ブーディカさんとガチャを引くだけの話 (青眼)
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新年早々のガチャって余り良い思い出が無いと思うんだけど、それって俺だけかな?

※ご覧の作品は、稚作、『Fate/Boudica Order』と、作者・青眼の所持しているサーヴァント達によるガチャ報告会です。そのため、FGO本編のネタバレ要素が含まれている可能性があります。ダメな方はプラウザバックを推奨いたします。


「黒鋼研砥と!」

「ブーディカの!!」

 

課金石限定!!福袋&新年ピックアップガチャ!!

 

 

 

 

 

「さぁ始まってしまいました!他人の作品につられて書いてしまったのこの作品!記念すべき第一回目は、新年と同時に開催された福袋ガチャ、ならびに新しい☆5セイバー、宮本武蔵を始めとした期間限定サーヴァント達の復刻ガチャでございます!!」

 新たな仲間を召喚するために作られた、『守護英霊召喚システム・フェイト』のある部屋に設置されたテーブルに椅子に座り、さながらニュースキャスターのように挨拶する。隣には、いつも俺を支えてくれて、ご飯まで作ってくれている俺たちの守り神、ブーディカさんが座っている。

 

「まだ『終局特異点』はおろか、冬木編さえ終わってもいないのにも始まってしまったこの作品!!ですがなんの問題もないのです!!何故なら!!そこにガチャがあるのだから!!」

「いや、そこに山があるから的なノリでするようなものじゃないと思うんだけどな………まぁいっか。あ、この作品を見てくれている皆。少し遅れちゃったけど、明けましておめでとー!!今年もよろしくね--!!」

 

 少し暴走気味な俺に苦笑しながらも、撮影班であるロビン達向かって挨拶と軽くウィンクをするブーディカさん。余りの美しさと可愛さに全員がその場で見悶えている。あのクレオパトラさんでさえ輝きが消える程だった。そういやどうでもいいけど、家ってアサシンクラスの人が多いよね。

 

「さて、今回行う福袋ガチャは、ダ・ヴィンチちゃん工房で現金と引き換えに錬成された聖晶石30個による物のみ行われ、一度召喚を実行すればその時点でSSR………つまり、星5のサーヴァントをが召喚可能なっております!!」

「前回までに行われていた物とは違って、今回はどのクラスで召喚を行うかを事前に決めれるから、召喚したいサーヴァントが呼びやすくなってるんだよね?」

「YESYESYES!!そしてェ!こちらが現存する(期間限定サーヴァントを除いた)星5サーヴァント達だ!!」

 

 指を軽く鳴らすと同時に照明が落ち、後ろに稼働を控えた召喚サークルが起動。通常の七騎士にエクストラクラス、ルーラーの聖女を加えた合計二十騎の英霊のデータがホログラムで表示される。

 

「え~と、この中で既に召喚されているのは………セイバーのアルテラ、ライダーのドレイク船長。アサシンのジャックちゃんにバーサーカーのフローレンス。それからルーラーのジャンヌだね」

「皆さん本当にお世話になっています!本当に感謝してもし足りません!!……ジャンヌは水着着てから出直せ」

 

 瞬間的に低くなった俺の声に反応して、「ごめんなさーーい!!」と若干鼻声になっている聖女の声が聞こえた気がするが、あえて無視する。ええ、悪意はありません。決してありませんとも。

「もう。まだあの時の事根に持ってるの?」

「インパクト強すぎて逆に忘れられんわ。いや、家には絶対に来ないと思ってたし、来てくれたのは素直に嬉しかったんだが………如何せんタイミングがなぁ………」

 

 ジャンヌを召喚してしまったのは今から四か月ほど前、本編的に言えば水着イベの時だ。第六特異点『神聖円卓領域 キャメロット』の人理を修正した直後、新たに発生した特異点にレイシフトした矢先の事だった。スタッフの不注意により、俺を含むサーヴァントの多くが無人島に放り出されたのだ。

 サーヴァントは環境による影響をあまり感じないとはいえ、全身青タイツなクー・フーリンや、見るからに重装備なブリュンヒルデは見ていてこちらも暑くなってくる。突然の事故でスタッフとの連絡ができないことを知った時は、真剣に我が身を呪ったほどだ。

 

 

 だが、こんなところでも奇跡というのは起こるらしく、何故か先に無人島で生活をしていたクー・フーリンの師匠、スカサハ含む多くの女性サーヴァント達と協力し、結果だけ見れば、無人島ライフを満喫したのだった。今思えば、まともな休暇はあれが初めてだったかもしれない。クリスマスはクリスマスで、サンタオルタと一緒にプレゼントを配ってたから余り休めなかったし。

 閑話休題(それはさておき)。多くの障害があるにはあったが、スカサハ師匠と同じく、無人島で遭遇した騎士王アルトリアや、凄女マルタ様やらいろんな英霊の力を借りて特異点を修正し、いつも通り帰還したのだ。しかし、一人こっそりと付いてきた水着師匠が、原初のルーンで召喚システムを弄り、あの無人島生活を共にした仲間を呼べるようにしてくれたのだ。ルーンって、凄い(小並感) 。

 それを報告された俺は、当時所持していた聖晶石と呼符を全て叩きつけ、サークルから弾き出される物を見ながら心のどこか祈ていた。彼女が、良妻願望全開の巫女狐様を、太陽神・天照大神の分霊である彼女を召喚をできますようにと-----

「ーーーーーーーだが、現実はそんなに優しくなかった。召喚されたのはランサーに転職した嘘つき焼き殺すガール二人と、虹演出でシステムも警告するほどの召喚反応だったのにも関わらず、ルーラーなのに凄女ではなく普通の聖女だった、というわけさ。正直に言おう。ピックアップ仕事しろォォ!!」

「ま、まぁまぁ。ジャンヌだって強いでしょ?今回なんて特にお世話になったでしょ?」

「…………そうなんだよなぁ。あの魔神王を倒すことができたのはブリタニアの誇るニートと、ジャンヌがいたからだな。まぁ、引導を渡したのはブーディカさんだけどね!」

「偶々だよ。あの時、宝具を使われてなければ、私しか生き残ってないなんて状況は生まれなかったし」

 

 初手の無敵貫通宝具強化とかいう初見殺しを、強化無効のスキルを持った礼装で封印し、あとは限界突破済みの『天の晩餐』を持たせた盾役二人に、第四次聖杯戦争の特異点で新たに加入した、アイリスフィールさんの3人でひたすら耐久してたったからな。あの尋常じゃない堅さに、あの魔神王も「この人間城塞共めがァァァァ!!!」と大いに嘆いてたからな。ははっ、このざまぁ(愉悦)。

 けれど、最後の最後で回復が間に合わなくなって戦線が壊滅してしまったのだ。そんな逆境を振り払ってくれたのが、ガッツスキルで一人耐えしのいだブーディカさんだった。

「それじゃ、脱線するのもこれくらいにして、そろそろ本題に入ろっか」

「そうだな。それでは早速、と行く前に今回はゲストの方を招待しております。皆様、拍手でお迎えください!!」  

 

 今回は記念すべき第一回目なのだ。愚痴を吐くのを抑え、今回のスペシャルゲストを拍手で迎える。これから召喚する(予定)の彼女と仲が良く、人理修正の旅に序盤から手を貸してくれたあの皇帝を迎える。「派手に余を呼ぶがよい!」と言っていたから、とりあえず彼女のBGMと薔薇をばら蒔いたのだがーーーーー何故かBGMが不穏なものに変わっていた。

 より具体的に説明すると、黄金劇場ではなく、一撃必殺の天地を裂く剣を使う時に流れるあれだ。……………何故だろう。もしかしなくても嫌な予感しかしない。

 

「ふはははははは!!残念だったな研砥よ!!今回呼ばれたのはあの薔薇の皇帝ではない!!この(おれ)だ!!さぁ、声高らかに、謳うように我が名を口にするがいい!!不敬、特に許す!!」

 

 ああ最悪だ。当たって欲しくない予想が当たってしまった。いや確かにお前ら仲が地味に良いけどこんな所で発揮しなくてもいいんだよ……。一人心のなかで嘆き、ブーディカさんに助けを求めるように視線を送るも、むしろノリノリで拍手を送っている。くっ、逃げ場がどこにも無いだとォ!?

 

「何だ、今になって(おれ)の名を口にすることが名誉だということを思い知ったのか?仕方があるまい、ならば(おれ)自ら名乗りを上げるとしよう---!!」

 いや、別にそんなことはないんですが。むしろ来たときから友達感覚で話しかけてくれてるじゃないですか。「エルキドゥ以外は友と認められん(おれ)が憎い………!」なんて恐れ多いこと言ったじゃないか。というか認めたら認めたらで、エルキドゥみたいにギルって呼ばなかったからすかさず魔杖を構え出すじゃないかーーーーー!!!

 

 内心で思いっきり愚痴をこぼすも、本人にとってはどこ吹く風。そんな俺を無視して、照明の落ちて暗いこの部屋を、黄金の輝きが埋め尽くしていくーーーー

 

「矢を構えよ。(おれ)が許す。至高の財を持って我らの守りを見せるがいいーーーー!!人類最古の賢王、キャスター・ギルガメッシュ!!ここに見参!!」

 

 終わることの無い高笑いと共に、人類最古の英雄王(AUO)がご降臨される。それを見てうわぁ……と嘆く人もいれば、王様だーーー!!と喜ぶ者もいる。特に子供が多い。

 

「どうした研砥よ。せっかくこの(おれ)が参加してやったのだ。礼の一つでも言ったらどうだ?」

「………その前に聞きたいんだが、本来の役者…………セイバーのネロはどうした?」

 

 本来この場に来る予定だった薔薇の皇帝の行方を聞く。ネロは皇帝である前に一人の芸術家だ。派手な物はこよなく愛すし、自分の役はきっちりこなすだけのガッツも持っている。それに、一人の人間としてあらゆる者を愛し、愛されたいと思っている彼女が、今回のようなイベントを逃すはずがないのだが----

「ああ。あやつか。なに、以前奴が作った劇場で酒盛りをしてな。あれでも十分すぎる程美しいのだが、まだまだ改築するなどと言い出したのだ。あのような素晴らしい劇場を作ったのだ。次回作にも期待できるというもの。作るというのならば早い方がいい。故に、我が宝物庫にある至高の素材を渡してやった。今ごろ、新たなる黄金劇場の作成に勤しんでいるであろうよ」

「あのギルが財宝を渡した!?」

「人類最古の収集王が!?」

「英雄王としての(おれ)ならば、決してあのようなことはしなかったであろう。だが、此度の(おれ)はキャスターとして現界している。道具を作るという喜びを知ってしまった今では、協力してやるのも吝かではないさ」

 

 無論、協力する相手は選ぶがな。『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』で取り出した酒を片手に、優雅に微笑むギル。余りに寛大でかつ格好の良いその在り方に、俺は心の底から感動してしまう。英雄王の、暴君としてのギルを知ってしまっているが為に、目の前にいるギルを本物かと疑ってしまうくらいだ。

 

「してブーディカよ。貴様も飲むか?貴様は(おれ)が認めた数少ない王の一人だ。酒を振る舞ってやっても構わんぞ?」

「お言葉はありがたいんだけど、今は仕事中だからね。終わってからなら付き合うよ?」

 やんわりと断ったブーディカにも怒らずそうか、と一言だけ呟いた後、ギルはまた酒を口にする。その仕草と物言いがとても様になっていて、回りも「おお……」と驚いている人もいれば感動している人もいる。

 実はこの二人、第七特異点の頃からこの仲の良さを発揮してたりしてする。ブーディカさん曰く、何だか放っておけないらしい。仕事で忙しかったギルに軽めの物を作ってたりしていたし、ギルもそれを良しとしていた。英雄王としての彼なら取り合わなかっただろうけど、二人とも自分の国を護ろうとして奮起したので、意外と仲が良いのかもしれない。

 

「さて研砥よ。そろそろ本題に入るがいい。余りぐだぐだし過ぎていては、興も冷めるからな」

「お、おう!それじゃ行くぞ!!回すクラスはキャスター!狙うは玉藻の前ただ一人だ!!」

 今度こそあの巫女様を召喚して見せる!テーブルの上に置いていた箱を持ち、召喚サークルの前にまで行って封を解く。そしてーーーー

「来てくれタマモ様ーーーーーーーー!!」

 

------その全てをサークルの中央に叩きつけた。

 

「って何やってるの研砥ぉ!?」

「気分でやった。後悔はしていない!!」

「ふはははは!!それでこそ研砥だ!!貴重な石を投げ捨てる様に放り込むとは、中々に笑わせてくれる!!」

 だって最近ピックアップ仕事しないし空気読めないんだもん家の召喚サークル!!先に召喚してた酒呑童子と相性最悪な頼光(らいこう)さんを呼んでしまうっていうぐらいに空気の読めない奴なんですよ!?何回施設が壊れかけたと思ってるんですかぁぁ!!

 当時起こった悲劇を思い出していると、一回目からサークルが虹色の光を伴って回転を始める。いよぉうし!

 

「一回目から虹演出!!☆5確定玉藻の前確定だねぇ!!」

「あ、何か展開読めた気がする」

「奇遇だな。(おれ)もだ」

 後ろの方でブーディカさんとギルが何かを言っている気がしたが気にしないことにする。ふははは!!ついに!!ついに我らの元にも玉藻の前様がーーー!?

 

「どうも!あたしは玄奘三蔵!!見仏の導きに従って来たわ!!」

「アイエエエエェェェェ!?!?三蔵チャン!?アイエナンデェェェェェェェェェェ!?!?(血涙」

「ふはははははははは!!!あははははははははははははははは!!!!(愉悦顔」

「あちゃ…………………今回も駄目だったかぁ……………」

 

 期待に胸を膨らませたのにも関わらず召喚されたのは、同じく最高ランクであるキャスター・玄奘三蔵。どこぞの魔砲少女キャスターと同じ珍しい攻撃的なキャスターで、瞬間的な火力と自前のスキルによるサポートを同時にこなす優秀なサーヴァントだ。しかし。駄菓子菓子(だがしかし)!!

 

「何でいつも玉藻の前だけ華麗にスルーすんだよ!!いい加減玉藻さん出せよ!!出せェェェェェ!!」

「け、研砥落ち着いて!!まだ9回も召喚するチャンスが残ってるんだから!!」

「ブーディカよ。余計な気遣いはしてやるな。主の胸を余計に締め付けるぞ」

 ええい!!ギルが何やら言っているが無視してやる!!少々予定は狂ってしまったが、残りの九回で玉藻様を当てればなんの問題もなーーーー

「「「「サーヴァント・キャスター。ジル・ド・レェ。召喚に応じ参上いたし」」」」

「ジルテメェェェェェェェェェェェ!!」

「目潰し!!」

「失せよこの殺人鬼めがァ!!」

 

何故か四人同時に出現したジルの目に、俺たちの指が、拳が、魔杖の一撃が突き刺さり、召喚口上を言う前に再起不能にする。仕方ないよね!!あいついたら子供の害悪だものね!!是非も無いよネ!!

 

「それにしても、あの腐った目の男の後は礼装ばかりか………つまらんな」

「ふ、ふははは。あれぇ?七枚目の『騎士の矜持』だぁ。何でこんなに来るのかなあって八枚目来たぁ(遠い目」

「…………………………………」←可哀想すぎて何も言えないブーディカさん

 

 何だかんだで回り始めたサークルもついに最後の十回目となった。こんなのってないよあんまりだよぉ、と一人で嘆いていたとき、眩しい光がサークルを輝かせる。

 

「何ィーーー!?」

「これは…………まさか!?」

「……………………………ほん、とう、に---?」 

 

 バチバチ音を立てながら現れたのは、金色の魔術師のカード。その瞬間、俺はこれまでの長かった戦いに終止符が打たれたのだと悟った。ああ……………本当に長い戦いだったーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーという結果になるはずも無かった。ハハッ!死のう……………」

「だから落ち着いてってば!?」

 

 召喚されたのは玉藻の前ではなく、この施設では二度目の出会いとなる本の姿をした不思議なキャスター、ナーサリーライムだった。ふわふわと本が浮かんでいるのを見て、新入りの三蔵ちゃんが「妖魔!?妖魔の一種なの!?」と驚いていた。まぁ、ナーサリーはキャスターの中でも火力凄いし、三蔵ちゃんには第六特異点でも世話になってるから、一概にも爆死とは言えないんだが。

「ーーーーー結局、来なかったなぁ玉藻さん」

「そうだね。もしかしなくても、がっかりしてる?」

「そりゃあ、な。でも孔明が来なかっただけマシだったと思うさ。俺、あいつのこと嫌いだし。あ、三蔵ちゃんには第六特異点での礼を言わないと。あの人がいなかったら真剣にやばかったし」

 孔明がいるだけでほぼ戦闘に勝てちゃうからな。あんなチートは絶対に使わん。断じて使わん。種火周回の時は別だが。

---そもそも、第二特異点でブーディカさんを人質にしたのは断じて許さん。そりゃ、ネロと会いたいからと言ったらそれだけの話だが、それでも許せないのは事実だ。今でも、特異点で遭遇したら一発ぶん殴るし。

「さて、次は正月ピックアップでも引きますか。どうせまともな奴じゃないだろうけど」

「そう自棄になるな。折角(おれ)がここにいるのだ。もしかしたら、アーチャーの(おれ)が来るかもしれんぞ?」

「来たら来たらで酒呑とかと喧嘩しそうなんだけどな。まぁいいや。とりあえず余った石30個ポーイ」

 

 半ば自棄になりながら石を放り込み、サークルが順調に回転を始める。それから何回も光と共にカードが弾き出されるが、現れるのはどれも礼装ばかり。あ、『ファースト・サンライズ』出た(白目)。

 

「あっれっれ~?おっかしいぞ~?確か十連召喚したら☆三以上のサーヴァントが出現するはずなのに、まだ一枚も出てこないんじゃが?」

「そうだねーーーあ、また『激辛麻婆豆腐』が出た。どうする?食べる?」

「いや(おれ)はいらん。令呪でも使わん限り、(おれ)は絶対に食べんからな!!いいな!ふりではないからな!!」

「どんだけ嫌いなんだよ………あ、ようやくサーヴァントが来たなアアァァ!?」

 結局、最後の最後でサーヴァントが召喚された。驚いたのは、それが金色に輝くセイバーのカードだったからだ。

「え、これまさかあれか!?小次郎先生のライバルのあの人か!?」

「まさかーーーーよもやこのような逆転劇がーーー!?」

「やった!!やったね研砥!!」

 

 本命(英雄王)は来なかったが、まさか二刀流の開祖(宮本武蔵)が来るとはな!!ははっ、沖田さんや剣式さんを持ってなくて少し寂しかったが、これで俺もついに侍セイバーがーーーーー

 

「サーヴァント・セイバー。シュヴァリエ・デオンだ。君が私のマスターかい?」

「違う……………声は似てるけど違う人なんや…………というかこのやり取りも四回目や…………!!(orz」

「ーーっ!!ーーーーーはっっふふっはははは!!(大爆笑」

「研砥……………可哀想な子…………!!(涙目」

 

 もう乾いた笑みと涙しか出ない。真剣に報われなさすぎる。誰か俺を救ってくれぇ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーというわけで、今回は如何だったでしょうか?皆様のご期待に沿えれましたでしょうか?面白いと思われたら幸いです」

「いや、今更そんなふうに取り繕っても無駄だからね。思いっきり暴走してたからね」

「え~~本当でござる」

約束されざる(ソード・オブ・)ーーー」

「はいごめんなさい全力で暴走してましたーーーー!!」

 

 宝具使おうとするブーディカさんに、人間が使える最強の対人宝具『土下座』を披露する。家にはブーディカさんや頼光さんがいる代わり、みんな大好きエミヤさんがいないので、機嫌を損なえば飯が無くなるのである。それだけは真剣に不味い。

 

「さて、それじゃ、そろそろ片付けしますか。撮影班の皆さーん。お疲れさま」

「なんや、もう終わってしまうん?つまらへんなぁ、もうちょっと楽しみたかったんやけど」

「そうですわねぇ。そこにいる虫同じ意見なのは癪ですが、少し残念です」

 ピシッ、とこの場の空気が一瞬で凍った気がする。具体的には今発言した二人によってこの場に空気を占領されたと言い換えても良い。召喚ルームに堂々と入ってきた二人を見て、今日何度目かの溜め息を吐く。

 

「…………なんで酒呑と頼光さんがここに?一応聞いておくけど何故?」

 

 思いっきり露出した着物を着崩し、頭には綺麗な二本の角を生やしたアサシンのサーヴァント。京の大妖怪・酒呑童子と、それを退治したバーサーカー・源頼光さんが仲良く一緒に歩いてきた。仲が良いことは良いにこしたことはないんだが、この二人が絶対に和解することはない。彼女たちは例えるならば水と油。だから、このように手を取り合っているのは異常すぎる----!!

「なんや、うちにそないな事言わせるん?旦那さんはいけずやわぁ」

「虫が何やらほざいていますねぇ。この場でその首、もう一度切り落として上げましょうか?」

「やれるものならやってみぃ。うちも乳臭いババァと一緒やと、飲む酒が不味くてしゃないからなぁ………!」

「ストーーーップ!!分かった!!俺にできることならやるから!!頼むからここで喧嘩するのはやめろぉぉ!!」

 二人が得物の大刀と長刀を抜くと同時に、俺は出来る限りの声を上げて仲裁に入る。いや本当に怖いんだけどね!!でも止めないと新しい仲間が呼べなくなっちゃうからね!!あぁもう、本当にストレスばかり溜まる職場だなぁ!!

 

「あ、それならこれ使うて、新しい人喚んでもええ?余ってたやろ?」

 

 何でもすると言った直後、酒呑が懐から取り出したものを見て、俺の思考が停止する。いやだってお前それ---

「な、何で酒呑がその呼符を!?貴重なものだから使うまいと封印してたのに!?」

「あはは!うちは鬼やで?欲しいもんは何でも手に入れる主義や。たとえ、それが旦那さんの物でもねぇ♪」

「申し訳ありませんマスター。この鬼と同じことをするの母をお許しください。お詫びに母に甘えてきても良いですよ?」

 

 目に涙を貯めながら言う頼光さんに、強く言い出せない俺。おいこら。誰だ今ヘタレって言った奴は。しかし、この二人がこんなにも召喚したがっているのは珍しい。何故だろうと冷静に考えると、二人が召喚したがっている理由を理解した。

 

「あぁ!!金時か!金時を召喚したくて使いたがってるのか!?」

「ご明察や。流石うちの旦那様やね。ほな、早速行ってみよか」

 

 今は英雄王ギルの他にも、この二人が大好きな坂田金時が召喚できるようになっているのだ。だから二人が呼符を持ち出してまで召喚したがっているのだと理解する。そう考えが纏まると、酒呑が呼符をサークルに投げ入れる。すると、さっきのデオンと同じく黄金の光が部屋を覆い、魔人が描かれたカード、高ランクのバーサーカーのカードが出現する。

「嘘だろ!?初めての召喚で高ランクのサーヴァントを召喚できるのか!?」

「うふふ、うちはそこにいる金ぴかと同じで、欲しいものを何でも手に入れる

性質(たち)やでぇ?このぐらい、わけないわぁ」

「む、英雄王の(おれ)と同じ『コレクター』のスキルでも持っているのか?」

「少なくとも、持てるだけの資格はあると思うとるよ?」

 

 確かに、話によれば酒呑童子はあらゆる財宝、酒や美しい男女を手に入れたという説はある。ならばギルと同じ『コレクター』のスキルを持っていてもおかしくはない。そうこう話しているうちに、ついにバーサーカーの現界が始まる。色々と腑に落ちないが、これで金時が喚べればこの二人で苦労することも少なくーーー

 

「Arrrrrrrrrrrtherrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!」

「空気読めよバサスロットォォォォォォォォォォ!!!」

 

 召喚サークルから現れたのは、黒い甲冑を着たバーサーカー。既に召喚しているセイバーの彼とは別の側面であるランスロット卿だった。ちなみに、金時を引き当てたと悦に浸ってた酒呑は、目の前の光景に愕然とし、直後-----

 

「-----ふん!!」

 

 彼女の宝具、『千紫万紅・神便鬼毒』が入った瓢箪を、ランスロット卿の鎧の間に捻り込んだ。

「って何やってんの!?おおぉい!?大丈夫かランスロット!!死ぬなぁぁぁぁ!!」

「aarr………………therrrrrrr……………………(意訳:ごちそう…………………さま…………でした)」

「さて、次は私の番ですわね。待っていてください金時!!今、母が会いに行きます!!」

「これ以上被害者増やすなお前らぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「……………何、どうなってるのこの状況?」

「ははっ。愉悦」

 

 混迷を極める部屋のなかで、最後に一言だけ申したい。というか言わないとやってられない。

「金時ィィィィィィィ!!!早く来てくれェェェェェェ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、そんな頼光さんが召喚したのはフランだった。電気使うバーサーカーだけど人違いや、と嘆いた俺は仕方がないと思う……………

 

 




 ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました!!それから遅れましたが、明けましておめでとうございます!

 というわけで、筆が乗ったので書いてしまった本作品、いかがだったでしょうか?読んでくださった皆様が面白いと思ってくだされば幸いです。

 それにしてもガチャ、物の見事に爆死しました!!いや~もう、笑うしかないですねぇ!多分、玉藻を呼ぶために使った石の総数、福袋込みで400越えてるんですよ。いやぁ、いつになったら召喚させてくれるのかな?まぁ、でない間は賢ギル様やエレナさんに頑張ってもらいますが。

賢ギル「(おれ)は別に構わんぞ?だがあえて言わせてもらおう。過労死だけは二度とごめんだ!!」
アンデルセン「ほう、あの傲岸不遜極まりないギルガメッシュ王も働くということを覚えたらしい。いいぞ、ではお前の生前の事を聞かせてくれ。暇潰し程度には付き合ってやる」


 『Fate/extraCCC』の時もそうだったけど、このキャスターコンビだと凄く仲良さそうなんだよなぁ。誰か書いてくれないだろうか。え、私が書けって?ごめんなさい私まだ受験生なので時間がないです(血涙)。

 誤字・脱字がありましたら感想欄に報告をお願いします!!沢山感想くれたら、本当に嬉しいですっ!!

それでは、改めてもう一度だけ。
読んでくださった読者の皆様!ありがとうございました!!今年もよろしくお願いします!! 


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夢とは儚く、いずれ覚めるもの

はっはっはっは。何故、俺は大学受験一週間前にこんなことをしているのかな?

というわけで今回のバレンタインガチャ、再び訪れた玉藻の前ピックアップのガチャ報告です。息抜きで書いちゃいました!ま、まぁ一日で書き上げたので許してくれないかなぁなんて?皆さんは、満足行く結果でしたか?

私?ならば本編をどうぞ!!



※冒頭にUBWのセリフを改変したものを載せてあります。不快に感じられましたら申し訳ありません。ですが、私の本音の部分なので変更はしないと思います。ご了承ください。





一面に広がるのは燃え尽きた廃墟。空からは残り火を掻き消すように雨が降り注ぐ。それは、何故かこの場に倒れ果てた、さながらゾンビの群れの様な人々を癒すかのようだった。何故、ここに人が倒れ伏しているのか。それは、己の夢が叶わなかったからだ。

 

ーーーある者は運が無かったと嘆き

ーーーある者は無駄だと知っておきながら飛び込み

ーーーある者は心を失いながらも、何かを求めて進んでいった

 

 

「これがお前たちの成れの果てだ。星5のサーヴァントを、ピックアップされているから当たるなどと驕り、理想を抱いて溺死した愚か者の末路だ。フレンド欄に、イベントボーナスの礼装とサーヴァントを置かなければ安心できないなどと言い訳をし、無駄に食費を割いてまで地獄(ガチャ)へと足を踏み込んだ、大馬鹿者達の最期だ」

 

 声が聞こえる。酷く冷たく、けれど力強い男の声。ああ、そうだろう。男の言っていることは正しい。決して間違いではない。だが違う(・・・・)間違いではないが(・・・・・・・・)それは違うんだ(・・・・・・・)

 

「………聞いていなかったのか。そこから先は地獄だと言ったのだが」

 

 男が咎めるように俺に声をかける。どうやら、自分でも知らないうちに足を動かしていたようだ。だが、一度動き出した足は止まらない。一歩、また一歩と、目の前に広がる地獄へと足を進ませていく。

 

「そうか。お前も、そこで朽ち果てている愚か者共と同じだったのか。いずれ同じ末路を辿ると知ってなお、歩みは止めないと?」

「………ああ。けどな。これがお前の、いや、俺たちの忘れてしまっていたものなんだよ。■■■」

 

 男の名前を呼びながら、俺は地獄に向かって歩き出す。■■■(おとこ)の言い分は正しい。だが、これはそんな正論で片付けられるものじゃない。俺たちがこうして、地獄へと足を踏み込むのは、なにもそこで死ぬためなんかじゃない。地獄の先に待っている、天国(彼ら)を目指すためだ。

 

「確かに、最初は憧れだったかもしれない。けどさ、根底にあったのは願いなんだよ。自分の好きなサーヴァントと共に戦いたい。この地獄を抜けた先で待っていると信じて歩んだ。そんな、誰もが持っている願いだったんだーーーー」

 

 足元に広がる人を踏まぬように歩く。空から降り注ぐ雨に体と服を濡らしながらも俺は歩き続ける。彼らの思いは、願いは決して間違いなんかじゃないと証明するためにーーーー

 

 

 

 

 

ーーーいつしか世界の様は変わり、雨は止み、一面には荒野と石板が広がっていた。

 風で起こる砂ぼこりを気にせずに歩く。砂丘の頂で現れた黄金の石板の前にまで来ると、俺は一度、そこで立ち止まる。

 

「たとえーーーその結果が報われない物だったとしても、お前は行くのか」

 

 男が、どこか懐かしんでいるように俺に言葉を送る。それに対し、俺は自嘲するように笑みを浮かべながらも拳を握る。

 

「ああ。たとえ、その結果が無意味なものだったとしてもーーー」

 

 一度言葉を切り、拳を構えーーーーーーーーーーーー

 

「俺は、ガチャを回し続けるーーー!!」

 

 ーーー黄金の石板を殴り壊した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が切り替わる。さっきまで立っていた筈の俺の体は、いつの間にか地を這っていた。全身に負った傷から血が流れ、全身を熱い鉄板で押し付けられているような痛みに耐え兼ね、視界が狭まる。けれど、決して目を閉ざすことだけはしない。

 歯を喰いしばってゆっくりと立ち上がる。何も考えられないが、自然と、そうしなければならないと思った。瞬間、俺の体に異変が起こる。五体に負った傷から光が溢れだす。だが、それは痛みを助長させるものではなく、むしろ、光が痛みを吸い取っているかのようだ。事実、ゆっくりとだが、体の痛みが退いていく。

 

「何故だ、何故まだ立ち上がれる!?貴様は先ほど、全ての石を使い果たしたはずーーーー!!」

 

 男の声がする。先ほど聞いた、そこから先は地獄だと、親切に教えてくれた男の声が。俺の体に起きている異変に戸惑いを隠せていない。それはそうだろう。自分でも、何故傷が治っていくのか分からないのだから。

 

「ーーーそうか、『ダ・ヴィンチコード』……………!!」

 

 男が忌々しそうに声を出す。立ち上がろうとしている俺を助けている存在が、憎くて憎くて堪らない。とてつもない殺気がぶつけられているのが感じ取れる。

 

「運営がFGOを盛り上げるために実施した、イベント企画でばら蒔いた聖晶石。あれは聖遺物(プレゼント)。購入した物ではない。新規・古参のどちらでも、十個は手に入る…………!!」

 

 全身に傷から迸る光が俺を包む。それは暖かく、とても気持ちがいい。まるで、自分の体が一から生まれ変わるかのよう。痛みが引き、さっきとは違う熱が俺の体を覆う。

 ーーー負けられない。この戦いだけは決して負けられないと、冷えきっていた心と体に熱が宿る。

 

 

「体はーーーー」

「貴様ーーーー!!!」

 

 呆然と、けれどしっかりと脳裏に浮かんだ言葉を紡ぐ。それはきっと自分の全て。散々人生に迷った。けれど、それを支えいた力に報いるべく、確固たる自分の意思で、力強くそれを口にする。

 

「ーーー彼らとの繋がりで出来ている…………!!」

 

 同時に回転しながら投げられる、白と黒の剣。双剣の切れ味は人肌を容易に切り裂く。けれど、それに対抗するべく俺は両手に力を込める。

 

お前等(重課金者)には……………負けられない…………!!」

 

 両手に込められた力、俺の思いに応えるようにさっきとは違う色の光が溢れ、いつの間にか手には己に迫ってくる双剣と同じ物が握られていた。それを力強く振り抜き、二本の剣を弾き飛ばす。

 

「ガチャ運に見捨てられるのはいい。けれど、ガチャを回さないなんて事は絶対にしない!!」

 

 先ほどまで地面這いつくばっていたとは思えない、力強い声と共に、俺は立ち上がりながら目の前に立つ男を睨み付ける。男は一瞬だけ、呆気に取られた様な顔をしたが、すぐに嘲笑うような笑みを浮かべた。

 

「………ようやくその域に至ったか。だがそれでどうなる。目的のサーヴァントが排出される可能性など無に等しいと、骨の髄まで思い知ったはずだが?」

「幕間の物語も、フリークエストもまだ残ってる。負けていたのは俺の心だ!!期間限定サーヴァントばかりに目が移っていた、俺の心が弱かった!!」

「何……………?」

 

 男の顔が憎々しい表情へと変わる。当てられる殺意の濃度も増すが、それを無視して俺は言葉を紡ぐ。

 

「期間限定サーヴァントが魅力的で、強力なのは当然だ。だが、だからと言って、恒常サーヴァントを見捨てる理由にはならない!!」

 

  忌々しそうに睨んでくる男に、俺は確固たる意思を目に宿して睨み返す。自分の、誰もが持っているこの思いは、決して間違いなんかじゃないと証明するべくーーー

 

「俺は恒常サーヴァントを当てるためにガチャを回す!!たとえ物欲センサー(お前)が、俺から目的のサーヴァント(あの人たち)を遠ざけようがーーー」

 

 両手に握る剣の一つを男に向け、俺の覚悟を、俺の決意を言葉にする。

 

「俺も死力を尽くしてーーーーーーーお前と言う障害を打ち負かす!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という夢を見たんだ。だから今なら玉藻様を引けるに違いない!!!」

「駄目だ…………研砥がピックアップスルーされすぎておかしくなった………!」

 

 二月中旬。俗に受験シーズン&バレンタイン真っ只中で、俺はこの日に為に集め、貯蓄していた聖晶石と黄金に輝く呼符十四枚を片手に、我が家の守護神にして最強のお姉さん。ブーディカさんに訴えかけるも、彼女はどこか真剣に困ったように手を頭に当てて唸っていた。

 

「失礼な。別に正月の福袋で三蔵ちゃんが出てきたり、英雄王の時に出てきた金髪ロン毛ランサーのことに文句を言ってる訳じゃないだろ?」

「いや、そうだけどね。お姉さん的にはちょっとガチャを回す頻度が早いかなぁって思ってるんだけど………もしかしなくても、課金しちゃったの?」

「まさか。偶々ログイン五十日目ボーナスを貰ったり、岩窟王の時に使わなかった呼符があったり、(死ぬ気で)絆レベルを上げただけじゃないか」

「いやその最後がアウトでしょ」

 

 明らかに俺が悪いだろうとじとっとした目でこちらを見てくるブーディカさんに、まっさか~と言葉を濁す。いや~宝物庫狩りで手に入れた絆ポイントはおいしかったですねぇ。

 

「と、いうわけで彼女と縁がある人たちをお呼びしたわけでございます。これはもう、後には引けないな!!」

「………やはり、私のマスターは少し、頭のネジが飛んでいるのでしょうか」

「うむ!貯めた財を思いっきり使う辺り、やはり余に相応しいマスターよな!」

「………何で俺も呼ばれてるわけ?全く関係なくないですか?」

「それは俺もじゃんよ。というかこっちに近づくな酒呑!!」

「ええやないの坊主。折角あの牛女もおらんねんから、少しくらい付き合ってぇな?」

 

 上からメドゥーサさんにネロ。ロビンに金時。それから酒呑童子の五人がそれぞれの感想を言う。というか、メドゥーサさんの発言が一番心にグサリ来るんですが、それはどういうことですかねぇ?

 

「いやいや、ちゃんと関係あるでしょ?メドゥーサさんとネロとロビンは月の聖杯戦争で知り合いだし、金時はロンドンで会ってるし」

「なら酒呑は関係ねぇだろ!!早くこっから追い出してくれ!」

「つれへんなぁ。ちゃんとうちも関係あるのに」

「あぁ!?テメェは会ってもねぇし知り合いでもねぇだろ!?」

「同じ日本生まれで、それでいて同じ妖怪でかつ反英霊。これほど強い関係はないと思うけどなぁ?」

「…………………………………………………」←正論すぎて無言になる金時

 

 事実、酒呑童子ほどこの中で深い関係にあるサーヴァントはいないと思う。同じ人に仕えていたという点ではネロとの繋がりはあるだろうけど、同じ国、同じ種族、そして同じ反英霊。さらに言うなら着物を来てかつ色っぽい所まで似ているのだ。ここまで縁がある人たちが揃えば、今度こそ召喚できるに違いない!!

 

「聖晶石九十三個、そして呼符十四枚を生け贄に捧げ!!いざ行かん!!遥か爆死の彼方までェ!!」

「不吉なこと言わずに回しなよ!!」

 

 制止するブーディカさんを押し退け、とりあえず石を三十個放り込む。いつものように稼働している召喚システムから何枚かのカードが吐き出される。

 

「十枚目の『騎士の矜持』…………だと………!?」

「ダンの旦那ぁ!!これ以上家のマスターのやる気を削ぐようなことは止めてくれませんかねぇ!?」

「他にもあるね。え~と、『チョコ・エンゼル』……イラスト的にイリヤちゃんのカードだね」

「あらまぁ。こない幼い女子ばかり当てるなんて、やっぱり旦那さんはロリコンっちゅーやつやないの?」

「俺のターン!!拒否権を発動するッ!!」

 

 いやね、そりゃ確かに何故か幼女に好かれてるけどね!!俺はあくまで遠目に見て笑顔で幼い子供で癒されたいのであって決してロリコンなのではないッ!俺のストライクゾーンはブーディカさんの様な髪が長くて優しいお姉さん系の女性なんだ!!

 

「とか言ってる内になんか金色来たぞ?絵柄的にバーサーカーだけど」

「女性バーサーカーは今回にヒロインXオルタ以外全員揃ってるので帰ってどうぞォ!」

「それ、彼女が呼ばれたら真っ先に斬りかかられるよ?」

 

 ブーディカさんが咎めるように言うが、正直バーサーカーはもうお腹一杯なのだ。どうせ出てくれるのならヴラドさんをください。ブーディカさんとコンビを組ませてあげたいのです。護国の英霊コンビって、最高に格好よくないかな?なんてことを考えているとサーヴァントが顕現する。カードから現れたのはーーーー

 

「サーヴァント・バーサーカー。茨木童子。大江の山に潜みし、鬼の首魁よ」

「マスター………何か言うことはありますか?」

「MA☆TTE!!待ってくれメドゥーサ=サン!!俺は悪くねぇ!!俺はロリコンなんかじゃねぇ!!」

 

 茨木を召喚した直後、メドゥーサさんが武器の鎖鎌っぽい物で器用に俺を拘束する。彼女も本気でやっているのではないだろうけど、周りからの視線がとても痛い。見るなぁ…………そんな蔑むような目で俺を見るなァ!!

 

「さて、マスターが拘束されてしまったからな。余達が代わりにガチャを回すとしよう」

「あ、ゴメンやけどうちはここで抜けるわ。茨木にここを案内せんとあかんからなぁ」

「おい馬鹿やめろ!!俺の集めた呼符を勝手に使うなーーーー!!というか酒呑!!鎖を解いてくれ!」

「旦那さん悪いなぁ。放置した方が面白そうやからパスや♪」

「こんの裏切り者ォォォォォ!!」

 

 結局、俺は拘束を解かれることなく、目の前で集めた呼符が消えていく様を見届けるしかなかったのだった。…………どうしてこうなった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後、残り三枚になった呼符を渡されながら俺は拘束を解かれた。目の前で繰り広げられていく(主にネロによる)ガチャの結果は散々な物で、星四すらかすることなく呼符だけ減っていった。

 

「それでネロ…………何か弁明は?」

「う、うむ…………少し調子に乗りすぎた。すまぬ研砥」

 

 唯我独尊を地で行く英雄王のアルトリア顔版とまで言われているネロが、トレードマークでもあるアホ毛までしょぼんと項垂れながら謝ってくる。天真爛漫という言葉が擬人化した様な彼女だが、ブーディカさんの「ネロ公。それ以上やったらご飯抜き」という脅しには勝てなかったようだ。まぁ是非もないよネ!

 

「わかればよろしい。んじゃ、残りの札も叩きつけますかね~っと」

 

 ようやくこっちに主導権が戻ってきたところで、俺は呼符をサークルに向かって投げつける。パシィ!と良い音がしながらシステムが起動する。バチバチと音を立てながら広がる青白い光の輪。その数は三本、つまりサーヴァントということが確定する。そして、その輪から現れたのは、魔術師の絵が描かれた金色のカード。

 

「おお!!流石は研砥!!ここで星四以上のキャスターを引くとは!!」

「これはもしかしなくとも、ワンチャンあるんじゃないんですかい?」

「そうだなぁ……………まさか、このタイミングで来るか。メディア・リリィ(仲良しの魔女)

 

 ネロとロビンが少し嬉しそうに言うが、それとは逆に俺は何となく察していた。いや、察してしまっていた。ふっ、と自嘲するように笑うと、周りの皆がえっ、と驚いたような顔をする。

 

「い、いや大将。折角ゴールデン・キャスターカードが来てんじゃん、フォックスが来る可能性だってあるじゃん。諦めんなよ!諦めたらそこでゲーム・セットじゃんよ!!」

「はっはっはっ。応援ありがとう金時。けどな、単発で出ちゃったらさ、今まで消費した四百近い石が可哀想だろ?そして、メディア・リリィを当てて俺のロリコン説が復活するというわけだ。けど回復要員が増えるのは私的に大歓迎だけどな!」

「駄目だ………研砥が遂に出ないからこそ美しい的な何かに取りつかれてるよ!」

「しっかりするのだ研砥!!それでも余のマスターか!!」

 

 皆からの暑い応援を背に、俺はサークルの前まで移動する。バーサーカーなら絶対にしないけど、キャスターが相手なら絶対に安全だからな。魔術(物理)するキャスターなんていないだろ?

 

「というわけでいらっしゃいませメディア・リリィ!『高速神言』と宝具で俺のサーヴァント達が死なないようにサポートーーー」

 

 

 

 

 

 

「はいはーい!ご用とあらば即・参・上!貴方の頼れる巫女狐!キャスター、ここに降・臨!!です♪」

 

 

 

 

 

 

 金色のカードから光が溢れ、その中から現れたのは魔神柱をパンケーキの素材(?)にする仲良しの魔女ではなく。青くて露出の多い巫女服。ピンクの髮の両端に付いている狐の耳。彼女の周りを飛び回る大きめの鏡。見るからに触り心地良さそうな尻尾。そして、輝かんばかりの眩しい笑顔。俺が費やした四百個以上の石でも現れなかった最上級ランクの魔術師の英霊(キャスター)。玉藻の前が、そこに姿を現していた。

 

「………………………………………………………」

「………はい?もしかして、私お呼ばれじゃなかった?貴方様も世間で言う孔明・マーリン最強派閥の一員だったりします?嫌ですねぇもう。あんなチートキャラ使って最強とか、思い上がりも甚だしいってんです」

「おお!キャス狐ではないか!!会いたかったぞ!!」

「おや赤セイバーさんじゃないですか。メドゥーサさんに緑茶さん。金時さんまでいるじゃないですか。もしかして、ここにいる方々、私をお出迎えに?てことは、私を必要としているご主人様(マスター)ですか!?」

 

 うわぁーい!!玉藻さん大勝利~!!一人テンションが上がって万歳をしている玉藻さん。突然の事に頭の処理が追い付かず、とりあえず深呼吸をしながら周りの人たちを見る。

 

ーーーネロは久しぶりに会えた友人の様に、玉藻さんと楽しそうに話をしていて、

ーーーメドゥーサさんは俺に「やりましたね」と嬉しそうに微笑み

ーーー金時は「やったな大将!!」と拳を突き出し

ーーーロビンは「緑茶じゃねぇ!ロビンフッドだ!」と訂正を入れ

ーーーブーディカさんは「今夜は歓迎パーティーだね!」と我が事のように嬉しそうだった。 

 

 そこまでして、ようやく俺は今の状況に理解した。今まで、彼女の時だけ、散々ピックアップスルーされ続けたが、今回の地獄(ガチャ)は、完全勝利したのだと。しかしーーーー

 

「……………………………こふっ」

「やったな大将っておぉい!?何いきなり血ィ吐いて倒れてんだよ大将!?」

 

 自分でも知らない内に吐き出した血に驚きながらも、力が入らずに倒れかけた俺の体を金時が支える。彼にお礼を言うと、さっきまでお祝いムードだったのが一変。ここにいる皆が俺の元に集まってきた。

 

 

「おい黒鉄の旦那!しっかりしろ!折角掴んだチャンスを不意にするつもりか!?」

「ちょ、大丈夫研砥!?お願い目を開けて!!」

「研砥よ!!目を開けるのだ!!そなたが居なくなったら余は泣くぞ!!泣くからな!!」

「研砥。意識をしっかりと持ちなさい!まだ、貴方はこんなところで終わる人じゃないはずでしょう!?」

「みこーん!?何故だかわかりませんが、いきなりマスターの命の危機ですか!?目をお開けくださいマスター!!」

 

 俺を取り囲むように駆けつけてくる皆。心配してくれる皆が嬉しくて、けれど同時に情けないと思ってしまう。まさか、自分でもこんなに落ちやすいとは思っていなかったからだ。けどまぁ、今の心境を一言で説明すればーーーー

 

「我が生涯に…………一片の悔い、無し…………!!がくっ」

「「「「「マスタァァァァァァ!?!?」」」」」

 

 どこぞの格闘漫画のラスボス最期のセリフを言い終えながら、俺は意識を失うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※後日談的ななにか

 

 

 

研砥「ふぅーーーー今日の周回も終わりっと。皆お疲れさま~」

金時「おう!今日も思いっきり暴れさせて貰ったぜ!サンキューな大将!!」

メドゥーサ「ふふっ、お役に立てたのなら何よりです」

玉藻「あの~私、何もしてないんですが、いる意味あるんですかねぇ?」

ロビン「ま、いいんじゃねぇの?今回の周回はオタクのためみたいなもんだし?後ろでドーンと待ち構えてりゃいいんじゃない?」

ネロ「うむ!余にも覚えがあるぞ!絆レベル上げ、というやつであろう!!」

ブーディカ「ネロ公は黙ってなさい。よぅし、それじゃご飯にしよっか!」

ネロ「何故余にだけ当たりがキツいのだ!?」

玉藻「自業自得ではありません?」

研砥「喧嘩する種を撒くのはおやめください」

玉藻「それじゃ、食後にまた頁狩りに行きましょうね!ご主人様(マスター)♪」

研砥「いや、そろそろ黄金リンゴが無くなりそうでして…………」

ネロ「リンゴないのなら、石を砕けば良いのだ!!」

研砥「やめろ皇帝様ァ!!」




というわけで、今回はなんと大勝利!!無事、玉藻の前様を引き当てられました!!

使用した石と札は作中の通り、石三十個と札を十二枚。いやぁ、岩窟王を諦めて良かったと思ってます。ありがとうピックアップ。ありがとう玉藻様!!さぁ!次は骨と頁と種集めだ(白目)

え?なに?冒頭のセリフが少しおかしいって?あははは…………見逃してもらえませんかね?

バレンタインガチャはもう回さないと思います。私、誕生日は2月20日なんですが、わざわざ13日のピックアップに合わせて誕生日を祝われまして。色々と触媒を送られました。
玉藻の宝具真名解放ストラップとか、EXTELLAのタペストリーとか色々。本当はバレンタインのことも書きたかったのですが、そこまで時間があるわけではないので、割愛しました。代わりといってはあれですが、ホワイトデーは書こうと思います。受験終わるんで、遊戯王の方も書かないとなんですが(汗)



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!!
感想・誤字報告は何時でもお待ちしております


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ピックアップは仕事する時は仕事する。ただし、過度な期待は身を滅ぼす。

というわけで、今回は新宿ピックアップ編です。
う〜〜む、どうも最近ガチャ報告しかしてないなぁ。折角の番外編なんだし、何か別の物でも書いてみようかなぁ

それはそうと、今日から『ぐだぐだ本能寺』の復刻ライト版が始まりますね。自分は『セイバー・ウォーズ』から始めたので、とても楽しみにしています!あ、頼むからイベント中に緊急メンテは勘弁してください!聖晶石と黄金リンゴを大量にくれるならいいですけどネ!!


突然だが皆さんは新宿という場所を知っているだろうか?いや、知らない人はいないだろう。東京都にあるあの新宿だ。といっても、七つの特異点を解決し、終局特異点『冠位時間神殿 ソロモン』を消滅させた俺たちには関係が無かった。無かったはずだった。

新年を迎え、何故か発生したお団子イベントと女神(♂)を蹴散らし、インバネスを着た『S崎N長』ボイスの復讐者と共に七つの夜を超え、バレンタインを迎え。色々と遊び回っていた俺たちだったが、何故か新たに発生した特異点、いや、最初の冬木市によく似た『亜種特異点』とも呼ぶべきそれを発見した俺たちは、カルデアと再び協力関係を結び、亜種特異点『悪性隔絶魔境 新宿』を解決しに向かった。

 

 

色々と大変な目にあったのは事実だ。今更な真名当てに頭を悩ませたり、謎の犬とデュラハンとのコンビに追いかけられている所を、私服姿+ポニーテールなったアルトリア・オルタに助けられたり。何故かオルタ化したエミヤに命を狙われたり。ブーディカさんに化けた『新宿のアサシン』を素手で殴り飛ばしたり。etcetc………

まぁ、あんまり長々と書いたらネタバレになってしまうのでここまでにしておくが、とにかく、今の俺が何を言いたいかというとだな…………

 

「くっそ!!全然レポートが終わらねぇぇぇぞこんちくしょうめェェェェェェェ!!!」

 

施設内にある休憩室に、キーボードと睨めっこしていた。本来、レイシフトなり英霊召喚は確か政府のお偉い様たちに許可を貰わないといけないのだが、今回は突然発生した亜種特異点だ。故に、後で大量のレポートをを作成することで話が終わったんだが、今回は話が余りにも多すぎる!!

仲間のシャーロックから今回倒した『魔神柱バアル』を含めて四体の魔神柱が存在し、それぞれが今回の様に特異点を作る可能性があるということ。他にも、今回発生した『幻霊』や新宿の現状等の説明を書いているんだが、余りにも内容が多すぎて書き終わる気がしない!!

 

「つーか俺はあくまで狭間たちが動きやすくなる様にエミヤ(オルタ)の相手したり、あいつらが一刻も早くバレルタワーに向かえる様に、新宿のアヴェンジャーの囮役を買って出たり、拘束されたシェイクスピアを回収に向かっただけで何もしてないんだよ!!バアルの相手もあいつがしたり、モリアーティーなんてひたすら『死が二人を別つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)』しまくっただけで何にもしてねぇんだよ!!巨大ゴースト?んなもんギルが『王の号砲(メラム・ディンギル)』連打して殲滅したって書けばいいだろうが!!何でそんなこといちいち細かく書かないといけねぇんだよ!!」

「はっはっは。まぁ、今のうちにその理不尽を体験しておきたまえ若人よ。老けたらあまり体験できないからネ!」

「うるさいんだよこの黒幕!!あんなかっこ良く去っておきながら、サラッと狭間に召喚されたやつにだけは言われたくないんだよ!!」

 

むかつくくらい優雅にコーヒーを飲んでいるメガネをつけた男性、彼こそは今回の亜種特異点『新宿』のラスボス。シャーロック・ホームズのライバルにして最悪の犯罪者、ジェームズ・モリアーティーその人だ。『幻霊』について最も詳しいのはこの人とシャーロックなのだが、彼は度重なるレイシフトで疲労している。なので、仕方なく狭間の所にいたモリアーティーを借りたのだが………

やっぱりこいつは面倒臭い!!何かとこっちに絡んでくるし、いちいちこっちを挑発しやがって、もし家のサーヴァントなら令呪で自害させてやるのに!!

 

「つーかどんだけ長いんだよ!?かれこれ二時間くらい書いてるけど全然終わらねぇんだけど!?」

「ふぅん。少しは俺たちの気持ちが分かったか?〆切の数秒前まで足掻き続ける作家系サーヴァントの気持ちが?ならさっさと休暇をくれ」

「お前もお前もで忙しんだろうが!というかお前も今回の件で呼んだんだから仕事しろ!」

「はっ!この俺が他人の書いてるものに口を出すと思ってるのか!他人が書いた作品を自分で書き上げるなど虫酸が走るわ!」

 

同じく目の前でキーボードを打ち続けているのは、作家系サーヴァントの代表。『人魚姫』を書き上げたあの有名な作家、ハンス・チャン・アンデルセンだ。

青い髪に子供の容姿をしているが、その実態はとんでもない毒舌評論家にして、下手したら星四相当のスペックを誇るキャスターだ。『貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーペンス)』や、高ランクの『人間観察』で、高火力を叩き出すのに貢献している。

 

「だからこうやって手伝ってもらってるんだろうが!!」

「ふむ…………君たち、実は仲がいいんじゃないのか?」

「「五十過ぎで臭いオッサンは黙ってろ!!」

「グハッ!?」

 

俺たちの口喧嘩に入ってきたアラフィフを、俺たちの口撃で一撃で粉砕する。

 

「労働基準法違反マスター!」

「毒舌ショタ!」

「ロリコン!」

「(月の聖杯戦争における)人理焼却原因サーヴァント!!」

「き、君たち。そろそろやめておいた方が」

「「かませ教授は黙ってろ!!」」

「君たち少し酷くないかね!?」

 

ぐぬぬ、と犬の様に声を出しながら互いの顔を睨み付けあっていると、休憩室の扉が開く。

 

「えーと………あ、いたいた。研砥。探したよ」

 

部屋に入って来たのは我が家の料理長にして最強のお姉さん系サーヴァント・ブーディカさんだ。今は特に戦闘でもないのでロングヘアーではなく、髪を一つに纒めたポニーテールにしている。うむ。いつもの髪型も素晴らしいけど、これはこれでいいね。

 

「いや別に何も?それよりどうした、何かと用事でもあったっけ?」

「あ〜やっぱり忘れてたか。ほら、今日はガチャを回す日だって言ってたでしょ?準備できてるよ」

「む?そうだったっけ?」

 

手元にあるタブレットから今日の予定を確認すると、確かにガチャを回す予定になっている。この間のバレンタインピックアップで割と序盤に玉藻さんを召喚できたので、結構石が余っているのだ。亜種特異点・新宿で遭遇した新しいサーヴァントと、アルトリア(オルタ)のピックアップが行われているので、ガチャを回そうと話していたのを覚えている。

 

「というわけだからガチャって来るわ。悪いが、また後で相談に乗ってくれ」

「きちんと休みをくれるなら手伝ってやる。そろそろ新作を書き上げないといけないのでな。全く、何故俺はサーヴァントなんぞになってしまったのか………」

「そういう性分なんでしょ?ほーら、後で軽めの物作って持って来てあげるから、頑張ってね!」

 

ブーディカさんにそう言われると、どこかばつが悪そうに鼻を鳴らし、無言でタブレットに向かってキーボードを打ち続ける。モリアーティにも礼を言って、俺たちは休憩室を出るのであった。

 

 

「それにしても、今回は家のようなボロ屋にどんな酔狂な英霊が召喚されるのだろうか。少しばかり気になるな」

「うーむ………あくまで勘だけどネ、私以外の誰かが呼ばれそうだよ。それも、か〜な〜り扱いづらいのがね」

「………ちっ、全く、世話の焼けるマスターだ。手を貸してやるしか選択肢がないではないか」

「なんだかんだ言って、やっぱり優しいよねアンデルセン君」

「ふんっ。なんとでも言え。後で滝に叩き落とされたくなければな」

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、待たせたな皆!」

 

ブーディカさんと一緒に行き慣れた道を通い、召喚城に向かう。そこには既に何人かの姿があった。

 

「お待ちしておりましたよご主人様(マスター)。何やら急いで来たようですが、大丈夫ですか?」

「呵呵、別に構わんさ。儂はしがない武人。儂の求める戦いが待っているのであれば待つのも止む無し、だ」

「私もね。今は特にしたい事もないし。時間があれば稽古をしてあげようかしら?」

 

初めから青い巫女服を着たキャスター『玉藻の前』。中国服を纏った武人のランサー、『李書文』。玉藻と同じキャスターで、神代の魔女の『メディア』。三人共今回の特異点での攻略に力を貸してくれた代表達だ。

 

「いやぁ、今回の特異点におけるレポートを作ってたら時間がかかっちまってな。いま用意するから待っててくれ………っと」

 

聖晶石が入った箱から、今回のピックアップに備えて用意した六十個取り出し、いつでも投げれる準備をする。

 

「それにしても、最近はこうやって召喚を行う際にサーヴァントを呼び出してますけど、何かあるんですか?」

「別に意味はないんだけどな、何となくだけど攻略に最も協力してくれたサーヴァントを連れてガチャを回せば、いいのが出る気がするんだよ」

「うむ。まぁ運に身を任せるのだ。願掛けの一つや二つはするべきだろう」

 

実際に、ここにいる三人は本当に助かった。玉藻さんは来て早々レベル90にして、スキルレベル10にした『狐の嫁入り』と宝具によるNP供給とHP回復で何度も助かった。

書文先生は『国境』と『中国武術(六合大槍)』。そして玉藻さんの『狐の嫁入り』で放つ宝具で、モリアーティー10万以上のダメージを与えた。

メディアさんは『高速神言』使って開幕『破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)』で、新宿のアサシンを粉砕してくれた。というかモーション変わってから何度も使ってる気がするな。

 

「さて、与太話はここまでにしてガチャ回して行きますか!そ〜れい!」

 

いつものようにとりあえず石を三十個放り投げる。慣れ親しんだシステムの起動する音が響き、ゆっくりとカードが現れる。

 

「おぉ〜色々と新しいのが出て来るな。『固有結界』に『若返りの薬』か………おっ、また『固有結界』って、4枚とも『固有結界』だとぉ!?」

 

びっくりするくらいの『固有結界』(礼装)の多さ。これおかしいよな!?確かにアルトリア(オルタ)とエミヤ(オルタ)の同時ピックアップだけどさ!これで新しくサーヴァントが来ないと、せっかく集めた種火も意味がないんだよな……っと意気消沈していると、眩しい光が部屋を覆う。輪から現れたのは金色の弓兵のカード。

 

「こんなところで星四以上のアーチャーって事は!?」

「あはは……これはもしかしなくても、ですね」

 

「お前がマスターか?酷い面構えだ。まぁいい、これでもアーチャーだ。精々うまく使え」

 

光の輪から現れたのは、白と黒の中国剣。『干渉・莫耶』を銃に魔改造した二丁銃剣。浅黒かった肌はもはやより黒く染まり、ボブ風にカットした髪にこちらを値踏みするかのような鬱陶しい目つきをしている。錬鉄の英霊・エミヤシロウの反転した姿がそこにいた。

「ようエミヤ。久しぶりだな」

「なんだ貴様か。……あの時も言ったが、俺は貴様のよく知っているオリジナルの俺とは違う。貴様と共に戦ったことなどないし、覚えていても磨耗して消え去っている」

 

あくまで素っ気なく、どうでもよさそうにこちらを見るエミヤ(オルタ)。今まで以上に捻くれているこいつは、本当にどうしようもない人なのだとも思う。まぁ、まさか彼を呼べるとは思っていなかったが、メディアさんを呼んだ甲斐があったというものだ。

 

「ところでメディアさん。ここにオルタ化しているエミヤさんって、『破戒すべき全ての符』で何とかなったりしない?」

「無理ね。私の宝具はあくまで魔術的要素(・・・・・)を初期化し、それを無力化するだけ。英霊の座に登録されている時点で、彼に『破戒すべき全ての符』を突き刺しても何の効力もないわ」

 

流石の神代の魔女のといえど、英霊化している時点でお手上げだそうな。少しばかり残念だが、仕方がない。けどまぁ、こっちはこっちで俺は好みなんだけどな。

 

「それじゃ、もう一回ガチャるから、ちょっとそこ退いてくれ」

「む、まだ召喚を行うのか?育成が終わっていないサーヴァントもいるんじゃないのか?」

 

こちらの行動に疑問を持ったのか、意外と不思議そうに質問してくるエミヤに、オルタ化しても性格はあんまり変わらないんだな、と内心で思った。

 

「それもそうだが、この機会じゃないとピックアップされそうにないサーヴァントとかもいるしな。回せるうちに回しておきたいんだよ。まぁ、詰まる所自己満足だな」

「なるほど、回さないで後悔するぐらいなら、回して後悔した方が後腐れがないと同じということか。では、お前にはこう言っておこう。そこから先は地獄だぞ?」

「ハッ、んな地獄なんてものはなぁ………何度も乗り越えて来てんだよッ!」

 

思い出せ。玉藻がピックアップされている時のガチャのことを…………福袋ガチャで彼女が当たるかもしれないと思った時の事を………今年の福袋で当たらなかった時の絶望を………

 

「イメージしろ………星四サーヴァントを……!イメージしろ………目当てのサーヴァントを……!!」

「……これって毎回やってると思うんだけど、ほぼほぼ失敗しているような………」

「シャラップ!!毎回目当てのサーヴァントが出ないとか言ってはいけないぞ!!ええい!もう考えるのも面倒だ!とりあえず石をポーイ!!」

 

少し遠い目をしながら言ったブーディカさんの言葉を無視して、三十個のいしが入った箱ごとサークルに放り込む。十回連続で行われる召喚行為。

 

「って『固有結界』は何枚もいらねぇよ!!」

「『モータード・キュイラッシュ』は今回の新宿ではお世話になったよねぇ……あ、もう一台出て来た」

 

まさかの概念礼装ラッシュである。まぁ、今回のピックアップは先に言ったオルタ二人と、アサシンとアーチャー。そして、アヴェンジャーの三騎だから、個人的にはあのコンビ(・・・・・)が来て欲しい所なんだが……来たら来たらで皆の迷惑になると思うしなぁ……

色々と考えていると、サークルがより一層眩しく煌く。金色の光を伴いながら現れたのは、サークルと同じ金色の剣の英霊(セイバー)のカード。

 

「って金回転セイバーキタァーーー!!」

「まさかセイバー来る!?アルトリアちゃんが来るの!?」

「うわぁ………メディアさんキャラぶれ出してますねぇ……」

「あはは……まぁ、メディアはセイバー好きすぎてリリィに少し引かれてるくらいだしね」

 

二名ほど発狂しながら新たなセイバーの登場に期待を寄せる。いよぅし!これでようやく家にもリリィ以外にもアルトリアシリーズが………!?

 

「セイバー、シュバリエ・デオンだ。きみが私の」

「「なんでさァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」

「ひっ!?」

 

召喚されたのはここでは遂に五回目の登場となる星四セイバー・デオンくんちゃんだった。いや嬉しいんだけどさ!cv斉藤千和さんだからブーディカさんや玉藻さんと同じ中の人だけどさ!!

 

「何故!今!このタイミングで!!デオンくんちゃんが来る!!答えてみせろ庄司ィィィィィィィィ!!」

「うぅ……折角、セイバーの為に用意したお洋服を作ってたのにぃ………」

「…………何だろう。何か悪いことしてしまったかな」

「別に気にしないでいいよ。それより、いつも来てくれてありがとね」

 

堪らず血の涙を流す俺とメディアさん。まぁいい。今回のピックアップは一応仕事したんだし、新しく召喚されたエミヤ(オルタ)の育成に勤しむとしよう。そこまで考えた時だった。召喚場にけたたましい警報が鳴り響いた。

 

「な、なんだぁなんだぁ!?一体何の警報だ!?」

「確かに聞きなれない警報だね。一体何の警報だったかな………」

 

今まで聞いたことのない警報に戸惑う俺たち。照明も青から赤に変わり、警報に合わせて点滅がしまくる。召喚サークルを見てみると、鎖に繋がれた人間のイラストが描かれたカードが出現していた。

 

「確かあれはアヴェンジャーのクラスだよな……って事はまさか!?」

「出てくるのは一体しかいないわよ!坊やは下がってなさい!!」

 

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーーーー!!」

 

青白い毛並みに憎悪に満ちた瞳をした巨体の狼。。足に付けられた痛々しいトラバサミに、その狼に跨る首なしの騎士。『新宿のアヴェンジャー』改め、『へシアン・ロボ』がそこに現界していた。

 

「ーーーーーどうする。いやぶっちゃけ言うと召喚に応じてくれて凄い嬉しいんだけどさ」

「そうね………彼、いや彼等と呼ぶべきなのかしら?巌窟王やジャンヌ・オルタとかならまだ会話の余地があるのだけれど、あれはそういう次元を超えてるわよね………」

 

召喚されてからずっとサークルの中央を陣取っている狼王に、どう接しようかと悩む俺とメディア。その後、書文先生が無言で槍を構えだしたり、エミヤが銃剣を投影したりするのを二人掛かりで止めていると、ブーディカさんが無言で歩きだす。

 

「ちょ、ブーディカさん!?危ないって!!」

「大丈夫。お姉さんに任せなさい」

 

こちらを少しだけ振り向きながら、優しげに微笑みながら歩き続ける。ロボは近づいてくる彼女を警戒するように唸り声を上げる。憎悪に満ち溢れたその声はとても恐ろしく、どちらからも近づかさせないようにしている。けれど、彼女はそれを涼しげな顔でスルーする。

 

「大丈夫。安心して。私は、君たちの味方だから」

 

一歩、また一歩と踏み出す。表情は優しげだが、その足取りは重い。対する狼王はそれ以上踏み込んだら殺すと、目を開からせてこちらを睨む。首なしの騎士(へシアン)も手に持つ鎌の様な物を振り上げる。

 

「大丈夫。大丈夫だからーーーー」

「◾️◾️◾️◾️◾️ーーーーーーーッ!!」

「ブーディカさんッ!!」

 

へシアンの持つ二つの鎌がブーディカさんに目掛けて振られる。首を狩る為の刃と刃がぶつかり合い、ちょうど中央にブーディカさんの首が収まる。刃が少し食い込み、首筋からうっすらと血が流れる。

一瞬、彼女の首が飛ぶかと思ってヒヤヒヤしたが、これ以上はもう無理だ。正直見てられない。最悪、令呪を使ってでもロボを拘束する必要がある。

 

「ブーディカさんもういい!もういいから早くこっちにーーー」

「ごめん。今は手を出さないで。研砥でも、それ以上したら怒るよ」

 

いつも優しい声音のブーディカさんが、静かに怒った声音でこちらに訴えてくる。ゆっくりと歩いた結果、ブーディカさんとロボの間の距離は、あと一歩にまで近づけていた。後ろからじゃ見えないが、心なしか苦笑している様に見えた。

彼女は顔を下に向け、ロボの瞳をジッと見つめている。その後、ゆっくりと手を憎悪の狼へと伸ばす。大丈夫だと、さっきと変わらずに優しい声で差し伸ばす。だがーーーー

 

「◾️◾️◾️ーーー!」

「ーーーーッ!!」

 

差し伸ばされた手をロボが噛み付く。刺々しい牙がブーディカさんの手に突き刺さり、激痛のあまりブーディカさんの表情が変わる。けれど、決して声だけは上げない。激痛に苛まれながらも「大丈夫」、と声をかけ続ける。

 

「貴方は、私とよく似ている。いや………私が勝手に感情移入しているだけで、そうじゃないのかもしれないけれど。少なくとも、私はそう思うんだ」

未だに噛み付かれている手を見ながら、苦笑しながらも言葉を続ける。

 

「けどね、こうやって召喚に応じてくれたのは、きっと私たちに少しでも協力してあげようって、思ってくれたから、なんだよね」

 

噛まれていないもう片方の手を差し伸ばす。それを抑制するようにへシアンが鎌をより近づけるも、それを無視して彼女は続ける。

 

「あの時の、新宿での最期を見た時、似てるなぁって思っちゃったの。ローマへの復讐に駆られて……最後は孤独に死んでいって。そりゃ寂しい気持ちはあったし、今でもネロ公(あの子)を見たら怒りが込み上げるけど、それを纏めてまぁいっか(・・・・・)で済ませてくれる。そんな人に出会えた。だから………」

 

彼女の手が頭に触れる。爪先から手の全てが触れ、優しくロボの頭を撫でる。一回、また一回と彼の頭を撫でる。

 

「だから、さ。君たちの力を貸してくれないかな。ゆっくりでいいから信じてほしい。君が召喚に応じてくれた研砥(マスター)が、君の信用に足る人物だって事を、証明してみせるから。ね?」

 

どこまでも優しげに、噛まれている手を無視してロボの頭を撫で続ける。すると、彼女の手を噛んでいたロボが口を開く。その口からは血だらけになったブーディカさんの手が現れる。あまりの痛々しさに目を細める。が、その後だ。決して懐くはずのない復讐者(アヴェンジャー)である彼が、傷ついた彼女の手を舐めたのだ。低く唸りながらも、巨体に見合った大きい舌で彼女の傷ついた手を舐める。

 

「ちょ、待って待った!舐めてくれるのは嬉しいけど、傷ついてて痛い痛い!!」

「◾️◾️?◾️◾️!!」

「分かった!分かったから頼むから待ってってばぁ!!」

 

いつの間にか、彼女の首を狩ろうとしていたヘシアンも、その鎌を下ろしていた。どことなく不敵な笑みを浮かべながらブーディカさんにじゃれつくロボを見て、少し俺は笑った。

 

「ああくそ、やっぱ敵わないなぁブーディカさんには」

「確かにな。武の道生きた儂だが、いやはや、母は強しとよく言ったものだ」

「………別に話を続けても構わないが、早く手当してやれ。普通の人間なら失血死する血の量だぞ」

「分かってるわよ。ブーディカ!じゃれ合うのもいいけど早くこちらにいらっしゃい!」

「う〜ん。私と同じ犬耳にモフモフしたくなる毛並み………これは負けられませんね!」

「一体何と競い合おうとしてるんだ玉藻さん………」

 

こうして、俺たちの組織に新しい仲間がやってきたのだった。二人と一匹(?)、どちらも扱いの難しいサーヴァントだが、どちらも心強い仲間だ。さぁて!早速素材と種火集めの旅出かけるとしますかねぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★後日談的な何か★

 

「エミヤとロボ達が仲間になってもう三週間、か。結構早かったな」

「二人ともレベル80。ロボに至っては聖杯まで使って90だもんね。良かったの?貴重だったんじゃないの?」

「別に構わないさ。俺もあいつらは好きだしな。……どっちもまだ懐いてくれないけど」

「まだ距離感が掴めてないんだよ。きっと、直ぐにでも近寄ってくれるよ」

「そうだといいんだが………あぁジャックやナーサリーたちが羨ましいなぁ。あの子達みたいにロボの毛をモフモフしたいなぁ!!」

「モフモフしたいなら玉藻にお願いしたらいいのに。変なところで意地はってるなぁ」

「恥ずかしくて頼めるわけないだろ!?というかだな……彼女、心に決めた人がいるって聞いたしな。そんなお願いできるわけないだろ?」

「なんなら、私がコスプレしてあげよっか?」

「いやそれも普通にアウトだろ……ブーディカさんの旦那さんに悪いっての」

「気にしないでいいよ。そういう事をしてもいいくらい、研砥の事は好きだからね、私」

「………やっぱ敵わないな。ブーディカさんには」

 




誤字脱字・指摘・感想はいつでもお待ちしております。

ところでなんですが、なんでデオンくんちゃんは五人も来てるんだろう……すまないさんは一人も来ないのに何故……

というか感想マジでください。最近感想無くてマイページを見る日々なんで………


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10連ガチャで爆死した後は、単発で引いた方が良いのが出るってばっちゃが言ってた!!

今回は『ぐだぐだ本能寺 復刻ライト版』と、『カルデアボーイズセレクション 2017』のガチャ報告です。色々と大変な回でしたが、何とか書き上げました!オマケで勝手な想像を元にした話を書きましたので、それの感想を貰えたら嬉しいです!!

というか今更だけどサブタイ長ぇ……


「あーだるい。超だるい。具体的に言うとイベントが超ぐだぐだでやる気なくすぐらいに超だるい」

「メタ発言は控えよとよくブーディカに言われておるが、こればかりは仕方がないことよな……」

「いや、こたつに篭ってテレビ見てるだけでしょ二人とも。いくら大学受験が終わったからってぐだぐだしすぎでしょ」

「「リアルの事を持ち込むなよブーディカ(さん)」」

 

三月下旬。リアル的には大学受験を終わらせて、ようやくゆっくりしてきた頃、ホワイトデーガチャやら復刻ぐだぐだ本能寺やらでイベントを周っていたのだが……余りにもドロップするアイテムが少なすぎたり、久しぶりに爆死したからやる気を削がれ、俺とネロはこたつに入ってるぐだぐだしていた。ぐだぐだ本能寺だけに。

 

「というか、アイテム出なさすぎだろ……まだガチャ回してないけど、これイベント礼装出ないと完走できないよなぁ…」

「高ランクのイベントボーナスを持っているサーヴァントも、儂や紅茶だけじゃしのう。む?確か、ここにはもう居なかったか?あのクラス詐欺のアーチャー」

「いや、あれ反転(オルタ)化してるから、ボーナス付かないんだよね。……元のエミヤと同じくらい料理上手なんだけど、大抵ジャンクフードか麻婆豆腐ばっか作ってるしなぁ」

「 切嗣さんとか夢中で食べまくって、弁当用に作って貰ってるのを少し引いてしちゃったなぁ」

「しゃあないて。味覚が駄目で時間が無い時ってジャンクフードが至高って思っちまうもんだよ」

「「「いやそれはない」」」

 

この場にいる三人に突っ込まれる。偶にはジャンクフードだっていいじゃないか〜。提出日が明日でワークに答えをを23ページ書き写さないといけない時とかさ〜。コタツでぐだぐだしたくなるのは仕方ないじゃないか〜。駄目か?そうか〜……

 

「けどまぁ、そろそろガチャ回さないとな。ぐだぐだし始めてきたイベントにも飽きてきたし、リンゴを齧るわけにもいかんし。とっととガチャ回しますか」

「そうじゃの〜。んじゃいってらっしゃいじゃ。儂はまだここでぐだぐだしておるから、結果だけ知らせてくれ〜」

「へいへ〜い。あ、ここでぐだぐだしてていいけど、働かない分飯は相当悲惨なことになると思え。今のままだと間違いなく処刑料理(麻婆豆腐)を食わされると思え」

「ノブッ!?どういうことじゃ!?儂あれじゃぞ!cv,釘宮じゃぞ!?そんな儂にそのようなことをしてもよいと本気思っとるのか!?」

「いや、cv,釘宮ならもうクレオパトラさんとかいるしね。全体攻撃アーチャーなら子ギルとかいるし、ぶっちゃけ釘宮ノッブの出番なんてほぼないから、倉庫番してても是非も無いよネ!!」

「それ儂のセリフ!ってか待て!もしかして儂の出番ってこれだkーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけでやって来ました召喚場。今回のガチャを回すと真剣に蓄えが無くなるが、まぁイベントだし仕方ないと割り切る。というか割り切れないとやってけないわ。

 

「さぁて、今回はぐだぐだ本能寺だから当たり枠は桜セイバーこと沖田さんと、星五礼装だな。うん、当たる気がしないぜ!」

「最近、研砥のガチャ運は振り切っておるからな。そろそろ爆死する頃なのだが…」

「ここぞという時意外は引き悪いしねぇ。一番酷かったのは…確か、魔法少女事件だったかな。当たったのって星四礼装一枚だけだったし、追いかけるようにガチャを回しても出てくるのが総じて『ずんがずんが』だけだったなぁ」

「や・め・ろ!!あの時の事は忘れろ!一番ガチャ運がヤバかった時期なんだからな!?」

 

今、家にいる褐色ロリ蠱惑キス魔ことクロエ・フォン・アインツベルンだが、彼女はガチャで入手したサーヴァントではない。あれだけ完成された星四アーチャーだが、とある事件をきっかけに協力関係を築いている。簡単に言うとイベント配布サーヴァント、という奴だ。

正直、あれで配布サーヴァントというのはどうかしている性能だ。『キス魔』と『投影魔術』で火力とスターを稼げるし、『心眼』という回避スキルまで持ってる。自前の火力も申し分無いので、聖杯でレベル80にしたロビンの立つ瀬が無いというのが現状だ。まぁ、絆レベルが9だから、まだまだイチイの木を生やして貰うつもりだけど。

 

 

閑話休題。何はともあれ、あの程酷いガチャは無かった。六章ピックアップでブーディカさんの為に、同郷である円卓勢を召喚しようと試みるも、出てくるのが『レコードホルダー』やら『理想の王政』のみという悲劇を味わい。直後に発生した謎の特異点、『魔法少女紀行〜プリズマコーズ〜』で、少しでもイベントを楽にするべくなけなしの呼符で召喚してみるも、出てくるのは星三礼装ばかり……正直に言うと大爆死だった。

 

「それに、この間バレンタインでキャス狐という星五サーヴァントを引き当て、挙句新宿ピックアップでアーチャーとアヴェンジャーを当てる。ここまで条件が重なっておるのだ。爆死するのは自明の理であろう」

「ふ、ふふふふ。ふはははは!確かに!確かにその通りだな!だ・が・し・か・し!!今の俺ならばほぼ当たらないと名高き星五礼装、『ぐだぐだ看板娘』を引き当てれる自信がある!!何故ならば!!」

 

召喚を行う前に、俺は手元にあるタブレットから今回の前に行ったガチャ結果を見せつける。それも、十連ガチャの結果を纏めたものだ。

 

「見ての通り!俺は既に爆死した後なのだよ!なればこそ!今回のガチャは当たるはずだ!」

「……古傷を見せつけて、楽しい?研砥?」

「ぐはぁ!?」

 

ババ〜ン、と効果音が付きそうなジョジョ立ちをして見せつけるも、冷静に突っ込みで一撃粉砕される。ちなみに、この前に行ったガチャと言うのは、【カルデアボーイズセレクション 2017】のガチャ結果だ。史実通り(・・・・)の男性の騎士王、アーサー・ペンドラゴンを対象に行われたピックアップで、目下一番欲しいサーヴァントランキング一位のヴラド三世(狂)を目的に回したのだが……

 

 

「まさか、期間限定の星四礼装をコンプリートするとはな。見ていて気持ちが良いほどの爆死っぷりであった!」

「こふっ」

「こらネロ公。そんなこと言っちゃ駄目でしょ。研砥だってまだ爆死してから日が浅いんだし、傷もまだ残ってるんだから」

「こぷっ」

「ああ、すまんなブーディカ。しかし、こうして見ると本当に、家のマスターはガチャの成功率のアップダウンが激しいな。関係ないことかもしれぬが、一月ごろに開催されていたお団子イベントでは、イベント礼装が一枚もドロップしなかったしな!」

「くはっ」

「こ〜ら!それ以上言ったらネロ公でも怒るよ。エミヤのジャンクフードしか渡さないからね!」

「それだけはやめてくれ!時々食べるジャンクフードは良いが、毎日だと流石に堪えるのだ!ブーディカの家庭の味の方が美味しいのだ!!」

 

若干涙目になりながら訴えかけるネロだが、ブーディカは黒い笑みを浮かべながら「どうしよっかな〜」と、実に楽しそうに笑っていた。いやね。別に良いんだけど。良いんだけどさ。

 

「ちょ、ちょっと二人とも。俺のこと言の葉で刺しすぎじゃないかな?ここまで来るとちょっとオーバーキルじゃないかな〜、なんて」

「「知らぬ(ない)そんな事は()の管轄外だ(よ)」」

「ダウト!!それ絶対ダウト!!というか二人ともそんな事言う人じゃないだろ!?」

 

二人仲良く知ら管発言され、「うおぉぉ……」と唸りながらも、俺はガチャる準備をする。今回用意したのは石を三十個と呼符を3枚。比較的に少ない数だ。だからこそ、その分ガチャの結果に期待する気持ちが大きくなっている。

だが、俺の経験上、今回というか今月のガチャは振るわない気がしてならないのだ。さっきの爆死したというのも理由の一つだが、何より強い理由は去年の今が、最もガチャが振るわなかった時期だからだ。

 

「正直、あんまり乗り気じゃない。だが、(ガチャ爆死というの名の)地獄の底に希望があるってんなら……」

 

石が入った箱をしっかりと両手で持つ。召喚サークルから十分に距離を取ってから走り出す。同時に箱の封を解きーーー

 

「地獄の底から!!引きずり上げてやるしか!!ねぇよなァ!!」

「だから!!貴重な石を!そんな乱雑に扱っちゃ駄目だって言ってるでしょ!?」

 

パイ投げの要領で召喚サークルへと石を叩きつける。バチバチと音を立てながら稼働する召喚システム・フェイト。最初に発生したのは三本線。つまり星三以上のサーヴァントが確定した。

 

「ほーしー四!!ほーしー四!!ほーしー四!!」

「まだ星四以上のカードが来てない時は、つい叫んでしまうものよな。サーヴァントが来れば勝ち確だからな!」

「……うん。やっぱり、ネロ公も私もそうだけど、結構俗世に染まって来たよね」

 

「「「よォ。サーヴァント・ランサー。召喚に応じ参上した。まァ、気楽にやろうや、マスター」」」

「「……物好きな人ですね。生贄がお望みでしたら、どうぞ自由に扱ってください」」

「「牛若丸。罷り越しました。武士として、誠心誠意尽くさせていただきます」」

「いやァァァァァァァァ!?!?星四がァァァァァァァァ!?!?」

「あっはっはっは!!やはり爆死したな!どうだ?余の勘は鋭いであろう?」

「……うん。なんとなーく知ってたよ、私」

 

召喚されたのは槍兵(ランサー)と言えばこの人と呼ばれる星三詐欺サーヴァント。『クー・フーリン』。報われてないお姉さん系騎兵(ライダー)の『メドューサ』。そして、第七特異点では味方・敵だった『牛若丸』。どれも強力なサーヴァントだが、全員宝具レベル・サーヴァントレベルもカンストしていた。

今回召喚されていた星四は、礼装の『天の晩餐』一枚だけだった。やばい、久しぶりの星四が一枚しか出ない地獄だ。グロい。グロ画像過ぎる。

 

「くっそ!まだだ!まだ行ける!それいけ俺の呼符!」

「おいおい。それ以上は良くないと思うぜマスター?ガチャってのは要は賭け事みてェなもンだ、今運気が無いってんなら、やめておいた方がいいと思うぜ?」

「ならどうしろってんだよ!!お前が引いてみるか幸運値Eランサー!!」

「よし喧嘩売るってンなら買うぜマスター?とりあえずケルト式ブートキャンプから始めるとしようや」

「それ軽く死人が出るだろうがァ!」

 

レベルも1のくせに!!召喚されたてでレベル1のくせに!今着ている礼装が『カルデア戦闘服』だったら不意打ちで『ガンド』を一発お見舞いしてやるってのに!!

 

 

 

 

 

 

 

さて、これからどうしようか。残りの札は三枚。10連で爆死した以上、この三枚で星四礼装か星五礼装を引けなければ、今回のイベントでは本当にヤバい。………よし、ここは俺の力だけじゃなく、皆の力を借りるとしよう。

 

「というわけでネロ。ブーディカさん。三人で一回ずつガチャ回そうぜ〜」

「む、良いのか研砥?こう言ってはあれだが、余は前回(バレンタイン)では爆死したのだぞ?」

「まぁ、今回はもうイベントだからガチャを回すってだけだから。気楽に回そうぜ」

「まぁ、そういうことなら別に構わないけど。それじゃ、最初の一投目よろしくね」

「おう!それじゃーーー行くぜ!」

 

右手の金色に輝く札。呼符を天高く掲げる。その場で一回転しながら札を握った指を離し、サークルの輝きを見ながら叫ぶ。

 

「全ての光よ!力よ!我が右腕に宿り、希望の光を照らせ!シャイニング・ガチャーーーー!!」

「それ、確かどこぞのカードゲームのセリフでしたような……」

「まぁまぁ、ガチャだって召喚される時にはカードだし、ね?」

 

叩きつけられた呼符が光とともに消え去り、サークルから一枚のカードが弾き出される。光の輪は一本。つまりは礼装のカードが確定した。こちらに飛ばされたカードは『打ち上げオーダー』。今回のイベントで礼装だ。

 

「よっしゃあ!!『看板娘』じゃないけど星四礼装来たァ!次だネロォ!後に続けよ!!」

「うむ!任せよ!行くぞ!『皇帝特権』発動!対象スキルは『コレクター』!」

「え、『皇帝特権』ってそんな風に使っていいの?」

「こう言うのはノリだから問題ないと思いますよ!ブーディカ殿!」

 

心強い事にわざわざ『皇帝特権』まで使ってガチャを回してくれるネロに感謝。サークルから迸った光の輪は三本。サーヴァントの召喚反応だ。が、前回同様何故か警報が鳴り響き、輪の中から金色の狂戦士のカードが現れる。

 

「何故に!?何故に警報が発生するの!?」

「また危険性のあるサーヴァントが出てくるの?全く、人力焼却を防いだのに全然安心できないね…っと、召喚されたのはバーサーカーか……あれ、確か家って結構バーサーカーは召喚されていたような……」

 

 

 

 

 

 

「◾️◾️◾️◾️◾️ーーーーー!!」

 

召喚されたカードから現れて目に留まったのは巨大な体。黒色の肌に鍛え上げられた筋肉。そして右手に持った斧の様な無骨な大剣。ギリシャ神話に名高き大英雄・ヘラクレスが召喚されていた。

 

「ファッ!?ヘラクレスゥ!?やっちゃえバーサーカーの代名詞のあのバサクレスゥ!?」

「おお!ヘラクレスではないか!去年のネロ祭では世話になったな!これからは、我が家でもよろしく頼むぞ!」

「◾️◾️◾️◾️!!」

 

召喚されたのはヘラクレスに抱きつき、下から目線で頼まれると照れた様に上を向き、斧剣を高く振り上げる。召喚場が壊れるから止めて欲しいと頼み込んだあと、男同士の熱い握手を交わした。………握った手が潰れるかと思ったが。

 

「それじゃラスト!頼んだぜブーディカさん!」

「ブーディカの!かっこいいとこ見て見たい!!」

「えぇ!?このノリで行くの!?あ〜もうどうにでもなれ!スキル『アンドラスタの加護』!」

 

 

ブーディカさんもまた、自分のスキルを発動してガチャを回してくれる。召喚時の輪の数は三本。またまたサーヴァント確定だ。が、召喚されたのは銀色の弓兵(アーチャー)だ。

 

「むぅ。ごめん研砥。やっぱり、私も肝心な時に弱いみたいだ」

「いやいや。別に問題ないですよ。俺だって爆死した回数多いですし」

「うむ!よし、では今回のガチャはここでぇえ!?」

 

召喚されたのは銀色のカードがバチバチと光りだす。銀色から金色へ。星三の弓兵から星四以上の弓兵へと変化する。カードから光が溢れ出て、新たな英霊(サーヴァント)が召喚される。

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」

 

両手に構える白と黒の中国双剣『干渉・莫耶』。赤黒いコートを着て、短い白い髪を逆立て、ニヒルな笑みを浮かべる浅黒い男性。錬鉄の英霊『エミヤシロウ』が召喚されていた。

 

「エミヤ……なのか?本当に?」

「何をそんなに驚いている。あの時、君と共に戦うと誓ったアーチャーだ。……まぁ、再召喚に少し時間が掛かり過ぎだと言いたい所だが、まあ、いいだろう」

 

いつもの様に笑みを浮かべながら手を差し伸ばす。けれど、いつもより少し優しげな笑みを浮かべていた。

 

「さて、ようやく召喚されたのだ。親交を深める為にも、料理の一つでも振舞って」

「うわああああん!!エミヤくーーーーーん!!」

「会いたかっぞアーチャーーーーー!!」

「なんでさぁ!?」

 

握手を交わそうとしたエミヤだが、久しぶりの再会に感極まったネロとブーディカさんが、エミヤにタックル染みた勢いの強い抱擁を交わす。新たに召喚された為、レベルも1のエミヤにはレベルも90と100の二人の力に逆らうことも出来ず、そのまま後ろに倒れた。その姿を見て笑った後、「ここもまた、賑やかになるな」と俺は呟いた。………目頭が少し熱かった、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★召喚された後の食堂にて★

 

「ふぅ。これで今日の営業も終わりだな。相変わらず、作り甲斐の人間が多いな。ここは」

 

使い慣れた食堂。その厨房で私は黙々と皿洗いを続けながら、今日も皆が食べた時の顔を思い出す。自分で作ったものを食べるのも良いが、やはり自分で作ったものを食べて喜ぶ顔を見るのは、何とも気分が良いものだ。

 

 

「ーーーっと、確か、作家系のサーヴァントは今日も徹夜で新作を書いていたな。後で夜食でも作って差し入れに行くとしよう」

 

皿洗いを終え、冷蔵庫の中に何があるか確認しようとした時、食堂の扉に付けられた鈴の音がした。どうやら、閉店の看板を掛けているここに誰か来たようだ。

 

「すまない、今日の営業は既に終わってーーーむ」

「何だ贋作者(フェイカー)ではないか。まだいたのか貴様」

 

食堂に現れたのは、いつもは逆立てていた金色の髪を下ろし、燃える様な赤い瞳をした青年。第五次聖杯戦争では圧倒的な力で蹂躙の限りを尽くした英雄達の王、『ギルガメッシュ』がそこにいた。最も、ここに居るのはあの時の弓兵(アーチャー)ではなく、不老不死の秘薬を手に入れる旅に出て、王として成長した魔術師(キャスター)としてのギルガメッシュだ。

 

「貴様こそ何の様だ。此処に用があるとはとても思えんが」

「ふん、今日は多少忙しくてな。晩飯を食うのを忘れたので残り物を漁りに来たのだ。で、何か残っているか?」

「生憎、今日は何も残っていない。必要ならば作ってやろうか?」

「ああ。すまないがよろしく頼む。研砥やブーディカが言うに、貴様の作る飯は絶品だそうだからな」

 

食堂に設置された椅子に座り、「余り物で構わん。早く作れ」と命令するギルガメッシュ。だが、あの(・・)ギルガメッシュが私に頼み事(・・・)をした事に驚き、少し驚いてしまった。

 

「どうした。早く作って持ってこい。それでもシェフか貴様」

「あ、ああ。すぐに作って持って来よう。少し待っていてくれ」

 

英雄王の気が変わらない内に作るべきだと判断し、手元にある物を確認する。

 

(炊飯器にはまだご飯がある。冷蔵庫には殆ど無いが、卵があるな。ふむ。他にはネギとラーメン用のチャーシューもある。ならば、ここはあれを作るか)

 

これから作る物を決め、使い慣れた中華鍋とエプロンを投影し、調理に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

調理に取り掛かる事十分。完成した物を深皿に移し、それをギルガメッシュに渡す。

 

「待たせたな。残り物ですまないが炒飯(チャーハン)だ」

「ああ。手間を取らせたな。後片付けはやっておこう、貴様は早々に部屋に戻るがいい」

「一人分の皿を洗うのにそう時間はかからん。食べ終わるまで待っておくから、冷めない内に食べておけ」

 

私がそう言うと、ギルガメッシュは無言で頷いた後は黙々と炒飯を食べ始める。私としては「贋作者(フェイカー)の作った物など食えるか!恥を知るがいい雑種!!」とでも言うと思ったのだが。まぁ、食べた事に変わりはないのだから、それに越した事はないのだが。

無言で食べ続けること数分。米を一粒残さず食べ終わった皿を渡され、私はそれを無言で洗う。こういう時、自分で投影した調理器具というのは助かる。別に調理器具を洗うのに抵抗はないのだが、何分飯を作る量が多いので、一々調理器具を洗う暇がないのだ。

 

「ほら、食後のお茶だ。要るか?」

「ああ。すまんな。手間を取らせる」

「………はぁ、貴様、本当にあの(・・)ギルガメッシュか?私の知る彼とはイメージが全く違うのだが」

「貴様が言っているのはアーチャーの(オレ)であろう。(オレ)とあれは別だ。一緒にするな」

 

いや、それは無理だろう。内心で呟く。余りにも私の知る彼とは違いすぎて寒気がする程だ。確かに、第七特異点では今のギルガメッシュと共闘したが、私は外の魔獣を借り続けていたので彼の人となりを全く知らないのだ。

 

「一つ、質問してもいいか?」

「何だ?貴様の作った料理に免じて一つだけ問いを許してやろう」

「助かる………単刀直入に聞こう、今の貴様は、私の事をどう思っている?」

 

正直、今一番気になっている事を尋ねる。すると、ギルガメッシュは片目を閉じ、少し考える様な仕草をする。ふむ、と一言呟いた後、閉じた目を開く。

 

「そうだな……特に何も(・・・・)、というのが強いな。贋作を作る貴様の魔術を鬱陶しいとは思うが、それだけだ。別段思うところはない」

「は…………?」

 

ギルガメッシュが言った事に呆気に取られ、鳩の様に口を開いてしまう。いやだって、仕方がないだろう。天上天下唯我独尊。「他人が作り出した贋作など見るにも耐えん」と断言した、あの英雄王が嫌うと言わず、どうでもいいと一蹴したのだ。驚くのは無理もないと思う。

 

「何だその顔は。さては貴様、またアーチャーの(オレ)と比べていたな?」

「いや、仕方がないだろう。理屈は分かっているのだが、未だに慣れん」

「早く慣れておけ。後々面倒だぞ」

 

どうでもよさそうに呟き、淹れたてのお茶を飲む。その姿はとても様になっていて、彼が一人の王として国に君臨していたのだと思わされる。もっとも、私が尊敬するのは騎士王である彼女なのだが。

 

「…さっきも言ったが、確かに貴様の使う魔術は気に食わん。だが英霊になるまで……いや、貴様の場合は守護者だったか?まぁどちらでも良いが、その域に達した貴様の投影魔術(それ)を忌み嫌いこそすれ、笑う事はせん。貴様が研鑽し、血反吐を吐いてまで極めたそれを笑う事は愚者のすることだからな」

 

世話になった。と飲み干した湯呑みをテーブルに置き、ギルガメッシュは扉に手をかける。らしくない。私の知る英雄王()と余りにも懸け離れた言動に悩まされたが、不遜な物言いは相変わらずだ、思い直す。

 

「……ギルガメッシュ」

「何だ?」

「また、食堂(ここ)に来るといい。今度は余り物ではなく、ちゃんとした料理を振る舞おう」

「ふん。気が向いたら来てやろう。ではな贋作者(フェイカー)。……まぁ、貴様の飯は美味かったぞ」

 

去り際にそう吐き捨ててギルガメッシュは食堂を去って行った。だが、その横顔が少しだけ笑っていたのを私は見逃さなかった。

 

「………さて、朝食の仕込みでもしておくか。美味しい物を用意しておかないと、王様が恐ろしいからな」

 

少しだけ笑いながら、私は明日の準備に勤しむだった。あの王様に、もう一度美味いと言わせるために。

 




というわけで、ようやく家にエミヤ(弓)とヘラクレスが来てくれました!!やったぜ!!でも育成が大変だぜ!!(白目)
今思えばオルタが来た後にオリジナルが来てるんだよな…UBWみたいな展開にならないと良いけど。

後半の話は、エミヤとギルガメッシュ(術)との会話です。某動画サイトで、術ギルのセリフ集がありまして。エルキドゥを所持している時に「我はウルクを治める人の王となった」って言ってるんですね。それを見て、七章で見せたあの賢王っぷりならこう言ってくれそうだなぁっと思い、今回の話を書いてみました。

誤字脱字の指摘、感想・評価はいつでもお待ちしております!!

感想は!!いつでも!!お待ちしております!!(集中線)


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皆が俺の事をロリコンと呼ぶが、俺は決してロリコンなどではないっ!!

どうも青眼です。今回は『ぐだぐだ明治維新』のガチャ報告回ですよ〜。これの前に開催されたクラス別ピックアップは引いてませんので、省略しています。
ちなみに、サブタイトルは私の現状です(真顔)。
なんでや、俺ロリコンちゃうやろ…。俺はあれだ、遠くから小さい子供を見て癒されたいだけであってだな……

それより、今日から『Fate/EXTRACCC』コラボイベント記念のガチャが始まりますね!自分は日曜日の、ネロ(ブライド)と、弓ギル様の時を狙ってガチャります!石なんて、毎月1000円ずつ貯めて来た貯金を使って増やせばいいんや(5ヶ月分しかない)。

それでは、本編をどうぞ〜!



追記:皆さんは高難易度突破しましたか?私は玉藻がようやく来たので、斎藤千和さんが声を当てているキャラのみのパーティーでクリアしてきました!ツイッターにも貼っておこうと思いますので、返信してくだされば嬉しいです!


「むにゅ〜。ちゃちゃもう食べれないよぅ……」

「ふむぅ……。あん……ふぅ……」

「……………………どうしてこうなった」

 

 

やぁ、俺は黒鋼研砥。謎の電車に乗って移動すると特異点Fに到着していて、済し崩し的に人理焼却を防ぐ旅に出たマスターの一人だ。現在は四月。年齢的な意味で大学の勉強をして寝たある日の朝。何故か俺のベッドに茶々とクロエが入り込んでいた。しかも爆睡している状態で。

さて、改めて現在の状況を振り返ってみよう。

 

俺←簡素なパジャマ。中央で寝ていた。

クロエ←俺の右腕を枕代わりにして爆睡。しかも薄着。

茶々←俺の左腕を枕代わりにして爆睡。しかも涎を垂らして汚す。

 

 

つまり幼女二人に腕枕をし、その上で川の字に寝ているのである。………事案だ。誰がどう見ても事案である。現状を打破しようともがくも、両腕をしっかりと抑えられている以上何にもできない。今の正直な感想を言おう。

 

「詰んだ………誰がどこから見ても詰んだ………ッ!!」

 

もし、今の部屋の中に誰か入ってみろ。ま〜た俺のロリコン疑惑が復活するじゃないか。もういいって。そういうのはもうお腹いっぱいだから。というか、何で配布のサーヴァントが幼女なんですかね……。

 

(まずい……この状況は絶対にまずい!どうにかしてここから脱出しなくては……!!)

 

せめて片腕でも使えればと歯嚙みをするも、無い物ねだりをしても仕方だないと割り切る。ふと、レイシフト先が上空だったり、使役するサーヴァントがいない所に送られた時の頃を思い出してしまったが、まぁ是非も無しだろう。

 

「うにゅ………ふぁ〜あ。ううん?あれ、私どうして……」

「!! 目を覚ましたのかクロエ!良かった、本当に良かった!!」

 

俺の右腕で寝ていたクロエがぼんやりと目を覚ます。誰も来ていない状況でこれはチャンスだ。下手すれば最初で最後のチャンスかもしれない。

 

「あれ研砥?何で私ここに……」

「いいから!早く腕から離れろ!!あとついでに左腕で寝てる茶々も持って行ってくれ!」

 

茶々を起こさない様に静かに叫ぶという器用な事をする俺。俺の真剣さが伝わったのか、クロエはゆっくりと腕から離れ、そのまま茶々を起こさず(・・・・)、俺の腹の上に寝転がる。

 

「………何のつもりだクロエ。早く茶々を起こして」

「そんな事はいいから、ねぇ、このシチュエーション、もしかしてドキドキしてる?」

 

蠱惑的に微笑むクロエ。だが、その目が未だぼんやりとしている事に気づいた俺は、まだこいつが寝ぼけているのだと察した。

 

「なっ、おいこらクロエさん!?早くおきろうひゃぁ!?」

「あははは〜。もう、研砥ったらおもしろーい。あ、そ・う・い・え・ば♪」

 

何か思いついた様に顔を近づけてくるクロエ。まるで、獲物を見つけた肉食獣な目つきに、ふと特異点F(あの時)のアルトリア・オルタを思い出す。

 

「研砥のぉ〜。魔力はぁ〜。どんな味がするのかしらね〜♪」

「こ、んの……いい加減にしろ!!」

 

さらっと『キス魔』を使おうとするクロエの頭に指を当て、魔力を貯めて解き放つ。俺が使える数少ない魔術の一つで、名前は『ガンド』。某あかいあくまが使う簡単な魔術で、当たっても少し風邪を引く程度の呪いしか起こらない。

だが、今ここで放つのはただのガンドではない。カルデアのオカマな天才、レオナルド・ダ・ヴィンチが開発したガンドだ。その威力は、数瞬だがあの人類悪(クラス・ビースト)の動きさえも止める。つまり、普通の人間に向かって撃ったら間違いなく即死級の一撃なのだ。

 

「きゃん!?」

 

それをゼロ距離、しかも頭部に被弾したクロエは当然意識を失う。家の中でもスキルレベルカンスト勢(主力の一人)である彼女にこんな事をするのは申し訳ないが、事が事だ。今は眠っていてもらおう。

 

「……許せクロエ、後でエミヤになんか詫びさせるから」

 

とりあえず責任をエミヤに押し付けて、自由になった右腕でクロエを腹からどかす。後はゆっくりと左腕の茶々を退けようとしたその時。外の光が部屋を包む。突然の光源に目を細めるも、数秒のうちに回復する。そして、光の中から現れたのは俺の見知った人だった。

 

「研砥〜。そろそろ朝ごはんの時間………」

「………ははっ。終わた」

 

ようやくこの状況を打破できると言う時、部屋の外からやって来たのは我が家の料理長、ブーディカさんその人。性格は家庭的(・・・)なお姉さんであり、本質はオカンである。しかも優しい系の。

そんな彼女が俺の部屋に入って来た時、今の状況を見た時どう思うだろうか。幼女二人をベッドに持ち込んでいる現マスター。いや、俺としては、まず、どうやってこの状況が出来たのかを問いただしたいのだが、真実を知る二人は夢の中。

それにだ、現行犯がいる状況で、逮捕しない警官がいるだろうか。いないだろう?つまりはそういうことだ。

 

「ーーー研砥。理由は後で聞くから、さ」

「………はい」

「……少し、頭冷やそうか?」

「いや、ちょ、あの俺は今回に何もしてーーー」

 

俺の弁解も虚しく、容赦ない母の鉄拳(一撃)が突き刺さり、俺は痛みを感じることなく意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………痛い。まだ頭がズキズキする」

「大丈夫ですか?なら、やはり頭をスパッと」

「やっぱり大丈夫です〜!いやぁ、婦長の調合した頭痛薬は効きますねぇ!!…………凄い苦いけど」

 

朝の一件の後、俺が次に目を覚ましたのは医務室だった。どうやら俺は、召喚されてから一瞬で医務室を占領したバーサーカー。クリミアの天使で有名なあのナイチンゲールに看護されていたらしい。

目覚めた直後、ナイチンゲールの調合した頭痛薬を飲むか、それとも頭を切断するかの二択を選ばされ、渋々薬を飲んで今に至る。その間に、クロエと茶々が今回の事件の真相を教えてもらった。

 

まず、茶々が部屋にいた理由だが、どうやら朝食時だから起こしに来てくれたらしい。だが、今日に限って早起きをした彼女は、既に朝食を済ませてしまっていた。その後、何故か布団の中に入ってしまい寝落ちしたらしい。まぁ、本人の容姿からして子供なので、仕方がないだろう揉め事の仲裁役である調停者(ルーラー)のジャンヌが、厳重注意で済ませたそうだ。

 

次にクロエだが、本人が今回の犯行はわざとだと自供したらしい。何でも、俺の反応が見たかったからついやってしまったらしい。どこからどう見ても有罪(ギルティ)なので、エミヤによる投影魔術講座(物理)を受講させてられているそうな。それを聞いとた時は少し同情した。「お前はまだまだ基本骨子の想定が甘い!!」と言われながら、峰打ちされたのはいい思い出だ。

 

「そういえば司令官(マスター)。そろそろガチャを回せとミス信長が言っていました。弱小人斬りサークルの副長を早う召喚せい、とも」

「……無表情で言われると、結構堪えるな。了解、今から向かうと伝えてくれ。看病してくれてありがとな」

「いえ。それでは、本日もよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお研砥!その様子じゃと体はすっかり良くなったようじゃの!では、早速ガチャをまわ」

「死ねこの第六天魔王がァ!!」

 

召喚場で優雅にお茶を飲んでいたノッブに、入ってすぐに問答無用の牙突(見様見真似)を放つ。が、それは横から現れた一人の少女によって阻まれる。

 

「退いてくれ沖田さん。そいつ殺せない」

「いや何ノッブに斬りかかってるんですか研砥さん!?ちょっと落ち着いてください!」

「五月蝿い!元はといえばこいつの性格が今朝の原因なんだ!とりあえず一回斬らせろォ!」

 

俺が召喚した剣を使う英霊を憑依経験し、その剣技を模倣して斬りかかるも、流石は幕末最強天才剣士(自称)。俺の剣戟の悉くが弾かれていく。

彼女の名前は沖田総司。新撰組と呼ばれる、日本の誇る有名な侍だ。菌糸類という謎の存在によって女体化しているが、まあ、それはどうでもいいだろう。顔も、誰もが知るあの人によく似ている点を含めて、だ。

 

「ったく、というか沖田さんが何でここに?狭間の所にいるサーヴァントだろ?」

「いや〜、(本編的な意味では)研砥さんの所に召喚される予定だったんですけどね〜。何ででしょうね?」

「俺が知るかよ……福袋の時、わざわざ神社まで行ってお祈りしたってのに……」

 

俺がFGOを始めたのは、今から二年前の十二月頃だ。なけなしの小遣いを貯めて新しい端末を購入した俺は、知り合いがやっていたこのゲームをする事になった。新年早々に行われた福袋ガチャという、大当たりガチャに参加した俺は、姉の分までガチャで沖田さんが当たるようにお祈りをしてきた。だというのに……

 

「おか〜さ〜ん!!」

「ーーっとと、おいジャック、いきなり飛び乗ってきたら危ないだろ?」

 

誰にも気づかれない気配の薄さ、そして、音も立てずに近づくスニーキング術。背中に抱きついてきた白髪緑眼の少女、アサシンの『ジャック・ザ・リッパー』に注意する。ちなみに、さっき言っていた正月の福袋で召喚できたのがこの子だ。そのせいで、俺はロリコン等という不名誉なあだ名を持つことになるのだが、それは置いておくとしよう。

 

「あ、ジャックちゃんだ〜!お久しぶりです〜!元気にしてましたか?」

 

肩から顔を出すジャックを見た沖田さんが、手を振りながら声をかける。それを見たジャックも嬉しそうに笑って返す。

 

「沖田さんだ〜!うん!わたしたちは元気だよ!沖田さんも大丈夫?喀血してない?」

「はい!今日の沖田さんは順調・快調・絶好調ですとも!あとでトリスタンさんを誘って一狩りゴフッ!?」

「言ったそばからそれかよ!?」

 

笑顔で吐血するという器用な事をしながら、ぶっ倒れかけた沖田さんを抱える。目を回しながら倒れるその姿はまさにドジっ娘という存在そのものだった。そして、それを引き立てるように何かが回る音がして……音?

 

「ってノッブてめぇ!なに人の呼符使ってやがる!?」

「む?いや、主らが回さんから儂が仕方なく回してやってたんじゃが。何か問題でもあったかの?」

「大有りじゃぼけぇ!もし星四以上のやつ出せなかったりしてみろ、パイ投げの要領で麻婆豆腐ぶつけんぞゴラァ!」

「お主さっきから儂に対する当たり強くはないか!?」

 

俺の狂化(バーサーク)っぷりに若干引くノッブ。お前は知らないだろうけど、今朝お前の姪が起こしてくれた事に若干根に持ってるから、仕方がないと思うんだ。

そんな事を思っていると、一枚のカードが現れてノッブの手に収まる。というか、既に何枚かカードを持っている所を見る限り、呼符で引いたのは全て概念礼装だったようだ。

 

「ほれ、『月霊髄液』と『春風遊歩道』が二枚出たぞ。良かったの!イベント礼装が二枚も出たぞ!儂に感謝せよ!」

「……何かノッブのくせにいい引きしててムカつく」

「なんじゃさっきから!?今日は何もしとらんじゃろ!?」

 

理不尽じゃ、と少し目に涙を貯めるノッブを見て、少しやり過ぎたと謝る。さてと、一応イベントだし一〇連しますかね。

 

「まぁ、イベントだから仕方なくガチャを回すんだけどさ。これで土方さん来たら嬉しいな。とりあえず大量のたくあんとマヨネーズと二五〇円竜を大量に用意して……」

「いや、それ別の時空の土方さんですから。というか最後の人に至っては別人じゃないですか!」

「ばっかお前、(中の人的には)同じ土方さんだろ。触媒には丁度良いだろうがよ」

「もうやだ研砥さんの思考回路闇鍋すぎ……」

 

『病弱』スキルから復活した沖田さんに何故か引かれながらも、とりあえずそれを無視して三〇個の石をサークルに放り込む。再び起動するシステムを見ながら、これから召喚されるサーヴァントに胸を膨らませる。

 

「今回のピックアップは直流・交流コンビと、その保護者(エレナさん)。あとは土方さんだったよな?」

「そうですね。まぁ、研砥さんの所には遂にアーチャーも揃い始めましたし、誰が来ても余剰戦力になりそうですが」

「うん!まだジャンヌのレベルも中途半端だしね!」

「ちょ、申し訳ないからそれ言うのやめてくれない!?」

 

事実、十二月に我が家にやって来たランサー、『ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ・ランサー』という、エクストラクラス・復讐者(アヴェンジャー)である『ジャンヌ・ダルク・オルタ』の若い頃の彼女が召喚されたのだが、いかんせんランサーは結構揃っていたので、育成が後回しになっている。本当に心苦しい。

そんな事を考えていると、金色の光とともに三本の輪が広がる。出現したのは魔術師のカード、つまり高ランクのキャスターだ。眩しい光を伴いながら現れたのはーーー

 

 

 

「よくってよ。このキャスターが導いてあげる!」

 

短い紫色の髪を二つ結い、ガーターベルトを着用し、容姿は幼女というより少女寄り。第五特異点から追加された高ランクの魔術師(キャスター)。『エレナ・ブラヴァツキー』だった。

 

「お、エレナさんか。あ〜でも、申し訳ないんだが……」

「言わなくても結構よ。ここにはもう私がいる事を、マハトマが告げているしね」

「マジですか。マハトマってすげぇ〜」

「ええ。存分に崇め奉りなさい。気が向いたら、貴方にも私の魔術を教えてあげるわ」

 

彼女はそう言って召喚場を去って行った。ここはカルデアみたいにダ・ヴィンチちゃん工房なんて便利な物はない。あくまであれを意識して、メディアさんやバベッジさんが作った工房があり、普段はそこで霊器再臨や、種火の注入を行なっている。

 

「さて、これで今回のガチャも終わりだな。とっとと種火周回でも行って」

「ねぇねぇおかあさんおかあさん!!わたしたちもガチャしてもいい?」

 

まだ背中にくっついていたジャックが、自分も召喚してみたいと要求してくる。それに少し悩んだが、別に問題ないと思い直す。

 

「ああいいぞ。この間の新宿で、絆レベルが10になったご褒美だ。ただ、悪いが呼符ガチャでもいいか?」

「うん!ありがとうおかあさん!わたしたち、頑張って強力なサーヴァントを召喚してみるね!!」

「おう!気負わずに頑張れ!応援してるからな〜!!」

 

ノッブが回したせいで一枚しか残っていない呼符を渡す。そのやり取りを見た沖田さんに「やっぱりロリコンなのでは」と言われたが、気のせいだろう。

 

「それじゃいっくよ〜!それ〜!!」

 

黄金に輝く札を、サークルの中央に放り投げる。呼符の中に充填されていた魔力が解放され、聞き慣れた起動音を立ててサークルが回る。線はまたまた三本。これ以上高ランクのサーヴァントは出ないだろうな、思った俺だが、それは良い方の意味で裏切られる。何故なら、現れたのは金色に輝く槍兵だったからだ。

 

「なっ、ここで恒常星四以上のランサーじゃと!?ピックアップ仕事しておらぬな!?」

「土方さんじゃないのは残念ですが……これでフィンさんなら笑えますね!」

「笑えないからなそれ………!!」

 

冗談を言う沖田さんにツッコミを入れながら、新たに召喚される仲間に期待する。本当にフィンなら堪らず自害コマンドでも打ちそうになるが、間違ってエルキドゥさんでも来たら嬉しいなぁ(遠い目)。

そんな事を考えているうちに、遂に新たな英霊が顕現する。俺の淡い希望という光から現れたのはーーー

 

 

 

「貴方が新しいマネージャー?よろしく、大切に育てて」

「何度も出て来て恥ずかしくないんですか?」

「ちょ、最後まで言わせなさいよ!?」

 

 

さっき現れたエレナさんより赤みが増した紫色の髪。黒を基調としたフリルのついた服。頭部から生えた異形の角に、服と同じカラーリングの尻尾。ハロウィンでキャスターやらセイバーやら色々増えだした、エリザベート・バートリー(ランサー)だった。

 

「ねぇねぇおかあさん。わたしたち、強い人呼べた?」

「ああ!よくやってくれたなジャック!今日はエミヤに頼んで、ハンバーグにして貰おうな!」

「本当!?やったー!!わたしたちハンバーグ大好きー!!」

「ってあれ?ねぇマスター。その子、もしかしてネロの親戚か何かかしら?声が似てる気がするんだけど?」

「いや?別にそんなんじゃないが?まぁあれだ。丹下さんマジパネェっす事だ。分かれ」

 

歌ったり魔法少女になったり暴君(可愛い)になったり、花嫁になったり暗殺者になったりと、色々と忙しいよなあの人。あ、今言った四つ全部【Fate/】シリーズだったわ(白目)。

丹下さんの偉大さを振り返っていると、召喚場の入口辺りが大きな音を立てる。具体的に言うと、何かが鉄を切り裂く音だ。

 

「おお!やはり、その気配は赤ランサーであったか!!会いたかったぞ!我が親友(ライバル)よ!!」

「ネロじゃない!!貴方もいたのね!それじゃ、アメリカで果たせなかったツアーを始めようじゃない!!」

「うむ!研砥よ!我が奏者(マスター)よ!よくぞ赤ランサーを召喚した!褒美だ、賢王の援助によってより強化された黄金劇場よる、余とランサーによるデュエットを披露してやろう!!」

 

わざわざ自動扉を斬って入ってきたのは、セイバーウォーズとかいう謎のイベントでピックアップされた時に、奇跡的に召喚に成功したセイバー、みんな大好き丹下セイバー(ネロ・クラウディウス)だった。この二人、色んな所で共通点を持っているため、物凄く仲が良いのだ。

 

「ーーーって、これって結構やばいんじゃないか!?おい皆逃げるぞってもういねぇ!?」

 

ネロの宝具が展開される前に脱出しようとするも、既に沖田さんもノッブもジャックもいなくなっていた。ただ、彼女らがいた所にポツンと置かれた紙切れがある。手にとって読んでみると、俺は足が震えて動けなくなっていた。

 

『すまぬマスター。流石の儂もあれは相手しきれん。下手をしたらあの大英雄さえ倒しかねん、超音痴攻撃を聞くくらいなら、処罰覚悟で逃げさせてもらうぞ。とりあえず、気を楽にせよ。三途の河を渡っていなければ、怪物婦長に頼んで生還させてもらうからの』

『すいません研砥さん。あれは無理です。ジャックちゃんの事は私たちに任せて、二人の相手をお願いしますね。生きていたら、また一緒にお団子でも食べましょう!』

『おかあさん!ファイトだよっ!』

 

三人の心情が書かれた手紙を読み、堪らずその場で膝を折る。もうダメだ、けどまぁ……宝具で死ねるのなら、少しは箔が付く人生だったかな。

 

「おおマスター!そう泣くでない!余とランサーのデュオが嬉しすぎるのは当然だが、そこは泣くのではなくサイリウムを振り回す所であろう!!」

「そうよ子ウマ!さぁ!ライトを当てなさい!最高の舞台で、最高の歌で!いかせてあ・げ・る♡」

(違うんです。歓喜してるとかじゃなくてこれからの鼓膜の心配をしてるんです。というか生きて帰れるかさえ分からないんですがそこん所理解してるんですかねぇ………!!)

 

当然分かっていないだろうけど。内心諦めて、何故か手に握らされていたサイリウムを手に、精一杯の雄叫びをあげる。せめて、最期ぐらい派手に散って行こうという、自棄になったのが理由なのだが、まぁ、別にいいだろう。

 

直後、展開された黄金劇場にて開催された、エリザベート・バートリー(槍)と、ネロ・クラウディウス(赤)によるコンサートが、たった一人のマスターの為に開催された。

その結果、一体何があったのかは、当事者である俺たちしか知らない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GO★JI★TU★DA★N!

 

「あ〜くそ。真剣に死ぬかと思った。あれ本気でヘラクレスのストック消し飛ばせるぞ。絶対ランクEXの対軍宝具だっての」

「あはは……大変だったね研砥。ほら、フローレンスが調合した薬だよ」

「また苦い薬を飲む羽目になるとは……とほほ、泣けてくるよ」

 

ブーディカさんが手渡してくれた薬を飲む。とてつもない苦味があり、『この世全ての苦味(アンリ・マユ)』と呼んでも過言ではないのだろうか。ちなみに、『この世全ての辛味』はF市在住のK峰神父が愛好している、紅州宴歳館・泰山の『麻婆豆腐』である。

 

「〜〜〜!!!ゲホッゲホッ!!がっ、うっ、あ〜〜〜!!ゲホッゲホッ!………ふぅ。死ぬかと思った」

「大袈裟だなぁ。ほら、水のお代わりだよ。いる?」

 

用意してくれていた水をすぐに受け取り、一気飲みの要領でがぶ飲みする。少し腹が冷たくなった気がするが、仕方がないだろう。

 

「ふぅ。お、流石婦長が直々に調合してくれた薬だ。効き目抜群だな」

「あはは。けどまぁ、ネロ公達にはきつ〜く言い聞かせて置いたから、こんな事はもう起こらないと思っていいよ」

「え……ちなみにどうやってですか?」

「うん?私とエミヤ君と頼光さんで食事を止めるって言っただけだよ?」

「鬼ですか!?」

 

家の食堂は、調理スキルがカンストしている人たちが料理を当番制で作っている。食堂の責任者組である彼らを敵に回すということは、食を断たれるという事も道理。エリザベートはともかく、ネロはブーディカの料理を特に気に入っているため、それは彼女に死ねと言われているのも道理だろう。止めるのも仕方がないと言える。

 

「あ、そうだ研砥。一つ聞いてもいいかな?」

「うん?別にいいけど、珍しいな。ブーディカさんが俺に質問だなんて」

「そうかな?いやさ、今回のイベントでエミヤ君もアルトリアも、頼光だってちゃんと出番があったのに、私だけなかったじゃない?だから、もし私が日本の偉人の名前を使った英霊になったのなら、どんな人物かなぁって思ってさ」

 

少し重いかな。彼女は少し苦笑しながら呟く。それに、俺はどう答えたらいいのだろうか。勿論、彼女に合いそうな日本の人物を俺は知っている。大学レベルの学歴を身につける際、世間の様子を知るためにも、よくニュースやら特集を見るようになったからだ。

 

そして、今放送されているドラマに、ブーディカさんとよく似ている人物がいた。でも、俺の身勝手だけどそれはーーー

 

「どうだろうな。ブーディカさんみたいに優しいお姉さん系の偉人なんて、そう数は多くないと思うし、下手したらいないかもな」

「もうっ、それって自分が知らないことを言い訳にしているだけじゃないの?」

「あ、バレたか。なら、一緒に探そうぜ。西暦だけで数えれば二〇〇〇年も続いてるんだ、探せば見つかるさ」

 

そう言って、俺はブーディカの手を取る。それに彼女は応じてくれて、「仕方ないなぁ」と愚痴をこぼす。

 

「それじゃ、これからネロも誘って図書室に行こうぜ!せっかくだし、エミヤも誘ってさ!」

「全く…分かったよ、行こっか研砥。私とよく似たその人を探しに、ね」

 

俺たちは部屋出る。その間に、俺は今までの人理焼却を防ぐ旅の中で、学んだ事の一つを思い出した。

 

 

 

それは、どんな人生にも意味があること。例えば、俺がこの世界に巻き込まれたのも、その言う風に仕組まれた運命(Fate)だとしてもだ。その過程に、多くの事を残せたのであれば。その歩んだ人生(物語)は、決して無意味な物ではない。

まだ十八年しか生きていない若輩者の考え方だが、それが、今の俺には一番しっくりと来た。




ここまでの既読、ありがとうございました!
設定の食い違い・誤字脱字・指摘したい点がありましたら報告をお願いします!

ちなみに、私がブーディカさんとよく似ていると思った人のドラマは、2017年4月現在、日曜日の20時から放送していますので、時間があれば是非見てください。個人的には面白いですよ。

さぁて、CCCコラボ記念ガチャ!逝くとしますかねぇ!!


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待ちに待ったコラボの時!でも意外な結果になって俺は絶望した!

どうも~。遂に明日から始まる『Fate/EXTRAccc』との大型コラボ!『BBちゃんの逆襲/電子の海で会いましょう!』が楽しみで眠れない青眼です!

今回は日曜日のネロ(ブライド)と弓ギル様を狙ってガチャの報告となります!これ以降、私はコラボ記念のガチャを回しません!全て、全てコラボに回します!

というか、BBは『ムーンキャンサー』、パッションリップとメルトリリスのクラスが『アルター・エゴ』!ここまで原作通りだと嬉しすぎて狂喜乱舞しちゃいますよ!エリちゃんとロビンのモーション変更もありがとう!
というか何でギル√エンドの名セリフが礼装になってるんですか!?最高かよ馬鹿野郎この野郎!!イベント開始時にいざ行かん!遥か爆死の彼方までェェェ!!!


『Fate/EXTRA』シリーズ。それは、俺がこの『Fate/』という作品の中で最も愛し、俺が『Fate/』作品へと足を踏み込むきっかけとなったゲームシリーズ。

このシリーズの原点、『Fate/stay night』のノベル要素に加え、RPG要素を加えたこのゲームは、当時流通していたゲームと一線を画していた。この作品をやり始めたからこそ、俺は型月(TYPE−MOON)の世界へとのめり込んだと言ってもいい。

 

第一の作品、『Fate/EXTRA』の舞台は月面。より正確には、『ムーンセル・オートマトン』と呼ばれる、聖杯戦争を行う運営装置が展開する、霊子ネットワークへアクセスし、そこに集まった総勢128名のマスターによるトーナメント形式で物語は進んでいく。全7回に渡るトーナメントを勝ち抜き、願望機たる聖杯を手にする。これが『Fate/EXTRA』の目的だ。

ちなみに、『Fate/』シリーズの噛ませ犬……間桐慎二や、ヒロインである遠坂凛といった人気キャラクターも、『Fate/stay night』とは別人という枠で参戦している。

 

主人公、岸波白野(きしなみはくの)が使役する英霊(サーヴァント)は、彼の騎士王と同じ顔をしたローマの皇帝、ネロ・クラウディウス。『Fate/』シリーズの顔である正義の味方、『EXTRA』シリーズでは無銘と名乗る贋作者。日本における太陽神・天照大神の分霊である玉藻の前の三騎。また、敵として登場するサーヴァントも大勢いて、ロビンやドレイク船長はここが初登場だったりする。

 

次に、物語は二作目である『Fate/EXTRAccc』へと移行する。本編の第5回戦で、聖杯戦争を運営する『ムーンセル・オートマトン』の想定外の事態が発生してしまい、5回戦までの生存者、及び一部の人間が月の裏側、虚数空間という場所に取り込まれてしまう。物語は、この虚数空間の脱出と、事件を引き起こした犯人を突き止める二つの目的を基準として進んでいく。

当然、主人公が使役する英霊は前作と同じ三騎。そして、本ストーリーに新たに一騎、参戦したサーヴァントが存在する。それは、余りにも強力すぎる為、月の裏側へと封印された人類最古の英雄王。ギルガメッシュその人。慢心王と名高い彼の本気(・・)が見れるのも、この作品ならではの要素だろう。

また、前作ではアイテムを渡す事でしか登場しなかった、間桐桜という少女が、この作品のキーパーソンとなるという事を書き残しておこう。

 

 

そして、『Fate/EXTRA』シリーズは第三作目、『Fate/EXTELLA』へと移行する。『Fate/』シリーズ初のアクションゲームとして登場したそれは、俗にいう無双ゲーというカテゴリーに含まれーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「おい研砥。いつまで宣伝をしている。そろそろガチャを回すのではなかったのか?」

「願掛けだよ願掛け。こうやって『EXTRA』シリーズの宣伝をしておけば、良いことが起こるかもだろ?」

 

ひたすらキーボードに『EXTRA』の事について打ち込んでいると、一部を切り取られたチョコレートケーキと、淹れたてなのかまだ湯気が立ち上る紅茶を盆に乗せた、アーチャーがそこにいた。どうやら、いつものように休憩用の作ってくれたようだ。本当に、この赤いアーチャーは気がきく。

 

「で、エミヤとしてはどうなんだよ。あっちの世界でもお前が活躍してるの、俺は知ってるんだからな」

「どうと言われてもな。私はエミヤシロウという一人の人間の理想であり、抑止力に仕える守護者だ。あの世界の私は……向こうでは無銘と呼ばれているようだが、平行世界の別人と呼ぶのが正しいだろう」

 

無銘、こっちの正義の味方が使わず、向こうの正義の味方が振るう最強の一振り。固有結界、『無限の(アンリミテッド・)剣製(ブレイド・ワークス)』を展開している場合にのみ使える最強の剣。

その名は『永久遥か(エクスカリバー・)黄金の剣(イマージュ)』。かの騎士王、アーサー・ペンドラゴンが持つとされる人々の願いが込められた剣。それを投影できる無銘は、間違いなくエミヤと関係がある。まぁ、根底が同じなだけの、別人というやつだろう。同じ顔の人間は3人いるというあれと同じだ。

 

「ほら、休憩はそろそろ終わりだ。皆が待っている、早く召喚場に向かうぞ」

「あ、ああ。悪いな、後片付けは俺がしておくよ」

「別に構わないさ。誰かに料理を振る舞うのは、私の楽しみの一つだ。ゆっくり寛いでくれ」

「……SG『奉仕体質』、か」

「待て、何故そこでその単語を言う!?それは平行世界の私であって、この私とは違うぞ!おい、聞いているのか研砥!?」

 

後ろの方で何か喚いているアーチャーを置いて、俺はマイルームを後にする。仮にも剣術、魔術の両方において師匠ではあるが、あそこまで家事万能で女性と接点がある奴は好きにはなれない。敢えて言おう。

 

「リア充爆発しろ!!いや、爆ぜろ、アーチャー!!」

「なんでさ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミヤとの会話のドッジボールを済ませた後、俺は聖晶石の入った箱を持って、召喚場に向かう。すると、そこには事前に呼び出していたサーヴァントがいた。

 

「む、遅いぞ研砥!待ちくたびれたからな!!」

「確かにな。王たる(おれ)を待たせた罪は重いぞ、研砥?」

「ええ!これはもうあれね、私の新曲を聞くまで帰れま10の刑にーー」

「いやいや!!それやっちまったら本当に帰れなくなりますからね!?そこんとこ分かってるんですかこのドラ娘は!!」

 

後ろにエミヤを連れ、前にいたのは4人のサーヴァント。セイバーのネロ。ランサーのエリザベート。キャスターのギルガメッシュ。そして、同じくキャスターの玉藻の前だ。

 

「悪い悪い。ちょっとエミヤの淹れてくれた紅茶飲んでてさ。来るのが遅れちまった」

「……おい贋作者(フェイカー)。次に茶菓子を用意しろと言ったのは我の筈だが?」

「分かっている。後で焼きたてを持って行ってやるから、それで許せ」

 

ムスッと機嫌が悪くなったギルに、エミヤが苦笑して約束をする。どうやら、何か知らない間に二人は仲良くなったようだ。とても良い事なのだが、あのギルがエミヤと仲良く(?)しているのを見て、少し驚いた。

 

「む、アーチャー!余も菓子を所望するぞ!あと美味い紅茶もだ!」

「それなら私の分も用意してね?お礼は後で支払ってあげるわ」

「やれやれ、事がバレたら色々と厄介なのだが、そこの所は理解しているのかね?」

 

ギルにお茶の約束した後、ネロとエリザベートも食い付いてくる。エミヤの作る一品一品はとても美味しく、家の食堂でもエミヤが当番の時は行列ができる。いっそ、外界に一人放り出して、自営業で食堂を出したらどうだろうか。ただでさえ経済・資材難である家も、少しは豊かになると思うのだが。

一人でそんな事を考えていると、いつの間にか色々と人が集まっていた。ナーサリーやアンデルセン。ドレイク船長といった、『EXTRA』に関係しているサーヴァント達だ。

 

「おいおい、いつの間にこんな事になってるんだ?さっきまで五人しか居なかったよな?」

「いや〜、それがですね、紅茶さんの菓子や茶が飲みたいとあの三人が話していると、それを偶々聞いたサーヴァントがやって来ちゃいまして」

「OK理解した、解説ありがとう玉藻さん」

 

要するに、皆が皆エミヤの作る物を食べたくてやって来たらしい。だからと言って、ここまで集まるのは異常だと思うが。まぁ、エミヤの飯は世界一とでも言っておけば納得してもらえるだろう。材料と手間を惜しまないオカンだし。

 

「さてと、それじゃそろそろガチャを回すかね」

「うむ!頑張って花嫁衣装の余を当てるのだぞ!」

「ふっ、正月のリベンジだ。的確に弓の我を召喚し、育てるがいい」

 

今回用意できたのは10連ガチャ3回分ジャストだ。前回の『ぐだぐだ明治維新』で召喚を行なったため、『EXTRA』シリーズのピックアップの為に貯めておいた財布の紐を緩める事になってしまったのだが、仕方がないと割り切っておこう。GW(ゴールデンウィーク)だと思っていたイベントが、4月末に行われるとか誰が思うだろうか。

 

「というか、内容が本当に読めないんだが。何をどうやったらラスボス系ヒロインのBBが配布サーヴァントに……」

「さてな。俺としては嫌な予感しかせん。あの人間を駄目にする歩く18禁尼僧なんぞ召喚されてみろ、俺は部屋に篭って執筆させてもらうからな」

 

うんざりした顔でため息を吐くのは、家でも立派に仕事をしてもらっている作家系サーヴァント、自称三流サーヴァントのアンデルセンだ。確かに、あの尼僧が召喚されたらもう終わりだ。具体的に言うと人類悪顕現レベル。

 

今回行うピックアップガチャは、さっきかるやたらと宣伝している『Fate/EXTRAccc』。それとの大型コラボ、の記念として行われた物だ。人理焼却を防いだとしても、家の様なブラック企業は戦う運命(さだめ)なのだということを思い知らされる。そろそろ石貯め時(休み)をくださいと切実に願う今日この頃だ。

 

「とりあえず、10連分の石をポーイ。さ〜て、何が出るかな?」

「既に召喚されているサーヴァントなら宝具強化だが……今回のピックアップだと、星五の二人を除けば、星四はガウェイン卿が喚ばれていないな」

「6章……キャメロット……祝福(ギフト)……うっ、頭が」

「唐突な自虐ネタはやめぇや」

 

『頭痛持ち』のスキルに合わせて発言したネロにツッコミを入れておく。いや、確かに6章のガウェインは許せなかったけどね。当時、アーチャーで使ってたのはロビンと子ギルしかいなかった弱小マスターだった俺は、頼光さんとスキルで三回ガッツを使えるネロに頼りっきりだった苦い記憶を呼び戻す。

いつもの様にサークルが動き回り、新たに英霊や礼装が召喚されていく。黙々とカードを弾き出されてくるが、8枚目に至るまで礼装まみれだ。

 

「……一向にサーヴァントが召喚されないんだが、ってかもう星四で『鋼の鍛錬』やら、『月の勝利者』とか出ちゃってるんですけどこれは……」

「大丈夫、大丈夫だ研砥!まだ最後の一体が残っておる!」

「待て赤いセイバー。それはフラグだ」

 

遂に9枚目に至るまで礼装祭りだった。最後の10枚目でようやく三本のラインが開き、中央にクラスカードが出現する。色は銀色、光を伴って召喚されたのはーーー

 

「あ〜どうやら大当たりの様ですよマスター!悪魔、メフィストフェレス。罷りこしま〜〜した!!」

 

カラフルな衣装を見に纏い、赤い帽子を被った白い肌の男、道化師(ピエロ)という言葉が最も合う魔術師の英霊(キャスター)、『メフィストフェレス』が召喚されていた。

 

「……あ〜うん、知ってた。でも久しぶりだなメッフィー」

「ええお久しぶりですねぇ〜。うひひひ、第四特異点で貴方方の敵として現れ、どこかの世界線では二つに別れたりした私ですよぉ〜」

 

聞くに耐えない高笑いをしながら、メッフィーは器用に手に持つ鋏を振り回して踊る。この場にいる皆が露骨に残念そうにするが、俺は案外そうでもない。メッフィーは育てれば強いサーヴァントの一人だという事を知っているからだ。

 

「それじゃ、悪いけど先に工房に行っといてくれ。もうお前五人いるからな」

「承知いたしました〜!それでは、私、先に行っておきますねぇぇぇぇ!!」

 

相変わらずのハイテンションぶりに苦笑いしながら、念のためにドレイク船長に案内させながらメッフィーを見送る。1回目の10連は大外れ。だが、この程度で諦められるほど、俺は爆死していない。

 

「次の10連だ。さっきよりも素早く行くぞ!!」

 

30個の石を放り込み、続け様に召喚サークルに設置されたボタンを押す。このスイッチは、一度押せば星四以上のカードのみを排出する便利なものだ。無論、出てくるのは1枚以上だが、最初の10連で爆死している以上、2枚以上は出てくるはずだ。

 

 

だが、結果はどうだろうか。出てきたのは星四は概念礼装ただ1枚のみ。しかも、ここでは11枚目となる『騎士の矜持』だ。ダン卿、ロビンが好きなのは分かるけども、限界突破してるのが2つもあるんだから、もう来なくてもいいんだよ?(白目)

 

「ばかな………ばかな………!!」

「いやぁ〜気持ちがいい爆死っぷりですねぇマスター!それこそ、私の仕掛けた爆弾以上の爆発っぷり!!私、感動の余り涙が出そうですよぉ〜〜〜?」

「………令呪を持って命ずる、自害せよきゃ」

「「「落ち着け研砥ッ!!」」」

 

スキップ召喚を行なった後、後で確認した所で現れる新たなメッフィー。しかも、その数はさっきの三倍。とっとと工房へシュートしてしまいたいが、この道化師、散々人を煽った後でドロンと消えやがった。次に出てきたら問答無用で自殺コマンドを叩き込んでやる………!!

 

「それにしても、今回は本当に振るわないな。いつもなら、20連に一回は星五礼装程度はだすのだが」

「その成れの果てが『五百年の妄執』限界突破だって事を忘れてるのか忘れてるよねぇ!!俺だけだぞ、未だに『フォーマル・クラフト』持ってないマスターは!!」

 

他のマスターは結構持って(限界突破済みの知り合いもいる)いるのにも関わらず、俺は一枚も持ってないのだ。セイバーのランスロットやネロと相性が良いあれは、何としても入手したい礼装の一つだ。まぁ、その代わりにと言っては変だが、『もう一つの結末』は2枚持っているのだが。

というかあれだな、ここまでサーヴァントも礼装も出ないのは本当に久しぶりだ。

 

「くっ……なまじ星四サーヴァントを出し続けたツケが、ここに来たか……!!」

「それもあるだろうが、元々研砥は二、三ヶ月程新規サーヴァントが出ず、一ヶ月程連続して良いのが出る系のマスターであろう?最初のイベントで余や、その後でブリュンヒルデを召喚した後、二ヶ月近くはは星四サーヴァントが呼べなかったからな!」

「古傷を抉るな!?くっ、俺はまたネロ(ブライド)や弓ギルを召喚出来ないのか……!!」

 

地面に拳を叩きつけ、悔しさの余り涙を流す。最初のバレンタインにネロ祭の時も、正月に2回も行われた弓ギルピックアップも、そのどちらも成功しない。ここまでだとあの二人が絶対に呼ばれたくないと言われているようにも聞こえてくる。

血反吐を吐いて、遂には恒常サーヴァントを召喚するという目標さえも投げ捨てた召喚行為。俺の願いは、祈りは彼らには届かないというのか……!!

 

「否ッ!断じて否ッ!彼らは俺の祈りに応じてくれないのではないッ!!ただ単に……まだ、その運命()ではないというだけの事ッ!!ならばーーー俺はァッ!!」

「あの〜、ちょっとマスターの口調が巌窟王さんっぽくなってるんですけど、どうしちゃったんですかね?」

「ああ、この間カルデアで作られたエドモン・ダンテスのドラマCDの影響だろう。私も聞いてみたが、あれは中々に辛い。それに、研砥は表で活躍する人物より、裏で活躍する苦労人系の人間が好きだからな」

「ああ。あやつの好みは理解したが、中々特殊な趣味をしている。騎士王やヘラクレスといった人気なものより、そこの贋作者(フェイカー)といった裏方の人間を好む。ま、言うなれば英雄より反英雄が好きなだけだ」

 

後ろの方で何やら喋っている気配がするが、こっちは気にする余裕がないので無視する。最後に残った30個の石を構える。

 

「今こそ……今こそ俺に力を!!運命とは自らの手で切り開くもの!!俺のターン………ドロォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

石が入った箱を召喚サークルに叩き込み、そのまま何かを引き抜くように手を振りぬく。いつもより荘厳なBGMが流れつつ、召喚サークルが起動する。

 

「1枚目ェ!『呂布奉先』!2枚目ェ!『百貌のハサン』!3枚目ェ!『ディルムッド・オディナ』!4枚目ェ!『イマジナリー・アラウンド』!5枚目ェ!『過ぎ去りし夢』!!」

「今回はサーヴァントの比率が高いな。このまま行けるか……?」

「まだだ。最後まで気を抜くなよ研砥(マスター)……!!」

 

召喚されないサーヴァントに危機感を感じつつ、俺は一心不乱にドロー素振りを続ける。ここまで来たのだ。最後までこの地獄に付き合ってやる………!!

 

「6枚目ェ!『エウリュアレ』!7枚目ェ!『騎士の矜持』!8枚目ェ!『俵藤太』!9枚目ェ!『牛若丸』!!」

「くっ、星五礼装が来たから諦めろと、物欲センサーが言っているのか……!?」

「まだよ!まだ最後の1枚が残ってるわ!諦めるんじゃないわよマスター!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

エリザベートの熱いエールに応えるべく、俺は右手を地面に当てる。自身の持てる力の全てを注ぎ込み、勢いよく引き抜くーーーー!

 

「ドロォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

俺の叫びに応える様に、召喚サークルもバチバチと音を立てて回転する。その輪の数は三本。サーヴァントの召喚が確定。最後の10枚目、泣いても笑ってもこれが最後だ。激闘の末、最後に召喚されたサーヴァントはーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ほいほい、呼ばれたからにはそれなりに働きますよっと」

 

 

 

 

緑色のフード付きの外套に身を包み、葉巻を口に咥えた優男の声。家でもかなりの古参である星3(・・)のアーチャー。『ロビンフッド』だった。

 

「………ははは………はははははは。クハハハハハッ!!」

「ミコッ!?お、落ち着いてください研砥さん!!本当に巌窟王さんみたいになっちゃってますよ!?」

「これが!!これが落ち着いていられるものかッ!!今回のイベントの為にッ!!俺がどれだけ努力したと思っているッ!!具体的に書くと『EXTRAccc』の全8ルートを受験が終わった後でもう一回攻略したんだぞ!!ここまで!!ここまでの努力をしても!!俺はァァァァァァ!!」

 

自分の無力さに、そしてここぞという時に妨害してくる物欲センサーに怒りを抱く。そうか。久しく忘れていた。これが怒りだ。全世界中に存在するガチャで爆死した者たちが等しく手に入れる一つの感情だ。

 

「こうなったら自棄じゃぁ!!残りの呼符も全部使ってやるゥゥゥゥ!!」

「おいおい落ち着けよマスター!そいつ次のイベントガチャのために取っておくってグホォ!?」

「ランサーが死んだ!」

「この人でなし!!」

 

相変わらず混迷を極める召喚場での騒動は、偶々ここを通りかかったエレナとナイチンゲールによって(物理的に)止められた。結果として呼符ガチャは挑まなかったが、俺は再びネロ(ブライド)と弓ギルを召喚できなかったのだった。久方ぶりの大爆死は応えるぜ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー後日、食堂にてーーーーー

 

「そっか。結局新しい人は誰も来なかったんだね」

「ああ。本当にごめんなブーディカさん。折角歓迎パーティの準備をしてくれてたのに」

「別に構わないよ。それじゃ、この料理は晩御飯に回そっか。結構量はあるし、2日は持つんじゃないかな」

 

全く嫌な顔をせず、今回のガチャで新しい人が呼べた時の為に、厨房に配置していたブーディカさんに謝罪しながら、作られた料理が乗せられた皿を運ぶのを手伝う。

普段、俺はここには来ないのだが、今日は頼光さんが担当している日ではないので安心して来ている。あの人、俺が軽い料理を作ってるのを見ると何故か泣き出すから本当に困る。金時(ライダー)が困るのも無理はない。

 

「それにしても、ここまで礼装祭りだったのも懐かしいな。この間まで、いい感じに星4のサーヴァントを引き当てれたのが奇跡的だったんだと、今更ながらに思い知ったよ」

「いや、単に運が悪かっただけじゃないかな。それによかったじゃない、最近来てくれた茶々ちゃんだって、全然育成できてなかったんだし」

「それは……そうだけどさ。やっぱりガウェイン卿くらいは召喚したかったなぁ。ブーディカさんも、同郷の人がいたら嬉しいだろ?」

 

家にいるブーディカさんと同郷の人が……イギリス出身のサーヴァントは作家系と多重人格者(ジキルとハイド)を除けば、ロビンやジャック。あとは薬を調合してくれたナイチンゲールぐらいなものだ。

彼女の後輩達……円卓の騎士は、ベディとランスロット。それからアルトリア・リリィやサンタオルタしかいなのだ。俺としては、一人でも多くのイギリス出身系のサーヴァントを召喚して、願わくばフルコンプしたいところだ。

 

「ふふっ、本当に研砥は優しいね。私みたいな地味〜なサーヴァントなんかに付き合ってくれるし、気も使ってくれるし」

「地味だなんて、そんな事を言わないでくれ。俺は貴方の事が好きだし、そんな貴方に応えれるように聖杯も、スキルレベルも上げて来たんだから」

 

これは紛れも無い事実だ。俺はブーディカさんが大好きだし、そんな彼女のマスターに相応しい人になれる様に頑張ってきたつもりだ。あの時、冬木で彼女に救われる前から、この世界に来る前から彼女のことは好きだったのだから。

 

「うん、知ってるよ。だから、ねーーー」

「え、ちょブーディカさん!?」

 

突然、こっちに身を委ねる様に倒れるブーディカさんを、俺は成り行きで抱きとめる。女性として成長しすぎな二つの柔らかい物が当てられるが、そんな事はどうでもいい。問題は距離だ。俺とブーディカさんの顔が、互いの息が届く距離にまで狭まっている。

 

「あ、あのブーディカさん。こ、これは一体」

「もう、本当に鈍感さんだね。ここまでしないと、研砥は気づかないのかな?」

 

駄目弟を見る様な優しい目つきで、ブーディカさんは唇を近づける。彼女の赤い髪と、深い森を思わせる瞳。そして、彼女の美しい唇に目が釘付けになる。

数瞬が何時間にも思われる刹那。ついに、俺と彼女の唇が触れるーーー

 

「そうはさせる、かぁぁぁぁぁ!!」

「ふぇ!?ちょ、ネロ公!?」

 

事はなく、突如俺の腰に手を回した何者かによって、俺はイナバウワーの要領で頭部を地面に叩きつけられる。これは間違いない、バビロニアでケツァル・コアトルに教わったプロレス技の一つ、ジャーマンスープレックスーーーーー!!

 

「って!?いたたたた!!痛い痛い痛い!!ちょ、誰だプロレス技かけてるの!?ギブギブギブギブゥ!!」

「む、す、すまぬ研砥!!少し待っておれ!!」

 

聞き慣れた声が後ろからする。横に倒される様に技から解放された俺は、荒くなった息を整える様に深呼吸をしていると、目の前でまた喧嘩をしているネロとブーディカさんがいた。

 

「もうっ!本当に良い所邪魔して来るよねネロ公!良い加減にしないと、本当に斬るよ!!」

「ほほぅ、やれるものならやってみせるがいい。そなたは『戦闘続行』でガッツが1回。余は『三度、洛陽を迎えても』で3回ガッツ。結果は明白だと思うがな!」

「くぅ!汚い、流石ローマ汚い!!というか何さその服!何で赤い方のあんたが花嫁衣装なんて着てるのよ!!」

 

毎度の如く喧嘩を繰り返す二人だが、さっき召喚場で会った時とは違い、今のネロはいつもの赤い舞踏服ではなく、召喚する予定だった星五のネロの衣装を着ていた。その事に触れてもらえたのが嬉しかったのか、さっきまでの怒り顔から一変、照れる様に笑った。

 

「うむ!先ほど研砥が爆死した故、少しでも気を紛らわせないかと思いこの衣装を着てみたのだ!因みに、メディアに頼んだら快く作ってくれたぞ!!」

「何やってんだあの人は………!!」

 

相変わらずのアルトリア好きなメディアに少し呆れる。けどまぁ、悉くアルトリアピックアップもスルーされたりしてストレスでも溜まっているのだろう。まぁ、あくまでネロはアルトリアと顔が似ているというだけであっって、本人では決してないのだが。

 

「それよりも研砥よ。折角余が新しい衣装を身に纏ったのだ。何か、言う事があるであろう?」

「いや、お前は星5のネロじゃないだろ。それに、色々と見慣れてるから別に言うことも……」

 

 

呆れながらそう言おうとしたその時だ。目を少し潤ませているネロを見てやれやれとため息を吐く。何はともあれ、少しでも俺を励まそうとしてやってくれたに違いない。ならば、それに応えてやるのが良いマスターというものだ。

 

「ああ。凄い似合ってる。やっぱりネロは美人だよ」

「!!うむ!うむうむうむ!!やはり研砥は違いの分かるマスターよな!良いぞ!今宵は、余の晩酌に付き合う事を許そうではないか!!」

「恐悦至極でございます、ネロ・クラウディウス皇帝陛下殿?」

 

とりあえず、ネロの服装について感想を言うと、満足そうに笑ったのを見てほっとする。何はともあれ、ネロが泣き始めるという一大事にはならずに済んだ様だ。

急遽入った予定に頭を悩ませ始めたその時、俺の体が宙に浮き、後方へと引き寄せられる。

 

「戯け。今宵は我と飲み明かすのだ。他の雑種共と飲むなど我が許さん」

「……あの〜ギル様。一体何をしていらっしゃるのでしょうか?」

「見て分からぬか。我の所有物を手元に引き寄せただけだが?」

 

自信満々にドヤ顔をする術ギルを見て、凄く頭が痛くなる。おかしいな、こっちのギルは王として成長した後のギルの筈なのに、凄い頭が痛い事をしでかしてくれている様にしか思えない。

というか、何故に術ギルが神話礼装(その姿)で現れてるんですかね!?

 

「何、少しばかり興が乗っただけのこと。今宵の我は、英雄王として貴様に接してやろう」

「いきなりキャスターからアーチャーにクラスチェンジするとか無茶苦茶だな!?」

 

確かに、ギルの宝具の原点を駆使すればクラス替え程度造作もないかもしれないけれど、ここまでのチートっぷりだといっそ清々しい。

 

「……ねぇギル。ちょっと研砥を離してくれないかな?私、ちょっと話したい事があるんだよね」

「余もだぞ!研砥を離さぬか金ピカ!!」

「ふはははは!馬鹿め!我の所有物を使うのに、何故貴様らの事を聞かねばならぬ!いつもなら即刻首を切り落としておくところだが、今は気分が良い。そのまま後ろに下がるというのであれば、不問としてやってもーー」

 

ギルがアーチャーの時の言動で話したその時。辺り一面が眩い閃光に覆われる。光が消える頃に広がる荒野。上空に浮かぶ大小無数の歯車。見慣れた世界を展開した者の名前を俺は呼ぶ。

 

「今度はお前かエミヤ!?なんだなんだ!?一体どうしたってんだよ!?」

「いや、私は別に君を思って宝具を使ったわけではない。ただ、私が固有結界を展開する前にいた場所を思っての事だ」

「む?固有結界を発動する前の場所………あっ」

 

エミヤのいつもより少し低い声に驚きつつ、さっきまでいた場所を思い出して俺は背筋が凍る。この世界になる前まで居たのは食堂、つまりエミヤの戦場(聖域)だ。それはまぁ、怒っても仕方がないかもしれない。

 

「さて、三人とも………懺悔の用意は出来ているなッ!!」

「いやそれ別の世界のエミヤの(中の人的な意味の)ネタだろうがぁ!!」

 

かくして、固有結界(食堂)内で行われた戦いは熾烈を極め、結果は魔力切れで戦いは呆気なく終わる。そして、被害は食堂の一部損壊と料理長二人が寝込むという結果となり、復帰するまでは式さんと頼光さんが厨房で働くことなるのであった。

俺はというと、戦いの惨禍に巻き込まれて気絶。魔力の枯渇で寝込む事となった。自業自得(?)とはいえ、どうしてこうなったと思いながらも、自室でナイチンゲールが調合した、苦い薬を飲み続ける事になる。

 

ちなみに、寝込んだ俺の看病をするのを巡り、玉藻さんとキャットが殺し合いを始めるのは、この後だった。

じ、自己処理ががががががががががががごが

 

 

 




ここまでの既読、ありがとうございました!
皆様のガチャの結果も、メールか感想で貰えたら嬉しいです!勿論、話の感想・誤字脱字・設定の食い違い等の私的もお待ちしております!

本編も同時更新していますので、感想をもらえたら嬉しいです!!それでは!


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我が家に後輩属性のキャラがやって来た

28日までに間に合わなかった!言い訳はしません。本当にすいませんでした!!

サブタイトルの意味はまんまです。マシュはカルデア側の後輩なので、一応彼女が黒鋼の後輩ポジになります。まぁ、先輩ではなくセンパイ呼びなので、あくまで仮の後輩キャラですけど。



「ーーーー待て、よ。お前、消えるのか?」

 

 突然の強制転移に頭をやられ、意識を軽く失っていたが、何とかギリギリの所で目を覚ます。目の前に広がっているのは怪しげなテレビスタジオ。そこには、顔がよく似ている少女が三人いる。だが、その中で一人、今にも消えそうな少女がそこにいた。

 

「ええ。元々、私の体は壊れていたのだもの。それが、さっきのリップとの合体宝具で霊基の限界を超えただけ。もう消えるのは決定事項よ」

 

 体を黄金の粒子に変えながらも、消滅する恐怖を決して表に出さない青い髪の少女。髪と同じリボンと瞳。そして、歪な魔剣と化している長い足。エクストラクラス『アルターエゴ』・メルトリリスは不敵に笑った。

 消える事は怖くない。それは確かにそうだろう。けれど、俺には彼女が何か隠していることがあると察していた。それを、彼女が決して話さないということも。

 

「ーーーそうか。なら、いい。BB。さっきの話は聞いていた。後で、うちのサークルも弄っておいてくれないか?」

「はい? 私、黒鋼センパイにそんなことする義理ないんですけど?」

「こっちにいる間、散々飯作ってやっただろ? それも何度も。なら、少しくらい融通を利かせてくれてもいいんじゃないのか?」

 

 苦笑いしながら黒い外套を来た少女ーーー同じくエクストラクラス『ムーンキャンサー』ーーーBB(ビィビィ)がため息を漏らしながらも了承する。これで、あとは俺が召喚できるかどうか運による。条件は揃ったんだ。何とかしてやらないとな。

 

「ーーー何、してるのあなた? 私、あなたにそこまでされる筋合いはないんだけど」

「そりゃそうだ。というか色々ひどかったよな? 出会い頭に殺しにくるし。何かと疑いの眼差しを向けられたのも不愉快だったよ」

 

 もう消えるから、色々とメルトリリスに対して溜め込んでいた思いを吐き出す。もちろん、それは愛の告白なんて大層なものじゃなく、ただの愚痴だ。それを聞いたメルトリリスは見るからに怒りを顔に表す。

 

「ーーーでも、何かに一生懸命だったのは知ってるよ」

 

 ポツリと、俺は言葉を漏らす。その後も俺は口を開いて言葉を紡ぐ。

 

「お前が狭間を気にかけていたのは知ってる。んで、何でか俺を敵視してたのも。正直、味方なのにどうしてなんだろうって思ったけどさ。お前があいつに、殺生院キアラから狭間を守ろうと必死だったのは。それだけは、知ってるから」

 

 ここにいる彼女が消え去り、次に出会う彼女がここでの記憶を覚えていないとしても。それでも、俺やあいつはお前の事を覚えているから。いつかまた、お前に会いたいから。戦う理由は、それだけで十分だ。

 

「だからさ、もしも可能性があるなら俺も挑戦してみたいじゃないか。そういうの。たとえお前が覚えていなくても、俺が………俺たちが覚えてればいいだけだろ?」

 

 言ってて凄い恥ずかしいが、これは紛れも無い俺の本心だ。普段、こんなこと言うのは狭間の役目なんだが、どうも今回は俺に手番が回って来たらしい。柄じゃない事をするのは苦労する。

 

「ーーーはっ、そんな気障な台詞がもううんざりよ。というか、あなた私好みの人間じゃないし。生まれ変わってから出直しなさい」

「これはまた、辛いところを言ってくれるな! それでこそおまえらしいよ! なぁメルトリリス!!」

 

 最後の最後まで心を抉る様な事を言いながら、メルトリリスは顔を背ける。だが、その後すぐにこっちを見た。ここで初めて出会った頃の、嘲笑を浮かべながら。

 

「まぁいいわ。気が乗ったらあなたに力を貸してあげる。……精々頑張りなさい、研砥」

 

 最後まで不敵に笑いながら、遂にメルトリリスはその体を霧散させた。歪な足も、綺麗な青い髪も、彼女が着ていた黒いロングコートも。彼女の存在そのものがこの場から消失する。そのことが少し悲しくて、視界が滲んでしまう。だが、涙だけは決して見せない。それだけは、決してやってはいけないことだと理解していた。目に溜まった涙を拭き取り、深呼吸をしてから振り返る。

 

「行っちまったな。………さて、とっとと俺たちも帰るか。BB、早いとこレイシフトを頼む。できれば、狭間の意識が戻る前に戻りたいからな」

「はいはいわかりました〜っと。それでは、センパイが連れて来たサーヴァント達に触れてください。全員纏めて送り届けてあげますから」

 

 どこか投げやりなっているBBだが、仕事はきっちりしてくれると知っているので、何も言わずにセイバーとキャスターに触れる。二人とも体力・気力・魔力を使い果たしたのか、俺が触れても何も言わずに眠り続けている。

 

「あ、あの! 研砥さん!!」

「ーーーん、何だリップ。何か用か?」

 

 レイシフトが実行され、段々体が薄れていく中、この場にいる三人目の少女が口を開いた。とてつもなく大きい黄金色の爪に、男を魅了する大きい胸を持った少女。メルトリリスと同じアルターエゴ・パッションリップが俺に声をかける。彼女とは余り関わりがなかったから、俺には何も言うことがないのだが、一体何の用だろうか。

 

「えと………その………えい!!」

「はっ? ーーーーー〜〜〜!?!?」

 

 事件は一瞬で起こった。リップが大きい腕をぶつけない様に大きく広げ、俺に近づき、キスをして来たのだ。しかも、その直後更に俺に近づき、その大きな胸を俺に当てるという高等テクをーーーって俺は何を書いてるんだ!?

 

「な、なななななななななーーーー!!」

「キスの上に胸まで!? 恥ずかしがり屋でいつもパシリ役をやらされているあのリップが、こんな高等テクニックを!?」

「ちょ、ちょっと二人とも酷いですぅ!! わ、私だって勇気を出してやってるんだから!!」

 

 いかにも怒ってます、という表情でリップが叫ぶ。というか、恥ずかしいなら無理にしなくてもいいんだが。というか、そういうのは全部狭間の役割だよね。そうか、これは夢だ。きっと多分maybe!!

 

「あのだなリップ。そういうのは狭間にしてやれ。俺には別にしなくても」

「研砥さんのそういう所、私嫌いです」

「はいーーーー?」

 

 流石にずっとくっ付いているのは恥ずかったのか、俺から少し距離をとったリップが、爪の人差し指を俺に突き立てる。顔もさっきと同じで怒ったままだ。

 

「私とメルトも一緒の事を思ってたんです。メルトはあんな性格だから最後まで言わなかったけど、私は駄目だと思うから敢えて言います」

「何、をーーー」

「研砥さんの、その、狭間さんに何でも報酬を渡そうとしたり、評価を与えようとする所です!!」

 

 俺の言っていることが琴線に触れたのか、両方の爪を振り上げて振り回す。幼い子供の様な仕草ではあるが、巨大すぎるその爪が余りにも脅威すぎた。

 

「誰だってそういうことはするかもしれません。でも、研砥さんのそれは度がすぎています! そうやって正当な評価を与えられなかったら、そんなの余りも悲しすぎます!!」

「……参ったな。全く反論できない。いや、まぁそうなんだけどさ」

 

 確かに、俺はここでの評価・報酬はできる限り狭間に送るようにしていた。理由は至極簡単。俺はこの世界にやって来た異物なのだからだ。俺が受けるべき評価も報酬も、本当は狭間一人の物だった。それを、可能な限り返している。というのが、俺のやっている理由だ。

 しかし、俺が関わっている時点で物語は破綻している。第七特異点で現れた花の魔術師はそう言った。故に、自由に動き回っても構わないとも。

 それでも、俺がそうし続けたのは、ひとえに後ろめたさがあったから。本来契約するべきサーヴァントを、俺が勝手にしてしまっているようなものだからだ。だから、せめてもの償いとして報酬とかはあいつに送っていた。まさか、たった数日しか一緒に過ごしていなかったリップがそれに気づかれるとは、思いもしなかったが。

 

「だから、だからお願いです! 自分のことをもっと正当に評価してあげてください! 研砥さんと契約してくれているサーヴァントさん達もきっと、それを願っていると思うんです!!」

「………分かったよ。できる限り善処してみる」

「善処じゃなくてしてください!! 約束ですからね!! そうじゃないと、化けて出るんだから!」

 

 そう言葉を強くしながらも、表情は優しげで言うリップ。出会ってまだ間もないのに、ここまで俺を思ってくれる人もいる、それが少し、いやかなり嬉しかった。泣かないと誓ったはずなのに、いつの間にか涙腺が決壊していた。でも、意外と苦しくはない。

 

「ああ。約束だ。次に会う時までにはーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピックアップ仕事しろこんちくしょうめェェェェェェェェェェ!!!」

「うわぁ……さっきまでの回想シーンが台無しな発言ですねぇ………」

 

 場所はさっきまでと変わり、いつもの召喚場に移る。そこには俺と、召喚システムに干渉するべく現れたBB、それから偶々この場に居合わせたサーヴァント達がいた。

 

「どういうことなんだよ!! 何で20連も回してるのに星4礼装が1枚ずつしか来ないわけ!? 最低でもギルの礼装が欲しいんだよ俺はァ!」

「……さすがに、ここまでガチャが振るわないと可哀想ですね。前回なんて礼装祭りでしたし」

「確かにねぇ。まぁ、それは研砥のマハトマに対する信仰心が足りだけなんじゃないかしら?」

「だったら今度マハトマについて勉強しますからァ! そろそろ当たりが来てくれませんかねっ!?」

 

 未だにガチャを回し続ける俺に話しかけるのは、去年の夏頃にやって来たジャンヌ(ルーラー)と、キャスターのエレナ・ブラヴァツキーさんだ。二人とも強力な性能向上がされて、再び前線へと戻ることになった。そして、その二人の後ろにもう一人女性がいる。

 

「あの………そもそも、ガチャを諦めて、今いるサーヴァントの育成をすれば良いのでは、無いでしょうか……?」

「正論すぎて何も言えないッ!?」

 

 見るからに重そうな鎧を身に纏い、儚げそうな表情を浮かべている大槍使い。俺が初めて召喚した星5のサーヴァント。ランサー・ブリュンヒルデが小さい声で、けれど的確に俺の心を抉る。ちなみに余談だが、彼女にもようやく幕間の物語が実装され、1年3ヶ月ぶりに彼女の存在を運営が認識したのだと俺は思ってたりする。

 

 

 

 さて、何で俺が今回こんなにも必死にガチャを回しているのか。それは、前回同様『Fate/EXTRAccc』のサーヴァントがピックアップされているからだ。

 星5枠では、今回何故か発生した亜種特異点、『深海電脳楽土 SE.RA.PE』で協力してもらったメルトリリス。何故か味方になって召喚が可能になった今回のラスボス、殺生院キアラ。星4以下は期間限定でパッションリップとセイバー・鈴鹿御前。それからボブミヤとエリザベートとロビンがピックアップされている。されているのだが………

 

「さっきから星3サーヴァントのロビンでさえ来ないんだけど!? 本当にこれピックアップ仕事してるのかよ!?」

「うるさいですね〜。ちゃんと礼装の方は出てるでしょう? 文句を言わずにガチャを回してくれませんか?」

「う〜ん。やっぱり研砥はガチャ運の上がり下がりが激しいなぁ。まぁ、1年も一緒に居たから知ってるけど」

 

 BBに抗議の苦情を叩きつけるも、本人はどこ吹く風。知ったことではないと手に持つ教鞭をクルクルと回す。それに呆れながら反応したのは、今回もラスボスを切り裂いてくれたライダー・ブーディカさんだ。

 

「くぅ! 前回の分から更に石を増やしているというのにまだ誰も来てくれないのか……!! もうこうなったらあれだ! 星4以上のサーヴァントなら誰でもいいから来てくれの精神でガチャ回すか!!」

「いやいやいや! そんな投げやりになっては駄目ですよマスター! しっかり、祈りを込めて回せばきっと応えてくれます!」

「水着玉藻目当てでガチャ回して来たお前が言うかそれを!? でも強化されて良かったな! 頼りにしてるぞコンチクショウ!!」

 

 もはや涙目である。前回の分を合わせれば今で50連目。ここまで回して星4のサーヴァントさえ来ないのはどういうことなどだろうか。正直言ってやってられなくなるぜ!!←orz

 

「で、どうするんですか? ここで諦めますか?」

「愚問だなBB! たとえ爆死するしかないとしても、俺は今回のガチャを最後まで回し続ける! そして最後には(キアラを除く)彼女たちと再会するんだァァァァァァァ!!!」

 

 半ば狂ったように新たな石を投入し、召喚システムを起動させる。聞き慣れた稼動音をBGMに、新たに排出されるサーヴァントや礼装に期待を込める。だが、召喚されるのはやはり星3のカードばかり。というか、今回に至ってはアンデルセンの礼装さえやって来ない。うん、ここまでピックアップがされてないと泣けてくるな!!

 

「くっそ! やっぱりピックアップなんて仕事してないじゃないか!!本当にマジでふざけんなよ!?」

「あはは………っと、あ。『我らが行くは星の大海』……ギルの礼装が出てるよ?」

「…………………………………まぁ、出たからもう終わっても構わないか」

「切り替え早いわね!?」

 

 俺のテンションの上がり下がり速さを見てエレナさんが驚く。いやだって、星5礼装さえ出なかったのにようやく来てくれたんだよ? それもピックアップされている礼装が。なら、もうこれ以上はいいかなって思ってたりするわけで。

 

「う〜し、うんじゃとっとと礼装回収して帰る………?」

 

 10回目に排出されたカードを確認して、とっとと帰る準備をしようとしたその直後だ。10枚目の銀色のカード。アーチャーのクラスカードがバチバチと光を放つ。やがてその閃光は激しくなっていき、黄金色に輝くカードとなる。

 

「お前がマスターか? 酷い面構えだ。まぁいい。これでもアーチャーだ。精々上手く使え」

「ボブがキタァァァァァァァ!?」

「待て、出会って一番目の発言がそれか?」

 

 白い髪をボブ風にカットし、魔改造した二丁銃剣を手に構えた男。ここでは2回目の出会いとなるエミヤ(オルタ)が、そこに出現していた。今回のイベントでもピックアップされているので、出会えたことは素直に嬉しい。だが、折角新規用の種火を貯めておいた俺はというと、少々がっかりしていた。

 

「な〜んだ、黒アーチャーさんじゃないですか。つまんないですねぇ。BBちゃん、キアラさんでも呼ばれてカオスな状況になるのを期待したんですけど〜」

「いや、なんでさ。あぁ、あの性悪女なら恐らく来ないぞ。俺が二人いる時点で、あいつがここに来る可能性は更に下がっているだろうかなぁ」

「そんな無駄な下方修正が!?」

 

 今明かされる衝撃の新事実(大嘘)に絶望しながらも、召喚されたボブにとりあえずお礼を言っておく。正直、新規のサーヴァントが来ないのは少しばかり残念だが、宝具レベルが上がって火力が上がったのならまだマシと言えるだろう。

 

「お〜いマスター。今暇ですかいって。げぇ、BBと接近戦を仕掛ける馬鹿アーチャーがいるじゃねぇか」

「あ、緑茶さんじゃないですか。私の為の秘石集め、終わったんですか?」

「いや、そもそもテメェの為に周回なんて絶対しねぇからな。というか散々パシられてやっただろうが」

 

 嫌なことを思い出したせいか、顔を少し顰めながら入って来たのは、愛用している緑の外套を身に纏った青年。家でもかなり古参の部類に入るアーチャー・ロビンフッドだ。BBとは月の聖杯戦争で縁が出来てしまい、その時から彼女の使い走り役を担っていたらしい。隠れた所で苦労してそうなロビンには似合いの役割だろうと、実は心の中で俺は思ってたりする。

 

「それより、どうしたんだよロビン。何か用でもあったのか?」

「いや〜、別にこれといってはないんですけどね。ちょいとマスターに渡したいものがありまして。つまらない物なんだが、受け取ってくれるかい?」

「は? まぁ、貰えるものはもらう主義だから、受け取るけど………」

 

 白い紙に包装された何かを俺に手渡すロビン。それに何だろうと気になりながらも受け取り、包装されたそれを丁寧に解く。中から現れたのは一枚のカード。緑色の外套で頭まで布を被り、森の中を歩く一人の男性が描かれたカードだった。

 

「概念礼装『顔のない王』。こんなどうしようもない俺を、ここまで使い潰してくれた酔狂なマスターにプレゼントだ。ま、これからもよろしく頼むっていう、俺の意思表示ですよ。本当につまらないものでしょう?」

 

 優しげな表情で微笑みながら、ロビンは膝を折る。それはまるで、物語に登場する騎士が、主に忠誠を誓う一場面の様な仕草で。いつも飄々としているロビンに違和感を感じたけれど、それがとても嬉しかった。

 

「ーーー我がサーヴァント。アーチャー・ロビンフッドよ。俺はお前の事を決して忘れることはしない。俺の方こそ、これからもよろしく頼むな」

「はいはい。俺もこれまで同様に頑張れせていただきますよ。あ〜、それとこれはメイド狐からだ。召喚の足しにしてくれだとよ」

 

 外套の中から虹色に輝く石、聖晶石を取り出して渡すロビン。メイド狐ということは、恐らくタマモキャットのことだろう。彼女はブーディカさんやエミヤと匹敵する料理スキルの持ち主で、今日は、ここにいるブーディカさんの代わりに厨房でその腕を振るっている。

 

「さて、んじゃ今もらった石で単発回して、ガチャを諦めるとしますかねぇ。ここで俺が外れても、どうせ狭間の奴がメルトとか召喚するんだろうし」

「いや、狭間センパイの運命力にも限界があると思いますけど」

「いえいえ、彼は普段はガチャを回しませんが、回したら確実に狙いのサーヴァントを引き当てる運命力を持ってますから。今年に入って星5サーヴァント3人も呼び込んでますし」

 

 あいつ、自分はガチャ運が悪いとかどうこう言ってるけど、単に石が勿体なくて使ってないだけなんだよなぁ。俺が今年に入って呼べた星5は玉藻さんだけだけど、あいつは巌窟王2人とモリアーティの合計3人を呼び込んでいる。というか、あいつも所持してる星5の合計がもうすぐ二桁だから、俺の方がガチャ運が良いって言われても困るんだよなぁ。

 

「つーかもう石が4つしかないし。今回のピックアップガチャはこれで終わりにするわ」

「その方が良いね。あまり金を突っ込みすぎて、この間みたいにムンクみたいになって欲しくないし」

 

 残り少ない石を3つ投げつけ、今回最後の召喚のシステムを起動させる。ここで新規のサーヴァントが来なければ、茶々とかBBの育成をするとしよう。新規のサーヴァントは配布を含むからな!(白目)

 

「ーーー!! まさか、そんな!? この反応は!?」

「? どうかしたのBB? 珍しく焦っている様に見えるのだけれど」

 

 召喚サークルのラインが3つに分かれ、サーヴァントの召喚に成功した直後。BBが有り得ないと言わんばかりに目を見開いた。3本のラインから光が迸り、光の中から一枚のカードが出現する。その絵柄は、黄金に輝く二人のピエロ。今まで見たことのない絵柄だ。

 

「………なんだ、このカード? 見たことのないカードだけど……」

 

 俺の疑問が言い終わるや否や、カードから光が溢れ出し、実体化が始まる。まず始めに聞こえたのは、地面に突き刺した金属音とヒールの音。次に見えたのは黄金色に輝く爪。そして、目の当たりしたのは、長いピンク色の髪と同じカラーの瞳をした少女の姿。俺があの時、SE.RA.PEで最後に言葉を交わした少女。

 

 

 

「愛憎のアルターエゴ。パッションリップです。あの………傷つけてしまったら、ごめんなさい」

「ーーーーッ!?」

 

 

 

 まだ何もしていないのにもかかわらず、こちらに頭を下げてくる少女。それと同時に、あの時のことは覚えていないのだと思い、少しばかり胸が苦しくなる。けれど、それは当然だ。あの時に出会ったリップは既に消滅し、ここにいるのはオリジナルの彼女から分かれた分体。他のサーヴァント達と同じ条件で召喚されているのだから。

 

「えっと………貴方が私のマスターさん、なんですよね?」

「………あ、ああ。そうだ。俺は黒鋼研砥。よろしく頼む」

「はい。ちょっと駄目な所が多いかもしれませんけど、こちらこそよろしくお願いします」

 

 さっきのロビンとは違う、優しげに微笑むリップ。その顔が、その仕草が。あの時の彼女と重なってしまう。そんな事をしてはいけないのだ理解しているのに、それが悲しくて、あの時みたいに視界が滲んでしまう。

 

「………はぁ。まったく、世話の焼けるマスターさんですねぇ」

「あ……お母様もいたんですか? こっちでもよろしくお願いします」

「ええ。それよりリップ。今から記憶の共有をします。良いですね?」

「え? あ、はい。別に問題ないですけど………」

 

 BBがリップに近づき、手に持った教鞭をリップの頭部に触れさせる。すると、教鞭の先に光がともり、リップの中に吸い込まれていった。それから数秒後、リップが驚いた様に目を見開かせた。

 

「え……あの、この記憶は……」

「当然、貴方の物ですよ。まったく、黒鋼センパイはセンパイで。貴方は貴方で世話を焼かせてくれるんですから。あとで何か奢ってくださいね?」

 

 俺にはまったく意味が分からない会話をした後、BBは溜め息を吐きながら召喚場を去って行った。その場に取り残されたリップは、まだ信じられないような顔つきだったが、何かを決意したようにこっちに近づいてきた。

 

「あの……研砥さん、ですよね? あの時以来ですよね?」

「は…………? ま、さか。リップ、お前記憶が……?」

 

 リップの突然の発言に、一瞬だけ思考が追いつかなくなったが、なんとか言葉を返す。すると、彼女は嬉しそうにその表情を変える。

 

「はい! あの時別れた私ではないですけど、あの時の記憶は、今のわたしの中にもあります!」

「な、なんで? だって、お前達は他のサーヴァントとは違って存在しないから、記憶の引き継ぎとかはできないんじゃ」

 

 少なくとも、俺はあの時にBBが言っていた事を覚えている。ここにいるお前達の記憶は残らず、常に新しい存在として現界することになると。俺が疑問を口にすると、どこか困ったようにリップは眉を寄せるも、質問に答えた。

 

「え〜とですね、私たちは元々お母様……BBから分かれて生まれたAIなんです。なので、同型機である人には記憶の共有が出来るんです。研砥さんが帰ってしまった後、あの時の私がお母様に頼んで記憶を共有してもらったんです。いつか、私を召喚できたら、その時の私に記憶を共有してくださいって、お願いして」

 

 散々渋られましたけど、最後はごり押ししちゃいました。困ったように笑いながら、けれど満足そうにリップは笑う。重なって見えていた物が重なり、その笑顔がとても眩しく見えた。同時に、耐えようと必死に堪えていた涙腺が完全に決壊する。

 

「くっ、ッ〜〜〜!! う〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

「あ〜〜〜はいはい。ほら泣かないの研砥。せっかく記憶を持ったまま召喚できたんだから、歓迎してあげないとでしょ?」

「わがっでるよ゛!! ぞんな゛ごどはわがっでる!! でも、ぞれでもうれじいんだよ゛ぉ!!」

 

 ボロボロと大粒の涙を零して、情けなく声をあげて泣きじゃくる。普段の俺では決してしないようなことだが、今回ばっかりは、彼女との再会が嬉しかった。俺のことを真剣に考えてくれた彼女と、こうして再会できたことが。

 一通り泣いた後、ようやく落ち着いた俺はリップに向き直る。できる限りの笑顔を浮かばせながら、歓迎の言葉を紡ぐ。

 

「ーーー改めて言わせてくれ。ようこそ、パッションリップ。これから、力も知恵も無い俺に、手を貸してくれ」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いしますね! マスター!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         オマケ

   ーーーー似て非なる存在ーーーー

 

「………貴方が、私の力のオリジナルになった方、なんですよね?」

「ーーーはい。どうやら、その通りの様です。パッションリップ。複数のサーヴァントとの結合体」

 

 夜も更け、マスターである黒鋼研砥は既に寝静まり、殆どのサーヴァントも寝ている時間帯。そんな中、訓練用のシミュレーター室には二人の影があった。

 片方は黄金色に輝く爪を持ち、大きすぎる胸が特徴な少女。つい先日召喚されたエクストラクラス・アルターエゴ。パッションリップ。もう片方は、自身の身の丈以上の大槍を構える、幸薄そうな女性。研砥が初めて召喚した星5のサーヴァント。ランサー・ブリュンヒルデ。

 

「あの、私がお願いしておいてあれなんですけど、本当にいいんですか?」

「別に、構いません。貴方の元となった私と戦い、自分の持つ力を高めたい。それは結果として、マスターの、研砥の力になることですから」

 

 リップは爪を、ブリュンヒルデは大槍を滑らかに構える。互いに一呼吸をした後、二人の立っていた床のタイルが割れる。直後、甲高い金属音が室内に木霊する。リップの爪とブリュンヒルデの槍がぶつかり合い、大きな火花を散らす。

 その後も彼女達は何合も打ち合い、互いに距離を開けた後、ブリュンヒルデが不思議そうに口を開いた。

 

「一つ、聞いてもいいでしょうか」

「はい? え、え〜と、私に分かることなら、聞いても大丈夫ですけど………」

「いえ、とても気になったことがあるので。ーーー貴方は。何故、そこまでして、マスターの力になりたいと思うのですか?」

 

 ブリュンヒルデが尋ねたのは、彼女の本質からは考えられないこと。北欧の大神、オーディンの命により、彼女達、戦乙女達は何人もの英雄を導き、勝利を授けた。だが、最後には必ずその命を奪い天界へと送り届けてきた。

 その伝承が元となったのが彼女の宝具。『死が二人を分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)』だ。彼女の持つ愛が対象に対して強ければ強いほど、彼女の持つ槍は大きく、強い力を発揮する。その力の一部が、パッションリップに組み込まれている。つまり、彼女がマスターである研砥を思えば思うほど、その特性が災いして研砥を殺したくなるはずなのだ。その殺人衝動を、彼女はどうして抑えれるのか。それが、ブリュンヒルデには理解できなかったのだ。

 

「そう、ですね。私も、ここに来るまでは貴方と同じように、愛に対して強い執着を持っていました。………でも、私はある人に出会えたんです。あの頃の私にでも、怪物みたいな私なんかでも、普通の女の子だって言ってくれた。そんな優しい人と」

 

 リップが思い返したのは、月の裏側の記憶。BBから分かれて生まれ、自意識を持ったばかりの頃の彼女の記憶。愛に飢え、自己的な愛ばかりを求めていた頃の、怪物と呼ばれても仕方がなかった頃の自分。

 彼/彼女と、彼/彼女に仕えたサーヴァントを傷つけたけれど、それでも許してくれた。そんな優しい少年/少女と出会えた時の記憶。その時、ようやく『愛』の何たるかを理解した。直後、殺生院に取り込まれてしまった。けれど、もし次の機会が。次に誰かと触れ合う時があるのなら、今度は誰かを守る為にこの力を振るおうと決めたのだ。

 

「この爪は、この力は愛憎の為に振るうものじゃなくて、愛したものを『護る』為に振るんだって、そう決めたんです」

 

 かつて、ブリュンヒルデと同様に『死が二人を分断つまで』と呼んでいた力は、『死が二人を別離つとも』に変化した。今のリップは、自分の異常性を理解している。だからこそ、今度は誤ちを繰り返さないよう、後ろからマスターである彼を支えようと決意したのだ。

 

「そう、ですか。………それは、きっと、喜ばしいことなのでしょうね。少し、貴方が羨ましい、と思ってしまいました」

「大丈夫ですよ。ブリュンヒルデさんだって、きっとそういった人と出会えます! ここに貴方がいるのだって、研砥さんに力を貸したいと思って、ここにいるんですよね?」

「………そう、ですね。ええ。私もまた、今度こそ『護りたい』と願った。だからこそ、私はここにいる」

 

 その言葉を最後に、彼女達は互いの武器を構える。彼女達が護りたいと願った人を、護りきる為の力を研ぎ澄ます為に。彼女達は今日も力と技を鍛え続けるのだ。




ここまでの既読、ありがとうございました!

誤字・脱字や気になる点がありましたら、感想かメールを送ってください!
それにしても何とか首の皮一枚繋がった感じですよねぇ。今始まって900万ダウンロード記念ガチャ。回すべきか回さざるべきか……むむむ、少し悩みますね。

次回は6月の二週目までに、本編を更新します!お楽しみに!!


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女神ピックアップ? おいおい、誰か足りなくないか?

さて、今回は女神ピックアップについての報告会です。オマケで、早々にやめた新宿ピックアップ(復刻版)についての話もあるので要チェック!

………はい、本編を更新するとか、次はサーヴァント強化クエスト組だとか言ってましたけど全然違う方向に進んですいませんでしたーーー!!! 何でもするので感想・指摘ください!! 

結果はですね。もう死んでも良いです、私。死にたく無いけどネ!


「ブーディカ!! 番号札4番に作り置きしておいたターキーを出してくれ! それから、スープの残量はどうなっている!」

「あと半分くらいかな!? それよりターキーって事はアルトリアオルタかい!?」

「うはははははは! オカンとヴィクトリアよ! そろそろ味噌汁と米が無くなるぞ! 炊き出しはどうなっているのだワン!?」

「今米を洗い終わったとこだ! 次のご飯は30分待ちだと奴らに伝えろォ!」

 

 御飯時。それはどんな人間でさえ戦いより優先する物である。それは、たとえ人理を取り戻す戦いの最中であっても、あと数日で世界諸共自分が死ぬという時も変わらない。

 少なくとも、昼食と晩飯は特に酷い。2017年から先の未来を取り戻した事で、食料などの消耗品が補給できるようになった。なので、今まで割と抑えてくれていたサーヴァント達の食欲が解放されたのだ。加えて、アルトリア(リリィ)様に丁寧な味を好む人たちがいるのに対し、キリツグさんやアンデルセンみたいに、とりあえず腹が満たれば何でも良い人たち。挙句、ナーサリーや茨木といった甘い物が食べたい人たちに合わせて作っている。

 しかし、毎回毎回こちらの予想を超える量を平らげるので、その後追いをする羽目になり、毎日が忙しい事になっている。

 

「おい! 誰か麻婆豆腐を注文した馬鹿がいるぞ!?」

「なっ、誰だそんな無謀な事をした奴は!? 下手をしたら死人が出るぞ!?」

「注文したのは………あ、書文さんだ」

「先生チャレンジャーすぎるのだな!! まぁ良い、ならば先生の挑戦に答えてやるとしよう! それが、厨房に立つ我々の存在理由なのだからな!!」

 

 こういった、遂に食に対して修行を行う一部に人たちに合わせるべく、今日も厨房は慌ただしく活動する。

 

ーーー行くぞコックども。食材の貯蔵は十分か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーつっかれた~~!! ったく、今日は今まで以上にしんどかったぁ!」

「確かにな。いやいや。まさか、パッションリップがあんなに飯を食べるとは思わなかった」

「けど、凄く美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるんだよね~」

「うむ! しかし、スキルレベルが上がってないせいで留守番役なのだな! あんなに大量のご飯を食べれば、胸もあそこまで膨れ上がるというもの! ところでご主人、バレていないとはいえリップの胸を凝視するのはキャットとしてはポイントが低いので注意するがよい」

「!? なぜ、バレた…………!?」

 

 現在厨房組。ようやくピークを過ぎ去った俺たちは、ほぼ誰もいなくなった食堂に集まり、残り物を使った簡易な食事をしていた。といっても、作る人たちのレベルが高すぎるため、余り物でも豪勢な物に様変わりする。

 

「あ、エミヤ。あとで駄賃くれ。ガチャ回してくる」

「了解だ。今日のバイト代を出そう。聖晶石2つでどうだ?」

「ん~~、呼符残ってないか? 個人的には単発回してきたい」

「そうか? お前がそう言うなら別に構わないが……」

 

 虹色に輝く石を仕舞い、代わりに黄金の札を渡してくれるエミヤ。今は、何故か発生した特殊なピックアップと、呼符やマナプリズムが自然発生するという、謎の現象が発生している。誰かが意図的に作っているのは分かってるんだが、一体誰ガヤッテルンダロウナーーー(棒)

 

 

 ついでに書くと、去年と同じように茨木童子が大ボスとなって襲撃にしにくる、『鬼哭酔夢魔境 羅生門』も発生しており、そのピックアップも行われている。………まぁ、俺は去年の内に酒呑も茨木も所持しているので、ガチャを回さなくてもいいので気が楽だ。

 

「さてと、んじゃとっとと回しに行くかな。誰か付いてくるか?」

「私は辞めておこう。ここに新たなサーヴァントが召喚されるかもしれん。一応、残った食材で何か作って待っておくさ」

「ふむ……。付いていっても問題ないのだがそろそろ昼寝の時間なので辞退させてもらおう!」

「じゃあ、私は付いて行こうかな。エミヤ君に任せておけば、厨房は大丈夫だからね」

 

 こうして、食堂に揃った料理人達はそれぞれの持ち場に戻るのだった。前回のコラボイベントで散財したため、あまり石は残っていない。カルデアにいるダ・ヴィンチちゃんと、今のイベントで手にいてた呼符を握りしめ、俺たちは召喚場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「お前ら~~~! 女神様に会いたいか~~!!」

「お、お~~~~!!」

「太陽神(の分霊)に~~! 会いたいか~~~!」

「お~~~~~~~!!」

「それでは参りましょう、今回のチャレンジャーはこの方! 宿敵同士を召喚させて、施設が壊される事に胃を痛めている胃痛系マスター。黒鋼研砥さんで~す!!」

「おいコラ! 確かにその通りだけれど、他にも言うことがあるだろっ!?」

 

 突然始まったこの茶番。召喚場に向かう途中で会った玉藻さんを連れて来たのだが、服の何処かに隠していたであろうマイクを取り出すなり、何処かで見たことのあるバラエティー番組司会の真似事を始めた。ご丁寧にスポットライトまで用意する周到さである。さすが女神。準備が早い!(呆れ)

 

「ん~~、少しノリが悪いですよマスター? こういう時は明るく前向きに楽しむべきです!」

「いきなりそんな事されても、逆に困惑するだけなんだが……。ま、まぁでも、玉藻さんが善かれと思ってしてくれたのは分かってるからなぁ……」

「研砥、そこは甘やかすとこじゃないと思うんだけど。というか、前回といい今回といい。私たちを酷使し過ぎよ」

 

 ため息まじりに呟いたのは、俺の元にやって来てくれた初めての星4アーチャー。カルデアにいるイリヤスフィールという星5キャスターの(自称)姉、クロエだ。ロビンの絆レベルが10になってからというもの、彼には休暇を与えてしまったから代用としてクロエを連れましている。ここにいるのも、少し休憩させるためなのだが、本人から苦情が出るレベルにまで悪化していた。本当に申し訳ない。

 

「悪いな。ロビンには休暇を出したから、代わりにクロエを連れて来たんだが……。やっぱり、少し休むか?」

「別にいいわよ。貴方がそれだけ私を頼りにしてるって証拠なんだし。別に悪い気はしないわ。あ、でもでも! 戦闘後に魔力供給よろしくね♬」

 

 蠱惑的に微笑みながら舌舐めずりするクロエを見て、寒気がした俺は後ずさる。何故なら、前に魔力が足りないと言ったクロエが、家のキャスター勢に片っ端からキスして回った惨状を知っているからだ。一応合意の元とはいえ、やられた側がとんでもない顔をしてるから、余計(たち)が悪い。

 

「にしても、復刻版とはいったものの、酒呑ちゃんとばらきーちゃんがピックアップされて、金時さんがピックアップされないってのはどういう事なんですかね?」

「確かに……。羅生門って、金時君が活躍するイベントでしょ?」

「確かにそうだな。あ、もしかしたら、羅生門が終わった直後に、今度は続編の『鬼ヶ島』が始まって、その時にピックアップされるかもな!」

「それ、本当に極悪すぎるわね。よく飽きもせずガチャを回せるわよね~あなた達」

 

 現在進行形で行われている、女神系のサーヴァントをピックアップしたものと、羅生門のピックアップを見比べた俺たちは、大体似通った感想を言い合った。家はライダーの金時はいても、バーサーカーの金時がいない。居たらい居たですごく助かるのだ。主に、頼光さんや酒呑へのスケープゴート役として(黒笑)。

 

「さてと、どっちからガチャ回そうかな~。羅生門は礼装が欲しいだけだし、とりあえず交互に回してみるかな」

「ま、今回は気合い入れていきなさいよ? 前に散々爆死してるんだから、何か出さないと本当に地獄よ?」

「クロエちゃん。それ言っちゃダメなやつだよ……」

 

 集まってくれた3人に感謝しながら、とりあえず呼符を一枚、二枚と投げつける。今日も元気よく召喚システムは起動し、投げつけた枚数と

同じ数だけカードを吐き出す。

 

「おっ、『月霊髄液』か。これで3枚目だけど、中々優秀なカードじゃないか」

「無敵3回付与って結構使えるわよね~。……ま、最近無敵貫通状態の敵が多いから、何とも言えないけど」

「天草の宝具も受け切れる優秀な礼装だし、使い道はあるだろ」

 

 次々に呼符を投入していくが、出るカードの殆どが礼装だらけ。かれこれ7枚も呼符を投げ続けているが、召喚されたサーヴァントはメドゥーサさん1人だけ。女神ピックアップの方は礼装もピックアップなんてしてないはずだから、それなりにサーヴァントが出るはずなのだが。どうしてこんな事に……。

 

「あら、また星5の礼装じゃない。『2030年の欠片』って、さっきのと同じくらい優秀な礼装よね?」

「……いや、本当にどうした今回のガチャ。前回は前回で礼装祭りだったけど、ここまで優秀な礼装祭りは久しぶりだぞ?」

 

 毎ターンクリティカルスターを8個生産する最強礼装を手にしながら、ここでガチャをやめるべきか真剣に悩む。イベントやらダ・ヴィンチからもらった呼符の総数は約20枚。だから半数の10枚だけ回すと決めていたのだが、ここまで優秀な礼装ばかりなら、ここでやめるのもありかもしれない。

 

「どうすっかな~。サーヴァントは来てくれなかったけど、ここまで便利な礼装が来てくれたんなら、ここで辞めていいんだが……」

「申し訳ありませんマスター。お願いですから、お願いですからもう一度回してくださいまし!! 私、最後に出されたのがあれなのは絶対に嫌です!!」

 

 何故か俺の手を握ってまで嘆願する玉藻さん。そう言えば、『2030年の欠片』に描かれていた男性は、確か玉藻さんの元マスターだった。彼女曰く、『欠片男』は元カレで、『勝利者』は今カレだそうな。余談だが、俺は今カレと会う前の予行練習的な感じなので、擬似的な彼氏、略して擬似カレだそうな。まるで意味がわからないが、少しイラっと来るぜ!

 

「分かった分かった。それじゃ回すぞ~」

 

 9枚目の呼符を放り込み、システムを再び起動させる。今回の光のラインは3本。召喚されたサーヴァントのクラスカードは、黄金に輝く騎兵のカードだ。

 

「久しぶりに星4以上のライダーだね。え~と……今回だと、ケツァル・コアトルがピックアップされてたんだっけ?」

「ブーディカさん。そんな簡単に星5が来てくれるなら、前回辺りにギルとかメルトリリスを召喚できてるだろ? これはきっと、あれだ。龍を召喚してぶつける聖女様だよ。まだ持ってないし」

「ん~、もしかしてピックアップスルーで王様来るんじゃないかしら? ほら、あのエジプトの王様」

「どっちにしても太陽系の神性持ちなんですけど。まぁ、そっちの方が? 私とキャラ被りしなくていいですから楽ですけどね」

 

 四者四通りの意見を述べ後、遂にサーヴァントの現界が始まった。黄金に輝くカードから徐々に体が露わになる。

 

 

 始めに目に映ったのは、ここにいるクロエと良く似た朝黒い肌色。次に目に入ったのは、どこかの民族衣裳を着た背の高い女性。そして、最後に目が捉えたのは万人を照らす太陽の如き笑顔。

 

「ハァーイ! 女神ケツァル・コアトル。出番と聞いて駆けつけたわ! あら? 裸の神官かと思ったら、随分と可愛い召喚者なのね? うふふ。背の高いお姉さんは嫌いかしら?」

 

 他の人と比べて長い召喚口上の後、サークルに降り立った女神ケツァル・コアトル。その圧倒的な存在感に気圧されて、俺は息も忘れて目の前の女性を見つめていた。

 程よく露出した手足は美しく、後ろで一つに括られた金色の髪。ブーディカさんと良く似た、自然を思わせる翡翠の瞳。それを正しく理解した後、俺は塞がっていた口を開いた。

 

「け、ケツァルさんが来たァァァァァァァァ!?!?」

「ワァオ! 厚い歓迎デース! お呼ばれじゃなかった悲しかったので、嬉しいデース!」

「げぇ。本当に来ちゃいましたよ彼女。私とキャラ被りしちゃうから苦手なんですよねぇ。クラス相性的にも不利ですし」

 

 ピックアップされていた星5のライダー。ケツァル・コアトル。第七特異点では人類悪と化したティアマト神に特攻を仕掛けたり、最後の最後でマーリンに人類最古のコブラツイストを叩き込むなどなど。色々

笑い話を作り上げたあのケツァル・コアトル様が降臨していた。

 

「やっべぇよ。やべぇよ俺。ついこの間まで全然召喚できなかった運が回って来たぞォ!」

「やったね研砥! 今回は、溜め込んでいた種火も無駄じゃなかったね!!」

「ふぅ。ま、これ以上グレられたら堪ったものじゃなかったし、良かったんじゃない?」

 

 わいわいがやがやと賑やかになる召喚場。新たに召喚できた英霊、しかも宝具封印バスター宝具持ちという、どこぞの太陽王と同じ性能を誇るライダーの召喚に成功した。これは嬉しい。非常に嬉しい。

 

「さて! このまま終わるのもいいんだけど、まだ10枚目が残ってるし、最後にガチャを回すぞ~」

「いや、ここでやめときなさいよ研砥!? ここで低レア引いても意味ないでしょ!?」

「意味ならある! 何故なら! そこにガチャがあるのだからっ!!」

「思考停止してガチャ回すのはやめなさいよーーー!!」

 

 クロエの制止を振り切って最後の呼符を投げつける。今回最後のガチャのラインはまたまた3本。中央に光の柱が立ち昇り、その中から出現したのは、さっきと同じ黄金に輝くカード。描かれたのは魔術師のカードだ。

 

「えぇぇぇ!? れ、連続で高レアサーヴァントを召喚!? 10連ガチャもしてないのに!? 今回のガチャ運振り切ってない!?」

 

 目の前に広がる光景に驚いたクロエが叫ぶ。しかし、俺はそれに反応することなくサークルから少し離れて、左手を力強く握り締めて前屈みの体制に入る。

 

「……一応聞くんだけどさ。何してるの、研砥?」

「知れたこと。孔明が召喚されたら『座』に送り返す為に準備してるだけだ」

「「「やっぱ家のマスター捻くれ者だ!!」」」

 

 人理を救う旅を始めて既に500日が経ち、未だに召喚されない最高クラスのキャスター・諸葛孔明。その圧倒的な性能で多くの戦いをサポートして来た。だが、俺はその彼を殆ど使った覚えはない。理由は至極簡単。

 

「家の女王様を拉致った挙句、眠らせて放置たぁいい度胸してたからなァ。出会い頭に一発ぶん殴るのは様式美だろうがよォ………! つーか俺は、あんな使えば勝てる系のサーヴァントは種火周回以外使わねぇ……!」

「お願い、お願いだから元の研砥に戻って!? 子供達に見せられない顔してるよ!?」

「ふーん。今回のマスターは中々やりますねぇ! では、私も便乗して……」

「お願いですから悪ノリはやめてください!! というか、貴方は貴方で酷い顔ですよね!?」

 

 さりげなく顔☆芸を披露する俺とケツァルさん。いつでも殴り飛ばす準備が整ったその時、遂に高レアキャスターの現界が始まった。

ーーー直後、召喚されたその姿を見た時、俺の頭は再び考えることを放棄した。

 

 

 

 海の様な深い青色の巫女服を身に付け、桃色の髪から伸びる狐の耳。腰の辺りから伸びた黄金色に輝く尻尾。そう。彼女の名前はーーー

 

「御用とあらば即☆参☆上! 貴方の頼れる巫女狐、キャスターここに降臨☆ です♡」

 

 星5の、最高レアリティを誇るキャスターの一人、ここでは二度目の登場となる『玉藻の前』。平安時代において、大妖狐として都を荒らし、太陽神・天照大神の分霊たる彼女が、ここに再臨していた。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「う、嘘でしょ!? あの研砥が、本当に単発で星5を二人も召喚したですって!?」

「というか私二人目!? どれだけ私が大好きなんですかっ!?」

 

 目の前に登場した二人目の玉藻さんを目の当たりにしたクロエと玉藻さんが、驚きのあまり手を使って驚きを表現する。それを見たブーディカさんも目をパチクリとさせていたが、なんの事情も知らないケツァルさんは拍手をしていた。

 

「ワァオ! まさかこんな日が訪れるなんて! というか貴方、頼れるお姉さん系で分霊って、私たちキャラ被ってるわよね! さては太陽系の分霊だったるするの?」

「はい? あ~、そうですねぇ。一応、天照大神の分霊ですからね。その感覚は正しいかと思いますよ?」

「やっぱり! 嬉しいわ! 同じ女神でも太陽系の女神と会えるなんて滅多にないわ! グラシアス! ありがとうネ! マスター!!」

 

 心の底から喜んでいるのだろう。ケツァルさんがその輝く笑顔をこちらに振り撒いてくる。とりあえずその事に頷いて返事を返すも、俺はとりあえず落ち着くべく深呼吸を繰り返した。

 

 整理しよう。呼符が大量にあるので半分だけ使ってガチャを回したら、星5が二人も登場した。しかも太陽系の女神が顕現した。OK把握した。それじゃまあとりあえずーーーー

 

「フンっグォ!?」

「け、研砥ぉぉ!?」

「ちょ、何してるんですかマスター!?」

 

 孔明をぶっ飛ばす為に構えていた拳を、そのまま自分の頬にぶち当てる。力を込めすぎたせいか一瞬頭の中が真っ白になって倒れそうになるが、気合と根性で踏みとどまる。これは確認だ。どこぞの花の魔術師が『幻術』をかけているかもしれないから、確認の為に殴ったのだ。

 

 

 だが、目の前の景色は変わることはない。この場で召喚した二人の女神様と、この場に呼んだ三人ののサーヴァントたち。これは幻ではなく、現実だということを認識する。

 

「………………ああ、そうか。ここが『遙か遠き理想郷(アヴァロン)』だったのか……」

「ちょ、研砥本当に大丈夫!? 血! 鼻から大量の血がぁ!?」

「あははっ! 今回のマスターは本当に面白い人デスね!」

「笑ってる場合!? あ~もう! 本当に世話を焼かせるんだから!」

 

 最後に笑みを浮かべながらそう口にし、顔を殴ったせいで朦朧として来た意識に逆らわずにゆっくりと目を閉じる。この間の爆死に打って変わっての結果に満足して、俺はゆっくりと眠りにつくのだった。

 

 余談だが、このことを知ったナイチンゲールが俺の腕を削ぎ落としに来て一悶着があったことを記しておく。自傷行為はダメ! ゼッタイ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ。復刻版新宿ピックアップ編。

 

「なぁ。羅生門が終わったのに、なんで鬼ヶ島ピックアップじゃなくて新宿復刻なのん?」

「そんなことを言われても茶々には分からないよ!」

「そんなことをよりトナカイさん!! 早く種火周回に行きましょうよ! せっかく育成してくれたんです、その力を発揮させてください!!」

 

 羅生門イベントを終わらせてから、ようやく育成が終わった茶々とジャンヌ・リリィを連れて、俺は再びこの召喚場に向かっていた。前回のピックアップではボブとロボを召喚できたので、あんまり興味が無い。だが、システム起動時に表示された画面に、モリアーティが映し出されたので、仕方なく単発を回すことにしたのだ。

 

「というか、何でマスターはガチャ回すの? 水着ガチャがあるから貯めるんだ〜って言ってなかった?」

「ふっ。俺はな? 起動時にブーディカさんか、ピックアップされている星5サーヴァントが出たら単発を回すって決めてんだよ」

「それ、ただ単にガチャを回したいだけですよね?」

「ーーーーーよし、ガチャを回すぞ!!」

「「あ、逃げたぞ(ましたよ)このマスター!!」」

 

 二人の制止を振り切って呼符を叩きつける。直後、サークルが虹色の輝きを放つーーーっておいちょっと待て!?!?

 

「おいコラちょっと待てェェェェェェェェェェ!? ナンデ!? 星5演出ナンデェ!?」

「えぇ!? マスターさんのガチャ運が振り切って無いですか!?」

「やばいよこれ!! しかも金色アーチャーだよぉ!?」

 

 召喚サークルの中央に現れたのは、虹色の輝きを伴った金色のアーチャー。その中から現れたのは、つい最近見かけた男性だった。

 

「我が名は、ジェームズ・モリアーティ。職業、教授兼悪の組織の親玉! ふははは!! 安心したまえ! 私にかかれば世界征服の一つや二つ!!」

 

 一見すればただのアラフィフに見える英国紳士。けれど、それは彼の本性を隠す仮面。杖に使っている仕込み銃に、彼の雰囲気をぶち壊す様な大きな棺桶。新宿のアーチャーこと『ジェームズ・モリアーティ』が目の前に降臨していた。

 

「おぉ! 今度はこっちで召喚されたのかネ! 良いねぇ、個人的に巌窟王君やジキル君のいるカルデアでも構わないけど、個人的にはこっちの方が居心地が良いんでね!!」

「おぉ〜! すっごくでかい棺桶!! ねぇねぇ! それ触っても良い!?」

「別に構わないとも! それにしても、美しいガール達だねぇ。うん、やっぱり女性はこうじゃ無いとねぇ!」

 

 嬉しそうに笑いながら、近づいてきた茶々の頭を撫でて愛でまくるモリアーティ。俺はというと、その光景に理解が追いつかなかった。というか、どうしてこんなことになってるんだ? こんな短期間に星5が3人?

 

「やべぇよ……ヤベェよ俺……これあれだよ。絶対水着鯖が召喚できないパターンだよ……!!」

「はははは! 安心したまえよ黒鋼クン! 別に来なくても、ここにいる私たちが君の力になるとも!」

「お前が一番胡散臭いだろうがアラフィフ! この間のSE.RA.PHガチャで爆死した当てつけかこの野郎! でも来てくれてありがとなっ!!」

 

 こうして、俺たちは新たにモリアーティを召喚した。今年に入って急に増え始めたアーチャー達。その育成が追いついていないことに頭を抱えながらも、俺は今日も種火周回に出かけるのだった。

 

 

 




と、いうわけで今回はケツァル・コアトルさんと、玉藻さんに加えてモリアーティが当たりましたー!! いや~、ケツァルさんは分かるけど玉藻さんは何で来たのか本当にわからない。いや確かに女神だけども。今回ピックアップされてないですよねぇ!

というか、モリアーティは何故に?私、星5サーヴァントは(計算上)2ヶ月に一人のペースで来るので、2月以降星5は来てないから、ケツァルさんと玉藻さんはまだ納得できるんですが、モリアーティが本当に意味が分からない………。はっ!!こ、これはまさか、水着でお前は爆死するという予言だというのか!?星5が一週間の内に3人とかありえないぃ……。

あ、女神といえば、ブリュンヒルデさんの再ピックアップはまだですか? 登場してから1年と4ヶ月程スルーされてるんですけど。幕間の物語も今更みたいに実装されたんで、再ピックアップ早よ。幕間2節目も早よ。ついでにモーション変更も早よ!!


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鬼ヶ島 素材集めが 簡単だ(季語無し)

さて、仕事もひと段落して来たので、こっちも更新しますよ〜。
といっても、本命はこの後の水着ガチャとかなんですけどね!

今回は鬼ヶ島ピックアップ(復刻版)! 私は頼光さんを去年の内に召喚してますので、単発だけ回して来ました! 少々短いですが、楽しんでもらえれば幸いです!



追記:今ツイッターみたら水着イベントの告知が来てましたよ!? 去年のリベンジしてやるぞ! 槍玉藻ォォォォォォッ!!!


 鬼ヶ島。この単語を聞いただけで日本人の誰もが想像できる話があるだろう。かの有名な昔話の一つ。そう、『桃太郎』だ。

 『桃太郎』というお話は、川から流れて来た大きな桃を持って帰った婆さんが、食べようと桃割ったら中から幼い男子が現れたことから始まる。この時、この子供は桃から生まれたから桃太郎と名付けられる。それから大分月日が経った後、成長した桃太郎は家族から渡されたきびだんごを携え、遠くにいる鬼を退治しに向かう。そんな昔話だ。

 ………今思えばとんだDV染みたお話かもしれない。二十歳にもなっていない子供に鬼を退治させに行くとか、少し酷くはないだろうか。

 

 けれど、勇者といった役割を担う人たちはこういったことをするのが常識だ。桃太郎は鬼が住まう鬼ヶ島に向かう途中、道中でもらったきびだんごを犬・雉・猿の三匹に餌付けして仲間にする。奇策を弄して見事鬼を退治する。鬼が周りの村から奪っていった宝の山を回収し、それを皆に返して実家に戻る。そんな、誰もが望んだハッピーエンドだ。

 

 

 

 

 む? なんで今更ながらに『桃太郎』の話なんて振り返ってるのかって? そりゃあお前ーーーーー俺が今、その鬼ヶ島にいるからだよ。

 

「なぁ、正直に言って二度目の鬼ヶ島転移なんだが、何か弁明はあるかな? 頼光さん?」

「い、いえ! そもそも今回は私のせいではないと申しますか………」

「ア゛?」

「ひぃっ!? も、申し訳ありませんマスター! 鬼を退治して参りますからお許しください〜〜!!」

「………(すげぇな大将。あの頼光サマを圧倒してやがる。家のマスター、普段は怒らないから怒ったらおっかねぇんだよなぁ……)」

 

 新たに召喚したモリアーティーの育成をしていた途中、ギルのスキルレベルを上げる際に使った『万死の毒針』要求することを知った俺は、アルテラやアルトリア(リリィ)達とバビロニアでムシュフシュ狩りに出かけていた。周回を終えて仮眠を取った後、目を覚ませば鬼ヶ島の中にいたのだ。それも、前に見覚えのある鬼ヶ島の中にだ。

 幸い、先に来ていたカルデア組や通信班と連絡を取ることができたので、早速、この鬼ヶ島の原因となった人を呼び出したのだが、本人は知らぬ存ぜぬの一点張り。まぁ、何も知らないというのが正しいのかもしれないが。少々イラついてたので当たってしまった。これは良くない。絶対によろしくない。

 

「………悪い、頼光さん。少し強く当たりすぎーーーってあれ? 金時、頼光さんはどこに行った?」

「大将の怒気にやられて鬼を退治に行ったよ。しかしすげぇな。あの誰もが困り果てる頼光サマを追い払うなんてよ」

「いや、家にはやばい人たちが多すぎるから慣れたというか。そもそも、頼光さんとの付き合いももうすぐ一年だしな。ずっと甘えてばっかりってのも悪いし、頼ってばっかりってのはむず痒いんだよ」

 

 頼光さんを喚ぶ際に、一緒に喚び出した金時と話をする。お互い、ここでの騒動や彼女の夢の中で戦ったり、他にもいろんなところで共通点があったりする。自分で言うのもおかしな話だが、とても仲が良いと俺は思っている。

 

「さて、と。んじゃ素材回収とかは頼光さんに任せて、俺たちはガチャでも回しに行きますか。金時も来るか?」

「おう! 今回も俺っちは猿役だからな! 鬼ヶ島が消えるまでは大将の側は離れねぇよ!」

「そう言ってもらえるとありがたい。んじゃ、とっとと回しに行きますか」

 

 ぶっちゃけると、今回のピックアップされているサーヴァントはほぼ既に召喚し終えているのでガチャらなくてもいいんだが、とりあえず育てたいサーヴァントも大体育成し終えてるので、新しいサーヴァントが欲しいのだ。ま、ダブっても問題ないんだけどネ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ハァーイ! 雉役のケツァル・コアトルデース!」

「えっと………犬役の、静謐、です」

「ウィース! 猿役の坂田金時だぜ!」

「………何やってんの、皆? というか、無理に混ざらなくてもいいんですよケツァルさん」

 

 召喚場に着くなり始まった自己紹介(?)に戸惑う俺。というか、ついこの間召喚されたばかりのケツァルさんまでこのノリである。真面目に女神様なんだからこの扱いは悪い気しかしない。

 

「いえいえ! 私、こういった装いをするの大好きデース! それに、もう少し砕けて話してくれてもいいんデスよ? マスター?」

「いや、その、まだ女神系のサーヴァントに対する敬語癖が抜けなくてですね……」

 

 ケツァルさん以外にも、玉藻さんやエウリュアレ。ステンノさんやらと女神系のサーヴァントが多い家の組織。エウリュアレは一年近く一緒にいたからタメ口で話し合う中だが、それ以外は未だに敬語だったりする。なんでか、バビロニアのイシュタルやエレシュキガルは最初からタメ口で話せたけど、あれは例外だろう。

 

「その………研砥さん、どうでしょうか……?」

「え? あ、ああ。大丈夫。結構似合ってるよ静謐」

「そう、ですか? なら、私も嬉しい、です」

 

 不安げに声を掛けに来たのは、いつもの装束に犬耳と尻尾のアイテムを付けたアサシン、山の翁の一人『静謐のハサン』だ。ハサンと名乗ってから体表・体内の全身が致死性の毒で構成されていて、それ故に人の温もりを知らずに育ったという悲しい生前を持っていた。

 余談だが、この人理焼却を防ぐ戦いを始めて間もない頃、俺は彼女を召喚して共戦っている。長い期間一緒にいたおかげか、俺自身に毒に対する強い耐性を持つことができるようになった。マシュと契約して強い『耐毒』スキル持ちの狭間レベルとまでいかないけれど、普通に生活するレベルなら静謐に触れても死ななくなった。最初の頃は、間違って触れてぶっ倒れたこともあったが、まぁ、それはそれでいい思い出だ。

 

「なぁ大将。今回はこのパーティーにしてくれてマジでサンキューな!」

「うん? 今回はって、前回と男女比が変わったくらい………ああ。そういうことか」

 

 両手を合わせて俺を神のように拝んできた金時におかしなことをすると思うも、ここに集まった第二世代桃太郎組の面々を見て納得した。前回は小太郎、牛若丸、金時という三人で桃太郎の真似事をしていたのだ。それと比べて今回は牛若がいなくて露出の多い服装の人が少ない。目のやり場に困る心配がないのだ。

 

「……いやでも、静謐も十分露出が多いと思うが」

「犬耳と尻尾でだいぶ隠れてるから大丈夫だ。ケツァルの姐さんもマントをしてくれてるからな。俺にとっての桃太郎はここにりってやつよ!」

「それでいいのか元金太郎………」

 

 相変わらず悪役のような高笑いをする金時に呆れつつ、そろそろ召喚の準備を行う。といっても、今はまだ貯石をするときなので、今夏も大量にもらった呼符の半分を叩きつけることにする。

 

「毎月2枚ずつ貯めるって決めてるからな。12枚を超えないようにガチャを回すぞ〜」

「ここにいない人となると、バーサーカーの金時さんを目当てに回すのですね?」

「フォックスはこの間また来やがったからな。宝具レベル2の星5サーヴァントがいるって都市伝説じゃなかったんだな」

 

 今回の鬼ヶ島ピックアップ(復刻版)は、頼光さん、玉藻さん、バーサーカーの金時が対象にピックアップが行われている。他にも、日本出身系のサーヴァントも出現確率が上昇している。大抵の日系サーヴァントは所持しているが、確かにバーサーカーの金時はまだだ。

 

「う〜ん、バーサーカーの金時もいいけど、今のところでない気がするんだよな。この間の唐突な星5ラッシュがあったしさ」

「あ〜……。この間、私が来た時のやつデスね? 一気に星5のサーヴァントを3人も召喚するなんて、家のマスターは運が強いのだと思いましたが、違うのですか?」

「違う違う。俺、運がいい時と悪い時との差が激しいだけだから。さらに言うと、物欲センサーに全力で妨害されてる系のマスターだからね」

 

 SE.RA.PEピックアップでも結局メルトリリスを召喚できなかったし、その直前のピックアップでも弓のギルや花嫁衣装のネロはおろか、カルナさんも召喚できなかったのに、その直後の星5ラッシュだ。正直、今でも信じられてないんだが。目を覚まして何故かケツァルさんに添い寝されてようやく実感を持てたでござるよ(困惑)。

 

「んじゃとっとと回すぞ〜〜。あ、ケツァルさんは後で付き合ってくださいね。緑鬼狩りに行きますよ」

「了解デース! 全力でぶっ飛ばしマ〜ス!」

「あぁ……。あの鬼可哀想だな。流石に同情するぜ」

「ピラミッドで押しつぶされるか、ケツァルさんに関節決められるかの二択ですからね。レイドイベントはこれだから怖いんですよね……」 

 

 この後の予定を決めた後、俺は遂に呼符を投げつけてシステムを起動させる。今回は前回より少ない8枚の呼符を投げつける。これ以上回したらこの後のガチャで死ぬ目に合う気がするからな。特に、水着サーヴァントのピックアップ的な意味で。

 

「お、『花より団子』を2枚か。幸先いいじゃねぇーかマスター」

「………許せません。私の犬役を奪おうなんて、絶対に、許せません……!!」

「いや落ち着け静謐。誰も犬役を奪おうなんてしないから。というか気配遮断を使ってまで俺にくっつくな腕が痺れるだろぉ!?」

 

 耐毒スキルを自前で習得したとはいえ、静謐クラスの強い毒を喰らってケロッとしてるのは狭間ぐらいなものだ。俺はそこまで毒に耐性を持っているわけではないので、静謐が触れたらそこが痺れてくるのだ。死はしないが、足に力が入らなくなって困る。

 

「あ、遂にサーヴァントが召喚されたようデスよ!」

「お、ほんとだ。え〜と……クラスは、キャスターか。さてさて、一体誰が召喚されたのやら」

 

 召喚サークルから出現したのは、銀色に輝く魔術師の絵が描かれたカード。バチバチ演出も無いということは、星3のキャスターが召喚されたことが確定する。光を伴って、現界が始まる。

 

「いーーひっひっひ!! 大当たりですよマァスタァーーーー!! 悪魔メフィストフェレス、ここにィ! 罷り越しィ! まァしたァーー!!」

「ま・た・お・ま・え・かっ!!!」

 

 サーカスにいるピエロのような白い肌に、無駄に声高い男の声。他者を嘲笑い、良かれと思って人をダークサイドに陥れようとするキャスター。メフィストフェレスが召喚されていた。

 

「おやおやぁ? どうやら私大人気なようですねぇ〜? どうです? これを機に私を育ててみるというのは?」

「考えといてやるよ。ま、先に呪腕さんを育てるがな!」

「これは手厳しぃ〜マスターですねぇ? で・す・が! それもまた一興! 何かありましたら私にご一報を! 良かれと思って全力で助けに行きまぁすからぁねぇ!!」

 

 相変わらず気持ちの悪い高笑いをしながら、メフィストは工房へと走り去って行った。その後も何度か呼符ガチャを繰り返してみるが、出るのは星3の礼装のみ。まぁ、前回で今年のガチャ運を使い果たした結果になってしまったから、仕方がないことか。

 

「う〜し、手元の呼符も使い果たしたし今日は解散だ。お疲れ様〜」

「おう。まぁあれだ大将。今回はゴールデンサーヴァントカードは出なかったけどよ、次のガチャで頑張りな」

「そうデース! 新しいサーヴァントが召喚されるのを楽しみにしてますヨ!」

「……………次、頑張ってくださいね」←呟きながら肩を抱いてくる静謐

 

 そんな感じで、今回のガチャは新しいことも危険なことも起こらず平穏に終わりを迎えた。やっぱり平和が一番なんだな、と心から思うのだった。

 

「ところで、今年の夏は思い浮かぶだけで7つほどガチャ企画が思い浮かぶんだが、爆死せずにいられると思う?」

「最後にそのセリフはバッドだぜマスター………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー1日が終わってマイルームに戻ったらーーー

 

「ふぅ……。今日のガチャもようやく終わったァァァァァァァァ!?!?」

 

 今日の鬼狩りも終わり、ようやくマイルームに戻った俺は、目の前に広がった光景に驚き、いや怯えて叫び声を上げてしまった。いつナイチンゲールがやって来ても大丈夫なように整理整頓されているはずのマイルームが、何らかの容器に入った大量の再臨素材で溢れかえっていたからだ。主に狂骨とか無間の歯車が大量にあった。

 

「何これ何これ何これェェェェェ!? 再臨素材はエミヤやギルが管理してるはずだろォォォ!?!?」

 

 普段から使い込んでいる再臨素材だが、今から寝ようとしている時に大量に溢れかえっているのを見たら誰だって怯える。何でこんなことになってるんだ、内心で凄く焦りながらも原因を追求しようとした時、今度は俺のベッドが動いた。

 

「ひっ!? こ、今度は一体なんだよ!?」

 

 いつの間にここはお化け屋敷になったのだろうか。俺の絶対守護領域ではなかったのか。ビクビクしながらもベッドに近づき、誰からが寝込んでいるのを確認してしまう。不気味さが更に増したが、意を決して布団を捲り上げる。

 

「…………何だ、寝てたのは頼光さんか。驚かせるなよまったく……」

 

 ベッドに寝転がっていたのは、いつもの戦闘服を着たまま眠りに着いていた頼光さんだった。ということは、ここにある再臨素材の山は、彼女が鬼ヶ島から持ち帰ってきた物ということになる。そう思うと、申し訳ない気持ちになってきた。

 

「衣装や髪に乱れたところはないけど、人のベッドに入り込んで寝たってことは、相当疲れたんだろうな。こんな数の再臨素材も背負ってここまで来たのならそれも当然、か。本当に、無茶なことばっかしてるな。この人」

 

 俺が部屋に入っても無反応なところを見て、今回は今まで以上に疲れているのが伺える。ベッドを占領された俺はというと、寝る場所が備え付けのソファの上に毛布を持って寝転がる。何かを頑張っている人、それが自分なんかの為に努力して眠っている人を叩き起こすほど、俺は非人間じゃない。

 

「って、こんな思考回路してるからリップに怒られたんだよな。何とかして、切り替えないとだな」

「そうですね。その考え方は、母は余り好きではありません」

「分かってるよ。こんな考え方してるのは俺だけだーーーって、何やってるんですか。頼光さん」

 

 呆れて溜め息を漏らしながらも、俺の目の前にやってきた彼女に俺は呟いた。薄暗い消灯の中でもハッキリと見える彼女の黒い髪が俺の頬に触れる。俺が言うや否や、頼光さんはクスクスと笑った。

 

「いえ、マスターがソファで眠ろうとしているのが見えたので。母としては、そんなことはさせたくないのです」

「いや、頼光さんがぶっ倒れてたからそうしたんだけど。俺、悪くないよね?」

「はい、なので、お詫びにこうしてあげましょうと思いまして」

 

 ソファで寝ようとしていた俺の体が浮く。頼光さんに抱え上げられたのだと理解したと同時に、とても柔らかい感触が頬に触れた。オマケに、俺の頭が優しい手つきで撫でられる。

 

「………はぁ。膝枕してくれるのは嬉しいけど、そういうのは金時にしてあげてください」

「いえいえ。貴方も私にとっては大切な我が子のようなもの。それを慈しみ、愛でるのは母の仕事ですから♡」

 

 楽しそうな声を出しながら手を止めない頼光さん。比較的まだ会話が通じる人だったが、やっぱりこの人もバーサーカーだった。この人と一緒に生活してからもうすぐ一年が経つが、未だに距離感が掴めない。

 

「そういえば、マスターは何故私をぱーてぃーに編成してくださらないのですか? いえ、今回の鬼ヶ島では主力として置いてくださっているのですが、最近だと種火集めでしかお会いできないので……」

「あ〜………。え〜と、だな。それに答えても良いんだが、決して暴走しないって約束してくれるか?」

「はい。勿論ですとも。しかし、ちゃんと理由を説明してくださいましね?」

 

 急に後ろからとんでもない威圧感が襲うが、この程度の殺気や怒気など慣れたもの。なので、俺は思い切って本心を吐露してみる。一歩間違えばデットエンドルート間違いなしだが、ちゃんとした答えを出さないと引き下がってくれないと思ったからだ。

 

「その………。俺はな、バーサーカーってクラスが苦手なんだよ」

「…………………………………!?!?!?」

「ちょ、落ち着いて頼光さん! バーサーカーが苦手なだけで、頼光さんが嫌いってわけじゃないから!!」

 

 誤解を招くようなことを言った俺も悪いが、言葉一つでこんなにも取り乱す頼光さんも頼光さんだ。暴走のあまり超高速でなでなでされたが、仕方がないと割り切ろう。

 

「………続きを言っても、大丈夫ですか?」

「は、はい。先ほどは申し訳ございません。少々取り乱してしまいました」

「いや少々ってレベルじゃなかったような……。まあいい、で、俺がバーサーカーが苦手な理由なんだけどさ。単に俺の感性の問題なんだよ」

 

 頼光さんの膝枕が気持ちよくて、頭がぼーっとしてくるが、眠気を押さえ込んで言葉を紡ぐ。俺がバーサーカーをあまり使いたがらないのは、そのクラスが持つ能力にある。

 

「バーサーカーってさ。シールダーと一部のクラス以外に与えるダメージが1.5倍だろ?」

「ええ。私も、それと今回の特攻スキルと組み合わせて一撃で鬼を退治しております」

「そうそう。だけどさ。受けるダメージは2倍じゃん。だから、戦闘に出したら結構な頻度で序盤に倒れる。あれが苦手なんだよ。俺」

 

 誠に勝手な感性だが、俺はとにかくあれが苦手だ。今回でいえば頼光さんには申し訳ないと思っている。俺は、今回で入手したQPを惜しみなく使って彼女のスキルレベルを全て10にした。その理由だって彼女が出来る限り傷つかないよう、短期決戦に持ち込めるようにするためだ。

 

「特に、頼光さんには申し訳ないと思ってる。雑魚の相手も素材集めも。文句を何一つ言わずに付いてきてくれて敵を屠って。…………でも、最後にはやっぱり傷つけて。本当に、ごめんなさい」

 

 照明は落ちていて膝枕をされてるから顔は見えないが、それでも真摯に努めて謝罪する。こんなことを言っても何も思わないかもしれないが、良い機会だった。どんな反応をするかは想像できないが、首を切り落とされても問題ないと思っている。人理焼却を防いだ時点で、俺がいなくても問題ないのだから。なのにーーー

 

「……はぁ。何かと思えば、そのようなことを案じていらっしゃったのですか? やはり、貴方は優しい子ですね」

「はい………?」

 

 これからどうなるのだろう、と自分の身を案じていた俺に、さっきと同じように優しい手つきで俺の頭を撫でる頼光さん。この人は優しいから、こうでもしないと本音を言ってくれない思った。だけど、予想を裏切って頼光さんは丁寧に頭を撫で続けている。

 

「確かに、私は狂戦士。戦闘において先陣を切り、後に続く架け橋となる者です。ですが、その役割に不満を感じたことはありません。だって、私が戦うことで、貴方を護れるのですから」

 

 撫でる手を止め、膝の上に乗っていた俺を起き上がらせる頼光さん。その後、後ろから彼女が俺を抱きしめる。とてつもなく大きい二つの柔らかい物が当たるが、彼女はそれを気にせずに続ける。

 

「ですから、貴方も私達のことをあまり気にしないでください。貴方の悲しみは、ここにいるサーヴァントの悲しみでもあるのですからね?」

「…………………参った。あ〜クソ、やっぱ強いなぁ」

 

 頼光さんの本音を聞きたいと思ってたのに、俺の心情を理解して、その上気にしないでほしいと言われてしまった。なんだか、この間リップに言われたことをもう一回繰り返されている気分だ。申し訳なさが込み上がってくる。

 

「……分かった。んじゃ、これからは出来る限りパーティーに編成するから、よろしくな」

「はい! では、このままお眠りください。明日も早いですからね」

「いや、流石にソファに戻りた」

「このまま ここで 眠りましょうね?」

「アッハイ」

 

 このまま抱きついたまま眠るというのは俺の精神安定上によろしくなかったのだが、頼光さんの有無を言わせない圧力に屈してしまった。結局、金時が起こしに来てくれるまで俺は頼光さんの抱き枕になるのだった。

 

 

 

 

 

 




 というわけで、今回は何にも当たりませんでした。強いて書くなら『花より団子』が2枚当たった程度です。呼符は10枚。石は78個があるので、水着ガチャの準備は万端です!
 『地底伝承世界 アガルタ』は、実は十連と呼符を使ってしまいました……。だって仕方ないじゃん! 彼女に飴あげたくなるじゃん! ジャックとか茨木とかとパーティー組みたくなるじゃん!!←ギリギリネタバレにはならないはず………!!
 あ、それと夏はアガルタに加え、絶賛放送中の『Fate/Apocrypa』。その上FGO二周年記念イベントや『劇場版プリズマイリヤ』放映など。イベントが盛りだくさんですね! いやぁ、爆死する未来しか見えないなぁ!!



 ここまでの既読、ありがとうございました!感想、誤字脱字等の指摘はいつでもお待ちしておりますっ!
 次回もお楽しみに!!


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アガルタは胃痛ストーリーだった(真顔)

祝、デオン・ドレイク・ヘラクレスモーション変更!!
いやぁ、3人ともかっこよくなりましたよね!これであとは、デオンに宝具強化。ないしスキル強化クエストが実装されれば問題ナッシング!!期待してるぞ運営!!

二周年記念ということでシャーロック・ホームズがルーラーで登場し、石を110個もボーナスでくれる運営はいい運営。福袋も新規の人が来てくれましたし、これからのfgoも楽しみですね!!


さて、それでは本編を始めましょうか。今回は、アガルタの女ピックアップガチャ編です。亜種特異点組の真名バレしますので、ご了承のほどよろしくお願いします!


「そぉらそらァ! どうしたよ世界を救った英雄さんよォッ! さすがのテメェらもこいつには手も足も出ねぇってかァ!!」

「っ、自分の力もでないくせによく吠えやがるッ!」

 

 新たに発見された亜種特異点。新宿で確認され、その存在を散りばめてまで逃げ去った残り三柱の魔神。それらが作り出した亜種特異点を消滅させるべく、俺たちはこの地下世界。『伝承地底世界 アガルタ』にやってきた。

 ここまでの展開は省略させてもらうが、結構大変な戦いだった。ドレイク船長の皮を被った偽物。不夜城を拠点とし、誰もが正直であることを望んだ女帝。何故か巨大化して暴走するヘラクレス。そして、ギリシャの男英霊を憎むアマゾネスの女王。

 どれも。どれも壮絶な戦いだった。だが、それでも俺たちは諦める事なく、最後まで戦い続けた。ムカつくことに、目の前にいるクソ野郎と俺の思考回路は似ているのかもしれない。

 

ーーー生きていれば。諦めなければ。必ず報われる時が来る。自分の目指した場所に辿り着くことができる。そんな当たり前の、誰もが知っていることを。その思想と全く同じものを持っている俺は、もしかしたら、目の前の男と同じになるのではないかと。

 

 不覚にもそんなことを思ってしまった。俺がここまで来れたのも。俺がこうやって生きているのも。結局は『死にたくない』と願ったからに他ならない。けれど、そんな思想の果てにあんな男のようになるのだとしたら。俺は、いっそここで果てるべきなのではないかと。そんなことを考えてしまった。そして、それがきっかけとなり、俺に死の鉄槌が下される。

 

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーーーー!!!」

「ッ、マスター! 危険です! 逃げてください!!」

「子ウマ! 早く避けーーー」

 

 巨大化したヘラクレス。否、『巨英霊ヘラクレス(ヘラクレス・メガロス)』が咆哮と共にこちらに迫る。前線で戦っていたジャンヌとエリザベートを吹き飛ばしながら、酷く歪んだ体と武器をこちらに向かって振り下ろす。

 全身から赤黒い雷光が迸り、いつもの倍はあろうと思える巨体。それに加えて理不尽すぎるスピードに彼のみが持つ最強宝具ーーー今回は機能していないーーー『十二の試練(ゴッド・ハンド)』。そんな絶望的すぎる状況下の中、俺は思考が止まってしまった。自分の命が砕け散る一撃が迫っていると理解していても、体が動こうとしなかった。このまま、怪物と化した彼の一撃をその身に浴び、星の聖剣を納めた鞘も持っていない俺の命は、物語は終わりを迎えるーーーー

 

 

 

「研砥は、マスターは殺させないッ!!」

「うむ! やらせぬぞ大英雄ッ!!」

 

 

 

 ーーーはずだった。岩を、今となっては海をも割かねない『巨英霊ヘラクレス』の一撃が止まる。下に向けかけた視線を戻す。すると、そこにはーーー

 

「くっ、つーー!! 流石はヘラクレス! 二人掛かりで受け止めるのが精一杯かな!」

「弱音を吐くなブーディカ! 我らは、マスターを護るのであろうッ!」

「あんたに指図されたくないねッ!!」

 

 ーーーそこには、複数の車輪、それから赤と銀の二つの刃を持ってヘラクレスの一撃を防いでいる二人いる。人理焼却を防ぐ旅に出た当初から俺を支え、共に戦ってくれた大切な仲間にして戦友。ライダーのブーディカさんと、セイバーのネロ。生前、敵同士だった彼女たちが俺を護る為にその力を行使している。

 

「「はぁぁぁぁぁーーーーーー!!」」

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーーーー!?」

 

 一瞬だが、ヘラクレスの意表を突いた彼女たちの一撃が、5メートルはゆうにあるヘラクレスを弾き飛ばす。しかし、流石はギリシャ神話の誇る大英雄というべきか。すぐに体制を戻して襲いかかって来るその速さ、威力。まさに嵐の如し。けれど、ここにいるのは彼女たちだけではない。

 

「我が旗よ、我が同胞を守り給えーーーー『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!!」

「出雲に神あり。是自在にして禊の証。神宝宇迦之鏡也。『水天日光天照八野鎮石』ーーーー!!」

 

 紺色に包まれた服を纏う、長い金色の髪の女性。ジャンヌ・ダルクが旗を掲げる。彼女を中心として光の結界が広がり、ヘラクレスの凶刃とレジスタンスのライダー。真名、クリストファー・コロンブスの凶弾を全て防ぐ。

 直後、桃色の髪を二つに結った青い巫女服を着た女性。玉藻の前が札と鏡を使い、淡い光の鳥居を出現させ、足元に鏡を叩きつけて結界を作る。ジャンヌと玉藻が作り上げた二重の結界が俺たちを包み込み、傷ついた体が、消耗した魔力が回復する。

 

「ふぅ、何とか間に合いましたね」

「全くです! 間に合わなかったらどうなることかと思いましたよ! といいますか、ちょっと研砥さん。少しよろしいでしょうーーー」

 

 玉藻の言葉を遮るようにパシン、と甲高い音が響く。同時に頬がジンジンと痛くて熱くなる。そこまでされてようやく、俺は自分が叩かれたのだということに気づいた。そして叩いたのが、目の前にいるブーディカさんだということにも。

 

「え………ブーディカさ」

「ネロ公。思いっきりやっていいよ」

「うむ! ではそのように。………歯を食い縛るがよいッ!!」

 

 ブーディカさんが場所を譲り、ネロ小さい拳が俺の頬を思いっきり殴り飛ばす。体こそ小さいが相手はサーヴァント。ましてや全力で殴られて防御もできなかった俺は無様に吹っ飛ばされて、ジャンヌの作った結界の端までノーバウンドで叩きつけられた。

 

「がっ……。ちょ、一体何を」

「少しは目が覚めたか? 全く、あの様な男の言葉に乗せられよって。それでも余達のマスターか!!」

 

 目の前で思いっきり憤慨するネロ。今まで見た中でも一、二を競うレベルの怒り心頭っぷりに目を丸くするも、救いの手を差し伸べてくれるであろう他の仲間に視線を送る。だが、誰としてこちらを見る目は仕方がないと呆れている目か、ネロと同じくらい怒っている目だった。

 

「おいおい、俺と同じで奴隷を使ってたローマ皇帝様が何やってんだ? そいつと俺は同類だ。生きたいと願って最後まで足掻くろくでもねぇ」

「少し、黙りなよ」

 

 コロンブスの言葉をブーディカさんが遮る。いつもの優しい彼女の声ではなく、表情を怒りに染め、今まで感じたことのない密度の殺意を解き放っていた。

 

「確かに私たちのマスターは、研砥は生き汚い所があるよ。でも、それはあんたみたいな下衆な事を思ってのことじゃない。何の力も持たないからこそ、非力だからこそ怯え、死にたくないと必死なだけだ」

「はっ、んな綺麗事じゃ済まされてねぇんだよ。なら、何でカルデアのマスターやサーヴァントを連れずにここにいやがる? そりゃあお前、外で1000を超えるアマゾネスなんぞより、女王様と戦った方が楽に決まってるからじゃねぇか!」

 

 コロンブスの言い分にそれは違うと反論したかった。確かに、ここに狭間はいない。だが、それはあいつが勝手に引き受けたからだ。普段は俺がするべき裏方の仕事を、今回はあいつが請け負った。そして、それを良しとしたのは俺だ。

ーーーだが、確かにコロンブスの言う通りなのかもしれない。千を超える雑魚を相手にするより、強大な一の敵を倒す方が楽だと、心のどこかで思っていたのかもしれない。

 

 

「それによぉ、俺は知ってるんだぜぇ? テメェとそこの皇帝サマは蹂躙した、された側じゃねぇか! 絶対に相容れない二人が仲良く手を取り合ってるなんざ、俺には信じられねぇなぁ!!」

 

 気持ちの悪い顔で高笑いして、攻撃をしかけてくるコロンブス。拳銃に込められた銃弾をブーディカさんに放つ。飛び出した弾丸は三発。銃口を見るに全弾急所。回避は間に合わない、ジャンヌの結界も消滅した。弾丸が彼女の肉体を抉るーーー

 

「ーーーさっきから聞いていれば……五月蝿いんだよこの下衆がァ!!」

「なっーーーー!?」

 

 ーーー肉体を抉るはずだった弾丸は、彼女が激昂しながら振るわれた剣に叩き落とされる。さらに振るわれた先から斬撃が飛び出し、それは勢いを落とすことなくコロンブスに向かう。たが、コロンブスの言いなりになっているヘラクレスがその身を盾として主人を守る。誰もが見ても今が攻め入る好機。だが、誰もが口も足も動かせないでいた。そして、その視線はブーディカさんに向けられている。

 

「さっきから聞いてれば研砥もバカ皇帝を侮辱して! いい加減にしなよ、海賊風情がッ!」

 

 優しさに満ちていた緑色の瞳は大きく開かれ、彼女の美しく長い赤髪が炎の様に揺らめく。間違いなく幻だと思うが、心なしか彼女の姿も揺らめいている様な気がする。

 

「あぁ確かにそうさ! 私とネロ公は敵同士だ! けどね、それでも互いにとって大切な人がここにいる! 共に戦った一年もの時間があるッ! 何より、この馬鹿皇帝より気にくわない奴がいるッ! 共闘の理由なんて、それだけで十分だッ!!!」

 

 愛剣と白いマントを翻し、弾丸の如くブーディカさんが飛び出す。当然、主人であるコロンブスを守るべくヘラクレスが立ちはだかる。巨大な斧が彼女を両断するべく振るわれる。だが、そこで信じられないことが起こる。

 

「邪魔だ、大英雄ッ!!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーー!?!?」

 

 振るわれた斧に対し、突如現れた大量の車輪がその攻撃の身代わりとなる。直後、超高速でブーディカさんが剣を振るう。ヘラクレスの体に八つもの切り傷を加え、オマケにその体を足の裏で思いっきり蹴飛ばした(・・・・・)

 信じられないことに、あの『巨英霊ヘラクレス』の体がボールの様に吹き飛ばされ、壁に激突して地面に倒れ込んだ。そのことから、今の一撃で再起不能になるレベルのダメージを受けたことがうかがい知れる。だが、それを信じることができなかった。何故なら、相手はあのヘラクレスなのだ。今までの攻防でダメージが蓄積していたとはいえ、ブーディカさんがあのヘラクレスを一撃で沈めたことに理解が追いつかない。

 

「なっ、何だとォッ!? 馬鹿な!? あのメガロスだぞッ!? あの怪物をこんな負け犬女如きに」

「黙れと言ったのが、聞こえなかったのかッ!!」

「ぐぅぉっ!?」

 

 驚愕の余り隙を見せたコロンブスの顔面に、ブーディカさんの容赦のない鉄拳が突き刺さる。彼もまた壁にぶち当たるまでノーバウンドで吹き飛ばされ、壁に体の跡をくっきりと残した。

 

「お前は今、私にしてはならない事を三つ犯した。一つ! 私の目の前で研砥を、大切なマスターを侮辱したァッ!!!」

「がはッ!?」

 

 床が割れるほどの力を込めて飛び出し、コロンブスの体を更に殴り飛ばすブーディカさん。更にその胸ぐらを掴んで叫ぶ。

 

「二つ! そこの馬鹿皇帝を侮辱したッ! そいつを侮辱していいのはッ! 怒っていいのはッ! 私だけだァッ!!」

 

 いつの間にか剣を鞘に仕舞い、両腕を使ってコロンブスをサンドバックの様に殴り、殴り、ひたすら殴り続ける。さながら殴殺刑とでも言うべき連撃がコロンブスに叩き込まれる。だご、それでもまだ怒りが収まらないのか、再び自分より大きい男の体を軽々と持ち上げる。

 

「そして三つ!! 私の祖国を! ブリタニアが蹂躙されたことを嗤ったァッ!」

「が…………がはぁ…………」

 

 持ち上げた体を放り投げ、愛剣を居合い斬りの様に抜刀し、コロンブスの胴体を切り刻む。あまりの威力に体が再び吹き飛ばされ、壁に叩きつけれる。そこまでしてもまだ怒り狂っているのか、怒りに満ちた双眸と剣先をコロンブスに突きつけながら叫んだ。

 

「立ちなさいよド三流!! 私たちと貴様との、格の違いってやつを見せてあげるッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『立ちなさいよド三流!! 私たちと貴様との、格の違いってやつを見せてあげるッ!!!」』

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! お願いだからその記録消してぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 アガルタでの出来事を記録した映像ファイルを再生され、ブーディカさんが悲痛な叫びを上げる。それを見てニヤニヤと意地悪く笑うネロと、キャーキャーと叫ぶジャックやナーサリー。絶望しきった顔でその場で倒れこむ彼女の肩を叩くアルトリア・リリィ。色々とカオスな状況が俺のマイルームに現れていた。

 

「いやぁ、まさかブーディカがあそこまで怒りに囚われるとはな。いつぞやのマンションの時みたく、バーサーカも待った無しの凄い顔であったぞ!」

「ああ! でも、最終的には俺たちを思って戦ってくれたんだよな〜。ほら、この戦いのラストとかタイミングバッチリでーー」

「いいからッ! もう再生しなくてもいいでしょッ!? 早く! 消して! お願いッ!!」

「「だ・が・こ・と・わ・るッ!!」」

「うわぁぁぁぁぁ!! 研砥とネロ公のイジワルーーーー!!!」

 

 ここでも、普段の彼女では決して見られないレベルの珍しいことを言い出すブーディカさん。いつもは俺たちを彼女の持つ圧倒的な母性で包み込むのだが、今回は逆にあやされてしまっている。こういった彼女も悪くない、と勝手に頷いてしまっている自分がいた。

 

「それにしても、今回は色々と酷かったな。アガルタでの出来事もそうだったが、何より研砥に対して無礼を働いた女どもに対し、怒り狂った頼光とBBが恐ろしかった………」

「頼光さんはまだ分かるけど、BBなんてあれだぞ。『センパイをペット扱いしていいのは私だけなんです!!』っていう、変な理由だからなぁ。………恐ろしかった。『C.C.C(カースド・キューピット・クレンザー)』からのアーツクリティカル二連打。瞬間的にNPが溜まって即宝具。ってループコンボしてたからな……」

「キャス狐の宝具とも相性が良いしな。いやはや、まこと恐ろしき連携攻撃だった……」

 

 互いに恐ろしかったを連呼するくらいに恐ろしかった。こう、あれだ。ダユーとか武則天とかもう瞬殺でかつ無傷の勝利だったからな。やっぱり、配布サーヴァントで『自己改造EX』持ちはチートなのだと改めて理解した戦いだった。ヘラクレス? 『真名裁決』と『黄金の盃』で無力化しましたあげく、ブーディカさんが引導を渡しましたが?

 

「それでも、最後のあれは頭がおかしいって。まさかロボ単騎もどきをすることになるとは思わなかった」

「メドューサにも感謝を言わねばな。あやつの『魔眼A+』(スキルレベル10)がなければきつかった戦いは多かった………」

 

 とんでもないネタバレになるが、アガルタの特異点を作った魔神柱はとんでも強さを誇っていた。本当に死に損ないの魔神柱かと疑うほどにだ。『明治維新』や『SE.RA.PE』の時とは比べ物にならないレベル。というか、今回に限って性能がおかしかった。なんだよルーラーって。ロボがいなかったらマジで詰んでたぞゴラ。

 

「何はともあれ、今回も無事に亜種特異点の攻略も済んだな。それで、ガチャは回すのか?」

「一応、十連を一回だけな。ストーリー終わったら一回は回すって決めてるからな」

 

 マイルームにあるテレビから今回の記録が入ったディスクを取り出し、保管庫から聖晶石を30と少しだけ取り出してから、いつものように黒い外套を羽織る。ガチャを回しに行くことを伝えると、一部のサーヴァントはダウンしているブーディカさんを慰めるために残ると言われ、俺はそれに苦笑しながら部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけでガチャを回しに来たわけですが。何で先回りしてんだギル」

「別に良かろう。貴様がガチャを回す未来が見えたから末路を見届けにきただけだ」

「それって祝福しに来たの? それとも笑いに来たの?」

「さてな、回せば自ずと分かるだろうさ」

 

 マイルームから召喚場に直行すると、そこには既に先客がいた。燃えるような赤い瞳に、絹のように美しい金色の髪。ウルクの王にして人を導く全てを視た王。賢王ギルガメッシュだ。ちなみに、おまけで茨木童子までいた。この組み合わせは少し珍しい。

 

「ギルはまだ分かるけど、何で茨木までいるんだ? 普段は酒呑にくっついてるじゃないか」

「かかか。酒呑とていつも暇ではないのでな。今日は別行動を取っているだけよ」

「と言っておるが、本当は酒呑童子と頼光の戦いから逃げて来ただけだ。その途中で偶々拾ったに過ぎん。捨て置け」

「なっ、貴様それでも元吾のマスターかっ!? あまりにも酷くはないかははう、賢王!」

「…おい、これで何度目だ小鬼。俺は貴様の母ではないし、言うのなら父であろう。それにだ、貴様が我が財を狙ったことも、ウルクを護る戦いに参加しなかったこと。我は許したつもりはないぞ………!!」

 

 高笑いをしながら言う茨木のセリフをギルが両断。堪らずその場で崩れ落ちる茨木だが、さらに追い討ちに殺意と粘土板を開くギル。茨木の背中から飛び出る炎の勢いが弱くなるところを見る限り、本当に気落ちしているようだ。

 全面的に茨木が悪いが、ここで暴れられても困る。仕方がないが、茨木に助け舟を出すとしよう。

 

「ギル。悪いけどそこまでだ。どうせ暴れるならレイシフトしてくれ。ここで暴れられるのは困る」

「……仕方がないな。此度は特別に見逃してやる。だが、次はないぞ」

 

 鼻を鳴らしながら粘土板を閉じるギル。やっぱり、アーチャーの時より人の話を聞くようになってくれている。俺がよく一緒に行動しているというのも理由になると思うのだが、最近は特に優しい。やっぱり、絆レベルが7後半にまで来るとちゃんとした信頼関係が築けるものだ。

 

 

「よし、それじゃガチャを回しますか。誰がきてくれるかな……?」

「ああ。それでは全身全霊の力を込めて回すが良い。その末路、この我が見届けてやろう」

「いや、今回はそこまで力込めるつもりもないんだけどな……」

 

 千里眼、魔術世界において最高峰の『眼』を持つギルの瞳は未来を見通す能力がある。そんな彼がわざわざ俺の未来を見通してまでここに来てくれたのだ。一体何が出たのだろうと気になるが、とりあえず三十個の石をサークルに放り投げる。

 

「えーと………、初めからから『千年黄金樹』と『死霊魔術』が出て来たんだが。これってもう高レア来ないんじゃね……? いや、シェヘラザードが来たらぶん殴るってでも座に返すけどさ……」

「…ふと思ったのだが、研砥が嫌うサーヴァントはキャスターが多くはないか?」

「仕方があるまい。我もあの女は好かん。対王宝具なんぞを持っている時点で王に対する不敬よ。加えて、彼奴がしてしまったことを鑑みれば、研砥があの女を嫌うのも無理はあるまい」

 

 何やら外野が騒がしいが、とりあえず無心でサークルを凝視する。あんまり来て欲しい人はいないが、今回のピックアップで強いて言うなら不夜城のアサシンか、エルドラドのバーサーカーが来て欲しいところだ。

 ところで、新宿のアーチャーことジェームズ・モリアーティーは期間限定サーヴァントなのに、なんでシェヘラザードは期間限定じゃないんだろうな。

 

「む、おいマスター。 何やら輪が金色に光っておるぞ」

「はっはっは! まっさか〜。そんなことあるわけないだろってマジで光ってる〜〜!? 嘘だろお前!? 何で今光るんだよ!? どうせ光るなら鬼ヶ島で光れよ!」

 

 久しぶりに行う十連ガチャ。ここ最近は単発しか高レアサーヴァントの召喚に成功していなかったが、まさか十連召喚で呼び出すことができるとは。これは少し嬉しいぞ。

 

「それも金色のセイバーだな。ふむ、またもや物欲センサーが働いたか。やはり研砥のガチャ運は振り幅が大きいな」

「嫌なこと言わないでくれます!? むむむ、ここで来るならやっぱりジークさんかな。ブーディカさんのマスター的にはそろそろアルトリアさんに来て欲しい………!?」

 

 誰もが固唾を飲んで召喚されるサーヴァントの登場を待つ。数秒後、遂に光を伴いながら現界が始まる。

 

 

 

「私はシュヴァリエ・デオン。フランス王家と君を護る。白百合の騎士!」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

「…………うむ。強く生きろ、マスター」

 

 青い帽子に騎士の服装に身を包んだ女顔のセイバー。今は髪が短いが後にロングヘアになるオプション付き。加えてブーディカさんとよく似た声。ここでは遂に6回目の登場となる、デオンくんちゃんだった。

 

「AAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

「おわぁっ!? マスターがバーサーカーになったぞ!?」

「いかん! あまりにも新しいサーヴァントがきてくれないせいで研砥が暴走しておる! 早く何とかしなければ!!」

「何とかってどうすれば良いのだ!? とりあえず殴れば良いのか!?」

「それは一番ダメなやつだ!」

 

 いつ新しい人が来ても大丈夫なように貯め続けた黄金に輝く種火。その数は保管庫に入れても遂に溢れ出し400個にまで増加した。そう、新しい人が来てくれたらすぐにレベルをカンストにすることができるようにという、俺の準備だったのだ。

 それがどうだ。出てくるのは礼装と既存のサーヴァントのみ。いや、この間は新規の星5サーヴァントが二人も来てくれたがそれは置いておくとして。こうも物欲センサーが働くとバーサーカーになるのもやむを得ないだろう。というか、同じ星4サーヴァント6人目って人生で初なんだが。そこまでガーチャーというわけでもないのに何故こんなことに……。

 

「くっそ! こうなったら自棄だ! もっかい10連回してやるぅぅぅぅぅ!!」

「うわぁぁぁ! やめんか研砥! それは水着キャス狐のためにとっておくのであろう!?」

「今が! ガチャを! 回す! 時!!」

「もうやだ余のマスター!!」

 

 必死に抑え込んでくるネロたちを引き剥がそうとするも、さすがはサーヴァント。圧倒的な筋力値で俺の動きを制してくる。ちなみにギルはそんな俺のことを少し離れたところで笑っていた。いや、あれは『笑う』より『嗤う』というのが正しいか。おのれこの愉悦部めっ!! 後で麻婆豆腐でも食わせてやるっ!!

 

「不敬(怒)」

「どわぁぁ!? い、いきなり何するんだよ!?」

「戯け、貴様が我によからぬことを企んでいることなど『眼』を使わずとも分かるわ愚か者。その無礼、ここで正してやっても構わんぞ?」

 

 魔杖を『王の財宝』の中から取り出し、こちらに照準を合わせるギル。まさかここまで真面目にキレるとは思わなかったので、正直なところ申し訳ない気持ちが半分、どんだけ麻婆食べたくないんだよともう半分で呆れていた。

 ギルの目が据わっていることに気づいてくれたのか、側にいたネロが『原初の火』を取り出す。一触即発の状況の中、互いがどう動くのか。それを見極めていた時。俺は目の前で信じられないことが起こり始めた。

 ギルの攻撃を躱すのに必死だったせいで開いてしまった聖晶石の箱から、ちょうど三つの石が転がってーーーーサークルに吸い込まれていくのを。

 

「あ、ああああーーーー!? い、石が! 俺の石がぁ!?」

「なぬっ!? 石が勝手にサークルに入ってシステムが起動しただと!?」

 

 この展開はギルも視ていなかったのか、驚きのあまり目を丸くして蔵の門を閉じた。偶々とはいえ、一度起動してしまったシステムは止まることはない。何故か発生してしまった最後のガチャに誰もが視線を向ける。

 

ーーーそして、サークルの中に出現したカード。それは、金色に輝く狂戦士が描かれていた。眩い光と共に現界が始まる。短くて青白い髪。少々露出の多い服を着込み、刺々しい鉄球に繋がれた鎖を持つ女性。

 

 

 

 

「バーサーカー・ペンテシレイアだ。先に言っておくが、アキレウスがいるのなら出せ。隠し立てすると殺す」

 

 

 

 

 『エルドラドのバーサーカー』改め、アマゾネスの女王『ペンテシレイア』が、明確な殺意を持ってこちらを睨んでいた。召喚に応じてもらった以上、彼女は俺の仲間だ。だが、ギリシア神話系サーヴァントの反応を感覚で察知したのか、最初から不機嫌そうにしていた。一瞬、その殺気に気圧されたが、すぐに気を取り直して彼女に向き合う。

 

「あ〜……。残念だけどアキレウスはいない。ギリシア神話系のサーヴァントなら他の人たちがいるけど…」

「ほう? 一体誰がいる。味方とはいえアキレウスの同郷の者だ。まずは手合わせに向かうとしよう」

 

 心から楽しそうに笑うペンテシレイア。だが、彼女の笑みは楽しそうに笑ってはいるが目が笑っていない。間違いなく、出合い頭に殺し合いが始まるに違いない。

 

「ゴルゴーン三姉妹と、大英雄ヘラクレス」

「ヘラクレスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 メドゥーサさん達までは良かったが、ヘラクレスの名前を呼ぶと同時にこちらに襲いかかるペンテシレイア。一瞬で狂化状態に陥った彼女の拳が、容赦なく俺へと迫る。瞬間的な速力ではここにいるサーヴァント達でも上位に食い込む一撃。だが、俺はそれ以上に疾い人たちと共に過ごしてきた。加えて、狂化状態特有の精細に欠いた一撃など怖くもない。………訂正、流石にヘラクレスの攻撃は怖い。

 顔面に迫った一撃を、首を少し動かすだけで躱す。ただの人間がサーヴァントの一撃を躱したことに驚いたペンテシレイアが、動揺のあまり動きが一瞬止まる。その明確な隙を突いて彼の名を呼ぶ。

 

「ギル!」

「伏して悔いよ、『天の鎖(エルキドゥ)』!!

 

 ギルが叫びながら自身の蔵を開く。中から現れた複数の鎖がペンテシレイアを絡め取り、その動きを完全に封じる。ギルの唯一の親友の名が付けられた鎖、『天の鎖(エルキドゥ)』はとてつもなく頑丈な鎖であり、神性が高い者には更に強く絡まり、その力を奪うという粛清宝具。以前戦ったことがあるペンテシレイアには、『神性』のスキルを持っていることは知っている。あの時はギルが居なかったから使えなかったが、今回は居てくれて助かった。

 

「ふぅぅぅぅ!! うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「………これはダメだな。完全に狂化が入っちまってる。ギル、悪いけどこのまま縛っていてくれ」

「仕方があるまい。後で贋作者(フェイカー)の茶菓子を用意しておけ。それを此度の労働の報奨として要求する」

「ありがたきお言葉。………それじゃ、また後で。行くぞ、ネロ、茨木」

「うむ。では、またな賢王」

「気をつけろよ。いつその鎖が千切れるともわから」

「我の友を甘く見るな小鬼。貴様も一緒に縛ってくれようか?」

 

 いらぬ心配だと言わんばかりに殺気をぶつけてくるギル。その気にやられたのか。茨木が物凄い勢いで逃げ出した。ギルの地雷を的確に踏み抜いていく茨木に感動しながら、俺は召喚場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜残された召喚場にて〜〜〜

 

「どうだ。少しは落ち着いたように見えるが。ああ、別に貴様は何も言わなくて良い。そのまま鎖に繋がれておけ」

「……………………………」

 

 研砥たちが居なくなって既に数十分。既にペンテシレイアの狂化は解除されていたが、ギルガメッシュは『天の鎖』による拘束を解いてはいなかった。それが何故なのかは理解できなかったが、少なくともペンテシレイアをいたぶろうとしないところを見る限り、彼が怒っていないのが分かる。

 

「…………何故、狂化されていない貴様を未だ縛り続けるか。理由がわかるか?」

「私が危険だからであろう。当然だ、私はバーサーカー。いつマスターを殺すか気がきてならんのだろう?」

 

 ペンテシレイアが吐き捨てるように言う。鎖に繋がれた無力化されているのが余計に腹ただしいのか、拘束が解ければいつでも殺しにかかるような手負いの獣如き視線でギルガメッシュを睨みつける。だが、彼はそれを退屈だと言わんばかりにため息を漏らした。

 

「戯け。貴様がバーサーカーであるなどという理由で縛り付けていたら、鎖がいくらあっても足らぬわ。バーサーカーでなくとも、マスターを平気で殺そうとする者も少なくないからな」

「………何だ、それは。私より狂ってはいないか」

「おうとも。そも、マスターが気に食わなくて殺したくサーヴァントなぞ多い。マスターからすれば、『自分を殺そうとしているサーヴァントが一人増えた』。程度の認識だろうさ」

 

 笑いながら呟くギルガメッシュの言葉に、ペンテシレイアが信じられないと目を開いて驚く。自分のマスターを殺そうとするサーヴァント。確かに、彼女のように気に食わなければすぐ殺そうとする英霊はいるだろう。それでも、そうしようとしたサーヴァントを受け入れるなど、並大抵の精神ではできないことだ。

 

「我らのマスター……研砥はな。魔術も存在しない世界、いわゆる並行世界の住人というやつだった。戦を知らず、無力で無知な凡夫として人生を謳歌していたある時、此度の騒動に巻き込まれた。今でこそ人理焼却を防いだ英雄、その片割れとして評されてはいるがな。あやつも戦い始めた頃は酷い者だったぞ? 何度も挫折し、何度も絶望し、何度も死の恐怖を味合わされ。敵の策に溺れ一度は悪夢に苛まれた」

 

 懐かしむように瞼を閉じ、淡々と語るギルガメッシュ。ありがちでつまらない物語だったかもしれない。けれど、それでも。その闘争の果てに得た今という未来は。尊い物だと彼は語った。

 

「『無力な自分に代わって、戦う力としてお前たちの力を貸して欲しい』……。まこと奇妙な人間よ。サーヴァントなぞ使い魔だと扱っている者が多い中、あの大馬鹿者は我らを仲間と。それも自分より上の存在だと扱っておるのだ。………それに反比例するかの如く、自分の事は過小評価しているがな」

 

 優しく笑いながら、ギルガメッシュは蔵の門を開く。その中から黄金に輝く盃と容器を取り出し、自分とペンテシレイアの間に置いた。

 

「さて………。我がマスターの大体の説明は終えた。次は貴様の番だ、ペンテシレイア。貴様の英霊としての格、ここで我に聞かせてみせよ」

 

 酒盛りの準備を整えた後、ギルガメッシュは指を鳴らす。直後、ペンテシレイアを縛っていた『天の鎖』が消える。自由になった手足をさすりながら、目の前で酒を飲むギルガメッシュを睨みつける。

 

「貴様、さっきから何がしたいのだ。私の動き封じたかと思えば、次は晩酌の相手をしろと?」

「はっ、貴様如きに王の相手が務まるものか。俺はただ、貴様という英霊の『格』を見たいだけだ。曲がりなりにも俺と同じ『王』を名乗っているのだ。生前の貴様の人生、我の酒の肴として献上するが良い」

 

 愉快そうに笑いながら、ギルガメッシュは酒を飲む。そのことに少し逡巡するように眉を寄せるペンテシレイアだったが、溜め息を吐いて自分の酒を飲み干した。

 

「よかろう。では、語ってやる。このアマゾネス女王、ペンテシレイアの生涯をな」

「ふっ、まぁ精々我を楽しませろ。内容にもよるが、愉快であれば褒美をくれてやる」

 

 アマゾネスの女王とウルクの王。全く縁のない二人の『王』の酒盛りが、ここに始まった。静かだが、とても楽しそうな笑い声が召喚場にから響いていた。

 




というわけで、今回はエルドラドのバーサーカーこと、『ペンテシレイア』さんが来てくれました!ありがとうっ!!
来てくれてから残っていた種火を早速注ぎ込んで使って見たんですが、もう攻撃モーションが過激っすね。いやぁ、荒々しい言いますかかっこいいと言いますか……。

今回のオマケ、実はブーディカさんを予定していたのです。予定していたんですが、急遽予定を変更して賢王が相手になってしましました。マイルームのサーヴァント、ランダムにしてるのに一日に一回は部屋に入って来るんですよ王様。

あと、個人的な感想なんですが、多分ブーディカさんがバーサーカー、ないしアヴェンジャーになったらペンテシレイアみたいになると思うんですよ。あくまで、個人的な感想ですが。理想的すぎるバーサーカークィーンで内心焦ってます。

さて、次回はファン待望の水着ガチャですね。次回、黒鋼君こと私は無事、去年のリベンジはできるのかっ!やっぱり物欲センサーが妨害しに来るのか!
次回、『(水着サーヴァントが当たるなどという)理想を抱いて溺死しろっ!!』でお会いましましょう!!
↑嘘です。


ここまでの読了、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!!


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無人島と大英雄と優しい彼女

今回は、皆さんが待ちに待った水着イベント復刻版!去年、虹演出で槍玉藻が来てくれたと思ったら、実はジャンヌが来てしまった私は、無事に槍玉藻を引けたのか!というかサモさんが可愛くて強いので欲しいんですけど!?

さて、前書きが長くなってしまいましたが、本編をどうぞっ!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏だーーー!!」

「海だーーーー!!」

「かいたくでーーーーす!!」

 

 元気よく青く美しい海ではしゃぐ三人の少女たち。うちの可愛い三人娘、アサシン、ジャック・ザ・リッパー。キャスター、ナーサリーライム。ランサー、ジャンヌ・オルタ・リリィ(略)。それぞれが、自分とよくあった水着を着て浜辺で戯れる様子は、俺の荒んだ心を洗い流していく。全て遠き理想郷(アヴァロン)はここにあったのだと呟きたくなるが、それをするとまた俺がロリコン扱いされるので、心の内にしまっておくことにする。さて、それでは俺が何をしているかというとだなーーー

 

「暑い………溶ける………灰に、なるぅ………」

「大丈夫………なわけないよな。ほら、これでも飲みな」

 

 スカサハ(殺)さんに走り込みの訓練を強制的に参加させられ、体力が尽きてその場で倒れ込んでいた。燦々と輝く太陽の直射日光を一身に浴び、暑い砂の上で這いつくばっていた俺に、アーラシュがさりげなく冷たい水を提供してくれる。ペットボトルに入っていたお茶を一気飲みし、勢いよく立ち上がる。

 

「いよっしゃァッ!! 水分補給完了ッ!!」

「うぉっ、一気に元気になったな! さっきまで『心を失くした者』も真っ青なゾンビっぷりだったのに」

「ちょっと待て、それってさっきまでの俺がゾンビだって言いたいのかアーラシュ」

 

 俺の質問に口笛を吹いて無視するアーラシュ。普段はお世話になっていて頼れる兄貴分なんだが、ある日の贋作英霊イベントのように、そこらにいるお兄さん系の人として接してくるから少し苦手だ。どうしようもないことなんだが、一人っ子だった俺にはあまり理解できない。

 

「あ〜……。そういやアーラシュ。いつも周回に付き合ってもらっちゃって悪いな。その………毎度の如く爆発四散させちゃって……」

「おいおい、謝んなよマスター。お前が普段、どんだけ忙しいのかってのは俺も知ってる。少しでもお前を休ませてやりたいから、俺は宝具を使ってるんだ。礼を言われこそすれ、謝って欲しくはないぜ?」

 

 頭を下げようとした俺に手を当て、少し怒った表情を浮かべるアーラシュ。たとえ本人に止められようと、一度は謝らないと思っていた俺に、アーラシュが一枚のカードを差し出した。

 概念礼装『聖なる献身』。アーラシュの力を最大限に発揮する、彼のみが扱える意味通りワンオフ礼装。自身が消滅するときにその力を解放させる概念礼装。

 

「もし、本当に俺のことを思ってるんなら。また一緒にクエストに行こうぜ? な? マスター?」

「……………どうして、俺のところにこんな良い人が集まるんだろうなぁ」

 

 独り言のようにため息と共に吐き出しながら、俺はカードを受け取る。保管庫にカードを転送した後、真っ直ぐアーラシュを見つめる。

 

「ああ。悪いが、これからも俺に力を貸してくれ。アーラシュ」

「任せな! 俺はアーラシュ・カマンガー! 戦いを終わらせる英雄だからな!!」

 

 いつものように、頼れるかっこいい笑顔と共に、アーラシュは俺の手を握る。これから先も、共に戦い続けようと願いと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーラシュと新たに絆を育んだ後、俺たちはクー・フーリンが経営している海の家に向かうことにした。今回の無人島生活は、前回の焼き直しみたいなものだ。なので、事前に準備していた兄貴が普段は使わないルーン魔術を駆使し、僅か一日でこの無駄に立派な店を建築してみせた。流石はスカサハ師匠直伝のルーン魔術。以前、ここで建てた武家屋敷にも勝るとも劣らない完成度を誇っている。

 中を少し覗いてみたが、アンデルセンやシェイクスピアといった非戦闘系のサーヴァントたちが、エアコン完備のこの店で酒を飲んでいた。ここにいる間は休みだと通告してからというもの、この怠け切った生活を送っている。正直注意するべきだとは思ったが、いつもバフ要員として働いていくれている。今だけはその怠けた生活を見て見ぬふりをしておこう。

 

「お〜い兄貴〜。かき氷と焼きそば一つ頼むわ」

「はいよー! おいテメェら! テキパキ動きやがれ! オーダー溜まってんぞッ!!」

「うはははは!! それはこの海の家に入る人数を超えてるからなのだな! 駄菓子菓子、それでも頼まれたオーダーを果たすのがキャットの美点。良かろう! 此処より本当の酒池肉林をお見せするとしよう! なので、報酬には金色に輝くネコ缶を要求するのだワン!」

 

 テイクアウト用の注文を店主の兄貴に言ってから、厨房で忙しなく働いている二人を見て申し訳なさが出てくる。忙しい時は俺も手伝っているのだが、今回に限っては手伝うなと他の皆にも言われたので、俺はこの無人島生活を満喫しまくっている。ぶっちゃけると凄く楽で幸せだが、目の前で仲間が働いているのに、一応マスターである俺が働かないのは如何なものか。そんなことを、休みを謳歌してから三日経った頃あたりから思い始めていたりする。

 

「はいマスター。こちら、注文されていたかき氷と焼きそばでございます。ゆっくりしていってくださいね?」

「ああ、ありがとな玉藻さん。今日もお疲れ様。ところで、やっぱり俺も何か手伝わせて」

「だ・め・で・す♡ 日頃から溜まりに溜まっているストレスや疲れもございましょう? せめて、この無人島生活を送っている間だけでも休んでもらいたいと皆で決定したのですから、どうか大船に、いえ天翔ける王の御座(ヴィマーナ)に乗ったつもりでお任せください♡」

 

 俺の頭を軽く撫でながら、玉藻さんはホールの仕事に戻っていった。いつもの巫女服の袖を短くし、髪型をポニーテールしているその後ろ姿はとても魅力的で、少し見惚れてしまっていた。これはいかん、いかに無人島生活だったとしても、自分の使役しているサーヴァントに欲情することなどあってはならない。ケルトを思い出せ。職場恋愛、ダメ、ゼッタイ!!

 ともかく、玉藻さんのノースリーブ和服美人っぷりに見惚れながらも、溶けないうちにかき氷を食べるべくスプーンで氷を掬う。だが、スプーンは何も触れずに空を切った。疑問に思った俺は容器を見つめると、既に中身がなくなっている。そして、目の前で美味しそうに俺の物だったかき氷を食べる子供を見て、溜め息を吐く。

 

「………なに俺のかき氷勝手に食べてんだクロエ。食いたいなら自分のを注文しろ」

「別に良いじゃない。また新しいのを注文すれば」

「新しいのを買っても、今あったかき氷は帰ってこないんだよ……!」

「え〜。じゃあ、まだ氷が残ってるから食べてみる? ひんやりして美味しいわよ? 私のお・く」

「すいませぇぇぇぇぇん!! かき氷の抹茶シロップ一つお願いしますッッ!!!」

 

 突然18禁になりそうなことを言い出した褐色ロリッ娘の言葉を塞ぐべく、つい大声でオーダーしてしまう。厨房の方で兄貴が大笑いしているのを聞こえたので少々恥ずかしい思いをしてしまった。だが、この後のことを思えば何にも問題はない。QPは少し減ったけど。

 

「ちっ、やっぱり、そう簡単に魔力供給させてくれないわね」

「させるわけねぇだろ!! んなことされてみろ、今度こそ俺のロリコン説が完成しちまうだろうが! 何なの、そんなに俺を困らせたいのかお前!!」

「どうどう、落ち着けよマスター。ほら、俺の焼きそば分けてやるから。な?」

 

 愉快そうに笑いながら、自分の焼きそばを提供してくれるアーラシュの優しさが身に染みる。ほんと、どうしてこんな良い人なのにレアリティが最低の1なんだろうか。気遣い、スペック、人徳。全てにおいてハイスペックなサーヴァントなのに。

 

「そういや、お前はキリツグさんやアイリさんと一緒にいなくていいのか? 並行世界の住人とはいえ、元を辿れば家族だろう?」

「いや……、そうしたいのは山々なんだけど。ちょっと、あの空気には入れなくてね……」

 

 疲れているOLのように肩を落としながら、クロエはジャックたちが居るところとは別の海岸に指を指した。指された先にある姿を見たとき、心の中でクロエに同情した。

 

「どうした、もう終わりかね私。なら、貴様はそこで這いつくばっているといい」

「はっ、たかが3匹リードしただけでよくほざく。今のうちに慢心していろ。すぐに追いついてやる………!」

「貴様の方こそ、私について来れるかフィィィィィィィシュッ!!」

 

 エミヤとそのもう一人のエミヤ、所謂オルタ化したエミヤの二人が、海岸で全力で釣り対決を行なっていた。それも、二人とも尋常じゃない速度で魚を釣り上げてバケツに放り込んでいる。というか、もはやバケツを見ずに放り込んでいる。何してんだあの弓兵どもは。

 

「いや、人には色んな趣味があるとは思うけど。あれは正直言ってないわ。うん、あれはない」

「ま、まぁ釣りは男が通る楽しみにの一つみたいなもんだからしょうがねぇさ。あ、また一匹釣り上げてる」

「あいつらもう弓兵(アーチャー)じゃなくて、釣師(フィッシャー)でいいんじゃねぇか……?」

 

 三者三様の感想を言い合った後、俺は新しいかき氷を口に頬張る。うむ、やっぱり暑い時には冷たい物が一番だ。かき氷ならシロップが、アイスクリームならバニラが一番だと俺は信じている。

 

「さて、と。とりあえず昼飯も食ったし、そろそろ召喚場に向かうとしますかね」

「あ〜、やっぱり今回も回しちゃうのね。でも、あんまりおすすめしないわよ? 誰も新しい衣装に着替えてないし、ていうか前回もしたっていう無人島生活の焼き直しでしょこれ?」

「色々とメタいことを言うなお前……。でもまぁ、去年のリベンジはしないといけないからな。今度こそ水着の玉藻さんを……!!」

「駄目だな。これはもうガチャ回すまで止まらねぇぞ。………念のため、ブーディカの姐さんでも呼んでおくか………」

 

 ジト目でこっちを見てくるクロエの視線を振り切り、俺はここに建てた拠点。武家屋敷へと向かう。今回も全然通信が通じないため、わざわざ建築した施設に召喚サークルを設置したのだ。さて、今回の無人島生活の為に貯め込んだ150個もの石。これだけあれば高レアサーヴァントの一人くらいは来てくれるよネ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ふざけるなっ!! ふざけるなぁっ!! バカヤロォォォォォォォォォォォォ!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「………………………凄まじい爆死っぷりよね。あそこまで行けば、いっそ清々しさまで感じるわ」

「はっはっはっはー!! いやぁ相変わらずひどい結果だねぇ。うむ、目の前で誰かが困っているのを見ると、飲む酒の量も増えちゃうネ!」

「おう後で覚悟しろよこの完全犯罪者! テメェを滝に叩き込んで超エキサイティングしてやるからなァ!」

 

 10連召喚を行ってから今ので3回目。合計30回にも渡る回数の召喚を行なっているが、結果は報われていない。そもそも、本当にピックアップはされているのかと疑問に思うレベルの成功率の低さだ。今回の為に鬼ヶ島やら女神ピックアップもできる限り我慢して来たというのに、ここに来ての爆死っぷりである。

 召喚された無人島生活を楽にするための礼装は少なく、召喚されたサーヴァントも全員宝具レベルがカンストしている人たちばかりだ。それならば高レア礼装はどうなってるんだと聞かれたら、『聖女の依代』という礼装が4枚まで集まって程度だ。あれ、これまたジャンヌに邪魔されてね?

 

「またしても………またしても俺の邪魔をするのかっ!! 絶対に許さねぇぞ! ブツヨク・センサァァァァァァァァァァァッ!!」

「あ〜もう、遂に泣き出し始めたわよ? 仕方ないわね。ほら、地面に何度も頭突きしないの。頭から血が出ても知らないわよ?」

 

 悔しさのあまり立ってその場に崩れ落ちてを繰り返していると、結局付いて来たクロエがよしよしと頭を撫でてくる。とてつもなく恥ずかしいが、今はその優しさが身と心に染みる。

 あと、偶然ここで涼んで人の爆死を嗤い、それを肴にして酒を縁側で飲み干すモリアーティーは絶対に許さん。あとで島の汚染されている湖にも叩き込んでやる………!!

 

「どう? 少しは落ち着いたかしら?」

「………まあ、うん。ありがとな、クロエ」

「別にいいわよお礼なんて。私は、私らしくここで好き勝手させてもらってるんだから。それよりこれからどうするの? まだ召喚を続けるのかしら?」

 

 その場に座り込んで、これからどうするかを真剣に俺は考える。さっきは思いっきり使ってしまった石だが、ぶっちゃけると今回の為にひたすら貯め続けたものだ。このまま使い果たすまで回すのもありといえばありだ。だが、あくまでこの無人島生活は前回の焼き直し。ともすれば、また新しいイベントや特異点が出現し、そのサーヴァントたちのピックアップが始まるかもしれない。

 今残っている石は67個。10連召喚があと2回できる。ならば、俺が取れる行動は一つだけ。

 

「そろそろ石も少なくなって来たしな。次の10連で今回のガチャは終わらせるわ。これ以上爆死しても嫌だしな」

「それがいいと思うわ。というか、色々と欲深いのよ研砥は。もう少し無心でガチャを回してみなさいな」

「いや、これでも結構無心で回してる方なんだけどな…。まあいっか、そらそら回れ回れぇ!!」

 

 残っている石の半分をサークルに投げ込む。本日4度目の10連召喚に淡い希望を抱き、サークルから弾き出される礼装やサーヴァントに注目する。

 

「む、『トワイライト・メモリー』か。そういや、俺まだアタランテさん召喚してないな……」

「こっちは『リミテッド・ゼロオーバー』ね。まったく、並行世界のお兄ちゃんとはいえ、ここまで来ると笑うしかできないわね」

 

 次々に召喚される礼装やサーヴァントだが、一向に高レアサーヴァントが登場する気配がない。さっきも言った高レア礼装の他には、アサシンの荊軻さんや、アーチャーのロビンとかが召喚されたが、英霊の座でも今は休暇中ということを知ってたのか、キャンプ場に向かって全力疾走してた。ロビンはともかかく、どんだけ酒飲みたいんだよ荊軻さん。

 お月見やクリスマスでみた酒乱っぷりを思い出して笑っていると、司会の端が眩しくなっていることに気づいた。光源を見ると、召喚サークルが金色に輝いていた。

 

「え、ちょっと嘘だろ!? ここでゴールデン演出だとぉ!?」

「召喚されたクラスは……アーチャーね。なんだか、今年に入って急にアーチャークラスのサーヴァントが増えてない?」

 

 目の前に突如として現れた金色の弓兵のカード。その事実に驚きながら、俺たちは固唾を飲んで召喚されるサーヴァントの現界を待つ。眩しい光の中から、遂に新たな英霊の姿が露わになる。

 

 光の粒子は二つに分かれ、二人分の姿を形作る。一人の姿は身長がとても高く、もう一人は先の人の腰程度の低い身長だ。金色の長い髪にマスケット銃を構えた金髪の美女に、その彼女の近くに立つカトラスを携えた少女。どちらも露出の多い服装だが、それぞれが着るその服は、彼女たちの魅力を更に引き立たせていた。

 

 

 

 

「はいマスター。この水着、いかかです?」

「………視線がやらしいよマスター。…………ふん」

 

 

 

 

 本来、ライダーのクラスで召喚されるはずの海賊コンビ。世にも珍しい二人で一人のサーヴァント。今回の無人島生活にてアーチャーのクラスで現界した女海賊、『アン・ボニー』と『メアリー・リード』が出現していた。

 

「おぉ! 遂に水着サーヴァントが召喚されたか!」

「あらやだ、私たちの参戦に喜んでくれてるみたいですよメアリー?」

「いや、僕たち元はライダーだし。その頃の記憶とかもちゃんとあるから。マスターに頼られてるのも知ってるからね?」

 

 喜ぶアンにメアリーがすぐさまツッコミを入れる。ライダーだった時もタイミングピッタリで敵を蹴散らしていたが、こっちはこっちでとても仲が良さそうだ。ライダーの時はメアリーが先陣を切っていたが、アーチャーの時はアンがメインで戦うようになっている。つまり、アーチャーとライダーのそれぞれのアンたちを編成すれば、二人で同時に戦場へと出せるのだ。

 

「ところでさ、オリジナルと水着と別々で現界してるんだが、それって特に不都合があったりするのか?」

「いえ、別に戦える範囲が限定されたりはしませんわ。ただ、アーチャーの時はアーチャーで。ライダーの時はライダーの私たちが現界しているので、人数が少し増えてしまう程度ですわね」

「サーヴァントのオルタ化みたいなもの、かな。説明しづらいけど、そんな感じに思ってくれたら良いと思うよ」

 

 まだ召喚途中ではあるが、とても気になったことだったので質問してみた。戦闘中ではメインとなるサーヴァントのみを残し、残りのサーヴァントは別空間で待機する感じになるらしい。つまりアーチャーのアンたちだとメアリーが、ライダーだとアンが待機する形になるようだ。別空間に待機させ、宝具を使うときに召喚するということは、ギルの宝物庫と似た感じなのだろうか。

 

「さて、質問も終わりましたし、私たちもここから降りますわね。まだ召喚の途中ですし」

「といっても、アンたちが8回目の召喚だしな。後2回でそこまでいいのが出るとは思えないが」

「こーいうのは駄目元で頑張ってみるもんだよマスター。大丈夫、良いのが来なかったら僕たちが慰めてあげるからね」

 

 えっへん、と胸を張ってドヤ顔を披露するメアリー。今の感想を正直に書くと、とても可愛らしかったので、今すぐにでも集めた種火を注ぎたいが我慢する。俺と同じ喜びを感じたのか、アンさんがメアリーを思いっきり愛でているのを見届けながら、残り2回の召喚に向き合う。

 

「9枚目は『ルーム・ガーター』か。もう限凸してるから、あとで『天の晩餐』のレベル上げに貢献してもらうか」

「もうすぐレベル70だしねあれ。確か、この間のアガルタでも大活躍したんでしょ?」

「おうよ。いやぁ、ヘシアンとロボの『復讐者A』と限凸した『天の晩餐』を組み合わせたら、被ダメでNPを稼ぐ稼ぐ。今思えば、あれが初めての単騎だったな」

 

 アヴェンジャーであるが故にルーラーにから受けるダメージが半減され、更には被ダメでNPを稼ぐ彼らは、アガルタにおける最終決戦では大活躍だった。瞬間的に防御性能を上げる『堕天の魔B+』と、敵のバフを消しつつ攻撃力・即死耐性を下げる『死を纏う者A』。この二つを持ってすれば、ルーラの攻撃なぞあまり意味を持たない。ある意味、あの戦いおける最後の切り札的存在だった。

 つい数週間前の酷い事件だったが、今となってはいい思い出だ。目を閉じて少し感傷に浸っていると、目の前が眩しく煌く。何事かと目を開くと、さっきと同じように、金色の光を伴いながら三本の光輪が現れた。

 

「おいおい、久しぶりに10連召喚の運がやって来たんじゃねぇか? 基本、単発じゃないと良いのが出ない病の俺なのに、急な高レアラッシュだなぁおい」

「た、確かにそうね。さて、今度はどんなサーヴァントが召喚され…………ええ!?」

 

 金色に光ったということは、それは星4以上のサーヴァントの召喚に成功したということだ。自然とピックアップされているサーヴァントがやって来てくれるのではないかと思うが、ここで少し冷静になって出現したカードを確認する。確認したその直後、俺達の目は見開かれた。なぜなら、光の柱の中央に出現したのが、黄金に輝く槍兵のカードだったからだ。

 

「う、嘘でしょう!? こ、ここで高レアランサーを引くの!? これは、ひょっとしてひょっとするのかしら!?」

「れ、れれれれれれれ冷静になるんだクロエ。こここここここれはあれだ。そう、カルナさんだ!! 真の英雄は眼で殺すことで有名なランチャーのサーヴァントだよ!!」

「あんたが一番落ち着けなさいよっ!!」

 

 この場にいる誰もが新たなサーヴァントの召喚に期待される。ピックアップされている彼女のレアリティは、当然のことながら最高値の5。通常ならば呼ぶことさえできない人だが、今だけは目の前の高レアランサーを睨み続ける。固唾を飲んで見守り、遂に新たなサーヴァントの召喚が始まる。

 

 金色のカードから光が溢れ出し、まず目に映ったのはスラリと伸びた白い手足。次に映ったのは腰に取り付けた浮き輪と、その中から伸びた美しい狐の尻尾。手に持った色彩豊かなパラソルに、桃色の髪に尻尾と似た色の耳。そう、彼女の名はーーーー

 

 

 

「パンパカパーン! 浜辺と聞いて即参上! 誰が呼んだかハネムーン。サーヴァント・ランサー、玉藻の前。攻め気満々で参りました♡ 一夏の冒険、しちゃいます……?」

 

 

 

「――――――――――――――――――――」

 

 実際に目の前で召喚された彼女を見たとき、俺の頭はそれを処理することができなかった。目の前にいる女性の姿はちゃんと理解できている。けれど、それが本当のことなのかどうかが分からない。文字通り、驚きのあまり開いた口が塞がらない。

 それでも、とりあえず現状を理解しようと頭を抱える。想像以上の出来事に頭の処理が追い付かず、オーバーヒートしそうにはなったが、その場で何度も深呼吸を繰り返す。呼吸のテンポが戻ってきたことを確認した後、覆っていた手を放して顔を上げる。直後、金色の瞳と目が合った。

 

「うぉぉっ!?」

「あらやだ、どうかしましたマスター? もしかしてぇ、タマモの水着姿にぃ、悩殺されちゃいましたぁ?」

 

 あまりにも妖艶な雰囲気に飲まれそうになる。これはだめだ。70騎近いサーヴァント達のマスターとして簡単に飲まれるわけにはいかない。問題ないと伝えようとした時、右腕にとても柔らかい感触が迸る。

 

「いやですわぇね玉藻さん。貴方より先に私達が召喚されてるのですから、悩殺したのはこちらだと思いませんか? ねぇマスター?」

「そうだよ~。淫乱ピンク狐は海の家でバイトでもしたらどう?」

 

 感触は右腕に留まることなく、左腕にまで柔らかい感触があった。両腕を見たらアンとメアリーがくっ付いていた。それも、俺の腕を掴んで胸の谷間に挟み込んで自分のものアピール的なことをしていた。正直な話、男としては非常に嬉しい感触だが、このままじゃ絶対に行けないということだけは分かる。

 

「ちょ、アンにメアリー!! お前ら何やって――――――――」

「あれぇ? もしかして私のこと忘れてないかしら研砥?」

 

 海賊コンビアーチャーを窘めようとした直後、今度は腕だけじゃなく首にまで柔らかい感触が奔る。声の感じからして、クロエが首に抱き着いてきたのだということが分かった。この時、女の子って本当にあれがないんだなって分かったんだが、直後、とてつもない殺気が俺を襲った。恐る恐る玉藻の方を見ると、満面の笑みを浮かべてパラソルを構えていた。

 

「あはははー。やだなぁアンさん。それにクロエさんまでそんなことするなんて、恥ずかしくないんですかぁ?」

「ええ。別に問題ありませんよ? だって私、今回はガンガン攻めて行くって決めましたので♡」

「う~ん、私として大事なマスターだしぃ、それに貴方みたいなおばさんに研砥を渡したくないしね~」

「………はい分かりました☆ とりあえず、ぶ・ち・こ・ろ・し確定ですわね♡ マスター?」

「何故そこで俺!? ちょ、モリアーティーなんとかしろぉ!」

 

 まさかまさかの、空前絶後の水着サーヴァントによる戦争が勃発しかけている。何とかしてもらうためにモリアーティーに視線を配る。武家屋敷の縁側にいるモリアーティーは、残ったビールを一気に飲み干した後――――――無駄に上手いウィンクを決めながら親指を突き出した。

 

「グッドラックだよ黒鋼君! まぁ、私はこれにドロン」

「令呪を持って命ずる、モリアーティーを殺せっ!! ランサー・玉藻ォッ!!」

「了解ですわマスター。さぁ、懺悔しやがれ完全犯罪者っ!!!」

「え、ちょMA☆TTE!! 暴力反対、アァ―――――――!!!」

 

 この日、亜種特異点で遭遇した新宿のアーチャー。犯罪界のナポレオン(笑)、ジェームズ・モリアーティーの悲痛な断末魔が武家屋敷を包み込んだという。それから数日、彼の姿を見た人はいなかったらしい…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――同日、海の家にて――――

 

「というわけで、Happy(ハッピー) Birthday(バースデー) Chloe(クロエ・) Von(フォン・) Einzbern(アインツベルン)!!」

「…………ほぇ?」

 

 無駄に滑らかな英語発言の後、数十を超える大量のクラッカーが部屋の中に炸裂する。火薬の匂いがあたりに充満するが、奥の厨房から運ばれてくる大量の料理がそれをかき消す。しかし、祝われた彼女は、何が起きているのか分からないと言いたげに首を傾げていた。それが気になったのか、ここにいるサーヴァントたちと契約しているマスター。黒鋼研砥が近くに寄り添った。

 

「む、どうしたクロエ? もしかして、こういうのはあんまり好きじゃなかったりしたか?」

「いや、別に問題ないんだけど……。きゅ、急に祝われて驚いたっていうか。っていうか私、今日が誕生日だなんて誰にも教えてないんだけど!?」

 

 驚きのあまり声を荒げるクロエ。確かに、誰にも教えていない誕生日を勝手に知られて、その上で祝われたら誰だって驚くだろう。そのことに気づいた黒鋼は確かに、と頷いてそれを肯定する。

 

「いやね、この前、狭間のとこにいるイリヤスフィールがな、自分とクロエの誕生日は7月20日だって言われてさ。私はクロエとは違う場所にいるから一緒に祝えないけど、せめて俺たちで誕生日を祝ってやってくれって頼まれてな」

「何それ、何お姉ちゃんぶってるのかしらイリヤったら。あの子より優秀な私の方が姉だって、何度も言ってるのに」

「とか何とか言ってる割には、嬉しそうなだけどな」

「う、うるさい! こっち見ないでよこのロリコン!!」

「ちょっと待て、いきなりその罵倒は酷くないか」

 

 図星を突かれたのが恥ずかしかったのか、ペシペシと黒鋼の胸を叩くクロエ。言動こそ恥かしさ故の行動に見えるが、顔が嬉しそうににやけている。他のサーヴァント達に見えないように努力しているのは認めるが、恐らく無駄な努力だろう。

 そうこうしているうちに、クロエの誕生日パーティー会場である海の家には、次から次へと料理が運ばれていった。アーチャー・エミヤ二人が大量に釣り上げた魚をふんだんに使った海の幸の料理。男サーヴァント達が、『陣地作成A』を持つギルガメッシュの指示によって作られた、最高の作物となった山の幸。お前らもう食糧不足とかないだろうと言えるレベルの大量の料理が次から次へと運ばれて行き、多くの人たちの胃袋へと消えていく。この場にいる誰もが笑顔で食を満喫していた。

 

「美味しいわねこの料理! あ~、やっぱりここにいて最高だわ! こんなに美味しいご飯を毎日食べれるなんて最高!!」

「そうかい、そりゃ良かった」

 

 かくいうクロエも、運ばれてくる料理を美味しそうに頬張っている。もちろん、それは黒鋼も例外ではない。そんな中、彼は隣に座る彼女に話題を切り出した。

 

「なぁクロエ。元の世界に帰るつもりはないか?」

「………………え?」

 

 一言。けれど、その一言は騒がしい海の家の中でもクロエの耳に届いた。食べる手を止めてこちらを見上げるクロエを端に捉えながら、黒鋼は続ける。

 

「お前がここにきてもうすぐ1年だ。人理焼却を防いだのはもう半年も前。あの時、並行世界のお前たちを軸として起こったあの事件での借りも十分返してもらった。お前が元の世界に帰りたいって言うんだったら、今すぐにでもBBやバベッジさんたちにお願いして、お前の世界の座標を割り出してもらうが、どうする?」

 

 正直な話、俺はあまりジャックやクロエといった子供たちに戦って欲しくはない。クロエの参戦した時期的に、特異点攻略に参加してもらったのは第7特異点だけだ。それでも、あの戦いは壮絶な戦いだったはずだ。確かに、クロエはゴルゴーンやキングゥだけでなく、ラフムやケイオスタイド。原初の母(ティアマト)といった存在が蔓延っていたあの戦場を戦い抜いた。けれど、彼女はまだ精神年齢は二桁に達したばかりの子供なのだ。

 これもイリヤスフィールから聞いた話だが、クロエはサーヴァントの力を秘めた特殊なカードと、彼女の大量の魔力を糧として生まれたサーヴァントもどきらしい。つまり、見た目はイリヤスフィールと同じでも、精神年齢が少し高かったりするかもしれないが、実年齢は一桁なのだ。そんな彼女に、あまり戦って欲しくないと思うのは俺のエゴかもしれない。もしかしたら、帰った先でもイリヤスフィールたちに何らかの戦いを求められるかもしれない。だが、それはきっと、ここでの戦いより酷いものじゃないだろうと思った。最悪、餞別に聖杯の一つや二つを注いだって構わない。その旨をゆっくりと、けれどしっかりと俺の気持ちをクロエ伝える。それを聞いたクロエは目を閉じて逡巡した後、長い溜め息と共に呟いた。

 

 

 

 

 

―――馬鹿じゃないの?

 

 

 

 

 

「は?」

「いやいやいや。まさか、私のマスターがここまで馬鹿だったとは思わなかったわ。いや、これもう馬鹿ってレベルじゃないわね。私のお兄ちゃんと同じレベルの朴念仁だわ」

「……何でだ、お前を思ってのことを言ったつもりなのにすげぇ呆れられてるんだが。すげぇ解せないんだが」

 

 黒鋼はなぜ自分が呆れられたのかさっぱり分からないのか、頭に手を当てて考え込む。そんな姿が可笑しかったのか、クロエはくすくすと笑った。

 

「そりゃそうよ。だって、私がこっちに来たのは確かに借りを返すのもあったけど、他にも理由があったのよ? 研砥お兄ちゃん(・・・・・・・)?」

 

 思いっきり深いため息を漏らした後、クロエは黒鋼に向けて笑った。妖艶に、けれど輝かしい笑顔で。

 

「私は、私の意志でここに来たのよ。どこか無茶してそうな、馬鹿なお兄ちゃんの力になるためにね?」

 

 どこか暖かい眼差しと笑みを向けられた黒鋼は、一瞬目を丸くしていた。だが、数舜の後には、毎度のごとく苦い笑みを浮かべていた。

 

「そうかい。それじゃ、これからも頼りにしてるぞ? クロエ」

「はいな、私の御主人様(マイマスター)? あ、これから私のことクロって呼んでよね? っていうか、1年くらい一緒に暮らしてるんだし、いつまでもクロエ呼びは酷いと思うんだけど?」

「はいはい、誤解を招くようなことを言うのはやめような? クロ」

「分かればよろしい。それじゃ、今夜は寝かせないわよ!!」

「いやだから、誤解を招くような発言はやめろぉ!!」

 

 結局、この日はパーティーが終わった後も部屋に押しかけられ、その騒がしさに釣られてジャックやナーサリーたちもやって来るという忙しい日となった。朝まで騒がしい1日だったが、こういう日も悪くはないと思う自分がいた。

 

 

 

 

 

 




というわけで、今回の水着ガチャは大成功に終わりました!! 実はこの10連の後、単発で2人目の水着玉藻さんを召喚することに成功しちゃって、男性アーチャーに対する殺意が一気に跳ね上がったんですよ。いやぁ、ウリボーシティーでテスラの股間爆発事件が何度も起こって笑っちゃいました。というか、宝具レベル2の☆5サーヴァントって、去年ひたすら課金しても来てくれなかった玉藻さんだけなんですけど、これは一体………。

あと、今回のオマケは凄く遅くなりましたが、うちの主力アーチャーの一人、クロエの誕生日的な何かです。召喚時に言ってた借りはもう返してもらってるから、元の世界に帰っても問題ない。けど、人理を取り戻しても帰らなかったのは、ひとえにここでの生活を楽しんでいるというのもあると思うんですが、無茶な主人公の支えになってあげたいっていう、優しい心の持ち主だと思うからなんですよ。まぁ、隙あらば魔力供給(キス)を狙う褐色ロリっ娘なんですが(苦笑)。

次回は今年の福袋と、遂に実装されたシャーロック・ホームズ(ルーラー)&各特異点ピックアップガチャですね。いやね、確かに小説書いて投稿してる私ですけど、まさか本当に書けば出るなんて思わなかった………!!
詳細は、次回の投稿を待っていただけたらと思います!! 今、絶賛夏休みを満喫してますので、近日中に投稿する予定です!!

ここまでの読了、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!!


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二周年。それは新たな出会いの瞬間

さて、手始めに福袋召喚の結果をお送りいたします。次回のホームズ&各特異点ピックアップは近日投稿予定! お楽しみに!!


「子ギル。俺はな、メルトリリスを召喚したいマスターだったんだ」

 

 静かになった武家屋敷の縁側。そこでは二人の男が並んで座っていた。一人は黒い外套を身に纏い、遠い彼方を見ているように目の死んだ男。彼の名前は黒鋼研砥。人理焼却を防ぐために尽力し、最後まで生にしがみ付いた男だ。子ギルと呼ばれた男の子は、絹のように美しい金色の髪を揺らしながら、隣に座った男を見上げた。

 

「だったということは、今はもう諦めてしまったんですか?」

「……ああ。彼女は期間限定サーヴァントでね。初登場した『深海電脳楽土SE.RA.PE(セラフ)』というコラボイベントで☆5のサーヴァントとして登場したんだ。排出率は安定の1%。そんな物欲の壁を超えるために何度もガチャに挑んだけど、毎度の如く爆死……。石が無いとね、マスターは新たなサーヴァントを召喚することができないんだ」

 

 手元に置いてある湯呑に入っているお茶を啜る。少し冷めたお茶が喉を潤し、何気ない日々に安堵の溜め息を漏らす。ふと空を見上げると、爛々と美しい月が輝いていた。時折見る満月だが、今日は一段と大きくて美しい気がした。

 

「そうですか………。それは、仕方ないですね」

「ああ。そんな当たり前のこと、もっと早く気付くべきだったんだ………」

 

 自嘲するように黒鋼は笑みを浮かべ、開いている瞼を閉じる。その中で、彼は多くのサーヴァント達のことを思い浮かべた。彼が向かった特異点で力を貸してくれたサーヴァント達。人理焼却を良しとし、彼やカルデアに立ちはだかった者たち。そのどちらでもなく、戦いの中で遭遇した人間たち。その身を獣に落とした人類悪。

 多く、とても多くの人たちと彼は出会った。だが、そんな闘争の日々も終わりが近づいている。7つの特異点を超え、彼の王が作り出した時間神殿から逃亡を図った4柱の魔神。それが作り出した亜種特異点の修復も折り返し地点まできた。あと少し。あと少しでこの戦いの日々も終わりを迎える。そうすれば、存在しないはずの彼は終わりを迎える(・・・・・・・・)

 それでも心残りがある。たった一人、されど一人。彼が会いたいと願った少女がいる。それこそがメルトリリス。いつぞやの電脳世界で会い、カルデアのマスターを救うために奔走した黒衣の少女。彼女から愛情を向けられたわけではない。むしろ敵意を向けられたことさえあった。それでも、黒鋼が彼女を召喚したい理由はたった1つ。最期の見せつけられた、彼女の笑顔を見たかったからだ。

 けれど、もうそんな機会は訪れない。何故なら、彼女と縁を結ぶことができた期間は既に過ぎ去ったのだから。だから、黒鋼研砥にはメルトリリスを召喚することはできない。できないというのに。それがなんだと、子ギルはクスッと笑った。

 

「なら、僕が招待してあげますよ」

「――――――え?」

 

 縁側から地面に降り立ち、ルビーのように赤く煌く双眸を、マスターである黒鋼に向ける。幼い英雄王が浮かべているのは笑顔。嘲笑するような下卑た笑みではなく、年相応の子供が浮かべる優し気な笑みだった。

 

「お任せくださいマスター。マスターの願いは、僕が叶えてあげますから」

「…………そうか。ああ、安心した―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、この旅を初めて2年。この日を祝したパーティーを!! ここに開催するっ!!!」

「「「おぉ――――――!!!」」」

 

 手に持ったマイクに声を当て、高らかに俺は宣言する。それに応じるようにこの場に集まった多く人たちが歓声を上げる。それはそうだろう。恐らく、ここにいる全ての人たちがこの日を待ち望んでいたのだから。それだけ長く、濃厚な2年だったのだ。加えて、去年はまだ人理焼却を防ぐ闘争の中に身を置いていたのだ。祝い日だったとしても、心から楽しんでいた人は多くはいなかっただろう。亜種特異点を消滅させる戦いは続くが、以前よりはマシな状況にはなっている。今日の祭りを、心から楽しめる人も多いことだろう。

 

「7月30日。それは、この人理焼却を防ぐ旅が始まった日。……その戦いが始まって2年。この日を祝して、カルデアにいる万能の天才。レオナルド・ダ・ヴィンチさんと、我が組織を代表する最強キャスター。ギルガメッシュ王が作り出した素晴らしきイベントをここに紹介する。この度、この企画を進行させていただくのは私、この組織にて多くのサーヴァントと契約し、マスターをさせていただいておりますこの黒鋼研砥と」

「最初期から彼のサーヴァントとして共に戦ってきた私。ライダーのブーディカでお送りさせていただきます」

 

 いつぞやの新年ガチャと同じような作りになっている召喚場にて、普段着から正装に身を包んだ俺とブーディカさんが、カメラを前にして挨拶をする。今回はいつものようなお遊びではなく、真面目に取り組むべき仕事だ。なので、いつもより身だしなみを整えている。整えているのだが、隣に座るブーディカさんの衣装が余りにも神々しすぎて直視できない。

 彼女の姿を横目に見ることで精一杯な俺は、気を取り直して手元にある資料を見る。流石は二周年というめでたい日を迎えたためか。以前の一周年と比べても大差がない、ひょっとするとそれ以上に豪華な内容に驚きながらも、1つずつ読み上げる。

 

「ーーーとまぁ、少し真面目ぶってみましたが、そろそろやめてもいいかな?」

「良いんじゃないかな。こういうのは最初が肝心だしね」

 

 自分たちの机に設置されているお茶を飲みながら、詰まりそうになった息を吐きだす。新年はノリと勢いに任せてやってしまったが、さすがに2周年は真面目にしろとエミヤに怒られたので、こうして慣れないスーツに身を包んでいる。装備できる魔術礼装の中に『ロイヤルブロンド』があって助かった。装備を切り替えるのは一瞬でいいし、そう簡単に破けやしない。その上で能力も一級品と来た。とても使い勝手の良い礼装だ。

 

「さてと、2周年ということもあって色々と豪華な内容なんだが、今回はそれを省略させてもらう。最初からフルスロットルだ………!! これより、人理修復任務(グランドオーダー)発令より2周年を記念とした、福袋召喚(・・・・)を開始するッ!!」

 

 指を鳴らすと同時に召喚サークルが勢いよく立ち上がり、虹色の光を伴いながら複数の英霊のデータを表示する。今回のために特別に拵えた演出だ。あまりに膨大なデータ数だから一段では収まりきらない。なので、二段構造で表示される英霊達のデータ達。その中にある一部のホログラムデータには色が付いている。

 

「色が付いているのは、俺が既に召喚している英霊(サーヴァント)だ。今回の福袋召喚は普段のそれとは比べ物にならない程の規格外のものになっている。これを今までの戦いで言うならば、祝福(ギフト)付きのガウェインかそうじゃないかに匹敵する」

「いや、それは少し言い過ぎな気が……。え~今回の福袋召喚は、一定の金額を払うことで購入した特殊な聖晶石を使って行います。さっき研砥が普通の福袋召喚と違うって言ってたのは、今回の福袋召喚はなんと、今まで登場した全ての星5サーヴァント(・・・・・・・・・・・)が対象になってるからだよ」

 

 ホログラムに表示されているサーヴァントの数は51。それは、俺が今まで召喚できるかもしれなかった最上級レアリティを誇るサーヴァント達のデータだ。これは、今まで出会った彼らのデータを表示している。ちなみに、色が付いているサーヴァントの数は14人。つまり、全体の3割程度は既に召喚に成功している。

 

「今年………。特に、6月に入ってからの俺のガチャ運はやばいことになっている。去年はいくら召喚しても応じてくれなかった玉藻さんが、ランサーとキャスターにそれぞれ2人ずつ来てくれたり、モリアーティーにケツァル・コアトルさんといった、ハイスペックなサーヴァント達の召喚に成功してしまっている。――――だが!! それでも! 今だ俺のガチャは終わらない!! そんな俺が誰を召喚したいのか紹介しよう!」

 

 手元にあるタブレットを操作して、英霊達の一部のデータを表示する。表示されたデータが光を放ちながらその姿を1分の1スケールで投影する。現れたのは全部で5人のサーヴァント達だ。

 

「まずはセイバーから3人、ブリテンの『騎士王』こと『アーサー・ペンドラゴン』と、『アルトリア・ペンドラゴン』! それから、その息子である『モードレッド』!! どちらも英国サーヴァントということで凄く欲しいぞ! サーヴァントのスペックがなんだ。そんなものは愛で押せばいいんだよ!!」

「次にキャスターから『花の魔術師』こと『マーリン』。ってあれ? 研砥はマーリンは孔明みたいな使ったら誰でも勝てるサーヴァントは絶対に使わないって言ってなかったけ?」

「いや、ただ単に英国サーヴァントだから欲しいだけだが? というか英国サーヴァントっていいよね。全員が欲しいんだよね。俺」

 

 確かに、期間限定のサーヴァントたちも欲しい。というか、セイバーならアルテラ以外の☆5がいないから誰でもオッケーだが、とりわけあの三人は来て欲しい。俺が喜ぶというのも理由だが、そろそろ彼女たちを呼んでブーディカさんを喜ばせてあげたいのだ。去年なんて、円卓の騎士の中で来てくれたのがランスロットだけだし。いや、とてつもなく強いから助かってるんだが。個人的にガウェイン卿が欲しかったんだよなあ。

 

「で、次はランサーのアルトリアな。ここまで来たら、やっぱり英国サーヴァントコンプリートを目指さないとな!」

「いや、さすがにそれは業が深いと思うんだけど。あ、そういえば。研砥が嫌ってる『諸葛孔明』の依り代になった『ロード・エルメロイⅡ世』もイギリス人なんだよね? なら、そういうことで彼が来てもいいんじゃ………」

「はい? 速攻でケツァルさんで地球投げして、金時で轢き逃げした後、倉庫番してもらいますが何か?」

 

 首を親指で一閃。つまり『来たら絶対に殺す』という意味を笑顔で表現してみる。何故かブーディカさんが苦笑いをしているが、あまりに気にしたら負けだと思って次に移ることにする。

 

「残りはエクストラクラス、アルターエゴの『メルトリリス』だ。………いつか、また会おうって約束したからな。狭間のところにはもう呼ばれてたが、やっぱりリップに会わせてあげたいしな!」

「優しいなぁ研砥は。あ、そういえば今回は特別にお便りももらってます!今回のために、ここにいるサーヴァントに、わざわざ来て欲しい☆5サーヴァントのアンケートを募ってみました!」

「まぁ、70近い数お便りなので、その中から3件ほど抜粋してみたので読みますね〜。まずはこちら。P.N.(ペンネーム)、『劇場と剣を作った天才すぎるローマ皇帝さん』より。お便り、ありがとうございます」

「………ペンネームの意味ってなんだっけ? それで? 何て書いてるのかな………」

 

 

 

 

 

P.N. 劇場と剣を作った天才すぎるローマ皇帝さん

―――我が愛するマスターよ。既に其方は多くの英霊(サーヴァント)と契約している身。これ以上の召喚はその身では支えきれないものだろう。確かに、其方には赤いアーチャーやブーディカといった信頼できるサーヴァントがいる。勿論、そこには余も含まれているわけだが。

 話が逸れたな。とにかく、余が何を言いたいか分かるか? 分かるな? そう! 今度こそ白い方の余を召喚するのだ!!!

 

 

 

 

 

「以上、P.N.『劇場と剣を作った天才すぎるローマ皇帝』さんからのお便りでした~。いやぁ、まさかここまで自己中心的な便りは初めてだな。まぁ、これが記念すべき第一回なんだけど」

「頭痛くなってきた………。全く、あの馬鹿皇帝は死んでも変わらないわね。相変わらずどこまでも我儘なんだから。というか、白いネロ公なんて呼ばれた日なんて、あたしが『頭痛持ち』になりそうだよ」

 

 思いっきり溜め息を吐きながら次のお便りを手に取るブーディカさん。しかし、ペンネームを見たせいなのかわからないが、何故か頭を抱えてしまった。

 

「え、何どしたのブーディカさん? そんなに酷いお便りだったのか?」

「え!? い、いや別に何も!! と、とりあえずこれは最後に読もうね! ほら! 先にこっちから読むよ! P.N.『舞い踊る毒娘』さんからのお便りです! お便りありがとね!!」

「な~んか気になるな……。それにしても、このペンネームだと絶対静謐だよな。どれどれ………?」

 

 

 

 

 

P.N.舞い踊る毒娘さん

え………? 来て欲しい☆5サーヴァントの方、ですか? いえ、私は特に誰でも良いとお思います。我が主は、私のような英霊に聖杯を2つも注いでくれました。なので、どのような方が来ても、その方以上の働きをしたいと思います。

 ただ、誰が来ても良いというのではあれば。私事ではありますが、初代様を推させていただきます。冠位の位は既に捨てたと仰っていましたが、あのお方こそ最強の暗殺者(アサシン)だと、私は思いますので。

 

 

 

 

 

「以上、P.N.『舞い踊る毒娘』さんからのお便りでした。それにしても“山の翁”さんかぁ。仰々しい格好して何考えてるから分からないから、少し苦手なんだよねぇ……」

「まぁ、クラス相性的な意味でも相性最悪だしな。でも、あの人のA(アーツ)とかQ(クイック)とか異常なまでに強いよな。………バビロニアでの戦いでは、お世話になったよ」

 

 渡された便りを丁寧に仕舞い、取り合えず召喚されて欲しいサーヴァントの中に追加しておく。さて、残りの便りは1通。さっきのブーディカさんの様子を見る限り色々とおかしいと思ったが、さてさて。一体何が書いていることやら。

 

「………とりあえず、読んでもいいかな? これ?」

「あ~………うん。読んでもいいけど、驚かないでね?」

「え、ちょっと待てよそれ。すげぇ怖いんだけど。え~と……P.N.(ペンネーム)『怪人てけてけ娘』さん…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P.N.怪人てけてけ娘さん

お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、ホラー映画かコラァ!!!」

 

 渡された便りを破りそうになったが、ギリギリの所で破らずに机を殴りつける。というか、怪人てけてけ娘っていう名前は、絶対ブリュンヒルデだよな。いつまで贋作英霊のイベントのことを引きずってるんだよ………。

 

「とりあえず、今のところ来て欲しいサーヴァントの数は8人だな。はぁ、51人中の9人か。確率的には17.6%。大方2割か。まぁ、来ないだろうな」

「とりあえず、諦めずに回してみなよ。結果は自ずと付いてくるよ。きっとね」

「それもそうか。それじゃ、福袋召喚! セットアップ!!」

 

 召喚したいサーヴァントのデータを投影した時と同じように指を鳴らす。いつもは普通に石を投げてガチャを行うが、今回は年に2回程度しかできない特別な英霊召喚だ。なので、今回のために特別な召喚を行うことになっている。

 『英霊召喚システム・フェイト』が起動し、その背景に巨大なスクリーンが複数出現する。画面には召喚サークルによって排出されるカードが映し出されている。その目の前に立ち、購入した特殊な聖晶石が詰め込まれた袋を持って俺は宣言する。

 

「さて………それでは参ろうか!! 福袋召喚! スタート!!」

「今……有償石30個の入った袋が………召喚サークルに…………入りましたっ!!」

 

 新たな☆5サーヴァントを呼ぶため―――――たとえ同じ人が来ても、宝具レベルが上がるから問題ない―――――の負けられない戦いの火蓋が切って落とされた。この手のガチャは、大体最初に☆5確定演出が発生するものだ。つまり、最初の弾き出されたカードが肝心となる。だが、召喚サークルが示した光のラインは1本。概念礼装である『アトラス院』が排出された。

 

「…………俺の見間違えか? どこからどう見ても☆3の概念礼装にしか見えないんだが」

「あ、あれ? 福袋って一番最初に☆5サーヴァントが来るものじゃなかったんだっけ?」

 

 いきなり現れた概念礼装に戸惑いを隠せない俺たち。だが、一度起動してしまったシステムは何も告げず、命じられた事をこなしていく。続く第2、第3の召喚も☆5サーヴァントが出現しないままで終わっていく。システムが狂ったのかと思い始めたその時、眩い黄金の光が部屋の中を照らし出す。

 

「これは☆4以上のサーヴァントが確定したシステムの演出! ということは、これが俺の元に来る☆5サーヴァントか!!」

「弾き出されたカードは……暗殺者(アサシン)!! 静謐ちゃんの願い通り、初代“山の翁”さんが来てくれるのかな………!!」

 

 この場にいる誰もがこれから登場するサーヴァントの召喚に固唾を飲む。金色の暗殺者が描かれたカードから光を伴いながら、遂に召喚が行われる――――!!

 

 登場した時に目が付いたのはとても長い黒髪。後ろの方で1つだけ結った黒髪に、6つに割れた腹筋。そこを彩る鮮やかな入れ墨に、両手に装備された籠手。顔はとても格好良くイケメンの部類に入るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「いよー! という訳でクラスアサシン、燕青だ! ところで黙っていれば色男って、褒め言葉なのかね、アレ?」

 

 

 

 

 

 

 

「って、本当に☆4サーヴァントかい!!」

「おっ、あんたはアーチャーとか雀蜂の大群とタメ張ってた兄ちゃんじゃねぇか。いや久しぶりだねぇ! しっかし、どうやら俺に来て欲しくはなかったみたいだ。そいつは悪いことをしたなマスター?」

「いやいや、初めて来てくれたサーヴァントだから問題ないよ。これからよろしく頼むよ、燕青君?」

 

 亜種特異点Ⅰ。『悪性隔絶魔境 新宿』にて、俺たちの敵として立ちはだかった『新宿のアサシン』こと『燕青』。シャーロック・ホームズの変装スキルをも超える超変化の能力を駆使して、俺たちの邪魔をしまくった強敵だ。もし味方になった時のためのデータを見たが、大変優秀なスキル構成だ。仲間になったら即戦力になるだろう。

 

「さてと、次に召喚される人の為にも、俺は降りるぜ?」

「おう、んじゃとっとと次だ次。にしても、今回の☆5サーヴァントらどんな奴が来るのかね………?」

 

 燕青がサークルから降りると同時に、再びシステムが新たなカードが排出される。だが、通常の演出とは違い、さっきの燕青と同様、黄金の光が溢れ出した。☆4以上の高レアリティサーヴァントが召喚されることが確定したのである。そして、その光の中から出現したのは、鎖に繋がれた囚人のようなイラスト。エクストラクラス、復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァントの召喚される。

 

「!? 高レア演出でアヴェンジャーだと!? こ、これはまさか、ブリュンヒルデの要望に応えるようにジャンヌ・オルタが来るのか!?」

「おやまぁ、これはまたいいタイミングで召喚されたねぇ俺は。あのべっぴんさんに会えるんなんて、嬉しいったらありゃしねぇ」

 

 金色のカードから光が溢れ出す。それと同時に、青い黒炎が召喚サークルから迸る。それは一瞬にして召喚場の全てを覆いつくし、膨大な魔力に当てられたせいか照明が点滅する。たった数秒の出来事だったが、異常な出来事だと判断した俺は、すぐに指示を飛ばす。

 

「ブーディカさん! 燕青!!」

「分かってる! 研砥は後ろに居て!」

「まったく、人使いの荒い主なことで!」

 

 ブーディカさんがすぐに複数の車輪を展開し、燕青が腰を低くして構える。中国拳法。家にいる書文先生と同じ、中国出身のサーヴァントである燕青はとんでもない武術家だ。十分強力なサーヴァント2人の頼もしさに安堵しながら、次に召喚されるサーヴァントに備える。

 

 カードからも青い黒炎が奔り、その中から現れたのは、色の薄い緑髪の上に乗った帽子と真紅の瞳。瞳と同じ紅いネクタイに、凶悪な笑顔を浮かべた青年。だが、凶悪な笑顔の裏には、とても楽しそうに笑っているのが分かった。特徴的な笑い方と共に、召喚が完了する。

 

 

 

 

 

 

 

「俺を呼んだな! 恩讐の化身を! そうとも、俺こそ黒き怨念。―――エクストラクラス、復讐者(アヴェンジャー)である!!」

 

 

 

 

 

 

 

 召喚が終わると同時に青い黒炎が収まる。高笑いと共に現れた身長の高い青年。フランス、いや、全世界にその名を轟かせた復讐者。虎の如く獰猛な笑みを浮かべて立つアヴェンジャー。その姿を見た直後、俺たちは警戒を解いた。

 

「なんだ巌窟王か。焦らせんなよ全く……」

「クハハハッ! 貴様も我が共犯者と同じことを言うのだな。なに、すぐに慣れるだろうさ。俺を従えるということはそういうことだ」

 

 ニヤリと笑いながら煙草に火を付ける。その場で一服吸ってから、それを握り潰した。握った拳を開くと、青い塵になった煙草の成れの果てが掌の中に納まっている。無駄な能力の使い方に呆れながらも、巌窟王に向けて手を差し伸ばす。

 

「まぁ、俺は狭間(共犯者)じゃないけど、力、貸してくれるか?」

「無論だ。貴様はあの時に言っただろう? 最期を迎えるその時まで、運命(・・)に反逆するのだと。なればこそ、恩讐の化身たる俺は、抗う者に力を貸し与えるまでのこと」

 

 差し伸ばした手を握り返した巌窟王は、青い黒炎を全身に纏う。一瞬で燃え盛った炎が消え去ると同時に、いつも着ていた深緑色のインバネスを着用し、いつものように高笑い。する。

 

「行くぞ我がマスター! 我らが往くは恩讐の彼方!! 闘争の果て、その先の向こうに行くためならば、俺は全力で貴様を導こう!!」

「おう!! 今度は、一緒に戦おうぜ! 巌窟王!!」

 

 こうして、我らの元には幻霊から生まれた新宿のアヴェンジャー。ヘシアン・ロボから二人目のアヴェンジャー、巌窟王がやって来た。新たなる即戦力にありがたみを感じながら、これからの戦いに思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…………私の出番はどこなのでしょうか?」

「ごめんね頼光(らいこう)。貴方の出番、ここだけなんだよ………」

「では、次回予告をさせてもらうぜ? 次は、家のマスターが会った元魔術師のサーヴァント。『シャーロック・ホームズ』と、各特異点のピックアップサーヴァントのガチャ報告をするぜ! 楽しみに待っていてくれよな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで、今回の福袋の召喚は新規サーヴァントとしてアサシン、『燕青』。アヴェンジャー、『巌窟王』。既存からバーサーカー、『源頼光』が来てくれました! 福袋の☆5サーヴァント2人抜きはこれで2回目ですね。今回は期間限定サーヴァントも混入してるので、ダブっても宝具レベルが上がって威力が上昇するのはありがたい。それにしても、スキルレベルカンストしてる頼光さんの火力が上がって、より殺意が上がりました。ありがたいことこの上ないです!!

 ここまでの読了、ありがとうございました!
 次回もお楽しみに!!


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英国の英雄は降り立った

さて、連続投稿のお時間です! 今は夏休みを謳歌してますので、今の内にガンガン更新していきますよ~!

今回はまさかの調停者(ルーラー)での登場となったサーヴァント。『シャーロック・ホームズ』と、各特異点ピックアップガチャについての報告回です! その次は今年の水着ガチャですが、もう少し期間を置いてから書こうと思います。
それでは、本編をどうぞ!!




「……………………………………………………」

 

 俺は今、瞑想をしている。胡坐をかいて両手を使って横長の輪を作る。目を閉じ心を空にし、軽く深呼吸をしながら息を整える。音楽も掛けず、静かな道場になっているマイルームの中。俺はひたすら集中力を研ぎ澄ます。

 脳内でイメージするのは、腰に差した刀を勢いよく振り抜き、それを横に一閃すること。それが、俺の魔術回路を開くスイッチのイメージだ。魔術回路を開くイメージは十人十色。自身が最もイメージしやすいこと。ないし、体に染みついた動きがきっかけとなる。俺は幼いころから剣術を学んでいたから、それがきっかけとなっている。

 

「……………………………………………………」

 

 息を整え、開いた魔術回路に魔力を流していく。この時、想像するのは細い管だ。あらゆる機械に取り付けられている回路に流れる信号のように。体内に張り巡らされた血管に血液が流れるように。体内の神経に魔力の籠った水が流れる感じを想像する。これは、込める量が少なすぎても多すぎても駄目だ。少なかったら起こした魔術回路が働かないし、多すぎたら回路が負荷に耐え切れずに暴走する。

 

「……………………………………………………っ」

 

少し雑念が入った。回路に魔力が入りすぎて痛みが奔る。痛みで少し顔を顰めるが、すぐに回路の魔力を減らすように努める。コップに注ぎすぎた水が少しずつ減っていくのを想像する。水位が少しずつ下がっていくのと同時に、痛みが少しずつ引いていくのが分かる。一連の動作を終えた後、再び深呼吸を繰り返してから閉じた瞼を開く。少しだけ回路が暴走したせいか。左腕に痺れた気がしたが、手を軽く振って痺れを振り払う。

 

「………よし、準備運動はこれぐらいでいいか。投影(トレース)開始(オン)―――」

 

 両手を握りしめるように構え、その中に魔力で構成された木刀を創造する。投影魔術(グラデーション・エア)。家にいるアーチャー、クロエやエミヤのような完璧な投影はできないが、修練用の木刀の投影なら俺でもできる。それに魔力を通して正面に振り切る。即座に切り返して横に一閃。そこで一度バックステップして、後ろの回って左足に力を込めて思いっきり力を込めて突きを放つ。

 

「――――――ふっ!!」

 

 その場で止まることなく、突き出した腕を引き戻して木刀を構え直す。少し乱れた息を整え、投影した木刀を消す。両手に籠った力を抜き、手首をぶらぶらと振って指を動かす。何の異常も感じられることなく今朝のトレーニングも終わる。これは、人理焼却を防ぐ旅が始まった頃からしていた訓練だ。回路を開いて魔力供給しか出来なかった俺は、こうやって地道な事を積み重ねていた。実戦訓練で散々エミヤと彼女(・・)に虐められたが、今となっては良い思い出だ。

 集中しすぎたせいか額から汗が流れてきた。それを軽く腕で汗を拭うと、マイルームの扉がゆっくりと開いた。外からやって来たのは、いつもの露出の多い黒衣ではなく、白いワンピースに額に付けていた仮面を外した少女。静謐のハサンだった。

 

「マスター。そろそろお時間です。召喚の準備に入るよう、ブーディカさんが呼んでいましたよ」

「ん、了解。いつも伝達係みたいなことさせて悪いな、静謐」

「いえ。私は、マスターのお役に立てることが嬉しいので」

「相変わらず自己評価の低い奴だなぁ。ま、俺とよく似てるかもしれないが……」

 

 頭を掻きながらマイルームの立体映像を消し、マイルームの景色を元に戻す。簡素なベッドとソファー。細々とした私物しか置かれていないマイルームに戻ったが、元々こんな感じの部屋だったから問題はない。クローゼットからいつも着ている黒コートを取り出しながら部屋を出て、その前にいる静謐の頭を軽く撫でる。

 

「わっ…………」

「そら、早く行くぞ静謐。あと、俺にも言えることだけど、あんまり低く自己評価すんなよ? 俺は他の誰でもない、お前を(・・・)頼ってるんだからな」

 

 静謐に聖杯を2つ注いで、レベルを80にまでしたのはその為だ。最初から最後まで、この旅を一緒に過ごしてきた仲間だからこそ、俺は静謐を信頼している。だから、あんまりそんなことを言わないで欲しい。そんなことを思いながら彼女の前を歩いていると、後ろから何か囁かれた気がした。

 

「っ、――――――」

「ん? なんか言ったか?」

「いいえ、何も。何も言ってませんよ。我が主。では、参りましょう。我が主」

「………ああ。行こうか、静謐」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。我が主。全て、この身を賭してお慕いします。黒鋼研砥様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、準備はこれで完了だな。とっとと回すぞ~」

「あれ、今回はかなり軽いね研砥? 今回のピックアップされてるサーヴァントって、あんまり興味がなかったりするの?」

 

 召喚場まで案内してくれた静謐と別れ、聖晶石が大量に入った箱を持った俺は、いつでも投げ入れるように準備を整えていると、先に部屋にいたブーディカさんが尋ねて来た。俺はそれに応じるように首を軽く横に振りながら、彼女の質問に答える。

 

「いや、やっぱりこっちにも来て欲しいけどね。何より、今回のピックアップされてるサーヴァントは俺にとって……。いや、俺たち(・・・)にとって馴染み深い人だしな」

 

 今回、出現確率が補正されているサーヴァントは、俺たちの中でも初期から支えてくれたあの人が、『シャーロック・ホームズ』がピックアップ対象なのだ。そのついでと言っては失礼だが、各特異点で登場したサーヴァント達のピックアップもされている。俺と狭間たちが初めて一緒に戦った『炎上汚染都市 冬木』から、この間発生した亜種特異点Ⅱの『伝承地底世界 アガルタ』までの各特異点が対象だ。

 ちなみに、既に家にいるホームズの天敵。『ジェームズ・モリアーティー』は全力で召喚を妨害しようと画策してたので、サクッと令呪を2画使って自宅謹慎とレポート作成を任せてきた。この間、なんか変な空間にレイシフトしたから余計なレポート書く必要ができたが、イラッと来たからやってしまった。だが、悪いとは思っていない。

 

「ホームズさんはともかく、今回は騎士王が。アルトリアさんが来てくれる可能性が高いからね。結構ガチで回しに行くぜ」

「いや、無理にあの子たちを当てに行かなくても良いんだよ? この後、今年の水着イベントが待ってるんでしょ?」

「そりゃそうだけど。水着のネロとかも欲しいけど、今年はブーディカさんがいないしねぇ。ま、余った石を叩き込もうとは思うが、そんなにやる気が起きないんだよな~」

 

 ガチャを回す前に軽くお喋りをする俺たち。次に行われるイベント、『デッドヒートサマーレース』なるイベントだが、新規で来たサーヴァントは7騎。その中で来て欲しいのはネロとかノッブくらいなものなので、あまりやる気が起きないのだ。というか、去年の水着イベントを見る限り、どうしようもない駄目イベントになりそうで怖い。そんなことを考えていると、何故かブーディカさんが照れたように笑っていた。

 

「って、どうかしたのかブーディカさん? 何かあったか?」

「え!? ううん! なんでもないよ!? なんでもないから! ね!?」

「お、おう……。と、とりあえず10連回してみますか」

 

 やたら念を押してくるブーディカさんに驚きながらも、残っている140個近く残っている石の中から石を30個取り出す。この間の福袋召喚で購入した石の余りと、ランサーの玉藻さんを割と序盤に召喚したので、割と石が残っているのだ。これだと1人くらいは高レアサーヴァントを召喚できそうな気がする。

 取り出した30個の石をサークルに向けて放り込む。最初の10連はただの運試しだ。どうせ☆4礼装しか出ない悲惨な結果になるだろうと諦めながら回してみる。何回か礼装やサーヴァントが召喚される中、回の期間限定☆4礼装、『アフタヌーン・パーティー』の出現を確認する。イラストを見る限り、冬木で消えてしまったオルガマリーさんが映っていた。久しぶりに見た顔に少し笑ってしまったが、その次には金色のカードが飛び出してきた。

 

「出てきたのはアーチャーか。……☆4だと、まだアタランテさんが来てくれてないなぁ。子供好きな人だから、来てくれると助かる」

「オケアノスで色々お世話になったアーチャーの人だよね。確かに強いし、私も会いたいかな」

 

 これから召喚される人に期待を寄せながら待っていると、カードから光が溢れ出してその体を形作っていく。まず、俺たちの視界に現れたのは赤いロングコート。褐色の肌に、体色とは真逆の逆立てた白髪。そして、両手にそれぞれ握られた白と黒の双剣。見覚えがあるシルエットから現れたのは、俺たちがよく知る人物。

 

 

 

 

 

「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した。」

 

 

 

 

 

「…………これはまた、反応に困るマスターに呼ばれたものだな」

「そりゃ俺のセリフだ。というか、今年になってアーチャーの召喚率高くね俺?」

「まぁまぁ。私は何度も会えて嬉しいけどね?」

 

 この間召喚に成功したアーチャー。エミヤの登場に少し苦笑しながらも、俺たちはそれぞれハイタッチを交わす。去年、終局特異点での最終決戦を終えた後、エミヤは一度『英霊の座』に帰ったので、実は少し寂しい思いをしていた。だが、この間の『ぐだぐだ本能寺』を経て再召喚されたため、この召喚場での出会いはこれで3回目になる。ここまで顔を合わせていると、腐れ縁とでも呼べそうだ。

 

「あ~エミヤ、後でこっちにいるお前と統合することになる。だから、先に工房で待っていてくれるか?」

「了解したマスター。あと、私の事は余り気にしないことだ。君と共に戦った記憶はあるが、そういったことは割り切りが重要だ。これからも、ここにいる私と共に戦ってくれ」

 

 いつものようにニヒルに笑いながら、エミヤは召喚場の後ろに立ち並んだ。せっかくここに呼ばれたのだから、召喚が終わるまでは立ち合いたいらしい。最後まで面倒を見るエミヤらしいことだと思いながらも、残りの召喚を見守った。だが、結果としては既に召喚されたサーヴァントや礼装が出てくるだけで、これといった結果を残すことは出来なかった。

 

「ま、こんなもんか。エミヤを召喚できたからまだマシだしな」

「悪かったな性能の低いサーヴァントで。だが、それで諦めれるほど、君は諦めが良い方ではないだろう?」

「勿論。それじゃ、どんどん回していくぞ~~!」

 

 最初の10連は所詮運試し。それでエミヤという☆4サーヴァントの召喚に成功しているのだ。ならば、次にはもっと良いサーヴァントが召喚できるに違いないと信じ、俺は再び30個の石をサークルに放り込む。だが、これはあまりというより、相当悲惨な結果に終わってしまった。なにせ、最初に☆4の『封印指定執行者』という礼装が出てから、全て☆3のサーヴァントと礼装ラッシュだったのだ。まぁ、今回で5枚目の登場だったので、限界突破出来たのが不幸中の幸いだった。

 というか、初回と今回でダレイオス三世の宝具レベルがカンストしてしまったのだが。これはあれか。そろそろ高レアが出ないから、☆3以下のサーヴァントも育てろということか。最近、マタ・ハリさんとかスパルタクスとか育ててるのにな~。

 

「残りの石は80か。む~……。そろそろ10連を諦めて、呼符チャレンジに切り替えるべきか………?」

「少なくとも、今回の呼符は半分6枚までは使うんだよね? 石はもう半分近く使ってるし、そろそろやめるべきだと思うけど……」

「やめておけブーディカ。私たちのマスターは、これからのことを全く考えず召喚を繰り返す阿呆なマスターだぞ? 止めても無駄なだけだ」

「その無駄な召喚でお前が来たんだけどな。まあいいや。とりあえず、これで最後にするから10連回すぞ~。ピックアップ対象を『特異点F』に変更っと」

 

 残りの石がついに50を切ることになってしまったが、それは仕方がないことだと割り切って、本日3度目の10連ガチャを開始する。今まではホームズ単体のピックアップガチャを回していたが、最後の最後で『特異点F』、冬木で遭遇したサーヴァントがピックアップされているガチャに切り替える。このシステム、一度切り替えたら二度と変更できないので、あまり使いたくはなかったのだが、10連最後のガチャということで切り替えてみた。

 このガチャだとキャスターのクー・フーリンや、既に召喚されたエミヤ。それから青と黒の騎士王等がピックアップに追加されている。といっても、既にエミヤが召喚されている以上、もう金色のサーヴァントカードは出ないだろうと割り切っているのだが。

 

「お、☆5の概念礼装が出てきたな。え~と、『カルデア・アニバーサリー』……?」

「……これはまた、少々反応に困る礼装だな」

「そう、だね。全く、な~んでここにいない人が映ってるんだろうね?」

 

 飛び出して来た礼装を見た後、エミヤとブーディカさんが苦笑した。多分、顔は見えなかったが俺も似たような表情だっただろう。この概念礼装に移っているのは、カルデアにいるマシュとダ・ヴィンチさん。それから、あの戦い(・・・・)でいなくなってしまったロマニさん。正直、ここで笑顔な彼を見るのがとても辛い。せっかくの二周年を記念とした召喚なのに、ここにいない貴方が笑っているのは、少々卑怯ではないだろうか。自然と、目頭が熱くなってくるじゃないか。

 零れそうになった涙を、左腕で目元を強く拭う。つまらないことを考えても仕方がないと割り切ろうとして頭を軽く振ると、突如として眩い光と突風が召喚場内に吹き荒れた。何事かと身構えていると、正面のサークル上に金色に輝く騎士が描かれたカードが鎮座していた。

 

「なっ、ここで☆4以上のセイバーだと!?」

「ピックアップされている高レアセイバーはたったの2人。これは、まさか彼女が来るの!?」

「落ち着け2人共! ここでジークフリートが来たら心苦しい気持ちになるだろうっ!」

 

 俺とブーディカさんの期待に鋭いツッコミをするエミヤ。あの時の、まだ人理焼却を防ぐ旅を出て間もない頃の事を思い出して笑っていると、ついにセイバーの召喚が始まった。

 強風を巻き起こし、眩い光を溢れさせながら現れ、まず目に捉えたのは青と白で彩られたドレス。足元にまで伸びたロングスカートに、徐々に収まっていく強風を束ねた、風を纏った透明な剣。後ろで1つに纏められた金色の髪に、ブーディカさんとよく似た翡翠色の瞳。キリッとした表情の男装の麗人(・・・・・)は、ゆっくりとした口調で俺に尋ねた。

 

 

 

 

 

 

「問おう。貴方が私マスターか?」

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………」

「…………………………………………」

「…………………………………………」

 

 この場に居合わせた、俺を含む3人は言葉を失っていた。確かに、目の前にいる彼女が召喚される可能性はあった。だが、彼女は今回の目当てのサーヴァント。ホームズと同じ☆5のサーヴァントなのだ。召喚されることは稀で、多分今回も失敗だろうと思っていた。にもかかわらず、こんなにもあっさりと召喚してしまったことに驚きが隠せなかったのである。

 呆然と立ち尽くす俺たちを見たせいか、目の前に降り立った騎士王は首を傾げながらおずおずと尋ねてきた。

 

「すまない、もしかして貴方の呼びたいサーヴァントではなかったのだろうか。無反応だと、少し困ります」

「あ、ああ。悪い、ちょっと本気で驚いて立ち竦んでた。え~と、確かに、俺は貴女のマスターだ。よろしくお願いします」

「別に、そこまでかしこまらなくても構いません。召喚に応じる際、貴方たちのことは聖杯からの知識提供で知っています。サーヴァント・セイバー。真名、アルトリア・ペンドラゴン。これより、我が剣は貴女と共にあります。良い指示を期待していますよ」

 

 少しだけ素っ気なく言いながら、アルトリアさんは毅然とした態度で頭を垂れた。彼の騎士王にそんなことをさせるつもりはなかったので、すぐに顔を上げるように言うと、彼女は驚いたように目を丸くした。

 

「驚きました。貴方もここに召喚されていたのですね。アーチャー」

「まあ、な。この私はここでは3度目の召喚になる。だが、まさか、君が召喚される時に居合わせるとはね。いやはや。ここまで来ると腐れ縁かもしれんな。そうは思わないかセイバー?」

「確かに、そうかもしれませんね。私としては、貴方に会えて。そして、共に戦えるのは喜ばしいことです」

「…………全く、君は変わらないな」

 

 苦笑しながらもどこか嬉しそうに笑うエミヤ。アルトリアさんも旧友と会ったような笑みを浮かべていた。その在り方は、横から見ているだけでも仲の良いコンビに見える。その様子を見て少しニヤついていると、召喚場にまた風か起こっていることに気づいた。

 

「ん? また風が―――!?」

 

 そよ風のように吹いていたそれに気づいた直後、いきなり勢いが増して暴風に変わる。それもただの風ではない。召喚サークルの中心から吹き荒れるそれは、禍々しい赤黒い魔力を帯び、3本に分かれた光のラインをも飲み込む。

 この風の勢い。それが発する禍々しい赤黒い魔力の風。それにはとても見覚えがあった。最初の特異点。そして、この間の新宿で会った彼女の放っていた者に酷似していた。どこか懐かしい魔力の感じに苦笑いしながら、俺はサークルに向かって歩き出していた。

 

「な、下がれ研砥! その風は危険だ!」

「大丈夫だよエミヤ。―――彼女は、敵じゃあない」

 

 いつもの双剣を投影したエミヤが俺の前に出ようとしたが、俺はそれを言葉で制する。いつもの俺だったら、エミヤや他のサーヴァントたちの言い分を聞いていただろう。だけど、こればっかりは譲れなかった。ここで引いたら、きっと後悔すると思ったからだ。

 

 赤黒い風を帯びた光のラインが束なり、同色の光の柱が立ち昇る。柱の中から現れたのは真っ黒な鎧。腰と手の先に広がる血のように赤いラインに、鎧と同じカラーの西洋剣。色素を失ったように青白い肌に金色の髪。そして、頭部に装着されたバイザー。圧倒的な威圧感を放ちながら、サークルの中央に降り立った彼女は、口を開いて俺に告げた。

 

 

 

 

 

「………召喚に応じ参上した。貴様が私のマスターというヤツか?」

 

 

 

 

 

「………なんだ、結構近い再開だったな。オルタ」

「貴様か、勝利の女王(ヴィクトリア)のマスター。貴様との再会は、確か新宿以来だな。」

「ああ。まあ、これからよろしく頼むな」

 

 バイザーを取り外して素顔を晒すアルトリア。先に召喚した青いアルトリアさんの性質が、ある事件をきっかけに反転。所謂オルタ化したのが目の前にいる黒い騎士王だ。最初の特異点では敵として立ちはだかり、その後でサンタになったり私服を着て新宿の街を闊歩したりと、色々とやりたい放題していたが、その実力は一級品。世界最強の聖剣を躊躇することなく振るう鬼のような人だ。

 目の前の召喚に応じてくれた黒いアルトリアのことを振り返っていると、面白い物を見つけたように笑いながら、彼女は黒に染まった聖剣を青いアルトリアに向けて振るった。

 

「ふっ―――――!!」

「っ!? はぁっ!!」

 

 自分に向けられた殺意に気づいたアルトリアさんは、風の鞘に包まれた剣を持って黒い聖剣を迎え撃つ。彼女たちは性質こそ違えど、元は同じ存在。互いの力は拮抗することになり、自然と鍔迫り合いとなる。時折、火花を散らして剣をぶつけ合いながら、2人は言葉を交わした。

 

「何故、このタイミングで斬りかかって来るのですか! 黒い私!!」

「なに、目障りな女がいたのでな。少々、消し飛ばそうとしただけだ!!」

 

 互いに何合も剣をぶつけながら、2人は距離を取った。加減をしている場合ではないと判断したのか、青いアルトリアさんは風の鞘を開放し、包まれた剣を解き放つ。刀身が黄金の光に包まれた、黒いアルトリアとは真逆の性質を持つ聖剣。誰もが一度は聞いたことのある剣、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を構える。互いに持つ聖剣を構え直し、足に力を込めて勢い飛び出した。だが、2人が放った剣はそれぞれの前に立ちはだかった者によって止められた。

 アルトリアさんの一撃は白と黒の双剣を交差したエミヤが受け止め、黒いアルトリアは愛剣を抜刀したブーディカさんが受け止めた。二人の攻撃を止めて安堵したのか、エミヤは息を吐きながら呟く。

 

「そこまでだ2人とも。別に戦うなとは言わんが、召喚場(ここ)での乱闘は止めてもらおうか」

「………ふん、それぐらい分かっている。ただ、少し体を動かしたかっただけだ」

「……申し訳ありません。少々、頭に血が上ってしまいました」

 

 通常とオルタ化した2人のアルトリアは、申し訳なさそうに頭を下げた。それを見届けた後、エミヤは苦笑しながら投影した双剣を消した。だが、黒いアルトリアの相手をしていたブーディカさんは、無言なまま黒いアルトリアを。その後に普通のアルトリアさんの手を引っ張った。

 

「……………? あの、どうかしましたか?」

「……ああ。そういうことか。しまったな、私としたことが失念していた――――」

 

 戸惑うように首を傾げる普通のアルトリアさんと、何か悟ったように死んだ魚のような眼をする黒いアルトリア。直後、手を取っていたブーディカさんは、2人のアルトリアを思いっきり抱きしめた。

 

「あ~~~~~もう!!! 2人とも可愛いな~~~~~~~!!!」

「ふむぅ!? ~~~~!?!?!?」

ひはたのないほととはいえ、(仕方のないこととはいえ)ふぁいどほれだとふぇんどうだな(毎度これだと面倒だな)…………」

 

 力強く二人のアルトリアを抱きしめるブーディカさん。それを初めて受ける普通のアルトリアさんは困惑して手をバタバタしているが、黒いアルトリアはされるがままにブーディカさんの胸に飲まれている。鬱陶しそうな顔をしてはいたが、どこか照れたように頬を赤くしているのを俺は見逃さなかった。遂に召喚されたブリテンの騎士王。ブリタニアの女王であるブーディカさんの後輩にあたる彼女達を全力で可愛がる様子を見て、俺は苦笑した。

 

「全く、イギリス系のサーヴァントの。中でも円卓の騎士達に関してはいつもあんな感じだよなぁ。まぁ、見慣れたけどさ」

「確かにそうだね。だが、それは彼女の性格だからだろう。それに、今に始まったわけでもないだろう?」

「そりゃそうだけどさ。毎度やらされてる彼女達の身にもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 遠くから彼女たちの様子を感想を言っていると、いつの間にか隣に立っていた男と会話していたことに驚いた。馴染みのある声だったから違和感なく受け答えしていたが、その声はここにはいないはずの声だったのだ。冷静になって幽霊かと思って飛び退いてしまった。聞き間違えたと思ったが、飛び退いた先に目が捉えた姿を見た時、感動の余り涙を流してしまった。

 いつもの青黒いコートとスーツに身を包み、その背後には大量にある謎のルーペのような物。右手に持った剣のように細く鋭い杖に、どこか遠くを見据えたような目つき。亜種特異点Ⅰの『新宿』以来、カルデアに腰を据えたはずの彼がここに立っていた。

 

 

 

 

 

「せっかくの再召喚だ。ならば、改めて自己紹介をするべきだろう。サーヴァント、ルーラー。真明『シャーロック・ホームズ』。私は探偵だ。英雄を望んでいたのなら残念と言う他ないが、探偵や推理家を所望なら、君は良いカードを引き当てた。………すまない、帰宅に少々、時間が掛かってしまったね。諸君」

 

 

 

 

 

 どこかはにかむように笑いながら、魔術師(キャスター)から調停者(ルーラー)へとクラスを切り替えた探偵の代名詞。俺たちの旅で古参にあたるサーヴァント、ホームズさんが召喚されていた。いつの間にか召喚されていた☆5サーヴァントに目を丸くしながらも、俺は零れる涙を拭きとることもせずに笑った。

 

「ああ。お帰り、ホームズさんっ!!」

「ただいま。ああ………。やはり、カルデアよりこちらの方が、私の性に合っている。これからもよろしく頼むよ。私たちのマスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~おまけ~~~

 

 青と黒のアルトリアを召喚してから数日後。黒鋼は自身がしてしまったことの重大さに、愚かさを割と本気で悔いていた。考えれば当たり前のことだったのだ。この間来てくれた2人より前にも、リリィとサンタオルタというアルトリアはいたのだ。そして、彼女たちはとても食欲が強い。つまり、それが一気に2人も増えたということは。自然と作る量が増える(・・・・・・・)ということなのだ。

 

「おい、そこのシェフ共! ハンバーガー1ダース追加だ!!」

「すいませんアーチャー。チキン南蛮定食ライス大盛りと、唐揚げ定食ライス大盛りを追加で!」

 

 一気に増えたオーダーに四苦八苦しながら、食堂に集まったサーヴァントたちは黙々と調理を進めていく。だが、あまりにも注文された量が多すぎる。品の数は18。だが、ここにいるのはオルタ込みでエミヤ2人とブーディカ。それと黒鋼の4人だけだ。ご飯や味噌汁なら作り置きがあるから大丈夫だ。しかし、それ以外となると新たに品を作る必要がある。1からしていては時間がかかりすぎてしまう。単純に、調理できる人の数が足りないのだ。

 

「おいエミヤズ!! そっちはどうなっている!」

「ハンバーガーは俺に任せておけ。もうすぐ5つ完成する。オマケにフライドポテトを付ければ少しは持つだろう」

「こっちはもうすぐ唐揚げができる! ブーディカはどうだ!?」

「パンケーキ2枚はできるかな!! 研砥! とりあえず完成した物から持って行ってくれるかい!?」

「了解!! あ~もう! 忙しいなァ!!!」

 

 あまりの忙しさに目を丸くしながらも、黒鋼は完成して皿に乗せられた料理を丁寧に。かつ、迅速に配布していく。とりあえず、注文された半分をこなすも、今度はアルトリア以外のサーヴァントがオーダーを告げる。

 

「すまないマスター。カレーうどん定食を1つ頼む」

「マスターさ~ん! メープルシロップとチョコレートのパンケーキ2枚ずつお願いしま~す!」

「おい、私のターキーはまだか?」

「了解了解!! 早く持ってくるから少し待っていてくれよ!!」

 

 次から次へと注文(オーダー)が入っていく。目まぐるしく増えていく注文の数に焦りを感じながらも、平常心が大事だと言い聞かせながら、黒鋼は厨房へと戻りオーダーを伝えていく。料理人たちの顔に変化はない。だが、本人たちも気づいてはいるだろうが、徐々に疲れが溜まり始めている。この状況は何とかしなければならない。だが、これ覆すための手段が無い。そのことに焦りを感じ、眉を寄せる黒鋼。どうすればいいと考えていると、厨房の入り口が勢いよく開かれた。

 何事かと、厨房にいた料理人たちの視線が一斉に集中する。直後、この場にいる誰もに笑みが戻った。何故なら、その先には見慣れた料理人の制服に袖を通した、3人の女性がいたからだ。

 

「ごわははははは!! 待たせたなご主人! ご主人からの愛が最も大きいキャットが助けに来たんだワン!!」

「救援に来て欲しいと言われたから、文字通り飛んで来たわ! 後は私に任せなさい!!」

「マスター! 母が助けに来ましたよ!!」

 

 初めからタマモキャット。エレナ・ブラヴァツキー。そして、源頼光。ここにいるのは料理レベルがとても高いサーヴァント達だ。ここにいる人たちにも引けを取らないレベルの高さを誇る料理人達が一気に3人も増えた。心強い援軍だ。そのことに安堵した皆に笑顔が戻る。そんな中、黒鋼はある人物に目が移っていた。

 

「あれ、そのエプロンどうしたんだキャット? いつもの白エプロンじゃないみたいだが」

「お、そこに目が行くとはさすがご主人! これはだな! 私とご主人との絆が最高値に達した時にのみ着用が許される最強のエプロンなのだな! 所謂、キャットとご主人との愛の証だな!!」

「え゛」

「何照れるなご主人! 誰が何を言わずともキャットがご主人の最強にして最可愛いペットなのは自明の理。ご主人のキャットとして、この事態を瞬く間の内に解決してみせるとしよう!!」

 

 バーサーカー特有のズレた思考から発せられた言葉に動きが止まる黒鋼。それもその筈。何故なら、ここにいる彼女を前にして、その発言は自殺行為に等しいからだ。

 

「あらあらまぁまぁ。キャットさん? 今のお言葉、詳しくお聞かせもらえないでしょうか?」

「うん? どうかしたのか源氏の武将母よ。キャットは野生に溢れているので物忘れも早くてな。ご主人や料理のこと以外は余り覚えていないのだワン!」

「うふふふ、とぼけますかこの野狐? 貴女には料理の師事をしていただきましたが、我が子を狙う不届き者ならば仕方がありません。心苦しいですが、この頼光。鬼になりましょう………!」

「おいおいおい!! なに頼光さんの地雷踏み抜いてんだよキャット!? こうなったら金時呼ばないと止まらないぞ!?」

「なに、任せるがよいご主人。さて、そこのバサカ源氏よ。お主も料理人としてこの厨房に立っているのならば刀など無粋な物を抜くでない。料理人は料理人らしく、料理を以て吾輩に挑むが良い!!」

「良いでしょう。源頼光、推して参りますっ!!」

 

 かくして、キャットの考えなしの発言が招いたこの事件は、互いがこのオーダーの数をどれだけこなせるかという競争になり、最終的に引き分けになってしまい、決着は次の機会になった。いつからここは食戟次元になったんだと、一人頭を抱える黒鋼の姿がそこにあったんだそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで、今回のホームズガチャは大勝利!! なんとエミヤ2人目と、青と黒のアルトリアが1人ずつ。それに加えてホームズさんが来るという大勝利!! しかし、この頃はまだ気づいていなかったのです。よもや、今年の水着ガチャがあんな結果に終わることになるなんて………………!!

 あと、オマケのストーリーは割とマジでありそうな組織事情です。ここには書いてませんが、リップやサンタオルタがいたところに、バニヤンとアルトリアが2人も入りましたからね。厨房も大忙しですよ。ハードワークすぎてマスターの黒鋼君のストレスがマッハ。これは、過労でダウンするのも近いか………!?
 それから、知らない内にキャットの絆レベルがカンストしてました。種火周回でいっつも使ってたからなぁ。少しの間お休みです。とりあえず、スキルレベルカンストを目指さないとな~。


 ここまでの読了、ありがとうございました!!
 次回もお楽しみに!!


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そこには憎悪と、神殺しと、喜びがあった。

ホームズガチャの次に行うガチャ。それすなわち、今年の水着ガチャのことを指す――――――!!
というわけで、今回は『~~~デッドヒート・サマーレース~~~夢と希望のイシュタルカップ2017』と、『~~~デスジェイル・サマーエスケイプ~~~罪と絶望のメイヴ大監獄2017』のガチャ報告回となります! 
しょうもない小説を書いてたら1万5千近い文字数になっているので、時間がある時に読むことをお勧めします。それでは、本編をどうぞ!


 嵐が吹き荒れる出張イシュタル神殿。イベント会場となったこの場所この大地、何故かレースという形で発生した特異点の修復を行うことになった俺達。突如やってきた金星の女神、第七特異点『絶対魔獣戦線 バビロニア』にて駄女神の称号を授けられた『イシュタル』と共に、俺たちは多くのレース会場にて参加者たちを応援し、妨害してきた相手を蹴散らしてきた。

 だが、今回の戦いにおいて最も許せなかったことがあった。確かに、彼女は本来ああいう性質を持っている英霊だ。ローマに復讐を誓い、自分と、娘と、故郷を凌辱し尽くしたあの国を滅ぼさんと戦った。だが、それでもだ。彼女は一度それを振り払って宣言したのだ。

 

『英霊というのは、人類史に刻まれた影。過去に生きた私じゃない。過去に生きた自分と、サーヴァントとして今を生きる自分は同一自分じゃない。だから私は、今を生きる私としてお前を、ローマ皇帝を許す』――――――と。

あの時、数多の英霊が流星の如く戦場へと駆け付けた時に。彼女は、彼女の時代に生きたローマ皇帝を許したのだ。俺は心の底から安心し、感動の余り涙を流した。俺は彼女達の時代に生きた訳ではないが、彼女達の凄絶な歴史は知っている。そして、ローマ皇帝である彼女が、自分の命で人を傷つけた訳でもないということも。

 勿論、これはただの綺麗事だ。ローマが彼女の国や民を襲ったことに変わりはない。だが、英霊となってから再開したローマ皇帝と再会した時。彼女は笑って彼女を許したのだ。目の前に立つ少女は悪くはないと。それがどんなにも得難い物なのか。それがどんなにも素晴らしく、美しい物なのか。きっと、俺には想像することはできないことだ。けれどこれだけは言いたい。この時、彼女たちは確かに、互いを理解し合うことが出来たのだと――――――

 

 

 

 

 

 だというのに。今回のレースの最中、再び悲劇が起こった。彼の女王が復讐者へと身を堕とし、ローマ皇帝へと襲い掛かったのだ。それを見た時、俺は居ても立っても居られなかった。何としても彼女たちが互いを傷付けあうのを止めようと必死になった。だが、結果は女王が自身の過ちを悟り、その身を消滅させることで決着が付いてしまった。何も出来なかった。人理を救った片割れが、何か策はないのかと必死に考えてる間に彼女は消えてしまった。

 この時ほど、自分の無力さを呪ったことはない。確かに、彼女は『この会場に呼ばれた時に霊基の調子が違っていた』と言っていた。そのせいでローマ皇帝に襲い掛かったのだと。であれば。俺に出来るのは、彼女の霊基を弄った黒幕を叩きのめすことだけだった。レースに参加しているサーヴァント。レース会場にて屋台を開いている一部のサーヴァントを除いた者に此度の騒動を相談し、秘密裏に事件の情報を集めるように命令した(・・・・)

 捜査は困難を極めた。それだけ、今回の首謀者は相当入念に事態を整えてきたようだ。だが、どんな犯人もミスはする。レースのサポートをしつつ捜査を続けた俺の体は悲鳴を上げていたが、それを無視してでも俺は捜査にのめりこんだ。途中、バビロニアの賢王によって物理的に眠らせられたが、彼なり優しさなので仕方ないと割り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 盛り上げたレースが、何故か選手たちによる脱獄レースへと変わった時は頭痛がした。だが、これも何かの縁だと思った。俺はサポートを狭間に任せ、監獄へと侵入することに成功した。名探偵の手助けを得ながら監獄塔に収監された者。そして、監獄長であるコノートの女王からもたらされた情報を元に、此度の事件の全貌を暴くことに成功した。そして、自分がこの事件を暴いた所で犯行を止めることができないということも。だが、それがどうした(・・・・・・・)。彼女が受けた屈辱に、原初の神との決戦に比べれば楽な戦いなのだ。引く理由などどこにもない。決戦の時は近い。俺はアトラスが開発した携帯型転移装置を駆使し、これから起こる決戦に向けて準備を整える。

 

 

 

 

 選手達が無事に監獄塔から脱出し、レースを完走した時。遂に黒幕が姿を現した。自身がしてしまったうっかり、もとい失態を無かったことにするべく始めたこのイベントは、全て彼女の持つ神獣を再誕させるための儀式だったのだ。神獣の名は『グガランナ』。『天の牡牛』とも呼ばれたそれは、彼の英雄王と、その友たる神に造らし生きた宝具がやっとのことで撃退したまさに怪物。バビロニアの大地を一瞬にして荒野に変え、踏み込む一歩はあの原初の神にも引けを取らない。

 レースが終わった直後、まだ現界を始めたばかりだからこそ抵抗は可能だ。だが、もし召喚に成功してしまったのなら。目の前に降り立ち、こちらを見下ろして嘲笑するイシュタル神は『イナンナ』へと変化し、あらゆる制空権を確保してしまう女神へと変貌してしまう。大地を砕くグガランナの相手をするのに加え、制空権さえも奪われてしまったらこちらに勝ち目はなくなる。あと数分、それまでに決着を着けなければならない。その時、俺はイシュタル神に話しかけた。

 

「なぁイシュタル神。多分、これが最期だから2つだけ質問を許しては貰えないだろうか? これだけは聞いておかないと。死んでも死にきれないんだ」

「あら? 別に構わないわよ~? 貴方の所にいる金ぴかは鬱陶しいけど、マスターである貴方には何の罪もないもの。それで? 何が聞きたいのかしら?」

「話の分かる女神で助かる。それじゃ、早速1つ目の質問だ。…………何で、今回の妨害者にあの4人を選んだ?」

 

 これだ。最初のレースではアタランテ、ブーディカさん、ペンテシレイア、アルテミスの合計4騎のサーヴァントが俺たちの前に立ちはだかった。これには1つの規則性がある。俺の予想が正しければ、イシュタル神が言うセリフは予想できる。

 

「そんなこと? あれはね、金星の大地に付けられている名前と一致しているサーヴァントを配置したのよ。ほら、そうした方が魔力の消費とか、グガランナ復活の儀式に必要な魔力の調整もしやすかったしね」

「そうか。なら2つ目の質問だ。なんで、ブーディカさんを他の3騎と違って霊基を弄ったんだ。別に、彼女のことだし妨害くらいなら渋々引き受けてくれただろう?」

 

 そう、これだけが聞きたかった。別に、ブーディカさんが敵と現れることに対して怒っているわけじゃない。1年くらい前にあった『オガワハイム』という特異点でも、彼女は狂戦士として襲い掛かって来た時があった。その時のように、今回は復讐者として襲い掛かってきただけ。そう割り切ることが出来た。だが、彼女が最期の言い残したあの言葉。ここに呼び出された時には霊基の調子が違っていたと。それはつまり、彼女ではない何者かが霊基を弄ったということに他ならない。目の前に立つうっかり駄女神がそんなことは出来ないとは思ったが、念のために聞いておくことにした。

 そしてこの時、俺は激しく後悔した。目の前にこちらを見下ろす女神の放ったセリフを聞いた時。激しい後悔の念を覚えたのだ。

 

「だって、普通にライダーとして登場させても盛り上がらないでしょう? だったら、せっかくレース参加者にローマ皇帝がいたんだし、思い切って復讐者(アヴェンジャー)にしてみたのよ。結果は大成功! あ、勿論あなたには申し訳ないと思ってるわ。お詫びに、私がグガランナを手にして時には何でも言うことを聞いてあげる! 私からの寵愛を授けてあげても構わないわよ~?」

「そうかい。そりゃ良かった。あぁ…………そいつは、本当に良かったなァ(・・・・・・・・・)

 

 イシュタル神の言葉聞いた時、俺の胸の中に溢れたのは怒り、憎悪。まるで、自分の身を焦がすような衝動に駆られた。だが、冷静さを失えば勝てる戦いにも勝てなくなる。これはゲームなのだ。自分の命というチップを賭けたレースという名のゲームだ。だが、ゲームというのであれば。そこにはある種の裏技(・・)があっても理不尽ではないだろう。

 

「それが分かればいい。お前がブーディカさんをあんな姿にした。それが分かればな………!!」

 

 これだけはしまいと思っていたが、あのセリフを聞いて気が変わった。俺は即座に令呪を持って、この状況を打開しうる力を持った女性を呼び寄せる。青い着物の上に赤いジャンパーという奇妙な格好をした、茶髪で鋭い目をした女性。名前は『両儀式』。さっき話した『オガワハイム』という特異点で遭遇し、彼女の気まぐれで俺たちに力を貸してくれている暗殺者(アサシン)のサーヴァントだ。事前に通告しておいたとはいえ、突然呼ばれたことが不服だったのか、目に見えて不機嫌そうな態度を露わにした式さんだが、目の前にいる女神を見てすぐに笑顔になった。

 

「全く、俺をこんなことに使う奴なんて始めてだよ。正直、こんなことは二度とごめんだが……仕方ない。俺の力、お前に貸してやるよ」

「ありがとう式さん。あとで、エミヤにストロベリーアイスを大量に作らせるよ――――――」

 

 式さんの手の空いている左手を握る。その後、目を閉じ心を空にする。自分という器に、両儀式という女性の力が注ぎ込まれるのを想像する。俺ができることなんてたががしれている。的確な指示、的確な支援魔術。力の無い俺なんかを支えてくれる皆を信じ、最後まで共に戦うこと。それだけが、黒鋼研砥という男に許された、たった1つの力だった。だが、これから行うのは今までの戦いとは違う。この力は第六特異点で目覚めた。それを行使する条件はたった1つ。それは、自分に力を貸してくれる人が自分にどれだけ心を許しているか。

 俺が式さんの力を取り込もうとするのと同時に、俺を取り囲むように魔力の風が吹き荒れる。だが、それも一瞬の出来事。風の中にいた俺は、自分に貸してくれた(・・・・・・)力を行使しながら、ナイフを振るう。魔力の込められた鋭く細い刃を真っすぐにグガランナへと飛翔し――――――その太い足に深い切り傷を与えた。

 

「なっ!? そんな、事実上無敵の存在であるグガランナに手傷を負わせるなんて!? そんなこと、私と同じ女神でもない限りあり得ないのに!?」

 

 自分が支配するべき神獣が傷付けられる様を見たイシュタルが目に見えて動揺する。そして、その動揺は魔力の風の中から現れた俺の姿を見た時、より一層濃く表情に刻み込まれた。それはそうだろう。俺でさえ、この容姿には少し驚いている。

 身に纏うのは黒色の着物。その上に赤を基調としたコートを羽織り、黒い髪は目に掛かるまで伸びている。そして、青空のように澄んだ蒼い瞳。両目が酷い痛みを訴えるが、それは根性で抑え込む。目の前で、俺たち(・・・)の行く手を阻む女神に向かってナイフを差し向けながら俺は睨み付ける。

 

「もう喋らなくていいぞイシュタル。まずは、その舌から刻んでやろう………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぃ~っす、んじゃ、今日はサクッとガチャ回してくぞ~……」

「だ、大丈夫研砥? 凄くしんどうそうに見えるけど……」

「大丈夫大丈夫。ちょっと根源に接続しすぎて魔術回路が暴走しそうになったり、軽い貧血とか栄養失調とか起こしてるだけだから」

「いやそれ全然大丈夫じゃないよね!? マイルームに戻って休んでた方が良いって!!」

 

 イシュタルとグガランナ討伐から一週間ほどたった今日。俺は未だ残っている倦怠感に苛まれながらも、召喚場へと足を延ばしていた。隣には、いつもとは違って白いマントを着込んだブーディカさんが心配そうに駆け寄っている。

 何故、俺の体調がこんなにも悪いのか。理由は簡単、最初の短編小説みたいな物語を見てくれたように、式さんの力を、英霊(サーヴァント)の力を身に纏って戦うという、第六特異点で会得した戦闘スタイルを使ったからだ。

だがこの力。実は魔力は大量に持って行かれるやら、2、3日ほど病人みたいな生活を送らなくてならないやらと。とても使い勝手の悪い力だったりするのだが、今回ばかりは仕方なかった。あの黒幕だけは俺の手で斬らないといけなかったからだ。………霊核を斬ろうとしたら、流石にエミヤとかが止めに入ったが。

 

「というか聞いたよ? 今回あの力を使ったんでしょ? ならどうして休まないの! というか、むやみやたらに使わないって約束したよね!!」

「だって仕方ないじゃん。もう過ぎたことだろ?」

「そうだけど! 私としては、研砥の体の方が大事なんだよ! もっと、自分の体を大事にして!!!」

 

 なぜか目に涙を溜めながらも俺に訴えてくるブーディカさん。そう言われたら俺は何も言い返せない。彼女のことを思ってやってしまった今回の件だが、確かに、元はといえばあの(・・)イシュタルが主催したレースをそのまま実行してしまった自分たちの不注意さが、グガランナ復活などという事件を起こしてしまったのだ。もっと用心深く行動していれば、今回の事件は防げたのかもしれない。

 

「………分かったよ。確かに、絆レベルが7の式さんとあれを使ったのは悪かった。反省してます」

「よし、それでいい。それじゃ、早速ガチャを回しに行こう!!」

 

 無理に元気なふりをしなくてもいいのに、と言う事はできなかった。今回の事件で、彼女が殊の外思い悩んでいることは知っている。それは、ブーディカさんが悩んでも仕方がないことだと言いたいが、ズケズケと踏み入ってはいけないことだとも知っている。なので、俺としては何もできない。こんなところでも内心で自分の無力を笑っていると、ガコン、という音を立てながら召喚場の入り口が開いた。誰かやって来たのだろうかと思い、後ろ振り返った直後。赤と金色の塊が腹に向かって飛んできた。

 

「研砥―――――!! 余が来たぞ――――!!」

「ぐはぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 俺に目掛けて突っ込んできた赤と金色の塊。声だけで分かってしまった彼女の登場に驚きながらも、綺麗に鳩尾にクリティカルヒットしたダメージが、俺の全身を貫く。それでも決して倒れまいと足に力を込めながらも、彼女が後ろに倒れないようにと目の前の彼女、ネロの体を支える。

 

「ちょ、ちょっとネロさんや。いきなり飛び込んでくるのはやめてね。お前の突進、マジで鳩尾にクリンヒットするからな………!!」

「む、それはすまなかった。大丈夫か? 痛みが引くように、余が歌でも歌ってやろうか?」「あっれっれ~!! おっかしいな~~!! なんだか痛みが一瞬で引いたよ!! ありがとなネロッ!!」

「うむ! 余もマスターが元気そうで何よりだ!」

 

 にぱーと効果音が付きそうな輝かしい笑顔を振りまくネロ。さっきのダメージに加えてネロの歌を聞いた日には、婦長の下で数日絶対安静な日々を送ることになりかねない。空元気で問題ないということをアピールしていると、ブーディカさんがどこか困ったような表情をしていた。

 

「む? どうしたブーディカよ。何を難しそうな顔をしている?」

「いや………今回は、ネロ公にも迷惑かけちゃったなぁって思ってさ。その、ローマに謝りたくなんてないんだけど。やっぱり、レースでのことは私が悪いから―――」

 

 どこか思いつめたような顔をしながら、ブーディカさんがネロに頭を下げようとしたその時。ネロがブーディカさんに思いっきり抱きついた。突然のことに目をパチクリとさせた彼女は、自分がされていることに気付いて顔を赤くした。

 

「ちょ、ちょっとネロ公!? 一体何を―――」

「では、謝罪の代わりに1つ願いを言わせてもらおう。其方の憎むべき余が、其方に触れることを許せ。それをもって、此度の騒動を無かったこととする。要は、その、あれだ―――」

 

 どこか恥じらうように腰に抱き着いたまま言葉を濁らせるネロ。その後ろ姿だけをみれば、幼い少女が甘えているようにしか見えない。だが、本人にとっては大事なことなのだろう。ようやく決心したのか、そのまま頭上にいるブーディカさんを見上げながらもネロは願いを口にした。

 

「ええいまどろっこしい!! とにかく今日一日、余に構うがよい!!!」

 

 若干鼻声になりながらも、ブーディカさんを見上げながらネロは叫んだ。ここからだと顔は見えないけど、涙目で上目遣いで彼女を見ているに違いないと内心で苦笑する。それを聞いたブーディカさんというと、片手で顔を覆いながら上を向いていた。

 

「………なんだか、色々と悩んでた私が馬鹿みたいだなぁ。まあ、ネロ公よりはましなんだろうけど」

「なぬっ!? 何故そこで余の評価が下がるのだ!?」

「いやいや、ネロがアホの子っては皆の共通認識だからな。今更だろ、今更」

「研砥まで!? えぇい、2人揃って余をイジメるでない! な、泣くぞっ!! 余は泣くからなっ!?」

 

 ついにぽろぽろと涙を流すネロ。それに少し呆れながら頭を撫でる俺とブーディカさん。いつの間にか、あの悪かった空気は消えていた。自然とこんなことができる凄さに改めて感動しながら、俺とブーディカさんは泣き始めてしまった彼女を宥めるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、んじゃ気を取り直してガチャを引いていきますか!」

「そうだね。気合い入れて行こ~~!!」

 

 それからネロの機嫌を取り戻すのに数十分。何とか泣き止んだ、というより泣き疲れと運悪く発動した『頭痛持ち』の結果、寝てしまったネロをブーディカさんが膝枕させてからガチャを始めることになった。これまで、色々とガチャを回してきたが、これほどぐだぐだしたガチャがあっただろうか。いやない。『ぐだぐだ本能寺』や『ぐだぐだ新選組』であったしても、ここまでぐだぐだしたことはないと言い切れる。

 

「さてと。んじゃ、さっそく10連回していきますかね。そ~ら回れ~~」

 

 去年の水着復刻、この間のホームズさんの召喚で割と序盤で召喚できたため、今回も結構の数の石を貯めることに成功している。残っているのは90と少しの石。呼符は6枚しかないが、一人くらい今年の水着サーヴァントの召喚に成功出来たら御の字だ。最初はありがちだが☆3礼装ラッシュ。残り2、3回というところでサークルが黄金に輝いた。

 

「なんか、最近10連召喚の成功率が高くなって来てないか? 去年とか殆どのサーヴァント呼符単発とか、残った石で単発で召喚した人が多いのに。何故に?」

「まぁまぁ、え~と、来てくれたのはセイバー……。確か、今回だとセイバーになったフランちゃんがいたよね?」

「まあ、確かにいたけどね。そう簡単に来てくれるかどうか………」

 

 内心で勘繰りながら召喚を見守っていると、目の前に出現した騎士の絵が描かれた黄金のカードから光の粒子が溢れ出し、それがこれから召喚されるサーヴァントの姿を構成していく。

 まず目が捉えたのは、紺色を基調とした服装。ボサボサに伸びた白髪に、胸に刻まれた刻印と同じ緑の瞳。右手に握られた西洋剣は針のように細くて鋭い。加えて、現れたのは俺より身長が高い男性だった。

 

 

 

 

 

「セイバー・ジークフリート。召喚に応じて参上した。命令を」

 

 

 

 

 

 

「なるほど、これが噂に聞いくすまないキャンセルという奴か………!!」

「こらっ、せっかく来てくれたジークフリートに失礼でしょ!」

 

 目の前に起きた現象に対し、素直な感想を言ったらブーディカさんが鋭いツッコミが入る。でも、マスターなら一度は味わうこの現象。それを2年目の水着ガチャで味わうことになったことに思うところがあったのだ。まぁ、フランが来なかったのは少し残念だが。そんなことを考えていると、さっきの俺の発言を考えたせいか、申し訳そうな表情を浮かべながらジークフリートさんは俺に頭を下げた。

 

「すまない、どうやら俺は、貴方が呼びたいと思ったサーヴァントではないらしい。レアプリズムにするなりしてもらっても構わないが………」

「いやいやいやいや!! ごめんなさいジークフリートさん! フランスの時はお世話になりましたっ!!」

「いや、貴方が出会った俺とここにいる俺は違うから、貴方が礼を言う必要はないのだが……」

「別に、そんなことあんまり関係ないよ。これからよろしくね」

「ああ。竜を殺すことしか取り柄のない男だが、よろしく頼む」

 

 竜が殺せば大抵のことは何でも出来ると思うが、と言い返したら。竜殺しの英雄は苦笑いしてこの場を去っていった。それから数分後、何故だか物凄い破壊音がした気がしたが、あまり気にせずに10連召喚続けることにした。…………………何でか、背筋が寒くなった気がしたが、あんまり気にしないことにしよう。

 

「そら、次の10連だ! 水着サーヴァントよ! 来てくれ~!」

 

 ぶっちゃけた話、去年は召喚できなかったランサーの玉藻さんを2人も召喚できた時点で、俺の水着ガチャの運は消し飛んでいる気がする。だが、最後まで諦めることはできない。何故なら、ここで泣きつかれたネロを慰めるべく、水着の彼女を召喚しなくてはならないのだから―――!!

 

「って、イベント☆5礼装しか出ないじゃねぇか!! 『サマーリトル』ってなんだ!? こんな誤解しか生まないような礼装出てきてんじゃないよ!?」

「研砥………。性癖は確かに人それぞれだけど、いい加減にしないと怒るよ?」

「待て! 俺は彼女達から好かれているだけで何も悪くないっ!!」

 

 何故だか、ブーディカさんに白い目で見られるはめになったが、俺は何かの間違いだと必死に説明する。今回は色々と頑張ったはずなのに、なんでかそれが報われてない気がする。馬鹿な、ここにいてレースにも参加した三蔵ちゃんも言っていた、善因因果というのは無かったというのか。

 

「そんなことあってたまるか! なんのために無茶してでもグガランナとイシュタルに手傷を負わせたと思ってるんだ! このガチャのためだろうが!!」

「で、本音は?」

「今年の水着を着たネロ最高! というか第2再臨が素晴らしいっ!!」

「そうか。それじゃ、ちょっと『起源弾』装備してくるね!」

「すいません俺が悪かったです!!」

 

 とても美しく輝く笑顔で殺意しかない言葉を呟き、対キャスター最強決戦礼装『起源弾』を装備するブーディカさんに土下座する。というか、ただでさえローマ特攻の『女神への誓い』で60%。『起源弾』で35%。加えてライダークラスでダメージが2倍なのを合わせる。すると、95%の特攻状態になった上にクラス相性でダメージが2倍なったブーディカさんの連続攻撃が、キャスターになったネロを襲うという恐ろしい光景が完成してしまう。

 殺意しかない発言をした彼女を宥めながらも、とりあえず残った石を使って最後の10連召喚を行う。すると、最初に分かれた3本の光の線から、黄金に輝くカードが出現した

 

「おぉ~。けど、出てきたのはアサシンか。俺のとこ、結構アサシンクラスのサーヴァントが多いから、スキルの育成が終わんないんだよなぁ」

「アサシンと、最近スキル上げし始めたアルテラが狂骨をガンガン持って行くからね。あ、そういえばエミヤ君が9月の支給品リストの中に、狂骨があるって言ってたよ」

「マジでか。というか、あれ支給品変わるのな。俺はてっきり3ヵ月くらいあのままでいくのかと………」

 

 まさかのことの少しだけ驚きながら、俺は目の前に出現した金色の暗殺者の現界を待つ。ブーディカさんとの他愛のない会話をしているうちに準備は終わっていたらしく、カードから流れる光の粒子がサーヴァントの体を作っていく。

 まず目の前に現れたサーヴァントの特徴は白。真っ白い布を着込み、それから異様な存在感を訴える二つの目。自分の足まではカバーできなかったのか、地面に近いところから伸びる褐色の肌。突如現れた正体不明のサーヴァントは片言で口上を述べる

 

 

 

 

 

 

「私ハ、名モナキ、ファラオ。頭ヲタレナサイ。不敬 デアルゾ。………コラッ、中ヲ、ノゾイテハ、イケナイ!」

 

 

 

 

 

 

「確保――――――!!」

「ナッ、何ヲするのですか!! 中を覗いてはいけないと言っているでしょう!?」

 

 目の前に現れた布を引っぺがすべく、虎のように俺は目の前の謎の生命体(笑)に向かって走り出す。何としてでも目の前にある布を引き剥がそうとする俺の手を、その裏側から伸びた手が必死にとどめる。驚きの余り口調も元に戻っているが、召喚されてレベルが1のサーヴァントなど、ヘラクレス級の筋力値を持っていないと意味などなさない。成す術もなくその布を脱がせようとすると、後ろからブーディカさんの盾を投げられて頭に直撃した。凄く痛い。

 苦悶の声を漏らしながらも、全面的に俺が悪いのでとりあえず謝罪の言葉をファラオのアサシン(仮名)に述べると、さっきの今ですっかり怯えてしまったのか、こちらに近づこうとしない。あとでクレオパトラさんを呼んでおこうと決めた時だった。未だに仕事を続けていた召喚サークルに黄金の光が溢れ出したのだ。

 

「何ぃ!? まさかの☆4サーヴァントが同時出現だとっ!?」

「石ももう無いし、そろそろ来てくれると助かるんだけどね。さてと、今度は一体だれが来てくれるのかな?」

 

 取り合えず今回の大当たり枠、黄金のキャスターの現界を期待する俺とブーディカさん。だが、俺たちの期待と裏腹に表れたのは騎士のカード。またすまないキャンセルが発動するのかと溜め息を漏らしかけたのを抑えながら、俺は新たな英霊の召喚を待つ。

 現れてまず目が捉えたのは、とても歪な形をした大剣。剣と言うよりも何かの採掘機と呼ぶべき物を片手で軽々と持つ紙で団子作った少女。黄色い薄着に何故か萌え袖という一風変わった出で立ちに眉を寄せながらも、水色のビキニを着た少女は嬉しそうに笑いながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「さーばんと、せいばー! ふらんけんしゅたいんのかいぶつ。なつなのでくちょうもかるめ、よろよろー」

 

 

 

 

 

 

「何この超かわいい生物。保護したい」

「落ち着いて研砥、目が据わってる」

 

 このアトラス院に現れた新たな水着を着たサーヴァントに集中していると、後ろからブーディカさんに制止の声が響いた。ここに召喚された以上、これからは一緒に行動を共にするわけだが、バーサーカーの彼女を既に召喚している俺としては、目の前にいるセイバーのフランに目を奪われていた。というか誰だ萌え袖なんてスタイルを発明した人は。可愛すぎて死にそう(真顔)。

 

「さてと、残っている石を全て投げうったわけですが。呼符もここで一気に使うぞ~」

「え、高レアサーヴァントを3人も召喚してるんだから、もうやめた方がいいんじゃない? ほら、もうすぐ亜種特異点も見つかりそうなんだし」

「問題ない。何故なら、このガチャが終わってからは石を300貯めるまで呼符でしか回さないからな!」

「問題大有りでしょそれ!!」

 

 ブーディカさんの制止を振り切り、呼符をサークルに叩きつける。だが、さっきまでの召喚で運を使い切ったのか、出てくるのはイベント☆3礼装や、既に宝具レベルがカンストしている☆3のサーヴァントばかり。というか、未だに宝具レベルが5じゃないのってベディやキャスニキくらいなんだよなぁ。

 

「むむむ、遂に最後の1枚になってしまったか。だが俺は諦めん! 最後の最後で、逆転勝利を掴む為に! 最後の1枚を! 叩きつける!!」

「…………まぁ、そこまでやっても来ないとは思うんだけどなぁ」

「こらそこ! 最後まで応援してください! 泣くぞっ!?」

 

 もはやこちらに関心を無くしてしまったのか、溜め息を吐きながら声を漏らしたブーディカさんの言葉に精神的なダメージを負う。これで出なかったら去年の玉藻さんみたいに待つことになってしまう。それだけは何としても阻止したいところだ。

 最後の呼符で召喚されたのは、金色ではなく銀色のカード。しかもクラスはバーサーカーという完全に大外れである。これで清姫なんて召喚された日には、即座に令呪を使って狭間の元に送りつけてやる。そこまで考えた時だった。バチバチとカードの周りがスパークしたと思ったら、銀から金にカードの光方が変化していた。

 

「おおっ!? 最後の最後で金変化だとっ!?」

「え、嘘。もう来ないと思ったのに。意外と来るんだね」

 

 いつもの30連なら☆4が1人来てくれれば良い方なのだが、今回はかなりいい感じに事が進んでいる。喜ばしいことなのだが、ここまで上手く行くと少し不気味だ。とりあえず、最後の最後で召喚されたサーヴァントの登場を待つ。

 金色のカードからいつものように光が溢れ出し、そこから伸びた粒子が体を創り上げていく。今度現れた英霊も、武器と思われるものが巨大だった。刀の柄と思われる部分に、刃の先に繋がった巨大な円盤。赤を基調としたパーカーを着込み、どこぞの武将が付けていた帽子を被った女。快活な笑みを浮かべながらも、聞きなれた高い声で女性は名乗りを上げる。

 

 

 

 

 

 

「イェーーーーーイ! のってるかのう! わしこそが渚の第六天魔王こと、そう、ノブナガ・THE・ロックンローラーじゃ! え? どの辺がロックだって? いや水着で夏はロックじゃろ。こういうのはフィーリングじゃ、考えるでない。感じるのじゃ! あ、クラスはバーサーカーでよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

「……………なんだよ、ノッブのくせにかっこいいぞどういうことだ」

「え、なんかわし、召喚されていきなりディスられたんじゃが。ちょっと酷くないか? うん?」

「いや全然? というか何でバーサーカーになってるんだ? 何なの? 尾張出身系のサーヴァントは皆バーサーカーなの?」

「まぁ茶々もバーサーカーじゃし、別に問題ないじゃろ。安心せい。危なくなったらわしのロックでなんとかしてやるからの!」

 

 無駄に自信だけがある信長を見て呆れながらも、今回の召喚は終わりを迎えた。結果としては☆5のサーヴァントを召喚することに失敗したわけだが。ぶっちゃけた話、前回のガチャが余りにも大成功すぎたので問題はない。勿論、キャスターのネロを召喚することには失敗したのだが、それができなくても十分な戦力が揃っている。あとは、彼をどのように育て、指示を送る自分の腕にかかっているのだ。あまり多くては、十分に育成ができないから少しばかりガチャを控えることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~おまけ、後日マイルームにて~~~

 

「あ~疲れた。ったく、色々と無茶しすぎて体のあちこちが痛い………」

 

 あの後、ファラオのアサシン(仮名)をニトクリスに戻すために種火集めをしたり、ジークフリートを見て暴走したブリュンヒルデを取り押さえるのに躍起になったり、水着のフランにどこぞの怪盗三世飛びをしていたアラフィフに去勢拳を叩き込んだりと。色々と忙しい日々を送っていたが、ようやくシャワーも浴びて寝るだけになった俺はマイルーム帰ってきた。

 疲れて思考があまり纏まらないが、何となく明日の行動を考えながらマイルームへと帰還する。自分の部屋に戻った安心感から気を緩めたその時、自分のベッドに誰かがいることに気付いた。戦闘中でもないというのに、いつもように黒い鎧を着込んだ女性。この間召喚されたアルトリア・オルタがベッドに腰を掛けていた。

 

「む、帰った研砥。邪魔しているぞ」

「………何してんのオルタ? 俺は早く寝たいんだが、ベッドから退いてくれないか?」

「断る。私としてもしたくはないが、貴様に少し用がある」

 

 いつものように尊大に言うオルタに内心呆れつつ、早いところ用とやらを済ませようと気持ちを切り替える。一体どんな用なのかと聞いてみると、オルタは何も言わずに自分の隣に座るように言った。何故だか嫌な予感がしたが、ここで従わなければ何をされた分かったものではないため、とりあえず指示に従うことにした。

 

「んで? 戦闘中でもないのに、なんで鎧着てるんだ? 熱くないかそれ?」

「ああ。とても暑い。だが、貴様が来たことでもう着ている理由もなくなった」

 

 元々、彼女の着ていた鎧は魔力で編まれた物だ。だから、彼女の意志でいつでも解くことができる。暑いのになんで着ているのだろうかと疑問に思っていると、鎧の下に着ていた衣装に目を丸くする。メイドのスカートにいつぞやの新宿で来ていた黒のパーカー。無造作に開かれたチャックから除くパーカーと同じ色の水着。今回のレースで彼女が来ていた水着だったのだ。

 

「ちょ、オルタお前なんで急に水着に―――!?」

 

 いきなり水着姿になった彼女に驚くと同時に、オルタは獰猛な笑みを浮かべながら俺をベッドに押し倒す。仰向きに倒れた俺を起用に俯きし、彼女は腰の上に跨る。突然のことに戸惑っている間にマウントポジションを取られた俺は、首をできるだけ後ろに向けるが、頭上にいるオルタに頭を掴まれて枕に顔を押し付けられる。

 

「あまりこちらを見るな。この私は、あくまでセイバーとしての霊基で現界している。あのメイドの私とは違うのだ。………これ以上は言わん。あとは察するが良い」

 

 どこか照れたように言われてはこっちも何も言えない。されるがままにうつ伏せになりながらも、上に乗っているオルタにこんなことをした理由を聞いてみる。すると、彼女は何も言わずに俺の背に両手を乗せる。何を始める気だと思っていると、ぐっと俺の背を思いっきり押し始めた。

 

「いっ!? いたたたたた!? ちょ、オルタ何する~~~~~っ!?」

「ふっ、何。此度は十分すぎる程に働いたからな。この私直々にマッサージをしに来てやったのだ。喜ぶがいい」

「いや、別に頼んでもないからしなくもあたたたたたたたッ!? す、ストップ! ストッププリーズッ!!!」

 

 容赦なく疲労した部分、というよりそういったツボを思いっきり押すオルタ。あまりの激痛にひぃひぃと情けない声を漏らすと、頭上から楽しそうな彼女の声が耳に聞こえた。

 

「ふぅん、お湯に放り込まれた猫のように鳴きおるわ。ふむ、もっとなくが良い。貴様のそれは、やはり耳に心地良い。しばしそうやっていろ。そうすれば、私の鬱憤も晴れるというものだ」

 

 いつぞやの特異点のように嗜虐心に駆られたのか、耳に近づいて息を吹きかける。背筋がぞくっとした直後、再び背を押されて激痛が奔る。痛みせいで涙が目に浮かんだ時、俺は遂にオルタに訴える。

 

「鬼かっ! ていうかオルタ、俺なんかしたかァァァァッ!?」

「ふぅん、私が何を思い、何をしようと貴様には関係のないことだ。貴様は黙ってマッサージを受けておけ! 御主人様!!」

「こんなメイドがいてたまるかァァァァァッ!!」

 

 結局、この日の晩は一日中オルタにマッサージという名の折檻を受けた。いつの間にか意識を失った俺はベッドに放置されていた。あの激痛マッサージのかいもあってか、昨日までの疲れは全て吹き飛んでいた。そのことには感謝して起き上がった。とりあえず水を飲もうと移動した時だった。ポケットに入れたままの端末に震えたのだ。誰かが俺にメールを送ってきたらしい。何だろうとメールに目を通した時、俺は恥ずかしさのあまりベッドに身を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 送られたメール。そこにあったのは一枚の写真。寝ている俺に寄り添う感じでベッドに潜り込んだオルタが、勝ち誇った笑みを浮かべながら取ったツーショットだった。……………件名は、『昨夜は楽しかったな』。どうも、あの黒い王様には勝てそうにないと、心の内側で俺は苦笑するのだった。

 

 




というわけで、今回のガチャはピックアップガチャ1のサーヴァント。キャスターのネロ以外の水着サーヴァントに加え、絶賛放送中のアニメ、『Fate/Apocrypha』から黒のセイバーこと、ジークフリートさんが召喚に応じてくれました! 石と呼符は全て使い切りました。なので、本編の途中でも書きましたがこの場を借りてもう一度。



 私、青眼はこれから聖晶石が300個貯まるまでガチャ禁しますっ!!


 といっても、呼符によるガチャは続けていきます。ですが、あまり良い結果を送る頻度は減ると思います。単発で来てくれるなんて2ヵ月に1回あったら良い方だからなぁ………。



ここまでの読了、ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!!


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お祭りと言う名の奇跡

 今回はネロ祭りのピックアップガチャ報告回です! 去年のバレンタインイベントで初登場したネロ(ブライド)を当てるべく、2016年水着イベントの玉藻ちゃんサマーののようにガチャを回しつくした私。今回は当てることが出来たのか……!!

 それと、前回の後書きにて『聖晶石300個貯まるまでガチャ禁』と言ってましたが、正直やりすぎたと判断し、『EXTRAシリーズに参戦したサーヴァント』と、各イベント礼装、並びにストーリークリア後に10連1回に限り、ガチャを回そうかと思っています。心にもないことを書き、読者の皆様を惑わせてしまったこと。深く反省しています。申し訳ございませんでした。



 長々と失礼しました。それでは今回のガチャ報告回を行おうと思います!!


 二〇一七年九月。毎年行われる戦いの祭典。『ネロ祭』は今年も開催された。去年に行われた激闘の七日間に加え、今年の分も加えた十四の戦いがあった。

 

 

 

噂に聞いた聖杯大戦でのスペックで襲い掛かってきた反逆の狂戦士の英霊(バーサーカー)、スパルタクス。

変幻自在。多種多様の戦闘スタイルで俺たちを翻弄した狐耳の剣士の英霊(セイバー)、鈴鹿御前。

その身を四度砕け散らそうとも、五度立ち上がり、渾身の一射を放つ弓兵の英霊(アーチャー)、アーラシュ。

此の度、遂にタッグを組んで祭りに参戦したインド神話、マハーバーラタにおける二大英雄。カルナとアルジュナ。

自身が手掛け、ありとあらゆるギミックでこちらのペースを搔き乱した星の開拓者の一人。魔術師の英霊(キャスター)、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

冠位のクラスを捨てたとはいえ、圧倒的な力。そして、最強の暗殺者(アサシン)として祭りの場に君臨した(元)冠位・暗殺者の英霊(グランド・アサシン)。“山の翁”。

 

 そして、これらとはまた別の六騎の英霊に加え、祭りの主催者である剣士の英霊(セイバー)。ネロ・クラウディウス本人が戦場を駆けた最終決戦(フィナーレ)。あの時、終局特異点へ流星の如く馳せ参じた者。その後の特異点から加わった者。それとはまた別の所からやってきた者。時間やタイミングは違えど、多くの英霊が此度の祭りに参加していた。

 これには、主催者側に立っていた彼も満足だ。普段は顔を合わせることができない人たちと会話ができたし、挑戦者が挫折するのを見ると麻婆豆腐(中辛)を食べる蓮華も進むというもの。……………尤も、彼自身もテストプレイで挑戦した身なので、彼らには同情もしたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、一人だけ姿が見えない人がいることに気付いた。いや、気付いたというよりは思い出した(・・・・・)というべきだろうか。彼の、黒鋼研砥の首から下げているこの槍型のペンダント。これは、あの悪夢の七日間の時に彼女から授かったものだ。それを忘れているなんてどうかしている、と自分を嘲笑しながら彼女の後を追った。どうやら、いつぞやの夢の世界と同じように、マスターである彼のことを思って暴走してしまったらしい。その時、彼が思ったことは、相変わらずの困りますオーラ全開で安心したのが半分。そんな状態になるまで気づかなかった自分の未熟さにイラついたのが半分だった。

 だが、事態は結構深刻な物だった。彼女は、北欧の戦乙女(ワルキューレ)である槍兵の英霊(ランサー)、ブリュンヒルデは英霊となってから殆ど使えなくなっているはずのスキル。大神オーディンが持つとされた『原初のルーン』を使ってでも、これから激化するであろう戦いに備えるための強力な英霊を作り出さんとしていた。それはひとえに、マスターである黒鋼のことを思ってのことだった。それに関してはありがたかったし、同時に情けないとも彼は思った。何故なら、彼女がそう思ってしまうほど。黒鋼研砥という男は弱かった(・・・・・)と思わせてしまったということだからだ。あの時から、再開したあの時から強くなったと思っていたのは自惚れだったらしい。

 

「それは、違います。貴方は確かに強くなりました。初めてあった頃から成長し、人理を救済した。貴方は、胸を張って『英雄』と呼ばれる偉業を成し遂げたのですから」

「―――そう言ってくれたのは嬉しいよ。貴方に、多くの英雄を導いた貴女に言ってもらえるのは光栄だ。…………でもさ、英霊新造(それ)、もう止められないのか?」

 

 静かになった英霊召喚場。黒鋼と彼女は二人っきりで言葉を交わしていた。彼の質問に彼女は何も答えない。霊基再臨最終段階である鎧を身に纏い、自身の身の丈程ある大槍を両手で握りしめながら、何も言うことなく儚げに微笑んだ。その笑顔を見た時、黒鋼は苦笑した。

 

 ―――ああ。これは、何を言っても止まることはないな。なら、俺ができることは一つしかない。

 

 己をここまで導き、共に戦い、そして笑いあった彼女に向けるものではないと理解しておきながら、黒鋼は自身に刻まれた魔術回路を起動させる。護身用に持ち歩いている模造刀を抜き、懐から一枚のカードを取り出す。それ見た彼女は悲しそうに表情を変えながら、大槍を俺に向けて構える。自分のことを思ってくれるのは嬉しい。けれど、その果てにあるのが彼女の自滅というのであれば。黒鋼研砥は彼女を止めなければならない。それが、今の自分ができる最善(・・)だと信じて。彼は今日もあの言葉を口にする。

 

 

 

 

 

「力は、繋がりで出来ている――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………なんか、最近俺の労働環境がおかしい件について」

「いきなりどうした? いやまぁ、確かにそれは分からなくはないがな」

 

 ネロ祭りも佳境に入り、いつものように売店の手伝いをしていた俺は、たまたま休憩室で会ったデミヤと言葉を交わしていた。俺が手伝っていたのは、いつもの食堂のメンバーが作った店だったので、彼が抜けたタイミングで休みに来たのだが。というか、本当に俺の労働環境がおかしいと思うのだが。

 

「まず今年のネロ祭のエネミーの配置を考える。これはホームズさんとかがやってくれたから良い。去年と今年の超高難易度のテストプレイも、まぁ軽く絶望しかけたが主催者側だから仕方ないとして。何故に売店の手伝いとボックスガチャの周会もしないといけないんだよ………。頼むから俺に休みをくれ」

「いや、それも大変だったかもしれないがな。一番大変なのは一人でブリュンヒルデの暴走を止めたことだろう? 彼女も本調子ではなかったとはいえ、生身の人間がトップサーヴァント相手によくもまぁ立ち回ったことだ」

「うるさいなぁ。一人でヘラクレスやスパルタクスに挑んでい行った人にだけは言われたくない」

 

 お互いに軽口を叩きながら、そこらの売店で買った物を口にして食べ歩きをする。ローマのコロシアムとその周辺を投影したものだが、それだけでも十分なリアリティがある。ここで働いているサーヴァントたちも実際にいる人だし、NPCだってちゃんと自我を持っているように行動している。売店の手伝いや周回をしていたとはいえ、全く休んでいなかったといえば嘘だ。しっかり六時間も寝て、それから売店の手伝いと周回。少しの食べ歩きをしてから夜の手伝いと周回。しっかり明日の準備をしてから眠るという、マスターの鏡のような行動を取っている。

 

「さてと、そろそろ店の手伝いに戻るか。キャットや頼光さんも困ってそうだしな」

「いや、彼女たちは彼女たちで勝手に争っているから問題ないと思うが………。いや、それよりもマスター。これをお前に渡しておく」

 

 そう言ってデミヤは懐から、結構な厚みのある紙袋を俺に手渡す。何だろうと中身を確認した時、俺は驚きのあまり紙袋を落としそうになったが、彼が俺の体を引き寄せて事なきを得た。

 

「大丈夫か? そんなに驚くとは思っていなかったな」

「いや驚くわ!! なんだこの大量の呼符は!? パッと見ただけで十数枚はあるぞ!?」

「正確には十四枚だがな。今回の手伝いをしてくれたマスターへの駄賃だそうだ。報酬はしっかり受け取ってくれ」

 

 くだらないことに執着しているのを見て楽しんでいるのか、乱雑に頭を撫でてくるデミヤ。その、少し武骨な手だけども、どこか安心させてくれる手つきに照れてないのをバレないように下を向く。その、凄く恥ずかしいのだが。何故かされるがままになってしまっている。

 

「今は祭の最中だ。赤い方の皇帝やブリュンヒルデは召喚済みだが、白い方は爆死したままだろう? あの女の霊基を確認した去年のバレンタインから、お前が彼女の召喚で来ていないのはあいつらも知っている。召喚のも足しにしろと言っていた」

 

 早く召喚場に向かえ。最後までどうでもよさそうに、デミヤは俺が持っていた荷物を取り上げて来た道を引き返した。堂々と人込みの中を進んで行くその後ろ姿は大きく、振り返らずに進めと言っているような気がした。その姿がカッコ良くて、どこまでもお人好しだと苦笑した。ここまでお膳立てしてもらったのだ。なら、今度こそ彼らの思いに応えるのが真のマスターといえるだろう。

 

 

 

 

 

 

 ネロ(ブライド)(彼女)を引き当てるための戦いの幕が、今。再び上がろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と。一人で召喚するのも久しぶりだな。え~と、呼符は全部で何枚あったかな………?」

 

今回は誰も呼ばれず、俺は一人で召喚場に足を運んでいた。先ほどデミヤからもらったものと合わせ、自分の手元にある呼符の枚数を確認する。すると、つい先日のように召喚場の扉が勢いよく開いた。その後の展開をなんとなくだが予想した俺は、すぐさま魔術回路を起動させて後ろを振り返る。

 

「余がきたぞぉうふっ!?」

「………そう何度も、俺が同じ過ちを繰り返すと思うなっ!!」

 

 砲弾もかくやの速度で俺に飛び込んできた少女。ネロの突撃を軽く逸らして抱きとめる。こうすれば鳩尾に当たるこもないし、誰も痛い思いをせずに済む。最近、ランサーの書文先生とかに武術の教えてもらって良かった。内心でそう思いながら、胸に抱き着いたままのネロを引き剥がす。

 

「で、何でここにいるんだネロ? お前、まだ花びらの交換で店番しないといけないはずだろ?」

「それはそうなのだがな。研砥が一人で召喚を行おうとしていると、黒い方のアーチャーに言われてな。代わりの店番にエリザベートを残し、ここまで飛んできたのだ!」

「………いや、来てくれたのは嬉しいけどな。だが、その前に少し着替えて来い。もうすぐ祭りも終わりだってのに、いつまでそんな恰好をしてるんだ……」

 

 今、ネロが来ているのはいつもの男装と呼べるのか分からない程に露出した、赤を基調とした礼服ではない。額に巻かれた赤い鉢巻きに、無地の白い服に刻んだ『ねろ』という名前。それから、大胆にも太ももから先を露出した旧時代の体操服。そう、所謂ブルマ姿で彼女はここにいるのだ。正直に言うと、いつもより更に露出が多くなっているせいで目のやり場に困る。この間、ネロのこの姿をこっそりと見ていたところをブーディカさんに目潰しされたので、あまり顔を合わせないようにしていたりするのも、理由の一つだったりする。

 

「む、別に良いではないか。それに、祭りというのは終わって後片付けをするまでが楽しいのだ。であれば? 余が本当に祭りが終わったと思えるその時まで、この姿でいるのは間違いではないはずだが?」

「至極まっとうな正論をどうもありがとさん。でもまぁ、正直に言うと目のやり場に困るからとっとと着替えて来い」

「面倒くさくなって本音を言い出したな!? だ、だが断るぞ! 余はこのイベントが終わるまでは絶対に着替えぬ! 着替えぬからなっ!!」

 

 幼い子供の様に我儘を言い出すネロに頭痛がする。彼女と過ごしてもう二年近くになるが、未だにこの我儘だけは何とかならない。普段は我儘を通すだけの仕事をこなしてくれているから何とも思わないが、こればっかりは譲れん。もう目潰しとかされたくない。だが、これはこれで俺の我儘だ。それを自覚した時、俺は溜め息を漏らしながら召喚サークルの前に立つ。

 

「しょうがないからそのままで良いけどさ。頼むから俺の前とか横には出るなよ? 本当に目のやり場に困るんだからな」

「う、うむ。分かっておる。そ、そのだな。研砥よ。一つ聞いても良いか?」

「………? ああ。俺に答えれる範囲でならな」

「うむ。その………余のこの新衣装、どう思――――――」

「呼符をサークルにシュートッ!! 超エクサイティンッ!!!」

 

 変なことを聞こうとしてきたネロの言葉を遮り、俺は数十枚はあろう呼符を数枚叩きつけた。本来は一枚ずつ入れないといけないのだが、これは仕方ない。だって、システムが起動しちまえば何も聞こえないんだから。

 

「ちょ、研砥よそれは酷くはないか!! 余の思いを踏み躙るようなことをして楽しいのか!?」

「馬鹿野郎っ!! そんなことに正直な感想を言ってみろ!! あとでまたブーディカさんに目潰しされるだろうがァ!!」

 

 ぶっちゃけた話、ネロのブルマ姿は異常な程に可愛い。いつもの子犬のような、いや寂しがりだからネコか? まあどちらでも良いが、とにかく可愛いのだ。こう、俺の足らない語彙力のせいでちゃんと説明することができないのが悔しいが、とにかく可愛い。一家に一人くらい置いて癒されたいレベルまである。

 そんなことを考えていると、目の前で起動し続ける召喚サークルに金色の光が灯る。強力なサーヴァントの召喚に成功したというその反応から飛び出てきたのは、金色に輝く騎士が描かれたカード。

 

「おおぉっ!! こんな序盤で金セイバーを引くとは! 遂に花嫁の余を召喚するのか!?」

「………いや、金演出なら妥当なとこで☆4サーヴァントだろ」

「初登場したバレンタインから、ずっとこの時を待っておったものな! それに今は余がついておる! 負ける理由などあるまい!!」

「うわ~この皇帝陛下人の話聞いてね~」

 

 凄いハイテンションでこちらの言うことを無視して続けるネロに、諦めにも近い棒読みで召喚される人を俺は待つ。金色のカードから光が溢れ出し、それが形取ったのは見たことのある体型の少女だった。

身に纏うのは赤を基調した露出の多い礼装。金色の髪に翡翠色の瞳。右手から延ばされた細い腕には、少女の衣装と同じ赤の大剣。どこかで見たことがあるというより、もはや見飽きたといっても良い少女が召喚されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・セイバー。ネロ・クラウディウス、呼び声に応じ推参した! うむ、よくぞ余を選んだ! 違いの分かる魔術師よな!!」

 

 

 

 

 

 

 

「って、何となく分かってたけどお前かーーい!!」

「むむっ! 流石は余が信を置いたマスター! まさか新たに余を召喚して宝具レベルを上げるとは! やはり違いの分かる魔術師よな!」

「うむうむ。どうやら先に余を召喚し、育成しているようだ。ならば、この場で余は身を引くとしよう。何、ここにいる余が力になるのだ。これからももっと余を構い、余を頼るが良い!!」

 

 自信満々に胸を張る二人のネロ。ここで彼女が来るのは少し想定外だったが、確かに宝具レベルが上がるのはありがたい。ネロの絆レベルは既にカンストしているから戦闘に出す機会はあまり無いかもしれないが、それを抜きにしても宝具の威力が増すのはありがたい。ここぞという時ではブーディカさんを超えるかもしれない耐久力を発揮するのが、ネロの特徴だからな。

 

「と、とりあえずガチャを続けるぞ。残り十数枚程度だが、も、もう一人くらい高レアの人は来て欲しいからな」

「む? 何を弱気なことを言っておるのだマスター?」

「ひょ?」

 

 残った呼符を投げつけようとした時。後ろに立っていた二人のネロが前に出る。新しく召喚された方は問題ないが、未だにブルマ姿のネロには下がるように命じたが、それを無視して彼女達は続ける。

 

「まだ、花嫁の余を召喚しておらぬではないか」

「まだ、呼符と石が残っておるのであろう? ならば――――――」

 

 そこで一度言葉を切り、ブルマ姿のネロがサーヴァントの筋力で俺の手元にある箱を取り上げる。それに驚いた俺は目を丸くしたが、次に彼女達がしそうなことを思いつき、それを止めようとするも、新たに召喚された方のネロがそれを阻む。具体的には羽交い絞めにされた。召喚されてあまり経験の無いはずの彼女だが、それを抜きにしても鮮やかすぎる動きに焦る。

 

「ちょ、お前HA☆NA☆SE!! やめろぉ………頼むから、それだけはやめてくれぇぇ!!」

「「全てを投げうってでも余を当ててみせるくらいの気概を見せよ!! マスター!!!」」

「ふっざけんなお前勝手に十連回してんじゃねェェェェェェェッ!!」

 

 遂に恐れていたことが起こってしまった。今回のネロ祭りと前回の水着イベントで爆死してから貯めた石。丁度十連一回分は溜まっていた石と、残った呼符を全て投げつけやがったのである。あまりにも不遜。あまりにも無謀。その行動から生まれるであろう絶望的なガチャ結果を夢想し、俺は膝を突いてその場に倒れ伏す。

 

「あぁ………俺の………俺の貯めていた石がぁ………!!」

「ふっふっふ~。なぁに、これは余の予想だがな。今回ばかりは当たると思うぞ? 花嫁衣裳を身に纏った余が登場したのは去年のバレンタインイベント。それから、此度のピックアップで四度目の登場だ。ガチャを回した回数は今回のを合わせると二百と少し。これで出ない方がおかしいであろう?」

「だからってなぁ!! もうすぐカルデアの方から重大発表があるから、できるだけ石貯めとけって言われてんだよ! 何やってんの!? 俺がその重大発表のために石貯めてたのに何やってくれてんの!?」

 

 今回ばかりは許すに許せん。ブーディカさんや食堂にいるメンバーに頼んでジャンクフードしか出さないように頼もうとしたその時、先に行われていた十連召喚が終わりを迎えようとしていた。最初に今回で四枚目となる『2030年の欠片』が出た時点で諦めモード全開だったが、さっきのネロ召喚に応じるかの如く、再び召喚サークルが黄金の輝きを放つ。そして、サークルから出現するは全く同じ輝きを放つ騎士のカード。まさかの事態に俺は戸惑い、二人のネロが歓声を上げる。

 

「おぉ!! うむうむ! やはり余の勝負強さは一級品よな! これで本当に余が来たら、聖杯を捧げてレベルもカンストさせるのだぞ!」

「いやいやいやいやいや!! こ、これはクー・フーリンとメドゥーサさんのための聖杯だからな!! 残り四つしかない貴重な聖杯だから使わないからな!!」

「照れずともよい。あぁ楽しみだ。研砥が最も信を置くあのブーディカと同じ土俵に立てると思うと、今から楽しみで仕方がない!!」

「だから使わないつってんだろぉ!?」

 

 もう駄目だこの皇帝早くなんとかしないと。本気でそんなことを考えていると、目の前に召喚されていたカードから光が溢れる。遂に始まったサーヴァントの召喚だが、結果はあまりにも無慈悲なことだった。新たに召喚された英霊。それは、さっきからずっと隣に立っているものと同じだったのだから。

 

 

 

 

 

「あれは誰だ? 水着か? 花嫁か? 勿論、(赤い方の)余だよ!!」

「コフッッッ………」

「「マスタ――――――!?」」

 

 

 

 

 まさかの三人目の登場に、俺はその場で某桜色の剣士よろしく血を吐いてぶっ倒れる。いや、さっきまで膝を突いてたから最初から倒れていたかもしれんが。それでもあんまりな結果に絶望する。予想外のアクシデントがあったとはいえ、ここまでやってもまだ来てくれないという事実を思い知り、俺はその場で挫折する。

 ―――その時、後ろにある扉が開く音がする。誰が来たのかと振り返った時、目の前に立った人は驚きのあまり目を丸くしていた。

 

「お~い研砥~。エミオル君に言われて来た……………」

「む? ブーディカではないか! 仕事は終わったのか?」

「おぉ! ブーディカ! ここに来て早々に会えるとは! うむ、やはり持っておるな! 余!!」

「ブーディカ――――――!!」

 

 召喚場に入ってきた女性、ブーディカさんに目掛けて一斉に走っていく三人のネロたち。それを見た彼女はいつものように避けるのではなく、されるがままに抱き留めていた。ネロたちはそれがどうしてなのかを考えず、自分の欲求のままブーディカさんへと甘える。普段のブーディカさんだと絶対に許しそうにないことをされているのにも関わらず、されるがままにされている。 どうしたのだろうと挫折から立ち直りながら彼女の前に立つ。

 

「お~いブーディカさーん? 大丈夫………!?」

 

 とりあえず顔の前で手を振って意識の確認をしたその時だった。驚きのあまりブーディカさんが目を丸くしている。それは問題ない。だが、問題だったのは、そのまま口を開いたままで息をしていないことだった。どうやら、ネロが三人いたという事実を認識しないために、体が勝手に行動してしまった結果らしい。そこまで理解した直後、これはかなり危ない事態だということに俺は気づいた。

 

「って、かなりどころか絶対やばい奴だよな!? おぉい!? なに急に霊基消滅しようとしてんの!? と、とりあえず婦長のところに連れてくぞ!! 来い、小太郎!!」

 

 内心焦りながらも指を鳴らす。すると、数舜の後に忍者の恰好をした幼い少年――――――こんな容姿だが立派なアサシンのサーヴァント―――――、風魔忍軍の頭領。風魔小太郎が推参していた。

 

「研砥殿。お呼びですか?」

「ああ! 悪いが大至急、ナイチンゲール婦長の元にブーディカさんを送り届けてくれ! 任務遂行の為には令呪も辞さん!」

「承知。では、行って参ります」

 

 何も言わずにブーディカさんの肩を乗せながら、登場した時に近い速さでこの場を去る小太郎。その仕事の速さにいつも助けられていると改めて実感すると共に、今度日本系列のサーヴァントを集めて周回でもするかと考える。東西の英霊を召喚しているとはいえ、基本的には西洋の方が数は多い。俺とて日本で生まれ育ったのだ。最近会ってない金時たちと周回するというのは、楽しいかもしれない。

 

「け、研砥よ!! 見てくれ! 召喚場が凄いことになっておるぞ!!」

「はぁ? 今度はなんだネロ………?」

 

 今回の騒動の主犯。というか本人の意図してないから誰の責任でもないのだが、ネロがいきなり声を荒げてこちらを見るように訴える。それになんだと思いながらサークルを見てみると、結構な数の礼装が吐き出されているに気づく。それも、その大半が今回のイベント特攻の礼装だ。

 

「おいおい。急にどうした? 十連が終わってこっから先は呼符の単発ガチャだろ? こんなに礼装出るなんてどうかしてるぞ……?」

「『フード・コロシアム』に至っては限凸しても問題ないくらいには出ておるしな! うむ! やはり余の勝負師としての勘は間違っておらぬな!!」

 

 再び自慢げに胸を張るネロに適当に相槌を打つ。確かに、イベント礼装が出てきてくれるのはありがたい。だが、今回のメインはボックスガチャだ。今は七十箱くらいあけることは出来ているが、できればもう少し周回したいところだ。具体的には百箱くらいはいきたい。

 そんなこんなでガチャを回し続けること数十回。正直こんなに回す予定はなかったガチャも最後の一回に突入した。高レアは結局、ここにいる二人のネロしか召喚されず、他は礼装や銀枠のサーヴァントばかりだ。最後に召喚されたのは何だろうと思っていると、光の輪が三本に分かれた。そして、その光の輪から現れた物に俺は息を飲んだ。三本の光のラインから現れたのは、金色に輝く騎士のカード。通算三度目となる登場に、俺の足が震え始める。

 

「ま、さか。ここで金枠のセイバーだとォッ!?」

「無演出の金枠サーヴァント召喚は久しぶりだ! これは………ひょっとするのではないか!?」

「それはフラグだからやめろぉ!!」

 

 ここでもし七人目のデオンとかだったらもう立ち直れる自信はない。ネロなら宝具レベルが最高値の一つ手前だからまだましだが、それ以外だと致命傷だ。ここで同じ最高ランクのセイバーだということでアルテラとかが召喚されるのも、それはそれで困るが。

 

「祈るのだ研砥!! あの時、バレンタインイベントで初登場した花嫁の余を呼ぶのにここまで来たのだ!! 最後まで諦めるでないぞ!!」

「お前に言われるまでもないッ!! 頼む…………来てくれ………………ッ!!!!」

 

 両手を合わせて拝むように目の前のカードを睨み付ける。いや、途中から召喚された人を見るのが怖くなって思いっきり目を閉じる。思い続けるのは彼女を初めて見た時のこと。バレンタインイベントでその存在が確認され、第五特異点で遭遇した時のこと。いつの日か、ここではないあの世界で見た彼女の姿。再び会おうと約束したあの誓いを果たすべく、俺は何度も召喚に挑んできた。今度こそ。今度こそと自分を振るい立たせながら。

 幾度となく挑んだその結果は、今回を合わせて全てが失敗に終わっている。だからだろうか。最後の最後にこんなチャンスが与えられて、文字通り藁にも縋る勢いで召喚を行っている自分がいる。

 

 

 

 

――――――なぁ。神様。本当に、貴方という奇跡の存在がいるのであれば。

 

 

召喚が実行される。黄金の騎士が描かれたカードから光が溢れる。その時、一陣の風が部屋の中に吹いた。その風は心地良く、目の前の事実と向き合おうとせず、強く閉じていた瞼をゆっくりと開かせる。

 

 

 

――――――ここまで来たんだ。これが、ネロ・ブライドが召喚できる最後の機会かもしれないんだ。

 

 

 

ゆっくりと、少しずつ閉ざした瞼を開く。カードから溢れた光の粒子は既に、新たに召喚されるであろうサーヴァントの姿を形作っている。見覚えのあるその姿に、俺は遂に奇跡は起こらなかったのだと落胆する。

 

 

 

――――――だから、頼むよ。なあ神様! 最後に一度くらい……………

 

 

 

 再び顔を俯かせようとしたその時。目の前に溢れる光が炸裂した。今までにない召喚のされ方に驚き、俺はたまらずその場で尻餅を着く。何が起こっている、戸惑う頭の隅でそれを模索していると、目の前に現れた人影が叫んだ。

 

「アトラスの勇者よ! 余を求める其方の声! 確かにこの耳に届いたぞ! この時を何度待ち続けたことか!! 今はその場で待つが良い! そこに座して待ち、余の声に耳を傾けよ!!」

 

 何度もこの耳に通したあの声。余りにも不遜。だが、その全てを許してしまいそうになる少女の声。その声はどのような楽器よりも美しく、その姿は万人を魅了する。そう、目の前に立つ彼女の名は――――――

 

 

 

 

 

 ーーーーー良い夢を……………見せて……………!!

 

 

 

 

 

「うむ! 装いも新たに再登場だ。嫁セイバー。あるいは~………ネロ・ブライドと呼ぶが良い!!」

 

 

 

 

 

「え…………ほん、とうに…………?」

 

 目の前で登場した、たった一人の少女。俺が何度も求め、遂には全てを投げうった召喚。その最後の最後で、彼女が召喚される。そんな、奇跡にも等しいことが。本当に起こっているのだろうか。驚きのあまり頭が理解することを拒んでいると、白いネロはは突如としてこちらに向かって飛び込んできた。

 

「ようやく………ようやく会えたな! マスタ――――――!!」

「うわぁっ!?」

 

 いきなり飛び込んで来たことに驚いて、その場で2人揃って倒れる俺たち。その肌の感触。触れた肌と接触したことで温まりを感じた時。俺はようやく理解した。これは本物だと。今、ここにいるのは。紛れもない彼女なんだということを、よくやく認識した。

 感動のあまり声も出ない。目からは涙が溢れ出し、少しからず嗚咽を漏らす。だが、それでも必死に笑顔を創り上げながら、俺は隣にいる少女に声をかけた。

 

「ようこそ、アトラス院へ!! これからよろしくな! ブライドッ!!」

「うむ! 存分に余に頼るが良い! これからよろしく頼むぞ! 我が奏者(マスター)よ!!」

 

 

 

 

 

 

 こうして、かれこれ二年近い年月を経た戦いは、ここに終止符が打たれた。これから先、俺と彼女は共に闘うことになる。だが、今はもう少しだけ休ませてほしい。もう少しだけ………この喜びの余韻を、楽しんでも罰は当たらないだろう?

 

 

 




 なお、この後で赤いネロの強引な召喚によってブライドの召喚に成功したため、そのお礼に聖杯を捧げてLv98にした模様。

 というわけで、今回のネロ祭ピックアップ!! 遂に我がアトラス院にネロ・ブライドが召喚されましたッ!!! 長かった戦いもこれにて終幕! だがしかし、この時はまだあのイベントの存在を知らなかったのです。そう………1000DLボーナスという奇跡の存在を………!! 皆さんは誰を選びましたか? 自分は次回の投稿で発表しますので、楽しみに待っていただけたらと思います!!

 さてさて。もうすぐ10月ですが、今年のハロウィンは誰が☆5枠なんですかね? もしここでゴスロリ玉藻とか来たら私、正月のメルト用に貯めこんでいる財布の紐を外す自身はありますよ!!


ここまでの読了、ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!!


 







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夢魔からの贈り物

 どうも皆さん。ネロ祭でリンゴを使い果たし、これから先のイベントの周回が出来るか不安になってきた青眼です。

 今回は遂に始まった1000万DLボーナスガチャの報告回をお送りいたします。といっても、今回はFGO本編では関わりの無い話です。なので、それをこんな感じに本編へと導入してみました。よろしければ、それについて感想を送ってもらえたらと思います!



 これは夢だ。目の前の光景を見た黒鋼はそう断言した。墓標の様な剣の群れ。その中央であらゆる武具に串刺しにされた男の姿。今まで何度も見たことのある場面を見て溜め息を漏らす。サーヴァントと契約したマスターは、自分が眠っている時にその記憶を垣間見ることがある。今までの旅の途中で何度もそれを見た黒鋼は、特に動揺することなくそれを見続ける。

 

「――――――――――――――――」

 

 数分後、場面が切り替わる。しかし、それはさっきまで見た男の記憶の続きではない。聖杯を求める戦いに参加し、過去の自分という過ちを正そうとした闘争ではなく、目の前で無残に殺されていく仲間の景色だった。そして、黒鋼はこの光景も見たことがある。同時に、彼らの辛い記憶を同時に見たせいで胸が痛む。確かに、黒鋼研砥という男は犠牲が出る戦いなら、容赦なくそれを切り捨てる非常な男だ。だが、それでも彼には心がある。辛く悲しい記録を見続ければ涙だって流す。

 

「――――――――――――――――っ」

 

 再び場面が切り替わる。次に見た景色は、夕焼けを背景に息絶えようとしている少女の姿だった。喉元からは血がドクドクと溢れ出し、美しい顔は人の物ではないように青白くなっている。咄嗟に彼女の体に触れ、手当てを試みようとする黒鋼だったが、これは彼女たちの記憶を見ているに過ぎない。伸ばした手は体をすり抜け、より一層彼女の死に際を見届ける羽目になる。そこまで見た直後だった。黒鋼が何も虚空に手を伸ばし魔術回路を起動させる。伸ばした手には一振りの刀が握られ、それを容赦無く振り下ろす。

 

「―――いい加減にしろよ、この花糞野郎!!!」

 

 今の黒鋼が持てる全ての魔力を込めた斬撃が宙に刻まれる。まるでページが切り替わるように夕焼けが斬り捨てられ、その先にいるであろう男に向けて黒鋼は全霊の突きを放つ。しかし、その先に居た男はそれを予想していたのか。既に握られていた西洋剣でそれを難なく防ぐ。

 

「おやおや、そこまで君を怒らせてしまうものを見せてしまったかな?」

「わざとやってんだろこの人でなし。良いから俺を夢から目覚めさせろ。マーリン」

 

 目の前で余裕そうに笑う白いローブの男。冠位(グランド)のクラスを持つ最高峰の魔術師の英霊(キャスター)。ブリテンの宮廷魔術師だった花の魔術師、マーリンに向けて躊躇うことなく黒鋼は殺意と斬撃を放つ。アトラス院で召喚した刀剣を使うサーヴァントたちとの訓練で、彼の剣術は既に人の域を超えている。運さえ良ければあのエミヤからも一本取れるまでには成長しているが、目の前にいる魔術師には一切通用しない。数秒の内に数十もの剣戟を交わす二人。どちらも最善手を打ち続けるが故に戦いは終わることはない。このままでは千日手。体力に限りがある黒鋼の方が倒れるのは自明の理だ。

 一度距離を取り、懐からカードを取り出すか黒鋼は悩む。しかし、その一瞬の隙をマーリンは見逃さない。空いた距離を一歩で埋め、片手で振るった彼の剣が黒鋼の刀を弾く。不味いと咄嗟に判断し、即興で刀を投影しようと黒鋼は試みるが、その前に魔術師の持つ剣が首筋に当てられる。自然と首を持ち上げ、魔術師と視線を交わす黒鋼。視線だけで軽く人が殺せそうな目だったが、張り詰めた空気を解くように溜め息を吐いた。

 

「…………参った。降参だ」

「ふっふっふー。さてと、これで私の百七十八戦、百七十七勝一負けだね。まだまだ精進しなよ?」

「うるせぇ。ったく、なんで魔術師なのに約束された勝利の剣(エクスカリバー)なんて大業物を振るってるんだよ。理不尽だろ、むしろ数十合打ち合えた俺の投影魔術を褒めて欲しい」

「だって、君の所にいるアルトリアに剣術を教えたのは僕だよ? そう簡単に追い越されてしまっては、師匠である私の顔も丸つぶれだからね」

 

 こうして、夢の中で再び会った黒鋼とマーリンの手合わせは終わりを迎える。これはまだ語られていないことだが、第七特異点。マーリンがギルガメッシュ王のサーヴァントとして召喚された彼の地での戦いから、マーリンによる剣術の修業は続いている。バビロニアの時では暇な時間さえあれば何度でも。こうして人理焼却を防いだ今では、週に二度。時間を決めて剣の相手をしてもらっているのだ。

 

「それにしても、君も結構頑張るねぇ。精神攻撃の体制を作るために敢えて悪夢を見たり、こうして僕と剣を打ち合ったりと。うん、正直カルデアにいるマスター君よりは苦労してるよね」

「そりゃ、俺はあいつらのサポートをするためにここまで来て、一緒に戦ってきたからな。援護できないとこの部署も潰れて、今まで一緒に働いてきてくれた人たちを路頭に迷わせてしまう羽目になる。………言いづらいことだが、俺は一人で戦ってるわけじゃないからな」

 

 本来、レイシフトを一回行うだけでも正社員一人分の給料が消し飛ぶのだ。それをまだ無かったことにできているのは、今までの報告書や世界を救ったことが事実だからだ。向こうとしては認めたくはないのだろうけれども、実際に映像資料なども送られては認めざるを得ない。だからこそ、口封じの様に大金がカルデアとアトラスに支給され続けているのだ。

 

「まぁ、俺に支給される分が増えるわけでもないがな。その分、俺は食事や皆との生活を楽しませてもらってるよ」

「………苦労してるんだね。君も」

「一番苦労してのはギルとクレオパトラさんだよ。ギルが報告書や観察に来た人の相手をして、クレオパトラさんが経済状況を細かく観察してるからこそ、今の生活がギリギリ保ててるんだから。………アルトリア二人召喚とか、本当にエンゲル係数がうなぎ登りだったからな。あんな青ざめた表情をしたクレオパトラさんは初めて見たよ」

 

 実際、あの二人が召喚された時のクレオパトラの表情は凍り付いていた。黒鋼は息を吐きながら呟く。それと同時にゆっくりと立ち上がり、新たな刀を投影して身構える。そのまま第二戦を始めようとしたが、辺りが段々白んで来ているのに気づく。

 

「おや、残念だけど今回はここまでのようだね。いつもより随分と早いお目覚めだけど、どうしたんだい? 何か大変なことでも起こりそうなのかな?」

「………あんたに言っても仕方ないことだけどな。もうすぐ、第三の魔神柱が逃げ延びたことで生まれた亜種特異点が特定できるそうだ。こっちとしては、今の平和な時間を謳歌したいから願い下げなんだが……」

「そうも言ってられないと。なまじカルデアより性能良い観測機があるから大変だねぇ。まあ、僕としては。君たちがそうやって必死に戦う様を見ているだけなんだけどね?」

「狭間のところに召喚されてないからなぁお前。本気でサポートする気あんの?」

「勿論だとも! でないと、君たちのカルデアスの炉が消えないように魔力を送ったりしないだろう? それに、あまり特別お助けスタッフが出張ったらありがたみが薄れるじゃないか」

 

 手に持った聖剣を消し、いつの間に作り出した石の上にマーリンは座り込む。楽し気に俺たちの紡ぐ戦いという名の物語を見て楽しんでいる。それを良しとしまっている現状に腹が立つが、敵わない相手に挑むほど時間の無駄はない。それを実経験で知っている黒鋼は溜め息を吐き、自分が寝ている部屋を想像し、夢から覚めようと努める。そんな時だった。何かを思い出したかのようにマーリンが呟いた。

 

「そうそう、もうすぐ僕が召喚されやすくなるようにシステムを弄っておいたから。気が向いたらそっちに遊びに行くね?」

「おいこの花糞野郎。さりげなく重要なこと言ってんじゃねえぞ! おいコラ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………という夢を見たんだ。だから、悪いけど皆の力を貸してほしい」

 

 夢から目覚めて数十分後。召喚システムの異常を検知したというスタッフからの報告を受けた俺は、その異常となったサーヴァントに関係のある人たちを呼びつけ、召喚場に召集をかけていた。この場に集まった人の数は五人。そのうち、顔が全く同じ三人の女性が口を開いた。

 

「その……私としては少々複雑な気分ですが、マーリンの魔術師としての実力は保証します。なので、頑張ってください。マスター」

「ふぅん、他人の夢に入り込んでは遊び散らかす非人間など必要ないと思うがな。まあ、マスターがそうしたいのであれば止めはしない」

「…………何が言いたいのですか、黒い私」

「貴様こそなんだ。普通の私よ」

「ふ、二人とも! 二人とも喧嘩しないでください! それに、その………一応、私たちの師匠なんですから! もっと召喚されるのを楽しみに待ちましょうよ!!」

 

 最初から順に、青と白を基調したエプロンドレスを身に着け、ブリテン島を守る星の聖剣を振るう騎士王アルトリア。その騎士王が非情に徹し切った黒を基調としたワンピースを袖に通したアルトリア・オルタ。そして、その二人よりかなり前。騎士王に至る成長途中の姿で召喚されアルトリア・リリィ。ついこの間召喚できたアルトリアを加えた三人の他に、もう二人。この場に集まってもらった人がいる。

 

「………あの夢魔がここに来るのは色々と癪だが、あ奴の力だけは確かだ。まあ、この(おれ)がいる以上、これ以上のキャスターの召喚は不要だと思うがな」

「まあまあ。彼だってグランドのクラスを持つくらいには凄いんだし。ギルもそこまで目くじら立てないの!」

「ふん、別に目くじらなど立てておらぬわ。ただでさえキャスタークラスの多いここに、奴を育成するだけの素材が無いと言っているに過ぎんわ」

 

 長く赤い髪を伸ばした女性、ライダーのブーディカさんが金髪の青年。キャスターのギルを宥めようとし、彼は鼻を鳴らしながら顔を遠ざける。この場に集まってもらった人にはある共通点がある。それは、この場にいる全ての人がマーリンと接点があるということだ。

 アルトリア達は言うまでもないが、ブーディカさんにとってマーリンは引きこもりでニートな弟らしい。来てくれたらすぐにでもハグをしてあげたいレベルに感動するらしい。おい花糞野郎、くそ羨ましいからそこ代われ。ギルは言うまでもないが、第七特異点で彼を召喚しているからだ。さりげなく全員王様系のサーヴァントなので、さながら『マーリンを呼び隊』ではなく、『マーリンを呼ばせ隊』といったところか。

 

「しかし、よく聖晶石を補給できましたね。まだ月のはじめではない故、呼符の再回収も出来てなかったのでは?」

「はい? そんなもの魔法のカードで増やしましたが?」

「とうとう課金に躊躇いを無くしたか。まぁ、それで爆死をすれば飲む酒も美味しくなるがな」

「あの、もしかしなくても、マスターがしてることって危ないことなのでは……」

「あ~リリィは気にしなくて大丈夫だからね。これは研砥の問題だし、私たちもあまり気にしちゃいけない。いいね?」

 

 戸惑うように呟くリリィに優しく語り掛けるブーディカさん。幼き騎士王は納得がいかない様子だってけれど、とりあえず肯定の意を示す。そこまでして、とりあえず今回用意した聖晶石を確認する。

 

「まぁ、とりあえず今まで課金した余剰分に少し足して20連分だけ用意したから。とりあえず10連回すか」

「今回だとランサーの私たちとマーリンがこの場にいないですね。新しい人が来てくれたら良いのですが………」

 

 30個の聖晶石がサークルの中央へと吸い込まれる。もはや石を買うことに何の躊躇いを持たなくなってしまっている自分に寒気を覚えながら、今回の10連では誰が来るのかを想像しながら待つ。次々とサークルから吐き出されていく礼装とサーヴァント。しかし、未だに高レアのカードは現れない。

 

「………あれ、もう7回目なのに星四以上のカードが出ませんよ?」

「これは……まさか、星4一枚という哀れな結果になるあれか。俗に言うグロ召喚という奴だな」

「不吉なこと言うなよ!? くっ、やはりこの間のブライド召喚が響いてるのか………!!」

 

 数週間前、2年近い激闘の果てに召喚に成功したブライドは最高レアリティを誇る星5のサーヴァントだ。排出率1%という高く険しい壁を乗り越えた今、俺のガチャ運は一気に落ちていてもおかしくはない。だが、ここで諦めたら駄目だ。諦めたらそこでゲームセット。逆に考えれば、諦めずに回し続ければゲームは続くのだ!!

 

「いや、その理論だとマーリンを召喚するまで課金するということになりますが!?」

「そこまであいつは来て欲しくはないがな! 最近だとマーリン抜きだとクエストがマジで厳しくなってきやがるから腹立つんだよ! この間の“山の翁”戦とかなぁ!!」

 

 あれは本当にマーリン案件だった。もしマーリンのデータがなかったら本当に死告天使(アズライール)されてた。高確率判定の即死宝具を2、3ターンおきに放ってくるとか殺意が高すぎる。よくもまあ、あんなシステムを作ろうとしたものだ。

 

「あ! マスター! 何やら金色の光が溢れ出してますよ!」」

「何っ!? ……って、出てきたのはセイバーじゃないか。ということは、呼ばれているのは大体察したわ」

「……なんだ。何故そこで私の顔を見る」

 

 サークルから現れた金色の騎士のカードを見て、視線を近くにいたオルタに向ける。今回は期間限定物を除いた、全アルトリア・ペンドラゴン&マーリンピックアップなのだ。なので、今回登場する金セイバーのカードは殆どオルタが出てくる可能性が高い。以前、水着ガチャでジークフリートさんが来てくれたこともあるから、絶対とは言わないが。殆どはオルタがやって来ると思って良いだろう。

 登場するサーヴァントのことを割り切っていると、遂にサーヴァントの召喚が実行される。普通のアルトリアより宝具の威力が上がったと内心思っていた俺だったが、その予想は大きく裏切られた。カードから流れ出た粒子が作り出した服装は赤と黒の鎧ではなく、白を基調としたブラウスに赤のスカート。片手に握られているのは西洋剣ではなく、一振りの日本刀。色素の薄い金の髪ではなくクリーム色の髪に、頭と腰辺りから飛び出る狐の耳と尻尾。まさかの人がこの場に召喚されていた。

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・セイバー! 召喚に応じ超参上! みたいな~☆」

 

 

 

 

 

 

 

「………………………ゑ?」

「え? じゃないし。なに、私が来るのは不味かった感じ?」

 

 目の前に現れた剣士の英霊(セイバー)のサーヴァント。いつぞやの電脳世界で俺たちの前に立ちはだかり、終盤では味方になった女性。真名、『鈴鹿御前』が怒気を隠さずにこちらに向ける。それにとりあえず謝罪しておき、現状を把握する。

 

「星4セイバーでオルタが召喚されると思ったら、鈴鹿御前が召喚されていた。そしてガチャはいつの間にか終わっていた。OK?」

「OKだし。というかなに、本当に私が来たら困っちゃう感じだったりする?」

「いやいやいや! サーヴァントは多いに越したことはないから助かるよ。これからよろしく頼ます。御前様」

「ちょ、その呼び方はやめて。その、なんか照れるし。もうちょっと砕けた話し方で、マスターは私に頼ってくれればそれでオッケーだから。かしこまり?」

「カシコマリッ!!」

 

 そんなこんなで召喚された御前様、改め鈴鹿と握手を交わす。そうしていると、何やら後ろから突き刺さるような視線を感じた。何だろうと後ろを振り返ってみると、敵意を隠すことなく聖剣を抜いていたオルタが立っていた。

 

「ちょ、何やってんのオルタ!?」

「邪魔してくれるなマスター。私の宝具レベルを上げる機会を奪ったそこの現代人ぶったセイバーを消し飛ばすだけだ」

「いや、それだけでも十分問題だからな!?」

 

 今回のピックアップで召喚されると思ったら違う人が出た。ジークフリートやデオン達なら祝福してくれるが、オルタは貪欲までに宝具レベルを上げることに執着を持っている。どうやら、ネロの宝具レベルが3になっていることにイラついているらしい。この間のレースでは共闘したとはいえ、基本的に敵対しているらしい。

 

「なに? ちょっと後輩に厳しすぎませんか~先輩?」

「ほう、今の私にその言動。どうやら慈悲は要らぬらしい。よかろう、今すぐ聖剣の錆にしてくれる」

「うわ~。ちょっとしたジョークでキレるとかマジで無いわ~。なに、この黒セイバーありえなくない?」

「…………殺す」

 

 鈴鹿の挑発に血が上ったオルタが一歩を踏み出す。漆黒の弾丸の様に迅速に鈴鹿の前に躍り出て、黒い聖剣を突き出す。鈴鹿は隣に立つ俺の襟を掴んで飛び、自身の持つ刀とは違うもう二振りの刀を出現させる。器用に刀の峰に乗り、優雅にサークルの外に舞い降りる。

 

「逃げるか。JK擬きセイバー」

「擬きじゃないし! ちゃんとしたJKセイバーだし!! っていうか、召喚されてレベル1の後輩を全力でボコろうとする先輩と遊ぶわけないじゃん。とりあえず、マスターにここの案内してもうから。アンタの相手はその後だし」

「逃がすか―――――!!」

 

 黒のワンピースの上に血の滲んだ黒い鎧を形成し、完全に戦闘態勢に移行するオルタ。それを嘲笑うように入り口から脱出しようとする鈴鹿に呆れながらも、こういった話も良いと俺は思った。だが同時に、そう簡単にここから暴れて出られると思わない方が良いとも思った。

 

「オルタ。そこまでだよ」

「そこまでだ愚か者」

 

 だが、現実はそう簡単に事が運ばないのが常だ。オルタの剣を軽く弾いてブーディカさんが彼女を抱き留め、ギルが『王の財宝』(ゲート・オブ・バビロン)から鎖が飛び出し、俺の体を綺麗に外しながら鈴鹿の体を拘束する。

 

「もぅ、確かに自分の宝具の威力が上がらなかったとはいえ、今のままでも十分強いんだから。あんまり新入りを苛めちゃだめでしょ?」

「む………それは、そうだが……」

「分かってるならいいけど、次はちゃんと仲良くすること! いいね?」

 

 我儘を言う子供をあやすように言い聞かせるブーディカさん。さしものオルタも彼女には敵わないのか、ショボンと肩を落としてそのまま抱き着いている。手慣れていると苦笑を漏らしていると、近くにいた鈴鹿が喚き始めた。

 

「ちょ、JK相手に拘束プレイとかハードすぎじゃん!? 何、もしかしてここってそういう系の場所だったりするわけ!?」

「戯け、貴様がマスターを勝手に連れて行こうとしたために鎖を出したにすぎん。貴様も神に連なる力を持っているようだったからな。我が友の出番というわけだ」

 

 無様に拘束されている鈴鹿を嘲笑うギル。それを見た鈴鹿が宙を舞う刀を向かわせるも、蔵へと通じる門から放たれた魔術がそれを叩き落とす。一しきり笑ったギルだが、その後に息を吐いてこちらを見る。

 

「そも研砥よ。貴様、この駄狐の愚行を甘んじて受けていたな? 要らぬ手間をかけさせよって。この代償は高くつくぞ?」

「いや、偶にはこういったものも良いかなって思っただけなんだがなぁ。ほら、連れ去られるなんて、あんまり体験できないことだしな」

 

 襟を掴んだ鈴鹿の手を軽く払いのけながら、服を正して元の位置に戻る。リリィが少し心配そうにしていたから軽く頭を撫でて落ち着かせながら、ギルに合図を送る。

 

「それじゃ、当初の予定通り新入りの面接よろしくな」

「ふん、他にできそうなサーヴァントがおらぬから仕方なくやっているだけだ。あとで上手い飯と麦酒を用意しておけ」

「え!? ちょ、私このままどこかに連れていかれちゃうわけ!? マジでありえないし!! マスター助け――――」

 

 喚く鈴鹿を容赦なく連行し、召喚場から去るギル。鈴鹿が神性スキル持ちだったとはいえ、あそこまで相性が悪いのは可哀そうに思えてくる。今頃ギルを始めとした面接官サーヴァント達による組織案内でもされている彼女に同情しつつ、次の十連の準備をする。

 

「さてと、次で今回は最後な。回れ回れぇ!!」

「頑張ってくださいね! マスター!」

 

 リリィの応援に応えるべく、俺は残った石を全て放り込む。今回はあくまで聖晶石による召喚のみを行い、呼符はこの後に来るであろうイベントのために取っておくつもりだ。今年は色々と振り返りイベントが多いから、キャスターの方は三度目だからリストラされるかもだが、セイバーのエリザベートのハロウィンが再登場する可能性があるのだ。去年のリベンジを果たすために、今の内に呼符だけでも貯めておきたい。そんなことを考えていると、サークルに黄金の光が伴って回転し始める。サークルの中央に現れたのは先ほどと同じ、黄金の騎士のカード。これが出ただけで何となく察していたが、それは期待を裏切ることなく現界した。

 

 

 

 

 

「…………召喚に応じ参上した。貴様が私のマスターという奴か?」

 

 

 

 

 

 

 

「うん、何となく察してたけどやっちまったなぁお前」

「む、既に私を召喚しているのか。ならば、あとは何も言うまい。先に工房で控えているぞ」

「ああ。これからもよろしく頼む」

 

 礼など不要だ。新たに召喚されたオルタはそう言いながら召喚場を去る。一方、既に召喚されているオルタはというと、表情を満面の笑みに変えながらアルトリアを見ていた。

 

「ふっ、これで私の宝具レベルは2。本来の私を遥かに上回る威力になってしまったな」

「……確かに、貴方の宝具威力が上がったことは認めましょう。しかし、私の方が戦闘に連れて行かれる頻度は多い!」

「ふぅん。何やら吼える負け犬の声がするな。敗者は黙って跪いて………?」

 

 いきなり始まる二人の罵倒のし合い。しかし、それは何かを言おうとしたオルタの口が止まると同時に終わる。普段は罵倒や非難の声は止めることなくズバズバと口にするのが彼女だ。そんな彼女がなぜ途中で言うのを止めたのだろう。気になった俺は、オルタの視線が召喚サークルの方に向かったのに気づき、それに倣うように俺も首を動かす。そして、その先に行われていた物を見た俺は、驚いてその場で尻餅を着いた。

 

「なっ―――――金のランサーカードだとッ!?」

「………これは、どこか私と似たような気配を感じたが故に振り向いたが。まさか、ここで来るとはな」

 

どこか嬉しそうに笑いながら、オルタは目の前で行われ始める召喚に集中した。彼女を除く四人の目も、サークルの中央に現れたカードに集中する。今回のピックアップ対象であり、そして高レアリティのランサーは2人いる。数秒後、待ちに待った新たなサーヴァントの召喚が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

「ランサー、アルトリア。召喚に応じ参上した。我が愛馬が雷雲を飲むように、我が槍はあらゆる城壁を打ち破る。あなたの道行きを阻むもの、すべてを打ち砕こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよぅしランサー・アルトリアの召喚に成功っ!!」

「流石はマスターだな。この間の劇場女のイベントで散々爆死したから少し心配していたが、やはりここぞという時の勝負運は目を見張る物がある」

 

 新たに召喚されたのは、聖剣エクスカリバーを主武装にしたセイバーの騎士王ではなく、聖槍ロンゴミニアドに変更したランサーの騎士王。そして、それがどんな因果か聖杯の呪いに飲まれ、結果として生まれてしまったオルタナティブ。愛馬であるラムレイに跨って現界した彼女の前に一歩出て頭を下げる。

 

「初めましてランサーの騎士王。これから、よろしくお願いします」

「………ああ。私がここに来るのは初めてだが、ここにいる者たちの功績はちゃんと理解している。退屈させるなよマスター」

 

 セイバーのオルタと同様の不遜に満ちた発言に苦笑しながら、俺は彼女を他の騎士王たちの前に連れて行く。全身フルプレートアーマでの現界だったが、暑苦しくなったのからなのか。ランサー・オルタは兜を外して素顔を晒す。ここにいる彼女たちの面影は少し残っているが、やはり成長している分、他の騎士王たちに比べて大人びて見える。

 

「………………………なぜ、そんなにも大きいのですか」

「言うな騎士王。私とて悲しくなるではないか」

「? お前たちは何を言っているのだ? 確かに、聖剣(エクスカリバー)ではなく聖槍(ロンゴミニアド)に持ち替えたため、肉体の成長が止まらず身長はお前たちより高いが………」

 

 どこか戸惑うように答えるランサー・オルタの答えに、二人の騎士王の睨む力が籠る。そんな彼女たちの怒りの原因を俺は何となく察したが、何も言わずに召喚サークルに向き直る。ちょうど、さっきのランサー・オルタが最後の十回目だったらしく、システムは次の指示を待ち続けていた。一応、マーリンを召喚することを前提に行ってきたこの召喚だが、結果としてアルトリア・オルタを別クラスで一人ずつ召喚に成功している。二十連召喚でこれはかなり良い結果だ。ここらで撤退すべきだと判断しようと思った時、リリィが服の袖を引っ張っていることに気付いた。

 

「ん、どうかしたかリリィ?」

「いえ……その、私も師匠の召喚を行いたいんですが。よろしいでしょうか?」

「は? いやいや、少なくとも今回の召喚はこれで終わりだし、そもそも召喚に日露な素材が………」

「大丈夫です! こんなこともあろうかと、エミヤさんに呼符を一枚頂いてきました!」

「何やってんだエミヤァ!?」

 

 リリィがスカートのポケットから取り出した金色の札。一枚で単発召喚の代わりとなる呼符をエミヤからもらったと聞いた俺は、まさかの出来事に驚いた。いや、アルトリア達には甘いと思っていたが、まさかここまで甘すぎるとは。あとで何か言っておかないといけないかもしれん。

 とはいえ、まさかここまでリリィがマーリンの召喚に積極的とは思わなかった。オルタや普通のアルトリアさんたちでさえ召喚出来たら良いし、出来なかったらそれでも構わないという感じなのに。何がそこまで彼女を突き動かしているのだろう。

 

「いえ、別にマーリンに特別な感情を抱いているわけじゃないですよ? ただ、やはり彼は私の剣の師匠なので。この度の闘いの中でX師匠という師も出来ましたが、やはり彼との修業も楽しいのです」

「………………………………………………あかん、ええ子すぎて涙出てきた」

 

 

 どこか照れたように、純粋に笑うリリィを見ていかに自分が汚れているのか自覚してしまった。いや、最初から理解した上で無視していたのだが。リリィを見てそれはいけないと自覚した。何をやっているのだろうか俺は。

 

「良いぞ。頑張ってマーリンを呼んでくれ」

「お任せを! お願いです、来てください! マーリン!!」

 

 てりゃぁ! っと可愛らしい声と同時にリリィは呼符をサークルに投げつける。その辺りも可愛いと思っていると、何故だか後ろから殺意の波動を感じ取ってしまった。深呼吸をして雑念を振り払うと、目の前に広がったサークルがいつも以上の輝きを放っていることに気付いた。

眩い輝きは七色の光が入り混じった虹色。そして、そのサークルの中央から現れたのは杖を持った老人の絵が描かれた金色のカード。最高位の魔術師(☆5キャスター)の召喚が確定した瞬間だった。

 

「え、ええええええええええ!? ☆5キャスター確定演出!? ナンデ!? ココデ☆5キャスタートカナンデ!?」

「こ、これはもしかして! 本当にマーリンが来てくれるんじゃないですかマスター!! だって☆5キャスターですよ!! マーリンも同じ☆5キャスターですから来てくれますよね!!」

「ああ! これは間違いなくマーリンだな! 思う存分働かせてやるよこのニート魔術師! そしてよくやったリリィ!! 今日は何でも作ってやる! 思う存分飯を食べろ!!」

 

 まさかの事態に俺とリリィは互いを抱き寄せて喜びを分かち合う。セリフから後で毒ガス訓練でもしそうな感じだが、そんなことは一切考えていない。というか、リリィにそんなことしてみろ。禁じ手使ってでも完全消滅させてやる。

 そんなことを考えていると、遂にサーヴァントの召喚が実行される。ここまでお膳立てが済んでいるんだ。ここで来るのは間違いなくマーリンだと。ブリテンの花の魔術師でかつ、世界有数のキングスメーカーだと確信していた。カードから光の粒子が流れ出し、新たなサーヴァントの姿が形作られていく。―――――だが、その形作った容姿は、俺たちの望んでいたものではなかった。

 すらっと伸びた長い足に、胸元を少しはだけさせた僧衣。金色の輪っかが数個入った錫杖に、万人を照らさんばかりの明るい笑顔。アトラス院(ここ)でも何度か見たような覚えがある。いや、何度も見たことのある女性(・・)が召喚されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あたしは玄奘三蔵! 御仏の導きにより、ここに現界したわ! ええっと、クラスはキャスター!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………」

「………………………………………………」

 

 目の前で現界した女性を見た俺とリリィから声が消える。顔はそのままなのにも関わらず、喜びの奇声ではなくただ声だけが消えた。ふと、こんな時にどうしようもないことを考えてしまった。これはおそらく、リリィも同じことを考えているだろう。☆5キャスター確定演出で、自分の師匠が来ると思ったら全くの別人が。それも、既に召喚されている人が来てしまったと。

 勿論、これにより既に召喚されている三蔵の宝具強化が可能だ。この間、威力修正と防御無視へと進化した彼女の宝具が、より凶悪になることは間違いない。だが、それを抜きにしても許せない感情が俺たちの胸の中で溢れかえる。どうしたものかと、足りない頭で考えていると、俺たち二人の肩を叩く人がいた。叩かれた方の肩を見ると、既に聖剣を抜刀したアルトリア二人と、禍々しい光を槍に纏わせているランサー・オルタがいた。

 

「……アル、トリア………?」

「よい、何も言うなマスター。言わずとも分かる。貴様の言いたいことはよく理解しているつもりだ。そして、そこにいる白い私の言い分もな」

 

 俺たち二人の前に出る三人のアルトリア。その手に握られた彼女達の宝具は、既に魔力の充填が住んでいる。持ち主が命じればその力を開放し、目の前に立ち竦む三蔵ちゃんを吹き飛ばすだろう。確かに、今回は色々と酷いことになってはいる。だが、彼女もれっきとした☆5サーヴァントだ。だから、こんなことはしてはいけないと彼女たちを止めとようとする。

 

「いや、別にそこまでしなくても………おい、何してるんだリリィ」

「え? 皆さんに倣ってカリバーンを抜いているだけですが………」

「おい馬鹿止めろ! って、ブーディカさんも見てないで止めて………」

「我らに勝利をもたらせ、約束されざる(ソード・オブ)――――」

「ってあんたもかよ!?」

 

 マーリンが召喚されなかったことがあまりにも悔しかったのか。普段は温厚なはずのブーディカさんが、般若の如き表情で三蔵ちゃんに向けて宝具を使わんとしていた。とりあえず、この場を何とかしようと必死に頭を働かせる。だが、それよりも遥かに早く。彼女達のもつ武具の名が唱えられた。

 

「束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流―――受けるがいい!!」

「卑王鉄槌。極光は反転する―――光を飲め!」

「突き立て! 喰らえ! 十三の牙!!」

「選定の剣よ、力を! 邪悪を断て!」

「我が手に握られし剣よ。我らに勝利を齎したまえ――――!!」

 

 結果。五人のサーヴァントによる宝具が召喚場と、その付近にいた三蔵ちゃんに向けて放たれるのであった。結果としては二人目の三蔵ちゃんは、先に居た彼女の力を渡して消えていった。しかし、力を渡した彼女の記憶が移ってしまったせいか。アルトリアを見て怯える彼女がそこにはいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~後日、研砥の夢の中にて~~~

 

「ぷーーーーーあははははは!! もしかしたら召喚されるかもとは思ってたけど、現実は非常なものだねぇ!! あーはっはっはっはっは!!」

「野郎ぶっ殺してやるぁ!!」

「はい『幻術』♪」

「テメェ!!」

 

 場所は変わって夢の中。ここではいつものように俺と花の魔術師(マーリン)との特訓が始まっていたが、今回は最初から全力で殺しにかかっている。具体的に言うと、アルトリア(セイバー)・オルタの力を纏い、この身に宿る膨大な魔力で追い詰め、斬撃を放ち、聖剣の真名解放までしている。にもかかわらず、目の前の男はその全てを悠々と躱し、弾き、的確にカウンターを狙いに来る。生身の俺だったのなら一撃で伸されるような攻撃の嵐だが、今の俺は騎士王の力を借りている。そう簡単に負ける訳にはいかない………!!

 

「というか、さりげなく『幻術』連打してんじゃねぇよこの花糞野郎!!」

「ちょ、確かにやりすぎたかもしれないけど花糞はないんじゃないかな!?」

「うんこ野郎とどっちがいい!!」

「花糞で頼むよ!!」

 

 言葉をと剣を何度もぶつけ合いながら、その場で一度距離を取る俺たち。オルタとは完全に絆が深まっているという訳ではないので、全身の節々が悲鳴を上げ始めている。真名解放

もあと一度出来れば御の字だ。残る魔力を使い切るつもりで目の前に立つ花糞野郎を睨み付ける。やけくそに打ったとしても当たることはない。確実に当てるためにはどうすればよいかと考えていると、マーリンは疲れたように聖剣を仕舞った。

 

「ふぅ~………降参降参。今回は僕の負けだよ。いやぁ、まさか君がアルトリアの力を行使するとは思わなかった。我が弟子ながら、確実に敵を殺す気で振るってるね」

 

 疲れたと言わんばかりに杖をその手に出現させながら、その場で胡坐を組んで座るマーリン。敵意は完全に感じないが、実はこれが『幻術』で後ろからグサリということもあり得る。いや、確かそんなこともあったはずだ。

 

「…………本当に、今日は終わりで良いんだな?」

「勿論だとも。アルトリアじゃあるまいし、普通の逸般人に合わせて休憩させないとね。君の所にいる彼女に怒られたくもないし」

「それなら、なんで今回も来なかったんだよお前………。ブーディカさんだけじゃなく、アルトリアや、ベディヴィエールも会いたがってたぞ?」

 

 オルタの力を行使するのを中断し、体内から弾き出されたカードを懐のケースにしまう。俺もその場に座り込み、目の前にいる非人間を問い詰める。それを聞いた彼は、困ったような表情を浮かべ、次の瞬間には悲しそうな笑みを浮かべた。

 

「いや………その、だね。私としては確かに会いたい人でもあるよ? でも、僕とウーサー王が目指したものを勝手に押し付け、その最期に付き合えなかったのが僕だ。ベディヴィエール卿に至っては、彼の目的を理由に僕が出張ることやめたんだしね。その分、第七の特異点では大活躍だったけど」

 

 円卓の崩壊に罅を入れた僕が、彼女達の前に立つのはおかしいことさ。そう言いながら杖を一振りすると、何もない純白だった空間に色が付き始める。暖かな日差し、地面を彩る美しい草や華聯な花たち。そして、その中央に聳え立つ異形の塔。この場所のことは知っている。いつぞやの夢の世界で、マーリンが見せてくれた場所だ。

 

遥か遠き理想郷(アヴァロン)――――。たとえ人類史が燃え尽きようと、誰が何をしようとも決して侵されることのない理想郷(牢獄)。そこから人知れず手助けをするのが僕の役割だ。まあ、見ているだけだと暇になるから、時々遊びに行くけどね」

「牢獄の意味ないじゃねぇか………」

 

 どこか愉快そうに呟くマーリンを見ていると、目の前に広がる世界が段々と白んでいく。あと数分もすれば夢から覚めるのだろう。それを何となく感じ取り、俺はその場で大の字になって寝転がる。少しずつ襲ってくる眠気に身を任せ、この場を後にする。

 

「ん、それじゃまたな。今日も修業を付けてくれて、ありがとな」

「なに、私も見ているだけだと腕が鈍ってしまうからね。それじゃ、今日もお疲れさま。良い夢を見れるように祈ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ、流石に肉体の方が悲鳴を上げてるか。くそっ、痛み止め飲まないとな……」

 

 夢の世界での修業を経て、現実世界で体を起こした際に走った痛みに苦笑しながら、俺はベッド近くにある錠剤を取り出して飲み込む。薬はそこまで即効性はないので早く効いてくれるのを祈るしかない。精神体でもダメージは共通なのが辛いところだ。誰もいない部屋の中で呟いていると、近くにある机の上に見覚えのない箱があることに気付いた。ふと気になったので時間を確認したが、今日も今日で遅い時間に起きたという訳ではない。調理担当の人が飯を置きに来たというわけでも――――それ以前に起こしに来るが――――ないなら、これは一体何の箱だろうか。未知の物を開ける好奇心に駆られた俺は、疑うことなく箱を開いて中を覗く。

 ――――そして、その中身を見た俺は驚きのあまり目を丸くして息を飲んだ。一体、誰がこんなものを用意したのだ。まさかの贈り物に驚き、差出人の名前が無いか探していると、箱の蓋の裏側に手紙がくっ付いていることに気付いた。この箱の送り主かもしれないと思った俺はすかさず手紙の封を切り、中身を取り出して読み上げる。

 

 

やぁ。おはようアトラスのマスター君。今回は僕の気まぐれで、このような特別なプレゼントを贈ることにしてみたよ。七つの特異点を超え、彼の魔術王の元から逃げ出した残り二柱の魔神柱討伐の物語は続くかもしれないが、僕は信じているよ。いつの日か、君たちがこの世界を本当の意味で平和を取り戻すとね。これは、それの前祝だ。これが、君たちの戦いに役立つことを願っているよ。

君たちが危なくなったら、僕もここから君たちの元に飛んでいくよ。だって、僕は君という物語。そのファン一号だからね。少しばかり、君を依怙贔屓するのもやぶさかではないさ。それじゃあね。アルトリア達にもよろしく。  

――――花の魔術師マーリン(君のファン一号)より。

 

 

 

「――――馬鹿じゃねぇの。やっぱ、あいつ馬鹿なんだろ」

 

 渡された手紙を握り閉めながら、送り主である花の魔術師のことを罵倒する。こんな手紙を送るくらいなら、たまにで良いから遊びに来いってんだ。アルトリアだけじゃない、あいつと縁があるものは少なからず会いたがっているのだから。

 それを知ったうえで会わない。否、会えないのは。ひとえに、遠くから俺たちの行く末を見守っていたいからだろう。あいつにとって俺たちの旅は物語と同じ。それを理想郷(特等席)から独り占めにしたいからに違いない。どこまでもお人好しで、人でなしな冠位の魔術師に悪態を吐きながら、軽く深呼吸をする。

 

「……ああ。俺なんかでよければずっと見てろ。いつか、この戦いが終わって、俺という役目が終わるその時まで。精々、モブ()の物語を見続けてろ」

 

 目から熱い物が零れるのを感じながら、俺は箱を厳重に保管する。それと同時に一言。この場にいない人に礼を言いつつ、俺はマイルームを後にする。カルデアのサポートという、自分の役目を果たすために。俺は今日も自分を鍛え続ける―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、今回のピックアップは剣オルタと三蔵ちゃんの宝具レベルが2となり、新規で槍オルタと御前様が来るという結果に!! 何と言いますか、微課金でこれは十分大勝利だと思います! そもそも、マーリンが来ても使うかどうかわかりませんし。スキルレベルは当然ですが。私、ストーリーや高難易度では『マーリン・マシュ・孔明』使用禁止令貼ってますから。
あ、本編では書きませんでしたが。実は土方さんが欲しくて単発回してます。5回しかチャレンジできませんでしたが、『看板娘』が来たので凄く嬉しかったです!!

あ、今の亜種特異連Ⅲ『屍山血川舞台 下総国~~英霊剣豪七番勝負~~』ですが、今までの特異点攻略の中でも最短記録更新! まさか、二十四時間以内に攻略できるとは思わなんだ。途中、何度も詰んだりクリティカル連打でやってられるかと思うところも少なくなかったですが、何とかなりましたね! 当然、マシュ・マーリン・孔明も使いませんでしたよ!

 基本、EXTRAシリーズ以外回したくない私ですが。今回は無心で10連を回してしまいました。いや、だってあれは仕方ないと思う。最後の最後であんな終わりは卑怯だろう………!!
 まあ、ガチャ報告はハロウィンを先にやってからですね。パールヴァティはどうしようかな………あんまり回してないからスルーか、剣豪ピックアップで話だけはするかもしれませんね。イラストが蒼月さんだったから欲しかったんだけどな~~!!


 ここまでの読了、ありがとうございました! 誤字脱字等がありましたら、指摘の方よろしくお願いします!
 それでは、次回もよろしくお願いします!!



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チェイテピラミッド城って、構造的に大丈夫なのか?

というわけで、今回は2016年ハロウィンピックアップガチャです! 前回の最後に渡されたマーリンの贈り物の一つ。配布された星4サーヴァントも今回の話に登場します! 今回も楽しんで読んでいただけたらと思います!!

それにしても2017年のハロウィンイベント。まさかの展開に驚きが隠せなかったですね。まさか、ピラミッドの上に姫路城が乗っかかるとは。その前に行われた剣豪も良かったなぁ。10月は楽しかった………。

11月。今のところ復刻クリスマスで終わってますけど、この後に今年のクリスマス。その後にセイレムって感じですかね? どんなシナリオになるのか、今から楽しみにですね!!


「く――――はははは!! 甘い! 遥かに甘いぞ勇者エリザベート一向よ!!」 

「な、何ッ!? これもう終わりでしょ!? 最終局面で感動の再開を果たしてハッピーエンドのはずでしょ!?」

 

 謎の男の叫び声に狼狽えるのは、今回の物語の主役。彼女に一度勝ってしまったことで自慢の城にピラミッドを逆さまに建設され、ここに来るまで色々と修業(?)を経て、それなりにマシになったことで秩序・善属性となった竜の勇者。一世代古い清く正しい勇者の武装、ぶっちゃけると露出の多い鎧。ビキニアーマという完全にちんちくりんな彼女には過ぎた代物を着込んで今回は参戦している。

 

「ちょっと!! 確かにちょっとレトロかもしれないけど、ちんちくりんとか言う必要なくない!? というか、地の文はしっかりと描写しなさいよ!!」

 

 いやだって、今回ばっかりは擁護できないしおすし? そもそも、槍エリザと術エリザでオーバーレイネットワークを構築して、エクシーズチェンジ! ブレイブ・エリザ!! とか誰が想像できたか。初見の人は予想できたか? 否、出来なかったに違いない。というか、既に2017年のハロウィンイベントのガチャ報告をしないといけない時期なのに、復刻イベントを投稿している時点でテンション下がってるというか。ぶっちゃけ、早く亜種並行世界のガチャ報告も書きたい(切実)。

 

「ああ。全くだな地の文よ。それじゃ、このまま俺が勝利して城下町をもっと面白おかしい国にして………」

「させるわけないでしょ! てりゃ!!」

 

 はい、ちゃんと仕事に戻りま~す。さて、遂に痺れを切らした勇者エリザベートが声のした方に自身の持つ剣を投げつける。剣を投げる勇者とはこれ如何にと思うかもしれないが、今回は偶発的にセイバーになっただけなので、特に剣術が得意になったというわけではない。自分の身に過ぎた剣を全力で投擲することで、それはかなりの破壊力を秘めた一撃になる。加えて、今回のイベントによって彼女が与えるダメージは2倍。たとえアーチャーを敵に回したとしてもそれなりにダメージを与える一撃が男に迫る。

 ―――だが、勇者エリザベートの一撃は彼に届くことはない。投げ飛ばされた剣を軽くかわし、あろうことかその勢いを殺すことなく柄を掴み、彼女に斬りかかる!!

 

「え――――?」

「っ、お嬢早く逃げろ!!」

 

 数十メートルはあった距離を一瞬で詰め、そのまま上段から剣を振るう男。いち早くそれを察した緑の外套を着込んだ青年。アーチャー・ロビンフッドがエリザベートを抱えて飛び、ギリギリのところで回避に成功する。それを見た謎の男は、愉快そうに笑いながら剣を投げて返した。

 

「ははっ! 流石は(元)我がサーヴァント! この程度の一撃は躱されて当然だなぁ!」

「そいつは光栄なことで。んで? 何でアンタがそっち側に付いてんだよ?」

 

 事と場合によっては。ロビンは暗にそう言いながら、腕に装着したボウガンに手を掛ける。相手が慣れ親しんだ人物であったとしても、自分の目的の為であれば容赦なく殺す。それが、無辜の民を守らんとした無銘の英霊。ロビンフッドが持つ唯一の矜持。それを理解しているからこそ、自身に向けられる殺気が心地よく男は感じた。

 

「知れたこと。今回の俺は、クレオパトラさんがやられた時に現れる隠しキャラとして参戦している! そう、ゲームで言うところの裏ボスという奴だな!」

「は、はい!? 裏ボスですか!?」

 

 彼の発言に釣られるように露出の多い法衣に身を包んだ褐色肌の女性。エジプトを誇る魔術師の英霊、ニトクリスが驚いて声を荒げる。ゲームという存在にあまり触れていない彼女だが、それでも言葉のニュアンスは察することが出来ただろう。

 ――――そして、こういったものは裏ボスの方が強かったりするのである。前回は余裕が無かったので出番が無かったが、今回はそんなことは言わせない。全力で、眼前にいる勇者一行を薙ぎ払おう。

 

「さぁ! 本当の最終決戦と行こうじゃないか!!」

 

 この場に集まった多くの英霊。その全てを敵に回し、俺は六人のサーヴァントを召喚して彼らに戦いを挑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~~楽しかった! もう、このさ! あいつらのすげぇ嫌がる顔を見るのがすげぇ楽しかった!!」

「もう、鬱憤が溜まってたとはいえ、あんまり酷なことしちゃ駄目だよ?」

「そういうブーディカも楽しんでおったではないか。かくいう余も楽しかったがな!」

 

 慣れ親しんだ召喚場にて、俺はいつもの二人と。ブーディカさんとネロと言葉を交わしている。今回行われているのは、去年の今頃開催されていた秋のメインイベント。何故かセイバーに転職したエリザベート共に、クレオパトラさんが占拠したチェイテ城を取り戻そうというストーリだった。結果としては、いつも通り俺たちが後方支援をして、カルデア組が敵を粉砕するというシンプル・イズ・ベストな作戦で物語は幕を下ろした。敵側に一騎当千の円卓の騎士がいたとはいえ、こちらに彼らの王様がいたのが幸いした。

 

 

 

 

 

 

~~~チェイテ城 広間にて~~~

 

『………何をしているのですか、このヒトヅマニア達』

『わ、我が王!? ち、違うのです! これには湖よりも深い事情が……』

『ああ………私は悲しい。こんな失態を王に見せることになるとは……』

『問答無用!! そこに直りなさい! この馬鹿騎士達!! 約束された勝利の剣(エクスカリバー)――――!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「………色々あったな。去年のハロウィン」

「そうだね。まぁ、今回は去年の焼き直しだから、今年はまた別なんだけど、一体どんなことになるんだろう……?」

「エリザベートはどこぞの騎士王の如き速さで増えておるからな。今年は今年で増えるのではないか? 何故か余が記憶している姿であれば、バーサーカーの適性もあったからな」

 

 増殖するGならぬ、増殖するEと化したエリザベート。そもそも、何でハロウィン=エリザベート創造イベントになったのだろうか。謎の多くなってしまったイベントではあるが、これから行うことにはそれほど影響を及ばさないので捨て置く。

 今回行おうとしているのは、その2016年のハロウィンで登場したサーヴァント達がピックアップされているガチャだ。俺たちは去年の内に、星5であるクレオパトラさんを召喚している。礼装も去年の余りを使えばいいので、今回のガチャはスルーしても構わない。だが、今回は譲れない物があってこの場に立っている。それは、クレオパトラさんによって占拠されたチェイテ城の門番していたランサー。ヴラド三世を召喚するためである。

 

「色々あったけど、やっぱりヴラド公は召喚しておきたいからな。バーサーカーじゃないけど、ランサーはランサーでいてくれると助かる」

「うちはもうランサーは必要ないと思うけどね。そういえば、念願のランサー・玉藻だってスキルレベル、全然上がってないないじゃない」

「スキル石が足りないんです~~。ついでにQPも足りないだけなんです~~」

「うむ……この間のネロ祭。結構な回数を回しておったが、一瞬で溶け落ちてしまったからな。ルーラーの育成というのはまこと鬼門よな……」

 

 この間の嫁セイバー。ネロ・ブライドを召喚した時に行われていたイベント。通称ネロ祭ではボックスガチャという、簡単に言えば種火もスキル石、加えてQPもがっつり稼げる素晴らしいイベントがあった。実際に回した回数は80。一箱開けるだけで金色のスキル石が1つ手に入るので、確実に80個はスキル石を入手しているはずなのである。

 にもかかわらず。その殆どが消費されてしまっているのが現状だ。というのも、今までスキルレベルの上昇を放置していたジャンヌ。それから、何故かルーラークラスに転職したホームズさんの育成をしてしまったからだ。ルーラーのスキル上げには各クラスのスキル石を5個ずつ必要になる。つまり、二人で合わせて30個も持って行かれたのだ。加えて、2人は最高レアリティである星5のサーヴァントだ。つまり、それ相応にQPを持っていくのだ。

確かに二人のスキルレベルを上げたことで大分戦闘が楽にはなった。だが。それに見合った代償が想定したものよりも大きかったというだけで。ネロ祭みたいなイベント、また開催してくれないだろうか。

 

「さてと、ぐだぐだ言ってないでガチャ回すかね」

「そうだね。今回は貴重な10連召喚一回だけでしょ? マーリンに感謝しないとね?」

「全くだ。我が師ながら、よくやってくれてるよ。………な? 貴方もそう思わないか?」

 

 後ろを振り向きながら、俺は入り口でずっと待機していた人に話しかける。召喚場の入り口。そこには白銀の鎧に身を包み、短髪のブロンドヘアーに青い瞳の青年が立っていた。今は戦闘時ではないため愛剣を携えてはいないが、彼の持つ剣こそ、彼の騎士王の持つ星の聖剣と対を為す業物。刀身には疑似太陽が搭載されていたり、彼自身の技と剛力で幾たびも活路を切り開いてきた。そう、彼こそは――――

 

「まあ、そんな後ろにいなくていいからさ。もっとこっちに近寄ってくれよ。ガウェイン卿」

「御意。しかし、マスターもそこまで畏まらないでください。確かに、私は円卓に名を連ねる騎士ではありました。ですが、今は貴方に使えるサーヴァントの一人。ですので、貴方にはそう接していただきたい」

 

 全世界に名を轟かせる円卓の騎士が一人。太陽の騎士ガウェイン。日がが出ている環境において無類の強さを発揮する最強のセイバーの一角を担う剣士だ。前々から、ガウェインを召喚しようとは思っていた。しかし、その悉くがピックアップスルーされるという地獄を見たため、この間マーリンが用意した大量のプレゼントの一つ。好きな星4サーヴァントが確定で1人召喚可能な呼符を用い、彼を召喚したのだ。

召喚された直後の彼は、騎士王であるアルトリアを見て号泣したり。月の聖杯戦争の記憶が少しは残っているのか、一部のサーヴァントにも挨拶をして回ったりと。色々と人気の高い人である。それもそのはず。少し天然なところを覗けば普通にイケメンなのだ。ここにいる職員でさえ一目惚れする程度にはイケメンだ。同じ男である俺から見てもカッコイイのだから、無理もないだろう。

 

「う~む。相変わらず其方は堅苦しいな。もう少し砕けて話せぬのか?」

「まあまあ。まだここに来て間もないから仕方ないよ。それより、ここでの生活には慣れてきた?」

「はい。まさか我が王や円卓の騎士達と再会し、かの勝利の女王である貴女と交流できるとは。私個人としては嬉しい限りです」

 

 恥じらうことなく言うガウェイン卿のセリフに、ブーディカさんの表情が緩む。あの人は自分の行ってきたことを誇ることをしない人だが、ここまで言われて悪い気はしない。嬉しそうに。そして照れたように笑みを浮かべながら頭を掻く。

 

「さてと、そろそろガチャを回すから三人とも護衛役よろしくな」

「うむ! 其方には余が付いておるゆえ、安心してガチャを回すが良い!」

 

 胸を張りながら言うネロの心強さに安堵しながら、俺はこの日の為に残しておいた呼符と聖晶石を開放する。あの時。フランスで再開を約束したバーサーカーの彼とも契約を結びたいが、今回はランサーの方を優先する。というのも、彼は俺が良く知る月の聖杯戦争に参加した英霊の一人だからだ。星4以下だと、彼を召喚したようやくコンプリートになるため、ここで何としても召喚しておきたい。

 

「まずはマーリンからもらった呼符十枚! 行くぞおらァ!!」

 

 手に握った黄金に輝く札をばら撒く。それに含まれた膨大な魔力を飲み込み、システムは今日も元気よく起動する。一本、または三本に分かれる。だが、召喚されるのは全て星3のカードばかり。イベントを有利に進めるための星4のイベント礼装が出ることもない。何ということだろうか、前回の話で感動してゲットした呼符が全て消えてしまった。

 

「………もしかしなくても、今回はガチャ運が悪いのか。普段なら、呼符による十連召喚で礼装が、今回は一枚は出るはずなんだが」

「まあ、この間星5のサーヴァントを出したばかりだからな。それに、この間から研砥のガチャは成功が多い。この辺りで落ちておかないと、新年が怖いぞ?」

「恐ろしいこと言うな……! 俺は今、正月に来るであろうメルトリリスピックアップに備えて貯金してるんだからな………!」

 

 この間のブライドのピックアップから早二カ月。毎月野口を三人ずつ貯蓄している俺にネロのセリフは効く。ここで余談だが、正月のピックアップガチャには新しいサーヴァントが一人か二人追加され、それとは別に復刻される人が多いのだ。現に、今年の正月はイスカンダルやイリヤが再登場していた。特殊な特異点で出会った人と再会出来る唯一の機会だ。その時を迎えるためにも、今は可能な限りの投資や聖晶石の無駄遣いは控えたい。だから、願わくば呼符で召喚されることがベストだった。

だが、現実はそう簡単に物事が運ぶはずがない。結局、呼符による召喚は失敗に終わった。ならば、次は最初で最後の十連に挑むしかない。

 

「…………ふぅ。改まってやってみるとなるとさ。やっぱり、失敗したらと思うと怖いわ」

「しかし、ここで撤退するのはよろしくないかと。一度決めたのなら、最後まで貫き通していただきたい」

「分かってるって。たとえ爆死する結果に陥ろうと。回さなくて後悔するくらいなら、回して後悔したいからなァ!!」

 

 花の魔術師にして我が剣の師匠が一人。マーリンが渡した30個の聖晶石が入った封を解き、その全てをサークルに注ぎ込む。膨大な魔力が込められた石を吸い込み、先ほどとは打って違いキラキラと輝きながら稼働する召喚システム。このガチャが失敗に終われば、次にランサー・ヴラド公が召喚可能になる日は遠のく。何としてもここで召喚しておきたい………!!

 

「っ、ここで星4のイベント礼装! 最低保証の星4確定が消えたか……!」

「まだだ。まだ召喚は終わっておらぬ!」

「そうだよ! 最後まで諦めなければ奇跡は起こる! 腹が立つことだけど、この間のネロ公を思い出して!!」

「そしてさりげなくディスられたぞ余!?」

 

 二人の心強いエールを糧に、最後まで食い見るように召喚サークルを睨み付ける。どこぞの某ランチャーではないが、目から熱線が出そうなくらいに睨み付ける。

 

「引けば老いるぞ。臆せば死ぬぞ。強請るな、勝ち取れ。さすれば与えられん―――!」

「それ、別の作品のセリフのような。というか、結構古いネタだよね……?」

「まあ、分かる人がいれば良いかと。私としても、あの作品は面白いと思いますよ」

「えっ、円卓の騎士って漫画読むんだ」

 

 呪詛の如く呟きながら、眼前に現れるカードを必死の思いで睨み付ける。今回で来なかったら、本当に彼とは“縁”がないということになってしまう。そんな現実、認められるものか。是が非でも彼を召喚したい一心の俺。そんな俺に、ある奇跡が起こる。回数にして6回目。十連召喚も後半に入った直後。銀色の槍兵のカードがバチバチと音を立てる。眩い光を放ちながら銀は金へと姿を変える。

 ―――星4以上のランサーの召喚が、ここに確定した。

 

「ヴラド公――――!!! 宝具発動と同時に無敵貫通が付与されるヴラド公―――!! 王ではなく武人としてヴラド公―――!! 頼むから来てくれヴラド公―――!!」

「………あそこまで行くと、一種の狂気よな。将来、“座”に迎えられるならバーサーカーではないか?」

「いえ、もしくは物欲センサーに抗うアヴェンジャーかと。どちらにしても、我々としては複雑な心境になりますが」

「いやいや! そういったことならキャスターとかでしょ!? ネロ公はともかく、ガウェインまで何言ってるの!?」

 

 段々騒がしくなる召喚場。何だかいつものようにぐだぐだし始めてきたが、あまり気にしないで目の前に現れんとする英霊の召喚を見守る。カードから黄金の粒子が溢れ出し、それが新たに召喚されるサーヴァントの姿を形作ってゆく。

 召喚された際、最初に目についたのは異常なまでに刺々しい鎧だ。敵味方であれ、触れた者全てを貫くと言わんばかりに鋭利な鎧。それは胴体や肩のみならず、指先やつま先までも覆われている。後ろで一つに纏められた白い髪に、血のように赤い両目。獰猛な笑みを浮かべながら、目の前に降り立ったサーヴァントは口上を述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・ランサー。ヴラド三世である。

友よ。あらゆる不徳、すべての不義を糾す戦いを始めよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴラド公―――!! かっこよくて悪属性のサーヴァントを容赦なく串刺しにするランサー・ヴラド公――――!!」

「む? 貴様は彼の特異点にて、カルデアのと敵対していたアトラスのマスターか。吾の召喚をここまで喜ぶマスターがいるとは、物好きな者もいたものだな」

「何を言っているのですか!! むしろ、召喚するのが今年になってすいません! 去年もヴラド公を狙っていたのですが、何故かクレオパトラさんが来るという結果になってしまい……」

「構わぬ。吾を召喚しようと躍起になっていたことは事実のようだ。なればこそ、我が祖国、ルーマニアの大地を護りしこの槍。貴様に預けるには相応しいだろうさ」

 

 カッコよく笑うヴラド公から放たれる“漢”のオーラに圧倒される。この人はこういうことをあっさりと言ってしまえるから卑怯だ。俺がいつまでも言えないことをさりげなく言う。それがとても羨ましくて、憧れたくなる。

 

「何はともあれ、これからは貴様がマスターで吾がサーヴァントだ。良き指示を期待するぞ、マスター?」

 

 愉快そうに笑いながら、召喚されたヴラド公は後ろにいる三人の元まで下がる。だが、目の前に立つ青年を見た瞬間。一瞬にして喧騒が収まった。9回目でまたイベント礼装が出てきたのを確認した俺は、後ろが気になって振り返る。すると、そこには互いの獲物を手に取ったヴラド公とガウェインがいた。どちらも一歩踏み込めば戦闘が始まるくらいに張り詰めた空気だ。一触即発な状況になったことに驚きながら、二人に声をかける。

 

「ちょ、何やってんだ二人とも!? ここで召喚される前に何があったとしても、頼むからいざこざを起こしてくれるなって、少なくともガウェインには伝えたよな!?」

「ええ。ですがマスター。私に戦うつもりはありませんが、目の前の彼はそう言うわけではないようなので」

 

 太陽の聖剣。転輪すべき太陽の剣(ガラディーン)を構えながら、隙を見せることなく返答するガウェイン。目の前に立つヴラド公は言葉を返すことなく、ただ殺気と気迫をガウェイン向けて放ち続ける。

 

「はっ。吾と貴様とは多少なりとも因縁がある。どうだ、己の主を正すことなく消えた忠犬が如き騎士よ。今の貴様に、主を正すだけの気勢は持ち合わせているか?」

「確かに、私は、私たちは我が王に頼りすぎた。二人目の王にも、私はただ彼の剣であろうとした。しかし―――」

 

懐かしい記憶を思い返すように目を閉じ、再びその瞳を開く。握られた聖剣からは炎が溢れ出し、眼前に立ちはだかる男を斬り裂かんと言わんばかりの殺気を放つ。毅然とした態度のまま、ガウェインは自身の気持ちを吐露する。

 

「ーーーしかし、三度目はない。私は黒鋼研砥というマスターに仕えるサーヴァントであり、彼の敵を焼き尽くす騎士だ。だが、彼が道を誤ったというのであれば。私は我が聖剣の輝きを以てそれを正す。たとえ、そうなったのがマスターの意思だとしても」

 

 今度こそ、私は誤った選択をしない。ガウェインは眼前に立つ槍兵にそう言い放つ。その強い意志に応じるように聖剣から漏れ出れる炎も猛る。ガウェインの返答を聞き届けたヴラド公はしかめっ面を消し、少しだけ笑みを浮かべてから槍を消す。同時に殺気といったものも消え去り、戦闘が始まるという雰囲気は消え去った。

 

「そうか。ならばよい。何、いつぞやの聖杯戦争での貴様の在り方を見たが故な。何分、武人として呼ばれた吾は気性が荒い。今の問答は、今の貴様に対して無礼であったな」

「いえ、これからは共に肩を並べて闘うのですから。気になったことを聞くということはおかしなことではありません。それでは、失礼ながら私がこの施設の案内を務めさせていただきます」

「うむ。………一度、彼の騎士王とやらとも会っておきたいものだな」

「是非。きっと、我が王もお喜びになるかと」

 

 さっきまでの空気はどこへやら。愉快そうに笑いながらガウェインとヴラド公は召喚場から立ち去っていった。目の前で行われた展開についていけず、そのまま彼らを見送ってしまったが。特に問題を起こす人たちでもないし、恐らくだが問題は無いだろう。

 

「それにしても、さっきのはちょっと肝を冷やした。まさか、ヴラド公とガウェインに因縁があるなんて……」

「余やキャス狐もそうだが、こことは違う聖杯戦争で呼ばれたサーヴァントだからな。多少なりとも、そういったことがあっても仕方はないであろう。エリザベートと彼の串刺し公に、因縁があると同じようにな」

「だからと言って、まさか召喚された直後に問答を始めるとか予想できるか。あ~良かった。ここで暴れらたら溜まったものじゃないからな」

 

 どこか遠い目をしながら言うネロに、俺は少しだけ胸が痛くなる。多少は覚悟していたことだが、自分の呼び出したサーヴァントが互いを傷付けあうのを見るのは辛い。それが仕方のないことだとしても、そうなる宿命だとしてもだ。

 

「………さてと、召喚も終わったし。そろそろ部屋に戻ろうか。早く周回して次の戦いに備えないと」

「そうだな。………ところで研砥。その、頭に乗っている茶色い毛玉は何だ?」

「は? 毛玉?」

 

 ネロに注意されて初めて気が付いたが、何やら暖かいものが自分の頭に乗っている。何だろうと適当に触ってそれを拾い上げ、自分たちに見えるように取り出す。ふさふさした茶色い毛玉だと思っていたが、その表現は少しばかり改める必要がある。正確には、どこか原始人みたいな衣装に、何故か棍棒を持った茶色い熊のような人形だ。こう、名状しがたい熊人形のようなものと評したほうが良いかもしれない。

 

「………何か嫌な予感しかしないから、ペンテシレイアさんのところに放り込んでおくか」

「ちょ!? お前なんつー(ひで)ぇことしやがる!? あの嬢ちゃんと俺との相性は最悪だって知っててやろうとしてるなっ!?」

「力の殆どを吸い取られた哀れな人形に言われたくはない……。それより、相方の女神様はどうしたんだよ? ぶっちゃけ、あっちが本体だろお前?」

「霊核的にはこっちなんだけどなー。それよりアルテミスか? いや、何でか俺の方が先に召喚されちまってな。あいつ以外の上に乗ったことがなかったから、偶には別の誰かでもいいかなああああぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 素朴な疑問を目の前にいる名状しがたい熊人形のようなものに尋ね、その答えを聞いている時だった。どこからとなくフワリと舞い降りた女性が熊人形を取り上げ、両手を使ってそれを万力の如く握り締める。小さい体の熊人形はそれを一身に受け、苦悶の声を上げる。だが、それを実行している女性は聞く耳持たんと言わんばかりに締め付け続ける。

 

「もうっ! ダーリンが先に召喚されるのは仕方ないけど、私がいない数分の間に浮気だなんて! 許さないわよ~~~!!」

「ちょ、おまやめろ!? 出ちゃう! 人形じゃないけど綿みたいなの出ちゃう~~~~!!」

 

 目の前に行われているコントに追いつけず、二人(?)の行いをただ見続ける俺たち。数分後、少しは気が収まったのか。熊人形を自分の頭の上に乗せた女性はハッと現状を認識し、照れ笑いをしながら熊人形を肩に乗せ、仕切り直すように咳をする。

 

「え、え~と。色々とやっちゃったけど、一からやり直しても構わないかしら? 構わないよね?」

「え、あっ、はい」

「やたっ! ありがとねマスターさん! それじゃ、やり直すわよダーリン!」

「いや。暴走したのお前だけだからね?」

 

 漫才のようなやり取りをするように二人に俺は苦い笑みを浮かべる。仕切り直すということは、召喚された際のあれもやり直した方が良いのだろう。なら、一からやり直すとしよう。

 

 

 

 

 サークルの中央に出現したのは、胸元が露出しノースリーブのワンピースによく似た服をきた白髪の女性。サファイヤのように澄んだ青い瞳に、手に握られた輝かしい弓。そして、抜群のスタイルを誇る女性の肩に名状しがたい熊人形のようなもの。

 

「ちょっと待て! 何で俺の名称が名状しがたい熊人形のようなものなわけ!?」

「ダーリン! 静かにするっ!!」

「グホォォッ!?」

 

 ――――閑話休題。抜群のスタイルを誇る女性の肩に乗る、原始人が着ていたそれによく似た民族衣装に、小さい棍棒を握りしめた熊。信じられないかもしれないが、あっちの方が本体だったりする。そんな摩訶不思議な召喚のされ方をした英霊の名は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい! アルテミ……じゃなかった、オリオンでーす!」

「ペットとかぬいぐるみとかのオリべえでーす。よーろーしーくー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まさか、こんな短期間に星5サーヴァントを召喚することになろうとは。それにオリオン&アルテミスさん? ピックアップスルーもいいとこだなぁ」

 

 若干思考を放棄しながら、俺は溜め息を漏らしつつ目の当たりにした光景を理解する。いや、まあ。前回の玉藻さんという結果があった。だから、一重にピックアップスルーで新たな星5サーヴァントが来るという事態は理解している。だが、まさかクラスごと違うとか思わないだろう。

 

「何はともあれ、こちらは貴方たちの召喚を歓迎します。よろしくお願いします」

「はいはーい! 大分時間が掛かっちゃったけど、お団子の時以来ね! これからよろしく~!」

「相変わらずのハイテンションだなぁお前。まあ、こんななりで力の大半を奪われちゃあいるが、一応俺が本体ってことになってる。そこんとこよろしくな」

「おう。とりあえずオリべぇはペンテシレイアさんのところに放り込んでおくわ」

「おい馬鹿ヤメロッての!! もしかしなくてもギリシャ男性特攻とかいう、俺やヘラクレスみたいなのしか通じねぇ女のとこに連れてくんじゃねぇ!!」

 

 本気で怯えているのか、ぷるぷると震えるオリオンを見て少しだけ優越感を感じる。この間の水着イベントでは散々やらかしてくれたからな。少しばかり意地悪をしても問題ないだろう。

 

「さてと、新しい人が二人も来てくれたし、今日はパーティーでも開くか」

「そうだね。それじゃ、行こっか」

「うむ! 月の女神と狩人よ! ブーディカの料理は美味しい故、楽しみに待つが良いぞ!」

「あら、それは楽しみ~! ここで食べたお団子も美味しかったから、すっごく楽しみだわ~!!」

「それじゃ、俺はここの探検でもしてくるかね。あわよくば美しい女性とお近づき、すいません! 俺も付いていきまーすッ!!」

 

 何かやらかしそうになったオリオンに弓と刀をちらつかせる俺とアルテミスさん。身の危険を感じた哀れな人形は、定位置であるアルテミスさんの肩の上に乗る。喋る熊人形擬きから、名状しがたい熊人形のようなものに出来なかったことを残念に思いながら、俺たちは食堂に向けて歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~亜種並行世界 前日(オマケ)~~~

 

 

 

「………ふぅ。今日も一日生き残ったな」

 

 慣れ親しんだ自分のマイルームに置かれたベッドに寝転がりながら、俺は今日もハードだった一日を思い返す。マーリンのおかげで召喚できたガウェインに加え、ヴラドさんにオリオンたちのレベルを上げるため、ここ一週間は種火狩りに出かけていた。おかげで、エレナさんと頼光さんの絆レベルが9に達したり、最近だと戦闘に連れて行けなくなって暇になったキャットが暴走したのを宥めたりと。色々と忙しい日々を送っていた。旅を始めた頃には無かったが、今はこの日常が楽しいと感じている。だというのに――――――

 

「なんで、こんなにも嫌な予感がして止まらないんだ?」

 

 原初の母(ティアマト)人王(ゲーティア)と敵対したそれと似ていて。それとは違う感覚がする。彼らの育成が終わったあたりからするこの胸騒ぎ。もうすぐ特定されるという、新たな亜種特異点がその原因なのだろうか。

 

「………まったく、相手は死にぞこないの魔神柱だというのに、何をビビってるんだが。ギフトガウェインとか、殺生院キアラとかの方がよっぽど恐ろしいっての」

 

 くだらないことを考えている暇があれば休む。愛用のコートを椅子に掛け、手早く寝間着に着替える。今日は(・・・)ベッドが暖かくないから、静謐も自分の部屋で休んでいるのだろう。最近、色々と心境に変化があったのか。少しだけ前向きに考えるようになってくれたことが嬉しくて、俺もそうなりたいと思った。皆から何かとあれば過小評価が過ぎると注意されることもあるし、静謐を見習って、少しだけ自分のために行動してみようと思う。

―――何はともあれ、今日はもう終わりだ。いつ戦闘になっても大丈夫なように。早く休むとしよう。

 

季節はもう10月。そろそろ新しいハロウィンとかも始まる季節だ。今年はどんなエリザベートが出現するのだろうと呆れつつも、俺は布団を強く体に巻き付け、眠りに着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――地獄を見た。ただただ、この光景を一言を表現するのであれば。それは地獄だ。燃え盛る大地。山のように積み重なる兵士たち。腐敗臭がこの場を包み込み、想像を絶するような“死”の匂いが充満していた。いつぞやの夢の世界で見たエミヤの過去や、特異点冬木で見たあの世界よりも濃い“死”の匂い。精神の弱い者が見れば悲鳴を上げずに失神するレベルだ。旅を続けた末、ここまで精神が太くなった俺でも吐き気がする。ここは一体どこで、何が起こっているのか。それを考えていると、目の前に黒い人のシルエットが現れる。

 

『………無礼者め。人の夢に入り込み、私の記憶を覗くか』

「こっちだって好きでやってんじゃねぇよ。つか、テメェは誰だ? お前がこれしたんじゃねぇのか?」

 

 声が重なって聞こえる。マーリンのように自在に人の夢に入り込めるのではなく、これは契約したサーヴァントの記憶を見ている現象に近い。普通、相手には自分の存在に気付くことが無いが、今回は別のようだ。シルエットからでは分からないが、どこかで会ったような気がする。

 

「この、見るからに地獄にしか見えない風景はお前の心象世界か? これが深層心理に刻まれるなんて、よほど無残な一生を送ったんだろうな」

『貴様に言われるまでもない。私は、私として世界を渡り歩いた。その果てにこの世界は私の内面に刻まれ、復讐するだけの力と機会を得たのだ! 貴様なぞに、貴様なんぞに邪魔立てはさせん!!』

「はっ、安心しろよ。それは俺の役目じゃねぇ。俺はあくまで裏方。主役や美味しいところは全部。あいつが持って行くからよ」

 

 何故か、俺に対し怒りの念を込み上げる男に対し、俺は挑発するように男を嘲笑う。恐らくこれは、特異点が見つかる直前に見るという夢なのだろう。狭間がオルレアンで邪ンヌの夢を見たというし、間違いはないだろう。

 それにだ。ここで死ぬつもりはないが、ここで倒れたとしてもカルデアのマスターである狭間がいる限り、物語は続いていく。俺はあくまであいつのサポートをするモブなのだ。いつ運命とやらに切り捨てられるか分かった物じゃない以上、いつでも死ぬ覚悟は出来ている。だというのに、目の前に男は俺の返事を聞いた直後、愉快そうに笑った。まるで、何も理解していない子供を見て笑う親のように、馬鹿にして笑った。

 

『愚かな。既に、カルデアの勇者は悪夢に沈んだ。貴様が出る幕などありはしない』

「……あ? 今、何て言った?」

 

 挑発していたさっきの表情から一変。言葉を発すると同時に殺意を混ぜ込みながら、目の前の男を睨み付ける。今の発言が正しいのなら、あいつは。狭間は悪夢に墜ちたと聞こえた。それはつまり、いつぞやの監獄塔のような事件になっているということだろうか。

 

『信じられぬというのなら、この夢から覚めたあとに尋ねるといい。そして狂い泣け。非力な自分を呪い、目の前で勇者が朽ち果てる様をな!!』

「っ、待ちやがれ! こんの、外道が――――――!!」

 

 高笑いをしながら消えていく男の気配。逃がすものかと抜刀して斬りかかるも、シルエットを斬り裂いただけで手応えは感じない。徐々に薄れていく地獄の景色に舌打ちを漏らしつつ、現実世界で何が起こっているんだと。俺は少しだけ焦りを感じるのであった。




というわけで、今回の復刻ハロウィン2016では念願の星4ランサー! 領主ではなく武人としての頃のヴラド公と、何故かピックアップスルーで来ちゃったオリオン&アルテミスという結果になりました!! 呼符10枚と十連召喚一回でこれは大勝利!! けど、今年になってから急に星4以上のアーチャーが召喚されまくったせいで、育成が遅々として進まない…………。新宿が始まるまで、うちの星4アーチャーってクロエだけだったのに。急にこんなことになって驚きが隠せません。ロビンや子ギルが頑張ってくれてた時代は何だったんだ………。

あ、パールヴァティさんガチャですが。申し訳ありませんが順番を入れ替えて、次回は『英霊剣豪七番勝負』のガチャ報告をさせていただきます。ぶっちゃけると、はやく『下総国』の報告がしたくてですね……。いえ、Twitterを見てくださっている皆様なら既にご存知かもしれませんが。それでも、書きたくなってしまったので。私情を挟んで申し訳ありませんが、パールヴァティさんピックアップガチャは次々回に持ち越しになります。ご了承くださいませ。次のイベント用に石貯めてたんですけど、何でか知らないうちに回してましたよ。いやぁ………ストーリーを終わらせて、あの結末を見て回さないって選択肢ってあるんですかねぇ?
そういえばあの頃、今年のハロウィンは何ザベートが配布されるんだろうだとか。今年はワダアルコさんのイラストはどうなってるんだろうとか。玉藻のモーション変更とか、『変化A』→『呪層・黒天洞』に変化したりとか、あわよくば霊衣開放でゴスロリ姿にならないかなとか。色々と考察していましたが………。まさか、あんな大事件になろうとは。刑部姫が出てきた時は驚きましたが。まあ、イベントなんで十連一回は回しましたよ。こちらもTwitterを見てくれてる人なら知ってるかもしれませんが、ちゃんと小説形式で発表しますので少々お待ちくださいね。


ちなみに、本編で書いた6人のサーヴァントは、前衛から順にブーディカさん・術ギル・静謐・エミヤ・赤ネロ・ホームズさんです。私のところでの基本的なスターティングメンバ―を相手にどこまで戦えたのか。それも少し書こうとは思ったのですが、あまりにも長すぎるためにカットしました。これ書くくらいなら本編進めろって、友人にも言われましたしね(苦笑)



 ここまでの既読、ありがとうございました!
 次回もよろしくお願いします!!


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臆病者と天元の花

最近だとセイレムや、クリスマスで盛り上がっているFGOですが、自分は今更ながらに剣豪ピックアップの報告です。しかも、今回は友人に頼まれて主人公の本領発揮まで書いたせいでこんなに時間がかかってしまいました……。本当に申し訳ない。

次回はパールヴァティさんのピックアップの予定ですので、そのつもりでいてくれると嬉しいです。




注意! 今回のオマケ小説(前半)は、剣豪までFBOの方が進んだ先の展開になっております。なので、黒鋼くんがやたらと強化されまくったあとの話になっており、オリジナル展開にもなってます。不快に思われた方は即プラウザバックを推奨します!!












「―――よう。ここまで来るのに結構な時間がかかっちまったが、ようやく辿り着いたぞ」

「……アトラスのマスター、黒鋼研砥か。貴様程度の人間が、この城の頂にまでやって来るとはな。そこは評価してやろう」

 

 晴れやかな青空でもなく、雨が降り注ぐ直前のような曇天でもなく。ましてや、星が空を彩る夜空でもない。今やこの空は血のように赤く染まり、同色の満月が世界を支配している。紅に染まる空からは吐き気を催すような魔力が溢れ、町は魑魅魍魎の化け物が跋扈している。笑顔が溢れていた城下町に人の姿はなく、悪霊や化け物の他には今回の黒幕。そして、それを阻むために力を振るう者たちしか残っていない。

 今回、この時代に起こっている異変は今までのそれは桁違った。それは彼の魔神王が作り上げた特異点ではなく。聖杯の欠片を有したサーヴァントの暴走で生まれたのでもなく。ましてや、あの最終決戦の果てに逃走した魔神柱が作り上げた物でもない。完全なる並行世界にて起こった異常。名探偵が称した名前を借りるなら、亜種並行世界と呼称された世界にて、黒鋼たちは激闘を繰り広げていた。

この時代を特定し、かつレイシフトをするのには多大な犠牲を払ったものだ。BBやエジソン。普段は真面目な仕事をしない鈴鹿御前といった、数字に強いサーヴァントが必死になって座標を特定し。そこと縁のあるサーヴァントしか飛べないことを知り、今回は一人しか一緒に連れて行くことが出来なかった。

 

 

 

眼前に立つ男に向け、黒鋼は刀を抜いて切っ先を男に向ける。そして、身の内に秘めた怒気を、殺意を隠さずに解き放つ。今の彼は、今までにない程に怒り狂っている。ここに来る前に黒鋼は目の前の男と出会ったことがある。それはこの世界ではなく、男の夢の世界に入り込んでしまった時だ。燃え盛る炎に彩られたこの世の地獄。同胞が死にゆく地獄の中央に立っていた男を見て、その時の黒鋼は悲しい男だと思ってしまった。

しかし、その全てを度外視にして黒鋼は殺気を叩きつける。彼から溢れる魔力の風を浴びて黒いコートがなびく。彼が目の前の男に怒っているのは自分の命を狙ったことや、その仲間に手を出されたからでもない。ひとえに、身勝手な救済(さつりく)を行おうとしている男に対して怒っているのだ。少なくとも、黒鋼たちは一度その救済を拒んでいるのだ。

 

――――多くの人が死ぬ運命(さだめ)を見て憐れみ、その一生を終わることのないものにしようとした獣がいた。しかし、獣に決定に二人のマスターは抗い、その先の未来へと歩むことを決意した。過去に留まず、今という停滞を受け入れず、未来へと進むと決めたのだ。だから、目の前の男が行おうとしている救済(そんなこと)を認める訳にはいかない――――!!

 

「だから……俺はお前を斬るぞ。天草四郎時貞!」

「はっ、貴様程度の男に斬られるほど弱くはない。貴様には過ぎたものだが、絶望に至らせるには十分だろう。―――見るがいい。これぞ、我が心象に焼き付きし世界! 固有結界、『島原地獄絵図』!!」

 

 天草四郎の懐から膨大な魔力が形となって現出する。それは、いつぞやの夢の世界で見たそれと同一の物。固有結界。リアリティ・マーブルとも呼ばれるそれは、魔術の中で最も難易度の高い術の中の一つであり。術者の心象世界で現実世界を書き換える大魔術。その在り方は魔法の域に近いともされる奇跡の技。だが、彼が生み出した心象はそれとはかけ離れた憤怒、憎悪、怨嗟の声しか感じられない。別段、それについてどうこう言うつもりはない。目の前にいる天草四郎時貞と、自分が知る彼は全くの別人なのだから。

 

「これこそは我が身に刻まれ、世界を渡り歩く中で会得した奇跡の御業! この世界は私でなければ踏破することができぬ終わりなき地獄! まさしく無間地獄に相応しい術よ! 貴様や、貴様如きに付き従う脆弱な英霊如きが太刀打ち出来ぬものと知れ――――――!!」

 

 燃え盛る炎。その中から生まれ出で、こちらに向かって群がる無数のゾンビ達。皆一様に生者を呪い、生者を貶し、自分たちと同じ地獄へと引きずり込まんと手を伸ばさんとする。周りを見ると既に赤い外套のアーチャー。そして、こちらでは既に召喚されていた赤髪のセイバー・千子村正が交戦を開始していたが、その動きにはいつもの冴えが無い。アーチャーはいつものように投影する速度が落ち、村正は刀を振るう力が落ちているのは目に見えている。どうやら、この固有結界は無限の兵隊に加え、こちらの能力を大きく下げる効果を持っているようだ。

 であるのなら、黒鋼は? 彼は一体どこが弱体化しているのか。それは彼自身にも分からなかった。だが、彼の身の内に滾る怒りは衰えることはなく、悠然と天草四郎に向かい歩みを続ける。当然、主たる天草を護らんがためにゾンビどもが文字通り肉壁となって道を阻む。しかし、その程度の小細工で邪魔されるほど彼は弱くはない。刀を一度振るうだけで肉壁は消し飛び、二度振るえば斬撃が飛んで群がる悪霊を斬り裂き、三度振るえば眼前の敵を斬り飛ばしていた。身体能力は至って通常通り。どうやら、自分には彼の術が効かないらしい。

 そのことを確認した後、彼はあろうことか単身で天草四郎へと斬りかかる。突然のことに天草も対応が遅れたが、刃が喉を裂く前に抜刀してそれを受け止める。その表情には焦り、動揺の念が浮かび上がっている。それを見た黒鋼は挑発するように嗤った。

 

「おいおいどうしたんだ? ご自慢の固有結界は俺には通じていないようだが。まさか、この程度の呪縛が切り札という訳でもあるまいな?」

「くっ………!! 何故だ! 何故、貴様は俺の地獄を見て何も感じない! 何故、動揺することなくこの地獄の中を歩める!」

 

 天草と黒鋼の振るう刀が火花を散らす。黒鋼は問いに答えることなく無言で刀を振るい続け、天草はひたすらそれを弾き続ける。今の天草四郎は聖杯のバックアップに加え、他世界を渡り歩いた経験を合わせてサーヴァントである彼と同等。もしくはそれを上回るかもしれない力を有している。それに対し黒鋼は魔力が多いだけの普通の人間だ。心臓を破壊されれば死ぬし、多くの宝具が使えるという訳でもない。そもそも、今の彼が振るっている刀でさえエミヤの真似事で、魔術に関しては未だに門外漢なのだ。ハリボテの武器に魔力を大量に通して強化しただけの、贋作にも届かない歪な刃。

 だが、たとえそうだったとしても。その贋作に届きもしない刀を持って相対して見せる黒鋼の技術。戦いの最中で鍛えられてきた戦術眼は一級品だ。伊逹に、弓兵なのに剣士の真似事をするサーヴァントを師に持ってはない。

 

 敵の力が強いのなら、それを補えるように体や武器を強化し続ければ良い。

 敵の数が多いのであれば、それを粉砕できるだけの数で持って立ち向かえばいい。

 敵が全てにおいて上の存在であるのなら、その弱点となる部位を的確に狙えばいい。

 

 どれも、今までの戦いの中で学んだ大切なことだ。彼の一番の願いは旅を始めた頃から終ぞ変わらず。ひとえに死なないこと(・・・・・・)。五体満足で、皆と共に生を謳歌する。そのためだけに彼は戦ってきた。

 そして、幸いなことにそれが可能になるだけの魔力は十二分にある。それに加え、今の彼には。彼にしか持ち得ない物もある。  

 

「何でかって? そりゃお前、決まってんだろッ!!」

 

 何度も刀を打ち付ける中。遂に黒鋼は天草四郎の太刀筋をほぼ完全に把握する。剣戟の嵐の中、愚直に振るわれた正面に振るわれた一撃を優に受け止め、返す力でそれを遠くへと弾き飛ばす。この程度の男風情と驕っていたせいか、天草四郎の顔が驚愕に染まる。その隙を見逃さず膝蹴りを腹に叩き込む。

 

「ぐっ――――――!?」

「俺とお前とじゃ、背負ってるものが違い過ぎるだけだッ!!」

 

 蹴りをまともに受けて怯んだ天草四郎の体に、全力を籠めた一撃を容赦無く放つ。刃は確かに天草の体を刻んだはずだが、魔力で自分の強化していたのか。肌を薄く斬るだけで収まっている。だが、刀に籠めた力は如何なく伝わり、天草四郎の体がボールの如く吹っ飛ばされる。それを見た黒鋼は愉快そうに口元を歪め、懐からペンダントを取り出し、それを握りしめる。

 

「それにな。実は俺も使えるんだよ。固有結界」

「な、に………?」

「文字通り、意味通り冥土の土産に見せてやる。この世界を見て、まだ復讐なんて感情しか持ち合わせないのなら。お前は本当に人でなしだ。それだけなら、本来のお前を上回ってるよ」

 

 槍型のペンダント。いつぞやの世界で戦乙女の槍兵に渡された、彼女の魔力と縁が込められた物。それと同時に、これから行う術の基点となる魔術道具でもある。先端の尖っている部分で肌を切り、血を持ってそれを穢す。ペンダントのチェーンを力任せに引きちぎり、血に染まったそれを地面に落とす。すると、それを中心に魔方陣が組み上げられていく。複雑怪奇、彼以外に読めることのないそれの中央に黒鋼は立ち、祈るように詠唱する。

 

「―――力は繋がりで出来ている」

 

 一節目を詠唱する。これから行われるは天草四郎時貞が発動したそれと同質のもの。しかし、黒鋼がこの術を発動するためには三つほどの制約が存在し、それに加えて展開できる時間がかなり短いというのがネックだ。故に、この術は最終局面でしか使うことが出来ない。

 

 

「―――この身は器。満たすは繋がり」

 

 

 二節目詠唱する。この術の制約、その一つ目。それは術が展開される場所が現実世界ではないこと。つまり、レイシフト先の特異点や、SE.RA.PHのような電脳空間でしか展開できない。これは、彼自身の存在が原因だと思われている。彼は本来、この世界には存在しない人間。それが災いし、そのようなあまり使えない技となっているのではないかと名探偵に告げられていた。

 

 

「―――我らは数多の戦いを越えてきた」

 

 

 三節目を詠唱する。この術の制約、その二つ目。それは術を発動し、その中に巻き込まれる存在が人類の敵であること。例えば、人類悪や目の前にいる天草四郎時貞のような存在がいるのであれば。彼はこの術を躊躇うことなく発動させるし、発動が可能となる。

 

 

「―――多くの敗北を受け入れ、一握りの勝利を掴み取る」

 

 

 四節目を詠唱する。この術の制約、最後の三つ目。それは術を展開することで呼ばれる存在と、どれだけ繋がりが強いか。何度も共に肩を並べて闘い、時には背中を預け、頼り支え合う仲にある存在こそが。この術が展開された先の世界に()び出されるのだ。

 

 

「―――彼の者は独り、次なる戦場を目指し彷徨う」

 

 

 五節目を詠唱する。彼が多くの英霊の力を借り受けれるのは、彼自身の『起源』とこの術を会得したからだ。ここでも例を挙げるのなら、それはさながら、赤い外套のアーチャーが行う投影魔術とよく似ている。彼は生前に解析したあらゆる武具を自身の固有結界内に記録し貯蔵。それを現実世界にて投影魔術を用いてそれを取り出している。

 ―――つまるところ。彼が今まで行っているのは、それを自身の身に行う完全なる英霊の投影に近い。

 

 

「―――されど、我らの戦いに意味は必要なく」

 

 

 六節目を詠唱する。彼が自身の身に行う英霊の投影は今まで見た、英霊の召喚や、他で確認された英霊の降霊とは違うものだ。()

 

 それは、マシュ・キリエライトに力を託して消えた、ギャラハッドと呼ばれたサーヴァントと完全に一体化するのでもなく。

 

 ある少年が英霊の心臓を埋め込められた際に生まれた、人とサーヴァントのミックスでもなく。

 

 とある並行世界で、似たようなカードに魔力を注ぎ込むことによって発動される置換魔術でもなく。()

 

 

 

 

 

「存在しないはずの物語は―――それでも、多くの出会いに満ち溢れていた」

 

 

 

 

 

 七節目が詠唱された。黒鋼の身に溢れる魔力が、黒鋼の身の内に存在する世界が天草四郎時貞を騙る男の心象世界を侵食していく。男は呆然と術が完成していく様を見続けている。それは、未だに男が黒鋼に勝てるなどと慢心しているからか。それとも、万が一。臆が一にも、詠唱している黒鋼の姿に見惚れていたのからなのか。実際の真偽は分かった物ではないが、全ての詠唱を終えたことにより、黒鋼の心象世界がこの場へと現出する――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これが、俺の持ち得る世界の全てだ。本来、存在しないはずの俺が持ち得て、この体に、この心に刻み込んだ風景。それこそが、俺が誇れる唯一のものだ」

 

 数瞬のまばたきの後、劫火に猛る炎や死体の群れであった空間。その丁度半分程度を書き換えた世界の中央に。漆黒の夜空に、満点の星空が彩る荒野の中央に黒鋼は立っていた。着ていたはずの黒コートは消え去り、血のように赤いローブに身を包む。握られていた刀は土に突き刺さっており、今の彼に戦う意思はないということが窺える。黒鋼は何の気も無しに夜空を見上げ、一人慟哭する。

 

「この世界は、人理焼却を防ぐ為に戦った最終決戦の地。その一部だった場所だ。この夜空や、あの戦いに駆けつけてくれた英霊に。正しく最後の戦いに相応しい世界に俺は感動し、それは俺の内心へと刻み込まれた。その果てに、俺は固有結界へという大魔術を会得することが出来た」

「――――――――――――――」

「どうだ。この世界を見てもなお、復讐を遂げたいと思うか………?」

 

 試すように黒鋼は天草四郎へと問いをかける。だが、彼は返事をすることなく夜空を見上げ続ける。それには何の意味が込められていたのか。黒鋼には理解できるはずもなかったが、応じる気が無いことを察した彼は続けて口を開く。

 

「ここは、俺が皆と共に戦った闘争の果てに見た世界。あの戦いを乗り越えることが出来たのなら、これから先に世界に進もうと決めた。黒鋼研砥という男がこの世界でその生を謳歌することを認め、その果てが理不尽な死だとしても。それを受け入れると決めた。

 ………まあ、あの時はここまで戦いが続くとは思ってなかったというのもあるが。何はともあれ、この世界に輝く星が彩る夜空が俺の持てる世界の全てであり、同時に――――皆と共に戦う、この世界での最後の場所になるというわけだ」

 

 次の言葉を黒鋼が紡いだ直後。空に止まっていた星が一つ、また一つと流れてゆく。それがきっかけとなり、加速度的に流星の数が多くなっていく。しかし、それと同時に膨大なまでの魔力の渦が彼を取り囲む。時間にして数秒のことだが、そのたった数秒であり得ないことが目の前で行われる。風の幕が消え去った直後、彼を守護するように七騎のサーヴァントが召喚されていたのだ。

 

「ばかな………!? この特異点では何らかの繋がりがある者しか召喚できぬはず!! そして、偶然とはいえ貴様の主力である酒呑童子、源頼光はこちらに付いている! それ故、貴様が召喚できたのは赤い外套のアーチャーだけだったのではないのか!?」

「馬鹿だなぁ。ここは今や亜種並行世界じゃない。俺とお前の心象が入り乱れた“異界”に近い場所だ。世界を書き換える大魔術の重複、加えて。こっちの世界は俺と皆の心象に刻まれた世界を展開しているんだ。――――――世界の理の一つや二つ、越えられずに世界なんか救えるかよ」

 

 地面に突き刺した刀を抜く。全身から溢れ出し、消費されていく魔力の多さに呆れながら眼前に立つ男に向け、刃を突き付ける。狭間たちは柳生の爺さんと必死に戦っている最中。こっちに付いてきてくれた二人は体力・魔力を消費しすぎて戦力にならない。増援も、奇跡が起こるということないだろう。だが、そうであっても(・・・・・・・)支障はない。むしろ他に邪魔が入ることが無いというだけで十分というものだ。降り注ぐ星を背に、黒鋼は男に向けて淡々と告げる。

 

「行くぞ、天草四郎時貞。―――懺悔の用意は出来ているな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………夢、か。まあ、そりゃそうだわな」

「うん? 旦那はんどないしたん? えらいにやけてはるけど、良い夢でも見とったん?」

「別に、向こうでの夢を見ただけだよ」

 

 場所は変わってアトラス院、その中にある医療室にて俺は目を覚ました。本来、ここにはクリミアの天使と名高きナイチンゲール婦長がいたのだが、最近は、ついこの間召喚されたランサー・オルタの元に向かい、毎度の如く説教をしているのだそうな。はっきり言って何をしているのか分からないが、そんなわけで彼女はいない。

なら、誰が向こうで傷ついた俺の介護をするのかというと。意外なことに目の前にいる酒吞童子がやると言い出したのだ。茨木や金時あたりが駄目だと喚いたらしいが、これまた意外。いや驚くことに頼光さんがそれを許したらしい。下総国(むこう)での記憶が少し残っているのか、普段は殺し合いを始めるはずの二人が少しだけ協力し合っているのをみて、傍付きの二人が卒倒したのはまだ記憶に新しい。

 というわけで、今の俺は酒吞と頼光さんに介抱されている。本当は、ブーディカさんやブライドあたりがやりたそうにしていたらしいが、二人とも俺が向こうに行っている間に大分消耗していたらしい。心配をかけてしまったから今は休んで欲しいと伝え、今は休暇生活を謳歌している………はずだ。

 

「さて、と。そろそろ召喚場に向かわないとな」

「あら、やっぱり今回も行くん? そろそろ石が無いって聞いてたんやけど、大丈夫かいな」

「それに関しては大丈夫だ。あっちで採れた聖晶石があるからな。ギリギリ、十連召喚一回くらいはできる」

 

 近くに置かれた車椅子に座り、車輪をゆっくりと回し始める。あまり使ったことのない物だから、少しばかり不慣れな動きになってしまってはいるものの、ゆっくりと前に進み始める。酒吞はそれを見てクスクスと笑いながら後ろに続く。自動扉が開き、召喚場に向かう途中、俺は何の気なしに酒吞に聞いてみることにした。

 

「なあ酒吞。お前、下総国でのこと。少しは覚えてたりするのか?」

「うん? まあ、別のうちが何かやらかしたってことくらいかなぁ。旦那はんのお腹を掻き混ぜたって聞いた時は……… まあ。うちも鬼やし、その気になったらやるなぁと思ったくらいやけど。あんまり覚えてへんなぁ」

「まあ、そりゃそうだわな。だって、向こうだとありえんことしてたからな、お前」

 

 特に、特殊な状態になっていたとはいえ。あの頼光さんと共闘していたなんて。冗談でも言ったら首が千切れ飛ぶ。そのことに恐ろしやと思っていると、小さい手が俺を後ろから抱き締められた。場所的には酒吞しかいなから、何かと思っているとだ。ペロリと首筋を舐められた。

 

「~~~~ッ!? ちょ、お前いきなり何を――――!?」

「なぁに。少しだけ旦那はんの会ったっていううちが羨ましゅうてなぁ。だって、旦那はんのお腹を掻き混ぜたってことは、旦那はんの血を愉しんだってことやろ? なら、少しだけうちも欲しいと思ってもたんや。堪忍ね。うち、これでも鬼やさかい」

 

 カラカラと笑いながら呟き、尖った牙を見せつけた酒吞は傍を離れて、俺に代わって車椅子を押し始めた。一抹の不安を覚えた俺はというと、やっぱり“鬼”という種族は恐ろしいと思い直すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで、何でまた先に来てるんだギル?」

「今回はただの偶然だ。“眼”を使って来たのではない故、そこまで邪心に捉えるでない」

「どうだか……。ペンテシレイアの時は“眼”を使っていたそうじゃないか」

 

 これで何度目か。酒吞と召喚場に向かうと既に先客が、キャスターのギルがそこで酒を飲んでいた。近くに誰も居ない辺り、本当に一人で飲んでいたようだ。何かと理由を付けて人を集め、酒を飲んで語り合っているのを見ていた分、少しだけそれが意外だった。

 

「なに、此度はウルクで戦死した馬鹿者も召喚されるかもしれんと聞いたのでな。もうじき貴様の傷も癒えるだろうと思い、ここで先に待機しておいたのだ」

「馬鹿者って、巴さんのことか? 相変わらず辛辣な評価するなあ。あの人がいなかったら、狭間たちが来るまで結構ピンチだったの忘れてるのか?」

「はっ、その程度で崩れる城塞など(オレ)が築くものか。我が言いたのは、勝手に特攻をしかけて斃れた馬鹿者に、一言告げなければ気が済まんというだけだ」

 

 言葉の口調だけを捉えれば荒々しい。だが、表情は優しいそれのまま。ギルは酒を注いでそれを呷る。気持ちの良い飲みっぷりに、酒吞がパチパチと拍手をして彼が飲んだ酒を自分も飲む。

 

「美味しい酒やねぇ英雄王はん。こない美味な酒を飲んだのは久しぶりやわぁ」

「当然だ。我が蔵にあるものは全てが一級品。無論、二流三流の品もあるにはあるが、人に振舞うのであれば一級の品を出す。それこそ、王が持つべき器量というものよ」

「ふふっ、思いのほか気前のええ人なんやね。ほな、うちがお酌するさかい、グイっと行ってな♪」

 

 慣れた手つきでギルの盃に酒を注ぐ酒吞。それを悪い気もせず飲み干すギルを見て、いつの間にか酒盛りが始まってしまっていることに驚愕する。あまりに滑らかな移行に動揺を隠せなかったが、とりあえず今回のガチャを回すように準備を進める。

 

「お~い。酒を飲むのはいいけど、そろそろガチャ回すから護衛頼んでも大丈夫か?」

「むっ、もうそんな時か。良いぞ、貴様の爆死を酒の肴として我らに提供することを許す」

「まあ、悪い結果やったらうちが慰めてあげるさかい、あまり気負わんと回したらええで~」

「お前ら何気に爆死すると思ってるな!?」

 

 いや確かに。ここ最近は召喚に成功しているので、そろそろ爆死してもおかしくはないと自分でも思ってはいるけれども。それでも、もう少し元気づけるようなことが言えないのかこの二人は。そのことに溜め息を漏らしながらも、俺は聖晶石が入った箱の封を解き、石をサークルの中に注ぐ。石の中に籠められた魔力を喰らい、システムがゆっくりと起動を始める。最初に開かれたのは三本のライン。その中から現れたのは、青いタイツに身を包み、赤く輝く槍を華麗に振り回す槍兵(ランサー)の姿。

 

「サーヴァント。ランサー。召喚に応じ参上したぜ。まあ、よろし―――」

「『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』」

「ぐほぉぁ!?」

「ランサーが死んだっ!?」

「この人でなし~~~♪」

 

 召喚されたのは、ランサーと言えばこの人。アイルランドの大英雄こと『クー・フーリン』。だが、問答無用でぶっぱされた数多の魔仗の光線に撃ち抜かれ、バタッとその場に倒れ伏した。それを見て大爆笑するギルと、登場して早々に倒された彼を見て愉快に笑う酒吞。言うまでもなくサディストの気がある二人を見て、背筋が凍る。というか、星3ランサーなら宝蔵院胤舜さんがピックアップされているはずなんだが。この時点でスルーされているから、凄く不安になってくる。

 

「むむ……。『死の芸術』に『天の晩餐』か。星4が出てるし、今回はこれで終わりかねぇ」

「なんだ。特に面白味のないガチャだな。高レアのサーヴァントを召喚し、ピックアップスルーが行われたのならば、酒も進んだであろうに」

「だから! さっきから何でそんな辛辣なんですかねぇ!?」

 

 かれこれ五、六回目に突入しようとしている今回のガチャ。既に星4の礼装が出ている時点で解散と叫びたいところだが、最後まで付き合うというのがマスターというものだろう。今回はたった十連しかできないから、爆死してもおかしくはない。というか、ここ最近星5ラッシュすぎてやばい。これはあれか。来年のガチャ運は最底辺になるだろうから、今の内に大当たりさせてあげようという神のお告げなのか。

 そんなことを漠然と考えていると、再び光の線が三本に分かれる。そういえば、胤舜さんは何で来ないんだろうとも思っていると、光の中から金色に輝く弓兵の絵が描かれたカードが出現する。

 

「むむっ!? こ、これはまさか――――!?」

「はっ、よくやったな研砥! 褒美に我と共に飲み明かす栄誉を与える!」

「……? 何や、うちらと似てる匂いがするわぁ。もしかして、同類やろか?」

 

 まさかの登場に俺は驚き、ギルと酒吞は愉快そうに笑う。これでもし四人目のエミヤとかだったら笑うしかなかったが、俺たち三人の期待と視線を受けながらも召喚が開始された。

 召喚された彼女の特徴を表すならそれは白と赤。純白に輝く髪と袴。それを彩るような赤い刀と瞳。燃え盛るようなその目に見惚れる俺だったが、目の前の女性はそれを気にせず口上を述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名は巴。巴御前、などと呼ばれることもありましたか。義仲様に捧げた身ではありますが、此度は。貴方様に使えるサーヴァントにございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って、あれ? 研砥様に、ギルガメッシュ王?」

「お久しぶりです! いやぁ、召喚出来て良かった!」

「ふん。まあ、貴様の召喚が目的だったからな。これはこれで成功といえるだろう」

 

 召喚された先の光景に驚いたのか。巴さんは目を丸くしながら俺たちの名前を呼んだ。それに応えるように挨拶を交わす。ギルのそれは挨拶ではないと思ったが、それを言うのは野暮というものだろう。そもそも、普段のギルからすれば挨拶をするだけマシなのだ。

 

「う~ん……。なあ、あんたはん。もしかしなくても“鬼”の血ぃ流れてへん? でも、角ないしなぁ」

「あ、これは人の姿としての私の姿です。霊基再臨をすれば見えてしまいますが……。ここに居る方たちなら見せて問題ないでしょう」

 

 戸惑うことなく、袴姿から鎧武者姿に移行する巴さん。女武者という単語が具現したように見えるが、頭部から聳え立つ二つの角が突出している。だが、何故だろうか。彼女に角が合ったとしても特に違和感がない。

 

「あぁ。あんたはんは人として生きたんやね。まあ、鬼の生き方はそれぞれやさかい別に何も言わんわ。それよか、今ここで酒盛りをしてるんやけど。良かったらあんたはんもどうや?」

「えぇ!? い、いえ! 巴は酒には滅法弱いので、その、今回はお断り……」

「まあまあ。そう言わんと。とりあえず駆け付け一杯♪」

 

 今度は顔を赤くして困惑する巴さん。それを無視してマイペースに酒を進める酒吞。それを見ながら苦笑を漏らす俺だったが、予想外の出来事に俺も丸くすることになった。今まで愉快そうに酒を飲んでたギルが、手に持った盃を落としたのだ。その彼も驚きの余り目を見開いている。視線の先、未だ稼働している召喚に何かが起こっている。今度はアサシンの方が召喚でもされたのか、そんなことを考えながら後ろを振り向いた時。頭の中が真っ白になった。視界の先、そこにあったのはサークルの中央に現れた金色の騎士。眩い光を放つ金色のセイバーのカードだったのだ。

 

「………嘘、だ。嘘だよな。だって、こんな辛気臭いところにあの人が来る、はずが――――」

「はっ、研砥よ。確かに貴様は日陰者だが、此度の騒動に関しては主役であったであろう。ならば、そこまで自身のことを過小評価するな。でなければ、貴様に応じた者が哀れだからな。―――胸を張り、誇るが良い。此度の戦は他の誰でもない。貴様が齎した勝利だ」

 

 驚いていた表情から、いつもの傍若無人な態度に戻る。落ちてしまった盃を蔵に仕舞い、新たな酒器を二つ(・・)用意する。それと同時に、金色に輝くセイバーから光の粒子が溢れ出す。それは、ここにいない新たな英霊の姿を形作る。淡い桃色の髪を一つに纏め、露出の多い紺色の袴を来た女性。スラリと伸びた腕と足は美しく輝き、二振りの刀を優雅に構える。

 

 

 

 ―――俺は、彼女の名前を知っている。天元の花と称された女性のことを。

 ―――俺は知っている。無念無想を切り裂き、“零”に至った剣士のことを。

 

 そう、彼女の名は―――――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新免武蔵守藤原玄信………!? ごめん、やり直し! サーヴァント・セイバー。新免武蔵、ここに推参! 面白おかしく過ごさせてね、マスター?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おろ? 今度はどこに迷い込んだと思ったら、君の所に呼ばれたんだね~。ま、これからよろしくぅ!」

 

 愉快そうに笑いながら、二天一流の開祖。宮本武蔵は何の気なしに手を伸ばした。握手をしようという意思表示なのだろうけれど、俺はその手を掴まなかった。いや、掴めなかった(・・・・・・)というのが正しいか。彼女が召喚された直後というもの、俺の目から涙が零れて止まらないのだ。会えるはずがない。ずっとそう思っていた。なのに、どうして。彼女はさりげなく現れるのだろうか。

 

「って、泣いてるじゃない黒鋼君。どうしたの? 綺麗で素敵。加えてカッコイイお姉さんを召喚できた感動のあまり、泣いちゃってるのかな~~?」

「う、うるせぇ! というか、なんであっさり召喚されんだよ! こっちが焦るわこの馬鹿!」

「あ~! 馬鹿って言ったなこの泣き虫マスター!」

 

 貶されているのにも関わらず、どこか嬉しそうに笑う武蔵。その笑顔はとても眩しくて、美しくて。あの侍が称したとおり、野に誇り咲く一凛の花のようだ。彼女の召喚に驚いていた俺だが、後ろの方が少し騒がしくなってきている。どうやらギルや酒吞、それから巻き込まれた巴が騒がしくしているようだ。そのことに苦笑を浮かべつつ、俺は改めて武蔵と握手を交わす。

 

「……改めて、自己紹介を。アトラス院に所属するマスター。黒鋼研砥だ。改めて、よろしく頼むな。武蔵」

「ええ。サーヴァント・セイバー、新免武蔵。此れよりは貴方の武器として、貴女の仲間として仕えさせていただきます。それじゃ、よろしくね!」

 

 こうして、ウルクで共に戦ったサーヴァントの一人。巴御前と奇妙な縁で召喚されたセイバー。宮本武蔵の召喚に成功するのであった。つもり話はある。だが、とりあえず後ろで開かれている酒盛りに参加するとしよう――――――

 

 

 

 

下総国ピックアップ2篇(オマケ)

 

 

 

「………というわけで、下総国ピックアップ2回すぞぃ!」

「お~~! 段蔵ちゃんを召喚してよね! マスター!」

 

 時間が変わって再び召喚場。ここにいるのはマスターである俺と、物見遊山感覚兼、護衛役として武蔵がここにいる。あの後、結局酒に飲まれてしまった巴の看護をして酒盛りは終わった。だが、あっちで共に戦い、そして敵として対峙したサーヴァントたちが召喚しやすいという情報を聞きつけ、こうして呼符を用意したのだ。

 こちらでは、既に召喚されている酒吞や頼光さん。“剣聖”柳生宗矩と、からくり人形が意思を持った女性の忍。所謂くノ一の加藤段蔵がピックアップされている。セイバーもアサシンは育成が終わっていないので、正直回す理由は無い。だが、俺としては彼らのうち一人を召喚したいのだ。純粋な日系サーヴァントという時点で欲しいと思う人は少なくはないと思いたい。

 

「というわけで、ササっと回すぞ。時間が勿体ないからな」

「はいはい、こっちも育ててもらっている側だもの。でも、できれば納得のいく召喚にしてね?」

 

 言われるまでもない。お茶らけて言う武蔵にそう返しながら俺は呼符をサークルに投げ込む。だが、召喚されるのは礼装や、既に召喚された英霊ばかり。特にランサーが多いが、一向に宝蔵院胤舜さんが召喚される気配がない。どういうことだ、まるで意味が分からんぞ!

 

「って、なんか急に金バーサーカーが出てるんだけどぉ!?」

「……え、何これ。うちのマスターのガチャ運おかしくない? 色々とやばい気がするんだけど」

 

 色々と召喚されるのが察してしまったが、登場した金色の輝きを纏いながら現れたのはここでも三度目になる女性だ。豊満を超え、もはやリンゴを入れているのではないかと思えるくらいに大きい胸に、慈愛に溢れた優しい笑顔。けれど、その奥底から溢れる濃厚な剣気は隠さず。彼女はニッコリと微笑みながら口上を述べる。

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、愛らしい魔術師さん。サーヴァント、セイバー……あら? あれ? 私、セイバーではなくて……まああの…… 源頼光と申します。大将として、いまだ至らない身ではありますが、どうかよろしくお願いしますね?」

 

 

 

 

 

「…………馬鹿な。頼光さんの宝具レベルが3、だと………!?」

「あらあらまぁまぁ。まさか、母をここまで愛してくださるなんて。母はとても嬉しいですッ!」

「ちょ、頼光さんギブギブギブ!! 貴方のハグはもはや凶器だからぁ~………」

「流石は源氏の侍大将。人を超えた鬼神。牛頭天王と呼ばれるだけのことはあるわね………。ほんと、凄い、サイズです……………!!」

「見惚れてる、場合か、この色ボケ侍ィ~~………」

 

 その後、数分の間は頼光さんの抱き枕にされた。それ自体問題ないしむしろ幸福なんだが。その、彼女の抱擁は本当に凶器に等しい。あの素晴らしすぎるくらいの胸に挟まれた時点で昇天するのは間違いないのだが、同時に息が出来ないのだ。必死になって息を吸い込んだら、今度は強引に胸の中に引きずりこまれるという。どこか嗜虐的に笑ってもいたので、やはり彼女もまたドSなのだという認識を新たにする。

 

「いやぁ、やっぱり頼光殿は凄いねぇ! ま、私や巴ちゃんを召喚したせいで育成が進んでないし。召喚は諦めた方が良いんじゃない?」

「いや、ここで引いたら。小太郎とかに悪いだろうが。次に酒吞が来たらマジで何とかしろよ。俺もう、令呪使って止めるくらいしか体力残ってないからな」

 

 半ば投げやりになりながら、俺は最後の呼符を投げつける。最後の一枚に淡い希望を持つも、召喚されたのは銀色に輝くキャスターのカード。バベッジさんかジェロニモかと落胆したその瞬間。銀色のカードから閃光が迸る。雷鳴にも似た激しい光の直後、銀色が金色の光を放つカードへと様変わりする。

 

「は、え、ちょっと待て。ここでピックアップスルーの星4キャスターだとぉ!?」

「……最後の最後でこれとは。でも、こんなにガチャ運が良いのって良い事なんじゃないの?」

「良いことだが、ここまで連続だと新年が怖い……。えぇ……。来てくれるならキャスターのギルとかが良いなぁ。未召喚組が喚ばれたら種火本当に足りなくなるぞ……」

 

 新たに召喚される英霊に溜め息を漏らしながらも、高レアのサーヴァントが召喚されるというのはありがたいことだ。確かに、最近は微課金マスターの名に相応しい課金をしているが、ここまで大盤振る舞いだと本当に来年が心配になってくる。そんなことを考えていると、目の前で新たな英霊が姿を現した。――――――直後、俺は考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・キャスター。諸葛孔明だ。なに、本来の孔明ではないだと? いかにも、私の名はロード・エルメロイⅡ世。まあ、今後ともよろしくぅぅぅぅぅぅ!?」

 

 自己紹介を始めた謎のキャスター。それを見た俺はすかさず召喚場に何故か取り付けていた落とし穴を起動させ、強制的にこの場では無い場所に放り込む。何故か、孔明(・・)などという声が聞こえた気がするが気のせいだろう。ああ。気のせいに違いない……!!

 

「え、ちょ研砥!? 孔明って、あの諸葛孔明なの!? ってか、せっかくの星5サーヴァントでしょ!? なにやってるの!?」

「知れたこと! 俺はマーリンも孔明も使わず、今までの戦いを生き抜いてきた! あれを使ったら大抵のクエストに勝利してしまう! あれを使わずに攻略することこそが俺の生きがい! しかし、召喚してしまったという事実を変えることは出来ん! なればこそ! 即刻保管庫送りの刑に処すまでのことォ!」

「はあ!? うちのマスターは散々ひねくれてると思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ! というか、召喚出来てないマスターに代わってちゃんと育ててあげなさいよ!?」

「だ・が・こ・と・わ・る!! 少なくとも、残り24騎残っている星3以下のサーヴァント全てを育て切ってからレベリングしてやるよォ!!」

 

 まさかの結果になってしまったが。今回のガチャはこれにて仕舞い。孔明の処遇は、既に育成が終わっているライダー陣による宝具の雨霰の刑ということで矛を収めるとしよう―――

 

 

 

 

 

 

 

~~~一方そのころ、諸葛孔明はというと~~~

 

「っつつつ……。くっ、一体どうしたということなんだ。今までにないマスターだぞあれは。私を見て泣く者がいたが、あそこまで無表情に罠に嵌めるとは。全く、どこぞで会った私が彼にあそこまでヘイトを溜めさせてしまったのか?

 ……駄目だ、情報が無さすぎる。とりあえず、この施設にいるサーヴァントに事情を教えてもらうとしよう」

 

 召喚場から直通の保管庫に送られた、あらゆるマスターが喉から手が出る程欲しいと評される最強のキャスターの一人。発祥の地である中国に留まらず、その名を全世界に轟かせる大軍師。諸葛孔明こと、依り代となったロード・エルメロイⅡ世は一人呟く。いきなりのことで倒れてしまったが、とりあえず現状の把握が必要だ。召喚の際に最低限の知識提供をされてはいるが、自分がどこにいるのかまでは分からないのだから。

 

「ゴメンナサーイ! ここに孔明ってサーヴァントが放り込まれてないデスか! 先ほど、マスターの指示で迎えに来たのだけれど~!」

「むっ、それは私だ! お手数をかけて申し訳ない」

 

 孔明を迎えに来たのは、米国の民族衣装に身を包んだ高身長の女性。褐色の肌にグラマラスな体系。加えて、万人を照らさんばかりの輝かしい笑顔を見た孔明は安堵の溜め息を漏らす。どうやら、先の落とし穴は手違いだったようだ。

 

「ごめんなさいね。私たちのマスター、貴方にとてつもない負の感情を持っているみたいなの。だから、育成するのがかなり後ろになってしまいそうだから、今の内にゆっくり休んでね?」

「………これは驚いた。私の絆レベルがカンストしてから使われなくなることはあったが、最初から私を使わずに戦い続ける者がいたとは」

「まあ、私も2017年になってからここに来たサーヴァントなので。あまり詳しいことは知らないんデスけど。あ、自己紹介がまだでしたネ! 私はライダーのケツァル・コアトル! よろしくネー!」

「キャスター・諸葛孔明こと、ロード・エルメロイⅡ世だ。こちらこそ、よろしく頼む」

 

 神霊クラスの英霊が召喚されている異常事態に驚きながら、孔明とケツァル・コアトルは握手を交わす。目的地に向かって歩いている間にここ最近の事情を話していた。特に、一年と半年もの間。高難易度攻略などで孔明を使っていなかったということを聞いた時、公明は表情を驚愕に染めた。どうもここのマスターは、自分の所持しているサーヴァントでしかパーティーを編成しないという、奇妙な縛りプレイ要素を導入しているらしい。

 

「まあ、聞いた話によると。ある特異点で、貴女がマスターの大切な人に手を掛けたから嫌っているとも聞きましたケドね。何はともあれ、私は貴方を歓迎しマース!」

「そう言ってもらえるとありがたい。さて、そうなると暇つぶしがいるな。何か時間を潰せる物はないだろうか……」

「あ! それは問題ないデスよ! 今は暇を潰せる場所に向かってますからネー!」

「それはありがたい。こちらとしても、どこに何があるか分からないからな」

 

 そう言って二人はある部屋の一室に入る。そこにいたのは多種多様な英霊達。槍と剣がぶつかり合い。超高速で移動を続け、時折激突した際に迸る火花。派手に拳で地面を殴って即席の畳替えしをしたりと。言わずとも分かると思うが、ここは英霊達の訓練場だった。一騎当千、万夫不当の英霊達がするのはおかしいかもしれないが、日々精進の精神で絶えず努力を続ける人は少なくはないのだ。

 さて、その光景を直視した諸葛孔明こと、ロード・エルメロイⅡ世はというと。顔面蒼白になって逃げようとしていた。ここは頭脳派である自分がいるべき場所ではない。それを瞬間的に察知したが故の逃走だった。だが、それを隣に立つ最強のルチャマスターが見逃すはずがなく。呆気なく捕まった大軍師殿は訓練場に放り込まれるのだった。

 

「くっ、私を諮ったのか! ケツァル・コアトル!!」

「あら? 私は暇を潰せる環境を紹介しただけデスよ? それに! ずっと部屋に籠ってばかりというのも良くないデース! まずは、軽い運動から始めまショー!!」

「いや、私はキャスターで後方支援だからそういった体作りはいらなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 これから数か月後。育成するサーヴァントが遂に尽き、マスターである黒鋼は嫌々ながら孔明を育成した。少なくとも、種火や宝物庫の周回に参加されることになったのだが、戦闘に参加する度に礼を言うエルメロイⅡ世がそこにいたそうな………。




というわけで、下総国ピックアップ1では巴御前と宮本武蔵が! ピックアップ2では三人目となる頼光さん。それに加えて諸葛孔明こと、ロード・エルメロイⅡ世がやってくるという奇跡的なガチャとなりました! いやぁ、今回のオマケは武蔵と小次郎のやり取りを書いてたのにエルメロイⅡ世が来たため急遽予定を変更せざるをえなかったです。柳生の爺さんや、段蔵ちゃん狙ってたのに孔明って。最近ピックアップスルー酷くないですか……?
 この話を書いてる時には今年のハロウィンが始まったので、早速宝具レベル3の頼光さんを運用してみましたが。殺意が高すぎて引きそうです。自バフのみの全体宝具で、一人当たり8万を超えるってどういうことなんだ………!? あ、絆レベルもカンストしたので、『童子切安綱』をゲットしました! 周回で使えなくなるとか、少し複雑だなぁ。

 あ、遂に孔明が召喚されてしまいましたが。今のところ彼のサーヴァント、絆、スキルレベルは初期値のままです。というか、今までマーリン・孔明を使わないと宣言してたんですから。そんな私が彼を使う訳がないでしょう? 今のところ、彼は楽しい休暇ライフを送っていることでしょう。残る星3以下のサーヴァント。全24騎の育成が終わるその時まで、彼には倉庫番という大切な仕事を全うしてもらいます。果たして、彼は二部が終わるまでにアトラス院の戦線に加入することができるのか!! 孔明先生の活躍に乞うご期待!! 


ここまでの読了、ありがとうございました! 誤字脱字や設定等のミスがありましたら、指摘してくださると嬉しいです!

それでは、次回もよろしくお願いします!


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後輩と先輩とラスボス

あけましておめでとうございます!!(今更)

いやぁ、活動報告を見てくれた方ならわかると思いますが。今年の3月から心機一転! ここまで積み上げたストックをあまり消費していかない程度に頑張ろうと思います!!

それにしても1200万DL記念がキアラとは…………巌窟王とかだと思ってましたよ私。正月から課金しまくりだなぁ(白目)

さて、今回の話は今さから感が凄まじいですが、パールヴァティのガチャ報告回です! 頑張って書き続けてはいますが、やはりブランクがあるのでコレジャナイ感が凄い。そんな話ではありますが、よろしくお願いします!!


 一面の荒野。まるで某世紀末漫画に登場してくる荒廃した地にて、二人の少女が決闘を行っていた。二人の容姿はまるで鏡合わせのように似通っており、違うとすれば互いの服装と武器、そして顔に浮かんだ表情くらいのもの。

片や赤と黒を基調とした鎧に身を包み込み、まるで死体のように淡白い肌に金の髪と同色の瞳の少女。表情に浮かぶのは愉悦に満ちており、この決闘を心の底から楽しんでいるかのように笑うその表情は、まるで戦闘狂のようにも見える。だが、その表情とは別にある剣士としての在り方が黒い少女の格を落とさないでいる。

もう一人の少女は対照的に青と銀の鎧着込んでおり、今を生きる人間のように綺麗な肌に金の髪。それから豊かな森を表すかのような翡翠色の瞳をしている。表情に浮かべるは怒り、焦燥といった危機感に満ちたもの。それもそうだろう。盤面だけを見れば青い少女の方が圧倒的に不利なのだから。

 

焦点を彼女達に合わせていたが、そこから少し下がってみれば彼女達が率いる軍の姿が見える。青い少女の近くには傷つき、今にも息絶えそうに苦しそうに啼く龍が一体。対する黒い少女の場には蠢く死霊、そしてそれを率いる様に戦闘に立つ馬に乗った男性。腰に差した剣を抜き放ち、男は自分の元にいる死霊共に命令を告げる。

 

『行進せよ! 果ての果てまで!!』

 

 その一言と共に、死霊の体徐々に巨大化し、青い少女を通り過ぎて満身創痍な龍へと迫る。体の至る所から伸びる魔の手は翼を、喉元を、足を引きちぎらんと力を籠め始める。それに龍は最期の力を振り絞り、憎悪に満ちた黒い閃光を放つ。それは自分を掴んだ死霊を跡形もなく消し飛ばしたが、その一撃を放った代償として龍の体は粒子となって消え失せる。数舜の後、粒子は一枚の札となりて青い少女の手元に納まる。彼女はそれを悔恨の念に満ちた目で手元に戻った龍を見て、新たな札を手にする。

 

「ふっ、これで勝負ありだな騎士王。既に貴様は我が術中に嵌っている。このターンで私を倒せなければ敗北に至ると知るがいい」

「黙るがいい。貴公も忘れてはいまいな。この時、私は『天界の階段』より新たなカードを手にすることができるということを!」

 

 黒い少女の声を遮るように青い少女が力強く腕を振り切る。振り切った手元には新たに四枚ものカードが加えられていた。それとほぼ同時に、少女の周り瞳と同じ色の宝石が浮かび上がる。先ほどの龍と合わせればこれで五枚。これほどあれば大抵のことは対象が可能となる。

 

 ――――そして。それは当然のように姿を現した。

 

「これで終わらせる! 我が力を喰らい姿を現せ! 『魔海の女王』!!」

 

 少女の周りに浮かんだ10個の宝石から光が溢れ、天高く掲げた一枚の札へとそれが注がれる。直後、全てを押し流すかのような激流葬と共に異形の女が姿を現す。不敵な笑みを浮かべながら青い少女の手元から二枚のカードを抜き取り、他のカードが芥のように崩れ去る。

 

『泡沫の夢、叶えてやろう』

「これにより、私は手札にある種族二枚を対価無しで行使できる! 今こそ地上に舞い降りて、暴虐の翼で全てを薙ぎ払え! 『バハムート』!!」

 

 今だ湧きおこる膨大な水。その全てを蒸発させながら地中から地上へと何かが飛び立つ。土色の翼に同色の瞳。地上の全てを睥睨しながら咆哮する龍は、その巨体に見合うだけのエネルギーを口内に貯めていく。

 

「『バハムート』が降臨したことにより、自身以外の全てを焼き払う!!」

 

 暴虐の龍が主の命の下に口に留めた力を解き放つ。闇を斬り裂くやもしれぬ閃光は味方の女王をも飲み込み、敵対する死霊。それらを指揮する将軍といった自身以外の全てを焼き払う。文字通り、一切合切を焼き払った。だが、まだ青い少女の手番は終わらない。何故なら、まだ彼女には一手残っているのだから。

 

「これで仕上げです! 再び力を貸してください! 『ウロボロス』!!」

 

 万物を破壊し尽くした龍に並ぶように、先ほど死霊に倒された龍が蘇る。その瞳には、先ほど倒された怒りの様な念が込められている。そして、お返しとばかりに火球を作り出してそれを無造作に放つ。さすがの黒い少女も直撃は不味いと思ったのか、どこからか鎧と同色の剣を取り出してそれを打ち払う。しかし、完全にまでダメージを受け流せなかったのか。目に見えて消耗した少女は剣を杖代わりにする形で立ち留まる。

 

「これまでです。今の貴方の手札は、次の引きで3枚。たったそれだけでは私の龍達を倒すには至らない。貴方の命運は既に――――」

「いいや。尽きてなどいないさ。私にはまた勝利を掴む策がある。貴様には分からないだろうがな」

「…………本気で言っているのでしたら、ついに気でも狂いましたね。良いでしょう。この盤面をひっくり返せるというのであれば、試してみるがいい!!」

 

 青い少女の猛る声に合わせ、二体の龍が咆哮する。傍から見ても圧倒的に黒い少女の方が不利だ。それでも。どんな絶体絶命な状況であっても、少女の表情には愉悦の色が消える事は無い。それは去勢なのか。それとも、本当にこの状況を覆す一手を残しているからなのか。どちらにしても、次が彼女に残された最後の手番になることに違いはない。だというのに――――

 

「私の番だが、新たな札は既に不要だ。この二枚で貴様を葬り去るのだからな」

 

 新たに手にすべき札を投げ捨て、残る二枚の札を順に掲げる。緑色の宝石から力を注ぎこまれ、二枚の札に描かれた物が姿を現す。この場合、当然のことだが先に翳した札から順に実体化する。

 

「では、この戦いの幕を下ろそう。まずは一枚目、『魂の番人―ミント』を出す!」

 

 10ある宝石のうち、4つの光が集まって一人の少女の姿が形作られる。まだ幼い少女にしては大きすぎる杖を両手に持ち、瞳には生気が宿っていない。だが、それとは逆に杖からは紫色の炎が猛っている。そして、そのカードを見た青い少女は息を飲むようにハッとした。

 

『魂の揺り籠が………揺れる』

「まさか、貴方が次に出そうとしているのは」

「今更気づいても遅い。さあ、今こそ姿を晒す時だ。暴虐の龍の骸よ。新たな生を謳歌し、我が敵に滅びを齎すがいい! 『デスタイラント』を召喚する!!」

 

 残る宝石。六つに籠められた輝きを喰らって姿を現したのは全身が骨で構成された龍。龍骨鬼という言葉が自然と思い浮かびそうなそれは、何かを求めるかのように黒い少女の周囲を漂う。すると、先ほど呼び出された少女の持つ杖に目が映る。同時に、杖から迸る紫色の炎も勢いが増し、骨の龍の全身をそれで覆いつくす。その在り方はまるで、鉄を熱して名刀を作る工程の様にも見えなくはない。

 

「本来、『デスタイラント』は墓場にある札の怨念を喰らうことでその真価を発揮する。しかし、それを使うためには膨大なまでの札が必要となってくる。しかし――――」

「『魂の番人―ミント』の能力は、墓場を利用する効果を使う際。そのコストを踏み倒すことができる………! この状況を見越して、私に『バハムート』を使うように仕向けたというのですか………!?」

「当然だ。死霊と龍では火力が違うからな。回りくどい手を使う羽目になってしまったが、お前はこちらの思い通りに動いてくれるから助かったぞ。褒美だ、我が至高の一撃を手向けとして受け取るがいい――――!!」

 

 黒い少女の声に応じるかの如く、紫色の炎にて体を鍛えた骨の怪物が雄叫びを挙げる。細身の骨だった全身が、まるで鉄パイプのように太く力強く。なにより逞しくなっていた。本来、見えることのない瞳はより不気味に。けれど憎悪に満ちた赤い眼光が青い少女へと注がれている。それを一身に浴びた彼女は、数舜先にある自分の末路を幻視した。

 

「本来、あらゆる魔物は出したターンには攻撃することは出来ない。だが、『デスタイラント』には速攻能力が備わっている。故に、場に出たターンから攻撃を仕掛けることが可能! さぁ、我が宿敵に引導をくれてやれ!」

 

 黒い少女の命令の下、骨の暴龍が蛇の様にしなやかに。獲物に向けて疾走する猛虎の如き速さで青い少女の下へと迫る。彼女のを守護せんと阻もうとする二体の龍など眼中になく、凶悪な顎を開きながら少女の立つ地面ごと暴龍は喰らい尽くした。その最期を見届けながら、黒い少女は顔に浮かんだ笑みを消し、瞼も閉じて祈るように一言だけ呟いた。

 

「終わりだ。せめて、優しい夢の中で眠れ。正しかった私よ――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というやり取りがあってな。その時の戦いに勝利した私が体の所有権を得たという訳だ」

「そんなはずがないでしょう! 一体何を言っているのですか黒い私は!!」

 

 場所は先ほどと変わり、もはや見慣れた場所である召喚場。新たなサーヴァントの反応を感知し、それが今回集まってもらったサーヴァントの人たちにかかわりがある知った俺は、せっかくなのでここに集まってもらって召喚を行おうと思ったのだ。ちなみに、最初に言葉を開いたのはセイバー・オルタ。もう一人がアルトリアさんだ。

 

「ふぅん、別に良いではないか。今回は『劇場版Fate/Stay Night Heaven‘s Feel』の公開記念ピックアップなのだ。事実やそうでもないものの一つや二つ。織り交ぜてしまっても構うまい」

「大いにあります! いえ、それ以前にさっきのカードバトルは何ですか! 確かに他のゲームとコラボはしていましたが、ここでいう必要もないはずでしょう!」

「いやなに、我らがマスターがこれを機に再開したといっていたのでな。私も少し齧ってみたのだが、これが中々面白い。正直な話、一部のカードパワーが可笑しいとは思うがそこは笑って流そう。というわけで、これを読んだ者たちもこの本格スマモカードバトル(笑)。『Shadow verse』をプレイしてみるといい。今頃、新クラスと新パックで賑わっているはずだからな」

「…………君たち、結構メタメタしいことを口にしているということを理解しているのかね?」

 

 口を開くなり喧嘩をする。というよりも宣伝紛いのことをしている二人のセイバーに頭痛がしたのか、褐色のオカン(エミヤ)が溜め息を漏らしながら愚痴を言う。何でも、今回ピックアップされている少女について思うところがあるらしく。出来ればあまり召喚して欲しくはないとのこと。と言われても、それを鵜呑みにするとは限らないのがマスターであるこの俺なわけで。それを理解しているせいか、また一段と深い溜め息を漏らす。

 

「まぁまぁ、お前さんの気持ちを組んでやらんこともねェけどよ。結局召喚するかしねェかはマスターが決めんだから、あんまり気を落とすなっての。お前がそんな殊勝な態度でいられると、こっちまで気が狂うぜ」

「確かに。エミヤ殿はこう、さり気なく女性との高感度を上げてそのままゴールインする女たらし気質である故。暗い表情は似合わぬよ」

「そこまで行くとただの人でなしなのだがなぁ。持ち前の家事能力の高さがそれを無かったことにしている。だというのに、最終的には『女難の相』のせいで愉快な別れ方をする故、見ていて愉快なことこの上ない。酒の肴には相応しい話題の男よ」

「君たち、自分に飛び火することがないと踏んでここぞばかりに口撃しているな? 良いだろう、今なら特別にその安い挑発に乗るが、どうするかね」

「おいこらそこ、勝手に喧嘩しようとするなよ? 頼むから、ここで喧嘩するのはやめろよ?」

 

 喧嘩の口火を切ろうとしていたエミヤを抑えながら、煽っていたクー・フーリンと術ギル。あと突然攻撃モーションが一段と雅になった小次郎を注意しておく。それぞれは笑ってそれを了承していたが、どことなくぎこちない表情のそれに白い目を向けるしか出来ない。それはそれとして、未だに口を開かない人が二人いる。いつもは下ろしているフードを被ったままの女性と男性が一人ずつ。どこかぎこちない感じで佇んでいる。

 

「メディアさんと呪腕さんもどうかしたんですか? いつも着こまないフードまで被って。なんか、らしくないですよ?」

「むっ、研砥殿にはそう見られますか。いやなに、此度の集会はあの時あの場所に居合わせたサーヴァント達が揃っております故。それにちなんだ格好で集まるべきかと思いまして」

「ええ。そこに関しては呪腕のハサンと同じ意見よ。というか、今回の映画酷くないかしら!? 確かに本編でもそうだったけど私の出番一瞬だけじゃない!!」

「いやぁ、拙者の出番ももう無いのは辛いところだが先に大活躍してしまったからなぁ! 女狐めは相当無残な最期を迎えたようで多少溜飲も下がった! これほど心地よいことはないなぁ!」

 

 心の底から愉快そうに笑う小次郎を見て、手をわなわなとさせながら怒りの余り魔力を周囲にばら撒き始めるメディア。こっちはこっちで喧嘩が起こりそうな雰囲気になっていることに頭を痛めながらも、マスターである彼は再びその仲裁に入る。その場で堂々巡りを繰り返すこと数分、ここにはいない最後の一人がようやく入ってきた。

 

「申し訳ありません。少々遅れてしまいました」

「大切な用事があったのにごめんねー。ちょっとそこで話し込んじゃっててさ」

「ん、ブーディカさん? どうかしたのか? 何か問題でも?」

 

 紫色の長い髪を腰どころか床すれすれにまで伸ばした高身長の女性、ライダーのクラスで召喚されたメドゥーサには今回の召喚に付き合うように言ったから問題ない。だが、隣にいるブーディカには何も言ってなかった。そのことについて聞いてみると何故かメドゥーサの顔が青ざめていく。

 

「えっとね……そのヒント。メドゥーサのお姉さんたち」

「OK把握。メドゥーサさん、いつも苦労してるもんな……」

「い、いえ。姉上様たちに命令されるのはいつものことですから。特に問題は無いのですが! その、今回は色々と独断で動いてしまったせいで余計に絡んでくるといいますか、なんといいますか………」

 

 メドゥーサの表情が、青ざめた顔からどこか遠い所を見るようなものに切り替わる。彼女の姉、ステンノとエウリュアレによるメドゥーサへのいびりは召喚された時から続いているのは知っている。それが彼女たちなりの家族愛の発露ということも。けど、どこか行き過ぎた愛情表現という感じもしなくはない。時折メドゥーサが一人で溜め息を漏らして哀愁漂う空気を醸し出しているのを見て、やっぱり苦労人だと何度思った事だろうか。

 

「とまあ、今回はメドゥーサを連れてきただけだからここで帰るね。新しい人、召喚できると良いね!」

「いや、せっかくだしブーディカさんも見て行ってくれよ。多分だけど話は合うと思うし」

「そう? それじゃ、お言葉に甘えまして、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何はともあれ、今回の召喚に参加する人は揃った。それでは、今回の召喚を行うとしよう。だが、その前に大切なことを一つ。

 

「少し遅れてしまったけれど宣伝! 『劇場版 Fate/stay night heaven's feel 第一章』は絶賛公開中! Blue-ray&DVDは2018年5月18日発売!!」

「ちなみに作者も当日買いに行くつもりだ。第二章を楽しむためにもこれを購入し、存分に復習しておけよ雑種共!!」

「ちなみにPlay Station Vita、並びにアプリケーションソフトとして『Fate/stay night Realta Nua』が発売と配信中だ。アプリケーションの方ではFate/シリーズの原点、セイバー・アルトリアの物語を無料で配信中だ。学校や通勤の片手間でプレイできるから、時間がある時にコツコツ進めると良いぞ」

「姑息な販促をするでござるなぁ……………」

 

 研砥とキャスターのギルガメッシュ。そしてエミヤの三人でFate/シリーズの宣伝をしっかりと行っておく。正直な話、劇場版を見る前にはある程度原作のストーリーをあらかじめプレイ。ないし、アニメを視聴しておかないと付いていけない人もいるので大切なことなのである。さて、色々とあったがようやく召喚の方へと話が切り替わる。今回用意したのは十連ガチャ三回分。もはや課金をするということに戸惑いが無くなり始めた今日この頃だが、とりあえず諭吉を一枚リリースして167個の聖晶石をアドバンス召喚するつもりは毛頭ない。

 

「さて、彼女は召喚に応じてくれるでしょうか………」

「来てくれたら真っ先にスキルレベルをカンストさせるだけのQPと素材は集まってるんだけどな。ま、うちのマスターのくじ運はそれなりに高い方だし行けるだろ」

「幸運値がEの君に言われると不安なんだがね」

「あァ? そういうテメェもEランクだろうがよ。なんだ、やっぱ喧嘩売ってンのか?」

「あ~もう! 二人して喧嘩しないの!!」

 

 何やら後ろの方で賑やかになってきているがこちらとしてはそんな余裕はない。目の前で行われていく十連召喚を固唾を飲んで見守るが、次々に召喚されて現れていくのは既に召喚されているサーヴァント達や、今回初登場となる礼装ばかり。結局、高い出力を持つサーヴァントが召喚されることなく、一回目の召喚は終わってしまった。

 

「この間の召喚が響いているな。あの短期間に☆5のサーヴァントを3人も呼び寄せたツケが返ってきたというわけだ」

「いいやまだだ! まだ二回召喚できる!! ここで召喚出来れば一気にスキルマに出来るだけの素材は残ってる!! 諦めないぞ俺はァ!」

 

 続いて二十連目の石を投げつける。事前に投げつけた呼符もろくな物を出さなかったので、今回は真面目にあと二十連で召喚するしかないのだ。スキル能力を見させては貰った、NP供給にクリティカルスター製造量に自前のNP回復率。その上HP回復や魅了による妨害まで何でもできる彼女はこれから先の戦いでも大いに活躍してくれるに違いない。ランサーだけでなら既に大勢いるので召喚する必要もないのだが。そこはそれ、これはこれというやつなのである。

 そんなこんなで召喚を続けていると、突如として黄金の光が開店するサークルを彩り始める。これまで何度も見た高い能力を備えたサーヴァントが召喚されたというが証明された瞬間だ。

 

「よっしゃぁ! これ絶対パールヴァティさんだよ! 召喚されてもないのに霊衣開放券マナプリ1000使ってゲットしちゃったし、絶対パールヴァティさんだよ! 間違いない!!」

「残念だなマスター。召喚されたのは弓兵のカードだぞ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(号泣)」

「あははは………それにしても、本当に今年に入ってからアーチャーが召喚されることが多かったよね。人理修復するまでは大変だったなぁ」

 

 懐かしいことを思い出したブーディカがしみじみと言いながらも、サークルの中央に顕れたカードから新たなサーヴァントが姿を晒す。せめて未だ召喚されていないアタランテが来いと願うマスターではあったが、その願望はいつものように裏切られる。

 逆立てた白髪に赤い外套。白と黒の中国双剣『干将』と『莫邪』をそれぞれの手に持った弓兵のサーヴァント。そんな人は一人しか存在せず、それを見た直後。研砥はサークルに目掛けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」

「お前これで四人目だろうがいい加減にしろォッ!!」

「ぐほぉぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 召喚された新たなエミヤの胴体に、魔力ブーストした研砥の李書文直伝。なんちゃって鉄山靠が炸裂する。ここにいた八極拳を極めた武術家が教え、曲がりなりにも未来を取り戻す戦いを二年近く続けてそれなりに成長したマスターが放つそれは、召喚されたばかりでスペックが最低値である彼には想像を絶するダメージが叩き込まれる。現に、召喚されたばかりのエミヤがその場で痛そうに蹲っている。

 

「くっ、っ、いきなりなんだね! 確かに、召喚されたのが私だったのは不服かもしれないが、君はもう少し温厚な性格だと思っていたのだが!」

「うるさいばーか! なんなんだよ! 2017年の正月まで全然来なかったのに今更になってポコスカポコスカ出て来やがって! 驚き以前に腹立つはボケェ! セイバー相手に何度も出撃させられてたロビンとクロエに謝れ!」

「酷い言いがかりだな!? たんに君のガチャ運が悪いだけだろう!」

「おーし禁句言ったなこの野郎! もう一発なんちゃて鉄山靠お見舞いしてやらぁ!」

 

 召喚されたばかりの低スペックサーヴァントに、低レベルな喧嘩が始まりそうな空気ではあったが。見るに見かねたギルの魔仗がマスターとエミヤの足元を貫く。そして、見るからに不機嫌そうな表情を浮かべてはいたが何も言わずこちらをジッと見ている。あれは何も言っていないが、暗に「これ以上見るに堪えん物を見せつけるなら、我が魔仗の藻屑と消えよ」と言っているに違いないと察知し、仕方なく開いた魔術回路を閉じながら溜め息を漏らした。

 

「………とりあえず、あとでこっちにいるエミヤの強化にするから待機しておいてくれ。呼ばれて早々で申し訳ないけどな:

「別に問題は無いが、これ以上暴走するのはやめておけ。収拾がつかなくなったら元も子もないないからな」

「言われないでも分かってるよ。さてと、それじゃ最後の十連ガチャに行きますかねぇ!」

 

 ここで召喚された四人目のエミヤを見送りながらも、最後に残った聖晶石30個を放り込む。泣いても笑ってもこれが最後だ。ここで召喚できなければ何かイベント、ないし『劇場版 Fate/stay night heaven's feel 第二章』が公開でもされない限りピックアップはやってこないだろう。勿論、ストーリーガチャの方に追加されるわけでもなく恒常入りだから、何かの拍子で召喚されることもあるかもしれない。

 けれど、もしチャンスがあるというのであれば。ここで召喚しておきたいという研砥の石に変わりは無い。そして、それに応えるかのように再び黄金の輝きがサークルを覆う。

 

「よし! 今度こそパールヴァティさんだ! 間違いねぇ!」

「はっ、残念だったなマスター。今度はキャスターのカードだ」

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「…………なんでしょう。召喚運は悪くないんですが、ここ一番というところで駄目ですよね」

 

 今度こそはと思っていた最後の召喚も、終ぞ報われることなくすり抜けという結果に落ち着いた。大抵のサーヴァントは召喚済みの筈なので、どう頑張っても宝具レベルが上がるという結果になる。そのことに少しだけ肩を落としながらも宝具の効果が少しでも向上するのは良いことだと思い直し、召喚されたのは誰なのかとサークルの中央を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスター、ギルガメッシュ。ウルクの危機に応じこの姿で現界した。貴様の召喚に応じたのではない。付けあがるなよ、雑種」

 

 

 

 

 

 

 

「け……賢王ギルガメッシュ………!?」

「む、なんだ貴様か小間使い。この我を何度も呼び寄せるとは中々強情な奴よな。まあ良い、貴様の道中はそれなりに見ごたえがある。存分に我を楽しませるがいい」

 

 愉快そうに笑いながら黄金の斧を波紋の中にしまうのは、第七特異点にて終わりを見てもなお抗うことを決めたウルクの王。いつもの財宝を投げ放ち、至宝たる乖離剣(エア)を使わず後方支援に徹することにした人類最古の英雄王。そのためクラスも弓兵(アーチャー)から魔術師(キャスター)へと変化しており、性格も比較的に温厚な物へとなっている。

 しかし、ここでは既に3回目の登場となるので宝具の威力が上がるだけなので少しだけ残念な結果となってしまっている。いや、そもそも狙ったパールヴァティ()を召喚出来ていない時点で負けにも等しい結果なので何とも言えないなのが現状なのではあるのだが。

 

「さて……どうやら、我を呼んだにも拘わらずその腑に落ちんとう表情。さては目当てのサーヴァントを呼ぼうとしたが出来なかったといったところか」

「あ、いや、別にそういうわけじゃ」

「別に構わん。普段の俺ならば不敬と一蹴し、財を以て即座に首を切り落としていたであろうが、貴様は我の小間使いで既に我を呼んだ男だ。多少の不敬は水に流してやるともさ」

 

 笑いながらサークルの中央から降り立つ賢王。その優雅な態度は最近の日常でも見てはいたが、相変わらずのその在り方に見惚れてしまう。いつぞやの話だが、目の前にいる王に我が玉体に見惚れて魂を奪われたかと言われたことがあった。だが、その美しい在り方は万人を魅了する魔力があると思う人が多い。尤も、アーチャーとしての彼を知っている者。彼の既知の者ならその限りではないだろう。

 

「さて、此度呼ばれた我は早々に強化へと回すが良い。少しでも貴様の下にいる我の助けとせよ」

「では、御身の案内は私がしましょう。こちらへどうぞ、バビロニアの賢王よ」

 

 三人目の賢王を強化室へと案内する。その役目を率先してやって来たのは青いエプロンドレスに見を包んだ男装の麗人。意外な人物が前に出たことにさしもの賢王も、いやこの場にいる人の全てが目を開く。

 

「……よもや、貴様が我の案内を買って出るとはな。どういう心境の変化だ騎士王?」

「別に、私は貴方という王の在り方の全てを否定しているわけではないのです。英雄王の貴方なら話したいとも思いませんでしたが、賢王としてなら話は別です。それに、ここでは嫌でも顔を合わせていますから。もう慣れました」

「ふはははは! そうかそうか! これはアーチャーの俺が呼ばれた時が愉しみよな! ならば我を強化室へと案内する役目、存分に果たすが良い」

「言うまでもありません。さっ、こちらですよ」

 

 口を動かしながらテキパキと行動する二人。こちらは意外過ぎる展開に驚いて引き留めることを忘れ、その場で突っ立ていることしか出来なかった間に彼女達は召喚場を出て行った。とりあえず、今回持ち得る全ての石は投げ込んだ。残念ながらパールヴァティという新たな人を呼ぶことは出来なかったが、これからの戦いが少し有利に働くようになるという結果に落ち着いた。少しだけ残念だが、今までの召喚結果だけを見れば当たりすぎも良いところ。こういう日もあって然るべきだと思い直し、集まって人たちに礼を言う。

 

「………というわけで、なんかこんな形になっちゃたけど今回はここまで! 集まってくれてありがとう!」

「ああ、別に構わないさマスター。さて、私は厨房に戻るとしよう」

「なんだ、嬢ちゃんが呼ばれなくて良かったって顔してんじゃねェか。ま、おめぇの女難の相は今に始まったわけじゃあねェけどよ」

「よし喧嘩を売っているのだなランサー。良いだろう、今日は私も機嫌が良い。表へ出るがいいクー・フーリン、その槍。完璧の投影して貴様の心臓へ刺し返してやろう」

「はっ、上等だアーチャー。今度こそテメェの体を穿ってやるよぉ!」

「だーかーらー! どうして二人とも喧嘩っ早いかなぁ!!」

「あはは…………でも、偶にはこういうのもいいねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、今更感が凄いパールヴァティ召喚篇でしたが。いかがでしたでしょうか? 30連でエミヤ&術ギルという結果ではありましたが、二人とも大好きなので個人的には大当たりです! 次回も今更感が凄いハロウィンイベント3rdですが、お付き合いくださいませ!


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チェイテピラミッド姫路城って、建築物的にに大丈夫なのか?←大丈夫じゃない、大問題だ

どうも皆さんお久しぶりです。最近周回で忙しい青眼です。

新年から五カ月がたち、去年の今頃はCCCコラボがありましたね。今年のコラボ先はアポクリファですが、主人公のジーク君を最終再臨&スキルマにした私に死角はありません。宝物庫システムを備えてるらしいので、早く宝具5にしたいです。

周回の方ですが、自分は万年虚栄の塵と狂骨難民なのでカルナさんとジャックのところを周回しています。皆さんはどんなところを周回いますか? 適度に、自分のペースで周回してくださいね。あ、それから自分は石を砕いて周回することを覚えました! いやぁ、ガチャで爆死するくらいなら周回してやるっていう人の気持ちが今になってよく分かりました!

長々と失礼しました。それでは、本編をどうぞ!




 10月末日といえば、大抵の人はの人は声を揃えてハロウィンと答えるだろう。子供たちが仮装をして家を回り、「トリックオアトリート!」と声を揃えてお菓子をねだる。その可愛らしい姿を見た大人たちは笑顔でお菓子を渡し、子供はまた次の家を目指す。時に笑い、時に遊ぶ。そんな微笑ましくもどこか非日常な一日こそがハロウィンなのだ。

 ………では、なぜそんな当たり前のことをこんな冒頭で確認したのか。理由は至極簡単であり、それでいて難しいからだ。ではここで、ここ二年で行われてきたハロウィンをよく振り返ってみるとしよう。

 

 

 

~~~2015年10月某日~~~

 

 

 

「――――ハロウィンをするわ!!」

 

 突如として聖杯の欠片を回収したランサーのサーヴァント。ハンガリーにその名を轟かせた吸血婦人カーミラ………その幼少の名、エリザベート・バートリーによって引き起こされた悲劇(きげき)のイベント。極めて異例の特異点と化したチェイテ城を舞台に行われたそれは、単にエリザベートがハロウィンをしたいという強い願いで生み出されてしまったものである。いや、別に行うのは構わない。彼女を筆頭にそういった祭りを好むサーヴァントも大勢いるし、何より彼女のマスターはそれを良しとしただろう。だが。彼女には致命的すぎる問題があった。

 

「歌うわ!!!」

 

 いつものマイクスタンドを兼ね合わせた槍を捨て、フォークのような三叉槍を。少し露出の多い私服姿から魔女のコスプレ衣装に身を包んだ彼女は楽し気に、爛々と目を煌かせながら宝具を展開する。それを見た大勢の人間・英霊・死霊が止めに入ろうとするも、既に舞台装置の展開は済んでいる。おもむろに姿を現す巨大なスピーカーが搭載されたミニチェイテ城をバックに、エリザベートが(破滅的に音階のズレた)絶世の歌を披露する。

 

「ボゲ~~~~~♪」

 

 直後、その場にいた一部の人を除いた全ての人間の鼓膜は破壊された。当時はナイチンゲール女史がいなかったこともあり、当事件の黒幕(?)であったエリザベート氏はセイバーの金種火を三百個を回収するまで帰れない刑に処された。

 

 

 

~~~2016年10月某日~~~

 

 

 

「―――ハロウィン、忘れてたわ!」

 

 面倒なのでかなりストーリーを簡略して説明するが、エリザベートは前回の事件で処罰されながらもまだハロウィンを捨てられずにいた。なので、今度こそ大丈夫だと準備をしていたのにも関わらず、自分ことしか考えていなかったがため。仮にも城主でありながらも”執政”を行わなかったのである。それに見限りを付けたエジプトの女帝クレオパトラが、チェイテ城にファラオ・オジマンディアスより授かった王の威光、光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)を叩き込む。鮮やかすぎる電撃作戦でエリザベートを追い出し、城を占拠したクレオパトラが執政を行った。

 だが、それで終わってしまっては物語としては成り立たない。エリザベートは奪われた大事な城を取り戻すべく、時代遅れなビキニアーマ―と愚直なロングソードを手に、彼女の下に集まった仲間たちと共にチェイテ城を取り戻す戦いの幕が上がった。

 

 そして、事件は数日の内に解決された。いや、事件を終えた後もチェイテ城には向きを逆にして突き刺さったピラミッドがあるがそれはさておき。何はともあれ、クレオパトラが行っていた執政を取り消された。その後、チェイテ城の城主として改めてハロウィンを行うことにしたエリザベート。するとどうなるか、勘の良い皆さんは既にお分かりだろう。

 

「色々あったけど、何とかなったわ! だから歌うわッ!!」

 

 その場にいたエリザベートの仲間たち、敗北したクレオパトラとその愉快な仲間たちでさえ一斉に彼女を取り押さえようと迫る。だが悲しいかな、事件が解決して安堵して力を抜いた直後に行われた死のライブは既に開催されてしまっている。直後、今まで歌えなかったストレスが溜まっていたのか、今まで以上に(絶望的に音階のズレた)美しい声が彼らに襲い掛かった。

 

「ボゲ~~~~~♪」

 

 直後、たまさかそこに居合わせてしまったファラオをも巻き込んだ破滅の歌が全員を卒倒させる。この後、エリザベートはそれぞれの組織に召喚されていたルーラーの公正な裁きにより、全クラスの金種火100個回収するまで帰れない刑に処されたのであった。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

さて、かなりダイジェストでお送りした過去に二回行われたハロウィンだが。これを見た貴方たちはどう思っただろうか。果たして、この特異点で行われるハロウィンは楽しいと本気でお思いになられただろうか。そう思われた方がいるなら私に石を投げてもらって結構。だが、それと引き換えにこのエリザベートのライブが録音されたボイスレコーダーを流すのであしからず。

なにはともあれ、今回もハロウィンがやってきてしまったという事実は変えられようがない。既に招待状も送られており、チェイテ城に微小特異点の存在を確認してしまったが故にレイシフトの準備は整っている。それに、今から死地へと赴くというのにそれでも自分に付き合ってくれる酔狂なサーヴァントもいる。ならば、これから目の前で繰り広げられる地獄も怖くないというもの。

 

 

 

 

 

 ―――――さぁ! いざ行かん! 新たな地獄へと足を踏むこむ時だッ!!!

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「いやさ。色々とやばいことになるとは思ってはいたけどさ。それでもピラミッドの上に姫路城を乗っけるのはいかがなものかと思う訳でさ。完全に糞コラ画像案件じゃんあれ? メカエリチャンやら二号機やら守護神像やらでてきてさぁ………もう、考えるのが辛くなってきたんだよ」

「う、うん。そうだね? とりあえず落ち着こう?」

「いや、俺は冷静だよ? 冷静だからこそこうやって今回のイベントをかいつまんで説明してかつバッシングしてるんじゃないか」

 

 半ば投げやりになりながらアトラス院のマスター。黒鋼は今回持ち込んだ召喚アイテムの数を確認している。その隣に寄り添うようにブーディカは苦笑しながらも否定しない辺り、言われても仕方ないことだと理解していた。2017年のハロウィン、それは前回チェイテ城に逆さ向きに突き刺さったピラミッドの上に姫路城が乗りかかり、その城主である刑部姫が真に引きこもるためにチェイテ城に密かに作られた守護神。メイガス・エリザベート・チャンネル。略してメカエリチャンを某数学教授が勝手にばら撒いた制作キットを片手に魔改造を施し、最終的にはハロウィン特異点に引きこもるという壮大(笑)な計画を企てていた。

 しかも、最初はオリジナルのエリザベートとよく似たカラーリングのメカエリチャンだけだと思ったら、実は格闘ゲームでよくある2Pキャラの如く登場したメカエリチャン弐号機なるものまで現れ、過去のイベントやストーリーに登場した女帝サーヴァントが登場したりと。カオス極まりないイベントだった。幸いにも誰の命を奪うことなく事件は解決したが、事件の発端となった某数学教授には『万死の毒針』を100本回収するまで帰らないようにバビロニアに派遣しておいた。ウルク民を使わせないように巌窟王とベディヴィエールも同行させておいたので、今頃全力で棺桶を抱えながら全力ジャンプをしている頃だろう。

 

「それはさておき。ブーディカさん、実は刑部姫のこと知ってたんじゃないの? アマゾネスCEO(ペンテシレイア)から話を聞いたけど、あいつが注文した物の中には貴方が作った料理もあったらしいんだが」

「え? あ、いや別にそういうわけじゃないんだけどね。何でか彼女に料理を作るように要求されたから、その時のかな?」

「事情も聴かずに作って渡すって、今更だけど人良すぎません?」

「君ほどじゃないでしょ? 知らない人にだって水や食糧分けたり、とりあえずで困ってそうな人がいたら助けたりするじゃない」

「いや、俺のは余り物だったり共通の目的が在ったりしたからであって………」

「そういうのがお人好しだって言ってるの。まあ、エミヤ君ほどじゃないとはいえ偶には振り返って自分のことを大切にしてあげてね? ………私、もうあんな思いをするのは嫌なんだから」

 

 少し物憂げな表情を浮かべながらブーディカはこちらを見ながら微笑む。我が子が大切だと言わんばかりに慈愛に満ちたそれを見ていると恥ずかしくなり、ついそっぽを向いてしまうがとりあえず謝罪しておく。彼女が言っていたあんな思いというのは、黒鋼自身も思い出したくない忌々しい過去のことだ。今さら話して胸糞悪くすることでもないので詳細は伏せるが、その内明らかになるだろう。

 

「そう…………だな。よし、それじゃこの召喚が終わったらゆっくりするかな。どこかにレイシフトでもしてゆっくりするかな」

「そうだね。その時は、私も腕によりをかけて作らせてもらうよ」

「ああ。それじゃ、さっそく行きますかね!」

 

 今回用意したのは呼符4枚と10連召喚用の石を2回分だ。期間限定イベントということもあり、もう少し石を増やしても構わないと思ったのだが今回の配布枠は十分強い。あまり多くのサーヴァントを召喚しても育成しきれないため、今回はこれだけで勝負に出ることにしたのだ。

 

「というわけで早速呼符から行きますか。ま、星3の礼装が出れば御の字ってことで」

「いや、研砥の場合単発召喚の方が良いのが出てる気がするんだけど」

「誰でもそうだって! 10連で来なかったから残りの石を投げたら来たって例はあるじゃん!」

 

 見苦しい言い訳を漏らしながらも黒鋼は数枚残された呼符を投げつける。いつものようにサークルはぐるぐると光の輪を開いては閉じを繰り返し、ものの数回目にして金色の光が輪を彩った。

 

「え、マジで? ここで☆4以上の演出来んの?」

「ほらやっぱりぃ。研砥は単発で回した方が高レア出るじゃないか」

「い、いや確かに高レアが来たけれどもよ。ここで本当に刑部姫が来たら祟られるぞ俺………」

 

 内心恐々としておきながら、新しいサーヴァントが来るのに少しだけウキウキと喜ぶ黒鋼。伊達にいつ来ても大丈夫なように種火と素材をストックさせてあるだけのことはあり、どのような前科があるサーヴァントであろうともしっかりと育てるその心構えは一流のマスターのそれである。尤も、彼のトラウマの一つである諸葛孔明だけは別ではあるのだが。

 それはさておき、金色の光の中から出現したのは金色の暗殺者のカード。その瞬間、黒鋼の心臓がドキッとしたが、現れたのは眼鏡を付けた物憂げな引きこもり姫ではなかった。肩まで伸びた白い髪に、手に握られた禍々しい杖。そして、後方に聳え立つ鉄の処女(アイアンメイデン)。顔に取り付けられた仮面から覗き込む赤い瞳の仮面婦人は静かに己の名を名乗った。

 

 

 

 

 

「──あら。これも運命というやつかしら。サーヴァント、アサシン。カーミラと呼びなさい」

 

 

 

 

 

「あ、カーミラさんだ。こっちだと初めましてだな」

「あら、アトラスの坊やじゃないの。今更になって私を喚ぶだなんて、随分と指名が遅いのではなくて?」

「いや、それはこっちの不手際じゃなくて召喚システムの問題というだな……まあいいや。何はともあれ、これからよろしく頼みます」

「言われるまでもないわ。ところで………あの小娘はいるのかしら?」

 

 召喚されてから二、三言葉を交わした後。カーミラがアトラス院(ここ)に所属しているサーヴァントの中に誰がいるのかを聞いてきたが、小娘というからには恐らくだがエリザベート(過去の自分)がいるのかを問うているのだろう。そのことに首を縦に下して肯定すると、ここぞとばかりに溜め息を漏らした。

 

「あはは………でも、何もそこまで溜め息を吐かなくても」

「吐きたくもなるわよ。サーヴァントというのは、英霊の座に登録された時点で変化するはずがないもの。それが、ハロウィンだということであんなにも過去の自分が増えていくのよ? 現在進行形でな量産されていく自分の黒歴史を前に絶望してはいけないのかしら?」

「ごめん、こっちが悪かった。だからおもむろに殺気を放つのはやめよう? ね?」

 

 結局、ふつふつと増幅されたエリザベートに対する殺意を抑えるのにかなり時間をかけた。本人も申し訳ないと思ったのか深々と頭を下げながら召喚場を後にしたが、半ばやけくそになりながら部屋を出て行ったので完全に怒りが消えたわけではないかもしれない。それでも、多少なりともストレスが発散できただろう。ここにサーヴァントとして現界している以上、否が応でも過去の自分と顔を合わせるのだから仕方が無いと言えばそれまでではあるのだが。

 

「さてと、それじゃあとは適当に十連回すぞー。礼装が出たら撤退な」

「うん。さてと、今度はどんな子が来てくれるかな………?」

 

 貯めに貯めた聖晶石がサークルに落として召喚システムを実行させる。今回は早い所で礼装が出て来てくれれば幸いだが、実際はそんな簡単にことが運ぶはずもなく。召喚されていくのは既に召喚済みの低レアのサーヴァントと、イベント礼装ではない既存の礼装ばかり。むしろ、一回目の十連にして高レアリティのカードが一枚も出て来てないまである。

 

「え、ちょなにこれ。最後の一枚が『優雅たれ』だったらもうガチャ回さないんだけど」

「これは、この間までSSR連打だったから流石にガチャ運が低下し始めたのかな……? まあ、きっと最後の最後で礼装が来てくれるよ」

「えぇ~? 本当にござるかぁ~~あぁ!?」

 

 今回のガチャ結果に素朴な疑問を某エセ侍口調で尋ねた直後。最後の一枚が排出されたのだが、奇声を上げたのはそのカードのイラスト。なんと、先ほどのカーミラさんと同じ金色のアサシンのカードだったのだ。

 

「れ、連続で高レアアサシンだとッ!?」

「待って、この間武蔵ちゃんと頼光さん、忘れ去られてる孔明君と合わせて三人も呼んだんだよ? こ、ここでまたSSRが来るはずがないよ!」

「そ、そうだな! きっと二人目のカーミラさんかふ~や~ちゃんだな! きっとそうに違いないッ!!」

 

 まさかの事態に驚き喚く二人。焦りの余り互いに肩を抱き寄せ合いながら目の前で行われる召喚の結末を見守る。これまで色々と召喚を実行してきた黒鋼達ではあったが、ここまで連続でレアリティの高いサーヴァントを召喚し続けたことはあまりない。まず間違いなく後ろからアゾット剣で刺される状況だ。固唾を飲んで見守る中、遂に目の前に現れたサーヴァントカードから召喚が実行された。

 だが、目の前に現れたのは彼の吸血婦人でもなければ嘘を嫌うチビッ子でもない。薄汚れたボロボロな黒いマントに身を包み、白い髪にブーディカと同じ翡翠色の瞳。無垢な瞳からはかけ離れた紫を基調とした二つのナイフを構えながら一人の少女(てんし)が舞い降りた。

 

 

 

 

 

「アサシン、ジャック・ザ・リッパー。よろしく、マスター(おかあさん)

 

 

 

 

 

 

「……………………………マジか」

「あ、マスター(おかあさん)だ! わーい!」

「研砥、後で話があるんだけど」

「ちょっと待て今のは俺が悪い要素がどこにもないと思うから俺は無罪だッ!!」

 

 召喚サークルから現れたのは、今回ピックアップされている刑部姫と同じ星5のアサシン。ロンドンをその名で轟かせた殺人鬼『ジャック・ザ・リッパー』である。こんな可愛らしい女の子のどこが殺人鬼なのか分かった物じゃないかもしれないが、幼い言動とは裏腹に冷酷、そして残酷なまでに人を解体(ころす)ところを見てからようやく納得できる人もいるだろう。付け加えておくと、ジャック・ザ・リッパーというサーヴァントには複数の(かお)があるらしく。別クラスでの召喚も可能らしい。

 

「しっかし、まさかジャックが出て来るとは。流石にこんなの予想できんぞ……」

「確かに。これで不夜城のアサシンやカーミラだったら納得できたけど、まさか星五のアサシンで思いっきりすり抜けもんね。けどいい結果なんじゃない? これでジャックはこれで二人目でしょ?」

「絆レベルカンストしてるから使うのに抵抗があるんだがなぁ……」

 

 実を言うと、黒鋼がが初めて召喚した星五のサーヴァントこそ目の前にいるジャッなのだ。というのも、2016年の新年に開催された福袋召喚を思い切って回した結果がこの子だったというわけで別段そこまで強い感情を持っているという訳ではない。いや、ジャックと同時に『カレイドスコープ』も来てくれたのでストーリー的には第二特異点あたりまでは彼女の無双っぷりに圧倒はされていたが。とにかく、可愛いから思いっきり優しく接している以上にやましいことは一切考えてはいないのだ。

 

「にしても、なんでジャックが呼ばれたんだ………怖ぇよ。ついこの間まで怒涛の星五ラッシュだったのに更に星五引くとか、絶対夜道に一人で散歩してたら後ろからアゾット剣で刺されるパターンだよこれ……」

「えっ……? おかあさんは、わたしたちが来たら嫌だった? わたしたち、悪いことしちゃった………?」

「そんなわけがないだろう!! ジャックは良い子だよ!! 今度一緒にフリクエ周回しようねッ! いやぁ最近『竜の牙』とか『龍の逆鱗』とか足りてなかったから助かるよ!! 来てくれてありがとうッ!!」

「すごい掌返しだなぁ……」

 

  なんとなく自分たちが来て研砥たちが迷惑がっていると思ったのか。泣きそうになってしまったジャックを全力で宥めるマスターを尻目に、ブーディカはほとほと呆れながらも少女の頭を優しく撫でてている。暖かい人の温もりに天使のような可愛らしい満面の笑みをジャックは浮かべ、泣き止んだと思ったら小さい体と数いるサーヴァントの中でもトップに入る敏捷ステータスを駆使し、マスターである黒鋼の首元へと飛び乗る。所謂(いわゆる)肩車を強制的にやらされた。

 

「ちょ、ジャック!? おま、さすがに肩車は不味いからおんぶでがま」

「やっぱり…………だめ………?」

「駄目じゃないですよ―――! もうね、ジャックちゃんが満足するまでいつまでも肩車してあげちゃう! それ―――――!!」

「うーん………あれ、もうジャックの方がマスターを操ってるんじゃないかなぁ……?」

 

 なんやかんやで召喚されてしまったジャックとその場で遊ぶこと数分。本人の気もすんだのか、満面の笑みを浮かべながらジャックは召喚場を立ち去って行った。ジャック・ザ・リッパー。あの少女はロンドンで死んでしまった子供たちの怨念の集合体。誰にも望まれることなく死した子供たちの想いの塊ではあるのだが、今はああやって楽しそうに日々を過ごそうとしている。それを改めて知ることが出来たことが、他のどのサーヴァントがやってきた時より嬉しく感じた。

 

「しっかし、ここまで礼装が出てこないのも珍しいな。ここまできたらいっそのこと、リンゴにものを言わせて周回してやろうか……?」

「けど、そのリンゴもあんまりないじゃない。いや、石を砕いて周回するっていう手もあるけどね?」

「今回はそこまで美味しいイベントじゃないからなぁ。仕方ない、次の10連で終わらせるぞ」

 

 あまりこういったことに時間を割いている余裕があるはずもなく、ささっと次の石を投入する。せめてイベント礼装が1枚でも出てくれればありがたいと思いながら行った最後のだが、開始して早々にイベント星4礼装が出現した。

 

「おっ、エウリュアレとアステリオスがメインの礼装が出たな。ったく、こんな遅く出て来るなんてガチャ渋すぎだろ……」

「まあまあ。これでようやく周回に専念できるんだからそんなこと言わないの。さてと、カーミラが来たから久しぶりに腕をふるって料理でも………?」

「うん? どしたのブーディカさん………っ!?」

 

 急に息を飲むブーディカに釣られて何事かと辺りを見渡す黒鋼。視線の先にあるのは召喚サークル。いつも通りに光の輪が広がっているのだが、問題はその輪を囲む光。なんと、最高レアリティのサーヴァントが召喚される時に輝く虹色が出現していたのだ。

 まさか、と黒鋼が思うや否や召喚が終了した。サークルの中央には一人分のシルエットが出現し、その姿が段々露わになっていく。フード付きの衣に身を包み、サーヴァントが持っていいのか分からないタブレット端末を片手にこちらへと素顔を見せる少女。その周囲には折り紙で折られた蝙蝠が多く飛び回っており、彼女のこちらへの警戒心を現しているかのようだった。溜め息を吐き、気怠い雰囲気を隠すことなく口上を述べる。

 

 

 

 

 

「あ――………あ? はいはい、アサシンの刑部姫でーす。ね、もう帰っていいかな? ダメ? あ、そう」

 

 

 

 

 

 

「座に帰れください」

「いやったぁぁぁぁ!! さっすがアトラスのマーちゃん! 私のことをよく分かってるぅ!」

 

 召喚されて早々に帰宅命令をされたにもかかわらず、それに体の全てを使って喜びを表現する刑部姫。今回のイベントでは所謂黒幕(笑)な立場にあった彼女ではあるが、根っこのところはとことん引きこもりのニートなのである。今回の騒動も、結局のところこの刑部姫が引きこもれる理想郷を求めたが故の結果であることから、手の施しようのない引きこもりであることに変わりは無いのである。

 

「それにしても、姫を召喚しようと努力してるなんて。アトラスのマーちゃんも隅におけないな~。あ、もしかして姫と一緒に引きこもりたかったとか?」

「いや、ぶっちゃけていうと礼装が欲しかっただけで全然狙ってない。物欲センサーって怖いわぁ」

「………………………え、なにそれ。全国の姫ちゃんファンが血の涙を流して召喚している中サラッと呼んじゃったわけ?」

「そういうことになるかな。いや、その、ごめんね? 研砥は拗らせる時はとことん拗らせるんだけど、どうでもいいことには正直だから……」

「それってさりげなく私のことはどうでもいいってこと!? うわぁぁぁん! この間散々な目に遭ったけど、これはこれで酷い――――!!」

 

 涙を流しながらこちらに抗議してくる刑部姫だが、正直な話その姿は滑稽の一言に尽きる。人の事は言えないが、これでも黒鋼は人見知りな方だ。なので、初めてあった人や他人に話しかけるだけでも相当な勇気がいるのは理解しているつもりだ。今回の場合は逆だが、既に知り合った人に「お前の事なんてどうでもいいから」なんて言われたかなり精神的に来るに違いない。少なくとも、黒鋼ならばマイルームに一日引きこもるくらいはする。

 

「ま、因果応報ってやつだな。それから、家には玉藻さんとか武蔵がいるから仲良くやれよ~」

「既に逃げ場がなければ黒歴史がいる!? 誰か――――! 姫に安住の地を――――!!」

 

 なんやかんやで色々あったが、結局のところ刑部姫はここでの召喚に応じることになり正式に契約を交わすことになった。相変わらずの引きこもり癖だけはどうにもできなかったが、暇な時があればジャックたちや玉藻といったサーヴァントたちが入りびたるようになり、より一層賑やかさが増したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、今回のガチャはここでは初登場となるカーミラさん。それから、何でかやってきてしまった二人目のジャックと、刑部姫ということになりました。本当に礼装が欲しかっただけなのにどうしてこうなった………?
さてさて、これまででハロウィンが終わり、残るはセイレムとクリスマスで2017年のガチャ報告は終わりですね。GW中に出来る限り書くつもりではありますが、次の投稿はいつになることやら。こんな小説でも楽しみにしてくれている方がいる以上、可能な限り素早く書き終えるつもりではありますが、気長にお待ちいただけたらと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました。次回のセイレム篇をお楽しみに!


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死ななければ問題ないという言葉はあるが、死ぬギリギリの傷はかなりヤバい。

どうも皆さん、なんだか『銀魂』みたいなサブタイトルになってしまいつつあるガチャ報告を投稿する青眼です。二、三週間ぶりですかね。

アポクリファコラボが終わり、突如始まった謎解きイベをこなし。少しはお休みかと思ったら即座に始まった明治維新のイベント復刻。復刻版なのでガチャを回す予定はありませんが、そろそろ過労で授業中寝そうです……皆さんも周回は自分のペースでやってくださいね?
それでは、本編スタートデース!



今更だけどカドアナ尊い←ナニイッテンダコイツ



「あ~……………ちょっと、今回ばっかりは死ぬかと思った。割とマジで死ぬかと思った」

「確かに、今までの戦いでもかなりやばかったわね」

 

 アメリカのマサチューセッツ州にある港町。セイレムと呼ばれたその土地が今回発生し、そして最後の亜種特異点だった。『冠位時間神殿』での激闘からもうすぐ一年。あそこから命からがら逃げ延びた魔神柱がいた。本来、彼らは大本であったゲーティアからの魔力などの供給が無くなった時点で消滅する。だが、彼らはそれぞれの手段でその命を繋ぎ止め、驚くべきことにその命を自らのために費やしていた。今までゲーティアからの命令を下に活動していた彼らが、皮肉にもカルデアのマスターたちに倒されたことによってその命を自覚し始めたのだ。

 

 ある一柱は、己が忌み嫌っていた人類史の御伽噺、幻想を下にその身を宿してカルデアへの復讐を決意した。

 ある一柱は、魔術という存在を消滅させることによってかつての人類史崩壊を企んだ。

 ある一柱は、死ぬ間際にとある少女に取り付き。己が命を繋ぎ止めようと足掻いた。

 ある一柱は、とある海洋油田基地を拠点して活動を開始したが………まあ、あれは無かったことにされたのでカウントしなくても良いだろう。

 

 今回の特異点で行おうとしたのは、この宇宙の法則に縛られない未知なる存在、『外宇宙』と称される領域外の存在する神の力を借りることで人理の転覆を目論んだ。それを知ったのはセイレムを舞台としたあの世界の終わる頃だったが、カルデアのマスターたちはそれを阻止した。だが、その神を呼び出すための依り代となった少女―――アビゲイルと呼ばれた少女の体には、結果的にその神の力が宿ってしまった。その処遇はどうしたものかと思ったが、どうやらそっちはそっちで何とかなったらしい。

 ………らしいというのは、それは先ほど喋っていた青年。黒鋼はその行方を知らないからだ。というのも、今回の戦いでは何故か彼の方が集中的に狙われ、少女が旅立つその時に立ち会えなかったからだ。全身打撲に加え、骨も何本か折れた。魔術回路も焼き切れる寸前という重症である。それがあの少女を護るためだったとはいえ、今回に限ればカルデアのより重傷だった。だが、その結果に彼は後悔していない。

 

「ま、アビゲイルが無事に旅立って。俺達は誰一人欠けることなく帰ってこれた。その結果さえあれば問題は無い」

「えぇ。全く以てその通りです。ですが、貴方の退院を認めた覚えはありませんよ。マスター」

「………ですよねぇ。とほほ。俺は一体何度ここにお世話になれば良いのやら」

 

 なにはともあれ、様々な障害に弊害に満ちた亜種特異点Ⅳ(セイレム)を解決した黒鋼達だが。当然マスターである彼は重症のため強制入院である。しかも、このフロアの担当者はクリミアの天使で有名なあのフローレンス・ナイチンゲール。今を生きる命を救うためならばその対象を社会的・精神的に殺してでも救うというバーサー看護師である。そんな彼女が今の状態の黒鋼を見過ごすはずがなく。手枷足枷を付けられた状態で黒鋼は彼女達と会話をしているのである。

 

「あの、ナイチンゲールさんや。そろそろセイレムに登場した人たちのガチャを回さないといけないのですが、いやすいません何でもないですなので無言で撃鉄を引かないでくださいッ!!!」

 

 腕を汚染されているのなら腕を。足から毒が回るのであれば足を容赦なく斬り落とすこの人に向かって、説得なんてものは意味をなさない。多少なりの慈悲を求めて交渉をしようとした黒鋼ではあったが、腰のホルスターから銃を引き抜こうとする無言の圧力に屈した。意気地なしと思われるかもしれないが、実際に彼女と面と向かってから物申してもらいたい。恐らくだが、初撃で三途の川が迎え入れてくれるだろう。

 

「まあまあ、フローレンスも落ち着いて。とりあえず、研砥の容体が安定するまではこのまま看護を頼むよ。あ、でもさすがに手枷足枷はやりすぎじゃないかな?」

「隙あらば部屋を抜け出し、病院食では物足りぬと鬼の童女と一緒にお菓子を食べるのを許容できますか?」

「OK、あと二週間は縛っておいていいよ」

「さすがにその扱いは雑過ぎないか!? え、ちょっと! 本気で俺を置いていく気なのか!? おいィッ!?」

 

 ブーディカの無慈悲な通告に異議を申し立てようとする黒鋼だったが、ノーモーションで振り下ろされた拳銃の鉄槌を頭から叩き込まれて意識を失った。さしものブーディカもそれには同情を禁じ得なかったが、これも自分のマスターの為だと割り切って病室から立ち去るのであった。

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

「というわけで、今回は研砥の代わりに召喚よろしくね」

「はい! 任せてください!」

 

 場所は変わってアトラス支部の中でも割と大きめなフロア。召喚システム・フェイトが鎮座する召喚場だ。普段、ここでは黒鋼とブーディカの二人が揃ってガチャを回す場所だ。だが、今回はその黒鋼が病室に監禁されている。なので、今回はアトラス(ここ)にいうもう一人のマスター、藤丸立香に協力してもらうことにした。いつも黒鋼が前線に出張っているせいで影が薄くなっているかもしれないが、彼女もまたアトラスの立派な錬金術師。マスター資格とレイシフト適性を持つ稀有な存在でもある。

 

「というか、本当に私が召喚していいんですか? こういうのって、マスターになる研砥がやるべくなんじゃ……」

「まあまあ。細かいことはいいからいいから。研砥の聖晶石だからパパっと使っちゃてね。これで誰も来なかったら研砥の運が無かっただけだから!」

「………何だか、ブーディカさん機嫌悪くないですか?」

 

 召喚場に集まった二人。召喚システムは正常に機能しており、あとは消費する聖晶石(アイテム)を放り込めば起動する。だが、その前に立香は隣に立つブーディカに微妙な顔をしながら尋ねる。聞かれた方は苦い笑みを漏らすだけ何も言わず、それに立香は今度は何とも言えないような表情を浮かべ、了承した。

 

「まあいいですけど、本当にやっちゃっていいんですよね? これで爆死したら研砥絶対怒ると思うんですけど」

「いや、ちゃんと本人から了承してるから大丈夫だよ。なんなら、『セルフ・ギアス・スクロール』でも結んでこようか?」

「そんなことのために自分の命を容易く賭けないでくださいよ!? まったく………。それじゃ、早速行きますからね!」

 

 半ば投げやりではあるものの、立香は今度こそ用意された聖晶石を召喚サークルへと注ぐ。溢れんばかりに大量の石を注がれたサークルは今日も今日とて元気よく回り始める。今回用意した聖晶石は十連召喚三回分だ。呼符は既に消費した後なので、ここから先はひたすら連続でガチャを回すだけ。何が出るだろうか、と固唾を飲んで二人が見守る中。最初に十連にもかかわず黄金の輝きが輪を包み込む。

 

「お、いきなり星4以上のサーヴァントだ! 幸先いいわね!」

「はい! 召喚されたクラスは……ランサー、ですね」

 

 サークルの中央に出現した金色の輝きを放つ槍兵(ランサー)のカード。今回ピックアップされているサーヴァントの中にはそれに当てはまる人がいるため、これから行われる現界に期待する。黄金のカードから光が溢れ、一人の少女の姿が形成される。燃えるような赤い槍に、チャイナ服を身に纏う中性的な容姿。召喚された時点(・・)で空中に浮き、片方だけ結ったいわゆるサイドテールが特徴的な彼女は、こちらに面を向いてから口上を述べた。

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・ランサー。哪吒(ナタ)。…………それだけ」

 

 

 

 

 

 

「あ、哪吒ちゃんだ! 久しぶり~!」

「ん、ヴィクトリア。久しぶり。そっちの少女、僕、知らない。誰?」

「初めまして哪吒さん! 私は藤丸立香、ここでオペレーター兼マスターの役割に就いてます! 今回は、ちょっと黒鋼さんの体調が悪かったので私が代わりに召喚させていただきました」

「了承。(マスター)、息災か?」

セイレム(あっち)での傷がまだ治ってないだけさね。良かったらお見舞いにいってあげて? きっと研砥も喜ぶだろうからさ」

 

 ブーディカの頼みに哪吒は表情一つ変えずコクリと頷き、召喚場を後にする。少し不愛想にも取れるかもしれないが、出来る限り素早く移動しているところを見るとマスターを心配しているのが目に見える。素っ気ない態度かもしれないが、あまりそれを表に出さないだけなのはセイレムで共に時間を過ごしたブーディカは良く知っている。それはさておき、哪吒が召喚された後は、これまでよく見た星四の礼装ばかりが出現して一回目の十連召喚は終わった。幸先が良いと言っても問題はないだろう。

 

「さてと、次の十連もパパっとやっちゃおっか。あまり時間もかけてられないしね」

「そうですね。次に行ってみましょう!」

 

 流れるように新たに三十個の聖晶石をサークルに放り込む。聖晶石での召喚において確実に高レアリティのサーヴァントが出現する保証はない。むしろ、さっきの召喚だけで残りの二回では召喚されないというのがザラである。だが、今回は本当に運がいいのか。それとも向こう側からこちらに会いに来ようとしているのか。そのどちらでもあるかもしれないし、そうではないかもしれないが未契約のサーヴァントの反応を感知した。しかも、先ほど召喚された哪吒と同じくカードの色が金色に輝いている。そのカードに描かれているのは杖を持った老人の姿。魔術師(キャスター)のサーヴァントが召喚される。

 

「おっと、ここでキャスターということは彼女かな?」

「メディアさんも喜んでくれますかね?」

「さあ、どっちかというと微妙な反応するんじゃないかな? 自分の師匠とはいえ、セイレムに向かう直前にあんなことされちゃあねぇ……」

 

 心なしか呆れながら召喚の行方を見守る二人を前に、カードから新たな女性の姿が形成されていく。身長は先ほど召喚された哪吒より小柄で、身の丈以上の杖を片手に構えている。人懐っこい笑顔を振りまくその姿は美少女のそれだが、彼女の周りから溢れる魔力が不思議な雰囲気を醸し出している。

 

 

 

 

 

「やあ。もうきみを寂しくはさせない。この魔女キルケーを呼び招いたのだからね! ふふ」

 

 

 

 

 

「やっほーキルケー。ついこの間ぶりー」

「あ、英国の女王様じゃあないか。ということは、私はこっち側に呼ばれたってことかな」

「そういうことになるね。あっちだと本当にお世話になったよ。改めて、ありがとね」

「よしてくれよ。私は私のできることしかやってないさ。それより、あの坊やはどこだい? 姿が見えないようだけど……」

 

 セイレム以来の再開なので会話に花を咲かせる二人だが、ここのマスターである黒鋼の姿が見えなかったことが不思議に思ったキルケ―はブーディカに尋ねる。向こうで負った傷が思いのほか深く、今は入院していると簡潔に伝えると目に見えて動揺し始めた。

 

「なななななんだって―――!? こうしちゃいられない、なぁブーディカ! 調理室はどこだい!」

「え? あー、それならこの召喚が終わった後で行こうと思ったから、良かったら一緒に行こっか?」

「是非頼むよ! 入院してるってことは、今の彼は簡素で質素な病院食しか食べれてないんだろう? だったら私の出番さ! 私特製の麦粥(キュケオーン)を披露してあげるよ!」

 

 上機嫌と言わんばかりに鼻歌交じりに首を振るキルケ―を見て、藤丸は少しだけ驚いたように目を開いていた。セイレムでの出来事は黒鋼を通して記録してはいたが、聞き知っていたのと実際にあったのではその情報量にも差が出るだろう。こうしてキルケ―という魔女に出会ったことが。何より、本当にキュケオーンを推しまくる姿を見て驚いているに違いない。

 

「えーと………その、本当にキュケオーンがお好きなんですね、キルケ―さん」

「それは勿論さ! キュケオーンは私にとって魔術の次に大切なものだからね! ここまで来ると一種のアイデンティティに等しい。あ、良かったら君もキュケオーンを食べるかい? 大丈夫! 毒なんて入ってない栄養と美味しさがたっぷり籠ってる最高のキュケオーンを味合わせてあげるともさ!」

「は、はい。その時は存分に堪能させてもらいますね」

 

 あまりのキュケオーン推しに藤丸は少し戸惑いながらもその勧めを受け入れる。なお、キルケ―が召喚された後も十連召喚は続けられてはいたが、特筆すべきものは何も出なかったので省略させていただく。

 さて。十連召喚を二回行い、ピックアップされているサーヴァントをそれぞれ一人ずつ召喚したわけだが。今回の主役にしてラスボスであるアビゲイルは未だに召喚されてはいない。というのも、メタ的なことを言わせてもらえれば哪吒やキルケ―がピックアップされていたガチャではアビゲイルが召喚できないのだ。所謂ストーリーピックアップ第二弾という方に期間限定(・・・・)サーヴァントとしてピックアップされているのだ。一応、同時ピックアップで『ミドラーシュのキャスター(ティテュバ)』がピックアップもされている。それから、アビゲイルは外宇宙の神の力をその身に取り込んだ。これにより、これまで確認されてきたエクストラクラスの新種。『降臨者(フォーリナー)』という特殊クラスを獲得した。このクラスの性能は、バーサーカーに対して有利というこれまでの戦いを左右するかもしれない特殊クラスである。だが、何故かアルターエゴが弱点ということもあり、この間のハロウィンで召喚されたメカエリチャンが大活躍するという結果になったりしていた。後日、「あのアラフィフ、ただの悪役(ヴィラン)なアラフィフじゃなかった」と多くのサーヴァントたちが言っていたが、結局悪事を働いたことには違いないので情状酌量の余地は無かったりする。

 

「さてと、次が最後の十連だね。張り切っていこう!」

「ここでもしアビゲイルちゃんが来たら、それこそ育成地獄ですけどね。まあ、周回するのは研砥なので知ったことではありませんが!」

 

 さりげなく黒鋼(マスター)の仕事を増やさんとする二人がいるのだが、システムはただひたすらに己に課された仕事を全うするのみ。最後に残った三十個の石を綺麗に飲み干し、再びぐるぐると勢いよく回転し始める。するとだ、始まってから数えて三つ目で予想外の概念礼装(もの)が飛び出してきた。

 

「おおっ!? こ、これは最強概念礼装TOP3にその名を馳せる『カレイドスコープ』!! やりましたね、これはもう勝ち確定ガチャですよ!」

「これ一枚あるだけで戦況をガラリと変えられる優れものだからね。これで三枚目だがら、あと二枚で限凸だね」

「え? そんなものなくても私はすぐに宝具を使えるよ? だって『高速神言』持ちだからね! そんなものがなくても宝具の速射くらいお手のものさ!」

「その代わり自前のNP獲得量は低いけどねー」

 

 さりげなく出来る魔女アピールをするキルケ―に対し、容赦の無いブーディカの一言がキルケ―の胸をえぐる。スキルによって自前で大量のNPを稼げる人たちの多くに共通して言えることだが、実際の攻撃で稼ぐNP量が非常に少ないことがネックである。そう言った点でいうとライダークラスのドレイク船長は破格の性能と言えるだろう。『星の開拓者』によって大量のNPを回復しながら、『黄金律』で消費したNPを回復するのだから。宝具の速射と連射を行うという、ある意味で頭の悪い戦法が得意としている。

 

「うう。でも、私だって特別なことが出来るんだからなぁ! デバフ解除とか、毒だって盛れるんだからなぁ!」

「あ、いやごめんキルケ―! 研砥と一緒にパーティーの編成とかしてるとそういったことに目が行っちゃうのよね。別にキルケ―のことを貶してるとかじゃないから。だって、ローマ特攻付与しかできない(・・・・・・・・・・・・・)スキルを持ってる私の方がよっぽど」

「それ以上は駄目ですよブーディカさん! それ以上は研砥の、全てのブーディカさんの

マスターの精神衛生上よろしくないです!!」

 

 自分が余計なことを言ったせいで涙ぐむキルケ―を泣き止ませるべく、今度は自身の欠点ともいえるスキルに付いて言及しようとしたブーディカを藤丸が全力で止める。余談だが、彼女の第一スキルが活きる場面はかなり限られている上に特攻倍率が60%で3ターンと微妙なのである。同じ3ターン特攻付与スキル持ちなら龍殺しのジークフリートがいるが、彼は『竜』属性持ちに対して特攻が80%と高く、『竜』属性のエネミーからの攻撃にも耐えれるように特防も付与されている。更には後の強化でAランクの魔力放出による最大50%ものBuster性能アップが施されている。明らかに優遇されているのを見て、何度ブーディカをメインにしているマスターが血の涙を流していることか。早く救済措置が施れて欲しいと願うマスターは数多くいるだろう。

 

「さてと、『カレイドスコープ』と新規サーヴァントが二人も来てくれたんだし、研砥もきっと喜ぶよ。早く報告しに行こ……!?」

 

 召喚サークルから吐き出される概念礼装を回収しつつ、退出の準備を進める三人。だが、それは思いもよらないことが起こる。今回の最後の十連召喚、その終盤にて再び黄金にサークルが輝きだしたのだ。出現したカードに記されていたのはキャスターの絵。そこから出現したのは、先ほど召喚されたキルケ―ではない。セイレムで過ごした日々にいた、もう一人のキャスターだ。

まず、そのキャスターの目が行くのはアトラスとカルデアでの召喚に応じた数いる女性サーヴァントの上位に食い込む素晴らしい体の黄金比だ。エキゾチックな装いに身を包んだその姿に十分魅力的だが、少し尖ったケモ耳と尻尾もまた魅力の一つ。ストン、と召喚サークルから降り立った彼女は、ブーディカと同じ翡翠色の瞳を爛々と輝かせてから口上を述べた。

 

 

 

 

 

「ハァイ、出ましたー。シバの国を治める女王、と呼ばれてました。“シバ”とお呼びください。 ハイ? ホントの名前ですか? う~ん、そこからは別料金ですねぇ」

 

 

 

 

 

「まさか貴女まで召喚されるなんてね。今回は大成功、かな?」

「おやぁ? ブーディカさんがいらっしゃるということは、私はアトラスに呼ばれたのですね?」

「そういうことだね。何はともあれ、これからはよろしくね。シバの女王」

「いやですよぅ。今の私はただのシバ。貴女もここでは一人のブーディカでございましょう? でも、それはそれとしてお互いに一応王様(・・)同士ですし、仲良くお茶でもいかがです?」

「いいね。それじゃ、私は茶菓子でも作るよ」

 

 召喚されて早々お茶会の準備をするあたり、二人の行動力はすさまじい。互いに初見じゃないというのが一番強い理由だと思うが、それでも次々に茶会の招待状とかの作成準備にも取り掛かろうとしているので、女王二人の行動力は本当に高い。その後、実は密かに召喚されたサーヴァント全員からサインをもらおうと画策してる藤丸が、シバにサインを強請っていたが、当然ながら彼女のガードは硬く。今回は断念することになったのだが、それはまた別の機会に話すとしよう。

 

 

 

 

 

個人的な欲求が()爆発しただけで()すごめんなさい()

 

「っ、ふぅぅぅ………! そ、そのぉ。マスター、そろそろ、離れ、っ…」

「ごめん、もう少し。もう少しだけだから……!」

 

 新たにサーヴァントの召喚に成功してから既に一週間。セイレムでの負傷も優秀なキャスター勢の治療魔術や、ナイチンゲール婦長を始めとした徹底的な衛生管理によってけがを完治させた黒鋼。復帰した後の彼は、今まで休んでいたのを無かったことにするかの如く種火を搔き集め、新たに召喚された三人のサーヴァントの再臨を完遂させた。それぞれが多種多様な固有スキルを持っていることもあり、これからの戦いにもバリエーションが豊富になった。なので、マイルームにてこれまでの戦闘データの管理を済ませていた時だ。後ろから柔らかさの化身の如き物が覆いかぶさってきたのは。

 

「そ、その。誘ったのは確かに私ですが、ちょっとがっつきすぎじゃ、きゃああ!?」

「柔らかい……暖かい……ここが、ここが俺の遥か遠き理想郷(アヴァロン)か……!!」

 

 黒鋼にされるがままにされているのは、此度の召喚に応じてくれたサーヴァントの一人。ミドラーシュのキャスターこと『シバの女王』その人。というのも、彼女はからかい半分。それからマスターとの交渉半分の目的で尻尾をモフらせる(こんなこと)をさせたのだが、如何せん相手が悪かった。以前からタマモキャットやロボのモフモフに触りたいと思っていたが、二人とも最悪半殺し以上のBad-end√間違いなしなのでモフモフに飢えていたのだ。そんな彼にシバの提供したそれは何よりも得難いもの。加えて、人懐っこい彼女がこのような声を出すことも相まって、背徳感が後押しして病みつきになっていた。

 

「ちょ、ちょっとタンマですぅ! こ、これ以上は有料になりますよぉ!?」

「では、何を差し出せばいい。素材か? QPか? それとも聖杯か? よかろう、差し出せるものなら何でも差し出してくれる……!!」

「ちょっとマスターキャラ変わってませんかぁ!? うぅ……抜かりました、まさかマスターにこのような一面があろうとは。このシバ、一生の不覚ですぅ……!!」

 

 よよよ、と泣き崩れるような仕草を見て若干だが黒鋼がたじろぐ。確かに、彼女自身が「私が有料だと言うまでモフらせてあげますよぉ」と言われたから全力でモフっていたとは言え、さすがに三十分近く尻尾や彼女に付き従う使い魔(ジン)たちを堪能したのはやりすぎたかもしれない。だが――――

 

「だとしてもッ! まだまだモフりたいぞぉ!」

「ひぃぃ!? だ、誰かぁ! このままだと私、マスターに乱暴されちゃいますぅ!!」

「人聞き悪いことを言うなよ!?」

 

 シバの悲鳴を聞いて素に戻るあたり、既にモフることには満足しているように見える黒鋼ではあるが。このまたとない機会を物とするべく、おあつらえ向きにベッドにいるシバに毒牙を向けようとしたその時。突如としてマイルームの扉が勢いよく開き、目の前に立っていた黒鋼に向かって勢いよく両足を向けて突っ込んだ。

 

ケモ耳キャスター(ライバル)が先走っていると聞きましたッ!!」

「何故俺にライダーキックッ!?」

 

 突如として現れた青い女性のライダーキックが黒鋼の背中に炸裂し、そのまま勢いよく壁の中に顔がめり込んだ。目の前でいきなり起こった殺人紛いの事件を目の当たりにしたシバは「あわわ……」と声を漏らす。なお、マスター殺し(こんなこと)をした青い巫女服のキャスター……玉藻の前はガッツポーズを決めていた。

 

「いよぅし何とか間に合いましたっ! マスターが他のケモミミサーヴァントと戯れようがどーでもようございますが、同じキャスタークラスが相手なら容赦はしねー。サクッとお仕置きタイムでございます!」

「いやお仕置き感覚で殺されるような目に遭ってるんだけど!? 一瞬マジで綺麗なお花畑が見えたぞ! ロマンが手を振って出迎えたからね!?」

 

 ガバッ、と壁にめり込んだ顔を引っ張り上げながら玉藻に抗議する黒鋼。だが、当の本人は上品に笑うだけで何も言わない。どんなシリアスな空気でも場違いなことを言ってはあたりの調子を狂わせる彼女にとって、これくらいはなんてことはない日常の範囲なのだろう。尤も、付き合わされる方は溜まった物ではないが。

 

「べっつに~。マスターがこの私を差し置いて他のケモミミとフレンズなごっごをしていると耳にしただけでして。タマモ~、全っ然興味はなかったのですけど~」

 

 

 

 

 

―――随分とお楽しみだったそうですねぇ? ま・す・た・ぁ・?

 

 

 

 

 

「ヒエッ」

「いえいえ。別にそこまで怯えなくても結構ですよ? ですがこの玉藻の前。後に呼ばれた名も知らねぇケモミミ女に出番を取られとあっては、京の都を壊滅にまで追い込んだ大化生の名が廃りますので♪ ちょ―――っとだけ、マスターと一夫多妻去勢拳(スキンシップ)したいなぁって思っただけでござますから♪ それではマスター? お付き合い、してくださいますよね? ね?」

「え、いや、あの…その、玉藻さん? ちょ、ちょっとスキンシップって変なところにルビ振ってない? てか何でシャドーボクシングしてるの!? く、来るなぁ! た、助けてシバさんっていねぇ!?」

 

 半ば虚ろな瞳でこちらに迫る玉藻の前。彼女には心に決めた人がいるのは知っているので、あまり深くまで分かり合おうとしてなかったこともあり、まさかここまで執着(?)されるとは思いもしなかった。予想だにしていないこの急展開に近くにいたシバに助けを求めた黒鋼だが、商売人としてのセンサーが働いたのか。既にマイルームから退去した後であった。背水の陣どころの話じゃないと理解した直後、情け容赦のないジャッジが下された。

 

「さてと、それじゃ逝きましょうか。ますたぁ?」

「………………………………………ははっ。オワタ」

 

 その後、黒鋼のマイルームにて多少(・・)の物音はあったが。近くにいたサーヴァントや職員はいつものことだと呆れながらその前を素通りした。なお、騒ぎを起こしてからものの十数分で玉藻はマスターである黒鋼を引き連れてマイルームを後にした。その時の彼女の肌はピッカピカに輝いていたが、黒鋼の方はまるで魂が抜け落ちたかのようにどこかげっそりとしていた。何があったのか気になる人もいたが、聞けば最後。自分がどのような目に遭うのか予想もついていたので、心の中で黒鋼に合掌して無事を祈るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、今回はセイレムに登場したサーヴァントのうち。アビゲイル以外の三人全ての召喚に成功しました! うーん、バイトを始めたからと言って多少課金の紐が緩くなってきた気もしなくはないですがそれはそれ。セイレムはセイレムで面白かったから是非もないよネ!
あ、そういえば今更な報告なんですが。実は私の友人、今回のセイレムピックアップ2でアビゲイルを5人引いたんですよ。信じられます? なんか、一人目引いたけどティテュバに会わせたいとか言って課金したら、ティテュバと一緒に二人目が。中途半端に石残すのもあれだからということで更に十連回したら一気に三人と。本当に信じられねぇ結果になって一瞬キレそうになりましたね。自分もあんな神引きをしてみたい……。

さてと、これで2017年ガチャは残すところクリスマスのみ! 頑張って五月中に書き終え、六月上旬には投稿するぞ―――!! 

誤字脱字等の指摘、感想はいつでもお待ちしております! それでは、次回もよろしくお願いします! 


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冥界の女主人と巨人の穴倉

どうも。最近シャドバに飽きてきて、友人勧められて始めてたらまさかのコードギアスとコラボしていた『サーヴァントスローンズ』なるゲームに嵌りつつ青眼です。ガウェインの肩からハドロン砲とか懐かしくて好き……



さぁ皆さん! これで2017年のガチャも最後! まさか、というよりも大体分かってたかもしれない冥界の女主人、エレシュキガルが実装&ピックアップされた2017年クリスマスピックアップガチャです! ですが、今回のピックアップにはまさかの要素が混じっており……? 何はともあれ、本編スタートです!



 

 クリスマス。それは大人から子供まで分け隔てることなく愛されている日である。深夜に寝静まった子供たちにプレゼントを運んだり、大人は普段より少しだけロマンチックな一日を過ごす。友達以上恋人未満である若者たちはこれ機に一線を越えようとしたりと、様々なことで記念日になりそうな時期だ。勿論、そういったイベントを見過ごす者はこのアトラス支部でも少なくない。初めてのクリスマスは夢の中だったり、その次はオルタ化したジャンヌ・ダルクが若返りの薬をジャンヌ・オルタ・リリィ(略)になったりと。色々と意味☆不明なイベントであった。だが、今年こそはまともなイベントにするのだと一部のサーヴァントたちは張り切って飾り着けや料理の準備を整えていた。

 小太郎や呪腕のハサンといった身軽く活発な行動もできる人たちは支部内の飾りつけを担当。キャスターのギルやメディアといったキャスターは持ち前の『陣地作成』・『道具作成』スキルを用いて必要な機材や演目の順番決め、それからステージなどのセッティングを。他にもブーディカやエミヤといった家事万能な人たちはこの日の為にとっておきの料理の手はずを整えたり、ホームズはまた悪巧みをしていた教授にバリツしたりと。それぞれが忙しない日々を送っていた。

 

 そんな中、彼らのマスターである黒鋼が何をしていたのか。それは、カルデアに所属していたサーヴァントたちのデータをこちらに転送し、何か緊急を要することがあれば即座に駆けつけられるように空間転移サークルを作成したりと。まあ色々としていたのだ。勿論、カルデアとアトラスに直接作るのではなく、カルデアのある山脈の近くに設置する。これはダ・ヴィンチからの提案であり、何らかの方法でカルデアが陥落した場合はそこからこっち側に攻め入られる可能性があるからとのことだった。尤も、あんな魔境に在るカルデアが壊滅するような目に遭うとは到底思えないのだが、万が一ということもある。それに、サーヴァントのデータをこちらに移し替えているのも、魔術協会からの通知があったからだ。

 

 曰く。オルガマリー前所長、並びに所長代行をしていたロマニ・アーキマンの存在が確認されなかったため、人理継続保証機関フィニス・カルデアに新しい所長を送る。それにともない、危険な存在であるサーヴァントはカルデアの運営を引き継ぐ作業を行うこともあり、キャスター・『レオナルド・ダ・ヴィンチ』一騎のみを例外として残し、他のサーヴァントは全て退去させよとのことだ。無論、これは明らかにカルデアにいるサーヴァント(危険人物)を残らず消滅させるための罠だ。加えて、新しい所長がやってくるというのであればこれまで通りに組織を運営することも難しくなるだろう。レイシフトからサーヴァントの召喚。その他にもカルデアにあるデータは限りなく黒に近い。だが、何もそのまま協会の要件を鵜呑みにするほどこちらはお利口ではない。なので、まずは手始めにいつでもサーヴァントの力を借りられるように召喚データを移し替えていたのだが。ここでまさかの事件が起こる。

 

 最初から繰り返すかもしれないが、今は12月の中旬。もうすぐクリスマスという一年を締めくくる最後のイベントが起こるのだ。にもかかわらず起こった事件というのは、サーヴァントをも疲労昏倒する謎の病の発症である。ナイチンゲール婦長やサンソンいった医術に特化したサーヴァントたちが勢揃いでこの病の究明に努めたが、手掛かりになるような答えを得ることは出来ず、逆に自分たちも病に侵されてしまうという事態に。更にクリスマスを楽しみにしていたジャックやナーサリー、準備をしていた多くのサーヴァントもバタバタと倒れていく様を見て、これは明らかに何者かがここを攻撃していると察知した。確認したところ、カルデアの方も似たような状況に陥っているらしい。どうにかせねばと対策を考えていた時、今にも斃れそうなのに相変わらずの空元気でウルクの健在を知らしめるギルの姿があった。彼は持ち前の()を駆使して事態の大半を把握したことを纏めると、此度の騒動はウルクの冥界からの攻撃らしい。

 

「何を以て我らを襲うのは分からないが、このままでは(オレ)が企画した完璧なクリスマスが台無しになる。故、今すぐ冥界に赴き、早急にこのシュメル熱を停止させよ! そして、我に一夜の奇跡を齎すのだ!!」

「いやその奇跡は無理だろって、いきなりレイシフトとかふざけんなよギルてめぇ――! 帰ってきたら覚えとけよ―――!!」

「フハハハハハ! 小間使いの戯言など聞く耳持たぬわ! 精々冥界に魂を囚われぬように気を付けて帰って来るがよい!」

 

 

 

 

 ということがあり、なんやかんやで冥界下りをすることになってしまったアトラスとカルデアの二組。さらに謎の羊によってサンタへと変化させられたアルテラと一緒にメソポタミアの冥界。つまり、そこの主人であるエレシュキガルにこの騒動を止めてもらおうと説得しに向かったわけなのだが、問題なのは今の時間軸だ。黒鋼達がいたのは2017年に対し、今回レイシフトで向かったのは第七特異点が解決して少し経った冥界。つまり、今回のシュメル熱を起こしたエレシュキガルは絶対魔獣戦線(あの時)に侵した大罪、生者に女神の加護を施してしまったことについての罪を償うために消えて新たに生まれ変わった後ということになる。その罪を濯ぐ為、彼女はあの時の記憶を削除した。こちら側が何度説得を試みても意味をなさず、一柱の女神としてこちらに攻撃を仕掛けてきた。一度は彼女の迎撃を受けて危険な目に遭った彼らだが、最終的にはエレシュキガルにクリスマスをプレゼントするという目的を定め、冥界下りを再開した。

 なお、その際には魔獣戦線で戦死したサーヴァント等が門番として立ちはだかっていたのだが、ある階層においてはその限りではなかった。第六階層、誰も居なかったはずのこの場所にのみ。ある男が彼らを待っていたのだ。白いローブに身を包んだ理想郷(ろうごく)から行く末を見守り続ける―――鼻糞の魔術師が。

 

「え、ちょっと僕の扱い雑すぎないかな! 確かにちょっと黒幕の正体をバラしちゃったり、彼女にとって申し訳ないような発言をしたのは理解しているつもりだけど、それでもちょっと酷すぎるような」

「うるせえ、限凸した『起源弾』を装備した金時のバイクに轢き殺されたくなかったらとっとと要件を言えよ師匠」

「え、いやだから君も一応弟子なんだからもう少し言葉を選んで」

「よし分かった、『初歩的なことだ、友よ(エレメンタリー・マイ・ディア)』からのケツァルさんのコブラツイストがご所望だな? 待ってろ、今すぐ用意してやる」

「今のエレシュキガルは記憶を消えてるから説得しても効果が無い! 彼女に宿ったネルガルという神の権能が、罪の意識で弱ったエレシュキガルに取り憑いてその使命感を利用してるだけなんだ! 彼女を消して、今度は自分が冥界の主に成り代わる為にね!だが、そんなバッドエンドは私としても願い下げさ! さぁ、頑張って冥界の危機を救おうじゃないか!」

 

 本当に弟子と師匠の会話かと思うほどに殺伐した話ではあったが、何とか花の魔術師の協力を取り付けて共に冥界下りを続行。途中で金星の駄女神が現れたような気がしたが、夏のイベントと同様うっかりなところは変わらず呆気なく出落ちした。

 さて、そんなこんなでようやく冥界の底の底。深淵と称された場所にまでやって来たわけだが、そこでもさっき名前が出ていたネルガル神が邪魔をしに来た。敵として現れた以上は駆逐するだけなのだが、今のあれはこの冥界に巣食う怨念の集合体。それに対抗できるのは冥界の女主人であるエレシュキガルのみであり、その彼女が協力して貰えないことでゾンビの如く蘇ってはこちらに攻撃を仕掛けてくる。深淵の底で消えようとしているエレシュキガルを引きずり上げるべく、カルデア組は深淵の底へ。黒鋼達はネルガルを相手に時間稼ぎをすることになるのだが………如何せん相性が悪く、向こうの体力は無尽蔵なので力の質はこちらが上だったとしても、数を頼みにした戦略で潰されてしまった。

 さしもの彼もここまでかと諦めかけたその時。なんとエレシュキガルが魔獣戦線(あの頃)の記憶を引き継いで舞い戻ったのだ。事の在り方を正しく理解した彼女はその権能を巧みに扱い、ネルガルに集う怨念を一つに凝縮。自らの槍にアルテラサンタの虹色の輝き、カルデアとアトラスの両マスターの付き従うサーヴァントたちの総攻撃を受けてネルガル神は今度こそ消滅した。彼女が記憶を引き継げたのは、アルテラにサンタとしての力を授けた謎の羊。ある事件でイシュタルの身代わりとして冥界にその魂を捧げられ、冥界に逝ったら逝ったらでエレシュキガルにこき使われていたドゥムジという神が、彼女の記憶を『生命の水』という物を用いて保護していたらしく。絶体絶命の危機にそれを彼女に返すことであの頃の記憶を取り戻した、ということらしい。

 

 相変わらず美味しい所は持って行くと感心しながらも、ふと終局特異点での出来事を思い出した。あの時、確かにエレシュキガルは時間神殿に姿を現していた。一瞬しか顕現していなかったとはいえ、このエレシュキガルがあの時の彼女に繋がるというのなら、ここまで切羽詰まって冥界を救う必要は無かったのではと、現実主義な黒鋼は思い立ってしまった。そのことについて意見を聞こうと羊のお兄さん(笑)を探したのだが、既にいつもの理想郷へと帰還していた。そのことに苦い笑みを浮かべながらも、黒鋼は一人寂しく冥界を後にした。エレシュキガルに礼を言う必要は無い。今回は彼女にあの時の恩を返しに来たのだから。

 別れを言う必要は無い。きっといつの日か、また会える日が来る。そんな日を心のどこかで望みながら、黒鋼達は彼らに気付かれぬ内に冥界を後にするのだった。

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「ということがあったわけで。今回の周回場は冥界になっております」

「承知しております。周回ぷれいというのも、げえむを進めるために大事な要素でございますからね」

「けど、流石に限度っていう物があるでしょ。私、結構しんどいんだけど?」

「すまん。二人には申し訳ないとは思ってる。だけど、冥界が閉まってしまうギリギリまでお願いしたい……!!」

 

 場所は変わり、例の如く黒鋼は召喚場にて新たな英霊の召喚を執り行おうとしていた。今回、彼の護衛に付いていたのは二人のアーチャー。一体誰の入れ知恵か、それとも本当にそっちの才能があったのか。知らない内にレクリエーションルームにあるゲームのハイスコアを叩き出してしまっている廃人ゲーマー、もとい、第七特異点でその身を散らして世界を護ったアーチャー・巴御前。それから、セイバーの相手ならば私に任せろと言わんばかりのNP回復スキル&クリティカルスターを大量に生む褐色ロリ蠱惑キス魔のクロエ。二人には今回の周回でかなりお世話になっているので、冥界周回の帰りに召喚の護衛に付いてきて貰っている。ちなみに、いつも黒鋼の隣に立っているはずの彼女は件のシュメル熱がまだ抜けきってはおらず、復活したナイチンゲール婦長が監督の下で絶対安静中である。クリスマスの準備もやり直しで、彼女が復帰する頃には再開できるだろう。

 

「いや、別に周回に同行するのはいいのよ。でも、あの黒いセイバーに向かって鶴翼三連をするとこう、私の中にある霊基がちょっとおかしくなるというか。なんというか、複雑な気持ちになるのよねぇ。あとでお兄ちゃん(エミヤ)に聞いてみようかしら」

「やめてさしあげろ。さり気なく並行世界のお兄さんの心の傷を抉るんじゃあない……!」

「それよりマスター。次の周回はいつなのでしょうか? 私、そろそろ一撃であのセイバーを落としてみたいのですが。所謂ワンパンチャレンジに挑戦してみたいです!」

「あんたもあんたで物騒なこと言うなよ!?」

 

 目を爛々と輝かせながら恐ろしいことを言う巴御前に恐々としながらも、今回の召喚用に用意しておいた聖晶石を取り出す。今回の目標は、無事に冥界の女主人に復帰したエレシュキガル………ではなく、同時ピックアップであるキャスターのギルガメッシュを引く事である。同じくランサーのメドゥーサ(リリィ)も引ければ御の字だが、正直なところギルだけで今回のガチャは打ち止めにしたい。

 

「それにしても以外よね。研砥が一番レアリティの高い彼女じゃなくて、キャスターの金ぴかを狙うなんて。一体どういう風の吹き回しかしら?」

「別にそんなんじゃねぇよ。エレシュキガルとのやり取りは既に済ませた。さっき報告を聞いたが、カルデアの方は無事に召喚成功したらしい。エレシュキガルとは……まあ、そんなに話したことも無いし。あんまり思い入れもないからな。イベント礼装も欲しいし、この際ギルの宝具強化に石を使いたいってだけだ」

「それは賢明な判断かと。ここ最近、研砥殿の召喚は成功の連続で御座います。ご自身の身にあった召喚を行うのは良きマスターの第一歩と言えましょう」

「だよな。つまり、今回の俺は正しくガチャを回すという訳だよ! はっはっはっはー!」

 

 悪趣味な高笑いをしながら、着々とシステムの起動と聖晶石をサークル内に入れる。今回は本当にエレシュキガルを狙うつもりは毛頭ない。というより、ここで新しいサーヴァントを召喚してしまえば、本当に育成が追い付かなくなるのだ。加えて、彼女の育成には『宵鳴きの鉄杭』という新素材を216本も持って行くという情報をカルデアを通して聞かされている。あいつはそれでも喜んで周回をしているらしいが、生憎と石を砕いてまで周回する気力は彼らにはない。

 

「そんじゃパパっと回して終わるぞー。これが終われば、また冥界でオルタ狩りだからよろしく頼む」

「はいはい。さっさとやっちゃいなさいな。すり抜けた育成する日々に逆戻りするのを期待してるから」

「残念だけど、今回のイベントでたんまりと金種火を回収したからな。新しい人が来ても一気に育成できるぞ」

「いえ、すり抜けは普通に良くないのですから、あまり滅多なことは言うべきではないと思うのですが……」

 

 巴がこちらに気を使うように意見を申してはいたが、当の本人はそんなことはつゆ知らず。勢いに任せて十連召喚に挑んだ。だが、結果は散々な結果になってしまった。最低保証、つまり星四の礼装が出て終わるという悲劇が起こってしまったのだ。しかも、出てきた礼装は『鋼の鍛錬』というイベント礼装でもない。

 

「………まあ、この間まで結構な引きしてたからな。こんなもんだよ、こんなもん」

「とか言ってるけど、結構複雑そうな顔してるわよ? もしかしたら、今回は久しぶりに大爆死かもね」

「どろ率やがちゃ運が高いのを知らしめると不況を買いますからね。研砥殿も、久方ぶりに地獄を見るべきなのかもしれませぬ」

「さりげなくディスのやめてくれない? 鉄の意思を持ってる俺でもグサリとくるぞ?」

 

 散々な言われように苦笑しながら、続けざまに二十連目の聖晶石をサークルに放り込む。次はイベント礼装が二、三枚くらいは出るだろうと淡い希望を込めて行った十連召喚。確かにイベント礼装はこの十連で出現した。ただし、星四のイベント礼装が一枚だけ出現し、他は全て既存の星三のサーヴァントと概念礼装という凄まじい結果になったが。

 

「……………………………………まあ、この間まで結構な引きしてたからな。こんなもんだよ、こんなもん」

「いや、動揺隠せてないからね研砥。しっかし、まさかここまで酷い有様とは。この後が不安ね」

「しかし、回さなければ結果は付いてきません。回す、回さないはマスターが決めること。ここで撤退しても私は何も言いません」」

「いや回すけどね。あと三十連は出来るし、むしろ二十連して何も得られませんでしたとかシャレにならないし」

 

 このまま負けてたまるかと、勢いに身を任せて三十連目の聖晶石を投入する黒鋼。ぶっちゃけた話、今まで振り切れていたガチャ運が低下し始めているだけなのだが。さすがに礼装が一枚だけというのは心もとない。そも、二十連で星三のイベント礼装さえ出ないというのはいかがなものか。さすがにガチャの排出率渋りすぎだろと言わざるを得ない。

 半ば自棄になりながら行った三十連目の召喚だが、なんと一回目で星五の礼装が出現。これで今回のイベント礼装は各種一枚ずつゲットすることが出来たわけだが、それでも何とも言えない空気が三人には出来ていた。このまま何も出ずに終わるのかと黒鋼が落胆したその時、三本の光のラインが黄金の輝きを纏う。通常のサーヴァントより高い霊基を持つサーヴァントの召喚に成功したことを知らせるそれは、この場にいた三人の空気を一気に明るくする。しかも、そこから現れたのは槍兵のカード。今回ピックアップされている彼女のクラスでもあったのだから溜まった物じゃない。

 

「え、あそこまでどん底に叩き落としておきながら大勝利するの? うそでしょ? ただのギャグよね、これ?」

「いやいやいやいやいや。さすがの俺もエレシュキガルは呼べない自信はあるぞ。だってお前、あいつ完璧にカルデア寄りのサーヴァントじゃん。アトラスが呼んじゃダメな奴じゃん」

「いえ、そう言っておきながら巌窟王殿やアルトリア殿を召喚した研砥殿に言われたくは無いのですが……しかし、まさか。あのガチャ率低下からの大勝利。この巴、感服致しました」

「だから盛り上げ過ぎだっての! どうせフィンとかだからね、これ!」

 

 調子の良いことを言う二人のサーヴァントに言われるも、黒鋼も悪い気はしないので若干照れながら笑って帰す。しかし、本当にこんな結果を迎えても構わないのだろうか。元々キャスターのギルガメッシュ王の宝具レベルを上げるためのガチャなのに、エレシュキガルという星五を引いてしまっても、本当に良いのだろうか。

 ―――良いはずがない。その逆、本気で狙っていた人が召喚に成功するのは良くても。たまたま、偶然で星五を引くなど。本来あってはならないのだ。故に、この後の結果は当然だと言える。金色のランサーのカードが徐々に薄れていき、召喚に応じたサーヴァントの姿が露わになる。その姿は通常の女性よりも身長が低く。ジャックやナーサリーといった女の子に分類すべき容姿をしている。だが、それとは別に人の視線を釘付けにするような何かを秘めている。顔を隠すように黒いローブに身を包み、手に持った鎖鎌を床に置いた幼い少女は、こちらに面を向けて口上を述べた。

 

 

 

 

 

「ランサーのクラスで現界しました。真名、メドゥーサ。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「うん、知ってた! ようこそメドゥーサ! 我がアトラ」

「近づかないでくださいロリコン」

「思いっきりディスられた上に冤罪だぞ!? お、俺ぁロリコンじゃねぇ!!」

 

 どこかの漫画で見たようなやり取りをしながらも、いきなり辛辣なコメントを送ってきたメドゥーサ(リリィ)に愕然とする黒鋼。おかしい、召喚されたばかりの彼女はまだ自分たちのことをあまり知らないはず。いくら聖杯が世界を救ったカルデアとアトラスのことを多少教えたとしても、そこにいる人物の詳しい情報までは伝えないはずだ。そういった疑問を尋ねると、バビロニアではお世話になったと一言だけ告げてメドゥーサは召喚場を後にした。当然、そんなことを聞かされて黙っている人はここにはいない。メドゥーサが去った直後、クロは干将・莫耶を投影し、巴は愛刀の切っ先をこちらに付きつける。

 

「マスター。貴方にも性癖というものはございましょう。ですが………その……幼女趣味というのは、些か危険かと。通報されてアカBANされてしまいますよ」

「というか、私がいるのに他の女の子に手を出すとかどういう了見なのかしら? これは一つ、思いっきり魔力供給(キス)しないとねぇ?」

「………マスター。お覚悟を」

「落ち着け巴さん! クロのキスというのはただの魔力供給という名の医療行為の一種で会ってやましいことは一切ない! ………ん? というか、魔力供給自体はアトラスから必要な分を渡してるはずだよな? 何故にキスが必要なのん?」

「趣味ね。魔力の味というか、相性がいい人を探してるのよ。まあ結局、イリヤが一番相性がいいんだけどね~」

「それただの通り魔じゃん! いや、この間も『通りキス魔隊』とかやってたけども! それに俺を巻き込むんじゃねぇ!」

 

 さりげなく俺の評価を下げる要素になっていたクロの言動にげんなりしながら、再び聖晶石を用意し、そして十連召喚を実行する。これで通算四十連目ではあるが、ここまで召喚に成功したのはイベント礼装一枚と、同じピックアップ対象であるメドゥーサ、既存の星四礼装だけである。ここまで絶望的なガチャというのも久しいが、逆にここを乗り越えれば目当てのサーヴァントを召喚する可能性もある。この際イベント礼装はどうでもよい、キャスターのギルの宝具レベルを上げたいがために黒鋼は一心不乱にガチャを回し続ける。しかし、そういった時にこそ物欲センサーは働くもの。四十連目で召喚されたのは、さっき召喚されたメドゥーサだった。しかも、二人も召喚してしまったのである。

 

「……………………ごめん、あとでちゃんと事情を説明するから。先に育成場に向かっておいてくれ」

「分かりました。ロリコン(マスター)。仕方ありませんが、貴方の指示に従いましょう」

「ではお先に失礼しますねロリコン。お二人も、この後はよろしくお願いします」

「二人目に至っては隠す気も無いな! いっそ清々しいわ!」

 

 そしてやっぱりディスされる現状に五体投地で感情を表現する黒鋼。それに苦い笑みを浮かべる巴と、対照的に大笑いするクロエ。同時ピックアップなのでこういったこともありえる。だが、流石にメドゥーサの方にガチャが振り切りすぎではないだろうか。そろそろ今回のガチャ用に取っておいた聖晶石も尽きる。クリスマスイベントはボックスガチャという、周回した数だけマスターの思いにこたえる素晴らしいイベントなので、周回用に石を買ってしまう者もいるのだ。なので、ぶっちゃけた話。ガチャを回すよりか石を砕いて周回した方が良いというマスターは少なからず存在する。

 

「どうしますか? ここまでのガチャ運の低下はこれまでの中でも最悪に近いです。ならば、ここで周回にその石を砕くという選択肢も」

「いいや、あくまでこの石は召喚するために用意したものだ。なら、最後までガチャに挑むべきだろう」

「で、本音を言うと?」

「ここまで爆死画像生まされながら引けるか! 意地でもキャスギルを召喚してやらァ!  爆ぜろサークル! 弾けろ物欲! バニッシュメント・ディス・ガチャァァァァァァァ!」

「さりげなく他作品のセリフを改悪して使わない方が良いと思うのですが……」

 

 やはりというか、やっぱりというか。ここまで目当てのサーヴァントの召喚が出来なかったことがストレスに溜まってきたのか。ついに発狂しながら召喚行為に及ぶ黒鋼。最後に残された聖晶石はサークルの中に飲み込まれるかの如く注ぎ込まれ、遂に五十連目の召喚が始まった。そして、一瞬で希望は潰えた。最初の一回目で今回のイベント星五礼装が出現し………黒鋼はどこぞの団長よろしく血を吐きながら地面に倒れこんだ。

 

「俺はァ…………止まるぞぉ………」←orz

「その………マスター。勝負は時の運と申します。それにまだ召喚は続いております故、まだ希望を捨てるべきではないかと思いますが」

「いや、さすがにそろそろ失敗するべきよ。というか、そもそも宝具レベルを上げようだなんて考えるからすり抜けるのよ。石の管理くらいしなさいよね」

 

 あまりの結果に加えて至極まっとうなクロエの意見が容赦なく黒鋼の心を抉る。星四のサーヴァントを狙った時にこそやってくるこの絶望的なすり抜けという悲劇はよくあるものだ。具体的に言うと、ハロウィン2017の時はランサー・ヴラド公を狙っていたはずなのにクレオパトラが召喚されたり。この間の段蔵を召喚しようとして頼光が来たりなどなど、目当てのサーヴァントが引けないことに定評があるのが黒鋼研砥というマスターである。

 そうなのではあるのだが。何故か、今回はその限りではないらしい。突如として眩しい輝きが召喚場を照らす。あまりにも突発すぎるこの現象に驚きを隠せない三人を置き去りにして、一人のサーヴァントが召喚される。身の丈ほどの斧を片手に持ち、目元にまで垂れ流された金の髪に、燃え盛る炎のような赤い瞳。既に見慣れた立ち姿ではあったが、いつ見ても神々しい男が目の前に舞い降りた。

 

 

 

 

 

「キャスター・ギルガメッシュ。ウルクの危機に応じ、この姿で現界した。貴様の召喚に応じたのではない。付けあがるなよ、雑種」

 

 

 

 

 

 

「どうした、最後の最後でこの(オレ)が来たぞ小間使い。精々伏して喜ぶが―――」

「王様――――――!!」

「ぐぬっ!? くっ、貴様ァ! いかに我が認めた小間使いとはいえ不敬が過ぎるぞ! 我が魔仗の藻屑となる前にって顔をこすりつけるな! 汚いであろう!」

 

 最後の最後で召喚に成功したキャスターのギルに、感謝のあまり頭から全力で突撃してしまう黒鋼。それに召喚されたばかりに彼が対応できるはずもなく、されるがままになってしまっているのを見て巴とクロエは苦い笑みを浮かべる。これで通算四人目の召喚に成功したわけだが、流石に五人目を引く余裕はないので今回はこれでお開きとなる。そのことでも更に不貞腐れる王様ではあったが、伝承結晶3つを贈呈すると怒りを収めてくれた。そのことに安堵しつつも、今度はQPと結晶が減っていくことに黒鋼は頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

オマケ―――カルデア組のサーヴァントの移送完了後の一コマ

 

「……………ツーンなのだわ。むっすーなのだわ」

「……………どうしてこうなった」

 

 クリスマスパーティーを終え、ようやく平穏が戻ってきたはずのアトラス院ではあったが。カルデアに所属しているサーヴァントたちの移送が終わり、こっちでの生活に付いてあれこれと説明をして回っていた時だ。現在進行形で目の前にいる女神さまに付き合わされているのである。理由は大体察してはいるのだが、問題なのはこの女神さま。どこで知ったのか知らないが黒鋼のマイルームに連れ込んだのである。自室とはいえ、こういった形で2人きりにさせられるのはあまりないことで、数多の英霊と契約した彼でさえ現状にドギマギしているのである。話題を切り出そうにも、向こうがこちらの話を聞こうとしないから緩やかに時間だけが過ぎていく。

 

「……なんで、なのかしら?」

「は? なんでって、何がだ?」

「何で、先に冥界から帰ってしまったのかしら? あのクリスマスの夜、カルデアのマスターにはちゃんとお礼を言った。貴方にも、ちゃんとあの時お礼を言いたかった。だから、どうして先に帰ってしまったのか。今ここでその理由が知りたいのだわ」

 

 むっすーとしておきながら、ようはあの時のことについて聞きたいらしい。そんなことかと溜め息を漏らしそうになったが、そんなうっかりをすればあの炎槍の餌食になるだろう。いや、エレシュキガルはイシュタルと違って思慮深い女神なのでそんなことは無いと思いたいではあるが、なにはともあれ、選ぶ言葉には気を付けないといけない。といっても、彼が口に出来ることなんてたかが知れているのだが。

 

「幸せそうだったから。あいつと、狭間と話してるあなたが。本当に、心から幸せそうだったから。それに、言ってしまえば俺はただのオマケだ。アトラスにとっては大切なマスターの一人なのかもしれないが、あくまでこっちが向こうのサポートをするのが鉄則なんだ。アトラスとカルデアとの契約ってのは、そういうものだから」

 

 とどのつまり、カルデアとアトラスが協力関係にあるのは契約書による協力関係だ。人理焼却から続くこの騒動に決着が着けば、穴倉の巨人はこれまでのように地下に鳴りを潜めるだろう。そもそも、黒鋼は一度世界を救おうとして死んだようなものだ。魔術世界で生きるのであれば、自分という存在の情報は可能な限り知られない方が良い。だからこそ、存在しないことになっている彼がこれからの活動には欠かせないのだ。

 話が逸れたかもしれないが、要は第一から第七の特異点。それから亜種特異点も全て、カルデアが世界を救ったのだという証明に過ぎない。それに多少加担しただけの自分が、冥界の女神で。それもティアマトを倒す為に文字通りその身を粉にしてでも援護した貴女と話すなんて恐れ多いと。黒鋼は自分の言葉で彼女に伝えた。それを聞いたエレシュキガルはなるほどと頷き―――――直後、思いっきり黒鋼の頭を叩いた。

 

「って、貴方は馬鹿なのかしら!?」

「あいたっ!? ちょ、なんでいきなり頭を叩く! まるで意味が分からんぞ!?」

 

 地面にめり込むかと思わないくらいに筋力値に物を言わせて叩かれた黒鋼は、さすがにそれに対して目の前の女神を訴える。見る人が見れば間違いなく止めに入るくらいの痛みだが、彼女は当然の報いだと言わんばかりに鼻を鳴らすだけだった。

 

「別に貴方がどこの誰だろうと、何を為したかなんて関係ないのだわ。大切なのは、貴方はあの時、私を助けるために冥界までやってきてくれたこと。カルデアにいるマスターが私を見つけるまでの間ネルガルを抑え込んでいてくれたこと。何より、その………」

 

 思いついたことを片端から告げていくエレシュキガルだが、途中で我に返ってしまったのか。少し口をもごもごとさせた上に顔を赤くしてしまう。その一面にこっちに来ても彼女は変わらないとどうでもいいことを考えていた黒鋼ではあったが、咳ばらいをしたエレシュキガルは改めて口を開いた。

 

「その………あの時、貴方と話した夜は楽しかったのだわ! そ、それだけでも私には貴方にお礼を言うだけの十分な理由なの! というか、女神から感謝の言葉をもらうなんて普通じゃ絶対にありえないことなんだから、ありがたく受け取りなさい!」

「いや、俺いっつもお礼言われまくりだけど。主にケツァルさんとか玉藻さんからだけど」

「そう言えばそうだったのだわ――――!?」

 

 効果音にがーん、と効果音が付きそうなくらい肩を落としてしてうなだれるエレシュキガル。一喜一憂し、ころころ変わるその表情は見ていて飽きない。といっても、そんな悪趣味を黒鋼は持ち合わせてはいないのでうなだれる女神さまをあやす。

 

「はいはい、俺が悪かったですよ。そっちは何にも悪くない、こっちが悪かった。OK?」

「いいえ、こちらも少し言い過ぎたのだわ。その………ごめんなさい」

「エレシュキガルが謝った………!?」

「イシュタルじゃないんだから、悪いと思えばちゃんとこっちから謝るわよ! あ~もう、こんなこと言うつもりではなかったのに、やっぱり貴方と話していると調子が狂うのだわ!」

 

 ぽかぽかとこちらの胸板を殴りつけるエレシュキガル。その表情や仕草は堪らなく可愛いのだが、無意識に力加減を忘れているのか殴られている彼としては凄く痛い。一発一発が鈍器で殴り付けられているに等しいことを数分繰り返していると、流石に彼女も落ち着いたのか。再びこちらに謝罪しながら咳ばらいをした。

 

「コホン。え~と、そ、それじゃ色々あったけど仕切り直すわね」

「い、いや。色々どころかかなりあったと思うんだけど、って、はい俺が悪かったですなので炎槍をこっちに向けないでください!」

 

 照れ隠しでこちらを容赦なく突き殺そうするのは相変わらずのようなので安心する反面、照れ隠し程度で殺されるのは真っ平ごめんこうむると全力で伝える。本人も多少自覚はあるのか呻き声を少しだけ漏らしたが、そんなことは知らんと言わんばかりに続けた。

 

「その……ようするに! 私が今日伝えたかったのは貴方への謝罪と感謝、それから………その、こ、この冥界の女主人であるエレシュキガルが! 貴方の力になってあげるってことを伝えに来たのよ! 地に臥し感謝なさい!」

「えぇ……………いや、そんなうっかりしそうな女神のお力添えなんて結構ですぅ……」

「なんで!? え!? 今のってありがとうって感謝して終わる感じよね!? どうして断るのかしら―――!?」

 

 自分の想定外の事が起こったことに対する動揺からまた泣きじゃくるエレシュキガル。自分でも今の返しはおかしいとは思ったが、これでいいとも黒鋼は思っていた。元々、エレシュキガルはカルデアのマスターが召喚したサーヴァント。カルデアに在籍するのが難しくなったからやむを得ずこちらで預かっているだけであって、向こうにしか在籍していないサーヴァントの力を借りるのは彼としても扱いに困っているのだ。主に花の魔術師がいると知った時には全力で逃げたものだ。剣の師匠ではあるが、さすがに現実でも会いたいとは思えない。

 ―――けれど、まあ。ここまでこちらの力になりたいと真摯に訴えてくる人の思いを無碍にするのもあれだとは思ったので、ああいった答えを返したのだが。やはり逆効果のようだ。面倒くさいとは思ったが、事実として向こうはこちらにある借りを返したいとも言っているのだ。ならば、それに応じるのが最適解だろう。そう結論付けて、未だに泣きじゃくるエレシュキガルをまたあやしながら頭を撫でる。

 

「分かったよ。俺の負け、降参だ。こちらとしても戦力は一人でも多い方が良い。それに、こっちが動くときはカルデアの援護に回る時だ。その時は、全力で力を貸してもらうぞ。いいな?」

「―――! ええ! 任せない! 地の神にして、冥界の女主人。このエレシュキガルが貴方の行く道を切り拓いてあげるのだわ!」

 

 黒鋼の降参宣言に、花が咲いたかのように満面の笑みを浮かべるエレシュキガル。その変わりように内心でチョロインという失礼なワードが頭によぎってしまった黒鋼ではあったが。さすがにそれを口にするだけの勇気はない彼は、これから共に過ごす日々に一抹の不安を覚えながら目の前の女神の相手をするのであった。

 

 

 

 

 






というわけで、ようやくクリスマスガチャ篇終わり! もう半年も先にある帝都イベとかアナスタシアのガチャ報告するのしんどいのだわ………。まあ、頑張って書きますが。本編にかかわりがなさそうな物(例;バレンタインや復刻版空の境界など)はショートカットしてもいいですかね? いいですよね? でないと何時まで経っても報告が追い付かないんですよぅ………

さて、次回は今更ながらの新年ピックアップ&福袋! 皆さんはこの時にどんな人が当たったかな? 何はともあれ、本編の更新も頑張りますのでこれからもよろしくお願いしま~~す!!


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鐘は鳴り響き白鳥は舞う

 ほい、ぼちぼちガチャ報告の方から更新していきますですよっと。いやぁ、もう暑いしテストあるしEXTTELA Link楽しいし執筆しなきゃだし忙しいですわぁ! 多忙で死ぬよほんと。 ってか、なんでテスト期間中なのにバイトしてんの私? アホ? アホなの? でも三周年とか水着とか欲しいの多そうだしお金稼ぎたいから仕方ないよネ!
 さて、今回は今更ながらな新年ピックアップガチャとなっております。ただ、回した数が数なのでなんと豪華二本立てという名の長文になっております。時間も時間ですので、自分に合ったペースでお読みくださいませ。








P.S!!
異聞帯についても少しだけ触れるよ!


『…………どうしてもダメかね? これは君にとっても得があることだと私は考えているのだが』

「何度も言わせんな。そして、口ではそんなことを言っているが。あんただって本当は理解してるんだろ?」

 

 薄暗い闇の中。その闇に紛れて電話をする影が一つ。時刻は既に深夜を回っており、子供や一般の職員ならば寝ている時間帯。だが、そんな時間帯にもかかわらず部屋の外はとても騒がしい。戦闘音や悲鳴が聞こえており、時に爆発音でさえ起こる始末。そのことに電話先の相手は愉快そうに鼻を鳴らす。

 

『そうか。残念だ、君さえ良ければ私たちの同胞となることも不可能でもなかっただろうに』

「はっ、こっちの状況を知っておきながら愉快に電話してくるドSが言ったって信用ならんわ。まあいい、要件はそれが最後か? この端末は後で破壊するから、遺言代わりに聞いてやるよ」

 

 彼を知る人から見れば、きっとらしくないと口を揃えて言うだろう。それくらい、今の彼は。黒鋼研砥は電話先にいる男と、男が与している仲間たちに殺意を抱いている。それは彼やその仲間たちを侮辱されたからではなく、純粋な怒りによるものだった。彼の言ったことに苦笑したのか、含みのある笑みを浮かべたように嗤いながら男は最後の言葉を紡ぐ。

 

『では最後に言わせてもらおう。これより、我々クリプタ―と君たち汎人類史との全面戦争が始まる。喜べ少年少女たちよ。君たちの戦う理由は今、生まれた。存分に……思うがままに殺し合うがいい』

「言ってろ。そっちこそ覚悟しておけ。俺達が取り戻し、あの人が願った平和を。未来を無に帰した貴様らは断じて許さん。せいぜい慢心しないようにと伝えておけ」

 

 必ず叩き潰す。ゾッとするくらいに低い声で呪うようにその言葉を付け加えてから、黒鋼は通話を切る。直後、貯めこんでいた怒りをぶつけるように端末を床に叩きつけ、何度もそれを踏み潰す。基盤が見え、少しだけ火花が飛び散ろうとそれを物ともせずに。原型を留めることが無いレベルになるまで何度も何度もそれを踏みつける。こんなことをしても何もならない。そんなことは分かっている。それを噛み締めるかのように、悔しがるように歯を食いしばりながら新たな戦いに備えるのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

「―――皆、よく集まってくれた。今ここに集まっているのはアトラスにいたサーヴァントだけじゃない。きっと、カルデアにいたサーヴァントもいるだろう。貴方たちに伝えたいことは三つある」

 

 『人理継続保証機関 フィニス・カルデア アトラス支部』。そう呼ばれていたこの組織にある部屋の中でも割と広めに作られた場所、召喚ルームの中央に黒鋼は立っていた。その周りにはこれまで二つの組織が召喚し、人理焼却を防いだ後でも力を貸してくれたサーヴァント達が集まっていた。いつになく重苦しい空気が漂っている中、手元にある紙の束を持った彼は黙々とそれを読み上げる。

 

「まずは一つ目。12月31日。カルデアは謎の組織による襲撃を受けて壊滅。万一に備えて彼らの元に残るように指示しておいたホームズさんが行った最後の通信から、アトラスがカルデア本部に送った『虚数潜航艇 シャドウ・ボーダー』と『ペーパームーン』を用い、虚数空間に逃げ延びたとのことだ。カルデア組のサーヴァント達は、マスターたちは無事だということを知ってもらいたい」

 

 黒鋼からの通達を聞き、エレシュキガルを筆頭としたカルデアのみが召喚に成功したサーヴァントの面々が安堵の溜め息を漏らす。自分マスターたちと会話が出来ない日々が続いたこともあり、精神的に参っていた人も多くいたから仕方がない。だが、事態はそんな気を緩めることさえ許してもらえない程に状況は緊迫している。それを伝えるために、黒鋼は伝えるべき二つ目の項目を読み上げる。

 

「次に二つ目。これはカルデアが壊滅に遭った日に同時起こったことだが。2017年を基点として、そこから先の未来が文字通り白紙となっていることが判明した。具体的にはどうなってしまったのかは不明だが、それが原因となりカルデアスがデータ処理を出来ずフリーズ。過去に移動した地点に向かってのレイシフトが出来なくなったことを伝えておく」

 

 レイシフトが出来ないということを知った時、多くのサーヴァント達が愕然とした。中には膝を突く人たちも多く、そこまでレイシフトが出来ないことが残念なのかと伝えた本人が驚いていた。息抜きがてらにレイシフトをするという贅沢が出来なくなった程度で大げさだと思ったが、中にはレイシフト先で狩りや買い物を楽しんでいたサーヴァントも少なからずいたので仕方のないことだと納得する。

 

「最後に三つ目。今回の騒動。いや、騒動を越えて人理焼却に匹敵するこの事件を起こしたのは。カルデアに所属していたエリートチーム、通称Aチームの面々だということが判明した」

 

 最後の伝えたこと。それは、カルデアにいたマスターが我々を裏切り、あろうことか未来を消して何かを為そうとしている事実だった。これはまだ断定できた情報ではない。だが、あの時の電話の主や、世界が無になった時に聞こえた男が残した名前。キリシュタリア・ヴォーダイムという名前から検索した結果。そういう結論に至った。告げられた三つ目の事実にサーヴァント達は動揺を隠せない。当然だろう。こんな事実を突きつけられて戸惑わない人なんて、どこぞの英雄王くらいのものなのだから。だからこそ。そう、こんな状況に陥ったからこそ彼らは立ち向かわなければならない。

 

「レイシフトは実行不可、カルデア組はどことも知れぬ虚数空間へと逃げ、世界の歴史は文字通り白紙となった。だが、まだ俺たちには戦う術がある! 戦う理由がある! 少なくとも俺はそう思っている! だから……だからこそ! この場を借りて今一度。貴方たちに助力を請いたい!」

 

 頭を下げて眼前に並ぶ一騎当千の英雄たちに黒鋼は助けを請う。人理焼却を防ぐ旅を終え、魔術王の元から逃げてでも生き延びた魔神柱たちの討伐。本来はそれで役目を終えるはずだった彼らに再び力を貸して欲しいと頼る。厚顔にも程があるとは思ったが、これから先の戦いにサーヴァントという強力無比な助っ人は必須。勿論、拒否する権利は向こうにある。それを覚悟の上での相談だったが、答えを聞く以前にまずは黒鋼の頭が思いっきり叩かれた。

 

「あいたっ!?」

「やはり馬鹿か貴様は! 何のために余達がここに残っていると思うのだ! 別に現世を愉しみたいからとか、マスターと一緒に居たいというだけではないのだぞ!」

「いやネロ公、その発言は色々とおかしいから」

「そうだ! というか赤い(わたし)よ! 我が大切なマスターの頭をそんなに強く叩くでない! 記憶が抜け落ちでもしたらどうしてくれるのだ!」

「大丈夫です、記憶が消えたのでした安静に生活を送れば良いのです。その場合、貴方たち二人は出入り禁止になりますので予めご了承ください」

「「何故余達が出禁になるのだっ!?」」

 

 赤い衣装と白い衣装に身を包んだ同姓同名の二人のローマ皇帝。ネロ・クラウディウスが信じられないと言わんばかりに目を剥いて驚きを露わにする。むしろそっちの方が理解不能だとナイチンゲールが溜め息を漏らし、そんな三人をブーディカが宥める。そんな当たり前の風景だが、そう言ってくれたことに少しだけ安堵する。いや、彼女達を筆頭とした多くのサーヴァント達ならばそう言ってくれるだろうと心のどこかで期待していたので。それが現実になって安心したと言うべきか。そして、そんな彼の頭を誰かがガシガシと乱暴に撫でる。

 

「う、お。おっ?」

「まったく、貴様はまこと阿呆よな。そも、世界を終わらせるのであれば話は別だが。世界を白紙に戻した上で己が望んだ世界を第一とする世界など言語道断。醜すぎて反吐が出るわ。この(オレ)が見定める世界にそのような不純物など不要。怒りのあまり魔術師の真似事をやめ、英雄王に戻るやもしれん」

「そんなことになれば敵は大誤算だろうな。英雄王と言えば、星の数いるサーヴァントの中でも頂点に君臨する者の一人だ。まったく、誰を敵に回してしまったのか理解できていないと見える。付け加えると爪も甘い。我らがマスターも、そして彼らも。こうした逆境から乗り越える時が一番強いと言うのにな」

 

 頭を撫でているのはキャスターのギルガメッシュ。そして、赤い外套のエミヤが元気づけるように背中を叩く。そういったことにあまり耐性の無い黒鋼はされるがままになっており、何分かそのままでいた。その後、彼の肩に暖かい何かが乗っかかった。いきなりのことで対処できなかった彼だが、呻き声を上げながらも何とか踏みとどまった。乗った本人はそんな人の気も知れずに自由に髪を引っ張る。

 

「いたたたたた!? ちょ、ジャックか!? 人の髪引っ張るのやめろって、あいたたた!?」

「え~? だっておかあさん。つまらないことばっかり言ってるんだもん。わたしたち、おかあさんがそんなこと言わなくても力を貸すよ? だって、おかあさんのこと大好きだからね!」

 

 にっこりと天子の様な笑みを浮かべるジャック。本人にとってはいつもの何気ない一言だったのだろうけれど。それは、今ここに立っている彼にとってありがたいものである。こうなることを望んでいたとはいえ。こうして皆と共に一緒に戦えるのは心強い。とりあえず、頭に張り付いたジャックを引き剥がした後。深呼吸を何度か繰り返してから彼は眼前のサーヴァント達と顔を合わせる。

 

「皆、これからもよろしく頼む! これより、我々の敵はクリプタ―を名乗る元カルデアのマスター達となる! だが容赦の必要は無い。彼らは彼らの野望を下に未来を白紙にした。ならば、こちらはこちらの意思でそれを迎え撃つ! 『人理継続保証機関 フィニス・カルデア アトラス支部』はその名の通り、支部としてカルデアの補佐に入る!!」

 

 珍しく断言する黒鋼の号令に、サーヴァント達はその意に賛同するかのように吼える。一騎当千、万夫不当の英雄たち。総勢200近くいるそれを敵に回したのだ。それなりのしっぺ返しを覚悟してもらおうと、黒鋼ともう一人のマスターが率いるサーヴァント達は顔も知らぬ敵に宣戦布告するのであった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

それはさておき。今回は対・クリプタ―戦ということもあり、とっておきのシステムを使う時が来た。年に二度くらいしか使えないとっておきたいとっておきの一つ、SSR(最高レアリティ)サーヴァント確定召喚ガチャである。

 

「前回の俺は今頃、俺は玉藻さんを引こうとして三蔵ちゃんを呼んでしまった………すり抜けはいつものこととはいえ、そろそろ報われたい」

「なんだかんだいって星五サーヴァントを召喚してるんだし、諦めても良いと私は思うんだけど……」

「Be quiet!目当ての人を引けてない時点でそれは爆死も同然! 否、下手すると爆死より無残なことになってるんだよォ!」

 

 礼装目当てにガチャを回したら星五サーヴァントが来た。無心で無償石十連一回で目当てのサーヴァントが引けた。挙句、すり抜けでこちらが最も来て欲しい人(カルナ)を引かれた時など想像を絶する怒りの炎が沸き上がった物だ。遺恨無しでカルデアを滅ぼせたのなら確実に自分がやっていたと言ったことがあるところ見る限り、黒鋼も相当頭には来ているようだ。

 

「それで、今回はどっちを回すの? 一応三騎士と四騎士に分かれてるみたいだけど」

「当然四騎士だな! ここで去年引けなかった術ネロやメルトが引けた奇跡だよなぁ!」

「―――アサシンが来たら、ほぼ絶望的だけどね」

 

 さりげなくマスターの精神を抉るブーディカの発言に、言われた側は某病弱セイバーよろしく血が噴き出しそうなほどに顔を歪ませながら崩れ落ちる。今回の福袋召喚は去年の様にクラスを選択して回すことが出来ない。だが、その代わりにどちらの福袋にも期間限定のサーヴァントが排出される可能性があるという利点がある。といっても、黒鋼はどうもアサシンというクラスに好かれている傾向にあり。今のところ所持していないアサシンが最高レアリティ二人と、一つ手前の星四が一人のみというふざけたことになっている。

 

「だ、だが! 四騎士の福袋に入っているクラスはエクストラを含めれば六つ! 確率が二割を切っているなら勝てる可能はある!」

「いや、なんでそうやってフラグを作るの? 馬鹿なの、やっぱりネロ公並みの馬鹿なのマスター!?」

「ば、馬鹿じゃないし! 論理的、そう。ロジカルだし!」

 

 どこからどう見ても図星を突かれて動揺しているようにしか見えないが。回さない限り結果は付いてこないのも道理。フラグを作ったと揶揄してくるブーディカを振り切り、黒鋼は気合を入れた雄叫びを上げながらシステムを起動させる。

 ―――そして。やはりというか、当然というか。結局金色に輝くアサシンのカードを引いてしまったのである。

 

「な゛ん゛て゛た゛よ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!」

「だからフラグなんて作らないようにって言ったのに……よしよし、ジャックの宝具レベルが上がったらいいね~」

 

 黒鋼の頭を撫でながら宥めるブーディカと、それに存分に甘える情けない構図が見て取れる。本当にアサシンを引くとは思っていなかったし、どうせ別のクラスでも召喚済みの人の宝具レベルが上がるだけだろうと高を括っていたこともあり。本当にガチャに希望などないのだと放心していたマスターではあったが。目の前に現れた暗殺者を姿を確認した時、そういった思考が全て真っ白に染まった。その後に思った言葉はただ一つ。

 

 

 

 ―――あ、俺死んだわ。である。

 

 

 

 頭から足元にまで伸びたボロボロな黒頭巾。血に濡れた武骨な大剣の柄を両手で地に突き刺すように持った武人。否、その者は既に武人でなければ人でも在らず。暗殺者の頂点にして、人を殺すというただ一点において他の誰よりも優れた至高の暗殺者。その存在を、我々は畏敬の念を込めてこう呼ぶ。

 

 

 

「―――怯えるな契約者よ。“山の翁”、召喚に応じ姿を晒した。我に名はない。好きなように呼ぶが良い」

 

 

 

 冠位の暗殺者(グランド・アサシン)。アサシンの中のアサシン、キングハサンと―――

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「―――あ、俺死んだわ」

「研砥!? 落ち着こう! 翁が来たからって放心しないで! 頑張って!!」

 

 白目を剥いて思考を破棄しようとした黒鋼の意識を戻そうとブーディカがその肩を全力で揺らす。本人としても福袋でまさかのアサシン。そして、召喚されたのが“山の翁”というもう意味☆不明な超展開に追いつけておらず。徐々に瞳から光が消えて虚ろになっていく。それだけショックが強かったこともあるのだが、翁の声と先ほどの電話の相手が酷似していたことも原因だったりする。

 そんなマスターに呆れたのか。それとも律儀なだけか。召喚サークルの中央で待ち続けた翁は音もなく、文字通り一瞬で彼らと距離を詰める。至近距離で頭巾の下に在る顔―――本人には顔が無く頭蓋骨―――を覗き込む。一瞬で距離を詰められたことにも驚いたが。何よりいきなり人の顔をしていない者を見てしまった二人が突然のことで恐怖で身が竦む。だが、そんな二人を無視して翁は淡々と告げる。

 

「怯えるなと言ったはずだぞ、我が契約者よ。汝は異教徒ではあるが、信じるに足る者であるということはこれまでの足跡で証明されている。我が剣は契約者に捧げるものであり、晩鐘が汝の名を指し示さぬ限り。その行く先を守護せし者である。此れよりは、貴様の影よりその道程を見守るものとする」

 

 淡々と事実だけを述べ、翁は蒼炎を撒き散らしながら姿を消す。爛々と煌く青い火花は美しく散る。先ほど召喚した骸骨の武人、“山の翁”はこれから挑む戦いに必ず活躍するだろう。アサシンの中でも破格の火力、戦闘能力、カード性能。その全てが最高水準という冠位の暗殺者を誇るに相応しい力をあの御仁は備えている。召喚システムを確認し、本当にあの人物を召喚していることに成功していることを確認した時。黒鋼は笑いが隠せなかった。

 

「―――この戦い。我々の勝利だ!!」

「だからフラグを作らないでって言ってるでしょ!!」

 

 これ以上ないほどのドヤ顔を炸裂させたマスターに、ブーディカの容赦の無いツッコミが彼の頭を叩く。だが、そう言ってしまえるほどにあのアサシンを召喚したことに得られたメリットは大きい。それも、今回の福袋で期間限定サーヴァントを引き当てたという意味を重ねるとより価値は跳ね上がる。此処まで来るとアサシンクラスのサーヴァントをコンプリートするのはありかもしれないと思ったが、下総国ピックアップの時に呼べなかった段蔵はまだしも。いつ復刻がくるかもしれない謎のヒロインXを召喚するために石を貯めるのは気が引けた。

 そうして翁の召喚に成功した余韻に浸った後。今回のメインイベントその2。新年を記念した期間限定サーヴァントピックアップにシステムを再調整する。今回も去年、一昨年に匹敵する豪華ラインナップではあるものの。やはりというか最高レアリティのサーヴァントを引くのはかなりの石を必要とする。だが、今回ばかりは以前から少しずつ貯めてきた聖晶石。そして、この日の為に貯めておいた現金を大量の聖晶石への再構築に加え、呼符も三十枚近く用意した。準備は万端と言っても過言ではないだろう。

 

「それで、今回は誰をメインに引こうと思うの? やっぱり、新しく登録された『葛飾北斎』ちゃんかな?」

「あ~……アーツ寄りのフォリナーか。確かに引きたいところだが、ここはグッと堪えて彼女を引くことに専念するよ。これでも我慢してるからな。我慢してるからな!!」

「二回言わなくても通じるよ。それにしても、ようやくって感じだね」

 

 葛飾北斎……というより、彼の絵描きの娘であるお栄と呼ばれた少女がメインなのだが。その少女の近くに飛び回っている蛸こそが葛飾北斎という。またややっこしいことになっている。何でも、絵を描くためにいつぞやのアビゲイルと同じように外なる神と接触したようなのだが―――これはカルデアのマスターが見た夢の話の内容であり、黒鋼とは全く縁もゆかりもない話だ。性能的には目を見張るところあるので是非とも召喚したいところではあったが。ここは我慢してある人物の召喚を試みる。

 ―――その人物とは。いつぞやの深海電脳楽土にて最期まで不敵な笑みを浮かべたまま消え、終ぞ再開することができなかったある少女だ。刃物ヒールに鉄の棘、全てを溶かす毒の蜜。ここまえ言えば分かり切っているかもしれないが、敢えて名前を伏せることにする。ともあれ、今回のメインは彼女の召喚と。今まで何度も爆死してきたあの王様の二人である。それなりの石を用意したとはいえ、二人とも最高レアリティを誇るトップサーヴァントだ。どちらか片方の召喚に成功すれば御の字というのは理解してもらえると思う。

 

「それじゃ、とりあえず呼符からだな。とりあえず30枚一気に行くぞ!」

「ここで召喚出来たら石がかなり浮く……! 気合い入れてね、研砥!」

 

 ブーディカのエールに応えるように呼符を叩きつける黒鋼。一枚、また一枚と目の前で麻婆豆腐や逆行剣へと姿が変わっていく様は無残と言う他にない。途中で金色の光を纏いながら召喚されたサーヴァントもいるが、既に召喚済みのサーヴァントが顔を出した程度。未召喚のサーヴァントではないため、後で纏めて発表することにする。

 

「くっ、ここまで呼符を投げて星4サーヴァント一人のみか……! だが、俺は諦めない!」

「まだ石も残ってるしね。さてと、ぼちぼち呼符も尽きる―――?」

 

 あれだけ貯めたのにもかかわらず、あっという間に消えてしまった呼符の呆気なさに肩を落とす二人。だが、そんな二人の前に再び黄金の輝きが姿を現す。バチバチと甲高い音を立てながら出現した金色のカードに描かれたクラスはランサー。光を伴いながら徐々に形成されていくその姿を見た時、マスターは目を丸くした。

 ―――先端が金色に輝く三叉槍を持ち、インドの民族衣装に身を包んだ少女。優し気な表情と可愛らしく閉じられた瞳がゆっくりと開かれ、緊張しているのか深呼吸を一つしてから口上を述べた。

 

 

 

 

 

「こんにちは、カルデアのマスターさん。女神パールヴァティといいます。今回は清らかな少女の体を借りて現界しました。不慣れな点もあると思いますが、一緒に成長させてくださいね?」

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「ぱ、パールヴァティさん来た――――!?」

「きゃっ! え、え~と……その、もしかしてお呼びじゃなかったですか――?」

「そんなことない! そんなことないよ! やったね研砥! これは早くメドゥーサを呼ばないと!」

 

 そう、女神パールヴァティといえばいつぞやの召喚に失敗してしまったサーヴァントなのだ。先ほど名前を上げたライダーのサーヴァント、メドゥーサが参加した聖杯戦争のマスターをしていた少女の体を借りて現界しているらしく。彼女としてはあまり戦って欲しくないとのこと。だが同時に、いつの日かこうやって一緒に同じ時間を過ごせたら良いのにと零していた。その時のガチャでは召喚に失敗したが、まさかこんなところで召喚されるとは。幸先が良いといっても問題ないだろう。

 

「とりあえず、今迎いの者を呼びましたので。その方にここの案内を受けてください。あと、訂正するとここはアトラス院なので、俺はアトラスのマスター。です」

「あ、それはごめんなさい。それじゃマスターさん。これからよろしくお願いしますね」

 

 ニコッと笑い、パールヴァティは召喚場を後にした。まさに美少女が浮かべるに相応しい笑顔に黒鋼の胸がとてつもなく痛んだ。同じ顔をしているBBとはえらい違いである。あれとしては心外だと憤慨かもしれないが、もう少し毒気を抜いた笑みは浮かべられないものか。

 

「何はともあれ、ここでパールヴァティか……。何だかなぁ。こう、少し違うというかだな」

「分からなくはないよ。だって彼女、パールヴァティやBBと顔がよく似てるからね」

 

 そうなのである。顔がほぼ同じなのに同一人物ではない人を召喚するというのはかなりややこしいことになっている。いや、新しいサーヴァントだから大歓迎なのだが。次はどうなることやらと思いつつ、未だに召喚を続けるサークルに僅かな期待を持ったが。その次に現れた金色のカードは騎乗兵、ライダーのカード。そこから現れた英霊の姿を見た時、黒鋼は今度はそっちかと溜め息を零した。

 光を伴いながら顕現したのは白を基調とした衣服を身に纏う、錫杖を片手に持った一人の女性。だが、外見とステータスに騙されてはいけない。杖を投げ捨てステゴロでの戦闘こそ彼女の全力。今のクラスは余りあるその力を封印した仮の姿。そう、美しい女性なのにもかかわらず少し残念系な女性の名は―――

 

 

 

 

 

「私はマルタ。ただのマルタです。きっと、世界を救いましょうね」

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「―――今度は似た声帯ですり抜けたか……………!!」

「マスター? 先ほど、何やら私を不当に評価したような気配を感じたのですが。気のせいでしょうか?」

「うえぇ!? あーはい、多分気のせい? じゃにゃいですかね?」

「何で嚙み嚙みなんですか……ほら、男なんだからシャキッとしなさい!」

 

 何故か鉄拳制裁を喰らうと思って足が竦んでいたマスターを、マルタ思いっきり背中を引っ叩いて強引に立たせる。とても筋力Cとは思えないほどの衝撃。力を封印しているのは間違いないと確信しようと思った時、召喚場の扉が開いて新たな人物を招いた。ゆうに二メートル以上ある刀を腰ではなく背中に差した長刀使い、優雅にその長刀を振るうアサシン、佐々木小次郎である。

 

「マスター。新たな戦いを祝して酒呑童子を筆頭にして酒盛りを始めようと思うのだが、そなたもどうだ……? む、なんとマルタ殿ではござらぬか」

「げっ、出たわねエセ侍! なにもこんな早く再開しなくても良いのに……はぁ」

「はっはっはー。拙者も嫌われたものよな。まあ、今はあまり邪険に捉えてくれるな。先ほども言ったが、今の拙者はアイランド仮面でも佐々木小次郎でもない酒飲みにすぎぬ故な。ところでどうだマスター。偶には酒盛りにでも」

「小次郎? マスターはまだ未成年なんだから、そーいうのに誘わないの」

 

 愉快そうに笑い、こちらを酒盛りに誘おうとする小次郎をブーディカが窘める。それに少しだけ口惜しそう表情を浮かべる小次郎だが、黒鋼はその頬が少しだけ赤くなっているのを見逃さない。そういえば先ほど酒呑童子と言っていたが、もしかしなくてもそれが原因ではなかろうか。彼女の『果実の酒気』というスキルはラフムや魔神柱をも蕩かす能力を誇る。いつも涼やかな小次郎をも酔わせるとは、大江山のボス恐るべしといったところか。

 結局、酔っ払いになった小次郎をマルタが連れて行き。ついでに酒呑童子を止めてくると出て行ってしまった。小次郎も満更ではない様子で腕に挟まれていたので問題は無いだろう。…………数分後、マルタが「どこ触ってんのよこの酔っ払いィ!」と、恐ろしい声と何かが激突する音が聞こえたが。うん、恐らく問題は無いだろう。

 

「さてと、呼符でこれだけ引けてるなら少しは自信が付いてくるな。張り切って、十連ガチャの方に赴くとするか!」

「ここから本番だもんね。気合い入れ直していこー!」

 

 もう怖い物は何もないと言わんばかりに、今度は貯めに貯めた上に増やした聖晶石を投げる。無論、こと今回に至っては出るまで回すという禁断の手を使うのもやぶさかではない。十連、二十連、三十連と。湯水の如く聖晶石が呆気なくサークルに呑まれては消えていく。それはさながら当たる確率が低すぎるパチンコのよう。あれを狂ったように回し続けると言える今の状況は正直なところ人間として終わっている。

 

 

 

 ―――そうして、回し続けて何時間になっただろうか。正確にはまだ三十分程度だが、この時点でマスターは狂化状態から正気に戻っていた。現在の十連召喚数は七回。呼符を含めると百近い数を回したが、召喚されたのは星五ではなく星四ばかり。しかも、何故か今回に限ってカーミラやセイバー・ランスロットばかりが現れるという謎の引きだ。二人とも一気に宝具レベルが二段階上がり、戦力としては申し分ない。ないのだが、如何せん目的の人を引けない辺り黒鋼の運命力は低すぎる。

 

「……高レアは引けてるから、流れは来てると思うんだよね。うん、でも久しぶりに虹演出とか見たい………」

「それで別クラスだったら目も当てられないけどね……それで、どうする? まだ石に余裕はあるけど、今は撤退する?」

「む~………よし、次で通算で百回目を超えるからそれで一度撤退しよう。続きは、また後日にでも回すよ」

 

 山のようにあった聖晶石も一気に減り、今では当初の半分ちょいにまで少なくなってしまった。だが、黒鋼は恐れることなく石をサークルにくべる。鬼が出るか蛇が出るか分からないが、一応星五が引けたらそのガチャは撤退するという暗黙のルールがあるため。そこまでは回しておきたいというのが本音だ。今のところ悲劇の星四礼装一枚だけということにはなってはいないが、ぼちぼち起こりそうだなと戦々恐々としながらもシステムを起動させる。

 

 

 

 ―――直後、サークルから溢れる光が爆ぜた。

 

 

 

「なんとぉ!?」

「眩しっ!? なに、これ!?」

 

 虹色の輝きでも金色の輝きでもない。まるで某カードゲームの聖なるバリアーが発動したかの如く眩い光が召喚場内を照らし出す。まるで太陽の如き光の暴力が二人を襲い、徐々に収まっていく。一体何が起こったのかと固く閉じた瞳を開くと、この場にいた二人は息を飲んだ。

 光の原因。サークルの中央にて眩い光を抑え込みつつある一枚のサーヴァントカード。そのクラスに表示されたのは通常の七クラスに当てはまるものではなく、クラスに適応する者が数少ない特殊クラス。所謂エクストラクラスと呼ばれるものだった。

 

―――それは審判者である裁定者(ルーラー)ではなく。

―――それは世界を憎む復習者(アヴェンジャー)でもなく。

―――それは外なる神と繋がる者、降臨者(フォリナー)でもなく。

―――一つの人格から分かれ、確固たる自我を獲得した新たなる者。そのクラスの名は、アルターエゴ。今回の召喚で確認される唯一無二のクラスである。

 

光を伴いながら一人の少女の姿が形成されていく。異常なまでに長い刃物のヒール。そこから伸びるはヒールと同色の鉄の棘。黒衣に身を包んだ華奢な少女の顔はサディスティックな笑みを浮かべており、こちらを値踏みするような嫌な視線を送っている。その後、気付いたように鼻を鳴らしながら面倒くさそうに口上を述べた。

 

 

 

 

 

「快楽のアルターエゴ、メルトリリス。心底嫌だけど貴方と契約してあげる。光栄に思いなさい?」

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 ―――息ができなかった。これは本当に現実なのかと目を疑った。人形の様に華奢な少女は口上を述べたのにもかかわらず何も言わないこちらに疑惑の目を送っていたが、それを無視して頭の中で考える。確認のためにタブレットに表示される一覧の中にも彼女の霊基パターンが新たに登録されているのを確認して、ようやく黒鋼は確信を持って渾身のガッツポーズを決める。遂に、あの時に消えてしまった彼女を召喚できたのだと実感してくる。

 

「何かしら。何も言わないということは、別段私を呼ぶつもりはなかったと捉えていいのかしら? だとしたら不愉快にも程があるわね。今すぐ私の経験値にして―――」

「―――あぁ。そんなに好きならくれてやるよ。経験値」

 

 ヒールをこちらに向けようとするメルトリリスを止めず、黒鋼は腕を軽く上げる素振りを見せる。直後、尋常じゃない数の金色に輝く丸い球体や霊基再臨素材が出現する。それは圧倒的な数を以てメルトリリスを包囲し、数が数だけにその姿をも包み込んでしまう。これにはさすがのプリマドンナも驚いたのか、上げた足ゆっくりと下ろして愕然した。

 

「―――え、ナニコレ」

「お前を召喚した時の為に貯めておいたオール枠の金種火。スキル上げに必要なスキル石と各種再臨素材。加えて霊基再臨等で発生する育成費………その他諸々が、今のお前を取り囲んでいるものだ。喜べ少女よ、君の願いは今叶う」

「ちょっと、どこかの似非神父みたいな発言はやめ、きゃあ―――――!?」

 

 容赦などなく、慈悲もなく。ただただ一方的な育成がここに始まった。彼女の為にかき集めた資材の全てがメルトリリスという一人の少女に目掛けて吸い込まれていく。ギルガメッシュの『王の財宝』によるう全方位攻撃とまでいかなくても、一種のトラウマにはなるんだろうなと。隣に立っていたブーディカはそんなことを考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、後編もあるから見てネ!」

「まだ続くのこれ!?」

 




ではでは、早速後編へGO-----! でも、時間が時間ですから、休まれる方は休んでくださいね(投稿した時間が深夜0時)


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此れより始まるは、未来を取り戻す戦いなり(準備篇)

 はい、後編デース。こちらでは石が残ったので狙ってしまったあの方のピックアップ報告となっております。ところで皆さん、『ゲッテルデメルング』はプレイしました? 攻略しました? もうシグルドイケメンすぎてやっばくないですか!? cv.津田健次郎さんってだけでもう欲しいんですけど―――――!!!! ストーリも良かったですし、お布施感覚で諭吉が飛んじゃうの~~~~(白目)



 あ、例によって独自ストーリが混入しております。ご注意ください。


ふいまへんでした(すいませんでした)わるいほはほもいましたが(悪いとは思いましたが)ひょうどうてきにひゃってひまいました(衝動的にやってしまいました)

「分かればいいのよ、分かれば。全く、元から完璧な私をより強くしようだなんて。馬鹿な人よね、全く」

「え~~? 本当にそんなこと思ってるんですかぁ?」

「―――よし、やっぱり殺すわBB(ビィビィ)。一応、そこのお馬鹿なマスターと契約したから顔を立てようと思ったけど。我慢は体に良くないものね。その余裕ぶった笑みを引き剥がしてあげるわ」

「駄目だよメルト! お母様は確かに面倒だけどここで暴れるのは駄目! BBもメルトからかわないでください!」

「まあまあ。皆落ち着いて。あ、BB。研砥の治療お願いね」

 

 いつの間にやらマスターの声が聞きとりづらいのは、先ほどの育成ラッシュの後。一気に自分の根底を揺るがすかのような成長を遂げたメルトが照れ隠しの如くヒールの側面で蹴りつけられ、その結果としてマスターの頬が風船の様に膨らんだからである。どうしようもないかもしれないが、正直なところ自業自得に近いので勘弁してもらいたい。

 さて、何故ここに新たに二人のサーヴァントがいるのかというと。メルトリリスが召喚された時にその反応を彼女達が察知したからである。そして、その二人の顔立ちはメルトリリスとよく似ている。少女の一人の名はBB。カルデアが保有するセラフィックスと呼ばれていた油田基地が亜種特異点化した舞台、『深海電脳楽土 SE.RA.PH(セラフ)』を解決した後で勝手にこちらに付いてきたアトラス唯一の後輩系サーヴァントである。クラスはエクストラクラスの中でも唯一無二とされる異例中の異例なクラス・ムーンキャンサー。スキルや宝具が優秀なので危険な戦いに挑む時はよく一緒に出掛けるのだが、人間嫌いで小悪魔系という性格に難がありすぎる困ったちゃんである。

 もう一人はメルトリリスと同じアルターエゴのパッションリップ。こちらもSE.RA.PHでの騒動を終えた後に再会したサーヴァントの一人で、凶悪な爪と巨大をこえた爆乳の持ち主である。そこ、変態的な説明と思った奴は表に出ろ。他に表現のしようがあるなら書き直すから。ともあれ、その巨体を生かした圧倒的なパワーと防御能力は数多いるサーヴァントの中でも一際強力だ。以前は性格にかなり難ありだったようだが、岸波先輩(ある人物)との出会いにより精神的に急成長を遂げたらしい。宝具名が変わる程に衝撃的な出会いだったらしいので、とてつもなかったんだろうなと黒鋼も思ってはいる。―――まあ、何度か彼女達の夢を見た時に会ってはいるのだが、それは別段言う必要は無いだろう。

 

「はいはい。それじゃ、どうしようもない駄目駄目なマスターにBBちゃんからありがたい治療のお時間です♡ はーい、生き返れ~~♪」

 

 満面の笑みを浮かべながら目の前で項垂れるマスターを嗤いながら、BBは教鞭のような杖を出現させてそれを振るう。彼女の持つそれは『支配の錫杖』と呼ばれるもので、彼女が自身のスキルや自分が獲得した女神の権能を行使する際に用いるデバイスである。尤も、本来の全力を出す為にはムーンセルという月に存在する電脳世界である必要があるため、その出力はかなり制限されている。だが、それを抜きにしてもBBの性能は破格と言っていいほどに凄まじい。くるくると教鞭でマスターの体を中心としてハートを描き、光のビームが彼を包み込む。その奔流が消えると彼の顔は元通りに戻っていたが、何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。

 

「………わざわざビームぶっぱする必要あったのか、今の」

「いえ、別に無いですけど? ちょっと黒鋼センパイの驚く顔が見たかっただけです」

「必要のないことやってんじゃねぇぞ駄目後輩……」

「え~そんなこと言っちゃうんですかぁ? どうしましょう、SGシールド並み頑強さを誇るBBちゃんハート、傷ついちゃいました。ぐすん。これは、カルデア組の捜索に手を貸すのやめちゃうしかないですね!」

 

 バレバレな嘘泣きを披露しながらここぞとばかりに弱みをつつくBB。それにぐぬぬと唸りながらも頭が上がらない黒鋼は、渋々と言った形ではあるが頭を下げる。

 ―――そう。カルデア組がシャドウボーダーを用いて虚数空間に逃げ込んだのは問題ない。それは、間違いなく黒鋼とその仲間たちも同じ行動を取ったからだ。だが問題なのは虚数空間に逃げ込んだ彼らの行く先を誰も知らないということ。そこで、自然と虚数空間に長けたBBや、それを論理的かつ数字的に存在証明というアンカーを作るために鈴鹿御前やバベッジといったサーヴァントたちの協力が必須になったという訳だ。

 

「……さてと、それじゃメルトリリス。今から二つ選択肢を上げるわ。好きな方を選びなさい」

 

 心底面倒くさそうに、BBは支配の錫杖で円を描く。すると軽快な効果音と共に錫杖の先に光の玉が出現する。一体何の塊何だろうと首を傾げる一同を見た後。溜め息を吐きながら視線の中心にいる少女は説明した。

 

「これは以前、貴女ではない貴女が残した記憶データよ。同型機である私達は記憶の共有が出来るのは知っているわよね。今からこのデータを貴女に渡します。それを破棄するか、同期させるかは貴女に委ねるわ。後悔しないように選択しなさい」

 

 錫杖から玉が離れ、メルトリリスの前に跪くように光の球体は無防備な姿を晒す。BBが言っていた記憶データというのは、間違いなく電脳楽土での彼女の記憶データだろう。少なくともこちらのリップは自身の記憶をこちら側にやってきたBBに保管させ、彼女が召喚されたと同時にそれを同期するという手段を用いてかつての記憶を復活させた。それと同じ手段ならば、メルトリリスもかつての記憶を取り戻せるだろう。

 ―――だが、結果は意外な形を迎える。淡く儚い光を放つ光の玉。メルトリリスはそれに少しばかり苦笑する。いや、あれは優しい笑みか。かつてのメルトリリス(わたし)にはそれを残すだけの出会いがあったのだろうと微笑んでいる。そして、どこか心残りあるようにも思えたが。それを容赦なく鉄の具足を以て斬り捨てた。それは、この場にいる殆どの者が想定してなかったことだ。それを見て何とも思わなかったのは渡した本人と、彼女を呼んだマスターのみ。

 

「………それで良かったのですか、メルトリリス? 貴女は今、貴女自身を引き裂いたに等しいことをしたのよ」

「ええ、問題無いわ。かつての私が残した記憶というのには興味があったけれど、それはそのメルトリリス(わたし)が持つべき物よ。今ここに呼ばれた私が持っていいものじゃない。それにね、この私がわざわざ記憶を残したのよ? だったらそれ、絶対嫌がらせに違いないもの。どうだ、私は最高の王子様と出会ったのよって自慢してるに違いないわ」

 

 鬱陶しそうに苦々しい表情を浮かべるメルトリリス。その表情に偽りはなかったが、同時にどこか儚げでもあった。ケースccc(あの時)の自分でなければ、電脳楽土(その時)の自分でもない。どの自分とも違う恋を見つけるのだと孤高のプリマドンナはそう宣言した。それにBBは溜め息をもらしながらも、いつものあくどい笑みを浮かべる小悪魔に戻る。

 

「そうですか。いえ、貴女ならそう言うと思ってたわ。まあ精々頑張ってくださいね。私はをそれを横で眺めて弄り倒すだけですから」

「そういう貴女こそ頑張りなさい。いつまでもあの人の影を追ってばかりだと……を逃すわよ。あぁ、ごめんなさい。私としたことが失念していたわね。貴方、あの人以外には決してなびかない残念な女だったわ」

「―――安い挑発ですね? いいでしょう、高値で買いますよ?」

「はっ、エラーの塊が何を偉そうに。新しい私の力を試すには丁度いいわね。存分に私のサンドバックになりなさい、お母様?」

「だーかーら! 二人ともどうしてそんなに仲が悪いの!? 喧嘩は駄目だよ!」

 

 一触即発とはまさにこのことか。互いが互いを挑発するために今にも決戦が始まりそうな空気の中、リップが爪を前面に出して二人の間を取り持つ。それに舌打ちをする二人だが、BBの方は既に用事を終えたためそのまま召喚場を出てしまった。一方のメルトリリスはというと、興が冷めたのかつまらなさそうに鼻を鳴らしながら黒鋼の隣に並び立った。それにきょとんした黒鋼に、彼女は溜め息を零しながら見下ろした。

 

「何よ。別に、貴女に義理立てるつもりはさらさらないけど、ここまでの力を手に出来たのは貴方のおかげだから。それに免じて今日くらいは護衛役を担ってあげるだけ。ただそれだけよ。勘違いしないように」

「―――絵にかいたようなツンデレ」

「蹴り殺すわよアンタ」

「すいませんでしたっ!!」

 

 徐にヒールを持ち上げるのを見て黒鋼は五体投地をする覚悟で謝罪する。それを見て召喚されてもう何度目かに溜め息をメルトリリスは零す。それを見て苦笑するブーディカとリップだが、それに気づいたメルトは焦らせるように黒鋼に召喚するように催促した。

 

「ほ、ほら。早く新しいサーヴァントを召喚しなさいよ。そのためだけにこの私がいるんだから。あ、勿論のことだけど。あの性悪女やドンファン面を呼んだりしたら後で思いっきりお腹に膝。だからね」

「理不尽すぎる上に実際にありえそうなこと言ってんじゃないぞ!? ったく、どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだ………理不尽すぎるだろ」

 

 もはや悟りの境地に入りそうな気持ちで、黒鋼は召喚システムを起動させるべくエンジンとなる聖晶石を放り込む。音を立てながら再起動する召喚システムに一抹の不安を抱きながらも、このまま更なる戦力の確保をしたい黒鋼は両手を合わせて祈りを込める。そんな中、リップが至極当然な疑問を口にした。

 

「あ、そういえばマスターって次は誰を呼ぼうとしてるんですか? メルトを呼ぶために頑張って他の知ってるんですが、そこまでしてもう一人を呼ぼうとするなんてよっぽどですよね?」

「あぁ、そっか。リップはまだ来て日が浅いもんね。候補は二人いたんだけど、今回はその内の一人に絞るみたい。かなり悩んでたんだけど、流石に二人一緒に呼ぶのは無謀だからね」

 

 リップの疑問に答えるのはブーディカだ。断念した一人というのは、今でも頼りになるランサーのサーヴァント。クー・フーリンの師匠である影の国の女王、スカサハだ。宝具であるゲイ・ボルグの多数召喚や、原初のルーンを用いることでランサーの身でありながら高ランクのキャスターに等しい魔術も行使する万能のサーヴァント。アサシンとして召喚された彼女もこちらにいるが、ランサーの霊基を付与することができたらこれから先の戦いでも大いに活躍すること間違いなしだった。トドメと言わんばかりに『神殺し』というスキルを所持していることも加味され、『神』に連なる物や『死霊』系に滅法強いというのも魅力。

 だが、そんな彼女を差し置いてまで召喚したいサーヴァントとは一体誰なのか。リップだけでなくメルトの視線も自然とブーディカに集まる。まじまじと見すぎだと注意しながらも、彼女は何の気なしにその真明を明かした。

 

 

 

 

 

「古代ウルクの王にして、この世全ての宝を手にした暴君。ここにいるキャスターの彼より少しだけ若い英雄の中の英雄王。―――対界宝具なんて馬鹿げた力を持つ文字通り最強のサーヴァント一人。アーチャーのギルガメッシュだよ」

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「マスター! 召喚するのをやめなさい、今すぐに! 絶対後悔するわよ!」

「ふはははは! もはや俺に止まる理由などなし! 貴女の召喚に成功した以上流れは間違いなく来ている! こんなもの、今回さずしていつ回す!」

「どこかあの金ぴかっぽいセリフはやめなさい! はっ倒すわよ!」

 

 既に起動した召喚システムも既に三十を超える召喚行為が実行されている。その間にフィン・マックールやアストルフォといった高いランクのサーヴァントの召喚には成功したものの。一向にあの黄金の英雄王は姿を見せない。今回を含めて五回目の挑戦、加えて今回は過去最多の消費となりそうなのにも関わらずだ。いい加減こちらに力を貸してもらいたい。貴方の見守るべき世界が盗人共に纏めて奪われようとしていると伝えたい。

 

「というか今までの結果から考えて来てくれないのは分かってるさ! 福袋で“山の翁”を召喚してさ! ピックアップを見事的中させてメルトリリスを召喚してさ! あそこまで格の高い英雄王が来てくれないって分かってるさ! でも回す! そこにガチャがあるのなら!! 逝くしか俺たちに選択肢など残されてはいないのだから!!」

「山があるから上るみたいなこと言っちゃダメだって、前にも言ったような気がするなぁ」

「で、でもブーディカさん。実際にアーチャーのギルガメッシュさんが召喚されたら一気に戦力が上がりますよね。なら私、マスターには頑張って欲しいです!」

「それ、単にあなたが休みたいだけなんじゃないの?」

「違うもん! 本当にマスターの事を思って言ってるだけだもん!」

 

 ニコッと花が咲いたような笑みを浮かべて言うリップに、メルトの容赦ない一言がその心を容赦なく抉る。嗜虐的な笑みを浮かべて詰るメルトに、それにぷんすか怒りながら否定するリップ。そんな二人の姿を見ていると心がとても温かくなる。こういう感情を尊いと言うんだったかと、内心一人で感慨にふけっていたその時。召喚サークルに再び金色の輝きが灯る。今度は誰が召喚されたのかとワクワクを隠せずにいると、最近だと珍しい人が御呼ばれされていた。

 頭部に生える二つのケモミミ。美しい凹凸がくっきりと分かる美しい肉体に腰のあたりから伸びる尻尾。軽快な笑みの少女が身に纏うのは学校の制服で、手には一振りの刀が握られている。自信に満ち溢れた彼女は元気いっぱいに口上を述べる。

 

 

 

 

 

「サーヴァント・セイバー! 召喚に応じ超☆参☆上! みたいな~?」

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「御前様や………御前様がご降臨なされおった……ありがたや……」

「え、ちょ、なにマスター? 私が召喚されて嬉しいのは分かるけど、さすがに御前様呼びはちょっと。その、照れるからやめて欲しいなー。みたいな?」

「滅相もない! 御前様は御前様だから良いのです。私なんぞが呼び捨てで呼ぶなぞ恐れ多い……」

 

 正直なところ、黒鋼が目の前で召喚されたセイバー。鈴鹿御前のことを御前様と呼ぶ理由には大きく分けて二つほどある。一つは、彼女にも他の世界戦で運命と言える出会いがあり。そのような関係にある人は一線を置いて話をしようと心掛けているからである。二つ目は、単に黒鋼が初めて鈴鹿御前の戦いを見た時に自然とそう呼ぶようにしていたからだ。第四天魔王が娘にして天魔の姫と称された彼女の剣、能力、振舞いは品があって美しい。何故、JKの言動をトレースしているのかは追及できない謎の一つではあるものの。それを抜きにしても美しいのだから自然と様付けしてしまうというものだ。

 お互いがお互いを尊重し合うが故に話し合いに決着が着かず。どうしたものかと二人して悩んでいた時。すっ、と流れるように銀色に輝く刃が黒鋼の首元に添えられていた。先端から徐々に大きくなっていく刃に見覚えがあると思いながらも、両手を上げて降参の意を示しながら後ろに立つ少女に問う。

 

「あの、メルトさんや。いきなりヒールを首元に添えるのはやめてね? 間違って首斬ったら死んじゃうからね、俺」

「あら、召喚されたばかりでいきなり(種火や素材に)襲われてしまった私のアフターフォローもしないで、新しい女を呼んで呑気に話してるマスターにイラっと来ただけよ?」

「―――マスター、さすがにその女に手を出すのはやめた方がいいし。それ、綺麗な白鳥に見えてるけど主ごと殺す毒鳥だから。てか、今マスターと話してたのに邪魔するとかありえなくない? やっぱあんたウザいんですけど」

「それはこっちのセリフよスズカ。貴女の方こそ顔がでかいわよ? 蝶よ花よと育てらえたから知らないかもしれないけど、こういうのは先に呼ばれた人から話すの。今呼ばれたあなたにそれをする権利はないわ」

 

 ―――どうしてこう、メルトリリスは全方位に喧嘩を売りまくるのか。そういうのは『被虐体質』であるリップの専売特許ではなかったのかと、二人の間に挟まれている黒鋼は繰り広げられる論争に巻き込まれながら諦観していた。ふと視線を外に回すと、既にリップはこの場を去っており。余計な面倒に巻き込まれたくないからと逃げ帰ったに違いないと判断した。なお、ブーディカだけはこの三人のやり取りを少し離れた所から見守ってくれていた。

 ………素直に助けてほしかったなと、黒鋼は内心で巻き込まれないように距離を取っていた彼女に苦笑するしか出来なかった。

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 そうして、鈴鹿御前やメルトリリスを宥めてからどれだけの時間が経っただろうか。既に十連分の石は底を尽き、手元に残ったのは虹色に輝く石が九つのみ。その間に召喚されて特筆するべき人はおらず。ここまで嫌われているのであればいっそのこと笑えてくる。あの時、第七の特異点で彼の王に救われてから夢見た時。にもかかわらず、どうして自分はここぞという時の引きに弱いのだろうかと。黒鋼は内心で自分のことをひがむ。

 だが、いつまでもそうするわけにもいかず。気を引き締めて最後の単発召喚に挑む。どうせこれで良い物を引けるはずもなく、よくて概念礼装がポンポンやってくるだけだろうと内心見限っておく。

 

「さてと、最後の単発召喚に行きますか。あ~もう、どうせ爆死なんだろうけどなあ!」

「そもそも、あの金ぴかが召喚に応じるだなんて思わないことよ。あいつ、勝手に真実を見抜いて高みの見物するタイプだし。ま、いつも慢心してるせいでかませ犬なってるんだけど」

「メルトはギルガメッシュに厳しいねぇ。もしかして、こっちに呼ばれる前に何かあったの?」

「あったも何もないわよ。こっちが宝具を使おうとする前にあのふざけた宝具をぶつけてきたのよ!? 私の無敵性をぶち抜くとか本当に信じられないわよ!」

 

 よほどその時のことが悔しかったのか。メルトは人目を気にせず怒りに満ちた表情を見せる。それに二人はAUOは何でもありだからと、フォローになってない答えを返すしかない。ともあれ、このまま話し合っていてもどうしようもない。ささっと残った聖晶石をサークルに放り込む。一枚目は『激辛麻婆豆腐』。二枚目は『優雅たれ』。どちらも彼の王と接点のあるものが続くが、どちらもその辺りに落ちているごくごく平凡な概念礼装だ。

 

「はいはい、どーせこんなもんだと知ってましたよ~。んじゃ、ササッと他のサーヴァントの育成に移りますかね。結構新しい人も呼べたし」

「そうだね、ほらメルト行くよ? 今から色々と案内してあげるから」

「分かってるわよ。良かったわ、ここには色々と因縁があるやつが多そうだし。そこにあのギルガメッシュまでやってきたら溜まった物じゃない―――」

 

 

 

「―――ほう。面白いことを言うではないか女神もどき。貴様如きが我が名を呼ぶなぞ不敬の極みではあるが、その成長した精神性に免じて多少加減してやろう。余興だ、捌いてみせよ」

 

 

 

 どこからか、とても尊大な王の声がした。突然のことに頭が回らない。回らないが、このままだと不味いという漠然とした事実は理解できた。嫌な予感ほどよく的中するもので、メルトの周囲から黄金の波紋が揺らめく。その中心から顔を覗かせたのはどれも黄金や宝石で彩られた輝かしい武具の数々。それが一斉にメルトリリスに向かって放たれる。回避不可、防御も間に合わないまさに必殺の間合い。このまま彼女は何もできずに無残にその霊基を破壊される―――

 

「……舐められたものね。この程度で、私がどうこう出来るとでも?」

 

 否、そんな結末は認めないと。プリマドンナは砲撃の合間を縫うように滑り出す。鉄の刃に水の魔力を纏い滑らかに舞う姿は間違いなく華麗な鳥のそれ。次々と放たれる宝具の雨の中を美しく舞い、黄金の波紋と水の魔力と混ざり合って一つの劇の様な優美さを感じさせる。

 メルトリリスが宝具の包囲網を潜り抜けると、黄金の波紋は元から存在しなかったかのようにその身を散らす。放たれて無造作に置かれた宝具の数々もまた、その身を黄金の粒子に変えて姿を消した。それを確認した後、メルトリリスはつまらなさそうに鼻を鳴らしながら召喚サークルがあった方を睨む。

 

「……まったく、貴方も随分暇なのね。それとも何かしら、いまさら星の危機に応じて重い腰を上げたといった感じかしら?」

「戯け、我にとって星がどうなろうが知ったことではない。我は裁定者、絶対的な王の視点から人類を見定める位置から動くつもりはない。だが、此度の騒動となれば話は別だ。我の庭を荒した憐憫の獣を倒し、此れより先の未来はそこにいる凡夫達が勝ち得た唯一の報酬。それを横から奪い取ろうなどという、筋違いなことをした愚か者を誅しに来たにすぎん」

 

 召喚サークルの中央から響き渡る男の声。がしゃがしゃと甲高い金属を立てながら煙が吹く召喚場の中からその姿が露わになる。逆立てた金の髪に同色の煌びやかな鎧。燃えるような赤い瞳に表情には笑みが浮かんでいる。それが彼が望む愉悦からくるものなのか、それとも怒りのあまりに嗤っているだけなのか。ともあれ、圧倒的な存在感を隠すことなく放ちながら黄金の英雄がここに顕現する。

 

 

 

 

 

「ふはははは! この我を呼ぶとは運を使い果たしな雑種! 我にクラスなぞ無いに等しいが、この場に現界ためやむを得ずアーチャーのクラスで現界した。此度の我に慢心はない。本気にさせるかは貴様の努力次第だがな。我が宝物庫に秘された輝き。英雄王たるこの我の力、真なる覇者の姿をその目に焼き付けることを許そう。―――言うまでもないが。此度の騒動においてのみ、特別にだぞ?」

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「まさか、本当に最後の最後でギルガメッシュさんを召喚するなんて。これにはBBちゃんも驚きです。やっぱり、ここぞという時には最高のネタを提供してくれるから黒鋼センパイは最っ高ですね!」

「余計なことは言わなくてよろしい。それで? カルデア組のサルベージは出来そうか?」

「う~ん、とりあえずあの人たちがどこに流れているのかは把握できたんですけど。問題なのはあちらとこちらを繋ぐアンカーという名の縁なんですよね。ほら、乗組員とのつながりは強くても引きずり上げるのは縁が弱い車の方ですから。制作したデータを基に引きずり上げても良いですが、失敗したら元も子もないですからね。このまま観測するのが精一杯です」

 

 少しだけ悔しそうに表情を歪ませるBBに、お疲れさまと感謝を示しながら小皿に移したケーキを渡しておく。それを美味しそうに口に含んだのを確認しながら、これまで色々あったことを振り返る。

 世界の歴史が白紙に帰ったとしても、女性陣にとって忘れられないし逃してはならない季節―――バレンタイン。ある特異点もどきを形成しながら出現した最古の毒殺者、アサシンでありながら高ランクのキャスター適性を持つセミラミスと共に過ごした日々。イベント後にもさらっとこちらに召喚された彼女は『毒殺者の会』なる危険なグループを作っていた。まあ、参加しているのが彼女とロビンフッド、それから静謐や酒呑童子といった人物なので。厄介そうな事件は起きてもそこまで悲惨なことにはならないと信じている。

 当然、バレンタインと来れば次に来るのはホワイトデーだ。あの時は男性サーヴァントの召喚成功率が高くなっていたので、今度こそ施しの英雄を引こうと頑張っていた時のこと。残念ながら彼は今回も召喚に応じてはくれなかったが、その代わりに顕れたのは聖剣を携えた男の騎士王だった。獣を追う旅の途中ではあるけれど、こうして召喚されたのも何かの縁。星の聖剣を以て、君の行く道を照らそう。彼の騎士王は威厳と覚悟をこの身に託してくれた。

 その他にも、契約自体は結ぶ事は無かったがジャンヌ・オルタとの再会。再度出現したオガワハイムにて新しく契約を交わした両儀式と面識があるという魔眼使いの浅上藤乃。そしてすり抜けて来たので無慈悲に保管庫送りになった諸葛孔明などなど。正直なところ、過剰戦力も大概にしろと言われても仕方ないほどの軍勢がこの場に揃った。油断するつもりはさらさらないが、これには多少の同情が生まれても仕方がない。

 

「あ~あ。センパイが苦戦して『助けてBBちゃ~ん!』 って泣き叫ぶところが見たかったんですけど。これじゃあ見れそうにないですね」

「いや、BBにはいつも助けてもらってるからな。ホント、感謝してもしたりないくらいだ。というわけで、激化するであろう戦いに備えて報酬を先払い、っと」

 

 先ほど置いたケーキの隣に備えるように、黒鋼は少し大きめの金の杯をBBに置く。渡された本人はケーキに合うように添えられた紅茶を口に含んでいたが、それを見た際に勢いよく噴き出す。ゲホゲホと咽るその背中を優しくさすってやると、顔を赤くして教鞭型のデバイスを取り出して叫んだ。

 

「な、なんて物を私に渡そうとしてるんですか!? これ聖杯ですよね!? 私みたいな破綻したAIに渡せばどうなるかくらい、分からないセンパイじゃないですよね!?」

「ん? いやまあ、正直なところ渡すか否かはついさっきまで悩んでたよ。けど、ここまで頑張ってもらってるしな。他に出来ることと言えばお前とこうやって時間を潰すくらいなもんだから、それじゃあ流石に味気ないだろ? だから、今の俺が出来る精一杯の物をプレゼントしようと思って」

 

 遠慮なく受け取ってレベルアップしてくれ。黒鋼は深々と頭を目の前の少女に下げながら頼んだ。そして、それを本心から言っていることは彼女も理解している。このマスターは彼女が未だに恋をしている先輩ではないし、言動も姿もここの在り方も異なっている。だが、それでも決して自分やパッションリップ、メルトリリスといった異常な存在とも対話を試みようとしてくれる。此処に来たのはムーンセルに呼び出されてそのまま消えるのが癪だったからではあるものの、自分がダメダメな人間だと理解しているからこそ。こちらに協力してくれと頼む弱いマスターの力になろうと彼女達はここにいるのだ。

 ―――あぁ、これは決して恋の在り方ではない。でも、そんな目の前にいるセンパイだからこそ渋々ではあったけれど力を貸そうと思ったのだ。それならば、これを受け取るのもやぶさかでないと。黒衣の少女は苦笑する。全く、自分も大いに変わってしまったものだと自嘲しながら。

 

「―――はぁ。仕方がありませんね。分かりました、分かりましたよ。黒鋼センパイにそこまで言われては仕方がありません。それに、そういう気持ちは素直に嬉しいですから。この聖杯はありがたく頂戴します。ムーンキャンサーの名に懸けて、貴方の前に立ちはだかる物をデリートしてあげましょう!」

 

 で・す・が。わざわざ一言区切りながら、BBは聖杯を己の胸の中にある同型のデバイスに取り込む。スキル名『黄金の杯』、BBが人の欲望という悪性情報の塊を泥の形状にして相手の垂れ流す際に使われるもの。それは現世の様に言えば汚染された聖杯と同義。自分のデバイスに聖杯のデータを取り込むことによって、より強力な霊基への成長を確認した少女は、相変わらずの小悪魔的な笑みを浮かべながら宣言した。

 

「私、どんなに成長しても。好感度が上がっても人間とか大っ嫌いなので。今はまあ、その愛すべき可哀そうな人間さんたちが絶滅危惧種になりかけているので仕方なく力を貸してあげているのです。その辺り、勘違いしないでくださいね? セ・ン・パ・イ?」

 

 にっこりと、心の底から愉快そうに教鞭を振るう黒衣の少女。それにマスターである彼は苦笑しながらも頷く。余裕層に演じる彼女の頬が朱に染まっていることに敢えて言わず、内心で可愛い後輩だと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 ―――前日譚はここに終わりを迎える。世界の未来を変えんとした者たちに対し、奪われた未来を取り戻すもの次なる戦いの舞台(ステージ)へと上がる。その名は剪定事象、行き止まりの人類史とも呼ばれた元来、存在してはならないとされた未知なる世界へと彼らは足を向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、これで新年のガチャ報告は終わり! 次回は一気に時系列を飛ばして異聞帯一章。『永久凍土帝国 アナスタシア――獣国の皇女――』ピックアップ篇をお送りします!
 続きまして、それまでのピックアップで引くことが出来た方々についての報告です。かなりの数を引けて青眼さん大勝利~! でもカルナさんはどうやっても来てくれないんですよね。いい加減来てくれないかな……


↓アナスタシアピックアップまでに引けた人一覧
パールヴァティ
マルタ
柳生宗矩
望月千代女
浅上藤乃(宝具2)
パッションリップ(宝具1→2)
アン・ボニー&メアリー・リード(宝具2→3)
アストルフォ(宝具2→3)
巴御前(宝具1→3)
カーミラ(宝具2→5)
セイバー・ランスロット(宝具3→5)
“山の翁”
メルトリリス
アーチャー・ギルガメッシュ
セミラミス(宝具2)
アーサー王
殺生院キアラ
諸葛孔明(宝具1→2)
オリオン(宝具1→2)


いやぁ、こう見ると壮観ですなぁ。セミラミスは礼装目当てで十連三回と単発少々で二人も来るという神引き。おかげでフレポがっぽがっぽなバレンタインイベントでした。自分で火力が出せるアサシンって、画期的でいいよね!
 今回はトータルで二万四千近くなってしまいましたが。ここまで読んでいただきありがとうございました! 近頃ではスカサハ・キャスターやらワルキューレやらが流行していますが。前書きでも書いた通り自分はシグルドが一番の推しです! ブリュンヒルデを召喚している身としては是非とも呼びたいところ。予定では、アナスタシア→アポクリファコラボ→帝都イベ→水着復刻→ゲッテルデメルングという順なので。夏休みに頑張って書き終えたいなあ!



それでは、この場を借りてもう一度。ここまで読んでいただき、ありがとうございました! これからもよろしくお願いします!!!


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絶対零度の反逆戦

どうも~………最近イベントラッシュすぎて小説書いてる暇がない青眼です(言い訳)

皆さん、夏休みやサバフェスは満喫しましたか? 私は郵便局のバイトで夏バテしかけたり、小説書いたり、父方の実家に帰ったりと。それなりに忙しい日々を送ってきました。体調管理はしっかりしましょうね。

それでは大変長らくお待たせいたしました。異聞帯篇ピックアップガチャ第一幕、ここに開幕でございます――――――!


P.S! 近日中に執筆に付いての報告と、現在稼働中のFGOアーケードの感想を書こうと思います。そちらの方も気にしてもらえれば嬉しいかな! コメントも送ってくれると嬉しいかな!(クワッ)


 カルデアが陥落した日からおよそ四カ月。虚数空間へと逃げ延びた彼らにとっては数日かもしれないが、こちらとしては実際にそれだけの月日が経過していた。存在しない世界へと潜んだ彼らの動向を密かに追っていたアトラス支部のマスター、黒鋼はカルデア一行が実態を以てこの世界に帰還したという知らせを受け、一刻も早く彼らの元に向かうべく一握りのサーヴァントを同行させながら現地へと直行した。

―――そして彼らは見た。何もかもが吹きすさぶ吹雪に閉ざされた世界を。絶対零度の世界を生き抜くため、その土地に住まう人間は人であることを捨て魔術によって魔獣と融合した存在。“ヤガ”という獣と人の融合種へと変貌していた。剪定事象と呼ばれる、人類史という大きな幹から枝分かれした先の無い世界線。異聞帯(ロストベルト)と称された、閉じたはずの世界を展開している謎の巨大樹、『空想樹』と呼ばれている物を斬り落とすべく始まったこの世界での戦いはこれまでのそれと遜色がつかない程に激化した物であった。

 

―――異聞帯には必ず共通している点が二つある。一つは各異聞帯を担当しているクリプタ―と呼ばれるカルデアを裏切ったマスターとサーヴァントのコンビが一組。そして、もう一つはその異聞帯に君臨する“王”と称される存在だ。この世界におけるクリプタ―はカルデアを凍てつかせたキャスター、ロシアの大地で皇帝にならずに潰えた少女。『アナスタシア・ニコラノヴァ・ロマノヴァ』と、そのマスター……カドック・ゼムルプス。異聞帯の王の名は『雷帝イヴァン』。どちらも強大にして強力な障害だ。だが、その中でも巨大な障害と言えるのは、異聞帯を正して元の世界を取り戻すということの意味の重さだ。

先ほども言ったように異聞帯を展開しているのは空想樹という巨大な樹木だ。それを破壊することさえ出来ればその異聞帯は実態を保てず、これまでの特異点の様に消滅する(・・・・)。そう、消滅してしまうのだ(・・・・・・・・・)。それは、この絶対零度の大地で必死に生き抜こうとしてきた人類、ヤガ達の全てを殺すという事実に他ならない。お前たちの世界に、この地獄を生き抜かんとしてきた民を殺すだけの価値はあるのかと。雷帝は消滅する間際に呪詛を残した。異聞帯の王が消え、世界の全てを得たカドックは己がサーヴァントと共に前に出る。これでようやくスタートラインだと苦笑しながらも、ようやくそれ(・・)に手が届くと微笑んだ。今まで多くの人を救わんと行動してきたカルデア組の足取りは重い。自分達の世界を救うためにお前たちは死ね、そう取られてもおかしくはないことをしてきたという事実に彼は戦う固定概念が崩れ去ったのだ。事実、あの強力無比な雷帝を相手にしても消えなかった彼らの闘志の火は消えてしまった。後は、そんな無防備な敵を屠るだけでいい。カドックは自分達の側についたヤガ達に命じた。カルデアのマスターを殺せと。

それにヤガは従う。手に持つ銃を向け、借り物の力ではない自分だけの力を獲得した盾の少女はそれを呆然と見ることしか出来ない。黒鋼とそのサーヴァント達も必死に止めようと手を伸ばすが、如何せん間合いが遠すぎる。何も守れずに終わりを迎えようとしたこの戦い。だがそれは、一人のヤガによって覆される。言うまでもないが、ヤガという種族はどんな状況でも生きようとする強い意志を持っている。そのヤガが鉛玉の雨の中に身を晒してカルデアのマスターを身を挺して護ったのだ。そして、彼は命の灯を消す前に雷帝とは違う呪いを残した。

 

―――戦えと。こんな強いだけの世界(・・・・・・・)なんかに負けるなと。パツシィ(ヤガ)は彼の胸倉を掴んで、その瞳を狼の如き鋭い目で睨み付ける。お前を許さない、絶対に許さないと。お前たちの方が弱くて、怖くて、痛いんだろうけど。だからこそ生きろ(戦え)と。

それはきっと。これから先の闘いの中で彼らが背負うべき十字架なのだろう。自分達の世界を取り戻すために、これから何万何億の命を奪い去ろうとしているのだから。だが、それはお前たちが背負うべき当然の業だ。だから、それを知った上で乗り越えていけと。どこかで間違えてしまったヤガ(自分)達が、辛かっただけの生に意味があるとしたのなら。それは降伏に溢れた正しい世界があるからなのだと。そんな当たり前の世界の為に戦えと、一人のヤガはしてやったりと最期に笑みを浮かべてゆっくりと瞼を閉じた。その瞳は二度と開かれる事は無かったけれど、十分すぎる言葉(のろい)を送られた。

 

 

 

「たとえ世界から見放されようと、世界と対峙し続ける。それが、生きることなのだと。なんて、柄でもないセリフだけどさ。うん、俺はその言葉に従ってみようと思うよ。だから―――」

 

 遥か前方で爆発音や斬撃音。時にはビームが飛び交う中、そこだけは静まり返っていた。その場に立つのは一組のマスターとサーヴァント。灰色の髪の少年、カドック・ゼムルプスとそのサーヴァント。異聞帯のキャスター・アナスタシア。そして、その行く手を阻むのはアトラスのマスター黒鋼研砥と。ライダーのサーヴァント・ブーディカ。どちらも互いが最も信を置くサーヴァントだ。黒鋼の方にはサーヴァントが複数いたが、その全ては目の前の皇女殿下に凍てつかされた。残るは勝利の女王とそのマスターのみ、サーヴァントのスペックは向こうの方が上で三角に渡る令呪によるブーストも施されている。絶体絶命な状況にもかかわらず、黒鋼は不敵に笑みさえ浮かべながらカドックに向き合う。

 

「だから俺は、お前の世界を容赦なく滅ぼすよ。カドック・ゼムルプス。それは、俺達が背負わなければならない罪だ」

「どんなにほざいても、お前たちはもう詰みだ。他のサーヴァントは倒れ、残っているのはそこのライダー一人。カルデアのマスターを支持するのがアンタの役目とはいえ、戦力を空想樹に削ぎすぎたな。あれの防御機構は雷帝以上だ。どんなサーヴァントであれ斬り落とすことなんて出来やしない」

 

それに、と言葉を付け加えながらカドックは己のサーヴァントに告げる。皇女殿下は自分に命を下すマスターに少しだけ微笑みながら、冷酷にその指示を全うする。

 

「―――ここでお前たちは終わりだ。凍らせて砕け、キャスター!」

「ええ。分かっているわカドック。それでは、続きを始めましょう。汎人類史に肩を持つ者たちよ。―――――壊れて千切れて割れてしまえ」

 

 口元に手を添えながらふぅと息を吐く。それに釣られるように彼女の後ろから人間台の黒い人の様な存在が不気味な両手を添える。あれはアナスタシアが契約したロマノフ帝国の精霊・ヴィイ。アナスタシアの優雅な仕草とは別に、こちらを串刺しにせんと氷の棘が隆起しながら黒鋼達に迫る。甲高い音を立てながら氷の棘は際限なく立ち起こり、足場の不利を無くすべくブーディカは戦車を空へと走らせる。それを読んでいたと言わんばかりに今度は氷の飛礫が降り注ぐ。

 

「逃がしません」

「っ、『約束されざる勝利の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』!」

 

 飛礫が一つとなり、より強大な氷塊へと姿を変える。それを防ぐべく勝利の女王は己の宝具の真名を謳う。無数の車輪が氷塊を押しとどめ、その隙を狙い降下する重力も加えた突進を行う。だが、その行く手を氷の壁が阻む。突如現れた障害物に愛馬は戸惑い、地表から氷の槍が伸び始める。それに舌打ちをしながらも、黒鋼は強化魔術で得た筋力値に物を言わせて斬撃を飛ばし、それを斬り落とす。

思うようにことを進められないもどかしさがブーディカを焦燥させる。だが、そんな時だからこそマスターの出番が来るというもの。すかさず手にした武器を仕舞い込みながら、振り落とされないように戦車の端をしっかり掴みながら指示する。

 

「ブーディカさん、もう一度急上昇からの急降下! 今度はこっちも礼装でブーストする!」

「ん、任せたよマスター! さあ、行こうか我が愛馬よ!」

「させるなキャスター!」

「ええ。これ以上の狼藉は看過できないわ」

 

 氷の壁を逆に利用し、垂直で真っすぐに愛馬を走らせる。次の降下を許そうとしないカドックは魔術回路に活を入れ、循環された魔力を糧にアナスタシアはヴィイと共に氷を想像して迎撃する。黒鋼は後ろから迫る氷を壊して回るが、如何せん数が多すぎる。ベオウルフ並みの豪拳があれば話は変わったかもしれないが、残念なことにいくら強化してもそこまでの筋力値は併せ持ってはいない。だが、ブーディカは後ろを気にせず真っすぐに前へと走り続ける。氷の数が捌ききれない程に増えた直後、黒鋼は左腕に輝く赤い紋様に手を添えながら叫ぶ。

 

「令呪を以て命じる! 加速しながら降下し、氷ごと轢き倒せ! ライダー!」

「おうともさ! さあ、行くよ――――!」

 

 赤い紋様、サーヴァントを従えるマスターに刻まれた三回限りの絶対命令権。令呪による瞬間的なブースト。今まで温存していた切り札を切ったマスターの指示に応え、先ほどとは比べ物にならない程に戦車を加速させながら戦車を反転、地表に立つ二人に向け突撃する。同じライダークラスのメドゥーサのペガサスによる突撃にも似たそれは、かなりの破壊力を兼ね備えている。それを冷静に見ながらもカドックもまたキャスターに命じた。

 

「キャスター! 最後の令呪を以て命ずる! 皇帝となれ!!」

「―――ええ。その令呪に応えましょう、カドック! ヴィイ、魔眼を使いなさい!」

「…………………!!」

 

 令呪による命令とは、単一化させたものの方が効力が大きい。例えば、宝具の開帳や自害といった単純なものほど令呪による強制力は力を増す。だが、全ての命令に服従といった長時間持続するような命令や抽象的な命令にはあまり拘束力は存在しない。だが、今現在アナスタシアに行き渡る令呪の命令はその力を最大限に発揮している。彼女の後ろに潜む精霊(ヴィイ)が巨大化し、不気味な瞳で二人に迫る戦車に認識。辺り一面が一瞬にして氷結させようとその魔力を解き放つ。

 

「魔眼開放―――魔眼効果付与完了(バロール・エンチャント)魔術回路限界励起(サーキット・オーバー)………皆殺しにしなさい、ヴィイ! 宝具発動、『疾走・精霊眼球(ヴィイ・ヴィイ・ヴィイ)』!!」

 

 肥大化したヴィイと残る魔力を解き放つアナスタシア。その余波だけでも黒鋼とブーディカの肌を晒している部位に冷気が染み込み凍えていく。このまま何の策も弄さずいたら宝具を直撃する前に凍り付くだろう。だが、そんなことは認められない。戦えと、生きて闘えと言われた。そうあるべきだと願われた。ならば、その思いを背負って黒鋼は戦わねばならない。元より彼は、そうあるべきだと定めづけられているのだから―――――!

 

「二画目の令呪を以て、我らが女王に願い奉る! 我らが道を遮るものを打ち破れ!」

 

 最大三角存在する令呪のうちの二つ目を捨てる。赤い閃光と共に令呪の魔力はブーディカの剣と戦車に吸収されて行き、戦車の周りには無数の車輪の盾が。腰に差した刃には銀の光が溢れる。体中に魔力が行き渡り十全に力を行使できるという条件はこれで対等。だが、彼にはまだ最後の一つが残されている。それをどう使おうか逡巡したが、すぐに愚問だと苦笑する。何故なら、それは既にそうあるべきだと気づいているからだ。

 

「最後の令呪を以て、我らが女王に請い願う! 勝利の女王(ヴィクトリア)であれ!」

「―――! マスター、それは……」

 

 三角目の令呪による命令、それは奇しくもカドックがアナスタシアに命じたものと酷似していた。抽象的な命令は令呪を以てしてもあまり効力を及ぼさない。だが、その意味を互いが理解している時はその限りではない。二つの令呪によるバックアップにより、ブーディカへと行き渡った力は生前のそれに近づく。当時、最強と呼ばれたローマを半壊させた勝利女王の愛馬による宝具級の魔力の塊をぶつける全力疾走。それに加えて愛剣や盾、後ろには護るべきマスターがいるということが死の恐怖へと挑む彼女を鼓舞する。

 ―――負けられない。ローマに蹂躙された(あの)時とは違う、今度こそ護りきるのだと(・・・・・・)。過去に受けた悲劇を二度も起こさせないと再び誓う女王の握る手綱に、剣を握るその手に力が満ちていく。

 

「はあぁぁぁ――――――!!」

「っ、凍れ―――――――!!」

 

 ヴィイ自身の手とアナスタシアと共に生み出した氷塊と、周囲に展開された車輪の盾を引き連れた戦車が激突する。互いに込めた魔力は自分が持ち得るもの全て。後の勝敗を決めるのはそれぞれが持つ勝利への執念だろう。全力を籠めた四人の力の行方は――――――

 

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

「あー…………痛い、もう体の節々が悲鳴上げてるんだけど。休みたい、休みたいぞ~………」

「まあ、今回の闘いも激しかったしね。いつも言ってるからありがたみなんてないかもだけど、今回もお疲れさま」

 

 重い足取りと愚痴を零しながら召喚場に向かう黒鋼と、それを見ていつものように苦笑するブーディカ。いつものような光景とはいえ、それが今も続いているのは幸せなことである。『永久凍土帝国』と呼称されたあの異聞帯(ロストベルト)での激闘から早数週間。ちょっとした裏技を用いて現地に直行できた彼らアトラス支部の面々は、正式にシャドウボーダーとの“縁”(アンカー)の作成に成功した。といっても、こちらに直接顕現してもらう訳にはいかないので、食料やサーヴァントの転送といったことし出来ずにいて歯がゆいというのが現状だ。これもあの人(・・・)の指示とはいえ、面倒だと一蹴したいところ。しかし、組織に属する以上は身勝手な行動は許されない。カルデア組には不自由な思いをさせてしまっているが、今は何とか納得してもらいたい。

 

「ところで、カルデアの新所長。ゴルドルフって言ってたっけ? 案外話の分かる人そうで良かったよ。いい意味で単純、悪い意味で平凡な貴族ってとこだけど。決して悪い人じゃなさそうだ」

「そうだね。ちょっと上から目線なところはあるけど、それ以外は普通の人っぽい。いやぁカルデアの新所長のプロフィールだけはホームズが前もって送ってくれてたから知ってたけど、本当にそのままだったから驚いたよ」

 

 二人して話題になっているのは、大晦日に壊滅した時に一緒に連れてきたカルデアの新所長、ゴルドルフ・ムジークという男性についてだった。小太りな体型に良質な魔術回路。そして、他を見下して考える魔術師特有の考え方ではあったが、それを剥きすると普通の人間の様だ。魔術世界においてああいって人は数が少ないので、きっと色々と苦労してきたのだろう。コヤンスカヤという玉藻と瓜二つな人物の独断と偏見で選んだそうだが、彼ならばカルデア職員とも良好な関係を築いていけそうだ。

 

「あ、気になってたんだけどコヤンスカヤって人の正体分かったの? 玉藻本人に確認しに行ったんでしょ?」

「それなんだが。当の本人が一向に話そうとしないんだよな。どうして自分の黒歴史が出て来ているんだとか、アルトリアさんみたいに私の種類を増やしても良いことないですよだのと。その、色々と苦労してそうだった」

「―――ああ、うん。そうだね。今更だけど、普通は自分と同じ存在が増えたら戸惑うよね。うん」

 

 同一人物が様々経緯を経て別人として現界することは実際に在り得る。例に挙げると先に話題となったアルトリア、彼女は聖剣エクスカリバーを所持した状態と聖槍ロンゴミニアドを所持した二つの軸が存在しており、どちらも聖杯の呪いといった理由でオルタナティブ。つまりオルタ化した存在がある。それに加えて霊基に追加補填される水着だのサンタだの、はたまた別時空で謎のヒロインXだのそれのオルタ化だのと。正直なところ彼女一人で十人も役をこなせているのである。

 また、ネロも付きの聖杯戦争を経験したもの。そうではない花嫁衣装に身を包んだブライドの二種類。ジャンヌ・ダルクやエリザベート、クー・フーリンにエミヤといったサーヴァントも自身が増えていく現状に頭を抱えている所がある。その中でも段違いなのがやはり騎士王様なのだが。本人はもう何も考えないようにしている節さえある。

 

「さてと、あれこれ考えるのはやめだ。ぼちぼち召喚の方に移っていこう」

「そうだね。いやぁ、今回は今回でもかなりの数だね」

 

 今回用意した聖晶石の入った袋の封を解き、それをボロボロとサークルの中央に注ぎ込む。今回はカドックとアナスタシア、現地で力を貸してもらえたサーヴァントとも少なからず縁を結ぶことに成功したのでかなりの数のサーヴァントの召喚が可能になっている。といっても、こちらに残された聖晶石にも限りがある。最近は何故か財布が暖かくなることが多いので、お布施感覚で課金してしまうかもしれないが許してほしい。ちゃんと上限はしっかりと決めているから許してほしいところ。といって、過度な課金は身を亡ぼすのでほどほどにしておきたい。

 

「そうこうしている内に新しい人の反応を感知したみたいだ」

「ん、クラスはキャスター。外枠は銀だから、彼かな?」

 

 十連召喚の際に吐き出される召喚済みのサーヴァントや礼装を掻き分け、その中で新たなエーテルで編まれた体を得たサーヴァントが現界する。身長は二人に比べると少し低く、小柄な体の頭部は土色の仮面で覆われている。人嫌いというここでは珍しくもない性質を持ったキャスターは。あの凍てついたロシアで最も頼りになったあの人である。

 

 

 

 

 

「サーヴァント、キャスター、アヴィケブロン。召喚に応じ参上した。早速で申し訳ない、工房が欲しいのだが、いいかね」

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

「お久しぶりです、アヴィケブロンさん」

「君か。私が召喚されたとなると、あの戦いはどうにかなったようだ」

「うん、君が作ってくれたゴーレムがなかったら大変だった。本当にありがとね」

「やめてくれ、私はただ贖罪を兼ねて行ったことに過ぎないのだから。感謝の言葉はありがたく頂戴するが、必要以上に私の評価を上げることはやめてもらいたい」

 

 淡々と自分の評価を下すゴーレムマスター、アヴィケブロンの言葉に二人は苦笑する。彼の宝具、『王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』を発動させるためには核となる炉心と材料となる土台が必要となる。土台は異聞帯で本当に怪物(ミノタウロス)となったバーサーカー・アステリオスが作り上げた迷宮を。そして、核は彼自身を生贄とすることで製作された。あの時、彼は言っていた。かつての自分は宝具(アダム)を降臨させるためにマスターであった子供を生贄にしたのだと。そして、その時の後悔や罪の意識は自分という霊基に染みついているのだと。

 ―――だからこそ戦え。私は君たちならばあの雷帝をも倒すと信じしている。契約を交わして数日しかたっておらず、人間嫌いのアヴィケブロンがそう言い残して消えたあの時。絶対に負けられないと誰もが思ったものだ。

 

「それでも、貴方には感謝しかない。ありがとう、アヴィケブロン。そして、これからよろしく。工房はすぐにでも用意させてもらうよ」

「ああ。では、私はこれで失礼しよう。後で召喚される人物が所縁がある者だと、気の利いた言葉も返せないのでね」

 

 事務的に話した後に召喚場を去るアヴィケブロンを苦笑しながら見送る。呼ばれて早々なのでそこまでの付き合いではないとはいえ、素っ気ないにも程があると思うのは仕方のないことだろう。

 さて、最初の十連が終わり。次々と十連を回していく。目下の目標は一応あの女性(・・・・)ではあるが、無理に呼ぶつもりはない。あくまで自分が挑戦できると判断する分しか回さないように細心の注意を払う。そうこうしていると、新たなサーヴァントの反応を二つ検知した。クラスは狂戦士(バーサーカー)復讐者(アヴェンジャー)の二つ。どちらも観測したことのある霊基パターンから何となくではあるものの、召喚されるサーヴァントにあたりをつけておく。

 二枚のカードから形作られていく二つのシルエット。片方は頭部に耳を、腰辺りから尻尾を生やした女性。灰色に染まりつつある髪に黒と白で彩られた服から、どこかモノクロじみた衣装を身に纏った人物が形成されていく。もう片方は赤と黒で染められた甲冑を身に纏い、片手には指揮棒の様に細い剣を持つことから細剣士(フェンサー)という肩書が似合いそうな人物。どちらも召喚されてから早々に怨嗟にまみれた口上を述べた。

 

 

 

 

 

「全てを燃やし、何もかも喰らい尽くしてやる………!!」

「私は、死だ。私は、神に愛されしものを殺さねばならぬ。……我が名はサリエリ。いいや。違う。私は、私は誰なのだ…………―――」

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「ん、二人とも異聞帯以来ですね。召喚に応じてくれて、ありがとうございます」

「………こうやって、カリュドーンの毛皮を纏って召喚されるというのは慣れんな。私のこれは、あくまで宝具の発動に伴う変化だったからな」

「そうなの? それじゃ、その肩の毛皮を引き剥がせばアーチャーのアタランテに戻ったりするの?」

「いや、今の私はバーサーカーであれと聖杯から呼ばれた。故に、カリュドーンの毛皮を引き剥がしても霊基の在り方は変わらん。弓兵の私と違い、今の私の精神の在り方も些か歪んでいる。面倒なサーヴァントではあるが、よろしく頼むぞ」

 

 どこか挑発するようなアタランテ・オルタの言葉に黒鋼は乾いた笑みを浮かべる。そもそもアーチャーのアタランテでさえ未召喚なのに、いきなりバーサーカーの方を呼んで弓兵の頃とは違うから気を付けろと言われてもあまり危機感を感じない。といっても、アタランテである以上子供が好きという点は共通しているだろう。あとでジャックやナーサリーたちの中にでも放り込もうと内心で決めていると、口上を述べてから一度も喋らない復讐者(サリエリ)のことが気になった。時折、体を震わせていることからちゃんとここに召喚されているのだろうけれど。一体何が彼を震わせているのだろうか。

 

「お~い。サリエリさ~ん? どうかしましたか?」

「あ………う………す……あ……………あ………」

「あ。う。す? ――――――あっ」

「―――――アマデウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 口上を述べ終えた直後に発狂し召喚場を爆走しながら去るサリエリに、この場に揃った三人は呆然その行くさまを見送るしか出来なかった。アントニオ・サリエリ、彼は生前にヴォルガング・アマデウス・モーツァルトを殺したというただ一点のみで英霊に至った存在だ。曰く、アマデウスの音楽に対する才を妬み凶行に至ったのだが。しかし、それはそうあるべきだと民衆が噂した結果であり、最終的には『無辜の怪物』という噂等で容姿や能力が付与された人物に与えられるスキルを獲得した。ランクはまさかのEXと、過去に登場したそのスキルを所持する者たちをぶっちぎって高い。それだけ、サリエリという人物に取り憑いた(のろい)は強いということだろう。

 

「さて―――。その、アタランテ・オルタ。早速で悪いんだが、頼みたいことが一つ」

「先の男を捉えれば良いのだろう? 最悪、霊核を砕くことになるかもしれんが。それでも良ければ了承しよう」

「ん、それじゃ任せた。でも、できれば無力化程度に収めてくれると嬉しい」

 

 それは出来かねる、淡々と先に召喚されたアヴィケブロンのように事務的に話しながら墜ちた狩人は疾走する。元よりギリシャ神話の中でも屈指の敏捷値を全開にしてかける彼女は、文字通り目にもとまらぬ速さで召喚場を後にした。個性の強い人ばっかり読んでしまったな頭を掻いていると、隣に立つブーディカがどこか悲しそうに微笑んでいた。

 

「―――ブーディカさん? どうかしたのか?」

「えっ? あ~いや、別に大したことじゃないんだけどさ。やっぱり、私の知る彼女とは違うんだなって思うとさ。少しだけ悲しいっているか、ね」

 

 その言葉は間違いなく、さっきのアタランテに対して贈られた言葉なのだろう。確かに、黒鋼達が会って話した彼女はオルタではない。多少の肉弾戦はしても基本は弓による射撃に特化した麗しの狩人だ。だが、人というのは堕ちようと思えばとことん墜ちる。それだけ、普段とオルタには違いがある。いや、それはアタランテだけに限らないのだが。一時期、同じキッチンで料理をしたり、子供たちの相手をしてそれなりの関係を築いていたブーディカだからこそ。その言葉が出たのだろう。

 

「―――いつか、オルタじゃない方も呼べるように頑張るよ。俺も出来れば、あの人には笑っていて欲しい」

「うん。その時は頑張ってね、マスター」

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

そうこうしているうちに、今回の十連ガチャもそろそろ終わりに近づいていた。結局といえばそれまでだが、元より用意していた分だけでは少し物足りず。次のイベントまでに育成と称して聖晶石を購入し、育成に必要な分の石を投げ続けている。今回のガチャもこれで七回目。その感に二人目のサリエリや、アタランテを三人呼び出し。アヴィケブロンに至ってはフレンドガチャという無料(ただ)で回せるほうのガチャでも来てくれたことで宝具レベルが五になっている。成果としては十分だが、せっかくなので演技の良い七回目で打ち切ることになったのだ。

 

「それじゃ、最後の十連行くぞ~。どうせ『優雅たれ』のみだろうけど、しかる後に『イマジナリー・アラウンド』の贄するから問題は無い!」

「いや、ここまで良い引きなんだからここらで撤退しようよ。………って言ってもしないんだろうなぁ。しょうがない、でも。それで最後だからね?」

「おうともさ。この後でどうせ復刻イベントとかやるんだし、その分くらいは残しておくさ」

 

 ここまで中々の結果を出してきた十連ガチャもこれで幕引き。今度は誰が来るんだろうなと淡い期待を寄せながら今回最後の十連召喚を執り行う。いつものようにポンポンと出て来る『麻婆豆腐』や『天の遡月』といった星三の礼装に嘆息した直後だ、金色の光がサークルを彩る。中心に表れたのは狂戦士のイラストが描かれており、案の定アタランテ・オルタが召喚される。

 

「……………汝も酔狂なマスターだな。狂っている私を呼ぼうなどと考えるのは汝くらいなものだ」

「いや、呼ぼうと思ってたわけじゃないが………まあ、ここまで来てくれたのは何かの縁だ。全力で育てるからよろしくな、オルタンテ」

「待て、それは私の名か? 即刻取り消せ、今すぐにだ」

「い~じゃん呼びやすいし。アタランテ・オルタって長いし」

「だからといって勝手に略すな! 噛みつくぞ!」

「おうこいや! その前に全力で尻尾とか耳とかモフってやんよ!」

 

 これで通算四回目の登場となるアタランテに若干の嫌気が差した黒鋼が彼女をからかい、ノリよくそれに付き合いじゃれ合いという名のリアルファイトが始まるような空気が辺りを包む。お互いの目を全力で睨み付け、いざ行かんと踏み込もうとした直後。二人の横から金色の光の柱が立ち昇る。そういえばまだ召喚の途中だったと今更ながらに思った黒鋼は、それを横目で見届けようとして目を剥いた。金色の光の中から出現したのは、今まで呼ばれていた狂戦士のそれではなく。髭の生えた老人が描かれていた、キャスタークラスのカードだったのだ。

 

「え、ちょ、え!? う、嘘だろこんなことがあり得るのか!?」

「なんか、ここ最近の研砥のガチャ運が右肩上がりだねぇ。この間もキアラやアーサーとか呼んじゃってるし、これはひょっとしたらひょっとするのかな……?」

 

 金色のカードから光の粒子が零れ、遂にそのサーヴァントの姿が露わになる。だが、それは二人が期待していた彼の皇女殿下ではない絶対的な王の姿。金の髪に赤い瞳、眠そうな瞳をゆっくりと開いて辺りを見渡し、突如として出現した波紋の中から一振りの斧を取り出しながら彼は己が真名を告げた。

 

 

 

 

 

「キャスター・ギルガメッシュ。人類史の危機と聞きつけ、ここに現界した。貴様の召喚に応じたわけではない。付けあがるなよ、雑種」

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

「ぎ、ギルガメッシュ王―――――!?」

「なんだ、この(オレ)が来ることに不満でもあったか? 既に事を終えた後にも拘らずやって来る我は不要だとでも?」

「めめめめ滅相もない! ありがとうございます!」

 

 五回目の登場となるキャスター・ギルガメッシュの登場に黒鋼は驚きと畏怖を隠せない。いや、正直な話をすれば金色に輝くキャスターのカードを見て彼女が呼ばれたのではと思ってしまったわけなのだが。それを抜きにしても彼が召喚されたというだけで今回のガチャは勝利したといっても過言ではない。なぜならば、賢王ギルガメッシュの宝具レベルが悲願の五になったのだから。

 

「ふん、分かればよい。尤も、それだけでなく。別の者も引き寄せるのが貴様の取り柄というか、体質なのだろうがな」

「は? え、なんか物騒なこと言ってないか?」

「知らん。だが、この後に呼ばれる者に対する処遇は貴様が決めることだというだけだ。精々気を引き締めてことに当たることだ。間違えば貴様といえ、凍えるかもしれんからな」

 

 愉快に口元で弧を描きながら賢王は召喚場を立ち去った。それに釣られるようにアタランテも我先にと召喚場を去ってしまった。一体何が言いたかったんだろうかと首を傾げているとだ。再び召喚場が眩い光が炸裂した。しかも、先ほどの金色のさらに上を行く輝き。虹色に輝く三本の光のラインから魔術師のカードが吐き出されていた。

 

「………は? え、ちょ。はぁ!?」

「まさか、本当に召喚されちゃうなんてね。これは、カドック君に悪いことしたかな」

 

 眩い光から徐々に一人の女性の姿が構成されていく。雪の様に白い髪に同色のドレスに身を包み、翡翠色の瞳をした少女。どこか遠い場所を見ているかのような目つきに、手で優しく抱いている顔のない人形。彼女からゆっくりとこちらに流れていく冷気と、表情が一切見えないその顔から自分とは違う位置にいる存在なのだと思い知らされる。

 それは、彼の異聞帯で遭遇して撃退したサーヴァントの一人。決して相容れることは出来なかったが、最期までサーヴァントであらんとしたその在り方に感動した彼女の名をよく覚えている。少女はそんな召喚者たちの感情を知るはずもなく、淡々と事務的に口上を述べた。

 

 

 

 

 

「サーヴァント、アナスタシア。召喚の求めに応じ、ここに参上したわ。この子はヴィイよ。私共々、よろしく」

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

「――――――次はこれをこうして。んで、次にあいつ等が虚数空間に入っても大丈夫なようにアンカーを再制作してと………。これでよしっと。それじゃ次に異聞帯のレポートをば―――」

 

 召喚されたばかりのアタランテ・オルタ、アナスタシア、サリエリのレベルを上げを済ませ、次に宝物庫や種火の周回を終わったらいつものようにレポートの作成をし続ける日々が続く。特異点ではなく異聞帯という未知の存在へのレポートを作成するというのは精神的にも疲労が溜まっていく。加えて、今回は普段とは違う方法で現地に移動した上で戦闘までこなしたのだ。肉体的にも精神的にも疲労は溜まっているのだが、それを無視してでも頑張らないといけない。

 何故なら、黒鋼はカルデアを補佐する支部に所属するマスターの一人。そして、そのカルデア本部は壊滅した上に現在進行形で逃避行し続けているのだ。だからこそ、彼一人だけでも成し遂げないといけないのだ。レポートの作成からこれから続く異聞帯での戦闘における予測と訓練。果てには捕虜になったカドック・ゼムルプスというクリプタ―の尋問などなど。色々とやらないといけないことが多くて大変なのである。尤も、偶然にもアナスタシアの召喚に成功したから、彼女をカドックの元に向かわせるだけで充分だと思ってはいるのだが。

 

「…………あの別れは、本当に辛かったからな。少しでも仲良くなれれば良いんだけれど」

「あら。誰が、誰と仲良くするのかしら?」

「ん? いや、だからアナスタシアとカドックの関係だよ。敵だしビリーのやったことだから仕方ないが、俺個人としては殺すつもりはなか―――!?」

 

 対応されるはずのない独り言に反応され、つい言葉を返してしまった黒鋼は驚きの余り勢いよく後ろを振り返る。女性の声は彼の思った通りの人物であり、彼女は何事もなかったかのようにベッドに腰を掛けていた。小さい顔のない人形を携え、雪の様に白く長い髪伸ばした小柄な少女。レベルを上げてから遭わない様にしていたアナスタシアがそこに出現していた。

 

「―――どうしたんですか? 貴女には待機を命じていたはずですが」

「いえ、別に何も。それとも、私がここにいるのが迷惑なのかしら?」

「迷惑じゃないですが、最初は一緒の部屋にいるのも嫌がっていたので驚いてしまって。気分を害してしまったのなら謝りますが」

「問題ないわ。それから、無理に敬語を使う必要も無いわ。人に仕えるということは慣れていないけれど、今の私は貴方のサーヴァントですもの。マスターならマスターらしくしてちょうだいな」

 

 無機質な機械の様に淡々と言葉を紡ぐアナスタシアに、黒鋼は何とも言えない表情を浮かべながらそれを了承する。といっても、彼にとってアナスタシアというサーヴァントは召喚してしまったことに僅かながらの罪悪感を覚えてしまっている。それは、カドックという最高のパートナーを得ていた彼女に、別の存在とは言え自分などがマスターと呼ばれていいのだろうかと考えてしまうからである。召喚された彼女をカドックの元に向かわせようとしたのも、その罪悪感が齎した判断なのかもしれない。

 

「……やはり、貴方は器用ではないのですね。気にするなと言っても、無駄なのでしょうね」

「そりゃあ、な。俺が言うのもあれだけど、向こうの貴女とそのマスターとの関係は美しかった。だから、そんな彼のサーヴァントである貴女と契約を結んで本当に良かったのか。感がられずにはいられないんだ」

 

 聖杯戦争においてマスターとサーヴァントの関係性は勝ち抜く大事な要素だ。時折、契約したサーヴァント達に自分達が参加した聖杯戦争のマスターとのことを聞く時がある。それを聞くたびに胸が痛むのは、自分がそのマスター達と負けないくらいの人間だと胸を張れるほどの実力を伴っていないからだ。それは敵対したマスターであるカドックも例外ではない。

 溜め息を漏らしながら天井を見上げる。マスターとして色んなサーヴァントと契約してかれこれ二年と数カ月。少しは彼らが誇れるマスターになれているのだろうかと考えてしまう。すると、アナスタシアの冷たい手が黒鋼の頬を触れる。いつの間に立ち上がっていたのか、黒鋼は自然と彼女の翡翠色の瞳を見つめる。召喚されたころとは違う優しい目つきでアナスタシアは微笑みながら口を開いた。

 

「そんなことを考える必要は無いのです。私は貴方の呼びかけに応じ召喚され、貴方はそれに相応しい指示を行ってきました。少なくとも、私は貴方のサーヴァントとして戦えることに満足しています」

「………なんだろう、な。どうもそれを受け入れられない自分がいるんだよな」

「それは貴方の問題です。どうにかして乗り越えてなさいな。それから、紅茶を飲みたいわ。あの赤い外套の弓兵に用意をお願いできるかしら。折角だし、これまでのマスターの冒険を聞かせてくれないかしら。興味があるわ」

「―――そうだな。いい機会だ。お供しましょうか、皇女殿下殿」

 

 

 

 

 




といわけで、今回の亜種特異点Ⅰ『永久凍土帝国 アナスタシア―――獣国の皇女―――』ピックアップではイヴァン雷帝以外のサーヴァント+術ギルという我ながら最高の引きをしました! 今回から結果を以下の様に纏めてみようかと思います! なお、☆3のサーヴァントは自分が狙ったものを書くのであしからず。

回した回数………10連召喚7回。単発召喚6回の計76回
☆5:アナスタシア
☆4:アタランテ・オルタ(3人)
   キャスター・ギルガメッシュ
☆3:アヴィケブロン(5人)
   サリエリ(2人)


 次回は聖杯大戦篇を投稿予定です。待ちにまったFate/Apocryphaコラボ! そして始まる『施しの英雄』カルナのピックアップと恐ろしく効率の良い素材狩り。秒間42体倒されたことによって人嫌いが悪化したアヴィケブロン先生の未来はいかに!?
次回、『怒り狂いし英雄王、裁きの鉄槌が世界を斬り裂く』でお会いしましょう!


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聖杯大戦。施しの英雄はいずこへ

はい、最近の多忙っぷりにうんざりしている青眼さんデース!(白目)

いやほんと最近忙しすぎて辛い。なんで5月頃のガチャを今になって投稿してるんですかねぇ!?
さて、そんな今回はFate/Apocrypaとのスペシャルコラボイベントのガチャ報告になります。カルナさんのピックアップガチャも含めるとかなりの数を回してるのでダイジェストでサクサクっと書いていきますよ! さぁ、次は帝都、水着復刻、今年の水着、ゲッテルデメルング、福袋&三周年、鬼ランドにシンと。ネタ多いって素晴らしいなぁ!(泣)



 

 

 

 ―――聖杯大戦。それは、ある世界戦で繰り広げられた七対七の総勢十四騎ものサーヴァントを以て開戦された聖杯戦争。“赤”と“黒”の二つの陣営に分かれて行われたこの争いはそれぞれの思惑がいくつも絡み合い、運命に翻弄されることになった。

 ある聖者は、生きとし生ける全ての生命の救済を齎さんと動き。

 ある聖女は、その聖者の野望を打ち砕かんと尽力し。

 ある少年は、数奇な運命にその生を捧げながら聖杯大戦の幕を引いた。本来ならば、その少年は己の体をこの世ならざる存在へと変貌させてある人がやって来るのを待ち続けるのだが。今回は、そんなある人を待ち続けた彼に訪れた小さな変化だった。聖杯大戦を終え、その身に宿したある龍殺しの特性から宿敵である邪竜へと変化した彼は、世界の裏側にて大戦の際に獲得した大聖杯に何らかの変化が起こっていることを察知した。なんと、大聖杯の中で自分が経験した聖杯大戦の様な物が再現されているのだという。それの持ち主である彼自身が解決に乗り込んだが、大戦に参加した数多くのサーヴァントが乱入していることもあり。自分の力だけでは手に負えないことを早々に判断した彼は、かつての自分と同じくマスターであった存在に夢の中で助力を請うことにした。結果だけで言うと、彼は無事にあるマスターと協力を得ることができた。そしてこれは、その際に行われた戦いの一幕である。

 

 

 

 

 ―――大聖杯の中で再現されたかつての聖杯大戦、舞台となったのはルーマニアという国の中にあるトゥリファスという町。そこに存在していたある魔術師の家系、『ユグトミレニア』という魔術師が活動していた城塞にて活動を開始した大聖杯の管理者ジーク。そして、その彼が夢の世界にて協力を結んだマスターである黒鋼。そして、彼ら二人に最初から力を貸してくれたのは世界最速の足と称されるまでの大英雄、ライダーのアキレウス。それから、アキレウスをはじめとして、ヘラクレスやイアソンといったギリシャ有数の英雄たちに教えを説いた大賢者。アーチャーのケイローンの計四人だった。たった四人しかいないと思うが、実際はそうではない。何故なら、夢の世界に連れてこられても黒鋼自身が契約したサーヴァントの運用は不可能ではないからだ。だが、この世界に一度に現界できるサーヴァントは限られている。そして、彼にはまだ為すべきことが残っている。こんなところで道草を食う訳にはいかないのである。

 だが、それでもジークに力を貸そうと決意したのは。どこか、自分に戦いとは何かを説いてくれた彼の英雄を思い出したからだ。尤も、その後の闘いで黒鋼が思い描いた英雄の姿に変身した時は度肝を抜かされたが。それはさておき、最初は彼の尤も信頼する赤髪のライダー。自分の事を万能の天才と称する赤い男装のセイバーといったサーヴァントと共に戦っていたのだが。今回の闘いでは『施しの英雄』や『最古の毒殺者』といった有名どころのサーヴァントが参戦している。故に、彼はあまり乗り気ではなかったがとある“王”に助力を請うた。本来ならば、そのような雑事に手を煩わせるなと一蹴されるはずだった。だが、今回に限り彼の王は目を細めながらも笑み浮かべ、二つ返事で了承した。

 ―――そして、その時は訪れた。眼前に広がるのは超巨大な空中要塞。そして、眼下には一人一人が強力なサーヴァントが蠢いている。空を飛べる者は物言わない傀儡の如く黄金の船に取り付こうと近づくが、船から放たれるレーザーや武具の数々がそれを退ける。

黄金の帆船、『天翔ける王の御座(ヴィマーナ)』の操縦席である玉座から離れた船頭に立つ王は、己に挑まんとする者を冷酷に見据える。彼の王を亡き者にせんとする者たちの力は言うまでもなく一級品だ。魔力で生み出した炎で空を自在に飛ぶのは『施しの英雄』カルナ。王とは別の世界線で縁があり、あらゆる外敵からの攻撃を防ぐ黄金の鎧。雷神インドラから与えられた神殺しの槍といった強力無比の宝具を持ち合わせた最強のサーヴァントの一人。

更にもう二人、眼前に広がる空中要塞から王を斃さんとする者がいる。この聖杯大戦で『赤』の陣営で召喚されたアーチャーとアサシン、『最古の毒殺者』で名が通っているセミラミスとギリシャの女狩人アタランテである。前者は彼女の宝具である空中要塞、『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』の十一ある防御機構、『十一の黒棺(ティアムト・ウームー)』放たれる対軍用の魔術レーザー。それに加え、空中要塞で矢を構えたアタランテが放つ宝具、『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』によって降り注ぐ光の矢による雨霰。並の英霊ならば、この三人のサーヴァントの一人でも遭遇すれば瞬殺される。だが、その三人が一度に襲い掛かってもなお余裕を見せる彼の王は言うまでもなく“並”の英霊ではない。

王は己に近づく不敬者を財宝の一斉射という純粋な物量で退けながら、その眼と知能を以て事の在り方を詳らかにする。そして知ったのだ、自分に襲い掛かる英霊達の正体とこの世界の在り方を。その時、王の心にあったのは純粋な怒りだけだった。それは誰に対するものなのかは言うまでもない。傲岸不遜、天上天下唯我独尊を地で行く王にとって些末な事は嗤って流される。だが、王の数少ない逆鱗に触れた此度の敵は後悔することになるだろう。格の違いという、この世の真理をその目に焼き付きながら死んでいくのだから。

 

「―――よもや、ここまで(おれ)の琴線に触れる愚か者がいようとは。いや、恐らく此度の黒幕は知らなかっただけであろうな。己の悲願を為そうとしてこの世界を作り出し、その掃討にたまたま我が来ただけの事。言ってしまえばそれだけのことだが、黒幕には同情を禁じ得ん」

 

 『天翔ける王の御座』の船頭に立つのは普段は逆立てている金の髪を下ろされている。着込んでいる黄金の鎧の上半身を開放し、神の血を引く者の証である赤いラインが刻まれた肉体を恥じらうことなく見せつける。体に刻まれた紋様と同色の瞳は空中要塞に、正確にはその中に巣食う者に対して向けられている。絶対者()から放たれる殺意に物言わぬ英霊達は何も感じないだろうが、地上で戦うジーク達はそれを感じ取る。余りにも濃厚な殺気に、あのアキレウスでさえ身震いした。

 ―――それは、己の首を取ろうとする英霊共に対する軽蔑や怒りではなく。その英霊共を用いて事を為そうとする亡者に対して送られた物。誰に言っているのかはこの場に居合わせた知性を保った者達には理解できなかったが、王は独り言のように呟き続ける。慢心を捨て、油断を捨て。己に課している制約を解き放っているのは一刻も早くこの茶番に幕を下ろすために彼の王は全力を解き放とうとしている。

 

「我はな、此度の騒動なぞどうでもよい。本来ならばこのような雑事なぞに我が関わることなどありえん。だがな、此度は我を笑い殺そうとすることが多くてどうなることかと思ったぞ? よもや、これだけの贋作が蔓延る世界だとは思いもしなかったからなぁ!」

 

 近づいてくる飛行能力を持ったサーヴァントに向けで財宝を躊躇うことなく解き放ち。空中庭園から放たれるビームは『天翔ける王の御座』の圧倒的な速度を以て回避し、地上の有象無象はジークやアキレウスが蹴散らしている。高度を上げ、黄金の波紋から一振りの財宝を取り出す。赤い閃光を伴いながら顕現したそれは、柄から先が赤い光を放つ文様を備えた、三つの層から成るランスのような形状をしている。剣というには余りに歪で、槍と称するにはあまりにも短い。だが、それがそこに存在しているというだけで世界が悲鳴を上げているかのようにぶれ始めている。

 ―――否、それは勘違いなどでも何でもない。その歪な剣こそ彼の王のみが持ち得る至高の一振り。文字通り世界を斬り裂いたとされる原初の剣。その銘は、『乖離剣エア』。黄金の王にして英雄の中の英雄王、ギルガメッシュが貯め込んだ数ある財宝の中でも秘宝の中の秘宝。これを見せるということは彼が全力を出すに値すると判断した時と、怒りに満ちた時にのみ抜く数多ある宝具の中でも頂点に君臨する宝具である。

 

「貴様ら雑種の中には我が至宝たる『エア』を拝謁するに値しない者共が多いが、今回は特別だ。地に平伏し刮目するがいい。これこそ、貴様らが到達することのない地平に君臨する至高の宝具。英雄王たるこの我のみが持ち得る剣だ――――!」

 

 乖離剣の柄を逆手に持ち甲版に突き立てる。三つの層がそれぞれ回転し始め、衝撃波が赤い風を伴って吹き荒れる。風は強風から暴風へと変わり、やがて台風が如しと言わんばかりに吹き荒れる。宝具を発動する準備段階であるその隙を逃さず空中庭園からの集中砲火が降り注ぐが、『エア』が発生させる風がその全てを斬り裂く。たかが魔術如きが王を傷付けるなぞ片腹痛いと言わんばかりに迫り来る物全てを吹き飛ばし、斬り裂いていく様はまさに圧倒的の一言に尽きる。その間にギルガメッシュは瞳を閉じ、淡々と言葉を紡ぐ。

 

 

 

―――原初を語る。元素は混ざり、固まり、万象織り成す星を生む―――

 

 

 

 いつの間にかギルガメッシュが足場としていた『天翔ける王の御座』は消え去り、『エア』が齎した空間変動によって宙に浮きながら佇んでいた。乖離剣を躊躇うことなく抜き取り、片手で握ったそれを天高く掲げ目を見開く。その表情は怒りのあまり笑みが浮かんでおり、獰猛に笑いながら眼下に存在するサーヴァントや建造物に向けて原初の剣を振り下ろす。

 

「―――さぁ! 死に物狂いで耐えるがいい、不敬! 死して拝せよ、『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

 ギルガメッシュの紡いだ真名に応じ、乖離剣の先に赤い銀河の様な巨大なナニカ(・・・)が姿を現す。巨大なナニカは振り下ろされた先に向かって突き進む。空中庭園から放たれる神代の魔術も、庭園自体も、英雄王を打倒せんと近づいた英雄たちも。その全てがそれに飲み込まれて消え去っていく。それはやがて、彼の見下ろした世界の全てを貫いてようやく消え去った。ただただ圧倒的だった。万物全て消滅させる神々の権能に匹敵するそれはどのような英雄も無に帰すのだ。

 

「―――クックック………フハハ………ハァーハッハッハッハ!!」

 

 とても味方のものとは思えない高笑いがトゥリファスの夜空に響き渡る。再現された世界の半分以上を消し飛ばした傷跡は深く、その様を目に焼き付けたジークたちは心が一つの言葉で合致した。

 

 

 

やっぱりこの人を敵に回したら絶対だめだ、と――――

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

「いや、さ。俺はな? そんなにガチャを回したくはないんだよ。ほんと、本当だよ。それでも必死にお金を貯めて、その度にガチャに使ってるのは他にあんまり趣味がないからなんだよ。でもな? さすがの俺でも一回のガチャで回す上限くらいは決めてるんだ。うん、今回のカルナさんピックアップで10連召喚を10回、つまるところ100回召喚に挑んだわけよ。星5が一人でも来てくれたらいいなぁとか。☆4ピックアップのアタランテさんが来てくれたらいいなぁとか。今度こそカルナさんが来ないかなぁとか。そんなこと考えてたんだ。ああ、そんなこと。考えてたのに――――」

 

 そこで言葉一度きり、黒鋼は乾いた笑みを浮かべながら後ろ振り返る。ユグトミレニアの魔術師たちが使っていた『ミレニア城塞』にある庭園の中央で酒盛りをしている二人の王に冷めた目を向け、今にも失神しそうなほどに青ざめているキャスターに同情の念を送り、血を吐いて倒れている長髪の男には侮蔑の眼差しを向けながら。今回のカルナ召喚チャレンジの結果を虚ろな表情で告げる。

 

「―――まさか、ピックアップスルーで☆5が三人も来るとか誰が予想できただろうか。太陽王オジマンディアスに、語り部のキャスターことシェヘラザード。そして、周回で毎度おなじみのエルメロイ二世と。ハハッ、エルメロイ二世に至っては今回で4人目だよ。なんでか宝具レベルが3になってた頼光さんを超えるとか信じらんねぇ。ハハッ、ほんと、なんで………なんで来ないの………カ゛ル゛ナ゛ぁ………」

「あ~よしよし。今日も来なかったけど、今回は過去最高の引きなんだから泣かないの。はい、ちーんしなしなさい。ちーん」

 

 酒盛りをしている古代王‘sの肴を作っていたブーディカがハンカチを手渡す。涙やら鼻水やらで汚くなった黒鋼の顔を、あらかじめ用意しておいたハンカチで拭きとる。傍から見ると情けないの一言に尽きるが、周りの目を気にせずにそれを何度か繰り返す。初めて実装されたいつぞやの新年のピックアップから続く施しの英雄の召喚チャレンジだが、ここまで失敗続きだともう笑うしかない。死んだ魚の様な瞳をしながら黒鋼は綺麗な青空を見上げる。それを手の空いたブーディカがよしよしと宥めているのである。

 

「オジマンディアスが来てくれたからアンデルセンとのコンボがエグイことになってるし、アサシンのニトクリスと一緒になれてシェヘラザードも大歓喜だったし。孔明はどうでもいいけど、もういいや。周回でこき使うから」

「うわぁ………散々孔明を使うことに忌避してたのに容赦がなくなってる……いや、仕方ないかもだけどちょっと酷い拗らせ方してるなぁ…」

 

 心ここにあらずと言った感じの黒鋼の有様に苦笑するブーディカ。100回の内に3人も最高レアのサーヴァントを召喚できたという事実が彼への精神的なダメージが色濃く残っている。こんなことならばいっそ、大爆死でもした方が開き直れたのにと思うことしか出来ないのが本当に辛い。

 

「―――――いっそのこと、このままカルナさんを狙いに行こうか」

「いや、さすがにこれ以上はイベント優先にしようよ」

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

「という訳で、今回は残った石でケイローンさんを狙いに行きま~す」

「確か、アキレウスやヘラクレスといったギリシャ神話の英雄たちの先生。だっけ?」

「そうそう。他にもあのイアソンとかもいたな。ギリシャ神話に出て来る英雄の大半を一人前に育て上げた大賢者、この間の闘いだと二足歩行だったけど。本当は下半身が馬になってるケンタウロス。………そういえば、ケイローンさんの弓の師匠ってアルテミスさんなんだよね。この前、本人が思いっきり自慢してた」

「えぇ………? あのアルテミスから弓を教わったの? どうやって習ったんだろう?」

 

 この場に本人がいたら目に光が灯ってない笑顔で急接近してくるだろうが、この場に居ない人の事を考えても仕方ないのでそれぞれの意見をはっきりと言っておく。女神アルテミスと言えば、なぜかアーチャークラスで現界しようとしたオリオンの霊基の大半を奪って現界した女神でこちらでは有名だ。弓の名手であり、アタランテに生まれた時に加護を与えたり、ケイローンにその技を伝えたとされ、そのケイローンが様々な知恵や技をギリシャの大英雄たちを育て上げた。

 だが、肝心のアルテミスの戦闘スタイルや弓の打ち方を見るときっとケイローンも苦労したんだろうなと思わざるを得ない。弓を投げたり、突進したりと。ハチャメチャな戦い方な上にとんでもない恋愛脳思考(スイーツ)なのがそれを加速させている。相手をするのも一苦労だろうだと思ってしまうのは無理もないと思う。

 

「さてと、そろそろガチャを回していきますか。カルナさんを引こうと思ってたから、今回用意したのは普段のイベント時と比べるとかなり少ないですけどね」

「まあ、彼は研砥がブライドを引こうとしてた時より前から狙ってた人だしね。それで、今回はどれだけ?」

「イベントと月替わりで貰えた呼符が十数枚と、十連召喚が三回分程度かな。うちにはドレイク船長がいるから、全体宝具のアキレウスを狙う必要はないから助かる。周回性能に限れば船長の方が上だからな」

 

 サクサクっと呼符を投げつけながら消化試合を済ませていく黒鋼。今回に限れば、本当にイベント前のカルナを引くために全力を費やしてたのでこちらの方には何も期待してないまである。礼装が出れば良し、ケイローンが引ければなお良し、すり抜けでカルナが引ければ更に良しという完璧な布陣なのである。尤も、最後の方は成功する確率が0に近いという点を除けばなのだが。

 何はともあれ、さっさとガチャを終えて再現英霊共を駆逐しに行く必要があるのでささっと終わらせてしまいたいのが本音だ。召喚演出も三本のラインが広がる以外は全部スキップさせている。周回を済ませたいという一心のみが今の黒鋼を突き動かしている。そして、その思いを現実にしようと召喚されていくのはイベント礼装ばかり。☆3の礼装に至っては限凸しても問題ないほどに出現している。

 

「っしゃあ! カルナさんは駄目だったが、礼装運が回ってきたァ! このまますかさず十連召喚だ!」

「中々に良い引きだね。このまま何事もなく終わるといいんだけど……誰が来るかな?」

 

 呼符による召喚が終わりすぐさま次の召喚に移る黒鋼。結果だけを見ると礼装しか当たっていない残念な結果だが、本人もその仲間たちも何一つ気負うことなくガチャを回せている。こんな素直な気持ちになれたのはいつ以来だろうか。今、黒鋼の心はとても軽くなっている。まるで空を誰かと一緒に空を飛んでいるかのような感じさえする心地の良さに、満面の笑みを浮かべながらガチャ回せる幸福感に満ち溢れていた。だからだろうか、そんな満足感で物欲を投げ捨てているからか、最初の十連召喚だというのに三本のラインに金色の光が灯る。いきなりの高レア演出に一同は目を丸くしながら、新たに召喚されたサーヴァントに期待を寄せる。

 

 金色の光から放ちながら出現したのは弓を構えた女性の絵が描かれたカード。弓兵(アーチャー)のカードから溢れた光はサーヴァントの姿を形作っていく。白くて長い髪に健康的な美しい肌。凛とした表情の女性が手にするのは真紅の日本刀。握った刀と同じ色の瞳をこちらに向けながら、彼女は口上を述べる。

 

 

 

「我が名は巴。巴御前、などと余人に呼ばれることもありましたか。義仲にこの身を捧げた者ではありますが、今は。貴方にお仕えするサーヴァントにございます」()

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

「む、ここでまさかの巴さん。これで四人目か………」

「何度もお呼ばれされてしまい、申し訳ございません。マスターはきっと、他の方をお呼びしたかったでしょうに」

「いやいやそんなことないですよ! うちは来る人拒まず来ないと必ず呼ぶがモットーなんで!」

「いや、それかなり理不尽だからね?」

 

 今年になってから回す回数も増えてきたので、こうやって宝具レベルが着実に上がっていく人が多いと周回等で楽なって来るから助かる。今回のイベントでもセイバーのジークフリートやモードレットを一撃で倒したりと、単体宝具のアーチャーの中ではクロエに次いで火力を出してくれるから本当に助かっている。

 さて、そんな巴御前が召喚された10連も終わり。次の10連に移ったのだが。ここでまさかの礼装ラッシュ。具体的には星4の天草四郎時貞が移ってる礼装が五枚揃ったり、星五のジャンヌが描かれた礼装が合計で3枚揃ったりした。今回はイベントアイテムのラインナップも豪華で、周回した際にドロップするアイテムやQPも稼げる良いイベントなので、早々に礼装が限凸出来るのはとてもありがたい。フレンド欄におけば真っ先に使われること間違いなしだろう。

 

「よし、それじゃ最後の10連に行くとしますか。今回は早々にフィニッシュが出来て嬉しいな!」

「星五を狙わなくていいってこんなにも楽しい事なんだね。うんうん、深追いは禁物だもんね」

 

 朗らかに満足げに最後の10連を行う。面倒なので召喚演出をスキップし、サクサクとガチャの結果を確認する。あとでフレンドの孔明を使ったW孔明という周回廃人編成で再現英霊達を駆逐しなければと、脳内で各クラスに合わせた編成を模索する。そんな時だからこそだろうか、スキップ演出を行っているのにもかかわらず、三本に分かれた光のラインが広がったのだ。

 

「えっ。スキップ演出で三本線ってことは、☆4以上のサーヴァント確定演出!?」

「凄いね! これでアーチャーだった文句なしだ!」

 

今更の説明で申し訳ないが、スキップ演出とは☆4以上のカードや未召喚のカードのみを出現させるシステムのことだ。つまり、この演出中に三本線が出るということは高レアのキャラクターが出現するということなのである。姿を露わにしたのは弓を構えた金色の弓兵が描かれたカード。イラストというベールが剥がされ、人の形をしたナニカが姿を現す。褐色の肌に穏やかな緑の瞳。知己的なその雰囲気から大人の男性という言葉が体現した人の様にも取れる。何度か瞬きをした後、こちらの視線に応じて口上を述べる。

 

 

 

「サーヴァント・アーチャー。ケイローン、参上しました。我が知識が少しは役立てばいいのですが………。ともあれ、よろしくおねがいします。あなたのため、力を尽くしましょう」

 

 

 

「け、ケイローン先生だ! 本当に来た!?」

「おや、私を召喚したかったのですか? それは嬉しいですが、少し照れてしまいますね。貴方の元には十分強力なアーチャーもいたと思いますが」

「いえいえ! そんな、貴方ほどのアーチャーなんていませんよ!? これからよろしくお願いします!!」

 

 召喚されたばかりのケイローンの手を握り感謝の意を示す。それに少しだけ苦笑しながらも、ケイローンは笑ってそれを肯定する。ギリシャ有数の英雄たちを教え導いたその手腕に加え、一流の戦士としての技術。更には逸話が宝具となった星座から放たれる正確無比の一射。彼が持つスキルや宝具どれもがサーヴァントの中でも一線を画している。これほど頼りになるアーチャーは五人としていないだろう。

 

「何はともあれ、とりあえずここの紹介ですね。ささっと部屋の紹介を―――」

「待って研砥。また、金色の光が!」

「おや、それは良い事ですね。これでもしアキレウスが呼ばれた面白いのですが」

 

 やはり教え子である彼と同時にピックアップされているからか。心なしか彼と共に召喚されたい親馬鹿ならぬ師匠馬鹿(ケイローン)。それに二人はやっぱりいい人だなと思っていると、召喚されるクラスが判明する。召喚されたのは残念なことに騎兵のくらすではなく、狂戦士のカード。しかも、どこか嫌な寒気がするのは何故なのだろうか。

 

「……なあ、なんだかとても嫌な予感がしてならないんだが」

「奇遇だね研砥。私もそんな気がするよ」

 

 

 

 

 

「バーサーカー・ペンテシレイアだ。先に逝っておくが、アキレウスがいるなら出せ。隠し立てすると殺す」

 

 

 

 

 

「………………………………………………………」

「………………………………………………………」

 

 召喚された白髪に掻爪の様な鋭い刃物を添えた狂戦士。アガルタと呼ばれた地底世界にて縁を結んだアマゾネスの女王ペンテシレイアの登場に辺りは静まり返る。トロイア戦争におけるヘクトールの増援として駆け付けるも時すでに遅く。仇討ちというのも変だが、彼を打ち取った人類最速の英雄『アキレウス』に勝利を挑むも敗北。そのまま戦士として朽ちるのを彼女を望んだが、アキレウスは兜を被っていたペンテシレイアのそれを剥ぎ、死ぬ間際の彼女に『美しい』と一言添えたという。

 アマゾネスとは屈強にして誇りある部族。美しさをかなぐり捨て一人の戦士としてあらんとした彼女にとってその言葉は最大の侮辱に等しかった。以後、英霊の座に登録した彼女のはアキレウスを確実に殺害するためにあるスキルを獲得した。それが霊基再臨第三段階時に会得するスキル『軍神咆哮』である。彼女の体に流れる軍神アレスの血を呼び覚まし行う咆哮により味方の攻撃性能を上げると同時に、ギリシャに属する男性サーヴァントに対し特攻能力が付与される。これは、アキレウスとそれに類する者たちを根絶やしにするという彼女の精神の現れらしい。

 さて、ここで一つ大変なことが起こる。何を隠そう、いましがた召喚されたケイローンはアキレウスを育て上げた。先ほども言ったが、ギリシャ有数の英雄の卵たちを大英雄にまで育て上げた師なのである。つまり、当然なことに彼に対してもこの特攻能力の範囲内に存在する。つまり、彼女が忌み嫌う存在に類する者であり、狂化EXのクラススキルが全力で駆動するのである。

 

「アキレウス………そこにいたかアキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

「やれやれ。私の知らぬ間に、彼はまた戦場で何か失態をしたのでしょうか。女性を辱めるような趣味は無いと思っていたのですが」

「いや、そんな呑気なこと言ってる場合ですか!? ブーディカさんは時間を稼いで! 俺は今すぐギルを呼んでくる!」

 

 手元の端末で霊基登録してあるサーヴァントを呼び出す間の守護を黒鋼は命じ、返事なくそれを受諾したブーディカが無数の車輪を展開してペンテシレイアの攻撃の一つ一つを防ぐ。半ばギリギリところもあるが、それは仇敵と接敵した際の彼女の全身全霊を籠めた一撃の数々だからだろうか。あの時の、亜種特異点の時と比べても迫力が違い過ぎる気がしてならない。これでまだ再臨状態が第一段階なのだから、最終再臨の際における火力なんて物は想像したくもない。それを興味深く観察していたケイローンは、あろうことか車輪の守護の外に身を乗り出した。

 

「ちょ、ケイローンさん!? あんた何やってんですか!?」

「いえ、私は教えてばかりで自分から戦ったことはあまりないのです。加えて、今は霊基再臨もしていない。なので、彼女には申し訳ありませんが。リハビリの相手をしてもらおうかと」

「そんなことしたら本当に死んじゃうよ!? 早く下がって――――」

「アキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」

 

 微笑みながら死地に出向くケイローンを諫めようとする二人だが、時すでに遅し。怒りに狂いながらもキレを損なわない武術の数々がケイローンを殺害しようと迫る。両腕の二つしか使われていないのは理解しているが、それが残像の様に消え無数にも増えた拳の数々が彼を襲う。一撃でも直撃すればすぐさま霊核が砕け散り、再召喚の手はずを整えなければと黒鋼は無残に砕け散るケイローンの姿を幻視する。

 だが、なんということだろうか。ケイローンは迫り来る凶拳の数々を自分の体の外へ向くように手を手で押すだけでそれを制する。拍手の様な甲高い音が召喚場に響き渡り、自身の攻撃が弾かれていることを知った彼女が更にて数を増やす。拳だけでなく今度は足を、それでも通じなければ足枷に繋がれた鉄球を振るう。しかし、その全ては柔らかな笑みを浮かべながら淡々とケイローンによって処理される。怒りの中に焦燥が生まれ、少しだけ攻撃が雑になったその隙をケイローンの『心眼』は見逃さない。ペンテシレイアの腹部に掌底を当て、それを抉る様に手首を捻りながら打ち込む。

 

「が、はぁっ!?」

「まだまだ未熟ですね。いえ、失礼。貴女が弱いという訳ではないのですが、そこまでの技の冴えを自ら狂化することです手放すなど愚策ですよ?」

「黙れアキレウス! 何故、今の一撃で私を殺さなかった! また、また貴様は私を! アマゾネスが女王ペンテシレイアを侮辱するかァッ!!」

 

 憎悪に満ちた殺意を隠すことなく解き放ち、壁際にまで弾かれたペンテシレイアが疾駆する。それに溜め息をもらしながらケイローンは今度は自身の構えを取る。そして、何か思いついたように後ろに居る黒鋼に視線を向け、にこやかに微笑みながら呟く。

 

「丁度よい機会です。マスター。貴方の指示通りに私を動かしてみてください。貴方のマスターとしての力を私に示してください。大丈夫です、私は教える者であり戦いにはまだ不慣れです。共に学び成長していきましょう」

「いや、こんな時でも教師性能発揮しなくていいからってもうきたぁ!?」

「あ~もうやるしかないね! 腹括って行くよ、マスター!」

 

 こうして、召喚されたばかりのケイローンを用いた戦闘訓練が突如として始まるのであった。なお、騒動から数分と経たずに増援がきて何とかペンテシレイアを抑えることに成功したが、ケイローンのジャンヌに近いスパルタ系の教育法の震えが奔った黒鋼なのであった

 




というわけで、今回引けた方々はこちら!
コラボ直前カルナピックアップ
☆5オジマンディアス
☆5シェヘラザード
☆5諸葛孔明
☆4アタランテ×3

アポコラボ(本番)
☆4ケイローン
☆4巴御前
☆4ペンテシレイア


 いやね。俺カルナさんに嫌われてるのかなって思うくらいの引けてないですよ。なんですか三回連続☆5すり抜けって。馬鹿なの。阿呆なの。死ぬの? いや、☆5引けてるんだから文句言っちゃいけないかもだけどさ。どうしてカルナさんでないのぉぉぉぉォォォォォ!!(血涙) CBS2018でもカルナさん引きたかったのにアーサー王引くし……辛いなぁ。
 あ、そういえばこの時って声優の悠木碧さんがカルナさんを五人引いて話題になりましたよね。流石、カルナさんのマスターの声を担当していたことはある……ま、財力が違い過ぎるだけなんだけどね!

 一応次回は帝都聖杯奇譚ガチャを投稿予定です。できれば12月中に書き終えたいけど、どうせ新年あたりになるんだろうなぁ……これからも、こんな作者をよろしくお願いいたします!!



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無窮の果て、抑止の契約者。

――――――――――――何も言う事は無いです。すべて私の不徳が致すところ。忙しい環境にあったという言い訳の元に怠惰な生活を繰り返していたせいです。本当にごめんなさい。そして、これからはもう少しペース上げて更新できるように頑張ります。こんなダメな作者ですが、これからもよろしくしてくだされば幸いです。


  ―――そこは何もない、まさに純白の世界だった。狂った聖杯戦争は存在せず、珍妙な生物が闊歩する帝都東京でもない。称するならば“無窮”と呼ばれるべき世界を舞台に戦いが繰り広げられていた。今回の事件の張本人たるあの男は、自分が何を望み何を求めたかも忘れ、ついに狂人となって己が野望を果たさんとした。だが、最後の最後でそれはたった一人の少女と、二人のマスターによって阻止された。その少女が漏らした一つの言葉で正気に戻った彼は、どこか満足した表情で英霊達が存在する座へと還る。それが終わり、今度は少女の姿が徐々に透けていく。それもそのはず、彼女は今回の為に霊基や力を調整された抑止の守護者。守護者は自身の課せられた仕事が終われば消え、また次の仕事を課せられて人類と世界を運営させるための装置。だが、彼女は先も言ったように今回の為だけに用意されたのだ。沖田総司という幕末の剣士が残した“借り”を返す為だけに。

故にこそ、沖田総司でありながら沖田総司ではない彼女の名前は、沖田総司・オルタナティブ。それを理解していた彼女は、もうじき消える自分の体に苦い笑みを浮かべる。そして、淡々と事実だけを突き付けられた二人の内の一人が叫ぶ。そんな事実は認めないと、あんなに頑張ったのに何も報われずに行くなんて間違っていると。確かにその通りだ。だが、そんな当たり前の事さえままならないのが世界であり、それはこの場にいる二人も理解している。だからこそ、そんなままならない事実を受け入れていた彼女は、男の怒りに呼応するかのように笑みを悲しみに満ちた表所に変えて叫んだ。

 

 

 

 もっと生きていたい。もっと世界を見たい。もっと、もっと―――マスターと一緒にいたかったと。だが、それは叶う事は無い悲しい事実。そして、時間は非情にも過ぎていき、それに伴って彼女の体が、霊基が黄金の粒子となって消えていく。今いる彼女はここで消える。決して変わることのないこの事実に何もできない男に近づいて彼女は手を伸ばす。そして、その時に彼女は何かを見て満足した。もう十分だと、仮初の命だったとしても。この思い出は私だけのものだと。自慢気に、どこか誇らしく笑みを浮かべながら彼女は男をこの世界から追放した。最後に見た彼の表情は、自分に対して悲しんでくれていたそれではあったが。自分の為に泣いてくれる人がいる。それだけでも自分は恵まれたサーヴァントだったと呟いた。

 ―――さて、この場にはもう一人マスターがいる。この世界で此度の騒動における黒幕と対峙し、もう一人のマスターが退場するまで黙っていた男がいる。何をするでもなくただ彼女の目を見る。そして確信する。今の自分に出来る事は無く、あったとしてもそれはしてはならないということを。彼は少なからず彼女に同情を、いや。もしかすると憐れんでいたのかもしれない。そんなことはしてはならないと理解はしていた。だが、あまりにも悲しすぎるその生き方にその感情を挟まずにはいられない。だが、最後に見せる表情はこんなものであっていいはずがない。なので、少し卑怯ではあったがちょっとした道具を彼は取り出した。液体の入った小瓶を取り出し、なけなしの魔力を使ってどこにでもあるような湯呑を二つ作り出し、一つを彼女に渡す。渡された方は何をするのかときょとんした表情でこちらを見るものだから、彼は苦笑して口を開いた。

 

「満足して、十分満たされて逝くんだろ? なら、せっかくだ。この世界やお前が消えるまで。ちょっと付き合ってくれよ」

「……マスターはまだ未成年だったはずだ。お酒は良くないぞ」

「残念、中に入ってるのはただの水だよ。俺は酒を飲んだ事は無いし、飲むつもりもない」

 

 互いの器に水を注ぎ、もうすぐ消えるかもしれない世界に我が物顔で座り込むマスター。それに呆れたように笑みを浮かべながらも、沖田・オルタもまたそれに倣って座り込む。何を語らうでもなく、何をするでもなく。ただただ、ぼんやりと互いに時間を過ごす。最後にすることがこれでは味気ないかもしれないが、それくらいがきっと丁度いいと彼は思った。そのまま数分を共に過ごす。瓶の中に入っていた水も消え、彼女の姿も陽炎のように揺らいできた。それを見た彼は、傷ついた体に鞭を打つ感覚でゆっくりと立ち上がり、直に消える彼女に向かって言葉を送る。

 

「それじゃあな。今回は助かった。―――生まれ変わったらまた会おうぜ」

「―――――っ」

 

 生まれ変わったら。ここに彼女ではなく、何かの縁で彼らの元に呼ばれたまた会おうと。彼は今いる彼女にそう言ってくれた。今回のみの異例な召喚にも拘らず、次に彼女が呼ばれる可能性は0に近く。呼ばれたとしても、それはここにいる彼女ではなかったとしても。さよならではなく、またなと言ってくれた。それがとても嬉しくて、悲しくて。けれど、どこか誇らしくて。彼女はそれに応えるように満面の笑みを浮かべて返した。

 

「ああ。待ってる。待ってるからな」

「―――馬鹿だな。お前が生まれ変わるんだろうが」

 

 

 

 こうして、今回の戦いにおける特殊事案は終結した。沖田総司・オルタナティブはこの時を以て消滅し、二人のマスターは各々が所属する組織へと帰還する。そこに彼女の姿は無くても、きっと。またいつの日か会えると信じて。彼らはまた歩みを続ける――――

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ、参上した」

「抑止力違いィィィィィィィィィ!!!」

 

 帝都東京で拠点としていた部屋の一室。龍脈とパスを繋いだ足跡の召喚場にて行われている本日何度目かの十連召喚にて呼ばれた青年に向け、マスターである黒鋼は悲痛に満ちた叫びをあげる。誰が見ても召喚された人に対して失礼なその物言いに弓兵は嘆息しながら呆れを隠さない。

 

「やれやれ。君も節操がないな、それも、私と似たような存在を呼ぼうとしているのも趣味が悪い。それにこれからの事を考えれば、潔く手を引くのも英断だと考えた事は無いのかね?」

「分かってるよそんなこと。どうせこの後に控えてるのは、去年の水着イベントの復刻版だ。つまり、去年呼ぶことが出来なかったキャスターのネロを含んだガチャが始まるんだ。だから! ただでさえ少ない資産を切り詰めて全力でガチャに挑んでるんだろうが!」

「ええい、少しは我慢するということを覚えろ言ってるんだ! その強欲な一面に溺れ一体どれだけ辛酸を舐めてきた! 自分を律することを覚えろこの馬鹿!」

「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞこの馬鹿!」

 

 凶悪な犬同士が吼え合うような絵図になっている黒鋼と褐色白髪の弓兵(エミヤ)。心を落ち着かせるような古めかしいクラシックが流れている部屋なのだが、二人が喧嘩をするせいで雰囲気が台無しである。あまりにも残念なその空気には、この場に居合わせている同居人も黙ってはいられない。

 

「まあまあ。二人ともそんなに怒らないでよ。それに、彼女が召喚される確率だって決して高くないんだ。マスター君もそんなに力まずにガチャを回した方が良いんじゃないかい?」

「まあ。お竜さん的には見ていて面白いからいいぞ。あ、竜馬。そこに生け捕りにしてあるカエル取ってくれ。カエル~」

 

 白いスーツに一振りの日本刀を腰に下げた西洋風の衣装に身を包んではいるものの、立ち振る舞いは日本人のそれ。エミヤより少し深くも軽快な声の男性の傍では長身の女性がふわりと浮いている。白い青年の名前は日本人ならば知らぬ者はいないともされる英雄。桂小五郎と西郷隆盛の二人を彼を中心として同盟を結ばせた『維新の英雄』、坂本龍馬。船に乗り様々な場所へ移動したこともあってか。サーヴァントとして召喚された際に与えられたクラスはライダーである。

 そして、傍らに寄り添うのは竜馬と同時に召喚されたセーラー服に身を包んだ女性。坂本龍馬が生前に封印されていた彼女を開放した時からの付き合いというある意味謎の存在である。史実上にもお竜という女性はいたらしいが、どちらがどうなのかは本人たちした知り得ぬことである。

 

「いやさ? 別に召喚できなくても良いんだよ。でもな、あんな風に別れたら呼ぶしかないじゃん。カルデアの方へは単独顕現も真っ青なレベルで降臨したらしいじゃん」

「それ聞いた時は僕も驚いたなあ。いや、彼女凄いと思うよ」

「かの維新の英雄が共感しているところすまないが、こいつの本音は全く別の所にあるぞ。さっさとはっきり言え」

「声帯が〇木碧の褐色儚い系長刀美少女とか欲しい要素しかないだろぉ!?」

 

 血の涙を流しながらガチャに戻る黒鋼。それに苦い笑みを浮かべる竜馬に、いつものことだと呆れるエミヤ。そんなことよりカエル美味しいと両生類を頬張るお竜さん。三者三様の評価に自分の心境を理解してもらえない悲しみに打ちひしがれるも、周りの視線なんぞ知ったことではないと石をサークルに放り投げる。

 

「来い来い来い来い来いこぉぉぉぉい!! ここで引けねば男の恥ィ!」

「いや、それただのフラグって奴だろ。お竜さんは詳しいから知ってるぞ?」

「こらこら。必死になってるマスター君をからかっちゃだめだよ。ごめんねマスター君。お良さんはほら、正直者だから思った事をすぐ口にしちゃうだけでね?」

「皆まで言う必要もない。あれは、ああいう男だ。今の内に慣れてしまった方が身のためだぞ」

 

 何やら後ろが騒がしいような気がしなくもないが、ここで気にしては無理強いしてでもガチャを回している意味がない。この後に待ち受けているであろう去年の水着キャラピックの為にも、今引ける分だけで。用意した十連召喚七回分で決着を着けるしかないのだ。既にだが、現在進行形で進められている物を含めて残り三回。その中で後ろに控えた弓兵が今更の如く顔を覗かせるのだからイラついてくるというもの。おかげで宝具レベルが二から五に上がったまである。

 

「ちっ」

「なんについて舌打ちしたのか分かるぞマスター? よし、今日の夕飯は抜きにしてやろう」

「貴様は鬼畜外道か!?」

 

 ガチャという地獄に足を踏み入れ続ける愚かなマスターを嘲笑うようにニヒルな笑みを浮かべるのに自害させてやろうかと思ったが、その前に黄金の輝きがサークルを満たす。だが、その程度の事で期待できるほど今の黒鋼の精神状態はよろしくない。現に、金色の回転で出現するのは後ろの弓兵とある槍兵のみなのだから是非も無しである。微かな望みを託して黄金のサークルから出現するカードに期待するが、やはりというべきか。出現したのは上下が逆さまになったピエロのカードではなく。黄金色に輝く槍兵のカードであった。既に召喚されるサーヴァントに限りを付けた黒鋼は白目を剥く。

 

 

 

「サーヴァント・ランサー。真名を李書文と申す。存分に槍として使うがいい

 

 

 

 

「書文先生五人目ェェェェェェェェェェェェェ!!」

「呵呵呵ッ! お主も酔狂な男よ。儂も一つの武術を極めんと生涯を終えたが、そのような儂を多く呼ぶマスターも酔狂の極みよ。なに、否定はせぬよ。これからも儂を存分に振るうがよい」

「言葉だけだと凄く頼もしいけど、正直もういいからね!? 今回だけでもう三人目あたりだからね!?」

 

 いい加減うんざりしながらも遂に宝具レベルがカンストした槍書文を見送る黒鋼。ここまで引けないことに溜め息を漏らそうとした矢先。召喚場の扉が勢いよく開く。その事に驚いた黒鋼が後ろ振り向くと、こちら向け何かが刺さった串を突っ込んでくる浅葱の袴を着た美少女の姿があった。

 

「よもや貴様が――――!?」

「覚悟してくださいマスター! オルタの私を引く、ないし引きたいなんて言いやがった口はこれですか!!!??? いやここですかぁ!!!!!!!?????」

「ゴギガガガギゴォッ!?」

 

 黒鋼いきなり口の中に突っ込まれたとてつもなく暑い食べ物。熱々のうずら卵が嚙み砕かれ、その中に秘められた汁が勢いよくその口内に迸る。予想を超える熱さに苦悶の声を上げるが、下手人はそんなことを露と知らずに次々と持参した鍋に入ったおでんから具を叩き込む。

 

「どうせ私は英霊となった後でも病弱が治らない草雑魚剣士ですよ! 胸だってそんなに大きくない微乳剣士ですよ! どうせオルタの私の方巨乳で小次郎さんばりの長刀使いでかっこいいですよ!! うわぁぁぁぁぁぁぁん! マスターの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 

 自分でも何を言っているのかさっぱりなのかもしれないが、とりあえず胸の内に秘めた言葉の羅列と涙を振りまくその姿は儚い。だが、一心不乱に己のマスターに熱々のおでんを叩き込んでいく姿は鬼神の如し。浅葱色にだんだら羽織、この場に居合わせた坂本龍馬と同じ日本出身者にして全国にその名を轟かせた壬生の狼。『新撰組』と呼ばれた治安組織の一番隊隊長。強者揃いの中でも最強と謳われた『沖田総司』その人である。といっても、本来は男なのだが何らかの要素によって女性として召喚されている。史実では男だが、女性として召喚されたなんてことはもはや日常茶飯事なので簡略しておく。

 さて、そんな沖田の凶行を見かねてか。彼女の後ろにやれやれと言わんばかりに一組の少年少女が続く。ほぼ同じ黒一色の衣装に帽子を被り、靡く黒の長髪や赤い瞳も瓜二つ。違う点を強いて挙げるのであれば、それは身長差程度だろう。

 

「………うわぁ。なんじゃこれ、あまりにも無残過ぎて是非もなしとか言ってる場合ではないのじゃが」

「良いじゃないですか姉上。あのマスター最近調子に乗ってましたし、少しいい気味あいたっ!?」

「虚けめが。だから主は何時まで経っても信勝なのじゃ。そんなので本当に良いと思ってるのかのぅ?」

「いや名前は良いでしょう!? 何で僕が貶される感じになってるんですか!_」

 

 慌てふためく信勝と呼ばれた少年にどちらにしても駄目じゃのう、と辛辣なコメントを送る彼女の真名は『織田信長』。同じく日本にその名を轟かせた大将軍の一人であり、天下統一まであと少しと言ったところで家臣に裏切られて没した大物である。こちらも史実は男、だが召喚された時は女性という謎の存在である。ちなみに少年の方は信長の弟である『織田信勝』。史実で活躍したことはあまりないので省略させてもらうが、とんでもないシスコンであるということは表記しておく。

 

「いや僕の説明雑すぎません!? というかこれじゃ僕がシスコン以外取り柄の無い可哀相な存在みたいじゃないですか! 他にもあるでしょう? ほら、『ぐだぐだ明治維新』で初登場した時は姉思いの優しい弟だったとか!」

「いや、茶々あの時のカッツのしたこと覚えてるし。行っとく? もいっかいゴッド・フェニックス行っとく?」

「げぇぇ!? 茶々様!? あ、あとゴッド・フェニックスはちょっと著作権的に危ういからやめておきせんか!」

「そんなの今更じゃろ。こんな二次創作を許可取らずに書いてる時点でいつか消されるのも無理も無し。というか、こんな駄作呼んでおる読者は本当にいるのかのぅ?」

「メタメタしいですよ二人とも!! お二人ともどんだけこの作品廃止にしたいんですか!!」

 

 ひょこっと顔を出した女の子、信長の姪である茶々とシレっと禁句に近い発言をする信長にツッコミを入れる哀れな信勝。織田家のツッコミ担当である彼にとってここは理想の環境足り得るだろう。さて、いきなりやって来た三人がワイワイしている内に、一通り八つ当たりを終えた沖田はどこか気まずそうにおろおろとしていた。

 それも無理はない。バーサーカー特有の狂化も真っ青なレベルで一心不乱にマスターへおでんを叩き込んでいたのだ。おかげでマスターの口は前とは比べ物にならない程にただれており、泡を吹いて白目を剥いて死人様に意識を失っていた。

 

「あわわわわわ!? オルタの私に少しだけ嫉妬してしまったとはいえ、わ、私はなんということを………!!」

「いや、止めきれなかった僕も悪いからね。沖田君、あまり気に病まないでね?」

「そーだぞー。ところでそれ余ってるか? お竜さんにも一つ喰わせろー」

「あ、こらお竜さん! 今そう言う雰囲気じゃないから。もう少しだけ待って? ね?」

 

 子供の様に泣きじゃくる沖田を宥めて、適当につまみ食いしようとしているお竜さんをあやす。同時並行で二人の女性を相手取る竜馬。生前もこの間の帝都もそうだったが、こうしてカルデアにまで一緒に来てくれた彼の気苦労は絶えないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ―――そして、そんな召喚場で賑やかな雰囲気にある彼らを見守る影が二つ。一つは赤い髪を一つに纏め、エプロンを身に着けた翡翠色の女性。もう片方は黒い袴に同色の髪、腰に差した一振りの刀に鋭い目つきの男。女性の方は安心したようにふっと笑い、その場を離れようとしたが、それを男が引き留める。

 

「おい、アンタはあっちにいかなくていいのか。大方、あの坊主が心配で来たんだろう」

「ん~? いや、確かにそうだったけど。あの中に入るのは少し忍びなくてね。君こそ行かなくていいのかい?」

「あんな喧しいとこに行くやつの気が知れねぇよ。俺ぁただ、あいつらが阿呆な事やらねぇか監視してるだけだ」

 

 赤い髪女性と黒髪の青年。『勝利の女王』ブーディカと『新選組副長』土方歳三が言葉を交わす。周りから見れば珍しい場面かもしれないが、食堂では割と言葉を交わしている二人である。いや、正確には沢庵と白米ばかり食べる土方に一品、二品とおかずを作っては提供しているだけなのだが。放置しておくと沢庵ばかり食べている彼を気にかけているだけなのだ。

 

「ふふっ。実は、沖田ちゃんが持って行ったあのおでん。まだ作りかけでさ。オルタの沖田ちゃんが召喚出来たらお祝いにと思ってたんだけど。何を勘違いしたかあんなことになっちゃってねぇ……」

「あんの馬鹿が。だからいつまで経ってもあいつは馬鹿なんだよ。それでも新選組の隊士か。馬鹿らしい……」

 

 片手に握った沢庵をボリボリと齧りながら土方は溜め息を吐く。生前からの付き合いで、彼女の良い所も悪い所も把握している戦友だからこその溜め息なのだろうけれど。あまりに見え見えの面倒そうに溜め息を零す様を見たブーディカも苦笑する。

 

「まあまあ、そんな邪険にしないの。それに、それこそ今更なんでしょう?」

「それとこいつは話が別だって言ってんだよ。いくらアンタでもこいつは変わんねぇしな」

 

 だがまあ。一言言葉を切り、沢庵を一本丸齧りした鬼の副長と恐れられた彼が懐から一丁の銃を取り出す。刀の刃と同じくらいに長いそれを肩に乗せ、少しだけ目をギラつかせながら彼は召喚場へと足を向ける。

 

「あんたみてぇな別嬪の飯をあのクソガキが奪ったってんなら話は別だ。特に関係ねぇことだから静観してるつもりだったが、気が変わった。今すぐあの馬鹿連れて送り届けて矢っから、先行って待ってな」

「あ~………別に今すぐという訳じゃなかったんだけど。うん、それじゃよろしくね?」

 

 これから起こる惨劇に同情しながらブーディカは一人去る。直後、召喚場から罵声やら銃撃音。怪物の叫び声から剣戟の音が轟いたそうだが。それはまた別の話である。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

「………どうして、俺のガチャはこんなに喧しくなってしまうのだろうか」

「いや、今回は特別参加している人数が多いからじゃないかな? というか、さりげなく沖田君や土方君を召喚してる辺り流石だねぇ」

「そうなのか? お竜さん的には肝心なところで召喚失敗クソザコナメクジにしか思えないぞ」

「ガハッ」

「こらこらお竜さん。本当の事だからって何でもかんでも正直に言えばいいってものじゃないからね」

「グフッ」

「いや、竜馬もさりげなく言う大概だと思うぞ。おーい人間。生きてるかー? お竜さんの唾いるか?」

 

 織田家の三馬鹿や新選組の面々が大暴れし、何の責任も取らずに帰ったために滅茶苦茶になってしまった召喚場を目の当たりにして独白する黒鋼だが、それに追い打ちをかけるかのように維新の英雄コンビの言葉が胸に突き刺さる。

 確かに、新たな特異点の情報を感知し。その前に始まった復刻イベントで土方や沖田を引いてしまったためにガチャ運は底をついてしまっているのかもしれない。予算はまだある方ではあるが、残りのお金は今すぐ石に変換せず去年の雪辱を晴らすためにこそ振るいたい。故に、残る石を投げて今回のガチャは終わりだ。泣いても笑ってもこれが今回最後のガチャである。精神的なダメージこそ受けたが、夢の中でいきなり悪夢の中に引きずり込まれた時に比べればと自分を奮い立たせる。

 

「それじゃ、最後の一回。付き合ってもらえるかな?」

「勿論だとも。頑張って引けると良いね」

「お竜さんも竜馬と一緒に祈ってやろう。感謝しろよ―人間」

 

 二人の応援に報いねばと残った石をサークルに放り込む。今回の召喚での目当ては沖田総司のオルタナティブ。クラスはパッションリップやメルトリリスと同じアルターエゴなので、クラスカードのイラストで逆さまのピエロが二人描かれたカードが出現したら確定で召喚成功である。行ってしまえば簡単だが、エクストラクラスのカードなんてそうそうお目にかかれるものではないので期待薄である。現に、最初の一回目でイベント用の高レア礼装が出現し、後の消化試合を眺め続けている。

 

「今回のガチャは駄目だったか……でも、この前に色々と引きまくってるし。引きすぎなくらいだよな?」

「そうかもだけど、やっぱりこういうのは引けないと辛いものだよね。僕はあまり賭け事とかしたくないけど、以蔵さんはこういうのよくやっては負けて苛立ってからなぁ」

「あ、そういえばこっちだと全然見ないけど。あのザコは呼んだのか? 居ても居なくても変わらないが、お竜さんの相手には丁度いからな。あのクソザコナメクジ」

「「――――――――――――――」」

 

 お竜さんの言葉で、ふとこれまでのガチャ結果を思い返す。そういえば、今回のイベントにはもう一人大目玉のサーヴァントが存在していた。遂に誕生した期間限定の星三サーヴァントにして、坂本龍馬とは並々ならぬ因縁がある人斬り。『天誅の名人』と称されたあの男の存在を彼らは今の今まで忘れていたのだ。

 

 

 

「わしが土佐の岡田以蔵じゃ。『人斬り以蔵』のほうがとおりがえいかの。なんじゃと? アサシン………? 勘違いすな。わしのクラスは『人斬り』じゃ」

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「お、おぉ! 岡田さんじゃないですか! ひ、久しぶりですね!」

「なんじゃおまんか。へっ、向こう側もこっちでも呼ばれるたぁおかしな縁でも結ばれたがのう。ま、こっちでもよろしゅうなァ。そしてェ――――死に晒せェ!!」

 

 召喚の口上を終え、帝都以来の再会を果たして言葉を交わした直後。飢えた野良犬の様なギラついた目を細めて笑ったかと思えば、即座に黒鋼の後ろに立つ竜馬に向けて飛び出して懐に飛び込んだ。そのまま腰の刀に手を当て即座に抜刀、目にも止まらぬ早業で銀色の刃が逆袈裟に振られる。深々と刃がその体を裂くかと思ったが、以蔵の凶刃は触れる前にお竜さんの腕一つで容易く止められた。

 

「おいナメクジ。いきなり斬りかかって来るなよ。弱く見えるぞ?」

「黙っとれやこのスベタがァ! 何度もわしの邪魔しおってからに、今度こそ八つ裂きにするき、そこに直れやァ!」

「相変わらず喧しい奴だなお前。こういうのを何て言うんだったか………」

「いやいやいや。二人ともいきなり喧嘩はやめよう? マスターの目の前だからさ」

「あ、思い出したぞ。負け犬の遠吠えだ。良かったな、始末犬」

「――――――はっ。あはははははッ! よぅく分かったぜよ。竜馬の前におまんから始末しちゃるァ! 覚悟せェよ、こんのクソアマァァァ!!」

「うわーい。召喚したのもマスターなのも俺なのに完全に蚊帳の外だぞぅ!」

 

 怒りの余り自力で霊基再臨第二段階へと移行し、完全にお竜さんに天誅を下さんとする以蔵。そんな以蔵の一撃をわざと受け、そんなものは効かないぞと一々煽るお竜さん。そんな止めようとしてあたふたする龍馬。完全に自分は蚊帳の外ではあったが、この三人がああやって賑やかに騒いでいるのを見ているとどこか心が温かくなる。完全にグダグダし始めた召喚に目も当てられないと溜め息を一つ。とりあえず、以蔵が召喚された最後のガチャを見届けて今回は終わろうと後かたずけを始めようと振り向いたその時。金色の光が回転するサークルを彩っているのを見た。

 金色ということは高レアリティのサーヴァントが出現する前触れだが、所詮は虹演出による最高レア確定演出ではない。どうせ沖田・オルタは召喚されないんだろうなと見限りを付け、ぼんやりと召喚されるサーヴァントを見る。出現したカードのクラスはライダー。高レアのライダーならばマルタやアン&メアリーあたりかと内心で少しだけ喜んでおく。

 だが、出現したのは暴れる竜を自らの祈り(物理)で沈めた聖女でも。竜馬やお竜さんと同じく二人一組のサーヴァントではない。緑の髪に琥珀色の瞳、見る者を魅了するかのような綺麗な顔立ちはイケメンと言わざるを得ない。黒を基調とした簡素な鎧に身を包んだその青年から流れて来る圧は、彼が今まで出会ってきた英雄の中でも抜きんでる程に戦いを経験してきたことを物語っている。召喚されただけでこれだけの威圧感を辺りに撒き散らす存在に、騒いでいた三人も喧嘩を止めて視線をそれに集中させる。一同が自分に視線を向けているということに気付いた彼は、右手に持った槍を器用にクルクルと回してから地面に突き立て、己の真明を述べる。

 

 

 

「いいサーヴァントを引き当てたぜ、アンタ! ってな訳で、ライダーのサーヴァント。アキレウスだ。……そうそう、踵が弱点でお馴染みの英雄さ。ま、俺の踵を捉えるなんて、誰にでも出来ることじゃねぇがな! 人類最速の足、伊逹じゃあないぜ?」

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「あ、アキレウス………だと……!?」

「おっ、アンタはいつぞやの時の駄目マスターじゃねぇか。元気してたか? ったく、呼ぶのが遅ぇんだよ!」

「あ、あいたたたたた! やめ、筋力Bの力で頭撫でるのやめろォ!」

 

 半ば強引に頭を撫でるアキレウスに抗議の声を上げるが、本人はどこ吹く風と言わんばかりに笑いながらそれを無視する。キャスター等の非力な筋力値ならば強引に引っぺがすことも出来なくはないが、眼前に立つはギリシャ神話においてヘラクレスと同じ知名度を誇る英雄の一人。だが、このままの勢いだと首がへし折れ兼ねないことを黒鋼が危惧していると、ひょこっと現れたお竜さんがアキレウスの手をどかしていた。

 

「馬鹿かお前。この人間はそこのナメクジより弱いクソザコナメクジなんだぞ。撫でるにしてももう少し丁寧にやってやれ」

「あん? あ~それもそうだな。悪ぃ悪ぃ、つい癖でな。にしてもお前さん、相変わらず弱っちぃな。ちったぁ前には進めたかよ?」

「言われるまでもない。ったく、これだから英雄って言うのは…………あ」

 

 事あるごとに強引に頭を占めてくるサーヴァントの多さに頭を抱え始めると同時に、アキレウスという単語の元に思い出してしまったことがあった。そう、それはついこの間の事。帝都イベの前に行われた幻の聖杯大戦の後、ケイローンを呼んだ後のこと。あの時はまだ男性のギリシャ神話系サーヴァントだったから良かったが、ここに本人が召喚されてしまった。それはつまり、彼女の怒りのゲージが振り切れるということではないだろうか。

そんなことを考えた矢先、召喚場の扉が勢いよくこちらへと吹き飛んだ。冷や汗をかきながら、壊れた歯車の様にゆっくりと後ろを振り向くと――――――案の定、幽鬼(ペンテシレイア)の姿がそこにはあった。目に光は灯っておらず、怒りの余り笑みさえ浮かべた幽鬼の如き表情でこちらをジッと見つめている。

 

「………おい。いい加減にしろよ。前回と全く同じ展開じゃねぇか! いい加減にしろよ! ネタが尽きたのか作者ァッ!!」

「アキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスアキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

「怖い怖い怖い!! 名前を延々と連呼するのは聞くならまだしも字面にすると滅茶苦茶怖いよ!? ど、どうすんだよこれェ!?」

 

 ケイローンが召喚された時と同じように、ギリシャ神話系男性サーヴァントを根絶やしにせんと。しかも、今回はペンテシレイアが最も殺したい男であるアキレウスに対してその拳を振るわんと全速力でこちらに迫る。召喚されたばかりの彼は苦笑しながらも黒鋼を肩に背負い、前屈みの体制に入る。今すぐにでも走り出しそうな彼に白目を剥き、全力でやめるように抗議する。

 

「ちょ、アキレウスやめろ! そんなことしりゃいけない!」

「あァ? いや、でも仕方ねぇだろ。俺ぁ召喚されたばっかでまた弱っちぃしな。ペンテシレイアには殺されても仕方ない事をしたが、俺はお前さんのサーヴァントだ。むざむざ殺されてやるわけにはいかねぇよ。つー訳で逃げるわ! 悪ぃが、残りの連中はあいつの相手を頼む! じゃあな!」

「オイコラ頼むから全力疾走はやめヴぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「アキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 召喚されたばかりだというのに、流石は人類最速を誇るギリシャの大英雄というべきか。まさに音速を越えかねない全力疾走で召喚場を勢いよく飛び出す。それに反応したペンテシレイアが鉄球を乱雑に振り回すが、それを涼しい顔で避けながら廊下へと踊りだし、勢い誤ったスピードを殺すために足を壁にめり込ませ、壁走りからローリング、体制を立て直してそのまま一目散に走り去る。狂っていながらも標的が目の前から逃げたことを察したアマゾネスの女王が咆哮を上げる。貴様を絶対に逃さないと怒りの怒号を轟かせながら部屋を出ようとしたが、その前に三人の男女が立ちはだかる。

 

「ちっ、まさか召喚されて初めての仕事が女を斬ることたァの。カルデアちゅうんも中々エグイとこじゃ」

「いや、こんな事めったにないからね。それにしても、まさか女王様と戦うことになるなんてね。お竜さん、行けるがか?」

「問題ない。お竜さんはいつも強いからな。仕方ないから、今回はナメクジも守ってやる。感謝しろよ」

「誰がおまんらに護られるか! そっちこそ、ワシの足引っ張らんよう気ぃ付けやァッ!!」

 

 一番槍は己だと言わんばかりに以蔵は鞘から刀を抜き、眼前で狂う女王に迫る。その背を見た維新の英雄は、生前はよく見ていたかつての友の姿と重なり合う。そして、その彼と共に戦うことが少しだけ気恥ずかしくもあった。だが、それと同じくらい喜びを感じていた。

 

「―――ああ。こうして一緒に戦えるだけでも。僕はここに来た甲斐はあったよ。ねぇ、以蔵さん。さて、僕らも行こうか!」

「ああ。ところで龍馬。あれ、二人ともどう見ても敵だし食べてもいいか?」

「いや、食べちゃダメだからね!?」

 

 

 

 

 

 

 





というわけで、今更ながらの帝都イベガチャ報告でした。その前の復刻版ぐだぐだ明治維新、それから帝都イベ記念に沖田さんを引いた挙句の果てに帝都イベでアキレウスと。いや、ほぼ無課金で星五を引けてるのは嬉しいんだけれども。正直な話沖田オルタは普通に欲しかったのぜ………

↓ぐだぐだ明治維新(呼符単発のみ)
土方歳三×1

↓沖田総司ピックアップガチャ(十連二回)
沖田総司×1
ぐだぐだ看板娘×1

↓ぐだぐだ帝都聖杯奇譚(十連ガチャ十回)
アキレウス×1
エミヤ(弓)×4
李書文(槍)×3


 いや、正直に言うと普通に沖田オルタは欲しかった。だってあんなリーチの長い刀使うんだよ? 私セ〇ィロスみたいな長刀使う人大好きだから欲しかったなぁ………。けど、この後にはどうせ2017水着イベントが。術ネロが待ち受けているのだと自分を戒め、バイト代も温存するように心がけて我慢しましたとも! さぁ! 次は術ネロガチャだぞぅ!
次回のサブタイトルは、『決して枯れる事のない希望の花と夢』! お楽しみに!!



あれは、酷い地獄だったぜ…………(泣)


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決して枯れる事のない希望の花と夢

今更ながらの術ネロガチャ報告ゥ!
令和初のガチャ報告はっじまるよ~~~~~!!!


「―――そういえば、ついに水着ガチャ復刻か。今思えば長かったなぁ」

「うむ! 去年は引くことが出来なった水着の余! 今年は絶対に引くのであろう?」

「勿論だ。その為に石貯めたりそれなりに貯金したりとかしてたんだからな」

 

 ぼんやりとスケジュール表を見ながらそんなことを呟く。それに返すかのように純白の衣装に身を包んだ少女が朗らかな声を上げ、男はそれを微笑まし気に見ながら今まで貯めておいた聖晶石と万札を確認する。マスターのマイルームであるこの部屋には多くのサーヴァントが立ち寄ることがある。今回は偶然目の前の少女、ネロ・ブライドが居たのだが。今思えばこの出会いからあの事件が起こる原因だったのかもしれない。あらかじめ用意しておいた万札の半分を躊躇うことなく聖晶石に変え、両手で抱えるにしても多すぎる聖晶石を二人並んで召喚場へと運ぶ。その最中、鼻歌交じりで見るからに上機嫌なブライドを見てマスター。黒鋼は何がそんなに嬉しいのだと尋ねる。

 

「やけに上機嫌だな」

「それもそうである! 何といっても水着の余は、この花嫁姿の余が水着へと着替えた姿! つまり、余が新たなクラスと宝具を会得できるのだぞ!? これで人理再編を行うマスターをより一層助けられるというもの。これからもよろしく頼むぞ!」

 

 輝かんばかりの満面の笑みを浮かべるブライドを見て、そういう考え方もあるのかと黒鋼は納得する。白を基調とした衣装に身を包んでいるせいか、彼女がどこか儚げに見えてしまうというのもあるのだろうか。いずれにしても、去年は召喚出来なかったキャスターのネロを召喚するというのは既に決めていたこと。故に、躊躇うことなくその石を召喚サークルへと放り込む。

 ―――それが悲劇の始まりだと。この時の俺は気づいていなかったのだ。沖田オルタを引こうと頑張ったが、アキレウスという星五サーヴァントを引いた時点で撤退した。それ自体は素晴らしい事だ。だが、諦めなければ夢はかなう。道が続くなどというのは所詮まやかしに過ぎない。その結果がこれなのだから。

 

 

 

「―――――――がっ、あ…………?」

 

 聖晶石召喚。それはこの世のものとは思えない確率論によって支配された悍ましき世界によって決定付けられたこの世界の真理。そう、全ては確立によって決定されるのだ。狙い目のキャラクターの出現確率が低ければ、可能な限りガチャを回して引く。とどのつまり回転数こそが正義であるという頭の悪いガチャの回し方をすればどんなキャラクターも引けるだろうと高を括っていた。だからこそ、これは俺にとっての罰なのかもしれない。

 ――――トータル150連召喚による、☆4以上のサーヴァントの召喚反応0。絶望的なまでの『確率』という壁が、脅威が黒鋼達に向けて牙を剥いたのである。ここぞというばかりに、今度こそ召喚するのだと息巻いたキャスター・ネロを召喚するために始めたガチャ。だが、その結果はなんと無残なことだろうか。己の金を以て存分に課金できるという喜びを知ったからこそ、今回の大爆死は彼の心を幾千もの刃で切り刻むが如き激痛へと変わる。その痛々しい背中を見ていられず、ブライドが悲嘆の声をあげる。

 

「もうよい、もうよいのだマスター! これ以上、余の為にその体をすり減らすでない! その姿は、あまりにも。あまりにも――――!」

「ブライドぉ………なんて、声、出してやがる? 俺ぁアトラス院のマスター、クロガネ・ケントだぞぉ? こんくれぇなんてこたぁねぇ」

「だが!!」

「いいから回すぞ! キャスターのお前が、待ってんだ―――――」

 

 流れるように諭吉を消滅させ、新たに錬成した聖晶石をサークルへと投げ込む。それを見たブライドが止めようと後ろから駆け寄るも、まるで予見していたかのように黒鋼は足をもつれさせながら器用に避ける。サクサクと終わっていく召喚だが、未だにキャスタークラスのサーヴァントが召喚に応じる事は無い。絶望的なまでに召喚する可能性が潰え、久しぶりの難敵と落としどころが見えない戦いに苦い笑みしか思い浮かべることが出来ない。

 そんな中ふと考えた。己は一体何のために彼女を召喚しようとしているのかを。そんなことを思う自分を客観的に見て、自嘲の笑みを浮かべて新たに聖晶石を放り込む。

 

黒鋼研砥は一体何のためにガチャを回しているのか?

そんなことは決まっている。召喚しようとしている彼女のことを好いて。愛しているからだ。宝具レベルを極大にまであげることをせず、一人でも引くことが出来ればと妥協しても。そのサーヴァントへの思いは他の誰にも負けないと思っているからだ。だからこそ、どれだけ絶望的な状況でも。どんなに愚かだと言われようとも。

―――――黒鋼研砥という男は、己の心に決めた戦から逃げる事だけは決してしない。

 

「俺は止まらねぇからよ。聖晶石が続く限り………その先におれはいるぞォ!!」

 

 自分に言い聞かせるかのように、周りに聞こえるように出来る限りの声を出して彼は吼える。たとえどれだけの理不尽を強いられようと、周りの人間を祟りたくなるほどに精神を拗らせても。最終的には全て己の為に召喚を続けて行くのだと自嘲しながら。

 だが悲しいかな。志が高くとも、既にその体は満身創痍。幽鬼のようにふらふらと立っていた黒鋼は、遂にその体を地に着けた。それと同時に己の意識が遠くなっていく感覚に気付きながらも、それが途切れるギリギリまで手をサークルへと伸ばす。

 

「だからよ……………………止まるんじゃ、ねぇぞ………………?」

 

 満足したかのようにそう言い残し、黒鋼は遂に意識は闇の底へと堕ちた。燃え尽きて真っ白になった某ボクサーのように、何かしらの充実感をその身に感じながら彼は斃れたのであった。

 

 

――――――――――――――――――fin――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「って、何勝手に完結させとんじゃ己はァ!! こんなところで止まれるか戯けェ!!」

 

 屍の如く床に倒れ伏した黒鋼が声を荒げながら立ち上がる。さっきまで某機動戦士シリーズの某団長の様に死亡フラグを建築していたのにも関わらずこの復帰力。それだけでも彼が今回のガチャにどれだけ思い入れを以て回しているのかが窺い知れる。

 だとしても、これまでのガチャで150連大爆死という事実が彼の肩に重く伸し掛かる。前に書いた通りガチャというのは所詮確率論。それに打ち勝てる時もあれば、とことん敗北する時も起こり得る。故に、ここぞというこの一世一代の大場面で可能な限りの意思のストック、それから聖晶石に還元するために諭吉も用意した。沖田・オルタガチャを引ききるまで回さず途中で撤退したのも、全てはキャスター・ネロを引くための布石。だというのにもかかわらず、ここに来て黒鋼のガチャ運が一気に低下した。これは、黒鋼にネロを引かせたくないという主の意思か。だが、その程度の妨害で立ち留まれるほど。黒鋼の精神は脆弱の物ではなくなっている。

―――何故なら、今の彼の作戦行動はたった一つ。物欲センサーという壁が目の前に立ちはだかるのであれば、聖晶石の数に頼って殴り続ければ良い。某大人気RPGゲームよろしく『ガンガン行こうぜ!』状態なのだから。

 

「まだ俺のガチャフェイズは終了してないZE! ロリンチィ! 新たな聖晶石を用意しろォ!」

『全く、こっちとしては商売繁盛だから有難いけどね? 聖晶石はとっても貴重な物って分かってるのかい?』

「そんなことはどうでもいい! 俺にネロをYO☆KO☆SE!」

『う~んこの頭バーサーカー! ま、引き留めはしないとも。君に幸運がありますように☆』

 

 煽っているようにしかきこえないダ・ヴィンチの声援を通信越しに聞き、黒鋼の手元から万札が消失する。その対価として大量の聖晶石が出現し、彼はそれを躊躇うことなく召喚サークルへと放り込む。

 

「俺は止まらねえ………止まってたまるか……! やっとだ、やっとここまで来たんだぞ!! 何するものぞ、物欲センサァァァァァァァァ!!!!」

 

 人類悪やクリプタ―達と対峙した時もかくやの如き怒号を上げながら、黒鋼は怯むことなく召喚を続けていく。時に嬌声を上げながら、時には狂いながら、またある時は心を無にして。

 だが、この時はまだ彼らは知る由も無かったのだ。地獄はむしろ、ここから始まるということに。

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「―――――――だからよ………止まるんじゃねぇぞ…………?」

「………マス、ター? い、一体何があったというのだ!?」

 

 それから数時間の死闘。それをただ一人で行い続けた彼はその精神を崩壊させていた。だが、それは決して連続した召喚の失敗したからではない。では、何を以てして彼の精神を崩壊させてしまうような悲しい事件が起こってしまったのか。 

 ―――初歩的なことだ、読者の諸君。召喚行為、ガチャという行いは召喚される確率が少なからず向上させているサーヴァント以外にも常に召喚されることを待機している者達も存在する。たとえそれが最高位の英霊を召喚する際に迸るエフェクトで、かつそれが己の呼び寄せたいクラスのサーヴァントであったとしても。同じクラスでありながら別のサーヴァントが召喚されるということも稀にある。しかも、それが二度も続けば少なからず精神を病む者は存在するだろう。それを証明するかのように、二人のサーヴァントがとても申し訳なさそうにマスターであった者の成れの果てを見ない様に心掛けていた。

 

「い、いやぁその、ですね? こう、ぱぁっと光が迸ったと思ったらこちらに呼ばれていたと言いますか何と言いますか。私としてもマスターの狙っていた方の邪魔をしたいだなんて思うはずないですし? こ、これは俘虜の事故です! 私達にはなんの罪もありませーん!」

「その通りだ玉藻の前。私達はあくまで召喚行為に釣られてこの場に呼ばれただけのこと。たとえそこで屍となっている男が呼び寄せようとしたのが、我々と同じ最高位のキャスターで。その結果として我々が召喚されるというのは事故に過ぎない。確率論なのだから、この結果は甘んじて受け入れ――――」

「黙らぬかこの大馬鹿者共め! 余は、余はとても悲しいのだ! 余の為に尽くし、余と共に生き、余と共に戦い! そして、余を受け入れたマスターが! 余のキャスタークラスを求める為に汗水垂らして貯めた財を投げ払ったというのにだ! それが報われぬなど、おかしいではないか! 貴様等が味方でなければ、我が剣の錆にしている所だぞ!」

 

 生きる屍と化した黒鋼の体を抱きかかえながら、ブライドが目の前に立つ二人を仇と言わんばかりに睨み付ける。その強烈な視線に二人は罪悪感に駆られ、何より自らの夫になるやもしれぬ物を傷付けられた乙女の怒りと憎悪が入り混じった殺気に充てられ、目の前にいるのは本当にサーヴァント一騎だけなのだろうかという疑心に陥る。倒れ伏した黒鋼は、自身を抱き留めるブライドの手をやんわりと退けながら、ふらふらと頼りない足取りで再び立ち上がる。

 

「ま、マスター? もうよい、もうよいのだ。水着の余を呼べぬのは残念だが。だが! これ以上は今年の水着イベントにも支障が出るであろう!? そのように体を張ってまで、余を求める必要など――――」

「―――――少し、黙ってろ。ブライド」

 

 彼の事を思いブライドが必死に説得を試みる。だが、黒鋼はそれを容赦なく聞き捨てた上で令呪を用いて強引に黙らせる。その事に面を喰らったブライドだが、ハッと我に返ると悲しみの余り瞳を潤ませる。己を好いてくれている女の子を泣かせてしまった罪悪感が黒鋼の胸に深く突き刺さるが、疲れ切った顔に無理矢理笑みを浮かべる。

 

「ごめんな。でも、こうでもしないと。立ち止まりそうだからさ。……逃げ道なんて、要らないんだよ」

「――――――――ッ!!」

 

 無理して笑うその表情はとても儚くて、黙らされたブライドは言の葉でダメならばとサーヴァントの膂力を以て止めるべく疾走する。距離にして数メートル、その程度の距離はその気になれば一足飛びで縮まる。文字通り閃光の如く疾走するべく足に力を込めた瞬間、ブライドを中心として石の柱が突き刺さる。共に戦ってきた強力な宝具が己に向けて放たれたということを実感すると同時に、届かない黒鋼の背に向けてその手を伸ばす。

 

石兵八陣(かえらずのじん)……ほんと、最近の俺は変わったよなぁ? あれだけ忌避していた孔明を躊躇うことなく使うし、周回にだって連れて行くようになった。ああ、我がことながら呆れ果てるほかにない。散々キャラクター愛だのなんだのと豪語した割に、結局は強キャラに頼って攻略してるんだからな」

 

 懺悔をするかの如く黒鋼は独白する。それは今まで否定していた己のスタイルに対する批判であり、侮蔑の意を含めた嘲笑だった。だが、どうしてその言の葉を紡ぐ声は悲しげなのか。己に言い聞かせるように一つ一つの言葉を思案し、それを繋げていく様は何とも痛ましい。

 

「だが、それでも。俺は、俺達はもう止まれない。止まるわけにはいかないんだ。漂白された汎人類史を取り戻す為にも、更に力がいる。その為ならば禁じ手と封じてきた強キャラ使用も受け入れるさ。だが――――」

 

 召喚が終わり、何度か高ランクのサーヴァントの反応を感知したが本命は未だ呼ばれる事は無く。それを事務的にこなしながら新たな召喚を執り行う。一度言葉を切り、何を言おうかと天井を見上げて思案する。何を言えば良いのだろうか、何を思えば良いのだろうかと遠のいていく意識をかき集めて。数分かけてようやく思い至った彼は、後ろで柱を壊そうとする少女に顔を見せながらそれを言い放つ。

 

 

 

 

 

……………好きな子は、召喚したかったかな―――――――?

 

 

 

 

 

「この、大馬鹿者め。余も、余も散財するが、ここまで。ここまでするなどよっぽどの阿呆だ。この、この――――!」

「あははは………。ま、まあそう言うなよ。得る物はあったんだから」

「それはそうだけど、私としても嬉しくないなぁ。というか、なんでネロ公なんかの為にそこまで散財したの……」

 

 場所は変わり、新たな拠点となった施設のシミュレーションルームで一つのグループがエネミーを蹴散らしている。その中でも司令塔である黒鋼は自分についてきたサーヴァント達に指示を出し、彼らはその指示に従いながら敵を殲滅していく。その中でも黒鋼の護衛を務めるのは彼の最高の相棒であるブーディカと、大太刀を肩に担いだブライドの二人だ。

 

「いや、去年どう頑張っても引けなかったから悔しくてつい……バイトも初めて懐に余裕が出てきたらつい……」

「ついで諭吉さんをぽいぽい投げちゃ駄目でしょ。まあ、君が貯めたお金だから私がとやかく言うのは筋じゃないけど、あんまり感心しないなぁ」

「ブーディカよ。あまりマスターを苛めてくれるな。元はといえば余のレアリティが最高値なのが悪いのだからな。だが、余は人気者故あのレアリティは仕方ないのだ……」

「あぁキャスターになれるんだっけ? よし、ちょっと試し斬りしようかな~」

「ぶ、物騒な物を向けるでない! いかにスキルでクラス相性不利を消せるとはいえ、貴様のローマ特攻はそれなりに響くのだからな!?」

 

 にっこりと笑いながら近寄るブーディカを見たブライドが黒鋼の背に隠れる。その事に彼は苦笑し、ブーディカは溜め息を漏らしながら近寄ってきた敵に向けて剣を振るう。流れ弾は車輪の盾を呼び出して防ぎ、器用に戦場の合間を縫うように舞う。赤い髪をたなびかせ、純白のマントをはためかせる姿は優雅の一言に尽きる。

相変わらず綺麗で戦上手な人だと思い直していると、後ろに隠れたブライドが黒鋼の袖を引っ張っているのに気づいた。まるで何かを急かす子供のように上目遣いで無言のおねだりをされた黒鋼は、一瞬あまりの可愛さに胸がときめきそうになる。だが、持ち前のポーカーフェイスを駆使してそれを堪え、前衛で戦っていたある人を呼び寄せる。

 

「お呼びですか、マスター?」

「ああ。前衛で戦ってて申し訳ないが、少しブライドにバフかけてくれるか」

 

 腰にまで伸びた紫がかった黒い髪、旧時代の女性が着ていたような学生服を着込んだ女性。愉快そうに笑いながらヨーヨーと愛刀に紫電を纏わせ敵を駆逐する様は鬼神如し。本来はバーサーカーではあるが、例によって水着イベントでクラスがランサーに変わった源頼光は二つ返事で了承しブライドの攻撃性能を強化していく。

 

「にしても、まさか頼光さんまで召喚できるとは思わなかった。気分転換でメイド・オルタの方を回したら一発で来てくれるんだもの。あの時はびっくりして目が点になりましたよ」

「あら? 母が来るのは嫌でしたか?」

「いや別に嫌ってわけじゃないけど。なんだかんだで結構引けてるんだなぁって思っただけだよ」

 

 今回は召喚数が余りにも多く、召喚して呼び出したサーヴァントを表示していたらきりがないのでかなり省略したが。ピックアップ対象の☆4のサーヴァントだけでなく、孔明といった☆5のサーヴァントも多く召喚している。散々すり抜けた上に、召喚しようとしたサーヴァントと同じクラスなどという胃が痛くなるような召喚だったが。先も言った通り得る物も確かにあったのだ。目の前の頼光の様に水着というよりスケバンと化した別枠のサーヴァントも少なくはないが、眼前にいる有象無象を薙ぎ払うにはさしたる関係はないだろう。

 

「さて、と。お膳立ては済ませた。あとは文字通りお前の独壇場と行こうぜ、ブライド!」

「うむ! この日の為に用意した余の晴れ姿! しかとその目に焼き付けるが良い!」

「それでは、私は前線に戻り後退するように伝えてきます。影の風紀院長として、あのような下賤の者は許しておけませんので」

「お、おう。無理だけはしないでくださいね」

 

 にっこりとした笑みを浮かべながら、再び紫電を纏わせながらヨーヨーを相手にぶつけては愛刀で胴を斬り裂いていく。嬉々として返り血を浴びながらもゴブリンたちを屠っていく殲滅力に流石は源氏の侍大将というべきか。それとも恍惚とした表情で虫を駆逐していく様子に恐怖すべきか悩んでしまう。完全に動きが戦闘狂のスケバンのそれだなと呆れていると、ブライドが今か今かと南京錠の付いたライダースーツのチャックに手をかけていた。その様子に犬が尻尾を振っているんじゃないかと思ったが、待ちきれないという意味では黒鋼も同じだ。端末で味方の前衛がある程度後退を済ませたことを確認した後、彼は嘆息しながらも後ろに控えた皇帝に命じる。

 

「準備完了だ。どでかい花火を打ち上げようぜ、ブライド!」

「うむ! では刮目するがいい! これが、余のマスターが用意した特注礼装。名付けて、劇場礼装であるぅ!!!」

 

 刀身を純白に染めたネロ達の愛刀。“原初の火(アエストゥス・エストゥス)”を天高く放り投げる。それと同じくしてブライドの身に纏う衣服や髪留めが姿を変え、新たに獲得した霊基(・・・・・・・・・)が露わになる。南京錠の付いたライダースーツはゆったりとしたサマードレスに。白い生地のせいで透けているのか、その下に付けた赤と白の水着がうっすらと見えるのは何とも艶めかしい。いつもは纏めている金髪は珍しく下ろしており、見目麗しい金の奔流が如き長髪が肩にかかる。宙に放られた愛刀はその刃を赤く染め直し、地に突き刺さると同時に奇怪な魔方陣が展開される。

魔方陣から閃光が迸ると同時に展開されるのは白い花が舞う美しき劇場ではなく、海の上に佇むコロッセオではない比較的オープンな劇場。加えて、なぜかアルテラという白いヴェールを被った女性が持つ歪の剣。“軍神(マルス)の剣”を携え、ビキニアーマーを装着して翼を生やしたネロの像が中心となっているという「まるで意味が分からんぞ!?」と叫びたくなるような要素過多で構成させた不思議空間が展開される。いつ見ても突飛な空間だなと黒鋼が呆れていると、満面の笑みでドヤ顔を披露しながら腕を組むブライドの姿がある。今回のイベントの向け、自身が貯めこんでおいた資材やコネクションを用いて改良した劇場の良さが気に入ったのか、それとも彼女自身がこの宝具を使うことが出来る事に喜びに震えているのか。どちらにせよ、満足げに高笑いをしながら組んだ腕を前方で溺れている敵に向けて伸ばす。

 

「わーはっはっは! さぁ行くぞ、我が奏者(マスター)よ! 新たな力を手にした余の活躍を見よ! 敵前方に向け、全段発射! 撃てーーーーーい!」

「ふははははははは! 粉砕! 玉砕! 大喝采ィ!!」

 

 パイプオルガンの様に設置された劇場から紫色のビームの雨が降り注ぐ。無数の光弾が縦横無尽に敵を薙ぎ倒し、蹂躙していく様は快適という一言に尽きる。紆余曲折はあったものの、無事に新たな力を宿したネロ・ブライド(キャスター)の力はこれからの闘いに大いに期待できる。だが、とりあえず。今は目の前の彼女と共に存分に夏を満喫することにしようと、黒鋼は己の欲望に素直になるのであった。

 

 

 

~~~オマケ(術ネロ召喚の瞬間)~~~

 

 

 

「どうして……どうして出ないの? あ、アリエナィ………」

「ん~……今までなんだかんだ五十連くらいで☆5サーヴァントとか、目当てのサーヴァントを召喚出来てたからなぁ。その揺り戻しが今になって来てるの、かな?」

「だからといってこれはない。これはない。何故、何故同じ最高位のキャスターを二人も召喚しておきながらどちらもすり抜けなのか……! こんなのってないよ! あんまりだよ!! こんなの絶対おかしいよ!!!」

 

 結局、途中で心の折れた黒鋼は後日改めてキャスター・ネロの召喚に挑んでいた。この時の為に温存しておいた財を投げ放ち、片っ端から召喚していく様は狂気すら感じる。事実、すり抜けているとはいえ周回性能を強化する諸葛孔明や、高難易度等で味方の体力やNP供給等をしてくれる生命線である玉藻の前といった優秀なサーヴァントが召喚されている。普段の彼ならばどちらか片方が召喚された時点で諦めていただろう。それでも、今回だけは諦めることが出来ないと諭吉を石へと変換させ、次から次へと召喚していく。それは何故か。答えは決まっている、彼がそうすべきだと己の心が命じているからだ。

 

「俺はずっとこの時を待っていた! 沖田オルタも欲しかったし、他のイベントガチャも沢山回したかった! なんなら宝具レベルも上げなたいさ! だが、それでも。それを捨て去ってでも――――!!」

「キャスターのネロ公が欲しいと。私としてはあんまり歓迎したくないんだけどなぁ……」

「そ、その辺りは本当にすまないとは思ってる。ブーディカさんにとって敵であるローマを増やそうとしてるんだからな……」

「あ~いや、別にそこまで改めなくても。それに私はもう割り切ってるしね」

 

 ブライドの派生として新たに霊基を得たキャスター・ネロ。当時、ブーディカの故国であるブリタニアを襲ったローマを統治していたネロは彼女にとって討ち倒すべき宿敵である。だが、英霊となってその時の臣下が暴走して自国を襲ったという事実を知ってしまった彼女はそれを少なからず受け入れて今ここに居る。何より、ここには二人のネロが存在しているが。何故か赤いいつものネロには当たりがキツく、ブライドのネロには少しだけ甘い感じがある。その辺りの差別には何か意味があるのだろうか。

 

「そういえば、ブライドと赤いネロに違いとかあるのか? こうして言ってみればアレだが、どちらも元は同じネロだろ?」

「大いにあるさね。赤いネロ公は私の知ってるあの時のネロ公だ。最期まで自分という劇を演じ、一人で死んで、そこから新たなマスターを得た。でもブライドはそうじゃない。アレはまだ何かに追われてるというか、どこか危うさを感じるんだよね。まるで、何かに魅入られているというか。呪われているというか………」

「―――それって、もしかしてネロがバビロンの妖婦ってのと同一視されているのに関係が?」

 

 バビロンの妖婦。キリスト教に登場する悪魔の名で、ローマを統治していた当時のネロはキリスト教を迫害していたこともありその名で呼ばれることもあるらしい。その他にも多くのサーヴァントがネロの事を注視している節や、一歩間違えれば魔王や悪に染まってしまうだろうと揶揄している場面がある。

 そして、それはブーディカにとっても同じだ。ローマ憎しの一念で何百何千何万とローマを殺し、蹂躙し、殲滅した彼女はその残虐性に特化した霊基で顕現する可能性があるのだから。もしかすると、ブーディカの持つローマに対する強い感情が不安定なブライドを危険視しているのかもしれない。

 

「それを断ずることは出来ないけど、これだけははっきりと言えるよ。何だと思う?」

「…………ネロが、ブライドが邪道に堕ちるも悪に染まるもマスター次第ってことか?」

「勿論、それもあるよ。でもね、私が言いたいのはそれだけじゃない。ほら、あの時に彼女こう言ってたでしょ? 憎み合うしかない私とネロ公が、共に戦車を走らせるような戦友になりたいって。正直、あれを聞いた時は何を馬鹿なことをって思ったよ。でも、今は足を揃えて同じマスターの元で戦ってる。なら、そういうこともあるんじゃないかって。

ブライドの事は心配だよ。だからこそ、彼女は。私達が守ってあげないと」

 

 どこか思いつめたように胸に手を当てながら、誓うようにブーディカは呟く。その事に黒鋼は少しばかり息を飲むように目を丸くする。第二特異点の頃でもネロに対しては鬱陶しいと思う感情は強かったが、長い付き合いになったとはいえ彼女を護ろうと言った。それは、きっとブーディカという英霊の根幹に関わる重大な変化なのだと思ったのだ。それを自覚するけれど、この思いを言葉にすることが出来ない。作家系のサーヴァントであればもっと上手い言葉を選べるんだろう。だけど、そこまで言葉が回らない黒鋼は漠然と思った事を告げる。

 

「―――そうだな。うん、俺たちで守ってやらないとな」

「うん! あ、研砥! 虹回転だよ!」

「クラスは………キャスターか! それに、何となくだけど分かるよ。これは―――」

 

 召喚サークルが虹色に輝く。黄金の魔術師が描かれたカードが出現する。眩い光を伴いながら姿を現す金の髪の少女に二人は笑顔を以て迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 





この後滅茶苦茶種(火)漬けした。


はい、というわけで術ネロガチャ篇でした! 最近忙しすぎて執筆する暇がねぇ!!(白目)
今回は多分、過去最高にガチャガチャした回だと思いましたね。本当に回した回数多すぎて把握してないですもん。
序盤は130連☆4キャラ0という絶望を味わい「止まるんじゃねぇぞ……orz」と就寝。木をとりなして課金して見れば孔明出たり玉藻出たりで本当にピックアップしてんのかよ馬鹿野郎!!! って叫びたくなりましたね。途中で星四のキャラクターはホイホイ出て来るのに本当に嫌気がさしましたよ。
 所詮は確率論、期待値なんてものは飾りなんだなってね。けど、その果てに俺は無事にキャスター・ネロ引き当てた! もう出た瞬間は大学内だったのにちょっとガチ泣きしまたしたからね!
 なんだかんだ術ネロ引けて。まあ諭吉が4、5人分の聖晶石とかその他諸々失ったけど、得る物は確かになったんだなって。あ、槍頼光さんは石は貯めてたけど、呼符ガチャしたら来てくれました。………色々と詰まりすぎなのでは?

というわけで、色々とありましたが術ネロガチャ篇これにて閉幕で御座います! 次回はやっとこさ異聞帯第二章の、ゲッテルデメルングガチャ篇。ブリュンヒルデが好きだった俺には遂に実装されたシグルドに歓喜! 加えて担当する方はあの津田健次郎さん! これはもう一人の遊戯王ファン、そして決闘者として引けぬ戦い! ………あれ? 引けない戦いおおすぎなのでは?(白目)
 何はともあれ、異聞帯第二章ガチャ篇も頑張って執筆します! これからも至らぬ私を「許してやるよォ!!(cv.ナポレオン)」って方は次回もよろしくおねがいします! 
それではまた次回でお会いしましょう!!



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