機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別 (グランクラン)
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別壱
ヒューマンデブリ


 ビスケットに生きていてほしいっと思い書いた小説です。まあ、見てもらえばわかるように一部の人間が死なずに物語に参加していきます。あくまでも主人公は三日月なので、そこは変わらないように、話を作っていきたいと思います。楽しんでいただけたらと思います。


 オルガ・イツカが目を覚ますと視線の先に自分を長い間支え続けてきてくれたビスケット・グリフォンの無残な姿が有った。

 ビスケットは下半身をモビルワーカーによってつぶされており生存は絶望的だった。

「ビスケット!返事をしろ!」

 オルガの叫びはビスケットの耳には届いていないのか、それとも届いているのか、オルガには判断できなかった。しかし、ビスケットは必死に手を伸ばし、生きようともがく。一生懸命に伸ばしたその手をオルガが握りしめる。

「オル…ガ……俺たちで………鉄華……団を———」

 そこでビスケットは力尽き、地面に伏してしまう。

「ビスケットォォ!!」

 オルガの叫びが空に響き、空からは雨が降っていた。

 

「ビスケット!!」

 オルガは勢いよく叫び、ベットから起き上がる。

「ゆ、夢か?」

(またあの夢か………)

 オルガは額を抑え、頭を左右に振る。ブルワーズとの闘いを前に一時的な睡眠をとるように言われた。オルガは、団長としての仕事をビスケットに任せ、久方ぶりの睡眠をとっていた。しかし、オルガはここ最近ビスケットの死ぬ夢に襲われており、夢を見れば見るほどそれは現実感が増してくる。

(そんなはずはねぇ……あれは夢だ)

 自分にそう言い聞かせるオルガはそれでも不安を隠しきれなかった。

 そんなことはない、これからも俺を支えてくれるはずだと。しかし、日に日に現実感を増していく夢の感覚は次第にオルガに嫌な予想をさせるには十分だった。

 コンコン!

「オルガ!そろそろ作戦時刻だよ」

 ビスケットのそんな声が聞こえてくる。

「ああ、今行く」

 オルガは嫌な汗をぬぐい、ジャケットを握りしめ、そのまま外に出ていく。

 ドアの外ではビスケットがいつもの表情でオルガを待っていた。

 ビスケットの顔を見ると、夢の姿が一瞬だけ浮かぶ。

「オルガ?」

「なんでもねぇよ」

 そういいながらオルガはブリッジに移動していく。

 

 百里とバルバトスがブルワーズのマン・ロディと交戦し始めてすでにかなりの時間が経過していた。両機は移動距離の長い機体で来たために、デブリ帯ではうまいこと戦えずにいた。

「ダーリンはまだなの!?」

 ラフタは悲鳴にも似た叫びをあげる。

「こうデブリが多いとやりづらい。この反応……」

 敵の攻撃をうまいこと回避しながら三日月・オーガスは鉄華団の仲間の昭弘・アルトランドの弟の昌弘の機体を捉えた。

 宇宙海賊ブルワーズの頭領ブルック・カバヤンはいまだに見つけられない敵の船に苛立ちを隠しきれなかった。

「まだ見つからないのか!?」

 しかし、その直後、予想もつかない方向から敵は姿を現した。

 デブリ帯の中を突っ切るという危険な行為をしながらもイサリビとハンマーヘッドはブルワーズの戦艦に奇襲を仕掛けることに成功した。

『こっちが奇襲を受けちゃったじゃない!どうすんのよ!?』

 通信をしてきたのはこれから出撃する組織のナンバー2のクダル・カデルだった。

「こっちは乗り込んできたやつをたたく、お前は外をたたけ!」

 クダルはガンダムフレームのグシオンで出撃する。

 そしてイサリビからは今から昭弘が出撃しようとしていた。

「待たせたな昭弘」

「すまない…ヒューマンデブリの俺らなんかの為に…」

 謝る昭弘にオルガはあきれたような表情をする。

「まだ言ってんのか?いい加減聞き飽きたぜ。今までがどうだったかは変えられねぇよ。俺らだって宇宙ネズミだ。ただ……」

 間を少しだけ開けると、はっきりと告げる。

「これから先は変えられるよ……俺らの手でいくらでも。いまここでお前がそれを証明して見せろ!!」

 そんなオルガの言葉に昭弘ははっきりとうなずく。少しだけ笑顔になると叫び出撃する。

「昭弘・アルトランド!グレイズ改出る!」

 昭弘はまっすぐに弟の乗るマン・ロディに近づこうとするが、それを別の機体が立ちはだかる。しかし、後ろから昭弘への援護攻撃が入ると、敵は二手に分かれる。

「昭弘の邪魔はさせない!」

「昭弘!急げ!」

 アジーとアミダは百錬で昭弘の道を作ってくれる。

「すまない!みんな」

 そういうと昭弘はまっすぐに昌弘のもとにたどり着く。

「なにをいまさら」

 昌弘はあくまでも昭弘に攻撃を仕掛けるが、昭弘はあえてそれをよけない。機体の距離は次第に短くなっていき、昭弘の機体は昌弘の機体にがっちりしがみつく。

「迎えに来たぞ!昌弘」

 しかし、昌弘の反応は予想以上に低い。

「俺ずっと待ってたよ。兄貴を……けど、分かったんだ……期待だけしても無駄だって、期待しただけ辛くなるって」

「だからこうして迎えに来た」

「それが無駄なんだよ!!」

 昌弘は大きな怒鳴り声をあげる。

「こうして兄貴が迎えに来てついて行って、それで何が変わるっていうんだ!?遅かれ早かれどうせ死ぬ、だってそうだろ!?俺たちはヒューマンデブリなんだ!地面でなんて死ねない……宇宙で……ゴミみたいに死んでいくんだ」

 昌弘のネガティブな反応に昭弘ははっきりと答える。

「そうだな……俺もそう思っていた」

 兄の言葉に昌弘は「え?」と少し驚く。

「俺はデブリだ、何をやったってどうしようもねぇ、このまま一生何も変わらねぇって、正直お前のこともあきらめちまってた……けどな、こんな俺を人間扱いしてくれる奴らが……いや、家族だって言ってくれる奴らができたんだ」

 昌弘は体を震わせ、「家族?」と問い直す。

「あぁ、みんながお前を待ってくれるだから……」

 次第に昌弘の様子がおかしくなっていく。表情が少しづつ裏切られたという顔に変わっていった。

「家族ってなんだよ。兄貴、アンタと父さんと母さんと……それだけだったよ、俺の家族は……」

 昭弘の言葉は逆に昌弘に裏切ったと思わせるのには十分だった。

「昌弘……」

「俺が……あんたの事を待っている間に……一人だけいい目にあってたのかよ!!やっぱりあんたは俺を捨てた!」

 にらみつけるような視線は次第に昭弘に焦らせた。必死で弁明しようとする昭弘。

「違う!昌弘俺は……」

 しかし、そんな言葉も昌弘には届かない。

「あんただってさ…今にわかるよ…アンタは勘違いしてるんだ……人間だなんて………笑うよ。どうせすぐにわかるんだ……ヒューマンデブリがどうやって死んでいくか。すぐにね!」

 どこか壊れたような表情をする昌弘。

 三日月の乗るバルバトスはグシオンとの交戦になっていた。しつこく追撃するバルバトスにクダルは苛立つ。

「どいつもこいつもつかえねぇ!」

 周囲にいるマン・ロディはほとんどが戦闘不能になっており、残りのマン・ロディもとてもではないが、加勢に入れる状況ではない。しかし、そんな中クダルは組み合う昌弘の姿を見つけた。

「あいつを使えば、白いやつを……」

 クダルはダッシュで昌弘のもとに向かう。

「昌弘そいつを抑えておけ!」

 昌弘ごと昭弘を殺そうとするクダルに対して、昭弘は「しまった!」と焦りを見せる。

 しかし、昌弘は昭弘を突き飛ばす。

「昌弘!!」

 グシオンのハンマーが昌弘を襲おうとするとき、周囲にいる機体に新たなエイハブウェーブの反応を示す。場所は……

「上か!?」

 クダルは攻撃を中止し、後ろに少し下がる。そして昌弘とクダルの間に黒い機体がレンチメイスを振り下ろす。

「し、死神?」

 黒い機体の右肩にはドクロと死神の鎌のマークが刻まれている。

「ガンダムフレーム……アガレス」

 アガレス……それはこの宇宙で死神と恐れられた機体だった。




 どうだったでしょうか?とりあえずは昌弘は生存は確定したと思っていただけたらと思います。黒い機体であるアガレスについてはこれからも出てくる重要な機体です。この機体とパイロットがこの先の死亡フラグを回避してくれます!パイロットは次回から参加です。
 では次回のタイトルは『死神』です。
 次回はバルバトスVSグシオンVSアガレスです!
 アガレスのパイロットに期待を!!


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死神

第二話目です。
とりあえずはこれでブルワーズ編はおしまいになります。
いよいよアガレスのパイロットも登場です!


 イサリビとハンマーヘッドでは新たに現れたエイハブウェーブの反応に驚きを隠せなかった。

「固有周波数を特定、機体名ガンダムフレームアガレスです」

 フミタン・アドモスがそう告げると、それを聞いていた名瀬・タービンが体を乗り出してその機体を確認する。

「アガレスだと!?なんで死神がこんなところに?」

「し、死神?」

 オルガ達鉄華団のメンバーは現れた機体の呼び名に軽く疑問を覚えつつ、問い直す。

「なんですか?死神って」

「この辺りでは有名な宇宙海賊のMSにつけられたあだ名だ。その姿を見たものは死ぬと噂されている凄腕のMSだ。しかし、死神がここに現れたということは………。この近くに母艦があるはずだ」

 そういうとイサリビとハンマーヘッドは周囲の索敵に入ると、その姿は予想外のところで確認された。

「戦艦クラスのエイハブウェーブを確認、場所はデブリ帯の奥です」

 映像に映る遠くのデブリ帯の中にそれはひっそりと隠れていた。

「あんなところに……」

 ビスケットは遠くに隠れるように停泊している船を見るとそうつぶやく。

「あの距離じゃ、うちでは手が出せないな」

 名瀬・タービンがどうするか考えていると新たな機影を確認した。

「新たな機影を確認、機体名はガンダムフレームパイモン」

「巨兵まで!?」

 映像には青い大きなMSが確認された。

 

 宇宙海賊フォートレスはデブリ帯の中をゆっくりと移動していた。しかし、その中多数のエイハブウェーブの反応を発見する。

「こんなデブリ帯のど真ん中で戦闘しているっていうのか?」

 副リーダーの男は少しだけ驚きながら画面に注目していた。

 後ろに控えていた首領のマーズと呼ばれている男は機体の中にグシオンが存在していることにいち早く気が付いた。

「うまく事が運べばグシオンを手に入れられるか……」

「まさか、ボス?」

「そのまさかだ、うまくいけばグシオンが手に入る。まあ、あくまでもうまくいけばだ、無理なら深追いをしない。サブレに出撃させろ!」

「待ってくれボス!それならあそこにいるバルバトスっていう白い奴でもいいでしょ?」

「いや、見たところバルバトスとサブレの実力は互角とみていいだろ。最悪の展開を考えておいたほうがいい。それにグシオンのパイロットの事だ、自分が狙われていないとみると、サブレのほうを攻撃してきかねん」

「だったらあなたが行けばいいでしょ」

「俺とあいつらでは実力が違いすぎる。ああも実力が違うと手加減が難しい。それならサブレにやらせたほうがいい」

 副リーダーは反論するのをやめて艦長席に背を任せる。

「俺も出る」

 そういいながらマーズもブリッジを後にした。

 

 戦場に割り込んできた機体に三日月は少しだけ驚いたのち、すぐに行動に移す。三日月はグシオンめがけて太刀を振り下ろす。グシオンはその攻撃をかろうじてよけると再びデブリの陰に隠れる。

「昭弘は弟を連れて離脱して」

「すまない、三日月」

 そういうと昭弘は昌弘を連れて戦場を後にした。

 アガレスのパイロットであるサブレ・グリフォンは舌打ちをしながらバルバトスを蹴り飛ばし、その反動で一気にグシオンに近づいた。

「邪魔をするな」

 三日月は少しだけイラつくと回り込んでグシオンのもとに急ぐが、アガレスはそのままグシオンにレンチメイスを振り落とし、グシオンはそれをハンマーで受け止める。後ろからバルバトスの太刀攻撃をグシオンはアガレスをぶつける形で回避する。

「邪魔するなよ」

「こっちのセリフだよ」

 三日月のセリフにサブレが応じるが、その声に三日月は……

(ビスケットの声に似てる?)

「もらったわよ!」

 グシオンは両機共々同時に攻撃を仕掛け、バルバトスとアガレスはそれを何とか受け止めようとするが、両機はイサリビとハンマーヘッドにぶつかってしまう。

 時を同じくして、巨兵のパイモンがタービンズのMSに攻撃を仕掛けていた。

「少しの間俺と遊んでもらうぞ」

「私たちをなめないほうがいいよ」

「ほう、女か……」

 パイモンは小型のハンマーを二つ取り出すと、そのまま戦闘に入った。

 アガレスはイサリビに激突し、小さく舌打ちをする。

「ほんとに邪魔だな」

 その声は接触していたイサリビにも聞こえており、その声にほとんど全員が反応した。

「この声……」

 オルガがそっとビスケットのほうを見ると、ビスケットは小さな声で「そんな…」とつぶやいたのちに必死になってさけぶ。

「サブレ!!」

「兄貴?」

 イサリビの正面に現れた画面にはビスケットに瓜二つの少年が現れた。

「どうしてサブレが!?」

 しかし、サブレはその問いに答えることはなく、小さな舌打ちをしたのち、再びグシオンを追う。

 それを見ていたバルバトスも同じように追撃した。

「サブレ!サブレ!」

 ビスケットの声はサブレには届かなかった。

 グシオンに対してレンチメイスを振り下ろそうとするが、それをバルバトスが妨害する。

「おまえら楽しんでるだろ!人殺しをよ!」

「はぁ?」

「なわけないだろ」

 バルバトスが離れていくグシオンに追撃すると、アガレスも同じように追いかけようとするが、それを戻ってきたグレイズ改が妨害する。

「三日月!こいつは俺が引き受ける!先に行け!」

「ごめん」

 そういうとそのままグシオンを追撃する。

(俺が楽しんでる?まぁいっか)

 三日月はグシオンの上をとると、そのまま太刀を突き刺す。

「こいつは死んでいい奴だから」

 サブレはそれを確認すると、青い信号弾をあげた。

「失敗か」

 サブレからの合図を確認すると、閃光弾をはなち、MSを足止めする。

 そのままイサリビとハンマーヘッドにワイヤーで通信をしてきた。

「そちらの組織名と代表の名を聞いておこうか」

「タービンズの名瀬・タービン」

「鉄華団のオルガ・イツカだ」

「覚えておこう。サブレ!引くぞ!」

 アガレスとパイモンはそのまま前線から引いて行った。

 

 タービンズの舟に乗り込むと今回の戦闘から得た戦利品のチェックが始まっていた。

「じゃあ、とりあえずは全部売却でいいのか?」

「はい、あとヒューマンデブリたちはこっちで引き取らせてください」

 話をしていると部屋のドアが突然開き昭弘が部屋に入ってきた。

「団長話があるんだ。俺にグシオンをくれねぇか?ビスケットの弟を助けるんだろ?直接戦ったからわかるんだ。正直に言うとあいつは強い、まるで俺の事なんか興味もないって顔をしていやがった。だから俺を殺さなかったんだろ。でもよ、俺はあいつを仲間に引き入れてやりたいんだ。あいつは昌弘を助けてくれた。だから……」

「わかった」

 オルガは昭弘の話を聞くと、名瀬に話を通す。

「すいません兄貴。コロコロと話を変えちまって」

「別いいさ。それより本気なんだな?フォートレスと戦うっていうのは」

「はい。もちろん会う機会があればの話ですが……」

「しかし、本当なのかい?死神がビスケット君の弟というのは」

 アミダが改めて問い直すとオルガは黙ってうなずく。

「ビスケットの話を聞く限りだと、双子の弟だと……」

「そのビスケット君は?」

「部屋にこもっています。相当ショックだったみたいで……」

 ビスケットは本来こういう会合には必ず出席していたが、弟との再会が予想以上にショックだったらしく、熱を出してしまった。

「しかし、フォートレスの行き先がわからない以上こちらも手が出せない」

「はい、だからあくまでこちらの仕事を優先します」

「なら本来の仕事通りドルトに直行でいいな」

 話がまとまりだしたころ、メリビット・ステープルトンと呼ばれている女性が唐突に話を切り出した。

「そうだ、葬式をしてみませんか?私が生まれたコロニーでは死者はお葬式で送り出すの。魂がきちんとあるべき場所へ戻れるように。そして無事に生まれ変われるように」

 と説明していると一人納得できていないオルガが反抗する。

「なんすかそれ。うさんくさっ」

「いいじゃねぇか。葬式ってのは昔は割と重要なもんだったらしいぜ。葬式をあげることで死者の魂が生きていたころの苦痛を忘れる……なんて話もある」

 しかし、どこか納得のいかないオルガに対し、ノルバ・シノはやりたいと同意した。

「俺……だったらやりてぇ。少しでもあいつらが痛みを忘れられんなら」

 そうして葬式の話は正式に決まるが、どこか気に入らないオルガは一人船の中を歩いていた。するとメリビットがそこですれ違う。

「気に入らないみたいですね」

「正直ピンときませんね。魂が生まれ変わるって云々とか。先に逝った仲間にゃどうせ死んだら会えるんだ。葬式なんてする暇があったらこれからどう生きるかを考えるために時間を使ったほうがいい」

 そんなオルガのセリフにメリビットははっきりと反論する。

「それはあなたがそう思っているだけよね?ここにいる誰もが仲間の死に納得できているわけじゃない。葬式ってね生きている人の為にもあるの。大切な人の死ほどちゃんと受け入れるためにもね」

 そういいその場を後にするメリビットに対しオルガは小さな声で文句を言う。

「ほんと上から目線だよな……おばさん」

「聞こえてますよ。ガ・キ」

 互いにすれ違いその場を後にする。

 

 自分の部屋のベットに一人眠っていたビスケットはいまだに弟サブレの事を割り切れずにいた。

「どうして……なんで…」

 そんなことをずっと考えていると部屋のドアを唐突に開き、そとから炊事係のアトラと護衛対象のクーデリア・藍那・バーンスタインが入ってきた。

「ビスケット、大丈夫?ごはん食べれそう?」

「うん。ありがと。そうだ、これからのことはどうなったの?」

「それが、これから葬式をするそうです」

「オルガが言い出したの?」

「いいえ言い出したのはメリビットさんだそうです」

「そっか。なんかオルガらしくないなって思って」

 ビスケットの食事の手はあまり進まなかった。

 

 イサリビの甲板で葬式の準備に入ろうとしていた。

「よし。みんな祈ってくれ、死んだ仲間の魂があるべき場所へ行ってそんでもってきっちり生まれ変われるようにな」

 メリビットの言葉を受けオルガなりの答えを放つ。すると、後ろからビスケットがブリッジに入ってくる。

「大丈夫なのか?ビスケット」

「うん。今はここにいさせて」

 全員が黙とうしているとオルガはビスケットにアイコンタクトを飛ばす。

「弔砲用意。撃て!」

 そういうと周囲に見えたのは氷の華だった。甲板にいた子供たちが無邪気にはしゃぎ、今回の案を提案したヤマギは少しだけ照れる。花火が消えると、どこか寂しさが周囲にさまよう。

「泣けよ。葬式ってのはな、生きている奴らに思いっきり泣くことを許してくれる場でもあるんだ。だからよ今日ぐらいは……」

「嫌です。かっこよかった仲間を見送るって時に自分らがだせぇのは嫌です」

「馬鹿な子たちだよ」

 それでも昭弘の隣に昌弘はいた。

 

 食堂でアトラとクーデリアとフミタンが片付けの作業をしているとライドが一人の子供を連れてやってきた。

「こいつ泣き止まなくて。他の奴らが寝れねぇからさぁ」

「母ちゃん……ううっ…ううっ…」

 そんな姿を見ていたアトラは両手を広げる。

「……おいで。抱っこしてあげる」

「いい。アトラおっぱいないし」

「なっ!」

「どうせならフミタンがいい!」

 そういうとフミタンの胸に飛び込んでいく。

「こっ、こら!」

「お気になさらず」

 フミタンは優しく抱きしめた。

 

 オルガたちは先ほどの戦闘で得た鹵獲品の売却の手続きが済んだと最後の確認をしていた。

「じゃあ、アミダ」

 そういうと名瀬は突然オルガたちの目の前でキスをし始める。

「ちょっ……何いきなりイチャついてんすか!」

 ユージンは顔をそらし、ビスケットは少しだけ顔を赤らめ、三日月は興味があるのかないのかわからないような顔をしていた。

「ん?知ってるか?人死にが多い年には出産率も上がるんだぜ。子孫を残そうって判断するんだろ。そうすっと隣にいる女がめちゃくちゃかわいく見えてくる」

 そういうと再びキスをしていた。

 

『お前ら楽しんでるだろ!人殺しをよ!』

 三日月はクダルの言葉が忘れられずにいた。

 クーデリアとフミタンは廊下の片隅で話あっていた。

「不思議ね、いつもあんなに明るくてお葬式の時も氷の花にあんなにはしゃいでいたのに……」

「無理もありません。彼らはまだ子供……、無意識のうちに多くの葛藤を胸に押し込めている。そのひずみが時に現れるのでしょう」

 クーデリアはすこしだけ顔を沈ませ考え込む。

「お嬢様そろそろお休みにならないと」

「私は……もう少しだけ」

 フミタンは頭を下げると奥の部屋に消えていった。

 一人考え事をしていると三日月がやってきた。

「いる?」

 そう言いながら火星ヤシをクーデリアに差し出す。

「えっ?ああ…では……」

 それを受取ろうとするとクーデリアは三日月の手が震えていることに気が付いた。

「三日月……震えているのですか?」

「えっ?ほんとだ。なんでだろう……今日はちょっと変だな」

(三日月にも有るのかもしれない。無意識のうちに押し込めている強い気持ちが)

 そう考えているとクーデリアはそっと三日月を抱いた。

「はっ?」

 三日月がそういうとクーデリアはようやく自分がしていることに気が付いた。

「あっあの……先ほどフミタンが小さな子たちをこうしていて……それでちょっと落ち着いたので……」

 クーデリアは少し離れると三日月は突然……

「その……ごめんなさい」

 キスをした。

 クーデリアは少しの間自分に何が起きたのかわからないという顔をしたが、そののち、自分がキスされていることに気が付き、大きく飛びのいた。

「なっ………何!?何!?何!?」

「かわいいと思ったから。ごめん嫌だったか?」

「い…嫌とか、そういう問題ではなくそれ以前にこういうことは……」

 顔を赤らめ、どこか顔をそらす。

 

「ギャラルホルンに虐げられている民衆たちは美しき革命家の登場を待ち焦がれている。うむ……決めた。クーデリア・藍那・バーンスタインの死を飾る場所はコロニーだ」

 ノブリス・ゴルドンは静かにそう決めた。

 鉄華団はドルトコロニーへ向かい、そしてフォートレスもまたドルトに向かっていた。




 どうだったでしょうか。今回は少し長くなってしまいましたが、どうにか投稿することができました。
 次回からドルト編です。
 次回のタイトルは『希望を運ぶ船』になります!
 お楽しみに!!


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希望を運ぶ船

第三話です!ここら辺から大分オリジナル要素が増えていきます。フォートレスの動きに注目してください!


 フミタンは目の前の端末に目を通すとフミタンへの指示が書かれていた。

『手筈は予定通り、クーデリアを伴いドルト2へ入港せよ』

 そう書かれた端末をから視線を移し、どこか遠くを見るような目になる。

 まだクーデリアが小さいころ彼女はフミタンになんでも聞いていた。

『知りたいの。火星の人々の事をもっともっと。フミタン、あなたの知っていることを全部教えてほしいの』

 そういう幼いころのクーデリアの目は今以上に純粋だった。

 すると、ドアの外からクーデリアの声が聞こえてき、彼女は端末を切るとそのままドアを開ける。

 外には顔をそらし、どこか顔を赤らめているクーデリアが立ち尽くしており、フミタンは「どうしたのですか?」と問う。

「フミタン!フミタンはお……男の人と交際したことはありますか?」

 彼女のあまりにも唐突な質問に「はぁ?」と返してしまう。

「例えばき…キス…された時などは本気だと考えて差し支えないのかしら?」

「誰かにキスされたのですか?」

「いっいいえ!例え話よ!例え話だけど……。そういう場合やはり真剣に結婚を考えるべきなのかしら……」

 そんな彼女の真剣な顔にフミタンが唖然としてしまう。しかし、そんな真剣な彼女の前でフミタンは少しだが笑ってしまう。

「どうして笑うの?私何かおかしなことを言った?」

「申し訳ありません。そうですね。気になるなら素直に相手の男性に尋ねてみてはどうでしょう」

 そんな彼女のアドバイスにどこか気が楽になったクーデリアは安心したような表情になる。

「そう………そうよね。ごめんなさい、急にこんなこと。フミタンにはどんなことでも相談してきたから」

 二人の間に少しだけ間があると、ドアの外からアトラが声をかけてきた。

「あっすいません。クーデリアさんどこかなぁっと思って」

「アトラさん?」

「あっ、クーデリアさん。ブリッジに一緒に行きませんか?コロニーが見えてきたんですって」

 

 ブリッジでは複数の人間が集まっており、目の前に近づいてきたコロニーに全員が注目していた。

「ドルト2ってのは正面のあれか?同じようなのがいくつもあるじゃねぇか」

 そんなシノの疑問にオルガが答えた。

「ドルトってのはアフリカユニオンの公営企業だ。あれ全部がドルトって会社の持ち物なんだと」

「んじゃああっちのは?」

 今度はビスケットがその疑問にどこか懐かしそうに答える。

「ドルト3、地球から来た工場経営者たちが住む高級住宅街とその人たち向けの商業施設があるんだ」

「やけに詳しいなビスケット」

「うん、僕はこのコロニー出身なんだ。育ったのはドルト2のスラム街だけどね。正直貧しかったよ」

 彼の中で直前の弟との再会がビスケットの口を少しだけ軽くさせた。

 周囲が微妙な空気になるが、それをオルガが話を少しだけ変えた。

「あと少しってとこで寄り道して悪いな。テイワズに依頼された荷物を届けたらすぐに向かうからよ」

「いいえ。それも大事なお仕事ですから。それよりお願いがあるのですが……。皆さんがドルト2でお仕事をしている間、フミタンと二人でドルト3へ行ってきてもよろしいでしょうか?」

「お、お嬢様それは……」

「いいでしょ?フミタン」

 その言葉にフミタンは押し切られてしまう。

 握りこむ拳とは裏腹にフミタンはあきらめる。

「わかりました。ではご一緒に」

「買い物……いいな~」

「ならアトラさんもご一緒に」

 次々と買い物勢が決まっていく中、オルガはさすがに女性だけではと考えてしまう。

「さすがに女だけってわけにはいかねぇな……。ミカついて行ってくれるか?」

 その言葉に三日月は簡単に引き受ける。

「み……三日月が?でも……」

「何があるかわかんねぇし、あんたは大事なお客だ。まっあんたがついてりゃめったなことはねぇと思うがな」

 そしてオルガはビスケットのほうを一瞬だけ見ると、考える。

「ビスケット……お前もそっちについて行けよ。こっちは大丈夫だ」

「え……じゃあ、俺も……。ありがとう」

 こうして買い物勢の人数が決まった。

 

 昭弘たちがハンマーヘッドで調整をしている中でオルガたちは名瀬たちと話をしていた。

「初仕事だし、本当なら同行してやりてぇところだがブルワーズの後始末があるから俺らはテイワズの支部のあるドルト6へ直行する。うまくやるんだぜ?くれぐれもギャラルホルンとだけはもめるなよ。ここいらの支部の連中は火星や木星の圏外圏で怠けている奴らとは士気や練度が違うんだ」

「けど、んなもんやってみなきゃ分からねぇんじゃ……」

 そんなシノの言葉をアミダが真っ先に否定する。

「ここには秩序と法ってもんがある。人を殺せば普通に罪に問われるんだ」

「圏外圏で泣く子も黙るテイワズも地球まで来りぁ単なる一企業の力しかねぇ、ひねり潰されたくなかったらお行儀よくするんだ。いいな、絶対に騒ぎは起こすなよな」

 

 

 ビスケットたちがドルト3へ入っていく中、フォートレスの旗艦もドルト3に入港していた。

 ブリッジでマーズと副リーダーの男が話しているところにサブレが入ってくる。

「サブレ・グリフォン。入りました」

 ビスケットとよく似た顔だちながら、しかしビスケットとは違いやせており、体格もいい。

「新しい仕事だ、おまえなら簡単な仕事のはずだ」

「俺MS戦以外にまともな仕事をしたことがないんだけど。たしか次の仕事って暗殺じゃなかったっけ?」

「よく覚えていたな」

 マーズはどこか感心したように笑う。しかし、それが止まると途端に真剣な顔つきに変わる。

「お前を選んだ理由としてはお前が簡単に仕事をできるはずだからだ」

 いまいち理由がわからないサブレだったが、暗殺対象の名前を聞いたとき、すべてを理解する。

「暗殺対象はお前の兄のサヴァラン・ナヌーレだ。簡単だろ?」

 その顔はどす黒く悪人の顔をしていた。

 

「あんたらが鉄華団かぁ、驚いた。本当に若いんだな」

 鉄華団はドルト2へ入港するといきなりの歓迎モードに少し面食らってしまう。

「なんだ?ガキだからってなめてんのか?」

「いや誤解しないでくれ、俺たちはみんなあんた達が来るのを楽しみに待ってたんだよ」

 組員の男性の一人がメリビットに向かって質問する。

「あんたがクーデリア・藍那・バーンスタインさんか?」

「クーデリアは用事で別のコロニーに行っている。ここにはこない」

「そうなのか」

「10代にしては老けていると思った」

 そんな失礼な言葉をかけられたメリビットは「老け……」と軽くショックを受けていた。

「お嬢さんのことまで知ってんのかよ」

「俺たち労働者の希望の星だからな。それとクーデリアさんを守って地球へ旅する若き騎士団」

「『きしだん』ってなんだ?」

「知らねぇ」

 オルガは疑問を持ちながらも仕事にかかろうとしていた。

「テイワズの一員としての記念すべき初仕事だ。気合い入れていくぞ!」

 

「伺いますが、二人とも最後に体を洗ったのはいつですか?」

 そんなクーデリアの疑問にビスケットが答えた。

「たしか4日……あっいや5日前?」

「え~!?」

 アトラは信じられないものを見るような目で驚き、クーデリアはやはりと顔をしかめる。

「以前から気になっていたんです。艦内に漂っているその……臭いが」

「そういえば確かに臭いかも、みんなが集まっていると「うっ!」ってなるときあるもん」

「臭いかな?」

 ビスケットと三日月は互いに体臭を確認しあう。

「雪之丞さんなんて近くに行くと目がツ~ンって痛くなるし」

「衛生環境は大切です。皆さんの着替えと洗剤や掃除用具も買ってこの機会に艦内をきれいにしてはどうかと!」

「うん賛成!私も手伝います!」

 アトラとクーデリアは店内で買い物をはじめ、それが終わって会計をしていると辺りを見回しているビスケットに三日月が問う。

「なに見てんの?」

「ああ……憧れだったんだ小さいころここへ来るのが……。地球圏なんて言っても仕事環境は火星と変わらない、俺の父さんと母さんは夜遅くまで働いていたよ。だから俺たち兄弟にとってドルト3は憧れなんだ。小さいころサブレと一緒に行きたいねってよく話していたよ。兄さんをよくそれで困らせてたっけ」

「ビスケットに兄さんが?」

「うん。随分長いこと会ってないんだけどね。学校に行っていた兄さんは勉強ができて、会社の偉い人の家に引き取ってもらえたんだ。あれから連絡も取ってないけど、まだドルト3に住んでるのかな?」

「連絡とってみたら?」

 そんな三日月の返しに申し訳なさそうな顔をするビスケット。

「あっいや……でも急に連絡なんかしたら困るかもしれないし……」

「困るわけないじゃない!」

 そんなアトラの強い言葉にビスケットは考えてしまう。

「兄弟なんだからお兄さんだって会いたいに決まってるよ」

「私もそう思います。このまま会わずにここを去ってしまったら後悔が残るのでは?」

「それにもしかしたら弟さんの事だって何か知っているかもしれないし……。連絡してあげて、ねっ?」

 ビスケットは覚悟を決め店を出る。

 

 仕事をしていたサヴァランはかかってきた電話に手をかけ出る。

「弟と名乗る方から外線が来ているのですが」

「弟?つないでくれ」

 電話先の声が変わる。

「あの……サヴァラン兄さん?俺ビスケットだけど……」

「ビスケット‼本当にお前なのか!?」

「う……うん。俺…あっ僕今鉄華団っていうところで働いていて」

 そんなサヴァランの前にある端末にはイサリビが映し出されていた。

 

「会ってくれるって」

「よかった!」

 喜ぶアトラに変わり表情の変化にいち早く気が付いた三日月。

「あんまりうれしそうじゃないね」

「あっいやうれしいけど……ただあまりにも住んでいる世界が違いすぎてどんな顔をして会えばいいのか……」

「私…余計な事した?だったら一緒に行こうか?二人きりよりその方が話しやすいんじゃない?」

 ビスケットはアトラの提案に面食らってしまう。

「うん!そうしようよ!それで気持ちがほぐれるんだったら……。あ……ごめんなさいクーデリアさん、あとの買い物任せちゃっていいですか?」

「ええ…もちろん」

 あたふたするビスケットをよそに話はまとまっていく。

 

「いよいよ始まるんだな」

「ああ、長い間の我慢もこれでおしまいだ!」

 鉄華団が運んできたコンテナの中身はモビルワーカーなどの武器だった。

 さすがにコンテナの中身が武器だとは聞かされていなかったオルガたちは面食らってしまう。

「リストには『工業用の物資』としか……。依頼表を確認してきます」

 そういうとメリビットはそのままその場を後にした。

「あんたたちは何をやろうとしてるんだ?」

「聞いてないのか?あんたら俺たちの支援者に頼まれてこいつを届けてくれたんだろ?」

 既に話がおかしな方向に向かっていることにここでようやく気が付いたオルガは彼らに質問した。

「あんた達の支援者ってのは一体誰なんだ?」

「名前は知らない。クーデリアさんの代理を名乗っていたが、火星に続いて他の場所でも地球への反抗の狼煙をあげようとクーデリアさんが呼びかけてるってな。そのために必要な武器弾薬を鉄華団の手を通してクーデリアさんが俺たちに提供してくれるって」

 自分たちが騙されていたとようやく気が付いた時にはすでに遅く、ギャラルホルンが素早く駆け付けた。

「ギャラルホルン!?」

「全員動くな!武器を捨て両手が見えるように高く上げろ!戦闘用のモビルワーカーに武器弾薬か。通報は本当だったようだな。ここで違法な取引があるってな!」

 オルガを含め、全員が手をあげたように見えたが組員の一人が銃を取り撃ってしまう。

 現場は一気に戦場に変わり、辺りで銃を手に撃ち合い始める。

 オルガ達鉄華団は物陰に隠れる。

「撃つな!兄貴に言われただろうが!」

 そんなオルガの指示に鉄華団が従うと、メリビットから連絡が来た。

「団長さん?そっちは一体何が……」

「今すぐ船を出せ!ギャラルホルンとの小競り合いに巻き込まれた!この場に鉄華団の船があるのはまずい!」

「一つだけ報告が、荷物の依頼主ですがGNトレーディングという会社のようです」

 

「『クーデリアはコロニー内の暴動の中心となりギャラルホルンの凶弾によって死すべし。火種はこちらで用意する』というのがノブリス・ゴルドンのシナリオらしい、俺たちはその邪魔になる男の始末だ。まぁ、念には念をというやつだな、お前の兄一人で展開が変わるとは思えんが、邪魔になる奴は一人でも多く消しておきたいそうだ。だが、それを自分たちでするのは展開上よくない、ゆえに俺達のような裏方の人間が必要なんだ」

「俺たちが始末しているころには終わっているんじゃない?」

「かもしれないな」

「だったら……」

「それでもだ」

 そういうとマーズは電話を切ってしまう。

 サブレはめんどくさそうに町中を歩いていると、ここがかつて自分が来たかった場所なのだと一瞬考えてしまう。

(これも兄貴と再会したせいかな?)

 歩き出す足の先に兄がいると信じて……そして、ビスケットがいないことを信じて……。




どうだったでしょうか?フォートレスの動きが前半の展開に大きくかかわっていきます。次回は「三人で……」です!よろしくお願いします!


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三人で……

第四話を投稿です!ビスケットとサヴァランとサブレがどんな結論を出すのか見ていってください。


『大人にはなりきれないものだな。これほどまでに胸が躍るとは」

 仮面をつけた男が一人コロニーを歩いていた。

 

「失礼いたします。積み荷は無事組員全員の手に渡ったそうです。ただ調査に来たギャラルホルンとはさほど大きな争いにはならなかったようです」

 ノブリス・ゴルドンのもとに連絡が入る。

「地球圏のギャラルホルンも存外大したことがないな」

「それとクーデリア・藍那・バーンスタインの姿がドルト3で確認されたと報告が。監視役の女も一緒です」

「奴め、一体何を考えている」

 

「何があったの?」

 三日月はフミタンにそう聞く。

「いつもは何考えてんのかわかんないけど、今は何か考えてんのがわかるから」

「いえ別に、ただ責任というものについて少し考えていただけです。どんな行為にも必ずつきまとってくるものですから」

 彼女は自分がどうしてここにいるのかがわからなくなっていた。

 しかしそんな彼女にはっきりと告げる。

「自分のしたことなら当然なんじゃないの?それがオルガの言う『筋』を通すってことでしょ?」

「そうですね。責任は自ら取るしかない。私もあなたも」

 二人が話していると、店の中からクーデリアが出てくる。

「ごめんなさいお待たせしました。どうかしましたか?」

「責任について話をしていただけです」

 責任という言葉にクーデリアは反応してしまう。

「えっ?責任………」

 顔を赤らめながらなんとか話題を変える。

「そっ……それはそうとビスケットさんはお兄さんに会えたんでしょうか?」

「わかんないけど会えてたらいいね」

「そういえば三日月と団長さんも時々本当の兄弟のように見えますよね」

「そう?オルガはもっと………。なんて言えばいいのかよくわからないや」

 三日月はうまく表現できなかった。

 

「まさか運んできた積み荷があんな物騒なもんだったとはな」

 オルガたちはドルト2で騒動に巻き込まれたままだった。

「これ以上面倒に巻き込まれる前にイサリビに戻ろうぜ」

「その前に三日月たちに連絡しねぇと」

「でも定時連絡の時間はまだだよ、それまで連絡の取りようがないし……」

 オルガが組員のもとに近づくと、一人の男性が話しかけてくる。

「あなた方が鉄華団ですね?ナボナ・ミンゴといいます。組合のリーダーをしているものです。事情は伺いました。よろしければそちらの迎えが来るまで身を隠せる場所に案内したいのですが……」

 オルガは少し悩んだが、他に当てがあるわけでもなく彼らの提案に乗ることにした。

「今は当てがなくてな。あんたの話に乗るしかなさそうだ」

 

「やっぱりお兄さんに会うのうれしくない?なんかそんな顔」

「あっ違うんだ、兄さんがっかりしないかなって……今の俺を見て」

「なんで?」

「兄さん俺ぐらいの年にはもう一人で立派に働いていたからさ、俺はいつもそんな兄さんの大きな背中を見上げてた。サブレはそれが気に入らなかったみたいだけど………。それに俺はまだこんなだし………」

 アトラはそんなビスケットの言葉に対して強く背中を叩く。

「ビスケットも立派に働いているから大丈夫だよ!自信もって!」

 そんなアトラの言葉に勇気づけられる。

「兄さんにはお礼を言いたいんだ。一番大変な時に一人で頑張ってくれてたから。それにサブレのことも何かわかるかもだし……」

 二人がそうやって話していると、目の前に兄が姿を現す。

 ビスケットはとっさに立ち上がる。

「お前……ビスケットか?」

「そ……そう…です」

「そうか……、大きくなってて一瞬わからなかったよ」

 帽子を強く握りしめる。

「もう16ですから……」

「初めまして」

 アトラが少し前に出てくる。

「あっ、ああ彼女は……。兄さん?」

「ああ……何でもない。少し待っていてくれ、お嬢さんもいるならゆっくり話ができる場所を用意しよう」

 そういいながら電話ボックスに入ると、どこかへと連絡を入れる。

「4~5人よこしてくれ。車もだ、ああ手間が省けそうだ」

 不穏な空気が流れていた。

 

「放して!」

 騒ぐアトラはそのまま車の中に入れられてしまう。

「兄さん!これは何ですか!」

 ビスケットも同じように入れられてしまい、そのまま車はその場を後にしてしまう。

 誘拐の一部始終を見ていたのはほかの誰でもないサブレだった。

 大きなため息をつき物陰から出てくる。

「まったく何をしてるんだか……」

 手元の端末を動かす。

「とりあえず鉄華団にどうにか連絡を入れるか……。うまくいけば………」

 サブレは端末から誘拐までの内容をそのままある場所に匿名で送り付ける。

 

「恥ずかしながら我が家です。狭い所ですが我慢してください」

「コロニーってもっときれいな所だと思ってたけど」

「クリュセの景色と変わらねぇ」

「空がある分クリュセのほうがましに思えるぜ」

「お前たちな………」

 オルガはユージン達の勝手な文句に大きなため息すらつきそうになる。

「この辺は我々労働者が暮らすエリアですからね。ドルト3の商業エリアは華やかですよ。まあスラムの住人が足を踏み入れられる場所ではないんですが……」

「あっちに移り住んだのはこの何年かじゃサヴァランくらいか」

「奴は優秀だったからな。いいとこの養子にもらわれて運が良かった」

「あんたらの知り合いですか?」

「スラム出身の青年です。今は会社の役員になって我々の交渉の仲介役をやってもらっています」

「いい返事は一向にないがな」

「偉くなって変わっちまったんだよ。あいつはもうあっち側の人間だ」

「彼にも事情があるのでしょう」

 

「嫌!放して!放してください!」

 なんとかしてビスケットの元に駆け寄っていくアトラ。

「なんでこんな真似を!」

 アトラはビスケットの後ろに隠れる。

「お前こそスラムの連中に武器を渡してどういうつもりなんだ!?」

「武器って何のことです?」

「お前の仲間がドルト2に運び入れた荷物だ!」

「あれはテイワズから依頼されたもので……ってあの荷物が!?」

 アトラと共に驚きの声をあげる。

「なるほど、お前たちも利用されただけ……というわけか。そのクーデリア・藍那・バーンスタインに!」

 そういって指をさしたほうにはアトラがいた。

「彼女は……ってギャラルホルン!?」

 部屋の中にギャラルホルンが入ってくると、アトラは覚悟を決める。

 ビスケットが何とか誤解を解こうとするが。

「おっしゃるとおり私がクーデリア・藍那・バーンスタインですわ!」

 その言葉にビスケットは驚きの声をあげる。

「ええっ!?」

 

 組員はドルト3に出発する準備を進めていた。

「こちらはあと一時間ほどでドルト3へ向かいます。皆さんにはランチを一台用意したので使ってください」

 オルガが話している間に着実に準備が進んでいく。

 シノたちはそれぞれの場所で時間をつぶしている。

「俺に言えた義理じゃねぇが武器をとる以外に手はないのか?」

「我々はどんな手段を使ってでも会社を交渉の場に引きずりださなければならないんです……。もし可能であれば君たちの力を貸してくれませんか?」

「悪いな。それをすると世話になってる人に迷惑をかけちまう」

 そんな話をしていると部屋の外から人が入ってくる。

「ナボナさんこれ!匿名で先ほどこんな画像が!これって鉄華団の方ですよね?一緒にいるのはクーデリアさんじゃないかって………」

「いやこれはうちの炊事係だ。ドルト3で何があったんだ?」

 すると定時連絡を待っていたオルガのもとに連絡が入った。

「あっオルガ?」

「ミカか?お前無事なのか!?」

「定時連絡をしただけなんだけど………」

「クーデリアは一緒か?」

「うん。何かあったの?」

「ビスケットとアトラが捕まった」

 

「オルガが迎えに来るまで二人はどっかに隠れてて。クーデリアの事頼んでもいい?」

「分かりました。お嬢様をお守りするのも私の責任ですので」

 そんなフミタンの言葉を受け三日月はホテルから走り出す。

 

 アトラとビスケットが誘拐された場所にたどり着き、その場に捨てられていた靴を拾い臭いをかぐと、物陰に人の気配を感じた。

「誰?」

「鉄華団だな?」

 サブレは物陰からそっと姿を現すと三日月はその姿に身構える。

「俺の名前は……」

「知ってるよ、サブレだろ?ビスケットから聞いたよ」

「そうか……取引がしたい」

 

 アトラはギャラルホルンからの尋問に耐えていた。

「ったく強情な女だ。武装蜂起の計画についていい加減吐いたらどうだ?」

「何もお話しすることはありません」

 そんなアトラの言葉にギャラルホルンはさらに殴りつける。

「お話しすることは………何もありません!」

 強くにらみつけるアトラにギャラルホルンは彼女を強く吹き飛ばす。

「基地まで連行するほかないな、あそこなら薬でもなんでもそろっている」

「嫌でも全部話したくなるさ」

 別の部屋ではビスケットとサヴァランが一緒にいた。

「大した娘だな、まだ何もしゃべっていないそうだ。あの女の計画について何か知っていることがあるなら話せ、ギャラルホルンとの交渉材料になる」

 あくまでも自分の都合で話を進めるサヴァランにビスケットは表情を落とす。

「クッキーとクラッカは9歳になったんです……、二人があんなに大きくなれたのは兄さんが俺たちを火星に行かせてくれたおかげです」

「あの時は邪魔だからそうしたまでだ……」

 そんな言葉にビスケットははっきりとサヴァランの顔を見つめ叫ぶ。

「俺はそんな兄さんに憧れていつも追いかけていたのに………なんでその兄さんがこんな真似を!」

「お前たちが運んできた武器を手にした組合員が暴動でも起こしてみろ。この機会を待っていたギャラルホルンは大義名分を掲げて鎮圧に乗り出すぞ!血を流すのはお前も暮らしていたスラムの住人だ!それでいいのか!?」

「クーデリアさんをギャラルホルンに差し出していい理由にはならない!それに……」

「革命の乙女の身柄を押さえることができれば、ギャラルホルンも満足することだろう!見せしめの虐殺を回避できるなら理由としては十分だ!」

 サヴァランの言葉にビスケットは強くにらみつける。

「彼女はクーデリアさんじゃないんですよ!」

 ビスケットの言葉にサヴァランは激しく動揺する。

「いや……彼女はクーデリア・藍那・バーンスタインだ………別人だろうとギャラルホルンを止められるならそれでいい」

 サヴァランの言葉にビスケットは言葉を失う。

「正気ですか?兄さん……」

「私たちには!もはや手段を選んでる時間はないんだ……」

「どうしてですか?サブレにもまともに……」

「サブレ?………サブレがこのコロニーに?」

 サヴァランはどこか怯えた表情に変わる。

 

 フミタンがペンダントを見つめていると、ドアを開ける音が聞こえる。

「お嬢様!」

「私が本物だと名乗り出れば……」

 フミタンはクーデリアの手首をつかみ、行かせないように引き留める。

「いけませんお嬢様、今となってはアトラさんが偽物だとわかればその方が危険かもしれません」

 そんなフミタンの意見にそれでもクーデリアは一歩も引かなかった。

「私は大切な家族を……アトラさんや鉄華団の皆さん、それにフミタンを裏切るような真似はしたくないんです!」

 クーデリアの視線にフミタンはかつての彼女の視線を重ねる。

「お嬢様はあのころから何も変わってませんね。そのまっすぐな瞳が私はずっと嫌いでした。何も知らないがゆえに希望を抱ける、だから現実を知って濁ってしまえばいいと思っていたのに」

「何を言っているの……?」

「ですが変わったのは私の方でした。変わらなければこのような思いを抱かずに済んだというのに。どんな行為にも責任が付きまとうものなのですね?」

 フミタン・アドモスという人間の奥にあるクーデリアへの思いを吐き出す。

「フミタンお願いわかるように言って」

 しかし、フミタンはクーデリアをかばうように動く。

「一度お目にかかりたいと思っていましたよ、クーデリア・藍那・バーンスタイン。君はここで死ぬべき人ではない。すぐにたったほうがいい。じきにここは労働者たちによる武装蜂起で荒れるだろう。その為の武器を鉄華団に運ばせたのは誰だと思う?あなたの支援者であるノブリス・ゴルドンだ。この意味が分からないほど子供ではあるまい。あなたを利用するために自らの手のものをそばに潜り込ませているような男だよ」

 仮面をつけた男が語る言葉をクーデリアはあくまでも否定する。

「フミタンは私の家族です………さきほどの言葉を訂正してください」

「その男の言葉は本当です」

クーデリアは、一歩一歩後ろに後ずさっていく。

「嘘……嘘よねフミタン?」

 縋りつくような言葉をフミタンは否定せず立ち去る。

「さようならお嬢様」

「待ってフミタン!」

 彼女を追おうとするがそれをマスクの男が邪魔をする。

「革命の乙女たるその身を大切にしたまえ。君は人々の希望になれる」

 クーデリアはにらみつけるとそのままフミタンの後を追う。

 

「どうしてそんなになるまで……」

「こんなのなんともないよ。子供の頃は毎日だったし、それにクーデリアさんは家族だから。それよりビスケットは?お兄さんに言いたいことは言えたの?聞きたいことも」

「俺は………」

 そんなとき下から大きな爆発が起きる。

 三日月とサブレが侵入してきており、そのまま部屋の一つ一つを確認していくと、部屋のさらに先からビスケットが出てくる。

「待って待って僕だよ!」

「三日月!?」

 殴られ鼻血を出し、殴られた痕を見ると三日月はきれかける。

「それここの連中に?」

「えっ?うん……」

 そういうと三日月は懐からもう一度銃を取り出す。

「あっ……それよりクーデリアさんは無事なの?」

「あっ……うん。ホテルに隠れている」

「よかった……」

 安心しその場に座り込むアトラとは別にビスケットが話しかける。

「でもどうやってここが?」

 三日月は後ろに視線を向けるとドアの先からサブレが現れる。

「サブレ!?どうしてここに?」

「それよりここを離れたほうがいい」

 三日月はアトラを担ぐとそのまま部屋の外へと出ていく。

 ビスケットは納得しないような顔をしつつも後についていく。

「それでこれからどうするの?」

「さあ?」

「どうしようか?」

 サブレと三日月のそんなセリフにアトラが反応した。

「えっ!?考えてなかったの?」

 柵を超えそのまま走り出すが、そのあとをサヴァランがつけてくる。

 するとビスケットたちの前をオルガの乗る車がやってきた。

「乗れ!」

 ビスケットたちが乗り込もうとするとサヴァランが叫ぶ。

「頼む!その娘を連れてこっちに来てくれ!もうこれしかないんだ!」

「誰だ?」

「ビスケットのお兄さん」

「兄さんには感謝しています。父さんと母さんが死んだあと必死に俺たちを養ってくれて、今の俺があるのも兄さんのおかげだから」

「だったら!」

「だから!あの時は本当にありがとうございました!でも今俺は鉄華団の一員なんです!」 

 ビスケットは兄と決別を決意し、車に乗り込むとサブレに手をさし伸ばす。

「サブレ!早く乗って!」

 ギャラルホルンが柵を乗り越えようとするがそれをサブレは撃ち殺す。

 サブレはゆっくりとサヴァランのもとに歩いていく。

「三日月だったよね?約束は守ってもらうよ?」

「うん。オルガ、出して!」

「待って!サブレ!どうして!」

「今更3人で……なんて無理なんだよ。兄貴だけは………兄さんだけは堅実に幸せに生きてほしい」

「サブレ………やっぱりお前は」

 サヴァランの額に銃を押し付けそのまま発砲するとそのまま倒れる。

「あぁ……あぁ………サヴァラン兄さん!!

 ビスケットの叫びが無情にも周囲に響き、サヴァランはその場に倒れ、サブレはそのまま別のほうに歩き出す。

「今更………3人で………なんて」




ドルト編も中盤です。サブレの動きに注目してください。まあ、サヴァランについてはどうしようと思っていたのですが、結局元通りの展開になりました。
次回は『それぞれの思惑』です!


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それぞれの思惑

フミタン回です!どうなるのかはお楽しみに!


 ガン!という大きな音を立ててビスケットは三日月をトラックの壁にたたきつけると、涙を流しながら三日月を睨みつけ、三日月はそれを少しだけ申し訳なさそうな目で見ていた。

「ど、どうして!……どうしてサブレが!兄さんを!」

「………」

「よさないかビスケット!」

 オルガの制止の言葉と同時に二人を引き離すと、ビスケットはそのまま崩れ落ち、ひたすら涙を流した。

 突然の兄弟の別れ、そしてその別れを作り出したのもまた兄弟。

 誰にぶつければいいのかわからないような感情がビスケットを支配していた。

「うっ……ううっ」

「ビスケット」

 アトラもまたどう声をかけたらいいものかと決めあぐねていると、オルガが三日月に切り出した。

「どうゆう状況でああなったんだ?ミカ」

「アトラたちを助ける手助けをする代わりにサヴァランっていう人を殺すのを黙認してくれって言われたんだ。そのときはビスケットの兄さんだとは思わなかったけど。ビスケットの弟はアトラたちの行方を知っていたし、それだけで助けられるならって条件をのんだんだ」

「あ……ああ………うあああああああ!」

 聞けば聞くほどサブレがサヴァランを殺そうとしていたのだということがはっきりとわかってしまい、ビスケットは大きな叫び声をあげながら顔を隠す。

「何か事情があったんだよ」

「本人は仕事の依頼だって言ってたけど……」

 どうしようもない空気が場を満たし、一行はクーデリアを待たせているホテルに急いだ。

 

 サブレは路地裏から大通りに出ようとするところで電話が鳴ると電話の先から聞こえてきたのはマーズだった。

「仕事は終わったのか?終わったなら状況を報告しろ」

「終わったよ。きっちりこなした。後始末はそっちに任せるから」

 サブレの報告を聞くとマーズは「ならいい」と電話を切ろうとするが、サブレからのほかの報告にその手を止める。

「ああ、そういえばクーデリア・藍那・バーンスタインはここにきているらしいよ」

「?ドルト3にか?」

 サブレが「うん」と答えるなか、それを聞いたマーズは高笑いをあげサブレはそれをうっとうしそうに少しだけ顔をしかめる。

「なに?どうしたの?」

「いや、なんでもない。サブレ追加の仕事だ。クーデリア・藍那・バーンスタインの暗殺を阻止しろ」

「はぁ?意味が分からないんだけど。それだと最初の依頼に反するんじゃ?」

「俺たちが受けたのはあくまでもサヴァランの殺害だ。それにノブリスの予想の範疇を超え始めている今回の事件。うまく動けば多額の金が手に入るかもしれん。いいか?これは命令だ」

 そういうとマーズは一方的に電話を切ってしまう。

「自分勝手」

 サブレはもう一度銃を確認すると騒ぎが大きくなってきている大通りに出て行った。

 

「どこにもいねぇ!」

 ホテル中を探し回っていると、ユージン達は廊下に出て集まっていた。

 ビスケットは近くの椅子に座り表情はどこか暗いが、集めた情報をみんなに聞かせた。

「……チェックアウトはしてないらしいけど、別々に出ていくのを見たってホテルの人が……」

 みんなでどうするべきか決めあぐねていると、三日月が真っ先に飛び出した。

「俺やっぱり捜してくる!」

「私ついていきます!」

 アトラも同じように飛び出していく。

「本当にいいのかよ?勝手に行かせてよぉ」

「どっちにしろ捜さなきゃいけねぇんだ。ビスケット、お前はここにいろ」

「いや、僕も探すよ。今は体を動かしているほうが気がまぎれるんだ」

 そういうとビスケットは立ち上がりみんなと同じようにホテルを出ていく。

 外では今まさにドルトカンパニーに対する抗議デモがおこなわれていた。

「我々の子供から未来を奪うな!」

 そんな声が辺り一帯から響き渡ってくる。

「ギャラルホルンが出てくる前に実力行使に移るべきじゃないかって……」

「それは絶対にダメです。こちらからは決して仕掛けることのないように、指示を徹底させてください。武力ではギャラルホルンにかなわない、過激に走ろうとする人たちを抑えるためにも、交渉で事を進める姿を見せることが重要なんです」

 ドルト3では今まさに抗議デモが過激の一途をたどろうとしていた。

 

「迎えに行けない!?どうしてですか?」

 そんなメリビットの問いに名瀬が答えた。

「ドルト3の宇宙港が封鎖された、デモ鎮圧のためって名目らしいが……。L7の駐留部隊だけでなくアリアンロッドの本隊まで集まってきてる。この騒動、どんな裏があるんだか……」

 そしてハンマーヘッドでは新たなグシオンがいままさに完成していた。

「にしても、あのずんぐりモビルスーツの中身がこんなんだったとは」

「おかげでバルバトスのパーツが流用できて助かったじゃない。じゃなきゃこんなに早くロールアウトできなかったよ」

 そしてイサリビでも同じように戦闘態勢が整いつつあった。

「こらライド!ダメだろそんな所に落書きをしちゃ!」

「落書きじゃねぇよ!シノの兄ちゃんに頼まれたんだよ。なんか「お守りだ~」とか言ってさ」

「お~い!そっちも立ち上げの準備始めとけ~!」

「パイロットもいないのに?」

「団長たち戻ってきたんすか?」

「まだだよ。なんかよく分かんねぇが、思った以上に厄介な状況になってんのかもな」

 

 宇宙港に上がろうとしたフミタンだったが、宇宙港の封鎖により下に戻ってきたところにノブリスの手下が現れ、フミタンを壁にたたきつけた。

「なぜ一人でいる?ターゲットはどうした?貴様が何を考えているのか知らんが、ボスがそれほど気の長い性格じゃないことは知っているはずだ。こっちの準備は整っている。お前はお前の仕事を果たせ。逃げられるなんて思うなよ?」

 男たちはどこかへと姿を消した。

 

『まもなく衝突が起きる。ターゲットをその混乱の中に送り込め。あとは俺たちが何とかする』

 フミタンはそう指示を受けていた。

(私は何をしている………いったい何を…)

「フミタン!?」

 拳をギュッと握りしめていると、そんな彼女の耳にクーデリアの声が聞こえ、フミタンがいる場所の真逆にクーデリアは現れた。

 無邪気に手を振る彼女は反対側に行こうとする。

「下がってください危ないですよ」

「あの………人を捜していて」

 組員の人に引き留められると組員はすぐに彼女がクーデリアだとわかってしまう。

 しかし、それをサブレもまた見ていた。

「クーデリア・藍那・バーンスタインを発見。対象はドルトビル前の大通りに発見」

「こっちもノブリスの手下を発見した。暗殺を阻止しろ」

「いいけど、暴動に巻き込まれたら俺でもかばえないよ?」

「その時は潔くあきらめるさ」

 サブレは端末に送られてきた場所に走って向かう中、クーデリアはまさに騒ぎの中心に向かおうとしていた。

「私今急いでいて………」

「俺ニュースで見ました!クーデリアさんが来てくれた!」

 そんな騒ぎが起きる中、ノブリスの手下も着実に準部を整えていた。

「どうやらうまくやったようだな」

「こっちも急ごう」

 クーデリアは図らずともデモの中心にたどり着いてしまい、テレビ局もクーデリアの姿を捉えた。

「どうします?ディレクター、なんか盛り上がってますけど……」

「誰か知らんが面白い、組合のおっさんどもより絵になるしな。しばらく押さえておけ」

 テレビが生中継で放送する中一連の放送を三日月とアトラも見ていた。

「いた。大通りの方か。アトラ……」

「私は大丈夫だよ。このことみんなに伝えてくるから、三日月は早く行ってあげて」

「本当に大丈夫?」

「うん。だからクーデリアさんの事お願い」

 三日月は黙ってうなづくとそのまま駆け出していく。

 そしてクーデリアは組合の人たちにつかまったまま、身動きが取れずにいた。

「みんな感謝しています。武器や弾薬を送っていただいて、クーデリアさんからって代理人の方が」

「鉄華団の皆さんは大丈夫でしたか?」

「クーデリアさんなんか一言お願いします」

「ええお願いします。みんなの力になるようなことを」

「いえ……ちょっと待ってください」

 クーデリアは一度に来る質問に答えきれないままでいると、ドルト本社から爆発が起きた。

「ご覧ください!今ドルト本社から爆発とともに炎が上がりました。組合側からの攻撃でしょうか?」

 そうアナウンサーがテレビに向かってアナウンスを続けていると、組員は焦り始める。

「攻撃は待てと言ったはずです!」

「いえこっちでは……」

「待て!俺たちじゃない!」

 組員がそう呼びかけるが、ギャラルホルンはそんな話など聞くはずもなく、モビルワーカーを攻撃態勢に移行した。

「事態急迫につき危害射撃を開始する!」

 その一声と同時に両者の間で戦火が開かれた。

「なっ……なんですか!?」

「下がります!こっちへ」

 組合の女性に連れられて下がろうとするクーデリアに対し、組合長のナボナはあくまでも暴動を止めようとする。

「撃つのをやめてください!これでは相手の思うつぼです!」

 モビルワーカーから煙幕が放たれると、組合の攻撃がやんでしまう。

「よし!掃討開始!」

 モビルワーカーの攻撃が始まる中、アトラもようやくオルガたちと合流できていた。

「始まっちまったか……」

「オルガさん!クーデリアさんが……クーデリアさんがあの中に!」

 しかし、攻撃は止み嫌な静けさが場を満たしていく。

 煙幕が消え、銃撃による砂埃が場の凄惨さを隠していた。

「今銃声がやみました。デモ隊の暴発により始まった一連の銃撃戦はギャラルホルンの果敢な応戦により今一応の終息を迎えたようです」

「何が………」

 クーデリアは自分にいったい何が起きたのか全く理解できなかったが、自分の目の前に広がる景色に愕然とした。

「何これ……」

 辺り一帯に広がるおびただしい量の死体、クーデリアは先ほどまで自分を連れて逃げようとしてくれた女性を腕に抱える。

「クーデリア……さん……」

「だ……大丈夫ですか!?」

「嬉……しい。私革命の乙女の……手の中で……まるで…物語…みた…」

 しかし、その命もはかなく散ってしまう。

「おい、もういいよ死体は。そろそろ引き揚げ………ん?ちょっと待てそのまま。あれって……」

 テレビ局の画面移っていたのもまたクーデリアだった。

「どうして……どうしてこんなことになるんですか!なんで……」

(何をやっているの!早く逃げなさい!あなたはまた………)

 フミタンの心の声など届くはずもなく、クーデリアはそこから動けずにいた。

「しぶといな。まだ生きてる」

「ボスにとっては好都合だろう。注目を集めてる今こそ革命の乙女が散るのに絶好の舞台だろ?」

 銃の引き金を引こうと指を置くが、それと同時にドアがふいに開く。

 フミタンは走りクーデリアのそばまで駆け寄り、庇うように体を盾にするとその瞬間銃声が響いた。

「………?」

 しかし、フミタンの体を銃撃は襲わなかった。

 そのあとも数発におよぶ銃撃ののち、フミタンは男たちがいた場所をスッと見つめるとそこにはサブレの姿が一瞬だけ瞳に映った。

(彼はサブレ・グリフォン?どうしてここに?)

「フミタン!」

 クーデリアはフミタンに駆け寄っていく。

 フミタンは三日月との会話を思い出し、一つの覚悟を固める。

「お嬢様……覚えていますか?あの火星でのスラムで、私はわざとあなたを置き去りにした。だって、あの子はまるで昔の私だったから……。嫌いだった。何も知らない……まっすぐなだけのあなたの眼差しが、現実が見えたらすぐに曇ってしまうものと……。でもあなたは輝きを失わずにここまで……、あの本の少女のように」

「何を言っているのフミタン」

「これだけは誓えます。これからはあなたをお守りすると、ここに……。私のような裏切り者の言葉など信用できないでしょうが」

「そんなことはないわ!フミタンは私の大事な家族です!」

 フミタンは一筋の涙を流す。

「これからもあなたのそばにいさせてください」

 フミタンの差し出す手にクーデリアが反応する。

 そんな中三日月が路地裏から姿を現した。

「もう行こう。ここは危ない」

「ええ……まいりましょうお嬢様」

「はいフミタン、三日月」

 三人は走り出し始める。

 

 ノブリスの元にマクマードからの連絡が入る。

「お久しぶりですな。テイワズの代表が直々に何用で?」

「GNトレーディングからのあれは無事に届けさせたぜ。そっちの狙いはわかっている。うちの身内である鉄華団とクーデリア。反体制派のシンボルとなったあの娘を殺すことで火種を作る」

「何が言いたい?」

「金になる木は無駄に切るのは惜しいだろう?あの娘は小さな火種で終わるようなタマじゃねぇってことさ。あの娘がこの騒ぎからうまく抜け出すことができたなら……、その時は一つ手を組んでみるってのはよ?」

 それぞれの思惑が重なり合い、騒動は一層激しさを増していた。




どうでしたか?というわけでフミタンは生存です。ドルト編の最後はフォートレス戦で閉めるつもりです。次とその次は戦闘回になる予定になっています。
次回は『クーデリアの決意』です!お楽しみに!


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クーデリアの決意

少し遅くなりましたが最新話投稿です!


「えっ!?本当ですか?」

「ええ、確かに見ました」

「でもよ、どうしてビスケットの弟がそんなところに?」

「分かりませんが、お嬢様を助けようとしているように見えましたが……」

「ますます意味がわからねぇ」

 フミタンが見たサブレ・グリフォンはビスケットに衝撃を与えた。

「もしお嬢さんを助けたのだとしたら、助けることに理由があるはずだが」

「もしかしてだけどよ、ビスケットに申し訳ないっていう気持ちがあるんじゃ……」

 シノがそう切り出すと、ビスケットがそれを即座に否定した。

「多分ないと思う。本人が仕事で動いているって言っている以上は……」

「だとしたら、助けることにフォートレスとしてのメリットがあるってことか?だとしたら最悪の展開だな」

「どういうことだ?」

「たとえこの状況を切り抜け、イサリビと合流してギャラルホルンの艦隊を切り抜けたとしても……」

 オルガが言いよどんでいることをビスケットがはっきりと告げる。

「フォートレスが待ち構えている可能性がある」

「まじかよ」

「多分だが、ギャラルホルンで捕まえられなかったお嬢さんだ。もしコロニーから逃げられたとしたら、ギャラルホルンからすれば喉から手が出るほど欲するはず。多額のお金を用意してでも……」

「うまく立ち回れば他の商会なんかからもお金がもらえるだろうね……。フォートレスの狙いはそこだ。ピンチを切り抜け革命を成功させたクーデリアさん。そういうキャッチコピーが必要なんだ。功績が大きければ大きいほど手に入る金は増えていく。だから……」

「ああ、お嬢さんを助けた」

 全員の脳裏にあの巨兵と呼ばれた男のMS『パイモン』の姿が浮かんだ。

「たしかに、なんかそういうあくどい事を考えそうな奴だったよな?」

「ああ、でもよ逆を言えばチャンスなんじゃねぇか?」

「えっ?」

 ビスケットだけが分からないというような顔をしていると、オルガはうなずく。

「ああ、うまくすればビスケットの弟をこっちに引き込めるかもしれねぇ」

「でも、オルガそんなことうまくいくかどうか……」

「失敗するかもな」

「だったら!」

「でもよ、かもしれねぇっていう見えない可能性の為に諦めるぐらいなら、成功するかもしれねぇっていう可能性に欠けたほうが何倍もいいだろ?それともよ、お前は弟の説得をあきらめたのか?」

「……あきらめきれない」

「だろ?だったらやろうぜ?鉄華団のみんなはそのつもりでいる」

 オルガはビスケットの肩を軽く叩くと、ビスケットは顔をあげた。

「やるだけやってみようぜ、どうせ戦わなきゃいけないんだ。どうせ戦うならそのほうがいいだろ?それに正面から戦っても俺たちに勝ち目はない。だけど、お前の弟がいてくれたら勝ち目は出る!」

「うん!」

 全滅するかもしれない、でも彼らの目は次の大きな戦いへと向かっていた。

 

 外ではギャラルホルンによる組合への一方的な虐殺が行われていた。

 オルガ率いる鉄華団はその間宇宙港までなんとかたどり着いていたが、宇宙港はいまだ封鎖状態だった。

「やっぱり無理か、アドモスさんから聞いてはいたが……」

「この調子ですと当分は無理そうですね」

「どうするオルガ。これじゃイサリビと連絡がとれたとしても……」

 どうするか考えていると近くのテレビではいままさに外で行われている虐殺の映像が流れていた。

「交戦っていうかなぶり殺しだね」

「なぁオルガなんかできることねぇのか?俺たちに……」

「ダメだ。何度も言わせんな」

 あくまでも今回の事態に巻き込まれることを嫌がるオルガに対し、ユージン達は何かをしたいと申し出た。

「あのおっさんたちの仲間なんだよな?おっさん達言ってたじゃねぇか、俺たちの事騎士団ってさ。英雄で希望の星なんだぜ!?」

「ダメだ!俺たちの仕事は依頼主を無事地球に送り届けることだ」

「そうだよ、ここまで来て目的を果たせなかったら……」

 オルガとビスケットが反対していると、後ろから先ほどまで黙っていたクーデリアが口を開いた。

「私は……私はこのまま地球へはいけません。私が地球を目指したのは火星の人々が幸せに暮らせる世界を作るため。でも火星だけじゃなかった。ここの人たちも同じように虐げられ踏みつけられ命さえも……それを守れないなら………立ち上がれないならそんな私の言葉など誰も聞くはずがない。私も戦います」

 みんながクーデリアの言葉に黙っていると、フミタンがそっとクーデリアの手を握った。

「お嬢様、戦うには大きな責任が伴います。それでもいいのですか?」

「はい。フミタンがかつて言っていたように私はあの本の少女のように希望になりたい」

「……わかりました。でも、これだけはわかってください。それはお嬢様が自ら考えた言葉でなければ届きません。それだけは私でも助けてあげられない」

「分かっています。それでも………」

 クーデリアのまっすぐな目にフミタンはオルガの方を向く。

「団長さんどうかお嬢様の願いを聞いてはもらえませんか?」

「そうだぜオルガ。お嬢さんだってこう言ってんだよ」

「ここでやんなきゃかっこ悪いだろ?」

「ちょ……ちょっと待った。そんな簡単に……」

 オルガは三日月の方をまっすぐ見つめた。

「ミカ。お前はどう思う?」

「俺はオルガが決めたことをやる。けどこのままやられっぱなしってのは面白くないな」

 オルガやビスケットはどこかあきらめたような表情をする。

「ったくお前ら……まあどのみちこのままじゃ埒が明かねぇしな。やるか!」

「まあ、待ってても捕まるだけだしね」

 

 テレビ局の報道が上から規制がかかると同時に近くを鉄華団が通りかかる、彼らを追いかけていくと何とか話ができる状況になった。

「おい!君たち!君あの時デモ隊の中にいた子だよね?よかったらちょっと話をきかせてくれないか?」

「悪いけど急いでいるんだ」

「いや少しだけでもいいんだ。個人的には今回の報道は一方的過ぎると思っている。君たち労働者側の声もできるだけ伝えたいんだよ」

「だから急いでるって……」

 オルガが断っていると後ろかクーデリアが出てきた。

「待ってください。私の声を届けてくださるというなら望むところです。そのために火星から来たのですから」

「あんたは?」

「クーデリア・藍那・バーンスタインと申します」

「クーデリア……あっバーンスタイン!あの独立運動の!」

 オルガが間に入って止めようとしていると、後ろからビスケットがオルガに話しかける。

「報道スタッフなら専用ランチを持ってるはずだよ。報道用の専用回線もね」

 

「本気なんだな?」

「ええ。すんません兄貴、依頼主の希望で俺たちは一番派手なやり方で地球を目指すことになっちまった」

「ここまで事が大きくなっちまった以上テイワズとして名の売れてる俺たちは出ていけねぇぞ。親父にまで迷惑がかかるからな」

「分かってます」

「そうか。まっ腹くくったんなら根性見せろや」

「はい!」

 オルガと名瀬が通信している傍らユージン達はランチの近くで待機していた。

 すると、ビスケットは通路の角で何かの物音を聞いてしまいそっちのほうに歩いていき、角から顔をのぞかせるがそこには何もいなかった。一歩一歩と少しずつ体を乗り出していくと、突然体を壁にたたきつけられてしまう。ビスケットの正面にはサブレの姿が有った。

「さ、サブ……!」

「しっ!静かに」

 ビスケットが声をあげそうになるのを片手で押さえて止めるとサブレはビスケットの手にお金を渡した。

「火星までの片道代。それで火星まで帰ってくれ。そして鉄華団にはもうかかわらないでくれ。頭のいい兄貴なら俺たちの目的ぐらいわかるだろ?兄貴を殺したくない。だから帰ってくれ」

 ビスケットは強引に手を引きはがす。

「む、無理だよ!俺には鉄華団を裏切れない。それにクッキーやクラッカーやおばあちゃんの事だって鉄華団がないと……」

「だったらこれからは俺が定期的にお金を入れるようにするよ、兄貴はそれで何とかしのいでくれ。ゆっくり探せば何とか仕事は見つかるだろ?」

「俺にとって………俺にとって鉄華団は家族だ!」

「俺にとっては兄貴たちが家族だ。わがままを言わないでくれ、これは最後の警告だ。二度目はない」

 サブレがその場を去ろうとするのをビスケットは止めた。

「待って!どうしてサヴァラン兄さんを殺したの?仕事の依頼以外にあるのなら教えてほしい」

「………サヴァラン兄貴が俺をフォートレスに売りさばいたからだ」

 そういうとサブレは通路の奥に消えていき、ビスケットは大きな声をあげる。

「う、嘘だ!!!」

 

 オルガはビスケットを連れてランチに入ってきた。明らかにビスケットの状態が変わっており、どこか死にそうなほど表情を暗くさせていた。

「ビスケット、何かあったのか?」

「ああ、いろいろとな」

「それよりも彼は一人で大丈夫なのか?」

 三日月は単身ランチからバルバトスのもとに向かっていた。

「心配いらねぇよ。丸腰のランチだけで飛び出すわけにはいかねぇだろ」

 クーデリアは「あの……」と切り出した。

「このコロニーで働く人々の事を出来るだけ教えてくれませんか?知りたいのですもっと……もっともっとたくさんの事を」

 クーデリアもまた前へ進もうとしていた。

 そうしている間に三日月はバルバトスの元にたどり着いた。

「すごいなあいつ。俺は……」

 三日月の視線の先にまつバルバトスを見つめると心に一つの感情が生まれた。

(あぁ……イライラする)

 

 バルバトスはメイスを振りかぶりギャラルホルンのMSを薙ぎ払った。そのまま攻撃から回避すると、数機のMSがあっという間に撃墜されていく。

「もらった!この間合いなら!」

 一機のMSが斧を振り下ろそうとするが、三日月はそれを片手で受け止めた。

「まさか!マニュピュレーターで受け止めただと!?」

 しかし、三日月が攻撃をしようとしたその瞬間コックピット内に一つの警報が鳴った。ガエリオ・ボードウィンが乗るガンダムキマリスがランスを構え突っ込んできた。三日月はそれを紙一重で回避する。

「この出力、この性能、予想以上だ。まっそれでなくては骨董品を我が家の蔵から引っ張り出した甲斐がない!」

 再びキマリスはバルバトスに突撃をかけ、バルバトスはそれをメイスで防いだ。さらにアイン・ダルトンもまたシュヴァルべ・グレイズに乗りバルバトスに攻撃を仕掛けてきた。

「ガンダムフレーム……貴様なんぞには過ぎた名だ、身の程をしれ小僧!」

 アインの攻撃をあえて受けるバルバトスに、アインの視線がその後ろに移動しているランチに向いた。

「あれは!そういうことか!」

 アインが張り出すとバルバトスがそれを止めようとしたがそれをキマリスが妨害する。その隙にアインはたどり着きかけるが、しかしそれをイサリビが妨害した。

 

 オルガたちがブリッジにたどり着くと、自分たちの置かれた状況をいまいち把握できていない報道陣は困惑していた。

「私たちは君らの戦いに加担するつもりは……」

「分かっています。準備が整うまでここで少しお待ちください。私に考えがあります」

 そういうとクーデリアはそのままブリッジを出ていく。

 その間シノはグレイズで出撃しようとしていた。

「早速来やがった。シノ!出られるか?」

「おう!いつでも行けるぜ!」

「気を付けてね」

「へっ!氷の花咲かせんのは当分先だぜ!ノルバ・シノ。流星号行くぜおらぁ~!」

 シノがそのまま出撃するが、MSデッキではライドと雪之丞がなんだそれと言わんばかりの顔で互いを見ていた。

「「流星号?」」

 

 アインとシノが交戦に入ると三日月はキマリスの機動力に翻弄されていった。

「どうした?阿頼耶識とやらでも追いきれないか?」

 一気に近づき攻撃を仕掛けようとするが、バルバトスはそれを紙一重で回避する。

「捕まえ……た」

「放せ!この宇宙ネズミが!」

「ん?この声……。あんたチョコの隣の……」

「ガエリオ・ボードウィンだ!」

「ガリガリ?」

「貴様わざとか!?」

「まあなんでもいいや。どうせすぐに消える名前だ」

 バルバトスがメイスを振り下ろそうとすると、キマリスはそれをスラッシュディスクで牽制をし、そのままバルバトスを投げつける。

 

 ノブリスはマクマードの考えに疑問を持っていた。

「マクマードめ何を考えている。あの小娘にそこまでの価値が……」

「ノブリス様メールが届いております」

「今度は誰だ?」

「それが……クーデリア・藍那・バーンスタインからです」

 そのメールの中身を見た瞬間ノブリスは高笑いを始めた。

 

 キマリスとの戦闘に昭弘が応援に駆け付ける。

「昭弘?それできたんだ?」

「ああ、ガンダムフレームグシオンリベイクだ!」

「助かった。でも早いよあのガリガリ」

「ガリガリ?なんだそりゃ?俺はまだ阿頼耶識になれてねぇ。二人掛でやるぞ!」

 キマリスのピンチにアインが駆け付けるが、アインは戦闘の影響で負傷してしまいあえなく撤退する。

 三日月たちの目の前にはアリアンロッド艦隊の本隊が待ち構えていた。

「すげぇ数だな」

「逃げてぇ~」

「逃がしてもらえるもんならね」

「私はクーデリア・藍那・バーンスタインです」

 そのとたん、クーデリアの声が届いた。

「今テレビの画面を通して世界の皆さんに呼びかけています。私の声が届いていますか?皆さんにお伝えします。宇宙の片隅……ドルトコロニーで起きていることを、そこに生きる人々の真実を」

 ギャラルホルンが情報統制を敷いている中、クーデリアはノブリスの援助を受け、世界中に映像を発信していた。

 これから流れる映像は彼女の決意の表れだった。




どうだったでしょうか?次回はいよいよコロニー編完結です!いよいよフォートレスとの全面対決の場がやってきました。次回はほとんどオリジナル回です!
次回は『兄弟』です!


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兄弟

いよいよフォートレス戦です。今回だけはどういう決着にするか悩みました!


「私はクーデリア・藍那・バーンスタイン。私の声が届いていますか?皆さんにお伝えします。宇宙の片隅………ドルトコロニーで起きていることを……そこに生きる人々の真実を……。私はドルトコロニーで自分たちの状況に立ち向かおうとする人々に出会いました。彼らはデモという手段をとりました。しかし、それはあくまでも経営陣………しかし、彼らが行動を起こした際、まるで示し合わせたかのように付近で謎の爆発が起きたのです。ギャラルホルンは労働者たちに攻撃を開始しました。そしてその戦闘………虐殺は今も続いているのです!今私の舟はギャラルホルンの艦隊に包囲されています。ギャラルホルンに私は問いたい。あなた方は正義を守る存在ではないのですか?これがあなた方の言う正義なのですか?ならば私はそんな正義は認められない。私の発言が間違っているというのならば………かまいません。今すぐ私の舟を打ち落としなさい!!」

 クーデリアがそう宣言するその時攻撃が始まるかと思われた三日月たちの前でギャラルホルンのMSは完全に勢いを失った。

「おいおい……どういうこった?奴ら動かねぇぞ?」

「すごいなあいつ。俺たちが必死になって一匹一匹プチプチ潰してきたやつらを声だけで……止めた」

 イサリビがギャラルホルンの艦隊を突破するとようやく彼らは安堵の息を吐いた。

「ありがとうございます。いい画が取れましたよ!」

「いや~これぞ報道だよ。素晴らしかった!」

「とんだ博打だったな。だが、アンタはそれに勝った」

「フミタンのおかげです。ありがとうフミタン」

「いいえ、お嬢様が自らの真の言葉で彼らをうごかしたのでしょう」

 彼らの戦いはいまだ終わってはいなかった。

 

「ハハハハハハ!これは傑作だ!ギャラルホルンめ、これは相当悔しいはずだ」

 マーズ・マセは大きく高笑いを浮かべると、目の前の映像では今まさにイサリビが艦隊を突破するところだった。

 すべてはマーズの予想通りの展開に進んでいた。

「まあ、これくらいの艦隊は突破してもらわなければこちらも困る。せめてこちらの掌で踊っていてもらわなければ……」

 後ろでサブレもまた面白くなさそうな顔で映像を見ていた。

「さて、こちらも進めようか………革命の乙女狩りを」

 

「間違いないんだな?本当にフォートレスがお前らを狙っているっていうのは」

「はい。おそらくですが……」

「そうなってくるとかなりやっかいだね……」

 ハンマーヘッドの一室で話し合いをおこなっているなか、オルガ達が手に入れた情報と推測を名瀬がそこで聞いていた。

 オルガ達はこれから襲ってくるフォートレスとの闘いに備えていた。

「で?お前たちとしてはこれからどうするんだ?」

「前に言った時と変わらねぇ、ビスケットの弟を取り戻して先に進む。どのみちフォートレスに目をつけられた以上後には引けねぇんだ。」

 名瀬は仕方がないという顔をすると、顔を引き締めオルガの目をまっすぐに見つめた。

「フォートレスと戦うとなると今の戦力でも厳しい」

 どうするかと悩んでいるとオルガの後ろからビスケットが声を出した。

「俺に説得する時間を……そのためのMSを貸してください!俺に……どうか!」

 ビスケットが深く頭を下げるとオルガも同じように頭を下げる。

「俺も同じ意見です!だから!」

「………力を貸さねぇとはいってねぇだろ?どのみち俺たちに道はないか……。まあ、力を貸すと言った以上戦うさ……」

「だったらせめて少しぐらい操縦できるようにならないとね、今からあたしと特訓だよ。フォートレスが来るまでの間にどこまで鍛えることができるかわからないけどね」

「すいません。アミダさん」

 ビスケットとアミダはともに部屋を出ていく。

 

「イサリビとハンマーヘッドが予想ポイントを通過したと連絡が入りました」

 フォートレスの旗艦では今まさに戦闘の準備が着実に進んでいた。

 彼らは小惑星帯で隠れるように潜んでいた。

「しかし、本当に現れるのだろうな?ボス」

「現れるだろ。奴らが地球に向かうにはこのコースが一番安全だ。この小惑星帯は厄災祭の頃の基地の名残で、いまだにエイハブリアクターが一部機能している。その為に不安定な重力と視界の悪さでギャラルホルンの巡回ルートからはずれている裏ルートだ。奴らに見つかりたくない奴らからすればここはちょうどいい場所だ」

「作戦は?」

「なんだお前にしてはまじめに聞いてくるな……サブレ」

「別に、仕事なら早めに済ませたい」

「………まあいい。いつもと変わらん、MSで攻撃を仕掛け奴らのMSをつぶしたのちに、艦隊をやる」

「……了解」

(乗ってないよな兄さん)

 

 三日月はハンマーヘッドでビスケットの訓練の付き添いをしていると、通路の奥からオルガが姿を現した。

「どうだ?訓練は」

「う~んいいんじゃない?多分」

「多分ってお前な……」

「ビスケットは本気みたいだよ。結構くらいついてきてるって」

「そうか……あいつを頼むなミカ」

「うん」

 話をしていると百錬のコックピットが開きビスケットが中から出てきた。

「よくなったよ。少し休憩しようか」

 肩で息をしているとオルガと視線が合うと、そちらに向かって飛んでいく。

「オルガ話は終ったの?」

「ああ、そっちはどうだ?少しはうまくいきそうか?おまえ、MWの訓練だってまともにしてないだろ?」

「うん。だから覚えることが多くて大変だよ。でも……話をしたいんだ。そのためには俺が頑張らないと」

 ビスケットの覚悟を決めた顔を見るとオルガはビスケットの肩を軽く叩く。

「気負いすぎんなよ?俺たちが付いてる」

「………ありがとうオルガ」

 オルガには夢に出てくるビスケットの姿が少しだけ重なるが、しかしオルガはそれを振り払う。

(そんなことあるわけねぇ)

 オルガはいまだに話せずにいた。そして、ビスケットはオルガが時折する表情に気が付いていた。

 

「正面にフォートレスの船を捉えました」

 ハンマーヘッドとイサリビが小惑星帯を通ろうとしていると、それは不自然なほどあっさりと姿を現した。

 静かに、しかし明らかに邪魔になるように配置されたその姿は明らかな挑発行為だった。

「お久しぶりだな。名瀬・タービンとオルガ・イツカ。おそらくはこちらの要件が分かっているとは思う。だから単刀直入に聞くぞ。クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡してもらおうか」

「「断る!」」

「そういうと思っていた。ということはうちらとやりあうっていう意味でいいんだな?」

「ああ、俺たちはあんたたちと戦わせてもらう」

「その言葉、後悔するなよ」

 そういうと一方的に通信は切られた。

 双方の船があわただしくなると、イサリビは相手のMSの信号を捉えた。

「フォートレス機体を出撃させました」

「こちらも準備が済んだ機体から出撃させろ!」

 バルバトス、グシオン、流星号と立て続けに出撃していく中、ビスケットはパイロットスーツに着替えると、そのままハンガーに向かった。

 ハンガーでは今ビスケットが搭乗する予定のマン・ロディの調整が終わったところだった。するとマン・ロディの方からタカキがビスケットの方に向かってきた。

「ビスケットさん!マン・ロディの調整終わりました。いつでも行けます」

「ありがとうタカキ」

 そういうとビスケットはマン・ロディの座席に手を付けると、通路の方から昌弘が姿を現した。

「あの………いいですか?」

「うん、いいけど」

「弟さんを助けに行くんですよね?だったら一言お礼を言いたくて……。あの時俺を助けてくれたのはあの黒い機体だったから……。だから……その………」

「うん。必ず連れて帰ってくるよ」

「………気を付けて」

 昌弘が離れるとビスケットは阿頼耶識で機体と自分を接続する。すると、MW以上の情報量にビスケットは一瞬声をあげる。

「大丈夫か?ビスケット」

「大丈夫です………出してください」

 マン・ロディのコックピットが閉まると、そのまま機体が出撃体制に移る。機体がカタパルトに固定されると、正面にアガレスが遠くに見えた。

(サブレ。今行くよ!)

 画面にフミタンが移る。

「出撃どうぞ」

「ビスケット・グリフォン!マン・ロディ!行きます!」

 勢いよく出撃するビスケットは急いで三日月たちに追いついた。

 何とか後方にたどり着くと、シノがマン・ロディの肩を軽くつかむ。

「ビスケットはなるべく戦闘に参加はすんな。俺たちで何とか隙を作ってみるさ」

「あんたはできた隙で弟のもとに行きな!」

「その間、私たちで何とか時間を稼いであげるから」

「ビスケットは弟を説得することだけを考えて」

 みんなが戦場に加速していくとビスケットはみんながいる方に届かない手を伸ばし、機体も同じように手を伸ばした。

(遠いな………)

 今の自分は足手まといにしかならない。それがはっきり理解できていた。

 

 フォートレスでも同じように出撃体制が整いつつあった。

 サブレがアガレスで待機していると、マーズが奥からパイモンに乗り移る。マーズがパイモンに乗り込んだのをサブレが確認すると、サブレも同じように中に入っていく。

「ボス。敵のMSの出撃を確認。ガンダムフレームが二機、百錬が二機、百里が一機、グレイズタイプが一機とマン・ロディが一機です」

「マン・ロディ?ブルワーズから奪った機体か?面白いすこしでも戦力を増やそうというわけか。うちのロディも出撃させろ。マーズ・マセ、パイモン……出るぞ!」

 パイモンが出撃していくと、続いてアガレスがカタパルトデッキに移動する。

「ガンダムアガレス……サブレ・グリフォン行きます」

 戦場に兄がいるとは知りもせず。

 

 開戦の一撃をあげたのはフォートレスのMSだった。ロディ機が合計で六機がそれぞれ三機ずつに分かれて三日月たちを襲撃した。

 パイモンはアミダとアジーが足止めし、ロディはシノと昭弘、ラフタが交戦し、三日月はアガレスと交戦をはじめた。

「また会えたな、アミダ・アルカ」

「あたしを知っているのかい?」

「お前を知らない奴はそうはいないだろ?お前ほどのいい女を」

 アミダの攻撃をハンマーで受け止めている間にアジーが横から剣を振り下ろす。しかし、その攻撃を難なくかわし、アジーを蹴り飛ばす。

 急いでアジーを保護するアミダは、大きく相手から距離をとる。

「すいません、姉さん」

「いいよ。それよりも連携でたたくよ」

 一方三日月とサブレも互角の勝負をしていた。サブレはメンチメイスを振り下ろし、三日月はメイスでそれを受け止める。膠着状態がしばらく続くと、ロディのうち一機がシノたちから三日月の方にやってくる。三日月の方に攻撃を仕掛けようとすると、三日月はそれをかわし反撃をしようとしたとき、サブレが再び邪魔をする。

「すまねぇ三日月」

「いいよ」

 シノがロディをもう一度ひきつける。

 三日月はアガレスの腰を蹴り飛ばし、メイスをたたきつけようとするが、アガレスはそれを何とかメンチメイスで受け止める。

「ぐぅ!本当に厄介だな。確か三日月って言ったか?」

 忌々しそうな顔をすると、サブレはバックパックの小型レールガンで牽制をして、生じた隙で一気にメイスを突き出す。三日月はそれを何とかメイスで受け止めるが、勢いよく小惑星にぶつかってしまう。サブレが三日月の無防備な体制にとどめを刺そうとすると、後ろで待機していたビスケットが援護射撃をしてきた。

「後ろでこそこそしていた奴が!」

 兄が乗っているとも知らず、サブレがマン・ロディにかけていくと、三日月がそれを何とか妨害する。接触通信で話しかける内容にサブレは一瞬だけだが動きを完全に止めた。

「あれに乗ってるのはビスケットだよ」

「はぁ?」

 動きが止まったところにビスケットは一気に加速し、アガレスを捕まえてそのまま小惑星基地の中に入っていく。

「何をやっているんだあいつは……」

 マーズが少しあきれていると、三日月がそのままパイモンの方に向かって走り出す。

「あとは頼んだよ……ビスケット」

 

 マン・ロディとアガレスは互いに小惑星の中で停止していた。ビスケットは急いでコクピットから出てくるとアガレスの出入り口を必死で探し出した。

「サブレ!ここを開けて!話がしたいんだ!」

 少しすると、コックピットが開きビスケットはそのまま中に入ろうとするが、それをサブレは銃を突きつける形で拒絶する。

「マン・ロディに入れ。ここで隠れているなら見逃してやる」

 あくまでも話し合おうとしないサブレにビスケットは首を横に振り、一歩中に足を踏み入れた。

「嫌だ!引かないよ俺。みんなと約束したんだ。サブレを説得するって」

「勝手な話だよ。出来もしない約束を一方的にして、他人に無駄な期待を持たせる」

「他人じゃない!家族だ!それに昌弘君やフミタンさんやクーデリアさんだってサブレにお礼を言いたがっていたよ?助けてくれてありがとうって」

「成り行きだ。助けたくて助けたわけじゃない」

「そうかもしれない、それでもサブレが助けてくれたことに変わりはない。それに聞かせてほしんだ。サヴァラン兄さんとの間に何があったのか!」

「何があったも……あれ以上のことは何もない。あれがすべてだ。それに言っただろ?クッキーとクラッカはどうなる?兄さんが死んだら……あの二人はどうなる?だから鉄華団から引いてほしいって言ったのに……。それにサヴァラン兄さんの事は俺が殺したくて殺したんだ。そうだ、俺はそれを望んでいた」

「それは嘘だよ。サブレは今嘘をついてる」

「……勝手な推測を……」

「推測じゃないよ。だってサブレは嘘をつくとき、手が震えるもんね。俺知ってるよ。だって兄弟だもん。それにクッキーやクラッカの事だってサブレに協力してほしんだ。俺の目標は二人を学校に入れてやることだ。とてもじゃないけど今の俺じゃ二人を学校に入れてやるどころか養ってあげるのが精一杯なんだ。でも……サブレがいてくれたら!だったら俺!きっと!」

 サブレはうつむき、表情がビスケットからでは見えなくなる。

「………初めてだね。俺が兄さんに負けたのは」

 サブレは銃を離しビスケットの手を握った。そしてそのままアガレスのコックピットの中に引き入れる。

「マン・ロディでウロチョロされたら困る。死んだら一緒に謝れないだろ?」

「そうだね」

 サブレがコックピットの中に入ると、サブレの正面の画面に妙な表示が現れた。

『コックピット内にパイロットと類似した生体が搭乗したと確認しました。これより第三第四エイハブリアクターを起動し、第二コックピットを開放します』

 すると、サブレの後ろの壁が開きもう一つの座席が姿を現した。

『パイロットは直ちに後方阿頼耶識に接続してください』

「くそ!アガレスが動かない。兄さんが阿頼耶識に接続するまでこのままだ!」

「俺が後ろに乗れば……」

「そうしてくれ」

 ビスケットが後ろの座席に乗り込むと、阿頼耶識を接続する。

『阿頼耶識接続開始………完了。阿頼耶識間の強制リンク開始』

 ビスケットがうめき声をあげ、鼻血を出すと、サブレの方にも同じような感覚が流れてきた。

「なんだ?これ……兄さんの記憶?」

「これってサブレの記憶?」

 互いの記憶の一部が互いに見てしまうとサブレとビスケットはようやくの思いですべてを理解した。

「「………」」

 もはや言葉などなくても理解できる。

「行こうか兄さん」

「うん。行こう」

「ガンダムアガレスシステムウァサゴ……出る」

 

 アガレスがまっすぐに小惑星から出てくると、そのまま勢いを増していく。しかし、マン・ロディは出てくる気配がなく、鉄華団とタービンズの面々は説得の失敗を予想した。だが、アガレスの動きの不自然さに気が付いたパイモンが素早く動き、アガレスに近づくとそのままハンマーを振り下ろす。

「やはりお前は裏切るのだな」

「まるで分っていたような言い方だな」

「ああ、薄々気が付いていた。それだけに残念だ」

 マーズはパイモンのスラスターの方を見ると、残量が半分をきりそうだった。

「ここらが潮時か………。いいだろうお前の裏切りは見逃してやる。だがな忘れるなよ。お前の死神の名と技術は俺が教えてやったことを………そして、永遠に付きまとってくると。逃げられると思わないことだ」

「忘れない。忘れられるようなものじゃない。あんたの存在だけは」

 マーズはにやりと笑うとそのまま距離をとり、信号弾をあげ撤退した。

 

「ビスケット!」

 ハンガーにアガレスで戻ってくると、鉄華団のメンバーはビスケットに手荒い歓迎で出迎えた。

「お前!心配したんだぞ!」

「ほんとうっすよ!」

 すると奥からオルガが姿を現し、ビスケットに近づいてくる。

「届いたんだな?」

「うん。みんなのおかげだ」

 サブレがアガレスから出てくると、どうしようかと悩むなかビスケットが手を引いてオルガの前に連れてくる。サブレは自分からは言い出しにくそうにしていると、オルガはサブレに手を差し出す。

「ありがとな。おまえのおかげで俺たちは助かったんだ」

「そ、そんな……それこそ成り行きで……」

「よく来たな。俺たち鉄華団はお前を歓迎するぜ」

 サブレはそんなオルガの言葉に一瞬固まると視線をビスケットに向けた。ビスケットは笑い小さな声で「俺の言った通りでしょ?」と近くに寄ってくる。みんなも同じようによってくると、サブレは涙を軽く流し、オルガの手を握った。

「これから………よろしく」

 ようやく自分の居場所を見つけた。




どうだったでしょうか?これからもマーズ・マセ率いるフォートレスは何度か話にかかわってきます。ですが、とりあえず一期の話のなかではこれが最後です。自分の中でマーズ・マセは結構お気に入りで、話を書いていて面白かったです!
次回は『謝罪』です!


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謝罪

最新話です!


 イサリビの中を一人で歩いていると後ろをタカキとライドが後をつけていると、さらにその後ろから昭弘と昌弘が怪しみながら現れた。

「なにをしてるんだお前ら」

 唐突に声をかけられたことに驚きながら後ろを振り向くと、昭弘たちに安心する。

「いや~、なんかサブレさんって声をかけにくくて………。それに、なんか初めて会った時の三日月さんに似てるなって」

「初めて会った時の?」

「はい。初めて会った時の三日月さんってなんか考えていることが分からないっていうか、表情が怖かったっていうか……」

「だからなんか話しかけづらくて………」

「特にこだわる必要はないだろ。気楽に声をかけたらいいと思うが」

 そういうと昭弘はサブレに話しかけた。

「サブレ少しいいか?」

「?さっきから俺の後をつけていたのって昭弘?」

「それはタカキ達だ」

 そう言われるとタカキとライドが物陰から出てくる。

「す、すいません。なんかこそこそと……」

「別にいいさ。で、何?」

「ああ、昌弘がどうしてもお礼を言いたいそうでな」

 昭弘が昌弘の背中を押してやると、昌弘はサブレの前に立った。

「あの時は助けてもらってありがとうございました」

「ああ、あの時のMSのパイロットか………。気にしないでくれ、あれこそ単に偶然が重なっただけだ」

「それで、聞きたいんですけど。サブレさんは宇宙海賊だったころにある商船団を襲撃したことがありますか?」

「昌弘!」

 昭弘がたしなめようとすると、サブレは即座に否定した。

「いや、無いな。フォートレスはそういう仕事はあまりしないんだ。基本的にうちの商売の方法はMSの売却だからな。民間軍事会社やギャラルホルンや宇宙海賊を襲撃して、手に入ったMSを売却する。それが主な仕事だ」

「そうですか………。だったら襲った奴らに心当たりはありませんか?」

「ないわけじゃないけど………核心は無いが、多分『夜明けの地平線団』じゃないかな?地球火星間で最大規模を誇るのは多分あそこしかないし、民間の商船団を襲うような奴はあそこぐらいだ。フォートレスも何度かあそこと絡んだことがある。結構やりあった仲だよ。あそこは嫌いだ」

「夜明けの地平線団………」

「まあ、あそこは戦力が半端じゃないからな、フォートレスとは違う意味で厄介だ。すべての戦力を数えたら大体アリアンロッド艦隊の四分の一はあるんじゃないかな?」

 タカキとライドが「うへぇ」と小さな声をあげ、昌弘はそのまま歩いて通路の奥へと消えていった。

「すまねぇ………昌弘はあの日襲ってきた海賊がどうしても知りたいらしくてな」

「いいよ。そういう気持ちなんとなくわかるし……」

 二人は昌弘が消えていった方を黙って見つめる。

 

 サブレたちが話しているころオルガたちは今後の予定を話し合っていた。

「予定では地球軌道上にある二つの共同宇宙港のどちらかで降下船を借りて降りる手筈だったんだが………。お前たちの動きはギャラルホルンにきっちりマークされちまった。もうこの手は使えねぇ」

「どうすれば……」

 全員が悩んでいると、イサリビのセンサーに反応が出る。

「エイハブ・ウェーブの反応。船が近づいてきます」

 すると、前方の画面に仮面の男が現れた。

「あの時の………」

 クーデリアとフミタンがともに反応を示すと、そんな事など知る由もなく話始める。

「突然申し訳ない。モンターク紹介と申します。代表者とお話しがしたいのですが……」

「タービンズの名瀬・タービンだ。その貿易商とやらが一体何の用だ?」

「ええ、実は一つ商談がありまして」

 モンターク商会との話し合いが決定した。

 

 サブレは雪之丞に呼び出されてMSデッキに顔を出していた。

「来たかサブレ。お前に言われた通りにアガレスのシステム周りのチェック一通りのチェックが終わったぞ」

「で、結果は?」

「ああ、それがな。もともとお前が使っていた一人用のシステムと今回起動した二人用のシステムが変に絡み合っていてな、操縦できないわけじゃないんだが、変な負荷がかかっちまってる。お前が感じた負荷の正体はこれだな」

「すぐに変えられますか?」

「それがな………これが複雑になっててな、他のガンダムフレームと違ってアガレスだけシステム周りが全くの別物で調整するのにかなり時間がかかりそうなんだ。少なくとも今度の降下作戦には間に合いそうもねぇな。下手にいじると動かなくなる恐れがある。地球に降りた際に変更したほうがいいかもしれねぇ」

「ってことは、今度の作戦は兄さんを後ろに乗せておいたほうがいいってこと?」

「そうなるな」

 アガレスを黙って見上げると、サブレは小さくため息をついた。

「まあ、俺の知らないところで戦われるよりましか……。俺が守らないと」

「お前さんも苦労するな」

 苦笑いを浮かべるサブレは、そっとアガレスに近づくと肩に乗り手を顔につける。優しくなでながら、小さく「これからもよろしくな」と誰にも聞こえないようにつぶやいた。

 

 タービンズの一室ではモンターク商会とタービンズ、鉄華団が商談を始めようとしていた。

「改めましてモンターク商会と申します。またお会いしましたねクーデリアさん」

「で?商談ってのは?」

「私どもには地球降下船を手配する用意があります。あなたの革命をお手伝いさせていただきたいのです。クーデリア・藍那・バーンスタイン」

「パトロンの申し込みか?こいつは商談じゃなかったのか?」

「もちろん商談です。革命成功の暁にノブリス・ゴルドン氏とマクマード・バリストン氏が得るであろうハーフメタル利権、その中に私どもも加えていただきたい」

「まだ始まっていない交渉が成功すると?」

「少なくともドルトコロニーではその兆しが見えました」

「返事はいつまでに?」

「あまり時間はありません。なるべく早いご決断を」

 話は予想以上に早く終わり、それぞれの場所に戻る中オルガとビスケットは廊下で話し合っていた。

「マクマードさんとノブリス・ゴルドンがつながってたなんて………名瀬さんは知ってたみたいだね。だったら話してくれればよかったのに……」

「俺たちはまだその場所に立ってねぇってことだろ?あの人らは化かし合いの世界で商売をしてる。俺たちはその足元でうろちょろしてるだけだ。あの人らと対等に商売していくなら今のままじゃだめなんだ」

 オルガのそんな発言の中、ビスケットは少しずつではあるがオルガへの不安を募らせていた。このままでいいのだろうかという不安とサヴァランとサブレの言葉が胸に突き刺さる。

 そんな中、イサリビではモンターク商会からのあいさつ代わりの品が大量に届いており、その報告を三日月とサブレがオルガたちにしていた。

「荷物の方はどうだ?」

「おやっさんたちが中身を確認してるとこ。っていうかなんでチョコの人がいんの?」

「「えっ!?」」

 モンタークと名乗っていた仮面の男は自らその正体を明かした。

「双子のお嬢さんは元気かな?」

「って!あの時のギャラルホルンの!?」

 ビスケットが驚いているとサブレだけがその場の状況についてきておらず終始ポカーンとして表情をしていた。

「ギャラルホルンだと?まさかあんた俺たちを罠に掛けるつもりで……」

「君たちなどに罠を掛けて私になんの得があると?」

「まあ、確かに……罠をかけるならもっと前に掛けるだろうし……」

「じゃあ何が狙いだ?」

「そうだな……君たちに小細工をしても見破られるだろう。私は腐敗したギャラルホルンを変革したいと考えている。より自由な新しい組織にね。君たちには外側から働きかけその手伝いをしてもらいたい」

「そんなこと俺たちにできるはずが……」

「現にクーデリア嬢と君たちはフォートレスの協力があったとしてもやってのけた。だからこそ君たちに力を貸す利害関係の一致というやつだ。まだ罠だと思うか?」

「そんなの分かんないよ」

 仮面の男はあえて態度は変えずまっすぐ見つめてくる。

「まっよく考えてくれたまえ。ああ、私の事は内密に………。もし他言したならば……この件はなかったことにしよう」

 そういうとその場から去っていく。

 サブレは完全にいなくなったタイミングを見計らって、雪之丞からの伝言を伝える。

「オルガ、兄さん。雪之丞さんからの伝言なんだけど、アガレスのシステムは今すぐってわけにはいかないってさ。地球に降りてからのほうがいいだろって。変にいじくると動かなくなる可能性があるから、歳星だっけ?そこで見てもらったほうがいいんじゃないかって。まあ、最悪地球に降りればある程度の調整ができるって」

「そうか、最悪の場合はビスケットに乗り込んでもらう必要があるか……」

 

「またあいつら?よくやるねぇ。ガチムチの方?」

「うん。ピアスのアホに付き合ってる。ほんと面倒見いいよね~」

「なんかさ……もやもやする」

ラフタとアジーが話している前で昭弘とシノはMSのシュミレーションで訓練をしていた。

「悪ぃな。つきあわせちまった」

「意外だな。お前がこんなに責任感のある奴だと思わなかった」

「責任?だったらどっちかっつうと楽になったんだそういうのからよ。俺は他の奴に指示を出したり命令したり性に合わねぇんだよな。それで死なれたりしたらな……。モビルスーツに乗って先陣切れりゃあよそういうの考えないで済むし、他のヤツらも守ってやれるしな!」

そういうシノの顔はどこか割り切っているような顔だった。

 

 イサリビのMSデッキでは雪之丞とヤマギがMSの調整をおこなっていた。雪之丞は下からバルバトスを見上げていた。

「随分男前になったじゃねぇか。これで少しは機動力があがってくれりゃあな。そっちももう上がれよヤマギ」

「いやもうちょっと。みんなが戦ってくれてんのに俺らはサポートしかできないからできるだけやりたくて……」

「逆だよヤマギ」

 ヤマギが振り返るとそこにはサブレがゆっくりヤマギの方に飛んできた。

「サブレさん」

「ヤマギたちが整備してくれてるからみんな安心して戦えるんじゃないかな?」

「………はい」

 

 サブレはヤマギたちとの話を終えると、一人窓の向こうにジッと視線を向けていると、後ろからビスケットが話かけてきた。

「サブレ何してるの?」

「別に、どうやってクッキーとクラッカに謝ったものかなって」

「多分、二人ともそこまで気にしないんじゃないかな?」

「それでも、俺が悪いことをしてるわけだし……謝罪するのは当たり前だよ」

「そうだね」

「でもな。謝るって本当はすごく難しいことだと思うんだよ。でも、それでも謝ることができたら、きっと何かが変わると思う。喧嘩して、そして別れて……そして二度と会えないなんて嫌だから。仲直りすれば何かが変わるはずだし……。俺はサヴァラン兄さんと仲直りできなかった。だから……」

「謝れば……。うん、そうだね」

 

「ごめんなさいフミタン。あなたを追い込んだあの男と組むしか方法がないの」

「いいえお嬢様の思うと通りに進んでください。それしか方法がないのでしょ?」

「ええ、私が立ち止まることは鉄華団の人にとっても、ドルトの人々にとっても……そして、フミタンにとっても失礼なことになる。たとえ、私の手が血にまみれていこうとも……」

「……お嬢様。飲み物をとってきますね」

「ありがとう。フミタン」

 フミタンが廊下の方に姿を消すと、入れ違うようにアトラがやってきた。

「クーデリアさん!よかった。こんな所にいたんだ。やっぱりなんにも食べないのはよくないと思ってお夜食を………あれ?やだ、私持ってくるの忘れた」

 クーデリアはアトラの手当された頬を見ると尋ねた。

「痛みますか?」

「あっ……これは………」

「本当にごめんなさい……私のせいで………」

 クーデリアは本当に申し訳ないような表情になるのをアトラが見ると、アトラはそんなクーデリアに頼ってほしそうに迫る。

「……あのねクーデリアさん。その……もっとお話ししよう。ごめんよくわからないこと言っちゃった。でもね、ちょっと「疲れたな~」とか「ちょっと辛いな~」とか言ってほしくて……頼ってほしくて……。あっ……私なんかじゃ頼りないと思うんだけど……」

「頼りないのは私です。ほんとに情けないくらい無力で……。私はこのままじゃいけないんです。人々を希望へ導きたいと願うなら変わらなければ……」

「あんたはすごいよ」

 そういいながら現れたのは三日月だった。三日月はアトラが忘れた弁当を届けに現れた。

「あっお弁当ありがとう」

「ギャラルホルンの奴らを声だけで止めた。あんなのオルガにだってできない」

「そうだよ!ほんとすっごくかっこよかった。あのね私もクーデリアさんと一緒にその……かか革命?革命するから!」

「俺も手伝う。そうでしょ?それがあんたの言ってた責任ってやつなんでしょ?」

 そういうとフミタンが飲み物をもって現れる。

「ええ、ですからお嬢様だけが抱える必要はないのですよ?ここにはこんなにもお嬢様を思ってくださる方がいるのですから。お嬢様が皆さんを家族だと言うように、皆さんもお嬢様を家族だと思っています。もちろん、わたくしも……」

「フミタン……アトラさん………三日月…………私」

 クーデリアは目から大粒の涙をこぼしてしまう。

「な……泣かないで。ああっ三日月、ほらなんとかして!早く!」

「えっ俺?」

「当たり前でしょ!女の子が泣いていたら男の子は慰めたりとか……そう!抱きしめてあげたりとかほら!」

 三日月はそっと抱きしめる。

「クーデリアさん……偉いね。ずっと……我慢してたんだね……。えっ!?み……三日月!?私はいいよぉ」

 三日月は泣き始めたアトラもそっと抱きしめる。

「でも、アトラも泣いてる」

「そうだけど……でも」

 しかし、泣き止むこともできず、三日月の胸の中で二人は大粒の涙をこぼした。

(あなたがお嬢様のそばにいてくれて本当に良かった)

 一行は地球への足を強めていった。




どうだってでしょうか?次回は大気圏突破のお話になります。
次回は『願いの重力』です!


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願いの重力

いよいよ大気圏突破のお話です。アガレスがどうやって話に入ってくるか楽しみにしていてください。


「あの………握手を……しましょう」

 クーデリアは三日月に対して右手を差し出す。

「俺の手また汚れているよ」

「……私の手ももう汚れています。みんなの血とみんなの思いと………この手に私は誇りを持っています」

 三日月は一瞬握手を戸惑うと、しかし最後にはクーデリアの手を握りしめる。クーデリアは小さくしかし、大きい手をしっかりと握りしめた。

 オルガ達がブリッジでモンターク商会と話していた。

「………ところでモンターク商会さんよ。あんたの本当の名前はなんていうんだったか」

「モンタークで結構。それが真実の名ですので」

「は?」

「ではご武運を」

 そういうとそのまま一方的に通信が切られてしまう。

 ブリッジのドアが開く音が聞こえるとクーデリアが中に入ってきた。

「これまでの道のり、鉄華団でなければ到底たどり着けませんでした。本当にありがとうございました」

 クーデリアは深々と頭を下げる。

「おいおい、まだここからが正念場だぜ」

(大きな手だった。あんなに小さな体なのにあんなに大きな手)

 クーデリアは自らの手に残る三日月の感触を確かに確かめていた。

「今まで以上の苦難が待ち受けていると思いますが、どうか地球に私を送り届けてください。そこから先は私が皆さんを幸せにして見せます。約束します」

「ああ、そんときゃ頼むぜ、お嬢さん」

 

 三日月たちの出撃準備が進んでいく中、アガレスの前で待機していたサブレの前にビスケットがパイロットスーツ姿で現れた。

 サブレはそんなビスケットをジーっと見つめる。

「………何?何か変?」

「いや……兄さんの体に合うパイロットスーツがあるんだなって思って……」

「あるよ!」

 サブレとビスケットがそんなやり取りをしていると、さらに通路の奥から昭弘とシノがやってきた。

「早いな二人とも」

「そうでもないよ。俺より早い奴がすぐ前に……」

 指さす先には三日月がバルバトスの前で待機しているのを昭弘とシノが見つけると、肩をすくめる。

「さすが三日月だな」

「そういやぁ、ビスケットが次の戦闘では指揮をしてくれるんだろ?」

「え?俺?」

「ああ、俺たちが指揮をするより、そういうことが得意な奴がするべきだと思うしな。そういうの、俺たちよりビスケットの方が得意だろ?」

「まあ、みんながそういうなら……、やってみるよ」

「頼む、ビスケット。その代り、俺たちも全力でお前を守るさ」

「兄さんを守るのは俺の役目だよ」

 サブレたちがそんなやり取りをしているとアトラが弁当をもってやってきた。

「みんなお弁当だよ。三日月の分もあるから!」

 三日月はアトラの声を聴くとサブレたちのところまでやってくる。

「サンキュ!アトラ」

「ありがと、アトラ」

 みんながお弁当を食べていると、アトラが話を切り出した。

「やっと地球だね。私も一緒に降りるからね」

「まあね。ビスケットとサブレのアガレスはシャトルの中に入れて出るんだっけ?」

「ああ、アガレスが鉄華団にあることはギャラルホルンはまだ知らないはずだし、緊急の場合はシャトルの護衛につけるから」

 艦内にフミタンの放送が響く。

「シャトルの準備が整いました。シャトルで地球に降りる者は直ちに準備してください。アガレスはシャトルへの移動を開始してください」

「あ……時間だ。私行くね。三日月、地球で」

 そういうとアトラはそのまま奥へと移動していく。

「俺たちもそろそろ行くね」

 アガレスが出撃体制に入り、カタパルトに移動していく。

「発進どうぞ」

「ガンダムアガレス、サブレ・グリフォン、ビスケット・グリフォン出る!」

 アガレスはそのまま外に出ると、イサリビの横で荷物の移送を行っているシャトルの中に先に入っていく。

 

「予定通り、アリアドネに補足されたぞ」

「順調順調」

「おう!お前ら準備はいいな!」

 ユージンはブリッジの操縦席で立ち上がる。

「なんだよユージン」

「張り切ってんな」

「当たりめぇよ」

 ユージンは少し前のシノとの会話を思い出していた。

 MSデッキでユージンがシノの前で漂いため息をつく。

「こんな所でため息とか辛気くせぇんだよ!」

「だってよぉ。俺がしくじったら鉄華団全員お陀仏になんだぞ」

「お前時々抜けてっからよ。最悪失敗したって「ああ~ユージンじゃしゃねぇ」ってこっちも納得して死んでやんよ」

「ざけんじゃねぇぞ!」

 ユージンはそんなシノの言葉に激しく怒鳴りつけた。

「怒んなよ。やたら気負ってるみてぇだからよ」

「あっ……こっちこそ悪ぃ。俺ずっと思ってたからよ。チャラついた自分捨ててガツッと男になりてぇって。それが今なんだよ。鉄華団全員の命を預かる……俺そういう存在に憧れていたからよぉ。失敗は絶対にできねぇんだ。だから……」

 シノはそんなユージンの言葉を聞くと笑ってしまう。

「なんで笑う!?」

「悪ぃ……オルガにそんなに憧れていたとはつゆ知らず……」

「はあ!?今のがどうしてそこに結びつくんだよ!ったくてめぇは……」

 シノはユージンの背中を強くけりつける。

「何済んだよ!」

「いいんじゃねぇの?かっこつけようぜお互いによ」

 そんなシノの言葉にユージンはようやくブリッジで届かない声を張る。

「んなもん言われるまでもねぇ。いっちょかましてやろうぜ!」

 

「来ました。奴らです」

 カルタ・イシューの乗る艦隊の眼前に鉄華団のイサリビが見えてきた。イサリビは停船信号に答えることなく進んでくる。

「停船信号に応答ありません」

「鉄槌を下してやりなさい。全艦隊に通達。砲撃用意!撃てぇい!」

 艦隊の砲撃で目の前が見えなくなると、カルタはイサリビの撃沈を信じて疑わなかった。

「んん……手ごたえのない………」

 余裕たっぷりと構えていると、オペレーターが焦りの声をあげる。

「エイハブ・ウェーブ増大!近づいてきます!エイハブ・ウェーブの反応が二つに!?」

「そんな!あいつら正気の沙汰か!?」

 カルタはひたすら突っ込んでくる鉄華団に対し、驚きを隠せなかった。

 イサリビはブルワーズから強奪した船を盾にして、イサリビをまっすぐ進んでいた。

「船を盾にだと!?なんと野蛮な。両翼の艦隊を前に出しなさい!鶴翼に構え撃沈する!撃てぇい!」

 イサリビのブリッジではユージン達が必死になって操縦していた。

「このままじゃブルワーズの船だってもたねぇぞ」

「そしたら次は俺たちだ!もう仕掛けるしかねぇ!」

「まだだ!もっと突っ込ませんだよ!あいつに頼まれた仕事だぞ!チャド!前の船のコントロールもよこせ!」

「バカいうなって。阿頼耶識で船を二隻も制御するなんてできるわけが……」

「ここでカッコつけねぇでどうすんだよ!」

「どうなっても知らねぇぞ!」

 チャドはユージンの阿頼耶識にイサリビとは別にブルワーズの船も接続する。ユージンは阿頼耶識の衝撃にのけぞり、鼻から大量の血を吹き出す。

「見とけよ……お前ら!」

 ユージンは二隻の船を操縦し、そのまま走っていく。

 カルタは必要以上に焦っていた。

「くっ!砲撃を集中!集中!我ら地球外縁軌道制統合……」

「後方の船が進路変更!」

 イサリビが進路を変更していく。

「どちらへ砲撃を!?」

「ああ……撃沈なさい……とにかく撃沈!撃沈撃沈撃沈~!」

 ブルワーズの船が沈む中、ブルワーズの船はナノミラーチャフと呼ばれているチャフを周囲に散布する。

「ええい!何をぼさっとしているの?撃ちなさい!」

「光学照準が目標を完全にロスト!」

「LCS途絶。通信できません!」

「これは……ナノミラーチャフです!」

「あれは実戦で使えるような代物ではなかったはずでは?」

「うろたえるな。全艦に光信号で通達、LCSを最大出力で全周囲に照射。同時に時限信管でミサイル発射、古臭いチャフなど焼き払いなさい!」

 ミサイルで周囲のチャフを焼き払いようやくイサリビを探せるようになる。

「LCS回復しました」

「まったく……さっさと位置の再特定急げ!」

「光学照準が目標を再補足!」

「よし。素早いのが取り柄のネズミでもこの短時間では何もできまい。どこだ?」

 イサリビはグラズヘイムへと思いっきり突っ込む。

「グラズヘイム1より救難信号を受信!軌道マイナス2。このままでは地球に落下します」

「モビルスーツ隊の出撃後救援に向かいなさい!」

 イサリビが大きく進路を外れる中、ブリッジは歓喜に満ちていた。

「後は任せるぞお前ら……」

「ユージンやったな!」

「なあ……一つだけ………俺かっこいいか?」

 ユージンは尋常ではない鼻血を吹き出しそのまま気を失った。

 

「最高にイカしてたぜユージン。ありがとな」

 しかし、地球へ降りようとする鉄華団の前にキマリスとシュヴァルベが攻撃を仕掛けてきた。

「よく見つけたアイン!」

「ネズミのやり方は火星から見てきましたので。それもここで終わらせる!」

 しかし、アインの前にクタンを付けた流星号が突っ込んでくる。アインは攻撃を受け止め、そのまま交戦に入る。

「あいつは任せて」

 三日月はキマリスにとりつく。

「こいつには借りがあっからな!」

「昭弘行けるか!?」

「行けるかだと?行くしかねぇだろ!」

 しかし、グシオンでも敵の数をさばききれず、いくつかの機体がグシオンを抜けた、そのうちの一機がシャトルを攻撃しようとした瞬間シャトルハッチが開きスモークをあげ、視界をふさぐ。

「無駄なことを……!」

 それでもMSはそのまま攻撃を仕掛けようとした瞬間シャトルから砲撃を受け、コックピットが大きくへしゃげる。シャトルからアガレスがそのまま走り出し、MSの相手をする。

「なんだこの機体!?こんな機体情報にはなかったぞ!」

 MS隊は事前に情報のないアガレスに戸惑いを隠せなかった。そして、それはアイン達も同じことだった。

「なんだ……あの機体は。あんな機体……奴らはもっていなかった!」

「くっ!奴らが用意した新しい機体か?識別信号は………『ガンダムフレームアガレス』?」

 ガエリオが放った一言にMSパイロットの一人が反応した。

「アガレス!?どうして死神が!」

 アガレスの容赦のないメンチメイスがコックピットを横から潰す。そして後ろから近づいてくるMSをレールガンで吹き飛ばす。

「こいつ!後ろに目でもついてんのか!?」

「まあ、そんなもんだよ。」

アガレスの後部座席には網膜投影ができない分広範囲の索敵能力が備わっており、それによってMSでは確認できない後方の確認が可能だった。

「昭弘!そっちのMSは任せるよ」

「ああ、わかった」

 二人がかりで戦うがそれでもギャラルホルンのMSの数は多くがグシオンとアガレスを囲んでいると、一機のMSがシャトルへ攻撃しようとする。

「しまった!オルガ!」

 しかし、その攻撃は別のMSの手によって阻まれる。

「ごっめんごめん装甲の換装に時間がかかってさ」

「遅れたぶんの仕事はするよ」

「ラフタさん!?アジーさん!? どうしてここに?」

 ビスケットが驚いていると、ラフタたちはギャラルホルンのMSに攻撃する。

「ダーリンにあんたたちのこと頼まれたの」

「ならその機体は……」

 ラフタとアジーは百錬とは少し違うMSに乗っていた。

「百錬を持ち出せばテイワズと名乗ってるようなもの」

「これは百錬改め漏影ってことでよろしく!」

 二人の卓越した技術に昭弘が関心していた。

「すっ……すげぇ………」

「関心するなって」

 サブレはMSのコックピットをたたきつぶし、昭弘にツッコミを入れる。

 バルバトスとキマリスの戦いも白熱していた。キマリスの速度は前よりも上がっており、バルバトスはそれをなんとか追いかけようとしていた。

「前より早いな」

「お前に引導を渡すためにわざわざ用意してやったんだ。ありがたく思いながら逝け!」

「俺もあんたの為に用意したものならあるよ」

 そういうと三日月はキマリスの攻撃をあえて受けると、バルバトスの追加の装甲がはがれキマリスに隙が生まれる。

「なっ!リアクティブアーマーだと!?」

「パターンが分かれば対策くらいするよ」

(おやっさんが)

 バルバトスはメイスでキマリスのランスを弾く、そしてそのままキマリスに攻撃した。

 

「ミカとビスケット達がうまくやってるな。このまま降下軌道にのせるぞ」

「まってください!シノさんが!」

 タカキの視線の先にはシノがアインのMSにワイヤーで捕まっていた。

「これなら阿頼耶識とやらも関係あるまい。クランク二慰はお前たちに手を差し伸べたはずだ。それを振り払って……」

 しかし、サブレがその場に駆け付けシュヴァルベと流星号のワイヤーを引きちぎる。

「邪魔をするな!」

「お前に仲間はやらせない」

 メンチメイスでシュヴァルベを吹き飛ばす。

「すまねぇ……サンキュだ………サブレ、ビスケット」

 攻撃を受けたガエリオはそれでもあきらめていなかった。

「俺にも誇りがある」

「あっそう」

 バルバトスはキマリスの隙を作ると、キマリスに向けてキマリスが装備していた槍を投げつける。キマリスにあたろうとしていた攻撃をアインが代わりに受け、アインのコックピットに直撃した。

「ちっ………ガリガリが」

「三日月!そろそろ時間だ」

「分かったよビスケット」

 バルバトスがその場を離れていく中、ガエリオはアインに必死に呼びかけていた。

「アイン!なぜ俺を!」

「あなたは……誇りを失った俺にもう一度立ち上がる足をくれた………見殺しにはできない」

 気を失うアインの乗るシュヴァルベを必死に抱きしめ、届かぬ叫びをあげる。

「アイーン!!」

 そんな中戦場を遠くから眺めるカルタは一人鉄華団が消えたほうを眺める。

「私をコケにした報いは必ず受けさせる。教えてあげるわ宇宙ネズミ。ここが誰の空か!」

 MS隊はいまだ交戦を続けていた。

「長蛇の陣。疾風怒涛!」

 しかし駆けるMSを赤いMSが邪魔をする。そのままバルバトスのもとまで駆けてくる。

「俺に合わせてくれるのか。すごいなチョコレートの人は。ん?あれ?あんたチョコレートなの?」

「ははははっ!今ので気が付いたかのか。すさまじいなその感覚」

「別に、普通でしょ?」

 そうしている間にMS隊は一気に大気圏を突破しようとしていた。

「どわぁ~!機体が重てぇ~」

「シノたちを回収するぞ!ビスケット!シャトルの上に乗るよう呼びかけろ!」

「分かった」

 アガレスが先にシャトルの上にたどり着く。

「みんな!こっちに!」

 シノたちがシャトルにたどり着こうとする半面ギャラルホルンのMS隊は撤退し始める。

「これ以上の追撃は危険だ。地球に殺されるぞ」

「手ぶらでは帰れぬ。ここはカルタ様の空。勝手は許さん」

 三日月とモンタークと名乗った男と共に戦っていた。

「あんたはもういいよ。まだやってもらいたいことがあるし」

「そうか。ではお言葉通りに甘えさせてもらおう」

 そのまま機体が再び宇宙へと離れていく。

 アガレスたちは機体をシャトルに固定させていた。

「サブレ!ビスケット!そろそろ機体を固定させろ!放り出されんぞ!」

「でも!三日月が!」

 三日月はいまだMSと交戦していた。地球へ落ちていきながらも二機のMSは互いに攻撃の手を緩めない。

「三日月!」

「戻ってこい!ミカ!」

 しかし、三日月はそれに答えようとはせず、ひたすら敵のMSを落とそうと必死になる。そしてコックピットをつぶすことに成功した。

「地球に……我らの地球に火星のネズミを入れてたま………ああぁ~!」

 三日月はMSから少し離れるが、しかし機体はそのまま重力の中に突き進んでいく。

「見せてくれるのだろう?君たちの可能性を」

 モンタークは遠くから落ちていくバルバトスを眺めていた。

「地球の重力ってすごいんだな」

 三日月の脳裏には幼いころのオルガとの会話が浮かぶ。

『行くんだよ』

『どこに?』

『ここじゃないどっか……俺たちの本当の居場所に』

『ほんとの?それってどんなとこ?』

『う~ん、分かんねぇけど……すげぇとこだよ。飯はいっぱいあってよ、寝床もちゃんとあってよ、えっとあとは……。行ってみなきゃ分かんねぇ、見てみなきゃ分かんねぇよ』

『そっか……オルガについていったら見たこともないものいっぱい見れるね』

『ああ、だから行くぞ』

 かつてオルガが三日月に見せてやると言った場所。

「そうだ……俺はその場所を見たい。お前はどうだ?バルバトス!」

 バルバトスの目が光り、三日月の視界に一機のMSが映った。

(三日月……ここで終わりにしないで………あなたの大きな手はきっと大切な何かをつかめるはず)

 クーデリアが祈りを捧げ、皆が三日月の無事を祈る中シャトルは無事大気圏を突破した。

「団長!出ました!地球です!」

「三日月は!?」

 みんなが三日月を探していると、真っ先にアトラがそれを見つける。泣きながらそれでも笑顔で彼の名を叫ぶ。

「三日月~!」

 バルバトスはMSを盾に大気圏を突破した。

 クーデリアも同じように涙を流しながらも三日月の無事に安堵する。

「ここが地球。あれが三日月」

「三日月!」

 ビスケットの声に三日月は反応する。アガレスが両手を前に出しバルバトスはアガレスに向けて飛び出す。アガレスはがっちりとバルバトスの手を握りしめ、シャトルに誘導した。

 しかし、この時オルガだけは皆とは違い、デジャブのような感覚に襲われていた。




どうだったでしょうか?楽しかったと言ってもらえたらうれしいです。次回はいよいよオルガとビスケットの話に入ります。次回はかなり力を入れようと思っています。次から話は大きく変わり始めていきます。
次回は『相棒』です!


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相棒

ついに!ついに一番書きたかった話ができる!
というわけで『相棒』です。


「くぅ~!これが地球かぁ!本当に着いたんだなぁ!」

 シノはコックピットの上で背伸びをしながら自分たちが地球に降りていることに実感を持ち始めていた。

 しかし、オルガだけがそんな状況下でも唖然とするような表情で島を見つめていた。

「しっかり見てなよ!ギャラルホルンにはこっちの位置をつかまれているんだから」

 ビスケットが指示を出す。

「うぇっしょっぺぇ!なんでこの水こんなにしょっぺぇんだ?」

「海水だからな」

「海水?なんすかそれ?」

「う~ん……簡単に言えば塩水かな……」

 ライドたちとサブレがそんな話をしていると、三日月たちも荷物を運びながら歩いていた。

「三日月モビルスーツはいいの?」

「バルバトスはメンテ終わるまで動かすなって」

 クーデリアは空を見上げると、歪な三日月が夜空を明るく照らしていた。

「見ることができましたね」

「あれが?三日月とおんなじ名前のやつ?」

「着いたんですね私たち。地球に……着いたんですね」

 クーデリアが感傷に浸っている中オルガだけは違っていた。

(俺はこの島を知っている。来たことがある?いや、そんなわけはねぇ)

 オルガはデジャブのような感覚に襲われていた。

(そうだ……みんなでこんな風に作業をしていると島の方から蒔苗とかいう爺さんが出てきて……)

 オルガが島の方を向くと、オルガの考えている通りに一人の老人がタカキと共に現れた。

「タカキ、誰?その人」

「いや……なんかこの人が話があるって」

「お前さんたちだな。鉄華団というのは」

 

「すごいよなみんな真っ青。海も空も。あんなに大きい雲初めて見た」

「でもなんか臭くない?海って。体もベタベタするし」

「クリュセの方が全然都会じゃん」

「たまたまこの場所がこうだってだけじゃないの?サブレさんが言うには経済圏の中心部に行けばかなり建物があるらしいし」

「なんかよぉ。もっと派手なとこ行きてぇよな。けど、これで仕事おわったんだよな~。ボーナスとか出んのかな~」

 ライドたちが浜辺で休んでいると、後ろからサブレがこっそり近づいてくる。

「だれかな?仕事もせずにさぼってるのは?」

「「「うわぁ!!」」」

 ライドたちは急いで立ち上がり、振り返る。

「「「すぐに仕事始めます!!」」」

 そんな中格納庫ではシノたちが荷物を運んでいた。

「交渉が終わって火星に帰ったら俺たちすっげぇことになるんじゃねぇか?大歓迎されてもう女たちが寄ってたかって……」

「無事に帰れりゃな」

「うだうだ言ってんじゃないの!ちゃっちゃと働いたら?」

 三日月と雪之丞はバルバトスの対策をしていた。

「追加したスラスターはやっぱもうダメだなぁ。他は例の商会からもらったパーツでなんとかなるんだがなぁ……」

「私らも手伝うよ」

 アジー達が格納庫に入ってくると、そのまま三日月のもとに近づいてくる。

「そっちはもういいの?」

「漏影は元々地上用にセッティング出してきたから。それにバルバトスでちょっと試してみたいセッティングがあるんですよね。うちでリベイク組んでるときに思いついたんですけど、筋肉より三日月君向けかなぁって。本当はアガレスにしてあげたいんだけど、元々地上用にも改造してあったんでバルバトス用に」

 

 蒔苗からの差し入れだと渡されたものを開けると、中から活きのいい魚が出てきた。

「なっなっ何よこれ!?」

 飛び跳ねる魚に驚く三日月たちに対し、ラフタ達タービンズのメンバーは驚くことなく、そのままラフタは素手で魚をつかんだ。

「すっごいよ!これヒラメじゃない?」

「ああ。うまそうだね」

「ねぇカレイじゃない?」

 そしてサブレも前に出ていきおいしそうな顔をする。

「うんカレイだと思う」

「えっ………それ食べ物ですか?」

 魚を持ってきた男性は三日月の背中をジッと見つめると固まってしまう。しかし、見られていると気が付いた三日月が振り向く。

「何?」

「あっ………いえ。失礼します」

 そういうとそそくさと車で走り去っていく。

「なんだ?」

「おめぇらの背中が気持ち悪いってよ。地球じゃ阿頼耶識なんかやってる奴はいねぇからな。俺のこいつだってこの星じゃ似たようなもんだ。生理的に受け付けられねぇ。厄祭戦の記憶が残るかぎりはな」

 

 アインは先ほどの戦闘で重傷を負い、助からないような怪我を負ってしまった。

「阿頼耶識だと?バカを言うな!アインを化け物にするつもりか!?」

「人類は自然であらねばならむ……そんな価値観はギャラルホルンが意図的に広めたものだ。厄祭戦で進化した技術が自分たちに反旗を翻す道具になって使われることを恐れてな」

「だからなんだ?」

「アインを救いたいのだろ?」

「もちろん。奴を俺は助けて……いやそれだけじゃない。俺は上官の敵を討ちたいというあいつの気持ちに………その思いに応えたいんだ」

「だからこそ阿頼耶識という手段が最良だと言っている」

「なぜ………なぜ阿頼耶識なんだ?」

「お前に教えてやろう阿頼耶識の本当の力を」

 

 オルガ達が蒔苗のところに向かっているとき、ラフタ達はもらった魚で夕食を食べていた。おいしそうに食べるラフタ達に対し、三日月たちは明らかに引いていた。

「マジかよ?」

「嘘だろおい……やっぱり食べ物じゃねぇよこれ」

「こっち………睨んでやがる」

「先にどうぞ」

「えっ!い……いやそっちが先に………」

「遠慮しないでいいから」

 三日月は魚を食べようとせず火星ヤシを夕食代わりに食べていた。

「ちょっと三日月!口ぐらい付けてくれたって!タービンズのみんなに手伝ってもらってすっごい大変だったんだから!」

「へぇ~」

「もういい!」

 まったく手を付けない三日月に対しアトラは料理を奪い取る。

「ん?うんま~!なんかよく分かんないけどすっごい複雑な味で!」

「嘘だろ?」

「そこまで引くことかな?」

 魚にドン引きするライドたちに対し、サブレは魚を食べながら不思議そうな声を出す。

「ほんとだって!火星に帰ったら自慢しよ「こんなの食べた」って」

「生臭い……生臭ぇよ………」

「あっ……クーデリアさんの仕事終わったら火星に帰るんだよね?火星に戻ったらクーデリアさんすごいことになっちゃうんだろうな。なんか手の届かない人になっちゃいそう」

 そういうアトラの目はどこか寂しそうだった。

 三日月たちが食事をしている傍らオルガたちは蒔苗との対話に入っていた。

「い~やいやいやいやよう来てくださった。わしが蒔苗東護ノ介だ。待ちわびておったよ長いことな。腹は減っとらんか?」

「蒔苗さん。あんまりゆっくりできる時間は俺たちにはないんだが」

 そういうオルガのセリフとは別にオルガにはこの先の展開がなぜかすべてわかっていた。

「ギャラルホルンならば心配無用。奴らはここには現れんよ。この島はどこの管理区域に属しておるか知っておるかな?」

「オセアニア連邦……ですね?」

「連邦の許可がなければ勝手に入り込むことはできないということですか?」

「ご名答!ふふっ。お前さん美形のうえに頭も切れる。や~結構結構」

「いえそんな……」

(もしそうなら………少し試すか)

 オルガは自分の脳裏によぎった予感が当たるのかを試すことにした。

「けどオセアニア連邦が俺たちを匿う理由もないでしょう?」

「ところが大あり。むしろあんたらに表彰状でも渡したいくらいに感謝しておるよ。うまく運んだんだよ。ドルトの改革がな。十分成功と言ってよかろう。地球と同等の条件を彼らは手にしたようだからな」

「そう……なのですか。実ったのですねあの願いは………」

「よかったですねお嬢様」

「ええありがとうフミタン」

「それもお前さんたちの動きがきっかけとなってな。そして、この先どうなるかわからんが、一時的にでもドルトの生産力は落ちるだろう。アフリカンユニオンにとっては大きな痛手だが、他の経済圏にとっては万々歳。その呼び水となった恩人をギャラルホルンに売り渡すような真似をオセアニア連邦はせんよ。いや~愉快!実に痛快!でなんだったかな?お前さんたちが来た理由は」

「それはアーブラウとの火星ハーフメタル資源の規制解放の件で……」

「そうだったそうだった。それはもうわしにとっても実現したいと常々考えておったとこだ。だが今は無理だな」

「無理?それはどういう……」

「わしは失脚し亡命中の身だからな。つまり今のわしにはなんの権限もない」

(やっぱりそうだ。このまま……)

「ちょっと待て!それじゃ俺たちはなんの力もない爺さんに会うためにこんなところまでわざわざ来たってことなのか!?」

「では……では私たちがやってきたことは無意味だったと!?」

「そうは言うとらん。まだまだ残っておるよ。逆転の目はな」

「話は分かった。んじゃ一度持ち帰ってほかの奴らと話………」

(そうだ……この爺さんはここで俺たちを………)

「持ち帰る?ぬるい……ぬるいな。お前さんら少し勘違いしとらんか?お前らはどうやって火星に帰るつもりだ?帰る手段がどこにあるっていうんだ?ええっ!?」

「ま……待ってください。なぜ急にそんな……」

「言うたはずだ。お前たちをギャラルホルンに売り渡さぬようオセアニア連邦が動いていると。だがそんな話わしの一存でどうとでもなる」

「脅す気か?」

「脅すも何も……まあいい。賢い選択ができるまでせいぜいゆっくり考えることだな」

 蒔苗との話し合いは終る中、オルガは———

(じゃあやっぱり………あの夢は本当になるかよ。だったら俺は!)

 一つの決意を固めた。

 

 オルガとビスケットは二人で蒔苗との会話からみんなのもとに歩いて戻っていた。クーデリアたちを先に行かせて。

「俺は決めた。蒔苗の話に乗るぜ。どっちを選んだってリスクがあるってんなら上りはでかいほうがいい。そう思わねぇか?……ビスケット」

 しかし、そんなオルガの言葉にビスケットはサブレの「健全に生きてくれ」という言葉と、兄の死が脳裏によぎり、オルガの言葉に反感を強く覚えた。

「帰ろう。目的はもう達成したんだ。あとはみんなで火星へ。テイワズに頼めば装備は無理でも俺たちだけなら……」

(そうだよな……お前はそうくるよな)

「それだけじゃダメだ。火星で細々やってるだけじゃ俺たちはただのちょっと目端の利いたガキでしかねぇ。いずれまたいいように使われるだけだ。のし上がって見せるんだ。テイワズからも蒔苗のじじいからも奪えるものは全部奪って……」

「やめてくれ!今のままでも十分じゃないか……仲間の事をもっと考えてくれ………」

「俺が仲間の事を考えてねぇってか?」

「そうじゃない!また危険な道をあえて選ぼうとするのはやめてくれって言ってるんだ!」

「考えたうえでのことだ!どう動くのが俺たちの将来の為になるのかって」

「ここで無理してまた誰かが死んだりしたらどうなる。こんなこと続けて将来も何も……」

「決めたことだ!前に進むためにな!それともお前は乗れねぇって言いたいのか!?それとも降りるってか!!」

 その言葉にビスケットは怒りを覚え怒鳴る。

「ああ!僕は鉄華団を降りる!!」

 ビスケットはだまって廊下の奥へと消えていった。

(それでいいんだよビスケット。お前が死なないでいてくれたら………俺は!)

 しかし、そんな思いとは別にオルガの苛立ちは全く収まらず、思いっきり壁をけりつけた。

 

「遅いな~兄さんたち」

 サブレはただ一人食堂でオルガとビスケットの帰りを待っていた。クーデリア達から聞いた話とその時の話し合いの結果をオルガ達に伝えようとサブレが代表してここで待っていた。すると、ドアを思いっきり蹴りつけるオルガに驚くと、サブレは目をパチクリさせ、オルガが入ってくるのを待った。オルガはそのまま勢いよく椅子に座る。

「………なにかあった?」

「ビスケットが鉄華団を降りることになった」

「へ?どういうこと?何があったらそういう話になるの?」

「………」

 オルガはどこか話しづらそうにしているのをサブレが感じ取ると、サブレは一つため息を吐く。

「まあ、オルガが本当に納得してることならいいけどさ……なんか、今のオルガは納得できてないような表情なんだよね……」

「どういう意味だ?俺が納得できてねぇっと?」

「そうじゃない?納得してる人はそんな風な顔をしないと思うよ」

 オルガは一瞬顔を背け、小さくため息をつく。

「ほんと……どうしてこうなっちまったんだろうな?」

「話しなよ。別に笑ったりしないし、怒ったりもしないからさ。俺たち家族だろ?」

「ああ、きっかけは………」

 オルガは語り始める自分が見た夢の話を。

 

「おうビスケット」

 雪之丞に呼び止められたビスケットはふと足を止める。

「えっ?ああ……まだやってたんですか?」

「タービンズのエーコって子に言われてな。地上戦闘用のサスペンションをいじってんだ。俺が役に立てんのはこれくらいしかねぇしなぁ。どうかしたか?」

 雪之丞はビスケットの変化にとっさに気が付いた。

「いえ……ちょっとオルガとぶつかっちゃって……」

 ビスケットは先ほどの会話を雪之丞に直に話した。

「いつまでもそんなにうまくいくかどうか……もっと穏やかな道を選んで行くことだってできるはずなのに……」

「そうかもしれねぇ。けどそうじゃねぇかもしれねぇ。先の事なんて誰にも分らねぇよ。オルガだってビクビクしながら前に進んでんだ。勘違いするんじゃねぇぞ。鉄華団はただのラッキーだけでここまでやってこれたんじゃねぇ。オルガがいて、みんながいて、そしておめぇがいたからだ。それともおめぇはいままでオルガが一人で走ってるつもりだったのか?思い出してみろよ。オルガがいの一番に頼ってたのは誰だ?」

「えっ?」

 ビスケットはふと言われた言葉で思い出してみる。

『力を貸してくれ!ビスケット』

 それを思い出した途端ビスケットは涙を軽く流した。雪之丞さんはビスケットの帽子を取り、頭をなでる。

「どうだ?」

「俺……ちゃんと謝らなきゃ………。オルガに……ひどい……ことを……」

「ああ、謝れ。そんでよ、ちゃんと話してみろ。いつもそうやってきたじゃねぇか」

 ビスケットは黙ってうなずき、雪之丞はビスケットに 帽子をかぶせてやる。

 

「………なるほどね夢で兄さんが死ぬか……」

 サブレはオルガからビスケットが死んでしまう夢を見たこと、そしてここ数時間で何度もデジャブをみていたこと、そしてビスケットが死んでしまうことが分かってしまったことを素直に話した。

「あいつがさ……生きててくれりゃ俺はそれでいいんだ。あいつが死ぬぐらいなら……」

「でもさ、オルガは本当にそれで満足?オルガは兄さんがそばからいなくなってしまうことが。違うよね?ほんとうはオルガは兄さんとこれからも歩いて行きたいんだろ?」

「でもよ!俺が前に歩くことであいつが死んじまうんなら俺は……」

「それはオルガが一人で歩いたらの話でしょ?だったら二人でちゃんと話しなよ。今までだってそうやってきたんじゃない?俺にはよくわからないけどさ。オルガがいの一番に頼ったのは兄さんだったんじゃない?違う?」

「………そうだな。いつのまにか俺一人で走ってるつもりだった。そうだよな、俺たち二人で走ってきたんだ」

「………謝りなよ。そして、今度は二人で話し合えばいい。まあ、兄さんに反抗させるようなことを言った俺の責任だけどさ。だけど、オルガも悪いんだから、謝ってそして今度は兄さんに話せばいい、そして二人で見つけるんだ。兄さんが死なない方法を」

「ああ……サンキュな」

 

 ビスケットは一人暗い中歩いていると反対側から一人の影が近づいてくる。それが少しづつ大きくなるとそれが三日月だとはっきり理解できる。三日月はビスケットの表情から何かあったのだとすぐに気が付いた。

「何かあった?」

「えっ?ああ、オルガと……その……喧嘩しちゃって」

 どこか申し訳なさそうにしながらビスケットは頭をかくと、三日月は表情を暗くさせる。

「俺……喧嘩は嫌だな」

「え?」

「俺オルガとビスケットが喧嘩するのは本当に嫌だ。なんか、シノやユージンがする喧嘩とは違って、こう………うまく言えないけど………なんか嫌だな」

「………俺もそう思ってたとこ。今から謝りに行こうかなって」

 そんな話をしていると、建物の方からオルガとサブレが出てきた。

「ミカ、ビスケットこんなところにいたのか」

「オルガ」

 二人の視界があい、どこか気まずそうな雰囲気が流れる中、サブレが気を遣う。

「砂浜の方に行ってきなよ」

「ああ、そうだな」

 オルガとビスケットが海岸の方に消えるのを二人で見届けると、三日月が話を切り出した。

「何かあったの?オルガ」

「聞く?オルガの話」

 三日月が黙ってうなずき、サブレは語り始める。

 オルガの夢の話を———

 

 二人で砂浜にたどり着くが、どちらも会話の始まりを切り出せずにいると、二人が同時に切り出した。

「ごめん!オルガ」

「すまねぇ!ビスケット」

 二人は同時に「えっ?」という声をあげると、同時に顔をあげ視界が合う。そして、二人は全く同時に笑い始める。

 二人は馬鹿らしく思い始めた。あんなに悩んで、喧嘩していたことがこんなにも簡単に済むのだと、そして自分たちは同じことを考えていたのだということにようやく気が付いた。

 オルガもビスケットも砂浜にしりもちをつくと、呼吸を整えた。

「本当にすまねぇなビスケット」

「謝るのはこっちのセリフだよ。オルガに一人で背負わせてた。そのつもりでいた」

「俺だってお前がいるのに一人で走ってるつもりでいた。でもよ、サブレに言われたよ、そして気が付いた。俺はお前と一緒に走ってたんだな」

「そうだね。なのに、俺は……」

 ビスケットがふと黙ると、オルガは語り始めた。彼の夢の話を———

「俺夢を見たんだ、お前が死ぬ夢。最初は夢だってそう思ってた。でも、この島に来てからはそれがデジャブのように感じた。そして分かったんだ。お前が死ぬんだって。でもさ、それは俺が一人で抱え込もうとしたからなんだって気が付いたんだよ。夢の俺は何でもかんでも一人で抱えこもうとしていた。だからお前を失ったんだ。だったらよ!俺はお前と話し合いながら進んでいけばいいだけなんだよな」

 オルガは立ち上がりビスケットを見下ろす。

「お前と一緒に………」

 ビスケットに手を差し出すと、ビスケットはそれを受け止め同じように立ち上がる。

「そうだね!俺たちで一緒に進んでいこう。……だったら一つ俺から約束があるんだ」

「聞くよ。お前との約束だ」

「たしかに俺たちは子供だ。だからオルガの焦る気持ちもわかる。でも、それでいいんだよ。俺たちはまだ学ぶ側の人間だ。マクマードさんやノブリス・ゴルドンのような人たちとは対等には戦えない。だったら、その人たちから少しづつ学んでいけばいいんだよ。そしたら十年、二十年先に俺たちだってあの人たちと並んで歩ける。だから焦らないでほしいんだ。もし、焦りそうになったら俺も力になるよ」

 ビスケットのそんな言葉にオルガ何よりも救われた。十年、二十年先を一緒にっと———

「そうだな。お前との約束だ。必ず守る。約束する。だから一緒に帰ろう!」

「ああ。オルガ、俺たちで鉄華団を支えていこう!俺たちで一緒に!」

 オルガはその言葉に涙が出そうになった。その言葉は夢でビスケットが自分に言おうとしていた言葉かもしれなかったからだ。オルガは涙をこらえ、笑顔で返す。

「ああ!俺たちで一緒に!」

 二人のかわされる握手はどこまでも固く結ばれた。




どうだってしょうか?十年、二十年先をちゃんと考えることができたらオルガもテレビのような事態になっていないのかな?と思い、今回のビスケットの言葉が思い浮かびました。次回はいよいよ島での攻防戦になります。
次回は『別の未来へ』です!お楽しみに!


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別の未来へ

いよいよ島での戦いです。並行してあの話が行われます。


「———ってことがあってさ」

「ふーん」

 サブレは三日月にオルガの夢の話を聞かせる。

「俺たちで守らないとね」

「うん。守ろう。俺たちで」

 二人はそう強く決意すると、建物の奥からタカキが急ぎ足で駆けてくる。

「何かあった?タカキ」

「三日月さん。サブレさん。さっき蒔苗さんから連絡があって……ギャラルホルンがすぐ近くに来てるって」

 タカキの言葉は自然と鉄華団を次の戦場に駆り立てようとしていた。

 

「じゃあ、俺はそっちをってことで」

「ああ、俺は………タカキ?」

 オルガとビスケットが歩いて砂浜から戻ってくると、ちょうどタカキが建物の中に急いで戻っていくところだった。オルガとビスケットは互いにアイコンタクトで意思疎通を図ると、一緒に三日月とサブレのもとに向かった。

「何があった!?」

「何があったの二人とも」

「あ、兄さん、オルガ」

「オルガ、さっきタカキからギャラルホルンがすぐそこに来てるって……蒔苗って人がオルガを呼んでる」

 オルガとビスケットは互いにうなづくと、三日月とサブレに頼み込む。

「ミカ、サブレ、お前ら二人に頼みたいことがある」

 三日月とサブレも互いにうなづく。

「「何をすればいい?」」

 二人の言葉にオルガとビスケットは半分あきれてしまう。

「あのな……こういうときは普通「なんで?」とかよ……」

「聞かないよ……オルガとビスケットが決めたことなんでしょ?だったら俺たちはついていくよ」

 三日月とサブレは何も聞かずただオルガとビスケットの決めたことに従う、かつてはそれを重いと思っていたオルガだが、今だけはとても頼もしく思っていた。

「ああそうだ。俺たちが生き残るのに必要なことだ。頼むぜ二人とも」

 

 オルガとビスケットは蒔苗のところにたどり着く。

「いやはや……やはりお前たちはただ者ではなさそうだわい。セブンスターズの第一席イシュー家の娘に目をつけられるとは。プライドの高い女だからのう。軌道上でお前たちをとり逃した汚名を濯ぐためさぞ滾っておることであろうな」

「やはりオセアニア連邦政府でも彼らを止められないと?」

「ここは絶海の孤島。エイハブ・リアクターの使用が禁じられている都市部ならともかく情報統制も楽だろうしな。でどうするんだ?鉄華団は」

「クーデリアの身柄を引き渡したところで無事じゃ済まされないって話をしたのはあんただろ」

「はて?そうだったかのう?」

「俺たちに残された道は一つだ」

 オルガとビスケットは一瞬だけ目を合わせる。メリビットとクーデリアも鉄華団が決めたことがなんとなくわかった。しかし、そこから先の言葉はビスケットが言った。

「俺たち鉄華団は蒔苗さんとクーデリアさんを連れて島を脱出します」

「それは……」

「気にすんな。俺とビスケットで話した結果だ。これが一番だってな、だろ?ビスケット」

「うん。俺たちは蒔苗さんの依頼を受けます」

「けどな爺さんこの仕事は高くつくぜ」

「結構!エドモントンのアーブラウ議会までよろしく頼むぞい。でまずはこの状況をどうするかな?」

「移動の船は私が手配します」

 

「はい。まだおかわりいっぱいあるからね」

 鉄華団が飯を食べていると、ヤマギは不安そうに空を見上げる。

「おめぇも食っとけ、もたねぇぞ。なんか見えんのか?」

「俺たち火星に帰れるのかな?」

「んなもん決まってんだろう。そのためにまず島から出ようってんじゃねぇか」

「その後は?島を出てもギャラルホルンは俺たちを追いかけてくるんだよね?」

「そのときゃ宇宙に逃げりゃあいい」

「宇宙に出ても火星に帰っても逃げなきゃなんないのは変わんない気がする。これからずっとこんな夜が続くんじゃないかってそう思えて……」

「心配すんなって!ギャラルホルンだろうが何だろうが俺らがぶっ飛ばしてやっから‼なっ三日月!」

「うん。邪魔な連中は全部潰す。そうでしょ?サブレ」

「ああ、オルガと兄さんの邪魔はさせない」

「先の事はこの島を出てからでいいよ。ここにいたんじゃ俺たちもクーデリアも何もできない」

 サブレはその場から移動しようとすると、アトラがかけてきた。

「サブレ、どこか行くの?」

「?兄さんの所に……」

「だったらこれをビスケットに」

 そういってアトラはサブレに食べ物を渡す。

「ビスケットに渡してあげて、多分おなかすいてるだろうし…」

「分かった。渡しておくよ」

 

「船の手配は済んだのかな?」

「はい、安心してください」

「それはそれは。一体どんな男を飼ってるのやら。革命の乙女はすっかりその気のようだな」

 そう言って蒔苗は席を外す。

「ごめんなさいフミタン。あなたを追い詰めたあの男と手を組まなければならないなんて……」

「気にしないでください」

「団長さんとビスケットさん。なにかあったのかしら?」

「………彼らもまだまだ子供。ちょっとしたことでぶつかってしまう。でも、そこから乗り越えることができたら。彼らは大丈夫でしょう」

「彼らを信じて、私たちができることをしなければ」

 

「おめぇの方は大丈夫なのか?」

「アガレスでMS隊の指揮をするだけですから。そのくらいはこなさないと」

「じゃなくてオルガとのことは……」

「もう大丈夫です。俺たちはきっと今まで以上にお互いを信じていけるはずだから。今はそれが分かるんです。これからは俺も同じように進んでいきます。俺たちは一緒に十年先の事を考えていきます」

「俺達……か、そいつを聞けりゃあ安心だ。オルガにゃおめぇみてぇなのが必要だからな」

 そういうと雪之丞はビスケットの背中に阿頼耶識の機械をつけると、バルバトスの方に歩いて行った。ビスケットもそちらに歩いて行こうとするが、出入り口のところからタカキが不安そうな表情で現れた。

「どうしたの?タカキ」

「ビ、ビスケットさん、俺………何でもないです」

「なんでも話してよ」

「………俺役に立てるか不安で。ブルワーズの時も、コロニーの時も大して役に立てなかったし、団長をビスケットさんやユージンさんの代わりにモビルワーカーで移動が俺なんかに務まるの不安で……」

 ビスケットは不安そうなタカキの頭に自分がかぶっていた帽子を代わりにかぶせてあげる。

「大丈夫。タカキならできるよ。タカキ、頑張るんでしょ?色々な仕事を覚えるって言ってたの嘘だったの?」

「う、嘘なんかじゃないです!今だって………でも不安で」

「俺だって不安だよ?俺なんかにMSの指揮ができるか。いまでもMSはなれないし……。でもね今のままじゃダメなんだって最近は思い始めたんだ。俺も全線で何かできるんじゃないかって。それを考えるきっかけをくれたのはタカキなんだよ?だからタカキにその帽子をあげるから、俺と一緒にがんばろ」

「あ、は、はい!俺頑張ります!」

 タカキは走って去っていき、オルガとすれ違う。

「いいのかお前の帽子をあげちまって」

「いいんだ。俺の帽子でタカキが少しでもやる気になってくれれば」

 二人はタカキが去っていったほうを眺める。

「お前ぐらいだよな。ガキの頃から俺の無茶に文句も言わず付き合ってくれたのは……」

(いや、違うか……お前はいつでも……)

「文句は言ってたよ、オルガが聞いてないだけだ」

「だったな。それが理由でお前がやめるって言い始めてその上お前が死んじまうんじゃ笑い話にすらなんねぇよ。ほんと……」

「だね。だったら俺たちがそれを笑い話に変えよう」

「ああ、頼むぜMS隊長」

 二人が話していると今度はサブレが飯をもって姿を現した。

「兄さんこれアトラが」

「ありがとう」

 そういうとビスケットは飯に手を付け、もぐもぐと食べ始める。

「サブレ、頼みがある。ミカたちを会議室に集めてくれ。作戦会議をする」

「分かった。三日月たちに伝えておくよ」

 そういうとサブレは三日月たちのもとに戻っていった。

 

「で?作戦って?今まで通りじゃダメなのか?オルガが指揮をとるってのじゃ?」

 シノをはじめ、鉄華団の主要メンバーが会議室に集まっていた。

「ああ、ビスケットと話したんだが、モビルワーカーでモビルスーツの前に出るのはやはり自殺行為だ。通信をするのにどうしても近づく必要があるしな」

「そこで考えたんだ。オルガがモビルワーカーの指揮を、俺がモビルスーツの指揮をするって。二つに指揮を分ければ、少なくともモビルワーカーの被害は少なくなると思う」

「たしかに、火星の時はひどかったもんな」

「ああ、最悪の事態を避けるためにも先の分断は必要だ。今までならそれができなかったが、今じゃ俺たちにはサブレとアガレスがある」

「異論はねぇぜ」

 シノたちの同意を得られたオルガ。一安心すると、シノから問いが出てくる。

「それよりよ。おめぇらは大丈夫なのか?何人かがよ、オルガとビスケットが喧嘩してるところを目撃してるんだよ」

「ああ、見られてたんだ。もう大丈夫だよ。仲直りはしたから」

「ならいいだけどよ。おめぇらが喧嘩してるとガキたちが不安がるからよ。あとでユージンに謝っとけよ。さっき連絡があったときおめぇらが来なくて怒ってたからよ」

「分かった。それじゃあおめぇら、頼んだぜ」

 

 島への攻撃が始まると三日月はバルバトスで外に出た。

「始まった。残ってるのはこれだけか。これ使いづらいんだよな」

 刀を見ながら渋っていると、三日月はその横に置いてあるアガレスの武器であるレンチメイスに目が行く。

「……まあいいか」

 と言いながらそのままレンチメイスをもって戦場に向かう。

 サブレたちは最後に格納庫から出てきた。

「まったく兄さんの準備を待ってたら遅くなったよ」

「ごめん。アガレスの操作方法を勉強してたら。俺だって役に立ちたいから……」

「まあいいや………あれ?俺の武器がない」

 サブレはレンチメイスを探すが、どこにも見当たらない。すると、雪之丞が下から叫んできた。

「おめぇの武器だったら三日月が持って行ったぞ」

「み・か・づ・き!」

 サブレは刀を持つとそのまま走って戦場に向かう。

 三日月が戦場に到着すると待っていたのはシノだった。

「来たか。あっ?それアガレスの武器じゃねぇか」

「早いもん勝ちでしょ?」

「三日月!!人の武器を勝手に持っていくな!」

「それ使いづらいし……」

「使い方を知らないだけだろ」

 シノたちはそれからの攻撃を眺めていた。

「好きだねぇ。お手本通りの飽和攻撃」

「モビルスーツには意味ないってのに、無駄撃ち大好きだよね金持ちって」

「昭弘。そこから船は狙える?」

 ビスケットがそう問うと昭弘はバスターライフルを構える。

「やってみる」

 しかし、その攻撃は大きく外れる。

「モ……モビルスーツからの砲撃です」

「戦いのセオリーを知らん火星のネズミが……仕方ない。こちらもモビルスーツ隊を出せ!」

 その間昭弘はラフタ達から文句を言われていた。

「ちゃんと狙えバカ!そんなんじゃ姐さんにどやされるよ!」

「あっいやだって……」

「地上では大気の影響を強く受ける。なにやってんだか……」

「さっきの感覚、体に残ってるだろ?それに合わせて撃てばいいんだよ」

「なるほどな!」

 今度の攻撃はしっかりと艦隊に当たった。

「右舷格納ブロックに被弾!被弾部より浸水を確認!」

「上陸部隊を先に出せ。終わり次第総員退避だ!」

 ギャラルホルンの船が退艦を始めるなか、ラフタ達は改めて阿頼耶識に感心していた。

「感覚だけで照準を補正するとはね」

「阿頼耶識ってやっぱずっこい」

「モビルスーツが出てきた!ラフタさんアジーさん!できれば海上でたたいてください!」

「「了解!」」

 海上で戦いが行われる中少し離れたところにいたビスケット達はその様子を眺めていた。

「こりゃ俺たちの出番はねぇかもな」

 しかし、そんな言葉とは裏腹にシノのモビルスーツに攻撃が当たる。ビスケット達の視線は上に向くと、大気圏を突破した敵のモビルスーツが降りてきた。

「ラフタさんとアジーさんは海から来た敵を頼みます。俺たちはこっちを」

 三日月たちが降りてきたモビルスーツに攻撃を向け、落ちてくるものをひたすら回避すると、敵のモビルスーツは降り立った。

「宇宙での借りは必ず返してあげるわ。我ら!地球外縁軌道統制統合艦隊!面壁九年!堅牢堅固!」

 それを言い終わる前に昭弘の攻撃が一機のモビルスーツにあたった。

「撃っていいんだよな?」

「当たり前じゃん」

「なに躊躇してんの?」

「少しかわいそうじゃないかな?」

「兄さんは黙ってる。あんな風にかっこつけるから悪いんだよ。ここ戦場だよ」

 三日月とサブレがつっこむ。

「なんと……不作法な!圏外圏の野蛮人に鉄の裁きを下す!」

「鉄拳制裁!」

「鋒矢の陣!吶喊!一点突破!」

 一気にモビルスーツが突っ込んでくる。

「来るよ。三日月は敵の陣形を崩して。俺たちで混戦に持ち込もう。そうすれば一気にこちらに勝機が出る!」

「分かった」

「ふふっ!踏みつぶしてあげるわ」

レンチメイスの一撃が一瞬で陣形を崩す。

「カルタ様!我らの陣が!」

「おのれ!」

「おらおら~!足が止まってんぞ!」

「今のうちに一気に攻めよう!」

「もうやってる!」

 シノとサブレも敵のモビルスーツに攻撃を仕掛けていくと、グシオンからの援護射撃が入る。

「こっちにゃ阿頼耶識があるんだぜ?乱戦になりゃ……。地球のギャラルホルンだろうがなんだろうが楽勝だぜ」

「油断はできないよシノ」

「おうよ!任せとけって」

「だから油断するなって」

 シノの背中に攻撃をしようとしたモビルスーツをアガレスが切って見せる。

「こいつ!フレームごと」

「ええい何をしているの!散開して各個撃破なさい!海上部隊はどうした!?」

「所属不明機と交戦中の模様!」

「ちょこまかと……」

 ラフタたちは海上の部隊に苦戦させられていた。

「くっ……抜かれた。昭弘そっちに二つ行ったよ!」

 敵のモビルスーツは昭弘のライフルを破壊することに成功した。

「どのみち残弾は少なかったんだ。それにこっちの方が……性に合ってる!」

 

「団長!ギャラルホルンの上陸部隊を確認しました。上陸部隊は屋敷の方に向かってます」

「ビスケットさんの読み通りでしたね」

「ああ、ギャラルホルンはクーデリアのお嬢さんと爺さんを無視できないはずだってのがあいつの読みだったからな。島の裏手を手薄に見せれば食いつくってな。まあ、空からやってきた部隊も含めて今のところ予想通りだ。MSはビスケット達に任せて俺たちは俺たちの仕事をこなすぞ!あいつらに心配かけさせるわけにはいかねぇからな」

「はい!」

「よしじゃあ次行ってみようか!」

「了解!」

 屋敷の目の前まで敵は来ていた。

「団長からの連絡はまだか!?予想より数が多いじゃねぇか!」

「文句言ってねぇで撃ちまくれ!」

「よく我慢したお前ら。敵の誘い込みは成功だ。引くぞ」

「了解!」

 鉄華団が引くと一気に敵の部隊が上陸する。

 

「このような無様イシュー家の戦歴に必要ない。このままでは……」

 一機一機と次々にやられていくモビルスーツ隊にカルタは焦りが止まらなかった。その時上陸した部隊とようやく通信が取れた。

「カルタ様!上陸部隊が目的の拠点を制圧したと報告が」

「そうか!それでクーデリアとかいう小娘は?」

「たっ……ただいま捜査中とのことです………」

「みつけてから報告なさい!」

 大きな爆発が起きたのをカルタをはじめモビルスーツ隊が確認できた。

「何が起こった!?」

「じょ……上陸部隊との連絡が途絶えました」

 オルガは少し離れたところからその様子を眺めていた。

「よし。あとは揚陸艇だけだ」

「ビスケットさんたちは大丈夫でしょうか?」

「心配ねぇさ。俺たちはあいつらが来た時の為に揚陸艇を奪取するぞ!」

 オルガはそのまま揚陸艇を目指して進み始める。

 その間鉄華団の別動隊が揚陸艇を確保していた。

「しかし子供ばかりだというのに大した手際だな。結構結構」

「あれで沖に出れば私の手配した船が待っています。行きましょう」

 

「アジーさん!ラフタさん!そっちの三機は任せます!三日月、サブレ、シノ、俺たちはこっちの五機だ」

「了解!」

「そういえばエーコに海水で濡らすなって言われてたんだっけ?まっこの状況じゃ仕方ないか」

「姐さんの機体に傷つけんなっての!絶対私が怒られんじゃん!」

「残りのモビルスーツを倒せば俺たちは安全に島を出られる」

「こんの~!いい加減やられろっての!」

「シノ!足元!」

「ああっ!?うわっ!どわっ!」

 シノはビスケットからの言葉でその場から急いで移動する。

「怖気づいたな!もらった……」

 ビスケットはアガレスの電磁砲で足場に仕組んだ爆弾を起爆させる。すると足場を失ったモビルスーツは一気に下に落ちていく。そして、シノは身動きが取れなくなったモビルスーツに容赦のない一撃を食らわせる。

「カ……カルタ様~!」

「こんな戦い……私は認めない!」

 三日月の容赦のない攻撃にカルタは防戦一方だった。アガレスや流星号も着実にモビルスーツの数を減らしていく中、カルタにはもう自分を守ってくれるような部下はいなかった。

「こんなところで……負けるわけには………。こんなの違う……私は恐れない!た、助けて……マクギリス」

「!!」

「今、マクギリスって……あの人の名前」

 三日月とビスケットはその名前に反応すると、そんな三日月に牽制の攻撃が入る。キマリスが戦場に割って入る。三日月とカルタの間に入ると、そのままカルタを回収し、その場から離脱していった。三日月が追おうとするが、それをビスケットが止めた。

「追わななくていいよ三日月。俺たちの戦いは終わった」

「そっちは無事?」

 ラフタ達も戦闘を終え、三日月たちに合流した。すると、雲行きが怪しくなってきた空から雨が降ってくる。

「俺たちもオルガと合流しよう」

 

「マクギリス……助けに来て……くれたのね………マクギリス」

 ガエリオは自分がマクギリスではないとは言えなかった。

「ああ。そうだ」

「私は……不様だった………」

「そんなことはない。お前は立派に戦ったよカルタ。だからもう安心しろ。まずは傷を……」

「あり……が……とう。マク……ギリ………」

「カルタ……ゆっくり休むといい。あとは俺たちが……」

 ガエリオは最後まで嘘をつき続けた。

 

 オルガたちは雨の中、揚陸艇の前でモビルスーツ隊を待っていた。

「ビスケット……無事だよな?」

 オルガがそんな心配をする中アトラは戦場から音が完全に消えたことに気が付いた。

「音が消えた」

「どうか皆さんご無事で」

 クーデリアが祈っていると、ラフタとアジーが先に姿を現した。

「お待たせ」

「待たせたね」

 続いてシノと昭弘も姿を現し、最後に三日月とサブレ、ビスケットも姿を現した。

「オルガ!こっちは大丈夫だ!行こう」

 無事な姿を見届けると自然とオルガの表情に笑顔がこぼれた。

「ああ!行くぞお前ら!」

 鉄華団の足並みは強く、別の未来に向けて歩き始めた。




どうだったでしょうか?面白いといっていただけたら幸いです。今回は島での戦いと並行して最後の嘘の話も少しだけ入っていました。いよいよ、一期の話も大詰めです。
次回のタイトルは『道』です!


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最新話です!いよいよエドモントンでの戦いの前の話になります。話としては完全にオリジナルの話になります。そして、新しい名前も登場します!


「気をつけろよ!壊すんじゃねぇぞ!」

 鉄華団は今まさに島から出るための準備に取り掛かっていた。揚陸艇に次々と荷物が運び込まれていき、出立の時を今か今かと蒔苗は待っていた。

「もう!あれだけ海水につけるなって言ったのに!」

「仕方ないでしょ?あの状況じゃ」

 ラフタ達は格納庫で話し合っていた。

「しかし、大した子供たちだね。あれだけの戦闘をしておきながらまだ体をうごかす余裕があるんだから」

「だね。でもさ、あたしたちと戦った時はどこか戦い方が雑っていうか、どこか戦術指揮が行き届いてない感がしてたじゃない?やっぱアガレスが入ったからなのかな?」

「そうかもしれないね。ビスケット君がモビルスーツの指揮をしてくれるおかげで大分戦いが楽になった感じはするね。まあ、サブレ君に言わせれば今のアガレスはシステム上の負荷が多くて本来の性能を出し切れてないって言っていたけどね」

「それってさ、もう少し何とかならないの?まあ、今のままでも十分強いとは思うけどさ」

「なんとかならなくはないよ?ただ雪之丞さんとも話したんだけど、やっぱり下手にいじくると動かなくなる可能性があるのよね。テイワズの整備長さんに直接見せたほうがいいとは思うの。まあ、データだけは渡したけど」

「整備長さん、騒いでなかった?」

「大興奮だったらしいよ。なんでも「バルバトスに続いてアガレスまであるなんて!!しかも、整備できるかもしれないなんて!!!」って騒いでたって」

「騒いでそうだね。バルバトスの時もすごかったんでしょ?まあ、ガンダムフレームって今じゃ珍しい、それこそギャラルホルンぐらいしか持ってないんじゃない?」

「それを三つも所持してる鉄華団って………」

 三人がガンダムフレームを見上げると、そこには変わらない姿で立ち尽くすガンダムの姿が有った。

 

「オルガ。雪之丞さんがモビルワーカーの積み込みがそろそろ終わりそうだって」

「分かった。ビスケット、それが確認でき次第モビルスーツ隊に船へ移動の準備をさせてくれ。護衛してもらいながら船へ急ぐ」

「了解」

 ビスケットが通路の奥に歩き出そうとするのをオルガが不意に止めた。

「ビスケット。今度からはなんか不満があるなら俺に隠さず文句を言ってくれ。お前からの言葉だ、俺も真剣に受け止める。どうだ?」

「分かった。今度からはそうするよ。オルガも今度から俺からの意見を反映してくれるんでしょ?」

「ああ、当たり前だ」

 ビスケットはそれを確認すると、再び歩き出す。

 オルガはそのままビスケットとは別の方向に歩いていくと、奥からタカキがやってきた。

「団長。おやっさんが積み込みが終わったって」

「分かった。悪いがビスケットにそれを報告してやってくれ」

「了解です!」

 

「熱い……熱い………熱い」

 サブレは食堂の机に体を預け、だらけきっていた。クーデリアとアトラが両サイドからうちわで扇ぐ。

「大丈夫ですか?」

「熱いのダメだったの?島に上陸したときは大丈夫そうだったけど……」

「別にそこまで苦手じゃないけどさ……、さすがにそろそろ限界が……」

「サブレ、そろそろ出発の準備だってさ」

 シノが呼びに来ると、サブレはゆっくりと顔をあげる。

「おお、だらけきってんな。ほれ、そろそろ行くぞ」

「熱いのなんてこの世界から消えてしまえばいいのに……」

 そんな呪いのような言葉を吐きながらサブレはシノと共に格納庫に向かった。

「船で会いましょう」

 そういうとクーデリア達も揚陸艇のところに向かった。

 

「お前らなあ!二人そろって連絡に出ないとか!」

「すまなかったなユージン」

 オルガ達鉄華団は無事船に乗り込むことに成功した。その直後船にユージンからの連絡が届いた。

「ごめんユージン。色々あって……」

「まあ、いいんだけどよ。で?何があったんだ?」

「その………オルガと喧嘩しちゃって」

「はぁ?喧嘩?」

「ああ、まあもう大丈夫だ。それよりそっちはどうだ?」

「こっちは特には問題ねぇよ。降りられそうだったら俺たちも降りるからよ」

「ああ、任せたぜユージン」

 オルガとビスケットは通信を終えると、廊下に出て歩き出し始める。二人は蒔苗の部屋へまっすぐ向かう。部屋に入ると蒔苗とクーデリア、フミタンが待っており、二人も近くの席に座った。

「ではそろそろ話をしようかの。アーブラウ議会へ向かう方法じゃが、お前さんたちは何かいい案があるかの?」

「といってもな。俺たちは地球は初めてだし、アンタこそなんかいい案は無いのかよ」

「今の状況を考える限り正面突破以外がいいですね。戦力を見ても正面から攻めても勝てませんし。なにか隠れてエドモントンの近くまで行ければいいんですけど……」

 そうするとクーデリアが立ち上がった。

「私に提案があります」

 

「アラスカ?」

 オルガとビスケットはメンバーの一部を会議室に集めた。

「ああ、俺たちはアラスカを目指す。そこからエドモントンへまっすぐ向かう」

「まあ、それはいいんだけどよ。なんでアラスカなんだ?正面から行きゃいいじゃねぇか」

「とんでもない。ギャラルホルンは俺たちがエドモントンに行くことぐらいは読んでる。だとするならエドモントンへの海路はギャラルホルンに抑えられてる。俺たちの戦力じゃ正面突破なんてすれば落とされるだけだ」

「そこでアラスカに行くという案がお嬢さんからでた」

「で?なんでアラスカなんだ?」

「アラスカからエドモントンまで直通の列車があるんだって。定期的に貨物を運ぶ便があるらしくて、それにまぎれて移動して、隠れてエドモントンの近くまで行く。ついでにアラスカでモビルワーカーの補充もしてね。列車の手配は蒔苗さんとクーデリアさんがしてくれるって。議会を押さえていられるのも限界があるからなるべく早く近づかないといけないんだ」

「モビルワーカーの補充は必要なのか?今のままでもいいんじゃ……」

「それがそうも言ってられないんだ。俺たちが安全に火星に帰る最低の条件は蒔苗さんの当選なんだ。たとえ蒔苗さんを連れて行っても蒔苗さんが当選しなかったら意味はないんだ。その場合は俺たちは永遠にギャラルホルンに追われることになる」

「そうなりゃあ、火星に帰ることは不可能になる。となれば俺たちが契約を反故にするわけにはいかねぇってわけだ。都市でのエイハブリアクターの使用は禁止されている。となれば、モビルワーカーで戦うしかない。だが俺たちが現段階で保有してるモビルワーカーは少ない」

「そこで蒔苗さんがモビルワーカーをいくつか俺たちにくれるそうなんだ。それをアラスカで受け取る」

「なるほどな。まあ、そういうことなら別に文句はねぇさ」

 全員が納得したところで話し合いは無事に終わった。

 オルガとビスケットが部屋から出ると、三日月とサブレが近づいてきた。

「オルガ、さっき船に俺たち宛ての荷物が届いているから確認してくれって」

「荷物?聞いてねぇぞ。ビスケット何か聞いてるか?」

 ビスケットも知らないと首を横に振る。荷物を確認するために歩きながら荷物が置いてある場所に向かうと、そこにはコンテナが十個ほど積まれていた。

「これか?中身は何だ?」

「え~っと……モビルスーツの武器、弾薬だね。あと装甲や推進剤」

「なんすかこれ」

 ライドやシノたちも次々とコンテナの前に集まってくる。

「で?これを届けた人物の名前は載ってるのか?」

「うん。マハラジャ・ダースリンって書いてるよ」

 みんなの頭に?が浮かぶ中それを聞いていたラフタ達が反応した。

「マハラジャってあのマハラジャ?ギャラルホルンを変えようとして殺された?」

「知ってるんですか?」

「知ってるっていうか。有名な人物だよ。それこそ地球圏じゃ知らない人間はいないんじゃないかな?」

「だね。ギャラルホルンでありながらたてついた愚かな人間として語られてるよ。なんでもアリアンロッドに殺されたって話だ」

 そんな話をしていると、その話にサブレと三日月が遅れながら入ってきた。

「結局誰だったの送り主」

「マハラジャ・ダースリンだってよ」

「ふ~ん。じゃあこれマーズ・マセが送ってきたんだ。爆弾でもついてるんじゃない?」

「「「!!!」」」

「サブレ!今なんて!?」

「?だからマーズ・マセが送ってきたんじゃないの?」

「どういうことだ?なんであの男の名前が出てくるんだ」

「だってフォートレスの工作員が使う偽名にその名前があるから。特にマーズ・マセがよく使う名前だよ。といっても相手によって変えるらしいけど。あまりギャラルホルン相手には使わないけどね」

「じゃあ、知ってるんだマーズ・マセは……」

 サブレはラフタ達からマハラジャ・ダースリンの話を聞く。

「俺が知ってる話とは違うな………。マーズ・マセはマハラジャ・ダースリンを愚かな友を信じてしまった男って言ってたからさ。騙された男って言ってたかな」

 すると、後ろから蒔苗がやってくる。

「おお、届いておったか」

「これあんたが?」

「そうじゃよ。フォートレスという宇宙海賊がこれを売却したいと言ってきてな。まあ、例によってバカにならん金額を請求されたがな。なんでもアガレス代も含めて請求するとかなんとか……」

「だったら爆弾が仕掛けられてたりはしてないかな……。念の為に確認しておいた方がいいかもしれないね」

 そういうと鉄華団が総意でコンテナのチェックが始まった。

 

 コンテナのチェックが終えたころ整備班は早速届いたモビルスーツの部品で整備が始まっていた。

「ヤマギ!グシオンの方は任せるぞ。こっちはアガレスとバルバトスのチェックだ」

 アガレスとバルバトスが少しずつだが変わろうとしていた。両機は長期戦を想定した装備に変更しようとしており、三日月とサブレとビスケットもそっちの手伝いをしていた。

「ビスケットさん。聞きたいことがあるんですけど」

「ああ、そこは……」

 タカキやライドらに囲まれてビスケットは整備の手伝いをしているのをオルガは少し離れたところから覗いて少しだけ笑っていた。オルガがいることに気が付いた三日月がオルガのもとに移動する。

「どうしたの?ビスケットを見つめて」

「いや……なんだろうな。よかったって思ってよ?」

「?」

「夢みたいなことにならなくてよかったって思ってよ。あいつが船に乗って仕事をしている姿を見るとそう思わされるんだ」

「オルガが努力したからじゃない?それにビスケットが言ったんでしょ?一緒に帰ろうって」

「そうだな、一緒に帰らねぇとな」

 二人は拳をぶつけ合う。

 

 アラスカに到着した鉄華団は列車への積み込み作業を行っていた。その中オルガとビスケットはモビルワーカーの確認作業を行っていた。

「これでモビルワーカーはすべてになります」

 目の前には二十ものモビルワーカーが並べられており、雪之丞たちが一つ一つを列車に積んでいく。

「オルガ、俺は積んでいくモビルワーカーのチェックに入るよ」

「ああ、頼んだぜ」

 ビスケットは列車の中に入っていくと、メリビットが後ろから声をかけてきた。

「団長さん。船から列車への積み込みが終わったそうです。あとはそのモビルワーカーだけですね」

「すんません。止めないんすか?俺たちの事」

「止めません。ビスケット君が止めないのなら私が何を言っても無駄でしょう?それにビスケット君がいればよっぽどのことがない限り大丈夫でしょうし」

「全部お見通しかよ」

 オルガはどこか照れくさそうにしながら表情を隠す。メリビットはそれをクスクス笑う。

「何かあったんでしょうね。地球に降りる前と後で二人の信頼関係が変わったように思って。多分、みんななんとなくそう思ってるんでしょうけど、ビスケット君が変わったというのもあるんですけど、多分一番変わったのは団長さんなんでしょうね」

「はぁ?俺っすか?」

「ええ、団長さんは気づいていないことかもしれませんが………私はいいことだと思いますよ」

 そういいながらメリビットは列車の中に入っていく。

 

 列車が走り出すとオルガと三日月は二人で話していた。

「なあ、ミカ。俺変わったか?」

「じゃない?」

「自分じゃよく分かんなくてよ」

「ビスケットが前に言ってたんだ「オルガにはもっと俺たちを頼ってほしいんだけどね」って。俺もそう思う」

「焦ってたんだろうな。多分だけどよ、お前らを俺が守らねぇとって。そう思ったらあせっちまったんだ。自分でも情けねぇよ」

 そのタイミングでビスケットが姿を現したのを三日月が確認すると、三日月はそのまま部屋を出ていこうとする。

「俺サブレと見張りを交代してくるよ」

「何の話をしてたの?」

「なんでもねぇよ。遠いな………」

「もうすぐだよ。きっと……もうすぐ」

 ビスケットはマフラーで口元を隠しながら寒そうにしている。

「寒いんなら部屋にいていいんだぜ。少なくとも廊下よりましだろ?」

「オルガは平気?」

「ああ、問題ねぇよ」

「俺も大丈夫だよ。あと少しだし……」

 三日月は見張りをしていたサブレのもとにたどり着いた。

「見張り交代する」

「了解。うー寒い」

 サブレと交代で見張り台に乗る三日月。

「そういえばさ、どうして兄を殺したの?」

「唐突だな。なんで急に?」

「気になったから。兄弟だったんでしょ?どうしてかなって」

「……嫌いだったのは本当だよ。俺はサヴァラン兄さんが嫌いだった。あの日も俺とサヴァラン兄さんは喧嘩して……俺が出ていくって怒鳴ってしまって。で、結局そのまま……。まあ、殺したのは少し申し訳ないとは思うけどさ……。でも………なんでなんだろ?」

 三日月は見張りの目をけっしてやめることなくサブレの話を聞いていた。

「難しいね。なんか……」

「そうだね」

 

 列車の外の景色は雪景色から一変していた。列車はエドモントンに近づいていると、クーデリアとフミタンの目の前の窓からはエドモントンが遠くに確認できた。

「あれが……」

「はい。お嬢様の目的地……」

「エドモントン」

 そしてオルガと三日月、ビスケットとサブレも四人でエドモントンの街を見つめていた。

「あそこがエドモントンだってよ」

「着いたんだね俺たち」

「あと少しだ……。もうひと踏ん張りするか!」

 オルガが拳を前に突き出すと、三日月がそれに合わせて拳を突き出す。ビスケットは何のことか最初わからなかったが、すぐに理解し、サブレと一緒に拳を前に突き出す。

「行くぞ!一緒に帰るぞ!」

「「「おお!」」」

 拳を四人でぶつけ合う中、四人の絆は強さを増していた。




どうだったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。今回名前として出てきた『マハラジャ・ダースリン』は今後重要な人物として何度も出てきます。この人物こそが別の結末に大きく関係してくる人物です。
次回は『未来の報酬』です。エドモントン戦の前半戦が始まります!


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未来の報酬

ついにエドモントン戦前半戦です!


 鉄華団がエドモントン侵入を阻むギャラルホルンと会敵しすでに三日が経過していた。オルガ達モビルワーカー隊が一進一退の攻防を続け、その間ビスケット率いるモビルスーツ隊はモビルスーツをオルガたちに近づけまいと防衛線を張っていた。あと少しという壁がいまだ越えられず、地道に死傷者を出しつつあった。

「まだ突破できんのか?」

「彼らを疑うような言葉をここで口にしないでください。あなたの心ない言葉が背後からの攻撃にもなる」

「もちろんわしは信じておるよ。奴らならきっとたどり着くと。わしが案じているのはそれまでに流れる血の量の話だ。あの二人の采配のおかげか、そこまで目立った死傷者を出しておらんが、これでは埒が明くまい」

 モビルスーツ隊もモビルワーカー隊も疲弊の色が隠せずにいた。

「昭弘!シノのカバー!」

「了解!」

「ごめん!三日月アガレスにまた一機!」

「分かった。こっちは何とかする」

「くそ!アガレスばっかり狙いやがって!」

「分かってきたんだね。アガレスが指揮をしてるって……」

 アガレスに襲い掛かろうとしたモビルスーツを三日月のレンチメイスが引き飛ばす。しかし、すべてのモビルスーツをさばけるわけじゃなく、一機のモビルスーツがアガレスのもとにたどり着く。アガレスはモビルスーツの攻撃を受け止め、メンチメイスで叩き潰す。

 しかし、その間オルガたちは一時的に撤退を始めていた。

「一度引くぞ!」

 そしてギャラルホルンのモビルスーツ隊も陣形を崩されたことにより引こうとしていた。

「すみません隊長!陣形が崩されました!」

「退却して立て直す!」

「ああっもう!また逃げた!」

「乱戦になったら不利だって学習したんだね。向こうもよくやってる」

「敵を褒めんな!」

「私たちもよくやってるよ。もう三日もここで耐えてるんだ」

「こっちも一度引きましょう。オルガたちも引いたみたいだし」

「「「了解!」」」

「やっと飯が食える」

「はぁ!?マジかよ。食える気がしねぇ……」

「どうなってんだお前は……」

「サブレも食べる?」

「断る。俺も無理……胃に通らない。兄さんが食べるよきっと」

「え!?俺も無理!」

 一度拠点まで引くと補給を行うものとけが人の処置を行うもので拠点がごった返していた。

「ほらほら急げ!補給にメンテやることはいっぱいだよ!」

「大分減っちまったな」

 大量に用意していたモビルワーカーも数えるほどに数を減らしていた。

「オルガ!」

「ビスケットか?そっちはどうだ?」

「似たようなもんだよ。よくてあと二回……」

「三日月さんたちがいれば防衛線の突破も簡単なのに……」

「その三日月さんやビスケットさんが後ろを押さえてくれるから俺たちが戦えてるんだろ。それに……」

「エイハブリアクターを街に持ち込むだけで都市機能がやられちまう」

「うん。それを理由に蒔苗さんが世論を敵に回したんじゃ意味がない」

「時間の方は?」

「市街地に入っても議事堂までは距離があります。もう時間がありません」

「オルガ。川の水が引き始めてる。今なら……」

「もう手段を選んでる場合じゃないってことか」

 二人が悩んでいると、ライドが走ってくる。

「次は俺にも一緒に行かせてください。モビルワーカーは空きがあるんでしょ?」

「それがどういう意味か分かってんのか?」

 ライドは黙ってうなずくと、オルガとビスケットは互いに目で確認する。

「分かった。ライドの覚悟は受け取ったよ。オルガ」

「ああ、準備しろ」

「はい!」

 オルガとビスケットは通信機の前にたどり着く。

「ミカ、サブレ聞こえるか?今から最後の攻撃に出る。かなり危険な賭けになる。どうしたってそれなりの被害は避けられねぇ。あいつらにそれを押し付けなきゃならねぇんだ」

「俺も背負うよ、オルガ……」

「俺はもうオルガに賭けてるよ。ううんオルガだけじゃない、ビスケットにだって賭けてる。俺だけじゃない、サブレやみんなだって二人に賭けてる。だからオルガとビスケットも賭けてみなよ俺たちに。鉄華団のみんなに」

「………ビスケット」

「賭けてみよう。みんなに」

 オルガとビスケットはみんなを広場に集めた。

「聞いてくれ。もう時間がねぇ。うまくいこうがいくまいが次が最後の作戦だ」

「メリビットさんは負傷者を連れてここから離脱してください」

「………わかりました」

「悪いがお前らには囮になってもらう」

「みんなが囮になっている間にオルガのモビルワーカーと蒔苗さんを載せた車が一気に川を渡る。これ以外に今回の作戦を成功させる手がない」

「ビスケットの言うとおりだ。俺たちが火星に帰るためにもこの作戦を成功させなきゃらねぇ!これが俺とビスケットが考えうる唯一の作戦だ。もし、この作戦に乗れねぇんなら負傷者と一緒に引いても構わねぇ。けど乗ってくれるんなら……」

 オルガとビスケットの視線が合い同時に声を出す。

「お前らの命を賭けてくれ!」

「みんなの命を賭けてほしい!」

「………」

「何も言わなくていいのか?言うならここしかねぇぞ」

「何も言いません。あの二人が悩んで決めたのならもう、私が何を言っても無駄でしょうし……。今は彼らを信じます」

「あんたは正しいよ。けど、あの二人も正しい」

「はい」

 雪之丞とメリビットはもう彼らを信じてあげることしかできなかった。

「たとえおめぇらが死んじまっても俺とビスケットがちゃんと抱えて生きていく。おめぇらの命は消耗品じゃねぇんだ!鉄華団がある限りな!ここまでの道で死んじまった奴らがいる。あいつらの命は無駄になんてなってねぇ。あいつらの命もチップとしてこの戦いに賭ける。いくつもの命を賭けるごとに俺たちが手に入る報酬……未来がでかくなる。けどな……これだけは約束する………一緒に帰るぞ!!!」

「「「おお!!!」」」

 それぞれがそれぞれの場所へと向かう。その先はきっと未来につながっていると信じて。

 

 蒔苗とクーデリアは車に乗り込むと、フミタンがそばまでやってきた。

「すみませんお嬢様私はお供できませんがどうかご自分のなすべきことを忘れないように」

「ええ、行ってきます。フミタン」

 フミタンがそばを離れると、その場にビスケットが駆け寄ってきた。

「アドモスさん。今いいですか?」

「ええ、かまいませんが?」

「アドモスさんに頼みたいことがあるんです」

 二人が少しずつ離れていくと、アトラが車の運転席に座る。

「アトラさん!?なんで……」

「戦う人の手が足りないんで運転は私がします。団長さんとビスケットの許可はもらってきました。三日月の代わりに私がクーデリアさんを守ります。それが私の革命なんです」

(そうだ。これはもう私だけの戦いじゃない)

「残さず賭けるよ。俺の全部」

「行くぞお前ら!」

「俺たちも行くよ!」

 それぞれがそれぞれの戦場に向かう。

 

 ギャラルホルンの陣地に大きな爆発音とともに攻撃が仕掛けられる。

「おらぁ行くぜ~!」

「これで最後だからな!」

「混乱している隙に数を減らそう!」

「「「了解!」」」

 しかし、三日月の前にキマリスが立ちふさがる。

「カルタ任せてくれ。お前の無念は俺が晴らして見せる。そしてギャラルホルンの未来を俺たちの手に!」

 そしてモビルワーカー隊も命がけの作戦に打って出た。正気とは思えないほどの行動にギャラルホルンはたじろいだ。

「ダメです!いくら撃っても突っ込んできます。正気じゃないですよ!」

 一人……また一人と次々にやられていくモビルワーカー隊。

「よし!橋に敵が集中してきた!」

「でも火力が違い過ぎて川を渡るまでみんながもちませんよ!」

「でもやるしかねぇ!今しかチャンスがねぇんだ!」

 自分に言い聞かせるように叫ぶ。その時ギャラルホルンのモビルワーカーに別方向からの攻撃がやってくる。

「なんだ!?」

「ようオルガ!ヒーローのお出ましだ!」

「その声……ユージン!」

「俺たちもいるぜ!それと……」

「こいつらも一緒だぜ!」

「また居場所がなくなるのは困るんだよ」

「給料もらってないしな」

「兄貴にまだ文句を言い終わってないし!」

「敵はこっちで引き受ける。行けよオルガ!」

「よし……行くぞ!」

 勢いよく川を渡るオルガ。しかし、モビルスーツ隊も戦局に変化が出ようとしていた。

「コーリス・ステンジャ。お前たちはモビルワーカー隊の援護に向かえ」

「しかしキマリス一機だけでは……」

「問題ない。行け」

 一部のモビルスーツ隊がモビルワーカー隊への編後に向かう中、ビスケットが反応した。

「オルガたちの邪魔はさせない!サブレ!昭弘!俺たちで止めよう」

「おう!」

「了解」

 アガレスとグシオンが追いかけていく中、戦場に一機のモビルスーツが現れた。周囲のモビルスーツに比べて巨大なモビルスーツがラフタ達の前に立ちふさがった。

「何?このおっきいモビルスーツ……」

「データにはない機体だけど……行くよ!」

「もらった~!」

 ラフタの攻撃をきれいに避けて見せる巨大なモビルスーツ。

「今の反応……阿頼耶識!?」

 アインのモビルスーツは瞬く間にアジーのモビルスーツを頭部ごと叩き潰す。

「分かる……考えなくても分かる。これがそうなんだ。これこそが俺の本来あるべき姿」

 その時、オルガたちは街へ強引に入り込み、議事堂へ一気に駆け抜けていた。

「本当に囲いを破り街に入りおったか。しかしこいつらへの報酬か……こりゃあ高くつきそうだわい」

「街ん中の警備は薄いな。タカキ!このまま一気に行くぞ!」

 アジーがやられたことによりラフタの混乱は一気に高まった。

「アジー!アジー返事して!なんなのよこいつ……!」

 ラフタの攻撃を瞬く間に回避し距離を詰めてくるアインにラフタは気持ち悪さを覚えた。

「動きが読めない。気持ち悪い。これ……三日月以上」

「ラフタさんあぶねぇ!」

 ラフタへの攻撃をシノが庇う。しかし、そんな行動も意味はなくラフタへの容赦ない攻撃がコックピット付近に当たる。

「どこを見ている!お前たちはここで終わりだ!あれこそが阿頼耶識の本来の姿!モビルスーツとの一体化を果たしたアインの覚悟はまがい物のお前たちを凌駕する!」

 そしてシノもまたアインの攻撃の餌食となった。

「クランク二尉やりましたよ!あなたの機体を取り戻しました!きっと見ていてくれますねクランク二尉。俺はあなたの遺志を継ぐ」

「モビルスーツ隊聞こえるか!?オルガとクーデリア達は市街地に入ったぞ!」

「ク……ク…クーデリア・藍那・バーンスタイン!」

 そう言うとアインはその場を後にした。

「お前だけは俺が倒す!」

「ビスケット!一機突破した!」

「え?オルガ!」

 オルガたちが街を駆けているころ、いよいよアインが駆け付けようとしていた。

「議事堂はまだなのですか!?」

「次の信号を右に……」

 しかし、その信号は機能を失っており、明かりはともっていなかった。

「えっ!?信号が!」

「団長!LCSを除くすべての通信が切断、レーダーも消えました!これって……」

「正気か!?奴らこんな街中に……モビルスーツだと!?」

 オルガたちの目の前にアインが立ちふさがる。その衝撃で車が横転してしまう。

「そうだ……思い出しました。俺はあなたの命令に従いクーデリア・藍那・バーンスタインを捕獲しなければならなかった!」

「私がクーデリア・藍那・バーンスタインです!私に御用がおありですか!」

 クーデリアがアインの前に出る。

「ああこんな所にいたのですね。CGSまでお迎えに上がったのですが……こちらについてきてくださればクランク二尉が死ぬこともなかった!そもそもあなたが独立運動などと……」

「一瞬でいい!お嬢さんが逃げる隙を!」

 団員が隙を作ろうとするがまるで相手にされず殺されてしまう。

「ああそうかあなたのせいでクランク二尉は……」

「私の行動のせいで多くの犠牲が生まれました!しかしだからこそ私はもう立ち止まれない!!」

「その思い上がり……この私が正す!」

 斧を振り上げ、振り下ろそうとするアイン。アトラが庇うようにクーデリアに抱き着くと、間一髪のところでバルバトスが割って入る。

 そして、ガエリオの邪魔をしたのはマクギリスだった。

「なっ……何が起こった?今のは……貴様か……俺の邪魔をしたのは!」

「君の相手は私がしよう」

 ついにマクギリスはガエリオの前で仮面を脱いだ。

 オルガ達の目の前に降り立ったバルバトスはアインと対峙する。

「そうだよな。お前が俺たちをこんなところで終わらせてくれるはずがねぇ。なあ?ミカ」

「行くぞ!バルバトス!」

 その時、アガレスの方にアインと同じモビルスーツが姿を現した。

「あれはラフタさんたちを倒したモビルスーツ!?」

「しかも二機も……」

「昭弘ここは任せる」

「!……ああ任せろ!」

 アガレスが二機のモビルスーツの前に立ちふさがる。

「カルタ様の敵!」

「ここで討つ!」

 アガレスに同時に攻撃がやってくる、しかし、さばききれるものでもなくアガレスは軽く後ろに吹き飛ぶ。

「なんだこの機体の動かし方。俺や三日月以上なんて………どうやったら」

 アガレスが攻略に悩んでいると、二機のモビルスーツの後方からパイモンが姿を現した。

「それは彼らが人間をやめてしまったがうえの力だな」

「パイモン!?」

「マーズ・マセ!?なぜあんたがここに?」

「俺は俺の仕事を果たしに来ただけさ。そのためにはこいつらが邪魔だ。共闘しよう鉄華団」

 パイモンとアガレスもまた彼らと対峙するなか未来を賭けた最終決戦が幕を開けた。




どうだったでしょうか?バルバトスとアガレス、パイモンはなんとあのアインと同じモビルスーツとそれぞれが最終決戦になりました。彼らがどうやって勝つのか楽しみにしていてください。
次回は『鉄華団』です!後半戦に続く!


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鉄華団

いよいよエドモントンの最終決戦です!


 三日月がアインの前に立ちふさがると、アインは三日月に怒りを覚える。アインの前にクランク二尉の影がうろつく。

「また……またお前か!クランク二尉を手に掛けた罪深き子供!」

「誰?そいつ」

「おお~はよ出してくれ」

「分かってるよ!」

 車の中から蒔苗の声が聞こえてくるとオルガは車に向かって駆け出す。

「急ぐぞ。俺らがここにいたんじゃミカが動けねぇ!」

「クーデリアさん」

「……はい!」

「なんてことだ……君の罪は止まらない。加速する」

「ミカ待たせた。俺たちは議事堂へ向かう。そっちは任せたぞ」

 三日月が答える前に通信機からビスケットの声が聞こえてきた。

「オルガ!そっちは無事?」

「ビスケットか!?お前どうやって通信を?」

「アドモスさんがエドモントンの周辺から都市部に向けてLCS通信用のドローンを打ち上げてくれてる。俺が頼んでおいたんだ」

「助かった!爺さんのことはこっちに任せろ!ミカ、ビスケット、サブレ、昭弘、ユージン!そっちは全部お前らに任せるぞ!」

「「「ああ!任された!!」」」

 通信機の奥から仲間たちの頼もしい声が聞こえてくる。三日月がアインに向き合うとアインは立ちふさがる三日月に怒りを覚える。

「クランク二尉。このままではあなたの涙は止まらない。俺はこの戦いをもって彼を悔い改めさせて見せます!」

「おいもう時間がないぞ」

「分かってる!ミカやビスケットのおかげでこっちの警備は手薄だ。絶対にてめぇを送り届けてやる」

(それで全部終わりにしてやる。なあ?ミカ)

 

 マクギリスはガエリオの前に立ちふさがる。

「彼らには我々の追い求める理想を具現化する手助けをしてもらわなければならない」

「マクギリス……なぜ?意味が分からない……理想?お前は何を……」

 ガエリオは絶望的な表情をし、そのまま立ち尽くす。

「ギャラルホルンが提唱してきた人体改造は悪であるという理想を真っ向から否定する存在をギャラルホルン自らが生み出した」

「何を……」

「アインは組織の混乱した内情を示す生きた証拠だ。彼の姿は多くの人の目に忌むべき恐怖と映るだろう」

「まるで悪魔だ」

 兵士の一人がそう呟いた。

「これが『阿頼耶識』の完全なる姿。貴様のような半端なものではない。文字通り人とモビルスーツを一つに繋ぐ力。所詮貴様などただの出来損ないにすぎない!」

アインの攻撃を何とか回避する。

「その唾棄すべき存在と戦うのは革命の乙女を守りし英雄として名を上げはじめた鉄華団。そして乗り込むのは伝説のガンダムフレーム。同時に行われる代表選で蒔苗が勝利すれば政敵であるアンリとわが義父イズナリオの癒着が明るみになる。世界を外側から監視するという建前も崩れ去りギャラルホルンの歪みは白日の下に晒される。劇的な舞台に似つかわしい劇的な演出だろ?」

 ガエリオはマクギリスに対して怒りを覚え始める

「マクギリス……お前はギャラルホルンを陥れる手段としてアインを……アインの誇りを!なんてことを!たとえ親友でもそんな非道は許されるはずがない」

 ガエリオが叫び攻撃を浴びせようとするが、それより早くマクギリスが連続で攻撃を浴びせる。キマリスの体中に切り傷が付く。

「君という跡取りを失ったボードウィン家はいずれ娘婿である私が継ぐことになる」

 マクギリスはキマリスのランスを持ち上げる。

「セブンスターズ第一席であるイシュー家の一人娘、カルタも死んだ」

 ランスがキマリスの盾を奪った。

「ギャラルホルン内部の力関係は一気に乱れるだろう。そこからが私の出番だ」

「う……嘘だ………お前はカルタの命も俺の命も利用しようと………。う……嘘だああああああああああああああぁぁぁぁぁ!マクギリスウウウウゥウウウゥゥゥ!」

 ガエリオは大きく飛びマクギリスにとびかかる。

 

 議長が延期を申し出ようとしていると議会のドアから蒔苗が姿を現した。

「騒がしいのう。まるで動物園だ」

「バカな!どうやってここに!?」

「どうやって?わしはここの元代表だぞ。少々外がさわがしかろうとここの造りは貴様よりよく知っておる」

 オルガは近くのセーフハウスを借りていた。

「団長!アトラさんから連絡が来ました!会議には無事間に合ったそうです。これで仕事は終わりなんですよね?」

「ああ終わる。終わりにする。タカキ……頼みがある」

「頼みって……団長は?」

「ミカを一人にさせとくわけにはいかねぇからな」

「まさかモビルスーツの戦場に!?」

「団長としての俺の仕事だ。見届ける責任があるんだよ。全部をな」

 

 時間は少し前に戻り、サブレとビスケットはカルタの部下に苦戦を強いられていた。振り下ろされる斧を何とかレンチメイスで受け止めるが、しかし予想もしない方向から蹴りが飛んでくる。

「気持ちの悪い動かし方……これが完全な阿頼耶識」

 しかし、マーズ・マセは善戦をしており、ふとサブレの方を見る。

「サブレ。元部下としてアドバイスをしてやろう。そいつは完全な阿頼耶識を実現している。しかし、お前にあるのは阿頼耶識だけか?」

「?はぁ?何を言って……」

「そ、そうか!サブレ、俺に操縦桿の操作を移してくれ。サブレは阿頼耶識だけに集中して。俺たちの阿頼耶識がつながってるならそれができるはずだ!」

「そういうことか!」

 サブレは操作系列を変更すると、目の前の画面に赤い文字で表示を移す。

『ガンダムフレームアガレス……システムウァサゴ始動』

 サブレとビスケットに阿頼耶識に負担がかかる。

『阿頼耶識の負担を両パイロットに分散することにより五分の間だけ全システムを開放します』

 アガレスの目が赤く光り、悪魔の力を開放した。

「「これでお前を潰すことができる!」」

 

 ガエリオは涙を流しそれでも攻撃の手を休めようとはしなかった。

「マクギリス!カルタはお前に恋焦がれていたんだぞ!今際の際もお前の名前を呼んでお前を想って死んでいった!妹だって!お前にならば信頼して任せられると……」

「アルミリアについては安心するといい。彼女の幸せは保証しよう」

 もうガエリオには何も言葉が出なかった。

「マクギリスウウウウウウウウウウウウゥゥゥ!!」

 キマリスの攻撃をマクギリスは受け止める。

「そうだガエリオ。私への憎しみを怒りをぶつけてくるといい。友情・愛情・信頼……そんな生ぬるい感情は私には残念ながら届かない。怒りの中で生きていた私には」

 マクギリスは容赦のない攻撃をコックピットに浴びせた。

「ガエリオ……お前に語った言葉に嘘はない。ギャラルホルンを正しい方向に導くためにはお前とアインが必要だった。そしてお前は私の生涯、ただ一人の友人だったよ。…あとは頼んだぞ、鉄華団」

 

 アガレスがリミッター解除した時、マーズ・マセは戦いを既に終えていた。容赦なくコックピットを潰し、コックピットからオイルが流れ、それが血のように見えた。

「このやり方……ラスタルではあるまい。マクギリスといったところか……。まあいい、こちらはこちらの仕事を果たそう。さらばだ鉄華団」

 アガレスは装甲の一部を解除し、武器を刀に変更する。

「こいつ相手にレンチメイスじゃ無理だ」

「カルタ様!見ていてください!あなたの敵をぜひ!」

「敵、敵ってうるさいな」

「お前たちさえいなければ!お前たちさえ現れなければ!!カルタ様を失うことさえなかったのに!!!」

「それが戦うってことだろ!そんな覚悟がない奴に負ける道理は無いし、殺される道理もない!」

「お前たちのようなネズミに何が分かる!!カルタ様は我々のぉ!!!」

「お前たちだってネズミだろうに!!」

 刀を持っていないほうの手で攻撃をそらし、刀で左の腕を切り落とした。敵は足で蹴りつけようとするが、それをぎりぎりで回避する。そして、そのまま足を切り落とすと、そのまま刀で右腕を切り落とす。

「なぜだ!?なぜ倒れない!私はここまで落ちたのに……なぜ」

「俺が人間だからだ」

 アガレスは刀を振り下ろし刀をコックピットを切り裂いた。アガレスの目が赤から緑に戻ると二人への負担の一気に軽くなる。サブレは疲れ切った表情をしており、気力も底を尽きていた。

「お疲れ様サブレ……あとは頼んだよオルガ、三日月」

 

「罪深き子供。クランク二尉はお前たちと戦うつもりなどなかった」

(スラスターのガスは残り僅か。ガトリングの残弾も……どっちにしろこれじゃ殺しきれない)

「あのおっさんは自分で死にたがってたよ」

「やはり貴様は出来損ない!清廉なる正しい人道を理解しようとしない野蛮な獣!なのに!あろうことかその救いの手を掛け冷たい墓標の下に引きずり込んだ」

 アインの攻撃が胸を軽く傷つけ、斧を振り下ろしそれを刀で受け止める。

「単純な速度……じゃなく反応速度か。これが阿頼耶識の差ってわけか」

「もう貴様は救えない。その身にこびりついた罪の穢れは決して救えはしない。貴様もあの女もお前の仲間も決して!貴様の……貴様らの死をもって罪を祓う!」

「罪?救う?それを決めるのはお前じゃないんだよ。おいバルバトス……いいから寄越せ、お前の全部」

 バルバトスの反応が著しく上昇した。

「な……なんだ?今の反応は……」

「まだだ、もっと……もっと………もっとよこせ、バルバトス!」

 三日月は右目と鼻から血を大量に出し始めていた。

 

「蒔苗先生所信表明をお願いします。後は先生だけで………」

「その時間をもらえるなら今わしよりも話がしたい者がいるんだが。お前さんがため込んどるもの吐き出してこい」

「クーデリアさん。クーデリアさんならできるよきっと」

 アトラがそっと背中を押してくれるとクーデリアは覚悟を決める。単身壇上に上がる。

「私はクーデリア・藍那・バーンスタイン。火星から前代表である蒔苗氏との交渉のためにやってきました」

「議会に関係のないものが何を……」

 アンリが叫ぶが、アンリ以外の議員は誰も止めず、クーデリアの演説を止めることはできなかった。

「ここに来るまでの間私は幾度となくギャラルホルンからの妨害を受けました。そして、今まさに私の仲間たちがその妨害と戦っています!

 そして議会の外ではタカキが残りのLCS用のドローンを打ち上げていた。

「団長聞こえますか?LCS用のドローンをアドモスさんと一緒に打ち上げました!これでみんなに連絡できるはずです!」

「よくやった!お前ら聞こえるか!?蒔苗とクーデリアは議事堂へ送り届けた。俺たちの仕事は成功したんだ。だから……こっから先、誰も死ぬな!もう死ぬんじゃねぇぞ!こっから先に死んだ奴らは団長命令違反で俺がもういっぺん殺す!だからいいか!なんとしてでも這ってでもそれでも死んでも生きやがれ!」

「オルガ!そっちは無事?」

「ビスケットか?そっちは無事なんだな!?」

「大丈夫だよ!でもアガレスもグシオンも戦えそうにないんだ。ごめん」

「いい!あとは任せろ!」

 雪之丞たちは戦場から離れていった。

「あいつは指揮官としてこの命令を出したかったんだ。ず~っとな「死ぬな生きろ」なんて言葉にしちまえばあっさりしたもんだ。けどよあいつにゃ言えなかった」

 

 バルバトスの一撃がアインを吹き飛ばす。

「こいつ急に動きが……」

 時を同じくしてクーデリアの演説も続いていた。

「火星と地球の歪んだ関係を少しでも正そうと始めたこの旅で私は世界中に広がる大きな歪みを知りました。そして歪みを正そうと訪れたこの地でもまたその歪みに飲み込まれようとしている。しかし、ここにいるあなた方は今まさにその歪みと対峙し、それを正す力を持っているはずです。選んでください誇れる選択を。希望となる未来を!」

 クーデリアの演説が終わるころ三日月の戦いも終局に向かおうとしていた。アインはバルバトスの顔面に拳をたたきつけ、足で蹴りつけた。

「ネズミの悪あがきもこれで終わりだー!」

 アインが斧を振り下ろそうとする中オルガの声が戦場に響いた。

「何やってんだミカアアアアァァ!!」

 バルバトスの追加装甲をパージし、身軽になったバルバトスで攻撃を回避し、刀を振り下して、斧を持った腕を切り落とす。

「モビルスーツの装甲をフレーム毎!?」

「サブレの言ったとおりだ……叩くんじゃなくて………斬る!」

「この……化け物が~!」

 再び拳をたたきつけようとするがそれを再び刀で斬り捨てる。

「お前にだけは言われたくないよ」

「クランク二尉!ボードウィン特務三佐!私は私の正し……」

 三日月は刀でコックピットを貫く。

「うるさいなぁ…オルガの声が…聞こえないだろ…。」

 同時に停戦信号が打ち上げられた。

 

 代表戦は蒔苗の当選によって締めくくられた。アンリは怒りのままかつらをたたきつける。

「これで終わったのでしょうか?」

「うん。きっとクーデリアさんかっこよかったよ」

「私もそう思います」

 フミタンがそばまでくると、今までため込んでいたものをクーデリアはフミタンの胸の中で流した。

 三日月の元までたどり着いたオルガ。

「ねぇオルガ。ここがそうなの?俺たちの本当の居場所?」

「いいや。ここじゃねぇさ」

「そうか……でも、綺麗だね」

 

「マクギリスめ……」

 イズナリオは歯噛みするような思いで議事堂の一室に立てこもっていた。鉄華団が出入り口で固まっている間は動けなかった。しかし、部屋のドアがゆっくりと開くとマーズ・マセが姿を現した。

「久しいな。イズナリオ……会いたかった」

「貴様………なぜ?生きている……死んだはずでは」

 マーズ・マセは懐から銃を取り出し、イズナリオに向かって歩き出す。

「いや、俺の仕事を果たさなければならないからな。この機会を逃せば貴様がどこへ逃亡するか分かったものではない。さすがにギャラルホルン本部に乗り込むわけにもいかんしな。まあ、俺なりのけじめだ」

「ま、待て!手を組もう!お前と私が手を組めばギャラルホルンを乗っ取ることもきっと夢ではない!そうだろう?それともラスタルへの復讐が目的か?だったらそれも手伝おう!どうだ?」

 後ろへと一歩一歩ゆっくりと下がっていき、壁に背をぶつける。マーズ・マセは銃をイズナリオのこめかみに突きつける。

「お前はアホか?あのラスタルがそんなことで隙を見せるわけがないだろ。あいつへのけじめはいずれつけるさ。それよりも……」

「ま、待て、助け」

四回発砲音が響く、イズナリオはそのまま頭と胸から血を流し倒れた。マーズ・マセはイズナリオの手に銃を持たせるとそのまま部屋の中から出ていった。

 

 鉄華団が駅で待機状態が続いていると、ユージン達はボーと話していた。

「俺ら本当に帰るんだな」

「お疲れ様?ユージン、何か問題あった?俺がいない間」

「特にねぇよ。ビスケット、お前こそクッキーとクラッカへのお土産は買えたのか?」

「うん、おかげでね。シノはジッとしてなくていいの?」

「大丈夫だよ。それより、死んじまった奴らの事報告してやらねぇとな。泣く奴らだっているだろうし……がんばれよユージン」

「はぁ!?ざけんな!」

「俺がするよ。そういうのは俺の仕事だし」

「ダメだ!なんでもかんでも背負おうとするんじゃねぇよ!」

「じゃあ、俺が言っちゃおっか?」

「ダメだ!ダメだ!っていうかお前はおとなしくしてろ!」

「大丈夫だって……このぐら!」

 サブレが後ろから傷口をつつく。

「何すんだよ!」

「怪我してんだからおとなしくしてろって。そういう報告はユージンの仕事なんだから」

「そうそう……ってちょっとまて!お前ら俺にやらせようとしてねぇか!?」

「そういえばオルガは?」

「向こうだよ」

 ビスケットはオルガがいる方へと歩き出す。

 オルガは降りてきていた名瀬とあっていた。

「兄貴。いろいろ迷惑をおかけしました」

「何言ってる。お前らはきっちり仕事をしたんだ。胸を張れよ。お前いつか俺に言った言葉は嘘だったのか?『訳も分からねぇ命令で仲間が無駄死にさせられんのは御免だ。あいつらの死に場所は鉄華団の団長として』」

「俺が…作る……」

「あいつらはお前の作った場所で散っていった。胸を張れよ。今を生きている奴の為に」

「大丈夫ですよ。一緒に支えてくれる奴がいますから」

 オルガが向けた視線の先を名瀬も見ると、そこには心配そうに歩いてくるビスケットの姿があった。名瀬はすべてを理解し、背中を強く叩く。

「だったら行ってやれ!相棒が待ってるぜ」

「……はい!」

 三日月は別の場所でアトラたちと話していた。

「あっ三日月!具合は?もう大丈夫なの?」

「こっちの目があまり見えないのと、こっちの手がうまく動かないだけ」

「だけって……」

「阿頼耶識でバルバトスにつながってるときは動くんだ。だからまだ動ける」

「そっか……」

「でもこっちはこれが守ってくれた」

「今度作るときはもっと太い紐で作るね。今度はビスケットにも作ってあげないと!」

「ビスケットにも作ってあげるの?」

「うん。約束したんだ」

 するとクーデリアが三日月のそばまで寄ってくる。

「はい三日月も。宿題です。帰りの船で勉強できるように」

「そっか……クーデリアさん一緒に帰れないんだよね……」

「その手……」

「ん?ああ~ちょっと動かなくなった。泣くなよ。この手じゃもう慰めたりできないから」

「もう~違うでしょ!クーデリアさん」

 三日月は両サイドから抱きしめられる。

「何これ」

「今一番大変なのは三日月なんだから三日月が大変なときは私たちが慰めてあげるんだからね」

「そうですね。私たちは家族なのですから」

 その後オルガとビスケットが団員を集めた。

「みんなよく頑張ってくれた。鉄華団としての初仕事、お前らのおかげでやりきることができた。けどなここで終わりじゃねぇぞ。俺たちはもっともっとでっかくなる!」

「ゆっくりとね」

 ビスケットがさりげなくフォローする。

「けどまあ次の仕事まで間がある。お前らの成功祝のボーナスは期待しとけよ!ビスケットが算出してくれてるからな!」

 オルガとビスケットと三日月が話していると、サブレがタカキと一緒にやってきた。

「オルガ。タカキ達が写真を撮ってるんだけど。成功祝いで一枚どう?」

「いいんじゃねぇか?なぁ?」

「俺はいいや」

 三日月がそばから離れようとするのをオルガが襟をつかんで引き寄せる。

「ダメだ!サブレ!」

「了解!」

「さ、サブレ?何を」

「兄さんが詰めないと俺が入れないだろ?」

 サブレがビスケットを押すと、オルガはビスケットに腕をかけ、逃げないようにしていると、タカキが写真を撮った。

 四人が一緒に笑った写真を———




どうだったでしょうか?楽しんでもらえたら幸いです!次回からはいよいよ二期に話が移ります。どうなっていくのか楽しみにしていてください。
次回は設定集のような中身を一つと『新たな血』がタイトルです!
デワデワ!


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別弐
設定集


二期以降の設定です。設定的に二年後のことが軽く書かれています。


キャラクター設定

 

オリジナルキャラクター

 サブレ・グリフォン………・髪型・髪色…髪型と髪の色はビスケットと同じ。

・瞳の色…これもビスケットと同じ。

・身長…ビスケットと同じ。

・体格…三日月と昭弘を足して二で割った体格。

・趣味…音楽を聞くこと( ジャンルを問わず)

・好物…野菜全般

・好きなタイプ…強い女性

・密かな悩み…背が止まったこと

ビスケット・グリフォンの双子の弟。18歳。二年前の鉄華団が地球への航路の途中で参加した。ガンダムフレームの一機である。ガンダムアガレスのメインパイロットを務めている。実の兄サヴァランを殺したことをいまだに引きずっており、クッキーとクラッカに対して負い目を感じている。ビスケットと共に二人の妹を学校に通わせることに成功した。鉄華団の中で唯一戦闘中に三日月に命令できる人間。

 

 マーズ・マセ………・髪型・髪色…髪型はボサボサで、髪色は黒。

・瞳の色…灰色。

・身長…170㎝

・体格…ガラン似

・趣味…酒を飲むこと

・好物…酒とおつまみ

・好きなタイプ…おしとやかな女性

・密かな悩み…副リーダーがうるさい事

宇宙海賊フォートレスの首領をしている男。年齢不詳の男で自分の事を胡散臭い男と認識している。ガンダムフレームの一機であるパイモンのパイロットを務めており、その腕前から巨兵と恐れられている。二年前のエドモントンでイズナリオを殺害した。地球支部への援軍に向かうビスケット達の前に姿を表しオルガとクーデリアに同盟を組む事になる。その後もマクマードと密かに話し合いをしている。

 

イラク・イシュー

・髪型・髪色…髪型はオールバックで、髪色は銀色です。

・瞳の色…青色

・身長…150㎝

趣味…強い奴と戦うこと

・好物…ジャンクフード

・好きなタイプ…扱いやすい女性

・密かな悩み…最近賢い子供が周りに増えたこと

夜明けの地平線団との戦いの途中でサブレに戦闘を仕掛けてきた。当初はサルゴと言う名前を名乗っていたが後に本名を名乗った。厄祭戦時代から体を乗り換えながら生きてきた。戦闘経験とリミッター解除の力があるせいか悪魔と言っても差し支えない存在になっている。かつてマクギリスに生きる目標等を教えた。

 

アルベルト・シュキュナー

・髪型・髪色…明るい茶色のストレート

・瞳の色…灰色

宇宙海賊フォートレスとファントムエイジの副リーダーで長年マハラジャを支え続けてきた。基本的には真面目。

 

満月・オーガス

・髪型・髪色…三日月と一緒

・瞳の色…真っ黒

かつて約祭を生き抜いたパイロットで現在はバルバトスの中で生きている。三日月にとってはご先祖様にあたる。

 

アグニカ・カイエル

ギャラルホルンを作ったとされる男。汚い大人が自分の私利私欲を満たすために子供を平気で殺す世界を浄化する為に300年以上の月日を経てマクギリスの身体を乗っ取り復活した。

 

ゼム・ロック

髪型・髪色……黒の短髪

瞳の色……茶色

体格……かなりの大きく肩幅も広くガッチリしている。

身長……200㎝

ファントムエイジの整備長。マハラジャとは子供の頃からの付き合いでマハラジャの事は誰よりも理解している。大きな身体とは裏腹に優しく親を知らない子供からすれば父親同然の人間。サブレがフォートレス時代に唯一心を許した人物。実は今どき珍しい位の純日本人。ゼム・ロックはギャラルホルンに入った際に改名した名で本当の名前は『鈴木五郎』と言う普通の名前。小さい頃マハラジャは似合ってないと文句をつけた。

 

原作キャラクター

 ビスケット・グリフォン………サブレ・グリフォンの双子の兄。18歳。鉄華団の結成時からのメンバーで昔からオルガを支え続けてきた。現職は団長補佐と団長代行兼モビルスーツ隊総隊長を務めている。念願だった二人の妹を学校に通わせてあげることができた。オルガと共に背負っていくことを決めている。鉄華団で唯一のブレーキ役になっている。エドモントンの戦いの一年後にアトラと交際することになった。その後、地球支部での戦いの後にアトラと結婚した。その後、子作りもおこなった。

 

 フミタン・アドモス………ノブリス・ゴルドンからの差し金でクーデリアの近くでメイドをしていたが、クーデリアの行動がフミタンを変え、結果的に彼女の味方をすることになった。マクマード・バリストンからの願いもあり、今まで通りにクーデリアのそばでメイドをすることにした。

 

 昌弘・アルトランド………昭弘の弟。鉄華団に途中加入した。現在は二番隊の副隊長を務めている。尊敬しているパイロットはサブレ。

 

オリジナル機体

ガンダム・アガレスイーター………元々フォートレスの機体だったがサブレと共に鉄華団に加入した。エドモントンでの戦いの後、戦い続けていたがダメージの蓄積からテイワズ本部である歳星で大幅改修が施された機体。操作系統の最適化と、武装の変更が行われた。バックパックの武装にガトリングが付かされ、近接武器にレンチメイス改が選ばれた。レンチメイス改はレンチメイスより小型化され内部にパイルランカーが三発分仕込まれた。パイロットはサブレ・グリフォンとビスケット・グリフォンで、鉄華団の総隊長機。

 

ガンダム・アガレスフルイーター……モビルアーマー戦を経て大破してしまったアガレスをフォートレスからの提供とテイワズの大規模改修した形態。背中の武装がファンネルに変わった事が大きな特長。他の武装はレンチソードと呼ばれる二本の剣に集約されており、様々な形態に変化する。

 

ガンダム・アガレスフルアーマー……アリアンロッド戦からの連戦で機体が中破した為にギャラルホルンの手によって大規模改修した機体。基本的にバランス良くできており。ファンネルを中心に考えられている。最大の特長は腕を隠せるほどの肩アーマー。

 

ガンダム・バルバトスフルアーマー……アリアンロッド戦からの連戦で機体が中破した為にギャラルホルンの手によって大規模改修した機体。近距離用の装備を中心に改修された機体。満月・オーガスの脳を一時的に使うことで、擬似阿頼耶識を使うことが出来る。

 

ガンダム・ゼパル……イラク・イシューがギャラルホルンから脱走する際に持ち出したガンダムフレーム。持ち出した後も細かく改修を続けてきた。基本はあらゆる武器を内蔵した大剣を使用して戦う。他の機体以上に小回りがきき、大剣を振り回しているとは思えないほど身軽に戦う。

 

ガンダム・パイモン……宇宙海賊フォートレスがデブリで発見したガンダムフレームの一機。キマリス以上の高速移動を得意としており、キマリスとは違い縦横無尽に飛び回る。武器はその時その時にあった物を使うため専用は存在しない。マハラジャ専用として戦い彼を巨兵と呼ばれる切っ掛けとなった。

 

ガンダム・バルバトスルプスレクス……鉄華団が所有するガンダムフレームの一機。ギャラルホルンの技術で大幅の強化が行われている。ラファエルの強襲を受けて中破した。

 

ガンダム・バエル……革命軍が奪取したガンダムフレームの一機。マクギリスの体を乗っ取ったアグニカの細かい指示で改修がなされており、現代のモビルスーツにひけを取らない。

 

獅電改ビスケット専用機………テイワズが開発した最新鋭機であり、それをビスケットように改造した機体。シノ専用の獅電同様に阿頼耶識を搭載しているが、シノのものとは違いフォートレスから買い取ったものを使用している。本来はサブレの紫電に使われる予定だったがサブレからいらないと言われ、そのままビスケットの紫電に使われた。

 

獅電改サブレ専用機………テイワズで開発された最新鋭機であり、サブレ用に改造された。他の獅電同様に阿頼耶識は搭載されていない。サブレように武装を近接用に改造されている。

 

カゲロウ……ファントムエイジの旗艦。大きさはスキップジャック級。

 

アース・ガイド……イサリビと同型艦であるがファントムエイジとして動いて以降は鉄華団に譲渡された。

 

ラファエル……最古のモビルアーマーにして最強で最凶のモビルアーマー。人形形態と鳥形形態の二つを持つ。両肩の羽はダインスレヴを搭載しており、それ以外に地上と宇宙で使えるファンネルを持つそれ以外にもあらゆる武器を奪い使うことが出来る。

 

 オリジナル設定

三番隊………鉄華団の部隊の一つであり、サブレが隊長を務めるモビルスーツ遊撃部隊兼護衛部隊であり、団長、団長代行の護衛を主だった任務としている。主要メンバーはサブレと三日月。

 

宇宙海賊フォートレス………夜明けの地平線団と双璧をなす宇宙海賊であるが、基本的に宇宙海賊か違法組織しか襲わないその姿に『影の番人』と呼ばれている。二年前に鉄華団と対峙後陰ながら支援した。

 

ファントムエイジ……フォートレスの本当の姿。ギャラルホルン内において各経済圏の紛争解決権を唯一所有していたが、ラスタルに殺されかけて以降は宇宙海賊フォートレスに隠れて戦力を集めていた。ラスタルの死後ギャラルホルンの全権掌握に成功した。

 

ファミリア……鉄華団団長オルガ・イツカとビスケット・グリフォンとクーデリア・藍那・バーンスタインが作った火星複合企業である。




簡単な設定です。時折更新していこうと思っています。


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新しい血

ついに二期の話に入ります。


 丘の上に建てられた慰霊碑の前でオルガとビスケットが立ち尽くしており、慰霊碑には今までの鉄華団の犠牲者が名を連ねていた。

「いよいよ歳星へ出発だ。そこでテイワズと盃を交わしゃあ俺らはいよいよ名瀬の兄貴と肩を並べることになる。テイワズの直系団体だ。この規模の農場だけじゃまだまだ金は足りねぇ。鉄華団に入りてぇって居場所のねぇ奴らもわんさと集まってくる。お前は止めると思ったんだがな」

「文句は言ったよ。いつものことでオルガが聞いていないだけだ。まあ、オルガが焦って進もうとしない限り俺は本気で止めないよ。それにオルガには感謝してるんだよ、こうしておばあちゃんの農場を経営しようって言ってくれてうれしかった。おかげでクッキーとクラッカの学費代に専念できた」

「さて………朝だ」

「そろそろ行こうか。サブレと三日月が暇そうにしている」

「だな。行くか」

 

 蒔苗がアーブラウ代表となりギャラルホルンの腐敗が暴かれたことで世界は少しづつ変わり始めていた。鉄華団は代表指名選挙を巡る戦いで一躍名を上げ、彼らはハーフメタル権利を手土産についにテイワズ直系団体となった。そしてギャラルホルン頼みだったアーブラウの防衛力強化のため正規軍の軍事顧問に任命され、地球支部を開設した。

 混乱する情勢の中でその実績を買われるも、ビスケットの判断で組織はゆっくりと成長を続けていた。

 クーデリアはテイワズと協力し、アーブラウ植民地域のハーフメタルの採掘一次加工輸送業務を行う『バーンスタイン商会』を設立し、鉄華団と提携して桜農場の敷地内に孤児院を設立。社会的弱者への能動的支援と火星全土の経済的独立のため日々奔走していた。

 その反面でギャラルホルンは社会的信用を失い世界の治安はより悪化する結果となった。鉄華団の活躍によって少年兵の有効性が示された結果子供達は戦場へ大量に投入されヒューマンデブリも増加、また戦力としてのモビルスーツの重要性も再確認され、各地で大戦期のモビルスーツの復元と改修が進みモビルスーツの総数は爆発的に伸びている。

 力なき子供達が搾取される世の中はいまだ続く。

 

「失礼しま~す」

 ハッシュ・ミディと呼ばれている若者が暗い部屋に入ると、そのまま部屋の中を見回す。

「予備隊のハッシュ・ミディですけど、獅電の動作テストが始まるって……んだよ。誰もいねぇじゃんか……ったく……」

 部屋の中へまた一歩踏み出すと、足元にいた三日月に驚く。

「うわっ!……なんだこの人か」

 三日月はジャケットを布団代わりにして眠っており、ハッシュの事にも気が付いていないようだった。

「ま~た寝てる。なんだろうなほんと。他の人は鬼神とか悪魔とか言ってるけど、こんなのただの産廃だろ……」

 三日月に対して失礼なことを言うとそれに反応するように上から声が聞こえた。

「そういうのは俺に聞こえないところで言ってねこれからは」

 上を見つめると今度は後ろからも声が聞こえてきた。

「俺の前でもやめてほしいね。俺の隊員なわけだし……」

「す、すんませんでした!」

 ハッシュは三番隊隊長であるサブレに思いっきり頭を下げる。

「まあ、仕方ないか。バルバトスもグシオンもアガレスも今はテイワズで改修中。入ってきたばかりの君はまだ本当の三日月を見てないからね」

「それより、新人は訓練の時間じゃなかったか?シノに怒鳴られるぞ」

「そ、そうでした!」

 そういうとハッシュはそのまま走り去っていった。

 

「おらぁ~!ペース落ちてんぞ!走れ走れ新入りども!」

 多くの新人が訓練の為に敷地内をひたすら走っており、その中にハッシュもいた。シノの後ろからユージンが話しかけてくる。

「おいシノ、あんま厳しくすっと一軍のじじい共と変わらねぇぞ」

「分かってるけどよぉ、適当に甘くしてそれで死なれたら目覚めわりぃしよ。嫌われんのは俺だけで十分だからよ。副団長さん!……あっちはもう模擬戦かよ」

 シノたちの目の前ではラフタ達が獅電での模擬戦で直接訓練していた。

「ダンテ!反応遅い!」

「んなこと言われても……」

「ったくダンテの野郎……」

「獅電のイオフレームは百里・百錬をベースにしたテイワズが開発したマスプロダクトタイプですからね」

「さすがに練度が違うか。まあサブレの奴は阿頼耶識なしであの二人に勝っちまうんだから、さすがというしかねぇな」

 ダンテはラフタの武器に気を取られて、ラフタからの攻撃をまともに受けてしまう。

「もう~勘弁してよね!あんたらが使い物にならないと……」

「うちらが名瀬のところに帰れないんだからね!」

「なんかすまねぇな………今度サブレに定期的な訓練をさせておく」

「いえ………その場合だと、サブレ君が暴れだしそうで……、この間も獅電を壊しかけるほどに暴れてたし」

 その模擬戦を遠くから見つめていた新人たちは感心し、戦いに夢中になっていた。

「はぁ~すっげぇな。あれ初めて乗ってんだろ?」

「あれが阿頼耶識の力か」

「獅電に阿頼耶識はついてねぇよ。あれは厄祭戦時代のシステムで今じゃよく分かんねぇことが多すぎてテイワズの新しいシステムには載せられねぇんだと」

「でも、それモビルスーツ以外でも使えるんでしょ?」

「ちょっと手術するだけでそんな力が手に入るんだもんなぁ」

「な~んで団長と団長補佐は俺らにはしてくれねぇんだろう?」

「お前ら……」

「俺らは何もすき好んで手術を受けたわけじゃねぇ。こんな博打みてぇな手術に頼んなくてもいい、そういう世界をこれからお前らと作っていくんだよ。それにうちの団長補佐は猛烈に反対するからな。手術をするってわかったら何時間説教がくるかわからねぇよ」

「さすがいいこと言うね副団長」

「オルガとビスケットがよぉ……似合わねぇ真似やってんだ。俺もちったぁ役に立たねぇとよ。じゃねぇと、ビスケットから副団長を指名してもらった身としては、情けねぇからな」

「だな」

 

「なぁビスケット、ここ数字違わねぇか?」

「うん?えっと……だね」

 ビスケットが端末を使って直していると、メリビットさんがそばまで寄ってくる。

「団長さん。名瀬さんからQCCSで連絡が入ってま……」

「兄貴が!?あっ……」

 オルガはやってしまったという表情になるとそっと横を向く。隣ではビスケットがクスクスと笑っていた。オルガすこし顔を赤らめると席を離れた。

「ああ分かった。行くぞビスケット」

 ビスケットは返事しつつ一緒に部屋から出ていった。

「頑張ってますね団長。最初は机に座ってるのも辛そうだったのに。ビスケット君が良く説教してましたっけ」

「ええ、本当に」

 オルガとビスケットが団長室に行くと名瀬からの連絡が入った。

「どうだ調子は?オルガ」

「まあぼちぼちです」

「何言ってんだ。お前はハーフメタルってシノギをテイワズにもたらした英雄だぜ。まあそれを疎ましく思うやつもいるだろうが……まあそりゃ俺も同じだ。お互いぽっと出は疎まれるもんさ」

「まあ気を付けますよ。ビスケットに説教されたくありませんからね」

「まあビスケット、お前がちゃんと手綱を握っとけよ。お前がいねぇとすぐに暴走するからな」

「はい。そこはちゃんとしてます」

「まあ、気をつけろよ。バルバトスとグシオンとアガレスが大幅改修してるってテイワズ内でちょっとした噂だ」

「ええ、気を付けておきます」

 通信を切ると、オルガは時計にふと目がいく。

「そろそろ出発の時間じゃねぇか?」

「え?あ、そうだね。そろそろ行ってくるよ」

「気をつけろよ」

 ビスケットは部屋から出ていった。

 

「いや~私も鼻が高い。あの『ノアキスの七月会議』にまだ無名だったあなたを登壇させた甲斐があったというものです。革命の乙女クーデリア・藍那・バーンスタイン」

「その節はお世話になりましたギョウジャンさん」

 バーンスタイン商会のもとにギョウジャンという男が訪ねてきていた。

「来月クリュセで再びこのアリウム・ギョウジャンが主催する大きな集会を開くのですが、ぜひそこで再び一言……」

「申し訳ありませんが、今は公式の場での発言は控えたいと考えています」

「ふむ……なるほど。『今は』ですか。そういえば月末にアーブラウ以外の植民地の方々を招いてハーフメタル採掘現場の視察を行うそうですねぇ」

 ギョウジャンの言葉にクーデリアと隣で話を聞いていたフミタンが反応した。

「その話どこで……」

「その視察私もクリュセの思想家の代表としてお手伝いしましょう」

「はい?」

「あなたの思想は元々私の影響を強く受けていた。その私が隣に立てば必ずお力になれるでしょう」

 クーデリアを勧誘しようとする中、秘書の女性がドアを開ける。

「失礼します。社長そろそろ次の予定の時間ですが」

「失礼だな。まだ私が……」

「ありがとうククビータさん。ギョウジャンさん。今のお話はお断りします。私の今の活動に特定の思想は必要ありません。今は口だけで動ける時代ではないのです」

 ギョウジャンは黙ってバーンスタイン商会から出ていった。

「あの男の率いる活動家団体テラ・リベリオニスは今や風前の灯ですからねぇ。有名人の社長の名前を使ってもう一度いい思いをしたいんでしょう。全くなんて小さな男だ」

「ですがお嬢様」

「ええ、彼は視察の件を知っていました。侮っていい相手ではありません」

 そして、車に乗っていたギョウジャンは運転手と話をしていた。

「どうでした?反応は」

「話にならん」

「では………」

「あの男に連絡を取れ」

 そしてクーデリアもある人物たちに連絡を取ろうとしていた。

「鉄華団に連絡を取ってください」

 

 クリュセ自治区の区立幼年寄宿学校ではクッキーとクラッカがビスケットとサブレの到着を今か今かと待っていた。

「ええ~!本当に鉄華団が迎えに来るの~?」

「多分ね」

「きっとね」

「決まってんだろ。だってこいつらの兄ちゃんの一人は鉄華団のモビルスーツ隊総隊長なんだぜ。しかももう一人は死神っていう凄腕のパイロットだ」

「かっこいい!」

 クッキーは表情を暗くさせたが、クラッカが手を握ってあげる。クッキーにとって兄が知らないところで死神なんて呼び方をされたことが何よりもショックだった。すると下の方から声が聞こえてくる。

「あっ!鉄華団だ!」

 クッキーとクラッカが下を見るとビスケットが手を振っているのが見えた。

「おにい!」

「おにいちゃん!」

 クッキーとクラッカは駆け足で学校から出ていき外で待っていたビスケットの体に思いっきり飛びついた。

「おにいちゃん!」

「おにい!」

「クッキー!クラッカ!」

 全員が車に乗るとそのまま学校を後にした。

「どう?寄宿舎の生活は慣れた?お金持ちの子ばっかりなんでしょ?いじめられてない?」

「大丈夫だよ~」

「うん!お兄ちゃん達が入れてくれた学校だもん!ねぇ」

 クッキーとクラッカは両サイドからビスケットの体に抱き着いており、サブレは助手席に座っていた

「おにい達は休めるの?」

「うん、サブレと二人で三日ほど休みをもらったから」

「じゃあおばあちゃんのお手伝いできるね!」

「お兄ちゃん、宿題を見てくれる?」

「いいよ。もちろん」

 二人が喜んでいると、車が突然爆発するとアトラは車を止めた。

「ば……爆発!?」

「アトラはエンジンを止めてそのままでベルトを外しておいて、兄さんはクッキーとクラッカをちゃんと抱きしめておいて。三日月出るよ」

 クッキーとクラッカは不安そうにビスケットのスーツのシャツをつかむと、ビスケットは二人の表情から気持ちを感じ取った。

「大丈夫じゃないかな?車が爆発しただけみたいだし……」

 三日月とサブレが後ろを振り向くと、すべての事情を理解し、銃を懐に戻した。

 

「……こっちは任せろ。お前は休みが終わり次第こっちに合流してくれ」

「分かった」

「で?オルガ何?」

 三日月が部屋に入ると、オルガはビスケットと会話をしていた。

「ミカには悪いが明日一番でおやっさんとバルバトスを受取りに行ってもらう」

「分かった」

「普通「なんで?」とか……」

「仕事でしょ?」

 通信機の奥でビスケットの「クスクス」という笑い声が聞こえてくる。

「二週間後お嬢さんの案件だ。少しきな臭くてな。まあそれでも間に合うかは微妙だが……」

「間に合わせるよ。それがオルガの命令ならね」

「ああ、頼むぜミカ、ビスケット」

「了解」

「お嬢さんの護衛が俺たちの次の仕事ってわけだ」

「うわっ!お姫様と一緒!?」

「いいか?これがお前らの初陣になる。とりあえずモビルワーカー隊として昭弘の二番隊に入ってもらう」

「ああ。いいか……」

 昭弘が声かけをしようとするとそれをライドが横からかっさらった。

「いいか!訓練じゃねぇんだぞ。しっかり気ぃ入れろよ!俺ら二番隊は甘くねぇぞ!」

 

 護衛任務は何も起こらないまま一週間が過ぎようとしていた。すると、昭弘がすぐにモビルワーカーで駆け寄ってくる。

「お前ら!早く持ち場につけ!団長から連絡が来た!来るんだよ敵が!」

 オルガはクーデリアと話をしていた。

「ビスケットからの連絡だ。『夜明けの地平線団』が三日前に火星に降り立ったって情報だ。そいつがあんたの言っていたテラ・リベリオニスの依頼を受けたらしい。くそっ……もうきやがった」

「あの……三日月は?」

「ちょっと出張中でな。こっちに向かってるはずだが。何心配いらねぇさ。俺たちは……鉄華団だ」

 

 前線では新人たちがモビルワーカーで応戦していた。

「ザック!俺たちも前にでるぞ!こんなところにいたんじゃ手柄もたてらんねぇ!」

 しかし、そんなモビルワーカー隊の前にモビルスーツが立ちふさがった。

「モビルスーツ……モビルスーツだ!」

「モビルワーカー隊は後退!モビルスーツ隊はこのまま突撃!」

「出て来いよ悪魔とやら。虚名を暴きお頭への土産にしてやるよ」

 モビルワーカーの一機がやられていく。

「くそっ!俺はこんなところで……」

 すると、鉄華団もモビルスーツを出撃させる。

「待たせたなてめぇら!」

「遅ぇんだよ!とっとと働け!」

「ったりめぇだ!鉄華団実働一番隊!いや、流星隊!いっくぜ~!」

 シノの流星号が攻撃を仕掛けるなか、後ろからサブレとビスケットの獅電が姿を現す。

「流星隊って……」

「俺らの事か?」

 一番隊は軽く引いていた。

「おせぇぞ!先に始めてるぜ!さっさと戦えよお菓子隊!」

「!?なんだお菓子隊って!」

 シノの発言にサブレが食いついた。サブレはソードを振り下ろしモビルスーツを倒す。

「え?だってサブレってお菓子の名前だろ?だからお菓子隊!いい名前だろ?」

「頑固として拒否する!もっとまともな名前があるだろ!」

「いいから戦いなよ!!」

 ビスケットの叫び声と共に二人は黙って戦闘に入った。

「おい!何やってんだ!」

「今のうちに補給だ」

「えっ……でもうちらが押してんじゃないっすか。そんなに慌てなくても……」

「何呑気なことを言ってんだ!」

「おい。お前んとこの悪魔ってのはどうしたんだよ?」

 シノが攻撃を受け止めると、敵のパイロットから接触通信が入った。

「ああっ!?てめぇらなんぞ俺らだけで十分だっつぅの!」

「なんだよ。それじゃせっかくのおもてなしが無駄になっちまうじゃねぇか」

「別動隊!?」

「シノ!そっちは任せる!行くよ兄さん」

「任せたよ!シノ!」

「一分で片づけて応援に行く!」

「ほざけ!」

「こいつ硬ぇ!」

 モビルワーカー隊はサブレたちの援護に向かおうとしていた。

「まじかよ……モビルワーカーでモビルスーツの援護を?」

「おらぁ!とっとと出るぞ!」

「で……でもモビルスーツの相手なんて……」

「やるしかねぇだろ!俺たちには他に行く場所なんてねぇんだぞ!」

「なんなんだよこの人たち……」

「ユージンは引いてて!俺たちで何とかする!」

「兄さんごめんそっちに二機行った!」

「何とかするよ!」

 サブレはたった一機で四機ものモビルスーツを相手にしていた。残った二機がビスケットの獅電に襲い掛かってくる。ライフルの攻撃を回避し、隙間をかいくぐってくる。

 オルガのもとにクーデリアがやってくる。

「団長。視察団の避難終わりました」

「あんたも避難しろよ」

「その言葉そのままお返しします」

「……まああんたならそういうだろうとビスケットが予想してたがな。安心しな、俺たちの居場所は俺たちで守っていく」

 三日月はバルバトスを起動させると、目の前に戦場が見えてくる。

「これ以上降りるとシャトルが的になっちまう。本当にいいんだな!?」

「うん。大丈夫」

 シャトルから飛び降りると、そのまま降りていく。戦場のど真ん中に降り立ったバルバトスはそのまま立ち上がる。

「慣性制御システム。スラスター全開」

 バルバトスが走りビスケットの援護に入った。

「お待たせ、ビスケット。遅れてごめん」

「お帰り三日月」

「お帰りミカ」

「ただいま、オルガ、ビスケット」

 バルバトスが戻ってきた。




どうだってでしょうか?クッキーとクラッカと一緒にビスケットがいると思うだけで、思うところがありました。
次回は「嫉心の渦中で」です!お楽しみに!


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嫉心の渦中で

最新話です。


 バルバトスがビスケットの前に降り立つと、バルバトスはビスケットを狙っていた二機のモビルスーツをあっという間に叩き潰した。

「大丈夫?ビスケット」

「助かったよ三日月。悪いけどサブレの援護に入ってあげてくれない?」

「……必要なさそうだけど」

 ビスケットは「えっ?」という声を上げサブレの方を見ると、四機のモビルスーツのうち二機はすでに倒しており、他の二機に対しても善戦していた。

「手助けいる?」

「いらないからシノの援護に行ってくれ」

「了解」

 バルバトスがそのままシノの援護へと足を運び、ビスケットはサブレの援護射撃を開始した。

「な……なんなんだよ……」

 ハッシュは目の前に降り立ったバルバトスに唖然としていた。

「バルバトス……形は少し変わってるけど間違いない。帰ってきたんだ……三日月さんが」

「はぁ?三日月ってあの使えない……」

「そうか。お前が入団した時にはもうバルバトスは修理にだしてたから……」

「だからなんだよ!たったひと月先に入っただけで先輩面か!」

「『鉄華団の悪魔』。常に最前線で戦う三日月さんに敵が付けた二つ名だ。バルバトスに阿頼耶識でつながった三日月さんは特別なんだよ。ちなみにサブレさんは『死神』って恐れられてる凄腕のパイロットだ。あの二人が今の鉄華団の最強のパイロットだ」

 次々とモビルスーツが倒されていく状況に敵のパイロットたちに動揺が走る。

「一瞬でモビルスーツを三つも!どうすんだよ!?」

「くそっ……化け物め……」

「な~によそ見してんだおらぁ!」

 流星号がすかさず攻撃を仕掛けそれを何とか受け止める。

「こいつすばしっこい!」

「ったりめぇだ!こいつにゃ先代流星号から戦闘データと阿頼耶識を受け継いでんだからな!」

「ここまでか!」

 敵は撤退信号をあげると、そのまま素早く去っていく。

「逃がすか!」

 ダンテがすかさず追おうとするのを三日月が止めた。

「あっ待って。なんかバルバトス動かなくなった」

「はぁ!?」

 サブレがため息を吐き、ビスケットがあきれたような表情を浮かべる。

「そりゃああの高さから落ちてきたらね……」

「どこか壊すか……」

「っていうか!さっさと降りろ!三日月!」

 ハッシュがバルバトスを見上げる。

「あれがバルバトス……」

 

夜明けの地平線団の主力艦隊に一人の人物からの連絡が入った。

「なんてザマだ!子供相手にいいように遊ばれて。これではますますあの小娘をつけあがらせるだけじゃないか!」

「鉄華団との件はすでに貴様とは関係がない。夜明けの地平線団の名誉と誇りに懸けて奴らは必ず始末する」

「こちらは大金を払ってるわけだし、もう少し情報を共有しあっても……」

「活動家風情が誰に物ぬかしてやがる!」

 通信を切ると、今度は違う人物がモニターに現れた。

「久しいな。鉄華団にいっぱい食わされたらしいな」

「ふん。マーズ・マセ……何の用だ?お前が俺たちに連絡を取るとは珍しいことがあるもんだ」

「せっかく人が教えてやった情報を無にした男の顔を拝んでおこうかと思ってな」

「貴様がバルバトスは間に合わないといったからあの戦力をよこしたんだ」

「間に合わないとは言ってないさ。それに鉄華団を侮ったのは貴様の落ち度だ」

 そういうとマーズ・マセは再び通信を切る。

「気に入らん男だ。まあいい。相手が鉄華団だろうが誰であろうと俺たち海賊がやるべきことは変わらない。倒して、剥いで、奪う!」

 

「ノブリス様。テラ・リベリオニスのアリウム・ギョウジャンから連絡がありました。至急の要件だと……」

「またか。クーデリアのように使い勝手もあるかと思ったが、あれにはもう利用価値はないな」

「では……」

「ほっとけ。それよりおかわりだ」

 

 クーデリアとオルガ、ビスケットとユージンは団長室で話し合っていた。

「しばらくあんたには桜農場に避難してもらう」

「でどうすんだよ?夜明けの地平線団相手にやらかすか?」

「可能だと思うか?」

「無理だろうね。夜明けの地平線団っていえば艦隊十隻の巨大集団だよ。無謀にもほどがある」

「だよな。けどどうすんだ?」

「だがそいつらに鉄華団が目を付けられた事実は変わらねぇ。遠くない未来に一戦交えるのは避けられねぇだろう」

「それまでになんとかしないと……」

 もはや他人事では済まされないところにまで問題は差し掛かっていた。

 

「死んだっていいから戦ってみてぇって思ってたけど、まさか本当に死んじまうなんて……」

「辞めるんなら今のうちだぞ。鉄華団は辞めるのも辞めないのも自由だ。生きるも死ぬも自分で選んでいいんだ」

 昭弘がそう言っているころダンテはエーコに頼みごとをしていた。

「なあなあいいだろ?こいつでプシューっとスプレーするだけ!」

「はぁ?何それ?」

「撃墜マークだよ!俺の獅電にさ……」

 ダンテが星形のマークを付けてもらおうとすると、後ろからラフタとアジーの声が聞こえてくる。

「ダンテ!あんた一人で倒してないでしょ!?」

「ちゃんとレコーダーに残ってんだよ」

「ったく何を言い出すのかと思えば……」

「いやでも……」

 ダンテがつけてほしそうにしていると、上の方からライドの声が聞こえてくる。

「そうだぞ!調子乗ってんじゃねぇよダンテ!大体三日月さんがバルバトスと一緒に持ってきた追加の獅電が来るまではお前の専用ってわけじゃねぇんだからな」

「そりゃもう昭弘のグシオンとサブレのアガレスと一緒に衛星軌道上に来てんだろ?地球支部に送る分と一緒に!」

「あーあ。もう一日早く着いてりゃ俺ら二番隊も実戦に出れたのに」

「んじゃあいつ実戦に出てもいいようにまたしごいてあげるよ。ダンテあんたもね」

「お……俺もう実戦やったんすけど!」

「うるさい」

「いいから手ぇ動かして!」

 バルバトスがその間修理が行われており、雪之丞はさっそく壊したバルバトスをため息を吐きながら見上げた。

「下ろしたてのバルバトスルプスが早速このザマかよ……乱暴に扱うにも程があんだろったく……でどうだった?ルプスの具合は」

「ルプス?バルバトスはバルバトスでしょ?ちゃんと直ってたよ」

 三日月と雪之丞が話していると奥からクーデリアが姿を現した。

「お久しぶりです皆さん。三日月もお久しぶりです」

「うん。久しぶり」

「三日月おめぇちょっと出て来いよ。積もる話があるんだろう」

「なんで?」

「いいからほれ!」

 そういって雪之丞が三日月とクーデリアを二人っきりにさせると、二人はそのままエレベーターで上へと上がっていった。

「何度かここにも足を運びましたが三日月はいつもいないので」

「ああ~……うん」

 エレベーターから外に出る。

「団長が言っていました。戦闘の必要があるときはいつもバルバトスとアガレスが一番前にいると」

「まあ他の奴と違って俺にできる仕事はそれくらいだから」

 すると、奥の施設からアトラが駆け足で駆け寄ってきた。

「クーデリアさん!来てたの?ちょうどよかった!」

 そういってアトラはクーデリアにミサンガを手渡す。

「あのね。クーデリアさんに渡したいものあったの!これ!それと……ビスケット知らない?」

「いいえ見てませんが……三日月は見ましたか?」

「ううん……でも、確かオルガと話してるんじゃなかったかな?」

「そっか……渡したいものがあったんだけどな」

 アトラがポケットから緑色のミサンガを取り出しため息を吐くと、後ろからビスケットの声が聞こえてきた。

「何してるの?アトラ」

「きゃ!ビスケット?」

「アトラさんがビスケットさんを探していましたよ?」

 ビスケットはアトラの方を見ると、アトラは照れながらミサンガを差し出す。

「これ……ビスケットへのプレゼント。前に渡すって約束したでしょ?」

「あ……ありがと」

 ビスケットは照れながらミサンガを左手につけると、アトラと二人で顔を赤くさせる。クーデリアはわけがわからず首をかしげていると、さらに後ろからサブレとクッキー、クラッカがやってきた。

「どうしたのアトラ?顔赤いよ」

「うん!真っ赤だ!」

「な、なんでもない!」

 慌てて後ろに後ずさりすると、クラッカがサブレに思い切って聞いた。

「ねぇ……ビスケットおにいとアトラって付き合ってるの?」

「「!?そ、それは!」」

「あれ?知らなかったっけ?そうだよ」

 サブレのそんな淡白な答えにクーデリアとクッキーとクラッカが驚く。

「本当ですか?」

「そうか、クーデリアも知らなかったんだっけ?一年ぐらい前にビスケットから告白したんだよ」

「そうそう。それでアトラが悩んで付き合うことになったんだよね?」

「そ、それくらいで……」

 ビスケットが三日月とサブレの口をふさごうとしている間に、アトラはクーデリアとクッキーとクラッカから質問攻めにあっていた。

 

「何なんだよこのくそ忙しい時に!」

 ユージンは不機嫌そうな面持ちで団員のそばに行くと、団員が申し訳なさそうな表情をする。

「すみません。なんか変なおっさんが……」

 そういうとユージンの目の前にトドが姿を現した。

「よう!ユージン副団長。こいつら新入りか?取引先の顔と名前ぐらいお前ちゃんと教え込んどかなきゃだめだよチミ」

「偉い人なんですか?」

「あえて言うならえらい面倒な人だな」

「さすが副団長。いうことがウイットに富んでるねぇ。俺が目を掛けてやっただけのことはある」

「ああ~殺してぇ」

「まあまあそうカリカリすんなって。栄養足りねぇんだろう。あっそうだガキ。飴ちゃんあげようか?」

「マジっすか!」

「んなもんで喜ぶな!」

「まあまあ。おめぇにも喜ぶ知らせがちゃ~んとあるんだぜ。うちのボスからな」

 

「仕事をいただけるのはありがたいんですがねぇ、こっちは今立て込んでるんですよ。えぇ~……」

「モンタークで構わないさ。私が君たちの力を借りているのはすでに公然の秘密になっているからな」

「で要件は?」

「夜明けの地平線団の討伐だ」

「なっ!?……こっちの動きは全部お見通しってか」

「夜明けの地平線団は地球圏にまで手を伸ばす神出鬼没の大海賊だ。その補足には我々も手を焼いていてね。できる限りのことはしよう。石動という部下をそちらへ向かわせた。彼は夜明けの地平線団の内情に詳しく腕も確かだ」

「俺らは餌ってわけか」

「信用してもらえないかな?」

「元々あんたを信用なんてしちゃいない。だが引き受けさせてもらいますよ」

「ほう。疑いながらなぜ?」

「別に……俺たちは夜明けの地平線団に目を付けられてる。俺たちが勝つために必要なことだからですよ」

 

 マクマードのところにオルガが話を付けていた。

「お前らが夜明けの地平線団を?」

「テイワズにとっても航路を荒らす奴らは目障りかと」

「まあな。だが……」

「獅電の実力を見せるテイワズの新型フレームを売り込むチャンスでもあります」

「なるほどな。分かった好きにやれ」

「はい。親父に恥はかかせません」

 そういうとオルガとの通信が切れる。途端にジャスレイが食って掛かる。

「親父。何あいつらを好き勝手やらせんのよ。ガキら相手に好々爺気取っても意味ないでしょ!」

「ならお前がいくか?」

「いや~御冗談でしょ。海賊なんてゴリゴリした奴らを相手にすんのは下の奴らで十分です」

「なら文句はねぇだろ。面白い育ち方してるじゃないか名瀬。あの坊主どもは」

 

 エドモントン近郊に位置する鉄華団の地球支部では獅電が月末までに届かない問題が発生していた。

「話が違うでしょ。月末までには獅電を地球支部に送ってくれる手筈になっていたじゃないですか。今あるランドマン・ロディだけじゃ限界だってご存じでしょう?」

「けど本部は夜明けの地平線団を相手にするんだ。頭数が必要なのはわかるだろ?」

「それは本部の問題でしょう?地球支部はその戦闘には関与しないので関係は……」

「本来ならこっちから増援を送るべきところだ。それを団長はこっちの現状を考えてそれは言ってこない」

「現状……ね。備品の不足にアーブラウ正規兵との関係性。こちらの現状は問題が山積みです。しかし本部は改善策を出すどころか足を引っ張るばかり……」

「ラディーチェさん地球支部も本部も同じ鉄華団だ。俺たちはオルガの……団長の言葉を信じてついていく。それが鉄華団だ」

「……話にならない」

 

「おっ今日のスープもうんめぇなぁ」

「へへへ~。頑張る整備班の皆さんに本物の鶏肉入りですから」

「生き物の肉は俺いいや」

「ちょっと!もう~三日月みたいなこと言って」

「俺はあそこまでひどくないよ」

 雪之丞たちが食事をしながら話しているとハッシュが真剣な面持ちで話しかけてきた。

「雪之丞さん。俺をモビルスーツに乗せてもらえませんか?マニュアルなら全部読みました」

「モビルスーツを操縦するにはそれだけじゃ……」

「必要なら阿頼耶識の手術も受けます」

「ダメだよ」

「あっビスケット」

 ハッシュが振り向くとそこには真剣な面持ちでハッシュを見つめるビスケットの姿が有った。

「ダメだよ。阿頼耶識の手術は俺たちはもうしないって決めてるんだ。これは俺が決めたルールだよ」

「失敗なんて恐れません!阿頼耶識の手術を受けることで戦えるようになるんなら何だってします。俺は……」

 ビスケットは思いっきりハッシュのほっぺを叩く。

「阿頼耶識の手術をするとか簡単に言わないで。君が考えていることより数割増しで危険なんだ。俺は君たちにそんな手術を受けてまで戦ってほしいとは思わない。……とにかく、阿頼耶識の手術の話はなしだから」

 そういうとビスケットは食堂から出ていった。ハッシュは唖然とした表情で通路を見つめると、後ろから雪之丞が話しかけてくる。

「おめぇ年はいくつだ?」

「17です」

「その年じゃ阿頼耶識の適合手術はもう受けらんねぇ。おめぇの年じゃもうナノマシンが定着しねぇんだよ」

「とりあえず試してくださいよ。いいっすよ別に失敗したって……」

「ダメだよ!阿頼耶識の手術ってとっても危険なんだよ!?下手したら死んじゃうんだから!」

「分かってますよ……」

「ビスケットはみんなの為を思って手術を禁止したんだから!」

「あんたに何が分かんだよ。いいからどけ……」

 アトラを強引にどかそうとするとそこに三日月が現れた。三日月はハッシュの手首をがっちりつかんだ。

「何これ?これは何?」

 三日月は握る力を強めていく。

「ほんとにただおしゃべりしてただけだから」

「そう?いじめられてなかった?」

「私いじめられっ子じゃないよ!」

「なんで……なんであんたはよくってあいつは……。くっ……!もういいです。すいませんした」

「なんかごめんな」

「いえ」

 ハッシュはそのままそとに出ていくとデインがそばまでやってくる。

「死ぬのは怖くないのか?」

「怖くねぇ奴いんのか?」

「だな」

 ハッシュの近くに座ると、ハッシュは語り始め。

「でももっと怖ぇもんがある。俺はスラムの出でさ。親のいないガキ同士で集まって暮らしてたんだ。ビルスは俺らの兄貴分だった。俺たちの生活を楽にしてやるって兵士になるってスラムを出てった。なのに戻ってきたビルスは腰から下が動かなくなってた。俺達みんな思ってたんだ。ビルスについていきゃあなんとかなるって。なのに……。だから俺が次のビルスにならなきゃなんねぇんだ。俺は絶対にモビルスーツに乗ってみせる。そして三日月・オーガスを超えてみせる。俺についてきゃこんなクソみてぇな世界でもなんとかなるって。お……おい」

 デインは話の途中で去っていった。

「がんばれ」

 

「よう。ここにいたのかミカ」

「オルガどうしたの?」

「なあに。まあ、さっき勝手にモンタークと取引をしちまったことをビスケットに説教されちまってな。反省がてらにな……頼むぜミカ」

「うん」




どうだってでしょうか?ここまではまだ原作と似たような展開になっています。マーズ・マセの動きにはこれからも注目していてください。


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夜明け前の戦い

今回から新しいガンダムが少しの間ですが現れます。


 巨大海賊組織『夜明けの地平線団』に真っ向勝負を挑む鉄華団は、ギャラルホルンと共に参戦しようとしていた。

 『夜明けの地平線団』討伐のために宇宙へ上がった鉄華団と違い、クーデリアは桜農場に避難していた。クッキーとクラッカと共に三日月が育てている農場に来ていた。

「トウモロコシ以外にも育てられるか三日月が試してるんだよ」

「農場だけで食べていくのに必要なんだって。ビスケットお兄ちゃんも手伝ってるんだよ。いつか農場の経営をしてみたいって二人で考えてるんだって」

 三人が話している様子を後ろからククビータとデクスターが話し合っていた。

「私は事務所に戻りますが社長の事をお願いします」

「ええ。団長達が戻るまでこちらに匿うよう言われてますから」

「早く終わるといいんですがね」

 夜明けの地平線団との戦いも始まろうとしていた。

 

「エイハブ・リアクターを補足。固有周波数を確認、合流予定のギャラルホルン艦艇と一致しました」

「聞いていたより早いな……」

「あれが……鉄華団か」

 鉄華団とギャラルホルンが接触しようとしていた。

「ギャラルホルンから仕事を頼まれるなんてやっぱすげぇな鉄華団は。あっ!あれってグレイズ?」

「だな」

「少し前まで殺し合ってた相手だろ?よく仲良くできるよなぁ」

「早くモビルスーツに乗りてぇ」

 ザックたちが廊下から外の様子を見ている間にオルガとビスケットとユージンとメリビットは石動たちとの話し合いに応じようとしていた。

「そっちは一隻だけか?艦隊五隻が合流するって話だったはずだ」

 ギャラルホルンが連れてきた艦隊は一隻のみであった。

「訳あって足の速い船だけで先行させてもらった」

「その訳っていうのは何でしょうか?」

 ビスケットが一歩引いた立場から質問をした。

「こちらのデータを。現座標から12時間の宙域で夜明けの地平線団の船を補足した。数は三隻。火星から航路をたどっている船団だ」

「というとクリュセのプラントを襲った部隊を運んできた船の可能性が高いだろうね」

「おそらくは。この中には組織のトップ、サンドバル・ロイターが乗る旗艦も含まれている。奴らの戦力が結集する前にここで叩きたい」

「今なら分散している敵戦力を各個撃破できるってか。まっ戦いの基本だな」

 そんなユージンの言葉やギャラルホルンの意見に考え込んでいるビスケットを前から軽く見つめるオルガ。そしてもう一度石動に向く。

「そっちは戦艦一隻。つまり俺らに命張れって言ってんだよな?」

「危険に見合う報酬は約束する。ファリド准将も承知の上だ」

 そんな意見にビスケットが激しく反対した。

「待ってください。そちらの本隊と合流してからでもいいのでは?このまま戦って罠にでも嵌まったら……」

「サンドバルは狡猾な男だ。所在を掴んだ今を逃したくない」

「そ……それは」

 ビスケットが黙るとオルガが口をはさむ。

「分かった。その話乗ってやる。ただし作戦の指揮権は俺達がもらうぞ」

「問題ない。我々が鉄華団の指揮下に入ろう。船に戻り次第データリンクの手筈を整える」

「ユージン。そのへんは任せるぞ。イサリビから艦隊をコントロールしてもらうことになるからな。それでいいなビスケット」

「……うん」

 どこか納得いかないような表情をしながらも会談は終った。オルガとビスケットとメリビットが廊下で話し合っていた。

「あの男の話どう思いました?」

「嘘は言ってねぇ。だがなんか隠してるな。妙に急いでやがる」

「それが分かってるならどうして?あの急ぎようは異様だよ。何か裏がある。それに……あのマクギリス・ファリドは信頼できない」

「それぐらいはわかってる。でも今なら俺たちが指揮権を獲得できると思ったのさ。ギャラルホルンの命令で戦って殺されるぐらいなら……」

「それを聞いて安心したよ……」

 メリビットはあきれたような顔をする。

「言っても聞かないんでしょ?もう慣れました。作戦時間まで団員には交代で休息をとらせます」

「ああ。あんたに任せる」

「お願いします」

「では団長とビスケット君はこれより六時間の休息を言い渡します」

「「はぁ!?」」

 オルガとビスケットは驚く。

「すでに団長は36時間、ビスケット君は40時間働き詰めですよ。特にビスケット君はいい加減休みを取りなさい」

「いちいち計ってんのか……」

「あはは………すいません」

「お嫌でしたらご自分の体くらいご自身で管理してくださいね」

 メリビットはそのまま廊下の奥に消えていく。

 

「ミカ。ここにいたのか」

「なんでオルガがイサリビにいるの?」

 オルガはイサリビで待機ていた三日月のもとにまっすぐ向かった。

「休めって言われて暇なんだよ」

「なんだ。俺と一緒か」

「作戦のことビスケットから聞いたか?」

「うん。敵の大将をとるチャンスだって。でも、心配してたよ」

「まあな、何とかして見せるさ。お前らを信頼しているからな」

「大丈夫。オルガの道は俺達で作るよ」

「ああ、頼りにしてるぜ。いつも通りな」

 二人が話し合っているころビスケットは弁当を配っているアトラを発見した。

「弁当を配ってるところ?俺も手伝おうか?」

「ありがとうビスケット」

 二人が廊下を移動しながら歩いていると、アガレスが廊下から見えてきた。

「休まなくていいの?ずっと働きづめじゃない?」

「ああ……メリビットさんからいい加減休めって怒られたよ」

「じゃあちゃんと休まないと、倒れるよ」

「でも……」

 ビスケットはアガレスの前で立ち止まり、手すりに座り込む。

「……俺にとってサブレってさちょっとしたコンプレックスなんだよね。昔から運動はできるし、俺よりずっと目立ってた。学校にいたころも俺なんかより人気があったしね。苦手じゃないけど……あれだけ偉そうなこと言ったけど、俺は……」

 ビスケットは自分の素直な気持ちを打ち明けた。

「………きっとサブレはサヴァランさんの存在がコンプレックスなんだろうね」

「え?」

「少し前に言ってたんだ。サヴァランさんのことが少し嫌いだったって……。ううん、本当はビスケットと同じでコンプレックスだったんじゃないかなって思うんだ。だから目立ってたんじゃないかな?サヴァランさんとは違うって言いたかったんじゃないかな?」

「……そっか」

 アトラはビスケットの前に立つ。

「やっぱり私一人で配ってくるよ。ビスケットはもっとサブレと話した方がいいよ。ね!」

 ビスケットは軽く頭を下げる。

「そういえばサブレはどこにいるかわかる?」

「さっきは食堂にいたよ。ビスケットの昔話をしてた」

 ビスケットは「え?」と驚きの表情に変わる。

「なんでもビスケットの恥ずかしい話をしてたよ」

「さ、サブレ!!」

 ビスケットが廊下の奥に叫びながら走り去っていった。

 

「夜明けの地平線団の艦隊のエイハブ・ウェーブ周波数を確認しました」

 しかし、目の前に映る映像には3隻どころか、艦隊数は10隻も存在していた。

「なんだこりゃ……3隻って話だったろ!」

「オルガ!艦隊は10隻!10隻いんぞ!」

「やっぱり罠だったんだ。俺たちははめられた!」

「偵察隊からの映像出ます!」

「3隻だけで他の船を牽引してエイハブ・ウェーブをごまかしたんだね」

 オルガの目の前にある画面に夜明けの地平線団の団長が姿を現した。

「俺は夜明けの地平線団団長サンドバル・ロイターだ」

「鉄華団の団長、オルガ・イツカだ」

「せめてもの慈悲として降伏する機会を与えてやろう」

「あんたの方こそ俺らに手を出した詫びを入れんなら今のうちだぞ」

「ギャラルホルンの弱兵を引き従え気でも触れたか」

「海賊が!言わせておけば!」

「そっちこそそれっぽっちの戦力で俺達をどうにかできると思ってんのか?」

 ビスケットが後ろでため息を吐く。

「今はいきがることを許そう。目障りなハエほど叩き潰しがいがある」

 そこで通信が切れ、一気に周りは忙しくなり始めた。

「ユージン!艦隊の指揮はお前に任せる!ビスケット!お前はモビルスーツの指揮だ!」

「シノたちは一旦船まで下がらせろ。三日月とサブレを先に出せ。完全に包囲される前に正面を突破する。ビスケットも急いで準備しろよ。方法はビスケットに任せる」

「了解!」

 バルバトスがカタパルトにそのまま移動する。

「モビルスーツをひきつければいいの?三日月・オーガス。ガンダムバルバトス出るよ」

 バルバトスが出撃するとホタルビのコントロールをイサリビに預ける。

「今すぐ離脱すれば最小限の被害で逃げられるのでは?」

「そうだな。だが逃げても被害は出る。こいつらに犬死にはさせられねぇ。命張る以上俺らは前に進むんだ」

「……そちらの状況は?」

 メリビットからギャラルホルンに状況報告を受けていた。

「既に本隊をこちらに向かわせている。到着まで凌げれば奴らの不意を突けよう」

 夜明けの地平線団でも艦隊をうごかしつつあった。

「敵艦密集陣形で突っ込んできます」

「破れかぶれの中央突破か。先頭の船に砲撃を集中。戦力の差を思い知らせてやれ!」

 バルバトスが両腕のガトリングを使い敵のモビルスーツに攻撃を与えていく。

「ぐっ!この距離で?噂に聞く悪魔って奴か……一番隊は俺と来い!残りは作戦通り船をやれ!」

「昭弘。そっちに行ったから。ビスケットどうする?」

「昭弘は船の護衛を、三日月はそのまま敵モビルスーツをたたいて、俺たちは昭弘の援護をしながらバルバトスと一緒に艦隊が突破する隙を作るよ」

「分かった。サブレ・グリフォン、ビスケット・グリフォン。ガンダムアガレスイーター、出るぞ!」

 アガレスがそのまま出撃すると、敵のモビルスーツを蹴散らしていく。

「くそ!死神まで出てきやがった!」

「了解だ。昭弘・アルトランド。グシオンリベイクフルシティ、出るぞ!」

 昭弘がイサリビの前に出ると立ちふさがる。

「船の護衛が俺たちの仕事だ。体張るぞ!」

 シノもモビルスーツを一機一機倒していく。

「おお~おお~。新しいグシオンとアガレス調子よさそうじゃねぇか。俺も一度ガンダム・フレームに乗ってみた……」

 シノの後ろから敵のモビルスーツが襲ってくるのをダンテが援護に入る。

「隊長が一人で突っ込むな!」

「背中を預けてんだよ」

 遠くからグレイズが援護に入ってきた。

「なんだ?グレイズ?」

「おう助かったぜ~。しっかし変な気分だなぁ。あいつらと肩を並べて戦うなんてな」

 その間バルバトスとアガレスが多数のモビルスーツを蹴散らしていく。

「機動力は奴が上だ!距離を取って包囲する!」

「砲撃の邪魔だ!たかがモビルスーツの2機さっさと片づけられんのか!」

 バルバトスがコックピットを抜き手でえぐると、アガレスはそのままレンチメイス改でコックピットを容赦なく潰す。するとシュヴァルベ・グレイズが援護にはいった。

「あの機体前に……」

「援護する」

「そう、じゃあお願い」

「じゃあ俺は……!?」

 サブレの横からガンダムフレームが突っ込んでくる。赤いガンダムフレームは大剣を振りかざし、アガレスはそれをレンチメイス改でうけとめる。

「ここであったが10年目!決着をつける!」

「サブレ!知ってるの?」

「………いや、知らない」

 アガレスがもう一方のレンチメイス改でコックピットを叩き潰そうとするが、それを赤いガンダムフレームは回避する。

「固定周波数は………ガンダムゼパル」

「俺の事を忘れたとは言わせないぜ!俺は『不死身のサルガ』様だ!」

「だから!知らないって言ってるだろ!!」

 アガレスはガトリングでゼパルを牽制すると、そのまま距離を詰めそのまま蹴りつける。しかし、ゼパルはあえてガトリングを受け止めそのままアガレスの蹴りを受け止め、そのまま吹き飛ばす。しかし、そこでバルバトスが妨害に現れた。バルバトスの一撃を大剣で受け止めるが、アガレスは後ろからレンチメイスで攻撃し、吹き飛ばした。

「くそ!さすがに2対1はきついか……。勝負は預けた!」

「あいつ何?」

「………フリーの傭兵だ」

「サブレ、やっぱり知ってるんじゃ……」

「………それしか知らない」

 アガレスとバルバトスはそのまま前線に戻っていく。

 

 鉄華団はナノミラーチャフを放つ。

「ナノミラーチャフだ!」

「艦隊見失いました!」

 イサリビがそのままチャフの中を突っ走ってくる。

「当てなくていい。近づけさせんな!」

「それくらいなら俺だって!」

「かまわねぇから撃ちまくれ!」

 艦隊の攻撃をイサリビとホタルビが回避しながら突き進む。

「チャフの効果範囲より離脱!」

「敵艦急速旋回!左翼艦隊の後方に付かれます!」

「撃ちまくれ!」

 鉄華団の艦隊からの攻撃をまともに受けてしまう夜明けの地平線団。

「七番艦モビルスーツデッキ損傷。八番九番推力低下。戦線を維持できません!」

「どこまでも忌々しい……回り込んでケツを取れ」

「よくやったユージン!モビルスーツデッキに補給の準備をさせろ。ここからは持久戦だ!」

 

「来んな!来んな!来んな!弾切れ!?しまった!うおぉ!」

 ライドの獅電が弾切れしてしまいライドはそのまま体当たりを決める。その時アジーとラフタが援護に現れた。

「いい根性だ。よくやったねライド」

「体張れって昭弘さんが……」

「あいつの言葉はあんま真に受けない方がいいけどね」

 昭弘も弾切れを起こすと、敵のモビルスーツが隙ができたとそのまま突っ込んでくる。

「ちっ!弾切れか」

「ははっ!今なら奴は丸腰!」

「誰が……丸腰だって!?」

 グシオンはシザース可変型リアアーマーを取り出すと、モビルスーツをはさみつぶそうとすると、コックピットから降伏信号が出る。

「降伏信号?ちっ……またかよ……」

「武装解除だけしてその辺に転がしておきな。あと昭弘は補給に戻る!」

「俺はまだ平気だ!」

「ライドがもう限界。あんたは隊長!ここは私らが持たせるから!」

「了解……」

 昭弘は補給の為に後ろに下がっていく。

 三日月とサブレも次々とモビルスーツを倒していく。

「ボスの船はさすがに守りが堅いな。まあちまちまやるか」

 敵のモビルスーツはすでに戦えないとわかっていながらもバルバトスにくらいついてくる。

「まだだー!」

 しかし、バルバトスは容赦のない一撃を加える。

「ヒューマン・デブリの方がいい仕事をするな」

「奴らに降伏は許されません」

「負けて帰る場所もありませんしね」

「だからこそ獣のように戦える。使い勝手はいいんだが……これじゃあ埒が明かねぇな。奴らに本物の海賊ってもんを教えてやれ」

「「了解」」

 サブレがそばまで寄ってくる。

「三日月。補給に戻って。ここはアガレスが何とかするから」

 ダンテの腕にワイヤーが絡みつく、シノは敵のモビルスーツを蹴り飛ばす。

「逃がすか!」

「ダンテ!腕を外せ!」

「シノはいったん引いてくれ!」

「あれはサンドバルの副官だ!俺が直接戦う!」

「すまねぇ。ここは任せる」

 二機のモビルスーツに向かってアガレスが向かって行く。

 

「推進剤と弾薬の補給!破損した装甲は丸ごと交換だ!いいな!」

 バルバトスがイサリビに戻るとすぐに補給に入った。アトラはコックピットに入ってくる。

「三日月」

「腹減った」

「そういうと思って……」

 アトラはカバンから弁当と飲み物を取り出す。

「はい。ほらこれも飲んで」

「まだある?」

「うん!いっぱいあるよ。どんどん食べて」

 三日月が食べている間に整備班はどんどん補給を進めていく。

「この人達が一番動いているはずなのに、推進剤の減りが一番少ない。これが……くそっ」

「今度はあったかいの食べたいな」

「じゃあいっぱい作って待ってるね!だからビスケットをよろしくね」

「ビスケットなら大丈夫だよ。サブレが付いてるし」

「団長!グシオンの整備もう少し時間をください。こいつ装備が複雑で……」

 グシオンの整備は少し遅れていた。

「ライドも出せる状態じゃないよ!」

「頼む。なるべく急いでくれ。アガレスが正面でかなりの数のモビルスーツを押さえてくれてる。あの状態がそうそう持つとは思えねぇ」

 その時、夜明けの地平線団の船に攻撃が当たる。

「何が起きた!?」

「砲撃です!左舷後方艦隊5隻を補足。ギャラルホルンです!」

「石動の本隊か!」

「いや………あれはアリアンロッド艦隊だ」

 アリアンロッドのモビルスーツが攻撃を仕掛けてくる。

「なんだ?こいつら味方じゃないのかよ!?」

「あの連中はなんだ!?」

「ラスタル・エリオンを総司令とする月外縁軌道統合艦隊」

「つまりあなたの上官とは指揮系統が別の部隊だと?」

「ちっ。作戦を急いだ理由はこれか……」

「サンドバルの身柄は我々で押さえたい」

「当然だ!ビスケットに伝えろ!あとから出てきたギャラルホルンとはできるだけ交戦を避けろ。敵大将だけを狙え!」

 夜明けの地平線団の船は撤退の合図を始めていた。

「撤退だ!艦隊はデブリ帯に針路をとれ!」

「どちらへ!?」

「連中の目を引き付ける!同胞に伝えろよ!サンドバルが出るとな!」

「ジュリエッタ・ジュリス。ラスタル様の為出撃する!」

「サンドバル・ロイター、ユーゴーが出る!ギャラルホルンめ忌々しい。勝ちはやらんぞ鉄華団!」

 サンドバルがグレイズを一瞬で倒してしまう。

「敵の大将をやれっつったってよぉ。そいつは船にいんだろ?」

「いや違う。モビルスーツに乗ってんぞ。鹵獲した敵のモビルスーツから抜き取ったデータを送る」

「聞け!夜明けの地平線団に刃向かう愚かなる者たちよ!これが貴様たちの末路である!」

 そういうとグレイズをバラバラにしてしまう。

「命を捨てる覚悟のある者だけかかってこい!このサンドバルが相手をしてやろう!」

 そういうとアガレスが真っ先に食って掛かる。バルバトスもその戦いに入ろうと機体を走らせる。

「死神か!貴様といえど邪魔はさせん!」

「あんたの時代もここまでさ!」

 バルバトスが近づこうとすると、ジュリエッタが邪魔しにはいる。

「これは……私の得物です」

「邪魔だな……あんた」

 互いににらみ合う中、戦いは終盤に差し掛かろうとしていた。




どうだってでしょうか?新しく現れたオリキャラは今後において重要なキャラクターです。そして、サブレによる次回予告をさせていただきます。
サブレ「兄さんの恥ずかしい話ならいくらでもあるぞ。何歳までおもらししてたとか、学校のテストでいい点が取れなくて泣いたときとか……。語りだしたらきりがないよ……ってやば!兄さんが来た!次回、機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ別『出世の引き金』……待ってて!兄さん!」


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出世の引き金

海賊戦は完結です。


「これは私の得物です」

「邪魔だな……あんた」

 三日月とジュリエッタが互いにぶつかり合うと、サンドバルとサブレは距離を互いに取り合い、石動は遠くからそれぞれの戦いを眺めていた。

「完成していたのか。レギンレイズ」

「お前たちの味方ではなさそうだな……死神」

「アンタを倒すのは俺達だ……それは変わらない」

「引いてください」

「あんたが引けよ」

 サンドバルと副官が囲むようにアガレスは防戦一方になっており、三日月がレギンレイズを蹴り飛ばす。

「貴様の動きが鈍いのは補給を受けていないからだな……アリアンロッドならばともかく、我々相手では厳しかろう。狩られるのお前たちの方だ!」

 アガレスは開戦してから補給を受けずに戦い続けていた。

「どうすんだオルガ!おいしいとこ全部持ってかれんぞ!アガレスだってそろそろ補給を受けさせねぇと」

「奴らごとやっちまうか?」

「兄貴は何言ってんの?アリアンロッド相手に勝てるとでも?」

「昌弘の言う通り!」

「ギャラルホルンともめてたんじゃここで勝っても損するよ!」

「でもあいつらは俺らが追い詰めたってのによぉ!」

 モビルスーツ隊は軽く混乱しており、それをオルガが一声でまとめる。

「目的を忘れんな!ミカとサブレがサンドバルを押さえられりゃあ勝ちは拾える!頼んだぞミカ、サブレ……」

 石動の攻撃をサンドバルがモビルスーツを使って回避する。

「あの中の一つがサンドバルなら………」

「三機いるなら三機とも!」

 ジュリエッタがサンドバルに向かって攻撃を繰り出そうとすると、副官の二人が両サイドからワイヤーでジュリエッタのレギンレイズをからめとる。

「まずは一つ!」

 両手の武器を振り下ろそうとするが肩のアーマーをパージして攻撃を回避する。

「何!?」

「それはもう見ました!」

 レギンレイズはサンドバルのユーゴーを吹き飛ばし、追撃しようとする。

「グレイズとは違うんです」

「なら手加減はなしだ」

「!?上!」

 上からアガレスがレギンレイズを蹴り飛ばし、レンチメイスで追撃を加えようとするのを黒いモビルスーツが狙撃してきた。

「狙撃?あれか」

 ミカが黒いモビルスーツを捉えると味方のモビルスーツがいるなかイオク・クジャンが狙撃を続ける。

「あの距離!ただのまぐれ当たりだ……うっ!」

「味方もいるんだぞ?」

「どういう神経してるんだあいつ」

「イオク様は適当に白い奴でも撃っててください。邪魔です」

「援護してやってるんだぞ!」

「いりません」

 しかし、ジュリエッタの攻撃をレンチメイス改で受け止め、イオクへレールガンの攻撃を加える。

「こいつ……この距離を………わたしと互角か!?」

「あなた以上です……そして私以上……ぐっ」

 石動がアガレスとレギンレイズの間に入ってくる。

「シュヴァルベ?珍しい機体を……」

「こちらは抑える」

「アリアンロッドは俺が抑える。あんたは副官の二人を。三日月はサンドバルを……。正直に言えば推進剤や弾薬が少なくなってきた。アリアンロッドは俺がやる!」

「分かった」

「行かせるものか!ええいどうして当たらん!?」

「避けた方が当たりそうだな」

 三日月への攻撃がすべて当たらない。

「守るってことはあれがそうか」

「私が二人を押さえる……君はサンドバル本人を」

 アガレスはレギンレイズをワイヤーで拘束し、イオクをレンチメイス改で吹き飛ばす。

「邪魔ばかりを……」

 三日月がサンドバルに攻撃を加え、副官が援護に入ろうとするがそれを石動が妨害に入る。

「よそ見とは……関心しないな。あとは頼むぞ」

 ユーゴーの頭からミサイルが出てくるとそれを回避しマシンガンでミサイルを処理する。そしてそのままソードメイスで連撃を加える。それを見ていたビスケットはサブレに声をかける。

「サブレ!このままだと相手の首領を三日月が!」

「まったく……世話ばかりを掛ける!」

 アガレスはレンチメイスでジュリエッタのレギンレイズをイオクの方へ吹き飛ばしワイヤーで両機を拘束する。

「くっ!邪魔ですイオク様!」

「突っ込んできたのはそっちだぞ!」

 アガレスはそのまま三日月の方に向かうと、三日月の攻撃をレンチメイス改で受け止める。

「ストップだ。隊長命令」

「あれ?ああ……助かったよ。殺さないようにって難しくて」

「今度からそれを教えないとな」

 するとユーゴーの中からサンドバルが出てくると、降伏の合図を出す。

「くっ……悪魔め………」

「夜明けの地平線団に告ぐ。サンドバル・ロイターの身柄は預かった。速やかに武装解除に応じ降伏を受け入れよ」

 三日月がサンドバルを拘束し、イサリビに向かっていく中、サブレはレギンレイズに近づいていく。そして、そのまま拘束していたワイヤーを解除する。

「なんのつもりですか!?」

「戦いは終わったんだ。これ以上拘束する理由もない。それともあんたはまだ戦うつもりか?」

 ジュリエッタはどこか悔しそうな顔をすると、少しだけ前に出る。

「あなたの……あなたの名前を教えてください!」

「………サブレ……サブレ・グリフォンだ。お前は?」

「ジュリエッタ・ジュリスです。あなたの事覚えておきます」

 お互いに機体を下がらせていく。

 

「これで終わりではないぞ!成り上がりのガキどもが。お前たちを目障りに思っているのは俺達だけではない。それを忘れるな!」

 サンドバルが大きな声で叫ぶ中オルガは冷静に返す。

「構わねぇよ。そいつらにはあんたと同じ末路をたどってもらうだけだ。石動んとこへ連れていけ。仕事は終わりだ。火星に帰るぞ」

 

「ボス………戦いが終わりました」

 マーズ・マセは艦長席で一人で酒を飲んでいると、後ろから副リーダーの男が話しかけてきた。

「どうなった……と、聞くのは無粋だな。鉄華団の勝ちといったところか」

「ええ。サンドバルは拘束後ギャラルホルンに引き渡されたそうです」

「で?こちらの様子は?」

「はい。こちらの部隊が夜明けの地平線団のアジトを襲撃後壊滅させたそうです」

 マーズ・マセ率いるフォートレスは鉄華団が戦っているころ、夜明けの地平線団のアジトを襲撃していた。

「ボスの予想通りですか?鉄華団の居場所を教え、夜明けの地平線団と鉄華団を戦わせて、我々はその間に夜明けの地平線団のアジトを襲撃し人材と装備など一式を奪う」

「まあ大まかにはだな……邪魔な奴を消せたと考えるか。部隊に撤退の合図を出せ。ギャラルホルンが来る前に撤退する」

 

「まさか夜明けの地平線団を壊滅にまで追い込むとはな」

「ギャラルホルンの介入あっての勝利だろうよ」

「頭の首を取ったのはあいつらだ。事実を言ってんだ」

「何の金も生まれない仕事してくれちゃって。賠償金すら取れやしねぇ」

 ジャスレイが名瀬にかみついてくる。

「いいじゃねぇか。航路の安全が確保されたんだ。鉄華団の働きには報いてやらねぇとな」

 マクマードは名瀬に一つの端末を見せる。

「親父それは……」

「うちが火星で進めている新規のハーフメタル採掘場だ」

「例のクリュセの領内でも最大の規模になるっていう……」

「こいつの管理運営を鉄華団に預けようと思う」

 マクマードの意見にジャスレイが文句を告げる。

「ちょっと待てよ親父!そいつはテイワズ本体のシノギにすべきでかいヤマでしょ!」

「鉄華団は身を削って仕事を果たした。その分の報酬はあってもいいだろうよ」

「でも奴らは新参でしょうが!」

「名を上げた今だ。鉄華団の旗を揚げたプラントを狙うバカもいねぇだろう。余計な手間が省けていいじゃねぇか」

 ジャスレイはどこか納得のいかないような表情をした。

「決まりだ。名瀬お前から話をしてやれ」

「あいつらも喜ぶと思います。早く知らせてやりたいんで今日のところは失礼します」

 名瀬が屋敷から出てくるとアミダが待っていた。

「浮かない顔して。鉄華団の仕事に何かケチでもつけられたかい?」

「そっちは問題ねぇよ。むしろ順調すぎんのが問題かもなぁ」

「なるほど……こっから先はあんたと同じ。身内に足を引っ張られるわけだ」

「オルガの奴はその辺の駆け引きがうまくねぇからな」

「ビスケットに伝えるしかないね。あとは兄貴のあんたが面倒見るしかないね」

「力押しじゃどうにもならねぇこともある。それを乗り越えなきゃあいつらは何か手に入れる度にそれ以上の敵を増やしていくことになる」

 名瀬は浮かない顔を浮かべた。

 

 三日月とサブレのもとにハッシュが現れると頼みごとをする。

「少しいいですか?俺もモビルスーツに乗りたいんです。三日月さんとサブレ隊長から団長に頼んでくれませんか?」

 ハッシュの言葉にユージンが口を挟もうとする。

「はぁ!?」

「まあまあ。面白そうじゃねぇの」

「どうしてだ?」

「モビルスーツの操縦に関しちゃ三日月さんとサブレ隊長が一番でしょ。だから……」

「そうじゃなくて乗ってどうすんの?」

「三日月さんより強くなります」

「いいんじゃない」

「分かった。俺からオルガに伝えておく。多分三番隊預かりになるから覚悟しておけ」

「おい!三日月!サブレ!」

 ユージンが止めようとするのをシノが再び止める。

「三日月とサブレが面倒見んならいいんじゃねぇの。そろそろ下に一人ぐらい付けてもいいだろ?」

「ったく……どうなっても知らねぇぞ」

「何の話?」

「ビ……ビスケット」

 ビスケットへのユージンとシノによる説明に数時間かかった。

 

 クーデリアは三日月の畑に水やりをしているとアトラが車でやってきた。

「クーデリアさん!」

「おかえりなさい。あの……お一人ですか?」

「ビスケット達はまだ仕事があるんだって」

 そんな話をしている中オルガたちは車で移動しており、その間ギョウジャンは何とかノブリスと連絡を取ろうとしていた。

「クーデリアさんが命を狙われたと聞いて是非とも急ぎでノブリスさんと今後のご相談をですね……」

「何度もご連絡いただいて申し訳ありませんが……」

 そういって連絡が途切れる。

「なんとしてもノブリスを通してクーデリアに我々が……無実であることを伝えなければ……何をしているかわからん連中だ。早くしなければ……」

 焦り続けるギョウジャンの前についにオルガが姿を現した。

「邪魔するぜ」

「お邪魔します」

 オルガは失礼な態度で入ってくるが、ビスケットは丁寧に頭を下げて入ってくる。

「なっ……何なんだ君たちは!?」

「アリウム・ギョウジャン。あんたに話があって来た」

 ギョウジャンとオルガとビスケットはソファに座り込む。

「それで英名轟く鉄華団の団長が今日は突然どのようなご用件で?」

「バーンスタイン商会のハーフメタル採掘場を襲った件、クーデリア・藍那・バーンスタインの命を狙った件、それと夜明けの地平線団を使って俺達に弓を引かせた件についてです」

「この落とし前。あんたどうつけるつもりだ?」

 ギョウジャンが必死になって言い訳をしていると、それが三日月の一声でぴたりと止まる。

「あんた何言ってんの?」

「まあ君のような子供にはまだわからないかもしれ……」

「俺は落とし前をつけに来た。最初にそう言ったよな」

 オルガが足を机に乗せると、ビスケットはギョウジャンに提案を出す。

「ギョウジャンさん。こちらは今回の損害賠償をきっちり払っていただければ文句はありません。ですが、あなたがこのまま言い訳をするのであればこちらもそれなりの手を使わせていただきます。料金についてはこちらになります」

 ギョウジャンは端末に書かれた料金を見ると端末を投げつける。

「は……払えるかこんなもの!」

「払えねぇ場合どうなるかわかってんだろうな?」

 ビスケットは小さくため息を吐く。

「それは……わ……分かった、待ってくれ、今金は用意する」

「お願いします」

 ギョウジャンは電話を掛けると、何とかギャラルホルンに通報しようとしていた。

「ギャラルホルンに通報はしたな?到着はまだか?」

「そ………それがあいつらその件にはかかわらないって言ってる。鉄華団はギャラルホルンとつながってるんじゃ……」

 ギョウジャンに焦りの色が濃くなってくるとオルガはギョウジャンをせかし始める。

「おい。金はまとまりそうなのか?」

「い……今その話をしてるんだ………。だったら何とか私たちだけで始末を……おいどうした?」

「お前らだけでなんの始末をつけるって?」

「おい。しっかり見張れよ」

「は……はい」

 外も中も鉄華団の団員の手によって制圧されており、もはやギョウジャンに打つ手はなかった。ビスケットはあきらめるように首を横に振る。

「やっぱりこうなるのか……」

「今回の件ではうちには死人も出てる。払う金もねぇなら今すぐ向こうに行ってあいつらに詫びてこい」

「そ……それは……待っ…」

 三日月が銃を取りそのままパンパンパンパンと四発発砲する。床に血が広がるとオルガはそのままビスケットとともに立ち上がる。

「さてと……帰るか」

「うん」

 全員が外に出ると、昭弘と三日月と昌弘とサブレは黙ってビスケットから離れる。すると、ビスケットはたまったストレスを吐き出した。

「穏便にって言ったじゃないか!どうしてこうなるんだ!」

「仕方ないだろ!このままじゃ死んじまった奴らが浮かばれねぇだろ!」

「だからって!大体オルガは強引すぎるんだ!そんなんだから半年前の作戦であんな失敗を!」

「お前だって一年前で失敗してるじゃねぇか!お前は慎重すぎるんだよ!」

 四人は同時にため息を吐く。

「始まりましたね。ビスケットさんと団長の喧嘩。今じゃ恒例行事だけど」

「オルガもオルガだけど兄さんも兄さんだ」

「ていうか。あの二人がこの様子じゃどうしようもねぇな」

「ハッシュ、ライド、撤退の準備をしていてくれ」

 ライドとハッシュはそのまま撤退の準備を進める中、昌弘が素朴な疑問をサブレにぶつけた。

「そういえば、ビスケットさんがアトラさんと付き合うようになったのは一年前の失敗が理由でしたよね?」

「ああそうだよ。あの時の失敗をアトラが慰めて、二人の距離が一気に縮まったんだ」

「……あれはお前の責任が強いと思うけどな。それとなくそういう方向にもっていくというか……」

「あの後、俺とサブレはアトラからほっぺをたたかれたんだけど」

 三日月は少しうるさそうな顔をすると、みんながサブレの方に期待の視線を向ける。サブレは小さなため息を吐くとそのままビスケットの後ろに回る。

「大体……わひゃ!」

 サブレはビスケットの脇に手を通すとそのままくすぐって見せる。ビスケットが「ぜぇぜぇ」と息を吐き、動きが完全に止まると、サブレはそのままみんなの方を向く。

「はいはい!撤退!撤退!」

「……すごいな」

「昌弘……憧れてるのか?」

 

「眠れないんですか?」

 アトラは外で涼んでいるクーデリアのもとに向かう。

「いえ。今日はまだ眠りたくないんです」

「明日になったら家に帰っちゃうんですね」

「家というか会社ですけど」

「お父さんとお母さんのところには帰ってないんですか?」

「今は……やらなければならないことがたくさんあるんです。三日月達のおかげで当面の危険も解消されましたから、また頑張らないと」

 アトラはクーデリアに三日月たちの農場の話を聞かせる。

「三日月とビスケットもねこの一年で農場の事、たくさん勉強したんですよ。いろいろ調べて、新しい栽培方法を試してみたり、新しい種を蒔いてみたり」

「聞きました。すぐ枯らしてしまうって。読み書きの方はどうです?」

「う~ん……どうだろう。興味のあることはちゃんとするんだけど、それ以外はいいってさぼるから……でも、時々ビスケットに言われて勉強はしてるんだよ」

「三日月らしいですね」

「いっつもきっぱりし過ぎててね。そこが三日月のいいところなんだけど。今じゃエンビ達の方が読み書きはちゃんとしてるかも」

「なんだか懐かしいですね、みんなで勉強したのが」

 クーデリアはどこか懐かしそうにする。

「みんなクーデリアさんに感謝してるんだよ。最初に文字を教えてくれて。文字が読めればできる仕事も増えるから」

「そういう努力がもっと実を結ぶ世の中にしないといけませんね。そして、私自身ももっと学ばなければいけません。アリウムと良好な関係を築いていれば、今回のような事態にもならなかったはずなのです」

「クーデリアさんは何も悪くないよ!海賊をけしかけてくる方が絶対に悪い!」

 そんなアトラの言葉でもクーデリアの思いは変わらない。

「でも、そうさせたのはやはり私自身なのだと思います。きっともっと上手に解決する方法があったはずなのに……。何かある度に争いごとになる。それでは鉄華団の皆さんや三日月のような人が生まれ続けてしまう。その連鎖を私はなくしたい」

「じゃあそういう日が来たらクーデリアさんもここで一緒に三日月とビスケットと一緒に農場をやりましょう。だってそうなったらクーデリアさんのお仕事も終わってますよね」

「それは……とても素敵な提案ですね」

 クーデリアは笑顔で返す。

 

「聞いてた話よりしょぼいなぁ。まだ全然なんもねぇじゃん」

「それがいいんじゃないか」

 名瀬に連れられてビスケット達はハーフメタル採掘場に来ていた。

「これから採掘を進めりゃ五年先も十年先も。それこそ何十年たってもお前らに莫大な利益をもたらしてくれる」

「宝の山なんだよこれが」

「こんなものをくれるなんて……」

「何十年先なんて全然分かんねぇじゃん。俺おっさんになってんのか?」

「ここからは先の事をちゃんと考えていかなきゃいけないんだよ。ここを回していくにはもっと人手もいるね。新しく仕事を覚えないと……ユージンに任せようかな」

「さすが団長補佐!言うなぁ!」

「シノもやるんだよ。オルガに任せるとまた変な方向に向かうし……」

 すると、名瀬がビスケットを単身呼び出し、遠くに連れていく。

「ビスケット、念のためにお前に言っておいた方がいいと思ってな。これからはテイワズ内にも気を付けておけ」

「え?」

「お前たちの事を厄介に感じている奴もいるからな。いいな。オルガはそういうのはまだまだだ。お前が頼りだからな」

「……気を付けておきます」

 二人が話していると後ろから声が聞こえてくる。

「ああよかった。皆さんここでしたか。現場の方から見てもらいたいものがあると……」

 その場に急ぐとその場には見慣れないガンダムフレームがあった。

「これってモビルスーツですよね?でもこのフレームって……」

「ああ。見慣れねぇ装備が付いてるがこいつはガンダムフレームに見えるな」

「ガンダムフレーム」

 シノがまっすぐにガンダムフレームの方を見つめる中、さらに奥へと案内する。

「奥にもう一つあるんです。そっちはモビルスーツにしては大きいんですが……」

 

 オルガたちはマクギリスに会いに火星支部に来ていた。

「素顔のあんたと会うのは初めてだな」

「火星で会ったのは君と帽子の彼だけだったか。彼はここにいないようだが……。活躍は石動から聞いた。元気そうで何よりだ」

「そっちはなんか疲れてるね」

「三日月君!」

「旅の疲れだろう。明日にはまた地球にたたなければならないのだから気が重たい」

「まずは礼を言わせてもらう。テラ・リベリオニスの後始末助かったよ」

「サンドバルを捕らえた君たちへの返礼としては安いくらいだ。他に何かあれば遠慮なくいってくれ」

「仕事の分の報酬はもらってんだ。それよりも、アンタが仮面なしで俺らを呼びつけた要件を聞こうか」

 オルガは疑いの視線をマクギリスに向ける。

「言葉にすれば大した話でもないのだがな……鉄華団とは今後もいい関係でいたいのだよ……そう身構えないでもらいたいな」

「ギャラルホルンが一枚岩じゃねぇってことは今回の件で分かってる」

「アリアンロッド艦隊の事か?」

「あんたは何がしたいんだ?」

「前に話したとおりだよ。腐敗したギャラルホルンを変革したい。その為にはより強い立場を手に入れる必要がある。当面の目的としてはラスタル・エリオンよりも上に行くことだ」

「アリアンロッド艦隊の総司令ですね。あなたと同じセブンスターズの一員でもある」

「今の所私一人の力で太刀打ちするのは難しい相手でね。協力してくれる味方が必要だと感じている」

「あんた正気か?俺らみたいなチンケな組織にする話じゃねぇな」

「私は君たちを過小評価する気はない。君たちとしても、私と組むことに十分な利益はあると思うが」

「時間をくれ………。俺一人で決めるわけにはいかねぇ」

「時間が必要だと?」

「ああ、相棒とちゃんと話さないといけないからな」

 するとマクギリスは少し考え込むと、黙ってうなずく。

「分かった。そういうことならいいだろう。どのみち私もすぐに動く気もない」

 マクギリスとオルガの結論は出ることなく終わった。




どうだってでしょうか?今のところは話が大きく動くことはありません。マーズ・マセの動きに今後は注目していてください。
次回は『アーブラウ防衛軍発足式典』です。よろしくお願いします。


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アーブラウ防衛軍発足式典

いよいよ地球支部編です!あの男が最後に物語を動かします。


「アーブラウの防衛軍も鉄華団のおかげで何かと形になってきてな。発足式を行う段取りになった」

 蒔苗と通信機を通じてクーデリアはフミタンと話していた。

「ええ。アレジさんから案内状頂きました。ですが……」

「まあ……難しいだろうな。いろいろと噂は届いておるよ。焦ることはあるまい。目標へ到達するためには順序が必要だ。最短を選ぼうとすれば必ずしっぺ返しが来る」

 クーデリアはその言葉を忘れないでいた。

 

「あれ?今日はアーブラウの人達は?あっ例の発足式典の打ち合わせか」

 タカキ達は鉄華団の地球支部のメンバーと話し合いをしていた。

「アーブラウ防衛軍のな」

「だからしばらく訓練は休み」

「あんな使えねぇじじいどもが防衛軍かよ」

「なあタカキ。これから俺らどうなるんだ?」

「あいつらに教える必要なくなったら俺ら火星にもどんのか?」

 団員からそんな話が入ってくると、タカキは戸惑う。

「いやそんな話はビスケットさんからは……」

「俺好きだな地球」

 タカキはそんなアストンの言葉に一瞬言葉を失ってしまう。

「俺も同意。飯はうまいし街に出りゃ鉄華団は優遇されっし」

「あのむかつくおっさんはいらねぇけど」

「ほんとだぜ。なぁ。ラディーチェの野郎いつまでいんの?」

 団員からくるそんな不満にタカキはなんとか諫めようとする。

「いつまでって……ラディーチェさんはもう鉄華団の一員……」

「鉄華団なんかじゃねぇよ。テイワズが俺達の見張りによこしたんだろ?」

 

 チャドが部屋の一室でスーツを着ていると、廊下から部屋へとタカキが入ってくる。

「チャドさんすっごく似合ってますよ」

「本当に俺でいいのかな?それこそラディーチェさんとか……」

「チャドさんが地球支部の責任者ですよ?蒔苗先先が指名してくれてるんだし、堂々としてくださいよ」

 タカキとアストンがチャドに近づいていくと後ろからラディーチェが現れる。

「あっ……やっぱ似合わねぇか」

「いや……そうじゃなくて……」

「失礼。今度執り行われるアーブラウ防衛軍発足式について最終確認を……。あくまでサポートに徹し余計な動きは謹んでください。アーブラウ防衛軍とこれ以上余計な亀裂が生まれないよう慎重にお願いします。そちらに式典の詳細が入っているので目を通しておいてください。では」

 そういうとラディーチェは部屋から出ていく。

「あいつ……」

「まああの人もいろいろ考えてくれてるんだよ」

「確かに。前はなんでも頭ごなしに否定されてたけど最近はだいぶ俺達の意見ものんでくれてますよね」

「まっ俺達がアホすぎるってんで諦めただけかもしれないけどな」

 そんな会話を聞いていたラディーチェは小さくつぶやく。

「その通りですよ」

 

 タカキとアストンは二人で仕事帰りに街中を歩いていた。

「チャドさんって……俺と同じ元々はヒューマン・デブリなんだよな?」

「そうだよ。ねぇ……今日も寄ってくだろ?フウカも喜ぶし」

「フウカ学校のテストがあんだろ?こないだ勉強してた」

「えっ?うん。でもごはんぐらい……」

「俺が行くといろいろ気を遣ってくれるから今日はいい」

 アストンはそこで別れると、タカキは家に帰って来た。

「フウカただい………」

 フウカはソファで寝ており起こさないように近づくとフウカはそのままタカキの存在に気が付く。

「あっ……おかえりお兄ちゃん。勉強に夢中になってて。すぐご飯の支度をするから……」

 フウカがご飯を作ろうと立ち上がろうとするが、タカキがキッチンに立つ。

「いいよ、俺作るから。フウカは勉強続けて」

 フウカはアストンが来ていないかどうかをタカキに聞いた。

「アストンさんは?」

「今日はいいって」

「ほんと?じゃあお兄ちゃんだけなら甘えちゃおうかな」

 そういうとフウカはそのまま勉強に戻る。

「フウカがこんなに勉強好きだなんておもわなかったな」

「うん。すごく楽しいよ。勉強だけじゃなくて、地球に来てから毎日がすごく楽しい。施設の子達と別れるのはちょっと寂しかったけど、でも地球でも友達いっぱいできたしそれにアストンさん達も優しくしてくれる。お兄ちゃんとずっと一緒にいられるし、私ここ大好きだよ」

「ああ。俺も大好きだ」

 するとフウカは雨が降っていることに気が付く。

「ああっ!洗濯物取り込んでなかったんだ!」

 急いで洗濯物を取り込もうとベランダに出ていく。

 

「へぇ~チャドの奴張り切ってんだろうなぁ。獅電を送る便のタイミングがもうちょっと早けりゃあ、もっと見栄えよくしてやれてたのに」

 昭弘が嬉しそうに作業をしているとラフタが話しかけてきた。

「うれしそうじゃん昭弘」

「まあ……あいつとは俺は同じヒューマン・デブリだったからな。あいつならしっかりこなすだろう」

「だよな~。昭弘さんだったら緊張してがっちがちに固まっちまいそう」

「当たり前だろ。兄貴がそんな場所に耐えられるわけないし……」

 昭弘は昌弘とライドを軽くにらみつけると、二人は慌ててその場を後にする。

「ライド。お前も行くか?」

「いや……いいや。俺は俺でこっちでできる仕事頑張るよ。タカキに負けてられっかっつぅの」

「いい覚悟だなライド。だったら後で訓練に付き合うか?ダンテも一緒に……」

「「ゲッ!……か、勘弁してください!!」」

 二人そろって走り去っていくと、昌弘だけが近づいてくる。

「俺は付き合います!」

「いい度胸だな昌弘……ハッシュもやるか?仕込んでやるぞ」

「は、はい!」

 

 オルガとビスケットは片付けをしていたアトラのもとで遅めの食事をしようとしていた。

「悪いなアトラ。もう店じまいするとこだったろ」

「ごめんね。アトラ」

「大丈夫だよ。それよりこのままでいいんですか?あっため直さなくて」

「ああ」

「じゃあ、俺は温め直してもらおうかな」

 オルガが席に座ろうとするとそういったビスケットの方を見る。ビスケットはオルガの視線に気が付く。

「何?どうしたの?」

「……何でもない」

 オルガは何とも言えないような顔になるが、そのまま席に座ると飯に手を付けるが、食堂に三日月とサブレが入ってきた。

「温め直せばいいのに」

「いや、いいんだこのままで。飯も仕事も厄介ごとも一緒だ。目の前のもんをひたすら片づけていく。そうしねぇと先にすすめねぇからな」

「でも、兄さんは飯を温めてもらってるけど……」

 ちょうど温め直してもらったビスケットがオルガの隣に座る。

「え?いや……だって温めないとおいしくないし……」

 三日月はまっすぐオルガを見ると、オルガは食べずらそうにする。

「ん?なんだよ?そんなに見られてたら食えねぇだろ」

「痩せた?」

「じゃあ、兄さんは太った?」

「じゃあって何!?」

 二人が言い争いをしていると、三日月は火星ヤシをオルガのご飯に入れる。

「お前……」

「栄養。オルガがみみっちくなるのはなんかやだ」

 オルガはそのまま火星ヤシを口にするが、そのとたん表情を変えた。

「あれ?はずれ?」

「ん……いや……ありがとなミカ」

 

「申し訳ありません。マクギリスの思惑をみすみす見逃す形になってしまいました」

 イオクはラスタル・エリオンに頭を下げるとジュリエッタが追撃を掛ける。

「見逃したと言うより推し進めたと言う方が適切かもしれませんね」

「まあいい。火星では先手を打たれたが次はこちらの番だ。次の舞台は地球だ」

「地球はマクギリス陣営にとっての本丸。我々が活動するにはセブンスターズ内での問題が」

「そのためにあの男の協力を仰いである」

 そんなラスタルの言葉にジュリエッタが反応する。

「あの男?まさか……」

「ヒゲのおじ様?」

 話が終わるとそのまま二人は部屋を出ていく。

「俺はあの男は苦手だ。どうも圧が強いというか」

「確かに。おじ様は強靭な心と体の持ち主です。どちらも脆弱なイオク様では対峙するだけでも気後れすることでしょう」

 ジュリエッタは嬉しそうに格納庫に急ぐ。

(おじ様に見てもらいたい、私の今の力を……)

 ジュリエッタが格納庫にたどり着くと、仮面の男のもとに近づいていく。

「私には理解不能です。ギャラルホルンには多くの人間がいるというのにそれを差し置いて……どこの馬の骨かもわからないあなたを側近にするなど。これは由々しき問題です」

「由々しき?」

「端的に言えばラスタル様によるえこひいきです」

「ふっ」

 仮面をつけた男はジュリエッタの言葉に軽く笑う。

「なっ!今笑いましたか?」

「ああ。君のこともこの艦隊の人間が噂していたから」

 ジュリエッタはジト目で仮面の男を見る。

「確かに私は階級も後ろ盾もありません。けれどモビルスーツの操縦の腕一つでラスタル様は私を認めてくださったのです」

「ラスタルを信用してるんだな」

「当たり前です。ラスタル様は私の誇り。尊敬すべき上官です」

「そうか。誇り……か」

 

 式典当日になると、チャドはタカキに式典中の指揮を預けていた。

「タカキ。俺がいない間はお前が指揮を執るんだ。いいな?」

「はい!」

 式典が開始されると、タカキ達は外で警備を行っていた。

「アストン?こないだからなんかおかしいよ」

「俺頭悪いからなんて言っていいのか、分からないんだけど………正装したチャドさんを見てすごく驚いたっていうか……みんなにチャドさんを見てほしいって言うか……」

「誇らしいってこと?」

「あっ。それだ。誇らしい」

「なんだ。喜んでたんだね」

「うん……」

 チャドと蒔苗は待機室で二人で話していた。

「鉄華団は軍事顧問としての仕事を立派に勤め上げてくれている。今日という日が来たのも鉄華団のおかげだ。礼を言う。鉄華団を指揮する者としてこれからも頼んだぞ。チャド・チャダーン」

「あっ……俺の名前……」

 蒔苗の秘書が部屋の中に入ってくる。

「失礼します。蒔苗先生間もなく挨拶となりますので……あれ?それいつからそこに?事前に確認した時には……」

 秘書は蒔苗の目の前にある花瓶に反応するとチャドが反応した。

「蒔苗先生!」

 チャドが飛びつくと外からでも確認できるぐらい大きな爆発が起きる。アストンがその爆発にいち早く反応するが、それをタカキが止める。

「待てアストン!中の警備はアーブラウが担当してる!大丈夫。中にはチャドさんがいる。けど……それより俺達は不審者がいないか会場の外を見張らないと!

 すると団員の一人が黒服の一人につかみかかる。

「おい!チャドさんは?」

「チャ……チャド?」

「蒔苗と一緒にいた警備の人だ!」

「さあ……警備の人間にも負傷者は出ているようだが……」

 タカキの動揺は止まらなかった。

 

「開幕の狼煙だな。これからが本番。あれとは比べ物にならん爆炎が上がる」

「それより報酬の件について先にお話しを」

 ラディーチェは髭を生やした男と話をしていた。

「そこは安心してくれ。君の提示していた条件は全て飲むつもりだ。しかし、君は心が痛まないのかな?仮にも今まで寝食を共にしてきた子供達を戦火に放り込むことになるが」

「彼らは教育も受けずに野放しにされた獣のようなものです。私はアレルギーがありましてね、動物は苦手で」

「ははははっ!そうか。いや、君は実に面白いな。俺は面白い男が好きだよ」

 

「一部には防衛軍の設立を快く思っていない勢力によるものではないかとの憶測も飛んでいるようです」

 マクギリスは部下からの報告をその場で聞いていた。

「最近各地でギャラルホルンに頼らず、独立した軍事組織を作る動きが盛んになっている。それが火種になっている、と言えばわかりやすいが……式典会場を警備していたのはアーブラウ防衛軍と鉄華団か……」

 

「今日でもう三日たつぞ!チャドさんどうなっちゃったんだ!」

「ラディーチェさんが言うにはまだ意識が戻らない状態だって……」

「そんな!団長はなんて?」

「本部との連絡はラディーチェさんが取ってるから……」

「なんだよラディーチェさんラディーチェさんって!」

「こうなったらチャドさんの敵俺らで取りに行こうぜ!」

「ダメだ!そんな勝手なこと」

「なんでだよ!?オルガ団長だったらそう指示してくれるはずだ!」

「だからその団長の指示がまだないんだ。俺達が勝手に動くことはできないよ!」

 タカキは何とか団員を抑え込むが、ラディーチェと話し合いに行く。

「蒔苗氏の意識もまだ戻らないようですね。捜査の手がかりもなかなかつかめないようで、警備の不備が問われています。こちらに矛先が向いてくることもあるかもしれません」

「あの!俺からも一度団長に直接聞きたいことが……」

「前に伝えました通りチャドさん不在の間は、本部との連絡は私に一任すると仰せられています」

「でも、それじゃあ団員達の収まりがつかないんです!」

「それをなんとかするのはあなたの役目でしょう」

「私はまとめなければいけない書類がありますので」

「……わかりました」

 タカキは渋々引き下がる。すると廊下ではアストンが待っており、一緒に歩いて廊下を歩く。

「チャドさんが言ってたんだ。指揮はお前に任せるって。だからこそみんなは納得できないかもしれないけど、勝手はことはできないんだ。俺の考えでみんなを危険な目に遭わせるなんてことは……」

「俺もみんなと同じだ。チャドさんの仇を取りに行きたい。だけど、それより前に俺はお前の味方だ」

「うん……ありがとうアストン」

 

 オルガ達鉄華団の本部メンバーは団長室で話し合っていた。

「地球支部はなんて言ってる?」

「状況は変わんねぇよ。「チャドと蒔苗さんが負傷した。現場の判断はこちらに預けてくれ」ってそれ以上さっぱり分かんねぇ」

「タカキに話は聞けなかったの?」

「チャドの代わりにあちこち飛び回ってそれどころじゃねってよ」

「どうも気になるな」

「それって本当の情報?」

 オルガが少し考え込むと、ビスケットと視線が合う。

「オルガ……俺が」

「頼めるか?団長代行として獅電を送るスケジュールを前倒す。ユージンも一緒に地球へ行ってくれ。ビスケット……全部お前に任せる」

「間に合わせて見せるよ」

 

「やばいぞ!さっきアーブラウ防衛軍の奴らが噂してるのを聞いちまったんだ。このままだと戦争になっちまうかもしれねぇって……」

 タカキが急いでラディーチェに話を聞きに行く。

「ラディーチェさん!式典の事件にSAUが関係してるって……経済圏同士の戦争になるかもしれないって本当ですか!?」

「その可能性は否定できませんね」

「あの……団長はなんていってるんですか?」

「もちろん連絡はいれています」

「だったら!」

「地球にいる我々にわからないことが、火星の彼らに分かると思いますか?チャドさん不在の今現場を任せらるのはあなたしかいないんです。タカキ・ウノ。あなたにかかってるんですよ。鉄華団地球支部のこれからあなた達の地球での生活も」

 あくまでも本部と交信させないラディーチェはタカキをうまく唆す。

 

「あいつを信頼しているのか?」

「鉄華団は家族だろ?ラディーチェさんは鉄華団の一員なんだから。家族を信用できなきゃおしまいじゃないか。フウカの為にも俺は地球で頑張っていきたいんだ」

 タカキとアストンはタカキの家で話し合っていた。

「俺はお前らの幸せを守るためだったらなんだってする。まあ俺にできるのは殺したり、お前を守って死ぬくらいだ」

 そんな発言にタカキが過剰に反応する。

「やめてくれ!死ぬとか殺すとかそんな簡単に言っちゃ駄目だろ!」

 タカキの叫びにフウカが反応して起き上がる。

 

「正式にSAUからギャラルホルンに調停の要請が来た」

「本気で開戦するつもりでしょうか?」

「ここまで事態が進んでしまっては避けられないかもしれないな」

「ではお引き受けに?」

「要請が来たからには当然だろう」

「しかし、万が一調停が長引けば……」

「分かってる。そこにつけ込み、こちらの足を引っ張ろうとする勢力がいることもな」

 

「待っていましたよタカキ君。こちら今回の件に関してアーブラウ防衛軍の方を指揮する予定の……」

 すると、ラディーチェが髭を生やした男を紹介する。

「ガラン・モッサだ。よろしく頼むぞ少年」

 

 ビスケットとクーデリアはオルガと出発前の確認をしていた。

「じゃあ、俺たちはそろそろ行くね。到着まで約三週間だけど……その間任せることになるけどいい?」

「ああ、もちろんだ。それより本当にあんたも行くんだな?まあ、アンタがそばにいれば大丈夫だろ」

「それでは……」

 そういうと部屋のドアが突然に開くと、中に入ってきた人物を確認すると、フミタンと三日月とサブレがそれぞれの庇う体制に入る。

「なんで……あなたが」

「……マーズ・マセ。なんであんたがここに……」

 部屋の中に入ってくると、そのままソファに座り込む。

「団長殿……お前のところの部下は客人に銃を向けるのか?」

 よく見るとサブレは銃をマーズ・マセに銃を向けていると、ビスケットがいさめる。

「話があって来たんだがな……火星複合企業」

「「「!?」」」

 マーズ・マセの言葉に全員が衝撃が走る。

「ど、どうしてそのことを……」

 ビスケットが代表して質問する。

「どうしてか……まあ俺たちをなめないでもらおう」

「調べたってわけか……で?あんたたちの要件ってなんだ?」

「………俺たちと手を組まないか」

「そ、それはどういう意味でしょうか?鉄華団と手を組みたいと?マクギリスさんのように……」

「鉄華団と組みたいと言ったのではない。お前たちと組みたいと言ったのだ。クーデリア・藍那・バーンスタイン。君とも組みたいんだ我々は……」

 オルガが少し考え込むと結論を出す。

「少しだけ……」

「考えさせてくれっていうのはなしだ。今ここで結論を出してもらおう。手を結ぶのなら早い方がいい。さあ……どうする」

 マーズ・マセの提案に悩む彼らは結論を出すことを余儀なくされていた。




どうだってしょうか。最後の提案にのむかどうかどうかはまだ先で判明します。次回はいよいよ紛争が始まります。
次回は『無音の戦争』です。


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無音の戦場

いよいよ紛争がスタートします。結末に向けて少しづつですが、話に変化が出てきます。


 鉄華団本部との連絡が取れないまま、SAUとアーブラウとの戦争に巻き込まれる地球支部。アーブラウ・SAU両軍がにらみ合う国境地帯バルフォー平原。先頭は不幸な事故をきっかけに始まった。威力偵察に出たSAUの偵察機がモビルスーツのエイハブ・リアクターの干渉を受けて墜落、モビルスーツが戦場に出るほどの事態だとは思わなかった。

 SAU側の戦力は実戦経験のない防衛軍とギャラルホルン・SAU駐屯部隊、そして地球外縁軌道統制統合艦隊からの派遣部隊との混成軍だった。対するアーブラウ側もやはり実戦経験がゼロの防衛軍と鉄華団。作戦参謀にガラン・モッサと呼ばれる人物が参加していた。平原のあちこちで散発的な消耗戦が繰り広げられてもう半月余りが過ぎた。

 

 モビルワーカーで戦闘に向かうタカキは不安を抑えきれずにいた。

(違う……何かが違う。俺たちはこれまで幾度となく戦ってきた。そのどれとも違う)

 戦場ではランドマン・ロディがまた一機コックピットをつぶされてしまった。また一人尊い命が失われていく中アストンが機体を走らせる。

 一進一退の攻防が続くなか、マクギリス達はアーブラウ側の思いもよらない抵抗に焦りを感じ始めていた。

「落とし所が見えないな」

「はい。武力介入して一気に事態を収束させるつもりが……」

「予想だにしませんでした。まさかアーブラウ側がこれほどまでの抵抗を見せるとは」

 ギャラルホルンからすればアーブラウがここまで抵抗するとは当初は予想すらしていなかった。鉄華団のおかげで戦いが平行線をたどっていくことに、少なくとも焦りが見え始めた。

 マクギリスは今一度作戦基地に戻り、部下と共に解決策を図ろうとしていた。

「准将。正規の外交ルートでの解決を図った方がよいのでは?」

「それができるなら苦労はしないだろう。アーブラウの蒔苗代表が意識不明。外交チャンネルは何者かによって閉ざされギャラルホルンのアーブラウ駐屯部隊も動きようがない。だからSAUは我々に紛争の調停を求めてきたんだ」

「しかし、このままでは埒があきません。おかしいですこの戦い。いまだに決着がつかないなんて……」

「確かに見事な戦術だ。大規模衝突を避け、局地戦に終始、戦力の分散投入と撤退のタイミングにはある種の才能を感じる。特に、指揮能力はないが機動性に優れた鉄華団の特性をいかして手足のようにコントロールしている」

 今だ正体のつかめない指揮官を褒めつつ、対策がいまだ出てはこなかった。

 

「アストン!敵の援軍だ。数は3!」

「撤退する。命令はここまでだ。あとで迎えに来る」

 アストンは亡くなった仲間に迎えに来ると約束し、撤退していった。しかし、アーブラウ防衛軍との仲はうまくいってはおらず、一機のモビルワーカーが独断で動き出す。

「こっちも撤退するよ……戻れ!深追いするなって命令だろ!」

「うるさいクソガキ!やらなきゃこっちがやられるんだ!」

 そして一機のモビルワーカーがまた落ちる。

 

「そして不鮮明な開戦理由を逆手に取り、見事な膠着状態を成立させた。つまりそれが目的か」

 マクギリスは敵の目的に気が付きつつあった。

 

「これで12人目……」

 シートのチャックを閉め、タカキはそっと目を閉じた。すると、どこからとなくガランが姿を現した。

「俺にも別れを言わせてくれ。勇敢なる鉄華団の若き戦士に」

 すると、ガランはエナジーバーのようなものをタカキに渡そうとする。

「食うか?」

「あっ……いえ」

「辛いな。だが、ここが踏ん張りどころだ。実働部隊の実質的な隊長はお前ら二人だ。素人のアーブラウ防衛軍を率いての戦いはきついだろうが、これからも頼むぞ」

 しかし、そんなガランの言葉とは裏腹に兵士たちの疲労は確かに蓄積されていた。

「俺達もう何日戦ってるんだ?」

「みんなお疲れ」

 タカキとアストンがテントに戻ると、みんなは不安そうな顔をする。

「なあタカキ、これっていつまで続くんだ?俺達って勝ってんの?負けてんの?」

 勝っているのか、負けているのかがはっきりわからない戦争の状況は兵士たちの士気を著しく下げていた。

 タカキは何とかみんなの士気を下げまいと努力する。

「ガランさんはこっちが優勢だって言ってたよ。ラディーチェさんも火星の団長が喜んでるって……」

「つかなんなんだ?この戦い。お互いに大隊規模、千人以上も兵士いんのにちょろちょろ小出しに攻撃して、いいところで退却。意味わかんねぇよ俺」

 タカキは言葉が出なかったが、アストンが代わりに答える。

「余計なことを考えてんじゃねぇよ。今は食える時に食って、寝れるときに寝とけ」

「わ……わかってるよ」

「急にしゃべんじゃねぇよ。ビビったわ」

 アストンとタカキはモビルスーツの前でご飯を食べながら話をしていた。

「みんなの思いはさ、俺の思いでもあるんだ。もう何年も戦ってるような気がするよ。ついこの前までフウカとアストンとあの部屋でご飯食べてたのか。夢みたいだ。ねぇアストンは何も感じない?この戦いは今までと何か違う。俺最近ずっとそれが頭から離れなくて。もちろん、理屈ではわかってる。けど、俺は今何をしてるんだろうって、時々見えなくなるんだ」

 しかし、タカキ達に休息の暇は与えられず、すぐに出撃の命令が下った。

「伝令です!出撃命令です!すぐに指令所まで来て……」

「無理だよ!夕べから戦い詰めで、みんなまだ疲れ切ってて……」

「けど、ガラン隊長の命令で……」

 その言葉にタカキが立ち上がる。

「隊長!?いつからガランさんが鉄華団の隊長になったんだ!!」

「いや……その………なんとなく、最近みんな作戦指揮してんのあの人だから……」

「分かった……ごめん、すぐ行く」

 また戦いが始まろうとしていた。

 

「随分ご執心ですね。またこのえこひいきにかかりっきりで。一体いつになったらできるんです?これ」

 ジュリエッタはいまだ完成しない機体の調整をしていたヴィダールに話しかけた。

「こいつはシステム周りが少し独特でね。地球外縁軌道統制統合艦隊が苦戦しているそうだな」

「当然です!なんといっても髭のおじ様が指揮しているのですから!おじ様はラスタル様の信任も厚い、天性の戦術家。組織戦でおじ様に勝てるものなど……」

「一人いたと聞いたことがあるな」

「誰ですか!?」

「たしか……マハラジャ・ダースリン。ギャラルホルンにかつて存在した天才と呼ばれた男だったか……。まあ、どのみち油断はできないだろう。相手は統制統合艦隊の新指令だ」

「ご存じなのですか?ファリド公を」

「さあ?」

「あなた……何者なのですか?」

「ふむ……なんなのだろうな」

 

「したり顔で調停に乗り出したはいいが、マクギリスめ手こずっているようですね」

「苦しい所だな彼も。何せ経済圏同士の初の武力紛争だ。全世界がその結末に注目している」

「戦闘が長引けば長引くほど、奴の築いた権威も名声も地に落ちる。ははっ!泣きっ面が目に浮かぶようですよ。しかし、さすがラスタル様のお手配。あの男、大した采配です」

(マハラジャが死んでいる以上もう邪魔できる人間もいるまい)

 

 鉄華団が交戦に入ったころ、ユージンとビスケットはいまだ地球支部との連絡が取れずにいた。

「ああ、相変わらずだ。地球支部とは全然連絡がつかねぇ。ったくアリアドネが使えるようになったってのに、これじゃあ意味ねぇよ」

「そっちは何か情報が入った?あの人から……」

「ああ、なんとかな……。地球支部で作戦指揮を執っている人物はガランっていうらしい。でどうも、そいつが今回の黒幕だ」

 

「熱心だねぇ毎日毎日」

「ったく、それ以上ガチムチんなってどうすんのさ?」

「ほっといてくれ。俺の趣味……だ!」

 ラフタは小さくため息を吐く。

「気持ちはわかるけどね。まっそういうの私は嫌いじゃないけど」

 

 三日月たちは食堂で飯を食べていた。

「心配だね蒔苗のおじいちゃん」

「でも容体はニュースで分かります。チャドさんは生死すら……」

「情報入んないからね」

「地球に着きゃ嫌でもわかるさ。ジタバタすんのはそれからでいい」

 すると、ハッシュが食堂に入ってくる。

「サブレ隊長!獅電のシュミレーション終わりました。次は何をすればいいですか?」

「使った獅電の整備は?」

「それはやりました」

「筋トレは?」

「それもやりました」

「だったら休め」

「俺地球についたらモビルスーツ戦初陣なんですよ!?今のうちにやれることをやっておきたいじゃないですか!だから……」

「だからこそだ。今休まないと休めないぞ」

 すると、ユージンが立ち上がる。

「サブレの言うとおりだ。いいかお前ら!あれこれねちねち考える暇があったらきっちり寝とけ!見えない明日で今日をすり減らすんじゃねぇ!たとえ明日が地獄でもそんときゃてめぇらの力でしぶとく生き延びようぜ!それが鉄華団だ!」

 ユージンがかっこよく決める中、キッチンでビスケットは食器を洗いながらクスクス笑う。

「頼もしいですね副団長」

「オルガの真似をしてるんだよ」

 

 フウカはチャドのお見舞いに来ていた。

「こんにちはチャドさん」

 チャドは何とか一命をとりとめてはいたが、しかし意識が取り戻せずにいた。

「あら。また来たの?」

「あの……チャドさんは……」

「昨日と同じよ。あなた達が前にいた火星とは違って地球式の再生治療は時間がかかるから。勿論その分きれいに治るのだけどね」

 フウカは家に帰ると、三人で取った写真を確認する。

「いいのかな?私これで……おにいちゃん……元気かな……」

 

「タカキが!?」

「敵の陽動をくらってモビルスーツの真ん中に……」

「出せるモビルスーツは全部出せ!とにかくスピード優先だ。急げ!」

 すると、一機のモビルスーツが素早く戦場に向かった。

「誰だ!?」

「速ぇ!」

「あれってガランさんのゲイレールか!」

 タカキのモビルワーカーが危機に陥ると、ゲイレールがモビルスーツに攻撃を仕掛けた。そして、素早く機体をたたく。

「間に合ってよかった。お前を失ったらアーブラウ全軍は総崩れだ」

「……助かりましたガランさん」

「お前にはすまないと思っている。だがここが踏ん張りどころだ。俺たちの勝利は近い。もうすぐ家に帰れるぞ!その為にあと少し俺の無理を聞いてくれ!」

「……はい」

 ガランの言葉にそそのかされるタカキ。

(俺は今何をしてるんだ?)

 

「やっと着いた~」

 鉄華団はようやくの思いで地球にたどりついた。

「これが地球かぁ」

「遅いな。地球を目の前にして何ちんたらしてんだ」

「うん。なんかあったみたいだね」

 ビスケットは鉄華団の代表として、シャトルの着陸の許可を出そうとしていた。

「どうしてですか!?どうしてシャトルの着陸を認めてくれないんですか!」

「現在アーブラウは非常事態宣言を発令中です。すべてのシャトル発着場への着陸許可は出せません」

「ですが、俺たちは鉄華団です。軍事顧問として国境紛争の援軍として……」

「申し訳ありませんが、いかなる例外も認められません」

 そういうと通信を切られてしまう。

「どうすんだ団長代行」

「サブレ達三番隊に連絡を……仕方がない、サブレは例のプランで。俺たちは俺たちで降りよう」

 

「アーブラウ宇宙港から報告がありました。ホタルビは軌道ステーションを出港し立ち去ったそうです」

「予定通りだな。これ以上子供が増えられても面倒だ」

「それと追加の連絡です。先ほど大気圏をデブリが突破したとのことで、まあ、戦場から離れていますし、問題ないでしょう。デブリ帯を漂っていた戦艦が落ちたという報告です。しかし、見事なお手並みですね。あの跳ねっ返りどもを手なずけるとは」

「まあ、デブリの方は駐屯部隊に任せるか。しかし、君の言う通り彼らは獣だな。犬と同じで、餌をやってたま~に頭をなでてやれば何も考えず主人の命に従う。特にアストン。あいつは面白い。そうかヒューマンデブリとはああいうものだったのか」

 

「タカキの言っていた今までの戦いと違うって俺達団長以外の奴の命令で戦うの初めてだからそれで……違うか?」

 タカキ達は寝ながら話をしていた。

「ありがとう。そうだね、確かにその違和感はあるよね」

「あるのかやっぱり。俺は別に誰の命令でもいいけど。ヒューマンデブリは戦うのが仕事だから」

「なんだよそれ!昔とは違うんだ!命令とかじゃない。俺たちは自分の為に戦っていいんだよ!……時々怖くなるんだ。アストンを見てると、そりゃ鉄華団の仕事はいつだって死と隣り合わせで、今が絶対に死なないなんて言いきれる状況じゃないのもわかってる。けど、死を最初から受け入れるのだけはやめてほしいんだ」

「それは……」

「ガランさんはすごい人だよ。あの人にはこの戦いの全体が見えてる。あの人に従っていればきっと勝てる。あと少しで家に帰れるんだよ。絶対生き延びて一緒に帰ろうアストン」

 

「お考え直しください准将!」

 マクギリスが出撃体制をとると部下がそれを止めようとする。マクギリスはグレイズリッターのコックピットにいた。

「膠着状態のままもう一月だ。これ以上戦局を長引かせると今後に大きな禍根を残す」

「しかし、何も准将自ら……」

「心配するな。無理はしないさ」

 

 マクギリスの出撃の報告はすぐにガランの耳元に届いた。

「何?マクギリスが出た?そうかしびれを切らしたか。奴の地位も名誉も帳消しになるまで、何年でも遊んでやるつもりだったが……俺のゲイレールとお前たちのシャルフリヒターをすぐに用意しろ。それと!鉄華団をたたき起こせ!」

 全員が出撃体制を整える。

「いいか!これが最後の戦いだ。敵の大将の首を取って勝利の美酒に酔いしれるぞ!」

「これが最後なら隊の指揮なんていらないだろ?俺が行く」

 

「サブレ隊長!予想通り動きました」

 サブレは三日月とハッシュと共に小高い丘の上で、戦場を見下ろしていた。ハッシュからの報告で戦場の大まかな場所を特定していた。

「しかし、まさかデブリにまぎれて先に戦場に降りてくれなんて注文されるとは思わなかったよ」

「でも、おかげで間に合った」

「だな……行くぞ!」




どうだってしょうか。数話ぶりに話にマハラジャが出てきましたが、彼の正体はいずれ明かすつもりです。まあ、薄々感づいている方もいるでしょうが……。
次回のタイトルは『友よ』です!


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友よ

ゼパル再びです!そして、彼の本性がほんの少しですが現れます。


 開戦と共にマクギリスの操るモビルスーツは次々とアーブラウ側のモビルスーツを迎撃していく。

「ここは片付いたか」

「准将お見事です」

「世辞はいい、もう少し敵の戦力を削るぞ、急造のアーブラウ防衛軍だ。モビルスーツが無限にあるわけではない。すぐに底をつく。これ以上混乱を長引かせては、月の蛇を笑わせることになる」

 マクギリス達を遠くからガラン達がジッと見つめていた。

「あれか、偵察隊の言っていた指揮官機」

「あいつをやればこの訳の分からない戦いは終わる……」

「そうだ。ここでの勝利を死んでいった連中への手向けにするぞ」

「あいつをやれば……」

 タカキの意識がマクギリスに向くなか、アストンがそんなタカキを落ち着かせる。

「タカキ、いつもどおりで平気だ。俺が前でお前が後ろ。いつもどおりやればきっとうまくいく。一緒にフウカのところに帰るんだろ?」

「そうだねアストン。一緒に帰ろう」

「ああ、約束だ」

 タカキとアストンが約束をする中、実はその会話をサブレたちは傍受しつつ、後ろからこっそりとガランの隙を伺っていた。

 

「この先にアーブラウ防衛軍の前線の拠点があるんだったな、そこを叩けば見えない戦局もだいぶ分かりやすくなるだろう」

 しかし、そんなマクギリスの前にガランが機体を走らせる。まっすぐにマクギリスを捉えると、そのまま武器を振り下ろそうとするが、マクギリスの部下がそれを邪魔する。

「大将がのこのこと出てくるとは戦法の基本がなっておらんぞ!」

「敵影五!准将はお下がりください!」

「私の心配はいい!本部に救援を要請しろ!作戦本部……」

「聞こえるか!敵の強襲を受けた。至急応援を!」

 しかし、一歩先を読んでいたガランによって救援は抑えられていた。

「救援なんぞ期待しても無駄。そっちは別動隊をやっているからな!ガキどもこっちは押さえる!お前たちは肩付きをやれ!」

 そういうとガランは部下のモビルスーツを押さえ、その隙に孤立したマクギリスにアストンたちが攻撃を加えた。しかし、攻撃の仕方からすぐにマクギリスには鉄華団だと判断できた。

「阿頼耶識の動き……鉄華団か。防衛軍のようにはいかないか………鉄華団のパイロット。これは団長からの指示なのか?オルガ・イツカの指示なのかを聞かせてもらいたい。君達は誰の指示で戦っている」

 そんなマクギリスの言葉にタカキが動揺を隠せずにいる。

「誰のって……」

「敵の言葉だ。耳を貸すなタカキ。こいつをやれば戦いは終わるんだ」

 そんなアストンの言葉に意識を切り替えるタカキ。

「そうだ……あんたをやればアストンと一緒に帰れるんだ!」

「タカキ!」

「いつもどおりやればうまくいく。分かってるよアストン!」

 しかし、そんな言葉とは裏腹にタカキが前へと走っていく。

「いつもは俺が前だろ……!一度下がれタカキ!そいつは一人じゃ無理だ!」

 しかし、そんな言葉に耳も貸さないタカキは完全に冷静さを失い、そのまま攻撃を加えようとするが、それをマクギリスは剣でうまくさばく。

「離れろタカキ!くそっこれじゃ狙いが……」

 マクギリスの機体の拳がタカキのモビルスーツに直撃し、その隙に武器を持ち替える。

「命懸けだよ……私もな!」

 マクギリスが剣を振り下ろそうとする中、アストンが間に割って張ろうとするが、それよりも素早くサブレの獅電が間に割って入る。タカキのモビルスーツを突き飛ばし、アストンのモビルスーツを左手で止めつつ、マクギリスの攻撃を右手で受け止めて見せた。

「さ、サブレさん?」

「て、鉄華団?どうしてここに……」

「本隊か!?どうしてここにいる」

 サブレはマクギリスの武器をそっと離す。

「いろいろ聞きたいことがあるでしょうが、マクギリスさん……できれば今回の紛争、俺たちに任せてもらえませんか?念のためにアーブラウとSAUの両方から承認を団長代行がとっています。できれば引いてほしい。ここであなた達と三つ巴になればさらに悲劇が起きる」

 マクギリスが考え込むと、ガランがサブレに攻撃を加えようとする。しかし、それを今度は三日月が割って入った。その姿を確認したマクギリスは黙ってうなずく。

「分かった。君たちに任せよう。どうやら、君たちはこの紛争の全体が見えているようだ」

 不利だと判断したガランは素早く撤退を始める。

「逃がすわけないだろ……」

「待て三日月!追わなくていい!一度引こう……タカキ達の状況を聞く必要があるし、タカキ達は状況が理解出来てない」

 三日月はどこか面白くなさそうな顔をするが、黙ってうなずくと、機体を翻す。

「分かった。タカキ、無事?」

「あ、はい」

「アストンは無事か?間に合ったと判断したが」

「……だいじょうぶです」

「そうか……よかった。ハッシュ!引くぞ!」

 そういうとマクギリスとサブレたちは互いに引き始める。

 

「ガラン・モッサと連絡が取れないとはどういう状況ですか!?一刻も早く調べてください。火星の連中に関する情報を最優先で……」

 ラディーチェは焦るように通信でガランの行方を聞こうとする中、ユージンはとなりから話しかけてきた。

「俺らがどうかしたのか?」

「アーブラウのシャトル発着場への着陸許可は?」

「ああ。おかげでSAU経由で遠回りするはめになった」

 ラディーチェは少しづつ後ろに下がると、今度は昭弘にぶつかってしまう。

「火星からの通信にも一切答えねぇってのはどういうことだ?お前にはいろいろと聞きたいことがある」

「まあ、サブレたちが先にこっちに降りてきててな、前線の状況は大体把握してるんだ。だからしらを切れるなんておもうなよ」

「ち、違うんです。全部ガラン・モッサの差し金で。わ……私ただ奴に言われたとおりにしていただけで!」

「言い訳ならあいつにしな……今回の一件、あいつはだいぶ怒っているみたいだけどな」

 そういうとユージンの見つめる方向をラディーチェも確認すると、いつもより厳しい表情をしたビスケットが部屋の中に入って来た。ゆっくりラディーチェの前に立ちふさがる。

「ビ、ビスケット・グリフォン団長代行!そ、そうだ!ガラン・モッサの居場所になら心当たりがあります!」

「あなたはガラン・モッサと共謀し今回の紛争を仕掛けましたね。あなたの身柄はアーブラウとSAUが引き取るということで双方が合意してくれました。両陣営は今回の事件に決着をつけるつもりです」

 すると、ザックが部屋に入ってくる。

「団長代行!副団長!ラフタさんから通信です」

「つなげ」

 ザックはすぐに通信をつないで見せた。

「つながりました!」

「一旦戦闘の方は収まったよ。まあ、ほとんどサブレと三日月が何とかしたけど」

「そりゃよかった」

「それがあんまりよくもないんだよね。この一か月で鉄華団にもだいぶ犠牲者が出てる」

「そうか、分かった一度引いてくれ」

 昭弘が襟首を締め上げ、ラディーチェを問いただす。

「そのガランって野郎はどこにいる?」

「もし戦場にいないのであれば国境を越えたSAU領内にいくつか身を隠すための場所が……」

「なんでてめぇが知ってんだ?俺たちをはめようってんじゃねぇだろうな?」

「ガランは平気で人を欺く男です。対等な交渉をするために色々調べておいて私のデスクに……」

 昌弘がデスクの中からその情報が入ったデータを見つけた。

「分かりました。ですが、だからと言ってあなたの処遇が良くなるわけではありません。あなたにはきっちりと罪を償ってもらいます」

「そ、そんな!」

「あと、マクマードさんからの伝言です。「お前を切る」だそうです。テイワズからの援助も見込めないと思っていてください。ユージン」

「おう!ほら!行くぞ!」

 ユージンがほかの団員と共にラディーチェを引きずって連れていく。

「ビスケットさん。どうしますか?」

「俺も出るよ……昭弘、出撃準備だ」

 

(マクギリスの首は取れなかったが……まっあとはラスタルがうまくやるだろう。こっちはマハラジャを調べなければな……あいつが生きているのならすこしばかり厄介だからな)

「ここでの仕事はもう終わりだ。傭兵は傭兵らしく次の戦場へ向かうとしよう」

 しかし、そんな中傭兵の一人が襲撃が来たと連絡を入れてきた。

「どこの部隊だ!?」

「詮索はあとだ!戦闘用意!ここは放棄する。持ちきれない物資は破棄してかまわん!」

(こんな所で……さすがに笑えんぞ)

 ガランが投げたコップがつぶれると、ガランはそんなコップには目もくれずモビルスーツに飛び乗った。

「数が多いな……囲まれる前にバラけるぞ!合流地点で会おう!」

 ガランが去るとき、三日月とハッシュは二人で敵のモビルスーツと会敵していた。

「来ました」

「俺が先行するから適当についてきて。無理はしなくていいから」

(俺だって……)

 バルバトスが走り、そのまま次々とモビルスーツをせん滅していく中、ラフタやアジーや昭弘たちもまた同じように怒りを抱えながら淡々とせん滅を続けていく。

 先にガランだけが目的の場所にたどり着く。

「まだ俺だけか?ったく……また兵隊を集めなきゃならんか。すまんなラスタル。次の仕事を始めるのは少し先になりそうだ。しかし、なんで居場所が……まさかマハラジャが生きて……」

 そんなとき、木々の奥からアガレスが単身姿を現した。

「そうかラディーチェか……少し小物と侮りすぎたか」

 鉄華団のモビルスーツが現れたところでようやくガランも事態を把握した。

 そのころ、ハッシュはモビルスーツに慣れておらず、苦戦を強いられていた。

(こんなはずじゃ……怖ぇ……怖ぇ……怖ぇ!)

 武器を弾かれ、戦うことのできないハッシュは恐怖のあまり目をつぶってしまう。しかし、そんな中バルバトスはハッシュの乗るモビルスーツを吹き飛ばす。

「邪魔」

 そういいつつそのまま前線に去っていく姿にハッシュはかつての兄貴分の姿を重ねた。

「俺は!」

 このままでは終われないハッシュはまた立ち上がろうとしていた。

 そのころサブレとガランも戦いを始めていた。サブレのレンチメイス改をガランのゲイレールに叩き込むと、ガランはそれを何とか受け止めて見せたが、サブレはゲイレールの足元を蹴りで払って見せる。ゲイレールは一度体制を崩し、そのままレンチメイスで後ろに軽く吹き飛ばされる。

「この戦い方……どこかで」

「ここで終わるような男じゃないんだろ?立ち上がって見せてくれよ」

「小童め!よくほざく」

 ゲイレールが武器を振り下ろすが、サブレはそれを後ろに軽く下がることで回避する。サブレはそのまま右こぶしをたたき込み、そのまま連撃を加えていく。レンチメイス改で左腕をつかみ、隠しパイルバンカーを打ち込む。

「この戦い方!思い出したぞ!!マハラジャ!!」

 サブレの戦い方にガランはマハラジャの姿を重ねた。しかし、一瞬の隙をつきサブレはゲイレールを押し倒しレンチメイスを振り上げる。

「マハラジャ………やはり……お前は……」

 ガランは勝利を完全に諦め、自爆装置を起動した。

(ラスタル……マハラジャは……)

「サブレ!下がって!!」

 アガレスは後ろに大きく飛び下がると、目の前で大きな爆発が起こると昭弘たちの目はそっちに向く。

「どうやら終わったみたいだね」

 ラフタのそんな言葉に昭弘はそれでも素直に喜べなかった。

「あんたは頑張ったよ……」

「ああ……」

 全員が安堵の息を吐く中、ビスケットも少し落ち着くが、サブレだけは何か違和感を感じていた。

(なんだ?この感覚……何かがおかしい)

「どうしたのサブレ……」

「ラディーチェはどうやってあの居場所を調べたんだ?」

「どうやってって……それは……」

 ビスケットが答えに悩んでいると、三日月が姿を現した。しかし、その時サブレの脳裏に傭兵という言葉で一人の男が浮かんだ。その時、サブレと三日月はすぐに反応し攻撃を武器で打ち落とす。彼らの前にあの赤いガンダムフレームであるゼパルが姿を現した。

「あの時の!」

「ここで会ったが……!!」

「この際だからはっきり聞こう。お前は誰だ?サルガという人物は知っているが、お前じゃない。確かに、お前は性格も戦い方もサルガと全く同じだが、サルガはお前のような若い人間じゃない!」

「………勘の良いガキは嫌いだな」

 ゼパルの目が赤く光りとたん動きが素早く、かつ予想不能な変則的な動き方に変わる。三日月のソードメイスを回避し、三日月を土台にして後ろのアガレスに大剣を振り下ろした。三日月はソードメイスを下から振り上げようとするが、それはゼパルが受け止める。

「ようやく本性を出したな?あんた何者だ?」

「何者か……か。そうだな、俺は……イラク・イシューと名乗っておこうか」

「イシュー?イシューってセブンスターズの?」

「くくく……どうかな」

「どうでもいいよ。あんたが俺たちの敵であることは変わらないだろ」

「その通りだ」

 そんな中、ギャラルホルンのモビルスーツの反応を感知すると、イラクは後ろに大きく下がった。

「さすがにギャラルホルンに見つかるのは面倒だ。だが……確信ができたよ………バルバトス」

 バルバトスを軽くにらむと、ゼパルはそのまま夜の闇のなかに消えていった。

 

 ハッシュは一人で落ち込んでいた。

「クソみてぇな気分だ。自分がなんの力もねぇただのガキだって思い知らされんのは。あの人達は俺とは全然違う。阿頼耶識の手術なんて関係ねぇ、そもそもの物が違う」

 すると突然後ろから話しかけてくる人物がいた。

「自分の置かれた状況を正しく判断できるっていうのはきっとパイロットの素質の一つだ」

 ハッシュは黙りこくってしまう。

「なんだ?」

「お前がそんなにしゃべるからびっくりしてんだよ」

 

 アストンと共にタカキは最低限の事情を聴かされたのち、いったん帰宅することになり、タカキとアストンはフウカの待つ家へと帰って来た。フウカはタカキとアストンが無事なことを確認すると軽く涙を浮かべ二人に抱き着く。

「お帰り!」

 

「ヒゲのおじ様が?そんな……どうして?おじ様は誰よりも強くて優しくて……」

 動揺を隠せないジュリエッタにラスタルは諭す。

「ジュリエッタ!彼の死を嘆くのはやめろ」

「ラスタル様……?」

 ジュリエッタは大粒の涙を流し、嘆いていた。

「彼はどこにも存在しない。私の活動に裏で協力するため彼は家も所属も本当の名前すら捨て戦いの中で生き、そして死んだ。存在しない男の死を悲しめばそこまで尽くしてくれた彼の思いを踏みにじることになる」

「……はい」

 ジュリエッタは涙を拭き前を向く。

 そのころ、フォートレスの旗艦のブリッジではマーズ・マセが一人遠く輝く地球を眺め、たたずんでいた。そして、ラスタルとマーズは同時に言葉を放つ。

「友よ……」

「友よ……」

 しかし、その言葉に込めた思いは全くの別の感情であった。




どうだったでしょうか?ゼパルがまた少しだけ姿を現しましたが、彼はこれからもちょくちょく登場する予定です。
次回のタイトルは『帽子の行方』です!


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帽子の行方

いよいよ地球編ラストです!


 アーブラウとSAU間の紛争から既に一か月が過ぎ去ろうとしていた。ギャラルホルンのセブンスターズの会議ではイオクがマクギリスの失態を追求しようとしていた。

「今回のSAUとアーブラウ防衛軍の戦闘について、全ての責任は地球外縁軌道統制統合艦隊にあることは明白!今回の件で水面下で行われていた、経済圏同士の争いは表に噴出するでしょう。そうなれば現在のギャラルホルンにどれほどの抑止力があるか……」

「クジャン公落ち着きたまえ。この騒動はファリド公だからこそ最小限に被害を抑えられたとの考え方もある」

「気になるのはアーブラウ防衛軍を指揮したという男だが……」

「調査の結果地球上のすべてのデータに該当する人物はありませんでした」

「本当にそんな男がいたのか疑問だ」

 ラスタルのそんな一言でガランの一件は打ち切りになってしまった。

 

 ラスタルとマクギリスは会議が終わったころ、廊下で鉢合わせになってしまった。

「今回は大変な目に遭ったな。いや、ボードウィン公の言う通りだ。君でなくては今回の騒動は収められなかっただろう」

「いえ。そもそも騒動が起こったこと自体が私の失態ですので」

「君も大人になったものだな」

 ラスタルとマクギリスは昔出会っていた。ラスタルはその時のマクギリスの欲していた物を今でも覚えていた。「バエル」とそういった彼の事を。

「まさか子供の口からそんなものの名前を聞くとはな。まあ君には今でも驚かされるが。イズナリオ・ファリドの失脚劇の手際も実に見事だった」

「なんのことを仰られているのか計りかねます」

「私怨が君の原動力なのかと思っていたが、イズナリオ・ファリドが亡くなった今、君はギャラルホルンで何を成し遂げたいのか……、しかしそれが分かる時はお互いに状況が今とは大きく変わっているだろうな」

 そういうとラスタルはマクギリスの前から姿を消した。

「ガラン・モッサについての独自調査の結果は?」

「やはり正体を追いきれませんでした」

「一人の人間の素性を完全に闇に隠す。それはエリオン家であれば十分に可能だ」

「ラスタル・エリオンはあとどれだけの手駒を隠し持っているのでしょうか……」

 マクギリスはまっすぐとラスタルの消えた方を見つめていた。

 

部屋の一室でビスケットはイラクについて調べていた。

「イラク・イシュー……300年前の人間だ」

見つかった結論はあり得ない結論だった。

 

 蒔苗は何とか一命をとりとめ、クーデリアと病室で話をしていた。

「まるで狐につままれた気分だ、目覚めたら一つの戦争が始まり、そして終わっていた」

「SAUとアーブラウ防衛軍は和平調停を受け入れました。鉄華団は地球から撤退するそうです。手続きの為、オルガ・イツカも今し方……」

「チャド・チャダーンはすでに退院したと聞いたが?」

「はい、今はもう現場に復帰したと」

「そうか。おいぼれを助けるために若い命を散らせてはあの世で悔やみきれんからな」

 蒔苗は微笑みながらチャドの無事を喜んだ。

「蒔苗先生はもっと冷酷……あっいえ、情に流されず冷静に物事を判断する方かと思っていました」

「年を取って変わったのかもしれんな」

「素晴らしきことです」

「いや。この年での変化はもはや退化にすぎんよ。今回は運よく命拾いをしたが、すでに限りは見えている。しかし、この年までわしが得てきた人脈を未来ある誰かに譲ることができれば……クーデリア・藍那・バーンスタイン。どうだ?このまま地球に残らないか?」

「そのお話なのですが……」

 クーデリアがそう切り出すと、病室をオルガとビスケットが訪ねてきた。

「鉄華団か……何ようかな?」

 クーデリアとオルガとビスケットは黙ってうなずくと、オルガが切り出した。

「爺さん……話があるんだ」

 

 チャドは端末に記載されていた今回の戦死者リストを見ながら階段で一人落ち込んでいた。すると、そこに昭弘とラフタがやって来た。

「今回の戦死者か」

「ああ。俺がふがいないせいで、こんだけの仲間を失っちまった……」

「お前のせいじゃない」

「団長やビスケットはいつもこんな気持ちなのか……一分一秒が耐えきれねぇ、やり切れねぇ。自分が前に出て傷ついた方がずっとましだ」

「そういえばアストンって昭弘と同じ苗字だよね。アストン・アルトランドって」

「ああ。ブルワーズにいたヒューマンデブリの生き残りには苗字のない奴が多くてな、助かってよかった。サブレには感謝しねぇとな。失ってからじゃ遅すぎるからな」

「……そうだね」

 

「おいタカキ、こっちの帳簿はどうなってる?」

「それは……すいません……ラディーチェさんが管理していて」

「こっちは?」

「すいません……それもラディーチェさんしかわからないんです」

 オルガたちは事務所で撤退の為の準備を行っていた。

「結局の所、戦争なんて起こる前から地球支部は実質ラディーチェに牛耳られてたってわけか」

「文句言っても仕方ないよ……基本的にみんなは実戦ばかりで、事務的な仕事は俺がやってたし……」

「だな……こればかりは俺たちの責任だ」

「どうすんだ?ラディーチェの奴を連れ戻すか?」

「止めておこう、ややこしい状況になるだけだし……俺はあの人が嫌いだ」

 ユージンがそっとオルガの方に近づく。

「なあ……ビスケットの奴、なんであんなに機嫌が悪いんだ?」

「自分の責任だって感じてんだろ?自分が地球支部にいれば良かったってな……」

「はぁ?そんなの仕方ねぇだろ。サブレが護衛部隊に選ばれてビスケットも本部勤務に決まったちまったんだから」

「元々裏方はあいつが一手に引き受けていた。それが今回の結果につながっちまったし、元々あいつはラディーチェには反対だったんだ。頭を使うやつをいきなり入団させると、トラブルになるってな。まああいつの予想通りになっちまったがな。これは俺の責任でもある」

 ユージンは肩をすくめ自分の席に戻っていくと、ビスケットがタカキに声を掛けた。

「タカキ、ラディーチェさんが管理していたデータをすべて俺に回してくれ、俺が何とかするから」

「だったら、ビスケットお前が今してる整理の仕事を俺に回せ、俺とユージンでなんとかすっからよ」

 少しずつではあるが仕事が片付きつつある状況の中タカキは自分の不甲斐無さと無力さを噛み締めていた。

 

 タカキは暗い中、座り込んでいると唐突に後ろから三日月が声を掛けた。

「どうしたの?しけた顔してんね」

「俺は鉄華団失格です。ラディーチェさんの嘘に乗せられて訳の分からない人間の命令に従った。鉄華団にとって団長の命令こそが絶対なのに、俺は……」

「タカキは自分に与えられた仕事を果たしただけだ。オルガの命令だと思って従ったんでしょ?」

「それはそうですけど……」

「だったらいいじゃん」

 三日月はそういうとそのまま外に出ていった。入れ違うようにクーデリアが近づいてくる。

「タカキ……」

「三日月さんやビスケットさん、それにサブレさんはすごいです。あの時、サブレさんが割って入らなかったら俺かアストンは死んでました。それにラディーチェさんが勝手にしていた仕事をビスケットさんはあっさり解決してくれて、俺……今でもビスケットさんに甘えてる。あの時の帽子をかぶる覚悟もなくて……俺……ビスケットさんに合わせる顔がありません」

「私がこんなことを言うのは出しゃばりかもしれないけれど、あなた達はもっと学ぶ必要があると思う。解釈の仕方は一つじゃない。選択肢は無限にあるの本当はね。だけど、その中で自分が選べるのは一つだけ」

「自分でなんて……俺なんかには選べないです」

「一つを選び取るのは誰にだって難しいわ。でもね。多くのものを見て知識を深めれば物事をきちんと判断し、選択する力が生まれる。誰かの指示に頼らずとも。ビスケットさんだってあの日自分で判断し、選択した。だから彼は今、まっすぐに歩いている。タカキはそんなビスケットさんから帽子を託されたのでしょ?」

 

「ぬるい!もっと歯応えのある状況を用意してください!これでは訓練にならない!」

 ジュリエッタはコックピットから出てくると、憤慨しながら飛び出す。

「シュミレーターか。熱心だな」

「もっと私に力があればラスタル様は私が前線に出ることを許してくださったはず。そうすればヒゲのおじ様を失うこともなかった」

「君が前線にいれば戦況は変わったと?」

「もちろんです!」

「その発言は亡くなった彼を愚弄することになると分かっていってるのか?」

「くっ……。私の戦いはヒゲのおじ様に教え込まれたものです。おじ様が身寄りのない私をラスタル様に推薦してくださった。私は二人への恩返しの為にも強くあり続けねばならないのです」

「君のような人間を知っている。尊敬する上官に拾ってもらった恩を忘れず上官の存在を誇りとして戦い抜いた」

「その方は今どちらへ?」

「今は……近くにいる」

「なるほど、そのような立派な方とお知り合いとはあなたは想定していたよりまっとうな方なのかもしれません」

「君は想定していたよりもシンプルな精神構造をしている」

「ん?それはお褒めいただいているのですか?」

「もちろん」

「ふふん……どうも。でもあの人の強さは……」

 その時ジュリエッタの脳裏にはアガレスが映りこんだ。

 

「ようよう元気か?お前ら。な~んかまた盛大におっ死んだらしいなぁ」

 トドが鉄華団の地球支部に顔を出す。

「おめぇらの兄貴分として励ましに来てやったぞ」

「兄貴って……」

「あんた、じじいじゃねぇかよ」

 そんなトドの後ろには変装したマクギリスが乗り込んでいた。マクギリスは部屋にたどり着くとオルガと話を始めた。

「ガラン・モッサはラスタル・エリオンの息がかかっているとみて間違いない」

「またラスタルってやつか」

「彼らを討たずしてギャラルホルンの改革はありえない。相手側が仕掛けてきたということはもはや全面対決も近いだろう。これからも君達には力を貸してもらわねば」

「手を組むだけならいい。だが……俺達にも目的がある。もし、アンタと俺たちの意見が食い違ったらどうする?」

「その時は手を切ることを約束しよう。それに私は確信しているんだ。君達の力を借りることができれば、私は必ずやギャラルホルンのトップに立つことができる。その暁にはギャラルホルン火星支部の権限をすべて鉄華団に移譲しよう」

「はぁ?」

 オルガは突拍子のないそんな条件にいまいち話を飲み込めずにいた。

「火星は各経済圏の植民地だが、それを束ね実際に管理しているのは我らがギャラルホルンだ。その権利を君達が持つとなればそれは鉄華団が火星を支配するということだ」

「火星を支配?」

「ああそうだ。君達は火星の王になる」

 しかし、この時のオルガはすでに組むべき相手を見極めていた。

 

 タカキは廊下をため息を吐きながら歩いていると、曲がり角で大量の荷物を抱えているビスケットにぶつかりそうになる。

「あっ……ごめん。タカキ、大丈夫だった?」

「え、あ、はい。持ちましょうか?」

 タカキはビスケットの荷物を抱えて一緒に歩いていると、抱えていた荷物が死んだ仲間の遺品であると気が付いてしまう。タカキは思い悩んでいると、ビスケットが話を切り出した。

「そういえば……フウカちゃんは元気?学校に通っているって聞いたけど」

「はい。元気ですよ。アストンともすっかり仲良くなって……」

「悩みがあるなら聞くよ」

 そんなビスケットの優しい言葉にタカキは一瞬驚いてしまう。そして、本心を打ち明けた。

「俺……鉄華団をやめようと思ってるんです。でも、それが正しい判断なのかどうかが分からなくて……俺だけ逃げているようで……それに、アストンの事だって」

「だったらアストンと二人で話したらどうかな?二人で決めたらいいよ。俺だっていつもサブレと決めてきたんだから。タカキとアストンは本当の兄弟じゃないけど、地球に来てからアストンと二人で歩いてきたんなら、タカキが相談する相手は俺じゃなくって、アストンなんじゃない?大丈夫、どこにいても、どこで仕事をしていても俺たちは仲間で、家族だって言えるよ」

「び、ビスケットさん……」

 しかし、そんな話をアストンが立ち聞きしていた。

 アストンがそんな話を立ち聞きしていると、廊下の奥から昭弘が姿を現した。

「どうした?アストン」

「あ、昭弘さん。おれ……。タカキが鉄華団をやめるって……俺どうしたら」

 アストンが思い悩んでいると昭弘はすれ違いざまに肩に手を置く。

「二人で話せばいい。お前がどこにいても俺たちは家族だ」

「………はい」

 アストンは廊下を歩き、外に出るとばったりとタカキと遭遇してしまう。気まずい雰囲気が流れると、二人は同時に話を切り出した。

「「あのさ……俺………」」

 二人は結論を出そうとしていた。

 

「昭弘さんじゃねぇんだからよぉ。何?急に、ムッキムキになりてぇの?」

 ザックは筋トレをしているハッシュに話しかける。

「うっせぇよ。三日月さんとサブレ隊長の足を引っ張らないためには死ぬ気で食らいついていくしかねぇ」

「おっ?いきなり『三日月さん』か?」

「文句あんのか?」

「えっ?いやないない。上下関係きちんとするってのは大事だぜうんうん」

 そんな会話をデインが聞いているといきなりハッシュの背中に乗っかった。

「ぐわっ!」

「いや頑張ってるから手伝おうかと思ってたんだが」

「悪い……ちょっと遠慮しとくわ……」

 

 団長室に主要メンバーを集めるとマクギリスからの提案を飲むかどうかを話し合っていた。

「待ってくれよ。俺、脳みそが追っつかねぇ……」

 ユージンが頭を抱えて悩んでいる。すると、三日月がいの一番に聞いた。

「オルガはどうしたいの?」

「断るつもりだ。手を組むだけならいいが、ここまで話が大きくなると別だ。それに俺たちが組む相手はすでに決めてある」

「どういうことだ?」

 ユージンがふとオルガに聞くと、クーデリアとビスケットとアイコンタクトで合図を送りあう。そしてクーデリアが話を切り出した。

「私たちはマーズ・マセと手を組むことを決めました」

「「「ええ!?」」」

 メリビットさんを含めて、団員のほとんどが驚きを隠せなかった。

「ごめん。いつかみんなには話そうと決めたんだけど、約二か月前にマーズ・マセがうちに来たことがあるんだ。その時に手を組むって決めたんだ」

「ちょっと待ってください。テイワズとの関係はどうするんですか?」

「親父にはすでに話が通ってる。すでに了承済みだ」

「いつの間に……」

「話が私たちに来た時点でマーズ・マセが独自に説得してくれたんです。どう転んでもメリットがあると了承してくれたので」

「マジかよ……。じゃあ、俺達鉄華団はマーズ・マセと組むってわけか?」

「いや、鉄華団が組むんじゃねぇ、俺たちとお嬢さんで火星の複合企業『ファミリア』を作り、ファミリアとマーズ・マセのフォートレスが手を組んでことを起こす」

「なんだ?ファミリアって……」

 チャドや昭弘は首を傾げ聞きなれない名前に声を出して問う。

「俺とお嬢さんでテイワズのような組織を作るって話をだいぶ前からしてたんだ。その複合企業の名前が『ファミリア』だ。火星の経済をファミリアが独自に握る」

 そんな話に昭弘たちは関心の声をあげるが、すぐにメリビットさんが反論する。

「ちょっと待って下さい!そんな話、経済圏が許すわけが……」

「いえ、アーブラウとSAUにはすでに話が通っています。他の二つの経済圏に関しても蒔苗さんが説得してくれる手筈になっています」

「いつの間に……どうやって」

「今回鉄華団はギャラルホルンの代わりに戦争の仲介役をかって出ました、その際に成功の暁にはファミリアの立ち上げを許してもらえるように働きかけたんです」

「よく経済圏が許したよな」

「それは……経済圏にもメリットがあるからなんだ。前に名瀬さんが言ってたよね。経済圏は今のギャラルホルンを重荷に感じ始めているって……、マーズ・マセの目的はギャラルホルンを変えること、そしてそれができる唯一の人物がマーズ・マセなんだ。その為の最低条件はラスタル・エリオンを討つこと、これはマクギリスさんと変わらない、でもそれができるのはあの人だけだと今のところは思っている」

「待てよ、なんで一海賊がそんなことができるんだ?たかが海賊だぜ?戦力だってたかが知れてるだろ?」

 ユージンの疑問は最もであり、ほかの団員も同じ意見だった。

「俺たちもすべてを知った今でも驚いているんだけど……」

「マーズ・マセが所有している戦力はアリアンロッドとほぼ同数だ。どうもマーズ・マセは海賊や違法組織を襲っては自分たちの戦力に取り入れていたらしい。この数十年間裏でずっとな」

 全員が言葉を失っていると、最後にオルガが全員に確認を取る。

「そういうわけで、俺達ファミリアはマーズ・マセと組む。この話に乗れねぇってやつがいたら遠慮なく出てきてくれ。別に止めやしねぇ」

 ユージン達はやめようとしない中、タカキとアストンが黙って前に出てきた。

「団長、俺とアストンは鉄華団をやめます!団長が俺たちの未来の為に悩んでいろいろと考えてくれてるのはわかっているんです。だけど……俺とアストンは今の幸せを手放したくないんです」

「俺たちは今の幸せを守るために地球に残ります」

「分かった。俺にはお前を止める権利はねぇよ。今まで長いこと鉄華団の為に尽くしてくれてありがとな。タカキ、アストン」

「「お世話になりました」」

 

 チャドと一緒にタカキとアストンは三人で歩いていた。

「地球でいい仕事がないかビスケットが走り回りながら探してくれてる。じきに見つかるさ」

「すいません俺達……」

 二人が頭を下げ謝っていると、チャドは気にしておらずタカキとアストンに優しく声をかける。

「いいんだ。地球支部はお前たちのおかげで本当に助かったよ。離れていても俺達はずっと家族だよ」

 しかし、三日月はそんなタカキ達に別の言葉を掛ける。

「いや違うでしょ。タカキとアストンの家族はフウカだけでしょ?俺たちの事は気にしなくていいから」

 そういいながら三日月はすれ違っていく。昭弘がそんな三日月の発言にフォロー入れてくれる。

「気にするな。あれはきっと三日月なりの優しさだ。アストンの事をよろしくな。アストンもこれからは新しい家族と仲良くしろ」

「は、はい」

 

「しかし、面白い話になってきたの……」

 蒔苗は病室での話を思い出していた。

「火星複合企業の立ち上げじゃと?」

「ああ、それを認めてほしい。もちろん、SAUとアーブラウには事前に説得した。あとはオセアニア連邦とアフリカンユニオンだけだ。あんたにはそっちの説得をしてほしい」

「もちろん構わんが、そんなものを作ってどうするんじゃ?」

「火星が独立するというのは少々危ないことだと今は考えています。しかし、今のままでは火星の貧困などの問題は解決できません。ですから……」

「それをある程度解決出来る方法として俺たちはファミリアを作りたいんです」

「もちろん、勝つための算段はある。あんたたちにとっても悪くない条件だ」

 蒔苗はひげをいじりながら少々悩むと、ゆっくり目を開ける。

「たしかに、わしらにもおぬしらにもメリットのある条件のようじゃな。わしらはギャラルホルンへの発言権を獲得し、おぬしらは火星の経済面での権利を獲得する。そして、テイワズもまた木星での経済の権利を正式に獲得する。だが、それはおぬしらが勝てればの話じゃ。できるのか?」

「できなきゃこんな話はあんたにはしない」

 オルガと蒔苗が軽くにらみ合うと、蒔苗は微笑み了承する。

「よかろう……この話に乗ろう。他の経済圏はわしの方から説得しよう」

 そんな話を思い出すと、蒔苗は目の前にある一つの写真を手を取る。そこには蒔苗のほかにもう一人ギャラルホルンの士官が移っていた。

「種はもう蒔かれたということか……のう、マハラジャよ」

 すでに種は蒔かれ、世界はすでに引き返せないところにまで進もうとしていた。

 

「ビスケットさん」

 タカキはビスケットを呼び出すと、ビスケットの帽子を差し出す。

「これ……返します。俺はもう鉄華団じゃないから」

 ビスケットは帽子を受け取ると、もう一度タカキの頭にかぶせる。

「!?ビ、ビスケットさん?」

「あげるよ、タカキに。今度会うときはその帽子が似合う男になってるって信じてるよ」

 タカキは頭をあげることができず、必死に涙を我慢しようとするが、それでも涙は止まらなかった。

「お、俺!ビスケットさんのおかげでここまで来れました……だから………今まで本当にありがとうございました!この帽子は一生大切にします!!」

 ビスケットの帽子はタカキへと受け継がれた。

 

「これで全部か?」

「ああ。死んだ地球支部の奴らの私物はこんなもんだ。残りはタカキとアストンに任せた。俺らにとってはもう地球も第二の故郷みたいなもんだからな。不思議だな。ヒューマンデブリだった頃は自分の居場所なんてどこにもないと思ってたのに」

「ああ。そうだな」

 そんな会話を複雑な表情でラフタが見つめていた。そうしているとラフタのそばにアジーが近づいてきた。

「昭弘は?大丈夫?」

「弟分が死んだわけじゃないからね。大丈夫だよ」

「じゃなくてあんた」

「えっ?」

 アジーの言葉に一瞬言葉を失ってしまう。

「名瀬には黙っといてあげるよ」

「うっ!だからそういうんじゃ……ああ~……でもまあ……とりあえずダーリンには内緒で……」

 そんな話を昌弘が立ち聞きしていることにはラフタ達は気が付かなった。

 

「火星に戻りゃまた似合わねぇお偉いさん周りの日々だ」

 オルガは黙って三日月の為に袋を破って渡してやる。すると、悲鳴を上げながらビスケットが階段から降ってくるのをオルガが間一髪で受け止める。

「大丈夫か?」

「う、うん。サブレ!何すんのさ!」

「兄さんが出入り口でうろうろしてるからだろ?」

 ビスケットとサブレがオルガたちの隣に座ると、オルガが切り出した。

「これで良かったのかって思っちまうんだ。あの時、ほとんど選択肢がなかったとはいえ、マーズ・マセの選択を受け入れちまった。あいつらが反対するんじゃないかって」

「反対しなかったろ?まあ、基本的にみんな俺達に考えることを預けてるだけだと思うけどね」

「信頼してるって思ってなよ。それにその選択肢が間違っていたかなんてこれからわかるさ」

「だね。少なくとも俺たちは選択した。オルガとビスケットについていくって」

 三日月は菓子をかじると、ふとした疑問を尋ねた。

「そういえば、なんで『ファミリア』なの?」

「え?なんでって……それは………」

 オルガが少しだけ笑うと、ビスケットが代わりに答えた。

「俺が考えたんだけど、『ファミリア』って家族って意味があるんだ。それと仲間。家族みたいな仲間って意味で『ファミリア』なんだ」

「ふ~ん……いい名前だね」

「だな。俺もそう思う」

「ビスケットらしい名前だな」

 彼らもまた前に進み始めていた。

 

「あっ。おかえりなさいお兄ちゃんアストンさん」

「そろそろ二人とも帰ってくる頃かなって待ってたの。お仕事どうだった?」

「うん。まあ……帰ろう、俺たちの家へ。ね、アストン」

「ああ、帰ろう俺たちの家へ」

 三人で仲良く帰っていく。笑顔になれる家へ。




どうだってでしょうか?タカキとアストンは鉄華団を退団することで決着しました。そして、鉄華団とクーデリアもまた大きな選択肢を選びましたね。この選択肢が、結末に大きく影響してきます。
次回のタイトルは『ヴィダール立つ』です!楽しみにしていてください!


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ヴィダール立つ

ついにあの機体が姿を現します。そして、いろんな意味で衝撃の話だと思います。本当に…いろんな意味で……


「アトラ……話があるんだ」

 桜農場の裏でビスケットはアトラを呼び出す。そわそわするビスケットにアトラは優しい表情で答える。

「何?話があるって言ってたけど……あっ、そうだ。後でクッキーとクラッカにお土産渡しに行くよね。私もついて行っていいかな?」

「あ……うん………そうじゃなくて!アトラに渡したいものがあるんだ」

 そういってビスケットは隠していた小さな小箱を取り出す。そして、ゆっくり小箱を開けると中から指輪が出てくる。アトラはその指輪に驚くとすぐにビスケットの顔を見た。ビスケットの顔は真っ赤に染まっており、照れながらもアトラの目をまっすぐに見つめる。

「け、結婚してほしいんだ……アトラ」

 アトラは頷きビスケットは指輪をアトラの指にはめ込む。

「喜んで」

この日は記念すべき日になった。

 

「手こずっていたシステム回りの調整もようやく完了したか」

 ラスタルの目の前では新たなガンダムフレームがようやく調整を終え、出撃の時を待ちわびていた。

「コロニーの鎮圧任務、お前にも出てもらうぞ。ドルトの一件以来コロニーの独立運動は激化の一途だ。経済圏に自衛戦力を持たせたところで、鎮圧もままならん。活動家共に金と武器を流している輩がいる限り……」

 ヴィダールに話しかけるラスタルを面白くなさそうにジュリエッタは見ていた。

「裏に誰がいようとかまわない。秩序を乱す武装勢力がいる。ギャラルホルンが力をふるうのにそれ以上の理由はないだろう」

「今日はよくしゃべるな」

「浮かれているのかもしれないな。ようやくこいつと共に戦えることに」

 ヴィダールの出撃の時も着実に近づいていた。

 

 鉄華団本部にはランドマン・ロディが三機戻ってきていた。雪之丞とデルマはその近くで話し合っていた。

「これ誰が乗るか決まってるんですか?」

「戻って来た三機のうち一機はチャドが乗るってよ。他はまだ聞いてねぇがな」

「なら俺に使わせてください」

 デルマは自ら乗ることを名乗り出る。

「はっ?元はおまえさんがいたブルワーズから引き揚げたマン・ロディだ。ろくな思い出がねぇだろ?」

「俺達ヒューマンデブリにとってこいつは棺桶も同然だったけど、地球でアストンが乗ってたんなら俺も……」

 すると後ろからダンテが現れる。

「お前ならそういうだろうって昭弘が話をつけてるぜ。もう一機は俺が乗る。元ヒューマンデブリの意地見せてやろうぜ」

 

「ああ~やってもやっても終わんねぇ~。なんだこの整備地獄」

「俺は楽しい」

「変態野郎。俺はもう勘弁」

 ザックはモビルスーツの上でだれているとユージンの姿が見えてくる。途端に焦ったザックはデインにあたる。

「おらっデイン!音上げてんなよ!お前もさっさと手動かせ!」

「おい!おととい搬入した獅電の調整は終ったのか?」

「今バリバリやってるとこっす!」

「明日にはテイワズからまた届くからな」

「げっ!まだ増やすんですか?」

 そんなユージンの前には白い獅電がその場に置かれていた。そんなユージンの方にシノが近づいてくる。

「副団長。農場に行ってた奴らが戻ってきたってよ……こいつがオルガ専用獅電か?」

「そういやぁさっき聞いたんすけど……ビスケットさんとアトラさん……結婚したらしいですね」

「「はっ!?」」

 ザックの何気ない言葉に反応したシノとユージンは言葉を完全に失った。

 そして、訓練場ではハッシュとチャドがモビルスーツを使った訓練に明け暮れていた。そしてそれを遠くからアジーとラフタは眺めていた。

「チャド張り切ってんね」

「地球じゃ悔しい思いもしたからね。それはあの新入りも同じか」

「農場から戻ってきてすぐに訓練なんてね。まっおかげで物になってきたか」

「この調子だと獅電の慣熟訓練ももうすぐ終わりそうだね……」

「ああ。ようやくお役御免だ」

「うん……」

 帰れるはずなのにどこかうれしそうじゃないラフタはある男の事を思い浮かべていた。

 メリビットと雪之丞は格納庫で地球から回収した備品の確認を行っていた。

「これが地球支部から回収した備品のリストになります」

 メリビットはどこか心配そうな表情を浮かべる。

「一体どこまで戦力を増やすのかしら」

「まあファミリアっていうのを立ち上げちまったら、火星の治安はファミリアが何とかしなくちゃいけねぇからな」

「悪魔の名前を持ったモビルスーツが鉄華団に集まっている。なんだか嫌な予感がして……」

 雪之丞は優しく頭を撫でる。

「考えすぎだ」

「ふふっ……もう」

 

「整備長!」

 テイワズの整備長のもとにエーコとヤマギが近づいてくる。

「ルプスとイーターとフルシティの調子はどうだい?」

「三機ともいいみたいです。その名前ではあまり呼ばれませんけど……」

「これどうでした?こっちでもいろいろ試したけど結局よく分かんなくって」

 整備長たちの目の前には白いガンダムフレームが鎮座しており、鉄華団ではわからないということでテイワズに預かってもらっていた。

「モビルスーツのフレームは三百年程度では劣化しないよ。リアクターの寿命はもっと長い。それでどうにもならなかったのはリアクターがスリープ状態だったからだろう。いま立ち上げ作業をしているところだ。そうそう一緒に送られてきたモビルワーカーもどきなんだが、テイワズのデータべースにもこれといった情報がなくてねぇ」

 するとようやくガンダムフレームのリアクターが起動した。

「エイハブ・ウェーブの固有周波数が取れたぞ、これがこいつの名前か」

「ガンダムフラウロス……」

 

「オルガ達鉄華団はマクギリス・ファリドからの話は断ったそうです。ですが、これからも少なくとも手は結んでいくということで落ち着いたと」

 名瀬はマクマードとテイワズの幹部メンバーの前で地球支部でのやり取りの一部を話して聞かせた。そんな話にジャスレイがいの一番にかみつく。

「要はメンツの問題よ。鉄華団はおやじの情けで飼ってやってる弱小組織だ。そいつがおやじに相談なくギャラルホルンと取引をした。なあ名瀬よ。物事には順序っつぅもんがある。そいつを踏まえずにガキらに好き放題やらせて親に恥かかせるつもりか?ああっ!?」

「まあ、いいじゃねぇか。結果として断ったんだ」

「この先この件で親父に迷惑をかけるようなことがあれば鉄華団は切ってくれて構わない。オルガはそういう覚悟です」

「そんなガキはどうでもいい。てめぇはどうすんのよ?」

「その時は……俺が腹を切ります」

「……チッ。おやじ。俺は俺でテイワズの為に動きますよ」

「ああ。どう転んでもいいよう打てる手は打っておいてくれ。いままで通りな」

 そこで話は終るとジャスレイはそのまま部屋を出ていく。中庭に出たところでアミダと遭遇した。

「何かいい事でもあったのかい?悪い顔してさ」

「絡んでくるとは珍しいじゃねぇか。名瀬に愛想を尽かして俺に飼われる気にでもなったか?」

「まさか。冗談でもやめとくれ」

「女とガキを使ってのし上がる軟派野郎のどこがいい?」

「女を女としか見てないあんたにはわかんないだろうね。名瀬は私らを使ってるんじゃない。居場所になってくれてるんだよ」

「そりゃいかにも女が言いそうなことだな」

「タービンズにいる子はみんなあんたみたいな男に使われてた連中さ。危険な運びの仕事を割に合わない安い金でやらされてね。そういう子を名瀬が自分の器量で抱き込んでできたのがタービンズさ。あんたの器じゃその違いが分かんないだろうけどね」

「俺は自分の女をモビルスーツに乗せるようなバカじゃねぇからな」

「ほ~らやっぱりわかってない」

 アミダが話していると後ろから名瀬が姿を現した。

「悪い待たせたな」

「あんたを待つのも私にとっては楽しみの一つさ」

 ジャスレイを軽く睨みつけながらアミダに問う。

「オルガは?」

「おとなしく待ってるよ」

 部屋に入るとオルガは深々と頭を下げる。

「すんません!」

「な~に謝ってんだ。おやじがマーズ・マセと話して決めたことにお前が乗っかっただけだろ」

「そうですが、兄貴に迷惑を……」

 名瀬は勢いよくデコピンを決める。

「これまでも散々かけてきただろうが、今更殊勝になるんじゃねぇ」

「ここからは背中にも気を付けないとね」

「前に言っていたジャスレイって男ですね」

「ああ、テイワズの幹部連中の考えは一つじゃねぇ。何か仕掛けてくると思っておいた方がいい。ああ、そうだ……ビスケットほれ、結婚祝いだ」

「あ、ありがとうございます」

「そうだ、サブレに伝えておいてくれるかい?「また訓練に付き合ってやるよ」ってね」

 

「初めて腕前を拝見することになりますね。その大仰な仮面がはったりではないことを祈ります。そういえばあなた言ってましたね。誇りの為に戦ったお知り合いがいたと、ではあなたはなんのために戦うのですか?」

「……復讐」

「ラスタル様から与えられた重大な任務だぞ!くだらぬ私語は慎め!いざ出撃する!」

 ジュリエッタがヴィダールに尋ねる中イオクは張り切っていた。

 

「ようチャド。地球に居る間に随分腕を上げたじゃねぇか」

「おやっさんの整備のおかげだよ。ランドマン・ロディすげぇよかった」

「生言いやがって。まっこれからまたよろしくな」

 雪之丞はチャドの肩を軽く叩くとそのまま行ってしまう。チャドは違和感を感じて軽くにおう。

 デクスターは農場の運営の引き継ぎ作業をバーンスタイン商会に預けていた。

「これで農場の運営引き継ぎにかんする契約は完了ですね。すべてをお任せする形になってしまい申し訳ありません」

「でも、残念です。あそこでここの子達とかかわるのは社長にとって大切な時間でしたから」

「ファミリアが立ち上げられるまでの我慢ですから」

 アトラとクーデリア、三日月とサブレとビスケットハッシュはご飯を食べたりしながらたわいのない会話をしていた。

「大変だね手続きとかって。私だったら頭こんがらがっちゃう」

「三日月さん!サブレ隊長!おかわり持ってきましょうか?」

「いいよ」

「いらない」

「でも……」

「戻ってきてから三人ともなんだかずっと一緒にいるね。地球で何かあったの?」

「俺、三日月さんとサブレ隊長についていくって決めたんで」

「迷惑なんだけど」

「そういうなって」

「気にしないでください」

「随分なつかれましたね」

「ほんと迷惑」

 三日月が迷惑そうにしている。

「農場は三日月の夢でしたよね?なら……いえ。分かりました。あなたの夢は私が責任を持ってお預かりします」

「よろしく……」

「じゃあ、三日月はちゃんと返してもらわないとね」

「ハッシュ、飲み物」

「はい!今すぐ!」

「サ、サブレはこき使うことに全く抵抗がないよね」

「使える者は使わないとな」

「なんなの二人とも」

 たわいのない話をしているとチャドが部屋の中に入ってくる。

「なあなあ、おやっさんどうかしたのか?」

「どうかって何が?」

「臭くねぇんだよ」

 ビスケットの問いにチャドが驚きを交え問うと全員が答える。

「そういえばメリビットさんと付き合ってから変わったよね」

「だな。前まで臭いで鼻が曲がりそうだったのに……人間付き合うと変わるってことか……兄さんみたいに」

「どういう意味?」

「えっ、ええ~~!?」

 チャドの驚きが建物中に聞こえた。

 昭弘と昌弘とライドは部屋の外でいまだトレーニングを行っていた。

「あまり無理するな、飯も食わずにトレーニングなんて」

「今日の飯、俺の嫌いな豆のシチューだし……それに……今は無理でも無茶でもします。年少組の奴らを引っ張っていくのはこれからは俺だから。地球に残ったタカキには負けらんないんです!」

「だったら余計にちゃんと食ったほうがいいじゃない?兄貴みたいになってからじゃ遅いよ」

「おい昌弘」

 三人が話し込んでいるとチャドが走って来た。

「昭弘!聞いたかよ?おやっさんとメリビットさんが付き合ってるって!」

「知らなかったんすか?」

「ああ。お前が地球に行ってる間だったか……」

「なんだ?みんな知ってんのか?なんで教えてくれねぇんだよ!」

「そんなことで驚いてどうするんすか。ビスケットさんとアトラさんなんて結婚したのに、なあ……ライド」

「そうそう」

 すると昭弘も驚きの表情に変わった。

「あ、あの二人……結婚したのか?」

「兄貴も?」

「昭弘さんも?」

「え……ええ~~!?」

 再びチャドの悲鳴に近い声がこだました。

 

「今後ギャラルホルンとの連絡役をやることになったビスケットです」

「ああよろしく。まずはアーレスの責任者である新江・プロト本部長を紹介する」

「分かりました。今後はほかのメンバーも連絡役になる予定です」

 ビスケットは石動と今後の話をしていた。

「本当にいいのか?この桟橋を君たちに提供しようというのに」

「いいんです。こんなところに入れるような戦艦はうちにはありませんから」

 

「制裁を受けろ!」

 イオクの攻撃は明後日の方へ行き、敵のモビルスーツは避けるまでもなく突き進む。

「避けたか……なかなかやるな!」

 敵からの攻撃をイオクはちゃんと回避する。

「この俺と互角とは!」

 イオクと敵モビルスーツとの間にジュリエッタが割って入ってくる。

「邪魔をするなジュリエッタ!」

「邪魔なのはイオク様です。下がっていてください」

「イオク様はお下がりください!」

 イオクの部下が複数人でイオクを守りながら戦っている。すると、アリアンロッド艦隊の船から一つの機体が姿を現した。

「あの機体は……味方の登録コード?あれが……」

 ジュリエッタの前にヴィダールが姿を現した。

「さあ、お前の待ち望んでいた戦場だ」

「機体名がヴィダール?自身と同じ……自らをモビルスーツと一つにし本来の自分を捨て去ろうというのですか?復讐のために」

 ヴィダールは三機のモビルスーツからの攻撃をきれいに回避して見せると、そのまま近づきレイピア的外見のバーストサーベルであっという間に仕留める。さらに増援が二機現れるとバーストサーベルの刃をパージし、攻撃を回避し、足を変形して仕込んでいたナイフでさらに仕留める。そして、刃を入れ替えると、そのままバーストサーベルをモビルスーツに突き刺す。

「綺麗……でも、あの人の戦いは……」

 ジュリエッタは素直な感想を抱きながらも、それでもサブレの戦いを忘れられずにいた。

 敵のモビルスーツはヴィダールに照準を合わせられず、ライフルとバーストサーベルを併用して着実に数を減らしていく。左右から艦隊のミサイルによる挟撃がくるが、ヴィダールはライフルでそれらを一掃すると今度は艦隊を沈めてしまう。気が付けばすべての敵を片づけてしまった。

「あなたの強さははったりではありませんでしたね」

「ありがとう」

「復讐とは本来黒く汚らわしい感情のはずです。ですが、あなたの太刀筋はとても復讐を起因としているとは思えませんでした。強くてとても美しい」

「ああそうか。忘れていた。今はただこいつと戦うのが楽しかった」

「本当に変わった人です」

「そうか?で、どうかな?黒い彼と比べて」

「……彼の戦いはまっすぐで……とても………人らしかったです」

「そうか……人らしいか。私や彼の戦いとは別なのだろうな」

 ヴィダール達が帰投している姿をゼパルがこっそりと見つめていることには彼らは気が付かなかった。

「イオク・クジャンか……」

 

「で?何?話って」

 ビスケットは三日月とサブレを部屋に呼び出した。

「地球で戦ったガンダムフレームの事は覚えてる?」

「うん、確かイラクっていう人物だよね?」

「そういう名前だったけ?」

「そのイラクっていう人なんだけど……今のイシュー家にはいないことが分かったんだ」

 ビスケットは端末を動かし、ある時代のデータを表示させる。

「これは……」

「イラク・イシュー……厄祭戦時代の人物だ。厄祭戦でアグニカ・カイエルと共に戦った男で、ゼパルの最初のパイロット」

「じゃあゼパルは……イシュー家の機体?」

「うん……そのはずなんだけど………ゼパルは百年前に行方不明になってるんだ。それ以来行方知れずになってる」

「だからイラクの名前を名乗ったってこと?」

「分からない……」

「でも……もし三百年前の人間だとしたら厄祭戦の亡霊だな」

 しかし、着実に真実に向かって歩き始めていた。

 

 アルミリアはマクギリスの膝で眠っている。ふと目を覚ますとマクギリスが紙でできた本を読んでいることに気が付いた。

「あっ…またそのご本を読んでいたの?」

「ああ、この中に書かれたアグニカ・カイエルの思想に私は救われた。人が人らしく生きられる世界を築くためギャラルホルンを作った英雄。私がファリド家の生れでないことは知っているね?」

「子供の頃にイズナリオ様に引き取られたって前に……」

「当時は卑しい生まれの子供だと蔑まれ幸せなど、どこにも存在していなかった。この世を呪い、自ら命を絶とうと思ったこともある」

「マッキー?」

 アルミリアはマクギリスの話をどこか理解できずにいた。

「この本を与えてくれた人が私に教えてくれたんだ。おかげで思いとどまれた。アグニカは実現しようとしていた。人が生まれや育ちに関係なく、等しく競い合い望むべきものを手に入れる世界を。素晴らしいと思わないか?」

「ごめんなさい。私にはよくわからない……」

 アルミリアを優しく抱くマクギリス。

「それは誰にも反対されることもなく、愛する者を愛せる世界のことでもある」

「その世界ではまだ子供だと言って誰も私の事を笑わない?」

「ああ」

「子供の婚約者がいるってマッキーをバカにする人もいない?」

「もちろん」

「私行きたい!そんな世界に!」

「ああ。私が連れて行ってあげるよアルミリア」

(その世界への扉をこの手で開ける時が来たんだ……私を救ってくれたイラク様の為にも)

 たった一人の野望が静かに渦を巻きまじめていた。




どうだったでしょうか?いろんな意味で衝撃の話だったと思います。ビスケットの結婚は別壱の途中から考えていました。今回はイラクが予想以上の仮説が現れましたね。イラクは本当に別ではかなり重要な人物になります。次回はいよいよハシュマルがが目を覚まします。
次回は『目覚める厄祭』です!楽しみに!


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目覚める厄祭

ついにハシュマルが目覚める時が来ました。並行してゼパルやマーズ・マセも静かに動き始めます。


 鉄華団とフォートレス、テイワズやアリアンロッドなどが謀略を巡らせるなか、それは静かに蘇る時を待っていた。そして、イラクもまたその場でその時を待ち続けていた。

「ハシュマルよ……待っていろ。もうすぐ、目覚めさせてやる」

 

 ジャスレイが部下のメンバーと共に話し合っているとき、メンバーの一人が鉄華団の監視報告を上げた。

「アーレスを監視していた連中からの報告です。渡りは全てファリド公がつけたらしいです」

「いっちょ前に地固めのつもりか?ガキが政治ごっこに浮かれやがって」

「テイワズの直参がセブンスターズと手を組むなんて」

「名瀬が裏で手ぇ引いてんじゃねぇのか?」

 鉄華団の行動が面白くないジャスレイ陣営は鉄華団の持ちかけられた話に対抗しようとしていた。

「ジャスレイの叔父貴!これ以上名瀬と鉄華団に好き放題やらせていいんですか!?」

 ジャスレイも面白くなさそうな顔をしながらウイスキーに煙草を打ち込む。

「いいわけねぇだろうが。なんの為に大枚はたいて、ガキどもを嗅ぎ回らせてると思ってる。こっからが本番よ。セブンスターズとつながりがあんのは何もあいつらだけじゃねぇってことだ。あとは手土産だ。セブンスターズの頭の固ぇ奴らと対等に渡り合うにゃあ、あと一つ……「こいつは」ってぇ情報があれば……」

 ジャスレイが謀略を巡らせるが、その情報は全てフォートレスによって監視されていることに彼らは気が付かなかった。

 

 テイワズの整備場ではフラウロスの納品が遅れそうになっていた。エーコとヤマギはピンク色に塗装されたフラウロスの前で整備に追われていた。

「例の特殊装備の整備がちょっと遅れててフラウロスの納品遅れそうだって。それにしてもまさかこの色になるとはねぇ」

「団長の許可は取りました。この色じゃないとどうにもテンションが上がらないらしく」

 エーコとヤマギは下でモビルワーカーもどきと呼ばれている機体を調べていた整備長に声をかける。

「あっ。整備長なんかわかったのそいつの事」

「いや~さっぱりだ。モビルワーカーみたいに見えるが、見たことないパーツ構成ばっかだし、そもそもコックピットがどこにもない。機体制御プロトコルも見たことのない組み方がされていて、これが何をする機械なのかまるで分らん」

 整備長でさえ頭を悩ませているとエーコが提案した。

「あっ、じゃあわかる奴に聞けば?ギャラルホルン。あれも厄祭戦時代のものなんでしょ?」

「一応団長がマーズ・マセに聞きに行かせてますよ。サブレさんを。本人は嫌そうでしたけど」

「そっか、ならそれを待つしかないね」

 エーコは改めてモビルワーカーもどきを見上げるとぼそりとつぶやいた。

「それにしても……変な顔」

 

「……それじゃあ、ジャスレイの奴はこっちで気を付けておく」

「任せたぞ、こっちの方まで嗅ぎまわられても困るからな」

 そういうとマクマードはマーズ・マセの部屋を出て、名瀬と共に廊下を歩いていると、正面からサブレとハッシュが歩いてきた。

「おう、オルガんとこの奴じゃねぇか。どうしたんだ?こんなところで」

「マクマードさん。どうもです。いえ、ハーフメタル採掘場で見つけた例の機体が何なのか聞きに来たんですよ」

「ああ、あの時見つけたあれか。また厄介ごとじゃなきゃいいけどな」

 ハッシュがサブレの後ろからおずおずと手を上げマクマードに問う。

「あの~、なんでテイワズのボスともあろう人がこんな海賊の本拠点にいるんすか?ここってあのフォートレスの拠点の一つなんすよね?」

 今サブレたちはフォートレスが所有している拠点の一つ、移動型コロニーの『アナグラ』に来ていた。

「ああ、マーズ・マセとは取引をしているからな、細けぇ調整をしなきゃいけねぇのさ」

「あ、名瀬さんがいるということは……」

「アミダならいないぜ。あいつは歳星でお留守番だ」

「そうですか……訓練してほしかったな」

 少し残念そうにしていると、名瀬は時計を確認する。

「オヤジ、そろそろ……」

「おう、だな。それじゃあな。何かわかりゃあ教えてくれ」

 そういうとサブレたちとすれ違い、そのまま遠くに消えていく。サブレはそのままハッシュと共にマーズ・マセの待つ部屋の前に立ち、部屋のドアが自動で開くと、あまりの煙ったさにとっさに手を覆う。マーズ・マセの部屋はたばこの煙が充満しており、副リーダーの男も手を覆って不愉快そうにしていた。

「サブレか、よく来たな。まあ、入れ」

 サブレは部屋の中に入ると、マーズ・マセに手元の端末を渡した。

「たしか、通信では送りにくいデータの詳細が知りたいんだったな?どれ」

 マーズ・マセは手元の画像をのぞき込むと、そのまま表情をかすかに変えた。副リーダーの男もかすかに表情を変え、サブレに問う。

「サブレ、この画像。どうした?」

「鉄華団が所有しているハーフメタルの採掘場で見つけた。今はテイワズの整備場で調査してもらってるよ。名前が分からないからとりあえずモビルワーカーもどきって読んでるけど……」

「……プルーマだ。これはプルーマという名前だ。まあ、よくもこんなめんどくさいものを見つけ出せるものだな。これは予想以上にめんどくさい事態になるぞ。おい、サブレ、これ以外にモビルスーツよりさらに大掛かりな何かを見付けただろ」

「ああ、見つけたよ。近づいてないけど」

「それでいい。近づくなよ。あと、ギャラルホルンに連絡を入れろ。マクギリスという男でいい、こればかりはギャラルホルンが対応した方がいい」

 サブレに端末を投げ返すと、サブレは不愉快そうにし、改めて問う。

「で?なんなんだよこれ。どういう存在?」

「モビルアーマー……かつて人類の四分の一を滅ぼした存在だ。プルーマはその付属品にすぎん」

 

オルガやビスケットはユージン達と共に今後のスケジュールの確認を行っていた

「来月にはまた獅電が三機。そのあとには歳星に預けてあったガンダムフレームが届くことになってる。それまでに配置転換訓練の完了ならびに各モビルスーツの稼働状態を90%オーバーにすること、以上が団長からの指示だ。質問は?」

 しかし、ユージンの視線はシノたちではなく、隣に立っているビスケットの方を向いていた。

「まあ、これぐらいは余裕だね」

「ああ。みんな頑張ってくれてっからなぁ。かなりの優良スケジュールってやつだ」

「もうすぐ給料日ですしね。少し羽を伸ばしてもらって」

 シノや昭弘、ユージンとチャドはビスケットの方を見ると一斉につぶやいた。

「「「信じらんねぇ……」」」

「そういえばサブレから連絡は?」

「ああ、そういえばまだ……お、噂をすれば」

 オルガたちの目の前にある大きな画面にサブレの姿が映る。

「オルガ!今すぐギャラルホルンに連絡を入れてくれ!」

 サブレの必死な形相に全員が面食らってしまう。

「ど、どうしたの?サブレ」

「あれやばすぎる!ハーフメタル採掘場で見つけたもの、絶対に近づくなってマーズ・マセから。それとギャラルホルンにすぐに連絡を入れてくれ」

「わ、分かった」

「なんなんだよ……」

「あれが目覚めたらクリュセは終わりだ」

「「「はぁ!?」」」

 その後マクギリスが火星に向かうという方向で話し合いが決定した。

 

 ジャスレイ達のもとに速やかに鉄華団の情報が入って来た。

「ファリド公が火星に?」

「はい。しかもギャラルホルン本部には内密のようで」

「しかし、こいつは使えるな……ファリド家当主の隠密行動……手土産には十分だ」

「そういえば連中、例の採掘現場からでてきたものの調査をファリド公に頼んでいたようですが……」

「これか。まあいい、全部資料にまとめろ、火星にどんな用があるのか知らねぇが土産は多い方がいいだろう」

 送られた情報はイオクの元へと届くことになった。

 

「若様。本家より通信です。若様宛にこのようなメールが届いたと」

 イオクはそのメールの中身をすぐさまにラスタルに届けた。

「ファリド公が火星に?その情報はどこから?」

「JPTトラストという父の代につながりがあった商社からです。他にもいろいろと資料が送られてきましたが……」

 そういってラスタルは手元に届いた画像を見ると、驚きが隠せなかった。

「ん?なぜこんなものが……」

「ご存じなのですか?」

「プルーマ……モビルアーマーと共に運用されていた無人ユニットだろう。かつて厄祭戦を引き起こした機動兵器だ」

「厄祭戦を!?」

 イオクがその情報にびっくりすると、ジュリエッタは見下すような目でイオクを見る。

「何を驚いているのですか。ギャラルホルンの兵士たるもの知っていて当然の知識ですが」

「も、もちろん知っているさ!」

「アグニカ・カイエルと我らセブンスターズの始祖達によりすべてのモビルアーマーは滅ぼされ、厄祭戦は終った。その残骸が火星にまだ残っていたとはな」

「奴が動くということは、もしかすると火星にモビルアーマーの本体があるのかもしれない。仮にそうだとすればファリド公の狙いは七星勲章。厄祭戦でモビルアーマー倒した勇者にだけ与えられる最高の称号。セブンスターズの席次は七星勲章の数で決まったと言われている」

「なるほど、物知りですね」

「一席のイシュー家は当主不在。もしファリド公が七星勲章を手に入れれば三百年ぶりに席次が変わる可能性が出てくる」

「三百年目の七星勲章と戦後体制の破壊……それが奴のいう変革か」

「そんなこと断じてゆるしてはなりません!マクギリス追跡の任、ぜひこの私に!」

 張り切るイオクがマクギリスの追跡の任についた。

 

「何?イオク・クジャンがマクギリスの追跡についた?」

 マーズ・マセはアナグラで酒を飲んでいると、副リーダーが報告を上げた。

「ええ、マクギリスがモビルアーマーの調査に乗り出した途端の行動、どうやらジャスレイのつながっていた先はイオク・クジャンだったようですね」

「ラスタルめ……衰えたな。クジャン家のバカにやらせたらろくなことにならん」

「どうします?」

「最悪モビルアーマーが目覚めるという事態になる恐れがあるな」

「それと並行して……ゼパルが火星に姿を現したという情報も……」

「ゼパルか……厄祭の亡霊が何かを起こすつもりか?しかし、都合がいいというのも事実……ことが荒立つのであれば、終息したのち、俺たちも動くぞ。ちょうどいい。あの豚をいい加減始末する時だ」

「……了解です」

 マーズ・マセもまた動こうとしていた。

 

 テイワズの整備場ではプルーマを起動させようとしていた。

「これでヤマギ君も火星に帰っちゃうのか。寂しくなるなぁ」

「残るはこいつだけだな」

 整備長のもとにすかさずヤマギが駆け寄ってくる。

「整備長!たった今団長から連絡があって……ってこれは?」

「とりあえず起動させれば何かわかるかもしれないっと思ってな」

「ダメです!それに手を出しちゃ……」

 ヤマギが止める間もなくプルーマの目が赤く光る。

 

「給料一気に増えてる……マジか~!!」

 ザックは目の前の給料明細に驚愕していると、メリビットさんが隣でそっと説明してくれた。

「あなたたちは入団して半年が過ぎましたからね。命を懸けて戦ってくれてる家族には筋を通してきっちりその分の報酬を渡す。それが団長の考えですから」

「ユージン、チャド、今夜あたりおねぇちゃんのとこ行っとくか?」

「いやいい、俺はビスケットを見て気が付いちまったんだ。愛は金じゃ買えねぇってな」

「そうなのか?ビスケット、メリビットさん」

「えっ?それはそうじゃないかしら」

「まあ、そりゃあ……」

「じゃあやめとく……」

 チャドとユージンが提案から降りると、代わりにザックが話に入って来た。

「あっ俺行きま~す」

「おっ!いいねぇザック!じゃあ夜鷹の流し目亭にでも……」

「ああ~あそこは最近ダメっすよ。俺もっといい店知ってます」

 そんな話をしていると、三日月とアトラ、ビスケットが立ち上がる。

「じゃあ、俺たちはそろそろ行くね」

「どこ行くんだよ」

「クッキーとクラッカのところと……クーデリアさんのところに」

 

「それでね~お兄ぃ達ったら!」

「そういってはいけませんよ」

 クーデリアの事務所でクッキーとクラッカがクーデリアと話していると、アトラたちが入って来た。

「あっ!お兄ぃだ!」

「お兄ちゃん!」

 クッキーとクラッカはビスケットに抱き着くと、ビスケットは持っていたお土産を二人に手渡す。二人は嬉しそうにしながらソファに座り、お土産を開ける。その間部屋に飾っている写真をフミタンと共に見ている。

「この学校……」

「この学校はお嬢様の意向で学費は全てタダなんです。給食も出てきますし」

「給食まで!?」

「俺たちが学校にいたころとは大違いだ」

「給食が出れば食べずに働かざるをえない子供たちを減らすことができますから。みなさんみたいに食べるために兵隊になるような子を減らすことができます。それにすべての子供たちが平等に勉強できる場所があれば将来的には戦争自体をなくすことだってできるかもしれません」

「そうなったら俺なにして働けばいいんだろう」

 三日月はふとした疑問を口に出した。しかし、その直後にクーデリアが部屋に入って来た。そのまま対面のソファに座ると、クーデリアは三日月から預かった給料明細のチェックを行っていた。

「三日月。今月の鉄華団からのお給料です。あとで自分でも確認しておいてくださいね」

「アトラは預けないの?」

「うん。ビスケットと同じ口座に入れてもらってるんだ。ねっ!」

「まあね……」

「本当にいいの?ビスケットお兄ぃで」

「そうそう、三日月はもういいの?」

「ダメですよ。お二人がキチンと悩んで決めたことなんですから」

「「は~い」」

 

「おいザック!これ頼む……ます」

「了解」

「すいやせん~」

「いいすよ別に……」

 シノとザックの上下関係が完全に逆転してしまっていた。それをチャドが不思議そうな顔で尋ねる。

「お前ら力関係おかしくなってないか?」

「ああ~あえて言うならシノさんがゆうべ女の子相手に……」

「うわ~!言わねぇでくれ!頼んます~!」

 ザックの口を必死に塞ぎにかかるシノ。そんな中ユージンが明日の予定を発表する。

「おいちょっといいか?三日月・シノ・昭弘・チャド。それにザック!お前らには明日から団長と団長代行と来客の護衛業務に当たってもらう!」

「それは別にいいけどよ。護衛はサブレの担当だろ?」

「サブレはフォートレスのところに行ってからまだ戻ってきてねぇよ」

 

「待たせてすまなかったオルガ団長」

「こちらこそわざわざ来てくれて感謝している」

 オルガとマクギリスが握手を交わし後ろにいるメンバーにも目が行く。

「地球以来だな、三日月・オーガス。それに、ビスケット・グリフォン君」

「うん」

「お久しぶりです」

 オルガたちの車が採掘場に向かって移動しているころ、イオク達が出撃していた。

「それにしてもなんで三百年も前のもんが発見されなかったんだ?」

「もしかして、ハーフメタルの特性のせいですか?」

「ええ、我々はそう考えています」

「ハーフメタルはエイハブ・リアクターの干渉を受けない反面その反応自体が検知されにくい」

「やっぱりモビルスーツをもってきておいた方がいいかな?」

「いや、やめておいた方がいい。モビルスーツの存在が奴を起動させる可能性がある。モビルスーツとは元々モビルアーマーを倒すことのみを目的として作られた兵器なのだ。つまり奴にとって宿敵というわけだ」

「だが所詮はただの機械だ。乗る奴がいないなら危険はないはずだろ」

「いや、モビルアーマーはパイロットを必要としない。自分で考え自動で戦う」

「なんですか……それって自動殺戮兵器じゃないですか」

「その通りだ、だからこそ奴らはなんのためらいもなく街を破壊し、人を殺戮することができる」

 マクギリス達が採掘場に到着すると上空よりイオク達が降りてきた。

「ギャラルホルン?おいあれはあんたらの仲間なのか?」

「いや……あれは……」

「ふっ…… 動くなマクギリス・ファリド」

 イオクがマクギリスに向けて声を発すると、三日月とビスケットはその機体に身に覚えがあった。

「あれは……あの時の」

「うん、あの時のモビルスーツだ」

「クジャン公!私になんの用だ?」

「貴公に謀反の気ありと情報を受けてこうして火星まで追ってきたのだ。貴公がモビルアーマーを倒して七星勲章を手にしセブンスターズ主席の座を狙っていることはわかっている」

「七星勲章?なるほど。そんな誤解をしていたのか」

「誤解ではない!モビルアーマーの存在を隠蔽し、ファリド家単独で行動を起こしたことが何よりの証。マクギリス・ファリド貴公を拘束する!」

 イオクがマクギリスを拘束しようと機体を動かそうすると、オルガはチャドに指示を出す。

「チャド!本部のユージンに連絡、モビルスーツを回させろ!」

「ダメです。ここからだとLCSが使えません!」

 そのころユージンの方でも歳星からの報告が上がっていた。

「いや~起動と同時に急に暴れだしてさぁ。なんとか抑えたがこっちも結構被害が出て通信機能もようやく回復したところだよ。団長さんの連絡通りやばいよあれ。そっちも気を付けてね」

 そして、そのころマクギリス達の方でもイオクが余計な火種を付けようとしていた。

「マクギリス・ファリド。覚悟!」

 イオクが一歩機体を前に進めると、マクギリスが反応した。

「よせイオク!それ以上モビルスーツを近づけるんじゃない!」

「ダメだ!あれ以上近づけたら!」

「問答無用!」

 しかし、マクギリスが止める暇もなく、それは起動した。三百年の時を経て、目覚めたそれは機体を起こし、口からビームを繰り出した。その姿に三日月の右側が反応した。

(アレハ……ハシュマル………ダ)

 三日月の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

 そして、そんな状況をゼパルに乗っていたイラクは遠くから眺めていた。

「おはよう……ハシュマル。そして、ありがとう……イオク・クジャン。お前がバカで本当に良かった」

 事態は最悪の形で進もうとしていた。




どうだってでしょうか。次回はいよいよハシュマル戦です。サブレは間に合うのか。ゼパルは何を企んでいるのか。様々な陰謀がここから始まります。
次回は『厄祭の亡霊』です!楽しみに!


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厄祭の亡霊

ハシュマル戦が始まります。そして……日曜のたわけが予想以上にうざい!


 三百年の眠りより目覚めたモビルアーマー、イオクの行動により行動を開始したハシュマルはビームを空高く打ち上げる。

 マクギリスはイオクの乗るモビルスーツに向かい自分の感情を向ける。

「バカが……目覚めさせてしまったのか」

「な……何なんだこれは?」

 イオクは何が起きたのか全く理解できずにいると、三日月の目はまっすぐハシュマルの網に向き、その姿に魅せられていた。ハシュマルは一気にイオクとの距離を詰めると、イオクが反応するのが完全に遅れる中空高く打ち上げた。

「えっ?」

「イオク様!ぐわぁ~!」

 イオクに攻撃する傍ら同時にイオクの部下のモビルスーツに対してテイルブレードで潰した。イオクは中破した機体を何とか起こし、目の前にあるモビルアーマーに脅威を感じてしまった。

「あ……あれが………モビルアーマー」

 イオク達が太刀打ちできずにいると、マクギリスはオルガに対して提案を出す。

「今のうちに離脱しよう」

 しかし、そんなマクギリスの提案に対してオルガはあくまでもここに残ることを提案した。

「待ってくれ。このままじゃ採掘場がめちゃくちゃになっちまう。今本部に応援を呼んだ。到着すれば……」

「無駄だ、あれはそんな生易しい代物ではない」

 マクギリス達が話をする間にハシュマルはテイルブレードで薙ぎ払う。応援が来ても無駄だという言葉をハシュマルは眼前で示していた。

「こういう事態を避けるために慎重に事を運んだというのに……イオク・クジャン………愚かにも程がある」

 イオクはそんなマクギリスの言葉など知る由もなく、無謀にもハシュマルに挑もうとしていた。

「何がモビルアーマーだ。所詮は三百年前の遺物!恐るるに足らず!」

 前に出て戦おうとするイオクに対し、部下はイオクを守ろうとハシュマルに攻撃を加える。

「イオク様迂闊です!ここは一旦下がって陣形を……」

 しかし、部下の攻撃など意味をなさず、大きな砂煙を上げイオクの目の前から姿を消すと、一瞬でイオクの後ろに回った。そして攻撃を加えようとテイルブレードが伸びると、部下の一人がイオクを庇う。

「イオク様!」

 テイルブレードの攻撃はイオクの部下に直撃する一緒にイオクも吹き飛んでしまうが、そんなその場にいた者たちの眼前にプルーマが大量に姿を現す。

「なんだこいつら!?この数は!?」

「ありゃ一体……」

「モビルアーマーのサブユニットだ。プルーマと呼ぶらしい。だがあれほどの数とはな」

 大量のプルーマの出現にさすがのマクギリスでも驚きが隠せずにいた。そんな中部下の一人がイオクに対して撤退を進める。

「ここはお退きくださいイオク様!損傷した機体では……」

 しかし、イオクはあくまでも戦うつもりでおり、機体を前に進める。

「右は動く!まだやれる!」

「意気込みだけで勝てる相手ではありません!」

「この場は我らが凌ぎます。ですからどうか!」

 その場にいる部下の全員がイオクが撤退するまでの時間稼ぎの為にハシュマルに無謀な攻撃を開始する。

「バカな……お前たちを見捨てろというのか!?」

「クジャン家の未来をお考え下さい。イオク様の命はあなた一人のものではないのです!」

「………みんな……すまん!」

 イオクは涙を流し、機体のスラスターを最大まで上げ、その場から撤退していく。その間にイオクの部下はプルーマの軍勢の中に消えていった。

「敵は必ず取る!我が名に懸けて……誓うぞ!」

 イオクは敵を取ることを誓い、部下たちに守られながらその場から離脱していく。

 その間にザックは採掘場の施設を襲撃しているプルーマの軍勢を遠くから確認していた。

「ん?なんだありゃ?」

 

 ラスタルからの連絡を受けたジュリエッタとヴィダールはイオクからの連絡が途絶えたという情報を彼らに伝えた。

「先行したイオク隊からの連絡が途絶えた」

「まさか全滅したのですか?」

 ジュリエッタの推測にヴィダールが別の可能性を提示する。

「だとしても全滅と判断するのは早計かもしれない。火星支部はファリド公の支配下だからな。偽情報の可能性もある」

 そんなヴィダールの言葉にジュリエッタは心から鬱陶しそうな顔になる。

「まったく……いなくなって静かになったと思ったら更に面倒を引き起こすのですね」

(もしかしたら……彼に会えるかもしれない。今度こそ強さの秘密を……)

 ジュリエッタの心にはいまだにサブレの存在が移っていた。

 

 シノ達一番隊は採掘場が見下ろせる場所にいると、採掘場の状況をオルガたちに伝えた。

「団長俺だ。採掘場に到着した。モビルアーマーってのはもういねぇな。探して追うか?」

「いや。先に俺たちと合流してくれ」

 オルガはシノたちに即時の合流を告げる。シノはすぐにオルガと合流すると、簡単に説明した。

「採掘場に残ってたのはギャラルホルンの機体だけでした。生存者はゼロ」

 ダンテの報告にオルガはさすがに驚きを隠せない。

「そこまで確認できたのか?」

 そんなオルガの質問に今度はシノが答えた。

「確認も何も全部のコックピットがすげぇ念入りに潰されてたからよ」

 シノの言葉に今度はマクギリスが納得した。

「やはりな。モビルアーマーとはそういうものだからだよ。君はあれをどう見た?三日月・オーガス」

 マクギリスは隣に座っていた三日月に対して問うと、三日月はざっくりした感想を述べた。

「すごかったな。すごくきれいだった。地球で見た鳥みたいだ。あれ……ハシュマルっていうんだよね?」

 三日月の問いにマクギリスが驚きながら答える。

「……天使の名を持つ人類の厄祭。かつて人類に敵対し当時の人口の四分の一を殺戮したという化け物だ。その名前……どこで聞いた?」

「?別に……聞こえた」

 それ以外に答えるつもりのない三日月にあきらめたマクギリスは続けてモビルアーマーの説明を始めた。

「何しろモビルアーマーとはただひたすらに人間を殺すことそれだけに特化したマシンだからな」

 シノとダンテは全く理解できておらず、互いに首をかしげる。

「今から三百年前ギャラルホルンの始祖たるアグニカ・カイエルが戦った人類の敵……厄祭戦と呼ばれる人類の災禍はあのモビルアーマー達によってもたらされたものなのだから。モビルアーマー……人類を狩るために天使を真似て造られた悪魔・モビルスーツ。それを操るための阿頼耶識」

 マクギリスからの報告が終わると、ビスケットがシノたちに追加報告を聞く。

「他の報告はある?」

「ああ……採掘場の燃料と資材の倉庫がぶっ壊されてた」

「え?でもあそこは人はいなかったよね?」

 ビスケットの疑問に今度はザックが先ほどの情報を報告する。

「あっそれ俺も見ましたよ。なんかちっこいのが火事場泥棒みてぇにわらわらと」

 その報告にマクギリスは前髪をいじりながら推測を述べる。

「補給か。半永久機関であるエイハブリアクターと違い推進剤やオイルは消耗品だからな」

「定期的に補給を受けなきゃいけないってことなんだ」

 マクギリスの推測が終わるとオルガはあくまでもハシュマルを狩ることを提案する。

「なるほど。どんな化け物でも結局奴は機械ってことだ。なら俺達鉄華団にやれねぇわけがねぇ。違うか?」

 そんなオルガの力強い言葉に真っ先に三日月が反応する。

「オルガとビスケットがやれって言うならどんな奴でもやってやるよ」

 マクギリスもハシュマル討伐に賛成の意見を出す。

「確かにその通りだ。アグニカ・カイエルはモビルアーマーを倒してギャラルホルンを築いたのだからな」

「でも、油断はできないよ」

 ビスケットが全員にくぎを刺しておくと、石動はモビルアーマーの情報を手に入れていた。

「准将。今軌道上の新江本部長から連絡が入りました。第三地上基地がモビルアーマーの襲撃を受けたとのことです」

 そこは先ほどまでマクギリス達がいた場所だった。

「先ほどまで我々がいた場所だ。あの規模の基地ならかなりの量の補給ができただろうな」

「それから新たにアリアンロッドのハーフビーク級が接近中とのことです」

 石動の追加報告を聞いたシノはオルガたちに援護に行くのかどうかを問う。

「で?俺たちはどうする?そこに援護しに行くのか?」

 そんなシノの提案にマクギリスがきっぱりと不要だと判断した。

「不要だ。今から行っても間に合うまい。それにあの辺りは見晴らしがいい平地だ。あれを迎え撃つのに適しているとは言えない」

 マクギリスの言葉にオルガが反応する。

「迎え撃つ?あんたが?」

「「我々が」だ。協力してくれるだろう?あれを起動させてしまったのは我々ギャラルホルンの失態だともいえる。その責任を取らねばならない。だがそもそもあれを掘り出したのは君達鉄華団だ」

 ビスケットはオルガの方を見ると、オルガのやる気に満ちた表情に大きくため息を吐く。

「分かってる。投げ出すつもりはねぇよ。やるしかねぇだろ。おい!この辺りの地形データを持ってこい!」

「ならオルガ、俺はサブレを回収しに宇宙港まで行ってくるよ。近くにアガレスを連れてきて」

 ビスケットはモビルワーカーの上に乗り、オルガに頼み込む。

「分かった。任せとけ」

 ビスケットはそのままモビルワーカーと共に宇宙港へと移動していくと、マクギリスも覚悟を決める。

「准将……」

「ようやく地固めのできた火星を手放すわけにはいかない。それにイオク・クジャンの言っていた七星勲章。私もほしくなった」

 石動は全員の目の前でプルーマとモビルアーマーの関係を説明した。

「モビルアーマーの最も厄介な所はあの無数に引き連れたプルーマと呼ばれている子機達です。あれには攻撃の他にもう一つの重要な本体の修復があります」

 マクギリスは同じように説明に口をはさむ。

「直してしまうんだよ、自分たちでな。更に言えば本体にもプルーマの生産機能があって時間と資材さえあればあれは無限に増え続ける」

 マクギリスの説明にシノたちは軽く引いてしまう。

「めちゃくちゃだな」

「そうやって無限に人を殺し続けるのさ」

 三日月はマクギリス達の説明を聞くと、簡単な作戦を思いついた。

「つまりあれをやるにはおまけとの連携を断てってこと?」

「正解だ」

「修復が済み次第あれは人口密集地を目指すはずです。人間を見つけて殺す。それがモビルアーマーの基本プロトコル……本能とも言えるものですから」

「だから下手に追撃するよりも奴の進路に罠を張り迎え撃つのが得策だろう」

 マクギリスが大まかな作戦を立てると、オルガは周辺にある人口密集地を調べる。

「一番近い人口密集地……」

 シノが真っ先にどこかを理解した。

「って!そんなのクリュセに決まってんじゃねぇか!」

 

 オルガとマクギリスは互いに分かれて別行動を始めようとしていた。

「俺たちはクリュセに向かうぞ!」

「我々も船からモビルスーツを降ろす、三時間後に合流を」

 シノが先に先行するべきではないかと問う。

「俺の流星号はまだ十分動けるぜ。先行して二番隊を待った方がいいんじゃないか?」

「いや。お前には別の仕事がある」

 オルガはシノにウィンクを飛ばし、シノにだけ特別な指示を出す。

 

 ジュリエッタとヴィダールはイオク捜索の為に出撃した。

「とりあえずイオク様達の降下地点周辺から捜索を開始します」

「二手に分かれよう。その方が効率がいい」

 そのまま両機とも大気圏を突破していく。

 

 三日月はクーデリアのもとに訪れると、アトラやクッキーとクラッカに退避するようにと伝える。

「確かに開拓当初に作られたシェルターがあったはずです。でもあれはとてもこの町の全員を収容できる広さは……」

「どうすんの?」

 三日月の問いにクーデリアは力強く答える。

「いえ、私は避難しません。そうなれば必ず立場の弱い人々がつまはじきにされます。そういった人達の助けになればと、このバーンスタイン商会を立ち上げたのに真っ先に逃げ出しては、この先誰も信用してくれません。三日月達が命を懸けて戦っているように、私も自分の仕事に命を懸けたいのです」

 すると、アトラも決心を固める。

「なら私も逃げない。この町には女将さん達もいるし、クーデリアさんを放っていけないよ。ビスケットとここで待ってる」

「「私たちも!!」」

 クッキーとクラッカも同じようにここに残る決意を固めると、三日月は立ち上がる。

「分かった。オルガにはそう伝えるよ」

 そういうと三日月はそのまま部屋を出ていく。

 

 サブレは中央宇宙港に到着していた。

「ハッシュ、先にオルガと接触しろ」

 ハッシュに向けてそう命令すると、ハッシュは「分かりました」と言ってモビルワーカーに乗ってその場を後にする。ビスケットが来るのを待っていると、ビスケットがモビルワーカーの上に乗って姿を現したと同時にアガレスがさらに後方から現れる。

「サブレ!急いで!」

「分かってるよ………たく、こうなりたくなくてオルガに説明したのに」

「文句を言っている場合じゃないよ!」

 サブレとビスケットはそのまま機体に乗り込むとアガレスを起動させた。

 

 オルガたちはクリュセの前で臨時作戦本部を作って作戦を練っていると、三日月がクーデリア達のところから戻ってくる。

「何?避難しないだと?」

 クーデリア達の決意を素直にオルガに問うと、オルガは説得を諦め作戦に集中することにした。そんな中、三日月はオルガに作戦内容を聞いた。

「ハシュマルの迎撃ポイントは決まったの?」

「ああ。クリュセを狙うなら必ずここを通るはずだ。この谷で奴を迎え撃つ」

 すると、後ろから団員がバルバトスを運び込んだと叫んだ。

「三日月さん!バルバトスルプスきました!」

 三日月はまっすぐバルバトスの方へと歩き出す。

「止めるよ。ここに来る前に」

「頼んだぜ。ミカ」

 三日月がバルバトスに乗り込むと、オルガの後ろからメリビットが話しかける。

「団長どうぞ」

 メリビットはオルガに上着を渡すと、オルガそれを受け取る。

 

 宇宙港ではマクギリスと石動の目の前に二つのモビルスーツが用意されていた。そのうちの一機はグリムゲルデを改修した機体だった。

「やれやれ……まさかこんな所で使うことになるとはな。ヘルヴィーゲ・リンカー。グリムゲルデを改修した機体だ。今の立場にある私には使うことのかなわない機体。使いこなして見せろ」

 その場所より離れたところでヤマギとエーコは宇宙港の作業員と共にテイワズから持ってきたフラウロスを下していた。そんなヤマギたちの目は二機のモビルスーツの方を向いていた。

「なんでこんな民間宇宙港に……」

 作業員はヤマギ達の積み荷にも怪しんでいた。

「あんたらの積み荷も十分物騒ですよ。まさか戦争でも始めるんじゃないでしょうね?」

 

 昭弘たち二番隊は先行してハシュマルの様子を確認していた。

「近づきすぎんなよ。リアクターを感知されたら一発だからな」

 そんな昭弘とは別に昌弘はハシュマルの速度が遅いことに気が付く。

「でも、意外と遅いな」

「あのおまけの歩調に合わせてんのか?本部にこのデータを送れ。いいぞ。これなら作戦の準備に余裕ができる……」

 昭弘がデータを送るように指示を出すと、どこから攻撃されたのか、ハシュマルに攻撃が当たる。さすがの二番隊に動揺が走ると、ライドが驚きを口にする。

「なっ!?モビルアーマーの進路が!」

 ハシュマルの進路が大きく変わる。ハシュマルに攻撃を加えたのはイオクだった。

「くそっ!一体どこのバカ野郎だよ!」

 昭弘達はすぐに状況をオルガたちに伝える。

「見たか!正義の一撃!」

 イオクはあくまでも倒したと確信する。

 オルガのもとにメリビットさんが二番隊から仕入れた情報をそのまま伝える。

「モビルアーマーの進路が変わったそうです!南東から何者かの砲撃を受けその方向に

移動を開始したと!」

 オルガは手元の地図を確認すると、ハシュマルの進路方向にある施設を確認する。

「南東だと?まさか……農業プラントがありやがる」

 

 ハシュマルの急な進路変更に二番隊のライドが真っ先に動いた。

「ライド!」

「俺が先回りしてそこの連中を逃がします!」

 その間に三日月はバルバトスを起動させ、そのまま立ち上がる。

「進路が変わった?」

 そこにようやく追いついたハッシュが獅電に乗り込み、先ほどの進路変更の情報を三日月に伝える。

「らしいです。今は二番隊が対応してますけど……」

「バルバトス。出るよ」

 三日月はそれだけを聞くとそのまま飛び出していく。さすがにハッシュがその行動に驚く。

「えっ!?団長に連絡しなくていいんですか?」

「ほっとけ。サブレがいない以上、三日月を止められる人間はいねぇよ」

 しかし、そんな中イオクは達成感と共にあった。

「やった……やってやったぞ!これで手向けになるか?お前たちの忠義のおかげであのモビルアーマーに一矢報いることができた……」

 そんなイオクの前にジュリエッタが降り立った。

「今の砲撃はあなたですか?イオク様」

 やってきたジュリエッタにイオクはいかに自分がすごいことをしたのか説明する。

「ジュリエッタ!?どうだ見たか!奴に報いてやった!」

 しかし、ジュリエッタはそんなイオクを見下すような目で見る。

「バカですかあなたは。あの距離ではかすり傷もつきません」

「なん……だと……?レギンレイズの最高出力だぞ!」

 イオクは言葉を失った。

「その程度でなんとかなるならモビルアーマーが最強の兵器などと呼ばれたりしません。何をするんですか?」

 イオクはコックピットの中に戻っていく。

「止めるな!部下達は命を賭して俺にチャンスをくれたのだ。その敵を取れずにおめおめ戻るなどと!」

「いいから!もうあなたはおとなしくしていてください!」

 ジュリエッタの怒鳴り声もイオクには通じず、イオクはそのままハシュマルの方に向かって移動を始める。

 

「ライドを援護すんぞ!ケツをたたいてこっちに注意をひきつけろ!」

 二番隊の決死の攻撃もハシュマルは全く意味をなさずまっすぐに農業プラントに向かっていく。三日月も農業プラントに急ぐ。

「ミカ!」

 急ぐ三日月の前にオルガから通信がくる。

「聞こえてる」

「今更迎撃ポイントは変えられねぇ。なんとか凌いで奴の進路を引き戻してくれ」

「分かった。サブレは?」

「そっちに向かっているはずだが……」

 

「くそ!完全にこっちを無視してやがる!」

 二番隊の決死の攻撃もハシュマルの進路を変更するまでには至らなかった。チャドも文句をつぶやきながら攻撃を加える。そんな中昭弘もぼやく。

「人間の多い方に向かってるってことか!」

 ハシュマルは農業プラントにいる人々を捉えると、口を開け、ビームを放出する準備に入った。そんなハシュマルと農業プラントの間にライドが割って入る。

「させるかよ!……へっ!?」

 ライドの獅電にビームが直撃すると、ビームはナノラミネートアーマーの性質上、ビームを拡散させながら農業プラントに直撃した。その攻撃にチャドが驚く。

「あれはまさかビーム兵器!?」

 昭弘も驚きを隠せずにいる。

「んだそりゃ!?ライドは無事なのか!?」

「大昔の兵器だよ。モビルスーツのナノラミネートアーマーなら大丈夫だと思うが……」

 チャドの予想通り、ライドは無事だった。

「な……なんだってんだ?今の攻撃……えっ?」

 ライドが後ろを振り向くと、農業プラントが火の海に包まれていた。ライドは絶句してしまう。

「そんな……俺……守ろうと………うわぁ~!!」

 ライドはプルーマに攻撃を仕掛けるが、プルーマは大量にライドの獅電を取り囲む。

「くそっ!くそっくそっくそっくそっくそっ!なんなんだよお前!なんで今更出てくるんだよ!ずっと埋まってろよ!バカ野郎!」

 あっという間にプルーマは獅電を取り囲み、プルーマの大群の中に獅電は沈んでいく。ライドの目の前のモニターにプルーマの姿しか映らないと、ライドは絶望に包まれる。しかし、突然プルーマ達がライドから引きはがされる。

「な……なんだこれ!?」

 そんなライドの前の前にバルバトスが立ちふさがる。

「生きてる?」

「三日月さん!」

 

 アガレスも進路変更を聞き、農業プラントへと進路を変更するが、サブレはアガレスの移動を止める。

「どうしたの?」

「……いい加減限界だ………出て来い!宇宙港から俺たちを付けてきてるだろ!」

 サブレの怒鳴り声と共にゼパルが姿を現す。ビスケットはさすがに驚く。

「いつの間に……」

「つけてたんだ。兄さんを……」

 イラクはにやりと笑い、サブレは不機嫌そうに睨む。

「賢いガキは嫌いだな……」

「あんた……誰だ?」

 そんなサブレの問いにイラクは軽く笑いながら答えた。

「そう聞いてくるということはすでに理解できてるんだろ?俺は厄祭戦時代の人間だよ」

「そ、そんなこと……ありえない!ありえませんよ!」

 ビスケットは動揺しながら叫ぶが、サブレは冷静になる。

「マーズ・マセから聞いてはいたんだ……それも阿頼耶識の研究の成果というわけだ」

「え?どういうこと?」

 ビスケットだけがまるで理解できずにいると、イラクが代わりに答える。

「簡単だよ。阿頼耶識を使って肉体を変えながら俺は生きてきたんだ……」

「じゃあ……サルガっていうのは……」

「俺が最初に乗っ取った人間の名前だ……まあ、昔の人間だがな……」

「乗っ取った人間は……どうなるんですか?」

 ビスケットの問いにイラクは悪い表情を浮かべる。

「消えるさ……自我は約一か月を懸けて完全に消えてしまう」

 サブレはアガレスの武器を構え、そのまま交戦のかまえを取る。

 

 マクギリス達も移動しながら進路変更の情報を手に入れた。

「予定外の進路変更か。やはり物事はこちらの思惑通りには進まないものだな」

「それにしてはどこか楽しげにも聞こえますが?」

 石動はマクギリスの楽しそうな表情になっていると理解する。

「そうか?だがやはり気持ちのいいものではないな。予想外の駒の動きは盤面を乱す……」

 そんなマクギリス達の前にヴィダールが姿を現す。

「エイハブウェーブ!IFFを確認。これはギャラルホルンの機体コード!?しかしあれは……」

「ガンダムフレーム」

 マクギリスとヴィダールは出会ってしまった。




どうだってでしょうか?今のところは大きな変化はありません。次ではいよいよイラクの目的の一つが判明します。いずれはイラクとマクギリスの出会いの話をどこかでしようと考えています。今回の活躍が少なかった分、次回ではサブレがだいぶ活躍します。
次回のタイトルは『クリュセ防衛戦』です。楽しみに!


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クリュセ防衛戦

いよいよハシュマルとの戦いも佳境にたどり着こうとしています。そして日曜のたわけ再びです!


 三日月がライドの前に守るように立ちふさがる。

「三日月さん……俺……余計な事しちまった………」

 ライドは農業プラントが甚大なダメージを受けたことに責任を感じていた。三日月はそんな事とは別にライドの無事を確認する。

「ライド動けそう?」

「えっ?あっ……はい俺は全然。けど獅電がもう……」

「分かった。ん?なんだこれ?」

 ライドの無事と獅電の戦闘不能を確認したとき、バルバトスに異常が現れた。正面のハシュマルにバルバトスが過剰に反応し、そのとたん三日月は鼻血を出した。三日月の状況を知らないハッシュは農業プラントの状況を報告する。

「三日月さん!プラントに生存者はいませんでした。次どうします?……三日月さん?」

「おかしいな……」

 バルバトスは動かなくなった。

 

 大きな一撃をアガレスがゼパルに向けて振り下ろすと、イラクはそれをぎりぎりで回避する。イラクは薙ぎ払うようにふるうとアガレスはそれをしゃがんで回避しそのまま足払いを決める。ゼパルは態勢を大きく崩されるが、アガレスの振り下ろされる攻撃を足場を崩壊させることで回避する。

「なっ!?」

 アガレスとゼパルはそのまま下へと落ちていく。

「ここら辺にこんな地下空洞があったなんて……でも、ここって……」

「ゼパルは……あそこか」

 正面にはゼパルがアガレス同様に何の問題もなさそうに立ち上がる。しかし、その瞬間にはサブレとビスケットの視線は周囲にある完全に大破したガンダムフレームとモビルアーマーの姿に釘付けになった。

「な……なんだ……これ……」

「モビルアーマー?ガンダムフレーム?」

 二人の疑問にイラクが答える。

「安心すると良い……ここら辺のガンダムフレームとモビルアーマーはもう動くことはない。見ればわかるようにエイハブリアクターを抜かれているからな。動くことはない。これが……厄祭の名残だ。ようこそ……厄祭の戦場痕へ」

 二人は絶句しつつも戦う姿勢を崩さなかった。

 

「ガンダムフレーム……」

「ギャラルホルンのマッチングリストに該当する機体はありません」

 石動とマクギリスは目の前に現れた新たなガンダムフレームに困惑していた。

「しかし、この固有周波数はギャラルホルン製のリアクターに非常に近い。ラスタルの手の者か?」

 沈黙を続けるヴィダールの前に石動はマクギリスを守るように立ちふさがる。

「お下がりください准将。そこのモビルスーツ!所属と階級を答えよ」

 石動の問いにヴィダールは答えるそぶりを見せない。

「火星で再会するとはな。お前の裏切りの全てが始まったこの土地で。しかし……」

 ヴィダールは黙ってマクギリスの方を見る。すると、ジュリエッタから通信が来る。

「ヴィダール。何をしているんですか?こちらはイオク様と合流したのですが……ええい!とっとと合流して下さい!」

「……分かった。そちらに向かう」

 ヴィダールは去り際にマクギリスに言葉を発する。

「俺にはわからない。自らの愛を叫び散っていったカルタ・イシューと同じ機体に乗るその気持ちが」

 ヴィダールが去る中、マクギリスは全てを察した。

「待て!」

「いい。捨て置け」

 

 グシオンの攻撃でプルーマに攻撃しつつもプルーマからの反撃にあう。グシオンはプルーマを蹴り上げ、プルーマに狙撃する。

「ライドはどうなった!?」

 昭弘の疑問にチャドが答えた。

「三日月達が向かったって連絡は来たがどうもトラブってるみたいだ」

「仕方ねぇ……俺が囮になる!」

 昭弘は自ら囮になるために高く飛び砲撃しようとハシュマルの方を見た瞬間目の前の顔面に赤い文字が出現する。そのとたん、昭弘は鼻血を噴出させる。コントロールを失ったグシオンをチャドのランドマン・ロディが回収しようとダッシュで駆け寄る。

「昭弘!」

 滑り込みながらうまくキャッチするチャド。

「昭弘!おいどうした!?返事しろよ昭弘!」

 昭弘に声をかけるが反応しない昭弘。チャドは昌弘に昭弘を任せる。

「昌弘!昭弘を任せる。俺はモビルアーマーを引き付ける!」

「了解!」

 昌弘は昭弘をつれその場を後にすると、チャドは武器を投げつけハシュマルの視線を自分の方に向けさせる。

「そうだ!こっちにきやがれ!」

 ハシュマルはチャドのランドマン・ロディにビームを放つとビームはランドマン・ロディのナノラミネートアーマーに着弾し拡散していく。

「熱ぃ!これがビームってやつか。けどやっと化け物に振り向いてもらえた!」

 チャドは機体をひるがえし、そのままハシュマルを引き付ける。

 

 メリビットは作戦本部でオルガに先ほどの状況を報告する。

「二番隊から報告が来ました。モビルスーツの作戦ルートへの誘導に成功したそうです。ただしグシオンが機能停止。バルバトスも不調のため現在待機状態だそうです」

「サブレとビスケットはどうしたんすか?」

「それが渓谷を移動中に行方が分からなくなったそうです」

「仕方ねぇ……まずはモビルアーマーだ。昭弘とミカ、サブレにビスケットがいねぇんじゃさすがに戦力が足りねぇ。一番隊を出すぞ。ラフタさんとアジーさんにも出てもらう。それとマクギリスにも連絡を取ってくれ。ユージンにも爆破準備を急ぐように伝えてくれ」

 オルガはメリビットから雪之丞の方へ視線を向ける。

「悪ぃがミカ達を見てきてくれねぇか」

「任せろ。詳しいことが分かったら連絡する」

 そういうと雪之丞はバルバトスの方へ移動を開始する。

 

「ここで……厄祭戦が?」

 ビスケットはイラクの言葉に驚きを隠せなかった。イラクは不敵な微笑みを浮かべる。

「別に驚くようなことは無かろう?厄祭戦は木星圏でも行われていたんだからな。火星が特別なわけがない。まあ、厄祭戦ののちに我々の手によってほとんどのエイハブリアクターは取り除いたがな……。我々がエイハブリアクターの製造方法を独占したのはこれ以上のモビルアーマーを作らせないためでもあった」

 イラクの言い様にサブレはいら立ちを隠せなかった。

「で?そんな厄祭戦を終わらせた英雄様が、三百年の月日を経てなお何をしたい!?」

 イラクはまっすぐアガレスの方を見つめる。

「……アグニカの復活……そのためにも、邪魔なバルバトスを抹殺する」

「「!?」」

「気が付かないのか?俺が目を覚ましたということは……そういうことだ」

「ま……まさか……三日月の右腕が動かなくなったのは……」

 ビスケットの言葉にイラクは反応した。

「ほう……右腕が動かないのか……ということは……」

 サブレは表情を暗くさせ、まっすぐゼパルの方を向く。アガレスの目の色が赤になろうとしたとき、サブレは目力を強くし、そのとたんにアガレスの目が赤から青に変わる。動きが変わり、ゼパルを吹き飛ばして通路の奥へと姿を消した。

「……土壇場で……まあいい……もう少し様子を見てみるか」

 

 ジュリエッタは何とかイオクを見つけ出し、説得しようとしていた。

「よろしいですねイオク様。ヴィダールと合流次第移動します。そちらの機体はまだ動けますか?」

 ジュリエッタの行動に勘違いをしたイオクはさらに調子に乗る。

「恩に着るぞジュリエッタ……そこまでこの身を案じてくれるとは……」

「はい?」

 意味の分からないジュリエッタは首をかしげる。

「しかし!やはり私は行かねばならぬ。そうでなくては部下達に合わせる顔がないのだ!」

「バ……バカを言わないでください!私はあなたを逃がすために」

 そんなジュリエッタの言葉でも止まらないイオクは再び機体の中に入っていく。動き出すとわかったジュリエッタは飛び移る。

「あっ!やばっ!」

「部下たちの流した涙はもはや私の血肉となっている!命の尊さを人の心を知らぬモビルア—マーに分からせてやらねば!」

 イオクの訳の分からない言葉に唖然とするジュリエッタの目の前で飛び去っていく。

「さらば!」

「ああもう!お守りをしている場合ではないのに!早く来てくださいヴィダール!」

 ジュリエッタも機体に乗り込みその場を移動する。

 

 雪之丞はザックと共にグシオンとバルバトスのところにまでたどり着いていた。

「どうだザック!昭弘の様子は」

「駄目っす。まだ意識が戻りません」

 ザックはいまだ意識が戻らない昭弘の前でグシオンのシステムチェックに追われていた。三日月はバルバトスの前で雪之丞に状況を簡単に説明した。

「あの鳥を見てからバルバトスが言うこと聞かなくなった」

 すると原因が分かったザックが近くに寄って来ると説明した。

「ちょっといいっすか。多分原因はこの二つのリミッターじゃないっすかねぇ。こいつを見てください。バルバトスとグシオンのシステムログです。阿頼耶識からパイロットにフィードバックされる情報量に過度な制限が掛かったみたいなんすよ。逆に機体自体は出力制限は解放されてます。分かりやすく言うと出力全開にしたい機体側と、パイロットを保護するシステムがぶつかり合ってる状態なんす。それでどっちの機体も動きが悪くなってるんだと思います」

 ザックの説明に驚く雪之丞は疑問をぶつける。

「おめぇどこでそんな知識を……」

「鉄華団入る前学校でこの手の勉強してたんすよ。こう見えても俺~割と優秀な子で~」

 ハッシュはザックにどうにかするようにと告げる。

「んじゃなんとかしろよ!これからモビルアーマーとやんなきゃなんねぇんだからよ」

 

 雪之丞から連絡を受けたオルガが受けた結果はバルバトスとグシオンとアガレスが出せないということだった。

「無理に出してたとえ動けたとしても下手すりゃエドモントンの二の舞だ」

 オルガ達が話していたころラフタ達はハシュマルを食い止めている最中だった。

「ユージン達の準備はまだ!?」

「予定よりもずっと進行が速くてこれ以上は抑えられない!」

 予定よりも進行が速いハシュマルにラフタ達はユージンに作戦の前倒しを提案する。

「ユージンやれるか!?」

 通信機越しにオルガがユージンに問う。

「もうかよくっそ!やるしかねぇだろ。巻け巻け!ガンガン巻いていけ!奴さんが来やがるぞ!」

「あとちょっと!なんとかなる!する!」

「ああ!この調子なら……」

 ラフタとアジーの目の前でハシュマルに攻撃が当たる。ハシュマルとプルーマの移動速度が上がる。

「モビルアーマーが細けぇのと一緒に加速した。

 驚くダンテにユージンも驚愕する。

「はぁ!?なんでだよ!?」

「ごめんユージン!抜かれた!」

 ラフタの目の前でハシュマルは抜いていき、そのままの速度で移動していく。一人の団員が一機のモビルスーツを確認した。

「くっ!準備は!?」

「まだですよ!」

「なんだあいつ。あいつが撃ったのか?」

「あれはギャラルホルン?」

 ユージンの視線の先にはイオクのレギンレイズが弾薬が続く限り撃っていた。

「バレルが逝ったか……限界を超えた最後の一撃。感じたか?それが私を信じ散っていった者たちの痛みだ!もはやここまで。だが悔いはない!クジャン家の誇りを抱いて華々しく散ろう」

 イオクは目を閉じ覚悟するとジュリエッタが姿を現した。

「いえ。バカは死んでも治らないのであれば……無駄なので生きてください」

 イオクのいた場所を高速で移動すると、ポイントを通過してしまう。

「目標……ポイントを通過しました」

「それにしてもあのギャラルホルンのアホが……どうなってんだあいつら!」

 ユージンの憤りに対しオルガはユージンに次の行動の指示をだす。

「次の手を考える。お前らは本部に戻って補給してくれ」

(ビスケット……サブレ……どこにいるんだ?)

 オルガはいまだに連絡の取れないアガレスの心配をしていた。少ししたのち三日月と雪之丞はバルバトスを連れてオルガのところまで来ていた。

「どうすんの?俺出ようか?」

 あくまでも出撃しようとする三日月に対し、オルガはあくまで反対する。

「たまには横でおとなしく見てろ。シノに連絡を取ってくれ」

 そんなオルガの言葉に三日月はムッと表情を変える。

「フラウロスを使う」

 オルガの言葉にメリビットが反応する。

「でもガンダムフレームをモビルアーマーに近づけるのは危険だと……」

「いやありゃあこういう時にゃうってつけの機体だ」

 雪之丞が賛成すると三日月が再び口をはさむ。

「分断した後は?」

「今ある戦力でモビルアーマーで叩く」

「それであいつをやれるの?」

「さっきマクギリスに連絡を入れた。あいつらが何とかしてくれる」

 オルガの発言に雪之丞が口をはさんだ。

「それでいいのか?今回の仕事は鉄華団にとっちゃあちらさんに力を見せつけとく場だったんじゃねぇのか?」

「仕方ねぇだろ。クリュセを見捨てるわけにはいかねぇよ……あそこにはビスケット達の妹もいるんだ」

「俺が出るよ」

 三日月の発言にオルガは反対する。

「横で見てろっつったろ。本体と細けぇのを分断できりゃあ今回の作戦は十分に成功なんだ。メンツの問題だけでわざわざ危険な目にあうことはねぇ。それになテイワズからもらった俺の獅電を本部から運んでる。いざとなりゃ……」

「それはだめだ」

 オルガの言葉に三日月は強く否定する。

 

「すまなかった。途中で足止めを……」

 ヴィダールは何とかジュリエッタと合流していた。

「もういいです。それよりイオク様をお願いします」

 ジュリエッタの言葉にイオクは強く反応する。

「そうか!敵を取ってくれるというのか!お前は……お前というやつは……」

 イオクの言葉を無視してヴィダールとジュリエッタは会話を続ける。

「行くなら早くした方がいい。鉄華団とファリド公に先を越される」

「私の誇りを預けるぞ!」

 そんなイオクの叫びにジュリエッタは叫ぶ。

「イオク様うるさい!」

 ジュリエッタはそのまま走り去っていく中、遠くからイラクがイオクの姿を見ていた。

「第二の鍵……見つけたぞ……イオク・クジャン……ならば!」

 

 フラウロスは戦場に向け移動する中コックピットの中ではシノとヤマギがすし詰め状態になっていた。

「ったく団長も無茶言ってくれるぜ」

 シノの言葉にヤマギも同意する。

「ほんとだよ。俺までコックピットに引きずり込むなんて」

「新しい装備の操作方法がいまいちわかんねぇんだから仕方ねぇだろ。時間もねぇし説明書代わりだ」

「もう……」

 ヤマギは不満そうな言葉をはきながらも足は嬉しそうにバタついていた。

「にしてもほんとにこいつでできんのかよ?」

「うん。モビルアーマーとプルーマの分断はフラウロスのキャノンなら可能だよ」

「だったらモビルアーマーを直接やっちまえば……」

「残念だけど近づくことができない状態でナノラミネートアーマーに対して致命傷を与えるのは難しいね」

 ヤマギは目の前の端末を操作している。

 団員の一人がハシュマルの通過を確認した。

「来たぞ~!」

「こちら第二監視ポイント。モビルアーマーの通過を確認!」

 団員の連絡を受けたラフタとアジーは不安ながらも目標地点で待機していた。

「ほんとうに今度こそ大丈夫なんだよね?」

「ああ。信じるしかない。あいつらの力を借りるのも癪だけど仕方ないね」

 作戦ポイントではマクギリス達が待機していた。メリビットの目の前にある端末でハシュマルの到着時間をカウントする。

「モビルアーマーの到着まであと10」

「全員聞こえたな?ここで奴を仕留めるぞ。なんとしてもだ!」

「来ました!」

 しかし、ラフタ達の目の前に現れたハシュマルとプルーマは密集していて分断は無理そうだった。

「あいつあんな固まって!これじゃ分断できないよ!」

「幅が狭くなった分プルーマが密集したんだ」

「何とか分断してください!」

「やるだけやってみるけどさ!」

「数が多すぎる!」

 メリビットの指示にラフタとアジーは答えながらもまるで意味をなさない。フラウロスは目標地点に到着した。

「おいおいどうすんだ団長!ポイントには着いたがよぉこっからじゃ目標はみえねぇんだぞ!」

 すると、シノの目の前に流星号が姿を現した。

「俺が行きます!」

 ライドは流星号を駆け急ぐ中シノは機体に注目した。

「んん~……ありゃあ……俺の流星号じゃねぇか!」

「ついてこいや!鳥野郎!」

 ライドはハシュマルの前に移動する。

「こっちも行くよシノ!」

「おう!」

 フラウロスの姿が大きく変わり始めると、そのまま二つのキャノンをリアクターに接続させる。

「これがバルバトスやグシオンにはない変形機構。二基のリアクターの出力を集中させた……電磁投射砲の威力ならいつでも行けるよ!」

「唸れ!ギャラクシーキャノン発射!!」

 シノの叫び声と共に両肩のキャノンから弾が放出されると反動がフラウロスにやってくる。弾は渓谷を貫通し、ハシュマルとプルーマを分断する。

「見たかおまえら!これが四代目流星号だ!あとは頼んだぜ!」

 ハシュマルの前に数機のモビルスーツが立ちふさがる。マクギリスはフラウロスの攻撃に疑問を抱いた。

「新たなガンダムフレームか。しかしあの威力……」

「来ます!」

 石動の目の前にライドが吹き飛ばされる。ジュリエッタはそのとたんに攻撃を加える。

「ファリド公に手柄は譲りません!」

「あれはアリアンロッドの!」

「やらせるわけにはいかんな」

「はっ!」

 石動とマクギリスはジュリエッタに負けじと機体を走らせる。しかし、ハシュマルには何一つ通用しない。石動とジュリエッタはそのまま壁に蹴り飛ばされる。

「くっ!これほどとは……」

 マクギリスの驚愕を待たず、ハシュマルはマクギリスの機体を吹き飛ばす。メリビットはオルガにマクギリス達の状況を報告する。

「モビルアーマーに防衛線を突破されました!」

「チャド!」

「こっちもいっぱいいっぱいですよ!」

 チャド達はプルーマの相手に精一杯でハシュマルの相手などできるはずもなかった。オルガは途端に走り出す。

「団長!?」

 マクギリスは改めてモビルアーマーの強さを確認していた。

「これが厄祭戦で人類を絶滅の窮地に追いやったモビルアーマーの本性か!」

 ライドに攻撃を加えようとする中、ハシュマルの動きが完全に止まった。

『ハシュマル……命令変更だ……アガレスとバルバトスを先に消せ!』

 ハシュマルの攻撃対象はイラクの手によって変更されるとそのまま壁を勢いよく破壊する。壁を破壊するとそこにはアガレスの姿があった。

「あ……あれは」

 ジュリエッタの視線の先に現れたアガレスはそのまま奥へとハシュマルを連れていく。ハシュマルを追うようにバルバトスも降り立つ。

「なぜ彼が……」

 マクギリスが驚く中バルバトスはそのままハシュマルを追いかけていく。

「石動行くぞ!我々も追う!」

「はっ!」

「私も……追わねば」

 ジュリエッタも追いかけていく中、大きな空間にアガレスはハシュマルを待ち受ける。遅れてバルバトスもたどり着く。

「おいバルバトス。あれはお前の得物なんだろ?余計な鎖は外してやるから見せてみろよ……お前の力を」

 バルバトスの目が赤く強く光ると、三日月の右目が赤く充血する。そして、アガレスは目をさらに青くさせる。

「アガレス!お前は機械で俺は人間だ!お前が機械なら俺達のいうことを聞け!!俺は人間だ!!!」

 バルバトスとアガレスはハシュマルと対峙する。




どうだったでしょうか?イラクの目的の一つはアグニカの復活です。そして、彼は最後にハシュマルをコントロールして見せましたね。
次回は『家族のカタチ』です。次回でハシュマル戦は終わりです!楽しみに!


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家族のカタチ

ハシュマル戦終了です。そして、衝撃回再び!


 マクギリスと石動とジュリエッタはようやく戦いの場にたどり着く、バルバトスとアガレスがハシュマルを挟み込むような形で立ちふさがる。バルバトスは目を赤く、アガレスは目を青くする。石動とマクギリスは援護するために前に出ようとする。

「援護する。石動お前は左から……」

「いらない。邪魔」

 マクギリスの援護を邪魔と一蹴すると、バルバトスとアガレスはとてつもない動きで一気にハシュマルとの距離を詰める、アガレスはテイルブレードの攻撃を紙一重で回避し、レンチメイス改で腕にたたきつけ、いったん距離を取る。バルバトスはソードメイスで攻撃を仕掛け、石動を盾にするように攻撃を回避する。ジュリエッタたちは二人の動きについていくことすらできないバルバトスはハシュマルの上に乗り攻撃を仕掛けるのをハシュマルはテイルブレードで吹き飛ばす。その姿を見たビスケットは負荷に苦しみながら叫ぶ。

「み、三日月!」

「大丈夫。それよりそっちはまだ動ける?」

「ああ、行ける。このまま仕留めるぞ」

「うん」

 しかし、アガレスとバルバトスが動きを一瞬止めていた隙にハシュマルは近くのモビルアーマーの武装をあさりそのまま自分の武装に装備する。背中には巨大なタンクのようなものが装備されていた。

『ハシュマル、二人の武器を先に潰せ』

 バルバトスとアガレスは壁に埋まった自分の武器を引き抜こうとするのをハシュマルはビームでソードメイスを壊し、背中から高速で出てきた弾で破壊された。その攻撃にマクギリスは驚く。

「あ、あれは……ダインスレイブ!!」

 バルバトスは四つん這いで動きながらもハシュマルのパーツをもぎ取る。アガレスは近くにあった大型ランスを取り出し、突き刺そうとするが、ハシュマルはそれをテイルブレードでガードする。腕でバルバトスを殴りつける。ジュリエッタを含め、三人は唖然としていた。

「何なんだこれは……」

「動きが……見えない」

 三日月はこれでも足りないと叫ぶ。

「使ってやるからもっとよこせ……こんなもんかよお前の力は」

 マクギリスでさえ驚愕していた。

「これが……厄祭戦を終わらせた力……か」

 背中に乗っていたバルバトスをハシュマルはテイルブレードで吹き飛ばしアガレスを足で蹴り飛ばした。バルバトスのコックピットの近くにテイルブレードの攻撃がやって来た。

「あっ………あっぶねぇ……なぁ!」

バルバトスを殴りつけるハシュマルはそのままテイルブレードをジュリエッタの方に向けた。ジュリエッタのコックピットにあたろうとした攻撃をサブレはアガレスを使って庇う。アガレスの左腕をもぎ取るように突き刺さる。

「ど……どうして?なんで私を……」

「しるかよ……体が勝手に動いたんだ」

 そういうとアガレスは再びランスを取り、突き進むような体勢になる。三日月は石動が持っていた大剣を奪う。

「俺達がテイルブレードをひきつける、三日月はそのままあいつをやれ!」

「分かったそっちは任せる」

 両機はほぼ同時に走り出し、サブレは三日月に向けられたテイルブレードの攻撃をランスで受け止め、そのまま三日月はかける。しかし、テイルブレードの攻撃はアガレスの右腕をもぎ取り、そのまま三日月の方に向く。

「さ、させるか!!」

 両腕を失ったアガレスは機体を走らせ、テイルブレードの攻撃をそらし、その隙にバルバトスはハシュマルの頭部に攻撃を決める。そらされた攻撃は辛うじてコックピット直撃だけは阻止した。しかし、両機とも戦えるような状態ではなく、バルバトスも、アガレスも崩れ落ちたハシュマルに寄りかかるように倒れた。

 

 ヴィダールは機体が壊れて動けなくなったジュリエッタ回収の為その場を後にした。動けないイオクの前にイラクが姿を現した。イオクを見下ろす形で立っていたゼパルにイオクはさすがに驚く。

「貴様!誰だ!私を誰だと思っている!!」

「このままでいいのかい?」

 イラクは自分の名前をあえて語らずイオクをたぶらかす。

「このままでいいのかい?このまま引き下がっても」

「そ、それは……しかし……どうすれば……!!教えてくれ!私はどうすればいい!」

 イラクは不敵に笑い、方法を告げる。

「君はジャスレイとつながっているじゃないか……鉄華団を叩くなら彼らを孤立させればいい。その為の方法をジャスレイは知っているぞ」

「そ、そうか!!その方法があったか!!」

 イラクはそのままイオクの前から姿を消し、去りながら戦いの場へと視線を移す。

「今回はこちらの負けとしよう……次の相手は彼らだ……」

 

 ギャラルホルン本部ではセブンスターズによる会議が開かれていた。マクギリスによる報告が行われていた。

「報告書にある通り私が火星に向かった目的はあくまでもモビルアーマーの視察でした。ですがそれを邪推したクジャン公の介入がモビルアーマーを目覚めさせてしまった。我がファリド家が現地の組織と協力しモビルアーマーを撃破したことで事なきをえましたが、一歩間違えれば市街地は蹂躙され火星は大惨事となっていたことでしょう」

 そんなマクギリスの言葉にイオクが喰ってかかる。

「黙れ!全て貴公が仕組んだことではないか!!」

「私が?なんのために?」

「七星勲章!!」

「そんなものに興味はない」

「しらを切っても無駄だ!そうですよね?エリオン公……えっ?」

 しかし、ラスタルはそんなイオクの言動に賛成せず、出てきた言葉はマクギリスを称賛する言葉だった。

「モビルアーマーの鎮圧お見事であったファリド公」

「そんな!ラスタル様何を……」

 会議が無事終わり、ラスタルはジュリエッタと共に歩いていると、後ろからイオクが分からないような顔で近づいてきた。

「なぜですか!?マクギリスに野心ありとなぜあの場で糾弾しない……」

「落ち着けイオク」

 ラスタルは足を止め、イオクを諭す。

「野心の正体をつかめぬというのにいくら糾弾したところでただの遠吠えにしかならん」

「で……ですが……」

 あくまでもだだをこねようとするイオクに対し、ラスタルはそれでも諭そうとする。そんな話をジュリエッタは聞きながらも頭の中はサブレの事でいっぱいだった。

「我々ギャラルホルンは秩序の番人。物事の順序を乱せば必ずや足元をすくわれるだろう」

「それは……!ひっ!」

 それでも言い訳しようとするイオクに対し、ラスタルは睨みつける。

「ギャラルホルンのあるべき姿を忘れ、目的を見誤る。そのような家門と手を組むことはセブンスターズの一角を預かる者として一考せねばなるまいな。頭を冷やせ、イオク・クジャン」

 そのまま過ぎ去るラスタルをイオクは遠くから見つめるしかなかった。しかし、そんな姿をマーズ・マセは遠くから見つからないように見つめていた。ジュリエッタはラスタルのもとに駆け寄ると、進言した。

「ラスタル様。先日技術部からの要請のあった新型のテストパイロットの件……」

「ああ聞いている。お前が引き受ける必要は……」

「いえ。是非やらせていただきたいと」

「イオクへの話を聞いていなかったのか?最近のお前は少し変だぞ。何かほかに目的があるのか?」

 ラスタルの言及にジュリエッタは黙るが、ラスタルは小さくため息を吐き、告げる。

「好きにしろ。しかし、お前は十分に強い。俺がそれを望んでいないことだけは理解しておけ」

 去っていく。ラスタルの前にジュリエッタは立ち尽くしていたが、一人の気配を感じ取る。そちらをじっと見、体を向ける。そして、反対の方からガルス・ボードウィンが姿を現す。

「どうしたんだね?」

「……侵入者です」

 ジュリエッタはガルスとは反対方向に視線を向けると、ガルスは微笑む。

「いいんだよ。彼はギャラルホルンの人間なんだ。私はこの日の為に用意してきたんだ。そうだろう?マハラジャ」

 マハラジャと呼ばれた男はマーズ・マセだった。マーズ・マセの存在に警戒するジュリエッタなど放っておき、目の前に立ち頭を撫でる。

「……大きくなったな」

「え?」

 全く意味が分からないという顔になるが、しかしジュリエッタは頭を撫でられながら懐かしさに襲われた。そして、全てを理解できた。

「お、お父さん」

「マハラジャよ……彼女の事はすまなかった。しかし、お前がここに来たということは……」

「ああ、我々ファントム・エイジはボードウィン家とバクラサン家、ファルス家の意向に従い……逆賊ラスタル・エリオンを討つ。ジュリエッタ……私に協力してくれるな?好きなのだろう?サブレの事が」

「!?……そ、それは」

 照れるジュリエッタに対し、マハラジャは微笑む。

「好きにすればいい。あいつは私が認めた男だ」

 マハラジャの手を取り、ジュリエッタはラスタルを裏切った。ギャラルホルンの中の動きもあわただしくなる中、静かに……しかし、激しく動き出そうとしていた。

 

 ビスケットが団長室に入ってくると、後悔に襲われたオルガは机に顔をぶつけ、そのまま悩んでいた。ビスケットはそばまで寄る。

「三日月……右半身が動かなくなったんだって?後悔してる。あれはオルガの所為じゃ……」

「わぁってる。でも……俺があいつを追い詰めてるんじゃねぇかって思ってしまうんだ。だってそうだろ?ミカはいつだって俺の為に進んできた……」

 ビスケットはオルガに尋ねる。

「なら、オルガは三日月にどうなってほしいの?」

「俺は……あいつに家族を作ってほしいって思うんだ。俺たちは家族なんて知らなかった。だからほしかった。あいつも家族を作れば……きっと。そうだ、サブレはどうだ?」

「怪我は無いよ。でも、サブレ今悩んでいるんだよね」

 そんなビスケットの言葉にオルガは軽く驚く。

「なんだよ。重要な悩みなのか?」

「まあね。なんせ恋の悩みだからさ」

「こ、恋?誰かの事が好きになったということか?」

「うん。相手のことが好きになったらしくて……でも、俺には相談してくれないんだよね。でも、家族ってそういうことなんじゃないかなって思うんだ。家族のカタチは人それぞれで、三日月だってそうだよ。きっと大丈夫だよ」

 オルガはビスケットと共に微笑む。

「そうだな」

 

「お見舞い遅くなってしまってごめんなさい」

 クーデリアからのお見舞いのお菓子をアトラからもらう三日月。

「三日月全然じっとしてくれなくてハッシュ君に運ばせてずっとどこか行っちゃうんです」

「だからバルバトスの近くに置いといてよ。あれに繋いでくれたら動けるから。桜ちゃんとこはどう?」

 三日月はクーデリアにそう問う。

「順調ですよ。来月にはまた次の収穫です」

「そっか。でもこれじゃあもう手伝えないな」

 三日月がどこか残念そうにしているとそれを励まそうとする。

「そんなことありません!畑仕事なら私も手伝いますし!」

 しかし、三日月はそんなクーデリアの言葉を否定する。

「駄目でしょ。クーデリアにはクーデリアの仕事があるでしょ」

「はい……そう……ですよね……」

 クーデリアとアトラは部屋を出ると、クーデリアは自分の気持ちを吐き出す。

「私は卑怯者です。三日月に会うのが怖かった。不安だったんです。だからずっと会いに来ることができなかった」

 そんなクーデリアの言葉にアトラは同じ気持ちを抱きながらも答える。

「で……でも三日月何も変わらなかったでしょ?」

「はい。変わりませんでした。それをずっと恐れていたんです。こんなことになっても変わらなかったら……またどこかへ行ってしまったら……」

 アトラは同じような不安を抱く。

「私同じようなこと考えてた……。三日月変わらなくて体……腕がなくてもバルバトスがあれば大丈夫とか言って……「団長が言ったらいつでも動ける」って……それ変わらないのうれしいはずなのに……次にどこかに行ったらもう三日月戻ってこないような気がして……私クーデリアさんにお願いしたいことがあるんです!私がビスケットと子供作るから、クーデリアさんは三日月と子供作ってほしいんです!」

 そんなアトラの突拍子の無い言葉にクーデリアは驚く。

「えっ!?」

 

「ジュリエッタ……お前はいつも通りにラスタルのそばに居ろ……いいな」

「……お父様はどうしてラスタル様と敵対なさるのですか?」

 ジュリエッタはガルスの目の前でマハラジャに尋ねた。

「……人には役目などないと私は思っている。好きな人を好きになり、好きなモノになる。夢を追うことも、好きな職業に就くことも……ラスタルは人には役目があると思っている。ゆえに奴はセブンスターズの座に就いた。あの愚かな友をいい加減救ってやりたいと願っているんだ。たとえそれがあいつを殺すことになるとしても……」

 そういうとガルスとマハラジャはその場から移動する。マハラジャは誰もいないことを確認すると、改めて本来の話に戻す。

「ガルス……本当にいいのだな?改めて確認するぞ。お前の息子を裁くことにもなるのだぞ?今、お前の息子はラスタルのもとにいる」

 ガルスは目を閉じ、覚悟を決め言葉を発する。

「いい、お前がそれを気にすることはない。それより……ゼパルの事だが……本当なのか?報告書を見た今でもにわかには信じがたい」

「まず間違いないだろう……だとすると奴の目的は……」

「ここの最下層に封印されているモビルアーマー『ラファエル』の開封だろうな。それと『バエル』の奪取」

「ほぼ間違いないだろう……ラファエルの奪取にはセブンスターズの血筋が必要だ。だとしたら……」

 イラクに警戒するマハラジャとガルスはそのまま施設から出ていく。

 

 マクギリスの興味はガエリオより三日月の方に向いていた。マクギリスは石動に尋ねる。

「石動……お前はあれをどう見た?」

「あれ……といいますと?」

「バルバトスとアガレスの戦いだ」

「バルバトスは理性なくひたすら破滅へと突き進む己の身までも食いつぶすかのような。方やアガレスは逆に己の身を傷つけながらも他人を守ろうと必死になっているように思えました」

「しかし、あの強さは本物だ……あの男が生きていたとして、ラスタルがそれを飼っていたとして、それを純粋で正当なカードとして強さを保有するのは腐った理想が蔓延する曖昧な世界でだけ。バルバトスが……三日月・オーガスが再認識させてくれたよ。真の革命とは腐臭を一掃する強烈な風だ。本物の強さだけが世の理を正しい方向へと導く」

 

 ヴィダールは一人の女性と話をしていた。

「ざ~んねん。全然データが取れてないじゃない。何しに火星くんだりまで行ってきたの?」

「それでも収穫はあったさ」

「あらジュリー」

 ジュリエッタはその女性の前に姿を現した。

「技術部長。あの機体のテスト私がお引き受けします」

「あら本当に!?かなりピーキーな機体だから任せられる子がなかなかいなかったのよ」

 二人が話しているとヴィダールが口をはさむ。

「ラスタルの許可は?」

「もちろん取りました。私を疑うのですか?」

「いや、ラスタルがそれを指示したとは思えないだけだ」

「余計なお世話です」

「そうか?」

 ジュリエッタは自らの胸に手を当てる。

(あの人の強さに少しでも近づきたい。あの人のそばで歩いていけるような力を……)

 

「イオク様!クジャン家の当主ともあろうお方がこれ以上怪しげな輩と接触を持つのは……」

 イオクの部下はジャスレイと接触するのを止めようとするが、それでもイオクは繋ぐように告げる。

「いいから繋げ!私の命を輝かすためだ。部下の尊い犠牲により繋がれたわが命。この命がラスタル様に侮蔑されるようなことがあれば部下達に顔向けができないではないか!だから早く繋ぐのだ。ジャスレイ・ドノミコルスに」

(あの時の男が言っていた通りに鉄華団に復讐を!)

 

 ビスケットが廊下を歩いていると、後ろからアトラが歩いてきていることに気が付く。

「あ、アトラ。少し待っててね……あと少しで終わるから」

「ね、ねえ!ビスケット……私と子供作ろう!!」

 アトラの言葉にビスケットの思考が追いつくのに数秒かかると、ビスケットはとてつもなく驚く。

「え、ええ~!?どうしたの!?アトラ!」

「私、本気だよ!」

 ビスケットはまっすぐアトラの目を見つめると、決してその言葉が嘘ではないとわかる。ビスケットも優しく微笑む。

「……分かった。作ろうか……」

「うん!」

 

 クーデリアは再び三日月の部屋を尋ねると、三日月はクーデリアが現れたことに気が付いた。

「どうしたの?なにか忘れ物?」

「いえ……三日月は子供は好きですか?」

 クーデリアのそんな突拍子の無い言葉に一瞬驚くと、逆に三日月が訪ねる。

「クーデリアは子供がほしいの?」

「え?そ、そうですね」

 三日月はふと考えると、突拍子の無い言葉を放つ。

「じゃあ、俺と作る?」

 クーデリアは一瞬驚くが、落ち着きチャンスとばかりに条件を提示する。

「なら……三日月はお父さんになるということですよ?約束できますか?」

「………俺……どうすればいいんだろ?」

「三日月の夢は私が預かっています。ですので一緒にかなえましょう?今度は私があなたを支えます。それが家族でしょ?」

「……じゃあよろしく」

 新しい家族が生まれようとしていた。

 

 翌日三日月はビスケットにお願いして、自分の畑に連れてきてもらっていた。

「どうしたの?いきなり畑に連れて行ってほしいって」

「ねえ……ビスケット……お父さんってどんな感じ?」

 三日月の突然の質問に目を白黒させると、優しく微笑み隣に座る。

「……俺も考えてるんだ。どういうのがお父さん何だろうって」

 笑うビスケットを見て三日月もなんとなく気が付いた。二人は畑をジッと見つめると、それぞれの家族のカタチを思い浮かべる。そして、サブレもまた一人悩んでいた。

「どうして俺は彼女を庇ったのだろう?」

 それが恋だとはまだ気が付かないまま。




どうだってでしょうか。原作を見ていたころ。アトラを見て「何を言ってるんだこの子は?」と思ったものですが。こうしてみていると、こっちのアトラの方が数割増しでやばかった。並行してマハラジャがついに姿を現しましたね。それ以上に衝撃が多かった回だと思います。
次回は『助言』です。次回も楽しみに!


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助言

ある人物がここでリタイヤします。展開としてはほとんど原作通りです。あまりサブレは出てきません。


 小学校の頃、サブレは学校でいじめられていた兄を助けたことがあった。しかし、その時サブレはやりすぎてしまった。誰かを守るために必死になって戦っていた。しかし、サブレが本当に知りたかったのは強さの秘密ではなく、どうすれば自分の強さをコントロールできるかだった。サブレはいまだ知らなかったのだ、人を好きになる気持ちを。だから気が付かなかった。

 

 アジー達は鉄華団での仕事を終え、今日帰ろうとしていた。オルガがアジーとエーコに別れを告げる。

「長い間世話になったな。兄貴にもよろしく伝えてくれ」

 その間ラフタだけは昭弘と二人で別れを惜しんでいた。

「ほ~んとさ。あの時はどうなることかと思ったよ。昭弘ボロボロなのに後先考えずに突っ込んでいくし」

 ラフタがぐちぐち文句を言っていると昭弘は視線をそらす。

「しかし実際なんとかなった」

「そういう問題じゃないの!もう部下もいるんだし無茶しすぎないでよね!」

「まあお前もいなくなるしな。今まで本気で俺の背中を任せられると思えたのは三日月とサブレとお前だけだった。確かに少し考えないとな」

 ラフタの気持ちにまるで気が付かない昭弘にラフタは諦めながら握手するために手を出す。

「そっか……じゃあそれでいいや。ねえ握手しよ」

 昭弘は手をズボンで拭き握手するために右手を出す。

「ありがとよ。元気でな」

「うん。昭弘もね」

 そういってラフタが去っていくとすれ違いに昭弘の後ろから昌弘が姿を現す。

「いいの何も言わなくて」

 そんなことを聞く昌弘に全く理解できていない昭弘が首をかしげる。

「なんでだ?」

 昌弘は大きくため息を吐き、小さくつぶやく。

「……鈍感」

 

「無理……だと?」

 イオクは自宅でジャスレイと通信していると、ジャスレイからの返答に驚きを隠せない。

「今、鉄華団と正面からぶつかるのは得策ではないと……」

 ジャスレイのそんな言葉にイオクは怒鳴り声をあげる。

「もういい!頼りにした私がバカだった!私はなんとしても鉄華団に復讐せなばならんのだ。倒れた部下達の忠義に報いるためにも……」

 暴走するイオクを止める者などいるはずもなく、ジャスレイもそんなイオクを利用しようとしていた。

「勘違いなさらないでください。私はより効果的な方法があると申し上げただけですよ。鉄華団は所詮実行部隊。本当の敵は彼らではなくその背後にいる奴なのです」

 ジャスレイの提示するその敵を知りたくて立ち上がる。

「誰だそいつは!?」

「タービンズですよ。鉄華団の兄貴分、名瀬・タービンが率いるテイワズの下部組織の一つです」

 ジャスレイに乗せられたイオクは標的を鉄華団からタービンズに変えた。

「タービンズ……そうかタービンズか!」

 

「ボス……ガルス様から報告が上がっていますが?」

 マーズ・マセは地球から火星へ向けて船を動かしていると、副リーダーが後ろから突然話しかける。マーズ・マセは首だけを後ろに向け、尋ねる。

「なんだ?」

「イオク・クジャンがこれを持ち出したそうです」

 マーズ・マセは写真を副リーダーから受け取ると、その写真の内容に表情を渋らせる。

「あのバカクジャン公は何を考えているんだ?」

「さあ?全く分かりませんが……タービンズを摘発するつもりのようですよ」

 マーズ・マセは大きくため息を吐く。

「はぁ……なんにせよ……俺達にはどうしようもないな。ジュリエッタにイオクの監視をさせろ」

 

「イオク様。あんなものをどうなさるのですか?禁止条約で使用は制限されているのですよ?」

 イオクの船には持ち出された兵器が固定されている。

「無論分かっている。だからこそ我が作戦の要となるのだ」

「ですがラスタル様に一度ご裁可を仰いだ方が……」

 部下がイオクにラスタルへの判断を仰がせようとするが、イオクはまるで話を聞かず、独自の判断で動く。

「問題はない。これはラスタル様のご利益にもかなうことなのだ。一石二鳥……いや三鳥とはまさにこの事」

 部下が不安を募らせる。

「は……果たしてそうなのでしょうか?」

「お前らにはわからないだろうな。だがそれが政治というものだ」

 イオクは自信満々に乗り出す。すると、ジュリエッタがそばまでやってくる。

「私も参ります。今テストしている試作機はベンチテストも終わりあとは実戦を試すのみ。是非ともその力を試す機会がほしいのです。どうかチャンスを。私は早く強くならねばならぬのです」

「分かった……ジュリエッタ。共にタービンズを倒そう!全ての責任は私が取る!お前達は黙って私の言葉に従ってほしい!」

 部下も何も言えない中、ジュリエッタはイオクをじっと見つめる。

『どうすればここまで調子に乗ることができるんでしょうか?あんなものまで持ち出して……お父様も面倒な仕事を私に任せたものですね』

 

「イオクにも困ったものだ。人には適材適所というものがある。奴には力など求めていないのだが……。クジャン家には主のためなら命を投げ出す。それは当主への忠誠というだけではない。奴の率直さと熱意には人を動かす力があるのだ。君が仮面さえ脱いでくれればイオクもこのような真似をせずともすむのだが」

 ラスタルはイオクの行動に頭を悩ませていると、後ろに立っているヴィダールをふと見る。

「あなたには救ってもらった恩義がある。しかし真意を確かめるまでは……」

 ヴィダールは仮面を脱ぐこともできず、それを断った。

「ああ。それは承知の上だ。しかし人が人を理解することはそう簡単ではない。まして相手が相手だ」

 そんなラスタルの言葉にヴィダールはそれでも理解しようとしていた。

「彼を理解する権利が私にはあると思っている。私は彼に殺されたのだから」

 

「イオク・クジャンがタービンズの一斉取り締まりを?他に動きは?」

 マクギリスの元にもイオクの情報が入って来た。

「出発にあたり本部四番倉庫から何やら持ち出したようですが……」

 石動の報告に思い当たったマクギリスはハシュマルとの戦いを思い出す。

「四番……覚えているか石動。火星でモビルアーマーを足止めした鉄華団の攻撃、そしてモビルアーマー自身が使った兵器を。あれはダインスレイヴ。ナノラミネートアーマーすら貫く過剰な破壊力から使用・保有の禁止がギャラルホルンの下で条約として結ばれている大型レールガンだ。まあ使用したのは通常弾頭のようだから条約的にはグレーゾーンではあるが……厄祭戦の遺産たるモビルアーマーが現れ、三日月・オーガスとサブレ・グリフォンの操るガンダム・フレームは昔日の悪魔の力を世に示した。その熱狂と恐怖は人々を揺り動かしやがて時代そのものを大きな渦に巻き込んでゆく。今こうして禁じられた旧兵器が持ち出されるのもそういった一つの時代の流れなのかもしれない」

 マクギリスは立ち上がると石動はマクギリスに尋ねる。

「では……」

「全ての同士達に連絡を。ついに立ち上がるべき刻が来たと」

(あの仮面が本当にあの男だとするならば私はすでにラスタル・エリオンに襟首をつかまれていることになる。しかし私の魂までは掴めはしない)

 

 ビスケットはイサリビの食堂でむくれていた。アトラがお弁当をもって近づいてくる。

「怒らないであげてよ……」

「だって……サブレ……あの事を」

 ビスケットはアトラとの子作りを周囲にバラされたところだった。アトラはビスケットの機嫌直しの為にサンドイッチを取り出し、ビスケットの口に向ける。ビスケットは最初こそ恥ずかしそうにしていたが、そのうちサンドイッチをそのまま食べる。

「おいしい?」

「……うん。おいしい」

 ハッシュはそんな光景をまじまじと見せつけられ、バルバトスのところに行くと、今度はクーデリアと三日月が同じように食べさせ合いをしていた。

「何してるんすか?みんな揃って……」

 

「よ~しきたきたきた!ようやくセッティングの当たりが出たっぽいよ」

 エーコは新型モビルスーツである『辟邪』の調整を行っていた。タービンズに帰って来たアジー達は辟邪の調整に追われていた。

「やっとか。思ったより手のかかる機体だねこの辟邪は」

「だね。癖がないのが癖っていうか。でも鉄華団みたいにパイロットも任務内容も雑多な組織だと結構使いやすい機体に仕上がるかも」

 ラフタはふと鉄華団の方に話を向ける。

「ふ~ん」

「ん?何?」

「いえいえ別に」

 ふとアジーとラフタが話しているとアミダが後ろから声をかけてきた。

「手間を掛けさせるね。帰って来たばかりで悪いね」

 そんなアミダにラフタが答える。

「いいんです。動いていた方がモヤモヤ考えなくて済むし」

 先ほどの会話でアミダは事情を察した。

「いろいろあったみたいだね。鉄華団での生活さ」

「ああ~……まあどうなんでしょう……」

 はぐらかすアジーにアミダはアジーの頭を撫でる。

「分かりやすいね。素直ないい子だよ。あんた達はみんな私の自慢だ」

「姐さん……」

 

「そうか。ラフタも他の男に取られる時が来ちまったか」

 名瀬はどこか嬉しそうに酒を飲む。アミダはそんな名瀬に問う。

「その割に嬉しそうじゃないか」

「ラフタも他の女達も俺にとっちゃ妻ってだけじゃなく娘みたいなもんでもあるからな。それが鉄華団の奴らを選んだなら自分の娘が男を見る目がある女に育ったってことだ。そりゃ嬉しいさ」

「まったく最近のあんたは何かあっちゃ鉄華団、鉄華団って……相変わらずこの安酒を?」

 アミダは名瀬の飲んでいる酒に話題を移す。

「好きなんだよ。お前と出会った思い出の酒だしな」

「思い出すねぇ確か火星のちっぽけな宇宙港の酒場だった」

 二人が語りだすのはタービンズができるまでの物語。

 

「私を護衛に?」

 その昔、火星にあるちっぽけな宇宙港の酒場で名瀬はアミダに仕事を頼み込んだ。

「頼みたい。ちょっとでかくてやばいヤマがあってな」

「いいのかい?私が女だって分かったとたん引く奴も多いんだけどね」

「変わったことを言うなぁ。女と男ならそりゃ女を選ぶだろ?」

「ふふっ。あんた見方が変わってるよ」

 一匹オオカミの運び屋だった名瀬は傭兵だったアミダに仕事を依頼してきた。名瀬は少しずつアミダに惚れていった。名瀬はコンビを組まないかと迫ったが答えはNOだった。

「これ以上は無理だ。次はペインナッツ商会との護衛任務がある」

「ああ……あの女だけの輸送会社か」

 長期航路の輸送業務はいろんな事情から逃げ出した女達の行きつく場所だった。安値で買い叩かれ男でも裸足で逃げ出すような危険な仕事ばかりを受けるはめになる。アミダはそんな女達の船を進んで護衛していた。そんなアミダに名瀬は問う。

「なぁ。俺にできることはねぇか?」

 そうして名瀬とアミダが作ったのがタービンズだった。裏社会に搾取される女達を名義上妻にすることで救い出し、乗組員にすることで職も与える。女達の安全を守るため、後ろ盾を作るために名瀬はテイワズの傘下に入る道を選んだ。それから名瀬はアミダと係わった女の輸送業者達をまとめ上げてネットワーク化し、地球と木星の間を網羅する大輸送網を作り上げタービンズは構成員五万人の巨大組織に成長した。その動きはマクマードにも認められて名瀬はテイワズで上り詰めていった。そのころからジャスレイは名瀬を煙たく思っており、アミダが喧嘩しようとするのを名瀬が食い止める。

「まだむくれてんのか?」

「なんであの時止めたんだよ?」

「あいつらの言ってることはなんも間違ってねぇ。俺はお前らのおかげで成り上がったんだ。女は太陽なのさ。太陽がいつも輝いていなくちゃ男は萎びちまう」

 そうしてタービンズはできた。

 

「まあ女のおかげっていうのは今思えばちょっとだけニュアンスが違うかもしれねぇな。前にオルガに言ったことがある」

『まあでも血が混ざってつながって……か、そういうのは仲間っていうんじゃないぜ。家族だ』

 二年前オルガに告げた言葉を思い出す。

「あいつ家族って言葉聞いたら豆鉄砲くらったみてぇにきょとんとしてよ」

 なつかしそうに語る名瀬にアミダが答える。

「知らなかったんだね家族ってもんを。ふふっ……」

「どうしたんだ?急に」

「いや……サブレの事を思い出してね。あれは地球からの帰り道の途中だった」

 二年前の事を思い出す。ハンマーヘッドでアミダはサブレとシュミレーションをしたのちにサブレはアミダに唐突に聞く。

「どうやったらあなたみたいに強くなれますか?」

 真剣な面持ちで問いかけてくるサブレにアミダは微笑み応える。

「あんたは十分強いよ。これ以上何を望むんだい?」

「……わからないです。そんなの考えたこともなかった」

 アミダはふと考えてしまう。

(この子は強くなる事を知らないみたいだね。というか何も知らないんだね。この子は強さ以外の事を何も知らない。この子はまだ守ることも知らない。ただひたすら走って来た。今この子に必要なことは誰かを愛すること。好きになるという気持ちを知ること)

 アミダはふと微笑むとサブレの頭を撫でる。今は届かないその言葉を告げる。

「見つけることさ。自分を輝かせてくれるような太陽にね」

「?太陽?」

 サブレは首をかしげると、アミダは微笑む。

「あんたにもいつかわかるさ……」

 アミダはそういってその場から去っていった。あれから二年が経ちサブレはまだそれを知らない。するとハンマーヘッド中に警報が鳴る。

「緊急連絡です!うちの輸送班と各地の事務所にギャラルホルンの強制捜査が入りました!」

 事態は最悪の方向へとタービンズを連れて行こうとしていた。

 

 マクマードのところに顔を出した三日月たちにマクマードは上機嫌だった。三日月はそんなことなど知るよしもなく、菓子を食べていた。

「いや~よく顔を出してくれたな三日月よ。本当はサブレにも来てほしかったんだがな」

 そんなマクマードの言葉にビスケットが代わりに答える。

「すいません。なんでもマーズ・マセから仕事が来たらしく……」

「ああ、その辺はマーズ・マセからも聞いている。しかし、モビルアーマーとやらの一件聞いたぞ。厄祭戦時代の化け物を潰すたぁおめぇらやっぱり面白れぇなぁ」

 上機嫌なマクマードに対しハッシュはアトラに耳打ちする。

「もっと怖ぇんかと思ってましたけど、ただの爺さんですね」

「三日月気に入られてるみたい」

 するとマクマードの前に部下が姿を現す。

「おやじ。その……ギャラルホルンの手入れの件で」

 上機嫌だったマクマードの表情ががらっと変わった。

「……なるほど。マーズ・マセが言っていたのはこのことだったか」

 マクマードは立ち上がる。

「幹部連中を集めろ」

 

 マーズ・マセを前にオルガが食って掛かる。

「あんたが裏から根回ししてどうにかなんねぇのかよ!?」

 マーズ・マセは首を横に振る。

「ガルスの奴に言えば何か打開案があるかもしれんが、得策とはいえん。今下手に動けばこちらの作戦に支障が出る」

「くそ!」

 オルガがうろたえる中、マーズ・マセはサブレを連れて部屋を出る。

 

「今回の相手はギャラルホルンだけじゃない。うちの秘密航路や看板も出てない事務所にまで手が入ってるっことは……」

 名瀬はハンマーヘッドと共に姿をくらませていた。アミダの言葉に名瀬が同意する。

「ああ。見事に内側から刺されたな」

「やっぱりジャスレイかい?」

「考えたくないがおやじって線もある。なんにせよ腹括んなきゃならねぇ時が来たみたいだな」

 ハンマーヘッドの通信にオルガが割って入る。

「兄貴!ハンマーヘッドの予定航路をくれ。今から俺らで……」

 応援に行こうとするオルガに名瀬は冷たく突き放す。

「お前は来るな。今や俺達は違法組織だ。俺達との繋がりが取り沙汰されりゃ鉄華団はどうなる?それにお前はこれからテイワズの未来すらかかった戦いがあるんだ。この絵を描いた奴はお前たちが手を出してくることまで見越してるはずだ。だとすりゃ突っ走れば連中の思うツボ。とにかくこいつはテイワズの内輪もめの結果だ。お前らにゃ関係のねぇ話なんだよ」

 名瀬の言葉にオルガは食って掛かった。

「俺達だってテイワズの一員だ!関係ないことはねぇでしょう。いやだいたいあってもなくてもかまわねぇ。兄貴を救うためなら俺は……」

 それでも名瀬は突き放す。

「じゃあ言わせてもらう。お前とは兄弟の盃を交わした。だがな俺はお前の家族じゃねぇ。見失うなよオルガ。お前がいの一番に守らなきゃならねぇものを。それ以外は全部後回しにしろ。家族を幸せにするってのは並大抵の覚悟じゃできねぇことなんだ。分かったら前を向け。鉄華団を……家族を守る。それだけを考えろ。いいな?オルガ・イツカ」

「兄貴……」

 これ以上は何もいえなかった。

 

 ノブリスが部屋でアイスを食べていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。

「なんだ?」

 黙って部屋に入って来た人物を視認すると、ノブリスはアイスを落とし、窓際まで後ずさる。

「マ、マハラジャ・ダースリン!?」

 マーズ・マセは不敵に微笑むと少しづつ歩いてくる。ノブリスは近くの電話を取る。

「何をしている!誰かこんか!!」

「誰も来ないぞ?お前以外はすでに始末したしな」

 ノブリスの焦りはさらに増していき、ノブリスはギャラルホルンに連絡を入れようとするが、外への連絡が付かない。

「ちなみにここから外への通信は切ってあるぞ」

「く、来るな!」

 ノブリスは震える手で銃を取ると、さらに窓の方へ後ずさる。マーズ・マセは手で合図を送る。

「あまり窓際に近寄らん方がいいぞ……って言っても遅いか」

 何処からか撃ち込まれた銃弾は窓を突き破り、ノブリスの頭を貫通するとノブリスは頭から大量の血を吹き出しその場に倒れた。

「まあ、お前を殺して資産を分割する準備をするのに二年もかかるとは思わなかったが……」

 すると、マーズ・マセの端末に連絡が入り、通信しながらオイルを部屋中に撒き、マッチに火をつけるとドアを閉め出ていきながら部屋に火をつけた。サブレは反対側のビルにいると大きくため息を吐いた。

「なんで俺がこんなことをしなくちゃいけないんだよ」

 ノブリスの事務所は火災で全て潰れてしまい、生存者のいないまま捜査は打ち切られた。




どうだってでしょうか?次回からサブレ回とタービンズ戦が行われます。名瀬やアミダがどうなっていくのか、そこにサブレがどうかかわっていくのか。楽しみにしていてください。次回はサブレの意外な一面が見れると思います。
次回は『燃ゆる太陽に照らされて』です。楽しみにしていてください。


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燃ゆる太陽に照らされて

いよいよタービンズ戦です。サブレ回の本領発揮です。サブレの見たことのない一面に期待を。それと今回はサブレの一人称視点と三人称視点の二つの書き方をしています。


 小さな頃俺サブレ・グリフォンは学校帰りの帰り道で兄であるビスケット・グリフォンがいじめられている現場を見つけてしまった。俺はいじめられていた同い年の子供を殺そうとした。兄が涙を流し、おびえながらも俺の腰にしがみついて俺を止めたとき、俺は自分が人を殺そうとしていたことに気が付いた。俺が殴りつけた子供は顔が原型をとどめないほどに腫れていた。俺はそんな光景を目にしても心が動かなかった。後になってマーズ・マセに言われた。

『お前は……化け物だ』

 

 マーズ・マセはノブリスの事務所から少し離れた大通りで一人煙草を吸っていた。サブレはどこか面白くなさそうな顔をしながら近づいてくる。

「どうした?面白くなさそうな顔だな?」

「なんで俺なわけ?俺じゃなくてもよくない?」

「………変わったな。昔のお前なら文句を言うどころか、顔色一つ変えずに人を殺したろ?まあ、それを確認したかっただけだが……」

 マーズ・マセがその場を去ろうとすると、サブレは食い気味に駆け寄る。マーズ・マセはそんなサブレに告げる。

「サブレ……見届けろ。一人の女と男の生きざまを。お前にはその義務がある」

 サブレはその言葉を聞くとそのまま駆け出していく。副リーダーの男が車で駆け寄ると、マーズ・マセはそのまま車に乗り込む。

「変わりましたか?あの子は?」

 副リーダーがそう尋ねるとマーズ・マセはたばこを外に捨て答える。

「あいつに初めて会ったあの時の事を俺はよく覚えている。俺はあいつが化け物だと感じた。人を殺すことに顔色一つ変えず、命令さえあればだれでも殺す。ゆえに『死神』と俺は名付けた」

「そうですね。私もそう思いました。あの子は多分心が無い。誰かを想うことも……好きになることさえない。けど……」

「ああ。あいつはジュリエッタに会い、変わった。いや……鉄華団に入ってに変えるべきか。あいつらには感謝せねばな。俺があきらめていたことをあいつらは成し遂げた。いや……あいつに必要だったのは年の近い仲間だったのかもしれないな。今から思えば……俺がやってきたことは全部失敗ばかりだ。妻を失い……娘を失い、サブレに何も与えてやれなかった」

 副リーダーは珍しく微笑むと一言フォローを告げる。

「これからすべてを取り戻せますよ」

「いや……失うさ……友を」

 

「ですが!」

 クーデリアがマクマードに食い気味に立ち上がるが、マクマードは意見を変えない。

「タービンズはギャラルホルンから違法組織と認定された。手助けなどしようもんなら巻き添えくらって潰されるのがオチだ。お前らにはこの後の作戦があるんだぞ、お前らの行動にテイワズの未来がかかってるんだぞ。オルガ・イツカにもそう言っとけ!」

 決して譲らないマクマードに三日月が代わりに答える。

「分かった。言っとく」

 三日月の淡白な答えにクーデリアがショックを受ける。マクマードも三日月があっさり引き下がる姿に疑問を持つ。

「やけにあっさり引き下がるじゃねぇか」

「目を見れば分かるよ。あんたはてこでも動かない」

 三日月たちが屋敷から出ていくと、マクマードは名瀬と通信で話をする。

「所帯がでかくなればあちこちに綻びが出るのは必然よ。それがギャラルホルンだろうがテイワズだろうが……で、どうしてほしい」

 マクマードが名瀬に尋ねる。

「おやじ。盃を返させてくれ。タービンズを解散する。そのうえでダメな息子の最後の頼み……」

「女どもの面倒を見ろってんだろ?俺の直轄組織に入れるよう手配してやる」

 名瀬は深く頭を下げる。

「恩に着ます」

「今までお前のわがままをどんだけ聞いてきたと思ってんだ」

「これが最後です」

 名瀬は最後だと決め決意を固める。

 

 オルガは壁を思いっきり叩く。

「くそっ!名瀬の兄貴がハメられたことは分かってんのにおやじは知らぬ存ぜぬを決め込みやがった!」

 イライラするオルガをメリビットが諫める。

「団長。今動けばタービンズ同様鉄華団も違法組織と認定されます。名瀬さんもそれがよく分かっているから団長に動くなと命じたのでしょう」

「分かってるよんなこたぁ!でも俺は兄貴を……」

 それでも助けたいオルガだが、それでもメリビットが引き留める。

「鉄華団を潰す気ですか?」

「それでも……なんとかしてぇと思っちゃいけねぇのかよ俺は……」

 団長室にシノと昭弘が入ってくる。

「らしくねぇなぁオルガ」

「タービンズはどこにいる?」

 シノや昭弘はタービンズの現居場所を尋ねるとメリビットが答える。

「アリアドネの航路外にある中継基地です」

「俺の流星隊と昭弘の筋肉隊で脱出した非戦闘員を保護しに行く」

 シノの言葉に昭弘が反応した。

「おいシノ筋肉隊ってのはなんだ?」

「二番隊なんてださい名前じゃあかっこつかねぇだろ」

 二人が言い争いをしていると、メリビットが口をはさむ。

「二人ともわかってるの!?今鉄華団が動くということは……」

「直接やり合わなきゃいいんだろ?」

「民間人を助けるだけだ」

「俺の流星号と昭弘のグシオン、ライドの雷電号が先行する。流星号と雷電号はロケットブースター付きのクタンで運ぶ。グシオンには新型の追加ブースターパックを装備。もうヤマギ達に作業を進めさせてる。俺達が中継基地付近でモビルスーツの運用テストを行っている途中避難してきたタービンズの非戦闘員を救うってシナリオだ。それなら名瀬の兄貴に背いたことにはならねぇだろ?」

 シノと昭弘にオルガが頭を下げる。

「シノ……昭弘……兄貴を頼む!」

 

「軌道計算はこっちでやっといたからできるだけクタンの操縦系には触んないで」

 シノと昭弘とライドは出撃するために機体に乗り込み、出撃する。

「四代目流星号、ノルバ・シノ!」

「雷電号、ライド・マッス!」

「ガンダム・グシオンリベイクフルシティ、昭弘・アルトランド出る!」

 三人が飛び出た後、フォートレスの旗艦でサブレ用の獅電がブースター付きの強化外装である『シラヌイ』で出撃しようとしていた。

「これがシラヌイ?」

 元ファントムエイジの整備長が機体回りの整備を完全にしていた。サブレはそんな整備長と話をしていた。

「ああ、シラヌイ。強化外装って言ってな、遠くへ移動するだけではなく、その場でそのまま戦闘できるように出来てる……なんか変わったな」

「そうですか?」

「ああ、表情が豊かになったというか……何があったのか?」

 サブレが少し考えて答える。

「楽しかったし……何でだろう」

「サブレさん!整備終わりました!」

「へぇ~い」

 サブレはそのまま機体に乗り込む。整備長は不思議そうな顔をする。

「ほんとに変わったな……楽しいなんて言葉……あいつから聞けるとは思わなかったが……」

「サブレ・グリフォン!獅電改シラヌイ!出る!」

 そのまま出撃していく。

 

 ハンマーヘッドは中継基地で撤退作業が着実に進んでいく。名瀬はブリッジにいるメンバーに告げる。

「もうここは俺だけでいい。お前らも早く輸送船に行け」

 名瀬の言葉にエーコが驚く。

「俺だけって……ダーリン一人でハンマーヘッドを動かす気?」

「いざって時に敵艦隊への囮として使うだけだよ」

 すると一人の女性がブリッジ内で叫ぶ。

「基地周辺のレーザー通信S7がロスト。S4.S8もです。まっすぐこっちへ向かってくる……」

 

「目標の小惑星を肉眼で補足」

 オペレーターが目標を捉えたと報告を上げるとイオクは艦長席に座って待機する。

「よ~しモビルスーツ隊を発進させよ!ダインスレイブ隊は艦隊後方で待機!」

 大量のモビルスーツを展開させるイオクにジュリエッタは呆れたような顔をする。

「小物相手にこれほどの戦力を投入するのですか?」

「どんな相手であろうが全力を尽くす。クジャン家の家訓だよ」

「ご立派で」

『いつまで付き合わなくてはいけないんでしょうか?』

 

「アリアンロッドが来たって?」

「私達が牽制に出る!」

 ラフタとアジーがブリッジから出て出撃し、牽制に行こうとするがそれを名瀬が止める。

「奴らの相手は俺がする。アリアンロッドが来るまで多少の時間がある。お前らが安全圏まで離脱したのを見届けたら俺も尻尾を巻くさ」

 名瀬がそういうと今度はアミダだけが付いていこうとする。

「とはいえあんた一人じゃ危なっかしすぎてみてらんないよ。私が護衛につく。ラフタ、アジー。あんたらは家族を守るんだ。モビルスーツは足は速いが携帯火器じゃ船の装甲は抜けない。慌てずに避難できるよう誘導してあげな」

 アジーはそんなアミダと名瀬の意図を知りながらも反論できない自分に歯噛みするしかなかった。

 二人がそのまま出撃し、辟邪で船の後方につこうとする中、アジーがラフタに言葉を向ける。

「輸送船の後方につくよ……ラフタ?」

 答えないラフタにアジーが心配するが、ラフタが涙を拭き前を向く。

「大丈夫……私が家族を守る。絶対に守って見せるから!」

 名瀬は遠ざかっていく船を見つめるなか上着を脱ぎ、操縦席につく。

「いい子だ。そのまま進め。まっすぐに。出るぞ。アミダ」

 アミダはそのままハンマーヘッドの前に出る。

「しかし女ってのはなんでこう男の嘘が見抜けるかねぇ。男も男さ。すぐ分かる嘘をつく」

「ならなんで女は男に騙される?」

「そりゃ本気で惚れてないからさ。あんた一人で罪を背負うつもりだろ?けどあんた一人じゃモビルスーツに囲まれてタコ殴りに合うのがオチさ。露払いは私がする」

「何もかもお見通しか。惚れられてるねぇ俺は」

 ハンマーヘッドと共に前に進んでいく。最後の戦いへと向けて。

 

「打って出るとはな。その行為には敬意を表しよう。モビルスーツ隊を前に出せ!」

「モビルスーツ隊から通信。敵強襲艦の信号弾を確認。停戦要請です!」

 オペレーターがモビルスーツ隊からの連絡を告げる。

「ふん!モビルスーツ隊からそのような報告があったようだが誰が敵艦からの停戦信号を確認したものはいるか!?」

「……いえ!誰も見ておりません!」

「ふふっ……つまりそういうことだ!」

『お父様から一連の会話を録音しておけと言われましたけど……こういうことでしたか』

「ダインスレイブ隊を艦隊前面に展開。扇状の陣形をとらせろ!ダインスレイブ隊、放て!」

 ダインスレイブ隊が放つ弾頭はアジー達が護衛してた輸送船に直撃する。

「攻撃!?どこから!?」

「なんてこと……輸送船が!」

 どこから飛んできた攻撃か全くわからないアジー達は驚きを隠せない。名瀬は輸送船に向けられた攻撃から輸送船を守るためにさらに前に出る。

「輸送船とはいえ船のナノラミネートアーマーを軽々と……まさか例の兵器を使ったのか?ったくコケにしてくれるぜ。お前ら相手の射程外まで逃げろ!」

 輸送船が逃げるために船を移動させるのを確認したイオクはダインスレイブ隊に次弾を装填させる。

「逃がすわけないだろ。ダインスレイヴ隊次弾装填急げ!」

 アミダが次弾を装填するのを確認すると名瀬に告げる。

「第二射が来る。スモークを!」

 スモークを放つが意味がなく、ダインスレイヴが再び輸送船にあたる。イオクを心配する部下の一人が尋ねる。

「イオク様。ブリッジを戦闘態勢に移行させなくてよろしいのですか?」

 そんな心配など知る由もないイオクは自信満々に答える。

「ああ、よろしいとも。奴らに王者の貫禄というものを見せつけてやろうではないか」

 ジュリエッタはため息を吐き出撃しようとする。

「イオク様。ジュリアで出ます」

「結構。行ってくれ。活躍の機会はもうないだろうがな」

 身を振り返りそのまま機体に乗り込むジュリエッタは新型機で出撃する。

 

「支えるよラフタ」

「あれは!ハンマーヘッドが……ダーリン!」

 ハンマーヘッドがそのままスモークの先に突っ込んでいくのをラフタ達が見届ける。

「弾幕張るよ!」

「釣られるな。他のみんなもだよ!」

 アジーとラフタが機体を走らせるとギャラルホルンのモビルスーツが散開する。

「脱出艇を庇う気か。散開して撃破せよ!」

「敵の数が多い。このままじゃ……」

 敵の数の多さにタービンズのメンバーが泣き言を言うとラフタがそのままモビルスーツをゼロ距離射撃で撃墜する。

「タービンズに泣き言なんて!」

 名瀬はラフタ達が苦戦しているのを確認すると、アミダに救援に向かうようにと告げる。

「アミダ!ラフタ達の救援に行ってくれ!」

「分かった!」

 そういってひるがえすとアミダの前にジュリエッタがぶつかってくる。

「この出力……アリアンロッドの新型?」

「一合で分かる。強い相手と!」

 アミダとジュリエッタがぶつかり合う中、また一隻落ちてしまう。

「船が!」

「今は逃げることだけを考えて!」

「あいつらランチを標的にしてる!」

「これがギャラルホルンのやり方か!!」

 ギャラルホルンの非道なやり方にラフタは怒りを覚えかける。

「よくもー!!」

 ライフルから弾を放とうとするが、弾切れを起こす。

「弾切れ!?もう?」

 弾切れした辟邪にギャラルホルンのモビルスーツが近づいてくる。ラフタの目の前で武器を振り下ろそうとするモビルスーツにグシオンの一撃が入る。

「昭弘!どうしてここに……」

「理由が必要か?行け。俺たちが時間を稼ぐ!」

 昭弘がラフタを守っている間にシノとライドも到着した。ライドの一撃がモビルスーツに叩き付けられる。

「やるようになった!」

「師匠の教えの賜物ですよ!」

「こっちはいい。家族を守れ!」

 昭弘がラフタに守るようにと告げる。

「けど!」

「俺に背中を預けろ!」

「……昭弘!今度会ったらギュ~ってしてやるから覚えとけよ!」

「なんで絞められなきゃなんねぇんだ……」

 勘違いしている昭弘にラフタが去っていくと、ギャラルホルンのモビルスーツの一機を黒い獅電が薙ぎ払い、そしてそのままハンマーヘッドに向けて走っていく。

「さっきのモビルスーツってサブレ?」

「なんでここに?」

 シノとライドが驚きを隠せずにいると、そのままアミダの方に向かっていく。

 名瀬はどこか嬉しそうな表情になる。

「オルガの奴……何もすんなっつったのに……」

「見えるよ。あんたのにやけ面がね」

「よそ見なんて!」

 ジュリエッタが動きの止まったアミダの機体に攻撃を加えようとするが、それを邪魔するようにサブレの獅電が剣を振り下ろす。ジュリエッタはそのままジュリアンソードで受け止める。しかし、そのまま獅電は蹴り飛ばす。

「ここは俺が抑えます!アミダさんは名瀬さんの援護に!」

「すまないね」

「あなたは!」

 サブレの機体にジュリエッタのジュリアがぶつかってくると、サブレに聞きなれた声が聞こえてくる。

「ジュリエッタか!?」

「その声……サブレ!?」

 その途端サブレの感情が揺さぶられる。ジュリアの連撃を獅電で捌く。

「攻撃を捌きますか!やはりやりますね」

「………なんで?どうしてこんなに……」

 サブレは戦いの中で己の感情を揺さぶられようとしていた。

 

 ガランと戦っていた時、初めてイライラしながら戦っていた。戦う時は決して感情が動かず、命じられた命令に従って殺すだけ。それが俺だった。なのに……どうして彼女と……ジュリエッタと戦ってから何かがおかしくなってきた。ガランやイラクと戦う時にイライラしながら戦っていた。あんな奴らに仲間が殺された事に……殺されそうになっているときに不意にそんな状況は嫌だと考えてしまった。心を締め付けられるような気持になった。俺の中に感情が生まれた。そうだ……俺は………人間なんだ。俺は。化け物じゃないんだよ。

 

「分からない……分からない………分からない!!」

 サブレは乱暴に戦う中、サブレの攻撃はジュリエッタを追い詰めていく、ジュリエッタは追い詰められる中、とどめの一撃が入ろうとする。しかし、サブレの攻撃を受け止めるアミダ。さすがのジュリエッタもこの行動に戸惑う中、混乱するサブレにアミダが答えを教えてくれる。

「サブレ……あんた恋をしてしまったんだね。彼女に……」

「俺が……恋を?」

「戦いはその人の本質を写すもんだ」

 サブレが戸惑いを隠せない中、アミダはジュリエッタの方を見る。

「この子の事お願いしてもいいかい?」

 そんなアミダのお願いに驚くジュリエッタは驚きながら逆に問う。

「敵である私に頼むのですか?」

「……あんたもこの子のことが好きなんだろ?」

 アミダの唐突な答えに驚きながらも答える。

「……はい」

 アミダは去り際に二人に告げる。

「大切にしなよ。あんた達にとっての太陽を……そして、見届けな……私たちの戦いを」

 そのまま飛び去っていくアミダにサブレは身動きが取れずにいた。ジュリエッタはスモークで隠れているのをいいことに、あえて戦わずにその場で静観した。

 名瀬はスモークから飛び出ると、降伏信号を発する。

「敵強襲艦、スモークから出ました」

「信号弾確認。降伏信号です!」

「聞けない相談だな。ラスタル様の隣に立つためには非情を貫き通す覚悟が必要とされる。全艦!敵強襲艦を砲撃せよ!」

 イオクの攻撃でハンマーヘッドのあちらこちらから火の手が上がる。名瀬は額を強くぶつけ、頭から血が流れる。アミダは降伏を認めないアリアンロッドに突っ込んでいく。

「降伏すら認めないか……なら相手の頭を潰すだけだ!」

「アミダさん!」

 サブレが向かおうとするのをジュリエッタが邪魔する。

「邪魔するな!」

「駄目です!向かえば生きて帰れません。……お願いです……生きてください」

(名瀬……私らがいなきゃあんたは咲くことすらできない。だったら私は……)

 突っ込んでくるアミダにイオクは戸惑いを隠せずにいた。

「敵モビルスーツなおも本艦に向かって接近中!」

「まさか特攻する気か?ダインスレイヴ隊!」

「ジュリエッタ機の固有周波数が射線上に反応があります」

「あの機体ならかわせる!放て!」

 イオクの命令でダインスレイヴの攻撃がアミダに直撃する。名瀬も驚きを隠せず、サブレとジュリエッタも驚きを隠せない。

「お、お前のところは味方に向けて攻撃をするのか!?」

「イオク様……なんてことを……」

 そんなジュリエッタからの敵意から気が付かないイオクは一人喜んでいた。

「やっ……やった……やったぞ~!」

 アミダは最後の力を振り絞る。

(名瀬……見せてやるよ。とびっきりの輝きを)

 アミダの最後の攻撃がイオクのブリッジにぶつかる。アミダの機体が爆散し、そのまま頭部がサブレの乗る獅電に向かってきた。

「見えたぜアミダ」

(一人じゃ逝かせねぇ。そうだろ?アミダ。女は太陽なのさ。太陽がいつも輝いてなくちゃ男って花はしなびれちまう。いつも笑っていてくれよアミダ。強く激しく華やかに笑っていてくれ。そうすりゃ俺はどんな時だって顔を上げることができる。お前って太陽に照らされりゃあ俺は……)

 ハンマーヘッドに次々とダインスレイヴの攻撃が決まる。イオクは怯えながら艦長席の後ろに隠れる。艦橋に攻撃が決まると名瀬は笑いながら命を落とす。しかし、イオクへの攻撃は直前でそれ、隣の船に落ちていく。

 サブレの獅電にアミダの百錬の頭部が流れてくる。すると、気が付くとアミダと名瀬の声が聞こえてきた。

(生きな……)

(大切にしろよ……お前の太陽を……)

「行ってください……今ならごまかせます。早く!」

 ジュリエッタの言葉でサブレは百錬の頭部を抱えたままその場を去っていく。

 

 タービンズの全員が、ラフタが、アジーが涙を流す中、昭弘は悔しそうに拳を操縦席にたたきつける。シノとライドもやるせない気持ちになる。クーデリアとアトラはそれぞれの愛する人の胸で泣き、三日月はどこか遠くを見つめる。ビスケットもどこか悔しそうな表情になる。オルガも「兄貴……」とつぶやきながら涙を流す。サブレも悔しそうに涙を流した。

「アミダさん……名瀬さん……」

 初めて人の死に涙を流した。




どうだってでしょうか。サブレの意外な一面というか、サブレの過去やサブレが死神と言われた理由がいい気に明かされた回でしたね。
次回は『それぞれの愛』です!よろしく!


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それぞれの愛

ラフタ回です!ラフタと昭弘がどうなっていくのか楽しみにしていてください。


「すまねぇ。名瀬の兄貴の遺体はハンマーヘッドごとギャラルホルンに押収されちまった。姐さんの百錬も……」

 シノからその後の状況を説明されたオルガはただ歯噛みすることしかできなかった。

 マクマードの部屋にジャスレイが姿を現すと名瀬の葬式を歳星でするマクマードに強く意見を出す。

「正気ですかい?おやじ。名瀬の葬式をこの歳星でやるなんて」

「ここは俺の持ち物だ。何やったって勝手だろうが」

「名瀬はギャラルホルンから指名手配された犯罪者だ。その葬式をおやじが出すって意味を……」

「死ねばみんな仏様よ。それに今回の件はいろいろと納得いかねぇことがあってなぁ。いろいろとな」

 ジャスレイを軽く睨みつけるような視線をマクマードは向ける。ジャスレイは怯んでしまいそのまま部屋を出ていく。

 ジャスレイは自分の事務所に戻ると苛立ちを周囲に向ける。

「おやじももう終わりだな。死んだのは名瀬、生きてんのは俺。テイワズの頭として損得を考えりゃ俺の側に付くのが当然じゃないの……イオク・クジャンは?」

 ジャスレイの隣に座っていた部下の一人が答える。

「今時直筆の感謝状が届きましたよ。例の件も喜んで力を貸すと」

 ジャスレイはあくどい笑顔になる。

「あの耄碌爺に引導を渡してやる頃合いかもしれねぇな。しかし、それにはちょいとした下ごしらえがいる」

 

 名瀬とアミダの葬式の場にジャスレイが姿を現す。

「おお~!ちゃんと届いているじゃないの。結構結構」

「さすが叔父貴」

「叔父貴の名前かっこいいっすね」

 ジャスレイ一行は鉄華団のメンバーを発見すると挑発する。

「おお~?どうも臭ぇと思ったら宇宙ネズミご一行様か」

「尊敬する兄貴の最後だ。しっかり見届けてやれよ。まっあの汚ぇ長髪の一本も残っちゃいねぇみたいだがな。ははははっ!」

 挑発にユージンが乗ろうとするのをオルガが止める。ユージンが振り向きざまに怒鳴る。

「なんで止めるんだよ!あいつら……」

「今はよせ……チャンスは必ず来る」

 ユージンはオルガからの言葉を受け渋々引き下がる。シノがオルガに尋ねる。

「なあ……ビスケットとサブレはどうしたんだ?」

「あいつらならおやじに呼び出されて今仕事の最中だ」

 

 葬式が始まる前にビスケットとサブレはマクマードに呼び出されて部屋にやってくる。マクマードは豪快に笑いながら二人をソファへと導く。二人は恐る恐るソファに座るとマクマードはそのまま本題に入る。

「おめぇらに頼みたいことがある。ある人物の護衛を願いてぇ。頼めるか?」

「ある人物というのは?」

 ビスケットが訪ねると、マクマードは二人の写真を取り出し二人に見せる。そこに移っていたのはアジーとラフタが映し出されていた。

「アジーさんとラフタさんですか?」

「マーズ・マセの読みではお前たちと最もかかわりの深いこの二人とエーコの三人が危ねぇって話だ。エーコって嬢ちゃんはこちらで護衛する。おめぇらはこの二人を頼む」

 サブレとビスケットは黙ってうなずき、そのまま部屋を後にする。二人は歳星のマクマード邸を出ていくと、そのまま葬式が外から眺められる場所へと移動する。ビスケットは隣でイライラしているサブレに尋ねる。

「なんか……最近イライラしていることが多いよね。名瀬さんが死んだから?」

「さぁね……昔はそうでもなかったんだよね」

 サブレの言葉にビスケットは昔を思い出しクスクスと笑い出す。サブレはどこかムッと表情を変え、ビスケットは笑いながら謝る。

「ごめんごめん。サブレは昔人を殺すことにすらためらいがなかったでしょ?俺はね……正直に言えば怖かった。何考えているのか分からなかったし……」

 サブレはぶすーっとした表情になるとビスケットは苦笑いになる。

「分かってたよ……でもそういうことを本人に言う?」

「サブレ……何かあった?なんか落ち着きがないけど……」

 サブレは正直に答える。

「……アミダさんに俺の今の気持ちは恋だって指摘された」

「そっか……で?どうするの?」

 少し考えると答える。

「まだ自分の気持ちを整理してないんだよ……なにかが足りないんだよな」

 

 ジュリエッタは通路をまっすぐ進んでいくとマーズ・マセの部下が部屋の中に案内する。目の前の通信機の画面にマーズ・マセが映る。ジュリエッタはイオクの言動と証拠の映像のすべてをマーズ・マセに送ると、愚痴を漏らす。

「めんどくさい仕事をよこしますね」

「まあそういうな……サブレと会いたかったろ?俺はお前たちに何もしてやれなかった」

 ジュリエッタは少しだけ悩むとマーズ・マセにお願いをする。

「お願いします。ラスタル様と戦う前に一回でいいのであの人と戦わせてください。私たちの気持ちを伝え合うために必要なことなんです」

「分かった……考えておこう………あいつが怒りそうだが」

 

 マクマードはラフタ達を呼び出すと名瀬の遺志をそのまま受け継ぐ。

「あいつの遺志通りお前らの今後は俺がきっちり面倒を見る。まっそもそもお前らがいなくっちゃテイワズの流通は回らねぇんだ。これからも頼むぞ」

 ラフタ達はそのままマクマード邸を出ていくと、三人で話していた。

「マクマードさんマジでいい人だったね。うちらはあんましゃべったことなかったけど」

 エーコがそういうとラフタが同意する。

「うん。ダーリンが慕ってたわけだ」

 アジーはラフタに尋ねる。

「ラフタ。あんたは行ってもいいんだよ」

「え?どこに?」

「鉄華団に……さっき聞いた通りうちにはモビルスーツの乗り手は必要なくなる。だけど鉄華団は戦力を常に欲してるからね。自分の気持ちに素直になっていいんだ。姐さんもそれを望んでた」

『あんた達はろくに恋も知らないまんまここに来た。名瀬は私らを平等に愛してくれる。だけど女なら誰だって欲してるはずさ。自分だけの男をね』

 かつてアミダがそうアジーに告げると、アジーは不思議そうな顔になる。

『姐さんもそんなふうに思うんですか?』

『前にアトラにも言ったことがあるんだけど。いい男の愛ってのはみんなでどんだけ分けても満足できる。そこらの並の男の愛なんかよりよっぽどね。ただラフタが惹かれるぐらいなら並の男じゃないだろう。そのでっかい愛を受け止められるんなら女としてそれ以上の幸せはないさ』

 アジーはアミダの言葉をそのままラフタに告げると、ラフタは少しだけ悩む。

「まあ考えてみなよラフタ」

 

 ラスタルはイオクを呼び出す。

「先日のタービンズとかいう組織への調査の件だが情報提供者は例のジャスレイ・ドノミコルスか?」

 イオクはイキイキした表情をする。

「ご明察の通りです!ラスタル様に無断での出撃申し訳ありませんでした!しかし、これでマクギリスの火星での活動に楔を打ち込むことができ……」

「マクギリスがお前が本部から持ち出した装備について嗅ぎ回っている。我々に必要なのは秩序と節度。その言葉の意味もう一度よく考えてみろ」

 イオクは唖然とした表情をしていた。

 

「タービンズは内側から刺された。裏で糸引いてんのはあのジャスレイってのに決まってんだろ!」

 ユージンの感情のこもった言葉にシノも同意する。

「お前がやるってんなら俺達は乗るぜオルガ」

「少しだけ待て……おやじとマーズ・マセがジャスレイを孤立させるための作戦を立ててるそれを待て」

 三日月がそのままジーっとオルガを見ているとき、ラフタは昭弘と話をしていた。

「その……あんた達さ明日には帰っちゃうんだよね?」

「ああ。バルバトスの修理も終わったからな。アガレスは後で合流するって話だけど……」

「よかったらさ。今から少しだけ飲みにいかない?」

 二人の話を立ち聞きしているユージンとシノなど知る由もなく二人は話を続ける。

「分かった」

「じゃあ……」

「待ってろ。みんなを呼んでくるから」

 ラフタの気持ちなど知る由もない昭弘は通路を曲がったところでユージンとシノは招弘の首根っこをつかむ。

「聞いてたのか。お前らも……」

「バカじゃねぇのか!?お前二人っきりで行って来いよ!女心が分かってねぇな!」

 シノの言葉を全く理解できてない昭弘は理由が分からないという表情になる。

「なぜ二人で?」

「そこにはよぉ……金で買えない愛があるかもしれねぇだろうが」

「兄貴だけで行って来いよ……鈍感兄貴」

「昌弘?」

 突然後ろから話しかけてきた昌弘に驚きつつ、昌弘はまっすぐ昭弘を見つめ、その視線に昭弘は軽く怯む。

「わ……分かった」

 

 昭弘はかつて鉄華団が訪れたバーへとラフタを連れて行った。

「こんなお店知ってるんだ。昭弘すごいじゃん」

「いや前に歳星に来た時に鉄華団のみんなと来てな」

 ラフタは自分の胸に手を置き語る。

「なんか変な感じなんだ。いろんなものがごっそりここから持っていかれた感じ。私ね、ガキの頃から違法船で働いて仲間は女ばっかだったけど雇い主がひどいおっさんでさ。みんないっつも暗い表情でおしゃべりもなくて……それが当たり前だと思ってた。でもダーリンと姐さんが助けてくれて……私ね。それまでほんとに何も知らなかった。読み書きだけじゃなくて楽しいとか嬉しいとかあったかいとか、人として当たり前のこと。誰かを好きだって思う気持ち。守りたいって願うもの。全部タービンズに入ってから教えてもらった」

「それは俺も同じだ。鉄華団に入って初めて自分が本当はどんな奴だったか分かったような気がする」

「優しいよ昭弘は。ただの筋肉バカだと思ってたけど誰より周りを見てる。人のことを自分の事みたいに考えられて……不器用だけどそっと……言葉なんてなくても気持ちで隣に寄り添ってあげられる。そんな奴。そ~んでもってさ。隣により添われてもどうにも暑苦しいからこっちも無理やり元気だして立ち上がるしかなくなるの」

「バカにしてるだろ?」

「やだな。褒めてるんだよ。だって私はあんたのそういうところが……」

 ラフタは喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込み、まっすぐ招弘の方を向く。

「私ねここに残るよ。マクマードさんはうちらを守ってくれるって言うけど頼ってばかりもいられないし、それにダーリンと姐さんが教えてくれたことちゃんと伝えていきたいから」

 昭弘もまっすぐラフタを見つめ、自分の気持ちを伝える。

「俺はお前を尊敬する。筋を通さねばならないことを大事にせねばならないものをきちんと見つめ、まっすぐに生きる……俺もお前のようにありたいと思う」

 二人はバーを離れてそのまま外に出ると別れの挨拶をしている。

「これでほんとうにさよならだね」

「また仕事で会うこともあるだろう。その時はよろしく頼む」

 鈍感な昭弘はラフタの気持ちに気が付かない。

「そうだよね……あっ!忘れてた!ぎゅ~!!」

 ラフタは招弘に抱き着き、昭弘は固まってしまう。

「ハグくらい挨拶みたいなもんでしょ?な~に赤くなってんの?じゃあね」

 昭弘は表情を赤くする。

(私はタービンズが好き。ダーリンが、姐さんが大好き。でもそれとは違う。こんな気持ちになったのは初めてだよ昭弘)

 しかし、そんな会話を聞いていた昌弘は歯切りする。

「なにやってんだよ……兄貴」

 

 ジャスレイが酒を飲んでいる中、葬式の一件の愚痴を漏らす。

「期待外れだぜあのガキども。あれだけ煽ってやったのによぉ。敵討ちだなんだと突っかかってきてくれりゃあでっけぇケンカができるのによぉ。おやじも巻き込んででっけぇのが。しかたねぇ。こうなったら嫌が応でも男を見せてもらうほかねぇなぁ」

 ジャスレイは自身の行動が常に監視されているとも知らずに。

 

 昭弘がイサリビの廊下を歩いていると後ろから昌弘が姿を見せる。

「昌弘か……どうかしたのか?」

「何遣ってるんだよ……兄貴」

 昌弘が何を言っているのかが理解できず、首をかしげる。イライラする昌弘は睨みつけながら怒鳴る。

「分かんねぇのかよ!!ラフタさんは兄貴のことが好きなんだよ!!!本当は兄貴に好きだって言いたいのに……なんで気が付かないんだよ!!この鈍感兄貴!」

 昌弘の言葉にラフタのセリフを思い出す。

『だって私はあんたのそんなところが……』

 動揺する昭弘に昌弘はさらに怒鳴りつける。

「男なら自分の気持ちを伝えて来いよ!」

 昭弘は昌弘に手を置き、そのまままっすぐ走り出す。

「すまねぇ……昌弘」

 

「ちょっと買い過ぎちゃったかなぁ?でも仕事が始まったら当分こういう買い物はできないだろうしね」

 ラフタとアジーが二人で買い物しながら歩いているとアジーは振り返る。

「買い忘れ。さっきの店が。ちょっと待ってて」

 ラフタは近くにあるぬいぐるみショップに入ると昭弘に似ているぬいぐるみを見付けた。

「へぇ~かわいいじゃん。何?この子、目つき悪っ。なんか似てるかも」

 昭弘はラフタを探してぬいぐるみショップの近くに寄ると、ビスケットが後ろから声を出す。

「昭弘!ぬいぐるみショップにラフタさんが!狙われてる!」

 昭弘はぬいぐるみショップに入る。

「え?昭弘!?」

「ラフタ!!」

 昭弘はラフタに抱き着くとそのまま押し倒す。先ほどまでラフタがいた場所に銃撃で窓ガラスが割れる。後ろからビスケットが追いかける。男は追いかけられることに驚き銃を捨てて走り去る。男がいなくなったことを昭弘は確認するとラフタを立ち上がらせる。

「大丈夫か?」

「うん……でどうしたの?あんた……鉄華団と一緒に帰ったんじゃなかったけ?」

 昭弘は少し恥ずかしそうにする。

「いや……こういう時になんて言えばいいのか……その……お前のことが……その……」

 昭弘が何を言おうとするかわかってしまったラフタはクスクス笑ってしまう。

「なんだよ……」

「なんでもないよ……何?聞きたいな」

 昭弘は珍しく顔を赤くし、そのまま告白する。

「……お前のことがす……好きだラフタ」

「うん……私も好き!」

 二人は少しずつ手を握る。

 ビスケットが走って男を追いかけると男はそのままサブレにぶつかってしまう。サブレは男の首を絞めながら持ち上げる。

「さて……誰に言われてラフタさんを殺そうとした?」

 男は口を噤んでいると、サブレはビスケットに尋ねる。

「ねえ、しゃべれる程度になら痛めつけてもいいんだよな?」

「う、うん」

 サブレはなんの容赦もなく男の手の指を折る。

「ぎゃー!!」

「一回しか言わないぞ。すべての指の骨を折られたくなければさっさとしゃべってしまったほうがいいぞ」

 男はサブレの気迫に気圧されてしまいしゃべってしまう。

「ジャ、ジャスレイで……です」

 

「お、叔父貴!」

 ジャスレイの部下がジャスレイのもとに姿を現す。

「どうした?」

「タービンズ達への刺客が鉄華団に見つかったそうで……おやじにばれたそうです!」

 ジャスレイの顔があっという間に青くなっていく。

 

 ラフタと昭弘はマクマード邸に呼び出される。

「あの~私たちに話があるって」

 マクマードは黙って立ち上がる。

「まず……ラフタといったな、おめぇさんには今後鉄華団とテイワズの間のパイプ役をやってもらう。これはアジー・グルミンからの頼みだ」

「アジー……」

「もちろんそれが終わったら流通に戻ってもらう。そして……昭弘って言ったな」

「は、はい!」

 昭弘は軽くビビりながら背筋を伸ばす。

「お前には個人的にお願いしたいことがある。単刀直入に言うぞ……お前さん名瀬の代わりにこいつらと一緒にタービンズの頭をやってくれないか?もちろんすぐに答えを聞きたいわけじゃない。今回の作戦が終わるまでには答えを聞きたい」

 そういうと二人はマクマード邸を出る。ラフタは恐る恐る昭弘に尋ねる。

「どうするの昭弘」

「……」

 悩んでしまっている昭弘は答えを出せずにいた。

 

 サブレとビスケットは歳星からイサリビに戻る為にアガレスとグシオン、辟邪をシャトルに乗せ、二人は出入り口で昭弘たちを待っていた。

「遅いね……二人とも」

「そうだね……げっ!マーズ・マセ」

 マーズ・マセが二人に近づいてくると、サブレは苦々しそうな顔になる。

「どうかしました?」

「ビスケット・グリフォン……君に話がある」

「何?婿に来いとか?」

 サブレがマーズ・マセを茶化そうとするが、マーズ・マセはサブレの頭を強く殴る。サブレは頭を押さえしゃがみ込む。ビスケットの方へとまっすぐ見つめる。

「ビスケット・グリフォン……今回の作戦が終わったらギャラルホルンに来ないか?出来れば俺の後継者になってほしい。サブレは今回の作戦が終わったら俺のもとで本部のモビルスーツ隊長になることになっている。まあ……今すぐじゃなくていい、そうだな……今回の作戦が終わるまでには答えを聞かせてくれ」

 そういうとマーズ・マセは立ち去っていく。

「……おめでとう」

 

 オルガ達はイサリビのブリッジで集まっている中、マクマードから通信がくる。

「鉄華団……お前らにテイワズとしての最後の仕事の依頼だ。ジャスレイの討伐を依頼する」

 いよいよジャスレイの討伐へ向けて突き進んでいく。




どうだっでしょうか?いよいよクライマックスに向けて進んで行きます。今回から少しずつ鉄華団のその後へ向けてそれぞれの進路が見えてきたと思います。ここからどうなっていくのか楽しみにしてください。
次回は『落とし前』です!楽しみにしてください!


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落とし前

ジャスレイ討伐です!


 鉄華団に合流したビスケット達はブリッジに集まっていたオルガと一緒にマーズ・マセとマクマードと通信していた。

「さて……今現在ジャスレイは完全に孤立している。イオクは現在謹慎処分中だ」

「テイワズもジャスレイを完全に切っている」

 マクマードとマーズ・マセが互いに現在の状況を説明すると、ビスケットが二人をまっすぐ見つめると、簡単に頭を下げる。

「ありがとうございます。でも……いいんですか?ジャスレイはテイワズのナンバー2だったんじゃ……」

 マクマードはただ目を閉じ、はっきり告げる。

「……家族を殺すような人間を仲間とは思わん」

 マクマードのはっきりとした言葉にオルガが力強く応える。

「分かってます……今までありがとうございました!」

「……」

 マクマードは何も言わず通信を切る。

 マクマードは通信を切ると、自身の机の引き出しから鉄華団の盃を取り出すと、その場で割ってしまう。微笑みながらベランダに出る。

「面白い育ち方をしたじゃねぇか……なぁ………名瀬よ」

 オルガ達はマーズ・マセとの通信が切れると、オルガが艦長席から立ちあがると、ユージンはこぶしを力強く叩き、気持ちを吐き出す。

「さて……ジャスレイのクソ野郎をぶっ殺しに行こうぜ!名瀬さんの敵……」

「待って!敵討ちとか復讐とかそういう感情で戦うのだけはやめようよ……」

 ユージンはビスケットのそんな言葉にビスケットの襟首をガシッとつかみ怒鳴る。

「お前は悔しくねぇのかよ!」

「俺だって悔しいよ!でも……だからってそんな言葉で戦ったらもう引き返せなくなる。そんな前のめりな組織がこれから真っ当な結果になるとは思えない。だから……」

「分かってるけどよ……」

 ユージンはビスケットを離し、小声で悔しさをにじませる。そんな中みんなも黙ってしまい、しかしサブレだけが口を開く。

「マーズ・マセが昔言っていたけど……『復讐で戦う人間はもう真っ当な生き方はできないし、たとえ達成できたとしてもまともな結末にはたどり着けない。復讐やは復讐とを呼ぶだけだ』っと。……アイン・ダルトンって男をみんなは覚えてる?」

 サブレが問いかけた名前にほとんどのメンバーが首をかしげるが、三日月とビスケットが覚えていた。

「あの時のパイロット?」

「三日月と兄さんは覚えていたか……。あの時の男は俺達鉄華団への復讐で戦っていたとマーズ・マセが言っていた。あれが復讐に走った男の末路だ。人間を捨て……結果としてああなった。畏怖の対象になり、世界から疎まれた。みんなはそうなりたいの?」

 オルガが黙るみんなに声を上げて士気を上げる。

「俺達は復讐の為には戦わない。俺たちはテイワズからの最後の仕事をきっちり果たす。ジャスレイを討ちに行くぞ!」

 まっすぐ突き進んでいく。

 

「フミタン、ククビータさんよろしくお願いします」

「分かっています。お嬢様もどうかご無事で」

「会社の事は任せてください」

 クーデリアはバーンスタイン商会の社長室で二人に後の事を任せていると、クッキーとクラッカがクーデリアに抱き着く。

「ねぇ私達には?」

「二人とももお願いしますね?」

「「うん!」」

 クーデリアに笑顔を向ける二人に対し、クーデリアも笑顔を向ける。クーデリアはクッキーとクラッカに気になっていたことを聞いた。

「二人に聞きたかったのですが……サヴァランさんの事はサブレさんから聞いていたのですよね?怒らなかったんですか?」

 クッキーとクラッカは互いにうなずくとクッキーが答えた。

「う~ん……っというか、実は私達ビスケットお兄ちゃんの事以外家族はあんまり覚えていないの。私達が小さいころのことだし……」

 クッキーが黙ったところでクラッカが引き継ぐように答える。

「だからサブレお兄が謝ってきても困るんだよね。それより私達はお兄が増えてうれしいってだけだし!ねっ!」

 クラッカとクッキーが頷くとクーデリアは微笑んでしまう。

 

「ユーゴー1、2、3番機被弾。前線を離脱!」

「これにより我が方の戦力更に15%低下」

 開戦し少ししか経っていないにも関わらずすでにジャスレイは追い詰められていた。冷汗が流れる。

「くっ!調子に乗りやがって……宇宙ネズミどもが!それにアガレスを出さねぇだと!?指揮官機を出さなくても勝てるってか!!」

 グシオンも流星号も雷電号も確実に敵を仕留めていく、そんな中三日月のバルバトスはまるで違う動きを見せる。右こぶしで敵のコックピットを容赦なく潰す。しかし、アガレスだけはイサリビ内でいまだ調整を続けていた。

「しかし……まさかいまだに兄さんがアガレスのバックパックの調整を終えてなかったなんてな……信じらんないバルバトスルプスレクスでさえ完成してたのに……」

 サブレはアガレスのコックピットでふてくされていると、ビスケットは端末をいじりながら申し訳なさそうな表情をする。

「だって……難しいんだよ……これ」

 アガレスは新しいバックパックを背負っており、それはまるで翼のようにすら見える。サブレの元にヤマギがやってくる。

「ファンネルって言うらしいですよ。これ……正式名称は……」

 ヤマギが言う前にサブレが喋ってしまう。

「『ソードファンネル』だろ?アガレスの後部座席にある全方位索敵はいわゆる死角が無い。たとえ隠れていたとしても分かってしまうほどだ。だからこそファンネルのような無線式の兵器が搭載できたってわけだ」

 二人が話していると雪之丞も話に混ざってくる。

「それだけの兵器だ。ファンネルのコントロールと全方位索敵で阿頼耶識が人間に伝えられる限界だ。だからこそアガレスは意図的にリミッター解除を搭載しなかった。疑似リミッターはあくまでマーズ・マセが搭載したものだ。アガレスがリミッターを解除なんてしたらパイロットの脳が焼ききれちまう。ま……あえて言うなら搭載できなかっただな。そういう意味ではアガレスは他のガンダムフレームとは違ぇな。ま……このファンネルもフォートレスが回収し修理してテイワズに渡されたって話だ」

 三人が話している間にビスケットはようやく作業を終えた。

 

「新たにユーゴー8、9番機が大破!」

「戦力更に低下。第一次防衛線突破されます!」

「くっ!あの機体修理が終わってやがったのか!」

 ジャスレイの目の前で暴れるバルバトスにジャスレイは焦り始める。

「あの野郎……予定の時間はとっくに過ぎてんだぞ」

 イオクが来ないことに苛立つ。

「俺はテイワズのトップに立つって算段だってのに……これだから坊ちゃんは!クソ親父は!!」

 バルバトスがガトリングで牽制し、そのまま百里の頭部を捕まえる。

「捕まえた!」

 そのまま百里を潰し、百錬に大型メイスを叩きつける。テールブレードが縦横無尽に動き回り百里のコックピットに突き刺さる。するとイサリビに動きが見えた。アガレスが見えた瞬間全員の目が一瞬だけだがそちらに向く。サブレとビスケットの前にオルガが通信で顔を出す。

「前線は任せるぞ」

「分かってるよオルガ……」

 サブレは目の前に広がる戦場に目が向く。

「ガンダムアガレスフルイーター!サブレ・グリフォン、ビスケット・グリフォン!出る!!」

 アガレスが射出されると、アガレスは腰につけた二本の剣を引き抜く。右の剣でユーゴーの頭部ごとコックピットを切り裂く。ビスケットは目をつむると、デブリに隠れたモビルスーツなど、数機を見つけた。ビスケットはファンネルの操縦に集中する。

「行って!ファンネル!」

 六枚のファンネルがアガレスから離れると敵モビルスーツに向けてかける。百錬が二機デブリに隠れると突然隣の百錬のコックピットにファンネルが突き刺さる。

「ど、どこから!?」

 急いでその場から離れると上からアガレスが剣でコックピットを切り刻む。

「いい出来だな。『レンチソード』。二本の剣を自由に組み合わせてレンチメイスにも大剣にもできる。もちろん銃にもできる!」

 アガレスの二本のレンチソードが銃に変わるとそのまま敵モビルスーツ群を牽制する。避ける敵モビルスーツにファンネルは容赦のない攻撃を浴びせる。

 後ろにいた昌弘はビスケットから譲り受けた獅電に乗りながら見とれていた。ラフタが昌弘に近づき怒鳴りつける。

「ちょっと昌弘!あんた見とれてなくていいから戦いなさい!」

「す、すいません!」

 ハッシュもまたサブレから譲り受けた獅電に苦戦しながら戦っていると、三日月が援護に入る。

「すいません三日月さん」

「無理しなくていいから。その機体難しいでしょ?」

「はい、でも、サブレさんから譲り受けた機体です。それにあれだけ厳しく訓練を受けました!ものにして見せます!だから三日月さんは先に補給しに戻ってください」

「分かった。ここは任せるよ」

 三日月は一旦引くと、一部モビルスーツも同じように補給の為に戻っていく。

「百里2番機大破。百錬4、5、6、7、8番大破」

「くっ!カスが。どんだけ高ぇ金払ったと……おい!坊ちゃんはまだなのかよ!?」

 ジャスレイは部下に怒鳴りつける。

「それが今また問い合わせたんですが全くつながらないんですよ……」

「まさかケツまくりやがったのか?あのどヘタレが!」

「どうします叔父貴……」

「デブリだ!ヒューマンデブリどもを全部出せ!」

 ジャスレイの指示でヒューマンデブリが次々と出撃する。

ハッシュの目の前のロディフレームに銃の照準を向けるが当たらない。

「もらった!……この動き……阿頼耶識!?」

 ハッシュの獅電にロディが食いつくと、シノの流星号がロディを吹き飛ばす。

「シノさん……」

「深追いするんじゃねぇ!その機体壊したら俺らが怒られんだろ」

 しかし、その話がサブレの通信機に繋がってしまう。

「壊したら戦闘が終わった後に追い回すぞ……全員!」

「「「なんで俺たちも!!」」」

 全員が不満を漏らす。ラフタの辟邪と昌弘の獅電も弾切れを起こす。

「もう弾切れ!?」

「ラフタ!昌弘と一緒に引けここは大丈夫だ!俺に任せろ!」

 ラフタは昌弘と一緒に引いていく。

 

「獅電のチェックは俺がやる。デインは辟邪を頼む」

 補給の為に戻って来た二機の機体にヤマギとデインが作業に入る。

「ユニット交換で何とかなりそうです。20分もあれば……」

「ダメだよ。10分!」

 ヤマギ達が補給を急いでいるとハッシュとラフタは廊下でアトラのご飯を受け取る。

「ご苦労様。はい。今のうちに食べといて」

 ダンテとチャドも同じように食事をとっていると、先ほどのモビルスーツの話題が出る。

「敵の動きが変わったな」

「あの機動力、ヒューマンデブリを前に出してきたんだろ」

 ダンテとチャドにザックがおずおずと尋ねる。

「あの……ヒューマンデブリと戦うのって大丈夫なんすか?」

 しかし、ダンテやチャドは首を傾げる。

「なんで?」

「いや……ダンテさんもチャドさんもその……」

 デリケートな話題だけにザックも言いにくそうにするが、ダンテやチャドははっきりと答える。

「ヒューマンデブリ同士だから戦えないってか?」

「そんなものどうだっていい、立場も背景も関係ねぇ。武器を持てば誰しも対等だ。ただ潰すだけ。躊躇してたら死ぬぞ」

 補給を終えたバルバトスが出撃すると、出ると同時にテイルブレードがヒューマンデブリのモビルスーツを薙ぎ払う。アガレスのファンネルも次々と敵を叩き、レンチソードで切り裂いていく。

「でも……」

 ザックはどこか納得できないような表情になるが、ヤマギの声で会話が中断する。

「ランドマン・ロディ2機とも補給終わりました。いつでも出られるよ」

 ダンテとチャドはそのまま機体に走っていく。ザックはその姿を見ながら疑問を抱く。

「なんであんな風に割り切れるんだよ……相手だって同じ人間だろ?なのに……」

 アトラも複雑そうな表情になると、ハッシュがきっぱり告げる。

「でも敵なんだろ?敵をやらなきゃ俺が死ぬ」

 そのころジャスレイは追い詰められていく様に汗が止まらない。

「やばいぜ叔父貴……奴ら皆殺しにする気だ……」

「命あっての物種だ。ここは詫びを入れてでも……」

 部下のそんな言葉にジャスレイは怒鳴って返す。

「たわけことをぬかすんじゃねぇ!ガキに頭なんざ下げ……」

 そんなジャスレイに後ろから提案する。

「だったらマクマードのおやじとナシつけてくださいよ!」

「メンツにこだわってる場合じゃねぇぜ叔父貴」

 部下の提案に乗るしかないジャスレイはマクマードに繋げる。

「お……おやじ」

 ジャスレイは情けない声を出す。

「どうした?情けねぇ声出しやがって」

「それが……鉄華団の奴らがカチコミをかけてきやがった。頼むおやじ。あんたから奴らに話を……」

「分かってんだぜ。鉄華団をやったあとは俺も用済み。全部の責任をおっかぶせてギャラルホルンに俺を売るつもりだってことはな」

 マクマードの言葉に焦ってしまうジャスレイは何とかごまかそうとする。

「な……なんのことだかさっぱりだぜおやじ……」

「クジャン家の御曹司はこねぇぞ。それに……おめぇはもうテイワズじゃねぇ」

 そうはっきり言い切って、マクマードは通信を切ってしまう。

「待ってくれおやじ!……ざっけんじゃねぇ!俺はテイワズのナンバー2ジャスレイ・ドノミコルスだぞ……あのタヌキおやじ、俺のおかげで今までどんだけ甘い汁が啜れたと思ってんだ!」

 部下の一人が焦るジャスレイに尋ねる。

「叔父貴……どうするんですか?」

「どいつもこいつも人の話もまともに聞けねぇ奴らが雁首そろえてよぉ!脳みその代わりに藁でも詰めてんじゃねのか!?戦闘狂の人食いネズミ共が……てめぇらなんざ人間じゃねぇ。二束三文の命よ。そんなもんに……人間様の俺がやられるなんざ道理が通らねぇだろうが!!うあぁ!!」

 ジャスレイが叫び声をあげる中、ガンダムフレームが中心になって暴れ回る。もうジャスレイの負けは確定しているようなものだった。

「お……叔父貴」

「どうしたら……」

「はぁ……鉄華団につなげ」

 ジャスレイの命令通りにオルガに繋げると、オルガは冷たく接する。

「よう。調子はどうだ?ジャスレイ」

「ぐっ!ガ……いやオルガ・イツカ。お前らの力はよ~く分かった。でどうよ?ここらで手打ちと行かねぇか?もちろんただとは言わねぇ。お前だってただ俺を殺したってなんの得もねぇだろ?ここはお互いの利益のため……」

「何の話だ?俺はおやじの命令でお前を討ちに来ただけだ。お前がテイワズを裏切るのが悪いんだろ?それに命乞いをするなら相手が違うだろ。ミカ、サブレ、ビスケット。道を作ってやれ!」

 バルバトスとアガレスがイサリビから黄金のジャスレイ号までの敵モビルスーツを倒す。辟邪の前にまっすぐの道ができると、昭弘が後ろから話かける。

「行け……ラフタ!」

「………ありがとうみんな!」

 ラフタはジャスレイに向けてまっすぐ突き進んでく。ジャスレイの目の前にラフタの辟邪がたどり着く。

「ラ、ラフタか!?名瀬の事は謝る!だから命だけは……」

「あんたを殺したってダーリンも姐さんも戻ってこない。だけど……」

「や、やめ……」

 ラフタは容赦のない銃撃をジャスレイ号のブリッジに浴びせる。ラフタは涙を流すと昭弘のグシオンが優しくラフタの辟邪を抱きしめる。

「昭弘……!」

 戦いは静かに終結した。

 

「我々はついに立ち上がった。革命の時が来たのだ同志達よ!新しい風を起こしギャラルホルンに蔓延した腐敗を吹き飛ばす!我々が一人一人の力でこの欺瞞に満ちた世界を変革する時がきたのだ!平和と秩序の番人であるギャラルホルン。それはセブンスターズの面々が特権を享受するための都合のよい戯れ言にすぎなかった。地球で起きたアーブラウとSAUの国境紛争。それをコントロールしていたとされるガラン・モッサなる傭兵がラスタル・エリオンとつながっていたことが我々の内偵により明らかになった。イオク・クジャンは一民間組織であるタービンズを違法組織に仕立て上げ強制捜査、違法兵器であるダインスレイヴを自らが使用し多数の非戦闘員の虐殺!政治抗争に腐敗し民間人を虐殺してなお……。平和と秩序の番人であるギャラルホルン。それはセブンスターズの面々が特権を享受するための都合のよい戯言に過ぎなかった。目を覚ませ!共に立ち上がろうではないか同志達よ!」

 世界に放送している宣言を聞いているクーデリア達の後ろで社長室のドアを誰かが叩く。ククビータがドアを開けると、マーズ・マセが姿を現す。

「さあ……行こうか……革命の乙女」

「………はい」

 クーデリアも同じように進み始める。

 

「さて……始まっちまったな。で?どうするんだ?俺らは」

 ユージンはオルガに尋ねるとオルガははっきりと答えた。

「取り敢えずは地球を目指す。まずはマクギリスの答えを聞く。それからだ、俺らがどう動くのかは……。マーズ・マセは作戦があると言っていたけどな……」

 ビスケットが疑問を抱きながらつぶやく。

「作戦って何だろう?セブンスターズを動かすって言ってたけど……」

「さあな……俺らは俺らの信じた道を進む」

 オルガがそういうと全員が黙ってうなずく。

 

 ビスケットが廊下で黄昏ているとオルガが後ろから話しかけてきた。

「どうだった新しい武装の調子は……」

「あ、オルガ。うん……よかったよ」

 オルガは隣で手すりに体を預けている。

「たどり着く場所なんてどこでもいいんだ。みんなと一緒に笑って生きたい」

 オルガのそんな言葉に反応するビスケットにオルガはまるですべてを悟ったように語る。

「お前らがどこにいても帰ってこれるような場所を作る。それだけだ」

「……俺も同じだ」

 二人が話しているころ、三日月とサブレがバルバトスのところで話していた。

「三日月は作戦が終わったらどうするつもりだ?」

「……とりあえずは桜ちゃんの畑を引き継ぐつもり。もちろん、いざとなったらパイロットもするよ……サブレはどうするの?」

「ギャラルホルンに入るって約束をマーズ・マセとしてるんだ。怒った?」

「別に……サブレが悩んで決めたことでしょ?」

「まあな……でも、それまでは一緒だ」

 二人はこぶしを軽くぶつけ合う。

 鉄華団はまっすぐ地球を目指す。




どうだったでしょうか?次回からいよいよマクギリスやラスタルが動き始めます。同時にイラクの過去も少しだけ触れます。
次回は『イラクという男』です!楽しみに!


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イラクという男

イラクがどういう人間なのかが簡単に語られます。そしていよいよマハラジャが動き始めます。


 イラクという男を語るのはそこまで難しくはない。

 厄祭戦から生きてきた生き証人のような人間、それがイラク・イシュー。

 

 鉄華団のJPTトラスト襲撃より三日が経った。マクギリスはセブンスターズを招集するなか、ラスタルはその招集に応じようとはしなかった。

「目的はイオクの件だろう。ダインスレイヴまで持ち出してはな」

 ラスタルが地球へ行こうとしないことに気が付いたヴィダールははっきり尋ねる。

「地球へは行かないと?」

「呼ばれてもいない会議にわざわざ顔を出してはよほど暇人だと笑いものにされる」

「俺に時間をくれないか」

「動くというのか?奴が」

「奴の真意を俺は知りたいと願ってきた。そして朧気ながらに辿り着いた答えがある。それが正しければ必ず」

 ラスタルは気前よく応じる。

「分かった。お前のモビルスーツも持っていけ。けじめをつけてこい」

「感謝する」

 そんな会話をしたのが少し前だった。そして今ラスタルの目の前でマクギリスは動いた。

「お前の読み通りだったな。アリアンロッドの全隊に召集を掛けろ!」

 ラスタルが動こうとする中、もう一人も動こうとしていた。

 

 ギャラルホルン本部はマクギリス率いる革命派が占拠していた。

「現在地上部隊が本部施設の七割を制圧。セブンスターズは何者かが連れて逃走したと報告がありました。予定通りライザ・エンザによる声明を全世界に向けて放送中です」

 石動はマクギリスに簡単に報告する。

「モビルスーツとセブンスターズはどうした?」

「本部所属のモビルスーツ隊は既に無力化が完了。セブンスターズが港周辺で目撃されていますが、今のところは捕獲したという報告は上がっていません」

「さすがだな。鉄華団はどうしている?」

「鉄華団は現在ライザ・エンザの対アリアンロッド艦隊への防衛網の反対で目撃されています」

「今のところは静観というところか……。ここは任せる石動」

 マクギリスはその場から移動していく。

 

「こちらです」

 ファントムエイジの一部がセブンスターズを連れて撤退の準備に入っていた。

「まさかここから逃げなければならん時がくるとは……」

「しかたない……」

「マハラジャは今どこにいる?」

 ガルスがファントムエイジのメンバーに尋ねると、彼らは周囲の警戒を解かずに答える。

「ファミリアと接触しようとしているはずです。すでにクーデリア・藍那・バーンスタインをつれて地球をめざしていると報告が上がっています」

 ガルスはふと足を止め、外を眺める。

「もう……とまらんか」

 

 イラクは厄祭戦の頃よりこんな性格だったわけではない。こんな性格になってしまった理由を今語ろう。

 

 厄祭戦がそもそも始まったころイラクはアグニカの志に深く感銘を受けた。誰よりも仲間を大切にし、突き進んでいく彼の生き方はガンダムフレームのパイロットに選ばれた子供達からすれば憧れだった。それはイラクとて変わらない。

 厄祭戦が終盤に向かおうとするなか、最前線で踏ん張って一機一機モビルアーマーを駆逐していったとき、大人たちは既に厄祭戦後の戦後処理を行っていた。そんな中大人たちが問題視していたのはガンダムフレームのパイロットだった。厄祭戦の後に彼らの力が自分たちにとって脅威になると判断した。そして最後の戦いが幕を開けた。

 アグニカの仲間の数人がモビルアーマー毎殺そうとした大人たちによってダインスレイヴの一斉射撃で殺されたことによりアグニカはどこかおかしくなった。殺された仲間の為の敵討ちを提案し始めるが、しかしそれに反対したのもガンダムフレームのパイロットたちだった。アグニカは自動で動いていたモビルアーマーをコントロールすることに成功した。そしてダインスレイヴを手に入れたアグニカを大人たちは止められる術を持たなかった。

 アグニカがあと少しで勝てる時に大人たちはある人物に提案をした。その提案をした相手がエリオン家だった。

「アグニカを消してくれ……そうすればお前たちを世界の抑止力として認めてやろう」

 そんな話に乗ったエリオン家はアガレス率いる反抗勢力を逆に利用する形でアグニカを殺した。

 殺される前アグニカは全てを知った。そして頼んだ。イラクに……。

「俺が死んだらいつの日か生き返らせてくれ……そうすれば一緒に……火星の王になろう」

 そんな無理な頼みごとを信じてイラクは生きてきた……いつの日かアグニカが火星の王になると信じて。

 誇りも……プライドも……何もかもを捨てて……それだけの為に生きてきた。

 そしてイラクはマクギリスに出会った。汚い裏町のような場所で……世界のすべてを恨むような眼をしていた彼にイラクは尋ねる。

「力が欲しいか?欲しければ教えてやろう……最高の力を」

 彼に与えたその力をイラクは欲していた。

 マクギリスこそがアグニカ復活のカギなのだから。

 

 アリアンロッド艦隊の集合にあと三日はかかりラスタルはそれを待っていた。

「クーデターの鎮圧なら集合を待たず一刻も早く地球へ向かったほうがよろしいのでは?」

 側近の一人がそう提案する。

「確かに『兵は拙速を尊ぶ』と言うがな。今は状況を見極める必要があるのだ」

 ラスタルがそう説明すると数人の将兵がラスタルの元に嘆願に来た。

「エリオン公!この度のクーデター鎮圧作戦何とぞイオク様の任務参加をお許しください」

 ラスタルは半分呆れながら部下に尋ねる。

「またその話か。嘆願に来たのは何人目だ?」

 部下は手元の端末で軽く調べる。

「これでちょうど40人目ですね」

「まったく羨ましい話だな。あれだけの失敗を重ねてもこれだけ慕ってくれる部下達がいるとは。イオクが謹慎中の今残された奴の艦隊を率いるのはお前たちだ。主人の名誉は貴様達で守れ。イオクの戻る場所が残るよう懸命に働け」

「「「命に代えても!」」」

 イオクの部下が立ち去る中、ラスタルは表情を一瞬暗くさせる。

(マハラジャがいてくれれば、イオクがああなることなど無いというのに……あんな女にマハラジャを取られなければ……!)

 

 鉄華団の旗艦イサリビのブリッジでユージンはイライラしていた。

「まだなのかよ!マーズ・マセは?逃げたんじゃねぇのか!?」

「落ち着け」

 昭弘の冷静な一言で少しだけ落ち着くと、管制をしていた少年が声を荒げる。

「後方より大型艦が接近……ハーフビーク級より大きいぞ!?」

 隣に寄り添うようにスキップジャック級が止まった。オルガたちの目の前の画面にギャラルホルンの制服に身を包んだマーズ・マセが姿を現した。さすがに驚きを隠せないユージンに対し、落ち着いたオルガが訪ねる。

「あんた……ギャラルホルンの人間なのか?」

 マーズ・マセは少し微笑みながら答える。

「私の本当の名前は『マハラジャ・ダースリン』という。本来はファントムエイジの隊長だ。階級は准将。これでもセブンスターズの一部からかなりの信頼を置かれている」

 ユージンは後ろからやってくる艦隊の多さに驚く。

「な、なんだよ……これ。アリアンロッド艦隊と同数の艦隊じゃねぇかよ……」

「これはまだまだだな……ここからだ……。それと、バルバトスとアガレスは?」

「ああ、あんたの言った通りに地球へ向かわせたよ」

 バルバトスとアガレスはギャラルホルン本部に向かっていた。

 

 マクギリスはガンダムバエルの元に辿り着く。

「やっと会えたなバエル。いや……新しい時代の夜明けだ。目を覚ませアグニカ・カイエル」

 しかし、そんなマクギリスの前にヴィダールが天井をぶち破って姿を現す。コックピットからヴィダールが姿を現すと、ついに仮面を取った。

「やはりここに来たか。ガエリオ・ボードウィン」

 仮面の奥の素顔はマクギリスが殺したはずのガエリオ・ボードウィンだった。

「お前がラスタル・エリオンに飼われているとはな」

「彼とは利害が一致している。あくまで対等な立場だ」

「すぐに人を信用するのはお前の悪い癖だな」

「そうかもしれないな。なんせ親友だったはずの男に殺されたのだから。親友……いやその言葉は違う。俺は結局お前を理解できなかった」

(俺にとってお前は遠い存在だった。だからこそ憧れた。認められ、隣に立ちたいと願った。そのうちお前は仮面を着け本来の自分を隠すようになった。しかし……隣に立つことがかなったと思った。お前は俺の前では仮面を外してくれているとそう感じた。なのに……)

 ガエリオは幼い頃を思い出す、そして裏切られた時の事を思い出した。

「俺は確かめたかった。カルタや俺まで寄り添おうとしている人間を裏切ってまでお前が手に入れようとしているものの正体を。この場所にお前がいるということそれこそが答え。おかげで決心がついたよ。愛情や信頼、この世の全ての尊い感情はお前の瞳には何も映らない。お前が理解できるのは権力・威力・暴力。全て力に変換できるもののみ。ここにいるということは乗れるのだろう?バエルに乗れ」

「俺がこれを手に入れることの意味を分かっているんだろう?」

 バエルに乗れとガエリオはマクギリスに向けてそういうと、マクギリスは疑問に思いながら尋ねた。

「それとも一度死んだ身何も失うものは持たないと?」

「いや。逆だ。今の俺は多くのものを背負っている。しかし、全てお前の目には永遠に映らない物達だ。お前がどんなに投げかけられても、受け入れようともせず否定するもの。それら全てを背負いこの場で仮面を外したお前を否定してみせる」

「詭弁だな……あんたは復讐の為に戦っているんじゃないのか?」

 そんな言葉と共にアガレスとバルバトスが天井をぶち壊して姿を現した。マクギリスはその隙に上半身を脱ぎ捨てバエルに乗り込む。

「バルバトスにアガレスまで来たか……どうやら運は私に向いているようだ」

 マクギリスは勝利を確信したが、ビスケットは予想もしていない答えを出す。

「勘違いしないでください。俺たちはあなたの答えを聞きに来たんです。あなたの真意を……一つだけ聞かせてください。そこにいる人の言っていることは正しいんですか?」

 マクギリスは目をつむり、少しの間だけ考えるとはっきり答える。

「……ああ。その通りだ」

「そうですか。なら俺たちはあなたの革命に参加しません。もちろんアリアンロッドに味方するわけでもない。俺達は俺達の道を行く!」

 ガエリオはコックピットに入ると、四機のガンダムフレームがそれぞれの武器を構える。

「アイン!さあ好きなだけ使え。俺の体をお前に明け渡す」

 ガンダムヴィダールのツインアイが赤く光ると、アガレスは青く光らせる。ヴィダールがバーストサーベルでバエルを攻撃しようとするのをアガレスがレンチソードで捌く。しかし、バルバトスはバエルに攻撃を仕掛けるが、バエルはそれを紙一重で回避する。

(これが疑似阿頼耶識というやつか?アイン・ダルトンの脳を利用することで脳神経への負担を克服し、機体性能を限界まで引き出すことができるという。俺たちのアガレスのシステムに酷似しているというより、このシステムを元に開発されたのか)

「今からでもこちらに来ないか?三日月・オーガス」

「興味ないな……俺の道はみんなと一緒にある」

 決定的なところで道を違えてしまった両者はぶつかり合う。ヴィダールの攻撃を捌き切り、ヴィダールはそのまま足に仕込んだナイフで切り裂こうとするが、それすらもアガレスは回避する。そのままヴィダールの機体を蹴り飛ばす。

「なるほど……あのおっさんの言った通りだったか。強いけど……軽い!」

 バルバトスのメイスの一振りを難なく回避したバエルは剣をバルバトスに振り下ろそうとするが、バルバトスはテールブレードでそれを受け止める。

「残念だよ……三日月・オーガス」

 ヴィダールの銃での攻撃をレンチソードで受け止め、そのままヴィダールと武器と武器がぶつかり合う。

「背負うと言いながら……それがあんたのやり方か。人の脳を利用しているだけじゃないか……」

「それでも……俺には成し遂げなければならないことがある!」

「それを詭弁だと言っているんだ!!人の死を冒涜してまで成し遂げたいことが復讐なのか!?だから軽いんだ!あんたの攻撃は!!」

 アガレスの攻撃で天井に穴が開くとヴィダールはそのまま外に出ていく。続いてアガレス、バエル、バルバトスが順番に出ていった。

 地上に移行した戦闘の最中にマハラジャから通信が入る。

「マクギリスとガエリオの事は放っておけ。セブンスターズが退却を始めている。お前達はそちらの援護に向かってくれ」

「……分かりました。三日月!サブレ!」

 バルバトスとアガレスが背中を向ける中、ガエリオが三日月たちに謝罪する。

「いつかのことを謝罪しよう。阿頼耶識手術を受けた君達を唾棄すべき存在としたことを」

 その謝罪に答えることなくバルバトスとアガレスは援護の為にその場を後にする。二人っきりになったマクギリスの後方から援軍が姿を現す。しかし、その瞬間にマクギリスの脳裏にノイズが走った。

「准将!」

「さすがにこれ以上の戦闘は無理か……」

 その場から移動していく、ガエリオはその場から撤退していった。

「准将……先ほどセブンスターズが退却していると情報がありました」

「……放っておけ。作戦は成功した。聞け!ギャラルホルンの諸君!今300年の眠りからマクギリス・ファリドの元にバエルは蘇った!ギャラルホルンを名乗る身ならばこのモビルスーツがどのような意味を持つかは理解できるだろう。ギャラルホルンにおいてバエルを操る者こそが唯一絶対の力を持ちその頂点に立つ!席次も思想も関係なく従わなければならないのだ!」

 マクギリスの演説が世界中に放送される中、ガエリオはラスタルの元に戻って来た。

「待たせてすまない」

「ヴィダール!その姿……見極められたようだな。お前の運命を」

「ああ。これからはあなたに従おう。今こそ戻ろうあるべき姿に」

 ガエリオも世界中にマクギリスのように演説する。

「私の名前はガエリオ・ボードウィン!ガエリオ・ボードウィンはここに宣言する。逆賊マクギリス・ファリドを討つと!」

 それと同時にラスタルも宣言をだす。

「アリアンロッド艦隊司令ラスタル・エリオンより告げる……」

 しかし、ラスタルの宣言を邪魔するように画面の中にクーデリアと蒔苗が姿を現した。

「その者の言葉に従ってはいけません。私はクーデリア・藍那・バーンスタインです」

 ラスタルをはじめ、ガエリオも驚きを隠せない。

「アリアンロッドはタービンズの非戦闘員に対してダインスレイヴを使った虐殺行為を行い、コロニー圏にはファントムエイジから強奪した各コロニー圏の調査権を行使して虐殺行為を行いました。そして、ラスタル・エリオン……あなたはかつてファントムエイジが持っていたコロニー間や経済圏に対する調査権と紛争仲裁の権利を手に入れるために彼らを罠に嵌め殺そうとした。あなたこそ逆賊ではないのですか?」

 クーデリアの問いにあくまでも冷静に答えるラスタル。

「なんのことか分からないが……証拠がないと思いますが?」

「証拠ならここにあります」

 ラスタルの目の前に現れた人物はラスタルにとって致命的な人間だった。世界中にマハラジャの姿が映っていた。蒔苗がマハラジャの存在を認めた。

「皆の者よ……彼の名はファントムエイジ司令官であるマハラジャ・ダースリンじゃ」

「ギャラルホルンの全士官よ……私はかつてラスタル・エリオンによって殺されかけた。しかし、こうして全員の前に姿を現せたことを嬉しく思う。ラスタル……お前は我々を殺そうとしただけではなく、各コロニーに内通者を送り込み、コロニーに独立運動を引き起こして、それを理由に虐殺を行った。ラスタルお前をギャラルホルンの人間として認めるわけには行かない。もちろんイオク・クジャンとマクギリスもだ。先ほどセブンスターズのメンバーより正式に声明があった。現時点をもってラスタル・エリオンとイオク・クジャンとマクギリス・ファリドをセブンスターズから除名し、3名と外縁軌道艦隊とアリアンロッド艦隊を含め、3名に従うすべての者を逆賊として討つことを宣言する。全ギャラルホルンよ!今こそ正しいギャラルホルンを取り戻そう!」

 時代の歴史が変わろうとしていた。




どうだったでしょうか?原作と違いラスタルとイオクも逆賊として認定されましたね。ここから歴史が大きく動き始めます。
次回は『裏切り』です!楽しみにしていてください!


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裏切り

色々話が動きます。


「では……これよりジュリエッタ・ジュリスとサブレ・グリフォンの決闘を開始する。分かっているとはおもうが………壊すなよ!?」

 副リーダーの怖いセリフが周囲にいる人間に否応なしに恐怖を与えた。ファントムエイジの旗艦『カゲロウ』内でオルガたちでさえ恐怖を感じた。

「やれやれ……うちの副リーダーは本当に怖いな……まあ、そういうことだ。二人とも壊すなよ……俺が怒られるからな」

 二人とも目をつむり意識を集中させる。全員が息をのむほどの空気がながれる。二人が目を開くと同時に機体を走らせる。単純なスピードだけならレギンレイズ・ジュリアの方が速かった。しかし、単純なスピードをきれいに見切って見せるサブレの獅電を動かす腕前はさすがというしかなかった。ジュリアの攻撃を二本のソードで捌く。

「す、すげぇ………」

 シノのそんなあっけにとられる声に全員が同じような意見だった。ただし……一部を除いて。三日月とマハラジャと副リーダーは無言で戦いを見届けいたところを副リーダーはぼそりとつぶやく。

「やはり機体性能はジュリアの方が上ですか……」

「まあ……それでもサブレの方が経験と技量で完全に上だな……」

 マハラジャと副リーダーが呟いた簡単な考察を全員が聞くことができないぐらいに見入っていた。

(俺が彼女の事を意識するようになったのは……やはり最初の戦いのときなのだろう。でも、俺は考えないようにしていた。仲間といる方が楽しかった。でも、無意識の奥で意識していたのだろう。それを俺はアミダさんから教わるようになった。だから知りたかった。そして、羨ましくなった、兄さんや三日月が……誰か一人の事を真剣に好きになれるだろうか?それを確かめるための戦いだ。戦いの中でできた感情は戦いの中でしか確認できない)

(私はラスタル様以外の事をどうでもいいと感じていた。でも、彼と出会い考えの中に彼の影かちらつくようになった。最初は彼の戦いを参考にしようとずっとシュミレーションをしてきた。彼が私を庇った時から私の中で少しだけ恋が生まれた。そして彼を少しだけ知ることができた。もっと知りたい……そう考えたとき、私は父に頼み込んだ。戦いの中で知った感情は戦いの中でしか確認できない)

 サブレは獅電でジュリアの攻撃を捌ききり、足で蹴り飛ばす。ジュリアはスラスターを全開にし態勢を整える。しかし、態勢を整える暇を与えないように素早く近寄る。ジュリアは獅電の攻撃を何とか受け止める。そのままジュリアのスピードで獅電を逆に押し切ろうとする。

((ああ……そうか……))

 二人は再び距離を取り、そのまま機体を走らせてぶつかり合う。

「あなたの事が……」

「君の事が……」

 そして機体と機体がぶつかったまま、その場を漂っていく。

「「好きになったんだ……」」

 そして……互いの気持ちに気が付いた。

 

 二人が決闘を行っている間にガエリオはヴィダールの偽装解除の場で一人考え事をしていた。サブレに全否定されてもガエリオのこころには特に変化はなかった。彼は格納庫の中でジッとしているところに整備長であるヤマジン・トーカが話しかけてきた。

「あなたはこっちに残ったのね……」

 そんな彼女にガエリオは逆に尋ねる。

「どれだけがアリアンロッドより離反したんだ?」

「ざっと三分の一。まあ、仕方がないとは思うけどね。必要悪なんて言うレベルで誤魔化せるような蛮行ではないから。私のようにこうなることを薄々気が付いていながら止めなかった人間は最後まで彼と共に死ぬと決めているの」

「勝てないと?」

「勝てない……彼は勝てない勝負はしない人間。彼が勝負を仕掛けてきたということは絶対に勝てる確信ができたということ。現に私達アリアンロッド艦隊は逆賊としてギャラルホルンに追い回されている」

 現在アリアンロッドは離反した人間を除けば、ほとんどが現在ギャラルホルンの全てから追われる身となってしまった。ラスタルについていけないと考えた者は素早く離反した。しかし、ヤマジンのようにラスタルのしていた事を知っていた者は最後まで一緒にいることを選んだ。

「何があの二人の間にあったのか聞いてもいいか?」

「ええ……いいわよ」

 そして彼女は語る……ラスタルとマハラジャの間にあった決別の話を。

「その昔、まだラスタルやマハラジャがギャラルホルンに入ったばかりの頃のことだ。二人とあんたがガランと呼んでいる三人は友人だった。こう言っては悪いけど……仲は良かったんだけどね。マハラジャが彼女の事を好きなるまでは……彼女と出会いマハラジャは変わった」

 ガエリオはヤマジンの言う『彼女』に反応した。

「彼女っていうのは……マハラジャの……」

「そう……奥さん。そして……ジュリの母親だ」

 ヤマジンの真実の言葉にガエリオは軽く驚く。

「ではジュリエッタはマハラジャの……娘?」

「そうね……それがジュリが裏切った理由なんでしょうけど。まあ、裏切って正解でしょうけどね。あの子の母親を殺したのはラスタル本人だったから。偵察任務に行っていたジュリの母親である『エリ・ジュリス』をラスタルは大人数で囲み殺した」

「ど、どうして……彼女を殺さなければならない理由があったのだろう?」

 ヤマジンは視線を上に向け思い出すように語る。

「ヒューマンデブリだったのよ……彼女は。マハラジャは彼女と出会い、ヒューマンデブリや孤児たちに対する考えを変えた。マハラジャは孤児やヒューマンデブリの中にこそ才能がある者がいると考えた。こういう者たちが組織のトップになれるのなら時代が変わるのではないか…っと。分からないでもないのよ……汚い大人たちは子供たちを食い物としか見ないし、子供たちはそんな大人たちの踏み台として死んでいく。それが世界ならそんな世界を壊してでも子供たちに未来を歩ける世界を作るべきだと考えた。でも、それは今のギャラルホルンを全否定するようなものだった。そんなことをすれば世界は簡単に戦争状態になると考えラスタルはマハラジャを殺そうとした。そして……失敗した」

 ガエリオはどこか複雑な気持ちになる。そしてヤマジンに尋ねる。

「それを他のセブンスターズのメンバーは……」

「知っているだろうね。セブンスターズも今やイシュー家がいない中進めていかなければならない。中にはもう跡取りがいない家もいる。セブンスターズ制を進めていくことが無理だと考えているだろうし……多分今回の事件を終えたらラスタルやイオク・クジャンを悪党として処理し、セブンスターズ制を廃止しマハラジャをトップにした新しい支配体制に変えるつもりだろう。完全に平等なギャラルホルンへと。そう考えたらマハラジャが完全な正義だ……」

 ヤマジンはガエリオの前を通り奥へと消えていく中、はっきり告げた。

「まあ、マハラジャはあんたが裏切ったとしてもあんたを信用しないでしょうね。あんたがそれを理解できないうちはね」

 ガエリオはいまだ彼女が何を言っているのか分からずにいた。

 

「両機はどうした?」

 マハラジャは艦長席に座り、ブリッジに入って来たサブレとジュリエッタに尋ねた。

「修理中……」

 サブレの淡白な答えに肩をすくめる。そしてサブレに再び尋ねる。

「ガエリオ・ボードウィンと戦った感想を聞こうか……」

「なんか……綺麗だけど軽い。背負うとか、多分本人は友情の為とか愛情の為とか思って戦っているんだろうけど、その癖に全てが軽い。あいつは本当の意味で友情や愛情を知らない。背負うなんて言っているけど……何も背負えていない。正義はわがままだし……背負う事は責任を押し付ける行為だ。背負うということでいざという時に責任を押し付けようとしているように見えた」

 サブレはジュリエッタの方を見ると、互いに手を結び合う。

「俺はそうとは思えない。大切な人が心に居ればそれでいい。それが分かるだけで俺は戦える」

 マハラジャは少しだけ笑うと艦長席から立ちあがる。

「復讐は死んだ人間に責任を押し付けていることと同義だ。死んだ者に押し付け、それを理由に戦い、殺す。背負うことも同じこと。生きているものや死んでいるもののありもしない意思を勝手に背負い、失敗したときに他の人間の所為にできるからだ。正義感が強いと言えば正しそうに見えるが、正義とは結局のところでわがままということだ。融通が利かない人間。それに私は奴の事を正義だと思わない。騙されやすい人間の行動を正義だと考えない。周囲の人間の行動にすぐ影響を受ける。そんな人間を正義とは言えない」

 サブレはガエリオとの闘いを少しだけ思い出す。そんな中ジュリエッタがマハラジャに尋ねる。

「私は彼の事を綺麗だと感じました。お父様はそう感じなかったのですか?」

「感じたよ……だがなジュリエッタ。綺麗だという事と、正しい事とは別だ。奴の綺麗さは他人に汚さを押し付けた結果だ。そしてその影響を受けたのがマクギリスだ」

 三日月はそんな話を聞きながらマクギリスの事を少しだけ思い出し聞く。

「じゃああのチョコはガリガリの所為であんな性格になったという事?」

「いや……そうではない。彼はもっと別の原因があるのだろうが……。まああの男がガエリオの影響を受けてもっと腹黒くなっていったのは間違いない」

 そんな話を聞いている間にユージンはサブレがいつの間にそんな相手ができたのかとショックを受け、ブリッジから出ていくのを鉄華団全員が面白おかしそうに見ていた。マハラジャはあえてサブレたちを見ないようにしていた。

「ラスタルに殺されたあいつのことを想う時、俺はラスタルへの復讐を少しは考えた。だが、彼女がそれを望まないことは分かっていたし、それに彼女が願っていたようにいつの日かこの世界からヒューマンデブリや孤児をなくすことが俺にとってのたった一つの夢になった。そしてそのための障害がラスタルだった。あいつを殺してでも俺は成し遂げなければならない。彼女が正しく……ラスタルが間違っていると証明したい。だからこそのお前たちだ」

 マハラジャは真剣な面持ちでオルガたちをはっきりと見つめる。

「彼女がそうだったように。ヒューマンデブリや孤児……オルフェンズがこの世界を引っ張っていけると証明して見せてくれ。彼女が……エリが正しかったと……信じているぞ。鉄血のオルフェンズ」

 オルガたちは少しだけ驚き、オルガは逆に尋ねる。

「あんたは俺達が……世界を変えられると?そう信じるのか?」

「ああ……君達のような人間こそ世界を正しく変えられると信じている」

 まっすぐ向けられるマハラジャの目を見つめるとオルガ達はその言葉が嘘ではないとわかってしまう。

 そして……彼らはまっすぐ歩き始める。

 

 マクギリスは一人自分の家へと帰ると、錯乱したアルミリアがナイフを持ちながらマクギリスを待ち構えていた。

「マッキー……マッキーは何をしようとしているの?お父様はどこ?お兄様は?あの人たちが言っていることは本当なの?マッキーは……」

 マクギリスはアルミリアの目の前に座り込むとそっとナイフを取り上げる。

「アルミリア……君のお父さんはどうやらガエリオを殺すことに決めたようだ」

「そんな……嘘よ……嘘!」

 アルミリアは髪を振り回しながら涙を流し顔を手で覆う。アルミリアの両肩に優しく手を置く。

「だが……私は君の味方だ……安心してくれ。私がガエリオを救って見せよう……」

 アルミリアはマクギリスの顔を真正面から見つめると、あることに気が付いてしまった。

「……あなたは誰?あなたはマッキーじゃない!マッキーはそんな風に笑わない。あなたは誰!?」

 マクギリスはあくどい笑顔を浮かべると、アルミリアの耳元でそっと囁く。

「私は……」

 その続きをアルミリアが聞くことはなく、意識を失ってしまう。

「私の名前は……アグニカ・カイエルだよ。ボードウィン家のお嬢さん。この体の男に免じて君だけは助けてあげよう」

 アグニカは片手を前にまっすぐ伸ばして見せる。

「うむ……まだ体がうまくなじまないか……バエルの中にいる方がいいのかもしれないな。イラクの奴はうまくやれているのだろうか?」

 石動が焦り気味で家の中に入ってくる。

「准将!外縁軌道艦隊の一部が離反したと報告が上がりました」

「気にするな石動。この戦いに勝つのは私達だ。作戦ならある。それより、彼女を父親の元に送っておいてくれ」

 石動は一瞬だけ驚くと彼女を背負い家から出ていく。

「マクギリスを演じるのはさほど難しいことではないな。うるさい声が聞こえてくること以外はさほど難しくはない」

(アルミリア……ガエリオ……石動………助けてくれ……三日月・オーガス)

「無理だよ……マクギリス・ファリドよ……お前を助けられる人間などいない。この体から見ているがいい!お前の大切な者が殺されていく様を!」

 静かに歩き出すアグニカ。

「私は……俺はこの世界を浄化する!薄汚い大人たちがはびこる世界を浄化し、俺たちの世界を作り上げる。その為に俺は蘇った!」

 アグニカもまた今回の戦いに介入しようとしていた。

 

 イオクはラスタルの元を訪れるとラスタルに頭を下げるイオク。

「申し訳ありませんラスタル様!私の所為でラスタル様を追い詰めてしまうとは!ですが、任せてください!私は必ずやラスタル様が正しいと証明して見せます」

 そういうとイオクは部屋を出ていく、そしてすれ違い部屋にヤマジンが入って来た。

「いいの?何も言わなくて」

「……妙だとは思わんか?まるで前に戻ったような気がする」

 ヤマジンはイオクが消えた方を軽く見ながら答えた。

「そうね。自分の所為だと思っているからじゃないの?」

「それに……マハラジャもだ。焦っているようにも見える。ギャラルホルンを乗っ取ることももう少しタイミングを見てもよかったはずだ。そうすればアリアンロッドのほとんどを引き込むことができただろう。なのにだ……まるでこちらには見えていない敵と対峙しているような気がする」

「見えない敵?」

「ああ、こちらが動いたからというより……マクギリスが動いたからというのが理由なのかもしれないな。マクギリスはバエルを手に入れた……ということは」

 ヤマジンは脳裏によぎった言葉を口にする。

「アグニカ・カイエル?」

「かもしれんな……だとすると、マハラジャが最も警戒しているのはモビルアーマーラファエルということか?」

「でも、確証はないよ」

「分かっている。だが今更頭を下げたとて許さないだろうし、今後のギャラルホルンの事を考えても、ここで戦死することが正しいことだ。だが、それが敵の作戦だとしたら……」

 ラスタルには何も見えていない敵を考え始めていた。

 

 イラクは遠くから地球を眺めている。

「今更気が付いたとてもう遅い。お前が死ぬことが世界にとっての正しい道のり……お前はそれが分かっている以上必ず戦死を選ぶ。そうすれば最後のカギが完成する。それでいい!」

 イラクは両手を前に突き出す。

「汚い大人たちはこの世界から浄化され……俺たちの世界を作り出す。俺たちの作戦を止めることができるかな?マハラジャ・ダースリン」

 

 マハラジャは通信機越しにガルスと話をしていた。

「間違いないのか?」

 ガルスの問いにマハラジャはあいまいな答えを出す。

「分からない……今のところ確証はない。だが必ず近いうちにイラク・イシューは動く、間違いなく動く」

 イラクが動くという確証がどこかにあるマハラジャは真の敵を見出していた。

「俺たちの真の敵はイラク・イシューだ。そしてアグニカ・カイエルだ。彼らこそ俺たちの真の敵だ!」




ついに動き出したアグニカと、真の敵を見出したマハラジャ。この戦いの行方がどこに行きつくのか楽しみにしていてください。
次回は『ラスタル・エリオン』です!楽しみにしていてください。


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ラスタル・エリオン

いよいよアリアンロッド戦です。
後、前回イラクと書かなければならないところをイオクと書いてしまい、一部の人が勘違いしていると思うので、ここで訂正しておきます。なのでイオクは今まで通りに姿を現します。
ではアリアンロッド戦です!


 ギャラルホルンとファミリアがアリアンロッド艦隊を包囲して既に数時間が経過していた。皮肉にも両者が激突している場所はかつてフォートレスと鉄華団がぶつかり合った小惑星基地だった。ギャラルホルン連合は小惑星基地を改造し、そこを拠点として使用しながら戦っていた。

「ラスタル様!ダインスレイヴを使用しましょう!今更体裁を取り繕う必要もないでしょう」

 ラスタルの部下の一人がそういってラスタルに進言するが、ラスタルはそれを拒否する。

「駄目だ、先ほどからあちらのダインスレイヴ隊が周囲を散開している。こちらが撃てばあちらも撃ってくる上に、あちらの旗艦は小惑星基地の中だ。さすがにダインスレイヴでも小惑星基地を壊すことはできない」

 部下は悔しそうに正面に鎮座する小惑星基地を忌々しそうに見つめる。ラスタルも正面に位置する小惑星基地をまっすぐに見つめる。

「しかし、こちらのダインスレイヴ対策であんなものまで持ち出すとは、モビルスーツ部隊をダインスレイヴの被害を最小限で押さえるように艦を周囲にばらけて配置する。よく考えているな……この作戦を考えたのはマハラジャではないな。この作戦はファントムエイジ副指令『アルベルト・シュキュナー』だな。変わらん男だ」

 ラスタルの正面でバルバトスが暴れ回っていた。

 バルバトスが暴れていた時、アガレスは隙を伺うように小惑星基地の中に入っていく。整備班が整備を行っている場所に指示に従って機体を止める。

「アガレスの整備を急げ!」

 ファントムエイジ整備長『ゼム・ロック』が怒鳴り声を上げ、周囲を鼓舞する。サブレとビスケットがコックピットから出てくると、ヤマギが二人に駆け寄り、ドリンクを渡す。

「二人ともこれどうぞ」

「ありがとう、ヤマギ」

「さんきゅ」

 二人が黙ってドリンクを飲んでいると、ゼムが近くに寄ってきて、ゼスチャーで「どけ!」

と言っているのを確認すると、サブレとビスケットは奥へと入っていく。

 通路を奥へと進んで行くと、曲がり角で副リーダーであるアルベルトにぶつかりそうになる。

「す、すいません」

 咄嗟の事で後ろに数歩ビスケットが下がると、そのまま頭を下げて謝る。片やサブレはぶつかる前に完全に止まっていた。

「いや、こちらこそすまなかった。軽く急いでいたものでね」

 ビスケットは完全にアルベルトの雰囲気に気圧されてしまう。どこか苦手な雰囲気を漂わせる相手に生唾を飲み対峙すると、アルベルトは優しい言葉をかける。

「こんな状況だ、休める時に休んでいた方がいい。どこかの誰かさんのように休める時にさえ動き続けようとする奴もいるがな」

 そういいながらアルベルトはサブレの方を見つめると、サブレは知らん振りを続ける。ビスケットはそんな二人のやり取りを見ていると自然と笑いが込み上げてきた。

「やっと笑ったね。別に笑うなとは言わない。休憩中くらい戦いから少しぐらい離れてもいいんだ」

「……ありがとうございます」

 ビスケットは再び頭を下げると、アルベルトは指令室へと足を進めていく。サブレとビスケットは大きな休憩室に入ると、二人は近くの席に座って待機する。

「俺あの人怖い人だって今まで思ってたよ」

「真面目なだけだよ。ほら、真面目な人って怖いイメージがあるから」

 ビスケットにそういってフォローするサブレは周囲を見回す。休憩室ではある者は仮眠をとっていたり、ある者は食事をとっている。

「いつまで続くのかな?」

 ビスケットは不意にそんな愚痴を漏らすと、サブレは興味なさそうに「さぁ?」と冷たく返す。ビスケットは苦笑いを浮かべる。

 二人がそんな話をしている間、大きな指令室ではユージンが感心しながら周囲を見回していた。そうしているとアルベルトが指令室の中に入ってくると、司令席に座る。

「君たちはこういう指令室は初めてかな?」

 アルベルトのそんな疑問にオルガが代わりに答える。

「まあな。ていうかこんな広い部屋こそ初めてだが……」

「今でこそ珍しいが、こういう指令室は昔は多かったんだよ」

 アルベルト達がいる指令室は二重構造になっており、アルベルト達の下に二十人ほどが指令室での通信を行っていた。

「厄祭戦ではこういう施設が多かった。しかし、厄祭戦後期にはほとんどがモビルアーマーとの戦いで壊滅してしまった。この施設も機能のほとんどを失っていたのをこちらで修理して今回の作戦に組み込ませてもらった」

 アルベルトの目の前の大きな画面では戦場の状況が詳しく表示されていた。戦場ではバルバトスとパイモンが暴れているのか、アリアンロッドのモビルスーツが次々と落ちていくのが分かる。

 

 バルバトスはテイルブレードを動かしながら二機のモビルスーツのコックピットを切り裂きつつメイスでコックピットを頭部ごと叩き潰す。

 パイモンは大きなハンマーを振り回し、十機ほどのモビルスーツを相手に互角以上の戦いを行っていた。それをジュリエッタは後ろから感心していた。

「す、すごい。こんな戦いができるなんて……」

 パイモンと戦っているモビルスーツを指揮していた後ろのモビルスーツが怒鳴り声をあげる。

「何をしている!たかが一機のモビルスーツ相手にてこずるなど!」

「で、ですが……このモビルスーツ強くて」

 そして、バルバトスが前線で暴れていると、指令室ではアルベルトがもう一つの戦場に目を向けていた。

 ガエリオの部隊がマクギリス率いる外縁軌道艦隊相手に互角の戦いを続けていた。一進一退の攻防を続ける。

 ガエリオはキマリスヴィダールのドリルランスでマクギリスに成りすましたアグニカのバエルを突き刺そうとするが、アグニカは難なく回避して見せる。そして、そのまま蹴り飛ばす。

「マクギリス!今だ力を求めるか!?」

 いまだマクギリスだと思っているガエリオにアグニカは少しだけ笑いそうになる。しかし、それをグッと我慢してマクギリスのふりをする。

「お前も見えていないのさ……ガエリオ」

「俺はお前を殺したとき、はじめてお前を理解できる!それが俺なりのけじめだ!」

「イカれているな……」

「正気故だ!マクギリス!」

 そうどなるガエリオをアグニカは心の奥で笑いながらバカにする。

『それが言える時点でお前はおかしいんだよ……ボードウィン家の息子よ。自ら阿頼耶識を使う事を躊躇しない人間がまともなわけがないだろう?阿頼耶識を頼らねばならないけじめか………みじめだな』

 ガエリオはドリルニーを飛ばすが、それをバエルは片手で受け止めて見せる。さすがにガエリオも驚かずにはいられない。

「なっ!?」

「……みじめだな。そして……愚かだな」

 キマリスを走らせようとするが、目の前の画面はスラスターの残量が残り少なくなっていることを示していた。

「くっ!ここは一度引く」

 キマリスを含めて一度ガエリオは部隊を引かせる。

「准将!」

「石動こちらも一旦引くぞ」

 

「ガエリオ・ボードウィンのキマリスが帰投しました。今から整備に入ります」

 ラスタルへそういう報告が上がると、ラスタルは少しだけ考え込む。

(おそらくマハラジャから……アルベルトから動くことは無い。あの男はそういう人間だ。多分こちらから動くことを待っている。だが、わざと隙を作るとしたら次にキマリスを出した時だ。それが最後だな……)

 ラスタルは自ら掌をふと見つめると、ギャラルホルンに入ったころにマハラジャと喧嘩したことを思い出す。

『いつかお前のそういうところは自らを滅ぼすぞ』

(お前は預言者のような男だな……賭けてみるか……お前が信じた者を)

 視線をふと正面でモビルスーツを倒し続けているバルバトスへ向く。ラスタルは覚悟を決め戦う。

 

「キマリスが戻ったのなら、バルバトスとパイモンも戻せ。次の出撃で決めるぞ」

 アルベルトが指令室で大きな声を上げて周囲に伝えると、バルバトスとパイモンがそれに合わせて帰投する。正面の画面にゼムが映る。

「パイモンとバルバトス。両方合わせて二十分で済ませてくれ。アガレスも同じタイミングで出す」

「二十分……無理難題を提示するな、分かった……できるだけ早く済まそう」

 ゼムは通信を切ると、大きな声を上げる。

「おめぇら!二十分でパイモンとバルバトスの補給を済ませろ!」

 三日月がコックピットから出てくると、どこかからオルガが姿を現して、奥へと連れていく。マハラジャも指令室へと姿を消す。

 グシオンがレールガンでモビルスーツへ攻撃を続ける。そうしていると後ろからラフタが援護に入った。

「三日月が戻ったの?」

「ああ、その間は俺らでつなぐしかねぇ」

 そうしている間にも三日月を休憩室へ連れてきたオルガはビスケット達に託す。

「ミカを頼む。伝言だ、「次にキマリスがでたタイミングでこちらが隙を意図的に作る。それまでには出てもらう。いつでも出れるようにしておけ」だ」

 ビスケットが「分かった」と告げると、オルガはそのまま休憩室を出ていく。その間に指令室にはマハラジャが入ってくる。

「どうでした?戦場の様子は」

「どうということは無い……敵と物量の差がありすぎて面白くない……」

 正面の画面には快勝を続けるファントムエイジとファミリアのモビルスーツが映っていた。それをどこか面白くなさそうに見ているマハラジャ。

「あちらは動くのか?」

「間違いないでしょう。ラスタルが動くとしたら間違いなくそこしかありません。今更アリアンロッド艦隊はギャラルホルンを名乗れない、なのだとしたら間違いなく死ぬ事を望むでしょう。死ぬことで後のギャラルホルンへの自分なりのけじめにするつもりでしょう。それはあなたが一番良く分かっておいででしょう?」

 アルベルトが少しだけ微笑みながらマハラジャに問いかけると、マハラジャはどこか複雑そうな表情になる。

「分かっているさ。ギャラルホルンの為なら自分がその礎になることもいとわない奴だ。だからこそ……俺は……」

 どこか遠くを眺めるような目になると、アルベルトは再び正面を見つめる。

「止めようとした……彼がそうなってしまえば殺すしかなくなるから……でも、決めたんでしょ?だったら……」

「そうだな……俺は決めてしまった。今更後戻りができると考えていない。でも……今でも思うことはある……そうならない、別の未来があったのではないか?っと」

 マハラジャは自分の右手を見つめ、そして昔の事を思い出す。昔マハラジャがさし伸ばした手をラスタルは拒絶した。

「でも……断られた。今更虫のいい話かな……あきらめたくはなかった。それでもあいつの友だ……あいつを殺してやることが……俺の………俺なりのけじめだ」

 マハラジャはふと振り返るとそのまま指令室を出ていく。

 

 キマリスが再び出撃していくのを確認したように小惑星の各砲門が開くと、一斉攻撃が始まる。それに呼応しモビルスーツ隊も一旦後ろに引く。アリアンロッドのモビルスーツ隊の半分以上が攻撃でやられると、ラスタルもいよいよ最後の足掻きを見せようとしていた。

「……ダインスレイヴ隊。一斉放射」

 ラスタルの号令と共にダインスレイヴ隊がダインスレイヴを放射態勢を取る。

「照準はどういたしましょう?」

「照準敵小惑星要塞……放て!」

 小惑星要塞へめがけてダインスレイヴの攻撃が次々と当たっていく。しかし、ダインスレイヴの攻撃は一つも小惑星基地を壊すことは無かった。指令室では一斉攻撃で揺れこそしたものの、施設自体は問題なく機能していた。

「ダインスレイヴの攻撃による我が軍の損害を知らせろ!」

 アルベルトの指示で指令室で調査を始めると、部下の一人が声を上げて報告する。

「一部のモビルスーツ隊が被害を受けたようですが、要塞と艦隊に被害なし!」

 アルベルトが立ち上がり全員に向け号令を出す。

「逆賊アリアンロッドは禁止兵器であるダインスレイヴを無断使用し、悪用した!この罪は重い!ダインスレイヴ隊!構え!」

 小惑星から多くのモビルスーツが出撃すると、それに続いてアガレス、バルバトス、パイモンが姿を現す。出撃したモビルスーツはダインスレイヴを構えていた。それ以外にも各艦隊からダインスレイヴを構える。

「照準アリアンロッド艦隊……放て!」

 ファントムエイジのモビルスーツのダインスレイヴから一斉に弾が射出される。次々とモビルスーツを、艦隊に直撃していく。各艦に突き刺さり火を噴いていく。

 ラスタルは攻撃の衝撃から額を正面の画面にぶつけてしまう。頭から血が流れると、部下の一人が報告を上げる。

「艦隊の……半分以上が落ちました……モビルスーツ隊も……ほとんど全滅しました。これでは……」

 ダインスレイヴを撃とうにもダインスレイヴ隊は先ほどの攻撃で全滅してしまった。アルベルトはダインスレイヴ隊に攻撃をやめさせ、後ろに下げようとすると、それとすれ違うようにバルバトスとアガレス、パイモンが前に出る。

 バルバトスは目の前で攻撃を仕掛けてきた黒いレギンレイズを振り払い、メイスで攻撃を仕掛けようとする。しかし、その攻撃は部下が身を挺して庇う。

「お前たち!どうして!?」

「お、お逃げ……ください……イ…オク………様」

 瀕死の重傷を負ってしまった部下はイオクが逃げるまでの時間を稼ぐため、バルバトスにぶつかっていく。三日月は鬱陶しそうにメイスを振り上げ振り下ろす。

「貴様!」

「イオク様!」

 複数のレギンレイズがバルバトスへ襲い掛かってくる。バルバトスはテイルブレードを振り回し、次々と落としていく。

「お逃げ下さい!イオク様!逃げて、ラスタル様の……我々の敵を!」

 そういって部下達がバルバトスに向かって戦いを挑む。イオクは涙を流しながら急いでその場を後にする。

「お前たち……すまない!」

 その間、アガレスはファンネルを放ち、周囲の敵モビルスーツを倒していく。レンチソードを振り回し艦の一つを落とす。パイモンも同じようにハンマーを振りかぶり、艦の側面にたたきつける。

「俺達も行こうぜ!」

 シノが勢いよく飛び出そうとするがそれをオルガが制止する。

「行かなくていい……お前らは次に備えて補給に戻れ。シノ、昭弘、お前らそろそろ弾薬とスラスターが限界だろ」

「でもよ!」

「ああ、三日月達だけ戦わせるつもりか?」

 シノと昭弘はそろって不満を漏らすが、オルガは引くことは無かった。

「駄目だ。それに戦いはまだ終わってねぇんだぞ」

 オルガのまっすぐな視線に負けてしまったシノと昭弘は小惑星へと撤退する。三日月とサブレの戦いを身近で見つめる、多くの兵はその戦いを見てふとつぶやく。

「これが……ガンダムフレーム。かつて厄祭戦を終わらせた機体」

 アガレスはスキップジャック級のカタパルトの開閉ドアをたたき割ると、格納庫めがけてレンチソードの銃撃を浴びせる。格納庫から火を噴き、バルバトスは後ろにまわってスキップジャック級のスラスターへメイスを振り下ろす。

 その瞬間ブリッジがひときわ大きい揺れと共に軽い爆発が起きると、ラスタルを除いて死んでしまう。ラスタルも血だらけになりながら正面に視線を合わせる。正面にはパイモンが降り立った。

「……マハラジャ」

「……ラスタル」

 二人の脳裏にかつての思い出がよぎった。今更戻れない記憶を思い出すと、ラスタルはふと微笑む。

「……さらばだ。友よ……あとは任せた」

 マハラジャは一筋の涙を流し、ハンマーを振り上げた。

「……さらばだ、友よ……後は任せろ」

 ハンマーを勢いよく振り下ろす。ブリッジがつぶれてしまうとスキップジャック級のあちらこちらから火が噴き始める。アガレスとバルバトスは急いでその場から離れる。パイモンはゆっくりとその場から移動していく。

 スキップジャック級は大きな爆発を起こすとそのまま沈んでしまった。

 

「一つの命が終わったか……だが、ここから第二局面と行こうか!」

 イラク・イシューは素早くガンダムゼパルを掛けると、そのまま戦場へ突入しようとしていた。

 誰もが予想すらできない戦いが始まろうとしていた。




どうだったでしょうか?サブレのシリアスな予告やオリジナルキャラクターの予告が見たいという意見があったので、今回から少しの間予告はオリジナルキャラクターたちにやってもらいます。
マハラジャ「ラスタル……お前を今でも親友だと思っているよ。あとは任せてくれ……ラスタル。次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ『原初の厄祭』」


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原初の厄祭

ついにラファエル登場です!


 イオクはラスタルの乗るスキップジャック級が落ちていく姿を少し遠くから眺めていた。涙を流してその姿を悔しそうに見ていると、遠くから赤いガンダムフレームであるゼパルが姿を現した。

「き、貴様は!?」

「涙を流し………悔しさがその身を支配しているか……」

 イオクに聞こえないように小さな声でつぶやくと確かな確信をもつ。イラクはイオクをそそのかして見せる。

「鉄華団が憎いか?ラスタルを殺した者が憎いか?部下を殺した者共が憎いか?」

 イラクはイオクに尋ねるとイオクは涙を流し大きな声で叫ぶ。

「ああ!憎い!貴様にならあいつらを殺せることができるのか?」

「力を貸してやるだけだ……お前にしか目覚めさせる事のできない最強の力をな……」

「どこに?どこにあるんだ!?その力!」

 イラクは計画通りとでも言わんばかりに悪い笑顔になる。

「ヴィーンゴールヴ最下層……君の血で開くようになっている。そこに行くにはパスワードがいるんだよ。パスワードは『火星の王』だ」

「それがあれば!」

「ああ勝てるさ」

 イオクと共にイラクも移動していく。

 

「マクギリス!」

 ガエリオが駆けるキマリスはドリルランスを突き刺そうとするが、アグニカはそれを剣で簡単に弾く。

「くっ!お前はカルタを殺し、アインを殺した世界で何を望む!お前を慕ってくれている者達を振り払ってなお、力を信じるのか!?」

「お前が戦えば戦うほど私の正しさの証明になる。それが分からんお前ではあるまい?」

 キマリスのランスによる連続突きを難なく回避して見せるバエル、キマリスを殴り飛ばし態勢を整えて再び機体を走らせる。ランスを突き刺そうとするがバエルは二本の剣で受け止める。

「お前の目には俺は見えない、お前に俺の言葉は届かない!俺を見ろ!!アイン!俺の全てを使ってマクギリスの全てを奪ってくれ!」

「だから言っただろ?お前が力をふるい続ければふるうほど、私の正しさの証明になるとな。」

 ガエリオはさらにスラスターの出力を強くする。前へ前へ突き進もうとするキマリスをバエルは蹴り飛ばす。

「違う!これはお前の信じる力とは違うものだ!アイン頼む!届けさせてくれ!一人ではないこの戦い!」

 ランスをバエルに叩き込もうとするが、バエルはそれを右腕で弾き、キマリスの右腕を切り裂く。

「なぜ?なぜ届かない!?何をすればお前に届かせることができる!」

 ドリルニーをたたき込もうとするがそれをバエルは足でドリルニーを破壊するが、キマリスは砕けたドリルニーを右腕で受け止めそれをコックピットに突き刺そうとするが、それをバエルは剣でドリルニーごと左腕を切り裂く。

「なぜ届かない!?」

 ガエリオがさけぶ中、アグニカはふとラスタルの旗艦が落ちたことを確認した。

(そろそろイラクが動くとは思うが……いい加減こいつと戦うのも飽きたな……)

 アグニカはキマリスの右足を引きちぎって見せる、続いて左足も引きちぎる。

「なぜ届かないのか?それが分からないのか?簡単だよ、ガエリオ・ボードウィン。お前は誰も見ていないからさ。お前は軽薄だ。それを綺麗だと思っているのだとするのならそれは間違いだ。お前はカルタの名を名乗ったが、カルタはお前を見てくれていたのかな?お前は背負うと言ったが、カルタがそれを望んでいるのかな?最後の最後までお前を見ず、マクギリス・ファリドを見ていた彼女はお前を想ってくれるかな?アインという男もそうだ、お前はアインの復讐の為に戦っていたが、本当はお前の復讐の為だったんじゃないのか?お前は自身の綺麗さを貫くあまり他人に押し付けることを背負うことだと勝手に勘違いしているんじゃないか?」

 ガエリオはマクギリスに対して驚きしかなかった。そして逆に問う

「お前は誰だ?お前はマクギリスじゃないな……お前は誰だ!?」

 アグニカは不敵に笑い答える。

「私の名前は……俺はアグニカ・カイエル。お前達が信じるギャラルホルンを作った人間だ」

 アグニカのそんな言葉に驚きを隠せず、ただ怒鳴りつける。

「信じられるか!?お前があのアグニカだと?ならマクギリスはどうしているんだ!?あいつは!?」

「俺の心の奥で今でもお前たちに助けを求めているよ。そして、訴え掛けているお前が本当の意味で立ち上がることを」

「本当の意味?」

「言っているであろう?お前は本当の意味で立ち上がってはいない。自分が出した答えで立ち上がった時こそ人は本当の意味で戦うことができるのだ」

 アグニカは不敵に微笑む中、ふと一つの方向を見つめた。そこには四機のモビルスーツが戦っていた。

 

「あれは……ゼパル!?」

 サブレはふと視界の端を見つめるとそこにはゼパルと黒いレギンレイズが走り去っていくところを目撃してしまう。ビスケットも同じく視界にとらえた。

「あんなところで何をしているんだろ?」

「知るかよ……でも、多分恐ろしいことだ……」

 サブレはアガレスを走らせそのままイラクを追う。そしてその姿を同じようにバルバトスも視界にとらえそのままアガレス同様にイラクを追おうとする。

「サブレ……あいつ」

「ああ、放っておけば何をしでかすか分からない」

「でもあの人と一緒にいたのは……」

 機体を走らせるなか、イラクも同じように彼らが追跡していることに気が付いた。後ろを確認すると機体をアガレスとバルバトスに向けて走らせる。

「イオク・クジャン、君は先に行け。こいつらは私が抑えよう」

「す、すまない!」

 イオクが先に進んで行くのを確認すると、ゼパルをバルバトスとアガレスに向けて走らせる。アガレスがゼパルに向けてレンチブレードで切りつけようとするが、ゼパルはそれを大剣で受け止める。

「三日月!行け!」

「分かった」

 三日月がイオクを追おうとするが、バルバトスに攻撃を仕掛けてきたのはバエルだった。

「何を手間取っている?」

 アグニカはガエリオを放っておき、バルバトスを攻撃し突き飛ばす。アグニカのそんな言葉にイラクは戦いながら答える。

「仕方がないだろう。お前を目覚めさせた事だけでも褒め称えて欲しいものだな……」

「ふん!ラファエルはどうしている?」

「あと少しだけ時間が欲しい」

「ふん……少しだけ遊んでやる」

 イラクはレンチソードの攻撃を捌ききり、アガレスを切ろうと大剣を振りかざそうとするが、それをファンネルでゼパルへと攻撃するが、ゼパルは一瞬攻撃に気が付き大剣で捌く。

「ファンネルが通用しない!?」

 ビスケットが驚きを隠せずにいると、サブレが落ち着いてゼパルの戦いを続ける。

「通用するとは思えないが……やはりと言うべきか」

 アガレスはゼパルの攻撃を落ち着いて捌き、両者を一旦距離を置く。その間にバルバトスはバエルに対して何度となく攻撃を交える。

「あんた……誰?」

「すごいな、少しだけ交えただけでそれが分かってしまうとは……」

 バエルは剣を連続で切りつけ続けると、バルバトスはメイスで攻撃を防ぐだけ精一杯だった。

「……強いな。あんた」

「……半分だけ目覚めているか。乗っ取ることを恐れているのか?」

「何の話?」

「……君には関係の無い話だよ」

「あっそ」

 互いに武器をぶつけたまま会話をしていると、それをファンネルが妨害する。ゼパルはバエルに攻撃を仕掛けようとするファンネルを叩き落す。

「何をしている?お前はお前の戦いをちゃんとしないか?」

「わがままを言っていると愛想をつかしてしまうぞ」

 アガレスはバルバトスに近寄る。

「大丈夫か?三日月」

「うん。こいつ、強いね」

 二人が戦っている間にイオクがついに辿り着こうとしていた。

 

 イオクはエレベーターのモニターにパスワードを打ち込む。

『火星の王』

 そう打ち込むとエレベーター内の電灯が赤く光る。地下へ地下へとエレベーターが進んで行くと、ついにモニターは真っ赤に光ってしまうとついにエレベーターが最下層にたどりついた。イオクは一人長い通路を歩いていくと、通路はただひたすら長く終わりが無いように思えると、ついに終わりが見えた。

『認証装置に血を流してください』

 装置に向けてイオクは自身の血を差し出す。すると、装置はドアのカギを開けていく。ゆっくりとドアが開いていくとその奥に鎮座する大きな物体にイオクは言葉を失った。

 そこにあったのは大きなモビルスーツのようにも見えたからだ。

「こ、これは……?」

 それはまるで天使のようにすら見える。

 イオクの目の前にある大きな機械は背中に大きな天使の羽をもっており、その姿はモビルスーツのようにすら見えた。イオクが一歩前へ進んで行くと、両目が強く光った。

『ラファエル。最初の指示だ。目の前にいる人間を殺せ』

『了解シマシタ』

 ラファエルの目はまっすぐとイオクへ向く、体中を拘束するようなコードを引きちぎるとラファエルは右腕を振り上げる。

「ど、どうして……私が!?」

 イオクへ向けて叩きつけられると、周囲は大きな爆発音が響くと同時にイオクは死んでしまった。

 

 バルバトスとアガレスはバエルとゼパルと戦っている場所は地球にもっとも近い場所で繰り広げていた。何度も何度も武器をぶつけては距離を取る。その姿をキマリスに乗って見ていたガエリオの目の前にジュリエッタが姿を現す。

「ガエリオ・ボードウィンですね。あなたを拘束するようにとあなたの御父上から指示がきております」

「ジュリエッタ……なのか?君が……捕まえるというのか?」

 ガエリオは精神的に追い詰められていた。マクギリスだと思っていた男の言葉はガエリオの精神を揺さぶった。そして、とどめとばかりにジュリエッタが姿を現した。

「俺は……何の為に……」

「何を言っているんですか?ヴィダール?」

「俺は……俺は………教えてくれマクギリス」

 ジュリエッタは追い詰められたガエリオを捕まえるとそのまま帰投していく。

 その間ぶつかり合っていたバエルとゼパルは一旦距離を取り、ラファエルの復活を感じ取れた。

「イラク、引くぞ」

 逃げようとするゼパルとバエルを追いかけようとしてバルバトスがメイスを振りかざすがそれを石動が身を挺して妨害する。

「お逃げ下さい……あなたは……」

 アグニカは石動が自身の正体に気が付いていたことに今気が付く。

「お前……俺の正体に気が付いていたな。なぜ助けた?」

 石動は血を吐きつつ、バルバトスのメイスをつかんで離さない。

「あなたの理想が我々の力……です。あなたの世界を見て……」

「もういい」

 バエルはバルバトスを攻撃し、石動を引き離す。

「来い、石動!お前にも見せてやろう……俺の世界をな」

 アグニカは石動の機体を連れて離脱してしまう。バルバトスとアガレスが追おうとすると、イラクは意味深な言葉を残す。

「いいのかな?このままイオク・クジャンを放っておいて」

 逃げようとする両機を三日月が追いかけようとするが、それをビスケットが制止する。

「待って三日月!先にイオク・クジャンを追いかけよう」

 追いかけようとする三日月はそんなビスケットの言葉に黙って従う。しかし、そんな三日月は逆に問う。

「追うのはいいけど……どうやって追うの?多分地球でしょ?」

 ビスケットが悩んでいると、サブレがアイデアを提供する。サブレは近くに浮かんでいるギャラルホルンのモビルスーツを指さす。

「あれを使おう。誰かさんが昔やったことだし……できるでしょ?」

 三日月は「なるほど」と理解し、ビスケットは嫌そうな表情になり「ま、まさか……」と言っている間にアガレスとバルバトスはモビルスーツを盾にして降下し始める。

「ぎゃあああーーー!!」

「兄さんうるさい」

 ビスケットは悲鳴をあげ、サブレと三日月はうるさそうな表情になる。両機はそのまま大気圏を突破しギャラルホルン本部が見えてくると突然ギャラルホルン本部から飛び出したビームがバルバトスとアガレスの態勢を崩す。

「何?何なんだ……いったい」

「分からない。でも……ビーム攻撃を仕掛けてくるのはモビルアーマーぐらいしか……」

 攻撃がやって来た方を見ると、そこにはラファエルがはっきりと目撃できた。その瞬間に三日月の意識が途切れる。

「三日月!?返事をして!三日月!」

 サブレは機体をバルバトスの方へ動かし、バルバトスの右腕をつかんで引っ張ろうとするが、今度は実弾攻撃がアガレスの左腕とバルバトスの右足を吹き飛ばす。

「しまった……これじゃ反撃ができない」

「サブレ、この速度で地面に叩きつけられたら!」

 アガレスはバルバトスを引っ張りながら落下軌道を海の方へとずらした。大きな音を立てて海に落ちたアガレスとバルバトスを確認するためにラファエルは地上に姿を現した。そして、形態を変化させていくと、その姿を人型から鳥型に変形させる。翼に内蔵されたレールガンを何発も海に落ちたアガレスとバルバトスに向けて発射する。ラファエルは落ちた両機が上がってこないことを確認すると、口を大きく開きビームをギャラルホルンの住宅街や施設へ向けて放射する。首を体を回しながら攻撃し、人という人を皆殺しにした。モビルアーマーは結果に満足したのか大きな翼を広げその場から離脱していく。

 

 意識を失った三日月は暗い場所で意識を取り戻す。ゆっくりと目を開くと目の前に一人の男が経っていた。三日月に似ているその男はゆっくりと口を開く。

「目を覚ましたか?」

「あんた……誰?」

 三日月は動かない体を起こして座り込むと、男は少しだけ微笑む。

「俺の名前は『満月・オーガス』だったかな?俺はバルバトスの前任者だよ」

 三日月はバルバトスの前任者と出会い彼がこれから語る物語に耳を傾ける。




次回に続いて今回の次回予告はイラク・イシューです。
イラク・イシュー「昔お前の言う世界を信じてここまでやって来た。アグニカ・カイエルは俺にとっての太陽だ。お前の進む道が俺の道だ!次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ『違えた道の先』」


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違えた道の先

いよいよ最終決戦に向けて話が動き始めます。それと同時に色々な人たちの物語が語られます。


「ミカ!ビスケット!サブレ!」

 オルガは崩壊したギャラルホルン本部で大きな叫び声を上げながら探し回っていた。一時間ほど前イオク・クジャンを追っていた三人がギャラルホルン本部で行方が分からなくなっていた。オルガだけでなくマハラジャなどもこの地に足を運んでいた。マハラジャは崩壊したギャラルホルン本部を悲しげな眼で見つめていた。

「別にここを懐かしいと感じたことは無いが……こうも無残だとな」

 各経済圏のトップもセブンスターズの生き残りのメンバーと共に本部に降り立った。セブンスターズのメンバーも惨状に悲しみの目を向けていた。オルガが小さな声で諦めながらつぶやく。

「お前ら……死んじまったのか?」

 そしてオルガは大きな叫び声をあげる。

「返事しろよ!!」

「生きてるよ」

 海の中よりアガレスがバルバトスを連れて姿を現した。陸地に足を踏み出すとコックピットからサブレとビスケットが顔を出すと、オルガに向けてビスケットが叫び声をあげる。

「オルガ!俺たちの事より三日月の事を!意識が無いんだ」

 そんなビスケットの言葉を受けオルガは焦りながらバルバトスの元に向かっていく。

「ミカ!!」

 

 真っ暗な空間の中三日月は自分の目の前に現れた自分にそっくりな顔をした人物を怪しげな目で見ていた。三日月によく似た満月はそんな三日月の思惑など考えもせず微笑んでいた。互いに沈黙が続くなか、最初に切り出したのは三日月だった。

「俺死んだの?」

 簡単に聞いてくる三日月の問いに満月は笑いながら答えた。

「死んでいないさ。それだけははっきりと告げることができる」

 今度は不思議そうな表情になると、「だったら……」と声を上げる。すると、満月が三日月の疑問に答える。

「君の意識を切っただけさ。これ以上君が無理をしてモビルアーマーと戦えば、今度こそ俺は君の体を乗っ取らなければならなくなる。それは俺が一番望んでいない」

 三日月は皮肉に似た言葉を発する。

「あんたたちは俺達を入れ物としか考えていないんじゃない?」

 再び満月が笑うと三日月の意見を否定する。

「それはアグニカとイラクの意見だ、俺の意見ではない。俺に君を乗っ取る気があったのなら君が最初に乗った時点で俺にはそれができていた。俺が望んでいたことはアグニカとは違う。俺は……」

 彼の複雑そうな表情を見ると、三日月は突っ込んだ質問を繰り出す。

「ならあんたのやりたいことって?」

 満月は真剣な面持ちで三日月を見つめると、はっきりと答えた。

「アグニカを殺すこと……!」

 三日月は満月の面持ちを見つめると、逆に不思議になって来た。

「どうしてそこまで?」

 三日月のそんな疑問に満月は答えた。

「君たちはアグニカを非道な人間のようにとらえるのかもしれないが、元々あんな人間ではなかった。仲間を思いやりなにより絆を大切にする人間だった。だからこそ俺たちはアグニカの元に集まった。俺たちはアグニカを信じ続けた。そうだな……君達にとってオルガ・イツカのような者かな?そういえばわかりやすいだろ?」

 三日月は黙っていると小さな反論を口にする。

「オルガはあんな男とは違う……」

 そんな三日月の言葉に満月は苦笑いを浮かべた。

「アグニカとオルガ・イツカでは性格面で全く違いがあるが仲間から信頼を集めるという点ではやはり似ている。昔は……昔のアグニカはあんなに手段を選ばない男じゃなかった」

 満月は

語り始める、昔の物語を……すれ違った道の話を。

 

「ミカ!しっかりしろ!ミカ!」

 オルガはバルバトスのコックピットから姿を現した三日月を揺らしながら起こそうとするが、一向に三日月は目を開こうとしない。焦りから汗が噴き出すオルガは何度も体を揺さぶると下からユージンの声が聞こえてきた。

「オルガ!ビスケットとサブレは何ともねぇよ、それより三日月は?」

「目を覚まさねぇんだ!くそぉ!」

 しかし、オルガにはかすかに聞こえないような小さな声で三日月はぶつぶつとつぶやいているのをオルガははっきりと理解できた。

「何か言ってるんだが……何を言ってんだか………」

 すると今度はビスケットが部屋に入ってくる。

「オルガ!三日月は?」

「なんかぶつぶつ呟いてる……でも、何を言っているか……」

 ビスケットにはそれに身に覚えがあった。

「もしかして……やっぱりバルバトスの前任者と話をしているのかもしれない」

「なんだよ……それ!どういうことだ!?」

 ユージンはビスケットの胸倉をガっと掴むと食って掛かる。ビスケットはユージンに向けて声を荒げる。

「分かんないよ!でも……アグニカやイラクだって三百年の月日を得て復活した。ということは、バルバトスの中にも……きっと」

 ビスケットのそんな声を聴くと、オルガも焦りをにじませる。さらに強く揺さぶり声を荒げる。

「ミカ!返事しろ!ミカ!」

「うるさい……オルガ」

 ゆっくり目を開くとオルガをはっきりと見つめる強い目をオルガに向ける。オルガは涙を流しながら抱き着くが三日月はどこか鬱陶しそうな表情を浮かべる。オルガは三日月の阿頼耶識を切ると、オルガが担ぎながら降りてくる。三日月をビスケットとユージンの元に降ろしてやると、オルガたちの目の前にマハラジャが現れた。

「起きたか……さあ、聞かせてもらおうか。君が聞いた前任者の話を」

 

『厄祭戦が何をきっかけに始まったのか、君は知っているのかな?そう、戦争の自動化、兵器が自らで考え戦う。そうすることで兵士を犠牲にせずに戦争ができるということで当時は全ての国々がモビルアーマーを開発した。しかし、それが間違いだったというのは既に聞いたはずだな。自動化された機械は徐々に人間すべてに脅威を振りまくようになった。そのころにはモビルアーマーとまともに戦えないぐらいに兵士の熟練度は低かった。だからこそ開発されたのが阿頼耶識というシステムだった。当時は宇宙作業用に開発されたシステムだったが、モビルアーマーが暴走すると軍事転用が急遽行われた。それ用にモビルスーツも新たに建造されたが、阿頼耶識を軍事転用してなおモビルアーマーは強かった。機械に勝つには人間も機械と一体化を行う必要があった。それが完全な阿頼耶識だ。培養した空っぽの脳にパイロットの脳をコピーし、体が死んでも新しい体に入れ替えるだけで済み、エースパイロットを永遠に使い続けることができる。そして、それを前提に開発された機体がガンダムフレームだ。バエルの開発者であるアグニカ・カイエルの父親が息子と一緒に作りだした。そしてそのアグニカの相棒だったサントノーレ・エルフォンとその双子の弟だったコロンビエ・エルフォンが非完全阿頼耶識を前提に開発された二機のガンダムフレームを組み合わせて造られたのがアガレスだ。この二機が試験的に開発され、その後モビルアーマー相手に実戦テストをもって正式ロールアウトされた。その後似た機体を悪魔の名前の分だけ開発され、俺たちがパイロットに選ばれた。その中にはアグニカの弟もいたのだが……それが間違いの原因だった。俺たちは破竹の勢いでモビルアーマーを倒し続けた、そうして戦っていく中で俺達の絆はさらに強くなっていった。それが次第にアグニカを追い詰めていったことに俺たちは気が付かなった。そして、そんな俺達を大人たちは戦後の平和の邪魔になると判断し始めたのはモビルアーマーを駆逐仕掛けていた時だった。事の発端はアグニカの父の元に寄せられたガンダムフレームを倒すための兵器開発の依頼だった、もちろんアグニカの父は最初こそそれを断ったが、人間をやめていく息子を見ていくうちに息子を止めたいと考え始めたアグニカの父はガンダムフレームを倒す兵器『ダインスレイヴ』の開発を始めた。ただし、この兵器を使う際の条件はアグニカ達を脅す、説得する為という前提があったが、当時の経済圏のトップはそれを無視してアグニカ達を殺すための道具として使用した。そして、アグニカの弟が殺されてしまった。アグニカはダインスレイヴを開発したのが父親であると理解し、そして同時に父親が自分たちを殺そうとしたと勘違いをしてしまった。そして、アグニカの父親は自分が息子を殺してしまったことに耐えられず自殺した。大事な仲間を殺され、戦えない大人たちの代わりに戦った自分達を用済みになったとたんに殺そうとした大人たちとこの世界に絶望した。俺やサントノーレはそれを止めようとしたが、聞き入れてもらえなかった。サントノーレはアグニカの考えに賛同できない仲間たちを連れ、アグニカを止める戦いをすることとした。大人たちでさえ止められないアグニカを自分たちで止めようと呼びかけた。それが厄祭戦最後の戦いになった。詳細は語らないが、結果からすればアグニカの戦士とエリオン家の人間が経済圏と秘密裏に手を結んで後のギャラルホルンの前身となる組織の発足だった。俺たちは火星かコロニーに身分を偽って逃げるしかなかった。ガンダムフレームを捨て、俺たちは逃げた。俺たちはその時は知らなかったんだ。アグニカを復活させようとしていたとは、イラクがそれを望んでいたとは。三百年越しの壮大な野心。アグニカの目的は『浄化』だろう。汚い大人たちをこの世界から排除して、その上で自分達の世界を作る。地球ではなく火星にな。俺たちの仲間のほとんどが火星出身者が多かった。同時に当時から不当な扱いを受けている人間が多く、地球からの差別が最も強い地だった。アグニカからすれば火星の王になることで、地球から世界の支配を覆し、火星から世界の支配に変えるという意思の現れだった。でも、それはアグニカの弟や父親や仲間が望んでいないことだった。だから俺はそれを止めるためにこうしてバルバトスの中でアグニカを止めるために戦うことにした。それが俺達とアグニカのすべてだ。そのうえで君たちに協力したい。アグニカを殺すために……奴の狙いは火星だ』

 

「狙いは火星か。予想してはいたがそういう事態になったか」

 マハラジャは壊れたギャラルホルン本部の仮の代表室を急遽造り、ギャラルホルン全体に指示をだしていたが、三日月が満月から聞いた話を聞くと頭を悩ませてしまい、俯いて頭を横に振る。マハラジャはオルガに素早く指示を出す。

「オルガ・イツカ君達鉄華団は先に火星に帰るといいだろう。満月とやらが提供してくれた情報が正しければアグニカは火星を目指すはずだ。後でギャラルホルンの部隊も送ることにする。俺はここでギャラルホルンの立て直しを行わなくてはならん。お前たちで何とかしてくれ」

「分かった。ユージン行くぞ!ビスケットも……」

 オルガはユージンとビスケットを連れて部屋を出ていこうとするが、それをマハラジャが止めた。

「待て……ビスケット・グリフォンは少しだけ借りたい。いいだろうか?」

 オルガはビスケットの方を見ると、ビスケットは黙ってうなずくとオルガはユージンを連れて部屋を出ていく。ビスケットはマハラジャと二人っきりになると、少しだけ申し訳なさそうな表情になる。頭を下げるとまず謝った。

「すいません。例の件ですが、まだ答えを出していないんです」

「ああ、その話か」

 マハラジャはその答えが聞けると考えているわけでは無いらしく、話を切り替える。

「簡単な事だよ、お前の髪を欲しい」

「え?そういう事なら……」

 ビスケットは髪を引き抜くとマハラジャに渡してしまう。マハラジャはケースの中に入れてしまう。ビスケットは部屋から出ていくと、すれ違いにアルベルトが入ってくるとマハラジャがアルベルトにケースを渡す。アルベルトはケースを見ながらしゃべりだす。

「エルフォンとグリフォン確かに似ていますね。もし、エルフォンが現在のグリフォンなのだとしたら、彼らがカイエルの血縁者かもしれませんね」

 マハラジャはアルベルトの言葉を聞くと立ち上がり窓にふと手を置く。それを窓といっていいのか分からないほど壊れている窓に触れる。

「ギャラルホルンの情報が正しければアガレスの前任者とアグニカ・カイエルは親戚同士だったと記録されている。でなければ、ガンダムアガレスのテストを任されるはずがない。調べておいてくれ」

 アルベルトが黙って頭を下げて部屋を出ていくと、今度はゼムが部屋に入ってくる。

「マハラジャ……バルバトスとアガレスの『フルアーマー』案を進めてもいいのか?進めるのならバルバトスとアガレスをこちらで預かりたい。いいだろうか?」

「ああ、別に構わん。俺の方からオルガ・イツカに言っておこう。武装はすでに準備してあるのか?」

「大丈夫だ。任せてくれ……お前と私の仲だろ?」

 ゼムとマハラジャは微笑むとゼムは部屋を出ていく。ゼムが部屋を出ていくと、オルガに連絡を入れた。

 

 ビスケットはカゲロウの格納庫でバルバトスとアガレスの間で悩んでいた。

(どうしたらいいんだろう?)

 悩んでいると、突然声が聞こえてきた。

「何か悩んでいるようだな」

 突然聞こえてきた声に周囲を見回しているとその声の正体がバルバトスから聞こえてくることに気が付いた。ゆっくり後ろに鎮座しているフレームがむき出しのバルバトスから発せられていることに気が付く。ゆっくり振り返るとバルバトスの両目が光っていることに気が付いた。

「もしかして……ま、満月さん………ですか?」

「ああ、聞いていたんだったな。そういうことだな」

 ビスケットはバルバトスのコックピットの近くに近寄ると、ビスケットはおずおずと聞き始める。

「あの……どうやって話しているんですか?」

「?あのゼムという男がバルバトスにスピーカを付けてもらった。なんでも『フルアーマー』とか言う強化プランの為には俺の意見が必要らしいからな」

 ビスケットはなんとなく無理矢理自分を納得させながら話を続ける。

「あの……俺が悩んでいるって」

「?そうじゃないのか?今の君は悩んでいるように見えたが?」

 満月のそんな言葉にビスケットは少しだけ俯く。

「俺……鉄華団を退団しようと思っているんです。でも……退団することでみんなを困らせることになるかも……。そう思っていたんですけど。俺がいなくなったら……鉄華団は」

 ビスケットは悩んでいると満月は低い声をだす。

「常に一緒にいることが必ずいい結果を生むわけではないという事だけは言える。今の君たちを見ていると俺達に似ているような気がする。君も聞いただろ?俺達の組織が崩壊した理由は俺達が寄り添いあい過ぎていたからだ、君たちに同じ道を歩んでほしくない。違えた道を歩んでほしく無い。違えた道の先は悲しい末路しかない。思いさえ違えなければ君達はたとえ違う道を進んでも大丈夫なはずだ……」

 ビスケットが黙って頭を下げその場を後にすると、満月は物陰から様子をうかがっていた男を呼び出す。

「そこで隠れている者。何ようかな?」

 マハラジャが姿を現すとバルバトスの前に立つ。満月はマハラジャの姿に疑問を持つ。

「ギャラルホルン本部にいるべき人間がこんなみんなが寝ている時間になにようかな?」

「君に聞きたいことがあってな……彼らは……」

 マハラジャが問う前に満月が答えた。

「彼らはエルフォンの子孫だろう。時を超えて彼らの子孫を導けるとはな……最後にいいことが出来るといいが」

 満月の覚悟を決めた声を聴くとマハラジャは満月の意図を組む。

「君は……」

「覚悟は決めているよ……それで君たちが幸せになるのなら三百年生きたかいがある。アグニカと共に死ぬことが俺の本当の願いだよ」

 マハラジャはバルバトスの元から離れていくとバルバトスの目の輝きが失われる。マハラジャは満月がしようとしていることをつぶやく。

「意識と意識をぶつけた対消滅。それが唯一マクギリス・ファリドを救う方法……」

 

 サブレは一人でギャラルホルン本部のエレベーターを降りていくと、エレベーターのドアが開いた途端目の前にジュリエッタが姿を現した。ジュリエッタは目の前に現れたサブレのギャラルホルンの制服姿にクスっと笑う。

「聞いていましたが、本当にギャラルホルンの制服を着ているんですね」

「仕方ないだろ?本部にいる間はややこしいから俺や兄さんや三日月もギャラルホルンの制服を着ろって言われたんだから。それじゃなくても今はギャラルホルン内部がごたついているわけだ。そんな時に部外者がウロウロしているのは状況をさらにややこしくしてしまうだけだってな」

 二人そろって長い廊下を歩いているとジュリエッタは不意にサブレに問う。

「で?どこに行くのですか?」

 ジュリエッタの問いにサブレは手に持っている物を見せながら答えた。

「牢屋」

 サブレはカードキーを取り出し、廊下を歩いていると牢屋の目の前でアルミリアと出会った。

「アルミリア様?どうしてここに……」

「頼まれたんだよ……」

 サブレは牢獄のカギを開けると、部屋の奥に死にそうな表情を浮かべたままベットに座っているガエリオを見た。ガエリオはゆっくりとアルミリアの方を見るがそのまま再び下を見てしまう。

「アルミリア……一人にしておいてくれ。もういいんだ……マクギリスの事を全く理解できない俺なんか……」

 アルミリアもどう声を掛けたらいいのか分からないでいると、サブレは小さな声でジュリエッタに「すまない。少しだけ荒れるぞ。後ろで黙っていてくれ」とつぶやくとジュリエッタは黙ってうなずく。

「じゃあ、俺がアルミリア様をもらってもいいんだな?好きな服を着せようかな……マクギリスがしないであろう服を着せて、あられもないしぐさをさせて……」

 アルミリアの肩を抱きながらガエリオを見下すと、さすがにガエリオはサブレの方を睨む。ガエリオは勢いよく立ち上がりサブレとアルミリアの間に割って入ると、サブレを殴りつけようとするがそれをジュリエッタが止めた。

「ジュリエッタ!?なぜ止めた?」

「さすがにこれ以上揉めることを許可できません。仮にもサブレはギャラルホルンのメンバーとして扱うと言われています。それにあなたが殴ってはサブレが道化を演じた意味がない」

 そういわれると、サブレはガエリオの方を見ずに部屋を出ていく。アルミリアはガエリオの服の裾をがっちりつかむと涙を流しながら頼む。

「お兄様……マッキーはお兄様との約束だって言ってた………お兄様との約束を果たすって言ってた……マッキーは助けを求めてる…………助けて!お兄様!」

 アルミリアのそんな助けを求める目を見るとガエリオは覚悟を決め部屋を出る。

(マクギリス……お前が助けを求めるのなら俺はお前を助けて一緒に帰る!)

 そしてサブレは一人部屋を出ると、同じように空気を読んで部屋を出たジュリエッタがすぐに合流してきた。サブレは窓際に座るっているとサブレの隣にジュリエッタが座るとジュリエッタはサブレの方に寄り添う。サブレはゆっくりとジュリエッタの手を握る。

 窓の向こう側では復興作業が続けられていた。




今回は満月・オーガスです。
満月・オーガス「俺達はどうしてこうなってしまったんだろうな?でも、だからこそ彼らはましな結末を迎えてほしい。こう願うことは愚かなのかな?お前たちの子孫はまともに育っているよ……次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ『団結する者』」


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団結する者

最終決戦直前です!バルバトスフルアーマー、アガレスフルアーマー初お披露目です!


 革命軍の艦隊はデブリ帯で艦隊やモビルスーツの残骸をラファエルに漁らせており、その間にトド・ミルコネンの手配によりモンターク商会からの補給を受けていた。トドは内心ラファエルのプルーマづくりをゾッとしながら眺めていると、マクギリスの体を乗っ取ったアグニカはブリッジでトドに話しかける。

「ご苦労だった。トド・ミルコネンだったなたしか、君のお陰で我々の艦隊はさらに強化された。これだけあれば十分戦えそうだ」

「……あの~アグニカ様はこれからどうなさるおつもりで?」

「?質問の意味がいまいち理解しにくいが。要するに我々の目的を聞いているのか?さっきも言っただろうに、我々はこの腐った世界を浄化し世界のトップになる」

 トドは引きながらもそれを表には出さずにその場を後にしていく。同じ部屋で立ち尽くしていたイラクがアグニカに問う。

「あの男……生かしておくつもりか?」

「まさか……石動」

 石動は「はっ!」と言うとブリッジを出ていく、その間にアグニカはイラクにかつての失態を追求する。

「お前ほどの男がとんだ失態を犯したものだな」

 言葉の意味をいまいち理解できなかったイラクは表情を曇らせる。

「何の話だ?バルバトスを殺さなかったことは説明しただろ。あいつらを生かしておくことがお前を生き返らせるうえで必要だと感じたからだと……」

「そっちではない」

 アグニカのきっぱりとした否定にさらに首をかしげると、アグニカはため息を吐きながらあの日の真実を明かした。

「お前があの時エルフォン兄弟を殺さなかったばかりに俺はバルバトスに敗北してしまった」

 イラクは表情を一変させアグニカを怒鳴りつける。

「バカな!?あの時……厄祭戦の最終戦の時俺は確かにアガレスを倒した!」

「倒していない。お前が戦場を去った後アガレスは俺の元に姿を現し攻撃を仕掛けてきた。おかげでバルバトスに隙をつかれる結果になってしまった」

「じゃあ……エルフォンは……倒されたふりをして」

「お前を欺いたのだろうな。お前のミスだな……」

「ならエルフォンはあの後も……生きていた?」

「ああ……グリフォンとしてな。ビスケット・グリフォン。サブレ・グリフォン。多分エルフォンの子孫だろう。そして……エルフォンの生まれ変わりだ」

 イラクは驚きを隠せずにいた。

「生まれ変わりだと!?そんなふざけたことを信じろと言うのか!?」

「そう考えれば、あの二人が異様にエルフォン兄弟に似ている事に説明が付く。お前が彼らをちゃんと確認していれば先に殺すべきだったのはあの二人だった」

 イラクは悔しさに拳を握る。イラクの目は新しい標的を前に火をともす。

「……アガレスは俺に殺させてくれ」

「好きにすればいい」

 アグニカはイラクを決して止めようとしなかった。かつてのミスを……アグニカを救えなかった罪をここで贖うために彼はひたすら突き進む。

 トドは廊下を歩きながら一人こんなところに来てしまったことを後悔していた。正直に言ってしまえばまさかこんなことになっているとは思いもしなかった。

「くそ!まさかこんなことになっているとは……鉄華団に売り飛ばしちまえば……」

 発砲音が周囲に聞こえるとトドの左胸から血が滲み始める。トドは驚きながら後ろを振り向くと、石動が銃を構えておりトドは一歩一歩後ろに下がっていくと倒れてしまう。しかし、石動の後ろからアグニカが側にやってきた。

「アグニカ様、脳だけ取り出しリーダープルーマに乗せておきます」

 アグニカは逆らった士官を同じように脳をプルーマに乗せていた。石動とアグニカのすぐそばの窓でラファエルはモビルスーツタイプのプルーマを次々と作り出していた。

 

 カゲロウは静かに火星に到着した。すぐにを下し始める中ビスケット達はシャトルでおり始める。車で急いで鉄華団本部に到着するとその姿に驚きを隠せない。鉄華団本部は多くの人でにぎわっている。鉄華団関係者ではない者まで働いている。その光景にビスケットが驚きを隠せずにいると、遠くからユージンがビスケット達の姿を見付けると駆け寄って来た。

「お前ら帰って来たのか!?帰ってくるならそう言えよ」

「それは……それよりこの状況は?」

 ビスケットの疑問にユージンが答えてくれる。

「ああオルガがクリュセの連中に声をかけてな、なんでもファミリアに参加したい人たち全員に声をかけてな。今回の作戦に協力してくれた連中をファミリアに歓迎するというな」

 サブレは三日月を担ぎながら車から降りてくると、三日月はマイペースにサブレに告げた。

「サブレ、畑」

「はいはい」

 サブレはさほどこの状況に驚きもせず遠くで作業していたハッシュを三日月が呼び出す。

「ハッシュ。モビルワーカー」

 三日月の簡単な命令に忠実に動くハッシュは「はい!」と答えモビルワーカーに乗り込む。ビスケットはその間にユージンに連れられながら本部の中へと入ろうとするが本部から出てきたオルガとぶつかってしまう。

「っと。大丈夫か、ビスケット」

 オルガがビスケットに手をさし伸ばすと、ビスケットはオルガの手を受け取り、立ち上がる。

「大丈夫。それより……」

 ビスケットが口を開く前にユージンが尋ねた。

「オルガ、お前偉い人たちとの話し合いはもういいのか?」

「ああ、さっきようやく終わった。みんな協力してくれるってよ……っとそれよりなんだ?ビスケット、お前なんか俺に話があったようだが?」

「え?ああ……何でもない」

 口をつぐむビスケットに疑問を感じながらもオルガが一緒に歩いていくとライドが駆け足でそばまで寄ってくる。

「団長!アガレスとバルバトスが到着しました!重力テストを行いたいとのことです」

 オルガ達はライドと一緒にバルバトスとアガレスの元に辿り着く。ユージンは新たなバルバトスとアガレスの姿に見惚れてしまう。

「これが新しいバルバトスとアガレス……」

 バルバトスは両肩にスラスター付きのアーマーを付け、腰にダガーを二つ、太刀を背中に一つ、大型メイスを一つ両腕に強化200mm砲を二つ、腰にダガー付きシザーアンカーを付けていた。

 アガレスは背中のファンネルに両肩に腕を隠せるほどの長いアーマー、アーマーの中にはギャラルホルン式強化レールガンとレンチメイスと刀、腰にダガー付きシザーアンカーを付けていた。

「なんか、デザインがやけに角ばってるっていうか……ギャラルホルン式なのかね?」

「アガレスなんて完全に別物じゃねぇかよ……何だよ腕を隠すほどのアーマーは」

 ライドとユージンが各々の感想を述べてみると、アガレスたちの足元からゼムがやってくるが、誰かを探しているようだった。

「?サブレと三日月はどうしたんだ?重力下テストを行いたいんだが?」

 ビスケットは苦笑いを浮かべながら答えた。

「え~と……二人はその………畑に」

「畑?こんな時にか?」

 オルガとユージンも同様に苦笑いを浮かべる中、ゼムは別のガンダムフレームに向き直る。

「仕方ねぇ……テスト相手には同じガンダムフレームがいいからな。グシオンとフラウロスの調整でもしておくか」

「すまねぇ。すぐに戻ってこさせる」

 オルガが一言謝るとユージンに呼び戻させる。

 

 約三時間後。

 嫌々戻された三日月はサブレとビスケットと一緒に機体に乗り込む。

「今から畑仕事をしようと思ったのに……」

「畑仕事をしていたのも俺だし三日月は後ろから命令していただけだし……」

 三日月の不満にサブレが違う不満を述べる。そうしている間にグシオンとフラウロスの準備が完了していた。同時に他に昌弘とハッシュとライドの獅電もテストの手伝いの為起動した。

「え~っと俺達何をすればいいんすか?」

 ライドの疑問にゼムが代わりに答えた。

「アガレスとバルバトスと戦ってくれればいい。壊してもギャラルホルンで完全に修理してやる」

「だそうだ!思いっきり戦ってもいいそうだ!こわさねぇよぅにな!」

 シノと昭弘は武器を構えるとオルガの「始めろ!」という叫び声と共にグシオンとフラウロスが走り出す。同時に獅電も後方から援護射撃を行う。

「数が多くてテストになるといいな!」

「いらない心配」

 三日月はそう言うと同時にバルバトスを走らせる。今までと比べ物にならないほどの速度で走り出す、さすがに驚くが昭弘と昌弘とハッシュは冷静に状況を捉え、昭弘はレールガンでアガレスに攻撃を仕掛け、昌弘とハッシュの獅電は三日月の足止めに走る。しかし、アガレスはアーマーでレールガンを防ぎながらバルバトスの足元向けてレールガンを発射する。砂ぼこりで足元が見えなくなる中、バルバトスは大型メイスで獅電を吹き飛ばすと、メイスをグシオンめがけて投げつけるが、それをフラウロスが前に立ちメイスを上に吹き飛ばす。

「バルバトスの姿が見えなくなったな」

 シノはそんな愚痴を漏らすがそんな愚痴に答える前にアガレスがグシオンとフラウロスにレンチソードで切りかかるが、それをライドが妨害する。

「なかなかやるねライド!」

「ビスケットさんだけが訓練しているわけじゃないっすよ!」

「しゃべる暇がなくなるぐらいにくたくたにしてやるよ!」

「サブレさんには関係ないでしょ!?」

 アガレスは腰のシザーアンカーを後ろで立ち上がったハッシュと昌弘の獅電の腰に巻きつくとそのままライドの獅電にぶつけてしまう。

「「「うわぁ!」」」

 砂埃の中からバルバトスはアガレスめがけて走り出すと、フラウロスは射撃形態に変形する。

「どけ昭弘!」

 グシオンがその場から横に移動すると、フラウロスはバルバトスめがけてレールガンを発射するがアガレスは間に入ってバルバトスを守る。バルバトスはアガレスを踏み台にしてそのまま高くジャンプする。

「三日月!」

 アガレスは上から落ちてきた大型メイスをバルバトスへ蹴り上げる。バルバトスは大型メイスを受け取るとグシオンめがけて振り下ろすが、グシオンもハルバートで受け止める。アガレスはスラスターを上げてそのままフラウロスに突っ込んでいく。フラウロスも変形しアサルトナイフでレンチソードの攻撃を捌ききる。しかし、バルバトスの右目だけが赤く発光し、アガレスの両目が青く光りだす。とたん動きが変わってしまう。バルバトスはメイスを放り投げダガーを二本取り出すと連続でグシオンのハルバートを弾き飛ばしグシオンの喉元に突きつける。アガレスはレンチソードでアサルトナイフを吹き飛ばしてレールガンで足元を揺らし、その隙に喉元に突きつける。

「そこまで!」

 オルガの大きな声でテストは終了した。グシオンやフラウロス、獅電は鉄華団本部に収めるがコックピットから出てきたシノや昭弘達の表情はどこか暗かった。ヤマギがシノの元に行こうとするが近寄りがたい雰囲気がどこかにあった。ヤマギがそれでも近寄ろうとするがそれをユージンが止めた。

「止めとけヤマギ。正直いやぁ……明らかに三日月もサブレも手を抜いていた。ビスケットに関しちゃあただ乗っているだけの状態だ。あれじゃテストにならねぇ」

 その証拠に三日月とサブレ、ビスケットはいまだ二機だけで戦いを続けていた。

「二人にもプライドってもんがある。全力で戦ってそのうえで手を抜かれて、それでもテストにならなかったんだ。プライドが傷ついたというレベルじゃねぇ」

「シノ……」

 昌弘やライド、ハッシュもコックピットから降りてくる中、疲れ切った様子でその場で倒れてしまう。

「強すぎる……」

 シノと昭弘はそのまま並んで座り込む。言葉も出ないほどのショックを受けていた。するとゼムがそばまでやって来た。

「悔しいか?」

「悔しいっていうか……勝てるとは思わなかった。でも……あんなに力の差を思い知らされるなんて……」

「俺達の力がまるで役にたたなかった」

 シノと昭弘が同じような感想を抱いていた。役に立たなかった。それはそばで隠れてみていたガエリオも同じだった。勝てない、そう思い知らされる戦い。

「大幅な改修ができるわけじゃねぇが……装備やシステムの強化と安定化ならできるだろ。あいつらに勝てるわけじゃねぇが、もっと戦えるようにぐらいならなれる……どうする?」

 答えなど決まっていたゼムと共に強化が始まった。

 

 夜が更けっていく中ビスケットは鉄華団本部施設の屋上で一人座り込んでいるとビスケットのほっぺに冷たい何かが触れる。「うわぁ!?」と驚きながら後ろを振り向くと、そこにはオルガがドリンクを持っていた。オルガはビスケットの隣に座るとビスケットに飲み物を渡す。二人の間に沈黙が流れると、オルガが話を切り出した。

「なんか話があるんだろ?」

「……オルガ、俺ファミリア結成のごたごたが終わったらやめるよ鉄華団。マハラジャさんからいずれギャラルホルンの代表になってくれないかって言われたんだ。悩んだんだけどそれが鉄華団の為になるんじゃないかって、地球との太いパイプ役にもなれるし……ね」

 オルガは黙ってビスケットの話を聞いている。否定される、怒鳴られる、そう覚悟していたがオルガから帰って来た答えは意外なものだった。

「分かった。お前がそういう覚悟なら別にいい」

「……オルガどうして?」

 ビスケットの疑問にオルガははっきりとした声で答えた。

「さっきよ……昭弘からもファミリアが出来たら鉄華団をやめるって言われたんだ。お前たちとこれからも一緒に居たい……でも、俺のわがままでお前らを束縛は出来ねぇ。それにつねに一緒にいることが絶対にいい結果を生むわけじゃねぇ……だから俺はお前らの帰って来るこの場所をいつまでも守っていく。お前らがつらいって感じたとき……いつでも帰ってこい。俺はここでいつまでも待ってる」

「オルガ……」

 ビスケットがそうつぶやくと下から大きな声が聞こえてくる。

「お~い!!お前ら!そこで何やってるんだよ!」

 オルガがビスケットの背中を叩き立ち上がらせる。二人が下へ降りるとクッキーとクラッカがビスケットの側にやって来た。

「クッキー?クラッカ?どうしてここに!?」

「あのね!おばあちゃんと一緒にみんなのお手伝いに来たの!」

 ビスケットは焦ってしまう。

「だ、ダメだよ!ここは危ないんだ!」

「知ってるよ!だからってお兄だけを戦わせられないもん!私達だって何かできる!」

「お兄ちゃん達を支えることぐらいできるよ!それに!」

 アガレスとバルバトスの周りで多くの子供達がはしゃいでいた。

「ねぇ!これなんて名前?」

 近くで整備をしていた雪之丞に子供が尋ねると雪之丞は子供たちに教えてくれた。

「こっちがバルバトスフルアーマーつうんだ。で、こっちがアガレスフルアーマーだ。どうだ?かっこいいだろ?」

 子供たちは「うん!」とはしゃいでいるとクッキーとクラッカが子供達の元に駆け寄っていく。桜はビスケットに話しかける。

「あの子達なりにあんたたちの力になりたいのさ。認めなよ……あの子達はあんたが思ってるほど子供じゃない」

 ビスケットは黙ってうなずくとオルガと一緒に周囲を見回す。夜中だというのに周囲にいる人々は明るくみんなが脅威に対して団結していく。

 団結する者達が集まりいつまでも明るく光っていた。

 

 アルベルトはカゲロウのブリッジで一つの反応をアリアドネが捉えていた。

「アルベルト様……これは」

「ついに現れたか……接触まであとどれくらいだ?」

「あと……約24時間」

 脅威が火星にたどり着くまですぐそこまでやってきていた。




どうだったでしょうか?今回の予告はアグニカです。
アグニカ・カイエル「満月……エルフォン……お前たちが俺の道に立ちはだかるならお前たちごと蹴散らすまでだ!俺の為に死んでいった者達の為にも必ずこの世界を浄化して見せる!次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ『三百年の因縁』」


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三百年の因縁

いよいよ最終決戦です!


 アーレスでは現在鉄華団とテイワズ、ギャラルホルンの人々が決戦の為の準備を行っており、ゼムの怒鳴り声などが周囲を満たしており、整備をしている間に三日月はアーレスの窓から革命軍がやってくる方向を眺めていた。すると、クーデリアがそばにやって来た。

「三日月……怖くありませんか?」

 クーデリアは心配そうな顔をすると三日月には質問の意図がいまいち伝わらなかったらしく「別に……何で?」と淡白に答えると、クーデリアは三日月の隣に座ると三日月の方に顔を載せる。

「私は怖いのです……帰ってきてくださいね。三日月」

 三日月は「うん」と答え一緒に遠くを眺める。

 ビスケットはアトラと一緒にアーレスの食堂で簡単な調理をしていると、ふいにアトラは仕事の手を止める。ビスケットは手を止めるアトラが気になり尋ねる。

「どうしたの?アトラ?」

「昔ね……島での脱出戦の時。私……ビスケットが死んじゃうんじゃないかなって思ったんだ。そう思ったらとても怖かった……帰ってきてね?」

 涙目でビスケットをジーっと見つめるアトラを、ビスケットは覚悟を決めた顔になると、アトラに唇を重ねる。驚くアトラはそっと目を閉じて沈黙が流れる。唇が離れると二人は笑顔で離れる。

 昭弘がイサリビ内で筋トレをしていると、部屋のドアが開きラフタが呆れ顔で立ち尽くしていた。

「昭弘……あと少しで戦闘が始まるって時に……変わんないわね」

「……何の……話……だ?」

 筋トレをしながら答える昭弘にラフタが笑顔で近づいている。昭弘は筋トレをやめて立ち上がる。

「もうすぐ戦闘ね……」

「ああ……そうだな。それがどうした?」

「……あのね」

 ラフタが言いにくそうにしていると、昭弘がそれを遮る様に声を発する。

「俺の背中はお前に任せる」

 ぶっきらぼうな言葉にラフタは笑顔で応える。

 サブレはアガレスのコックピットで座り込んでいるとジュリエッタがその場に姿を現した。

「もう少しで革命軍が姿を現すそうです」

「らしいな……」

 ジュリエッタはサブレの隣に座るとサブレの肩に顔を載せる。

「どうしたんだ?突然……火星に降りることすらやめたのに……」

「いえ……あなたの妹さんになんて挨拶をしたらいいのか分からなくて……」

 ジュリエッタの答えにサブレは少しだけ笑ってしまうが、ジュリエッタはムスっと表情を変える。

「悪い……別に普通に挨拶すればいいんだと思うけどな。なんなら俺から挨拶してやるよ、これの彼女ですって。俺の婚約者ですってな」

「そういうことを言うのなら私が自分であいさつします」

「なら……戦いが終わったらすぐに挨拶に行こう」

「……はい!」

 いい返事が返って来た。

 

 アーレスから離れたところで戦火が開かれた。カゲロウはアーレスで待機状態になっていた。アルベルトは部下に戦場の状況を尋ねた。

「戦場の状況と敵の現在位置を」

「敵は採掘衛星を拠点に革命軍はモビルスーツを展開しております。敵は二手に分かれて活動しており、鉄華団とテイワズ混成軍とギャラルホルンの部隊がそれぞれの革命軍を相手に戦っております」

 アルベルトは口元に手を置き「ふむ」と考え込む。ひっかかってしまうが、正面の画面にゼムの顔が映る。

「最終検査終了。バルバトス、アガレス出撃態勢が整ったぞ。強化外装『フルアーマー』も使えるようになっている」

「ならすぐにでも出撃させろ」

 アルベルトがそう指示を出すと、まずアガレスがカタパルトデッキに移動する。

「ガンダムアガレスフルアーマー、サブレ・グリフォン。ビスケット・グリフォン。出るぞ!」

 アガレスが出撃すると、今度はバルバトスがカタパルトデッキに移動する。

「ガンダムバルバトスフルアーマー、三日月・オーガス出るよ」

 バルバトスとアガレスが出てくると、カゲロウの外装に拘束アームで捕まえている大きな装備がアルベルトの指示で解除する。

「強化外装『フルアーマー』の拘束解除!」

 四つの大きなタンクと四つの大きな剣を持ったアーマーがつけられた強化外装がカゲロウから切り離されていく。二つの強化外装の中心が開くとそこにバルバトスとアガレスが入っていく。ガンダムフレームのエイハブリアクターに強化外装が接続する。強化外装のブースターに火が付き高速で戦場に向かい始める。

 

 グシオンの一撃がモビルスーツタイプのプルーマの頭部をコックピットごと破壊する。しかし、息をつく前にグシオンの後ろからプルーマが剣を振り下ろす。それをラフタが剣でカバーに入る。

「昭弘!昌弘が……」

「チャド!昌弘のサポートに入ってくれ!」

 チャドは「分かった」と機体を走らせて三機のプルーマに囲まれた昌弘のピンチにチャドの斧がプルーマの頭部を破壊する。

「昌弘!こっちだ」

「は、はい」

 昌弘を連れて離れていくと、今度はハッシュのピンチにアジーの辟邪が入ってくる。予想以上にプルーマの数が多く、苦戦を強いられている鉄華団テイワズ混成軍に比べギャラルホルンの方はまだ戦力上敵と互角の戦いができている。

「ギャラルホルンの方は苦戦していないみたいだけど……でも、ギャラルホルンが全戦力を傾けてくれればな……」

 ラフタのそんな愚痴をアジーが否定する。

「仕方ないよ……革命軍が地球に向かう可能性を考えなくちゃいけないだろうからね。それにアリアンロッドとの戦いのあとで地球圏がごたついているわけだし、この戦いだけに戦力をつぎ込むわけにはいかないさ……」

 チャドと昌弘のライフルが弾切れを起こしてしまうと昭弘は二人に指示を出す。

「チャド、昌弘は補給に戻れ!アジーさん!ハッシュと一緒に昌弘とチャドの代わりを」

「了解。ハッシュ行くよ」

 チャドと昌弘が引き、アジーとハッシュが前に出るが入れ変わりの隙にプルーマがアジーの前に辿り着く、アジーが反応しようとするが間に合わない。

「アジー!」

 ラフタが機体を走らせようとするが、それより早くダインスレイヴの一撃がプルーマを吹き飛ばした。その瞬間にアジーやラフタ、昭弘はともかくエンビ達も誰が姿を現したのか分かった。その瞬間にハッシュがさけぶ。

「サブレ隊長!三日月さん!ビスケット団長代行!」

 強化外装を付けたバルバトスとアガレスが戦場を突き抜ける。バルバトスとアガレスはタンクから大量の小型ナパーム弾を周囲にまき散らす。

「三日月!ギャラルホルンの方に向かってくれ!」

「了解」

 三日月はそのままバルバトスをギャラルホルンのモビルスーツ隊へ向けて走り出す。アガレスは四つの剣を振り回し、ガトリングやナパーム弾を使用してプルーマを次々と破壊する。そして三日月はギャラルホルンのモビルスーツへ援護を開始した。

「こっちは大丈夫?」

 三日月はジュリエッタの方に言葉を発すると、ジュリエッタは「大丈夫です」と答えるがジュリエッタは一つ疑問を感じていた。

(どうして敵は持久戦に持ち込もうと?)

 その疑問はアルベルト自身も同じだった。

(持久戦をすること自体に敵はメリットがないはず……敵が持久戦を仕掛けてくる理由はなんだ?モビルスーツ隊を二分する意味、そこに答えがあるのか?)

 そう考えていると、プルーマ相手に押し続ける中、エンビとエルガーは二人で戦っていると、エンビのコックピットにイラクの乗るゼパルのアサルトナイフが深々と突き刺さる。エルガーは驚きを隠せず咄嗟に叫ぶ。

「エ、エンビィィィ!!よくもエンビを!!」

「どうやって!?固有周波数は観測されてないのに」

「固有周波数を隠すことができるという事か?」

 冷静さを失ったエルガーは剣を抜き、ゼパルに切りかかろうとする。しかし、それを止めるためにビスケットが叫び声をあげる。

「ダメだ!エルガー!そいつは!!」

 しかし、そんな制止はエルガーには通用せず、エルガーの剣を腕ごと切り落とし、ゼパルは涙を流しているエルガーのコックピットに突き刺す。

「くそ!」

 昭弘が悔しそうにしていると、サブレはアガレスの軌道をゼパルに向ける。ゼパルはアジーの乗る辟邪へ攻撃を仕掛けるが、それをタービンズの女性パイロットが盾となってしまう。

「イラク!!」

「ようやくお前を殺せるなぁ!サントノーレェェ!コロンビエェェ!三百年の因縁に決着を付けようじゃないかぁ!!お前を殺したくて仕方がないんだよぉ!」

「イラクゥゥ!」

 アガレスはゼパルに切りかかるが、ゼパルは攻撃を回避しそして四つあるタンクの一つを切り刻む。アガレスがバランスを崩れるが瞬間に態勢を整えタンクのレールガンで応戦する。

「無駄ぁ!無駄ぁ!」

「だったら!」

 二人がひたすら戦っている間に陣形を大きく崩された混成軍はプルーマの大群に飲み込まれそうになる。その姿を見ていた三日月が応援に行こうとするが、それを石動が妨害に入る。

「行かせない。君はここでおとなしくしていてもらう」

「邪魔だな……あんた!」

 石動は三日月の周囲を飛び回りながら時間を稼ごうとすると三日月は大きな声を発する。

「サブレのところの応援に!」

「分かっています!」

 ジュリエッタは言う前にそのまま機体を走らせて、サブレの元にまっすぐ走っていく。しかし、その瞬間に三日月は妙なデブリの動きを見た。まるで二つに分けたモビルスーツ隊の間を通り抜けるように動くそのデブリに三日月は反応する。

(さっきのゼパルと言い、この石動とかいう男と言い……)

 三日月が一人で悩んでいると脳裏に満月の言葉が聞こえてきた。

「三日月・オーガス!気づけ!明らかにモビルスーツ隊を大きく分断している理由も、明らかな持久戦に持ち込もうとしていることもだ。まるで分断しているモビルスーツ隊の間を大きく開けていくのもだ。あれだけの隙間ならモビルアーマーが通るなら簡単だ」

 三日月がデブリに向かって機体を走らせるが、それを石動が妨害するがその行為が三日月の怒りを買った。

「あんた……邪魔だ!!」

 剣で石動の機体を切り裂こうとするが、石動はギリギリで回避するが今度はナパーム弾とレールガンが石動を襲い身動きが取れない中大きな剣が石動のコックピットを切り裂いた。そのまま三日月はデブリに向けて機体を走らせた。

 デブリに隠れているアグニカはデブリの前を通っているジュリエッタの姿を見付けた。

「……ラファエル。落とせ」

 ラファエルが命令通りに攻撃態勢を作ろうとするが、それを三日月のナパーム弾が視界をふさいだ。

「っち!石動を振り切って来たのか?それともやられたか。ラファエル!相手にするな!」

 ラファエルはデブリへの擬態を解くと、スピードを上げて火星への降下準備に入る。三日月は降下前に叩こうとするがプルーマが数機三日月の妨害に入る。

 ゼパルとアガレスが何度ともなくぶつかる中、ゼパルはフルアーマーの二つ目のタンクを落とす。

「くそ!またやられた」

「ファンネル!昭弘たちの援護を!」

 ビスケットはファンネルを射出して、そのまま昭弘達の援護に入る。ファンネルが飛び回り陣形を大きく崩された混成軍は何とか元通りの態勢に戻す。しかし、プルーマの一機がハッシュの獅電の右腕を切り落とす。

「し、しまった」

「ハッシュ!」

 再び斧を振り上げるプルーマにハッシュは回避が間に合わず、サブレも隙をつかれて三つ目のタンクが火を噴く。サブレはナパーム弾を射出してゼパルに攻撃を加える。ハッシュは左腕で攻撃をそらすが、コックピット内が軽く火花が散り、ハッシュは気を失ってしまう。プルーマはまた斧を振り上げて、止めを差そうとするがそれをジュリエッタが妨害に入った。ジュリアンソードでプルーマを切り刻む。そして、その隙にハッシュをアジーが回収する。

「ハッシュ!しっかりしな!」

「師匠!俺とチャドさんと昌弘が代わりに入ります!ハッシュを!」

「すまない!」

 アジーは傷ついたハッシュを連れて前線から離れていくと、代わりにライド達がプルーマ相手に善戦を始める。少しづつ駆逐を始めていく混成軍。

「昭弘!私達も一旦補給に戻りましょ」

「……サブレ!任せる!」

 ラフタと昭弘は前線から姿を消し、アガレスは大気圏に突破しようとするラファエルとラファエルの背中に乗っているバエルを発見した。そして追いかける三日月が強化外装にとりついたプルーマに苦戦しながら降りようとしている姿だった。

「三日月!」

「今は三日月に任せるぞ!」

「他を見ている暇があるのかぁ!?サントノーレェ!コロンビエェ!」

「誰の名前を叫んでいるんだ!」

 アガレスは強化外装を脱ぎレンチソードを抜いてゼパルに向けて振り下ろす。ゼパルは大剣で受け止め弾く。ゼパルはアガレスを引きつけながら資源衛星に向けて走っていく。

 

 ラファエルはギャラルホルン火星基地に降り立つと、周囲を破壊していき、プルーマの多くを建造する。

「ラファエル。お前はこのまま鉄華団と戦いながら敵をひきつけてクリュセへ向かえ。俺は鉄華団を回避しながらクリュセに向かう」

 ラファエルは大きな声を上げながら少数のプルーマを連れて渓谷へ入っていく。

 バエルはそのまま渓谷とは別方向へ向かって移動を始めており、広い荒野を移動しているとバエルの正面にガエリオの乗るキマリスヴィダールが立ちふさがる。

「なるほど……俺がここを通ると理解していたということか?それとも、単純な勘かな?」

「勘……だな」

 キマリスはランスを構え、バエルは握り拳を作る。

「友の体を返してもらう!」

「お前が俺に勝てるわけがなないだろう」

 二人は攻撃を開始した。

 

 渓谷の奥でオルガは鉄華団のジャケットに着こむとメリビットが宇宙からの報告を聞き、オルガとユージンに伝える。

「団長、副団長。エンビ君とエルガー君が戦死。他の鉄華団メンバーにも犠牲が……」

 ユージンは悔しそうな表情になり、オルガは真剣な表情を崩さない。

「あいつらの死を無駄には出来ねぇ。ラファエルの進路は?」

「今のところは予想通りの進路を通っています。ですが……前の時のように予想外の進路を通る可能性があります」

 オルガの目の前にはこの辺り一帯の地図が広がっていた。

「今のところ団長の指示通りに、厄祭戦時に使われていた通路に部隊を配置しております」

「敵は前のモビルアーマーと同じ道を通ってんのか?」

「今のところは……」

 ユージンの質問にメリビットが答えた。オルガが専用の白い獅電に乗り込もうとするが、それをユージンに止める。

「待てオルガ!団長が戦わせるわけにはいかねぇよ」

 代わりにユージンが乗り込んでしまう。オルガは「ユージン」と名を呼び、ユージンは機体を起こす。そしてそのまま前線に向かって移動を始める。

 ダンテの部隊がギャラルホルンと同じようにラファエル相手に苦戦を強いられていた。ラファエルは翼の中からテイルブレードが飛び出しモビルスーツ群を一気に薙ぎ払う。

「やばいだろ!前のモビルアーマーとは比較にならないじゃねぇか」

 プルーマは流れ込むようにラファエルの修理をおこなっていた。何とかプルーマとラファエルを分断しようと奮闘するが、プルーマとラファエルは常に一緒に行動しており、分断は難しかった。後方にユージンが姿を現す。

 

「まだかよ!?おやっさん」

 シノは鉄華団本部で未だに調整をしているフラウロスのコックピットで待機していた。雪之丞は背中に取り付けた大型ダインスレイヴを抱えていた。

「仕方ねぇだろ!それに外したら作戦は終わりなんだぞ?」

「分かってっけどよぉ……」

 隣では通常の獅電が待機状態で待っていた、すると奥からヤマギがいつでも出撃状態になっていた。

「本当にヤマギもでんのか?」

「別に戦うわけじゃないよ……ギャラルホルンが持ってきた大型ダインスレイヴはガンダムフレームでも難しいんだ。ギャラルホルンのモビルスーツたちがシノの代わりの目になる。そして獅電でフラウロスのサポートをするだけ。機体と機体をケーブルでつなげる。ガンダムフレームで直接ラファエルを見るわけにはいかないし……」

「……戦うなよ」

 シノのそんな言葉にヤマギはまじめに答えた。

「分かってるよ」

 

 キマリスはランスでバエルの右腕を破壊しようとするが、バエルはランスを上に蹴り飛ばす。蹴り飛ばした隙にキマリスはドリルニーで左足を壊そうとするが、左足で踏んで破壊する。そして、そのままキマリスのドリルニーを手に取り、キマリスのコックピットを突き刺そうとするが、それをキマリスはギリギリで回避し、ドリルニーは右肩をもぎ取る。

「マクギリス!自分を取り戻せ!アルミリアはお前の帰りを待っているんだぞ!」

「無駄だと言っているだろう!お前の言葉は届かないし、弱いお前の実力で、殺す覚悟もないお前の力では俺を倒すことすらできない!」

「黙れ!俺は……それでもあきらめない!」

 ランスがキマリスの後方に突き刺さり、キマリスは刀を左腕で取り出し、そのまま切りかかるが、バエルはその攻撃を受け止める。そして、蹴り飛ばしバエルはランスを取り出し突き刺そうとする。しかし、そのランスがキマリスにあたることは無かった。三日月の「邪魔」という声と共にキマリスと蹴り飛ばす。ランスの一撃を受け止める。

「み、三日月・オーガス」

「満月とその子孫か」

「こいつ……もらうよ」

 バルバトスとバエルは互いににらみ合う。

 

 資源衛星に辿り着くとゼパルは衛星の表面に辿り着く。イラクはアガレスの方を向くとサブレとビスケットも同じようにゼパルの方をまっすぐに向く。

「イラク・イシュー……あんた、さっき言ったよな。俺たちの事をサントノーレ、コロンビエっと」

「お前たちはサントノーレとコロンビエの生まれ変わりだそうだ。だから俺はお前たちを殺したい」

 イラクのまっすぐな殺意を受けビスケットは多少たじろぐ。

「お、俺たちが生まれ変わり?」

「ああ、顔を見せろ」

 互いに顔を画面に映すと、イラクは怒りに満ちた表情に変わっていく。

「ああ~!!憎い!お前たちは確かに似ている!似すぎている!お前たちの所為でかつての俺の夢はついえた!」

 サブレはそっと目を伏せ考えを巡らせる。

「俺達がその兄弟の生まれ変わりなのかもしれないな。俺はお前と初めて会った時他人の気がしなかった。お前を知っている気がした。お前が何か嘘をついているような気がした。だからこそ……俺たちはお前を止めたいんだ!!」

「俺も同じ思いだよ……イラク!」

「なら……止めてみろ!!」

 三人はお互いの名を叫びながらぶつかり合う。

「「イラクゥゥ!!」」

「サントノーレェェ!!コロンビエェェ!!」

 今三百年の因縁の決着を付けようとしていた。




どうだったでしょうか?面白いと言っていただけたら幸いです。今回でキャラクターの次回予告は最後です。
サブレ・グリフォン「今思えば……あの時鉄華団と出会わなければここまで来れなかった。辛いこともあったけれど、楽しかった。イラクを止める。その思いに偽りはない。兄さんと俺であいつを絶対に止める!次回機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ『彼らの本当の居場所』」


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彼等の本当の居場所

いよいよ戦いも終わりになります。誰が生き残り、誰が死んでしまうのか、楽しみにしていてください。


 火星の荒野でバエルとバルバトスが互いに対峙し、キマリスは傷ついた機体を端の方に置きこれから始まる戦いを見届けようとしていた。

 先に動いたのはバルバトスで、両手で大型メイスを振り下ろすがバエルはそれを右足で攻撃軌道を逸らす。攻撃を逸らした直後にバエルソードの一本でバルバトスの右腕を切り裂こうとするがバルバトスは大型メイスを手放し、腰のダガーで攻撃を受け止めた。

「やるね、あんた」

「君もそうだろう?」

 バルバトスは疑似阿頼耶識を開放し、攻撃を弾き飛ばしシザーアンカーをバエルの腰に向けて飛ばすがバエルはシザーアンカーをつかんでバルバトスを引き寄せる。

「やば」

 ダガーを腰に収め、太刀をバルバトスはバエルに向けて振り下ろす。バエルはシザーアンカーを手放しバエルソードで受け止める。

「引き寄せながらも攻撃ができるとは思わなかったよ……さすがはお前の子孫だな満月」

「アグニカ、今更だが。考えを改めるつもりはないか?力づくで作り上げた世界が真っ当な世界になるとは思えない」

「……満月。俺はな、この世界が嫌いなんだよ。汚い大人たちは自分の私腹を足すことしか考えず、そんな大人の子供が大人になっていく。間違った世界を作る大人の子供は間違った世界を続けることしかないんだよ」

「お前がその世界を作り上げようとしているんだよ。お前が間違った世界を作ろうとしているんだよ」

「では、三日月・オーガス。君はこの世界をどう思う?君は汚い大人を知っているだろう?そういう大人達の元にいただろう?」

 三日月が思い出した大人は一軍の大人たち、マルバ・アーケイ、ジャスレイ・ドノミコノスだった。しかし、その直後に名瀬・タービン、アミダ・アルカ、マハラジャ・ダースリン、蒔苗東吾ノ介を思い出す。

「確かにそうかもしれないけど、そうじゃない大人だっているから。俺たちはそれを知っているから」

「そうか……分かり合えないなら戦うしかないな」

 バエルは阿頼耶識システムを開放し、バエルの両目が真っ赤に光る。

「来い!満月ぅ!三日月・オーガスゥ!」

「あんたは俺が止める」

 太刀とダガーを構えるバルバトスとバエルソードを構える。

 

 二本のレンチソードをほとんど同時に振り下ろすアガレスにゼパルは大剣で攻撃を受け止める。

「この世界は汚れ切っているんだよ!お前はこんな世界で何を信じる!どうしてお前は信じている!?」

 イラクのそんな叫びをサブレが怒鳴り声で返す。

「汚い世界を壊してできるお前の作った世界は同じ汚い世界なんだよ!」

 続いてビスケットも同じように叫び声をあげる。

「あなただって本当は分かっているんじゃないんですか!?この世界はまだ救うことができるはずなんだ!」

 ゼパルは大剣でレンチソードを上に打ち上げようとするが、アガレスはシザーアンカーで大剣をつかみ両手に巻き付ける。しかし、ゼパルは大剣の中に隠してあったレールガンでシザーアンカーを強引に外そうと銃口を向ける。レールガンの攻撃がシザーアンカーを引きちぎる。アガレスは蹴り飛ばし、ファンネルをレンチソードに組み合わせて大剣に形態を変化する。ゼパルは大剣を振り下ろしアガレスはそれを一歩引いて回避しアガレスは大剣を振り下ろす。しかし、ゼパルは蹴りで攻撃をそらす。

「この世界はいまだに汚いままだ。この世界の中で三百年生きてきたが全く変わらなかった。マクギリスやお前たちはこの世界の犠牲者だ。だからこそこの世界は壊さなければならない」

 イラクの言葉にビスケットが反応した。

「この世界は壊さなければならないなんて俺は思わない。壊さなくてもいいはずなんだ。この世界だって汚いことばかりの大人ばかりじゃない!」

 ビスケットの言葉にサブレが共感するように言葉を発する。

「俺たちはこの世界を変えていくことができる。そういう風に道を作ってくれる大人だっているんだよ。お前はこの世界を憎んでいるだけだ。この世界を憎しみをもって破壊しようとしているだけだ!」

「それの何が悪い!この世界は壊さなければならない!この世界は俺たちの仲間を犠牲にしている世界なんて存在する意味がないだろぉ!」

 イラクは表情をゆがませてしまう。それでもサブレはイラクの考えを否定する。

「仲間を犠牲にした世界?仲間はお前に犠牲にしたと言われたくないはずだ!」

「俺達を裏切ったお前に何が分かる!?」

 ゼパルは大剣を振り上げるとアガレスはそれをぎりぎりで回避する。しかし、ゼパルは右足でアガレスを吹き飛ばすとアガレスは膝をつき態勢を何とか整える。ゼパルはレンチソードの一つを吹き飛ばし、アガレスのコックピットに攻撃を向ける。

 

 渓谷で暴れていたラファエルはテイルブレードでモビルスーツ群を薙ぎ払い、確実にクリュセへと近づいていく。ダンテは焦り後退しながら戦っていく。

「やばくなってきた奴は一旦下がれ!」

 ユージンがそう叫ぶとダンテは部隊をいったん下げるが、ラファエルは人型形態に変形すると、背中の翼アーマーからレールガンの乱れ撃ちしはじめると、ギャラルホルンのモビルスーツ隊に犠牲者が出始める。

「ユージン!前線はどうなってる?」

「やばいかもしれねぇよ」

 ラファエルは右足でモビルスーツを蹴り飛ばす。ラファエルが一歩、一歩前へ歩いていく。ダンテはユージンの前に立ちふさがりライフルで攻撃を仕掛ける。ダンテはユージンに叫ぶ。

「ユージン!ここは一旦引いた方がいい」

「できるわけがねぇだろ!引いたらこのままクリュセに向かわせちまうだろ!」

 ユージンに対してオルガが意見をだす。

「今そっちにシノが向かってる!もう少しだけ持たせてくれ!」

「分かってんよ!」

 少しずつ引いていくと、ユージンに向けてラファエルは右腕で薙ぎ払おうとするが、ダンテがそれを庇う。右腕に吹き飛ばされたダンテのランドマン・ロディは軽く渓谷の壁に吹き飛ぶ。グシャッという音と共にコックピットから血が噴き出す。ユージンは獅電のコックピットから悲鳴を上げる。

「ダンテェェ!」

「ユージン!無事なのか?」

 シノが渓谷の鉄華団本部からラファエルの間に姿を現した。流星号のコックピットからつながるケーブルは隣で一緒に移動している獅電につながっていた。

「シノ!ダンテが!」

 流星号のコックピットは獅電からの3Ⅾ情報を脳内に投影していた。これはギャラルホルンが考えたガンダム・フレーム用の対モビルアーマー用の方法だった。

「ダンテがどうした?」

「ダンテのモビルスーツが渓谷の壁にめり込んでる、コックピットから……血が……」

「く、くそが!」

 流星号が形態を変形させる。背中に大型ダインスレイヴ二丁を構える。

「くらえ!!スーパーギャラクシーキャノン!」

 流星号から射出された大型ダインスレイヴの攻撃がラファエルの胸を貫いていく。崩れるラファエルにシノがさけぶ。

「さっさと倒れちまえよ!」

 ラファエルはレールガンを流星号に向けて射出するが、それをヤマギが体を張って庇う。

「ヤマギ!?」

 ヤマギの獅電から情報が途切れてしまう。ラファエルはよろよろとしながら立ち上がった。

 

 ジュリエッタはプルーマを倒していきながら視線をアガレスへと向ける。

 アガレスは左腕が吹き飛んでいく。アガレスはレンチソードでゼパルの右足を引き裂くと、ゼパルはカウンターでコックピットの外壁を破壊する。サブレとビスケットはバイザーを下す。アガレスのレンチソードをゼパルは大剣で破壊する。

「これでお前の戦う手段がなくなったな!?」

「まだあるさ!」

 吹き飛んだレンチソードからファンネルが飛んでくると、右腕でファンネルを受け止める。ファンネルで大剣を持っている腕のうち左腕を切り裂いていく。ゼパルは右腕だけで大剣を薙ぎ払う。

「ファンネルを武器とするか!?だから嫌いなんだよ!」

「お前だって本当は分かっているんじゃないのか!?仲間が本当に望んでいたことが一緒にいることだったってことが!?」

「それをお前が語るのか!?」

「サブレの言う通りだ!復讐を望んでいると思うんですか!?」

 ビスケットの言葉を受け、イラクは大きな声で叫ぶ。

「それをお前達が言うのかぁぁ!!俺達を裏切ったお前が!!」

「お前がアグニカをそそのかしたからだろうが!!」

 サブレの叫び声と共にアガレスはファンネルでゼパルのコックピットの外壁を破壊する。イラクもバイザーを下し、表情をさらにゆがませる。大剣を振り下ろそうとするが、アガレスはファンネルで受け止めようとするが、ファンネルが壊れてしまう。ビスケットはファンネルを全てゼパルに向けるが、ゼパルはファンネルは受けながらも大剣を振り下ろすとすると、アガレスは肩アーマーの中に隠してあった太刀を抜くとコックピットに振り下ろそうとする。大剣はコックピットにあたることは無く、アガレスの左肩を破壊するが、アガレスの太刀は根元から折れているが太刀はそのままコックピットと突き抜け、後ろの脳を破壊した。アガレスは静かにゼパルを受け止める。

 サブレとビスケットは涙を流していた。二人はどうして涙を流しているのか自分で理解していなかった。

「なんで?どうしてなんですか?あなたはどうしてこんなことを……」

「……俺にとってアグニカは全てだった……どんな苦しい道でもあいつの道なら楽しめた。それはお前たちも同じだったんじゃないのか?」

 イラクの問いにサブレは代わりに答えた。

「そうかもしれない……でも、お前は本当はアグニカに全てを背負わせたことに責任を感じていたんじゃないのか?」

「……かも………し……れな……いな」

 イラクは静かに息を引き取った。ジュリエッタは静かに近づいてくる。

「大丈夫ですか?」

「ジュリエッタ。頼みがある!」

 サブレはジュリエッタに一つを頼み込む中、アガレスのコックピットは緊急ハッチが閉じていた。

 

「三日月!蹴りつけようとしていると」

 バルバトスはバエルの蹴りを受け止める。バルバトスはダガーでバエルに切りつける。

「お前たちはこの世界をどうする?どうやって正す?」

 バエルはダガーの攻撃をバエルソードで受け止める。バエルはバルバトスの頭にぶつけ合う。

「別に……みんなで考えていけばいいから」

「三日月・オーガス。君はイラクに似ているな。君は自分で考えることがあるのか?そういうことは……いや、やめておこう。俺が言うなということになるからな」

 バルバトスは太刀を振り下ろし、バエルはバエルソードで攻撃を受け流すが、バルバトスはダガーで攻撃を続ける。バエルはバエルソードで切りつけるが、バルバトスはシザーアンカーを腕を拘束すると、バエルはもう一つのバエルソードでシザーアンカーを切り裂く。

「アグニカ……今更お前のやることに文句を言うわけでないが……これだけは言わせてくれ……俺はお前を止めたい」

「俺はお前たちを殺したい」

 アグニカはバエルソードで何度も切りつけると、バルバトスはバエルソードの攻撃で右足に刺さってしまうが、バルバトスはバエルソードを折ってしまう。バルバトスは太刀を振り下ろしてしまうと、バエルは回避しきれずバエルの左足に突き刺さる。

「俺は……何をしているんだ?こんなところで眺めているだけなのか?」

 ガエリオはもう一度やる気を取り戻し、キマリスを立ち上がらせると左足を負傷したバエルにとりつこうとする。

「!?なんのつもりだ!」

「今のうちだ!三日月・オーガス!」

 ガエリオの叫び声に答えるようにバルバトスはバエルに組み付き、コックピットから伸びたケーブルをバエルのコックピットの後ろに突き刺す。

 三日月は真っ黒な空間の中で満月と話をしていた。

「行くわけ?」

「ああ、アグニカと一緒にな」

 三日月は満月がこうなることをどこかで理解していた。

「これでいいの?」

「いいんだよ。長く生き過ぎたぐらいだ。一つ、君に言っておこう」

「?」

 三日月は首を傾げつつ満月の言葉に答える。

「俺やイラクのようにオルガ・イツカに頼り切るようなことはしないでくれ。君がオルガを一方的に頼れば頼るほどオルガ・イツカは追い詰めていく。それは君は分かっているだろう?」

「……まあね。よくビスケットに言われたから」

「俺やイラクのようになってほしくないし、君の道を君の意思で歩いて行ってほしい。夢を追いかけてほしい。君ならできるさ……な?」

「分かった。じゃあね」

 満月は黙ってその場から姿を消していく。

 アグニカの目の前に満月が姿を現すと、アグニカはどこか面白くなさそうな表情になる。

「なんのつもりだ?」

「?一緒に死んでやろうと思ってな」

「俺はお前と死んでやるつもりはない」

 満月は苦笑いを浮かべると、それでも引くつもりもなかった。

「すまなかった。お前に全てを押し付けた」

「今更なんだ?お前たちが俺に全てを押し付けていたのは今更だろう!俺はお前達の期待に答えようとした!なら俺はイラクの期待に答えなくてはいけないだろう!?」

「だったらこれからは彼らに任せてみないか?」

「……彼らが俺達の遺志を受け継いでくれるのか?」

「信じてみないか?彼らは俺達と同じ鉄血のオルフェンズだ。彼らは俺達と違って正しく導いてくれる大人がいる。信じよう?」

 アグニカはため息を吐き、満月は微笑む。

「全く……イラクの説得はお前に任せるぞ。俺はめんどくさいからな……あいつの説得は……」

「任せておけ、後はサントノーレとコロンビエに任せよう。あいつらならうまくやるさ。俺達と違い頭を使うタイプだからな」

 アグニカも微笑んでいるのを満月は軽く驚く。しかし、それでも満月は微笑む。

「さあ……行こうか?」

 

「ヤマギ!?」

「大丈夫……それより……」

 シノはもう一度照準を構える。もう一度ヤマギの獅電と情報が共有される。もう一度引き金を引く、スーパーギャラクシーキャノンはもう一度ラファエルの体を貫く。

「や、やったか!?」

 ユージンの言葉に反応したように翼のアーマーからレールガンで正面のモビルスーツ隊を吹き飛ばす。ユージンが盾で攻撃を防ぐと銃で反撃すると、ラファエルはテールブレードでユージンで攻撃しようとするが、それを他の獅電が体を張って庇う。ラファエルは口を開けようとするが上からダインスレイヴの攻撃が翼アーマーを貫く。

「誰だ?」

 宇宙からダインスレイヴを撃ったのは昭弘をラフタが補助することで引き金を引いた。

「今のでやられてないの!?」

「くそ!ダインスレイヴは今ので最後だと」

 昭弘は悔しそうにしている間にラファエルはもう一度立ち上がろうとし、口を開いてビームを放とうとするが、昭弘の視線の先に大気圏を突破しているのはアガレスだった。ジュリエッタが用意した大気圏突破ようの道具と応急処置を済ませたアガレスはゼパルの大剣を持ったまま大気圏を突破した。

「間に合わないよ!サブレ!」

「間に合わせるさ!三日月!」

 アガレスが大気圏を突破している姿をガエリオはマクギリスの元で戦いの行く末を祈って至ると、マクギリスの声が聞こえてきた。

「大丈夫だろう……彼等ならうまくするさ」

「マ、マクギリス!?大丈夫なのか?」

 マクギリスはどこか申し訳なさそうな表情になると、さきに謝ったのはガエリオだった。

「済まなかったな。こんな俺でもお前の友のままでいさせてくれ」

 二人は堅い握手を結んだ。

 アガレスは大剣をラファエルに向けて投げつけると、バルバトスがそれを受け止めるとそのままラファエルに大剣を突き刺す。しかし、それでも動こうとするラファエルはビームをまっすぐ放とうとする。

「駄目だ!このまま放ったらクリュセに直撃しちまう!」

 その上からアガレスが大剣をさらに奥に食い込ませる。その衝撃でラファエルの攻撃が上へとそらされる。アガレスとバルバトスは上から振り下ろされる。

「これでも……ダメなのか?」

 しかし、そのまま力尽きたラファエルは倒れてしまう。ゼパルの大剣が夕日によって明るく輝いていた。

 のちにこの戦いを第二次厄祭戦と呼ばれていた。

 

 オルガの目の前にある慰霊碑の名前にはダンテやエンビ、エルガなどの名前が並んでいた。後ろからハッシュの声が聞こえてくる。

「団長!準備ができました。

「ああ、行くか。ハッシュ三番隊隊長」

 ハッシュはどこか照れながら車の運転席に乗り込む。

 ビスケットは桜の家の二階の自分部屋で寝ていると、クッキーが部屋の中に入ってくる。布団をつかむと強引にビスケットを下す。

「起きて!ビスケットお兄!」

 ビスケットはその後部屋で着替えている間にクッキーはビスケットの背中に阿頼耶識がすでに無いことに気が付いた。クッキーの視線に気が付いたビスケットはクッキーの方を見るが、クッキーは黙って部屋から出ていく。ビスケットもギャラルホルンの制服に着替えると、リビングに降りていく。ビスケットはリビングの席に座ると、前の席ではサブレと三日月がご飯を食べていた。ビスケットの隣では妊娠しているクーデリアが同じように食事をしていた。テレビでは地球圏でのその後が書かれていた。

『半年前に起きたラスタル・エリオンとイオク・クジャンによって引き起こされたラスタル・エリオン事件の事後処理は順調に進んでおり、ギャラルホルン新代表マハラジャ・ダースリンは現在コロニー圏などから新たな戦力を求めており、近いうちに経済圏の防衛軍と組織を統一し経済圏の連合軍に組織編成を完成させようとしております。しかし、ラスタル派の残党は現在も反抗を続けています』

 テレビを見ていた三日月はビスケットに疑問を発する。

「ねえ……アグニカが起こした事件が伏せられてるの?」

「正確には第二次厄祭戦を引き起こしたアグニカ・カイエルの事は経済圏やファミリアやテイワズ間での秘密ということになってる。犯人はラスタル・エリオンが引き起こしたことになっているよ」

 あの戦い以降三日月は再び右半身が動くようになって以降桜家にクーデリアと共に住むことになった。三日月はその話を聞くと一気に興味を失ってしまったのか「ふーん」と言って話から離れる。ご飯をさっさと食べてしまったビスケットとサブレはかたずけ家から荷物をもって出ていくと、クーデリアが訪ねる。

「そういえば、アトラさんは先に地球に向かったんですよね?」

「ええ、ジュリエッタさんと一緒に妊娠しているので、先に地球で待ってます」

 ビスケットが微笑みながらこたえると、外ではオルガが車の前で待っていた。

「そろそろ行かねぇとギャラルホルンの連中を待たせちまうぞ」

「分かってる。クッキー、クラッカ。じゃあ……」

 ビスケットが言い終える前に二人はビスケットとサブレに抱き着く。ビスケットとサブレは微笑みながら二人の頭を撫でる。

「「いってらっしゃい」」

「「行ってきます」」

 二人が出ていくと、ビスケットとサブレは車に乗り込む。

 二人が車でクリュセ中央宇宙港に辿り着くと、ギャラルホルン士官が出立の手続きをしていた。

「そういえば……昭弘は?」

 ビスケットの疑問にオルガが答えた。

「ああ、昨日の夜中に出立したらしい」

「……寂しいな」

 サブレがそう言うとビスケットは苦笑いを浮かべると、士官が近づいてくる。

「そろそろ出発の時間です!ビスケット・グリフォン准将!サブレ・グリフォンニ佐!」

「分かりました」

 ビスケットとサブレはオルガに向き合う。

「じゃあ行くね?」

「ああ……」

 二人がそのままどこかに歩いていくと、オルガは大きな声を上げる。

「いつでも帰って来いよ!!」

「「うん!!」」

 彼らはそれぞれの本当の居場所で生きていく。




どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら嬉しいです。次回は単純な短編集です。
次回のタイトルは『短編集1』になります。
エピローグを入れてあと三話になります。お付き合いお願いします!


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短編集1

時期としては一期と二期の間の短編集になります。見ていただければわかると思いますが、基本的に一人称視点の話になり、基本的に一話と三話はビスケット視点で二話がサブレ視点のお話になります。基本的にはビスケットとアトラの恋にスポットが当たった話になります。


【本領発揮】

 エドモントンでの戦いから三日が経っていた時、俺はオセアニア連邦所属のコロニーに辿り着いた。周囲を見回してもオセアニア連邦所属のコロニーはいわゆる東洋風な造りをしている見たこともない建物が多く、高い建物が少なく思う。しかし、俺自身実はこんな綺麗な風景をゆっくり眺めるほどゆっくりとした状況ではなかった。

「ねぇ!ビスケット、この服を着てみて!」

 俺、ビスケット・グリフォンと同じ仕事先に勤めているアトラ・ミクスタは着せ替え人形のように俺の服をコロコロと変えている。今現在俺は深緑色の袴姿になっていると、今度は黒いパーカーにジーンズのような服を選びだした。

 似合わないと思うな。

 しかし、そんな俺の思いもアトラには届かず再び俺はフィッティングルームに単身入っていく。最初のうちはアトラも一緒に入ってしまおうとしていたが、店員が一生懸命になって止めた。俺も顔を赤くして止めてみるとアトラも渋々ながらその言葉に従った。

 そもそも俺がどうしてこんな事になったのかというと、サブレの発言がきっかけだった。

「兄さんって鉄華団の服以外持ってるわけ?」

 俺は「ううん」と答えるとアトラは「ええ!?」と驚き俺のことを軽く睨んだ。俺は顔を横に背けどこか気まずそうにしその場から移動しようとするとアトラは力強く右腕を握る。ギリギリと音が鳴りそうなほど強く握りしめられると、俺はどんどん気まずそうな表情に変わっていく。

 アトラが怖い。

 そして、まずいという思考が俺の脳のアラートの鳴らした。

 逃げろ。逃げろ!逃げろ!!逃げろ!!!

「ビスケット……買い物行こ!」

「……はい」

 抵抗など無駄なことで、俺自身にアトラへの抵抗を阻止できる言葉巧みなところを求められても出来ないことはできない。俺の視線はアトラからサブレの方に向くとサブレはニヤリと笑って見せる。

 俺をはめて楽しんでる!

 サブレの本領発揮といったところだろう。俺をはめて、苦しんでいる光景を見続けて楽しんでいる。

 そんなこんなで俺はアトラと服を買いに行くことになった。買物に出た当初はすぐに終わるだろうと思っていたが、しかし、アトラの服選びは難航していた。似合う似合わないという次元ではなく、アトラが納得のいく服がなかなか無いらしく、俺はいろんな店をたらい回しにされていた。買い物が始まって三時間が経ってからようやく服選びが終了した。最終的に決まった服は黒いパーカーに緑色のTシャツに深緑の長ズボンだった。新しい服に着替えた俺をアトラは近くの広場に連れて行った。俺たちは近くで販売していたホットドックをかじって食べる。ふとアトラは立ち上がると俺の方を振り向きいい笑顔で俺の方を見つめる。

「今日はごめんね。でも……すごく楽しかった!」

 アトラのいい笑顔を俺はまっすぐに見つめた。俺の視線とアトラの視線がぶつかるとき、俺はようやくの思いである感情に辿り着いた。

 ああ、そうか……これが恋なんだ。

 遅すぎるとわかっているからこそ俺はこの感情を押し殺すことにした。アトラは三日月が好きなんだ……。

 遅すぎるからこそ……黙ることにした。たどり着くことのない俺の思いを……。

 のちにサブレは今回の事を面白おかしく語ることになった。

 

【大切な一日】

「どうしよう」

 そんな兄ビスケットの言葉が再び俺の耳に届いた場所は鉄華団本部の食堂だった。ここ最近兄はずっとクッキーとクラッカの学校探しに難航していた。俺がアトラ作のミックスジュースを飲みながら手元の端末から音楽を聴いている時に兄はつぶやいた。

 俺達鉄華団が本部に戻ってきてから約半年が経過していた。戻ってきてからの俺達はどこか忙しそうにしている事が多くなっていた。エドモントンでの戦いを経て鉄華団の人気もうなぎのぼりだった。ちなみに鉄華団にうなぎのぼりという言葉を比喩として使っていた時みんなは首をかしげたものだ。どうやら『ウナギ』という生き物を知らないらしい。そんな関係の無い話を経て、半年を経てようやく落ち着いてきた。

 食堂でみんなが食事をしている中で俺は前から言っていたウナギを見せることにした。俺は大きなカバンの中から水槽をドカンという音を立てながら机に置くと周囲はウナギの姿に一斉に悲鳴を上げた。

「「「ぎゃぁぁぁ!!!」」」

 あの三日月や昭弘でさえドン引きしながら数歩後ろに引いていき、ライドや昌弘は同じようにドン引きしているシノの後ろに隠れている。代表して聞いてきたのはアトラだった。そのアトラも少しだけ気持ち悪がりながらも聞いてきた。

「これ……何?」

「?ウナギだけど?おいしいんだよ……高いしさ」

 シノは小さな声で「食べるのか?これを?」とつぶやいており、周囲も同じようにざわざわとざわめく。しかし、先ほどから言っている通りに兄は完全に悩んでおり、俺はウナギを素手でうまく掴むと兄の服の中に入れる。

「!!??何何何!?これ何!?気持ち悪い!!サブレ!!取って!!!」

 立ち上がって周囲をくるくる回りながら椅子を蹴り飛ばして助けを求め、俺はそれを背中に手を突っ込んで取り出す。俺は水槽にウナギを入れるとそのままキッチンの方に向かっていく姿を一部のメンバーは「た、食べるのかよ……」とつぶやいている。

 全く失礼な奴らだ……高級なのに。

 しかし、アトラだけは興味を得たのか、一緒に作ることにした。三日月や昭弘達は食べることに抵抗するため部屋を出ていく。兄はようやく落ち着きながら自分の席に座り込む。俺がウナギを捌いている間にアトラは兄の前に座ると一つの疑問を問い始めた。

「ビスケットは何に悩んでいるの?」

 兄は黙って端末をそのままアトラに見せる。端末の画面にはクリュセ独立自治区に存在する各学校の紹介が乗っていた。アトラはどこか納得したようだった。その間に俺はウナギをかば焼きで焼き始める。

 うん、おいしそうだ。いい臭いが周囲に広がっていく。

「で?兄さんは何に悩んでいるわけ?」

 念のために気にかけてあげると、兄は金に見合うだけの学校と寮が存在する場所が無いのだという。いや、あるにはあるがその学校があまりにも入学費用が高すぎる上に推薦が必要なほどのお金持ちが集まるような学校だったからだ。アトラと兄が一緒になって悩んでいると俺はウナギを皿に盛りつけてしまう。

 うん、おいしそうだ。

 すると、アトラが大きな声を上げてアイディアをひらめく。

「そうだよ!クーデリアさんに頼んでみようよ!」

「でも……肝心のお金が」

 俺が三人分の皿にウナギの蒲焼を置くと兄は一つの疑問を俺に問い始めた。

「ねえ、サブレ。これどうしたの?ウナギなんて高かったでしょ?」

「?サヴァラン兄さんの遺産からだけど……サヴァラン兄さんの遺産、めっちゃあったし……」

 なんでそんなことを聞くのだろう?

 すると、兄は机を強く叩く。

「なんでそれを早く言わなかったの!?っていうか、遺産を使ってウナギを買わない!!」

 だって……兄さんが呆けていたのが原因だと思うんだけどな。まあ、ここ最近兄さんは学校選びで人の話を全く聞いていなかったのだから仕方がない。俺は黙って端末から自身の口座内容を兄に見せると兄は目を丸くさせながら驚愕に口をパクパクさせる。

「こ、これ……全部兄さんの遺産なの?学校の入学費用を引いてもおつりがくるけど……」

「まさか……半分は俺がフォートレスの時に稼いだお金だよ……」

 兄はどこか落ち込んでいく。どうしたのだろう?

「……CGSより圧倒的に稼ぎがいいなんて……」

 俺のお金を使ってクッキーとクラッカの入学費用を持つことになった。そんなことの後すぐにクッキーとクラッカの入学までクーデリアに任せっきりになっていた。俺や兄さんでは学校の云々が全く分からない。入学式までにクーデリアが指定したことはスーツの調達だった。俺はクッキーとクラッカの入学費用を持ったことで兄さんは自分でスーツを調達しなければならなかった。

 そのはずだったのだが、兄さんの体が横に大きく、スーツが特注になったことで結局俺が払うことになった上に俺の分が買えなかったために俺は入学式に参加できないことになった。

 この兄はいい加減ダイエットすればいいのに……本当に、全く。

 兄はどこか気まずそうに俺の方から視線を背ける。

「……ねえ、兄さんは俺に何かない?」

 何もないらしく俺に顔を背け続ける。学校前でクーデリアを待っていると大通りの奥からフミタンと共に綺麗な真っ白な正装を着て現れたのはクーデリアだった。

「すみませんでした。ギリギリまで交渉をしていたもので……クッキーさんとクラッカさんはどうなさったのですか?」

「ああ、クッキーとクラッカは今アトラが連れてきています」

 兄がクーデリアの疑問に答えると、見慣れた鉄華団の車がそばまでやって来た。仰々しく鉄華団のモビルワーカーが護衛として現れる。

 うわぁ……こんな地獄の中で入学式に来るとか絶対嫌なんだけど……俺が二人の立場なら自殺を考えるかもしれない。兄さんはニコニコしながら二人を抱きしめるけど……。クッキーとクラッカは学校の制服姿でサブレの足元に寄ってくる。俺は二人の頭を優しくなでてやる。俺の視線は不意に兄が涙を流していると、アトラは優しく兄を抱きしめる。

「よかったね。ビスケット」

「うん……」

 今日は大切な一日になった。

 

【恋心】

 サブレと一緒に鉄華団の廊下をため息を吐きながら歩いていると、サブレは鬱陶しそうな表情を浮かべる。俺はもう一度大きなため息を吐き出す。

 エドモントンでの戦いからすでに一年が経過してしまった。完全に落ち着いた俺達鉄華団の新人も増えていく中問題は起きてしまった。俺の作戦が裏目に出た結果作戦はある意味失敗した。

 俺の所為で鉄華団に多少の被害が出てしまった。ショックで仕方がなかった。三日月や昭弘達は「気にするな」と言ってくれたしオルガも「失敗もするさ」と大して気にしなかった。けど、こういうのは俺自身の問題であり、俺自身が許せないのだ。憤慨するような気持ちを抱いている。当然だと思う。だって俺の作戦が相手にばれてしまったばかりに、俺が慎重に行動しすぎたために相手にこちらの作戦を考える時間を与えてしまった。

 サブレはイライラしているのか、うんざりとした表情を浮かべこちらを軽く見下すように見てくる。俺自身はそんな視線に軽くひるんでしまう。しかし、そんなサブレの口から出てきた言葉は俺の予想を大きく覆すような言葉だった。

「兄さん、アトラの事が好きだろ?」

「ぶぅぅ!!」

 吹き出してしまう。

 何を言い出すのだろうかこの弟は!

「な、何のことかな?お、お、俺はよく分からないな」

 俺はうまくごまかしたつもりだったが、サブレは呆れるような表情を浮かべる。

「まあ、いいけどな。告白はしないわけ?」

 できるわけがなかった。

 だってアトラは三日月の事が好きなのだから。俺が告白すればアトラに迷惑がかかるだけで、アトラが困るだけで俺の告白を受け入れてくれるわけがない。

 それが分かっているからこその告白をしないという判断である。

「ま、いいけどな。それも兄さんらしさってやつなんだろうしな」

 不甲斐無いと感じたのかもしれないサブレは俺が何かを言う前に結論を出すと、そのままどこかへと姿を消してしまう。

 俺自身が不甲斐無いと感じてしまっていた。

 サブレと話をして約三時間が経ったとき格納庫でアガレスの調整の手伝いをしていると、アトラが格納庫に入ってくる中、俺に近づいてくる。

「ねぇ……ビスケット、今から買い物に行かない?」

 唐突な相談に俺自身ドキドキしながら受け答えをしようとするが、アトラのまっすぐな瞳を見ているうちに買い物に行く以外に選択肢がないことが分かってしまう。俺が黙ってうなずくと俺は私服に着替えてサブレに送ってもらい俺とアトラはクリュセ独立自治区に辿り着いた。

 俺はいまだにドキドキしながら一緒に大通りを歩いていると、アトラと一緒に鉄華団の食材を買い漁る。

 買い物を開始して一時間が経った頃、鉄華団の食材や備品購入も一通り終わると、俺は帰るだけだと思っていた。

「ねえ、もう少しだけ買い物に付き合ってくれる?」

「別にいいけど……」

 俺が連れてこられた場所は雑貨店だった。アトラは様々な色の紐を選んでいると、アトラは俺の方を向きいい表情で尋ねる。様々な色の紐を持ちながら。

「ねえ、ビスケットはどれがいい?どの色が好き?私としては緑色がいいかな~って思うんだけど……」

 俺はおどおどしながら緑色を指さす。アトラは「やっぱり」っと言いながら緑色の紐をレジまでもっていく。俺はあの紐が何に使われるものかすら検討もつかなかった。

 アトラは何をするつもりなのだろうか?

 そんな俺の疑問にアトラが気が付くわけもなく、俺たちはサブレとの待ち合わせになっている広場へと移動すると、二人密着しそうなほど近い。

 すごくドキドキするんだけど。アトラはいい笑顔手に入れた紐をジッと眺めている。

 俺のドキドキはアトラには届かないのだろう。

「これでビスケットのミサンガを作ってあげるね。楽しみにしててね」

 俺達が話していけばいくほど俺はつらくなっていく。

 ああ、楽しいな。でも……辛いな。

 アトラが楽しく話しかけてくれば話しかけてくるほど俺自身がつらく感じる。いっそのこと告白すれば俺自身は楽なる。しかし、それによってアトラが苦悩することを俺は望まない。でも、それでも……一回でもそのチャンスがあるのなら。そう思っているとアトラはそっと手を重ねてくる。

「ビスケットさ、ここ最近私に話しかける時よそよそしいよね。私さ、ビスケットを苦しめるようなことをしたのかな?もし、よそよそしい理由が私を気遣っての事ならやめてほしいの、だって卑怯じゃない?」

 だったら……だったら俺は……!

「だって……この感情もこの気持ちも俺の自分勝手な感情なんだよ!俺の自分勝手な行動でアトラを困らせたくはないんだよ!嫌なんだ!!」

 とっさに立ち上がり怒鳴りつける。それでもアトラは真剣な表情を崩さない。まっすぐ見つめてくる瞳に俺自身がひるんでしまう。

 分かってるんだ。俺の問題であって、それを理由にして、アトラを言い訳にして俺は自分の臆病を隠しているだけなんだ。それでもアトラはきっと俺の気持ちを汲んでくれるだろう。

 ああ、そうか。これが俺とサブレの違いなのだろう。サブレは自分の弱さにまっすぐ向き合えるだけの強さがある。自分の正しさと指針をブラさない強さがサブレにはある。俺もああなれるだろうか?サブレのような強さを身につけられるだろうか?

 もう一度アトラの瞳をまっすぐ見つめ、頭を深々と下げて右手を差し出す。

「俺と結婚を前提にお付き合いしてください」

「はい!」

 アトラは笑顔で俺の気持ちにこたえてくれた。俺は涙を浮かべながら、嬉しそうな悲しそうな、そんな複雑そうな顔をしている俺は「でも……だって、アトラは……!」と言っているとアトラはキスで俺を黙らされる。永遠のような時間が数秒で終わる。俺は涙を流しいると思う。きっと情けないような表情をしているだろう。それでもアトラは俺に笑顔を向けてくれる。嬉しいという気持ちとアトラの恋を邪魔してしまったという罪悪感が俺の気持ちを満たしていく。

「私ね……ビスケットと初めて会った時の事今でも覚えてる。私がCGSに来たばかりの事、三日月を探して施設内をウロウロしていると一軍の人達に囲まれて困っていた時、ビスケットが間に割って入って助けてくれた。でもね、あの後三日月に聞いてビスケットがあの後ひどい目にあったって聞いたの。いつでも相手をいたわるために自分を犠牲にすることもいとわないビスケットを見てきたんだよ。そんなビスケットへの気持ちだって十分恋心だよ。私は三日月と同じくらいにビスケットの事だって好きなんだよ。どっちが先に告白してくれるかなって卑怯なことを考えていたんだもん。三日月よりビスケットが速かったみたいだけど。だからね……こんな風に後悔をしてほしくない。むしろ胸を張りなよ……ビスケットは三日月に勝ったんだよ」

 そうだ、後悔するなんてアトラに、そして何より三日月やサブレやみんなに失礼じゃないか。俺は好きなアトラと付き合えるんだ。今日からアトラとデートができるんだ。今日から一緒に生きていくんだ。

 うん、そうだ。何回でも俺はアトラに言えるよ。

「好きだよ。アトラ」

「私も好きだよ、ビスケット」

 俺たちは互いに抱きしめながら温め合う。俺の恋心は実ることになった。

 

 後日、俺とアトラが付き合うことがみんなにあっという間にバレた瞬間にサブレが裏で全てを操っていたことに気が付いたというのは別の話だ。というか、話したくない。これからも話すつもりもない。




どうだってでしょうか。基本的にこの作品の後に書く予定である鉄血のオルフェンズ原作のその後の作品に向けて軽く試験的な書き方をしてみました。ちょっと早めの公開ではありますが速めのタイトル公開をしようと思います。この作品が終わったのちに書く鉄血のオルフェンズのその後の作品のタイトルは『機動戦士ガンダムE』になります。
さて、次のタイトルは『短編集2』になります。次は最終決戦と最後のエピローグ回の間に話になります。


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短編集2

今回の短編集2の時期は最終決戦~エピローグ回までに起きたことです。


【新しい家族】

 ビスケットとサブレが鉄華団と感動的な別れを告げた後の事、地球圏に降りた直後に新設ヴィーンゴールヴに辿り着いた。二人してヴィーンゴールヴを歩いて家まで行こうと言い出したのはビスケットだった。サブレは強く反対するとビスケットは渋々ながら車で移動することにした。マハラジャが用意した送迎車に乗り込んで家に辿り着いたときには既に昼が過ぎてしまっていた。

「「…………」」

 二人は唖然としながらグリフォン家と書かれた大きな家を見た。門とゲート、芝生が広がった庭、三階建ての横に長い洋館、明らかに自分たちが過ごす家にしては大きすぎるような気がしていた。

「……あのクソオッサン」

 つぶやくように悪態をつくサブレにビスケットは苦笑いを浮かべる。この家の設計段階からマハラジャが随分口を出したと聞いていた二人はマハラジャが意図してこんな大きな洋館にしたのだと理解した。

 二人はゲートを開けて家まで伸びる真っ白な道を進んで行く。門から洋館に辿り着くのにざっと一分ほどかかってしまう。ビスケットやサブレより大きな玄関ドアのカギを開け、二人で同時にドアを開ける。

 静かにドアが開き二人の目の前に広がった玄関は何十人が入るのか分からないような大きさで、正面にある木造の両手開きのドアを開けると、玄関より大きく広いリビングが広がっていた。

 しかし、そんな広さが全く気にならないくらいにリビングの大きなソファに座り、一面ガラス張りの窓から海を眺める一人の男がいた。

 男というか―――――マハラジャがいた。

「な、な、なんであんたが俺たちの家にいるんだよ!?」

 サブレが叫ぶ。

 サブレとビスケットも正式に結婚し、ジュリエッタとアトラの二人共がグリフォン家に入籍したので二人がいることを想定していたが、マハラジャはグラスに氷を大量に入れ酒を飲んでいた。

 サブレの声が聞こえてくるとマハラジャそっと後ろを向き、そのまま再び視線を戻す。

「俺の家でもあるからだが?」

「ふざけんな!一から十まできっちり説明しろ!ここはグリフォン家の家だぞ!」

「ふう、全く騒がしい奴だ。なんでかと言えば俺もグリフォン家に入ったからだ。当然だろう?というかお前の兄から聞いていないのか?」

 サブレはキッと睨みつけるとビスケットは軽く怯んでしまう。ビスケットは小さな声で「だって……」と反論を述べようとすると、玄関口からアトラとジュリエッタの声が聞こえてきた。二人は揃って後ろを振り向くと、お腹が大きくなっている二人の姿があった。

 アトラとジュリエッタが二人そろってサブレを説得するとサブレは渋々納得した後に、あえてマハラジャから離れるところに座り込む。アトラが買い物袋から冷蔵庫に食材を入れていく中、ジュリエッタは不慣れな手さばきで洗濯物を畳んでいた。見てられなかったサブレがジュリエッタを手伝っている。ビスケットはその間にマハラジャにふと尋ねる。

「いいんですか?こんなところで休んでいて……」

「ああ、今ギャラルホルンの組織を経済圏と共に経済連合軍として防衛軍と統一化する計画を進めているんだがな、アルベルトの奴が代わりにやっているからな。正直めんどくさい作業は全部押し付けてきた」

 平然と告げるマハラジャの言葉をどこか引きつりながら苦笑いを浮かべた。玄関からさらに大きな怒号が聞こえてきた。

「マハラジャ!!??貴様書類整理の最中に逃げるな!!」

 アルベルトがリビングに入ってくると、マハラジャの首根っこを掴んでそのまま家から出ていく。出ていく際にビスケットに軽く会釈をしていく。酒を飲みながら出ていくマハラジャを唖然としながら見ていたのはビスケットだった。ビスケットはふと周囲を見回す。

 新しい家は新しい家族を受け入れていた。

 

【火星鉄道】

 ビスケットやサブレ、昭弘達が火星を去ってからオルガ率いるファミリアは火星中に鉄道を敷いていく。二年が経った頃桜の家周辺に大きな建物が経っていく。桜は三日月に農場を預けると小旅行で火星を出ていった。農場の名前はオーガス農場と変え、トウモロコシ畑を町開拓に与え、別のところに畑を広げていく。そして施設の地下に別の畑を作っていく。二年が経った後、三日月はある作物の栽培を行おうとしていた。

 三日月は畑を少し高いところから眺めると、そこに一面広がる小麦畑。

『きれいだな』

 三日月はかつてサブレから小麦の事を聞いていた。様々に加工に使える作物、そして一面広がるその光景はとてもきれいだと、そう聞いていた。

 一面に広がる黄金色の光景に目を細める。

 振り返ると広がる様々な建物に網目のような道、さらに遠くにうっすらと見えるのは鉄華団の犠牲者が書かれた慰霊碑のある丘だった。そして、街の外へ広がるトウモロコシ畑と小麦畑。これが今三日月が住む新しい街でありファミリア本部が置かれた『フリージア市』街の端には鉄華団本部。

 鉄華団の現団長はユージンだった。オルガはファミリアのトップに立つにあたってユージンに鉄華団の団長を任せた。新しいメンバーを大量に入れる中各隊長も変わり、部隊も増えていった。

 まず一番隊の隊長を務めたのは二番隊所属だったライドだった。シノは第二次厄祭戦の後一年後にヤマギと共にヤマギファクトリーを一緒に作ってシノが鉄華団を去ったためライドが代わりに隊長になった。

 二番隊隊長になったのは昭弘の弟の昌弘だった。

 三番隊の隊長はサブレの一存でハッシュになった。

 それ以外にも他に二つ部隊が増設された。鉄道防衛隊である四番隊。アーレスなどの宇宙防衛を目的とした五番隊が作られた。

 三日月が鉄華団本部を見ているとフリージア駅にクリュセ市に名前を変えた市から来た列車が停車していた。

『そろそろクッキーとクラッカが学校から帰ってくる頃だと思うけど……』

 そう思うと二人を迎えに行くためにトラックに乗り込み駅に向けて走り出す。フリージア市の中心にまっすぐ伸びている大通りを走っていくと人が最も集まっている駅とその周辺にある中心街に辿り着いた。駅の中に入っていくと、駅からオーガス農場へと帰ろうと足を進めているクッキーとクラッカを見付けて側に付ける。クッキーとクラッカもそれを見付けると駆け寄って車に乗り込む。

「三日月はどこに行ってたの?」

「……別に、農場を見てただけ」

 二人は「ふーん」と興味をなくしてギュウギュウになりながら流れる景色をどこか寂しそうな表情になる。その気持ちはよく分かる。いくら農場の場所を移したと言っても、農場が大きくなったと言っても、自分達の過ごしたこの場所に人があつまってきても、それでも寂しいと思ってしまう。それだけは三日月にもよく分かる。今通っているこの道も元々は桜の家から鉄華団へとつながる何もない道だったのに、今では高い建物や整備された道ばかりが見える。そんな中クッキーが三日月に頼んだ。

「ねえ、三日月。慰霊碑のあるあの公園に行きたい」

 三日月は「分かった」と答え、そのままオーガス農場へと帰らずまっすぐ慰霊碑の元に進む。

 今では慰霊碑のあったあの広場は大きな公園になっていた。フリージア市を眺められる高台に三つの慰霊碑が建てられていた。一つは鉄華団の犠牲者が書かれており、もう一つはオルガの意向で先の戦いの中で歴史に乗せられない者の名前が書かれていた。

『ラスタル・エリオン。イオク・クジャン』

 そんな鉄華団にとって忌まわしい者の名前も書かれていた。ユージンやシノは反対したが、マクマードがオルガに告げた言葉から、オルガは彼らがしてしまったことを忘れないために名前を載せた。

 そして、最後の慰霊碑には一つの言葉が乗っていた。

『彼らがしてしまった行いを忘れてはいけない。その中に我々が犠牲を払ったことを忘れてはいけない。この世界が彼らの犠牲の元にできた世界だということを忘れてはいけない』

 その下には鉄華団以外の第二次厄祭戦により犠牲を払ってしまった者達の名前を書かれていた。クッキーとクラッカは慰霊碑に祈る。

 三日月も同時に祈ってしまう。

 ―――――この世界がいつまでも幸せでありますように。

 

【新たな力】

 カゲロウはデブリ帯へと近づくとカゲロウの格納庫では新たな機体がテストを行おうとしていた。

 ラスタル・エリオン事件から、第二次厄祭戦からすでに7年が経過していた。ギャラルホルンや各経済圏は一つの組織として再編成を余儀なくされ、二年後には経済連合が作られ、ギャラルホルンは経済連合軍に変わっていった。その後3年後にはビスケット・グリフォンが経済連合軍のトップにたった。

 そんな経緯があったのちに、サブレは新たなサブレ専用機のモビルスーツが新型のシステムを載せて実戦を想定したテストを行おうとしていた。

 サブレはノーマルスーツを着込んで格納庫に急ぐ。格納庫に辿り着くとサブレの目の前に新たなガンダムフレームであるネオガンダムフレームである『ガンダムエデン』と名付けられた機体を視界に入れる。ガンダムエデンの体は基本はガンダムフレームに似ているが、カラーリングは白を基本としボディなどに青や赤がカラーリングしている。エイハブ・リアクター以外に両肩に別のエンジンのような物がくっついている。

 正式名『パーティクルドライブ』と呼ばれているエンジンであり、エイハブ・リアクターと連結することでエイハブ粒子の性質を変えさせ、パーティクルドライブの力を最大限引き出すことができる。

 サブレはコックピットの中に入っていくと、機体を起動させる。

『ネオ・ガンダム・フレーム起動。エイハブ・リアクターとパーティクルドライブを連結させています。連結完了。ガンダムエデン起動します』

 サブレはハッチを閉じ、ガンダムエデンがカタパルトデッキに移動していくと、ガンダムエデンがセットされると、そのまま出撃していく。

 エデンはデブリ帯をそのままを走り出し、デブリを蹴りデブリを回避しながら移動速度を確かめていく。今までのガンダムフレームを圧倒的に超えるような速度が出ていく。しかし、それでもサブレにかかるGはパーティクルドライブによって強化されたエイハブ・リアクターによってGはほとんどかからない。さらに速度を増していくと、サブレの機体を動かす腕が止まる。ブリッジはサブレに疑問を放つ。

「どうした?」

「妙な動きをしている機体がある」

 ブリッジは周囲の索敵に入ると、未確認の固有周波数が10機以上ガンダムエデンに近づいてくる。ブリッジはサブレに撤退を促すがサブレはそれを拒否した。

「いや、実践テストにはちょうどいい相手かもしれない」

 見た目はロディ・フレームが五機、ゲイレールが五機近づいてくる。

「見たか?動きはすげぇけど、武器を持っていないぜ!見た感じライフルらしきものを腰につけているだけだ!」

 そういって三機のロディが斧を振り回してガンダムエデンを襲おうとするが、サブレはガンダムエデンを敵に向けて走らせ、ロディの斧を何かで切り裂く。ゲイレールのパイロットはガンダムエデンの武器を驚愕の表情でつぶやく。

「なんで、なんでビームサーベルでモビルスーツを斬ることができるんだよ!」

 そしてライフルを取り出すと、ビームをゲイレールに当てる。ゲイレールのコックピットはビームで焼かれてしまう。別のパイロットは恐怖に表情がゆがむ。

「なんで……どうして……だってビームは効かないはずじゃ……」

「教えてやろうか?」

 いつの間にかガンダムエデンはほかの機体を倒し、最後のゲイレールをつかむ。

「エイハブ・リアクターによってパーティクルドライブが作るビーム兵器はただの熱線兵器ではなく、貫通力や切断能力を底上げされたビーム兵器だということだ。それ以外にもエイハブ・スラスターを全身のスラスターへと回しているんだよ。簡単に言えば、推進材などを必要とせずに半永久に戦えるモビルスーツがこのガンダムエデンなんだよ」

 ゲイレールのパイロットはゾッとしながらその話を聞いていた。パイロットが大丈夫な限り永遠に戦えることができる機体。もし、そんな機体が完成したのだとしたら、時代は大きく変わる。

 ―――――男は黙って投降した。

 

 ガンダムエデンはそのまま経済連合軍の本部であるヴィーンゴールヴの格納庫の一つである0と書かれた格納庫の中に入れられていた。

 代表になったビスケットがヴィーンゴールヴにある記念館に飾られているガンダムアガレスフルアーマーの元を訪れていた。そんなところにサブレがそっと話しかける。

「代表がこんなところにいていいのか?」

「……ちょうど暇になったんだ」

 優しく微笑むビスケットは自分より少し背が高くなったサブレを迎える。一緒にガンダムアガレス見たさにこの記念館は人気になっていた。

 ガンダムアガレスは厄祭戦を潜り抜けた英雄機として人気があり、地球圏内外からこの記念館見たさに人が集まってるが、今はこの記念館はリニューアルの為に人がいなくなっていた。

「懐かしいね、これに乗って戦っていたのが……」

「今じゃ代表は経済連合軍の代表で俺は副司令官だ。変わるもんだ」

 ビスケットはどこか複雑な表情に変わるとはっきり告げた。

「ねえ、二人っきりの時ぐらいさ俺のことを代表って呼ばなくていいんじゃない?」

「アルベルト司令官から言われたろ?互いに制服を着ている間は互いに役職でって。今はまだ仕事の最中だ。俺たちは今や司令官や代表という組織のトップだ。公私を分ける必要がある。それに仕事以外だと『兄さん』っと呼んでるだろ」

 ビスケットは渋々納得すると、再び視界を上に向ける。ビスケットとサブレは一緒に記念館を後にすると、一つの車から運転手が姿を現す。

「ビスケット・グリフォン代表。サブレ・グリフォン副総司令官。先ほどアルベルト・シュキュナー総司令官が話があるそうです」

「行こうか?サブレ副総司令官」

「そうだな、ビスケット代表」

 二人はともに歩き出す。

 この道を―――――この世界を。




どうだってでしょうか?三話目に出てきたガンダムエデンは次回作である機動戦士ガンダムEの中盤から最終決戦までの主人公機になります。
次回はいよいよエピローグ回になります。同時にエピローグ時点での設定集を書くつもりです。では、次回のタイトルは『エピローグ設定集』と『フリージア』です!最後までよろしくお願いします。


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エピローグ設定集

エピローグ時点での簡単な設定集です。


キャラクター設定

 火星サイド

 

 三日月・オーガス……火星にてオーガス農場を経営しており、今はファミリア本部が置かれているフリージア市でクッキーとクラッカと共に住んでいる。クーデリアとの間に息子である『暁』がいる。

 

 オルガ・イツカ……鉄華団の団長を引退後ユージンに団長の座を預け、自身はファミリアの代表に就任した。のちにファミリアが火星の経済圏になった後も初代議長に就任した。最近はメリビットの仲介でお見合いを進めている。

 

クーデリア・藍那・バーンスタイン……ファミリアが発足後にバーンスタイン商会の代表をフミタンに任せた。三日月との間に『暁』がいる。

 

暁・オーガス・バーンスタイン……三日月とクーデリアとの間に生まれた子供。元気良くアクティブ。顔つきは三日月似で髪はクーデリア似。

 

フミタン・アドモス……クーデリアの代わりにバーンスタイン商会を引き受けた。

 

 ユージン・セブンスターク……鉄華団の現団長。オルガから団長の座を引き受け、鉄華団を大きな防衛組織として発展させた。

 

 ライド・マッス……鉄華団の一番隊隊長。基本は本部防衛隊であり、基本は本部にいる。

 

 昌弘・アルトランド……鉄華団の二番隊隊長。火星全土に移動しながら様々な事件解決する特殊部隊であり、基本は列車で移動することが多い。

 

 ハッシュ・ミディ……鉄華団の三番隊隊長。本来は団長の護衛だったが、今は火星全土の都市防衛が任務であり、基本本部にいないことが多い。

 

 ヤマギ・ギルマトン……最終決戦の一年後にヤマギファクトリーを発足し、社長になった。シノと一緒に働いているが、相も変わらずシノへの好意を気づかれていない。

 

 ノルバ・シノ……最終決戦後にヤマギと一緒にヤマギファクトリーを発足し、様々なところでモビルスーツパイロットの教育や試運転パイロットを務めている。ヤマギの気持ちには全く気付いていない。

 

 ナディ・雪之丞・カッサパ……最終決戦後も鉄華団の整備長を務めている。その後はメリビット・ステープルトンと結婚し、子供を二人作った。

 

 メリビット・ステープルトン……鉄華団で事務をしており、事務での教育を務めておりユージンの勧めで副団長を務めている。

 

 地球サイド

 

 サブレ・グリフォン……経済連合軍の副総司令官を務めており、基本はパイロットとして働いている。兄であるビスケットグリフォンの事を仕事中は代表と呼んでいる。最終決戦から腕前がさらに上がり、現在では経済連合軍の最終兵器と呼ばれるほどの腕前になった。鉄華団を去った後に一人の娘と一人の息子ができた。

 

 ビスケット・グリフォン……経済連合軍の代表を務めており、基本は代表室に籠って仕事をしている。仕事をしている最中はサブレの事を副総司令と呼んでいる。息子が三人、娘が二人いる。

 

 アトラ・グリフォン……ビスケットの妻で五人の子供の母親。ジュリエッタと共に専業主婦に集中している。

 

 ジュリエッタ・グリフォン……サブレの妻で二人の子供の母親。アトラと共に専業主婦に集中している。

 

サヴァラン・グリフォン……ビスケットとアトラとの間に生まれた子供。顔はビスケット似で髪はアトラ似。インドアな子供で将来の夢は父親のように立派な人間になること。

 

エリ・グリフォン……サブレとジュリエッタとの間に生まれた子供。顔はサブレ似で髪はジュリエッタ似。将来の夢はピアニスト。

 

 マハラジャ・グリフォン……元経済連合軍の代表で現在はサブレたちと共に一緒の家に過ごしている。サブレたちと同じくグリフォンに籍を入れており、サブレは大反対した。軍を退役したのちに中年太りしたが、本人はまるで気にしていない。

 

 アルベルト・シュキュナー……経済連合軍の総司令官を務めており、指揮官としての能力は高い。

 

 マクギリス・ファリド……経済連合軍の監視を受けた生活を送っており、その後もガエリオとの交流がある。

 

 ガエリオ・ボードウィン……経済連合軍の監視を受けた生活を送っており、現在はマクギリスと離れた場所で生活を送っている。

 

アルミリア・ファリド……マクギリスと共に監視生活を送っている。最近兄に対して反抗期がやってきた。

 

 木星サイド

 

 昭弘・アルトランド……新生タービンズの代表を名瀬の代わりにしており、ラフタと結婚したのちに多数の子供に囲まれている。

 

 ラフタ・アルトランド……アジーやエコーと共に昭弘の元でタービンズを続けており、多数の子供に囲まれている。

 

貴弘・アルトランド……昭弘とラフタとの間に生まれた子供。人見知りな性格で話すのが苦手。初めて自分と同い年の子供は暁やサヴァランやエリ。

 

 土星サイド

 

 チャド・チャダーン……元鉄華団のメンバーだったが、土星開発隊に自ら志願し、鉄華団の隊長をライドたちに任せた。

 

 機体設定集

 

 ガンダムエデン……経済連合軍が開発した新世代型の機体であり、エイハブ・リアクターと共に連結されたパーティクルドライブから高出力のビーム兵器を使用しており、ナノラミネートアーマーすらも貫通させることもできるため、次世代機のモデルケースの一つとして開発され、サブレの無茶な要求を受け続けたため開発が始まってから六年かかってモデルケースだったガンダムエデンが完成した。

 

 その他の設定

 

 フリージア市……最終決戦後にできたファミリア本部が置かれた街であり、ファミリアが経済圏に成り上がった際に首都として認められた街。街の端には鉄華団の本部があり、周囲にはオーガス農場の小麦畑が見える。

 

 火星鉄道企業……火星中に鉄道網が出来た時に完成した新たな企業。火星中の鉄道網の管理や列車の運転などの全般の管理を任されている。

 

 新設ヴィーンゴールヴ……経済連合軍や経済連合の議事堂が置かれている地球圏で最大規模の都市。

 

 パーティクルドライブ……経済連合軍が開発したエイハブ・リアクターと連結させることによってモビルアーマーのビーム兵器など比較にならないほどの高出力のビーム兵器と無制限の行動を可能にすることができる新型ドライブ。現在では経済連合軍だけが所有しているが完全に開発したあかつきにはファミリアとテイワズに販売する予定になっている。




本当に簡単な設定です。エピローグに登場しないキャラのその後も簡単に記しています。


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フリージア

とうとう最終回になります。最終決戦から八年が経っています。キャラによっては変わっているキャラや変わらないキャラがいます。



 杖を突いてソファに座り、本を読んでいるマクギリスはアルミリアが入れてくれた紅茶を飲んでいると眼前に映る光景の中に一機の航空機が離着陸場に降りてきた。降りてきた航空機は経済連合軍が作った背景を青色で塗り固め、白色で四つの星が書かれたマークを側面にあり、マクギリスはそれが経済連合軍であるとすぐに把握できた。

 マクギリスはアルミリアと共に赤道直下の小さな島で隔離された生活を送っているが、それに対して文句を言うつもりがマクギリスには無かった。あれだけのことをした自分に監視付きの生活だけで済まされるつもりはない。少なくとも死刑か終身刑くらいの刑罰が処されるかと自身で覚悟を決めていたつもりが、内容は監視付きの生活だった。もちろんガエリオも同じ生活に落ち着いたようで今では互いに会う機会は年に一回ぐらいである。それでも、そう判断した彼らに少し感謝していた。

 マクギリスは杖に力を籠め何とか体をソファから離し立ち上がる。アグニカ・カイエルに体を乗っ取られた反動からか、右足が動かしにくくなり両目の視力は著しく低下した。今では杖なしでは生活を送れないほどだった。それはガエリオも同じで、本来は車いす生活を送っていたはずだが、最近経済連合軍が開発した治療用阿頼耶識のお陰で多少歩けるようになったそうだ。

 マクギリスは体を玄関の方に向けるとノックやチャイム無しで入って来たのはもちろんガエリオだった。ただし、普段より厳しい監視が付いていた。ガエリオの後ろで彼を監視するように歩いていたのはサブレ・グリフォンだった。

「ガエリオ。チャイムくらいならしたらどうだ?」

「今更だろう?」

 にやけながら堂々と家の中に入ってくるガエリオにため息をつきながら悪態をつくマクギリスはだいぶ変わったとサブレは判断した。そうしていると紅茶を入れていたアルミリアは呆れるような表情になりそのまま再びキッチンへと消えていった。三十分ほどしてキッチンから出てくると、マクギリスとサブレの前に紅茶を出す。

「おい、俺のは?」

「お兄様はそこら辺の海水でも飲んでいてください」

 いつもの兄妹のやり取りをマクギリスは微笑ましく見ていると、アルミリアはポケットからサブレへとあるディスクを渡す。

「これがお父様から預かっていたものです。現段階でのガンダムフレームの居場所です」

 サブレは黙ってそれを受け取ると、紅茶を素早く飲み干し頭を下げて出ていった。航空機が出ていくのを確認したのちにガエリオはマクギリスに問いかけた。

「確か今、経済連合軍はガンダムフレームの回収、封印作業を進めているんだったな。父上が調べていたガンダムフレームの情報を受け取りに来るなんて大変だな。今日にでも火星旅行に立つのだろう?まあ、この八年間忙しくしていたから少しくらい休みが長くてもいいだろう」

 マクギリスは再び紅茶を飲みながら同視していると、アルミリアは再びガエリオに悪態をつく。

「では、お兄様もお帰り下さい」

「お前……最近俺への対応が厳しくないか?」

 二人のそんなやり取りをBGMにしながら紅茶をたしなむマクギリスがそこにはいた。

 

「じいじ!まだ!?」

 体つきや顔などはビスケットそっくりだが髪や目の色はアトラそっくりである二人の息子の『サヴァラン・グリフォン』は祖父である『マハラジャ・グリフォン』の足元でマハラジャを急がせていた。同じように足にくっついて急がせていたのは体つきや顔はジュリエッタそっくりで髪や目の色はサブレそっくりな二人の娘である『エリ・グリフォン』だった。

 二人が随分急がせるとマハラジャは荷物を簡単にまとめるとリビングで煙草を吸おうと口にくわえる。しかし、それをアトラが火をつけるすんでのところで取り上げる。

「お義父さん。子供たちの前で煙草を吸わないでって言ってるでしょ!?それにゆっくり休まないでください。もう出るって言ってるでしょ?サブレとビスケットはすでに上で待っているんですよ」

「分かった。分かった」

 マハラジャは「よっこらしょ」とつぶやきながら立ち上がり、重たい体を持ち上げる。

 軍を退役したマハラジャはこの三年で多少変わっていた。孫と遊んでいる為にまだ体力はあるが、引き締まった筋肉はたるんだ脂肪に変わっていた。

 はっきり言うなら中年太りを起こしていた。

 しかし、そんな自分を嫌っているわけではない。すでに50代を超えた自分だ。いつまでも引き締まった筋肉を保てると思っているわけではない。孫と遊べるなら多少太っても構わない。元より第二次厄祭戦の時から自分の体に限界を感じていた。その後の書類仕事で自分の筋肉が衰えていったのは感じていたし、太っていることは薄々感じ始めていた。ガタイのいい自分はいない。でも、それで孫に怖がられるより、今の体型で孫から愛される方が全然ましだと感じた。それに、この太り始めてからサブレもうるさく言わなくなっていた。それに、この変わった自分をマハラジャは好きになっていた。死んだラスタル達にらしくないと言われるかもしれないが、ゼム・ロックからそっちの方が断然ましだと言われた時は、悪い気はしなかった。

 少しだけ突き出た腹を二回ほど触りリビングから玄関への途中にあった鏡に自分の姿を映す。

 確かに変わった。もとより無理して体を鍛えていたし、ラスタルの事で自分を追い詰めていた時からより緊張の糸を張っていたが、それが終わって緊張の糸が切れてしまったのがやはり大きいのだろう。今は娘以外に新しい息子達や娘、そして孫との生活が楽しい。

 ―――――幸せだ。

「「じいじ!早く!」」

 多くの孫が自分を呼んでいるとマハラジャは感じると、まだまだ体力面で孫どころか新しい息子であるサブレにだって負けるつもりはない。サヴァランとエリの手を握って火星旅行に出かけた。

 

 クラッカはクッキーと共に駆け出してクリュセの隣にあるアルマード市の駅の中を走り、電車に向けて滑り込みながら走っていた。ギリギリのところで電車の中に入ることに成功したクラッカがいい笑顔をクッキーに向けるが、クッキーは疲れ果てて反応できない。

「何とか間に合ったでしょ?クッキーバテバテじゃない」

「クラッカが………みんなと話し込んでいたのが………原因でしょ………!」

 大学に通うようになったクッキーとクラッカはアルマード市にある火星最大の大学で勉学をしていた。そんな大学から自身の家のあるフリージア市へ帰ろうと駅への帰路に就いたまではよかったが、電車の時刻を全く把握していなかったクラッカは駅までクッキーの忠告を全く耳に入れず友達と話し込んでいた。気が付いたときは電車が到着した音が鳴り響いた時だった。木でできた席、白を基本色としている車内は落ち着ける雰囲気を持っている。二人は歩いて車内を前へ向けて移動していると開いた席に座り込む。窓の外の景色を眺めていると、火星の変わった風景を楽しんでいた。あの第二次厄祭戦からかなり火星は変わった。特に火星が経済圏として完全に独立し名を『ファミリア』としたときから火星中は新しい都市や地下から水を引いたりしている。今では川を作ろうとしたり、三日月を中心に農業を広げようとしたり、地球で育てた木々を植えようとしたりと忙しい。チャド・チャダーンのように土星開発隊に志願して土星に向かった者もいる。平和になった世界では新しい仕事や職場を求めたりとどこもかしこも人手不足だった。大学に通う生徒も多く、そのほとんどがかつてヒューマンデブリや孤児やスラム街で過ごした子供だった。クーデリアが作った孤児院や鉄華団やファミリアが活動していく中で学生としてすごす者も多くなっていた。

 クリュセが近づいていくとクリュセのアルマード市方面に木々を植えているためか、少しだけ風景の色素に緑が見えてくる。クリュセ駅に止まると、何人かの人々が入れ替えで出たり入ったりしている。おばあさんがクッキーとクラッカの窓の外で歩いている姿を見ると、二人はおばあちゃんの事を思い出した。

「おばあちゃん今頃、どこで何しているかな?」

 二人の祖母は去年、完全に仕事を三日月に任せて火星や木星なんかを旅行することにした。

 やはりどこか寂しいと感じているのは仕方がない。物心ついたときから側にいた祖母がそばから離れていくことは寂しい。でも、寂しいとは言えない。もう、自分も子供じゃない。列車はフリージア市へと近づいていくのを感じたのは一面黄金色の小麦畑が見えてきたからだ。二人は鞄を手に取りそのまま列車のドアへと足を進めていく。

 

 昭弘が新たなタービンズを率いて八年が経った。今日は休暇が取れたビスケット達グリフォン家を火星へ送り届けることを仕事として受け入れた。ギャラルホルンから一機のモビルスーツを載せ、地球を経つ。

 昭弘とラフタハンマーヘッド改のブリッジでビスケットとサブレとの懐かしい再会を喜んでいた。足元で昭弘にそっくりの昭弘とラフタの子である『貴弘・アルトランド』はサヴァランとエリと共に遊んでいた。

「昭弘が俺達に何も言わずに出ていくから少しだけ寂しかったよ。一言言ってくれればよかったのに」

「悪い。照れくさくてな」

 話している間にひたすら遊んでいる三人をブリッジに入って来たマハラジャが廊下へと連れていく。変わったマハラジャに昭弘とラフタは最初こそ驚いた。しかし、初めて出会った頃より性格も体格も丸くなった姿を微笑ましく見ていた。

「マハラジャさんだいぶ変わったね。ちょっと驚いちゃった。でも、孫相手にああやって遊んでいるほうが優しそうでいいね。貴弘があんなに懐くなって珍しいよ。あの子、中々人に懐かないから」

 格納庫の映像が映るとそこにはグシオン以外にガンダムエデンが乗っていた。エデンのパーティクルドライブのデータをテイワズとファミリアに引き渡すためにエデンを積んでの火星旅行になった。しかし、落ち着いて話を出来たのはここまでだった。デブリ帯に近づきすぎたとき、デブリ帯よりグレイズシリーズやレギンレイズシリーズが多く姿を現した。

「ちょっと!どこの所属よ!」

 ラフタの怒鳴り声がブリッジに響くとビスケットが心当たりがあると発言した。

「あれはラスタル派のテロリストだ!ほとんど駆逐したのに!」

 サブレと昭弘がブリッジを出ていくと、ラフタは艦長席に座り怒号を上げる。ビスケットは艦長席の後ろで立ち尽くしながらまっすぐ戦場を見つめる。しかし、その数分後にはマハラジャがノーマルスーツを着てから子供たちと共にブリッジに現れた。その姿にビスケットが焦りをにじませる。

「ど、どうして!?」

「すまんな。どうしても父親の戦いをそばで見たいと言ってきかなくてな」

 ビスケットが説得しようとするが頑固にも部屋から出ていこうとしない姿にラフタが声を上げた。

「あきらめた方がいいよ。ただし、やばくなったら外に出ていきなよ」

 ハンマーヘッド改がデブリ帯より離れていくがテロリストのモビルスーツ隊が後ろから追いかけてくる。先にグシオンが出てきて、そのあとにガンダムエデンが出てくる。サブレはエデンがグシオンの前に出る。

「悪いな、昭弘。このところまともな相手がいなくてストレスが溜まってるんだ。こいつらは俺がもらうぞ」

「おい!お前は客だろ!」

 エデンはさらに加速をかけていくと腰からビームサーベルを二つ取り出し、すれ違いざまに三機のグレイズの胴体を切り裂く。そして、スピードを落とさないようにデブリの一つを足場に方向を強制的に変更しながらレギンレイズのライフル攻撃を回避しつつビームサーベルを片付けビームライフルを取り出すとレギンレイズのコックピットに直撃すると、レギンレイズのコックピットが焦げて生存者が確認できない。

 縦横無尽に駆けモビルスーツをあっという間に狩りつくす姿にさすがに「やばいよね」と考えたビスケットは三人の間に立ちふさがり、何とかマハラジャと一緒に外に連れ出す。

 そうしている間にグシオンやハンマーヘッドからの援護をすることもなく、ガンダムエデンが敵機を全滅させた。

 ビームサーベルを左から右へと空を切り腰に片付けライフルをから取り出してハンマーヘッドへと戻る。

 格納庫に戻ったサブレの元に子供たちが寄ってくる。

「お父さんすごい!」

 サブレはエリを抱えサヴァランや貴弘の頭を撫でる。

「すごいだろ!でも、お前たちはこんな風に戦って生きるのではなく、もっと違う幸せを求めてほしいんだ。なりたい夢や目標を見付けて歩いてほしい。約束できるか?」

 三人は互いに見つめ合いサブレに力強くうなずくと、サブレは笑顔で三人を奥へと連れて行った。

 

 三日月はフリージアの端に位置する慰霊公園に設置された慰霊碑に花束を添えていた。軽く風が心地よく、温かい空気を運んでくる。死んでいった仲間たちに再び別れを告げ、三日月は大きなバスに乗り込むとそのままビスケット達が待つフリージア駅へとバスを進める。

 ビスケット達は変わり果てた姿に唖然としてた。それは昭弘やラフタだって同じことだった。かつて自分たちが過ごしたこの鉄華団から桜農場までの何もない道に今では大きすぎる街ができている。首都になったこの街の駅はあらゆる方向へと線路がひかれており、大きな駅は人通りが多すぎてちょっと油断すれば子供たちが迷子になりそうだった。ガッチリとマハラジャにつかまっている貴弘とサヴァランとエリは身動きを取れない。変わった街に驚きを隠せないのはジュリエッタも同じことだった。

 第二次厄祭戦の後ジュリエッタはサブレと共にクッキーとクラッカや桜に会いに行った。当初本人はどうやって話を盛り上げればよいか、どうやれば受け入れてもらえるか?なんて的外れなことをずっと考えていたが、そんな考えはもろくも二人の質問攻めの前に無駄に喫した。

『いつ好きになったの!?』『サブレお兄のどこが好きなの!?』『子供はもう作った?』

 子供を作ったかどうかの質問をしたところでジュリエッタが頬を真っ赤にしてしたため、サブレとビスケットが二人係で二人を止めた後しかったのは記憶に懐かしい。それでも、それは八年前の事。その八年で大きな街ができている。

 ビスケット達が駅に到着して三十分が経つと三日月が運転するバスが到着し、そのままバスに乗ったまま一緒に三日月農場へと連れていく。

 三日月農場の庭でクーデリアが洗濯物を干していると、三日月に似ているが髪はクーデリア似の子供である『暁・オーガス・バーンスタイン』が洗濯物であるベットのシーツを奪って走り出す。クーデリアが追いかけようとするがそれを帰って来た三日月が抱き上げる。

「暁。母さんが干してる洗濯物で遊んだらダメだろ?」

「遊んでない」

 暁はあくまでも認めようとはせず。まっすぐ三日月を見ようとしない暁は三日月からおりて逃げようとすると、今度は家の中からクラッカが暁から洗濯物を奪い取る。暁はムッと表情を変えると、今度は家の庭に入って来た一団に驚き、クーデリアの後ろに隠れる。サヴァランたちを連れたマハラジャが暁を誘う。

「暁だったな。一緒に遊ばんか?」

 同い年であるサヴァランやエリ、貴弘を見ると黙ってうなずき一緒に奥の庭へと歩いていく。クラッカやクッキーと一緒に奥へと消えていくと。クーデリアは笑顔でアトラやジュリエッタとラフタと一緒に洗濯物を干し始める。三日月はビスケットやサブレや昭弘達と一緒に家の裏にいる広がる小麦とトウモロコシ畑へと移動していく。すると、すでに畑には先客がおり、畑の奥から歩いてくる人影に三日月たちは一瞬だけ構えるがそれがオルガ・イツカであると分かると、安堵の息を漏らす。

「来るなら先に連絡をくれっていつも言ってるでしょ」

 三日月はオルガに向けて批判を述べる。オルガは苦笑いを浮かべながら「悪いな」と言って三日月の肩を叩く。そして、八年ぶりの再会に五人は懐かしがりながら話し始める。

たわいのない話をしていると、オルガが不意にビスケットにかつて見ていた夢を語り出した。

「もしかしたらだが、あの時見ていた夢は俺の前世での出来事なのかもなってな」

「前世?」

「ああ、前にメリビットさんが言ってたろ、人間は死んで生まれ変わるんだって。なら……」

「今回は上手くいったね」

そう優しく頬笑むビスケットにオルガもつられて微笑み返す。

すると、家の奥から暁たちが小さな鉄華団のジャケットを着ており、どこか楽しそうだった。三日月が代表して尋ねると一緒に歩いてきたマハラジャが代わりに答えた。

「何、さっきシノとかいう若造が暁にってこのジャケットを持ってきてな。なんでも孫達が来るとも聞いていたらしくな、仕事の合間に持ってきてくれてな」

 そこまで言われてようやくわかった五人は暁たちが嬉しそうにしているさまを見ると取り上げるわけにもいかない。マハラジャが四人を連れてまた庭の方へと移動していくと、三日月達は家の中に入ろうと足を進める。

 すると、三日月は自身の足元に見慣れぬ花が咲いていることに気が付いた。その花の事を三日月はビスケットに尋ねた。

「多分……フリージアじゃないかな?この街と同じ名前だね。確か……花言葉は………」

 ビスケットが記憶を探っていると代わりにサブレが答えた。

「いろいろあるけど、この場合俺達に一番合う言葉は『親愛の情』じゃないかな?」

 まとまって咲き誇るフリージアの花はまるでこの土地に幸せがやってきたことを告げているかのようだった。

 

 いつの日か、この土地にも草木が生え、花が咲き誇る日が来るだろう。

 不毛な土地と言われたこの星にも――――――でも、それもきっとそんなに遠いことではない。

 このフリージアの花がそれを教えてくれた。

 この花とその花の名が関せられたこの街を中心に大きくなっていく。

 もしかしたらそれはあの子供たちがなすかもしれなかった。

 自身の子供たちをふと眺めると、楽しそうにマハラジャと遊んでいる暁たちの後ろ姿に自分達のかつての自分達を重ねる。しかし、それでも自分達と違い、様々な道がある彼らを導いていかなければならない。

 それがきっとあそこで孫と遊んでいるマハラジャが自分達を導いてくれたように、あんな大人になりたい。

 少なくともマハラジャがいつまでも楽しそうに孫と遊べるようにこの世界を続けていきたい。

 彼らはフリージアの花にそう誓った。




最初この作品を書き始めた際はここまで書けるかな?という自信に対する疑問がありました。ですが、最終的には皆さんが見てくれたお陰でここまで来れました。本当にありがとうございました。次に『機動戦士ガンダムE』を書くつもりです。細かい設定などまとめて書き始めるのに約二週間ほどもらえればと思います。多分十月末から十一月初めには一話を投稿できると思います。『機動戦士ガンダムE』は鉄血のオルフェンズのマクギリス・ファリド事件から約七年が過ぎた世界です。主人公は『サブレ・グリフォン』と『ビスケット・グリフォン』になります。どんなお話になるのか楽しみにしていてください。ビスケットがどうやって生きていたのかや、どんな戦いになるのかなど、気になると思いますが、それを踏まえてこれから細かく決めていきたいと思います。
これで『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別』は終わりになります。これまで見てくださりありがとうございます。もしよろしければ次回作である『機動戦士ガンダムE』でお会いしましょう!


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