異世界ミリオタ転生記 (日本武尊)
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プロローグ
プロローグ


初めまして。この手の作品は二つ目となりますが、よろしくお願いします。


 

 俺の名前は『土方(ひじかた)恭祐(きょうすけ)』。今年で二十歳となる大学生だ。

 そして自他が認めるミリオタである。

 

 俺の好みは武器兵器関連で、小銃はもちろん、拳銃や機関銃などの歩兵の持つ武器に、戦車に戦闘機、軍艦と言った兵器も好きだ。

 特に日本製の武器兵器が好きで、旧日本軍から自衛隊まで様々だ。それと各国の一部の武器兵器も好きだ。

 

 中でも陸は90式戦車やT-90と言った戦車に、AK系統や64式7.62mm小銃に89式5.56mm小銃と言ったアサルトライフルやMk.23やUSP、M1911と言ったハンドガンとかが好きだ。

 

 海ではどの軍艦より戦艦が大好きだ。何と言われようと戦艦が大好きだ。建造されたやつならビスマルク級に、シャルンホルスト級、伊勢型、長門型と言った所で、未完成や計画艦ならソビエツキー・ソユーズ級、モンタナ級、天城型、超大和型が大好きだ。

 

 空は特に無し。まぁ強いて言うなら零式艦上戦闘機や紫電改、四式戦闘機疾風、P-51と言ったレシプロ機に、F-15やMIG-31ぐらいかな。あとヘリならコブラにアパッチぐらいか

 

 第二次世界大戦時の武器兵器となると戦艦もそうだが、キリが無いので省略する。

 

 

 

「……」

 

 住んでいるアパートの部屋で俺はパソコンで武器兵器関連の動画を見ている。

 

「やっぱり89式はいいなぁ。64式も捨て難いけど」

 

 俺が見ているのは陸自の64式小銃と89式小銃の解説動画で、解説しながら射撃動画が流れている。

 

 以前まではM16やM4、G3、AK-47と言ったアサルトライフルが好みだったが、今ではこの小銃たちがお気に入りだ。

 

 だから俺の部屋にはバイトで溜めたお金で購入した64式小銃と89式小銃の電動ガンが壁に立て掛けられ、更にクソ高かったがモデルガンの二丁も観賞や排莢アクションを楽しむ為に壁に飾られている。

 その他にもいくつかのアサルトライフルやハンドガンの電動ガンにガスガンが飾られており、武器庫さながらな光景が広がっている。

 

(いつか資金が溜まればグアム等の実銃が撃てる海外の射撃場に行ってみたいな)

 

 別に他の小銃に興味が無くなった訳じゃないので、実銃を撃ってみたいと思っている。もし撃てるならM16系統やM4系統、AK-47系統、G3だな。

 まぁ今の金銭事情だと、大分後の事になるだろうがな

 

 

 

 内心で呟きながら次に見る動画を探していると、机に置いている携帯電話から着信音が発せられる。

 

「ん?アヤからか?」

 

 着信音から妹からの電話で、携帯電話を手にして画面を開いて電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『ヤッホー!お兄ちゃん!』

 

 電話に出ると元気ある大きな声が発せられる。

 

「アヤか。どうした?」

 

 電話の相手は俺の三つ年下の妹の綾奈であり、俺はアヤと呼んでいる。確か今年で高二になるはず。

 と言っても、アヤは俺が小さい頃に親父が再婚した相手の連れ子で、血の繋がりは無い。まぁ俺達は別に気にしていないが

 

『お兄ちゃん、今度の土曜日って空いてる?』

 

「ん?あぁ空いているぞ」

 

 土曜日に大学の講義を入れているわけでもないし、今のところ同じミリオタの友人と出掛ける予定は入っていないし、他の用事も無い。

 

『良かったぁ』

 

 電話越しに安堵の声が漏れる。

 

「でも、なんでだ?」

 

『え?』

 

 アヤは露骨に怪訝な声を漏らす。

 

『もうお兄ちゃんったら。今度の土曜日、何があると思ってるの?』

 

「何って、何が?」

 

『はぁ。もう呆れた』

 

 呆れた様子でアヤは呟く。

 

『今度の土曜日はお兄ちゃんの誕生日じゃない』

 

「あっ」

 

 言われて俺は思わず声を漏らす。

 

「そういや、そうだったな」

 

『お兄ちゃんったら。自分の誕生日を忘れるなんて、もしかしてボケちゃった?』

 

「ハハハ……この年でボケたくはないな」

 

 頭の後ろを掻きながら苦笑いを浮かべる。

 

『まぁお兄ちゃんがボケても、私がちゃんと最後まで介護してあげるよ』

 

「ハハハ……」

 

 そこまで老いとらんっちゅうねん

 

『まぁそれはさて置いておいて、今度の土曜日お兄ちゃんのアパートに行くからね』

 

「ここにか?確認せずに月一で来ているのにわざわざ言う必要があるのか?」

 

 アヤは長くて月一、短くて週一の頻度で俺の所に遊びに来る。まぁ実家からアパートまで歩いてでも行ける距離だから来るんだろうが、それにしてはよく来るよな

 

『お兄ちゃんに誕生日プレゼントを渡しにと、私の手料理を振舞う事を伝えておきたかったの』

 

「おぉ!アヤの手料理が食えるのか。そりゃ楽しみだな!」

 

 アヤの手料理は美味いからな。

 

『じゃぁ、土曜日に行くから、待っててね♪』

 

「おう。待っているぞ」

 

 そう言って電話を切る。

 

「アヤの手料理か。結構久しぶりだな」

 

 そうなると土曜日が楽しみだな

 

 にしても、アヤは本当によくこっちに来るよな。実家とアパートの距離が近いってだけでこんなに来るもんかねぇ

 もしかしてアヤはブラコンなのか?まぁ小さい頃からアヤは俺と一緒に居る事が多かったし、今も昔もよく抱き付いてきたり、料理や家事だって俺の為に必死になって覚えていたらしいしな。いや、それだけでブラコンって決め付けるわけにはいかんよな。

 

「まぁ、いいか」

 

 色々と気になったが、兄妹仲良く出来ているんだ。それでいいじゃないか。知り合いの所何かは兄妹の仲は険悪らしいし、他の所だって妹から遠ざかっているって言うし、むしろ俺達のところは恵まれている方か

 

 そう思いつつ机に立てられている写真立てに収められている家族写真を見る。

 

 前に幼い頃の俺とアヤ、その後ろに両親が立っている。

 

「今度の連休、実家に帰ってみるか」

 

 俺からは久しく帰っていないし、ちょうどいいかな

 

 今度の連休の事を考えながら携帯電話を机に置き、パソコンに向き合う。

 

 

 

 

「っ……」

 

 しかしその直後、一瞬頭痛がしたかと思った瞬間視界が暗くなっていき、キーボードが迫って来るのを見たのを最後に、俺の意識は沈んだ。

 

 

 

 



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プロローグ2

 

 

 

 

 

 温かい感覚が身体全体を包み込み、冷たくなっていた身体に温もりが戻っていく。

 

 

「……」

 

 そして意識が次第に覚めていき、ゆっくりと目を開ける。

 

「う、うぅ……」

 

 やけに重たくなった身体を両手を床につけてゆっくりと起こし、その場に座り込む。

 

「いってぇ……」

 

 ズキズキとする頭痛に頭を押さえて周囲を見渡す。

 

 と言っても真っ白な光景が全体に渡ってあるだけで、それ以外には何も無かった。

 

「どこなんだ、ここは?」

 

 首を左右に振りながら、ズキズキと頭痛がする中で必死に思い出す。

 

 確か部屋で動画を見ていて、その途中で義妹のアヤから誕生日を祝う電話が来て、近い内に手料理を振舞う為にこっちに来ると言う事を伝えて電話を切った。

 その後再びパソコンの方に目を向けた直後に、頭痛が一瞬して視界が暗くなってキーボードが迫ってきたのが記憶にある最後の光景だ。

 

 そして今に至る。

 

「一体、何があって――――」

 

 ふと俺はある推察が脳裏を過ぎる。

 

「俺は……もしかして、死んだのか?」

 

 思わず口走った言葉にゾッとする。

 

 ここが俺の部屋じゃないのは明確な事だし、最後の記憶からすると、その推測しか思い浮かばない。

 

「い、いや!これは夢だ!夢なんだ!」

 

 俺は自分に言い聞かせるように叫び、目を覚ませようと頬を強く抓る。

 

「っ!」

 

 強い痛みがして俺は涙目になる。

 

 お陰で目が覚め、抓った箇所を擦りながら周りを見渡すも、景色に変化は見られなかった。

 

「嘘、だろ……」

 

 自分で言っておきながら、絶望的な状況に俺は呆然となる。 

 

 

 

「残念だが、これは紛れも無い現実だ」

 

 と、後ろから声を掛けられて俺は後ろを振り向くと、そこには白い軍服調の衣装を身に纏い、その上から白いコートを羽織る男性が立っていた。

 

「あ、あんたは?」

 

「君達人間から見れば、神と言うべき存在だな」

 

「か、神様?」

 

 思わず疑問のある声が漏れるが、俺の心中を察してか神と名乗った男性はため息を付く。

 

「まぁ信じられないのも無理ないか。こんなわけの分からない状況に放り込まれた上に神と名乗った女性(・・)が現れたのだから」

 

「そりゃ、まぁ……ん?」

 

 ふと俺は首を傾げる。

 

「今、何て?」

 

「分かりやすく言ったのだがな。神と名乗った女性が現れた。これでどうだ?」

 

「え?い、いや、ちょ、えぇ?」

 

 この神様女性なの?

 

「そうだが?一応神様でも、男性女性はある。まぁ正確には無いんだが」

 

 どっちやねん

 

「気分の問題だ」

 

「は、はぁ」

 

 色々と面倒くさいんだな

 

「まぁ、こんな身なりだが、私はちゃんとした女性だぞ」

 

「……」

 

 まな板な上に男装しているじゃ分からん

 

「無くて悪かったな」

 

「……」

 

「まぁいい。さてと、君も先ほど察しているはずだ。君の今の状況と、ここがどこかがな」

 

 男性もとい女性は仕切りなおして俺に問い掛ける。

 

「……」

 

 その言葉で俺は確信を得り、表情から察してか女性は肯定する。

 

「そう。ここは死後の世界。正確にはその一歩手前の場所。まぁ三途の川と言った所か」

 

「三途の川……じゃぁ、まだ生き返るチャンスがあるのか?」

 

 俺は一瞬希望を抱くが、女性が首を左右に振ってそれは崩れ去る。

 

「残念だが、生き返っても僅か数分しか生きていられないような状態になっている。生き返っても無駄だ」

 

「……」

 

 女性の言葉に俺はうな垂れて視界が下を向く。

 

「俺は、何で死んだんだ?」

 

「突発的な脳内出血による脳死だ。君はこれで死ぬように最初から定められていた」

 

「創作でよくある神のミス、ってやつじゃないのか」

 

「あれはお前達人間が勝手に決めた想像だろ?神がミスするなどありえん」

 

「自信たっぷりだな」

 

「それしかない。大体神がミスするなど、天変地異級の異変が起きるものだぞ」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ」

 

「……」

 

(まぁ、意図的に死なせた、と言う場合もあるがな)

 

「ん?」

 

「いや、何でも無い」

 

 女性は咳払いをして、俺に向き直る。

 

「本来なら魂は死後の世界に向かうのだが、なぜ君がここに居ると思う?」

 

「……?」

 

 俺は分からず首を傾げる。

 

 女性は軍帽の位置を直して、こう告げた。

 

「私の権限を使って、死後の世界に向かう途中の君の魂を私が引き止めたのだ」

 

「……」

 

「なぜと、思っているな」

 

 俺の心中を悟ってか女性は問い掛けたので、軽く頷く。

 

「……」

 

「まぁ、こう言ってしまってはあれだが、ただの気まぐれだ」

 

「……き、気まぐれ?」

 

「あぁ。たまたま君が私の目に入ってな。君を選んだのだ」

 

「適当でって……」

 

 えぇ……

 

 あまりのいい加減な理由に俺は呆れる。

 

「まぁ、理由はどうあれ、君には以前の世界とは違う、所謂異世界に転生させよう」

 

「異世界……」

 

「それと同時に君には色々と能力を付けよう。異世界でも生き残れるようにな」

 

「え、いや、ちょっと?」

 

 一瞬聞き捨てならないようなワードが聞こえたような気がするんだが……

 

「では、頼んだぞ」

 

 と、女性は右手から光の玉が現れて俺へと放り投げ、それが俺の頭の中に入ると突然意識が薄れ、やがて後ろに倒れる。

 

 

 

「……」

 

 女性は申し訳なさそうに俯くと、更に何かを操作するように右手を動かすと彼の身体が一瞬光り輝く。

 

「すまない。こんな、こんな事に関係の無い君を巻き込んでしまって」

 

 そう呟くと右手を横へと振るい、彼の居る場所に穴が開いてそのまま彼の身体は穴の中へと落ち、少しして穴が閉じる。

 

(だが、君達に頼るしかないのだ)

 

 目を瞑ってしばらく立ち尽くし、目を開いてから踵を返してその場を立ち去る。

 

 

「頼んだぞ」

 

 そう言って女性の姿はフッと消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、私は夢を見た。

 

 薄暗い中、私の周りには無数の魔物達が取り囲み、今にも私に襲いかかろうとしている。

 

 周りには信頼している仲間は居らず、武器も何も持っていない私だけだ。

 

 唐突な状況に私は最初理解できなかったが、すぐに理解する。

 

 あぁそうか。これは、私の置かれている状況なんだ……

 

 私は俯き、生まれた時から私を縛っている状況なんだと悟る。

 

 

 私は生まれた時から何もかもを両親に決められて、今日に至るまで生きてきた。疑問に思った事もあったが、疑問を頭から振り払って従った。それが自分の為なんだと、自分に言い聞かせて……

 でも、物心が付き、年を重ねるごとに両親のやり方に疑問を持ち出し、そして事実を知った。

 

 鳥篭に囚われた小鳥の様な、自由なんてない縛られた人生……この状況はその表れなのだろう

 

 

 どうして私には自由がないのだろうか。何で他とは違うのだろうか、と……そう何度も嘆く時もあった。

 

 このまま私には、自由なんてないのだろうか……

 

 

 そして私を囲う魔物達が私に襲い掛かろうと雄叫びを上げる。

 

 

 

 だがその瞬間、大きな破裂音がしたかと思うと魔物の一体が突然倒れる。

 

 私や魔物達が驚いている間に破裂音は連続して鳴り響いてはその度に魔物が倒れていく。

 

 そして私の前方に居た魔物達が全て倒されると、そこに一人誰かが立っていた。

 

 その人が手にしている物から一瞬光が瞬いたと思ったら同時に破裂音がして、その直後に魔物が倒れる。

 

 クロスボウの一種かと思ったけど、威力はもちろんだが、なにより貫く何かの速さが桁違いだ。

 あの武器は一体……

 

 しばらくして私を取り囲んでいた魔物達が全滅してその人は私の下へとやってくる。

 

 薄暗くて顔はよく分からなかったが、近くで見て緑や黒と言った斑点のような模様の格好で、体格から男性と思われるその人は周りを見てから左手を私に差し出す。

 

 私は一瞬と惑ったけど、不思議と疑問を思う事無くその人の手を取って立ち上がると、その人は私の手を引いてそこから走り出す。

 

 すると薄暗かった周囲が徐々に明るくなっていき、しばらくして前方に一筋の光が現れる。 

 

 

 しかし、その光景を見た直後に私は夢から覚めた。

 

 普段なら夢の内容などそれほど気にする事は無いのだが、今回は最後まで見れなかったのがとても惜しいような気がした。

 その後もこの夢の事が気になって、頭から離れなかった。

 

 でも、不思議といつかあの光景が現実のものになりそうな気がする。夢なはずなのに、とても現実味のあるような気がした。

 

 その時は分からなかったけど、後にその答えを知る事となった。

 

 

 この夢が、私の状況を一変させるキッカケになろうとは……

 

 

 

 



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第一章
第一話 異世界の地に降り立つ転生者


 

 

 

 

「……」

 

 温かい風に吹かれて、俺の意識は徐々に覚めて行く。

 

「う、いっつぅ……」

 

 ズキズキと痛む頭に手を当てながら俺は倒れている身体を起こす。

 

「ここは、どこだ?」

 

 今に至るまでの事を思い出しながらふら付きながらも立ち上がり、ぼやける視界の中周りを見渡す。

 

 次第に視界が鮮明になると、俺が居る場所が明らかになる。

 

 鮮明になった視界が捉えたのは、一面に広がる緑で、それが草原であることを理解するのに時間は掛からなかった。

 

「……どこやねん、ここ」

 

 思わず俺は声を漏らす。

 

 

「って、そういや異世界に転生させるって言っていたな」

 

 頭の後ろを掻きながらボソッと呟き、周囲を見渡す。

 

 見渡す限り草原が広がっており、遠くには薄っすらと森や林のようなものはある。

 

「明らかに日本、じゃないよなここ」

 

 かと言って海外のどこかってわけでもなさそうだ

 

(本当に異世界なのか)

 

 その証拠に空には薄っすらと月と思われる物が2つも見えていた。

 

「は、ハハハ……マジかよ」

 

 俺は再び座り込み、乾いた笑いを漏らす。

 

(まさかラノベや創作物にある異世界転生を自分で体験するなんてな)

 

 世の中って本当どう進んでいくのかわからんものだな。

 

「はぁ……まぁ、いくら悩んでもいくら否定しようが、これは現実……何だよな」

 

 しばらくして気持ちが落ち着き、ボソッと呟いた。

 

 出来るなら夢であって欲しいと何度も思った。だが、何度も頬を抓ってみたり頬を叩いたりしたが、普通に痛みを感じたし、眠気も覚める。それは夢ではない現実であると言う事を表していた。

「はぁ~」と深くため息を付く。

 

 こうなった以上、慣れるしかないか。人間って言うのは慣れる生き物だ。どんなに過酷な環境であっても、慣れてしまえば気にしなくなるのだ。一人暮らしが始まって最初は不安でも三ヶ月か半年で気にしなくなるのと同じだ。

 

(と言うか、俺に一体何の能力を与えたんだ?)

 

 そういやあの神様何の説明も無しに送り込んだよな。

 

 首を傾げながら「うーん」と静かに唸る。

 

 

「ん?」

 

 すると俺の目と鼻の先の宙に半透明の何かが出現する。

 

「なんだこれ?」

 

 ラノベで見るVRMMORPGでよくありげなメニュー画面のようなもので、一番下のにあるお知らせの欄が点滅している。

 

 俺は戸惑いながらも点滅している箇所に触れると、画面が切り替わる。

 

 

『どうやら、目を覚ましたようだな』

 

 画面にあの男性もとい女性が映し出される。

 

「あんたか」

 

『どうだ?気分は?』

 

「頭痛が酷いな。まぁ目を覚ました直後と比べると大分マシだが」

 

『そうか。まぁ、それなら良かった』

 

「……」

 

 どこも良く無いんだが、気にしない事にした。

 

『さて、色々と説明せずに君をこの世界に送り込んでしまったが、順に説明しよう』

 

 そういえば何にも説明を受けていなかったな。

 

『まずこの世界についてだが、東西南北に巨大な大陸を持ち、それぞれの大陸に人間を含む多種族が存在し、それなりに魔法文化が築かれた世界、と言った所だ』

 

 つまり、ラノベやファンタジーでよくある異世界って言う認識でいいんだな

 と言うか、説明の割にはかなり簡素な気がするが

 

『小難しい事を多く並べて説明されるよりマシでしょ』

 

 そりゃそうだな

 

『続いて君に与えた能力についてだ

 君には様々な武器兵器を召喚できる能力とそれぞれの武器兵器を扱う為の知識を与えている。

 身体能力は現時点の君ものから4倍に引き上げ、レベルが一定数に達するごとに数値も上がる仕様となっている

 一応君の頭にはこの世界に関する知識を必要最低限擦り込ませているから、日常生活に困らんはずだ

 それと君だけの特殊スキルを付与している』

 

「武器兵器の召喚だって?」

 

『そうだ』

 

 異世界とあってそれ相応の物かと思っていたけど、まさか好きなジャンルからの物だから、まさに棚から牡丹餅を得たようなものだ。

 

『と言っても、君の住んでいた日本の軍隊や自衛組織、警察機関、特殊機関が使用した国産や輸入もしくは鹵獲、供与された外国産の物に限られる』

 

「マジか」

 

 つまり日本産を基本に極一部の外国産の武器兵器のみかよ。地味にきついな。まぁ、不足感は無いと思うが……

 

『だが、その代わり武器兵器には無理矢理じゃ無い限り、ほぼ制限無しで外装及び内装に改造を施す事ができる』

 

「ふむ」

 

『そしてスキルだが、ステータス画面を開いて見てくれ』

 

 そう言われてステータスの項目に触れると俺自身のステータス画面が表示され、スキルの項目を見る。

       

 

 身体精神異常無効:一部を除いていかなる身体及び精神の異常を無効化する能力。但しものによっては若干のペナルティーが生じる可能性があります

 

 五感強化能力:任意のタイミングで五感の内どれか一つを強化する。レベルが上がれば上がるほど強化した際の効果も強くなる。

        但し現時点のレベルでは二箇所以上の強化は不可

 

 勘:様々な状況を事前に察知できる。レベルの高さ次第で勘の当たる確立と察知する早さが上がる

 

  捕捉:スキルはレベルが一定数上がる、もしくは特定の条件を満たす事により新たに追加、もしくは既存能力が強化されます。

 

  

「前二つはいいとしても、勘って何だよ」

 

 能力は優秀なんだが、他にマシなネーミングは無かったのかと突っ込みたくなる。

 

『他に良い名前を思いつけなかった』

 

「さいでっか」

 

 まぁヘンテコな名前を付けられるよりマシか

 

 一旦ステータス画面を閉じて次に武器装備の項目に触れる。

 

 そこには女性の言う通り旧日本軍から自衛隊、警察や海保等の政府組織で使用されていた武器兵器が項目ごとにズラリと並んでいるが、戦車や航空機、船舶等の一部兵器は黒文字になっている。

 

『一部は現時点のレベルでは召喚できないが、一定数レベルが上がれば順次解除されてその項目の武器兵器は全て使えるようになる』

 

「なるほど」

 

『それと、特定の条件で手に入るポイントがある。それを集める事でそのポイント数に応じて様々なパーツや弾薬、設備等と交換する事ができる』

 

「ふむ」

 

 つまり改造の幅を広げれると言う事か

 

『武器兵器は召喚自体に制限は殆ど無い。一度召喚すればいつでも出し入れが可能だが、物によっては次に召喚できるまで時間が掛かる場合があるから気をつけるように。

 あと破壊された場合は消す事はできないが、技術流出は防ぎたいからなるべく徹底的に破壊するように。まぁ破壊具合によっては放置しても構わないが』

 

「分かった」

 

『最後に一つ。特定の条件を満たしたら、一部の武器兵器が開放されて使用可能となる』

 

「一部の武器兵器?」

 

『何が使えるかは、開放できてからのお楽しみだ』

 

「……」

 

『まぁヒントを言うなら、空想の存在となった物や特殊な経緯を持って日本に入ってきた武器兵器、とだけ言っておこう』

 

「……」

 

 気にはなるが、現時点では確かめようが無いから今はこの話題は気にする必要はないな

 

 

 

『それでは、健闘を祈る』

 

 女性は最後にその一言を言って敬礼をし、画面が消える。

 

「健闘を祈る、か」

 

 なんか、凄く不安なんだが……

 

「しかし、まさか武器兵器を召喚できる能力が与えられるとは」

 

 正直信じ難いが、神が与えているとなると、嘘と言うわけじゃないよな。

 

 本物の武器兵器が使えるとあって、俺の中に高揚感が昂る。

 

「とりあえず、何か出してみるか」

 

 俺はその場で立ち上がり、装備画面を出す。

 

(やっぱり日本の警察機関や軍……自衛組織で使われたり、輸入されたものばかりか)

 

 決して少ないと言うわけじゃないが、バリエーションに欠けるものがあるな。まぁ、どこぞの国と違って不足感は無いけど。

 

(それに戦闘服や装備品もあるのか)

 

 服に関しては旧日本軍から自衛隊に警察機関の物まで勢ぞろいだ。

 

(とりあえず、何か出してみるか……)

 

 俺は武器の中から小銃の項目を開く。

 

 小銃は旧日本軍の三八式歩兵銃や九九式短小銃に、保安隊時代のM1ガーランドやM1カービン、M1903A3と言ったアメリカ製の供与武器、戦後初の国産自動小銃の64式7.62mm小銃と言った物がズラリと揃っている。

 

(やっぱりこいつだな)

 

 旧日本軍のボルトアクションライフルも良かったが、今度の機会にして今回は『89式5.56mm小銃』を選択する。

 

 自衛隊や海上保安庁、警察特殊部隊で正式採用されている豊和工業製の国産アサルトライフルだ。

 

 一応陸自の特殊作戦群が使っているとされる『M4カービン』も項目にあったが、最近のお気に入りとあってこっちの方がいい。

 

 その89式小銃を選択してカスタム画面を開いて項目を見る。

 

(内部も結構弄れるんだな)

 

 カスタム項目の多さに少し驚きながらも俺は無理の無いように改造を加える。

 

 外装面はまず本体上部と銃身下部にピカニティーレールを追加して、本体上部にドットサイト、銃身下部にM203グレネードランチャーを追加して、各パーツの強度を上げる。

 内装面には項目のあるだけを施し、故障に強くする為に各パーツの強度と耐熱性を上げ、バレルも射撃精度に耐熱性の向上を図る。

 

 次にサイドアームだが、何がいいかな

 

 内心呟きつつ拳銃の項目を開くと、旧日本軍の十四年式拳銃や自衛隊の9mm拳銃に警察機関のニューナンブM60など色々とある。

 

 旧日本軍なら十四年式か九四式とかがあって、どちらも性能は悪くないだろうが、現代の拳銃と比べると見劣りする箇所は多い。特に九四式拳銃は機構的に危ないから今は論外。

 

 選ぶなら9mm拳銃か11.4mm拳銃ことM1911A1なんだが、その考えはすぐに打ち消される。

 

「おっ、USPにSIG、GLOCKがあるじゃん」

 

 拳銃の項目には『H&K USP』や『SIG SAUER P226R』に『SIG SAUER P228』『GLOCK19』『S&W M3913』『H&K P95』と言ったM1911A1以外の外国産のハンドガンが数多くあった。

 

 これらは自衛隊で正式に採用されているわけじゃなく、陸自や警察、海保の特殊部隊でそれぞれ使用されている、もしくは使用した事がある拳銃だ。

 

 俺はその中から一番好きなUSPを選択すると、バリエーションも選択できるとあってその中から銃身を長くしたエキスパートモデルに一部タクティカルモデルのパーツに切り替えるなどの改造を施す。

 

 次に服装や装備品の項目を開き、服装は自衛隊の迷彩3型に88式鉄帽、半長靴3型と言った戦闘装着セットを選択して、装備を押すと俺の身体が発光し、光が収まった時には選択した武器装備が俺の身体に纏われていた。

 

「おぉ」

 

 自衛隊装備を身に纏った装備に俺は思わず声を漏らし、両腕を広げてまじまじと見てから、肩に背負っている89式小銃を手にしてマジマジと見る。

 

 本体上部のピカニティーレールには89式小銃用照準補助具が取り付けられ、銃身下部のピカニティーレールにはM203が取り付けられており、改造内容どおりの89式小銃であった。

 

 グリップを持ってマガジンポーチからマガジンを取り出し、中に5.56×45mmNATO弾が入っているのを確認してから挿入口に挿し込み、本体右側にあるコッキングハンドルを引いて薬室へと初弾を送り込み、左側に追加したセレクターを安全へと向ける。

 

 スリングで肩に吊るしてから右太股に付けたホルスターよりUSPを取り出し、マガジンをグリップ内に差し込んでスライドを引いて薬室へと初弾を送り込み、安全装置を掛けてホルスターに戻る。

 

 両腕を交互に回してから両腕を真上に上げて背伸びをしてから、深くため息を吐く。

 

(それにしても、楽しみなのか不安なのか、よく分からんな)

 

 本物の武器を手にしたという高揚感と、全く知らない異世界と言う不安から俺の中ではごちゃ混ぜになった感情が渦を巻いていた。

 

「まぁ、しばらくすればこの状況にも慣れるか」

 

 人間は慣れる生き物だ。慣れてしまえば気にしなくなるものだ。って、さっきも言ったな。

 

 そう呟きつつ、テッパチこと88式鉄帽の被る位置を整えて気持ちを切り替える。

 

「さてと。どこに行く当ても無いけど、とりあえず行きますか」

 

 再び深いため息を付いてから身体の調子を整えて、草原を歩き出す。

 

 

 



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第二話 初めての戦闘

 

 

「はぁ……」

 

 森林の中の獣道の草を掻き分けながら俺はため息を付き、周りを見渡す。

 

(自然の多い異世界なのかねぇ)

 

 まぁ別にそれはいいんだけど、さぁ……

 

「人はおろか生き物にすら会えないって、どうなん?」

 

 誰かに向けたわけではないが、そう言いたくなる状況だ。

 

 あれから三時間近く歩き続けて途中で森に入っているわけだが、生物らしき影が見当たらなかった。

 

(まさかと思うけど、人間はおろか生き物に会う事無く終わるって事は無いよな?)

 

 それだけは冗談抜きでやめて欲しい

 

 説明で多種族が暮らしているとあったけど、最後は誰にも会わずにボッチによる孤独死とか、シャレにならない。

 

「あぁ、誰でもいいから出て来ないかなぁ」

 

 そう呟きながら大きな葉っぱを押し退ける。

 

 

「ん?」

 

 葉っぱを押し退けた先には、一軒のログハウス的な小屋が視界に入る。

 

「噂をすれば何とやらってやつか」

 

 茂みから出て戦闘服に付いた葉っぱや蜘蛛の巣を払って小屋に近付き、扉をノックする。

 

「すみません。誰か居ますか?」

 

 声を掛けるも返事は無く、再度数回ノックするも返事は返ってこない。

 

「留守、か?」

 

 一瞬留守かと思ったが、周囲の状態から違和感を覚える。

 

 俺は静かに窓の方へと歩いて中を覗くも、中には誰も居らず、妙に荒れた様子があった。

 

「誰も居ない、と言うより住んでいないのか」

 

 よく小屋を観察すると、長い間誰も住んでいない事を表すかのように苔や草があちこちから生えている。

 

(道を聞いて街に辿り着けたらいいなって思ってたのに……)

 

 内心ガッカリしながら小屋を離れ、森の中にある道を歩いていく。

 

 

 

 小屋の傍で白いナニカがあった事も知らずに。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それから更に一時間以上歩いた所で休憩の為に俺は石に腰掛け、ホルスターよりUSPを取り出してあちこち弄る。

 

「しっかし、この森どこまであるんだ?」

 

 ため息を付き、マガジンをグリップに挿し込み呟きながら周りを見渡す。

 

(何か、マジで誰にも会えないような気がしてきた)

 

「うーん」と唸りながら内心呟く。

 

 

「悩んでも仕方無い、か」

 

 深くため息を付いて立ち上がり、手にしているUSPの安全装置を外す。

 

「さて、どんなものかねぇ」

 

 グリップを両手で持ってしっかりと保持し、近くにある木に銃口を向ける。

 

「……」

 

 深呼吸をして気持ちを整え、トリガーに指を掛けてゆっくりと引く。

 

 

 ――ッ!!

 

 

 銃口からマズルフラッシュが瞬き、銃声と共に弾が放たれる。同時に起こる反動で銃身が跳ね上がるが何とか抑え込む。

 放たれた弾は木の幹に命中して表面が弾ける。

 

(意外と反動があるな)

 

 と言っても実銃は撃った事が無いのでどうこう言えるわけじゃないんだが。

 

 体勢を整えて、連続でトリガーを引いて弾を放つ度に反動が起きるも俺はそれを抑えつつ射撃を続けて、弾が無くなってスライドが一番後ろまで下がって固定される。

 

 マガジンキャッチャーを押して空になったマガジンを排出し、ハンドガン用のマガジンポーチからマガジンを取り出してグリップに挿し込み、スライドを引いてロックを外し、スライドを戻すと再度射撃を行う。

 

 

 それからマガジン3本分を消費するまで射撃を続けて、最後のマガジンを取り出してグリップに挿し込んでスライドロックを外して元の位置に戻す。

 

「大体こんなもんかねぇ」

 

 拳銃を撃つ時の感覚をイメージしつつ思い出しながら安全装置を付けて右太股に装着しているレッグホルスターに戻し、両手を組んで腕を真っ直ぐに前へと伸ばす。

 

 右肩を何回か回した後、背負っている89式小銃を取り出し、右側のセレクターを(安全)から(連射)(三連射)を越して(単射)へと向ける。

 

「さてと……」

 

 ドットサイトの前後のレンズの蓋を開けて右肩に床尾板(バットプレート)を当てて構え、ドットサイトを覗いて狙いを定める。

 

「……」

 

 銃身下部のM203を左手でしっかりと保持し、ドットサイトを覗き姿勢を少し前の方に傾けて用心鉄(トリガーガード)に掛けている指をトリガーに掛け、ゆっくりと引く。

 

 

 ――ッ!!

 

 

「っ!」

 

 撃った瞬間マズルフラッシュが瞬き銃声が辺りに響き渡り、弾は木の幹に着弾して表面を抉る。

 そして9mm弾よりも強い反動が床尾板(バットプレート)を通して伝わる。

 

「くぅ……!い、意外と反動が強い!」

 

 小口径弾の5.56mmとあってそれほど反動は無いだろうと思っていたが、想像していたよりも強い反動で右肩が地味に痛み俺は歯を食いしばる。

 

 俺はその後ドットサイトを何度も調整しては反動に慣れる為に射撃を続ける。

 

 そして弾切れになってボルトが後退したままになり、空になったマガジンをマガジンキャッチャーを押して外し、マガジンポーチに入っているマガジンを左手で取り出して挿し込み、止まっているボルトのロックを外して射撃を再開する。

 

 それからはマガジン4つ分の射撃を行って射撃と反動に慣れ、ドットサイトの調整も少しずつ良くなって狙った場所に弾が命中し始める。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 俺は一息つき、空になったマガジンを外して新しいマガジンを挿し込んで安全装置を掛け、銃床を右手に乗せて肩に担ぐ。

 

(大体は分かったが、やっぱり反動が強いな)

 

 若干痛む右肩を擦りながらさっきまでの射撃の様子を思い出す。

 

 最初と比べればそれなりに使いこなせている方と思うが、それでもまだまだだろうな。

 

「まぁ、最初はそういうもんだろうな」

 

 例え電動ガンやガスガン、モデルガン等で使い方を知っていても、所詮それは模造品で遊んでいるだけだ。本物とは月とスッポンの差がある。

 いくら神様から技術を最初から与えられているといっても、最初から銃を使いこなせるとは思っていない。

 

 呟きながら89式小銃を一瞥し、メニュー画面を開いて消耗した弾薬とマガジンをそれぞれのマガジンポーチに補充すると、空になっていたポーチに膨らみが戻る。

 

 こんな感じで補充されるのか

 

 そう思いつつハンドガン用のマガジンポーチを確認するとUSPのマガジンも消費した分が補充されているのを確認し、89式小銃を右肩に背負おうとスリングに腕を通す。

 

 

「っ!」

 

 俺は一瞬背筋に冷たい感覚が過ぎって、思わず前へと走りさっきまで的にしていた木の陰に駆け込む。

 

 するとその直後に木の幹に何かが突き刺さる。

 

「……っ」

 

 肩に背負おうとした89式小銃を両手に持ち、息を呑んで木の陰から向こう側を見る。

 

 銃撃でいくつも銃痕が残された木の幹には何かが突き刺さっており、よく見たら矢羽らしきものが見える。

 

「……」

 

 セレクターを(単射)にしつ、突き刺さっている矢が飛んできたと思われる方向を見る。

 

 視線の先には林があって、そこに茶色の肌を持つ小柄の人型モンスターが茂みから数匹出てきて、弓を構えてこっちを狙っている。

 創作作品でよく見るゴブリンっぽい見た目だ。

 

「ゴブリン、か?」

 

 ボソッと呟くと弓矢を持つゴブリン達が次々と矢を放ってきて俺が隠れている木の幹に突き刺さる。

 

(クソッ!確かに誰か出て来ないかって言ったけど、お前達はお呼びじゃねぇよ!!)

 

 いつでも撃てるように用心鉄(トリガーガード)に指を掛けて内心で文句を叫ぶが、ゴブリン達はお構いなしに矢を放ってきて俺が隠れている木の幹に矢が次々と突き刺さる。

 

(転生して早々これかよ!)

 

 内心で愚痴る間にも矢は次々と木の幹に突き刺さる。

 

(……やるしかないか!)

 

 この世界に来て早速だが、俺は覚悟を決めて木の陰から出て89式小銃を構え、床尾板(バットプレート)を右肩に当ててドットサイトを覗く。

 

 腕に力を入れて極力銃身のブレを防ぎつつレティクルに弓矢を構えるゴブリンの頭を捉え、トリガーに指を掛ける。

 

 そしてゴブリンが矢を放とうとした瞬間、俺はトリガーを引く。

 

 マズルフラッシュと銃声と共に衝撃が右肩に伝わり、銃口から弾丸が放たれる。

 

 弾丸は一直線に飛ぶが、弾はゴブリンの頭より右斜め下へと飛んでギリギリ命中せずにゴブリンの頭を横切り後ろの木の幹に着弾して表面が弾ける

 

 聞いた事の無い銃声にゴブリンたちは動揺して動きを止めており、俺はすぐに狙いを定めてトリガーを引き、銃声と共に弾が放たれる。

 しかし弾はゴブリンの頭の側面を掠り、皮膚の表面を裂く。

 

「……」

 

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせて突然の激痛に驚くゴブリン狙いを定めてトリガーを引き、銃声と共に弾が放たれる。

 

 弾は一直線に飛んでゴブリンの額に命中して弾が突き出た瞬間後頭部が弾けて中身と血がぶちまけられて、ゴブリンの命を刈り取る。

 

(よしっ!)

 

、内心で命中した事を喜びつつ、別のゴブリンに狙いを定める。

 

 仲間が死んで他のゴブリンは戸惑いを見せるが、その間にも俺は狙いを定めてトリガーを二回連続で引き、放たれた弾は別のゴブリンの頭と胸を撃ち抜く。

 

 相手が混乱している内に俺は連続して狙いを定めてはトリガーを引き、ゴブリンを頭や胸に当てて次々と仕留めていく。

 

 ようやく状況を理解してか、仲間を殺されて怒り心頭となったゴブリン達が雄叫びと共に林から出てこちらに向かって来る。

 しかもまだ奥に居たのか結構な数が来ている。

 

「奥にまだ居たのか!?」

 

 俺は「くそっ!」と悪態を付きながらセレクターレバーを(連射)に切り替えて銃身下部のM203を持っている左手に力を更に入れて構えると、トリガーを引く。

 

 次の瞬間には連続でマズルフラッシュが瞬き、雨霰の如く弾が放たれる。

 

 弾は向かって来るゴブリンたちの胸や頭に命中して撃ち貫き、その命を刈り取っていく。

 

「くっ!」

 

 反動で銃身が上がっていくのでトリガーから指を離し、そこから3点バーストに切り替えて3連射でゴブリンを撃ち殺していく。

 

 少ししてマガジン内の弾を撃ち尽くしてすぐにマガジンキャッチャーを押して空になったマガジンを外し、マガジンポーチからマガジンを取り出して挿し込み、止まっているボルトのロックを外して射撃を再開する。

 

 さすがにゴブリン達は自分達の身の危険を感じてか武器を捨てて逃走しようとするも、俺は逃げていくゴブリン達に狙いを定めて射撃し続けて撃ち殺していく。

 

 そして一林に入ろうとする一匹も、放たれた弾丸が後頭部から頭を貫通し、息絶えて前のめりに倒れる。

 

 

「……」

 

 射撃をやめると銃声が辺りに小さく木霊して、銃口から硝煙が薄く漏れ出す。

 

 何匹かが逃げたようだが、戻って来ても返り討ちにすればいいだけだ。

 

「……」

 

 俺はマガジンを外して新しいマガジンを挿し込み、ゆっくりと前へと進む。

 

 周囲に視線を向けて他のゴブリンが襲ってこないか警戒していると、頭を撃ち抜かれたり蜂の巣にされて息絶えたゴブリン達の死骸が視界に入り、ちょうど向かい風が吹いて生臭い血の臭いが鼻を突く。

 

「ッ……」

 

 あまりのスプラッターな光景と鼻を突く臭いに胃から何かが逆流しそうになるも俺は何とか耐える。

 

(そりゃ、銃を思う存分使えばこうなるよな)

 

 銃の威力を身を持って体感し、息を呑む。

 

 動画を見て銃の威力は知っていたはずだった。だが、見るのと実際とではまるで違っていた。

 

(今回だけで済む、ってわけじゃないよな)

 

 だったら武器や兵器を召喚できる能力を持たされるわけが無い。つまり武器が必要になる時は日常茶飯事だということだろう

 あの女性が言っていたのはこのことか

 

(とんでもない世界に転生させられたんだな)

 

 改めて自分の置かれている状況を理解して、げんなりと気持ちが落ち込む。

 

 

 

「っ?」

 

 すると林からバキバキと木が折れるような大きな音がして、俺はすぐに林の方に視線を向ける。

 

「なんだ?」

 

 89式小銃を構え、左右に視線を向けつつ林を方を警戒する。

 

(何かが、来る)

 

 音のする方向に89式小銃を向け、トリガーに指を掛ける。

 

 

「……え?」

 

 木々の間より出てきた存在にポカーンと口が開く。

 

 一言でそれを言い表すなら……さっきのゴブリンを巨大化したようなモンスターが現れた。

 ただゴブリンと違って頭には浅く湾曲している赤い角が2本生えている。そしてでかい。

 

「……ボスのお出まし?」

 

 目の前のモンスター……でかいゴブリンだからそのままビッグゴブリンとでも呼ぶか。

 俺はも思わず声を漏らすと、ビッグゴブリンは雄叫びを上げて右手に持つ鉄塊のような大剣を振り上げ、俺の方へと走り出す。

 

 

 



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第三話 初めての戦闘2

 

 

 

 

 走って来るビッグゴブリンは大剣を重さに任せ、俺に向けて振り下ろしてくる。

 

「っ!」

 

 俺はとっさに横に飛んで攻撃をかわすと大剣が地面に叩きつけられて砂が舞い上がる。

 

 砂を被りながらも89式小銃をビッグゴブリンに向けてトリガーを引き、銃声と共に弾が連続で放たれビッグゴブリンに当たる。

 

「ゴアァッ!?」

 

 弾が身体中に命中するが、痛みは感じているようだが弾は弾かれて傷を負わなかったが、ビッグゴブリンは突然の事に思わず足を止めて戸惑い、後ろに数歩下がる。

 

 マガジン内の弾を撃ち尽くしてすぐに空になったマガジンを外して新しいマガジンを挿し込み、固定されたボルトのロックを外して射撃を再開する。

 

「グゥゥゥゥ!」

 

 連続で弾が当たってビッグゴブリンは煩わしいように唸り声を上げて手にしている大剣を前に出して盾にし、弾を弾きつつこちらに向かう。

 

「見た目によらずお頭は悪くないってか!!」

 

 残弾が少なくなったマガジンを外して新しいマガジンを挿し込み、後ろに下がりつつ射撃を続ける。

 だが弾は大剣の表面に直撃するも火花を散らして弾かれる。

 

「チッ!」

 

 俺は踵を返して走り出し、ビッグゴブリンは大剣を前に出したまま走り俺の後を追う。

 

 走りながら腰の弾帯に提げているポーチから40mmの榴弾を取り出し、89式小銃の銃身下部に取り付けているM203の銃身を前にずらして榴弾を差し込み、元の位置に戻す。

 

「……っ!」

 

 俺はビッグゴブリンと距離が開けた所で振り返りながら立ち止まり、向かって来るビッグゴブリンに向けてM203の安全装置を外してトリガーに指を掛け、思いっ切り引く。

 

 ボンッ!!と言う音と共に榴弾が放たれ、榴弾はビッグゴブリンが盾にしている大剣の腹に直撃すると爆発を起こす。

 

「っ!?」

 

 爆発に驚いてかビッグゴブリンはバランスを崩して後ろへと倒れる。

 

 俺はM203の銃身を前にずらして空薬莢を排出し、別の弾を装填して元の位置に戻し、ビッグゴブリンに向けて放つ。

 

 弾はビッグゴブリンの傍に落ちると爆発せず、代わりに白い煙を噴射し、ビッグゴブリンを覆い尽くす。

 

『ブシュッ!?グシュッ?』

 

 するとビッグゴブリンはくしゃみや咳き込みをしてもだえ苦しむ。

 

 先ほどM203に装填したのは催涙弾で、しばらくの間ビッグゴブリンはこちらどころじゃないだろう。

 

 ビッグゴブリンが倒れている内に89式小銃を手放してメニュー画面を開いて武器項目の中からある武器を選択する。

 

「いきなりこれを使うことになるとはな!!」

 

 俺は愚痴りながらも地面に現れたカールグスタフこと『84mm無反動砲(B)』を手にして砲尾を開けると一緒に召喚した砲弾を装填し、砲尾を閉じて肩に担ぐ。

 

『グゥゥゥゥ!!』

 

 催涙ガスに苦しんでいたビッグゴブリンが起き上がり、涙目になりながらも雄叫びを上げて大剣を盾の様にして前に出して走り出す。

 

「……」

 

 俺は右膝を地面に着けて84mm無反動砲(B)を構え、グリップを握る手に力を入れ、息を呑む。

 

 

 そして距離が縮まった所でトリガーを引き、砲尾から勢いよくガスが噴射して弾頭が飛び出す。

 放たれた弾頭はビッグゴブリンが盾にしている大剣の腹に直撃して爆発し、燃焼ガスとメタルジェットが大剣を貫いてビッグゴブリンの腹を焼いて貫通する。

 

「っ!?」

 

 燃焼ガスとメタルジェットによって腹が焼かれて大きく抉れた上に貫通し、ビッグゴブリンは後ろに数歩下がり激痛の余りかその場に膝を着き両腕で焼け焦げて血を流す腹を押さえる。

 

 俺はすぐに砲尾を開放してメニュー画面から砲弾を出し、砲弾を装填してから砲尾を閉じ、ビッグゴブリンに向けてトリガーを引くとノズルからガスが勢いよく噴射して砲弾が飛び出し、ビッグゴブリンの胸辺りに直撃して爆発し、辺りに血や肉片を撒き散らす。

 

 

「……」

 

 煙がビッグゴブリンを覆って姿見えない中、俺は84mm無反動砲(B)を装備解除して89式小銃を拾い上げ、M203の銃身を前へとずらして空薬莢を排出して榴弾を装填して元の位置へと戻す。

 

 そして風が吹いて煙が晴れると、胸や腹が焼け焦げて大きく抉れた上に貫通して向こう側が見えているビッグゴブリンの屍があり、しばらくして屍はゆっくりと前へと傾いて地面に倒れる。

 

「……」

 

 俺はジリジリと足を擦らせるようにして前へとゆっくりと進み、ビッグゴブリンに近付く。

 

 すぐ傍まで近付き、89式小銃の先端で数回ほど強く突いてみたが、反応は無い。

 

「……っ」

 

 どう表現すれば分からない臭いで思わず後ろに数歩ほど下がり、吐き気が込み上げて俺は何とか耐えようとするも、遂に耐えられずその場で胃液や飲み込んだ唾液が混じった液体を吐き出し、その場に膝を着く。

 吐き出すものなんて無いのに俺は嘔吐を続けて、しばらくしてようやく吐き気が収まる。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせて、俺はゆっくりと立ち上がり、水筒を手にして口いっぱいに水を含んで口の中を濯ぎ、吐き出す。

 

 それを二回繰り返して水筒の蓋を閉めて弾帯に提げ、地面に置いている89式小銃を手にする。

 

 

 

「はぁぁぁ……」

 

 ビッグゴブリンから少し離れ、緊張から解かれて俺は思い切ってため息の様に息を吐き出し、その場に座り込む。

 

「……」

 

 違和感を覚えて右手を見ると、細かく手が震えていた。

 

(あれが、銃を使って戦う感覚、か……)

 

 俺は未だに震えている右手を見ながら内心呟く。

 それは恐怖からもあるが、昂りから来ているのかもしれない。

 

(いずれ、慣れるんだろうな。どっちの感覚にも)

 

 人は慣れる生き物だ。いずれ銃の扱いにも慣れ、そして殺す事にも躊躇しなくなるだろう。と言っても、さっきゴブリンを殺す時は躊躇無かった気がするが、あの時は自分の身が危険であったとあって、ほぼ無意識の内に動いていた。

 なので、意識している今は少し複雑な気分だった。

 

(切り替えないとな。もう、前世と違うんだ)

 

 平和な世の中はもう無いんだ。この世界では気を抜けば死が待っている。それを先ほど身を持って思い知らされた。

 

 まぁ、すぐにとはいかないだろう。だが、さっきも言ったが人間は慣れる生き物だ。いずれは変わる。

 

 内心で自分に言い聞かせながらメニュー画面を開く。

 

「ん?」

 

 俺はメニュー画面のお知らせの項目が点滅しているのに気付き、首を傾げる。

 さっきは頭の中がゴチャゴチャになっていたから武器選択の時は気が付かなかった。

 

 お知らせの項目に触れて画面を開く。

 

『経験値が溜まりましたので、レベルが6に上がりました

 レベルが上がったと共に身体能力が7倍へと向上しました。

 特定条件「初めての戦闘で勝利した」をクリアしました。トレーニングモードが解放されました。

 特定条件「自分より格上の相手を倒した」特別ポイントが760pt追加されました。

 特定条件「レアモンスター ビッグゴブリンを討伐した」が満たされました。スキル『大和魂』が追加されました。

 特別ポイントが620pt追加されました』

 

「おぉ……おぉ?」

 

 お知らせの内容に俺は思わず声を漏らし、同時に疑問を漏らす。

 

(一気にレベルが上がったな)

 

 しかも何か色々と追加されたな。と言うかあのでかいゴブリン、名前そのままでレアなモンスターだったのかよ。と言うかまるでメ○ル○ライ○みたいな経験値の上がり方だ

 っつか、大和魂ってなんやねん

 

 内心で呟きながら追加されたトレーニングモードとスキルを見る。

 

 トレーニングモードは仮想空間内で訓練を行うモードで、ありとあらゆる状況をシミュレーションで体験訓練を受ける事が出来ます。

 訓練を行っても経験値こそ入りませんが、感覚と技術を身に付ける事が出来ます。

 訓練はあなたのみならず、人物を選択することで同様に感覚と技術を身に付ける事が出来ます。

 尚、仮想空間内で1年以上時間を過ごしても、現実では1秒しか経過しないようになっています。ただし仮想空間内で受けた疲労は蓄積されて現実の肉体に影響を及ぼす可能性がありますので、ご注意を

 

(結構便利な能力だな)

 

 と言うか時間の経ち方がまるで○神と○の部屋みたいだな。

 

 しかし、これなら銃のみならず兵器を運用するまでの訓練時間を大幅に短縮する事が出来る。

 

(だが、疲労が出るとなると、調子に乗ってずっと訓練ってわけにはいかんな)

 

 状況によっては危険を招きかねないな。まぁ、これは追々考えるとしよう。

 

 俺は自分のステータスを開き、新たに追加されたスキルを見る。

 

 

 身体精神異常無効:一部を除いていかなる身体及び精神の異常を無効化する能力。但しものによっては若干のペナルティーが生じる可能性があります

 

 五感強化能力:任意のタイミングで五感の内どれか一つを強化する。レベルが上がれば上がるほど強化した際の効果も強くなる。

        但し現時点のレベルでは二箇所以上の強化は不可

 

 勘:様々な状況を事前に察知できる。レベルの高さ次第で勘の当たる確立と察知する早さが上がる。

 

 大和魂;精神力と気合で各種ステータスが一時的に向上するスキル。レベルが高ければ高いほどステータスが高く強化される。

     但しレベルが低い場合、任意でスキル発動は出来ないので、一定の確率で発動する事になります。

 

  捕捉:スキルはレベルが一定数上がる、もしくは特定の条件を満たす事により新たに追加、もしくは既存能力が強化されます。

 

 

(気合と精神力……)

 

 旧日本軍の思想じゃないんだから……まぁ能力的には結構優秀だけど、もう少しマシな名前は無かったのか 

 

 新しいスキルの能力を確認してメニュー画面を閉じる。

 

 

 

 その後俺は気持ちを切り替え、何かに使えないかとビッグゴブリンの屍から頭の角と牙を89式多用途銃剣で色々と耐えながら切り取り、その場から立ち去る。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 時系列は少し下る……

 

 

「……」

 

 目の前の光景に私は驚きを隠せなかった。

 

 私達は近隣に現れたビッグゴブリン率いるゴブリンの群れの討伐依頼を受けて騎士団から派遣され、その群れが居座る森に向かっていた。

 

 しかし到着するなり血生臭い臭いが辺りに立ち込めており、その発生源を特定しようと辺りを捜索したら、そこには私たちが討伐するはずだったゴブリンの群れが死んでいた。

 

 それだけなら別に驚きはしない。ゴブリンが他の魔物に殺されるか、それとも私達以外の騎士か冒険者によって討伐される事はたまにある。

 でも、ビッグゴブリンが死んでいるとなると、話は別だ。

 

「これは、一体どういうことなの」

 

 隣では私の親友が目の前の光景に思わず声を漏らす。

 

「ゴブリンだけならまだしも、ビッグゴブリンまでもが」

 

「……」

 

 ビッグゴブリンは並大抵の実力では討伐は困難だと言われるほど強力な魔物だ。練度の高い私達でも気を抜けない相手だ。しかも子分のゴブリンと連携して襲ってくるのでその厄介さに拍車が掛かる。

 それが群れのゴブリンと一緒に死んでいるとなると、ただごとじゃない。

 

「それに、このやられ方は」

 

 彼女はビッグゴブリンの屍に近付くと、焼け焦げて貫通した胴を見る。

 

「火属性の魔法で焼いた、にしては少しおかしいわね」

 

 私は焼き焦げた痕から妙な違和感を覚える。

 

 焼け焦げているといっても、火属性の魔法でこんな綺麗に穴を空けれるものなのか?

 

 

「フィリア様!」

 

 と、ピンク色の髪を二つに分けて纏めた髪形をして、左目を黒い眼帯で覆う仲間の少女がやってくる。

 

「リーンベル。どうだった?」

 

「ゴブリンの屍を見てきましたが、こちらの方はおかしな傷が」

 

「おかしな傷?」

 

「はい」

 

 私達はリーンベルに案内され、茂みで息絶えているゴブリンの屍の群れを見る。

 

「……これは」

 

 ゴブリンの屍に残された傷に私は目を細める。

 

 ゴブリン達は一部を除いて身体や頭に小さな穴が開いており、よく見ると真っ直ぐ貫通している。

 

「こんな真っ直ぐ綺麗に穴の開いた傷、見た事がありません」

 

「そうね。少なくとも、矢で射抜かれた傷じゃないわ」

 

「……」

 

「それと、こんな物があちこちに」

 

 リーンベルは手にして居た物を私と親友に見せる。

 

「なんだこれは?」

 

「……」

 

 それは薄く焦げた金色の円筒状の物体で、先端が焼け焦げたような色をしている。

 

「嗅いだ事の無い臭いだな」

 

 親友は金色の円筒状の物体を鼻に近づけ、発せられている臭いを嗅ぐ。

 

 そういえば血生臭い臭いの他に、こんな臭いが微かに辺りにしているような……

 

 

「少なくとも、このゴブリン達は何かに恐れて逃げようとして、後ろからやられた、と見るべきでしょう」

 

 と、茂みの奥から腰の位置まで伸ばした金髪でまるで目を閉じているかのような薄目な目つきの少女が出てくる。

 

「森の方に向かって前のめりに倒れているから、だな」

 

「はい、ユフィ様」

 

 親友ことユフィの問い掛けに少女は答える。

 

「やっぱり、冒険者でしょうか?」

 

「この依頼は騎士団にしか伝わっていないはずだ。冒険者の可能性は低いだろう」

 

「では、盗賊か傭兵によるもの、と?」

 

「状況で決め付けるにはまだ早い。でも、可能性は捨てきれないわね」

 

「……」

 

 

「どうするの、フィリア?」

 

「……」

 

 私は状況から判断を下す。

 

「結果はどうあれ、目的は達せられているわ」

 

「それはそうですけど……でも」

 

「横取りされたと言う結果だけどね」

 

「……」

 

 誰もが納得し難いと言った雰囲気であった。

 

「……兎に角、報告の為にブレンに戻るわ。いいわね?」

 

「分かった」

 

「はい!」

 

「分かりました」

 

 私が踵を返して乗ってきた馬車へと向かい、その後をユフィたちが続く。

 

 

 

 



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第四話 トレーニングモード

 

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 深いため息を付いて岩に腰掛け、テッパチの顎紐を解いて外して傍に置き、テッパチで押さえつけられ汗でのっぺりとした髪を掻き解く。

 

「まさかここまで全然人に会わないとか、本当に参るなぁ」

 

 呟きながら水筒を手にして蓋を開け、入っている水を口いっぱいに含んで飲み込む。

 

 転生して一週間近くが過ぎているが、今も尚森の中をずっと彷徨い続けている。

 

「しかもこんなに森が広いとはな。ロシアも驚きの広さじゃね?」

 

 まぁどのくらい広いのかは分からんが、少なくとも日本にあったどの森林よりも広いのは確実だと思う。

 

 そしてここまで広いとなると、色々と大変だった。

 

 まず魔物に多く出くわすわで小銃や拳銃、新しく出した汎用機関銃、対戦車兵器を使って何とか乗り切った。こんな時に乗り物があったらどれだけ楽だったか。まぁ現時点のレベルじゃまだ使えないので無い物を強請ってもしょうがない。

 まぁ襲い掛かってくる魔物を大量に倒したお陰でレベルは一気に15まで上がり、戦闘スキルにも磨きが掛かって特別ポイントも1260ptと溜まったので決して無駄と言うわけじゃない、はず

 

 それに追い討ちを掛けるかのように水のカーテンの如くの土砂降りに遭ったり、それによって出来た泥沼に足を取られて倒れたりと、中々森を進む事が出来なかった。

 その上、勘頼りで出鱈目にあっちこっち歩いたのであんまり進んだ気がしない。正直にコンパス使って方位を確認しながら進めば良かった。

 

 しかもそんな苦労があった間に人はおろか、コミュニケーションの取れる生物にすら出会えず、どれも獰猛な魔物ばかりだった。

 

「こんなに人に会えないものなのか?」

 

 まぁ森の中だから少ないかもしれないけどさ、村や集落ぐらいあってもよくない?

 本当に人間に会えないまま二度目の人生が終わりそう……

 

 俺はボソッと呟きながらメニュー画面を開き、武器項目からお目当てのやつを探す。

 

 小銃の項目から俺は『64式7.62mm小銃』を選択する。

 

 日本が戦後になって初めて設計開発した国産自動小銃で、通常より炸薬が少ない弱装弾仕様の7.62×51mmNATO弾を用いることも出来る小銃だ。後継の89式小銃が採用されてからも未だに一部部隊では現役を勤める結構息の長い小銃である。

 

 俺がなぜ64式小銃を選んだのはセミオート式の狙撃銃として使うからだ。

 

 対人狙撃銃ことM24はボルトアクションで精度は文句ないだろう。だが、排莢と装填を手動で行うボルトアクションは余程慣れてない限り連射が効かないので大勢を相手にするには向いていない。セミオート式狙撃銃なら日本を含む各国の特殊部隊御用達のPSG1がいいだろうが、セミオート限定な上に重いと軍用向きじゃないので色々と不便だ。なら海上自衛隊特別警備隊で使われている軍用PSG1ことMSG90がいいんだろうが、さっきも言ったがセミオート限定では色々と不便なので今回は見送る。

 まぁセミオート狙撃銃が必要というより、どちらかと言えばマークスマンライフルが必要だな。

 

 しかし64式小銃はそのままだと色々と問題があるので使いづらいだろう。なので、魔改造を施す。

 

 改造内容だが、スコープマウントを追加して対人狙撃銃ことM24のやつと同じ高倍率のスコープを乗せてサプレッサーを着脱できるように消炎制退器を含めて銃身先端を加工し、二脚は何段階にも調整が出来るように変更して銃床に頬当てを取り付けると言った、いくつかを『64式狙撃銃』とほぼ同じ仕様にする。次に脱落防止を含めた各所パーツの強度を上げて高精度バレルへと変えて射撃精度を上げる。後は内部のパーツの強度と耐熱性を上げる。まぁこんな所か

 続けて弾薬だが、弱装弾から通常仕様の7.62×51mmNATO弾へと変更した。出来れば狙撃に最適な弾薬にしたかったけど、さすがに機構的に無理があるので諦めた。

 

 あとついでに今後使うであろうM24にもポイントと交換したカスタムパーツを加えた改造を行う。

 まずインナーボックスマガジンからデタッチャブルボックスマガジンに変更し、弾薬も7.62×51mmNATO弾から狙撃に最適な.338ラプア・マグナム弾に変更し、それに伴い内部機構の変更とパーツの強度、耐熱性を向上させた。

 

「まぁこんなものだろう」

 

 俺は改造を行った両銃を確認して、腕時計の時間を確認しながら俺はその二つの銃の試験の為にトレーニングモードを起動する。

 

 すると俺の視界が真っ白に包まれる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 俺が目を覚ますと、真っ白な空間に射撃場の様な場所があった。

 

 トレーニングモードは訓練内容によって空間内のレイアウトが異なり、射撃訓練や銃の試験ならこのように射撃場の様なレイアウトが現れる。

 

 俺の目の前にある台には改造された64式狙撃銃とM24(カスタム)がバイポッドを立てられて置かれており、俺は64式狙撃銃の方を手にする。

 

 7.62×51mmNATO弾が収められている20発入りマガジンを手にして64式狙撃銃の本体下部にある挿入口にマガジンの前端を引っ掛けながら挿し込み、本体上部にあるコッキングハンドルを引いて薬室に初弾を送り込む。

 

「……」

 

 64式狙撃銃のグリップを持ち、スコープ前後のレンズの蓋を開けて覗き込み、見やすくするようにスコープの調整を行う。

 

 ある程度見やすくなったところで頬当てに頬を当ててスコープを覗き、レティクルに的を捉える。

 

「……」

 

 呼吸をなるべく小さくゆっくりとして振動を抑え込み、トリガーガードに置いている指をトリガーに掛ける。

 

「……」

 

 狙いが定まり、ゆっくりとトリガーを引き絞る。

 

 

 ―ッ!!

 

 

 銃声と共に7.62×51mmNATO弾がマズルフラッシュの後に銃口から放たれ、5.56mm弾よりも強い衝撃がストックを通して俺の右肩に伝わる。

 

 スコープ越しに見る視線の先では、的の中央より右にずれて弾が撃ち抜かれ、その直後に排出された空薬莢が響き良い高い音を立てて床に落ちる。

 

(少しずれたか)

 

 スコープを覗きながら倍率とレティクルを調整し、再度狙いを付けてトリガーを引き、先ほどより的の中央に寄るが僅かにずれる。

 

「……」

 

 その後もスコープを調整しては射撃を行い、スコープの調整を行うと同時に狙撃の腕を鍛える。

 

 

 スコープの調整も終わったので64式狙撃銃を離れた場所に買ポッドを展開して置き、空になったマガジンを引き抜いてコッキングハンドルを引いて薬室に弾が残ってないのを確認して安全装置を掛けてスコープのレンズの蓋を閉じ、次にM24(カスタム)を手にする。

 

 ボルトハンドルを上に上げて溝から外し、後ろに引っ張ってから.338ラプア・マグナム弾が20発入りのマガジンを挿し込み、ボルトを押し込んでボルトハンドルを下ろして溝に嵌める。

 

「……」

 

 スコープ自体は64式狙撃銃と同じだが、銃自体の癖は大きく違うので、ある程度64式狙撃銃のスコープとほぼ同じ調整にしてそこからM24(カスタム)向けの微調整を施せばいい。

 

 スコープのレンズを覆う蓋を外して安全装置を外し、射撃を行うまではトリガープルの軽いトリガーに指を近づけず、トリガーガードに指を掛けておく。

 

「……」

 

 狙いを定め、トリガーに指を近付け、少しの力で引く。

 

 

 ―ッ!!

 

 

 銃声と共に7.62×51mmNATO弾よりも強力な.338ラプア・マグナム弾が放たれ、的の中央より左に少しずれて命中する。

 

「やっぱりボルトアクションとセミオートとじゃ癖が違うか」

 

 当たり前だが、こんなにも違うとは……

 

 内心で呟きながらボルトハンドルを上げて後ろに引っ張り、空薬莢を排出して床に落ちて甲高い音が響くのを聞きながらボルトを押し込み、ボルトハンドルを溝に嵌める。

 

「……」

 

 スコープの倍率とレティクルの調整をして再度覗き込み、狙いを定めてトリガーを引き、銃声と共に放たれた弾は先ほどより中央寄りに命中するも、ど真ん中とまではいかなかった。

 

 

 その後は微調整を繰り返しては射撃を行い、更に狙撃の腕を上げていく。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それからどのくらい時間が経過しただろうか。

 

 一応この空間内でもどのくらいの時間が経過しているかはメニュー画面を見れば分かるのだが、それを確認しないまま俺は訓練に明け暮れている。

 

 89式小銃用照準補助具ことドットサイトから取り替えたEOTech551と呼ばれるホロサイトの照準を合わせて89式小銃のトリガーを間隔を空けて引き、放たれた弾は的に穴を空けていくと最後の一発が放たれてボルトが最後まで後退して止まる。

 

 空になったマガジンをマガジンキャッチャーを押して落とし、台に置いているマガジンを手にして挿入口に挿し込み、ホールドオープンしたボルトのロックを外して射撃を再開する。

 

 ある程度撃ったら89式小銃を手放してスリングに吊るし、右太股にあるレッグホルスターよりUSPを抜き出して射撃を行う。

 

 トリガーを連続して引いては弾が放たれ続け、的を蜂の巣にして18発目が放たれるとスライドが一番後ろまで下がって固定される。

 

 マガジンキャッチャーを押して空になったマガジンを排出し、素早くハンドガン用のマガジンポーチからマガジンを取り出してグリップに挿し込み、スライドの後ろを持って引っ張り、ロックを外してスライドを戻すと再度射撃を行う。

 

 マガジン4つ分の射撃を行った後新しいマガジンを差し込んで素早く安全装置を掛けてレッグホルスターに戻し、スリングで吊るしていた89式小銃を手にしてマガジンキャッチャーを押してマガジンを落とし、新しいマガジンを差し込んで射撃を再開する。

 

 

 

 ただひたすらに89式小銃やUSPを持って射撃を続け、気付けば足元にはマガジンや空薬莢が転がり山を作っていた。

 

「……さ、さすがに、疲れた」

 

 俺は89式小銃をバイポッドを展開して台に置き、少し離れた場所に座り込み、両手にしているグローブを外して仰向けに倒れる。

 

「……」

 

 メニュー画面を開いて時間を確認すると、いつのまにか八ヶ月近く経過しようとしている。

 

(もうそんなに撃っていたのかよ)

 

 ほぼ休憩なしで八ヶ月間撃ち続けていたのかよ。現実なら確実に死んでいるな。

 

 ちなみに序盤は64式狙撃銃とM24(カスタム)による狙撃をありとあらゆる状況と天候で行い、狙撃の腕を上げた。

 

 中盤はナイフやある武器、89式小銃に銃剣を取り付けてデコイ相手に格闘戦法をひたすら学び、実践した。

 

 終盤は先ほどやっていた89式小銃とUSPによってひたすら射撃を行った。

 

(やはり、このトレーニングモードは歯止めが効き辛い)

 

 現実なら疲労を感じて止められるが、この空間内じゃ疲労を感じにくく止めるタイミングが分からなくなる。

 

 それなのに疲労は現実でもある程度現れるので、計画を練って考えてやらないと後々つらい目に遭うな。

 

「はぁ……」

 

 深いため息を付き、メニュー画面からトレーニングモードを終了させると、辺りが真っ白に包まれる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ん……」

 

 一瞬の間に真っ白だった空間が、さっきまでの森林の景色へと戻っていた。

 同時にずっしりと身体に重りが乗ったかのように疲労が襲い掛かる。

 

(この瞬間は慣れんな)

 

 内心で呟きながら腕時計を確認すると、トレーニングモード開始前から時間は対して変化は無く、秒針が少し進んでいるぐらいだ。

 

(ホント○神と○の部屋だな)

 

 正確にはちょっと違うけど、似たようなもんだよな

 

 苦笑いを浮かべながらメニュー画面を閉じ、傍に置いた水筒を口にする。

 

 

「ん?」

 

 しかし水筒を傾けても水は少ししか口に入ってこなかった。

 

 水を飲み込んで水筒の口を下にして何度も上下に振るうも数滴しか落ちてこなかった。

 

「もう無くなったのか」

 

 水の綺麗な川で補充したばかりなのに。まぁ最近水を飲む機会が多かったけど

 

「近くにある川って、少し戻った所しかないよな」

 

 先に進めば水場があるかもしれないが、全く地理が分からないのに勘だけで進んだら痛い目に遭うのは目に見えている。仮にあってもそこの水が飲めるとは限らない。

 だから、確実にある場所に戻ってでも水は確保しなければならない。しばらく何も食べなくても多少無理は利くが、水ばかりは飲まないとそう長く持たない

 

「仕方無い」

 

 水筒の蓋を閉めて近場で水辺があるところを思い出しながら弾帯に提げ、テッパチを被って顎紐を締めてから89式小銃を手にして腕にスリングを通して背負い、元来た道へと戻る。

 

 

 



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第五話 第三者からすればラッキーな光景かもしれないが、関わった者からすればアンラッキーな状況だからな

酒を飲んで妙なテンションで書いた結果がこれである(;´・ω・)


 

 

 

 しばらくして、通り過ぎた川辺へと到着する。

 

 ここは特に用が無かったから通り過ぎたけど、また戻ってくることになろうとは

 

 左には俺の身長の倍近くの高さのある落差があって、川の水がその落差から流れ落ちて小さな滝を作っており、その下では大きな滝壺が出来て溢れた水が川となっている。

 

「水は綺麗、だな」

 

 近くまで来て汚れていないかを確認してから、腰の弾帯に提げている水筒を手にして蓋を開け、川に水筒を浸けて水を少し入れ、一口飲む。

 

「冷たいし、うまいな」

 

 特に問題は無いな

 

 呟いてから水筒を再度川に浸けて水を満タンに入れて蓋をし、弾帯に提げて立ち上がる

 

「……」

 

 ふと鼻にツンと来る臭いがして、俺は迷彩服3型の袖を鼻に近づける。

 

「……気にすると、結構臭うな」

 

 そういや汗だくになっても、ずぶ濡れになっても、泥まみれになっても、最初に私服から着替えてから一度も替えてないな。そりゃ臭うわな

 

 別に気にすることはないかもしれないが、さすがにここまで臭うとなると……

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ふぃ~」

 

 俺は岸に近い滝壺に浸かり、深くゆっくりと息を吐き出す。

 

「これで温かったら最高なんだけどな」

 

 一応野外入浴セットはあるのでそれ使えばいいじゃんと思うだろうが、地形的に設置が出来ないんだよ。設置できる場所があっても距離が開くから水溜めに往復するのはゴメンだ。

 

 両手で水を掬って顔を洗い、身体に付いた汚れを落としていく。

 

「……」

 

 ふと自分の身体が目に入り、転生前よりも筋肉が付いているように見えた。

 

(やっぱり外見は前世通り鍛えれば筋肉質、怠れば肥満体になるのかねぇ)

 

 前世とは全く違う身体なので未知数だが、少なくとも外見の変化は同じと考えても良い、のか?

 

(まぁ、それは追々確かめれば良いか)

 

 まだまだ分からない事だらけだ。時間を掛けて一つ一つ確かめればいい

 

 

 少しして水場から上がって俺は召喚したタオルで身体を拭き、新しい下着に迷彩服3型を身に纏って装備品を付けていく。

 

「ふぅ、すっきりした」

 

 呟きながら背伸びをして浅く息を吐く。

 

 なんだかさっきより楽になった気がする。

 

「さてと、また同じ道へと戻りますか」

 

 二脚を立てて置いている89式小銃を手にして二脚を畳み、スリングに腕を通して右肩に背負い、踵を返して歩き出す。

 

 

 

「っ!」

 

 足を踏み出した直後に俺の脳裏に何かが過ぎり、俺は本能に従って前へと飛び出し、茂みに隠れる。

 

「……」

 

 俺はすぐに背負っている89式小銃を手にして銃口を茂みの隙間から向こう側に向け、ホロサイトを起動させて覗き込む。

 

 

 すると俺の居る場所から対岸の茂みから葉っぱ同志の擦れる音がして、グリップから手を離して右側のセレクターを(単射)に向けてグリップを握り直す。

 

(ここに来て、まだ来るか)

 

 せっかくスッキリとしたって言うのに

 

 内心で文句を呟きつつ、音が段々近づいて来てトリガーガードに掛けていた指をトリガーに近付け、いつでも撃てるようにする。

 

 

「……っ!」

 

 そして茂みから何かが出てきて俺はトリガーに指をかけようとしたが、とっさに引っ込める。

 

 茂みから出てきたのは度々襲い掛かってきたゴブリン等の魔物ではなく、……一人の少女だった。

 

(あっぶねぇ!)

 

 俺は呼吸を整えつつ気持ちを落ち着かせ、とっさに89式小銃の銃口を明後日の方向に向ける。

 

 一歩間違えたら異世界で初めて出会った人間を殺しかねなかった。

 

(いかんな。このままだと、やらかしかねぇ)

 

 俺は最悪の事態を想像して血の気が引く。

 

「……」

 

 気持ちを落ち着かせてから茂みの隙間から向こう側を見ると、川には先ほど茂みから出てきた少女が川に近付いてその場にしゃがんで両手を水で洗っている。

 

 空を覆う木々の隙間から差し込む日の光に反射している銀髪を背中に掛かるぐらいの長さまで伸ばしており、サファイアの様な透き通った蒼い瞳をしている美少女で、スタイルはかなり良く、どこかは言わんが服の下から自己主張の激しい部位が目を引く。

 傍に置いている篭手や胸当てと言った防具や鞘に納まった剣がある辺り騎士であるようだ。

 

(どこかの組織に所属している騎士みたいだな)

 

 少女の胸当てにはどこかの騎士団に所属している事を示すシンボルマークが描かれている。

 

 騎士団に所属していると言う事はどこかに拠点を設けているはずだから、どうにか少女と接触して付いて行く事が出来れば森をおさらばして町に行く事ができる。

 

 だが、少しちょっとした問題が……

 

(さて、どうしたもんかねぇ)

 

 今動くと確実にこちらの存在がばれるだろう。まぁ別に隠れる理由が無いのでばれても良いんだが、余計な誤解を持たれてしまうのは何か嫌だな。

 

(それに、どうにかして会話へと持ち込めないものか)

 

 ようやくこの世界で初めて人間と会えたのだ。出来れば話をして町に案内してもらいたい。

 

 と言っても突然現れるとなると警戒されるのはまず確実だろう。そこからどう会話に持ち込むか。

 

 

 

「っ!?」

 

 どうするかと考えて前を見て、目の前で起こっている状況に俺は思わず下を向く。

 

「……」

 

 しかし顔を下げた俺だが、顔を上げたい衝動に駆られて細かく震えている。

 

 ここで顔を上げちゃいけないのは分かっている。分かっているのだが、男の本能がそれを押し退けようとする。

 

「……」

 

 遂に誘惑に負けて、恐らく赤くなっているであろう顔を上げて茂みの向こうを見ると、そこでは身に纏っていた衣服を脱いで水浴びをしている少女の姿があった。

 

(何でよりによってここで水浴びなんかしてんの!?)

 

 いよいよ出ることはおろか、ばれるわけに行かなくなった。

 

(さっさと離れてりゃ良かった)

 

 まぁ第三者から見ればラッキーな光景だろうが、当事者から見ればラッキーであってアンラッキーな状況だ

 

 ここで見つかったら変態か犯罪者の烙印を押され、色んな意味でオワタな状態になるのは確実だ。そんな事になれば話をする以前の大問題だ

 

 と思いつつ、すぐに移動しなかったことに後悔しながらも水浴びをしている少女を見ている俺が居る……

 

 いや、俺もこっそり覗いているのは悪いと思っているけど、視線を外そうにも外せないんだ。

 

 考えて見てくれ。目の前には一糸纏わぬスタイル抜群の美少女が水浴びをしているんだぞ?しかも木々の隙間から差し込む日の光が水面や少女の綺麗な身体に付着した水滴に反射して宝石の様に輝いているだぞ?

 こんな幻想的で美しい光景を目の前にして、紳士的に視線を逸らそうと思ってもそれを実行できる男はアッチ系じゃ無い限り無理だろ。

 

 って、何言ってんだよ俺は……

 

(ヤバイ。色んな意味でヤバイ)

 

 まぁ紳士諸君にはどういう意味が含んでいるかは察してくれ……

 

 

(……でも)

 

 見ちゃいけないのに、俺は少女から目を離せなかった。

 

(綺麗だ……)

 

 銀髪は水に濡れて光沢を放ち、誰もが美少女と答えるぐらいに整った顔立ちをし、出ているところは出て引っ込んでいる所は引っ込んでいると言うバランスの取れたスタイルを持つ美少女が水浴びをしている。ある意味芸術的な光景だ。

 

 現実ではなく絵画なら、見惚れてずっと見ていたかも知れない。

 まぁ現実だから相当やばいんだけど……

 

 一応言っておくが、下心があってじゃないぞ?

 

(あぁもう……マジで何やってんだよ) 

 

 何とも言えない気持ちになって俺は顔を下げる。

 

 

 ガサガサッ

 

 

「っ!?」

「っ!?誰!?」

 

 少し時間が経ったその時、大きく茂みが揺れて俺は驚き、同時に少女も驚き、声を上げる。

 

(あぁ、終わった……)

 

 俺は顔を下げたまま絶望に包まれる。

 

 このまま見つかって変態と言う烙印を押された犯罪者と言う扱いなんだろうな。まぁ、いくら弁明しても覗いて居た事に変わりは無い。

 

(あぁ、俺の二度目の人生はこんな形で終わるのか。なんか死ぬより嫌だな)

 

 今後起きるであろう事が脳裏に過ぎり、気持ちがどんどん沈んでいく。

 

 すると俺の耳に金属の物を引き抜くような音が届く。

 

(し、死んだ振り、死んだ振り)

 

 悪足掻きと言わんばかりに俺はその姿勢のまま固まり、内心で念仏の様に唱える。

 

(す、少なくとも迷彩柄で至近距離じゃない限りばれないはずだ。このまま動かなければばれないかもしれない!)

 

 祈っても無駄なだけかもしれないが、それでも人間と言うのは祈ってしまうものだ。

 って、何で俺こんなに逃れようとしているんだか……

 

 

 

 すると何かが上を通り過ぎ、木の上を登っていく。

 

「……?」

 

 その後に猿の様な短い泣き声が上の方からする。

 

「……猿?」

 

 すると向こうで少女の声がして、水を踏む足音が途絶える。

 

「……」

 

 気配を消したつもりで俺は息を殺して固まり、目を強く瞑る。

 

 

 それから何分経ったか分からないが、滝の流れ落ちる音以外に聞こえる音は無かった。

 

「……」

 

 俺はゆっくりと顔を上げて茂みの隙間から前方を覗くも、そこには何もいなかった。

 

 

 状況の変化が無いか少し待ってみたが、何も変化は起きる事はなかった。

 

「……は、はぁぁぁ」

 

 緊張が解けてか無意識の内にゆっくり深く息を吐き、寝返りをして仰向けになる。

 

(あ、危なかった)

 

 顔に手を当てながら安堵の息を吐く。

 

 良かった。何とか最悪な展開を回避できた。

 

「……ありがとうよ」

 

 もうとっくにどこかに行ったであろう猿、なのかどうか分からないが先ほどの生き物に礼を言う。

 

 身体を半身起こしてため息を付き、ある事に気付く。

 

「全身びっしょりだな」

 

 さっきまで冷や汗を掻きまくったせいか、まるで水を被ったみたいに戦闘服の前面が濡れている。

 

「せっかく変えたばかりだっていうのに」

 

 まぁ、これでもしばらくは持つだろうが。

 

「はぁ、もうあんな経験はこりごりだ」

 

 今度あったら冗談抜きで胃に穴が開きかねない。

 

 そう呟きつつ立ち上がろうと膝に手を置く。

 

 

 

「っ!?」

「きゃっ!」

 

 突然背中から何かにぶつけられ、同時に短い悲鳴が聞こえると俺は前へと放り出される。

 

「いっ!?」

 

 そのまま前のめりに倒れて顔面を強打する。

 

「い、いってぇ……」

 

 鼻を押さえながら俺はすぐに起き上がる。

 

「一体なん――――」

 

 が、視界に映ったものを見て俺は言葉を失う。

 

 

「ぅ……」

 

 目の前には物凄い体勢で倒れている、さっきの少女がいた。

 

 どういう体勢かって言うと……年頃の女の子がするにはとても恥ずかしい状態だと言っておこう。

 あと彼女の名誉的に言っておくが、一応見えてはいない。が、ちょっとでも動けば見えそう……

 

(え……な、なんで、戻ってきたの?)

 

 彼女の体勢よりもなぜ彼女がこっちに向かってきたかが分からなかった。

 

(ま、まさか……)

 

 もしかして、ばれて、た?

 

「……」

 

 マズイ状況に頭の中がこんがらがって固まっていると、少女がとっさに起き上がる。その際見えたとは言わんぞ

 

「……」

 

 少女は周りを見渡し後ろを振り返ると「あっ」と声を漏らして俺を見つける。

 

「……」

 

 さっきまでの体勢を思い出してか少女は顔を赤くして睨み付ける。

 

「……」

 

 俺は頭の中が真っ白になって、固まるしかなかった。

 

 

 

 

 



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第六話 重なり

 

 

 

 

 私はこの状況に困惑してどうするか考えていた。

 

 

 

 事の始まりは少し前だ。

 

 

 

 私達は討伐目標だったゴブリンの群れが既に全滅していたので、報告のために町に帰る途中だった。

 

 討伐目標が全滅いたので依頼は実質上達せられているが、私達からすれば無駄足な結果に終わり、微妙な気持ちだった。

 

 途中で休憩に入り、私は汚れを落とす為に近くの川に向かう事にした。その時みんなも付いて行こうとしたけど、一人で大丈夫と言って山に入った。

 今思えば無用心だったかもしれないけど、この辺り魔物の数は少ないので、私の技量なら一人でも対処できると判断したのだ。

 

 少し歩いた所で小さな滝が流れている場所に到着し、私は岸辺で防具を外して汚れを落とし、最後に手を洗った。

 

 その後はついでに周囲を見て誰も居ないのを確認して服を脱ぎ、水浴びをして身体の汚れも落とした。これも無用心かもしれないけど、いざと言う時に備えて剣は傍に置いているから、対応は出来る。

 

 

 しばらくして川から上がって身体に付いた水を拭き取ってから服を着始めたその時、向かい側の茂みが動き、私は声を上げてそちらを向く。

 

 すぐに傍に置いている剣を鞘から抜き、音のした方を睨む。

 

 魔物であればその場で倒せばいいし、通行人ならば剣を納めればいい。だが、故意があってこちらを覗いていたのなら、それ相応の対処をさせてもらうだけ。

 

 ゆっくりと対岸の茂みへと歩みを進め、茂みから何かが出てきて私は身構えたけど、出てきたのは猿で、木の上へと登っていく。

 

 私はしばらく警戒したけど、何も出てくることは無かったので一応警戒しながら下がり、剣を鞘に収める。

 

 でも留まるのは危険と考えてすぐに防具を着けて鞘に剣を収めて腰に提げ、その場を立ち去った。、

 

 

 森の中を歩いてみんなと合流を急いだけど、突然茂みからゴブリンが出てきて私の前に4体現れる。

 

 全身傷だらけで中にはいくつか点々とした見た事のない傷痕があるゴブリンで、その内一匹が後ろで弓矢を構えている。

 

 私はとっさに鞘から剣を抜き出すが、その直後弓矢を構えているゴブリンが矢を放ち、とっさに剣を前にして矢を弾く。

 その際に甲高い音が森林に大きく響き渡る。

 

 これでみんなの耳に届いたはず。後は何とか耐え凌いでみんなの到着を待てば……

 

 そう思った矢先、茂みからゴブリンの増援が何匹も現れ、弓矢持ちが更に3体増えて矢を放ってくる。

 

 私は後ろに飛んで矢をかわし、数歩後ろに下がりつつ周りを見渡す。

 

 相手が近接武器のみなら何とかなっただろうけど、弓矢持ちが増えたとあっては一人でどうにかできるものではない。

 

 みんなと距離を取る事になるけど、私は剣を収めて元来た道へと踵を返して走り出し、ゴブリン達も雄叫びを上げて私を追いかける。

 

 追いつかれないように必死になって走り、さっきまで水浴びをしていた滝つぼに出て水面から突き出ている岩と岩を渡って向かい側の茂みへと突っ込む。

 

 

 でもその瞬間私は何かとぶつかり、前へと放り出される。

 

 そのまま地面に一回叩きつけられ、二回目で倒れて止まった。

 

 一瞬気を失いそうになるも何とか意識を繋ぎ止め、意識がはっきりとした時に自分の体勢に気付いてとっさに起き上がった。

 

 そして後ろを向いた時、そこに緑と黒、茶色の斑点模様の服装に同じ模様の兜を被っている変わった格好をした男性が鼻を押さえていた。

 

 私は驚き、同時に恥ずかしさが込み上げてくる。明らかにさっきの体勢を後ろから見られてしまったからだ。

 

 と言うか、この人なんでこんな所に……

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 お互い身動きをせず、ただじっと見つめ合っていた。と言ってもお互いの視線は別々の意味が込められているだろうが。

 

(ど、どうしよう……)

 

 俺はどうにかこの状況を打開しようと考えるが、先ほどの出来事が大きすぎて混乱からか思いつけなかった。

 

(お、落ち着け素数を数えて落ち着けって素数っていくつだっけあぁもう)

 

 落ち着こうにも逆に落ち着けなくてどんどん悪くなっていく一方だった。

 

 

「っ!来て!」

 

 すると少女は俺の手を掴んで立ち上がって俺を立たせて走り出す。

 

「ちょ、ちょ!?」

 

「ゴブリンが来る!急いで!!」

 

 その直後に向こう側から何体ものゴブリン達が現れて俺達を追い掛けて来る。

 

「ゴブリン!?」

 

「ごめん!巻き込む気は無かったの!」

 

 少女は俺を引っ張って走りながら謝る。

 

 俺は追い掛けて来るゴブリンを振り返って見て、ゴブリンの身体のあちこちに妙な傷痕がちらほらとあるのに気付く。

 

(こいつら、まさかあの時の生き残りか)

 

 傷痕をよく見るとまるで撃たれた痕のような傷で、かすり傷も何かが高速で掠ったような状態だ。

 

 どうやらこいつらはあの時俺が仕留めそこなった連中のようだ。妙に殺気立っているのも俺に仕返しがしたいが為か。もしくは仲間の敵討ちの為か。

 まぁどっちにしろ俺達に殺意剥き出しで追いかけている状況だってことに変わりは無い。

 

 剣や槍を持つゴブリンの後ろでは弓矢を構えるゴブリンが矢を放ってきて、俺と少女の周りに矢が突き刺さる。

 

「こっち!」

 

 少女は急に方向を変えて俺は引っ張られながらも何とか付いていく。

 

 だが、いつまで逃げ続けても、このままだとやがて追い付かれるな。

 

 俺は引っ張られながらもレッグホルスターよりUSPを抜き出そうと手を伸ばす。

 

 

「っ!」

 

「おわっ!?」

 

 すると突然少女が倒れて俺は前へと放り出されバランスを崩しかける。しかし何とか踏ん張って倒れる事だけは避ける。

 

 すぐに後ろを振り向くと、そこには前のめりに倒れる少女の姿があった。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「う、うぅ……」

 

 少女は上半身を起こすと、後ろを振り向く。

 

「あ、脚が」

 

「っ!」

 

 視線の先には右太股の外側に赤い一筋の傷が出来て血が流れる。その傍には矢が地面に突き刺さっていた。

 

「っ!あいつか!」

 

 顔を見上げると追い掛けて来るゴブリンとは別方向に弓矢を持つゴブリンの姿があった。

 

 ゴブリンは俺に向けて矢を放ってくるも身体を反らしてかわし、レッグホルスターよりUSPを抜き出してゴブリンに向けて連続してトリガーを引き、放たれた数発の弾の内一発がゴブリンの左胸を撃ち抜き、直後に一発が左目を撃ち抜いて絶命させる。

 

 すぐに追い掛けて来るゴブリン達にUSPを向けて数回発砲すると、命中こそしなかったがゴブリン達は銃声と弾が傍を通り過ぎる音に驚いて立ち止まる。

 やはりあの時のゴブリン達らしい。

 

「君!立てるか!」

 

「……」

 

 俺は少女に問い掛けるが、なぜか少女は動きを見せない。

 

「どうしたんだ?」

 

「……あ、脚が、痺れて、動か、ない」

 

「っ!」

 

 よく見ると少女の脚が細かく震えている。

 

「まさ、か、し、痺れ薬が、塗られて……」

 

「マジかよ。クソッ!」

 

 俺は悪態を付きながらもUSPをレッグホルスターに戻して背中から89式小銃を取り出し、セレクターをセミオートに切り替えて構える。

 

 ゴブリン達は89式小銃を見てか驚いた表情を浮かべて後ろに後ずさりする。

 

「逃がさん!」

 

 俺はセミオートで一定の間隔でトリガーを引き、銃声が森の中を響き渡る。

 

 弾はゴブリン達の身体を撃ち抜いて一体、また一体と次々と射殺していく。

 

 以前と違ってレベルが上がった事による身体能力の強化や、トレーニングモードでの猛訓練のお陰でブレを抑えてホロサイトで狙った場所にほぼ確実に命中していた。

 

 次々と仲間が射殺されていく中、ゴブリン達は以前の経験もあってか木々の陰に入り、木を盾にして弾を凌いでいた。

 

(ちっ!親玉だけじゃなく子分もお頭は悪くないってか!!)

 

 マガジンキャッチャーを押して空のマガジンを落として素早くポーチから取り出して挿し込み、ボルトストップを解くと銃身下部のM203の銃身を前へとずらして催涙弾を装填して元の位置に戻すと、ゴブリン達が隠れている木々の近くに向けて放つ。

 

 木々の近くに落下すると催涙ガスを放ち、瞬く間に煙は周囲に広がって向こうでゴブリン達がくしゃみしたり咳き込んだりして思わず木々の陰から出てくる。

 

 俺はその瞬間を逃さず射撃をして弾を見舞い、ゴブリン達を撃ち殺す。

 

「……」

 

 射撃をやめて銃声が森の中で響き渡る中、煙の中で動きがないか凝視する。

 

 煙がある程度晴れるのを待って俺は周囲を確認しながら前へと進む。

 

 

「―――っ!!」

 

「っ!?」

 

 すると木の陰から涙目のゴブリンがナイフを手に跳びかかって来て、俺はとっさに動こうとするもその前にゴブリンに押し倒されて倒れた衝撃で89式小銃を手放してしまう。

 

 ゴブリンは手にしているナイフを俺の胸に目掛けて振り下ろし、そのナイフを手にしている腕を何とか掴んで阻止する。

 

「っ!」

 

 ゴブリンは力の限りを使ってナイフを振り下ろそうとしているのだろうが、ナイフはピクリとも動かない。

 

「このっ!」

 

 顔に向けられたナイフを横へとずらして頭を前へと突き出して頭突きをぶつけ、ゴブリンが一瞬を鈍らせた隙に左の握り拳で殴って俺の上から退かす。

 すぐに横に転がって距離を取り、ゴブリンが立ち上がろうとしたと同時にレッグホルスターよりUSPを抜き出してマガジンに残った弾を全て叩き込む。

 

 最後の一発を撃ってスライドが一番後ろまで下がって弾切れになったと同時に胸を蜂の巣にされたゴブリンは後ろに倒れて息絶える。

 

「……」

 

 肩で息をしながら俺は気持ちを整えつつ周囲を見渡す。

 

(危なかった……)

 

 一瞬でも対応が遅れていれば今頃俺の頭にはナイフが突き刺さっていたかもしれないな。

 

(……全く近くに居るのが分からなかった。まだレベルが低いって事か)

 

 スキルの勘が働かなかったとなると、スキルに頼りっぱなしにはできんな。

 今後はスキルに頼らず周囲への警戒を厳にするべきか。

 

 内心で呟きながら立ち上がり、マガジンを交換してスライドを引いてロックを外し、89式小銃を拾って周囲を警戒する。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 私は目の前の光景にただ呆然と座り込むしか出来なかった。

 

 ゴブリンの放った矢に塗られた痺れ薬によって脚が痺れて動けなくなった私の前に先ほど出会った男性が立ち、手にしている長い得物から破裂音を発生させ、その直後にゴブリンの身体に風穴が開いて倒れる。

 身の危険を感じてかゴブリン達が木の陰に隠れて攻撃を凌ぐ。

 

 男性は長い得物の下に取り付けられた物に何かを入れ、ゴブリン達に向けて先ほどより小さい音と共に何かを放ち、それが地面に落ちると煙が放たれる。

 

 すると煙の向こうでゴブリン達はくしゃみや咳き込み、木々の陰から出てくる。

 

 その瞬間を男性は見逃さずに長い得物からまた破裂音を発生させて、ゴブリン達を仕留める。

 

 そしてあっという間にゴブリン達は全滅し、男性はその長い得物を前に向けながら周囲を警戒している。

 

(似ている……あの夢にあったあの光景に)

 

 私の脳裏には、最近見たあの夢の光景が思い出されていた。

 

 私を取り囲んでいた魔物達を次々と仕留めていき、私を救い出したあの光景……

 

 状況は少し違うが、あの夢でも私を助けた人が似たような形をした得物を持ち、あの破裂音と共に魔物を仕留めていた。

 

(これは、偶然なの?)

 

 私にはそれを確かめる術は無い。ただ分かるとすれば、私は助けられたと言う事だけだ。

 

 

「っ!」

 

 すると茂みからゴブリンが跳び出て来て、男性を押し倒し、ナイフを振り下ろすも男性はゴブリンの腕を掴んで止める。

 

「っ!」

 

 私は動こうとするも脚が痺れている為に動こうにも動けなかった。

 

 すると男性はゴブリンに対して頭突きで顔面にぶつけて怯ませると左拳で殴りつけて吹き飛ばし、横に転がって距離を取る。

 ゴブリンが立ち上がった瞬間に右脚の包みから最初に使った黒い小さな得物を取り出し、連続して破裂音がしてゴブリンの胴体に次々と穴が開いて後ろに倒れる。

 

「……」

 

 男性は私が呆然としているのも気にせずに立ち上がり、黒い得物から細長い箱状の物が出てくると同じ形の物を腰に提げているポーチの様な入れ物から取り出して黒い得物に差し込み、右脚の包みに戻して落とした長い得物を拾って周囲を見渡している。

 

「……」

 

 ふと男性の居た場所に、金色の円筒物体がたくさん転がっているのを見つける。

 

(もしかして……)

 

 確か同じ物があの現場にも沢山落ちていた。

 

 私の中にあった疑問は、確信へと変わった瞬間だった。

 

(この人は、一体何者なの……?)

 

 だが同時に新しい疑問が生まれ、謎が深まるばかりだった。

 

 



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第七話 初めての接触

 

 

 しばらくして男性は周囲に何も居ない事を確認してから私の元に駆け寄ってくる。

 

「君、大丈夫か?」

 

 さっきまで戦場に立つ兵士の様な表情だった男性だが、今は兵士とは思えないような穏やかな表情で私の容態を気にしてくれた。

 

「え、えぇ。脚以外に怪我はないし、痺れも、大分治まった」

 

 さっきと比べれば脚の痺れは治まってきたので、多少は楽だった。

 

「そうか。良かった」

 

 私の状態が深刻なものでなかったのに安心してか、男性は安堵の息を吐く。

 

「……」

 

 近くに来たので男性が持っている得物が細かい所まで見ることが出来た。

 

 金属の塊と思ったけど、意外とパーツが多く細かく組み合わさっており、材質も金属以外の物が使われていると、異質な雰囲気を醸し出している。

 その得物の側面には見たことの無い文字が書かれており、辛うじて3だけは読める。

 

(やっぱり、夢の中で見た物と似ている)

 

 夢の中で見たあの人も似た様な物を持っていた。破裂音といい、目に見えない速さで何かが飛んで魔物を撃ち貫いているといい、もしかしたら同じ物なのかもしれない。

 それに男性の格好もあの人の格好とよく似ている。

 

(本当に、偶然なのかしら)

 

 ここまで夢に出てきた人と共通する人が現れるだろうか?

 

 まるでこれは――――

 

 

「―――い、おーい」

 

 すると耳に男性の声が届き、目の前で手を振っているのに気付きハッとする。

 

「な、なに?」

 

「あっいや、さっきから呼んでるんだが、返事が無いからさ」

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事を」

 

 呼びかけに気付かないほどに考え込んでいたみたい……

 

「それで、なに?」

 

「あぁ。ここから移動するから、立てるのかどうか聞きたいんだ」

 

「……」

 

 私は立ち上がろうとするも、脚の痺れは完全に収まっておらず、立ち上がろうにも力が入らなかった。

 立ち上がるのが困難な状態だなので私は正直に立てないと告げた。

 

「痺れで、脚に力が入らないから、難しいかも」

 

「そうか」

 

 と、男性は私に手を差し出してくる。

 

「……」

 

「肩を貸すから、ここから移動しよう。もしかしたらまだ他にも居るかもしれないからな」

 

 怪訝な表情で見ていたのを察してか、男性がそう告げる。

 

 確かにこの状態で更にゴブリンに襲われたりしたら、例え男性の武器を用いても私を庇いながらじゃ凌ぎ切る事は難しい

 

「……」

 

 すると私の脳裏に、あの夢の光景が目の前の光景と重なる。

 

「……」

 

 一瞬戸惑いはしたけど、私はその人の手を取った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 俺は周囲を警戒しつつまだ足を動かせない少女に肩を貸して元来た道を辿る。

 

(うーん。気まずい)

 

 魔物の襲撃に備えて周囲を警戒しつつ俺はこの現状をどうするか悩む。

 

 結果的に彼女を助ける事となったので警戒される事無く現在の状況になっているのだが、先ほどの事があってか気まずさがあった。

 

(そもそも、女の子と会話する事自体前世では殆ど無かったし。どう話せばいいんだよ)

 

 ミリオタって言うのは女の子に避けられる傾向にあるし、そもそも女の子と話す機会が無かったんだよな。まぁそれ以前に小さい頃からなぜか俺に話しかけてくる子が少なかったんだよな。なんでだろう?

 と言っても全く女の子の話し相手が居なかったわけじゃなく、小さい頃日本人の母とドイツ人の父を持つハーフの幼馴染の女の子が居て、よく話してたっけな。まぁ高校の時父親の事情でドイツに戻ったけど。

 まぁ今となってはどうでもいいことか。

 

(さて、どうしたものか)

 

 

「……ねぇ」

 

「っ?な、なんだ?」

 

 どうにか話に持ち込むためのきっかけを探っていると、不意に少女が声を掛けてきて俺は少し驚いて顔を向ける。

 

「その、さっきはありがとう。お陰で、助かったわ」

 

「そ、そうか。まぁ、無傷とはいかなかったけど、無事ならよかったよ」

 

「……」

 

「……」

 

 そこからまた会話が途切れて沈黙が続く。

 

(会話が続かねぇ……)

 

 かといって色々と聞こうとすると怪しまれて警戒されるだろうし、ホントどうしろってんだよ。

 

 

「……一つ、いいかしら」

 

「な、何だ?」

 

「あなたは、どうしてあんな所に居たの?」

 

「あんな所って」

 

 俺はどう答えようか悩む。

 

 まさかあなたが水浴びをしている所を覗いてました、なんて事……閻魔様のご命令でも口が裂けても言えるわけがない。

 だからと言ってこの世界に来た転生者です、なんて言って信じてもらえないのが関の山か。と言うか意味が分かるわけがないか。

 

 まぁ旅の者と言えば無難、かな?

 

「俺は旅をしているんだ。東の地から旅に出たはいいが、ちょっとこのだだっ広い森に迷ってな。あそこで休憩中だったんだ。で、間もない時に君がぶつかってきたんだがな」

 

「そうなの」

 

 一瞬睨みつけるように見るも、違うと思ってか前の方に視線を向ける。

 

「でも、あなたのその武器、凄いわね」

 

「(バレなかった……)まぁ、ね」

 

 内心ばれなかった事に安堵しながら、背負っている89式小銃の事を思い出す。

 

「どこでそんな武器を手に入れたの?ゴブリンの群れを瞬く間に殺せる威力と連射力。それだけ凄い武器があるなら知らないはずがないのに」

 

「色々とワケありでね。どこにでも出回っている代物じゃないのさ」

 

「そうなの?」

 

「あぁ」

 

「……」

 

 まぁ嘘は言っていない。

 

「それにしても、ある意味じゃあなたに助けられるのもこれで二度目になるのね」

 

「二度目?」

 

 あれ? 前にも会った事あったっけ?

 

「直接ってわけじゃないけど、少し前にビッグゴブリン率いるゴブリンの群れの討伐の依頼が騎士団に来たのよ。私は仲間と共に討伐に向かったのだけど、到着した時には群れはトップを含めて全滅してたわ」

 

「ふーん。腕利きのハンターでもやったのかな?」

 

 どう見ても俺がやったやつらです、はい。

 

「……あなたの仕業でしょ?」

 

「さて、何の事やら?」

 

「惚けても無駄よ」

 

 と、少女は握り拳を作っている右手を開けると、89式小銃の5.56mmNATO弾の空薬莢があった。

 

「これと同じ物がその現場に沢山落ちていたわ。さっきもあなたの足元にも沢山あったわ」

 

「……」

 

 さすがに隠し通すのは無理だったか。まぁ証拠品が大量に転がっているなら分かって当然か。

 

「あぁ。確かに。俺がやったよ」

 

「そう」

 

「手柄を取られて不満か?」

 

「いいえ。むしろ凄いとしか言えないわね」

 

「あの大きなゴブリンを倒したのがか?」

 

「えぇ。あのビッグゴブリンは並大抵の腕前があっても、倒すのは困難な魔物よ。配下のゴブリンがいると尚更よ」

 

「連携が厄介だからか?」

 

「えぇ。それに手を焼かされるってよく聞くわ」

 

「ふーん」

 

 それを聞き俺は危機感を覚えた。

 

 あの時子分を先に倒したお陰でビッグゴブリンを倒すのに苦労を掛ける事は無かったが、もし子分が残っていたら84mm無反動砲を使う暇など無かっただろう。

 

(これは、一層気を使わないといけないな)

 

 俺は思わず息を呑む。 

 

 

「そういえば、まだ名前を聞いてなかったわね」

 

「あぁ確かに」

 

 そういや言ってないし聞いてなかったな。

 

「俺は土方恭祐って言うんだ」

 

「ヒジカタキョウスケ?変わった名前ね」

 

 少女は首を傾げる。

 

「あー、土方が名字で、恭祐が名前な」

 

「名字が前に来るなんて、珍しいわね」

 

「そうか?東じゃ当たり前なんだが」

 

「そう……」

 

「それで、君は?」

 

「……フィリア。フィリア・ヘッケラー」

 

「フィリアか。いい名前だな」

 

「……」

 

「それで、えぇと、ヘッケラーさん?」

 

「フィリアでいいわ。あまり畏まれて話されるのは好きじゃないし。特に年上の人からそうされるのがいやだから」

 

「年上。ちなみに、フィリアはいくつなんだ?」

 

「18よ。あなたは?」

 

「今年で20だ」

 

 結構大人びているから同じぐらいかと思ったけど、2つも年下だったのか。

 

「意外と年が近かったのね」

 

「近いって、いくつと思っていたんだ?」

 

「五つぐらい」

 

「……そんなに老けて見えてた?」

 

「……」

 

 まぁ、転生してから色々とあったから、老けたのかねぇ?

 

「まぁ、確かに堅苦しいのは苦手だからな。なら、お言葉に甘えて」

 

 俺は改めて彼女に問い掛ける。

 

「それで、フィリア。そういう君は何でゴブリンに追われていたんだ?」

 

「それは……」

 

「依頼で騎士団から派遣されたって言ってから、仲間はいるんだろう?」

 

「……」

 

 

 

「――――!」

 

 どう答えようか彼女が悩んでいると、向こうから微かに声が聞こえてくる。

 

「っ!ユフィ!」

 

 少女は顔を上げて声のする方を見る。

 

「君の言ってた仲間か?」

 

「えぇ」

 

「そうか」

 

 

 

 俺達は声のする方向へと歩き、先ほどの滝つぼのある場所へと出ると、向こうから鎧を纏った3人の女性が現れる。

 

「フィリア!!っ!」

 

 黒髪で後ろに一本結びにしている女性がフィリアの次に俺の姿を見つけると、手にして入るクロスボウを俺に向け、後ろに居る二人の少女達も剣の柄に手を掛ける。

 

「何者だ!」

 

「え、えぇっ!?」

 

 ちょ、ちょ、ちょっ!? いきなりなんだよ!?

 

「待って、ユフィ!!」

 

 と、少女はまだ痺れが脚に残っているのかふら付きながらも俺の前に出る。

 

「この人は私をゴブリンから助けたのよ!武器を下ろして!」

 

「えっ?」

 

 ユフィと呼ばれる女性は戸惑いを見せる。

 

「……」

 

「……」

 

 女性は俺と少女を交互に見て、俺の方を見て問い掛ける。

 

「本当か?」

 

「あ、あぁ。ゴブリンの攻撃で動けなくなった彼女を守ってたんだ」

 

「……」

 

「彼の言っている事は本当よ。信じて」

 

「……」

 

 しばらく思い悩み、クロスボウを下ろし、後ろに居る少女二人も手にしていた剣の柄を手放す。

 

「フィリアがそう言うなら」

 

(ホッ……)

 

 どうやら誤解は解けたようだ。

 

「だが、状況が状況だ。色々と事情を聞かせてもらうから、一緒に来てもらうぞ」

 

(デスヨネー) 

 

 まぁある程度予想出来たけど、森を出て街に行けるのだから、結果オーライだな

 

 俺はフィリアを女性に預けて、彼女達に同行する。

 

 

 

 



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第八話 町に到着しただけなのに何か感動を覚える……

 

 

 

 半ば連行される形で少女達と馬車でブレンと呼ばれる町に向かう事2日……

 

 

「フィリア様。ブレンが見えてきました」

 

 ピンクのツインテールの髪型をして左目を眼帯で覆っている少女が馬車の天幕を退けて前方を見てフィリアと言う少女に伝える。

 

(ようやく着いた)

 

 転生して一週間以上経って、やっと人が住んでいる町に辿り着けた。そう思うと何か感動を覚える。

 

 まぁそれもあるが、別の意味も含まれる。

 

 それは町へと向かう二日間の道中に尋問の如く色々と聞かれて、早く解放されたかったからだ。

 

 案の定89式小銃やUSPのことについて根掘り葉掘りと聞かれてどうせ説明するか悩んだ。何も言わないとなると後々面倒になりそうだから基本的な構造を教えたりした。

 

 説明をしている中で分かった事だが、どうやらこの世界には火薬と言うものが存在しないらしく、破裂の事を言うと爆裂魔法によるものかと聞かれた。

 ちなみにフィリアの受けた傷だが、金髪薄目の少女の治療魔法で治してもらっていた。さっきの爆裂魔法の事もあり、ファンタジーな世界なんだなって改めて思った。

 

 まぁ尋問ばかりではなく、色々と話せる範囲で騎士達と話をする事は出来たのが救いだったな。

 

『ユフィ・コッホー』『リーンベル・ハースタル』『セフィラ・グロフス』。それがフィリアという少女以外の彼女達の名前だ。

 

 順に説明すると、フィリアは実質このメンバーを纏めるリーダー的存在で、彼女達の置かれている状況からか3人から慕われている。

 

 ユフィという女性はこのメンバーの中では年長で、年も俺と同い年だという。フィリアとは幼い頃からの友人であり、クロスボウの名手で右に出る者はいないと言われるほどの実力の持ち主だそうだ。

 

 リーンベルという少女はこの面々の中では最年少でムードメーカー的な存在のようで、明るく人懐っこい性格が特徴だ。初対面の俺でも気軽に話し掛けて来た。あと意外とデカイ(どこがとは言わないが)

 ちなみに眼帯をしている理由は彼女の気持ちを尊重して聞いていない。

 

 セフィラという少女は淑やかで大人しいと、いかにもお嬢様と言う雰囲気であるが、何か見た目に違和感を覚えるような気がする……

 

 彼女達の所属している騎士団では、女性は彼女達4人のみで、他は男性が占めているとのことだ。んで、あんまり立場的に良いとは言えないらしい。まぁ男ばかりの職場に女性が四人しか居ないとなると、色々と大変だろう。

 別に今のご時世女性が騎士になるのは珍しい事じゃないのだが、この辺りじゃ逆に珍しいらしい。

 

 で、今回騎士団にゴブリンの群れの討伐依頼が来て、四人が討伐に向かっていたようだが、俺が先にゴブリンの群れを殲滅してしまったので無駄足に終わってユフィという女性は不満げに訴えていた。

 何か悪いな。

 

 

 まぁそんな事もあって馬車は町の防壁の門を潜り抜け、馬車を止める場所まで誘導される。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「えぇと、フィリア?」

 

「なんだ?」

 

 馬車を降りた俺はフィリアに問い掛ける。

 

「やっぱり、一緒に行かなきゃ駄目なのか?」

 

「当然でしょ。関わりが無いわけがないんだから」

 

「だよな」

 

 まぁ、そうなるよな。

 

 今回の一件の報告の為彼女達は騎士団の駐屯地へと向かうのだが、俺もその駐屯地へと同行する事になった。

 理由はもちろん、報告の説明の為だ。

 

 同行する必要があるのかは分からないが、断ると後々面倒な事になりかねないからなぁ。

 

「ところで、キョウスケ」

 

「な、なんだ?」

 

 平然と名前で呼ぶフィリアに俺は少し驚きながら彼女の方を見る。

 

「あなたの武器は?さっきまであったはずなのに」

 

「あぁ89式か」

 

 一応安全確保の為に89式小銃は一旦装備解除して消しており、俺の背中には何も無い。まぁもしもの事を考えてレッグホルスターに収まっているUSPは残したままだ。

 

「扱いを誤るととても危険な代物だからな。安全の為に今は収納している」

 

「収納?」

 

「つまり……魔法で作った別空間に入れておけるんだよ」

 

「……」

 

 んー。やっぱり取って付けた様な嘘じゃさすがに信じないか。

 

「変わった魔法を持っているのね」

 

「ま、まぁな」

 

 うーん。これで納得するって、どうなん? まぁ騙し通せたのならいいんだが。

 

 まぁ、実際は奪われるかもしれないから装備を解除しただけなんだよな。信用がないってわけじゃないけど、一応な。

 USPはもしもの事を備えての保険だ。出来れば使わない事を祈りたいところだが。

 

 

 フィリア達と共に駐屯地へと向かう途中、町の人たちから挨拶や労いの言葉が掛けられて来る事が多かった。結構彼女達は慕われているんだな。

 まぁその度に俺について聞いてくる事がほとんどだったが。

 

 

 しばらくして、町の西側にある騎士団の駐屯地に到着した。

 

「お帰りなさい」

 

 駐屯地の守衛と思われる騎士がフィリア達を迎えると、俺の存在に気付く。

 

「あの、ヘッケラー様。そちらの方は?」

 

「今回の一件に関わった者よ。団長への報告の説明為に来てもらったの」

 

「そうですか」

 

「それで、団長は?」

 

「はい。執務室に居られます」

 

「そう。分かったわ」

 

 そう言ってフィリア達は駐屯地の敷地内に入って行き、その後についていく。

 

 

 

 駐屯地の敷地内には兵舎と思われる建造物が多く立ち並び、広場には稽古のための設備が多数設置されており、いかにも騎士団の施設ってらしさがある。

 

 彼女達の言う団長が居る執務室の向かい道中、すれ違う騎士たちからジロジロと見られる事が多かった。

 まぁ、物珍しいのもあれば、疑問に思っているというのもあるだろう。中には嫉妬なものもあったが。

 

 時々何人かの騎士たちが彼女達に声を掛けて誘ったりしていたが、彼女達は全て丁寧に断っていた。まぁ明らかな意図が感じられたし、彼女達が苦労しているのも頷ける。

 

 

「ん?」

 

 執務室に向かう途中、一人の男性が曲がり角から現れフィリア達に気付く。

 

「おぉこれはヘッケラー嬢。戻ってきたのか」

 

「はい、団長。フィリア・ヘッケラー以下3名、帰還しました」

 

 どうやらこの男性が騎士団を纏める団長のようで、フィリア達は姿勢を正す。

 

「君達だけで心配だったが、無事に戻って来て何よりだ。さすがはヘッケラー伯爵の娘だ。ところで―――」

 

 フィリア達が無事であったのに安心した後、視線は俺の方を捉える。

 

「そこの者は何者かね?」

 

「はい。実は―――」

 

 フィリアはこれまでの経緯を団長に細かく報告する。

 

 

 

「なんと、ゴブリンの群れはおろか、ビッグゴブリンをたった一人で討伐するとは」

 

 報告を聞き、団長は驚きを隠せない様子で俺を見る。フィリアが言っていたとは言えど、やっぱりあのデカイゴブリンは凄いのか。

 

「ただ運が良かっただけです」

 

 現代兵器がなければあんな化け物を倒す何て出来ないし、この能力を持って異世界に転生出来たのはある意味運がよかったかもしれない。

 

「ふむ。色々とあるだろうが、依頼は達せられたと言う事だな」

 

「えぇ。我々は何もしていませんが」

 

 ユフィと言う女性は皮肉めいた言い方で口にする。

 

「……ところで、名前はなんと言うのかね?」

 

「はい。土方恭祐と言います。この辺りだとキョウスケ・ヒジカタって呼び方になりますね」

 

「ふむ。変わった名前だね」

 

 団長は顎鬚を触りながら呟く。

 

「偶然だったとは言えど協力に感謝する、ヒジカタ殿」

 

 団長はゆっくりと頭を下げる。

 

 

「しかし、どうしたものかねぇ」

 

「何か?」

 

 対応に困っていると、団長がボソッと呟く。

 

「いや、ただこのまま君を帰してこの一件を騎士団の手柄にするのは、騎士としては恥だからね」

 

「は、はぁ」

 

 別に俺は気にしないんだが、やっぱりプライドがあるのかねぇ。

 

「君はこのまま町に居るのかね?」

 

「は、はい。何も無ければしばらく町に留まる予定です」

 

「そうか」

 

 団長はしばらく何か考えて、こう言った。

 

「なら、今回の依頼の報酬金だが、こちらに来たらヒジカタ殿に渡そう」

 

「よ、よろしいんですか?」

 

 リーンベルという少女は半ば驚いた様子で問い掛ける。

 

「あぁ。討伐したのは彼だ。受け取る権利はある」

 

(それでいいのか?)

 

 何と言うか、複雑だな。

 

 まぁ何やともあれ、しばらくしたら報酬金を渡しに行くと言う事で決まった。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 あの後報告の詳細を伝える為にユフィ達は団長と共に執務室に向かい、俺は見送りの為について来ているフィリアと共に廊下を歩いている。

 

「ねぇ、キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「キョウスケはこれからどうするの?町に残るって言っていたけど」

 

「そうだな。この先旅をするにも金は必要になるし、資金稼ぎの為にしばらくこの町で働こうと思ってる」

 

 さすがに無一文だと色々と困るしな。

 

「冒険者なら別にお金に困らないんじゃ」

 

「冒険者?」

 

「知らないの?」

 

「いや、聞いたこと無いな」

 

「そうなの?てっきり旅をしているから冒険者なのかと」

 

「いや違うが、その冒険者って?」

 

「冒険者は様々な仕事を依頼として請け負う者達のことよ。ダンジョンの攻略や調査とか、魔物の狩猟や討伐、または捕獲とか、賞金首の悪党や犯罪者を捕らえるとか、国から課せられた依頼内容をこなす。

 後半はどちらかと言うと傭兵かしらね」

 

「へぇ。そういう職もあるんだな」

 

「登録にはお金が少し要るけど、誰でもなれるものよ」

 

「なるほど」

 

 やっぱりこういった職業もあるんだな。今の俺にピッタリかもしれない。

 まぁ登録の為のお金だが、一応登録領分を確保できる当てはある。

 

「俺の性分に合ってそうだから、やってみようかな」

 

「キョウスケが冒険者になると、私達の仕事もいよいよ町の警護のみになるわね」

 

「は、ハハ……」

 

 フィリアの皮肉めいた言葉に俺は苦笑いを浮かべる。

 

「冗談よ。むしろそれだけ町が平和になるってことだから、悪い事じゃないわ」

 

 彼女はそう言うと微笑を浮かべる。

 

(何ていうか、意外と話せるんだな)

 

 俺は横目で彼女を見ながら内心呟く。

 

 最初の時は話しづらそうにしていたから話すのは好きじゃなさそうと思っていたけど、話してみると結構話せるんだな。

 やっぱりこっちを警戒していたからか?

 

 

 

「やぁフィリア。帰ってきていたのかい?」

 

 すると後ろから男の声がすると、さっきまで機嫌がよかったフィリアの表情が険しくなる。

 後ろを向くと、一人の赤毛の男性が立っていた。

 

「アレン……」

 

 フィリアは嫌そうに男性の名前を口にする。

 

「無事で良かったよ。君達だけで不安だったからね」

 

 露骨に嫌な雰囲気を出しているのも気にせずにアレンと呼ばれる男性はフィリアに近付き話を続ける。

 

「あなたは私達の実力に不安があると?」

 

「まさか。でも、もしもの事も考えられるからね。特に今回の相手がビッグゴブリン率いるゴブリンの群れならね」

 

「……」

 

「ところで―――」

 

 アレンはチラッと嫌そうな目つきでこっちを見る。

 

「この男は誰だい?」

 

「彼は今回私達に任された依頼に関わったから、報告の為に来てもらったの」

 

「ただ関わったのなら、関係無い一般人を連れてくる事も無いと思うけど?」

 

「ゴブリンの群れはおろか、頭目のビッグゴブリンを一人で全滅させても、関わりがないと?」

 

「……」

 

 それを聞きアレンは驚いた表情で俺を見る。

 

「う、嘘だろ? こんなやつが一人で?」

 

 信じられないような表情を浮かべて俺を指差す。っつか、人に指差すなよ。失礼だろ。

 

「事実よ。それに彼がいなければ私は五体満足で帰る事が出来たか怪しかったから」

 

「……?」

 

「帰りにその群れの生き残りに襲われて、私は脚を負傷した。しかも痺れ薬付きで動きを封じられてね。

 さすがにあの時は駄目かと思ったわ」

 

「……」

 

「でも、そんな時に彼が私をゴブリンから守ってくれた。こうして帰って来れたのも彼のお陰なの」

 

「……」

 

「他に何か聞くことがある?」

 

「い、いや」

 

 アレンは特に何も言わず俺達の元を離れていく。

 後ろを振り返った際に、あいつ一瞬だけ俺を睨みつけていた。

 

「フィリア。さっきのやつは?」

 

「……アレン。アレン・ガーバイン。この辺りで権力のあるガーバイン侯爵の息子よ」

 

「つまり貴族か。通りで他の騎士たちと鎧と服装に違いがあったのか」

 

 それに俺に対しての話し方もどことなく上から目線だったし。

 

「アレンは貴族とあって、団長も手を焼いているのよ」

 

「結構身勝手なのか?」

 

「えぇ。貴族とあって団長も下手に処罰を与えられないのよ」

 

「なるほど」

 

 立場を利用して処罰を与えられないようにしているのか。

 

 立ち去ったアレンを思い出しながら、鼻を鳴らす。

 

 

 

 それから再び歩き出して、駐屯地の入り口付近に到着する。

 

「それじゃ、またどこかでな」

 

「えぇ。キョウスケも、気をつけてね」

 

「あぁ」

 

 フィリアに手を振りながら踵を返して駐屯地を出ようと一歩前に出る。

 

「きょ、キョウスケ!」

 

「……?」

 

 急に呼び止められて俺は立ち止まって後ろを振り向く。

 

「……冒険者になっても、が、頑張ってね」

 

「あぁ。フィリアもな」

 

 そう一言いって俺は駐屯地を出て行った。

 

 

 



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第九話 冒険者登録

 

 

 

 

(さてと、これからどうするかねぇ)

 

 駐屯地を後にした俺は町を散策しながらこれからの事を考える。

 

(やっぱり冒険者がいいのかねぇ)

 

 彼女たちにはあぁ言ったが、このままこの町に留まる気は無い。

 この町のみならず他の町や国でも同じように仕事ができるとなると、冒険者ほど俺に適した職はないだろう。

 

(しかし、登録料か)

 

 フィリアが言っていたが、冒険者になるには登録料となる金が必要となる。大した額ではないだろうが、無一文の俺にはどうしようもない。

 今から日給で働くにしても、登録料分を稼げるかどうか怪しい。

 

(やっぱり、取っておいてよかったな)

 

 腰の戦闘弾帯に提げてるポーチの中にあるビッグゴブリンから剥ぎ取った角と牙を思い出す。

 

(でも、牙と角、売れるのかねぇ)

 

 登録料分をあればいいけど、可能ならオマケ程度で欲しい所だが。

 まぁそもそも売れるかどうかすら分からんが。

 

(まぁ兎に角、とりあえず金をどうにかしないと始まらんか)

 

 今後の事を考えるのは後にして、とりあえず今は目の前の問題を片付けなければならない。

 

「すみません」

 

「ん?」

 

 俺は近くを通り掛った男性に声を掛ける。

 

「この辺りに魔物の角や牙と言った物を買い取る所はありますか?」

 

「牙や角の買い取りか?だったらこの先を歩いて左二つ目の角を曲がりな。赤い天幕で色んな魔物の素材が並んでいる出店がある。そこで買い取ってくれる」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 俺は男性に頭を下げて教えられたとおりに歩いていく。

 

 

 

 男性に教えられた左二つ目の角を曲がると、そこは多くの出店があり、賑わいをみせている。

 

「あれか?」

 

 その中から男性の言った通り、赤い天幕の出店があり、色んな魔物の物であろう骨や牙、角といった物が並んでいる。

 

 何か怪しげな感じはあるが、今はどうこう言っているわけにはいかんか。

 

「すみません」

 

 出店の前に来て店主と思われる男性に声を掛ける。

 

「ここで魔物から取れた素材を買い取ってもらえますか?」

 

「ん?あぁそうじゃよ。何か売るのがあるのか?」

 

「はい。数は少ないですが」

 

 俺はポーチを開けて中からビッグゴブリンから切り取った角や牙を男性の前に並べる。

 

「ん~?この特徴的な赤い湾曲した角。もしかしてビッグゴブリンの角か?」

 

 男性は驚いた様子で俺に問い掛ける。

 

「えぇ。牙もその魔物から取ったものです」

 

「ほぉ。あのビッグゴブリンの角と牙か。若いのに凄いな」

 

 物珍しそうに角を手にしてマジマジと眺める。

 

「そんなに珍しいんですか?」

 

「あぁ。ビッグゴブリンは数が少ない上にかなり手強い魔物じゃからな。その上子分のゴブリンを多く引き連れているから熟練の冒険者でも手を焼くんじゃよ。じゃから流通している数も少ないんじゃよ」

 

 そう言いながら眼鏡を掛けてより詳しく角や牙を見る。

 

「まぁ、大抵はそう呼ばれる前のゴブリンの状態で狩られるから少ないんじゃろうがな」

 

「なるほど」

 

 まぁあれだけの大きさとなると、数々の激戦を潜り抜けてきた猛者だったんだろうな。

 

「ふむ。こいつは中々。年代物じゃのう」

 

 顎鬚を撫でながら角を置き、男性は机の下で何かを探している。

 

「角と牙がそれぞれ二つずつで、このくらいじゃな」

 

 男性は麻袋を机に置くと、口が開いて中身が現れる。

 

「全部合わせて金貨3枚と銀貨20枚、銅貨12枚じゃ」

 

「そんなにいいんですか?」

 

 この世界の貨幣の価値は分からないが、たったこれだけの量でこの額とは。

 

「あぁ。角は秘薬の材料になり、牙は武器や防具の材料となるからな。それに質がとてもいい。欲しいやつらはこれの倍以上の額でも買い取るから、問題なしじゃ」

 

「そうなんですか」

 

 よほど出回って無いんだな。

 

 麻袋の中身を確認してから腰のポーチに入れて、店を後にする。

 

 

 

 その後通行人から話を聞いてこの町にある大きな酒場へとやってくる。

 

「ここか」

 

 話を聞いたところ冒険者として登録するにはこの酒場にある冒険者組合で行われるそうだ。

 

 建物を一瞥してから扉を開けて中に入る。

 

「いらっしゃい! 空いている所に座ってくれ!」 

 

 中に入ると店員が俺に気付いて大きな声で案内する。

 

 店の中は昼時とあってか昼食を取る人が多く、食欲を刺激する匂いが漂っている。

 

 酒場とあるけど、時間帯によっては食堂として機能しているのだろう。

 

「すみません。冒険者組合に用事があるんですが、どこに行けばいいですか?」

 

「それなら奥のカウンターだ」

 

 店員は奥のほうにあるカウンターに指差し、手にしている料理を注文した脚の入るテーブルへと運んでいく。

 

 俺は店員の言われた通りに奥のカウンターへと足を運ぶ。

 

 カウンターでは冒険者と思われる男性が手にしている紙をカウンターに差し出して受付の人が内容を確認していた。

 その近くの壁には多くの紙が張られており、その内容を冒険者達が物色している。

 

 

「すみません。冒険者組合はここであっていますか?」

 

「こんにちは。今日はどういったご用件でしょうか?」

 

 先ほどの冒険者が手続きを終えたところを見計らって俺はカウンターへ赴き、受付の女性職員に声を掛ける。

 

「冒険者として登録がしたいんですが」

 

「登録ですね。分かりました。では最初に登録料として銀貨5枚をお願いします」

 

 俺は腰に提げているポーチから麻袋を取り出して中から銀貨5枚を出して女性職員に差し出す。

 

「では、こちらに必要事項を書いてください」

 

 女性職員は銀貨5枚を受け取ってから机の下から書類を差し出し、書く箇所を指差す。

 

 書類には氏名に年齢、種族、出身地、その他諸々と言った事項がある。

 

 俺は受付嬢から差し出された羽ペンを台座から抜いて書類に必要事項を書き込む。

 

(うーん。何か違和感しかないな)

 

 書いている文字は見慣れた日本語ではなく、ローマ字やロシア語を割って足したような文字を書き込んでいるが、俺はその文字の意味や書き方をまるで最初から知っているかのようにスラスラと書いている。

 

 これも神様に植え付けられた知識の一つなのかねぇ。まぁ、苦労しないで済むからいいんだけど。

 

 疑問に思いながらも必要事項を全て書いて受付嬢へと渡す。

 

「受け取りました。お名前はキョウスケ・ヒジカタ様でよろしいですね?」

 

 受付嬢の問いに俺は縦にうなずく。

 

「分かりました。手続きをしますので、少々お待ちください」

 

 受付嬢は書類を手にして奥の方へ向かう。

 

「……」

 

 待っている間背後に突き刺さる視線を無視しつつ周囲を見渡して時間を潰す。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 腕時計を見て時間を確認した時に受付嬢が戻ってきた。

 

「これで登録は完了しました。では、こちらを」

 

 受付嬢は持ってきた紙製のドッグタグを手渡す。

 

「依頼を受ける際はそちらのクエストボードから自分のランクに合った依頼が書かれた紙をタグと共に受付に提出してください」

 

 受付嬢の指差す方向には先ほど冒険者達が物色していたボードがあった。

 

「冒険者の実力と経歴はこのタグに記されますので、くれぐれも紛失や盗難に気をつけてください」

 

「仮に紛失したり盗難に遭った場合は?」

 

「すぐ組合にご連絡ください。新しくタグを発行致しますので」

 

「分かりました」

 

「次に冒険者としてのランクですが、最初は『ペーパー』から始まり、『ウッド』『ストーン』『アイアン』『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『プラチナ』『オリハルコン』となっております」

 

 結構ランクはあるんだな。と言うより、やっぱ異世界とあって、オリハルコンってあるのか。 

 

「ランクは一定の活躍を認められたら組合で話し合われ、昇進するに値すると判断したら次のランクへと昇進できます」

「他に何か分からない事はありませんか?」

 

「いいえ。大丈夫です」

 

「分かりました。では、これで手続きは終了です。ご武運を」

 

 受付嬢は頭を下げて奥へと向かう。

 

「……」

 

 依頼を受けようとボードを見ていたら腹の虫が鳴ったのでとりあえず昼食を取る事にした。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 適当に空いた席に座って料理を注文して腹を満たし、料金を支払った後にクエストボードの前にやってくる。

 ちなみに料理は牛肉のステーキを頼んだが、銀貨1枚の割には肉が大きかった上に軟らかくジューシーだったので、結構良かったな。

 

(やっぱり今のランク(ペーパー)で受けられる依頼の数は少ないな)

 

 依頼はそれぞれの種類ごとにクエストボードに張られており、俺は討伐系の依頼が集められた箇所を見ている。

 

 初心者とあって受けられる依頼は限られており、討伐系の依頼は少なかった。

 

(これでいいか)

 

 俺はその中から『ラトス』と呼ばれる魔物の討伐依頼が書かれた紙を手にして受付に向かう。

 

「すみません。依頼を受けたいのですが」

 

「はい。では、依頼書とタグを一緒にご提出ください」

 

 俺はタグと依頼書を受付嬢へと差し出す。

 

 受付嬢は依頼内容とタグを確認すると怪訝な表情を浮かべて俺を見る。

 

「あの、ヒジカタさま?」

 

「なんでしょうか?」

 

「依頼を受けるのは今回が初めて、なんですね?」

 

「はい」

 

「……あの、いきなり討伐系の依頼を受けるのは」

 

「駄目なんですか?」

 

「駄目と言うわけではありませんが」

 

「ならいいですよね」

 

「……分かりました」

 

 受付嬢は心配そうな表情を浮かべつつ依頼内容の説明に入る。

 

「依頼内容はラトスと呼ばれる魔物の討伐です。依頼主は最低でも群れを率いる頭目を確実に討伐して欲しいとのことです。それと他の子分を纏めて駆除してくれれば追加報酬を支払うとのことです。ですが組合の決まりで一度に討伐できるのは30頭までとなりますので、注意してください」

 

「数に制限があるのは生態系に関わるから、ですか?」

 

「はい。ラトスは雑食系の魔物です。数が少なくなると草食系の魔物が多くなってしまって生態系が崩れる恐れがあります」

 

「分かりました」

 

 それを確認すると受付嬢は書類にタグに記された内容を書き込む。

 

「では、これで手続きは終了です。くれぐれも無理はしないでくださいね」

 

 念を押すように受付嬢はそう一言言ってタグを俺に返す。

 

「危ないと思ったらすぐに退きます」

 

 そう言ってから俺は酒場を後にする。

 

 

 



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第十話 冒険者になって初のクエスト

 

 

 依頼を受けて組合の運営する馬車に乗って、依頼主が管理する農場へと向かった。

 

 

 

「あぁ尻がいてぇ……」

 

 馬車に揺られる事2時間弱、目的地へと到着して俺は愚痴りながらスコープマウントごとスコープを外した64式小銃を手にして馬車から降りてスリングに腕を通して右肩に背負う。

 

 当然ではあるが馬車の車軸に衝撃を吸収するサスペンション的な装置があるわけが無く、衝撃が直に伝わって尻に響いた。

 

(今度から歩いて行くのも考えるか)

 

 内心で呟きながら視線を前に向け、依頼主が管理する農場が視界に入る。

 

「あれか」

 

 尻を掻きながら右肩に背負う64式小銃を背負いなおして農場へと入る。

 

 

 

 依頼主である農場の持ち主に挨拶を済ませて改めて依頼内容を確認した。

 内容はラトスと呼ばれる魔物の駆除だ。

 

 ここ最近そのラトスの群れが山に住み着き、山から下りてきては農作物を食い荒らし、家畜を襲う等の被害を与えており、大分やられているのか話している間も顔を真っ赤にして依頼主は相当ご立腹な様子だった。

 

 最低でも山に住み着いたラトスの群れを統率する頭目の駆除が依頼主からの目標で、可能なら群れの残党も駆除してくれたら追加報酬を払うとの事だ。

 

 依頼主から俺が来る少し前にもラトスが家畜を襲って森へと入っていったと聞いて俺は64式小銃にマガジンを挿し込み、農場の裏にある森を目指した。

 

 

 

「しかし、また森か」

 

 呟きながら草木を押し退けて森の中を進む。

 

 まぁ前の森と比べればそれほど鬱蒼としていない分進むのは楽だが、妙に関わりが多いような気がしてきた。

 

「……」

 

 しばらく進むと開けた場所へと出て服に付いた葉っぱや蜘蛛の巣を払う。

 

「さてと、どこにいるのやらか」

 

 右肩に背負っている64式小銃を手にしてセレクターを引っ張り出して安全から単射へと切り替えて押し込み、コッキングハンドルを引いて手放し、バネの力でボルトが戻ってその際にマガジンから薬室へと初弾を送り込み、周囲を警戒する。

 

「……」

 

 周囲に目を向けながら腰のポーチから出発前に購入したパンを手にして頬張って腹を満たす。

 

「……」

 

 すると地面から短く生えている草に赤黒い何かが付着しているのに気付き、パンを飲み込んでゆっくりと近付いてしゃがみ込む。

 

「こいつは」

 

 視線を上に向けるとそれは途切れ途切れと言っても線となって森へと続いていた。

 

(ラトスが持って行った家畜の血か。それかここで襲った別の生き物のやつか)

 

 まぁどっちにせよそいつらがどこかに獲物を持って行っている事に変わりは無いか。

 

 俺は専門家じゃないから違うかもしれないが、血の色からしてそこそこ時間が経っているようだが、まだ完全に乾き切っていない。まだ距離はそう離れていないはず。

 

「……」

 

 周囲への警戒を緩めず64式小銃を構えながらその赤黒い線に沿って歩いていく。

 

 

 赤黒くなった血の線を辿ってしばらく歩いていくと、血の線は徐々に途切れがなくなっていき、一本の線となってきた。

 その線は岩壁の角を曲がって途切れていた。

 

「……」

 

 俺は深呼吸をして気持ちを整え、ゆっくりと壁に沿って進んで角から向こうを覗く。

 

 視線の先にはどこかで捕って来たであろう牛を貪り食う茶色の体表に鳥の様な嘴を持ち、赤い鶏冠を持つ小型の恐竜のような姿をしている魔物たちがいた。

 それが今回の討伐目標のラトスだ。妙に某狩猟ーゲーに出てくるモンスターに似ているが、別にどうでもいい事か。

 

(数は9。内1体は大きいな)

 

 9頭の内1頭は他の個体と比べると一回り大きなやつが居る。しかも鶏冠が他の個体より立派だ。

 

(ラトスは必ず群れを作る。そしてその群れと統率する個体が存在する、だっけな)

 

 ある程度ラトスについて聞いていたので一際大きな個体の正体はすぐに察した。あれが依頼の最重要目標である群れの頭目か。

 

 いきなり最重要目標が現れるとは……。まぁ、手間が省けるから良いんだが。

 

「……」

 

 俺は一旦角の陰に隠れてメニュー画面を開き、装備選択をして選択した物が戦闘弾帯に引っ掛けられた状態で現れる。

 

 64式小銃をスリングで肩に吊るしてから『M26手榴弾』と呼ばれる手榴弾を手にして、角から顔を少し出してラトスの位置を確認する。

 

 大体位置と距離を把握してから安全ピンを右手で持って引き抜き、レバーを指で弾いて角の陰に隠れながらM26手榴弾をラトスに向けて放り投げる。

 直後に手榴弾が爆発して生々しい音と共にラトスの悲鳴が上がる。

 

 64式小銃を手にして角の陰から顔を出して見ると、ちょうど家畜の所に落ちたのか辺り一面肉片混じりで真っ赤に染まっており、手榴弾の爆発時に放たれた破片で傷を負ったラトスたちが地面に倒れていた。

 ある意味運がいいやつは首から上が消えて絶命しているが、脚を吹き飛ばされたり胸に風穴が開いているやつは激痛にもがき苦しんでいるとある意味運がない。

 

 角の陰から出てラトス達のところへと近付いていくと、運よく傷が浅く済んだラトスが俺の存在に気付いて痛みに耐えながら立ち上がり吠えて威嚇する。

 

 すぐに狙いを定めて引金を引き、銃声と共に弾が放たれてラトスの頭を中身と血をぶちまけながら撃ち抜く。そのラトスは再び地面に伏せてしばらく痙攣した後動かなくなった。

 

 直後にボロボロのリーダー格のラトスが起き上がって俺に向かって走ってくるも、俺は慌てずに64式小銃を向けて引金を数回引き、放たれた数発の弾は胸を撃ち抜く。

 ラトスは前のめりに倒れ、血を吐き出してしばらく痙攣した後動きを止める。

 

(やはり大口径弾なら倒すのも容易いな)

 

 このくらいのサイズなら5.56mm弾でも十分そうだな。7.62mmからその上はビッグゴブリンくらいのやつに必要となる、と言った所か。

 

 俺はまだ息のあるラトスを探しては64式小銃で頭か胸を撃ち抜いて止めを刺す。

 

(これで9頭)

 

 周囲を警戒しながらマガジンを外してマガジンポーチから新しいのを取り出してから使いかけのやつを入れ、新しいのを差し込む。 

 

「……」

 

 すると左の方から物音がして俺はセレクターを引っ張り出して単射から連射に切り替えて押し込み、64式銃剣を鞘から抜き出して先端に取り付け、左に体を向けて身構える。

 

 すると林から4頭のラトスが飛び出て俺に向かって吠えて威嚇する。

 

「やはりまだ他に居たか」

 

 さっきは群れにしては少なかったからな。ラトスは大体10頭以上に群れるって聞いていたから。

 

 俺は走って来るラトスに向けて引金を指切りで引き、3点バーストのように放つ。

 

 弾はラトスの胸や腹を撃ち抜いて前のめりに倒れ、銃声に驚いて1頭が足を止める。俺はその1頭に狙いを定めて撃ち、胸を蜂の巣にして仕留める。

 

 次々と仲間が倒れる中、傷が浅く仕留め切れなかったやつが俺に跳びかかる。

 

「っ!」

 

 俺は横に跳んでラトスをかわすと地面に足がつくと同時にラトスへと踏み込み、64式小銃を突き出し銃剣をラトスへと突き刺してそのまま押し倒す。

 

 苦しげに血を吐きながら吠えてジタバタと暴れるラトスに俺は頭を踏みつけて銃剣を引き抜き、跳びかかろうとするラトスにとっさに狙いをつけて撃って頭周辺に命中させて頭部を粉砕する。

 

「――――ッ!!」

 

「やかましいんだよっ!!」

 

 足元で暴れるラトスに64式小銃を突き出して今度はラトスの首に銃剣を突き刺す。

 

 そのまま生々しい音と共にぐりぐりと首を抉ると、暴れていたラトスはやがて静かになる。

 

「……」

 

 事切れたラトスの上から退いて銃剣を引き抜き、マガジンポーチからマガジンを手にしてボルトハンドルを右手で押さえながら空になったマガジンを左手に持つマガジンでマガジンキャッチャーを押しながらマガジンを弾き飛ばし、手にしているマガジンを挿し込んで右手を手放す。

 ボルトハンドルが前へと進んで止まったのを確認してから周囲を見渡す。

 

(近くにはもう居ない、か)

 

 何となくではあるが、近くには居ないような気がする。

 

 周囲を見回しつつラトスの襲撃に警戒するも、しばらくしてもラトスが現れる気配は無い。

 

 血塗れた銃剣を外して64式小銃を右肩に背負い、仕留めたラトスの鶏冠を銃剣で切り落とす。

 

(それにしても)

 

 切り取った鶏冠を腰に提げている麻袋に放り込んで別のラトスの死骸の元に向かい、しゃがみ込んで銃剣で鶏冠に刃を入れる。

 

(最初はこんな光景を見ただけで吐き気を覚えていたって言うのに、何にも感じなくなったな)

 

 最初こそゴブリンや魔物を倒してその屍を見たり、生臭さのある血の臭いに吐き気を覚えていたが、今となっては何も感じなくなっていた。

 

(これが慣れってやつか)

 

 鶏冠を切り落としながら自身の精神的変化を自覚する。

 

(まぁ、慣れたのならそれはそれで別にいいんだがな)

 

 銃剣に付いた血を拭き取って鞘に収めながら周囲を見渡す。

 

 幸いに倒したラトスから何とか頭数分の鶏冠を回収出来た。数は13。

 

「さてと、残りも殺るか」

 

 群れの頭目のラトスは駆除して目標は達せられたのでこのまま帰ってもいいが、まだ時間はたっぷりとある。迎えが来るまで倒せるだけ倒しておくか。その分報酬が上積みにされるのだから。まぁこのランク帯じゃ期待できる金額じゃないんだろうが。

 

 切り取った鶏冠を腰に提げている麻袋に詰めてから64式小銃を右肩から降ろして地面に付け、両肩を交互に回して筋肉を解してからメニュー画面を開いて64式小銃を装備解除し、代わりに89式小銃とマガジンの詰まったマガジンポーチを装備して、周囲を警戒しつつ更に森の奥へと進む。

 

 

 その後しばらく捜索するもラトスの数は思ったより少なく、あれから5、6匹しか倒す事ができなかった。結構な数がいると思ったが、やはり群れが同じエリアに複数いるというわけではないようだ。まぁ、当然か。

 

 ちなみにこのくらいのサイズの魔物なら5.56mm弾でも十分通じて倒すのに時間は掛からなかった。

 

 

「これで19」

 

 切り取った鶏冠を麻袋に詰めながら倒したラトスの死骸を一瞥し、周囲を見渡す。

 

「まぁ、このくらいでいいか」

 

 これ以上探してもいないだろうし、暗くなる前に引き揚げるか。

 

 弾薬の補充を行う為にメニュー画面を開くと、久しぶりにお知らせの欄が点滅していて俺は首を傾げながら触れて画面を開く。

 

 

 ・魔物を100体以上討伐した。『スプリングフィールドM14』がアンロックされました。

 

 

「おっ、M14か」

 

 まさかのこいつが使えるようになるとは。

 

 M14はM1ガーランドを発展させた後継銃としてスプリングフィールド造兵廠で開発され米軍で正式採用されたバトルライフルだ。7.62×51mmNATO弾を用いるので威力は高い。が、正式採用された時に起きていたベトナム戦争では高温多湿なベトナムのジャングルで木製の銃床が腐食し、更に大口径弾とあって反動が強く、制御が難しかった。その後は小口径弾を用いるM16に主力を取って代わる形で最前線を退いた。

 しかしその後中東における戦闘で大口径弾が再評価され、特にブラックホークダウン事件で有名なモガディッシュの戦いでとあるデルタフォース隊員が使用していた事でも有名で、その一件でM14は再度注目を浴びるようになった。その後は近代化改修されて今も尚米軍や特殊部隊で使用され続けている。

 

 確かに俺が使える武器の条件としては特殊な経緯で日本に入ってきた武器兵器も条件を満たせば使えるようになると書いてあったが、こういうやつも含むのか。

 ちなみにM14の場合は戦後初の自動小銃である64式小銃の研究、開発の為にいくつもの銃と共に日本に仕入れられている。

 

 M14は個人的に好きなやつだし、何より性能がいい。今後役に立つだろう。

 

「さてと、帰りますか」

 

 迎えが来る前に依頼主に報告しに俺は農場へと戻る。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 依頼主へラトスの群れを駆除したのを報告し、討伐の証に切り取った鶏冠を見せる。頭目の他にも18頭の手下も駆除したので、余程スカッとしたのか依頼主はとても満悦そうな表情を浮かべていた。

 そのお陰で追加報酬を含めて報酬を組合を通して支払う事になった。

 

 その後迎えの馬車に乗って俺はブレンへと戻った。

 

 

 

(まぁ、こんなもんかねぇ)

 

 到着して馬車の停留場から組合のある酒場へと向かう道中俺は討伐時の内容を思い返す。

 

(あのくらいのサイズならまだいいだろうが、ビッグゴブリンサイズぐらいの魔物だと考えんといかんな)

 

 まぁ84mm無反動砲ことカールグスタフM3や110mm個人携帯対戦車弾ことパンツァーファウスト3等の対戦車兵器があるので何とかなる。

 

 

 酒場に付いたころには夕食時なのか中は大分賑やかな雰囲気に包まれていた。

 

 俺はその雰囲気の中を通って組合のあるカウンターへと向かう。

 

「すみません」

 

「こんばんは。あっ、ヒジカタ様ですね」

 

「そうですが、何で知っているんですか?」

 

 受付嬢が俺の事を知っていて戸惑う。俺まだ有名になる様な事をしてないのに。

 

「あなたの冒険者登録を請け負ったんですが……あっ、あの時と髪型を変えているからか」

 

 そう言って受付嬢は三つ編みにしている髪に触れる。

 

「? もしかしてあの時の?」

 

「はい。そうですよ」

 

 あぁあの時の。確かあの時は後ろに纏め上げていたから、髪型が違うと大分印象が違うんだな。

 

「それで、どんなご用件でしょうか?」

 

「あ、あぁ。依頼を完遂したから帰って来たんだが」

 

「分かりました。では、こちらで確認しますので、少しお待ちください」

 

 受付嬢はそう言って席を立って奥へと向かう。

 

 迎えの馬車が来てその際に組合の職員でもある馬車の操車が依頼の成否を依頼主と共に確認し、その後その報告を伝書鳩で組合に伝えるようになっている。

 

 

「おまたせしました」

 

 少しして受付嬢が戻ってくる。

 

「確かに依頼は完遂されていますね。お疲れ様です。初めての仕事はいかがでしたか?」

 

「少し慣れませんでしたが、何とかやっていけそうです」

 

「そうですか。いきなり討伐系の依頼を受けたので少し心配でしたが、良かったですね。

 では、タグと魔物討伐を証明する物をご一緒にご提出ください」

 

 俺は首に提げているタグと鶏冠が入っている麻袋を受付嬢に渡す。

 

 タグと麻袋を受け取った受付嬢は頭を下げてから再び奥へと向かった。

 

 

 それから更に少しして受付嬢が戻ってくる。

 

「おまたせしました。タグに今回の依頼で得たポイントを付与しておきました。それとこちらが報酬金となります」

 

 受付嬢はタグとジャラジャラと音を立てる麻袋を一緒に差し出す。

 

 タグを手にして表裏を観察すると、さっきと比べて細かい文字が裏の方に刻まれていたが、小さすぎてさすがに読めなかった。バーコードリーダー的なものか?

 

 タグを首に提げて服の内側に入れて麻袋の中身を確認すると、中には銀貨7枚と銅貨10枚が入っていた。

 

「報酬金は基本額に依頼主から言われた追加報酬を含め、先ほどタグと一緒にご提出した魔物から得た素材を換金した額も加算されています」

 

「なるほど」

 

 切り取った魔物の素材って討伐の証だけじゃなくて、お金に換金出来るのか。

 

「今日はお疲れ様でした。次の依頼も頑張ってくださいね」

 

「はい。では、これで失礼します」

 

 俺は麻袋を手にして受付嬢に頭を下げてカウンターを後にする。 

 

 

 

 



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第十一話 ゴブリンとかの特殊な事情のある生物のこの習性ってお決まりのパターンなのかねぇ

 

 

 

 俺が冒険者になって早くも3日が経過した。

 

 

 

 

 一定の間隔で発砲音が三回ずつ森の中に響き渡り、歩いていたゴブリン達を蜂の巣にしていく。

 

「……」 

 

 突然仲間が殺されて戸惑うゴブリンに向けて手にしている武器を向けて取り付けられている照準眼鏡を覗いて狙いを定めて指切り引金を引き、3点バーストの様に3発ずつの射撃を行ってゴブリンの胴体を蜂の巣にする。それと同時にマガジン内の弾が無くなる。

 空になったマガジンを抜き取り近くに置いているマガジンを挿し込み、コッキングハンドルを引いて射撃を再開する。

 

 俺が使っているのは『九九式軽機関銃』と呼ばれる、大日本帝国陸軍で採用された軽機関銃だ。

 

 なぜ5.56mm軽機関銃MINIMIやM240と言った現代機関銃を使わず旧式の軽機関銃を使っているのかと言うと、威力を確かめたかったからだ。

 

 旧式と言ってもこの世界では十分な威力を持っているだろうが、どこまで通じるかは分からない。まぁ九九式軽機関銃で使われている九九式普通実包の口径は7.7mmなので、威力自体は申し分ないだろう。実際ゴブリンの身体を容易く撃ち抜いている。

 だが、小口径弾を使う三八式歩兵銃や九六式軽機関銃は正直どこまで通じるか分からん。

 

 まぁぶっちゃけ言うと、性能テストはついでで、実際はただ単に使ってみたかっただけなんだけどな。旧日本軍の武器兵器は結構好きだからな。特に戦艦とか、戦艦とか……

 

 

「……」

 

 しばらくして前方にゴブリンがいないのを確認してから左手で九九式軽機関銃のキャリングハンドルを持って立ち上がり、身構えて周囲を警戒しつつ前進する。

 

 射殺したゴブリンの死骸が7体が地面に倒れており、九九式軽機関銃の先端で何回か突いてみるも反応は無い。

 

 周囲を警戒しつつ九九式軽機関銃の二脚を立てて地面に置き、64式銃剣を鞘から抜いてゴブリンの傍にしゃがみ込んで耳を切り落とす。

 

 

 今回の依頼はゴブリンの討伐だ。依頼主はとある村の村長で、村の周囲にゴブリンが出没して村人に襲い掛かっては被害を出しているとのことだ。幸いまだ死者は出ていないが、このままだと犠牲者が出るかもしれないと依頼書にはあったが、俺が到着した時点では2日前に村の女性が3,4人攫われていた。

 なぜ女性が攫われるかと言うと、ゴブリンと言う種族は雄しか存在しない。当然繁殖にはごく一部の生物を除いて雌雄の対が必要不可欠だ。そんな雄しか存在しない種族が繁殖するにはどうすればいい? まぁ簡単な話、多種族の雌に自分達の種を埋め込んで実らせると言う、傍迷惑なやり方で数を増やしている。

 

 村長は数を指定してこなかったが、可能なら多くのゴブリンを排除して欲しいとの事だ。村に到着して村長よりもし住処を見つけてそこに攫われた女性達が居れば最優先で助け出して欲しいとのことだ。

 

 

 7体から耳を切り落として腰に提げている麻袋に入れてから俺は九九式軽機関銃を手にして抱え上げ、周囲を見回す。

 

「……」 

 

 耳を済ませていると木々の揺れる音が届き、俺は64式銃剣を鞘に収めて音のした方へと身体を向ける。

 

 視線の先には俺に襲い掛かろうとしていたゴブリンが茂みから5体走って出てきた。不意打ちをしようとしたが気づかれて普通に襲い掛かることにしたのだろう。

 

 俺は九九式軽機関銃を構えて指切りで3点バーストのように射撃をしてゴブリンの頭や左胸などの急所に命中させて仕留める。

 

 2,3頭は左胸を撃たれて動きを止めるも、倒れずに尚こちらに向かって来る。

 

 俺は慌てずに更に弾を撃ち込んで確実に仕留めた。

 

「……」

 

 警戒しながらゆっくりと近付き、ゴブリンを一頭一頭生死を調べる。その内一頭だけまだ息があった。血を吐き出し倒れている周囲を赤く染めている所からそう長く持たないだろうが、頭に狙いを定めて引金を引き、銃声と共に放たれた弾はゴブリンの頭を撃ち抜いて辺りに中身と血を撒き散らして息絶える。

 

「……」

 

 マガジンキャッチャーを押してマガジンを外し、マガジンポーチより新しいマガジンを取り出して九九式軽機関銃に挿し込み、コッキングハンドルを引いて薬室に初弾を送り込む。

 

「さてと」

 

 射殺したゴブリンに近付き鞘から64式銃剣を抜こうとした直後、後ろで倒れていたゴブリンが立ち上がって森の中へと逃げていく。

 

(まだ生きていたのか!)

 

 俺は逃げたゴブリンの後を追って森へと入る。

 

 

 

 ゴブリンの後を追って森の中に入り、しばらく追跡していたら洞穴を見つける。その洞穴にへとゴブリンから流れ落ちた血が点々と続いていた。

 

「この中に逃げたか」

 

 洞穴に近付いて中を見るも薄暗く、奥に至ってはほぼ真っ暗だ。

 

(ライトをつけるとすぐにばれそうだな)

 

 もし奥で待ち構えているとなると、逆に不意打ちを受ける可能性があるな。窮鼠猫を噛むと言う事がある通り、ゴブリンは弱っても油断できない魔物だ。

 

(それに、こいつじゃもしかしたらきついかもしれんな)

 

 性能は申し分ないが、マガジン一つ分の撃てる数は決して多くない。中で多くのゴブリンが待ち伏せていると倒し切る前に弾が切れる可能性がある。

 

 少し考えてから俺はメニュー画面を開いて装備項目から二つの装備品を出し、九九式軽機関銃を収納する。

 

 一つは『JGVS-V3』と呼ばれる微光暗視眼鏡で、二つは『5.56mm機関銃MINIMI』と呼ばれる軽機関銃だ。

 

 個人用暗視装置JGVA-V8にしようか悩んだが、辺りが真っ暗の中で洞穴に入るわけじゃないので、V3でも十分だ。ただV3は88式鉄帽に取り付けられるV8と違って顔面に装着する方式なので88式鉄帽を一旦脱がなければならない手間があるのが難点である。

 

 5.56mm機関銃MINIMIは日本がベルギーのFNハースタル社のミニミ軽機関銃をライセンス生産して自衛隊で採用された軽機関銃だ。5.56×45mmNATO弾をベルトリンクで繋いだ弾帯の他にM4カービンや89式小銃で使用されるSTANAGマガジンも使用できる。

 

 二脚を立てて地面に置かれている5.56mm機関銃MINIMIのコッキングハンドルを引いてレシーバー上部のフィード・カバーを開き、取り付けられたボックスマガジンから弾帯を取り出してレシーバーにセットし、フィード・カバーを閉じる。

 それから88式鉄帽の顎紐を外して脱ぎ、V3を装着して脱いだ88式鉄帽を腰に提げ、V3を起動させて5.56mm機関銃MINIMIを構え洞穴へとゆっくりと歩みを進める。

 

 

 周りが暗くなっていく中俺の視界は外ほどの明るさではないが、分かりやすく見えるぐらいに明るさがV3のお陰で確保出来ており、ほぼ問題なく洞穴の奥へと進めた。

 

「ん?」

 

 少し進むと、倒れているゴブリンの姿を見つける。恐らく追いかけていたゴブリンだろう。

 

 近付いて数回身体を揺すってみるも、反応は無かった。

 

(奥に辿り着けずに、力尽きたのか)

 

 まぁ、お陰で警戒されていないようだし、俺としては都合がよかった。

 

 

 

 それから更に奥へと進むと、徐々に明かりが見え出してきた。

 

(何かが居るな)

 

 何となくそんな感じがして明かりがある奥へと歩みを進めると、曲がり角の向こうから出ている明かりが見えた。

 

「……」

 

 曲がり角まで進んでV3の電源を切って額に上げ、曲がり角からその先をこっそりと覗き込む。

 

 曲がり角の奥が洞穴の最深部らしく、天井は低いがそこそこ広い空間があった。そこがゴブリン達の寝床であるらしく、藁や草、葉っぱと言った物が地面に敷かれておりそこに何頭かのゴブリンが中央の焚き火を囲んで何らかの生き物の肉を食している。

 よく見るとその奥の壁に出来た窪みに木の枝で作った格子があり、その中に怯えた表情を浮かべる女性二人がお互いを慰めるように寄り添っていた。

 

(ここが住処だったのか)

 

 奥に居るのは攫われた女性達か。

 

 だが、攫われた女性は確か3,4人だと言っていたが、人数が少ないな。

 

「……」

 

 内部を見回してゴブリンの数を確認し、状況を把握する。

 

(スタングレネードを使えば一瞬なんだが、それだと奥の二人に被害を被らせてしまうな)

 

 この状況ならゴブリンを閃光発音筒ことスタングレネードを使えば一瞬で制圧できるだろうが、100万カンデラ以上の閃光に加え、15m以内に170デジベルの爆音がこの狭い空間に発せられる。その場合奥に居る女性達に被害が及んでしまう。

 

 まぁ目や耳を塞ぐように警告すれば良いのだが、いきなりそんな事を言っても向こうはすぐには出来ないし、何よりゴブリンにこちらの存在がばれるので出来ればやりたく無い。

 それに、もしここにいるゴブリン以外にもまだ仲間が居たらその爆音を聞いた他のゴブリンが戻って可能性がある。一時的に見えなくなって動けない女性達を歩けるまでに回復するのを待っている時間は無い。

 

 まぁ幸いなのは、ここから女性達が捕まっている窪みが射線上に入っていないことだな。

 

「……」

 

 5.56mm機関銃MINIMIのグリップを持つ左手に力を入れ、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを整えて、タイミングを見計らう。

 そして曲がり角から出て5.56mm機関銃MINIMIをゴブリンに向けて構え、引金を引く。

 

 狭い空間とあって音が反響していつもより大きな銃声が洞穴に響き渡り、ゴブリンが気付いた時には指切りで放たれた三発の弾が仲間のゴブリンの胴体や頭を撃ち抜いて地面に倒れる。

 

 俺は前へと進みながら引金を指切りで引いて5発ごとに放たれる弾は次々とゴブリンを撃ち殺し、状況を呑み込んだゴブリンが動こうとした時には殆どが撃ち殺されていた。

 

 残ったゴブリンは手近にある武器を拾い上げて雄叫びと共に俺に向かって走って来る。俺は向かって来るゴブリンに向けて引金を引き、放たれた数発の弾に胴を蜂の巣に撃ち抜かれて絶命する。

 

 最後に残った一頭は逃げようと首を左右に振って逃げ道を探していたが、残念な事に逃げ道は俺が通ってきた道しか無い。

 

 絶望したような表情を浮かべるゴブリンに俺は5.56mm機関銃MINIMIを向け、躊躇無く引金を引く。

 

 

 空になったボックスマガジンを交換して弾帯の先端をレシーバーにセットしてフィード・カバーを閉じ、前へと進む。

 

 地面に転がった空薬莢が半長靴に当たって転がり、事切れたゴブリンの死体の数々の傍を通って奥の格子に近付く。

 

 木製の格子に閉じ込められている女性二人はさっきよりも怯えた様子で俺を見ていた。

 

(まぁ、そうだよな)

 

 冒険者でも油断できないし、何より自分達を攫ったゴブリンの群れを一瞬の内に全滅させたのだ。そんな相手に恐怖を抱くなと言う方が無理な話だ。

 

「○×□△村の者だな?」

 

 俺が問い掛けると二人はゆっくりと縦に頷く。

 

「俺はその村の村長から依頼を受けた冒険者だ。君達を助けに来た」

 

 それを伝えながら格子を握り、力を込めて引っ張るとあっさりと抜けた。意外と脆いな。

 

 女性達は俺が助けに来たのを聞いて安心してか、二人共目に涙を浮かべ、ついに泣き出してしまう。

 

 二人は服を剥ぎ取られている以外特に目立った外傷もなく、顔色も悪くなかった。まぁ、言い方はちょっとあれだが、自分達の同族を増やす為の苗床だから、一応大事にはするよな。

 

 まぁさすがにこの格好のまま外に出て村に連れて行くわけにもいかず、その辺に捨ててあるボロボロの服の中からマシなやつを見つけて二人に手渡し、着るまでの間周囲を警戒しながら64式銃剣を手にしてゴブリンの死骸から耳を切り落としつつ二人にいくつか質問する。もちろん後ろを向いたままでだぞ。

 

 二人の他にまだあと二人居たのだが、連れて来られた当日に身体の隅々を調べられ、なぜかその二人だけは外に連れて行かれ、戻ってこなかった。

 その後ゴブリン達はどこからか肉を持ってきてそれを食べていた。一瞬見えた形から人間の手足らしいものがあったらしい。

 

 どうも女性であれば誰でもいいってワケじゃないみたいだな。理由は分からんが、別に知る必要はないか。

 

 ゴブリンの死骸全てから耳を切り落として麻袋に詰めて後ろを向くと、既に女性達は服を着て待っていた。マシなやつと言ってもボロボロの服だったので肌を露出している箇所が多かったが、無いよりかはマシだ。

 

 俺は女性達を出口付近まで進ませてからゴブリンの死骸を焚き火へと放り投げて死骸を燃やし、ついでに召喚した焼夷手榴弾を安全ピンを抜いてレバーを弾き飛ばして死骸の上に放り投げる。

 

 すぐにその場から離れて女性達を曲がり角の陰に隠れさせると焼夷手榴弾が破裂してゴブリンの死骸を燃やし尽くす。

 

 焼夷手榴弾の破裂を確認した後、額に上げていたV3を下ろして二人を暗い道の中を誘導しながら出口を目指した。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 洞穴から出た後女性達を守りつつ森の中を進んでいき、最初に仕留めたゴブリンの死骸から耳を切り落として回収し、暗くなり始めた頃に村に到着する事が出来た。

 

 村に到着するなり女性達は俺の帰りを待っていた村人の中にいた家族の下へと走っていき、家族を抱き締めた。

 

 女性達の家族からは頭を下げながら感謝の言葉を掛けられた後、村長にゴブリンを討伐したのを報告する。ちなみに倒したゴブリンの数は19頭だ。

 

 さすがにこの暗さの中でブレンまで帰るのはちょっと無理なので、その日はその村で一夜を過ごすことにした。

 ちなみに宿泊先は助けた女性の一人の家族が食事付きで泊めてくれた。

 

 

 

 翌日の朝、村長と助け出した女性二人の家族から依頼完遂で貰う報酬とは別に個人的な報酬として銀貨24枚を受け取り、村人に見送られながら俺は迎えの馬車に乗り、ブレンへと向かった。

 そしてブレンに着いたのは正午に差し掛かる頃だった。

 

 

「うーん」

 

 馬車から降りて背伸びをしてから肩を交互に回して筋肉を解す。

 

「さてと、行くか」 

 

 首を鳴らして息をゆっくりと吐き、酒場を目指す。

 

 

 酒場に入ると昼頃とあってテーブルの殆どは冒険者や住民達で埋まっていた。

 

 そのテーブルとテーブルの間を通ってカウンターへと向かう。

 

「おかえりなさいませ、ヒジカタ様」

 

 カウンターに着くと受付嬢が俺に気付いて声を掛けて挨拶する。

 

「依頼を完遂したから、その報告に」

 

「分かりました。確認の為少々お待ちください」

 

 受付嬢は立ち上がって奥へと向かう。

 

 

 

 その後依頼完遂の確認が取れてタグとゴブリンの耳の入った袋を提出し、タグに情報を記録して報酬金の入った袋と共に返却された。

 

 ちなみにタグだが、ランクペーパーの紙製ではなく、ランクウッドの木製になっている。今回の前に受けた魔物の討伐依頼で事前情報ではいないはずの大型の魔物と遭遇すると言う想定外の事態に遭った。まぁ88mm無反動砲で木っ端微塵に粉砕したんだけどな。

 で、それが組合にて話し合われ、それが認められてランクアップしたってわけだ。

 

「お疲れ様でした。次の依頼も頑張ってくださいね」

 

「えぇ。次も頑張らせてもらいます」

 

 袋の中の報酬金を確認して腰のポーチに入れた俺は受付嬢に頭を下げる。

 

「あっ、ヒジカタ様。少し宜しいでしょうか?」

 

「何でしょうか?」

 

 昼飯にしようと空いたテーブルを探そうとしたとき受付嬢に呼び止められる。

 

「実は昨日ヒジカタ様に御用のある方がいらっしゃったのですが」

 

「俺に?」

 

「はい。その方は先ほど来て、そちらの席でお待ちになっています」

 

 受付嬢は酒場の一角にあるテーブルに指差す。

 

「……」

 

 そこで待っていた人物は俺に気付いて小さく手を振る。

 

「……フィリア?」

 

 思わず俺はそこで待っていた彼女の名前を口にする。

 

 

 

 

 



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第十二話 フィリアの過去

 

 

 

 

「それにしても、まさか直接来るなんて思ってなかったな。てっきり呼び出されるのかと思ったが」

 

「私個人の用があったから、そのついでに渡し物と団長からの用件を伝えにね」

 

「ついで、ねぇ」

 

 フィリアの待っているテーブルの向かい側に座った俺はとりあえず料理を頼んでグローブを取りながら彼女が来た用件を聞く。

 

「で、渡し物って言うと、この間の報酬のことか?」

 

「えぇ。騎士団に報酬金が来たから、それを渡すように団長から言われたの」

 

 そう言うとフィリアはテーブルに置いている袋を俺に差し出す。

 

「結構入っているっぽいが、どのくらいあるんだ?」

 

 見た感じ今まで貰った報酬より多いかもしれない。

 

「金貨6枚に銀貨13枚よ」

 

「そ、そんなにあるのか?」

 

 予想以上の額に戸惑う。

 

「ビッグゴブリン辺りの魔物の討伐なら、大体このくらいはあるわ」

 

「そうなのか」

 

 袋を引き寄せながら呟く。

 

 あの程度だと、もっと大きなやつはどのくらいの額になるのだろうか。

 

 

 その後に頼んだ料理が来て俺とフィリアは少し遅めの昼食を取る。

 

「それで、用件ってなんだ?」

 

 ビーフシチューを掬ったスプーンを口に運んで飲み込んで、俺は問い掛ける。

 

「団長からあなたに会ったら聴いて欲しい事があるって言われたの」

 

「……」

 

 スプーンを置いて口元を布で拭いてから話し出す。

 

「もしあなたがよければ、騎士団に入団しないかって、団長が言っていたわ」

 

「騎士団に?」

 

「えぇ」

 

「……」

 

 騎士団に入団か。悪い話ではないが……

 

「……」

 

 俺は考えたが、答えはすぐに出た。

 

「せっかくの話だが、辞退すると伝えてくれ」

 

 見た感じあの人が腹黒い人とは思えんが、もし俺の力を目的に騎士団に入れるというのなら、願い下げだ。入った後の扱いなど想像がつく。

 それに、俺の事を快く思っていないやつが多いだろうし。

 

「そう。分かったわ」

 

「あんまり驚いていないんだな」

 

「あなたならこの件は断るだろうと思っていたから、期待はしてなかったわ」

 

「そ、そうなのか」

 

 こうもバッサリと言われると、地味に傷付くな。

 

「それにしても、この4日であなたの活躍は凄いものね」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。騎士団でもあなたの話題は持ちきりよ」

 

「持ちきりねぇ。良い意味でも、悪い意味でもあるんだろ?」

 

「えぇ。あなたのことを評価する者も居れば、快く思っていない者も居るわね」

 

(だろうな)

 

 まぁどういった事を考えているのは、大体察しがつく。

 

「まぁ、そのお陰でビッグゴブリンの討伐依頼騎士団の仕事は町の警護のみとなって、暇を持て余しているわ」

 

「え……」

 

「今私がこうしてあなたと話せるのも、やる事がないからなのよ」

 

「……」

 

「……」

 

 気まずくなった空気に俺は頬を掻く。

 

「その、すまない?」

 

「何で謝るの? それも疑問系で」

 

「いや、俺って君達から仕事を取ってばかりだなぁって」

 

「そうね。それを意図しているかどうかはさて置き、あなたに仕事を取られてばかりね」

 

「うっ」

 

「別に責めているわけじゃないわ。騎士団が暇を持て余しているっていうのは聞こえが悪いけど、それだけ平和だって事よ」

 

「まぁ、そりゃそうだけど」

 

 物は言いようってやつだが、何か悪いな。 

 

 

「……」

 

 するとフィリアは水の入ったコップを手にして口に運んで一口飲むと、小さくため息の様に息を吐く。

 

「……? どうした?」

 

「あっ、いえ。ただ、こうして男性と会話をするのが、楽しいんだなって思って」

 

「あんまり騎士団じゃ話さないのか?」

 

「話さないって言うより、会話にならないのよ」

 

「つまり?」

 

「騎士団の男性達は私と交友を深めたいって考えているのか、お世辞混じりの会話ばかり。全く弾みがないし、会話も続かない。それに、内容だって全然面白くない」

 

「……」

 

「まぁ、それ以前に私がこういう会話に慣れていないって言うのもあるかもしれないけど」

 

「小さい頃から、会話自体苦手だったのか?」

 

 でもこの時俺は疑問が過ぎる。

 

 彼女の家が貴族の中ではどのくらいの地位に当たるかは分からんが、親が伯爵の階級であるのなら貴族同士の会話など多くの経験がある筈。苦手なはずはない。

 

「苦手と言うより、機会がなかった、と言ったほうが正しいかな」

 

「……?」

 

「実を言うと、騎士団に入ってからできた友人は、リーンベルにセフィラだけ。それ以前は、ユフィだけだったの」

 

「ユフィって言えば、あの黒髪の?」

 

 フィリアは縦に頷く。

 

「でも、君は貴族なんだろ? なら、友人は多く居ても」

 

「えぇ。それが普通なんでしょうね。そう、普通、なのよね……」

 

 表情を暗くしてフィリアはそう言うと最後に小さく呟く。

 

「……」

 

「私、物心が着く前から、何をするにも全て両親に決められていたの。だから、学校はおろか、外に出歩く事すらできなかった」

 

「出歩く事すらって、じゃぁ、勉強とか習い事とかは?」

 

「全て屋敷の中、もしくは敷地の中のみよ。その敷地の外から先に出ることは許されなかった」

 

「……」

 

「だから、友達もお父様の信頼できる人物の娘であるユフィしか、いなかった」

 

「友人ですら決め付けられるのかよ」

 

 まるで箱入り娘だな。いや、それよりも厳しいか?

 

「もちろん、疑問に思った事はあるわ。何で私だけこんな扱いなのか。何でユフィや他のみんなと違うのかって」

 

「……」

 

「お父様やお母様に聞いても、全ては私の為だとしか言わず、その理由は一切言ってくれなかった」

 

「……」

 

「疑問に思ったし、不審にも思った。けど、それが私の為なんだって、私の為にしている事なんだって、そう自分に言い聞かせたわ。そうじゃないと、自分の気持ちを抑え込めないから」

 

「フィリア……」

 

「そして、ある日お父様と誰かが話しているを聞いたの。よく聞こえなかったけど、話の中で私のことを言っていたわ」

 

「……」

 

「もしかしたら、私のこの扱いって、何か別の理由があるんじゃないかって、そう思ったの」

 

(別の理由、か……)

 

 どうもきな臭いな。いくら箱入り娘の様に大事に育てようとしても、ここまで行動に制限を掛ける必要があるのか?

 

「でも、15歳の時に、外に出ることを許してくれたの。同行者が常に居たけど、外の世界を多く知った。何かもが、驚きに満ちていた」

 

「……」

 

「まぁ、当時は外に居られたのは少しの間だけだったけど、2年後にはほとんど外に出ることに制約はなくなって、こうして騎士団に居られるようになった」

 

「……」

 

 俺は首を傾げる。

 

 今まで自由を縛っていたのに、なぜ急に自由を与えたんだ? 世間の事や外の世界の事を学ばせる目的があるのだろうが、それならもっと早い段階でしても良かったはず。

 何より、箱入り娘の様に大事に育てていたのに、危険と隣り合わせな場面と多く関わるような騎士にならせるか普通?

 

 まるで、彼女に何かを悟らせない為に、気を紛らわせているような――――

 

(いや、考えるだけ無駄か。それに、こう言っちゃ何だが、俺には関係無い話か)

 

 考えた所で何も知らない俺が答えを出せるわけがないし、家庭の問題に赤の他人の俺が付け入る隙間は無いんだ。

 

「まぁ、15になる少し前に、外に出たことがあるんだけどね」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。ある日の夜にこっそり屋敷から出た事があるの。どうしても外の世界を知りたくて」

 

「……」

 

「住んでいた屋敷の裏に山があってね、そこに登って夜空を眺めたわ。その時の光景は、今でも鮮明に覚えている」

 

 フィリアはとても懐かしそうに微笑を浮かべて語ると、服の下から首から提げている物を取り出す。

 

「それは?」

 

「その時に拾った石よ」

 

 彼女が手にしているのは大体10円玉と500円玉の中間ぐらいの大きさで、武骨な形状をした無色半透明の綺麗な石であった。

 

「形は兎に角、綺麗な石だな」

 

「えぇ。とても綺麗だったから、記念に拾ったの」

 

 フィリアは石を眺めながら答える。

 

 

 

「……そういえば、あの時助けてもらったのって、三度目になるのかしら」

 

「三度目?」

 

 石を見ながら小さく呟いた彼女の言葉に俺は首を傾げる。

 

 あれ? この間二度目って言ってなかったっけ?

 

「あっ、いえ、これはただの独り言……」

 

 フィリアは慌てた様子で訂正しようとしたが、意を決してか問い掛けてきた。

 

「今から、少し変な話をするかもしれないけど、聞いてくれる?」

 

「別に構わないが」

 

「……」

 

 彼女は間を空けてから口を開く。

 

 

「あなたと出会う数日前に、夢を見たの」

 

「夢?」

 

「えぇ。薄暗い中、私一人だけで武器を持たず、魔物の群れに囲まれているって言う夢を」

 

 物凄く詰んだ状況だな。

 

「絶望的な状況なのは誰が見ても分かるものだったけど、私はそれ以外の事が頭の中にあった」

 

「それ以外の?」

 

「えぇ。生まれながらにして、私を縛っている状況の表れなのだと、そう脳裏に浮かんだの」

 

「……」

 

「どうしてそんなことが最初に思い浮かんだのかは分からない。でも、間違いないって言う確信はあった」

 

「……」

 

「そして魔物たちが私に襲いかかろうとした瞬間、突然大きな破裂音がして、魔物の一体が倒れたの」

 

「破裂音?」

 

「魔物は破裂音がする度に次々と倒されていき、私の前に居た魔物達が倒されると、誰かが立っていた」

 

「……」

 

「その人は魔物を倒しながらこっちに向かって来て、私の前に来た時には私を囲んでいた魔物達は全滅していた」

 

「それで?」

 

「その人は私に手を差し伸べて来て、私は何の疑問を抱かずに、その人の手を取って、立ち上がってからその人と一緒にその場から離れるように走った」

 

「……」

 

「すると、その人と私が走っている先に光が見えてきて、その瞬間私は目を覚ました」

 

「……」

 

「その夢を見た数日後に、あなたと出会い、ゴブリンから助けて貰った」

 

「あ、あぁ。あの時な」

 

 俺は思わず視線を外す。

 

 まさかそれ以前に対面しているとは、口が裂けても言えないよな……。意図が無くても、状況的にこっそりと覗いていたなんて……。

 

「その時の光景が、若干異なる所はあったけど、あの夢によく似ていたの」

 

「似ている、か」

 

「不思議よね。夢にあった光景が、現実でも似た状況で起きるなんて」

 

「あぁ。全くだな」

 

 正夢とは正にこのことか。

 

「だから、三度目って言ったの」 

 

「なるほどねぇ。でも、夢の中の人物が俺だって事じゃないんだろ?」

 

「えぇ。顔は暗かったから分からなかったけど、キョウスケが来ているような斑点模様の服を着ていたし、使っていた武器もあなたのとよく似ていた」

 

「……」

 

 うーん。不思議なものだな。

 

 

 

「大分話が長くなったわね」

 

「そうだな」

 

 俺は腕時計を確認すると大分時間が経っていた。

 

「それじゃぁ私は戻るわね。団長にはあなたの答えを伝えておくわ」

 

「頼む」

 

 俺が報酬金の入った袋を手にして立ち上がり、彼女も同じタイミングで立ち上がる。

 

「ねぇ、キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

 昼食代を袋から取り出してテーブルに置いた時にフィリアが問い掛ける。

 

「その、キョウスケはどのくらいの時間で、ここで夕食を取るの?」

 

「ん? 急になんだ?」

 

「あっ、いえ。ただ、会話をしながら夕食を取るのも悪くはないかなって。あなたとの会話は、楽しいから」

 

「そうか?」

 

「えぇ」

 

 まぁ、俺もフィリアと会話するのは、嫌じゃないし、むしろ心地いいと言うか、なんと言うか……。

 

「……そうだな。まぁ、依頼を終えたぐらいなら大体夜の8時から9時の辺りに夕食を取るかな」

 

「そう。それなら、今夜も一緒にどう?」

 

「俺は別に構わないぞ」

 

「っ! なら、待っているわ」

 

 フィリアは少し嬉しそうに表情が明るくなる。

 

「あぁ。じゃぁ、また今夜」

 

「えぇ。また、今夜」

 

 俺とフィリアは約束を交わして酒場を後にした。

 

 

 

 

「……」

 

 その様子を遠くから見ていた者は、手が白くなるほど握り締めて震えていた。

 

 

 



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第十三話 予想外の来訪者

 

 

 

 

 あの日以来、フィリアは俺が依頼を終えて帰って来た頃にやってきて、お互い夕食を取りながら会話を楽しんだ。

 会話の内容は俺のその日の依頼内容だったりそこで何をしたりしたか、彼女のその日の騎士団の様子や訓練様子とか、お互いの小さい頃の話など、会話内容は様々だ。

 

 ちなみにだが、その時の彼女はとても楽しそうな様子で会話を楽しんでいた。最初の時と比べると、大分明るくなったような気がする。

 

 まぁ俺自身こういった会話事態あんまりなかったから最初は戸惑うかと思っていたけど、彼女とは気が合うらしく、意外と会話は途切れる事はなかった。

 だから、こうして彼女と食事をするのが俺の楽しみになっていた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それから更に一週間が過ぎていった。

 

 

 

 破裂音が連続して森の中に響き渡り、ラトスの群れが目に見えない速さで飛ぶ弾に撃ち抜かれて絶命していく。

 

 茂みの陰に潜む俺は5.56mm機関銃MINIMIの照準眼鏡を覗き込みながらラトスの群れに銃口を向け、引金を引く。

 

 銃声と共に排莢口から空薬莢とベルトリンクが次々と排出され、放たれた弾が仲間が次々と殺されていく恐怖に逃げ出そうとしていたラトスの身体を貫いて命を刈り取っていく。

 

 100発あった弾帯が無くなり、空になったボックスマガジンを外し、傍に置いていたボックスマガジンを手にして装着し、フィード・カバーを開けて弾帯の先頭をレシーバーにセットし、フィードカバーを閉じてコッキングハンドルを引き、射撃を再開する。

 

 

 

 装填した弾帯の半分ほどを使い切った頃には、そこにいた20頭以上のラトスの群れは全滅して地面は死骸で埋まっていた。

 

「……」

 

 ボックスマガジンを外して残りの弾帯を取り出し、新しくボックスマガジンをポーチから出してセットして弾帯の先頭のパーツを外して残った弾帯と繋げて5.56mm機関銃MINIMIを背中に背負うと近くに置いている武器を手にする。

 

 一見すると長い鉄の棒に見えるが、辛うじてマガジンと思われる箱状の物体がトリガーの前にあり、全長が俺の背丈ほどはある武器であった。

 

 俺が手にしたのは『シモノフPTRS1941』と呼ばれる第二次世界大戦時の旧ソ連で開発された、14.5×114mm弾を使用するセミオート式対戦車ライフルだ。

 対戦車ライフルとは文字通り戦車に対して使用する対戦車兵器である。そして後の対物(アンチマテリアル)ライフルの前身とも言える銃器である。

 

 本銃もつい最近アンロック出来た武器で、M14とは事情は違うが特殊な経緯で日本に入って来ている。恐らく朝鮮戦争時に国連軍が鹵獲したものが陸自の基地の資料室に展示されたり、コレクション用に無可動化した銃として国内で販売された事があったりと、日本に入ってきた個体は結構ある。

 

 現状では対物ライフルが無いので、これが使えるようになったのは俺にとっては嬉しかった。まぁ当然性能は現代の対物ライフルと比べると見劣りする所は多いが、その分近代化改修はして性能を可能な限り上げており、現代の対物ライフルに負けない性能を得た。と言うか下手すると他の対物ライフルより性能がいいかもしれない。

 まぁその分ポイントは飛んだが、ここ最近全然使ってないからポイントは増える一方で貯蓄は腐るほど余っているの。だから、別に問題は無かった。

 

 改造内容としてはまず銃身内部のライフリングを改良して更に銃身の長さを延長し、初速と精度を向上させた。更にスコープを専用のマウントベースを用いて取り付けた。

 弾薬である14.5×114mm弾を改良して通常より炸薬を増やした強装弾に弾頭を炸裂徹甲弾として威力を向上させている。

 装弾方式もクリップ方式からマガジン方式に変更して5発から8発に増加した。

 

 わざわざ旧式の対戦車ライフルをポイント使って改造する必要はあるのかと思うだろうが、対物ライフルが無い以上これを使うしかない。

 

 ちなみに陸自では対物狙撃銃と言う名称で対物ライフルは調達されているらしいが、バレット社製である事以外機種は不明だ。噂だとバレットM95じゃないかって言われているが、詳細は分からん。

 もしかして召喚項目に無いのはそれが原因か? それともこいつも特殊な条件でアンロックされるやつなのか?

 

 まぁどっちにしろシモノフPTRS1941は個人的に好きなやつだし問題は無い。まぁこれが無かった場合は大日本帝国陸軍唯一の対戦車ライフル『九七式自動砲』を近代化改修をして使う予定だった。

 装弾数や威力的にもこっちの方がいいんじゃ、とか言ってはいけない。と言うか改造する項目が多いからシモノフPTRS1941よりポイントを必要になっていたかもしれないし。まぁさっきも言ったが、ポイントは腐るほどあるので別に問題はないのだが。

 

 

 あそこから移動してラトスの死骸で埋め尽くされている場所を見張らせる場所に着くと、シモノフPTRS1941の二脚を立ててその場に伏せて、いくつかマガジンを傍に置いてボルトハンドルを引いて元の位置に戻して初弾を薬室に送り込み、グリップを握る。

 

「……」

 

 スコープを覗きラトスの死骸の周辺を見張る。

 

 今回受けた依頼ではラトスは目標に入っていないのだが、今回の依頼の目標を誘き出す為にあそこで群れを全滅させて放置している。

 もちろん制限を守って倒した数は上限に達していない。

 

(さて、そろそろやつの鼻に血の臭いが届いてあそこに向かっている頃か)

 

 目標は嗅覚が鋭いと言われているので、餌の匂いに釣られてあの死屍累々な場所に向かっているはず。

 

 そう思っていると茂みが動き何かが近づいていた。

 

 俺は気を引き締めて狙いを定めて待つと、森の置くから巨大な生物がゆっくりと出てきた。

 

 パッと見た外見は灰色の毛を持つ巨大な熊と言った所か。しかしその大きさはかなり大きく、大きさは離れているから正確ではないだろうが、大体軽トラぐらいはありそうだな。

 そして顔つきはそいつの名前の由来にもなっているぐらい、悪魔を連想させるような醜い顔つきをしてヤギのような角が生えている。

 

 あれが今回の依頼の討伐目標である『グリムベアー』と呼ばれる魔物だ。

 

 今回の依頼主は商人で、馬車で荷物を運んでいた途中グリムベアーに襲われ、馬車を引いていた馬は食い殺され、商人自身も右手首を食い千切られる重傷を負ったが、何とか命からがら逃げてきたそうだ。

 依頼内容はもちろんそのグリムベアーの討伐だ。

 

 グリムベアーは雑食性で食えない物以外であればどんな物でも食べる。もちろん人間も例外ではない。

 グリムベアーは特定の住処を持たず、行動範囲が異常に広い事で知られており、そのグリムベアーが人間を襲うとなると近隣の村に危険が及ぶ可能性があるので、緊急のクエストとして組合で急募されていた。

 しかしその時に限って冒険者がほとんど依頼を受けて出払っていたので、その時居合わせた俺が半ば強制的に受ける事になった。

 

(緊急なのは分かるが、だからって半ば強制的に受けさせるのはどうなんだよ)

 

 まぁ別に他に受ける依頼は無かったからいいんだが……もしそこに俺じゃなくて新人の冒険者だったらどうする気だったんだ?

 あっ、俺も新人か。

 

 

 話を戻そう。

 

 

 グリムベアーはラトスの死骸を見つけるとゆっくりと近付いて一つを手にして豪快に齧り付き、肉を食い千切る。

 

「おぉ、グロッ」

 

 スコープで拡大されたスプラッターな光景に思わず声が漏れるが、そんな事は微塵に思っていない。

 

「……」

 

 俺は気持ちを切り替えてグリップを持つ手に力を入れ、スコープのレティクルにグリムベアーの頭を捉え、動きが止まるのを待つ。

 

 下手に傷つけて逃げられてしまうと更に凶暴化して手がつけられなくなる上にどこかへと行ってしまう可能性があるし、傷から流れ出た血の臭いに他の魔物が近寄ってくる可能性があるので、確実に仕留める。

 

 引金に指を近づけて掛け、グリムベアーの動きが止まるのを待つ。

 

 

 そしてグリムベアーが早くも3体目のラトスの死骸を手にして齧り付いた瞬間、引金を引く。

 

 その瞬間7.62mmとは比べ物に鳴らない砲声のような銃声が辺り一面に響き渡り、反動で俺の身体ごと銃が僅かに後退し、衝撃波で砂が舞い上がる。

 

 その直後にスコープの向こうではグリムベアーの頭の半分が弾けて血と肉片が飛び散る。

 

 グリムベアーは頭が仰け反って倒れるが、すぐに立ち上がって周囲を見渡す。

 

「嘘だろ!?」

 

 114mmの薬莢にぎっしり詰まれた強装弾から放たれた14.5mmの炸裂徹甲弾が直撃したにも関わらず、表皮が弾けて頭骨が露出して角が弾け飛んだだけで、致命傷を負っていなかった。

 予想以上の頑丈さに驚愕を隠せなかった。

 

 だがさすがにダメージは軽くなかったようで、脳震盪を起こしているのかふら付いており、頭や口から血が多く流れていた。するとふら付きながらもその場から逃げようとしていた。

 

「っ! 逃がすか!!」

 

 俺はとっさにダメージの入った頭部の箇所に狙いを付け、引金を引く。

 

 砲声の様な銃声と共に14.5mm弾が放たれ、グリムベアーが動いた為に狙いは外れたが左側頭部へと命中して着弾時の衝撃で横へ倒れる。

 

 そのまま連続で胴体に向けて引金を引き続け、残りの弾を叩き込む。着弾すると同時に血飛沫と肉片が弾け飛び、周囲を赤く染め上げる。8発撃ち終えてマガジンを外して傍に置いているマガジンを手にして差し込み、コッキングハンドルを引いて射撃を再開する。

 

 

「……」

 

 それからもう一つマガジンを使って射撃を行い、遠くからでも分かるぐらいグリムベアーが居た場所の周囲は赤く染まっていた。

 銃口から硝煙が漏れる中シモノフPTRS1941のマガジンを交換して5.56mm機関銃MINIMIと入れ替えるように背中に背負い、グリムベアーの死骸の元へと向かう。

 

 

「近くで見ると、でかいな」

 

 14.5mmの炸裂徹甲弾を受けて見るも無残な死骸と化したグリムベアーの近くに来ると、その大きさを改めて実感する。と言ってもほとんど原型は残って無いんだが……。

 そして何よりグリムベアーやラトスの血と肉片で辺り一面が赤く染まり、生臭い臭いが漂っていた。

 

(にしても、呆気無いな)

 

 図体の割りにあっさりと死んだことに呆気無さを感じたが、首を横に振るう。

 

 常に近い距離で戦う冒険者だとこれだけ大きな魔物を倒すのに苦労するだろう。近接武器も大きな奴でなければ傷を負わすのは難しいだろうし、弓矢ではダメージは部位にもよるがほとんどないだろう。

 一方こっちは遠距離から放たれる威力の高い現代兵器を使っているんだ。比べるのは酷というものだ。

 

「まぁ、どっちにせよ依頼は達した、か」

 

 呟きながらメニュー画面を開くと、お知らせの画面が点滅していた。

 

 つい最近にもあったばかりなのに、なんだ?

 

 首を傾げながらもお知らせの画面を開く。

 

 

 ・レベルが25になりました。装甲車輌以外の車輌の項目がアンロックされました。

 

 ・グリムベアーを討伐した。装甲車輌『――――』がアンロックされました。

 

 

「おぉ!」

 

 今まで使えなかった車輌がようやく使えるようになったのか! 装甲車輌以外だが、これで足ができた。

 しかもグリムベアーを討伐した事によってとある装甲車輌が使えるようになった。現時点では装甲車輌が使えない以上唯一でしかも攻撃力を有する装甲車輌が使えるのはありがたい。

 

 早速何かに乗ってみたかったが、迎えが来る以上下手に出すと怪しまれるので、召喚は次の機会にする事にするか。

 

 

 その後馬車の迎えが来て一緒に来た調査団にグリムベアーの死骸の回収を頼んだ。

 

 大型の魔物は組合から派遣される調査団によって死骸を分解して使える部位を回収し、後で換金できる方法がある。冒険者は依頼を受けて出発する前に申し込むそうだ。

 難点があるとすれば換金された金は報酬より後日に支払われるのと、派遣と解体、輸送にお金が地味に掛かるという事ぐらいだ。

 

 ちなみにこういう仕事に慣れているはずの調査団だが、あまりのスプラッターな光景に数人ほど嘔吐した。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 時間は過ぎて夜の8時を過ぎた頃。

 

 

 馬車に揺られながらブレンへと戻った俺は早速酒場に向かい、依頼完遂の報告をして報酬金を貰った。

 緊急クエストとあっていつもより多くの額を得る事が出来た。

 

(しかし、車輌が使えるようになったのは大きいな)

 

 装甲車輌以外の輸送車輌のみだが、車やトラックが使えるようになっただけでもかなり大きいな進歩と言える。

 

 これで馬車に揺られる事もなくなるし、乗る為の代金を支払わずに済む。

 

 ちなみに馬車に乗らない場合は職員から伝書鳩で組合に連絡する事が出来なくなるので、報告後組合から調査団が派遣されて調査し、依頼主に確認を取って報告どおりであると確認してから報酬が支払われると、二度手間な方法となる。

 まぁ、すぐに報酬金が必要だと言う冒険者以外ではこの方法をとるのが多いという。

 

 手持ち金に余裕が出来た俺はこの方法でもさしたる問題は無い。

 

 

「……?」

 

 俺は酒場を見回してフィリアの姿を探していたが、どこにもいない。

 

(大体この時間なら居るはずなんだが)

 

 この時間帯で帰ると酒場のどこかのテーブルに彼女(フィリア)の姿があるが、今日は居なかった。

 

(珍しい事もあるんだな)

 

 几帳面な彼女にしては、本当に珍しかった。

 

 

「ちょっといいか?」

 

「……?」

 

 彼女の姿を探していると後ろから声を掛けられて振り返ると、この辺りでは珍しい黒髪の女性が立っていた。

 

「あんたは……」

 

 どこかで見覚えのある姿に、すぐに脳裏にその人物が挙がる。

 

「確かフィリアと一緒に居た」

 

「ユフィ・コッホーだ。あの時以来だな」

 

 俺が言い終える前に女性ことコッホーさんが自分で言う。

 

 特徴的な黒髪を一本結びにして束ねた髪形に向日葵色を思わせる瞳を持つ凛とした雰囲気。彼女で間違いないな。

 

 だが、そんな彼女が一体なぜ俺のところに?

 

 考えられる理由としては、大よそフィリア関連のことだろうな。もしかすればもう関わるなと言われるかもしれない。

 俺と言うより彼女から会いにきているって感じだが、周りから見たらそう見えないんだろうな。

 

(いや、もしかしたらそれ以外の用があるのか)

 

 この町から出て行くように忠告すると言うのか……

 

「一体何の用ですか?」

 

「そう警戒しないでくれ。難しい事ではないし、恐らくヒジカタ殿が思っていることじゃない」

 

 俺の様子を察してか彼女は違う事を伝える。

 

「と、言うと?」

 

 じゃぁ、一体何の用なんだ?

 

「まぁ、とりあえず立ち話もなんだ。食事をしながらでも話そう」

 

 そう言いながら空いたテーブルを探して指差す。

 

 

 

 



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第十四話 友人として

 

 

「それで、コッホーさん」

 

「私のことはユフィで構わない。呼びづらいだろ?」

 

「そうですか。では、自分の事も恭祐で構いません」

 

「分かった」

 

 俺とユフィはテーブルに着くとお互いに料理を頼み会話を交わす。

 

「では、改めて。一体俺に何の用で来たんだ? それにフィリアの姿が無いのは?」

 

「フィリアは昼に起きた事件に関する仕事がまだ終わっていないんだ。今頃他の二人と共に書類の整理に追われていることだろう」

 

(そういうことか)

 

 彼女が来ていない理由はそれか。

 

「一体どんな事件があったんだ? 俺は朝から緊急クエストを受けて町にいなかったが」

 

「喫茶店で些細な事で冒険者同士の喧嘩が起きたのだ。仲裁の為に騎士団が向かったのだ」

 

「そうか」

 

 と言うか、それしか仕事がないんだろうな。仕事を奪っているような俺が言えた義理じゃ無いんだが……。

 

「私とフィリアで喧嘩していた冒険者を話し合いで解決して事なきを得たが、後始末に追われて私もさっきまで仕事をしていたんだ」

 

 何で話し合いで後始末が起こるんだ? 話し合い(話すとは言っていない)ってやつか?

 

「じゃぁ、君がここに来たのは、もしかして息抜きの為か?」

 

「まぁな」

 

 一体どんな仕事をしていたんだ。

 

 

 少しして頼んだ料理が来て食事を取っていた時に、ユフィが本題を切り出す。

 

「さっきも言ったが、私はキョウスケ殿が警戒しているような事を言いに来たわけじゃない」

 

「俺がどんな事を警戒していると?」

 

「大よそだが、フィリアとはもう関わるな、と思っていたのでは?」

 

「……そんなところだな。でも、何で分かったんだ?」

 

「顔に出ていた」

 

 そんなにあからさまに顔に出てたか?

 

「冗談だ。それに、私にはそんな事を決める権利なんてない」

 

「そうですか。では、他に何の目的があって俺の所に?」

 

「私があなたに会いに来たのは、お礼を言う為だ」

 

「お礼?」

 

 はて? お礼を言われるような事ってしたか? フィリアを助けた時のお礼なら出会ってすぐに言っているはずなんだが。

 

「フィリアとは、親しくしているそうだな」

 

「親しく……まぁ、周りからはそう見えるんだろうな」

 

 まぁ仲良くしている事に変わりは無いか。

 

「それに問題があるわけじゃない。むしろ、いい傾向にあるって事を伝えたいんだ」

 

「つまり、どういうことだ?」

 

 微妙に意味が分からず首を傾げる。

 

「フィリアはキョウスケ殿と出会ってから、大きく変わったんだ」

 

「俺と出会って?」

 

「あぁ。私はフィリアの小さい頃からの友人で、ずっと見てきた。あんまり明るいとは言えないような女の子だったんだ」

 

「……」

 

「まぁ、それは環境がそうさせたと言っても過言ではないがな」

 

「環境、か」

 

 両親に自由を縛られた生活か。そりゃ、そうだよな。

 

「フィリアの事は、聞いているのだな?」

 

「まぁ、本人から聞いて君が知っているぐらいは、たぶん」

 

「そうか。それなら、話は早い」

 

「……」

 

「私はフィリアの友人として、小さい頃からずっと見てきた。いつも暗く、口数が少なくてな。私とでも会話は長く続かなかった」

 

 当時の事を思い出しながら、ユフィは静かに語る。

 

「そして、いつも外を羨ましそうに眺めていた」

 

「……」

 

「でも、キョウスケ殿と出会ってから、フィリアは少しずつ会話が増えてな。最近では親しい者に限ってだが、よく話すようになった」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ。明るく楽しそうに話をするフィリアの姿を見たのは、初めてだった」

 

「……」

 

「しかも、会話はよくキョウスケ殿の話題が多かった」

 

「俺のことを?」

 

「あぁ。まさかフィリアが、赤の他人、それも異性にここまで心を開くとは、思ってもみなかった」

 

「……」

 

「実の所を言うと、私は当初キョウスケ殿にフィリアともう関わらないように、警告するつもりだった」

 

「……お目付け役として、邪魔な虫が寄り付かないようにする為、か?」

 

 ユフィは驚いたかのような表情を浮かべる。

 

「いや、フィリアから聞いた話じゃ、君は伯爵の信頼できる友人の娘なんだろ? もしかしたらって思っていたんだが、その反応じゃそのようだな」

 

「……あぁ。キョウスケ殿の推察通り、私はフィリアの友人であると同時に、お目付け役として行動を監視している」

 

(ここまで推測通りとはな)

 

 フィリアが縛られる理由、かなり深そうだな。

 

「でも、そんなお目付け役が、何で警告しようとしなかったんだ?」

 

「……」

 

 ユフィは少し間を置いて口を開いた。

 

「さっきも言ったが、フィリアは、宿舎であなたの事を楽しそうに話していたんだ」

 

「……」

 

「その時のフィリアは、とても楽しそうに、幸せそうに話していた。小さい頃の彼女を知っている私からすれば、とても信じられなかった。他人との関係を拒んでいたような、あいつが」

 

「……」

 

「あんなに明るくなったフィリアを見ていると、あなたとフィリアを遠ざける気が起きなかった。いや、遠ざけてはいけないと思ったんだ」

 

「……」

 

「お目付け役としては失格だろうが、私はそれでいいんだ」

 

「……」

 

「フィリアが明るくなった。それだけでも、私は嬉しいんだ。もちろん、私個人として」

 

「そうか」

 

「だから、改めてお礼を言いたい。ありがとう」

 

 ユフィは頭をゆっくりと下げる。

 

「いや、お礼を言われるほどでは」

 

 まさか頭を下げるとは思っても見なかった俺は思わず腰を浮かす。

 

「いや、私にとっても、フィリアにとっても、とても大きな事だ」

 

「……」

 

「それで、無理を言っている事は承知の上だが、頼みがある」

 

「頼み?」

 

「あぁ。ほんの一時だとしても、これからもフィリアと親しくしてくれないか?」

 

「それは……」

 

「もちろん、キョウスケ殿の空いた時間だけでいいんだ。それだけでも、フィリアの支えになる」

 

「……」

 

「勝手な頼みだというのは分かっている。でも、頼む」

 

「……」

 

 俺はこの時一瞬迷ったが、直後にはその迷いが消えた。

 

「……出来る限りの事は、するつもりだ」

 

「ほ、本当か!?」

 

「あぁ。俺でよければ」

 

「……ありがとう」

 

 ユフィは再度頭を下げた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後ユフィは駐屯地へと戻ると言って酒場を後にして、その後しばらくしてフィリアが酒場へとやってきていつものように食事をしながら会話を交わした。

 内容はユフィの言う通り昼にあった喫茶店での事件の事で、どれだけ忙しかったのか結構愚痴っていた。

 

 

 

「……」

 

 食事を終えてフィリアと別れた後、宿へと向かう道中ユフィとの会話が脳裏に過ぎる。

 

(支え、か)

 

 親しくするまでは分かるが、支えとはどういうことだ?

 

(それだけ、精神的に疲弊していたのか?)

 

 でも今日に至るまでの様子を見ていると、そんな感じは見られなかった。まぁ今日は身体的な疲れはあったが。

 

(やはり、貴族と言う立場は結構気を使うんだな)

 

 だから支えが必要なんだろうな。

 

(まぁ、もうしばらくここに留まるのも、悪くない、かな)

 

 ある程度資金が溜まればここを離れる予定だったが、もう少し留まってみるのを考えている。

 

「……」

 

 ふと脳裏にさっきの事やこれまでのフィリアと会話を交わしていた時の彼女の姿が過ぎる。

 

『その時のフィリアは、とても楽しそうに、幸せそうに話していた』

 

(幸せそうに、か)

 

 そう意識すると、確かに最初と比べると明るくなったよな。

 

「(フィリア……)……?」

 

 俺は立ち止まると、優しい光を放つランプがぶら下がっている外灯にもたれかかる男性の姿を見つける。

 

「よぉ、平民。あの時以来だな」

 

 赤髪の男性は外灯から離れて俺の前に歩いてくる。

 

「あんたは……」

 

「そういや顔を合わせただけで言ってなかったな。僕はアレン。アレン・ガーバインだ。ガーバイン公爵の息子だ」

 

「キョウスケ・ヒジカタです」

 

 面倒ごとを起こされると面倒なので、軽く挨拶をする。そういや駐屯地に来た時に居たな。

 

「お前の噂は聞いているよ。中々活躍しているそうじゃないか」

 

「騎士団では話題だそうで」

 

「あぁそうだな。お陰でこっちは仕事が無くて暇だけどな」

 

「それだけ平和と言う事なんでしょう。騎士としては、本望なのでは」

 

「ふん」

 

 事実を言われてアレンは鼻を鳴らす。

 

 

「ところで、平民」

 

 フルネームを言ったにもかかわらずアレンは俺を平民呼ばわりをして睨むように見る。

 

「お前、最近フィリアと仲が良いようだな」

 

「えぇ。彼女とは食事をしたり会話をしたりと、仲良くさせてもらっています。彼女の友人からも支えてやるようにと言われました」

 

「……」

 

「それが何か?」

 

「ふん。今は良いだろうが、ハッキリと言わせてもらう」

 

 一歩前に出て言葉を続ける。

 

「調子付くのも今の内だ、薄汚い平民が」

 

「……」

 

「いいか。お前らの様な薄汚い平民が、地べたを這い蹲ってどれだけ頑張って努力しても、高貴な貴族に勝てるわけねぇんだよ」

 

「……」

 

「意味が分からんような顔をしているな。まぁ頭が空っぽな平民には分からんだろうな」

 

(空っぽなのはお前の事だろう)

 

 突っ込みたかったが、我慢して内心の留めた。

 

「いずれ分かるさ。平民が貴族に勝てないわけをな」

 

 俺に向けて指を差した後アレンはその場を後にした。

 

(わけの分からん事を。あれが貴族なのか)

 

 あんなやつばかりだと、この世界の世の中は厄介そうだな。それともあいつがぶっ飛んでるだけか。

 

 若干胸糞が悪い中俺は宿へと向かった。

 

 

 



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第十五話 それは突然に……

 

 

 

 

「……」

 

 組合で受けた依頼を終えて俺は召喚した旧型の73式小型トラック、通称:ジープを運転して平野を走り、ブレンを目指している。

 ちなみに運転技術だが、トレーニングモード内にて一年近く費やして運転の技術を身体に身につけた。

 

「やっぱり馬車と比べると早いし、乗り心地も良いな」

 

 馬車なら1時間半近くかかるところを30分で到着できるから、ホント楽だわ。しかも馬車代も掛からないし、尻も痛くならない。文句の言いようが無いな。

 

(それにしても……)

 

 ルーフ(自衛隊ではホロという)を外しているので風を受けながら運転している俺は最近起きた変化を思い出す。

 

 

 アレンにワケの分からない忠告を受けて数日後、前日に会ったのを最後に突然フィリアが酒場に現れなくなったのだ。

 

 最初は仕事が忙しくて来れなかったんだろうと思っていたんだが、それが何日も続いてもうかれこれ一週間近くだ。

 

(仕事で他の町にでも行っているのかねぇ)

 

 それならいいんだが、何かが違うような気がする。

 

(何があったんだ)

 

 様々な憶測が脳裏を過ぎるも、その中からすぐに答えが出れば苦労はしない。

 

「まぁ、気にしても仕方無い、か」

 

 呟きながらギアチェンジをして速度を上げる。

 

(しかし、ここまで有名になるとはねぇ)

 

 今日受けた依頼だが、今朝ご指名の依頼があると組合を通して知らされた。依頼主からご指名されるのはかなりの実力者でなければないのだが、新人がご指名されるのは結構異例らしい。

 

 依頼主は商人で、依頼内容は自身の商売に使う商品をブレンから東に数キロ離れた場所にある村から更に数キロ離れた隣町へ魔物からの襲撃を防ぎつつ送り届けると言ったものだ。

 

 俺は早速73式小型トラックを人目の付かないところで召喚して村に向かい、村の近くまで行ってそこで73式小型トラックを収納し、村へと向かって依頼主の商人と面会する。

 

 まぁ護送任務としては当然ではあるが、依頼主は俺の他に何人もの冒険者を雇っており、冒険者達の間でも噂になっている俺は注目の的だった。まぁあんなに活躍すれば嫌でも目立つわなぁ。

 俺的には目立ちたくは無かったが、ランクアップの為には討伐のみならず様々な依頼をこなさなければならない。仕方が無いが、今回ばかりはなるべく目立たないように動く事にした。

 

 護送中自体は特にこれと言って大きな問題が無かったが、魔物の襲撃事態が無かったわけではない。冒険者達が俺の89式小銃やUSPについて色々と聞いて来て表面上の情報だけを答えている中、ゴブリンにコボルトと言った魔物の襲撃があった。

 冒険者達はすぐに武器を手にして魔物達に戦いを挑み、俺は冒険者達の援護に徹した。と言っても、俺の援護が強力とあって襲撃は殆ど俺が片付けたようなものだった。

 

 まぁそんな事もあって護送任務は無事に終わり、隣町の冒険者組合で依頼完遂の報告をして報酬金を得た。護送任務の場合は目的地に大抵冒険者組合があるので、そこで報酬金を貰う場合もある。その後に依頼を受けた組合に連絡を入れる。

 

 

 今はその帰りと言うわけだ。

 

(十中八九あの冒険者達は俺の事を更に広めるだろうな。これから面倒な事が多くなりそうだ)

 

 恐らく今後俺に接触を図る冒険者達は増えてくるだろうし、冒険者達が集い組織的活動をする冒険者ギルドからの勧誘も出てくるだろう。前者まではいいが、後者は俺の武器狙いで勧誘している可能性がある。

 

 深くため息を付き、顔を上に向けて空を見上げる。

 

「にしても、嫌な天気だ」

 

 空は厚い雲に覆われており、少し離れたところでは暗い雲が出ていた。

 

(恐らく今夜に雨が降りそうだな)

 

 俺はブレンへと急ぐように73式小型トラックの速度を上げる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その日の夜。

 

 

(結局、今日も居なかったな)

 

 泊まっている宿の一室で89式小銃のレシーバーやハンドガードを布で磨き、布を巻きつけたクリーニングロッドを銃身内に挿し込んで前後に動かしながら酒場にフィリアの姿が無かったのを思い出す。

 

(やはり、仕事で別の町に行っているんだろうか)

 

 でも、それなら前日に何か伝えてるはずだが、最後に会った時にそんな事は言っていなかった。

 

(何だろうな、この違和感)

 

 どう表現すれば分からない感情が胸中を渦巻く。もし例えるとすれば、嫌な感じ、と言う感じだろうか。

 

 89式小銃の銃身内を綺麗にしてクリーニングロッドを抜き取り、89式小銃を壁に立てかけるとテーブルに置いている空のマガジンを手にして並べている89式5.56mm普通弾こと5.56×45mmNATO弾を手にしてマガジンに押し込む。

 

 普通なら弾が込められた状態で召喚できるが、あえてマガジンと実包とバラバラの状態で出すことが出来る。これで弾込めと言う銃の醍醐味とも言える作業が出来るのだ。地味にこれはありがたかった。

 

 マガジンに30発込め終えると軽く叩いて中の弾の列を整えてマガジンポーチに詰め、次のマガジンに弾を込め始める。

 

「にしても、随分と降っているな」

 

 外は俺の予想通りブレンに到着した頃には雨が降り始め、今は結構な量が降っている。

 

(明日は外の状況次第じゃ、73式の装備を変える必要があるな)

 

 まぁ変えるのはルーフの有無ぐらいだが。

 

「……」

 

 弾を込め終えてマガジンを軽く叩いてテーブルに置くと、両手を組んで両腕を上に伸ばして背伸びをする。

 

 コンコン……

 

「っ!」

 

 すると扉からノック音がして俺はとっさに扉の方に顔を向ける。

 

「……」

 

 俺は静かに立ち上がるとテーブルに置いているホルスターよりUSPを抜き取り、ハンマーに親指を掛けて扉に近付く。

 

 時間は11時を回ろうとしている。こんな時間に訪れる人はハッキリ言って居ない。と言うか大体の人はもう寝ている時間帯だ。

 

「誰だ」

 

 一言発して少し待つも、返事は返って来ない。

 

「……」

 

 ハンマーを起こして、人差し指をトリガーガードに掛けてセーフティーレバーに親指を近づける。

 

 

 

『わ、私よ、キョウスケ』

 

 少しして帰って来た声は、俺の予想外の人物の者だった。

 

「……フィリア?」

 

『え、えぇ……』

 

 予想外の人物に俺は首を傾げると、返事が返って来る。

 

 扉を少し開けて隙間から向こう側を覗くと、外套を身に纏った人物が立っており、顔は深々とフードを被っていたから顔は分かりづらかった。だが、声は彼女のものだった。

 

「フィリア、なのか」

 

「えぇ……」

 

「こんなに時間にどうしたんだ? それに、今までどこに」

 

「それはこれから話すから、中に入れてもらっていい? 出来れば見られるのは避けたいから」

 

「あ、あぁ。別に構わないが」

 

 俺は扉を開けてフィリアを部屋に入れて扉を閉める。

 

 

「こんな遅くにどうしたんだ?」

 

「……」

 

 ベッドに腰掛けた俺はイスに座ったフィリアに問い掛ける。フードを取った事で彼女の顔が露になり、本人であると言うのが確認できた。

 ある事を除けば、以前のままだったが。

 

「それに、外は雨で大変だっただろうに」

 

「え、えぇ。そう、ね」

 

 どことなくぎこちない喋り方で彼女は喋っているが、以前とは明らかに様子が違っている。

 

 目はまるで死んだ魚の目の様に虚ろになり、顔色は蒼白で雰囲気も生気が感じられない。まるで生きた屍のような状態だった。以前までの明るくなってきた彼女とはまるで別人なぐらいの変わり様だ。

 

「でも、こんな時間に出歩いて大丈夫なのか?」

 

「普通なら、規則違反になる、わね」

 

「なら、なんで?」

 

「……」

 

 フィリアは意を決したように口を開く。

 

「あ、あのね、キョウスケ」

 

「ん?」

 

「あなたに、伝えないといけない事が、あるの」

 

「……」

 

「その、私――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――婚約が、決まったの」

 

 

 

「…………」

 

 

 ん?

 

 

「……こん、にゃく?」

 

 動揺してか思わず噛んでしまう。

 

「じゃなくて、婚約って、え?」

 

「……」

 

 俺が問い掛けるも、彼女は顔を俯かせたままだ。

 

「それは、また突然な話だな」

 

「……」

 

「なんで、そんな事に?」

 

「……それは、キョウスケと最後に会った翌日にお父様から手紙が来て、直接伝えたい事があるから、すぐに屋敷に来るように言われたの」

 

「……」

 

「私はすぐにお父様とお母様が暮らしている屋敷に向かったわ。そこで、ガーバイン公爵の息子と、つまり……アレンとの婚約を聞かされたの」

 

「アレンって、マジかよ」

 

 よりによってあんなやつと……。

 

『いずれ分かるさ。平民が貴族に勝てないわけをな』

 

(あいつの言っていた意味は、こういう事を言っていたのか)

 

 無意識に俺の右手が握り締められる。

 

「今まで来れなかったのは、外出を認められなくて、殆ど外に出られなかった。元々屋敷の方で暮らす予定だったけど、私が強く最後まで友人達の近くに居たいってお願いをして、何とか騎士団の宿舎に居る事ができた。

 こうしてあなたの元に来たのは、こっそりと抜け出して来たからなのよ」

 

「……そう、なのか」

 

 この町に居るのは居たが、外に出れなかったのか。

 

 

「……」

 

「フィリア?」

 

 すると俯いた彼女は身体を震わせると、彼女の顔から何かが落ちる。

 

「やっぱり、私に自由なんて、無かったんだ」

 

 顔を上げた彼女の目からは涙が浮かんでいた。

 

「どうして、どうしてなの。何で私ばかり、こんな、こんなに」

 

「……」

 

「私は、どうしたら、良いの」

 

「それは……」

 

 俺はどう言葉を掛けてやればいいか分からず、言葉に詰まる。

 

「……」

 

「……」

 

 雨の降る音が大きく聞こえるぐらいに、二人の間に沈黙が続いた。

 

 

「ねぇ、キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

 少ししてフィリアが口を開く。

 

「もし、私が望んだら、キョウスケは、私をどこかに連れて行ってくれる?」

 

「フィリア?」

 

 突然の願いに俺は戸惑う。

 

「それって、つまり?」

 

「……もう、嫌なの。こんなの」

 

 搾り出されるように出た言葉から、彼女の悲痛な感情が滲み出ていた。

 

「……」

 

「……」

 

 再び二人の間に沈黙が続く。

 

「俺は――――」

 

 

 

「ごめん。今のは忘れて」

 

 俺が返事に困っているとフィリアは首を左右にゆっくりと振る。

 

「そんな事をしたら、キョウスケに迷惑よね」

 

「……」

 

「我が儘、言ったらいけないよね。こうなるのも、分かっていたのだから」

 

 もはや焦点すら合って無い目で俺を見ながら彼女は力無く言葉を繋げる。

 

「キョウスケ。今日私が来たのは、あなたの顔を見ておきたかったからなの」

 

「それって」

 

「えぇ。もう、あなたに会うことは出来ない。だから、最後にと思って」

 

「……」

 

「……」

 

 するとフィリアは服の下からあの時見せた石を取り出すと、俺に差し出す。

 

「これ、受け取ってくれる?」

 

「これは、君の大事な物じゃないか。受け取れないよ」

 

「あなたに持っていて欲しいの。お守りとして」

 

「お守り……?」

 

「これからのあなたの旅の安全を願って、持っていて欲しいの」

 

「……」

 

 俺は彼女から石を受け取り、掌に乗せて眺める。

 

「本当に、良いのか」

 

「えぇ。私が持っているより、あなたに持っていて欲しい」

 

「……」

 

(もし、あなたとなら、どれだけ良かったか……)

 

「……」

 

 彼女は小さく呟き、その声は俺の耳に届く。この時どういう意味で言っていたのかは、分からなかった。

 

「そろそろ、行くわね」

 

「そうか。……頑張れよ」

 

「……」

 

 フィリアは立ち上がり、扉の方へと歩みを進める。その足取りはとても重そうに見えた。

 

「……」

 

 彼女は俺の方を向き、一瞥してからフードを被って扉を開ける。

 

「さようなら」

 

 そう呟き、部屋を出て静かに扉を閉めた。

 

 

「……」

 

 彼女が出て行った後、俺は再び掌に乗せている石に視線を向ける。

 

(フィリア……)

 

 あの時、振り返った時の彼女の表情は、本当に悲しそうなもので、その目はまるで助けを求めているような気がした。

 

「俺は、俺は……」

 

 どうしたいんだ……

 

 俺は石を握り締め、自分に問い掛けた。

 

 

 だが、この時は答えが出ることはなかった……。

 

 

 

 

 



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第十六話 苛立ち

 

 

 

 

 フィリアとの最後の別れから早くも5日が経過した。

 

 

 

「……」

 

 酒場で依頼を受けて出発する前に昼食を取っている俺は頼んだシチューをスプーンで口に運んでいく。

 

(あれからもう5日か。ホント時間が経つのは早いな)

 

 時間の経過の早さを実感しながら左腕にしている腕時計を見て時間と日付を確認する。

 

(にしても、あれからどうなったんだろうな)

 

 脳裏にフィリアの最後の姿を思い浮かべながら内心呟く。

 

 どうもあの時からフィリアの事が気になって、常に頭の中で彼女の事を考えていた。今何をしているのか。どうなっているかを。

 

(フィリアがあんなやつの婚約者、か。まぁ、彼女の実家は貴族なんだ。貴族同士の結婚なんて子供の意思は無い。どうせ親の都合でしかないからな)

 

 まぁ、その都合の大半は自分達の事なんだろうがな。

 

(政略結婚ってやつなんだろうが、世も末ってこういう事なんだろうな)

 

 最も、貴族があんなやつばかりになってくるとなると、それこそ世も末と言うやつなんだろうが、こういう時代では当たり前の事か。

 

「……」

 

 まぁ世の中の行く末がどうなろうが俺にはどうでも良い事だ。それよりも、彼女の安否の方が大事だ。貴族である以上こんな話が出てくるのは当たり前だろうが、相手が相手では、心配の種は尽きない。

 

(と言うか、どうしてここまで彼女の事が気になるんだ?)

 

 まぁフィリアはアイツを心底嫌っていたようだし、そんなやつが婚約者となると今後が心配だが、だからと言って彼女の事がここまで気になるというのは……。

 

「……」

 

 ふと最後に見た彼女の姿が脳裏に過ぎり、シチューを運んでいたスプーンを持つ手が止まる。

 

(どうにか、出来ないものか……)

 

 こちらには制約付きでまだ出せる数も少ないが、強力な現代兵器がある。彼女を連れ出す方法はいくらでもあるし、やろうと思えば実行できるだけの力はある。だが、それをやるという事は少なくとも貴族を相手にしなければならないと言うかなりのリスクを背負わなければならない。下手すれば複数の貴族を敵に回しかねない。

 生半可な覚悟でやるべきではない。

 

(だが、このままで良いのか?)

 

 俺は自分に問い掛けるように内心で呟く。

 

(このまま、フィリアを放っておいていいのか)

 

 本当に、このまま何もしなくてもいいのか……。

 

 

 色々と考えたが、俺は首を左右にゆっくりと振るい考えを振り払う。

 

(いや、気にしたって、俺は部外者なんだ。俺に出来る事はない)

 

 内心でそう呟くが、本当にそうなんだろうか。分かっていながら、分かろうとしないだけなんじゃないのか?

 

「……」

 

 ここ最近そうやって自分に問い掛ける事が多くなった。そうやって自分の気持ちを整理するかのように。

 

(今俺に出来ることなんか、無いんだ……)

 

 

 

 

 すると酒場の扉が開きざわつきが起こる。

 

 誰かが俺の居るテーブルに近付いてくるが、俺は顔を上げずにシチューを食べ進める。

 

「よぉ久しぶりだな、平民」

 

 どことなくムカつくぐらい嬉しそうな声で近付いて来た者は俺に声を掛ける。顔を上げずとも、誰だか分かる。

 

「……」

 

「どうだ? 僕の言った通りになっただろう」

 

「……」

 

「平民がどれだけ頑張ってもな、貴族には勝てないんだよ。こうして僕はフィリアの婚約者になれたんだからな」

 

「……」

 

「親しかった分、悔しいんだろ?」

 

「何の事やら分からんな」

 

 声を聞く度に苛々が募り出すが、何とか平然を装う。

 

「悔しいんだろ? 本当は悔しいんだろ? 言わなくても分かるぞ」

 

「……」

 

 本当に人をイライラとさせるやつだ。恐らくムカつくぐらいの笑顔を浮かべているに違いない。

 

「それともあれか? 弱い輩ほどよく吠えるって言うからな。それで黙ってるんだろぉ」

 

(お前が言うか)

 

 声色と言い、本当に気に障る言い方だ。

 

 だからこそ、顔を上げないで居る。でないとこいつの憎たらしい顔を見ていると顔面をぶん殴るどころか、9×19mmパラベラム弾をぶち込んでその顔をふっ飛ばしたくなるかもしれない。

 この世界でも先に手を出した者が負ける。と言うか今の俺の場合は暴力事件以上のことを起こしかねない。だから、今は耐え凌ぐしかない。

 

「で、何の用だ。俺はあんたより暇人じゃないからな」

 

「君が働いてくれたお陰で僕は時間が出来たんだ。だから、フィリアと一緒に居られる時間が多くなったよ。それには感謝するよ」

 

「……」

 

 あぁ……ホントムカつクナ……。

 

 苛々のあまり、ドス黒い感情が胸中に募り出す。

 

「あぁ用事だったな。なぁに簡単な事さ。近い内に僕とフィリアの結婚式を挙げるんだ。それを知らせるために、わざわざ足を運んだのさ」

 

(ホント暇人だなこのクソ野郎)

 

 イライラが募り無意識の内に拳を握り締めていた。

 

「悪いが、失礼する。受けた依頼があるからな」

 

 俺は立ち上がってこいつに一言声を掛けて代金をテーブルに置いてその場を離れる。まだ皿には残っていたが、とてもじゃないが食える状況じゃないし、食欲も失せた。

 

「招待状ぐらいは送ってやるよ! 楽しみにしてろよ!」

 

「ハッハッハッハッ!!」と笑いアレンはその場を後にした。

 

「ちっ……」

 

 俺は思わず舌打ちをする。

 

「おいおい、あれが貴族の言う事かよ」

 

「あんなのがどんどん増えていくのかねぇ」

 

「嫌な世の中になったもんだ」

 

「あいつも一体何を絡まれたのやら」

 

 周りでは冒険者達が呆れた様子でアレンの事を言っていた。

 

(小物が)

 

 俺は思わず歯軋りを立てる。

 

 苛々が募って今にも爆発しそうになったが、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを整えつつ受付嬢の元に向かう。

 

 ちなみにだが、出発する事を伝えるとなぜか受付嬢の人は酷く怯えていた様な気がする。

 なぜだろうか? ちゃんと落ち着いて冷静に言ったはずなんだけどな……。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 森の中に爆音が連続して響き渡り、その度に俺に襲い掛かろうとしたゴブリンやコボルトと言った魔物が爆発四散して血や肉片を辺りに撒き散らす。

 

「……」

 

 乗ってきた73式小型トラックに増設した銃架に搭載したそれを俺は狙いを定めて特徴的な逆U字のトリガーを押して爆音と共に弾が放たれる。

 

 俺が使っているのは誕生から一世紀近くが経過しても今尚アメリカ軍で使われ、世界中の軍でも使われ日本でも陸自が『12.7mm重機関銃M2』として、海保が『13mm機銃』と言う名称で採用している『ブローニングM2重機関銃』だ。

 多くの対物ライフルで使われる12.7×99mm NATO弾を連続して放つ強力な機関銃である。

 

 爆音や仲間達が爆発四散している事にゴブリンやコボルトたちは恐れて逃げ出そうとしていたが、俺は逃げ出したやつから先に12.7mm重機関銃M2に改造して取り付けたホロサイトで狙いを定めてトリガーを押し、爆音と共に射撃を再開する。

 

 爆音と共に銃弾が放たれてゴブリンとコボルトが爆発四散して辺り一面を赤く染め上げ、流れ弾が木々に命中して表面が弾けて窪みを作ったり、中には木をへし折ったりした。

 

「……」

 

 俺はその爆音が森の中に響き、空薬莢とベルトリンクが排出されて足元に溜まっていく中、ただただトリガーを押して弾を放ち続ける。何かを忘れたいが為に……。

 

 

 依頼は森に出没しているゴブリンとコボルトの討伐だが、いつもとは異なる。普通なら討伐数制限があるが、今回の依頼ではその制限がない。理由としては両魔物の数が異常に多いからだ。

 今回は制限数通りに討伐しては数が全く減らないだろうと組合が判断して、制限時間内に可能な限り多く討伐して欲しいとの事だ。こういうクエストは『大量発生クエスト』と呼ばれ、冒険者達が何日も掛けてクエスト攻略を目指す。

 報酬は状況変化を調査し、魔物の頭数が平常通りになったのを確認されたら高額の報酬を支払うとの事だ。

 但し、これは状況によっては生態系を崩しかねないので、結構慎重にやるものらしい。

 

 まぁ、今の俺は慎重のしの字もないんだがな。

 

 

「……」

 

 弾が切れて射撃が途切れると、辺りに銃声が木霊し、銃口から硝煙が薄く漏れ出していた。

 

 空になった弾薬箱を取り外してその辺に捨て、足元に置いている新しい弾薬箱を手にして蓋を取り外して持ち上げ、12.7mm重機関銃M2横の弾薬箱受けに置いてレシーバーのフィード・カバーを開けてベルトリンクの先頭をセットし、フィードカバーを閉じてコッキングハンドルを引いて薬室に初弾を送り込む。

 立て掛けている89式小銃を手にして73式小型トラックから降り、セレクターを3連射に切り替えて周囲を警戒して身構えつつ前へと進む。

 

「……」

 

 周囲を見回して目標が居ないか探していると、視界に入ってくるのはかつてゴブリンとコボルトであった肉片と血と骨が辺り一面に散乱して、赤黒く染まって生臭い臭いが漂っていた。以前なら見ただけで卒倒するようなグロイ光景が広がっているにも関わらず、俺は何も感じていない。強いて言うなら、生臭さに顔を顰めるぐらいか。

 もはや今の俺に、生き物を殺す事に何の罪悪感を覚える事は無い。

 

 

 すると茂みが動くとそこからゴブリンとコボルトが武器を手にして飛び出てくる。

 

 俺は慌てずにゴブリンとコボルトに89式小銃を向け、ホロサイトにその姿を捉えて引金を引き、3回連続で銃声が発せられて3発の弾はゴブリンの胴を撃ち抜いて前のめりに倒れる。続けてコボルトに狙いをつけて引金を引き、3回連続で発せられた銃声と共に放たれた3発の弾はコボルトの胴を撃ち抜き、瞬く間に2頭の命を刈り取る。

 その直後に左の茂みからコボルトが雄叫びと共に棍棒を俺に向けて投げてくるも身体を反らしてかわし、89式小銃を向けて引金を引き、放った弾は胴を撃ち抜く。

 

「……」

 

 銃声が森の中を木霊す中、セレクターを単射に切り替え、倒れたゴブリンとコボルトに近づいて生死を確認し、最後に出て来たコボルトにまだ息があったので頭に一発撃ちこんで仕留めた。

 

 周囲を警戒しつつマガジンポーチよりマガジンを取り出し、差し込まれているマガジンを手にしてマガジンキャッチャーを押してマガジンを外し、新しいのを差し込んで使いかけを腰のベルトに提げているポーチに放り込むと89式小銃を構え直し、周囲を見渡す。

 

 しばらく待ってみたが、どうやら襲い掛かってくるやつは近くに居ないようだ。

 

「この辺りにはもう居ない、か」

 

 近くに目標が居ないのを確認してから73式小型トラックに戻り、助手席に安全装置を掛けた89式小銃を立て掛けて運転席に座り、エンジンを掛けてアクセルを踏んでその場から移動する。

 

 

 その後もゴブリンとコボルトを見つけては12.7mm重機関銃M2や89式小銃で次々と射殺し、粉々に粉砕した。

 

 

 

 

 そして気付いた時には日が傾き出して空がオレンジ色に染まり出していた。

 

「……」

 

 12.7mm重機関銃M2に肘を着いて立つ俺は視界いっぱいが赤く染まった地面を睨むように見つめる。

 

 物言わぬ肉塊となったゴブリンとコボルトが恨めしそうに俺を見ているような気がしたが、気のせいだろう。

 

(……クソッ。すっきりしない)

 

 俺は思わず舌打ちをする。

 

 実の所、今回の依頼に12.7mm重機関銃M2を使うまでも無く、5.56mm機関銃MINIMIか7.62mm機関銃M240Bでも事足りるクエストだった。

 

 だが、今回ばかりは圧倒的な力を振り回したい気分だった。過剰なまでの、圧倒的な火力を。5.56mmや7.62mmなんかの豆鉄砲ではなく、大口径の弾を連続して放ちたかった。それでこの苛々を解消したかった。

 端から見れば歪んだトリガーハッピーな考え方かもしれないが、そんなのは第三者の意見だ。俺にはどうでもいいことだ。

 苛々を解消できれば良い、ただ、それだけだった。

 

 しかし、結局この苛々を解消する事は出来なかった。

 

「……」

 

 俺は赤く染まった地面と12.7mm重機関銃M2を交互に見てため息を付き、73式小型トラックの運転席に着いてハンドルを持ってアクセルを踏み、その場を離れていく。

 

 

 

 



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第十七話 想定外の展開

 

 

 

 

 辺りが暗くなり始めた頃に俺はブレン付近へと到着し、73式小型トラックを停車させてエンジンを止め、車から降りて89式小銃を手にしてスリングに腕を通して背中に背負うと、メニュー画面を開いて73式小型トラックを収納する。

 

「ハァ……」

 

 晴れない気持ちに深いため息を付き、俺はブレンへと入る。

 

 

 その後酒場へと向かい、冒険者組合に現状を報告して、明日に調査隊を送り込んでまだ続けるか終了かは調査結果次第となった。

 かなりの数を殺したはずだが、大量発生クエストでは氷山の一角所か一片ですらないかもしれないから、まだ続くだろうな。

 

 報告し終えて俺は空いたテーブルに着き、夕食を取った。

 

 

 

「……」

 

 夕食を食べ終えて酒場を出た頃には空はすっかり暗くなり、俺は宿へと向かった。

 

「……くそっ」

 

 俺は苛々のあまり悪態を付く。

 

 苛立ちは未だに解消されないどころか、更に強くなっていっているような気がする。

 

(何にイラついているんだ、俺は)

 

 自分が何に苛立っているのかが分からず、それが更に苛立ちを助長させていた。 

 

(前世ではこんなに長く苛立ちが続く事は無かったのに……。いや、こんなに苛立つ事すら無かったのに)

 

 深くため息を付き、立ち止まって空を見上げる。

 

「……」

 

 空には無数の星が広がっており、前世の空では見られないような星が輝いていた。

 

「……」

 

 顔を下げてため息を付き、再び歩き出す。

 

 

 宿のある場所へと向かう為、路地裏へと入って歩いていくと、向こうから歩いてきた冒険者達の一人と肩がぶつかる。

 

「ってぇな、おい! どこ見てんだよ!」

 

 その冒険者はふら付いた様子で俺を睨みつける。大分酒臭いところから見ると結構な量をついさっきまで飲んでいたんだろう。

 

「……悪かったな」

 

「あぁん!? 何だその謝り方は!」

 

 一人が俺の謝り方が気に入らなかったのか怒声を浴びせる。

 

 っつか酒臭い上に息臭いんだよ。

 

「ん? こいつよく見たら最近噂になってる新入りじゃねぇか」

 

 傍に居た一人が俺の顔を見て最近の話題を思い出す。

 

「何?」

 

 俺を見たそいつはニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。

 

「あぁそうか。てめぇが噂の」

 

「……」

 

「だったら、おめぇのその武器を渡せよ。それでさっきの事は忘れてやってもいいぞ」

 

 右太股のホルスターに収められているUSPを指差しながらそう言う。

 

 こいつ何様のつもりで言っているんだ?

 

「何を言っているのか意味が分からんな」

 

「あぁ!? 目の上の者に向かってふざけた事言ってんじゃねぇぞ!」

 

「……」

 

「俺はな! お前よりランクが上のアイアンだぞ!? 先輩の言う事は絶対なんだぞ!」

 

「……」

 

 メンドくさ……。これだから酔っ払いは嫌いなんだよ。っつか先輩の言う事は絶対って、おかしいだろ。何時の頃の部活だよ。

 

 ただでさえ苛々しているって言うのに、どんどん苛々が溜まっていく。

 俺は思わずため息を付く。

 

「おい! 聞いてんのか!」

 

 酔っ払いが俺に近付き、胸倉を掴む。

 

 俺は胸倉を掴んでいる手を掴み、そのまま背負い投げで地面へと叩き付ける。

 

『……』

 

「一つ伝える事がある」

 

 その光景に他の冒険者が呆然と見ていると、俺は地面でうずくまっている酔っ払いを無視して冒険者の方を向く。

 

「俺は今相当無性に腹が立っている。お前達から突っかかって来たんだ。少し鬱憤晴らしに付き合ってもらうぞ」

 

「悪く思うなよ」と呟きながらボキボキと両手の骨を鳴らして、顔色を真っ青にした冒険者達を睨み付ける。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 酔っ払い共をぶちのめした後、宿へと到着してそこの一室を取り、ベッドに仰向けになった俺は天井を眺めながらため息を付く。

 

(本当に、どうしちまったんだ)

 

 さっきの事が脳裏に鮮明に映り、深くため息を付く。

 

 苛立っていたとは言えど、酔っ払いをぶちのめすとか、最悪じゃないか。

 

(何やってんだよ、本当に)

 

 モヤモヤして晴れない気持ちに、その苛々の原因が何かが分からないという苛々が募り、無意識に両手に力が入る。

 

(こんなこと、今まで――――)

 

 不意に昼頃のクソ野郎の憎たらしいぐらいの笑顔が過ぎり「ガリッ」と歯軋りを立てる。

 

 俺は荒々しく起き上がるとテーブルに置いている水筒を手にして蓋を開け、中に入っている水を荒々しく飲み、蓋を閉めて水筒をテーブルに叩き付けるように置く。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 呼吸を整えつつ椅子に座り、背もたれにもたれかかる。

 

 

「……」

 

 しばらくジッと何も考えずに座っていると大分気持ちが落ち着き、深くため息を付く。

 

(明日には、町を出るか)

 

 元々居座るわけではなかったし、目的の資金も蓄えが出来た事だし、もうここに残る理由は無い。

 

(それに、いつまでもこの町に居ると、あの野郎がまた自慢しに来るだろうし)

 

 今の状態だと、恐らく無意識の内にやってしまうかもしれない。まぁ、最後にやらかして遠くに逃げると言うのもありだが、その後のリスクを考えると感情的にやるべきではない。

 

「……」

 

 だが、しばらく居たのでそれなりに愛着と言うのはある。いざそうなるとやはり寂しい所がある。

 

「……」

 

 でも、このまま町を出ても良いのだろうか……。

 

 このまま、彼女をあのクソ野郎と結ばせてもいいのか。

 

「……」

 

 俺は首に紐で提げているフィリアから貰った石を手にして眺める。

 

(フィリア……)

 

 ふと、最後に彼女の姿を見た時のことが脳裏に過ぎる。

 

「……」 

 

 俺は思わず石を握り締める。

 

(俺は、俺は……)

 

 

 

 コンコン…… 

 

 

 

「っ!」

 

 すると扉からノック音がして俺は反射的に扉の方に首を回す。

 

「……」

 

 時間は夜の11時を回ろうとしていた。以前のフィリアの一件ならまだしも、こんな時間に訪れる者はまずいない。

 

(こんな時間に、誰だ?)

 

 警戒しながらレッグホルスターよりUSPを取り出し、セーフティーに指を近づけて扉に近付く。

 

「誰だ?」

 

 扉に向かって声を掛けるも、返事は返って来ない。

 

「……」

 

 ハンマーに指を掛けて起こし、セーフティーに指を掛ける。

 

「もう一度言う。誰だ」

 

 もう一度扉に向かって問い掛けるも、返事は返って来ない。

 

「……」

 

 俺はセーフティーに掛ける指に力を入れて下ろそうとした。

 

 

 

『わ、私だ、キョウスケ殿』

 

 しばらくして扉の向こうから声が返って来る。

 

「? その声は……」

 

 聞き覚えのある声に扉を少し開けてその隙間から向こう側に居る人物を確認する。

 

「ユフィ?」

 

 隙間から見える人物は外套を羽織りフードを深々と被っていたが、視線に気付いたのかフードを上げて顔を見せる。よく見ると彼女の後ろに二人誰かが居る。

 

「こんな時間に、何の用だ?」

 

「急ぎの用だ。すまないが、中に入れてくれないか? 今私達の姿を見られるとまずいんだ」

 

「……」

 

 俺は無言で扉を開けて彼女達を部屋に入れる。

 

 

 

 彼女達をベッドに腰掛けさせて、俺も向かい側にイスを置いて座る。

 

 フードを取った彼女達は確かにユフィと、その他二人はあの時フィリアと一緒に居た……えぇと確かピンク髪のツインテールに眼帯の少女はリーンベルで、背中まで伸ばした金髪で、薄目の少女はセフィラと言ったっけ?

 

 だが、なぜ彼女達がここに。ユフィならまだ分かるが、他の二人は最初に会って以来顔を合わせてい無いと言うのに。

 

「こんな夜遅くに大所帯で来るとはな」

 

「迷惑をかけているのは承知している。だが、この時間でなければ、キョウスケ殿に密かに話し掛けることは出来ないんだ」

 

「……」

 

 彼女はそう言っているが、どうも信用できなかった。、

 

「……」

 

「それで、何の用だ? お前達もアレンの様に自慢や嫌味を言いに来たのか」

 

「っ! 違います!!」

 

 と、さっきまで黙っていたリーンベルが突然叫ぶ。

 

「あんなやつと一緒にしないでください!! キョウスケ様に対してそんな事!」

 

「リーンベル」

 

「っ! 申し訳ございません!」

 

 セフィラに言われてリーンベルは頭を下げて謝罪する。

 

「……すまない。何か勘違いしていたようだ」

 

「いや、気にしないでくれ。キョスウケ殿が警戒するのも、無理は無い」

 

「……」

 

『……』

 

 しばらく沈黙が続く。

 

 

「それで、こんな遅くに、一体何の用だ?」

 

 お互い間を空け、俺が再び問い掛けた。

 

「キョウスケ殿に、頼みがあります」

 

「頼み?」

 

「はい。他の者には出来ない、キョウスケ殿にしか頼めない事だ」

 

「……」

 

「もちろん、無理にとは言わない。断ってくれても、構わない」

 

「……とりあえず、聞くだけ聞こう」

 

「……」

 

 ユフィは一間置いて本題を切り出す。

 

 

 

「フィリアを助ける為に、どうかキョウスケ殿の力を貸して貰いたい!」

 

「……ん?」

 

 予想外の頼みに俺は思わず首を傾げる。

 

 

 



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第十八話 真実

 

 

 

 

『フィリアを助けて欲しい』……。

 

 

 

 予想外の頼みに俺は疑問を浮かべて首を傾げるしかなかった。

 

「どういう事だ? フィリアを助けて欲しいって……」

 

「……」

 

 ユフィは少し間を空けて口を開く。

 

「キョウスケ殿は、フィリアの結婚話は聞いているな」

 

「あぁ。本人とアレンから聞いたからな」

 

「……そうか」

 

「まぁ、アレンのようなやつが相手なのは少し気に入らないが、貴族同士の結婚は親が決めるようなもんだから、俺がどうこう言える――――」

 

 

「あんなのは、結婚なんかじゃない」

 

「ん?」

 

 俺が最後まで言い終える前にユフィが震える声で遮る。

 

「どういうことだ?」

 

「……あれは、結婚で偽装した、取引だ」

 

「取引だって?」

 

 何か話の流れが不穏になってきたぞ。

 

 

 

「数日前に、私はフィリアと共にご両親が暮らしている屋敷へ向かった。そこで結婚を祝うパーティーが行われてたんだ」

 

 しばらく間を置いて、ユフィは静かに語り出す。

 

「フィリアは受け答えこそちゃんとしていたんだが、終始生気の抜けたような様子で過ごしていた」

 

「……」

 

「そんなフィリアの状態も知らずにアレンは誇らしげに彼女の傍で語っていた。それに同調するかのようにヘッケラー伯爵とその奥方もガーバイン公爵に語っていた」

 

 安易にその様子が想像出来るな。彼女の両親の顔は適当に想像しているが。

 

「パーティーは二日続けて行われたが、その一日目の夜、フィリアは私の所へやって来て、嘆いていた。『どうしてこんなことになってしまったの』と」

 

「フィリア……」

 

「私は、情けなかった。こんなにも、何も出来ない無力な自分が」

 

 ユフィは両手が白くなるほどまでに握り締める。

 

「……」

 

 話を聞いてから、俺の胸中に後悔が過ぎる。あの時、少しでも彼女の助けになる事が出来なかったのかと。

 

「二日目もパーティーが行われ、その日私は苛立ちを忘れたくて、いつも以上に酒を飲んでいた。覚えているぐらいでも、かなりの量を飲んだような気がする」

 

「……」

 

「そのせいか酔いもいつもより早く来て少し気分も悪くなって、酔いを醒ます為に一旦パーティー会場を後にして外に出た」

 

「……」

 

「庭に生えている木にもたれかかってしばらく外の空気に当たって酔いも少しはマシになった。少しして屋敷へ戻ろうとしたが、その時上から話し声がしたんだ」

 

「上から?」

 

「木の傍に屋敷のバルコニーがあるんだ。声はそこから発せられていた」

 

「なるほど」

 

「私は気にせず戻ろうとしたが、声の主がヘッケラー伯爵とガーバイン侯爵のものだったから私は気になってそのまま留まって耳を傾けた」

 

「……」

 

「そこで、二人はとんでもない事を話していた」

 

 その時の会話を脳裏に思い浮かべながら、彼女は一間置いて会話の内容を語った。

 

 

 

『それで、娘は如何でしたかな?』

 

『上出来だ。今まであんなに美しい娘は見た事が無い。さすがはあの女の娘だ。あれなら15年間待った甲斐があったものだ』

 

『恐れ入ります』

 

『しかし、条件どおりに育って居るのだろうな』

 

『もちろんです。邪魔な虫が寄り付かないように大事に育てていますから。そして教育もきっちりとしております』

 

『ふむ。それなら、問題は無い。約束通り、君の事業への援助と情報の統制は任せてもらおう』

 

『ありがとうございます。これで今後不安なく暮らしていけます』

 

『私も、良きパートナーを得られてホッとしておるよ。しかし、自分で取引を持ちかけて、よもや娘をこうも簡単に渡すとはな』

 

『取引材料に娘一人で身分の安泰が築けるのなら、お安いものです』

 

『君も中々言うねぇ』

 

『いえいえ』

 

 

 

「……」

 

 ユフィの口から語られた会話の内容を聞いて、俺は唖然となった。

 

「本当、なのか?」

 

「間違いありません」

 

「……」

 

 俺は伯爵の考えが理解できなかった。自分の娘を、平然と取引の材料として、渡そうとしているのか?

 

「この結婚の真の目的は、恐らくフィリアを取引の材料にして、伯爵が行っている事業の安定化の為だと思われる」

 

「事業の安定化?」

 

「ヘッケラー伯爵もそうですが、貴族は自ら事業を立ち上げて商売をしています。確かヘッケラー伯爵は物流関連の事業を展開していたはずです」

 

 俺が疑問の声を漏らすとユフィの後ろに居るセフィラが説明を入れる。

 

 まぁ貴族が何もせずに豊かなわけ無いか。まさか税で金を搾取しているわけでもあるまいし。いや、時代的にありえそうな話だよな……。

 しかし物流関連とは、また大きな事業を立てたものだな。

 

「ですが、噂では最近その事業がうまくいっていないようで、かなり危うい状況にあるとか」

 

 すると薄目だった彼女の目が開かれて血の様な暗く紅い瞳が覗く。

 

「経営がうまくいっていないのか?」

 

「詳しくは知らないが、最近景気は良いとは聞かないな」

 

 俺が聞くとユフィが思い出しながら答える。

 

「それと、その事業には良からぬ噂があるそうです」

 

「噂?」

 

「えぇ。表向きは真っ当な品を扱っているそうですが、裏では法に触れるような代物を扱っているとか」

 

「……」

 

 まぁ物流関連だと、様々な物を扱うだろう。そうすると自然と扱う事もあるだろうが、彼女の言葉からすると分かった上でやっていそうだな。もしくはそれをカバーにして本命を隠しているのか?

 

「恐らくガーバイン侯爵もそれを掴んでいたのでしょう」

 

「それで脅迫されて取引を持ち込まれた……いや、会話の内容的にむしろ逆に持ち掛けたって感じだな」

 

 よくある爆弾ネタで脅して自分の言いように動かせる駒にするようなものかと思ったが、ふと会話の内容を思い出して推測が過ぎる。

 どうも侯爵からと言うより、伯爵から取引を持ちかけているよな。

 

「内容からすると、可能性は高いだろうな。いや、ほぼ確実にそうだ」

 

「……」

 

「ガーバイン侯爵は貴族の中でも権力は大きい。情報統制など容易いだろう。もちろん財産も他とは一線を覆すほどのものだ」

 

「……」

 

 事業の安定化と情報統制、更に自分の身の保全と引き換えに、フィリアを差し出した、という事なのか。

 

「だが、なぜ彼女なんだ?」

 

「噂では、ガーバイン侯爵は若い女が好みで、特に十代辺りが多いらしいです」

 

「……」

 

「まぁ、それは周知の知る事実ですが。ちなみに、ご子息のアレンも親に似てかなりの女好きだそうです」

 

「現にやつはよく女を連れて酒場に入り浸るからな」

 

「マジか」

 

 それなのにあんな事を言ったのかよ。あいつ色々とヒデェな。

 

「そしてフィリアをずっと家に閉じ込めていたのは、他の貴族から余計な事をされない為、と言う所だろうな」

 

「余計な事か」

 

 恐らくまだ幼く判断力の無い彼女に接近しては将来の事を形ある約束で交わそうとするって事だろうな、たぶん。

 貴族社会がどういう構造なのかは知らんが、商売と同じで信頼はかなり大事なんだろうな。

 

「全ては、その取引の為の準備だった、と言うことか」

 

 たったこれだけの為に15年も費やしたのか。それだけ自分の娘より自分の事の将来の方が大事なのか。

 

『……』

 

 ユフィと後ろの二人は顔を俯かせ、両手を握り締めている。

 

 

「それで、彼女をアレンのやつの元から連れ出そうとしているのか」

 

「あぁ」

 

 ここまで来れば、彼女達の目的に察しが付く。

 

「彼女自身は?」

 

「濁して聞いているが、確認は取っている。彼女自身も自由になれるのならなりたい、と」

 

「……そうか」

 

「……」

 

「やろうとしている事の重大さは、承知しているよな」

 

「分かっている」

 

「後ろの二人も、分かっているよな?」

 

「はい」

 

「えぇ」

 

 俺が問うと三人は迷う事無く頷く。彼女達の覚悟の強さが窺える。

 

「……こんな事をすれば、家は黙っていないだろうな。当然、今後家の者として認めなくなるだろう」

 

 当然家族の者は彼女達を二度と家の者として認めることは無いだろうな。そして彼女達は一生犯罪者として追われる身となる。

 

「元よりそのつもりだ。もう、家に戻るつもりはない。このまま自分を騙してまで生きたくは無い」

 

「そうか」

 

 俺は後ろの二人に視線を向ける。

 

「二人はいいのか?」

 

「はい。元より私には身寄りがありません。そんな私をフィリア様は拾ってくださって優しくしてくれたから、こうして今の私があるんです。フィリア様の為なら、命を投げ出す覚悟です」

 

「そうか」

 

「わたくしもです。フィリア様の幸せを望めるのなら、この身を捧げる覚悟があります。ですが、わたくしは子供を利用する事しか知らないような両親の元を離れられるのなら、問題ありません」

 

「そ、そうなのか」

 

 リーンベルは色々と事情があるようだが、セフィラはそれより深い事情があるみたいだな。

 

「その上で、俺に力を貸して欲しいと?」

 

「はい」

 

「……」

 

「もちろん、無理なお願いをしているのも、キョウスケ殿を巻き込もうとしているのは分かっている。だが、私達だけじゃ、フィリアを助ける事はできないんだ」

 

「……」

 

 まぁ、貴族の娘を攫おうとしているのだ。しかも名の渡った貴族への嫁入り前の娘を。当然警備も厳重だろう。

 だが、当然手を貸せば、俺も彼女たちと同じく追われる身となる。

 

「もし、対価が必要なら、いくらでも払おう。それでも満足いかないのなら、私自身を差し出す!」

 

「私もです! お願いします!」

 

「わたくしからも、お願いします」

 

 自分の胸元に手を置き、ユフィたちは頭を下げて懇願する。

 

「……」

 

 俺は彼女達の覚悟に戸惑う。

 

 例え自分がどうなろうとも、それだけフィリアの事を……。

 

 

(俺は、どうしたいんだ……?)

 

 これだけ彼女達が頼んでいると言うのに、俺は、俺は……。

 

 顔を俯かせて視線が下がると、首に提げている石が視界に入る。

 

「……」

 

 石を見ていると不意にフィリアと初めて出会った時―――あぁちゃんと目と目を合わせて出会った時だぞ―――や酒場で食事をしながら会話を交わした日々、そして最後に彼女と出会った時が過ぎる。

 

「……」

 

 そして、彼女の笑顔が脳裏を過ぎった。

 

 

(……俺、何をやっていたんだろうな)

 

 俺はやっと理解して、内心で自分に対して呟く。

 

(いつまで自分に嘘を付く気だよ)

 

 分かっていた。分かっていたはずなのに、分かろうとしなかった。理解しようとしなかった。

 

(あの時、彼女の願いを聞いていれば、早く彼女を苦痛から解放出来たかもしれない。なのに……)

 

 なのに、自分の事が心配だから、自分には手に負えない一件だったから、目を背けて答えなかったんだ。

 だが、言い訳にしか聞こえないだろうが、リスクを考えるとそうするしかなかった。

 

(本当に、情けない……)

 

 でも、その時はそう考えていたとしても、今はただ後悔しかなかった。

 

(……俺は、何度後悔すればいいんだ)

 

 俺は無意識の内に右手を握り締める。

 

 

「……」

 

 俺はしばらく身動き一つせず、ただじっと静かに俯いたまま、ただ時間が過ぎていく。

 しばらくして深呼吸をし、気持ちを落ち着かせて、ある決意を固める。

 

 

「……」

 

 俺は3人を見る。

 

「3人の気持ちは、よく分かった」

 

 そう口にすると3人は顔を上げる。

 

「フィリアを連れ出せて、それで彼女が幸せになるのなら、俺も全力を尽くそう」

 

「では!」

 

「あぁ。3人に協力するよ」

 

「っ! 感謝する!」

 

 ユフィは目に涙を浮かべながら深々と頭を下げる。

 

「だが、条件がある」

 

「条件?」

 

「あぁ。協力は一時的ではなく、最後までやるつもりだ」

 

「それって?」

 

「あぁ。フィリアを連れ出した後も、俺は君達と行動を共にする。それが条件だ」

 

「だ、だが、それではキョウスケ殿が!」

 

「追われるのは私達だけで十分です! キョウスケ様まで巻き込むわけには!」

 

「いいんだ。もう、決めたんだ」

 

「キョウスケ殿」

 

『……』

 

 俺の短くも強い決意の言葉にユフィ達は何も言えなかった。

 

「それで、どうやってフィリアを連れ出す気なんだ?」

 

「それなんだが、さすがに今から話すと長くなる。このまま宿舎に私達の姿が無いと怪しまれるからな」

 

「そうか」

 

「だから、明日の朝中央の広場に来てくれ。そこから秘密の場所へと移動して話し合いをしよう」

 

「分かった」

 

 俺が縦に頷くと、3人は立ち上がってフードを深々と被って扉の方へと歩いていく。

 

「では、キョウスケ殿。また明日」

 

「あぁ。明日な」

 

 俺が手を振って部屋を出て行く3人を見送った。

 

 

 

「……」

 

 三人が部屋を出た後、俺はイスの背もたれにもたれかかる。

 

「……」

 

 俺は首に提げている石を手にしてランプの光に翳す。

 

(これで、いいんだ。これで……)

 

 自分に言い聞かせるように内心で呟き、俺は石を提げている紐を首から取ってテーブルに置くと、ベッドに横になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬石が輝きを放ったのに気付かずに……

 

 

 

 

 



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第二章
第十九話 あのさぁ……密会するなら確かにココは適した場所かもしれないけどさぁ……正直言ってかなりキツイっす(主に空気と視線が)


 

 

 

 

 翌日。

 

 

 

 朝早くから俺は広場へと向かい、そこで待っていたユフィ達と合流して密会をするある場所へと移動した。

 

 

 

 

「……」

 

 俺は周囲の空気に戸惑い、視線に冷や汗を掻きながら腕を組む。

 

「その、ユフィ?」

 

「なんだ?」

 

「場所は、ここしかなかったのか?」

 

「ま、まぁ、他の騎士に見られず聞かれない場所と言えば、ここしかないんだ。だから、我慢してくれ」

 

 ユフィは苦笑いを浮かべながらそう言う。

 

「……」

 

 俺はため息を付く。

 

 まぁ、確かに極一部以外の騎士が自ら来るような場所じゃないよな。

 

 で、俺達が居るのはブレンの地下にあるとある酒場である。

 

 

 ……だが、その酒場は色んな意味で普通じゃなかった。

 

 

 

 

 なぜなら、俺達が座っているテーブルの周りには―――――

 

 

 

 

 

 

 化粧をしたり女物の服装を身に纏っているアッチ系の男性達や女性達の店員や客がいっぱい居る。そんな酒場である。

 

 

 

 

「でも、なんだってここなんだ?」

 

「そりゃ、ここ以外もそうですが、騎士は誰もがプライドが高いからですよ」

 

「と、言うと?」

 

「プライドの高い騎士ならこんなふざけた店死んでも来やしないですよ」

 

「……納得」

 

 俺の疑問にリーンベルが答え、その理由に納得する。そりゃ自らの意思で来るやつなんか居ないよな。俺もそうだ。

 それこそアッチ系の思考の騎士じゃない限りな。

 

「私達は普段からこの店はこうした密会に利用している。聞かれる心配がないからな」

 

「騎士団の中にアッチ系のやつが居たら聞かれるんじゃないか?」

 

「少なくとも駐屯地にはそんな人は居なかったですね」

 

「そうか」

 

 

 

「あら~、いらっしゃい、ユフィちゃん」

 

 と、俺達が居るテーブルにバッチリと化粧をした赤いドレス姿の男性がやってきた。

 

(うわぁ……)

 

 失礼だが、かなり衝撃的な姿にドン引きだった。

 

 結構筋肉ムキムキな体格なのに女性物で胸元が大きく開いたやつだから大胸筋や胸毛が。正直これは結構キツイ……。

 

「おはようございます、ロンさん」

 

「おはよう♪ あらぁ? 今日はかわいい子を連れて来ているじゃなぁい」

 

「は、はぁ……」

 

 ロンと言う男性にギラーンと言わんばかりに見られて一瞬背筋に冷たい感覚が走り、冷や汗が出る。

 

「駄目ですよ、ロンさん。この人は大事な仕事仲間で、これから仕事内容を話し合いをするんですから」

 

「あらそうだったの。ごめんなさいね」

 

「オホホホ」と笑いながら謝罪する。

 

「それで、注文はいつものでいいかしら?」

 

「はい。キョウスケ殿もよろしいですか?」

 

「あ、あぁ。彼女達と同じ物でいいです」

 

「分かったわ。ちょぉっと待っていてね♪」

 

 そう言ってロンさんは店の奥へと向かっていった。

 

「……凄い人だな(色んな意味で)」

 

「まぁ、ロンさんはあんな感じですが、この店のオーナーですし、何より昔は結構名の売れた傭兵だったらしいですよ」

 

「それがなぜあぁなったし」

 

 俺は思わず声に出してツッコんでしまう。

 

「と言うか、本当にここで話しても大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ですよ。ここでは秘密の話は他言無用と言う暗黙の了解があるんですよ」

 

「それに、ロンさんはとても口が固いので、聞き出そうとしても無理ですよ。それこそ口説かない限りは」

 

「うん。無理だな」

 

 俺は思わず即答してしまう。

 

 

 

 その後ロンさんが料理を人数分運んで来て、朝食を取りながら作戦会議を行う。

 

「まずフィリアの周辺状況だが、どうなっているんだ?」

 

 ハムとレタスをパンで挟んだサンドイッチを食べながら俺はユフィにフィリアの周辺の現状を聞く。

 

「フィリアは彼女の願いもあって現在駐屯地の宿舎にて寝泊りをしている。だが、それも今日までだ」

 

「明日にはここから出ると?」

 

「あぁ。明日の朝早くからブレンの西門から出て屋敷へと出発する」

 

「そうか」

 

 そうなると色々と準備している暇は無いか。

 

「それと、フィリアの周囲は常に監視が付いている。どこに行こうとも監視兼の護衛が付く」

 

「……」

 

「もちろん、就寝中も常に護衛が部屋の前に二人一組で3時間ごとに他3組と順番に交代している」

 

「……」

 

 俺は腕を組み直して静かに唸る。

 

「今から駐屯地から連れ出す、のは無理だよな」

 

「恐らくは。仮に駐屯地から連れ出せてその後護衛を退け、彼女を確保出来たとしても、すぐに警戒態勢が敷かれて町の門はすぐに閉じられ、脱出は不可能になる」

 

「となると連れ出す案はボツか」

 

 手にしている食いかけのサンドイッチの残りを口に放り込む。

 

「次に考えられるのは今夜駐屯地に潜入してフィリアを密かに連れ出す方法だが」

 

「だが、さっきも言ったが、常に監視がいるのだぞ?」

 

「いや、監視を攻略さえすれば後はどうにでもなる」

 

「それは、どういった方法で?」

 

 俺の言葉にセフィラが問い掛ける。

 

「簡単なものなら、睡眠薬入りの飲み物、まぁ夜間だから眠気覚ましにいいコーヒー辺りがいいか。それを差し入れで飲ませればいい。もちろん交代要員にもな」

 

 だが当然当日は監視と交代要員以外にも人が居るだろうし、全員を眠らせる事は無理だが、時間は生まれる。その間に連れ出す事が出来れば――――

 

「確かに、その方法が確実、だろうが……」

 

「……たぶんキョウスケ様が思っている通りにはならないかと」

 

「ん? 何で?」

 

 ユフィとリーンベルは否定的に答える。

 

「たぶん私達が差し入れを出したところで、護衛の騎士は受け取ろうとしないだろうな」

 

「普通は受け取るんじゃないのか?」

 

「普段からコミュニケーションを取っているならそうでしょうが、私達はずっと避けていましたからね」

 

「そんなわたくし達が急に差し入れを出してくるとなると、向こうは警戒するでしょうね。それも現状が現状ですし、私達からの差し入れを受け取ろうとはしないでしょう」

 

「……」

 

 そうか。そこは盲点だった。

 

 今まで避けられてきた彼女達が突然優しく接してきたらそりゃ警戒するわな。しかもフィリアを慕っている彼女達であるから何かを企んでいると思われてしまってまず差し入れを受け入れようとはしないだろうな。

 

「となると、夜中に潜入してフィリアを連れ出す案もボツか」

 

 静かに唸りながら腕を組む。

 

「今から強行突入してフィリアを奪還……は論外だな」

 

「計画性が無さ過ぎる。いや、キョウスケ殿の武器があれば出来なくも無いだろうが……」

 

「関係の無い民間人が巻き込まれる可能性が高いから、か」

 

「あぁ」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 どこぞの映画の如く車で駐屯地に強行突入して宿舎に突っ込み、フィリアを救い出す、と派手に言うわけには行かないか。まぁ絶対周りの人たちを巻き込むから無理か。

 え? 巻き込まれる騎士はどうなんだって? 彼らには目的達成の為の致し方が無い犠牲になってもらう。

 

 まぁ冗談はさて置き……。

 

 

(うーん。考えてきた案は殆ど使えない。となると、残された方法は)

 

 手にしているサンドイッチを皿に一旦置く。 

 

「ユフィ。ここから屋敷への道は分かるか?」

 

「はい。小さいですが、地図があります」

 

 ユフィは私服のポケットに入っている紙を取り出すとテーブルに広げる。

 

「ここがブレンで、西門からこの道を通って屋敷へと向かいます」

 

「屋敷への道はここだけか?」

 

「いや、まだ他にもいくつかあるのだが、最短で尚且つ安全なのはこの道だけだ」

 

 ユフィはブレンから屋敷への道順を指で指しながら説明する。

 

「なるほど。それで、屋敷までは時間はどのくらい掛かる?」

 

「朝早くから出発しても、到着は暗くなるぐらいまで掛かる」

 

「そうか」

 

 地図を見ながら俺は呟く。

 

(ルートが分かっているのなら、いけそうだな)

 

 だが、その前に一つ確認しないといけない事がある。

 

「ユフィ。一つ聞きたいんだが」

 

「何だ?」

 

「もしユフィなら、この道中のどこを警戒する?」

 

「ん? あ、あぁ。私なら、この森を警戒する。比較的安全とは言えど、ここは魔物の出没が多い。それに盗賊共が待ち伏せをするのに最適だからな」

 

「アレンも、同じように警戒するか?」

 

「やつの性格を考えれば、たぶん」

 

「そうか。一応聞きたいんだが、さっきの到着予定時間。あれは馬車の移動速度で計算しているのか?」

 

「あぁ。普通は警護の騎士が交代で馬車の傍を歩いて周囲を警戒するのだが、アレンの事だ。警戒すべき場所を警戒して、それ以外は最低限の警戒は馬車の操者に任せて全員馬車に乗せて屋敷に向かうはずだ」

 

「なるほど」

 

 つまり森以外は警戒が手薄か。

 

「しかし、なんでそんな事を?」

 

「いや、俺の考えた作戦を遂行するには一つ確認する事があったが、遂行に関して問題なかった」

 

「作戦ですか?」

 

「あぁ」

 

 俺は3人に考えた作戦を伝えた。

 

 

「……」

 

「何て大胆な」

 

 作戦を聞いて3人は驚きを隠せず、セフィラが声を漏らす。

 

「だが、相手の意表を突くと言う点ではこれが最適だ」

 

「……確かに、キョウスケ殿の武器であれば、むしろ開けた場所が最適か」

 

「そういうことだ」

 

「でも、大丈夫なんですか?」

 

「まぁそこまでは分からん。結果は神のみぞ知るってやつだ」

 

「……」

 

「だが、必ず成功させる」

 

「キョウスケ殿」

 

『……』

 

「その為にも、君達の協力が不可欠だ」

 

「分かっている。全力を持ってして、協力するつもりだ」

 

「わたくしもです」

 

「私もです!」

 

 3人は改めて協力の姿勢を見せた。

 

 

 その後作戦の内容を細かく確認と改善点を話し合い、可能な限り準備を進めた。

 

 

 

 

 



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第二十話 作戦開始前

 

 

 

 

「……」

 

 窓を覆っているカーテンの隙間から差し込む日の光に照らされて私は重い目蓋を開けて目を覚ます。

 

「朝……」

 

 これほど朝を迎えたくないと思った事は無い。そう思いながら差し込む太陽の光を恨めしく見る。

 

「……」

 

 私はとても重く感じる身体をゆっくりと起こしてベッドから降り、重い足取りでクローゼットへと向かう。

 

(今日でここに居るのも、最後なのね……)

 

 長く居たとあって思い出は良くも悪くと様々あるが、いざここから去るとなると寂しさが込み上げてくる。しかもその理由が理由とあると更に悔しさが込み上げてくる。

 

「……」

 

 ふと脳裏に彼の顔が過ぎり、クローゼットの前で立ち止まる。

 

「キョウスケ……」

 

 私は彼の名前を口にして、俯いた。

 

 

 彼との出会いは、私を大きく変えてくれた。

 

 育てられた環境からか、私は人と接する事が苦手だった。けど、不思議と彼だけは苦手と言う意識は無かった。初めて出会った時の出来事が夢の内容とよく似ていた事もあったから、私は気になって彼との接触を図ってきた。

 そして彼との接した日々は私を大きく変えた。

 

 でも、ブレンを離れれば、もう二度と彼と会うことは無い。いや、彼は冒険者だ。もしかしたらどこかで会う可能性は僅かでもあるだろう。まぁ、ほんの僅かな、万に一つの可能性でしかないのだが。

 

 

 

「……」

 

 パジャマを脱いで騎士団の制服に着替えると、クローゼットの扉の裏に取り付けられている鏡の前に立って自分の姿を見る。

 

(この格好も今日で最後、か)

 

 割と気に入っていた服装だったので、少し寂しかった。だからこそ、ちゃんと目に焼き付けておかないと。もうこの制服を着ることは二度と無いのだから。

 

「……」

 

 鏡に映る自分の姿を見ていると無意識の内にため息が出て、私は思わず目を逸らす。

 

 自分でも分かるぐらいに顔はやつれ、顔色は悪く、目の下に隈ができていた。

 

(もし、あの時にキョウスケに連れて貰っていたら、自由になれたのかな)

 

 あの日の夜、密かに彼に会いに行った時に私は言った。『私が望んだら、どこかに連れて行ってくれる?』と。もしその時に連れて貰えれば、こんなに苦しむ事は無かったのだろうか。

 今頃、自由な時間を過ごせたのだろうか。

 

(駄目。それじゃ、キョウスケに迷惑を掛けちゃう)

 

 私はすぐにその考えを頭から振り払う。確かに得られるものはある。だが、同時に犠牲となるものもある。

 他人を犠牲にしてまで、自由を得たいわけじゃない。

 

(キョウスケには、関係の無い話。これは私の問題なのだから……覚悟を決めるしかない)

 

 どの道今の自分に出来る事はもう無い。受け入れるしかないのだ。

 

「……」

 

 重く感じる足を動かして扉を開けて部屋を出る。

 

 

「やぁ、フィリア。おはよう」

 

「……えぇ、おはよう」

 

 部屋を出るとアレンが待っており、挨拶をしてくる。私は気が進まなかったけど、一応挨拶する。

 

「今日はとても良い朝だね」

 

「……」

 

「そして君も何時見ても美しい」

 

(この姿でよくそんな事が言えるわね)

 

 今の私の姿は自覚ができるぐらい、アレンの言っている姿とは言い難い姿だ。正直言ってこの男の頭はどうなっているんだと思う。

 そんな男が私の夫となるのだ。正直言うと、顔を見るのも嫌になる。

 

「どうしたんだい? 緊張でもしているのかい?」

 

「……」

 

「まぁ、今日は僕達の新しい人生への歩みへの一歩の日になるんだ。緊張しても無理ないか」

 

(こんな姿からどうやったらそんな事が言えるの)

 

 本当にこの男の頭がどうなっているのか理解出来ない。なんだか頭痛がしてきた。

 

「出発まで時間がある。それまで僕と一緒に過ごそうじゃないか」

 

 この男はそう言って私の肩に手を置く。

 

「……遠慮しておくわ。一人で居たいの」

 

 私は嫌いな虫を払うように手を退かしてこの男の元を離れる。

 

(少しでも、この男から離れていたい……)

 

 今はただ、この男から少しでも離れていたい、ただ、それだけだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……」

 

 宿舎の自室から出た私は襟元を調える。

 

(たった一日しかなかったが、可能な限り準備は整えた。後は実行に移すだけだ)

 

 昨日の間に出来る事は全て行った。今頃キョウスケ殿は作戦開始地点で最終確認を行っている頃だろう。

 

(しかし、昨日渡されたあれは、うまくいくのだろうか)

 

 昨日セフィラとリーンベルにキョウスケ殿からある物を渡されており、扱い方は昨日の内にキョウスケ殿が教えている。

 それは扱い次第では状況の行方を左右すると言っていたな。

 

 だが、そうは言ってもすぐに信じられるかどうかは別の話になる。

 

「……」

 

 私は懐に忍ばせている物を服の上から触れる。

 

 これは保険としてキョウスケ殿が渡した物で、形こそ違うがキョスウケ殿が使っている武器と同じ物らしい。もちろん使い方は昨日の内に教えてもらっている。

 

(出来れば、使わないに越した事は無いのだが……)

 

 キョウスケ殿はこれはこの類の武器としては威力は小さい方だが、それでも十分殺傷能力があると言っていた。出来れば使い事が無いのを願いたいものだ。

 

(悩んでもしょうがない。今は、その時を待つだけだ)

 

 私は深呼吸をして気を引き締め、自室の前から離れる。

 

 

 

 少し歩いて中庭が見える開放的な渡り廊下に出ると、中庭に生えている木にもたれかかるフィリアの姿を見つける。

 

「……」

 

 私は物陰に隠れて彼女の様子を窺う。

 

(フィリア……)

 

 彼女の雰囲気は誰もが分かるぐらい沈んでおり、哀愁が漂っている。さすがにアレン以外の騎士達も彼女の雰囲気には気付いているが、相変わらずアレンはそれに気付いていない。もはや哀れみすら感じる。

 

 しばらく彼女を見ていると、フィリアは見上げていた顔を下に向けて目元を袖で何かを拭っていた。

 

「……」

 

 私は彼女のその姿を見て、作戦の事を伝えたかった。そうすれば彼女の気持ちは大分落ち着くはずだ。

 だが、キョウスケ殿は作戦の事を彼女に伝えないで欲しいと私やセフィラ、リーンベルに言っている。理由は彼女の変化にアレンが気付く可能性があったからだと言っていた。 

 

 正直今のフィリアの様子に気付いていないようなアレンがフィリアの変化に気付くとは思えなかった。教えても大丈夫と思うが。

 だが、今の状態で作戦の事を伝えれば、彼女は明るさを取り戻すだろうが、逆に変化が分かりやすく出るかもしれない。

 

 それに、もしかしたらアレンは気付いていないフリをしている可能性があるので、キョウスケ殿の言う事も理解出来る。

 

(フィリア。すまないが、今はまだ伝えられない)

 

 友人に内心で謝罪しながら、私はセフィラとリーンベルを探しに行く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 見渡す限り広がる草原がある中、地面が盛り上がって緩やかな坂が出来ている丘の上。

 

 一見すれば足首より上の高さまで生えている草が吹いた風で靡いているように見えるが、よく見ると細かくナニカが動いていた。

 

 

 

 丘の上にギリースーツを身に纏い、うつ伏せになって陣取った俺はジッとその時を待っていた。

 

(とは言えど、やはりただジッとして待つのはキツイな)

 

 内心で愚痴りながら水筒の蓋を開けて中に入っている水を飲み、蓋を閉めて腰のベルトに提げる。

 

 俺が居るのはフィリア達を乗せた馬車の車列が通ると思われるルート上にある草原であり、ここでひたすら馬車の車列を待ってユフィ達と共にフィリアを奪還する。

 その為に昨日の間に作戦に必要な物を彼女達に渡している。

 

 作戦は第一段階を俺がここから狙撃を行って車列を止め、第二段階で彼女達が兵士達の動きを封じる。その間にユフィがフィリアを連れ出せば、後は俺が近くに草木を被せて偽装して止めている装甲の追加や拡張性を向上させた改造済みの高機動車で彼女達を迎えに行き、その場からスタコラサッサだ。

 

(まぁ、その通りに作戦が進むかどうか分からんがな)

 

 俺は近くに置いているサプレッサーを新たに取り付けたM24(カスタム)に触れながら内心呟く。

 

 だが、失敗は許されない。ここでフィリアを奪還できなければ、奪還のチャンスは無いに等しいし、俺たちはお尋ね者として追われる身となる。いや、俺は遠くに居て尚且つ気付かれにくい武器を使用する。向こうに気付かれる事は恐らく無いので、彼女達だけに罪を背負わせてしまう形になるか。彼女達を囮にして俺だけが逃れる形になるので、罪悪感しかないが、これも彼女達が自ら決めて俺と約束したことだ。

 本来なら俺には関係の無い事だから、罪は自分達が背負っていく、と。

 

「……」

 

 その事を思い出しながら立ち上がり、近くに偽装して止めている高機動車の元に歩いていく。

 

 この高機動車はかなり改造が加えられており、アメリカ軍の『ハンヴィーM1025』みたいに防弾版を全周囲に施し、銃座を追加した物だ。防弾版は少なくとも5.56mm弾に耐えられるぐらいの強度はあるが、さすがに至近距離では貫通される恐れがある。まぁ、この世界では十分すぎる強度ではあるが。

 銃座はハンヴィー同様に天井に設置し、5.56mm機関銃MINIMI以外に7.62mm機関銃M240Bや12.7mm重機関銃M2を搭載出来るようになった。この『高機動車改』には12.7mm重機関銃M2を搭載しており、弾薬も満載している。

 だが、当然これだけの改造を施した事で性能はオリジナルより変化しており、若干機動性は低下してしまったが、大きな変化があるほどではないし、兵員輸送車としては平均的な性能は有している。まぁ銃火器と違って、改造には結構ポイントを消耗したけどな。

 

 まぁ、ぶっちゃけ言うと、ちょっと形の違うハンヴィーM1025と言った感じだ。

 

 俺は高機動車改の車体後部のドアを開けて積み込んでいる荷物を再度確認する。

 

 いざという時に備えて車内には64式小銃や89式小銃と言った銃器に各種弾薬が詰まった弾薬箱の他に非致死性手榴弾を積み込んでおり、壁にズラリと並べられている。

 銃には安全装置を掛けているが、いつでも使えるように初弾は薬室に装填済みだ。

 

(まぁ、これらを使う状況にならない事を願いたいな)

 

 内心で呟きながら扉を閉める。

 

 

 すると耳に装着しているイヤフォンの様な形をした装置からコール音がして、それに指を当てる。

 

「こちら土方」

 

『わ、私だ、キョウスケ殿。聞こえて、いるか?』

 

 イヤフォンから小さくユフィの声が発せられた。

 

「あぁ鮮明に聞こえる」

 

『……本当に会話が出来ているのか』

 

「そう説明したし、実際に会話を交わしただろ」

 

『それでも、遠くとなると通じるか分からないだろ』

 

「まぁ、それもそうか」

 

 俺は小さく呟いた。

 

 俺が耳にしているのは小型のイヤフォン型の通信機で、ユフィ達にも同じ物を渡している。

 

 こいつは本来半径100mの範囲しか電波が届かない代物だが、俺がここまで来る間に通信機の中継器を80m間隔で置いて行っているので、少なくともブレンに居ても無線が届くようになっている。

 まぁ当然遠くなればなるほど無線の感度は悪くなるんだが、ノイズが少ないところからみるとそう遠くではないようだ。

 

 しかしこんなタイプの通信機は前世では見たことが無いんだよな。何であるかはまぁ今は気にしないで置こう。

 兎に角、結構便利だからいいか。

 

「それで、どうした?」

 

『あ、あぁ。途中経過の報告だ。どうやらアレンは予想通り最短ルートで屋敷へと向かうようだ。今は休憩を行う為に道中にある村に居る』

 

「そうか。なら、作戦は予定通りに」

 

『分かった。二人にも伝える』

 

 ユフィはそう言って通信を切る。

 

(作戦は予定通りか。まぁ、移動する手間が省ける)

 

 まぁもし別ルートで通るとなっても、ただ場所が変わるだけで、作戦自体に変更は無い。

 

 俺はすぐにM24(カスタム)の元へ戻ってうつ伏せになって伏射の体勢を取ると傍に置いていた.338ラプア・マグナムが10発収まっているマガジンを手にして挿入口に挿し込み、調整済みだが一応スコープの最終確認を行う。

 

(車列が村に居ると言う事は、もうそう遠くは無いか)

 

 となれば、車列がここを通るのも時間の問題か。

 

 俺は気を引き締めて、M24(カスタム)を手にして身構える。

 

(フィリア。待っていろ。必ず助ける)

 

 決意を胸に秘めて、車列が通るのを待つ。

 

 

 



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第二十一話 救出作戦

 

 

 

 

 それから2,3時間ほどが経過した。

 

 

 

『……』

 

 馬車の車内で揺れを感じながら私は外と中に視線を交互させながら様子を見る。

 

 現在車列は休憩のために立ち寄った村から出発し、現在通っているルートの中で一番長い草原に出来た道を通っている。そしてこの草原が作戦の場となる。

 

「……」

 

 隣に視線を向けると、顔色が悪く俯いているフィリアが座っている。町を出発してからも、村で休憩中も、こうして馬車に乗ってからも、彼女は何も喋っていない。

 で、その向かい側には彼女の気持ちなど全く分からずに彼女をにやけた表情で見ているアレンが座っている。

 

(この憎たらしい顔を殴ったらどれだけスッとするだろうか)

 

 彼女の気持ちが分からず、嘗め回すように見ているこの男に苛立ちが募って来て今にも殴りたい上に、キョウスケ殿から預けられた物で攻撃したい衝動に駆られる。内心ではそう呟くが、私は何とか自制して気持ちを整える。

 ここでもし感情的な行動を取ってしまえばこの後の作戦に支障をきたすのは目に見えている。作戦が失敗すれば彼女に明るい未来は無いのだから。

 

 私は苛立つ感情を抑えつつ、窓から外の景色を見る。

 

(もうそろそろ、目標地点に到着するな)

 

 恐らくセフィラがキョウスケ殿に連絡を入れている頃だろう。

 

 私は不審がられないように今は通信機は着けていないので作戦の進行具合が分からない。だが、後に起こる事でタイミングは分かる。

 

 その時がいつでも来ていいように、身構える。

 

 

 すると突然馬車が停車する。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 草に紛れてジッとして待っている俺はM24(カスタム)を構え、握っている手を何度も緩めたり握ったりを繰り返していた。

 だが、時間が経つにつれて、心臓の鼓動が高まっているのを感じていた。

 

(落ち着け。落ち着くんだ……)

 

 自分にそう言い聞かせながらゆっくりと深呼吸をして気持ちを整えて心臓の鼓動を抑えようとする。とは言えど、自分ではそう言い聞かせても身体はすぐに言う事を聞くとは限らないがな。

 

 狙撃と言うのは距離が離れていれば離れているほど僅かなズレが大きなズレへと変化する。今の様に心臓の鼓動が高いとその振動で照準がぶれてしまう。

 そして今回行う狙撃は早さと正確さ、そしてタイミングが要求される。それに加えて失敗出来ないと言う重圧が加わっているのだ。

 これで緊張するなと言う方が無理な話である。

 

「……」

 

 俺はボルトハンドルを持って上に上げて溝から外し、後ろに引っ張ってから戻してボルトハンドルを下ろして溝に嵌め、マガジンの一番上にある初弾を薬室へと送り込む。

 

 

 

『こちらセフィラ。キョウスケ様。聞こえますか』

 

 すると耳にしている通信機からセフィラの声が発せられる。

 

「こちら土方。そっちの方はどうだ?」

 

『間も無く予定地点に到着いたします。準備をお願いします』

 

「分かった。そっちも準備に掛かってくれ。合図と共に作戦開始だ』

 

『分かりました』

 

「じゃ、手発通りに」

 

 俺は身体を少し持ち上げて傍に置いていた双眼鏡を手にして前方を見渡す。

 

「……」

 

 前方を見渡して左上方向に、馬車4輌の車列を確認する。 

 

 馬車は全部で4輌で、先頭と3輌目と4輌目は白い布を張っている一般的なやつで、恐らく護衛の騎士達を乗せているやつだろう。そして2輌目は他とは明らかに異なり、豪華な装飾が施された馬車で、扉には紋章が描かれている。

 

「あれか」

 

 間違いなく、目標の車列だ。そして2輌目の馬車に、フィリアが乗っているはずだ。

 

 俺は先頭の馬車を見ると馬車の操者はセフィラであり、彼女は事前の打ち合わせの時に教えていたハンドサインを俺が居る丘へ向けて行う。

 ハンドサインの内容は『準備完了。指示を請う』だ。

 

「今だ」

 

 俺は通信機に指を当てて静かに指示を送ると、セフィラと3輌目の馬車の操者を務めるリーンベルが懐より取り出した筒状の物に付いているピンを引き抜き、レバーを取ると前へと落とし、同じ物をさっきと同じようにして前に落とした。

 同じようにリーンベルも同じ筒状の物のピンを抜いてレバーを取り、前へと落とすと、2個目も同様にして前へ落とした。

 

 それを確認した俺はすぐさま双眼鏡を収納してM24(カスタム)を手にして構え、安全装置を外してスコープを覗く。

 

(馬車には馬が2頭ずつの計8頭。短時間で全てを仕留めるなら、確実に2頭同時に仕留めなければならない、か)

 

 ここから車列への距離は大体500mから580mの間ぐらいだろう。まぁ、トレーニングモードじゃそれの倍ある距離の狙撃を静止目標に動体目標を何度も行っては標的に命中させている。決して難しくないとは言えないが、出来ないわけじゃない。

 幸い2頭は並んで歩いているので、二頭抜きは難しく無い。

 

 俺がなぜ馬を確実に仕留めなければならないのは、追跡手段と伝令手段を無くす為だ。

 

 当然であるが、フィリアを攫う形で連れ出そうとしているのだ。アレンは確実に俺達を追い掛けて来るだろう。こちらは高機動車改で逃走するが、速度は違えど足が速い馬ならこちらが止まっていれば短い時間で追いつけるし、何より近い村や町に馬を走らせて状況を味方に伝えるはずだ。

 今情報を他の場所に伝えられてはかなり厄介になる。だからこそ、馬は全て短時間で尚且つ確実に仕留めなければならない。

 

「……」

 

 俺は身体を動かして向きを変え、スコープのレティクルを先頭の馬車を引く手前の馬の頭の前辺りに合わせて呼吸を止めて身体の動きを抑え、引金に指を近づける。

 

 

 そして2頭の馬の頭が重なった瞬間、俺は引金を小さい力で引き、本来発せられるはずの銃声はサプレッサーによって抑制されてまるでガスが抜けたかのような音を立てて弾が放たれる。

 

 素早くコッキングをして空薬莢を排出して次弾を装填したら、放った弾は先頭の馬車を引いている2頭いる馬の手前の方の頭を撃ち抜き、有り余る運動エネルギーは馬の脳ミソを滅茶苦茶に破壊して貫通し、勢いをそのまま後ろの馬の頭を撃ち抜いた。

 それと同時に2頭の馬はその場に倒れ込み、痙攣した後ピタッと動かなくなった。

 

 俺はすぐ後ろで止まった馬車を牽いている馬へと狙いを定めて引金を引き、放たれた弾は馬2頭の頭を撃ち抜いた。素早くコッキングをして3輌目の馬車を引いている馬の頭へと狙いを定めて引金を引き、2頭の頭を撃ち抜く。

 

 さすがに牽いていた馬が突然死んだ事によって馬車に乗っていた騎士達が降りてきて周囲を警戒し始めるが、俺は気にせず4輌目の馬車に繋がれている馬に狙いを付けて、引金を引く。

 

 放たれた弾は手前の馬の頭を撃ち抜いたが、奥の馬が頭を動かしてしまい弾が外れる。

 

「っ!」

 

 俺はとっさにコッキングして再度狙いを付けて引金を引き、最後の一頭の頭を撃ち抜いた。それと同時に馬車の下から突然煙が上がり出す。

 

(ギリギリ間に合った)

 

 俺はホッと安堵の息を吐きながらスコープを覗く。

 

 すると馬車から降りた騎士たちが一斉にむせ出し、中には嘔吐する者やその場に倒れる者が続出する。

 

 先ほど彼女達が落としたのは催涙性のガスを出す『催涙球2型』と呼ばれるガスグレネードだ。通常安全ピンを抜いてレバーを外してからガスが出るのは1.2秒から2秒程だが、彼女達に渡した物には18秒後にガスが噴出するように信管設定を変えた代物だ。

 俺が素早く馬を仕留めなければならないのは、この催涙ガスが出てしまうからだ。当然馬もガスの影響を受けるので馬はもがき苦しんで暴れるだろう。そんな暴れている馬を狙うのは困難だ。

 まぁ胴体を狙えばいいかもしれないが、確実性が無いし、後で治療魔法で傷を癒される可能性がある。

 

 しかしこの中をユフィ達は大丈夫なのかと言うと、その辺はちゃんと対策を取っている。既に彼女たちは行動を起こしているはずだ。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「なんだ、何が起きている!?」

 

 突然馬車が止まった上に馬車を牽いていた馬が頭から血を流して死んだ事に誰もが混乱していた。

 

 外では他の馬車に乗っていた騎士たちが降りてきて周囲を警戒するも、突然煙が上がり出してそれを吸った騎士たちは咳き込み、目を押さえたりしてもだえ苦しむ。

 

 私はすぐに服の下に忍ばせていた……確かガスマスクと言う仮面を取り出して顔に装着して外していた通信機を耳に付ける。

 

 その直後馬車の車内に煙が入り込み、フィリアとアレンが咳き込み出す。だが私はこのガスマスクのお陰で影響は無かった。

 

 私は馬車の扉を開けるとフィリアの手を取る。 

 

「ゆ、ユフィ!?」

 

 フィリアはいきなりの事に私を見るが、ガスマスクを装着した私を見て驚く。だが私はすぐに彼女の手を引いて勢いよく外に放り出す。彼女が放り出された先には同じくガスマスクを装着したセフィラとリーンベルが待ち構えており、彼女を受け止める。

 

「貴様! 何をしている!」

 

 アレンは涙目になりながらも私の肩を掴む。

 

「っ! 離せ!」

 

 私はアレンの手を振り払って馬車から出ようと一歩踏み出して出口に近付く。

 

「がっ!?」

 

 しかし直後に後頭部から引っ張られるような激痛が走って馬車から出る事が出来ず、思わず後頭部を押さえる。

 

「そうか! ゴホっ! これは貴様の仕業か!」

 

 咳き込みながらアレンは彼女の束ねている髪を引っ張っている。

 

「くっ……!」

 

 髪を引っ張られて私は車内に引き戻されそうになる。

 

『ユフィ様!』

 

 リーンベルが叫び、その間に私は車内に引き戻され、床に倒されてアレンに首を掴まれて押さえ付けられる。

 

「ぐっ……」

 

 次第に掴まれている手に力が入り、首が締められる。

 

「こんな事をして、ただで済むと思うなよ!!」

 

 アレンは怒りの形相を浮かべ、首を絞めている手の力を更に強める。

 

(まずい、このままじゃ!)

 

 このままじゃ、逃げられない!

 

(こうなったら!)

 

 私は首を絞めているアレンの手から右手を離して服の下に忍ばせている保険を手にして取り出し、それをアレンの左肩に押さえつける。

 

 

 ッ!!

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 乾いた音が発せられたと同時にアレンが叫び声を上げ、左肩を押さえて椅子にもたれかかるように倒れる。

 

「き、貴様!? 何だそれは!?」

 

「手の内を教えるわけないだろ」

 

 私は首を擦り呼吸を整えながら右手にしている物を――――確か『南部小型拳銃』と言う拳銃とキョウスケ殿は言っていたな――――アレンに向ける。

 

「貴様、こんな事をして、ただで済むと思っているのか!」

 

「私がやっている事は理解している。世間から許されるつもりは無い。だが、自分が正しいと思った事をしているだけだ」

 

「僕のフィリアを攫っておいて正しいだと!」

 

「フィリアはお前のものではない!!」

 

 私は南部小型拳銃の引金を引き、乾いた音共にアレンの頭のすぐ横に穴が開く。

 

「っ!」

 

 アレンが驚いている間に私は一気に馬車から跳び出る。

 

「ま、待て―――」

 

 

 私が地面に着地すると同時に後ろでアレンが悲痛な叫びを上げる。

 

「っ!」

 

 私が後ろを振り返ると、アレンは車内の床に倒れて悶え苦しんでいた。

 

「あれは」

 

『ユフィ! 今の内にフィリアを連れて逃げろ!! 今から迎えに行く!』

 

 耳に付けた通信機からキョウスケ殿の声が発せられる。どうやらキョウスケ殿の援護だったようだ。

 

「感謝する!」

 

 私はすぐに立ち上がってフィリアを両側から支えているセフィラとリーンベルの元へと向かい、合流後フィリアの手を取って連れて行く。

 

「ゆ、ユフィ! 一体何を!」

 

 煙の影響で咳き込みながらフィリアは問い掛ける。

 

「話は後だ!」

 

 私は煙が晴れた場所まで来るとガスマスクを外してフィリアを引っ張ってそう言いながら走る。

 

 

 すると丘の向こうから緑色の物体が跳び出し、こちらに向かって走ってきた。

 

「っ!?」

 

 初めて見る物体にフィリアは驚くが、私達は既に見ているので驚きはしなかった。

 

 その緑色の物体……確かキョウスケ殿は高機動車(こうきどうしゃ)と言っていたな。それが猛スピードで走ってきて私たちの前で地面を滑りながら止まる。

 あれだけのスピードを出して急に停止できるのは地味に凄いな。

 

「待たせたな!」

 

 と、高機動車から特徴的な斑点模様の服を身に纏う男性ことキョウスケ殿が武器を手にして降りてきた。

 

 

「きょ、キョウスケ!?」

 

 俺が89式小銃を手にして高機動車改から降りて姿を現すとフィリアは目を見開いて驚きの声を上げる。

 

「ど、どうしてあなたがここに!?」

 

「ユフィ達と一緒に君を助けに来た!」

 

「私を?」

 

「そうだ」

 

「ど、どういうことなの?」

 

 フィリアは突然の事に思考が追い付いていなかった。

 

「説明は後だ! 兎に角、こいつに乗ってくれ!」

 

「で、でも」

 

 俺が高機動車改に指差して乗るように言うものも、フィリアは躊躇いを見せる。

 

 まぁ見たこと無い物に乗れといっても躊躇うだろうが、最も彼女が案じているのは俺のことだろうな。貴族の乗っている馬車を襲撃してその婚約者を攫おうとしているのだ。ユフィ達もそうだが、俺も捕まればただでは済まない。

 まぁ、捕まる気は毛頭無いんだがな。

 

「今は何も考えず、俺を信じてくれ!!」

 

「っ!」

 

 俺が強く言って89式小銃をスリングで右肩に提げて右手を差し出すと、彼女はハッとする。

 

 少し俺の手を見つめていると、意を決したかのように表情を引き締め、フィリアは俺の手を握る。 

 

「こっちだ!」

 

 俺が彼女を引っ張って、高機動車改の車体後部の扉を開けて彼女を中に入れる。

 

「急げ! ユフィ!」

 

「あぁ!」

 

 リーンベルとセフィラを車内に入れてから俺は南部小型拳銃を手にして周囲を警戒していたユフィに声を掛けて彼女を来させる。

 

「っ! 伏せろ!!」

 

 俺は後ろで催涙ガスによる状態異常から回復した騎士がクロスボウを構えてユフィの背中に向けて構えていたのを見つけて叫び、ユフィはすぐさま前のめりに倒れるとその上を矢が通り過ぎる。

 

「くっ!」

 

 俺はすぐに89式小銃を構え、セレクターを(安全)から(単発)に切り替えてホロサイトにクロスボウに矢を装填する騎士を捉える。

 

「恨むなよ」

 

 そう一言言ってから引金を引き、銃声と共にストックを通して衝撃が肩に伝わり、弾が放たれる。放たれた弾は一直線にクロスボウを持つ騎士の左肩を撃ち貫き、騎士は激痛のあまり後ろに倒れて左肩を押さえながら悶え苦しむ。

 

「今の内に!」

 

「わ、分かった!」

 

 俺は次々と状態異常から回復して立ち上がる騎士たちの肩や膝に狙いを付けて引金を引き、弾は騎士の肩や膝を撃ち抜いて行動不能にしていく。

 その間にユフィは高機動車改に乗り込んで扉を閉める。

 

「キョウスケ様! 全員乗りました!」

 

「おうよ!」

 

 銃座から頭を出したリーンベルが全員乗車を確認して伝え、騎士たちを牽制してから弾が切れたマガジンを交換すると、一人の騎士がクロスボウを構え、俺に向けて矢を放ってくる。

 

「っ!」

 

 俺はとっさに身体を反らして矢をかわしてボルトストップを解いて89式小銃を構えて引金を引く。

 

 

 

 

 そして銃声と共に放たれた弾は一直線にクロスボウを持つ騎士の額に穴を開けて後頭部から突き抜けて騎士の命を刈り取った。

 

「っ!?」

 

 俺はホロサイトから目を離して絶句する。

 

 騎士はそのまま後ろに倒れてそのまま動かなくなる。

 

「……」

 

 俺はまさかの事態に一瞬呆然となる。

 

「っ!」

 

 俺はハッとして弾帯に提げている閃光発音筒を左手に持ってピンを歯で咥えて引き抜き、レバーを指で弾いて勢いよく投げる――――ちなみにこれを実際にやると歯が欠けるか折れるかするので、良い子は真似したら駄目だぞ――――。

 投げてすぐに俺は高機動車改の運転席に乗り込み、扉を閉めてアクセルを踏み込み、ハンドルを目いっぱいに右に切ると車体が右に曲がりながら前進する。

 

 

「くそっ! 待て!」

 

 涙目になりながらアレンが高機動車改を追いかけるが、足元に何かが転がってくる。

 

「ん? 何だこれ――――」

 

 その直後眩い光と爆音が発せられてアレンが叫びながら目を押さえて後ろに倒れる。

 

 本来閃光発音筒ことスタングレネードは狭い場所にてその真価を発揮する。当然こんな開けた場所では音や光が反射せず広がるのでその真価を十分に発揮できない。

 まぁ、足元で破裂したのなら、話は別だがな。

 

 

「ざまぁみろ」

 

 一瞬目を瞑って閃光発音筒の光を回避し、目蓋を開けてサイドミラーを覗いた時にはアレンは地面に倒れ、目を押さえて悶え苦しんでいた。その姿を見て俺は思わず声を漏らす。

 

 俺はすぐに前に視線を向けると床を踏み抜かんばかりにアクセルを限界まで踏み込んで高機動車改を走らせる。

 

 

 

 

 



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第二十二話 今後の動き

 

 

 

 

「ガーバイン様! 大丈夫ですか!」

 

 光と爆音が僕の足元で発せられてから耳鳴りがして目と脚が痛む中、騎士の誰かが僕に声を掛けるのが微かに聞こえる。

 

「ぐ、ぐぅ!」

 

 僕は騎士に支えられながら立ち上がろうとするが、両脚から激痛が走り、痛みのあまりその場に座り込んでしまう。まだ痛む目を開けても視界はぼやけてて殆ど見えない。更に馬車で受けた傷から激痛が走る。

 

「くそっ!! あの平民めぇ!」

 

 一瞬であったが、あの走り去った緑色の物体にフィリアに付き纏っていた平民が乗り込むのが見えた。どうやらこの一件はコッホー達にあの平民が関わっていたようだな。いや、あいつが企てたのか。

 

「ガーバイン様! 兎に角こちらへ! 怪我を治さなければ!」

 

「今はそんな事はいい! それよりもさっさとやつらを追いかけろ!!」

 

「馬を全て殺されてしかも馬より速かったやつですよ!! 追いつけるわけがありません!!」

 

「ならさっさと近くの村か町に向かえ!! 駐屯地へこのことを伝えろ!! 絶対に奴等を逃がすな!!」

 

「わ、分かりました!」

 

 僕が怒鳴りつけるように指示を出すと、騎士は走っていく。

 

「許さん、許さんぞ!! 必ず捕まえて、お前を八つ裂きにしてやるからな!! 覚悟してろぉ!!」

 

 やつらが逃げて行った方向に向かって僕はそう叫ぶ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 森林の中にある舗装されていない凸凹の道を高機動車改が猛スピードで走っている為車体は激しく上下左右に揺さぶられて車内は常に上下左右に揺れていた。軽くジェットコースターに乗ったような気分だ。

 

「きょ、キョウスケ様! もう少し優しく――――」

 

「そりゃ無理だな!」

 

「そんなぁ……」

 

 顔色を悪くして弱々しく訴えるリーンベルだったが、いくら衝撃を緩和するサスペンションがあっても、凸凹が激しいと揺れを緩和するのは不可能だ。

 

 リーンベルが絶望する中、高機動車改は広い森林の中を走って行き、開けた場所へと抜けると俺はそこでブレーキを踏んで高機動車改が停車する。

 

 

「……ここまで来れば、さすがにしばらくは追いつかないだろう」

 

 馬は全て駆逐したので、相手は足の速い追跡手段を失っている。それを補充するとなると近くの村か町に行かなければならないが、あの場所からでは走ってでも半日近くは掛かる筈だ。

 

「それで、みんな。大丈夫、か?」

 

 俺は後ろを振り返り、みんなの様子を窺う。 

 

「あ、あぁ。なんとかな」

 

 ユフィは上半身を壁に貼り付くようにしてもたれかかり、顔全体に冷や汗を掻いて苦笑いを浮かべる。

 

「で、ですが、さすがに、これは……」

 

 セフィラは薄目の目を開けて強張った表情を浮かべて呼吸が荒れていた。

 

「うぅ、気持ち、悪い……」

 

 リーンベルは顔色を悪くして口に手を当てていた。

 まぁ、見た所大丈夫とは言えないな。

 

「……」

 

 その一方でフィリアは目を白黒にさせて呆然と座っていた。

 

「フィリア? その、大丈夫か?」

 

「……え? え、えぇ」

 

 フィリアは俺が声を掛けてようやく意識がハッキリとして返事を返す。

 

「悪い。やつらと距離を離すには、かなり飛ばさないといけなかったからな」

 

「それはそうだが、だとしても、ここまで速度が出るとは思わなかったな。それに、あんなに揺れるとは」

 

 ユフィは額の汗を袖で拭いながら抗議の様に訴える。

 

「だが、距離は稼げた。俺達が一日中止まってない限りやつらに追いつかれることはないだろう」

 

「そうだな。それにこの速さなら、あそこまでに到着するのはすぐだな」

 

「それなら、何とかいけそうか?」

 

「そこは分からないが、少なくとも情報は行き渡っていないからまだ警戒していないはずだ。それなら、行けなくもないかもしれないな」

 

「そうか」

 

 これは予想以上にスムーズに事が運びそうだな。

 

 

「……キョウスケ」

 

 俺とユフィの会話の合間を見計らってか、フィリアが声を掛けて来た。その声は少しばかり震えていた。声の感じからすると、明らかに怒っている。

 

「説明してくれる。どうしてこんな事をしたの」

 

「……」

 

「ユフィ達も、こんな事をしたら、どうなると思っているの!」

 

「……」

 

「いくら何でも、これはやりすぎよ! 私の為だと言っても、こんな事をしたらあなた達は!」

 

「フィリア……」

 

「それに、どうしてキョウスケまで! もし捕まったりしたら、あなたは!!」

 

「……」

 

 まぁ、何も知らない彼女からすれば、俺達がやっている事はただの犯罪だ。彼女が怒鳴ってしまうのも仕方が無い。

 

「フィリア。君が怒るのも無理は無い。だが、これには訳があるんだ」

 

「……訳?」

 

 フィリアは怒りの色を浮かべた表情を一変させて怪訝な表情を浮かべる。

 

「フィリア。今から言う事は紛れも無い事実だ。君にとっては、とてもショックな内容かもしれないが、聞いて欲しい」

 

 俺はユフィと共にフィリアに今回の一件を話した。

 

 

 この結婚の真の目的を。父親が自身の身の保全の為にフィリアを取引の材料として、ガーバイン侯爵に売ろうとしていると言う事を。

 

 

「……」

 

 真実を聞かされたフィリアは呆然とし、口をまるで陸に打ち上げられた魚の様に開閉させていた。

 

「そん、な。お父様が、お母様が……」

 

 彼女はそう呟きながら顔に手を当てて俯く。

 

「それじゃぁ私は、何の為に……今まで……」

 

(まぁ、無理も無いか)

 

 静かに震える彼女の姿を見て俺はそう言わざるを得なかった。

 

 多くの疑問が生まれる中で自分の為だと自分に言い聞かせて信じていた両親に裏切られたのだ。彼女のショックは計り知れないだろう。

 

「俺はユフィ達から話を聞かされて、彼女たちと協力して君を連れ出したんだ」

 

「……」

 

「まぁ、連れ出した後で言うのもなんだが、フィリア」

 

「……」

 

「君は、どうしたいんだ?」

 

「……私は」

 

 フィリアは顔を上げて俺を見る。

 

「……」

 

 しばらく戸惑いで静かに揺れる瞳で俺を見つめていたが、袖で涙を拭い、決意したかのように表情が引き締まる。

 

「私は、もうあんな縛られた人生に、戻りたくない。利用されて、終わりたくない」

 

「……」

 

「私だって、みんなのように・・・・・・自由に、なりたい」

 

「……フィリア」

 

「だから、お願い。私を、連れて行って」

 

 そう言うと彼女の目に再び涙が浮かぶ。

 

「あぁ。もちろんだ」

 

 俺はあの時と違い、迷う事無く返事を返す。

 

「君が望むなら、どこへでも」

 

 彼女へと手を差し出すと、フィリアも迷う事無く手を握る。

 

 

 

 

「だめ……もう、無理ぃ……」

 

 と、後ろで扉が開く音がして俺やフィリア、ユフィ、セフィラが扉の方を向くと、リーンベルが扉を開けて頭だけ外に出していた。

 すると女子にあるまじき声を出し、何か水気を含んだ物が音を立てて地面に落ちたような音がする。

 

『……』

 

 しばらく何とも言えない空気が流れた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……んで、現状を改めて整理しよう」

 

 リーンベルの体調が整うまで待ってから、俺はフィリアを含めて現状の整理する。

 

「作戦の第一段階の重要目標のフィリアはこうして連れ出すことに成功した。問題はこの後だが」

 

「どうするの? あの男が私達を逃がすはずが無いわ。恐らく死の果てまで追いかけてくるはず」

 

 まぁあの男の性格を考えると確実に追ってくるだろうな。

 

「分かっている。だから、ずっと追い掛けて来る可能性があるこの国に留まるつもりは無い」

 

「それはつまり、どういうことなの?」

 

 フィリアは怪訝な表情を浮かべる。

 

「要するに、この国を出て隣国に逃れるんだ」

 

「隣国……エストランテ王国に?」

 

「あぁ……そうだ。そのエストランテ王国へと……」

 

 俺はそれ以上の言葉が出てこなかった。

 

「キョウスケ殿?」

 

「……この国ってなんていう名前だ?」

 

「え? あ、あぁ。ここはリーデント王国だが?」

 

 ユフィは一瞬呆気に取られたが、すぐに俺の為にこの国の名前を教えてくれる。

 

「そうか。んで、今後の目標は今俺達が居るリーデント王国からエストランテ王国へと逃げ込む」

 

「エストランテに?」

 

「あぁ。さすがに国を越してまで追い掛けて来る可能性は低いだろう」

 

「あの男がそんな理由で簡単に諦めるとは思えないのだけど」

 

「個人は、だろうな。だが、国はそうはいかないだろう」

 

「……?」

 

 フィリアは怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。

 

「ユフィ。この国と隣の国の仲はどうなんだ?」

 

「ん? あぁ。少なくとも、良いとは聞かないな。かと言って戦争をするほど仲は悪くは無いがな。だから互いの国を跨いで商売する商人もいるぐらい、出入国は厳しくない」

 

「でも、国王はお互いにプライドが高い事でも知られていますからね。噂では」

 

「ふむ」

 

 ユフィとセフィラの言った事に俺は頷く。

 

「どういうことなの?」

 

「つまり、仲が良くなくプライドの高い国同士が、貸し借りを作るかって話だ」

 

「……あぁ」

 

 フィリアは納得したかのように声を漏らす。

 

「エストランテとて他国の騎士を自分の国に入れたくないだろう。かと言ってリーデントもエストランテに協力してもらって貸し借りを作りたくなないだろうしな」

 

 もし貸し借りを作ってしまえば、後々にそれを利用して見返りを求められる可能性がある。プライドの高いやつは嫌っている相手ほど貸し借りを作りたくないのだ。

 

「それに、いくら権力のある侯爵でも、国を動かすほどの権限は無いはずだ」

 

 それ以前に国としては問題を起こされたくないから侯爵を止めるはずだ。

 

「だが、あのアレンの父親だぞ。国に黙って行動を起こす可能性も否定できない」

 

「……まぁそこは賭けになるな」

 

 そこまでしつこいとは思えないが、追ってこないとは限らないしな。

 

「だから、エストランテに入っても、出来る限り遠くに逃げるぞ」

 

「……それしかないか」

 

 ユフィは腕を組んで呟く。

 

「兎に角、今はこの国を出ることが最優先だ。一気に国境線まで走るぞ」

 

「えぇ」

 

「分かった」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

 俺はそれぞれの返事を聞いてから高機動車改へと向かい、運転席の扉を開けて席に座る。

 

「……っ?」

 

 フィリア達が高機動車改に乗り込む中、俺は違和感を覚えてハンドルを持つ左手を見る。左手は細かく震えていた。

 不意にさっきの光景が脳裏を過ぎる。

 

「……」

 

 思わずハンドルを握る手に力が入り、ギリッと歯軋りを立てる。

 

(覚悟していたはずだ……こうなる以上、起こり得る事だって)

 

 内心で俺は自分に言い聞かせるように呟く。

 

 

「キョウスケ?」

 

 声を掛けられて俺はふと助手席側を見ると、怪訝な表情を浮かべているフィリアの姿があった。

 

「……いや、何でも無い」

 

 彼女にそう言ってからハンドルの後ろにあるキーを回してエンジンを掛けて、高機動車改を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 



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第二十三話 この機関銃って、果たして作る必要があったのだろうか……

 

 

 

 あれから更に高機動車改で走り出した俺達はリーデント王国とエストランテ王国の国境線を目指した。

 

 

 道中魔物の襲撃も無く走り、国境線付近まで来る事が出来たが、さすがに一日で国境線まで到着出来なかったので今夜は森の近くで野宿する事となった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 久しぶりに起動したトレーニングモード。その射撃場を模したエリアではいくつもの銃声が鳴り響いていた。

 

 

「……」

 

 89式小銃を構えるフィリアは引金を間隔を開けて連続で引き、銃声と共に反動がストックを通して彼女の肩に伝わり、排莢口(エジェクションポート)から硝煙を纏った空薬莢が次々と排出される。

 放たれた弾は的の中央付近にいくつかの穴を開けていく。

 

「キョウスケ。これでどう?」

 

「あぁ。よく当たっている。問題ない」

 

 フィリアは89式小銃から空になったマガジンを抜いて、薬室に弾が残ってないのを確認してからセレクターを(単発)から(安全)へと切り替えてスライド止めを押してボルトを前進させ、机に置きながら俺に射撃がどうだったか聞いてくる。

 俺は彼女の射撃姿勢を見て次に的の中央に開いた穴を見て問題無かったので頷く。

 

「それにしても、改めてだけどこの銃って言う武器は凄いわね。音はうるさいけど、クロスボウより射程が長いし、ほぼ狙った場所に当てられるんだから」

 

「まぁな」

 

 89式小銃を見ながら俺は短く答える。まぁこの世界じゃ現代の銃はオーバーテクノロジーの塊だからな。最も銃自体がこの世界じゃオーバーテクノロジーなんだがな。

 

 んで、今何をしているかって言うと、トレーニングモードを使ってフィリア達に銃の扱い方を教えていた。

 

 正直銃を彼女達に本格的に扱わせていいのか悩んだが、今後何が起こるか分からない以上戦力は必要だった。それに彼女達も覚悟を決めているので、銃の扱い方を教えることにした。

 最初は89式小銃で射撃の基礎を覚えてもらい、現在全員に相性の良い武器を選んでもらって教えている。

 

「それに、このトレーニングモードって言う魔法も凄いわね。大分居るような気がするけど、実際には数秒程度しか経ってないんでしょ?」

 

「あぁ。もうかれこれこの中じゃ半年近くは経っている」

 

 俺は腕時計を見て時間を確認する。

 

「と言っても、あくまでもここで得られるのは仮の感覚だけだ。それをモノに出来るかは実際にやってみてみないと分からん」

 

 トレーニングモードは確かに感覚を養う事は出来るが、あくまでも感覚だけで、実際の身体でその通り動かせるわけではない。なので、感覚をものにするにはトレーニングモード解除後にすぐにその感覚を身体に馴染ませなければならない。

 

「それでも、普通なら使いこなせるのにかなりの時間が必要なんでしょ?」

 

「あぁ」

 

 だが、感覚だけとは言えど、実際に訓練するよりもかなり短い時間で技術を習得できる。

 

「……本当にキョウスケには驚かされてばかりね」

 

「たぶんこれからもっと驚く事ばかりがあると思うぞ」

 

「これ以上に驚く事って……」

 

 フィリアはそんな光景が予想できず苦笑いを浮かべる。

 

「何度も言うが、銃の扱いには細心の注意を払って練習してくれ。他のみんなを見てくる」

 

「分かった」

 

 俺はフィリアに改めて銃の扱いに忠告して他のメンバーの元へと向かう。

 

 

 

「……」

 

 フィリアの居るエリアの隣の射撃場ではセミオートスナイパーライフルであるMSG90を構えて照星(フロントサイト)照門(リアサイト)を重ねて覗きながら引金を間隔を開けて連続で引いていき、的の中央付近に次々と穴を開けていく。

 

「うまいもんだな」

 

「キョウスケ殿か」

 

 ユフィは俺が来たのに気付いて引金から指を離してマガジンを外しセーフティーを掛けて銃口を下ろす。

 

「にしても、反動が強い弾を使っているのに、よく扱えているな」

 

「むしろこれくらいないと撃ち辛いんだ」

 

(小口径弾で撃ち辛いってどう言うこっちゃねん)

 

 俺は思わず内心で突っ込みを入れる。普通逆なんだが。

 

(にしても)

 

 ユフィが撃った的の方を見る。的は中央の円内部に穴が集中して開いており、円の外には穴が開いていなかった。

 

(南部小型拳銃を扱わせたとは言えど、立射で大口径のアサルトライフルを撃ってあの精度か)

 

 これは、才があるかもしれないな。それも、かなり天才的な。 

 

 そういえばユフィはクロスボウを使ったら右に出る者は居ないほどの腕前だって前にフィリアが言っていたな。

 

(今はスコープ無しで撃ってもらうが、近い内にスコープを乗せて撃たせてみるか)

 

 ここから更に腕を磨けば、恐らくかなり化けるかもしれない。将来的には狙撃手(スナイパー)選抜射手(マークスマン)になってもらうかもしれない。

 

「そういえば、M14やM1Dとかは駄目だったのか?」

 

「クロスボウの様な感じで持てるが、どちらも使いづらくてな。このMSG90のように持てるやつの方が良い」

 

「そうか。まぁ君が良いと言うならそれで良いや。とりあえず、銃の扱いには細心の注意を払って練習を続けてくれ」

 

「分かった」

 

 フィリアに言った同じ事をユフィに伝えてから次に移る。

 

 

 

 ユフィの隣では連続して銃声が鳴り響き、的を蜂の巣にしていく。

 

「どうだ、リーンベル?」

 

「あっ、キョウスケ様!」

 

 5.56mm機関銃MINIMIの箱型弾倉を交換してベルトリンクの先端を薬室にセットしてからフィードカバーを閉じたリーンベルは銃に安全装置を掛けてこちらに寄ってくる。

 

「どうだ?」

 

「はい! 最初は89式小銃だと使いにくかったのですが、これにしたらなんだかよく的に当たっている気がします!」

 

「そうか(そりゃあんだけ撃てばいくつか当たるだろうな)」

 

 的の方を見ると蜂の巣になった的が視界に入る。弾をばら撒くのがもっぱらの目的の機関銃なら、誰だって当てられるしな。

 

「それにしても、もう何ヶ月もこの中に居たはずなのに、外だとたった数秒しか経ってないんですよね?」

 

「そう説明しただろ」

 

 リーンベルの問いかけに俺が答える。

 

「でも、信じられないですよ。時間関連の魔法なんてまず見られないぐらい無いんですよ」

 

「時間と言うより別空間みたいなもんだが、まぁ時間に関連しているから似たようなもんか」

 

 それともちょっと違う気がするが、今気にするようなことじゃないか。

 

「まぁいい。弾はいくらでもある。細心の注意を払って練習は続けてくれ。あと長く撃ち続けるなよ」

 

「はい!」

 

 彼女に同じように言ってから隣へと向かう。

 

 

 

 そこでは5.56mm機関銃MINIMIより大きな銃声が連続して鳴り響き、的に大きな穴を開けていく。

 

「どうだ、セフィラ」

 

「キョウスケ様」

 

 セフィラは手にしていた7.62mm機関銃M240Bに安全装置を掛けて台に置くと俺の方を向く。

 

「この機関銃……えぇとM240Bでしたか? 最初に使った機関銃と比べれば、これはとても素晴らしいですわ」

 

 セフィラはそう言いながら7.62mm機関銃M240Bを弄りながら呟く。

 

「そりゃそうだろうな(言う事機関銃よりかはな)」

 

 俺はとある機関銃(62式7.62mm機関銃)の事を思い出しながら答える。

 

 最初は『言う事機関銃』や『無い方がマシンガン』『単発機関銃』『キング・オブ・バカ銃』で有名な自衛隊で採用されている『62式7.62mm機関銃』を彼女に使わせてみたのだが、セフィラ曰く『とっても苛立つ機関銃ですね』との事。まぁ何に苛立っていたのかは大体予想がつく。その後様々な機関銃を使わせてみたところ、どうやら7.62mm機関銃M240Bがお気に召したようだ。

 

 個人的にぶっちゃけ言うと、あれって作った意味があったのか分からないんだよな。警察予備隊や保安隊時代から使っていた欧米製のM1917とM1919等のアメリカ製の機関銃が日本人の体格に合わないと言う理由で62式が開発されたが、別にどうしても作る必要があるってわけじゃないよな。しかも欠陥や改善点が次々と露呈したのにその後これと言って大きな改良が施されているわけじゃないし。

 かと言ってその後はちょっと改良した『74式車載7.62mm機関銃』ぐらいのバリエーションしかなく、その後国産の機関銃が開発されず、もっぱら海外製の機関銃にとって変えられている。ホントなんで作ったんだよって思う。

 

 昔からそうだが、日本は妙に国産に拘っているような気がする。まぁポンポンと優秀な海外製を導入できるほどの余裕が無いから仕方ないかもしれないが。と言っても逆に国産の方が高く付く場合もあるんだが。

 

「にしても、本当にそれでいいのか?」

 

「えぇ。むしろこれくらいの重さが無いと持った感じがしないので」

 

 そう言いながら7.62mm機関銃M240Bを持ち上げて片腕で軽々と扱う。

 

「そ、そうなのか」

 

 俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 彼女の華奢な身体のどこにあんな馬鹿力があるんだ。そいつ銃本体だけで10kg近くあるんだが……。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

 するとセフィラは薄目の目を開けて紅い瞳を覗かせる。

 

「これの撃つ感覚が、とても、そう、とても快感なんです」

 

 頬を赤く染めてうっとりとしながらセフィラは7.62mm機関銃M240Bを熱くなっていない箇所を除いて撫でるように触れる。

 

(アカン。こういう類の武器を持たせたらイカン子や)

 

 セフィラの様子からそう感じて苦笑いを浮かべる。

 

「それにしても、もう大分ここに居るのですが、本当に外では時間は経ってないのですか?」

 

「あぁ。他の3人にも同じ事を言ったが、そう説明しただろ?」

 

「そう言われましても、現実感と言うのがありませんわ。ここでどれだけ居ても外では数秒しか経っていないのは」

 

「だろうな」

 

 まぁ普通はすぐに信じられないもんか。

 

「ですが、こうして感覚があるんですから、信じるしかないのですが」

 

「だろうな」

 

「それより、まだ時間はあるのですか?」

 

「あぁ。気が済むまで撃ってもいいぞ」

 

「そうですか。それはありがたいですわ。まだまだ撃ちたくてウズウズしていたところなんです」

 

「そ、そうか」

 

 頬を赤く染めて身体をモジモジとさせるセフィラの姿に俺は苦笑いを浮かべるしかない。端から見たら色んな意味でヤバイ人にしか見えない……。

 

「まぁ、やめる時が来たら知らせるよ。後、銃の扱いは注意しとけよ。それと銃身から煙が多く出始めたら交換の合図だと言うのを忘れるなよ」

 

「はい」

 

 俺は最後にそう言ってから隣の射撃場へと向かって、そこで俺も自身の89式小銃を出して射撃を行う。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後彼女達の気が済むまで小銃や拳銃、機関銃の射撃の練習を行い、更に高機動車改の運転も教えて俺はトレーニングモードを終了させ、現実に戻っていた。

 

 彼女達は不思議な感覚に戸惑いを見せていたが、すぐに感覚を馴染ませる為に俺は彼女達にそれぞれ使っていた銃器を渡して、感覚を確かめさせた。

 

 

 

「銃の扱いはひとまず慣れたな」

 

 俺達は焚き火を囲んで明日の事を話し合った。

 

「ユフィ。このペースなら国境線まで明日中には着きそうか?」

 

「あぁ。これなら明日には国境線に着ける。だが……」

 

「だが、なんだ?」

 

「国境線を越えるのには、問題があるのよ」

 

 するとフィリアが説明を入れる。

 

「まず二つの国の国境線に沿うように、巨大な山脈が聳え立っているのよ」

 

「山脈がねぇ。要するに、こんな感じか?」

 

 俺は焚き火に入れる為の木と近くにあった石二つを使い、石二つをエストランテとリーデントの二ヶ国に見立ててその間に木を置く。

 

「えぇ。ちょうど国境線に沿って互いを遮るように山脈が聳え立っているの」

 

「そのお陰もあって、リーデント王国とエストランテ王国との間に戦争は殆ど起きていない」

 

「なるほど。お互いに自然の防壁でもあるのか」

 

 そりゃ争いが殆ど起きないわな。それこそナポレオンやハンニバルのように巨大な山脈を行軍でもしない限り、攻められんな。

 

「山脈は道と呼べる道が殆ど無いから、そこを通り越すのは不可能ね。その上飛ぶ事が出来る魔物が多く生息しているから仮に空を飛んで抜けるのはかなり難しいわ」

 

「……」

 

「でも、山脈には唯一道と呼べる場所があるわ」

 

「道ねぇ。でも、そういう所に限って砦的な場所があるんだろ」

 

「えぇ。山脈の名前を取った『トリスタ要塞』があって、そこはリーデント王国側の砦でもあるけど、関所的な役割を持っているわ」

 

「やっぱりな」

 

 まぁ考えてみれば自然の防壁に唯一ある道に何も置かないわけ無いか。

 

「少なくとも、国境を越えるにはそこしか道は無いか」

 

「そうなるな」

 

「……うまくその要塞を通れると思うか?」

 

「情報が行き届いていないのなら通れなくも無いだろうが、難しいな」

 

「そうか」

 

 もしかしたら、強行突破も考慮しなければならないな。まぁ今の装備でも十分突破できる火力と移動手段はあるが。

 

「まぁ、その事については明日要塞付近になってから考えよう。明日に備えてもう寝るとしよう」

 

「そうだな。見張りは二時間ごとに交代でいいか?」

 

「そうだな。最初は私が見張りをしよう」

 

「では、次はわたくしが」

 

 その後見張りの順番を決めて、明日に備えて俺達は眠りに入った。

 

 

 

 

 




62式って作る必要が果たしてあったのだろうかって思うこの頃。


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第二十四話 守るべき者

 

 

 

 

 真夜中となって辺りはすっかり真っ暗になり、高機動車改の車内では見張りで外を見回っている恭祐以外のメンバーが助手席や後部座席、床にそれぞれ毛布を被って座席や床に横になって眠っていた。

 

 そんな中、助手席に座って眠っていたフィリアはガクッと身体が横へと傾いて、軽く窓に頭を打ってそれで目を覚ます。

 

「……」

 

 彼女はゆっくりと身体を起こして小さく欠伸をすると、座席から後部座席の方へ身体を向けてスヤスヤと眠っているユフィ達を見て微笑む。

 

(こうしてまたみんなと一緒に居られる。こんな事、前までは考えられなかったのに)

 

 フィリアは改めてそれを実感する。少し前まではこうして居られる事は二度と無いと思っていたからだ。

 

(これも、キョウスケのお陰なのね)

 

 本当に彼と出会ってから、驚きの連続だ。出会ってすぐに彼に命を救われ、縛られた使命から自由にしてくれた。最も後者はまだ実行中だが。

 

 

「……」

 

 私は視線を下に下ろして、苦笑いを浮かべる。

 

 床で眠っているリーンベルは手足を放り出すように寝ているので掛けていたはずの毛布が隅に寄っていた。

 

(そういえばユフィとセフィラがリーンベルになぜか床に寝て良いと強く推していたけど、こういう事ね)

 

 彼女の寝相の悪さを知っているからあえて狭い座席の方で寝ていたのね。と言うかここまで酷いなんて……。そのせいでスカートが捲れ上がって中身が見えちゃってる……。

 私は額に手を当てて俯く。

 

 呆れながらも助手席を離れて車内の後ろへと向かい、起こさないようにリーンベルの服装を整えてから隅に寄っていた毛布を掛け直し、助手席に戻って毛布を掛け直して少し傾けた背もたれにもたれかかって目を閉じる――――――

 

 

 

 

 ――――――眠れない……。

 

 

 どうも目が冴えてしまったらしく、私は眠る事が出来なかった。

 

「……」

 

 背もたれにもたれかかったまま私は窓の方に顔を向けて夜空を眺める。

 

「……?」

 

 すると地面に一部埋まっている岩の上に座って夜空を眺めている恭祐の姿を見つける。

 

(キョウスケ?)

 

 何となく、違和感のある様子にフィリアは首を傾げる。 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……」

 

 周囲警戒の番が来て俺はしばらく高機動車改の周囲を警戒し、近くに手ごろな岩があったのでそこに腰掛け、89式小銃のセレクターを(安全)にして傍に置き、星が美しく輝いている夜空を眺めていた。

 

「綺麗だな」

 

 88式鉄帽の顎紐を解いて頭から脱いで膝の上に置きながらその絶景に俺は思わず声が漏れる。

 

 前世の地球じゃ排気ガス等の汚染物質による大気汚染のせいで標高の高い山に登らない限りこれほど綺麗に星は輝いて見える事は無い。

 だが、この世界では大気汚染物質を発生させる物は殆ど無いから、ここまで濁り無く見えるんだろうな。

 

(それも人間の技術力の進化の為の致し方の無い犠牲と言うやつかねぇ)

 

 まぁ、何かを得る為には何かを犠牲にしなければならない、人間の歴史はそれで成り立っているのだ。

 

「致し方の無い犠牲、か」

 

 意識せずに口から声が漏れると、ふと脳裏にあの時の光景が過ぎり、ブルッと震える。

 

(俺は……俺は……)

 

 殺すつもりは無かった。無かったのに……俺は、俺は……。

 

(いや、分かっていたはずだ。こうする以上絶対何も無く事を進められるはずが無いって!)

 

 無意識の内に俺の両手には力が込められて88式鉄帽を両側から押さえて軋みを上げる。

 

(……なのに)

 

 だが、俺はある違和感に両手に込められた力が抜けていく。

 

(なのに、何も、感じない)

 

 確かに俺は今日、人を殺した。

 

 なのに、俺の中で人を殺したと言う実感が湧かなかった。ただ、当たり前の事をしたかのように、頭の中で片付けられてしまう。

 

 

 恐らくそれは今まで人型の生きた魔物を多く駆除してきたのが要因とも言える。

 

 前世地球での世界の軍隊では、射撃訓練時に用いる的は人型をした物を使う事が多い。これは戦場に置いて敵兵を撃つ際に躊躇いを少なくする為だと言われている。

 実際戦場で円型の的と人型の的を用いて訓練した兵士の射撃率は人型の的を用いて訓練した兵士の方が多かったと言われている。もちろん個人差はあるので、どこも同じかと言うとそうではない。

 

 彼もまた、人型の魔物、それも生きた標的を相手にしてきたので、自然と耐性が付いてしまったのだろう。だが当然それだけで人間を殺したと言う事実に何も感じないはずが無いのだが。

 それは何か(・・)別の要因があるのかもしれないが、彼が知る由も無い。

 

(俺は……俺ハ……)

 

 沈み行く感覚がして周囲に暗さも相まってか目の前が暗くなっていくような気がしてきた。

 

 

 

「キョウスケ」

 

「……?」

 

 後ろから声を掛けられて俺は後ろを振り向くと、そこにはフィリアの姿があった。

 

「フィリア。眠れないのか」

 

「うん。そんなところ」

 

「そうか」

 

 まぁ実際は窓に軽く頭を打ってその後少し動いたが為に目が覚めてしまったのだが、彼にそんな事を知る由も無い。

 

「……隣、いい?」

 

 俺が頷くと、フィリアはゆっくりと近づいて来て隣に座る。

 

「……綺麗な星ね」

 

「あぁ。こんなに綺麗に輝く星は見た事が無い」

 

 そう呟いて夜空を眺める。

 

「あっ、そうだ」

 

 夜空を見ていて俺は下に着込んでいるシャツの下から紐に繋がっている石を取り出して首から外す。フィリアから貰ったあの石だ。

 

「これ、返すよ」

 

「……」

 

 フィリアは石をしばらく見つめると、頭を左右にゆっくりと振る。

 

「ううん。これはキョウスケが持っていて」

 

「でも、これは君の大事な物なんじゃ。それに、もう持っている理由は」

 

「キョウスケに持っていて欲しいの。お守りとしてね」

 

「お守り、か」

 

「えぇ。もちろん、以前の様な意味じゃなくね」

 

「……」

 

 俺は手にしている石を見る。

 

「なんだか、これって導きの石みたいね」

 

「導きの石?」

 

「ある御伽話の中にその石が出てきてね、重要な役割を果たすの」

 

「へぇ。一体どんな話なんだ?」

 

「えぇとね、昔ある所に、一組の幼い男女が居ました。お互い住んでいる家が近いとあって二人はよく一緒に遊んでいたからその二人はとても仲が良かった事で周囲からは有名であった」

 

 御伽話でありがちな一文で話が始まった。

 

「でも、時が経って二人が大きく成長したある日、女の子は両親の都合で暮らしていた村から立ち去らなければならなかった」

 

「……」

 

「女の子は別れ際に男の子に小さい頃に拾って大事にしていた宝物の綺麗な半透明の石を渡した」

 

「半透明の……」

 

 俺は手にしている石を月に翳して見つめる。

 

「二人は離れ離れとなり、一日、一週間、一年、そして十年と月日が過ぎていった」

 

「……」

 

「でも、大人となった男の子は女の子と別れたあの日からずっと女の子の事を考え、長い時が経っても彼女への想いは変わらなかった」

 

「……」

 

「そんなある日の夜、男性は女の子と過ごした日を思い出していた」

 

「……」

 

「思い出の数々を思い出していく内に、男性は彼女が今どこで何をしているのか、気になってきた。そして、彼女に会いたくなった」

 

「……」

 

「強く、強く、彼女に会いたいと、そう願った。その時、彼の胸辺りから光が放たれた」

 

「……」

 

「彼はすぐに光を発している物を取り出すと、光を放っていたのは、女の子から渡されたあの石であり、その石から放たれた光はやがて一筋の線となってある方向のみを指した」

 

「……」

 

「光指す方向を見た男性は考えるよりも先に行動を起こし、荷物を纏めて光が指す方向へと旅に出た」

 

「旅に?」

 

「男性はその光の先に想いを寄せる女の子が居るって、考えたらしい。何の確証も無かったけれど、本能的にそう感じた。そう書かれてあったわ」

 

「本能的に、か」 

 

「……男性は光が指す方向へと歩いた。何も考えずに、ただひたすらと歩いた」

 

「……」

 

「光指す方向へと歩き出して一週間、輝く星が広がる夜空の中で彼はとある丘に辿り着いた」

 

「……」

 

「その丘には誰かが居て、男性が近づくとそこに居た者も男性の存在に気付き、身体の正面を男性に向けた」

 

「……」

 

「ちょうど雲に隠れていた月が顔を見せてその輝きがその者を照らし、一人の女性の姿を見せた」

 

「……」

 

「最初一瞬分からなかった男性だったけど、瞬時にその女性があの女の子である事に気付いた」

 

「石から放たれている光が差しているのが、その女性だったのか」

 

「そういうこと。男性は女性に近付くと、名前を聞いた。そしてその名前は、女の子のものだった」

 

「……」

 

「女性も男性に名前を聞き、お互いの姿を見合う。あの時と比べると大きく成長していたけれど、幼い頃の面影は残っていた」

 

「……」

 

「そして二人は近付き、抱き締め合った。お互いの存在を確かめ合うように、強く」

 

「……」

 

「その後二人は彼女が住んでいる家に一緒に暮らし始めました。それでこの話は終わりなの」

 

「ふむ。御伽話らしい終わり方だけど、石についてはあんまり言及されて無いような」

 

 それらしい石の存在は文中にあったが、それが導きの石であるとは言及されていなかった。

 

「確かに話の中では石については語られていないわ。でも、その石の役割から読む者に『導きの石』と呼ばれているそうなの」

 

「なるほど」

 

 公式では無名だけど、読者から愛称を付けられるってパターンか。

 

「でもこの話は実話を元にしているって話もあるけど、ただの作り話って言われているの。今もどっちかは分からないわ」

 

「そうなのか」

 

 俺は石を月の光に翳して観察する。

 

 

「ねぇ、キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「その、ありがとうね」

 

「ん?」

 

 俺は一瞬疑問が過ぎるも、すぐにピンと来る。

 

「お礼、まだ言ってなかったから」

 

「そういえばそうだな」

 

 寝るまでゴタゴタしていたから、確かに言う暇は無かったな。

 

「でも、本当に、いいの?」

 

「何が?」

 

「だって、本当ならキョウスケには関係の無い事なのよ。なのに」

 

「……」

 

「もちろん、嬉しいんだけど、でも……」

 

「……」

 

 まぁ、本当なら俺には関係の無い事だ。関われば何が起こるかは想像は容易い。

 

「そう、だな」

 

 俺は月を見ながら口を開く。

 

「人を助けるのに理由はいらないって言うけど……まぁ、強いて言うなら、後悔したくなかった、かな」

 

「後悔?」

 

「あぁ。君をあのまま放っていたら、俺は一生後悔していたかもしれない」

 

「……」

 

「実際、ユフィから話を聞いた時には、自分の情けなさに悔やんだ」

 

「……」

 

「まぁ、一度目を背けたやつが何を言っているんだって思うけどな」

 

 俺は苦笑いを浮かべる。

 

「でも、君を助けたいって言う気持ちは確かだ」

 

「キョウスケ……」

 

「だから、ここまでやった以上、俺は最後まで責任を負うつもりだ」

 

「えっ……それって」

 

「あぁ。俺は、君を最後まで守る。必ずな」

 

「……」

 

 するとフィリアが顔を赤くなったような気がする。別に熱いって程の温度じゃないはずだが。

 

「まぁ兎に角、もう寝たほうが良い。明日は早いぞ」

 

「え、あ、う、うん」

 

 歯切れが悪いようにフィリアは返事を返すと腰掛けていた岩から立ち上がって高機動車改へと戻っていく。

 

「……俺、何か変な事でも言ったかな?」

 

 若干ぎこちない動きに俺は首を傾げる。

 

(だが、守らないとな。何があっても)

 

 俺は心から決心する。どんな困難があろうとも、彼女を守ると。

 

 決意を固めて岩に立て掛けていた89式小銃を手にして見張りを再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ッ!!

 

 

 

 

『特殊ミッション「守るべき者」が発動しました』

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十五話 襲撃

 

 

 

 

「大分の距離を走ったな」

 

「あぁ。この先にある森を抜ければトリスタ要塞がある」

 

 朝日が昇って周囲が明るくなってから俺達は国境線を目指して高機動車改を走らせ、現在は川の近くに高機動車を止めて休憩していた。

 フィリアとリーンベル、セフィラは川の水をいくつか用意した水筒に汲んで溜めており、俺とユフィは大分遠い先にある森を見ながらその向こうにある要塞の事を話す。

 

「それで、どうやって要塞を抜ける?」

 

「そのまま通る、のはさすがに虫が良すぎるな。最初の門を抜けたとしてもどうしてもで中で止められてしまうだろう」

 

「まぁそうだろうな。ユフィ達はよくても、俺で必ず止められるからな」

 

 彼女達は騎士団の人間として止められる事は無いだろうが、部外者で尚且つ商人でもない一般人の俺は必ず止められる可能性が高い。

 まぁこのまま高機動車改で行くと確実に怪しまれて止められるだろうがな。と言っても止められても事情聴取だけで済めばいいんだが、なるべくそこで時間を食いたくないんだよな。

 

(危険は伴うが、ヘリで飛べたら楽なんだけどなぁ)

 

 飛行型魔物に襲われると言う危険性は伴うが、そうすればそれ以外に面倒ごとを起こさず山脈を突破できてエストランテに入る事が出来るのだが、無い物を強請っても仕方が無いか。

 

「最悪、要塞を強行突破しないといけないかもしれないな」

 

「……」

 

 まぁそうなっても、要塞を突破できる力はある。

 

「そうなると、君達にも銃を使って戦わなければならない」

 

 当然そのまま何も起こらずに突破できるとは思っていない。十中八九戦闘は起こるだろう。そうなれば、確実に―――

 

「分かっている。だからこそ、キョウスケ殿から銃の扱いを学んだのだ」

 

「……」

 

「覚悟は決めている。もちろん、他のみんなも」

 

「そうか」

 

 俺は顔を後ろに向けて川の水を水筒に汲んで飲んでいるフィリア達を見る。

 

(みんな覚悟を決めているのに、俺だけ決めないわけにはいかないよな)

 

 それに、これからそういう場面が増えてくるだろうし。だから、殺しに……殺シニ、慣レナイトイケナイト―――

 

「キョウスケ殿?」

 

「……いや、何でも無い」

 

 ユフィの声に俺は一瞬沈みそうになった意識が戻り、俺はそう言って高機動車改の元へと歩くと、メニュー画面を開いて弾薬を確認する。

 

(何だろう。一瞬何かが……)

 

 俺は言い知れぬ恐怖に冷や汗を掻く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「さてと、そろそろ行くか」

 

 俺は自分の89式小銃のスリングに腕を通して背中に背負いながら言う。

 

「そうだな。運転は私に任せてくれ」

 

 俺が声を掛けるとユフィが運転手を名乗り出る。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だ。少なくとも、他のみんなよりかはな」

 

『……』

 

「……」

 

 ユフィの言葉にフィリア達は視線を逸らし、俺は苦笑いを浮かべる。

 

 4人の中で運転が大分マシなのはユフィだけで、他はどうも任せられるほど安定した運転が出来ないのだ。正直乗り合わせた時はとてつもなく不安でいっぱいだった。

 免許を取ったばかりの子供が運転する車に同乗する親の気持ちが分かった気がする。

 

「それじゃぁ任せるよ。俺はキャリバーに着く」

 

 俺は高機動車改の後ろの扉を開けて中に入ると、屋根のハッチを開けて銃座に着き、12.7mm重機関銃M2のコッキングハンドルを二回引いて初弾を薬室に送り込む。

 

 フィリア達も高機動車改に乗り込んで最後に乗り込んだリーンベルが扉を閉めると、それぞれ銃器を手にすると窓を開けて銃身を外に出して臨戦体制を取る。

 

 ユフィも運転席に座ってエンジンキーを回してエンジンを始動させる。

 

「準備はいいな?」

 

「えぇ」

 

「あぁ」

 

「はい!」

 

「はい」

 

「よし。じゃぁ――――っ!」

 

 俺は周囲を確認しつつみんなに準備が出来ているか確認して返事を聞いている中、俺はとっさに空を見上げる。

 

 雲がちらほらとある青い空が広がった晴れた天気だったが、その空に黒い影が4つほど見えた。

 が、その黒い影が徐々に大きくなっていた。

 

「あれは……っ!?」

 

 やがてその影のシルエットがハッキリと見えるようになり、俺はハッとする。

 

「ユフィ! すぐに出せ!!」

 

 俺は屋根を叩きながら叫ぶ。

 

「きょ、キョウスケ殿!?」

 

「何かが来ている! 早く!!」

 

「っ!」

 

 ユフィは最初こそ驚きの声を出していたが、俺の慌てっぷりから尋常じゃないのを感じ取ってかすぐにアクセルを踏んで高機動車改を走らせる。

 

「キョウスケ! 一体何が……!?」

 

 助手席の窓からフィリアが顔を出して俺に問い掛けるが、その視線の先に映る影を見て目を見開く。

 

 するとその影が高機動車改の上を猛スピードで通り抜けると、高度を上げる。

 

「まさか、飛竜!?」

 

『っ!?』

 

 その影の正体は飛竜に騎士が跨った竜騎兵であると気付いたフィリアが驚きの声を上げるとユフィ達は目を見開き、それぞれ窓から顔を出すかサイドミラーを見て飛竜の存在に気付く。

 

「そんな!? どうして竜騎兵がここに!?」

 

「まさか、付けられていた!?」

 

「……」

 

 現れるはずが無い竜騎兵の登場に彼女達は驚きの声を上げる。

 

 彼女達が知る由も無かったが、恭祐たちが逃げた後アレン達は彼らを追跡と付近の村や町へと連絡を入れる為に二手に分かれて行動した。その時連絡班が偶然にも哨戒中だった竜騎兵を見つけて合流し、話を聞いた竜騎兵がすぐさま拠点としている街やトリスタ要塞へと向かったのだ。

 その為、恭祐達の想定よりも早く事態が動き、要塞の周囲を哨戒していた竜騎兵が恭祐達を見つけたのだ。

 

「疑問は後だ! 迎撃用意!!」

 

 俺は12.7mm重機関銃M2を飛竜に向ける。

 

 飛竜は全部で3体おり、上空を旋回しながら俺達を追いかけていた。

 

 俺は12.7mm重機関銃M2を飛竜に向けようとするが、相手の位置が悪かった。

 

「くっ! 少し仰角が足りないか!」

 

 飛竜は高機動車改のほぼ真上に位置して旋回しているため、ギリギリ12.7mm重機関銃M2の仰角範囲外に居た。

 

 すると飛竜の一体が急降下してこちらに向かって来る。

 

「右に曲がれ、ユフィ!!」

 

 ユフィは指示を出したと同時に右へとハンドルを切って高機動車改が右へと向きを変えると飛竜は左側を通り過ぎる。すぐさま俺は12.7mm重機関銃M2を向けてトリガーを押し、左側の窓からリーンベルが5.56mm機関銃MINIMIを、助手席の窓からフィリアが89式小銃を出して射撃を行う。

 

「くっ! 速い!」

 

 俺は飛竜に12.7mm重機関銃M2を向けながら射撃を行うが、予想以上に相手が速く弾が当たらなかった。

 

 飛竜が高機動車改の反対側に出ると窓から7.62mm機関銃M240Bを出しているセフィラが射撃を開始し、飛竜を牽制する。

 

 続けて2体目が急降下して高機動車改に迫るが、俺はすぐにユフィに左に曲がるように指示を出してユフィはすぐに左にハンドルを切って高機動車改を左に向けて走らせる。

 高機動車改の右上で上昇する飛竜だが、俺が12.7mm重機関銃M2を向けて牽制し、左へと向かうとフィリアとリーンベルが射撃を始める。

 

 よく見ると曳光弾混じりの弾は飛竜に命中こそしているが、5.56mmや7.62mmの弾丸は飛竜の硬い体表に弾かれている。見た目どおりに硬いみたいだな。

 

「……」

 

 俺は動き回る飛竜の動きを観察しつつターレットを回し、12.7mm重機関銃M2を向ける。

 

 そして飛竜が俺の予想した針路上に入った直前に俺はトリガーを押し、爆音と共に12.7mmの大口径弾が放たれる。

 放たれた弾は数発外れも、飛竜の硬い体表を砕いて貫通する。

 

 飛竜は血を吐き出してバランスを崩して墜落し、飛竜に跨っていた竜騎士は先に高い高度から落ちて先に地面に叩きつけられ、遅れて飛竜も地面に叩きつけられる。

 

(12.7mmなら貫通するみたいだな)

 

 通じなかったらどうしようかと思ったが、杞憂に終わったな。

 

 俺は上空を見上げて残りの飛竜を見る。

 

 残った2体の竜騎兵は一体落とされたことで警戒しているのかこちらに接近しようとする素振りを見せなかった。

 俺は飛竜2体に12.7mm重機関銃M2を向けてトリガーを押し、弾を放って飛竜を牽制する。

 

 しばらく撃つと弾薬が切れて空になった弾薬箱を手にして車内に放り込むとベルトで固定されている弾薬箱をベルトを外して蓋を取って持ち、弾薬箱受けに置いて12.7mm重機関銃M2の機関部上部のフィード・カバーを開けてベルトリンク先端をセットしてフィード・カバーを閉じてコッキングハンドルを引く。

 

 そうしている間に高機動車改は森の中へと入り、広々とした中を突き進む。

 

(このまま撤退してくれればいいんだが……)

 

 視界が遮られている以上、追跡は困難になるはずだが、こちらはフィリアをつれているのだ。さすがにそれは虫が良すぎるか……。

 

 そんな事を内心で呟いていると、木々の隙間から覗く飛竜の閉じている口から光が漏れ出す。

 

「ん?」

 

 異変に気付いて首を傾げるが、直後にハッとした。

 

「ユフィ! 避けろ!!」

 

「っ!」

 

 俺は車内に戻って大声で叫び、それを聞いたユフィはすぐにハンドルを左に切って高機動車改を左へと走らせると、さっきまで走っていた場所に何かが落ちて爆発する。

 

「くっ!」

 

 爆風で激しく揺られる中俺は見上げると飛竜の口から炎が僅かに漏れ出していた。

 

「フィリア! 飛竜って火を吐くのか!?」

 

「えぇ! ドラゴンより威力は無いけど人を木っ端微塵に出来るほどの威力はあるわ!!」

 

 俺は彼女に聞くとフィリアは大声で答えた。 

 

「マジかよ……」

 

 下手すると高機動車改でも木っ端微塵になるな。と言うかこんな所で火を使うって、正気かよ。こっちにはフィリアが居るって言うのに。

 

(俺達の手に陥るぐらいなら殺しても構わないってか!!)

 

 俺は右手を握り締める。

 

 すると飛竜は間隔を開けて火球を放って来て高機動車改の周囲に落下して爆発を起こす。

 

(くそっ! こっちの攻撃範囲外だからって一方的に!!)

 

 爆風で揺られる中俺は内心で愚痴りながら開けたハッチから火球を吐く飛竜を睨み付ける。

 

「キョウスケ様! どうするんですか! このままじゃ!」

 

 弾薬を交換しながらリーンベルが悲痛に叫ぶ。

 

「分かっている! このままやられるつもりは無い!」

 

 俺はメニュー画面を開いてとある武器を選択してそれを召喚すると、俺の両手にそれが現れる。

 

 一見すれば筒状の物体とも言えるそれは『91式携帯地対空誘導弾』と呼ばれる日本で開発され自衛隊で採用されている国産の携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)だ。携帯式防空ミサイルシステムで有名なFIM-92スティンガーの日本版のようなやつだ。

 

 すぐにシーカーの冷却を開始し、右肩に担ぐ。

 

「ユフィ! 少しの間時間を稼いでくれ!」

 

「どうするんだ!?」

 

「こいつで飛竜を撃ち落す!」

 

 俺は銃座へと戻ると、直後に火球が傍に落下して爆発し、熱い風が俺に襲い掛かって左腕で顔を覆う。

 

 ユフィはハンドルを切って飛竜二体が吐く火球をかわし続けて山の緩やかな斜面を登る。

 

 セフィラは右から追ってくる飛竜に7.62mm機関銃M240Bを向けて引金を指切りで引いて3点バーストの様に弾を放って牽制する。

 

「キョウスケ!」

 

 すると銃座にフィリアが助手席から移動して少し無理矢理入ってくる。

 

「フィリア!?」

 

「私がこれを使うから! キョウスケはそれを!」

 

「あ、あぁ。分かった!」

 

 フィリアは12.7mm重機関銃M2に着くとトリガーを押して射撃を開始する。

 

 飛竜は12.7mm重機関銃M2の銃声に接近を止めて距離を取ろうと下がる。俺はその間に91式携帯地対空誘導弾をもう一基召喚して立て掛ける。

 そしてシーカーの冷却が完了してロックオンが可能となる。

 

「よし!」

 

 俺は91式携帯地対空誘導弾を構え、TV画像シーカーに飛竜の一体を捉えると電子音と共に飛竜にロックオンする。

 

「吹っ飛べ!」

 

 引金を引くと、ミサイルがブースターで発射管から飛び出して空中でロケットモーターに点火して勢いよく飛び出す。

 

 白い煙を引いて飛んで向かって来るミサイルに竜騎兵は驚いて急旋回してかわそうとするが、その程度ではな!

 

 ミサイルはまるで意思があるかのように急旋回する飛竜に向かって針路を変えて追いかけ、飛竜に命中して竜騎兵諸共粉々に粉砕する。

 

「よし!」

 

 俺はガッツポーズをして撃ち終えた発射管を消す。

 

 正直生物の飛竜をロックオンできるか不安だったが、杞憂に終わったな。

 

「さて、残りは」

 

 立て掛けていたもう一基を手にしてシーカーの冷却を始める。

 

(にしても……)

 

 俺は完全に警戒して接近しようとしない残り一体の飛竜に狙いを定めながらふと疑問が頭の中に浮かぶ。

 

(確か飛竜は4体居たような……)

 

 最初に目撃した影は4つだったはず。だが、襲ってきたのは3体(・・)

 

(待てよ。じゃぁ残りの一体は……)

 

 疑問が脳裏を過ぎった瞬間、一瞬影が通り過ぎて俺はとっさに前方の空を見上げる。

 

 そこには岩陰から飛び出て来て急降下してくる飛竜の姿があった。 

 

「っ! フィリア!!」

 

 俺は彼女を無理矢理車内に押し込むと、直後に左肩から鋭い痛みが全身に走り、車内へと倒れ込む。

 

「キョウスケ!?」

 

 突然車内に押し戻されてフィリアは何事かと思ったが、直後に恭祐が倒れてくる。

 

「どうしたの!? 一体何が――――」

 

 すぐに彼の肩に手を当てるが、その瞬間ヌチャリと生暖かい感触が彼女の手に伝わる。

 

「え?」

 

 フィリアは肩を置いた手を見ると、掌には赤い血が付着していた。

 

 恐る恐る恭祐を見ると、彼の左肩が裂けてそこから血が流れ出ていた。

 

「キョウスケ様!?」

 

 異変に気付いたリーンベルはすぐにキョウスケの傷口を見る。

 

「くっ!」

 

 セフィラは7.62mm機関銃M240Bを手放してすぐに銃座に着くと12.7mm重機関銃M2を空に向けて放つ。放たれた弾は先ほど急降下した飛竜とそれに跨る竜騎兵に命中してバラバラに粉砕される。

 

「キョウスケ! しっかりして!」

 

「う、うぅ」

 

 フィリアが声を掛けると恭祐は苦しげに声を漏らす。

 

「一体何があったの!?」

 

「飛竜だ。一体が急に岩陰から現れたんだ!」

 

 運転しながらユフィが答えた。

 

「そんな。まだ居たの?」

 

「お、恐らくあいつら、一体を先回りさせて、いたんだ」

 

「先回り?」

 

「あぁ。最初に見えた影は、4つだった。だが、襲ってきたのは3体だ」

 

「っ!」

 

「くそっ」

 

 俺は左肩からする激痛に耐えながら立ち上がる。

 

「キョウスケ様! その傷では!」

 

「この程度、大丈夫だ」

 

 俺はセフィラと交代して91式携帯地対空誘導弾を担いで銃座に戻り、点検をして異常が無いのを確認する。

 

 シーカーの冷却は終えており、ロックオンすればいつでも発射できる。

 

「……」

 

 しかし激痛や別に何かからか91式携帯地対空誘導弾を担いでいる腕は震え、支えている左腕に力が入らずうまく照準が定まらない。その上残った飛竜は派手に動き回っている為に余計に定まらなかった。

 

(くそっ。時間を取られるわけには……)

 

 このままやつを逃がせば俺達が要塞の近くまで来ているという事を知られてしまう。そうなれば要塞から騎士の大群が押し寄せてくるなど予想は容易い。

 

 

「キョウスケ」

 

 すると震えている右手と力が入らない左手に手が添えられる。

 

「……っ?」

 

 俺が声がした方に顔を向けると、フィリアが91式携帯地対空誘導弾を持つ俺の手に自分の手を添えて支えていた。

 

「私が支えてあげるから、それで狙える?」

 

「……あぁ」

 

 彼女に支えてもらっているお陰で震えが止まり、飛竜を狙いやすくなった。

 

 

 ……最も、ちょっと狙いづらくなったかもしれないが。

 

(こんな時に意識するなよ……)

 

 俺はある感触に戸惑い、微妙な心境だった。

 

 現状を説明すると、91式携帯地対空誘導弾を担いで構えている俺にフィリアが寄り添って支えているのだ。その上銃座は狭いから、必然的に彼女の身体が密着しているわけで。

 まぁつまり何が言いたいのかと言うと、彼女のご立派なアレが身体に押し付けられているのだ。気になってしょうがない。

 

 俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、TV画像シーカーに残った飛竜を捉え、電子音と共にロックオンが完了する。

 

「あばよ」

 

 引金を引くと、ミサイルがブースターで発射管から飛び出して空中でロケットモーターに点火して勢いよく飛び出す。

 

 飛竜は向かって来るミサイルに気付いてすぐにかわそうとするも、俺は91式携帯地対空誘導弾を車内に押し込んで12.7mm重機関銃M2に着き、フィリアが支えて射撃を開始する。

 

 竜騎兵は弾が傍を通った音に驚いて動きを鈍らせるが、その間にミサイルが一直線に飛竜に向かって行き、ついに命中して爆散する。

 

「……やったぜ」

 

 俺は思わずニヤリとするが、直後に左肩から思い出すかのように激痛が走り、後ろに倒れそうになるがフィリアが支えて倒れるのを防ぐ。

 

「大丈夫?」

 

「あ、あぁ。なんとかな」

 

 とは言っても、このまま放って置けるほどの軽い痛みじゃないんだけどな。それに、ちょっと痺れが出てきた。

 

「ユフィ!」

 

「分かっている!」

 

 ユフィは返事を返すとハンドルを切って下り坂へと向きを変えて下りる。

 

「……」

 

 一抹の不安が胸中に渦巻き、俺は空を見上げた。

 

(こいつは、かなり面倒な事になりそうだな)

 

 内心呟きながらこれから起こりうる状況を想像する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ッ♪

 

 

 

 レベルが30に上がりました。

 

 車輌召喚項目に『装輪装甲車』がアンロックされました。

 

 

 

 

 

 



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第二十六話 これを開発した技術者達はまさかこんな異世界でこれが実戦を経験するとは思いもしなかっただろうな

 

 

 

 

「癒しの光よ。この者の傷を癒したまえ」

 

 セフィラが呪文を唱えると両手から青い光が発せられ、飛竜の爪で切り裂かれた俺の左肩の傷に注がれる。

 

 少しして光が収まると、俺の左肩にあった傷口がほとんど塞がっていた。

 

「これで傷はある程度塞がりましたが、あくまでもある程度ですので、無茶はなさらないように」

 

「それでも、十分だ」

 

 俺は新しく出したシャツを着ながら答える。

 

 しかし、フィリアの時も見たとは言えど、改めてファンタジーな世界だなって思う。こうして自分で受けると治療魔法の凄さを実感する。

 

 現在俺達は要塞付近の森の中に潜み、休憩と共に俺の怪我の治療を行っていた。

 

「それにしても、不思議ですよね」

 

「何がだ?」

 

 5.56mm機関銃MINIMIに取り付けたドットサイトを覗きながらリーンベルが呟く。

 

「飛竜の爪には毒があるのよ。別に強い毒ってわけじゃ無いけど、身体の自由を奪うぐらいはあるわ。それで野生の飛竜は獲物の自由を奪って狩りをするのよ」

 

 USPを弄りながらフィリアはリーンベルが疑問に思っていることを代弁し、スライドを引いて手放して安全装置を掛けて右太股に装着しているレッグホルスターに挿し込む。

 

「そうなのか。だが、飼っていても残しておくと危険じゃないか?」

 

「普段休ませている時は爪を覆う袋を被せているからな。もちろんさっきの様に出る時は外しているが」

 

 俺の疑問にMSG90を構えたり下ろしたりを繰り返しているユフィが答える。

 

「なるほど」

 

 納得しながら迷彩服3型の袖に腕を通してボタンを閉じる。

 

「でも、引っ掛かれただけなので命に関わるほどは無いのですが、それでも身体の痺れぐらいはあるはずなのですが」

 

 俺から離れて7.62mm機関銃M240Bを抱えると、愛おしそうに撫で始めるセフィラが疑問の声を漏らす。

 

「ふむ」

 

 俺はマガジンポーチを付けているサスペンダーとガンベルトを組み合わせたチェストリグを装着すると、自分の手を開けたり閉じたりする。別に痺れは無いし、普通に動かせる。

 

(身体に異常は無い。やはり、身体精神異常無効のスキルによるものか)

 

 恐らく毒が対して効かなかったのは、この世界に転生した時に神から貰ったスキルのお陰だろう。

 

「たまたま毒が少なかったんだろう」

 

「そうでしょうか?」

 

「こうして俺は身体に異常が無いんだ。それ以上追求する必要はないだろう?」

 

「……」

 

(異常が無い、か)

 

 ふと俺は内心呟く。

 

 そういえば、俺、また人を殺したんだよな。

 

 91式携帯地対空誘導弾を竜騎兵に向けて放ち、飛竜諸共粉々の肉片にして撃ち落した。

 

(なのに、何も感じない)

 

 今の俺には、何の実感も湧かなかった。人を殺したと言う、実感が。

 

(いや、今はそんな事を気にしている場合じゃない)

 

 俺はそう自分に言い聞かせるように内心呟き、気持ちを切り替える。

 

「それにしても、どうして竜騎兵があんな所に現れたんでしょうか」

 

 5.56mm機関銃MINIMIを置いてから水筒に入った水を飲んで蓋を閉めたリーンベルがその事を口にする。

 

「大よそ現場から近い村や町に連絡しようとしたどこかの班が竜騎兵を見つけて合流し、その後情報が行き渡って警戒していた、と言った所だろう」

 

 俺は予想を呟きながら水筒に入っている水を飲む。

 

(しかし、こんな時に戦闘糧食があればなぁ)

 

 空腹を感じながら水筒の蓋を閉めて俺は内心で呟く。

 

 現状どういうわけか戦闘糧食の召喚が出来ないで居た。こういう時の場面で必要なのに。まぁ無い物を強請っても無い物は無いんだが。

 

「フィリア。竜騎兵って言うのは、常に飛んでいるのか?」

 

「えぇ。確か一定時間周囲を哨戒していたはずよ」

 

「その哨戒中の竜騎兵に事態を知らせたのか。余計な事を」

 

 忌々しそうにユフィは舌打ちをする。

 

「この様子だと、要塞にも既に知られて警戒体制が敷かれていることだろう。まぁだからさっきの竜騎兵が飛んでいたんだろうがな」

 

「……」

 

「どうするんですか、キョウスケ様?」

 

 不安な表情を浮かべながらリーンベルが俺に問い掛ける。

 

「どうするも何も、穏便で済ませるプランAは出来なくなった。出来ればプランBはやりたくなかったが、現状ではやらざるを得ない」

 

「……」

 

「一応お聞きしますが、プランBとは?」

 

「単純に要塞を強行突破する」

 

「ですよねー」

 

 リーンベルは苦笑いを浮かべる。

 

「恐らくは、いや、確実に激しい戦闘が予想される。気を引き締めてやるしかない」

 

『……』

 

 俺の言葉に誰もが決意の表情を浮かべる。

 

「それで、強行突破と言っても、作戦自体はあるの?」

 

「いや、無い」キッパリッ

 

「……」

 

 俺の返答にフィリアは唖然となる。

 

「要塞の内部がどんな配置、構造をしているのかが分からない以上、作戦の立てようが無いからな」

 

 いくらこちらには強力な現代兵器があると言っても、警備が厳重で強固な要塞を突破するのは容易ではない。ましても戦力が少な過ぎる。

 まぁ、今ならそれほど難しいという事は無い、かもしれない。

 

「……それらが分かれば、作戦は立てられるのか?」

 

「ん? あぁ。作戦と言えるものかどうかは分からんが、少なくとも要塞を突破する算段は思い浮かぶはずだ」

 

「そうか。それならば、私が要塞の事を知っている」

 

「本当か?」

 

「本当よ。ユフィは一時期あの要塞に居たから」

 

 俺の疑問にフィリアが答える。

 

「なるほど。じゃぁ早速だが、要塞の内部はどういった構造になっている?」

 

「あぁ。要塞は山脈に開いた場所に壁を周囲に設けて、リーデント側とエストランテ側にそれぞれ門がある。それは他の国境線にある砦や要塞と同じだが、トリスタ要塞だけは異なる部分がある」

 

「と言うと?」

 

「あそこには大きく開けた裂け目があってな。だから橋が掛かっているのだが、橋は渡る時以外は常に上げられた状態だ」

 

「ふむ」

 

「だが、逆に言えばそれだけだ。それ以外は特別複雑な構造をしているわけではない」

 

「……」

 

 つまり、注意すべき点はその裂け目と橋と言う事か。

 

「何か気になる所はあるか?」

 

「あぁ。その橋はどっち側にあってどっち側に掛けられる?」

 

「リーデント側に橋はある。そこからエストランテ側に橋を掛けられる」

 

「そうか。もしこれが逆だったら難しい事になっていたが、これで突破は夢じゃないな」

 

 俺の言葉にリーンベルとセフィラの表情に希望が満ちる。

 

「ちなみに聞くが、その橋は何で繋がれている?」

 

「鎖だ。それも相応の橋を支えるためにかなり大きいやつだ。だから並大抵の方法では破壊は困難だぞ?」

 

「それについては問題ない。破壊する方法はある」

 

「そうなのか? まぁそれはいいとしても、要塞とあって戦力は多いぞ?」

 

「分かっている。だが、その程度問題にならない」

 

「……」

 

「出来ればこんな形で使いたくは無かったが、今は出し惜しみをしている場合じゃないからな」

 

 俺はメニュー画面を出すと、召喚項目を広げる。その光景をフィリア達は興味深く見つめる。

 

 そして召喚項目にある『装輪装甲車』を選択して広げ、その中にあるやつの名前に触れる。

 

 レベルが30に上がったことによって、召喚できる項目に装輪装甲車が追加された。そしてその中には、『ソレ』があった。

 正直ソレは代物が代物とあって無いかと思っていたから、正に棚から牡丹餅を得たようなものだった。

 

(別にこいつを使わなくても96式装輪装甲車で事足りるかもしれないが、万が一の事があるからな)

 

 最も高機動車改でも十分と思うが、こっちはこっちで不安要素が多い。だからあれを使う。

 

 俺はそれを選択し、召喚すると目の前に『ソレ』が現れる。

 

「こ、これって!?」

 

「お、大きい!?」

 

「これは」

 

 フィリア達は現れた『ソレ』に驚きを隠せずそれぞれ声を漏らす。

 

 何せそれは高機動車改より大きく、タイヤの数も多い。何より形がまるで違うのだ。

 

「驚くのも無理は無いが、作戦を伝える」

 

 俺は驚いている彼女達に先ほど思いついた作戦を伝える。

 

 

「何て大胆な」

 

「……」

 

「……」

 

「時間との勝負な作戦ですね」

 

「あぁ。作戦に掛かる時間によって、成否が左右される」

 

 俺の伝えた作戦に彼女達は唖然となる。

 

「みんなには今からトレーニングモードでこれの扱い方を学んでもらう。特にフィリアとセフィラ、リーンベルにはな」

 

 これから行う作戦上俺とユフィは基本あれを扱う事は無いので、3人を中心に扱い方を学んでもらう。

 

「じゃぁ、いくぞ」

 

 俺はトレーニングモードを起動させ、周囲の事もあるので短時間で尚且つ緻密に彼女達に『ソレ』の扱い方を教えた。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 時間は下り、場所は変わってトリスタ要塞。

 

 

 リーデント王国とエストランテ王国の国境線に沿うように聳え立つ山脈に唯一開けた場所に立てられた要塞は四方を分厚い石壁に囲われ、その中心には深く巨大な裂け目があってリーデント王国側に橋が設置されているが、その橋は鎖につながれて上に上げられていた。

 

 

「……」

 

 要塞にある建物の一室では、アレンが不機嫌そうに腕を組んで椅子に座っていた。

 

「おい。警戒に向かった竜騎兵はまだ戻ってこないのか」

 

「え、えぇ。まだ戻ってきません」

 

「チッ。飛竜を使っておいて、使えないやつらだ」

 

 舌打ちをして一層機嫌を悪くする。

 

「ガーバイン様。ヘッケラー様を攫った者達は、ここに来るのでしょうか」

 

「やつは必ず来る。逃げた方角もそうだが、あそこから国境線に近いのはここだけだからな」

 

「そう見せかけて、反対側へ遠回りしている、とは考えられませんか?」

 

「確かにやつらの乗っている馬車の様な箱の足は速い。が、故に目立つ。そんな物を使って遠回りすれば場所を教えるものだ。平民と言っても、間抜けではないだろう」

 

 アレンはそう言うが、実際恭祐は高機動車改が目立つのもあるが、距離もあったので最短距離を選択したので、あながち間違いと言うわけではなかった。

 

「……」

 

 そう言うアレンに騎士は不安を覚える。

 

(さぁ、来るなら来い。ここには多くの騎士と飛竜、それを操る竜騎兵が居る。お前がどれだけ腕の立つ冒険者でも、突破するのは不可能だ)

 

 アレンは内心で呟き、邪悪な笑みを浮かべる。

 

 確かに、普通ならこんな厳重な砦を突破するのは困難を極める。それこそ多くの戦力が必要とされるだろう。

 

 

 

 そう、普通(・・)なら……。

 

 

 

 

 ――――ッ!!

 

 

 

 

『っ!?』

 

 突然耳を劈くような大きな音がしたかと思うと辺りが小さく揺れる。

 

「な、なんだ!?」

 

 アレンは立ち上がって外に出る。

 

 すると門の方で黒煙が上がっており、周囲では騎士達が動き回っていた。

 

「な、何が起きて――――」

 

 アレンが言い終える前に、裂け目の向こうにある建物のトンネルから、何かが出てきた。

 

「な、何だアレは!?」

 

 見た事の無い物体にアレンは驚きを隠せなかったが、ソレの頭がこっちを向いたその直後轟音がした、と言うことを認識した途端アレンの意識は途切れた。

 

 

 

 



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第二十七話 要塞突破作戦

 

 

 

『……』

 

 ガタガタと揺れる中俺は狭いそこでユフィと共にその時を待つ。

 

「それにしても、ここは狭いな」

 

「仕方無い。元々これらを置いておくのが主な目的の場所だからな。それに素早く降りるとなると、ここしかない」

 

「そうは言っても、こんな物騒な物の傍に居るのは、落ち着かないぞ」

 

 そう文句を口にしながら隣にある物体を見る姿を見て俺は苦笑いを浮かべる。

 

 俺とユフィが居るのは多目的スペースだが、基本そこは弾薬庫となっており、俺達が座れるだけのスペースを確保している以外は砲弾がぎっしりと詰められている。

 

「まぁ、何かあったら俺達は確実に死ねるな」

 

「……」

 

 ユフィは息を呑みながら、右太股につけているレッグホルスターよりUSPを取り出し、スライドを引いて手放して初弾を送り込み、レッグホルスターに戻す。

 次に傍に置いているMSG90を手にし、コッキングハンドルを引いてボルトを回して溝に引っ掛け、傍に置いているマガジンを手にして前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを叩いてボルトを戻して初弾を薬室に送り込む。

 

 俺もレッグホルスターよりUSP(カスタム)を取り出してスライドを引いて手放して初弾を送り込んでからレッグホルスターに戻す。

 次に89式小銃を手にしてマガジンをマガジンポーチから取り出して挿し込み、コッキングハンドルを引いて初弾を薬室に送り込む。

 

『キョウスケ、ユフィ。そろそろ要塞に着くわ』

 

「分かった」

 

 耳に付けている通信機からフィリアの声がして返事を返す。

 

「いよいよ、だな」

 

「あぁ。案内は頼むぞ」

 

「任せろ」

 

 ユフィと言葉を交わしてから俺は狭いスペースを移動して戦闘室に顔を出す。

 

「セフィラ。弾は榴弾を主に装填してくれ。俺達が出た後は機関銃を主に使い、たまにリーンベルに撃たせる為に榴弾を込めろ」

 

「了解しました」

 

「リーンベル。砲弾が装填されていない時は同軸機銃か砲塔上のキャリバー(ブローニングM2重機関銃)を使え」

 

「分かりました」

 

「フィリアは常にこいつを動かしてくれ。間違っても、裂け目に落ちるなよ」

 

『分かっているわ』

 

 運転席に居るフィリアに伝えてから俺は再び多目的スペースに戻る。

 

 

 さて、そろそろ説明すべきだろう。俺達が今乗っているのはまるで装甲車に戦車の砲塔と主砲を載せたかのような形状をした『16式機動戦闘車』と呼ばれる、陸上自衛隊で採用された最新鋭の車輌だ。

 まるで96式装輪装甲車の車体にレオパルド2A6の砲塔に似た形状の砲塔を載せたような姿をしているそれは国産の105mm砲を採用しており、諸外国の似たような構造をしている装甲車の砲と異なり、この16式戦闘機動車の砲はフルスペックの戦車砲を搭載している。なので74式戦車の主砲の砲弾と共有化が出来る。しかもこの16式機動戦闘車は似た構造の装甲車と違い、なんと反動を受け止めるのが難しい横向きでの行進間射撃を行う事が出来ると、キチガイ染みた性能を持っている。

 たまに日本は度肝抜く物を作るよな。

 

 

 緩やかの傾斜のある平らな道を16式機動戦闘車が走り、トリスタ要塞の門が見えてくる。恐らく向こうはこちらの存在に気付いているはずだ。

 

 セフィラは弾薬庫より榴弾を軽々と取り出すと戦車砲の薬室に押し込み、砲尾を閉じる。

 

「……」

 

 リーンベルはモニターを覗き主砲を門の扉に向ける。

 

『今よ!』

 

「っ!」

 

 フィリアの合図と共にリーンベルは引金を引くと、異世界で初めて戦車砲が吠えた。硝煙を纏った空薬莢が排出される中、放たれた砲弾は門に直撃して爆発し、門の前で警護していた騎士二人が爆風で吹き飛ばされ、破片を身体中に受けて絶命する。

 セフィラはすぐに2発目の榴弾を装填し、リーンベルはすぐに引金を引いて榴弾を放つ。榴弾は破壊された門に命中して爆発し、扉は完全に吹き飛んだ。

 リーンベルはすぐに砲塔を180°旋回させて主砲を真後ろに向け、その間にセフィラが榴弾を装填する。

 

 フィリアはアクセルを踏み込み、16式機動戦闘車の速度を上げて走らせ、壊れた門に突っ込ませて要塞に侵入する。

 

 中では先ほどの砲撃に騎士たちが慌てふためいていたが、16式機動戦闘車が現れたことで更に混乱していた。

 

 リーンベルは砲塔を旋回させつつ7.62mm機関銃M240Bに変更した同軸機銃を放ち、騎士達を牽制する。そして主砲を正面に向けると建物にあるトンネルを閉じている扉に向けて引金を引き、榴弾を放つ。放たれた榴弾は扉に直撃して爆発し、扉を粉々に粉砕する。

 

 そのまま建物にあるトンネルに突っ込み、その途中で停車する。

 

「いくぞ!」

 

 俺は扉を開けて16式戦闘機動車の車体後部から降りるとすぐに89式小銃を構えて周囲を警戒し、続けてユフィが降りてきてMSG90を構える。

 

「フィリア。思う存分暴れて来い!」

 

『分かったわ!』

 

 16式機動戦闘車は搭載しているディーゼルエンジンを唸らせて走らせる。

 

「こっちだ!」

 

 ユフィはトンネル内にある扉に向かって開け、俺が先に入るとユフィが後に続いて扉を閉める。

 

 

 

 恭祐達が別行動を取った後、フィリアは16式機動戦闘車を前進させて閉められていないトンネルから出す。

 

 リーンベルは建物に向けて砲塔を旋回させて砲身を上げ、引金を引く。轟音と衝撃波と共に榴弾が放たれて建物に命中して爆発を起こす。

 ちなみにその建物にはアレンが居て、出てきたところに榴弾が彼の居る階の下の部屋に命中して爆発を起こしていた。

 

「セフィラ! リーンベル! 相手の視線をこっちに向けさせる為に派手に暴れるわよ!」

 

『了解!』

 

 彼女の指示に二人は返事を返し、セフィラは榴弾を装填して砲尾が閉じるのを確認してからわざわざ車長用のハッチを開けて上半身を出し、備え付けられている12.7mm重機関銃M2のコッキングハンドルを二回引き、トリガーを押して銃撃を始める。

 同じくリーンベルも同軸機銃を放ってクロスボウを持つ騎士を排除する。

 

 フィリアはブレーキを踏んで停車させると、ギアをバックに入れて16式機動戦闘車を後退させる。その間セフィラは12.7mm重機関銃M2を撃ちながらフィリアに後方の情報を伝えて衝突を回避させる。

 

 

 

 扉を開けた俺は隙間から敵が居ないのを確認して扉を開けて89式小銃を構えて周囲を警戒し、その間にユフィが出てきて扉を閉め、俺が見ている方向とは反対側をMSG90を構えて警戒する。

 

「右に曲がった先に橋を繋いでいる鎖の巻き上げ機を設置している部屋がある」

 

「そうか。じゃぁ、さっさと済ませるぞ」

 

「あぁ」

 

 周囲を警戒しつつ通路を進み、曲がり角で止まり角の陰からこっそりと向こうを覗く。

 

 そこには騎士が数人ほど警戒しており、外の様子を見ていた。

 

「どうだ?」

 

「騎士が何人も居る。こりゃどっかに行くのを待っている暇は無いな」

 

「そうか」

 

 ユフィは気を引き締めるように深呼吸をする。

 

「こいつを使った後、一気に行くぞ」

 

「分かった」

 

 俺はチェストリグに下げているM26破片手榴弾を手にしながらユフィに伝えると、彼女は頷く。

 

「……」

 

 89式小銃をスリングで吊るして右手に持ち替えると、安全レバーを押さえながら左手で安全ピンを抜き、もう一度角の陰からこっそりと覗いて騎士の位置を確認する。それから指で安全レバーを弾いて角の陰に隠れながらM26破片手榴弾を投げ込み、角の陰に隠れる。

 

 直後にM26破裂手榴弾が爆発し、同時に生々しい音と共に悲鳴が上がる。

 

「行くぞ!!」

 

 俺とユフィは同時に角の陰から跳び出し、それぞれの得物を構える。

 

 目の前には手榴弾の爆発によって飛散した破片で足が吹き飛んで床でもだえ苦しむ騎士が居たが、中には血だらけになりながらもまだ立っているやつもいた。

 

(恨むなよ!)

 

「何だ貴s―――」

 

 騎士が言い終える前に俺が引金を引き、銃声と共に放たれた弾は騎士の頭を撃ち貫き、その場に倒れる。

 

 続けてユフィもMSG90の引金を引き、89式小銃より大きな銃声と共に弾が放たれ、剣を抜こうとした騎士の頭を大口径の弾が貫き、後頭部で小さく爆発が起きて後ろに倒れる。

 

「ひっ!?」

 

 突然の事に生き残った騎士は逃げ出そうとするが、俺はすぐさま狙いをつけて引金を引き、銃声と共に放たれた弾は騎士の後頭部へと吸い込まれ、そのまま両目の間から弾が突き抜けて命を刈り取った。

 

 一瞬、ほんの一瞬で立っていた騎士は全滅し、まだ息があり倒れている騎士に俺とユフィは頭と胸に一発ずつ銃弾を撃ち込んで確実に仕留める。

 

「……」

 

 俺は余計な事を考えずに恐怖の色に染まった表情を浮かべて命乞いをしながら後ずさりをする騎士に89式小銃を向けて引金を引き、騎士の額を撃ち抜く。

 隣でもユフィが左手にMSG90を持って右手にUSPを持ち、一人一人頭を撃ち抜く。

 

「……終わったな」

 

「あぁ」

 

 俺が呟くと、ユフィは短く返した。

 

「だが、さっきの銃声でここに騎士達が来るぞ」

 

「分かっている。手早く済ませる」

 

 俺は扉に向き直ると、思い切って蹴りを入れて扉を破壊し、中に入る。

 

「こいつか」

 

 部屋に入るとそこには巨大な鎖の巻き上げ機が2基部屋の左右に配置されており、鎖を通す穴からは上げられた状態の橋が見えた。

 

「しかし、どうやってこれを破壊するつもりだ? 16式機動戦闘車の主砲で吹き飛ばした方が」

 

「いや、それより確実性のある代物だ。尤も―――」

 

 俺はそう言いながらメニュー画面の召喚項目より特殊な代物の項目を開き、それらを数量召喚する。

 

「こいつの破壊力はあるが、いかんせどれだけ威力があるのかが分からないのが欠点でな」

 

「なんだ、それは?」

 

 それを見たユフィが疑問の声を漏らす。

 

 まぁ見た感じ四角い物に糸状の物体がいくつもあり、それに繋がる別の四角い物体がくっ付いた何かだからな。

 

「こいつはC4と呼ばれる爆薬だ。それぞれ1kgある」

 

「シーフォー? それに、バクヤク?」

 

 初めて聞く単語にユフィは疑問の声を漏らす。そういや火薬の類がこの世界にはまだ無かったんだっけ。

 

 C4とは映画やゲームでは有名なプラスチック爆弾で、威力のある爆薬で知られる。粘土の様な軟らかさがあるので色んな形にしたり固形爆弾では設置が難しい場所に使用できる爆薬だ。更に安定性が非常に高く、強い衝撃を与えても爆発せず、火を付けてもただ燃えるだけで、確実に爆破させるには起爆装置と雷管が必要となる。

 ちなみにC4は甘い香りがして、甘い味がすると言われるが、主成分に毒性があるので中毒症状を起こしてしまう。実際ベトナム戦争では米軍が、日本では陸上自衛隊で訓練にて教官がC4を訓練生に舐めさせて24人を病院送りにしたという事が起きている。

 

「話は後だ。ともかくこれを左右に3つずつ貼り付けてくれ」

 

 つまり片方だけでC4を3kg使用しているのだ。ちょっと多すぎかもしれないが、鎖の太さと大きさからもしもの事があるので、多すぎなぐらいがちょうどいい。

 

「わ、分かった」

 

 俺の説明を聞いたユフィはすぐにC4を手にして鎖に貼り付ける。

 

「貼り終えたぞ」

 

「よし。すぐに逃げるぞ。こいつは威力があるから遠くに逃げないと巻き込まれる」

 

 そう言って俺とユフィは部屋の外に出て通路を走る。

 

「フィリア! 仕掛けを設置した。今から言う場所にヒトロクを来させてくれ!」

 

『分かったわ!』

 

 フィリアに通信を入れて俺とユフィはその場所に向かう。

 

 だが曲がり角を曲がった時、先ほどの騒ぎに駆けつけようとした騎士達と鉢合わせする。

 

『っ!』

 

 俺は向かって来る騎士を銃床で殴りつけて床に倒すと、素早く89式小銃を構えてセレクターを(単射)から(3点バースト)に切り替えて引金を引き、弾を3発連続で放つ。

 放たれた弾は騎士達の身体を撃ち抜いて後ろに倒れる。

 

 俺の後ろでユフィがMSG90を向けて引金を連続して引いて騎士達の胸を撃ち抜く。

 

 放たれた銃弾を受けた騎士達は次々と倒れていくが、中には銃弾を受けてもこちらに向かって来る騎士も居たが、ユフィのMSG90が放った弾が頭を撃ち抜いて後ろに倒れさせる。

 

「……」

 

 ちょうどマガジンに入っていた弾を撃ち切ってボルトが開いた状態で止まり、鉢合わせした騎士達は全滅した。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 俺は息を止めていたとあって、呼吸が少し荒くなっていたが、次第に落ち着いてくる。

 

「……」

 

 隣のユフィも呼吸が荒れていた。

 

「ユフィ。大丈夫か?」

 

「あ、あぁ。大丈夫、とは言い切れんな。だが、私は戦える」

 

 俺が問い掛けるとユフィは若干疲れ切った様な表情を浮かべるも返事を返した。と言っても、身体的な疲れではなく、精神的な疲れだろう。まぁそれは俺も同じだがな。

 何せ目的の為、自身を守る為とは言えど、多くの人間を殺して気分が良くなる筈が無い。その上血の臭いが精神的に来る。少しでも気を緩めたら、呑まれそうだ。

 

 お互いに大丈夫かどうかを確認し、俺は空になったマガジンを手にしながらマガジンキャッチャーを押して外し、腰のベルトに提げているダンプポーチに放り込んでマガジンポーチからマガジンを取り出して挿し込み、ボルトストップを解く。

 ユフィもボルトを引いて回してから溝に引っ掛け、マガジンキャッチャーを押しながらマガジンを外して腰に提げているダンプポーチに放り込み、マガジンポーチからマガジンを取り出して前端を引っ掛けながら差し込むみ、コッキングハンドルを叩いてボルトを戻す。

 

「急ごう」

 

「あぁ」

 

 マガジンを交換し終えて俺達は先に進む。

 

 



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第二十八話 油断と慢心

 

 

 

 

 それから騎士と何度も鉢合わせをする度に銃を発砲して仕留めてから進むを繰り返し、合流予定の場所に着く。

 

 俺が窓から手を出して振るうと裂け目前で動き回っていた16式機動戦闘車がこちらにやってきてちょうど窓の下に停車すると、砲塔を右に旋回させてセフィラが12.7mm重機関銃M2を、リーンベルが同軸機銃の7.62mm機関銃M240Bを放って接近を試みる騎士とクロスボウを放つ騎士を牽制する。

 

「ユフィ。先に行け。援護する!」

 

「分かった」

 

 俺が左右を警戒しながら別の窓から89式小銃を出してクロスボウを持つ騎士に向けて発砲して牽制し、ユフィに先に行くように言うと彼女は頷いてMSG90を背負い、窓から飛び降りて16式機動戦闘車の砲塔に着地してハッチを開けて中に入って一旦ハッチを閉める。セフィラはそれを確認した後射撃を止めて車内に戻る。

 

 それを確認してから89式小銃の被筒下部に取り付けているM203を塀の上でクロスボウを構える騎士に向けて引金を引き、装填していた榴弾を放って騎士が立っている塀の壁に着弾して爆発を起こして騎士が後ろに倒れて尻餅を付く。

 M203の銃身のロックを外して前にずらし、空薬莢を排出してから銃身を元の位置に戻し、俺は窓から飛び降りて砲塔上に着地すると、すぐに89式小銃を構えて16式機動戦闘車に近付く騎士に向けて発砲して牽制する。

 数発撃った後にM203の銃身ロックを外して前にずらし、催涙弾をポーチより出して銃身に装填して元の位置に戻すと、騎士達に向けて引金を引いてボンッと言う音と共に催涙弾が放たれて地面に落下し、直後に催涙ガスを噴出させてガスを吸った騎士達はむせ返る。すぐに銃身のロックを外して前へとずらし、空薬莢を排出して催涙弾を装填して銃身を元の位置に戻し、催涙ガスが舞う場所に向けて引金を引いて更に一発放つ。

 

「フィリア! 出せ! あそこから出来るだけ離れるんだ!」

 

 俺の合図で16式機動戦闘車は前進して俺は後ろに身体を持っていかれそうになるも何とか耐えて車長用のキューポラハッチを開けてセレクターを(安全)にした89式小銃を中に入れてから中に入る。

 

 16式機動戦闘車は鎖の巻き上げ機がある建物から可能な限り離れていき、要塞の塀まで下がった。距離的にまだ近いかもしれないが、仕方がない。

 

「まだ近いと思うが、やるしかない。総員耳を塞いで口を開けて対ショック姿勢!!」

 

、俺は全員に向かってそう叫び、耳を両手で塞ぎ、口を開けて耳を塞ぎながら起爆装置を二回押すと、橋に繋がれている鎖が出ている建物の一室から大爆発が起きて、その爆発と衝撃波は建物そのものを破壊し、多くの破片が宙を舞う。

 

 その際に起きた衝撃波が辺りにある物全てを蹴散らしていき、その衝撃波で騎士達の大半が吹き飛ばされ、破片の直撃を受けて命を落とした者は運が良いが、運が悪い者はそのまま裂け目へと落ちていく。爆心地に近かった者は大きな破片の直撃を受けて原形を留めない肉塊と化した。

 そして可能な限り離れていた16式機動戦闘車も例外ではなく、その衝撃波が襲い掛かる。

 

「っ!!」

 

 その衝撃波は26tある16式機動戦闘車をひっくり返らんばかりに大きく揺らし、俺は車長用のキューポラに両手を付いて踏ん張る。

 

 

 

「……」

 

 キーンとする耳鳴りに襲われながらも俺はキューポラハッチを開けて外に上半身を出す。

 

 爆心地となった建物は完全に崩壊してクレーターを作っており、周囲の景色が大きく変化していた。

 

「橋は……」

 

 俺は橋があった方向を見ると、橋は爆発時の衝撃波で倒れて裂け目の向こう側に掛かっており、橋は何とか無事だった。

 

「今だ! 行け!」

 

 俺の声に遅れて16式機動戦闘車が前進する。

 

 16式機動戦闘車が橋の方へと向かう中、俺は12.7mm重機関銃M2を裂け目の向こう側で奇跡的に生き残っていた騎士に向けて放つ。大口径の弾を身体のどこかに直撃した騎士は次々と血飛沫を上げて倒れる。

 

 16式機動戦闘車は橋の上を通っていくが、その際に橋から大きく軋む音がして一瞬車体が沈んで傾いたが、何とか向こう岸に渡り終える。

 

(一瞬橋が沈んだ時はゾッとしたが、何とかなったな)

 

 爆風と衝撃波で橋が脆くなってないか不安だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 

 俺は安堵の息を吐きながらも12.7mm重機関銃M2のトリガーを押し続ける。

 

「リーンベル。砲撃用意!!」

 

『了解!』

 

「セフィラ! 榴弾装填!」

 

『了解!!』

 

 リーンベルとセフィラに指示を送りながらメニュー画面を操作してそれを召喚する。

 

 それは筒状の物体の先端に弾頭を付けた様な形状をした110mm個人携帯対戦車弾こと『パンツァーファウスト3』である。

 

 俺は110mm個人携帯対戦車弾を担いで迫る門に向ける。本当なら弾頭先端にあるプローブと呼ばれる信管を伸ばすのだが、貫徹させる目的ではないので問題は無い。

 

「……」

 

 照準機を覗いて狙いを定め、セーフティーを外して引金を引くと、後方から勢いよくガスが噴出して一瞬の内に放たれた弾頭は門に衝突して爆発する。

 

「撃て!!」

 

 俺は撃ち終えた筒を消して車内に潜りハッチを閉めてからリーンベルに合図を送ると、彼女は引金を引いて轟音と共に砲弾が主砲より放たれ、門に直撃して爆発を起こす。

 

 フィリアはそのまま破壊された門へと向かって行き、奇跡的に生き残っていた騎士達が逃げ戸惑う中破壊された門を突き抜けて要塞の外に出る。その際上から何か妙な音が上からする。

 

「よし! 敵の体制が整う前にこのまま要塞を離れるぞ!」

 

『えぇ!』

 

 フィリアからの返事が返って来ると16式機動戦闘車は速度を上げて斜面を下って走る。

 

(よし。このまま行けば)

 

 後はこのままエストランテ領に入ってしまえば、やつらは手出しできない。もはやこちらのもんだ。

 

 俺はそう考えながら88式鉄帽の顎紐を解いて頭から取ると、ハッチを開けて上半身を出す。

 

 

 

 だが、今回ばかりは、気を緩めすぎたかもしれない。

 

 

 

 

「っ!?」

 

 突然頭に衝撃と激痛が走り、天板の上に倒れる。

 

 一瞬意識が飛びそうになるも何とか繋ぎ止めるが、その直後砲塔天板に身体と頭を押さえつけられる。

 

「ぐっ!?」

 

「死ねぇ!! 死ねぇ!!」

 

 押さえつけられ、頭から血が出ているのを感じながらも俺は何とか首を回すと、そこには全身血だらけで怒りの形相を浮かべているアレンの姿があった。

 何で血だらけなのかは分からないが、明確な殺意は感じる。

 

 アレンは片手で俺の頭を押さえつけ、開いた方の手を拳にして頭を殴りつける。

 

「ぐっ!」

 

「お前は、お前だけは!! 殺してやる!!」

 

 アレンは俺を押さえながら腰に提げている鞘からナイフを取り出す。

 

「っ!」

 

 俺は何とか振り解こうとするが、何回も頭を殴られた影響か身体をうまく動かせず、ただ天板を叩く事しか出来なかった。

 

「死ねぇっ!!」

 

 アレンがナイフを振り上げ、俺は思わず目を瞑る。

 

 

 

 しかしその直後突然16式機動戦闘車が急停車し、アレンはその反動で体勢を崩す。

 

「っ!!」

 

 俺はその隙を逃さず、右手を後ろにやってアレンの胸倉を掴み、力の限りを使ってアレンを前へと放り出した。

 

「ぐっ!? がっ!?」

 

 アレンは身体をあちこちにぶつけて16式機動戦闘車から転げ落ち、地面に強く身体を叩き付け、傾斜している地面を転がる。

 

「う、うぐ……」

 

 アレンは苦しげに声を漏らし、身体を起こすと、ハッとする。

 

「……」

 

 彼の視線の先には、操縦席のハッチを開けて外に出たフィリアの姿があった。

 

「フィリア! あぁ無事だったんだね!」

 

 彼女の姿を見てアレンは笑みを浮かべて身体の痛みなど忘れて立ち上がる。

 

「さぁ、そんな所から降りて、僕と一緒に戻ろう!」

 

「……」

 

 アレンは声を掛けるが、フィリアは黙ったままだ。

 

 だが、彼はこの時気付きもしなかった。いや、彼女の事を今まで何も分からなかったアレンが気付くはずも無い。

 

 この時の彼女は無表情だったが、それは同時に静かな怒りを醸し出していた。なぜなら、アレンが地面を転げている間に砲塔にぐったりと頭から血を流して倒れている恭祐の姿を見て、怒りが込み上げていたからだ。

 

「……」

 

 フィリアはレッグホルスターに収まっているUSPを手にして安全装置を外し、レッグホルスターより取り出して近付こうとするアレンに向け、躊躇無く引金を引く。

 

 乾いた銃声が山の中に木霊し、アレンの左肩に穴を開ける。

 

 

「……え?」

 

 一瞬何が起きたか分からなかったアレンだったが、左肩に開いた穴から血が出て服に染み渡っていくのを見た瞬間、激痛が走る。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 アレンは激痛のあまり大きな声を上げるが、その直後フィリアは更に発砲して左脚を弾が撃ち抜き、アレンはそのまま後ろに倒れる。

 

「ぐぅぅぅ! な、なんで、なんでだ、フィリア!」

 

 左肩を押さえながらアレンは未だに信じられ無いと言う表情でフィリアを見ながら問い掛ける。

 

「なんで? そんなの、決まっているでしょ」

 

 激痛に苦しみながらアレンはフィリアに問い掛けるが、彼女から帰って来た答えは冷たく、素っ気無いものだった。

 

「あなたが私にとって許し難いことをした。ただ、それだけよ」

 

「ふぃ、フィリア……?」

 

「心配しないで。少なくとも、急所は外しているわ。でも、手当てをしないと時期に死が訪れるでしょうけど」

 

「……そんな」

 

「さようなら。あなたとは、もう二度会う事はないわ」

 

 フィリアはそう言うと操縦席に戻り、16式機動戦闘車をアレンを避けて走らせる。

 

「ま、待て、待ってくれ、フィリア!!」

 

 アレンは手を伸ばすが、その間に16式機動戦闘車はスピードを上げてあっという間にその姿が見えなくなる。

 

「……」

 

 16式機動戦闘車が見えなくなってアレンは伸ばした手を地面に落とす。

 

「な、なんでだ。なんで、君は……」

 

 未だに自分がしでかした事を理解していないアレンはただ失意の内に落ちる。

 

 

「……許さん」

 

 アレンは土を握り締めると、16式機動戦闘車が走って行った方向を睨む。

 

「許さん。許さんぞ!! 僕からフィリアを奪った挙句彼女を洗脳するとは!!」

 

 もはや何を言っているのか分からない事をアレンは叫んだ。

 

「殺してやる!! 地の果てまで追いかけてでも、お前を捕まえて殺してやるぞ!! その上で全身をズタズタに引き裂いてバラバラにして魔物共の餌にしてやる!!」

 

 怒りと憎しみの篭った目で地平線の彼方を睨みつけて、大きく叫んだ。

 

 

 

 クァッ!!

 

 

 

「っ!?」

 

 だが、横から聞いたことのある泣き声がしてその瞬間怒りと憎しみは消え去り、逆に不安と恐怖が彼を支配する。

 声のした方向に視線を向けると、そこには上り坂を登ってラトスが現れた。しかも、次々と現れる。

 

「ら、ラトスだと!?」

 

 現れるとは思っていなかった魔物が現れてアレンは目を見開く。

 

 彼が知る良しも無いが、先ほどの戦闘時に起きた爆発や銃声に、要塞から漂ってきた血の臭いにその上アレンから流れ出る血の臭いに山脈に生息するラトスの群れが引き寄せられている。

 

 アレンは立って逃げようとするも左脚を撃たれたことで激痛が走って立てずにいて、後ろに後ずさりして距離を置こうとするもラトスはゆっくりとアレンに近付く。

 

 すると後ろから一際大きく鶏冠が立派なラトスが現れた。群れのリーダーである。

 

「やめろ! やめろ!!」

 

 アレンは後ずさりしながら命乞いをするが、ラトスはお構いなしに近付き、そして群れのリーダーのラトスがアレンに跳びかかり、歯がびっしりと並ぶ嘴の様な口でアレンの肩に噛み付く。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 肉を抉ろうとする生々しい音とがして、リーダーに続いて次々と群れのラトスがアレンに群がってアレンの身体に噛み付いて肉を食い千切り、悲痛な叫びが山脈に小さく響いた。

 

 

 

 

 

 

 



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第二十九話 これからの事

 

 

 全速力で走る16式機動戦闘車は要塞のある山脈を下りて森の中を駆け抜け、日が傾き空がオレンジ色に染まりつつある中、国境線から離れた森の中にある開けた場所で停車すると、エンジンが停止する。

 

 

 

「ついに、辿り着きましたわね」

 

「あぁ」

 

 16式機動戦闘車から降りたセフィラはタイヤにもたれかかっている俺に声を掛け、俺も短く返事を返す。

 

「ジッとしていてくださいね」

 

 セフィラは俺の頭に両手を翳して青い光が発せられ、傷口を覆うと少しずつ傷が塞がっていくのを感じて、次第に痛みが引いていく。

 

「キョウスケ! 大丈夫なの!?」

 

 操縦席から降りたフィリアが俺の元に駆け寄ると、頭から血を流している俺の姿を見て顔色が青くなる。

 

「あぁ、血が!?」

 

「大丈夫、ってわけじゃ無いな」

 

 俺はまだ頭からズキズキとする痛みに苦笑いを浮かべながら答える。

 

「だが、平気だよ」

 

「そう。良かった」

 

 フィリアは安堵の息を吐く。

 

(とは言えど、さっきは完全に油断してしまったな)

 

 要塞を突破できたと言う安心感から完全に油断してしまい、あの状況を生み出してしまった。慢心と油断だな。

 

 これからは最後まで終わるまで油断しないようにしないとな。

 

 

「まさか、本当に出来ちゃったんですね」

 

「そう、だな。キョウスケ殿が居なければ、私達だけでこんな事は成し得なかっただろうな」

 

 リーンベルは未だに信じられないような表情を浮かべ、ユフィも同じ表情を浮かべてオレンジ色に染まりつつある空を見ていた。

 

「キョウスケ殿。本当に、本当に、感謝する。私達だけでは、どうする事もできなかった」

 

 ユフィは俺に向かって深々と頭を下げる。

 

「気にするな。それに、俺も感謝する。俺だけでも、きっと成功はしなかっただろう」

 

 いくら強力な現代兵器があると言っても、俺だけでフィリアを連れてあの要塞を突破する事は出来なかっただろう。みんなの協力があって出来た事だ。

 

 

 

「っ?」

 

 すると背中に何かが触れて俺は後ろを首を回して振り返ると、フィリアが俺の背中に顔を当てていた。

 

「フィリア?」

 

「―――」

 

「ん?」

 

「……私、自由に、なれたのよね」

 

 震える声でフィリアが問い掛ける。

 

「……」

 

 俺は後ろに振り返ってフィリアに向き合うと、彼女の目には涙が浮かんでた。

 

「あぁ。君はもう自由だ。そして、これから、ずっとな」

 

 俺が後ろを見ると、ユフィ達は笑みを浮かべて縦に頷く。

 

「っ!」

 

 フィリアは抑えていた感情が溢れ出して、顔を俯かせて涙を流す。

 

「み、みんな、ありが、とう……!」

 

 震えながらも彼女は声を搾り出すように発する。

 

「……」

 

 俺は震えているフィリアの頭を優しく撫でる。

 

 

 

 

 

「それで、ここからどう動く?」

 

 フィリアが大分落ち着いたところで俺達は今後の事を話し合う事にした。

 

「あぁ。まずは国境線から離れないといけない。いくらエストランテの領内と言っても、やつらの手の届く範囲だからな」

 

「だろうな。だが、この国の事は知っているのか?」

 

「あぁ。以前にこの国に来て見て回った事があるから、多少は知っている」

 

「そうか。それなら、なるべくリーデントとの国境線から大きく離れた場所にある街を知っているか?」

 

「それなら、スレイプニルがある。あそこはこの国の中でも3番目に大きな街だ。3番目と言っても、かなり発展している」

 

「そいつはちょうどいい」

 

 ある程度街が発展しているなら、生活に困る事はない。

 

「でも、何で街に?」

 

「何でって、そりゃ冒険者として活動する拠点として、ちょうどいいからだ」

 

「冒険者として、ですか?」

 

 リーンベルは首を傾げる。

 

「あぁ。みんなも、一緒に冒険者をやらないか?」

 

「キョウスケ様と、冒険者をですか」

 

「あぁ。将来的には、ギルドを立てようと思っている」

 

 冒険者はギルドと呼ばれる団体を設立することが出来る。設立すれば組合から色々とソロでは受けれない依頼を受けることが可能となったり、知名度が上がれば依頼主から指名されることもある。

 

「最初は君達と一緒にな。どうだ?」

 

『……』

 

 みんなはそれぞれ顔を合わせると、互いに頷き合い、フィリアが俺の顔を見て頷いた。

 

「うん。キョウスケとなら、一緒に」

 

「私も、それで構わない。むしろ、こちらから願おうと思いたかったぐらいだ」

 

「私もです。キョウスケ様に恩を返す為にも、付いて行きます。あっ、でもギルドを立てるなら、これから団長って呼んだ方がいいんでしょうか?」

 

「そうですわね。将来的にはそう呼ぶかもしれませんが、今はそうではないでしょう」

 

「そうか」

 

 彼女達の答えを聞いて俺は軽く頷く。

 

「じゃぁ、今後の方針は決まったな」

 

「えぇ」

 

「あぁ」

 

「はい!」

 

「はい」

 

 返事を聞いてから俺が16式機動戦闘車に向かって車体に登ると、彼女達も後を付いて行って16式機動戦闘車に乗り込む。

 

「キョウスケ。運転は私がするから」

 

 操縦席のハッチを開ける俺にフィリアが心配そうな表情を浮かべて声を掛ける。

 

「大丈夫だ。初めての運転で疲れただろう」

 

「でも、怪我が」

 

「傷は塞がっているし、痛みも引いてる」

 

 セフィラの治療魔法のお陰で傷は塞がっているから、無茶をしない限り傷が開く事はない。

 まぁ流れ出た血を拭っていないので見た目は結構グロイが。

 

「……」

 

「分かったよ。少ししたら、交代してくれるか?」

 

「っ! えぇ! 分かったわ!」

 

 心配の色が取れない彼女に俺はそう提案すると、彼女の表情が明るくなって納得してくれて、砲塔を登ってキューポラから車内へと入る。

 

「さぁ、行こうか」

 

 俺はエンジンを起動させると16式機動戦闘車が搭載するディーゼルエンジンが唸りを上げ、アクセルを踏むと前へと前進して森の中を進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――ッ♪

 

 

 特殊ミッション『守るべき者』をクリアしました。

 特定条件『倒すべき相手』を満たしました。

 

 ・レベルが33に上がりました。

 

 ・スキル『シーフ・オブ・ウェポンパーツ』『ジャイアントキリング』が追加されました。

 

 ・スキル『五感強化能力』がレベル2に強化されました。同時に二箇所の感覚を強化可能となりました。

 

 ・スキル『大和魂』がレベル2に強化されました。発動条件が緩和され発動しやすくなりました。

 

 ・スキル『勘』がレベル2に強化されました。発動範囲が拡大化。発動条件が緩和されました。

 

 ・身体能力が7倍から10倍へと向上しました。ならびに身体能力の調整も可能となりました。

 

 ・特別ポイントが2600pt追加されました。ならびに新たな改造部品及び改造項目がアンロックされました。

 

 ・武器兵器が5つランダムでアンロックされました。それぞれの項目の横にNEWと点滅して表示されています。

 

 ・『装軌装甲車』の項目がアンロックされました。

 

 

 

 

 




ようやくプロローグが終わったって感じになりましたね。いやぁ予想以上に長くなりました。
次回番外編を何話か挟んで、新章スタートとなります。


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番外編
番外編01 転生先の異世界で出会ったのはエルフの少女


 

 

 

 多くの木々が生える鬱蒼とした森。人の気配など感じさせないようなこの場所だったが、そこを通る人影があった。

 

 

 

(それにしても、全然人に会わないな。本当に人は居るのかねぇ)

 

 内心呟きながら男性は鬱蒼とした森の中を進む。

 

 上下ジャージにスニーカーと極一般的な格好とは裏腹に、背中にはアサルトライフル、手にはマークスマンライフル、上半身にはマガジンポーチがあるチェストリグを装着し、腰のベルトに拳銃が収まっているホルスターとナイフが収まっている鞘を提げていると、明らかに一般人のするような見た目じゃない。

 

 

 俺の名前は『沖田(おきた)士郎(しろう)』ちょっと度の付いたミリオタである事を除けば至って普通の日本人の大学生だ。えっ? 誰かに似ているだって? そりゃ俺の幼馴染も俺と同じぐらい度の付いたミリオタだからな。似てて当然よ。

 んで、そんな俺がこんな場所に居る理由だが、話せば長くなる。

 

 その日は大学の講習を受けて帰宅途中だった。横断歩道の信号が青になって横断歩道を歩いていたら、猛スピードで走って来る車が俺に向かってきた。それに気付いた瞬間俺の意識は失われた。それからしばらくして俺は真っ白な空間に居た。そこで自らを神と名乗る女性が現れて、俺が交通事故で命を落としたことを伝えられる。ちなみにその車はコンビニで強盗をして車で逃走中の強盗犯が運転していたそうだ。

 その後俺にとある能力とスキルをつけて異世界に転生させられて、現在に至る。

 

 

 俺は深くため息を付いて大木の根元に座り込み、傍にマークスマンライフルを置く。

 

 あの日以来全くと言っていいぐらい人を見ていない。その代わり魔物には飽きるほど遭遇しては戦闘を交えている。まぁそのお陰でレベルが大分上がったんだけど。 

 

(冗談抜きで誰にも会わずに二度目の人生が終わりそうだな……)

 

 そう内心で呟きながら背中に背負っているアサルトライフルを手にして、マガジンを外して各所の確認を行う。

 

 俺が持っているのは『AK-103』と呼ばれるアサルトライフルで、AK-100シリーズの中でAK-47と同じ7.62×39mm弾を使用する型だ。

 何で日本人の俺がモノホンのアサルトライフルを持っているかというと、これは神が与えた『武器召喚能力』で、古今東西各種様々な武器を召喚できる能力だ。そして召喚できる武器は自由自在にカスタマイズが可能である。

 

 このAK-103もレシーバー上部とハンドガード上部にピカニティーレールを追加して、レシーバー上部に4倍率のドットサイトを取り付け、ハンドガード下部ごと交換してUBGL-M6と呼ばれるM203のようなアンダーバレル式グレネードランチャーを装着している。あとセレクターの形状を変更して右手の親指だけでも操作できるようにしている。

 内部も大きく改良して、ライフリングの改良を行って射撃精度を向上させている。

 

 確認を終えた後マガジンに排出した弾を押し込んで挿入口にマガジンの前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを引いて薬室に初弾を送り込むと、セーフティーを掛けてから銃床を折り畳んで背中に背負い、傍に置いてマークスマンライフルを手にする。

 

『ツァスタバM76』と呼ばれるこの銃はユーゴスラビアのツァスタバ・アームズ社がAK-47をベースに設計したマークスマンライフルだ。旧ソ連の『ドラグノフ狙撃銃』とコンセプトは同じだが、設計が元となっているAK-47と酷似した形状になっているのも特徴的だ。使用弾薬は当時ドイツ製の武器の製造設備を利用していた関係上で、7.92×57mmモーゼル弾を製造していたので、それを使用していた。だが、輸出目的で東側で一般的な7.62×54mmR弾や西側で一般的な7.62×51mm NATO弾仕様の個体も作られた。

 その中でも7.62×54mmR弾仕様のやつで、ライフリングを改良してより射撃精度を向上させたりしたカスタムモデルを召喚している。

 

 マガジンを外してコッキングハンドルを引いて弾薬を排出してから、各所の動作を確認した後、抜き取った弾薬をマガジンに押し込んで挿入口に前端を引っ掛けながら挿し込む。

 

(さて、これからどうするかねぇ)

 

 首の後ろで両手を組んで木にもたれかかって木々の葉っぱの間から見える空を眺めながら内心呟く。

 

(……そういや、あいつら、元気かな)

 

 俺の脳裏には二人の男女の姿が過ぎる。

 

 男子の方は小さい頃からの幼馴染で、同じミリオタだったので、かなり仲が良かった。高校までいっしょだったが、大学が別々になったので最近は見ていない。

 女子の方は父親の仕事の都合でドイツから日本に来た子で、男子と同じ幼い頃からの幼馴染だ。中学卒業後に親の都合で生まれ故郷のドイツに帰る事になってしまい、しばらく会っていない。

 

 二人が元気かどうか気になったが、もう二度と会えないんだ。気にした所で、どうしようもない。

 

「……」

 

 

 

「っ?」

 

 俺は何かを感じ取ってか、反射的にツァスタバM76を手にして立ち上がり、ツァスタバM76を構える。

 

(なんだ……)

 

 不安が胸中を渦巻き、ツァスタバM76の安全装置を外して周りを見渡す。

 

「……」

 

 俺は目を瞑り、スキル『五感強化』を使い、聴覚を最大限強化して音を聞き分ける。

 

 小鳥の囀る声に風に吹かれて揺れる葉っぱや水の流れる音がする中で、泣きじゃくる声が耳に入る。

 

「っ!」

 

 俺は考えるより先に声がした方へと走り出し、茂みを押し退けながら森の中を突き進む。

 

 

 

 しばらく走って茂みが開けると、大きな大木が一本聳え立っている開けた場所に出る。 

 

 出た瞬間視界に入ったのは、5匹のゴブリンと大きな木の根元に追い詰められ泣きじゃくりながら怯えている少女の姿があった。

 

(不安の原因はこれか)

 

 内心で呟きつつ素早くその場に伏せ、ツァスタバM76の銃口を前へと向けてスコープを覗く。

 

 ゴブリンたちは逃げる事もできず木に背中をくっつけている少女へとじりじり歩みを進める。

 

(向こうはまだこっちに気付いていないな)

 

 少女に意識が集中している為か、ゴブリンはこっちに気付いた様子は無い。

 

「……」

 

 呼吸を浅く整えつつ銃身のブレを押さえ、少女に当たらないように右斜め後ろのゴブリンの頭に狙いを定め、引金に指を掛けてゆっくりと引く。

 

 銃声と共にマズルフラッシュが閃き、排莢口(エジェクションポート)から硝煙を纏った空薬莢が排出されて地面に落ちる。。

 放たれた弾丸が一直線にゴブリンの後頭部に命中して、そのまま内部を衝撃で破壊しながら突き進んで額から中身と血と共に突き出る。

 

 突然仲間の一人が血を撒き散らして倒れ、聞いた事が無い銃声にゴブリン達は動きを止めて辺りを見回して攻撃した主を探す。

 

 その間に左斜めの鉈を持つゴブリンに狙いを定め、引金を引いて弾を放って頭を撃ち抜く。

 

 次に中央のゴブリンの胴体に狙いを定めて引金を引き、ゴブリンの胴体に風穴が開いてそのまま前のめりに倒れる。

 続けて隣のゴブリンの頭に狙いを付けて引金を引いて弾を放ち、弾は直撃と同時にゴブリンの頭半分を吹き飛ばす。

 

 最後の一匹となったゴブリンは後ろを向いてようやく俺の存在に気付くも、振り向いた瞬間に俺は引金を引き、銃声とマズルフラッシュを共に弾が放たれ、ゴブリンの額に命中して直後に後頭部が弾けて弾丸が突き抜ける。

 

「……」

 

 深く息を吐き出し、ツァスタバM76を収納して背中に背負っているAK-103を手にして折り畳んでいた銃床を展開して親指でセレクターをセミオートの位置に動かして立ち上がり、周囲を警戒しながら少女の元へと駆け寄る。

 

「君、大丈夫か?」

 

「……」

 

 少女は突然の事に呆然としており、俺が目の前に来ても気付いた様子を見せない。

 

 まぁ、ゴブリンに追い込まれて絶望的な状況の中で突然大きな音がしたかと思ったらゴブリンたちが次々と死んでいくのだから、無理も無いか。

 

(この子……エルフか?)

 

 目の前まで来て分かった事だが、少女の耳は長く、若干上を向いて先が尖っている。

 

 腰の位置近くまで伸びた若干青味を帯びた銀髪を根元から纏めたポニーテールにして、瞳の色はサファイアの様に透明な青い碧眼をしている。

 見た目の年齢は15から17ぐらいだが、もしエルフなら外見年齢はあてにならないだろう。

 

 まぁそれは兎に角として、足や腕にはゴブリンから逃げる際に出来たのか擦り傷が薄くいくつか出来ているが、それ以外で特に目立った怪我は見当たらない。

 

(にしても……)

 

 俺はエルフの少女の格好を見て、思わず内心呟く。

 

 結構温かい温度なので分からんでもないんだが……妙に露出が多い格好しているよな。

 

(それに、デケェな。あぁホント、デケェな)

 

 大事な事だからry……。まぁ、結構スタイルが良いとだけ言っておこう。しかも恰好が恰好だからそれを強調していた。

 

「……っ!」

 

 するとようやく俺の存在に気付いたのか、少女はハッとして目を見開く。

 

「怪我は、無いみたいだな」

 

「え、あ、あ……」

 

 まだ状況がのみ込めないのか、うまく声を出せないで居る。

 

「もう大丈夫だ。立てるか?」

 

 声を掛けつつAK-103を傍に置いて少女に手を差し出す。

 

「……」

 

 少女は何度も瞬きをし、戸惑いながらも手を差し出す。

 

 

「っ!う、後ろ!」

 

「っ!」

 

 しかし俺の手を取る直前に少女は叫び、俺が後ろを振り向くと胸に風穴が開いたゴブリンが口から血の混じった唾液を撒き散らしながら俺に襲い掛かってきた。

 咄嗟なことに俺は対応しきれず押し倒され、ゴブリンが上に圧し掛かる。

 

「コイツっ!?」

 

 両手の鋭い爪で俺を切り裂こうと振り下ろすが俺はとっさにゴブリンの両腕を掴んで阻止する。

 

(胸撃たれているのに生きているのかよ、クソッ!!)

 

 しぶとい生命力に驚愕して内心で悪態を付くと、掴んでいるゴブリンの腕を引っ張ってゴブリンの顔面に頭突きをぶつける。

 

 頭突きを喰らったゴブリンは一瞬仰け反り、俺は続けて左腕を横に振るってゴブリンを右へと倒すと、すぐに立ち上がって腰のホルスターより『Cz75 SP-01』を抜き出してスライドを引き、ゴブリンの頭に向けて引金を連続二回引き、2発弾を叩き込む。

 

「きゃぁっ!?」

 

 少女は銃声と言う大きな音にびっくりして耳を塞ぐ。

 

 2発の弾丸を頭に叩き込まれ、ゴブリンは痙攣した直後に動かなくなる。

 

「……はぁ」

 

 深くため息を付いて、Cz75 SP-01の銃口を下ろす。

 

(……慢心だな)

 

 内心で呟き、今度こそ息絶えたゴブリンを睨む。

 

 強力な武器を持って居ると言う安心感があって前に出てしまったが、その武器を持ってしても確実に殺し切れなかった。

 こうもしぶといと確実に仕留めなければならないな。

 

 それと、武器は戦いが終わるまで手放したらいかんな。

 

(これは苦労しそうだ)

 

 先の事が思いやられる……

 

 

 

「っ!?」

 

 すると突然右腕に激痛が走り、痛みの余りCz75 SP-01を手放す。

 

「ぐぅ!?」

 

 思わず左手で激痛がする右腕の箇所を押さえると、棒状の何かと濡れた感触がして右腕を見ると、一本の矢が腕に突き刺さっており、刺さっている箇所から血が流れ出ていた。

 

 顔を上げると、視線の先には新たにゴブリン2体の姿があり、その内一匹が弓矢を構えている。

 

「くそっ!まだ居たのか!!」

 

 矢をそのままにして痛みに耐えながら俺はAK-103を拾い上げ、とっさに構えて引金を引き、銃声と共に弾が銃口より放たれる。

 

「っ!?」

 

 しかし矢が刺さったままの右腕に衝撃はかなり響き、激痛が右腕全体に伝わる。

 

 弾は弓を持っているゴブリンの右手から腕を貫通して粉砕する。

 

「ぐ、うぅ……」

 

 腕の激痛に耐えながらも俺はAK-103を構えて、ドットサイトで狙いを着ける。

 

 腕を壊されたゴブリンはその場に倒れてもだえ苦しみ、もう一匹は棍棒を振り上げてこっちに向かって来る。

 

「……」

 

 向かって来るゴブリンに狙いを付けようとするも、腕が震えて照準が定まらない。

 

(くそっ……狙いが、付けられねぇ)

 

 出血のせいか視界が若干ぼやけて、更に狙いが付けづらくなっている。

 

 何とか狙いを付けて引金を引いて銃声とマズルフラッシュと共に弾が放たれるが、向かって来るゴブリンではなく後ろで悶え苦しみ一瞬頭を上げたゴブリンの頭を撃ち貫いて命を刈り取る。

 

 狙いをつけようとするが、腕に力が入らずついには銃から手を離してしまう。

 

「くっ…・・・」

 

 俺は落としたAK-103を左手で持って銃床を脇に挟み、ゴブリンに向けて引金を引く。

 

 しかし利き手じゃない上に強力な反動で狙いが定まるはずもなく、弾はゴブリンの周囲の地面に着弾する。

 それでゴブリンの動きは鈍るも、3発目からは気にする事なく向かって来る。

 

 連続して引金を引いて弾を放つが、遂に最後の一発も放つも弾はゴブリンに掠りもしない。

 

「くっ!」

 

 俺は弾切れになったAK-103を手放して、腰のベルトに提げている鞘からナイフを手にする。

 

 

 

 その直後背後から銃声がして、向かってきて居たゴブリンの頭に穴が開いて前のめりに倒れる。

 

「っ!」

 

 俺は後ろに振り向くと、さっき落としたCz75 SP-01を震える手で持って構えているエルフの少女の姿があった。

 

「な、何……?」

 

 驚いている間にエルフの少女は手にしているCz75 SP-01を捨てて俺の元へと駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ。まぁ、見ての通り、だな」

 

 俺は矢が刺さったままで血だらけの右腕を見せるとエルフの少女は息を呑む。

 

「……」

 

 エルフの少女は深呼吸をしてから腕に刺さっている矢を掴み、確認の為にか俺を見る。

 俺は肯定の意として縦に首を頷く。

 

「……」

 

 掴んでいる手に力を入れ、思いっ切り引っ張って鏃を引き抜く。

 

「っ!!」

 

 激痛が走って意識が飛びそうになるも俺は何とか耐える。

 

「ジッとしてください」

 

 エルフの少女は矢を捨てると出血している腕の傷口に両手を当てる。

 

「癒しの光よ、この者の傷を癒したまえ」

 

 そう言うと両手から青い光が発せられ、次第に腕から痛みが引いていく。

 

 

 しばらくして光が収まる頃には痛みは無くなり、矢が刺さっていた箇所には殆ど傷が残っていなかった。

 

(すげぇ。さすがファンタジー)

 

 内心呟きながらエルフの少女を見る。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

「ど、どういたしまして」

 

 エルフの少女は照れながらも頭を下げる。 

 

 

 

 その後俺は少し休んでから落としたAK-103とCz75 SP-01を拾い、弾を補充してからそれぞれホルスターに戻してエルフの少女の元へ戻る。

 

「ところで、一つ聞いていいか?」

 

「は、はい」

 

 少し慌てた様子でエルフの少女は俺の方を向く。

 

「どうしてこんな所に一人で?」

 

「それは……」

 

 少女は答えることに躊躇いを見せる。

 

「さっきのゴブリンもそうだが、ここが危険な所だって言うのは分かっていたんじゃないのか?」

 

「……」

 

 エルフの少女は悩んだ末に、左手に握っている草の束を見せる。

 

「それは?」

 

「……村に、昔から伝わる薬草。これに他の薬草と調合すれば、どんな病気も治せる薬になるの」

 

「誰か重い病気に掛かっているのか?」

 

「お母さんが、流行病に」

 

「そうか」

 

 危険を冒してでも母親の為に……ええ子やん。

 

 内心で似非関西人みたいな言い方で呟きながらもAK-103を持って立ち上がる。

 

「じゃぁ、俺が君を村まで護衛するよ。ちょうど人が住んでいるところを探していた事だし」

 

「え、あ……お、お兄ちゃんが?」

 

「……お兄ちゃん?」

 

 突然そう呼ばれて俺は戸惑う。

 

「えぇと、まだ名前聞いてなくて、どう呼んだらいいのかなぁって」

 

 苦笑いを浮かべながら少女はそう言う。

 

「そういやまだ言ってなかったな」

 

 だからと言って、お兄ちゃんって。いやまぁ、おじさんって呼ばれないだけ良い方なんだろうけど。

 若いのにおじさん呼ばわりは地味に傷付くよ? 親戚の小さい子からはおっちゃんやおじさん呼ばわれだし。

 

「俺の名前は沖田士郎って言うんだ」

 

「オキタシロウ?変わった名前ですね」

 

「あー、沖田が名字で、士郎が名前な」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。そんなに珍しいか?」

 

「は、はい。あんまり聞いた事の無い響きでしたから」

 

「ふむ」

 

「あっ、私はエレナって言います」

 

「エレナか。いい名前だな」

 

 そう言うとエレナは顔を赤くする。

 

「それで、エレナ。村は近いのか?」

 

「は、はい。すぐそこってほど近くは無いけど、遠くも無いよ」

 

「そうか。それなら早速行くか。またあいつらに襲われちゃたまらんからな」

 

「そ、そうだね」

 

 エレナは少し慌てた様子で歩き出し、俺はその後を周囲を警戒しつつ付いて行く。

 

 

 

 これが、俺と彼女との初めての出会いであった。

 

 

 

 



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番外編02 こんな妹が居たら前世はどれだけ楽しかっただろうか……

明けましておめでとうございます。今年も異世界ミリオタ転生記をよろしくお願いします!


 

 

 

 

 俺がエレナと出会ってから数日後。

 

 

 

 

 野太い銃声が森の中に響き、的にしている朽ちた大きな木片が次々と粉々に粉砕されていった。

 

「ヒュ~。相変わらず凄いな」

 

「エヘヘヘ♪」

 

 俺がそう言うと、銃を構えている彼女が嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

 あの後俺はエレナを村まで連れて行き、彼女の両親と出会った。エレナを救ってくれたお礼の一環として、俺は現在その村に住まわせてもらっている。もちろん何もしないわけにはいかないので、村の仕事の手伝いや、村を魔物から守る用心棒的なことをしながら暮らしている。

 その時にエレナから銃の扱い方を教えて欲しいと懇願してきた。最初は断っていたんだけど、日に日にその懇願の仕方が強引なものになってきて、さすがに色んな意味でやばいので、仕方なく彼女に銃の扱い方を時間が空いている時に教えている。

 えっ? どんな懇願の仕方だって? 無意識に彼女が自身のご立派な物を押し付けている、と言った感じ。

 

 彼女は結構変わった趣向らしく、ハンドガンとショットガンをメインに使っている。それ以外は時々カービンモデルのアサルトライフルを使うが、基本ショットガンとハンドガンだ。

 特にお気に入りなのが『ヴェープル12モロト』と呼ばれるAKシリーズの機構を基にしたセミオートショットガンにフォアグリップとホロサイトを取り付けた物と、予備に腰の後ろに『ウインチェスターM1901』お呼ばれるレバーアクション式のショットガンの一部カスタム化されたソードオフタイプをホルスターに納め、俺がこの間使っていたCz75 SP-01を二丁、しかも銃剣を付けて両脇の銃剣も収められるホルスターに収めている。

 彼女曰く『銃剣を付けている方がよく当たる』との事らしい。スタビライザーか何かかな?

 

 

 彼女ことエレナはヴェープル12モロトのマガジンを外すと、マガジンポーチからマガジンを前端を引っ掛けながら挿し込むと、ホールドオープンしたボルトのストップを解いて射撃を再開する。放たれたスラッグ弾は残った大きい木片を次々と粉々に粉砕する。

 

 マガジン内にある弾を全て撃ち終えてからマガジンを外し、腰に提げているダンプポーチに放り込んでスリングを腕に通して背中に背負い、腰の後ろにあるホルスターよりウインチェスターM1901を取り出すと、手馴れた手つきで回しながらコッキングを行って薬室に装弾する、所謂スピンコックを行い、ハンドガードを左手で持つ。

 狙いをつけた後引金を引き、銃声と共に放たれたスラッグ弾が倒木に命中して表面を抉った。

 

 スピンコックをして排莢を行って次弾を装填すると、今度は片手で持って狙いをつける。さすがにこれは調子に乗りすぎじゃ、と前は思っていたけど、彼女の場合は大丈夫だ。

 エレナは引金を引くと、銃声と共にスラッグ弾が放たれる。片手で持っていながら反動を受け止めて殆ど銃身がぶれることは無かった。

 

(意外と力が強いし、何より反動の受け止め方がうまいんだよな)

 

 初めて使わせた時はさすがに反動に驚いて銃身はブレッブレで狙いはずれまくりだった。だが、数発撃っただけで要領を把握してか、その後は驚くぐらいに上達して行って、次第には片手でウインチェスターM1901を撃てるまでに至っている。

 

(これは、結構な逸材を見つけたみたいだな)

 

 内心呟きながら彼女を見ていると、ある部分に視線が吸い寄せられる。

 

(にしても……でけぇよなぁ)

 

 彼女がウインチェスターM1901を撃つ度に少し揺れる部分を見ながら内心呟く。

 

 何がでかいって? 母性の象徴と言えば分かるだろう。

 

 出会った時から思っていたが、15から17の少女としては大きい部類に入るぐらいスタイルが良い。その上気候の関係で薄着とあって、そりゃもう自己主張が激しい事で。

 

 ちなみに彼女の服装だが、丈が短く常にへそ出し状態のグレーの厚めのタンクトップを着ており、両手には指先の開いた黒のグローブ風手袋をしている。

 若干薄くなったグレーのホットパンツに太股の中間辺りまであるオーバーニーソックスに脛まである編み上げブーツ風の茶色のハーフブーツを履いている、と言った格好だ。

 

 いくら暖かいからって、ちょっと薄着過ぎひん? 下は着ているって言ってもハッキリ言って目のやり場に困る。その上よく抱きついてくるもんだから、彼女のご立派な双丘が薄い壁越しに押し付けられるわけで……。

 その上彼女は今チェストリグを付けているから、自己主張が激しい部分が更に強調されているわけで。

 

(うーん。この世界の住人ってこんなものなのか)

 

 いや、彼女だけが突出しているのか。

 

 そう思っていると、彼女は大きく開いたハンドガードに指を通したままグリップのみ手放してコッキングを行って排莢し、手首を上に動かしてその勢いで銃本体を跳ね上げてグリップを握り、腰の後ろにあるホルスターに収める。

 

「相変わらず、うまいもんだな」

 

「そう?」

 

「あぁ」

 

 ソードオフのショットガンを片手で撃てるって、余程力が強く扱いがうまくないと出来ないからな。

 

「えへへへ♪」

 

 俺に褒められてエレナは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「もう遅くなるから、そろそろ行くぞ」

 

「えぇー? もうなの、お兄ちゃん?」

 

 不満げにエレナはそう言う。

 

 あれ以来エレナは俺のことをお兄ちゃんと呼ぶようになっていた。名前は教えているって言うのに。

 まぁ、彼女がそう呼びたいのなら、別に構わないけど。

 

「遅くなったら君の両親が心配するだろ。それに、暗くなる前に山を下りないと」

 

「む~」

 

 不満いっぱいです、と言わんばかりに頬を膨らませる。

 

 だが、実際暗くなると魔物の活動が活発になるので、面倒ごとになる前に山を下りたいのだ。

 

 

 とまぁ彼女を宥めてから、山を下りて行った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 翌日。

 

 

 

 俺は村の人たちと共に畑で仕事をしていた。

 

「オキタさん。いつも手伝ってくださってありがとうございます」

 

「いえ、このくらい大丈夫です」

 

 畑を耕している年の行っている男性が話しかけて俺はそう答える。

 

 この人はゲオルクさんと言って、エレナの父親だ。

 

 エレナはエルフとあって当然両親もエルフで、住んでいる村もエルフが暮らしているところと思ったけど、意外にもそこは人間が暮らす村で、両親も人間だった。

 

 何でもゲオルクさんは元冒険者で、若い頃はそれなりに名を馳せていたそうだ。で、今から50年ほど前、若かりし頃のゲオルクさんが村の近くの森で倒れているエレナを発見したそうだ。その時の彼女は名前以外の記憶を失っており、その上精神年齢の逆行が起きていたそうだ。

 その後はなんやかんやとあって、ゲオルクさんと奥さんの娘として引き取られ、今日に至るというわけだ。

 

 ちなみにエレナは他のエルフとは異なるとゲオルクさんは言っていた。

 

 

 この世界に存在するエルフは4つの存在に分類される。

 

 一つは普通のエルフで、これは耳が長く、金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つと言う、前世地球で一般的にイメージされるエルフの姿をしている。基本金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つが、たまに瞳の色か髪の色が異なるエルフが生まれてくることもあるらしい。

 

 一つはダークエルフで、褐色肌に銀髪と、こちらも前世地球で一般的にイメージできるダークエルフの姿をしている。エルフと異なって身体能力が高く、近接戦闘に長けていると言うが、逆に魔力が少なく魔法が使える者はそう多くないと言われる。

 ちなみに服装はエルフの種族の中でも結構独特だとかなんとか。

 

 一つはハーフエルフで、こちらはエルフ種と他の種族との交配種で、エルフとダークエルフと比べると耳が短く、髪の色と瞳の色も様々なので、他のエルフと判別はつきやすい。エルフの種の中でも数が多い。その上他のエルフ種と比べると、身体がとても頑丈らしく、生半可な攻撃じゃ倒れる事が無いらしい。

 その上、片方の親の種族次第で子供の能力が大きく変化するとの事だ。

 

 一つはハイエルフで、エルフ種の中では最上位種に当たる。魔力が高く、魔法に関して長けている。エルフと比べると耳が長く若干上を向いて、先端が尖っているのが特徴で、髪の色は金髪、瞳の色はエメラルドグリーンのみだと言う。だが、エルフ種の中で数が少なく、まず普通に暮らしていると目にする事は無いらしい。

 噂では今俺が居る西の大陸以外の別の大陸に多く暮らしているとか何とか。

 

 

 ゲオルクさんはハイエルフは見たこと無いのでどうこう言えないが、エレナの持つ特徴からハイエルフの一種ではないかと思っているとの事だ。

 だが、エレナはハイエルフの特徴を持っていながらも、髪の色は銀髪で、瞳の色はサファイアのような碧眼と、ハイエルフには無い特徴を持っている。その上ハーフエルフのような頑丈な身体に、ダークエルフのような身体能力の高さがあったりと、まるで全てのエルフ種の特徴を持っているかのような特徴があると言う。

 

 ちなみに現在のエレナの年齢は不明だが、50年前前からほとんど姿に変化は無く、エルフは人間で言う15以降の容姿になるまでに100年は確実に超えると言われているらしい。

 それを踏まえて考えると、エレナは少なくとも100歳は確実に超えて、150以上はあると予想される。

 

 それを聞いてやっぱエルフなんだなぁって思った。

 

 

 

「ふぅ」

 

 しばらくして畑仕事も終わり、木箱に腰掛けて休憩する。

 

「いやぁ、オキタさんが手伝ってくれるお陰で、助かります」

 

 と、近くに置いてある木箱にゲオルクさんが座り、声を掛ける。

 

「飲食に寝床を提供してもらっているんです。このくらいはさせてください」

 

「ハハハ。それを言われてしまえば、私から言える事はありませんな」

 

 ゲオルクさんは軽く笑ってそう言う。

 

「しかし、オキタさんのお陰でこの辺りの魔物の襲撃は少なくなりましたな。本当に感謝します」

 

「いえいえ。俺もあれだけで役立てているのなら」

 

 まぁエレナと一緒に山で銃を使っているので、恐らく銃声に警戒して近寄ってこないのだろう。たまにゴブリンとかの類が俺達に襲ってくるが、当然返り討ちにしている。

 まぁ俺達のそんな行動のお陰で村が安全になっている、という事だろう。

 

「ところで、オキタさんは今後どうされますか?」

 

「今後、ですか」

 

 ゲオルクさんの問いに俺は腕を組んで静かに唸る。

 

 実際の所、この世界でどうしたいかっていうのって、特に何も決めていないんだよな。まぁ銃が使えるから退屈する事は無いだろうけど。

 

「オキタさんは旅をしているのですよね」

 

「え、えぇ、まぁ」

 

 一応俺は旅人と言うことで事情でエレナやゲオルクさん、村人達に通している。

 

「そうなると、資金の調達が大変でしょう」

 

「そうですね。だから野宿が多いです」

 

 ゲオルクさんに言われて、俺は好きな銃が使い放題と言う喜びから現実を呼び覚まされて苦笑いを浮かべる。

 

 転生時に俺の手元にあったお金は無いし、仮にあってもこの世界では使えない。当然今の俺は無一文だ。

 

「でしたら、若い頃の私の様に冒険者として活躍するのが宜しいのでは?」

 

「冒険者ですか」

 

「えぇ。オキタさんの事情を考えれば、これほど適した職は無いでしょう」

 

「……」

 

 冒険者としてか。

 

 俺は顎に手を当てて一考する。

 

 どの道金は必要になってくる。であれば、銃の威力を活かせて、どこでも仕事がある職がいいな。とは言えど、あんまり目立ちたくは無いかな。

 

 

「お兄ちゃーん!」

 

「うぉっ!?」

 

 と、後ろからエレナの声がしたかと思った直後に、ドカッと背中から衝撃が走る。

 

「え、エレナ」

 

「ねぇお兄ちゃん。お仕事終わったの?」

 

「あ、あぁ。さっき終わって休憩していたところだ」

 

「それじゃぁ、すぐに山に行こうよ!」

 

 と、無邪気な笑顔を浮かべながら抱き付く力を強くして更に身体を密着させる。

 

(デケェェェェ!! 説明不要ッ!!)

 

 背中に感じるやわらか~い感触に俺は言葉に出さず心の中で叫ぶ。

 

 最近こういったスキンシップが多くなって、俺は理性を総働きにして何とか耐えている。だが、抱き付かれる度に彼女から発せられる女性特有の甘い香りが鼻腔を擽るから、耐えるのもかなり必死だ。

 

「こら、エレナ! いつも言っているだろが!」

 

「ひゃんっ!?」

 

 と、エレナは変な声を上げて驚き、俺から離れる。た、助かった。

 

「いきなりそうやって人に抱き付くものではない!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 ゲオルクさんに叱られてエレナはしゅんとなる。

 

「あらあら、エレナってば」

 

 と、後ろからエレナ以外の女性の声がして振り返ると、年老いた女性がお盆にカップを載せて運んできた。

 

「リーシャさん」

 

「いつもご苦労様です」

 

「ありがとうございます」

 

「いつもすまんな」

 

 リーシャさんと呼ぶ女性はお盆を差し出すと、俺とゲオルクさんはそれぞれ一個と言ってからお茶の入ったカップを手にする。

 

「申し訳ありません、オキタさん。娘がいつも迷惑ばかり掛けて」

 

「構いませんよ。別に迷惑ではありませんし、嫌でもありませんし」

 

 まぁ、ちょっと別の意味でキツイんだがな。

 

 俺はカップに入ったお茶を一口飲み、エレナを見る。

 

「エレナ。もう少し休憩したら行こうか」

 

「っ! うん♪」

 

 気を取り直してエレナにそう伝えると、彼女は上機嫌になって笑顔を見せる。

 

「すみません。いつも娘が手間を掛けて」

 

「気にしていませんよ」

 

 俺はそう言って、もうしばらく休憩を満喫するのだった。

 

 

 

 だが、もうしばらく村に留まるべきだったと後で後悔するとは、この時思いもしなかった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 休憩してから俺はエレナと共に山に登り、実質上射撃場にしている山の広場に着くと、俺はメニュー画面を開いて彼女の使う装備を出す。

 

 エレナはそれを受け取ると、慣れた手つきで装着して、両脇のホルスターに収まっている銃剣付きのCz75 SP-01を片方ずつ取り出してマガジンを挿し込み、スライドを引いて薬室に初弾を送り込むと、ホルスターに収める。

 次に腰の後ろにあるホルスターに収まっているウィンチェスターM1901を取り出すと、レバーアクションを動かして薬室とチューブ式弾倉にスラッグ弾の入ったショットシェルを入れて、最後に薬室に一発入れてレバーを閉じ、ホルスターに収める。

 

「今日はこっちでいいのか?」

 

「うん」

 

 俺は召喚した『AK-104』を彼女に渡しながら問い掛けると、エレナは軽く縦に頷きながらマガジンの前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを引く。

 AK-104とは俺が使っているAK-103のカービンモデルで、銃身を短くして取り回しがしやすくなっている。使用弾薬は同じ7.62×39mm弾を使用する。

 

 彼女はAK-104を構えると、セレクターをセミオートの位置に向けて的にしている倒木に向けて引金を引き、銃声と共に弾丸が放たれて倒木に着弾して表面が弾ける。

 

 俺は彼女の傍でその様子を見ながら自分が手にしている銃を見る。

 

 ちなみに俺の装備は以前と変わって新たに出した『MP-443 グラッチ』と『MK-107』にしている。

 

 MP-443はロシアのイジェフスク機械工場で開発された拳銃で、使用弾薬は9×19mmパラベラム弾を使い、その他にも9×19mmPBP弾と呼ばれる高性能徹甲弾を使用する事が出来る。

 

 MK-107はAK-107と呼ばれるアサルトライフルから転用されたセミオートライフルで、一見名前を聞くと、一件どんな銃か分からないだろう。

 こいつの機構はかなり特殊で、『バランスド・アクション』と呼ばれる発射と同時にカウンターウェイトを前方に振り出してボルトの動きを相殺して反動を軽減するものだ。その上マズルブレーキの働きもあって、物凄く反動の少ないセミオートライフルとなっている。

 動画でMK-107の射撃を見たが、連射しているのに関わらず全然反動が無かったのだ。

 

 使用弾薬は輸出を重視して.223レミントン弾を使用するが、ロシアの5.45×39mm弾仕様のやつもある。俺のは5.56×45mmNATO弾が使えるように改良し、マガジンもAK-74のベークライト製マガジンからSTANAGマガジンに変えてマガジン挿入口とロック機構もそれに準じて変えている。

 

 俺はこれにホロサイトとブースターを取り付けて中距離、遠距離に対応させている。

 

 

 エレナはAK-104のマガジン一つ分の射撃をすると、空になったマガジンを外して腰のガンベルトに提げているダンプポーチに放り込み、新しいマガジンをマガジンポーチから出して前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを引く。

 セレクターを一番上まで上げてからスリングに腕を通して背中に背負い、両脇のホルスターからCz75 SP-01を二丁取り出す。

 

「……」

 

 両手にそれぞれ一丁ずつ持つCz75 SP-01のセーフティーを外し、倒木に向ける。

 

(にしても、あれだよな)

 

 俺はエレナを見ながら内心呟く。

 

(いつもCzを持つと、雰囲気が変わるよな)

 

 銃を使わせてから前々から思っていたが、彼女はCz75 SP-01を持つと雰囲気が変わる。

 いつもの明るい雰囲気から、鋭い雰囲気になるのだ。

 

 まぁ別に俺はそういう雰囲気とか空気の変化に敏感ってワケじゃないからもしかしたらただの勘違いかもしれないが。

 

 そんな事を考えていると、彼女は両手に一丁ずつ持つCz75 SP-01の引金を引き、銃声が一度に二回響くと倒木の表面が弾ける。

 それに始まり、連続で銃声が鳴り響く。

 

(それに、他と比べると明らかに拳銃の方がよく当てているんだよな)

 

 彼女はさっきから最初に当てた場所にしか弾丸を当てておらず、その証拠に周りと着弾地点の下には多くの弾丸の破片が落ちている。

 

 ホント妙なもんだよな。

 

 

 

 彼女はマガジン一つ分の射撃をしてスライドが一番後ろまで下がって固定されてホールドオープンすると、マガジンキャッチャーを押して空になったマガジンを外し、太股に装着した特殊な形状をしてマガジンが突き出たマガジンポーチに向けてCz75 SP-01を下ろしてグリップに突き出たマガジンを挿し込み、スライド止めを解除してホールドオープンしたスライドを戻す。

 

「……」

 

 エレナは深く息を吐くと俺の方に振り向き、さっきまでの鋭い雰囲気からは想像できない笑顔を浮かべる。

 

「どうだった、お兄ちゃん?」

 

「あぁ。日に日にうまくなっているな。さすがだよ」

 

「エヘヘヘ♪」

 

 俺に褒められてエレナは嬉しそうに照れる。

 

(このまま練習すると、どこまで伸びるんだろうな)

 

 どこまで伸びるか、楽しみでもあった。であると同時に、不安もあった。

 

(だが、このまま銃を使い続けて、何も起こらなければいいんだが)

 

 尤も、それは自分にも言える事とも言えるが。

 

「……」

 

 そんなエレナの様子を見ていたら、ある事に気付く。

 

「? どうしたの?」

 

「……あれって、煙だよな」

 

「え?」

 

 エレナは後ろを振り返ると、遠くの方で黒煙が上がっていた。

 

「なぁ、エレナ。この辺りで煙が上がるような場所って、無いよな」

 

「うん」

 

「それに、あの方向って、村があったよな」

 

「う、うん」

 

 俺の問い掛けにエレナの声が徐々に震え出す。

 

「……あんなに黒煙が上がることって、まずないよな」

 

「……」

 

 黒煙は濃い上に範囲が広い。ただ事ではないのは明白だ。

 

「……」

 

 俺はMK-107のコッキングハンドルを引いて初弾を薬室に装填する。

 

「行くぞ、エレナ!」

 

「う、うん!」

 

 俺は胸中に渦巻く嫌な予感に息を呑みながらエレナと共に急いで村に戻る。

 

 

 

 

 

 



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番外編03 後悔と覚悟

 

 

 

 

 俺とエレナは山の中にある道を降りていき、村へと急いだ。

 

「っ! エレナ! 先走るな!!」

 

「で、でも!」

 

「何が起きているか分からないんだ! 一人でどうしようってんだ!!」

 

「っ!」

 

 エレナは物凄い勢いで走っているので、追い掛けるのがかなりきつい。

 

(出来れば、予想が外れて欲しいが!)

 

 可能なら俺が予想した事が現実になって欲しく無かったが、あの黒煙の上がり方を見る限りじゃ予想が外れる事は……。

 

 

 

 そして村が見渡せる場所に着き、村の様子が分かるようになった。

 

「……ッ!」

 

「う、嘘……」

 

 俺は絶句し、エレナは呆然と立ち尽くす。

 

 

 俺達の目の前には、各所から黒煙を上げて村が燃えている光景だった。

 

 

 出来れば外れて欲しかったが、現実は非情であったという事か。

 

「っ! お父さん、お母さん!」

 

 エレナは慌てて走り出して村に向かった。

 

「待て! エレナ!」

 

 俺は呼び止めるが、彼女は物凄い勢いで村へと向かって走っていった。

 

「あぁもう、くそっ!」

 

 悪態を付きながらもエレナの後を追いかける。

 

 この黒煙の上がり方を見ると明らかに自然に起きた火事の類じゃない。どう見たって放火だ。その上であの規模だ。つまり村には多くの放火した犯人が居るってことだ!

 そんな中に突っ込めばどうなるか、明らかな事だ。

 

 

 

 俺が村の中に入ると、そこは地獄絵図と化していた。

 

(こいつは)

 

 俺はその光景に吐き気が込み上げてくるが、何とか耐える。

 

 地面には多くの死体が転がっており、その死体はどれも村の人達であった。

 

(くそっ! やっぱり何者かに襲われていたのか!)

 

 ここまで予想が当たっているとは。

 

 俺は周囲を警戒しつつ更に奥へと進む。

 

「っ!」

 

 家の角を曲がった直後、向かい側の家二軒の間にある道から女性が出てくるが、その直後前のめりに倒れる。すると太股には矢が突き刺さっていた。

 

「ヘッヘッヘッ。逃がすかよ」

 

 家の角の陰から出てきたのはボロボロの防具を身に纏う男が憎たらしいほどの笑顔を浮かべながら出てきた。

 

 女性は恐怖に染まった表情を浮かべ何とか逃れようと地面を這い蹲って進むが、男は女性に近付くと手にしている剣を逆手持ちにして振り上げる。

 そして女性の背中に剣を勢いよく振り下ろし、剣先が女性の身体を貫いて地面に突き刺さる。

 

 声を上げられないほどに苦しむ女性に男は剣を突き刺したまま女性を何度も踏みつける。

 

「っ!」

 

 俺はその光景を目にして、脳裏にある光景が過ぎる。

 

 その瞬間、俺の中で何かが切れる。

 

 

「この……」

 

 俺はMK-107を構え、ホロサイトに男の頭を捉える。

 

「クソ野郎がぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 腹のそこから声を出すように叫び、引金を引いた。

 

 銃声と共に放たれた弾丸は一直線に男の額へと吸い寄せられるように向かっていき、額に命中するとそのまま貫いて後頭部から飛び出る。

 頭を撃ち抜かれた男は表情を固めたまま後ろに倒れる。

 

「っ! 大丈夫ですか!!」

 

 俺はすぐに女性に駆け寄って声を掛ける。

 

「っ!」

 

 しかし女性は既に事切れて、俺に返事を返さなかった。

 

「くっ!」

 

 

 

『―――ッ!!』

 

 すると周囲から声がする。

 

(くそっ! 気付かれたか!)

 

 俺はMK-107を構え周囲を警戒すると、前方の建物の角の陰から次々とさっきの男と似たような格好をした男達が現れる。

 

「なんだてめぇ―――」

 

 男が言い終える前に俺は狙いをつけて引金を引き、銃声と共に弾丸が放たれて防具を貫通して左胸を貫いた。

 

 銃声に男達が驚いている間に俺は素早く狙いをつけては引金を引き、頭か左胸を撃ち抜いていく。

 

 しっかし、ホント反動がないなこれ。

 

 俺は狙いを付けて引金を引く度に反動の無さに驚く。まぁ、今はそんな事はどうでもいいか。

 

(と言うか、俺なんでこんなに冷静で居られるんだ?)

 

 空になったマガジンを外して新しいマガジンと交換しながら俺は違和感を覚える。

 

 初めて人を殺した。だが、思ったよりも何も感じないのだ。

 

 何だ、この違和感は……。

 

 

「って! そうだ! エレナ!!」

 

 俺は踵を返して走り出す。彼女が向かったのは恐らくゲオルクさん達がいる家だ。

 

(頼む! 無事で居てくれよ!!)

 

 エレナと彼女の両親の身の安全を思いながら家に向かった。

 

 

 

 

 エレナは身を切らす思いで村を駆け向けていた。

 

(お父さん! お母さん!!)

 

 彼女は両親の身を案じながら走ると、家の角の陰から男たちが出てくる。

 

「え、エルフだぁ!?」

 

 男達はエレナの姿を見ると驚き声を上げるも、すぐにエレナの進路上に出て武器を構える。

 

「っ! 邪魔だぁっ!!」

 

 エレナはCz75 SP-01を手にして両脇のホルスターから抜き放って男性達に向けて連続して引金を引き、引金を引く度に銃声と共に弾丸が放たれる。

 放たれた弾丸は狂いなく男達の身体を貫いて激痛のあまり男達は声を上げながら後ろに倒れる。

 

 エレナは走りながらも勢いよく地面を蹴って跳び出すと、Cz75 SP-01を振るって男達の首を銃剣で切り裂き、切り裂いた箇所から血が大量に出て男達はその場に倒れる。

 

(っ! 私、何で!?)

 

 エレナはさっき自身がやったことに驚きを隠せなかった。

 

 なぜなら、彼女自身が意識してやっていないからだ。

 

 銃の扱いに慣れているといっても、戦闘自体には疎い彼女だ。当然さっきのような動きなど出来る訳が無い。

 だが、彼女はなぜか身体が勝手に動いているような錯覚を覚えていた。

 

(っ! 今はそんな事より!)

 

 彼女は頭を振るって気を取り直して走り出す。

 

「っ! っ! っ!」

 

 息を切らしながらもエレナは走り、ようやく家に辿り着き、扉を勢いよく開ける。

 

「お父さん! お母さん!! っ!?」

 

 エレナは扉を開けた直後、視界に入った光景に絶句する。

 

 

 彼女の視界に入った光景――――

 

 

 

 

 それは全身血まみれになって床に倒れた父と母の姿だった。

 

「お、お父さん? お母、さん?」

 

 エレナは目の前の光景が信じられず、呆然と立ち尽くして声を漏らす。

 

「っ!お父s―――」

 

 だがその瞬間、後頭部に衝撃が走り、彼女は意識を失って前のめりに倒れる。

 

 

 その後ろには棍棒を持った男が立っていた。

 

「へへへ。こいつは儲けもんだな」

 

 気持ち悪いぐらいの笑みを浮かべた男はいやらしい目つきで舐めるようにエレナを見ると、気を失っている彼女の肩を掴んでうつ伏せに倒れている身体を仰向けに起こす。

 

「この村ババァばかりだから不満だったが、こんな上玉が、しかもエルフが隠れていたとはな。俺はついているぜ。おぉデケェ」

 

 彼女の身体を仰向けにしても形の崩れないそのご立派な双丘を見てその気持ち悪い笑みに涎を垂らす等をして更に気持ち悪くし、彼女の着ているタンクトップの裾を掴んで捲り上げようとした。

 

 

 だがその直後、頭に衝撃が走ったと同時に男の意識は永遠に失われた。

 

 

 

「クソ野郎が」

 

 俺はホロサイトの後ろにあるブースターを覗いて倒れてエレナの上から退くクソ野郎の姿を見て思わず声を漏らすと、すぐに走り出して家に近付く。

 

 村を襲っている男達を次々と屠っていく中、エレナと両親が暮らす家の近くまで来ると、男が家の扉の所で何かをしていた。その扉の入り口には見覚えのあるブーツに脚があり、俺は瞬時に何が行われようとしているのかを理解し、とっさにクソ野郎の頭に狙いを定めて引金を引き、クソ野郎の頭を撃ち抜いた。

 

「おい、エレナ! 大丈夫かぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 エレナの姿が見えて声を掛けるが、その現状に俺は声を上げてしまった。いやこの状態じゃ誰だって声を上げてしまう。

 

 なぜなら……彼女の着ているタンクトップが捲り上げられて彼女の下着と彼女のご立派な代物が露になっていたからだ。幸い下着はズレていなかったが、それでもいつも以上に迫力のある光景だった。

 その上下着のサイズが少し合ってないのか、少し締め付けられているような気がした。その分肉付き感があってエロい。

 

(って、バカな事を考えている場合か!)

 

 俺はハッとして頭を振るい、俺は紳士らしく彼女の捲り上げられたタンクトップを戻した。

 

「っ!」

 

 そして家の中の惨状を見て絶句する。

 

「ゲオルクさん! リーシャさん!」

 

 俺は二人に駆け寄って声を掛ける。

 

「リーシャさん……」

 

 床にうつ伏せに倒れているリーシャさんに声を掛けて脈を確認するが、ピクリとも動いていなかった上に、身体には殆ど熱を持っていなかった。

 

「ぅ……」

 

「っ! ゲオルクさん!!

 

 すると壁にもたれかかっていたゲオルクさんが意識を戻し、俺はすぐにゲオルクさんの元に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「お、オキタさん。ご無事、でしたか。え、エレナは?」

 

「大丈夫です。俺の傍に居ます」

 

「そ、そうですか」

 

 エレナが安全である事を聞いてゲオルクさんはホッと安堵の息を吐く。

 

「一体何があったんですか?」

 

「……山賊です」

 

「山賊」

 

 やっぱり賊の類だったか。

 

「それも、私と因縁のある、相手のようです」

 

「因縁のある?」

 

「尤も、相手はその因縁のある、息子のようでしたが」

 

「なんだって?」

 

 俺は首を傾げる。

 

「若い頃、多額の賞金の掛かった山賊の頭目の首を討ち取った事がありましてな。どうやら、その男に息子が居たそうで」

 

「その息子が、敵討ちに為に?」

 

「そう、でしょうな。」

 

「……」

 

 父の敵討ちのために。

 

(だからって、村人を虐殺する必要がどこにあるってんだよ!!)

 

 しかし目的以外の行動に俺は憤りを感じられずに居られなかった。いや、目撃者を消すと言うのは証拠隠滅としては常道手段だが、こうも目立ったら証拠隠滅もクソもねぇよ。

 

「やつは私の前に現れると『俺はお前が殺したラザルの息子、リードだ』と、言っていました」

 

「リード」

 

 そいつがこの虐殺を指示した首謀者か。

 

 俺はその名前をしっかりと頭に叩き込む。

 

「ぐ、ぐふ……」

 

 するとゲオルクさんは咳き込み、血を吐き出す。

 

「ゲオルクさん!」

 

「ど、どうやら、もう、長くは……」

 

「そんな」

 

 俺は思わずギリッと歯軋りを立てる。あまりにも、無力な自分に、憤りを感じられずに居られなかった。

 

 銃という強力な力があるというのに、何も、何も、出来なかった。

 

(俺は、俺は……)

 

 

「お、オキタさん」

 

「は、はい」

 

「最後に一つ、頼みを、聞いてくれますか?」

 

「頼み、ですか」

 

「はい」

 

「……はい。お聞きします」

 

 俺は縦に頷く。

 

「娘を、エレナを、頼みます」

 

「……」

 

 俺は何も言わず、ゆっくりと頷いた。

 

 ゲオルクさんはそれを確認すると、安心したようにゆっくりと息を吐き、頭がゆっくりとうな垂れる。

 

「……」

 

 何も声にせずに、ゲオルクさんの開いた目の目蓋に手を当てて下に下ろして目を閉じる。

 

 俺はすぐにエレナが落としたCz75 SP-01を拾い、まだ気を失っている彼女を米俵の様に左肩に担いで家を出る。

 

(忘れねぇぞ、絶対に)

 

 俺は燃える村を睨み付ける様に一瞥してから、走り出す。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 幸い外に山賊は居なかったので、俺は何の障害を受けることも無く村を出る事が出来た。

 

 その後体力が続く限り走り続けて、その道中に空き家を見つけて中に入って隠れた。

 

「……」

 

 エレナをベッドに横に寝せてからテーブルにCz75 SP01を置き、MK-107を壁に立て掛けて椅子に座る。

 

「……くそっ」

 

 俺は思わず悪態を付き、テーブルに拳を叩き付ける。

 

(何で、こんな、こんな事に!)

 

 ギリッと歯軋りを立て、右手を拳にして握り締める。

 

(あの時、あの時まだ村に残っていれば、こんな事にはならなかったはずなのに!)

 

 過去のことを悔やんだってどうしようもないのは分かっている。分かっているが、悔やまずに居られるかよ!!

 

 

 

「う、うーん……」

 

 すると声漏らしてエレナが目を覚ます。

 

「っ! エレナ!」

 

 俺は椅子から立ち上がってエレナの元に駆け寄る。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「大丈夫か?」

 

「……頭が、痛い」

 

 エレナは上半身を起こしながら後頭部に手を当てて表情を顰める。

 

「そうか」

 

 俺はすぐにエレナの後頭部を見ると、少しだけ血が出ていて彼女の銀髪の一部を赤く染めている。

 だが、それ以外に外傷もないので、一安心だった。

 

「っ! そうだ、お兄ちゃん!」

 

 エレナは何かを思い出して俺の両肩を掴む。

 

「お父さんとお母さんは!? どこなの!?」

 

「……」

 

「お兄ちゃん!! どこに、どこに居るの!?」

 

 必死な形相で問い掛ける彼女に、言って良いのか迷ってしまう。

 

(言ってしまって、それで彼女が持つのか?)

 

 ゲオルクさん達の死を伝えたら、彼女の精神が飛んでしまう恐れがあった。だから事実を言うのに躊躇ってしまう。

 

 だが、どの道彼女は両親の死を知る事になる。先に延ばせば延ばすほど、ダメージが大きくなる事だってある。

 

(……言うしかない、か)

 

 俺は覚悟を決めて、彼女に事実を伝えた。

 

 

 

「……ゑ?」

 

 エレナは壊れたように声を漏らした。

 

「うそ、だよね? ねぇ、お兄ちゃん?」

 

 視線が激しく泳いでいる中、エレナは俺に震えた声で問い掛けた。

 

「……」

 

 俺はとても罪悪感に苛まれながらも、首を左右に振るう。

 

「……」

 

 するとエレナの目がまるで死んだ魚の目の様に光を失っていくと、涙が浮かぶ。

 

「そ、んな。お父さん、お母さん……」

 

 エレナは震える声を漏らしながら顔に両手を当てて、俯く。

 

「エレナ……」

 

 あまりに悲惨な彼女の姿に、俺は奥歯を噛み締める。

 

 どんな言葉を掛けてやればいいのか分からず、どうしようもなかった。

 

 

 

「―――」

 

「……?」

 

 するとエレナは小さく呟く。

 

「……許さ、ない」

 

「エレナ?」

 

「お父さんとお母さんを殺したやつを、許さない」

 

 するとエレナは顔を上げる。

 

 その目はさっきの死んだ魚の目の様な目ではなく、一切の濁りの無い、決意に満ちたものだった。

 

「エレナ。お前……」

 

「もっと、もっと、強くなりたい。そして、お父さんと、お母さんの仇を取りたい」

 

「……」

 

「だから、お願い、お兄ちゃん。私、もっと強くなりたい!」

 

「……」

 

 彼女の揺ぎ無い決意に俺は息を呑む。

 

「……いいんだな」

 

「うん」

 

 エレナは迷い無くすぐに縦に頷く。

 

(ここまで覚悟を決めているのなら、俺も覚悟を決めないとな)

 

 俺は彼女の覚悟に、自身も覚悟を決めた。

 

 

『復讐なんて意味の無い最も愚かな行為』

 

 

 フィクションじゃよく言われる文句だが、俺はそう思わない。むしろ必要な事だと思う。見方によってはただの自己満足なんだろうが、実際その通りだ。

 

 だが、一生を腐って生きていくより、気持ちを整理して、踏ん切りが付けれるのなら、必要な事だと俺は考えている。

 

「分かった。一緒に強くなろう」

 

「うん!」

 

 

 

 ここに一人の青年と一人のエルフの少女が、一つの固い決意を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――――ッ!!

 

 

 

 レベルが9に上がりました。以下の項目がアンロックされました。

 

 

 ・トレーニングモードが開放されました。

 

 ・スキル『教導』が追加されました。

 

 ・特殊ミッション『復讐者』が発動しました。

 

 

 

 

 

 




沖田編は一旦間を置いて更新しようと思っていますので、お待ちください。
あと番外編はもう一話だけありますので、よろしくお願いします。


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番外編01 輪廻転生先は異世界

 

 

 

 輪廻転生と言うのを知っていますか?

 

 昔から人間もそうだが、生き物の魂は死後別の存在として生まれ変わると言われている。よく人間には前世の記憶があると言われており、実際前世の記憶と思われる記憶を持つ人間は世界各地で確認されている。

 ある一件ではとある男性に殺された男性の記憶を持つ子供がその時の状況を口にして殺人事件を解決したり、大戦中に戦死した空軍のパイロットの記憶を持つ子供が居たりと、少なくとも事実だった件もある。

 

 まぁそれら全部が全部真実と言うわけではなく、ホラ吹きだってあるが。

 

 だが前世の記憶は大抵の場合は時間の経過と共に薄れていき、やがて消えて無くなるものだ。ましても、ラノベやアニメの様に、魂と記憶が残ったまま来世を迎えるなんて一例は全く確認されていない。

 

 

 

 でも、中には例外な一例もある事もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 小さく揺れる馬の牽く荷車に詰まれた荷物の中、仰向けになって後頭部に両手を組んで横になっている僕は雲がちらほらとある青空を眺めた。

 

「はぁ……」

 

 深くため息を付き、目を瞑る。

 

(それにしても、何でこうなったんだろう)

 

 僕は空を眺めながら内心呟き、今日に至るまでの出来事を思い出した。

 

 

 この世界における僕の名前は『シキ・クーゲルト』。前世地球においての僕の名前は『翔 アマミヤ』と言う名前だった。名前の感じから分かると思うけど、僕の父親は日系のアメリカ人だ。と言っても、実の父親じゃないんだけどね。

 

 何でも僕の母は僕がまだお腹の中に居る時に離婚して、その後シングルマザーとして僕を育てていた。そんな中、僕が4歳の時に今の父と知り合って5歳の時に結婚した。ちなみに名字を変えるまでは『天本 翔』と言う名前だった。

 

 母は離婚する前の事はあまり話してくれなかったけど、一度だけ僕には生き別れの兄が居ると聞かされた事があった。生きていれば大学生ぐらいだって言っていた。出来ればその生き別れの兄と会いたかったけど、今となっては叶わぬ夢だ。

 

 で、僕はミリオタである事以外は至って普通な高校生だった。まぁ僕がミリオタになったのは今の父親の影響が強いかな。

 

 父は結構なガンマニアで、母国アメリカの実家でも叔父が多くの実銃を持っており、小学校や中学校の頃から夏休みや冬休みの時期にはアメリカに行っては父と叔父と一緒に射撃場や砂漠で色んな銃を撃たせてもらった。中には大戦時中の小銃も撃たせてもらったのは嬉しかった。

 その影響もあって、僕は銃の魅力に大いに引かれた。

 

 まぁ母は僕が銃好きになるのに少し抵抗感があったみたいだけど。

 

 で、その事もあって僕は銃から派生して軍事関連のものが好きになっていって、まぁ結構なミリオタになったわけだ。

 

 その中でも中学の時の親友の女の子がドイツ系の武器兵器が好きなミリオタとあって、僕もドイツ系の武器兵器が好きになった。

 

 

 でも高校生活を過ごしていた時、当時僕に対して虐めを行って絡んでいたいじめっ子がいた。さすがに度の過ぎた虐めが何度もあると僕でも我慢の限界はある。

 かと言って喧嘩沙汰になるとお互い停学処分を受けて将来に響く事になる。それは避けたかったので、僕は頭を使っていじめっ子だけに罪を背負ってもらう事にした。

 

 僕はボイスレコーダーや隠しカメラを使っていじめっ子による虐めの決定的な証拠を手にしてこれを然るべき所に提出して、虐めに対して厳しくなった世の中もあっていじめっ子は見事に退学処分となった。ざまぁみろ。

 だが、その後の事を考慮していなかったのが、僕の運のツキだったのかもしれなかった。

 

 

 そして、その日は訪れた。

 

 家への帰路に付いた時、僕の前に現れたのは退学になったいじめっ子だった。そいつは退学にされたのを僕のせいだと逆恨み、金槌を手にして僕に襲い掛かってきた。

 僕は逃げようとしたが、その時に足が縺れて倒れてしまい、いじめっ子の持つ金槌が僕の頭に振り下ろされた。

 

 ソイツは何度も僕の頭を金槌で殴った。そんな中僕の意識は朦朧となり、やがて意識を失った。

 

 

 

 

 

 だが、目覚めるはずも無い中、僕の意識は目覚めて、視界は明るくなって行った。そして気付いた時には、僕は女性の胸の中に抱かれていた。

 そして僕は違和感を覚えて、偶然近くにある窓が視界に入り、そこに薄っすらと映る僕の姿は、姿が以前とは似ても似つかない姿となっていた。

 

 それは赤ん坊の姿であったのもあるが、それ以上に驚いたのは、僕の頭にはある筈もない、獣の耳が生えていたからだ。

 

 僕の目に映ったその姿に僕は驚きを隠せなかった。色々と突っ込みたかったけど、赤ん坊だから喋る事が出来なかった。

 

 だが、僕は認めないといけない。これが俗に言う異世界転生であり、僕が異世界で獣人として新しく人生をやり直す事になったと言う事を。

 

 

 

 それからはまぁ異世界とあって相応の生活が待っていた、なわけがなかった。

 

 僕が居たのはそれなりの規模を持つ村であり、その村に住む中年の夫婦に僕は生まれた、わけではなく拾われた。

 

 僕が拾われたその日は夜間に激しい嵐と雷雲が空を覆って雷を激しく鳴らしていた。その時極めて大きな雷が村の中央に落ちたそうだ。で、その落雷地点に赤ん坊だった僕が居たとのことだ。

 

 落雷の地点に赤ん坊が居るって、明らかに普通じゃないよね、これ。

 

 まぁその後は普通に成長して、5歳の頃から父の仕事の手伝いをしていた。普通このくらいの年の子なら途中で集中力が切れるかもしれないけど、中身は高校生だから、別に苦ではなかった。

 

 ちなみにその世界では冒険者はポピュラーな職であり、父もその冒険者だった。父から聞かされた話から、前世地球では見られない聞かれない職業に僕は冒険者に憧れた。

 

 んで、7歳ぐらいから父から冒険者時代に培った技術を伝授されてながらも仕事の手伝いをして、その間にこの世界について母から教わった。

 

 この世界では人間を含めて多種多様な種族が東西南北にある大きな大陸に暮らしており、魔法が普及している。

 まぁつまりラノベや漫画でよくある異世界物の異世界のようなところだということだ。

 

 あと科学力も発展し始めているけど、火薬の類はまだ無いらしい。魔法が発達した世界観なのかねぇ。

 

 

 でも、僕が10歳を迎えた年、村で流行り病が流行し、両親もその流行病に掛かってしまい、その後二人は亡くなってしまった。僕は獣人故か、村で唯一何の影響もなかった。

 流行病は小規模で尚且つ伝染性が低かった事もあって、すぐに収まった。

 

 その後僕は両親が遺したお金と村の手伝いで生計を立てつつ生活して、15歳を迎えた。

 

 この時父の仕事は弟に任される事になって、僕はその手伝いを含めて村の仕事を手伝う事になっていた。だが、僕と同い年ぐらいの男の子や女の子が居たので、僕が必ず居る必要がなくなっていた。

 

 ちなみにこの世界では15歳で成人として認められるので、僕は村を出て冒険者として働こうと考えていた。実際僕以外の何人かの同い年の男の子も村を出て街で出稼ぎに行こうとしていた。

 

 僕も街に行く為の資金と必要な品物を集めて、その年の中頃に準備を終えて村を出発した。

 

 

 んで、最初に到着した街で僕は冒険者として登録して、初の依頼をこなしたのだが……黒歴史確定な出来事があって、思い出したくない一件だったので、ここでは省略。

 まぁそんな事が遭ったので僕はその街を離れた。

 

 

 

 そして現在次の街に向かう為にその街に向かっている馬車を見つけて荷車に乗り合わせている。

 

 

(人生どんな事があるか分からないもんなんだな)

 

 僕は内心呟きながらため息を付く。

 

 いじめっ子に殺されて、気付けば獣人として異世界に輪廻転生を果たし、冒険者となった。ホント分からないもんだねぇ。

 

(いや、分からないのは、すぐ傍にあるんだけどね)

 

 僕は傍に置いてある布に包まれた物と、腰のベルトに提げてある物に手を触れる。

 

 これは僕が15歳を迎えた年のある日、家の掃除をしていて、その家の裏にある倉庫を掃除していたら、とある長い箱が見つかった。

 

 見るからに他の箱とは雰囲気が異なるその箱は僕がロックしている箇所に触れるとその部分に光が纏い、それが弾けた。

 

 そしてその箱を開けてみると、そこには明らかにこの世界には存在しない物が収まっていた。それを見た僕は驚きと興奮を覚えた。

 

 僕は村長に箱はどこで手に入れたかを聞くと、何でも箱は僕がこの村に捨てられた時一緒に置かれてあったそうだ。当時は施錠魔法が掛かっていて誰にも開けられなかったらしい。で、壊そうにも頑丈に作られていて壊れなかったそうだ。

 で、誰にも開けられないままその時に至るまで忘れ去られたらしい。

 

 中身を見た村人は誰もが珍しがった。まぁ当然この世界には存在しない物だからね。

 

 まぁこの世界じゃ代物の調達ができないからずっと使い続けられないが、僕には『錬金魔法』と呼ばれるこの世界ではかなり希少な魔法が使える。

 

 これは生まれた時に使える才能がなければ血反吐を吐く努力をしても使う事が出来ない魔法で、この世界では使える人はかなり少ないそうだ。

 その上、完全なものとなると、もっと少ない。

 

 僕はこの魔法を完全な形で使える。この魔法はイメージ力と記憶力が大事らしく、それの能力の高さ次第で質が違ってくる。

 僕の場合は前世の頃からイメージ力が強く、記憶力も一度覚えたら忘れる事はないので、完全な形でこの魔法を使えている。

 

 その上僕はレアスキル『内部把握能力』がある。名称は僕が付けたけど、このスキルは触れた物の内部構造を一瞬で把握する能力で、さっきの記憶能力もあって、錬金魔法による複製は瓜二つの代物を生み出せる。

 

 まぁ、良い事尽くしだけど、この魔法が使える代わり僕は普通の一般魔法が使えないデメリットがある。まぁこの世界で魔法が使えないと困るなんて事は無いけど。

 だが、この錬金魔法は過去に大いなる災いを呼び寄せたとして、世間には悪いイメージが植え付けられている。現に村の一部の人間からは嫌悪な視線で見られる事があった。まぁ、僕は気にしなかったけど。

 普通の魔法は使えないが、錬金魔法はとても応用が利く魔法で、それを応用して他の魔法モドキの事は出来る。

 

 話が逸れたけど、この錬金魔法のお陰であれを使い続けられる目処が立った訳で、武器として使っている。尤も冒険者としてその武器を使った事はまだ無いんだけど。

 

 

(でも、何でこれがこんな何の縁も無い世界に)

 

 これはこの世界には何の縁も無い代物だ。それ以前にこれに使われている技術事態が確立していない。これはそれすらすっ飛ばして存在している。

 

 これはホント謎が深まるばかりだ。

 

 

 

「おーい、お嬢ちゃん。街が見えてきたぞ」

 

 と、馬を操るおじさんが荷車に居る僕に声を掛ける。

 

「ですから、僕は女じゃなくて男です!」

 

 僕はバッと立ち上がって抗議の声を上げる。

 

「おぉすまんかったな、坊主!」

 

「ガハハ!!」とおじさんは笑う。

 

(うぅ! いっつもこれだ!! もうっ!!)

 

 僕は内心で悪態を付きながらも、荷車に載せられている鏡に映る自分の姿を見る。

 

 雪の様に白い銀髪のショートヘアーに二つの獣の耳が頭から生えている。ルビーの様な透き通った赤い瞳を持ち、整った顔つきをしている。お尻の上辺りから髪と同じ色のふさふさした毛の生えた尻尾が生えており、穴の開けたズボンから出している尻尾が自分の意志に従ってユラユラと揺れる。

 服装はこの世界だと一般的な極普通の服装を着ている。いや説明雑過ぎって言われても、これ以外に説明のしようが無い。強いて言うなら灰色の半袖の上着に黒で足首辺りが出ている裾の長さを持つズボンに靴と言った格好だ。

 一応僕の種族は獣人種の中の狼族らしい。なので耳と尻尾は犬じゃなくて狼だよ。

 

 まぁ誰もが見ても美形な容姿なのは一目瞭然だ。実際村や以前の街で声を掛ける人は多い。

 

 だが、問題はその美形が美少年としてではなく……美少女な容姿なのだ。

 

 誰がどう見ても美少女にしか見えない。自分自身ですら認めてしまっているほどに、美少女なのだ(大事なので二回ry

 で、その上身体つきが華奢なせいで余計に女の子にしか見えないという。

 

 少なくともこの人生で初見で男の子として認知されてもらった事は無い。村でもこの容姿のせいでちょっかいを出されたり、以前居た街でも女の子と勘違いして僕に声を掛ける男性冒険者が多かった。そして冒険者として初の依頼も発端はこの容姿のせいで……。

 

(うぅ……なんでこんな姿になったんだよぉ)

 

 正直この容姿が人生で一番の悩みだ。例えレアな魔法に優秀な技能に獣人だからこその優れた身体能力に、あれがあると言っても、これは……。

 

 

 

「―――っ!!」

 

「っ!?」

 

 すると突然馬の悲鳴が上がった直後に荷車が停車し、僕は前へと放り出されそうになるも、何とか踏ん張った。

 

「お、おい!? どうしたんだ!?」

 

 おじさんは慌てて馬を宥めようとしているが、馬は一向に落ち着きを戻そうとしない。

 

(何かに怯えている?)

 

 長年動物の世話をした事があり、獣人故なのか、動物の事はそこそこ判る。馬の怯え方が尋常じゃない。

 

「っ!」

 

 すると僕の獣人としての優れた耳がこっちに向かって来る足音と、葉っぱ同士が掠れる音を捉える。

 

 すぐに音のした方向に視線を向けると、道から離れたところにある森の中からゴブリンとオークと言った魔物が現れた。

 

「ゴブリンに、オーク」

 

「な、なんだと!?」

 

 僕がその二つの名前を口にするとおじさんは驚いた表情を浮かべる。

 

「何でこんな所にゴブリンとオークが!?」

 

 おじさんが驚くのも無理は無い。

 

 この辺りは街に近い場所だ。少なくともやつらがこんな所に現れることは考えられないだろう。だがそれはこちらの考えだ。向こうの考えと合致するわけがない。

 

「おじさんは荷車に隠れてて!」

 

「お、お嬢ちゃんはどうするんだ!?」

 

「あいつらを追い払います! 後僕は男です!」

 

 僕は布に包まれたそれを手にして荷車から降りると、馬車から離れた場所まで走って立ち止まりながら片膝を地面に着く。

 

(実戦だと初めてだけど、試し撃ちで何度も撃ったんだ)

 

 自分にそう言い聞かせながら右手に持つそれを覆う布を取っ払う。

 

 布が払われてその下から現れたのは、半光沢の漆黒の色をした物体だ。

 

 いくつ物パーツによって組み合わされ、上部に筒状の物体を持つそれはこの世界には存在しない物。その名前は『G3SG/1』である。

 

 西ドイツ初のアサルトライフルG3の中で、最も命中精度の高い個体を選抜して改装を施したのがこの銃だ。主に通常より長い銃床に専用のマウントベース、二脚を追加している。狙撃銃だが、運用や銃としての特性からすればマークスマンライフルの方が近いかもしれない。

 使用弾薬はG3から変わらず威力の高い7.62×51mmNATO弾を使用する。

 

 このG3SG/1が家の倉庫で見つかった箱の中にあったのだ。それを見つけた時、僕は戸惑いと興奮を覚えた。なにせ存在しないはずの物が手元にあるのだから。

 まぁその時は本物だとは思えなかったけど。

 

 その後僕はそのG3SG/1と一緒に入って居た物と一緒に山奥で試しに撃ってみたら、銃声と反動が来たもんだから、驚いた。そしてそれが本物であり、僕の魂に刻まれたアメリカで銃を撃った時の感覚と同じであると確認した。

 そして一緒にあった『Cz40B』も試し撃ちをして、それも本物であると確認した。ってか、Cz40Bってなんちゅうマイナーな銃を。

 

 銃弾やマガジンの問題は僕の錬金魔法の複製と内部把握能力を用いて数を増やす事が出来るので、村に居る間はそうして弾を複製して銃を撃っていた。

 

 

 僕はポケットからマガジンを取り出して前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを引いて構えると、取り付けられたスコープの蓋を開けて覗く。

 

「……」

 

 スコープの倍率を調整して再度構えると、レティクルに何も知らずに近付いてくるゴブリンの頭を捉え、引金に指を掛けてゆっくりと引き絞る。

 

 

 ――――ッ!!

 

 

 辺り一面に発せられた銃声と共に放たれた弾丸は一直線にゴブリンの頭へと飛んでいき、弾丸はゴブリンの頭を貫いて後頭部が弾け飛んで血と中身を撒き散らす。

 

「……」

 

 僕はすぐに隣で仲間が聞いたことの無い銃声と共に死んだことに驚いてオークと共に足を止めたゴブリンに狙いを定めて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸が頭を撃ち抜く。

 続けて隣のオークに狙いを定めて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸がオークの頭を撃ち抜く。

 

 狙いを定めては引金を引いてを、それを繰り返してゴブリンとオークを次々と仕留めていく。

 

 そしてゴブリンとオークは自分達の不利を悟ってか、武器を捨てて森の中に逃げようとしていた。

 

(逃がさない!)

 

 僕は逃げようとしているオークとゴブリンの後頭部を狙っては引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸が次々とゴブリンとオークの頭を撃ち抜いていく。

 

 

「……」

 

 銃声が周囲に木霊す中、僕はG3SG/1を構えてやつらの増援が来ないか警戒する。

 

 

 しばらく待ったが、やつらは戻って来なかった。

 

「……」

 

 僕は息を吐いてコッキングハンドルを引いてボルトを回して溝に引っ掛け、マガジンキャッチャーを押しながら空になったマガジンを外して腰に提げているダンプポーチ代わりの麻袋に放り込み、新しいマガジンをポケットから取り出してマガジンの前端を引っ掛けながら挿し込み、コッキングハンドルを上から叩いてボルトを戻し、セレクターを動かしてセーフティーを掛ける。

 G3SG/1に掛けているスリングに腕を通して背中に回し、周囲に落ちた空薬莢を拾って麻袋に仕舞うと馬車へと戻る。

 

「す、すげぇ」

 

 馬車の荷車からおじさんが顔を出して僕を驚いた表情を浮かべて見ていた。

 

「ぼ、坊主。お前さん、一体何者なんだ?」

 

「ただの冒険者の駆け出しですよ」

 

 僕はそう言って荷車に乗り込む。

 

 おじさんは怪訝な表情を浮かべるも、馬を落ち着かせてから馬車を牽かせて歩き出させた。

 

(こりゃ噂はすぐに広がりそう)

 

 仕方が無いとはいえど、あれだけしたらこのおじさんがすぐに噂を広めるんだろうな。

 

 僕はそんな事を思いながら、出発した馬車に揺られながら次の街であるスレイプニルに着くのを待った。

 

 

 

 

 




次回から本編に戻ります。


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第三章
第三十話 新たな日常


第三章の始まりです。


 

 

 あれから数日もの時間が経過した。

 

 

 

 

 人の気配すらなさそうな鬱蒼としている薄暗い森の中。

 

 

「……」

 

 俺は木の陰に隠れて木の陰から顔を出し、その向こう側をこっそりと覗く。

 

 そこには結構な数のラトスに酷似して一回り大きな『ベリル』と呼ばれる魔物の群れが仕留めた獲物に群がり、獲物の肉を貪り食っていた。

 

 ベリルはこのエストランテ王国に生息する魔物で、リーデント王国に生息するラトスと違って身体が大きく、抹茶色のみの体色なのが特徴だ。

 

 この国ではゴブリンに次いで多いことで有名だ。単体の戦闘能力は高くないが、ラトス同様ベリルは群れを成してその戦闘能力の低さを補っている。

 

 あれから俺達はエストランテ王国の中で3番目に大きなスレイプニルに着くと、そこでフィリア達は冒険者として登録し、俺とパーティーを組んで冒険者として活躍している。

 

 今回俺達は森に生息し始めたベリルの群れが家畜に被害を齎していると牧場の持ち主の男性から依頼を受けてベリルが棲み出した森へと向かった。

 

 

「……」

 

 俺は向かい側にある木の陰に隠れているフィリアに『ユフィの射撃と共に一斉射撃』とハンドサインで伝えると、フィリアは縦に頷き、機関部上部にホロサイトとブースターを載せて被筒下部にフォアグリップを取り付けた89式小銃を構える。

 すぐに反対側の木の陰に隠れているセフィラとリーンベルにさっきと同じハンドサインで指示を出して、彼女達はそれぞれ5.56mm機関銃MINIMIと7.62mm機関銃M240Bを構えてドットサイトを覗く。

 

「ユフィ。群れのボスの狙撃を頼む。お前の射撃で一斉に射撃を行う」

 

『了解した』

 

 耳に付けている通信機で後方に居るユフィに連絡を入れて89式小銃を構え、ホロサイトにベリルの姿を捉える。

 

 

 直後に遠くから銃声がするとその直前にベリルのリーダーの頭に風穴が開いて向こう側から血と肉片が飛び散る。

 リーダーはその場に倒れて身体を痙攣させた後に動きを止める。

 

 リーダーが倒れたと同時に俺は引金を引くと、銃声と共に89式小銃の銃口からマズルフラッシュが瞬いて弾丸が放たれ、ベリルの頭を貫いて命を刈り取った。それと同時にフィリアも発砲してベリルの頭を撃ち貫く。

 直後異なる二つの銃声と共に弾丸の雨がベリルの群れに降り注ぐ。

 

 ベリルの群れは突然の襲撃に驚き戸惑うが、その間に銃弾の雨霰が襲い掛かる。

 

 弾幕の中を生き残ろうと必死になって動き回るベリルも居たが、俺とフィリア、後方のユフィの狙撃によって頭や胸を撃ち抜かれて命を落とす。

 

「……」

 

 銃弾の雨から逃れようとしているベリルの一頭に狙いを定めて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸はベリルの首を貫通して地面に倒す。

 フィリアもホロサイトで狙いを定めて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸はベリルの胸を貫く。

 

 弾幕の中、傷を負いながらも生き残ったベリル数頭は森の奥へと逃げていく。

 

 

「何体か逃げちゃいましたね」

 

「まぁあれだけの傷を負って、あの数じゃそう長く生き延びられんだろう」

 

 5.56mm機関銃MINIMIのボックスマガジンの中身を確認してリーンベルはそう言いながら俺とフィリアに合流する。

 

「しかし、あれから更に腕に磨きが掛かっているな、ユフィ」 

 

「まぁ、キョウスケのトレーニングモードでの訓練は欠かせていないからな」

 

 スコープを乗せたMSG90を担ぐように持っているユフィが後ろから歩いて来て合流する。

 

 ちなみに彼女達の格好だが、全員騎士団の制服から迷彩Ⅲ型を着用して基本的な装備品を身に着けている。

 まぁ他国の騎士団の制服だと目立ってしょうがないからな。それに将来的に組織を立ち上げるなら、着る物は統一した方がいい。

 

 と言っても陸自迷彩でも十分目立つけど。

 

「それじゃぁ、鶏冠を回収して残りも討伐するぞ」

 

『了解!』

 

 全員の返事を聞いてから俺達は討伐の証となるベリルの鶏冠を切り取って回収し、残りの獲物を仕留める為に更に森の奥へと足を歩めた。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 その後時間の限りまでベリルを討伐し、討伐証明となる鶏冠を回収後俺たちは依頼主に報告してからスレイプニルへの帰途に着いた。

 

 

 高機動車改をスレイプニルから少し離れた森で止めてから全員降車し、収納してからスレイプニルへと入って俺達は冒険者組合がある建物に入る。

 

 

 そこで依頼達成の報告を行い、成否の確認をしてもらう間に回収した鶏冠を提出して換金してもらい、依頼達成の確認が取れて報酬金を貰った。

 

 

 

「ようやく私達のランクがストーンに上がりましたね」

 

「そうだな。俺ももう少しでブロンズに上がりそうだ」

 

 報酬を受け取った後、俺達は空いているテーブルに着き、夕食を取りながら会話を交わしていた。

 

 今回の依頼でフィリア達の冒険者ランクがウッドからストーンへと上がり、俺もアイアンからブロンズに上がりそうになっていた。

 

「にしても、まさかギルドを立ち上げるのにあんな厳しい条件があったなんて」

 

「あぁ。詳しく調べていなかったとは言えど、あそこまで厳しいとは思ってなかった」

 

 俺は苦笑いを浮かべて肉団子を刺したフォークを口へと運ぶ。

 

 

 フィリア達が冒険者になって、その後俺はフィリア達と共にギルドを立ち上げようとしたのだが、思わぬ障害があった。

 

 ちなみにギルドとは冒険者が集まり、組合で公式に認定された団体の事である。ギルドを設立させれば、傭兵団として冒険者単体では受けられないような高額報酬の依頼を受ける事が出来るようになる。

 

 しかし、そのギルドの設立には、いくつもの厳しい条件を満たさなければならないからだ。

 

 最低でもシルバーランクの冒険者が二人以上で、尚且つブロンズランクが三人以上、そしてメンバーは最低でも七人以上と、結構厳しい条件が課せられる。

 

 何でも過去に多くのギルドが設立されたのだが、その多くがすぐに解散になると言った件数が多かった。その大半はノリと勢いでギルドを設立したはいいが、すぐにギルド内で不仲が起こり、そのまま解散になったと言う理由が占める。

 

 その為、組合はギルドの設立には条件を満たさなければならないと言う制度を決めたそうだ。

 

 

 まぁつまり、現時点で俺達はギルドの立ち上げの条件を一つも満たしていないのだ。

 

「これ、ギルドの立ち上げまでにどのくらい時間が掛かるんでしょうか?」

 

「さぁな。ランクを上げるのは簡単だが、人はなぁ」

 

 俺はため息を付く。

 

 依頼をこなしていけばランク自体は自ずと上がっていくが、人だけはそうすぐには集まらない。

 

 かといって他の冒険者を誘うなどは論外だ。見知らぬやつをすぐに仲間にするなど、馬鹿がする以上に愚かな行為だ。

 

「……」

 

「うーん」

 

「これは結構厳しいですね」

 

 誰もが静かに唸る。

 

「まぁ、地道に重ねていくしかないだろう。仲間集めはとりあえず置いておいて、今はランクを上げないと話にならん」

 

「そうね」

 

「そうだな」

 

「はい」

 

「えぇ」

 

 とりあえず今後の動きを纏めて食事を続けた。

 

 

 

 ------------------------------------------------------

 

 

 

 その後止まっている宿に戻ると、寝る前にトレーニングモードを起動した。

 

 

「うわぁ」

 

「これは」

 

「……」

 

「凄いわね」

 

 目の前で俺が出した物体にフィリア達は驚きのあまり声を漏らす。

 

「これって前出した16式っぽいわね」

 

「まぁな。でも火力や機動力は向こうの方が高い。こいつは兵員輸送を目的とした装軌装甲車だ」

 

 俺は目の前にある『89式装甲戦闘車』の説明を彼女達にする。

 

 この89式装甲戦闘車はオリジナルに改良を加えた物で、銃口を出す為のガンポートは取っ払って装甲で塞ぎ、砲塔上部には新たに12.7mm重機関銃M2を追加し、74式車載7.62mm機関銃を7.62mm機関銃M240Bに変更している。

 

「これを次の依頼で使うんですか?」

 

「あぁ。高機動車改より速度は落ちるが、火力と防御はあるからな。それに次の依頼のある森林は道が悪いって話を聞いているし、何より次の依頼の討伐目標の魔物も大きいからな」

 

 冒険者は依頼を先に受けて出発は次の日にすると言ったやり方をしてもいいのだ。

 

「それにしても、団長はホント凄いですよね。これどこで手に入れたんですか?」

 

「それは……」

 

 リーンベルの質問に俺はすぐに答えることは出来なかった。

 

 一応彼女達には使っている武器や兵器は色んなツテを使って手に入れたと伝えている。まだ事実は伝えていない。

 

「秘密だ。色々とあってな」

 

「そういえば、様々な方法を使って手に入れたと言っていたな」

 

「そうだ。とりあえず、この中ならいくらでも時間はある。みんなにはコイツの扱い方に慣れてもらう」

 

『了解!』

 

 俺は会話を切ると訓練を始めた。

 

(やはり、明かす必要があるか)

 

 俺は89式装甲戦闘車に乗り込みながらそろそろ嘘の限界を感じた。

 

(まぁ、いずれ明かさないといけないんだ。なら、早めにした方がいいか)

 

 そう考えながら彼女達に89式装甲戦闘車の各所の操作法を教えて、訓練に入った。

 

 

 



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第三十一話 カミングアウト

 

 

 

 

「……」

 

 射撃場を模した仮想空間で俺は89式小銃を構えてホロサイトを覗いて的に狙いを定めて引金を引き、銃声と反動が銃床を伝って右肩に押しかかり、排莢口(エジェクションポート)より硝煙を纏った空薬莢が排出されて床に落ち、澄んだ金属音を鳴らす。

 放たれた5.56mmの弾丸は一直線に狙った的の中央に命中して穴を空ける。

 

 間隔を空けながら引金を引いて弾丸が銃声と共に放たれて、的に次々と穴が開いていく。

 

 しばらく撃つとマガジンに入っている89式5.56mm普通弾30発を撃ち終えてボルトが一番後ろまで下がった状態で止まる。

 

 すぐにマガジンキャッチボタンを押して空になったマガジンを外して腰のベルトに提げているダンプポーチに放り込んでマガジンポーチから素早くマガジンを取り出して挿し込み、スライド止めを押してボルトストップを解くと射撃を再開する。

 

 数発撃った後89式小銃のセレクターを(単射)から(安全)に素早く切り替えて手放し、チェストリグに繋がっているベルトに吊るすとレッグホルスターからUSPを取り出して数発射撃を行う。

 左右を確認した後USPをレッグホルスターに収めて89式小銃を手にする。

 

 隣では同じようにフィリアが89式小銃を構えて数回射撃を行い、セレクターを(単射)から(安全)に素早く切り替えて手放し、チェストリグに繋がっているベルトに吊るすとレッグホルスターからUSPを取り出して数発射撃を行う。

 左右を確認した後USPをレッグホルスターに収めて89式小銃を手にする。

 

 その隣ではMSG90のスコープを覗いて遠くにある的に狙いを定めて引金を引くユフィに、5.56mm機関銃MINIMIを構えてドットサイトを覗きながら撃つリーンベル、7.62mm機関銃M240Bを派手に撃つセフィラの姿があった。

 

 

 89式装甲戦闘車の試験運用を兼ねた依頼で俺達はグリムベアーやベリルと言った魔物の討伐を終えていつもの様に組合に依頼達成の報告をして報酬を受け取り、夕食を取った。

 

 そして俺たちは宿に戻ると寝る前の訓練を行っていたのだ。

 

 

 しばらく射撃を行って辺り一面空薬莢が覆い尽くしている中、俺達は休憩に入っていた。

 

「……」

 

 胡坐を組んで床に座っている俺は会話を交わしているフィリア達を見ながら首の後ろを擦り、覚悟を決めて立ち上がってフィリア達の元へと歩く。

 

「みんな、ちょっといいか?」

 

 俺が声を掛けるとフィリア達が一斉に顔を向ける。

 

「どうしたの、キョウスケ?」

 

「……みんなに、話があるんだ」

 

「話? 何だ急に?」

 

「ちょっとな。この際色々とハッキリとさせておきたいからな」

 

 俺は彼女達の傍に座り込む。

 

 彼女達は俺の意図が理解できないのか、首を傾げる。

 

 

 

「みんなは、俺の事をどう思っている?」

 

「どうって……」

 

「急にそう言われましても」

 

 リーンベルは戸惑いの表情を浮かべながら視線を左右に動かす。

 

「私はとても勇敢で優しい方だと思っております。こうして皆様と居られるのも、団長のお陰ですわ」

 

 セフィラは微少を浮かべながらそう答える。

 

「そうね。キョウスケが居たから、私はこうして自由に居られて、みんなと一緒に居られる」

 

 フィリアはそう言うと、両手を交差させて自身の胸に置く。

 

「あー、その、何だ。そう言われるのは嬉しいんだが、俺が聞きたいのはな」

 

 ここまで評価が高いと俺自身恥ずかしいけど、嬉しい事はある。でも、聞きたいのはそれじゃなくてだな。

 

「みんなは、俺に対して何かしら疑問に思うことは無いのか?」

 

「疑問、か」

 

 ユフィは腕を組むと、ボソッと呟く。

 

「まぁ、無いと言ってしまえば、嘘になるな」

 

「そう、ね」

 

「はい」

 

「……」

 

 フィリア達は台に置いている銃火器を一瞥する。

 

「でも、どうしてそんな事を聞くの?」

 

「それは、これから話す事に関係しているからだ」

 

「……」

 

「みんなに伝えないといけない。俺の正体を」

 

 

 そして俺は彼女達に自身の経歴を伝えた。

 

 

 自分がこの世界とは異なった世界の人間であり、そこで一度死んでこの世界に転生した人間であると。

 

 そして転生させた神の事は伏せて、武器兵器の召喚能力について。

 

 

 

『……』

 

 その現実離れした事実を知らされた彼女達は唖然としていた。

 

「きょ、キョウスケ。今の話、本当なの?」

 

「あぁ。信じられないだろうが、全て事実だ」

 

「……」

 

「別の世界で死んで、この世界に転生……。とても信じられない話だが」

 

 ユフィは後ろを向いて台に置いているMSG90や89式小銃を見る。

 

「あれらを見てしまえば、信じるしかないだろう」

 

「……」

 

「キョウスケが居た世界の武器。確かにそれなら知らなくて当然ね」

 

「無い物を知って居るなんて無理な話ですからね」

 

 リーンベルは軽く頷く。

 

「だが、どうしてこの事を私達に教えたんだ?」

 

「そうですね。別に私達は団長のその能力については気にしていませんのに」

 

「……」

 

 彼女達の疑問に、俺は一間置いてから返事を返す。

 

「いずれは知られる事だ。なら、早い内に明かした方がいいだろうと思ってな」

 

「……」

 

「まぁ、そういうことだ。それを踏まえた上で、さっきの事を聞きたいんだ」

 

『……』

 

 彼女達は黙り込む。

 

(まぁ、無理も無いか)

 

 いきなり違う世界の人間で、その世界で命を落としてこの世界に転生したと言われても、簡単に信じろと言うのが無理な話だ。

 

 

「そんなの、関係無いわ」

 

 最初に口を開いたのはフィリアだった。

 

「例え私達とは異なる別の世界の人間だとしても、キョウスケはキョウスケよ」

 

「フィリア……」

 

「武器や兵器を召喚出来る魔法を使える。違いはそれだけよ」

 

「……」

 

「別に真実を知っても、私達の気持ちや貴方への感情は変わらないわ」

 

 フィリアがそう言うと他のみんなは頷いた。

 

「みんな」

 

 ここまで俺は信頼されていたんだな。

 

(なんだか色々と心配していた俺が馬鹿みたいだ)

 

 俺は気恥ずかしさを感じながらも気持ちを切り替えてフィリア達に向かい合うと、頭を下げる。

 

「改めてだが、これからもよろしく頼む」

 

「こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 フィリアがみんなを代表してそう言うと、頭を下げて、ユフィ達も頭を下げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――♪

 

 

 ミッション『仲間との絆』をクリアしました。

 

 ・特別ポイントが7000追加されました。

 

 ・改造パーツが追加されました。

 

 ・スキル『教導』が追加されました。

 

 



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第三十二話 休暇

 

 

 

 

 俺の正体をフィリア達に教えて数日の時が過ぎた。

 

 

 

 

 スレイプニルはこのエストランテ王国の中で3番目に大きな街とあって、街の市場はとても賑やかであった。

 

 そんな市場の中を迷彩柄の服装をした男女二人が歩いていた。

 

 

 

「いきなり休みを貰っても、何をするか分からんもんだよな」

 

「そうね。一層の事全員で休暇を取れば良かったのに」

 

 市場が広がる街道を俺とフィリアが歩きながらボソッと呟く。

 

 今日俺とフィリアは依頼を受けず、残りの三人に任せて非番であった。

 

 とは言えど、特に何かしたいというものも無く、俺達はただ街をぶらぶらと歩いていた。

 

 今朝方、ユフィ達が俺とフィリアが最近働き詰めだと言って今日一日休むように説得されていた。

 

 最初こそ俺とフィリアは大丈夫だと伝えたのだが、なぜか三人がしつこく推して来て、最終的に俺とフィリアが折れる形で休暇を取る事にしたのだ。

 

 で、そのユフィ達は依頼を受けて高機動車改に乗って今朝出発した。

 

 そもそも、働き詰めと言うのは、ユフィ達も同じだろうに。

 

「そういえばさ」

 

「ん?」

 

「こうして街で二人で居るのも、何か久しぶりだな」

 

「そうね。逃げていた時に二人っきりになったけど、街中で二人で居るのは、ブレン以来かしら」

 

 街道を歩きながら、二人でブレンで過ごした日々を思い出す。まぁちょっとの間だけの思い出だったけど。

 

(にしても) 

 

 俺は周囲に視線を向ける。

 

 すれ違うのは冒険者や商人がほとんどだったが、毎回こちらに視線を向ける者が多い。

 

 まぁ俺達の着ている迷彩服3型はどうしても目立つしな。

 

 それに、俺の耳に入る冒険者から口にする言葉も俺達の噂ばかりだ。

 

 まぁ、内容は良くも悪くもあったが。

 

 

「そうだ、フィリア」

 

「何?」

 

 俺はふと思いついてフィリアに声を掛ける。

 

「確か図書館が近くにあったよな」

 

「えぇ、確かあったはずだけど、どうして?」

 

「いや、せっかく時間が空いているんだ。有効に使いたいと思ってな」

 

「あぁ、なるほどね」

 

 俺の意図を察したのか、フィリアは頷いた。  

 

「だから、その、なんだ、君に教えて欲しいんだ」

 

「えぇ。良いわ」

 

 フィリアは微笑を浮かべて頷いた。

 

 そして俺達は近くにある図書館へと向かう。 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ユフィ様」

 

「どうした?」

 

 森林を切り開いて出来た道を走っている高機動車改を運転しているユフィは助手席に座るリーンベルに声を掛けられる。セフィラは銃座に着いて12.7mm重機関銃M2に手を置いて周囲を警戒している。

 

「今頃団長とフィリア様は休暇を楽しんでいるでしょうか?」

 

「さぁな。まぁあの二人の事だ。きっと楽しんでいるだろう」

 

「……」

 

「と言っても、私達が想像しているような休暇を過ごしているかどうかは、分からんな」

 

 フィリアの性格を知っているからこそ、ユフィは苦笑いを浮かべる。

 

「うーん。あの二人の仲が縮まる日って来るんでしょうか?」

 

「どうだろうな。フィリアはまぁその気はある感じだが、問題はキョウスケだな」

 

「団長はフィリア様をどう思っているんでしょうね?」

 

「……」

 

「まぁ団長もフィリア様を気に掛けているって感じなんですが、あの微妙な感じ、何て言えば良いんですかね」

 

 リーンベルは腕を組んで首を傾げると、「うーん」と静かに唸る。

 

「まぁ、今は見守ろうじゃないか。それが私達の役目でもあるからな」

 

「はい!」

 

 

 

『ユフィ様』

 

 すると銃座に着いているセフィラから通信機越しに声を掛ける。

 

「どうした?」

 

『一旦車を停車してもらえますか?』

 

「? なぜだ?」

 

 突然のセフィラからの願いにユフィは首を傾げる。

 

『私の勘違いで良いのですが、銃声みたいな音がしたような気がします』

 

「……へ?」

 

 通信を聞いていたリーンベルは声を漏らす。

 

「なん、だと?」

 

 ユフィも驚きを隠せず、唖然となる。

 

 銃声がしたと言う事は、銃を使っている者が近くに居ると言う事だ。

 

 しかし、銃は自分達が使っている物以外には無いはずだ。

 

『ユフィ様』

 

「わ、分かっている」

 

 ユフィは気持ちを落ち着かせると、アクセルから足を退かしてブレーキをゆっくりと踏んで高機動車改を止める。

 

 彼女達は警戒しつつ、ユフィはレッグホルスターよりUSPを手にしてスライドを引いて薬室に初弾を送り込む。

 

 リーンベルは5.56mm機関銃MINIMIを手にしてコッキングハンドルを引いてフィード・カバーを開け、ボックスマガジンから弾帯を取り出して先端を機関部にセットしてフィード・カバーを閉じる。

 

 セフィラは12.7mm重機関銃M2のコッキングハンドルを握って後ろに二回引き、グリップハンドルを手にする。

 

「っ!」

 

 ユフィが窓を開けると、確かに銃声らしき音が森林に響き渡る。

 

「確かに銃声ですね」

 

「だが、銃はキョウスケ以外に持っていないはずだぞ!」

 

 ユフィは尋常じゃない状況にUSPをレッグホルスターに戻し、ボルトが後退しきって安全装置が掛かっているPDW『MP7』を取り出すと、直ぐさま装填を完了させる為にマガジンを挿し込んでボルトリリースレバーを押し下げた。

 

『ユフィ様。この銃声、少しずつ近付いています!』

 

「っ!」

 

「確かに!」

 

 三人は銃声が徐々に大きくなっていくのに気付き、それぞれ銃火器を構える。

 

 

 すると、右にある茂みが蠢いて三人はそれぞれ銃火器を向ける。

 

 そして直後茂みから出てきたのは、二人の男女であった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 場所は変わり、時系列は下る。

 

 

 

「どうだったかしら? この世界の歴史は?」

 

「あぁ。多少違っていたけど、俺の居た世界の歴史に似ていたな」

 

 時間は正午を回ろうとしている中、俺とフィリアの二人は図書館で歴史の勉強をして、昼食を取る為にいったん図書館を後にして店を捜していた。

 

「どの辺りが違っていたの?」

 

「そりゃ、種族が多いな。俺の世界には獣人とかエルフとか、人間以外の種族はいないんだからな」

 

「そうなんだ」

 

「それに、あそこまで酷い男尊女卑な歴史は無かったしな」

 

 この世界の歴史で一番衝撃的だったのは、俺の世界の歴史よりも酷い男尊女卑の歴史だ。

 

 今から数百年前の時代は女性の人権など無いに等しかったらしく、実質上奴隷扱いだったそうだ。

 

 そして人間以外の種族に対する差別も酷かった時代でもあり、人間以外の種族は奴隷として扱われていた。

 

 しかしそんな時代の中、一人の革命家が現れ、全てを一変させた。

 

 その名は『リコリス』と言い、女性と見間違うほどの美しさを持った男性であったと言われている。なぜ曖昧なのかと言うと、彼の姿を描いた肖像画は一枚も残されていないのだ。

 

 リコリスは男女や種族の平等を掲げ、世界の常識をひっくり返すほどの革命を起こし、実質上今の世の中を作り出したのは彼であると言われている。

 

 しかし当時の貴族からすれば害悪そのものでしかなく、彼に対する評価は今でも対立している。

 

 言うなれば、彼は救世主であり、大罪人でもあるのだ。

 

(凄い人が居たもんだな)

 

 俺は内心で呟きながら昼食を取れる店を視線を動かして捜す。

 

 

「あっ!」

 

 すると正面から視線を外した時に、何かとぶつかって声がする。

 

「おっと」

 

 俺はすぐに視線を前に戻すと、目の前には尻餅を着いている獣人の少女がいた。

 

 雪の様に白い銀髪のショートヘアーからピンと立つ犬か狼の耳が生えており、ルビーの様に透き通った赤い瞳が特徴的だ。

 

「あなた、大丈夫?」

 

 フィリアは尻餅を着いた獣人の少女の傍にしゃがみ込んで声を掛ける。

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「すまないな。ちょっと前を見てなかったばかりに」

 

「い、いえ。僕の方こそ、考え事をして全然前を見ていなかったので」

 

 俺が手を差し出すと、少女はその手を取って立ち上がる。

 

「っ!」

 

 すると俺を見た獣人の少女は驚いたように目を見開く。

 

「?」

 

 俺はそんな様子の少女に首を傾げていると、少女はフィリアの格好を見ても驚く。

 

「……」

 

 すると少女は一瞬迷った表情を浮かべ、俺を見る。

 

「あ、あの」

 

「なんだ?」

 

「変な事を聞くかもしれませんが、良いですか?」

 

「あ、あぁ。別に構わないが」

 

 俺は戸惑いながらもそう答えた。

 

「……」

 

 少女は迷った末に、こう聞いてきた。

 

 

 

「もしかして、日本人ですか?」

 

「……え?」

 

 少女から聞かれた内容は、予想外過ぎるものだった。

 

 

 



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第三十三話 転生者

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 今僕ことシキ・クーゲルトは先ほど出会ったばかりの二人の男女と共に店に入り、昼食を取りながら話をする事になった。

 

 さっきこのスレイプニルに着いた僕はここの冒険者組合にて冒険者として活動する事を申告をしてから、街を散策していた。

 

 これからの事をどうするか考え事をしていたら、前を見ていなかったので、人とぶつかってしまった。

 

 僕はぶつかって人に謝りながらその人の化した手を取って立ち上がり、改めて視線を前に向けると、そこに男女二人が居て、その二人の格好に僕は驚きを隠せなかった。

 

 なぜなら、二人の格好が陸上自衛隊の迷彩服3型であった事と、右太股に装着しているレッグホルスターにH&K社製と思われる拳銃を収めていたからだ。

 

 異世界なのに、なぜ陸上自衛隊の迷彩服3型を身に纏って、拳銃を持っているのか。いや、銃に関しては僕も同じなんだけどね。

 

 それに、男性の方はアジア系の、いや、どこからどう見ても日本人にしか見えなかった。

 

 それで僕は男性の方に「日本人ですか?」と問い掛けた。

 

 すると男性の方は驚いて目を見開いた。

 

 どうやら予想が当たっていたようだ。

 

 で、色々と互いに事情を聞くために二人が昼食を取るという事で、僕は同行する事になったのだ。

 

 

「とりあえず、自己紹介から始めようか」

 

「は、はい」

 

「俺の名前は土方恭祐だ」

 

「『フィリア・ブローニグ』よ」

 

「僕はシキ・クーゲルトと言います。シキと呼んでください」

 

「分かった、シキ」

 

 自己紹介が終わり、土方さんはコップを手にして水を飲む。

 

「じゃぁシキ。質問だが、なぜ俺が日本人だと分かった? なぜ日本人の事を知っている?」

 

 土方さんは当然の様にそれを聞く。

 

「それは……僕も、同じ日本人だからです」

 

 僕は一瞬言うべきか悩んだが、もう既に怪しまれている以上隠す必要は無い。

 

「日本人?」

 

 僕の容姿を見て土方さんは首を傾げる。まぁ当然だろう。見た目は日本人からはかけ離れた姿なのだから。

 

「正確には、元日本人、と言った方がいいですね」

 

「元日本人、だと?」

 

「えぇ。確かにこの身体はこの世界の住人の者ですが、前世は日本人の高校生です」

 

「つまり、君は転生者なのか」

 

「そうなりますね」

 

「そうか」

 

 土方さんは納得したように頷く。

 

「輪廻転生。御伽話で聞いたことはあるけど、まさか本当に存在しているなんて」

 

「あぁ。こんな形での転生もあるんだな」

 

「土方さんは、どうなんですか?」

 

「恭祐で良い。まぁ俺も君と同じだな」

 

「ってことは、恭祐さんも転生者なんですか?」

 

「あぁ。と言っても、シキとは経緯が違うが」

 

「経緯?」

 

 僕はよく分からず、首を傾げる。

 

「俺はシキのように生まれ変わったわけじゃなく、前世で命を落としてそのままこの世界に転生した、と言う感じだな」

 

「そうなんですか」

 

 どうやら恭祐さんも転生者みたいだ。それならこの格好と拳銃も説明がつく。

 

(って、そういう感じの転生が良かったな)

 

 こんな女の子みたいな容姿となってじゃなくて。前世の姿のままで転生したかった。それなら苦労する事も無かっただろうし。

 

 僕は内心呟いてため息を付く。

 

「ところで、シキが持っているそれって、もしかして」

 

 すると土方さんが腰に提げているホルスターとテーブルに立て掛けている布に包まれたG3SG/1を見る。

 

「えぇ。恭祐さんの想像通りの代物ですよ」

 

 僕はG3SG/1を手にして布を取り払い、ホルスターに収めているCz40Bをテーブルの上に出す。

 

「G3SG/1にCz40Bか。後者はマイナーだな」

 

「僕もそう思います」

 

 恭祐さんに言われて僕は苦笑いを浮かべる。

 

 Cz40Bなんか普通は知られない代物だしね。

 

 と言うか、一目見て分かるなんて、恭祐さんは相当根の入ったミリオタなんだ。

 

「しかし、異世界で生まれて君が、なぜこれを?」

 

「それなんですが、僕もよく分からないんです」

 

「と、言うと?」

 

「僕を保護した村の人達の話だと、僕を見つけた時に一緒にあった箱があって、その箱を後に僕が開けて中にこれらがあったんです」

 

「保護?」

 

「僕が目覚めた時には、捨てられていたようなので」

 

 当時の状況的に正確には違うんだろうけど、結果的に捨てられていたような状況なので僕は恭祐さんにそう伝えた。

 

「そうか」

 

 悪いと思ってか、恭祐さんはバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「それで、シキさんは冒険者なの?」

 

 するとフィリアさんが場の空気を変えようと話題を変える。

 

「は、はい。冒険者になったのはつい最近で、依頼も前居た街で一度だけしただけなんです」

 

 僕は首に提げている紐に繋がっている木製のドッグタグを取り出す。

 

「そうなんですか。でも、どうしてわざわざこの街に?」

 

「……ちょっと、前の街で色々とありまして」

 

 その時の事が思い出されて、僕は思わず二人から視線を逸らす。

 

「察したよ。何かすまんな」

 

 そんな僕の様子を察してか、恭祐さんは苦笑いを浮かべる。

 

 まぁ多分恭祐さんが思っているような事じゃないんだけどね。

 

 

 

「ん?」

 

 すると恭祐さんは顔を上げると、フィリアさんも顔を上げる。

 

「ユフィ?」

 

 恭祐さんは立ち上がって歩き、僕は身体を回して後ろに振り返ると、店の入り口に恭祐さん達と同じ迷彩服3型を身に纏い、88式鉄帽を被った黒髪の女性が背中に銃を背負って立っていた。

 見た感じ、G3っぽい銃だけど……。

 

「どうしたんだ? 依頼を終えたにしては早いな」

 

「いや、まだ終わっていない。と言うより、向かう途中で戻ってきたんだ」

 

「戻ってきた?」

 

 女性に恭祐さんは話し掛ける。どうやら知り合いみたいだ。

 

 いや、格好からして恭祐さんの関係者だと言うのは大体想像できたけど。

 

「すぐに街の外に来て欲しいんだ」

 

「なんでだ?」

 

「目的地に向かう道中に、民間人を保護したんだ」

 

「民間人を? だったらわざわざ俺に言う必要は無いだろ」

 

「そうなんだが、ちょっと事情があってな」

 

「事情だって?」

 

「あぁ」

 

 何やら二人は戸惑ったような様子を見せている。

 

 

 少しして恭祐さんが戻ってくる。

 

「すまない。ちょっと席を外す。二人はここで待っていてくれ」

 

 そう言うと恭祐さんは女性と共に店を出て行った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 俺はフィリアとシキを店に置いてユフィと共に門の外で待機しているリーンベル達の元へと向かう。

 

「ところで、保護した民間人はどんな特徴を持っているんだ?」

 

「あぁ。一人は人間の青年で、もう一人はエルフの女性だった」

 

「エルフだって?」

 

 やっぱりエルフって居るんだな。さすがファンタジー。

 

「ただ、その二人が持っている物なんだが」

 

「なんだ?」

 

「……その二人は、銃器を持っていたんだ」

 

「なに!?」

 

 ユフィの口から予想外の言葉を聞いて俺は驚く。

 

 そりゃそうだ。まさか俺達以外に銃を持っているやつがいるなんて、思ってみなかったからだ。

 

「二人共持っていたのは私達が知る物とは大分形は違っていた。その上、男の方はその銃器をキョウスケの様に召喚していた」

 

「……」

 

 つまり、男の方は俺と同じ、能力持ちの転生者の可能性があると言う事か。

 

(俺やシキ以外の転生者。まさかこうも早く現れるとは)

 

 俺は不安を覚えながら門を抜けると、外には高機動車改が停車しており、その周りにセフィラ達が待っていた。

 その二人に話し掛けている青年とエルフの少女が居た。

 

(銀髪のエルフか)

 

 ダークエルフなら分かるが、普通のエルフの様な肌の色をして銀髪と言うのは新鮮だった。

 

 と言うか、妙に軽装だな。確かにこの辺りは温暖だからちょうど良いかも知れないが、スタイルが良い分目立ってる。どこがとはあえて言わないが。

 

 しかしエルフの少女の両脇には拳銃を収めるホルスターがあり、背中にはAK系の銃器を背負っている。でも銃身が太いから、サイガ12か? でも細部が違うから違うか。

 

 男の方はAK-74系のアサルトライフルを背中に背負っている。

 

「ん?」

 

 俺は男の後ろ姿を見て、首を傾げる。

 

(あの男、どこか見たような)

 

 俺は男の後ろ姿に、物凄く見覚えがあるのだ。

 

 

「あっ、団長、ユフィ様」

 

 と、俺達に気付いたリーンベルが声を掛ける。

 

「オキタさん。団長が来ましたよ」

 

(ん? オキタ?)

 

 聞き覚えのある名字に俺は首を傾げる。

 

 すると二人はこちらを向いて俺とユフィを見る。

 

 

 

「「あっ」」

 

 そして俺と男はお互いの顔を見た瞬間、思わず声を漏らすと、「「アァァァァッ!?」」と互いに指差しながら叫ぶ。

 

『っ!?』 

 

 突然の叫び声にユフィ達とエルフの少女は目を見開く。

 

「お前、何でこんな所に居るんだ、恭祐!!」

 

「それはこっちの台詞だ。なんでお前がここに居るんだ、士郎!!」

 

 俺は目の前に居る、この世界に居る筈の無い、前世の頃の幼馴染の名前を叫んだ。

 

 

 



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第三十四話 集う者達

 

 

 

 

 運命とは時には想像を遥かに上回るような出来事を起こしてくれるものだ。

 

 山賊に襲われた村を後にして森の中を彷徨っていた俺達は小型の恐竜もどきの魔物の群れに襲われて、応戦しながら逃げていた。

 

 そんな中、森の中にある道へと出ると、そこにあったのはこの世界には存在しないはずの物が鎮座していた。

 

 少し形が違っていたが、それは日本の陸上自衛隊で採用されている高機動車であり、美少女三人がこれまた陸上自衛隊で採用されている迷彩服3型を身に纏っていたのだ。

 その上、それぞれ銃器を持っていた。

 

 目の前の光景に驚きを隠せなかったが、直後に林の方から恐竜もどきが走ってきて俺達は美少女三人と共同で迎え撃った。

 

 その後三人に事情を説明して、三人には申し訳なかったけど彼女達が活動の拠点にしている街まで送ってもらった。

 

 しばらくして街の外に着くと一人が団長を呼んでくれるそうで、その待つ間に残った二人と会話を交わした。

 

 会話の中で分かったこととすれば、彼女達の上司である団長はどうやら俺と同じ転生者である可能性があり、彼女達が使っている銃器も、この高機動車もその団長が能力で出したようだ。

 

 そしてしばらくして団長を呼んできた女性が戻って来て、彼女達の団長と対面した。

 

 

 まぁ、その団長とやらが、まさか俺の幼馴染だったとは、予想しなかったがな。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『……』

 

 あの後、全く想像していなかった幼馴染との再会を果たした後、ユフィ達は再度依頼主の元へと出発し、俺達はフィリア達の所へ向かっていた。

 

「それにしても、随分と久しぶりだな、恭祐」

 

「あぁ。高校を卒業して以来だな。元気だったか?」

 

「あぁ。こうして異世界に転生する事以外はな。お前は?」

 

「俺も士郎と同じだ」

 

「そうか。にしても、その格好は何だ?」

 

「見て分からんか? 陸自の迷彩服3型だよ」

 

「それは見りゃ分かる。俺が言いたいのはそれをどこで手に入れたんだって話だ」

 

「その事についてだが、まぁ後で話す」

 

「そうかい」

 

 俺は久しぶりに友人に会えて、会話が弾んだ。

 

「それにしても、まさかお兄ちゃんの幼馴染も、この世界に転生していたなんて。世の中分からないもんだね」

 

 隣でエルフの少女ことエレナが呟く。

 

「しかしエルフか。さすがファンタジーな世界だ」

 

「あぁ。全くだ」

 

「?」

 

「しかし、士郎。一体何があってこんな所に」

 

「それはこっちの台詞だ。恭祐こそ、何があってここに居るんだ?」

 

「俺をこの世界に転生させた神曰く、頭の血管が切れてお陀仏だそうだ」

 

「そうか。俺はコンビニ強盗が運転する車に撥ねられたそうだ」

 

「そうか。お互い大変だったな」

 

 互いの死因を聞き、俺は声を漏らす。

 

 と言うか、お互いの死因を聞くって、おかしな話だな。

 

「それと、転生の際に武器の召喚能力を貰ったんだ」

 

「武器の召喚能力、か。そのIMI ガリルもその能力で?」

 

 俺は士郎の背中に背負われているIMI ガリルを見る。

 

「あぁ。古今東西各種様々な武器を出せるんだ。まぁ兵器は無いけどな。そういう恭祐は?」

 

「一部限定だが、武器兵器を召喚できる能力だ」

 

「へぇ。良いじゃないか。戦闘服とUSPもその能力で?」

 

「そうだが、俺は士郎の能力もいいと思うぞ。俺のなんか一部を除いて日本製だけだ」

 

 俺はレッグホルスターに納まっているUSPに手を置きながら愚痴を零す。

 

「それでも兵器が出せるのは良いじゃないか。もしかして戦車も出せるのか?」

 

「あると言えばあるが、まだ出せないな。似たような車輌なら出せるが」

 

「それって16式辺りか?」

 

「あぁ」

 

「それでも凄いな。じゃぁ後々には他にも出せるって事か?」

 

「かもな。まだ何とも言えないが」

 

「すげぇな……」

 

 士郎は凄さのあまりか、声を漏らした。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「着いたな」

 

 しばらく恭祐と歩きながら話していると、喫茶店風の店の前で止まる。

 

「ここは?」

 

「ここに待たせている人が居るんだ」

 

「ふむ」

 

 恭祐が店に入って俺とエレナもその後に続く。

 

 店に入ると、案の定客達の視線がこちらに向く。

 

 まぁ変わった特徴を持ったエルフが居るんじゃ目立つわな。

 

「待たせたな、二人共」

 

 視線を感じながらも恭祐は奥の席に着くと、そこには二人の美少女が座っていた。

 

(おいおい恭祐さんよ。美少女ばかり揃えているってどういうこっちゃ。ハーレムでも築く気かよ)

 

 俺は内心恭祐に突っ込みながら美少女二人を見る。

 

 片方はエレナの様な銀髪碧眼の美少女で、もう片方は同じく銀髪で紅い瞳をした獣人の美少女だった。

 

 

 

 恭祐が二人に事情を説明して俺とエレナは席に座り、注文した料理を食べていた。

 

 まぁしばらくまともな物を食っていなかったので、かなり腹が減っていたからエレナ共々ガッツガッツと食った。

 

「はぁ、食った食った」

 

「よほど腹が減っていたんだな」

 

「あぁ。しばらく森の中を彷徨っていたからな。食えるものは限られてたし」

 

「だろうな」

 

 恭祐は手にしている木製のコップに入った果実ジュースを一口飲む。

 

「まさかキョウスケみたいな転生者とこうもあっさりと出会えるなんて、本当にどうなっているのかしら」

 

 恭祐の隣に座っているエレナのような銀髪碧眼美少女ことフィリアさんは怪訝な表情を浮かべて首を傾げている。

 

「それは、俺の方もですよ。まさか俺以外の転生者が二人も居るなんてな」

 

 恭祐もさっき知ったようだが、どうやらこの獣人の美少女ことシキも前世は日本人で輪廻転生した転生者らしい。

 

 そしてさっき知ったが、どうやらこんな身なりでも、シキの性別は男らしい。

 

 リアル男の娘だよ。その上獣人と来た。色々と持ってんなぁ。

 

 で、恭祐とフィリアさんも、その事に気付いたのはついさっきらしい。

 

 まぁこんな姿じゃ普通は気付かないよ。うん。

 

「それで、士郎。お前はこの世界に転生してから、何をしていたんだ?」

 

「あぁ。この世界に転生した後、しばらく森の中を彷徨っていたんだが、その時にゴブリンに襲われていたエレナを見つけて助けたんだ」

 

「本当にあの時はもう駄目かと思ったよ」

 

「なるほど」

 

 なんか、デジャブを感じたように呟いたな。

 

「で、エレナを村まで連れて行ったら、お礼として村に住まわせてもらったんだ」

 

「ふむ」

 

「って事は、その村はエルフの村だったの?」

 

「いや、普通の人間が暮らす村だったよ」

 

「どういう事ですか?」

 

 シキが首をかしげて俺に問い掛ける。

 

「エレナは昔気を失っていた所を保護されたみたいだ。名前以外の記憶を失っていて、そのまま保護した夫婦が養子として引き取ったんだ」

 

「そうだったんですか」

 

 シキはエレナを見る。

 

「そういえば、エレナさんは普通のエルフと違いますよね」

 

「どういう事だ?」

 

 シキの言葉に恭祐は首を傾げる。

 

「エルフは大抵金色の髪とエメラルドグリーンの瞳の色をしているのが多いんです。エレナさんの外見の特徴からすると、恐らくハイエルフと思われます」

 

「ハイエルフか」

 

「エルフの上位種なのは知っているけど、でも」

 

 フィリアさんはエレナの方を見る。

 

「えぇ。通常エルフもそうですが、例外を除いてもハイエルフは金髪にエメラルドグリーンの瞳が基本なんです」

 

「ふむ」

 

 そういえばエレナが普通のエルフとは違うってゲオルクさんは言っていたな。

 

「でも、エレナさんみたいにハイエルフの特徴を持っていて、瞳と髪の色が異なっているのは、聞いた事が無いです」

 

「なるほど」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「で、話を戻すが、俺はその村でしばらく生活していたんだ」

 

「なるほどねぇ」

 

「そこで私がお兄ちゃんに銃の扱い方を教えてもらったの」

 

 と、どこか嬉しそうにエレナが両脇のホルスターより拳銃二丁を取り出してテーブルに出す。

 

「銃剣付きのCz75 SP-01。マイナーじゃないけど、渋いな」

 

 俺は腕を組んで苦笑いを浮かべる。

 

 しかも拳銃で銃剣を付けるって。正直言って実用性が無いんだよなぁ。まぁ、二丁拳銃もそうなんだが。

 

 いや、この世界ならまだワンチャンあるか?

 

「それにしても、現代において実用性の無い要素二つを兼ね備えた拳銃とは」

 

「まぁ俺もそう思ったんだが、そうじゃないんだよな」

 

「と、言うと?」

 

「二丁拳銃や銃剣付き拳銃は実用性が無いってドヤ顔で説明する連中が真っ青になるぐらいに、彼女は使いこなしているんだ。さながら映画みたいな光景だったぞ」

 

「マジですか」

 

 士郎がそう言うと、シキは苦笑いを浮かべる。

 

「それと、ヴェープル12 モロトとか、AK-104とか、最近じゃAKS-74UやHK416Cとか、色んなやつを使うぞ」

 

「銃身が短いやつばかりだな」

 

「どうもカービンモデルの方が彼女的には扱いやすいみたいだ」

 

「なるほど」

 

「と、まぁ、彼女に銃の扱い方を教えながら村で農作業の手伝いをしながら暮らしていたんだ。だが―――」

 

「だが?」

 

 すると士郎とエレナの表情が曇る。

 

「……その村が、山賊に襲われたんだ」

 

「っ!」

 

「俺がエレナの銃の練習に付き合って山に登っている間の事だった。俺達が山を下りた時には、既に村は」

 

「……」

 

「酷いものだった。村人たちは皆殺しにされて、山賊たちは我が物顔で暴れていた。その中で、エレナの両親は……」

 

「そうか……」

 

 俺は何があったかを察して、何も言わなかった。

 

「俺とエレナは山賊を退けて、実質上逃げるように森の中を彷徨っていた」

 

「そしてユフィ達を見つけた、か」

 

「そういうことだ」

 

 

 

「まぁ、経緯としてはこんな感じだな」

 

「そうか」

 

「で、お前は何があったんだ?」

 

「話したいのは山々だが、ちょっとワケありでな」

 

 国外逃亡の為に砦一つを潰したなんてこんな公の場所で言えるわけがない。

 

「そうか。分かった」

 

 士郎は理解してくれて何も聞かなかった。

 

「それで、士郎。お前はこれからどうする?」

 

「どうするって言われてもなぁ」

 

 士郎は頭の後ろを掻いて静かに唸る。

 

 

「二人が良ければ、俺達と共に冒険者をやらないか?」

 

「冒険者か」

 

「あぁ。依頼ごとに報酬額は変わってくるが、やりがいはある。魔物の討伐とかもあるし、俺達にはピッタリじゃないか?」

 

「……」

 

 士郎は静かに唸り、エレナに視線を向ける。

 

 彼女は彼の視線に気付くと、縦に頷く。

 

「あぁ。俺達ならいいぜ。何より、お前からの頼みだ。断るわけ無いだろ」

 

「それじゃぁ」

 

「あぁ。宜しく頼むぜ」

 

 俺は右手を差し出して、士郎と握手を交わす。

 

(士郎の能力があると、今後銃のバリエーションが増えてくるな)

 

 士郎は俺と違って古今東西様々な武器を召喚できる。俺が出せないような銃火器も揃っているだろう。

 これはかなり効果が大きいだろう。

 

 それに、個人的に好きな銃があるから、出してもらうのも悪くない。

 

「シキ。君はどうする?」

 

「僕、ですか?」

 

「あぁ」

 

 俺は次にシキに声を掛ける。

 

「個人的には境遇が同じな以上、一緒に行動した方が都合がいいと思うが」

 

「……」

 

 シキは少しの間黙り込む。

 

「良いんでしょうか? 今の僕は、獣人ですよ」

 

「……」

 

 俺はエレナに視線を向けると、何が言いたいのか察してシキは苦笑いを浮かべる。

 

「それで、どうする?」

 

「僕は……」

 

 

 

「……僕でよければ、宜しくお願いします」

 

 シキは頭を下げる。

 

「あぁ。こちらこそ、宜しくな」

 

 俺は右手を差し出し、シキも右手を差し出して握手を交わす。

 

 

 こうして俺達は新たに転生者二人とエルフの少女一人の計三人が仲間に加わった。

 

 

 



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第三十五話 転生者を含む冒険者パーティー

 

 

 

 

 青い空が広がり、そよ風草が揺らぐ草原。

 

 その中を走る大きな物体があった。

 

 

 

「で、俺は思うんだよな。AK系やM4系の事を勘違いしているやつが多いって」

 

 草原を走る高機動車改の後部席に座り、陸自の迷彩服3型と各種装備を身に纏う士郎はそう口にする。

 

「それは同意だな」

 

「僕もそう思います」

 

 向かい側に座る恭祐とシキは士郎の言葉を肯定する。

 

 シキも他のみんなと同じ迷彩服3型と各種装備を身に纏っているが、他のみんなと違ってズボンには尻尾を通す為の穴を開けて、88式鉄帽をかぶらず代わりに耳を通す為の穴を開けたブーニーハットをかぶっている。

 まぁ耳が頭の上にある以上仕方ないのだが。

 

「大体M16やM4が汚れに弱いって言う認識がおかしいんだよ。まぁ汚れに弱いって言うのは構造上仕方ないんだがな」

 

 M16、もといAR-15系は『ダイレクト・インピンジメント式』通称『リュングマン式』とされる作動方式を用いる……と思われがちだが、正確には似ているが作動機構と構成、構造が異なる『ストーナー方式』と呼ばれる作動方式を用いる。

 

 反動が抑制できる為、命中精度が高くなる特性を持つが、その反面直接ボルト内にガスを吹き付けるので汚れに弱い欠点がある。

 

「ベトナム戦争でのM16の悪評が広がったのが原因だからな」

 

「あれは使用していた弾薬の発射薬と徹底したメンテナンスをしていないのが原因ですからね。決して汚れに弱かったわけじゃないんですよね」

 

 M16は欠陥銃と言われがちだが、実際には当時使用していた弾薬と管理体制が悪かった事で故障が頻発したのが殆どで、構造上に欠陥があったわけじゃない。

 

 試験時はM16に適した別の発射薬が用いられていた弾薬を使用していたのだが、いざ採用時になるとコスト面から急遽別の発射薬が用いられるようになった。この発射薬はコストが安い上に威力あったが、燃えカスが多かったので、作動方式上汚れが付きやすく動作不良に繋がりやすかった。

 

 その上、M16に使うクリーニングキットが不足しており、その上コルト社の過剰な広告とどっかのアホが『クリーニングは自動でしてくれる』とデマを流したことによる清掃の怠りや、清掃教育が徹底されていなかった上に、訓練でM14を使っていたのに実戦ではM16を使わされていたりと、トラブルが頻発したのだ。

 更に当時使っていた潤滑油にも問題があって、弾薬の不発化や異物混入が発生して、結果的に多くの動作不良を起こす事になったのだ。

 

 その後はクリーニングキットを部隊に行き届かせたり、マニュアルをアメリカらしいセクシーな美女が説明するイラスト付きの物にするなどして清掃管理を徹底させた。

 そして銃本体にも改良を施して対策を取ったのだ。

 

 まぁ、それでも故障は発生したのだが。

 

「AKは確かに汚れに強いが、逆に構造上汚れが入りやすいから、むしろあんまり強くないんだよな」

 

「逆にM16と言うか、AR-15系は密閉した構造故に、汚れが入りづらいからな。例えダストカバーを開いた状態で泥を被ってもボルトを閉鎖している状態なら普通に撃てている動画があったしな」

 

「AKは閉鎖していてもパーツ同士の隙間が多いですから、逆に動きが悪くなっていましたね」

 

「まぁ、隙間が多い分汚れを出しやすいって言う利点があるし」

 

「正に一長一短だな」

 

 とある動画で検証されていたが、泥を被ったAK-47とAR-15の動作の行った所、予想を反する意外な結果があった。

 

 汚れに強いはずのAK-47だが、機関部に泥を被った状態で射撃をすると、一発撃っただけでパーツが泥を噛んで動作不良を起こした。逆に汚れに弱いと言われてきたAR-15はダストカバーを開けた状態で泥を被っても軽快に動作していたと、予想外な結果となったのだ。

 

 AK系は構造が簡素な分隙間が多い為、泥や砂が侵入しやすい。その動画ではボルトを閉鎖して泥を被せていたが、にも関わらず泥が侵入して動作不良を起こしていた。しかし逆を言えば隙間がある分泥が浸入しても簡単に水で洗い流すことができると言う利点がある。実際簡単な分解をして水で泥を洗い流しただけで快調に動いていた。

 

 AR-15系は密閉した構造故、泥を含んだ汚れが侵入しにくい構造をしている。動画ではダストカバーを開いた状態で泥を被せても軽快に動作していた。しかしその分内側の汚れに弱いと言うのは先ほど言った通りだ。

 

 まぁ、結論からすればそれぞれの銃に一長一短がある、完全無欠の銃など存在しないと言うことだ。

 

 

(((((何を話しているのか全く分からない)))))

 

 ミリオタな三人以外のメンバーは何のこっちゃ分からず苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 士郎達が仲間に加わって一週間が経過し、特に問題なく冒険者として依頼をこなしていく日々が続いた。

 

 今回も魔物討伐の為依頼主が待っている牧場へと向かっている。 

 

 

 

 スレイプニルを出発して三十分が経過し、俺達の乗る高機動車改は依頼主が経営している牧場に着く。

 

 愛用の89式小銃を手にして車体後部の扉を開けて降りると、運転席に座るユフィと銃座に着くセフィラ以外のメンバーが降りる。

 

 牧場の入り口には依頼主と思われる男性が戸惑った表情を浮かべて立っていた。そりゃ斑点模様の服装をした集団が居たら戸惑うわな。

 

「すいません。あなたがここの牧場の持ち主ですか?」

 

「そ、そうですが、あなた方は?」

 

「あなたの依頼を受けた冒険者です」

 

「おぉ! あなた方が! こちらへどうぞ!」

 

 男性は俺達が依頼を受けた冒険者だと分かると笑みを浮かべ、俺達を牧場へ案内する。

 

 

 今回の依頼内容は牧場に何度も山から下りて来て家畜や野菜を食い荒らす魔物の駆除だ。

 その魔物と言うのが、意外にもオークらしい。

 

 オークは雑食性で、肉でも野菜でも、何でも食べるそうだ。その上知能があるし、身体が大きく脂肪が多いとあって、中々倒れないで、厄介なのだとか。

 

 その他にも様々な魔物が確認されているので、その辺は注意しないとな。

 

 

「オークか。相手にするのは初めてだな」

 

 森に入る前に全員を集めて狩猟の準備をする。

 

「ユフィ。オークって二足歩行する豚か猪みたいなやつか?」

 

「そんな感じだ」

 

「まんまだな」

 

 士郎が苦笑いを浮かべる。

 

「やつらは同族以外の魔物を率いて群れを成し、襲ってくる。それに身体が大きい分頑丈だから、騎士団でもかなり手を焼いたものだ」

 

「それに、様々な種族の女性達を拉致するんですよ。どうしてだと思います?」

 

「言わなくても察したよ」

 

 リーンベルの言葉に俺はオークの生態が読めた。

 

 恐らくゴブリンと同じなんだろうな。もしくは愉しむ為にか、その他の理由からか。

 

「それ以外には、他の魔物に注意して目標を駆除ってところかしら」

 

「そうだな。ユフィ。君はあそこの高台から目標の索敵と狙撃を頼む」

 

「了解した」

 

「士郎。バレットをユフィに」

 

「あいよ」

 

 士郎は指を動かしていると、バレットM82A1が彼の両手に現れ、ユフィに渡す。

 

 現時点では俺はシモノフや九七式自動砲以外の対戦車、対物ライフルを召喚する事が出来ないので、士郎に出してもらうしかない。

 

 まぁシモノフでも十分だろうが、無理矢理近代化改修して性能を向上させたものだから、性能的に限界が来ていた。

 なので、俺が出せない銃火器は士郎に出してもらうことにしている。

 

 彼女はバレットM82A1を受け取るとスリングに腕を通して背中に背負い、次に士郎から12.7×99mm NATO弾が込められたマガジンをいくつか受け取る。

 

「シキはユフィの護衛と観測手(スポッター)を頼む」

 

「分かりました」

 

 シキは返事を返して頷くと、レッグホルスターに収めているUSPを取り出してスライドを引き、ハンマーをデコックしてホルスターに戻すと、腰のホルスターに収めているCz40Bを抜くとスライドを引いてハンマーをデコックしてホルスターに戻す。

 Cz40Bは手放したくないと言う彼の要望で予備の拳銃として持っている。

 

 次に背中に背負っているG3SG/1を手にしてマガジンを挿し込み、コッキングハンドルを引いて薬室に初弾を送り込む。

 

 それからして二人は先に高台へと目指していく。

 

 

 二人を見送った後、俺はセカンダリウェポンのカスタムUSPをレッグホルスターから抜くとスライドを引いて初弾を薬室に送り込み、ハンマーをデコックしてレッグホルスターに戻す。

 最初にセカンダリウェポンから装填するのは、メインウェポンを装填して、セカンダリウェポンの装填をし忘れるのを防ぐためだ。

 

 次にマガジンポーチから30発の89式5.56mm普通弾を詰めたSTANAGマガジンを取り出して89式小銃の挿入口に挿し込み、コッキングハンドルを引く。

 次にM203の銃身のロックを外して前へとスライドさせ、40mmの榴弾を銃身に挿し込んで元の位置へと戻し、セーフティーを掛ける。

 

 隣でフィリアもセカンダリウェポンのUSPに初弾を装填してからホロサイトとブースターを載せ、フォアグリップを取り付けた89式小銃にマガジンを挿し込んでコッキングハンドルを引く。

 

 リーンベルとセフィラもそれぞれ士郎が新たに召喚した『MINIMI MK3』と『M240G』のコッキングハンドルを引いてフィード・カバーを開き、ボックスマガジンからベルトリンクを取り出して先端をレシーバーにセットし、フィード・カバーを閉じる。

 

 

 士郎はレッグホルスターに収めているセカンダリウェポンのUSPを引き抜くとスライドを引き、初弾を薬室に送り込むとハンマーをデコックしてレッグホルスターに戻す。

 

 次に右肩に背負っている『G41』と呼ばれるアサルトライフルを手にしてマガジンポーチからマガジンを取り出して挿入口に挿し込み、コッキングハンドルを引く。

 

 G41とはH&K社で開発されたアサルトライフルで、HK33を基に内部機構の改良と3点バーストの追加、NATOのSTANAGマガジンが使えるように改造が施された自動小銃だ。

 

 一応ドイツ軍のG3に代わって次期主力小銃として開発されたが、ベルリンの壁崩壊と共に東西ドイツが統合したことによって軍事費が削減され、ただでさえ金額が高いこの小銃は採用が見送られた。

 その代わりにG36がドイツ軍の次期主力小銃として採用されている。

 

 それ以降は極一部の国の警察機関や軍で採用されたが、商業的にうまく行かず、現在ではH&K社のカタログから消されている不遇な小銃だ。今もカタログに載っていないのかは分からないが。

 

 士郎はそのG41にレシーバー上部とハンドガード下部にピカティニー・レールを追加して、それぞれアングルフォアグリップにオープン式ドットサイトを装着している。

 

 正直俺としては同じ89式小銃を使って欲しいんだが、あいつ曰く『せっかく銃の召喚能力が使えるんだから、色んな銃使わないと勿体無いだろ?』だそうだ。

 まぁ一応STANAGマガジンを使う小銃を使ってくれているから、マシな方か。

 

 

 士郎の隣ではエレナが手にしている89式小銃にマガジンを挿し込んでコッキングハンドルを引く。

 

 しかしよく見るとその89式小銃は他と違って全長が短く、先端のフラッシュハイダーも側面に無数の穴が開いた先割れ型の物に変わり、銃床も折り畳み式の物になっている。

 

 これは89式小銃の開発過程で試作された短銃身型の物であり、試作こそされたが採用されることが無かった代物だ。

 

 なるべく使う銃は統一しておきたかったが、銃身が短いアサルトライフルがいいというエレナの要望に応えてこれを出した。

 

 今回は試験的に運用して彼女の評価を聞くところだ。

 

 エレナは『89式短小銃』を背中に背負うと、両脇のホルスターから銃剣を取り付けたUSPを取り出してそれぞれスライドを引いて初弾を送り込むと、ハンマーをデコックしてホルスターに戻す。

 

 彼女はどうしても銃剣を付けたかったらしく、士郎が改造を施してUSPにCz75 SP-01の銃剣を取り付けたそうだ。

 何だこのこだわりは……

 

「さて、行くぞ」

 

 全員の準備が終わったのを確認してから89式小銃のセレクターを(安全)から(単射)に素早く切り替え、銃を構えて森の中に足を踏み込む。

 

 

 

 森の中に入った俺達は魔物の襲撃を警戒しながら前へと進む。

 

「こちら土方。そちらはどうだ。送れ」

 

『今高台に到着した。これより周囲を警戒する。送れ』

 

 耳に着けている通信機に手を当ててユフィに通信を送ると、彼女は高台に着いたのを伝える。

 

「目標を発見したら報告してくれ。送れ」

 

『了解。終わり』

 

 通信を終えて俺は再度周囲の警戒に入る。

 

「ユフィは高台の着いたの?」

 

「あぁ。今から見下ろして捜索するそうだ」

 

「目標の居場所が分かれば良いんだけど」

 

「だな」

 

 出来ればこちらが先に見つけられればいいが。

 

 

「にしても、ここは視界が悪いな」

 

 周囲を警戒しながら士郎が俺の隣に来ると、声を掛ける。

 

「あぁ。注意をしないと魔物のアンブッシュを受ける事になりかねんな」

 

「全くだ。ベトナム戦争の米軍もそんな心境だったのかね」

 

「まぁ、罠が無いだけマシな方だ」

 

「だな」

 

 そんな会話を交わしながらも、士郎は周囲に鋭い視線を向けていた。

 

『こちらユフィ。目標を発見した。送れ』

 

 するとユフィから通信が入り、俺はしゃがみながら左手を開いて上に上げ、全員に停止を合図すると、無線機に手を置く。

 

「こちら土方。目標の現在地点は? 送れ」

 

『キョウスケ達からその先にある森の開けた場所だ。そこでゴブリンと集まって何かしている。送れ』

 

「了解。ユフィは監視を続行。目標の動きを逐一報告してくれ。送れ」

 

『了解。終わり』

 

 俺は通信機から手を退かして後ろに振り返る。

 

「どうやらオークはこの先の開けた場所にゴブリンと居るようだ」

 

「ゴブリンとですか?」

 

「それはまた厄介な」

 

 セフィラとリーンベルは険しい表情を浮かべる。

 

「何で厄介なんだ?」

 

「ゴブリンはただでさえ数が多いのですわ。オークと共にいるという事は、それだけの数が居ると言うことを意味しています」

 

 士郎が首を傾げると、セフィラが説明する。

 

「つまり、一つの群れがいたら他にも居るって事を考えないといけないってことだ」

 

「Gかよ」

 

 俺がそう言うとげんなりした様子で声を漏らした。

 

「ここからは物音を立てずゆっくりと進むぞ」

 

「分かったわ」

 

「おうよ」

 

『了解』

 

 俺達はそれぞれ銃火器を構え、ゆっくりと忍び足で前へと歩みを進める、

 

 

 

 周囲を警戒しながら前へと進むと、開けた場所が見えてきた。

 

 俺達はそれぞれ木の陰や茂みに身を潜め、双眼鏡を手にして木の陰から顔を出して覗き込み、状況を確認する。

 

 前方は木々が無いぽっかりと開いた広場で、そこには7,8体の猪の様な頭を持ち、身体の大きなオークが地面に座って肉を食っていた。

 近くには何かの残骸が地面に転がっていた。恐らくオーク達が食べている肉の持ち主だろう。

 

 その周りには数体のオークとゴブリンが周囲を警戒している。

 

「ホント、見たまんまだな」

 

「あぁ」

 

「それで、どうする?」

 

「まずユフィの狙撃で一際大きな個体を狙ってもらう」

 

 俺は木の陰からメンバーにどう動くかを説明しながら、オークの群れの中で一際大きな個体を指差す。

 

「あれが群れの頭目か?」

 

「恐らくな。狙撃と同時にセフィラとリーンベルが機銃掃射を行う。俺達は取り逃がしの始末だ」

 

「分かった」

 

 全員が頷くのを確認してから、俺は無線機に手を当てる。

 

「こちら、土方。ユフィ。そちらで大きな個体が見えるか? 送れ」

 

『あぁ。見える。それを狙えばいいのか? 送れ』

 

「話が早くて助かる。その後は逃げようとしているやつを始末してくれ。送れ」

 

『了解した。終わり』

 

 ユフィと通信を終えてからシキの無線機の周波数と合わせる。

 

「シキ。お前は狙撃をしつつ周囲を警戒だ。送れ」

 

『こちらシキ。了解。終わり』

 

 無線機から手を離すと、左手をM203に添えてホロサイトの電源を入れて覗き込む。

 

 士郎もG41のハンドガード下部のアングルフォアグリップを添えるように握り、構えるとセレクターをセミオートに切り替え、オープンドットサイトを覗き込む。

 

 フィリア達もそれぞれ銃火器を構え、いつでも撃てる体勢を取る。

 

「……」

 

 トリガーガードに引っ掛けていた指をゆっくりとトリガーに掛け、ホロサイトのレティクルをオークの頭に重ねる。

 

 

 直後、大きな身体を持つオークの頭目の頭が文字通り弾け飛び、血と肉片を辺りに撒き散らす。その後に遠くから銃声がする。

 

 オーク達は突然群れのリーダーの頭が吹き飛び、何が起きたのか分からず、呆然とする。

 

 直後にセフィラとリーンベルの二人が引金を引き、5.56mmと7.62mmの弾丸の雨をオークとゴブリンの群れに降り注がせる。

 

 二種類の弾丸はオークとゴブリンの身体を貫き、次々と倒していく。

 

 すかさず俺は引金を引き、銃声と共に銃床越しに反動が右肩に伝わる。排莢口(エジェクションポート)から空薬莢が排出されると同時に放たれた弾丸はオークの頭を貫き、命を刈り取る。

 

 隣で士郎もG41の引き金を引き、銃声と共に放たれた弾丸がオークの首を貫通し、直後に放たれた弾丸が左眼を貫通して命を刈り取る。

 

 フィリアもブースター越しにホロサイトを覗き、狙いを定めては引金を引き、次々とオークとゴブリンの頭や左胸を撃ち抜いていく。

 

 エレナは89式短小銃の3点バーストで三発ごとに射撃を行い、オークとゴブリンの身体を撃ち貫く。

 

 しかしゴブリンはともかく、頑丈なオークは5.56mmや7.62mmの弾丸で貫かれてもまだ動いており、身体中から血を流しながらも森の奥へと逃げようとしていた。

 

 俺達はオーク達を逃がさず、頭に狙いを定めて撃つ。

 

 

 遠くからはユフィとシキが逃げようとしているオークを狙い、頭部に穴が開くか、弾け飛んだりして次々と命を刈り取っていく。

 

 すると俺の89式小銃のボルトが一番後ろまで下がってそのまま停止する。

 

「リロード!」

 

 俺は一声掛けてから木の陰に隠れると、士郎達が空いた分を埋めるように射撃を行う。

 

 マガジンリリースボタンを押して空になったマガジンを左手に持ちながら外し、腰に提げているダンプポーチへ放り込むと、マガジンポーチからマガジンを取り出して挿し込み、スライド止めを上から押してボルトを前進させる。

 

『こちらシキ! 10時方向からゴブリンの群れが接近中! 送れ!』

 

「了解! 迎撃する! 終わり!」

 

 無線機からシキの報告が入り、俺はほぼ壊滅したオークの群れを一瞥して10時の方向を見る。

 

「10時方向からゴブリンの群れだ! 士郎、リーンベル、エレナ! 迎撃用意!!」

 

『了解!』

 

「フィリアとセフィラは周囲警戒だ!」

 

「了解!」

「了解致しました!」

 

 俺は指示を出して89式小銃の被筒下部にあるM203のセーフティーを外し、左手でマガジンをグリップの様に握って身構える。 

 

「……」

 

 そして聴覚を強化した俺の耳にこちらに近付く複数の足音を捉え、足音がした方向へM203の引金を引く。

 

 直後ポンッ!! と言う音と共に40mmの榴弾が放たれ、茂みの奥へと入ると、その直後に炸裂音が発せられる。

 

 すぐさまM203の銃身のロックを外して前へとスライドさせて空薬莢を排出し、次弾を銃身に差し込んで元の位置へと戻す。

 

 少ししてボロボロの姿となったゴブリンが茂みから出てくるも、直後に士郎がG41の引金を引いてゴブリンの頭を撃ち抜く。

 

 同時にリーンベルもMINIMI MK3の引金を引いて連続して鉛弾の雨をゴブリン達に降り注がせた。

 

 近くでは他の方向から襲おうとしたゴブリンに対してフィリアとセフィラが迎撃する。

 

「リロード!」

 

「カバー!」

 

 エレナが木の陰に隠れて空になったマガジンを交換している間に、俺達が援護に入る。

 

 弓矢を持ったゴブリンがいたが、構えようとした瞬間頭を撃ち抜かれて後ろに倒れる。

 

 

 

 そして30分も経たずにオークとゴブリンの群れは全滅し、辺りには魔物の死骸が埋め尽くしていた。

 

 周囲を警戒しつつ俺はまだ弾が残っているマガジンを手にしながらマガジンリリースボタンを押して外し、ダンプポーチに放り込んでマガジンポーチよりマガジンを取り出して挿し込む。

 

「こちら土方。周囲に敵影はあるか、送れ」

 

『こちらシキ。周囲に敵影無し。目標と思われる影も見受けられない。送れ』

 

「了解。だが、まだ居る可能性がある。オークから身体の一部を切り取った後、周囲の索敵を行う。送れ」

 

『シキ了解。こちらも周囲の索敵を行う。終わり』

 

 通信を終えて俺は周囲を確認する。

 

「まだオークが残っているかもしれない。オークから一部分を切り取って回収した後、時間まで周囲を確認する」

 

「分かったわ」

 

「了解です!」

 

「了解しました」

 

「おうよ」

 

「はい!」

 

 俺達は周囲を警戒しつつオークの牙や耳を89式多用途銃剣で切り取ると、森の奥へと前へと進んでオークの捜索に入った。

 

 

 

 



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第三十六話 小銃の優劣は使いやすさなのか……

今回は雑談回みたいなものです。


 

 

 

 

 あの後オークの捜索をしたが、逃がしたオーク数体とゴブリンの群れと遭遇しただけで、他にオークの姿は無かった。どうやら群れはあれだけしか居なかったようだ。

 

 オークから討伐の証となる部位を回収した後、牧場に戻って管理者に報告後スレイプニルへと戻った。

 

 戻った後すぐに冒険者組合に向かい、オークの討伐報告と、回収したオークの耳や牙を提出して依頼を完遂した。

 

 後日組合から派遣される調査団の調査で報告どおりであるのを確認した後に報酬金が支払われる。

 

 受付のタグを受け取った後夕食を取って、泊まっている宿に戻った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 そしてその日の夜。

 

 

 寝る前の日課となっている恭祐のトレーニングモードによる射撃訓練。

 

 

 射撃場の様な仮想空間で俺達は射撃訓練を行っていた。しかし今回は少し違っていた。

 

 

 

「……」

 

 俺は両手に持って保持している拳銃のフロントサイトとリアサイトを重ねて的に狙いを定めると、引金を引く。

 

 直後に撃鉄が下りて弾の雷管を叩き、USPよりも大きな銃声と反動と共に弾丸が放たれ、的に大きな穴を空ける。

 

 すぐに撃鉄を右手の親指で起こして反動でずれた狙いを定め直して再度引金を引き、大きな反動と共に銃声が鳴り響き、放たれた弾丸が的に六つ目の穴を空ける。

 

「やっぱりマグナムの反動は強いな」

 

「だろうな。まぁ、こっちの方が大きいんだがな」

 

 俺は手にしている拳銃こと『S&W M29』の6インチパフォーマンス・センターモデルのシリンダーを左側スイングアウトさせて後ろに傾け、.44マグナム弾の空薬莢を排出する。

 

 隣で士郎は手にしている『オートマグⅤ』の空になったマガジンを落としてホールドオープンしたスライドのロックを外す。

 

 そりゃ.50AE弾なら反動は強いだろうよ。

 

「しかし、今回の戦闘で分かったが、やはり大きな魔物には大口径の弾を使う銃が有効だったな」

 

「まぁ、ある程度予想は出来たがな」

 

 まぁこれについては以前から考えていた事だが、やはり口径が小さい弾丸では身体の大きい、もしくは表皮の固い魔物に対して威力が不足していることだ。現に今回オークに対して5.56mmの弾丸は急所こそ当たれば仕留められるが、それ以外の箇所ではダメージは少ないように見えた。

 場合によっては大口径の弾丸を使用する銃火器の使用も念頭に入れないといけないな。

 

「と言っても、場所によっては小口径の弾でも仕留められるが」

 

「そんな必中を求められてもなぁ」

 

「それはいくらなんでも無理ですよ」

 

 近くでは『トーラス・レイジングブル』を持つシキがシリンダーを左側にスイングアウトさせて後ろに傾け、454カスール弾の空薬莢を排出する。

 

「まぁ、現実的に考えてもそれは無理だろうな。まぁ、どれを使うかは、考えないとな」

 

「うーむ」

 

「そうですね」

 

 

「で、どれを使うかで思ったが」

 

「ん?」

 

 オートマグⅤを収納した士郎は『ブッシュマスターACR』を召喚しながら俺に問い掛ける。

 

「結局パーティーで使う小銃は89式で統一するつもりか?」

 

「俺はそのつもりだが?」

 

「うーん」

 

「何だよ」

 

 何処となく嫌そうな雰囲気を出す士郎に俺はムッとする。

 

「いや、89式は良い銃だ。別に良いんだが、やっぱり使いづらくないか」

 

「……」

 

「確かに、レールが無いし、セレクターがあんな配置と形では、使いづらいですよね」

 

「ぐっ」

 

 それを言われるとぐうの字も出なかった。

 

 89式小銃は性能こそ高水準に達するほど高いが、やはり設計が古いのに加え、セレクターが独特な配置と形をしているとあって、使いづらい小銃に数えられるだろう。

 今でこそピカティニー・レールを追加するなどして近代化改修しているが、それでも焼け石に水程度のものだ。

 

「別に89式に拘らなくていいなら、別の小銃でいいんじゃないか?」

 

「別のやつ、かぁ」

 

 俺は頭の後ろを掻く。別に考えてなかったわけじゃないが、うーん……。

 

「例えば、『SCAR』とかな」

 

「SCARか」

 

 腕を組んで静かに唸る。

 

 SCARとはベルギーのFNハースタル社で開発されたアサルトライフルだ。この小銃は5.56×45mm NATO弾を使用するモデルLや7.62×51mm NATO弾を使用するモデルHがあり、それぞれ銃身の長さが異なるモデルもある。

 M4と異なって作動方式がストーナー式からショートストロークピストン式になっている為、命中精度は低下しているものも、ボルトキャリアが汚れることがなくなっている。

 その他にも89式小銃のようなガス調節弁を持っており、いざと言う時の作動不良に備えている。

 陸自でも次期国産小銃開発の参考としてこのモデルLとモデルHの二種類と思われる小銃を納入していると言う情報がある。

 

「あれは大口径モデルのSCAR-Hもあるし、ある程度部品の共有化も出来るぞ。その上AKのロシアンショートの弾薬とマガジンが使えるモジュールもあるしな」

 

「それはそうだが、うーん」

 

 俺としては89式を使い所だが……。

 

 と言っても、弾薬を共有化したとしても、銃をバラバラに使うのは後々困るだろうな。

 

(それに、銃身の長さを変えられるのはメンバーの要望を叶えられるが)

 

 ちなみに先の戦闘で89式短小銃を使ったエレナだったが、銃自体の性能は良いと言っていたが、セレクターに関しては酷評だった。

 

(まぁ89式以外で良さげなのは、HK416辺りか)

 

 ここでM4やM16を選択しなかったのは、やはり動作方式の構造上の作動不良の起こしにくさだ。

 

 まぁ前にも言ったが、M4やM16のストーナー式はちゃんとメンテナンスをすれば故障を起こすことは無い。しかし構造上汚れやすいのはどうしようもない。

 その分ショートストロークピストンはボルトにガスが吹き付けられないので汚れにくい分メンテナンスは楽な方、と思う。

 

 それにHK416はAK並に劣悪な環境でも動作するほど頑丈に出来ているのも特徴的だろう。

 

「他にはHK416やXM8ぐらいだな」

 

「HK416はともかく、XM8は……」

 

「そうですよねぇ」

 

「言わなくても二人の言いたいことは分かるぞ」

 

 士郎は苦笑いを浮かべる。

 

 XM8とはH&K社が開発したアサルトライフルだ。これまで培ったノウハウを基に次世代小銃として開発され、その性能はこれまでの小銃を上回る性能を有した。

 特徴的なのが『モジュラー・ウェポン・システム』と呼ばれるもので、各パーツごとにモジュラー化しており、コンパクトカービン、アサルトライフル、分隊支援火器といったバリエーションに専用の工具無しで換装できる。

 

 アメリカ軍はこのXM8をM4やHK416、SCARと共に厳しい試験を行って、このXM8はどの小銃よりも良好な結果を出して、M4A1に代わる主力小銃として採用を決定した。

 しかしその後年を跨がずにその決定を急に白紙に戻したのだ。

 

 理由は今も曖昧で分かっていないが、ネット上では三つの理由が割とありえそうな理由として大きく挙げられる。

 

 一つは軍が使いたがらなかったと言われている。

 

 XM8はこれまでの銃火器と比べるとプラスチックを多用し、外見に近未来感が出ており、一般的な銃火器と比べると結構新鮮さがあった。しかしそれが仇となったのかどうかは分からないが、軍人からすれば『玩具みたいな外見』と言って使いたがらなかった、と言われている。

 まぁそうでなくても採用している小銃を一新するとなると、当然調達費用に加えて訓練費、消耗品の補填費が掛かる為、一部で採用を反対したと言われている。

 

 二つ目はコルト社の陰謀があった。

 

 仮にもXM8が採用されれば、それまでM16やM4を軍に卸してきたコルト社が黙っているはずが無かった。そこで強力な政治ロビーを展開して採用を撤回させた、と言われている。

 まぁそのコルト社もその後破産したのだが……。

 

 三つ目は生産工場側に問題があった。

 

 これはピカティニー造兵廠と呼ばれる企業が正式採用の決定前に国内に生産ラインの設置を決めるなど力を入れていたらしく、その上あたかも採用が決まったかのような持ち上げ方をしていたらしく、それが軍や政府に反感を勝って採用に大きく影響した、と言われている。

 

 当然これらの説はネット上で予想されたものばかりで、真実は今だ定かになっていない。

 

 ちなみにXM8はその後PMSCsや他国の軍、法執行機関等に売り込みを掛けたが、ドイツの武器輸出法の改正により、販売や輸出が制限されてしまい、現在は製造されていないという。

 

 しかしそんなXM8にも欠陥があり、根本的な機構はG36のものを使っているので、その短所も引き継いでおり、その上プラスチック製の外装は紫外線の影響で劣化しやすいと言った問題点を抱えていた。

 そして何よりマガジンがG36系のものであり、M16やM4のSTANAGマガジンではなかったのも、ある意味一つの欠点ともいえるだろう。

 

 

 まぁ結論的に言うと、XM8は性能こそ良かったが、色んな意味で運が無かった迷銃であったということだ。

 

 

「まぁ、アサルトライフルについては後々みんなで決めようぜ」

 

「そうだな」

 

「はい」

 

 まぁともかく、この話題は一旦棚上げだな。まぁ今の所SCARかHK416が有力かもな。

 でも士郎が出しているブッシュマスターもありかもしれんな。

 

「それと、スナイパーライフルはどうするんだ? まさかMSG90でいいってわけじゃないよな?」

 

「別に決まっているわけじゃないぞ。ただ単に性能の良いセミオート式のスナイパーライフルが無かっただけで、使っているだけだ」

 

「そうなのか」

 

「でも、MSG90なら僕のG3とマガジンを共有化が出来るので、別にいいのでは?」

 

「そりゃシキはいいだろうが、操作に一手間が掛かるやつはいざって時に困るんじゃないか?」

 

「まぁ、それはそうですが」

 

「……」

 

 士郎の言う通り、MSG90と言うよりG3系統の銃火器に言える事だが、作動方式にローラーロッキングによるディレードブローバック方式を用いている。

 この機構は反動を抑制するので、連射をしても高い命中精度を保つことができる。

 

 しかし構造上の関係で一部を除いてホールドオープン機構を持たないので、コッキングハンドルを一番後ろまで引いてボルトを回してレール後端上の溝に引っ掛けて、その後マガジンを交換をしてボルトハンドルを上から叩いて溝から外してボルトを前進させると言う手間が掛かる。

 しかもこの機構は薬室内に弾を残した状態でマガジンを交換する、所謂タクティカルリロードを行うとボルトやその周辺に負担が掛かってパーツが損傷する恐れがある。

 

 戦場でこの一手間による隙は危ういだろう。

 

 その上、複雑な構造をしているので重量が増えやすいと言う欠点もあり、前身であるPSG1は軍用に向いていない重量だった。

 

「まぁボルトアクションのスナイパーライフルは別の時で決めるとして、セミオート式のスナイパーライフルだが、『KIVAARI』がいいんじゃないか?」

 

「KIVAARI?」

 

「あぁ」

 

 すると士郎はブッシュマスターACRを台に置いてメニュー画面を開いてそれを探して選択すると、台に一丁のスナイパーライフルが現れる。

 

「こいつは確か、.338ラプアマグナム弾を使用するセミオートスナイパーライフルじゃないか」

 

「あぁ。こいつはいいんじゃないか? フラッシュハイダーのお陰で反動も結構抑えられているみたいだしな」

 

「……」

 

 俺は台の上に現れたスナイパーライフルを眺める。

 

 KIVAARIとはアメリカのDRDタクティカル社で開発されたスナイパーライフルで、狙撃に適した.338ラプアマグナム弾を使用するセミオートマチック式スナイパーライフルだ。

 

 このスナイパーライフルの特徴としては『クイック・チェンジ・バレル・システム』と呼ばれる僅か数秒で組み立て、分解を可能としており、持ち運ぶ為の従来のロングケースを必要とせずコンパクトに収納が可能となっている。

 

「まぁ、悪くないな。だが、ユフィに使ってもらって意見を聞くしかないが」

 

「だな」

 

 士郎はKIVAARIを収納すると、レッグホルスターに納めているUSPを取り出す。

 

「それにしても、結局セカンダリウェポンはUSPにするのか?」

 

「まぁ特に他に無いんならUSPタクティカルで統一するつもりだ」

 

「そうか。まぁ、性能は十分だしな」

 

 士郎はそう言うとUSPをレッグホルスターに戻す。

 

 

 

 その後近くで小銃や狙撃銃、機関銃を撃っていたフィリア達に小銃や拳銃、狙撃銃の意見を聞きまわったりして、今後の事を考えるのであった。

 

 

 

 



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第三十七話 ランク上げの難しさ

 

 

 

 灰色の雲が空を覆い、薄暗い森林の中。

 

 その中に出来ている道を73式小型トラックが走っていた。

 

 

「今回は楽に終わったな」

 

「まぁ、相手がゴブリンやコボルト程度じゃ、すぐに終わるだろうよ」

 

「大口径の銃で遠距離から一方的に撃てばすぐですよ」

 

「私は全然活躍出来て無いんだけど」

 

 運転席にて車を運転している俺の隣の助手席に座る士郎は背もたれにもたれかかって灰色の雲に覆われた空を見上げ、後ろの席に居るシキはG3/SG1を観ながら呟き、エレナは不満げに呟く。

 

「しかし、なんでわざわざ古い方のジープを出したんだ?」

 

 俺達が乗っている73式小型トラックは現在陸上自衛隊で使われているパジェロ型ではなく、古い方のジープ型だ。後部座席の中央にある銃架には12.7mm重機関銃M2が搭載されている。

 

「好きだからに決まってんだろ?」

 

「いや、お前さぁ」

 

 俺の返した言葉に助手席に座る士郎は苦笑いを浮かべる。

 

 後ろの席に座るシキとエレナも士郎同様苦笑いを浮かべていた。

 

 今日も組合から出された依頼を受けて、今回はフィリア達と分かれて依頼を受ける事にした。

 

 俺と士郎、シキ、エレナの四人は森林に出没するコボルトやゴブリン、オークといった魔物の駆除の依頼を受けて、依頼主が入る村へ向かい、その周辺の森林で魔物の駆除を行った。もちろん依頼内容にあった数と合わせて規定に沿った数だけ駆除している。

 その後依頼主に駆除報告を行い、スレイプニルへと戻っている途中だ。

 

「そういえば、三人のランクはどうなった?」

 

「俺は今回の依頼でストーンに上がりそうだな」

 

「私もストーンですね」

 

「僕はアイアンです。恭祐さんは?」

 

「俺はまだブロンズだ。フィリア達もまだアイアンだろうな」

 

 それぞれ首に提げているタグを見せ合う。

 

 ちなみに俺はブロンズ、士郎とエレナがウッド、シキはアイアンだ。

 

「うーん。ランク上げって以来をこなしていけばすぐに上がるもんだと思ったが、意外と時間が掛かるんだな」

 

「まぁ、こなしている依頼が駆除程度のものばかりじゃなぁ」

 

 俺はため息を付く。

 

 ここ最近ランクを上げる為に依頼を毎日受けていたが、やはり依頼の難易度でランクを上げる為のポイントの量が異なっているようで、俺達がこれまで受けてきた依頼は難易度の低いものだったらしく、中々上がらずにいた。

 

「やはりランクを上げるのに適しているのは大型の魔物の討伐、もしくは賞金首を捕らえるか、でしょうかね」

 

 シキが例えを口にする。

 

「だが、その辺りの依頼になるとランクが関係してくるからな。今の俺達のランクじゃそれらの依頼は受けられないだろうな」

 

 冒険者にランクがあるのは実力を表す為であり、実力に合わない依頼を受けれないようにする為だ。実際過去にその制度が無かった時代では駆け出しの冒険者が難しい依頼を受けて死亡する事故が多発していたそうだ。

 と言っても、ランク相応の実力を持った冒険者ばかりかと言うと、そうではない場合もあるが。

 

「一応高ランク者が同伴なら受けれなくは無いですが」

 

「保護者同伴みたいなものか?」

 

「ま、まぁ例えとしては、間違ってないですが」

 

 士郎の例え方にシキは苦笑いを浮かべる。

 

 シキの言う通り、高ランクの冒険者が同伴すると言う条件なら低ランクの冒険者でも難易度の高い依頼を受けることが出来る。まぁ当然難易度の高さによっては高ランクの冒険者の同伴数も多くなってくるが。

 

「俺達以外の冒険者は正直言って信用できない。特にランクが高いやつほどな」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ。一度俺の武器目当てで依頼を共に受けた冒険者のパーティーが居たんだよ」

 

「やっぱり居るんですね。そういう輩が」

 

 と、シキは少し嫌悪感のある声を漏らす。

 

「最初は特に怪しい所は無かったんだが、食事の時にやたら料理を勧めてくるから、警戒したんだよ」

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「後から分かったが、どうやら食事に睡眠薬を仕込んでいたみたいでな。俺が眠った所を襲うつもりだったようだ。まぁ、スキルのお陰で俺には効かなかったがな」

 

 俺には身体精神異常無効のスキルがある。少なくとも今のレベルなら並大抵の睡眠薬程度じゃ効かない。

 

「その言い方からオチが見えたが、一応聞くけどどうなったんだ?」

 

「俺は寝たフリをして待ち構えてな。案の定冒険者達が睡眠薬で眠っていると思って俺に襲い掛かったんだ。まぁ、CQCで返り討ちにしたがな」

 

「それはまぁ」

 

「ご愁傷様」と士郎は呟く。

 

「それの冒険者達はどうしたんですか?」

 

「当然拘束して町に戻った後組合に報告してな。御用となったよ。そんで報酬金を貰ったよ」

 

「まぁそうなるな」

 

「で、連中はどうやら同じ手口を使って新人冒険者を襲っては装備やアイテムを奪って、口封じに魔物に襲わせたらしい」

 

「なるほど。冒険者である以上、事故死として装えば、不自然じゃないか」

 

 冒険者はいかなる場合でも組合側の不手際が無い限り自己責任だ。依頼先で魔物に食い殺されたとしても、それは珍しいことではない。

 まぁ当然不自然な点がある場合は組合が調査団と騎士団を動員して調べるが。

 

「はぁ。僕も下手すればそんな連中に標的にされたかもしれないんですね」

 

 シキは深くため息を付く。

 

 まぁシキの場合はそれ以外の理由で標的にされていたかもしれんが。

 

「となると、残りは賞金首か」

 

「まぁ、そう簡単に出てくるものじゃありませんし、何より首に賞金が掛けられている以上、それなりの実力を伴っているでしょうし」

 

「うーむ」

 

 世の中やっぱり思い通りに進まないな。

 

 

 

 

 しばらく森の中を進んだ中、休憩のために俺達は道の脇に車を停車させていた。

 

「ところで、恭祐」

 

「何だ?」

 

 水筒に入っている水を飲んだ士郎がスコープを載せてバイポットを付けたM14の各所を点検している俺に声を掛ける。

 

「お前あれ以来どのくらいレベルが上がっているんだ?」

 

「あぁ、あれから大分上がっているが、特に変化は無いな」

 

 俺はメニュー画面を開いて、自分のステータスを見る。

 

 現在の俺のレベルは38まで上がっており、身体能力もかなり向上している。

 

 しかし身体能力が上がること以外に変わった事は無く、スキルの追加や何かのジャンルの武器兵器がアンロックされるようなことは無かった。

 

(何か条件でもあるのか?)

 

 俺は首を傾げて考えるが、それで答えが出るなら苦労しない、か。

 

「そういう士郎はどうなんだ?」

 

「俺もレベルは上がっているが、トレーニングモードが追加された以外は特に変わってないな」

 

 士郎は『PSL』と呼ばれるルーマニア製のマークスマンライフルを手にしながら答える。

 

 ちなみにこのPSLだが、旧ソ連のSVD ドラグノフとよく似ている外見をしているが、ハンドガードの形状や弾倉の位置、フラッシュサプレッサー等、細部を観るとかなり異なる銃である。

 内部機構もSVDと異なってガスピストンとボルトキャリアーが一体化したロングストロークピストン式のガス圧作動方式を採用している(SVDはガスピストンとボルトキャリアーをそれぞれ別部品としているショートストロークピストン式を採用している)

 

 ここまで異なっているのにこれらを同じ銃だというやつはただのアホである。

 

 

「お前もトレーニングモードが使えるようになったのか」

 

「あぁ。別にお前が居なくても使えるって事だな」

 

「それもそうだな」

 

 これで俺が不在でも他のメンバーに訓練を施すことができる。

 

 

「それにしても、恭祐さんと士郎さんの今の体質って便利ですね」

 

「そうよね。私にはよく分からないけど」

 

 それまでG3/SG1やUSPに不具合が無いか見ていたシキとエレナが口を開く。

 

「まぁ、銃を自由に出せるって言うのは便利だな」

 

「それに戦えば戦うほど強くなれる」

 

「どこの戦闘民族ですか」

 

「ホント、お兄ちゃんと団長の身体って不思議だねぇ」

 

「うーむ」

 

 俺は静かに唸る。

 

 そもそも言うと、なぜ転生者にこれだけの能力を持たせて異世界に?

 

(恐らく、いや、十中八九転生者は他にも居るんだろうな)

 

 当然俺達だけしかこの異世界に居るとは思えない。他にもいるんだろうな。

 

 そしてその転生者達が果たしてまともかどうか。

 

(どうも嫌な予感がする)

 

 俺達がただこの世界に転生させられたようには思えない。

 

 何か目的があるような気がする。

 

 

「っ!」

 

 するとシキの耳がピンと立ち、G3/SG-1を手にして立ち上がって周囲を見渡す。

 

「どうした。シキ?」

 

「今、女性の悲鳴がしました」

 

「なに?」

 

「どっちからだ?」

 

 すると士郎は手にしているPSLにマガジンの前端を引っ掛けながら挿し込んでコッキングハンドルを引く。隣でエレナがドラムマガジンを装着している『HK416C』を手にしてチャージングハンドルを引く。

 

「こっちです!」

 

 シキはG3/SG1を右肩に背負うと、森の中へと入る。

 

 俺はM14を手にして士郎達と共にシキの後に付いて行く。

 

 

 

 



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第三十八話 どこの世界でも賊の類は変わらんな

 

 

 

 

 シキの後に付いて行ってしばらく森の中を走っていると、シキが茂みの前でしゃがみ込んで止まる。

 

「シキ。どうした?」

 

「……」

 

 シキは息を呑み、ジッと前を見ている。

 

「この先です」

 

「シキ?」

 

 震える声で伝えるシキの姿に俺達は一抹の不安を抱き、しゃがみ込んで草木の間から覗き込む。

 

「っ!」

 

 そこには衝撃の光景が広がっていた。

 

 

 

 そこにはいくつもの馬車が破壊されて、積み込まれていた荷物が辺り一面に散乱していた。

 その中には惨殺された男女の遺体が倒れていた。

 

 その場所から俺達が潜んでいる茂みは離れているが、それでも生臭く焦げくさい臭いが鼻腔を刺激する。

 

 その現場には身体の一部に防具を身に纏い斧や槍、剣と言った武器を持つ男達が辺りを物色している。

 

(山賊か?)

 

 見た目と状況からすれば、男達の正体は恐らく山賊だろう。

 

 差し詰め襲われたのは商人の馬車か。

 

(皆殺しか……)

 

 見える範囲だけでもかなりの人数が殺されている。それもかなり残忍なやり方で。

 立っている人間は山賊だけだ。

 

 ギリッと無意識に歯軋りを立てる。

 

「こいつは……」

 

「……」

 

 すると士郎は怒りを含んだ声を漏らす。隣ではエレナがハイライトの消えた目で見つめてた。

 

 

「――――!!」

 

 すると山賊の一人が声を上げると、他の山賊達が一箇所に集まり出した。

 

 俺は五感強化スキルを発動させて視覚と聴覚を強化する。

 

『へへへ。男やババァばかりでガッカリするところだったが、こんな上物が隠れていたとはな』

 

『こいつは予想外の収穫だな!』

 

『……い、いやっ』

 

 男達の話し声がする中で怯えた様子の少女の声が強化された耳の中に入る。

 

 周りを囲う山賊の隙間から、表情に絶望の色を浮かべる少女の姿が一瞬だけ見えた。

 

(クズがぁ……)

 

 これから行われるであろう行為に俺は腹が煮えくり返る。

 

『っ!セラに、手を出すな!』

 

 すると近くで血だらけで倒れていた男性が立ち上がり、近くに落ちていた剣を拾い上げて山賊に切りかかる。

 

 しかし山賊の一人が振り返り際に斧を振り上げて男性の手から剣を弾き飛ばすと、そのまま男性に斧を振り下ろして身体を切り裂く。

 

『っ!』

 

『あ、あぁ……』

 

 切りつけられた男性は血を噴き出して倒れると、山賊たちは手にしている武器で男性を滅多打ちにする。

 その光景を目にした少女は目を見開き、呆然となる。

 

「っ!」

 

 その光景に俺は絶句し、歯噛みする。

 

『この野郎、生きていやがったか!』

 

『手間取らせやがって!』

 

 山賊は男性だった物に近付くと、容赦なく蹴り付けて転がす。

 

『だが、これで邪魔者は居ない。たっぷりと楽しもうぜ』

 

 山賊たちは憎たらしい笑みを浮かべて少女の元に向かう。

 

『っ……!っ……!』

 

 少女は逃げようとするも恐怖のあまり腰が抜けてか立ち上がる事ができない。

 

 そして男達は少女に群がり、直後に少女の悲鳴と共に布を切り裂く音がする。

 

 

「……」

 

 俺の中で感情が冷え込み、M14のセーフティーを外す。

 

「恭祐」

 

「何だ?」

 

「俺とエレナが行く。援護を頼むぞ」

 

「……」

 

 士郎はPLSのセーフティーを外し、エレナはHK416Cのハンドガード下部に手を添える。

 

「……分かった」

 

「えっ!?」

 

 なんでもなく普通に言う恭祐達にシキは驚く。

 

「ま、まさか、山賊を?」

 

「放って置く訳にはいかないからな」

 

「で、でも、殺すことは」

 

 シキは戸惑いの色を表情に浮かべている。

 

 まぁ無理も無い。これから相手にするのはいつもの魔物ではない。クソ野郎だが、相手は人間だ。

 

「シキ。別に無理して付いてくる必要は無い。車を取りにいってくれ。必要になる」

 

「……」

 

 シキは戸惑いながらも静かに茂みからはみ出ないぐらい高さまで立ち上がって元来た道へと戻る。

 

「……」 

 

 俺は士郎達に軽く頷くと、二人も茂みからはみ出さないぐらいまでの高さまで立ち上がって迂回しながら山賊に接近する。

 

「……」

 

 俺はその場に伏せて茂み横の開けた場所に匍匐で移動し、M14に装着しているバイポッド展開させて伏射の姿勢を取る。

 

「……」

 

 マガジンと挿入口付近を左手で掴むようにして銃本体を保持し、スコープを覗き込んでレティクルを山賊の一人の頭に重ねて狙いを定める。

 

 これから人を殺す。以前の俺なら躊躇する所だが……もう躊躇しない。

 

 

 それに、あんなクソ野郎共を殺すのに躊躇う理由があるか?

 

 

「……くたばれクソッタレ」

 

 ボソッと呟き、引き金を引く。

 

 ダァンッ!! と乾いた音と共に弾丸が放たれ、狂いなく山賊の頭を側面から撃ち抜き、反対側が弾けて中身と共に血飛沫を出して男は横へと倒れる。

 

 突然の銃声と仲間の一人が倒れると、何が起こったのか分からず少女に手を掛けていて呆然としている山賊たちだったが、俺はすぐさま他の目標に狙いを定めて容赦なく引き金を引き、銃声と共に弾丸が放たれて山賊の一人の頭を撃ち抜く。

 

 二回目の銃声でようやく山賊たちは我に帰り、慌てふためいて逃げようとするが、時既に遅し。

 

「逃がすか」

 

 俺は次の目標に狙いを定めて引き金を引き、更にもう一人の右脇腹少し上を撃ち抜いた。

 

 すぐに隣の山賊に狙いを定めて引金を引き、四人目も後ろから右脇腹上を撃ち抜く。

 

 銃声がする度に仲間が死んでいく。その光景に山賊たちは混乱の極みに達して、発狂しながらも森の奥へと逃げようとする。

 

「……」

 

 森の奥地に逃げようとする山賊を俺は逃がさず狙いを定めて引き金を引き、山賊の頭を撃ち抜く。

 

 

 直後迂回していた士郎が茂みからPLSを構えて射撃を開始し、放たれた弾丸が逃げようとしている山賊の身体を撃ち抜く。

 

 その近くでは茂みからエレナがHK416Cをフルオートで射撃を行い、山賊たちを撃ち抜いていく。

 

 ある程度山賊たちを撃った後、HK416Cを背中に背負って跳び出し、両脇のホルスターから銃剣付きUSPを取り出して前に向け、乱射しながら接近する。

 

 しかし乱射していると言っても、当てずっぽうではなく、正確な射撃で山賊を一人一人頭か左胸、左右脇腹上に弾丸を当てて撃ち抜いている。

 

 山賊の一人が雄叫びを上げて古びた剣を横へと振るってエレナに襲い掛かろうとしたが、彼女は姿勢を低くしつつ前へと跳び出し、山賊の攻撃をかわしてその脇を通り過ぎる際に右脚を銃剣で切り裂く。

 山賊が激痛の余りその場に膝を着くと、直後にエレナは後ろに振り向き、その際に右手に持つ銃剣付きUSPを山賊に向けて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸が後頭部から貫通する。

 

 すると彼女の後ろから二人の山賊が襲い掛かろうとしたが、士郎が片方の山賊に狙いを定めて引金を連続して引き、数回の銃声と共に放たれた数発の弾丸が山賊の身体を撃ち貫く。

 

 エレナはすぐさま立ち上がると近付いてくる山賊に逆に近付き、一瞬戸惑った山賊の首目掛けてUSPを振るい、山賊の首を銃剣で切り裂く。

 

 すぐさま足が竦んで動きを止めている山賊にエレナはUSPを向けて引金を躊躇無く引き、頭を弾丸が貫く。

 

「……」

 

 彼女はUSPを勢いよく振るって銃剣に付着した血を振り払うと、冷たい視線を生き残った山賊に向ける。

 

 睨みつけられた山賊は足を竦ませるが、直後に茂みから出てきた士郎がPLSの銃口を向け、引金を連続して引く。

 

 放たれた弾丸は生き残った山賊の身体を貫き、その命を刈り取った。

 

 

「うわぉ……」

 

 その光景を見た俺は思わず声を漏らす。

 

 確かに士郎の言う通り、エレナの映画や漫画さながらの動きだな。

 

 内心呟きながらマガジンキャッチレバーを押しながら弾が残っているマガジンを外し、ダンプポーチに放り込んでマガジンポーチよりマガジンを取り出して前端を引っ掛けながら挿し込む。

 

 周囲に誰もいない事を確認して立ち上がり、M14を構えたまま茂みから出る。

 

「……」

 

 しかし冷静になって見渡すと、改めてそこがどれだけ悲惨な状態かを確認する。

 

(ヒドイな)

 

 男女の遺体やその仲間入りを果たした山賊の遺体に馬の死骸が辺り一面に倒れており、泥と血が入り混じって変色していた。

 

(もう少し……もう少し早く気付いていれば、状況は変わっていたのだろうか)

 

 いや、例え早く気付いたとしても、被害が小さくなるだけで結果に殆ど変わりは無いだろう。

 何よりもう過ぎた事なのだ。たられば話をしたところで結果が変わることは無い。

 

 何より、シキが居なければ気付くことも無かっただろうに。それで状況がどうこう言うのはあまりにも筋違いか。

 

「……」

 

 胸中で様々な感情が入り乱れて、何とも言えなかった。

 

「士郎、エレナ」

 

 俺は周囲を警戒しながらマガジンを交換している士郎とエレナの元へと向かう。

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ」

 

「はい」

 

 士郎とエレナは一言返して頷く。

 

 見た感じ、酷く疲弊しているって感じじゃないな。

 

「……」

 

 そんな状態の中、士郎は少女の元に近付くと、少女は緊張の糸が切れたのか気を失って倒れていた。

 

 着ていた物は全て強引に剥ぎ取られていたが、暴行の跡は見られなかったし、やられた跡も無い。

 

 しかし何かで切ったのか、左頬には大きな切り傷が出来ていた。

 

「生存者は……この子だけか?」

 

「恐らく。まだ何とも言えないが」 

 

「……」

 

 俺はメニュー画面を開いて迷彩服3型の上着を出すと、少女の身体の上から被せて抱え上げる。

 

「恭祐は他の生存者を探してくれ」

 

「士郎はどうする?」

 

「俺は、ちょっと用事がある」

 

 と、士郎は指の骨を鳴らしながら、腰が抜けている山賊の生き残りを睨み付ける。

 

「……やりすぎるなよ」

 

「分かっている。エレナ」

 

「うん」

 

 そう言うと二人はその山賊の生き残りの元へと向かう。

 

「……」

 

 俺は周囲を警戒しながら少女を安全な場所に運び、その後生存者の確認に入った。

 

 

 

 



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第三十九話 復讐する意味

 

 

 

 生存者の捜索を恭祐に任せて俺とエレナは生き残った山賊の元へと向かう。

 

 

「おい、おっさん」

 

 俺はドスの効いた声を出すと、地面に倒れている中年の男性の胸倉を掴んで睨み付ける。

 

「お前に聞きたい事があるんだ。質問に答えてもらうぞ」

 

「お、お前に言う事なんかねぇぞ!」

 

 山賊は士郎を睨みつけながらそう言うが。

 

「そうかい。なら」

 

 

 パァンッ!!

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 男は叫びを上げて悶えるが、俺はそのまま男を地面に押し付ける。その脚には穴が開いて血が流れ出ていた。

 

 その先にはエレナがUSPを向けて男の脚を撃っていた。

 

「エレナ」

 

「うん」

 

 エレナは左手を撃ち込んだ箇所に翳すと、青い光を放って傷を癒す。

 

「質問の内容以外の答えは要らないんだよ。ちゃんと答えないと何度も痛い目に遭うんだぞ」

 

 俺が左手を上に上げると、エレナは先ほど撃って傷を治した箇所にUSPを向けて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸は狂い無く先ほど撃ち抜いた箇所に命中して撃ち抜く。

 直後山賊は叫んで悶え苦しむ。エレナはすぐに撃ち抜いた箇所に手を翳して青い光を放って傷を癒す。

 

 こいつが何時までも情報を吐かないなら、これを繰り返すまでだ。

 

 我ながら鬼畜なやり方だと思う。が、同時に効果的だろう。

 

「わ、分かった。分かったからやめてくれ!」

 

 その効果は覿面で、さっきの威勢は何処へやら。男は涙目になりながらあっさりと降参する。

 

「じゃぁ質問だ。リードって言う山賊を知っているか?」

 

「な、何で頭の名前を」

 

「……は?」

 

 俺はレッグホルスターよりUSPを取り出し、男の眉間に突きつける。

 

「ひぃ!?」

 

「質問を質問で返すな」

 

「わ、悪かった! あんたの言うリードって言う男は俺達の山賊一味の頭だ!」

 

「ほぉ」

 

 こいつは良い事を聞いた。

 

「お前達はさっき何をしていたんだ」

 

「か、頭にここを通る商隊を襲って金品を奪えって言われたんだ!」

 

「ふーん」

 

 やっぱりどこの世界も賊は賊らしいことしかしねぇな。

 

「で、その頭はどこにいる?」

 

「そんなの言ったら俺が『パァンッ!!』わ、分かったって!! ここから北にある廃鉱だ。そこを今は根城にしている!!」

 

 俺がUSPの銃口を上に向けて引金を引いて銃声を立てると、男はすぐに吐いた。

 

「本当か?」

 

「ほ、本当だ!」

 

「嘘じゃないよな?」

 

「お、お前さんなんかに嘘なんか付いたら後がこえぇぞ!!」

 

 いい年下おっさんが涙目で叫ぶ姿に俺は哀れみを感じた。いや、俺がしているんだがな。

 

 その後俺は銃を突きつけて色々と聞き出した。

 

 

(あいつ、あんな性格だったっけ?)

 

 遠くから尋問の様な拷問、じゃなくて拷問の様な尋問をしている士郎の姿に俺は若干引いている。

 

 まぁあぁいう輩のやつから情報を得るには効果的だろうが。

 

「変わったな。あいつ」

 

 以前から知る姿からは想像つかないような今の士郎の姿に俺は呟いた。まぁその点は俺も同じか。

 

「……」

 

 俺はため息に近い深い息を吐くと、周囲を見渡す。

 

 あれから少女以外の生存者を探したのだが、結局彼女以外の生存者はいなかった。

 

「かわいそうに」

 

 俺は呟きながら少女の傍にしゃがみ込み、M14を置いて容態を見る。

 

 さすがにあのままにして置けなかったので、少女に迷彩服3型を着せている。とってもやりづらかったが。

 

 見た感じ顔色は少し青いが、呼吸は安定しているし、脈も正常だったので、問題は無い。

 

 だが、左頬に刻まれた大きな傷が、とても痛々しかった。このまま放っておくと細菌が傷口から侵入して化膿する恐れがある。

 

 俺は応急救急キットを出して傷の治療を施す。

 

 

 するとエンジン音が耳に入り、応急処置が終わったところで俺が顔を上げると73式小型トラックがやってくる。

 

 運転席に座っているシキはエンジンを切って降りると、周囲を見渡して顔を青ざめる。

 

「きょ、恭祐さん。車を持ってきました」

 

「ありがとう」

 

 戸惑いの表情を浮かべるシキに返事を返して俺は少女を抱えて73式小型トラックの後部座席に寝かせる。

 

「その子は?」

 

「山賊に襲われた商隊の唯一の生き残りだ」

 

「……」

 

 シキは何も言わず周囲を見渡すと、顔色を悪くして右手で鼻と口を押さえて吐き気を抑える。

 

 グロテスクな光景に加え、獣人の嗅覚の鋭さにはここの臭いはキツイみたいだ。

 

 

 

 しばらくして士郎とエレナの二人が俺達の元へとやってくる。

 

「待たせたな」

 

「それで、何か吐いたのか?」

 

「あぁ。あいつらの根城と頭の情報をな」

 

「なるほど」

 

 どうやら予想以上の収穫があったみたいだな。

 

「それに、あいつらの頭は、どうやら俺とエレナが倒すべきやつみたいだ」

 

「なに?」

 

「それってどういうことなんですか?」

 

 シキは首を傾げて士郎に問い掛ける。

 

「この山賊の頭はリードと言う名前の山賊で、俺とエレナが居た村を襲ったやつだ」

 

「っ!」

 

「エレナさんの」

 

「あぁ」

 

「……」

 

 二人は険しい表情を浮かべて返事を返す。

 

 

「士郎」

 

「恭祐。止めないでくれ。俺達は」

 

「いや、俺は止めるつもりは無いぞ」

 

「?」

 

「きょ、恭祐さん?」

 

 俺が意外な言葉を掛けたのに驚いてか、士郎とシキが声を漏らす。

 

「仇討ちがしたいんだろ」

 

「あ、あぁ」

 

「なら、俺が止める理由は無い」

 

「恭祐……」

 

「復讐をするかどうかを決めるのは関わった者達だけだ。関わりの無い者が決める事じゃない」

 

「……」

 

 よくアニメや漫画、ドラマだと復讐は意味が無いとか、死んだ者はそれを望んでいないとか、そんな事を言う輩が居るが、ハッキリ言ってその考えは全く理解できないな。

 

 復讐は意味が無いと言うこと事態間違っている。そもそもなぜ意味が無いと言い切れる? 確かに復讐をしたところで失ったものは戻ってこない。

 だが、復讐は一種のケジメだ。気持ちを整理する為のな。俺はそう思っている。

 

 死んだ者はそれを望んでいない? それを言うやつはお前は死者の声が聞こえる霊能力者か何かか? それに自分を殺したやつを憎まないとは到底思えないな。

 

 俺は復讐をすること事態を肯定するわけじゃないが、否定もしない。なぜなら、決めるのは関わりのある者だからだ。関係の無いやつが決める事じゃない。

 

「俺は……」

 

「……」

 

「俺は……エレナの両親の、村の人達の仇を討ちたい。だから、恭祐。力を貸してくれないか?」

 

 士郎は真剣な表情を浮かべて、頼み込む。

 

「私からもお願いします、団長!」

 

 エレナも深々と頭を下げる。

 

 

「あぁ。分かった」

 

 俺は迷う事無く、首を縦に頷いた。

 

「良いのか?」

 

「他でもないお前からの頼みだからな」

 

「……」

 

「けじめをつけたいんだろ?」

 

「……あぁ」

 

 士郎は強く頷いた。

 

 

 

「……」

 

 その様子をシキは黙って見ていた。

 

「シキ。お前はスレイプニルに戻って待機だ」

 

 これから行うのはどんな理由を述べようとも、大量殺人だ。俺や士郎はいいだろうが、全く耐性の無いシキには荷が重過ぎる。だから彼には街で待機してもらうしかない。

 

「……」

 

 シキは何も言わず、黙ったままだ。

 

 

 

「僕も、行きます」

 

 しばらくしてシキは口を開いた。

 

「だが」

 

「分かっています。これから、何を行うかは」

 

「だったら……」

 

「だからこそ、です」

 

「……?」

 

「お願いします。僕も連れて行ってください」

 

「……」

 

(シキ。お前は……)

 

 俺はしばらく考えたが、シキの決意の篭った瞳に、俺は何も言えなかった。

 

 

「分かった。だが、無理はするなよ」

 

「はい」

 

 これ以上は平行線が続くと思って、俺の方が折れることにした。

 

「それじゃぁ、あの子をスレイプニルの自警団に保護してもらうついでにフィリア達を呼んで来てくれ。今頃依頼を終えて街に戻って来ているはずだ」

 

「分かりました」

 

 シキは頷くと、すぐに73式小型トラックに向かう。

 

「俺はあいつからもっと情報を聞き出す」

 

「分かった」

 

 士郎はエレナを連れて山賊の元へと向かう。その際山賊が青ざめたので、さすがに同情した。

 

「……」

 

 俺は腕を組み、深くため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 



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第四十話 廃坑での戦闘

 

 

 

 その後シキは73式小型トラックを走らせてスレイプニルに戻り、自警団に少女を預けた後、街に戻っていたフィリア達と合流後再び戻ってきた。

 

 

 

「あれが山賊が潜んでいる廃鉱か」

 

「あぁ」

 

 山の中腹にある岩場にポッカリと開いた横穴を遠くの岩陰から覗くユフィが呟くと、士郎が短く返す。

 

 フィリア達と合流し、事情を説明した俺達は山賊の生き残りから尋問で聞き出した廃鉱付近まで可能な限り車で接近した後、徒歩で静かに接近した。

 

 ちなみにその山賊だが、逃げられないようにちょっとした細工を施して置いている。

 

「確かに見張りが居ますね。ここで間違いなさそうです」

 

 MINIMI MK3を持つリーンベルは廃鉱の入り口付近に二人の山賊を確認して小さく声を漏らす。

 

 その上、廃鉱にも関わらず薄っすらと光がいくつもある入り口から見えている。これじゃここに居ますよっていうのを言っているようなものじゃないか。

 

「手発通り、行くぞ」

 

「えぇ」

 

「あぁ」

 

「おうよ」

 

『はい』

 

 みんなの返事を聞き、俺達は行動を起こした。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ―フィリアside―

 

 

「……」

 

 キョウスケを先頭に私とリーンベル、シキは音を立てないように岩陰に隠れながら廃鉱の入り口に接近し、別方向からはシロウとエレナ、ユフィ、セフィラが向かっている。

 

「……」

 

 キョウスケの後ろを付いて行く中、私はここまでの一件を思い出していた。

 

 

 今朝私達はキョウスケとシロウ、シキ、エレナの四人と分かれて依頼を受けて、スレイプニルを発った。

 

 ベリルやゴブリンといった魔物の討伐だったけど、依頼は問題なく遂行した。

 

 その後依頼主に依頼遂行の完了報告をして街に戻ったんだけど、そこでシキが一人で戻って来ていた。

 

 彼に理由を聞くと、どうやらキョウスケ達が依頼先から帰っている途中で商隊を襲っていた山賊を見つけ、排除したそうだ。その際に商隊の生き残りの少女をシキが街まで運んで自警団に保護してもらったそうなの。

 そして事情を聞いた私達はすぐにシキの案内でキョウスケ達と合流した。

 

 キョウスケはその山賊の一掃を提案して、私達もその案を承諾した。

 

 無抵抗の人達を標的にして、その上皆殺しにするなんて、許せるものじゃないわ。 

 

 それに、その山賊のリーダーはシロウとエレナにとって仇みたいだから、断る理由は無かった。

 

 

 岩と岩の陰を伝って廃鉱の位置口付近まで近付くと、私達は一番近い岩の陰で止まる。

 

「……」

 

 キョウスケは岩の陰から廃鉱の入り口付近を見ている。

 

 私はその間に手にしている銃を見る。

 

 前まで使っていた89式小銃じゃなくて、今使っているのは、確か『HK416A5』って名前だったかしら? 89式小銃に代わる新しく使う銃のいくつかある候補の一つだったわね。

 

 89式小銃は命中精度が良かったけど、セレクターが使いづらかったのよね。どうしてあんな作りになったのかしら。それに3点バースト機構もあんまり使わないし。

 

 このHK416A5はセレクターの切り替えがしやすく、ストックも伸縮できるから体格に合わせて調節ができる。ボルトリリースレバーも89式小銃と比べると押しやすくなっているから、89式小銃と比べて使いやすくなっているわね。といっても、射撃精度と射程距離が劣っているのが惜しいのよね。

 まぁ、その点はキョウスケがバレルの交換をして精度を上げているから、射程と共に大分マシになっているけど。

 

 今の所これとSCAR-Lが有力候補になっているわね。あれもあれで悪くなかったわね。

 

 今回セフィラやシロウ、リーンベル以外はこのHK416A5を使っており、エレナは銃身を切り詰めたHK416Cを使っているわ。

 

 基本私達が使うのは16.5インチのアサルトライフルサイズだけど、ユフィとシキは射撃精度を重視して銃身の長い20インチのフルサイズモデルを使っているわね。

 

 私が持っているやつには、レシーバー上部にホロサイトとブースター、ハンドガード下部にフォアグリップ等の以前と同じカスタムパーツを付けている。それと今回はサプレッサーを付けている。

 

「……」

 

 するとキョウスケが振り返り、ハンドサインで指示をくれた。内容は『見張りを始末した後、侵入』だ。

 まぁちょうど他の見張りがいる入り口からは見えない位置だし、サプレッサーで銃声を抑えられているから、始末しても他の見張りに気付かれにくいだろう。

 

 キョウスケは向かい側の岩に隠れているシロウ達にも同じハンドサインで伝える。

 

(殆ど見えないのに、シロウは見えているのね。本当に転生者って不思議ね)

 

 明かりがあると言ってもここからだと全く無いに等しく、ここから向こうは暗くて殆ど見えない。

 しかしそれでもかすかに見えるシロウは小さく手を振っていた。

 

 私は内心で関心していると、キョウスケがHK416A5を構えて引金を引くと、空気が抜けたような音がして、直後に入り口付近の見張りの一人が倒れる。と同時にもう片方の見張りも倒れる。

 

 どうやら同じタイミングだったようね。

 

 キョウスケはハンドサインで後ろに居る私達に指示を出して前進する。

 

 私達はキョウスケの後についていき、向こうでもシロウ達が岩陰から出てきて私達と合流し、廃鉱の中へと侵入する。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ―土方side―

 

 

 反対側にいた志郎達と合流後、入り口から侵入した廃鉱の坑道は意外と明るく、歩く分には苦労しなかった。

 

 俺を先頭に前後を警戒しながら歩いていく中、大きく開けた場所に出る。

 

「……」

 

 俺は大きな岩の陰に立ち止まって後ろのメンバーに向かってハンドサインで『止まれ』と指示を出して俺達は止まる。

 

「……」

 

 その後岩陰から向こうを覗き込む。

 

 

 そこでは山賊達が酒が入った木製のコップや骨付き肉を持って騒いでおり、まさにお祭り状態だ。

 

 その近くには略奪品と思われる品々が山積みにされており、恐らくこれを奪った祝いだろう。

 

 あの山賊から聞き出した情報通りだな。

 

「……」

 

 俺は後ろを振り向くと、志郎とエレナ、ユフィ、セフィラを指差して次に高台の方を指差し、チェストリグに提げている閃光発音筒(スタングレネード)を指差した後握り拳を作って広げた。

 次に右手を銃の形を作って撃った動作の様に上下に動かす。

 

 内容は『四人はあそこの高台に登り、スタングレネードを使った後射撃開始』だ。

 

 志郎達は頷くと、山賊たちに気付かれないように岩の陰と陰を渡りながら大きく迂回して高台を目指す。

 

 次に俺は残ったフィリア、シキ、リーンベルに向き直ると、フィリアに指差してチェストリグに提げている閃光発音筒(スタングレネード)を指差し、志郎達に見せたハンドサインを見せてフィリア達は頷く。

 

 俺はHK416A5を手放してチェストリグに提げている閃光発音筒(スタングレネード)を手にして、フィリアも閃光発音筒(スタングレネード)を手にしてお互い頷き合い、安全ピンを抜く。

 

 俺は視線を高台に向けると、志郎達は高台に到着しており、俺達を見ると配置完了とサムズアップする。

 

 それを確認した後、フィリアに合図を出して同時に閃光発音筒(スタングレネード)を放り投げると、同時に安全レバーが外れ二つの閃光発音筒(スタングレネード)宙を舞う。

 

 俺達はすぐに耳を塞いで口を開ける。

 

 

 直後に100万カンデラ以上の閃光に加え、170デジベルの爆音が広場に発せられる。

 

 光が収まった直後、高台に陣取っている志郎達が射撃を開始する。

 

 俺達も岩陰から出てそれぞれ銃火器を構え、射撃を開始する。

 

 HK416A5のハンドガード下部のレールに取り付けたM203に左手を添えてホロサイトに地面に転がって悶え苦しんでいる山賊の姿を捉え、引金を引く。

 サプレッサーで抑制された銃声と共に5.56mmの弾丸が放たれ、一人の山賊の右胸下辺りを貫く。

 

 フィリアもハンドガード下部のレールに取り付けたフォアグリップを握り締めて引き金を連続して引いていき、放たれる弾丸は次々と山賊の左胸か右胸下、頭を貫く。

 

 閃光発音筒(スタングレネード)の音を聞いて、奥にいた山賊たちが次々と広場に集まってくる。

 

 リーンベルと高台を陣取るセフィラはそれぞれMINIMI MK3とM240Gを向けて引金を引き、異なる銃声と共に5.56mmと7.62mmの弾丸が雨霰の如く山賊たちに襲い掛かり、次々と身体を撃ち貫く。

 

 セフィラの近くではユフィがHK416A5を構えてスコープを覗き込み、山賊に狙いを定めて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸は山賊の頭を貫く。

 

「左側面から敵増援!」

 

「俺がやる!」

 

 俺はM203のセーフティーを外して左手でマガジンをグリップのように握り、山賊たちが次々と出てくる坑道の入り口にM203の銃口を向けて引金を引く。

 

 ボンッ! と共に放たれた榴弾が弧を描いて坑道の入り口から出てくる山賊たちの中へと着弾し、爆発を起こして破片が飛び散り、山賊たちを殺傷する。

 

「……」

 

 すぐにM203の銃身ロックを外して前へとスライドさせ、空薬莢を排出するとポーチから榴弾を取り出して銃身に挿し込み、元の位置に戻す。

 

 次にマガジンリリースボタンを押してまだ弾が入っているマガジンを外して腰に提げているダンプポーチに放り込み、マガジンポーチからマガジンを取り出して挿し込みながら、シキの方を見る。

 

「……」

 

 シキはHK416A5を構えてスコープを覗き込み、引金を引く。しかしその表情は苦痛に染まっている。

 

 狙われた山賊は腕や脚を撃ち抜かれてその場に倒れて悶え苦しむ。

 

(無理も無いか)

 

 HK416A5を構えながら、俺は内心シキの事を察する。

 

 彼にとって今回が初めての対人戦だ。まだ躊躇いがあるのだろう。

 

 引金を引く度に、彼の呼吸は乱れて顔色も良くない。

 

「フィリア!」

 

「任せて!」

 

 フィリアは俺の意図を読んでくれたのか、すぐに援護してくれた。

 

「シキ」

 

 俺は撃ちながらシキの元へと向かい、声を掛ける。

 

「きょ、恭祐さん」

 

 シキは銃を下ろして岩陰に隠れ、乱れた呼吸を整えながら俺を見る。

 

「無理をするな。お前は援護に徹していればいい」

 

「で、でも」

 

「無理をして、壊れてしまったら元も子もない」

 

「……」

 

 このまま無理にすれば、シキの心に大きな傷を残すことになるだろう。それこそ、PTSDとなってしまう。

 いや、もうなりかけているかもしれない。

 

 まぁ、そういう俺もかつてはそうだったんだが、すぐに受け入れた。そんな俺はきっと異常なんだろうな。

 

「兎に角、無理はするな」

 

「……は、はい」

 

 力ない返事を聞きながら、俺は岩陰から出て山賊に銃口を向けて引金を引いていく。

 

 

 

 

 ―沖田side―

 

 

「……」

 

 俺はブッシュマスター ACRを構えつつ、山賊の増援が来ないか警戒する。

 

 地面には山賊たちの死体が転がっており、まだ息のあるやつは呻き声を漏らして激痛に苦しんでいる。

 

 この広場に立っている山賊の姿は無く、増援の気配はない。いや、警戒してまだ奥に潜んでいるのだろう。

 

 すると恭祐が口笛を吹き、俺たちは高台から降りて合流する。

 

「このまま山賊の頭目の捜索に入る。メンバーは変わらず。各員、無理をするな」

 

『了解!』

 

 恭祐の指示を聞き俺を含めた全員が返事を返す。

 

 俺はメニュー画面を開いてブッシュマスター ACRを収納し、代わりに『AA-12』と呼ばれるフルオートショットガンなる銃火器を召喚する。

 

 いくつかある散弾の種類にあるバックショットの中で、ダブルオーバックの散弾が詰まったドラムマガジンをレールに沿って挿し込むと、レシーバー上部のコッキングハンドルを引いて初弾を薬室に送り込む。

 

「……」

 

 俺はエレナと顔を合わせると、頷き合って坑道の奥へと進む。

 

 

 

 待ってろ、リード。お前だけは絶対に逃がさんぞ!

 

 

 



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第四十一話 募る感情

お久しぶりです。半年も更新せず放置して申し訳ございませんでした。他の作品を投稿したりと色々とありまして中々更新できませんでしたが、余程の理由が無い限りは未完で終わらせるつもりはありませんので、頑張りたいです。


 

 

 

 

 坑道内に野太い銃声が連続して鳴り響く。

 

 俺は手にしているAA-12の引金を引き続け、銃口から連続して野太い銃声と共に無数の鉛球が放たれる。

 

 その度に俺達を殺そうと出てきた山賊たちの身体を無数の鉛球がズタズタに引き裂き、粉砕する。

 

 やがて引金を引いたままのAA-12はその咆哮を止める。ドラムマガジンに入っていた弾が無くなった。

 

 するとそれを好機と見たのか、山賊たちが各々の武器を持って岩陰や障害物から大きな声を上げて出てくる。

 

 俺は慌てずAA-12を手放してスリングで吊るすと、右太股のレッグホルスターからUSPを取り出して向かってくる山賊に向けて発砲する。

 

 銃声と共に放たれた数発の弾丸は山賊の身体を撃ち抜き、山賊達は激痛のあまりバランスを崩して倒れ、地面で転がるように悶え苦しむ。

 

 すぐさま横に跳んでずれると、後ろにHK416Cを構えた状態で立っているエレナが引金を引き、連続してマズルフラッシュが瞬いて放たれた弾丸が山賊達の身体を貫く。

 

 その後ろから続くユフィさんとセフィラの二人が周囲を警戒しながら前進する。

 

「……」

 

 俺はUSPをレッグホルスターに戻してAA-12を手にして空になったドラムマガジンを外して新しいドラムマガジンをレールに沿って挿し込み、コッキングハンドルを引き、彼女達の後に続く。

 

 

「死ねぇぇぇっ!!」

 

 突然横穴から山賊が短剣を手にして飛び出してくる。

 

「っ!」

 

 俺はとっさにAA-12を前に出して攻撃を防ごうとする。

 

 

 しかし直後にエレナがHK416Cを片手で山賊に向けてフルオート射撃を行い、山賊の体を無数の弾丸が貫いて蜂の巣にして、命を刈り取った。

 

「大丈夫、お兄ちゃん!」

 

「すまない、エレナ!」

 

 俺はエレナに礼を言ってAA-12を構える。

 

 先に進んでいたセフィラとユフィさんの二人がそれぞれ横穴にスタングレネードを放り込んで陰に隠れると、直後にスタングレネードが破裂して閃光と轟音が響く。

 すぐさま二人は穴に銃口を向け、発砲すると山賊の悲鳴が穴から発せられる。

 

 俺とエレナは先に進むと、セフィラとユフィさんも続く。

 

『こちら土方。目標捜索中も発見に至らず、送れ!』

 

 と、耳に付けている通信機から恭祐から通信が入る。

 

「こちらも発見に至らず、捜索を続ける。送れ!」

 

『了解。無理をするなよ。終わり!』

 

 通信を終えて俺達は進んでいくが、道が二手に分かれていた。

 

「道が二つに」

 

 エレナは左右の道を交互に見る。

 

「どうしますか?」

 

「……」

 

 セフィラの問いに俺は一考する。

 

 だが、時間との勝負もあって、俺はすぐに判断する。

 

「俺とエレナが左を。セフィラとユフィさんは右をお願いします!」

 

「了解しました」

 

「了解した!」

 

 二人は頷くと右の道へと走っていくのを見届けてから俺とエレナも左の道へと走っていく。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 僕は吐き気を何とか抑えて恭祐さん達の後を追い掛ける。

 

 恭祐さんに言われた通り、無理の無い範囲で援護に徹していたけど、人を撃つというのは想像以上に厳しいものだった。

 

(こんなに、きついなんて)

 

 分かってはいたはずだ。こんな事になるのは。だが、現実はその理解を超えていた。

 

(なのに、何で恭祐さんは……)

 

 僕は恭祐さんが何の躊躇いもなく山賊を射殺していることに、戸惑いがあった。

 

 自分と違って転生してから日が浅いのに、どうして……。

 

 

 

「前方敵!」

 

 すると恭祐さんが叫ぶとその場で止まり、HK416A5を構えて射撃する。

 

 洞窟内にいくつもある横穴から山賊が出てきて各々の武器を手に襲い掛かってくるも、あんな距離から出てきたら、ただのカモだ。

 案の定恭祐さん達の銃撃で山賊達は放たれた銃弾の雨によって蜂の巣にされ、次々と倒れる。

 

 僕もHK416A5を構えて引金を引くも、手が震えて照準が定まらず銃弾は山賊に当たらなかった。

 

「……」

 

 何とか落ち着こうとして、深呼吸をしながら場所を移動しつつHK416A5を構えて引金を引く。

 

 

「死ねやぁっ!!」

 

「っ!」

 

 突然岩陰から山賊が飛び出て来て僕に向かってきた。

 

 とっさに銃を構えようとするも、相手の方が早く山賊の振るうマチェットが僕が手にしているHK416A5にぶつかり、そのまま僕を地面に押し倒す。

 

「ぐっ!」

 

 押さえつけられるように背中を地面に強打した為、僕は肺の中の空気を押し出され、一瞬意識が飛びそうになる。

 

 何とか意識を失うことは避けれたが、山賊はマチェットを振り上げる。

 

 銃を構える暇は無い。すぐにHK416A5を前に出して防御体勢を取る。

 

 

 しかし直後に左側頭部から銃弾が突き抜け、山賊は左へと倒れ込む。

 

「っ!」

 

「大丈夫か、シキ!」

 

 僕が驚いていると、恭祐さんが僕の傍まで近づいて左手を差し出す。

 

「だ、大丈夫です」

 

 恭祐さんの手を掴んで引っ張られながら立ち上がると、すぐにお礼を返す。

 

「言ったはずだ。無理をするなとな」

 

「……」

 

 無理をしていないはずなのに、どうやら僕が自覚していないだけで、無理をしているようだ。

 

「リーンベル。彼のフォローを頼む」

 

「了解!」

 

「周囲警戒を厳に前進。ここいらで目標を見つけたいものだが」

 

 恭祐さんはそう呟き、銃を構えて再度前進する。

 

「……」

 

 

 

 すると曲がり角から人影が出てきてとっさに恭祐さん達は銃を構える。

 

「待て! 私達だ!」

 

 と、とっさに左手を上げながらユフィさんとセフィラさんが恭祐さん達を止める。

 

「ユフィか! 志郎達は!」

 

 恭祐さんは銃口を下ろして二人の元へと駆け寄る。

 

「シロウ様は先ほど分かれ道がありましたので、そちらの方へ」

 

「そうか」

 

 頷きながら恭祐さんは周囲を見渡し、HK416A5のマガジンを外してダンプポーチに放り込み、マガジンポーチからマガジンを取り出して挿し込む。 

 

「ユフィ。志郎達が向かったルートに案内してくれ」

 

「分かった」

 

 ユフィさんは頷きながら元来た道へ踵を返して走り、その後を恭祐さん達が続き、僕も後を追い掛ける。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「もうそろそろ見つかってもいい頃だと思うんだが……」

 

 お兄ちゃんはそう呟きながらAA-12から、えぇと確か『FN FNC』って言うアサルトライフルだっけ? それと装備を変更していた。

 

 私もHK416Cの空になったドラムマガジンを外して腰に提げている専用のマガジンポーチからドラムマガジンを取り出して挿し込み、ボルトストップを解く。

 

「さすがにこれ以上見つからないとなると、もう逃げたか、それとももっと奥に居るのか」

 

「……」

 

「くそっ……」

 

「お兄ちゃん」

 

 深刻そうな表情を浮かべるお兄ちゃんに私は声を掛けるしか出来なかった。

 

 

 ―――!!

 

 

「っ!」

 

 すると奥から山賊達の声が響いて来て、私とお兄ちゃんは咄嗟に身構える。

 

「まだ来るの!」

 

「いや、ここまで多くの山賊を倒しているんだ。となると、こいつらが最後だろう」

 

 銃のコッキングハンドルを引いてお兄ちゃんはすぐに構える。

 

 私もすぐにHK416Cを構え、山賊の襲撃に備える。

 

「恐らく、この奥にまだやつが居るはずだ」

 

「……」

 

 

(この奥に、お父さんとお母さんの)

 

 ふと、私の脳裏に血まみれたお父さんとお母さんの姿が過ぎる。

 

 そうだ。この奥に、二人の仇が居るんだ……。

 

 私の中で感情が冷え込み、HK416Cのグリップを握る手に力が入る。

 

 なのに、こんな所で油売っている場合じゃない。

 

(これ以上時間は掛けられない)

 

 

「お兄ちゃん! 私が援護するから、先に行って!」

 

「エレナ!?」

 

 お兄ちゃんは驚いたように私を見る。

 

「これ以上時間を掛けたら、あいつは逃げてしまう!」

 

「だからって、一人でやるっていうのか!?」

 

「ここまで来てお父さんとお母さんの仇を逃がしたくない!」

 

「エレナ……」

 

「……」

 

「……」

 

 お兄ちゃんは悩んだ表情を浮かべるけど、意を決したように私を見る。

 

「無理はするなよ」

 

「うん!」

 

 

 すると奥から山賊達が大きな声と共に出てきて私達へと向かってくる。

 

 私はHK416Cの銃口を山賊達に向けて引金を引き、連続してマズルフラッシュが瞬いて洞窟内を照らす。銃声が鳴る度に山賊は次々と倒れていく。

 

 その間にお兄ちゃんはFN FNCを構えながら山賊達を迂回するように走り、山賊に向けて引金を引いて銃声と共に放たれた弾は山賊の身体を貫く。

 

 山賊は一瞬お兄ちゃんの方に意識が向くけど、そっちを向いている余裕は無いよ!

 

 私は引金を引いたまま山賊の方へと歩み寄り、連続して放たれる銃弾は山賊達の身体を貫き、次々と倒していく。

 

 山賊の注意が逸れた内にお兄ちゃんは洞窟の奥へと走っていく。

 

 私はその間に山賊達に向けて射撃を続けるけど、しばらくしてボルトが一番後ろまで下がって弾が出なくなる。

 

「ちっ!」

 

 私は咄嗟に銃を手放して両脇のホルスターから銃剣付きUSPを取り出して残った山賊に向けて引金を引く。

 

 銃声が鳴る度にスライドが後退して次の弾を薬室へと送り込み、同時に山賊の身体を銃弾が貫き地面へと倒させる。

 

 山賊の一人が斧を手にして私に向かってくるが、慌てず左手に持つUSPを山賊に向けて引金を引き、銃声と共に放たれた弾丸は山賊の頭を撃ち抜く。

 横からも棍棒を手にして振り下ろしてきたけど、私は棍棒をかわしてその脇を通り過ぎる際に右手に持つUSPの銃剣で山賊の首筋を切り裂く。

 

 私は山賊達に向けて引金を引き続ける。挑んで来ようが、逃げようが、誰一人ここから逃がさない。

 

(逃がさない……逃がさナイ……逃ガサナイ!)

 

 私は一心不乱に、引金を引き続けた。

 

 中には武器を捨てて命乞いする山賊が居たけど、私は無視して山賊の頭を撃ち抜く。

 

 そうやって命乞いをした人たちを殺して来たんでしょ。いざ自分の番になるとそうやってすれば助かると思っているの?

 

 馬鹿なの? 死ぬの?

 

 胸の中でモヤモヤとした、怒りのようで呆れたような、そんな言葉で表せないような感情が募り、私はただただ引金を引き続けた。

 

 

 

 



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第四十二話 慣れたくないものだ、この状況にな

 

 

 

 

「……」

 

 男ことリードは愛用の斧を手にしていたが、未知なる恐怖に身体を震わせていた。

 

 

 その日は多くの収穫があって、潜伏先の廃鉱で仲間達と騒いでいた。 

 

 商隊を襲っているはずの連中が戻ってこなかったが、この時はまだ帰りが遅くなっているのだろうとしか思っていなかった。

 

 だが、突如として大きな音が洞窟に響き渡った。

 

 そしてそこからは仲間達の断末魔と共に聞いたことの無い音が次々と起こった。

 

 いや、正確に言えば似たような音を前にも聞いた事がある。

 

 その時は彼の父親を捕らえた冒険者を殺しに村を襲撃し、父親の仇を取った。だがそこで大きな音が何度もして仲間が数人殺された。

 

 その時の音と似ていたのだ。

 

 

 リードは逃げようとしていたが、場所が洞窟の奥であり、逃げようにも抜け道がなかった。

 

 それに仲間が戦っているのに頭の自分が逃げるわけにはいかなかった。

 

 だから彼は覚悟を決めて、奥で侵入者を迎え撃つ事にした。

 

 

 そして近くで大きな音がして仲間の断末魔がして、リードは斧の柄を持つ手の力を入れる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 エレナに山賊を任せて俺は奥へと進むと、山賊二人が俺の行く手を阻むも、俺は慌てずFN FNCを構えて引金を引き、銃声と共に放たれた銃弾は山賊の左胸と右脇腹を貫いて後ろに倒れる。

 

「……」

 

 前後左右を警戒しながらまだ弾の入っているマガジンを外してダンプポーチに放り込み、マガジンポーチからマガジンを取り出し、挿入口へと挿し込む。

 

(この奥か)

 

 俺は襲撃に備えてゆっくりと歩き、奥へと進む。

 

 そして曲がり角前で一旦立ち止まり、深呼吸をして勢いよく銃を構えながら入る。

 

「……よぉ、頭。奥で待っているとは、律儀だな」

 

「ふん」

 

 そこには斧を手にして仁王立ちする山賊の姿があった。

 

 しかし他の山賊と比べると、装備がしっかりとしており、頭には何かの魔物の頭骨をかぶっている。

 

 間違いない。こいつだ。

 

 俺は直感的にこいつが探していた男だと確信を得る。

 

「まさかここを探し当てるとはな」

 

「あんたの部下の一人から聞き出したからな。泣きながら命乞いをした上で、教えてくれたぜ」

 

「……」

 

 俺の挑発染みた物言いに山賊は何も言わなかった。

 

「でだ。あんたに聞きたい事がある」

 

「何だ?」

 

「あんたがリードで間違いないか?」

 

「聞いてどうする?」

 

 男は怪訝な表情を浮かべる。

 

「なぁに、人違いだったら不憫だからな。まぁ犯罪者である以上間違っても構わないがな」

 

「……」

 

「で、どうなんだ? 言わないんならこのまま仕事をさせてもらうが」

 

「……あぁそうだ。俺がリードだ。それでどうなるってんだ?」

 

「あぁそうか」

 

 確認は取れた。思わず口角が上がる。

 

 俺はリードの右肩に狙いを定めると、引金を引く。

 

 直後に銃声が狭い空間に響き渡り、放たれた銃弾はリード(クソ野郎)の右肩を撃ち抜く。

 

「がぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 激痛の余り手にしていた斧を落としてやつは後ろに倒れる。

 

 俺は構わず両脚に狙いを定めて引金を引き、二回の銃声と共に両脚を銃弾が貫く。

 念の為に左肩も撃っておく。

 

「これでもうどうする事も出来ないな」

 

「き、貴様!」

 

「おいおい。恨まれる筋合いはねぇぞ。敵を目の前にボケッと突っ立っているのが悪いんだろ」

 

「くっ」

 

 俺がそう言うと、リード(クソ野郎)は睨みつける。

 

 映画や漫画だと悪役が敵が前に居ながら得意げに口上述べてるけど、どこからそんな余裕があるんだろな。攻撃してくださいって言っているようなもんだぜ。

 

「お、俺を殺して、仇でも討とうって言うのか!?」

 

「あぁそうだな。お前が殺した、お前の父親の仇のゲオルクさんのな」

 

「あのジジイか……」

 

「復讐する時はな、復讐される覚悟を持ってやるんだったな」

 

「そ、そうか。だったらお前も覚悟しているんだな」

 

 リード(クソ野郎)は口角を上げて得意げに言う。

 

「俺を慕うやつは多い。俺が死ねば、必ず俺の仇を取るやつが現れるぞ。お前達を殺しにくるぞ!」

 

「あぁ、それなんだがな」

 

 俺は首の後ろを左手で掻きながら、自信満々に言うこいつに酷な現実を伝える。

 

「今頃アンタの仲間は先に逝った親父さんと仲良く杯を交わしているんじゃねぇの」

 

「……なに?」

 

 リード(クソ野郎)は怪訝な表情を浮かべる。

 

「アンタを探す為に、俺達はこの廃鉱を探しまくったからな。その時あんたの仲間が襲ってくるもんだから、全員相手にしていたんだ。俺と俺の仲間達とな」

 

「……」

 

「最後にアンタを守ろうとしたやつらも、今頃全員あの世に言って仲間に加わっているんじゃないか?」

 

 そう話していると、後ろから足音がして来る。

 

 俺は銃口をリード(クソ野郎)に向けたまま後ろを振り返ると、血の付いた銃剣付きのUSPを手にしたエレナが曲がり角から出てくる。

 

「よぉ、エレナ。終わったか?」

 

「……うん。終わった」

 

 ハイライトの無い目でエレナは頷く。

 

(前から思うが、時々こんな感じのエレナを見るよな)

 

 いつも見る元気で明るい姿から想像付かない冷静沈着な姿のエレナに戸惑いながらも、前で後ろに下がろうとしているリード(クソ野郎)を見る。

 

「それで、この男が?」

 

「あぁ。二人を殺したやつだ」

 

「……そう」

 

 エレナは背筋が凍るような冷たい声を漏らすと、ハイライトの無い目でリード(クソ野郎)を見るとゆっくりと近付く。俺は横に退いてエレナに場所を空ける。

 

 これはエレナの復讐だ。彼女がやらなければ意味が無い。

 

 俺は彼女の後ろから周囲を警戒しつつ見守る。

 

「っ!」

 

 リード(クソ野郎)はエレナが近づく後とにさっきまでの様子はどこへいったのか、痛みに耐えながら後ろに下がっている。

 

「お前が、お父さんと、お母さんを……」

 

 静かにエレナは言うが、そこから怒りが滲み出ている。近くで見ている俺でも息を呑むぐらいだ。

 

 彼女は右手に持つ銃剣付きUSPの銃口をリード(クソ野郎)に向ける。

 

「ま、待て! お、俺を見逃したら、お前が望む物を何でも持ってくるぞ!!」

 

 リード(クソ野郎)は往生際悪く、エレナに取引を持ちかける。

 

「……」

 

「何でもする! お前が望む物、望む事、全てを望むままに!!」

 

「……」

 

「た、頼む! 命だけは、命だけは!?」

 

(哀れだな)

 

 涙目で命乞いをするリード(クソ野郎)に俺は呆れる。

 

 よくもまぁこんな状況でこんな事を言えたものだな。

 

「……」

 

 エレナは無表情のまま、ため息を付く。

 

「そうやって命乞いをした人達を、何人も殺してきたんでしょ。いざ自分の番になって、同じようにすれば助かると思ってるの」

 

 静かにそう言うと、エレナは首を傾げてハイライトの無い目でリード(クソ野郎)を見る。

 

「それ、虫が良すぎるんじゃないの?」

 

「ヒッ……」

 

 静かな迫力にリード(クソ野郎)は思わず声を漏らす。

 

「それにさっき、何でもするって言ったよね?」

 

「そ、そうだ」

 

「そう。それじゃぁ――――」

 

 と、エレナはUSPの撃鉄(ハンマー)を起こす。

 

 

 

「地獄に行って、先に逝った仲間と一緒に過ごしなさい」

 

「……え?」

 

 

 ッ!!

 

 

 と、リード(クソ野郎)が一瞬安堵の表情を浮かべた瞬間、銃声が鳴る。

 

 リード(クソ野郎)の額に一つの穴が開き、直後にゆっくりと後ろに倒れる。

 

 エレナの右手に持つ銃剣付きUSPの銃口から硝煙が漏れる。

 

(一切の躊躇なし、か)

 

 後ろから見ていた俺は内心呟いた。

 

 あいつは一切躊躇う様な動きを見せず、引金を引いた。

 

(まぁ、余計にややこしい状況にならないなら、これが一番いいがな)

 

 そう内心で呟いていると、エレナが振り返る。

 

「終わったよ、お兄ちゃん」

 

 いつもの声色に戻ったエレナが俺に声を掛ける。

 

「あぁ。そうだな」

 

 エレナの言葉に俺は頷く。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 いくつもの銃声が洞窟内に響き渡り、その度に山賊が倒れていく。

 

 ここに来て何度も見た光景だ。

 

 だが、そんな光景を見ても、俺は何も感じなくなっていた。

 

 転生する前だったら、恐らく気分を悪くして精神的に病んでいたかもしれない。

 

(嫌なものだな、慣れというのは……)

 

 俺は内心呟きながら周囲を警戒しつつ、前へと歩みを進める。

 

 だが、人間と言う生き物は慣れる生き物だ。どんなに苛酷な環境下に置かれても、人間を含む生き物は最初は不慣れでも、やがては慣れる。

 

 だが、なるべくならこういうものに、慣れたく無いものだ。

 

 

「……」

 

 隣ではぐったりとした様子のシキが沈黙している。

 

「初めての対人戦はどうだった?」

 

「……その、何て言ったら良いか、よく分かりません」

 

 するとシキは血の臭いにむせて口に手を当てる。

 

「今はまだ良い。だが、いずれは慣れないとな。今後似たような戦闘を行わなければならないからな」

 

「……」

 

 

「グ、フ……」

 

 すると仰向けに倒れて血を吐いている山賊の姿が視界に入る。

 

 右胸辺りを撃たれているが、辛うじて肝臓は撃ち抜かれていないようだ。肝臓をやられていればものの数秒で大量出血によって死に至る。

 しかし、状態から見て肺をやられているのは明らかだ。

 

 今から治療しても、助からない。

 

「……」

 

 俺はHK416A5の銃口を山賊に向け、静かに引金を引く。

 

 サプレッサーにより抑えられた銃声が放たれ、飛び出た銃弾は山賊の頭を撃ち抜き、命を刈り取る。

 

「っ!?」

 

 それを見たシキは目を見開く。

 

「恭祐さん……何で……」

 

「助けようとは思わんことだ。あれではどの道助からん」

 

「だからって!」

 

「それとも、苦しませてから死なせたかったのか」

 

「っ!」

 

 シキは視線を落とし、黙り込む。

 

「俺だって、殺したくて殺しているんじゃないんだ」

 

「……」

 

「苦しませるぐらいなら、いっそ楽にした方がいいだろう」

 

「……」

 

 

 

 すると洞窟の奥から物音がして俺達は一斉に銃口を音がした方へ向ける。

 

「待て待て! 俺達だ!」

 

 洞窟の奥から士郎の声がすると、岩陰から志郎とエレナの二人が出てきた。士郎は左手に何かを持って引き摺っていたが。

 

「士郎。無事だったか」

 

「あぁ。この通りさ」

 

「そうか」

 

 俺は安堵の息を吐き、士郎が左手に持っている物を見て、士郎を見る。

 

「それが?」

 

「あぁ。山賊共の頭だ」

 

 士郎は死体の足を手放して振り返る。

 

「ユフィさん」

 

「なんだ?」

 

「こういう賞金首って、死体をそのまま自警団とか組合に提出すればいいのか?」

 

「あ、あぁ。後は本人と確認が取れれば、良いが」

 

「そうか」

 

 

「お兄ちゃん。これならいいんじゃない?」

 

 と、エレナがその辺にあったボロ布を持ってくる。

 

 あれで死体を包むつもりか。

 

「あぁ。それがちょうどいいな」

 

 士郎がそう言うと、エレナは地面にボロ布を広げて二人は山賊の頭の死体の両腕両脚を持って持ち上げ、ボロ布の上に置いて死体を包む。

 

「んじゃ、行くか」

 

「あぁ」

 

 士郎はボロ布に包まれた死体を肩に担ぐと、出口へと向かう。

 

 俺達も周囲を警戒しつつ、その後についていく。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 廃鉱を出た俺達は車を置いている場所に戻る前に、少し離れた場所に立ち寄った。

 

 

「よぉ、おっさん」

 

 俺はある木の根元に顔を向けながらそこにいる人物に声を掛ける。

 

「だ、旦那。よくご無事で」

 

 木の根元には、あの時尋問(拷問)したおっさんの姿があり、俺達の姿を見るなり安堵の表情を浮かべる。

 

「どうやら言いつけは守っていたみたいだな」

 

「あ、当たり前だ! こんな物を置かれたら、逃げようにも逃げれないじゃないか!」

 

 おっさんは涙目で俺に訴えかける。そりゃそうだろうな。

 

 俺はおっさんの周りを見ると、おっさんの身体に巻かれたワイヤーと繋がっているクレイモア地雷が正面左右におっさんに向けられて設置されている。

 

 もしおっさんが立ち上がれば、ワイヤーが繋がれているクレイモア地雷の安全ピンを引っ張って引き抜き、爆破させる仕組みになっている。

 

 おっさんから情報を聞き出したはいいが、もしそれが嘘だって言う場合もある。かと言って現場に連れて行ったって足手纏いになるのは目に見えている。

 木に縛り付けたって、山賊だから抜け出す術を持っている可能性も否定できなかった。

 

 だから逃げられない様に細工をしたわけだ。一応おっさんには十分に警告していた。『不用意に動けば死ぬぞ』ってな。

 

「まぁいい。それじゃ、最後の質問だ」

 

 俺は抱えている死体をおっさんの前に置き、顔に掛かっている布を下げて死体の顔を見せる。

 

「こいつがお前の頭か?」

 

「ほ、本当に頭を殺したのか!?」

 

 おっさんはその死体の顔を見て、驚愕の表情を浮かべる。

 

「あぁ。どうやら、おっさんの情報どおりだったわけだ。約束通り、逃がしてやるよ」

 

 俺はメニュー画面を開くと、設置しているクレイモア地雷を解除すると、設置していたクレイモア地雷の姿が消える。

 

 クレイモア地雷が消えたのを確認してから、俺はM9銃剣を腰のベルトに提げている鞘から抜き取り、おっさんの両手首をしばっている結束バンドを切る。

 

「これで懲りたら、もう悪事はやめるんだな」

 

「もう懲り懲りだ! もう山賊から足を洗ってやるんだ!」

 

 おっさんはそう言うと立ち上がり、涙目になる。

 

 俺はため息を付きながらM9銃剣を鞘に戻す。

 

「どこにでも行け。俺達の気が変る前にな」

 

 そう言うと、おっさんはその場から走って離れていく。

 

「いいのか? 見逃したりして。下手すると報復しに来るんじゃないか?」

 

「俺達の恐ろしさは身に染みているはずだ。それで来るのなら、ただの馬鹿だが、まぁその時はその時で、迎え撃つだけだ」

 

 恭祐は呆れたようにそう言うが、一応考えがあっておっさんを解放した。

 

 商隊襲撃時に俺達の力を見せ付けて、尋問の時も容赦なく、そして廃鉱に隠れている山賊共を全滅させて頭の遺体を持って戻ってきたのだ。

 

 これで報復を考えようとは思わないだろう。

 

「それじゃぁ、帰るか」

 

「あぁ」

 

 恭祐達は頷くと、近くに止めている高機動車改の元へと向かう。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「……」

 

 その頃、山賊達が居た廃鉱のある山の上に、双眼鏡を持って覗き込む者が居た。

 

 その先には、恭祐達が高機動車改に乗り込もうとしていた。

 

(まさか、獲物を先に取られるとは)

 

 その者は双眼鏡を下ろして、ため息を付く。

 

 その者の格好は闇夜に溶け込むように全身真っ黒であり、黒いバラクラバ帽を被っているので表情は確認しづらいが、唯一露出している箇所に灰色髪と赤い瞳であるのが確認できる。

 

 背中には『AK-74M』と呼ばれるアサルトライフルの姿があり、その外見からかなりカスタマイズされている。

 

 AK-74MとはAK-74の近代化型であり、木製だったハンドガードやグリップ、銃床が黒いプラスチック製に変更されている。固定式だった銃床もAKS-74の様な折り畳み式に変更されており、これによって各種兵士が携行する小銃を文字通り統一する事が出来た。

 

 このAK-74Mをベースにして、改良されたのが『AK-100』シリーズであり、西側標準の5.56×45mm NATO弾仕様やAK-47の7.62×39mm弾仕様が作られた。

 

 このAK-74Mだが、その外見からアップグレードキットを組み込んで改造したものであり、伸縮折り畳み式の銃床にレシーバカバーやハンドガードの上下左右にピカティニー・レールが追加されている。

 

「……」

 

 するとその者はその場に座り込み、バラクラバ帽を取って通信機を手にする。

 

「目標は先客に取られた。撤収だ」

 

 通信機に向かってそう告げると、通信機を手放して再度ため息を付く。 

 

 バラクラバを取った事で、その者の顔が見えるようになった。

 

 灰色の髪はショートヘアーにして、その顔つきは、少女であった。

 

「ヤポンスキーか……」

 

 少女はボソッと呟くと、バラクラバを被り直して立ち上がり、その場を立ち去る。

 

 

 

 

 



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第四十三話 見覚えのある感覚

 

 

 

 

 

 あの後山賊達を討伐し終えて街へと帰還後、俺達は冒険者組合に報告した。

 

 依頼を受けて行動していたわけじゃなかったので、報酬自体は無かった。まぁ当然だ。

 

 その代わり盗賊の頭が賞金首の罪人とあって、自警団に引き渡したリードの死体が本人であるか確認された後、賞金が渡される予定だ。ちなみにその額は金貨160枚である。

 

 そして冒険者としてのランクも現在組合で話し合いが行われて、後日結果が分かるそうだ。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「はぁ……」

 

 組合に報告書を提出し終えた俺はため息を付いて椅子に座る。

 

「お疲れ様、キョウスケ」

 

 テーブルの向かい側に座っているフィリアが労いの言葉を掛けて、様々な果実を混ぜたミックスジュースが入ったコップを俺の前に置く。

 

「ありがとう」と一言お礼を言ってからコップを手にして一口ジュースを飲む。様々な果実の甘みが口の中に広がって、疲労の溜まった身体に染み渡る。

 

「それで、どうだったの?」

 

「あぁ。個人的に動いたとあって、ランクアップの件は検討するんだとさ」

 

「まぁ、そうなるわよね」

 

 フィリアはため息を付く。

 

 今回は完全に依頼ではなく、個人で動いたのだ。普通はランクに響く事は無い。

 

 とは言っても、今回討ち取った山賊の頭は名の知れた犯罪者とあって、一概に無碍に出来るものではないそうで、今回は特別にこの形になったのだ。

 まぁそれでもこのランクアップは無いかもしれないが。

 

 だが、もしランクアップが行われたら、俺達のランクはほぼ確実に上がるはずだ。

 

「それで、今回つかったHK416A5だが、どうだった?」

 

 俺は彼女に今回使用したHK416A5を使った感想を聞く。今回の戦闘は89式小銃に代わる主力小銃の試験として、HK416A5の評価も兼ねている。既にSCAR-Lの試験は終えているので、後はHK416A5だけだ。

 

「そうね。89式よりセレクターの操作性が良くて、ストックも長さが調整できるから、とても良いわね。射撃精度は89式の方が上かしら」

 

「そうか……」

 

 彼女の率直な感想に、俺は苦笑いを浮かべる。

 

 89式小銃が好きなだけに、こう言われてしまうとショックだ。いやまぁ確かに89式のセレクター関連や固定式ストックは不便だけどさぁ……

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でも無い」

 

 落ち込んでいる雰囲気を察してか、フィリアは首を傾げている。俺は彼女に何でもないのを伝える。

 

「でも、構え易さや操作性はSCAR-Lの方が良かったわね。射撃の精度もSCAR-Lの方が良かった気がする」

 

「ふむ」

 

 フィリアの意見を聞いて俺は一考する。

 

 まぁ、とりあえず他の意見を聞いて判断するか。その後に動作試験でも行って最終決定を下すとしよう。

 

 

「そういえば、あの子はどうなったの?」

 

「あの子って言えば、山賊に襲われた?」

 

「えぇ。商隊はあの子しか生き残っていないのでしょ?」

 

「あぁ……」

 

 フィリアの言葉で、俺の脳裏にあの時の光景が過ぎる。

 

「自警団に話を聞いたところ、あの子は目を覚ましたそうだ。その後の診察で、命に別状は無いとのことだ」

 

「そう……」

 

「ただ、かなり不安定な状態らしい。目を覚ました直後に発狂して、今は睡眠魔法で眠らされているそうだ」

 

「……」

 

 容易に想像できたのか、フィリアは黙り込む。

 

 そりゃ家族や親族、親しい者を目の前で皆殺しにされた挙句、自分も山賊達に強姦されそうになったのだ。そんな光景がフラッシュバックで一気にくるのだから、混乱してもおかしくない。

 

「あの三人は、どうなの?」

 

「士郎にエレナ、それとシキか」

 

「えぇ」

 

「……士郎とエレナは大丈夫そうだったが、シキはなぁ」

 

 俺は頭の後ろを掻き、後ろを振り向く。

 

 いくつもあるテーブルの一つに、士郎とエレナが暗い雰囲気ではあったが、そこまで酷くはなく、どちらかと言えば亡くなった者達への弔いの雰囲気だ。

 

 そして店の一角にあるテーブルに、一人で座っているシキの姿があった。こちらは明らかに落ち込んでいる雰囲気を醸し出している。

 

「やはり、初めての対人戦はきつかったか」

 

「……」

 

「まぁ、それが当然の反応だ。人を殺しておいて、何も感じないわけがない。感じなかったら、ただのイカレだ」

 

「……」

 

「そういうフィリアは大丈夫なのか?」

 

 俺はフィリアに問い掛ける。

 

「私は大丈夫よ。騎士団に居た頃に、ユフィ達と一緒に賊を相手する事は何度かあったから、その時に……」

 

「そうか」

 

「でも、そういうキョウスケは……」

 

「もう何十人も殺している。今更……」

 

 俺は自傷するように呟く。正直あの時はやり過ぎたと思っている。

 

「キョウスケ……」

 

 フィリアが不安そうに声を漏らす。

 

「まぁ、兎に角―――」

 

 俺は湿った雰囲気を変えようと、話題を遮る。

 

「パーティーメンバーのメンタルケアもリーダーの仕事だ。ちょっと行ってくる」

 

「なるべく、直接的な事は言わない方が良いわ」

 

「分かっている」

 

 彼女に見送られて、俺はコップを手にして席を立つ。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 水の入ったコップを手にしたまま、僕は深くため息を付く。

 

 何か頼もうと思うけど、正直食欲が全く無い。

 

「はぁ……」

 

 僕は再度深くため息を付く。

 

(あれが、人を撃つ感覚……)

 

 廃鉱内での戦闘が脳裏を過ぎり、僕の身体が震える。そして銃弾に身体を貫かれて倒れる山賊の姿が映る。

 

(僕は……)

 

 震える右手を左手で握り締める。

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 と、声を掛けられて僕は顔を上げると、コップを手にした恭祐さんが立っていた。

 

「恭祐さん……」

 

 心配そうな表情を浮かべていて、僕は首を振るう。

 

「正直、大丈夫じゃ無いです」

 

「だろうな」

 

 そう言いながら向かい側の席に座る。

 

「それで、どうだった? 今回の戦闘は」

 

「……正直、どう言って良いのか」

 

 僕はテーブルに置いている水の入ったコップに視線を落とす。

 

「とても、複雑です。罪人だったとは言っても、人を殺した、罪悪感が……」

 

「……」

 

 恭祐さんは何も言わず、コップを口につけて一口飲む。

 

「シキ。人を殺した事で罪悪感を感じるのなら、それが正しい感情だ」

 

「……」

 

「人を殺して、何も感じないやつは居ない。居たらそいつはただのイカレだ」

 

 恭祐さんは静かに語る。

 

「その感情、決して忘れるな」

 

「恭祐さん……」

 

「この先、命を奪う機会は増えていくだろう。必ず繰り返せばその感情が薄れていく」

 

「……」

 

「人を殺すのに慣れろとは言わん。だが、ある程度慣れなければならない」

 

「ある程度、慣れる……」

 

「あぁ。それがちょうどいいぐらいだと俺は思う」

 

 そう言うと、コップに入っている飲み物を一気に飲み干す。

 

「恭祐さんは」

 

「ん?」

 

「恭祐さんは、人を殺すのに、躊躇いは無いんですか?」

 

「無い」

 

 恭祐さんは何の迷い無く、即答する。

 

「まぁ俺だって、最初はそうだったさ。ゴブリンを殺しただけで吐き気を覚えるぐらいだったからな」

 

「……」

 

「人を初めて殺した時も、シキみたいに悩んださ」

 

「なら、どうやって割り切ったんですか?」

 

「割り切る、か」

 

 恭祐さんは静かに息を漏らしながら一考する仕草を見せる。

 

「まぁ、強いて言うなら……後悔したくないからだ」

 

「後悔?」

 

「あぁ」

 

 恭祐さんは給仕の女性に果実ジュースのおかわりを言ってから、僕に向き直る。

 

「力があるのに、何もしない方が一番後悔する事だと、俺は思っている」

 

「力があるのに、何もしない……」

 

「あぁ。俺も、少し前にそれで後悔した」

 

「……」

 

「力があったのに、その後の事を考えて、自分の事が大事だったから、何も出来なかった。いや、何もしなかったんだ」

 

 恭祐さんは悲愴感のある表情を浮かべながら話す。

 

「だが、その後に酷く後悔した。やるだけの力があったのに、何もせず、余計に彼女に辛い思いをさせてしまった」

 

「彼女?」

 

「あぁ」

 

 恭祐さんはちらりとフィリアさんを見る。

 

「フィリアは、貴族の娘だったんだ。だが、彼女は人身売買じみた取引の材料にされそうになったんだ」

 

「……」

 

「貴族同士の結婚って言うのが表向きだったが、実際は父親の事業に関する取引だったんだ。娘を引き渡して自分の事業を安定させる為にな」

 

「……そんな」

 

 僕はあまりの悲惨な内容に声を漏らした。

 

 自分の娘を、平気で取引の材料にするなんて……

 

「その事をユフィ達に聞いて、俺は後悔した。その前に彼女はこっそりと俺に会いに来て、胸の内を明かしていたと言うのに……何もしてあげられなかった」

 

「……」

 

「だから、俺は覚悟を決めて、彼女を救い出した。まぁ、一般世間で言えば、誘拐でしかないがな」

 

「……」

 

 恭祐さんの言った言葉に、僕は息を呑む。

 

「その時に、俺は立ちはだかる敵を倒して、多くの命を奪った」

 

「……」

 

「シキ。例え自分の手を汚すことになろうとも、時には正しい事をしなければならない時がある。もちろん、相応の覚悟を持ってな」

 

「相応の、覚悟……」

 

 恭祐さんの言葉が、深く突き刺さる。

 

「もしかしたら、シキもそれを判断する時があるだろうな」

 

「……」

 

「って、大分話がずれたな」

 

 と、恭祐さんは咳払いすると、ちょうど給仕の女性が果実ジュースを入れたコップを持ってきて、それを受け取る。

 

「まぁ、なんだ。今回の事は貴重な体験として、忘れないようにな」

 

「……はい」

 

 僕は頷き、コップを手にして水を飲む。

 

「それと、困った時は仲間を頼ってくれ。可能な限りは協力する」

 

「……」

 

「だから、無理はするなよ」

 

「……」

 

 僕はゆっくりと縦に頷く。

 

 

 すると、「ぐぅ……」と僕の腹の虫が鳴って、僕は恥ずかしくなる。

 

「何だ。食欲はあるじゃないか」

 

「は、はい……」

 

 僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 さっきまで食欲なんて無かったのに、安心した途端急にお腹が空いてきた。

 

「まぁ食欲があるのなら、大丈夫そうだな」

 

 そう言うと、恭祐さんはメニュー表を手にして料理を選び出した。

 

 

(恭祐さん……)

 

 内心呟きながら、恭祐さんを見る。

 

(何だろう。何だが恭祐さんと話していると、妙に安心すると言うか、何と言うか……)

 

 僕はコップの水を飲みながら、これまでの事を思い出す。

 

 確かに恭祐さんは日本人であって、それで親近感が湧いているのだろうけど。でも士郎さんには恭祐さんほど安心感が無い。

 

(それに、やっぱり気のせいなのかな)

 

 注文する料理が決まったのか、給仕の女性に料理を注文している恭祐さんを見ながら、最初に会った時から気にしている事を思い出す。

 

(恭祐さんと、前にも会った事があったかな?)

 

 最初に恭祐さんを見た時、不思議と初めて会った気がしなかった。前にもどこかで会った事があるような、そんな感じだ。

 

 僕は遠い前世の頃を思い出すけど、恭祐さんみたいな人と会った記憶は無い。もしかしたらただチラッと見かけただけかもしれない。

 まぁもう昔の事だから、記憶が薄れてしまっている可能性はあるけど。

 

(気のせい、だよね)

 

 僕は頭を振るって考えを振り払う。

 

 いくら考えたって、答えは出ないのだから、考えるだけ無駄だ。

 

 そう結論付けて、僕は恭祐さんと料理が来るまでの間、今回使ったHK416A5について話して暇を潰した。

 

 

 

 でも、この感覚がただの勘違いでは無かったとは、この時僕は知る良しも無かった……。

 

 

 

 



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番外編2
番外編01 幾多の憑依転生を繰り返した先は異世界


 

 

 

 

 木々が生い茂る森林。

 

 

 太陽の光が葉と葉の間から差し込んで森の中を照らしている中、1/4tトラック 通称『三菱ジープ』二輌と『60式装甲車』に3/4tトラック 通称『ウェポンキャリア』、『M3ハーフトラック』、更に『61式戦車』の計六輌が森の中に出来た道を走っている。

 

 それらにはそれぞれとある服装に身を包む男女が乗り込んでおり、ジープにはそれぞれ男女4人が乗り込み、60式装甲車に6人、M3ハーフトラックやウェポンキャリアにそれぞれ13人の男女が乗り込んでいる。

 

 男女の姿は65式作業服にテッパチこと『66式鉄帽』にマガジンポーチと、各種装備を身に纏っている。初期の頃の陸上自衛隊の装備で固めている。

 

 

 先頭を走る三菱ジープの助手席に乗り込んでいる男性こと玉城(たまき)昭吾(しょうご)は眠そうに大きな欠伸をして首を傾けて骨を鳴らす。

 

 

「大分お疲れのようですね」

 

「……こんな状況じゃ、誰だって疲れるさ」

 

 俺は隣で運転する副官にそう返しながら右の胸ポケットから紙箱を取り出して煙草一本を出して口に咥える。

 

(しかし、何でこうなったのかねぇ)

 

 内心でそう呟きながら、煙草に火を付ける為にライターを探す。

 

 

 

 

 俺はついこの間、と言ってももういつの話か分からないが、俺はどこにでも居る様な、とは言い切れないがただのミリオタな社会人だった。

 しかしあの日、俺の全てが変わってしまった。

 

 その日は普段どおり仕事を受け終えて家に帰宅途中に、突然激しい頭痛に襲われてそのまま意識を失い、次に目を覚ましたらどういうわけか時代を遡って一人の大日本帝国陸軍兵士になっていた。

 全く状況が理解出来ないまま、俺は一人の日本軍の兵士としてあの太平洋戦争の戦地にて戦う事となった。

 

 そしてあの激戦地となったペリリュー島における米軍との戦闘の最中、俺は米兵を何人も狙撃して倒した。

 その直後に米軍の迫撃砲から放たれた榴弾が降り注ぎ、俺は飛び散る破片を受けて負傷し、出血が止まらずそのまま永遠に意識を失った。

 

 

 だが、次に目を覚ました俺はどういうわけかまた時代を遡り、あの時とは別の日本軍兵士に憑依していた。

 

 それ以降は様々な戦場を多くの日本軍兵士として経験し、時には歩兵として、時には戦車兵として、時には飛行勤務者(日本陸軍で言う航空機パイロットの事)として戦場を駆け抜けて活躍した。

 時には海軍の水兵や航空機の搭乗員にもなった事もあった。

 

 そして最後は戦場で戦死するか、米軍の捕虜になるか、終戦まで生き残って余生を過ごすか、終戦後も戦地に残り残置諜者(今で言うゲリラ)として戦闘を続けたりと、状況は様々だ。

 たまに警察予備隊や保安隊、初期の自衛隊に所属していた事もあった。

 

 

 そして転生を繰り返す事20回以上(途中で数えなくなったので正確な回数は覚えていないが、少なくともこれくらい転生したんじゃないかと思う)で、状況が変わった。

 

 今まで日本軍兵士として憑依転生していたが、次はなぜかドイツ軍の兵士として憑依転生していた。

 

 そこから更に20回ほど憑依転生したら、次はソ連、イギリス、アメリカ、イタリア、フランス等、様々な軍人として憑依転生と死を繰り返していた。

 

 

 そしてどのくらいの死と転生を繰り返した時だったか。

 

 俺はこれまでと違う感覚で目を覚まし、周りを見ると木々や草木で覆われた森の中に倒れていた。

 

 これまでは各国の兵士に憑依した形だったが、今回は忘れかけていた本来の俺の姿として見た事の無い場所に転生して、生前最期の時の学生服姿だった。

 

 慣れてしまったと言う俺の考えもどうかと思うが、今までと違い状況に戸惑いつつ俺は立ち上がって、これまで容姿や国の異なる兵士として戦ってきた感覚で周囲状況を確認する。

 

 その直後に激しい頭痛に見舞われて一瞬足元がふらつくも、何とか倒れまいと足を踏ん張るとその瞬間頭痛が治まった。

 

 だが、俺は頭の中で身に覚えの無い情報がある事に気付き、そして衝撃の事実を知る。

 

 あの繰り返し行われた憑依転生みたいなのは意図的に行われたもので、ある程度数をこなした所で異世界へ転生させると言うのが今回の一件である。

 つまりあの地獄の様な経験はただの準備でしかなかった、という事だ。

 

 この事実に俺は当然すぐに理解なんか出来なかった。

 

 

 しかし何時までもこのままで居られると言うわけではなく、軍人として精神的に鍛えられた俺はすぐに行動を起こした。

 

 幸いにも、俺にこんな過酷な経験をさせてくれた神様は色々と便利な能力をくれた。

 

 それは自衛隊で運用された武器兵器を召喚できる能力と、人員、設備を召喚できる能力だ。

 しかも武器兵器においては史実には無い様々な改造を施すことが出来て、輸入物に限られるが外国製の武器兵器も特定の条件を達すれば召喚可能となるというオマケ付きだ。

 

 ミリオタな俺からすれば、まさに棚から牡丹餅な能力だ。まぁ最初は人員や設備を召喚出来る能力は使えなかったし、当初召喚出来るものも警察予備隊から保安隊時代の物しかなかった。

 つまり米軍からのお下がりだけだ。まぁそれでも十分だったが。

 

 

 その後色々とあったが、何とか今日まで生き延びて、人員を召喚出来るようになって、召喚できる武器兵器も増えて、現在に至る。

 

 

 そして人員召喚だが、まぁ予想していたが最初から多くの人員を出せるわけではなく、一個小隊程度の人数しか出せなかった。まぁ出せる人員は兵科ごとに分けられているのが救いか。

 

 でもって、俺は一個小隊の歩兵を武器を装備させて召喚したわけだ。

 

 だが、ここで予想外な事が起きた。

 

 それは召喚した人員の半数が女性であったことだ。まぁ召喚時に特にこれといった設定をしていなかったが。それと召喚した人員はどれも美形で、女性にいたっては年齢は様々の美少女ばかりだった。

 

 その事に俺は首を傾げたが、まぁ女性と言っても実力はあったので、特にこれと言って気にしなかった。

 

 その後に車輌も出せるやつを出したので、本来部隊運用としてはあまりない混雑した編成となった。

 

 

(ホント、何でこんな事になったんだか)

 

 ため息を付き、ポケットよりライターを取り出して『チンッ』と音を立てて蓋を開け、火を付ける。

 

「それで、隊長。これからどうされますか?」

 

 煙草に火を付けた後、ライターの蓋を閉じてポケットに仕舞い煙草を吸うと、三菱ジープの運転席で操縦している副官の『天城(あまぎ)沙耶(さや)』が声を掛ける。うなじより少し先まで伸びた銀髪の似合う美女である。

 

「どうもこうも、まずはこの世界の住人と接触して、この世界の情報を得たい。そこから色々と考える」

 

 実を言うと、今日に至るまでこの異世界の人間と殆ど接触した事が無い。まぁしばらく訓練と称したレベル上げをする為に一箇所に留まっていたので、そのせいもあるのだが。

 

「要は行き当たりばったり、ですか?」

 

「何か他に案があるのか?」

 

「いえ。何も」

 

 彼女はそう言うと運転に集中する。

 

「……」

 

 素っ気無い彼女の態度に、俺はため息を付き、煙草を吸って、煙を吐く。

 

 

『こちら先頭車!』

 

 と、無線機から先行して走る三菱ジープより通信が入る。

 

「こちら隊長の玉城だ。どうした?」

 

 俺は無線機の受話器を手にして聞き返す。

 

『前方から煙が上がっています。その上道に倒れている負傷者を発見!』

 

「っ!」

 

 俺はその報告を聞いて驚きを隠せなかった。

 

「俺達が来るまで周囲警戒を厳に! 場合によっては武器使用を許可する!」

 

『了解!』

 

「各車戦闘準備! 衛生兵は治療の準備!」

 

 俺は無線機に受話器を戻して煙草を灰皿に押し付けて火を消すと、助士席の脇に置いている『64式小銃』を手にして、マガジンを外して7.62x51mm NATO弾が入っているのを確認してから挿入口に戻し、ボルトハンドルを引いて手放し、初弾を薬室へと装填する、

 次に腰のベルトに提げているホルスターより『11.4mm拳銃』ことM1911を手にしてスライドを引いて初弾を薬室に送り込んで、ホルスターに戻す。

 

 

 少しして俺達は先頭車付近に停車した三菱ジープから降りる。

 

「隊長!」

 

 三菱ジープ近くでM3サブマシンガンを持って警戒していた兵士が敬礼を向ける。その足元では先頭車の運転手が負傷者を診ていた。

 

「それで、負傷者というのは」

 

「はい。この子らです」

 

 俺は運転手に診て貰っている子供二人を確認する。

 

「……」

 

 まだ十代になったばかりぐらいの、ある点以外は普通の子供だった。

 

 その点と言うのは……頭に狼か犬の耳と狐の耳、尻にフサフサの毛が生えている尻尾がある。

 

(獣人か。早速異世界染みた住人と出会ったな)

 

 俺は内心呟きながら、後ろからやって来た衛生兵に獣人の子供二人の状態を聞く。

 

「どうだ?」

 

「足回りは擦り傷が多く、他に鋭利な刃物で切ったような傷が多いですね。呼吸の荒れ具合から、恐らく必死になって走ってきたのではないかと」

 

「鋭利な刃物でか」

 

 衛生兵の説明を聞きながら獣人の子供二人を見る。

 

「しかし、命に別状はありません。任せてください」

 

「そうか」

 

 俺は獣人の子供を衛生兵達に任せて、木々が開けて空が見える場所に移動する。

 

「あれか」

 

「その様ですね」

 

 64式小銃を持つ天城の隣まで来ると、開けた木々の隙間から覗く、空へと昇っていく黒煙を見つける。

 

「煙の色に上がり具合からすると、山火事では無いですね」

 

「やはり、か」

 

 彼女の予想に、俺は声を漏らす。俺も同じ予想だったからだ。

 

 

 明らかに、村が何者かによって襲撃を受けている。

 

 

「すぐに向かおう」

 

「よろしいので?」

 

「ここで見捨てる理由は無い」

 

「そうですか。分かりました」

 

 彼女は敬礼をすると、すぐに小隊に指示を出す。

 

(集落の襲撃。くそっ、嫌な時のを思い出す)

 

 黒煙を見ると、脳裏に憑依転生していた時の記憶が過ぎる。

 

 枢密国側で敵国の軍に蹂躙された集落の光景や、連合軍側で逆に集落を襲っていた時の記憶だ。

 

 

 

「っ!」

 

 ふと、俺はとっさに後ろを振り返る。

 

(なんだ?)

 

 俺は言いようの無い不安が胸中を渦巻く。

 

「……」

 

 森の方を睨む様に見て、64式小銃を握り締め、ハンドガードに左手を添えて走り出す。

 

「た、隊長!?」

 

 天城が戸惑いの声を上げるが、俺は気にせず森の中に入る。

 

 

(嫌か予感がする)

 

 俺は64式小銃のセレクターを(安全)から(単射)に切り替え、いつでも撃てるように構えながら走る。

 

「――――ッ!!」

 

 すると森の中に女性の悲鳴が響き渡る。

 

「っ!」

 

 俺は悲鳴のした方向へと走り、大木の陰まで来る。

 

「……」

 

 いつでも撃てるように身構え、大木の陰から向こう側を見る。

 

「っ!」

 

 俺はそこで目の当たりした光景に息を呑む。

 

 かなり古い時代の防具を身に纏った男二人が獣人の少女を追い掛けて、その内の一人がクロスボウを構えて矢を放ち、獣人の少女の肩に矢を突き刺す。獣人の少女は刺さった衝撃と激痛に前のめりに倒れる。

 

 男達は這って逃げようとする獣人の少女に近付くと、一人が少女の腰を踏みつけて押さえ込み、腰に提げている剣を鞘から抜き、剣先を勢いよく獣人の少女に振り下ろして背中に突き刺す。

 

 少女は激痛に耐えるようにもがき苦しむように抵抗するも、もう一人が少女の頭を踏みつけて押さえ込む。

 

 少女に突き刺さった剣を持つ男は手にしている剣の柄を左右前後に動かして傷口を広げる。少女は激痛のあまり声を出せずに苦しむ。

 

 

 その時の男達の顔は、笑っていた。まだ大人になっていないであろう少女を痛めつけながらも、笑っていた……

 

 

「っ!」

 

 その光景を目の当たりにした瞬間、俺の脳裏にあの時の光景が過ぎり、頭に血が上るような感覚が走る。

 

 そして気付けば、俺は大木の陰から飛び出て64式小銃の銃口を男達に向け、照星(フロントサイト)照門(リアサイト)を合わせて狙いを定める。

 

「この、クソ野郎共がぁっ!!」

 

 大声を出したことで男達は俺の存在に気付いたが、その前に俺は引金を引く。

 

 

 ッ!!

 

 

 森の中に響く銃声と共に、7.62mmの弾頭が銃口から飛び出す。

 

 7.62mmの弾丸は狙った通りの場所へと弾が飛び、獣人の少女に剣を突き刺している男の頭を撃ち抜く。

 

 頭を撃ち抜かれて男は脳みそと血を撒き散らしながら後ろに倒れ、少女の頭を踏みつけている男は何が起きたのか分からず、倒れた男を見て呆然となる。

 

 俺はすかさずもう一人の男に狙いを付け、ダブルタップの要領で引金を短い間隔で二回引く。

 

 銃声と共に放たれた二発の7.62mmの弾丸は男の左胸周辺を撃ち抜き、男は後ろに倒れる。

 

「……」

 

 俺は銃を構えたまま周囲を警戒しつつ、剣が突き刺さっている少女の元へと近寄る。

 

「……」

 

 少女の身体を貫いている剣を引き抜こうとしたが、剣が刺さっている箇所を見て手を引っ込めてしまう。

 

 剣は少女の右脇腹と胸の間に刺さっている。肝臓を貫いているのは明らかだった。その上突き刺さったまま周りを抉っていたので、傷口は酷い有り様だ。

 

 それを裏付けるように、既に少女の周りの地面は、少女が流した血を染み込んでぬかるんでいる。

 

「……」

 

 しゃがみ込んで少女の顔を見たが、顔は真っ青に染まり、ピクリとも動いていない。

 

 左手のグローブを取って彼女の首元に手を当てるが、脈は無かった。

 

「……」ギリッ

 

 俺は思わず歯軋りを立て、64式小銃のグリップを握り締める。

 

「……」

 

 込み上げる感情を抑えながら左手にグローブを着け直し、倒れた男達の元へと向かう。

 

 最初に撃った男は脳ミソと血を撒き散らして既に息絶えていたが、もう一人は二発左胸に撃たれているも、まだ生きていた。まぁ、撃たれた場所が場所だから、時間の問題だがな。

 

「……ゴフッ、や、やめてくれ」

 

 男は血を吐きながらも、俺に怯えながら後ずさるも、後ろにあった木に背中が着く。

 

 その時日本語を発していたが、今の俺にその事を気にするような余裕はなかった。

 

「……」

 

 俺はその男の頭に狙いを定めると、何の躊躇無く引金を引く。

 

 銃声と共に放たれた7.62mmの弾丸は男の頭を貫き、背後にある木の表面を肉片と共に赤く染めて、男は木の根元に倒れ込む。

 

「少女を二人掛かりで襲っておいて、寝言ほざいてるんじゃねぇぞ、クソ野郎が」

 

 俺は吐き捨てるように言うと、周囲を警戒しながらマガジン交換を行う。

 

 

「隊長!」

 

 と、天城が走ってきて俺の元にやって来る。

 

「急に走って何を……」

 

 彼女はここの状況を見て、最後まで言わなかった。

 

「隊長……これは……」

 

「天城」

 

「は、はい……」

 

「すぐ村に向かうぞ。襲っている連中を叩きのめす」

 

 俺が振り返りながらそう言うと、彼女は一瞬怯えたような表情を浮かべた。

 

 何を怯えている? 俺は至って普通じゃないか。

 

 天城の傍を通り過ぎながら内心呟く。

 

 

 

 

 



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