食戟のソーマ×ジョジョの奇妙な冒険~Sugar Soul~ (hirosnow)
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洋菓子店(パティスリー)にようこそ!

食戟のソーマに登場する料理人がジョジョの奇妙な冒険におけるスタンド使いだったらという設定で書いています。各作品の設定について、改編や独自の解釈を加えています。キャラクターについて、違和感を感じることもあると思いますが、ご容赦下さい。


 かつて、M県S市杜王町に、一軒の洋菓子店(パティスリー)があった。

 

 学生から会社員、主婦層、果てには、洋菓子よりも和菓子を好みそうな老人まで、その洋菓子店の虜になったと言われている。東京の出版社からも、ガイド誌に掲載するために、新幹線に乗って、取材に訪れる者もいた。しかし、返事は決まって、「No」の二文字(ふたもじ)だったという。

 さて、この洋菓子店が評判になったのには、理由がある。(というか、世の中に、理由がないものなど、存在しないわけだが。)

 一つ目が、この店の女主人兼菓子職人(オーナー・パティシエール)が美しかったこと。

 近隣の中学校や高校生の少年たちが、帰りに適当な口実を見つけては、その傍を通りかかるための理由にしていたことからも明白だった。ただし、その容姿は見る者によって、印象が異なるらしかった。

 十代の少女のように無垢だと表現するものもいれば、熟成した貴婦人のようだと形容するものもいたからだ。

 だが、彼女には小学校に中学年または高学年の娘がいることがわかったので、二十代の後半から三十代の前半くらいではないかということで、彼女に対する年齢にまつわる話は落ち着いたと言える。

 

 二つ目が、ここで販売されるお菓子が、食べると幸運を呼び込むという噂があったことだ。

 主に多かったのが、恋愛に係る内容だった。勇気を出して告白したら彼氏彼女ができただの、倦怠期だった彼氏との仲が好転しただの、冷え切った夫婦関係が回復しただの。それから、次に学業や運動などの成績関連も次いで多かったことにも特筆したい。

 

 山岸由花子は、当初、この眉唾物のような噂には懐疑的だった。そんなことで、自分の恋愛運が向上するというならば、世の中に、失恋者など皆無ではないのかと。ところが、占いの類を非科学的だということで、否定する一方で、そのジンクスにあやかってみたい、試してみようと思うのが、人間の(サガ)ともいえる。それに、背中を押す出来事があった。とるに足らない些末な出来事ではあったが、由花子はある日、クラスメイトの会話を小耳にはさんだのだ。

 

「うそ~?三組の山田君と付き合っているの」

「うん。山田君って、ちょっと、かっこよくて、クラスの人気者でしょ?最初は、私には縁がないかな?って、告白は敬遠していたのね」

 

 この山田君という男子学生を由花子は知っていたが、彼女にとっては、取るに足らない、噂話を同じ程度の、将来性の片鱗を感じさせない、「些末」な存在だった。これが、由花子にとって意中の彼__広瀬康一だったら、その「山田君」と付き合っているという少女は、無事でいられる道理がなかったのだが。

 

「でも、この間、()()洋菓子店で、ケーキをね、買ってね、食べたのよ」

「え?あの、ケーキ屋さん?」

「うん。そしたら、なんだかわからないけど、田中君のことで頭がいっぱいになってね、もう、告白するしかないなって思ったわけ」

 その女子高生がそこまで物事の件を話したところで、由花子は教室にはいなかった。彼女は、()()()()()()()()()()()()

 まだその日の授業の半分も消化していなかったにも関わらず、教室を出るとき、教師とすれ違った。

「おい、山岸。授業は始まっているぞ。早く席に着きなさい」

 月並みだが、職務に則った教師の言葉に、由花子は次のように返したという。

「先生は運命の赤い糸を信じますか?私は信じています。でも、赤い糸を、言葉に語りつくせないほどの受難を乗り越えたとして、それは真実の愛に到達するまでの切欠(きっかけ)に過ぎないのです。真に重要なことは、本当に大事なことは、その赤い糸が途切れないように、運命という手綱をしっかりと捕まえて離さないことなのです」

 案の定というべきか、その教師は、否、その場にいた生徒たちを含めて、唖然と目を丸く見開いたまま、その場所で固まっていた。

「先生、月にお給料をどれくらいもらっています?それを一約60分の授業に換算したとして、一回の授業にはどれだけの価値がありますか?私にとって、たかだか数千円にも満たない講義と、愛の重みを比較したとき、私がとるべき行動がどちらかなんて明白ですよね」

 由花子は、彼女以外が到底思いつかないほどのインパクトを周囲に与えて、堂々と学校をサボった。

 

 学校を出た由花子は、彼女独自のルールで、人々が遵守すべき交通規則など平気で違反して、かの洋菓子店へ辿り着き、お菓子を購入した。

 由花子が手にしたものは、苺のミルフィーユだった。

 苺のリキュールをベースにしたソースが、鮮やかな真紅を放ち、頂点には摘んでから時間の経過していない新鮮な苺が飾られている。

「でも、こんなもので、私の運命が変わるなんて…」

 店内に備え付けられたテーブルに座し、フォークを片手に口に運ぶ。すると、衝撃が由花子の舌を、それから、体と、そして、精神を駆け抜けた。

 苺の甘酸っぱさは、由花子が康一を初めて見たときの初恋を思い出させ、そのあと、口の中に広がるクリームのコクとパイ生地の食感は、胸の中にある康一への愛を何倍にも膨らませた。(あくまでも、由花子の主観に基づく感想だが。)

 何にせよ、由花子と康一の愛情はまた一つ、強くなったことば確かである。

 

 それから、三つ目として__当然と言えば、当然なのかもしれないが、彼女のお菓子を口にした者は、みな、美味しさの虜になったという。

 

 虹村億泰は、パッケージを開け、中のケーキを見たとき、溜息をついたという。

「あんだよ。俺は華の男子高校生よ。ケーキなんて、女子の食うもんだぜ。お前もそう思うよなァ?」

 傍らにいたハーフの同級生__東方仗助に悪態をついてみせた。

「おめえ、小言がおおすぎんぜ。この前もトニオさんの店で、パスタ食ったときも、辛いもんが駄目だとか云々カンヌンとよ~」

 仗助はげんなりした表情で、これに反応した。

「せっかく、お袋が買ってきたんだし、文句を言うなら、おめえは食うな」

 ある日の日曜日、虹村億泰は、親友である東方仗助の家に遊びに行くと、仗助の母親である朋子に振る舞われたのが、かの店のお菓子だったのである。

「まあ、待て。誰も食わないなんて言ってねえ。けどよお…」

「じれってえ。食うのか食わないのかはっきりしやがれ」

 結局のところ、億泰はフォークで、一口分を切り分けると、「アム」と口の中へ欠片を放り込んだ。

「まったく、いちいち、うるせえ奴…」

 仗助が、紅茶を含んだそのときだった。

 

「ンまぁああ~い!!」

 

 億康の唐突な声に、紅茶の半分を吹き出し、残り半分は気管支の中に入っていき、「ゲホゲホ」と彼を大変に苦しめた。

「おい!!うっせーぞ。鼻の中に入っちまったじゃねえかよぉ!」

「じ、仗助…俺よお、今までケーキなんて、甘いだけのモンだと思っていたけどよ…こいつは『違う』。ビターなチョコレートとオレンジの爽やかな風味がマッチングしてんだよ。香りのワルツっつーかよ、甘味の協奏曲っつーかよ、甘いだけっていう俺の概念を吹き飛ばしてくれたぜ」

 どこぞのグルメレポーターでもなったつもりか。トニオさんの店でも同じようなリアクションをしていたなと仗助は、呆れた表情で観察をしていた。

 なお、このケーキに感銘を受けた億泰は、自分でケーキ作りを始めるようになり、スイーツ男子の道を歩み始めるが、それはまた別のお話。

 

 

 仗助と康一は、このことをトニオに話してみた。

「そんなことがあったのデスカ」

「ねえ?トニオさんも思うっすよねえ。異常な出来事って奴ですよ」

 仗助は言うが、実際、仗助が億泰を連れてきたとき、彼はそれ以上の異常事態に面している。相棒の億泰などトニオの料理を食した後に、異常な位に涙が出て、異常な位、肩から垢がこぼれ落ち、虫歯が抜け、内臓が飛び出る始末だったのだから。

「それに比べたら、些末なことではないデショウカ?」

 トニオの日本語は流暢だが、「些末」という日本人でも日常的に使用しない言葉を、トニオは口に出していた。

「ソレより、お料理を召し上がってクダサイ」

 コース料理のようなフォーマルなメニューではなく、数人で摘まめるような、軽めの皿がテーブルに並ぶ。

 トマトのブルスケッタ(Bruschetta al pomodoro)牛肉のカルパッチョ・チプリアーニ風(Carpaccio alla Cipriani)鰯のマリネ・ラヴィゴットソース添え(Sarde Marinate con Salsa Ravigote)

 会話もそこそこに仗助と康一はトニオの料理を食べ、舌鼓を打っていた。

「やっぱり、トニオさんの料理は美味しいです。今度、由花子さんを誘って来ようかな」

「へ、へえ…」

 仗助は、どうしても、康一があの「プッツン由花子」に好意を抱けることに合理的な説明がつかないでいるのだ。数多の美徳や美しい容貌すら一瞬で掻き消す、()()性格に。

「私もあの洋菓子店の噂?口コミというヤツですカネ、気になったので買って、食べまシタ」

「マジっすか、トニオさん?」

「何を食べたんですか?どうでした?」

「ティラミスと、セミフレッドを買いまシタ。やはり、イタリアのデザートが気になりましたノデ」

「どうでしたか?その、味の感想というか」

「恐らく、デザートに関してなら、私が作るものよりも美味しいと言わないといけまセン」

 トニオの発言に、二人はしばしの間、信じられないといった表情で、トニオのことを見ていた。ニュアンスからそれが謙遜という類のものではないことを悟った。仗助も康一も、外食した中で、トラサルディ以上の料理を出す店を知らない。

 トニオの事実上の敗北宣言とも取れる言葉は、一種の青天の霹靂に等しいものだった。

「私は、あのデザートの中に、何と言いますか、チョット表現が難しいのデスガ、エナジーを感じマシタ」

 トニオはそのように二人に語った。

 

 その店は、洋菓子店(パティスリー)Lacrimosa(ラクリモサ)』と言った。

 

 

 時と舞台は移り変わり、東京都K市。

 

「ふぅうーーーっ…ここかぁ、遠月学園?ってのは__」

 

 一人の少女が、雑木林の並ぶ、整然とした街並みを、悠々と歩みを進めていた。携帯電話に、地図アプリを起動させながら。

 

 少女の名前は、二条理莉香(にじょうりりか)。このとき、わずか十四歳である。

 これは、少女の『信念』__人の精神の座標軸の物語である。

 

 

To Be Continued



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佐村耕助とシザーシスターズ その1

 ハァと、二条理莉香は、息を吐き出した。これは、溜め息という奴だ。最悪な感情が、腹から胸へ、胸から喉へ込み上げてきて、それが溜め息になって、体外へ吐き出されていった。それでも、鬱屈とした心の中は晴れない。

 理莉香にとっての悩みは自身の外見だった。今日も二人の軽薄そうな男性にナンパをされたのだ。鬱陶しいこと、この上ないがそれ自体が彼女の悩みというわけではない。年相応に見られないことが、悩みだった。

 理莉香は、十四歳。中学生なのだが、なぜか女子大生に見られてしまう。化粧だって、まだ、施していないのにだ。身長は平均より少し高い程度で、胸だって少し大きい程度。これが、女子高生に間違われたのなら、諦めはついたかもしれない。しかし、なぜ、女子大生なのか。そんなに自分は老けているのかと自問をこの小一時間、繰り返している。答えなんて、なぞなぞではないのだから、そう簡単に出るはずもない。

 ちなみに、ウザったいナンパ男の末路についてだが、一人目は、たまたま近くにいたホモビのスカウトマンに「よろしく」とその身を明け渡してやった。

 二人目は、「この人にナンパされているんです。でも、私、十四歳なんです。これって、条例違反ですよね?」と、近くを通りかかったお巡りさん(ポリスマン)に差し出したら、「カツ丼、食ってけな」といって、しょっぴいてくれた。

 

 

 突然「グゴゴゴゴゴ」と音がどこからともなく響いてきた。野生に住むハイエナのような獰猛な獣が鳴らす、咆吼を思わせた。その音を耳にした通行人たちは、わずかに歩みを止め、音源がどこにあるのか、突き止めようと考えた。

「いけない!そういえば今日、何も食べていなかった」

 理莉香は、自身が空腹であることに気がついた。野獣の咆吼のような音は、理莉香のお腹が空腹を知らせる音だったのだ。 

 理莉香は、携帯電話を取り出し時間を確認した。腕時計は身につけていない。午前11時30分を回ったところ。彼女が向かうところには、午後の2時までに着けばいい。昼食を摂る時間はたっぷりとある。近くに飲食店はないか、理莉香は周囲を見渡したときだった。

「ネエネエ、お姉さん」

 誰かに声をかけられた。

「ねえ、お姉さん、暇?あそこで、ご飯を食べていかない?」

 第三のナンパ師か?理莉香は、一瞬、そんなことを考えたが、目の前の男はナンパ師にしては若かった。理莉香の見立てでは、中学生__自分と同年代か年上に見積もっても、高校生になったくらいがいいところだ。しかし、年齢のことよりも関心を惹いたのは、彼の奇抜な髪型のことだった。サイドを刈りあげているのに、前髪はパッツンと菊人形のように切り揃えられている。

「あそこ、俺の親父の店なんだ。蕎麦屋だよ。食っていきなよ。腹減ってンだろ」

 ナンパじゃなくて客引きか。安心するとともに、空腹感が増してきたのを感じる。理莉香は、この変な髪型の少年の誘いに乗じることにした。

「じゃあ、行こうか、お姉さん」

「あのさ、そのお姉さんて呼び方、やめてくんない」

「お嬢様とか、マドモワゼルとかの方がよかった?」

「そうじゃなくって、多分、私、あんたと同い年ぐらいだと思うから。十四歳、中学生」

 少年は鳩が豆鉄砲を食らったかのように、目と口と鼻と__顔面にある穴という穴が真ん丸になった。要するに、それくらい、驚いていたということである。

 

 

 少年は、理莉香に自分の名を名乗った。佐村耕助というのが、彼の名だった。理莉香の見立てた通り、彼の年齢も十四歳、自分と同年齢、同学年だった。がっかりしたことは、耕助がその奇抜な髪型とは打って変わって、平凡な名前だったことだ。

「なあ、あんた…いや、初対面だけど、あんたって呼び方は失礼か。なんて呼んだらいいかな?」

 理莉香には、呼び名なんてどうでもいいことだった。これから、長い付き合いになるならともかく。

「理莉香でいいよ。同い年でしょ?」

「そうだな。よろしく、理莉香」

 普通なら、「さん」とか「ちゃん」とか、名前のお尻に、くっつけるよね?思ったけど、口にするのはやめた。それこそ、些末なことだったからだ。

「ところで、理莉香ってさ」

「うん?」

「よく食べるよな」

「そう?」

 可愛らしく、首をちょこんと傾げるが、理莉香のテーブルの前には、食べ終えた後の空の食器が、山になって積み込まれていた。

 理莉香は、耕助の家族が営んでいる「そば処・めりい庵」の暖簾をくぐると、早速、盛り蕎麦を三人前、注文すると、瞬く間に平らげてしまったのだ。

「耕助。天ざる追加」

「まだ食うのかよ…」

 耕助は絶句した。細い体のどこに、食ったものを収用する空間があるというのか。胃袋に暗黒空間でも出来ているのか、と。

 しかし、このときの理莉香はお客である。折角の注文を無碍に断ることはできず、耕助は厨房に戻って、揚げ油を鍋に注ぎ、加熱を始めた。

 12時前ということもあり、店内には理莉香を含めて、二組の客がいたが、もう一組の存在が気になっていた。二十歳そこそこの男の四人組で、学生か働いているのか判別はつかなかったが、なんとなく耕助は「ヤバい」という雰囲気を直感で感じ取った。男たちの関心が理莉香に注がれていることも。

「ねえ、彼女」

 案の定というべきか、男たちの一人が理莉香に下卑た声をかけてきた。

「彼女、一人?」

「暇?食べ終わったら、俺らと遊ばない?」

 耕助は逡巡した。厨房から今すぐにでも、出て行って助けに入りたかった。しかし、耕助はちょうど揚げ物の最中だった。途中で仕事を放り出したら、火災に繋がることもある。火力を弱めて、出て行こうとコンロに手をかけたときだった。

「耕助。そのまま、作業に集中していいよ。こっちは大丈夫だから。それに、早く、天麩羅を食べたい」

 理莉香から制止の声が入った。耕助は、「大丈夫」の意味が分からなかったが。

 そのとき、男たちに変動があった。

「なんか焦げ臭くねえ?」

「そういや、そうだな」

 男たちは一斉に耕助のいる厨房に視線を注ぐが、そこでは変わったことは起きていない。耕助は細心の注意を払って、火を扱っていたからだ。

「おい!ジョンジー、お前の、その、ヘアスタイル!」

「ああ?」

 焼けていた。煙が上がっていた。まるで、ネイティブアメリカンの狼煙のように。

「ギャアアアアアアアアアア!な、な、な、なんだよ、コレエ?」

「追いつけ!こういうときには、素数を数えるんだ」

 ジョンジーと呼ばれた男の頭に、パシャンと水が掛かった。理莉香がお冷やの水を、ぶっ掛けたのだ。

(うるさ)いよ。飯を食べているときくらい、静かにしなよ。さもないと、あそこの耕助よりも、面白…じゃなかった、酷いヘアスタイルになるよ」

 いや、もうなっているのだが。前髪が一部、ネグレクトパーマに変質しているのだが。男たちは、抗議の言葉を心の中で唱えるものの、口には出さなかった。いや、理莉香には、男たちに、有無を言わせない、凄みがあった。

 不幸中の幸いと呼ぶべきか、男たち、特にジョンジーとかいうチャラ男の命に別状はなく、火傷も負っていないようだ。しかし、耕助は、気付いていた。この小火(ぼや)は理莉香の仕業だと。

「お待ちどう。天ざるダヨ。揚げたてだよ」

 海老、鱚、イカ、椎茸に獅子唐。薄い衣を纏った天麩羅と、茹でた後、冷水で引き締めた二八蕎麦を理莉香に差し出した。

「お。来た、来た。サンキュー」

 理莉香は、目の前のご馳走に、ガッツキ始めた。蕎麦に夢中なっている理莉香は気付いていなかった。

 耕助の体から糸のようなモノが伸びていたことに。耕助は、「能力」を発言させた。



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佐村耕助とシザーシスターズ その2

「ごちそうさま」

 パン!と、右の手と左の手を合わせて、理莉香は静かに合掌した。

 彼女が本日、食べたメニューは、盛り蕎麦を三人前、天ざる、それから、一品料理として、出汁巻き卵に、かしわ飯の大盛り、というものだった。育ち盛りの、食べ盛りの、成長期ということを含めても、普通の人ならば、唖然とドン引きするくらいの食べっぷりだ。

 しかし、耕助はそんな理莉香を見て、性的興奮を感じたという。

「くそっ!可愛いな~、可愛いじゃねえか、俺の作った料理をパクパクって…嗚呼ァ、俺の料理が、俺のモノが彼女のナカに、流れ込んでゆくッ!俺と彼女は一心同体、運命共同体、これは、至福だッ!」

 大きすぎる耕助の独り言を、耳にした客たちは、「キメエ」と、一斉に同じ感想を持つに至ったという。

「アンタ、名前、なんだっけ?結構、いい腕、してんじゃない?年、いくつだっけ?見た目、私とおんなじくらいなのにさァ。どっかの店で、修業でもしてんの?」

 理莉香に褒められたことで、耕助は、幸せの絶頂に至る。

「実は、何を隠そう、俺は、()()に通ってんのよ。未来の一流料理人てヤツゥ?」

 その「遠月」という名を理莉香は知っていた。いや、理莉香ではなくとも、「遠月」の名は、世間に高い普及力を持って、浸透していた。

 正式な名称を、遠月茶寮料理學園(とおつきさりょうりょうりがくえん)という。東京都内にある日本屈指の名門料理学校で、その通称が「遠月学園」。中等部と高等部の各3年制から成る。とにかく、非常に厳しい少数精鋭教育を行っており、高等部の卒業までたどり着く者はわずか数人しかいないという。(理莉香は、それを聞いたとき、ドン引きしたという。)たとえ中退しても、学園に在籍していたというだけで料理人としての箔が付くらしいのだが。

 そして、理莉香にとっては、遠月の名は、また、特別の意味を持っていた。

「へえ、アンタ、遠月の生徒なんだ。すっごい偶然」

「え?なになに、偶然?」

 耕助は理莉香の言葉を鸚鵡返しに反復する。彼女の言った偶然の意味の理解ができなかったからだ。

「そ。偶然。あたし、今から、そこの編入学試験を受けるんだよ」

 理莉香は、蕎麦湯を啜りながら、あっけらかんと言ってのけた。

 

 

「ちょ、待てよ!」

「なにさ?」

「お前、()()がどんなところか分かっているわけ?」

「料理学校でしょ」

「カリキュラムとか、マジに鬼ハードだぞ」

「知ってる。それって、有名じゃん?」

「高等科に進んだとして、卒業できるかも怪しいぞ」

「それも知ってるッてば」

「人外魔境だぞ」

「厭という程、耳にしているよ。てか、アンタのいる学校でしょ。ネガティブな意見しかないわけ?」

 耕助の学校自慢ならぬ学校ディスとも取れる発言に、辟易して、理莉香は店を出ることに決めた。

「じゃ、あたし、そろそろ、行かなきゃ。お金はレジに置いておくから会計お願いね」

 理莉香はそう言って、暖簾をくぐって、店の外へ、公道へ出ようとした。

 ところが、その足がそれを許さなかった。

「ン?どういうこと?()()()()()!」

 傍目から見て、誰かに力ずくで、体を掴まれているわけでも、引き戻されているわけではない。障害物が存在しているわけではない。なのに、理莉香は店から出られないのだ。

「理莉香ちゃん。俺は、君を行かせるわけにはいかないよ」

 理莉香は()た。耕助から紐のようなものが伸びて、彼女の腕に絡まっているのを。そして、理解した。

「耕助。()()()()()()()()()()()

「そうだよ。俺の()()()()は、君に()()()()()()()()

 理莉香と耕助の会話は、事情を知らない第三者が聞いても理解不能だろう。電気スタンドのことだと勘違いするだろう。(それでも、文脈(センテンス)がおかしいわけだが。)

「デヤァ!」

 気合い一閃、理莉香はその紐を引き千切ろうと試みた。人間の腕のようなものが彼女の傍に現れて、これを実行する。

「無駄だよ。いかにスタンドとは言え、力で引き千切るのはできない」

「だったら、本体を叩くまで!」

 今度は腕だけではない。人間のようなフォルムをした、特撮のヒーローものかアニメのロボットのような外見のそれはが耕助に突っ込んでいった。

 そいつの拳が耕助の顔面に迫る。

「無駄な足掻きっていうんだよ。理莉香ちゃん。俺のスタンドは、君に暴力行為を禁じている」

 拳は当たらなかった。すんでのところで、理莉香のソレが殴ることを止めていた。

「改めて、紹介するね。俺のスタンドの名前は『シザーシスターズ』。不作為を相手に強要するのが、こいつの能力だ」

 耕助は語る。シザーシスターズは、理莉香に禁じている。この店から出ることと、耕助に加害を加えることを。

「で、あんたは、あたしにどうして欲しいわけ?」

「簡単なことだよ。俺と料理勝負をして欲しい。勝てば、試験会場に向かわせてあげる。けれども、君が負けたら、遠月への編入学は諦めてくれ」

 荒唐無稽な、耕助の提案だが、理莉香は受諾するしかなく、拒否権など自分はないことを悟った。

「やれやれだわ」

 そうやって、深く溜め息を吐くことが、今の彼女ができる精一杯の耕助へのささやかな抵抗だった。




スタンド名:シザーシスターズ
本体:佐村(さむら) 耕助(こうすけ)
【破壊力-D/スピード-B/ 射程距離-B/持続力-A/精密動作性-C/成長性-C】
 蟹や海老のような甲殻類に酷似したフォルムを持つ、相手に不作為を強要するスタンド。本体から伸びた「紐」の部分に、禁止事項を設定し、これに触れると触れた相手は、設定された行為が出来なくなる。
 合計8つの事項を同時に禁じることができる。1本の紐で、同時に複数人に不作為を課すことはできない。スタンドを用いても、力で紐を破壊することもできない。
 能力を解除するには、
①耕助がスタンドの鋏で切断する(任意解除)
②本体である耕助の意識を奪う
③射程範囲の外に出る(射程距離は20メートル)
④耕助の定めた解除条件を満たす
のいずれかを行う必要がある。
 不作為の命令は自分自身にも有効で、耕助は調理時には包丁で指を切るなどのミスをこの能力で事前に防止している。


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佐村耕助とシザーシスターズ その3

「ハァ?料理勝負?」

 二条理莉香は、初対面の佐村耕助の口から言い渡された、その提案に露骨な拒否反応を見せた。

「全然、前後の脈絡とその理由が分からないんだけど」

 理莉香の言い分は正しい。耕助の誘いに乗ることについて、義理も義務もなければ、必然性もないからだ。

「言ったよね、あたし。たった、今、あんたに。今日は編入学の試験があるの。あんたも通っている遠月の。このままだと、不合格になっちゃうの。あんたの脳味噌でも理解できるよね?」

 理莉香の声は殺気立っているのか、荒々しさを増している。

「だからだよ。遠月は恐ろしい場所だ。少しくらい料理が出来ても、その内、潰される。だから、俺との料理勝負で、実力を測ってみろって言ってるンだ」

「ハァ…やれやれだわ」

 理莉香は舌戦の末に、諦めるに至った。このまま、押し問答を続けていても、(いたずら)に時間を浪費するだけで、確実に絶望に近づくだけだと考えたからだ。

「まるで、試験管ごっこね」

 理莉香は、昨日、宿泊したホテルで、読んだ漫画の台詞を思い出して、自嘲気味に、魔法の呪文のように唱えてみた。

 

 

 理莉香は、結局のところ、料理勝負を受けることに決めた。そうしないと、この場から立ち去ることは出来ない。

「耕ちゃん。やるのかい?」

 耕助に声をかけたのは、耕助の店の常連さんだった。聞くところによると、大工の棟梁ということだった。

 耕助の行った所業には、腸が煮えくりかえる思いであり、むかっ腹が立ったことは紛れもない事実だが、こうして常連さんと良好な関係を作れていることは、感心すべきことだと考えた。耕助本人ではなく、店を開いている両親の功徳なのだろうが。

「ああ。作るお題は、蕎麦粉を使った料理。材料は厨房にあるものはどれでも使っていい」

 理莉香は、適当に聞き流した。なんにせよ、耕助に有利な条件には違いない。

「棟梁。味見役、お願いするぜ。耕助自慢の鴨南蛮、食わせてやるよ」

「鴨南蛮?」

「知らないのかい?鴨の肉とネギをあしらった季節蕎麦だぜ。お品書きには書いていない、佐村耕助の特性メニューだ」

 理莉香とは対照的に、耕助は闘志を燃やしていた。こういうのを、熱いのではなく、暑苦しいというのだろう。

 理莉香は失礼なことを考えながら、何を作ろうか悩んでいた。調理時間を考えると、入学試験まで残されている時間はそんなにないと思うべきだろう。材料は好きに使っていいとは言うものの、理莉香の得意料理を披露することは難しいと考えた。

 

 

 先に調理を終えたのは、耕助の方だった。

 丼の中に、熱いツユが張られ、蕎麦が泳いでいる。上にあしらわれたのは、鴨肉とネギだ。

「耕助特製鴨南蛮だ。パリパリに焼いた皮、つくね、そして、鴨肉のローストが具材だ。ネギは鴨の油を吸わせてある」

 理莉香は傍目に見て、思う。確かに、旨そうだ__と。そいつをさっき食いたかったな、とも。

 大工の棟梁が耕助の品を口にする。厳つい表情が弛緩する。

「いつもながら、耕ちゃんの蕎麦は一級品だ。とても、中学生が作ったとは、信じられねえ」

 棟梁は、豪快に蕎麦を啜って、鴨の出汁(ダシ)が染みたツユを味わう。理莉香は、調理の最中(さなか)、この棟梁の挙動を観察していた。この観察という作業は、彼女にとって、一種の習慣になっていた。ただ、食べる姿を眺めるだけ。そのように語ってしまえば、身も蓋もないが、それは様々な情報をもたらしてくれることは否定出来ない。例えば、熱い料理で食べる速度が遅ければ、猫舌だったり、適温になるのを待っていることが読み取れる。(ゆる)みきった表情は歓びを、たとえ、厳つい表情を崩さなくとも、一心不乱に食べ続けるなら、それは、料理が美味しいということだと解釈できる。

 棟梁は、蕎麦をあまり咀嚼せずに、飲み込んでいた。通の蕎麦食いによれば、蕎麦は「噛まない。喉越しを楽しむもんだ」そうだ。理莉香にとっては、正直どうでもいい。料理の出来を大きく左右するとも思えないし、噛まないことが消化に悪い気がするからだ。ただ、耕助の料理の()()を見つけられたような気がした。

「それじゃ、あたしの料理を召し上がってもらおうかな」

「お嬢ちゃんの番か。こんな、別嬪(べっぴん)さんの手料理が食えるなんて嬉しいね」

 理莉香は、棟梁の前に平皿を差し出した。

「アリャ?なんだい、こりゃあ。クレープみたいだな」

 見慣れないフォルムに、間の抜けた反応を示した。

「これが蕎麦にはみえねえが」

「ガレットだ」

 耕助がその料理を説明する。

「フランス北西部のブルターニュ地方発祥の料理だ。クレープの起源になったと言われている。蕎麦粉を使った料理だよ」

「へえ。横文字はサッパリだが、まあ、食ってみるか。これ、ナイフとかフォークで食べるのかい?」

 少し困惑した口調で、棟梁は尋ねた。

「基本そうですが、お箸を使っても、手で食べてもいいですよ」

 棟梁は、直に手で持って、口に運ぶことを選択した。

 ガブリ。ガレットに(かぶ)りつく。

 生地がパリッと小気味よい音を立てた。

「美味え!」

 目を真ん丸に見開いて、棟梁が吠えた。

「これは、俺の知っている蕎麦じゃねえ。ずるずると啜りこむ感覚がねえ。けれども、こいつには蕎麦の香りがする」

 理莉香は、生地として使う蕎麦粉に、香りの高い挽きぐるみを使った。挽きぐるみとは、殻を除いた蕎麦の実をすべて挽いた全層粉と呼ばれ、強い風味が味わえる。

 具材は、さっき天ぷらの材料にしたと思われる、海老、鱚、イカ、それから蓮根とキノコがあったので、これらを蒸し焼きにし、生地に加えた。

「じゃ、棟梁。急かすようで悪いけどサァ、俺と理莉香ちゃん、どっちが旨かったか、教えてくれるかい?」

 耕助は勝負の判定を求めた。なお、このとき、耕助は、シザーシスターズから一本の“紐“を伸ばし、棟梁に巻き付けていた。

 彼が命じた不作為とは、「嘘をつかないこと」__。常連客である彼が耕助を贔屓することも考えられたし、同時に、女の子である理莉香に肩入れをすることも考えられた。他意や悪意がなくても、大人からすれば、料理勝負など子供のお遊びに見えただろうから。

「耕ちゃんには、悪リィが俺ァ、お嬢ちゃんの、この、ガ、ガ、蕎麦粉のクレープの方が(うめ)えと思った」

 棟梁が勝敗の結果を口から伝えたときだった。一本の鋏がシザーシスターズから分離して、理莉香の手元に飛んできた。

「俺の負けだ。その鋏で、“紐“を切るんだ。そうすれば、君に課せられたスタンド能力は解除される」

「自動で解除されないんだ?ホントに変な能力」

 理莉香は、躊躇うことなく、“鋏“で“紐“を切った。

 バッツウウウウウン!

 切断時に、大きな音が響いたが、スタンド能力を持たない大工の棟梁には、聞こえることはなかった。

 

 

「やっぱり、行くの?」

「ええ。わざわざ、そのために、杜王町からやってきたのよ」

「考え直さない?」

「ていうか、あんたに、メリットやデメリットがあるとは思えないんだけど」

 理莉香は耕助に尋ねてみた。腑に落ちなかったのは、自分の利得になるわけでもないのに、スタンドを出してまで、編入学試験に行くことを頑なに止めようとしたことだ。

「心配なんだヨォ。君が、もし、合格して、あの、人外魔境に足を踏み入れることが。遠月は、料理の名門校だよ。でも、カリキュラムが鬼のようなんだ。離脱者も少なくない。君がトラウマを植え付けられたりしたら、そう思うとさ、どうしようもなくって」

 ハア、溜め息がこぼれた。

「忠告はありがたいけど、それって、大きなお世話だよ。あたしの道はあたししか決められないからね」

 理莉香は手荷物を持って、耕助の店を出ようとした。

「あたしには、座標軸がある。遠月を受けるのも、その座標軸があるからだ。だから、自分の行動がどんな結果をもたらしても、それに後悔することはないと思う」

 耕助は、理莉香の目つきに、決意の表れを見た。自分が何をしても、彼女の決心を鈍らせることはないだろうと、「言葉」ではなく「心」で理解した。

「わかった。幸運を祈っているよ」

「まあ、そう悲観することはないんじゃない?あたし、合格したら、同じ学校で一緒に勉強できるんだし」

 理莉香はあっけらかんと言った。

「そうか、そうだよな。ふふふ」

 耕助は、気持ち悪い笑みを浮かべた。

「もしさ、そうなったら、俺と友だちになってくれるかな?」

「何、言っているのさ」

 理莉香の反応を見て、耕助は思った。これは、「私たち、とっくに友だちじゃん」という流れだと。

「耕助は、あたしの舎弟ね」

 耕助の読みは外れた。

 だが、力強く、前を見て歩もうとする理莉香を見て、「それもいいか」と思ってしまった。

 

←To Be Continued



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遠月の試練 その1

 遠月茶寮料理學園__東京都のK市に所在する中等部と高等部から成る日本最大の料理学校である。

 非常に厳しい少数精鋭教育が特徴で、高等部の千人近い新1年生のうち、卒業まで辿り着く者は指で数える方が早いと言われている。

 それを聞いてまず、二条(にじょう)理莉香(りりか)が持った感想は__「何だよ、それ?学校じゃなくね?学校の名を語った、別の何かだ」、とのことである。

 それでも、毎年、外部から転学を希望する者は絶えず、3月の上旬に編入学試験が行われることは、恒例になっていた。何しろ、卒業すれば、一流料理人として、スターダムを歩むことができるのだから。一方で、学園側からすれば、優秀な人材は、喉から手が欲しいのだから、入学を希望する者と、これを受けいれる者の間で、需要と供給が成立していたのである。

 ただし、中等部への1年次からの入学とは異なり、編入学となると、それは狭き門だった。なにしろ、遠月の容赦のないほど、ハードなカリキュラムについて行かないとならないのだから。

 

 

 二階堂(にかいどう)圭明(よしあき)も、その登龍門を潜らんとする若き挑戦者の一人だった。

 仕草から、身に着ける衣服から、育ちの良さを感じさせる。彼の家は、名の知れたフランス料理店だった。二階堂に限らず、料理や食材に関わる家柄の息女が多い。それは、(ひとえ)に、「遠月」というブランド力の賜物と言える。卒業すれば一流の料理人として道が開け、在籍していたというだけで(はく)がつく。親からすれば、家業を営む上で、付加価値を求める思いがあったのかもしれないし、或いは、単純に大切な我が子にこれから歩む道を楽にさせてあげたいという親心なのかもしれない。

 だが、それは、遠月の理念とは必ずしも一致するものではなかったが。

 両親の思惑を知っていたかどうかは定かではないが、二階堂は家柄というものに、歪んだプライドを持った人間だった。遠月に在学するべきなのは、一流の店の息女であるべきであり、自分は有名店の跡取りだ。従って、遠月にいるべきは自分なのだと、法学部の学生からすれば、一笑に付すような稚拙な三段論法が彼の頭にあった。

 そんな彼にも、ある日、運命的な出会いが訪れる。遠月学園の門を潜り、試験会場に向かう最中(さなか)の出来事だった。

 たまたま、同じ方向に向かう理莉香の姿を視界に捕らえたのだ。妙に大人びた理莉香は、二階堂には衝撃を与えた。クラスには、可愛い子、綺麗な子というのは存在する。けれども、どこか垢抜けない印象があり、理莉香はクラスの女子生徒のいずれにも分類されない存在だったのだ。

 二階堂は、静かに、なるべく自然な動作を装って、理莉香に接触することを試みた。

「ねえ、君」

 理莉香は自分に声を掛けられていると思わなかった。そのことを理解するまでに時間を要した。

「君だよ、君」

「あたし?」

「そうそう。君も遠月の編入学希望者だよね?」

 理莉香は、取り敢えず、二階堂からの問いを肯定した。

「実は僕もなんだよ。奇遇だね。いや、むしろ、運命といった方が相応しいかな」

 なんとも、乏しい語彙力だな、と、理莉香は半ば呆れた顔で、聞き流していた。

「ねえ。この試験が終わったら、僕のお店に来なよ。うちはフランス料理を経営しているんだ。本当なら、予約が必要なんだけど、ほら、僕はそこの息子だから、特別に招待をしてあげるよ」

 白ける理莉香とは対照的に、二階堂の話に熱がこもる。

「今日の出会いに、そして、美しいあなたのために」

 バァアアアアアアアッン!!

 ドラマかアニメなら、そんな効果音が鳴り響いただろうと思われる。

「エ?本当?嬉しい…こんなこと、殿方から言われたの、初めてだわ」

 けれども、二階堂の目の前から理莉香は消えていた。代わりに、彼の目の前には、ゴツいオカマさんが頬を赤らめて、瞳を潤ませていた。

「え…ええ!?」

「もう離さないわ、ダーリン!」

「離せ!離してくれええええ!」

 遠月の庭に、断末魔にも似た、若き料理人の叫びがこだました。

 なお、この騒動における真犯人は二条理莉香である。彼女はスタンドを出して、二階堂の向きを自分からオカマさんの方へ向けたのだ。このことを、当の本人である二階堂圭明は知らない。

 

 

 遠月学園への編入学を希望する者たちは、一室に集められた。希望者は総勢で、二十名弱といったところだった。その数が多いか、少ないのかは理莉香は分からなかった。しかし、その中で、異彩を放つ者はいる。

 特に目立った行動を取らずとも、自然と存在感が浮き上がってくるのだ。

 理莉香が気になった人間は三人いた。一人は、女生徒だった。透き通るような肌をした、ハーフの美少女だ。

 それから、黒髪の少年。妙に覇気のない、気怠そうな雰囲気を醸し出していたが、理莉香には、どこか油断を許さない()()()を感じさせるのだ。

 最後にもう一人。それは、先ほど理莉香に声を掛けてきた二階堂圭明だった。頬には、真っ赤な口紅がキスマークを(かたど)り、その両目は何かを喪った哀しみで、涙に濡れていた。



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遠月の試練 その2

 遠月学園の編入学試験は、主に、三つの項目から成る。一つは、筆記試験。簡単な学力診断のほか、料理に関する問題が出題される。一説では、ホテルビジネス実務検定試験(通称、H検)と同程度、或いは、それよりもアッパーレベルだと、噂されている。H検の問題も遠月の講師陣、または、卒業生が作成に絡んでいるのではないかと言われている。

 二つ目が、面接試験。親権者同伴は認められず、シビアな環境で、自分の足で学んでいけるか、直に顔を見て、選定がなされる。編入学試験を運営する人間には、モンスターペアレントとの軋轢に耐えられる精神を持った人間が適正だとのことである。

 そして、三つ目が実技試験__すなわち、料理の腕を試されるのだ。筆記と面接では、大きな点差は開かないので、実質上、実技が合否を分ける要だというのが、実際の受験生の見解だった。

 しかし、今年の中等部三年次への編入学試験は、例年と趣向が変わっていた。面接と実技を同時に行うというもので、事実上、面接試験の撤廃である。

「面接?かったるいだけだから、あたしは、なくっていいかな」

 理莉香はこれを肯定的に捉えていた。

「10分かそこらで、そいつの何が分かるってのさ?その為人(ひととなり)なら、厨房で調理をする姿を見せれば、分かってくるってもんでしょ?」

「言うねえ。まあ、この、純然たるエリートの僕なら、どんな試験だって一発合格だけどね」

 二階堂(にかいどう)圭明(よしあき)は、相も変わらず、尊大な態度は崩さずに、頬につけられた真っ赤なルージュの跡を、自らのトラウマと共に拭い去ろうと奮闘していた。しかし、彼の努力とは裏腹に、ハンカチで(こす)った分だけ、口紅は拡散するばかりだった。

 面接試験がないことが、幸いしたンじゃねーの?と、理莉香は思った。

 

 

 筆記試験は、何事もなく終了した。試験官は、答案を回収し終えると、次の試験を待つ受験生に向かって、次の課題の内容を説明した。

「あなたたちは、それぞれが二名ずつ、十一組に分かれて、指定する調理実習室に向かっていただきます。そこで、課題を出しますので、その課題に合った料理を作ってもらいます」

 補足すると、これは料理勝負ではなく、単純に一定のレベルに達しているかだけが基準になるという。

「質問ですわ。試験官どの」

 混血の美少女が挙手をした。

「では、二人とも粗末しか作れないなら、不合格ということもありますわよね?」

「無論です。最悪、合格者ゼロということもあります。もっとも、そうならないように、課題に取り組んでいただきたいのですが」

 凄みを見せる試験官に臆する様子もなく、彼女は、「ハァイ」と可愛らしい仕草で返事をした。

「いいこと、リョウ君。こんなところで不合格になって、私に恥をかかさないでね!」

「ていうか、お嬢こそ、ちゃんと合格して下さいね」

「まぁ!何、その口の聞き方!」

 リョウという少年と美少女が、口論を始めた。試験官が止めに入らなければ、きっとこの舌戦はエンドレスで続いただろう。

 これに対して、理莉香は、二人を「気に入らない」と思った。もう、受かった気でいるのか。

「二人組は任意で組んで下さい。決まらない場合だけ、こちらで指定します」

 とことん、趣旨の見えない采配だと思った。

「じゃあ、リョウ君。あたしとペアね」

「まあ、いいっすけど」

「どっちが美味しい料理を作れるか、勝負よ」

 その一言が嚆矢(こうし)になった。リョウという少年は、バンダナを頭に巻くと途端に空気が変わった。

「じゃあ、本気で噛み殺しに来ていいんだな?」

 瞳に獰猛な光が宿り、口調も荒々しさが(みなぎ)る。

「あら?口の聞き方に気をつけてよね。気を抜いたら、私が貴方に牙を突き立てるわよ」

 理莉香には、二人の関係がどのようなものか知る術はない。けれども、ふと、自分に近い人間なのかと思った。

 

 

 結局のところ、理莉香は二階堂とペアを組むことにした。一緒に料理を作るわけではないので、彼が足を引っ張ることもないだろうし、自分に危害を加えることはないだろうと判断してのことだった。

 理莉香と二階堂は、調理実習室の一部屋に招き入れられた。

 最初は家庭科に使われるような部屋を想像していたが、実物はそれを遥かに上回った。小さなレストランなど及ばないくらいの立派な調理施設だった。冷蔵庫、フライパンやソースパン、中華鍋などの鍋類、大小様々の包丁類など、調理器具が完備されていた。

「スゲエ」

「ま、まあまあ、だな。うちのレストランの厨房に比べたら」

 理莉香は二階堂の見栄と嘘を見破った。

「では、課題を発表します。テーマは卵を使った料理。材料はこの実習室にあるものはどれでも使用して構いません。制限時間は二時間」

 試験官は、淡々とした口調でこれを告げた。

「卵料理ね…」

「卵料理といえば、基礎中の基礎。フフフ、この僕には死角はない」

 死角しかないんだよな。理莉香は思った。

「それから、調理後に、お二方が調理した料理は、審査員が試食をします」

 こうして、静かに実技試験は、開始された。



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遠月の試練 その3

 西園(にしぞの)和音(かずね)は、試験官として、遠月学園中等部の編入学試験の場にいた。

 調理実習室にて、二人の少年少女が、己の実力を証明するために、調理の最中だった。和音は、二人の一挙手一投足に注意を払う。相手への妨害工作は勿論のこと、食べ物に異物を混入させたり、第三者の幇助がないか、これらを厳しくチェックしなければならない。

 そして、もう一つ__。

 二人がどのような料理人かを、調理する姿を通して、知ることも目的としてあった。

 今年、面接試験を排除したことは、遠月学園の総帥の意向だった。総帥曰く、「この学園への入学を希望する者が目指すことは、一流の料理人になることに他ならない。それが唯一、そして、絶対のテーゼである」とのことだった。人柄や家庭環境、家柄など関係ないと。

 和音からすれば、概ねその意見に賛同するものの、実際には、在学する生徒の中には、料理人という括りを忌避する傾向の人間もいるので、そのテーゼとやらは、実態に即していないと思っていた。

 さて、和音の目は、若き料理人の作業工程を注視する。少年の方は、二階堂圭明(よしあき)と言ったか。手元の資料には、フランス料理店の子息と記載がある。それなりに経験も積んでいることは、包丁捌きから見て取れた。けれども、彼は既に初手から失敗を犯している。彼は、卵と組み合わせる食材として、鵞鳥の肝臓(フォアグラ)を選んだ。だが、彼が手にしたのは、劣悪品だった。フォアグラは、脂と血の状態によって良し悪しが分かれ、通常、硬いと脂分が少なく状態の良いものが多いが、硬過ぎるものは脂分を多く含み、ソテーした時に脂が出やすいと言われている。二階堂は、フォアグラ、イコール、高級品という図式に縛られて、素材の目利きを怠ったのだ。或いは、実家では、キチンとした素材が用意されているので、目利きの必要性すら認識が希薄なのかもしれない。

 二階堂は、フライパンにバターを引き、フォアグラとキノコ類をソテーにし、塩コショウで味付けをした。さらに、もう一つ、フライパンを用意すると、ここにもバターを引き、割って溶いた卵を流し入れた。

「ここからだ。It's showtime(イッツ・ショータイム)!」

 二階堂が、フォアグラの乗った、フライパンの上に、マデラ酒を振りかけた。

 フライパンから炎が立った。フランベという技法で、お酒の香りを食材に移す効果があるとされる。

 そんな派手なパフォーマンスを目の当たりにしても、和音の二階堂に対する評価は影響を与えなかった。

 それよりも、和音の関心は、二条(にじょう)理莉香(りりか)の方に寄せられていた。

 

 

 二条理莉香は、アマンドプードル(アーモンドパウダー)と粉糖をふるいにかけ、混ぜ合わせるとこれを冷蔵庫で冷やし、オーブンを予熱した。

 続いて、理莉香は、数多の数と種類の卵の中から、数個を選定した。材料選び、つまり、目利きもこの試験の要素の一つとなっている。質の劣るものや鮮度の古いものも用意された卵には混ざっている。質の良し悪しなどお構いなく、手にした卵でオムレツを作った二階堂に対して、理莉香は根気よくその真贋を判別しようといていた。卵を割った後も、黄身の盛り上がり具合や白身の弾力を見て、使用すべきかをチェックしていた。

「ふむ。この子は、材料選びの点では合格といったところね」

 和音は、そう評点を手元のノートへ書き込んだ。その時だった。

「ねえ、審査員さん」

 和音は、声を掛けられた。

「なんでしょう?」

「ハンドミキサーある?」

と、尋ねられた。

「ここにあることはあるんだけど、動かないみたいで」

 理莉香からハンドミキサーを受け取ると、和音も機動させてみたが、彼女の言うとおり動作しなかった。

「ええと、他のフロアにいるスタッフに連絡を取って、用意しましょうか?」

 和音は、備え付けのインターホンに手をかけようとしたが、「じゃあ、いいや」と理莉香はその申し出を断った。

 菜箸や泡立て器でも、卵を混ぜるだけなら目的は達せられるだろうが、相当腕の力を要するはずだ。それに、綺麗に攪拌(かくはん)しようとするなら、ハンドミキサーを使った方が確実だ。だから、和音には、理莉香の言動が整合性のないものに思えてしまった。

「出ておいで、『ブリング・ミー・トゥー・ライフ』!!」

 「なっ!」__和音は、心の中で感嘆符を打った。理莉香の傍に、一体の(ヴィジョン)が浮かび上がったからだ。

「さあ、こいつを攪拌するよ。メレンゲにするんだ」

 理莉香は、卵白に乾燥卵白とグラニュー糖を加えると、理莉香の傍らに立つ像から伸びた二本の腕が、泡立て器を持ち、まるでハンドミキサーのように高速で卵白を泡立て始めた。



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ブリング・ミー・トゥー・ライフ その1

 幽波紋(スタンド)__それは、人間の精神エネルギーが形を成したものである。生命エネルギーが作り出す、パワーある(ヴィジョン)であり、傍らに現れ『立つ』というところから、『幽波紋(スタンド)』と名付けられた。

 

 

 西園和音は、ひたすら、目の前の出来事に、驚愕するばかりだった。編入学を希望する、目の前の少女は、なんと、スタンド使いだったのだから。

 スタンド使いという言葉を言い換えると、超能力者とするのが、比較的、一般的な概念に近付くだろうか。非日常的な、不可思議な現象が発生するなら、それは、スタンドに由来することが多い。

 和音は、世の中にどのくらいスタンド使いが存在するか知らないし、また、それを知るための統計手法にも窺い知ることはないだろう。だが、この遠月学園という限られた空間の中で、スタンド能力を持つ者は集い、また、力を持たぬ者も遠月の中で目覚める者が増えていることを和音を含めた関係者の多くは認識していた。

 遠月という地が力を与えるのか、総帥を始め創始者たちが築き上げた機構(システム)が能力を呼び覚ますのか、はたまた、才ある者たちの人の(えにし)が新たなる才を引き寄せるのか。その(ことわり)こそ知らぬが、料理に情熱を傾ける者が、環境に喚起されて、スタンド能力を持つに至ったとしても、不思議ではないと西園和音は考えた。

 

 

「ねえ、お姉さん。あんたも見えているんでしょ、あたしのスタンドがサァ」

 二条理莉香のスタンド__人というよりも、SF作品に出て来るアンドロイドかサイボーグを彷彿させる『それ』を彼女は『ブリング・ミー・トゥー・ライフ』と呼んでいた。

 彼女のスタンドを分類するなら、近距離パワー型に該当する。射程距離は2メートル程度。彼女のスタンドは、姿を現すときは、常に彼女の傍に立ち、常に理莉香と共にあった。

 メレンゲを作るとき、グラニュー糖を、全部、一度に入れられないので、数回に分けて投入する必要があるが、スタンドに泡立てを行わせて、理莉香自身が少しずつ分量を調節しながら、加えることができるので、このような場面でスタンド能力は極めて有用だった。

 そのあとも作業は続き、メレンゲに粉糖、アマンドプードルを混ぜて生地を作る。それから、生地の硬さを調整するために、生地の気泡をひとつひとつ、潰してゆく。これらの作業に要求されるのは、筋力のしなやかさと精密性だが、理莉香のスタンドはこれらの要求を十二分に応えた。

「な、なんて、力強さと緻密さを兼ね備えたスタンドだろう。そして、そのコンビネーション!!」

 和音は、思わず溜め息をついた。スタンドは、本体となる人間の精神からなる。言い換えれば、スタンドは、その人間の身体同様に一部分なのだから、息が合うということは必然のように思われる。だが、それをコントロールすること、及び、能力を上限値まで引き出すということとは別次元のポイントだ。理莉香はスタンドの特性を、その力を完全に自分の支配下に置いていた。

 生地が出来上がったようだ。理莉香は生地を、丸口金を取り付けた絞り袋に入れると、天板の上に敷いたオーブンシートへ直径が3センチ程度になるように絞り出した。

 トントン、と、天板の下部を軽く叩く。生地の中に出来た余分な気泡をこうして、抜いてやるのだ。この小さな工程が焼き上がりを左右するからだ。表面が乾燥するのを確認すると、理莉香はオーブンへ投入した。

 中火で約3分ほど焼き、生地の下部が膨らみ、(ピエ)ができたら、今度は7~8分、温度を下げて焼くのだ。この(ピエ)が綺麗に出来るかどうかがこのお菓子のできを分けるポイントとなる。生地を焼くと表面が硬くなる。生地の中の空気が膨張するわけだが、硬い膜のおかげで、上に逃げることができず、下に膨らむわけだが、それがまるで足のようなので、(ピエ)と呼ばれるに至った。

 生地を混ぜる段階で、理莉香が丁寧に気泡を潰していたのもこのためである。気泡を潰しすぎると、焼いたときにボリュームが出ず、形が崩れてしまう。逆に気泡が必要以上に残ると膨らみすぎて、生地が割れたり、生地に艶が生まれない。その加減が重要であり、難易度を要する。

 生地が焼けたことを確認すると、天板の上で冷まして、粗熱を取り、その間に、生地と生地の間に挟むフィリング__バタークリームの準備に取り掛かった。

 

 

 十数分の時間が経過した。

 理莉香のバタークリームを混ぜ合わせていた。二階堂圭明の皿__フォアグラのソテーを具材にしたオムレツが完成したのは、このときだった。

「試験官。僕の料理は出来ました。冷めない内に、試食をしていただきたいです」

 はやる勢いの二階堂を西園和音は静かに制した。

「実際に料理を食するのは私ではありません。審査を行うものは別におります」

 和音は、ここで一息ついた。そして、緩慢に、しかしながら、厳かな口調で次のように言葉を次いだ。

()()()()()

 二階堂の顔つきが変わった。今までは、余裕を浮かべて、泰然と構えていたのだが、その表情からは一切の笑みが失われていた。二階堂は、十傑という言葉の意味を知っていた。

 遠月十傑評議会__遠月学園高等部に在籍する生徒の(いただき)に座する者。それが、どのような意味を持つか、学外の人間であるはずの二階堂ですら、知っていた。正確には、それくらいに『十傑』の名が広く浸透していたからに他ならない。

「しかし、十傑はその名称の通り、十名の生徒からなる合議体です。今回の編入学希望者は22名の11組ですから必然的に余りが出てしまいますので、二階堂さんと二条さんには、十傑ではありませんが、特別に選考委員をお呼びすることに致しました」

 和音が言葉を言い終えるのを待って、この調理実習室へ優美な仕草で、一人の少女が入室した。

 美しい少女だった。気品という言葉がそのまま、人の姿を為したと言っても過言ではないだろう。男性はおろか女性でさえも、その美貌に見とれて、惚けたとしても不思議はなかっただろう。しかし、二階堂は、先に恐怖にも似た感情に支配されていた。

 そのような彼の心中を知ってか知らずにか、和音は感情の起伏のない静かな口調で、来訪者の名前を告げた。

「当学園総帥、薙切仙左衛門の孫に当たります、薙切えりな様がお二人の課題を評価されます」



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ブリング・ミー・トゥー・ライフ その2

 薙切えりなの登場は、その場にいた人間(といっても二階堂だけだが…。)へ衝撃を与えたようだった。

「お早いお付きでしたね。えりな様」

「ご無沙汰ね。西園さん。ここが編入試験の会場なの?」

 えりなと呼ばれた少女は、毅然とした態度を崩さず、自分よりも年上であるはずの和音に問いかけた。和音が敬語を用いて、会話をしていることから、えりなの方が目上の立場にあることが見てとれる。

「でも、この私が審査をするのだから、アリスのいる教室を所望したいところだわ」

「アリス様はえりな様の従姉妹です。試験要項と規則には、血縁者の入学、及び、編入学の試験には、試験官として、従事できないこと。第三者を当てるべき旨、書かれておりますので」

 えりなの少しだけ憮然とした表情を見て、和音はまるで娘を宥めるかのように、「規則ですから」と付け加えた。

 調理実習室を訪れたのは、薙切えりなだけではなかった。彼女の傍らに、半歩ほど下がって、従者のように仕える少女がいた。えりなと同じくらいの年齢の、髪をボブカットに揃えた少女だった。

 理莉香は、その少女に尋ねてみた。

「あのさァ、さっきから試験官のお姉ちゃんも、敬語使っているけど、誰なのさ?」

「なんだ、貴様は!!」

 あまりにも馴れ馴れしい(図々しい?)理莉香の物言いに少女は苛立ちを隠さず、食いかかるような反応を示した。そんなに自分と歳も違わないだろうが、滅多に使用することのない「貴様」という言葉のチョイスに理莉香は苦笑した。

 少女の名を新戸緋紗子といった。遠月学園の中等部に在学する女生徒で、薙切えりなの秘書に当たるという。古い言い方をするならば、「ご学友」という言葉の方が彼女の役割を如実に語ることが出来るだろう。

「なんだ、って聞かれても、あたしはなんて答えりゃいいのサ…?」

 緋紗子は理莉香をジッと注視する。まるで、品定めをするかのように。どこか垢抜けた容姿、大人びた雰囲気、ほどよく膨らんだ胸。スラリと伸びた肢体。

 理莉香と比較すると、自身の幼さを感じずにはいられない。

「まさか…!!」

 緋紗子は、思い切って浮かんだ疑問を問いかけることにした。

「もしかして、()()()()()()()()()()()()付き添いで来られたとか?」

「そんなわけないでしょ?あたしが、編入希望者。そもそも、学園内までは、父兄の付き添い禁止じゃないの?」

「あ…!!」

 理莉香は緋紗子に、彼女の推理が見事的外れであることを示唆してみせた。

「す、すまなかった…」

 顔を真っ赤にしてプルプル震える緋紗子に理莉香は、次のように言い放った。

「ドンマイ、()()()

「ひ、秘書子って言うなァ!!」

 理莉香のスウィートリベンジは成功した。

 

 

 理莉香と緋紗子が小漫才を催す傍らで、二階堂の完成した料理を、薙切えりなが試食するところだった。

「さァ、えりな様、召し上がってください。名付けて、フォアグラのオムレツ・二階堂スペシャルです」

「では、早速いただくわ」

 えりなは、ナイフをスッ_と、卵に滑り込ませ、一口分を口に運んだ。

 彼女の表情がわずかに曇ったことを理莉香は見逃さなかった。

 その刹那、薙切えりなの背後から、(ヴィジョン)が浮かび上がった。

「フィフス・ハーモニー!!」

 こいつも、スタンド使いか!?__理莉香は無意識に身構えた。

 いうなり、彼女のスタンドの手から、『何か』が飛び出した。そして、二階堂の手首と足首に巻き付いた。理莉香の目には、パワーリストとパワーアンクルのように映った。

「あれ?なんだか、体が急にだるくなったな。体が重たく感じる…インフルにかかったとか?」

 二階堂の発言から、また、彼が足をつけている床が、毀損、変形をしていないことから、その『重さ』が質量を影響するものではなく、体感的に作用する能力だと推測した。

 スタンド使いではない二階堂には、『重さ』が実体化したそれを視認できない。

「あなたの料理には、至らない点が多々あります。今から、私が教えて差し上げます」

 えりなは、二階堂に言い放った。

「まず、材料の選び方です。あなたが選んだフォアグラは、弾力性やハリのない粗悪品です」

「な!?」

 二階堂は、驚嘆の声を上げた。

「次に下処理。スジや血管の処理を怠りましたね。厭な匂いと食感が口に残ります」

「え?」

「それから、調理法。あなたは、ソテーするときにバターを使いましたが、フォアグラはそもそもが脂肪分を多く含みます。焼いたときに脂が自ずと出るので、油はひかない、または、量を控えるべきです」

「ええ?」

「また、マディラ酒で、フランベをすることで仕上げていましたが、アルコールを十分に『トバす』ことができず、アルコールの匂いが残っています」

「えええ?」

「極めつけは、卵の扱い方が雑であることです。卵白と卵黄が分離してしまっています。焼いたときに焦げ目もできていますし。家庭の卵焼きなら、まだ許容の範囲内ですが、お店では出せませんね。オムレツは、見た目が美しく、食べたときに食感がフンワリとしているべきなのですから」

「そ、そんな…」

 えりなのダメ出しは続く。徐々に二階堂の瞳から生気が失せ、終いには、涙目になっていたという。

「ひどいオムレツね…そう、たとえるなら」

 えりなは二階堂を尻目に、料理の感想を総括して、次のように陳述した。

「お酒の飲み過ぎで、肝臓を悪くしたアル中と、暴飲暴食を貪る自堕落なメタボと、一緒に、ダンスを踊っているような、Mother Fucking Party Of The Year(今年一番のゴミパーティ)、そんな味がするのよッ!!」

 

 ()()()()()()()()__その場にいた全員、心の中で同じツッコミを入れたという。

 

「ネェ、オタクのお嬢様ッテ、いつも、あんな感じなワケェ?」

 ジト目で、緋紗子に尋ねる理莉香。

「いえ、あの、その…」

 言葉に窮する緋紗子。

「中二病ジャナイ?中二病、拗らせていない?」

「貴様、失礼だな!リアルタイムで中二だから、()()()()()とは、言わないぞ!」

「でも、あのボキャブラリーとか、独創的でしょ?普通、あんな発想にはならないし…」

「それは、えりな様が我々、凡人には及ばないほど、鋭敏な味覚と感受性をお持ちだからだ」

「えりな様…?」

「なんだ、貴様、西園さんからの紹介を聞いていなかったのか?あのお方は、薙切えりな様。この遠月学園の総帥であられる薙切千左衛門様を祖父に持つ、料理界におけるエリートだ。特筆すべきは、「神の舌(ゴッド・タン)」と呼ばれる、常人離れした、鋭敏な味覚をお持ちであることだ」

「薙切えりな…学園総帥の血族…神の舌……フゥン、なるほどね…」

「な、なんだ、貴様?一体、どうしたというのだ?」

 緋紗子は、理莉香に言葉の真意を尋ねた。理莉香の言動に、不穏な空気を緋紗子は感じ取ったからだ。

「いや、なんでもないよ。あたし、料理に集中すると、周囲が見えなくなるたちでサァ…」

「そ、そうなのか?」

「でも、よかったよ。()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()

「????」

 緋紗子はもう理莉香に言及することはなかった。明確な理由があったわけではないが、このとき、深く追求してはいけないと、直感が告げていたからだ。それに__。

 

 「不味いわよ!!」と、えりなが二階堂に死刑宣告にも等しい、事実上の不合格判定(正式な合否は、後日、書面で通知が送られる手続きを取るからだ)が、ちょうど下ったところだったからだ。

 

「じゃあ、次はあたしの審査をお願いする番かな?」

 ガラスの器の中に、理莉香は盛り付けをすると、えりなの前に進み出た。

「そうね。で、あなたは、私の舌を満足させてくれるのかしら?」

(もと)よりそのつもりだよ。料理人は、目の前の人たちに美味いッて思わせるために、料理を作る。それ以外に何かある?」

 えりなの挑発にも似た発言に、理莉香もまた、これを煽るように言葉で応酬した。

 二条理莉香。自身の編入学を賭けて、薙切えりなの試練に挑まんとしていた。

 



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ブリング・ミー・トゥー・ライフ その3~マカロン・パリジャン~

 薙切えりなのスタンド、「フィフス・ハーモニー」。

 その能力の一つが、「その料理が美味かどうか?」を判定することだった。

 発動条件は、えりな自身が料理を口に入れること。舌で味わうこと。その料理に「至らない点」があれば、その「至らない点」の数の分、体感的な「重さ」となって、調理人へフィードバックされる。

 ただし、野菜や果物を無加工の状態で口にした場合、生産者にスタンドの効果が及ぶことはない。あくまでも、食材が加工、つまり、調理されている場合にスタンド能力が発言する。

 「重さ」が返ってきた料理人は、スタンドのことを知ることはなくとも、どこが欠点や瑕疵があるのかを明確に知覚することになる。

 えりな自身に超人的な味覚があって、この能力は初めて有効たるものであり、この能力を持って、料理店から味見役、指南役のオファーを未成年でありながら、請け負ってきたのである。

 えりなは、「第一の能力・リフレクション」と呼んでいた。

 

 

「これは、マカロン。マカロン・パリジャンね」

 透明なガラスの器の中のお菓子を見て、えりなは言い放った。マカロンはイタリアを発祥とされ、それがフランスに広まったと言われている。日本で主に食させるものは、「パリ風のマカロン(マカロン・パリジャン)」と呼ばれる種類だ。

柔らかいマカロン(マカロン・ムー)と言うのが、正しい名称だけどね」

 理莉香が説明を加えた。

 えりなは、細くて長い、白い指で、マカロンを一つ、摘まみあげる。表面はツルンと光沢があり、生地の下部が膨んでいる。

「へえ、(ピエ)が綺麗に出来ているのね」

 えりなは、賞賛の言葉を口にした。

「フィリングは、シンプルなバタークリームかしら?」

「卵が課題だからね。バリエーションは作らないで、プレーンだけで勝負しようと思ったんだ」

「では、いただこうかしら」

 えりなは、形のよく、白い前歯で、マカロンに歯を立てた。瞼を閉じて、咀嚼する。

 

「緋紗子」

「は、はい」

 突然、名前を呼ばれた。

「あなたもいただいたら、どうかしら?それから、そこのあなたも」

 えりながら指で指し示した方角には、失意に打ちひしがれている二階堂がいた。

「ぼ、僕ですかァ?」

 二階堂、緋紗子の準に器の中のマカロンを銘々に手にとって、口に運ぶ。

 

 カリッ__。

 生地の表面には歯ごたえがあるが、中はしっとりと柔らかく、口の中でホロホロと崩れていく。

 

 次に口の中に広がるのは、フィリング__バタークリームの濃厚な風味だ。

 

 アーモンドの香ばしさ、粉糖の甘さ、卵黄とバターの濃厚さ。一口で食べ切れてしまうほど小さなサイズだが、口に入れるとこれらが渾然一体になって、押し寄せてくる。

「う…も、もう、一つ…」

 口の中に先程まで広がっていた余韻が消えると、無性に、また、それが欲しくなってきた。だから、半ば無意識に手を伸ばす。

「お、美味しい…」

 これも無意識の発言だ。今度は一口目よりも、冷静にこのマカロンを味わうことができた。生地の固さと食感が絶妙だ。

 緋紗子自身、マカロンを食すのは初めてではないが、肯定的な感想を持ったことはない。まるで、砂糖の塊を()むような感触だったり、或いは、歯に引っ付くような感覚だったり、美味しいと感じられなかったからだ。

 しかし、理莉香の作った、その一品は緋紗子のそれまでの価値観を変えた。さらに、もう一個、手を伸ばして、食べたところで、自身の行動を「はしたない」と思って、赤面した。

「ンまぁ~い!!」

 いや__お坊っちゃんの外面もプライドもかなぐり捨てて、がっついている二階堂を見て、「これよりはマシだろう」と考えることにした。

 

 

「えりな様」

 緋紗子は自身が仕える主に意見を求めた。

「そうね。このマカロンには、特筆するほど目新しい工夫やアイディアが凝らされているわけではないわね」

 このとき、理莉香はカチンとして、表情筋を微かに強張らせた。

「けれども、その焼き方は非の打ち所がないわ。最上の仕上がり、いい仕事をしたと言えるわね」

 えりなの評価は上々のようだ。

「それに、挟んであるバタークリームだけど、アングレーズタイプにしたのね?」

「まあね。一番、口溶けがいい」

 バタークリームには、大別して三つの種類がある。

 一つは、イタリアンメレンゲタイプ。卵白でメレンゲを作り、そこに熱いシロップを加える、ふんわりとした軽い味わいが特徴だ。

 次に、パータポンプタイプ。卵白は使わず、泡立てた卵黄に熱したシロップを混ぜて作る。濃厚でバターの香りを最も感じられる。

 最後がアングレーズタイプ。卵黄のコクに牛乳が加わり、バターの風味が引き立てられる。理莉香が言及したように、三つの中で、最も口溶けがよい。

「鍋に牛乳とバニラビーンズを入れて火に掛けたら、卵黄とグラニュー糖を泡立てておく。そいつに温められた牛乳を加え、もう一度、鍋に入れて煮詰めるんだ。卵が固まるといけないから、絶えず混ぜ続ける。根気がいるんだよね」

「それに、バターも、その場で作ったわね?」

「ご明察。バーテンダーみたいに、シェイクするだけで、特別なことはしてないけどね」

 緋紗子はえりなと理莉香の会話を聞いて、軽い戦慄を覚えた。

 特別なことや工夫をしていないだって?

 否。調理の作業手順の一つ一つが、最高の一手で、プロの仕事だ。

「文句なしと言いたいところだけど、でも、()()()()()()()()()()

 えりなのスタンドから、パワーアンクルが射出され、理莉香の右の足首に嵌まった。

「お?」

 えりなによって、何らかのスタンド能力の影響を受けたと感じた。

「貴女も気づいているでしょう」

「まあね。焼いた後、冷蔵庫で休ませるべきだ。生地とクリームが馴染むからね。で、あたしは不合格になるわけ?」

 えりなは、首を横に振った。

「いいえ。時間の制約がある以上、致しかないことでしょう。いずれにせよ、貴女は、私の設けた基準点は超えていますから、合格と捉えて結構です」

「そりゃよかった。わざわざM県から出てきたんだ。新幹線の代金が無駄にならなくてよかった」

「早合点はしないで下さいね。筆記試験の結果も加味して、合否の判定が出ますので。正式な結果は、後日郵便で届く書面にて確認して下さい」

 えりなは、緋紗子を連れて、調理実習室を出て行った。聞くところによると、彼女には、これから予定が詰まっているということだった。

 

 

 西園和音から、試験が終了したことを告げられ、その場で解散する旨の指示が与えられた。だが、理莉香には、悶々とした思いが胸に(くすぶ)っていた。

「クソッ!あいつの舌を唸らせることができなかった…」

 理莉香は、それが今の自分の実力なのだと、受け入れることにした。

「まあ、いいじゃない?」

 横から聞こえる声は二階堂のものだ。

「僕なんか、『不味いわよ』って、罵倒されたんだよ」

 震える声で彼は語った。

「でも、君のマカロン、最高だよ。さっき味見したんだけどさ、そしたら、なんていうの、来年もここの編入学を受けてやろうって思ったんだ。僕は必ず、受かってみせる。そして、あの、神の舌で、もう一度、罵倒して貰うんだ!!」

 何、こいつ!? 理莉香は冷たい視線を送った。

「ところで、マカロン、残ってないかな?一度、食べたら、病み付きになってしまって」

「いや、ないよ。さっき、作ったもので全部」

「ええ?残年だなァ」

「余った時間で、作ったパウンドケーキがあるけど、食べる?マカロンが失敗したときの保険だけど」

「食べるよ、食べるさ。んんーーーッ?これは、餡子?晒し餡かな?抹茶も使ってある。和風のケーキか…」

 二階堂は、フォークで一口分を切り分けると、早速、口に運び、これを咀嚼する。

 すると__二階堂の目の前に、今まで見たことのない光景が広がってきた。

 

 

 えりなは緋紗子とともに車に乗って、移動をしていた。目的の場所は、都内にあるスペイン料理の店だった。新しいシェフが就任し、オーナーからシェフの新メニューを味見を依頼されたのだ。

 しかし、えりなは妙な違和感を感じていた。それは、隣の緋紗子からだった。どうも気分が上機嫌で、こころなしか、肌が潤い、ツヤツヤしている。

「なんだか、あの後、妙に充実した気力がみなぎっているんですよね」

 えりなの脳裏をある仮説がよぎる。スタンド能力の影響だろうか__と。そうすると、理莉香は、自分と同じスタンド能力の持ち主ということになる。

「上手くは言えないのですが、彼女のマカロンを食べた途端、体中が、こう、フワーーーッと、癒しと安らぎで、満たさせるような感覚になって、今は、頭の中がスッキリした感じです」

 えりなは、断定するには尚早だと考えた。緋紗子の話も、脳のエネルギーが不足したところを、糖分で補給したことを、やや過剰気味な脚色が付けられたと解釈ができる。

 それでも、えりなには、理莉香の存在が気になった。彼女には、才能がある。えりなの直感によれば、理莉香は製菓職人(パティシエール)だ。

 4月になれば、彼女は(April come she will)、きっと、この遠月学園へやって来るだろう。えりなには、確信にも似た思いがあった。

 

 

 その頃、理莉香は、泡を吹いて、その場に昏倒した二階堂を見て、「あー、やっちまったな」と、一言呟いた。苛立ち、憤怒、そんな負の感情に囚われて、集中力を欠いた状態で作ったお菓子は、とてつもなく不味い。

「ねえ。どんな風に不味いのか、薙切えりな風に解説してみてよ」

 理莉香の問いに対して、息も絶え絶えに二階堂は答えてくれた。

「綺麗なお姉さんだと思ってナンパしたら、オカマのお姉さん(お兄さん)で、無理やりに初めてのキスを奪われて、舌まで入れられた、そんな味がするのよォオオオオオ!!」

 律儀にえりなの口真似まで似せて、二階堂は意識を手放した。

「わかったよ、二階堂 圭明!!『言葉』でなく『心』で理解できた!」

 こうして、遠月学園中等部の三年次への編入学試験は、波乱のまま、幕を閉じた。

 

 後日、杜王町にある理莉香の自宅へ合格通知の入った一通の郵便が届いた。

 

二階堂(にかいどう) 圭明(よしあき)不合格(リタイア)

 

←To Be Continued




スタンド名:フィフス・ハーモニー
本体:薙切(なきり)えりな
【破壊力-E/スピード-D/ 射程距離-D/持続力-A/精密動作性-B/成長性-A】
 人型、近距離タイプのスタンド。本体であるえりなの味覚に反応して出現する。(口に何も含まない状態では、発動しない。)
◆第一の能力・リフレクション
 口にした料理の欠点や瑕疵があった場合、料理人に対して、体感的な「重さ」としてフィードバックする能力。「重さ」はパワーリストやパワーアンクルの形をとって、手足に装着される。非スタンド使いには、肉体疲労の一種に感じられる。このとき、自分の料理の欠点を明確に知覚することになり、えりなの味覚を部分的に共有することになる。
 能力の解除条件は、欠点を克服した料理を完成させることである。えりなが任意解除、または、期限を定めることも可能。
 元々は、えりな自身が自分の料理の出来を判断するために用いていたが、料理店から味見役、指南役のオファーを受けるときにもこの能力を使用している。


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