モンスターハンター 空を翔ける流れ星 (littlelock)
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第一話

第一話


 とある狩猟場にて、一人のハンターが狩りを行っていた。

 

「キュアア、キュアア!!」

 

 戦っている青い色のしたモンスターがハンターに向かって跳びかかる。 細い身体と引き締まった脚部から引き出された跳躍力で高く跳び上がり、全体重をハンターにぶつけようとする。

 

 ハンターはその攻撃に対応出来ず、真正面から喰らってしまう。

 

「っ!!」

 

 悲鳴を上げる暇もなく、攻撃を喰らってしまったハンターは転がりながら後方に飛ばされてしまう。

 

「キュアアア、キュアアア!」

 

 モンスターは自分の敵を倒したと思ったのか跳びはねて喜びを表す。

 

 鳥竜種、ランポス。それがこのモンスターの名称だ。 この地方では多くのハンターが最初に相対するであろう肉食系のモンスターだ。 並みのハンターなら苦労する相手ではないが、鋭い牙が生えたくちばしや引き締まった脚部が生み出す跳躍力から続く体当たりは人間をふきとばす程の力がある。 

 

「グァァ、グァァ!」

 

 調子よく天に向かって鳴き声を上げるランポス。 その声に呼ばれたように周りから四頭のランポスが集まってきた。 仲間に餌を捕らえた事を知らせたのだろう。

 

 仲間が来た事を確認すると、ランポスはハンターに近づいていく。 しかし、

 

「うぅ、イタタタッ」

 

 倒されたかのように見えたハンターは何事もなかったかのように起き上がろうとする。 いくらランポスの全体重を乗せた体当たりでも、体つきが細く小型モンスターの中では軽い方に部類されるモンスターの攻撃では一撃程度で倒すことは出来ない。

 

 ランポスは驚いたのか後方に後ずさる。 他のランポス達も警戒を強めた。

 

 その隙にハンターは頭にかぶっていたヘルムを落としながらも起き上がる。 そして言葉が通じないと分かっていながらもランポス達に声をかけた。

 

「やったな~!」

 

 その声はハンターとは思えないほどか細くて幼く、しかしきれいで優しさが含まれた声音をしていた。

 

 身長は140cm前後だろうか。 顔立ちは声のままにどこか幼い。

 

 装備は素材で使われている鉄鉱石とファンゴの毛皮がめだつハンターシリーズ。

盾のような装飾が左腕に付いていない事から、この装備は剣士用装備らしい。 初心者のハンターでも比較的集めやすい素材で作られる防具で、また使いやすさから熟練のハンターも使い続ける者も多い。 場所によってはお金を払えば寸法を測った後、店が素材を用意してくれる所まである。

 

 ハンターシリーズは剣士、ガンナー共にスキルも充実している。 両方共に狩猟場大型モンスターがいた場合に、初心者が大型モンスターの居場所を把握しながら行動させるための自動マーキングが付いている。

 

 更に無褒美で攻撃されやすい剥ぎ取り作業で少しでも隙を減らすために剥ぎ取りの鉄人というスキルも付いてくる。

 

 剣士用の装備では装飾品を付ければ肉焼き名人や体力+10なども付ける事が出来る。 どちらもスキルも左右が分からない新米ハンターには充分に役立つスキル達だ。

 

 そんなハンター装備だが、男性が着ているような全身を覆うデザインではなく、腕や太腿辺りを防具で隠さず動きやすいデザインになっている。

 

 そして、落ちたハンターシリーズのヘルムから出てきた髪は、明るい金色と黄色の中間辺りの髪色をしていて、腰までかかる長髪をしていた。

 

 そのハンターは少女だった。

 

 そんなハンターにランポス達は再び襲いかかる。 今度は数を使って少女を倒そうとする。

 

「……」

 

 しかし少女はあわてず、後ろ腰に手を伸ばす。 

 

 そして後腰には竜骨(小)などで作られた片手剣、ボーンククリがさげられている。 攻撃力や切れ味は相当低いが扱いやすく、これも新米ハンターが扱うには充分過ぎる得物だ。 

 

 そしてハンターはボーンククリを握……らず、同じく後腰に取り付けてあるアイテムポーチに手を突っ込む。

 

 そしてアイテムポーチからなにかを取り出した。

 

 その手に握られた物は、くの字の形をした武器だった。 ボーンククリと同じく竜骨(小)で作られていて、それらは砥石で磨かれ、鋭い切れ味を有している。

 

 それはアイテムに属されている武器、「ブーメラン」だった。

 

 しかもハンターの手にはそのブーメラン五つ握られている。

 

「ハァッ!」

 

 普通は一つだけ投げ、間違ってどこかに飛ばしてしまうまで使いまわすはずのそれらをハンターはためらいもなく全て投げる。

 

 投げられたブーメランはそれぞれ五匹のランポスに命中した。

 

「アギョア!!」 「グァア!!」

 

 攻撃しようとした相手に反撃され、ランポス達はのけぞる。 跳びかかろうと跳躍したランポスはブーメランに阻まれ落下してしまった。

 

「フッ!」

 

 そこからブーメランが一つずつそれぞれのタイミングで戻ってくる。 そして戻ってきたブーメランを掴むと再び投げる。 その様子はまるで大道芸のようだった。 それを繰り返して攻撃力の低いブーメランで与えるダメージを補う。

 

 終わらない攻撃の嵐にランポス達は身動き出来ず、どんどんとランポス達は倒れていき、そしてランポスが残り一頭となる。

 

「キュアア!!」

 

 命の危険を感じたのか、ランポスは捨て身の体当たりをしようと跳躍する。 しかし、

 

「ギュァァァ……」

 

 そこにブーメランが投げ込まれ、ランポスを真っ二つに切り裂いてしまった。

 

「ああ!? 素材が!!」

 

 モンスターには倒し方によって剥ぎ取りが不可能になる場合がある。 今回のケースがそれだった。

 

「うう、やっちゃった……」

 

 少女は膝を地面に付け、落ち込んでしまった。

 

 この物語は、そんな変わり者な少女のモンスターハンターとしてのお話。

 

 

 

 

 

 

 




つづく


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第二話

第二話


 ここは、ドンドルマにあるハンターズギルドが統括してある集会酒場である。 

 

 そこではハンター達が自分達に見合った依頼書を見つけ出し、依頼を請け負う手続きを行うギルドカウンターがある。

 

 そして酒場では、ここで作られる料理でこれからの狩りに備えて力を蓄えたり、逆に狩りから帰ってきたハンター達が依頼の成功を祝う飲み会や依頼の失敗、狩猟でのミス等を話し合う反省会も行われ、はたまたただ単に己に巣くう腹の虫を満たすために料理を食べにきたりする事が出来る。

 

 そんな利便性が高い集会場ゆえに、今日も酒場はたくさんのハンター達で盛り上がっていた。

 

 その集会酒場のすみっこにあるカウンターの席に、一人の少女が身を縮こませるようにして食事を摂っていた。 金色の髪にハンターシリーズの装備を着こんでいる辺りから、先程ランポス達と交戦していたハンターだろう。

 

 その少女は早々と食べられる量の料理を小さな口へ押し込むように食べていた。 その食べ方は、まるで早々とこの場所を立ち去ろうとしているかのようだった。

 

「もぐもぐ、もぐもぐ……ハァ……」

 

 金色の髪色をした少女は皿に乗っていた料理を残さず綺麗にたいらげると、呆けるようにしてお腹の中にある空気を吐き出した。

 

「イル~、深いため息なんかついてどうしたの?」

 

 そこに、イルと呼ばれた少女の吐く息の音が聞こえたのか、近くを通りかかった受付嬢が声をかけてきた。

 

「あ……受付嬢さん、……こんにちはです……」

 

「うわ、こりゃまたテンション低いね……、どしたの?」

 

「……なんでもありません失礼します……」

 

 食べ終えた食器の上にフォークとナイフでハの字を描くようにして置き、席を離れようと立ち上がる。

 

「あー待って待ってまだ座ってて! 私さっきので今日の仕事を終わらせたから、一緒にご飯食べよ! ちょっと話したい事もあるし」

 

「でも私さっきご飯食べたし……」

 

「あなたの事だから食べたっていっても少量しか摂ってないでしょ? 大丈夫、今回は私が全部持つから、存分に食べてって?」

 

 今持って来るからねーと受付嬢は手を振りながら店の調理場の置くに消えていった。

 

 ぐーー。

 

 直後、先程食べ物を貯めこんだはずの胃から腹音が鳴りだした。 どうやら自分で頼んだ分の料理では腹の中にいる虫は満足するには足りなかったらしい。

 

 色々と口を開く事になりそうだと予想しながら、本来ならさっさと立ち去ろうとするこの酒場を少女は食欲に身を任せ再び椅子に座り直した。

 

 

 

 

 

□ □ □ □ □ □ □

 

「……そっかー、ランポスが剥ぎ取りもままならない状態に」

 

「そうなんですよ! せっかく痛い思いもして戦ったのに報酬が少なくなるなんてー……」

 

 結果から言うと、イルと呼ばれた少女は自分の失敗談を受付嬢にぶちまけてしまっていた。 皿の上にある品を咀嚼していたら自然と口が開きやすくなったのだらう。

 

 受付嬢はその失敗談というよりも愚痴に近いそれを反論や否定もせずに聞いていた。 このように落ち込んでいる時は相手の気持ちを受け止める事が大事だと今までの経験で知っていたし、第一ハンターズギルドでのお役所仕事で年中忙しい彼女が、実際に戦ったどころか襲われた事がないこの都市の外にいるランポスの話を額面上の知識で否定出来る訳が無かった。

 

「おかげで注文する料理もいつもより安くて量が少ない品を選ぶ事になりました」

 

 言うだけ言ったら疲れたのか、金色の髪をした少女は腕をカウンターテーブルの上で伸ばし、顔をつっぷさせる。 そんな彼女を見て、これは何か雑談で気分変えた方がいいなと感じ、口を開く。

 

「一応その安くて量の少ない品も頑張って作ってるんだけどな~。 大体、イルがいつも注文している料理だってちょっと量が多いくらいしか違わないんだからおかげでなんて言う必要ないじゃん?」

 

「味は全然申し分ないんですよ? ただ量っていうかカロリーっていうか、腹持ちがあんまり……」

 

「そんな食費に困ったりするくらいならいい加減別の武器使えばいいのに……。 その腰に下げている片手剣が泣いてるよ?」

 

 受付嬢がそう諭すとイルと呼ばれた少女は言葉に詰まるように黙った。 そんな少女に受付嬢は追い立てるように話す。

 

「だいたい、ブーメランは打撃系統の武器やガンナーの武器じゃ斬り落とせない尻尾とか、刃渡りが短くて尻尾まで届かない片手剣や双剣の代わりに残裂攻撃をするための「アイテム」であって狩りの主要に使う武器じゃないのよ?」

 

「……」

 

「しかも片手剣や双剣だってモンスターを転ばせたりしたら尻尾に攻撃出来たりするらしいし、ガンナーだって無理をすれば斬裂弾とか接撃ビンで尻尾を斬り落とせるって聞いた事があるし」

 

「…………」

 

「まだ尻尾を斬り落とす技術が発明されていないハンマーや狩猟笛だってパーティに参加すればモンスターを気絶させたりして尻尾を斬り落とすチャンスを作ったりして、協力したという建前で剥ぎ取る事が出来るし」

 

「………………」

 

「しかもほとんどのハンターはブーメランを普段から使う人が少ないから、いざ使おうとしてもたいした攻撃も出来ずに全部投げ切っちゃうのが落ちだってよ?」

 

「……………………」

 

「つまり今の時代ブーメランの存在価値ってかなり低い部類で、雑貨屋さんも思うように売れなくて困っているような代物で……」

 

「……ぐすっ」

 

 そこで受付嬢は隣からぐずる音に気付いた。

 

「て、あれ? ごめん、言い過ぎちゃった?」

 

「いいもん……、どんなに言われてもやめないもん……」

 

(どこからその執着心が来るんだろう……?)

 

 泣きだしながらも自分を曲げない少女に受付嬢は苦笑するしかなかった。

 

(まあ丁度いいかな、話を切り出すには)

 

「はーい、そんなあなたに朗報がありまーす。 聞きますか?」

 

「グスっ、ろうほう?」

 

 少女は涙を浮かべた瞳で問いかけて来る。 受付嬢はその瞳に答えて内容を語りはじめた。

 

「ねえ、ユクモ村って知ってる?」

 

 

 

 

 

 




つづく


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第三話

第三話


「ユクモ村……ですか?」

 

 朗報と言われて想像もしていなかった村の名前が出てきたため、イルと呼ばれた少女(以下イル)は出された村名をそのまま口に出す。

 

「そ、ユクモ村。 どういう所か聞いた事くらいはあるでしょ?」

 

 受付嬢に問われ、イルはこめかみに指を押し立てながらうろ覚えの記憶を引っ張り出そうとする。

 

「はい。 確か……村の中で湧き出ている温泉で有名な場所……でしたよね?」

 

 イルは自身がなさそうに答えるが、それを聞いた受付嬢は満足そうに口を開く。

 

「そうそう。 他にもその村近辺に生えている良質な木々を使った林業が盛んだったりとか、掘り下げれば特徴的な面がいっぱいあるけど……まぁそれはいいや」

 

 ユクモ村を知っていて安心したのか、ここからが本題と言わんばかりに受付嬢は顔をイルに近づける。 いきなり受付嬢の顔が度アップになったため、イルはそれに押され椅子ごと後ずさった。

 

「でね、実はあなたにその村でやってもらいたい事があるんだ。 あなたが良かったら、その村で移住してくれないかな?」

 

 いつになく真剣な表情(イルが知る限りでは)をしている受付嬢に、イルは言われた事を理解しきれていないのか、困惑を見せながら聞き返す。

 

「えっ……あの、そっそれって……ユクモ村に派遣させるハンターとして私が選ばれたって事ですか?」

 

 大規模なギルドがある街では、ギルドが設立されていても、肝心のハンターがいない村からの要望などで、基礎がしっかりしている経歴が浅いハンターを派遣する事がある。

 新米のハンターである必要はないのだが、出来立てほやほやなハンターの方がベテランのハンター達より新しい地での癖やコツを覚えやすく、慣れさせる事で馴染みきってしまったその狩場と村に居着かせようとするギルドの狙いがあるのだとかないのだか。

 

 そしてこの少女、イルもハンターになってから一年程。 経歴も少なくまだまだ伸び盛りな年頃だが……

 

「でも私……自分で言うのも変な気がしますけど……、こんなんですよ?」

 

 そういってイルはアイテムポーチに入れてあるブーメランを取り出しテーブルに置いた。 

 

 それは先程ランポスの群れでの狩猟にて使用した物である。

 

 しかしそのブーメランは、小型とはいえ肉食のモンスターに備えられている鱗相手に使われたはずなのだが、刃こぼれや血の気がほとんど見受けられない。 狩猟が終わった後の帰り道、片手剣などの武器にするように丹念に手入れをしていたからである。 狩猟の「武器」としてカテゴライズされていないブーメランという「アイテム」をだ。

 

 イルが自分の事をこんなんと卑下したのは、「これだけ一つのアイテムに執着してまともな収入を得られない生粋の変人を、ハンターを必要としている人達に送りつけるつもりなのか?」と言いたいのだろう。

 

 しかし受付嬢は、見せてきた自慢の(本人としては)ブーメランに苦笑を浮かべながらも、そのアイテムを見て安心したとばかりに顔に穏やかさを浮かべる。 その表情にイルは不可解に思いながらも口を開く。

 

「せっかくのお誘いは嬉しいのですが、やっぱり私じゃ―――」

 

「ううん、これを見て確信した。 この件はきっとあなた以外に任せられないってあたしは思う」

 

 自信満々に受付嬢はイルの話を遮って答える。

 

「大丈夫。 ユクモ村にはもうすでに別の専属ハンターがいるから、あっちで何かあったとしても責任を全てあなたに押し付けたりしない。 だからあなたに頼みたいのは村の駐在や護衛とかじゃなくて、それとは別にやってほしい事があるんだ」

 

「やってほしい事って?」

 

 含みのある言い方をする受付嬢に、イルも興味を持ったのか積極的に話を促す。 そんなイルに受付嬢は嬉しがるように答える。

 

「君にねー、新しく考えられた武器の実験者になってほしいんだー」

 

「はー………………はい?」

 

 自分の予想の斜め上の回答がきたのか、イルはしばらくの間があった後も結局疑問の声しか上げられなかった。

 

 そんなイルを見かねたのか、受付嬢は話の内容を語り始める。 

 

「実は今ユクモ村の武器工房の方々がね、新しい武器の構築理論を打ち立ててね、いよいよ実験段階に入ろうとしてるの。 イルには実際に使ってもらって、その感想とかの情報を提供をしてもらうの。 それ自体にも報酬金が払われるらしいからそんな悪い話じゃないと思うよ?」

 

「それって、いわゆる「モニタ」っていう感じですか?」

 

「ん、まぁそんな感じ?」

 

 モニタとは、商品の内容や性能を代表に選ばれた消費者(この場合はハンター)が意見を言う情報提供者の事である。 正式な手続きがあれば給料なども払われる場合もあるし、あわよくばその商品を頂戴(許可があれば)出来たりする事も出来る。 まあそれだけのお金では生活出来ないためほとんどの人が副業くらいにこなすのだが。

 

 確かにまともに収入が入らない今の状況なら、イルのポリシーに反しない限りで実験に参加すれば好条件に聞こえなくもないが、気になる事がいくつか。

 

「それってユクモ村じゃなきゃ出来ないんですか? 武器だけここに送ってもらって、情報を手紙で送るとか」

 

 さすがに引っ越ししてまでモニタを受けるのは悩むため、妥協策を出してみたのだが……、

 

「いや、向う側が文面とかじゃなくてこっちで直接確かめたりしながら調整していきたいって言ってて、あなたには申し訳ないけど……。 あ、下宿先はあるから大丈夫だよ?」

 

 イルが移住に抵抗があるのかと感じたのか、受付嬢が焦ったように答える。

 

 どうやら向うでなければ駄目らしい。 かと言ってイルは別にドンドルマでなければ受けたくないという訳ではないので、次の質問に移る。

 

「その実験って何人位が参加するんですか? モニタという事はそれなりの参加者がいますよね?」

 

 イルは次に人的関係を聞いた。 情けないかもしれないが、嫌な人と当たってまで遠くで小遣い稼ぎをしたくなかったのだろう。

 

 それに対して受付嬢は今度は妙に申し訳ないような顔をして答えた。

 

「……誘ったのは君だけだよ」

 

「……えっ」

 

 イルは疑問の声しか上げられなかった。 イルにしか勧誘していないという事は、参加者はイルだけという事になる。 実験というには余りに数が少なすぎる。 それだとまるで島流しのようだ。 

 

 そんなイルの反応を予想していたのか受付嬢は居心地悪いというように目を背け、言い訳するように呟く。

 

「……言ったでしょ? イルしか任せられないって」

 

 自分にしか任せられない。 言われて悪い気はしなかったが、それよりもイルはどこか胡散臭さを感じたのか次の質問は警戒を込めて聞く。

 

「怪しい仕事じゃないですよね?」

 

「全然! 全く! 正式な勧誘だよ!!」

 

 そこだけは確実とばかりに声高を上げる。 安全と分かったからなのかイルは次の質問は警戒を緩めて答える。

 

「というか何でユクモ村じゃなきゃ駄目なんですか? ドンドルマの工房で開発したりとか、たくさんのハンター達をここの訓練所でテストさせた方が実験が捗ると思いますよ?」

 

 このドンドルマは大きな武器工房があり、日々新たな武器を開発するために研究が進められている。 武器を作成する技術はかなりの物だ。

 

 そしてここに集まるハンター達もかなりの強者揃いで、狩猟経験も豊富だ。 ここならかなりのデータを集める事ができる筈なのに。

 

 しかし受付嬢は、今度はしかめっ面を浮かべながら答える。

 

「実はね、ちょっと前にユクモ村の工房の亭主が手紙と武器の設計図をドンドルマのギルドに送ってきたの。 こんなの考えたんだが実装してみないかって」

 

「はぁ、それで?」

 

「なかなか興味をすする内容だったみたいだけどね、無理って言っちゃったんだ。 おそらく扱える者は少ないだろうし、それを育てる時間も経費もかかるって」

 

 それが参加者がいない理由なのだろうか?

 

「そしたら向う先が良く思わなかったのか、だったらこっちで開発を進めるって言い出して。 それで開発費と腕に覚えがありそうなハンターを寄こしてくれって言い出したの」

 

 そのハンターとして選ばれたのがどうやらイルらしい。 名誉な事なのかもしれないが、それ以上に少女には気になった部分があった。

 

 ―――扱える者が少ない―――

 

(どんな武器なんだ。 もしかして……)

 

 頭になぜか不気味にうごめく何かがちらつく。 イルは急に不安が押し寄せて、怖気ついたように声をだした。  

 

「……あ、あの、私そんなにハンターになってから短くて、あの、そっそんな化け物みたいな武器扱えないかと……」

 

 何を想像したのかオロオロとし始めたイル。 そんな少女に受付嬢は笑みを浮かべ、イルの頭をなでながら口を開く。

 

「え、あぁー大丈夫大丈夫、別に恐ろしい武器って訳じゃないの。 扱えないっていうのは経験上そういう武器を使った事がないって話」

 

「え、それじゃあ尚更私じゃ使いこなせないんじゃ」

 

 イルは自分がこの件に携わるのに相応しくないのではと感じてきた。 自分は基礎がしっかりしているとは自信をもって答えられないし、ミスも結構してしまう。 あまつさえハンターとして重要な武器もほとんど扱った事がないという始末だ。

 

 誇れるとしたらただ一つ―――

 

「ううん、きっとこのドンドルマ中だとあなたしか扱えない。 少なくとも私はそう思っている」

 

「……さっきから気になっていたんですが、何で私なんですか」

 

 私の誇れる事は―――

 

「その武器はね、あるアイテムの技術を多大に使用されているらしいの」

 

「アイテム?」

 

「それはね―――」

 

 ブーメランを扱う事しか―――

 

 

 

「ブーメランを応用された武器なんだって!」

 

 

 

「……え!?」

 

 何度目か分からない驚いた反応。

 

 ―――これがきっと、彼女のハンター生活のプロローグ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




つづく


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