーゼクスさんは、私の顔をじっと見つめ、そして溜息を零す。

 

「はぐれ悪魔の殆どが力に呑まれた者達だ。それは確かなことだよ。彼らはとても危険で、放っておくと冥界だけではなく、人間界にまで危険を及ぼす。だからはぐれ悪魔を野放しには出来ない」

 

「それが主に非があったとしても・・・ですか?」

 

私の言葉に、サーゼクスさんの雰囲気が変わった。隣にいるセラフォルーさんもだ。

 

「どんな理由があるにしても、主殺しは罪だ。そしてその罪は償わなくてはいけない」

 

その言葉に、誰かの顔が強張った。

 

「でも安心してほしい。私たちも、君のいう事は既に気付いているし、そのための対処はしている。自身の眷属を蔑ろにする主に関しては、それ相応の罰を与えることを、被害にあってしまった眷属を守ることも約束するよ」

 

「これでも私たちは魔王だからね。やらなきゃいけない義務は果たさないと」

 

そう言い終えると二人の雰囲気が元に戻った。でも、私の身体は震えが止まらない。やはり魔王という存在はこうも恐ろしい存在なんだ。はっきり言って、意識を保っているのが不思議なくらい。

 

「そうですか・・・。ありがとうございます」

 

私は頭を下げつつも、ちらっと塔城さんを見る。でも彼女は俯いてしまい、その顔を見ることは出来なかった。

ふと何かしらの視線を受けた。そっちの方へと顔を向くと、何やら言いたげなリアスさんの顔があった。

 

あ、目があっちゃった。

私は内心でやらかしたことに気付いた。そりゃそうだろう、何せ魔王様はリアスさんのお兄さんなんだ。そのお兄さんに対し、私は不躾なことを言ったかもしれない。そう考えれば、リアスさんが何か思っても仕方のないことだ。ちらりと横を見れば、同じように支取会長も私を見ていた。こちらはリアスさんほどではないけど、顔の表情が硬かった。これが終わったらまたリアスさんと支取会長に謝ろうと決めた。

あと、変態は私を見るんじゃない。なんでお前もそんな目で私を見る。取りあえず変態は無視しておこう。

 

 

「次に天使様にお聞きしたいんですが、良いでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ。ああ、私のことはミカエルで構いません」

 

次に私は金色の翼を持つ天使様、ミカエルさんの方を見る。ミカエルさんの印象は、柔和で優しさを纏った人、いや天使。その黄金の翼があることで、神々しい雰囲気を醸し出している。確かにこの人は天使様なのだろう。

 

「ミカエルさん、失礼を承知で聞きます。システムを脅かす存在、アーシアちゃんやゼノヴィアさんのような人は、システムを守る為に追放する、と言ってましたよね?」

 

「ええ、心苦しいことです。神の死により、システムを維持するためにセラフ(私たち)が全力を尽くしています。ですが困難を極め、神のように十全に動かすことも難しく、加護も慈悲も以前のように与えることが出来ないのです。そのため、不安定であるシステムに影響を与える物を教会から遠ざける必要がありました」

 

「これに関しては先ほども言ったように、アーシア・アルジェントやゼノヴィア・クァルタに過酷な道を歩ませることになりました。それについては、私たちの力不足故、申し訳ないことをしました」

 

改めて謝罪するミカエルさんの姿に、アーシアちゃんとゼノヴィアさんは慌てふためく。

でも、私が知りたいのはそうじゃない。

 

「では、アーシアちゃんやゼノヴィアさん『以外』の人たちはどうなったのか知っているのですか?」

 

「それは・・・」

 

柔和だったミカエルさんの顔が少し強張った・・・気がした。

 

「アーシアちゃんとゼノヴィアさんに関しては、『私』は何も言いません。二人が納得しているのですから。でも、二人以外にも異端になってしまった人はいるはずです。二人のように、信じていた物から否定されてしまった人もいると思います」

 

「ことなさん?」「ことな?」

 

私の言葉に、アーシアちゃんとゼノヴィアさんが戸惑う。でも私は気にしない。

そう、二人だけではないはずだ。こうなってしまった人は、二人以外にもいるはずなんだ。

 

「私は信仰心があまりないので想像が出来ません、ですが、信じていたものに裏切られた人の気持ちは少なからず解ると思います。確かにシステムは大事だと思います。それで多くの人が救われているのも事実だと思うから。でも、そのために異端にされてしまった人たちのことについて、ミカエルさんはどう思っているのですか?」

 

目の前のミカエルさんは、サーゼクスさんと同じように私を見つめる。

隣の天使が私を睨みつけるが、ミカエルさんの視線に気付き、「申し訳ありません」とと頭を下げた。

 

「痛ましいことです。私たちの力不足ゆえに、多くの信徒の手を離してしまった。これは許されることではありません。だからこそ私はこの場にいるのです。この手から零れおちた彼らを救うためにも、私たち天使は、悪魔や堕天使と手を取る必要があるのです」

 

「不躾な質問をして本当にすみませんでした。無関係な私が言うのもどうかと思いますが、お願いです。道を失った人たちも助けてください。本当にお願いします」

 

「ええ、言われるまでもありません。彼らは私たちにとって大切な信徒なのですから」

 

ミカエルさんの顔は、始めに出会った時のように柔和になっていた。

ちらりとアーシアちゃんとゼノヴィアさんを見れば、二人とも私に対して何かいいたげな視線を送ってくる。

普段から怒らないアーシアちゃん故か、その顔は少し怖かった。ゼノヴィアさんはもっと怖かった。

 

「で、最後は俺か」

 

私はその声の方へと顔を向ける。私を見ながら、堕天使総督のアザゼルさんが苦笑いをしている。

 

「大方、俺の部下が町を襲ったことに関してだろ?それに関しての話は済んだはずだ。レイナーレ達はお前等が倒し、コカビエルに関してはこちらで罰した。なら問題はないんじゃないか?」

 

「でもそれは貴方のせいで」

 

「俺の監督不足が招いたことは事実だ、それは認める。だが既に罰は下された。これ以上の罰を下すのは些か酷ってもんじゃないのかい?」

 

「なら神器を持っている人を殺している件は・・・」

 

「それは自衛のためだ。言っただろう?神器持ちは危険になる可能性がある。だったら先に目を潰すのは当たり前だ。俺は堕天使総督だ。組織を守るためならどんな手でも使う」

 

「でも・・・!」

 

私の感情が徐々に熱を増していく。目の前の堕天使総督は確かに罪を認めているしそれの対応をした。でも、納得できない。納得できるはずがない。こいつは『まだ謝っていない』。

『ごめんなさい』『すみません』『悪かった』その言葉が出てこない。

この人は本当に心を痛めているのか?反省しているのか?解らない、分からない、判らない・・・。

 

「ことな・・・?」

 

どうして謝らない。どうして謝らない。どうして謝らない!

目の前の男は、自分の行いを反省していない。むしろ棚に上げて言い訳をしている。

組織を守るため?既に処分は終えていた?だから仕方がないと?しょうがないと?

 

ふざけないで

 

私の気持ちは澄んだ水のようにまっさらになる。混ざり混ざった色が漂白され、澄み切った透明な色になる。

 

『いいよ、出てき・・・!』

 

「ことな!」

 

両肩を掴まれ揺さぶられる。

はっと意識を取り戻すと、目の前にリアスさんが立っていた。

 

「あなた今・・・何をしようとしたの?」

 

「え、あれ?え・・・?」

 

私は今思ったことを思い出し、頭を抱える。

あれ?どうして私は、え?なんでリアスさんが私の肩を掴んで、あれ?そもそも私は何をしようとしたの?

混乱する頭で、私は周囲を見回す。すると周りの全員が、それこそこの部屋にいる全員が私を見ていた。

 

「わ、私、私は・・・」

 

私は目の前の堕天使を攻撃しようとした、『友達を使って』

 

「ことな、お前何しようとしたんだよ!!」

 

兵藤が私に声を荒げる。

 

「ち、違います、私はそんなつもりじゃ・・・」

 

違う。

 

「そんなつもりってなんだよ!今お前、何かしようとしただろ!?」

 

「ち、違う・・・。私はそんな・・・」

 

「ことな、落ち着きなさい。良いから、お願いだから落ち着いて」

 

リアスさんの優しい声が聞こえる。でもその瞳を見た時、私は感じた。微かに怯えていることに。

 

「いいから深呼吸をして、心を落ち着かせるの」

 

ちらりと周りを見れば、誰もからもがそんな目だ。

怯える者、興味を持つ者、警戒する者、驚く者。そんな様々な視線だ。

 

「すみません。少し頭を冷やして来ます」

 

私は失礼だと思いつつも、会議室から飛び出した。

そうだ、ギャスパー君のところへ行こう。そこへ行けば、少しは頭が冷えるはずだ。

そんなことを思いながら、私は止める誰かの声を無視して、会議室から逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢殿さんを追いかけます!彼女一人だと心配ですから!」

 

「あ、私も行きます」

 

「ええ、お願いね」

 

木場祐斗と塔城小猫が夢殿ことなを追いかけるように、会議室を飛び出した。

リアスは、あの二人なら大丈夫だと思い、ことなのことをお願いした。

 

「アザゼル、どういうつもりなんだい?私の可愛い妹の友達をああした理由は?」

 

夢殿ことなが飛び出して行った後、残された者の視線はアザゼルへと注いだ。

悪魔陣営からは警戒、敵視を含み、天使陣営からは咎めるような視線だ。その視線を受けつつも、アザゼルは苦笑いをする。

 

「いや、悪気はなかったんだがなぁ。あの嬢ちゃんの持つ力に興味があってね。どうしたらそれを見れるかと思ってたんだよ」

 

「なっ!?」

 

その言葉に、リアスが何か言おうとするが、サーゼクスがそれを静止する。

 

「でもだからと言って、あんなに追い詰める必要はあったのですか?」

 

「ああなるとは思ってなかったんだよ」

 

ミカエルの咎めに、アザゼルはぼりぼりと頭を掻く。

 

「渡された資料から、俺はあの嬢ちゃんが神滅具の1つ、『魔獣創造』を持っているかもと思っていたんだよ。資料によれば、『友達』っていう奴を呼べるみたいだからな」

 

「神滅具ですって!?」

 

神滅具という言葉に、会議室は驚きに包まれる。

神滅具、それは神すらも殺せる力を有した神器。兵藤一誠の『持つ赤龍帝の籠手』、ヴァーリの持つ『白龍皇の翼』がそれに当たる。そしてそれ以外にもいくつか存在し、そしてどれも各々の力を宿している。

 

「でもありゃ違うな。資料にもあったように神器の反応がなかった。別段、隠してるような素振りでもなかった。多分、異能の類いだ。ただし、『それ相応』の力を持った、な」

 

「それはどういうことですか?」

 

「言っただろ?不意打ち、慢心に油断をしていたとはいえ、うちのコカビエルをヴァーリが来るまで『痛めつけた』んだ。その事実がある時点で、あの嬢ちゃんの力はヤバい代物だとは思うのが普通だ。そしてさっきのアレだ」

 

「あれというは・・・」

 

「嬢ちゃんから発せられたどす黒い負の感情のだよ。お前等も感じただろ?ただの人間が持つには不相応な感情をな。資料にもあったが、力を使いだすと嬢ちゃんは感情を抑えられない。つまり嬢ちゃん自身の感情による影響が大きいってことだ。普段は使いこなしているみたいが、さっきのように感情的になれば容易に暴走する。そしてその力はコカビエルほどではないがそれ相応と見ていい」

 

その言葉に、会議室の空気は静まる。

 

「まあ資料に乗ってる本人の言い分だと、こっちには率先して攻撃するつもりはないらしいがな」

 

その言葉を終えると、アザゼルは大きく伸びをした。誰もがアザゼルの言葉を聞き、黙っている。

ただ一人を除いて、誰もが信じられない顔で。

 

そんな中、リアスに木場祐斗からテレパシーが送られた。どうやら無事に夢殿ことなに合流出来たようだ。

 

「二人がことなと無事合流したみたいね。それで、ことながもう少し頭を冷やしたいみたいで、ギャスパーの所に行くようです」

 

木場祐斗からの内容を伝え、ひとまずは落ち着けるような雰囲気になった瞬間、『世界が停止した』



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25話

まるで万力で締め上げられるような痛みが頭を襲う。

視界が歪み、足元がふらつき、自分が今どこを歩いているのかすら曖昧だ。

考えることさえも、頭の痛みで苛まれる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

キリキリと痛む頭に手を当てながら、私は校舎の廊下を歩く。

目指すはギャスパー君がいるオカルト研究部。新校舎からは遠いけれど、今の私はそこが避難場所に思えた。

あの時、怒りに任せ、『友達』を使ってあいつをねじ伏せようとした。

もしもリアスさんが止めなかったら、私はあのまま『友達』の手を振り下ろしていただろう。

兵藤一誠からの問い詰めと、リアスさんの瞳から見えてしまった怯えの色、そして周りからの視線。それに私は耐えきれなかった。だから逃げ出した。

取りあえず、落ち着くまでギャスパー君と一緒にいよう。でも、落ち着いたらどうしよう?もう、あそこには戻りたくない。私が耐えられないから。

 

そう思う一方で、私はしなければならないことをする。

 

「ごめんなさい」

 

私は『友達』に謝る。

私を守ってくる『友達』なのに、私は『友達』を私情で使おうとした。木場さんと塔城さんの前で、人を傷つける為に『友達』を使いたくないと言っておいて。

 

「ごめんなさい」

 

私は『友達』に謝る。そうしないと私の心が壊れそうになるから。

でも『友達』からの返答はない。怒っているのか、それとも許しているのか、それすらも判らない。

 

未だ足元がふらつきながらも私は進む。片方の手を壁にもたれているから、ふらついて倒れることはないだろう。

それにしても、今の私は変だ。さっきからどうして頭が痛むんだろう?苦しいのだろう?こんなことは今までなかったはずなのに。

そもそも、私は人を傷つけるのが好きじゃなかったはずなのに。どうしてあいつを・・・。

そんな考えが頭を掻き乱す中、私の耳に、私の名を呼ぶ声が聞こえた。その声が、酷く頭に響く。

 

「夢殿さん!」

 

振り返れば、木場さんと塔城さんが私の元へと駆け寄ってきた。

私の有様に二人は驚いた後、一緒にオカルト研究部まで付いて来てくれることになった。

二人は私を支える様に歩いてくれることに、私は感謝した。

 

 

「夢殿さん、一体どうしたんだい?」

 

「どうしたって、何のことですか?」

 

「とぼけないでください。今のことな先輩の姿を見て、何にもないわけないじゃないですか」

 

塔城さんの言葉に、私は平気なように笑う。でも、塔城さんの顔は変わらない。

 

「今のことな先輩はおかしいです。足元だってフラフラじゃないですか」

 

「大丈夫だから、少し気分が悪くなってるだけだから。少し休んだら、きっと元に戻るから」

 

「嘘だね」

 

私の言葉に、さっきから黙っていた木場さんが答えた。顔を向ければ、木場さんの顔が苦笑していた。

 

「夢殿さん、分かって言ってると思うけど、どう見たって大丈夫じゃないよ。顔色は悪いし、身体だって震えてる。足元もおぼつかないみたいだし、どう考えたってまともじゃない。それなのに、大丈夫なんて言うのはちょっと悲しいかな」

 

「それは、どういうことですか?」

 

木場さんの言葉が、私には分からない。木場さんは何を言いたいんだろう?

 

「夢殿さんは、僕たちを頼るのは嫌いなのかな?」

 

その言葉に、私は言葉を失った。

 

「夢殿さんは、今でも僕たちと距離を取ってると思うんだ。契約活動の手伝いもしてくれるし、時には差し入れもしてくれる。夢殿さんのおかげで、部長も僕たちも助かってる。夢殿さんは僕たちに対して、本当に大切な人だよ。でも、夢殿さんからは、僕たちにあまり頼みごとをしないよね?」

 

「それは・・・」

 

木場さんの言葉に、私は言葉を返せずに口籠る。

 

「気付いてないと思うけど、夢殿さんは凄いと思うよ。学校の手伝いだけじゃなく、僕たちの手伝いもしてくれる。気付いたら何でもやってしまう。でもね、夢殿さんだって僕たちに頼っても良いと思うんだ。辛いことも大変なことも、一人で抱え込む必要はないと思う。もし何か困っていたら、僕たちに頼って欲しい。僕たちだって、君の力になりたいんだから」

 

「そうです。私たちだって、ことな先輩の力になりたいんです」

 

木場さんと塔城さんの言葉に、私は心が軽くなった気がした。舞ちゃんだって、桐生ちゃんだって言っていた。治私は一人で抱え込んでるタイプだって。誰かに頼っても良いんじゃないの?と。

 

そうかもしれない。今でも私は、悪魔も天使も堕天使にも、あまり良い感情はない。でも、木場さんや塔城さん達と一緒にいて、一括りにするのは間違いだと思えた。嫌な人もいるし、良い人もいる。それだけのことなのかもしれない。だったら私は、私の周りの人を信じようと思う。

 

「木場さん、塔城さん・・・ありがとう、ございます」

 

私は二人のお礼を言う。それは私の本当の気持ち。二人のおかげで、私は凝り固まっていた疑心がほどけた気がする。

 

 

「どういたしまして。少しは頼ってくれないと、お礼が返せないからね」

 

「そうです。恩の借りっぱなしは、私たちも嫌ですから」

 

「じゃあ、今までの恩をまとめて返して貰いますから、覚悟してくださいね」

 

 

そんな言葉を交わしていると、オカルト研究室が見えてきた。まだ少し遠いけれど、部室から光が漏れている。

何やら音が聞こえているけど、ギャスパー君が何かしているのかな?

 

「「!」」

 

すると、木場さんと塔城さんの雰囲気が変わった。柔和だった顔が、氷のように鋭くなった。

 

「小猫ちゃん、夢殿さんをお願い。ギャスパー君の他に誰かいる」

 

「分かりました」

 

「え?」

 

二人の会話に私は頭が追いつかない。ギャスパー君の他に誰かいる?でもここは私たち以外にいるわけない・・・

 

「夢殿さんは小猫ちゃんとここで待っていて。どうも様子がおか・・・」

 

その言葉を聞き終える前に、私の意識は『止まった』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に見えたのは、真っ赤に染まった廊下だった。旧校舎特有の木造の廊下や壁、汚れた窓も、赤色が飛び散っていた。そして異質だったのが、さっきまでいなかったのに、何やら変な服を着た人たちが廊下に倒れていたこと。彼らの身体は、まるで何かに斬られたような傷跡が見え、そこから真っ赤な液体が溢れていた。多分、目の前を真っ赤に染めているのもこれなのだろう。

 

そんなことを思っていると、何やら爆発音が聞こえ、ビリビリと窓ガラスが震えた。音の方へを顔を向けると、窓から覗く景色もまた異常だった。だって、校庭の地面が抉れているし、校庭に植えられている木々は真っ赤に燃えている。沢山の天使悪魔、堕天使、そして廊下に倒れているのと同じ格好の人たちが倒れているのだから。いや、むしろ積み上がっていた。

 

なにこれ?

 

私の頭が理解できない。さっきまで一緒に木場さんと塔城さんと話していたのに、気付いたらこうなっていた。気付けば見慣れない景色に変わっていた。舞ちゃんの読んでいるファンタジー作品のような光景だ。おかしいな、いつの間に私は、異世界に迷い込んだんだろうか?そんなことを考えていると、不意に声をかけられ、身体を揺さぶられた。

 

「ことな先輩!大丈夫ですか!?」

 

くるりと声の方に目を向けると、塔城さんがいた。でも、なんで塔城さんも真っ赤なのかな?

 

「塔城さん?」

 

「良かった、気が付いたみたいですね。ことな先輩、ここは危険です。早く会議室まで戻りましょう」

 

「え?」

 

危険?何を言っているだろうか。塔城さんの言葉がよく解らない。だって、私たちはギャスパー君のいるオカルト研究部に行って、休むはずでしょう?なのに、なんで危険なんだろうか?

 

「小猫ちゃん、夢殿さんは!?」

 

「大丈夫です、気が付いたみたいですから」

 

呆けていると、隣にいた筈の木場さんが、何故か前から走ってきた。不思議なことに、身体中が傷だらけで、手に魔剣を握りしめて。

 

「木場さん?どうしてそんな恰好・・・」

 

「説明は後で。今は安全のためにも、早く会議室に戻ろう。動ける?」

 

私を強引に立たせると、木場さんは私の手を引いて、来た道を戻り始める。

 

「あの、何か起きたんですか?」

 

事情を呑みこんでいない私は、何が起きたのか尋ねた。なぜか二人とも深刻そうな顔をするけど、私には解らない。中と外の光景といい、何が起きているんだろうか?

 

「襲撃です」

 

「はい?」

 

塔城さんの言葉がうまくつかめない。襲撃?なんですかそれは。私の頭は大混乱です。

 

「部長と一誠君の話からだと、どうやらこの会談をよく思っていない勢力が襲ってきたみたいなんだ。それでギャスパー君の力を使って、無理やりにここ一帯の時間を停止させたんだ。僕や一誠君等は逃れたんだけど、夢殿さんと小猫ちゃんはそれを受けてしまってね。でも部長と一誠君のおかげで、無事ギャスパー君を救出できた。だから時間停止も解けたんだよ」

 

「時間が止まっていた間、祐斗先輩は私たちを守ろうとして、敵の魔法使いたちに防戦だったんです。そのせいで木場さんが怪我を・・・」

 

木場さんの姿を見れば、それは一目瞭然だ。本人は何ともないみたいだけど、制服が所々傷がついている。

 

「木場さん、その傷は・・・」

 

「大丈夫。これくらいの傷は平気さ。っと、お喋りしている暇はないよ。今は、ともかく会議室に戻ろう」

 

木場さんに手を引かれている中で、私の頭は情報の濁流にのまれていた。何もかもが解らない。会談から逃げ出して、木場さんと塔城さんと話して、気付いたら目の前が真っ赤で、和平を阻止する勢力から襲撃されてる?何ですかそれは?

混乱する中、私は校庭から聞こえてきた声を耳にした。

 

 

「俺は永遠に戦えるならそれでいい。それが俺の願いだ」

 

「ヴァーリ、俺は『強くなれ』と言ったが、『世界を滅ぼす原因を作るな』とも言ったはずだ」

 

「関係ない。俺は強くなるためなら、他がどうなろうと知ったことじゃない。そのために世界が滅びかけようと、それもまた面白いじゃないか」

 

「愚かですねアザゼル。用意周到な貴方が、危険である白龍皇を放置するとは。その結果がこれです。彼のおかげで、ここまで上手く行ったのですから。吸血鬼を奪還されたのは想定外でしたが、オーフィスの力を得た私が、貴方に負けるはずがない!貴方をここで始末し、サーゼクスやミカエルたちも後を追わせます」

 

「は!言ってろ。俺はともかく、サーゼクスやミカエルはお前よりも優秀だ。そんな姿になっても、あいつらに勝てるとは思えないがな」

 

「良いでしょう。この町諸共、貴方をここで殺します!」

 

 

 

 

 

その言葉に、私は足を止めた。

 

「夢殿さん?」

 

「ことな先輩?」

 

二人の声が聞こえるが、今の私にはどうでも良かった。今の会話で、私はその言葉が聞こえてしまった。

 

『この町諸共、ここで殺す』

 

その言葉だけは、その言葉だけは耳から離れない。

真っ赤な血に染まった廊下、燃え盛る校庭、積み上げられた死体、傷だらけの友達エトセトラエトセトラ。

そして、この町ごと殺すという言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一緒に行こう』



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26話

オリキャラが登場するのでご注意ください。


「これは一体?」

 

僕の身体を何かが通り抜けたような感覚が襲う。一瞬のことだったけれど、僕はこの感覚を経験したことがあった。

 

「これは確か、ギャスパー君の時間停止・・・!」

 

その答えを裏付けるかのように、目の前の夢殿さんと小猫ちゃんが止まっていた。それこそ、彼女らの毛先さえも言葉通り空中で止まっていた。どうして僕だけが動けるのかは分からない。でもこの状況とさっき部室から聞こえてきた物音、そしてギャスパー君以外の気配から判断して、ギャスパー君に何かあったに違いない。

僕は今すぐにでもギャスパー君を助けようと思うも、目の前の止まっている二人を見る。

 

「二人をこのままにするのは流石に危険だよね。取りあえず、二人をどこか安全な場所に・・・!」

 

そう思った刹那、僕の後ろから何かが迫る。

 

「しっ!」

 

咄嗟のことだったけど、僕はそれを作りだした魔剣で切り払う。

 

「っち、上手いかないものね」

 

声のする方を見れば、黒いローブを被った集団がこちらを見ている。多分、僕に攻撃をしただろう一人が、忌々しげに僕を見ている。声の高さからして女性であり、彼女が彼らのリーダーだろう。

 

「まさか動ける奴がいるなんてね。しかもこんな近くまで接近を許すなんて。吸血鬼に時間をかけ過ぎたかしら」

 

「どうやら、この時間停止は君たちが原因みたいだね」

 

「ええそうよ、私たちが犯人。お前達が飼っている吸血鬼の神器を暴走させたの。ったく、無駄な抵抗しやがったせいで、何人かは巻き込まれちゃったわよ」

 

「ギャスパー君は僕たちの大切な仲間だよ。ペットみたいに言うのは許せないかな」

 

「あ?」

 

ローブを被っているせいか顔は解らないが、声からしてそうとう苛々しているのが解る。一瞬、彼女の素が見えた気がしたが、彼女はそれを気にせずに話す。

 

「本来なら、ここにいる吸血鬼の神器を暴走させて、時間が止まった状態でお前達をタコ殴りするつもりだってのに、なんでお前等がここにいるのかしら?あのさ、吸血鬼といい、お前等といい、段取りはきちんと守ってくれない?無駄な時間をとらせんじゃねぇよカスがぁ!」

 

「生憎、君たちの予定を知らなくてね。今度からは先に教えてくれると助かるよ。悪いけど、ギャスパー君を返して貰うよ」

 

僕は聖魔剣を生み出し、その切っ先を彼らに向ける。聖魔剣の力に圧倒されたのか警戒したのか、彼らは数歩後ずさる。だが先ほどから話している魔法使いは違う。彼女だけがそのままで、口元には笑みがこぼれていた。

 

「そうね、確かにその聖魔剣ってのは脅威みたいね。そして情報でだと、グレモリー眷属の中でもお前は強いらしいし。しかも予想外として、お前はこの止まった世界の中を動けるときた。まさに厄介極まる存在。でもさぁ・・・」

 

そいつは両手を僕に向けて魔力の塊を作り、それらを放つ。

 

「後ろの二人はどうなのかしら?」

 

「!?」

 

僕はそいつの目的を理解した。

 

「させない!」

 

僕は止まって動けない二人の前に立ち、放たれた魔力弾を斬り裂く。

 

「良く出来ましたぁ!流石、グレモリーの『騎士』ですぅ。じゃあ『騎士』様、今からゲームを始めましょっか。ルールは、馬鹿でも理解できるほどチョー簡単!私たちは後の二人を狙うから、君は二人を守るだけ!時間は無制限!じゃあ、すたぁとぉ!」

 

そして魔力弾の雨が僕たちを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらほらほらほらぁ!ちゃんとしないと二人に当たるわよぉ!」

 

彼女たちから放たれる魔力の弾を何度も切り払う。何度も何度も何度も何度も、その雨を打ち払う。時に僕を直接狙う弾も混じっているせいで、何度か僕の身を掠めた。だが解ったことは、弾のそれ自体の威力はそれほど強くはない。だが、流石に何度も当たれば不味い。しかも夢殿さんは人間だ。小猫ちゃんや僕なら耐えきれるものでも、夢殿さんが耐えられるとは限らない。

 

「やはり全部切り払うしかないね」

 

僕はそう考え、目の前に迫った魔力の弾を切り払う。が、それに切っ先が触れた瞬間、いままでとは比べれられない爆発が来た。その爆発によって剣が弾かれ、僕は体勢を崩される。爆発の煙から見えた魔法使いの口元が、酷く笑みに歪んでいた。

そのせいで後ろから迫る魔力の弾を切り払うことが出来ない。このままだと、夢殿さんと小猫ちゃんが・・・!咄嗟に僕は後の二人を守ろうと、背を前にして彼女たちを魔力の雨から庇う。

 

まるで何十もの石をぶつけられたような痛みが背中を襲う。痛みに歯を食いしばりながら、口から血が零れながらも、僕は二人を守ろうと耐える。

 

「はい、やめぇ」

 

その言葉を合図に魔力弾の雨が止んだ。僕は身体中の痛みに呻き、そのまま膝をついてしまう。

 

「惜しかった、あーあ、惜しかったなぁ!吃驚玉をしかけたら見事に引っかかってくれたのに、まさか身を盾にするなんて予想外、てかアホ」

 

僕の姿に魔法使いは笑う。

 

「てかマジでアホでしょ。人は自分の身が一番かわいいってのに、そんなことしてお前になんかメリットでもあるの?」

 

僕は聖魔剣を杖にして、何とか自分の身体を立たせる。

 

「お?立つの?立っちゃうの?凄いね、そのまま寝てたら、短い寿命がほんのちょっぴり長くなったのに」

 

「それは無理だよ」

 

僕は彼女を憐れに思う。自分でもよく解らないけど、僕は彼女が可哀想に思えてしまった。自分しか信じられない彼女に。

 

「僕はリアス・グレモリーの『騎士』だ。グレモリーは眷属を、家族を大切にする。そして騎士は皆を守るのが役目。だから僕は、僕の後ろにいる大切な二人を守る。悪いけど、負ける気はしないよ」

 

「は?なにそれ?なにその目。お前今、私を憐れむ目をしてるよね?ふざけんなよ、ふざけんなよ!私は強いんだ!誰よりも優れてるんだ!そんな私を、憐れむような目で見るんじゃねぇ!」

 

先ほどまでの態度とは一変、まるで取り繕うことも忘れ、魔法使いは両手を突出した。その両手の先に、魔法陣が出現する。その姿に彼女の周りも慌てだす。

 

「ま、待ってください、リーウィア様!その魔法では私たちまで巻き込まれてしまいます!」

 

「は?知るかよ。こいつだけは、私を憐れんだこいつだけは!今ココで潰さないと私の気が済まないんだよ!お前等が死のうが私の知ったことか!」

 

その言葉に、彼女の周りにいる魔法使いたちはパニックに陥りだす。その間にも、魔法陣の光は強くなりそして、

 

「くらえ!星光の破壊こ」「させるかぁ!」「なっ!?」

 

リーウィアと呼ばれた魔法使いの後ろ、つまりオカルト研究室の扉から何かが躍り出た。

それは周りの魔法使いをなぎ倒し、一直線にリーウィアに向かう。茶色の髪に駒王学園の学生服、そして左手には真っ赤な籠手。それはまさしく・・・

 

「イッセーくん!」

 

そしてイッセー君は、そのままリーウィアへと飛びかかる。リーウィアの方は、唐突な乱入のせいで動けない。が、イッセー君の目の前に防御障壁を展開する。

 

「馬鹿が!その程度の不意打ち、私にかかれば・・・!「こっちがお留守だよ」しまっ!?」

 

イッセー君に気を取られたリーウィアの隙を突き、僕は彼女へと接近する。ローブから零れた彼女の目は、酷く濁っていた。まるで聖剣に執着していた僕のように。

 

「悪いけど、二人を危険な目に合わせた君を僕は許さない」

 

「糞糞糞糞、くそがぁ!そんな目で、そんな目で私を見るなぁ!」

 

そして僕は、彼女に向けて聖魔剣を振り下ろした。

 

「私を、見ないで・・・」

 

彼女の身体から赤い花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ことな先輩!ことな先輩!」

 

呆然としている夢殿さんを、小猫ちゃんが揺する。時間停止が解除された後、僕はイッセー君や部長、そしてギャスパー君から事情を聞かされた。なんでも、和平会談を狙った『禍の団』が襲撃をしてきたらしい。そのためにギャスパー君を利用したとか。ギャスパー君を救出するために、イッセー君と部長が部室に転移してギャスパー君を救出。そして外の声が聞こえ、慌てて飛び出したとか。

 

 

「しっかし、ひっどい姿だな」

 

「あはは、でも名誉ある姿だよ」

 

ボロボロの制服を着ている僕の姿にイッセー君は言う。まあでも、着ているよ言うよりは襤褸を纏っている方が正しいのかもしれない。

 

「取りあえず、俺たちは部室の魔術師たちを冥界に送ったら校庭に出るつもりだ。二人はどうするんだよ?」

 

「僕は先に夢殿さんを会議室に連れて行くよ。夢殿さんには悪いけど、そっちの方が安全だと思うから」

 

「なら玄関口で集合しましょう。バラバラで外に出るよりもその方が良いわ」

 

そう言うと、部長やイッセー君、ギャスパー君は部室へと戻っていく。僕は廊下に倒れている魔法使い達を見る。僕がリーウィアを切った後、混乱する彼らを僕たちは斬った。途中で気が付いた小猫ちゃんも参戦し、瞬く間に鎮圧が出来た。そして生きている魔法使い達を部室へと移動させたけど、ふと僕は気付いた。

 

「リーウィアがいない?」

 

彼女が倒れているであろう場所には、既に彼女の姿は無かった。おそらくは、まだ辛うじて生きていて、混乱の際に脱出したのだろう。

僕は直ぐに頭を切り替え、夢殿さんと小猫ちゃんの方へと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

「小猫ちゃん、夢殿さんは!?」

 

僕は廊下で座り込んでいる夢殿さんへと向かう。小猫ちゃんは僕を見ると「大丈夫です、気が付きました」と答えてくれた。

 

「木場さん?どうしてそんな恰好・・・」

 

まるでまだ夢心地な顔の夢殿さんに少し苦笑するが、取りあえずは会議室まで戻らないと。

僕は夢殿さんを立たせると、はぐれないように手を繋ぎ、会議室へと戻る。その間、僕と小猫ちゃんは、夢殿さんに事情を説明する。

 

「そんな、どうして、なんで・・・」

 

信じられない顔でぶつぶつと呟く夢殿さん。この状況は彼女にとっては混乱するのに十分なことだ。僕と塔城さんは落ち着くように夢殿さんに声をかけながら、速足で会議室へと向かう。

 

窓から外を見れば、『禍の団』らしき魔法使いと三大勢力の悪魔、天使、堕天使が戦っている。それに堕天使総督が誰かと戦っているのが見える。相手は褐色肌の悪魔なんだけど、その姿は異質だった。

 

その四肢は鱗に覆われ、背中の翼は片方が悪魔の翼で、もう片方が別の翼だった。その頭からは二本の角が突出し、後ろには鱗に覆われた尻尾が見える。そしてサーゼクス様やセラフォルー様にも引けを取らない魔力のオーラ。そのオーラの中に感じる、悪魔とは異なるもの。

 

「龍?」

 

そうだ、堕天使総督と対峙している悪魔は、まるでイッセー君や白龍皇のように、龍のオーラを纏っているんだ。翼も龍の翼だとようやく気付いた。でも今は、早く夢殿さんを連れて行かなきゃいけない!

頭を振って意識を戻し、僕と小猫ちゃんは夢殿さんを引っ張る。

 

もう少しで会議室が見えてきた時、突然夢殿さんが足を止めた。

 

「ことな先輩?」

 

突然のことに僕たちは戸惑う。

顔を伏せた夢殿さんは頻りに何かを呟いているが、声が小さすぎて聞こえない。僕は嫌な感覚がした。このままだととんでもないことが起きる思った。

 

「夢殿さん!夢殿さん!しっかりするんだ!」

 

何故か、僕は夢殿さんの方を掴み揺さぶる。だが夢殿さんは何も反応しない。それよりも嫌な予感がどんどんと大きくなっていく。まるで何かが這い上がってくるような、空けてはいけない扉がゆっくりと開く様な、そんな感じがしたんだ。

 

「駄目だ夢殿さん!意識をしっかり持つんだ!」

 

そして僕は、夢殿さんの顔を見て言葉を失った。彼女の目に生気が無かった。無機質な眼が僕を見据えていた。そして彼女の足元から黒い靄が溢れだす。それは際限なく溢れだし、地面を這うように広がっていく。

 

「祐斗先輩!」

 

小猫ちゃんの方を見ると、彼女も僕と同じように黒い靄に足元を取られている。

 

「夢殿さん!」

 

僕は声を上げて彼女の名を呼んだ。だが彼女は僕の方に顔を向けず、その一歩を踏み出した。

 

『一緒に往こう』

 

そして僕は意識を失った。




カテレア・レヴィアタンは進化した!カテレア・レヴィアタンに無限龍の加護が付いた!
夢殿ことなは怒った!友達の力がぐーんと上がった!


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27話

カテレアとアザゼルが戦いを始めた時は、アザゼルが有利だった。両者に力の差をいえば、アザゼルがカテレアの上をいく。伊達に堕天使総督の地位についていない。だが、それでもカテレアは負けじと食い下がっていた。

アザゼルが幾重にも放つ、彼自身の身の丈を越える巨大な光の槍を、カテレアは何重にも重ねた防御法陣でそれを防ぐ。その度に、周りには抑えられない力の余波が放たれる。

彼らの攻防の余波は、無差別に彼らの周りを襲う。駒王町の運動場は幾重にも穴が穿たれ、見るも無残な惨状へと変える。運悪く、彼らの周りにいた禍の団の魔法使いや、三勢力の護衛である悪魔、天使、堕天使たちを容赦なく血煙に変える。彼らの放たれた攻撃が学園を覆う結界に当たる度に、轟音と震動が響く。万が一に結界が破れ、彼らの攻撃が外へ放たれたなら、駒王町は一瞬にして阿鼻叫喚に変わるだろう。

カテレア・レヴィアタンは、自身の家名であったレヴィアタンの座をセラフォルー・シトリーに奪われたが、決して弱くはないのだ。だがアザゼルに勝つためには、力不足だった。

 

彼らの攻防がしばらく続いた後、不意にカテレアが動きを止めた。その姿は無防備と言ってもよかった。だが慎重派であるアザゼルは攻撃をしなかった。慎重であったために、不意に動きを止めたカテレアを警戒したが故だ。

 

「悔しいですが、このままでは私が負けるのは時間の問題みたいですね」

 

「おいおい、今更命乞いをする気か?悪いが、命乞いを聞く気はねえぜ。お前等みたいな輩を野放しにすれば、世界が終っちまうからな」

 

カテレアの言葉に、アザゼルは言葉とは裏腹に警戒を強める。彼の思考は、カテレアの行動を読もうと巡らす。

すると、カテレアは胸元から小瓶を取り出し、中に入っていた物を飲み干す。

その瞬間、彼女の纏っていたオーラが変わった。カテレアの魔力が先ほどとは比べ物にならないほどに、爆発的に増大したのだ。その力は空気を、結界に覆われた学園を震わせた。

 

「あがああああぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぎぃいいいいぃぃぃいあぁぃあいいいい!!!!!」

 

それと同時に、カテレアが悶え苦しみ、その絶叫が響く。まるで憎しみと痛みと慟哭を織り交ぜたような叫び声。

その叫び声と共に、カテレアの身体に変化が起きた。

彼女の身体を突き破るように、その頭からは2本の角が生え、彼女の四肢は黒い鱗に覆われている。

彼女の背にある蝙蝠の片翼が千切れ、代わりに鱗に覆われた翼が生える。そして彼女にあるはずのない、蜥蜴の如く尾すらも生えた。

 

「ぐぎぃぃぃいああああぁぁあいぐるぅぅぅぅぅえいえええええああぃぐあぁあああああ!!」

 

だが身体が変化していくせいだろうか、彼女は苦痛も伴った叫び声を上げ続けた。その姿は、見る者を唖然とさせるほどに。そして彼女から放たれる魔力が静まる。だが、先ほどの光景に、誰もが口を閉じていた。それほどまでに、カテレアは異形になったからだ。

額を突き破って生えた二本の角、鱗に覆われた四肢に、同じく鱗に覆われた尾に片翼。顔や肉体は元のままであったが故に、その違いが目についた。

 

「カテレア・・・ちゃん・・・?」

 

始めに声を上げたのはセラフォルー・レヴィアタンだった。カテレアからは憎悪されているが、セラフォルー・レビアタンはカテレアのことを嫌いではなかった。一方的に憎悪されていることを理解してはいた。だがセラフォルーはカテレアと手を取り合えることを願っていた。故に、襲撃の件に驚いていたのだ。

セラフォルーがもう一度声をかけようと口を開けるが、されを遮るようにアザゼルが何重もの光の槍を放つ。カテレアは自身に向かってくる槍を一瞥すると、鱗に覆われた右手を横に薙いだ。たったそれだけで、光の槍は粒へと消える。

先ほどまでは、何重もの魔法陣を展開してようやく防げた攻撃が、たった腕の一振り。どう見ても異常としか言えないほどにカテレアは強くなった。それを自覚したからだろうか、カテレアは口元を笑みに歪め、笑い声をあげる。

 

「素晴らしい!素晴らしいわ!これが!これが無限龍の、オーフィスの力!これなら負けない、これならセラフォルーにも勝てる!勝ってレヴィアタンの名を取り戻せる!勝って汚名を雪ぐことが出来る!私は、私はもうレヴィアタンの恥なんかじゃない!」

 

変わり果てた自分の姿を、カテレアは抱きしめる。ぎゅっと抱きしめ、目の前のアザゼルへと顔を向けた。

 

「まさかオーフィスの力を取り込むなんてな」

 

「流石の堕天使総督のアナタでさえ、無限龍の力までは予測できなかったようですね」

 

アザゼルの言葉に、カテレア・レヴィアタンは優越に笑う。オーフィスの力を取り込んだ彼女は、異形と化した自身の身体を愛おしそうに、むしろアザゼルに見せつけるかのように撫でまわしつつも笑う。

 

「ったく、オーフィスの野郎、面倒なことしてくれるぜ。お前のその変化、どうやら龍の力を発現させたみたいだな」

 

「ええ、私にも理解出来ます。私の中を駆け巡る龍の力が」

 

「旧魔王派は純血主義の集まりだろうに、どういう心境の変化だ?その姿、どう見ても雑ざりものだぜ」

 

アザゼルの嫌味に、カテレアは笑う。

 

「それがどうしました?確かに私はもはや純血な悪魔ではないでしょう。ですが、もはやそれは些細なこと。憎きセラフォルーを殺せれば、私はレヴィアタンになれる。その為なら、純血などどうでもよくなったのです」

 

「カテレアちゃん・・・」

 

カテレアの言葉に、セラフォルーは言葉を詰まらせる。それほどまでに、カテレアにとっては、レヴィアタンの座は重要なものだったのだ。

 

「セラフォルー・レヴィアタン、私は貴女のその目が嫌いです。貴女のその、私を憐れむその目を向けられる度に、私は屈辱を感じてきた。貴女への憎悪を滾らせてきた!お前がレヴィアタンになった時、私は周りからなんと言われたか知っていますか?レヴィアタンの恥、レヴィアタンの失敗作、その言葉を聞く度に、私がどれほど惨めだったか、知っていましたか?知りようがないでしょう!お前は私は見ていなかったのですから!」

 

カテレアの纏うオーラが暴れ出す。

 

「ですが、それももう終わりです!お前を殺せば元に戻る!何もかもが元に戻るんです!私が本当の意味で、カテレア・レヴィアタンになれるのです!」

 

「カテレアちゃん!」

 

セラフォルーの言葉を無視し、カテレアはアザゼルに視線を戻す。

 

「そのためにも、貴方はさっさとご退場願いますよ、アザゼル。」

 

「おいおい、俺は前座ってか?確かにお前は強くなった。だが。だからと言って俺を舐めてかかるのは慢心が過ぎるぜ?」

 

「ええ、ですから手を討っておきましたよ」

 

その瞬間、横合いから光の奔流がアザゼルを襲った。

 

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

俺は玄関先で部長や朱乃さんにギャスパーと一緒に、木場や小猫ちゃんが来るのを待っていた。二人はことなを会議室に連れて行った後に来ると言っていた。でも、二人とも来るのが遅い気がした。

こっちはギャスパーを襲った魔法使いたちを冥界に送った後、直ぐに玄関先へと急いだ。だが、木場と小猫ちゃんははおらず、かといってまだ来ていない。おかしい、それほど会議室からは遠くないはずなのに。

すると、轟音と共に玄関先で何かが落ちてきた。俺たちが駆け寄ると、土煙が晴れ、そこにいたのは・・・!

 

「こんな時に反旗かよ、ヴァーリ・・・!」

 

「ああ、その通りだアザゼル」

 

傷だらけの堕天使総督と上空に浮かんでいる白龍皇だった。

その後、白龍皇の正体が実は先代ルシファーの子孫であり、戦いたいという目的の為に俺たちを裏切ったという事実を聞かされた。ギャスパーを利用したその事実に、俺は腹が立った。

 

「ふざけんな!お前の勝手な目的に、ギャスパーを、俺たちを巻き込むんじゃねぇ!」

 

だが、俺の言葉にヴァーリは心底つまらない顔をする。

 

「それしか言えないのか?まったく、これが今代の赤龍帝とはな。いや、そうだ、これならどうだ?」

 

するとヴァーリは何かを思いつき、嬉しそうな顔で俺を見る。

 

「兵藤一誠、君は復讐者になるんだ。今から君の両親を殺そう。いや、君の両親だけじゃない、友人どころか、この町の人間を全て殺そう。そうすれば、君はその力を何倍にも高めてくれるはずだ、俺を殺すために。それなら、たかが人間として死んでいくより、何倍も素晴らしいじゃないか!君は晴れて赤龍帝としての運命へと導かれ、俺は強くなったライバル(君)と殺し合える。どっちも得をするというものだ」

 

俺は目の前の奴が、何を言っているのか理解できなかった。俺の両親を殺す?友人を殺す?この町の人間を殺すだって?

 

「ふざけるな!てめえの勝手な都合で俺の家族を!みんなを!殺させてたまるかぁ!」

 

俺の思いを受け取ったのか、赤龍帝の籠手がより激しく輝きだす!

 

「ああ、やっぱり先ほどよりも強くなった。アルビオン、思った通りだ。彼奴は単純明快故に、怒らせれば強くなる」

 

『ああ、純粋な怒りだからこそ、その強さも桁違いだ』

 

ヴァーリが何か言っているが、そんなことはどうでもいい。取りあえず、俺はお前をブッ飛ばさなきゃいけねえんだ!俺は怒りのまま、ヴァーリへと突っ走っていった。

 

 

だが突如、新校舎の玄関から黒い靄が溢れだす。まるで濁流のように溢れだした黒い靄は瞬く間に広がり、駒王学園の地面を覆う。

 

「な、なんだ!?」

 

俺は突然の出来事に出鼻を挫かれた。部長たちも、目の前の出来事に混乱している。

 

「な、なんですかこれは!?」

 

「おいカテレア、これもお前の差し金じゃねえのか?」

 

堕天使総督やエロい服装の褐色のお姉さんも同様にとまどっっている。

そんな中、何かの気配が新校舎の玄関から感じた。まるで何かが這い出てくるような感覚だ。

それはゆっくりとこっちに近づいてくるのが解る。カツン、カツンと一歩一歩、大地を踏みしめるかのように足音が響く。

 

そして外の光に照らされ、それが姿を現した。

 

「こと・・・な?」

 

『      』

 

それは黒い靄を纏った、夢殿ことなだった。



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28話

突然の乱入者にその場にいた全てが動きを止めた。

その場にいた全てが、たった一人の少女に目を奪われていた。たった一人の少女から目が離せなかった。

その少女は学園校舎の玄関口に立っていた。その少女は駒王学園の制服を着ていた。その少女は黒い髪を肩にかかるほどに伸ばしていた。その少女はただの一般人だ。ただの人間で、駒王学園の女子生徒でしかなかった。

それは酷く場違いで、理屈すら通らず、それこそ舞台の端役でしかない存在だった。

 

今この場にいる存在は、悪魔、天使、堕天使、人間の魔法使い、そして・・・ただの人間が一人。

少女以外の超越した人外たちからすれば、彼女は取るに足らない存在だ。吹けば飛ぶような矮小な存在だ。仮に彼らが悪意を持って少女に襲い掛かれば、たちまち少女はただの肉塊になるだろう。それほどまでに少女と人外たちとの差は明らかだった。なのに周りは彼女から目を離せなかった。

 

少女の名は夢殿ことな。

駒王町に住んでいる、ただの駒王学園2年生だ。先生や生徒たちに沢山の頼みごとをされ、それを引き受けてしまうお人好し。学園内を走り回る姿は有名だ。基本、彼女が怒った姿を見た人はいない。ゆえに、誰もが彼女を頼ってしまう。いわば、縁の下の力持ちのような存在だ。

身体的特徴を上げるとすれば、そのすらっとした、なだらかな体型。その姿にコンプレックスを抱き、巨乳滅ぶべしと心の中で呪い、胸に効果があると聞き、苦手な牛乳をがぶ飲みした経緯がある。もちろん、その後は腹痛に苛まれた。

学力に関しては、本人は学ぶことに意欲的で、様々な本を読んでいる。それゆえか、教科書に載っていないような知識を披露し、同級生を驚かせもした。それだけだ。

そう、夢殿ことなはあくまでも一般人であり人間だ。人間でしかない。

 

 

それ故に、平凡を形作ったただの少女が纏う異様さに、誰も彼もがことなを見つめていた。

 

 

ことなは黒い靄を纏っていた。彼女の周りを黒い靄が蠢いていた。

まるでことなを護るかのように彼女の周りを漂い、呼吸をするかのように鳴動していた。

夢殿ことなの表情は読むことができない。彼女は首を下げ、前髪が彼女の顔を覆っているからだ。また周りに漂う靄も相まって、彼女の表情は、彼女の顔が判断できない。

 

「こと・・・な?」

 

ことなの立っている場所からほんの数メートル離れているリアスの口が開いた。だが、ことなからの反応はない。リアスは、目の先にいることなの姿に、どうしようもない不安を感じていた。目の前の少女からにじみ出ている異質さに、リアスはさきほどの会議のことを思い出す。自分には見えなかったが、あの時アザゼルと対峙したことなの姿と、今の彼女の印象は同じだ。いや、むしろ今の方が酷い。会議の時は、一見何もないように見えて異質さを感じた。だが今は、異質さが見えているというのに、ことなの印象は全く変わっていない。ただの人間だ。

ゆえに、異様なのだ。

リアスは目の前のことなに向かって走り出したかった。自身の眷属である木場や小猫はどうしたのだと、なぜ二人はここにいないのと問いただしたかった。ことなの肩を揺さぶり、しっかりしなさいと声を荒げたかった。

でも、リアスの両足は動かない、動かせない。まるで自身の足が石膏になってしまったかのように、見えない糸で地面に縫い付けられたかのように、動かない。

 

リアス以外も同様で、その身を動かすこともせず、ただことなを見ている。だが、その視線はまるで・・・。

 

 

『一つ、聞いてもいいですか?』

 

夢殿ことなが言葉を発した。その声は酷く平坦で、感情を感じることができず。まるで単なる音のような声だった。

 

『先ほど、私はある言葉を耳にしました。それはとてもとても看過できるような言葉ではありませんでした。その言葉は今でも私の頭の中にこびりつき、へばりつき、がんがんと頭の中で反射し続けています。ええ、決して聞き間違いではないと思います』

 

ドクンと、靄が鳴動した。

 

『はっきり言います。その言葉は軽はずみで言っていい言葉ではないんです。それの言葉は私にとって、決して、決して軽く流していい言葉ではないんです。だから私は問いただしたいんです。どうしてその言葉を言ったのか?どうしてその言葉を口にしたのか、発したのか。それを聞くためにこの場に来てしまいました』

 

鼓動が早くなる。

 

『ええ、怖いです。私の目の前に繰り広げられていることに、私は怖いです。嫌です。はっきりって意味が解りません。いったいこれは何の冗談なのかと言いたい気分です。でも、いくら目を閉じても、耳を塞いでも、それでも感じてしまうんです。どいつもこいつも殺し合いやがって、はっきり言って迷惑です。そもそもなんでこんな場所でおっぱじめるんですか。なんでこんな町でやっているんですか。ああ、許せない許せないユルサナイユルサナイ・・・』

 

ことなの体が震えるが、それを抑え込むように彼女は自身の体をきつく抱きしめる。

 

『ごめんなさい、話がそれてしまいました。ですから、私はこの場にいる皆さんにお聞きしたいんです』

 

鼓動が止まる。

 

『この街の人間を殺す、この言葉を発した人は誰ですか?』




『人間の悪意こそが、この世で一番の邪悪だと思うわ』


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29話

ことなが言葉を発した瞬間、突然空から岩のような氷塊がことながいる場所に降り注いだ!まるで山のように重なった氷のせいか、一瞬にして結界内の空気が冷えた。呼吸するたびに息が白く濁る。山のような大量の氷による寒さで体が震えてきた。

 

「突然出てきたと思ったら訳の分からないことを・・・!」

 

そして水も何もないのに大量の氷を放ったのは、カテレア・レヴィアタンだった。突然の出来事に呆けていたけど、忌々しげな彼女の声を聞いて俺やみんなはカテレアへと視線を向ける。カテレアの顔は、普段ならば美人だろう顔を憎しみに歪めていた。ことなの方へと向けていたその右手からは、はっきりと見えるほどに白い空気が漂っていた。

 

「カテレアちゃん、貴女、一体何をしたの!」

 

セラフォルー様が叫ぶ。授業参観の時のような笑顔ではなく驚愕の表情だ。セラフォルー様がそんなに驚いているってことは、今のが本当にやばいことだと俺は実感した。

 

「何を驚いているのですかセラフォルー。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ただそれでけでしかないと言うのに」

 

「そんな、だってカテレアちゃんの力は・・・!」

 

「ええ、()()()()()はこれほどまでに至らなかった。ですが、()()()()()は無限龍によって際限なく高められているのです。今までの私とは違うのですよ!」

 

今の言葉に、セラフォルー様だけでなく部長たちも驚く。待ってくれ、今のがただの氷の魔力だって?初めて見た時、部長や朱乃さんの力に凄いと思った。でも今の力は二人の力とは格段に違うのに、少しの魔力によるもの?じゃ、じゃあ本気を出したら、今のよりも恐ろしいことになるってことなのか!?どんな化け物になっちまったんだよ!?

 

「ほんっ・・・とうに厄介なことをしてくれるぜ、オーフィスの奴は。やり合って分かったが、今のカテレアはただの悪魔じゃない。旧魔王の力と龍の力を併せ持った、一種の魔龍みたいなものだ。それに無限龍の力寄るものか、更に力が増していってやがる。こりゃ短期でやらなきゃいづれこっちが力負けだ」

 

「ようやく力の差を理解しましたか。もはや私に負ける要素はありません。この力があればお前たちを倒すことも容易いこと!」

 

 

カテレアは勝利を確信したのか、歓喜に歪んだ顔で叫び、大声で笑いだした。それは燻っていた想いを、積もり積もった劣等感を解放した姿。今まで手の届かなかった相手の上に立ち、ようやく見下せる負の達成感。俺やセラフォルー様らが呆然とカテレアの姿を見上げる中、誰かその笑い声を遮った。

 

「まあでも()()()()()()()()()()()()()?」

 

そう言うとアザゼルは懐から何か短い短剣を取り出した。それは一見すれば何の変哲もないただの短剣だった。別に豪勢な装飾もなかった。アザゼルはその短剣の先をカテレアに向ける。

 

「どうして俺がセイクリッド・ギア(神器)マニアか知ってるか?もちろん趣味って面もあるが、俺はただ酔狂で集めてたわけじゃないんだよ」

 

アザゼルが言葉を発すると、短剣が光った様な気が・・・って何か輝きだしてる!?

 

セイクリッド・ギア(神器)ってのはすげえよな。人間が堕天使()悪魔(サーゼクス)と並べる道具を()は作ったんだからな。俺も同じように作ったが未だ完成には至っていない。あまつさえ

ロンギヌス(神滅器)バランス・ブレイカー(禁手)ときたもんだ。神や魔王どころか、世界のバランスまで崩せる『バグ』まで作り上げた奴には、俺も流石に脱帽だよ」

 

「アザゼル、それは一体なんなのですか?」

 

カテレアの言葉にアザゼルは口を歪ませる。

 

「確かに俺でさえ、まだ完璧な神器は作れていない。でもなそれなりの物は出来てるんだよなぁ!」

 

そして堕天使総督はその言葉を発した。

 

バランス・ブレイク!(禁手化!)

 

目も眩むほどの光が一面に溢れ、そしてそれが人の形になる。そしてそこにいたのは、

 

「黄金の騎士?」

 

全身を鎧に包まれた黄金の騎士。背中には6対12枚の黒翼を生やし、右手には巨大な光の槍。あまりのかっこよさに、俺の心がトキめいた。すっげぇなにあれカッコイイじゃねぇか!

 

「白い龍の鎧と他系統のドラゴンの力を持つ神器を研究して作り上げた、俺の人工神器の傑作品の一つだ。名前を『堕天使の閃光槍』。そしてこの姿はそれの禁手、『堕天使龍の鎧』だ。もっとも、禁手擬きでしかないがな」

 

「なるほど、人工物の紛い物でも仮に神器と名乗るもの。一時的でも禁手に至れるというわけですか。そのようなものを作り上げるとは、やはり貴方は危険すぎる。なおさらここで潰させてもらいます」

 

「ちょうどいい、試運転にもってこいの舞台だ。データ収集のためにも、せいぜい頑張ってもらうとするか」

 

「舐めるなぁ!」

 

そして二人は、目にも留まらない速さで動きだす。カテレアの腕の一振で展開された魔法陣から射出された、何十もの氷の刃を掻い潜るアザゼル。降ってくる氷を、同じ氷で全て相殺するセラフォルー様。くそ!レベルが違いすぎる!

いったい何がどうなってるんだ!?ギャスパーを助けたら白龍皇が裏切って敵になって、俺の家族を殺す言ったから許さねぇと思ったら、黒い靄と一緒にことなが出てきて、そのことながいた場所に氷が降り注いで、今じゃアザゼルが禁手化して、カテレアと戦っている。もう訳が分からねえ!

 

「ことな!返事をしなさい!ことな!」

 

「ことなちゃん!いま助けますから!」

 

部長や朱乃さんの言葉で俺は呆けていた頭をが覚めた。そうだ!あそこにはことながいたはずなんだ!早くしないとあいつが・・・!

 

「やはりアザゼルは凄いな!ああ、やっぱりすごい!」

 

そして余りのことに意識を逸らしていたが、俺の目の前にいるヴァーリはその光景に笑っていた。何なんだよこのイカレ野郎は!俺の心を読んだのか、笑っていたヴァーリは、俺にがっかりした顔を向ける。

 

「やはり君は力不足だ。君の両親や町の人間を殺すと怒りを煽ってもまだ足りない。ならば次は、リアス・グレモリーか?それとも他の仲間か?君の目の前で君の両親を、友人を、主や仲間を甚振ればいいのか?一体どこまやれば君は俺と対等になってくれるんだ」

 

まるで心底がっかりしたような、無駄に突かれたようなヴァーリの姿。その姿に俺は、心に宿った想いを呟く。

 

「殺すぞ」

 

その言葉に、俺は今の自分の感情を理解できた。こいつはこいつだけは!今ここで倒さないといけない!絶対にこいつだけは許しちゃいけない!

 

「Welsh Dragon Over Booster!!」

 

俺の想いに呼応するように、『赤龍帝の鎧』が俺を包む。アザゼルからもらった腕輪のおかげか、疲労感も苦痛もない。だが時間制限があるらしく、ドライグから早々に決着をつけるように言ってくる。ならばと、俺は天使長からもらった竜殺しの聖剣(アスカロン)を取り出す。少なくとも、当たればただでは済まないはずだ。

 

「ほう、それはミカエルからのプレゼントか?だが当たらなければ意味がない。さぁ、俺を楽しませてくれよ赤龍帝!」

 

「ヴァァァリィィィィィィィィ!!」

 

ほくそ笑むヴァーリに俺は、力のままに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは一体どこなんだ?確か僕は小猫ちゃんと一緒に夢殿さんを会議室に連れて行こうと・・・」

 

未だぼんやりする思考の中、僕は周りを見渡す。だが、僕の周りに何もなく、ただ真っ黒な闇が広がっているだけ。それこそ、自分が立っている足もとさえも見えず、自分が本当に立っているかすら判らない。少し歩いては見たものの、廊下にいたはずなのに壁に当たりもしない。ということは、ここは廊下とは別の空間ということになる。

 

「早く夢殿さんと小猫ちゃんを見つけないと」

 

僕はこの空間に取り込まれたであろう、二人のことを考える。おそらく、二人とも僕と同じ状況に陥っているはずだ。だったら、すぐにでも二人を見つけないといけない。悪魔である僕や小猫ちゃんと違い、人間である夢殿さんに、この異空間がどんな影響を及ぼすのか分からない。

 

「小猫ちゃーん!夢殿さーん!」

 

取りあえず叫んでは見たものの、ちゃんと届いているのかどうか・・・。どうにかして二人と合流する案を考えるために、心を落ち着かせようと少し目を閉じる。そしてどうにか心を落ち着かせ、目を開けるとそれはあった。

 

「扉?」

 

そう、今まで何もなかったのに、目の前に扉が現れたんだ。何の変哲もない木製の扉で色は茶色。扉には『ゆめどのことな』とピンクの名札が掛かっていた。

 

「一体どういうことなんだ?どうして夢殿さんの名前が・・・」

 

そんなことを考えるが、周りを見てもただ闇が広がっているだけで、唯一目の前の扉しか見当たらない。

 

「選択肢はないってことなんだね」

 

僕は意を決して、その扉を開けた。

 

わたしのへやにようこそ!

 

ゆめどのことながわらった




マネッチア
ジニア


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30話

扉を開けた僕の目の前に入ってきたのは、沢山のぬいぐるみが所狭しと床に散らばった部屋。壁一面には、至る所に飾られた写真の数、数、数・・・。こちらに笑顔を向ける女性の写真。顔から厳しさを感じる男性の写真。公園だろうか。草原を走っている少女の写真。三人一緒に写っている写真。それらがびっしりと敷き詰められている。そして天井には丸い照明が空間を明るく照らし、そこには『WELCOME』と色画用紙で飾られた看板が吊るされていた。まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、パーティー会場のような飾りつけをされた部屋だった。

 

以前、聖剣事件の際に夢殿さんの部屋に入ったことはあったけど、まるで真逆だった。確かに可愛い小物や家具はあったけど、それだけだ。ある意味、必要最低限の物しかなく、そこに特有の生活感は薄く、無機質に近い印象だった。

 

一体どういうことなんだ?確かに扉には夢殿さんの名前があったはずなのに

 

そして部屋の中央には、レースが飾られた丸テーブルと椅子が置かれ、そこに座っているのは・・・

 

「夢殿・・・さん?」

 

僕の声が聞こえたのか、椅子に座っている、()()()()()()()()()()()はこちらを振り向いた。幼いその姿とは想像しづらいが、その顔は確かに夢殿さんの面影を宿している。

 

『あら?私をご存じ?ご存じかしら?あらあらまあまあ!今日はなんて嬉しいのかしら!()()()()()()()()()()()()()!』

 

トコトコと僕の方に走ってくる夢殿さんの顔をした少女。彼女は戸惑っている僕の手を掴むと、そのまま僕をテーブルの方へと連れて行く。すると椅子の1つが勝手に後ろに下がった。まるでそこに座れと言うように。

 

『さあさあ早く座って!座って!』

 

少女はそのまま僕を椅子に座らせると、反対側の椅子にちょこんと座り、僕を面白そうに見つめる。

 

『あはっ!こんなところに来るなんて珍しいわ!それでそれで、いったい貴方は何方でどなた?』

 

「いや、僕は・・・」

 

僕を見つめる彼女の視線を受けながら、僕は自分の名前を応えようとして、一瞬戸惑ってしまった。この夢殿さんの顔をした少女に対し、僕は警戒心を抱いていたからだ。そんな僕の態度に、少女はうんうんと頷き、ゆっくりと口元をニンマリと歪めた。

 

『良いの良いのよ問題ないわ。これは幻・妄想・幻想。全てはただの泡沫の夢。何を思おうと、何を考えようと、一切合財むだむだむだで無駄の無駄!残念無念にさようなら!』

 

彼女から飛び出す言葉の羅列に、僕の頭は混乱する。一体彼女は何を言っているんだ?

 

『だから正直にゲロしてもばれることはないの。だからなーんにも問題ないわ』

 

 

 

 

 

 

『ねぇ木場佑斗さん?』

 

 

 

 

 

僕は椅子を倒して立ち上がった。その僕の姿に彼女は笑う。まるで悪戯が成功した子供のように嗤う。すっと椅子の上に立った彼女は、右手を斜め上に伸ばし、左手を胸に添える。まるでオペラ歌手のように。舞台に立つ役者のように。

 

『きゃははは!驚いた?驚いてるてる吃驚仰天?自己紹介がまだでしたね?私はわたし、ゆめどのことな!正直・・・貴方は私を知っているけど、わたしを知らないから自己紹介。さあ、自己紹介も終わったし、改めて座りなさいな木場キバのダークナイトファングさん』

 

ガタッと、僕が倒した椅子がまるで時計を巻き戻すかように起き上がり、僕の身体は彼女の指示に従ってしまう。座ったことに満足したのか、夢殿さんはうんうんと頷く。

 

『あなたはお客、わたしは主催。今は楽しいティータイム!外の喧騒なんてどうでも良いじゃない。蝙蝠さんや白鳩さんに黒鳩さんの喧嘩なんて問題ないわ。どうせみんな、ごめんなさいと謝るんだから。それにここから出れなきゃ、なにも出来ないでしょ?それともそのちんけな棒切れで私を斬ってみる?』

 

彼女が指を指せば、テーブルの上に、いつの間にか聖魔剣が置かれている。

 

『それとも私を刺してみる?グッサリグッサリズッコンバッコンピストンみたいに。あ、ちょっとエッチかも』

 

僕の左手が勝手に聖魔剣を掴み、意思を無視して目の前の夢殿さんに振り下ろそうとして、

 

『あら残念』

 

右手で産み出した魔剣で弾き飛ばした。

 

「僕は騎士だ。たとえ君が夢殿さんのなんであれ、むやみに命を奪う気はないよ。僕はみんなを守る」

 

僕の言葉に、呆けた顔のゆめどのことな。でもすぐにニヤリと顔を歪める。

 

『それはそれは素晴らしいわね、騎士気取り(ドンキホーテ)みんなを守る?守るですって?ならどうして守ってくれなかったのよ。どうしてこの子が泣いていた時に・・・!

 

「え?」

 

最後の呟きが聞き取れなかったが、ゆめどのことなが笑顔で語りだす。

 

『さあさあさあ!今は楽しいティータイム!そしてゲストあなた様木場様!喋って笑ってさようなら!満足したらはい終わり!ここから出るにはそれしかないわよ。なにせ私が主催者だもの。だから私が満足したら出ていって良いよ。それにあなたに出来ることはなんてそれしかないんだから』

 

『だから、私の質問に答えてくれないかな?木場裕斗さん?』

 

ガラス細工のような瞳で、彼女は僕を見つめていた。

 

『じゃあ最初の質問。リアスさんって、木場さんの命の恩人なんだっけ?』

 

僕は首を縦に動かす。

 

『それで、リアスさんの騎士なんだから~命令は絶対遵守だよね?』

 

少し面白そうに笑みを浮かべる夢殿さん。

 

『じゃあさ』

 

『リアスさんが私を殺せと言ったら殺すの?』

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・どこですか?」

 

私はことな先輩と祐斗先輩といっしょにいて、そして・・・・!

 

ことな先輩の足元からあふれ出した黒い靄に足を取られ、そのまま視界が真っ黒に染まり、気付いたらここにいた。

 

『搭城さん、どうしたの?』

 

「えっ」

 

目の前で不思議そうな顔で私を見ていることな先輩。周りを見れば、そこはことな先輩の部屋だ。色々と整理整頓された机。棚には教科書やノートが綺麗に立てられている。ベッドには青いかけ布団に青い枕。そして床には水色のカーペットが敷かれ、その上に丸い木製のテーブル。私たちはカーペットに腰を下し、テーブルを挟んで向き合っていた。

 

『大丈夫?急にボーっとしてて、心配になって声をかけたんだけど』

 

「あ、えっと、その、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて・・・」

 

少し頭を振って眠気を飛ばす。あれ?どうして私、ことな先輩の部屋にいるんでしたっけ?

 

『本当に大丈夫?塔城さんが、私に話したいことがあるからって、リアスさん等に聞かれたくないからって言ったから、部屋によんだんだよ?』

 

ああそうだ、確か私、ことな先輩に話さないといけないことがありましたっけ。

 

「ごめんなさいことな先輩。わざわざ私からお願いしたのに・・・」

 

『気にしないでいいですよ。それでえっと、そう!確かお姉さん・・・のことでしたっけ?』

 

人差し指を左のこめかみに当て、首を傾げる先輩。

 

「はい。私の姉様についてです」

 

私はあの時から感じている、姉さまに関する考えを話した。あの優しかった姉さまが及んだ凶行。それで確かに私は苦しんだ。心が壊れそうになった。姉様は主を殺した最悪のはぐれ悪魔だ。でも、それで終わらせていいのだろうか?あのおぼろげだけど優しかった姉さまと、別れの際の顔と呟き。それが、私を姉様との関係を繋ぎとめていた。

 

『ごめんなさい。それについては私からは何も言えないわ。だってこれは塔城さんの問題だもの』

 

申し訳なさそうな顔をすることな先輩。私は首を振って感謝を述べる。先輩が聞いくれただけでも、私には助かるから。

 

『直接的な事は言えないけど・・・そうだ!塔城さん、これ必要でしょ?』

 

先輩が取りだしたのは黄色いファイル。中に何枚かの紙が入っている。

 

「これって・・・!」

 

『そう、SS級はぐれ悪魔、黒歌・・・君のお姉さんの書類。こっそりコピーしちゃった♪』

 

「な、なにしているんですか!」

 

私は声を荒げた。これが部長さんに知られたら・・・!

 

『大丈夫大丈夫。リアスさんも皆も、この子を見ているようでちゃんと見ていないから。もちろん・・・貴女もね

 

「えっ・・・?」

 

今なんて・・・

 

『これで少しは塔城さんの手助けになれたかな?』

 

「は、はい。でも!もうこんな無茶をしないでください!私、ことな先輩になにかあったら・・・」

 

ポンと私の頭にことな先輩の右手が置かれる。

 

『大丈夫、もう無茶しないから。私の大切なものを奪わない限り、私は何もしないわ』

 

ゆっくりと私の頭を撫でる右手。その優しさに、私は目を細める。これも私の中にある猫のせいなのでしょうか。

 

『ところで塔城さん』

 

ふと右手が止まる。

 

『私も塔城さんに聞きたいことがあったんだ』

 

ゆっくりと顔を私に近づけてくることな先輩。

 

『塔城さんにとって、私って友達?』

 

「当たり前じゃないですか。私はことな先輩を信頼してます。わたしだけじゃなく、部長や皆さんも同じ気持ちです。」

 

『ありがとう!その言葉を聞けて取ってもう嬉しいわ』

 

私に抱きついくることな先輩。顔を頬ずりしながらありがとうと言ってくる。

 

『じゃあ塔城さん、仮にだけどね』

 

そっと、ことな先輩が耳元でささやいた。

 

『塔城小猫は、一体私に何をしてくれるの?』

 

「え?」

 

今、私は一体何を言われたの?ことな先輩の言葉に、私は思考が止まった。

 

『お友だちの契約金は、イクラおいくらHow much?一万一兆、それとも一京?契約対価は私の心?心の切り売りマジ野蛮!丸ごとならばマジ外道!ねぇねぇ教えて小猫ちゃん?私の価値はどれくらい?』

 

顔を上げれば、そこにいたのは、黒いドレスをきたことな先輩。その顔は酷く歪に笑っている。

 

「ことな・・・先輩?」

 

『貴女みたいな子を、後輩にしたわたしはいません!』

 

ドンッと突き放された私は、そのまま床に倒れてしまった。何が起きているのか分からず、私の頭は混乱するばかり。

気づけば、今までことな先輩の部屋にいたのに、今私たちがいるのは、写真が床や壁、天井にまで貼られた、異常としか言い様のない部屋だ。

足元を見れば、そこには私や部長、それに他のオカルト研究部のメンバーが写った写真。みんな笑顔で写っている。

 

明らかに異常な光景に、私は頭を抑える。同時に、ぼやけていた意識がはっきりした。

 

思い出した。本当の私がいる場所は駒王学園で、今、謎の人たちに襲われている。おそらく、目の前のことな先輩の顔をした存在も敵が化けたに違いない。

 

「あなたは一体、誰なんですか」

 

『酷い!酷いわ小猫ちゃん!私は貴女の友達、ゆめどのことなよ!貴女とは、あんなに愛し合った仲なのに!あんなに一緒だったのに!夕暮れはもう違うい・・・ところで夕暮れっていつぐらい?まあ、一緒にいた体感時間三十分くらいだよ。でも大丈夫だよね?だって私たち友達だもの!』

 

「もう良いです」

 

これ以上、話をしていると怒りでどうにかなってしまいそうです。とりあえず、ことな先輩の顔をしたこいつを倒そう。ことな先輩の顔で、ことな先輩の声で喋る、そのふざけた言動は、私の心を腹立たせる。ことな先輩を、これ以上馬鹿にするなんて許さない!

 

私は四肢に力を込め、叩き伏せようと跳び

 

『ねえ塔城さん、貴女は』

 

その顔目掛け、握った拳を突きだした。

 

 

『私の何を知っているんですか?』

 

その顔は、泣きたいのを堪えるように、くしゃっと歪んだ。



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31話

「裕斗!」

 

その声で僕はボーっとしていた意識を戻した。あれ?僕は今までどこに・・・!?声の方を振り返れば、僕の目の前には酷い光景が広がっていた。

 

床に蹲っている部長。抑えている部分の服は赤い染みが広がり、足元には真っ赤な水溜りが出来ている。。他にも全身を焼かれたかのように黒焦げになって倒れている姫島さんや、木の十字架に貼り付けにされたアーシアさんがいた。姫島さんからは黒い煙が立ち上っており、アーシアさんの真っ白だった修道服は真っ赤に染まっり、彼女の頭には茨の冠が置かれ、棘が彼女の額に突き刺さっていた。まるで、彼女が縋った偶像(神の子)を再現するかのように。ゼノヴィアさんはもはや体中を切り刻まれ、首と胴体が転がっていた。

 

なんだ、一体なんなんだこれは?

 

「何してるんだ木場!早くそいつを斬るんだ!」

 

一誠君の声がした。部長たちの近くには、一誠君が右手で肩を抑えていた。見れば左にはあるべき腕が無く、そこから真っ赤な血が迸っていた。

 

「これは何が起ったんだ!?」

 

混乱する僕を余所に部長が叫ぶ。

 

「祐斗!早くその裏切り者を斬るのよ!」

 

「キバァ!早く、早く裏切り者を、()()()()()()()()()()()!!」

 

「え?」

 

その言葉に、僕は頭を殴られたような衝撃が走った。

 

「みんな、一体何を言っているんですか?」

 

彼らの言っていることが解らない。

 

「ゆう、と、さん・・・。はや、く、ことなさんを・・・」

 

アーシアさんから漏れた、微かな声が耳に入った。

 

「そうです、わ。はやく、裏切り者、を、」

 

姫島さんからの声が聞こえた。

 

「だからみんな!一体何を言ってるんですか!」

 

僕は叫んだ。一体全体、この光景はなんだ?一体何が起きたって言うんだ!そう叫んだ僕の足を何かが掴んだ。

 

「木場さん・・・」

 

見下せば、そこにいたのは夢殿さんだ。彼女の身体は血を浴びたかのように所々に血が付いている。そして彼女の目は、身体は、縋りつくように僕を掴んだ。

 

「違う・・・違います!私じゃない!私はなにもしてません!木場さん、助けてください!私じゃないって言ってください!違う違う違うちがうちがう」

 

僕は泣き喚く夢殿さんを落ち着かせようと手を伸ばした。

 

「騙されないでください祐斗先輩!夢殿先輩は私たちを裏切ったんです!」

 

小猫ちゃんの声がした。

 

そこには、四肢を切り落とされ、床を這いずっている小猫ちゃんがいた。

 

「夢殿先輩は私たちを騙していたんです!禍の団と結託して、情報を流していたのは先輩なんです!それを問いただそうとしたら、彼女は力を使って私たちを・・・」

 

「違います!」

 

夢殿さんが叫ぶ。

 

「ふざけるなぁぁ!俺たちを騙していて愉しかったと言っていたくせに、アーシアを泣かせて笑っていたくせに何が仲間だ!木場!早くそいつを殺すんだ!」

 

「あなた達との友達ごっこは愉しかったですよ?でも自分は死にたくないので情報を流したと笑っていたじゃないですか!信じていたのに!信じてのに!」

 

「私は脅されていたんですと言っておいて、近づいたリアスを貫いて、うっそでーす!でも許してね?と笑っていたではないですか!」

 

「そうよ祐斗!自分が助かりたいために仲間を裏切ったことなを私は許さない!さぁ殺しなさい祐斗!これは命令よ」

 

みんなが叫んでいる。夢殿さんを殺せと叫んでいる。その声が、その言葉が不思議と身体に沁み込んでいく。聖魔剣を握っていた手に力が籠る。ああ、早く裏切り者を斬らないと。

 

「違う!違う違う違う!私は裏切ってない!私は、そんなこと知らないし、喋ってません!でもみんなが、私を殺そうとしたじゃないですか!お前のせいだ!お前が原因だって!だから友達が暴走したんじゃないですか!どうして私の話を聞いてくれなかったんですか!」

 

夢殿さんが叫んでいる。

彼女の言葉が僕を必死に留めている、違う。夢殿さんはそんな人じゃない。臆病だけど、それでも僕たちを友達と言ってくれた。信じていると言ってくれたのだ。そんな夢殿さんが、どうして裏切るんだ?握っていた手が緩んでいく。

 

「祐斗!あなたは私の『騎士』なのよ!ことなのせいで皆こうなってしまったのよ!さぁ、早く『騎士』の仕事をしなさい!殺すのよ!」

 

「木場さん!言いましたよね?私を守ってくれるって!私は何もしてない!信じてください!」

 

僕は、僕は・・・!

 

『斬りなよ』

 

僕の目の前に僕が立っていた。

 

『ほら部長が言ってるよ?』

 

でも、でも夢殿さんを斬れだなんて・・・!

 

『君は部長の『騎士』だよ。ほら、主が斬れと言っているんだ。君は悪くない。それに、悪いのは裏切った夢殿さんだよ?信じていたのにそれを踏み躙ったのは夢殿さんだ。彼女は君たちを傷つけたんだ』

 

僕が握っている聖魔剣を指さした。

 

『ほら、それで彼女を殺すんだ。大丈夫、君は悪くない。裏切ったのは夢殿さんだし、命令しているのは部長だ。君はただ命令に従うだけなんだ』

 

『それにリアスさんは木場さんの恩人でしょ?ほら、命の恩人の言葉は素直に聞くものよ?さぁ、斬りなさい』

 

僕の隣に、黒いドレスの夢殿さんがいた。その顔は微笑ましい笑顔で諭すように優しく僕に語りかける。

 

斬れ

 

切れ

 

キレ

 

きれ

 

斬れキレきれキレキレキレキレ切れ斬れキレキレ切れ斬れレレレレ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺セせせえセせコロセェ!!

 

 

違う!僕は、僕はそんなことをしたくない!でも部長が命令してる。それは正しいことで。でもそれは夢殿さんを殺すことで。

 

 

「祐斗!」

 

「木場さん!」

 

『さぁ!!』

 

 

『私の命令を聞きなさい!/私を信じてください!/貴方はどうするの?』

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

僕は剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

グシャリ

 

『あら残念』

 

それが答えた。その顔には意外という驚きの表情が、声には失望を滲ませた、がっかりしたような声だ。

 

私はその声を聞きながら、乱れた呼吸を整えていく。

 

『それ痛くないの?』

 

ことな先輩の顔をしたそれは、それに指をさした。右手の掌が肩にくっつくまで曲がった私の右腕を見て、気持ち悪そうに顔をしかめながら。

痛みでおかしくなりそうです。このまま千切った方が楽になるかも、と思ってしまうほどに、私の右腕は痛みしか感じない。

もしも、もしも私が右手を殴ってでも止めなければ、私はそのままことな先輩の顔をしたこいつを殴り潰したに違いない。むしろそうした方が正しかったとさえ思ってしまう。

それでも、私は気になる言葉を聞いてしまった。

 

 

「何を知っているんですか?」

 

『うん?』

 

私は左手で首元に手をかける。

 

「貴女が夢殿さんの何を知ってるんですか!答えてください!夢殿さんの何を知っているって言うんですか!!」

 

自然とと首を締めていく力が籠っていく。ギリギリと締めていく感覚が手に伝わっていく。

 

『何でも』

 

それが口元を歪めた。

 

『何でもかんでもみーんな知ってるよ?嬉しいこと、哀しいこと、恐ろしいこと、面白いこと、みんなみーんな知ってるよ?』

 

その両手が、首を締めている私の手にかかり、ギリギリと開かされていく。夢殿さんの顔をして、同じ見た目をしているのに、私に触れている真っ黒い手は人とは言えないほどに力が強い。

 

『私は何でも知ってるよ?それじゃあ貴女は知ってるの?この子のことを知ってるの?友達トモダチ、でも他人。貴女はこの子の友達宣言。でもでもそれって有効制限?それはこの子が強いから?それはこの子が凄いから?前は見向きもしなかったのに、友達発言マジウケる』

 

「何を、言っているんですか・・・」

 

解らない。この人が何を言っているのか解らない。ことな先輩の言っていることが解らない。

 

私を見つめることな先輩の目元が下がる。

 

『ねえ、小猫ちゃん』

 

優しい声が聞こえる。

 

『どうして私と友達になってくれたの?』

『どうして私に相談するの?』

『どうして私を信じるの?』

『どうして私を頼ってくるの?』

『どうして私に近づいたの?』

『どうして笑顔で、他人を傷つけられるの?』

『どうして悪魔を殺せるの?』

『どうして守ってくれなかったの?』

『どうしてどうしてどうしてどうして・・・・・・』

 

濁流のように聞かされ続ける、ことな先輩の『どうして?』という言葉の波。その波に呑まれ、私は呼吸すら出来なくなってしまう。苦しい、助けて、息が、息が出来ない!そのまま意識が失いそうになり、視界が真っ暗になろうとして・・・

 

『もういいかな』

 

パチンと音がして、音の濁流は止まった。

 

意識がもはや保てない。頭に靄がかかり、視界はパチパチと明滅を繰り返している。ふと、顔を何かで触られた。

 

さて小猫ちゃん、君に私の秘密をちょこっと教えてあげよう』

 

こつんと私の額になにかが触れて、

 

『追体験レッツらスごー!』

 

情報が流れ込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことな!

 

おとうさん!おかあさん!

 

ごめんねことな、寂しくなかった?

 

うん!あのねあのね。わたし、『ともだち』ができたたんだよ!だからもうだいじょうぶ!

 

そうか。でも友達に任せるのも悪いから、今度一緒に出掛けよう。もちろん、友達も誘ってね。

 

わーい!おとうさんだいすき!

 

 

 

 

 

 

おとうさんみて!『ともだち』だよ!

 

うん?そうか、君が友達か。ことなと友達になってくれてありがとう。

 

おとうさん?どうしてそっちをむくの?『ともだち』はこっちだよ?

 

でもことな、ことなの友達はこの子じゃないの?

 

え?

 

 

 

 

 

 

ことな、最近はどうだい?

 

うん、私は大丈夫だよ。心配しないでいいから。お父さんもお母さんも忙しいでしょ?

 

でもねぇ・・・。

 

大丈夫だって。私は一人でも頑張れるから。二人ともお仕事行ってらっしゃい。

 

そうだ。今度の日曜日、久々に遠足に行こうじゃないか。

 

遠足って、私はもう子供じゃないんだよ?

 

貴女はいつまでたっても私たちの子供よ?そうね、お弁当も作っちゃおうかしら!

 

もう、お母さん!

 

 

 

 

 

 

なんで?

 

どうして?

 

教えてよ?

 

どうしてこうなったの?

 

お前の父親のせいだ!お前の父親が俺にぶつかってきたんだ!そうだ、そうに違いない!俺は悪くない!悪くないぞ!寧ろ俺は被害者だ!お前の家族がいなかったら事故に合わなかったんだ!俺の責任じゃない!お前の父親が!お前らのがいたせいで!死ね!死んでしまえ!

 

どうしてこんなに冷たいの?

 

 

 

 

呼ばれてなくても速参上!ことなちゃーん!遊びに来たよー!

 

五月蠅い。なんで構う。どいつもこいつも信用できない。みんなみんな大っ嫌い。

 

家に入れてよー!ことなちゃーん!ほら、ことなちゃんの好きな牡丹餅持ってきたんだよー?食べちゃうよー!

 

どうして、どうして、私なんかに構ってくれるの?

 

 

 

 

ことなちゃん!やっと開けてくれたね!

 

舞、ちゃん?

 

はいこれことなちゃんの牡丹餅。

 

えっと、ずっといたの?

 

そうだよー。ずぅっと待ってたのに酷いよことなちゃん!なんで直ぐにでてくれなかったの!

 

えっと、ごめん、なさい?

 

うしうし、良く出来ました。

 

じゃあことなちゃん、一緒に食べよ?

 

うん。         牡丹餅、おいしいなぁ

 

 

 

 

そうだ!目の前でこいつを食べてあげるわ!そして貴女を食べてあげる!あはははは!絶望して死になさい!

 

許さない

 

他人など知ったことか!俺は!お前達を殺して戦争を起こす!

 

許さない

 

俺は強い奴と戦えるなら世界などどうでもいいんだよ。

 

許さない

 

まずはこの町諸共あなた達を消し飛ばします。

 

許さない

 

 

 

絶対に許さない

 

 

 

ゆめどのことなは、目の前で膝をつき、動かなくなった塔城小猫に微笑む。彼女の両手がゆっくりと伸び、塔城小猫の顔に触れた。

まるで陶器を扱うように優しく触れ、下がっていた彼女の顔を上げる。

 

塔城小猫の眼は光のない真っ黒に染まり、口からは「あ、あ、あ、あ、あ・・・」と、壊れたラジオのように「あ」を繰り返していた。

 

 

 

『さて小猫ちゃん、しっかりきっかり答えてちょうだいな』

 

『貴女は私と友達なれるの?』

 



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