河城さん家の外来人 (河童の技術者)
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出会い

「うーん…」

私は伸びをした。依頼品の制作に没頭していたらいつの間に夜明けが近付き、空が橙色に染まり始めていた。

さすがに河童でも3日も不眠でやったら疲れるねぇ…

私はそんな事を考えながら外の空気を吸うべく、椅子から立ち上がった。椅子がギィ…と音を立てる。

そろそろクッションの張替えどきかもしれない。ぺったんこになっていてお尻が少し痛い。

 

家の制作室の裏口から出ると冷たい早朝の空気が私の肌を刺した。体がブルっと震える。さすがにつなぎだけじゃ寒かったかな。私は腰のところで巻いていたつなぎの袖に腕を通し、しっかりと着直して、上までしっかりとチャックを閉めた。

冷たい空気に触れて胃が動き出したのだろう、お腹がすいてきた。たぶん、この三日間ロクなものを食べてなかったおかげで、家に食べれる状態で残ってる食材は、米と味噌しかないだろう。後で人里の朝市に買いに行こう。で、3日連続作業の自分へのご褒美に胡瓜を買い込もう。

河童の中には365日胡瓜ばっか食べてる輩もいるそうだけど、私は違う。大きな仕事の依頼をこなした後にご褒美として、自分に買い与える。だけど、私にとっては胡瓜を食べる瞬間より、買う瞬間の方が喜びが大きい。あぁ…大きな仕事をやり遂げたんだなぁ…ってね。だからと言って胡瓜なら、なんでもいいというわけではない。無論、

農薬を使った粗悪品なんてもってのほか。お気に入りのお店があるのだ。人間には細かい違いはわからないだろうが胡瓜にも色々な味がある。甘みが強かったり、苦味が強かったり、酸味が強かったり。河童は万差億別というが、胡瓜は億差兆別だ。

…少し暑くなりすぎたね。胡瓜のこととなると何よりも熱を注ぐのが河童だから。しょうがない。

さて…ソレは置いて置いて。

川岸に沿って歩く。川の水に反射した日の光が夜勤明けの体に染みる。すごぉーく心地よい。岩場に座って足を水に浸したり。

 

一通り川岸を回った私は引き返し始めた。

するとと何かが岩場に倒れているのが見えた。何かといっても倒れているから人だろうが。私は急いでそこに駆け寄った。おかしいな、さっき見たときは誰もいなかったのに。

倒れていたのはおそらく人間の男の子…だいたい14〜15歳ぐらいだろう。気を失っているようだ。これが外の世界だったら携帯でも取り出して119に掛けるだろうが、生憎、ここは幻想郷。そんな洒落た物はないし、有っても使えない。私は彼を抱えて急いで家に戻った。

とりあえず休憩用のソファーに寝かせた。脈を測って見たけど異常は特にない。

どうしようもする事のできない私はとりあえず客間に彼を運び、寝かせておいた。そして人里の市が開く時間になったら財布を持って出かけた。

…念のために客間の鍵を外から閉めて。




原稿が投稿要項の文字数を満たしてなかったので200字ほど加筆。辻褄が合わなくなってる部分とかあるかもしれないです…


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河童飯。

市は相変わらず賑わっていた。数ある集落の中でも、ここは妖怪ととても良く共存していることで有名だ。スキマ妖怪のとこの式神や鈴仙さんも来ていた。

新鮮な野菜と醤油をはじめとした調味料を少々…と、魔理沙に無理やり買わされた、きのこ。まぁ、良い品をいい値段で売ってくれたからいいけれど…

家に帰ったらとりあえずシャワーを浴びた。最近ジャンクから作った発電機と給湯器、給水ポンプ、濾過器の調子もなかなか良さそうだ。やっぱり守矢の所の設計図は頼りになりますなぁ…

私は幻想郷の中でもかなり外の世界寄りの生活をしている。時々来る里の人間達や山の妖怪達から来るものの製造依頼をこなす事を生業としている。もちろん、自分の為や依頼物に加える為の研究も欠かしていない。その際役に立つのが無縁塚に流れ着いた物や、香霖堂、守矢の連中から入手できる資料。無論、環境的に幻想郷では実行出来ない物もあるが。

収入はいい方だ。普段はあまり安値では受け付けてないが他の同業者の河童達よりはマシ。おかげでお客が集中してくれる…が、贅沢できるほどは稼げていない。

さて…それは置いておいて、お風呂から出て普段着を身につける。大型の仕事が終わったからしばらくは休業だ。冷たい水を一杯飲んで、作業室のソファーへ向かってみる。

…まだ目は覚めていないようだ。その辺に引っ掛けてあった膝掛けをかけておく。ご飯を作りはじめたら目覚めるかもしれない。私は台所に向かって、調理を始めた。

料理はまず、味噌汁を作るところから始まる。献立を考えていない場合、この時に考えるのだ。でも、今日は決めてある。

卵かけ納豆ご飯…これは私が連日の徹夜明けには必ずと言ってもいいほど食べるメニューだ。胡瓜ももちろん食べる。しかし、それでは栄養のバランスが取れない。いくら妖怪…もとい、河童とはいえ、バランスの取れていない食事ばかり摂っていたら病気になってしまう。なので、バランスについてはしっかりと考慮している。卵かけ納豆ご飯にジャコをかけ、副菜に漬物、汁物は野菜たっぷり味噌汁。完璧…ではないだろうがバランスは取れているはずだ。味も最高。しかし、幻想郷ではまだジャコは高級品の域に入る品。そんな大量に買うわけにはいかない。というわけで、連日の徹夜明けに胡瓜と一緒に買うのだ。至高である。

棚から米袋を出して、砥いで、これまたジャンクで修復した炊飯器にセットする。釜は唐傘お化けの妖怪に特注で作ってもらったものだ。あとは新鮮な野菜を刻んで浅漬けにする。ついでに川岸で倒れてた子が起きた時のためにお粥も作っておく。そうしたら味噌汁を仕上げて米が炊けるまで本を読む。鈴奈庵で借りた外の世界の"コンピュータ"という機械に関しての本だ。もし、ここに載っている情報が正しければ、どうやら家にあるジャンクパーツでそれを作れるみたいだ。後でパーツを集めておこう。

 

 

読み耽っているとタイマーが鳴り出した。米が炊き上がった合図だ。

さあ、頂くとしよう。



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