Muv-Luv ユウヤ・ブリッジスの第二な人生 (nasigorenn)
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ミッション1 俺はいったいどこにいるんだ
笑ってください、こんなことを考えてしまう馬鹿な作者を。
目の前に浮かぶ表示とビービーとうるさい警告音が癪に障る。
そんなことは一回で分かり切ってるってのによぉ。そう思いながら俺はそれらの警告を黙らせていく。
「一々五月蠅いんだよ、たく。そんなもん、戦り合ってる俺が一番わかってるっての!」
自分を鼓舞するようにそう言いつつ俺は操縦管とペダルを踏み込み、相棒を動かす。
『XFJ-01a 不知火・弐型』………俺と共に高みへと登る最高の相棒と共に、俺は戦う。
相手は糞ったれな地球外起源種『BETA』。見た目からして気持ち悪い奴等だ。
奴等は殺しても殺しても湧いてくる。それこそ無限と思える程に、キリがない。
だが、それでも………俺は戦い続けるんだ。人類のために、仲間のために。
そして………『一番大切なアイツ』のために。
「だからよぉ………こんな所でお前等に殺されるにはいかねぇんだよぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」
半壊した跳躍ユニットを強引に噴かせ、要撃級の集団に突っ込む。
既に突撃砲の残弾はねぇ。120㎜は勿論、36㎜も使いきった。メインに使ってた74式近接戦闘用長刀はへし折れてもう使えない。せっかく『アイツ』から剣術を教えて貰える事になっていたってのによ。
だから残ってるのはこの65式近接戦闘用短刀だけだ。
もうこれ以外武器はない。心もとないのは仕方ないが、それでもやらなきゃならねぇんだ。
だから短刀を俺は要撃級の足に突き刺し強引に切り裂く。
切り飛ばされた足が宙を舞いバランスを崩した要撃級が地面に崩れ落ち、その勢いを殺さずに更に別の級の鋏の付け根に突き刺し無理やり切り飛ばした。
当然周りの要撃級からの鋏による攻撃が向かってくるが、それを跳躍ユニットの噴射や足捌きで避け搔い潜り、尚も短刀で要撃級を殺していく。
もう機体は半壊以上であり限界だが、それでも諦めるつもりは毛頭ない。
俺と相棒なら、もっと戦える。そう確信している。信じている。
だから………。
「まだまだ死なねぇぇぇええええええええええ!!」
その言葉を真実にするためにもっと多くのBETAを殺していく。
だが、その意思とは裏腹に相棒のダメージは蓄積していき、それはどんどん俺達を締め上げていく。
「はは、片方の跳躍ユニットが吹っ飛んだ上に更に片腕がもがれたか。だけどよ………それでもだ。それでも俺は………諦めねぇ!」
ただひたすらにそれだけを胸に抱き、BETAの群れに突っ込んでいく。
片手に持った短刀だけを頼りに、ひたすら斬り殺す。殺して殺して殺し尽くす。
あぁ、せっかく綺麗な色をした相棒が汚く赤くなっちまって。これを見たら『アイツ』はどう思うだろうな?
きっと涙ながらに生きていたことを喜ぶんだろうが、それでもその後は怒るだろうさ。
『せっかくの機体をこんなに壊した上に汚しおって』
とか言いそうだ。
そう言う『アイツ』の姿を思い浮かべたら、何だよ………可愛く見えちまうだろうが。
あぁ、まったくもって自分がおかしいのが良く分かっちまう。だって命が掛かってる絶体絶命の時に………こんなにも愉快で笑っちまうんだから。
それがおかしいんじゃなかったら何だっていうんだ? でもよぉ、おかしくたっていいんだ。
ただ、アイツが悲しむことだけはしたくない。
だから………『アイツ』のためにも、絶対に生き残ってやる。
そう心に決めながら更に短刀でBETAを殺し続けていたが、急に鳴り響いた警告音に顔をしかめる。
「なっ!? レーザー警報だと! ぐあっ!?」
突然機体に衝撃が走り、身体が揺さぶられる。
そして目の前で表示される情報により、相棒の右足が吹き飛んだことを知った。
どうやらレーザーを咄嗟に回避しようとして失敗したらしい。
「クソったれめ!」
悪態を付きつつも何とか機体を動かす。
片足がない所為で満足に動かせなくなってしまったが、それでも俺の闘志は衰えない。
「相棒の片足をふっ飛ばした奴だけどもぶっ殺す!」
もう滅茶苦茶だと思いながら跳躍ユニットをフルスロットで噴射させ飛び上がる。
片方しかないからバランスがとれずに錐揉み回転しながらの飛行だが、それでもひたすらに突進し、相棒の足をふっ飛ばしたであろう光線級を見つけた。
「これでも喰らいやがれ!!」
その叫びと共に持っていた短刀を投擲。
飛んで行った短刀は見事に光線級をミンチへと変えてくれた。
それを見てざまぁ見ろと思っていると、更に機体に衝撃が走った。
意識が吹っ飛びかける中で確認すると、どうやら要塞級の触手にかすっちまったようだ。
その所為で弾き飛ばされたらしい。
もう相棒は大破状態。
転がった地面の先には糞共がわんさかと群れてやがった。
もう助からないことは分かってる。
それでも…………。
「俺は絶対に…………負けねぇ!!」
そして最後に残った『自爆装置』のスイッチを押し、俺の意識は…………消えた。
真っ暗な中にいることを自覚する。
あれほどの事があって生きているとは思えねぇ。ならつまり、こいつは所謂死後の世界って奴なんだろう。
なんだ、てっきり地獄にでもいくもんだと思ってたんだが、地獄ってのは案外拍子抜けするもんだな。
どこを見ても真っ暗で何もない。
どうすっかなぁ……………そんなことを考えていたわけなんだが、何処からか声がしてきた。
『………きて………起き………起きて…さい………遅刻………』
その言葉が聞こえる方向へ自然と歩き始める。
そして俺の視界はまばゆい光で一杯になり…………。
「お、起きて下さい、ブリッジスさん! 早く起きないと遅刻しちゃいますって!」
「う、う~ん…………」
目を開くとそこにあったのは見知らぬ天井。見た限り珍しい木製と思われる天井。
何故そんなものが見えるのか分からなかったが、俺は次の瞬間には目を見開いてしまう。
「あ、やっと起きてくれましたね、ブリッジスさん。で、でも、出来ればもう少し寝顔を見ていたかったかも………な、何考えてるの、私ったらはしたない…………」
俺に声をかけてきたのは真っ黒い美しい長髪をした女の子。
その子は俺を見ながら頬を染めつつ俺の名を呼ぶ。
「どうしたんですか、ブリッジスさん? まだ目が覚めていませんか?」
不思議そうに首をかしげる姿が可愛らしいが、今はそれどころじゃない。
俺は彼女の肩を両手で掴み顔を近づけて問いかける。
「中尉、何でここに!? それよりここは一体?」
「キャッ!? ブ、ブリッジスさん、いきなりどうしたんですか!? そ、その、こんな急に……いえ、嫌じゃなくて寧ろ嬉しいんですけど、こんな急にされてしまうと心の準備が出来ていないので、その、あの、あぅ~~~~~」
目の前で何故か顔を真っ赤にして目を回す彼女に俺は慌てて手を離した。
「いや、すまねぇ、驚かせたな」
「いえ、別に。それよりどうしたんですか? 私、中尉なんて名前じゃないですよ。あ、もしかして昨日遅くまでゲームでもしてたんじゃないですか? 駄目ですよ、夜更かしして遊んでちゃ。あ、今の少し奥さんっぽいかも………」
何故か顔を赤らめる彼女。
一体なんだっていうんだ? それによくよく見てみるとその服装がおかしい。
いつもの国連軍士官服じゃなく、何やら白と紫の二つの色で構成された何かしらの制服のような物を着ていた。
似合ってはいると思うが、いつもより威厳を感じられない。
それに何より、こんなに感情豊かな奴だっただろうか?
いや、確かにアイツは感情の起伏が激しいが、それでもなんというか、ここまで表に出すような奴ではなかった。帝国軍としての誇りを胸に、常にその責務を果たそうと真面目で自分に厳しい奴だったと思う。
そんな彼女のことを俺は不審に思ってしまい、それを感じ取ったのか彼女は心配そうに俺を見つめてきた。
「本当にどうしたんですか? もしかして体調が悪いとか? だったら私、急いで大学にお休みの連絡入れてきますね」
真剣に俺を心配する彼女。
そんな彼女に俺はこれからするであろう質問に馬鹿馬鹿しさを感じつつ彼女に問いかけた。
「なぁ、馬鹿らしいと思うが聞いてくれないか」
「はい?」
「俺と………ちゅ…アンタの関係について教えてくれないか?」
その言葉に彼女は本当に心配しつつ、苦笑を浮かべながら答えてくれた。
「もしかして忘れちゃったとかいいませんよね? だったら酷いです。なので忘れちゃったかもしれない薄情なブリッジスさんにもう忘れられないようにきっちりと説明させて貰いますね。ここは日本で私、『篁 唯依』の実家です。そしてあなたは『ユウヤ・ブリッジス』さん。大学の留学生で家に下宿していて私の家庭教師さんです。もう~、忘れないでくださいね」
彼女…………篁 唯依は、俺の大切な人は、そう言う共にカーテンを開く。
入り込んでくる陽の光とともに広がる光景に俺は今度こそ言葉を失った。
「…………………これは………どういうことだ……………」
この日、俺は初めて自分の精神が本当にいかれたのかと思った。
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ミッション2 彼女の両親
今目の前にあることがまったく理解出来ない。
何で俺がこんなところにいて、どうして中尉は俺に対しいつもとまったく違う対応をしているのか?
分からないことだらけで頭がパンクしそうだ。
とりあえず今まで覚えていることを整理してみよう。
1、俺の名前はユウヤ・ブリッジス。アメリカ陸軍・戦技研部隊所属で国連軍アルゴス試験小隊に転属されてきた。階級は少尉。
2、俺の任務は「XFJ計画」の試験機であるXFJ-01a「不知火・弐型」の完成。
3、基地をテロリスト共に襲撃され、そいつらの所為でBETAが更に襲ってきて、それで俺は……………。
「あれ? 覚えてない。いや、死ぬ間際までは何とか覚えてる」
そう、最後に盛大に自爆してやろうとしてスイッチを押したのは覚えてる。
でもその先からがおかしい。あの距離で自爆して助かるはずがないのに、どうして俺はこうしていられるんだ? そもそも、さっき『中尉』はなんて言った?
『ここは日本で私、『篁 唯依』の実家です』
日本? 一体俺はいつ日本に移動したんだ?
どう考えてもおかしい。死んだはずなのにこうして生きていて、しかも一度も来たことのない日本にいる。
駄目だ、頭が痛くなってきた。
そう思ってると中尉………いや、本人曰く階級なんて気にしてないのか普通に名前で呼んだ方がよさそうだな。唯依が何やら心配そうな目で見てきた。
あまり心配させるもの悪いし、とりあえず起きるか。
動けば少しでもこの奇妙な状況も少しは動くだろ。
そのために………これは所謂『布団』って奴か? 以前日本について調べた際に出てきた寝具の知識で確認し、それを身体から退かす。
すると突然悲鳴が上がった。
「キャッ!? ぶ、ブリッジスさん、何で寝巻を着ていないんですか!!」
悲鳴の発生源を見ると、何やら唯依が顔を真っ赤にして両手で目を覆っていた。
そう言われて気が付いたんだが、今の俺の格好は上半身裸に下がトランクスという格好だ。別に驚いたりするようなことじゃないと思うんだが?
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「どうしたじゃないですよ! ちゃんと寝巻を着て下さい!」
何故か唯依はさっきと同じく目を両手で隠したままそう言うが、よくよく見たら指の隙間から瞳が見えている上にやけに俺を見ていた。
何がしたいのやら?
とりあえずこのままにして置くのもなんだし、言われた通り着替えるか。
「まぁ、とりあえず着替える」
「そ、そうして下さい!」
唯依は俺にそう言うなり凄い勢いでこの部屋から出て行った。
その様子を見つつ気がついたが、この部屋は所謂『和室』というものじゃないか?
確か日本のある古くから続く伝統的な部屋だと記憶している。
XFJ-01a「不知火・弐型」の完成のために剣術について調べた際にそういった知識も学んだ。だからなんとなくだがわかる。床にあるのは畳で、先程結衣が開けて行った鍵の無い木と紙で出来たドアが障子。うん、記録にあった通りだ。
そんな部屋を改めて見回し、やっと部屋の全貌が知れた。
畳の和室に布団、そして少し離れた所に簡易型のデスクがあり、後はクローゼットか? まず一通りは揃っているみたいだ。
なのでクローゼットから適当に服を取り出すんだが、どれもこれも普通の服だ。
いや、普通の服があることは問題じゃない。気になったのは、その中に国連軍士官の制服もアメリカ陸軍の制服もなかったことだ。
アレらは一応ちゃんと管理していたはずなんだけどなぁ。そして更に気付いたが、BDUもフライトジャケットも何もない。軍隊に所属している人間なら必ず持っているはずのものが一切ないのだ。
だからこそ、余計に混乱しそうになる。
だが、このままでは何もわからないままだ。今の俺には圧倒的に情報が足りなさすぎる。今の置かれている状況を打開するには、情報収集が最優先だ。
だから服を着て唯依に話を聞かなきゃな。
と思って手にとったシャツを見たんだが、その途端に俺の顔が固まった。
「何だ、このシャツは?」
真っ白いTシャツなんだが、そこに書かれているのが今までの俺だったら間違いなく神経を逆撫でされるような言葉だった。
『I love 日本♡』
今ではそこまで酷い拒絶感はないが、それでもこのあからさまなのは馬鹿にしているとしか思えない。
だが、それ以外を探すのも時間的に限界かもしれない。
そう思うと俺は仕方なくそのTシャツを来て襖を横に移動させ、そして部屋の外に出た。
その先にあったのは木で作られた廊下。外側には確かにガラスによる窓が付いているが、それでも俺はこれが木で出来たものだと思った。
その廊下を歩いていき、人の気配がする方へと向かう。
しばらくすると和室から普通の部屋になったのかドアが見えてきた。
そのドアに軽くノックをしつつ扉を開けると、これまたおかしなものを見た。
「あら、やっと起きたのね、ユウヤさん」
俺に向かってそう言ってきたのは、唯依に似た黒い髪をした女の人だ。
着物を着ていて上品な感じだ。見た限りだが、唯依の姉か何かか?
そう思ってついつい目を向けてしまっていると、今度はテーブルにいる男が朗らかに笑ってきた。
「おはよう、ユウヤ君。よく眠れたかい?」
男の方は何と言うか、凄く朗らかな感じだ。
常に笑顔が絶えないって感じで俺に微笑む。なんだか妙な感じがしてきた。
その所為なのか妙な緊張を感じていると、奥のキッチンから唯依が出てきた。
手にはトレ―があり、その上には何やら料理が置かれている。
「あ、やっと来たんですか、ブリッジスさん。もう~、待ってたんですよ」
頬を膨らませながらそう言う唯依。
その幼さを感じさせる様子が知っているはずの唯依なのに新鮮に感じてしまう。
そんな唯依の様子を見て、先程挨拶してきた女性が朗らかに笑う。
「あらあら、唯依ったらすっかりユウヤ君に懐いてるわね、出会った最初は寧ろ怖がってたのに」
その言葉に唯依が顔を真っ赤にして慌てて反論する。
「もう、お母さん、何言ってるの!」
何、お母さんだと? つまりこの人が唯依の母親ってことなのか? どう見ても唯依の姉にしか見えない。日本人ってのはあまり見た目が変わらない人種なのか?
そんなことを考えていると今度は男の方から声が掛かる。
「唯依、お母さんに図星を指されたからといって慌ててはいけないよ。それにそれはユウヤ君の朝ご飯だろ? 冷めないうちに彼に渡さないといけないんじゃないかい?」
そう言われ唯依は慌てて俺の方にそのトレ―を運び始める。
「お父さん、一々そういうこと言わないで!」
「そうは言っても、言わなかったらお母さんにくっついたままだったろ」
「むぅ~~~~~~」
その会話から男が唯依の父親だということが分かった。
これが唯依の両親か……………。
まさか唯依の親に会えるとは思わなかった。余計に頭は混乱するが、それでも悪い気はしない。
それに何よりも、唯依が持ってるトレ―の中身から発せられる香りに俺の腹が鳴った。
今初めて気付いたが、どうやら俺は空腹らしい。
だからまず、俺がすることは少しでも朝食取ることのようだ。
「ブリッジスさん、どうぞ」
「あ、あぁ」
受け取ったトレ―の中にはトーストとコーヒー、それにスクランブルエッグが乗っていた。
その朝食を持って唯依の父親と同じようにテーブルの席に着く。
そして皆が揃ったところで唯依が両手を合わせた。
「それでは、いただきます」
その言葉に両親も同じように両手を合わせて同じ言葉を言う。
俺もそれを真似して同じように言葉を言った。
「いただきます」
そして最初に口に入れたスクランブルエッグの味はとても優しく、困惑している俺を癒してくれるような味だった。
とりあえず分かったことは、ここが唯依の家で親がいるってことだ。
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ミッション3 俺はもしかして別の世界に………
今まで経験したことのない朝食だった。
まさに家族の団欒って奴なんだろう。俺の家族は母親しかいなかった上に祖父母がアレだったからな。こんな『和やか』な時間を過ごしたのは初めてだったかもしれない。
それに更に驚かされたのが、唯依が持ってきた朝食だ。
滅茶苦茶美味かった。
別にメニューに特殊なものがあったわけじゃないんだが、それまで合成食材ばかり食ってきてそっちに舌が慣れちまった俺には喰ってすぐに分かった。
これ、 天然物だ。
今のご時世、天然の食材なんてものを扱えるのはアメリカくらいなもので、それ以外の国ではもっぱら合成食材が出回っている。それは俺がいたユーコン基地でも一緒だ。
確か記憶が正しければ日本は今、すべての食事が合成食材でしかも配給制。その上量が満足になくて常に不足しているという危機的状況のはずだ。
だというのに唯依はさも当たり前のようにこいつを出してきた。
どういうことだ?確かに唯依は譜代武家という身分の出身だが、それでもこうも簡単にだせるものなのか? 国ですらそうそう簡単には出せない代物だと言うのに。
と、そんなことを考えつつ食後のコーヒーを啜る俺。
さりげなく周りに目を向けて情報を集めるが、中々に進まない………と言うわけではないのだが、それでも俺には信じられないような事ばかりだった。
唯依の父親……名前を確認した時には不思議がられたが、祐唯というらしい。その人が見てるテレビから流れていたのはニュースや天気予報。
それを何気なく見ている父親だが、俺からしたらそれは衝撃以外の何物でもなかった。
まず天気予報だが、何でも人工衛星で気象を観測し、それから予測を立てて予報するというものだ。
ちょっとまて。BETAの所為でその手の物はすべて破壊されているんじゃなかったか?
俺自身が関わったわけじゃないが、その手の人工物は軌道衛星上にはないのが通説のはずだ。
それだけでも驚きなのに、更に流れたニュースは正気を疑うものだった。
日本各種の事件事故の報道から始まり世界各国の情報報道、株価やら何やらと情報は多岐に渡る。
おかしい。日本の首都は京都から東京に移ったというが、それ以外の都市がこうも普通にあるはずがない。この国はBETAの侵入であちこちが潰され京都も陥落したなのに。それに世界の情報に関し、BETAの所為で既に滅亡したはずの国のものもあった。
あの国が立ち直ったなんて話は聞いたことがないし、そもそもBETAの領域のはずだ。その中で人間が生存出来るはずがない。
もう、なんだってんだ………………。
調べれば調べるほど分からなくなる。
俺が知っている情報の殆んどが外れていて、逆に知らない事ばかりが溢れ出る。
ここが日本だというが、本当にそうなのか? そんな気になって仕方ない。
だから正直に聞いてみたい。だが、それをして自分がおかしいと思われるのはそれはそれで嫌な気がする。
だからどうしたものかと考えていると、何やら唯依が騒々しくしていた。
そんなアイツを見ていると、父親が俺に笑いかけてきた。
「そろそろ君も準備した方がいいんじゃないか?」
準備と言われても俺は何が何やらわからないんだが?
そう思ってると今度は唯依の母親………栴納というらしいが、彼女が父親に仕方ないと言った感じに話しかけた。
「そういう貴方もそろそろ会社に行く時間ですよ。ユウヤ君に構いたいのは分かりますけど、あまりそうしていると唯依に睨まれてしまいますよ……ほら」
そう言って示した先には、片手持ちの焦げ茶色をした鞄を持った唯依が俺に向かって走ってきた。
「ブリッジスさん、急いで下さい! このままじゃお互い学校に遅刻しちゃいます!」
学校? ここに来て色々と驚かされてばっかしだが、これは極めつけにアレだな。
驚き過ぎて何だか色々と判断が鈍ってくる。
だから俺は唯依に素直に聞くことにした。
「な、なぁ……学校ってどこに?」
その言葉に唯依は不審に思ったのか、俺をジト目で見てきた。
この感じ……確かジャイアントケルプに関節技を決められて身動きが取れなかった時の後にも同じような目で見られていたっけ。
「本当に大丈夫ですか、ブリッジスさん? 学校って言ったら学校です。私は白陵大付属柊学園に、ブリッジスさんは白陵大学ですよ」
「はぁ? 俺が大学に行く?」
「そうですよ、留学生なんですから」
もうあれだな。
まったくわからん。俺が何で大学にいかなきゃならないのか? 何故俺が留学生なのか? 俺の知っている情報からかけ離れ過ぎて、何が何やらわからないことだらけだ。
そこで考え付くのは頭の狂った夢物語。普通に考えたら絶対にあり得ないこと。
だが、そうでもしなきゃ話がつかない。
もし、それが本当だとしたら俺は………………。
そう考えていたが、気が付けば唯依に急かされてその大学に行く準備とやらを整えていた。
ラフな私服に教材の入ったリュックサックを片方の肩にひっさげ、スニーカーを穿く。
それらのものはすべて俺の部屋に揃っていたことから俺が大学に通っているというのは本当のことらしい。
もう仮説が真実になってきたとしか言いようがない。
『ここの俺』はそうらしい。だからこれが正しいのだ。
なら『俺』はどうしてここにいるんだ? 本来あるはずの『ここの俺』はどうなったんだ? そして俺がどうしてその枠におさまっているんだ?
考え込んでも仕方ないと思っても考えてしまう。
そんな俺に唯依は笑顔で話しかけてきた。
「それじゃブリッジスさん………行きましょうか!」
それは確かに俺が知っている唯依の笑顔で、いつも見ていた彼女よりも更に明るく可愛らしい彼女に胸がドキっとした。
顔が熱くなるのを感じる。何でこんな風になってるのか自分が分からなくなる。
ただ、それでも…………その差し出された手を取って一緒に行きたいと、俺は思った。
「あぁ、そうだな」
確かにこんがらがることが多くて厄介だが、とりあえずはまず楽しんでみようと、そう思うことにした。
この『並行世界』ってやつを。
「ひゃっ!? そんな、ブリッジスさん、急に大胆です! で、でもブリッジスさんの手、大きくて暖かくて…………これが男の人の手なんですね………こういうものイイかもです………はふ~」
何故か知らないが、唯依が顔を真っ赤にしつつも嬉しそうだった。
もしこれが並行世界だとしても、案外こいつだけは変わらないのかもしれないな。
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ミッション4 とりあえず行こうか。
リアルが忙しすぎてパソコンの前で寝落ちする毎日でしたので。
今現在の情報で考察するに、考え出された答えはあまりにも非現実的なものだった。
まさか『並行世界』なんてオチだとはなぁ………。
まだその確証は出来ないが、そうでもないと説明がつかないことが多すぎる。逆にその前提でいけば逆に違和感なくしっかりと話が収まる。
だからといって完璧にそうだと確定するのは、それまでの『俺』が認めたくないと思うのも事実。
だから未だに確定するわけにはいかない。しばらくはこの世界について調べようと思う。
仮にも並行世界だというのなら、どういう世界なのかも興味が湧いてくるしな。
だからまずは、中尉………唯依に言われた通りに大学に行ってみるとしようか。
と、思ったんだが…………。
わ、わからねぇ………。
そう、どうにも記憶の混濁があることもそうなんだが、元より俺はこの世界の人間ではないし、それ以上に向こうでも日本に来たこともない。
つまり何が言いたいのかと言えば………土地勘がまったくないので、その『白陵大学』とやらの場所がわからないんだ。
さて、どうしたものか。このままでは大学にいくことが出来ない。別に行かなくても良いと思うのだが、今の俺を取り巻く人間関係を知るためにも行った方が良い。
とは言えだ。下手にここで唯依に大学の場所を聞こうもんなら、それこそ不気味がられてもおかしくない。
こう言うのも何だが、『親しい奴』からそんな視線を向けられるのはかなり堪える。
だからやんわりと違和感なく場所を聞き出すしかない。
そう決意を固め、俺は隣を歩いている唯依に話しかける。
「な、なぁ、唯依」
「っ!? ひゃい!! な、なんれすか!」
こいつ、一体どうしたんだ? 俺が声をかけたことにビックリしたのか、真っ赤な顔で慌ててるようだ。
挙句は噛んだことに恥ずかしそうにしてる。何だ、この感じは…………こう、何と言うか………可愛いな………ってそうじゃないだろ、たく。
どうにもこっちの唯依は俺のことに関し過敏な所があるような気がする。
いや、逆にこれが本来のアイツなのかもしれない。この世界のことで今分かってることから考えれば、こいつは譜代武家でもないし日本帝国軍の軍人でもない。
普通の高校生の女の子なんだ。
歳不相応に背負っていた重責から解放されたのなら、そこにあるのはまさに今目の前にいる唯依のようになるのだろう。向こうの世界では絶対に無理だが。
だからこそ、こうも思う。
きっとこんな風なのが、本来の唯依なのだろう。
そんな彼女を見ていて俺の心は解れ、笑みを浮かべてしまう。
「落ち着けって。別に俺が何かしたわけでもないだろ」
「そ、そうですけど、その………(手を繋いで貰っていて嬉しくて夢中だったなんて言えないし)お、驚いてしまっただけです!」
「そいつは悪かったよ。だからまぁ、とりあえず落ち着こうな、な」
「は、はい………」
落ち着くように言いながら軽く頭を撫でてやったら、途端に顔をトマトみたいに真っ赤にして俯いちまった。もしかして対応を間違えたのか?
だが、その割には嫌がっていないというか、寧ろ嬉しそうにしてるんだが……まぁ、いいか。
「それでなんだが……もしよかったら大学近くまで一緒に行かないか?」
「大学近くまでですか? 少しだけ遠回りになっちゃうから大丈夫かな?」
こう誘えば、少なくても大学近くまで行くのに違和感はないはずだ。
とはいえ、こいつも朝の通学中なわけで遅刻させるわけにもいかない。だから出来ればのお願いと言うことになる。断られたのなら、その時はおとなしく道を調べながら行くしかないか。
そう心に決め込みながら唯依の答えを待つことに。
すると唯依は恥じらいつつも答えた。
「今からだと少し危ないけど、急げば何とか間に合いそうですし……それにブリッジスさんと一緒にいたいから、その………ご一緒させてもらいます………」
「そ、そうか…………」
思わず見惚れちまうくらい、今の唯依は可愛くて………気恥ずかしくて思わず顔を逸らしちまった。
唯依はその後も、モジモジとしながら俺に微笑みかける。まるで俺の誘いに心底嬉しそうに。
「な、なら、その………行こうぜ」
「はい!」
そう答えると唯依は俺の腕に身体を添わせる……まさに寄り添うにように。
その時に感じた唯依のやわらかな感触に心臓がドキドキとした。
そんな風に唯依と一緒に大学まで行ったお陰で何とか迷うことなく済んだわけなのだが、まさかここで『コイツ等』と再開することになるとはなぁ。
それは大学の入り口辺りまで来た時だった。
「おいおい、まさかいきなり高校生とラブラブ通学かよ、相棒!」
「流石はトップガン、女に手を出すのも最速ってか?」
「おい! ユウヤはお前みたいなナンパ野郎とは違うっての、VG!」
「そうね、ユウヤはもっと生真面目でシャイだもの。アナタとは違うわよ」
前の世界の戦友と相棒にまさかこうして再開し、そしてこうして冷やかされるなど思わなかった。
「お、お前等…………」
別に久々の再会ってわけじゃないはずなのに、何故だがかなり会っていなかったような気がする。
それが何だか嬉しくて、そして…………。
「そ、そんな、ラブラブだなんて…………」
唯依の奴が真っ赤になってあうあうしていた。
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ミッション5 俺の相棒と戦友達
この世界に来て再会した戦友達。
皆見た目は同じだが、やはり話していてその違いを改めて知ることになった。
『ヴィンセント・ローウェル』
俺の相棒。
向こうの世界では軍に入った時からの付き合いだが、それからずっと一緒にいる腐れ縁って奴で、いつも世話ばかりかけさせてしまっている。俺の機体の整備を安心して任せられる相棒であり、所謂女房役って奴だ。女好きで面白いことに目がないのが偶にキズだが、それでも良い奴だよ。
それが向こうでのアイツ。そしてこの世界に於いては、どうやらHigh School……つまり高校の時からの付き合いらしく、ずっと同じクラスで一緒に馬鹿をやっていたんだとか。
そしてこいつは向こうと変わらず女好きで快楽主義、そして気遣いが出来る優しい奴だってことが分かった。絶対にそんなふうには褒めないけどな。
『ヴァレリオ・ジアコーザ』
俺がアルゴス試験小隊に配属されたときからの付き合いのある戦友。
最初は軽薄な奴だと思ったが、実は仲間思いで皆との仲を円滑にすることが得意な奴だった。こいつに助けられたことは今まで何度もあったから本当に感謝してる。
こいつとヴィンセントがつるむと二人でロクな事をしでかすのがアレだが。
後ヴィンセント以上に女好きでナンパしまくってる。その成功率は悪くなく、そこから得た情報に助けられたのもしばしばだ。二つの意味で凄い奴だよ。
それが向こうのアイツ。そしてここのVGとの出会いは大学からで、取った講義が一緒ってことから付き合いだしたんだとか。
そして変わらずこの世界でもこいつはナンパしまくってるらしい。
『ステラ・ブレーメル』
こいつも俺がアルゴス試験小隊に配属されたときからの付き合いのある戦友だ。
最初は腕は確かだが表情が分かり辛い冷血女だと思ったが、実はそんなことはなく、寧ろ母親みたいに優しい女だった。周りの気配りもするし、不安を感じていた俺を優しく宥めてくれたりなど、凄く女らしさを持つ奴。料理が出来て家庭的なところもあり、意外と茶目っ気もあって冗談も通じるという話せる奴さ。
スタイルの良さも凄くて性格も良いのに何故か恋人とかそういった話がまったく聞こえない奴だったけど。
そしてこっちではどうやら同じサークルの人間らしい。いや、その言い方では語弊がある。『こいつ等』全員が同じサークルなんだとか。そこでの付き合いであり、また皆同じ留学生ってこともあってつるんでるんだと。
性格は向こうと本当に変わらず世話焼きな性分なようだ。
『タリサ・マナンダル』
アルゴス試験小隊の仲間であり、ある意味一番噛みつかれた戦友。
最初から生意気で新人の俺に噛みつきまくっていた奴だったが、認められれば寧ろ親しくしてくる奴だ。腕は一流だが、如何せん猪突猛進型で直情的だから嵌められやすく喧嘩っぱやい。まぁ、それでも一度でも認めた相手なら本当に心配してくれる奴でもある。ただし、ちっこいからおちょくりやすいのがアレだがな。
それは此方でも同じらしい。
こいつとの出会いも同じく留学生絡み。そして同じサークルで同じようにつるんでるらしく、そこであっちと同じように『チョビ』のあだ名と共にからかわれているんだと。ちなみにチョビの名付け親はやはり俺。
以上が今現在も楽しく喋ってる連中との関係。
どうやら世界が変わろうと、俺がこいつらと一緒にいることにかわりはないらしい。
まぁ、正直ありがたいよ。もし見知らぬ人間関係だったらどうしようかって思ってたからな。だがコイツ等相手なら遠慮なんかしなくても済む。
きっと本来の俺もコイツ等のお陰で楽しい大学生活を満喫していたんだろうさ。
そう思うと少しだけ罪悪感を感じつつも、それでも悪くないと思っちまう。
コイツ等となら、きっと毎日悪くない日々を味わえるんだから。
と、そう思いつつも、今歩きながら話してる話題はあまり良いもんじゃない。
「アレがお前が下宿してる所の娘さんかぁ!」
「マジで大和撫子って感じで可愛いじゃねぇか、このこの~!」
ニヤニヤと笑いながら俺を肘でつつくVGにヴィンセント。
このやり取り、向こうでも同じふうにやったっけなぁ。あの時は俺もまだまだ馬鹿だったから、日本人ってだけで毛嫌ってきつくあたっていたからな。色々とあったよ、本当。
さて、そんな懐かしい気持ちにさせられつつも気まずく思い目を逸らす俺。
話題は一緒にここまで来た唯依のことについて。
この野郎共、二人して女っ気がない俺のことをからかう気で一杯だ。
まさにからかうネタを得て調子付いてやがる。その面は見ていてムカつくくらいの二ヤケ面だ。正直殴ってもいいか?
ちなみに唯依はあの後急いで高校に行くために走って行ったからもういない。
そんな馬鹿二人に対し、ステラとタリサの二人はと言うと………。
「あの娘、確か高校2年生なんだろ? おい、ユウヤ。手ぇ出したら犯罪だぞ!」
「いや、3歳差で犯罪ってのはどうなんだ? 寧ろ見た目だけならお前の方が犯罪だろ。チョビ(ちっこい)だし」
「う、うっさい! チョビって言うな~!」
突っ込みを入れたら顔を真っ赤にして暴れ出すタリサ。
まだ向こうと違って同じ『戦術機乗り』ってわけじゃないからなのか、ライバル意識わないようだ。
「たく、あれで高校生とか本当かよ。何食ったらあんなふうに……あんなふうにでかくなるんだよ! あれ、可笑しいだろ。制服越しでもデカイことが分かるんだぜ。パットだって、ぜって~~~~~!」
「彼女、確かにスタイルが良さそうだものね。タリサ、残念だけど彼女、パッドとかは一切入れてないわよ。見れば分かるもの。あれは『天然』よ」
「う、うが~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!! 可笑しいだろ、日本人ってのは貧乳が多いって話しだろうが! くっそ~! 年下にさえ負ける私の………いや、あんなデカイもんなんて歳取ったら垂れるだけ! その点私はそんなことはないんだから、私こそが勝ち組!!」
「タリサ………言ってて悲しくない?」
「……………」
「大丈夫、だってそこもまたタリサの魅力だもの」
「そう言いながら胸を寄せ上げてるんじゃねぇ~、ステラ!!」
「あら、そんなつもりはなかったのだけど? うふふふふふ」
訂正、かなり意識してるようだ。
向こうと違い此方のタリサはかなりコンプレックスを感じてるらしい。
そう考えていると優しい笑みを浮かべながらステラが俺に話しかける。
「彼女、かなり可愛いわね。大切にしなさい、あんないじらしい子、滅多にいないんだから(あの子、ユウヤのことが好きなのがバレバレね。なのにユウヤったら、つれないんだから)」
「いや、別に俺はアイツとはそんな関係じゃ!?」
「はいはい、照れないの」
そう言いながらまたタリサをからかうステラ。
くそ、こいつ等の所為で余計に意識しちまうじゃねぇか。
唯依が腕にくっついてきた時のやわらかさと温もりを。
あぁ~、くそ、ドキドキしてきちまったじゃねぇか。どうすりゃいいんだよ、たく。
そんな想いを持てあましつつ、俺等は大学の校舎へと入っていた。
尚、俺達が所属しているサークルについて聞いてみると、そこで俺はまさかの出会いに直面した。
そのサークルは機械工学系であり、何でも日本の機械に海外の良いパーツを組み合わせたものを作るのが目的らしい。
そこでヴィンセントが自慢げに見せてくれたよ。
「これが俺達が必死に作った最高のバイク。アメリカ製の馬力あるエンジンを日本製の精密なフレームで包み込んだまさに至高の一品! 『不知火弐型』だ!! 勿論、運転手はお前だぜ、ユウヤ」
そこにあったのは白と赤の日本を意識させられるカラーをした大型二輪車だ。
そいつを見て、俺は思わずうろたえてしまう。
「おいおい、マジかよ…………相棒、お前、そんな姿になっちまうんだな、この世界だと…………」
こうして改めて俺は相棒とも再会した。
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ミッション6 俺のライバル?
久々の仲間達ともこんな形ではあるが再会した。
いや、こいつらがあっちの世界のアイツ等じゃないことは分かってる。だから当然同じ顔をした同じ名前の別人だってことも理解している。
だけど、それでも………やっぱり世界は違えど俺等は仲間なんだって分かったから。
だから嬉しくて仕方ない……正直に言うつもりはないけどな。何せ恥ずかしいし、知られれば全員でからかってきそうだから。
そんなわけで、俺はこいつ等と一緒に大学の講義に出ることに。
こんなふうに机にノートとか出して話を聞くのは高校以来だ。あっちじゃその後直ぐに軍に入ったから、ある意味懐かしい。ブリーフィングを聞くのとはまた違った感じなんだよなぁ。
それに受けている授業の内容もまた新鮮だ。
「で、あるからしてこの時代の武家の人間は………」
この世界の俺が取っている授業は日本史が主だ。
どうやら日本好きな生徒はこの手の授業を受講するらしく、今となっては俺も興味深いので実に為になる授業だった。
特に武家の誇り高い精神については教授が熱烈に語っていたあたり、この教授も大好きなのだろう。話を聞いていて、より向こうの唯依が大変だったことが分かりその分迷惑をかけたことが心苦しい。
だからってわけじゃないが、この世界の唯依にはもっと優しくしよう。罪滅ぼしってわけじゃないけどな。
そんなふうに新鮮味を感じながら午前を過ごし、午後の講義も何とか受けてヴィンセント達と一緒にサークルへと向かう。
悪くないって感じなんだが、妙にこしょばゆいと言うべきか。
どうにも落ち着かない感じがして仕方ない。たぶんこれが、所謂『青春』って奴なんだろう。らしくはないと思うしこの歳でどうなんだって思うもするが、この世界で考えれば二十歳なんてのはまだ成人迎えたばかりの子供だ。それを感じるのに十分資質はあるだろうさ。
まさか自分がそれをこうして感じることになるとは思わなかったぜ。
でもよ………悪い気はしねぇな。
そう思いながらサークルまで向かうと、そこで俺は再び知ってる顔と再会した。
「ブリッジス、今回は負けないぞ」
それは白銀の髪をした美女。服越しからでも分かるスタイルの良さに男なら皆見入ってしまうかもしれない。俺はもう慣れたこともあってそんなことはないのだが。
だが、それとは別で驚いた。
「ク、クリスカっ!?」
「? 何を驚いているんだ、お前は?」
俺の目の前で不思議そうにきょとんとした顔をしているのはクリスカ・ビャーチェノワ。
向こうの世界ではソ連の凄腕衛士だが、此方の世界にはソビエト連邦は昔に滅び、今はロシアで統一されている。そのロシアからの留学生がこいつなんだろう。
しかし、何というか……………あまりこいつらしくない。
いや、それほど向こうとの差はないんだが、何というか垢抜けてるんだよなぁ。だからなのか、気迫がまったくない。
少し天然が入っているのか、その顔にはどうにも純粋な気配を感じさせた。
そんなクリスカのことをマジマジと見つつ、同じサークルのヴィンセント達からさりげなく聞いてみたところ、クリスカは同じサークルにいる別グループで、用はライバルらしい。あぁ、勿論ライバルと言ってもこの世界の不知火弐型とのレースでだ。戦ったりはしない。競い合っているんだとか。
尚、向こうのバイクはロシアのメーカーの良いとこ取りをしたもので、名前も戦闘機からとって『チェルミナートル』。
何というか、この世界では戦術機の型番が戦闘機の物になっている。よくよく考えれば、それも納得する。何せ戦術機の正式名称は『戦術歩行戦闘機』だからなぁ。
そんな雑学を思い出しながらもクリスカと会話をすることに。
「お前はいつもそうだな」
実際にはいつもも何もないのだが、こう言えばないかしら返しが返ってくるはずだ。
そう言われたクリスカはまたあどけないような顔で俺を見つめてきた。
「いつもとはどういうことだ?」
そうくると思わなかったぜ。
ちっ、これじゃあ俺が変に見えちまうだろうが。
「いや、何ていうか、お前っていつも俺と張り合うだろ? だからそう思っただけなんだが?」
そう問いかけると、何故か知らないがクリスカが顔を赤くし始めた。
その顔に俺は不思議に思ったが、どうにも周り……特にヴィンセントをVGの二人はニヤニヤと笑い始めやがった。嫌な予感がする。
「べ、別に、お前と一緒にいたいとか、お前と一緒に走りたいとか、お前に勝てたら…………うぅ………」
何やら真っ赤になって俯いてしまったクリスカ。
一体何があったのか分からないが、何かしてしまったのだろうか?
分かることは一つだけ。
『後ろにいる二人がニヤニヤして修羅場修羅場って言いまくっていることだけだ』
一体何が『修羅場』なのか、俺には見当もつかない。そもそも修羅場ってなんだ?
分かることはもう一つだけあった。
とりあえず………。
後ろの二人を黙らせよう。
そう思って俺は拳を力一杯握りながら二人に向かって歩いて行った。
そんなふうにユウヤが思っていた時、唯依は部活中にある予感を感じていた。
「む、ブリッジスさんに何やら良からぬ気配が近づくのを感じます! 絶対に帰りは迎えに行きましょう。そ、そしてあわよくば下校デートを………ふふふ」
恋する彼女の顔は誰が見ても明らかであり、そんな彼女に皆暖かな目を向けていた。
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ミッション7 彼女と彼女、二人揃って何故か修羅場?
サークルでの活動を終えて、今俺達は大学の校門前まで歩いている。
「いやぁ~、それにしても悪くなかったぜ、アイツは」
「なに当たり前なこと言ってるんだよ、ユウヤ。俺達が全力で整備改造してるんだ。そいつが最高なわけないだろ」
「だな。ヴィンセントの腕は確かだよ。このまま本職に進んでもやっていけんじゃねぇの」
今話題に上がってるのは俺達のサークルで改造してる特殊な大型自動二輪車『不知火弐型』についてだ。
もう説明しなくてもわかるだろうが、この世界における相棒の姿ってところだろう。
その走りの感想が今の話題。いやぁ、今まで高機動車を使うことはあったが、まさか高機動二輪車を使う機会なんてなかったから出来るかどうかわからなかったんだが、案外イケた。いや、それどころかすぐに慣れて今じゃ俺を最高に興奮させてくれる。あの風を切り裂きながらギリギリの所まで容赦なく回せる操作感は魅力的であっちじゃ感じることのない快感を感じさせた。
今までピリピリしていたからなのか、こういうのもいいもんだな。
そう思いながらヴィンセント達と話していると、途中からクリスカが加わった。
「む~、今日も負けた。悔しいぞ、ブリッジス」
悔しがってるのは分かるんだが、どうにも本気なのかどうか分からない顔をするクリスカ。どちらかと言えば、子供がむくれてる感じみたいで、妙な可愛らしさを感じさせる。
「いや、かなりギリギリだろ。お前だって凄かったじゃねぇか」
「確かにマシンのコンディションでは此方が勝っていた。しかし、それでもタイムトライアルでは僅かだがそちらの方が速かった」
「確かにそうかもしれないけど、そのタイム差だって1秒ちょっとの差だろ」
「それでもだ。負けは負け、だから悔しいんだ」
ほんの些細な差だが、それでも悔しいようだ。
いや、その気持ちはよく分かる。俺もあっちではいつもそんな感じだ。負けるのが嫌だからこそ、より完璧を目指そうと必死になった。まだ完全に馴染んでるわけじゃないが、今の俺はそこまで追い詰められているわけじゃないから余裕があるみたいだ。
そんな風にクリスカと話していたら、横から野次が入った。
「おいおい、あまりイチャつくんじゃないよ。ウチのユウヤはイワンの犬には興味なんかねーんだよ。だからその駄肉を近付けるんじゃねぇ!」
「あらあら、タリサったら。ユウヤがそっちにばかりかまけてるからって焼き餅やいてるんじゃないの。それにあまりそういう差別的な言葉は良くないわよ」
タリサはどうやらクリスカと馬が合わないらしく、こうして良く噛みつく。
それを嗜めるのはステラの仕事となっているようで、まるで母親のようだ。見ていて微笑ましい気がしなくもない。
妙にほっこりしたような気分になったが、そこに爆弾を投下する奴もいた。
「そうだ、そんなに顔が近いとキスする手前みたいだぜ、お二人さん」
「あまりイチャつくなよ、羨ましいぜ。ヒューヒュー」
またニヤニヤ笑ってるVGにヴィンセント。こいつら、人をからかうのが本当に好きだよなぁ。
「そんなんじゃ……」
否定しようとしたんだが、それを遮られる。誰に? それはさ……。
「き、キス!? そ、そんなつもりじゃないんだ、ブリッジス! その、ただお前とこうして会話をしているのが嬉しくてだな、べ、別にその、出来ればそういう関係になりたいとか、そう思って………ぁぅぁぅ」
クリスカが顔を真っ赤にしてわたわたと慌てまくってた。
こいつ、何でこうも真っ赤になるんだ? 向こうのアイツとはこの辺りがまったく似ていない。
「おい、落ち着けって」
そう言って軽く肩を叩いてやる。
男に比べてやり小さい肩は、少し柔らかく女って感じがした。
「な、何をするブリッジひゅ…………うぁぁぁぁ」
俺に肩を叩かれたことに驚いたのか、俺の名前を噛むクリスカ。その後は恥ずかしがって頭を抱えて唸り始めた。
それが尚面白かったのか、男二人が爆笑してきた。
「あっはっはっは、マジでラブコメしてる!」
「どこの漫画だよ、これ。リアルでまさかこんなもんみられるなんて思わなかったぜ!」
そう笑ってる二人に何故だか凄く怒りたくなってきた。
何がラブコメだよ。俺は生憎そんなのと無関係な人間だっての。
だから突っ込みを入れようとしたんだが、それは校門の外側から聞こえてくる声によって止められた。今日は何故だか止められることが多くないか?
「ブリッジスさ~~~~~ん!」
その声は聞き覚えがある。いや、それも当たり前だ。何せ毎日聞いてる声なんだからな。
声の方を向くと、そこには此方に向かって手を可愛らしく振っている女子が一人。
着ているのはこの大学の付属校の制服、長く綺麗な黒髪をした大和撫子を体現したような奴がそこにいた。
そいつの姿を見て、俺は手で呼びつつ声をかける。
「どうしたんだ、唯依? こんなところに来て?」
そう、居候先の娘さんであり、向こうの世界では上司。そして俺にとって大切な………………。
「その、せっかくだからブリッジスさんと一緒に家まで帰りたくて…………来ちゃいました」
顔を赤らめつつ嬉そうにそう言う唯依。その姿は年相応の魅力にあふれている。
その可愛らしさに何故だか顔が熱くなる。
「お、これは正妻様の登場か?」
「やっぱ可愛いなぁ、唯依姫は」
VGとヴィンセントがそんな言葉をかけてくる。
こいつら、何かにつけてからかってくるよなぁ。飽きないんだろうか?
そう言われた途端、唯依が顔を真っ赤にする。
「そ、そんな、奥さんだなんて早すぎます。ま、まずは恋人になって次は婚約者に、そして最後に新妻で幼な妻で………キャーキャー!」
向こうの唯依と似ていて似つかない様子が何だか笑える。
出来ればもっと見ていた所なんだがそれよりも先に唯依が表情を変えることに。
その理由は唯依を警戒した顔で見るクリスカの視線を感じたからだ。
「ブリッジス、彼女は?」
クリスカは俺にそう聞いてくるが、先程までの雰囲気から変わってまさに、俺が知っている向こうのクリスカとそっくりな空気を醸し出す。
そう、まさに戦術機に乗るスカーレットツインの片割れのアイツと同じ雰囲気を。
その雰囲気にぞっとしつつも少しだけ懐かしく思っていると、俺が答える前に唯依が前に出た。
「あなたこそ誰ですか?」
こいつもこいつで何やらピリピリした雰囲気を出しながらクリスカに問いかける。
その雰囲気は向こうのアイツとそっくりだ。
おかしいな。向こうの二人は決してここまで逼迫した雰囲気は出さなかったはずなんだが………。
「私はクリスカ。クリスカ・ビャーチェノワだ。ロシアからの留学生で、ブリッジスとは『同じサークルで競い合う最高のライバルだ』」
「私は篁 唯依と申します。白陵大付属柊学園2年生で、『ブリッジスさんとは大家と家子の関係でもあり一緒に暮らしていて、私の家庭教師の先生です』」
互いにそう名乗り合う二人。やけにピリピリした空気が辺りに漂う。
そして睨み合うこと約数十秒………二人は何故か同時に動き………。
俺の腕に抱きついてきた。
まるでこれが自分の物だと主張するかのように。
「ブリッジスさんが嫌がっていますから手を離してくれませんか。これからブリッジスさんは私と一緒に帰って一緒にお勉強するんです!」
「悪いが手を離してくれ。ブリッジスとはこの後カフェで一緒にマシンの事について色々と意見交換がしたいんだ。二人っきりで!」
「「む~~~~~~~~~~~~~~!」」
睨みあう二人は更に俺を引っ張る。
その際に二人の大きな胸が俺の腕に大きくあたり、そのやわらかな感触を伝えてきた。その感触とこの雰囲気に気まずくなり、どうすれば良いのか分からず仲間に助けを呼ぼうと思ったのだが………。
「修羅場ですよ、軍曹。我らが盟友が見事に修羅場ってござる」
「流石はユウヤだ、まさにラブコメ主人公」
「け、所詮デカイだけの駄肉の癖に」
「まぁまぁ、ユウヤったら大変ね」
どうやら俺を助けてくれる仲間はこの場にいないらしい。
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ミッション8 喧嘩は両成敗が基本
まさか二人がああも激突するとは思ってもみなかった。
確かにお互いプライドが高いところがあるのは向こうでも知っていたが、向こうでは二人ともここまで互いに威圧し合っていることもなかったからなぁ。
あれから本当に大変だった。
俺のこれまで人生に於いて、自分から喧嘩をすることはあっても他人の、それも女同士の喧嘩を仲裁することなんてなかった。
だからどうすれば良いのかなんてわからず、互いに俺の腕に密着し合い相手を諦めさせようとする二人の言葉に耳を傾ける。
「私はこの後ブリッジスさんに本場の英語を教えてもらうんです! 二人っきりでみっちりと、互いに肩が触れあうくらい近い距離で、一緒に教科書を見ながら手とり足取り教えてもらうんです! だから大学の『ただのお友達』はお帰りください!」
「そうはいかない! さっきから聞いていれば羨まし……けしからんことばかり言って! この恥知らずめ! そんなふしだらでスケベな女なんかとブリッジスを一緒にいさせるわけにはいかない! やはりブリッジスは私と一緒にこれからカフェに……いや、この際酒を交えにいくべきだ。そこでこれまで不憫だった彼の愚痴を聞いてその苦労を労ってやる! だからその家庭教師の仕事は今日はキャンセルだ!」
互いにいがみ合いながら言い合う二人。
言葉だけ聞けば仲が悪そうなものだが、互いに俺の腕を引っ張って密着しているあたり、似た行動をしているのだから案外悪くないんじゃないか、仲?
それに出来れば離れて欲しい。大きく柔らかいのが両腕にむにむにと当たるし、男とは違う甘い、それでいて少し違う良い香りが薫ってくる。
その二つだけで俺の心臓に実に良くない。え? 年甲斐もなくドキドキするなって?
俺だって一応男で性欲だってあるんだ。するなってのは無理な相談だろ。
「そっちこそ何言ってるんですか! どう聞いてもその後、その……ごにょごにょでご休憩みたいな流れじゃないですか! 何がふしだらだのスケベだの……それは貴女のことじゃないですか! 私とブリッジスさんはそんないかがわしい関係なんかじゃありません! もっと清らかで綺麗な、それでいて純粋な間柄なんです。それに何より親公認の仲なんですよ! ブリッジスさんのご両親からも、『息子のことをよろしくお願いします。出来れば孫は早いほうが良いかなぁ』って言われてるんですから!」
顔を真っ赤にして必死にそう言う唯依。
ちょっと待て! 今聞き捨てならないことが聞こえたんだが? 俺の両親に頼まれているだと? おい、ママについてはまだわかるが、俺は親父とは会ったことも見たこともないんだぞ。向こうじゃママがそういう親父関係のものは殆ど残さなかったからなぁ。あったのは日本人形くらいなもんだった。
いったいどんな親父なんだ? 後で詳しく唯依に聞いてみよう。
「ふん、すぐにそういう方向に持ってきたがるのは言っている人間がそういう風にしたいからいうんだ。馬脚を現したな、この変態小娘め。私とブリッジスは最高のライバルであり、常に互いを高め合う友人なんだ。そこにそんな邪なことなど………ない」
「その間は何なんですか、その間は!」
「に、日本語は難しいから少し噛んだだけだ! 他意はない!」
追求されて顔を赤くしながら慌てて否定するクリスカ。
それでも納得いかないのか、唯依はクリスカを睨み付ける。
こいつら、いつになってもまったく決着が付かない。流石にこれ以上は時間が無駄になっちまうし、何より二人の喧嘩を見てニヤニヤしてるVGとヴィンセントがどうにもむかつく。絶対にろくなことは言わないだろうし、楽しんでる二人はさらにからかうだろう。
そうなったらたまったもんじゃない。
だから俺は二人の火花が散る間に入るかのように二人に声をかけた。
「そこまでだ、唯依、クリスカ! いい加減にしろ」
その言葉に体をビクッと震わせそれまでの言い合いを止める二人。二人ともそれまで見ていた互いの目を俺へと向ける。
そんな二人に俺は軽くため息を吐きつつ話しかける。
「こんなところで喧嘩しても仕方ないだろ。それに家庭教師の件は唯依の親に頼まれている正式な仕事だ、サボるわけにはいかない」
「ブリッジスさん…………!」
「ブリッジス……」
俺の言葉に感動するかのように目を輝かす唯依。クリスカは俺の言葉に落ち込んでいるらしい。
「とは言え唯依も妙に勘ぐりすぎだ。クリスカはそんな邪推はしない。失礼なことを言ったんだからちゃんと謝れ」
「ブリッジス…………!」
「ブリッジスさん…………」
今度は唯依が落ち込みクリスカが感激する。
落ち込んでいる時の二人はまるで怒られて落ち込んでいる犬のようだ。少しばかり可愛いと思っちまった。
そんなことを思いつつ、俺は二人に提案をする。
「今日は家庭教師があるから帰る。だけど明日は予定を開けるから、皆で一緒に飲みにいこうぜ。それで良いだろ」
その提案に不服そうにする二人。だが、これがちょうど良いだろう。
俺の提案に少し考えた後に、二人は仕方ないかと俺から離れた。
「ブリッジスさんを困らせるわけにはいきませんから、仕方なりません。今日はこれで勘弁します」
「困らせる気はなかった。すまない、ブリッジス」
二人はそう言って俺に謝る。
これでやっと終わったか………なんかもう、疲れた。
向こうじゃこんなことなかったからなぁ。これもまた、平和ならではの問題というやつなんだろうか?
そう思いつつ、俺は問題がこじれないようにこの場から離れることに。
クリスカはもちろんヴィンセント達にも帰ることを伝え、そして唯依と一緒に歩き出す。
俺の隣を歩く唯依はどこか申し訳なさそうに俯いていた。
「どうしたんだよ、唯依? 元気がないようだけど」
そう問いかけると、唯依は俯いたまま答えた。
「すみませんでした、ブリッジスさん。困らせる気はなかったんです。ただ、その………ブリッジスさんがビャーチェノワさんの方に行ってしまうんじゃないかって思ってしまって………」
そう言いながら落ち込む唯依。
そんな唯依に俺は軽くため息を吐くと、その頭を優しく撫でる。
「別に俺はどこにも行かないって…………もう離れたくないしな………」
後半は小さく呟くだけだから聞こえないだろうが、それでもそう伝えると唯依は顔を赤らめながらあげた。
そして俺の手をちょこんと掴む。
「その………家に着くまで握っていても……良いですか?」
上目遣いに赤らめた顔でのお願い。その年相応のお願いは可愛くて、俺はそれを素直に聞くことにする
「あぁ、いいよ」
「はい、ありがとうございます!」
俺の許可を得て、唯依は本当に嬉しそうに言うと、俺の隣に立ちながら一緒に歩いて行った。別になんとないことだが、それでも唯依は顔を赤らめつつも幸せそうだ。
そして、繋いだ手はとても柔らかくすべすべしていて、確かな女を感じさせた。
そうして俺は下宿先まで一緒に帰った。
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ミッション9 俺は彼女に教える
かれこれこの世界に来てからざっと一週間くらいが経った。
最初の頃は色々と戸惑ったもんだが、慣れてくれば寧ろそれが普通だと思えるくらいに馴染んだよ。
よくよく考えれば、BETAがいなくて軍隊に入隊せずにいたとすれば、こんな感じになるのだろう。
そうそう、気になって図書館に行ってこの世界の歴史について簡単にだが調べてきた。
少しの誤差はあるが、基本歴史はほぼ同じ。戦争中にBETAの糞共が侵略してきたところから一気に変わってるみたいだ。
戦争についてはかなり続いたようだが、人間同士の戦争ってのは別の意味で健全だ。だから痛み分けやら何やらで冷戦やら何やらが起きたりして、今現在の平和な世界が出来上がった寸法らしい。あの糞共と違い利害関係ってものがあるだけ、まだ人間同士ってのはお利口らしい。
そんな黒々としたもんが未だに世の中蔓延っているもんだが、そいつが一般市民を巻き込むのは早々にない。衛士の本分に政治を巻き込むなってのはあの時痛いほど良くわかったが、こっちじゃそんなこともないから気楽なもんさ。
そんなわけであっちとこっちの違いを改めて知った俺は、だからといって驚くようなことも無くこの生活を満喫することにした。
いや、確かに向こうに戻りたいって気持ちはある。仲間のことも気になるしな。
でも、こっちの世界でも既に皆大切に思えちまうんだ。一週間もすれば完全に決別なんて無理だと心底思ったね。
それぐらいこの世界は楽しくて幸せだ。
それに言っちまえばアレなんだが、あの戦いの時に俺はもう死んだようなもんだ。あれから起死回生が思いつくこともないし、既に死ぬことは受け入れていた。
だから降って湧いたようなこの奇跡を満喫することは決して悪いことではない。
二度目の人生のようなものだ。今度は今度で思うがままに生きてみるのもいいんじゃねぇかって、そう思うんだ。
「んじゃ次の英文を訳してみろ、唯依」
「はい。ん~~~~~と………」
教本に書いてある英文を見てああでもないこうでもないと悩む唯依。
そんな彼女がいる場所は何やらこの家では少しばかり浮いている部屋だ。部屋の壁紙は淡い黄色で全体的に明るく和室では無く洋室。ベットに勉強机、そしてそれらを彩る妙にデフォルメされたぬいぐるみ達。壁に掛けられた学校の制服と机に掛けられたバック。全てが初めて見たものであり、それでもこの部屋が女の子の部屋だということを強く意識させられる。
そう、ここは彼女の自室だ。
生まれて初めて女性の自室に入った気がする。いや、軍の寄宿舎の部屋に入ったことはあるが、ああいう部屋は基本的に無駄が少ないようにしてるからなぁ。こうも女の子らしいというのは本当に初めてだ。
そんな自室にて、俺は彼女の家に下宿させてもらっているお礼と言うわけじゃないんだがこうして唯依に勉強を教えているわけだ。
ちなみに教えてる教科は英語。
仮にもアメリカ人でもあるからな。英語は共通語ってこともあるからまず間違えることもない。そして唯依は英語がかなり苦手なんだとさ。
だから俺の教えは打って付けってわけだ。
というわけで勉強机に肩が触れあうくらい近い距離で唯依にこうして英語を教えている。
明らかに近すぎるんだが、そう言うと何故か唯依の奴、
『そんなこと、ないです!』
って顔をかなり近づけて言うんだよ。
あの迫力ときたら、マジで怖かった。どれぐらい怖いかと言えば、向こうでアイツに殺気を向けられて殺され掛けた時並みに怖い。
だから思わず頷いちまった。いや、それをNOとは絶対に言えないだろ、あの状況で。
それが例え触れあう肩の感触が柔らかかったり、たぶんアイツが使ってるシャンプーの香りなんだろうが、そいつが薫ってきたりしてもだ。
しかもアイツの私服、やけに露出が派手だったりするんだよなぁ。
いや、露出狂ってわけじゃないんだが、スカートが短めだったり肩が出てたりしたデザインの服だったりとか、な。
年相応のおしゃれなんだが、それが更に似合っているもんだから見ていてドキドキしてくる。
え、年の割に何言ってるんだって?
そう言うけどよぉ、唯依がそんな可愛い格好してるんだぞ? 無茶言うなよ。
向こうじゃアイツのの私服姿なんて見れなかったからなぁ。
そんな状態でも何とか冷静なふりをして何とか教えることに集中する。
「『サムとケティは公園のベンチで抱き合っていた』………ず、随分と派手なことをするんですね、海外の人は………」
先程の英文の訳をした唯依は顔を赤らめながら俺の方を上目遣いでチラチラと見つめてきた。
おい、例文に出てくる二人がアメリカ人だからってアメリカ人なら皆そうなんじゃないかって思うなよ。
「おい、翻訳間違ってるぞ。ペットの犬の事が抜けているだろうが。ここの答えは『サムは公園でケティのペットの犬を抱きしめた』だ。意味がまったく違う」
「あぅ~……」
注意されて恥ずかしそうにする唯依。そりゃあんな訳をすれば恥ずかしくもなる。しかも間違えてだからなぁ。
その後も英文の翻訳を言うのだが、まぁなんだ………ケアレスミスが多かった。
仕方ないんで次は発音のチェックでもするか。
「んじゃ次はこの単語を言ってみろ」
適当に単語を選び唯依に言わせる。
そして発音を聞くのだが、少しばかり違う。
「違う。そこの発音はもっとしたを尖らせて」
「こ、こうですか……」
顔が赤いまま何とか発音する唯依。
少しはマシになったかな。そう思っていると、何やら唯依は顔を真っ赤にして瞳を潤ませながら上目遣いで俺を見つめてきた。
「そ、その……なんだか………キス、するみたいですね……この単語……」
そう言われて気がついたが、顔だってかなり近い。そんな距離で単語の唇の動きだけ見ると、言われているのに近い感じには確かになる。
俺の目に前には唯依の艶やかな唇があった。みずみずしく、それでいて艶気を感じさせるそれは何やら妖しい。
互いに見つめ合える距離でそう言われ、意識しないわけが無くて俺は顔が熱くなるのを感じていく。
熱い…………熱くて気恥ずかしくて、どうにも唯依と目を合わせられない。
それは向こうも同じらしい。
互いに気恥ずかしさを感じたまま、この日の家庭教師は終わった。
(ぶ、ブリッジスさんも顔真っ赤だったし、決して無反応じゃないはず! それに………真っ赤な顔で目をそらすブリッジスさん……可愛いなぁ……)
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ミッション10 俺と雨の日
短めで申し訳ないです。
こっちの世界に来てあっという間に一ヶ月が経っちまった。
最初こそ違和感だらけだったが慣れれば快適なもんだ。こっちは命の危険に晒されることもないしな。現金だとは思うんだが、こうも平和だとついつい気が緩んじまうんだよ。きっと向こうにいたらこんな気持ちには絶対にならなかっただろうよ。それぐらい今はのびのびしてる。気持ちに余裕があるんだろうさ。それを悪いとは言わねぇと俺は思う。環境に適応してるといえばそうだし、そんな余裕がない奴はきっと人の事を思いやれねぇからさ。
まぁ、そんなわけでもうすっかりこっちの住人になってる俺がいる。向こうに帰る手段もないし、こっちで骨を埋めるのだって悪くないだろうよ。
まぁ、あれだ…………アイツの幸せそうな笑顔を見れるんだ。それだけで十分幸せだからさ。
そんな事を考えつつも大学からの帰り道、俺は自分の間抜けさに軽く舌を打ちつつ走っていた。全身から感じる冷たさ、そして滴る雫に視界を遮られる…………つまりずぶ濡れ状態である。何故なら現在土砂降りだから。
今朝ニュースで天気予報を見ていなかった俺が悪いとしか言い様がなく、大学で講義を受けている間に空は曇って一気に降りだしやがった。
まさか雨が降るなんて思わなかったからなぁ………傘なんて持ってきてない。
それで今日雨が降ることが知っていた連中に借りれないか聞いてみたんだが、アイツ等………『男と相合い傘する気はねぇ!』と言ってきやがった。
ステラ達に頼もうとしたらアイツ等、今日は女子だけで遊びに行くってんで俺等よりも早く帰ったらしい。んじゃクリスカはと思ったんだが、今日は諸事情で休みときたもんだ。
だから頼りが全滅した俺は仕方なくこうして濡れながら走ってるわけだ。え、コンビニで買えばいいんじゃないかって? 残念な事に手持ちの金が足りなかったんだよ。
向こうとの違いとして唯一困ったことは俺が自由に出来る金が少ないことだ。向こうじゃ軍に所属しているだけで給付金は結構もらってたし、国連軍の施設だと配給制だから使う機会もなかった。だが、こっちだと俺の金は親からの仕送りや唯依の家庭教師代とかになる。家庭教師代は下宿させてもらっている身としてはもらえないと言ったんだが、そこは唯依の両親から半ば強引に渡されるようになった。案外押しが強い両親だ。
前と違いこちらじゃ金を使うことも多くなり、そのため今の予算でやり繰りするにはある程度の節制を余儀なくされる。だから安易に使うわけにもいかず、普段からあまり多くは持ち歩かないようにしているってわけだ。その結果がこの金欠。だから傘が買えずにこうして濡れ鼠になりながら走ってる。
そんな俺を嘲笑ってなのか、雨は更に酷くなり俺は雨宿りをせざる得なくなった。いや、最初からすればいいじゃないかって思われるだろうが走って行けば大丈夫だと思ったんだよ。最初はここまで酷くなかったからな。日本の季候を甘く見てたぜ。
入ったのは何かの店の屋根。どうやら今日は休みらしく閉まっていた。
そこでこの雨が止むのを待つこと約10分、こちらを見て声をかけてきた奴がいた。
「あれ? もしかして………ブリッジスさん!?」
「唯依か?」
山吹色の傘をさして歩いていたのは白い制服に綺麗な鴉色の長髪をした女の子………唯依だった。彼女は俺に気付き早足でこちらに来る。
「うわっ、ずぶ濡れじゃないですか!? ブリッジスさん、寒くないですか? 大丈夫ですか?」
俺を見て唯依は慌てた様子で心配してきた。その様子が当人よりも慌ただしいもんだから、そのことが見ていて可愛らしく見える。
「あ、あぁ、大丈夫だ。風邪引くほど柔じゃねぇからよ」
唯依の鬼気迫る表情に少し押されつつそう答えるが、唯依は心配そうにこちらを見てきた。その顔は自分がしっかりしていなければと自責の念に駆られているようだ。
「ブリッジスさんは今日早かったからてっきりちゃんと傘持ってきてると思ったのに」
「悪い、今日は天気予報見てなかったんだ。だから降るって知らなくてな。借りようと思ったんだがヴィンセントもVGも貸してくれなかった」
そう答えると唯依は俺を見てプリプリと怒り出した。
「もう、携帯に連絡してくれれば私、傘持って行ったのに!」
「いや、悪いと思って」
「寧ろそれでブリッジスさんが風邪でもひいてしまったら、それこそ私は心配になっちゃいます」
怒りながらも俺を心配する唯依。その姿がいじらしくて笑っちまった。
「何笑ってるんですか!」
「いや、唯依がいじらしくって可愛いなって思ってさ」
「なっ!? 可愛い……ですか」
「あぁ」
そんな俺を見て唯依は怒っていたはずなのに、今度はモジモジとしながら顔を赤らめて見つめてきた。
「そ、それじゃ仕方ないから、その………一緒の傘に入りませんか?」
恥ずかしがりながらそう提案してきた唯依。そんな態度を見せられるとこちらとしても気恥ずかしくて顔をそらしちまう。正直に言って唯依が可愛いと思った。
「あぁ、その………頼む」
「はい! わかりました」
そして唯依の持っていた山吹色の傘に二人で入りながら歩き始める。
傘のサイズが大きくないので、どうにも唯依との距離が近い。
「悪いな、唯依。狭いだろ」
「いえ、そんなことは………(ブリッジスさんがこんなに近くに………ぬくもりを感じて顔が熱くなっちゃう)」
二人で身を寄せ合うようにしながら歩く。唯依には悪いが、唯依の肩が俺の肩に触れる度に俺は少しだけドキっとしちまった。男とは違う柔らかな感触、そして冷えた身体にしみるように感じるぬくもりに確かな『女』を感じた。
それが更に胸をドキドキと高鳴らせる。そのせいで冷えているはずなのに触れる肩が妙に熱く感じた。
雨が降り注ぐ中、二人だけになったかのように感じる。
正直入りきれずに肩が濡れてるが、それでもまぁ………こういうのも悪くないかもな。
何よりも…………。
「唯依の顔をこうして見れるのも、その………いいな」
「え!? ブリッジスさん、さっき」
「いや、何でもない」
たまには雨の日も悪くはないな。
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ミッション11 俺と彼女とゲーセンと目玉………
住めば都の何とやら………もうすっかりこっちに馴染んだ。
そのお陰もあって今の俺は完璧にただの大学生と化してる。いや、勿論前の記憶だって今でも鮮明に思い出せるし、向こうの奴ら事だって心配はしてる。でもなぁ………向こうに戻る手立てだってないし、それにこっちにいる奴らだって大切なんだ。どっちかしか取れないってのは分かってる。だけど戻れない現状俺にとって大切なのはこっちなんだよ。
それに…………やっぱりさ、こっちの唯依に悲しんで欲しくないんだよ。俺がもしいなくなるとしたら、アイツは絶対に泣き出して行くなって言うだろうからなぁ。
まぁ、そんなわけで俺は今の生活を受け入れている。それに考え方を変えればかなり良いと思えるんだよ。よくよく考えてみれば俺のそれまでの人生ロクな事が無かったろ。オヤジの所為で日本嫌いを拗らせて学生時代は虐めばかりだし家に帰ればママが滅茶苦茶心配してくるし、その上祖父からは虐待を受ける。その全てが嫌になって仕方なくて毎日喧嘩に明け暮れる日々。
軍に入れる年齢になると供にママの反対を押し切り強引に軍に入り、そこで自分の価値を示す為に常に気を張り続けながら腕を磨いてきた。その結果がやっぱり部隊内での亀裂となり喧嘩に発展。そんな事を繰り広げながらも確実に手柄を立てていき昇格全てする年月。同じ日本人の血をひくクゼの野郎と犬猿の仲になり、そんな俺達をシャロンが宥め、そしてヴィンセントが俺と一緒に馬鹿をしてくれていた。
後半はまだマシだがこうして振り返れば俺は学生らしい日常ってもんをまったく過ごしてなかったんだ。
だから今、こうして今までのことを取り戻すように楽しい日々を過ごすのは決して間違ってないと、そう思えるんだよ。
惚気とか言うなよ…………だってさ、唯依と一緒に笑い合える日々なんだぜ。そりゃ楽しいに決まってるだろ。
この日、大学の講義が早めに終わった俺はこれから下校する唯依と合流することになっていた。サークル活動もあったんだが今日の活動にドライバーは必要ないらしい。ヴィンセントの奴が目を燃やしてやる気を見せていたよ。マシンの改良に関してドライバーの意見ってのは改良が終わった後の慣らし運転で初めて起用されるもんだからな。改良が終わるまで俺等は暇なんだよ。
そんなわけで暇を持て余していた俺はどうしようかと考えていた所を携帯電話で唯依に呼び出されたのだ。
暇を持て余している身としてはありがたいし、何より唯依からの呼び出しだ。嬉しくないわけがない。
だから俺はその連絡を受け次第にアイツの通ってる高校へと向かうことにした。距離自体そこまで離れてないからな。歩きで向かえば20分程度で付くだろう。
そして歩くこと20分弱…………高校の校門にて唯依が待っているのを見つけた。
「待たせたな、唯依。悪い」
どれだけ待ってたのか分からないが、こいつのことだ。どうせ俺に連絡を入れた時点で既に待ってたんじゃないか? だとしたら結構待たせちまったことになる。
唯依は俺の姿を見ると可愛いくらい顔を輝かせて俺の方に小走りで来た。
「いえ、そんなことないです。私も今来たばかりですから」
「そうか、でも少しは待っただろ。だから悪かったな、待たせちまって」
「大丈夫ですよ、本当に来たばかりですから。それに…………」
そこで唯依は言葉を切ると、顔を赤らめながら少しばかり俯く。
「な、なんかこういうの………デートの待ち合わせみたいじゃないですか」
「そ、そうか………」
改めてそう言われると此方も頬が熱くなってくるのを感じる。気恥ずかしいしもどかしい感じがするけど、そんなことを言う唯依が恥ずかしがっていて可愛いだけに見入っちまう。
そんなもんだからお互いに照れちまって目が合わせずらい状況に。
だがそんなことをしてれば当然周りからの注目を集めちまう。何せここはまだ校門前なんだからなぁ。
『ねぇねぇ、あそこにいるのって確か二年の篁さんじゃないの?』
『何々、もしかしてあそこにいるのが恋人なのかな?』
『大学生かな? しかも日本人じゃないみたい! 更に格好いい!!』
そんな声がヒソヒソと周りから聞こえてくる。それが余計に唯依の顔を真っ赤に染めた。
「と、取り敢えず行きましょうか、ブリッジスさん!」
「あ、あぁ」
きっと恥ずかしかったんだろうなぁ、唯依の奴。耳まで真っ赤にしてたよ。
でもそれで俺の手を掴んで急いで早歩きすると余計に周りからヒソヒソと言われることに気付かないのはこいつがテンパってるからなんだろうなぁ。
でもまぁ………可愛いからいいか、そんな唯依の顔を見れるだけでも役得だしな。
そんなわけで唯依と一緒に帰る事になったのだが、真っ直ぐは帰らずに寄り道することとなったわけだが、唯依にしては珍しくゲームセンターという選択に俺は内心驚いていた。唯依はてっきりこういう場所は宜しくないというかと思ったからなぁ。真面目なこいつにとってこういう所は風紀も乱れた場所だと認識してると思ってたから。
そのことについて聞いてみると唯依はイタズラをする子供みたいな顔で答えた。
「確かに風紀的には良くないですけど時間を守っている分には危ない目には会い辛いですし、何より今はブリッジスさんがいますから。ブリッジスさんならそういうことから絶対に守ってくれますから…………ね」
そう暖かな笑顔を向けながらそういわれてもなぁ………クソ、可愛くてドキドキしちまったよ。しかし、こうも頼られたら男としては応えねぇとなぁ。何、こう見えても元は軍人だ。チンピラ程度に負けるほ柔じゃねぇ。来るなら来て見やがれ。そん時は軍隊仕込みCQCを見せてやる。
そんな事を考えながら唯依とゲーセンの中を回っていく。改めて思うがやっぱり平和なのって凄いな、マジ。あっちじゃこんな娯楽はなかったからなぁ。あっちじゃBETAのせいでそういう発展にはまったく力が込められなくなったからな。酒か煙草か国営放送やら何やらと娯楽があまりなかった。
そういうこともあって俺にとってもゲーセンという場所は知識はあっても初めての場所なんだ。正直ドキドキしてるが餓鬼みたいにハシャいじまうと唯依に笑われちまう。だから『今回は』辞めておこう。一人の時に新ためて遊びに行きたい。
さて、そんなゲーセン初心者の俺達なわけだが何故ここに来たのかと言えば、何でも唯依が欲しいものがあるんだとか。それが景品としてあるらしく、それにチャレンジしたいんだと。
そしてその景品が置かれている筐体の前に付いた俺と唯依。その景品とやらを見た途端、俺は悪寒が走り生理的嫌悪をそれに抱き唯依は何やらハシャいでソレを指さしていた。
「見て下さいブリッジスさん! レーザー級さんですよ、レーザー級さん!」
その景品とやらはオレ達戦術機乗りにとっての天敵であるBETAのレーザー級………のデフォルメぬいぐるみであった。
うん、予想はしてた。相棒がバイクになったりしてたくらいだ。何かしらの形でこのクソ共もナニカになっていると。それがまさかぬいぐるみとはねぇ………キモチワルイ。
そんな事を思いながら唯依に問いかける。
「なぁ、唯依………これ……欲しいのか?」
「はい、何というかキモ可愛いじゃないですか!」
その感性がおかしいのか俺がおかしいのか、正直よくわからない。オレにはどうみてもキモチワルイ目玉野郎にしか見えないんだけどな。
そんなことを気にせず唯依はこの『UFOキャッチャー』とやらに金を入れてチャレンジするのだが……………。
「むぅ~~~~~~~~、難しいです」
かなり失敗しまくっていた。もうそろそろ二千円くらいトぶんじゃないだろうか? これ以上するとこいつの小遣いに問題が出ると思うし何よりも両親にバレたら酷い事になりかねないな…………はぁ、仕方ないか。
俺はそう決めるともう一回金を入れようとしていた唯依の手を止めた。
「ブリッジスさん?」
「これ以上使うと色々とまずいぞ。だから後は俺が手に入れてやる。待ってろ、唯依」
「ブリッジスさん…………」
唯依が何やら熱の籠もった視線を俺に向けて頬を赤らめている。そんな唯依の視線を受けながら俺は金を入れる。そしてオレがやると…………………。
「…………とれた」
何故か一発で取れた。特に難しくなかったぞ? 何で唯依はあんなに手こずってたんだ?
そう思いながら唯依を見ると唯依は何やら悔しそうな羨ましそうな、そんな複雑な顔をしていた。まったくもって不器用なのか器用なのかわからない奴。
そんなことを思いながら俺は手に入った目玉野郎を唯依に渡した。
「ほら、とってやったぞ。まぁ、なんだ…………プレゼントだ」
そう言うと唯依の奴は顔を真っ赤にして俯きながら渡した目玉野郎をギュッと抱きしめた。
「あ、ありがとうございます! これ、絶対に大切にしますね」
ここ一番に可愛い笑顔に俺はクラっときた。やっぱりこいつは可愛い。だからこそ、俺は唯依の胸に押し潰されてるやつに内心語りかける。
(向こうじゃ厄介すぎるクソだったがこっちならまだ多少は役に立つクソだったよ、お前は)
こうして唯依は欲しかったものを手に入れて満面の笑みを浮かべて大層喜び、俺はそんな可愛い唯依を見れて気持ちが充実していた。
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