ZOIDS ~Era Travelers~ (Raptor)
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プロローグ

なんだ、なんなんだあの鋼色のラプター型のゾイドは…………。


遠距離からの攻撃はもろともしない。

格闘戦で勝てたのもシュンのライガーだけだ。

多くの仲間を失ってしまった。

これも隊長の私の責任だ。

このまま俺らはどうなってしまうのだろうか、この世界は一体なんなんだろうか。

それにしてもあのゾイドについていた国章、あれは………

いや、恐れていても始まらない。

前に進もう。



第3機甲師団第7中隊 隊長 スチュアート・エーリエンス 戦闘日記より抜粋。










この日もいつもと変わらず雲ひとつない青空が広がっていた。

 

「ったく………今日もあっついなぁ………。」

 

水が入ったタンクを岩場まで運びながら彼、シュン・タキハラ少尉は額の汗を拭う。

 

「おいシュン、早く運ばねぇと日が暮れちまうぞ!」

 

「はぁい、わかってますよぉ!!」

 

うっとおしそうに空返事をしながら目の前の愛機にタンクを装着する。

 

「ったく、水が足りないからってなんで俺のライガーまで水を運ばなきゃなんねぇんだって。」

 

そう愚痴を叩きながら彼は愛機を見上げる。

4足歩行の美しい体躯、純白の白い装甲が包むそのゾイドはただ何も言わずおとなしくコックピットを空けて主人の帰りを待つ。

 

そのゾイドの名はライガーゼロ。

オーガノイドシステムは採用せず、完全な野生体をベースとしたライオン型ゾイドで現在のヘリック共和国の主力高速ゾイドである。

このゾイドの最大の特徴はCAS(チェンジングアーマーシステム)によって自由に外装のアーマーを換装させられることである。それによって様々な装備を瞬時に変更することができ、戦局に合わせた幅広い運用が可能である。

 

元はガイロス帝国(主にネオゼネバス派)が過去のライガータイプの戦闘データ及びエレファンダー、デススティンガーのノウハウをも取り入れ、バーサークフューラーと共にかつての「U作戦」の一環として開発した機体だったが共和国がそれをニクシー基地で略奪、現在にいたる。

現在は同盟国としての関係をもつガイロス帝国とはその件で和解しており、お互いの情報を共有し合い新しいアーマーの開発をしてるとかしてないとかである。

 

「みんな準備は大丈夫か、そろそろ出発するぞ。」

 

中隊を束ねる隊長ーーーースチュアート・エーリエンス大尉は作業を行ってる隊員にそう告げる。

 

「あの丘を越えたら目的地のハーロック前線基地だ。夜の丘越えは避けたい、ちょっと急ぎ足で向かうぞ。」

 

そう言うと彼はグスタフに乗り込む。

 

ヘリック共和国とガイロス帝国の戦争が終結して早3年の月日が経っていた。

だが、平和な世界がやってきたのも束の間のことであった。

突如、ネオゼネバス帝国がガイロス帝国の侵略を開始、戦乱は瞬く間に広がりガイロス帝国は追い出される形で国土を占領され共和国に亡命をしたのであった。

 

ガイロス帝国の亡命を受け、ヘリック共和国は全国に非常事態宣言を勧告。

ガイロス帝国とは同盟国を結び領土奪還計画を立案、即座に実行された。

ヘリック共和国、ガイロス帝国両国合わせて20個師団からなる陸空同時の波状攻撃を敢行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、失敗に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約3日間に及ぶ波状攻撃は失敗し、部隊はほぼ全滅。

ネオゼネバス帝国の投入してきた新型のゾイドに全く歯が立たなかったのだ。

しかもヘリック共和国、ガイロス帝国ともに肝心なその新型ゾイドの姿を確認すらできなかった。

 

唯一の情報といえば砲撃の着弾確認を行ったヘリック共和国の航空部隊が撃墜される前に

 

「見たこともない鋼色のゾイド」

 

という言葉を残したぐらいである。

パイロットはおそらく戦死したと思われ事実確認はできていない。

 

そんな中で現在、第2回目の攻撃を行うべくスチュアート大尉率いる第3機甲師団第7中隊は前線にほど近いハーロック前線基地に向かっているのであった。

 

 

 




ドロドロとした血なまぐさいゾイドの世界を展開できたらいいなと思ってます。


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第1話 鋼色のゾイド

明日にはハーロック前線基地に到着できると大尉が言っていた。

ハーロックでの整備任務を終えたらサポーターとしての俺の仕事は終わりだ、やっと帰省できる。

まだ通信モニターでしか会ったことのない赤ん坊にようやく会えそうだ。

苦労をかけてるあいつのために、ヘリックシティーで美味いワインでも買って帰ってやろう。


第3機甲師団第7中隊 サポーター ファルコフ・E・ガルシア 戦闘日記より抜粋。




 

 

「ん、なんだか調子が悪いな。」

 

スチュアートは自らが操縦するグスタフの異変に気がつき無線で皆に呼びかけた。

 

「グスタフの駆動部にちょっと難ありだ、丘を越える前に調子を見たい。」

 

「了解しました、大尉。」

 

皆の返事を聞くと隊の真ん中を陣取るグスタフが停車する。

 

「よっと。」

 

スチュアートが降りるより早くライガーゼロから飛び降りてグスタフに駆け寄るのはシュンだった。

 

「あちゃぁ、こりゃだめですね。石が詰まっちゃってます。」

 

グスタフの稼動部に顔を突っ込みシュンは拳大ほどの石を見つけ顔をしかめる。

 

「丘を越える際に問題が発生すると厄介だな………ファルコフ!」

 

スチュアートは腕を組みながら整備を得意とする隊員のファルコフを呼ぶ。

 

「隊長どうしました?」

 

中隊のサポーターとして配属されてるファルコフは愛機のゴルヘックスから降りてきてスチュアートに尋ねた。

 

「すまない、駆動部にどうやら石が詰まってるみたいだ。大事をとって先に整備をしてほしい。」

 

そうすると「かしこまりました。」と言いすぐにグスタフの下に潜り込む。

 

「なんだか天気が悪くなりそうだな………。」

 

丘の上向こうに見える黒い雲を見ながらスチュアートは顔をしかめる。

そんなスチュアートを見つめるようにしながら愛機のライガーゼロに向かって歩いていたシュンはふと地面が煌めいたのに気がついた。

 

「なんだろ、あれ。」

 

目を細めないと見えないような小さな煌めきだったがシュンは見逃さなかった。

近づいて拾い上げるとそれは何か赤く輝く小さな石のようなものだった。

 

「こんな石初めてみるなぁ。」

 

太陽に透かしたりしながらシュンはその石を眺める。

 

「ん??」

 

シュンはその石の中に何か文字のようなものを見つける。

 

「なんか書いてある………。」

 

しかし見たこともない書体とそもそも文字かどうかもわからないようなものであったのでそれ以上なにもしなかった。

 

「まあ、綺麗だから持って帰るか。」

 

きっと綺麗な石が好きな幼馴染が喜ぶに違いない。

そう思いシュンはその石を胸のポケットにねじ込んだ。

 

「よし、出発するぞ!!」

 

スチュアートのその声を聞き、シュンはライガーの元に戻っていった。

整備を終わらせ出発してから少しも時間が経たないうちに頭上は暗雲が立ち込め、やや大粒の雨が彼らに降り注いだ。

 

「やっぱり降ってきやがったか。」

 

スチュアートはため息まじりにそういう。

 

「でも朝の天気予報ではこの地帯に雨が降るなんて言ってなかったのにな。」

 

そう呟きながらグスタフのメインモニターに天気予報を表示する。

 

しかしそこに打ち出された文字は”探知不可”という文字だった。

 

「ん、探知不可だと?」

 

それを無線越しに聞いていたシュンも同じようにライガーゼロのメインモニターに天気予報を表示させる。

 

「ほんとだ。」

 

同じくシュンのメインモニターに表示されたのは探知不可の文字だった。

 

 

何かがおかしい………。

 

 

 

そう感じた時だった。

 

 

 

 

『助けて………シュン………。』

 

 

 

どこからか女性の声が聞こえた。

というよりかは胸の中に響くかんじだった。

 

「だ、誰だ!?」

 

辺りを見回し、計器も確認するがなにもない。

 

「なんだったんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ビィービィービィー!!!!

 

 

 

突如部隊にアラートが鳴り響く。

 

 

「なんだ!?!?」

 

前を見ると視界は真っ暗、計器も正常に作動していない。

 

「なんだこれは、大尉!大尉!」

 

無線でスチュアートを呼び出すが雑音がひどく反応はない。

 

「くそ、無線もダメなのか!?!?」

 

これでは僚機とはぐれる。

どこに向かってるかもわからない。

だがなにが起こっているかわからない以上、止まるわけにはいかない。

 

「畜生!ライガー、ブースターオン!」

 

ライガーゼロのイオンブースターを引き絞り加速させる。

計器が狂ってるので速度はわからない。

ただそのスピードはいつもより早く感じた。

 

「光だ、出口が見えた!」

 

光が差し込む方向にさらに加速した。

光を抜けた先は何もないただの荒野が広がっていた。

 

「ここは………一体………。」

 

ありえない。

たとえ丘を越えたとしてもこんな荒野が広がっているわけがない。

 

「ザ、ザザザザザ…………。」

 

肝心の無線にはノイズしか入っておらず僚機の姿も確認できない。

 

「ファルコフ!スチュアート!」

 

無線に叫び辺りを見回しても誰もいない。

 

「畜生、どうなってんだ!!」

 

するとライガーが何かに気がついたように首をもたげる。

まるで何か獲物を探す仕草は野生体そのものだ。

そして何かを見つけたライガーゼロは雄叫びをあげるとその荒野を駆け出した。

 

「ライガー、どうしたんだよ!?………っ!!」

 

ライガーゼロが駆け出した方向、その先で突如爆発が起こった。

シュンは確認する為に正面モニターの倍率をあげる。

そこに写っていたのは

 

「は、鋼色のゾイド…………。」

 

鋼色とも銀色とも言えるような独特な光を放つゾイドがそこには写っていた。

そして、その先で交戦しているのは見覚えのある僚機達であった。

 

「あれはファルコフのゴルヘックス!」

 

よく見ると周りにはサポーターのゾイド達が倒れており、戦闘ゾイドの姿はない。

その通りだ、サポーターのゾイドには全くと言っていいほど攻撃武装を積んでいない。

助けなければ。

 

「くそったれ!」

 

シュンはライガーを全力で走らせる。

だが、なにか引っかかるところがある。

謎のゾイドは小型ゾイド、例えるならレブラプターやガンスナイパーのようなタイプだ。

いくらサポーターといえども中型ゾイドのゴルヘックスがたった一体の小型ゾイドにやられるだろうか?

 

 

だが今は考えてる場合ではない。

 

 

ドンッドンッ

 

 

機体下部に装備されている2連装ショックカノンを謎のゾイドに撃ち込んだ。

ショックカノンと言っても彼のライガーゼロに搭載されているものは衝撃波を発射するものではなく、エネルギー弾に近い光学兵器だった。

本人の理由としては「護衛の際は遠距離から敵の撃破を狙える射撃武器の方が適している。」とのことである。

それについては本当だか定かではないが、少なくとも小型ゾイドであれば十分倒せる威力だ。

 

万が一当たらなくてもきっとこっちに注意を向けるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのはずだった。

 

 

 

「嘘だろ………。」

 

 

2連装ショックカノンから放たれたエネルギー弾はまるで溶けるようにして鋼色の装甲に吸い込まれた。

 

「吸い込まれたのか!?」

 

だがよく見ると鉛色のゾイドの周りにはキラキラと何か光を反射させている。

シュンはそれがエネルギー弾の飛散した粒子だということに気がつくのに時間はいらなかった。

 

「なら、こいつで!」

 

シュンがレバーを押し込むと、ライガーの頬のファンが開き爪先がまばゆく光を放つ。

 

「ストライクレーザークロー!!!!!!!」

 

四足歩行タイプのゾイドが装備している主な格闘装備、高出力のエネルギーを前脚の一点に集め相手を引き裂く。

ライガーゼロにとっては唯一と言ってのいいほどのその一撃が謎の鋼色のゾイドに迫っていた。

 

ザンッ………。

 

先ほどの攻撃とは打って変わって、まるで果実をナイフでスライスしたようにライガーゼロは銀色のゾイドを引き裂く。

 

片手片足を削ぎ落とされた謎のゾイドは静かに断末魔をあげるとその場に崩れ落ちる。

ライガーゼロを旋回させその姿を目にしたシュンは、安堵とともに何か違和感を感じていた。

 

「格闘攻撃は食らうのか………?」

 

しかしそんな事を考えているのも束の間、シュンはさらに驚きの光景を目にしていた。

 

「装甲が溶けてる!?!?」

 

先ほどの地に崩れ落ちた謎のゾイドは、その鋼色の装甲が溶け落ちてなんだか骨のようなパーツのみになってしまっていた。

 

周りの安全を確かめながらその亡骸に近づく。

 

「一体なんだ、コックピットもない。野良ゾイドの類なのか、でも機能が停止した後こんなに早く分解が始まるゾイドなんて聞いたことがない………。そもそも分解が始まるとしてもそれは完全にコアを破壊した時だ、今の一撃でコアを破壊したとは思えない。」

 

考えれば考えるだけ謎が深まっていく。

だが、そこでシュンは我にかえる。

 

「中隊のみんなは!?!?」

 

視線をあげると見えてきたのは残酷な景色だった。

 

「畜生………みんな、ファルコフ、大尉!!」

 

力なく地面に転がっているゴルヘックスや、コマンドウルフAC、全滅という表現がここまで合致する景色はそうそうないであろう。

サポーターのゴルヘックスはまだしもシュンとともに護衛を務めていたコマンドウルフACまでもが無残な姿を晒していた。

たまらずシュンはハッチを開け、飛び降りると一番近くにあるゴルヘックスに駆け寄る。

 

所属番号なんて見ないでもわかる、ファルコフのゴルヘックスだ。

 

「ファルコフ!!」

 

その姿を見てシュンは愕然とした。

 

「そんな………嘘だろ………。」

 

ファルコフの乗るゴルヘックスはコックピットのキャノピー部分のみが大きく陥没していた。

おそらくピンポイントで攻撃を受けたに違いない。

キャノピー越しに見えるファルコフの姿は人の原型をとどめておらず、コックピット内は血に染まっていた。

 

「畜生!」

 

拳を握りキャノピーを力一杯殴りつける。

 

「あいつ、子供が産まれたばかりなのによぉ………。」

 

唇を噛み締めながらそう呟くと辺りを見回す。

目を凝らすと他の機体も皆同じようにコックピットがピンポイント攻撃を受けていらのがわかった。

 

シュンはその光景を見て何も言うことができずただただ俯いて黙るだけだった。

しかしいつまでもそうしていられる訳でもなく、手を合わせ静かに立ち上がると生存者を探すためにゴルヘックスから降りた。

しばらく歩くと無残にも積荷が破壊されたグスタフが目に入ってきた。

 

スチュアートの乗っていたものだ。

彼の愛機ケーニッヒウルフはその潰れた積荷の中で同じようにコックピットが潰され、見るも無残な姿になっていた。

 

「そうだ、スチュアートは。」

 

彼は自らグスタフを操縦し、ケーニッヒウルフを運んでいた。おそらくあの様子から見るにケーニッヒウルフに乗り換える時間はなかったのだろう。

 

となると彼はまだコックピットの中のはず。

 

シュンは駆け出し、グスタフの元へと向かった。

 

「大尉、スチュアート大尉!!」

 

コックピットの中でぐったりとしているスチュアートを見つけると急いでキャノピーをあけ容態を確認する。

幸い攻撃を受けたのは積荷だけだったようだが安心はできない。

首に手を当てるとまだ微弱だが脈々を感じ取ることができた。

だが意識は依然としてない。

 

「おい、スチュアート!目を覚ましてくれ!」

 

鎖骨の辺りを叩いて意識を呼び戻そうとするがやはり反応はない。

 

「衛生兵!!衛生兵はいるか!!!」

 

辺りを見回し叫ぶ。

数人だったが衛生兵も部隊に配置はされていた。シュンの力ではどうにもならない以上、叫ぶしかない。

 

ただ、生きていればの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風と砂の舞う音が辺りにこだまする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、みんなやられちまったのか………。」

 

力なくそう呟く。

だがその瞬間何か視界の端で動くものをシュンは見逃さなかった。

 

「誰だ!ゆっくり手を上げて姿を見せろ!」

 

腰に携えた対人用の小型火器を構えながらシュンは叫ぶ。

しばらくの沈黙の後、ゆっくりと3人が姿を現した。

 

「しょ、少尉、落ち着いてください。」

 

姿を見せたのは衛生兵だった。

 

「お前ら、無事だったのか。」

 

「はい、それよりも大尉を。」

 

グスタフからスチュアートを運び出し、応急処置を行う。

コックピットに直接ダメージがなかったため、重体と言うほどではなさそうだが、それでも速やかに医療設備での治療が望ましかった。

 

「今、大尉を動かすのは危険です。おそらくそろそろ日が暮れますし、今日はこの辺りで野営をしなければならないかと………。」

 

衛生兵はこう言った。

確かに言う通りだ、動くのは危険すぎる。

 

「そもそも、ここはどこなんだ……………。」

 

シュンは立ち上がってもう一度辺りを見回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳が落ち、昼間とはまた違った静けさがその空間を支配していた。

パチパチと燃える薪を見つめながらシュンは昼間あったことを鮮明に思い出していた。

 

謎の空間

 

謎のゾイド

 

そして

 

『助けて…………シュン…………』

 

という謎の声だった。

 

 

「なんで俺の名を知ってるんだ………。」

 

視線をそらさず炎を見続ける。

揺れる陽炎の先には簡易的だが戦友達の墓があった。

 

「ファルコフ、みんな………。」

 

そう呟き、目頭が熱くなってきたところで、目の前の視線をステンレスのマグカップが遮る。

 

「少尉、気持ちはわかります。でも少尉がそうなってしまっては我々はどうしていいのかわからなくなってしまいます。スチュアート大尉がいない今、指揮を取れるのは少尉だけなんです。」

 

衛生兵の1人はシュンにインスタントコーヒーを差し出しながらそう言う。

 

「そうだよな………。」

 

差し出されたコーヒーを受け取ってそう呟いた。

懸命にさがしたが生存者は他にいなかった。

 

残ったゾイドもシュンのライガーゼロのみ。

 

ほぼ全滅である。

 

そう、たった1体の謎の小型ゾイドに中隊1つが壊滅したのだ。

 

「わりぃな、しみったれた空気にしちまって。」

 

コーヒーをひと啜り。

寒い荒野の中ではその温もりが何にも変えがたいものだった。

さあ、明日に備えてそろそろ休もう。

 

そう言おうとしたそのときだった。

 

 

 

「グァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

闇を引き裂くように嫌な咆哮がこだまする。

 

「くそ、昼間のやつか!?」

 

衛生兵達に物陰に隠れるように指示したのちにシュンはライガーゼロのもとに駆け寄る。

 

「相棒、みんなを守るぞ。仲間達の仇だ。」

 

ゆっくりと開いたコックピットに乗り込む。

 

しかし。

 

「おいおい、なんて数だ………。」

 

モニターに映った機体は軽く数十機を超えている。

昼間の一体のですらあのザマだ、こっちにはライガーゼロしかいない。

 

「でも俺がやらなねぇとな。」

 

気持ちを込め、操縦桿を握る。

敵は眼前に迫っていた。

 

「グァァァァァァァ!!!」

 

謎の鋼色のゾイドはシュンのライガーゼロを見るなり雄叫びをあげる。

 

「覚悟しろ!仲間達の仇だ!!」

 

ドンッ…………。

 

スロットルを引きしぼり加速しようとしたときだった。

先頭にいた謎のゾイドの頭部に何かが当たりそして崩れ落ちた。

 

「な、なんだ!?」

 

飛んできたものの出どころを確かめるために振り向くと、切り立った崖の上に小型の二足歩行ゾイドの姿があった。

シルエットでわかる。おそらくガンスナイパーだろう。

 

するともう一発、今度は別のゾイドに命中し倒れる。

しかしそこでまた疑問が浮かぶ。

 

「なぜ射撃武器で奴らを倒せるんだ………。」

 

そう呟きながら正面モニターに目をやるとそこに一体のゾイドが割り込んできた。

 

「グォォォォォン!!!」

 

割り込んできた大型ゾイドは雄叫びをあげる。

月明かりに照らされてそのゾイドの姿が明らかになる。

 

サンドイエローの大型のライオンゾイド。

 

今となっては旧式だが、シュンの一番尊敬するパイロットであり、かつてのレオマスターの英雄。

 

目の前に割り込んできたのはその彼が愛した機体だった。

 

 

「ブレードライガー………。」

 

「グォォォォォン!!」

 

ブレードライガーは再度雄叫びをあげると鋼色のゾイドに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




突如割り込んできたブレードライガー。

その戦闘力は凄まじく、次々と謎の鋼色のゾイドを倒していく。

そのパイロットに保護されたシュンは、その彼からこの世界の成り立ちについて聞かされるのであった。


次回 ZOIDS EarTravelers

第2話 『この世界のこと』


生き残るには前に進むしかない。













皆さま初めまして、Raptorと申します。
私の拙い文章に目を通していただきありがとうございます。


更新スピードは鈍足ですがこの先も末長くお付き合いしていただければ嬉しいです。

※1月16日
2連装ショックカノンの描写について訂正、加筆を行いました。


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第2話 この世界のこと

ファルコフが死んだ。
今でも信じられない。

あいつの嫁さんに俺はなんて言ったらいいのだろう。

必ず俺が守ると約束したのに………。

第3機甲師団第7中隊 シュン・タキハラ 戦闘日記より抜粋。





月明かりだけが頼りの漆黒の世界で鋼色をした謎のゾイドは、通常とは違うカラーリングのブレードライガーと対峙していた。

 

両者は睨みをきかせるようにじっと動かない。

だが沈黙を破ったのはブレードライガーの方であった。

 

「グォォォォォン!!」

 

まるで威嚇するかのように雄叫びをあげると、単身で謎のゾイドの群れに飛び込む。

謎のゾイドも応戦するように口から火球のようなものを吐き出すがブレードライガーにかすりもしない。

当たり前だ、いくら旧式といえども運動性能が根本から違い過ぎる。

パイロット次第ではライガーゼロシュナイダーとも互角ともいうことをシュンは知っていた。

 

だがそれにしても

 

「あのブレードライガー、速い………。」

 

あのブレードライガーをあそこまで乗りこなせているということはパイロットはかなりの手練れということになる。

 

ブレードライガーは謎のゾイドに肉薄すると背中に搭載されたロケットブースターを噴射させ、レーザーブレードを展開する。

レーザーブレードは左右に展開するとまばゆく輝き始めた。

ブレードライガーの主武装の一つであり、固定振動により敵を切断するというものである。

ゆえ、『ブレードライガー』という名称もこのレーザーブレードからきているとされている。

 

すれ違う刹那、レーザーブレードは謎のゾイドの装甲を紙切れのように引き裂く。

叫び声すらあげることをできずに崩れ去る謎のゾイド。

反転し、背中にレーザーブレードを収納したブレードライガーはもう一度雄叫びをあげる。

まるで縄張りに入り込んだモノを追い出すかのような叫びはライガーゼロに乗っているシュンですらビクッとしてしまった。

 

「グァ………。」

 

力の差を感じたのか、謎のゾイド達は一歩ずつ後ずさりを始める。

 

するとモニターに通信がはいった。

 

「ライガーゼロのパイロット、聞こえるか。君たちを保護したいと思っている、ついてきてほしい。心配はいらない、衛生兵と急病人は医療班が回収をしている、安心していい。」

 

通信モニターの異常なのか、画面は嵐のようだが音はしっかりと入っていた。

おそらくあのブレードライガーのパイロットだろう。

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

敵では保証はなかったが謎のゾイドを退けてくれた事、そして何よりも僚機と同じ共和国のゾイドということが彼を安心させていた。

 

「よし、こっちだ。」

 

ブレードライガーのパイロットに言われるがままに後に続く。

しばらく歩くとブレードライガーと同じカラーリングのグスタフとこれもまた同じ色の護衛と思わしきコマンドウルフと合流した。

 

「ここまでくれば追っては来ないだろう。」

 

再び通信が入る。

 

「一度君と話がしたい、降りてきてくれないか?」

 

ブレードライガーのパイロットはそうシュンに問いかけてきた。

 

「今、ここでですか??」

 

辺りを見回せば高い崖がいくつもそびえる渓谷のような場所だった。

あの崖の上に仲間が隠れていないとは考えにくい。

 

助けてくれたとはいえ素性のわからない集団だ、降りた瞬間に拘束なんて事もありえる。

 

だがこちらはライガーゼロのみ、抵抗したところでやられるのが目に見えている。

 

「そうだ、君の素性を知らないままアジトには案内できないからな。」

 

おそらく向こうも警戒している。

 

「わかりました。」

 

短くそう言うとライガーゼロを止めてゆっくりとかがませる。

 

キャノピーを開くとシュンはバレないように対人用の携帯火器を腰に忍ばせて立ち上がった。

 

「俺は共和国第3機甲師団第7中隊所属シュン・タキハラだ。」

 

そう言ってシュンはライガーゼロから飛び降りる。

 

「階級は?」

 

「少尉だ。」

 

そこまで答えると正面にいたブレードライガーも同じようにかがみ、キャノピーを開いた。

 

「共和国のタキハラ少尉か、今の共和国じゃ随分と若いパイロットもライガーゼロに乗れるんだな。」

 

皮肉げにそう言ってブレードライガーから現れたのは白髪の生えた壮年の男性だった。

顎髭も立派に生やし褐色の肌の左頬には大きな傷跡があった。

 

「俺の名はオスカー・アルバーン。お前も共和国のライガー乗りならちっとは聞いたことがあるだろう。」

 

そう言うと彼もブレードライガーから飛び降りてこちらに向かって歩いてきた。

 

もちろんシュンは知っていた。

 

いや、おそらく彼の言う通り共和国のライガー乗りなら知らない者はいないだろう。

 

「え、嘘だろ………。」

 

シュンは目を見開く。

 

目の前に現れた大柄の壮年の男はレオマスターの中でも“伝説(レジェンダリー)”と称される男。

あのアーサー・ボーグマンと肩を並べたほどのゾイド乗りである。

だが5年前、輸送任務の護衛中に消息を絶った。

その理由はまだ解明されておらず、つい先日捜索活動が打ち切られたばっかであった。

 

「よぉ、シュン。見ない間にちっとは男前な顔つきになったんじゃないか?」

 

そしてその男は、最もシュンが慕う上官だった。

 

「オスカー中佐、生きて、生きておられたんですね!」

 

涙が溢れそうだった。

 

捜索を打ち切られた時にもう会える事はないだろうと思っていたからだ。

 

「とりあえずお前で安心した。アジトに来い、話はそれからだ。」

 

オスカーは踵を返してブレードライガーの方に歩き出す。

 

「はい、中佐。」

 

シュンもライガーの方に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切り立った崖のをいくつも通り過ぎ、森の中を少しだけ進むとぽっかりと穴が空いた岩肌が姿を現した。

 

入り口にはゴドスが二体、大きな槍を持ちながらまるで門番のように仁王立ちしていた。

だが細かいところまで目を向けると岩肌の隙間から対ゾイド88ミリ砲などが顔を覗かせており、ここが堅牢な要塞であることがうかがえた。

 

「こっちだ。」

 

オスカーに先導されて、その中へと脚を進める。

 

「ここが俺たちのアジトだ。」

 

中に進んで行くと大量のゾイドが駐機してある場所へと辿り着いた。

天井の高さも驚くほど高く、壁もしっかりとコンクリートで補強してある。

 

「こんなにゾイドが・・・。」

 

主に小型ゾイドやコマンドゾイドが多いがその数は50機を超えるだろう。

カラーリングはブレードライガーと同じようにサンドイエローで統一されている。

 

「どうだシュン、俺の仲間達は?」

 

呆気を取られていたシュンであったがそのオスカーの一言で我にかえる。

 

「これが中佐の今の仲間達・・・。でも仲間なんて何をしているのですか。」

 

あの中佐のことだ、仲間というからには何か活動しているに違いない。

 

「まあな、でも今は怪我人の手当てが先だ。詳しい話はそれからにしよう。」

 

そう言ってグスタフを指差す。

そこからストレッチャーに乗せられたスチュアートと医療班の仲間が降りてきていた。

 

「リサ、その怪我人の処置を頼む!」

 

オスカーはブレードライガーのキャノピーを開けると下にいた赤十字の腕章をつけた女性にそう命じる。

 

「団長、かしこまりました。怪我人を奥の集中治療室に!」

 

青い髪を後ろで1つに結んだその女性はそう答えるとスチュアートのストレッチャーを押しながら奥の方へと消えて行った。

 

「これで、スチュアートは大丈夫そうですね。」

 

シュンは通信モニター越しに安堵の表情を見せる。

 

「ああ、とりあえず後はリサに任せておこう。それよりシュン、詳しい話を聞きたい、下に降りてきてもらえないか?。」

 

「はい、わかりました。」

 

そう言って2人は互いの愛機から降りる。

 

「あの、中佐 「団長、今おかえりでしたか。」

 

オスカーに対して問いかけようとしたタイミングで誰かにそう遮られた。

 

「おおバッカニア、今戻ったぞ。」

 

片手を上げながら、オスカーは奥の方からやってきた男性にそう答える。

 

「誰だろ?」

 

銀色の短髪にゴーグル、身長はシュンと変わらないぐらいだが年齢はシュンよりも上に見える。

 

 

「シュン紹介しよう、彼はこの解放戦団で団長補佐を務めているバッカニアだ。歳はお前と変わらないぐらいだろ、仲良くしてやってくれ。」

 

「初めまして、反ディガルド組織、解放戦団で団長補佐及び参謀を務めているロキ・バッカニアです。」

 

オスカーに紹介されたバッカニアという男はそう言って小さく会釈をする。

 

「あ、はい……。」

 

別に何かあるわけではないのだがそっけない返事になってしまった。

なにぶん一度に入って来た情報量が多すぎたからだ。

 

団長、反ディガルド組織、解放戦団

わからない単語が多すぎる。

 

「すみません中佐、話が全く読めないんですけど……。」

 

「そうかそうか、そりゃそうだよな。俺だって最初この世界に来た時は全く何も理解できなかったからな、順を追って話そう。」

 

オスカーは顎に手を当てながら、うんうんと頷く。

だがオスカーの言った『この世界』というのがまた気になる。しかし、いちいち考えても何も始まらないのでとりあえずオスカーの話を聞いてみるとしよう。

 

「はい、お願いします中佐。」

 

「OKOK。だがシュン1つだけな、ここでは階級では呼ばないんだ。俺のことはオスカーか団長と呼んでくれ。」

 

オスカーは苦笑いをしてそう言うと話を続ける。

 

「まずはどこから話せばいいかな…。」

 

オスカーは目を細めながらポツリポツリと話し始めた。

 

 

 

ヘリック共和国、ガイロス帝国、ネオゼネバス帝国。そしてその先の未来。まだ見たことも聞いたことのない国々が争い、発展を遂げていったそんな世界。

文明は著しい進化を遂げ、現代の我々には想像もつかない文明を築いていた。

しかしそんな世界が永遠に続くことがある訳でもなく、ついに終わりを告げようとしていた。

この惑星Ziに神々の怒りと言われる大規模な地軸変動が起こり、それによってかつて栄えていた高度な文明は壊滅した。

それからいくつもの長い年月が経った。その大変動を辛うじて生き延びた人々はかつての文明を捨て独自の文明を築いていた。

相変わらずゾイドは人々にとって無くてはならない存在だったが、残念ながらゾイドを製造する技術は残っておらず、その供給はかつて存在したゾイドが大変動の際に地中や海中に埋もれていたもの発掘するしかなかった。

だが幸いにも過去の記録を解読することができた彼らは「戦争」とういうものの悲惨さを知ることができていた。

ゾイドを戦争の道具に使うことなく平和的な国家を築こう、そういう動きからこの大陸にはいくつかの町や村を統括する「藩」というものが出来上がり、その藩を統括するものとしてエルファリア家を女王とする「ガンダーラ王国」というものが誕生した。

王国による統治は平和的なものであり、多くの民が豊かな暮らしを送っていた。

だがしかし。

大陸とほど近い別の大陸に鋼色のゾイドが支配する国ができたとその大陸から亡命するものが何人も現れたのだ。

その国の名は「ディガルド武国」。

国王ララダ三世が治める国でキダ藩や近隣の街、村を武力攻撃によって侵略し、徐々に各地へと勢力を広めていった。

 

「というのがこの世界のおおよその話だ。」

 

ひと仕事終えたかのように大きく息を吐くとオスカーはニヤリと笑う。

 

「そ、その、つまり俺が今いる世界は元いた世界よりも未来の世界という訳で、この世界はその鋼色のゾイドを持つディガルドって国に支配されているってことですか??」

 

オスカーにそう投げかけるが質問している自分でもよくわからない。

 

「そうだ、ヘリックとネオゼネバスが争っていた世界よりも未来の世界に俺たちはいるんだ。不思議だろ。」

 

未来の世界。

たしかに空想モノの小説なんかでは時空を超えるなんて珍しい話ではないのだがここは現実の世界だ。

 

「俺だって最初は不思議だったさ、変な黒い空間に入ったと思ったら僚機とは逸れるわ、バイオゾイドに襲われるわでよ。」

 

オスカーの言った黒い空間という言葉を聞いた途端、脳裏を何かが駆け巡っていった。

シュンがスチュアートやファルコフ達と連絡が取れなくなり逸れたのも黒い謎の空間だった。

 

「中佐、あ、いえ団長。団長も黒い空間からこの世界に……?」

 

「もってことはお前もやはりあの空間に入ってこの世界にやってきたのか………。」

 

オスカーは渋い顔をしながらシュンにそういう。

 

「はい。その空間の中で俺も通信が使えず僚機と逸れ、あの鋼色のゾイドに襲われたんです………。」

 

シュンはそう呟くと拳を強く握りしめる。

怒りか、悔しさ、憎しみか、不甲斐なさか。なんだかはわからないが何かがシュンの中に込み上げてきていた。

あの謎のゾイドに一瞬にして仲間を奪われた。

 

「団長、あいつはなんなんですか。あのディガルドが作り上げた鋼色のゾイドはなんなんですか。射撃武器が一切効かず、仲間達を一瞬で葬り去ったあいつは一体なんなのですか!!」

 

声を荒げて立ち上がる。

こんな感情初めてだった。

当然だ、次期エースパイロット候補と言われながら平和的な考えを持っていたため前線に出ずにいた彼にとって、先に散った彼らは良き理解者だった。

そんな大切な仲間達を初めての戦闘で失ったのだ。

 

必死で涙をこらえながらそう訴えるシュンにオスカーは悟らせるように話し始める。

 

「あれはバイオゾイド。ヘルアーマーと呼ばれる特殊な金属で身を包んだ悪魔のゾイドだ。俺もお前と同じくあいつらに、ディガルドに多くの仲間を奪われた。」

 

そういうとオスカーは立ち上がって踵を返すとただ「ついてこい。」とだけ言ってすぐ横にある穴の中へと入っていった。

 

大人1人がかがんで入れるぐらいの小さな穴をオスカーを追うように入ると中は薄暗い空間だった。

 

「これは………。」

 

中には小さなろうそくが所狭しと並び静かに灯をともしていた。

 

シュンにはその一本一本がかつての熱い魂の宿る戦士達であったことが痛いほどわかっていた。

 

「そうだ、ここにあるのはかつての俺の仲間。解放戦団の誇り高き戦士達の魂だ。」

 

そういってオスカーは静かに目を瞑り手を合わせた。

 

 

 

 

他の地域を次々と侵略し、勢力を拡大していったディガルド武国。しかしそれをよしとしないモノ達がいるのも当たり前のことで、反ディガルド組織というものは各地にできていった。

ディガルドの侵略を最初に受けたキダ藩の元藩主ラ・カンとその一行もズーリという街に拠点を置き、ディガルド討伐軍を立ち上げていた。

ララダ三世の亡き後その王位継承を受けた武帝ジーン一世になったことにより侵略はさらに激しさを増し、高度な文明を持ったかつての人類『ソラノヒト』の住むソラをも侵略。

ディガルド内部の離反などもありついにジーン一世は自由の丘でディガルド討伐軍改め、ジーン討伐軍と名を変えたラ・カン達と全面衝突を迎えた。

 

ジーン一世操る大型バイオゾイドに討伐軍は苦戦する中、ラ・カンの仲間であった進化すると言われているゾイド「ムラサメライガー」の活躍により大型バイオゾイドゾイドのコアを破壊。

ジーン一世は戦死したと思われ、他のディガルド軍も統率を乱し戦闘不能に、これによってディガルド武国は壊滅、討伐軍の勝利となりその大陸には平和と安寧が再び戻った。

 

「というのが5年と半年前の出来事だ。」

 

ろうそくの火が揺らめくその部屋でオスカーはこの世界の成り行きを説明してくれた。

 

「でも5年前にディガルドが滅んだのになんでまたバイオゾイドが現れたんですか。」

 

「シュン、それはあくまでその大陸の話だ。俺たちが今いる大陸はまた別の話なんだ。」

 

「ってことは………。」

 

「そうだ、ディガルドはこの大陸にもやってきていたんだ。」

 

 

 

事の始まりは3年前。

自由の丘で破れたジーン一世の軍勢は敗戦によりディガルド武国首都ディグに撤退。

しかし城下都市の反乱やキダ藩再興などの影響を受けてディガルド武国からの撤退をを余儀無くされていた。

当時の幹部はその状況を打破すべく他の大陸に移動することを決意。

かつてジーン一世が極秘に計画していた『異大陸制圧作戦』のために用意していた海上を移動できる超弩級のゾイドを使い、残存している兵力、エンジニアなどを積載し大陸を離れた。

半年の航海の後にこの大陸に到達した。

ディガルドは持ち前の高いテクノロジーを駆使しわずか1年で国を復興させた。

そして同じように周辺都市や村を襲撃、同じように勢力拡大し首都ヴァルハラでは多くのバイオゾイドが製造されるまでになった。

 

そしてついにガンダーラ王国へと侵攻。

 

鉄壁の護りを誇る城塞都市と呼ばれるガンダーラ王国であったが、ヘルアーマーの仕組みを知らない王国は為すすべもなくわずか半日で陥落した。

 

「というのがこの大陸の話だ。」

 

そう言って立ち上がりろうそくの方を見つめる。

 

「ディガルドは各地を侵攻し、占領した。今ではこの大陸の半分はディガルドの占領下だ。だからこそラ・カン達のような反乱軍がいくつも出来上がっていった。」

 

「じゃあ、団長の言っていたこの組織は………。」

 

「そうだ、俺の率いるこの解放戦団もその反乱軍の一つだ。」

 

オスカーの言っていた仲間というものは反ディガルド組織であった。

 

だがまだ疑問はたくさんある。

 

なぜオスカーがこの反ディガルド組織のリーダーなのか。

そしてなぜその特殊な金属にダメージを与えられるのか。

疑問がいくつも浮かんでは消え浮かんでくる。

 

「あのいくつも聞きたいことがあります。」

 

「なんだ?」

 

「まず、なぜ中佐がこの反ディガルド組織を作り、そして団長となっているのですか。」

 

率直な疑問だ。

さっきの話が正しければオスカーはシュンと同じようにバイオゾイドに襲撃を受けたことになる。

彼が誰の説明もなく、その謎のゾイドを倒すための組織を作るなんて考えられなかったのだ。

 

「シュン、ちょっと違うな。確かに俺は解放戦団の団長だが、作ったのは俺じゃない。」

 

「え………。」

 

拍子抜けだ。ではオスカーが作っていないのであれば、一体誰が作ったのか。

 

「さっき会っただろう。バッカニアがこの組織を作った、彼が最初はリーダーだったんだ。」

 

彼はそういうと話を続ける。

 

話はこうだ。

 

オスカーは護衛していた積荷と一緒にあの謎の空間に飲み込まれ、シュン達と同じようにこの世界にやってきた。

出口での襲撃はなかったのだが、その晩に大量のバイオゾイドによる襲撃を受けた。

護衛のためのゾイドで迎撃に出るがヘルアーマーの仕組みなどわかるわけがなく、オスカーのブレードライガーのみになってしまう。

その時、両者をまるでシュンの時のオスカーのように割って入ってきたのがバッカニアの乗ったコマンドウルフだった。

謎の音とともに機能を停止させたバイオゾイドからオスカーと積荷を先導しこのアジトに逃げ込んだという。

 

「ということは、中団長も解放戦団に助けられたのですか?」

 

「そういうことになるな。あと呼び名が混ざってるぞ、呼びにくかったら今まで通り中佐でいい。」

 

オスカーは苦笑いしながらそう言った。

 

「あ、すみません。では中佐のままでお願いします。」

 

シュンは恥ずかしそうにポリポリと頭をかく

 

「俺はバッカニア達に助けられ、そして自らの仲間を多く失ってしまった。残ったのは数人の仲間と積荷だけだった。この世界の話をバッカニアに聞いて俺も死んで行った仲間のために戦いたい、そう強く願いこの解放戦団に加わったんだ。」

 

オスカーがそういうとしばらくの沈黙が流れた。

 

「まあ、今日は疲れているだろう。ゆっくりと休むといい。こっちにベッドがある。」

 

オスカーはそう言うと小さな穴をくぐって出て行った。

シュンも星のようにきらめくその灯火に手を合わせ一礼するとオスカーのあとに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドに横になってどれぐらい経ったであろうか。

なんだか側頭部に頭痛がしたのでシュンは顔を少し歪ませながら起き上がる。

 

しかし目の前に広がるその空間は先ほどのアジトの中ではなく、ただただ真っ白な空間であった。

 

「あれ………。」

 

目の前に広がる空間に自分は寝ぼけているのではないかと思い目をこするがやはり変わらない。

 

「こ、ここはどこだ………。」

 

前後左右上下、全て見渡しても真っ白な空間が広がるだけで他には何も見えない。

するとシュンの真上ぐらいから急に声が聞こえてきた。

あまりに突然であったので一瞬ビクッとしてしまう。

 

『シュン、こんにちわなのですよ。』

 

聞こえてきたのは変な喋り方をする若い女性の声だった。

まるで鈴を転がしたようなその声はなんだか心が穏やかになってしまいそうである。

 

「こ、こんにちわ。………というかお前は誰なんだ、ここはどこなんだ!」

 

思わず挨拶してしまうが冷静に考えたら挨拶している場合ではない。

 

『そんなにいっぺんに聞かれてもわからないのですよ。まあ、とりあえずここがどこだかは言えないですが私はそうですね………光の精霊とでも言っておきましょうか。』

 

「光の精霊………。」

 

『そうなのですよ。時代(とき)の旅人を守護するモノなのですよ。』

 

光の精霊と名乗った不思議な声がまたもや知らない単語を発してきた。

さらに光の精霊は話を続ける。

 

『あなたは選ばれたのですよ、この全ての戦争を終わらせるために。』

 

シュンには一体なにを言っているのかがわからなかった。

 

 

 

 

 

 





反ディガルド組織との出会い。

少しずつこの世界のことを知っていくシュンはこの世界に飛ばされる前のことをふと思い出した。


そして謎の光の精霊に告げられた言葉。


物語は加速していく。


次回 ZOIDS EarTravelers

第3話 『時代の旅人』





次の話に一ヶ月もかかってしまいました。

ついに反ディガルド組織『解放戦団』のと出会いです。

そして謎の光の精霊。

次回も気長にお待ちいただけると嬉しいです。


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第3話 時代の旅人

バイオラプターと戦っているあいつを見た時、涙が溢れそうだった。

多くの仲間を失い、辛いだろうが一緒に戦えたらいいなと願っている。

本当にあいつが選ばれしものならきっと、この世界を元どおりにしてくれるはずだ。

なぁ、相棒………。


反ディガルド組織 解放戦団団長 オスカー・アルバーン日記より抜粋。


 

 

『あなたは選ばれたのですよ、この全ての戦争を終わらせるために。』

 

謎の空間で突如そう言われたシュン。

 

「なんなんだよ、全ての戦争って。」

 

戦争がいくつも起こっているのは知っている。全てということは起こってる戦争を全て終わらせるとでもいうのだろうか。

 

『言ってるじゃないですか、全ての戦争って。ディガルドやネオゼネバスを含めての戦争なのですよ。』

 

「おい、それってネオゼネバスが何か関係しているのかよ。」

 

『それは私の口からは言えないのですよ。時代(とき)の旅人はそれを自分で確かめなければならないのです。』

 

光の精霊と名乗った主がそういうとなんだか意識がだんだんぼやけてくる。

 

「お、おい………ま、待てよ………。」

 

その感覚はまるで酸欠を起こしているようだった。

 

『心配はいらないのですよ。私はいつでもシュンの側にいますから………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ………ゆ、夢だったのか………。」

 

気がつけばそこは先ほどオスカーに案内された休憩室の簡易ベッドの上だった。

 

「大丈夫だったかい、すごいうなされてたから。」

 

そんな声がしたかと思い、振り返るとそこには先ほどの銀の短髪ゴーグル姿の男がいた。

 

「あ、いえ、大丈夫です。えっと………。」

 

さっきの会話が全然頭に入ってこなかったのが仇となった。

せっかく心配してくれたのに肝心な名前が出てこない。

 

「バッカニアだよ。大丈夫さ、この世界に飛ばされたらみんな同じようなもんさ。名前も覚えてられないぐらい動揺している。」

 

「あ、ごめん。俺まだ何がなんだか頭で理解できてなくてさ……。」

 

「そりゃ誰だってそうだ、団長が来た時なんかは団長おろか俺たちだって動揺してたんだからな。」

 

そう言って不安そうなシュンに向かってバッカニアは笑ってみせる。

 

「え、そうだったの。」

 

「当たり前だろ。急に俺は過去から来た人間だ、一体この世界はなんなんだ。なんて言われたらこっちだって慌てるって。」

 

意外であったが、確かに言われてみればそうだ。

でもオスカーがそんなに慌てていたなんて想像するだけでちょっと笑ってしまう。

 

「今、団長が慌ててるの想像してただろ。」

 

バッカニアはニヤリとしている。

やはり顔に出ていたのだろうか。

 

「ま、まぁ………それより、ひとつ教えて欲しいことがあるんだ。」

 

「聞きたいこと?さっき団長からある程度話は聞いてなかったか?」

 

「でも時代(とき)の旅人っていうのをまだ聞いてなくてさ。」

 

光の精霊と名乗った謎の声から聞いた単語である。

元いた世界でも聞いたことがなかったし、もちろんオスカーの話の中にも出て来ていない。

 

時代(とき)の旅人とはまさに君や団長のような人のことだ。過去や未来などからこの世界にやって来た人のことを言うんだ。」

 

「俺が時代(とき)の旅人………。」

 

だからあの時光の精霊は時代の旅人といったのだろうか。

 

バッカニア続けて口を開く。

 

「遥か昔、戦乱に荒れていた世界を時代の旅人が救ったっていう話が残っているんだ。まぁおとぎ話みたいなものだからほんとかどうかなんてわからないんだけどね。」

 

バッカニアはそう言うと「もう少し休んでな、食事ができたら呼びにくるからさ。」と言い残して部屋から出ていった。

 

時代(とき)の旅人………、俺や中佐がこの世界に来たのも何か意味があるってことなのか………。」

 

ぼそりと呟きながらまたベッドに横になる。

 

「でもなぜ………あっ。」

 

唐突に思い出した。

黒い空間で聞こえて来た謎の声。

 

「あいつ、俺に助けを求めてた。」

 

だがその声の主とはまだ出会っていない。

光の精霊とはまた違う声だった。

 

『彼女はミズハ。東の海岸沿いにあるリアン村に住んでいるのですよ。』

 

「えっ!?!?」

 

突如、光の精霊の声が聞こえて来た。

でもここはあの白い空間でもなければ夢の中でもない。

 

『そんなに驚かないで欲しいのですよ。私はここにいるのですよ。』

 

光の精霊がそういうとなぜだかズボンのポケットが熱くなってきた。

不思議に思いポケットに手を伸ばすとそこには元いた世界で拾った赤い綺麗な石が入っていた。

 

「おまえ、もしかして………。」

 

『そうなのですよ、私はこの石の中にいるのですよ。』

 

その石を光に透かしてみたり色々してみるが中に何かがいる様子は伺えない。

 

『中にいるわけないじゃないですか。シュンはおバカちゃんなのですね。私は石の中にエネルギー体として存在しているだけなので実体はないのですよ。その石を持っている間だけ私と会話をすることができるのですよ。』

 

なんだかバカにされた気分だがあえてつっこまずにおこう。

 

「そ、そうなのか。つまりこの石自身が光の精霊と。」

 

『そういうことなのですよ。』

 

色々と質問したいことはあったが今日はここまでにしておこう。

あまり情報が入ってきすぎるとまた頭がフリーズしてしまう。

 

「ところで光の精霊、そのミズハって娘が俺に助けを呼んだのか?」

 

『そうなのですよ。』

 

まるでうんうんと頷くように光の精霊はそう言う。

 

「じゃあ助けに行かなきゃ、行こう光の精霊。」

 

『あ、ちょっと待つのですよ。』

 

慌てて飛び起きようとするシュンを制止させる。

 

『彼女が助けを求めたのは今すぐというわけでは無いのですよ。』

 

「え、それってどういう事だ?」

 

『私の口から言うのは簡単なのですが、ここは本人から直接聞いた方がいいとおもうのですよ。』

 

理由はわからないが光の精霊がそういうならそうしてみよう。

 

「わかった、じゃあ中佐にこのことを話して準備できたらリアン村に向かおう。光の精霊は場所わかるのか?」

 

『わかるに決まってるじゃ無いですか。それとひとつだけお願いがあるのですよ。私の存在を誰にも教えないで欲しいのですよ。』

 

「え、どうしてだ?」

 

『私の力はまだシュンは知らないかもしれないですが、とても強大な力を持っているのですよ。私の力を狙う者がかつていたぐらいなのですよ。』

 

そんなことを光の精霊と話していると、タイミング悪く今度はオスカーが部屋にやってきた。

 

「シュン、どうだ少しは休めたか?」

 

そう言うとシュンのすぐ隣のベッドに腰掛け、タバコに火をつける。

 

「はい、おかげさまで。」

 

「そうか、それなら良かった。ところでこの後お前がどうするか聞こうと思ってな。」

 

どうするというのはオスカーと一緒に戦うかということだろう。

 

「中佐と戦いたい気持ちはあります。ですがまだ頭の中が整理されていなくてどうしたらいいかまだわかりません。」

 

本心だった。

違う世界に飛ばされ、戦友が死に、お前は世界を救う者だと言われた。

まだどうしたらいいのか頭の中で処理しきれていない。

 

「ではどうする?」

 

「俺、思い出したんです。この世界に飛ばされる前に、リアン村に住む女性から助けてくれって言われたのを。」

 

「リアン村に住む女性だと。」

 

「はい、黒い空間に飲み込まれる前に声が聞こえたんです。」

 

本当は少し違うが光の精霊の存在を教えずに話すのはこうするしかなかった。

オスカーには少し罪悪感だが、嘘も方便という。

 

「そうか、なるほどな。じゃあリアン村に行くのか?」

 

「はい、そのつもりです。」

 

「ならば道案内が必要だろう。優秀な団員を1人つけよう。まだまだお前1人でバイオゾイドとやりあうのも心配だからな。」

 

タバコの煙をふぅと吐きながらオスカーはそう言う。

 

「ん………?」

 

すると何かに気がついたようにシュンを見つめる。

 

「それは、爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)じゃないか。」

 

オスカーはシュンの持つ赤い石を指差してそう言った。

 

爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)?」

 

オスカーはこの石のことを知っているのだろうか。

でもよくよく考えたらオスカーだって時代(とき)の旅人だ、光の精霊のことを知っているかもしれない。

 

「そうだ、俺たちの沢山の犠牲の中でようやくわかったバイオゾイドに対抗できる唯一の術だ。」

 

返ってきた答えは全く予想に反したものだった。

おそらくオスカーも俺と同じように光の精霊のことは隠しているのだろうか。

 

爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)と言うのは名の通り燃える鉱石だ。採掘場所は限られるが、地熱の活動エネルギーによってできるとされていて一度採掘場所を見つけてしまえばほぼ無尽蔵に採掘できる。」

 

最近ようやく近くで見つけたんだ。そう付け加えてオスカーは腕を組んだ。

 

「前いた世界で開発途中だった徹甲焼夷弾をシュンは知ってるか?」

 

「はい、知ってます。俺が前線にいた時はもうすでに突撃砲撃師団に配備されていました。」

 

オスカーが共和国にいたのは5年も前の話だ。

おそらく完成したものがシュンの言っているものに違いない。

 

「そうか、完成させて配備させてるのか。まああれと原理は似ている。」

 

配備されているのは知ってはいるが実はシュンとは兵科が違うので原理などは全く知らなかった。

おそらくシュンが知らないということを察したのか、オスカーは話を続ける。

 

「徹甲焼夷弾は着弾と同時に高熱を帯びる弾なんだ。相手の装甲を内側から溶かしてダメージを与えようとした構造だな。」

 

「つまりバイオゾイドにも熱が有効なんですか?」

 

「そうだ、バイオゾイドのヘルアーマーには高熱が有効だった。発見したのは偶然だったんだがな。その爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)は砕ける瞬間に大量の熱を放出し、その温度は1500℃というデータも出ている。」

 

「1500℃!?」

 

「そうだ、これならヘルアーマーを突き破り内部にダメージを与えられる。バイオゾイドはヘルアーマーという絶対の防御を持ってるせいか、内部の構造がものすごく脆い。内部機関に少しでもダメージが加わると内部から超高温の熱を発し自らヘルアーマーを溶かしてしまう。おそらく技術が盗まれることを警戒しての仕組みだろうな。」

 

なるほど、これで襲撃を受けた初日の夜、ガンスナイパーの射撃がバイオゾイドに通用したことにも合点がいく。

 

「ということはこの爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)があればバイオゾイドとも渡り合えるんですね。」

 

対抗手段が分かっているなら戦いやすいだろう。

オスカーがさっき言ってた通り爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)の採掘場所は限られているが、場所さえ見つかっていればさほど貴重なものでもないということなら出し惜しみすることもないだろう。

 

「シュン、だがそういうわけではないんだ。」

 

オスカーは顔をしかめながらそういう。

 

爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)による熱が有効なのは通常のバイオラプターと言われているバイオゾイドだけなんだ。バイオゾイドにだって沢山の種類がある、もちろん大型ゾイドに匹敵するサイズのバイオゾイドだって存在する。奴らには高熱ではなかなかダメージを与えられない。」

 

「そ、そんな、じゃあどうすればいいんですか。」

 

今の話だと大型のバイオゾイドには太刀打ちできないということになる。

そんなのあんまりだ、ディガルドがそう弱いバイオラプターだけで攻めてくるわけがない。

 

「もちろん対抗策がないわけではない。シュンはディオハルコンと呼ばれる鉱石を知っているか?」

 

ディオハルコン。

暗黒大陸で産出される稀少物質の事で薄緑色に発光する。ゾイドコアを刺激を与えて凶暴化させ、ジェネレーターの出力を向上させるなどのパワーアップを見込める反面、そのゾイドの寿命は極端に短くなるという特性を持つ。

旧大戦時代かつて暗黒軍と呼ばれていたガイロス帝国によって初めて運用されたが、その後採取ができなくなり幻の物質となっていた。

 

「ディオハルコンってあの幻の………。」

 

「そうだ。俺たちの世界では採取ができなくなったというディオハルコンだが、大変動のおかげで採取できるようになったんだ。」

 

「え、それじゃあ。」

 

「そうだ、ディオハルコンこそが全てのバイオゾイドに対抗できる手段なんだ。」

 

「でも、ディオハルコンの力はゾイドのパワーアップだと聞いてます。パワーアップしただけでバイオゾイドに勝てるんですか?」

 

「シュン、実はなこの世界ではディオハルコンとは呼ばれていないんだ。名はメタルzi、ディオハルコン鉱石を原料として精製されたこの世界で一番硬度の高い金属だ。その硬度ゆえヘルアーマーも切断できる。」

 

 

と言うことはライガーゼロやオスカーのブレードライガーはそのメタルziという素材の武器を持っているのだろうか。

 

「中佐、ということは俺や中佐のライガーにもメタルziが?」

 

「ちょっと惜しいな。」

 

そう言うとオスカーは吸っていたタバコを手元の灰皿で消した。

 

「シュンのライガーゼロは純粋にレーザークローの熱量によるものだろう。俺のレーザーブレードはメタルziでできてはいないがメタルziでコーティングしてあるんだ。」

 

「コーティング??」

 

「ああそうだ。さっき説明した通りディオハルコン鉱石は貴重だ。武器を製造するとなると相当量必要になる。そこでだ、溶かして精製する前の段階で金属に塗ることによって塗った金属に定着してメタルziと同じ効果を得ることが最近わかったんだ。」

 

「なら、コーティングさえすればどのバイオゾイドとも渡り合えると言うことなんですね。」

 

「ああ、今の所はな。あくまでコーティングだから永遠と同じ切れ味が続くわけじゃない。コーティングが剥がれてきたら塗り直さなければならないし、そもそもディガルドがいつメタルziに対抗できる装甲を開発するかわからないからな。」

 

オスカーはそう補足すると

 

「まあ、今の所コーティングが剥がれて戦闘継続ができなくなったり、そんなバイオゾイドが出てきたりはしてないけどな。」

 

と言ってベッドから立ち上がる。

 

「シュン、準備ができたら駐機場にこい。リアン村まで同行させる優秀な護衛を紹介する。」

 

そう言ってオスカーはニヤリと笑うと部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、光の精霊、大丈夫か?」

 

石を口元まで近づけ他の人に聞こえないように囁く。

 

『大丈夫かって、別になんともしてないですよ。』

 

ふふっと笑うようにして光の精霊は返事をしてきた。

 

「いや、ほら誰にも知られないようにって言うからさ、中佐に気がつかれたかなぁって。」

 

『そんなこと心配してくれてたのですね、全然大丈夫なのですよ。シュンが直接このことを話さなければ他人から絶対にわからないですから。』

 

「そうか、それなら良かったよ。」

 

ホッと胸をなでおろす、仲間内で力の奪い合いなんて考えただけでゾッとする。

 

『とにかくその中佐さんがつけてくれると言っている護衛に会いに行きましょうか。できるならばリアン村には今日でも出発したいですし。』

 

「あれ、さっきは別に急がなくてもいいって言ってなかった?」

 

『そんな気もしますが善は急げなのですよ。』

 

さっきは急がなくていいと言ったのになんだか慌ただしい奴だ。

意外と光の精霊は天然なのかもしれない。

 

シュンはゆっくりベッドから立ち上がると部屋を出て、さっきの駐機場に向かった。

 

 

 

 

「おお、シュン来たか。」

 

駐機場に向かう途中でオスカーが待っていた。

 

「見ていって欲しいものがある、ついてこい。」

 

オスカーは手でちょいちょいと小さく招くと違う道へと入っていった。

 

さっきは疲れていてあまりしっかり見ていなかったが、どうやらこの山全体がアジトとして運用されているようだ。

さっきから進む道はどれも洞窟や洞穴のような道である。

しかし、壁はしっかりと金属やコンクリートで補強されており、シュンは前に勤務していた基地を思い出していた。

 

そんなに歩かないうちに、駐機場とは違うひらけた場所に出た。

 

「ここは………。」

 

だだっ広い空間にはゾイドを修理するための設備が整っており、ここは整備場なのにきっと間違いはないが。

 

「あの真ん中に立っている木みたいなものはなんだろう。」

 

木のように見えるが幹の一番上は何かを貯めておくようなタンクにも見えるし、なんだか眩い光を放ってるようにも見える。そのタンクらしきものの真ん中には光を精霊が宿ってるの中に書かれている文字と同じようなものが書いてあった。

 

 

「あれは天空の心臓(ウラノスハート)。この世界でゾイド動かすのに必要なレッゲルと呼ばれる燃料を精製している謎の物体さ。」

 

「燃料を精製しているんですか?」

 

「まあ、言いかえればそうだな。だが誰がいつ作ったのかもわからず、さらにはこの天空の心臓(ウラノスハート)が壊れた村や街は途端に崩壊するとも言われている。」

 

オスカーは天空の心臓(ウラノスハート)と呼ばれた謎の物体を見上げながらそういった。

 

いつ作ったのか誰が作ったのかわからないとは一体どういうことなのだろう。

未来にやって来たとはいえ、謎なことが多すぎる。

 

時間がある時にやっぱり光の精霊に尋ねたほうがいいかもしれない。

 

「シュン、こっちにこい。紹介しよう。」

 

そう言われオスカーの方に駆け寄ると、これまた若い青年が立っていた。

橙色の短髪はバンダナによって綺麗に束ねられており、その眼は鋭い。睨みつけるようなその眼光は見ているだけで背筋が伸びてしまう。褐色の肌とそのガッチリとした体型はさらに彼の印象を怖く見せていた。

 

「彼はケイト・ブラッカム。うちの優秀な戦闘員だ。」

 

「俺はシュン・タキハラ。よろしくな。」

 

一礼して手を伸ばす。

するとただでさえ鋭い眼光がもっと鋭くなる。

やばい、馴れ馴れしくして怒らせてしまったのだろうか。

 

だが。

 

 

「よろしくなシュン、ケイトって呼んでくれ。オスカーの元部下なんだってな、頼りにしてるぜ。」

 

 

ガッチリと握手するなりニッコリと笑いながら腕をぶんぶん振ってくる。

 

あ、あれ?

なんだろう、この姿から想像できないフレンドリーな感じは。

 

「俺の見た目を怖がらなかったのはお前が初めてだシュン!これからもよろしくな!」

 

嬉しそうにしているが別に怖くなかったわけではない。

でもこういってくれているのだからわざわざ言うのはやめておこう。

 

「ケイトは見た目は怖いけどな、根は優しいやつなんだ、うちの戦闘員の中でも五本の指に入るぐらい腕が立つ。歳も若い、仲良くしてやってくれ。」

 

オスカーも笑いながらそうに補足してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 






光の精霊の導きを頼りに、助けを出した声の主に会いにいくことになったシュンは明朝、出立することになった。


整備長よりライガーゼロにある技術を搭載してもらったことによりバイオゾイドゾイドとの戦闘はどうなるのか?

そして護衛についたケイトの実力とは?


次回 ZOIDS EarTravelers

第4話 『海辺の村』

香るのは懐かしき故郷の薫り




説明や会話が多くなると眠くなります。

バトルシーンが描きたい………。


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第4話 海辺の村

ディガルド、お前らのその愚行を俺は絶対に忘れ

元の世界も、この世界も俺が救
必ず強くなって戻っ

俺は時代の旅人なんだ。
みんな、待っててくれ。

全てはガンダーラの為に………。

ガンダーラ王国守備特殊部隊 「女

(右下半分が破れている為解読不可)


 

 

空には雲ひとつなく太陽が輝いている。

今日もいい天気になりそうだ。

 

「おい、シュン整備が終わった、いつでも出れるぞ!」

 

岩の上に寝転んで日光浴をしていたシュンにアジトから出てきた整備兵の1人がそう伝える。

 

「ありがとうございます、今行きます!」

 

岩から起き上がり、下に敷いていたTシャツを着るとアジトへと向かった。

 

駐機場の一番前にはシュンのライガーゼロとサンドイエローで塗装されたモルガキャノリーが静かに出発の時を待っていた。

隣で整備されているということはケイトの乗るゾイドはあのモルガキャノリーなのだろうか。

別に何か偏見があるわけではないのだがライガーゼロの護衛がモルガとはなんか不安である。

 

するとそこにケイトがやってきた。

だが1人ではなく、褐色の肌の男性と何か話し込んでいる。

 

「ありがとう、いつも整備任せちゃって悪いな。」

 

「………なんてことない。」

 

ケイトはニカッと笑うとようやくシュンに気がついたみたいで大きく手を振って歩いてきた。

 

「おはようケイト、さっき隣にいたのは整備兵??」

 

「おう、シュンおはよ。あ、タケルのことか??あいつは超優秀な整備班の1人だ。俺の相棒をいつもメンテナンスしてくれるんだよ。」

 

本当にいつも明るくて元気なやつだなと感心してしまう。

でも今モルガのことを指差して相棒と言ったよな。

ってことは………。

 

「なあ、あのモルガキャノリー、ケイトのゾイドか?」

 

「あったりまえだろ。それともなにか、もしかしてモルガだと思って見くびってんだろ?」

 

ケイトにそう言われ思わず苦笑いが止まらない。

 

『まったく、図星なのですね。』

 

光の精霊には心まで読まれている。

 

「い、いや、そういうわけじゃないんだけどな。」

 

「いいさいいさ、最初はみんなそうやって見くびってくんだ。でも俺には実力と実績があるからな、すぐにそんなの挽回してやんよ!」

 

また笑うケイト。

よかった、そんなに気にしてないみたいだ。

 

シュンはホッと胸をなでおろす。

 

「………シュンと言ったな。」

 

急にした声にドキッとして振り返るとそこにはさっきケイトと話していた褐色の男性がいた。

 

「あ、う、うん。」

 

初めてケイトと会った時のようにその眼光はかなり鋭い。

ここの組織の人間はみんなそうなのであろうか。

 

「………いいゾイドだな。我もライガーゼロを見たのは初めてだ。」

 

彼は真紅に輝く瞳を細くしながら眺めるようにライガーゼロを見ている。

 

「………そういえば自己紹介が遅れたな。俺はタケル・ディアス、解放戦団の整備長を務めている。」

 

「よろしくなタケル。知ってるかもしれないけど俺はシュン・タキハラ。共和国陸軍少尉だ。」

 

ケイトの時と同じように右手を差し出すとタケルも握り返す。

 

「………珍しい名前だな。東の島の出身か?」

 

確かに珍しい名前であるが、なんでそれがわかるのだろうか。

 

「………なんで知ってるかって?実は俺もガイロス出身なんだ、兵士ではなかったけどな。」

 

「え、じゃあタケルも………。」

 

ガイロス出身ということは彼も時代の旅人なのだろうか。

そう考えると時代の旅人って意外と多いのかもしれない。

 

「………いや、俺は時代の旅人なんかじゃない。あの黒い闇に偶然吸い込まれただけさ。」

 

「え、それってどういうこと?」

 

「………まあ、詳しいことはまた後で話すさ、俺がシュンにあった要件はライガーゼロの爪にメタルziのコーティングを施したことを伝えるだけだからな。」

 

ふふっと静かにはにかみながらライガーゼロを指差す。

 

シュンもその先に目をやるといつもは金色の爪が見事に銀色に変わっていた。

通常の銀色とは違ったメタルzi特有の光沢を放っていた。

 

「………これなら道中バイオゾイドと遭遇してもいくらか戦える。」

 

「ありがとう、タケル。」

 

「………なに、礼はいらないさ。」

 

タケルはそう呟くと静かにその場を去って行った。

 

「さあ、準備ができたら出発しようぜ。」

 

ケイトはそういうと足早にモルガへと向かっていく。

 

同じようにシュンも愛機の元へ向かった。

 

 

「あ、中佐。」

 

ライガーゼロの近くまで来ると足元にオスカーが立っているのが見えた。

 

「シュン、気をつけて行ってこい。スチュアートのことは俺がしっかり診ておく。」

 

オスカーが言う通りスチュアートは依然として目を覚ましていなかった。

医療班と呼ばれる方達が治療をしてくれているが意識がいつ戻るかは定かではない。

 

「はい、お願いします。」

 

シュンは小さく一礼するとコックピットに乗るためのタラップに乗った。

そのまま上に上がると主人を待っていたライガーのコックピットへと飛び移った。

 

「では行ってきます。」

 

通信スピーカーを外部に切り替えると、シュンはライガーゼロを前に進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

オスカー達と通ってきた渓谷を抜けると案内役のケイトから通信が入る。

 

「このまま東に向かうぞ、ちっと遠回りだが砂漠の中を突っ切った方がディガルドのテリトリーを避けて通れるからな。」

 

ライガーゼロのメインモニターに地図を映し出すと確かに東の方角にはメレーナ砂漠のと名のついた砂漠が存在していた。

 

「あれ………?」

 

だが、シュンはそこで疑問を覚えた。

もちろん砂漠の名前なんかではない。

 

「なんでこの世界の地図がライガーに映し出されるんだ?」

 

データを取得した覚えはないし、GPSがこの世界に対応しているとは考えにくい。

 

タケルがやってくれたのかとも考えたのだがそれだったらきっとさっき教えてくれているはずだ。

 

1人でボソボソ呟き考えてると先ほどのケイトとは違う声が聞こえてくる。

 

『迷子になりそうなシュンのためにやっておいたのですよ。』

 

「え、おまえそんなことできるのか!?」

 

声の主は光の精霊である。

だけど一体何をしたというのだろうか。

 

『私を見くびらないで欲しいのですよ。ライガーにちょっとだけこの世界の知識を教えたのですよ。地図や方角、さらには地形の特徴まで。彼はシュンと違って物分かりがいいので助かったのですよ。』

 

別に見くびっていたわけではなかったがそんなことができるとは思わなかった。

 

「おいシュン、さっきから何ブツブツ喋ってんだ?」

 

思わず口に出していたことが予想外聞こえていたみたいでケイトは不思議そうに尋ねてきた。

 

「あ、いや、独り言だよ独り言。」

 

そう言いながらも足を進める。

 

「まあ、それならいいけどな。でもこれから砂漠だからよ。」

 

すると目の前には砂の海が広がっていた。

 

「おお。」

 

シュンは初めて見る砂の海に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足をゆっくりと踏み出す。

 

しかし忍び足で歩いている訳ではない。

 

ただ歩くだけだ。

 

「よいしょっと……。」

 

そう言ってまた一歩踏み出す。

 

しかし新しい一歩を踏み出すたびに足がくるぶしのあたりまで地面に沈みこむ。

 

「なかなかうまく進めないなぁ。」

 

初めて歩く砂漠、思いのほか歩きにくい。

 

「おい、シュン大丈夫か?」

 

横を並走するモルガが心配そうにこっちを見ている。

 

「ケイト悪いな、心配かけて。」

 

「いいって、気にすんなよ。」

 

高速ゾイドのライガーゼロがモルガと並走とは………。

 

こんなこと言ったらまたケイトが怒るだろうから言わないがなんとも情けない。

 

はぁ、とため息をついてモニターに映ってる計器類に目をやる。

 

「もうすぐで砂漠を一旦抜けれそうだね。」

 

「そうだな、シュンがもっと早く走れればこんな砂漠一瞬なんだけどな。」

 

ケイトはにししっと笑いながら皮肉げにシュンにそう言った。

 

「まあ、今回が横断じゃなくて助かったよ。横断だったら砂漠で野宿になるとこだったからな。」

 

砂漠で野宿というのも意外と楽しそうな感じがするな。とシュンは考えてしまう。

 

「とりあえずここを抜けたら少し急ぐぞ、日暮れまでにはリアン村に着きたいからな。」

 

ケイトはそう言うと並走させていたモルガのスピードを上げて先を行く。

シュンも置いていかれないようにその重たい脚をなんとか進める。

 

だがシュンが頑張って進んでることもつゆ知らずどんどん進んで行くモルガ。

追いついたのは砂漠の出口であった。

 

 

「やっと追いついたよ、それにしてもモルガは砂漠にもってこいのゾイドだよね。」

 

「おお、やっと来たか。まあな、この駆動システムならほとんどの悪路も走れるし、さらにはこのサンドイエローの塗装は砂漠での迷彩塗装の役割も果たしてるからな。」

 

「なるほどねぇ。」

 

アジトの周りはほぼ砂漠だからみんなのゾイドはサンドイエローで塗装されていたのだろう。

そう考えると納得である。

 

「さぁ、こっからはちょっと早足で行くぞ。日が暮れるまでにはリアン村の近くまで行きたい。」

 

「おっけ、じゃあ俺も全力で飛ばしてくよ。」

 

そう言って操縦桿を押し込む。

砂漠では思うように行かなかったが、平地ならなんてことない。

 

だけど全力で走ったライガーゼロにモルガでついてこれるだろうか?

 

「まあ、走ってみてから考えるか。」

 

先ほどと違い軽快な走りを見せるライガーゼロ。

どことなく気持ちよさそうに走っているようにシュンは感じた。

 

しばらくしないうちにそのスピードは最高速度まで到達する。

ケイトはどうしているかなと思い後方モニターを見る。

モルガの最高速度は時速200キロほど。背中のグラインドキャノンのことも考えるとマイナス10キロ20キロってところだろう。

ライガーゼロの最高速度は約時速300キロほど。

もちろん追いつくことなどできない。

 

しかし。

 

「あれ?」

 

後方モニターにはケイトのモルガキャノリーの姿は見えない。

 

「早すぎて置いて来ちゃったかな………えっ!?」

 

置いてきてしまったかと思い横を向いた時だった。

シュンは目線の先に映る光景に驚きを隠せなかった。

 

「嘘だろ、なんでモルガがライガーと並走できるんだ………。」

 

スピード計を見ても決してライガーゼロが遅いわけではない。

 

「なんだシュン、俺のモルガにびっくりしてんのか?」

 

通信モニターにケイトの顔が映る。

その表情はなんだか満足げだ。

 

「言っただろ、俺には実力と実績があるって。」

 

「いや、確かにそう言ったけどさ、それでもライガーに追いついてくるなんてありえないよ!」

 

「まあ、このモルガは特別製だからな。シュンはロクロウ社を知ってるか?」

 

「ロクロウ社………?それってあのガイロス帝国のゾイドを中心としたチューンナップパーツ専門店のこと?」

 

共和国にいた時、聞いたことがあった。

 

なんでも軍の規定外部品を使ったモルガに乗って高速輸送を行う部隊があり、大陸間戦争の終結とともにその隊長がノウハウを生かし先輩の小さなパーツ専門店を大きくしたとかなんとかで。

 

帝国にいたことはないが、合同作戦時に今では帝国では一番人気のあるチューンナップメーカーだときいた。

 

「そうだ、このモルガはロクロウ社の内部パーツでフルチューンしてあるんだ。ロケットブースターを使えば時速400キロまで出るとも言われてる。まあ、怖くて出したことないけどな。」

 

 

「マジかよ、倍の速度が出るってやばいな………。でもなんでこの世界にロクロウのチューンナップパーツが?」

 

素朴な疑問である。

 

ケイトは時代の旅人ではないと言っていた。

だが、幾千の時を超えてこの世界にロクロウ社のパーツが流通しているとは考えにくい。

 

「タケルさ、あいつは元ロクロウ社のパーツ設計担当だったんだ。シュンと同じように時空の渦に飲み込まれてこの世界にやってきたんだとよ。設計図がほぼ頭に入っているらしくてな、この世界にある素材やパーツで俺たちにロクロウのパーツを提供してくれてるのさ。」

 

確かにさっきタケルもそんなこと言ってた気がする。

それにしても設計図が頭に入っているなんて………。

 

『誰かさんとは大違いなのですよ。』

 

いつものようにバカにしてくるがここはあえての無視である。

いつもいつも相手にしてられない。

 

『あー、無視したのですよー。酷い男なのです。』

 

はいはい。そう空返事をしようとした時だった。

 

 

いきなり目の前の地面が吹き飛び砂が舞う。

 

「攻撃、ディガルドの奴らか!?」

 

目の前の土煙が晴れ、視界がクリアになる。すると前の岩場に鋼色に輝くゾイドがシュン達を睨んでいた。

 

「バイオラプターだ、シュン。」

 

「はぁ、せっかく迂回してきたのに結局戦うのかよ、全く。」

 

これではせっかく苦労して砂漠を越えてきた意味がない。

思わずため息が、でてしまう。

 

「でも幸い偵察部隊だ。俺たち2人で倒せない数じゃない。」

 

ケイトの言う通り敵の数は三体だ。

これなら2人で倒せない数じゃない。

 

「シュンは左のまとまった2体を頼む。」

 

「わかった。行くよ、光の精霊!」

 

『全く、さっきまで無視してたのに………。まあ、こうなった以上仕方ないのですよ。敵は2体ですがバイオゾイドなのです、油断はして欲しくないのですよ。』

 

光ののその言葉を聞いてシュンはスロットルを引きしぼる。

ダウンフォーススタビライザーが展開し、イオンブースターが火を噴く。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

バイオラプターの首筋に爪が食い込むと一瞬にしてその首は宙を舞う。

 

走った勢いを殺して反転するとライガーゼロは本能のままに雄叫びをあげる。

 

「すっげぇ、これがメタルziの力………。」

 

ストライクレーザークローの時の切れ味も鋭かったが、比べ物にならない切れ味だった。

 

『何感動してるのですか。これでもコーティングなのですよ。』

 

光の精霊の言う通りだった。

コーティングでもこの威力なのだ、武器全てがメタルziでできていたらどんな威力なのだろうか。

というかそんな武器を持つゾイドがこの世界にいるのだろうか。

もしいるのであれば一度でいいから会ってみたいものだ。

 

『シュン!何ぼさっとしているのですか!!』

 

そんなことをぼさっと考えていると光の精霊から檄が飛ぶ。

はっと気がつくと眼前に火球が迫っていた。

 

「やっべっ!!」

 

慌てて横っ飛びでかわす。

 

ライガーゼロの運動神経が良くて命拾いした。

 

『ここは戦場なのですよ!言ったではないですか、油断するなと!』

 

光の精霊は強い口調でシュンにそう言う。

 

「ご、ごめん。」

 

『次の攻撃が来るのですよ、謝ってる暇なんてないのですよ!』

 

真横に火球が着弾する。

 

「くそ!そんなことわかってるよ!!!」

 

スロットルを目一杯引いて加速させる。

それを迎撃するかのように向かって走ってきたバイオラプターに今度は飛びかかる。

 

バイオラプターは防御のために爪を振り上げるが、メタルziの攻撃を防げるわけではなくあってなく崩れ落ちる。

 

「はぁはぁ。」

 

気がつくと息が上がっていた。

たった2体だと言うのに恐ろしく疲れていた。

 

「そうだ、ケイトは?」

 

モルガで戦う姿を確認しようとあたりを見回すとそこには白い亡骸のあたりに鎮座する仲間の姿を確認できた。

 

「さすがはライガーゼロだな。その運動性能には惚れ惚れするよ。」

 

近くまで歩み寄るとケイトは通信越しにそう言ってきた。

 

「ケイト、これどうやって倒したの?」

 

よく見るとバイオラプターの亡骸は上半身部分が粉々に砕け散っていた。

 

「ん?まぁ、いつもの感じだよ。説明するのは億劫だから実戦で見てくれ。」

 

彼は苦笑いしながら頬をポリポリとかく。

 

一体どんな倒し方なのだろうか。

 

「とにかくここにいるとディガルドの奴らが来る可能性がある。先を急ごう。」

 

ケイトが走らせたモルガに続くようにゆっくりとライガーゼロを歩かせ始めた。

 

 

 

 

しばらく歩き小さな丘を越えると見渡すかぎりの大きな海が広がっていた。

 

「海だぁ…………。」

 

その光景を目にして思わず呟いてしまう。

 

島国出身であるシュンは懐かしいその景色に故郷を重ねていた。

 

『全くいい歳して子供みたいに………。』

 

光の精霊にそうつっこまれ恥ずかしそうにするシュンであったが

 

「うっひょぉぉぉぉぉ!海だぁぁぁ!」

 

もっとはしゃいでる子供みたいな人がいたのでホッと胸をなでおろす。

 

『………………………………………………。』

 

これには光の精霊も何も言えないみたいだ。

 

これにはシュンも苦笑いである。

 

「リアン村まであと少しだ、あそこに見えるだろ?」

 

ケイトにそう言われてモニターを確認すると海岸線の先に家のようなものがちらほらと見えていて、さらにはアジトにもあった天空の心臓も見える。

 

「早く村まで行って海で休憩しようぜ。」

 

「そうだね。」

 

少しも歩かないうちに村の入り口へと到着した。

 

「ねえ、ケイト、急にきちゃったけど大丈夫なの?」

 

「ん?ああ。この村には俺の知っている人間がいるから大丈夫だよ。ほら、お出迎えだ。」

 

そうケイトに促されて正面を見ると前方の空から何かが向かってくるのが見えた。

 

徐々に近づくその機影はシュンにとっても馴染み深いものだった。

 

「あれは………プテラス………?」

 

プテラスとはヘリック共和国が運用している

プテラノドン型戦闘機ゾイドである。マグネッサーシステムによるVTOL機能を持っている為、長大な滑走路を必要とせず、いかなる場所でも離着陸と長時間のホバーリングが可能である。後継機のレイノスが登場するまで長い間、共和国軍の主力戦闘機を務めた。

 

 

ケイトのモルガと同じようにサンドイエローで塗装されたプテラスはシュン達の目の前でスピードを落とすと静かに地面に着地する。

 

よく見ると脚部にはボマーユニットのウエポンベイ・ミサイル拡張ユニットが装備されており、背部には大型のレドームが付いている。

さしずめ爆撃機に改造されたプテラスといったとこだろう。

 

キャノピーが開くと縄ばしごが宙を舞い、やがて地面に到達しピシッと音を立てた。

 

「あらケイト、遅かったじゃない?」

 

コックピットからひょこっと顔をのぞかせたのは女性だった。

 

「すまねぇな、レイ姐。途中でディガルドとドンパチやっちまってな。」

 

 

いつの間にか外に出ていたケイトは縄ばしごを降りてくる彼女に向かってそう言う。

 

「あら、そうだったの?それは災難だったわね。それにしても珍しいお供を連れてるじゃない。この世界でライガーゼロなんて代物中々お目にかかれないのに。」

 

「これがオスカーの言ってたお客さんだよ。おーい、シュン!早く降りてこいよー!」

 

ケイトは子供っぽく手を振ってシュンを呼んだ。

シュンはライガーゼロを屈ませてキャノピーを開ける。

軽やかに飛び降りるとケイトとその女性の前に立った。

 

「初めまして、俺シュン・タキハラと言います。」

 

シュンはいつものごとく手をさしのばす。

 

第一印象はすごく背が高いと感じた。

並んでいるケイトが小さいからかもしれないが、自分よりも大きいのではないかと錯覚してしまう。

肌はとても白く、この砂漠では不思議なぐらいだった。

煌びやかなその緑色の髪は赤いリボンで結わいていた。

 

「シュン初めまして、私はレイ・エルファリア。解放戦団の諜報員を担当しているわ。」

 

レイはシュンの差し出した手をゆっくりとでも力強く握った。

 

「よろしくね、時代の旅人さん。」

 

レイはニコッとしながらいたずらっぽくウインクをする。

その仕草に思わずドキッとしてしまった。

 

「オスカーから話は聞いているわ。付いておいで。」

 

そう言われてシュンとケイトはリアン村の中へと入って行った。

 

 

 






ケイトとともにアジトを出発したシュンはバイオゾイドとの戦闘を行いながらも目的地のリアン村にたどり着いた。

リアン村で目的のミズハと会うことができたシュンだったが、先日戦闘したバイオゾイドの追っ手が迫っていた!!

リアン村での被害を最小限に抑えるためにはシュンはケイトとともに迎撃にでる。

そこでシュンはケイトの戦い方に度肝を抜かれるのであった……。


次回 ZOIDS EarTravelers

第5話 『リアン村の看板娘』


その重みを君は誰よりも知っている。


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第5話 リアン村の看板娘

ソノチハ、ウツクシイシゼント、ユタカナセイタイケイニヨッテコウチクサレテイタ。

ヒトビトハタガイニタスケアイ、ヘイオンナヒビヲオクッテイタ。

アルトキ、タノタイリクカラキョウダイナグンジタイコクガオシヨセテキタ。

ナススベモナイタミタチハ、ソノチカラノマエニヒレフシタ。

グンジタイコク『ガゼル』ハゼッタイテキナオウセイニヨリヒトビトヲトウチシ、ハンコウスルモノハツギツギニショケイシテイッタ。

ヨワキタミハキュウセイシュガアラワレルノヲココロカラネガッタ。


ガンダーラ王国 古文書研究所管理『聖天の書』 より


 

走り回る子供、漁を終え帰路につく漁師、夕方から酒を嗜むもの。

レイに案内されて村に入るとその村の平和さがよくわかった。

 

海岸線にある村。

その故郷と同じ立地に懐かしさを感じながらシュンは村の中を歩いていた。

 

名を『リアン村』という。

 

特産品はもちろん海産物で、少量ながら大型ゾイド用の武器などが発掘されているが、村民の生計はほぼ海産物によって支えられている。

 

名の由来は諸説あるらしいが

かつてこの地に住んでいた民の言語で「豊かさ」を意味する『レリアラン』というものが形を変えた

 

というのが最有力とのことだ。

その名の通り周囲は自然に囲まれ自然の産物が豊富なリアン村は非常に豊かである。

 

「いやぁ、リアン村はいつきても平穏だな。」

 

頭の後ろで手を組みながらケイトはのんきにそう言う。

 

「何いってんの、ここには腕利きの用心棒がいるからでしょ?」

 

「腕利きの用心棒?」

 

村にそんなものいるのかと不思議になり聞き返してしまう。

さしずめ元の世界の傭兵のようなものだろうか?

 

「ええ、なんでも大型砲塔をつけた黒いコマンドウルフを乗るとかなんとか。」

 

「へぇ、大型砲塔をつけたコマンドウルフかぁ。」

 

大型砲塔とはなんなのかはなんとなく予想がつく。

しかしこの村の平和を守っていると言うことはその用心棒と言う人はバイオゾイドに対抗する術を持っているに違いない。

 

「まぁ今日はお留守みたいだけどね。あ、シュン着いたわ。」

 

レイは目の前を指差す方向、そこには何やら大きな家屋があった。

屋根についている煙突のようなものからは煙が上がっており、周囲には肉を焼いたような香ばしい香りがほのかに香っている。

おそらく何か食べ物を提供してくれる施設なのだろうが、肝心の看板の文字が見えない。

 

『全く、勉強不足なのですよ。全く、先が思いやられるのです。』

 

光の精霊ははぁ。とため息をつくといつもの毒舌をかましてくる。

 

「んなもん仕方ねぇだろ………あれ……。」

 

小さな声で反抗しようとするとなぜだかわからないが急に看板の文字が理解できるようになった。

 

『お馬鹿ちゃんなシュンの為にフィルターをかけたのですよ。』

 

さらっと訳のわからない技術を使ってくるがおかげで内容がよくわかった。

 

「大衆酒場ってとこ?」

 

「そう、あそこは大衆酒場といって様々な人が集まるいわゆる食堂みたいな場所なの。」

 

そう言って歩みを進めると、さっきまで隣にいたケイトが一歩先へ行く。

 

「いやぁ、腹減った。レイ姐、何か食べてもいいか?」

 

振り返ったケイトはお腹をおさえ、空腹をアピールしてくる。

そういえばもうお昼の時間帯だし、なんだか空いているような気がする。

 

「そうねぇ、そろそろお昼だしみんなで食べよっか。」

 

「え、でもミズハに会わないと。」

 

お昼も食べたいが、その前に会わなければ何をしに来たのかわからなくなってしまう。

 

シュンがそう言うとレイは首を横に振る。

 

「大丈夫よシュン。依頼人はこの中にいるから。」

 

ふふっと笑うとレイは暖簾をくぐっていった。

 

 

 

中に入ると外ののどかな雰囲気とは違った賑やかな空気が流れていた。

 

肉の焼ける匂いや酒、タバコなどの混じった臭い。

グラスのぶつかり合う乾いた音と酒やけしたであろうガラガラの声が酒場を支配していた。

 

そしてシュンが一番驚いたのはその人数。

 

見る限り人、人、人の嵐である。

 

「うわぁ………。」

 

まさかの光景だった。

ニューヘリックシティーですらこんなに賑わっている酒場はないだろう。

 

シュンは口をあんぐりと開けたまま棒立ちになる。

開いた口が塞がらないとはまさにこのことであろう。

 

「こ、ここはいつもこんなに賑わってるのですか??」

 

「そうよ、ここは安くて美味しいから村の外からも食べに来る人が多くてね。」

 

一行はキョロキョロと辺りを見回すと開いていたテーブルに腰掛ける。

 

「すみませーん!メニューくださーい!」

 

レイはそう言って手をあげる。すると奥のカウンターにいたウェイターの1人がニコニコしながらこっちにやって来た。

 

「あらレイ、いつもありがと。ケイトも久しぶり。」

 

ウェイターはお辞儀をしてそう言うとメニューとグラスをテーブルに置く。

 

「いいのよ、ここのお魚美味しいもの。もう仕事は終わりでしょ、奢ってあげるから一緒に食べましょ。」

 

「あら、いいの?じゃあお言葉に甘えて。」

 

ウェイターの彼女はエプロンを外すとレイの隣に腰かけた。

残念ながらシュンはまた置いてけぼりである。

 

「ほらシュン、なにぼさっとしてるんだよ。」

 

事の成り行きに呆気を取られていたシュンは隣に座っていたケイトに背中をバシッと叩かれる。

 

「お前の会いたいミズハだぞ。」

 

ケイトのその一言でシュンは我にかえる。

 

「え、き、君がミズハ!?」

 

いきなりの登場である。

多少慌ててしまったが、椅子から転げ落ちたりグラスの水を溢さなかっただけマシだ。

 

目の前に座っている女性は大きく頷く。

 

「初めまして、私がミズハ・サーヴ。あなたをこの世界に呼んだ張本人よ。」

 

茶色のショートカットはツヤツヤのサラサラとは言い難い癖のついた髪で幼い顔立ちをさらに幼く見せていた。

座っているのでわかりにくいがさっき立っていた時のことを思い出すとかなり小柄である。

 

シュンはまたも頭の処理速度が追いつかず口を開けたまま目を丸くする。

 

「ったくいつもいつも処理落ちするとシュンはこうなんだからよ。」

 

今までのアジトでのシュンの振る舞いを知っているケイトははぁ、と軽くため息をついた。

 

「ほら、シュン、しっかりしろ。レディーを前にして口あんぐり開けてちゃモテないぞ。」

 

ケイトはもう一発背中をバシッと叩く。

 

「別にあんたモテたことないでしょ。」

 

そのケイトに対してレイから冷たいツッコミが入る。

 

「み、ミズハ初めまして。俺はシュン・タキハラ。なんで俺のことを呼んだんだ??」

 

「それはね…………っきゃ!?」

 

ミズハがシュンに話をしようとした途端、大きな爆発音が聞こえてきた。

 

「外からだ!」

 

そう言ってケイトは立ち上がる。

 

「とりあえず行こう、ミズハはここで待ってて!」

 

グラスの水を飲み干すとシュンも勢いよく立ち上がりケイトの後を追った。

 

 

 

酒場を出ると遠くの方で火の手が上がっているのが見えた。

その原因はまだわからないが何かあったことは確かだ。

 

慌てふためく村人達とすれ違いながら愛機の元へと走る。

 

「おい、もしかして………!!」

 

ケイトは家屋の間に見えたわずかな輝きを逃さなかった。

それはシュンも同じである。

 

「あの独特な輝きはヘルアーマー………!」

 

間から見えた光はこの世界にはびこる邪悪な光だった。

2人は村の入り口まで走りきると愛機の元へと駆け寄る。

 

「行くぞ、相棒!」

 

「ライガー、光の精霊行くよ。」

 

2人はコックピットに乗り込む。

 

『敵の数は17体。かなり苦しい戦いになるのですよ。』

 

いつもの明るい声ではなく、神妙な様子で光の精霊は伝えてくる。

動揺しないかといえばそうではない。

今までの二桁のバイオゾイドなど相手にしたことなどないからだ。

 

「でもやらねぇとさ、俺たちが守らねぇと。」

 

脳裏に浮かぶのは村に住んでいた人々。

 

あんなに平和だった日常を壊したくなんてない。

 

「まだ、ミズハから何も話聞いてないけどさ、俺みんなを助けるために呼ばれたんだろ?ならその務めを全うしなきゃじゃねぇか。」

 

もしかしたら故郷が重なったのかもしれない。

 

そういってライガーゼロを立ち上がらせると反対側の村の入り口、おそらくバイオゾイドの侵入して来たであろう方向に向かって走らせた。

 

『シュンがそう言ってくれる人でよかったのですよ。大丈夫、何かあったら私が守るのですよ。』

 

「それは頼もしいや。よろしく頼むぜ。」

 

ポケットに入った相棒を握りしめてシュンはそう言った。

 

「シュン!バイオゾイド達を村から引き離す、俺についてこい!!」

 

先行するケイトは通信でシュンにそう伝えた。

 

「わかった!」

 

するとケイトのモルガから照明弾のようなものが撃ち出される。

 

しばらくするとあの雄叫びが後方からこだまして来た。

 

「よし、かかった!!」

 

ケイトはそう言ってガッツポーズをするとモルガのスピードをあげる。

 

後方をモニターで確認するすると、光の精霊の言う通りバイオラプターが17体が2人について来ていた。

 

真ん中にいる通常とは違う黒いバイオラプター、おそらく前にオスカーが話していた隊長機だろう。

 

「ぐっ………。」

 

後方から火球を撃ってきているのだろう、ライガーゼロの近くに何発も着弾し砂煙をあげる。

 

「シュン、ここまでくればもう大丈夫だ。行くぞ!!」

 

「おっけ!」

 

シュンとケイトはお互いの愛機を反転させる。

 

「シュン、まとまってると戦いにくい。先手をいって撹乱してくれないか?」

 

戦いにくいとはどういうことだろ?

 

ケイトの戦い方を知らない以上仕方ない。

 

「おっけ、俺が全部倒しちゃっても文句ないだからな!」

 

スロットルを絞り走り出す。

 

先頭にいた一体に狙いを定め、肉薄する。

 

『数では奴らが有利です。囲まれないように注意して欲しいのですよ。』

 

光の精霊の注意を聞きながらバイオラプターに飛びかかる。

 

「らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

狙いを定められたバイオラプターは大きく口を開けて迎撃しようと構える。

 

だが遅い。

 

ライガーゼロの爪がバイオラプターの喉元を捉え、切り裂いた。

首が宙を舞い、切り口からはまるで血を彷彿させるような赤い液体が溢れ出た。

 

「あれ。」

 

だがそこでシュンは気がつく。

 

さっきまで固まっていたバイオラプターが散っていて、なおかつ自分が包囲されていることを。

 

「くそったれ!!」

 

八方からの不意をついた火球の攻撃を避けることなどできるわけなく、ライガーゼロは炎に包まれる。

 

「ぐぁぁぁ!」

 

焼け付く炎はコックピットの温度を上げていく。

 

『全く、だから囲まれないようにといったのですよ。でも大丈夫、熱を感じるだけで身体にダメージは何もないですから。』

 

火は次第に落ち着き鎮火する。

 

だが、囲まれたまま身動きは取れない。

 

「ぐっ………。」

 

後ろから飛びかかられたせいか不意の攻撃に耐えられずライガーゼロは地に顔をつける。

 

「動け!動けライガー!」

 

うまい具合に体重がかかっているのか引きはがせない。

 

シュンのモニターに大きく口を開け遅いかかろうとするバイオラプターの姿が映った。

 

 

しかし。

 

 

 

バイオラプターはシュンのライガーゼロを捉えることなく砕け散った。

 

「シュン、撹乱ご苦労。今助けるからな。」

 

音声だけがそう入る。

 

顔は見えないがニヤッとしているケイトの顔が思い浮かぶ。

 

「よーく見ておけ、これが俺の戦い方だ。」

 

その瞬間、モルガはまるで弾丸のようなスピードでバイオラプターに接近する。

 

「は、速い………。」

 

シュンが見たその初速はあのストームソーダーに匹敵する速さだ。

 

モルガはそのまま肉薄するとバイオラプターと衝突する寸前で前輪を展開しアンカーによるブレーキをかける。

 

土埃が舞い上がる中、ケイトは背中のグラインドキャノンをバイオラプターの口元にねじ込むと引き金を引いた。

 

もともと大型ゾイドに対抗するために開発されたグラインドキャノンは中距離であれば大型ゾイドの装甲を貫通すると言われている。

 

シュンも実際にグラインドキャノンによる攻撃で大破したゴルドスを見たことがあった。

 

そのグラインドキャノンを超至近距離で発砲すればもちろん。

 

「喰らえ。」

 

グラインドキャノンが火を噴くとバイオラプターの上半身は粉々に砕け散る。

 

そこまでもシュンにとっては一瞬だったがそこからも同じだった。

 

発射の反動が収まると同時に展開していた前輪を元に戻し、左右を別々に回転させながら反転させる。

 

超信地旋回とでも言ったところだろうか。

 

そもそもモルガの前輪があのように駆動するのは見たことがない。

 

あれもロクロウスペシャルなのだろうか。

 

反転が終わるとまた次のターゲットを目がけてロケットブースターを点火させ加速する。

 

「ケイトの嘘つき。怖くてロケットブースター使ったことないとか言ってたくせに。」

 

全く、冗談がうまいやつだ。

 

あっという間にバイオラプターとの距離を詰める先程と同じ要領でグラインドキャノンをねじ込む。

 

『シュン、何をぼさっとしているのですか、見とれてないで早く戦線に戻るのですよ。』

 

「おう、そうだな。いくぞライガー!」

 

シュンは相棒にそう掛け声をかけると、まるでそれに答えるかのように雄叫びをあげライガーゼロは走り出す。

 

『全く、調子がいいんですから………。』

 

光の精霊には呆れられているが気にしない。

 

ヘルアーマーが溶け、骨だけになったら屍を乗り越えてバイオラプターに狙いを定める。

 

どうやらケイトのモルガに気を取られてこちらには気がついてないみたいだ。

 

「ストライクレーザークロォォォォォ!!」

 

背を向けていたバイオラプターはその一撃で崩れ落ちた。

 

『シュン、右後方よりバイオラプター接近なのですよ!』

 

「サンキュー、光の精霊!」

 

反転し横っ飛びでバイオラプターの突進をかわす。

不意をついたつもりのバイオラプターはその勢いを殺せず地面に倒れこんだ。

バイオラプターが再度シュンを捕捉しようと振り返った時にはライガーゼロの必殺のストライクレーザークローが眼前に迫っていた。

 

「喰らえ!」

 

胴体から真っ二つに引き裂かれ無残に崩れ落ちた。

 

「はぁはぁ。」

 

気がつけばケイトがほぼほぼ倒していてくれたらしくバイオラプターの姿はもうなかった。

 

「あらかた片付いたようだね。」

 

『近くからバイオゾイドの生体反応は感じられないのですよ。』

 

辺りを見回しているとケイトのモルガがゆっくりと近づいて来た。

 

「大丈夫だと思うが、万が一ってこともある。一旦村の様子を見に行こう。」

 

ケイトのモルガはシュンを尻目にゆっくりと村に向かって前進する。

悪路でも走破できるモルガは、骨になったバイオラプターの亡骸をバリバリと踏み潰しながら進んでいた。

 

その光景を見たシュンはふと虚無感に襲われる。

 

「えっ……………。」

 

先ほどの闘志が、目の前のディガルドを、バイオラプターを倒してやろうという思いが、いつの間にか消えてしまっていた。

 

なぜだかわからない。

互いが互いを憎み合い戦う。

 

脳裏に焼きついた戦争という言葉が浮き出てきてしまった。

 

自分が何のために戦っているのか。

 

戦争となれば目の前のことだけを考えて戦うのと違う。

それができなかったからこそ、シュンは次期エースと言われながら前線に出られなかったのだ。

 

「おい、シュン。どうした早く行くぞ。」

 

ついてこなかったシュンに気がついたケイトはそう声をかけてきた。

 

「うん、そうだね。」

 

2人は踵を返してリアン村へとむかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人ともさすがね、あれだけのバイオラプターが攻めて来ながら損害を空き家一つと倉庫で済ませられたんだから。」

 

酒場に戻るとレイとミズハが先ほどのテーブルに座っていた。

 

「まあ、俺とシュンにかかればこんなもんよ。」

 

ケイトはニカッと笑うと誇らしげにそう言う。

 

「それはそうとミズハ、シュンに詳しい話をしないと。」

 

「ええ、そうね。単刀直入に言うと私や解放戦団とともにディガルドと戦って欲しいの。」

 

その目はまっすぐとシュンの目を見ていた。

 

「まだここに来て時間は経ってないはずだけど少しずつ見たと思うわ、ディガルドが何をしているかを。」

 

「うん、見てきたよ………。」

 

見てきたと言うより体験してきた。

 

そのせいで失った仲間もいる、未だ意識が戻らない仲間もいる。

 

ディガルドは許せない。

 

その思いはシュンにもあった。

 

ただ。

 

「あなたは私の呼びかけに応えてくれた。私たちと共にディガルドを討って欲しいの。【誰もが笑顔で暮らせる世界のために。】」

 

最後のフレーズがシュンの心に重くのしかかってきた。

きっと今この世界の人々はそれを何よりも願っているのだろう。

 

「この言葉は、かつてディガルドを討ったラ・カン率いるジーン討伐軍が掲げたもの。お願い、力を貸して。」

 

その言葉に、シュンは素直に首を縦には振れなかった。

 

「どうして!?」

 

「わからないんだ、俺が何のために戦えばいいのか。実感がないんだ、ディガルドを共に討とうと言われても………。」

 

シュンは俯いた。

 

期待してくれていたことを裏切るようなことを言ってしまったからだ。

 

「俺は軍人だ。時を越えてきたけれども俺が軍人という本質は何もかわりないんだ。おれだって世界を救うために戦って欲しいという気持ちは痛いほどわかる。でも俺が戦う理由が見つからないんだ。殺された仲間の仇を討ちたい、でも誰を倒せばその仇を討てるんだ?お互いが復讐のために戦うなんてそれはもう戦争でしかない!」

 

そこまでいうとシュンは顔を上げた。

 

「なあ、これは戦争なのか?」

 

シュンのその一言に誰も答えることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

謎の白い空間に2人の女性がいた。

 

「ねえ、イグニス。彼は戦ってくれるのかな………。」

 

赤いロングヘアーの女性にショートカットの女性はそう尋ねた。

 

「きっと大丈夫なのですよ。」

 

 

 

 






ディガルドと戦う決意ができぬままリアン村を後にしたシュンは、ケイトとともにアジトへの帰路につく。

しかしその帰り道、近くの商業都市がディガルドの襲撃を受けているのをシュンは目の当たりにする。

行われる残虐な行為。

シュンにかけたミズハの言葉。

彼の中で何かが動き出したのだった!!!


次回、ZOIDS EarTravelerts

第6話『決意』


どうすれば強くなれるかは、自分のココロしか知らない。


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第6話 決意

 

 

空気が綺麗だからだろうか。

 

星の輝きがいつもよりも明るい気がした。

 

一行はシュンのあの問いの後に食事を済ませないまま酒場を出た。

 

一度解放戦団のアジトに帰ってみて結論を出したい。と言ったシュンに合わせ明朝出立することを決めたのであった。

シュンはケイトとともに空き家を借りて夜を過ごしていた。

 

2人では広すぎる空き家の中で寝転んでいるが、この空き家に入ってから2人は一言も言葉を交わしてはなかった。

 

沈黙がひたすら流れ続ける。

 

 

 

 

 

だがその沈黙を破るように口を開いたのは彼だった。

 

「なぁ、シュン。俺はシュンのその気持ちわかるぜ。」

 

「え?」

 

「シュンは戦争が嫌いなんだろ?それぐらいわかる。俺だって戦争は嫌いさ。」

 

お互いに天井を見つめたまま、視線を合わせることなく言葉をかわす。

 

「お前はミズハと違って軍人だからこのまま解放戦団とディガルドがぶつかりあったらどうなるかわかるんだろう?」

 

「ああ。こんなこと言ったらオスカーに悪いとは思うけどな。ディガルドはおそらく強大な軍事力を持ってるはずだ。それに対して解放戦団はあくまでレジスタンスにすぎない。全面戦争になったらどうなるかなんて分かりきってる。」

 

現実で起きた戦争でその光景は嫌という程見てきた。

 

ネオゼネバスの侵攻を少しでも抑えようとしていたガイロスのレジスタンスを何度も目にしてきたのだ。

 

小型ゾイドやコマンドゾイドで編成された部隊が旧大戦の時のように軍を相手に戦えるわけない。

あの頃とは技術も規模も違いすぎる。

昨日の破壊されたバイオゾイドのように、レジスタンスのゾイド達ががネオゼネバスのゾイドに踏みにじられながら歩いて行く光景を嫌というほど見てきた。

ましてやネオゼネバスやディガルドはかなりのオーバーテクノロジーの持ち主だ。

 

「そうだよな。俺だってわかってるさ。」

 

「わかってるならなんでケイトは戦ってるのさ!?」

 

起き上がり声を少しだけ荒げる。

 

その後ケイトはすぐには答えず、ゆっくり目を閉じながら深呼吸をした。

 

「シュン、一つだけ覚えておいてくれ。」

 

ポツリと呟くようにケイトはそう言った。

 

「お前の知っている戦争とこの戦争は違う。この戦争は誰もが笑顔で暮らせるために、その世界の実現のために戦ってるんだ。そのためには誰かが犠牲にならなければならない、礎にならなければいけないんだ。」

 

ケイトはそこまで言うと灯りの火に息をふきかけた。

 

真っ暗になった空間でも彼は話し続けた。

 

「俺からも質問だ。お前は大事な故郷を奪われたことがあるか?故郷を奪われたもの達の気持ちがわかるか?もしそれがわかるなら俺もお前の意見に賛同してやるよ。」

 

星も月も何もない闇の空間に解き放たれたその言葉はただただ空間をさまよい、そして消えて言った。

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、村の入り口に集まった4人はなんだか暗い面持ちで立っていた。

 

「じゃあ私はプテラスで先にアジトにもどるわね。」

 

レイはそう言って縄ばしごをゆっくりと登ってく。

プテラスは大きく羽ばたくと二、三歩前進して大空へと舞い上がった。

 

プテラスとともに舞い上がった土に苦い顔をしながら今度はケイトが口を開く。

 

「ところでミズハはどうすんだ?」

 

そういえばそうである。

てっきりレイのプテラスに乗って行くものだと考えていたのだが。

 

「大丈夫よ、シュンのライガーゼロに乗せてもらうから。」

 

ここで驚きの一言である。

 

「え、ちょっと待ってよ!!」

 

女の子どころか男ですら一緒のゾイドに乗せたことない。

そもそもシュンの乗っているライガーゼロは単座式だ、2人なんて乗れるはずがない。

 

『もぉ、シュンはいちいちうるさいのですね。おとなしくミズハの言うことに従うのですよ。』

 

光の精霊はそう言ってくるがそう簡単に納得できない。

 

「だってよ、光の精霊。俺のライガーゼロは単座だぜ。」

 

『そのことなら心配いらないのですよ。』

 

「え?」

 

いつもながら訳のわからないことを言ってくる光の精霊。

何が心配いらないのだろうか。

 

『昨日ライガーにお願いして単座を複座にかえてもらったのですよ。』

 

 

…………………。

 

 

思わず思考が停止してしまう。

 

本人はえっへんとでも言いたいが如く威張る光の精霊。

そもそもライガーにお願いしたところで単座が複座になるのだろうか?

 

「まあ俺のモルガに乗せるよりかはマシだろ。と言うことだ、シュンよろしくな。」

 

ケイトはそう言うのいそいそと自らの愛機に向かって歩いてく。

昨晩の問いかけがあった以降なんだかケイトが冷たく感じた。

 

ただただその姿を呆然と見つめているシュンであったが、ミズハの方へ向き直ると「じゃあ一緒にいこうか。」と声をかけた。

 

「うん、よろしくねシュン。」

 

彼女は昨日のシュンとのやりとりが嘘かのようにニコッと笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

村を出てもケイトとの会話は一切なかった。

 

しかしそれに反比例するかのように

 

「私ライガーゼロ初めて乗った!高速ゾイドって乗りごごち悪いって先入観あったけど全然そんなことないんだね!」

 

ひたすら喋り続けている彼女がいた。

開いた口が塞がらないとはあのことだろう。

ひょっとしたら無理でもしてるんじゃないかと心配になってしまうほどだ。

 

それにしてもほんとに複座式になっているとは。

まさかとは思っていたがきっちりと綺麗に複座式になっているとは思わなかった。

 

『だから言ったじゃないですか。』

 

もしかして心の声まで読んでるいるのだろうか?

 

『当たり前なのですよ、私の意識はシュンの意識とリンクしているのです。』

 

「意識とリンクしてるってどういうことだよ?」

 

『シュンやライガーを通して伝わってくる意識伝達をスムーズにキャッチして反応しているのですよ。』

 

わかりやすく説明してくれているのだろうがますます難しい解説をしてくる。

 

「ごめん、ますますわからないんだけど………。」

 

『シュンはおバカちゃんなのですね。簡単に言うと、私を身につけていれば声に出さなくても思いが伝わると言うことなのですよ。なので装備者であるシュンは私を必ず身につけてなければならないのです。』

 

つまりは心の中を常に読まれていると言うことである。

 

「俺に、発言の自由はないわけね………。」

 

残念ながら苦笑いするしかない。

 

「ねぇ、シュン。」

 

まるでタイミングを見計らったように、今度はミズハが口を開いた。

 

「シュンは時代の旅人のおとぎ話知ってる?」

 

ミズハの口から出たから疑問は唐突なものだった。

 

「かつて世界が混沌としていた時に、この世界を救ってくれたのは、過去からやってきた不思議な力を持つ青い髪の女性と1人の男性だったわ………。」

 

 

そうしてミズハはゆっくりとその話を続けた。

 

 

かつて絶対的な王政によって統治していた強大な国があった。

 

王の一存により、国の方向性が決まり、逆らう国や民は一人残らず処刑にされる、そんな国だった。

 

あるとき、その王国はとても良好な外交を築いていた隣国を資源の欲しさから侵略。

その暴挙に反発した周辺諸国は同盟を結び反撃。

様々なところで火の手が上がり、世界は大きな戦争へと進んでいった。

 

最初は有利に勝ち続けていた王国であったが、周辺諸国の団結力を徐々に追い詰められていった。

戦争は八年続いたが、互いの消耗戦に終わりが見えることなく、九年目を迎えようとしていた。

 

しかし戦局は一変した。

 

失われたzi(ロスト・ノヴァ)』の一部解読に成功した王国は完全体ではないものの魔竜デスザウラーを復活させた。

魔竜デスザウラーの力によって勢いを取り戻した王国は大陸の三分の二を支配し、確実に勢力を広げていた。

 

 

そんな時だった。

一年を通して全く霧が晴れない「霧の谷(ミストバレー)」と呼ばれる地域にある小さな街に2人のゾイド乗りが突如現れた。

 

男女の二人組であったが、見慣れない顔立ちや服装、そしてこの地域の人間が見たこともない恐竜型のゾイドに乗っていた。

 

彼らは言った。

 

「奴を倒して取り戻したい相棒がいる。」と

 

二人は残存していた兵力をかき集め、デスザウラーを討伐するために王国を目指した。

 

二人の乗っていたゾイドはとても強力であり、その圧倒的な力を持って大陸を縦断して行った。

 

話を聞くと彼らはこの世界の人間ではないという。

 

なんでも、囚われてしまった大切な相棒を探して様々な時代を旅してようやく見つけたと言うのだ。

 

一同は仰天したが、見たこともない強力なゾイドやその姿から納得し彼らを「時代の旅人」と呼んだ。

 

彼らは反帝組織と共に苦戦の末デスザウラーを討伐。

世界は安寧を取り戻した。

 

 

 

 

 

「これが私の知っている時代の旅人のおとぎ話よ。」

 

「不完全とはいえ、あのデスザウラーをほぼ二人で倒すなんて………。」

 

恐ろしいことだ。

デスザウラーを倒した逸話はシュンもいくつか知っている。

しかしそれは様々な偶然や奇跡が重なって起きたような話だ。

 

「まぁ、でも所詮おとぎ話でしょ?」

 

おとぎ話なんて作り話みたいなもんだ。

深く考えない方がいい。

 

と思っていた時だった。

 

「おとぎ話なんかじゃない!!」

 

後ろの座席から怒号が飛んできた。

 

振り返るとミズハがうっすら涙を浮かばせながら息を荒くしていた。

 

「彼らは、私たちの希望のために戦ってくれた。私たちのことを何も知らないで戦争になるから俺は戦いたくないなんて言ったあなたとは大違いよ!!バカにしないで!!」

 

まさか怒られるとは思っていなかった。

 

『シュン、今回ばかりはミズハの言う通りなのですよ。』

 

光の精霊は珍しく穏やかにシュンにそう言う。

 

「ミズハ、ごめんよ………。」

 

「許さないわ!みんなそうよ、時代の旅人の話はおとぎ話だって、そんな奇跡のような話あるわけがないって!!」

 

ミズハの怒りはおさまらない。

 

「あなたが本物の時代の旅人なら証明してよ………、時代の旅人はおとぎ話なんかじゃないって。」

 

シュンはその言葉をきき、ただ拳を握り締めるしかなかった。

 

 

 

 

「おい、シュン聞こえるか。姿勢を低くしろ、ディガルドの奴らだ。」

 

ふと顔を上げると丘の向こうから煙が上がっているのが見えた。

 

「ディガルドだと!?」

 

「ああ、おそらく工業都市ディーハルトが襲われている。」

 

モニター拡大してみるとそこには大量のバイオラプターとひときわ大きなバイオラプターがいた。

オスカーたちが言っていた大型のバイオだろう。

 

「ケイト行こう!!」

 

「無理だ。」

 

考える間もなくそう言い放つ。

 

「なんでだよ!あの街、襲われてるんだろ、助けないと!!」

 

ライガーゼロを前に進めようとするとケイトのモルガが割って入った。

 

「バカも休み休みに言いやがれ、あれはバイオメガラプトルだ!バイオラプターの何倍もの能力がある、俺たちが二人で戦ったところでかないやしない!!」

 

「それでも!!」

 

「うるせぇ!戦う覚悟がないやつがそんなこと言うんじゃねぇ!」

 

背中のグラインドキャノンはライガーゼロのコックピットに照準が合っている。

それがなにを意味しているのか、軍人であるシュンにはよくわかっていた。

 

「わかったよ………ごめん、ケイト。」

 

モニターにはディーハルトが襲撃されている光景が鮮明に映し出されていた。

 

建物は破壊し尽くされ、逃げ惑う人々は惨殺されて行く。

親と引き剥がされる子供。

無差別な攻撃。

 

目を覆いたくなるような現実である。

 

「おれ、何してんだよ………。」

 

シュンは目頭が熱くなっているのを感じた。

 

 

 

その後のことは全然覚えてない。

 

気がついたら解放戦団のアジトだった。

 

「無事だったんだな。レイから色々と報告を聞いている。だが詳しい話は後だ、まずは少し休んでくれ。」

 

ライガーゼロを降りたシュンに向かって出迎えたオスカーはそう言った。

 

「……はい………。」

 

覇気の無い声で短くそう言うと仮眠が取れる簡易ベットのある部屋へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が張っていたのか、はては疲れていたのか。

不思議なことに眠るまでは一瞬だったようだ。

 

シュンは例にもよってまたあの白い空間にいた。

 

「またこの空間かよ………。」

 

彼は見覚えのある空間に立ち尽くし、辺りを見回した。

例のごとくそこは何も無い空間でただただ真っ白い空間が広がってるだけである。

 

しかしよく耳を澄ますと後ろの方からカツカツと音がしてきた。

 

振り返るとうっすら人影が見える。

 

「誰だ!」

 

思わずシュンは叫んだ。

いきなりのことに少し恐怖心があったからかもしれない。

 

「………そんなに大きな声、出さなくてもいいから。」

 

目の前に現れたのは透き通るような白い肌の女性だった。

淡い紫色の髪、翠色の瞳。

息を飲んでしまうほど綺麗な女性だった。

すらっとしたスタイルからか身長は高く見える。

 

ーーおい、光の精霊。あの女は一体誰だ?

 

おそらく知っているだろう相棒にそう尋ねる。

 

しかし。

 

『……………。』

 

返事は返ってこない。

 

ーーあれ、光の精霊?

 

ポケットの中に手を突っ込む。

だがそこには爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)すらなかった。

 

ーーあいつ、この中では会話ができないのか。

 

すると近づいてきた女性が口を開いた。

 

「………私の名前はカノン。あなたのことはイグニスから聞いているわ。」

 

カノンと名乗った女性はシュンをまっすぐと見つめてそう言った。

 

その大きな翡翠のような瞳に思わず吸い込まれそうになってしまう。

 

というかイグニスとは一体誰だろう。

残念ながらまだ聞いたことのない名前である。

 

「………あなたはそれでいいの?」

 

それでいいのとはおそらくディガルドと戦わなくていいのかということだろう。

 

 

「わからない、でもどうしたらいいかわからないんだ。頼む、俺をもとの世界に戻してくれ!!」

 

シュンはカノンにそう叫ぶ。

 

 

「………なぜ?」

 

 

「俺には無理だ、そんな世界を救うなんて………。」

 

 

そう言ってシュンは拳を握りしめる。

 

 

「俺は平凡なただの軍人だ、そんなことできない。ましてやあんなバケモノみたいなゾイドを倒していくなんて……。」

 

 

そう言うと息をする間もなく、カノンはシュンに尋ねる。

その剣幕は恐ろしく鋭かった。

 

「………あなたはそうやって自分の嫌な事から目を背けるの?逃げるの?やってみなければわからないじゃない。」

 

「そんな簡単に言うな!俺は戦うのが本当は嫌いなんだ、俺の気持ちもわからずにそんなこと言うな!」

 

シュンは声を張り上げるがカノンは冷静だった。

 

「………そんなこと知ってるわ。ずっと前からイグニスと一緒にあなたを見ていた。その平穏な世界を求める心も、世界を守りたいという思いも、早くあの戦争に終止符を打ちたいという願いも。」

 

「な、なんでそんなことを………。」

 

「………知ってるわ、だからあなたに想いを託すことにした。過去も未来も現在も全ての歴史の命運を。」

 

カノンはそういうと背を向けた。

 

「………あなたはまだ自分の心と素直に向かい合えていないだけ。素直になって。あなたは本当はどうしたいの?」

 

その言葉を聞いた途端なぜだか目頭が熱くなってきた。

 

「でも俺、どしたらいいのかわからねぇよ………。」

 

涙をこらえながら俯いていると、頭の上からなにか紐のようなものをかけられたのを感じた。

 

顔を上げるとカノンが彼の首にネックレスのようなものをかけてくれていた。

 

「………大丈夫よ。そのために彼女がいるんだから。」

 

首にかけられたのは真紅色の石だった。

 

「これは………爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)………。」

 

そう、光の精霊が住まうものだった。

 

「………彼女はあなたを護り、そして導いてくれるわ。」

 

カノンはそういうとすぅーっと消えていく。

 

「おい、カノン!導いてくれるってどこへだよ!!」

 

「………それはあなたが見つけていくものよ。そしてミズハの想いをすくってあげて。それじゃまた会いましょう、時代の旅人さん。」

 

カノンは完全に消え、また白い空間にシュンがただ一人残された。

 

「ミズハの想い…………。」

 

ゆっくり目を閉じてミズハの最後の言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

『あなたが本物の時代の旅人なら証明してよ………、時代の旅人はおとぎ話なんかじゃないって。』

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を思い出した途端、ミズハがこの世界に自分を呼んだ理由がわかった気がした。

 

 

「そうか………。」

 

 

胸の奥からなにかが沢山こみ上げてきた。

 

なにかはわからない。

 

思うように行動出来ない自分への怒りか、それとも恐怖なのか。

 

仲間をやられた恨みなのか。

 

世界を救いたいという思いなのか。

 

でも、ひとつだけわかったことがあった。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。俺、やってみるよ。」

 

首にかけられた爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)を固く握り締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、決意だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと簡易ベッドの上だった。

 

「戻ってきたのか。」

 

隣を見るとケイトも同じように簡易ベッドに横になっていた。

 

「ケイト。」

 

ケイトに伝えたいことがあった。

でも寝ているなら起こすのは申し訳ないと思い小さな声で呼んでみた。

 

「なんだシュン。」

 

起きているようだった。

相変わらずなんだか冷たい反応だが。

 

「オスカーとケイトに話したいことがあるんだ。」

 

それを聞くとケイトはゆっくりと起き上がった。

 

「わかった。」

 

ケイトはベッドから降りるとシュンと共に部屋を出て行った。






カノンとの会話がきっかけで戦うことをを決意したシュンは、ディガルドと戦うために解放戦団への入団を希望する。

共に戦えることを喜ぶケイトであったがオスカーは快諾してはくれなかった。


命を賭してまでこの世界のために戦う意味はなんなのか?

オスカーの言葉に返答できないまま葛藤を続けるシュンに、ケイトは自らの戦う意味を告げる。


果たして彼の戦う意味とは。


次回 ZOIDS EarTravelers

第7話 『戦うということ』


決意のその先へ。


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第7話 戦うということ

 

 

 

皆が談話するという大広間にオスカーは1人座っていた。

 

手元にあるコーヒーからまだ湯気が出ているということはここにきてからまだそんなに時間が経ってないのかもしれない。

 

「中佐。」

 

なにやら資料を読み込んでいるオスカーにシュンは声をかけた。

 

「おお、シュン。どうだ、少しは………」

「俺を解放戦団に入れてください。」

 

オスカーの会話を遮るようにシュンは間髪入れずそう言った。

その瞬間、後ろから思い切り肩を掴まれる。

 

「シュン、お前どういう風の吹き回しだ。」

 

案の定その手の主はケイトだった。

その目は初めてあった時のように鋭い。

いや、あの時以上かもしれない。

 

「戦うって決めたんだ、ディガルドと。」

 

ケイトの方を向きそう告げると今度は胸ぐらを掴んできた。

 

「てめぇ、リアン村の時と言ってることが全然違うじゃないか!!」

 

ケイトは声を荒げる。

当たり前だ、昨日あんなこと言っておきながら今度は戦いたいなんて言っているのだから。

 

でも、これが俺の出した答えなんだ。

 

そう言おうとした時だった。

 

「ケイト、そこまでにしろ。」

 

「だけどよ、オスカー。」

 

「いいから離してやれ。」

 

渋々という形で彼は手を離した。

 

「さあ、シュン。入団の理由を聞かせてもらおうか。」

 

オスカーはシュンをまっすぐ見つめる。

その瞳は見たこともないぐらいシュンを貫いていた。

一瞬背筋が凍りそうになる。

 

「俺、考えてたんです。リアン村を出てから………。自分はなにをしてるんだろって。」

 

シュンも同じようにオスカーをまっすぐ見つめる。

 

「皆が笑顔で暮らせる世界のために戦えば、戦争になれば傷つく人がたくさん出る。それが怖かった。でもわかったんだ、ディガルドはそんなに生易しいものじゃないと。それがわかっていても自分ではどうしたらいいかわからなかった。」

 

握っていた拳をさらに強く握る。

 

「白い空間でであったカノンという女性に言われたんだ。まだ自分の心と向かい合えていないだけだって。考えた………、俺の本心はなんなのか………。」

 

 

なぜだろう。

身体が震えている。

 

怯えているのだろうか。

 

決意はした。

 

でもこの言葉を言ったらもう………

 

戻ってこれないかもしれない。

 

 

「俺の本当の気持ちは………。」

 

 

言い出すのが怖くて怖くて仕方なかった。

 

そんな時だった。

 

『シュン、怖くないのですよ。シュンは1人じゃないのです、私がいつでも側にいるのですよ。』

 

声が聞こえた。

 

その声に背中を押された気がした。

 

「俺は、この世界を救いたいっ!!!」

 

 

 

ありったけとはこれぐらいだろうか。

 

ありったけの声で彼は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大広間には沈黙が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それがシュンの本当の気持ちなんだな。」

 

そう言ったのはケイトだった。

 

「もちろんだ。だから中佐、解放戦団に入れて…………」

「だめだ。」

 

今度間髪入れず言葉を遮ったのはオスカーだった。

 

「どうしてですか!?」

 

「この戦いがどういう戦いになるかは十分理解できているはずだ。」

 

オスカーは首を縦に振らなかった。

 

「わかってる、わかってるからこそ。」

 

「ならばなおさらだ。一つ聞こう、お前が命を賭してでもこの世界を救うために戦いたい理由はなんだ。」

 

「それは………。」

 

思いは昂ぶっていた。

心も決まっていた。

 

でも。

 

口から言葉は出てこなかった。

 

「一度太陽でも浴びて頭切り替えてこい。」

 

オスカーはただそう言い残すと、まだ残っていたコーヒーを煽るように飲んで大広間を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

アジトから出るとすでに日が傾き始めており、辺りを真っ赤に染めていた。

あと1時間もしないうちに太陽は山の裏に隠れて夜の帳が落ちてくるに違いない。

ゾイドで入ってきた入り口とは違う、人が通れる専用の出入り口から外に出たシュンは、切り立った岩のへりに座った。

ビルの三階ぐらいにあったその切り立った岩から足を投げ出し遠くを見つめる。

 

またどうしたらいいのかわからなかった。

 

しばらくすると後ろに誰かの気配を感じた。

 

「ケイト………。」

 

振り返った先にいたのはケイトだった。

その両手にはなにやらカップが握られており、その中にはコーヒーが入っているのか湯気が出ていた。

 

「隣、いいか?」

 

シュンは黙って頷くと、ケイトはシュンの横に腰かけた。

 

「さっきは………すまなかったな。」

 

ケイトの口から出たのは謝罪の言葉だった。

あまりにも意外だったため、反応できずに思わずケイトを凝視してしまう。

 

「ついカッとなっちまってな。本当は仲間に手をあげるなんてウチじゃ御法度だからよ。」

 

そう言いながらコーヒーをすする。

 

「謝らないでよ、俺はケイトのしたことは正しいと思うからさ。」

 

シュンも同じようにコーヒーをすすった。

ケイトのことだから砂糖もミルクも入っていないのかと思っていたらめちゃめちゃ甘かった。

 

思わず顔をしかめているシュンが気になったのか

 

「あ、砂糖足りなかったか??」

 

と見当違いな質問をしてくる。

 

さてはこいつ甘党だな………。

 

「いや、甘すぎるよ………。ケイトって甘党なの?」

 

「甘すぎるだと!?これでもいつもより砂糖少なめなのにな……。」

 

おっかしいなぁとでも言いたげに首を傾げるケイト。

 

「ケイトその顔で甘党なんだね。」

 

思わず笑ってしまう。

 

「悪いかよ、甘い物は正義だぞ!」

 

「その正義、邪念しか見えないんだけど。」

 

「な、なんだと!」

 

お互い向かい合って豪快に笑った。

 

さっきまであんなにギスギスしてたのが嘘みたいだ。

 

「本当はお前と一緒に戦いたかったんだ。」

 

「俺と?」

 

「ああ、お前は他の人とは違う。」

 

「俺が時代の旅人だから?」

 

ケイトは首を横に降る。

 

「お前は心の中に焔を灯してる。他の奴とは違う。」

 

「心の中の焔?」

 

「ああ、俺にははっきりわかるんだ。その焔がきっと俺たちを導いてくれる。」

 

そう言うとケイトは沈む夕陽を眺めながらあの激甘のコーヒーを煽る。

 

「なぁ、ケイト。中佐言ってただろ、『お前が命を賭してでも戦う理由はなんだ』って。ケイトの戦う理由はなんなんだ?」

 

シュンがそう聞くとケイトはカップをもって俯いたままだった。

 

「俺の戦う理由か………。」

 

ため息ではないが大きく息を吐く。

 

「俺の昔話は面白くねぇぞ。」

 

そう言うと一呼吸あけて、頭に巻いているトレードマークの雪上迷彩柄のバンダナを外した。

 

「このバンダナは当時同じ部隊にいた医療班の奴にもらったんだ。」

 

そのバンダナを手元で広げると一部がかなり血がしみており、赤黒く染まっていた。

 

「俺はガンダーラ王国の女王親衛隊。いわゆる近衛隊の所属だった。その医療班の女とは何かとウマがあってな、ディガルドとの戦争が終わったら一緒に戦争孤児を救う義勇軍を作ろうって約束してたんだ。」

 

まだ星が輝くには早い、そんな空を見つめながらケイトは言葉をつなぐ。

 

「でも叶わなかった。」

 

ケイトはゆっくり目を瞑る。

 

「約束したその翌日、ディガルドはガンダーラに侵攻してきた。迎撃する術はあったが、侵攻してきた数は予定の3倍の数だった。迎撃が間に合わなかった。難攻不落と言われてきたガンダーラがたった2日で陥落した。」

 

手にしていたバンダナを握り締める。

 

シュンは何も言わず、そしてケイトのほうを見ずその話を静かに聞いていた。

 

「俺は近衛隊の仲間と共に血族を守るのに必死でな、医療班の奴とは離れ離れになっちまった。」

 

「………それで、その医療班の子は?」

 

「………さあな、それっきりだ。いい女だったからディガルド兵に犯されて殺されたか戦死したか。生きてるのか死んでるのかも何もわからねぇよ。」

 

手元に広げていたバンダナを綺麗に折りたたみ再度頭に巻き直した。

 

「シュン、俺の戦う理由はただ1つだ。」

 

ケイトはシュンのほうを向いた。

その独特な紅い眼がシュンの意識を射抜くのではないかと言うほど強い眼差しだった。

 

「ディガルドを滅ぼす。俺が俺自身の約束のために、あいつとの約束を果たすために。そのためならばこんな命喜んで差し出すさ。」

 

残っていたコーヒーを一気に飲み干すと「おかわり持ってくるわ。」といってケイトは立ち上がり、アジトの中へと戻っていった。

 

その場からケイトが立ち去るとなんとも言えない虚無感がシュンを取り込んでいた。

 

『またなに落ち込んでるんですか?』

 

心の中に巣食う相棒が心配そうに尋ねてきた。

 

「落ち込むってかへこんでるんだよ。決意はできたのにまたなにしてんだろ、俺はってな。」

 

ケイトの作ってくれた激甘のコーヒーをすする。

 

「ケイトの戦う理由を聞いちまった後だと余計によ。俺にはあそこまでの覚悟があるのかなって。」

 

首にかかった爆炎の希少鉱石を夕陽に透かしながらそう呟いた。

 

「そう言えばカノンにあった時の、光の精霊のこと『彼女』って言ってたけどお前にも性別があるのか?」

 

『失礼ですね、どっからどう見ても私はレディーに決まってるじゃないのですか。そんなこともわからないでいるからいつまで経っても女性にモテないのですよ。』

 

ぷぷぷ、と彼女は馬鹿にしたように笑う。

 

『まあ、それはいいとして、性別っていうよりかは元々人間だった時に女性だったからそのまま女性になったって感じなのですよ。』

 

「へぇ、なんか精霊も大変なんだな。」

 

『なのでこれからはレディな扱いをして欲しいのですよ。』

 

「なんだよ、レディな扱いって。」

 

光の精霊が笑いながらいうのでつられて笑ってしまった。

 

『シュン、深く考えすぎなのですよ。確かに命をかけ戦う以上、生易しい気持ちでは困ります。それでもシュンの中での気持ちは決まってるはずなのです。それに従えばいいのです。私はそんな危ない橋を渡ろうとしているシュンを護るのが宿命なのですから。』

 

夜の帳が下りたその空間に紅く煌めく彼女はまるで闇夜に舞う蛍のようだった。

 

「ありがとう、光の精霊。」

 

シュンはゆっくりと立ち上がるとアジトの中へと戻っていった。

 

 

 

 

解放戦団のゾイド駐機場は吹き抜けになっており、どのフロアからでもたどり着けるようになっている。

 

これは有事の際、集合時間を1秒でも短縮したいというオスカーの意向らしい。

 

外から帰ってきたシュンは2階フロアから下を覗くと案の定そこにはオスカーがいた。

ここからは姿が見えないが、レイやバッカニア、さらにはミズハの声も聞こえてくる。

 

シュンは引き返して駐機場1階に向かうために歩みを早めた。

 

「シュン。どうだ、頭はさっぱりしたか?」

 

一番最初に気がついたのはやはりオスカーだった。

 

さっきの事の成り行きを知らない周りのメンツはどうしたの?と顔を見合わせている。

 

シュンは何も言わずに、ただの大きく頷いた。

 

「その顔、覚悟ができたみたいだな。」

 

オスカーの顔は険しいままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「難しいことわからないけど、俺はこの世界を助けたい。俺は、時代の旅人なんだ!」

 

彼は思いを伝えた。

戦う意味はまだ見つからない、でもその想いに変わりはなかった。

 

しかし。

 

「そんな覚悟では戦えるわけと言っただろ、何度言えばわかるんだ!」

 

もちろんオスカーは反論してくる。

 

だが、引き下がるわけにはいかない。

 

「わかってたまるか!俺は意味があってこの世界に、ミズハに呼ばれたんだ。俺が時代の旅人であるならばこの世界の平和のために戦いたい!」

 

「時代の旅人が世界を救うのはおとぎ話の世界だろ!」

 

その瞬間脳裏を駆け巡ったのはミズハの言葉だった。

 

「違う!俺はこの世界を救う、それが俺の役目、時代の旅人としてこの世界にやってきた責務だ!俺は!時代の旅人がおとぎ話なんかじゃないって証明してみせる!!!!」

 

シュンは言い切った。

 

駐機場はその瞬間静まり返る。

 

すると上の階からパチパチと拍手が聞こえてきた。

 

「シュンよく言った。」

 

全員がふと視線を上に向けるとそこにはケイトがいた。

 

「俺はその情熱、嫌いじゃねぇぜ。オスカー、俺が責任を持つからよシュンを入団させてやってくれ。この通りだ。」

 

そう言って顔の前で手と手を合わせて合掌する。

 

「………ケイトがそういうなら仕方がない。他の者、特にレイは異存はないか?」

 

「はい、ございません。」

 

レイは笑みを浮かべながら小さく頷いた。

 

それに続いて他の者も小さく頷いた。

 

「異存がないならいいだろう。シュン、お前を今日から解放戦団の仲間として認めよう。」

 

そう言うとオスカーは手を差し伸べてきた。

 

「また部下としてコキ使わせてもらうぞ。」

 

さっきまでとは違う、優しい笑みでそう言った。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、ミーティングを終える前に皆に伝えたいことがある。」

 

大広間の一番前に立つオスカーは座っている団員達にそう告げた。

 

「シュン・タキハラを正式に解放戦団の仲間として迎えることとなった。配属は一番隊レイの隊だ。みんな仲良くしてやってくれ!」

 

オスカーに説明され登壇すると大きな歓声が湧いた。

 

「よろしくな!」

「一緒にディガルドを倒そうぜ!」

 

歓声の中に混ざる歓迎の声がシュンには嬉しかった。

 

 

「みなさんよろしくお願いします!平和な世界の実現のために一緒に頑張りましょう!!」

 

シュンのその挨拶に歓声は強さを増して言った。

 

 

「ヨウヨウヨウッーヨウヨウヨウッー!!」

 






ディガルドと戦うことが時代の旅人の役目だ、時代の旅人がおとぎ話話なんかではない。そう言い切ってオスカーを納得させたシュンは正式に解放戦団の一員となった。

そこでシュンはレイの指揮する一番隊に配属となり近隣のヘルザ村奪還作戦の部隊に配属される。

だがそこでこの世界での戦争ということの難しさを知るシュンであった。


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第8話 『Operation : Claymore 』

目を、背けてはならない


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第8話 Operation : Claymore

 

その日はとても天気が良く、穏やかな日だった。

 

人は思い思いのことをしながらその時間を過ごしていた。

 

ゾイドの整備をする者、岩の上で陽に当たる者、はたまたトレーニングする者。

 

 

しかし彼の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

彼がいたのは1階の駐機場奥、オレンジ色の裸電球がいくつもいくつもぶら下がっている部屋だった。

 

「なあ、調子はどうだ?」

 

シュンは自分の膝丈ほどしかない木箱で作った簡素な椅子にに腰掛けながら目の前の眠っている戦友に声をかける。

 

無論返事はない。

 

彼、---スチュアートとは養成訓練時代の同期だった。

 

訓練生のトップで部隊をまとめていたスチュアートはシュンの入隊の経緯や事情を知っており、部屋の隅っこにいたシュンを仲間の輪の中に入れてくれていた。

 

「あの時は本当に世話になったな。」

 

あの時彼がいなければきっと軍をやめていただろうし、オスカーに出会って戦い方を教えてもらえることもなかっただろう。

 

「早く目を覚ましてくれ、お前に話したいことがいっぱいあるんだ。じゃあ、また来るからな。」

 

静かに立ち上がるとシュンは医務室を出ていった。

 

 

 

 

 

「あら、シュン。ちょうどよかったわ、これから作戦会議を行うから呼びに行こうと思ったのよ。」

 

医務室を少し出たところで淡い翠色の髪を揺らしながら走って来るレイと会った。

 

「ありがとう、隊長自ら走って呼びに来るなんて。」

 

「だってケイトに呼びに行かせたら絶対寄り道して帰ってこないもん。」

 

そう言ってふたりして笑いながら作戦会議を開いている部屋へと向かった。

 

知っての通り、シュンはレイの指揮する一番隊に所属となった。

 

隊員数はどちらかといえば少ない方でシュンを含め20人前後。

オスカー曰く少数精鋭の部隊ということである。

 

そんな一番隊に配属されたシュンは早速任務についていた。

 

「シュン、適当に座って。」

 

部屋に入るなりレイにそう促され近くにあった椅子に座る。

 

「みんなお待たせ、全員揃ってるわね。」

 

レイは部屋の中をぐるりと見渡し頷く。

 

「それじゃヘルザ村奪還作戦についての作戦会議を開始します。作戦名は『クレイモア』外部通信はもとより内部通信にもこの作戦コードを使って。」

 

レイはそう言いながら何や紙を配りだす。

 

「今配っている紙は今回のクレイモアの個人コードよ。作戦中はこの識別コードで連絡をとりあって。ちなみに私は『ホークアイ』各自仲間と自分の名前は把握しておいてね。」

 

一番後ろに座っていたシュンのところにもやっと紙が回ってきた。

 

ーーーええと俺のはっと………あった。

 

そこにはシュンの名前もしっかりと入っており、『フェイ』と書かれていた。

 

すぐ横にはケイトの名前も書いてあり、彼には「ラプター」という識別コードが付いていた。

 

 

「作戦概要を説明するわね。一番の目的は村内からのディガルドの排除、および村民の保護よ。作戦を実行するにあたって行うことは3つ。1つは村民が集められている施設の特定、これについては村民が集められていると思われるいくつかの施設をアサルトシーカーによって偵察、および特定を行なってもらう。2つ目はディガルドが占拠している大型施設の制圧。これについては副隊長のケイトから話があるわ。最後の3つ目はディガルドの援軍の撃退と村民の保護。村民の保護はグスタフによって行う。今確認できているだけでも村民は800人、おそらく保護には2体のグスタフを使っても少なくとも1時間はかかると考えられるわ。その間、おそらく近くの駐屯地よりやってくる援軍を村から20キロ以上のところで食い止めておいてほしいの。これには一番隊に加え、副団長の二番隊、団長の三番隊にも加わってもらう予定よ。ここまでで何か質問ある??」

 

レイは一気に話きり、隊士の顔を見る。

 

シュンはなんだか共和国に帰ったような気分になっていた。

 

こんなこと言えはしないが、所詮はレジスタンスに過ぎないと思っていたのだ。

作戦とは言っても名ばかりのものであってもないようなものなんかじゃないのかとタカを括っていたのである。

 

「思ってたのよりすげぇや。」

 

普段から前線に出ていた経験が少ないシュンは、予想外な本格的な作戦に少し興奮していた。

 

 

「質問はなさそうね。それじゃ次は振り分けは……………」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、あっつ………。」

 

自分1人だけ異様な熱気に包まれた作戦とは会議を終え、部屋を出たシュンは額の汗を手の甲で拭う。

 

よく見れば他の隊士たちは意外と涼しい顔をして出てくる。

 

やっぱり経験がものを言うのかなぁと思ってしまう。

 

彼を見るまでは。

 

「いやぁ、あっちぃなぁ!!」

 

汗だくで出てきたのはもちろんケイトである。

 

「ケイトなんでそんなに汗かいてんの。」

 

シュンは苦笑いしながらそう言った。

 

「いやぁ、あの熱気には耐えられねぇよ。それにしても最初の作戦からシュンと組めるなんて嬉しいよ。」

 

ワシワシとタオルで頭を拭きながら子供みたいに無邪気に笑う。

 

「俺とケイトと一緒で心強いよ。実戦経験が少ないからちょっと心配でさ。」

 

軍人としては恥ずかしいことこの上ないが、これも自分の責任だ。

やはり経験不足というのは痛い。

 

「大丈夫だシュン。お前のことは俺が絶対に守ってやるからよ。」

 

「え、モルガでライガーを守るって?」

 

思わず吹出してしまった。

いくらケイトのモルガがあのような強さでも守るとなると話は変わってくる。

 

「うるさいなぁ!モルガだってお前ぐらいなら守れるっつうんだ。」

 

ケイトも笑いながら反論してくる。

 

同じ部隊になったからかわからないが、なんだか距離が近くなった気がする。

 

「まあ、作戦は明日からだ、今日はゆっくり休んどけよ。」

 

そうして2人は別れて自室への向かった。

 

 

シュンがもらった部屋はちょっとベッドが置いてあるので少し手狭だが、十分生活はできる広さであった。

 

「ふぅ。」

 

羽織っていた上着を脱いでベットに放り投げると、自分もベットに倒れこんだ。

 

そうして手に持っていた作戦の詳細が書かれた紙を見つめる。

やはり一回で作戦が頭に入ってこなかった。

 

入隊後初の実戦で失敗はしたくない。

そんな思いで彼はその紙を見ていたのである。

 

 

作戦の概要はこうだ。

 

レイが言っていた村人達の収容施設が特定できたら、村から10キロの位置に配置しておいたガンスナイパー隊による精密射撃によって占領されている村役場、火の見櫓、広場の三箇所を攻撃。さらにはケイト指揮するコマンドゾイド部隊は村の中へと侵入、残党を殲滅させる。なおその際、村民の収容施設が近くにある場合には上空のレイから連絡が入り作戦を変更する。

村内からディガルドを排除でき次第、輸送用のグスタフ2体を村に送り村民を安全な場所へと避難させる。

ここまでシュンの出番はない。

あるとすれば非常事態のみだ。

 

肝心なシュンの役割はレイが先ほど説明していたようにこの先だった。

 

グスタフでの輸送中におそらくやってくるだろうディガルドの援軍を村から離れたところで食い止める。

この作戦の中でも要の作戦である。

 

というのも、ヘルザ村の守りは昨日から手薄になっており最新の偵察報告ではバイオラプターが7機だという。

 

数は誤差があるだろう。

だが手薄になったというのはそういうことではない。

 

バイオメガラプトルの存在である。

 

シュンは一度も対峙したことはないが、先日ディーハルトを襲っていたやつだ。

 

大きさはバイオラプターの2倍以上、性能に至っては3倍とも聞いた。

前にオスカーが言っていたように爆炎の希少鉱石(イグニスストーン)の熱では破壊できず、メタルziの攻撃のみしか効かない大型バイオゾイドだ。

 

数日前にはおそらく部隊長であろうバイオメガラプトルが目撃されており、近くの駐屯地に待機しているのではないかと言われているのだ。

 

もしそれが事実であれば戦えるのはメタルziのコーティングが施された武器を持つゾイドのみ。

 

すなわちオスカーのブレードライガー、シュンのライガーゼロのみとなる。

 

そのバイオメガラプトルを食い止めるのがシュンの役目だった。

 

 

「結構大役だよなぁ………。」

 

 

もしも突破されて村への侵攻を許してしまえば輸送部隊が襲われ村民に甚大な被害が出る。

それだけは避けなければならない。

 

だが不安もある。

 

しかしそれを考えれば現実に起きそうな気がしたシュンは自分の奥底にねじ込んだ。

 

「ライガーに会ってくるか。」

 

シュンは上着を羽織らずにタンクトップのまま部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

「では、これよりオペレーションクレイモアを発令する。いいか、最優先事項は村民の保護だ。しかしそれと同じぐらいに俺は隊士全員の帰還を望んでいる。」

 

 

昨日の同じぐらい、この日も晴天だった。

 

オスカーのこの宣言により、ついに作戦は開始となった。

 

アジトの入り口からは一番隊に所属しているゾイドが次々と出撃していく。

 

その中にはもちろんシュンの姿もあった。

 

 

部隊編成は

ライガーゼロ

モルガキャノリーロクロウSP

モルガキャノリー2機

ガンスナイパー5機

プテラス

アサルトシーカー5機

マキシムホーン3機

である。

 

このうちコマンドゾイドのみ燃料の問題からグスタフでの輸送となっていた。

コマンドゾイドの輸送を行ったグスタフがそのまま村民保護に展開するという算段である。

 

 

「こちらホークアイ。ナイトに告ぐ、まもなく目標地点、展開を許可する。」

 

隊長のレイはそういった。

 

ナイトとは最初の任務に当たる部隊、すなわち偵察隊のことだ。

 

「了解。これよりナイト各士全機発進します。」

 

グスタフの側面甲板が開くとそこからアサルトシーカーが次々と発進していった。

 

「ホークアイより各士へ。ビショップは村より半径10キロのところで待機、ルークは村より西へ7キロの岩陰に待機。ナイトの報告にが入り次第作戦を展開せよ。」

 

 

「こちらビショップ隊、ラプター了解。」

 

「こちらルーク隊、フェイ了解しました。」

 

この先は各隊に別れて指定の場所で待機をする。

 

シュンは1人隊列を離れ岩陰へと向かう。

寂しくはなるが、一番隊のルークはシュンしかいない。

 

岩陰にライガーを止める。

 

「ここなら見つからなさそうだな。」

 

四方は岩に囲まれており、ぱっと見外から見えない。

ただ上からは丸見えだが。

 

「まあ、その可能性は低いだろ………。」

 

息を吐きシートベルトを外して身体を伸ばす。

作戦が第三段階に入るまではシュンの出番はない。

緊張感は捨てずに少しリラックスすることにした。

 

『油断は大敵なのですよ。まだ村にメガラプトルがいないと決まったわけではないのですよ。』

 

「わかってるよ、すぐ出撃できる準備はしてるさ。」

 

だが内心はものすごく緊張していた。

 

戦うのだ、あのディガルドと。

戦争をすると言っても過言ではない。

 

果たして戦えるのだろうか。

 

本当に自分のしていることは正しいのだろうか。

 

彼の中でまだモヤは晴れずにいた。

 

「光の精霊。」

 

『どうしたのですか、急に。』

 

「俺、まだどこかで迷ってることがあると思う。だから俺を最後まで導いてくれな。」

 

カノンは言っていた。

俺を護り、導くために彼女がいると。

 

『もちろんじゃないですか。』

 

光の精霊はなんだか照れ臭そうに言った。

 

光の精霊とそんな会話をしているとレイから再び通信が入る。

 

「こちらホークアイより各士へナイト2機がバイオラプターと交戦。なお、村民の収容施設は村役場と特定。」

 

その通信を聞いて慌ててシートベルトをしめる。

 

「作戦プランを変更します。ビショップは速やかに村役場以外の施設にいるバイオラプターに狙撃、ナイトのマキシムホーン各機とビショップのラプターは村内へ、アサルトシーカー隊の援護及び村内の制圧を。」

 

 

「こちらラプター、了解!メルカ、パーキンス、ミラ行くぞ!」

 

グスタフの側面甲板が開きケイトのモルガキャノリーとマキシムホーンが出撃して行く。

 

それと同時にガンスナイパーが狙撃を開始する。

 

リラックスしようと思った矢先にこれではなかなかそうもいかない。

そうだ、これが実戦なんだと改めて認識するのであった。

 

「ビショップ隊ガンナー1よりホークアイへ。視認できる全てのバイオラプターの殲滅を確認。」

 

「了解、ガンナー1からガンナー5はその位置に待機。援護要請があったなら速やかに援護できる準備を。」

 

「了解。」

 

そんな通信をよそに村の外れの方から火の手が上がる。

 

村に入ったケイトが交戦しているのだろうか。

 

「こちらラプター。あいつら厄介な事に村の中に何体もバイオラプターを隠していやがった。こいつらは俺がやる。ホークアイ指示を。」

 

通信越しに緊迫感が伝わってくる。

 

「こちらホークアイ。残存している敵の数は3体。ラプターにそちらを任せて残りは村役場の守りを固めて。回収班は速やかに村役場へと移動し、村民の確保を。」

 

「アサルト1からアサルト5了解。なお、アサルト3は被弾により戦闘不能。」

 

「こちらアンビュラー1、アンビュラー2と共に回収地点へ向かいます。」

 

そうしてグスタフも村へと向かっていった。

 

とりあえず作戦は終盤に入った。

 

レーダーや無線に耳を傾けるが今の所はメガラプトルが出たという情報はない。

 

と安心しきった時だった。

 

 

 

 

 

「こちらガンナー1、何者かにぐぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

目視はできないが火の手が上がっているのは見えた。

 

「嘘でしょ………。こちらホークアイ、バイオメガラプトルを確認、ルークは迎撃に向かってください。」

 

レイはシュンに向かってそう無線をとばす。

 

しかしそれだけでは終わらない。

 

「村内より新たな目標群を確認、数は7。収容施設に向かって進行中、ビショップは速やかに迎撃を。なお、ガンナー各士はその場から退避、態勢を立て直してください。」

 

火柱が村の方から上がっているのが見えた。

 

「いくぞ、光の精霊!!」

 

ライガーゼロを岩陰から発進させる。

 

岩陰から飛び出したシュンはその光景を見て愕然とした。

 

「嘘だろ、なんでこんなに早く援軍が………。」

 

それは村に向かって押し寄せてくる、バイオメガラプトルを先頭としたディガルドの援軍だった。

 

その数は30はくだらない。

 

まだ作戦は第ニ段階すら達成していない。

 

前述した通り、ここまではシュンの出番はなかったはずだった。

 

「フェイ、あと少しでラプターが収容施設の制圧を終える。今迎撃に出れるのは近くで待機してるあなただけよ。お願い、みんなを守って。」

 

上空のレイから連絡が入った。

 

シュンが作戦の第三段階で出撃をする前に出撃するのいう非常事態。

 

それは。

 

ディガルドが予想より早く援軍を送ってくるということだ。

 

「わかりました。俺がみんなを守ります。」

 

「二番隊と三番隊には連絡してあるから。」

 

短いやり取りをするとレイのプテラスはディガルドの援軍に向かって飛ぶ。

 

「こちらホークアイ。北東より新たな目標群接近、数40。うち一機はバイオメガラプトルと断定。」

 

シュンはライガーゼロを走らせ立ちふさがるようにして止まった。

 

「あれだけの数を1人でか………。」

 

弱気な発言をしているシュンをよそにライガーゼロはやる気十分だった。

その大群の前に立ち、シュンのライガーゼロは雄叫びをあげる。

 

『どうやらライガーはやる気みたいなのですよ。』

 

「みたいだな。ならやるしかねぇ!!」

 

スロットル全開で走り出す。

 

「フェイ!こちらガンナー、周りのバイオラプターは俺たちがなんとかする、お前はメガラプトルを!」

 

後ろではガンスナイパーとモルガキャノリーによる援護射撃が行われていた。

走っているシュンの横を144ミリ砲が掠めバイオラプターに直撃する。

その瞬間先頭のバイオメガラプトルは一度停止し、後ろに下がった。

 

「くそ、先にバイオラプターをやらなきゃいけないのか。」

 

小さくそう呟くと目の前のバイオラプターに狙いを定める。

 

『シュン、着地と同時に前転なのですよ。』

 

「前転!?」

 

そんなことできるなんて聞いたことがない。

 

『頭の中で思うだけでいいのです。あとはライガーがなんとかしてくれるのですよ。』

 

戦闘中にそんなことは考えてられないと思いながらも光の精霊の指示に従う。

 

「喰らえ!」

 

バイオラプターに肉薄し、爪で引き裂く。

 

そして。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

思い描いた通りにライガーが前転した。

 

『そうそう、その調子なのですよ。』

 

光の精霊は嬉しそうにそういう。

 

そのまま近くにいたやつに襲いかかり首を刎ねる。

 

「まだまだぁぁぁ!!」

 

屍を飛び越え右爪を振り上げる。

 

「ストライクレーザークロォォォォォ!!」

 

その一撃で右半身をえぐり取った。

 

崩れ落ちるバイオラプター。

 

「ここから先へは行かせない。」

 

ここにやってきた初日、オスカーのブレードライガーがやったようにバイオラプターを睨みつける。

 

戦うのは嫌だ。

だがそんなことは言ってはいられない。

 

まだモヤモヤするものがたくさんあるけれど、それでも一度は自分で決めた道だ。

 

「戦って戦って戦って戦って必ず見つけてやる、俺が本当に戦う意味を!!」

 

ライガーと共に雄叫びをあげる。

 

その咆哮に答えるかのように、後方からゆっくりと大型のバイオゾイドがやってくる。

 

バイオメガラプトルだ。

 

「見ない大型ゾイドだな。新入りか?」

 

突然の通信だった。

 

「え………。」

 

「なんだ、まさか人が乗っていることに驚いてるのか?」

 

バイオゾイドは無人機だとずっと思っていた。

 

倒した後に残るのはは骨のような残骸のみ、コックピットのかけらすら残ったのを見たことがない。

 

「まあ、これから死ぬやつにはそんなことは知る必要もないか。」

 

バイオメガラプトルのパイロットはそういうと、脚部のブースターを点火させ一気に間合いを詰めてくる。

 

「人が乗っていながら………あんな残虐な真似を………。」

 

たった一体のバイオラプターにやられた仲間は全てコックピットを攻撃されていた。

 

無人機が的確に相手を仕留めるためにやったことだ。

 

どこかで彼は都合よく解釈していたのかもしれない。

 

「お前を倒してやる。」

 

紙一重でバイオメガラプトルの攻撃をかわす。

 

「な、なに!?」

 

驚くバイオメガラプトルのパイロット。

 

しかしライガーゼロも無傷というわけではなく、左肩の装甲をかすめてしまった。

 

「次はこっちの番だな。行くぞライガー、光の精霊!」

 

ライガーを走らせ飛び上がる。

 

メタルziのコーティングが太陽光を反射し、煌めいた。

 

「遅い!!」

 

しかしバイオラプターの時のようにはいかず空振りに終わる。

 

そしてその隙を狙ったかのようにバイオメガラプトルは尻尾を鞭のように振り回しシュンのライガーゼロを捉えた。

 

「ぐっ………!」

 

体勢を崩したシュンに避けられるわけもなく、派手に吹っ飛ばされ岩に叩きつけられる。

 

「だ、大丈夫かライガー。」

 

激しい一撃だった。

ダメージがないとは言い難い。

 

「さすがは大型ゾイド。一撃ではくたばらないか。」

 

バイオメガラプトルは首をもたげて何かを吐き出そうとし始める。

 

真っ先に頭に浮かんだのは荷電粒子砲。

 

だが、何かが違う。

 

「だが、これで終わりだぁ!!!!」

 

口腔から打ち出されたのはバイオラプターのものよりも大きな火球だった。

もちろん速さも段違いである。

 

「ぐっ!」

 

慌てて避けるが完全にさけきれずにまたも吹き飛ばされる。

 

『シュン、しっかりするのですよ!!』

 

「わかってるって………。」

 

しかしその瞬間、シュンは絶望的な言葉を耳にする。

 

その絶望は昨日の晩にシュンが懸念していた不安ようそだった。

 

「こちらホークアイ、大変なことが起きたわ。北東より新たに3機のバイオメガラプトルを確認したわ。」

 

新たにバイオメガラプトルが3機。

 

そう、シュンが前日の夜に懸念した不安、それは。

 

 

バイオメガラプトルが1体ではなく複数体だったら。

 

 

「嘘だろ………。」

 

予想外に援軍が早すぎたせいで、オスカーは間に合わないだろう。

 

残っているメタルziのコーティング武器を持つのはシュンのライガーゼロのみ。

 

1機でこのザマだ、あと3機など相手にできるわけもない。

 

「くそったれが………。」

 

目の前で火球を吐こうとしているバイオメガラプトルに向かってそう呟く。

この距離なら避けられなくはないが、おそらく足はやられてしまうだろう。

 

それでも一か八か、飛びかかってやる。

 

そう思っていた時だった。

 

 

 

ザンッ……………。

 

 

一陣の風のような黒い影が通り過ぎ、砂を巻き上げた。

 

シュンはとっさにその影を追う。

 

だが、それよりも先に目の前の光景を疑った。

 

「な、なんでダメージを………。」

 

バイオメガラプトルの首はまるで刃物で切られたように根元から綺麗に落ちていた。

 

明らかに斬撃によるダメージだ。

 

だが、会敵からわずか5分足らず。

待機場所から緊急発進したオスカーが間に合うはずない。

 

「大丈夫か、新入り。」

 

その声は上空より。

バイオメガラプトルの首を切り落とした主からだった。

 

上空を見ると、そこには青い空には似合わないサンドイエローの何かが飛んでいた。

 

「あれは………。」

 

漆黒の翼を広げ、空戦ゾイドでは珍しい四つ脚を持ったそいつは中央大陸戦争時代、ゼネバス帝国軍が開発したドラゴン型戦闘機ゾイド。

 

可変翼による高い機動性とVTOL機能を持ち、レーザーブレードとランディングギアを兼ねるストライククローにより高空で優れた格闘能力を持つ。反面、パイロットに高い操縦技量を要求し、基本装備に火器を持たない純粋な格闘戦闘機ゾイド。

 

名を、レドラーという。

 

「あれはレドラー………。」

 

上空のレドラーを見ながらシュンは思う。

 

なぜレドラーが大型バイオゾイドを倒せたのだろうかと。

 

だが実はシュンは大きな勘違いをしていた。

 

作戦の第三段階通称「ルーク」に配属されたのは一番隊ではシュンだけだった。

しかしこの作戦にはバッカニアの二番隊とオスカーの三番隊も加わっている。

 

シュンは単なる援護だと思っていた。

 

「三番隊のヴァノッサだ。おっと作戦中はファルコンと呼ばなきゃいけなかったんだね。遅くなったけどもう安心しな、本隊の援護がもうくるから。」

 

そう、解放戦団内で最も主力の部隊は三番隊。

その事実はオスカーに聞かされていた。

 

「え、でもいくら援護がきてもメタルziのコーティング武器がないと………。」

 

「まったく、団長全然説明してないな………。大丈夫、安心して。」

 

ヴァノッサの乗ったレドラーは空中で翻すとバイオラプターの群れに向かって飛んだ。

 

よく見ると翼にはブースターキャノンが付いている。

 

「よし、今だ。」

 

バイオラプターの攻撃を避けながらヴァノッサのレドラーは身体を反転させ背面飛行を行う。

 

そして群れに飛び込む刹那、ブースターを噴射しレーザーブレードを展開。まばゆい光を放つ。

 

「もしかして………メタルziのコーティング………。」

 

ヴァノッサのレドラーはバイオラプター数体を切り倒し上空へ離脱した。

 

「主力である三番隊のゾイドにはすべてメタルziのコーティング武器が装備されてるんだよ。」

 

「はは、ははははは………。」

 

絶句とはまさにこのことだ。

 

「さあ、新入り、次行くぞ。」

 

「うん、その前に助けてくれてありがと。」

 

そうして2人は新たな目標群に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







初めて解放戦団として実戦に参加したシュン。
作戦はディガルドの予想外の反撃により難航していたが、ついにこちらにも援軍が。

だが、なかなか援軍は到着しない。

「やられた。」というオスカーの無線。

このままでは解放戦団も村民も全滅してしまう。

絶体絶命の刹那、謎の飛翔体がライガーゼロに吸い込まれるようにして入っていった。

雄叫びをあげるライガーゼロ。

この状況を打破できるのか。

次回 ZOIDS EarTravelers

第9話 「雄叫び」

それは反撃の合図。



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第9話 雄叫び

「はぁはぁはぁ………。」

 

自分が呼吸している、そう気がついた時には息は上がっていた。

 

しかも呼吸の仕方がイマイチわからない。

 

『シュン落ち着くのです。援軍も来てくれてます、焦らないで欲しいのですよ。』

 

まるでなだめるようにそう光の精霊は言う。

 

大きく深く深呼吸をして呼吸を整える。

 

まだバイオメガラプトルが3体もいるのだ。

へばってる場合ではない。

 

「もう大丈夫だ。いくよ、光の精霊。」

 

『はい、焦らずなのですよ。』

 

バイオメガラプトルは3体で編成を組んでいる。うまく戦わなければ前と同じように囲まれてあっという間にやられてしまうだろう。

 

援軍を待つという選択肢があるがいつ来るかがわからない。

 

その間に1体でも村に行ってしまったら作戦は失敗だ。

 

やはりヴァノッサと2人でなんとかするしかない。

 

「フェイ、僕が上空から援護する。君は隙を見て各個撃破を。知ってると思うけどバイオラプターとは段違いの強さだ、囲まれないようにだけ気をつけて。」

 

通信が入るのシュンの真上をレドラーが通過する。

 

「まずは一番右だけ引き離す。着弾の土埃に紛れて攻撃するんだ。」

 

「わかった。」

 

ヴァノッサは一度高空へと上がると身を翻して急降下する。

 

あれだけの高機動、レドラーといえど難しいはず。

 

「喰らえ!!」

 

両翼のブースターキャノンが火を噴く。

 

ヘルアーマーに射撃武装は無意味だ。

例えそれが高熱を帯びた弾丸だとしてもバイオメガラプトルには無意味である。

 

だが、着弾と同時に土埃を巻き上げバイオメガラプトル達の視界を防ぐ為には十分すぎるほどの威力だった。

 

ヴァノッサの狙い通り弾丸は地面に着弾し土埃をあげる。

 

『今なのですよ!』

 

その一瞬を彼も見逃してはいない。

 

「いくぞ、ライガー、光の精霊!!」

 

ライガーゼロの頬のファンが開き加熱する。

 

各稼動部にも熱が供給されそのまばゆい光はついに爪先に到達した。

 

「『ストライクレーザークロォォォォ!』」

 

突っ込んだ土埃の先、見えた1体のバイオメガラプトルに爪先をねじ込んだ。

 

その一撃でいとも簡単にヘルアーマーを引き裂いた。

 

その瞬間銀色の粒子が辺りに煌めいた。

 

「よし、後2体。」

 

2体のバイオメガラプトルはシュンのライガーゼロを睨みつける。

 

しかしシュンもその視線を外したりはしない。

 

『シュン、イオンブースター全開で左に突っ込むのです。この距離とライガーの加速なら向こうの反応速度を超えれるのですよ。』

 

確証はないが、このまま睨んだままでも奴らを倒せはしない。

 

『大丈夫なのですよ、私とライガーを信じるのです。』

 

首にかけた石がほんのりと赤くなる。

 

「わかった、信じてるぜ、相棒。」

 

呼吸を整えるスロットルを目一杯引く。

 

ダウンフォーススタビライザーが展開しイオンブースターが唸りを上げる。

 

バイオメガラプトルがその攻撃に反応したのはライガーゼロが必殺の間合いに入った時だった。

 

いける!

 

そう確信した。

 

首筋にメタルziでコーティングされた爪がめり込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『え…………。』」

 

 

聞こえてきた音は鈍い金属音だった。

 

 

ヘルアーマーは傷がついただけで切断までは至らない。

 

「な、なんで切断できない!?」

 

その瞬間バイオメガラプトルからの反撃がやってくる。

 

「がはっ………。」

 

今度は直撃である。

 

『各部システムに異常発生なのですよ。右後ろ足に特にダメージが集中しているのです、おそらくつぎダメージを受けたら完全に機能しなくなるのですよ。』

 

現に目の前のモニターからも後ろ足からのダメージを伝えている。

 

「でもオスカーたちが来るまではなんとか耐えないと………。」

 

今ここでシュンが戦えなければバイオメガラプトル2体を村へ向かわせてしまうことになる。

 

「それだけはなんとか避けないと………。」

 

『シュン、攻撃をすることは捨てて、援護が来るまでの時間稼ぎに徹するのですよ。ライガーの機動力と根性を信じるのです。』

 

「わかった。」

 

目を閉じて呼吸を整える。

 

今日幾度となく行ったその動作を同じように繰り返した。

 

 

「行こう、相棒。」

 

ライガーゼロは走り出した。

 

「フェイです、バイオメガラプトルへの二度目の攻撃が失敗しました。原因はわかりませんがライガーの損傷度から考えて単独での攻撃は困難です。なので二番隊、三番隊を待っての反撃としたいとおもいます。」

 

シュンは上空のヴァノッサにそう伝える。

 

「了解。だけどレドラーのレッゲルがあとどれぐらい持つかわからない。結構無理な加速をしちゃったからね。」

 

「わかりました、その時は俺1人で。」

 

バイオメガラプトルは向かって来るライガーゼロに対して火球を連続して吐き出す。

 

『シュン、来るのですよ!』

 

「わかってる!」

 

左右に避け、肉薄したところで今度は上への飛び上がりバイオメガラプトルを飛び越える。

 

だが1体は撹乱できるが瞬時にもう1体に捕捉されてしまう。

 

「させるか!!!」

 

そこへ急降下してきたレドラーのブースターキャノンが直撃する。

 

至近距離でのブースターキャノンによってバイオメガラプトルは炎に包まれるが無論ダメージはない。

 

「ちょっとぐらいダメージ削れたらいいんだけど、そうはいかないな。」

 

身体を翻して高空へ離脱する。

 

 

「まだか、オスカー達の援軍は。」

 

ぼそりと呟いた時についにオスカー達からの通信が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらブラックウィドウ、作戦ポイントに進行中にディガルドの部隊と接触。現在交戦中、そちらへの援護はおそらく不可能。繰り返す、現在交戦中、そちらへの援護はおそらく不可能。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラックウィドウ、すなわちオスカーからの通信は「待たせた」でも「もう大丈夫だぞ」でもなく援護には向かえないというものだった。

 

 

 

 

「嘘だろ、援護が来ないなんて………。」

 

絶望的である。

 

「フェイ、今の無線聞いたか。どうやら2人でなんとかしないといけないみたいだね。」

 

そうだ。やらなければならない。

 

自らを奮い立たせるために一心にそう考える。

 

するともう一度通信が入った。

 

「こちらアサルト1、収容施設の制圧を完了。これより村民の救出を開始します。なお、ラプターが負傷。救護班も随伴させてください。」

 

 

 

「嘘だろ………ケイトが……。」

 

負傷ということはモルガキャノリーがやられたということだろうか。

 

 

「ホークアイ、こちらファルコン。撤収準備完了までのおおよその時間は?」

 

「少なくとも45分はかかるわ。」

 

45分、かなり厳しい時間だ。

 

まず上空のレドラーのレッゲルがもたないだろう。

 

となると必然的に2対1での戦闘になる。

逃げているだけではきつい。

 

かと言って何か決定打があるわけではない。

 

だが、戦わなければ村で救出作業をしているの仲間や村民にまで危害がおよぶ。

 

何としてもそれだけは避けなきゃいけない。

 

 

「フェイです。もう一度バイオメガラプトルに攻撃を仕掛けます。援護してもらえますか。」

 

 

「わかった。君がダメだったら僕もレーザーブレードで突っ込む。」

 

前脚を軸にして急速反転し再びバイオメガラプトルと向かい合う。

 

「いけるか、光の精霊。」

 

『ちょっと厳しい距離ですがいけない距離ではないのです。いくのですよ。』

 

光の精霊のその声を聞いてシュンはスロットルを引きしぼりイオンブースターを唸らせる。

 

しかしどうしても停止状態からのスタートだとスピードが乗らない。

 

ケイトのロケットブースターとはわけが違うのだ。

 

そのせいもあってかこちらの間合いに入る前にバイオメガラプトルが反応する。

 

「まずい!!」

 

『大丈夫なのです、信じるのです!!』

 

今さら止まるなどできない。

 

「その腕ごと引き裂いてやる!!!!」

 

迎撃に出た腕に向かって飛び込む。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

お互いがぶつかり合う。

 

 

ヘルアーマーか、メタルziのコーティングか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ……………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またも勝ったのはヘルアーマーだった。

 

 

 

 

「なんで!?」

 

「フェイ、どけ!」

 

困惑しているシュンにヴァノッサから指示が飛ぶ。

 

後ろを見ると超低空飛行のレドラーが真っ直ぐ突っ込んできていた。

 

慌てて横に飛んで回避する。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

レドラーの気迫にバイオメガラプトルは一瞬たじろいだ。

 

その瞬間、レーザーブレードがバイオメガラプトルにめり込む。

 

 

 

だが。

 

 

 

レドラーが通過した後、そこに立っていたのは、身体にレーザーブレードがめり込んだままのバイオメガラプトルだった。

 

 

「まさか、レーザーブレードが折れたのか………。」

 

 

腕は切り落とされているが、どうやら致命傷とまではいかないようでこちらに向かって雄叫びをあげているバイオメガラプトル。

 

 

手は尽きてしまった。

 

 

「くそ、もうレドラーのレッゲルが…。」

 

「あとは俺がなんとかします。レッゲルが切れる前にアジトに戻ってください。」

 

「でも、それじゃ君が………。」

 

「大丈夫です。」

 

「わかった。レッゲルを補給したら必ず戻ってくる。」

 

ヴァノッサはそういうとアジトの方へと向かっていった。

 

 

『2対1なのですね。おそらく真っ向から攻撃を仕掛けたところで弾き返されてしまうのがオチなのです。』

 

光の精霊は淡々とそう話す。

 

「でも真っ向からじゃなきゃどうすれば。」

 

『奴を横倒しにするのです。私の予想が正しければ脇腹部分には関節の関係からヘルアーマーが施されてない可能性があるのですよ。』

 

「そうか、ヘルアーマーじゃなければ。」

 

『はい、十分可能性があるのですよ。正しあくまで推測の域を出ないのですが………。』

 

珍しく光の精霊の声がワントーン低くなる。

 

「大丈夫だ、俺は1%でも確率があるなら俺はその可能性を信じる。」

 

今はそれに賭けるしかない。

 

ライガーゼロはゆっくりと歩み始め、そして走り出した。

 

バイオメガラプトルとの距離は遠くはない。

 

おそらく反応はされるだろうが飛びかかって横倒しにするぐらいならできる。

 

バイオメガラプトルとの距離がだいぶ縮まった頃、シュンは1つの疑問を抱く。

 

なぜ前にいるバイオメガラプトルは走ってくるライガーゼロに対して微動だにしないのか。

 

「くそ、集中しろ!」

 

雑念を振り払い、目の前のことに集中する。

 

しかしその集中こそが、この時ばかりは仇となった。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

全体重を乗せてバイオメガラプトルに飛びかかる。

 

二足歩行のバイオメガラプトルにはさすがにその衝撃に耐え切れなかったようで、横倒しとなった。

 

「よしっ!」

 

しかしその時気がついた。

 

「え……………。」

 

横倒しにさせたバイオメガラプトルの先には、口を大きく開けてその炎を吐き出さんとばかりに待機しているもう1体のバイオメガラプトルがいたことを。

 

『後退するのですよ!!!!』

 

ライガーゼロとシュンが反応する前に目の前が真っ赤になる。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

直撃だ。

 

派手に吹き飛ばされるだけならいいが、今回はコックピットを直撃した。

 

ダメージはかなりのものだ。

 

だが不幸中の幸いなのかライガーゼロは元ガイロス帝国のゾイド、コックピットの頑丈さとパイロットの生存率は共和国のものとは比べものにならない。

 

だが、それでも。

 

「ぐっ……………。」

 

 

声にならない声が出る。

 

あばらの二、三本は折れただろうか。

 

まんまと奴らの術中にはまってしまった。

 

おそらく前のやつは囮で倒れたところを後ろのやつが狙い撃つ算段だったのだろう。

 

『シュン、大丈夫なのですか!?』

 

大丈夫と言ったら嘘になるが、アドレナリンというものが出てるみたいだ。動けないことはない。

 

『喋らなくていいのですよ。シュンの心は読めてるのです。』

 

だが立ち上がって戦わなければならない。

 

しかしライガーゼロへのダメージは大きかったみたいでピクリとも動かない。

 

「おい、ライガー。頼むよ………動いてくれよ……。」

 

 

視界の先では2体のバイオメガラプトルが村に向かって行くのが見えた。

 

ダメだ、今バイオメガラプトルが村へ行ったら全滅してしまう。

 

仲間も、村民も、そして負傷しているケイトも。

 

 

仲間を失いたくない。

 

「頼む、動いてくれ、ライガー!」

 

前面のモニター盤をおもいっきり叩く。

 

それでも微動だにしない。

 

その間にもバイオメガラプトルはどんどん村へと近づいていく。

 

もうダメかもしれない、そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

『シュン、彼女の力を信じなさい。彼女は貴方に力を与え、貴方を守護する者。』

 

 

 

 

 

 

 

ふと聞こえてきたのはカノンの声だった。

 

 

「お前を信じろってことなんだな。」

 

胸元の光の精霊を静かに握りしめる。

 

『はいなのですよ。』

 

「わかった、頼むぞ光の精霊。」

 

『シュンの想いを私にぶつけるのですよ。その想いがきっとライガーに力を与えるのです。』

 

想い。

 

そんなもの1つしかない。

 

「みんなを護りたいんだ。頼む、俺に力を貸してくれ!!!」

 

叫ぶ、声の限り。

 

「行くぞ、相棒!!!」

 

赤い光がコックピットに満ちる。

 

『力を感じるのです。ライガー、行くのですよ。』

 

その瞬間、同じような赤い閃光が虚空の彼方から一直線にライガーゼロに向かって伸び、吸い込まれて行った。

 

 

 

 

【さぁイグニス。その力を解き放て。】

 

 

 

 

 

ライガーゼロの周りを紅蓮の光が包み込む。

 

関節周りが青白く光を放ち唸りを上げる。

 

ゾイドコアが活性化している。

 

少なくともシュンにはそう感じた。

 

 

「グォォォォォォォォォォン!!!!」

 

ライガーゼロは雄叫びをあげた。

 

「まだ、間に合う!!」

 

スロットルを引きしぼり走り出す。

 

差はかなりのあるが追いつけない距離ではない。

 

「もっと、もっと速く!!」

 

そのシュンの声に応えるかのように、ライガーゼロは加速する。

 

「光の精霊ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

紅く、まるで燃えているような彼の愛機はスピードを殺さないまま後ろのバイオメガラプトルに食らいつく。

 

後ろからの不意打ちだったからかあっけなく倒れこむバイオメガラプトル。

 

2人ははこの隙を逃さない。

 

「「ストライクレーザークロォォォ!!」」

 

胸部の水晶のような赤い発光体に向け必殺の一撃を叩き込む。

 

そこが弱点などと聞いたことは一度もない。

しかし彼の直感はそこが弱点なんだと感じていた。

 

 

「ガァァァァァァ………。」

 

 

さっきまでの防御力が嘘のように一瞬で絶命するバイオメガラプトル。

 

「シュン、前方より攻撃!」

 

光の精霊の声に反応するより速く、その場から跳びのきもう1体のバイオメガラプトルを睨みつける。

 

火球が直撃したバイオメガラプトルは炎上し骨だけの残骸へと姿を変えていく。

 

「くそ、この大陸にも進化(エボルト)するゾイドがいるのか!!」

 

紅蓮の炎を纏う彼のライガーゼロを見て、バイオメガラプトルのパイロットはそう言った。

 

「これはヴァルハラに、国王様に報告せね………。」

 

 

次の一言を最後まで発することなく、百獣の王のその一振りは一撃でバイオメガラプトルにとどめを刺した。

 

 

「はぁはぁはぁ………。や、やったのか………。」

 

 

辺りを見回すとそこにはバイオメガラプトルの残骸が転がっている。

 

「俺の仕事は終わりだな……。」

 

ふぅ、と大きなため息をついた。

 

「光の精霊、ありがとう。お前のおかげでみんなを護れた。」

 

「どういたしましてなのですよ。」

 

若干照れているように聞こえる彼女の声。

 

いつもは頭の中に響くような感じなのに今日はなんだか後ろの方から聞こえてくるような気がした。

 

シュンは振り返った。

 

「お、おい、お前は………誰だ………。」

 

そこには紅葉のような綺麗な色をしたロングヘアの女性がいたずらっぽく笑みを浮かべながら座っていた。

 

女性はゆっくり左手をシュンの口元に持っていくと人差し指を立てて、口元を塞ぐ。

 

「え……………。」

 

その瞬間だった。

 

シュンの意識は徐々に遠のいていってしまった。

 

「私のことを信じてくれてありがとうなのですよ。でも今はまだシュンにはこの姿のことは言えないのですよ。ごめんなさいなのです。その時がきたら必ず………。ねぇ、ミズハ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたとき、そこはライガーゼロのなかでも無く、アジトの簡易ベットの上でもなく、作戦終了に伴い撤収をしているグスタフの中だった。

 

小さな裸電球がいくつかぶら下がっている。

 

意識がまだ朦朧としているらしく、それしかわからない。

 

 

またもシュンは眠りの世界へと飛び込んでいった。

 

 

次に気がついたのは案の定アジトの簡易ベッドの上だった。

 

「ううぅ……いっっ………。」

 

起き上がろうとしたが右の脇腹が痛んだ。

 

そうか、あの時はアドレナリンであまり感じなかったがやはり骨の二、三本は折れてたのかもしれない。

 

しばらく大人しくしてよう。そう思い寝たまま左右を見ると彼も同じようにベッドの上で眠っていた。

 

「ケイト………。」

 

無線で負傷したことは聞いたがどの程度の負傷なのか直接聞いてはいない。

 

「でも、大丈夫そうだな………。」

 

すぐ横でケイトに覆いかぶさるようにして寝息を立てているのはレイだった。

 

ケイトが重体ならレイが横で寝息を立てるなんてないだろう。

 

どのような経緯があるのかわからないが、ケイトはレイを慕ってるし、レイはケイトに絶対の信頼を置いている。

 

最初は恋仲関係なのかと思っていたがどうやらそうではないみたい。

 

「そう言えば………光の精霊は………。」

 

若干朦朧とした意識の中で胸元へと手を移動させる。

 

『私ならここにいるのですよ。』

 

少しだけ鎖骨のあたりが暖かくなる。

彼女はいつもと変わらない場所にいた。

 

『痛みはすぐには取れないのですよ。しばらく休むのです。』

 

その瞬間、またなぜか意識が遠くなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

オペレーションクレイモアは想定外のことが多々起きたが、多くの者達の獅子奮迅の活躍によって無事成功で終わった。

 

戦闘の結果はヘルザ村奪還とという当初の目的は達成できたが、収容施設の付近で戦闘を行なったこと、村に隠れていたバイオラプターなどによる影響は大きく、被害は村民死者8人、重軽傷者17人と村民の3分の1、家屋への被害は13棟とこれも全体の約半数に登った。

戦闘員もシュンやケイトを含めて死者2人、重軽傷者3人。

ケイトのモルガキャノリー、ガンスナイパー、コマンドゾイド2機が大破とかなり厳しい結果となった。

 

しかし、奪還の成功と天空の心臓(ウラノス・ハート)が無事ということから村民は感謝を伝えている。

 

だが、シュンにとっての初めての作戦はなかなか辛い結果となった。

 

 

 

 

 

 







謎の力によりバイオメガラプトルを倒し、作戦を遂行したシュンであったが、謎は深まるまま。

そんな中、整備班のタケルからライガーゼロとメタルziコーティングの相性が良くないと告げられる。

これからの戦闘のことを考えるとそれではまずい。
そう考えたシュン達は最適な加工を行なって貰うために鍛治職人達の街、「ローグ」を目指してまたもアジトを後にしたのであった。

しかしローグに行く近道は一年を通して霧が晴れることがないと言われる霧の谷《ミストバレー》と呼ばれる地域を通過しなければならないという。

その谷は古来から『魔物』が住むと伝えられており………。


次回、ZOIDS EarTravelers

第10話 『魔物の谷』

その地はこの世界の起源《ジェネシス》





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第10話 魔物の谷

 

 

その日は珍しく、地面を強く打ち付けるような雨がまるで滝のようにして降っていた。

 

無論、外に出るものなどは誰もいない。

もちろん彼も例外ではなく。

 

シュンは薄暗い部屋で静かに目を閉じ合掌していた。

目の前には真新しい蝋燭が二本、小さな灯りをともしている。

ヘルザ村奪還作戦の際に命を落とした隊士のものだ。

 

「ごめんなさい……。」

 

思わず口から溢れた言葉。

だが、その謝罪の言葉の意味は自分にもわからない。

ただ、もう少し自分がなにか力になれたのではないか。そう思って仕方ない。

 

 

 

 

奪還作戦から一週間が経ち、シュンの怪我も完治とは言えないが動けるようになるまでは回復していた。

 

「やはりここにいたか。」

 

そう言って部屋に入って来たのはオスカーだった。

オスカーも同じように目を閉じて小さな灯火に向かって手を合わせる。

 

「すまない、俺たちがもっと早く増援に迎えれば………。」

 

ディガルドの援軍に足止めされていたオスカーはそういう。

 

聞いた話によるとヘルザ村奪還作戦は表向きには成功したと言えても彼らからすれば痛いほどの大敗だった。

 

隊士2人、ゾイド4機を失ってしまった。

敵のメガラプトルを4体撃破できたとはいえ、その対価はあまりにも大きい。

 

その差は明確だ。

 

向こうにはゾイドを量産する術があり、こちらにはない。

 

いずれ物量で押し潰されてしまう。

そんな危機感はおそらく誰もが抱いているだろう。

オスカーは作戦終了後にシュンの部屋を訪れこう言った。

「わかったか、これがこの世界の戦争だ。」と。

 

ゾイドを量産し、ヘルアーマーという絶対防御の鎧を纏わせ次々と侵略を進めてくるディガルド。

守るものなどは何もない。

それに対しこちらはゾイドを量産できず、ヘルアーマーという鎧を確実に打ち破る術を持っていない。

なおかつ、一般市民を守りながらの戦闘となれば犠牲者だって出る。

 

この亡くなった隊士の2人も村民を狙って放たれたバイオラプターの火球を直撃して亡くなったと聞いている。

 

村民の話では盾になってくれた。とも言っていた。

 

彼らは身を挺して村民を守ったのである。

 

 

 

 

そしてそれをしたのは彼らだけではなく…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨のせいでいつもよりも薄暗い駐機場にその男はいた。

彼はその薄暗い駐機場の中で見るも無残な姿になった相棒をただ、たって見つめていた。

ゾイドに乗り始めた時からずっと一緒で、幾多の戦いを共にくぐり抜けてきた相棒の最期を看取ってやりたい。

そんな思いがあったのかもしれない。

 

「悪いな相棒。俺が力不足なせいで………。」

 

彼のモルガキャノリーは所々が熱によってひしゃげ、黒く焼き焦げていた。

 

「やっぱり治らないのか。」

 

小さな部屋から出て来たシュンは後ろからケイトにそう尋ねた。

 

「ああ、タケルがそう言った。残念だがあいつが言うならもう無理だ。」

 

ケイトはシュンの方を一切見ずにそう答える。

 

「こいつは十分戦ってくれた。こんな姿にしたのは俺が未熟だったからだ。その証拠に見てみろ、あいつはあんなにボロボロなのに俺はかすり傷1つだけじゃねぇか。」

 

確かにケイトの傷はモルガに比例することなく軽いものだった。

 

「それに村の天空の心臓(ウラノスハート)を護ったんだ。きっとこいつだって誇りに思ってるさ。」

 

ケイトが負傷した理由は村の天空の心臓(ウラノスハート)を護ったためであった。

 

ウラノスハートが壊れた村や街は荒廃する。

そう言い伝えられているのはもちろん彼も知っていたからだ。

 

「こいつや、仲間の隊士を失ったことは悲しいさ、でもこうして犠牲を払いながら戦わないとディガルドとは殺り合えないんだ。この世界の戦争は酷い。」

 

ケイトはモルガの機体を右手で撫でながらそういう。

 

「でも、それでも前に進むには戦うしかないんでしょ。」

 

「そうだ、生き残るには、戦って前に進むしかない。」

 

ケイトは一度もシュンの方を向かなかったが、左の拳は震えるほど握り締められていた。

 

 

「俺がケイトの仇を討つよ。戦って前に進んで、そしてこの世界を救ってみせる。」

 

 

「でも、簡単じゃないんだぞ。」

 

 

「そんなのここでオスカーに啖呵切った時から百も承知さ。でもそのためにはライガーゼロが戦えるようにならないと………。」

 

この前のヘルザ村奪還作戦では4体いたうち1体しか倒せなかった。

 

ヴァノッサ1体倒してくれたが、残り2体は誰が倒したか不明なのである。

 

戦えたとしても倒せなければ意味がない。

 

しかもメガラプトルよりも強力な個体が出て来てもおかしくないのだ。

今のままでは世界を救うどころかディガルドと戦うことすらままならないだろう。

 

なんとかしなければならない。

 

「………2人ともここにいたか。よかった、なら話が早い。」

 

 

後ろから現れたのは整備長のタケルだった。

先ほどまで整備していてくれてたのか油まみれである。

 

「………いくつか話があるんだ。座ってくれ。」

 

2人はタケルのいうままに円を描くようにして3人で座った。

 

「………まずはケイト。」

 

タケルは手に持っていた四角い何かを下手投げでケイトに渡す。

 

「タケル………これって………。」

 

タケルから受け取った何かをケイトはまじまじと眺めながらそう呟く。

 

「………ああ、お前の大事にしていた戦闘データAIだ。」

 

「そうか、取り出してくれたのか………タケルありがとな。」

 

あまり見たことのないような穏やかな表情で彼はタケルに礼を述べる。

 

「………少し手こずったが毎晩あんな顔してモルガに話しかけてるお前を見ていたらな……。」

 

タケルは苦笑いをしながらそう言った。

 

「だあっ!タケルそれ以上は言うなよ!」

 

どうやらそれに関しては黙っていてほしかったようだ。

こう言うところもケイトは感情表現豊かだなと思ってしまう。

 

「………それじゃ今度はシュンだな。シュンへの話は残念ながらいいものではない。」

 

悪い知らせということだろう。

だが、聞かないわけにはいかない。

 

固唾を飲んでシュンはタケルの口が開くのを待った。

 

「………結論を言おう。今のままではメガラプトルは1体しか倒せない。」

 

紅い瞳がシュンの瞳を貫く。

 

「え、嘘だろ………どういうことだよ………。」

 

「………ストライクレーザークローとメタルziコーティングの相性が悪すぎた。どんだけコーティングしてもヘルアーマーと接触した際に剥がれてしまう。」

 

その言葉を聞いて、この前の戦闘での不自然なことに合点がついた。

 

おそらく二度目に弾かれたのはメタルziコーティングが剥がれて不完全なものになっていたに違いない。

 

「じゃあどうしたら………。」

 

「………定着させる方法を変えるしかない。」

 

「定着させる方法??」

 

「…………ああ、実は以前オスカーのレーザーブレードでも同じことが起きたことがあってな。その時も別の定着方法によってコーティングが剥がれるのを防げた。」

 

そう言って何やら計算式が書かれた紙を広げるタケル。

 

「………おそらく今回定着しない訳はストライクレーザークロー独特の熱によるものだと思われる。だが、俺の脳内はそれを処理できるほど有能なものではない。」

 

計算式の空欄の場所を示すタケル。

 

「………そこでシュンにお願いがあるんだ。俺をローグへ連れて行ってくれないか?」

 

「ローグ??」

 

また聞きなれない言葉が出てきたがおそらくどこかの場所に違いない。

 

「ローグってのは鍛治職人達の街だ。ディガルド領内にありながら、金属の精製技術を提供することによって武力支配を受けていない数少ない都市だよ。」

 

隣にいたケイトが補足説明をしてくれる。

だがディガルド領内にあるということは敵という可能性はないのだろうか?

 

「安心しろ、ローグは中立都市。やつらも職人だからな、買う人の為に自慢の腕を振るってるのさ。どっちが敵とか味方とか考えてないよ。強いていうならお客様が味方ってとこかな。」

 

まるでシュンの心を読んでいるかのようにケイトは話を続けた。

 

「なぁ、タケル。そこへ行けばコーティングの方法が見つかるのか?」

 

「………確証はないが可能性はある。」

 

「わかった、行こうローグへ。」

 

「………ありがとう。早速オスカーに相談してくる。」

 

タケルは立ち上がると足早に駐機場を後にした。

 

 

 

 

 

 

『ふぅ、お腹いっぱいなのですよ。』

 

その日の夜、食事を終え部屋に戻ってきたシュンはベッドに横になっていた。

 

「光の精霊は食べてないだろ?」

 

『うるさいですね、そういう細かいこと気にするとモテないのですよ。』

 

余計なお世話である。

 

「悪かったな、俺にだってな彼女の1人や2人…………。」

 

その瞬間ドアがノックされ開く。

 

「どうしたシュン、独り言か?」

 

光の精霊の声が聞こえないケイトはキョトンとした顔で立ちすくんでいる。

 

もちろんあの激甘なコーヒーを持ちながら。

 

「あ、いや、なんでもないよ。と、ところでどうしたの??」

 

「ならいいが。たまにお前1人で変なこと言ってる時があるからな。あ、そうそう。明日のことで話しがあるからラウンジに来てくれってさ。」

 

「わかった。このまま一緒に行くよ。」

 

ベッドから降りて部屋を出る。

 

「ほれ、食後のコーヒー。ストレスには甘いものがいいぞ。」

 

2つ持っていたうちの1つをシュンに差し出す。

 

「あ、ありがと。」

 

思わず顔をしかめてしまう。

 

「嫌そうな顔すんなって。お前の分は砂糖1つしか入れてないから。」

 

前回のことを気にしているのか苦笑いしながらそう言ってくるケイト。

やはり顔に似合わず律儀な男である。

 

「なあ、思ったんだけどよ、なんでシュンは軍人になったんだ?」

 

ふと疑問になったのだろうか?

そんな話を切り込んでくる。

 

「俺が軍人になった理由??」

 

そういえばこの前はケイトに理由を聞いたけど自分の理由を話してなかったっけ。

 

「ああ、こう言っちゃ悪いけどお前、なんか軍人らしくないだろ?」

 

なるほどなと思った。

確かに共和国にいた時はしょっちゅう聞かれたっけか。

 

「俺の家、貧乏でよ。そんで持って弟3人妹3人、計7人兄弟の長男なんだ。」

 

シュンがそう言うとケイトは驚いたようで目を丸くした。

当たり前だ、7人兄弟なんて言ったら誰だって驚く。

 

「故郷は小さな島でな、弟たちを食わせていくには稼ぎのいい仕事に就かないとなって思っててさ、出稼ぎみたいな感じで軍に入ったんだ。」

 

「なるほどな、家庭の事情ってやつか。」

 

「まあ、そんなもんかな。それでな、本当は内勤希望だったんだ。笑うなよ。」

 

シュンは笑いながらそう言った。

 

「内勤希望なのになんで前線に立ってるんだよ?」

 

「それが書類を提出するの忘れててさ。」

 

つまりはただの凡ミスである。

 

話を整理するとこうだ。

 

シュンは家計のために共和国軍に内勤希望で志願したが、申請する書類を提出するのを忘れていたためそのまま新兵として採用されてしまったと言うわけである。

 

「戦えって訓練時代に嫌という程言われてな、本当は戦うのなんて嫌いだからさ、軍を辞めようとも考えていたさ。」

 

 

今となっては訓練学校時代も懐かしいものだ。

まさかあの頃の自分は世界を救う為にこのように戦うなんて微塵にも思ってなかっただろう。

 

いや、もしかすればこれも運命ってやつなのかもしれない。

 

「その時に中佐や仲間たちに助けられてな。無事に共和国の兵になれたし、中佐のおかげでライガー系のゾイドを乗る中ではエキスパートと言われるレオマスターの昇格試験まで受けれるまでになったんだ。」

 

「なるほどな。シュンのいた世界のことはイマイチわからねぇが、お前が苦労してきたことはわかったぜ。」

 

そんな話をしているうちにラウンジについたらしく丸い木のテーブルを囲むようにオスカー、レイ、タケル、そしてミズハが座っていた。

 

「全員集まったようだな。」

 

ケイトとシュンが遅れて席に着くとオスカーはそう言って地図を広げた。

 

「ローグは知っての通り、ディガルド領内にある。中立都市として都市内での武器の携帯とゾイドでの乗り入れは禁止となっている。もちろんこれはディガルドも例外ではない。」

 

「え、ゾイドでは入れないんですか?」

 

「そうだシュン。厳密に言うと街までは上がれないと言った方が正しいかな。まぁ、実際に見ればわかるさ。」

 

オスカーはニヤリとする。

 

「問題は街に着くまでだ。少なくとも領内を30分以上は進まなければならない。今回はタケルのグスタフもあることだからな。」

 

「………すまない。」

 

「なに、謝ることないさ。今回の収穫が今後の作戦を大きく左右するからな。」

 

オスカーの話では鍛治職人の街ローグでは常に金属の加工技術が日進月歩しているとのことで、今回の遠征によってディガルドのヘルアーマーに有効な新しい何かを入手できるかもしれない。ということだった。

 

「なので今回は夜間の移動となるだろう。なので編成はタケルのグスタフを中心にシュンのライガーゼロ、ケイトのエビー、レイのプテラス、以上4機で行ってもらいたい。」

 

ふと疑問を抱く。

エビーとはなんだろう。

 

配られた資料を見るが詳細はなにも書いてない。

 

「シュン、エビーはケイトがヘルザ村の近くで鹵獲したコマンドゾイドだ。」

 

「え、鹵獲?」

 

もちろん鹵獲の意味を知らないわけではない。

 

「………ディガルドは時にレジスタンスのゾイドを鹵獲して基地防衛や土木工事に利用しているんだ。ケイトはその土木工事用のコマンドゾイドを鹵獲してきたんだ。」

 

とタケルが補足をしてくれる。

 

やはり思った通りだった。

まさかバイオタイプのコマンドゾイドがいるのかと思ってしまった。

 

「なるべく早いうちに出発してほしいと思っている。少し急だが明日の夜には出発してほしいと思う。いいかな。」

 

オスカーは皆を見渡すとそこにいた全員は首を縦に振った。

 

 

「決まりだな、詳細はレイから聞いてくれ。」

 

そこまで話すとオスカーは立ち上がり自室へと戻って行った。

 

 

「じゃあここからは私が。」

 

レイはそう言うとゆっくりと立ち上がる。

 

「今回の遠征、実はディガルドよりもやっかいなことがあるのよ。」

 

「厄介なこと?」

 

ディガルドよりも厄介な事とは一体なんなのだろうか。

いままでそんな話は聞いたことがない。

 

「そっかシュンは知らないんだな。」

 

隣に座るケイトは知っているみたいだ。

 

「ローグまでの道中に霧の谷(ミストバレー)と呼ばれる峡谷地帯を通るの。そこは一年を通して全く霧が晴れることのない場所で古代の技術が眠った神殿があると言われているわ。」

 

古代の技術。

おそらく元の時代の技術だろう。

 

もしかしたらネオゼネバスの何かをが残っているかもしれない。

 

しかしそんなシュンの気持ちはレイの次の一言を聞いた瞬間吹き飛んだ。

 

「その霧の谷(ミストバレー)に調査に行く者達はたくさんいるんだけど誰1人帰ってきたことがない。あの谷には神殿を護る魔物がいるとの言われているの。」

 

「ま、魔物………。」

 

「ええ、もちろん誰も見たものはいないから噂でしかないんだけどね。でも今回はその渓谷地帯を通らなきゃならないわ。深い場所まで行かないから大丈夫だと思うけど魔物には注意して。」

 

「わ、わかった。」

 

もともと怖いものは苦手ではないのだが、そう言われてしまうとなんだか背筋に嫌な汗が伝ってしまう。

 

「私の話は以上よ。」

 

そう言うと皆席を立ち上がり「おやすみ」、「おつかれ」と言いながら自分の部屋へと戻って行った。

 

「ねえ、シュン。」

 

同じように席を立ち、自室に帰ろうとしていたシュンを呼び止めたのはミズハだった。

 

「どうしたミズハ?」

 

「私も今回の遠征に連れて行って。」

 

「え!?」

 

目から鱗である。

同席していたのは違和感があったがこう言うことだったのか。

 

色々危険という話もしていた。

タケルならともかく、非戦闘員でローグに行くことにメリットがないミズハをそんな危険なところにはつれていけない。

 

「複座のゾイドはシュンのライガーだけなの。迷惑はかけないから。」

 

「だけどよ………。」

 

「それに、シュンのことが心配なの。この前も危なかったんでしょ。少しでもシュンの力になりたいの。」

 

ミズハにまっすぐ見つめられる。

その顔は真剣そのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ、わかったよ。」

 

その視線に耐えられず降伏した。

 

「ありがと。まあ、オスカーには許可もらってるから意地でもついて行くつもりだったんだけどね。」

 

そう言って無邪気に笑う。

 

だったら最初からそう言ってくれればいいのに。

 

「じゃあ明日はよろしくね。おやすみ。」

 

「おう、おやすみ。」

 

2人もラウンジから出ると自室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の晩。

 

「そろそろ霧の谷(ミストバレー)に入るわ、気をつけて。」

 

ディガルド領内。

アジトを出てから1時間ぐらいはたっただろうか。

 

上空をゆっくりと飛ぶレイのプテラスが魔境の入り口に近づいたことを教えてくれる。

 

「いよいよ霧の谷(ミストバレー)か………。」

 

確かに少しずつではあるが霧が出てきたように感じる。

 

「昨日も話したけど、魔物には十分注意して。」

 

レイがそういうとどんどんと霧が濃くなっていく。

 

「こ、こんなに霧が深いのかよ………。」

 

霧の谷(ミストバレー)に入ったのだろうか。

前を走っているグスタフの姿が見えなくなるほど濃い霧に覆われる。

 

「完全に中に入ったわね。」

 

後ろに座るミズハはそう言った。

そんなことをいうということはミズハは霧の谷(ミストバレー)に入ったことがあるのだろうか。

 

「ミズハは霧の谷(ミストバレー)に入ったことがあるの?」

 

「うん、前にリアン村にいた時にね。」

 

そう答える時ミズハは身体を乗り出してシュンの横まで顔を近づける。

 

「ねぇ、魔物の正体気にならない?」

 

顔が近い。そう言おうとした時だった。

しかしその質問でそんな言葉どっかいってしまった。

 

「え…………正体………。」

 

「なーんてね、知ってるわけないじゃない。」

 

「なんだよ。」

 

苦笑いである。

まあ、本当に知っていたらそれはびっくりなのだが。

 

「でもシュンだって気にはなるでしょ、魔物の正体。」

 

「そりゃそうだけどさ、でも誰も帰ってきたことがないんだろ。」

 

残念だが、今魔物と対峙して勝てる自信はない。

しかもゾイドか何かすら分かっていない状況であればなおさらである。

 

「でもこんなに魔物の話ばっかりしてたら本当に出てきちゃったりしてね。」

 

ミズハは笑いながら冗談でもないことを言う。

 

「まあ、レイの話じゃ奥まで行かなきゃだ……………おい、ライガーどうしたんだよ………。」

 

大丈夫だよ。そう言おうとした時だった。

 

ライガーゼロがいきなり止まりだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

そして空気が震えるほどの雄叫びをあげる。

 

「おい、ライガーやめろ、魔物に見つかるぞ!」

 

 

「グォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

しかしライガーゼロは全く聞いておらず、さっきよりも大きな雄叫びをあげる。

 

「まさかライガーゼロ魔物を呼ぼうとしてるんじゃ。」

 

ミズハは呟くようにしてシュンにそう伝える。

 

「ライガー、お前………。」

 

本能なのだろうか。

確かにライガーゼロは野生体を完全にベースとしたゾイドだ。

 

魔物と戦いたい。

 

ライガーゼロはそう訴えてるのかもしれない。

 

『ライガーがこうなってしまった以上は仕方ないのですよ。覚悟を決めるのですよ。』

 

光の精霊の言葉に思わず生唾を飲み込む。

 

まだ誰も見たことも戦ったこともないと言われる魔物。

果たしてやり合えるのか。

 

『大丈夫なのです、私とライガーの力を信じて欲しいのですよ。』

 

そう言われてしまったら信じるほかない。

 

「わかった、信じてるからな。」

 

ミズハに聞こえないようにそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧の中に沈黙が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びライガーゼロが雄叫びをあげるが、ただただその霧の中をこだまして行くだけ。

 

 

 

 

 

 

だれも何も言葉を発しない。

 

緊張の時が一刻一刻と過ぎて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来たのですよ。』

 

 

 

 

光の精霊が発した言葉で一気に全身から汗が吹き出る。

 

確かにズシン、ズシンと何かが歩いてくるのが感じられた。

 

 

「と、止まった………。」

 

足音がシュンのまえで止まる。

 

相手との距離は100メートル弱だろうか。

 

『不思議な生体反応なのですよ………。微弱なコアが1つと活発なコアが1つ。』

 

「敵は一体じゃないのか?」

 

足音は1つだった。

2体いるとは考えにくい。

 

『わからないのですよ。ただ普通のゾイドではないことは確かなのです。気をつけて欲しいのですよ。』

 

嫌な汗が頬を伝う。

姿は見えないが大きな一つ目で睨まれているような感じがする。

 

「シュン左!」

 

「え………!?」

 

ミズハの声に反応したのかそれとも野生体としての本能か、シュンが動かすより早くライガーがバックステップする。

 

「な、なんだこれは………。」

 

眼前の地面に突き刺さっていたのは大きな何かの白い腕だった。

霧の中でよくは見えないがそれが魔物の発した攻撃だと気がつくのに時間はかからなかった。

 

 

《我の一撃を避けるとは見事なり。今回は見逃してやろう。しかしまた我の前に現れたのならその時は容赦はしないぞ。》

 

魔物の声だった。

 

眼前に刺さった腕はゆっくりと引き抜かれると霧の中に消えて行く。

 

「お、おい!お前は一体誰なんだ!!」

 

《………………。》

 

魔物は一切答えない。

 

そしてそのまま踵を返すとまた足音をたてながらゆっくりと霧の向こうへと消えていってしまった。

 

「行っちゃったか………。」

 

 

また霧の中には沈黙が流れる。

 

「それにしてもライガーすごいな、あの攻撃を避けるなんて。」

 

先ほどの攻撃、まるで見えなかった。

おそらくライガーゼロが反応してくれなければあのままコックピットを撃ち抜かれてやられていただろう。

 

「もお、私が教えてあげたんだからね!」

 

後ろのミズハはそう言って頬を膨らませる。

 

「そうだったそうだった、わりぃ。」

 

でもなぜミズハは攻撃がわかったのだろうか。

 

「まあいいわ。とにかくこの薄気味悪いとこから早く抜けましょ。」

 

「そうだな。」

 

考えるのは後だ。

また魔物に遭遇する前に早くここを出よう。

 

「行くぞライガー。もう寄り道はするなよ。」

 

 

「グォォォォォォォォォ!!!!!」

 

今一度ライガーゼロは雄叫びをあげると霧の中を疾走して行った。










魔物と遭遇するも無事に峡谷を抜けるのことができた一行はついにローグへと到着した。

鍛治職人達の街ローグはシュンの目にどう映るのか。

果たして新しい加工技術は見つかるのか。


次回 ZOIDS EarTravelers

第11話『魂の技術』


緋き鉄は熱き漢達の魂。



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第11話 魂の技術

 

 

静かに闇を演出していた夜の帳が徐々に上がり、耳をすませば鳥たちの声が聞こえて来そうな朝が、惑星ziにも訪れていた。

 

そんな清々しくも静かな朝を彼らも当然ながら迎えており、ここがディガルド領内なのを忘れてしまいそうなぐらいである。

 

だがしかし。

 

「シュン、それはマジかよ!!」

 

彼らは朝からハイテンションである。

 

モニターに映るケイトの顔は驚きに満ちている。

まるで初めてゾイドを見た少年のようだ。

 

「だからほんとだって、霧の谷(ミストバレー)で魔物にあったんだよ!」

 

実は一緒に話しているシュンも興奮しているのはいうまでもない。

 

「全く………。」

 

後ろに座っているミズハは呆れ顔である。

 

なんせこの会話、霧の谷(ミストバレー)を抜けてみんなと合流してからもう5回目だったりするからだ。

 

「ほんと男の子ってこうなんだから。」

 

目をキラキラと輝かせながら話す目の前の二人を見て小さく溜息をついた。

 

「まあまあ、男の子ってこんなもんよ。」

 

後ろの小さなモニターには今度はレイの顔が映る。

 

呆れているミズハを見かねたレイが通信をしてきたのだ。

 

「そろそろローグに着くわ。無邪気な少年達にも伝えてくれる?」

 

レイはいたずらっぽく笑うと通信をきる。

 

「シュン、ケイトそろそろローグに着くって。」

 

 

「「はーい。」」

 

 

 

 

 

 

それからしばらくすると何やら門のようなものが見えてきた。

 

「無事に戦闘禁止エリアに入れたようね。」

 

レイは安堵の表情でそう言葉を漏らす。

幸い一度もディガルドに遭遇することはなくローグまで来ることができた。

 

「戦闘禁止エリア………?」

 

またも聞きなれない言葉である。

 

「…………ローグ周辺では戦乱を避けるために戦闘禁止エリアを設けているんだ。ディガルドだろうが、レジスタンスだろうがもし戦闘をおこなおう者がいれば粛清される。まあ、実際に見たことはないんだけどな。」

 

「な、なるほど………。」

 

なんとも怖い話である。

霧の谷(ミストバレー)といい、ローグといいこの世界には怖い噂話しかないのだろうか。

 

「なあ、レイ姐。ローグに行く前にちょっとタケルと二人で寄り道してきていいか?」

 

ローグの入り口に着く直前、ケイトがそんなことを言い出す。

 

「え、まあ、いいけど大丈夫なの?」

 

大丈夫というのは二人でという意味だろう。

確かにグスタフにコマンドゾイドではなんとも心もとない。

 

「大丈夫だって、ちょっとそこまでだからさ。」

 

「わかったわ、気をつけてね。」

 

タケルのグスタフはケイトを乗せたままルートを外れて行く。

 

「俺も護衛で付いて行こうか?」

 

やっぱり心配だ。

もし必要なら付いて行ってもいい。

 

「シュン、心配してくれてありがとね。でも大丈夫よ、いつものことだから。」

 

レイは笑いながらそういう。

 

「それよりも早くローグに入ってお茶でもしましょ。気を張ってたから疲れちゃった。」

 

そう言って顔をしかめる。

 

「そうだね、そうしよう。」

 

 

 

 

ローグの中に入るとそこは解放戦団のアジトのような駐機場だった。

 

「す、すげぇ。」

 

その広さは一番端が見えるか見えないかというところだ。

 

シュンがいた共和国の基地よりもはるかにでかい。

 

「大陸のありとあらゆるところから人がやって来るのよ。ちなみにこっちは一般フロア、これよりも少し小さいけどディガルド専用のフロアもあるわ。」

 

「ま、まじか…………。」

 

ライガーゼロを降りたシュンは思わずキョロキョロとしてしまう。

 

大陸中から集まるというだけあって多種多用なゾイドがいる。

 

大半はバラッツと呼ばれるこの時代のコマンドゾイドのような小型のゾイドが多いが、中には大型ゾイドもいる。中には見たことのない種類のゾイドだっている。

 

「これはなんだろう、ベアファイターみたいだけど………。」

 

シュンは一体の中型ゾイドの前で足を止める。

 

四つ足をついたその白いゾイドは形こそはシュンの知っているベアファイターに類似していたが全く別物だった。

 

まず一番目につくのは背中に背負われた大量の緑色のミサイルのようなモノだった。

しかし一般的な格納されたものではなく、弾頭がむき出しになっている。

 

そして前足についたパイルバンカーとブレード。

 

「どんな戦い方するんだろう。」

 

きっと何十年、何百年後に開発されるであろう機体をただひたすら眺める。

 

「ほらシュン、行くわよ!」

 

いつの間にか遠くに行ってしまっていたミズハがシュンの名を呼ぶ。

 

「ああ、ごめん!」

 

シュンは勢いよく駆け出し前から歩いてくる一組の男女を避けてレイの元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「あの子、あなたのゾイド眺めてたわよ。」

 

すれ違った一組の男女の紺色の髪ショートの女性は隣にいたハットを被った茶髪にメガネの男性にそう声をかけた。

歩くたびにガシャガシャと無機質な金属音を奏でているのはおそらく女性の両足が義足であるからに違いない。

 

「そりゃあ僕のゾイドは珍しいだろうからね。」

 

はははと笑うその男は愛機の前で立ち止まった。

 

「なぁ、さっきすれ違った子似ていなかったかい。」

 

「似てるって?」

 

「ルージくんだよ。」

 

その名前を聞いた女性は思わず吹き出してしまう。

 

「なによロン、今の子の方が何倍も大人よ。」

 

「いやいや、外見じゃなくてさ。なんというか、僕はいつかあの子と一緒に戦いそうな気がしてさ。」

 

「またそんなこと言って。」

 

「そのためには僕らも強くならないとな。いい加減君もバイオゾイドじゃなくて普通のゾイドに慣れてもらわないと。」

 

ロンと呼ばれた男は愛機の横に止められた白いストームソーダーを指差した。

 

「そんなのわかってるわよ。」

 

「頼むよフェルミ、敵に制空権がない以上空戦ゾイドは作戦の要なんだから。」

 

フェルミと呼ばれたショートカットの女性はうんざりしたようにため息をつく。

 

「はいはい、わかりました。」

 

「わかればよろしい。それじゃ帰ろうか。」

 

「全く、義足で空戦ゾイドに乗るのがどれだけ大変だかロンはわかってるのかしら。」

 

フェルミはロンに聞こえないようにそう小さく呟く。

 

そうして2人は自分の愛機に乗り込み、ローグを去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか街に入るのにエレベーターが必要だなんて。」

 

 

シュンは今、街に入るためにエレベーターに乗っていた。

 

「ここは鍛治職人と技術の街だからね。街のいたるところに様々な技術が埋め込まれているのよ。それとゾイドを地下に置くことで街の安全性も高めているってわけ。」

 

 

レイいわく、このようにゾイドの乗り入れ場所と街を分けることによって外的危険を街に持ち込まないという理由らしい。

 

「まもなく、ローグに到着いたします。」

 

エレベーターの案内嬢がそういうとゆっくりととびらが開いて陽の光が差し込んでくる。

 

「うわぁ……………。」

 

目の前に広がる光景はシュンがこの世界にやってきて初めて見た世界だった。

 

正直な話、まだシュンは街というものを見たことがなく、いくつかの村しか見たことがなかった。

それでもこの街の規模がどれほどすごいかは身をもって感じることができていた。

 

まっすぐに伸びる石畳、建物はコンクリート、もしくはレンガで建てられたものばかりでいくつもの長い煙突が伸びている。

エレベーターの中からでも聞こえる鉄と鎚の激しくぶつかる音はその街が賑わっていることを教えてくれた。

 

「すごいわね………。」

 

初めてローグに来たというミズハもその賑わいに圧倒されたらしい。

 

「2人とも絶句って感じね。」

 

レイは口元を手で押さえながら笑う。

 

「さ、行きましょ。」

 

「え、でも行き先決まってるの?」

 

「もちろん、いつもお世話になってる人のところに行くのよ。付いて来て。」

 

レイはシュンとミズハの手を引いて街の中を小走りで駆け抜ける。

 

すると1分もしないうちに大通りの突き当たりにたどり着く。

 

「ここよ。」

 

レイは屋根に掲げられた看板を指差してそう言う。

シュンはその指につられて顔を上げるとそこには「何でも屋さん」とだけ書かれていた。

 

「何でも屋さん………。」

 

なんだか拍子抜けである。

入り口はもといお店の規模も小さそうだ。

こんなところに腕の立つ職人さんがいるのだろうか。

 

「まあ、中に入って。」

 

シュンとミズハはレイに背中を押されて何でも屋さんの中へと入って行った。

 

家屋の中も外見からの予想通りで小さなテーブルが一つと椅子が二脚しか置いていないような狭い店内だった。

 

「ディル、いるかしらー?」

 

暖簾のかかった部屋の奥に向かってレイは何やら声をかける。

 

どうやらディルというのがここの店主の名前らしい。

 

「きっと下の作業場ね。まったく………。」

 

はぁ。と大きくため息をつく。

 

「2人ともついておいで。」

 

レイはそういうとまるで従業員のごとく暖簾をかき分けその奥へと入って行った。

 

シュンとミズハはその後を追うようにして部屋の奥へと向かう。

 

だが、そこには新たな部屋はなく、下へと続く階段があるだけであった。

 

「ず、随分と長い階段ね。」

 

後ろから覗き込んだミズハはそう小さく呟く。

 

「ディルの作業場は地下にあるのよ。ちょっと長いけどついておいで。」

 

真っ暗で先が見えない階段を、彼女は恐れる様子もなく降っていく。

 

「いや、ついておいでって言われても………。」

 

2人は思わず顔を見合わせる。

 

「し、シュンが先に行きなさいよ!」

 

やはり怖いのだろうか、ミズハは回れ右して階段に背を向ける。

 

「わ、わかったよ。」

 

階段を踏み外さないようにゆっくりと歩いていく。

 

その真っ暗な階段を50段ほど降り切ったところでようやく灯りが見えてきた。

 

「ふぅ、なんとか下まできたみたいだ。」

 

灯りの掲げられたドアをみて、そこが作業場の入り口だと確信した。

 

 

コンコンコンと小さく三回ノックすると扉を開ける。

 

「「うわぁ…………。」」

 

そこは作業場というよりも格納庫だった。

 

駐機場にいたような大小の様々なゾイドが並べられ、多くの作業員が工具をあるいはゾイドのパーツを持って作業していた。

 

「シュン、ミズハ、こっちこっち!」

 

あまりの驚きに揃ってキョロキョロとしている2人をレイが手を振りながら呼ぶ。

 

レイは誰かと話しているみたいだがおそらく彼がディルと呼ばれていた人間に違いない。

 

「お主がライガーゼロのパイロットか。」

 

近くまでよるとレイと話していた男性がシュンに声をかけた。

 

髪も髭も白く染まった壮年の男性だった。

小柄な身体ながらまるで別人のような太い腕は鍛治師特有のものに違いない。

 

「そうです、シュンと申します。」

 

「まだ若いな。その若さでライガーゼロを乗りこなすとはなかなかだ。」

 

まるで値踏みをするかのように足下から頭の先まで眺める。

 

「とりあえずライガーゼロを見せてもらおうか。」

 

そう言うとサイレンとともに警告灯が鳴り響き、入り口のシャッターが鈍い音を立てる。

 

「おっとすまねぇ、客人だ。少しそこにでも座ってまってな。」

 

シャッターが開くとそこには見慣れたグスタフが現れた。

 

「なぁ、ミズハあれって………。」

 

「タケルのグスタフね。」

 

サンドイエローに塗装されたグスタフ。あれは紛れもなく解放戦団のものだ。

 

遠目からなのでわからないが、後ろの荷台には何かが積まれている。

 

グスタフはある程度中まで入ってくると速度を落とし、ゆっくりと止まった。

 

「ディル!」

 

キャノピーが開くとそこには案の定タケルとケイトが座っていた。

タケルはディルの名前を呼ぶとコックピットから勢いよく飛び出し、彼の元へと駆け寄る。

 

「タケルか、どうした慌てて。」

 

「……瀕死寸前のゾイドだ、早く見てやってくれないか。」

 

そう言うとタケルはグスタフの積み荷を指差す。

どうやら積み荷には瀕死寸前のゾイドが積んであるようだ。

 

ディルは無言で頷くと積み荷に向かって歩き出す。

シュン達もディルの後を追い、積み荷には近づいた。

 

「これ、モルガか………?」

 

所々焼け焦げたそのゾイドはモルガだった。

 

だが、その色はケイトが鹵獲したコマンドゾイドと同じ色だった。

 

「これもディガルドが鹵獲したものね。」

 

後ろに立っていたレイがそう補足してくれる。

 

「4番ドッグへ運べ!緊急のオペだ!」

 

ディルはモルガの状態を見ると作業員にそう伝える。

 

「レイ、話の途中で悪いが先に宿で休んでいてくれ。こいつにはちょっと時間がかかりそうだ。」

 

「ええ、わかったわ。いつものとこで泊まってるから。」

 

 

2人はそう短く会話を交わす。

ディルは駆け足で4番ドッグと呼ばれた場所へと向かった。

 

「さて、私たちは宿に向かいましょうか。」

 

「………俺とケイトは少しモルガを見てから向かう。」

 

「ええ、わかったわ。場所はいつものとこだから。」

 

「………わかった。」

 

タケルとケイトは作業場に残り、レイ達は宿に向かうために作業場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ………………。」

 

並んだ三つのベッドの一番右に後ろから倒れ込んだシュンはだらしない声を出す。

 

『全く、おっさんじゃないんですから。』

 

光の精霊もこの呆れようである。

 

「仕方ないだろ、こっちは夜通し緊張しっぱなしだったんだからよ。」

 

ミストバレーの通過、ディガルド領内の進行。

普段から行なっているなら別であるが、初めてとなるとどうしても緊張する。

 

『全く、時代の旅人なんだからしっかりして欲しいのですよ。』

 

はぁ、とため息をこぼす彼女。

まぁ、毎度のことなので気にはしないが。

 

『そういえばシュン、この世界にやって来てそろそろ1ヶ月経つのですがどうなのですか?』

 

「もうそんなかぁ………。」

 

慣れない世界だからか、色々とあったからか、1ヶ月という時間をこんなあっという間に感じたのは久しぶりだ。

 

「まだまだわからないことだらけだし、バイオゾイドに対抗できるようになったかなって思ったらなんか相性悪いって言われるし。」

 

思わず苦笑いだ。

フィクションの世界ならきっとバッサバッサ敵を倒していくチートがあるだろうに。

 

『まあまあ、シュンはその平凡さがいいのですよ。』

 

なぜだろう、褒められているはずなのになんだかしっくりこない。

 

「だぁぁぁぁ………タケル早く風呂に行こうぜ。」

 

ふと入り口の方から声がすると思うと、扉が開き、そこには油やチリで汚れた男が2人で立っていた。

 

「あ、2人ともおかえり。」

 

「おお、シュン。ちょうどいいところにいた、風呂に行くぞ!!」

 

「え、風呂??」

 

風呂とはなんだろう。

 

「もしかしてお前、風呂を知らないのか!」

 

ケイトは目を見開いてタケルと顔を見合わせる。

 

「………知らなくても大丈夫だ、ついてこい。」

 

珍しくタケルも楽しそうにニヤリとしている。

 

「ほらぁ、行くぞシュン!!」

 

油まみれの手で掴まれると部屋の外へと連れていかれた。

 

宿を出るとそこはもうすっかり日が落ちており、空高くには2つの月が顔を覗かせていた。

 

しかしまだ鉄を打つ音は消えはしない。

 

「すごい、まだ工房開いてるんだ………。」

 

音の鳴る方へ視線を向けるとまだ工房の中には灯りがともっている。

 

「まだじゃねえぜシュン。ここの工房は一日中開いてんだ。」

 

「え、一日中!?」

 

「…………正確に言うと一日中作業している、だな。ここローグの鍛治技術は大陸一だ、それゆえその技術を求めて大陸中から人が訪れる。まあ、俺たちみたいにな。」

 

タケルはそう補足説明をしながらさらに話を続ける。

 

「…………だから競争率は激しい。有名な武器工房の作るパーツや武器は一瞬でなくなるし、改造専門の店では予約で3年待ちなんてのもある。」

 

「さ、3年!?」

 

3年だなんて、待っている間に気が変わったらどうするのだろうか。

 

「…………そんな世界だ、有名な工房でないもの達は技術とその精度で勝負するしかない。だからこそ時間をかけ顧客のニーズに合わせたものを作る。ディルだって最初は小さな工房だった。でもゾイドの整備にすごい細かくてな、ふらっと立ち寄った王国の近衛隊隊長が絶賛して、『ここでチューニングしてもらえば10年整備がいらない』なんて言ったんだ。そんなこと言ったもんだから大陸中からゾイドの整備の依頼が来て大きな工房になった。」

 

タケルはニヤリと笑いながらケイトに向かってなあ?と声をかける。

するとケイトはなんだか恥ずかしそうに顔を背ける。

 

「あん時はそう思ったんだよ、でもそのおかげでディルの工房はあんだけ大きくなったんだろ。」

 

「え、もしかして………。」

 

「…………ああ、そうだ。ふらっと立ち寄った王国の近衛隊隊長はケイトだ。」

 

「え、そうだったの!?」

 

王国の近衛隊といえば大統領直属の部隊だ。そこの隊長を務めるなんて栄えあるものである。

ケイトの操縦の技術はかなりのものだ。その技術はそこでの鍛錬の賜物かもしれない。

 

「王国にいた時は何に乗ってたのさ?」

 

大統領の直属で乗っていたゾイドだ、一体何に乗っていたか気になる。

共和国なら最低でもライガーゼロやブレードライガー、下手したらゴジュラスガナーなんてこともありえるくらいだ。

 

しかしケイトから帰ってきた返事は驚くべきものだった。

 

「何言ってんだよシュン。俺はモルガ一筋だぞ。」

 

「え!?」

 

「お前、モルガを見くびってるだろ。あいつはかなり出来のいいゾイドだぞ。姿勢が低いから狙いをつけづらいし、頭部の装甲が硬いおかげで無理な突撃しても十分戦えるしな。」

 

ケイトは勝ち誇ったようにそういうが、そもそもモルガであのような戦いができるのは彼だけだと思う。

 

「…………まあ、そういうことだシュン。ここの人間は鎚を振るい鉄を打つことに命をかけている。いわば聞こえてくるあの音はここの漢たちの生命(いのち)の鼓動だ。」

 

生命(いのち)の鼓動………。」

 

「…………ああ、その漢たちの魂の技術が今俺たちに戦う力を与えてくれているんだ。」

 

珍しくタケルが感慨深そうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、一同はディルの作業場に集まっていた。

 

「とりあえず、ライガーゼロのデータは集まった。すぐにとは言えないが定着させる方法を見つけるから安心しな。」

 

ディルはそういうとシュンの肩を叩く。

 

「ありがとうございますディルさん。」

 

シュンはディルに向かって頭を下げた。

 

「じゃあオスカーへの報告よろしくね。」

 

「はい。」

 

昨日の夜の打ち合わせでシュンとミズハはアジトに帰ることが決まっていた。

本当はもう少し滞在して色々な物を見たり、風呂に入ったりしたかったが、オスカーが報告を待っているということだった。

 

レイ、ケイト、タケルの3人は修理しているモルガが修理でき次第帰るという手はずになっていた。

 

「ディルさん、お世話になりました。」

 

彼は再度一礼すると、ミズハと一緒にライガーゼロに乗り込んだ。

 





ローグの街でモルガを整備して貰うという事でケイト、タケル、レイを街に残して帰路につくこととなったシュンとミズハは霧の谷を抜けた先でディガルドの部隊が移動している光景を目の当たりにしてしまう。

1人ではかなわないが、どこに向かうかわかれば応援を呼んで戦えるかもしれない、そう考えたシュンは後をつけることに、しかし行き先はなんとリアン村だった。

応援を呼んでくるかという時にバイオゾイドと応戦しているもの達を発見、それは解放戦団の面々と村の用心棒『アーバイン』だった。


次回 ZOIDS EarTravelers

第12話 『隻眼の用心棒』

その『キズ』はきっと大切ななにかのために


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第12話 隻眼の用心棒

 

 

真っ白な空、真っ白な大地。

 

しかしここは天高き雲の上でも、凍てつくような冷気を放つ雪山でもない。

 

ここは霧の谷(ミストバレー)

 

魔物が出ると恐れられる一年を通して霧が晴れることのない場所である。

 

彼のライガーゼロはその霧の中で風をきるようにして走っていた。

 

「今のところレーダーには反応がないな………。ミズハ、何か感じるか?」

 

「うん、大丈夫なにも感じないわ。」

 

前日通過した時に味わったあの恐怖。

さすがに2日連続で味わいたくなどない。

 

「とりあえずこの薄気味悪いところを早く抜けたいよ。」

 

そんな愚痴を叩きながら彼は相棒の足を急がせる。

 

「光が見えてきたわ、谷を抜けるわ。」

 

ミズハの言う通り、視線の先からは光が漏れていた。

 

「ふぅ………………。」

 

谷を抜け後ろを振り返る。

後ろの安全を確認すると思わず安堵のため息が溢れる。

 

「何事もなく通過できたなんて、今回は運が良かったわね。」

 

そう言ったミズハも深いため息をついていた。

 

「とは言ってもまだディガルド領内だからね、油断はできないさ。」

 

そう、ここはまだディガルドの領地。

ここでディガルドの部隊と出会ってしまう方がもっと厄介である。

 

「そうね、早くリアン村を目指しましょ。」

 

ミズハもそう感じたのだろう。

初めの予定ではリアン村に立ち寄るか考えていたところだったが、やはり寄るのが最善のようだ。

レッゲルが減っているわけではないが、肝心のパイロットが空腹では動けない。

 

「リアン村で飯食ったなんて言ったらケイト羨ましがるだろうな。」

 

ローグに残ったメンバーの中で一番リアン村の飯を絶賛しているのはケイトだ。

休憩ついでに飯を食べたなんて言ったら地団駄を踏んで悔しがるに違いない。

 

「さぁ、もうひとっ走り頼むぜ相棒。」

 

「グォォォォォン!!」

 

ライガーゼロは大きな雄叫びをあげるとリアン村へ向けて走り出した。

 

 

 

 

ビービービービー!!!!

 

走り出してどれぐらい経っただろうか。

ライガーゼロのレーダーが何かを捉えた。

 

「おい、マジかよ………。」

 

眼前のレーダーには数え切れないほどの赤い点が表示される。

 

『おびただしい数の生体反応なのですよ………。50……60……70……。』

 

「シュン、岩陰に隠れて。ディガルドの部隊よ。」

 

後ろのミズハの助言に頷くと静かに岩陰に身を潜める。

 

身を潜めてしばらくすると土埃をあげながら大量のバイオゾイドが通過して行った。

 

「メガラプトルまで……。」

 

通過した中にはもちろんメガラプトルもいた。

おそらくどこかを侵略しに行くに違いない。

 

だが、1人であれだけの部隊を相手になんかできない。

 

「くそ、俺1人じゃ戦えねぇ。」

 

ケイトのモルガに銃口を突きつけられたあの日を思い出す。

だが襲われているのをみすみす見逃すなんて耐えられない。

 

「奴らが向かう場所がある程度わかればオスカーに連絡をとって迎撃に迎えるわ。」

 

「そうか、その手があったか!」

 

部隊が通過するのを待って静かに後をつける。

 

「ミズハ、この先にある街や村は?」

 

「ちょっと待って、今調べてる。」

 

後部座席に座っているミズハは地図を広げてなにやら独り言を呟いている。

だがしばらくするとその独り言が終わり、えっ、と言う声をあげる。

 

「どうした、ミズハ。」

 

「この方向にあるのは…………リアン村よ。」

 

「え、リアン村だって………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丘の向こう、土埃が上がっているのがブレードライガーのコックピットからも確認できた。

 

「なんとか間に合ったようだな。」

 

オスカーはひたいの汗を拭いながら静かにそう呟いた。

 

「リサです、オスカー聞こえますか??」

 

後方に待機している衛生班のリサから通信が入る。

偵察を担当しているレイがいないため、緊急の処置である。

また、今回は緊急の出撃だったため、識別コードはない。

 

「リサ、オスカーだ。あのバカとは連絡がついたか?」

 

「はい、どうやら霧の谷(ミストバレー)を通過してしたので通信が通じなかったのかと。」

 

「なるほどな、それで今はどこに。」

 

「ディガルドの部隊の後ろです。抜けた先で見つけたので追ってきているらしいです。」

 

「そうか、それなら問題はなさそうだな。」

 

ゆっくりと息を吸い、呼吸を整える。

 

すると今度は別の声が聞こえた。

 

「それにしてもなんであいつら俺の村ばかり狙うんだ。」

 

後方からゆっくりと1体のゾイドが近づいてくる。

そのゾイドは解放戦団のゾイドにはいない黒のカラーリングを施したコマンドウルフだった。

 

「おそらくこの村の海底に眠るとされている古代遺産を狙っているんだろ。」

 

「ったくそんなつまらねぇことのために俺の村を襲うとはな。」

 

「アーバイン、それがディガルドのやり方だ。」

 

オスカーは黒いコマンドウルフに乗っているアーバインにそう言う。

 

「さあ、気を引きしめろ。くるぞ。」

 

オスカーがそう言うと愛機のブレードライガーは雄叫びをあげる。

 

「わかってる、ここは俺の村だ。」

 

その声に反応するように彼のコマンドウルフも雄叫びをあげた。

 

 

「喰らいやがれ!」

 

アーバインのコマンドウルフに搭載されたロングレンジライフルが火を噴く。

 

その弾丸はバイオラプターの口腔にまるで吸い込まれるようにして入っていく。

吸い込まれた弾丸はバイオラプターの口腔を見事に撃ち抜いた。

 

「グァァァァ………。」

 

たった一発の弾丸でバイオラプターは崩れ落ちた。

 

「流石だな。」

 

その光景を横目に見ながらオスカーはそう呟く。

 

実はアーバインのコマンドウルフには解放戦団独自の徹甲弾を積んでいない。

言いかえるのならばただの鉛玉ということである。

 

しかし彼はその「ただの鉛玉」で的確にバイオラプターを破壊していた。

 

「口腔内を撃ち抜いて奴を倒すとは考えたな。」

 

「なぁに、歴戦の勘ってやつだよ。口から何か飛ばす奴は大抵その部分がノーガードだからな。」

 

そんな言葉を吐きながら続けざまにもう1体破壊する。

 

「これだから傭兵は怖い。」

 

オスカーも皮肉を口にしながらレーザーブレードを展開する。

 

「いくぞ、相棒!!!」

 

ブレードライガーは軽快に走り出すと、バイオラプターの攻撃をかいくぐりながら肉薄していく。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

レーザーブレードからまばゆい光を放ちながらバイオラプターの集団に突っ込む。

いつものごとく肉薄してきた獲物を迎撃しようと試みるバイオラプターだが、無論メタルziコーティングの武器を防げるはずもない。

 

瞬く間に十数体のバイオラプターが地に崩れ落ちる。

 

だがしかし。

 

「おいおい、こりゃ団体御一行様だな……。」

 

崩れたバイオラプターの死骸をを横目に迫り来る大量のバイオゾイドをみてそう呟く。

 

その中にはもちろんメガラプトルの姿だってある。

 

「各自後方支援を怠るな!コーティングのあるやつは俺についてこい!」

 

奴らの狙い。

それをこの場にいるオスカーはただ1人知っていた。

 

だからこそどんなに敵が多くても護らなければならない。

 

「渡してたまるか、失われた武器(ロスト・ギア)を…………。」

 

 

歯をくいしばる。

優秀な戦闘員が2人いない状況での戦闘。

 

さらには3番隊の隊士もヘルザ村での戦闘で戦えるのは半数ほど。

唯一の空戦戦力のレドラーもレーザーブレードの損傷で今日は参戦していなかった。

 

「どーしたオスカー。絶望的だって神頼みか?大丈夫だ、俺がいればなんとかなる。」

 

「そうだったな、アーバイン。期待してるぞ。」

 

「期待?俺は用心棒だ、積まれた金以上のことはしねぇ。」

 

アーバインはそんな冗談を言ってみせる。

 

そんなときディガルドの部隊後方から火の手が上がる。

 

「オスカー!」

 

その通信と同時に遠くで轟く雄叫び。

 

思わずニヤリとしてしまう。

 

「遅かったじゃねぇか、シュン。」

 

共和国にいた時からの信頼のおける部下が帰ってきた。

その思いが顔に出てしまったのかもしれない。

 

「とりあえず勝敗は五分五分ってとこだな……。」

 

オスカーはそう呟き大きく深呼吸をするとバイオラプターの群れに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、なんだよこのバイオゾイドの量は………。」

 

その量は今まで見たバイオゾイド達の比ではない。

 

「いったい、リアン村になにがあるって言うのよ!」

 

思わずミズハもそう嘆いてしまう。

 

とりあえずオスカー達と合流しよう。

そうは思うだがこの荒波をかけ分けるのはかなりのリスクがある。

おそらくメガラプトルだっているはずだ。

 

結局のところ新しいコーティングを施した訳ではない。

ストライクレーザークローが撃てるのは一回のみ。

 

「大事につかわねぇとな。」

 

「シュン、後方支援の砲撃で突破口を開く、フルブーストで突っ込んでこい!」

 

そのオスカーの通信が入った途端、熱を帯びた弾丸が雨のように降り注ぐ。

 

あまりにも大群になりすぎたバイオラプター達は、なす術もなく崩れ落ちていく。

 

「ミズハ、突っ込むぞ。ベルト締めてしっかりつかまっててな。」

 

助走をつけてバイオラプターに突っ込む。

ダウンフォーススタビライザーが風を切り、イオンブースターが唸りをあげる。

 

しかしあの弾丸の雨をかいくぐった機体もいるようでシュンの前に立ちふさがろうとする。

 

「じゃぁぁまぁぁだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

爪を突き出し喉元めがけて飛び込む。

 

ザンッ!

 

「よし!」

 

ヘルアーマーを切り裂く感覚が久しぶりに伝わってきた。

だが、目の前の敵を倒しても目の前に立ち塞がるバイオゾイドは多い。

 

「こんなとこ突破なんて無理よ!」

 

みるみるうちに囲まれていくライガーゼロ。

だがこんなとこでやられるわけにはいかない。

 

そんな取り囲むバイオラプターの口腔を何かが突き抜ける。

 

「小僧!その自慢の爪はお飾りか?早く突っ込んでこい!」

 

初めて聞く声だった。

大量のバイオラプターのせいで、その声の主もわからない。

 

「そんなことわかってる!」

 

目の前のバイオラプターを体当たりで蹴散らし、再び前進する。

 

目の前にバイオラプターが立ち塞がるならその爪で引き裂く。

 

「グァァァァァ!!!」

 

しかし前ばかり見すぎていたシュンは横から飛び込んで来たバイオラプターに気がつかない。

 

「シュン!」

 

「くそ!!」

 

ミズハの声に反応して左を確認すると飛び込んで来たバイオラプターを確認できた。

しかし今更回避などできない。

 

しかしそんな不安を払拭するかのように口腔にロングレンジライフルが撃ち込まれる。

 

「さっきからバイオラプターの口を撃ち抜くなんてなんて実力だ。」

 

思わず呟いてしまう。

 

もうすぐバイオラプターの波を抜けられる。

そう確信した時、目の前に黒いコマンドウルフの姿が見えた。

 

「アーバイン!」

 

後ろのミズハが聞きなれない名称を口にする。

おそらくあのコマンドウルフのことなのだろうがそんなカスタム名称は聞いたことない。

 

「なんだ、アーバインって。」

 

「うちの村の用心棒よ。」

 

そこでようやくそれが人の名前だということがわかった。

そういえば前にレイやケイトからリアン村には用心棒がいると聞いたような気がする。

 

そして最後に立ち塞がったメガラプトルと対峙する。

 

「くそ…………。」

 

残念ながらメガラプトル相手には一筋縄ではいかない。

コーティング装備なので突っ込めばいけるかもしれないが、その確証はないのだ。

 

互いに睨み合う2機。

 

しかし均衡を破ったのはライガーゼロでもメガラプトルでもなかった。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

眩い光を放ちながら飛び込んで来たのはオスカーのブレードライガーだった。

 

後方からの攻撃に反応できず、そのレーザーブレードによって胴体から一刀両断されるメガラプトル。

頭領を倒されたバイオラプターたちは一瞬たじろぎ、後ずさりをする。

 

「シュン、今だ!」

 

「はい!」

 

一瞬の隙をついてバイオゾイドの大群を抜けた。

 

「はぁはぁはぁ………。」

 

進んだ距離は大したことないだろうが、それでもシュンにとってはとても長い時間に感じた。

 

「大丈夫か、シュン。」

 

ゆっくりと歩み寄るオスカーのブレードライガー。

 

「はい、なんとか。」

 

するとその反対側に今度はアーバインがやってくる。

 

「おい小僧、大丈夫か?」

 

「大丈夫よアーバイン。さっきはありがとね。」

 

シュンの代わりにミズハが答える。

 

「なんだ、ミズハ。お前も乗ってたのか。」

 

アーバインと呼ばれた男は驚いたような表情をみせる。

 

「しかしこの量………困ったな………。」

 

オスカーは目の前に溢れかえるバイオゾイドたちを見てそう言葉を漏らす。

 

「ああ、今までに見たことのない量のバイオゾイドだ。」

 

アーバインも同じようにそう言った。

 

やはりディガルドはバイオゾイドを大量に生産し、物量で押し寄せて来ていた。

 

シュンの予想していた通りだった。

 

「だがやるしかない。2人とも行くぞ。」

 

オスカーがそう言った時だった。

 

前列にいたバイオラプターが突如後退し、代わりにメガラプトルが姿を現した。

 

その数およそ15体。

 

「おいおい、冗談だろ。」

 

今度はこちらが一瞬たじろいでしまう。

 

「クァクァクァッ!!」

 

その隙をついて大量のバイオラプターと数体のメガラプトルが村に向かって走り出す。

 

「しまった!」

 

隣にいたアーバインは慌ててメガラプトルを追いかける。

 

「村に向かった奴らは俺がなんとかする。お前たちはそっちを。」

 

黒いコマンドウルフは村の方へと消えて行く。

 

「シュン、こっちは俺たちでなんとかするぞ。」

 

「はい、中佐。」

 

「コーティングの武器を持つ奴はアーバインに続け、ここは俺たちに、任せろ!」

 

敵は多いがなんとかしなければならない。

 

「シュン、リアン村を守って。」

 

後部座席のミズハがそう訴えてきた。

そうだ、リアン村は彼女の村。

目の前で失うところなんて見せたくない。

 

「行くぞ、ライガー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





脅威を増してくるディガルド、シュンも加勢するがその物量、ライガーゼロとメタルziの相性が悪いことなどから劣勢を極める。

そんな時、高空の彼方から真っ赤な何かが戦闘の最中に突っ込んできた。

その場の全員が凝視する中、その謎のゾイドは背中に背負った大型の槍によって次々とバイオゾイドを仕留めていく。

血しぶきが舞うその戦場に1つ残ったゾイドは真っ赤に染まった彼の『新しい相棒』だった!!


次回 ZOIDS EarTravelers

第13話 「紅い死神」

死神、初陣。


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第13話 紅い死神

「行くぞ、ライガー!」

 

大気を震わせるかのような雄叫びをあげると、オスカーと共にメガラプトルに突っ込む。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

先に接敵したブレードライガーのレーザーブレードがメガラプトルに肉薄する。

 

だが。

 

ガキンッ!!

 

なんとレーザーブレードはメガラプトルの爪によって防がれていた。

 

「くそ、こいつら爪に加工をしてきやがったのか。」

 

弾かれて後退したブレードライガー。

そんなことあるわけはないが、まるで苦虫を噛んだような表情をみせる。

 

「中佐!」

 

「おそらくこいつら、爪部分にメタルziに対抗するコーティングを施してやがる。」

 

確かによく見るといつもは鉛色に光っていた爪部分は鈍く金色に光っていた。

 

「他の装甲部分にはまだ加工を施してないみたいだがこれは厄介だな。」

 

15対2。

睨みをきかす両者だが、メタルziのコーティング武器が確実な術ではなくなった以上、この数の差は圧倒的だ。

動きが止まった彼らに向かって動き出したのはメガラプトル達だった。

 

「ぐ………、とりあえず数を減らすしかない!」

 

胸部のショックカノンを地面に向けて撃つと地面がえぐれ土埃が舞う。

オスカーのライガーは姿勢を低くするとレーザーブレードを展開した。

 

「今だ!」

 

土埃から飛び出してきたメガラプトルにタイミングを合わせるように跳び上がる。

意表を突かれたメガラプトルは防御することなく、その首を落とされた。

 

「いける、やはりコーティングは爪だけだな。」

 

これで14対2

 

「いこう、光の精霊。」

『もちろんなのですよ。』

 

メガラプトル達は僚機がやられたことで躍起だっているのか、今度はまとめて走り出してきた。

 

「先頭は俺が!」

 

シュンはライガーゼロを軽快に走り出させると、接敵した一番前のメガラプトルに飛びかかる。

 

「シュン、赤い水晶体を狙って。そこがメガラプトルの弱点よ。」

 

胸元に怪しく光る発光体。

おそらくそれに違いない。

 

「うおおおお!!」

 

バランスを崩し横倒しになったメガラプトルの胸元に向けてライガーは爪を立て振りかざす。

しかし一度では突き破ることはできない。

ならば何度でも。

そして痛烈な一撃が水晶体を突き破った。

必死に抵抗していたメガラプトルもついに断末魔の咆哮をあげ、力なく崩れ去った。

 

次の獲物に狙いを定め、再度飛びかかる。

しかし。

 

「ぐっ………。」

「きゃっ……。」

 

突如横からの衝撃。

飛びかかる無防備なライガーゼロに別のメガラプトルが突進してきたのだ。

 

視界をあげると目の前には五体のメガラプトル。

あたりを見回せばオスカーも囲まれている。

さすがに数が多すぎた。

 

しかし諦めるなんてことはしない。

 

「こうなったら一か八かストライクレーザークローで飛び込んでやる。」

 

自分1人ならまだしもミズハが乗っている。

何としてもこの包囲網は抜けなければならない。

 

「頼む光の精霊、力を貸してくれ。」

『今さら何を言ってるのですか。』

 

光の精霊は鼻で笑いながらそう言う。

 

『私にいい案があるのですよ。任せるのです。』

 

なんとも心強い。

その瞬間、頬のフィンが開き各部がまばゆい光を帯びる。

 

『シュン、私の言う通りに。』

 

光の精霊がそう付け足すとライガーゼロは走り出す。

 

まるで避ける様子のない獲物達。

メガラプトル達は散開しシュンの攻撃に備える。

目の前に立ちはだかるメガラプトルは爪にコーティングが施された機体だ。

こちらの攻撃を受け止める気なのだろう。

 

「構うもんか、貫いてやる。いくぞ光の精霊!!」

 

右爪を振り上げ飛び込む。

その瞬間、ライガーゼロの爪が黄色から赤に変わる。

 

ザンッ………。

 

メガラプトルに対して突き出されたライガーゼロの右爪はコーティングしてある爪、それすらも引き裂く。

 

『シュン、そのまま次なのですよ!』

「え、でもコーティングが。」

『いいから、あとはライガーに任せるのです!』

 

光の精霊に言いくるめられるようにそのまま次の獲物を狙い走りだす。

 

「ライガー、任せたぞ!」

 

もう、相棒を信じるしかない。

シュンの気持ちとは裏腹にライガーは楽しそうだった。

砂を蹴り上げ、勢いよく闊歩する。

たじろぐメガラプトルに爪を振り上げる。

 

ザンッ………。

 

超高熱の刃は鋼鉄の魔龍をいともたやすく切り裂いた。

 

「嘘だろ………、そんな手が。」

 

もちろん一撃目でコーティングはあっけなく剥がれていた。

その証拠に右爪はライガーゼロの本来の金色とコーティングの銀色が入り乱れている。

 

『単純な考えなのです。だって、コーティングしたのは右爪だけじゃないじゃないですか。』

 

左手で撃ったのだ。

確かに言われてみれば左右の爪にコーティングを施したのだから両方で2回ストライクレーザークローは撃てる。

わかっているが、前回のヘルザ村での戦闘は全て右爪だった。

 

「きっとシュンが右利きだからよ。」

「えっ?」

 

後部座席に座っているミズハはそう言った。

 

「シュンが右利きだから、おそらく無意識に右手で攻撃するようにコントロールしてたのかもね。逆にライガーの本能で動かしたから逆の爪を使ったんじゃないかしら。」

 

「そういうことか………。」

 

今まで操縦に関してそんなこと考えたこともなかった。

操縦には自信があったが、まだまだ未熟だということだろう。

 

『シュン、 色々と考え込むのは自由なのですけど追撃が来るので後でにしてほしいのですよ。』

 

「そうだな、一旦引くか。」

 

横に目を向けるとオスカーもなんとか包囲を抜け出したのを確認できた。

 

示し合わせたように後退する2人。

 

「シュン、そっちは何機だ?」

 

「こっちは3機です。でもコーティングは剥がれてしまいました。」

 

「俺も3機だ、ブレードを一本折られた。同じようなもんだな。」

 

オスカーのブレードライガーの左側レーザーブレードは根元から折れている。

お互いにほぼ武器は尽きた状態だ。

 

これで9対2。

 

先ほどに比べ数は減ったが、戦力的には先ほどと変わらないのが現実だった。

 

このままではやられる。

敵はメガラプトルだけでなくバイオラプターもいるのだ。

 

「どうする、シュン。」

 

オスカーからの通信。

声の感じからして彼も焦っているに違いない。

 

しかしこの状況、どうすると言われてもどうにもならない。

 

「何か策はないのか、光の精霊。」

『こっちも色々と考えているのですよ。』

 

光の精霊も焦っている。

だがそんなことを他所にメガラプトル達はジリジリとその距離を詰めて来た。

 

その時だった。

 

「ねえ、シュン。あれ、なにかしら!」

 

ミズハは不意にそんなことを言って空を指差す。

 

「ほら、あそこ。何か落ちてくるわ!」

 

ミズハの指差す先、そのには確かに何かが映っていた。

しかし残念ながらそれが何かまでは確認できない。

 

「ディガルドの新兵器か?」

 

頭をまずよぎったのはその可能性。

だがそれを確認する暇もなく。

 

「速い!?地面に着くぞ!」

 

凄まじい轟音と共に謎の飛行物体は地面に到達する。

着地の衝撃か、大量の砂埃が天高く舞い上がる。

 

「シュン、なんだあれは?」

「俺もわかりません。中佐もご存知ないのですか?」

「当たり前だ。」

 

敵か、味方か。

はたまた新たな勢力か?

 

思わず一歩ずつ後ずさりしてしまう。

 

「一体なんなんだ………。」

 

土煙の中、まだその姿は確認できない。

しかし。

まるでロケットブースターのような爆音と同時に、耳を塞ぎたくなるような断末魔が次々と聞こえてくる。

そう、あの土煙の中だ。

おそらく落ちてきた何かと土煙の中のバイオゾイド達が戦っているのだろう。

 

「シュン、前!」

 

後部座席のミズハは勢いよく前方を指差す。

土煙の中から飛び出してきたのは一体のメガラプトル。

迎撃しようと体勢を整えようとするが何かおかしい。

それもそのはず、メガラプトルはシュンの方に2、3歩歩くとまるでスライスされたパンのように真っ二つになりゆっくりと崩れ落ちた。

 

「まさか………メタルzi……。」

 

オスカーはそう呟く。

 

「え………。」

「メガラプトルをあれだけ綺麗に切断となるとおそらくコーティング武器ではない。本物のメタルziの武器だ。」

 

そうなると新たなる勢力だろうか。

シュン達が一抹の不安を背負う中、ゆっくりと土煙が晴れる。

 

「あれは………。」

 

さっきまで群れをなしていたバイオゾイド達は見るも無残な姿になっていた。

 

「あれだけのバイオゾイドをこの短時間で………。」

 

あれがメタルziの武器の強さなのだろうか。

そう思った時、残骸の中で動く影が1つ。

 

その影はゆっくり動き出すとシュン達の方に向かってきた。

だがそのシルエットはあまりにも小さい。

あんなモルガのような小型のゾイドがあの大量のバイオゾイドを倒したというのだろうか。

やはりメタルziの威力は半端ないのだろう。

 

ゆっくりと近づいて来たシルエットはついにその姿を見せた。

 

 

 

低い体高と重装甲を持ち、特に頭部装甲は他の部位の2倍以上の厚さによって強固な防御力を持ったそいつは、これを利用した突進攻撃も可能で、突撃部隊や特殊部隊で重宝される。この頭部装甲に守られたコクピットと姿勢の低さから、突撃用ゾイドとしては高い生存性を誇る。

汎用性が高く様々なバリエーションが存在すし、中央大陸戦争初期に開発されて以来、惑星Ziで最大の生産数を誇る。

 

しかしシュンは初見ではない。

解放戦団にも配備されている。

 

だが何かが違う。

 

「あのモルガ、背中についてるのは槍か…?」

 

まるでバイオゾイドの返り血を浴びたかのように真っ赤に染まったモルガ。

無論カラーリングではあるとは思うが、他のモルガにはない禍々しさを感じた。

そして目が釘付けになったのは背中の武器。

一般的にモルガは突撃とは言えど何も格闘武器をつけているわけではない。

ケイトのモルガがそうだったように大抵は砲撃用の火器を装備している。

 

だがその背中には矛とも槍とも言えるような格闘武器を装備していた。

鈍く銀色に輝くコーティングに酷似した煌めき。

おそらくあの武器がメタルziの武器に違いない。

 

そのモルガはさらにゆっくりと近づいてくると50メートル手前ほどで止まった。

 

「みんな、待たせたな。助けに来たぜ。」

 

彼はそういうと口角を上げてニヤリと笑った。

 

その聞き覚えのある声に思わずシュンもニヤリとしてしまった。

 

 







新しい愛機に乗って助太刀に来たケイト。

しかしリアン村での戦闘は苦しい戦いを強いられる。
そしてバイオゾイド達から天空の心臓を守るためにアーバインのコマンドウルフが被弾。
村の村長も戦闘によって命を落とした。

村を守ることはできたが大きな被害を出してしまった解放戦団はついにある「決断」を行う!!

次回 ZOIDS EarTravelers

第14話 「英断か躊躇か」


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