ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜 (黒 蓮)
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キャラ紹介etc……

オリキャラなどの設定を纏めて置くので分からなくなったり気になれば活用してください。(順次更新予定)

キャラなどの質問があれば感想にて受け付けますので気軽にどうぞ。


まず原作を読んでいない方向けに基本的な知識を少々

 

 

ストブラ固有の用語に関してはこちらのアニメ公式サイト

http://www.strike-the-blood.com/smart/term.html#tm-sa

 

既出キャラや原作のあらすじ細かなことはこちらのWikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%89?wprov=sfsi1

 

この2つを基本的にご利用いただければと思います。

 

ここからは本編のネタバレになるかもしれないので自己責任で!

 

 

滅びの王朝の逆徒編━━

 

アシュラー・レイハーネ

 

滅びの王朝の吸血鬼の名家アシュラー家の現当主。先代である父親は滅びの王朝で長老を務めたが、帝国外にてディミトリエ・ヴァトラーの襲撃に会い喰われてしまう。なお、その時に母親や有力な親族も根絶やしにされたため、ヴァトラーのことを心より憎んでいる。

容姿は貴族というだけあり端麗であり、外見は凪沙と同じくらいの歳のツインテールの美少女である。白いドレスのような服をよく好んで着る。

普段の喋り方には貴族の当主としての威厳が表れているが実はかなり無理をしており、実際は見た目の年齢と変わらない普通の女の子である。

 

 

使用する眷獣は3種類で

触れた相手を意のままに操ることが出来る多数の細い触手が集まった 麗楼(オニロポロス)

自分の魔力や魔力源か魔力を吸収し対象とのリンクを作り対象に魔力を供給する 意思を持つ武器(インテリジェント・ウエポン)の鞭 権威の祝宴(エクソシア・ジョルティ)

人1人分程までの物体を任意の位置へテレポートさせる能力を持つ美しい人魚の形をした 天啓への反逆(アポカリプス・プロドシア)

 

貴族の生まれであり純粋な吸血鬼でありながら3体しか眷獣がおらず、全てサポート系の眷獣であるという理由とまだ子供であるという理由で貴族としての地位は軽く見られており、そのことを自分の不甲斐なさのせいであると酷く気にしている。

ディミトリエ・ヴァトラーを倒した第四真祖を倒すことにより自らの血筋の強さを示しアシュラー家の地位向上を目論む。

本名はレイハーネ・アシュラーであるが自分の家の没落を忘れぬようにとアシュラー・レイハーネと名乗り、公的な場でも氏姓を逆にしている。

 

 

人間戦争編──

 

エジプト連合

 

エジプトを中心とする反魔族主義を掲げる組織。

長年アルディギア王国と共に魔族との戦いにおいて最前線を貼っているためその実力は本物である。

九柱神官(エネアド)と呼ばれる9人の神官が組織をまとめている。

 

九柱神官(エネアド)

 

エジプト連合をまとめる9人の神官。

それぞれがエジプト神話の九柱神になぞらえた能力を使役している過適応能力者(ハイパーアダプター)である。

そのトップがアトゥム神を司る能力を持つ者であること以外はあまり知られていないが、ひとりひとりが真祖の持つ眷獣と同じくらいの力を秘めていると言われている。

 

大気の神シュー

空気を操ることはもちろん大気圧にさえも干渉できる力を持つ。

大小様々な鎌鼬を飛ばすことや一時的な真空状態を作り出したりと汎用性が高い攻防一体の能力でもある。

空気がある所ならどこにでも干渉することが出来るため防御することは困難を極める。

 

死者の守護神ネフティス

長く美しい紫の髪が特徴の女性神官。

数多の戦場を渡り歩き、剣の腕だけでも相当な使い手であり物干し竿と呼ばれる特徴的な太刀を使う。

今までの戦闘で切り伏せた無数の手練を傀儡として使役しており、触れれば即死する致死の毒霧を出す奥の手も持つ。

自らの能力により死を回避し若い頃の姿を保っているが実年齢は1000を軽く越えている。

 

力の神セト

2mを超える巨漢。

任務よりも闘いを楽しむことを優先する狂戦士。

他の九柱神官(エネアド)とは違いこれといって特筆すべき能力はないがその強靭な肉体から繰り出される攻撃と煌華鱗の切断能力でさえものともしない防御力は並大抵の力では攻略できない。

数千の獣人の群れを1人で駆逐した伝説を持つ。

 

大地の神ゲブ

能力の汎用性は扱う属性の差があり若干シューに劣るものの想像力と機転により多彩な攻撃を実現することが出来る。

しかし、本人があまり頭が良くないためほぼ単純な攻撃しか仕掛けてこない。

九柱神官(エネアド)No.2のオシリス、自分より能力の使い方が上手いシューに嫉妬している。

 

天空の女神ヌト

美しく長い銀髪を持った美女。

誰よりも自国の繁栄を願っており、昔から不作のときには恵みの雨を降らせるなど母国の国民や周辺の民から愛されている。

天候を操るという絶大な力を持っているが、戦闘においてはあまり役に立たず雷を呼ぶことでしか攻撃が出来ない。

今回の戦いに参加した理由もただ戦いの行く末を見守りたかったという単純なものである。

 

豊穣神オシリス

九柱神官(エネアド)No.2であり、長年アトゥムに仕える礼儀正しい青年。

物事の本質を見極めることが出来る確かな目を持ち、人類の発展のために長く貢献してきた。

冥府神としての側面も持つが彼曰く穢れた能力であるため人前で使ったことはないらしい。

大気や大地を始めあらゆるものに力を分け与えることや奪うことが可能で、基本的に闘う時は地脈から魔力を吸収し自分のものとして闘う。

本気を出せばセトを越える強靭さを得ることもアトゥムに匹敵する攻撃力を得ることも出来るが周囲の魔力リソースが枯渇するため滅多に使わない。

 

湿気の神テフヌト

穏やかな貴族風の口調とは裏腹にかなりのサディスト。

強い男や権力を持つ男の苦痛の顔を見ることが何よりも好きである。

能力は過適応能力者(ハイパーアダプター)の中でも汎用性が高く想像力次第では神祖に引けを取らない技を使える。

その性格と能力の強大さ故に九柱神官(エネアド)の特攻隊長を務めることが多い。

 

創造の神アトゥム

九柱神官(エネアド)を纏めるリーダー。

世界さえも自由に作れる創造の力は絶大で思うもの考えつくものはなんでも瞬時に再現なく作ることが出来る。

幼少期に自らの持つ能力が原因で周りから忌み嫌われた過去を持ちそのせいか自分とイシス以外の人間を信じることが出来ず、第四真祖の能力を得ることによって世界を破滅に導き新しい世界を創造することを目論む。

創造神という側面だけではなく太陽神ラー・アトゥムとしての側面も持ち強力な太陽光線を放つことが出来る。

真祖クラスの吸血鬼であっても直撃すればほぼ即死するほどの威力を秘めている。この能力を用いて数々の吸血鬼を殺戮し喰らってきたこともあり吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)の異名を持つ。

 

 

 

幽寂の魔女篇──

 

ライラ

図書館に所属する魔女見習い。

結瞳と同じほどの年齢のいわゆるロリっ子。

赤毛が特徴の元気な子だが人見知りが激しく、言葉遣いが荒い。

火の属性の魔法を得意とするがまだまだ未熟なため大した魔法は使えず魔導書のレプリカの力に頼ることが多い。

守護者がいるにはいるのだが、実力不足のためか本人さえ完全な守護者を見たことはない。

 

アレシア・ソリテュード

図書館の言葉を司る組織のトップ。

スタイルはいいもののどこか暗いオーラを纏った黒髪ロングの女性であり年齢は30前後という噂。

その他者に言語を与えたり奪ったりする能力から、言語の魔女と呼ばれるが彼女をよく知るものからは幽寂の魔女と呼ばれることが多い。

自分の研究課題以外には基本的に無関心であり、自ら物事に干渉することを嫌い滅多に人前へと姿を現さない。

言葉を司る組織のトップということもあり魔導書の力を本来以上に引き出すことが出来る数少ない魔女である。

守護者は調律者(シントニス)

 

魔導書No.726

図書館創立の頃からある歴史のある魔導書。

その能力は術者の能力拡張とシンプルでありながら汎用性の高さと協力な能力故に、過去図書館が関係した事件ではよく使われている。

 

旧記

世界が創造されてから今に至るまでに起こった全ての事象が書き記された魔導書。

術者はその中からあらゆる現象を自由自在に取り出し使役することができる。

 

神文

術者に害のある行動を起こしたと見なされる度に魔力、霊力、体力等様々な能力の殆どを奪われる天罰が下る。

術者の命を奪えば神文の天罰により問答無用で死が訪れる。

天罰の内容は起こした行動によって大きく異なるが、基本的に全ての能力が弱体化されることが多い。

 

 

神々の信徒篇──

 

キオナ・アゼリア

この世で彼女を知るものはほとんどいない。

自らを遥か昔に呼ばれた超越の魔女という名で呼ぶことが多い。

那月の2人目の師であり、那月曰くこの世に現れた最初の魔女であるらしい。

単純な戦闘力は古城や本気の那月でも足元に及ばないほど、その力の強大さ故に表の世界とのバランサーとして裏の世界の主となる。

姿形は存在する任意のものへと変えることができるが、銀髪ロングの美少女の姿を取ることが多いためそれが本来の姿と思われる。

 

帝国管理局(インペリアル・ヤード)

旧人工島管理公社。

古城の失踪後に発足した帝国の中心機関。

構成員は古城の身の回りの者が多く、少数精鋭、特殊な技能を持っていない限り採用されることは滅多にない。

雪菜、紗矢華、ラ・フォリア、優麻などおなじみのメンバーもここに属するため実質、帝国内で最強戦力を有する。

現時点での代表は基樹。

 

帝国保安部(インペリアル・ガード)

帝国管理局(インペリアル・ヤード)の下、新たに構成された旧特区警備隊(アイランド・ガード)

主に三部隊に別れ、人数の多い一般人から構成される第1部隊、対魔族スペシャリストで構成された第2部隊、そして有事の際に要となる特殊な能力者で成る第3部隊。

主に帝国内の警備、事故の対処を担当するが第3部隊は国外任務へ赴くこともしばしばある。

 

八式降魔剣・改(タウゼント・シェーン)

帝国保安部(インペリアル・ガード)の設立により、考案された次世代型量産降魔剣。

ダウングレードされた量産型であるため、擬似空間断裂による切断能力のみ。

霊力消費は従来の降魔剣より格段に抑えられている。

霊力を増幅させ肥大化した斬撃を飛ばすことも出来るが、霊力消費が激しいため滅多に使う者はいない。

 

魔弾(フライクーゲル)計画

数十年前に立案された、獅子王機関の降魔弓製造計画。

鏑矢の斉射機能と擬似空間断裂の並列起動機能を搭載した理想の降魔弓を製造するというもの。

 

八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)

凍結されていた魔弾(フライクーゲル)計画、その第一段階として作られた六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)通称プロトⅠ、そして未完成のまま破棄されたプロトⅡ、さらに計画を変更し量産に向けて作られた六式降魔弓・改(フライクーゲル・プラス)のデータを用いて暁の帝国、技術開発部の技術全てをフル活用し作られた完成系。

 

紗矢華専用へカスタマイズされており、鏑矢の斉射機能、擬似空間断裂の並列起動機能に加え眷獣の力を効率よく超大規模魔術へと昇華し使役することもできる対殲滅戦用の次世代型降魔兵器。

 

固有銘は元獅子王機関の技術士が提唱する和名と浅葱ら帝国専属技術者推薦の英名どちらにするか現在協議中。

 

以後何かあれば追記を順次進めていく予定です。



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プロローグ

初投稿です!多分1章が始まるまではなかなかに退屈するかと…頑張ってこらえて読んで欲しいです。

文章変なところとか、キャラ崩壊とか色々ツッコむところはあるかと思いますがまだまだだな…と微笑みながら読んで頂ければと思います。
原作からなにか間違ったところがあれば教えて頂けるとありがたいです。原作にかけ離れたものにしたくないので…

感想できればくれると嬉しいです!

では、不甲斐ない文章ですがどうぞ!


常夏の街━━

 

その場所は絃神島と呼ばれていた。太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって造られた人工島。

 

その街にはある噂があった。

この街のどこかに 不死にして不滅。一切の血族同胞を持たず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷獣を従え、人の血を啜り、殺戮し、破壊する。世界の理から外れた冷酷非情な吸血鬼━第四真祖━が身を潜めていると──

絃神島は魔族特区。

この街では吸血鬼や魔族の類いは珍しくもなんともない。だからこそ住民の大半はこの噂は誰かが考えたただの都市伝説だと心の底では思っていた。そう、つい2、3日ほど前までは──

 

 

━━2、3日ほど前━━

 

この日も常夏の島はいつもと変わらない穏やかな1日を過ごすはずだった。しかし、そうはならなかった。

聖殲の叡智を手に入れたディミトリエ・ヴァトラーがグレンダを利用し咎神カインの遺産を召喚したことにより、禁呪 聖殲の祭壇である絃神島は聖域条約機構により破壊を決定され、後に真祖大戦と呼ばれる戦いが行われようとしたのであった。

しかし、その戦いは第四真祖である暁 古城や北欧アルディギア王国等の尽力により事なきを得たと思われた。

 

しかし、さすがの魔族特区の住民といえど1日にそれだけのことが起こるとストレスも貯まるし不安も募る。案の定住民はパニックを起こし人工島管理公社がなんとか押さえつけている危険な状態だった──

 

 

ヴァトラーとの戦いを終え、ラフォリアや紗矢華と別れて戻ってきた古城達が見たものは悲惨なものだった。人工島管理公社関連の建物に押し寄せる者、魔族というだけで弾圧しようとする者、絃神島は自分たちがどうなるのかという不安に覆われていた。

 

呆然としていた古城達の中で最初に口を開いたのは雪菜だった。

 

「先輩…これは…大変なことになっていますね…」

「あぁ、あれだけのことがあったんだ無理もないさ…」

「古城?」

 

歯がゆそうに街を見つめる古城に浅葱が心配そうに声をかける。

 

「ねぇ、古城ってば!アンタ大丈夫?」

「悪い、浅葱ちょっとぼうっとしてた」

「それはいいけど、アンタこれなんとかしなさいよ」

「そんなこと言ったって、オレになんとか出来るわけないだろ!?浅葱の方がこういうのはなんとかできるだろ、なんか偽のニュースを流したりとかさ」

「それくらいで収まることならいくらでもするけどそれじゃ無理でしょ!」

 

こんな時でもいつものように言い争いを始める2人に雪菜が呆れ始めた時

浅葱の携帯に着信が入った。

 

「浅葱か?傍に古城はいるか!?」

「何よ、基樹こんな大変な時に。古城なら今横にいるけど…」

「そうか、そりゃよかった。古城の携帯に何回かけても繋がらないから探したぜ。なら、話は早い。今すぐ古城をキーストーンゲートに連れてきてくれ、迎えは那月ちゃんに頼んである。じゃあ、後でな!」

「なによ、あいついきなりかけてきて」

 

一方的に喋られた浅葱は少しイライラしている。

 

「で、なんだったんだ?」

「とりあえず、那月ちゃんがくるから古城はキーストーンゲートに行けって」

 

不機嫌ながらも伝えるべきことは伝えてくれる浅葱

 

「なんで、オレがキーストーンゲートに…ってうわっ!那月ちゃん!?」

 

3人の間に突如担任の南宮 那月が現れた。

 

「教師をちゃん付けで呼ぶな、それと人を見ていきなりうわっはないだろこの馬鹿者がなにか見られてはいけないことでもしていたのか?」

 

冷ややかに笑いながら那月は古城の頭をいつものように扇子で叩く。

 

「南宮先生、どうして先輩をキーストーンゲートに?」

「なにやら人工島管理公社には第四真祖を使ってやりたいことがあるそうだ。とりあえずついて来い。…転校生お前もだ。」

 

そう言い終わらないうちに、那月は古城と雪菜の2人を連れて消えてしまった。

 

「私だけ仲間はずれ?なんなの、もう!」1人置いてけぼりをくらった浅葱の悲痛な叫びが谺響する。

 

空間転移の独特な感覚が終わると目の前には矢瀬 基樹と数人の人工島管理公社と思われる者と数台のカメラがあった。

 

「よう、古城。さっきはお疲れ様なかなか派手にやったな」

 

基樹が労いの意を込めて肩を叩いてくる。

 

「それはいいんだが、なんでこんなとこに?」

「古城も察しが悪いなー、この島の住人の様子はさっき見てきたはずだろ?うちがなんとか抑えてるが、それもあと何時間保つかって感じだな」

「それでオレを呼んだ理由は?」

「先輩が第四真祖であるということを、住民の皆さんに公開するんではないでしょうか」

 

鈍い古城に代わって雪菜が答える。

 

「さっすが、姫柊ちゃん。古城と違って察しがいいね」

「そんなことして何になるんだよ、余計パニックになるだけなんじゃないのか?」

 

不愉快な気持ちをグッと堪えて古城が異を唱える。

 

「馬鹿者、聖域条約機構によって絃神島は第四真祖が統治する第四の夜の帝国になったのを忘れたのか?」

 

またしても那月の扇子が古城の頭に炸裂する。

 

「そうですよ。先輩が第四真祖であり、絃神島がその第四真祖が収める夜の帝国になることを知れば皆さんとりあえずは安心できるんじゃないでしょうか」

「そうは言ってもなんて言えばいいんだよ…」

「そんなのテキトーでいいんだよ、島の端からでも見えるように派手に眷獣出してなんかちょろっと言えばいいんだって、あとはこっちでなんとかするからさ」

 

いつもの軽い調子で基樹が言う。

 

「そういう…もんなのか?」

「信用しろよ、古城。そういうもんだ」

「だといいんだけどな…」古城は明らかに不服そうだ。

「それで皆さんの不安がなくなるならいいじゃないですか、先輩」

「まあ、そうだな…。今のままほっとけはしないしな」

「そうと決まれば早速撮るぞ、それじゃカッコイイの頼むぜ古城」

「おい、待てよ!!もうちょっと心の準備とかってもんがあるだろ!?」

 

狼狽する古城を無視して準備を始めていく基樹と人工島管理公社の者達。

数分して準備が出来たのか基樹が手を振っている。

 

「はぁ…マジでやるのかこれ…」

「先輩、頑張ってくださいね?くれぐれも眷獣を暴走させたりしないでくださいね」

 

雪菜の笑顔に後押しされ覚悟が決まる古城。

 

「じゃあ、始めてくれ」

 

 

1人取り残されたことで不貞腐れながらスマートフォンをいじっている浅葱の周りから見慣れた声が聞こえてきた。

 

「もう、これ喋っていいのか?」

 

聞き間違えるはずがない古城の声だ。

街中のテレビや携帯電話の画面に白いパーカーを着た気だるげな少年が立っている。

騒いでいた住民や魔族たちも自然とそれぞれの画面に注目した。

 

「初めまして、オレは暁 古城っていう。大変な時だとは思うけど少し話を聞いてくれ。オレは第四真祖だ」

 

画面の白いパーカーの男は何気ない風に言った。

しかし、昂っていた住民たちにはただの悪ふざけに聞こえたのだろうか。

口々に文句を言いブーイングの嵐となった。

「あいつ、いきなりなにやってんのよ…」

 

知り合いの不手際に頭を抱える浅葱。

怒った住民たちの意識が画面の少年から離れていきかけたときだった。

 

「はぁ…やっぱり普通にしてもダメか…」

 

画面から大きなため息が聞こえてきた。

 

「焔光の夜伯血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――!疾く在れ、五番目の眷獣"獅子の黄金"──!!」

 

パーカーの少年の叫び声とともに腕から真紅の血霧が吹き出しキーストーンゲートの屋上に電気を纏った巨大な獅子が姿を現した。

島の中心部から爆風が駆け抜け、騒いでいた住民達は皆、画面に釘付けとなった。

パーカーの少年 暁 古城に島中の者の注目が集まったが、少年が気だるげに発した言葉はあまりにも短かった。

 

「今日から、絃神島はこのオレ第四真祖が支配して守ってやるよ」

 

ただそれだけの数秒の台詞を残して画面は暗くなってしまった。

しかし、島の住民達にはそれだけでよかったのだ。

第四真祖という圧倒的な力が自分たちを守ってくれる。その事実が人々から不安を消し去る。

 

こうして、魔族特区・絃神島は第4の夜の帝国としての1歩を踏み出したのだった。




最後まで読んでくださった方お疲れ様です!大変読みにくかったかと…
そしてありがとうございます^^*

なるべく更新していくつもりなのでちょくちょく足を運んでいただければ幸いです。

もし、お時間あれば感想ください!励みになります( *˙ω˙*)و グッ!


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第1話

予想外にview数が多かったので(22時30分現在)更新頑張ろうかなと

今回は状況説明、古城、浅葱、基樹の日常パート、etc..
なかなか退屈な話かも知れませんがよければお付き合い下さい!

では、どうぞ!


日中で1番気温が高い14時頃、昼時を過ぎ空き始めたファミリーレストランでプリントを広げ何やら駄弁っている学生達がいた。

 

「もう、疲れた…」

「しっかりやらないとまた補習に引っかかるわよ?あれだけ学校サボって許してもらえるんだからありがたく思いなさいよ」

 

倒れ込んだ古城を見ながら浅葱は美味しそうにパフェを食べている。

 

「そんなこと言ったって仕方ないだろ…オレが悪いわけじゃないし」

「文句言うならレポート見せないわよ?」

「悪い、古城。オレそろそろ用事があるから帰るわ」

「私もバイトあるからそろそろ帰らなきゃ」

 

浅葱と基樹が席を立つ。

 

「ってことで、オレらは帰るから会計よろしくなー」

「ちょっ、待てよ!」

 

古城の叫びも虚しく2人は去っていく。

 

「そりゃないだろ…」

 

浅葱と基樹の食べ散らかしたあととレシートを見ながら項垂れる古城。

気分を変えるため場所を移そうと三人分の会計を済ませ店の外にでると、ギターケースを背負った黒髪の中学生が立っていた。

 

「お疲れ様です、先輩」

「姫柊か」

「…はい」

 

最近古城が雪菜のことを呼ぶとき姫柊と呼ぶと雪菜は少し機嫌を悪くする。

といってもそんなことを鈍い古城が気づくわけはないのだが。

 

「どちらに行かれるんですか?」

「ちょっとぶらついて図書館にでも行こうかなって」

「図書館ですか、ご一緒します」

 

そうして2人は歩き始めた。2人が並んで歩くのももはや慣れたものだった。

 

「ふわぁぁ…」

「さすがに疲れてますね、少し休んだ方が…」

 

あくびをした古城を気遣う雪菜。

 

「まあな、それは姫柊も一緒だろ。オレだけ休んでるわけにもいかないさ」

 

絃神島が第四真祖の夜の帝国となって早1週間。

古城は想像を絶するスケジュールで様々な国や機関の代表と面会をし、雪菜は監視役としての仕事のみならず第四真祖を1番よく知っているという理由で人工島管理公社から古城の秘書という役目を任されている。そこには獅子王機関が噛んでいたりもするのだが。

 

「姫柊?」

「なんですか?」

「なんか、振りまわしちまってごめんな」

「大丈夫ですよ、先輩に振りまわされるのは慣れてますから」

 

 

「お兄さん?」「古城くん?」

 

古城と雪菜がいい雰囲気になっていたところにいきなり現れたのは古城の妹の暁 凪沙とその同級生の叶瀬 夏音だった。

 

「うぉっ!凪沙に叶瀬!?」

「凪沙さん!夏音ちゃん!こ、これは…」

 

いきなりの2人の登場に驚いた古城と雪菜。

 

「なんか、邪魔しちゃった…?」

「ごめんなさいでした」

 

空気を読んでどこかへ行く2人。

 

「最悪だ…」

「最悪…ですか…、そうですか…」

 

古城の一言に怒る雪菜。

 

「なんで姫柊が怒るんだよ」

「別に怒ってなんかいません!」

「怒ってるだろ…」

 

皇帝になっても古城の不甲斐なさは相変わらずなのであった。

 

 

図書館でレポートを終え、外に出た時にはもう陽が沈んでいた。

 

「疲れたな、早く帰って寝たい…」

「何言ってるんですか、先輩。これからラ・フォリアさんとの面会ですよ?」

「なんだって!?今日だけは1日休みのはずじゃ」古城が不服そうに言う。

「今朝ラ・フォリアさんから連絡があったんです」

「はぁ…ラ・フォリアなら別の日に変えてもらったり出来ないのか?今日は休みたいんだが」

「駄目ですよ、遊びに来ているんじゃないんです。北欧アルディギア王国との大事な話なんですから」

 

古城が駄々をこねている間に人工島管理公社の迎えの黒い車が古城の前に止まる。

 

「暁様、お待たせしました。早くお乗りください、ラ・フォリア様がお待ちです」

 

運転手が乗車を促してくる。

 

「いや、でも」

「先輩?」

 

雪菜の一言で仕方なく車に乗る古城。

 

「では、すぐ到着しますのでくつろいでおいてください」

 

運転手はそう言うと車を走らせた。

 

「それで、今日はなんの話なんだ?」

「私も詳しいことは聞いていませんが、多分いつもの件でしょう」

 

絃神島が夜の帝国となってからというもの世界中のあらゆる国が同盟を求めてくるようになった。

元々魔族特区ということに加え周りが海に囲まれた島である絃神島は世界的に見ても最先端の技術を持ち資源にも恵まれている。

さらに、皇帝はあの第四真祖である。数々の国が同盟を求めてくるのも当たり前なのだ。

 

「暁様、まもなく到着しますのでご準備を」

 

その話が終わらないうちに運転手から準備を促される。

 

 

絃神島でも最高級のホテルに着き、黒のスーツに着替えた古城は雪菜に連れられて大きな部屋の前まで連れられた。

 

「ラ・フォリアさんはこの中だそうです」

「じゃあ、入るか」

 

さっきまでの嫌そうな顔はせず、中に入ろうとする古城。なんやかんや言って根は真面目なのだ。

 

「悪い、遅くな──」

 

古城が言い終わらないうちに銀髪の美人が抱きついてきた。

 

「遅かったですわね、古城」

「ラ・フォリアさん、先輩から離れてください」

 

雪菜が冷ややかな目でラ・フォリアを引きはがす。

席に座った後、他愛もない話をした古城は本題に入る。

 

「それで、今日はなんの話なんだ?」

「私と古城の婚約の話なのですけど」

「婚約!?」

 

古城本人より驚いて声を上げたのは雪菜だった。

 

「冗談ですよ」

 

雪菜は堪らず赤くなってしまう。

 

「変な冗談はよせよ…」

「冗談ではないのですけれど」

 

彼女は悪戯な笑みを浮かべる。

「今日は我がアルディギア王国との同盟についての話をしにきたのです」

「待てよ、ラ・フォリア。アルディギアはそんなことしなくても充分な力を持ってるだろ?どうして同盟なんか」

「確かに、我がアルディギア王国は魔族に対しての対抗手段があります。しかし、近い将来この国が力をつけていったときに今の人類と魔族のパワーバランスが崩れてしまう時が来ます。その時のための同盟なのです」

「そうか…でもすぐに決めろって言われてもオレはまだそんな大きなことをすぐ決断できるようなやつじゃないぞ」

「分かっていますよ、古城。ですからすぐにとは言いません、決断ができれば連絡をくださいね?」

「あぁ、わかった」

 

古城は珍しく簡単に引き下がるラ・フォリアに肩透かしをくらう。

 

「では、古城も疲れていると思うので今回はこれで帰りますね」

「ラ・フォリアもあんまり無茶しないようにな」

「雪菜、古城をよろしくお願いしますね」

 

 

「なんか今回は大人しく帰っていったなラ・フォリアのやつ」

「そうですね、大人しくされると逆に何かありそうですけど…」

「姫柊、考えすぎだ」

 

いまいちしっくりこない古城と雪菜であった。

 

 

「でも、先輩が簡単に返事をしなくて安心しました」

「それは、当たり前だろ。オレにはまだ国同士のこととかよく分からないからな、今までの判断は人工島管理公社のお偉いさんに任せてきたし」

 

現在の絃神島の行政の大半は人工島管理公社が担っており、この国の代表は古城ということになっているが、まだ未熟なため完全にお飾りなのだ。

 

「オレも色々勉強しないとダメだな」

「そうですね、なるべくお手伝いします」

「悪いな、姫柊」

「私は先輩の監視役ですから、早く帰らないと凪沙ちゃんが待ってますよ?」

 

気を遣ってか普通の話に戻す雪菜。

 

「そうだな、1週間分寝溜めしないとな」

「明日は日曜日ですけど、お昼から予定が入ってますよ?」

「マジか…いつ休めばいいんだよ…」

 

途方に暮れる古城であった。

 

それから、久々に自宅に帰り凪沙と雪菜と夕飯を食べた古城は泥のように眠ったのだった――





ここまで読んでいただいた方お疲れ様です。そして、ありがとうございます^^*

よかったら感想、評価お願いします。


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第2話

ちょっとずつ雪菜以外のヒロインも出していこうと思うんですが…ストブラってヒロイン多い割に皆それぞれ魅力的だから順番迷う…。

とりあえず、どうぞ!


「起きてください、先輩」

「ん…眩しい…」

 

雪菜が部屋のカーテンを開けたせいで暗かった部屋が一気に明るくなる。

 

「姫柊、今何時だ?」

「9時半です」

「なら、もう少し寝させてくれよ…予定昼からだろ?」

「体調管理も大事ですよ、朝日を浴びてちゃんと朝食も食べてください」

「あのなぁ…吸血鬼に朝日って…」

 

すっかり起きてしまった古城は二度寝を諦めて洗面台に向かう。

 

「凪沙ちゃんが心配してましたよ、先輩のこと」

「凪沙のやつも心配症だな、まあ気をつけるよ色々と」

 

歯を磨いて顔を洗い終わった古城がリビングに戻ると丁度雪菜が朝食の準備を終えたところだった。

 

「では、私はお昼まで自分の部屋にいるので、なにかあれば呼んでください」

「悪いな、助かる」

 

疲れている古城を気遣ったのだろう。雪菜は古城が朝食を食べ始めるのを横目に見ると自分の部屋に帰って行った。

朝食を食べ食器を洗い、久々に一人になった古城だが特にすることもなく手持ち無沙汰になってしまった。

 

「テレビも今はあまり見たくないし、携帯はこないだ潰れたばっかりだしな…」

 

絃神島に第四真祖が現れてからというものテレビでは第四真祖の特番が昼夜を問わず放送されている。第四真祖の眷獣の能力の予想や他の真祖とどちらが強いかというようなどれも似通ったものばかりだ。

 

「昼になれば姫柊が起こしに来るだろうしもう少し寝るか」

 

古城がもう一眠りしようと自室のベットに横たわった時だった。

玄関のドアが開く音が聞こえてきた。

 

「姫柊か?どうしたんだ?」

 

何かあったのかと古城が聞くと雪菜ではない声で返事が帰ってきた。

 

「暁 古城!どうして何回電話しても出ないのよ!心配したでしょ!?」

「き、煌坂!?なんでお前がここに?ってか心配してくれてたのか」

「べ、別にあなたの事なんて心配してないわよ。あなたが電話に出ないから雪菜になにかあったんじゃないかと思っ──」

「で、どうして煌坂がここに?」

 

紗矢華の必死の弁明を遮って本題に戻る古城。

 

「暁 古城、あなたを監視しに来たのよ」

「え…?監視役ならもう姫柊がいるだろ、なんでお前にも監視されなきゃならないんだよ…」

「それはあなたが絃神島を夜の帝国(ドミニオン)にするなんて言い出すからでしょ!?」

「先輩?そんなに騒いでどうしたんですか?」

 

隣から騒ぎを聞きつけた雪菜が部屋に入ってくる。

 

「紗矢華さん!?どうしてここに?」

「雪菜!雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜!」

 

古城のことはお構い無しに溺愛する後輩に抱きつく紗矢華。

 

「紗矢華さん…、苦しいので離してもらえませんか?」

 

雪菜に言われ渋々雪菜を解放する紗矢華。

 

「で、煌坂はなんで監視役になるんだ?」

「ほんとに、鈍いわねこの変態真祖は!」

 

獅子王機関は古城の監視役と第四真祖の秘書を務める雪菜の負担を減らすため新たに古城をよく知る人物を監視役に任命したのだ。もちろんこれも建前なのだが。

 

「そういうことですか。すみません、紗矢華さんに迷惑をかけて…」

 

紗矢華から説明を受けた雪菜は納得する。

 

「いいのよ、雪菜。雪菜と一緒にいられるんだから」

 

雪菜と古城と一緒ということで二つ返事で引き受けたのは彼女だけの秘密だ。

 

「とりあえず、疲れているだろうし雪菜は今日のところは休んでて?暁 古城の監視役は私がするから」

「紗矢華さんがそこまで言うなら、お願いします。先輩、私がいないあいだに紗矢華さんにいやらしいことしちゃダメですからね?」

 

その後昼食を3人で食べ、雪菜は古城と紗矢華を送り出した。

 

「何もないといいんですけど…」

 

2人が心配で気が気でない雪菜であった──




とりあえず煌坂を出しました。

もう少しすればバトル回も入れると思うのでもうしばらく日常回にお付き合い下さい( ̄▽ ̄;)


次回も煌坂回になる予定…。


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第3話 煌坂 紗矢華Ⅰ

半日でお気に入りが11件も…ありがたいことです。
今回は都合上R18タグを付けさせていただきましたが、そんなに過激なシーンはないのでご安心?を
三連休最終日ですが、お時間あればお付き合い下さい^^*

それでは、どうぞ!


「熱い…」

 

2月も終わろうとしている、普通なら真冬と言っていい時期だがここは常夏の島だ。平均気温は20度を下回ることはない。

第四真祖になったこの数年で吸血鬼の生活には慣れてきたものの、昼間の日光だけはまだ古城を悩ませている。

 

「………」

「で、今日はこれから何の予定だった?」

「………」

「おい、煌坂」

「………」

「煌坂!」

 

反応のない紗矢華の肩をいきなり持ち身体を大きく揺する古城。

 

「はいっ!ってえぇぇぇっ!?」

 

ぼうっとしていた所をいきなり掴まれて真っ赤になる紗矢華。

 

「心ここにあらずって感じだったけど、大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ!そんなことより早く離しなさいよ、この変態真祖!」

 

興奮した紗矢華の叫びが街に谺響する。

 

「変態?」

「真祖?」

 

周りの人が口々に紗矢華の台詞を繰り返す。

 

「やばい…逃げるぞ」

 

紗矢華の手を握り走り出す古城。

 

「ちょっと!なに……」

 

「これだけ離れれば大丈夫か、それにしても理不尽だろ。オレはお前を心配してだな」

「……」

「煌坂?」

 

紗矢華は古城が握っている自分の手を見ているだけで返事をしない。

 

「い、いつまで握ってるつもりなのよ!暁 古城!死にたいの?殺されたいの!?」

「ああ、悪かったよ」

 

また紗矢華が物騒なことを言い出しても困るので素直に離す古城。

 

「で、予定は?」

「二時間後に3つの国との面会があるわ、どこも今は小さな国だけど実力はある国よ」

「3つか、まだマシな方だな。そのあとは?」

「そのあとは、なにもないわよ?」

「え、なんかいつもみたいにわけが分からない書類の山と向き合ったりしなくていいのか?」

「それは、もう私が終わらせておいてあげたわよ」

「助かった…」

 

古城は心の底から安堵し感謝を述べる。

 

「別にあなたのためじゃないんだけど!?ゆ、雪菜が少しでも休めればと思って!」

「そっか、姫柊のためか」

「そうよ!」

「お前、やっぱりいいやつだな。でも無理しすぎるなよ?お前に倒れられたら困るしな」

「暁 古城…」

 

古城の何気ない一言で紗矢華の顔は真っ赤になった。

 

「じゃあ、行くか」

 

そんなことは露知らず公務に向かう古城だった──

 

 

「お疲れ様、暁 古城」

「あぁ、ありがとう煌坂。といってもまた座ってただけなんだけどな」

「雪菜も凪沙ちゃんも待ってるだろうし帰る?」

 

弱気になる古城を察してか話題を変える紗矢華。

 

「そうだな。連絡…っていっても携帯まだ買ってなかったな、まあいいか」

「連絡する暇があるなら、すぐに帰ってあげた方がいいんじゃない?」

「それもそうか。行こう煌坂」

 

それから特に会話もなく2人は微妙な距離感で街に紛れていった。

 

 

「ただいまー、凪沙ー?」

「お、お邪魔します」

「あれ、留守か?」

「雪菜もいないみたい」

 

丁寧に靴を揃えていた紗矢華が言う。

 

「まあ、夕飯の買い出しにでも行ったんだろ。オレは風呂に入るけど煌坂はどうする?」

「どうする?い、一緒に入れってこと!?」

「あのなぁ、そんな訳あるか!普通に煌坂はなにするのかって聞いただけだよ」

 

呆れた様子な古城。

 

「私は荷物の整理をするわ、今日からここに住むことになるし。」

「そっか。何か分からないことがあったら呼んでくれ」

「わかったわ」

 

「はぁ…」

 

古城は風呂で束の間の静かな時間を過ごし、ここ1週間を思い出していた。

 

「オレも色々勉強しないといけないんだろうけど、なにをすればいいんだ?とりあえず那月ちゃんかラ・フォリアにでも聞いてみるか」

 

身体を洗いのぼせそうになったところで風呂場を出た古城は上の着替えを忘れてきたことに気づいた。

 

「煌坂ー?」

「なにか呼んだ?」

 

意外にも近くにいたらしい紗矢華の足音がする。

 

「あのさ、悪いんだ が…」

「ふぇぇぇぇっ!?」

 

古城が言い終わらないうちに紗矢華が風呂場の扉を開けた。

 

「ちょっ!煌坂!普通いきなり風呂場のドア開けるか?」

 

そこには腰にタオルを巻いただけの古城が立っていた。

 

「あ、その、えっと、、、い、いつまでそのままでいるつもりなの!この第四性犯罪者!」

 

紗矢華が暴れようとする。

 

「待て煌坂!こんな狭いところで暴れたら!」

 

古城の不安通りに濡れた床に足を滑らせ前に転ける古城。

 

「うわぁっ!」

「きゃっ!」

 

 

「大丈夫か?煌坂…」

 

目を開けると倒れた紗矢華の上に覆い被さるような体勢になっている古城。

 

「え…あ…」

「わ、悪い!すぐどくから!」

「あ、暁 古城?」

 

慌てて立とうとする古城の首に手を回し立たせず自分に引き寄せる紗矢華。

 

「き、煌坂?」

「その…もしよかったらなんだけど…私の血を吸わせてあげてもいいわよ…」

 

そう言われて初めて古城は自分が鼻から鼻血を出していたことに気づいた。

古城がどうすればいいか迷っている間に紗矢華の手の力はどんどん強くなり2人の距離は縮まっていく。

 

「煌坂」

 

我慢の限界がきた古城が確認のために紗矢華の名前を呼ぶ。

紗矢華は肯定の意を示すかのように何も言わずに首元を古城の方に向けた──

 

 

 

「先輩?」

「古城くん?」

 

聞き慣れた声に名前を呼ばれ頭をあげる古城。

 

「ひ、姫柊に凪沙!?」

「雪菜!?」

「お2人ともなに、してるんですか?」

 

冷ややかな目で雪菜が二人を見つめる。

 

「違うんだ姫柊!これは事故で」

「そ、そうよ雪菜。暁 古城が転んだから」

「凪沙ちゃん、晩御飯の支度をお願いします。先輩と紗矢華さんはこちらに」

 

必死に言い訳をする2人には目もくれず雪菜は2人を古城の部屋に連れていく。

 

「とりあえず、2人ともそこに正座してください」

「「はい」」

 

こうなったら雪菜が止まらないことを知っている2人は諦めて正座するのであった──

 

その後暁家の食卓は凪沙も一言も話せないほど険悪なムードだった。

そんなときインターホンが鳴った。

 

 

「なにかな、私行ってくるね」

 

雰囲気に耐えきれなくなった凪沙が逃げるように玄関に出ていく。

 

「凪沙、久しぶりだな。元気にしてたか?」

「牙城くんに深森ちゃん!?」

「古城のやつはいるか?」

 

そう言うと牙城は部屋に入っていった──




次回は浅葱回になると思われます。
次次回にはバトルを挟もうと計画中…。

もしよければ、評価感想お願いします!
慣れないもので皆さんにどれくらい受け入れられてるのか分からず不安だったりするので( ̄▽ ̄;)


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第4話 藍羽 浅葱Ⅰ

1日足らずでUA1000越え…なんとお礼を言えばいいのやら…。
これもストブラという作品の人気のおかげでしょう。
これからもなるべく原作に沿って書いていきますので応援よろしくお願いいたします!

今回から古城の周りの女の子事情が徐々に複雑になっていくと思います。

それでは、どうぞ!


「よぉ、古城」

 

荒々しく部屋に入ってきたのは牙城だ。

 

「なんで、お前がいるんだ。クソ親父」

「古城くーん?あれ?あなた達こないだの可愛い娘達じゃなーい」

 

古城の前に座る雪菜と紗矢華を見て深森が興奮する。

 

「ったくあんたは…」

「で、どっちが本命なの?もうヤった?もしかして家族が増えちゃう?私もうすぐおばあちゃんになっちゃうのぉ?」

「増えねーし、ならねーよ!毎回そのノリするなアンタは!」

 

突然の両親の訪問で体力を奪われる古城。

 

「お2人は…いえ、先輩のご両親はどうしてここに?」

 

放っておいては埒が明かないと雪菜が話を切り出す。

 

「もう、前も言ったけど私のことはお義母さんと呼んでくれていいのよ?」

「それなんだけどな、古城にお見合いの話が来てるんでな」

 

そう言って牙城は分厚い紙の束を古城に投げつける。

 

「「「お見合い!?」」」

 

古城本人だけでなく雪菜と紗矢華までもが大きな声を出す。

 

「なんでいきなりそんな話になってるんだよ。うちはそんな大層な家系でもないだろ?」

「バカか、お前は。国を持ってる第四真祖だぞ?結婚したいやつはその辺にたくさんいる。とりあえずその中から自分の好きそうなやつを探してそいつとお見合いしてこい」

 

古城が第四真祖だということを世間に公表し絃神島が夜の帝国となってからというもの、この手の話が連日連夜牙城と深森のところに来ているのだ。

 

「そんないきなり言われても決めれるわけないだろ!?」

「古城くんはそう言うと思ったからちゃんといい人とお見合い組んでるわよ。最後のページの子なんだけど」

「最後…って、浅葱じゃねーか!」

 

最後のページを見て驚いた古城がまたもや両親にツッコミを入れる。

 

「藍羽先輩!?」

「暁 古城の浮気相手!?」

 

今まで黙っていた雪菜と紗矢華がまたしても大声をあげる。

 

「そんな怖い顔してどうした?そこの中学生ちゃんと高校生ちゃんは。もしかしてジェラシってるのか?」

「「ジェラシってません!!」」

 

声を合わせて反論する2人。

 

「ムキになるところが怪しいねー。いいねー、恋愛。青春だよねー。やっべぇ、甘酸っぺぇー!うわぁぁぁ」

 

スイッチの入った牙城は叫びながらよく分からないことを言っている。

「牙城くん、話が済んだならうるさいし恥ずかしいから帰ってよー」

 

見かねた凪沙が怒り出し牙城を玄関の方へと押していく。

 

「あ、そうだ。私達当日は用事があって行けないから誰か代役を立てて言ってね?じゃあ、私達帰るわねー」

「ちょっ!待てよ!!」

 

古城の呼びかけも虚しく騒がしい両親は帰って行った。

 

「最悪だ…なんで浅葱と…あいつ絶対嫌がってるだろ…」

「暁 古城、やっぱりあなたはダメ真祖ね」

「そうですね、先輩はダメな人です」

 

女心が分からないところを責められているとは知らずにただ項垂れる古城であった──

 

 

━━浅葱とのお見合い当日━━

「なんか公務とかでバタバタしてて結局浅葱のやつに連絡出来ずじまいだったな、会ったときにどんな顔されるんだか…」

「先輩?早くしないと先方を待たせてしまいますよ?」

「ああ、悪いって、なんでお前らはそんな綺麗な格好してるんだ?」

「なんでって、アナタのお見合いに代理人としてついて行くからに決まってるでしょう?」

 

当然のように紗矢華が答える。

 

「代理人って姫柊と煌坂なのか!?」

「当たり前です。先輩の監視役ですから」

「ほら、モタモタしないでさっさと行きなさいよ」

「マジかよ…」

 

反論することよりも前途多難な自分のお見合いをどう乗り切るか必死に考える古城だった。

そうやって悩んでいる間に時間は過ぎてしまい気づけば約束の時間になっていた。

 

「先輩?そろそろ席につかないと」

「ああ、分かった。行くから先に行っておいてくれ」

「すぐに来てくださいね?」

 

少し時間を開けて、覚悟を決めた古城は普段絶対に使わないほど豪勢なレストランに入っていく。

 

「こ、こんばんは。あ、暁 古城です。」

「そんなに堅くならなくてもいいんだよ、古城くん」

「お久しぶりです古城さん」

 

ガチガチに緊張した古城を迎えたのは浅葱の両親の菫と仙斎だ。

 

「あれ、浅葱…浅葱さんはいらっしゃらないんですか?」

「呼び捨てで構わないよ。多分外にいるだろうから呼んできてくれるかい?」

 

緊張する古城とは裏腹に仙斎は落ち着いている。

 

「わかりました、じゃあオレ呼んできます」

「ありがとう。古城くん、以前私が言ったことを覚えているかい?」

「前にですか。なんのことですか?」

「いや、覚えていないならいいんだよ」

 

外に出た古城は1通り浅葱を探したが近くにはおらず、ふと案内板を見ると屋上にテラスのようなものがあるようだった。

 

「浅葱?」

「古城?よくここにいるって分かったわね」

「まあ、なんとなくな」

 

絃神島の景色を眺める浅葱には薄い色の着物がよく似合っていた。

 

「早く行かないと、親父さん達が待ってるぞ?」

「ねぇ、古城」

 

古城の言葉は浅葱の耳には届いていないようだった。

 

「どうかしたか?」

「ごめんね、私のせいで」

 

絃神島の遠くの水平線を見てそう言う浅葱に、古城は浅葱の言いたいことがなんとなく分かった気がした。

 

「いいんだよ、別に。色んな人のおかげで不自由はしてないしな」

 

浅葱は言わないだけで、自分のせいで古城が第四真祖であることを世の中にバラすことになったことを今でも後悔しているのだ。

 

「私、古城のために戦おうって思ったのに結局古城は普通の生活を送れなくなっちゃって…」

 

泣きそうになりながら浅葱が言う。

 

「だからいいって、この体質になったときから普通になんて無理な話だったんだよ。それにあの時はああするしかなかった」

「でも…」

「オレは浅葱の気持ちだけで十分嬉しいし、泣いてるお前より笑ってるお前の方がいいと思うぞ?」

 

無意識に浅葱の顔を覗き込む古城。

 

 

暫く沈黙が続いたあと──

浅葱はいきなり古城の唇に自分の唇を重ねた。

それはキスと言うにはあまりにも不格好で唇を押し付けただけだったが、浅葱の精一杯のアプローチだった。

 

「浅葱…」

 

古城は驚きに目を見開く。

 

「ねぇ、古城。私ね、古城と初めて会ったときから古城のことが好きなの」

「病院で泣いてた知らない私に声をかけてくれて、不器用な私に友達が出来るようになったのも古城のおかげ。私、色々助けてもらってる古城の力になりたいの」

「浅葱…」

 

いきなりの浅葱の告白にどうしていいのかわからない古城だが、仙斎と初めて会ったときの会話を思い出していた。

 

──浅葱が望んだとき、彼女の傍にいてやって欲しい──

 

古城が何を言おうか迷っていると浅葱の方が口を開いた。

「はぁ…いいわ、とりあえずレストランに戻りましょ。(古城のヘタレ…)」

「え、なんか言ったか?」

 

最後になにか重要なことを言われた気がして聞き直す古城。

 

「別に、ほら行くわよ」

 

そさくさと先を歩いていく浅葱。

 

「なあ、浅葱」

 

このままでは彼女を傷つけることになると呼び止める古城。

 

「オレ、まだ自分のこともまともに出来ないし浅葱の気持ちに答えれるだけの権利がないと思うんだ。近い将来自分に自信が出来たらちゃんと返事をする。だから、少しの間待っててくれないか?」

「分かった、今はそれでよしとしといてあげるわ」

 

浅葱は満足そうに笑うとレストランに入っていった。

その後6人で談笑しながら食事をした帰り際、古城は仙斎にだけ聞こえるように言葉をかけた。

 

「仙斎さん、まだこんな口を聞くのは早いかもしれないですけど浅葱のことは任せてください」

「そうか、期待しておくとするよ古城くん」

 

仙斎は満足そうに笑うと菫の運転する車に乗り込んでいった。

後部座席の窓が開き浅葱が顔を出した。

 

「古城、あんたそろそろ学校来ないと凪沙ちゃんや姫柊さんと同じ学年になるわよ?」

「マジか…それだけは勘弁だな、明日は行くよ」

「じゃあ、また明日ね」

「ああ」

 

そう言って各々帰路についた。

 

「先輩、藍羽先輩となにかあったんですか?」

「そうよ、なかなか帰ってこなかったから心配したのよ?」

 

空気を読んで黙っていた2人が口を開く。

 

「まあ、ちょっとな」

「ちょっとってなんなのよ、言いなさいよ暁 古城!」

 

はぐらかす古城に食ってかかる紗矢華。

 

「紗矢華さん、こんな所で暴れないでください」

 

 

 

「第四真祖、暁 古城か」

 

そんないつも通りの3人を遠くのビルから眺めるものが一人いた──




今回ちょっと長くなりました…。
予告通り?少しずつ古城のハーレムが…なんて笑

次回はバトル要素が入ってくるかと思います!期待して待っててください^^*

感想と評価できたらお願いします( ̄▽ ̄;)


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滅びの王朝の逆徒篇
第5話


今回初めてのバトルシーンということで随分長くなってしまいました…。
慣れないもので粗末な文章だとは思いますがお付き合い下さい^^*

それではどうぞ!


絃神島も三月に入り真夏に向け徐々に暑さを増し、今年も冷房が活躍するシーズンが始まろうとしていた。

それでも暁家の朝はいつもと何も変わらないのであった。

 

「古城くんー?起きないと遅刻するよー?浅葱ちゃんに学校行くって約束したんでしょー?」

「あぁ、そう…だったな」

 

昨日の夜のことを思い出し少し照れくさくなりながら寝ぼけ眼で洗面台へと向かう。

我ながら凄いことを言ったものだと自分でも思う。

だがこの際改めて夜の帝国の皇帝として生きる決意が固まったのはいいことなのだと言い聞かせ、今はあまり深くは考えないようにした。

そうこうしている間に朝食の支度が出来たのか凪沙の声が聞こえる。

久々の学校に向け準備を終わらせ古城はリビングに向かう。

 

「おはようございます、先輩」

「お、おはよう…暁 古城」

「あぁ、姫柊も煌坂もおはよう」

 

紗矢華が監視役として加わりもう何日か経ち、こうして朝から顔を合わせるのも古城にとっては当たり前になりつつあるのだが、紗矢華にとってはまだ慣れないものらしい。

初日の朝食の時挨拶もまともに出来なかったことを考えればまだ成長した方なのだろうか。

 

「ねぇねぇ、古城くん。煌坂さん今日からうちの高等部に来るんだって。しかも、古城くんと同じクラスなんだってー!」

「なんだって!?煌坂がうちの学校に?しかも同じクラス?」

「そうそう、高等部って8クラスもあるのに偶然だよねー。神様に煌坂さんの古城くんへの想いが届いたのかなー?」

「凪沙ちゃん!?暁 古城と同じクラスになりたいとか一秒たりとも思ったことないんだけど!?」

「凪沙ちゃんも紗矢華さんも落ち着いてください」

 

狼狽えながら雪菜が2人を宥めに入る。

初対面の時こそ紗矢華のことを警戒していた凪沙だったが今ではすっかり仲良くなっている。

紗矢華も同性には元から年下想いで優しい一面があるため満更でもないようだ。

一通り騒ぎ終わった凪沙がなんとなくテレビをつけると朝のニュース番組が流れ始める。どうやら近頃吸血鬼の暴走事件が多発しているらしい。

絃神島が夜の帝国として独立したとは言ってもまだまだ大半の機能は日本に頼りきったままなので、以前と何ら変わりない生活を送っている。テレビにしても日本の主要なチャンネルが6つ絃神島のローカル局が2つ国際的なニュースを放送し続ける衛星放送チャンネルが1つと特に変わったことは無い。

 

「もうこんな時間じゃない!」

 

テレビを眺めながら食器を洗っていた雪菜と凪沙の横で紗矢華が慌てた様子で残りの朝食を掻き込む。

 

「どうしたんだ煌坂。そんなに焦らなくてもまだ20分くらいは余裕あるぞ?」

「転校初日で色々手続きとかがあるから早く行かなきゃ行けないのよ!」

 

そう言って紗矢華は自分の荷物を抱えて外に飛び出していった。

 

「まあ、転校する時期が時期だから仕方ないのか?」

 

古城たちの通う彩海学園は私立とはいえ、日本の普通の学校とカリキュラムは変わらないため本来春休みであり進級を控える時期なのだが、真祖大戦の影響で若干の遅れが生じており春休みを迎えるのが1週間遅くなってしまったのだ。

 

「先輩?少し早いですけど私たちも行きますか?久々ですしクラスの皆さんも色々話したいでしょうし」

「そうだな、もう出るか」

「雪菜ちゃんも古城くんも、もう行くなら先に行っておいてー」

 

まだ片付けのある凪沙を置いて古城と雪菜の2人は久しぶりの学校に向かう。

 

「行ったら絶対めんどくさいだろうな…」

「まあ、仕方ないですよ。クラスメイトに真祖がいて今は皇帝なんですから」

 

古城は自分が第四真祖だと公表してからまだ1度も学校に行っていなかった。教室に入った瞬間、もっと言えば知り合いの誰かに会った瞬間、色々と聞かれるのは目に見えていた。

昨日のことといい色々と悩みの絶えない古城だった。

知り合いに会うのをなるべく避けながら、学校へ向かい雪菜と別れた古城は恐る恐る教室の扉を開けた。

しかし、古城の思うような反応は誰1人しなかった。

 

「よう、古城。元気か?」

 

たまたま扉の前にいた基樹が声をかけてくる。

 

「あぁ、元気だ」

「おはよう、古城」

「おはよう、浅葱」

 

浅葱が昨日のことなどなかったかのように自然に声をかけてきた。

 

「なぁ、どうなってんだ?これ」

 

古城は2人に聞こえるか聞こえないかくらいの声で聞いた。

 

「感謝しなさいよ?古城」

「え?」

 

扉の前で古城達3人が話していると後ろから担任の南宮 那月が現れた。

 

「こんなところで立ち話をするな。通行の邪魔だ。」

「那月ちゃん!」

「このクソ暑苦しいときに教師をちゃん付けで呼ぶな!早く座れ」

 

那月の扇子が古城の頭に炸裂する。

後に聞いた話ではどうやら浅葱の友達の築島 倫が気を利かせて古城とは普通に接してやろうという話を予めクラスに通してあったらしい。

しかし、それも長くは続かなかった。

 

「こんな時期だが、転校生を紹介する。入ってこい」

 

那月の急な言葉にクラス中が扉を開けて入ってきた長めのポニーテールの高身長美女に注目する。

 

「今日からこの学校に転校する煌坂 紗矢華です。よろしくお願いします」

 

そう言って恭しく頭を下げた。

クラス中が新しく仲間になる美人に注目した。

問題は那月の次の最後の言葉だった。

 

「こいつは男性恐怖症でな、あまり男子は近づくなよ?暁、お前の知り合いだ。ちゃんと面倒は見るんだな」

 

そう言って那月は教室の外に出ていく。

しばしの沈黙の後──

 

「なあ、古城。お前中等部にも可愛い知り合いがいたよな?」

「なんで、お前ばっかりいい思いを?」

「第四真祖だからって調子に乗るなよ!クソ古城!」

 

クラス中の男子から責められ、築島 倫の粋な計らいは一瞬にして崩れ去ってしまったのだった──

 

放課後、男子の嫉妬を一日中聞かされた古城は仕方なく紗矢華に学校を案内してまわっていた。

 

「煌坂、大丈夫だったか?なんか男子から凄い見られてたけど」

「私の心配より自分の心配をしたら?まあ、気遣ってくれるのはありがたいんだけど…」

「そ、そうか。大丈夫ならよかったよ」

 

普段とは違う制服を着ているせいか紗矢華を妙に意識してしまいそれ以上話を進められない古城。

なにか話すべきか古城が迷っていると後ろから声をかけられた。

 

「暁、一通りそのツンデレ転校生の案内は終わったようだな」

「だ、誰がツンデレですか!」

「なら、早く教室にこい。今までサボった分の補習がたっぷり待っているぞ」

 

叫ぶ紗矢華を無視し、そう告げると那月は教室へと向かっていった。

 

「悪い、煌坂。そういうことだから姫柊と先に帰っておいてくれ。凪沙に遅くなるかもって伝えておいてくれると助かる」

「はいはい、わかったから早く補習に行ってきなさい?」

「あぁ、じゃあな煌坂」

 

そう言うと古城は教室へ走って行った。

古城が見えなくなるまで待ち紗矢華は後ろにある柱の方に向かって声をかける。

 

「こそこそと盗み聞き?あまりいい趣味とは言えないわね」

「そう、怒らないでくれよ。気付いてたのか」

 

参ったとばかりに両手を上げて柱の影からでてくる基樹。

 

「で、あなたが私に何の用?」

「煌坂であってたよな、獅子王機関の舞威媛。お前に少し頼みたいことがある」

「私に頼みたいこと?」

「あぁ、近頃吸血鬼の暴走事件が起きてるのは知ってるな?」

「それは、知ってるけど」

 

紗矢華は朝のニュースのことを思い出した。

 

「ここからは移動しながら話す」

 

そう言うと基樹は紗矢華に外に停まっていた黒塗りの車に乗るように促してくる。渋々それに応じる紗矢華。

二人が乗り込むとすぐに車は走り出した。

 

「それで、その吸血鬼の暴走事件がどうかしたの?」

「これまでは、特区警備隊でもなんとか対処できる程度だったんだが、件数を重ねる毎に厳しくなってきてる。そして、今特区警備隊が交戦してる吸血鬼は旧き世代と同じかそれ以上の実力を持ってる吸血鬼で、残念ながらあと数分保てばいい方だ」

「話が見えてきたわ…被害が出て暁 古城が責められる前に私にその吸血鬼を私になんとかしろって言いたいわけね?」

「そういうことだ、話が早くて助かる」

 

現状古城は皇帝としては未熟すぎる。そんなときに国内でなにか大きな被害が出る事件が起きれば、国民は第四真祖という絶対的な存在に不信感を持つ。そうなってしまえば出来てすぐのこの国は簡単に壊れてしまうのだ。

その危険を分かっている紗矢華には基樹の頼みを断れるはずもなかった。

 

「あそこだ」

 

基樹が外に視線を向ける。

そこには大きな炎の鷹の眷獣が空を翔ぶ姿が見えた。

 

「あれね…」

「悪いが送れるのはここまでだ、なるべく穏便に頼むぞ」

「注文が多すぎるわよ!」

 

捨て台詞を吐いた紗矢華は後部座席の扉を開け全速力で眷獣が翔んでいる場所へと向かった。

基樹も車を降り、闘いが見渡せるよう近くのビルの屋上へと向かって行った。

 

 

紗矢華が到着したときには既に辺りは酷い有り様だった。

特区警備隊のほとんどの者が倒れ周りは一面焼け野原だった。

今目の前では特区警備隊の吸血鬼2人が応戦しているがそれももはや限界に近そうだ。

紗矢華は背中のケースから煌華鱗を取り出すと厳かに祝詞を唱え始めた。

 

「――獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る。極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり――!」

 

その瞬間、呪力を封印した鳴り鏑矢が射出され、人間の肺活量では詠唱不可能な大規模呪術が展開され空から無数の光の矢が眷獣の宿主の吸血鬼へと飛来する。

吸血鬼の動きが鈍り眷獣が一時的に消滅したことを確認した紗矢華は特区警備隊の吸血鬼2人の所へと走る。

 

「ここは私がなんとかするから、あなたたちは急いで撤退を」

 

紗矢華に言われた吸血鬼たちは負傷者を庇いながら残された動ける隊員達と共にすぐに撤退を始める。

 

「ギィィィィィィィィィィィッ!!」

 

紗矢華の攻撃から立ち直った吸血鬼がもう1度眷獣を呼び出した。

 

「嘘でしょ!?こんなに早く?」

 

撤退する特区警備隊に向かって眷獣が吐き出した炎の塊を紗矢華は煌華鱗の擬似空間断裂による盾で防ぐ。

 

「こんなことなら鏑矢をもっと持って来ておくべきだったかしら」

 

予想外の相手の強さを前にして太腿に刺してある5本しかない鏑矢の1本を手に取りながら険しい顔を浮かべる紗矢華。

 

「まずいな…」

 

遠くのビルから状況を見守る基樹はおもむろに携帯を取り出した──

 

 

「今日はあまり文句を言わないんだな、いつもならグチグチと文句を並べるくせに」

「まあ、オレも皇帝ってやつの自覚が最近出来てきたところだしな」

「ほう、随分と偉くなったものだ。なにかあったか」

「そう思うならちょっとは減らしてくれてもいいだろ…さすがにこのプリントの量は多すぎるって…」

「つべこべ言わずにさっさと手を動かせ、倍にされたいのか?」

 

別れた紗矢華が島の端で死闘を繰り広げているとは知らずもくもくとプリントの山を片付ける古城。

そのとき那月の携帯が鳴った。

 

「アスタルテ、こいつが不正をしないか見張っておけ」

命令受諾(アクセプト)

 

アスタルテに補習監督を任せた那月はどこかへ行ってしまった。

 

「那月ちゃんのやつどうしたんだ?」

「警告、暁 古城に不正の疑いあり」

「いや、待てよ!別に不正じゃないだろ…」

 

こうして古城の補習は続くのであった──

 

 

 

「少し、まずいわね…」

 

5本のうち3本の鏑矢を射っていながら未だに吸血鬼本体に近づけないままでいる紗矢華が呟く。

煌華鱗の擬似空間断裂による防御も残り数回しか使えず、予備の鏑矢も2本になってしまったが紗矢華は徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。眷獣を先に無力化しその後吸血鬼を狙うことに決めたのだ。

吸血鬼はなにかしらの要因で暴走しているというだけあって、単純な攻撃しかしてこない。

近づけば脚の鉤爪での攻撃、距離を取れば炎の塊を飛ばしてくる、そして離れすぎれば炎の翼を飛ばしてくる。当たってしまえばそれまでだが、パターンさえ分かれば近づくことは簡単だ。

紗矢華は1度距離を取って建物に身を隠し、あの眷獣を無力化するために至近距離から鏑矢を射ち込むために太腿から残り2本のうちの1本の鏑矢を手に取り心を決めて眷獣の方へ全速力で走っていった。

やはり、眷獣は翼を飛ばし、炎を吐き、そして鉤爪での攻撃へと攻撃方法を変えていく。

危なげなく全ての攻撃を避け、眷獣の背後を取った紗矢華が煌華鱗の弦を引き絞ろうとしたときだ。

眷獣の魔力濃度が一気に上がった。

 

「嘘、なんでこんなの真祖レベルじゃない!」

 

力を増した眷獣が周囲に炎を巻き散らそうと身を縮めた。

 

「ダメ、間に合わない!」

 

煌華鱗の擬似空間断裂での防御を試みた紗矢華だったがその防御が間に合わないことを悟り、自分の死を受け入れ、目を閉じた時だった。

 

「雪霞狼──!!」

 

鈴の音のような声と共に神格振動波駆動術式が魔力を無効化する独特の音が聞こえてきた。

 

「ギリギリ間に合ったか、さすが那月ちゃんナイスタイミングだ」

 

携帯を握りしめたまま安堵する基樹。

 

「大丈夫ですか?紗矢華さん」

 

目を開けた紗矢華の前には彼女が愛して止まない雪菜が立っていた。

 

「雪菜!ありがとう、助かったわ。でも、どうしてここに?」

「南宮先生の空間転移のおかげです。紗矢華さん!話は後で、来ます!」

 

眷獣は怒ったかのように二人に向かっていくつもの炎の塊を吐き出してくる。

 

「あの魔力濃度…一体どうなってるんですか!?」

「分からないの、さっきいきなり力を増して…」

「今は考えても無駄そうですね、とりあえずあの吸血鬼を無力化することを考えましょう」

「そうね」

「紗矢華さん、鏑矢はあと何本残っていますか?」

「さっき射ち損じたからもう1本しかないわ」

「1本ですか…私が雪霞狼で眷獣の攻撃を防ぎますから紗矢華さんは近距離から鏑矢を射ち込んでください」

「多分それしかないわね…分かったわ雪菜気をつけてね!」

「紗矢華さんも!」

 

そう言うと雪菜は眷獣の方へと走っていく剣巫には霊視によって一瞬先の未来が見える。ただ飛んでくる攻撃を撃ち落としながら近づくことくらい簡単だった。眷獣に迫った雪菜は炎を巻き散らそうとする眷獣に向かって祝詞を唱え始めた。

 

「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

 

神格振動波術式がまたしても眷獣の攻撃を打ち消す。

 

「紗矢華さん!」

「――獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る。極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり――!」

「ギィィァァァァッ!!」

 

至近距離から鏑矢を射たれた眷獣は身体を維持出来ずに消滅する。そして、眷獣のダメージが宿主の吸血鬼に戻り吸血鬼に一瞬の隙ができた。

 

「響よ!」

 

その一瞬の隙を見逃さなかった雪菜の掌打が吸血鬼の鳩尾に炸裂する。獣人も簡単に気絶させる雪菜の掌打を受け暴走した吸血鬼はその場に崩れ落ちた。

 

「2人とも、おつかれさん」

 

後ろからヘッドフォンを首にかけた少年が歩いてくる。

 

「矢瀬先輩、これは?」

「まあ、そこの舞威媛がちょっと調べたら分かるんじゃないか?」

 

基樹に従って紗矢華は気絶した吸血鬼の身体を調べていく。

 

「なにか分かったか?」

「外部から膨大な魔力を受け取っていた痕跡があるわ、暴走したのはその魔力が自分の身体の限界を越えたからってことだと思う。あと、催眠系の魔術にかかってもいたみたい」

「やっぱりか…」

「何か知ってるんですか?」

 

訳あり顔の基樹に向かって疑問を投げかける雪菜。

 

「まだ、確定した訳じゃないが最近この島に吸血鬼に膨大な魔力を供給して暴走させて、何かをさせたいやつがいるらしい。そいつは徐々に高位の吸血鬼を狙ってる」

「つまり、自分の能力を試してるってこと?」

「多分な、なにがしたいのかはまだ分からないが古城も一応吸血鬼だ。何があるか分からないからしっかり見張ってろよ」

「もちろんです。私は先輩の監視役ですから」

「じゃあ、帰っていいぞ。あとはこっちで引き継ぐ。迎えの車が一番近い幹線道路に停まってるはずだ、好きに使ってくれ」

 

そう言うと基樹はどこかに電話し始めた──

 

 

「終了、暁 古城の本日の補習は全て達成されました」

 

アスタルテは抑揚のない声で事務的にそう告げた。

 

「はぁ…鬼畜だ…。もう夜じゃないか…」

 

古城が暗くなった外を見ながら伸びをしていると教室の扉が開いた。

 

「文句を言うな、それと下校時刻はとっくに過ぎているぞ、用がないならサッサと帰れ」

「サッサと帰れって酷いな…ほんと」

「帰りたくないのか?なら、明日の朝まで補習でもするか?私はそれでも構わんぞ?」

 

那月は悪戯な笑みを浮かべて古城の方を向く。

 

「わかった、すぐ帰るから。それだけは勘弁してくれ…」

 

那月とアスタルテが空間転移で移動したのを見届けて古城は教室に鍵をかけ一階の下足箱へと歩いていく。

 

「先輩、お疲れ様です」

「姫柊?煌坂?」

 

見慣れた2人が立っていることに驚く古城。

 

「煌坂、お前どうしてここにいるんだ?姫柊と先に帰れって言ったはずじゃ…それよりここでずっと待ってたのか!?」

「まあ、そんなところよ。一応私だってアナタの監視役だし?」

「ありがとな、煌坂。姫柊も」

 

何故か語尾が上がっている紗矢華に素直に礼を言う古城。

 

「何故か私がおまけみたいになっていますが、気にしないことにしておきます」

 

いつもなら怒る雪菜だったが紗矢華の影での努力のこともあり今回だけは不器用な先輩の顔を立てることにしたらしい。

三人はそれぞれの戦いを終え凪沙の待つ家へと帰って行った。その後夕飯の間中、1人で退屈だった凪沙のマシンガントークに付き合わされるとは知らずに──




どうだったでしょうか…。
初めてなので是非今後のためにも感想評価のほどお願いします!!

次回もバトルシーン入れればいいなと思います。
話の筋は考えてあるのですが細部を詰めるのに時間がかかるかもしれないので更新は気長にお待ちください。


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第6話 煌坂 紗矢華Ⅱ

第1章の題名?章名?が決まったので追加しました。
あと若干の誤字修正、表現の変更などもちょくちょく加えました!(内容が変わる訳では無いのでどうってことはないのですが)
そして、ヒロイン回の話にはその話の主役?になっているヒロインの名前と番号を振りました。お忙しくて推しキャラだけ読みたい!とか読み直すときにご活用いただければと思います。
長くなりましたので、とりあえずどうぞ!


絃神島の日の出は早い。

今日も水平線から太陽が顔を出し、1日が始まろうとしている時。

2人の少女はコソコソと話をしていた。

 

「それで、先輩には昨日の事件のことは暫く内緒にしておくというのは私も賛成なんですが…、実は…」そう言いながら雪菜が取り出したのは1通の書状だった。

「もう、そんな時期なの!?」

「いえ、何故か最近頻度が増えてしまって…」雪菜が取り出したのは獅子王機関からの定期検診の通達だった。

吸血鬼と接触した職員には、血の従者になっていないかの定期検診が義務付けられている。頻度が増えているのは雪菜の模造天使化のこともあったりするのだが…

「でも、大丈夫。雪菜がいない間は私がしっかり暁 古城を監視するから」

「だといいんですけど…」この間の風呂場での古城と紗矢華のことを思い出し心配する雪菜。

「と、とりあえずそろそろ凪沙ちゃんも起きてるだろうしたまには色々手伝って楽させてあげましょ」

「そうですね、では私は荷物の準備をしてきます。紗矢華さんは先に凪沙ちゃんのところに」

「わかったわ、じゃあ後でね?」そう言うと紗矢華は機嫌よく部屋に出ていった。

雪菜と古城といられる時間が増えて最近の紗矢華の機嫌は控えめに言ってすごくいい。そうやって自分の先輩が浮かれているからこそ、雪菜は色々と心配事が尽きないのだが──

 

「起きなさい、暁 古城」

「なんだ、煌坂か」

「なんだとはなによ。凪沙ちゃんの方がよかったの?」

「いや、そんなことはないんだけどさ。お前が起こしに来るのはなんか珍しいなと思って」

「いいでしょ、別に。たまには私が起こしても」

古城は自分ではなかなか起きないためいつも凪沙か雪菜が起こしにくるが、紗矢華が来たのは初めてだった。

「じゃあ、向こうで待ってるわね」

「ああ」

一通り朝の用意を終わらし、いつものようにリビングへと向かう古城。

「古城くん、はやくー。朝ごはん冷めちゃうよー」

「悪い、おはよう姫柊」凪沙に言われ急いで自分の席に座った古城はまだ起きてから言葉を交わしていない姫柊に声をかけた。

「姫柊?」

「はっ、なんですか?先輩」

「大丈夫か?なんかぼうっとしてたけど」

「雪菜ちゃん、2、3日いないんだって。きっと自分がいないうちに古城くんと紗矢華さんがいい感じにならないか不安なんだよ」

「違います!」

「あれれ、雪菜ちゃん怒っちゃった?」凪沙の悪ふざけに怒る雪菜と顔を赤らめる紗矢華。

「また、定期検診ってやつか?」

「そうなんです、私がいないからってあんまり紗矢華さんにいやらしいことしないでくださいね?先輩は目を離すとすぐに他の娘にいやらしいことをするんですから」

「そこまで見境なくはねぇよ…、そういえば定期検診の紙で揉めたこともあったな。帰還命令がどうのとかで」

「その話はもうやめてください!誰にでも失敗はあります!」

「悪かったって」恥ずかしそうに怒る雪菜を躱し、古城がテレビをつける。

暁家の朝はニュースと決まっている。

「また吸血鬼の暴走事件があったんだ、物騒だね」

「「…っ!」」凪沙のなんとなくの言葉に冷や汗を掻く雪菜と紗矢華。

恐る恐る2人は古城の顔色を伺う。

「まあ、今のところ被害がでてないのが救いだな」あまり気にしていない様子の古城に安心する2人。

「で、では、私はこの辺で。飛行機の時間があるので」

「姫柊、気をつけてな」

「わかりました、先輩も私のいない間に無茶しないように。紗矢華さんもお願いしますね」去り際に釘を刺した雪菜はそさくさと外へと出ていった。

「信用ないな…ほんと」

「それだけ雪菜ちゃんは古城くんのことを心配してるんだよ」頭を抱える古城に凪沙は友達に一応のフォローを入れておく。

「じゃあ、俺達も行くか」

「そうね」

「2人ともちょっと早いよ、もうちょっと待ってよー」文句を言う凪沙を待って3人も学校へと向かう。

紗矢華が転校してからたった2日だが、春休み直前という不思議な時期に転校してきたモデル顔負けの美少女の話は学校中に広がっており、古城へのヘイトは上がる一方なのであった──

 

昨日と同じように授業を終え、那月との補習を終えて暗い学校を出ると校門に紗矢華が立っていた。

「お疲れ様」そう言って古城にコーラのペットボトルを渡してくる。

「ああ、サンキュ。でも煌坂も大変だっただろ」

昼休みが始まると共にクラス内に留まらず大勢のグループから昼食の誘いを受けて泡を吹きそうになっていた紗矢華を無理やり連れ出したことを思い出す。

「うん、その…ありがと」

「いいよ、煌坂には色々助けてもらってるしな」

「あ、暁 古城」

「なんだ?」

「ううん、やっぱりなんでもないの」

「そうか。なぁ煌坂、オレ気になってたんだけどさ。いい加減そのフルネームでオレの事呼ぶのなんとかならないか?すごい距離を感じるっていうかさ、もちろん嫌なら今のままでいいんだけどな?」途中から俯いていた紗矢華を見てどんどん歯切れが悪くなる古城。

「嫌、じゃないわよ…」

「そうか、ならちょっとずつでいいから頼む」

「分かったわよ、こじょう…」

「ああ」2人はそれっきり話すこともなくなってしまった。

 

「なぁ、煌──」沈黙に耐えかねた古城が話を振ろうと紗矢華に声をかけたときだった。

いきなり後ろの方で爆発が起こったのだ。

「暁 古城!アナタは凪沙ちゃんのところにすぐに帰って!」紗矢華は古城に有無を言わさぬ勢いでそう言い放ち、爆発の方へと走って行った。

「おい、煌坂!待て!オレも!」古城の叫びも虚しくパニックになった人たちの波に流され古城はどんどん紗矢華から離れていく。

次の瞬間─最初に爆発があった場所から一際大きな爆発が起こった。

「クソっ、煌坂…」古城は歯がゆそうに唇を噛んだ。




バトルシーンを書く前にいい区切りが出来てしまったので急遽切りました…。バトルシーンは夜にでも出そうと思うのでお待ちください( ̄▽ ̄;)

個人的なメッセージとか、誤字指摘はいただけるのですが…なかなか感想評価はいただけず…読んでもらえるだけで充分ありがたいのですか笑


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第7話

更新遅くなりました…
お気に入り28件&通算UA2000越え&ルーキー日間ランキング38位…
色々とありがとうございます。これも皆様とストブラという作品のおかげですね(2回目)

今回から新キャラが出たのでプロローグの前にキャラ紹介を付け足しましたのでそちらも合わせてご覧いただけると嬉しいです。


人波を掻き分けながら爆発のあった方へと急ぐ紗矢華。

人波を抜けると辺りは驚くほど静かで、3人の吸血鬼が互いに眷獣を使い争っているところだった。

 

「獅子王機関の舞威媛よ、聖域条約に則っ─」紗矢華が最後通牒を言い渡そうとしたとき、3人の吸血鬼は一斉に眷獣の攻撃を紗矢華の方へと向けたのだった。

「はぐれ吸血鬼の眷獣くらい何体いても!」紗矢華が捨て台詞を吐きながら攻撃を避けようとした…が、眷獣は紗矢華の横を通り過ぎて行く。

後ろを振り向いた紗矢華が目にしたのは逃げ遅れた女の子へと殺到する眷獣達だった。

「ひっ…!!」迫り来る眷獣を見て悲鳴をあげる少女。

その悲鳴を掻き消すかのように爆音が轟く─

 

「大丈夫?怪我してない?」

「うん…」

煌華鱗の擬似空間断裂による盾で間一髪防ぐ紗矢華。

「お姉ちゃんは?」

「うーん、魔法少女…みたいなものかな?早く逃げて」

「魔法少女…」走り去る少女の背中を横目にブルーエリジアムでの結瞳との会話を思い出し、赤くなったのも束の間3人の吸血鬼が近づいてくる。

多対一の闘いに紗矢華の持つ煌華鱗の呪術砲台としての能力は最高の相性であると言えるが、街中ということもあり擬似空間断裂だけでどう切り抜けるか考えていた紗矢華にユニコーンと虎の眷獣が飛び込んでくる。

まともに相手をする必要もないため、少し距離を取って様子を見る。

やはり、前回と同じように暴走した吸血鬼は単調な攻撃しかしてこないようだ。

「それなら──」

前回のように魔力の増幅が起きても躱せるギリギリの距離から隙を見つつ斬撃を繰り返す。

人数で上回りながら、なかなか有効打を与えられないことに苛立ちを感じたのか残る1人の吸血鬼も鳥獣系の眷獣を出し、三次元的に紗矢華を包囲し攻撃の手を緩めることをしない。

「そろそろね」そう言うと、紗矢華は地面を走る2体の眷獣が自分を挟み一直線になったときに笑みを浮かべた。

足元に簡易的な呪術を使いスタングレネードのような閃光が当たりを照らす。

迫り来る眷獣をギリギリまで引き付けて躱し、斬撃を加えもう一体に丁度当たるように若干の軌道修正を入れる。

紗矢華の狙い通り2体の眷獣がぶつかり形を維持出来ずに消滅する。

「さて、あと1人ね」古城と二人の時間を潰された紗矢華はイライラしているのか普段より高圧的だ。

暴走する吸血鬼に言葉が通じるのか、はたまた仲間意識があるのかはよく分からないが、眷獣の魔力濃度がどんどん上がっていく。

「だから、なんなのよ!その無茶苦茶な魔力は」旧き世代でもない吸血鬼にはあるまじき魔力濃度を誇り、まだまだ力を増していく眷獣にさすがの紗矢華にも冷や汗が見える。

鳥獣系の眷獣が紗矢華を攻撃しようと膨らんだ時だった。

吸血鬼の身体が折れ曲がり、凄まじい音と魔力波を伴いながら爆散した──

 

「うっ…」咄嗟のことで身を守れなかった紗矢華は爆風をもろに食らってしまい辛うじて身体が動かせるかどうかだった。

 

「やはり旧き世代でもない限り龍脈からの魔力供給には耐えられない…か」

「誰?」意識が朦朧とする中声のした方を向く。そこには白いドレスのような服を着た凪沙と同じくらいの歳のツインテールの女の子が立っていた。

「ほう、あの爆発で生き残るどころか意識まであるなんて。人間風情の割にはなかなか強い身体をしているのね。さすがは獅子王機関の舞威媛といったところか」紗矢華に会話する余裕がないと判断したのか、1人で話しだす謎の少女。

「どうしてやろうかしら、身体中の血を啜ってやってもいいのだけれど生憎同性喰らいの趣味はないのよね」そう言いながらも歩み寄ってくる少女の前に紗矢華を守るような角度で大きな雷が落ちてくる。

「煌坂ぁ!」莫大な放電が終わり2人の間にはくたびれた白いパーカーを着た少年が立っていた。

「第四真祖か、元は人間らしいが噂に違わず馬鹿げた魔力ね」複雑な顔をしながら古城に向かってそう言う。

「誰なんだ、お前は、煌坂に怪我させたのはお前か」

「それしか言えないのか、お前達は。私がやったといえば私がやったことになるな」

「質問に答えろよ!」

「片方には答えてやっただろう、自分の女を傷つけられたくらいでそう怒るな。だが、第四真祖の肩書きに免じて名前くらいは教えてやろう。滅びの王朝の吸血鬼アシュラー・レイハーネだ」

「滅びの王朝…イブリスベールの国か。そんなやつが何しに来てるんだよ!」

「お前と語らうのも楽しそうだが、私にも色々とやることがあるのでな。時期、また会うことになる」

「おい、待てよ!まだ聞きたいことが!」古城の言葉には耳を傾けず黄金の霧となって消えていくレイハーネ。

「クソッ、煌坂!!大丈夫か!?」危険が去ったことを確認した古城は紗矢華の方へと駆け寄っていく。

「なんとかね、帰れって言ったのに…」

「心配するに決まってるだろ」

「心配…」古城の一言に満足した紗矢華は気を抜いたのか古城に寄りかかって寝てしまった。

「まったく…」安心した古城は特区警備隊が来ると面倒なので眠る紗矢華を背負い逃げるように立ち去っていく──

 

家に帰った古城はもう寝ている凪沙を起こさないよう自室の扉を開けベッドに紗矢華を横たえる。

「確か、滅びの王朝の吸血鬼とか言ってたよな…」浅葱に調べてもらおうと思った古城だったがさすがに深夜なので思いとどまり、自分のベッドですやすやと寝息をかきながら寝ている紗矢華を見てリビングへ向かいソファーに横たわった古城も緊張感が途切れすぐに寝てしまった──

 

「第四真祖に対抗するにはやはり最低でも貴族級の吸血鬼が必要か…」とあるビルの上に座り島を眺めながらレイハーネは1人そう呟くとまた霧になってどこかへ消えていった──

 

 

「古城くん、起きて。そんなところで寝てたら掃除の邪魔だよ!」

「悪い…起きる」凪沙のお小言によりいつもより早く目が覚めた古城は朝の支度をするついでに昨夜風呂に入れなかったことを思い出し、シャワーを浴びた。一通り支度が片付き凪沙の掃除の手伝いをした古城は紗矢華の様子を見に自室の扉を開けた。

と、同時に古城が声をかけるより早く枕が飛んでくる。

「うぉっ、危ね!なにするんだよ煌坂!」辛うじて枕を避けた古城が枕を投げた人物へと文句を言う。

「異性の部屋にノックもなしで入る変態真祖なんて死ねばいいのよ!」

「死ねはないだろ死ねは!ってか死にたくても死ねない身体なんだよこっちは!それに、自分の部屋なんだからノックなんてしないだろ普通!」

「問答無用!」近くにあった目覚まし時計を投げようと掴んだ紗矢華を見て慌てて取り押さえようとする古城だった…しかし─

「ち、近寄らないで!お風呂入ってないんだから!」紗矢華の叫びとともに死角からきた蹴りが綺麗に古城の鳩尾に入り古城は倒れてしまったのだった。そんな古城を気にもとめずゆっくりとシャワーを浴びた紗矢華がリビングに座り、3人で休みの日特有の遅めの朝食を食べ終わった頃、凪沙が寝転びながら古城に声をかけた。

「古城くんは今日何か予定あるの?」

「あー、ちょっと浅葱の所に行かないとな。あとは…煌坂なにかあるのか?」公務の予定は全く知らない古城は紗矢華の方に確認する。

「夕方から人工島管理公社との会議があるわよ…」さっきのことをまだ引きずっているのだろうが、一応必要なことには答えてくれる。ここは雪菜と違っていいところだ。

「だ、そうだ」

「浅葱ちゃんかー…晩御飯までに帰ってくるなら牛乳買っておいてくれる?あと、アイスも!」

「わかったよ」普段から凪沙におつかい(主にアイス)を頼まれた古城は浅葱の家に行く準備をしながら紗矢華の方を向いた。

「そういうことだ、オレは浅葱の家に向かうけど煌坂はどうする?」

「行くに決まってるでしょ、監視役なんだから」そう言って用意をした2人は凪沙の見送りで外へと出ていった。

世間は春休みとあって、外はなかなかに賑やかだった。

絃神島は常夏の島というだけあって、長期休暇の度にたくさんの人が外からやってくるいわゆるリゾート地である。

街のあらゆる所にホテルやレジャー施設を構え観光産業が活発なのだ。

人混みを鬱陶しそうにしながら2人はさっきの事もあり黙々と歩いていたが、耐えかねた古城が紗矢華に声をかけた。

「そういえば、煌坂の私服ってあんまり見たことなかったよな。なんか新鮮でいいな」

「えっ…、まあそうね。大体いつも制服だったし」古城の何気ない一言で紗矢華は機嫌を直したようだった。紗矢華は忘れがちだが身長も高く、スタイルもいいモデル顔負けの容姿のため、こないだの転校初日の制服姿といい普段と違う格好をされると妙に意識してしまう。

紗矢華に女を意識してしまった古城はタイミングを逃してしまいまた二人の間に沈黙が流れる。傍から見ればさながら付き合いたてのカップルのようだった。

そうこうしているうちに浅葱の家へと着いた古城は自分の失敗に気づいた。浅葱の家には休みの日ということもあり、両親がいる可能性があるのだ。この前のお見合いのこともあり気まずい古城はインターホンを押すことに少し躊躇する。

「押さないなら、私が押すわよ」もたもたする古城に痺れを切らした紗矢華がインターホンを押してしまい、中から浅葱が出てきた。

「こ、古城?どうしたの?」

「ちょっと調べてほしいことがあってさ」

「そう、とりあえず上がって?今日は誰もいないから」家に浅葱しかいないことを知り深く安堵する古城。

「で、なんであなたがいるわけ?」

「そ、それは私が古城の監視役だからよ!」

「古城…?」

「うっ!」いつもと違う呼び方をする紗矢華と浅葱の間に見えない火花が散った。

「まあ、いいわ。それで皇帝の古城様は何が知りたいわけ?」

「改めてそういうこと言うなよ、お前は…」

「わざわざ人工島管理公社じゃなくて私に調べさせるから気になっただけ」

「吸血鬼の暴走事件って知ってるか?最近よくニュースでもやってるやつ」

「知ってるわよ、昨日は被害者はいなかったらしいけど街で暴れたらしいじゃない、それで?」

「それに関係することなんだが、滅びの王朝の…えーとレイなんとかっていう吸血鬼のことを調べて欲しいんだ!」

「アシュラー・レイハーネ」見かねた紗矢華が大事な部分を引き継いだ。

意識が朦朧としていた人間より覚えが悪い古城に古城の学力の低さが垣間見得てしまった。

「はいはい、ちょっと待ってね…。これね、アシュラー家の当主みたいね。元は滅びの王朝の長老だった貴族の名家よ」

「ちょっと待て、だった?」

「そう、なんでもディミトリエ・ヴァトラーに先代の長老、レイハーネさんのお父さんは喰われたみたいね…」

「そうか、助かった浅葱。今度なんか奢る」そう言い残すと古城は外に走って行く。紗矢華も去り際にぺこりと頭を下げて古城の後に続く。

「なんなのよ、ほんと朝から」ひとり取り残された浅葱は不平をこぼした──

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」なんとか古城に追いついた紗矢華が古城の肩を掴む。

「悪い、煌坂」

「いいけど、急に走り出さないでよ。どうしたの?」

「いや、滅びの王朝の貴族がこの島になにかしてくる理由があるか?ヴァトラーみたいな戦闘狂ならまだしも」

「確かに、それは分からないわね…」

「だから、知ってそうなやつに聞こうと思ってな」

「滅びの王朝の貴族に知り合いでもいるわけ?」

「多分その辺のラーメン屋にイブリスベールのやつがいるはずだ」

「イブリスベールって、滅びの王朝の第九王子の!?なんでそんな方と知り合いなのよ…」

「まあ、前に色々あってな。とりあえず手分けして探そう」そう言って絃神島中の主だったラーメン屋を2人で駆け回った古城達だったがイブリスベールを見つけることは叶わなかった。

 

「クソッ、前は簡単に見つかったのに…」

「あなたを信用した私がバカだったみたいね…」息を切らしながら何の成果も上げられず徒労感だけが募った2人は公園のベンチに座り込んだ。

 

「不本意だが、人工島管理公社を頼るか…」

「最初からそうしておけばいいじゃない!」無駄足に終わってしまった紗矢華はイライラしている。

「それだと、皇帝だのなんだのって事件から遠ざけられかねないからな…」

「それなら大丈夫よ、あの吸血鬼にはあなたの第四真祖としての力が必要よ。多分あの暴走させられた吸血鬼が大量に攻めてきたらあなた以外に戦える人はこの国にいないもの」

「なら、いいんだけどな」

「よくないわよ!それだけあの吸血鬼が危険ってことでしょう!」

「わかったから、怒るなよ煌坂。行くとこも決まったんだし早く行こうぜ」

「ほんっとあなたといるとろくなことがないんだけど!」そう言いながらも古城が歩き始めると隣をついてくる紗矢華に心の中で感謝しつつ道を急ぐ古城だった──




もう少し1話の分量を多くしてほしいとの声を感想にていただいたので結構頑張って増やしてみましたがどうでしょうか。
ご意見ご要望等あれば、またお願いします^^*

さて、余談ですが
今回初のオリキャラのアシュラー・レイハーネという吸血鬼が登場しました。滅びの王朝は中東に位置する夜の帝国なので名前も中東に実際にある名前を使ったのですが(意味は 気高き花)
色々と調べる過程で中東の名前には
【本人の名】+【父の名】+【父の父の名】+【父の父の父の名】+【父の父の父の・・・】+…【氏族名】
という決まりが存在するんだとか…名前考える時にこれを知った時は絶句してちゃっかり無視してしまいました。


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第8話

週末は多分更新頻度遅くなると思うので書きだめ書きだめ…。

深夜に投稿しても結構皆さん読んでくださってびっくりしている作者です。良ければ活動報告の方なども覗いて見てください。

たまーに更新します。

それは、さておきどうぞ!


昼時を周り日中一番暑くなる時間帯にあまり外を出歩く者はいない。

そんな中二人の男女は島の中心部キーストーンゲートに向かって歩いていた。

「暑い…溶ける…」

「だらしないわね、これくらいで」

「吸血鬼に日光はダメだろ日光は」

そんな時ビルに備え付けられた液晶画面に吸血鬼用日焼け止めなるもののCMが流れ始める。

「あれ、使ってみたら?」紗矢華は液晶の方を指さした。

「あれか…」

「なによ、その顔」

「いや、なんでもない…」古城は基樹にもらったCMと同じ日焼け止めを貰って使ったことを思い出した。

あの商品は効果こそ本物なのだが、塗ってから2時間ほど乾燥させなければならずそんなことを知らなかった古城は塗ってすぐに色々な物を触ってしまい身体中に物が引っ付いてしまい取る時にとても痛い思いをしたのだった。

意味深な古城の顔を見た紗矢華は何か話題を変えなければと当たりを見回した時だった。

ぐぅ〜……。

隣から酷く情けない音が聞こえてきた。

「ぷっ…、あなた、もしかしてお腹すいてるの?」吹き出しそうになるのを辛うじて堪えた紗矢華が古城に問う。

「笑うなよ…腹くらい誰でも鳴るだろ」

「まあ、あれだけラーメン屋を回ったのに朝から何も食べてないしね。どうする?お昼にする?」

「ああ、煌坂がよければすぐにでもそうしたいんだが」

「なら、とりあえずあそこに入りましょ」そう言って紗矢華が入っていったのはいつも浅葱や基樹と使うファミレスと同じ店だった。

昼時を過ぎた店内は客足もまばらで待つことなく席につくことが出来た。

「ご注文はお決まりですか?」飲み水とお絞りそしてカトラリーが入ったケースを置いたウエイトレスはマニュアル通りの言葉で接客をしてくれる。

「あとでまた呼ぶんで、今は大丈夫です」

「では、ご注文が決まった頃にまた来ます。ランチでしたら、カップル限定のそこのペアセットがお安くてオススメですよ」

「べ、別にカップルじゃな!」ウエイトレスの最後の言葉に反応しようとする紗矢華の口を塞いで黙らせ古城が苦笑いでやり過ごすことで事なきを得る。

「なにするのよ!」

「こんな所で叫ばれて周りにオレがいることがバレると困るんだよ」

第四真祖であることを公表して以来、この国では古城以上の有名人はいないのだ。彼の持つ生来の見た目の良さに連日のワイドショーによる様々な憶測を主とした報道で噂に尾ひれがつき、古城の株はこの国の女性達の中ではとても上がっているのだった。

数日前にたまたま古城が外に出ていると知られた時には大変な人だかりができたことも記憶に新しい。

それ以降、外に出かける時には雪菜か紗矢華が認識阻害の術式を古城にかけているため、余程古城のことを知っている仲か魔術や呪術に特化しているものでない限り古城を認識するのは不可能になっている。

「ごめんなさい、暁 古城」

「まあ、いいけどさ」紗矢華は未だに謝る時や緊急時の時は古城のことをフルネームで呼ぶ癖が抜けていない。そのことにイタズラ心を刺激された古城はにやりと笑った。

「注文はどうする?店員さんのオススメだしこのペアセットにするか?」

「え…その…でも…」

「反論しないってことはいいんだな」赤くなって下を向く紗矢華に満足したのか古城は店員を呼んでペアセットの注文を通す。

「暁 古城…カップル…暁 古城…カップル…」2つの単語をひたすら呟き続ける紗矢華を見てやりすぎたと反省した古城は話を変える。

「それで、夕方の会議の件はやっぱり吸血鬼暴走事件の話なのか?」

「多分そうだと思う。街に被害が出たから何かしら対策は取らないといけないでしょうし」

「相手が吸血鬼だっていうのに、姫柊がいないのは痛いな」雪菜の雪霞狼は破魔の槍であり、吸血鬼にとっての天敵のような武器である。

そのためその使い手の雪菜がいないというのはなかなかに辛いものなのだった。

そうこうしているうちにウエイトレスが前菜を運んでくる。

「このセットなかなかにちゃんとしてるのね」最初こそ文句を言っていた紗矢華だったが料理の内容はお気に召したらしい。それからはポタージュ、肉料理、チーズ、デザートと黙々と食べ進めた2人であった。

店を出た2人は時間まで特にすることもなく高校生らしく休みを楽しんだのだった──

 

時間になりキーストーンゲートについた2人は広めの会議室へと向かい、古城は部屋の中へと入り紗矢華は外の扉の横で待機する。

「みんな、遅くなって悪い。始めてくれ」それなりに公務にも慣れ始めた古城が本題に入ることを促した。

「暁様、今回は外の獅子王機関の監視役もご一緒に」

「珍しいな、連れてきてくれ」普段の会議では古城以外には参加することができないはずなのだが今回は紗矢華も中へと通される。

部屋に入った紗矢華は大事な場所だというのにまたしても吹き出しそうになるのを必死に堪え、古城の座る席の横に立つ。

「どうした?煌坂」

「スーツの男達の中に1人パーカーがいたら笑っちゃうでしょ!」周りに聞こえないくらいの音量で話していた2人だったが前で男が話しだすとそれもやめた。

「今回の議題は昨今頻発している吸血鬼暴走事件についてです。この国の独立から今日にかけて9件。そのうち被害者が出たケースは未だありませんが徐々に高いレベルの吸血鬼が犯行を犯しており、近いうちに特区警備隊では追いつかなくなる危険性があり、早々に解決策を出した方がいいかと」

「やっぱりその件か、それで煌坂には昨日のことを詳しく聞こうっていうことか?」

「その通りです」

「それなら、分かったことがある。吸血鬼を暴走させている犯人は滅びの王朝の吸血鬼レイハーネってやつだ」

「滅びの王朝の貴族で、それなりの名家の娘であることは分かっています」古城の足らない説明を紗矢華が引き継いだ。

「滅びの王朝、アシュラー家の現当主ですか。そんな方が何故この街に?」

「そこなんだ、あいつがなんでこの島に来たのかが分からない」

「滅びの王朝と我が国との間で戦争を起こそうとしている?」

「いや、存外もっと単純な理由かも知れませぬ」古城の疑問に口々に答える男達。

「今は動機よりも対策です。後手に回っていては相手のいいようにされるだけです」前に立つ男がするべきことを明らかにする。

「特区警備隊の力でレイハーネの居場所を探すことは出来ないのか?」

「難しいかと、仮に見つけられたとしても霧になって逃げられてしまえばそれまでなので」改めてこの国の防衛力の低さに気付かされる。

「とりあえず、特区警備隊に厳戒態勢を敷かせます」

「そうしてくれ、もしものときはオレが出る」古城は自分が国民に言ったことを思い出しながらそう言った。

「私も出来るだけ協力します」古城の心を知ってか紗矢華もそう続く。

「では、詳しい調査は我々に任せてください。なにか新しいことがあれば連絡しますので」

「分かった」それを最後に部屋の外に出て行こうとする古城。

「暁様、これを」古城を呼び止めた男の手には携帯が握られていた。

「ああ、悪い。もらっとくよ。出来ることなら姫柊のやつを出来るだけ早く呼び戻してくれ」

「分かりました」

そのやり取りを最後に会議は終わり古城は解放された。

「お疲れ様」大したことはしていないのだが労いの言葉をかけてくれる紗矢華とキーストーンゲートの外に出た古城はさっき貰った新しい携帯で凪沙に電話をかける。

実を言うと、真祖大戦で携帯を壊してから忙しい日々が続いていたのと面倒くさかったこともあり、新しい携帯を買っていなかった古城にはありがたいことだった。

「もしもし?古城くん?新しい携帯買ったんだねー」凪沙はすぐに電話に出た。

「そうなんだ、もう少ししたら帰るから」

「それだけのためにかけてきたの?LINEしてくれたらいいのに。あ、牛乳とアイス忘れないでねー」そう言うと電話は切れてしまった。

たかだかそれだけの内容で電話をする古城の筋金入りのシスコンぶりに紗矢華は呆れていたが、そんなことは知らずすっかり妹のおつかいを忘れていた古城は近くのコンビニに走っていく。

 

「ほら、終わったなら帰るわよ」目当てのものを買いコンビニから出てきた古城を見て紗矢華は笑いながらそう言う。

「ああ、そうだな」夕暮れを背にし映える彼女の笑顔に見とれそうになりながらもなんとかそう返す古城。

「暁 古城?」

「ん?なんだ煌坂」

「目が赤くなってるんだけど…」

「いや、これは違うんだ!ほら、夕焼けの色が映って!」

「この変態!淫獣!淫魔!」二人の叫び声が夕暮れの街に谺響した。

 

平和な1日だったが終始締まらないなんとも古城らしい1日も終わろうとしていた──




個人的にバトルパートというものは日常パートがあってこそ映えるものだと思っているので、割と日常パートを多めに書く傾向にあります。日常パートでキャラを掘り下げたいというのもありますし。
退屈かも知れませんが日常パートの方もお付き合い下さい。

次回はガチガチのバトルパートの予定ですので期待して待っていてください(レイハーネの眷獣が早く知りたい方はキャラ紹介の方へどうぞ)

一応補足しておくと最後の古城の目の色についての描写ですが
古城は吸血衝動を引き起こすと目の色が青→赤へと変わります。(ストブラがお好きな皆さんなら知っているとは思いますが汗)


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第9話

今回それなりに長くなってます。
バトルシーン?も挟みつつ内容は濃くしたつもりです。

ルビが適用されてなかったみたいで誤字指摘頂きました( ̄▽ ̄;)
今は直っているはず…

余談ですが先程Twitterアカウントを作成しました(‪@kokuren_hameln‬)
よろしければフォロー等お願いします^^*

それではどうぞ


保存日時:2017年01月11日(水) 11:38

 

「先輩…」空港でテレビのニュースを見ながらそう呟いたのは雪菜だった。自分がいなくなった日に絃神島の市街地で3体の吸血鬼の暴走事件があったらしい。紗矢華のことを疑うわけではないが今までのことを思い出すと古城が無茶をしでかすのではないか心配せずにはいられなかった。

すぐにでも帰りたい雪菜とは裏腹に、絃神島行きの空の便にはどれも延期を意味するマークがついていた。

事件が落ち着くまでは、当たり前のことだが人や物の出入りには厳しい規制をかけるらしい。

「はぁ…」無意識か雪菜の口からはため息がこぼれた。

「姫柊 雪菜さんですか?」

「そう、ですけど…」怪しい男達に声をかけられ身構えた雪菜だったが特区警備隊(アイランド・ガード)のマークが胸についていることに気づき警戒心を解いた。

「こちらに」そう言って男は雪菜をある場所へと連れていった──

 

 

「今日は夏音ちゃんと約束あるから先行くね!」

朝食を食べ終わりそれぞれ学校へ行く準備を始めていた古城と紗矢華に向かってそう言うと凪沙は一足早く外へと出て行った。

「その、昨日はごめんなさい。暁 古城…」

2人になったのを確認して紗矢華は古城に声をかけてきた。どうやら昨日の帰りのことを気にしているらしい。

「いいんだよ、それよりまだ抜けないのか?その癖」過ぎたことはあまり気にしない質の古城は簡単に紗矢華を許し、またフルネームで自分の名前を呼んでいることを指摘する。

「あ、その…まだ恥ずかしいっていうか…」

「嫌だったらそのままでいいからな、ほんと」

「嫌じゃないわよ!」気遣ったつもりがなぜか怒られて古城はどうしたらいいか分からなくなる。

「いいから、行くわよ」

「そうだな」その話はもう終わりだと言わんばかりに外へと出て行った紗矢華に続き古城も外に出る。こうして、2人で外を歩くのも少し前までは考えられなかったが慣れてしまったものだ。

大した会話もせず教室に着いた2人はそれぞれの席へと向かい周りの友達と会話に花を咲かせる。

不器用な紗矢華だが古城や浅葱の頑張りもあり数人の友達はすでに出来ていた。

担任の那月が入ってき、事務的にホームルームを終わらせたところで始業のチャイムが鳴った。

 

4コマの授業を受け、昼休みになり他の生徒達が騒がしく昼食を取っているときだった。古城は授業中に届いたと思わしきメールを見つけ内容を確認する。大体の内容を頭に入れた古城は素早く紗矢華をアイコンタクトで呼び出した。

自動販売機の横のベンチに座り、2人は周りに誰もいないことを確認する。

「どうしたのよ、いきなり」

「人工島管理公社から調査の結果が送られてきた」そう言いながら古城は紗矢華の方へとメールの内容を向けた。

そのメールに書いてあったのは、レイハーネの家族構成や貴族としての功績や戦績といったものから周囲からの評価、そして古城達にとって一番大事な彼女の眷獣の能力など多岐にわたった。

「この能力、直接的な攻撃力はないけど旧き世代同士の直系だけあって凄い能力ね」メールの内容を見ながら紗矢華は微妙な顔をする。

レイハーネの持つ眷獣は旧き世代の直系子孫としては数が少なく、たった3体しかいない。しかし、触れた相手を意のままに操ることが出来る魅了(チャーム)系能力の麗楼(オニロポロス)自分の魔力や外部の魔力源から魔力を吸収し対象とのリンクを作り対象に魔力を供給する 意思を持つ武器(インテリジェント・ウエポン)権威の祝宴(エクソシア・ジョルティ)そして人1人分程までの物体を任意の場所へとテレポートさせる天啓への反逆(アポカリプス・プロドシア)どれも強力すぎる眷獣だ。

「そうなのか?」

「まったく、とにかくこれで彼女の手口は大体分かったわね」紗矢華はあまり相手の強さを理解出来ていない古城に呆れながらも話を進める。

「空間転移系の眷獣の能力でこの国の検問をすり抜けて不法入国。そして、吸血鬼にその身体のキャパシティ以上の魔力を供給し軽い暴走状態を引き起こさせて魅惑(チャーム)系の眷獣の能力によって擬似的な吸血鬼の使役を実現してるのよ」

「そういうことか…」

「まだ彼女の危険性が分かってないみたいだから教えてあげるわ。あなただって吸血鬼なのよ?つまり、一昨日会った吸血鬼みたいになる可能性があるってこと。それに1つ1つの過程が単純だからこそ1度ああなってしまったら元に戻すのは至難の業なのよ?」

「うっ…」今更になってレイハーネの危険性を理解してきた古城は紗矢華の言い分にぐうの音も出なかった。

そんな古城を助けるかのように昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったのだった──

 

午後の授業を受けている間古城は色々と考えていた。

家庭環境に歪みこそあるものの、滅びの王朝の貴族の吸血鬼があんなことをする理由と目的が分からないのだ。

「はぁ…」自分の頭では考えても無駄だと思った古城は考えるのを諦め窓から外を眺めていると前の席の浅葱が声をかけてくる。

「ちょっと古城、昼休み煌坂さんとなにしてたのよ。この前家に来た時も一緒だったし」こんな状況でも恋敵の動向にしか興味が無い浅葱。

「ああ、ちょっと例の吸血鬼暴走事件のことでな」

「なにかあったの?」

「別に大したことはないんだけどな、そんなこと気にせず授業ちゃんと受けようぜ」

「なら、いいけど…、っていうか外眺めてたあんたにそんなこと言われたくないわよ」まだ若干心配はしているのだろうがこれ以上は追求しても無駄と分かったのか浅葱はすぐに前を向き直った。

そんな仲の良さそうな2人を遠くから眺めていた紗矢華はなぜか無性にもやもやしていた。

 

午後の授業も終わり、これからバイトだという浅葱と基樹と別れ1階の下足箱へと向かい早々と帰ろうとしていた古城の携帯が鳴った。

「もしもし?」

「暁様ですか!!」緊迫した声を上げたのは昨日の会議で前に立っていた男だ。

「どうかしたのか?」

「現在、複数の箇所で歪な魔力濃度の増幅を感知しました!車を向かわせてあるので至急向かってください!」それだけ言い終わると電話は切れ、焦る古城は紗矢華の手を引っ張り人工島管理公社の迎えの車に乗り込む。

「それで、何箇所あるんだ」

「5箇所で魔力濃度の上昇を計測中です」事務的に告げる運転手の表情にも焦りが見える。

「クソッ…多いな」

「5箇所って…こないだの吸血鬼みたいなやつが!?」古城の反応を見て紗矢華も状況を察したようだった。

「ああ、姫柊もいないのにどうしたらいいんだよ…」

「2箇所で特区警備隊との交戦を確認。吸血鬼部隊を派遣しましたがいつまで保つか…」運転手が告げる言葉は状況が芳しくないことを示していた。

「迷ってても仕方ないか、オレが近いところから潰して回る。とりあえずなんとか持ちこたえてくれ」

「そうね、それしかないわね。私も1人で行くわ」そう言うと紗矢華は車外へと出て行き1番近い場所へと走っていく。

「そういうことだ、オレも早く連れてってくれ」運転手は古城のその言葉で車を走らせた。

「那月ちゃんは今どこにいる?」

「南宮さんは今諸用で国外に…」

「まじか…それで午後は学校にいなかったのか」古城は出張という名目で那月が午後からいなかったことを思い出した。

「暁様、あそこです」煙の立っている場所を運転手が指さした。

「ここまででいい、なるべく周りの人達の避難を早く終わらせてくれ」そう言い残すと古城は走り去る。

目的の場所へと着いた古城は2人組の吸血鬼が眷獣を出し暴れているのを見つけ、周囲の避難が既に完了している事を確認する。

「こっちは時間がないんだ、悪いがとっとと終わらせてもらう」

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ――! 疾く在れ(きやがれ)黄金の獅子(レグルス・アウルム)双角の深緋(アルナス・ルミニウム)!!」古城の持つ12体の眷獣の中でも攻撃力に特化した2体が姿を現し2人組の吸血鬼を蹂躙していく。魔力を供給されいかに魔力濃度が上がっていても普通の吸血鬼では第四真祖の古城には手も足も出ないのだ。

一瞬にして片付けた古城は息をつく暇もなく次の場所へと向かい順調に数を減らしていき5つ目の紗矢華がいる場所に到着した。

「大丈夫か、煌坂」

「待ちくたびれたわよ」

「結構早かったと思うんだけどな」

「まあ、いいわ。気をつけなさいよ、あの吸血鬼他とは違って元が貴族レベルの吸血鬼よ」そう言って古城に注意を促す。

「そうみたいだな」そう言うと前方の大きな眷獣を3体従えている吸血鬼に注意を向ける。

「強化された真祖級の眷獣が3体…部が悪いにもほどがあるわね」

同じ真祖級の眷獣同士の戦いでは魔力供給のない古城の方が部が悪い。そのことをしっかりと分かっている紗矢華。

「来るわよ!」紗矢華が言い終わらないうちに馬型の眷獣から2人に向けて雷撃が飛んでくるすかさず古城の前に飛び出だ紗矢華は煌華鱗の擬似空間断裂による盾で自分たちを守る。それで攻撃が終わることがあるわけもなく2人は周囲を無数の短剣に囲まれる。意思を持つ武器(インテリジェント・ウエポン)である短剣達は一斉に2人を串刺しにせんと飛んでくる。紗矢華の煌華鱗による擬似空間断裂の盾は絶対的な盾であるが、一瞬しか機能せず一方向にしか展開できないという欠点があるため紗矢華に防御する術はない。

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)神羊の金剛(メサルティム・アダマス)!!」二人の周りに金剛石でできた厚い防護壁が形成され迫り来る全ての短剣を反射する。

「大丈夫か?」古城は抱き寄せていた紗矢華に一応の確認をするが、今の一瞬の攻防でも古城たち2人が劣勢なのは明らかだった。

「クソッ…」苦し紛れに呼び出していた神羊の金剛(メサルティム・アダマス)の金剛石の結晶を散弾のように射ち出し攻撃するが全て短剣の群れに叩き落とされてしまう。

眷獣の実体化を解き古城が少し油断した時だった、背後から3体目の眷獣が攻撃を仕掛けてくる。

「集中しなさい!」辛うじて煌華鱗で受ける紗矢華だがケンタウロスの姿をした眷獣の攻撃を防ぎきれず古城と共に空中へと投げ出される。

それを待っていたかのように空中の2人へと全方位から殺到する短剣の攻撃から紗矢華を守ろうと古城は紗矢華を抱き抱えた。

甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)!!」咄嗟に吸血鬼の霧化を司る甲殻類の眷獣の力を使い紗矢華と自分を霧にして回避を試みた古城だったが身体の至るところを切り傷が埋める。

吸血鬼の霧化の能力は強力だが、同格以上の相手には効かないという性質がある。

「暁 古城!!」自分を守って傷ついた古城に駆け寄り狼狽える紗矢華を雷撃が襲ったがなんとか煌華鱗による擬似空間断裂による盾で防ぐ。

倒れる古城を庇いながら、2発目に備えた紗矢華の耳には鈴の音のような声が聞こえ、空から青い制服の少女が落ちてくる。

「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

吸血鬼の背後に降り立った少女は美しい祝詞を口にしながら手に持っていた槍で吸血鬼を貫いた。

「お二人共大丈夫ですか?」少女は眷獣の実体化が解け危険がなくなったことを確認し道路の真ん中に座る古城と紗矢華に声をかけた。

「姫柊…悪い、助かった」

「まったく…先輩は私が目を離すとすぐにこうなんですから!無茶をしないでくださいって言ったのに!」瀕死の古城に遠慮もなく怒る雪菜。

「どうして雪菜がここに?帰ってくるのは今日の夜じゃ…」

「空港で待っていたら南宮先生がいらっしゃって、私をここまで飛ばしてくれたんです」

「那月ちゃんか」そう言いながら古城は自分が昨日の会議の後に雪菜を連れ戻すように言ったのを思い出した。

「本当に、私が間に合っていなかったらどうなって…、誰ですか!?」

背後から近付いてくる人影に気づき警戒する雪菜。

「お前と会うのは初めてか、獅子王機関の剣巫。私はアシュラー・レイハーネ、滅びの王朝の吸血鬼だ」

「滅びの王朝の吸血鬼がどうして─」

「気をつけろ、姫柊!吸血鬼を暴走させて操ってたのはそいつだ…」紗矢華の手を借りなんとか立ち上がった古城は雪菜に必要なことだけを伝える。

「なかなかに頑張ったようだが、その傷でどこまでやれるかな?」不敵な笑みを浮かべたレイハーネは美しい人魚の姿をした眷獣と共にその場から消え、近くのビルの屋上へと座る。

「降りてこいよ!レイハーネ!!」

「先輩!」憤る古城だったが周りからレイハーネの能力によって強化された大量の獣人が現れ3人を囲んだ──




久々?のバトル回となりましたが次回も続けてバトル回です。
そして!次回はストブラらしく吸血シーンをぶち込んでいく予定ですので期待して待っていてください^^*

古城の眷獣の名前が星座のγ星やα星の名前+ギリシャ語ということでレイハーネの眷獣にもギリシャ語を適用しています。
それなりに考えてつけたのですが…あまり厨二病的センスはないため違和感を感じる方がいたら教えてください笑


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第10話 姫柊 雪菜Ⅰ

UA3000越え&お気に入り44件&ルーキー日間ランキング17位ありがとうこざいます!

個人的にFate/ 君の名は ISなどの中にストブラが混ざってて嬉しいです笑笑

今回、雪菜回かつ第1章が早くも終了します!雪菜は正妻ポジを取れるのでしょうか
それでは、どうぞ!


「あーもう、どうなってるのよ…」浅葱はぼやきながらエラー表示で埋め尽くされた画面を見つめながら文句を垂れている。

「ケケッ、どうやら龍脈の魔力にちょっかいかけてるやつがいるみたいだな」妙に人間臭い口調のAIが現状を報告する。

「それじゃ、魔力建材は使えないわね…なんとか頑張っては見るけど半日くらいしか保たないわよ」

「十分だ、半日保てば吸血鬼の兄ちゃんが何とかしてるだろうよ」

「古城のやつ…後で覚えておきなさいよ!モグワイ!」昼に古城と話していたときにはぐらかされたことを思い出した浅葱は荒々しく相棒のAIに命令し仕事をこなしていった──

 

次々と迫り来る獣人をなんとか退けようとするが、元から身体の丈夫さが魔族の中でも抜きん出ている獣人が強化されているだけありジリジリと包囲網を狭められていく。

「紗矢華さん!まずいです、このままだと私達みんな八つ裂きにされちゃいます」獣人の群れの先頭の何体かを蹴り飛ばし、後ろで負傷した古城を抱えながら戦う紗矢華の方を向く。

「しっかりしなさいよ、古城!あなたが守らないなら誰がこの国を守るのよ!」傷だらけの古城の顔にビンタをくらわした。

「怪我人にビンタはないだろビンタは…」

「ご、ごめんなさい」

「それにまだ眷獣を使えるほど回復してないんだ、無理に使って暴走したら意味が無いしな」身体の傷は表面こそ治りつつあったがまだ中身がくっついていないのか動けそうにない古城が苦しい顔をする。

「その…暁 古城?」

「なんだ、煌坂こんなときに」紗矢華が迎撃をやめたことで負担が格段に増えている雪菜の方を心配そうに見つめながら古城が返す。

「ほんっとうに、不本意なんだけど…私の血を吸わせてあげる。雪菜は今日は危ない日だし…、その…、緊急事態だから…」

「なんで、お前が姫柊のことをそこまで知っているのかはこの際聞かないが、いいのか?血を貰えるならオレとしても嬉しいんだが」吸血鬼が人間の血を吸う場合、月齢などの条件が重なると吸血された人間は『血の従者』つまり1代限りの擬似吸血鬼になってしまうのだ。

「よくなかったら言ってないわよ!」

「そうだよな」雪菜が無理となると今は紗矢華しか古城に血を与えられる者がいない。傷口から血を摂取したり、血液だけを貰うことも出来るのだが吸血鬼にとって血の鮮度は重要なのだ。どんなに高い霊力や魔力を内包した血であっても1度空気に触れてしまえば力が逃げてしまい血液の中には本来の1/10ほどしか残らなくなってしまうのだ。

「煌坂…」今の状況で生半可な力では足りないと感じた古城は覚悟を決めて紗矢華を呼ぶことで吸血の意思を伝える。

無言で綺麗な首元を露わにし古城に寄りかかることで紗矢華も了承の意を伝えた。寄りかかる紗矢華を激しく抱き寄せた古城の口からは通常の人間よりも1回り長くなった犬歯が覗き、紗矢華の綺麗な首元へと吸い込まれるように近づいていき、その白い肌に牙を突き立て優しく噛み付いた。

「あっ…、んっ……、はぁっんっ…!!」紗矢華の艶かしい声が響き渡った──

「もう、いいですか?先輩」横目で古城と紗矢華の吸血シーンを見せつけられなかなか離れない2人にイライラする雪菜が声をかけた。

「悪い、待たせたな姫柊は下がっててくれ。煌坂を頼む」そう言うと吸血後特有の力が抜けてしまった紗矢華を雪菜に預け獣人の群れへと向かっていく古城。

「こいよ、お前ら。全員まとめてぶっ飛ばしてやる!!」

古城の怒りに呼応するように飛びかかる獣人の拳や蹴りや爪による斬撃は古城の周りに展開される金剛石の壁によって何一つ通らない。

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)5番目の眷獣黄金の獅子(レグルス・アウルム)!!」古城の呼び声により雷光を纏った巨大な獅子が現れ次々に獣人を蹴散らしていく。

「レイハーネ!こんな獣人いくら用意しても無駄なことは分かっただろ!大人しく降りてこい!」ビルの上に座るレイハーネの方を向きもう終わりだとばかりに叫ぶ古城を見てレイハーネが高々と笑い出した。

「ハハハハハハ!勝ったつもりでいるのか第四真祖。存外傲慢なやつだなお前も」

「先輩!」周りに残っていた獣人の中にある魔力濃度の急激な高まりにいち早く気づいた雪菜が古城に危険を知らせたのと同時に周囲の獣人の身体が自らの魔力濃度に耐えきれず凄まじい光と魔力波を伴いながら爆散する─

「先輩…?」

「暁 古城…?」あれだけの爆発があったにも関わらずかすり傷1つ付いていない自分たちを見て古城が助けてくれたのだと悟った2人は目の前にいる少年の名を呼ぶ。

「ああ、なんとか大丈夫だ」そう告げる古城の前には雷光を纏った巨大な獅子が3人を守るように身体を入れていた。古城の方も服にはところどころ焦げたあとがあったが怪我はしていないようでそのことに安心したときだった。古城の後ろが淡く光り、美しい人魚の姿をした眷獣と共に綺麗な鞭を持ったレイハーネが現れ古城に軽くその鞭を当てたのだった。

「お前達、今すぐここから離れた方がいいと思うぞ?」後ろにいた雪菜と紗矢華の方へそう言いながらレイハーネは古城から距離をとる。

その瞬間古城の叫び声と共に膨大な魔力が彼の身体から噴き出し、その圧倒的な暴風に吹き飛ばされそうになる2人。

「先輩に何をしたんですか!!」

「お前達が今まで見てきたのと同じことだ。私の眷獣で第四真祖に魔力を供給しているんだよ限界までな」

「こんな魔力一体どこから…」雪菜は古城から溢れる異常すぎる魔力濃度に危険を感じながらもレイハーネへと問う。

「まだ分からないのか?この島には何が通っている?」

「まさか龍脈を!?」

「無限にも等しい魔力源の龍脈と世界最強の吸血鬼とも言われる第四真祖この二つが合わさればどうなるか、お前達はもう知っているのだろう?」そう言われ、真祖大戦でヴァトラーが龍脈の力を眷獣に合わせて使っていたことを思い出す。

「そんな…あれが暴走したらこの島くらい一瞬で失くなってしまうじゃない…」

「それでいい、この島には私のために沈んでもらう。まだ若干の意識が残っているようだがそれも時間の問題だ。第四真祖が完全に暴走しこの島が沈めばあいつは私の兵器(もの)になってもらう」

「なんのためにそんなことをするのかは知りませんが、先輩は返してもらいます!」そう言うと雪菜は雪霞狼を持ち暴走する古城の方へと走っていき古城の周りに吹き荒れる魔力波に槍を突き立てる。雪霞狼の神格振動波駆動術式が展開され古城の身体から出る魔力波と一瞬の間拮抗する。しかし、すぐに雪菜は弾き飛ばされてしまった。

「無駄だ、剣巫。お前の持つ七式特別降魔機槍(シュネーヴァルツァー)は確かに我々吸血鬼にとって天敵のようなものだ。だが、無限の魔力を持つ今の第四真祖にはいくらやっても効かぬよ」無限にも等しい力の上澄みだけを消し去っても全てを消し去ることは出来ない。暴風によって古城本体に槍を突きつけることが出来ない以上、今の古城を止めるには同じ無限に等しい力を持つものしかいないのだ。

「無限には無限をぶつければいいということですね…」

「まあ、そうなるな。どう足掻いても不可能なことだが」まだ古城を諦めない雪菜に哀れみを感じたのかレイハーネが冷ややかに笑う。

「それなら…」雪菜は雪霞狼を握りしめ瞑想を始め、彼女の瞳は一切の感情をなくし、凪いだ水面のように古城だけを映していた。

雪菜の美しい肌と艶やかな唇が異形の人外を想わせる。

神憑(かみがか)りか!」初めてレイハーネの顔に焦りの色が見えた。

剣巫とは即ち巫女である。雪菜は強大な神霊を自らの身体に憑依させることにより人間では届かないレベルの戦闘力を手に入れたのだった。わずかでも制御を誤れば自らの人格を破壊し、周囲に凄まじい災厄を引き起こすことになるだろう。しかし、雪菜はその力を完全に制御していた。

「雪菜…」古城のためとはいえ迷わず神憑(かみがか)りを使う雪菜の覚悟に紗矢華は下を巻いた。

感情の消えた瞳で紗矢華の方を見た雪菜が古城の方へと走って行きもう1度槍を突きつけると同時に周囲に花弁を連想させる神格振動波の結晶を生み出し古城から溢れる魔力を次々と消していく、しかし数分の拮抗の後またしても雪菜は弾き飛ばされてしまった。

「雪菜!」無防備に投げ出される雪菜を受け止め心配する紗矢華。

「先輩…」しかし、雪菜には古城のことしか見えていないらしい。

「雪菜!!あなたがそこまでする必要はないはずよ。もう古城は止められないの!」

「ダメなんです。私は先輩に一緒に背負うって約束しましたから」雪菜は古城と出会って間もない時のことを思い出しながら紗矢華が制止する手をどける。

「紗矢華さん、先輩を止めてきます。私がもし帰ってこれなかったら先輩のことをよろしくお願いします。先輩は私がいないとすぐ無茶をするんです、誰かが見ててあげないとダメなんです。」そう言いながら雪菜は指から古城の肋骨を元に作られた模造天使(エンジェル・フォウ)化の危険を軽減するための指輪を外し紗矢華へと渡した。

「ダメよ、雪菜!他の方法だってきっと!」雪菜に帰ってくるの意思がないことを悟った紗矢華は必死で止める。

「紗矢華さん、そんな時間はもうありませんよ。先輩によろしくお願いしますね」再度紗矢華の手を振りほどいた雪菜の身体を白い光が満たし背中から白銀の翼が生えてくる。

七式特別降魔機槍(シュネーヴァルツァー)を取り込んでの模造天使(エンジェル・フォウ)化だと?やめろ!!」もはや原型を留めていない雪菜に向かって必死に叫ぶレイハーネ。

そんな彼女には見向きもさず純白の天使となった雪菜は未だ叫びながら圧倒的魔力を撒き散らし続ける古城の方へとゆっくりと進んでいき、慈しむように古城の身体を抱きしめる。

模造天使(エンジェル・フォウ)は高次空間から無限の神気を取り出すことで本物の天使へと変化する。つまり今の雪菜はこの世でたった1人無限の神気を持ち古城を助けられる存在になったのだった。

紗矢華の目には、古城を抱きしめる天使の瞳にうっすらと涙が流れたように見えた。永遠にも思える時間抱き合った2人を爆風が包み残されたのは抱き合う2人を閉じ込めた神格振動波の結晶だった。

「嘘だ…こんなことが…」計画が破綻し狼狽えるレイハーネを無視し

紗矢華は煌華鱗で2人を閉じ込める結晶を砕き古城と雪菜を引っ張り出した。

「煌坂…?」

「このバカ真祖!」目を覚ました古城に泣きながらビンタをくらわせる紗矢華。

「どうしたんだ、姫柊は…」自分の隣に横たわる天使の姿を見て全てを察した古城。

「あなたのせいで、雪菜がこんなことに!」呆然とする古城の胸を叩きながら泣き叫ぶ紗矢華の手から雪菜が付けていた指輪が転げ落ちる。

その指輪を拾い、救いを求めるかのように天使となった雪菜の指へと嵌める古城を嘲笑うかのように指輪が音を立てて砕け散る。

「もう、何をしても助からないわよ」

「そんなっ、なんで姫柊はオレのためにこんな!」

「あなたのためだからでしょう!雪菜はあなたと約束したからって、一緒に背負うって約束したからって!世界最強の吸血鬼なら、自分の周りくらい守りなさいよ!なんとかしなさいよ!」

「そうか…姫柊はそこまで…姫柊が命を張って助けてくれたならオレも命を張らないとな」紗矢華の言葉で我に返った古城はゆっくりと天使となった雪菜の身体へと近づいていく。

「ぐっ!!」雪菜に触れただけで古城の身体を雪菜の体から溢れる膨大な神気が犯す。

「姫柊…」その痛みをこらえ雪菜の首元へと顔を寄せ自らの牙を突き立て雪菜を離さない古城。

「ちょっと、何やってるのよ…。指が…」古城が何をしようとしているのかが分からなかった紗矢華だったが雪菜の指先が元に戻っていることに気づく。

「雪菜の身体にある膨大な神気を吸い取ってる…?」魔族にとって身体に神気を入れるということは自殺行為にも等しいことであり、身体が焼けるなどという程度では済まない痛みが古城の身体を襲っているはずだ。現に古城の口や身体の末端は焼けただれたように黒く変色している。しかし、そんな痛みを全く感じさせず古城は雪菜の首元から口を離さない。

「それ以上やったらあなたの身体が」古城の身体の8割程が黒ずんできたところで紗矢華が見ていられないと目を背ける。

「第四真祖っていうのは、世界最強の吸血鬼なんだろ。傍にいる女の子1人を救えないで何が真祖だ、皇帝だよ…オレは姫柊を助けるまで絶対に離さない」そう言いながら雪菜の神気を吸い続けた古城の祈りが届いたのか、雪菜の腕が古城の頭を抱き寄せた。

「もう…ボロボロじゃないですか…。無理しないでって言ったのに…。やっぱり私がいないとダメなんですから…」全身が黒ずみ見るに耐えない姿となった古城に抱きついたのはいつもと変わらない雪菜だった。

「よかった…姫柊戻ってこれたんだな…」

「よくないですよ、自分の身体を見たらどうですか?」微笑みながら古城へそう言いながら、制服の襟をまくり首元を古城の方に向ける雪菜。

「多分、今先輩に血を吸われたら私はほぼ確実に先輩の『血の伴侶』になっちゃいます。でも、それでいいと思うんです。先輩は私がいないとこうして無茶ばかりしますし。何より先輩と約束しましたから、全部一緒に背負うって」

「姫柊…」雪菜の覚悟を改めて知った古城は感慨深そうに雪菜の名前を呼ぶ。

「先輩、私は先輩のことが好きです。先輩とずっと一緒にいたい、最後まで先輩の力になりたい、そう思うんです。だから、もし先輩が私を『血の伴侶』にしてもいいと思うなら好きなだけ血を吸ってください」

「姫柊…先輩先輩って何回言うつもりだよ」そう言いながら再び古城は雪菜の首元に顔を埋め牙を突き立てる。

「あっ…んっ…先輩…」古城に本能のままに激しく血を吸われ声が漏れてしまう。

「姫柊はやっぱりいい匂いがするな」すっかり回復した古城が懐かしいことを言った。

「まったく…先輩は本当にイヤラシイ人ですね」

 

「あのー…見つめあってるところ悪いんだけど、私がいることも忘れないでくれるかしら?」熱い吸血シーンを見せられ顔が赤くなっている紗矢華がレイハーネを連れて2人の所へやってくる。

「ああ、悪いな煌坂」急いで抱き合っていた身体を離し紗矢華の方へと体を向ける。

「それで、この子の身柄なんだけど…」

「そやつの身柄は渡してもらうぞ、第四真祖」そう言いながら紗矢華からレイハーネを奪い取ったのは、突如現れたのは滅びの王朝の第9王子イブリスベールだった。

「待てよ、イブリスベール!」

「こいつは滅びの王朝の吸血鬼だ、今回の処罰はこちらで決める」

「それじゃ、こっちの気が収まらないって言ってるんだよ!」イブリスベールに食ってかかる古城。

「そうか、ならこうしよう」そう言うと突如レイハーネの周りに竜巻が生じ彼女の体は跡形もなく消え去った。イブリスベールの眷獣ドゥアムトエフによる攻撃だ。

「おい、なにやってんだよ!」いきなりのことで叫ぶ古城を見てイブリスベールが嘲笑う。

「以前お前には真祖の器があると言ったが、どうやら間違いだったようだ。お前はただの我儘な子供だ、第四真祖。いや、暁 古城。いずれ今回の件については聖域条約機構を通してそれ相応の謝罪をする」そう言い残しイブリスベールは霧となって消えてしまった。

「クソっ…イブリスベールのやつ」それなりに話の分かる相手だと思っていただけに古城の中にある感情は複雑だ。

「先輩…とりあえず、今は帰りましょう」

「そうね、私たちもボロボロだし…街もだいぶ壊れちゃってるし」

「そう…だな」

「そういえば、紗矢華さん。先輩のことを呼び捨てにしてませんでした?」

「いや、ち、違うの雪菜!その…それは古城がそうしろって言うから…」

「私がいないあいだになにかイヤラシイことでもされたんですか…?」どんどんと声が小さくなる紗矢華に質問攻めをする雪菜。

そんな2人のやり取りを見ていて緊張感がすっかり失くなってしまった古城は2人のあとに続いて凪沙の待つ家の方へと歩いて行った──




疲れた…。
どうだったでしょうか…これにて第1章 滅びの王朝の逆徒編は終了となります。(若干の加筆修正を後で加えるかも知れませんが)
さて、第1章が終わったということで批判でもよろしいので感想&評価をいただけたらなというか…是非お願いします!

次回からは数回の幕間を挟みつつ短めの第2章へと移っていけたらなと思います!
今のところ第3章まではしっかりとした話を考えられているので当分このスピードで更新できそうです^^*


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第11話 幕間

今回は、前の章と次の章を繋ぐ幕間となります。
今回幕間ということもあり退屈かとは思いますが、お付き合い下さい^^*




壮絶な戦いを終え初めての夜が明ける。

あんなことがあったにも関わらず暁家の面々はいつも通りの朝を過ごしていた。いつもと違うことがあれば雪菜と古城があまり話さないことぐらいだろうか。

昨日の被害もあり、絃神島はほぼ全域で学校が臨時休業ということになり、それに合わせて延期されていた春休みへと入ることが決まった。

長期休暇の1日目ということと昨日の疲れもあり古城たち3人は午前中をダラダラと過ごした。

「凪沙ー、昼はどうするんだ?」

「凪沙ちゃんなら、先輩のだらだらとした雰囲気に耐えかねて友達と遊びに行っちゃいましたよ」二度寝から起きてきた古城が昼飯の催促をしたが、凪沙は休み初日から時間を浪費することを嫌ったらしく早々といなくなっていた。

「仕方ない、なにか作るか…」

「お手伝いします」古城はこれでもなかなかに料理ができる。気だるげにキッチンへと向かう古城はシャツを引っ張られ、足を止めた。

「こ、古城は休んでおきなさいよ。料理なら私と雪菜でするから」

「煌坂って、料理できるのか!?」

「なによ、それ。出来ないと思われてたわけ!?」古城を気遣ったというのに失礼なことを言われた紗矢華は機嫌を悪くしてソファーに座ってしまう。

「仕方ない、自分でするか…。姫柊手伝ってくれるか?」

「もちろんです」そう言うと2人はそれぞれ作業を始めていく。

「あっ…」黙々と作業を進めていた古城に雪菜の声が聞こえた。

「どうした?」

「少し手を切っちゃいました…」

「絆創膏どこにあったかな」

「大丈夫です…ほら…」呆れながら絆創膏を探しに行こうとする古城に切れた指を古城に見せる。

「あっ」雪菜の切れた指が徐々に治っていっていた。

古城は昨日のことを思い出し、気まずくなる。傷が勝手に治るということはほぼ間違いなく雪菜が古城の『血の伴侶』となっていることを示していた。

申し訳ない顔をする古城をよそに雪菜は1人で料理の続きを進めていく。

「先輩、ぼうっとしてないで手伝ってください」

「ああ、悪い」それからは話すこともなく料理を終え、不機嫌な紗矢華を呼び3人で昼食を食べる。

テレビから流れてくるニュースはどれも昨日の事件の話で持ちきりだった。どうやら国民の中には昨日のことで第四真祖という存在を疑問視する声がちらほら上がっているらしい。

「これから、大変になるわね」

「まあ、仕方ないさ。1週間は休みをくれる人工島管理公社の人達には感謝しないとな」

「そうですよ、それが終わったらたっぷり働いてもらうので覚悟しておいてくださいね」お情けでこの大変な時期に休みをもらっている古城だが、その休みが終わればまた不眠不休での公務が待っているのだ。

休みのあることに喜んでいいのか喜ばない方がいいのか迷いながら、今日はひたすら寝ることにした古城は自室のベッドへと向かっていった。

「紗矢華さん?」

「どうしたの?雪菜」古城が寝静まったことを確認して雪菜は話しだす。

「2日くらい先輩を1人にしてあげませんか?最近色々と大変そうですし…」

「それは、そうしてあげたいけど監視役はどうするの?」

「それは…少しの間特区警備隊(アイランドガード)の皆さんにお任せしても大丈夫かと…先輩は第四真祖ですし」

「1度上申してみるわ」

「ありがとうこざいます!紗矢華さん」紗矢華は雪菜に甘いため断ることが出来ない。すぐに携帯を取り出し師である遠藤 縁へと電話をかけた。

「どうでしたか…?」

「一応了承は得たんだけど…」

「何かあったんですか?」

「また罰ゲームを…」紗矢華はことある事に縁に罰ゲームと称してメイド服を着せられていたりする。

「そうと決まれば私達はもうどこかに行きましょう」

「そうね」そう言うと2人は分担して食器を洗い古城宛に置き手紙を書いて古城を起こさないように静かに外へと出ていった──

 

三度寝から起きた古城は喉の乾きを潤そうと冷蔵庫を漁りミネラルウォーターを口に含む。

「あれ、あいつらどこ行ったんだ?」そう言ってリビングを見渡すと一枚の手紙が置いてあった。

〈今日から3日間私達は家に帰らないので、先輩は少しの間ですがたっぷり休息をとってください。監視の方はなにかあれば特区警備隊(アイランドガード)の方々に任せてあるので心配しないでください。凪沙ちゃんもその間は友達の家に泊まってくるみたいなので存分に1人を満喫してください。〉女の子らしい丸文字で手紙にはそう書かれていた。

「なんだか気を遣わせちまったみたいだな」そう言いながらも雪菜と紗矢華と凪沙に感謝して久方ぶりの1人を満喫する古城だった──




前回の更新のあと感想を何件かいただきました!
この方向性や書き方でいいものか色々と考えていたので少しほっとしています( ̄▽ ̄;)

もしよければ他の方も批判要望等なんでもよいので書いていただければなと思います。評価の方も宜しければお願いします!

さて、次回から短めではありますが第2章へと入らせていただこうと思います。バトル要素は入れる予定はないですが、皆さんが大好きであろうあの子が登場する予定なので期待しておいてください!それではまた!


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再来の零篇
第12話 藍羽 浅葱Ⅱ


累計UA4000突破ありがとうこざいます!今回から短めですが新章「再来の零編」が始まりました!前回も言いましたが皆さんがおそらく大好きであろうあの子が出てきます、期待してお読みください!




雪菜達3人が気を利かせて古城のために家を空けてくれたとはいえ、特に何もすることもない古城は溜まったメールを整理し那月に課せられた課題に少し手をつけ飽きたところで時計を見た。

「もう20時か…晩飯どうするかな」夕飯のメニューに困った古城は冷蔵庫の中へと目を向けたが凪沙が買い物に行く予定だったのか大したものは入っていなかった。

「とりあえず外に出るか…」いつものお気に入りの白いパーカーに袖を通しあくびをしながら古城は1人外へと出て行く。

今日から学生が春休みに入ったこともありどの店も混んでいるようだった。空いているのは高級店か外から見てもわかるようなC級料理店くらいだった。古城1人なら並んでもすぐに店に入れる可能性が高かったが、家族連れや友人同士和気藹々としている人達の横で1人寂しく夕飯を食べれるほど古城は孤独耐性がなかったためコンビニへと向かおうとした。

「あれ、古城?」後ろから聞きなれた声がする。浅葱だ。

「こんなところで1人で何してるの?さては、1人でご飯食べる勇気がなくてコンビニで済まそうとしてるわね?」

「えっ、いやっ、そんなことは…」

「図星ね、うちの所も誰もいなくてさー、私も同じ感じだったから気にしなくていいわよ」浅葱の両親は仕事が忙しく、姉も日本にいるため家にいないことがむしろ普通なのだ。

「別に気にしてはないけどな」

「そういえば、姫柊さんと煌坂さんは?」いつも隣にいる2人がいないことに気づいた浅葱は古城に不審な目を向ける。

「何もしてないからな?オレのことを気遣って3日間1人にしてくれるんだよ」

「ふーん、てっきり発情して血を吸いまくって逃げられたのかと」

「おい!発情とか血を吸うとかこんな人の多い街中で言うなよ!」昨日2人の血を吸ったことを思い出し古城は焦る。

「なら、いいんだけど。ねぇ、古城1人なのよね?」少し嬉しそうに笑う浅葱が古城の顔を覗く。

「ああ、1人だよ今日は」

「ふーん、なら特別に私が古城に手料理作ってあげよっか?」

「いや、それだけは断る」

「ちょっと!なんでそんな即答するのよ!」古城は浅葱の料理の腕を知っている。彼女には周りしか知らないが小学生の頃に作ったクッキーがクラスの男子を14人も病院送りにするという信じられない逸話があるのだ。

「いや、もうこんな時間だし外で食べた方が楽でいいって意味でな?」本当のことを言えばなにをされるか分からない古城は全力で言い訳をする。

「まあ…そうよね…」

「ああ、だからどっかテキトーな店に入って飯食べようぜ」なんとか身の危険を回避した古城は胸をなでおろしながらどこか空いてそうな店を探す。

「ねぇ、古城。あの店こないだテレビでやってて行きたかったんだけど行ってもいい?女友達連れてくのはちょっとあれだからさ」

「おう、いい…え?」浅葱が指さしたのはさっき古城が明らかに外見からC級料理店だと踏んでスルーしたボロくさい店だった。

「何固まってんのよ、男がこんなとこでクヨクヨしない」そう言うと浅葱は古城の手を引っ張り異臭がしそうな店へと古城を引きずり込んでしまう。こうなると浅葱には逆らえないことを知っている古城は渋々彼女の後ろに付いていく。

中は以外にも満席に近かったが都合のいいことにテーブル席が1つ空いていたためそこに座る。店こそ汚いものの中はよくある隠れた名店といった雰囲気を醸し出しており、古城の懸念していたような悪臭はせず汚いながらも掃除が行き届いていた。

「思ったより綺麗で安心したけどさ、ここなんの店なんだ?」2人を挟んでテーブルの大半を占める鉄板を見ながらシンプルな疑問をぶつける。

「鉄板焼きに決まってるでしょ?一応お好み焼きとか焼きそばとかそういうのもしてるみたいだけど、島の近くで取れた新鮮な魚介とステーキが超絶美味いらしいのよ!」ずっとこの店に来たかったのか浅葱のテンションは凄く高い。浅葱はこれでも大食漢であり、家がそれなりの金持ちということもありそれなりの美食家だったりもするのだ。

古城もこんな日に並ばずしてステーキが食べれると知りテンションが上がった時だった。

「ねえ、古城?」

「なんだ?」浅葱にいきなり名前を呼ばれたのだ。

「昨日の事件の間、龍脈から魔力建材に供給される魔力が0になっちゃっててね?この島が沈まないようにするために徹夜ですごく頑張ったんだけどー…」いつもとは違う声のトーンで話し出す浅葱の言う事を聞き、申し訳ない気持ちでいっぱいになる古城。

「悪い、また浅葱には助けられたんだな。ありがとう」

「別にいいのよ、そんな。ただのバイトだし…」シンプルに感謝を述べられ照れる浅葱。

「仕方ない、今日は奢るよ。この前色々と調べてもらった分もあるしな。なんでも好きなもの食べてくれよ」

「え、ほんと?いいの?」

「ああ、浅葱には助けられてばかりだからな」そんな気前のいいことを言う古城の笑顔は次の瞬間崩れ去ったのだった。

「なっ…!!」隣の席から流れてくる鉄板焼きのいい匂いに空腹を刺激された古城がメニューを開けた時だった。古城は自分が大変なミスを犯したことに気づいたのだ。

「メニューに値段が書いてない!?」メニューに値段を書かない理由は2つ材料が高価なものでありその日によって仕入れ値が変わるから。そしてもうひとつは接待で使うときに相手側が値段を気にしなくて済むようにという理由だ。どちらにしてもこの店が俗に言う高級店であることを示していた。周りを見渡した古城は自分たち以外の客が綺麗なスーツを着たサラリーマン達であることに気づいた。

「なあ、浅葱。お前奢ってもらおうと思って連れてきただろ…」

「いいじゃない、お金持ちでしょ?それに、武士に二言はないでしょ?」若干の申し訳なさを今になって感じ始めたのかいまいち笑顔が決まっていない浅葱。

「まあ…ここ払わせるわけにもいかないしな…、好きなだけ食べてくれ」恐らくかなり高価であろうこの店の会計を半分とはいえ彼女に払わせるのは酷だと思った古城は覚悟を決めた。

古城には今、皇帝という立場になったことで自由にできるお金がかなりの額用意されている。普段は元々が貧乏性ということもあり、自分の飲み物代や凪沙のアイス代そして浅葱や基樹に課題を見せてもらう時のファミレス代くらいしか使わない古城だったが昨日の今日だ、多少の贅沢をしても許されるだろう。

「まあ、とりあえずせっかくだしなんか色々頼もうぜ」そう言うと古城はメニューから浅葱の好きそうなものを中心に注文していった。

やはり古城の見立ては正しかったらしく、近海で水揚げされたばかりの魚介類はどれもプリプリで日本から特別に取り寄せる牛肉はどれもジューシーで今まで食べた中でダントツに美味しかった。

たらふく好きなものを食べ、満腹になった2人はその後会計の金額に目が飛び出そうになった。

「2人合わせて6万か…美味かったけど当分行くことは無いな…」

「私もあそこまで高いとは思わなかったわ、ごめんね?古城」

「いいよ、久しぶりに2人で飯が食えて楽しかったしな」それは古城の本心だった。

「そっか…ねえ、古城ちょっとあそこに座っていかない?」そう言って浅葱は公園のベンチへと腰を下ろす。

特に帰ってすることの予定があるわけでもなかった古城も浅葱の横に腰掛ける。

「なんか、こうして古城と2人でご飯食べて話すのって不思議な気分ね」

「そうだな、いつもは姫柊や煌坂がいるもんな」

「昔はよくこうして2人で夜まで遊んでたのにね」そう言いながら古城からもらったピアスを触りながら昔のことを思い出す浅葱。

春の気持ちいい風に吹かれながら空を眺めている浅葱は控えめに言っても美人だった。

「古城?」浅葱は自分を見ながらぼうっとしていた古城に不思議そうに声をかけた。

「ああ、なんでもないよ。ちょっと喉乾いたから飲み物買ってくる、なにかいるか?」

「じゃあ、冷たいお茶で」

「行ってくる」そう言うと古城は近くの自動販売機へと走っていく。

「あれ…いつもつけてるよな」飲み物を買いながら自分があげたピアスを付けている浅葱のことを思いだす。もう劣化していてもおかしくないほど使っているにも関わらずあげた当初と変わらない輝きを放っているのは浅葱が大切に扱っている証拠なのだろう。

そんなことを思っているとこの前の浅葱とのお見合いをまた思い出してしまい、雪菜が自分の『血の伴侶』になっている可能性が極めて高いことなど割とシャレにならない問題が山積みであることを改めて知った古城は寒気を感じる。

そんな悩みを口に含んだコーラと一緒に飲み込み浅葱の元へと戻る。

「ほらよ」

「ありがと」古城からお茶を受け取った浅葱は古城との懐かしい思い出話に花を咲かせ始める─

「そろそろ、帰ろっか」1通り話終わり気が済んだのか立ち上がった浅葱は名残惜しそうな顔をしながら古城にそう告げる。

「そうだな、家まで送ってくぞ?」そんな浅葱の気持ち等知らずに古城はいつも通りだが優しい言葉をかける。

「いいわよ、すぐそこだし。それに私の家まで来てたら補導されるわよ」

「それは、困るな…」明日の朝刊やニュースに『皇帝 第四真祖 暁 古城 補導される!!』というような内容が載ることを想像した古城は苦笑を浮かべた。

「そういうことよ、ほら帰りましょ」

「ああ、じゃあな浅葱。今日は久々楽しかったよ」

「私も、じゃあね古城」そう言うと2人はそれぞれの家の方向へと分かれていった──

 

家に帰り風呂に入った古城は携帯に浅葱からのLINEが届いていることに気づき内容を確認した。

〈今日は楽しかった、ありがと。お礼ってわけじゃないけどこれあげるから好きに使って〉絵文字も顔文字もない簡素な文と共に1件のファイルが添付されていた。

「なんだこれ?」心当たりがなかった古城はすぐにファイルを開けた。

そこには春休み中の課題が全て完成した状態で入っていた。

心の中で浅葱に感謝し、0時を過ぎた時計を見た古城を急激な眠気が襲いそのまま自室のベッドで古城は寝落ちしてしまった。

 

深夜、古城の横で小さな魔力の揺らぎが起こり、何か大きなものが寝ている古城の横に落下した──

 

「ん…」カーテンの隙間から刺す朝の日光を鬱陶しく感じながら起きようとした古城の手に何か柔らかいものが触れている。

寝ぼけた古城は無意識にその柔らかいものを何度か触る。

「ひゃっ…!」どこかで聞いたような声が聞こえ、自分の隣を向く古城。

「なっ…!姫柊!?」そこには裸で寝転がる雪菜にそっくりな女の子が寝ていた。

「む…何…?ひゃぁっ…!古城くん!?」寝ぼけ眼を擦りながら起きる女の子は下着姿の自分を見る古城を見つけ小さく悲鳴をあげた。

「お前…姫柊じゃないな?この前の!」自分の呼び方の違いで目の前の女の子が雪菜ではないと分かった古城の頭に少し昔の雪菜によく似た零菜という名前の女の子がいた事を思い出した。

「もう…萌葱ちゃんったらなんで古城くんの部屋のしかもベッドに転移させるかなー…。私、人目につかないビルの屋上とか希望したんだけど…」古城の言う事など無視した零菜は1人なにかブツブツ言っている。

「おい、姫柊…じゃない零菜!」

「一応私も姫柊なんですけどね?どうしたの?古城くん」

「お前、なんでいきなりオレのベッドで寝ているんだよ。あと服着てくれ」

「前回より萌葱ちゃんが頑張ってくれたおかげで下着までは飛ばせるようになったんだけど…服までは無理だったか…」零菜は萌葱の補助付きという条件はあるが自らの眷獣天球の青(エクリプティカ・サフィルス)の能力によって時空を越えることが出来る。

「ちょっと遅くなっちゃったけどこの前のお礼がしたいって言うのと、ママがうるさくて逃げてきちゃった」可愛く舌を出しながらあまり聞き捨てならないことが聞こえた気がするが他所の家庭環境に首を突っ込む趣味は古城にはないため古城は黙っている。

「ねえ、古城くん今日って何月何日?」雪菜の制服に着替えながら零菜はそんなことを聞いてくる。

「確か3月13日だと思うけど、どうかしたのか?」

「そっかー、もう少し早く来れたら古城くんとママの熱い吸血シーンが見れたのにー…」なにやら小声でブツブツ言っているが古城には聞こえない。

「お前、母親と仲悪いのか?」

「仲悪いっていうか、すぐ怒るんだよねー」

「父親は?」

「大体のことは許してくれるかな?」

「娘に甘いんだな…」呆れた顔でいう古城を見て零菜は吹き出しそうになる。零菜の父親は古城なのだから仕方がない。

「今晩泊めてもらってもいい?ダメならどこか外で寝るけど」

「あー…まあ、1日くらいならいいけど」何故かこの零菜という女の子は他人という気がしない。少し悩んでから特に害もないので許すことにする古城はそう言うととりあえず顔を洗いに洗面所へと向かう。

「ねぇ、古城くん凪沙おばさん達は?」

「おばさんってな…凪沙が聞いたら悲しむぞ…。今はオレ1人だよ気を利かせて1人にしてくれてるんだ」

「ふーん、1人なんだ。じゃあ、あとでこの辺案内してよ」

「案内って…お前この島の人間じゃないのか?」

「この島の人間と言われたらこの島の人間だけどー…?」はぐらかす零菜に不審感を抱きつつも嘘は言っていなさそうなのでそれ以上は聞かないようにする。

朝の用意が終わり二人分の簡単な朝食を用意した古城は零菜へとコーヒーと食パンを渡す。

「ありがと、テレビ付けてもいい?」

「ああ、好きにしてくれ」古城の許可を得た零菜はリモコンに手を伸ばしチャンネルを次々と変えていく。

「え、意外…。古城くん支持率低っ」ニュースでは街頭調査によるこの国の第四真祖の支持率を示したボードが映されていた。こないだの吸血鬼暴走事件を境に古城の支持率は急降下していた。

「この前色々とやらかしたからな」まるで他人事のように言う古城。

「まあ、大丈夫だよ。すぐによくなるから」未来の古城の支持率は常に90%台を越えていることを知っている零菜は古城を励ますようにそう言った。古城の悩みの種がまた増えてしまったこともあり2人はそれから話すこともなく朝食を食べ終わった。

時計に目を向けるとまだ8時すぎだったため古城は二度寝をしに行こうと自室へと向かう。

「街の案内して欲しいんだったか?少し寝るから昼前になったら起こしてくれ」何故かテレビを食い入るように見ている零菜に向かって必要なことを言った古城はすぐに深い眠りへとついた──




どうだったでしょうか…タイトルはもっといいものが思いついたら変える予定です笑
もしなにかいい案があれば感想欄にでもちょこちょこーっと書いていただけると嬉しいです。

感想や評価を最近ちょっとずついただけるようになりとても嬉しい作者です笑
やる気になるので批判でもなんでもいいのでお暇な時にでも書いてやってください!それでは次回は零菜と古城の親子がデート?する話なので楽しみに待っててください。ではまた!


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第13話

1.2.3話各話UA1000越えありがとうこざいます!
最近投稿した話は大分UA数に差がなくなってきて安定さんが多いのかなー?と笑
より多くの方に楽しんでもらえるよう頑張らせて頂きます!

それではどうぞ!


「ふんふんふ〜んっ♪」古城が寝てから2時間が経とうとしているにも関わらず零菜は鼻唄を歌いながらCMの間でもテレビから目を離さない。自分が生まれる五年ほど前の番組に新鮮さを感じるのは仕方ない。

画面の左上に表示される時刻が10時を過ぎたところで零菜はテレビを見るのをやめて古城の寝ている部屋へと足を運ぶ。

「古城くーん、起きてーお昼過ぎちゃったよー?」

「なっ…おい零菜!昼前に起こせって言っ…」

「目覚めた?」零菜の言葉に飛び起きた古城だったが、隣にある目覚まし時計を見るとまだ10時を少し過ぎたところだった。

「お前…しょうもない嘘つくなよ、焦るだろ」

「ごめんね、古城くん。だって早く古城くんと外行きたかったんだもん」

「それなら普通にそう言えよ…」舌を出しながら可愛く笑う零菜に負けた古城はすぐに彼女を許してしまう。零菜は雪菜とはいつも言い合ってはいるが古城との仲はいい方だ。もっとも、古城が忙しいせいもありなかなかかまってもらえず古城にベッタリな所があったりもするのだが。

「ふーん、古城くんってこの時から女の子に甘いんだね」

「甘いのか…?」

「でも、みんな言ってるよ?まあ、そんなことは置いといてさ起きたなら早く行こうよ!」

「ああ」ルンルンで古城の手を引っ張り外へと連れ出す零菜になす術もなく古城はあとをついていく。

「なあ、どういうところに行きたいとかないのか?」

「うーん、さっき色々テレビで見てて気になるところはあったんだけどね、古城くんと2人ならどこでもいいよ」

「どこでもいいっていうのが一番困るんだよな…」そう言いながらとりあえず歩いていく2人。

昨日もそうだったが春休みなので昼前と言えど人は多い。

「どうした?気になるのか?」その中でも一際賑わいを見せているゲームセンターを見つめる零菜に古城は聞く。

「んー、ちょっとね。ママはあんまりああいう所行くといい顔しないし」

「なかなか厳しい人なんだな、お前の母親は」

「そうなんだよ!毎日毎日、稽古稽古勉強勉強ってあれはダメ、それはダメってママがあなたと同じくらいの頃はそんなことしてませんでしたって。ママの時代とは違うんだから仕方ないじゃん!それに、ママだってどうせ隠れてしてたんだろうしー」

「おいおい、落ち着けよ零菜。お前の母親の厳しさと頑固さはよく分かったから」古城は人混みの中で母親の文句を次々と言い目立つ零菜を必死で宥める。零菜には暁家の血が混ざっているのだ。凪沙のおしゃべりなところが遺伝していてもおかしくない。

「で、ゲーセンに来てなにかやりたいもんでもあるのか?」

「うーん、1通り見て回りたいかな。あ、古城くん!プリクラ撮ろうよ!」

「えっ…、まじかよ…」

「ダメなの?」

「いや、ダメってことはないんだがな?」そう言いながら古城は年頃の男子特有の恥ずかしさというか照れくささを感じる。

「なら、行こうよ」零菜の予想外に強い腕力でプリクラの機械の中へと突っ込まれた古城は諦めて100円硬貨を4枚機械へと投入する。

上機嫌な零菜は古城の腕をつかみ身体をくっつけ楽しそうに数枚の写真を撮り裏に回って写真に簡単な落書きをしていく。

「古城くーん、はい、これあげる」零菜は恥ずかしさに負け外で零菜が出てくるのを待っていた古城に写真が印刷されたシールの片方を渡す。

「お前もねこまたんが好きなのか?」写真の端の方に書かれたキャラを見た古城は微笑みながら零菜に問う。

「うん、好きだよ?でもお前もって?」

「いや、なんでもない」それからゲームセンターの中を1通り回り2人は外に出る。

「で、次はどこに行くんだ?」

「……」

「零菜?もしかしてあれが欲しいのか?」

「別にそんなのじゃ…!」

「いいよ、取ってやる」そう言うといつぞやの雪菜に取ってやったねこまたんのストラップのUFOキャッチャーに古城は近付いていく。

コインを入れ狙いやすそうな場所へとアームを動かしていき、古城の操作で絶妙な位置へとアームが下ろされていく。

「「やった!」」不格好に頭をアームに掴まれ首を吊るような形で運ばれてくるストラップを見て2人がガッツポーズをする。そこから落ちることもなく取り出し口へと出てきたストラップを取った古城は零菜にくれてやる。

「ほんとにもらっていいの?」

「よくなかったら、渡さないだろ」あまりにも零菜が喜ぶため照れる古城は足早に道を歩き始める。

「ありがと!古城くんに何かもらうなんて久々だから嬉しい、大事にするね?」

「なにかあげたことあったか…?」

「まあ、気にしないの。ほらお腹空いたからご飯食べに行こ?」

「自由だな…お前は」奔放な零菜に振り回されながらもそれなりにこの状況を楽しむ古城は零菜の後を歩いていく。

「めんどくさいから簡単なものにしよっか、あそこ行こっと」

「おいおい、パンなら朝食べただろ…」

「古城くんってパンの次はご飯じゃないとダメとか硬いこと言う人だったの?それにパンであってパンじゃないようなものでしょ?」

「なんなんだよそのなぞなぞみたいな言い分は…」呆れながらも零菜が向かったハンバーガーショップへと入る。

それぞれ頼んだものを食べていると零菜が思い出したように話し出す。

「ねえねえ、古城くん。バレンタインデーって誰にもらったの?」

「バレンタイン?」

「チョコとかお菓子とか、1ヶ月前にくれた人覚えてないの?」鈍い古城に少しイライラしだす零菜。

「あー、浅葱と姫柊と煌坂からもらったような…」

「え、ドクとママと紗矢華さんから!?」

「ドク?ママ?」

「いいから、何貰ったの?」零菜の呼び方を気にする古城に興奮気味の零菜はそう言いながらグイグイ近づいてくる。

「確か…浅葱はスーパーの特売品で姫柊と煌坂は非常食って言ってたな」

「古城くん…」古城が鈍すぎて哀れみの目で見つめる零菜。

「なんだよ…」

「今日は何日?」

「13日だな」

「明日は何日?」

「そりゃ、決まってる14日だ」

「もう…ここまで言ってなんで気づかないのよ…。いい?古城くん。明日はホワイトデーなんだよ!?」

「ああ、そうだな」

「それ知っててその反応なの!?ママ達も苦労する訳だよ…。仕方ない色々楽しませてくれたお礼に助けてあげるか…」

「古城くん、お返し買いに行こっか。1人じゃ不安だから私がついていってあげるよ」

「おお…」

「そうと決まれば早く行こ!」

そうやって古城はまた零菜に腕を引かれ外へと出ていった──




今回短くてすみません( ̄▽ ̄;)
色々と忙しくて…
次回でこの章も終わるかと思います!

明日が忙しいので、今日の夜更新がなければ多分明日の更新はないです…。

よければその間過去話を見直したりなどして感想書いていただけると嬉しいです。
それではまた!


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第14話

今回少し長めです!

それと今回で第2章再来の零編が終わります!まだこのタイトル名にあまり納得が言っていないので感想欄とかでタイトル名考えてくれる方を募集中だったり…なければこのまま行きます笑

それではどうぞ!


1日で一番気温が高くなる2時ごろ項垂れながら歩く1組の男女がいた。

「暑い…溶けちゃう…」

「暑いな…」

「第四真祖の古城くんでも陽射しは結構くるんだ」

「まあ、吸血鬼だからな。そういえばお前も吸血鬼だったな…」

当たり前だが零菜は古城の娘なので吸血鬼だ。

パーカーで直接の陽射しを避ける古城とは違い、直射日光を浴び続ける零菜は気だるげだ。

「とりあえず早く行こうよ、屋内なら涼しいでしょ」

「それは賛成なんだけどさ、お前どこに行こうとしてる?」

「えっ……」

「当ても無く歩いてたのか、ショッピングモールはこっちだ」いつものノリで歩いていた零菜はここが零菜の住む世界の20年前だったことを思い出す。

「はははー、ぼうっとしてたよ」

「なんか見た目だけじゃなくて色々姫柊に似てるよな」

「え?」零菜の顔から察するに自分が母親に似ていると言われるのはあまり嬉しいことではないらしい。そんなことを知らない古城は1人で続けた。

「いや、なんか少し抜けてるところとか好きなものも似てるみたいだしさ」

「似てないよ!」

「そんな怖い顔するなよ、もう言わないからさ」古城は何故彼女がそんなに雪菜と似ていることを嫌がるのか分からないがこれ以上言うと怒らせるだけなのでやめておく。

「ほら、ここだよ」

「おー、おっきい」

「で、どの店に…」

「とりあえずあそこでアイス食べよ!」島で一番大きいショッピングモールに来てテンションが上がったのか零菜は暑さを紛らわそうとすぐ近くのアイス屋へと走っていく。

絃神島は年中暑いため氷菓がよく売れるため春でも列が出来ていることは珍しくない。

例に漏れず短い列ができていたので最後尾に並ぶ。

「どれがいいと思う?」

「その辺の人気とか書いてるやつでいいんじゃないか?」

「古城くんってそういう人なんだー、もっと冒険しようよ冒険!」特に食べたいものがないときは人気だとかオススメと書いてある商品を無難に選ぶ古城に零菜が文句を言ってくる。

2人は少しの間列に並びそれぞれ好きなものを注文し、商品を受け取り外のテラス席へと座る。

「なあ、零菜それなんの味だ?」禍々しい黒色のアイスの中に緑の固まりが混ざっている奇妙な食べ物を指して古城が聞く。

「これ?なんかイカスミ味のアイスにペパーミントのポップキャンディが入ってるんだってー」

「お前、よくそんなもの頼むな…」

「イカスミの鮮度には自信あるみたいだよー?」

「そうか…」呆れる古城の前で零菜が禍々しいアイスを口に入れた。

「うっ…おぇっ…」

「どうした?美味いか?」

「う、うん。美味しいよ!古城くんにも分けてあげる」

「いや、待て。さっきおぇっって言ったよな!?まずかったからってオレに食べさせようとするな」

「えー…」ボヤきながら古城が無難に選択したバニラアイスを羨ましそうに見る零菜。

「あー…、ほら変えてやるよ」見かねた古城は仕方なく零菜と自分のアイスを交換してやった。

「古城くん、ありがとっ!やっぱり古城くんは優しいね」

「これで腹壊したら恨むからな…」

「んー!やっぱりアイスはバニラだよねー、うまいっ」古城の言う事など無視し受け取ったアイスを零菜は上機嫌で食べている。

それを見て古城もアイスを口に運ぶ。

「ぐっ…おぇっ…」イカスミアイスだけの味ならなんとか食べれるが、その間から飛び込んでくるペパーミントの辛さがなんとも言えない不協和音となり吐き気を誘う。そのうえポップキャンディが口の中で弾けているのだからもう何が何だか分からない。一口目を食べ終わった古城は第四真祖になってから初めて命の危険を感じていた。

「どしたの?古城くん」元は古城のものだったバニラアイスを一瞬にして完食した零菜が首をかしげてこっちを向いている。

「お前な…」古城はそう言いながら捨てるのも勿体ないので残りを一気にかき込んだ。

「ごめんごめん、凄い味だったね」なんとか味を感じる前に飲み込み一息をつく古城に零菜が手を合わせて謝ってきた。

「もう、いいよ」

「じゃあ、気を取り直して買い物に行こー!」

「悪い、その前にちょっとトイレ」そう言うと古城はトイレへと走っていった。

「散々な目にあったな…」まだ喉の奥の方でポップキャンディがパチパチと弾けている感覚がしアイスの味を思い出してしまった古城を再び吐き気が襲う。

なんとかそれを堪えトイレの外に出る。

「古城くん遅かったね、他の人とどっか行っちゃおうかと思ったよ」

「行きたきゃ行け」怒っているのか少し古城は不機嫌だ。

「ごめんごめん、これからキッチリお返し選びは付き合うから、ね?」

「はぁ…頼むぞほんと」何故かこの女の子に謝られるとすぐに許してしまう古城だった。

「最近その3人が欲しそうにしてる物とか、なんかある?」

「浅葱は食うのが好きだし、姫柊も煌坂も女子だしチョコは好きだろ?だからチョコでも買いに行こうかと思うんだが」

「なんで古城くんはそんなに短絡的なの…」

「そんなんじゃ、皆古城くんから離れちゃうよ?」

「怒られるのは困るな、3人とも怒らせると面倒だしな」

「そういうことじゃなくてー…、とりあえず最近無くしたものとか古城くんが3人と話してて気になったこととかないの?」

「あー、それなら…姫柊はオレの肋骨でできた指輪が割れたな」

「肋骨!?ママってどんな趣味なの…、ほ、他は?」

「浅葱は…ピアスか?」古城は、昨日浅葱と話をしたときに何故か気になったピアスのことを思い出した。

「指輪とピアスか…紗矢華さんは?」

「煌坂はー…ポニーテール?」

「え?」

「いや、だから長いポニーテール」

「へ?」

「いや、だから煌坂といえば長いポニーテールかなーって」

「古城くん、ふざけてる?」

「いや、別にふざけてないぞ!?オレは思ったことをだな」

「ふーん…」何故か白けた目で見てくる零菜の視線が痛い。

「なら、髪飾りとか?でも指輪、ピアスときて髪飾りはちょっとなー」

「髪飾りじゃダメなのか?」

「チョロい紗矢華さんなら、それでも喜ぶとは思うけど…。とりあえずお店行こっか」

「チョロいって言うなよ…」そう言うと零菜はアクセサリーやジュエリーが並ぶ高級感漂うフロアの一角へと古城を連れてきた。

「お客様どうされました?彼女さんへのプレゼントですか?」

「彼女?私古城くんの娘…」

「娘さん!?」

「なに馬鹿なこと言ってるんだお前は」この年でこんな大きな娘がいるなんて思われたら一溜りもない古城は零菜の頭を掴んだ。

「ははは、ついうっかり…。ただの友達です、彼がバレンタインのお返しになにかあげるものを探してるんですけど」

「左様でございますか、どんな方でしょう?」

「えーと、1人はスタイルのいい金髪、もう1人が黒髪ロングで…」

「お1人じゃないんですか!?」古城が何気なく質問に答えていると店員さんが驚きの声を漏らした。

隣にも美女を連れその子以外にもまだ何人かの女の子をこの年で囲っているとなれば驚くのは当たり前だろう。

「ちょっと、すみません」

「な、なんでしょう…」

「あの人、第四真祖の暁 古城です」驚く店員を引っ張り彼女にしか聞こえない声で零菜はそう告げる。

「あっ…」少年の身分が分かり納得したのか店員は平常を取り戻す。

国王や、真祖というものは後宮、俗に言うハーレムというものを持っていることは少なくないからだ。

「それで、種類とかは決まっておられますか?」

「ピアスと指輪は決まってるんですけど…もう1人に何をあげるかは決まってないんです」この手の話はよく分からない古城は話になかなか入ることが出来ない。

なにやら、零菜が店員と話をしているためとりあえず彼女に任せることにしたらしい。

1通り話をしたらしくいくつかのピアスと指輪を店員が持ってくる。

「お客様、お気に召すものはございますでしょうか」

「そう言われてもな…」鈍い古城にはどれも同じに見えてしまう。

「もう!その人が着けてるところを思い浮かべて一番似合いそうなものを選ぶの!」見かねた零菜が古城を店員さんの前へと押していく。

「うーん」

「でしたら、こちらはいかがでしょうか」ピアスの代わりに出されたのはイヤリングだった。

「うーん」古城はなかなか決めれない。こういうときにすぐに決められないのは古城の悪い癖だ。

「ピアスより、イヤリングの方が長く使えていいんじゃない?」真剣に悩んでいることを汲み取った零菜は古城に少しアドバイスをする。

「なら、この中から選ぶか…」そう言って古城は指輪とイヤリングを1つずつ指定した。

「嘘っ、古城くんすご…」奇しくも古城が選んだのは選択肢の中で一番高い品物2つだったのだ。

「あとは煌坂のか」そんなことを知らない古城は紗矢華の分を選ぼうとする。

「背が高くて長いポニーテールが特徴の人なんですけど」

「少しお待ちくださいね」零菜の伝えた情報を下に店員はショーケースから商品を取り出し古城の方へと持ってくる。

「こちらの髪飾りか、こちらのネックレスか、ブレスレットどれになさいますか?」

「うーん」さっきと違い種類が違うものを呈示された古城は余計に分からなくなってしまう。

「もう全部あげちゃえば?」零菜がふざけてそんなことを言う。

「それもありか…」

「え!?」悩んでいる古城には零菜の冗談が通じていないようだ。

「じゃあ、それ全部…」

「待って古城くん!せめてネックレス1つかブレスレットと髪飾りのセットの二択にしよう」散財しそうになる古城を慌てて止めた零菜。

「そうか?お前がそう言うなら…ブレスレットと髪飾りの2つにしようかな」零菜があまりにも必死なので古城は後者にすることに決めた。

「分かりました、ではこちらの2つで」

「ねぇ、古城くんなんでブレスレットと髪飾りにしたの?」

「それは、2つもらった方が嬉しいだろ?」

「あっ…そういう…」少し期待した零菜は古城の答えに転けそうになった。

「あの…ラッピング等はどうしましょうか」

「零菜、オレは分からないからお前に任せてもいいか?」

「うん、いいよ」そう言うとニヤニヤしながら零菜は店員の元へと向かいなにやら楽しそうに話を進めている。

「なんとか買えたか…」目当てのものを買えたことと、3人に怒られるという最悪の結末を迎えずに済むことに対する安堵感に襲われる古城。

「古城くんー、終わったよー」1通り話がついたのか自分を呼ぶ零菜の元へと古城は向かった。

「それでは、お支払いの方ですが。4点とラッピング代を合わせまして──」古城の記憶はそこで途切れていた──

 

「やばい…」

「どうしたの?」

「見たこともない数字を見た気がする」直感で古城が選んだものはどれも最高級品であり全部合わせて百万円を軽く越えていた。

皇帝の古城からすると特に高い買い物をしたわけでもないのだが元が庶民の古城は金額を見た瞬間記憶が飛ぶくらいの衝撃を受けたのだった。

「まあまあ、古城くん今お金持ってるしね?」

「持ってても限度ってもんがあるだろ…」

「古城くんったら、貧乏症なんだから。でも、3人はきっと喜んでくれるよ?」

「だといいんだけどな…」雪菜たち3人が喜んでくれると聞いて少し気が楽になった古城。

「とりあえずご飯食べて帰ろ?」

「ああ…、あそこに入ろう」期せずして大金を使ってしまった古城が珍しく自分から選んだのは安いラーメン屋だった。

いつもならチャーシュー麺の大盛りに炒飯をつけ餃子も頼むくらいの勢いの古城だが、先ほどの罪滅ぼしのつもりか今日は普通のラーメンの並盛を頼む古城だった。

「あちゃー…」古城がなかなかに気にしていることに申し訳なさを感じたのか零菜が古城の器に自分の煮卵とチャーシューを忍ばせた。

「ああ、気を遣わせちまったか?」

「ちょっとね」

「お前も気を遣ったりできたんだな」

「なんか、それちょっと心外なんだけど」

そんな話をしながらラーメンを啜った古城たちはそのまま家に帰り1日出歩いた疲れもありすぐに寝てしまった──

 

「ん…もう朝か」隣に裸の零菜が寝ていないことを確認した古城は洗面台へと向かい顔を洗い、朝食の準備をする。

なかなか起きてこない零菜を叩き起し2人で簡単な朝食を食べたあと、他愛もない話をし、ゴロゴロしていると昼前になってしまった。

「なあ、零菜?」古城は昨日取ってやった姫柊とお揃いのストラップで遊んでいる零菜に声をかけた。

「どうしたの?古城くん」

「いや、なにやってるのかなーと思ってさ」そう古城が言った時だった、零菜の身体を青白い光と魔法陣が包んだ。

「あ、思ったより早いなーはしゃぎすぎちゃったかな。そろそろ時間みたい帰らなきゃ」

「もう行っちまうのか」

「うん、寂しい?」

「どちらかといえばな」

「でも、またすぐ会えるよ」

「すぐ?」

「うん、あと5年くらいしたらね」

「じゃあ、それまで待ってるよ」

「じゃあね、古城くん。久々に2人で出かけられて楽しかった。ちゃんと今日中にお返し配るんだよ?」

「オレもなんやかんや楽しかったよ、母親とは仲良くしろよ」

その古城の声を最後に零菜は20年後の未来へと帰ってきた。

「どうだった?零菜。2回目の過去は」

「楽しかったよ?邪魔者もいなかったしね」

「それはそうと雪菜さんが呼んでたよ?」

「え、ママが…」萌葱の言葉に露骨に嫌そうなする零菜。

避けては通れないため雪菜の待つ部屋へと零菜は向かう。

「ママ…?」

「そこに正座しなさい」恐る恐る扉を開けた零菜に予想通りの声がかけられた。

「全く、誰に似てこんな娘に…」

「雪菜、それくらいにしといてやれ。零菜も反省してるよ」雪菜の叱責を遮ったのは扉にもたれ掛かる古城だった。

「あっ…」古城が終わりと言えば終わりなのだ。雪菜は古城に逆らうことが出来ない。

「もう少し親子なんだし仲良くな」そう言うと零菜を部屋の外へと出て行かせる。

「すみません…恥ずかしところを…」

「零菜のことを大切に思ってのことだろ、それくらい分かってるさ。

でも、零菜も来年は高校生だしそろそろ好きにさせてやってもいいんじゃないか?」そう言うと古城も部屋の外へと出て行ってしまう。

「おい、零菜」

「なに?古城くん」

「忘れ物だ」そう言うと古城は零菜の下着を投げてくる。

「え、古城くんこれずっと持ってたの!?変態…あっ…」下着の中に包まれていたのは古城が取ってくれたねこまたんのストラップだった。

「ありがと、大切にするね。あと…もう少しママとは仲良くするようにする」

「ああ、来週休みなんだけどどっか行くか?」

「うん!」

「あ、雪菜のやつも一緒だからな」

「うげー…」

「さっき仲良くするって言ってただろ?じゃあ、オレは雪菜に話してくるよ」そう言うと古城は雪菜の部屋へと戻っていった──

 

 

「はあ…なんか疲れたな、少し寝るか」そう言って古城が自室へと向かおうとした時だった。

「たーだいまー!」玄関のドアが開き凪沙が飛び込んでくる。その後に続いて雪菜と紗矢華も中に入ってくる。

「先輩、ゆっくり休めました……、先輩?」

「どうした?姫柊」

「どうして先輩の前に下着が落ちているんですか?」

「あ…零菜のやつ!」古城は雪菜に言われ足元に落ちているピンクの下着に気づく。

「どうしたの?雪菜」

「先輩が私たちがいない間に女の子を連れ込んだんです!」

「古城くん!?」

「やっぱり変態なのね、あなた!」

「いや、待て違うんだこれは…」

「先輩はやっぱりいやらしい人です!!」そう言うと雪菜は雪霞狼を持ち出し古城へと向けた。

昼の絃神島に古城の叫び声が響いたのだった──




なんとか更新できました( ̄▽ ̄;)

明日は確実に更新が出来ません!すみませんほんと…

さて、短いですがこれにて2章は終了です。
ただただちょっと未来に触れたくなったからという理由とホワイトデーの話が書きたいからという理由で入れさせていただきました笑

次回幕間の割には長い話が一話になるか3話に分割するかは迷っていますがホワイトデー回です。それぞれのヒロインと古城の距離がどうなるのか期待していただけると嬉しいです!

長くなりましたがこの辺で!1日更新できないので感想とか質問とか評価とか…いただけると日曜日に全力更新するので、お願いします!!


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第15話 幕間 煌坂 紗矢華Ⅲ

更新遅くなりました…迷ったのですが短いですが1人ずつ分けることにしました。
幕間なのに尺をとるなんて…と思わずにお付き合いください。



「どうするか…」雪霞狼を持つ雪菜に散々追いかけ回された古城は3人に渡すプレゼントを睨みながら思案する。

もう昼になり今日ももうすぐ終わりへと向かう中3人にそれも別々にプレゼントを渡すのは至難の技だ。

「古城くーん、ご飯できたよー」古城は凪沙が自分を呼ぶ声を聞き彼女に頼んで雪菜と紗矢華を別々に呼び出してもらうことを思いついた。

昼食をたべるためにリビングへと向かった古城は2つの冷ややかな目線に思わず悲鳴をあげそうになった。

古城は凪沙が料理を運んでくると同時に素早く自分の分を掻き込み雪菜と紗矢華の視線から逃げるように自室へと戻った。

「あんな怒ってる2人に話しかけるとか無理がある…」

自分たちが古城のためにと家を空けてやったというのに、その間に自分たち以外の女の子を連れ込んでいたと思えば怒るのも仕方が無い。

怒りだすと古城の話を一瞬も聞かなくなるのは彼女達の悪い癖でもあるが。

「とりあえず凪沙にメールするか」隣の部屋にいるにも関わらず妹にメールを送る。しばらくして凪沙が部屋に入ってきた。

「どうしたの?古城くん。もしかして、雪菜ちゃんと紗矢華さんに謝るから手伝ってとか?」

「まあ、大体そんな感じだ」

「いいけど、何もないなら今行っても余計に怒らせるだけだと思うよ?」

「それはそうなんだが…何もないってわけじゃないんだ、2人には渡したい物があってだな」

「古城くんが、ホワイトデーにお返しをあげるの!?」凪沙は鈍感な兄が初めてホワイトデーというイベントに参加することを驚いた。

「まあ、色々世話になってるからな。それで呼び出して欲しいんだけどさ」

「なるほどねー、雪菜ちゃんか紗矢華さんかどっちが先?」全てを察したらしい凪沙がノリノリで話を進める。

「じゃあ…煌坂で頼む」

「ちょっと待っててねー」そう言うと凪沙は部屋から出ていい少し経って紗矢華が部屋へと入ってきた。

「どうしたの?いきなり呼んで、さっきのことで土下座でもするつもり?」

「いや、さっきのことは色々あってな…。それとは別に煌坂に渡したいものがあってさ」

「渡したいもの?」さっきまでの冷たい視線がなくなりなにか期待するような顔になる紗矢華。

「もし気に入らなかったら捨てるなりなんなりしてくれていいんだけど、これ」そう言うと古城は2つの箱を取り出し紗矢華の手の上に乗せる。

「えっ…あっ、開けてもいい?」

「反応は怖いけど開けてくれ」

「うん…」紗矢華が大きめの箱に手を伸ばし、恐る恐る箱から中身を取り出す。

「どうだ?」

「…、…けて?」

「え?」

「その…つけてくれる?」紗矢華は古城に髪飾りを渡し後ろを向き、古城の方に長くて綺麗な髪を向けてくる。

「ああ」

「お願い…」古城が髪飾りを付け終わると2人を沈黙が包んだ。

「もう、似合ってるとか似合ってないとかなんとか言ったらどうなの?」

「あ、ああ悪い。すごく似合ってる、普段でも綺麗な煌坂が余計に眩しく見えるよ」長くて綺麗な紗矢華の茶髪のポニーテールに銀の髪飾りの輝きはかなりよく似合っていた。

「そう…?ありがと…」

「もう1つも開けてみてくれ」

「うん…」紗矢華はまた恐る恐る箱から中身を取り出した。

「どうだ?」今度は古城が聞いた。

「綺麗…」

「髪飾りと同じ感じのにしたけどそれでよかったか…?」

「うん、これがいいの。高かったんじゃないの…?」

「そっか、煌坂は気にしなくていいんだよ。いつも世話になってるお礼に貰っといてくれ」

「うん、ありがとう…大事にする…」紗矢華は照れた時特有のしおらしさでそう言った。

「喜んでくれたみたいでよかったよ」

「古城…?そのお返しに…」

「ん?…いやいやなにやってんだ!?」

「だから…お返しに私の血を吸わせてあげようかなって…」

「いいのか?」ここで拒めば紗矢華を傷つけることになり古城も紗矢華の血を吸いたくないわけもないので確認をとる。

「うん…好きなだけ吸っていいわよ?」

「じゃあ…遠慮なく」そう言うと古城は紗矢華の首元へと顔を近づけ、白く柔らかい肌に牙を突き立てた。

「うっ…」

一瞬のチクリとした痛みに紗矢華が声を上げたがすぐに古城に身体をあずけてきた。

古城はそれを最後の確認とし本能のままに紗矢華を抱きしめ白い肌に牙を埋め血を吸っていく。

「あっ…ん…」

古城は吸血されるとき特有の快感に声を上げた紗矢華をさらに抱きしめ白い首元から牙を抜いた。

「お返しのつもりだったのに血を吸ってごめんな」よろける紗矢華を受け止めしばらく余韻に浸った古城は紗矢華の頭を撫でながら言った。

「嬉しかったからいいの、それと嫌なことがあったわけじゃないなら謝らないで。私の血に不満があるみたいでしょ」今更になって恥ずかしくなったのか紗矢華は顔を真っ赤にして早々と乱れた服を整え部屋を出ようとする。

「おい、煌坂!」

「ど、どうしたの?」

「これからも迷惑かけると思うけどよろしくな」

「──」部屋を出ようとして振り向いた最後に紗矢華がなんと言ったのかは聞こえなかったが喜んでくれたのならそれでいいと古城は安堵した。

「紗矢華さん満足してくれた?」紗矢華が部屋から出て行き1人になった古城の所に凪沙がやって来る。

「ああ、なんとかな」

「じゃあ、雪菜ちゃん呼んでくるねー」

「凪沙、ちょっと待ってくれ浅葱に連絡する」古城は携帯を掴み浅葱に19時に待ち合わせをしたいという内容だけの簡単なメールを送った。

「もういい?」

「ああ、姫柊を呼んできてくれ」

「はーい」凪沙が部屋から出ていき、またしばらくして雪菜が部屋へと入ってきた──




短くてすみません!風呂あがり次第雪菜の話も出そうと思うので少しお待ちください( ̄▽ ̄;)

感想評価などいただけると嬉しいです!
皆さんがどのヒロインが好きなのか活動報告へのコメントで教えていただけると登場頻度が上がったりするかもしれないのでよかったらお願いします!



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第16話 幕間 姫柊 雪菜Ⅱ

短いですが、連続投稿

とりあえずどうぞ!


「先輩…?どうしたんですか?」どうやら雪菜は少し自分が怒りすぎたと気にしているらしい。

「どうってこともないんだけどな?その…少し渡したいものがあってさ」

「渡したいもの?」

「ああ、この前さ姫柊の指輪がオレのせいで壊れただろ?」

「はい…先輩。そのことについてお話が、、」

「どうかしたか?」

「その…簡易キットで調べてみたら…陽性で…やっぱり先輩の『血の伴侶』になってしまったみたいで…」

「姫柊…?その、わるい!ほんとにあのときのことは謝らなきゃいけないと思っ─」

「いいんです、先輩は私がいないと無茶ばっかりしますから。ずっと隣で見ておいてあげます」

「そっか…姫柊をがっかりさせないようにしないとな、それで渡したいものなんだけどさ」

「はい、なんなんですか?その渡したいものって」

「だから、指輪が壊れたからさ、これを」そう言うと古城は雪菜に綺麗な小さい箱を渡した。

「なんですか?この箱…」

「開けてみてくれ、いらなかったらいらないでいいからさ」

「はい…じゃあ…」雪菜が箱に器用に結ばれたリボンを解き箱を開けた。

「気に入らないか…?」

「せ、先輩。これって…」雪菜の視線は箱の中の指輪と古城の顔を行ったり来たりしている。

「指輪だけど、やっぱり気に入らないか?」

「い、いえそんなことは無いんですけど…そんな…」

「姫柊…?あー…そういうことか?」雪菜の反応がよく分からない古城は紗矢華とのやり取りを思い出し指輪を姫柊の指に付けようとする。

「せ、先輩!?」

「ん?」

「私まだそんな年齢じゃないですし…それにまだ…そんないきなり…!」

「とりあえず付けるぞ?」雪菜の言うことが相変わらず分からない古城は彼女の言葉を無視して左手の薬指に指輪をつけてやる。

「だから…そんな…先輩…」古城がなんとなく指輪を嵌めた指の位置も災いし雪菜の頭の中でどんどん事が大きくなっていく。

「まあ、気に入らなかったら捨てるなりしてくれ」

「先輩…」

「どうしたんだ?」

「私が貰ってもいいんですか…?」

「ああ、もちろん。姫柊のために選んだんだからな」

「私の…ためにですか…、そう…ですか…」

「ああ、これからもずっとよろしくな姫柊」

「はい…ずっと…」

「じゃあ、オレはちょっと出かけないといけないからこれで──」古城が浅葱に会いに行く用意をしようとしたとき雪菜が古城の服の袖を掴んだ。

「どうした?」

「その…私にはこんなことしか今はできないので…」そう言うと古城の方へと綺麗な首を向けてくる。

「いや、待て姫柊。いきなりどうした?」

「先輩がこれだけしてくれているのに、私もなにかしないとって…嫌ならいいですよ…嫌なら」

「嫌じゃないけどさ、いいのか…?」どんどん拗ねていく雪菜に困った古城は雪菜に一応確認をする。

「はい…恥ずかしいので早く…」雪菜は古城の方へと歩み寄り彼の前に首元を持ってくる。

雪菜との吸血ももうかなりの回数を越えたためかこれ以上2人の間にはもはや言葉など必要なかった。

雪菜は自分の首に牙を埋め血を吸うことに夢中になる古城の顔を愛おしむように抱く。

「あ…ん…う…」静かな部屋に雪菜の艶かしい声が響き渡り古城が首元から口を離した瞬間雪菜の身体が崩れ落ち古城に覆い被さった。

「先輩…激しいですよ」

「悪い…つい…」

「まったく…先輩は本当にいやらしい人ですね」そう言いながら雪菜は古城に微笑み、くっついていた身体を離した。

「出かけるんでしたよね?今日までは1人で外に出ても大丈夫ですし、ゆっくりしてきてください。じゃあ、私はこれで。あと…その…嬉しかったです」雪菜はそれだけ言うと古城の部屋から出て行った。

「最近やたらと血を吸ってる気がするな…」古城は最近のことを思い出し自分が吸血行為に徐々に慣れてきていることを不安に思いながら時計を見た。

まだ浅葱との約束までは時間が少しあるが雪菜の言うように自由に1人で出歩ける貴重な休みということもあり早めに出ることにする。

浅葱のためのプレゼントを持ちいつものパーカーを羽織った古城は外に出た。

古城は一応時間まで一時間半ほどあるが、もしものことがあってはと思い1度待ち合わせ場所に顔を出した。

「古城?」案の定後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

浅葱は古城と待ち合わせをするとかなり早く待ち合わせ場所にいることが多いのだ。

「やっぱりいたか」

「たまたまだから、買いたいものもあったし、ほんとたまたま」

「そ、そうか。なら暇だし付き合う」

「いいの?」

「外は暑いし行くなら早く行こうぜ」

一昨日に続き古城と2人で過ごせることに喜ぶ浅葱が足早に道を歩いていく──

 




ほんとに短いですが新章入れば結構長々する予定なのでご勘弁を!

気づけばUA軽く5000越え…そしてお気に入りも65件ほど…ありがたいですほんとに。

くどいですが感想評価の方もいただけると嬉しいです!
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それでは次回最後?の幕間浅葱回です!


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第17話 幕間 藍羽 浅葱Ⅲ

UA7000越え&お気に入りが80件も…今日全然更新出来なかったのにありがたいです…。
そして!日間ランキング8位!夢見てるみたいです。ほんとにありがとうございます!

幕間と言いながら三話目に入ってしまいましたが…最後までお付き合いください。

それではどうぞ^^*


「ねえ、古城。こっちの服とさっきの服どっちが似合うと思う?」

「うーん…」浅葱は妙に高いテンションでさっきからずっと服を選んで持ってきては古城に感想を聞いている。

美的センスもそれほどある訳でもなく普段から自分の服は動きやすく楽なものを選んでいる古城にはあまり違いが分からないのだが、浅葱が楽しそうにしているため仕方なく付き合ってやる。

「やっぱりこっちかな?」

「正直どっちも似合ってると思うぞ?」

「どっちって聞いてるのに両方は答えにならないでしょ…」浅葱のスタイルはモデルと同じかそれ以上にいい。その上古城の中では顔もかなり綺麗な部類に入る彼女には似合わない服を探せと言われた方がむしろ難しい。

「いや…だから、カレーとハヤシライスの違いを聞かれたら上手くは言えないけどどっちもそれぞれ美味しいだろ?」

「古城の割にはいいこと言うわね…」どうやら古城のよく分からない例えに浅葱は満足したらしい。よく分からない例えを使っても通じるのはやはり2人の仲があってこそのものだ。

「ちょうど春服に困ってたしどうせなら両方買っちゃうか、買ってくるからちょっと待ってて」

「ああ、店の前で待ってるよ」店員を呼びに行く浅葱を置いて古城は店の外に出た。どんなものを売っているにしても女性用を専門に扱う店に男が長居するのはかなり酷だ、その上古城にいたってはいい匂いにあてられて吸血衝動が出ないとも限らない。

店の前にあったベンチに腰をかけ携帯で明日の天気やニュースを眺めていると浅葱はすぐに店から出てきた。

「ごめんね、付き合わせて。なんか用があるんだったっけ、とりあえず喫茶店でも入ろ?付き合ってくれたお礼に奢るからさ」

「ああ、そうだな喉も渇いたしな」

「ならあそこにしよっか、パンケーキがなかなか美味しいのよ」

浅葱に連れられて入ったのは以外にも古風な雰囲気の店だった。1人で利用する人もカップルで利用する人もいたが、幸いにもそれなりに席は空いていた。

店員に案内されて席に座った2人はメニューを開ける。

「古城って、初めてのお店だと無難なものしか頼まないわよね?」

「ああ、よく知ってるな」

「まあ、長い付き合いだしね。じゃあ私がテキトーに頼むんでも文句ないわね」

「任せる、好きにしてくれ」

そんなやり取りから数分が経ち店員が2人のテーブルにアイスカフェラテを2つ、浅葱が言っていたのであろうパンケーキが1皿運ばれてきた。

「なんか意外だな、女子が食べるパンケーキってもっとこう派手で見た目重視みたいなやつかと思ってたんだが」

「ああいうのは私から言わせればパンケーキでもなんでもないわよ。コスパは悪いし美味しくないし無駄にクリーム多くて太りそうだし」

「分かったって…、美味いなこれ」浅葱のヒートアップするパンケーキ論争に恐怖を覚えながら古城は彼女のおすすめらしいカフェラテを飲んでいた。

「そうそう、本土…じゃなかった、日本の有名な養蜂場の高級ハチミツを使ってるの。コーヒー豆も牛乳もなんかよくわからないけどいい所のやつみたい」

「なんか情報がテキトーな気がするけど、浅葱がオススメするだけあって美味いな。甘さの加減が絶妙だ」

「そうでしょ、パンケーキもメープルシロップじゃなくてそのハチミツを使ってるんだけど美味しいのよ。普通はあげないんだけど付き合ってくれたお礼に半分あげる」そう言うと浅葱はパンケーキを半分に切り分け古城にフォークを渡した。

「どう…?美味しい?」

「ああ、すごく美味い。正直あんまりパンケーキにいいイメージがなかったんだけどこれはイケるな」

「でしょ、やっぱり古城は分かってるわね」

そんな話をしながらパンケーキを食べ終えた2人は学校の友達の噂話などに花を咲かせた。

「そういえば、私に用ってなんだったの?」1通り話したあとになにか思い出したように浅葱が本題に話を戻す。

「てっきり忘れたのかと思ってたぞ、今日は浅葱にお返しのプレゼントをさ…持ってきてるんだよ」

「え、いいわよそんなの!古城にあげたのってスーパーの特売品だし」浅葱はこの期に及んでもまだそんな嘘をつく。

「そうだとしてもさ、日頃から色々と世話になってるお礼って意味も兼ねてな」

「そういうことなら…そういうことにしとくけど」

「気に入ってくれるといいんだけどな」古城は浅葱の前に綺麗な装飾が施された箱を置いた。

手に取った浅葱はなぜかかなり驚いている。

「ねえ、古城。この箱ってうちの島にある1番高いブランド品よね…?」

「そうなのか?」流行やファッションといったものにあまり興味の無い古城や雪菜や紗矢華は知らなかったのだが見た目や服にこだわる浅葱はブランド品などにも詳しいのだ。

「知らずに買ったの!?あんたいつからそんな富豪みたいになったのよ」

「いや…一応この島オレのものってことになってるんだけど…、そんなことはいいんだよ開けてみてくれ。開けないなら持って帰るぞ?」

「え、開けないなんて言ってないじゃない、今開けるから」箱をしまおうと古城が箱へと伸ばす手を振りほどき浅葱が箱を開けた。

「これって…」

「ああ、イヤリングだよ。今も付けてる前にやったそれ、もうだいぶ使ってただろ」

「うん…」

「どうした?気に入らなかったか…?」あまり浅葱の反応が古城の思っていたものと違い気に入らなかったのかと心配する。

「そのさ、古城って鈍感だから私のことなんて見てないのかと思ってたらちゃんと見てくれてるんだって分かったから…嬉しくて」

「そっか、いつもお前のことは気にしてるよ」

「古城が私のことを…」長年古城に恋心を抱いている浅葱だが、最近になり雪菜を始めとする絶世の美女クラスの女の子がどんどん古城の周りに現れ、自分は古城には見てもらえないと思っていた彼女には古城の言葉が素直に嬉しかった。

「付けてみるか?」

「ううん、今度古城と2人でどこかに行く時に最初につける。このイヤリングに合う服と一緒にね」

「そっか、楽しみにしてるよ」

「うん、だから空いてる日あったら教えなさいよ?」

「分かったよ」とりあえず喜んでもらえて古城は安心する。

「じゃあ、外暗くなってるしちょっとぶらついて帰ろっか」

「そうだな」2人は喫茶店を出てしばらく街を歩いた。

浅葱の少し後ろを歩いていた古城は自分が知らない場所を歩いていたことに気がついた。

「なあ、浅葱。ここどこなんだ?」

「気づいちゃった?私ここから見る景色が好きなの」足を止めた浅葱が見つめる先に古城もなんとなく目を向けた。

「すごいな、これ」2人が立つ場所には高い建物がなく島の中心部が一望できた。

「綺麗よね、ここからこの島の夜景を見てると色々と思い出すのよね。古城はさ、この景色を見てなにか思う?」

「この島ってこんなに人が住んでるんだな、外から見ることってあんまり無いから実感なかったよ…」

「それで?」

「なんていうか、もっと頑張らないとなって。この前の事件のせいでこの島の人たちの不安は募る一方だしオレがなんとかしないとな」

「そう、それが分かったなら連れてきてよかった。古城、最近どうすればいいか分からなくて迷ってたでしょ?」

「まあな、でもやらなきゃいけない事が分かったよ」

「手伝えることがあれば手伝うからね」

「浅葱はほんとよく分かってるよなオレのこと、いつもありがとな」

「お互い様よ、それより古城?」

「ん?」

「お返しのお礼って言ったらなんだけど…、誰も通らないし…」そう言うと浅葱は古城を道の暗がりへと押しやり身体を近づけてくる。

「はぁ…、いいのか?」

「よくなかったらこんなことしないわよ、他の人には内緒よ?」

「わかったよ」古城は浅葱の服から見える首元に口を近づけていく。

彼女が顔を傾けたことを最後の確認としゆっくりと牙を沈め彼女に負担がかからないようゆっくりと血を吸う。

「っ…、ん…」万が一誰かが通ってもいいように必死で声を抑える浅葱を抱きしめ古城はまたゆっくりと牙を抜いた。

「大丈夫か?」

「うん…」浅葱はまだ吸血された経験が少ないため古城なりにも優しくしているつもりなのだがそれでも彼女にはそれなりに負担をかけてしまうらしい。

「ごめんな、流れでこんな」

「いいわよ、街中で発情されて知らない子に手を出したりしても困るし」

「そんなことしねぇよ…」そうしていつものように軽口を叩きあった2人は途中で別れ家に帰った。

家に帰った古城は凪沙たちと夕飯を食べ、早々と風呂に入り自室に籠り那月から課された課題に手をつけた。

どうやら浅葱との会話やこの休みの間の経験で古城には色々とやるべき事が見えたらしかった。

古城にしてはかなりの時間集中して課題の山の1つを片付け一休みつこうとすると見計らったように雪菜が部屋に入ってきた。

「お疲れ様です、先輩。お茶置いておきますね」

「ああ、悪いな」

「頑張るのもいいですけど、いきなり無茶しないでくださいね」

「分かったよ、そろそろ寝る」

「明日はお昼すぎから人口島管理公社の方達と会議もありますしね」

「そっか…、完全に忘れてた。明日から溜まりに溜まった公務か…」

「そんな落ち込まないでくださいよ、私たちも出来ることは手伝いますから」

「頼む…、でもまあ頑張るよ」

「どうしたんですか?先輩がそんなやる気だなんて」

「オレも一応真祖だからさ、そろそろちゃんとしないとなって思っただけだよ。それに、努力することは案外嫌いじゃないしな」

「そうですか、先輩らしくていいと思いますよ。では私はもう寝ますね、先輩も早めに寝てくださいよ?」

「ああ、わかった。おやすみ姫柊」

「おやすみなさい」

雪菜が部屋から出て行ったあと少し部屋を片付けた古城は寝るためにベッドに寝転がった。

いつもならすぐに寝てしまうのだが、今日は3人から血を吸ったこともあり眠気はあるのだが身体が活力に満ち溢れているためなかなか眠ることが出来ない。

 

結局古城は一睡もすることもなく次の日の朝を迎えてしまったのだった──




長かった幕間も終わりました…。
次回からは新章入ろうと思います!バトル要素ガンガンぶち込む予定です。
新キャラも出すつもりです。

活動報告にアンケートを載せてありますのでお暇な方は是非お願いします^^*
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それではまた明日!


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人間戦争篇
第18話


今回から新章です!
ストブラは色々といい設定があって話が作りやすくて助かりますね。
UAもそろそろ9000になります、ありがとうございます^^*

それではどうぞ!


「先輩起きてくだ…えっ、先輩が珍しくこの時間に起きてる!?」

「そうびっくりすることでもないだろ、昨夜は全然眠れなくてな気づいたら朝になってたんだよ」

「そうですか、先輩がちゃんと起きられるはずないですもんね」

「さらっとひどい事言うな姫柊は」

「すみません…、体調大丈夫ですか?」

「ああ、眠たいけどなんとかな」

「そうですか、今日は昨日も言いましたけどお昼すぎから人口島管理公社の方々との会議があるので二度寝しないでくださいね」

「わかってるよ、先朝飯食べててくれすぐ行くから」

古城は重たい頭を抱えながら顔を洗いなんとか眠気をとばそうとする。身体は昨日の吸血行為によってこれまでに無いくらい元気なのだがそれと眠気とはまた別問題なのだ。エナジードリンクを飲んで無理やり徹夜しているときのような不自然な感覚に襲われながら雪菜たちが待つリビングへと向かう。

「あ、古城くんおはよ。朝はパンにする?それともご飯?」

「今日はコーヒーだけでいい」

「ちょっと待っててね」凪沙がキッチンに走って行くのを横目に古城は席についた。

「おはよう2人とも」

「おはよう古城」

「ちゃんと起きられたんですね」

「で、何見てるんだ?」真剣にテレビを見つめる2人に古城は気になって説明を求めた。

「今からラ・フォリアさんがテレビに出るんだってー、はいコーヒー置いとくね」

「ラ・フォリアが?」

「まあ、見ておきなさい。私達にも全く関係の無いことじゃないみたいよ、ほら王女がでてきたわ」

紗矢華の言葉のあとすぐにテレビにラ・フォリアが映った。

なにやら話をしているようだがカメラのところまでは聞こえないのか何を話しているのかは分からない。

画面の右上の方に(LIVE エジプト連合と北欧アルディギア王国の間で臨時会談)と書いてある。どうやらアルディギアとどこかの国か集団が話をするらしい。

「おい、あの気持ち悪い仮面付けてる奴らはなんだ?」画面が切り替わりおそらくエジプト連合と思われる人々が映る。

「先輩、知らないんですか?エジプト連合は九柱神官(エネアド)と呼ばれるそれぞれ違った仮面を付けた9人の神官が取りまとめているエジプトを中心とした対魔族組織なんです」

「そんな組織がアルディギアと何の話が?」テレビを見るだけでは何が起こっているのかよく分からない古城は誰に聞くでもなく独り言のようにそう呟いた。

その呟きに意外な人物が返答した。

「あちら側が和平協定、いわば同盟を破棄したいと持ちかけてきたのですよ」

「そうなのか…って、え!?」テレビの方からではなく玄関の方からここにいるはずがない声が聞こえてきたのだ。

「お久しぶりですね、古城。紗矢華も雪菜も凪沙も元気でしたか?」

「お、王女!?どうしてこんなところにいらっしゃるんですか?会談中じゃ…」

「少し困ったことがあったので夏音に影武者を任せてきました」

「困ったことですか?先輩となにか関係が?」

「ええ、私達アルディギア王国とエジプト連合は長年魔族との戦いにおいて常に最前線を張ってきました。聖域条約が成り立っているのも3つの夜の帝国(ドミニオン)と我々の間、つまり魔族と人間との間にあまり戦力差がないことが理由なのです。しかし四つ目の夜の帝国(ドミニオン)が出来たことによりその均衡が崩れつつあるのです」

「それが、そのエジプト連合とアルディギアの同盟破棄になんの関係が?余計に仲良くしないと行けない気がするんだが」

「私達アルディギア王国のスタンスはどちらかというと親魔族派なのですが、エジプト連合は宗教上の理由も相まってかなり反魔族派なのです」

「そこで歪みが生じているということですか?」

「そうですね…」ラ・フォリアは珍しく思い悩んだような顔をした。

ラ・フォリアの言葉を待ち古城たちを沈黙が包もうとした時テレビからラ・フォリアが今さっき説明したことと同じようなことが聞こえてきた。

「まあ、なんだラ・フォリアも疲れてるだろ少し休んでくれ」

「では、古城の好意に甘えるとします。話はまた後でしましょう」

「煌坂、ラ・フォリアを姫柊の部屋にでも連れて行ってやってきてくれ」

「分かったわ、王女こちらに」紗矢華がラ・フォリアを連れて行ったのを見届けて古城たち3人はテレビへと注意を向ける。

どうやらエジプト連合側は不確定要素の第四神祖をこの世から消すことでほかの夜の帝国(ドミニオン)との均衡状態を保つべきと考えているらしい。

「なあ、姫柊このエジプト連合っていうのはアルディギアと同じくらい強い組織なのか?パッと見ただのカルト集団にしか見えないんだが」

「先輩はもう少し色々と勉強してください。知らないことが多すぎます」

「勉強する気はあるんだけどな…」古城は呆れる雪菜に申し訳なさを感じつつも視線で説明を促す。

「エジプト連合は名前の通りエジプトを中心とした反魔族主義を掲げる組織です。アルディギア王国のように魔導技術に優れていることはないのですが、代々優秀な過適応能力者(ハイパーアダプター)がよく生まれる傾向にあり、噂では人工的に過適応能力者(ハイパーアダプター)を生み出せるというのも聞いたりします。特に九柱神官(エネアド)と呼ばれる9人はそれぞれエジプト神話に出てくる九柱神に則った能力を使うことができ、ひとりひとりが真祖の眷獣と互角程度の実力を持っているとされているとても強力な組織です」

「まじか…そんなのに狙われてるのか…」自分が実はかなり危ない状況にあると知り古城の顔が青ざめた。

しばらくしテレビの中継も終わり、ラ・フォリアも長旅の疲れをそれなりに癒し紗矢華と帰ってきたところでちょうど昼時になったためラ・フォリアを加えた5人で昼食を食べた。

「先輩、そろそろ時間です」

「すっかり忘れてた、行くか…。煌坂はラ・フォリアについておいて…」

「どこかに行くのですか?古城」

「ああ、ちょっと国のお偉いさんたちに呼ばれててな」

「そうですか、なら私もご一緒させていただけないでしょうか。先ほどの話もそこで」

「そういうのいきなり大丈夫なのか?」

「ええ、古城がよければ問題ありません」

「わかった、オレから連絡入れておくよ」

こうして凪沙以外の4人はキーストンゲートへと向かった。

「ラ・フォリア様こちらへ」

「なんの連絡もなく来てしまいすみませんね」

「いえ、ちょうどアルディギア王国の方に連絡をとろうと思っていたところなので」

「暁様もこちらへ」

「ああ、姫柊と煌坂は外で待っててくれ。あとで話す」雪菜と紗矢華の2人を外で待たせ、いつものようにこの国の上層部と言われる男達が待つ部屋へと古城はラ・フォリアと共に入っていった。

ラ・フォリアを隣に座らせ、古城は会議を始めるよう合図を出した。

「では、始めさせていただきます。今回エジプト連合からこのようなものが届きました」そうして目の前のスクリーンに映し出されたのは奇妙な仮面を被った1人の男だった。

「我々エジプト連合は第四真祖が治める第4の夜の帝国(ドミニオン)に宣戦布告を申し出る。我々も罪もない一般人の血を流すことは望まない、よって今日より5日間猶予を与える。それまでに第四真祖 暁 古城の身柄を差し出せば宣戦布告及び攻撃命令は取り下げる。それでは、正しい選択を期待する」業務連絡のように淡々とした声が部屋に響き渡った。

「以上です、今回暁様の身柄を引き渡した場合でも、エジプト連合の性格上この国は多大な被害を受けると予想されるためあまり得策とは言えないでしょう」古城はここにいる人間がいきなり敵になると思っていたためその一言に安心する。

エジプト連合は反魔族主義を掲げる組織であるため、魔族特区や親魔族国家等を嫌う傾向にあり多くの親魔族国家を半ば植民地扱いしていることでも有名なのだ。

たとえ古城の身柄を渡したところでこの国に何もしないとは考えられない。

「じゃあ、オレ達はそのエジプト連合っていうのと戦うしかないのか?」

「それはそうなるのですが、我が国はまだ国防機能が心許ないため…」

前回の吸血鬼暴走事件、レイハーネとの戦いでもわかったことだがこの国には現在戦える人間があまりいないのだ。

古城1人の戦力はとてつもなく大きいがあらゆる場所で戦いが起きてしまうと古城にも手の回らないところがでてくる。

それはこの国の1番の欠点でもあった。

「あのさ、色々と考えてたんだけど」部屋中があまり良くない雰囲気で満たされていたところを古城の声が響く。

「どうしましたか?暁様」

「アルディギアはそのエジプト連合ってのと同盟を破棄したんだろ?なら、オレ達がアルディギアと同盟を結んでもなんの問題もないよな」

「し、しかしアルディギア王国の方がそんなことは…」

「よく決めてくれましたね古城。私達アルディギア王国は第4の夜の帝国(ドミニオン)が生まれた時からこうなることを予想していました。そして、エジプト連合との同盟関係がなくなった場合この国と同盟を結ぶことを決めていました」

「ラ・フォリアはそこまで読んでたのか、さすがだな」古城は以前ラ・フォリアが同盟を持ちかけてきていたことを思い出した。

「はい、ですからあなた方がよろしければすぐにでも同盟を結ばせていただきます。その際は各種魔導兵器をこの国の沿岸部に配置させ精霊炉を利用した擬似聖剣(ヴェルンドシステム)の情報も開示し国防のお手伝いもいたします」

「おぉ…」完全に窮地に立たされたと思っていたところに光が見え何人かが喜びの声を漏らした。

「ほんとにいいのか?ラ・フォリア」

「ええ、古城が私を娶ってくださるのなら」

「いや…それは…わかった、考えとくよ」

「お願いしますね?」背に腹は変えられない古城はまたラ・フォリアのペースに載せられ恐ろしい約束をしてしまう。アルディギア王国の現国王ルーカス・リハヴァインの恐ろしい怒り顔が想像でき古城を寒気が襲う。

「では、その方向でお願いします」

「分かりました、急ぎ国王に話を伝えます」

「悪いな、オレが他の夜の帝国(ドミニオン)みたいに強い吸血鬼とか血の従者を揃えてなくて」

「あら、古城。もう雪菜はあなたの血の伴侶になったのでしょう?」

「うっ…ラ・フォリア、なんで知ってるんだよ」

「さあ、どうしてでしょう」笑いながらラ・フォリアが本国に連絡を取りに部屋の外へと出て行った。

「で、そうなると国民の被害をどう抑えるかだな」

「はい、そちらの方は問題ないかと。島の外縁部で迎撃にあたれば被害は最小限に抑えれます」現在絃神島の周りにはカインの遺産である大きな人工島がそのまま残っている。つまりそこで迎撃に当たるということなのだろう。

「万が一島内に侵入された場合はどうするんですか?」

「それなら、那月ちゃんに頼んで別の空間に送ってもらえばいい、そこでこっちの誰かと戦わせる」

「では、その方向で私たちは特区警備隊(アイランドガード)と万が一に備えた避難誘導の詳細を取り決めます、暁様はラ・フォリア様とお話を」

「わかった、また何かあれば呼んでくれ」

それだけ言い残し古城は部屋を後にし外で待っていた2人に詳細を伝えた。

「エジプト連合と戦争ですか…」

「大丈夫だ、戦争っていっても大半はオレがなんとかする。悪いが姫柊も煌坂も手伝ってくれるか?」

「はい、もちろんです。私は先輩の監視役ですから」

「仕方ないわね、私も付き合ってあげるわよ」

あまり2人に危険な目にあって欲しくはないのだが頼るところも他にないので仕方がない。

2人に感謝しているとラ・フォリアが帰ってくる。

「どうだった?」

「お父様はあまり良い顔をしてはいませんでしたが、状況からすぐに了承していただけました。おそらく明日の夜にでも魔導兵器を載せた空母が到着するはずです、お父様の好意でアルディギア聖環騎士団の精鋭500人もお貸しいただけると」

「そうか、それは助かる。ラ・フォリアはどうするんだ?」

「私も戦場には出ますよ」

「「「え!?」」」

「いやいや待てラ・フォリアお前何言って」

「いいですか古城、一国の主であるあなたが最前線に出るのです。私が出なければ笑いものもいいところです。それに…こんな楽しそうなこと見逃せません」

「王女…やっぱりただ楽しんでるだけじゃないですか…」

「冗談ですよ、古城この戦いの勝利を願っていますよ。私は明日からアルディギアの指揮を取らねばいけませんのでこれで」

そう言うとラ・フォリアは古城にハグして去っていった。

「先輩…?鼻血出てますよ?」

「えっ!?いや違うぞ?これは」

「いいから拭いてください」雪菜はハンカチを古城に渡した。

「悪いな…」

「古城、とりあえずエジプト連合について調べられることは調べるわよ。後手に回って勝てるほど甘い相手じゃないのは確かよ」

「煌坂の言う通りだ、とりあえず色々調べないとな」

そうしてとりあえず3人は家へと帰ることにした──





もしこの作品を気に入ってくださっている方がいらっしゃれば評価お願いします!

あとでキャラ紹介の方を更新しますのでそちらも覗いていただければと思います!
次回からバトル回になると思います、期待してお待ちください!


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第19話

前回の更新から色んな方に感想や評価をいただいて読んでくださっている方にはほんと感謝しかありません。
これからもぼちぼち毎日更新していくので暖かい目で応援よろしくお願いします^^*

それではどうぞ!




「おかえりー、もっと遅いかと思ってたよ」

「ああ、割と早く終わったからな」

「どうしたの?3人とも元気ないけど…」

「ちょっとな…」

「ご飯作るね?」帰ってくるなり自室へと向かう古城を心配しながら凪沙はキッチンへと向かいいつものように4人分の夕飯を作り始めた。

「はぁ…」自室に戻った古城から自然とため息が零れる。

自分がなんとかするとは言ったものの相手の実力が真祖の眷獣と同レベルということを考えれば自分にもどれだけ戦えるかは分からないのだ。

そんな後ろ向きなことを考えながら古城は昨夜寝れなかったこともありいつの間にか寝落ちしてしまった。

「先輩?いないんですか?入りますよ…?」何度ノックしても古城の声が聞こえないため心配した雪菜が古城の部屋へと入ってくる。

すやすやと寝ている古城の寝顔を見て雪菜は微笑み彼の身体に布団をかけてやる。

雪菜は少し迷ってから眠る古城の頬に口づけをし起こさないように静かに部屋を出た。

「雪菜ちゃん、古城くんは?」

「ぐっすり寝てるので寝かせておいてあげましょう」

「そっか、じゃあ3人で先に食べちゃおっか」

そうして3人はあまり話すこともなく夕飯を食べいつも通り風呂に入り眠りについた。

「ん…寝落ちしてたのか」

時計を見ると1時を過ぎたところだった。

とりあえず風呂に入るため古城は部屋から出たが凪沙を起こしてしまっても悪いので水を飲み喉の渇きを潤すだけにしておく。

少しして色々と考えた古城は自室に戻り浅葱に電話をかけた。

「もしもし?古城?」

こんな時間にも関わらず浅葱はすぐに電話にでた。

「ああ、悪いなこんな時間に」

「いいわよ、なにか大事な用なんでしょ?課題なら前データあげたはずだけど」

「今日はそんなのじゃなくてさ、エジプト連合がアルディギアとの同盟を破棄したってのは知ってるよな?」

「まあ、ニュースもそればっかりだから一応はね。それで?」

「そのエジプト連合がうちに宣戦布告してきたんだ」

「えっ!?ってことは戦争!?」

「ああ、そういうことになる。幸いアルディギアと同盟を結んだし大抵の事はオレがなんとかする、それでだ凪沙のやつのことを頼みたいんだ」

「それはいいけど…あんた大丈夫?」

「なにがだ?」

「なんかさ、珍しく嫌な予感がするのよ。今の古城はすごく危ない気がする」

「かもな、でもオレがやらなきゃいけないんだ」

「まあ、いいわ。凪沙ちゃんのことは私が面倒見るから、あとで色々調べて送るわ。私もできる限りのことはするから」

「悪いな浅葱」

「じゃあ、そろそろ寝るわね。おやすみ古城」

「ああ、おやすみ」

電話が切れてから古城は一番心配していた凪沙の安全をある程度確保出来たことに安心しまたすぐに眠ってしまった。

 

「古城、起きなさい」

「煌坂か、姫柊は?」「凪沙ちゃんと買い物に行ったわ」

「買い物?今何時だ?」

「もう昼前よ、いつまでも寝てないで早く起きて」

「悪い…」

「色々と心配して考えるのも分かるけど、あなたがすべてを背負う必要はないのよ私たちだっているんだし」

「オレがやらなきゃいけないんだよ」

「そう…」

「オレが守らないといけない」

古城のその言葉を聞いた瞬間、紗矢華の顔が引きつったように見えた。

そして古城の顔を強烈なビンタが襲った。

「自惚れないで!あなた1人が頑張ったところでどうにかできるの?あなたがそんなのだから雪菜が苦労するんでしょ!」

「なにするんだよ煌坂、前にお前が言ったんだろ全部自分で守れって」

「呆れた、それはそれくらいの気持ちでいてってことでしょう?あなたは私や雪菜を信じれないの?」

紗矢華の目はどんどん潤んでいく。

「そんなことはないさ、でもオレはお前らのことを心配して…」

「どうして逆のことは考えないの?あなたに傷ついて欲しくない人がいるように、私たちはあなたに傷ついて欲しくないのよ」

「っ…」

「あなたは自分だけが傷ついて私たち全員を守ろうとしてる。その気持ちは大切だと思うし素晴らしいことだと思うわ。でも、そんなあなたのことは誰が守ってくれるの?もう少し私たちを頼って、あなたの力を頼らざるを得ないのは事実だけどお互い背中を合わせて闘えばきっと勝てるわよ」

「煌坂…、悪いオレはまた」古城は中学時代の部活のことを思い出していた。あの頃も自分が頑張ればなんとかなると思っていた。

しかし、どうにもならなかった。

「いいわよ…目が覚めた?」紗矢華の目からは涙が流れている。

「ああ、煌坂にはいつも助けてもらってばかりだな」

「ほんと世話の焼ける真祖ね、あなたは。みんなで出来るだけのことをしましょ」

「そうだな」古城は紗矢華の目から流れる涙を拭ってやる。

「ありがと、じゃあ私は向こうにいるわね。残り3日と少ししっかり休んでおきましょ」

それを最後に紗矢華は部屋から出て行った。

しばらくし雪菜と凪沙が帰ってき、いつも通り4人で夕飯を食べる。

そんな普段と変わらない日々が3日ほど続きエジプト連合との戦い、後に人間戦争と呼ばれることになる戦争が始まる日がやってきた。

 

いつものパーカーに袖を通し部屋を出た古城は凪沙を連れ浅葱の元へと送り届けた。

浅葱は人工島管理公社から古城達のサポートをするためこの島で一番安全なところにいる彼女に凪沙を預けておくのが一番安心だ。

浅葱と少し言葉を交わした古城はすぐに雪菜と紗矢華が待つ自宅へと帰った。

3人はそれぞれ準備を済ませると島の中心部にあるキーストーンゲートの屋上へと向かった。

 

「相変わらず、ラフな格好だな暁 古城」豪奢なドレスに身を包んでいるのは那月だ。

「ああ、那月ちゃんもいつも通りの格好だな」

「こんなときに教師をちゃん付けで呼ぶな」古城の緊張を気にしたのか今日は那月の扇子が彼の頭に突き刺さることはなかった。

周りを見れば那月の他にも基樹やアルディギアの聖環騎士団や特区警備隊(アイランドガード)の面々が待っていた。

「おはようございます、古城。今日は武運を願っております」

「ああ、ラ・フォリアも気をつけてな。なにかあったらお前のとこの親父さんにあとで殺られる」

「この戦争が終わった後のことを考えているなんて、さすが古城は頼りになりますね」そんなことを言いながら1人ラ・フォリアはクスクスと笑っている。

「まあ、オレにはみんながついてるからな」

「いい言葉です。では、これを、雪菜と紗矢華にもありますよ」そう言ってラ・フォリアが取り出したのは耳につけるタイプの通信機のようなものだった。

「これはなんですか?」雪菜がラ・フォリアに説明を求める。

「あー、それはだな戦況を見ながらオレと浅葱で指示を出すためのものだ」後ろで飄々と古城達のやり取りを見守っていた基樹が会話に加わってくる。

「そうか、お前らも気をつけてな」

「オレがやられる時はもうこの国は終わりだ。頼むぜ古城」基樹は基本的にここからは動かないつもりなのだろう、確かに島の中心部が攻撃されるということは古城たちの負けを意味する。それだけは避けたいものだ。

島中を緊張感が覆っていた。2日前からニュースでも今回の件について報道がされている。戦争と聞けば誰しも不安を感じるのは当たり前のことだ。

古城がそんな空気を感じ取り改めて気を引き締めた時だった、早速通信機から浅葱の声が聞こえてくる。

「南西からなにか凄い速さで近づいてくる、反応は9個!」

「来やがったか」

「おいおい、9個ってことはそのなんとか神官ってやつだけか?」

「先輩、九柱神官(エネアド)です。しっかりしてください」

またしても締まらない古城に雪菜が小言を言った時だった。

島の外縁部で大きな爆発が起こった。それと同時に浅葱から連絡が入る。

「南西から上陸された、アルディギアの魔導兵器トールが交戦中!1人は海の上、その他8人はバラバラになって移動してる」

戦争というものは如何に自分達の強さで相手の弱点を突けるかというものだ。奇しくもエジプト連合は個々の強さという彼らの強みで古城達の戦力の少なさという弱点を突いてきた。

「絶対に無事で帰ってこいよ、お前ら」

「お前に心配されるまでもねぇよ、那月ちゃん頼む」

基樹の言葉で緊張が解けた古城を那月の空間転移魔術による魔法陣が覆い隠す。

空間転移特有の違和感が消え目を開けた古城の前ではちょうどアルディギアの魔導兵器トールが仮面の男に真っ二つにされたところだった。

「これはこれは、早速当たりを引いてしまいましたか」

「何言ってるんだよ、オレが一番のハズレだろ」

「あまり驕らない方がいいですよ、そうでなければあなたはすぐにこの世から消えてしまう」仮面の男が古城にそんな言葉をかけると同時に大きな鎌鼬のような斬撃が飛んでくる。

飛んでくる虫を払うかのように古城は面倒くさそうに金剛石の盾を展開し攻撃を防いだ。

「言いたいことはそれだけか?すぐに終わらせてやる」

「血気盛んなことですね、私だけあなたの正体を知っているというのも不公平でしょう。私は九柱神官(エネアド)の1人大気の神シューを司る者です」

仮面の男はそう言うと不敵な笑みを浮かべた──




次回から本格的に戦争が始まります。
九柱神官(エネアド)それぞれの能力とかに注目していただけたらなと思います!
おそらく今夜また更新すると思うのでしばらくお待ちください。
キャラ紹介の方ですがシューの分は夜の更新で出てくるキャラとともに更新する予定なのでそちらも、もうしばらくお待ちください!

評価感想お待ちしています!

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第20話

遅くなってすみません!
色々と用事が入ってしまって( ̄▽ ̄;)
なんとか短いですが、更新しました!
納得いかないことも多いかと思いますが読んでやってください^^*




大気の神シューを司るという九柱神官(エネアド)の1人から謎の自己紹介を受けたあと古城は激しい鎌鼬の嵐を受け続けていた。

金剛石の盾を周囲に展開し鎌鼬を防ぎながら古城は浅葱を呼び出した。

「浅葱、他のみんなは?」

「今那月ちゃんがみんな送り終えたところ」

「そうか、やばそうなところが出てきたらすぐに言ってくれ」

「わかった、それじゃ私は他のサポートで忙しいから。サッサと終わらせなさいよ、古城がいないとジリ貧もいい所なんだから」

「わかってるよ」

今回の戦いでは基樹が指揮を取っている。

エジプト神話と関連性の強い敵ということもあり浅葱の情報収集やサポートを頼りに敵を食い止め、その間に古城が各個撃破を狙うという簡単な作戦だ。

基樹の横にはもしもの自体に備え那月が控えている。彼女には古城の運搬役に加え古城の手が回らなくなった場所を埋めてもらうという役割もある。

那月を温存したまま古城が2,3人ほど倒せればいいところだが実際はそう簡単にはいかないらしい。

「作戦会議は終わりましたか?」

「作戦会議なんてしてねぇよ」

「そうですか、ならそろそろやらせていただきます」そんな声が聞こえた時だった突如古城の展開していた盾の中の空気の流れが変わり古城の死角から一際大きな鎌鼬が出現する。

後ろから空気が圧縮される音を聞いた古城は迷わず金剛石の盾を解除した。

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)2番目の眷獣牛頭王の琥珀(コルタウリ・スキヌム)!」溶岩でできた琥珀色の牛頭神が現れギリギリのところで古城の足元の地面を10メートルほど上に上げた。

「ほう、そんな眷獣もいるのですか。なかなかやっかいですね」

「涼しい顔してれるのも今のうちだけだぜ」

琥珀色の牛頭神がシューの立つ地面から溶岩の杭を吹き上がらせる。

シューの身体を目掛け全方位から溶岩の杭が襲う。

しかしシューの身体は杭があたる直前に不自然に揺れ、全ての攻撃を躱しきった。

「私に物理攻撃は効きませんよ」

どうやら周囲の気流を操り普通の人間には不可能な動きを実現しているらしい。

まるで水中にある小さなもの掴もうとするときのようにギリギリのところで古城の攻撃はシューの身体を捕まえることが出来ない。

仕方なく古城は眷獣の実体化を解いた。

それを好機と見たのかシューは古城を分厚い風のヴェールで包んでしまう。

「クソ…これは触ったら身体がちぎれる程度じゃ済まないな…」

古城は右腕に高周波振動をまとわせ分厚い風のヴェールをぶち抜き致死の空間から脱出する。

シューの能力は大気を司ると一口に言っても驚くほど多彩だった。

「他の連中もこんな感じなら早々に片付けないとやばいな…」

「私の目的はあくまでも時間稼ぎです、そう簡単にはやられませんよ」

相手が時間稼ぎに徹する以上撃破は困難を極める。

時間が経つにつれ古城には焦りが生じるためこの戦いは明らかに古城に不利な戦いだ。

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)5番目の眷獣獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」古城の声と同時にシューに向かって雷光の獅子が飛びかかっていく。

しかし、シューの目前で雷光の獅子は進路を変え彼の横を通り過ぎてしまう。

「古城、多分部分的に真空空間を作り出してる。真空だと電気は真っ直ぐ進まないって中学生のときにやったでしょ」古城を見かねてか浅葱がそんなことを言ってくる。

「なにか突破口はないか?」

「そんなもの自分で考えてよ、こっちは色々と調べることが多くて忙しいのよ。エジプト神話かなんだか知らないけど情報が少なすぎる!」

「そうか、じゃあもう少し頑張ってみるよ。なにかあったらまた教えてくれ」

そんな2人の会話を邪魔するかのように色々な方向から大小様々な鎌鼬が古城を狙って飛んでくる。

盾を展開してもその中から攻撃されることが分かった古城は重力制御の能力を少しだけ解放しシューと同じように常人には不可能な動きで全て回避する。

「ほう、そんな力もあるのですか」

「便利そうだからオレなりにパクらせてもらったよ」

「では、これはどうですか?」

その言葉を境に古城の身体を有り得ないほどの力が上から加わる。

「くそ…」

「大気圧を利用することでこんなことも出来るんですよ」

「ぐ……」

「古城?生きてる?」そんなとき浅葱から何度目かの通信が入った。

「なんだよ、こっちは死にかけてるっての」

「死にたくても死ねないでしょ、大気を操ってるなら真空状態にして能力使えないようにすれば?」

「そんな簡単に…言う…けど…な」古城はジリジリと地面に押し付けられていく。

「仕方ないな…このバカは」そんな声と同時に古城の身体を紫色の魔法陣が包み反対側へと飛ばされた。

「那月ちゃん…」古城は異常な圧力から解放され立ち上がり那月の声がした方を向いた。

「ボサッとするな早く片付けろ」那月の言葉に我に返った古城はいきなりの彼女に登場に戸惑うシューの方を向き直る。

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)冥姫の虹炎(ミネラウバ・イーリス)夜摩の黒剣(キファ・アーテル)!」

古城の呼び声に応じ巨大な三鈷剣と虹色の戦乙女が現れる。

「2体眷獣を呼び出しても同じことですよ」シューの手が動き古城の身体にさっきよりも強い圧力がかかる。

「ぐっ…、お前と戯れるのもこれで終わりだシュー、オレは早く他のところに行かなきゃならないんでな」

古城は這いつくばりながら眷獣に指示を送った。

虹色の戦乙女が巨大な三鈷剣を手に取りシューの周りの空間を三鈷剣の持つ重力制御の能力を併用し凄まじいスピードで切断していく。

「当たらない攻撃など避けるまでもないですね!」

そんな言葉を放ちシューは古城の身体を潰そうとより圧力を強くした時だった。

「バカだろあんた、無闇矢鱈に当たらない攻撃するわけないだろ…」

虹色の戦乙女がついにシューの身体目掛けて巨大な三鈷剣を振り下ろした。

シューはまたしても大気を操り攻撃を躱そうとした─が、能力は発動せず身体を綺麗に真っ二つにされる。

「な…っ…」

虹色の戦乙女は物理だけではなく因果律も含めた切断能力を有する。

重力制御による超高速斬撃によりシューの周りの空間の空気やあらゆる物質を切断し、粒子にまで分解することによって一時的な真空空間を作り出したのだった。

「かなり強い能力だったけど、あんたあんまり賢くないみたいだな。オレに言われるんだからよっぽどだよ」そんな言葉を相手にかけながら古城は那月の元へと急いだ。

「随分とだらだらとしてくれたものだな、暁 古城」

「悪い、早く次の場所に飛ばしてくれ」

「言われなくてもそのつもりだ」

そんな言葉とともに2度目の空間転移魔術特有の違和感を感じる。

違和感がなくなり目を開けた古城の前ではギリギリのところで踏ん張る聖環騎士団の半分のメンバーが闘っているところだった──




そろそろUAが10000を越えそうで…日間ランキングにも載ることが多くなりなんとお礼を言っていいのやら…

今回少し短かったですが次回はしっかり長めにするので許してください( ̄▽ ̄;)

ここおかしいだろ!とかあったら感想なんかで言ってもらえると嬉しいです!
普通の感想評価などもお願いします^^*

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第21話

最近凄くお気に入りが増えるスピードが早くて嬉しいのですがびっくりしています( ̄▽ ̄;)

20時半までにはキャラ紹介の方も更新します!

今回少しグロいかもですが…

とりあえずどうぞ!


古城が大気の神シューを司る九柱神官(エネアド)との戦いを初めた数分後──

雪菜もまた那月の空間転移魔術によって戦場へと降り立ったところだった。

雪菜の前には悠々と戦場を駆け抜ける神の長い仮面の女がいた。

「止まりなさい!!」

「あら、私のところには誰も来ないのかと思ったじゃない」

「藍羽先輩、敵と交戦します。もしお暇があれば能力の予想をお願いします!!」そう言うと雪菜は目の前に立つ仮面の女に向かって雪霞狼を向け飛び込んでいく。

「私の話は無視?」仮面の女は背中から異様に長い刀を取り出し雪菜の槍を迎え受ける。

「えっ!?」能力を用いて防御されると踏んでいた雪菜は虚を突かれ空中で体勢を崩してしまう。

背中に仮面の女の痛烈な蹴りが炸裂する。

「物干し竿…ですか?」大きく吹き飛ばされながら辛うじて受け身を取った雪菜は相手の異様に長い太刀の名前を言い当てた。

「よく知ってるのね、知っていたところでどうなるという訳でもないのだけど」

物干し竿は普通の刀が75cm程度であるのに対し約1mほどの長さを誇る刀だ。当時まだ剣術と呼べるようなものが確立されていなかった時代刀は長い方が強いとされていた。そんな時代に刀の長さを極めたのが物干し竿だ。

雪菜は自分の槍のリーチよりも長い相手の刀を睨み、間合いを普段より遠目に取ることを意識し2度目の攻撃を試みた。

またしてもかなり相手より遠い場所で攻撃を止められた雪菜は身体を地面にすべらせ女に肉薄する。

刀が長ければ下からの攻撃への防御は手薄になると考えたのだ。

雪菜の狙いは正しく仮面の女の反応は一瞬遅れ雪菜の槍が足を捕らえるかと思われたが、女は長い刀を地面に突き刺しそれを軸に器用に身体を持ち上げて危なげなく躱す。

そして間髪入れずに雪菜へと大きな上段切りを放ってくる。雪菜は間合いを大きく取っていたため後方への少しの移動で強烈な斬撃を難なく躱しガラ空きになった女の頭へと槍を突き立てようとする。

「あらら、ガラ空きなのはあなたの方よ。──燕返し──」

女の頭へと槍を突き立てようとした雪菜の首から下はこれまでに無いほど無防備だった。そこに地面から這い上がるように太刀が雪菜の上半身を斜めに真っ二つにしようと迫ってくる。

雪菜の霊視による未来視に自らの身体が呆気なく2つに引き裂かれる映像が映り──

 

 

雪菜が自分の死を覚悟した時だった。身体から凄まじい熱量の雷撃が放出され迫り来る刃を弾き返した。

「え!?この雷撃は…」

雪菜は自分でもどう防御したのか分からず一瞬戸惑ったがすぐに不思議と安堵を感じ、すぐさま体勢を立て直す。

「あなたにそんな能力はないはずだけど?なにをしたの?」

「秘密ですよ!それより!」雪菜はふっ切れたように3度目の突撃をする。またしても仮面の女に初撃を受け止められ流される。

2回目のときと同じように女が大きな動きで上段切りを放ってくる。

「その技には後退より前進が答えです!」

燕返しとは佐々木小次郎の必殺技として有名である。

その技の原理は簡単で相手よりも長い刀を使うことにより、相手の取る間合いが大きくなる。

そこに大きな動きで上段切りを繰り出すことで相手は多めに取った間合いにより少しの動作で上段切りを避けることができ、生まれた余裕にから頭部へのカウンターを狙ってくる。そうして無防備になった上半身を下から斜め上へと神速の横薙ぎを返すという真のカウンター技なのだ。

 

雪菜は恐怖を振り払い上段切りを槍で受け流しながら女に肉薄し、地面に突き刺さった太刀を踏みつけ相手の防御手段を奪い仮面の女の左腕を雪霞狼で切り飛ばした。

「ぐっ…まさか2回目で破られるなんて思わなかったわ。少し甘く見ていたようね」

突如女は高らかに笑い声をあげ、周りの地面から怪しげな紫の光が染み出してくる。

魔力でも霊力でもない異常な力を感じ取り雪菜は今までで1番長く距離をとった。

怪しい光を漏らす地面からは黒いオーラを身体中から滲ませる人のような形をしたなにかが大量に溢れ出している。

「それは…」

「ゾンビ?傀儡?まあ、好きに呼んでくれたらいいわ。そして、もっと私を楽しませてよ!!」女は無くなった左腕を抑えながら笑っている。

どうやら戦いの中で血を流すことに興奮するタイプらしい。

「この量…さすがに捌ききれない…」そんな雪菜に耳元から頼りになる先輩の声が聞こえてくる。

「姫柊さん、大丈夫?やばそうなら那月ちゃんを…」

「心配していただいてありがとうございます。でも、私がこの程度で弱音を吐くわけにはいきませんから。先輩だって今必死に闘っているところですから」古城の眷獣が放つ膨大な魔力を肌に感じながら雪菜は雪霞狼を握り直す。

「そっか、じゃあこれだけ。多分あの力はネフティスよ、詳しいことは分からないけど死者の守護神だって。何をしてくるかは分からないから気をつけてね」

「それだけ分かれば後はこちらでなんとかします、では」通信を切ると雪菜は朽ちた傀儡の群れの中へと身を投じる。

雪霞狼のお陰かその身に一撃を加えられれば相手は崩壊するが一体一体が相当の手練であるためなかなか身体に一撃を加えることが出来ない。

「ほらほら、まだまだ増えるわよ。今までに私が切り殺した強者達全員をあなた1人で倒せるかしら?」そんなことを言いながらネフティスは傀儡の1人の背中に座りながら優雅に1人奮戦する雪菜を眺めて笑っている。

「この程度で─!」

大きな戦斧を弾き返し後方へと蹴りを放ち横から迫り来る長槍に雪霞狼を引っ掛け空中へと相手を投げ飛ばしすぐに体勢を立て直す。

そんな終わりが見えない攻防を繰り返し続け何分が経ったのだろうか、雪菜の周りにはもう50体ほどの動かなくなった傀儡だったものが転がっている。

「はぁ…はぁ…」

「そろそろ限界?私に斬られるのと傀儡に押しつぶされて死ぬのとどちらがいいか選ばせてあげましょうか?」

「どちらも遠慮させていただきます、あなたのおもちゃになるつもりはありませんから─」そう言うと雪菜はまた自らの身を傀儡の群れへと投じる。

しかし雪菜も限界なのか次々と身体を切り傷が埋めていく。

飛びかかってくる2体の傀儡をなんとか重ねて切り飛ばした雪菜はついに地面に膝をついてしまう。

耳元へと手を伸ばし浅葱を呼び出した。

「藍羽先輩、先輩の魔力が感じられなくなったということは勝ったんですか?」

「うん、今古城は次のところに向かったわ」

「そうですか…、なら私も休んでいる暇はなさそうですね…」

「大丈夫?身体傷だらけだけど…」

「大丈夫です、もう全部治りましたから」

「えっ…!?」

雪菜は驚く浅葱を他所に聞くことだけ聞くと通信を切った。

身体中を埋め尽くしていた切り傷ももう擬似吸血鬼の回復力により全て綺麗に無くなっていた。

しかし、身体の傷がなくなっても疲労感までは消えない。

雪菜の疲労はもう限界に近かった。

ゆっくりと近づいてくる傀儡の攻撃を左腕で掴み雪霞狼を突き立てる。

背後から迫る大きな槍に身体を貫かれ、肩に刀が刺さりながらも雪菜は止まらず傀儡を次々と屠っていく。

「何があなたにそこまでさせるの?もう楽になればいいのに」

「先輩に全てを任せるわけにはいきませんから…、先輩が頼ってくださったんです。それに応えるまでは倒れるわけにはいかないんです」

雪菜は身体に刺さった武器を引き抜きながら前日の紗矢華との会話を思い出していた──

 

「ねえ、雪菜。私たちでせめて1人は倒すわよ」

「先輩はなるべく時間を稼いでくれって…」

九柱神官(エネアド)のトップアトゥムは吸血鬼殺し(ヴァンパイア・スレイヤー)の異名を持ってるわ。なんとか古城の負担を減らさないと…」

「そうですか…、なら頑張らないといけませんね」

「ええ、せっかく古城が私たちを頼ってくれたのよ。それに応えないとね」

こうして2人はこの戦いに来る前覚悟を決めたのだ──

 

雪菜は血が染みでる身体に鞭打ち雪霞狼を握る手に力を入れ、左指の古城から貰った指輪に目を向けた。

「先輩、少しだけ力を貸してください…」

「傀儡になる覚悟を決めたの?」

そんなネフティスの言葉を無視し雪菜は空を見上げながら叫んだ。

獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

雪菜の呼び声に応え大きな雷撃でできた獅子が現れ傀儡の群れを薙ぎ払っていく。

血の伴侶は限定的にだが波長の合う主の眷獣を使役することができる。最初に雪菜を斬撃から助けたのも獅子の黄金(レグルス・アウルム)だったのだ。

雪菜を霊媒とし、雪菜と常に古城と戦いを共にした黄金の眷獣が雪菜の願いを叶えないはずがなかった。

「そんな、第四真祖の眷獣が何故ここに!?」

驚くネフティスの前には常人のスピードを遥かに超える速度で雪菜が迫っていた。

自分が座っていた傀儡を盾にし初撃を躱したネフティスは両手を前に出しにやりと笑い、前方に漆黒のオーラを放出した。

「致死の毒霧よ!あと少しだったわね!死になさい!」

「すみませんが、私はもう死ねない身体になってしまったので」

漆黒のオーラから鈴の音のような声とともに雪菜が飛び出してくる。

「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る 破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

「なっ!?」

銀色の槍が貫いた瞬間、ネフティスの身体が一瞬にして朽ちた。

「自分の能力で死を逃れ、若い頃の美貌を保っていたんですか。悪趣味な人ですね」そんな哀れみにも思える言葉とともに雪菜は地面に倒れ込んだ──

 

 

 




燕返しという技には諸説あるそうなのですが、1番ポピュラーなものを参考にさせていただきました。

私事ではあるのですが…今朝から体調を崩してしまい今回もまた短い更新となってしまいました( ̄▽ ̄;)
どこか文章がおかしい所などもあると思いますが察してやってください。
感想評価などいただけると早めに復帰できると思いますのでよろしくお願いします(結局感想評価乞食)

皆さんもお身体にはお気をつけて!

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第22話

昨日にも増して体調が悪いため今日も文字数が少なくて申し訳ないです…。

とりあえず更新しましたので短いですがお読みください。


暗く狭い部屋の中で1人の少女が休む間もなく指を動かし続けている。

「あー!もう!なんなのよ!」

「ど、どうしたの?浅葱ちゃん」

「大丈夫大丈夫、凪沙ちゃんは気にしなくても大丈夫よ」

「古城くん大丈夫?」凪沙はどうやら古城の心配をしているらしい。

「うん、もう1人倒しちゃったわよ」

「そっかー、さすが古城くんやる時はやるね!」

凪沙とは正反対に画面を見つめる浅葱の顔には厳しい色が浮かんでいる。

古城と雪菜が1人ずつ倒したとはいえ相手はまだ7人もいるのだ。その上雪菜はしばらくは動けないとなればどちらが優勢かは子供が見ても明らかだった。

「基樹、那月ちゃんは?」

「今迎えに行ったとこだ」

「そろそろ那月ちゃんを…」

「いやまだだ那月ちゃんを出せばこっちはマジで余裕が無くなる。向こうのトップが後ろで控えてるんだ、極力温存したい」

「そう…基樹?」

「なんだ?」

「1つ反応が消えて後ろに控えてるやつの横に」

「後々面倒くさそうだが1人減ったのはありがたいな…」

2人の間には不穏な空気が流れていた──

 

 

新たな戦場に降り立った古城は目の前の光景を見て、考えるより先に動いていた。

アルディギアの聖環騎士団の一部隊を目掛けて仮面の男が大量の細く鋭い岩の槍を放った。

双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

古城の呼び出した緋色の双角獣の撒き散らす高周波振動によって全ての岩槍が砂塵へと変わる。

「暁様!?」

「悪い、遅くなった。あんたたちは負傷者を担いで下がってくれ」

「しかし…」

「大丈夫だ、すぐに終わらせる」

「では1つだけ、あれはおそらく大地の神ゲブを司る者かと…」

「そうか、ありがとう」

古城は聖環騎士団が撤退していくのを横目に見ながらゲブだと思われる男の方を向く。

「あなたがここに来たということは誰かがやられたのですか、誰ですか?参考までに教えていただけると嬉しいのですが」

「ああ、シューとかいうやつだ」

「ほう、シューを倒しましたか。では私も初めから本気を出さなければいけませんね」

「すぐに終わらせてやるよ」その言葉を最後に古城の立つ地面が膨れ上がり全方位から岩槍が古城を狙う。

古城は重力制御により上へと跳ぶことで全ての攻撃を回避する。

地面から離れれば離れるほど自分にとって有利になると考えた古城の上から大小様々な岩槍が飛んでくる。

「なっ…」反応の遅れた古城は咄嗟に金剛石の盾を展開したが、一瞬間に合わず身体に切り傷を作り、地面へと叩き落とされた──

 

 

「どこからでも1回、好きな場所に攻撃してくるがよい!」

そんな言葉を相手に言われたのも、もはや遥か昔のことのように思える。

紗矢華が那月の空間転移魔術によって転移させられた場所には1人の屈強な男が立っていた。

見るからに力だけで闘う脳筋タイプのその男を見た瞬間、紗矢華はおそらく自分が1番のハズレを引いたということを理解した。

そんなことを思った矢先、相手の口からそんな言葉が飛び出たのだった。

紗矢華はこの機会を逃せば自分が勝てる見込みは限りなく少ないと直感で悟り、言葉通り全力で相手の分厚い胸板に煌華鱗を振り下ろしたのだ。煌華鱗の擬似空間断裂には理論上切断できないものはないとされているが、男の身体には細い切れ目が入っているだけだった。

「この身体に傷を付けられたのは何十年ぶりか…小娘存分に我を楽しませよ!」

どうやらサービスは初撃だけだったようで男は紗矢華に痛烈な蹴りを放ってくる。

なんとか煌華鱗で受け止めるが軽く10メートルほども遠くへと飛ばされてしまう。

「なんの能力なのよ、これ」

「教えてやろう、我は力の神セトを司る者だ。単に力が強い。それ以上でもそれ以下でもないただそれだけの能力だ」

男の言葉とは裏腹に絶対的な防御を誇る鋼の肉体とそこから繰り出されるとてつもない威力の蹴りや拳は十分に恐ろしいものだった。

それからの紗矢華はただの消耗戦となった。

反応できる限界ギリギリで攻撃を重ねてくるセト相手に距離をとることもままならず、あまり得意ではない近接戦闘を強いられる。

煌華鱗の擬似空間断裂による防御を試みても殺せるのは威力だけで風圧によって吹き飛ばされてしまい反撃の機会を得ることさえ難しい。

セトは力を司る神というだけあって未だ疲労の色は見えない、それどころかむしろ動きのキレが上がっているかのようにさえ感じられる。

「獅子王機関の舞威媛よ、もう限界か?」

「限界なわけないでしょ!――獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る 極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり――!」

紗矢華は距離をとることが出来なかかったため使わなかった鏑矢を無理やり弓に番え、術式を展開するため上空へと矢を放った。

しかし、凄まじい膂力にものを言わせ飛び上がったセトに術式を展開し始める前の鏑矢が受け止められてしまう。

「ちょっと、なによめちゃくちゃな…」

「ほれ、お返しだ」

空中で身体を小さく丸めたセトは手に持った鏑矢を紗矢華の方へと投げ返してくる。

煌華鱗で射出する数倍の速さにもなった鏑矢を避けることが出来ないと判断した紗矢華は擬似空間断裂の盾により攻撃を防いだが、セトに背後を取られる形になる。

セトの腕から放たれる凄まじい拳に回避が間に合わなかった紗矢華は遠くへと飛んでいく。

「決まったか」

「あんまり調子にのらないでくれる?」瓦礫の中から出てきた紗矢華の左手は肩が外れ真っ直ぐ下へと垂れていた。

咄嗟に身を捻りセトの拳を左手に受けたのだが、予想以上にダメージが大きく意識があるのが信じられない状態だ。

「そのまま倒れていれば死なずに済んだものを、小娘を手にかけるのはあまり気は乗らぬが素直に倒れておいてはくれぬのだろう?」

「その余裕を今からへし折ってやるわよ」

「この状況で笑っていられるとは頭を打って気でも違えたか?」

紗矢華もまた雪菜との会話を思い出していた。

「古城のために、1人も倒さずに私が倒れるわけにはいかないのよ…」

紗矢華は意識が朦朧とする中、太股に手をやり煌華鱗に鏑矢を番え上空へと矢を放つ。

「何度やっても同じことよ」術式が展開するより早くセトは空中へと飛び上がり矢を粉砕してしまう。

「それは囮、舞威媛は呪詛と暗殺の専門家」

紗矢華はそう言いながら2本目の矢を放つ。

「呪詛って言うのはね『呪』も『詛』も呪うっていう意味の言葉なの」

3本目。

「つまりね、呪いって重なり合えば重なり合うほど効果を増すの」

4本目。

「人が詠唱できないほど高度な術式が、幾重にも重なり合い複雑になれば」

5本目。

「どうなると思う?」

1本目の矢を囮にし、セトを空中へとおびき寄せた紗矢華は最後の魔力を振り絞り地面へと5本の矢を放ち、大きく綺麗な正五角形を作り上げる。

矢の刺さった位置から巨大な魔法陣が展開されその全てが複雑に絡み合い始める。

「なんと、そんな隠し玉を持っていたか」

「これであなたを倒せるかは分からないけど、今の私にはこれ以上の術式は使えないから」空中からやっと落下を始めたセトの方を向きながら紗矢華は傷口から滴る自らの血を魔法陣の中へとゆっくりと垂らす。

紗矢華の美しい紅の血が地面へと触れた瞬間、5本の鏑矢から凄まじい音と魔力が溢れ出し、正五角形に区切られた地面の中心から真っ直ぐ上空へと向かって水縹色の魔力波が噴出しセトの身体を捉えた─

 

地面から魔法陣が消え当たりが元の静けさを取り戻し、四肢の無くなったセトが地面へと落下してくる。

「見事だな、獅子王機関の舞威媛よ」

「やっぱり倒せなかったのね…」動ける状態ではないものの息一つ乱さないセトを見て紗矢華は悔しそうな顔をしながらその場に倒れ込んだ。

「小娘にこれだけやられれば倒されたも同然よ…」自分を倒した女の方を向きながらセトは心からの賛辞を送った。

紗矢華の身体を紫色の魔法陣が包み込む──




次回はラ・フォリアを出そうかなと思っています。
皆さんもお身体には本当に気をつけて!

キャラ紹介の方も19時頃までには更新する予定ですので合わせてお読みください^^*

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第23話

なんとか復調したので今回も短いですが更新させていただきます。

もっと長く書きたいんですが…申し訳ない。

それではどうぞ!


雪菜や紗矢華がなんとか勝利を掴み取った頃、ラ・フォリアはいつものように悪戯な笑みを浮かべていた──

 

「あなたは先ほど、どうして魔族の肩を持つと質問されていましたね。それは簡単なことですよ、私が古城を好きだからです」

「ふざけるなよ、アルディギアの王女!」

「はい、もちろんそれだけではありませんよ。反魔族主義を掲げるあなた達エジプト連合と手を組むよりもこの国と仲良くする方がお得だからです」

「損得だけでお前達は魔族に肩入れするのか!」

「そう熱くならないで下さい」

ラ・フォリアは涼しい顔で頭上から落ちてくる雷撃を躱しながら続ける。

「あなた方は魔族に恨みを持ち殲滅するために集まった集団。今の世の中には残念ですが争いは必要ないのです」

「目の前に降りかかる火の粉を振り払おうとするのは当然のことだろう!」

「年増のおば様はこれだから困りますね」

「誰が年増だ!」ラ・フォリアのいつもの口車に乗せられヌトの怒りに呼応するように雷撃の威力が跳ね上がる。

戦いが始まってからもう10数分が経とうとしているがラ・フォリアはただヌトの攻撃を避け続けるだけで自分から攻撃をしかけようとはしない。

「なんの真似だ!ちょこまかと!」

「いえ、この際ハッキリさせておこうかと思いましたので。エジプト連合の中では一番の穏健派であり、母国のことを一番に考えるあなたがなぜこのような戦場へと出てきたのか」

「だから、第四真祖の存在を危ぶんでこうして抹殺しに来てるんだよ!」

「そうですか、あなたはおそらくアトゥムに利用されているのですね。そういうことでしたらもうあなたと話すことは何もありません。すぐに終わらして差し上げましょう」

ラ・フォリアは言葉通り今までと態度を変え胸元から黄金の装飾が施された呪式銃を取り出した。

「そんな銃1つで何が出来る!」

「あなたは戦場に出てくるべきではなかったのです」

ヌトは天空を司る女神。

彼女は天候を自由に操作できるという絶大な能力を持っているが、こと戦闘においては雪や雨を降らすだけでなんの効果もない。せいぜいがこの戦い中ずっと放ち続けている雷撃を天から呼び落とす程度しか攻撃手段を持たないのだ。

「我が身に宿れ、神々の娘。楯の破壊者。雹と嵐。勝利をもたらし、死を運ぶ者よ!」

戦場にラ・フォリアが奏でる祈りの詩が、美しく響き渡る。

その声に呼応するかのように彼女の呪式銃からヌトの雷撃よりも眩い黄金の輝きが溢れ出す。

擬似聖剣(ヴェルンドシステム)!?」

ラ・フォリアは自身の身に精霊を宿すことにより、精霊炉と同じ力を1人で扱うことが出来る。そうして得た膨大な霊力を武器の霊格へと供給することで一時的に己の武器を聖剣レベルへと引き上げる支援兵器、それが擬似聖剣(ヴェルンドシステム)といわれるアルディギア王国が開発した最新鋭の騎士装備の正体だ。

彼女は降りかかる雷撃を銃身から溢れ出る刃ではじき返し一瞬のうちにヌトの目の前へと迫り、いとも容易く彼女の身体を両断してしまった。

「あなたはこれからの世界に必要な人材です。そこに横たわったまま自らが何をすべきなのかよく考えなさい」

わざと急所を外し殺さずにおいたヌトに向かってラ・フォリアは諭すようにそう言うとすぐにその場を去っていった──

 

「すみません、こちらは終わりましたのでそちらに1度帰還したいのですが」ラ・フォリアは耳についた通信機に手を当てまるでホテルのロビーへと電話するような気楽さで浅葱に連絡をとる。

「わかりました、すぐに」

浅葱が言葉を終えないうちにラ・フォリアの身体を紫色の魔法陣が包み込み、吸い込まれるようにして消えていく。

彼女から空間転移魔術特有の違和感が消えた時、目の前には基樹が立っていた。

「ご苦労さん、まさかあんたが1人やってくれるとはな」

「当然です、同盟国の代表として古城1人に全てを任せるわけにはいかないですから。もっとも相手が弱かったと言われればそれまでですが」

「いいや、助かったよ。奥で休んでてくれ」

「それには及びません。私をすぐに別の場所へ」

「待て待て、そこまでする必要ないだろ?」

「奥に倒れているのは雪菜と紗矢華でしょう?古城はまだ闘いを続け敵戦力も未だ多く残っている。戦える者は戦場へと出るべきです」

「わかった、あんたがそう言うなら好きにしてくれ。那月ちゃんアスタルテを借りるぜ?」

「今は了承などいらん、お前が指揮をとっているんだ好きにしろ」

そうしてラ・フォリアとアスタルテという珍しい2人組はまた戦場へと身を投じた──

 

 

「上へ逃げれば大地から離れれば、私の能力はとるに足りない能力とでも思いましたか?空中には微量ですが砂埃が含まれているのをお忘れなく」

地面に叩き落とされた古城を見つめながらゲブは独り言のように呟く。

「そうか、それは盲点だったよ。なら─」

古城の身体から膨大な魔力波が吹き出し、大気が震えた。

そして周囲に金剛石で出来た盾を展開する。

「お前の攻撃はこれでもうオレには届かない」

ゲブの周囲から古城へと数千の岩槍が飛んでくるが、古城の前で全て砕けてしまう。

障壁の中に槍を生成しようにも空中の微量の砂塵は古城の魔力波によって吹き飛ばされてしまい1本の槍を生成することさえままならない。

「余裕かましてんじゃねーよ、クソガキがぁぁっ」

ゲブはつい数分前までの冷静さを忘れさせるような怒号をあげ地面を真っ二つに割りその中に古城を閉じ込めようと試みる。

しかし、古城は重力制御の能力によって宙に浮いたままだ。

「もういい加減諦めたらどうなんだ、お前よりさっきのやつの方が断然強いよ」

その言葉に何かを感じたのかゲブを中心に半径2キロほどの地面の表面がだんだん不安定になっていく。

「無茶苦茶しやがるな…こいつ」このままではすぐに撤退した聖環騎士団にも被害が及ぶと判断した古城は新たな眷獣を召喚した。

古城の後ろから溶岩で構成された琥珀色の牛頭神が現れ広範囲の地面の歪みを上から溶岩の層を作り、無理やり安定させる。

「我慢勝負といこうじゃありませんか、第四真祖!」ゲブが古城の方へそう叫んだときには既に古城の拳が彼の身体を貫いていた。

「ひ、卑怯な…」

「あんたバカだろ、あんたの理屈に付き合う理由はないんだよ」

古城は拳をゲブの身体から引き抜きすぐに浅葱へと連絡を取る。

「古城?どうしたの?」

「もう1人片付けた、他の連中は?」

「姫柊さんと煌坂さんとアルディギアの王女様が1人ずつ」

「そうか、さすが…」古城は浅葱が意外にも喜んでいないことに違和感を感じ言葉を止めた。

「姫柊さんも煌坂さんも結構な重症、命に関わることはないけどすぐに戦線復帰ってわけにはいかなさそう。王女は二人目の迎撃に行ったわ」

「姫柊も煌坂も頑張ってくれたんだな」

「うん、どうする?一回戻る?」

「いや、すぐに次の場所に送ってくれ」

「わかった」

程なくして古城の身体を紫色の魔法陣が包み込み新たな戦場へと古城を誘った──




午後からは少しお気に入り数やUAも増えたので既に投稿している23話分の文章を再構成できたらなと考えています。
最初の方の文章は見るに耐えなかったと思うので…

もし、そういえばここどうなったんだ?とかいうのがありましたら感想等で質問頂ければ今回の再構成で新しく場面が加わるかもしれませんのでもし何かあれば言ってください^^*

今晩、少し長めの話を更新して明日からは今までとは違うボリューミーなアトゥム戦へと移行すると思うのでもう暫く退屈な話にお付き合い下さい。

13時にはキャラ紹介の方も更新しておきます!

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第24話

うっかり寝てしまい更新が朝になってしまいました…

今回誤字脱字が多いかもしれませんが、とりあえずどうぞ!


「来たか──」

特になにもせず大量の瓦礫の山に佇む美形の男が1人。

男は優美な身のこなしで瓦礫の山から地面へと降りると次元の狭間から現れた2人の少女の方へと歩み寄る。

「これはこれは、アルディギアの王女ラ・フォリア様。隣の麗しい少女は?」

人工生命体(ホムンクルス)です」

「なにか違和感を感じると思えばそういうことでしたか」

「オシリス、アルディギア王国の王女ラ・フォリア・リハヴァインの名において命じます。直ちにアトゥムに取り次ぎこの戦いをやめさせなさい。これ以上はあなた達にとっても損害にしかならないはずです」

「ラ・フォリア様、あなたがここに来るまで私も同じことを考えていました。しかし、兵というものはただ命じられたことを遂行しなければならないのです。そこに私情を挟むなど以ての外。あなたも上に立つ者なら分かっているはずです」

「ですが、オシリス──」

「それにです、戦争というものは悲しきかなどちらにもある程度の損害は出るものなのです。どうかご理解を」

「仕方がありませんね、アスタルテ」

命令受諾(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)

少女の背中から生じた虹色の翼は、やがて巨大な腕へと変わった。

さらには宿主であるアスタルテの全身を包み込み、完全な人形へと変わる。

「ほう、眷獣を宿した人工生命体(ホムンクルス)とは珍しい」

アスタルテの正体は、眷獣共生型人工生命実験体──世界で唯一の眷獣を宿した人工生命体(ホムンクルス)なのだ。

人形の眷獣の腕をがっちりと掴んだオシリスはそのままアスタルテごと眷獣を投げ飛ばす。

どうやらオシリスは見ただけで薔薇の指先ロドダクテュロスに物理攻撃の類いが効かないことを理解したらしい。

彼の司るオシリスは冥界神と豊穣神という2つの側面を持つ。

元来エジプト神話においてオシリスは豊穣神として描かれてきた。

それが時が経つにつれ緑は大地から芽吹くというような解釈からオシリスには地下の死者たちの王、冥界神としての側面を併せ持つようになったのだ。

「警告、魔力濃度の上昇を検知──危険です」

「下がりなさい、アスタルテ」

命令受諾(アクセプト)後退します」オシリスの身体から膨大な魔力が放出されアスタルテはラ・フォリアの命令により後退する。

「──我が身に宿れ、神々の娘。軍勢の護り手。剣の時代。勝利をもたらし、死を運ぶ者よ!」

後退するアスタルテに代わり彼女を守るようにラ・フォリアが前に出る。彼女が奏でる祈りの詩が、美しく響き渡る。

その声に呼応するように、アスタルテたちの周囲を包み込んだのは、氷河にも似た青い霊気の輝きだ。

オシリスが放った膨大な魔力波はその輝きにことごとく阻まれ弾け飛んだ。

「戦艦級の防護フィールド──、聖護結界ですか。擬似聖剣(ヴェルンド・システム)ならず擬似聖楯(スヴァリン・システム)までもお1人で扱われますか」

擬似聖楯(スヴァリン・システム)は防御系魔術の最高峰と言われるアルディギア王国の秘呪だった。

精霊炉から供給される神気によって生み出される障壁は、吸血鬼の眷獣と同様に、すべての物理攻撃を無効化する特性を持っている。

精霊炉を搭載した大型軍艦と同等の結界をラ・フォリアは1人で展開しているのだ。

「戦場へと身を置く以上、自分の身は自分で守れねばなりませんからね」

「もっともです、しかし擬似聖楯(スヴァリン・システム)といえど無敵ではありません。あなたの霊力が尽きる、あるいは大型軍艦をも落とせる攻撃ならば──」

オシリスは言葉の最後をあえて言わず、大地から多量の魔力を吸収しラ・フォリアへと放出することで示した。

翠の魔力の奔流がラ・フォリアが展開する防護フィールドと触れた瞬間、凄まじい轟音が響き渡りラ・フォリアとアスタルテの2人は吹き飛ばされてしまう。

「さすがですオシリス。旧き世代の眷獣にも耐えうる擬似聖楯(スヴァリン・システム)をこうも簡単に」アスタルテの纏う人形の眷獣に抱かれなんとか無傷で済んだラ・フォリアは珍しく表情を歪めていた。

「ラ・フォリア様、どうか私をお許しください。これが戦争なのです」

そんな言葉とともにオシリスは今までの攻撃を遥かに超える密度の魔力を両腕へと集中させ2人の方へ向ける。

「そんなことは百も承知です。あなたを責める気はありませんよ、やりなさいオシリス──」

 

しばらくの沈黙の後、ラ・フォリアの決意とは反対にオシリスの両腕から魔力の揺らぎが消えた。

「あなたは強運なお方だ。アトゥム様が私を呼んでいる」

「私が強運なのではなくあなたが優しいだけでしょう?私を殺すのに数秒とかからないでしょうに」

「はて、なんのことでしょうな。戦争で散りゆく命は多けれど、拾える命は拾うに越したことは無い。ただそれだけの事です」

「そうですか、オシリス最後に1つだけいいですか?」

「なんなりと」

「なぜ冥府神としての権能を使わないのですか?」

「あれはあまりにも醜すぎる──」

その言葉がラ・フォリアの耳に届いたとき、目の前に立つ優雅な男の姿はもう消えていた──

 

 

何度目かの空間転移魔術特有の違和感がなくなり、新たな戦場へと降り立った古城の周りには錆びた鉄の臭いのような異臭が漂っていた。

「まさか…」

目を開けた古城の前には見るも無残に引き裂かれた特区警備隊アイランドガードと聖環騎士団の混成部隊の死体がゴミのように山積みにされていた。

「遅かったじゃない、暇すぎてこいつら食ってしまおうかと思ったわ」

「っ……!!」

山積みの死体の前に立ち愉しそうに笑う女が放った言葉は古城を怒らせるには充分だった。

連戦の疲れなどまるでないかのような動きで古城は女の懐へと入り雷撃を纏わせた拳を女の鳩尾へと突き出したが、硬い壁に阻まれあと数ミリのところで止まってしまう。

龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」古城の怒号によって巨大な双頭龍が現れ古城の前の硬い壁を空間ごと喰い破る。

「面白いわね、その眷獣」

荒れ狂う古城の怒りに呼応するように双頭龍がその顎あぎとで女を捉えようと暴れ狂う。

「でも、そんなに空間に切れ目をいれると私だけじゃなく自分自身も危ないことを理解していないの?」

女の言葉を聞き、周囲を見渡した古城は周辺の空間が不安定になっていることに気づき仕方なく眷獣の実体化を解いた。

「偉い偉い、眷獣出さなくていいの?君もあの死体の山みたいになっちゃうわよ」

古城は自分の方へと手を向けてくる女に本能で危険を感じ取り咄嗟に金剛石の盾を展開した。

彼の身体を金剛石の盾が覆った瞬間──

 

身体の左肩から下が血を吹き出し地面へと落ちた。

「ぐぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「痛い?痛いよね、今どんな気持ち?」

苦痛に顔を歪める古城を嬉しそうに見ながら女は興奮する。

甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)…」

距離をとるために霧になった古城を向いて女はニヤリと笑い──

 

地面に倒れる古城の顔を踏んでいた。

「なっ…!?」

霧になったはずが地面で顔を踏まれていた古城は驚きの声を上げた。

「愚かね、私の能力も知らないで」

「能力──」

古城は頭を踏まれながら自分が何をされたのか考える。

同等の相手に掴まれるのとはまた別の感覚に女の能力の恐ろしさを感じる。

「頭踏まれたまま考えるとかマゾ?」

女の脚が古城の顔面を蹴り飛ばし古城の鼻をへし折った。

重力制御により大きく女から離れた古城は新たな眷獣を呼び出した。

ヘビの下半身と髪を持つウンディーネが現れ古城が傷を負う前の姿へと時間を巻き戻していく。

「便利ね、その力」

「そんなこともないさ、見た目だけで魔力までは完全には戻らないからな」水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)は吸血鬼の回復能力を司り全てを無に帰す力を持つがその絶大な能力の代償としてかなり燃費が悪い。

古城の身体を魔力を消費するより前に戻したとしてもそこから能力を使う魔力の残りが消費されるため魔力は大して回復しないのだ。

「残念、何回でも痛ぶれる都合のいい能力ではないのね」

女の言葉を聞き流し古城は浅葱に助言を求める。

「浅葱、相手の能力って分かるか?」

「多分だけど、テフヌトかな…湿気の女神。それより古城大丈夫?見てられないくらいやられてたけど…」

「まだ大丈夫だ、もう少しなんとか頑張るよ」

古城は浅葱にそう言うと覚悟を決め残りの魔力を全てかき集め新たな眷獣を召喚する。

テフヌトの周囲の地面が赤く膨れ上がり彼女を超高熱のマグマの檻が囲み、上空に現れた巨大な三鈷剣がその莫大な質量に自然落下と重力制御の能力による加速を加え、破壊そのものとなりテフヌトを捕らえるマグマの檻へと突き刺さる。

攻撃による余波が半径数10キロを壊滅させた。

「これでどうだ…」

「とんでもないことするわね、あなた」

「なっ…!?」

古城は自分の背後から悠々と歩いてくるテフヌトの方を向きながら魔力を使い果たし倒れてしまった──

 

「やれやれ、不出来な教え子はこれだから困るな」

そんな声とともに古城の身体を紫色の魔法陣が包み込みその場から消える。

「空隙の魔女?ようやくでてきたのね」

「出てきたというより、引きずり出されたのだがな」いつも通りの豪奢なドレスに身を包み那月はテフヌトに不敵に笑い返す。

「でも、もっと早く引きずり出せると思ってたわ」

「それには同感だが、少し余裕すぎはしないか?たかが光の屈折を利用した身代わりごときでいい気になられてもな」

「さすがといったところね、そこまで簡単に見破られるといっそ清々しいかしら」

たった1度で自分の能力を看破されたテフヌトに初めて焦りの色が見えた。

それを皮切りに那月の身体がテフヌトの視界から消え、一瞬のうちに数100体の那月が現れる。

「教官気取りのその態度…ムカつくわね」

テフヌトは周囲に超高圧で水を噴射し鋭利な刃物のように飛ばすことでその全てを消し去った。

「空気中の水分を高圧で射出…ウォーターカッターのようなものか」

古城の金剛石の盾が簡単に切断されたのも同じ技だ。

那月の冷ややかな笑いとともに大量の銀鎖がテフヌトを襲う。

高圧で水を飛ばし迎撃しようと試みるが圧倒的質量にテフヌトは弾き飛ばされた。

「底は見えたな、このつまらん余興も終わらせるとするか」

「魔女の分際で…どうして第四真祖に肩入れするの」

「悲しいことにあいつは私の教え子でな、教え子を守るのも教師の務めということだ。聞きたいことはそれだけか?」

「呪ってやる…」

「存分に呪え」そのやり取りを最後にテフヌトは殺到する銀鎖に絡まり監獄結界へと消えていった。

輪環王(ラインゴルト)を使うまでもなかったな…、アトゥムのやつは暁にやらせるとして他の連中を回収しに行くとでもするか──」

 

閉じてあった日傘を開き那月はまたその場から姿を消した──




今日の夜更新予定の次回からは人間戦争も最終局面を迎えます!
最後のバトルは長めに書く予定なので期待してください^^*

キャラ紹介は昼過ぎ更新予定です!

今回の話もそろそろ終わりに近づいてきたので、活動報告にあるアンケートにコメント頂ければ皆さんのお気に入りのキャラが次章から登場するかもしれないのでよろしければお願いします。

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第25話 煌坂 紗矢華Ⅳ

更新遅くなりました…思ってたより長くなってしまって笑

今回多分これまでで一番内容が濃いので楽しんでいただければとおもいます。

それではどうぞ!


「ん……」

「目が覚めましたか?古城」

「ラ・フォリア…、そうだテフヌトのやつは!?」

「監獄結界の中だ」退屈そうな顔をしながら那月が古城の方へと歩いてくる。

「那月ちゃんが?ありが…」

「この大変なときに教師をちゃん付けで呼ぶなアホ」

古城の頭に那月の傘が突き刺さった。

「痛って…、起き抜けの人間にすることかよ…」

「お前は人間ではないからな」

「ただの横暴だろ…この鬼畜教師…」

「なんとでも言え、それよりアトゥムのやつはお前の仕事だぞ」

「少しくらい手伝ってくれてもいいだろ?」

「不出来な教え子を持つと本当に困るな、私は日本の国家攻魔官だぞこれ以上連中と事を構えれば外交問題、つまり聖域条約違反になる」

「大丈夫か?古城そもそも那月ちゃんにはここぞという時1回だけってルールを決めただろ?」

「矢瀬…、そうだお前姫柊と煌坂は!?」

「どっちもそれなりに回復してる激しい戦闘は無理だがサポートくらいならなんとかなるかもな」

「そうか…」2人が倒れたと聞いてから気が気でなかった古城は胸をなでおろした。

「古城、こちらへ」話の途中にも関わらずラ・フォリアが古城を引っ張っていく。

「どうしたんだ?」

「少しやるべき事を終わらせておこうかと」

そう言いながらラ・フォリアは服を脱ぎ古城の方へ首を差し出す。

「いやいやいやいや、ちょっと待てラ・フォリア」

「はい?」

「何する気だよ」

「吸血に決まっているでしょう?」

「そんなことする必要ないだろ!?」

「この戦いで散りゆくかもしれない私の血を古城は吸ってくれないのですね…」

「あ…いや、そういうことじゃなくてな?」

「冗談です、いいですか古城、アトゥムは万全の状態のあなたでも10回に1回勝てるかどうか。魔力を高めるに越したことはないのです」

「なら、最初からそう言ってくれよ…」古城はラ・フォリアの調子に乗せられ疲れたのか拒否する気力さえなかった。

それを分かっているラ・フォリアは改めて古城の前へと首元を差し出した。

アルディギア王家の女性はほぼ例外なく強力な霊媒としての素質を持って生まれる。ラ・フォリアもその例に違わず最高の霊媒だ。

そんな彼女の中に流れる極上の血を本能で感じ取った古城は野獣のように彼女の首に噛みつき血を啜った──

 

「なくなるまで吸われるかと思いましたよ古城」

「うっ…」

連戦で魔力の消費が大きかった古城はラ・フォリアの血を夢中で吸ってしまったのだ。

王女の血を獣のように吸ってしまった自分にバツの悪さを感じていた古城の耳に申し訳なさそうな声が聞こえてくる。

「あのー…お熱いところ申し訳ないんだけど…1ついい?」

「な、なんだ…?浅葱」

「1つ反応が消えたの、多分オシリスって人のやつ」

「そうですか…オシリスが…」

「ラ・フォリア、何か知ってるのか?」

「ねえ、古城。あんたなんか永遠にアルディギアに行っちゃえばいいのよ!」そんな怒号を古城に浴びせた浅葱は怒りに任せて通信を切ったようだ。

「やばい…あとで絶対めんどくさいことになる…」

「よいではないですか、それよりオシリスが消えたということは死んだと考えた方がいいですね」

「でも誰に?」

「おそらくアトゥムでしょうね」

「自分の仲間だろ?」

「アトゥムとはそういう人間なのですよ。古城、今度は携帯が鳴っていますよ?」

ラ・フォリアに言われて初めて気づいた古城は電話に出る。

電話の主は基樹だ。どうやら最後の作戦会議のために集まれということらしい。

ラ・フォリアを連れ屋上へと向かうと基樹、那月、アスタルテが待っていた。

「どうせ、オレが単騎で行くんだろ…?」

「まあ、那月ちゃんが使えない以上基本的にはそうなるな」

「やっぱりか…」

「まあ、姫柊ちゃん達獅子王機関の2人とラ・フォリアがいるんだなんとかなるだろ。ってかなんとかしてくれ」

「テキトーすぎるだろ…」

「まあまあ、頑張ってくれよ。多分向こうもあと2時間は動かないはずだその間にゆっくり休んどけ」

基樹はこれで話は終わりと言わんばかりに屋内へと戻って行き、那月とアスタルテも気づけばどこかへ行ってしまっていた──

 

「ラ・フォリア、姫柊達のところに連れてってくれ」

「このすぐ奥ですよ」ラ・フォリアに案内され古城は2人が寝るベッドへと向かい二人の間に腰掛ける。

「古城…」

「ん?ああ、大丈夫だ。確かにオレがもっとしっかりしてればとは思う。でも姫柊も煌坂もそんな事言ったって怒るだろうからな、素直に感謝してるよ」

「そうですか、そこまで分かっているならもう言うことはありませんね。やはり古城は私が認めただけあります」

「お前の期待もなるべく裏切らないように頑張るよ」

「それは楽しみですね、では私も少し休んできますまた後で」

「分かった、ゆっくり休んでくれ」

そんな会話を最後にラ・フォリアは部屋から出て行った。

彼女が出て行ってから古城も雪菜と紗矢華の間で眠ってしまっていた。

「先…輩…?起きてください先輩」

「ん…なんだ、姫柊もう大丈夫なのか?」

「はい、傷はすぐに塞がりましたから」気づけば雪菜が隣に立っていた。起きてから古城を起こすか起こすまいか悩んでいたらしい。

「そうか…、煌坂は…」

「あと30分ほどは起きないと思います」

「そうか、ギリギリまで寝かせておくか」紗矢華の気持ちよさそうな寝顔のおかげか古城の緊張も和らいだようだ。

「先輩…寝ている紗矢華さんを凝視して何笑ってるんですか…」

「いや、待てこれは!」

「はぁ…わかりました、無事にこの戦いを先輩が終わらせてくれるなら今のはなかったことにします」

「いや、だから…」

「先輩?」

「分かった、オレがアトゥムって野郎をぶっ倒せばいいことに変わりはないしな」

雪菜とそんな約束を交わした古城はあまり騒ぐのも紗矢華に迷惑だと思ったのか部屋から出て行こうとしたところで雪菜から声をかけられる。

「先輩、頑張るのはいいですけど無茶はしないでくださいね」

「ああ、姫柊もな──」

 

部屋の外に出て特にすることもない古城は自販機で飲み物を買い喉を潤し屋上から街を眺めていた。

「ビビってんのか?」

後ろから基樹が歩いてくる。

「かもな」

「そういや、前にもこんなことあったな」

「そうだったか?」

「中学のときだな、オレ達が初めて部活の試合に出たときだよ」

「ああ…」

中1の冬初めて部活の新人戦に出た古城と基樹はハーフタイムまでに大差を付けられ監督の意向で後半は古城のアイソレーションを中心に攻めるという作戦を聞かされたのだった。

初めての試合であり基樹と違いまだ子供臭さが残っていた古城はガチガチに緊張したものだ。

そんなとき基樹と同じようなやり取りをしたのだ。

「勝てよ、親友。あの時みたいにさらっと決めちまってくれ」

「簡単に言うなよ、バスケの試合とはわけが違うだろ」

「女の前で強がるならオレの前でも強がれ、嫌われるぜ」ニヤニヤ笑いながら基樹が古城の背中を叩いてくる。

そんな親友の些細な気遣いに古城は心の底で感謝する。

「さて、時間だ。じゃあ頼んだぜ」

古城は返事をしなかったが2人の間には言葉など必要なかったらしい。

回復した雪菜と紗矢華、休息を取っていたラ・フォリアが屋上へと上がってき古城の元へと集まってきた。

「準備OKだな、それじゃあ那月ちゃん古城達を頼む」

「教師をちゃん付けで呼ぶな」そんないつも通りの言葉と共に古城達を魔法陣が包み一際輝いた瞬間古城達はもうその場にはいなかった──

 

 

「遅かったな、第四真祖待ちくたびれたぞ」

「わざわざ待っててくれたのかよ」

「古城、アトゥムは力を蓄えていただけですよ」

「アルディギアの小娘か、相変わらず癪に障る」

「オシリスを殺したのですか?」

「儂に逆らう兵などゴミ以下の存在よ」

「てめぇ…仮にも仲間だろ!!」

「綺麗事では語れないこともあると知れ小僧」

仮面を外したアトゥムの顔には歴戦の傷と思しき傷跡が無数に入っている。

アトゥムと女の身体の周りを不思議な光が周りだしすぐに2人はその場から姿を消した。

「空間転移!?」

「いえ、違います。これはもっと異質な力です、先輩気をつけてください」

「ラ・フォリア、アトゥムの能力を知ってるんだろ?」

「ええ、彼は万物を創造することができるアトゥム神を司る神官です。そして、彼の呼び名は吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)です」

「王女!?それって古城を連れてきたのは間違いなんじゃ…」

「現状こちらの1番の戦力は古城なのです、出し惜しみして勝てるほど甘くない以上仕方が無いことです」

「お話もそこまでです、上から来ます!」

雪菜の霊視がなければ反応できない速度で上空から古城達を目掛けて超高速の空気の刃が迫り来る。

龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」古城たちの前に巨大な双頭龍が現れ広範囲の空間を喰い千切ることによって煌華鱗の擬似空間断裂と同じ効果を持つ盾を作り出す。

辛うじて全てを防ぎきった古城達の後ろにアトゥムを包んだ光と同じものが現れその中心から深紅のレーザーが放出される。

「煌坂!!」

古城の呼び声に応え紗矢華が煌華鱗による擬似空間断裂の能力を発動させ迎撃にあたる。

「雪菜、多分これ魔力を使った攻撃じゃないから気をつけて!」アトゥムの攻撃が魔力によるものか分からない以上雪菜の雪霞狼を使うわけにはいかないという咄嗟の古城の判断は正しいものだった。

雪菜が紗矢華に返事をする暇もなく、古城たちの立つ地面が崩壊し巨大な穴を作り出す。

古城の重力制御の能力によりなんとか落下することを防いだ4人へ紗矢華が防いだものと同じ深紅のレーザーが全方位から迫る。

「ラ・フォリア!!」

祈りの詩を奏でる暇もなく展開されたラ・フォリアの聖護結界がなんとかその全てを防ぎきるが所々に綻びが生まれている。

雪菜の雪霞狼による神格振動波駆動術式が使えないことがどれだけしんどいかを古城たちは痛感することになった──

「おいおい、なんでもありかよ」

「仕方ありません、彼はどんなものでも自分に都合のいいものを作れますから。創造とはそういうものです。新たな世界を作ることも彼にとっては息をするように簡単なことなのですよ」

「ラ・フォリア、なんか弱点とかないのか?」

「弱点…ないですね」

「ないのかよ!!」

古城とラ・フォリアがそんな言い争いをしている間にもアトゥムの攻撃は止まる気配が全くない。

死角から次々と多種多様な攻撃がくるため全て防げていること自体不思議なほどだ。

古城の卓越した戦闘嗅覚(バトルセンス)による的確な支持と彼と3人の絆がギリギリのところでの回避を可能としていた。

しかし、それも長くは続かない古城の集中力は第四真祖といえど人間となんの代わりもない、長い間極度の集中状態を保つことは出来ないのだ。

古城が一瞬気を許した隙に彼の身体を深紅のレーザーが貫いた。

「先輩!?」

「大丈夫だ、ちょっと身体に穴が空いただけだ…」

「でも…!!」

「姫柊、浅葱を呼んでくれ例のヤツ1発頼むって…」

古城の心配をしながらも雪菜は浅葱へと連絡をとりよく分からない伝言を伝えた。

その間にもアトゥムの攻撃は続きなんとかラ・フォリアが完全詠唱の聖護結界によって攻撃をやり過ごしている。

そんな中古城の耳に浅葱の声が聞こえてきた。

「古城、まだ死なないでよ?1発だけなら大きいのぶち込めるわよ」

「そうか…やってくれ」

「この熱源反応がデコイって可能性は!?」

「なんだよ、デコイって…」

「囮!本物かどうか!」

「多分本物だ、早くやってくれじゃないと先にこっちがやられる」

「分かった、1発だけだからねしっかり仕留めなさいよ!」

浅葱からの通信が切れ数秒が経ち、上空に浮かんでいるアトゥムの身体を島の周囲を囲むカインの遺産から放たれた聖殲を凝縮した超高速の深紅の光の筋が貫いた。

「どけ!ラ・フォリア!」

ラ・フォリアを押しのけ古城は100mを優に超える三鈷剣をアトゥムがいる場所へ目掛けて限界まで加速させ止めの一撃を食らわす。

「聖殲…いつからこんなことを…」

「浅葱が1回なら使えるって言うから最後に取っといたんだよ…」苦しそうにその場に座る古城が雪菜の質問に答えたときだった──

 

 

 

「古城っ!!」

アトゥムがいた場所から黄金の魔力波が放出され一瞬のうちに古城を貫かんと太陽光線が迫り来る。

「先輩…!」

雪菜の悲鳴のも似た声が響き渡り、暗闇へと戻ったその場に倒れていたのは古城ではなく紗矢華だった。

上半身の右側をごっそりと持っていかれた紗矢華は無事な古城の姿を目に止めると安心したように微笑む。

彼女は舞威媛であり殺気を隠したり感じることには長けている。アトゥムの殺気をいち早く感じ取り古城を攻撃から守ったのだ。

「おい、煌坂!なんで助けたんだよ」

「決まってる…でしょ…あなたがやられたら…終わりなのよ…」

「紗矢華さん、もう喋らないでください!傷口が…」紗矢華が声を発する度に傷口から血が溢れ出す。

「アトゥム…、ラー・アトゥムですか…これが吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)と呼ばれる理由。太陽神の力ですか…」

「おい、ラ・フォリア!何呑気に敵の能力の観察なんかやってるんだよ!煌坂が!煌坂が死にかけてるんだぞ!!」

「落ち着きなさい、古城。あなたはそんなものだったのですか?紗矢華の意思を無駄にするようなことはこの私が許しません」ラ・フォリアが初めて古城の顔を叩いた。

「ラ・フォリア…そう…だよな…。でもオレは煌坂を諦めきれない。なにか助ける方法はないのか…?」古城は縋るような思いでラ・フォリアへと問う。

「雪菜、私に力を貸しなさい。──我が身に宿れ、神々の娘。軍勢の護り手。剣の時代。勝利をもたらし、死を運ぶ者よ!」

完全詠唱の聖護結界が四人の周囲へと展開され、雪菜が送る霊力を加え結界が強度を増す。

そこにアトゥムの太陽光線がぶつかり火花を散らした。

「古城、雪菜と私の霊力全てを結界に回しても防げるのは2分です。その間に紗矢華を『血の伴侶』に」

「待てよ、ラ・フォリア煌坂はそんなこと望まないだろ!?」

「紗矢華、以前の戦いで私は言いましたね。真祖に必要なのは後宮(ハーレム)だと、それは国を守る戦力としてという意味もあると──」ラ・フォリアは古城の言うことを無視し紗矢華へと語りかける。

「はい…」

「では、もう1度問います。紗矢華、あなたは古城と本気で結ばれたいと願いますか?古城のために全てを捧げると誓えますか?」

「紗矢華さん…」古城と雪菜が見守る中、紗矢華はゆっくりと口を開いた。

「古城…、私はあなたになら…暁 古城になら全てを捧げてもいいと思う…だから古城がいいなら…私を『血の伴侶』にし…て…」最後の気力を振り絞り紗矢華が初めて古城に素直な気持ちを伝える──

「煌坂…」紗矢華の本心を初めて聞いた古城は自分を守るために傷ついた少女の方へと身体を向けた。

「煌坂、助かったあとオレを恨んでもいい。全部責任はオレがとるだから許してくれ」

「いいって…言ってるのよ…バカ…真祖…」

紗矢華の最後の言葉を聞いた古城は彼女の右側の首元へと牙を突き立て限界以上に血を吸い、その傷口から自らの血を流し込む。

吸血行為によって『血の従者』あるいは『血の伴侶』ができる方法は2つ。1つは条件の揃った日に吸血をすること、もう1つは限界以上に血を吸い主である吸血鬼が己の血を分け与えること。

紗矢華の身体から一瞬血の気がなくなったあと、少し間をあけて古城の血が注がれ彼女の傷口がどんどんと塞がっていく。

紗矢華の傷が塞がった瞬間、ラ・フォリアの展開する聖護結界が限界を超え破裂し、太陽光線が古城へと向かう。

神羊の金剛(メサルティム・アダマス)!!」

迫り来る太陽光線は金剛石へと触れ屈折し、遥か彼方へと消えていく。

「防ぎきったか、小僧。今ので終わればすぐにその身体を喰ろうてやろうと思っておったのに」

「それが、あなたの狙いですか。第四真祖の血の記憶を身体に取り込み自らが真祖となり永遠の命と強大な力を手に入れる」

「命を繋ぐだけなら儂の能力でもなんとかなるのだがな、若さを手に入れるには吸血鬼を喰らうのが一番でな。その力と儂の力があれば世を治めるのも簡単であろう?」

「外道が…、そんなことのために仲間も殺して罪もない人を巻き込んで戦争なんかしやがったのか。あんたが欲しがったものは何も渡さない。この国はオレが守る。ここから先は、第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

古城の全身から噴き出す魔力が、漆黒の翼となった。

その直後古城の目の前を黄金の輝きが覆う。

アトゥムの攻撃だ。古城が憤った一瞬の隙を突いて神速の太陽光線を放ってきたのだ。しかし、古城の顔に焦りの色はまったく見えない。

古城が顔をあげたときには、銀色の刃の一閃が、眩い輝きを跡形もなく消し飛ばす。

「──いいえ、先輩。()()()()()()聖戦(ケンカ)、です!」

ふわりと制服を舞い上がらせ、古城の隣に雪菜が着地した──




どうだったでしょうか、次でラストにする予定です。
感想よかったら、お願いします!今回の話がどれくらい皆さんに受け入れられるのかだいぶ心配なので……( ̄▽ ̄;)

最後のシーンの雪霞狼の神格振動波駆動術式による魔力無効化ですが、
創造神としての権能で作り出したもの→魔力が関係ない独自の物質等で構成されている
太陽神としての権能である太陽光線→能力そのものなので無効化可能と解釈していただけると分かりやすいかなと思います!

追記:キャラ紹介アトゥムの欄に少し加筆しました。


それではまた明日!

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第26話

今回で人間戦争編が終了します!

短いですがお読みください^^*


「獅子王機関の剣巫の未来視か──」

アトゥムが賞賛の目で雪菜を見つめた。

「第四真祖に『血の伴侶』がいるとは初耳だな、霊力と魔力だけでなく神気までも使いこなすとは何者だ小娘。相反する力どころか神の領域にまで踏み込もうとするか──」

「自分の存在がどれだけ特異なものかは私が一番よく分かっています、ですがあなたには関係のないことです!」

興味深そうに雪菜を見るアトゥムに向かって彼女の破魔の槍がその胸を貫かんと肉薄する。

「関係ないか、自分以上に神に近い人間の存在を許容できない儂の気持ちが分からんか」

雪菜へと哀れな目を向けるアトゥムの身体が見えなくなっていく。

「呪術迷彩!?先輩、後ろです!」

雪菜の前から突然消えたアトゥムは古城の背後から姿を現し今までで一番強い太陽光線を放った。

神速の光が古城の方へと一直線に進み不規則に折れ曲がり拡散しあらぬ方向へと飛んでいく。

「なあ、おっさん。死ぬ覚悟は出来てるか?」

後ろを気だるげに振り向いた古城から放たれた殺気に圧されたアトゥムは1歩後ろへと引き下がった。

「おかしいな、散々でかい口叩いてたあんたがオレが振り向いただけで距離を取るなんてな」

古城の身体から溢れ出す魔力はどんどん濃さを増し、背中から出る漆黒の翼が数メートルにも渡る大きさへと変わっていく。

既に彼の周りの空間は圧倒的な魔力濃度により歪み始めているがそれでも魔力の高まりは止まらない。

「黙っておれば勝手なことばかり口走りおって──」

古城の周囲を怪しげな光が明滅しその中から細く圧縮された太陽光が飛んでくる。

古城を捉えようとする光は全て空間の歪みによって四方へと飛んでいく。

「もうやめにしよう、オレ達が争っても何も変わらない」

「黙れと言っているのが分からんのか出来損ないの真祖が──」

アトゥムの叫びとともに空間の歪みを計算して放たれた光が古城の胸へと吸い込まれるように進んでいく。

「先輩の言う通りです、もう諦めてください──!」

古城の後ろから飛び出した雪菜の破魔の槍に届きかけた光も消し去られてしまった。

「数百年越しの夢を諦めろと?お前達はそう言うのか?笑わせるな、ここまで来て引き下がれるものか」

「そうか、ならもう手加減はしないぜおっさん。焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)11番目の眷獣水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)!」

ヘビの下半身と髪を持つウンディーネがその全てを無に返す力でアトゥムが創造しようとするものを全て消し去っていく。

圧倒的な古城の眷獣の力の前にアトゥムが恐怖を覚えたとき、鈴の音のような美しい祝詞が彼の耳へと聞こえてきた。

「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る 破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

雪菜が光り輝く破魔の槍を上下へと2回振り下ろし、アトゥムの両腕を肩から切断する。

「ぐっ……イシスっ…!!」

アトゥムの苦しげな叫びに呼ばれ、今までずっと戦場の一番後ろで待機していた女が現れ彼の身体を神々しい光で満たしていく。

「そんな…傷が癒えて…」

雪菜の破魔の槍で切断したはずの傷口から新たな腕が生えてくるようにアトゥムの腕が再生される。

「クソ、高位の再生能力者か──」

古城が追撃のために新たな眷獣を呼びだそうとしたとき女はアトゥムを庇うように前へと立ちふさがり口を開いた。

「お2人とももうこれ以上はおやめ下さい、これ以上は無益です」

「何を言っているイシス、傷を治したのだから早くそこをどけ」

「その命令には従いかねます。この戦争を外から見守り、オシリスのアトゥム様への言葉を聞き私は思い直しました。アトゥム様がこの第四真祖の能力を心より欲しているのは知っております、しかしそれは民のためにではなくご自分のためなのでしょう?」

「それが、どうした。いいからそこをどけと言っている──!」

「私とオシリスが全てを捧げると誓ったのはアトゥム様が民のことを一番に考えていたからです。しかし時が経つにつれあなたは変わり組織も変わっていってしまった。どうか昔の心優しきアトゥム様にお戻りください」

古城にはイシスが泣いているのが仮面の上からでも分かった。

「なあ、おっさん。まだやるのか?」

「ああ、まだ終われぬからな」

「アトゥム様──!」

にやりと笑ったアトゥムはイシスの身体ごと目の前の古城を真っ二つにするため創造の力で生み出した不可視の刃を繰り出した。

「やらせませんよ」

またしても霊視により一瞬先の未来を見た雪菜の槍が攻撃を防ぐ。

「アンタのためにその人は泣いてるんだろ、そんな人を道具みたいに使い捨てるような真似はやめろよ」

古城のその言葉についにアトゥムも折れたのかその場に倒れた。

それを見届けた古城は浅葱へと連絡し那月を呼ぶ。

すぐに空間転移によって現れた那月の手によって監獄結界へのゲートが開かれた。

「第四真祖、いえ暁様すみませんでした…」

「いいよ、あの人のこと好きなんだろ?これから色々大変だろうけど助けてやれよ」

「はい…」

恭しく仮面を取り今度は違う涙を浮かべたイシスは項垂れるアトゥムと共に監獄結界のゲートへと消えていった。

「暁、ここからは私がする。お前は嫁の相手でもしておくんだな」そんなことを言いながら古城の方へ笑いかけてきた那月はまたすぐにどこかへと消え去った。

全てが終わり雪菜と古城の2人も戦場を後にする──

 

基樹や浅葱が待つキーストンゲートへと帰った2人を最初に出迎えたのは凪沙だった。

「ねえねえ、古城くん最後どうなったの?浅葱ちゃんが目隠しして全然見せてくれなくて、すごく気になるんだけど!」

「あー、まあなんともない。何もなかった」

疲れ切ったところに妹のマシンガントークの洗礼を浴びた古城は曖昧な返事を返す。

「そっか、そっか。煌坂さんとラ・フォリアさんが先に帰ってきたからどうしちゃったのかと思ったよー」

「姫柊、凪沙を頼む。オレは煌坂の所に行ってくる」

そう言うと古城は上へと走って行った。

「煌坂!」

ドアを開け紗矢華の顔を見るなり古城は大声で彼女の名前を呼んだ。

「心配しなくても、もう大丈…」

「大丈夫か?怪我してないか?どっか変なとこないか?」

「ちょっと、近すぎるわよ」

紗矢華は夢中になって近づいてくる古城の顔を手で押しやった。

「心配しなくても大丈夫、傷は全部綺麗に治ったし変なところもないわ」

「そうか…よかった…。でも本当にあんなことしてよかったのか?」

「いいって言ったでしょ、今更になって後悔してるの?」

「後悔なんてするわけないだろ」

「えっ…」

「煌坂を助けるにはあれしかなかったんだからな」

「あっ…そういう…」

少し古城の言葉を期待した紗矢華は一瞬残念そうな顔をした。

「ちゃんと責任は取る、だからさっきも言ったけどいくらでも恨んでくれていい」

「ほんっとにバカなのね、恨んだりしないわよ。これで雪菜ともずっと一緒にいれるんだから」

「そっか…、これからもよろしくな煌坂」

「うん…」

紗矢華は頷き顔を下に向ける。

その顔は完全に女の子の顔だった。

治りたての紗矢華にあまり話すのも良くないと思ったのか古城は部屋の外へと出て行こうとする。

「ねえ、古城。私あなたに会えてよかった」

「そうか、オレも煌坂に会えてよかったと思ってるよ」

それだけ言って最後に笑顔を交わし、古城は部屋から出て行った。

「『血の伴侶』か…」

誰もいない病室で紗矢華は1人そう呟いて愛おしむように古城に吸われた首元を押さえていた──




次回幕間を挟んで、また短めの日常回の章を挟んでからバトルを含めた章へと移行していきたいと思います。

次次章のバトルでは優麻が出る予定ですよ!(ちらっとネタバレ)

今回で長かった人間戦争が終わります、色々と不安でもあるので皆さんの感想や質問を出来ればお聞かせください^^*
評価もしていただけると幸いです!


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第27話 幕間

毎日更新していたのが途切れてしまいすみません( ̄▽ ̄;)

文章の書き方を忘れて色々おかしいかも知れませんが我慢してください…

短い幕間ですが、どうぞ!


人間戦争と呼ばれたエジプト連合との戦争を終えて早くも10日ほどが過ぎ絃神島にも新しい春がきた。

おっとりとした春の陽気に似合わない忙しない2人組が道を走っている。

「先輩ったら、こんなに大事な日にまで寝坊するなんて…」

「仕方ないだろ!?昨日しか休みなかったんだよ!」

そんな2人は今日行われるアルディギアとの調印式典が開催される場所の方へと走って行った──

 

 

「遅いですよ、古城」

「悪い、ラ・フォリア…。最近公務が多すぎてな…」

「仕方ないですね、私がなんとか場を持たせますから。古城は正装に着替えて出てきてください」

ラ・フォリアは古城のくたびれたパーカーを見ると微笑みながらそう言って式典会場へと出て行った。

古城は急いで用意された服に着替え、ラ・フォリアの待つ会場へと出て行く。

「なっ…!?」

出るなりいきなり大勢から見られた古城は初めての経験に驚きの声を漏らす。

「古城、緊張するのは分かりますがとりあえず私に任せておいてください」

「ああ…」

そんなラ・フォリアの気遣いもあり式典は滞りなく進み最後に古城とラ・フォリアが熱い握手を交わす。

「見てください!アルディギア王国第一王女ラ・フォリア様と暁様が…き、キス…を?」

お決まりのセリフを言おうとしたアナウンサーの言葉が急に予想外のものに変わった。

ラ・フォリアがカメラの前で急に古城にキスをしたのだ。

「おい、ラ・フォリア!?」古城が慌てて素の自分を出してしまう。

「この際、既成事実を作っておこうかと」

「お前なぁ…」古城は自分にだけ聞こえるようにそう言ってきたラ・フォリアに呆れ、突然のことで周りが固まっている間に裏へと戻り逃げる。

 

 

「すみません、古城。ちょっと最近妬けましたので」

「だからってな…あんな世界中に放送されてるカメラの前で…」

「すみませんね」悪戯な笑みを浮かべながら可愛らしく首を傾げた彼女は奥へと消えていってしまった。

 

「先輩…」

「ひ、姫柊!?オレは別に悪くないからな!?」

「そう…ですね…」傍に来た雪菜の古城を見る目が痛い。

「とりあえずどうでもいいから帰って寝させてくれ…」

「わかりました…、あとは私たちでなんとかしておくので先輩は帰って休んでおいてください」

連日の公務で疲れきった古城を見て雪菜がため息をつきながらそんなことを言ってくれる。

その言葉に甘えた古城はこっそりと家へ帰り昼過ぎから眠りこけた──

 

「明るい…?朝まで寝てたか…」

昼過ぎから寝ていた古城は当然だがいつもより朝早く起きた。

凪沙を起こさないように気をつけながら部屋の外に出てなにか空腹を満たせるものを探す。

冷蔵庫の中はほぼ空っぽだった。

「仕方ない…コンビニでパンでも買ってきとくか」

古城はまだ眠い目をこすりながらゆっくりと家の外に出た。

「おはよう古城、こんな朝からどこ行く気なの?」

「煌坂か、悪いな起こしちまったか?」

「ううん、私結構朝は早いの。それに、疲れてる雪菜にこんな早くから監視任務を任せるのも気が引けるし」

「そうだな、優しいよな煌坂は」

「別に、あなたにお礼を言われるようなことは何も…」

「そうだな、コンビニ行くだけだけど一緒に行くか?」

「当たり前でしょ、ここまで来て行かないなんて有り得ないでしょ」

そう言って紗矢華は古城の隣をついてくる。

紗矢華が古城の『血の伴侶』となってから2人でどこかに行くことが多くなった。

単純に雪菜が忙しいということもあるのだがそれでも2人の仲は日を追うごとに良くなっている。

「なあ、煌坂」

「なに?」

「お前こんな早く起きて毎日何してるんだ?」

「髪の手入れとか部屋の掃除とか装備の手入れとか色々。舞威媛は隠密任務が多いから少ない睡眠時間でも大丈夫なように訓練されてるの」

「そうか…オレは最低でも6時間は寝ないとやってられねぇよ…」

「吸血鬼なのに朝から活動してるだけ大したものよ」

「お、おう」まさか自分が褒められるとは思っていなかった古城はなんとなく照れくさくなってしまう。

「ほら、着いたわよ。何を買うつもりなの?」

「家に何もなかったから朝飯になるようなものをな」

2人は早朝で客がいないコンビニへと入り菓子パンやおにぎりを適当に選び買い物を終わらせ帰宅した。

「おはよう…古城くん…今日は珍しく早起きなんだね」

「たまたまな、朝飯コンビニで買ってきた。何も無かっただろ?」

「そうだったね、すっかり忘れてたよー…」

笑いながら凪沙が頭を掻く。

彼女のこういうミスは珍しい、彼女もまた相当に疲れているのだろう。

紗矢華が雪菜を呼びに行き4人が揃ったところでニュースを見ながらいつも通り朝食をとる。

どのニュースも昨日のラ・フォリアが古城にキスをしたことばかりだ。

「やばい、今ラ・フォリアの親父さんが怒ってるのがちらっと見えたんだが…」

「ルーカス国王ですね、あの方は先輩の事を危険視していますから…」

「次会ったら絶対殺される…」

古城が命の危険を感じている間に食べ終わった他の3人はそれぞれ1日の準備を始めていた。

来週からは春休みが終わりまた学校が始まる。

凪沙も雪菜も高校へと進み古城たちも2年へと進級することになる。

実は期間も短く、忙しいのが学生の春休みなのだ。

凪沙は友達の家に課題を終わらせに雪菜と紗矢華は何やら獅子王機関から呼ばれているらしい。

古城はすることもないのでいつものように浅葱と基樹とファミレスで課題片手に他愛もない話に花を咲かせていた。

「ちょっと古城、さっきから全然手動いてないじゃない」

「あとちょっとだって思うとなかなかやる気がな」

「頑張れよ、古城。オレは終わったから寝るわ」

基樹はそう言うと本当に眠り始める。

浅葱もそれを見てなにやらスマホをいじり始めた。

「薄情だよな…おまえら…」

仕方なく残りの課題へと手をつけなんとか2時間ほどで終わらせた古城は浅葱がなにやら不可解な目で自分を見ているのに気づいた。

「どうした?浅葱」

「別に?」

「なんもないってことはないだろ、その顔」

「知らないうちに妻子持ちになってたやつにムカついてるだけ」

「うっ…」

浅葱は今回の戦いで雪菜と紗矢華が『血の伴侶』となったことを知ったのだった。

「私には興味なかったってわけね」

「いや、そうじゃなくてな!?」

「でも私にあんなこと言っといて、もう2人も伴侶がいるんでしょ?」

「いや、それは事故でだな…仕方なく…」

「はいはい、分かったわよ。もういい馬鹿らしくなってきた」

浅葱は言いたいことを言ってすっきりしたのか怒るのをやめたらしい。

「うるせぇな、お前ら…眠ってるやつのことも考えてくれよ」

2人の声に基樹が起きてしまう。

「悪い、うるさかったな」

「起きたもんは仕方ない、よしとするか。それより古城ちょっといいか?」

「なんだよ、改まって」

「いや、この国さ名前がないんだよ。報道の時は第四の夜の帝国(ドミニオン)とか言われてるけど名前がないとこの先大変だろ?」

「そうだな、でも勝手に決めていいのか?」

「いや、皇帝が決めたら誰も文句ないだろ」

「めんどくさいし基樹が決めなさいよ、上級理事様」

「こういうときだけ、役職名で呼ぶなよ…」

「はい、じゃあどうぞ私たちの国の名前は?」

浅葱が基樹にそんな無茶振りをかます。

「え…あー…古城、いや…暁…暁の帝国…」

「は?」

「いや…だから暁の帝国ー…」

「もっと夜の帝国(ドミニオン)っぽい名前にしなさいよ、そんな小学生みたいな」

「あー…ですよね。でも、ライヒ・デア・モルゲンロートだぜ?」

「浅葱、いいじゃないかなんでも。考えるのも面倒だしそれで行こう」

「古城、あんたセンスないわよ」

「そんな中二病的センスはいらねーよ…」

「まあ、古城がOKしたんだこれで通しておくからなー」

そんな言葉を最後に残し基樹は逃げるように帰って行った。

「あーあ、基樹のやつ逃げちゃったか。私も帰ろうかな」

「んじゃあ、帰るかオレらも。課題も終わったし」

「そうね、次会うのは多分始業式になるわね」

「1週間も休みあるんだぞ、また会うこともあるだろ」

「ふーん、じゃあどこか誘ってくれるの待ってる」

浅葱は少し嬉しそうな顔をして店から出ていった。

「会計はまたオレか…」

会計を済ませ家へと戻った古城に1通の手紙が届いていた──




次回から新章の予定です。

まだあまり話の内容を詰めれてないので更新が遅くなるかもしれませんがゆっくりお待ちください。

推薦してくれたメルたそさんにこの場を借りてお礼を…ありがとうございます^^*

感想評価お待ちしています!
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眷属たちの休暇篇
第28話


またまた日常回の新章です。
そんなに長くはならないと思うのでお付き合いください^^*


「なんだこれ?俺宛の手紙か…?」

このメールやSNSが普及したネット社会で手紙が送られてくることに一抹の不安を覚えたがまさかこの薄い手紙に何か仕掛けられているわけもないと古城は手紙を開封した。

「ブルエリの招待券…か?」

中にはブルーエリジアム、大型レジャー施設の招待券が1枚入っていた。

古城は以前基樹によってオープン前のブルーエリジアムで浅葱と屋台のアルバイトをしたことを思い出した。

「あんまりいい思い出はないよな…」

古城たちが以前ブルーエリジアムに行ったときとある事件が起き施設が半壊したのだが、どうやらその復興工事が終わったらしい。

オープン前に施設が壊れたということで気合が入っているのか以前よりも施設の豪華さが上がっている。

再オープンに向けて、古城を広告塔に起用したいということらしい。

「まあ…春休みもそろそろ終わりだし何人でも使えるっぽいし使わせてもらうか」

とりあえず古城は雪菜たち3人が帰ってくるのを待ち招待券を机の上へと再び置き直し、リビングでテレビでも見ることにした。

朝に引き続きまだ古城とラ・フォリアの熱愛報道が大々的に行われている。

ラ・フォリアの政略結婚説なるものが唱え始められさすがの古城も嫌気がさしてきた頃順番に3人が帰ってきた。

「古城くん、もう帰ってたんだ。遅くなっちゃったから外でお惣菜いっぱい買ってきたんだけどよかった?」

「ああ、今から作ったら何時になるか分かんないしな。用意オレがしとくから凪沙達は着替えてこいよ」

「はーい」

4人分の食器を古城が用意し終わり全員が席につく。

「姫柊と煌坂はなにしてたんだ?獅子王機関がどうって話だったけど」

「まあ…大した事ではないんです。先輩が気にするようなことは何も」

「そうか?ならいいんだけどさ、また何かあったのかと」

「そんな心配してるなら自分のことを心配したらどう?王女との話ニュースでも新聞でもずっと取り上げられてるわよ」

「それはなんとかするよ…」

「雪菜ちゃんと煌坂さんが家族になるのも嬉しいけど、夏音ちゃんが家族になるのも嬉しいよねー」

凪沙は古城が徐々に周りを固め始めていることに何も感じないのか1人そんな呑気なことを言って古城を呆れさせる。

「そうだ、明後日から2日くらい暇か?オレ宛にブルエリから招待券が来てさ、なんでも誰を何人連れて行ってもいいみたいなんだ」

「再オープンが確か来月でしたね、私と紗矢華さんは大丈夫ですよ」

「凪沙は?」

「もちろん、でも夏音ちゃんがまだ帰ってきてないんだよねー…。誰誘おうかな」

「じゃあ、3人は決定か。じゃあ、ちょっと浅葱と矢瀬に電話してくるよ」

食べ終わった古城は3人を置いて自室へと戻り浅葱へと電話をかけた。

「もしもし、古城?どうしたの?さっき会ったばっかりだけど」

「悪いな遅いのに、明後日暇か?」

「何もないけど…」

「ブルエリの招待券貰ってさ、一緒に行かないか?」

「今度はバイトとかじゃないのよね…?」

「ああ、ちゃんと遊びまくれるよ」

「ふーん、じゃあ仕方ない一緒に行ってあげるわ」

「矢瀬にも伝えておいてくれるか?」

「はいはい、分かった。じゃあ、寝るわね?」

「おう、おやすみ」

 

「やっぱり2人きりなわけないか…ちょっと期待したじゃない。古城のバカ…」

電話が切れてからベッドに横になった浅葱は愚痴を漏らしながら基樹へと古城の伝言をメールで伝え早々と不貞寝した──

 

 

当日になり古城は雪菜と紗矢華も凪沙を連れ待ち合わせの場所へと急いだ。

「悪い遅くなっ…」

「古城さん!久しぶりですね!」

古城の元に小さな女の子が走り寄ってくる。

江口 結瞳、リリスとして精神支配の力を受け継いだ小学校高学年の女の子だ。

「おう、久しぶりだな結瞳。元気だったか?」

「はい、古城さんも元気でしたか?最近大変そうで…」

「心配しなくても大丈夫だ、相変わらず結瞳はしっかりしてるな」

「はいはい、結瞳ちゃんそいつから離れた方がいいわよ。私たちの知らない間に2人も伴侶がいるんだから」

雪菜と紗矢華が浅葱のそんな言葉で首元を押さえて俯いた。

「へ?古城さん、ほんとなんですか!?」

「まあ…そういうこともあったりしたな…」

「古城さんの嘘つき…幸せにするって約束してくれたのに…」

結瞳は不服そうな目で古城を睨んでいる。

「まあまあ、落ち着けよ結瞳坊。古城は真祖だぞ?伴侶なんていくらいてもいいんだよ」

結瞳の保護者を務める基樹が彼女の頭を撫でながら宥めた。

「おいで、結瞳ちゃん古城くんなんてほっておいて私と遊ぼう」

「凪沙さん…、わかりました…」

凪沙に気に入られている結瞳は逆らっても無駄と分かっているのか渋々連行されていく。

「まあ、さっさと行こうぜ」

「悪いな古城、オレは仕事があるからここまでだ。ごゆっくりな」

「おい、お前…ほんとに仕事なんだな?」

「おう、もちろんだ。オレがお前に嘘ついたことあるか?」

「あるから言ってんだろ…」

ため息をついた古城は仕方なく雪菜と紗矢華と凪沙と浅葱のいつものメンバーに結瞳を加えた5人を連れブルーエリジアムが用意してくれた個人用ジェット機に乗り込む。

雪菜の叫び声とともに数分の短いフライトを終えた古城たちを従業員が迎える。

「ようこそお越しくださいました、今日から2日間当施設は暁様の貸切となりますので是非ごゆっくりお過ごしください」

「か、貸切!?オレ達だけなのか?」

「はい、もちろんです。まずはお部屋にご案内しますのでお荷物をこちらへ」

男の言葉に従い古城たちは荷物を預け後ろをついていく。

「ねえ、古城くん。ちょっとこのエレベーター上がりすぎじゃない?」

エレベーターの階数表示が止まる様子を見せないことに不安を感じたのか凪沙がそんなことを口にしたとき丁度エレベーターが停止した。

「このフロアなら好きにお使いいただいて大丈夫ですので」

「こ、このフロアってスイートルームが4つ…」

「では、何かあればまたお申し付けください」

従業員の男が去ってから古城たち6人は古城と同じ部屋がいいと言う結瞳をなんとか抑え、古城と浅葱が1部屋ずつ雪菜と紗矢華、凪沙と結瞳のペアにそれぞれ1部屋ということで落ち着いた。

スイートルームの内装や部屋の設備を1通り楽しみ水着を持った古城はとりあえず昼前に1度プールに行こうと浅葱を呼びに彼女の部屋へと足を運ぶ。

「浅葱ー?今から泳ぎに行かないかー?」

実は抜群の運動神経を持ち泳ぐのも好きな彼女なら喜んでついてくるかと思った古城だったが、返事がないため仕方なく1人で屋内の競技用50mプールへと向かった。

 

「いい?争わないためにもここは古城と2人っきりの時間をそれぞれが持てるように抜け駆けナシで1人ずつ時間を決めましょ」

そんな浅葱の提案に凪沙を除く3人が頷く。

4人が同意し、壮絶なじゃんけん大会が開かれ浅葱が1日目の夕方まで、紗矢華が夕方から夜まで、結瞳が2日目の昼まで、雪菜が2日目の夜までということになった。

お互いにそれで納得し、浅葱は時間を無駄にしまいと古城の部屋へと走っていった。

 

「古城ー?」

何回名前を呼んでもノックをしても古城が部屋から出てくる気配がない。

「先行ったのかな…」

パンフレットの施設案内を見て浅葱は競技用の50mプールへと向かった。

 

「やっぱりここにいた」

「おう、浅葱か。よく分かったな」

「あんたが1人でウォータースライダーとか乗らないタイプっていうのは知ってるわよ」

「別に嫌いってわけじゃないんだけどな、1人で乗るもんでもないだろ」

「そうね、一声掛けてくれれば最初から一緒に来たのに」

「部屋にお前を呼びに行ったんだけどな、返事がなくてさ」

「そう…。そういえば古城、あんた泳げなかったんじゃなかった?中学のときにプールに誘ったら散々嫌がったあげく1人だけ浮き輪で浮かんでみたり、老人みたいにウォーキングしたりで最後まで泳がなかったことがあったと思うんだけど」

「え、いやあの時は腰がな…腰が痛かったんだよ。別に泳げないってわけじゃ──」

「じゃあ、体育大好きな古城がプールに限って生理の女の子と一緒にプールサイドで見学してることが多かったのは?」

「ほら、吸血鬼には日差しが辛いんだよ。パーカーないしさ」

「中学の頃は室内プールだったわよ?」

「じ、実はオレ昔水難事故にあったトラウマで水が…」

「はいはい、古城が泳げないことは私も基樹もとっくの昔から知ってたわよ。それで、泳げるようになってるのはどういうこと?」

「分かってんならわざわざ言うなよ…、姫柊が泳げない真祖はイメージ的に問題があるとかで泳ぎを叩き込まれた時期があってだな…」

「ふーん、姫柊さんか…」

「まあ…な」

古城は泳ぎをマスターしてから始まった水中戦の訓練という名の拷問を思い出し寒気を覚えた。

「とりあえず私も水着に着替えてくる」

彼女も世界最強の吸血鬼が泳げないというのはイメージに合わないと思ったのかクスクス笑いながら更衣室へと向かい、すぐに着替えて帰ってきた。

「お、来た来た…すごいなその水着よく似合ってるよ」

「ほんと?変じゃない?」

「ああ、変じゃない」

彼女のプロポーションと綺麗な金髪にシンプルな白の水着はとても似合っていた。

「そうだ、他の連中は?」

「色々あって、今は私が古城をもらってるの」

「そ、そうか…。その水着で泳げるのか?向こうのテーマパークみたいな方に行くか?」

「お昼食べたらあっちも行こうかな、でも今はここでいい」

浅葱はそう言うとプールサイドから古城の隣へと降りてくる。

「お前な…準備体操くらいしろよ…」

「大丈夫、ほら古城どっちが先に向こうまで行けるか競走よ」

「あ!ずるいぞ浅葱!先行くとか」

「吸血鬼のあんたにはハンデとしてちょうどいいでしょー」

フライング気味に飛び出した浅葱の後を追いかけ古城も全力で泳ぐが50mという短い距離では差を詰めるのは困難だ。

「はい、私の勝ち。あとでお昼奢ってもらおうかな」

「それ目当てかよ…。でも何食べても何利用してもタダらしいぞ?」

「え、そうなんだ。さすがVIPね」

1通り泳ぎ疲れた浅葱と古城は屋内プールから出た。

簡単に身体から落ちる水滴を拭き1つ下の階にあるレストランフロアで浅葱とめぼしい店を探す。

「館内水着OKだなんて凄いことするわね」

「なんか、不思議な気分だけどな水着着てるのに中にいるとか」

「めんどくさい着替えがないんだからいいじゃない。古城、あそこにしない?」

「ああ、任せる。お前の舌は確かだからな」

「決まりね、すみませーん」

浅葱は古城の手を引っ張り店員へと声をかけた。

他に客がいないため待つ必要もなく席へと通される。

「ここの中華ね、島にはなくてずっと食べたいと思ってたのよ」

「そうか、意外なところで出会えてよかったな」

いつもよりだいぶテンションの高い浅葱を見て古城も釣られて微笑んでしまう。

そんな古城の前で浅葱がメニューを見ながら悩んでいる。

「どうした?決められないのか?いつもならすぐに決めちまうのに」

「この、坦々麺と点心のセットか麻婆豆腐と点心のセットか迷ってるのよ…」

「どっちもそんな変わらない気がするんだが…」

「変わるわよ」

「そうか…、ならオレが片方頼んで半分やるよ。それでどっちも食べられるだろ?」

「いいの?古城も食べたいものあるんじゃ」

「浅葱が選ぶってことはどっちも美味いんだろ?それを2つ食えるんだからオレも満足だよ」

古城の優しさに甘えた浅葱は彼の提案通りその2つを注文する。

すぐに運ばれてきた料理を見る浅葱の顔は嬉しそうだ。

食べたいものを食べた浅葱と古城は店を出て外にある大きな流れるプールへと向かった。

「ねえ、古城。日焼け止め塗ってくれる?」

「へ?」

プールサイドにあったビーチベッドへとうつ伏せに寝転がり背中を向ける浅葱を見て古城は変な声を出してしまう。

「はい、これよろしく」

古城にはお構いなしに浅葱から日焼け止めクリームが渡される。

誰も見ていないこともあり、仕方なく古城はクリームを手に取り浅葱の綺麗な背中へとクリームを塗ろうと手をあてた。

「あっ…古城…ちょっと冷たい…、手で温めてから塗ってくれる?」

「わ、悪い…」

浅葱が漏らした妖艶な声に気まずくなった古城は言われた通り両手でクリームを温め早々と彼女の背中へとクリームを塗った。

「こ、これでいいか?」

「うん、ありがと。前も頼める?」

「ま、前も!?」

「冗談、前は自分で塗るわよ」

古城をからかい満足したのか浅葱は慣れた手つきで日焼け止めを塗り借りてきた浮き輪に乗りゆっくりとプールを流れていく。

「古城ー、早く来なさいよー」

「勝手だな…ほんと」

浅葱に呼ばれ古城も浮き輪に乗り後を追う。

その後しばらくつまらない話をしながらプールを流され、近くにあったウォータースライダーを2人で満喫した。

「まだ、時間はあるんだけどあんたも休まないと疲れるでしょ?今日はこのくらいにしておいてあげる」

「悪いな、なんか」

「いいわよ、楽しかったし。1時間くらいしたら煌坂さんが部屋に行くと思う、それまで休んでおいたら?」

古城に気を遣うことも忘れず、浅葱はお礼を言い自室へと戻っていった。

特に見る気もなくテレビをつけながら古城がベッドに寝転がっていると控えめなノックが聞こえてきた──




次回は紗矢華回になる予定、結構前から出したかった結瞳を出せて個人的に満足です。

感想、評価などできたらお願いします^^*

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第29話

この話を読む前に…

前話(第28話)にて古城がカナヅチという設定を完全に見落としていたため加筆修正を一部加えました。
気になる方はそちらを読んでからこの話を読んでいただければなと思います。

毎回関係のありそうな箇所は読み直して確認してから書いているのですが稀に設定抜けやミスもあるかと思うので気づいた方は気軽に教えていただければと思います!

長くなりましたがどうぞ!


「ちょっと待ってくれ、すぐに出る」

部屋の外にいるであろう紗矢華に古城は声をかけすぐに外へと出て行く。

「悪い、待たせたな」

「ううん、大丈夫」

「そうか、なんか新鮮だな煌坂っていうと紫が良く似合うイメージがあったんだけど」

古城は珍しく桃色の水着を身につけている紗矢華に率直な感想を述べる。

「似合ってない…かな?」

「いや、似合ってるぞ?新鮮だし似合ってる」

古城の反応が思ったよりもよかったことに安堵した紗矢華は上に羽織っていたパーカーを握りしめる手を緩めた。

「で、どこ行く?夜になったら外も綺麗だと思うけど」

「色々考えたんだけど…明日の雪菜たちのためにも外はとっておこうかなって」

「遠慮がちだな…」

「古城だって同じとこ何回も行くのはあんまりよくないでしょ?」

「まあ、それはそうだな。じゃあ中でどっか行くか」

とりあえず2人は下の階へと降り広々としたアミューズメントエリアへと向かった。

「すごい賑やかなところね…」

「煌坂はこういうとこ初めてか?」

「まあ…」

「さすが獅子王機関は箱入りだな」

「バカにしてるでしょ…」

紗矢華の機嫌が悪くなっても困る古城は、とりあえず隣にあったよくある二人用の中に乗り込んでゾンビや虫を倒し進んでいくタイプのゲーム機へと彼女を連れ込む。

「ちょっと、いきなりなにするのよ」

「2人でゲーセンでするゲームって言ったらこういうのは王道だろ」

紗矢華の文句を流しながら古城は2人分のコインを入れスタートボタンを押した。

「でかい虫が出てくるタイプのやつか」

「待って、なにこの気持ち悪いやつ…」

「まあ、やってみろって」

簡単に操作の説明をしながら古城は紗矢華のフォローをしつつ先へと進んでいく。

最初こそたどたどしかった紗矢華も中盤からは凄まじかった。

全ての敵を確実に必要最低限の弾数で屠っていく。

おまけに古城が捌き損なった分のフォローまでする余裕をみせていた。

通常この手のゲームは最後まで行くには数回のコンテニューを要するものだが紗矢華はほぼ1人でコンテニューすることなくクリアしてしまった。

「煌坂、ゲームに本気出しすぎだろ…息上がってるじゃないか」

「夢中になってたんだから仕方ないでしょう!?」

「まあ、楽しそうでいいんだけどさ。他のとこ行こう──」

「なにこれ?」

古城が外へと出ようとしたとき紗矢華が画面を見て疑問の声をあげた。

「ああ、こういうゲームの最後には2人の相性診断的なのが出るんだよ。って…なんじゃこりゃ!?」

「相性はSランク…頼りにならない彼氏をこれからも引っ張ってあげよう?」

紗矢華は画面に表示された文字を声に出して読み上げた。

「頼りにならないとか…ならなくて悪かったな…」

「なにしょげてるの?頼りにしてるわよ、いつも」

気を遣われたのか本心なのかいまいちよく分からないがとりあえず照れくさくなった古城は急いで外へと出る。

そのあと紗矢華がやりたそうに見つめるゲームに少し付き合い2人はアミューズメントエリアを後にした。

「ねえ、古城。上で縁日の屋台が出てるみたいなんだけど射的とかで何かとってあげてもいいわよ」

「やめとけ、いくらタダでもお前プロだろ。そんな詐欺まがいのことやらせてたまるか」

「そう?お店を出してる以上そういうことも覚悟の上だと思うんだけど」

「容赦ないな、煌坂…。とりあえず飯にしないか?」

これ以上話を続ければ紗矢華が本当に射的やダーツで無双しかねないと判断した古城は話を変える。

「そうね、チェーン店が並んでるフロアかホテルのレストランかどっちにするの?」

「煌坂の好きな方でいいぞ、オレは」

「はぁ…、じゃあホテルのレストラン」

古城の優しさでもあるのだが、女の子として古城にリードして欲しい思いがある紗矢華はため息をつきながら自分の意見を伝えた。

上階へと上がり、ホテルのレストランの前へと来た2人を上品なウェイターが景色が良く見える窓際の席へと案内する。

「綺麗だな」

「さすが高級ホテルのレストランね」

とりあえずメニューの1番前にあったオススメらしいフルコースを頼んだ2人は綺麗な夕焼けが映える海を見ながら料理が来るのを待つ。

慣れない雰囲気でなかなか落ち着かない2人だが料理が運ばれてきてからは口数も増えた。

シーザーサラダ、オニオングラタンスープという王道料理が運ばれ続いて海老と舌平目のグラタン、ローストビーフと普段あまり古城たちが食べない料理が運ばれてくる。

「どれも、美味しいわね」

「ああ…、慣れないナイフとフォークじゃなかったらもっと美味いと思うんだが」

「呆れた、あなた皇帝でしょ?もう少しマナーも学んだ方がいいわよ」

「うるせぇよ、今痛感してるとこなんだから言わなくていいだろ」

古城がバツの悪そうな顔をしたところにウェイターが色とりどりのケーキが乗ったワゴンを運んできた。

ケーキや甘い物の類が嫌いな女の子はほぼいない。

例に漏れず紗矢華も笑みがこぼれている。

「煌坂、食べたいの2つ選べよ。オレはなんでもいいからさ」

「それは申し訳ないわよ…、それなら古城が選んだやつを半分もらう方が…」

「分かったよ」

紗矢華の頼みを聞いた古城は無難にショートケーキを頼んだ。

古城が注文する間も悩みに悩んだ紗矢華はチーズケーキを選択した。

お互いに半分ずつ切り交換した2人はケーキを口に運ぶ。

「古城、今まで食べたケーキの中で一番美味しいかも…」

「ああ、オレもだ。普段こんないいケーキ食わないからな」

「シンプルで甘さが控えめなんだけど、生地がふんわりしっとりで──」

「いや、煌坂美味いのは分かるけどさ、食レポしてるんじゃないんだぞ…」

変なスイッチが入ったのか味について妙に語り始める紗矢華を古城が慌てて止める。

ケーキを堪能しコーヒーを飲み2人は店を後にした。

「いやー、美味かったな。そういえばこれからどうする?」

「スイートルームのフロアにある屋外プールにでも行かない?水着なのにプールに入らないのも味気ないし」

特に案もなかった古城は紗矢華のその提案にすぐに乗っかり最上階にある屋外プールへと向かった。

「結構広いんだな」

「競技用とまでは行かないけど、25mくらいはありそうね。ちょっと泳ぐくらいなら問題ないくらいの大きさね」

「でも贅沢だよな、海と外のライトアップされた広いプールを眺めながらプールに入るとか」

「ちょっと、何言ってるのか分からないけど贅沢なのは同感。ちょうど月も綺麗だしね」

「いや、だからさ冬場に暖房つけた部屋でアイス食べるみたいな」

「そうね…」

古城の渾身の例えも紗矢華はあまり興味がなく聞いていないらしい。

ぼんやりとプールサイドに寄りかかり月を眺めている。

「煌坂…?」

「ごめん、ちょっとぼうっとしてた」

「考え事か?」

「そんな感じ。私だけこんなに幸せでいいのかなって」

「え?」

「前に言わなかった?育った環境が女の子ばかりだったから背の高い私は何をするにも男の子役だったって」

「ああ…」

古城は知り合って間もない紗矢華をお姫様抱っこした時のことを思い出した。

「だから、その…女の子として見てくれることが嬉しくて」

「当たり前だろ、煌坂は女の子なんだから」

「うん。でも私にとっては当たり前じゃなかったから…、だから古城には感謝してるの」

紗矢華が古城の方へ振り向く。

月明かりを背に古城を見る紗矢華は神々しささえ感じさせる美しさを放っていた。

ゆっくりとそのまま古城の方へと近づいて来た紗矢華は動かない古城の前へと歩み寄りその身体に腕を回し愛おしむように抱きしめた。

「煌坂…」

「何も言わないで」

紗矢華を引き離そうとあげた手を古城はゆっくりと水の中へと戻し、彼女の好きなようにさせる。

数分にも感じられる濃い時間が流れ、紗矢華は古城の身体から手を離し後ろへと下がった。

「今日は楽しかったわ、もし古城にまた時間があったらどこかに連れて行って。じゃあ、おやすみ」

それだけ言い残すと紗矢華はプールから上がり自室へと戻って行った──

 




私事ですが近頃、お気に入り数やUA数は増えているのですが感想評価はあまりいただけないため少し不安になっていたりします笑

もしお時間ある方はそちらの方もお願いできたらなと思います!

次回は結瞳と雪菜合わせて少し長めに書くと思います。

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第30話

お気に入りがもう少しで200を越えそうでなんとお礼を言っていいのやら…

今回で眷属たちの休暇篇も終わりです。
最後は少しシリアス展開ですが我慢して読んでやってください。




紗矢華と別れ自室へと戻った古城は朝からの疲れですぐに深い眠りについた。

翌朝、結瞳を待たせるのも悪いと思った古城はなんとか重い体を起こし眩しい朝日と共に目を覚ました。

「やばい、風呂入るの忘れてた…」

昨夜部屋に帰るなりベッドの上で眠りこけた古城は風呂に入っていなかったことを思い出した。

まだ早いこともあり結瞳も起きていないと考えた古城はホテルの楽しみの一つでもある朝風呂へと向かう。

脱衣場で服を脱ぎタオルを腰に巻き浴場へと入っていき、面倒なかけ湯を終えて中を見渡した古城の前には薬湯や機能湯など様々な風呂が用意されている。

とりあえず身体を洗いその数ある風呂を全てスルーし古城は外にある露天風呂へと身を沈める。

「朝日もいつもは憎たらしいけど今は綺麗だな」

水平線から顔を出す太陽を見ながら古城は1人そんな言葉を漏らす。

のぼせるギリギリまで景色と露天風呂を堪能した古城は脱衣場へと戻りお気に入りのコーヒー牛乳を飲んで少し涼んでから自室へと戻ることにした。

エレベーターを降り角を曲がった古城の目に部屋の前で不貞腐れながら立っている結瞳が映った。

「あ、古城さん!」

「おう、結瞳。もしかして待たせたか?」

「そんなことないですよ」

古城を見るなり喜びに満ち溢れた笑顔をする結瞳は、珍しく年相応の小学生らしい女の子だった。

「ちょっと朝風呂に行っててな」

「それで呼んでも返事すらしてくれなかったんですか」

「悪い悪い、でも早起きなんだな。まだ6時頃のはずだぞ」

「古城さんと2人だと思うと夜眠れなくて…」

「ははは…じゃあ朝飯でも食いに行くか」

自分も遠足前はなかなか眠れなかったことを思い出した古城は結瞳の手を引きながら朝食会場へと向かう。

「すごいですね!料理がいっぱい」

「ホテルの朝食ってバイキング形式が多いもんな。オレ達のためだけにこれだけ用意してくれるのは申し訳ない気もするけどな」

「古城さんの広告効果がそれを上回るくらい凄いんですよ」

「そういうもんか…?」

とりあえず料理に近い席へと座った2人はまず飲み物から、そして自分の好みの料理を皿に盛り早めの朝食をとる。

「結瞳は朝は米派か」

「はい、ご飯を朝に食べるのは身体にいいらしいですよ」

「そ、そうか…」

予想外のしっかりとした返答に古城は自分の皿に盛られている和洋折衷甚だしい特製古城の好物プレートに目を落とした。

「古城さんも、身体には気をつけた方がいいですよ。若くても生活習慣病に──」

「いや、オレ吸血鬼だからな」

「そ、そうでした…」

結瞳は顔を赤らめて下を向いてしまう。

古城もそれ以上彼女に話しかけるのはどうかと思ったのか黙々と朝食を食べ進める。

ある程度朝の空腹を満たした2人は屋外へと移動し、昨日、浅葱と古城が2人で行った小規模な方ではなくブルーエリジアムのCMやパンフレットで度々紹介されているメインのウォーターパークへと結瞳に連れていかれる。

「さすがに広いな」

「古城さん、スライダーがありますよ!」

結瞳はそう言うとスライダーの方へと走っていく。

ほかの客がいたならロリコンや高校生で彼女を孕ませた最低な男と見られるのだろうが幸いここにほかの客はいない。

そんなことを思いながら古城は結瞳の後を追った。

結瞳に付き合い2人で色んなスライダーへと乗った古城は、一番奥にあった長めのスライダーへと歩いていく。

「古城さん!?」

「どうした?」

「そっちは…ちょっと…」

「あれだけ乗ってなかっただろ?」

「そうなんですけど…」

様子のおかしい結瞳の手を引き古城は目当てのスライダーに続く階段を登っていく。

係員に連れられて滑り口へと着いた古城たちの前には四角い箱があるだけだった。

「当スライダーはお1人様専用ですのでお1人ずつご案内します」

そんなことを言いながら係員は古城たちの前にあった箱を開けた。

中にはちょうど人が1人入るくらいのスペースが空いている。

「この中に入るのか?」

「はい」

「古城さん…先にどうぞ…」

係員と結瞳が先に行けという目をしていたため古城は箱の中へと入っていく。

「3.2.1いってらっしゃーい」

係員の軽快なカウントダウンと共に古城の入っている箱の床が抜ける。

「なんじゃコリャァァァァァァァァ!!!」

ほぼ垂直なコースに沿って古城の身体が自然落下気味に滑り落ちていく。

どれくらいの距離を落下したかも分からなくなった頃古城は急に宙へと投げ出され最後に盛大に頭からプールの水面へと突っ込んだ。

「かはっ……、鼻に水が…」

少し間を開けて後ろから少女の叫び声が聞こえてくる。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、古城さんーーー!どいてくださいぃぃぃー!」

宙へと投げ出された少女は古城の頭の上へと落下した。

「す、すみません古城さん!!」

結瞳は自分の下敷きになって溺死しかけている古城をなんとかプールサイドに引き摺りあげた。

「う…死ぬかと思った…。大丈夫か?結瞳」

「はい、私は大丈夫です…」

「気にしなくていいよ、少し休ませては欲しいけどな」

古城は、プールサイドで冷たい飲み物を飲みながら少し休み、そのままその場で手頃なものを購入し結瞳と2人で談笑しながら昼食を済ませた。

「ごめんな?オレがへばってあんまり色々回れなくて」

「だ、大丈夫です。私が悪いので…」

「また暇なときがあったら連絡してこいよ、2人でどっか行こう」

「はい!じゃあ私はこれで…」

「おう、楽しかったぞ結瞳」

古城を溺死させかけたことを気にしていた結瞳も思いがけず次の約束をとりつけれたことで機嫌がよくなったらしく手を振ってホテルへと戻っていく。

昼食を終え結瞳と別れた古城はトイレへと向かって用を足す。

「先輩、お久しぶりです」

トイレの外にはいつの間にか雪菜が立っていた。

「ああ、なんだか久々な気分だな。いつも一緒にいるのが当たり前になってたし」

「そうですね、先輩はその…寂しかったりしましたか…?」

「少しな」

「そう…ですか…」

何やら雪菜は身体をもじもじとさせている。

「どうした?トイレに行きたいなら早く──」

「先輩のバカ!」

古城の脛に雪菜の強烈な蹴りがはいった。

痛がる古城に見向きもせず雪菜はどこかへ歩いていく。

「おい、姫柊どこ行くんだよ」

「先輩は黙ってついてきてください」

古城が雪菜に連れられてきた場所はホテル内のカラオケルームだった。

「姫柊と2人でこういう場所に来るのは初めてだな、歌とか歌うのか?」

「いえ、今日は少しお話があるんです」

そう言うと雪菜はカラオケの機械をいじり全く音が出ないようにする。

「話って?」

「ちょっと待ってください、心の準備ができていないので…」

「ああ…」

なにか改まって雪菜が話をしようとしていることに不安を覚えた古城はかなり長い間、雪菜の言葉を待って黙っていた。

少し雪菜の様子が気になって古城が彼女の方を見た時ちょうど彼女の目から涙が零れたところだった。

「姫…柊…?なにかあったのか?」

「先輩…」

珍しく雪菜は古城へと抱きついてくる。

泣いているのを見られたくないのか古城の方へ顔を向けることはないが明らかに背中が波打っていた。

「言いたくないか?なら言わなくていい」

どうすればいいか分からない古城はただ頭を撫でてやりそう言った。

「はい…」

「オレは姫柊のことを信じてる。だから言いたくないことは無理に言おうとしなくていい、言いたくなった時にまた教えてくれ」

「すみません…急にこんな…、先輩も疲れていると思いますし今日はもう休みませんか?」

「それでいいなら、オレも助かるよ」

「はい…」

雪菜は古城から離れると部屋を出ていこうとする。

「姫柊、行きたいところがあるんだけどさ元気になったら付き合ってくれるか?」

「もちろんですよ」

それを最後に雪菜は部屋を出ていった──




雪菜回を待ってた方すみません!
おいおい、この理由も説明すると思いますのでどうか静粛に…なんて

幕間を挟んで新章へと入る予定です。

以前も言いましたがボーイッシュなあの子が出る予定です。

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第31話 幕間

史上最高に短いですが、次から新章なのでお許しを…




日本 某所──

 

「羽波 唯里、斐川 志緖、前へ」

「「はい」」

声の通り2人の少女が前へと歩みでる。

「当代の獅子王機関三聖が一人、閑 古詠の名において現時刻を持って羽波 唯里、斐川 志緖以下二名の現在遂行中の任を解き、待機を命じる──」

「失礼ですが、それはどういうことでしょうか」

「時がくれば分かることです」

静寂破り(ペーパーノイズ)と呼ばれ真祖にすら恐れられる彼女は唯里の失礼な質問にも全く態度を崩さない。

これ以上何を聞いても無駄と判断した2人はその場からすぐに立ち去った──

 

 

様子のおかしかった雪菜と別れてから古城は春休みの疲れを癒すためゆっくりと湯に浸かりホテルの広いベッドでぐっすりと眠った。

「古城くーん、起きてよー」

凪沙の声で起きた古城は時間を確認して飛び起きた。

10時に帰りの飛行機へと乗る予定なのだが、もうすでに時計は9時半を指している。

「やばい、オレだけ置いていかれる!」

「私達先に行ってるからねー」

凪沙以外のメンバーはもうすでにホテルの外へと出ているらしかった。

荷物を無理やり詰め込み顔を洗い、古城はフライトギリギリに待ち合わせ場所へと到着した。

「ちょっと、古城また寝坊したんでしょ。しっかりしなさいよ、置いていくわよ」

「浅葱も分かってるなら起こせよな…」

ブツブツと文句を言う古城を他所にそれぞれが荷物を運び込み機内のシートへと座る。

ほどなくして絃神島へと飛び立ってすぐ、飛行機の中にパイロットと思しき男の声が響き始める。

「当機は間もなく着陸態勢へと入ります。シートベルトをしっかりと──」

そこでアナウンスは終わってしまう。

機体がガクリと不自然に揺れる。

「大丈夫か、これ…」

古城が不安を口にした瞬間、飛行機は不時着気味になんとか着陸した。

「痛ってて…、みんな大丈夫か?」

古城の疑問に答える声はひとつもない。

おかしく思った古城はシートベルトを外し周りを見渡す。

そこには虚ろな目をする雪菜たちが座っていた。

「どうなってんだよ…、姫柊!姫柊!」

雪菜の肩を掴み身体を揺すりながら呼びかけるが、返事はやはり返ってこない。

所々、破損した飛行機から外へと出た古城の目の前には雪菜たちと同じような虚ろな目をした人たちが彷徨い歩きまわっていた。

見るからに異常な事態にとりあえず携帯を確認した古城は5件の不在着信と1件の留守電が入っていることに気づく。

古城が飛行機に乗っている間にかかってきたものだ。

その中から1件の留守電を再生する。

「古城、これを聞いたらすぐに、すぐにだ。浅葱や姫柊ちゃん達連れて島から逃げろ。お前らがここにいるとまずいことになる、図書──」

基樹からのメッセージはそこで途絶えていた。

「一体何があったんだ…魔術かなにかか?」

魔術という線に思い当たった古城は機内の荷物の中から雪霞狼を取り出し雪菜へと握らせた。

「先…輩…?」

「姫柊!!」

古城の思惑通り、雪菜がなんらかの魔術から解放され意識を取り戻した──




久々の連続投稿でしたが、どうだったでしょうか。

明日更新できるかは分かりませんが数日内に新章が始まる予定です。
楽しみにお待ちください。

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幽寂の魔女篇
第32話


新章は微妙にまだ話が固まりきっていないので更新が遅くなるかもです。

短いですがどうぞ^^*


「どうしたんですか、騒がしい人ですね先輩は」

正気へと戻った雪菜はなんとか大丈夫そうだ。

「なんか皆の様子がおかしい、さっきまで姫柊もぼーっとしてたし」

雪菜の反応に安堵した古城は状況を説明する。

古城の言葉に虚ろな目をする紗矢華を見て雪菜はなにか異常なことが起きていると理解した。

「雪霞狼が反応したということはなんらかの魔術ですね…」

「ああ、とりあえずここから離れよう。矢瀬のやつが──」

古城は雪菜が紗矢華の身体をいきなり縛り始めて言葉を止めた。

「いやいやいや、なにやってんだよ姫柊!」

「ケース057です」

「は?」

「いえ、だからケース057なので」

雪菜は紗矢華だけでなく浅葱や凪沙、結瞳の身体までシートに縛り付けていく。

「だからじゃなくて、なんなんだそのケースなんとかっていうのは」

「高神の杜にいるときに学んだんです。獅子王機関が魔導災害時に想定する約750あるうちの1つが今回のケース057です」

「お、おう…」

「集団的催眠、あるいはなんらかの影響で意識のない者が多数いる場合一定の戦力を持つ者を即座に拘束すべき」

教科書を読み上げるような口調で雪菜はケース057の説明をした。

「あー…、つまり煌坂たちが起きて暴れださないようにってことか?」

「はい、一応紗矢華さんの目の前に書き置きを置いておきます。下手に動かれるよりも、ここで目を覚ますまでじっとしておいてもらう方が私たちも紗矢華さんたちも安全ですから」

「そう…だな」

無理やり自分を納得させた古城は作業を終わらせ機外へと出ていく雪菜に続く。

「矢瀬先輩は、島から立ち去るようにと仰ったんですよね?」

「ああ、オレ達がいるのはやばいからって」

「そうですか…」

「獅子王機関に連絡とか出来ないのか?」

「獅子王機関…、今はあまり頼りたくないですね」

雪菜の顔が暗くなる。

自分がなにか雪菜に悪いことを言ったことを察し古城は獅子王機関を頼るという案を捨てた。

「そうだ、ラ・フォリアは?」

「アルディギア王国ですか…、確かにそれが1番いいかもしれませんね。先輩、連絡をお願いします」

「わかった。──ってあれ?」

「どうかしましたか?」

「さっき使えたはずの携帯がなんか画面が白く光るだけで動かなくなってる」

古城はただ白く光る画面を雪菜に向ける。

「そうですか…、とりあえず危険かも知れませんが島の中心部に行ってみましょう。何か分かるかも知れませんし」

「仕方ない、そうするか」

雪菜と古城は島の外れにある空港から徒歩で人の多そうな場所へと移動した。

「おいおい、バイオハザードかよ…」

2人の前には虚ろな目をしながら歩き惑う人たちがいた。

「先輩…、何が起きているのかはいまいちまだ分からないですが少しまずいかもしれません」

「どういうことだ?」

「このままだと意識を失った魔族同士が衝突する可能性も…」

「そうか。姫柊、しっかり雪霞狼握っとけよ」

「え、先輩…?」

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)10番目の眷獣麿羯の瞳晶(ダビ・クリュスタルス)!!」

水晶柱でできた山羊に似た角を持つ魚龍が姿を現す。

島全体を怪しげな光が包み、眷獣が消えると同時にその光も消え失せる。

「先輩…一体何を?」

「ああ、暴れられたらやばいんだろ?だからこの島全体の人間や魔族、多分動物もオレの眷獣の力で大人しくしてもらえるようにした」

「魅了を司る眷獣ですか…、確かにそれなら大丈夫だとは思いますけど先輩の魔力が…」

「多分大丈夫だ、意識がない分楽だからな。半日はいけると思う」

「そうですか。でもとりあえずここからは離れた方がいいですね」

「どうかしたのか?」

「後ろのビルの上からこちらを見ている人がいます」

雪菜はいきなり古城の手を引き路地裏へと飛び込むと人気のない倉庫街へ向かって走っていく。

吸血鬼の古城とその伴侶であり呪術による身体強化を施している雪菜は普通の人間が走るよりもかなり早い速度で移動ができる。

しかし、それに劣らず視線の主は2人を追ってくる。

「誰ですか、姿を見せなさい!」

人気のない所へと出た雪菜が後ろの暗がりへと雪霞狼を向ける。

「喋れる方がまーだいやがりましたか」

「これはあなたが?」

「上のことは特に知らねぇですよ」

乱暴な言葉使いの女は胸元から魔導書を取り出す。

その動作より早く雪菜が距離を詰めた。

「若雷──!!」

雪菜の左手による掌打が女の身体を折るように鳩尾へと入る。

「おい、姫柊…さすがにやりすぎじゃ…」

「あ……、すみません」

獣人さえ素手で倒すことが出来る雪菜の掌打を受けた女はすっかり意識が飛んでいた。

「まあ、死んでないならセーフだろ。でも珍しいな、姫柊がいきなり攻撃するなんて」

「少し考え事が多くて、判断を誤っただけです」

「そっか、それでどうする?その子」

「とりあえず武器になりそうなものは預からせてもらいます」

雪菜は意識のない女の子の身体から色々なものを取り上げ拘束していく。

「なんか、今日の姫柊は人身売買のプロみたいだな…」

「どういうことですかそれ…」

「さっきから縛ってば──」

「いえ、いいです。聞いても不快な気分になるだけな気がするので…」

「それで、魔導書ってことは魔女なのか?」

「そうだと思います。この状況も魔導書によるものと考えれば不自然ではないですし」

古城は仙都木阿夜のことを思い出した──

 

 

そんな頃、雪菜たちが乗っていた飛行機の中で目を覚ました少女が1人いた。

『血の伴侶』である紗矢華には古城から魔力を受け取る霊的パスが通っている。

古城が眷獣の力をかなりの規模で解放したことにより、供給される魔力量が増え紗矢華は目を覚ましたのだ。

「ん…、あれ…身体が動かない…。え?なんじゃこりゃァァァァァァァァァ」

目を覚まして自分の身体が縛られているのを見た紗矢華は大きな声をあげた。

「頭も痛いし、身体は縛られてるしなんなのよこれ…」

なんとか、拘束を解き這い出た紗矢華は目の前に貼られていたメモに気づく。

『ケース057に則って紗矢華さんの身体を拘束させていただきました。もし意識が戻ったら式神を使ってご連絡お願いします』

「ケース057ってなんのこと…?まあいいわ、とりあえず異常事態なのは分かったことだし私も動かないと…」

紗矢華は機外へと出てから雪菜へ連絡用の式神を飛ばし、1人古城たちのいる方ではなく海沿いを歩いていく──




昨日の夜頃、久々に日間ランキングに掲載していただきました!
皆さんのおかげです、ありがとうございます^^*

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第33話

疲れ気味で短くてすみません。

文章おかしいところあるかも知れませんが許して頂ければと思います。


「なあ、姫柊。魔導書ってどんなものがあるんだ?」

「魔導書にはそれぞれNo.が振られています。それぞれの魔導書が固有の能力を有していますがその能力の強さはかなり差があると聞いています」

「その中で強いのが闇誓書ってとこか」

「闇誓書というのは俗称です。特に強い力を持つ魔導書には慣用名のような物がつけられることがあるんです」

「さすが、よく知ってるな。とりあえず今回の騒ぎは魔女たちの仕業ってことで決まりなんだな」

「はい。図書館によるものとみて間違いないと思います」

古城と雪菜がある程度考えをまとめた頃、空から鳩のような鳥が雪菜へと飛んできた。

「先輩、紗矢華さんからです」

「煌坂起きたのか?」

「多分先輩が眷獣を使ったせいですね、私たちへの魔力供給が増えていますし」

「それで、なんて?」

「紗矢華さんは私達とは別行動を取るみたいです。なにかすることがあるらしいです」

「そうか。じゃあオレ達はその子をどうにかするか」

古城は雪菜が縛り上げた女の子を見つめる。

「そうですね、先輩その子をお願いします。私はなにか食べ物を調達してくるので」

雪菜が昼食を調達しに行ってから数分ほどして古城は独り言のように隣で縛られている女の子に向けて質問した。

「お前、さっきからずっと起きてるだろ?」

女の体がビクッと震える。

「別に何もしないって、オレの妹もよく狸寝入りしてたからなんとなく分かっただけだ。姫柊は多分気づいてないしな」

「何も聞かねぇんですか?」

「無理に聞き出そうとしても教えてくれないだろ?」

「よく分かってんじゃねぇですか」

そうして2人が話をして、少し経ってから雪菜がコンビニの袋を持って帰ってきた。

「あの…先輩?いつの間にその子を口説いたんですか…?ちょっと引きます」

雪菜の目の前には古城の脚の中に座り、笑顔を浮かべる魔女の女の子がいたのだ。

「いや、口説いてないぞ!?」

「もういいです、先輩がたらしなのは知ってますから」

雪菜はコンビニ弁当を古城の前に二つ置いた。

どうやら、女の子の分ももらってきたらしい。

「姫柊、これパクってきたのか?」

「そんなことしません!ちゃんとお金はレジに置いてきました」

「そ、そうか…ならいいんだ…」

やけに怒っている雪菜にこれ以上関わるとろくなことにならないと知っている古城は黙々と弁当を口に運ぶ。

「先輩、この子の名前は?」

「ライラって言うらしい、なんでも魔女の卵なんだってさ。姫柊お茶あるか?」

「はい、どうぞ」

雪菜は袋から緑茶のペットボトルを取り出し古城へと渡してから続けた。

「ライラさん、この島に何が起こっているか教えてもらえませんか?」

「教えるわけねぇじゃないですか」

「おい、ライラ。教えてくれてもいいだろ?飯も食わせてやったんだから」

「確かに…それは一理ありやがりますね…」

そう言うとライラは古城の耳元でなにやらコソコソと喋り出した。

「図書館ってとこのアレシアって魔女が来てるらしい、それ以外は知らないんだってさ」

古城はライラから聞いたことを雪菜へと伝えた。

「LCOのアレシア…。アレシア・ソリテュード」

「誰なんだ?それ」

「図書館の言語の魔女です。図書館は十進分類法になぞらえられた十部門の組織の集合体です。その内の1つ、言語の組織をまとめる魔女の名前です。誰もいない場所に1人で引き篭もっている穏健派と聞いていたんですが…」

「よく知ってやがりますね剣巫。総記のトップがいなくなってからうちは少々荒れてるんですよ」

「それって、派閥争いってやつか?誰がトップに立つかみたいな」

「そういうことでありやがります」

「じゃあ、そいつを探して魔導書を壊せばいいってことか」

「そうですけど…そう簡単にはいかないと思います。私たちは魔女に関しての知識はほぼ0と言っていいですし。言語の魔女は人の前に現れることを嫌うらしいので…」

「まあ、とりあえず探してみようぜ」

雪菜は呆れた顔をするがライラを担ぎながら歩いて行く古城のあとをついていく──

 

 

「携帯も車も使えないってどういうことよ…」

1人愚痴を言いながら紗矢華は拾った自転車に乗って咎の方舟(カインズアーク)と呼ばれる人口島をひたすら走っていく。

「そろそろいいかしら…」

紗矢華はそう言うと自転車を降り携帯を取り出した。

「やっぱり、今回の騒ぎは魔導書絡みってわけね…」

魔導書の効果が及ぶのはおよそ街一つ分ほどなのだ。

絃神島全体を覆うことはできても咎の方舟(カインズアーク)まで効果を及ばせることはできない。

紗矢華はやっと使えるようになった携帯でどこかへと電話をかける。

「誰だ?」

電話の相手は面倒くさそうな声を上げた。

「誰って…煌坂ですけど…」

「尻軽女が何の用だ?」

「尻軽じゃありません!少し力をお借りしたいのですが」

「ほう、30分後にその人口島の南端に行っておけ。いいものをくれてやる」

それだけ言うと電話は切れ、紗矢華は自転車にまた乗り指定された場所へと向かう──

 

 

 

「先輩、やっぱり見つからないじゃないですか!」

「魔力の感じからこっちだと思ったんだけどな…」

散々歩いて何の成果も得られなかった雪菜が怒っている。

それに頭を掻きながら謝る古城。

「夫婦喧嘩は他所でやってもらえると助かりやがるんですけど」

そんなライラの言葉で2人は赤くなり喧嘩をやめてしまう。

「でも、歩き回る以外に探す方法なんてあるのか?」

「魔女あるいはそれに精通する方がいれば…」

雪菜がライラの方を見る。

「私には無理な話でありやがりますよ」

雪菜の思惑を察してかライラは少し拗ね気味に返事をした。

「卵だもんな…」

「そうなると…紗矢華さんと合流するしか…」

「煌坂なら分かるのか?」

「呪術の類には詳しいはずなので…私たちよりは頼りになると思います」

「その程度なのか…、そうだ!那月ちゃんは?」

「南宮先生なら問題ないと思いますけど、どこにいるかは…」

「確かに、那月ちゃんがいればオレ達の前にすぐ現れるはずだもんな。どうすりゃいいんだよ」

「落ち着いてください、とりあえずもう少し気になる場所を探してみましょう」

戦闘能力こそ高い2人だが、索敵能力に関してはほぼ0なのだ。

それが1番よく分かっている2人はライラを連れてまた歩き出した──

 

 

 

「こんな所までご苦労だな、舞威媛」

「ここまでどれだけ距離があると思ってるんですか…」

「文句を言うな、私の立場もお前達獅子王機関の2人と大差がないということを忘れるなよ」

それだけ言い残し那月は空間転移によって消えてしまう。

「え!?それだけ!?」

「久しぶりだね、煌坂さん」

驚いて叫ぶ紗矢華の後ろから声が聞こえてくる。

「あなたは──」

「古城のところに連れて行ってもらえるかな?」

紗矢華の前には仙都木優麻が立っていた──




次回は…長く書く予定です。

キャラ紹介の更新も明日になると思うので次話の更新と共に2話分まとめて更新させていただきます。

那月と雪菜、紗矢華の3人のことも近いうちに触れます。

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第34話 姫柊 雪菜Ⅲ

今回久々にサブタイトルにヒロイン名を振りました…


後書き長めなので前書き短めです!


何の当ても無く街を歩いていた古城と雪菜そしてライラはいつの間にか古城の家でもあるマンションへとやって来ていた。

「姫柊?そろそろ休まないか?オレ達さっきから2時間は歩いてるんだが…」

「先輩は情けない人ですね、少し歩いただけでもう疲れたんですか?」

「いや…手がかりもないのに歩くのは気が重いっていうかさ、ほら家も近いし、な?」

「先に歩き出したのは先輩だったと思うんですけど…。仕方ないですね、一旦家に戻りましょう」

雪菜も内心ただ歩くだけに疲れたのか古城の提案にすんなりと乗ってくる。

古城の背中ですっかり寝てしまっているライラを連れ2人は自宅へと戻り、服を着替えにそれぞれの部屋へと向かう。

いよいよ4月に入ろうとしているとはいえ常夏の絃神島では日中に30度近くになることはよくあることで、そんな中歩き回れば汗もかくというものだ。

「先輩?入っても大丈夫ですか?」

ライラを連れて着替えに行った雪菜が着替え終わったのか古城の部屋へとやってくる。

「ああ、入ってくれ」

「失礼します」

「あれ、ライラは?」

古城は雪菜と一緒に服を着替えに行った魔女の少女が見当たらないことに気づく。

「今回ライラさんは無関係の可能性が高いので、巻き込まないためにも意識を飛ばして眠ってもらいました」

「ああ、呪術とかでな。オレもその方がいいと思う」

古城はいつの日か紗矢華が凪沙にかけた催眠系の呪術を思い出してそう言った。

「いえ…その…」

「姫柊?」

「私にはそういう呪術は使えないので…」

「まさか、物理的に意識を奪ったのか…?」

「仕方ないじゃないですか!それしか出来ないんですから」

「まあ、いいと思うぞ…。で、これからどうする?」

古城は雪霞狼で強打されただろうライラに申し訳なく思いながら話題を変えた。

「そのことなんですけど…、今私たち2人…ですよね?」

「ああ、2人だな。それがどうかしたか?」

少し様子のおかしい雪菜を気にしながら古城は雪菜に先を促す。

「先輩がもしよかったら…その…子、作りを…」

 

 

「へ?」

 

 

古城の間抜けな声を境に2人の間に静寂が訪れる。

「姫柊…さん?どうして…いきなりそんなことを…?」

「そんなこと…ですか、そうですか、そんなことですか…」

雪菜の手が雪霞狼を入れた楽器ケースへと伸びていくのを見て古城は咄嗟に口を開いた。

「いや、嫌なんじゃなくてだな?どうしてそんなことを急に言うのかと…」

この状況にそぐわないことを言われたことや、雪菜ほどの可愛い女の子の口からそんな言葉を聞いたこと、中学生に手を出せばいくら皇帝でも社会的にどうなるのか等、古城の頭の中を様々な思いが巡る。

「今回のことが終われば先輩とはもう2度と会えなくなるかもしれないんです──」

そんな古城の思考などいざ知らず雪菜が衝撃的な言葉を告げた。

「どういうことだよ、それ。また定期検診の手紙かなにかの見間違いか?もう1回ちゃんと見直して──」

「違うんです!この前紗矢華さんと2人で帰還したことを覚えていますか?」

「ああ…」

古城はブルーエリジアムへと行く前になにやら2人が呼び出されていたことを思い出した。

「そのときに師家様から言われたんです。監視役というだけでこれ以上無理を押し通すのは限度があるって」

「どういうことだよ…」

「私が先輩の監視役になってから先輩の周りで色んなことが起こって…その度に私は色々と先輩と一緒に首を突っ込んできました。先輩の監視役という理由をつけて自分の意志でやってきたことですけど…その言い訳ももう通せないんだそうです…」

感情が溢れてしまっているのか、雪菜の言葉はいつもの彼女からは考えられない不安定なものになっている。

「私は監視役である前に獅子王機関の剣巫で…私が勝手な判断で行動することで外交問題になるって…」

雪菜の言葉は自分に言い聞かせるかのようにどんどん強さを増していく。

「だからもう次はないって、言われたんです。今度同じように勝手な判断で行動すれば監視役を解任するって、代わりの監視役も用意してあるって…」

「煌坂も一緒にか?」

「はい…」

「そっか。なあ、姫柊お前はここにいたいのか?」

「一緒にいたいに決まってるじゃないですか!」

「オレが1人で片付ければ姫柊たちはここにいてもいいんだろ?」

「そんなの無理に──」

雪菜の口を古城が手で抑える。

「無理だな、オレには姫柊も煌坂も必要だ。お前らがいないと困るんだ。だから、とりあえず力を貸してくれ。その後のことはオレが後でなんとかしてやるから」

古城は雪菜の頭を撫でながらそんなことを口にした。

「先輩…、なんとかなんて出来るんですか?」

「無理だったら獅子王機関に殴り込みにでも行ってやるよ」

「そう…ですか」

雪菜は久々に古城の前で心からの笑顔を見せた。

古城が自分のことを思ってくれていることが彼女にとってはなによりも嬉しいのだ。

「先輩、行きましょう。紗矢華さんが呼んでます、さっき着替えているときに連絡がきました」

「そうか、早く煌坂のところにも行ってやらないとな」

すっかり元気になった雪菜と共に古城は外へと出て、紗矢華との合流を急ぐ──

 

 

 

「あなた、日本で取り調べ中じゃなかったの?」

紗矢華は不機嫌そうな目で優麻を見ている。

「ついこの前終わったばかりなんだ。今は一応監視はついてるけど自由の身だよ」

「それで魔女絡みだから古城のことを助けにきたの?」

「そんなところかな、その怖い目をやめてくれると嬉しいんだけど…」

「まあ、いいわ。さっき雪菜たちに連絡したからすぐ会えるわよ」

「じゃあそれまでにどういう状況か教えてもらえるかな?」

「雪菜たちによると言語の魔女アレシア・ソリテュードっていう魔女が来てるらしいわ。街は意識のない人たちで溢れててなんとか古城が眷獣で街ごと催眠にかけて今はなんともないらしいけど…」

紗矢華は雪菜から式神で伝え聞いたことをそのまま優麻へと伝えた。

「そういうことか、アレシアの力は他人の言葉を奪ったり逆に新しい言葉を与えたりする力なんだ。本来自分の周囲数百メートルにしか力は及ばないはずだから、魔導書No.726と併用してるはずだよ」

「魔導書No.726…その魔導書はどんな力を持ってるの?」

「魔女の能力の効果範囲を広げる。ただそれだけの能力だよ。シンプルだけど使い勝手がよくて図書館では重宝されてきたんだ」

優麻1人がいることでこれだけのことが分かるという事実に紗矢華は少し驚くと同時に1つの疑問を覚えた。

「でも、その言語を奪ったり与えたりする力で機械が使えなくなるっていうのはちょっと…」

「煌坂さん、僕はそんなに詳しいわけじゃないけど機械のプログラムだって人間が作った言語によって作られているよね?」

「あっ…」

「よくヒトと猿の違いについて考えたりすることがあるけど、その答えは大抵文明を作ったか否か、そういうところに見出されることが多いよね。その文明を作るのは他でもない言語なんだよ。それだけで彼女の力がどれだけ強いものかが分かるよね」

「分かったけど…この国を機能不全に陥らせてどうするの?」

優麻は少し考えて紗矢華の疑問に答える。

「多分、図書館のトップになるつもりじゃないかな。第四真祖である古城を倒せば前のトップ、僕のお母さんより上っていうことになるからね」

「古城を1人にして楽に倒そうってわけね…」

紗矢華と優麻はある程度2人で今回の事件に結論を出し合流地点へと急ぐ──

 

 

日も暮れ始めた頃、やっと4人は合流することができた。

「煌坂…遠いわ。どこまで行かせるつもりだよ…」

電車も車も使えず、島の外縁部までひたすら走ってきた古城は出会い頭に紗矢華へと文句を言った。

「彼女を迎えに行ってたのよ」

「久しぶりだね、古城」

紗矢華の言葉と共にボーイッシュな女の子が古城の前へと歩み出た。

「優麻!無事だったのか?」

「無事って僕は別になにもされてないよ、取り調べが終わったから南宮先生に古城を助けるように言われたんだよ」

「那月ちゃんが…」

「それで、今回のことなんだけど──」

そうして古城と雪菜は優麻から彼女と紗矢華が立てた推論の内容を聞いた。

「じゃあ、アレシアってやつはそろそろオレになにか仕掛けてくるのか?」

「いや、多分その前に闇誓書と同じレベルの魔導書を使うはずだよ。彼女の性格からして確実に古城を仕留められる状態になるまで出てくるはずはないからね」

優麻の言葉とともに古城たちの耳に奇妙な音が聞こえた。

「ほら、来たみたいだよ古城」

魔導書の起動を感じ取った優麻が古城達へと警戒を促した──

 




雪菜と紗矢華が獅子王機関に呼ばれた話は人間戦争篇第27話 幕間に載ってます。
次回からやっと本格的にバトルシーンが入ってきますのでご期待を!

最近感想評価をよくいただけるのですが、もっと感想のところでワイワイやっていただければ嬉しいなーとか勝手に思ってます^^;

そして!この章が終われば、どこかに番外編のSSをちょくちょく投稿していこうかなと考えています。
例えば雪菜が古城に水泳を教える話(第28話)のように色々と触れていないところに触れていけるようにするつもりです。
そういえば、ここの裏話どうなってるんだ?とかあれば活動報告の方にアンケートを載せておくのでそちらで聞いていただければ番外編に載せることもあると思いますのでじゃんじゃん言ってください!

キャラ紹介の方も更新済みですのでそちらも合わせてどうぞ。

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第35話

連続投稿です。

キャラ紹介の方は20時40分までに更新予定

今回も前書き少なめ後書き多めです。



優麻の言葉によって3人の思考が戦闘へと切り替わる。

「紗矢華さん!」

剣巫の持つ未来視で自分たちが雷へと貫かれる未来を見た雪菜は紗矢華に防御の指示を出した。

煌華鱗による擬似空間断裂の盾が致死の威力を秘めた落雷を受け止める。

「優麻、どういうことだ!?これ」

「規格外の力を持った魔導書は使う時の制限がキツくてね、星辰の配置の影響を強く受けるんだ。だから基本的に夜しか使えない。ちょうど夜になったから魔導書を起動させたんだよ」

「まだ場所も分かってないってのに…」

古城が舌打ちをしたとき4人を強烈な風が吹き付け宙へと飛ばされそうになる。

夜摩の黒剣(キファ・アーテル)!!」

古城は重力制御の能力を一部だけ解放し4人の身体をその場へと留まらせた。

「優麻さん、この魔導書に思いあたることは?」

「自然災害を引き起こさせる魔導書なんてなかったと思うけど…」

優麻の言葉が終わらないうちに4人に赤いレーザー光のようなものが飛んでくる。

「雪霞狼!」

雪菜の持つ破魔の槍が光を打ち消す。

「聖殲か?今の…」

「そうみたいですね、どうなってるんでしょうか…」

「古城!上!」

紗矢華の叫び声に反応した古城が上を向くとそこに黄金の雷光を纏った獅子が現れた。

獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

古城は驚きながらも同じ眷獣をぶつけることによって攻撃を相殺する。

「先輩の眷獣まで…?一体どうなって──」

「姫柊!?煌坂!?」

古城は突然隣で倒れた2人の名を呼ぶ。

「古城…、いきなり身体の力が…」

「煌坂、大丈夫か!?」

古城は次の攻撃から2人を守ろうと倒れた2人の間に立った。

「古城、多分もう攻撃は来ないと思うよ」

優麻が倒れる2人を見ながら苦痛の表情を浮かべながら口を開いた。

「どういう──」

「旧記と神文。図書館にある魔導書の中でもかなり上のレベルの魔導書だよ」

「旧記と神文?」

「旧記にはその名の通り過去のことが書いてあるんだ。過去のことならなんだってこの時間軸に持ってくることが出来る。それが例え聖殲でも眷獣でも災害でもね」

優麻は倒れる雪菜の髪を撫でながら推測を続ける。

「神文っていうのは術者に害のある行動を取った者に罰が与えられる。姫柊さんと煌坂さんは武器を持ってアレシアの攻撃から君を守った。彼女達が倒れたのは多分そのせいだ」

優麻は一瞬のうちに雪菜と紗矢華が無力化された現実をまだ受け入れられていない古城の方を向く。

「僕がいながら申し訳ない…。南宮先生に古城を助けるように言われたのに。やっぱり僕はダメなのかもしれないな」

「優麻、姫柊と煌坂は無事なんだな?」

「うん、今のところはね。術者の命を取らない限り命まで奪われることは無いはずだよ」

「アレシアって魔女の居場所は分かるか?」

「今なら分かるよ、古城のことを誘ってるみたいに魔力を放ってる。彼女のところに行くのかい?」

「ああ。優麻、姫柊たちのこと頼めるか?」

「わかった。古城、今の君無茶をするときの顔をしてるよ」

「姫柊と煌坂が倒れたのは好都合かもしれない、こいつらにはまだオレのことを監視してもらわなきゃならないからな」

古城はそう言って優麻の方へ笑いかけるとアレシアのいる方へと歩いて行った──

 

 

島の中心部キーストーンゲートの上に彼女は立っていた。

「なかなか度胸があるじゃない。1人で来るなんて」

「訳あって1人なんだよ」

「獅子王機関の剣巫と舞威媛は神文の罰を受けちゃった?」

「それだけじゃないけどな」

「そう、1ついいことを教えてあげる。獅子王機関はあなたにとって敵となるはずよ」

古城はアレシアになにも言い返さない。

「何事にも裏がある。組織になればなおさらね。ここで死ぬあなたには関係の無いことかしら」

「そうか、あんたはなんでこんなことしてるんだ?下らない組織のトップになるためか?」

「それはプロセス。私はこの世界を魔導によってもっと深くまで知りたい、そのためには地位もある程度必要なのよ」

「そういうもんか」

「そういうものよ」

「それだけのためにこんな大きなことしたのか?」

「誰1人殺してはいないわよ、無用な殺生は私も好まないわ。第一外の空気を吸うのも嫌なの、早くあなたを殺して私は帰る。それだけよ」

「そうか、わかった。どうやらオレの怒りをぶつけるのはあんたしかいないらしいな」

古城は怒りのまま魔力を解放する。

「あなたには神文が効かないみたいなのよね、一体どこで魔女の血なんて吸ったんだか──」

アレシアは旧記と呼ばれる魔導書を開き古城の前へ蛇の眷獣を呼び出した。

無数の剣の鱗を持つ眷獣、ヴァトラーの眷獣だ。

獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

2つの膨大な魔力がぶつかり床が異常な音を上げる。

しかし、2人は互いに無傷だ。

後退するアレシアへ古城が追撃を仕掛ける。

双角の深緋(アルナスル・ミニウム)牛頭王の琥珀(コルタウリ・スキヌム)──!」

緋色の双角獣が放つ衝撃波が床を引き裂き、牛頭神が吐く溶岩が巨大な戦斧となってアレシアを襲う。

「威勢がいいわね、でもあなたそんなことじゃ死んじゃうわよ?」

アレシアは意味深な言葉とともに金剛石の盾を展開した。

古城の眷獣の能力だ。

全ての攻撃を防ぎきりアレシアは金剛石の礫を古城へと飛ばす。

夜摩の黒剣(キファ・アーテル)!」

重力制御により古城は空中へと跳躍し回避する。

しかし、左足に若干被弾し血が滲んでいた。

「案外簡単に傷がついたわね」

「こんな傷すぐに治るさ」

古城はそんなことを言いながら敵対して初めて自らの持つ第四真祖の力がいかに強大かを思い知る。

「治らないわよ?」

アレシアは古城の脚を指さしながら冷ややかに笑っている。

「私の能力、忘れた?言葉を奪う力はあらゆる呪術を無効化するの。それを魔導書No.726の能力拡張と同時に使うとどうなるか…分かる?能力拡張を範囲ではなく、能力そのものに適用すれば神祖のもつ不死の呪いさえも打ち消すことが出来るの」

古城は自分の足から流れる血を見ながら苦しい顔をした──

 

 

 

「古城…」

優麻は雪菜と紗矢華の2人を安全な場所へと移し、古城の眷獣が放つ圧倒的な魔力を感じながら彼のことを思った。

「先…輩…。先輩!!」

雪菜が急に飛び起きた。

「姫柊さん?まだ動いちゃ──」

「雪菜…?」

雪菜の叫び声で紗矢華も目を覚ます。

「優麻さん、先輩は!?」

「君たち2人にはまだ監視役をしてもらわなきゃいけないって1人で行ったよ」

優麻の言葉を聞いた雪菜と紗矢華はすぐに古城の元へと走ろうとする。

「ダメだよ。今の2人は古城の魔力にあてられて目を覚ましただけで回復したわけじゃないんだ。旧記がアレシアの手にある以上行っても足でまといになる」

優麻は2人の手を握り引き止めた。

「優麻さん、先輩は私たちのことを守るために行ったんです」

「じゃあ、古城のことは誰が助けるの?」

「それは私たちしかいないんです」

「そういうことだから」

雪菜と紗矢華は言い合わせたように交互にそう言うと古城の方へと走って行く。

「古城…僕はどうすればいいんだ?何も出来なかった僕は──」

優麻は悲しい顔で夜空を見上げた──

 

 

 

古城が眷獣を出してもアレシアは過去から古城の眷獣を召喚して攻撃を相殺する。

そんなイタチごっこの戦いが続き古城にも疲れが見え始める。

アレシアは魔導書を使う魔力しか消費しないためか全く疲れが見えない。

「そろそろ、終わりにしましょうか」

徐々に増えていく古城の傷を見ながらアレシアは微笑んだ──

 

 

雪菜と紗矢華はキーストーンゲートの階段を駆け上がる。

やっとの思いで最上階へと上がり雪菜が屋上へのドアを蹴破った。

「先輩!」

「古城!」

古城が2人の声に少し振り向いた瞬間──

 

古城の身体が地面から噴き出した膨大な神気によって縦に真っ二つにされた。

 

「──────────!!」

 

雪菜の声にならない叫びが夜空へと吸い込まれていく。

 

 

世界最強であり不死の吸血鬼である古城はこの瞬間、完全に死亡した────




番外編のSSの件ですが、活動報告の方にアンケートを作成しましたのでよければそこにコメントいただければと思います!


感想乞食もこの辺にして、次回で今回の幽寂の魔女篇も短いですが、終わりです。
更新は明後日になると思います、過去話の読み直しなども少し文章変えたりしてるとこもあるのでオススメです。

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第36話 姫柊 雪菜Ⅳ 煌坂 紗矢華Ⅴ 仙都木 優麻Ⅰ

今日は更新する予定がなかったんですが…、プロット作成が意外に早く終わったのと昨日から日間ランキングに載り続けててテンション上がったので更新。

今回で予告通り幽寂の魔女篇最後です。
色々とこれからのための話のために作った章なのであまり面白くはないかもしれませんがお付き合い下さい。



雪菜と紗矢華の目の前で古城の身体が紙のように簡単に縦に真っ二つに裂ける。

切断された場所から古城の身体が真っ白な灰へと変わっていく。

「先…輩……」

敵が目の前にいることすら忘れ、雪菜は古城がいた場所へと駆け寄り縋るように灰へと変わった古城の身体へと手を伸ばす。

雪菜の手が触れようとしたその瞬間──

古城の身体であった灰が風に飛ばされるように宙へと消えていき、雪菜の腕の上に綺麗に真っ二つにされた古城のパーカーとシャツが落ちてきた。

「雪菜…」

紗矢華がなんとか口を開き雪菜の方へと近づき彼女の肩に手を乗せる。

「第四真祖もあっけないものね、目的は達したし私はこれで帰らせてもらうわね」

「待…って…ください…」

か細い声と共に雪菜がアレシアへと手を伸ばす。

彼女には古城が完全にこの世から消えたことが分かっていた。

『血の伴侶』である自分と古城の間に築かれた霊的パスが失われ魔力供給がなくなったのだ。

「何か言った?」

「先輩を…返してください──!!!」

「雪菜!」

静止する紗矢華の手を乱暴に振りほどき雪菜は雪霞狼を手にアレシアへと特攻を仕掛けた──

 

 

 

夜空を見上げる優麻も古城がこの世から消えてしまったことを悟った。

膨大な魔力の波動が1つ消え、古城の眷獣によって支配されていた島の魔族や人間が意識を取り戻したからだ。

しかし、雪菜や紗矢華と違い優麻は落ち着いていた。

「古城は僕が助けてみせるよ──」

優麻はそう呟くと雪菜が最後の希望を自分の手で消してしまう最悪の事態を回避させるためキーストーンゲートへと走る──

 

 

 

雪菜の雪霞狼による高速の刺突がアレシアへと迫る。

調律者(シントニス)──」

アレシアの声と共に鈍色の守護者が現れ雪菜の攻撃を受け止める。

「武器を構え、攻撃をした。私にとって2回害のある行動を起こしたわね」

神文の効力により雪菜の全ての力が弱体化される。

あらゆる生命体は霊力、あるいは魔力を一定以上内包せずには活動することが出来ない。

しかし、雪菜はほぼ自らの霊力が尽きても立ち上がる。

「しぶといのね、第四真祖に惚れてたの?なら愛する第四真祖の眷獣で殺してあげる」

雪菜の前に黄金の雷光を纏った獅子が現れ、アレシアの指示によって雪菜へと突進を仕掛ける。

「雪菜!逃げて!」

紗矢華は雪菜の身体が蒸発することに耐えられないと思わず目を瞑る──

 

「雪菜…?」

紗矢華は恐る恐る目を開ける。

すると前には大きな獅子を慈愛に満ちた表情で抱き寄せる天使がいた。

まるで聖堂にある壁画のようなその光景に紗矢華は言葉を失った。

獅子の黄金(レグルス・アウルム)は雪菜に顔を撫でられ徐々に小さくなりやがて空間に溶けるように消えていく。

「天使の翼…、獅子王機関の剣巫がどういうこと…?」

アレシアは旧記から考えつく限りの攻撃を雪菜へと放つ。

その全てが雪菜へと届く前に何も無かったかのように消え去る。

「先輩を…先輩を…──」

雪菜の言葉は古城を求め続けていた。

制御不能となり暴走し彼女の身体から溢れ出した膨大な神気が神格振動波駆動術式の結晶となり周囲を満たしていく。

調律者(シントニス)!」

アレシアは守護者を呼び出し雪菜を殺すように命じる。

凄まじい質量の槍が光速で打ち出されるが雪菜を捉えることはできない。

感情を失った雪菜はアレシアの背後へと現れると何のためらいもなく手に持った槍で守護者と魔女との繋がりを切断する。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

アレシアはいきなり悶え始め、その場へと倒れた。

魔女にとって守護者との繋がりは生命線にも等しいのだ。

苦しむアレシアになんの興味もない雪菜はアレシアの握る魔導書ごと彼女の身体を雪霞狼で貫こうとする。

「ダメだ!姫柊さん!!」

屋上へと続く扉から血相を変えて優麻が飛び込んでくる。

(ル・ブルー)──!」

優麻の守護者が雪菜の槍へと体当たりをし軌道をなんとか逸らした。

「その魔導書があれば!古城をなんとか救えるかもしれないんだ!」

優麻の声に一瞬雪菜の動きが止まる。

その隙にアレシアの持つ2つの魔導書を奪った優麻は気の抜けている紗矢華へと指示を出す。

「煌坂さん!古城を助けられるかもしれないんだ。姫柊さんをなんとか止めておいて!」

「え…!?私!?今の雪菜を!?」

「頼んだよ!」

優麻の無茶ぶりを受けた紗矢華はため息をつきながら雪菜の身体を抑える。

優麻の言葉を聞き、雪菜は動かなくなってしまったが身体から溢れ出す神気はどんどん増える一方だ。

この空間が神格振動波駆動術式の結晶で覆い尽くされてしまうのも時間の問題かもしれない。

「ちょっと、ちゃんと古城を助けられるんでしょうね!」

「そのはずだよ、旧記によって古城の水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)をここに呼ぶんだ。そして魔導書No.726の能力拡張を適応すれば…」

「古城を再生できるのね?」

優麻は旧記の力によって蛇の下半身と髪を持つウンディーネを呼び出し、眷獣の持つ存在を無に返す力を拡張させていく。

「ちょっと大丈夫!?あなたの魔力がすごい勢いで減ってるんだけど…」

「古城を復活させるまでは死んでも保たせるよ」

普通の魔女である優麻が魔導書を2冊同時に使役することに加え、強化された第四真祖の眷獣を細かく制御しようとしているのだ。

その魔力消費量は凄まじいことになるのは当たり前なのだ。

「古城、僕の命に変えても君を助けるよ──」

優麻の決死の努力もあり、うっすらと古城の影が現れ始める。

しかし、それも一瞬であり死力を尽くす優麻を嘲笑うかのようにすぐに消えてしまう。

「ちょっとどうなってるのよ!」

「自然の復元力だよ、死んだ者を生き返らせる行為は自然の摂理に反することだから…」

優麻が力尽きかけた瞬間、旧記が周囲を埋め尽くした神格振動波駆動術式の結晶による魔力無効化に耐えきれず燃えてなくなってしまう。

「そんな…古城を助ける唯一の方法が…」

優麻が懸念したことが起こってしまったのだ──

雪菜の魔力を無効化する力が、古城を助けられる唯一の方法である魔導書の効果を消し去ってしまうということが──

「古城…!」

優麻が悔しさで床を叩きつける。

「先輩…」

雪菜の身体から溢れ出す神気の量が桁違いに増え紗矢華が吹き飛ばされる。

「きゃっ────」

「煌坂さん、僕達も逃げた方がいいかもしれない」

「え?」

「さっき一瞬古城の影が見えたことで姫柊さんを刺激してしまったかもしれない。これだけの神気が溢れ続けて破裂したらこの島は沈んでしまうよ…」

「でも、雪菜を置いてなんて!それに古城もまだ!」

「僕達の力不足だよ、天部でさえ死んだ者を生き返らせることは出来なかったんだ…」

「なにか方法があるはず──」

紗矢華の言葉は雪菜の口から聞こえてきた普段の雪菜とは違う声に消されてしまう。

「先輩…ヒトリニ…シナ…イで…」

雪菜の言葉に呼応するかのように神格振動波駆動術式の結晶が雪菜の周りへと集まり彼女を覆っていく。

「嘘でしょ…」

雪菜の前に徐々に1人の男の影が浮かび上がる。

不安定な輪郭はやがてハッキリとした線へと代わり紗矢華と優麻がよく知る者の姿へと変わっていく。

「そんな…第四真祖の眷獣と魔導書の力でも無理だったのに…」

完全に再生された古城の身体が落下し、雪菜がそれを受け止める。

「ん…、はっ!アレシアは!?」

古城は目を覚まし周囲を見渡すが、どこを見渡しても白い綺麗な壁が見えるだけだ。

目の前へと視線を移した古城は、感情の色を失い天使の羽が生えている雪菜の姿を見て全てを察する。

「そうか、またお前に無茶させちまったのか──」

古城は雪菜の頭を撫でながら彼女を抱きしめる。

「──」

しかし、雪菜はなにも返事をしない。

「戻ってこい、姫柊──。いや、戻ってこい雪菜──」

古城はゆっくりと雪菜の唇へと自分の唇を押し当てた。

古城の唇が雪菜の唇へと触れた瞬間、神格振動波駆動術式の結晶が粉々に割れ雪菜が元の姿へと戻る。

「先輩…。先輩!大丈夫ですか!?」

「お前のおかげでな、なんだかいい夢を見てた気分だよ」

「今度こそほんとに死んじゃったかと思って…心配したんですからね」

雪菜は泣きながら古城の胸へと飛び込んでくる。

「「古城!」」

ずっと状況を見守っていた紗矢華と優麻も泣きながら古城へと抱きついてくる。

「おいおいおい!痛いからやめろって!」

3人に潰される勢いで抱きつかれる古城の目の前でアレシアの身体が紫色の魔法陣に包まれどこかへと消えてしまう。

雰囲気を読んでかここに現れない那月に感謝をしながら古城は3人の頭を撫でた。

「やっぱりお前らがいないとダメみたいだな…」

「まったくです!先輩はいつもいつも勝手に!私のいないところで変なことしないで下さい!ずっと一緒にいてって言ってるじゃないですか!」

「古城、私も雪菜と同じ意見よ。ダメ真祖は私が死ぬまで見張っておいてあげる」

「ははは、2人とも積極的だなぁ…。僕も古城の力になれるように頑張るからそばに置いて欲しいっていうのは同意見だけど…」

1度に3人から告白された古城はどうしたものかと一瞬迷ってから3人の言葉に返事をした。

「オレにはお前らが必要だ、だからこの国にずっといてくれよ。誰かがダメだって言っても、何かあってもオレが責任取ってなんとかする。だからこれからもよろしくな」

そう言い終わりいい雰囲気になったところで、古城のお腹が大きな音を立てて空腹を訴えた。

「先輩…」

「古城…」

「古城らしいね…そういうところ」

古城は3人から冷ややかな視線を向けられる。

「とりあえず、飯食いに行かないか…?」

笑いながらそんなことを言う古城につられ、3人も笑い出す。

静かな夜に4人の幸せそうな笑い声が響く──

 

 

そんな様子を近くのビルの屋上から見ている1人の女がいた。

眼鏡をかけ、制服へと身を包んだ彼女は誰に言うでもなく1人呟く。

七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)…、もはや私達の想像を遥かに超えている…。自然の摂理さえも覆す力。仙都木阿夜の言っていた世界をあるべき姿に戻す力というのも案外当たっているのかも知れないですね。姫柊雪菜──その身に2つの相反する力を宿し、天部をも越えた超越者ですか──」

全てを見た彼女はすぐにその場から姿を消した──

 

 

 




次回、幕間を挟んで新章(日常回)と行くのがいつもの流れなのですが…。
次回もバトル回の新章です( ̄▽ ̄;)
日常回楽しみにしてた方がいたらすみません…。
その代わりといっては何ですが新しく『すとぶらでSS!』という作品を昼前に投稿させていただきました。
番外編という形でそのうちこちらに移植する形になるとは思いますが、日常回成分が欲しい方はそちらも併せて読んでいただければ嬉しいです!

長くなりましたが、次章からどんどん展開が面白くなって行く予定なので期待してください。
例のごとく感想お待ちしてます!

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第37話 幕間

幕間なので短いです( ̄▽ ̄;)


事件から数日が経ち、混乱していた絃神島も普段の落ち着きを取り戻した。

4月に入ったこともあり、学生の春休みも昨日で終わってしまった。

今日から新学期を迎える暁 古城は登校1時間前にも関わらずまだ深い眠りについている。

「古城くん、起きて!今日から新学期だよ、始業式だよ!」

「あと5分…」

「もうー、早く行かないといけないからもう行くからね!雪菜ちゃんたちもいないんだからちゃんと起きてね!」

凪沙のうるさい声が消え、家の玄関のドアが開く音が古城の耳に聞こえてくる。

そのすぐあとにまた玄関のドアが開く音が聞こえてきた。

「忘れ物でもしたか?」

「なに、寝ぼけたこと言ってんのよ。早く起きなさいよ!」

凪沙のものではない声とともに古城の布団が引き剥がされる。

「なにすんだよ…」

「早く行かないと遅刻するからわざわざ起こしに来てやったんじゃない」

古城の目の前に浅葱が立っていた。

浅葱に急かされ古城は一瞬で用意を終わらせ朝食も食べずに家から叩き出される。

「乱暴だな…」

「遅刻しないで済むんだから感謝しなさい。姫柊さんも煌坂さんもいないんでしょ」

「まだ帰ってきてないな」

雪菜と紗矢華は前回の事件のあとすぐに獅子王機関へと帰還したのだ。

監視役を続けられるよう上申すると言っていたがそんなことが出来るのかは分からない。

「基樹のやつも昨日から連絡ないのよね、一体どうなってるんだか」

「矢瀬はまたサボりか公社の仕事だろ…影でコソコソやってんのはいつものことだ」

2人はそれぞれ好き勝手な愚痴をこぼし合い学校へと急ぐ。

「えっと…教室は…」

「こっち、昨日ネットでクラス分けの発表あったでしょ」

「そうなのか!?」

「古城も基樹も私と一緒。煌坂さんも一緒よ」

最後だけ少し嫌そうに付け足し走っていく浅葱へと古城はついていく。

この学校のクラス分けはかなりテキトーだ。

仲がいいメンバーや部活等で関わりがある者をまとめてシャッフルする。

普段一緒にいると教師に判断されれば、クラスが離れることはほぼないのだ。

なんとか間に合った2人は席につく。

ホームルームの時間になり担任の教師が教室へと入ってくる。

「あれ?」

「どうした?腹でも減ったのか?」

「そんなわけないでしょ…、担任は那月ちゃんのはずなんだけど…」

浅葱が疑問の声を上げてすぐ、教壇に立つ教師から理由が説明された。

どうやら那月はここ数日間いないらしい。

そして、代わりとして臨時で今いる教師が担任をすることになるということだった。

「どうもきな臭いわね…。古城あんたこのあと暇よね?」

「暇だけど何するんだよ」

「調べるに決まってるでしょ」

「まじかよ…」

古城たちの通う彩海学園は中高一貫の学校だ。

普通の高校なら入学式は始業式とは別日に開催し、盛大に祝ったりするものだが中等部が高等部に進むだけということもあり、始業式のついでにすぐに終わらせてしまうのがこの学校の風習だ。

体育館で眠たくなる話を聞き、始業式と簡易的な入学式があり新学期初日が終わる。

そのまま2人は食堂へと向かい、昼食を済ませた。

「それで、調べるって何を調べるんだよ」

「出国履歴とか入国履歴とかそこら辺かな」

「それ勝手にいじって大丈夫なのか…?」

「何かあったらどこかの夜の帝国(ドミニオン)の領主のせいにするから」

「そうか、それなら…ってそれオレじゃねぇか!」

古城のツッコミも虚しく浅葱は黙々と愛用のノートパソコンへと向かう。

「おかしいわね、姫柊さんたち2人の出国履歴はあるけど入国履歴はないんだけど…」

「獅子王機関の方に直接行ったんじゃないか?プライベート機で行くって聞いたし」

「だといいけど…、那月ちゃんはこの島には今いないみたいだけど出国履歴はないわね」

「那月ちゃんには空間転移があるしな」

浅葱はそれからも次々と色々な情報を掴んだが特にこれといって決定打になるものはなかった。

「仕方ない、帰ろうぜ」

「ちょっと待って」

「まだなにかあったのか?」

「SDCが2日前から広範囲でなにかの捜索を始めてる」

「それって獅子王機関のダミー組織だったか?」

「うん、京都を中心に検問とかいろいろ…」

「それで帰れなくなってるんじゃないか?考えても仕方ないさ、もう少し帰ってくるのを待とう」

「私は気になるからもう少し調べてみる」

「あんまり、無理するなよ」

古城はそれだけ浅葱に言うと家へと帰る。

高校生になって浮かれた凪沙も誰かと遊んでいるのかまだ家に帰ってきていない。

古城は部屋着に着替えるとすることもなくすぐに眠ってしまった。

日も暮れ始め、帰ってきた凪沙に無理やり起こされた古城は夕食の準備に駆り出される。

「こうやって2人でご飯食べるのも普通だったのに、今は逆に違和感あるね」

「そうだな、姫柊も煌坂もいないからな」

「そういえば、優ちゃんに会ったんだよね?今どこにいるの?」

「ああ…、今はライラと公社の方で取り調べを──」

凪沙のマシンガントークに圧倒されていた古城の隣で携帯の着信音が鳴った──




個人的な話ですが、今日久しぶりにRe:ゼロから始める異世界生活のWeb版が更新されてテンションが上がったり──

そんな感じで節分ネタを入れたいところですが、物語的には4月入ったところなのでSSの方でエイプリルフールネタを入れようかなと思っています。

数日の間に更新するのでよければそちらもどうぞ。

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獅子王の疵瑕篇
第38話


今日Twitterである方から何故雪菜は『血の伴侶』になっているのに霊力を使えるのかという質問を頂きましたが、その答え?が今回で分かります。




古城は凪沙のマシンガントークを切るいい言い訳が出来たと携帯を手に自室へと戻る。

 

「浅葱か?どうした?」

「どうしたじゃないわよ、あんた今一体どこにいるのよ!」

「どこって家だけど?」

「家!?」

「なんでそんなにびっくりしてるんだよ」

「さっき一瞬監視カメラに姫柊さんと煌坂さんが映ってたのを見つけて、古城に連絡しようとしたらあんたの眷獣がいきなり大阪で!」

「は?大阪!?何かの間違いだろ」

「間違いじゃないのよ!2人がカメラに映ったのもその近くなんだから!」

「なっ──」

「だからちょっと1回こっちに──」

「悪い浅葱、その場所送っておいてくれ」

 

浅葱の言葉も無視し古城はそれだけ伝えると電話を切った。

パーカーを羽織り途中だった夕飯も放り出し、玄関へと走る。

 

「古城くん!?どこいくの?」

「ちょっと姫柊と煌坂を迎えに行ってくる」

「へ?雪菜ちゃんを?どこまで行くの?」

 

玄関のドアが乱暴に開けられる音がした後凪沙の質問に答えるものはいなかった。

 

古城は公社に飛行機を一機手配するように電話をかけ、全力で空港まで走った。

雪菜と紗矢華しかいない場所で古城の眷獣が召喚されたということは、雪菜と紗矢華のどちらかが『血の伴侶』として古城の眷獣を召喚したということであり、それは2人がかなり危ない状況にあることを意味していた──

 

 

数日前のことだ。

雪菜と紗矢華は前回の事件の報告と古城の監視役の任を続けれるように上申するため絃神島を離れ日本へと向かったのだ。

話の内容が内容であるため2人は獅子王機関の本部ではなく、京都にある高神の杜で話をしたいという旨を伝えたところ意外にもすんなりと承諾された。

2人は母校でもある高神の杜へと赴き、師である遠藤 縁と会った。

 

「お久しぶりです、確か以前お会いしたのは真祖大戦の前──」

「雪菜、紗矢華。悪いことは言わないからすぐにあの島へ帰りなさい」

「それは、どういう?」

「あんたたちが言いに来たことは分かってるつもりだよ。でもそれはこの組織が望むことじゃない。分かったら早く──」

 

縁の言葉が終わらないうちに部屋へ金箔や宝石で彩られた巫女装束を纏った女が入ってくる。

 

「そうはさせませんよ。姫柊 雪菜、あなたを本部まで連行します。煌坂 紗矢華、抵抗するなら無関係なあなたにも危害を加えなければなりませんが?」

「最初からそのつもりでしょう…?」

 

紗矢華は雪菜を守るように立ち苦笑した。

 

「残念です、どうかお許しを──」

「紗矢華、雪菜を連れて逃げなさい」

 

縁はそれだけ言うと静寂破り(ペーパーノイズ)へと向かっていった──

 

 

それから数日間、雪菜と紗矢華は呪術や魔術に関する包囲網にも監視カメラにも引っかからずに全力で獅子王機関の追手から逃げ続けた。

しかし、それも長くは続かず静寂破り(ペーパーノイズ)に見つかってしまった。

 

「獅子王機関三聖の長が雪菜に何の用?」

「偉そうな口を聞くようになりましたね、煌坂 紗矢華」

 

静寂破り(ペーパーノイズ)の笑みとともに世界を沈黙が支配する。

世界に音が戻った瞬間、雪菜と紗矢華の身体は車に撥ねられたかのように吹き飛ばされていた。

逃走の疲れもあり、一瞬で意識を失った2人を回収しようと歩み寄った静寂破り(ペーパーノイズ)の前に黄金の雷光を纏った獅子が現れ周囲に破壊を撒き散らす。

 

「出来の悪い教え子を持つとこれだから困るな」

 

静寂破り(ペーパーノイズ)が眷獣に注意を向けた瞬間どこからかそんな声が聞こえ雪菜たち2人はどこかへと消えていた──

 

 

 

古城が空港へと到着し公社によって手配された機体へ乗り込もうとしたとき背後に紫色の魔法陣が現れその中から豪奢なドレスに身を包んだ1人の小さな女性が姿を見せた。

 

「那月ちゃん!一体どこに…。そうだ、オレを日本まで連れて行ってく──」

「誰が那月ちゃんだ。それが面倒なことを代わりにしてやった恩人への態度か」

 

那月の拳が古城の鼻へと刺さった。

 

「痛って…、なにするんだよ…」

「少し日本に観光に行っていたら珍しいものを拾ってな、お前にくれてやる」

 

古城の方へ意識を失った雪菜と紗矢華が乱暴に投げ出された。

 

「那月ちゃん…」

「お前達を監獄結界に閉じ込めておくことも考えたが、それではなんの解決にもならん。獅子王機関とやりあうならお前も覚悟を決めるんだな」

「どういうことだよ…」

「まだ気づかないのか、このバカ者が。組織が出来れば派閥ができる。獅子王機関ほど大きな組織ともなればなおさらな」

「悪い、いい顔してるとこ悪いけど…さっぱりだ…」

「私は忙しい、あとは矢瀬のやつにでも聞け」

 

那月が怒りながら古城の前から姿を消し、機を見計らったように基樹が現れた。

 

「よう、古城。両手に花だな」

 

雪菜と紗矢華に挟まれる形になっている古城を見て基樹は満面の笑みだ。

 

「うるせぇよ…。それで説明してくれるのか?」

「長くなっていいならな」

「頼む」

「へいへい。獅子王機関にも那月ちゃんの言うように派閥ってもんがある。簡単に言えば過激派と穏健派、それと不干渉を決め込む連中だ。派閥ができりゃ否が応でも争いが起きるんだが、今の三聖の長である閑 古詠は過激派でな事実上その派閥には他は逆らえないわけだ」

「その派閥争いに姫柊たちがなんの関係があるんだ?」

「まあ、そう焦るなよ。獅子王機関が大規模な魔導災害や魔導テロを阻止するための組織っていうのは知ってるだろ?その仕事の中には将来起こる可能性がある災害を未然に防ぐっていうのも含まれてる。つまりだ、獅子王機関は古城──お前がなにかやらかす前に殺そうとしてるんだよ」

「話の流れでそれは大体予想ついてたけどよ、それと姫柊たちになんの関係があるんだよ」

 

古城は少し悲しそうな顔で基樹に話を進めさせた。

 

「聞いたらもう戻れないぞ?」

「聞かなくても殺されるのは決定事項だろ?」

「まあな…。姫柊ちゃんは古城の監視役って理由じゃなくお前の『血の伴侶』にさせるために送りこまれたんだ」

「な!?じゃあ──」

「落ち着け、姫柊ちゃんは少なくともそれは知らない」

「だから──」

「うるせぇぞ、古城」

 

基樹の拳が古城の鳩尾に入る。

 

「姫柊ちゃんとあの槍はお前を殺せる数少ない方法だ。お前の監視役に彼女が選ばれた理由のうちの1つはそれだ。もう1つの理由は彼女が神気を自在に扱える可能性があったこと。獅子王機関は『血の伴侶』になった姫柊ちゃんと古城との間に子供を産ませ、第四真祖直系の吸血鬼であり神気をも自在に扱えるお前らの子供を魔導組織への切り札として使役するっていう計画を立てたんだよ」

 

古城の返事がないことを確認した基樹は話を続ける。

 

「それまでにお前が危険になれば姫柊ちゃんの槍でお前を殺し、多少力は劣るが魔力と神気を扱える姫柊ちゃんを子供の代わりにする。危険でなければ子供を産ませた時点でお前を殺す。そういう計画があいつらにはあった。だが状況が変わったんだ、姫柊ちゃんは獅子王機関の想像を超えて『血の伴侶』になっても霊力を失わなかった。霊力と魔力という相反する力をその身に宿しながら神気さえも扱える特異な存在、自然の理を越えた『超越者』となってしまった」

「だから、子供じゃなくて姫柊をその切り札ってやつにすることに変えたのか?」

「そういうことだ。でも1つ問題があったんだよ、姫柊ちゃんはお前を殺せない。それがあったからこそ今までお前は生かされてきたし姫柊ちゃんもお前を止めるストッパーとして傍に置き続けた」

「流れからするとオレを殺せる方法が姫柊の槍以外に見つかったのか?」

「ああ、真祖を殺すための聖殲の遺産を獅子王機関は制御できるようになったって噂だ。それを使って実験がてらお前を殺して姫柊ちゃんを奪って洗脳なりなんなりして目的を達成しようってことなんだろうな。それでお前ら2人を引き離したいわけだ」

「そういうことか…」

「なあ、古城。オレら暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)はお前に味方する気だぜ?皇帝にいなくなられたら困るからな」

 

基樹は悪戯な笑みを浮かべながら古城の方を見てさらに付け足した。

 

「那月ちゃんは日本の国家攻魔官を辞めてきたらしいな、お前に力を貸してやるために。そういえば、そこで意識飛んでる2人も獅子王機関に辞表出しに行ったんじゃ──」

 

古城の方をチラッと見ながら基樹はわざとらしくそんなことを言う。

 

「そうか…、ならオレが逃げていいわけないだろ」

「今度こそほんとに死ぬぞ?」

「死ぬのはまだまだ先にしたいな。それより獅子王機関の三聖の長って彼女だろ。いいのか?」

「さあな、バカな親友を持つと困るってな」

 

基樹は肩をすくめ古城へ笑いかけるとどこかへ歩いていった。

 

古城はその後ろ姿に感謝しながら雪菜と紗矢華の身体をゆっくりと持ち上げ家へと帰っていく──




以前からやりたかったのですが試験的に行間を少し開けてみました。
こちらがいいという声が多ければ過去話の調整と以後これでいこうかなと思います!

説明回でグダグダしてすみません( ̄▽ ̄;)
今日の更新はこれで終わりです。
明日は忙しいので多分更新はないかと…
感想お待ちしております!

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第39話

お久しぶりです…
長らく更新できていませんでしたが、少し身の回りが忙しくなっているので更新頻度が落ちると思います。

次回から長めにしようと思いますが、今回は更新やめたわけではないという連絡を兼ねての更新なので短めです。



古城は、雪菜と紗矢華を抱えながら自宅の前でなにをするでもなく立っていた。

何も2人が重すぎたとか古城の体力が尽きたとかそんなことではない。

雪菜と紗矢華の身体はよく鍛えられているが抜群のスタイルを誇っているため、同年代の平均体重よりかなり軽い。

さらに、吸血鬼である古城には細身の女の子2人を抱えるくらい造作もないことである。

では彼は何故自宅の前で突っ立っているのか──

 

単純なことだ、凪沙になにがあったか真実を話すべきか否かという問題だ。

 

大きく深呼吸をした古城はドアノブに手をかけ玄関へと入る。

すぐに凪沙が走ってくる。

 

「古城くん!?え、2人ともどうしたの!?」

「ちょっと色々あってな、2人ともとりあえず大丈夫だ。今は寝かせてやってくれ」

 

凪沙は古城の心中を察してか、すぐにソファーの上を片付け2人が横になれる場所を確保する。

古城もそれに感謝し2人を凪沙が作ったスペースへと寝かせてやる。

 

「古城くん、何も聞かないけど雪菜ちゃんたちのことちゃんと見てあげてね。私はお風呂入って寝るから」

「分かった、悪いな」

「いいよいいよ、晩ご飯の残りは冷蔵庫の中だからね。お皿洗いはよろしくーっ」

 

深刻な顔をする自分に気を遣ってわざわざ明るく振る舞うなんて我ながらよくできた妹だな と古城は微笑み、途中だった夕飯を温め直し口に運ぶ。

寝ている凪沙を起こさないよう静かに風呂と皿洗いを済ました古城はすやすやと眠る雪菜と紗矢華の間に腰を下ろした。

 

特にすることもなく数時間ほど過ぎたときだった。

 

「ん…はっ!?」

「煌坂、起きたのか」

「は?」

 

目を覚まし飛び起きた紗矢華は目の前で眠そうに欠伸する古城を見て気の抜けた声を上げた。

 

「もう、大丈夫だぞ」

「幻覚…?幻術の類なの?」

「いやいや待て待て、落ち着けって!」

 

紗矢華は状況が理解できないまま、古城に煌華鱗を向けようと楽器ケースに手を伸ばした。

 

「冗談よ、あなた以外の男がこの距離にいたら問答無用で斬ってるわ」

「それもどうかと思うけどな…」

 

身の安全を確保した古城は基樹から聞いたことを紗矢華へと伝える。

 

それを聞き、しばらく何かを考えていた紗矢華が口を開いた。

 

「ねえ古城?私たちここにいていいのかな」

「へ?」

「獅子王機関には雪菜と2人で辞表を出しに行ったの、だからもう私たちはあそこには帰れなくて…」

「なんだ、そんなことか。前も言っただろオレは姫柊と煌坂2人がいないと困るんだ」

 

古城は俯く紗矢華の頭を撫でながら続けた。

 

「それに今までオレが自分の勝手で好きなことしてきたとき、助けてくれただろ?だから煌坂が好きなことを選べばいい。それでなにかあったら今度はオレが助ける番だ」

「どうして?」

「どうしてか…、まあ、ほら、あれだ夫婦ってそういうもんだろ?」

「そっか、そういうものなのかな」

「多分な」

 

少し照れくさくなった古城は紗矢華の頭をもう一度強く撫でてから自室へと戻りベッドへと横になる。

雪菜と紗矢華を気にしてなかなか眠れない日々が続いていたためか、急激な眠気に襲われすぐに古城はスヤスヤと眠ってしまった。

 

 

翌朝、いつものように雪菜が古城を起こしにやってくる。

 

「先輩、起きてください」

「久しぶりだな。もういいのか?」

「はい、お陰様ですっかり」

 

古城はベッドの側に立つ雪菜を思わず抱きしめてしまう。

 

「先…輩…?」

 

いきなり古城に抱きしめられた雪菜は固まった。

しかし、頬を赤らめ古城の方を見つめる雪菜の顔はすぐに冷たいものへと変わる。

 

「先輩?人の髪の毛に顔を近づけて、深呼吸なんて何をなさってるんですか?」

「え、いやその姫柊の匂いはやっぱり落ち着くなって──」

「先輩のバカ!」

 

獣人をも一撃で気絶させる雪菜の拳が古城の鳩尾に突き刺さる。

古城が倒れたのを見て雪菜は部屋から出ていった。

 

「古城くん、雪菜ちゃんに変なことしちゃダメだよ?私、学校行ってくるから行かないなら掃除とかよろしくねー」

 

蹲る古城を見て笑いながら凪沙が外へと出て行き、少しして基樹と浅葱が入ってくる。

 

「お前ら何しにきたんだよ…」

 

なんとか身体を起こした古城は馴染みの深い顔に用を尋ねた。

 

「何ってこれからどうするかに決まってるでしょ、獅子王機関を敵に回したのよ?ほんと古城も色々後先考えてやってくれないかな」

「悪い…」

「別に怒ってないわよ。姫柊さんと煌坂さん見捨てたとか言う方が怒るし」

「そういうことだ、古城は皇帝らしくどっしり構えとけ。尻拭いはオレらの仕事だからな。それが汚い古城のケツでもな」

 

2人の言葉に感動しかけていた古城だが最後の一言が引っかかったのか基樹を睨む。

そんな古城の鋭い視線も軽々と躱し基樹は本題について話し始めた。

 

「とりあえず、現時点での問題を挙げていくとだ。日本からの輸入が困難になった」

 

絃神島は日本から独立後もあらゆる機能を独立以前のまま日本に委託しているケースが多い。

獅子王機関を敵に回したことでそのほとんどが機能しなくなってしまっのだ。

 

「それならラ・フォリアさんに言ってアルディギアに支援してもらうことに決定したわよ」

「マジで?」

「マジで」

 

浅葱と基樹の漫才のようなやり取りを見ていた古城はため息を付きながら先を促す。

 

「悪い、それでだ。こっからはオレ達の問題で、姫柊ちゃんの奪還阻止と煌坂の保護だ」

「姫柊は分かる。けど煌坂は?」

「本気で言ってるか?ほっとけば煌坂は殺されるぜ?」

「矢瀬、どういうことが説明しろ」

「そんな怖い顔するなよ、単純な話だ。獅子王機関には基本的に除籍って制度がないんだ、歴史がある組織には知られたくないことが多いしな。辞めるって言ったやつ、あいつらにとって不利益になると判断されたやつはほぼ例外なく殺されてんだよ」

「だから煌坂のことも殺しにくるってことか?」

「その可能性は高い」

「向こうも大勢攻めてきたりはしないだろうがこっちは戦えるやつが少ない。姫柊ちゃんと煌坂を出せない以上古城と那月ちゃんしかいないんだよ──」

 

それまで黙って話を聞いていた雪菜と紗矢華が基樹の言葉を遮った。

 

「自分の身くらい自分で守れます」

「雪菜はともかく私は戦うつもりなんだけど?」

 

「分かってないなら言っとくが、お前ら2人がやられたら終わりなんだよ。この国的にはお前らの戦力がなくなるより獅子王機関と争わない方がいいんだ、そこ履き違えるなよ?」

 

古城のためにやってるだけだ。

基樹はそう言ったのだ。

 

「矢瀬、お前──」

「待てよ、オレもそこまで鬼じゃないからこうして話を通しに来たんだ。古城、お前はこの2人のために日本との縁を切る覚悟があるか?」

「なっ…」

「あるのか、ないのか早く答えろ」

「基樹…もうちょっと言い方があるでしょ!」

「浅葱黙ってろ、どっちだ古城」

 

 

「あるって言うに決まってるだろ…」

「そうか、ならいい仙都木 優麻を戦線に出す。それで決まりだ」

「優麻を!?」

「あいつをどうこうする権利は日本にある。今はオレ達公社が前の事件の参考人として預かってるが、明日の午後に身柄を返さなきゃならない約束なんだが、どうせ敵に回すんだ、土産の一つでも貰っておこうぜ」

「そうだな…」

 

基樹の思い通りにハメられたらことが少し気に食わない古城だが、一応は納得したらしい。

 

「それだけなのか?」

「ああ、あとはうまいことやっとくよ。お前は今は休んでてくれ」

 

それで話は終わりと言わんばかりに基樹は浅葱を引っ張り帰っていった──




久々なのでグダってるかも知れませんが、感想評価いただけたらなと思います。
その方が更新頻度も上がると思うので笑


では、また次回!
次次回くらいから話が進む予定。(今回多分長くなります)


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第40話

お久しぶりです!
色々と片付いたのでまた更新バンバン始めていこうと思います。
待っていただいたいた方々にはなんと言っていいのやら…

久々なのでテンポ悪いかも知れませんがその辺りは許していただければなと思います。


過去最高に短いです、とりあえず更新したかったんです…


浅葱と基樹が帰ってからしばらくの間、部屋を奇妙な静けさが包んでいた。

それぞれ思うことはあるのだがなかなか言葉にすることは難しく、長い沈黙のあとに最初に口を開くというのもまた少し気が引けるのだ。

そんな静けさの中で話をするタイミングが思いがけずやって来た。

 

「随分とシケた面構えだな」

 

そんな皮肉混じりの声とともに3人の真ん中に豪奢なドレスを身にまとった那月が現れる。

 

「南宮先生がどうしてここに?」

「少し家庭訪問をしてやろうと思ってな」

「心配して来てくれたなら素直に言えば──って痛い痛い痛い!」

 

那月は古城の耳を勢いよく引っ張る。

 

「暁、この2人しばらく私の方で預かるが文句はないな?」

「それが一番安全か…でも監獄結界はさすがに…」

「特別に過ごしやすい空間を作ってやる、なんならアスタルテも付けてやろう」

「そっか、じゃあそれで」

 

淡々と話を進める2人に雪菜は納得のいかない顔を隠せない。

 

「どうかしたか?2人とも」

「やっぱり、責任は私たちで取るのが一番いいかと…思いまして…」

「剣巫風情が静寂破り(ペーパーノイズ)に勝てる気か?」

「そうではないですけど…」

「なら、なんだ?いいように使われたいか?」

「そうでもないです!でも何もできずにただ先輩や南宮先生に縋って待つだけなんて…」

「悔しがるならもっと強くなるんだな、いつまでも周りが助けてくれると思わないことだ」

 

那月はそれだけ言うと魔法陣を展開し自ら作り出した空間への扉を開いた。

その隣で真剣な顔をする古城が、那月に少し待って貰えるように頼む。

 

「どうした、別れのキスなら他所でやってもらえるか?」

「なわけねぇだろ…。姫柊、煌坂。オレはお前ら2人のことが好きだ、大切で心配でたまらない。そんなお前達の居場所を守るために全力で闘うからさ今回は那月ちゃんの言う通りにしてくれ…」

 

俯いたまま、好きな相手にそう言われてしまえば雪菜と紗矢華の2人が断れるはずがなかった。

2人は彼のこういうところを好きになり、何よりも信頼しているのだから。

雪菜と紗矢華はお互いに頷き合い、古城の方へと笑顔を見せると那月の作った空間へと消えていった。

 

「ひどく気に入られたものだな」

 

那月はその言葉を最後に古城の目の前から消えた。

 

朝早くから多くの来客があり思い話が多かったためか、すっかり疲れた古城は二度寝しようとベッドへと向かう。

そしてそこで携帯にメールが来ていることに気づいた。

 

「誰だ…?今授業中じゃ…」

 

古城が携帯を開こうと手に取った瞬間、家の玄関のドアが力強く開けられる。

足早に廊下を歩く音が響き、部屋に銀髪の美女が現れた──




前書きでも書きましたけど…お久しぶりです。
早いことでもう40話です。
1話1話短くて申し訳ないですがいつもお付き合い頂いているみなさんには感謝しまくってます!

よかったら久々に感想とかもらえたら嬉しいです。
って感想書くにも文章短すぎるか…、とりあえず1日でも早く更新したかった気持ちだけ分かってください( ̄▽ ̄;)

すぐに次回の更新もするので少しお待ちください!

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第41話 ラ・フォリア・リハヴァイン

また遅くなりました…


とりあえずどうぞ!


「こうして私的に会うのは久しぶりですね、古城」

 

古城の目の前にはアルディギア王国第一王女であるラ・フォリア・リハヴァインが立っていた。

 

「ラ・フォリア!?連絡もしないでどうしてここに──」

「あら、連絡ならしましたよ?」

 

ラ・フォリアはそう言うと笑顔で自分の携帯の画面を古城へと向ける。

 

「あのな、せめて出発する前とかに連絡くれないか?こっち来てからメール送られても困るだろ…」

「そうですね、これからは気をつけることにします」

 

まったく反省の色を見せないラ・フォリアの表情に古城は呆れた。

 

「それで何か用があるんだろ?どうしたんだ?」

「そうでした。夫が獅子王機関に喧嘩を吹っ掛けたという噂を耳にしたもので」

「夫になった覚えはないんだけどそうだな…」

「何か策は?」

「あったら苦労しないな、来たら追い返す。それだけだ」

「古城らしくて安心しました。それでは私はこれで」

「え?それだけなのか?」

 

古城は部屋から出ていこうとするラ・フォリアに思わず声をかけてしまう。

 

「助けてもらえると思いましたか?」

「そんな図々しいことは言わないけどさ、せっかく来たのにすぐ帰るなんてちょっと寂しいっていうかさ」

「それもそうですね」

 

ラ・フォリアはポケットから携帯を取り出しどこかへと電話をかけ始めた。

 

「1日ほど予定を繰り下げます、それでは」

 

「おいおい、強引すぎないか?」

「上に立つ者として時には強引さも大事ですよ?」

「そういうものか…」

「そういうものです」

「なんかありがとな、わざわざ予定調整してもらって」

「なんのことでしょう?」

 

ラ・フォリアにはとぼけられてしまったが、雪菜や紗矢華がいないという状況で色々と考える自分を気遣ってくれたことを察した古城は素直に感謝し好意に甘えることにした。

 

「ここにいても何もないしちょっと出掛けるか、どこか行きたいとこあるか?」

「古城に任せますよ」

「そういうのが1番困るんだけどな…」

 

女性をリードすることが苦手な古城は苦笑しながらラ・フォリアを連れ外へと向かった。

 

「とりあえず昼飯にするか、ラ・フォリアはなにか好きな食べ物とかってあるのか?」

「特に好き嫌いはありませんよ?古城がいつも食べているものが食べてみたいですね」

「口に合わなくても知らないからな…」

 

タクシーを拾い島の外縁部へとやってきた2人は海辺特有の少し錆びれた店へと足を踏み入れた。

 

「よお、兄ちゃん久しぶりだな!」

「ご無沙汰してます」

「今日は凪沙ちゃんの代わりに美人さんと一緒か。彼女か?」

「いやこれは──」

「はい、彼女のラ・フォリア・リハヴァインと申します」

「そうかそうか、汚い店だがゆっくりしてけ」

 

思わぬところで既成事実を作られた古城は頭を抱えてしまう。

 

「すみません、いつものやつ2つで…」

「美人が隣にいるのに元気ないな、シスコンも大概にな」

「余計なお世話ですよ」

 

店の主は注文を聞き終わると厨房の方へと姿を消した。

 

「随分仲がいいんですね」

「ああ、この島に来てすぐくらいから凪沙とお世話になっててな。この島の皇帝になってからでも前と変わらず接してくれる数少ない人だよ」

 

他愛もない話をしているうちに注文した料理が2人の前へと運ばれてきた。

 

「これが絃神島名物ですか…」

「ラ・フォリアちゃんは外国の人か?生魚に抵抗あるなら他のものもあるぞ?」

「待て待て、絃神島名物とか書いてあるのはこのおっさんの自称だからな」

「ふふふ、面白い方ですね。心配なさらず豪に入りては豪に従え、問題ありません」

「ならいいんだけどな」

 

ラ・フォリアは目の前の豪華な海鮮丼に恐る恐る箸を伸ばし、口に運ぶ。

 

「どうだ?」

「美味ですね、生魚に抵抗はありましたがこんなに美味しいものは本国でも滅多にありませんね」

「さすが王女様はよく分かってんなぁ」

「おい、おっさん。アルディギアの王女ってわかってたのか」

「まあ有名だからな、でもここに来たからにはただの客だ。身分なんぞに興味はねぇよ、美味いって言って貰えりゃそれで十分」

「おっさんらしいな」

「海外進出でも考えるかね」

 

高笑いしながら店主が厨房へ戻ろうとしたときラ・フォリアから思いのよらない言葉が放たれた。

 

「そうですか、では我がアルディギア王室がその計画全力でプロデュースさせていただきます」

「は?」

「美味しい料理を我が国にも伝えたい、至極当然なことでしょう?」

「いや、そうだけど…ちょっといきなりすぎないか?」

「兄ちゃんは黙ってな、これは王女さんとオレの問題だ」

 

2人を店に残し、古城が外に出てから30分ほどしてラ・フォリアはやっと外へと出てきた。

 

「遅かったな」

「思いがけないところで素晴らしいものを見つけてしまい思わず興奮してしまいました」

「ラ・フォリアが楽しそうでよかった」

「我が国で開店するときは是非古城にも来ていただきたいものです」

「考えとくけど少し早くないか?そこまで生きてるかも分からないんだが」

「珍しく弱気なのですね」

「珍しい…か、勝てるか分からないのはいつも同じようなものだけどさ今回ばかりは相手が強すぎるっていうかな」

「そうですか」

 

ラ・フォリアはそう冷たく言い放つと足早に古城の前を歩いて行く。

 

「ラ・フォリア?怒ったか…?」

「いいえ」

「じゃあどうしたんだよ」

「あなたの頭はなんのためについているのですか?」

 

鈍い古城はすっかりお手上げというように頭を掻くが彼女は止まる気配がなかった。

 

 

数時間ほど街中を無言で歩くという状況が続いたときだった、ずっと古城の前を歩いていたラ・フォリアが急に立ち止まる。

 

「古城、こうして歩く中で周りを見て何か気づくことは?」

「気づくことか…」

 

しばらく考えて古城は口を開く。

 

「人が多いとかしか言えないかな」

「そうです。ここにはあなたが守らないといけないものがこれだけあります」

「そうだな」

「雪菜や紗矢華だけでなく多くの人があなたを必要としている。それが分かったなら自分がどういう気持ちで何をすべきか考えてください」

 

ラ・フォリアは言いたいことを言い終えたのか古城の家の方へと歩き始める。

 

「ラ・フォリア、少し考えるから先帰っててくれ」

「そうですか。では帰りを待っています」

 

2人はお互いに笑顔を交わし、別々の方向へと別れていった──

 

 

ラ・フォリアと別れてから古城は眷獣の能力で近くのビルの屋上へと座りここ数日のことを思い返していた。

 

「オレがなにをするべきか、どういう気持ちを持てばいいのかか…」

 

誰に言うでもなくそう呟いた古城は陽が落ちるまで街を眺めてから家へと戻る。

玄関のドアを開けると古城の目の前には凪沙が立っていた。

 

「古城くん?少しお出かけしてくるからラ・フォリアさんとしっかりお話するんだよ」

 

そう言い残すと凪沙は外へと出て行く。

夜中に妹が1人で外出することに不安を覚えない訳では無いが彼女の気遣いをありがたく思った古城は靴を脱ぎ奥へと進む。

 

「今日は帰ってこないかと思っていましたよ?」

「連絡もなしに帰らないと凪沙のやつが心配するからな」

「それで、古城。あなたの答えは出ましたか?」

「ああ。オレは──」

 

古城を不自然な感覚が襲い、気づけばラ・フォリアの首元が古城の口に挟まれていた。

 

「なっ…」

 

首元を噛むような形で口が塞がれているため古城は声を上げることが出来ない。

それを見て悪戯な笑みを浮かべながらラ・フォリアは話を始めた。

 

「あなたに期待をしているのは雪菜や紗矢華、そしてこの国の人間だけだと思いますか?私もあなたに期待しています。もちろん我が国のより一層の発展を望む、それも王女という立場上少なからずあります。ですが1人の女として、王女ラ・フォリア・リハヴァインとしてではなくただのラ・フォリア・リハヴァインとして暁 古城という男性の行く末を、あなたの作る未来が国がどうなるのかそれを一番近いところで見ていたい。その気持ちが強くあるのもまた事実です」

 

「ダメですね、何を言っているのか自分でも分からなくなってきます。我ながらなんでも簡単にこなせると思っていましたが恋とは難しいものです」

「ラ・フォリア…」

 

首元から口を離そうとした古城だがすぐにラ・フォリアが古城に迫り口を塞がれる。

 

「古城、酷いことなのかもしれませんが私にはこういうやり方しかできないもので目を瞑ってくれるとありがたいです、もしあなたが1人の男として全てを背負い戦い続ける覚悟がありどんなときでも前へ進むことを諦めないと誓うなら私の首を噛み切り『血の伴侶』としなさい。それが無理ならその口を私の首元から離しなさい」

 

そう言い終わるとラ・フォリアは古城の頭を引き寄せていた腕を解いた──




続きはすぐに更新できると思います!

ラ・フォリアって書きにくいんですよね…
変なところあったら遠慮なく突っ込んでください。

感想、評価などあれば励みになるのでどんどんください!
ここからはもう大体書いてあるので更新早くなりますよ!

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第42話 ラ・フォリア・リハヴァインⅡ

久々早めの更新です。

長らく開けてたせいで文の書き方忘れてるから早めに勘を取り戻さないとやばいですね。
おかしいとこあっても暖かい目で見てもらえればなーと思います。


ラ・フォリアが古城の頭を引き寄せていた腕を解いてから、数秒しか経っていないが2人は長い時間が過ぎたように感じていた。

我慢ができなくなったラ・フォリアが口を開こうとした瞬間、彼女の身体を恐ろしく強い力で古城が抱きしめた。

 

「古城…」

 

吸血衝動が掻き立てられた証拠に古城の瞳が深紅の輝きを放ち、それに呼応するかのように犬歯が吸血鬼の牙へと変わっていく。

 

「──!!」

 

ラ・フォリアの鼓膜を声にならない野獣の叫びのような音が揺らすと同時に、首元へ鋭い牙が突き立てられた。

首元に程よく暖かい異物が侵入してくる妙な感覚に表情を歪ませたラ・フォリアを落ち着かせるように、古城の手が彼女の綺麗な髪を撫でる。

 

「あっ…あぁ…」

 

古城の手によって緊張が解けたラ・フォリアは快感に浸りながら古城の方へと脱力した自らの身体を預けた。

限界を超えて血を吸われ意識を保つことさえままならない彼女の身体に古城から新たな第四真祖の血液が注がれていく。

冷えきった身体が熱く強い生命力に満たされていくのを感じたラ・フォリアの目からは涙が零れだした。

 

「痛かったか…?」

「そんなことありませんでしたよ」

 

突然目に涙を浮かべたラ・フォリアに戸惑う古城は何も返せない。

 

「まったく、悲しいものですね。好きな相手にもこうして回りくどいことをしなければ…汚く策を巡らせなければ想いを伝えることもできないのですから」

 

自嘲気味にそんなことを言うラ・フォリアにはいつもの気高い高潔さはなくただの1人の女の子だった。

そんな彼女を見た古城にはただ思うことを言う以外になかった。

 

「ラ・フォリアのやり方は確かに回りくどいやり方なのかもしれない。でも気持ちは十分すぎるほど伝わった。ラ・フォリアがオレに期待してくれるならそれに応えられるようになるよ、だからラ・フォリアもオレにちょっとずつでいいから頼ってくれ」

 

古城はもう1度ラ・フォリアを強く抱きしめるとリビングのソファーへと腰をかけた。

しばらくお互い見つめ合い、ラ・フォリアが先に口を開く。

 

「その言葉、忘れないでくださいね」

 

そう言い終え、涙を拭った彼女の顔は今までのことが嘘のように落ち着いたものだった。

 

「今回の件でいい報せを待っていますよ」

「ああ」

「私の血を無駄にしたら怒りますからね」

 

ラ・フォリアの言葉の真意が分からず古城が一瞬目を逸らしたときにはもうラ・フォリアは部屋にはいなかった。

 

丁度ラ・フォリアと入れ違いになるような形で帰ってきた凪沙と共に古城もまた日常へと戻った──

 

 

深夜になり眠っていた古城は急に身体が重くなったことに気づき目を開けた。

重い瞼を無理やり開けると目の前によく見知った教師が立っていた。

 

「やっと起きたか、少し来てもらうぞ」

「那月ちゃん…こんな時間にどこに…」

「教師をちゃん付けで呼ぶなと何回言ったら分かるんだ」

 

上から踵で腹を踏まれながら古城は空間転移によってどこか別の場所へと運ばれる。

 

「ぐはっ…」

 

那月に乗られたまま転移した古城はそのまま床と那月の脚にサンドイッチされる形で落下した。

 

「古城って実はそういう趣味だったのかな?」

「んなわけあるか!!」

「元気そうでなによりだよ」

「優麻もな」

 

倒れ込む古城の手を取り起き上がらせながら優麻は笑顔を浮かべている。

 

「古城には迷惑かけてばかりだね」

「気にするなって、獅子王機関を敵に回した時点で日本も敵みたいなもんだしな」

「国交断絶ってやつだね」

 

2人の緊張感のなさにさすがの那月も呆れてしまったのか、長いため息をついた。

 

「それで静寂破り(ペーパーノイズ)は何やってるんだ?」

「お前も特区警備隊(アイランドガード)と同じで役に立たんな」

「どういうことだよ、それ」

「あいつがこの島に既に来ていることさえ気づかんとは腑抜けた真祖もいたものだ」

 

古城はあまりの衝撃に優麻の方へ確認のため顔を向けた。

 

「申し訳ないけど事実だよ、どこにいるかまでは分からないけどこの島にいるのは確かだ」

「昼間はのうのうとデートしていたようだが、後ろから殺されてもおかしくはなかったわけだ」

 

那月の言葉が示す可能性に古城の背筋が凍る。

 

「でも、さすがに向こうも昼間に仕掛けてくることは無いはずだよ。一般の人を巻き込むような人じゃないし」

「そうだよな…」

「何を安心している」

「ぐっ…」

 

那月の肘が古城の鳩尾に刺さった。

 

「暁、強力な霊媒から大量に血を吸ったな?」

「まあ…な」

「丁度いい。今からあいつの場所を探り当てる予定だ、昼間に不意打ちでお前が殺されても適わんからな。先手必勝、倒してこい」

「無茶言うなよ!?心の準備とか色々あるだろ!?」

 

那月は古城の文句に聞く耳も持たずに魔法陣を展開していく。

 

「仙都木阿夜の娘、魔導書で補助しろ」

「分かりました。いつでも合わせます」

 

魔法陣を中心に那月と優麻が向かい合わせになる。

 

輪環王(ラインゴルト)──!!」

 

那月の呼び声によって黄金の鎧を纏った守護者が現れ、魔法陣に大剣を突き刺す。

目まぐるしく魔法陣の形が変化し、那月の顔から珍しく余裕がなくなる。

魔法陣は守護者から注がれる魔力に耐えきれなくなる寸前に優麻が手にした魔導書No.726から能力拡張の効果が付与されなんとか形を留めた。

 

「古城!魔法陣に触れて!」

 

優麻の叫び声に押され古城が手を置いた瞬間、世界が爆発したかのような音と共に別の場所へと飛ばされる独特の感覚を彼の身体が襲った。

 

「空隙の魔女…か、やはり一番厄介な相手ですね」

 

凄まじい音と共に床へと叩きつけられた古城の目の前には豪奢な白装束を纏った1人の女が立っていた──




やっぱりなんか文章のコレジャナイ感が…

とりあえず次回サクッとバトル回やります。

感想評価などあればお願いします!

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第43話

順調に更新できてて安心している作者です。


下からはビル街の活気溢れる人工の光、上からはまったく人の手がかかっていない自然で綺麗な月明かり。

その似て非なる2つの言わば対称的とも言えるものの中で彼女、静寂破り(ペーパーノイズ)は優雅に舞う。

自らの大切なものを壊そうとする敵であるということは古城も頭では分かっている。

しかし、それでも1人の女性が舞うその空間だけが別の世界のものであるかのように異質でありながらも煌々と放たれる魅力に惹き込まれ見入ってしまう。

 

「1つ…勘違いをしていたのかもしれません」

 

幻想的な雰囲気を纏った女は動きを止めるとそう独りごちる。

 

「なにがだよ」

「望まずして幼き頃に第四真祖の力をその身に宿した少年、人間から真祖へと変わるという非常に稀なケースです。私はもっと私利私欲のためにその力を振るう者だと思っていました」

 

目の前の彼女の雰囲気が和らぐのを感じた古城も警戒を緩めた。

 

「じゃあ、別にあんたと闘わなくても…」

「それはまた別問題です。あなたがどういう者であれ、その危険性は変わらない」

「──っ!」

 

つい少し前までの優美で和やかな雰囲気が一瞬で消え、極限まで研ぎ澄まされた殺意が古城の身に刺さる。

 

「覚悟を決めなさい。獅子王機関三聖が一人──」

龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)──!!」

 

古城の呼び声に応じて2人の立つビルを巨大な双頭龍の顎が真下から呑み込んでゆく。

時間も時間故誰もいないことが幸いだが、一瞬にして周囲が跡形もなく消え去る。

 

「考えれる中で一番効果的な方法だったけど、どうなった?」

 

あまり手応えを感じれず周囲の音に古城が集中しようとした瞬間だった。

背後から見えない鈍器で力の限り殴られたような感覚が急に体を襲い、古城は空中へと投げ出される。

そして息付く間もなく不可解な力に下へと叩きつけられる。

一瞬の間に自分の常識では考えられない攻撃をその身に喰らった古城がなんとか起き上がると目の前に自分を攻撃したと思われる女が姿を現す。

 

静寂破り(ペーパーノイズ)ってのはよく言ったもんだな…」

 

一瞬のうちに起こる意識の外からの不可視の攻撃。

静寂の中に急に騒音(ノイズ)が生まれるかのような攻撃。

故に静寂破り(ペーパーノイズ)

 

「あなたの心意気に免じて、妥協案の提案をしましょう」

「妥協案?」

「大人しく姫柊 雪菜と自らの身柄をこちらへ渡すと言うなら、煌坂 紗矢華だけは今後一切手出しをしないというのはいかがでしょう」

 

全てを背負い守りきると決めた古城にとって、それは妥協案でもなんでもない。

そんな提案を聞いて思わず古城は笑ってしまった。

 

「あんた、見かけの割に性格悪いんだな。そんな提案受けるわけないだろ」

「何も拾えないなら、1つくらい拾える道の方がいいかと」

「あんたをぶん殴って全員助ける、それしか道は必要ない」

「先程の攻防で勝てないのは分かったと思いますが?」

「どうだかな」

 

古城はにやりと笑うと一気に魔力を高めた。

 

蠍虎の紫(シャウラ・ヴィオーラ)──!」

 

紫の炎に包まれた人喰い虎が現れ古城の周りに致死性の毒を噴出させる。

この数日間、古城も何もせずこの瞬間が来るのを待っていたわけではない。

彼なりに色々と試行錯誤し能力の詳細を暴かんとしていた。

 

「仮定1…、誰にも見えないくらい速く攻撃できる」

 

身体の重要な部分にのみ金剛石で作り上げた楯を纏い、毒霧が不自然に動かないかを見ることだけに集中する。

 

「うっ──!?」

 

数秒が経過し、何の前触れもなく古城の右腕の肘から下が切り落とされた。

背後に彼女の存在を感じつつも、毒に苦しむ様子がないことから接近してきた訳では無いことを確認する。

 

「仮定2…、身体に直接干渉するタイプの魔術」

 

魔力を感じ取ることが苦手な古城は切断された右腕を霧化し周囲を覆う。

少しでも魔力を使えば自分の腕である霧が反応する。

能力の正体が魔術ならこれで分かるはずだった。

しかし、またもや古城は何も感じ取れず身体を地面に叩きつけられる。

 

「足掻いたところでこの能力は看破できませんよ」

「体術の類でもない、魔力も感じられない…過適応能力者(ハイパーアダプター)か?」

 

古城は何気なく頭をよぎった親友の姿に答えを得た。

 

「なかなか早く気づきましたね、その点は評価します」

 

初めて彼女の顔が笑った。

 

「しかし、それが分かったところでどうというわけでもないですが」

 

彼女の言葉と同時に古城の四肢が切り飛ばされた。

驚きの余りなにも発することの出来ない古城は全ての力を身体の再生に回し一瞬にして手足を取り戻す。

 

「驚異的な回復能力ですね、悪足掻きもそろそろやめませんか?」

「やめねぇよ、色々背負うものがあるんだ」

 

古城は直感的に不可視の攻撃が繰り出されるのを悟り、全神経を彼女へと向ける。

一瞬、視界が暗くなり耳の奥で世界が壊れたかのような崩壊の音が聞こえる。

意識が異常に冴え渡るのを感じた。

 

「時間が止まった?」

 

自分以外の全てのものが止まっていることに古城は気づく。

すぐに静寂破り(ペーパーノイズ)の方を向くが、そこに彼女の姿はない。

背後に気配を感じて古城が振り向く自分の首を手刀で引き裂かんと肉薄する彼女と目が合った。

初めて彼女の顔から余裕がなくなる。

 

「第四真祖…何故…」

 

心の揺らぎと共に鈍くなった攻撃を躱した古城は隙だらけの相手の身体に攻撃を加えようとしたが、気づいた時には自分の身体が無数の肉片へと変わっていた。

 

「まったく、こらえ性のないやつだ」

 

聞きなれた声と共に意識が薄れていく──

 

 

 

 

古城に攻撃を避けられた静寂破り(ペーパーノイズ)は自らの能力を限界まで引き出し古城へ即死級の一撃を繰り出した。

一瞬にして肉片へと変わった第四真祖の身体を奪取するため身体を動かそうとしたが太い銀鎖に阻まれる。

彼女が奪おうとしたものは紫色の魔法陣の中へと消えてゆく。

 

「空隙の魔女…」

「こうしてぶつかるのは久しぶりだな」

「以前、まだ幼かった私に手も足も出なかったこと忘れましたか?」

「可愛げのないところは変わっていないらしいな、無策で出てくるほどバカだと思われるのは癪だな」

「そんな人形(パペット)で私は欺けませんよ」

 

那月の姿をした身代わりを片手間に潰した静寂破り(ペーパーノイズ)はビルの屋上へと腰を下ろした。

 




次回でこのバトルは終わる予定?

久々に更新してるのでなんだか方向性これでよかったっけ…と思いながら試行錯誤してます( ̄▽ ̄;)
哀れに思う方いたら感想?批評?質問?ください(マジで待ってます苦笑)

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第44話 南宮 那月Ⅰ

すみません、AWSAOをやりまくってました…

日にち分けて書いてたんで大分文章おかしいと思いますが、誤字とかあったら教えてください。


「いつまでそうやって寝ているつもりだ?」

 

聞きなれたがあまり聞きたくはない声が古城の鼓膜を揺らす。

頭の下の心地よい柔らかさを感じもうひと眠りしようと彼は目を瞑ろうとしたが声の主がそれを許さず頬を強く叩いてきた。

 

「痛っ…、那月ちゃん!?静寂破り(ペーパーノイズ)は──」

 

古城は自分の目の前にある光景に面食らったように言葉を途切れさせた。

 

「どうした?まるで得体の知れないようなものを見た顔だが」

「いや、大きくなった那月ちゃんの膝の上に頭を乗せてるってどういう状況なんだ?」

「粉々になったお前を回収し監獄結界に引きずり込んだ。そんなことも分からんとは…」

 

心の底から呆れたような顔をした那月は無雑作に立ち上がる。

必然的に那月の膝から床へと頭から落下した古城は思わずうめき声をあげた。

 

「南宮先生も乱暴だなぁ…」

 

ボーイッシュなショートカットの頭を掻きながら暗闇から優麻が歩いてくる。

 

「いきがって出て行った割になんの健闘もできないやつなら当たり前だ」

 

なんの反論もできないと外国人風に両手を横にあげるジェスチャーをする優麻の顔が笑っていないことに気づいた古城は文句を言わず那月へと疑問を投げかける。

 

「正直舐めてたの否めない。でもなんか掴めたんだ、もう1回やれば──」

「どこまでも悠長だな、暁。お前に与えられたチャンスはさっきの瞬間だけだ、次は向こうも本気でくる」

「でも、やるしかないだろ!」

 

那月は何度目かのため息をつき古城の鳩尾へ太い銀鎖を突きつけ黙らせる。

 

「仙都木、頼めるな?」

「元々そういう手筈ですからね、ボクは最悪古城が無事ならそれでいい」

 

優麻らしくない一言を残し、彼女は奥へと消えていく。

 

「暁、私はもう少し期待していたんだがな」

「え?」

「いや今となってはどうでもいい」

 

 

その後珍しく那月から昔話を聞いてから二人の間に静かな時が流れた。

その静寂の中先に口を開いたのはやはり那月だった。

 

「そうだな、最後の補習とするか」

「最後?」

 

古城は自分の耳を疑いたくなるような言葉を聞き思わず聞き返してしまう。

 

「以前この姿を見せた時のことを覚えているか?」

 

那月は古城に構わず話を続けた。

 

「あの続きをさせてやる、せめてもの餞別にな」

「待ってくれよ、那月ちゃん──」

「グズグズするな、時間が無い。少し喋りすぎたな」

 

そう言うと那月は古城の方へ両腕を伸ばしてくる。

いつもの幼女の姿とは違い歳相応の妖艶さを身に纏った彼女に思わず古城も胸の高鳴りを覚えた。

 

「私が吸血鬼に血をやることなど未来永劫ないことだ、気が変わらないとも限らんぞ?」

 

この状況を楽しむかのように笑みを浮かべていた那月の顔はノってこない古城を見て呆れたものへと変わる。

 

「あまり教師に恥をかかせるなよ、暁」

 

またしても古城は下を向いたまま何を言おうともしない。

 

「それとだ、お前は第四真祖である前に私の教え子。そもそもまだまだ子供だ無理なときは大人に頼ればいい」

 

那月は痺れを切らしたように古城を抱きしめた。

いつもとは雰囲気の違いすぎる自分の恩師の姿に古城は驚きを隠せない。

 

「かわいい教え子のために自分が何かをできるというのは教師冥利に尽きるものだろう?」

 

耳元でそう告げられた言葉は掛け値なしで那月の本音なのだろう。

今まで幾度となく自分たちを助け導いてくれていたことを古城は思い出す。

 

「なあ、那月ちゃん。不出来な生徒で悪かったよ」

「まったくだな。不出来な教え子を持つとこれだから困る」

 

お互いに見つめ合い涙目になった古城は様々な思いを断ち切るように那月の首元へと噛み付く。

彼女の血は雪菜や紗矢華、ラ・フォリア等今まで吸ってきた誰よりも濃い魔力を秘めていた。

 

「これはお前に対する罰だ、不甲斐ないお前自身に対するな」

「え?」

 

吸血されても尚余裕を浮かべていた那月は最後に古城を強く抱きしめると優麻が消えていった奥の部屋へと歩いていく。

 

「さて、静寂破り(ペーパーノイズ)に借りを返しに行くか」

 

その言葉とともに古城を空間の歪みが襲った。

 

 

「空隙の魔女と仙都木阿夜の娘ですか、陰湿な魔術を用いるあなた達が姿を見せるとはどういう風の吹き回しですか?」

 

ビルの屋上へと座りながらこちらを見る巫女装束の女はそう口にした。

 

「教え子の借りを返しにきた、輪環王(ラインゴルト)──」

 

那月の背後に大きな金色の鎧騎士の姿をした守護者が現れる。

 

(ル・ブルー)

 

優麻も那月同様に守護者を召喚し自分を見ながら座る彼女へと相対する。

 

「行くよ、古城は殺させない」

 

優麻が自らの守護者を突撃させる。

その後不自然な感覚が彼女を襲い、次の瞬間守護者が吹き飛ばされた。

 

「たかがその程度ですか」

「どうかな?ボクも無闇にやられてる訳じゃないんだよ」

 

優麻が悪戯な笑みを浮かべる。

 

(ル・ブルー)の表面にちょっとした術をかけておいたんだ、しばらくは動きが鈍くなると思うよ」

 

優麻はそう言うと静寂破り(ペーパーノイズ)に背を向けた。

 

「今のうちに攻撃しないのですか?」

「こんな簡単に倒せると思うほどボクは傲慢じゃないよ、その服色んな術がかかってるんだろ?」

「さすがは魔女といったところですね」

「仙都木、時間がない早く来い」

 

那月に呼ばれ優麻は一度古城と那月の所まで戻ってくる。

古城は直感的になにか取り返しのつかないことが起こることを予感した。

 

「我が名は空隙。永劫の炎をもって背約の呪いを焼き払う者なり。汝、我が苟且の躰を裂き、開闢(かいびゃく)へ還りて脱胎せよ──!」

 

那月の小さな身体を無数の魔法陣が覆い始め、その胸元へ守護者である輪環王(ラインゴルト)の大剣が吸い込まれるようにして突き刺される。

古城をも凌ぐ程の魔力の爆発が那月がいた場所を中心に発生する。

 

「那月ちゃんは!?」

 

古城の脳裏に仙都木阿夜の最期の記憶が過る。

 

「大丈夫だよ、ボクも初めて見たけどあれは最上位の魔女にだけ許された奥の手《再契約》だよ。守護者の一部を自らの体内に取り込むことによって守護者との霊的パスを強めて限界以上に能力を引き出すんだ」

 

爆風が晴れ中から成熟した那月が姿を現す。

 

「この身体でこちらの世界にくるのも久しぶりだな、感傷に浸りたいのも山々だがそんな時間はなさそうだな…」

 

優麻のかけた魔術から数十秒で抜け出た静寂破りペーパーノイズの方を向きながら那月は冷ややかな笑みを浮かべる。

 

「《再契約》、教え子のために自らの命を捨てる…とんだ美談ですね」

「調子に乗るのも大概にしておけよ小娘、悪いが本気でいかせてもらう」

 

一瞬にして那月がその場から消え背後を取る。

 

「大層な名前の割にこの程度の速さにも付いてこれんか」

 

那月は手に持った扇子を振り下ろし相手の右腕を肩から切断した。

 

「ぐっ…」

「獅子王機関三聖の長ともあろうものが距離を取ったか、滑稽だな」

 

那月から離れた静寂破り(ペーパーノイズ)の顔に初めて焦りの色が見え始める。

古城と優麻を不自然な感覚が襲い2人は那月が吹き飛ばされることを予期した。

しかし後方へと飛ばされたのは那月ではなく静寂破り(ペーパーノイズ)の方だった。

 

「悪いが私は空隙の魔女だ。お前らは空間転移や空間生成、空間に関する能力だと思っているようだがそれは誤解だ」

 

那月は言葉の間にも静寂破り(ペーパーノイズ)へと不可視の攻撃を加え続けまるでピンボールのように彼女の身体を弾き続ける。

 

「私の本当の能力は名の通り《空隙》。この世界の空間軸、時間軸あらゆる隙間に自らの思い描く事象を刷り込むことが出来る。空間生成も空間転移もただの副産物だ」

 

自らの恩師の圧倒的なまでの力に古城は驚くと同時にひとつの疑問を覚えた。

 

「なあ、優麻。那月ちゃんはなんで今まであの力を使わなかったんだ?」

「そうだね、これはあくまで想像だけど強い能力には強い代償が伴うんだ。南宮先生の場合は知っての通り永遠に夢の中で過ごすことで彼女の身体は成長が止まってしまった。だからあの小さな身体では能力の全てを制御出来なかったんじゃないかな」

「じゃあ、さっきあいつが言ってた命を捨てるっていうのは…」

「そのままだよ、《再契約》は守護者の持つ能力を限界以上に引き出す。それを受け止めるには人間の体じゃもたないんだよ。多分そろそろ終わるよ」

 

優麻の言葉の通り静寂破り(ペーパーノイズ)の身体は四肢が無くなり鎖で縛られていた。

 

「そろそろ限界が近いか…」

「那月ちゃん!」

「どうした?不出来な教え子め」

「…その」

 

古城の目には珍しく涙が浮かんでいた。

 

「泣くな、この先が思いやられる」

「…その、ありがとう──」

「そうだな、私はそれで満足だ」

 

那月は泣き崩れる古城を優しく抱きしめる。

 

「しかし、最後まで教師をちゃん付けで呼ぶな馬鹿者」

 

いつものように古城を扇子で叩き那月は静寂破り(ペーパーノイズ)の方へと歩いていく。

 

「お前には聞きたいことが多い、永劫の時の流れの中で私とともに心が朽ち果てるまで過ごそうか」

 

那月は足元へ転がる少女に向けて冷ややかな笑みを見せた。

そんな2人を中心に巨大な魔法陣が出現する。

最後にいつもより大きくなった空隙の魔女は古城の方へと身体を向けた。

 

「期待しているぞ暁 古城。次もし会う時があればもっとマシな男になっていることだな」

 

そうして2人はどこか遠い空間へと消え去った。

深夜のビルの屋上には古城と優麻の2人が取り残され、そこには古城の赤ん坊のような泣き声だけが響いていた──




那月の本気はどれくらいのものなのか。
これは多分ストブラ読者としては誰もが気になるところなんじゃないでしょうか。
自分なりにですがこんな感じかなと思って書いてみました(ずっと書きたかった話)

次回からは今まで曲がりなりにも支えてくれた那月(ちゃん)先生がいなくなってしまった中で古城たちがどう成長?するのかとか見てもらえると嬉しいです。

更新は明後日の予定?
更新予定日とかTwitterでツイートしてますのでそちらも…
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第45話

Twitterでは言いましたがUA40000越えありがとうございます!
駄文かつ駄作ですがお付き合いくださる方が多くて嬉しい限りです…

短いですが次回は長めの予定


古城の気持ちとは裏腹に今日もまた陽は昇り1日の始まりを告げる。

たとえ那月がいなくなっても世界は変わらず前に進み続ける。

そんな当たり前のことが今の古城には激しく堪えた。

 

「古城…?南宮先生は…ううん、やっぱりなんでもないよ」

 

優麻は自分よりも彼女と接点のあった古城が彼女の気持ちを理解していないわけがないと考え直し、何も言わず1人放心する少年の傍へと近づいていく。

 

「悪い優麻。少し1人にしてくれるか」

「そうだね、姫柊さんたちは古城の家に帰されてるはずだから事情はボクから話しておくよ」

 

自分のわがままにもかかわらず何も言わず1人にしてくれる優麻に心の中で感謝しつつ、古城は霧になり姿を消した。

 

 

なにを考えるわけでもなく古城は島の外縁部、誰もいない場所へときていた。

水平線から顔を出す朝日を目に様々なことを考える。

いつもは吸血鬼の本能的に嫌っている陽の光もどこか暖かく感じられ、そこに那月の優しさを重ね合わせてしまう。

 

「第四真祖か…」

 

そう呟きながら傍へ落ちていた小石を海面へ滑らせるように投げた。

一瞬にして小さな石が跳ねることもなく海面を引き裂いていく。

膂力も魔力も常人のそれを超越していることを改めて感じる。

それでも古城には那月はおろか静寂破り(ペーパーノイズ)にさえ及ぶイメージが湧かなかった。

 

今までなら自分の力とそれを応用するための発想でどうにかなったがそんな小細工ではどうにもならないレベルがあるということを古城は今回身をもって知ることになったのだった──

 

 

古城と別れた優麻は雪菜や紗矢華が待つ暁家へと向かった。

玄関のドアの前で一瞬躊躇った後、インターホンを押す。

 

「先輩!大丈夫で──」

 

部屋の中から雪菜が凄い勢いで走ってきたが古城がいないことに気づきその先を口にすることは無い。

 

「古城は?」

 

雪菜の後ろから遅れてきた紗矢華が優麻へと問いかける。

 

「そうだね、何から話せばいいものかな…」

 

部屋の中へと入ってから、優麻は雪菜と紗矢華の大声で起きてきた凪沙を交え3人に事の顛末を説明した。

 

「そうですか…南宮先生が…」

「それで古城くんは?」

 

凪沙は古城の方が心配で仕方がないようだ。

 

「古城は1人にしてくれってどこかへ行っちゃったよ」

「なんで止めなかったのよ!」

「落ち着いてください、紗矢華さん。私達だってその場にいたら…」

「いいんだよ姫柊さん。ボクは古城のわがままを聞いてあげたかったんだ、きっと古城は僕達の前じゃ気丈に振る舞うだろうから」

 

それは幼馴染の優麻だけでなく他の誰もが知るところだった。

 

「まあまあ古城くんなら普通にしてるならうっかり死んじゃうこともないだろうし、帰ってくるのを待とうよ!」

 

暗くなる雰囲気を危惧したのか凪沙が突拍子もないことを口にした。

しかし彼女たちには待つ以外の選択肢がないため、そこで会話は途切れてしまう。

 

用件を済ませた優麻が帰ってからも重苦しい空気が漂っていたが、凪沙が学校へ行ってからは雪菜も紗矢華も普段通りに過ごすことに努めた。

 

 

それから古城がいないまま2日が経った日ようやく古城は家へ帰ってきた。

玄関のドアが開く音がし、雪菜と紗矢華、凪沙の3人は古城の方へと走っていく。

 

「先輩!今まで一体どこに行ってたんですか!」

「ああ、悪いな姫柊」

 

古城は無気力な声で謝りながら3人を横切ってしまう。

 

「もうちょっとなにかあるでしょ!?こっちがどれだけ心配したかと…」

「なあ煌坂、ほっといてくれないか?」

「え…」

 

それは紗矢華の知る古城の声とはあまりにもかけ離れていた。

あまりの衝撃に返す言葉も見つけられず、古城はどんどん自室へと歩いていく。

これを止めなければもう以前の古城には戻らないのではないかと思いながらも止めることができず、3人は古城が自室のドアを閉めるまでただ呆然とそれを眺めていた。

 

それからというもの古城は凪沙の作る料理にも手をつけず、トイレにも行かず自室へと籠り続けた。

時々、雪菜と紗矢華が本当に部屋にいるのか確認したがまったく動く気配もないまま2週間が過ぎ、毎晩魘されている古城を心配するのだった──




眠気MAXで駄文(元から)で申し訳ないですが予告通り更新しました…

次回か次次回で新章の導入入れます。

感想評価等駄文ですが待ってます苦笑

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第46話 改訂版

もうお気づきの方も多いと思いますが…またやりました。

初期から読んでくださっている方ならまたか…と思うかもしれませんが、恒例の楽しようとしてだいぶ昔考えてた設定引っ張ってきて原作ガン無視しちゃうやつです…

改訂前の話は明日消しておきます、めんどくさいとは思いますがこちらもお読みください…


古城が自室へ籠り始めてから早くも2週間が経った。

自分が肉体的にも精神的にも日に日に衰弱していくのが分かるが古城は何もする気にならない。

何か自分の中の大事なものがゴッソリと抜け落ちてしまった喪失感に苛まれ続けて1週間ほど経った頃、彼は毎夜奇妙な夢を見るようになった。

 

「鎖…」

 

ベッドへと寝転び天井を見つめながら古城は夢の内容を思い出そうとする。

どういう訳か起きた瞬間に夢のほとんどの内容を忘れてしまうのだ。

それが悪夢の類いであることだけは分かっても断片的な記憶だけでは夢の内容全てを思い出すことは出来ない。

1週間毎晩同じ夢を見続けて集めたそのちぐはぐな記憶を口に出し整理していく。

 

「黒い影…、金…黄金の鎧…」

 

あとほんの少しで答えに触れそうな感覚を覚え古城は必死に記憶を掻き集める。

 

「黄金の鎧…守護者…、確か名前は…輪環王(ラインゴルト)──」

 

長い時間をかけて古城はようやく答えへとたどり着いた。

 

「鎖に縛られた黒い影の出した守護者にひたすら切り刻まれる夢…あれは一体なんだ?」

「この世の魔を統べる者、汝は我が力を欲するか──?」

 

聞き慣れない声に古城はベッドから飛び起きる。

突如背後に気配を感じ振り向くとそこには古城がよく見知った黄金の鎧騎士が浮かんでいた。

 

「那月ちゃんの守護者!?生きてるのか!?」

 

黄金の鎧騎士は何も応えない。

しかし古城は守護者が放つ魔力の質が変わっていることに気がついた。

 

「お前はオレの魔力で…ってことは那月ちゃんは…」

「この世の魔を統べる者、汝は我が力を欲するか──?」

 

古城の言葉等気にもせず黄金の鎧騎士は同じ言葉を放ち続ける。

 

「それしか言う事ないのかよ…いいよ契約してやる」

 

呆れながらも古城には那月の形見の様な存在である守護者を捨てる選択肢はなく、簡単に受け入れてしまう。

古城が契約する意思を示した瞬間に守護者は消えてしまった。

 

「疲れすぎて幻覚でも見たか?」

 

再び古城がベッドへと寝転がろうとした瞬間、頭の中に膨大な量の知識が流れ込みそれに呼応するかのように魔力が暴走を始める。

 

「先輩──!すみませんが入らせていただきます!」

 

古城の監視役として1人家に残っていた雪菜が雪霞狼で扉を打ち破り古城の元へと飛んでくる。

 

「姫柊、どいてろ!」

 

雪菜は古城の中で暴れる得体の知れない魔力に危機感を覚える。

 

「眷獣とは質の違う魔力…」

 

時間が経つごとに強くなる古城の魔力に危険を感じた雪菜は雪霞狼を見つめる。

 

「姫柊それでいい、早くしてくれ!」

 

苦しそうな顔をしながら魔力を抑え込む古城を見て雪菜も心を決め銀色の破魔の槍を古城の胸元へと突き刺す。

 

「ぐっ…がぁぁぁぁぁっ!」

 

古城が身を焼かれるような叫び声をあげなんとか魔力の暴走は止まる。

 

「すみません…、あとで私の血をあげますから…」

「悪いな…」

「それよりいきなりどうしたんですか?」

 

2週間も引き篭もっていた自分を責める様子がない雪菜に感謝しつつ古城は自分が那月の守護者と契約したことを伝えた。

 

「本来守護者はなんの能力も持たない人間としか契約出来ないはずですけど…」

「契約というより無理やり押さえつけてる感じの方が近い」

「守護者というからには何らかの代償を先輩が払わないといけないはずです。眷獣を従えるのに血が必要なように…」

 

雪菜は自分の推測を続ける。

 

「多分ですけど、先輩の中に流れる南宮先生の血が辛うじて守護者と先輩を繋ぎ止めている状態なんじゃないでしょうか…」

「なら、どうしたらいい?」

「確証はないですけど…魔女よりも吸血鬼の方が生物種的に高位の存在であることは確かなので吸血鬼のルールが適用されると思います」

 

古城は少し考えて口を開く。

 

「つまり強力な霊媒が必要ってことか?」

「はい。推論の域を出ませんけど」

「じゃあ、あとで姫柊の血を貰うからいいか」

 

雪菜は古城の雰囲気が変わったことに気づき気を引き締める。

 

「那月ちゃんのことなんだけどさ──」

「その…南宮先生を助けることはもう…」

 

雪菜は言いづらそうに顔を俯かせていく。

 

「それがさ、那月ちゃんを助けれるかもしれない方法はあるんだ」

「え?」

「そんな驚く顔する必要ないだろ?ただそれがオレに出来るのかそれを迷ってた」

 

返事がないことを確認して古城は那月が監獄結界の中で話した昔話を雪菜へと思い出しながら伝える。

 

「那月ちゃんには師匠が2人いて1人は千賀、魔術を教えてもらった人。もう1人は空隙の魔女として15年前に欧州の魔族を虐殺してた時の恩人」

「その人がどうしたんですか?」

「那月ちゃんは用があるならその人に会いに行けって言ってたんだ。だから会いに行こうと思う…」

「まだ自信ありませんか?」

 

古城の暗い表情を見て雪菜が首を傾げる。

 

「いや、那月ちゃんを助けれるまで何年かかるか分からないしさ、今回の件は1人でやりたいんだ…」

「そうですか。気にすることありませんよ、私達には幸い時間ならいくらでもありますから先輩のこと待ってますよ」

「姫柊…」

「その代わり──」

 

雪菜は突然古城へと抱きつく。

 

「私のこと忘れないでくださいね?外国で他の女の子と仲良くするのもダメです」

「分かったから!離してくれないか?」

「嫌です、離しません」

「その…オレずっと風呂入ってなかったし臭いだろうからな?」

「先輩の匂い好きだから構いません、これ以上抵抗すると私の血あげませんよ?」

 

ここまで言われては古城ももう抵抗することが出来ない。

自分の方へと綺麗な首筋を向けてくる雪菜を強く抱き締めその首元へ牙を突き立てる。

 

「先輩…、あっ…ん……」

 

久しぶりに古城から血を吸われ雪菜は嬉しそうに声をあげる。

雪菜の中に流れる良質な血を存分に吸い、胸の傷も癒えた古城は力が抜けて寄りかかってくる雪菜の身体を抱きしめた。

 

そのまま静かな時が流れ古城は気まずくなり雪菜から離れようとする。

 

「先輩…どこ行くんですか?」

「どこって…ちょっと風呂にでも」

「背中流しましょうか?」

「え?いやいやいやいや、いいって!」

 

逃げるように古城は風呂場へと駆け込み湯船へと身を沈める。

入ってしまえば追ってこないと考えた古城の耳に風呂場の扉が開けられる音が聞こえた。

 

「姫柊さん?」

 

目の前にはタオルも巻かずあられもない姿の雪菜が立っていた。

 

「恥ずかしいのであまり見ないでもらえると嬉しいです…。あと、背中流すのでここに座ってください…」

「わかったから!」

 

古城は流れに乗せられるまま雪菜の前へと座る。

ぎこちない手つきで雪菜の手に握られた石鹸が古城の背中を這うように滑る。

 

「どうですか…?」

「ああ、いい感じだ。すごくいい」

「よかったです」

 

雪菜がシャワーで古城の背中についた泡を流し、元あった場所へシャワーヘッドを戻そうとしたときだった。

古城の背中に柔らかなものが当たる。

 

「……っ!」

「先輩?」

 

古城の反応を見て雪菜の声が急に冷ややかなものへと変わる。

 

「姫柊、すごくよかった。ありがとう」

 

古城は手短に礼を述べると鼻血を出しながらダッシュで風呂場から自室へと走った。

 

「先輩…やっぱりいやらしい人ですね…」

 

怒る気にもなれずため息をついた雪菜は自分の体を拭いてから古城の元へと向かう。

 

「…、姫柊?その悪かった、そういうつもりはなくてだな?」

「もういいですよ、でも2人だけの秘密にしてくださいね」

「ああ…」

「そろそろ行ったほうがいいですよ、紗矢華さんも凪沙ちゃんも帰ってくる頃ですし引き止められたら辛くなるだけだと思いますし」

 

一瞬迷ってから古城は雪菜の言う通りにすることにした。

 

「じゃあ、説明とか頼めるか?いつ帰るかわからないことも含めて」

「はい。分かりました」

「じゃあ、行ってくる──」

「先輩、忘れ物ですよ」

 

雪菜が後ろから取り出したのは古城がいつも着ていた白いパーカーだった。

 

「それが一番似合いますよ、勝手に刺繍しちゃったんですけど大丈夫でしたか?」

「え?」

 

古城が雪菜の言葉で自分の着たパーカーへと顔を下ろす。

 

「あ…これ猫叉の…」

「ネコマタんです!」

「はは、ありがとな。なるべく早く帰ってくるようにするから待っててくれ」

「はい…帰ってきたらさっきのサービスの続きしましょうね」

 

悪戯に笑う雪菜の可愛らしい顔に胸の高鳴りを感じながら古城はしばらくの間、雪菜や仲間と離れる旅へと歩き出した──




お詫び?にネタバレを少々…

続きを連載するとすれば古城の旅には女性陣の中から1人連れていくつもりです。
雪菜ではないので誰か考えてみてください^^*

Twitterでは少し言いましたがなろうの方にオリジナル作品を投稿してみようかと思っています。
その影響としてこの作品がどうなるかは分かりませんが読んでくださる方がいる限り何らかの形で続けていくつもりなので応援よろしくお願いします!

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第47話 幕間

ツイートの予告通りなんとか更新できました!
短いですが…。

前話の46話では盛大にミスしまして申し訳ないです。
改訂版出してあるのでそちらをお読みでない方はそちらからお願いします。

度々ああいうことをやるので感想とかで指摘してくださるとありがたいです!誤字指摘もいつも助かってます!


いつものごとく常夏の島に陽の光が煌々と降り注ぐ。

春の穏やかな風も相まって絶好のピクニック日和とでもいったところか。

そんな中、1人不機嫌そうに顔を歪めながら歩く男がいた。

 

「この島…春なのに暑すぎるだろ…」

 

文句を言いながらパーカーのフードを深く被り直し目的の場所へと足早に向かう。

向かっている場所は空港ではない、那月の住む高層マンションだ。

 

目的の場所へと着いた古城はインターホンを押し、ドアのオートロックが解除される音を聞いてから中へと入る。

広々としたリビングを見渡すが人の気配はない。

古城は奥にある応接間とは名ばかりの大きさの部屋へと進んだ。

 

「アスタルテ?」

 

メイド服を着た青髪の少女がソファーに座りながら紅茶の入ったティーカップを眺めている。

彼女は古城が近づいてもピクリとも動かない。

 

「悪いな…オレが不甲斐ないせいで那月ちゃんが」

 

自然と口を出た古城の謝罪を受けアスタルテの口がゆっくりと開く。

 

「否定、教官(マスター)は最善を尽くしました」

「ずっとそうしてるのか?」

「肯定、教官(マスター)の命令──」

 

じっと冷めきったティーカップを見つめ続けるアスタルテを見ながら古城は少し考えてからアスタルテの隣に座った。

 

「今から那月ちゃんを助けに行くんだけどさ、アスタルテも来るか?」

 

何も応えない彼女の頭を撫でながら古城は続ける。

 

「何年かかるかも分からないけど、こんな所にずっと座ってるなら一緒にどうだ?」

「躊躇…」

 

しばらくしてアスタルテは初めて身体を動かし、古城の袖を握ってくる。

 

「現時刻、十五時二十二分四十五秒より教官(マスター)救出まで暁 古城を主人(マスター)と認識」

 

いつもよりどこか人間味を帯びたアスタルテの声を聞き、古城は外へ出ようとしたがこの場所へと来た理由を思い出しアスタルテの方を振り返った。

 

「那月ちゃんからさ、金庫?の場所をアスタルテに聞けって言われてたんだけど案内してくれるか?」

命令受諾(アクセプト)、案内を開始します」

 

カーナビのような機械的な音声を発し、アスタルテは那月の書斎と思しき部屋へ進んでいく。

 

解錠(オープン)──」

 

奥の本棚の前でアスタルテがそう呟くと本棚の裏に小さな窪みが現れる。

 

「古典的だな…」

主人(マスター)教官(マスター)の隠し金庫はこの場所と伺っています」

「アスタルテ?死ぬほど分かりづらいんだが…」

 

真顔で返された古城は項垂れ、この先を不安に思いながら那月の隠し金庫の中にあるネックレスを手に取った。

 

「なんか魔術的なものなのか?」

 

答えを求めてアスタルテの方へと顔を向けるが彼女も何も知らないのか真顔のままで動かない。

とりあえず自分の首にネックレスをかけ、那月の部屋を後にした。

 

「ネックレスのこともあるし、色々知りたいことが多いしひとまずラ・フォリアのとこに行くか…」

命令受諾(アクセプト)──」

 

アスタルテの了承を得て古城は自分と彼女の身体を霧へと変えていく。

こうして2人は那月を救うための長い旅へとその1歩を踏み出した──




次回から古城サイドと雪菜たちサイドでやってくことに多分なると思いますが…、初めてのことなので読み辛かったら言ってください。

感想評価Twitterのリプなどなど最近増えてきてすごく嬉しい限りです。
もし、お暇な方がいればどんどんくれればなーと思います。


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神々の信徒篇
第48話


今回から新章です。
まだ分からないですけどすごく長くなるような予感…。
更新頻度は早めにするつもりなので前章よりかは早く終わると思います!


雪菜が古城を送り出してから早くも2週間が経とうとしていた。

深夜3時、普通なら誰もが寝静まっているその時間に休む気配もなく働き続ける2人の少女がいる。

 

「紗矢華さん、これ間違ってます」

 

雪菜は紗矢華から流されてきた資料に不備を見つけ訂正を求めるため資料を彼女の元へと返す。

しばらくして、紗矢華がまったく動いていない事に気づいた雪菜は隣へと顔を向けた。

 

「紗矢華さん…?」

 

「紗矢華さん!」

「え!?どうしたの雪菜、なにかあった?」

「ここ、間違えてるんですけど」

「あ…気づかなかった、ごめんすぐ直すから」

 

少し怒った顔で自分の顔の前に資料を突き付けてくる可愛い後輩に紗矢華は逆らうことが出来ない。

すぐさまそれを受け取り訂正を加える。

 

「暁先輩のこと考えてたんですか?」

「そ、そんなわけないでしょう!?大体私があの変態吸血鬼のことを気にする理由がどこに──」

「紗矢華さん、同じ間違いしてますよ…」

「ゔ…」

 

自ら墓穴を掘ってしまった紗矢華は頬を染めながら下を向いて黙ってしまう。

それ以上彼女が何も言わないことを確認し、雪菜は独り言のように話しだした。

 

「先輩がいなくなって2週間…溜まりに溜まった公務を片付けたりアルディギアや獅子王機関のこと、色々忙しくてあまり考える暇はありませんでしたけど寂しいですね」

「雪菜はいいでしょ、最後に古城と話せたんだから。頼まれれば私だって血を吸わせてあげなくもなかったのに…」

「紗矢華さん…」

 

雪菜は拗ねる紗矢華を見て少し申し訳ない気持ちを感じてしまう。

 

「あの…勝手に先輩を送り出しちゃってすみません…」

「いいのよ、雪菜」

「え?」

「古城が決めたことでしょ?それに戻ってこないわけじゃないんだから」

「そうですね、じゃあ紗矢華さん。そこの資料の山早くこっちに持ってきてください」

「はーい…」

 

いい雰囲気になり少し仕事をサボれるかと思った紗矢華だったが雪菜にはそんなことお見通しだったらしい。

気だるげに返事をしながら、2人はいつ終わるのかも分からない作業にまた向かい始めた。

 

この2週間の間、雪菜たちは本当に忙しい日々を送っていた。

夜の帝国(ドミニオン)の領主である古城がいなくなり、その4日後にはラ・フォリアが古城の『血の伴侶』となったことを正式に発表したことでその対応に追われ、そして今現在、事実上組織の全権を握っていた静寂破り(ペーパーノイズ)が失踪したことにより獅子王機関が

瓦解しようとしているのだった──

 

 

「ん…あれ…?」

 

窓から射し込んでくる朝陽に嫌悪感を覚え起き上がった雪菜は自分が途中で寝落ちしてしまったことに気づき周囲を見回す。

隣ですやすやと寝ている紗矢華を見てから、雪菜の目に派手な金髪の女子高生と眠そうに作業をする少年がとまる。

 

「藍羽先輩に矢瀬先輩!?もしかして、私達が寝てしまったから手伝いにきてくださったんですか?」

「ああ、気にしなくていいって。2人共暫く寝てないだろ、オレ達がやるからもう少し休んでな」

「基樹、オレ達?なんで勝手に私までやることになってんのよ」

「そう怒るなよ…実際さっきまでやってたくせに」

 

いつものように2人で言い争う浅葱と基樹を見て雪菜はクスクスと笑むた。

 

「もう大丈夫です。私達、今は少しくらい寝なくても平気なので」

「それって、『血の伴侶』になった自慢…?」

「あ…いや、そういうわけじゃなくて!」

 

自然と雪菜の口からでた言葉が浅葱を刺激してしまう。

雪菜、紗矢華に加えてラ・フォリアまでが古城の伴侶になってしまったことを知ってから浅葱はずっと機嫌が悪い。

これ以上2人を喋らせておいても喧嘩になると判断した基樹は立ち上がると浅葱の襟を掴んだ。

 

「それくらいにしとけって、腹減ったしなんか食べに行こうぜ」

「…、もちろん基樹の奢りよね?」

「経費で落とせよ、それくらい…」

 

一瞬迷ったようだった浅葱だが、空腹には敵わないらしい。

基樹の手を振りほどくとすぐに部屋から出て行ってしまう。

 

「悪いな、姫柊ちゃん。あいつも悪気があるわけじゃないんだ」

「分かってるので大丈夫です。お手伝いありがとうございました」

 

浅葱を追って走る基樹の後ろ姿にしっかりと礼を言った雪菜は時計を一瞥し時間を確認すると紗矢華の身体を優しく揺する。

 

「雪菜?どうしたの?」

「仕事をサボったまま寝ることに少しくらい罪悪感を覚えてください…」

「あっ…、もしかして雪菜が全部やってくれたの!?」

「藍羽先輩と矢瀬先輩が手伝ってくれたんです」

「そう…藍羽浅葱が…」

 

紗矢華からするとあまり浅葱には頼りたくないのか少し悔しそうな表情を浮かべる。

そんな彼女を見て溜息をつき切り替えた雪菜も部屋から出るため立ち上がった。

 

「もう行くの?」

「はい。師家様を待たせるとあとで怖いですから」

「それもそうね」

 

互いに昔の記憶を思い起こし小さく身震いすると2人は来客を迎えるために上階にある部屋へと向かった──

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

雪の降り積もった山の中にどこからとも無く1組の男女が現れる。

1人は長身銀髪の男、もう1人は小柄だが青く揺れる長髪が美しい少女。

男が身体の前へと手を伸ばす。

 

「警告、前方広範囲に対魔族用術式を感知──」

「え?おっと…痛てぇな」

 

少女の警告も虚しく男の手は大きく後ろへと弾かれる。

男が声を上げると同時に周囲に自然のものとは思えない大きな音が鳴り始めた。

 

「アスタルテ、これ何かわかるか?」

「回答、主人(マスター)が魔族払いの結界へ干渉したため警報(アラート)が鳴った模様」

「最悪じゃねぇか」

 

その場を立ち去ろうとした古城の足元へ銃弾が飛来する。

それに続いて周囲に大勢の武装した人間が集まってきた。

 

「待て待て別に怪しいことをしようってわけじゃない!オレは第四真祖の──」

 

古城の言葉は再び足元へと撃たれた銃弾の音によって中断させられる。

絃神島でこそ第四真祖はいいイメージを持たれてはいるが、世間一般では害悪そのものなのだ。

話など聞いてもらえるわけがなかった。

 

「仕方ないか…アスタルテ、全員殺さないようにできるか?」

命令受託(アクセプト)薔薇の指先(ロダダクテュロス)──」

 

不審な動きを見せた古城の方へ一斉に対魔族用の銀弾が放たれる。

しかし、その全てが古城を守るように立つ大きな人形眷獣によって防がれた。

 

「第四真祖の眷獣──!逃げろぉぉっ!」

「え?」

 

第四真祖が目の前にいる状況で眷獣が現れれば誰しもがその宿主は第四真祖であると思うだろう。

 

想像とは少し違ったが相手を傷つけず無力化することに成功した古城はアスタルテに眷獣の召喚を解くように命じてから先へ進もうとした。

 

「古城、そこにいますね?」

 

聞き覚えのある声に古城は足を止め、声のする方を振り向く。

 

「国の周りに張り巡らせてあった魔族感知用の結界を触るだけでダメにしてくれるなんて、さすが古城ですね」

 

上品に笑う声の方へ進み古城は声の主であるついさっきまでいた国境警備隊が落としたと思しき衛星電話を見つける。

古城はすぐに手に取り声の主に説明を求めた。

 

「一体どうなってるんだよ、いきなり大勢に囲まれたんだぞ」

「自業自得ですよ、家に来るならしっかり玄関から入るというのは万国共通の常識だと思いますよ?」

 

古城は当たり前のことを言われ自分が犯罪者と思われても仕方がない現状を改めて認識する。

 

「仕方ないだろ…普通に会おうと思ったら手続きとかで2週間は取られるし」

「そんなに急いでどうしました?私と結婚する気になられたとか?」

「冗談ばっかり言うのはやめてくれ、ラ・フォリア…」

 

クスクスと笑い始めたラ・フォリアは満足したのか古城の質問に答え始めた。

現在地は北欧アルディギア王国の南端にある小さな国との国境に位置する山奥であり、たまたまアルディギアとの合同軍事演習中だったこと。

 

「それでは古城。今から歩いてしっかりと空港で魔族用の短期ビザを申請、受けとってから入国してくださいね」

「待て待て待て、他の奴には秘密できたんだよ!」

 

三度ラ・フォリアは笑い始める。

古城が彼女に遊ばれていることに溜息をつくと、目の前に丸い円盤状の物体が現れた。

 

「古城、上で待っています。目の前の昇降盤に乗ってください」

 

言われるがまま昇降盤と呼ばれた円盤へと乗ると身体を異常な重力に襲われ目を閉じてしまう。

次に目を開けると古城の目には雪の降り積もる山の景色ではなく長い銀髪を持つ美女が映っていた。

 

「数日ぶりですね古城」

「ラ・フォリア…突然押しかけて悪かったな」

 

さんざんラ・フォリアに遊ばれ疲れ果てた古城は絞り出すように声をかけた。

 

静寂破り(ペーパーノイズ)との戦いで私の血は役に立ちましたか?」

 

古城はラ・フォリアの言葉で静寂破り(ペーパーノイズ)の能力に一瞬だけ干渉できたことを思い出した。

 

「ラ・フォリアのおかげだったのか?」

「何から話ましょうか、静寂破り(ペーパーノイズ)過適応能力者(ハイパーアダプター)ということは?」

「なんとなく察しはついてたよ」

 

古城の返事を受けてラ・フォリアの顔が真剣なものへと変わる。

 

過適応能力者(ハイパーアダプター)が生まれやすい家系というのが稀に存在します。そして、その能力は血を濃くすることによってより強力なものになるとか…」

「血を濃く?」

「単純な話、その家系の間で子を産み続けるんです。古来の王族によく見られる形ですね」

「それとラ・フォリアの血が関係あるのか?」

 

ラ・フォリアは少し残念そうな顔をしながら説明を続けた。

 

「アルディギア王家の者には使いこなせる者は極わずかですがあらゆる能力を解析し、干渉する術を持っています」

 

その言葉で古城は自分が何故静寂破り(ペーパーノイズ)の能力に干渉できたのか、その能力がなければ死んでいたかもしれないということを悟った。

 

「じゃあ、あれはラ・フォリアのおかげだったのか…」

「その様子だと命拾いしましたか?私の読み通り、使えるレベルにはなっていましたか…さすがは古城ですね」

 

満足そうに微笑むとラ・フォリアは古城へと抱きつく。

 

「ラ・フォリア!?」

「古城。それで今日はどんな用で来たのですか?」

 

耳元で囁かれ古城の胸は高鳴ってしまう。

 

「それは──」

「空隙の魔女、南宮那月の師である超越の魔女、キオナ・アゼリアの居場所を聞きに来ましたか?」

 

古城の驚く顔を見てラ・フォリアはまたしても楽しそうに微笑んだ──




最近Twitterでよくリプもらえて実は喜んでます…。

今回から二場面展開していくことになると思いますが読みづらかったり書き方の提案とかあれば感想等で教えてもらえればと思います!

タイトルは変えるかもです、とりあえず付けただけなので…
久々のキャラ紹介更新は次話と共にやります!

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第49話

なんか段々文がおかしくなってきてる気がしますが気にせずお読みください。

場面分けると進むのが遅いので次から文字数多めにするかも…


眩しい太陽の下どこまでも続く大地を駆け巡ったのはどれくらい昔のことだったか。

 

どこまでも続いていると思っていた大地が有限であったことを知ったのはいつだっただろうか。

 

やがて海を知り、渡り、新たな大地を踏みしめ、越えて元の場所へと戻り自らが住む星さえ小さく感じたのは何歳の頃だっただろうか。

 

この世に絶望し、離れ──虚無へと身を投じこの世の全てを俯瞰する。

 

永劫の時が流れ自分と世界の境界さえ曖昧になった朧気な意識の中で女は久方振りの思案を始めた。

 

自分が望んだものはこんなことだったのだろうかと──

 

その一瞬の思考も虚無の中へと消え、すぐに分からなくなってしまう。

そんな彼女の願いは1つ、『暇』を潰したい。

それだけだった。

 

物も無ければ秩序も無く、かといって混沌と呼ぶことが正しいのかさえも分からない、完全にこの世から切り離された虚無の領域に浮かぶその存在はふと笑った──

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

雪菜と紗矢華は応接室を兼ねた広々とした部屋の前まできてあることに気づいた。

 

「いるわね」

「はい…」

 

部屋の中に自分たちの師の気配を感じとり二人の顔が引き締まる。

紗矢華が恐る恐る扉を開けると部屋の中から何かが飛んできた。

 

「──!」

 

飛んできた布製の何かを紗矢華は反射的に手で掴んだ。

 

「客を待たせるなんていい度胸じゃないか。一体いつからそんなに偉くなったんだい?」

「いえ、これは…」

 

予定時刻より早めに来ていると文句を言いたいところだが、それを言えば何をされるか分からないため紗矢華は黙ってしまう。

 

「師家様、申し訳ありませんが私達予定の時刻より早くここにっ──」

 

真面目な雪菜が反論してしまい紗矢華は焦って彼女の口を閉じさせ、師の顔色を伺った。

 

「どうやら罰は2人分用意しなきゃいけないみたいだね」

 

縁はそう言うとあらかじめ用意していたかのように雪菜の方へもメイド服を投げてよこした。

 

「そうだね、1週間くらいはそれを着て生活してもらおうか」

 

縁のその言葉に紗矢華が露骨に嫌そうな顔をするがなんとかバレなかったようだ。

そんな紗矢華にかまわず縁は本題へと入っていった。

 

「獅子王機関が今の御時世、あまり立場がないことは分かってるね?そんな中トップがいなくなったとなりゃどうなるか…」

 

平安末期から続く獅子王機関は由緒正しき組織であるが、時代が進むにつれ科学の進歩が目覚しい現代においての地位はそれほど高くない。

そのことを分かっている雪菜と紗矢華はある程度予想しながら縁の続く言葉を待った。

 

「うちは近いうちに潰れるだろうね」

 

予想していたとはいえ、雪菜と紗矢華は息を呑んだ。

 

「それで…、」

「なに、単純な話だよ。使えそうな者をここで引き取ってやって欲しいって話だ」

 

そう言うと縁は手に持っていた名簿を投げて寄越す。

そこには獅子王機関の要職、剣巫、真射姫から養成中の新人と思しき者の名前まで書かれていた。

もちろんそこには雪菜と紗矢華の名前も含まれ、2人の名前の横には小さな丸印が付いていた。

 

「これは…?」

「見ての通りうちの全職員の名簿だよ、もう隠す必要もないからね。この中から使えそうだと思うのをそっちで選んでくれればいい」

 

紗矢華は名簿を捲り、少し考えてから縁へとある提案をする。

 

「それなら全員ってわけにはいかないんでしょうか…」

「うちも組織だからね、組織直属の者と国から入ってきた者と色々いてね。前者はともかく後者は太史局の方に転属になるんじゃないかね」

「そうですか…ではこの件は後ほど議会の方に回して決まり次第連絡を──」

「ん?第四真祖の坊やはいないのかい?」

 

ちょっとした一言で今この国で一番知られたくないことを見抜かれ雪菜と紗矢華は気まずい顔をする。

それを見て縁はにやりと笑う。

 

「夜の帝国ドミニオンの領主が長年顔を出さないことはよくあることだからね、なにか都合の悪い事になったらそう言い訳すればいいさ。じゃあ私は忙しいからこれで帰るよ」

「ちょっと待ってください、師家様──!」

 

雪菜の呼びかけも虚しく縁は忽然とその場から消えてしまっていた──

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

古城はラ・フォリアの顔を見ながら初めて彼女を警戒する。

何故彼女が古城が言う前に今回の用件を知っていたのか、そもそも彼女が現れたのがアルディギアの国境付近とはいえ異常なほどに早かったことも不思議だ。

そんなことを考えている古城とは裏腹に笑顔のラ・フォリアが近づいてくる。

 

「警告、それ以上主人(マスター)に近づくと武力行使を行います」

 

古城と同じことを考えたのかアスタルテは眷獣を半実体化させたままそう告げる。

それと同時に艦内のアルディギア聖環騎士団が2人を包囲する。

険悪なムードになったところでようやくラ・フォリアは改めて口を開いた。

 

「空隙の魔女を失った古城がなにをしようとするか予想してみただけですよ?伴侶が主を助けたいと思うのは当たり前のことかと」

 

そう言うとラ・フォリアは周りに包囲を解くように軽く指示した。

それを見てからアスタルテも引き下がる。

 

「でもどうして那月ちゃんの師のことを知ってるんだ?」

「それは、向こうから接触されたからですよ。古城に私の血を与えるように言ってきたのもまたキオナ・アゼリアです」

 

古城はラ・フォリアの言葉の意味が分からなかった。

 

「そうですね…彼女は神にもっとも近い存在とでも言いましょうか…」

「神ってあれか?普通にオレ達の思ってるやつか?」

「宗教色の薄いあなた達が思い浮かべるような神そのものですよ、全知全能とまではいかないようですが」

「うーん…さすがにちょっと分かんないかな」

「とりあえず人の領域を超えた存在とでも認識していただければ結構ですよ。そのキオナ、超越の魔女にどうしてか接触されたのです」

 

その後長々とラ・フォリアから話を聞いたが得られた情報は少なかった。

そもそも彼女も接触されるまで存在を知らなかったというのだから仕方がない。

分かったことといえば、キオナはこの世とは異なる空間にいるということとそこに行くには空間転移魔術に卓越していなければいけないということだった。

 

「その話とは別に少しいいですか?古城」

 

色々と考えていた古城にラ・フォリアが声をかけてきた。

 

「ん?なんだ?」

「その、『血の伴侶』になったことをそろそろ国民にもお伝えしなければならないんですが…どうしましょうか?」

「どうしましょうかとか言われてもな…」

 

古城はバツの悪そうな顔をしながらラ・フォリアから目を逸らした。

 

「一緒に出てもらうことはできませんか?」

「いや…今回は誰にも言わずに来てるか──」

「そうですか、残念ですが私1人で会見を開かせていただきますね?」

 

ラ・フォリアは古城が出ないと決めた瞬間、待っていたかのように早口でそう捲し立てた。

勢いに押された古城はもはや何も言うことも出来ず静かに肩を落とし、もう一つの頼み事をすることにした。

 

「ラ・フォリアに頼みたいことがあるんだけどちょっといいか?」

「はい、私にできることなら何でも言ってください」

「オレがいない間うちのこと頼んでもいいか?」

「それは…全権委任ということでよろしいですか?」

 

しばらく古城は考え込んだ。

 

「それでいいよ、そうだな…なんか書いておくから好きなようにやってくれればいい」

「承りました、悪いようにはしないので安心してください。随分と急いでるようですけどもう行きますか?」

「ああ、そうするよ。この辺で誰もいない場所があると教えて欲しいんだけど…」

「それくらいならお安い御用ですよ」

 

ラ・フォリアへの用件が全て終わった古城は夜の帝国ドミニオンの全権委任を許可する書類にサインをし、アルディギア南端にある小さな無人島でアスタルテと2人降ろしてもらった。

 

ラ・フォリアの乗る軍用機が見えなくなってから無人島へと降りたった2人は那月の師であるキオナのいる空間へと向かうための方法を考えることにした。

 

「さて、アスタルテ。空間転移魔術の練習方法って知ってるか?」

「………」

「もしかして、知らなかったりするのか?」

「………」

 

ジト目で見てくるアスタルテの目が痛い。

 

「失望、主人(マスター)がそこまで無策だとは思いませんでした」

 

アスタルテの言葉に何も返せず古城は1人苦笑いで立ち尽くすしかなかった──




久しぶりにキャラ紹介の方数行更新しました。
毎度言いますが若干のネタバレも考えられるので気にする方はあまり見ない方がいいかもしれないです(物語進む上で決定的なネタバレになるというほどのことは書いていません)

話が進むにつれてまた例のごとく書き足していくのでちょくちょく覗いてもらえればと思います。

次回で50話、UAもそろそろ5万を超えて、お気に入りも350件を超えまして…またまたなんとお礼を言えばいいのか…
また感想評価のほうもお願いします^^*
方向性失うんで苦笑

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第50話

もう早いもので50話まで来てしまいました…感謝感謝です!

さて、新生活に忙殺され…諸事情で1週間ほどアメリカに行っていまして更新滞ってしまい申し訳ありません!

お詫びになるかは分かりませんが…今回割と長めに書きました。

久々かつキリもいいので感想とかくれると嬉しいです( ̄▽ ̄;)


主人(マスター)…。昼食の支度が整いました」

 

大きな岩の上に座りながら静かにある1点を見続ける古城の隣へアスタルテがやってくる。

 

「ちょっとだけ待ってもらえるか?」

命令受諾(アクセプト)…」

「やっぱりすぐ行くよ」

 

古城に何か非があるのか、アスタルテの雰囲気がよくない方へと変わる。

それに気づいた古城はすぐに岩から降り彼女の後ろをついていく。

 

超がつくほどの鈍感な古城だが、人工生命体(ホムンクルス)であるアスタルテは普段あまり感情を顔に表さないためかそれなりに分かるらしい。

 

ラ・フォリアと別れこの島へと着いてから約2週間が経った今、古城の身の回りの世話は全てアスタルテがやっている。

島の中央に位置する小高い山にある洞窟を拠点とし、古城は1日の大半を空間転移魔術の練習に使う生活だ。

そんなこともあってか以前よりアスタルテが人間らしさのようなものを持ち始めたような気がして実は古城は喜んでいたりする。

 

「今日も魚か?」

「肯定、現状製作可能なものは二種類のみ」

「米が恋しいな」

 

昼食は近海で捕れた魚の塩焼き、夕食はその素揚げというのが定着している。

最悪何も食べなくてもお互い死ぬことはないため何か食べられるだけでもありがたいのだが、古城も元々は日本人なのだ。

米が食べれないというのはそれなりにきついものがある。

 

命令受諾(アクセプト)、今晩は穀類を用意します」

「この島に来た初日に色々調べたけど食べれそうなものは特になかったんだろ?」

 

アスタルテは古城の言い分を肯定してか首を縦に振る。

一体どうやって米を用意するのか古城には検討がつかなかったが、料理は今回彼女に任せているためそれ以上特に何も聞かない。

それから特にお互い喋ることもなく、黙々と恒例の魚の塩焼きを食べると別々に行動を開始した。

 

島に来てからというもの古城は空間転移魔術の練習に励む毎日だ。

初日に那月から受け継いだ守護者の召喚を試したが、10秒と実体化を維持できなかったため今は魔力の微妙なコントロールを可能にするため汗を流している。

 

「そろそろもう1度くらい試してみるか…」

 

古城はそう呟くと守護者を召喚するために集中力を高め始めた。

呼べば出てくる比較的召喚が簡単な眷獣と違い、守護者の現出には確固たるイメージと微妙な魔力制御が必要となる。

守護者との霊的パスを通じて自らのイメージを魔力に乗せ、守護者へと送り続けなければすぐに実体化が解けてしまう。

 

一切の雑念を消し身体の魔力が安定していることを確認した古城は守護者のイメージをゆっくりと構築していく。

やがてそのイメージも完成し、守護者の名前を呼ぶ。

 

輪環王(ラインゴルト)──、」

 

静かに放たれた古城の言葉に応じるように目の前に黄金の鎧騎士が現れる。

 

「5.6.7.8.9.10…、消えられる前に空間転移魔術を…」

 

前回の記録である10秒を越え、古城は目の前にある小さな石ころへ意識を集中させる。

数秒が経ち、小石の周りに見慣れた紫の魔法陣が現れる。

 

「やった!これで──」

 

古城が気を緩めた瞬間、魔法陣が消える。

 

「…やっちまった、これだから…ん?」

 

集中を乱したことで魔術が正常に動作しなかったと思い頭を抱える古城は目の前の小石が数cm動いてることに気づいた。

 

「一応出来たのか?もう1回やってみるか…」

 

微かな手応えを感じた古城は何度も空間転移魔術を行使する。

5cmから10cm、50cm、1m。

 

それから程なくして日が暮れた頃には石ころ程度の質量であれば、50mほどの距離をなんとか転移させることができるようになっていた。

 

「すっかり暗くなっちまったか…、アスタルテは…」

 

すっかり暗くなってしまった中、アスタルテが待っているであろう方向へ身体を向けた古城の前に、茂みの中から2つの青い点が浮かび上がる。

 

「え…何かいるのか?」

 

初日に島一体を探索した時から今日まで大きな動物に出会っていなかった古城は目の前の2つの点を警戒する。

 

「たー…──。」

「え?」

 

何かの言葉に気を取られた古城の元へ青色のなにかが飛びついてくる。

 

「ぎゃぁぁぁぁ──ってお前、アスタルテかよ…」

「肯定、夕飯の支度が整いました」

「そうかそうか、それでなんでお前は髪が短くなってるんだ?」

「…………」

「なんで髪短くなってるんだ?」

「…………」

 

アスタルテは珍しくなにも応えず、何故か古城の背中へと上がってくる。

古城はそんな彼女の行動に首を傾げながら、子供をあやす父親のようにそのまま生活スペースとしている洞窟へと向かった。

 

 

いつもより高い景色に目を輝かせるアスタルテと共に洞窟へと近づくにつれ、古城の敏感な鼻が少し懐かしい匂いを感じ取る。

 

「カレーか?この匂い」

「…………」

「アスタルテ…、いい加減話してくれないと寂しいんだが。早く応えないと下ろしちまうぞ」

「肯定、今晩の献立はカレー…」

 

よほど古城の背中が気に入ったのかアスタルテは閉じていた口を少しだけ開く。

しかし、それ以上は何も言わずやはりまた黙ってしまう。

そんな彼女に子供らしさというか人間らしさを感じた古城は笑みを浮かべながら先へ歩いていった。

 

それから数分ほど、どこか心地よい沈黙が2人の間を流れ目的の場所へと到着する。

 

「ほら、アスタルテ飯にしようぜ」

「…命令受諾(アクセプト)

「そんな顔するなって、またおぶってやるからな?」

 

少し名残惜しそうな顔をしたアスタルテは古城のその言葉を聞くと軽い足取りで洞窟の奥へとかけていく。

 

「なんだかんだ言ってアスタルテも子供か…」

 

そんなふうに古城が彼女の新たな一面を思っているとアスタルテが鍋を持って帰ってくる。

自分と古城の前に素早く皿を置いたアスタルテはカレーをよそっていく。

 

「アスタルテ…ほんとにカレー、ってか米なんてどっから?」

 

古城は目の前に鎮座する少し細長めの白米を見ながら疑問を投げかける。

昨夜希望を出したとは言え、半分冗談のつもりだったのだ。

 

「……」

 

しかし彼女は何も答えずじっと古城の方を見つめ続ける。

 

「どうした?何かあるなら言って欲しいんだが…」

 

鈍い古城はいつも通りアスタルテの意図するところが分からないらしい。

そんな古城に愛想を尽かしたのかアスタルテはカレーを食べ始めてしまう。

 

少しアスタルテとの距離が縮まったように感じていた古城は少し残念がりながらも冷めないうちにとカレーをゆっくりと口に運んだ。

 

「美味いな!これ。最近魚ばっかりだったから格別だな…あれはあれで美味しいんだけどやっぱり米は食べたいよな。いつもより固めの米もむしろカレーに合ってるし──」

 

久しぶりの白米にテンションの上がった古城はアスタルテとの少し気まずかった雰囲気も忘れ、食レポのように味の説明等を始める。

そんな中、目の前のアスタルテが驚いたように目を見開き自分の方を見ていることに気づく。

 

「どうかしたか?口に米粒でもついてるか?」

「いえ、な、にも…」

 

何故かアスタルテはくすくすと満足そうに笑い始める。

そんな姿を見て、古城は昔凪沙が初めて料理を作ってくれた時のことを思い出した。

 

「そうかそうか、アスタルテ褒めて欲しかったんだろ?」

「…肯定」

 

古城に自分の気持ちを見抜かれたアスタルテは急に顔を赤らめ俯いてしまう。

そんな彼女の頭を古城は優しく撫でた。

 

「それで、どこから白米なんて持ってきたんだ?」

「…応答。主人(マスター)が──」

 

少し迷う素振りを見せてからアスタルテは古城に白米の入手方法について話し出した。

 

「つまり…薔薇の指先(ロドダクテュロス)を召喚して隣の島まで海を泳いで…髪の毛売って、その金で買ったのか…?」

 

古城がアスタルテの長い長い話を要約して問い直すと彼女はこくこくと上下に頭を振った。

 

「あー…なんていうか……、ありがとなアスタルテ」

 

古城はアスタルテの無茶を怒るべきか迷ったが、彼女なりに自分を思ってのことだと理解しているため結局感謝を伝えることにした。

 

「それで、アスタルテに頼みたいことが2つあるんだけどいいか?」

 

いつもより柔らかい表情のアスタルテはすぐに頷いてくる。

髪が短くなったことで普段の雰囲気と変わり、改めて彼女の可愛らしさを認識させられる。

そんな思いを悟られないよう、古城はアスタルテを自分の脚の間へと座らせると話の続きを始めた。

 

「ひとつ目はもう少し気軽に話してくれたら嬉しいっていう、ただそれだけなんだけど」

「気軽…に?」

「そうそう、主人(マスター)とかじゃなくて仲間としてもっとこう…とりあえず名前で呼んでみてくれないか?」

「……こ…古城…?」

 

しばらく口をパクパク開けたり閉めたりしていたアスタルテはやがてしっかりと古城の名前を呼ぶ。

 

「そうそう、無理しなくてもいいけどこれからそうやって呼んでくれよ」

「古城……古城…古城…」

 

まるで赤ん坊が初めて言葉を覚えたときのように自分の名前を連呼するアスタルテを見て、古城は思わず彼女の小さな背中を抱きしめた。

 

「古城…?」

「それでふたつ目なんだけどさ」

 

首を傾げながら後ろを向くアスタルテには何も言わず古城は続ける。

 

「ラ・フォリアがさ、アゼリアはこの世界じゃないどこか?にいるとか言ってただろ?今のまま空間転移魔術を練習したところで多分時間がかかりすぎる。だからちょっと1つ試したいことがあるんだけどさ付き合ってくれないか?」

命令受諾(アクセプト)──」

 

 

アスタルテの協力を得ることに成功した古城は夜の海辺へと来ていた。

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ──! 疾く在れ(きやがれ)3番目の眷獣龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)──!」

 

突然古城は自らの使役する巨大な双頭龍の眷獣を召喚した。

 

「前から思ってたんだ、こいつに喰われたものってどこに行ってるんだろうって。それで、さっきもしかしたらその空間にアゼリアがいるんじゃないかって考えて…試したいんだけど…」

 

古城は恐る恐るアスタルテの方を向いた。

いつもなら雪菜か紗矢華辺りが頭ごなしに文句を言ってきそうな場面だがどうやらアスタルテにそのような考えはないらしい。

 

内心ホッとした古城はアスタルテに自分の作戦を伝え、準備をさせた。

 

「よし、じゃあ頼む」

命令受諾(アクセプト)薔薇の指先(ロドダクテュロス)──」

 

アスタルテを人型の眷獣が覆っていく。

完全に眷獣の召喚が終わると眷獣はその大きな手で古城の身体を掴み──

 

古城ごとその腕を龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)の顎の中へと突っ込んだ。

 

「怖ぇぇぇ…」

 

ここ2週間の特訓で眷獣の細かな制御をできるようになったとはいえ、大きく口を開けた眷獣の中へと入るというのはとても恐ろしいことだった。

 

「アスタルテー、もう少し奥までいけるかー?」

 

返答はなかったがゆっくりとアスタルテの眷獣の腕が奥へと進んでいく。

 

「んー…当てが外れたか…?」

 

古城がやはり無謀だったかと思い直しアスタルテに引き上げてもらうよう声をかけようとすると、急に腕が奥へと進むスピードが早くなった。

 

「おい!アスタルテ!もういいから戻して──え?」

 

焦った古城がそう口にしたときだった、眷獣の口から漏れてくる外界の光が一瞬失くなり真っ暗な空間にアスタルテが眷獣を纏った姿のまま現れた。

 

「警告、対処不能の引力が発生」

「え…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

アスタルテの警告とともに古城と彼女は暗闇の底へ底へと引き摺り込まれてしまい意識を失った──

 

 

なにか堅いものが身体にぶつかったような鈍い痛みを覚え、古城が目を覚ます。

目の前に広がるのはやはりどこまでも続くかのような暗闇。

目を開けているより、むしろ閉じている方が明るい気がするくらいだ。

 

「そうだ、アスタルテは──!?よかった、隣にいるな」

 

周りを手探りで確認すると手の温もりを見つけ、古城はひとまず安心する。

しかし、そんな安堵もつかの間に古城の身体を圧倒的な恐怖が襲う。

 

暗闇の中、自分と空間の境界が分からなくなるような不思議な感覚。

時間が経つにつれてどんどん自分という存在が薄れていく。

そして遂に古城が自らの存在を認識できなくなる寸前、奇妙な音が聞こえた。

 

「◇※〇☆★▼!φ#_____」

 

その音で古城の消えかかっていた感覚が無理やり呼び起こされる。

 

「誰だ──!?」

「$☆♪%==^〆~…」

 

古城の呼びかけに応えたものは抑揚のある声のような音。

その得体の知れない音に古城の恐怖はより大きなものへと変わっていく。

 

「○○○○○○○○○○○○?」

 

「*÷%:〆×…Спас…」

 

「안녕…你…あ…?」

 

「久々だな、こんな辺境に来客なんて」

 

どこか迷うような雰囲気の漂っていた音声はやがて古城の知る言葉へと変わった。

 

「危ない危ない、あと少し言葉を思い出すのに時間がかかれば大事な客の意識が崩壊するところだった」

 

おかしそうにケラケラと笑う声が暗闇に谺響する。

 

「誰だ!?」

「誰とは失礼な…お前は私を求めてやって来たんだろう?第四真祖」

「なっ──」

 

古城の反応に再び笑い声が聞こえ、そして声の主。恐らく彼女であろう者は自らの名を応えた。

 

「私は何処にも存在せず、何処にでも存在する。誰でもないが、何にでもなれる。超越の魔女、キオナ・アゼリア。ようこそ虚無へ」

 

そう言い終えると古城の前に1つの影が現れた──




前書きでも言いましたが…お久しぶりです。
私事で勝手なのですが、「小説家になろう」の方へ投稿する予定のオリジナル作品のプロローグ、1話、2話がほぼ完成しまして…

もし興味のある方がいればなろうに投稿する前に読んでもらえると嬉しいです!(Twitter、ハーメルンの感想等で言っていただければどこかに掲載してお知らせします)

因みにバトルものです。(ラブコメ要素も若干?)


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第51話

なんとか今日中に更新間に合ったぁぁあ

すみません、思いっきり時間跳びます。
暁の帝国の詳しいことはまたあとで書くことになると思いますが
気になることあれば感想でもTwitterでも答えます。


何処までも続く暗闇の中に一つの光が現れ、やがてそれは人型へと変わった。

 

「あんた…ここはなんなんだ?」

「ひどくアバウトな質問だな、ついさっき虚無と言ったはずだが?」

 

女は不自然に苦しむ古城を見下ろしながら未だ笑い続けたまま特に何をするわけでもない。

意識が消えかけた瞬間、古城の右手が確かな温もりに包まれる。

その温かさに虚無の底から引っ張り出されるように古城の意識は再び覚醒した。

 

「っ──!アスタルテか!?」

「肯定、状況の確認を」

 

あくまでも冷静にアスタルテは自らが置かれる異常な空間の把握を試みる。

しかし数秒を経てそれも徒労に終わる。

 

「はぐれ者同士仲がいいことだな」

「え?」

「元は人の身でありながら真祖の力を手に入れたお前と眷獣を身に宿しながら生き永らえる紛い物の生命、どちらも自然の理から外れたものだろう?」

 

古城は自分たちの素性が明かされたことにひどく驚く。

そんな彼の心情を知ってか知らずか彼女の顔つきも得意気なものへと変わった。

 

「驚いたか?私はお前でもあると言ったろう?これくらい分かるのは当然だな」

「だから、あんたは一体何を言ってるんだ?」

「質問ばかりとは子供のようだな、暇つぶしに話してやらんでもないが」

「もったいぶってないで早く教えてくれよ…」

 

古城のあまりにもストレートな物言いに女は思わず言葉を続けることが出来なくなる。

 

「この空間さ、感覚があんまりないし気を抜いたら一気に意識が闇の底に引きずり込まれるっていうか…なんなんだ?」

「お、教えてやろう…」

「へ?」

 

急に上擦った女の声に古城が不思議がる。

そんな反応を無視し、女は説明を始めた。

 

「この世界はお前達がいた世界の裏の世界、表の世界のバランスを保つために存在する」

「バランス?」

「自然の力は常に中立、均整の取れた状態を好む。食物連鎖のピラミッドのようなものから人の貧富…+のものがいれば-のものがいなければならない。+、正のものが増えすぎれば正のものを減らすか負のものを増やすことによって自然とは均整を常に保ち続ける」

 

「この世界もその自然の力の例に漏れず遥か昔に生まれ、表の世界の成長や衰退に伴って私が来るまでは絶えず変化を続けてきた」

「あんたが来るまで?」

「私は元々表の世界に生まれ、お前と同じようにただの人間でありながら運命に選ばれ力を得た。そしてその力は際限なく膨らみ生物の域を越えてしまい、力の奔流に呑まれ唯一の友をも殺した」

 

女の声が段々と無機質なものへと変わる。

そんな彼女の声を聞きながら古城は何も言えない。

言いたいことがなかったわけではないが、単純に彼女という存在が放つ徒ならぬ重圧の一端を知り畏怖を覚えたのだ。

 

「そう怖がるな、取って食ったりしないさ」

 

女は愉快そうに笑う。

 

「それで…だな、罰としてなのか私はこの世界へと連れてこられた。私が来たときこの世界は表の世界と同じく色んなものがあったんだ」

「それがどうしてこんな何も無い場所になったのか、聞いてもいいのか?」

「もちろん、これはお前にも関係ある話だからな。私の力はこの世界に来てからもただひたすらに指数関数的に増えていき、初めこそ神のように扱ってくれた生物たちも怖がるようになってしまってな」

 

虚空を見据えながら女は昔を思い出し懐かしむかのように語る。

 

「そして私の力が表の世界のすべての生物、無生物たちの持つ力の総量を越えた時、この世界にあった物は一瞬にして跡形もなく消え去り…この世界から秩序が失われた。秩序がなくなった世界は自然と混沌へと帰るだけ、これがこの世界の馴れ初めといったところだ」

 

全てのものは混沌からある秩序によって要素を限定、抽出されることで存在する。

そして1度その秩序がなくなれば、世界にはあらゆる要素が激しく混在するだけとなってしまう。

そのことをなんとか理解した古城はひとつの疑問を抱いた。

 

「でも、あんたはこの世界に存在できてる。それはどうしてなんだ?」

「私は元は表の世界のものであるからな、影響はあまり受けない。だが長期をこの世界で過ごせば影響は生じる。私は自らを生物の域から概念へと昇華することによってそれを免れた。故に実態もなければ規定に縛られることもなく自ら秩序を構成し、お前になることも可能だ」

 

そう言うと女の影が古城と同じ姿形へと変わっていく。

 

表の世界と対をなし、均整をとるために存在する裏の世界には必然的に表の世界と同じものが生まれる。

その全ての要素が混在するこの世界において、概念として秩序を自由に構成できる彼女は文字通り誰にでもなれるのだ。

 

女が最初に口にした『何処にも存在せず、何処にでも存在し何にでもなれる』という言葉の真意は文字通りの意味だったのだ。

 

「それで、質問に長々と答えたところで…こちらからも質問させてもらおうか。何の用でこんな場所まできた?」

「那月ちゃん…、南宮 那月を知ってるか?」

 

女は少し考えるような素振りを見せ、やがて思いついたのか首を縦に振った。

 

「オレはあの人を助けたい、そのためにお前に会いに来た」

「ほう…」

 

女は古城の言葉を聞くとなにやら宙を手で弄り始め何かを掴んだ。

 

「そうか、あいつが教え子を守ってなぁ…成長したんだな」

 

古城は女がこの世界に混在する那月と対をなす要素から状況を把握したらしいことに気づいた。

 

「差詰め那月のいる空間に連れていけとでも言う気だろうが、それは無理な話だ。私が好き勝手自由に出来るのはあくまでこの世界だけだ」

「そんな…どうにかなんないのか!?」

「落ち着け、お前は那月の守護者を受け取ったのだろう?その力なら空間を跳ぶことなど造作もないことよ。まあざっと500年くらいの修練が必要になるだろうがな」

 

古城は500年という年月の長さに頭を抱えそうになる。

そしてしばらく思考を続け女の方へと歩み寄っていく。

 

「あんたこの世界ならなんでもできるんだよな、それなら時間が進むのを遅くしたりできるんじゃないか?」

「そう来たか…」

 

女はひどく愉快そうに今までで1番大きな声で笑った。

 

「思い出すよ、那月もお前と同じことをここで私に言ってのけた。死や老化というものから半ば抜け出た者なら至る考えかもしれんが…師弟の血は争えんらしいな。お前がこの空間に耐えれる実時間はざっと2年だぞ?」

「2年か…どれくらいその時間を延ばせるんだ?」

「無限だが、1度定めてしまえば終わるまで解いたりはできん」

 

女は挑発的な視線で古城を見据える。

その目をじっと見ながら古城は覚悟を決めたようににやりと笑みを浮かべた。

 

「そうだな、200年。いや、400年に延ばしてくれ」

「那月の4倍か、生きて帰れるといいな。そういえば言い忘れたがお前の身体機能のほとんどは実時間と共に進むということを忘れるなよ」

「ちょっと待てどういうことか説明しろよ!」

 

古城は女の言葉が大きな問題を含んでいる気がして驚き慌てる。

その姿を見ながら最後に女は2つ言葉を付け足した。

 

「魔力の回復も傷の回復も実時間を軸として働くということだ。簡単に言えば魔力の使いすぎ、負傷の2点には気をつけろということだな」

 

「じゃあ行ってこい、生きて帰れたらアゼリアと呼ぶことを許可するぞ古城」

 

アゼリアが可愛らしく手を振る姿を最後に古城はまたどこか別の空間へと跳ばされていった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

古城がいなくなってから約2年、暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)は魔族同士の小さな小競り合いや軽犯罪は相変わらず後を絶たないが、特に大きな事件もなく平和を維持していた。

 

2年という短い時間でこの国で行われたことは多く、枚挙に暇がないがラ・フォリアらアルディギア王国や元獅子王機関の構成員たちの働きが大きかった。

 

まず手始めに特区警備隊(アイランドガード)、人口島管理公社の解体及び再編成が行われた。

これにより不穏分子を排除し、より優秀な人材を多く起用できるようになった。

 

特区警備隊(アイランドガード)はアルディギア王国の下、最新鋭の魔導兵器を導入し対魔族戦闘の訓練を施され剣巫、真射姫はもちろん魔族まで幅広く採用されている。

このことによる治安維持効果もあり、今では試験的に魔族登録証の廃止案が検討されるほどだ。

 

そして絃神島最大の問題ともいえる食糧問題は、工場栽培を始めとする画期的なシステムを導入することでほぼ解決された。

 

こうした国の発展の立役者たちは今日も相変わらず忙しそうに島中だけにとどまらず様々な国を飛び回っている。

 

「雪菜?来週の土曜日久しぶりにおやすみなんだけど…空いてたりしない?」

 

紗矢華は電話の向こう側の雪菜の返事をドキドキしながら待つ。

彼女はここ2ヶ月アフリカ諸国を飛び回った疲れを雪菜で癒そうと目論んでいた。

 

「すみません…紗矢華さん、私その日はアメリカに…」

「あぁぁ…やってられないわよこんな仕事…」

 

電話越しでも紗矢華ががくりと項垂れるのが雪菜には感じ取れた。

 

「まあまあ、来月に2人での仕事があるじゃないですか」

「え、嘘!?それほんとなの?」

「あれ…藍羽先輩から連絡いってないですか?」

「来てないわよ!」

 

紗矢華が怒りを露わにした瞬間、音声に若干の乱れが生じた。

 

「煌坂さん、来月12日から姫柊さんと仕事ね。今伝えたから、それじゃ!」

「え?ちょっと待って…って……雪菜と?ほんとなの?」

 

乱暴に電話へと割り込んできたのは浅葱だった。

彼女もまた暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)の発展に貢献した1人だ。

 

「よかったですね、紗矢華さん」

「ええ──」

 

再び音声に乱れが生じ、紗矢華の言葉が遮られた。

 

「ごめん、2人ともやっぱり今の仕事片付けたらすぐにさっき言った仕事に移ってくれる?まずいことになりそう」

「はあ…結局今月も私に休みはないってわけね…」

「頑張り時ですよ、紗矢華さん」

 

紗矢華にとって雪菜だけが癒しだった──




今回ちょっと話がややこしい?
これでもだいぶ読みやすくしたつもりですが…最悪理解出来なくても読み進めれるようにはしたはず…

さて、こないだのアスタルテ回?の反響がかなりよくて今回少しばかり文字数増量しました。

感想をくれれば文字数が増える(もうお分かりいただけただろうか、おなじみの感想乞食です)

追記 活動報告のほうで人口島管理公社と特区警備隊の新しい名前募集してるのでよければ案ください。ルビはこちらで考えます。

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第52話

連日の投稿は疲れますね…

若干いつもより長いと思います!


暗闇の中をただ底へ底へと落ちていくような感覚。

古城はエレベーターやジェットコースター特有の浮遊感だけを感じていた。

 

人間は特別な状況を除き、ほとんどの情報を視覚から得ている。

それ故視界を塞がれればたった1分でも1時間のように感じてしまうものなのだ。

そして、それは少なからず恐怖へと繋がる。

 

古城の精神を恐怖が蝕み始めようとしたところで浮遊感が消失した。

 

「着いたのか?」

 

思わず古城が発した言葉は暗くどこまでも続く空間によく響く。

視覚を奪われたことにより、普段より鋭敏になった聴覚がその残響音に違和感を覚えた。

 

「なにかあるのか…?」

 

自然と前へと歩み出た古城の腕が肘から切断され、後方へと飛んでいく。

その切断面が空気へと触れる痛みでようやく古城は何者かに攻撃されたことを悟った。

 

「痛ってぇな…、アゼリアが負傷に気をつけろとか言ってたのはこういうことかよ…」

 

いつもなら瞬時に出血が止まるはずの傷口からドバドバと血が溢れる。

危機感を覚えた古城は瞬時に時間を巻き戻して回復するか、傷口を塞ぐだけに留めるかの二択を考え魔力効率から後者を選択する。

地面から溶岩の杭を生成し、出血する傷跡をその側面へと押し付けるという荒療治で出血を止め、それと同時に切断された腕を霧化させることで状況把握を始めた。

 

「ったくマジかよ…魔獣みたいなのがわんさかいやがる。こんなとこで那月ちゃんは修行してたって、そりゃ強いわけだ」

 

自らの周囲を囲む無数の敵の存在に驚くでもなく、闘うことを諦めるわけでもなく少年は獰猛な笑みを浮かべ、その左腕から雷撃を放った──

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

オーストラリア南西部、浅葱からの連絡により受け持っていた仕事を早急に終わらせ合流した雪菜と紗矢華はカフェでひと時の休息を得ていた。

 

「で、私達まだなにも聞かされてないんだけど今からどこに行けばいいの…」

「紗矢華さん…それは藍羽先輩からの連絡がないと分かりませんよ、少なくともオーストラリアではないことは確かですけど」

 

紗矢華は雪菜に久々に会った数時間前こそ元気だったが、今はもうこの有様だ。

そんな2人の噂もあってか紗矢華のタブレット端末に浅葱から連絡が入る。

気だるげな紗矢華を横目で見てから、雪菜が浅葱の顔がよく見えるように二人の間に端末を立てかけた。

 

「揃ってるみたいね、仕事お疲れ様。って言ってもこれからも仕事なんだけど…」

「で、今回は何?聖遺物の調査や回収、聖殲の遺産の保護、破壊それより急な用事があるなら聞かせて欲しいんですけど?」

 

暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)は二年前の静寂破り(ペーパーノイズ)との闘いのあと獅子王機関が秘密裏に所有していた聖殲の遺産を破壊した功績により、聖域条約機構からその手の仕事を任されることが多いのだ。

 

「なんであなたはいつもそんなに喧嘩腰なのよ…」

「まあまあ、紗矢華さんも藍羽先輩も落ち着いてください、暁先輩がいなくて寂しいのは分かりますから…」

「「そんなこと言ってないでしょ!?」」

 

偶然にも紗矢華と浅葱の声が重なる。

それに恥ずかしさを覚えた2人は再び仕事の話へと戻った。

 

「聖域条約機構とは関係なくてあくまでもうちの情報網に引っかかっただけ、なんの確証もまだないんだけど少し危なそうな国があるのよね」

「あんなしょぼい組織よりあなた1人の情報収集能力の方が優れてるのは知ってるわ、詳しく教えてくれる?」

 

なにかと対立することが多い2人だがお互いにしっかりと実力は認めあっている。

現に浅葱の情報収集能力はあらゆる国家、組織を1人で凌駕してしまうのだ。

彼女が気になると言えば、紗矢華たち現場のものとしては嫌でも動かざるを得ない。

 

「ナウル共和国って知ってる?」

 

浅葱の説明を受けながら2人は航空機で目的地へと移動する。

 

そしてナウル共和国へと降り立った。

この国は国土面積が21キロ平方メートルでありバチカン市国、モナコ公国に次いで3番目に小さく、人口も約10,000人とこれまた3番目に少ない。そして諸々の事情により不安定な状態が続いている島国だ。

 

「さて、仕事仕事頑張るわよ雪菜!」

「は、はい」

 

紗矢華が航空機の中で怖がる雪菜を抱きしめ続け、たっぷりと雪菜成分を補給したことを当の本人が知る由もなく、ただいきなりやる気を出し始めた先輩に雪菜は首を傾げる。

そんな雪菜の隣で慣れた手つきでタブレットを操作していた紗矢華の手がふと止まった。

 

「どうしたんですか?紗矢華さん」

「雪菜…雪菜…、今すぐ!今すぐ私の上に!」

「はい?」

「私を踏んでもいいから早く!地面から離れて!」

 

急に慌てだした紗矢華の手からタブレットが落下する。

その画面へふと視線を落とした雪菜は苦笑を浮かべた。

 

「この島…珊瑚礁の上に鳥の糞が重なって出来てるんですか…ちょっと嫌ですね。でもそれも今は大丈夫みたいですし、早く行きましょう」

 

画面に表示される記事に目を通した雪菜はそそくさと街の方へと歩いていってしまう。

そしてそれから5時間ほどで島中を隈無く回り、情報収集に務めた。

 

「大したことは分からないわね、小さい国だから少しくらい情報があってもいいと思うんだけど」

「そうですね…でも藍羽先輩も確かな情報じゃないと言っていましたし、なにもなければそれでいいじゃないですか」

「そうなんだけど…なにか引っかかるのよね…」

 

紗矢華はこの島についてからの5時間で起きたことを思い出し頭を整理していく。

今回この国へと来た理由は過激な宗教団体が生まれているという噂の真偽を確かめるためだ。

 

しかし、昔こそリン鉱石の売上で巨万の富を得ていたナウル共和国だが今はその資源も底を尽き魚を捕ったりとかなり原始的な暮らしを送っている。

そんな場所で過激な宗教団体ができるというのも不思議だが、なによりそんな組織があったからといって彼らになにかができるはずもないのだ。

 

そこまで考えてから紗矢華は思考を放棄し、雪菜とともに浅葱が事前に借りたホテルへと向かった。

 

 

 

「なんで部屋がひとつじゃないのよ!」

 

ホテルへと着くなりそんな怒鳴り声を上げたのは紗矢華だ。

浅葱なりに気を利かせて部屋を1人ずつ取ってくれたのだが、紗矢華はそれが気に入らなかったらしい。

 

「そう言われましても…二人部屋はもう満室で…」

「紗矢華さん、いいじゃないですか隣の部屋なんですから」

「隣の部屋…そうよ!壁を煌華鱗でブチ抜いてやればいいのよ!」

 

紗矢華はさも名案を思いついたとばかりに高らかにそう宣言したが、ホテルの支配人の顔色が真っ青になっていくことを見て自らがとんでもないことを口にしたことに気づいた。

 

「す、すみません!用意していただいたお部屋はしっかり常識通り使わせていただきます!失礼します!」

 

固まってしまった紗矢華を無理やり引っ張り恥ずかしそうに雪菜が部屋のある2階へと上がっていく。

されるがまま引っ張られる紗矢華を自室へと投げ入れ、扉を閉め雪菜は恥ずかしさを晴らすかのようにいつも通り紗矢華へと説教を始めた。

 

「紗矢華さん!これで17回目ですよ!部屋が違うからってホテルの人が怖がるようなこと言わないでください、恥ずかしいんです!大体紗矢華さんは──」

 

そんな雪菜の説教を小一時間ほど耐えに耐えた紗矢華は精神に深いダメージを負い、用意された自室へと戻りユニットバスへ湯を貯めそこに身を沈めた。

 

「はあ…雪菜に嫌われた…」

 

この世の終わりのように紗矢華は天井を虚ろな目で眺め続ける。

そのまま彼女は逆上せてしまい、程よく温くなったお湯の中で心地よい眠りへとついてしまう。

 

「ぐっ…うぶぶっ!?──っはぁ!」

 

寝ながら顔を水につけてしまった紗矢華は奇妙な声を上げながら顔を上げて新鮮な空気を思いきり吸った。

 

「もしかして、寝てた?」

 

任務中に気を抜いて寝る自分に嫌気がさしながら、紗矢華は手早くシャワーを浴び身体を拭き髪を乾かし整える。

服を取りに行くために浴室から出た時、紗矢華は真下から異常な魔力を感じ意識が一気に覚醒した。

 

「──っ!転送系の魔術、それもかなり大掛かりなやつ!まさか…」

 

そんなことを言い出すより早く、紗矢華は煌華鱗による擬似空間断裂の能力により自分の部屋の壁を切り裂く。

部屋の外に出てから雪菜の部屋へ向かうのでは間に合わないと判断したのだ。

 

「雪菜!大丈…夫?ってもう!」

 

雪菜の部屋にはただ雪霞狼が白い光を放ちながら床へと突き刺さっているだけ。

それを見て紗矢華は全てを悟る。

雪菜は紗矢華より早く異常事態に気づき、対処しに行ったのだ。

 

「もう!最悪…なにやってるのよ私は…」

 

雪菜と一緒に任務に当たるときに舞い上がって単純なミスをするのは自分の悪い癖と紗矢華も分かっているのだが、簡単に直せるものでもない。

自分を守るために雪菜が突き刺していったであろう雪霞狼を見ながら紗矢華はせめて今出来る最大限のことをするために動き出した。

 

「転送魔術そのものを止めるには時間も道具も足りない…だとしたらやれることはこの魔術の転送範囲の計算から転送先の決定…」

 

紗矢華は1人ぶつぶつと呟きながら演算を始める。

そして一瞬でそれを終わらせ、すぐさま転送先を把握するための魔術を構成しにかかった。

 

「龍脈を起点とした転送魔術…、効果範囲はきっちりこの島ひとつ分。これだけのことを出来る人が安直に1回で目的地まで転送させるはずはないから…探査系魔術を多重構造に変換、間にダミーの解呪魔術を噛ませて──」

 

紗矢華が魔術を構成し終わるのと、同じタイミングで島が淡い光に包まれていく。

そして次の瞬間、地図上から1つの国が消え海に残ったのは雪霞狼のおかげで転送魔術の影響を免れた紗矢華とホテルの建物だけだった──

 




前話でも言いましたが活動報告の件よければお願いします^^*

また、おそらく夜にオリジナル作品を試しに載せると思うのでよければ読んで感想とかください( ̄▽ ̄;)

こっちの感想もめちゃくちゃ待ってます!

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ex:『獅子王の姫巫女の苦難』

GWいかがお過ごしでしょうか。

作者は休みなしで死にそうです。

30分ほどで書いたので文章おかしいかも知れませんがあまり気にせず…

本編は週末更新の予定です。


古城がアスタルテを連れ、姿を消してから約1ヶ月。

残された雪菜、紗矢華、浅葱を始め古城の周囲の人間は寝る暇もなく働くこととなった。

 

元々多少他人よりどこか1つか2つ程度出来ることがあるだけで、彼女らとてまだ学生。

急に小さいとはいえ、国1つを運営しろと言われても無理な話なのだ。

 

そんな彼らの前に現れた救世主が北欧アルティギア王国第一皇女たるラ・フォリア・リハヴァインだ。

彼女の類まれなる経営手腕の才能と生まれ持ったカリスマ性のお陰か、他国や他組織に頼ることは多いが、どうにか国家運営を軌道に載せられていると言ってよい水準を維持できるようになっていた。

 

しかし、ある程度の成功の裏には功労者が存在し、そこには少なからず負担が生まれるものなのだ。

そして、そんな負担を被っている少女2人は久々の休暇を満喫しようとしていた。

 

事の発端は3日前、世間がGWという至福の時を過ごしている中デスクへと向かい愚痴をこぼしながら仕事をしていた紗矢華に基樹が

 

「お前ら頑張ってるから、最終日くらい1日休みとってもいいぞ。オレらでなんとかしておくし」

 

と言い紗矢華の下に9月まで訪れる予定がなかった休日が舞い込んだことが原因だ。

 

朝9時頃、GW最終日ということもあってか辺りを歩く人は疎らだ。

最長9、10連休ともなれば最後の日は休みが終わってしまうという喪失感と次の日から始まる日常への倦怠感に苛まれながら時間を浪費する人が多いのだろう。

 

「すみません、紗矢華さん。遅くなりました」

 

そう言いながらかわいらしく清涼感のある水色のワンピースで駆け寄ってくるのは後輩の姫柊 雪菜だ。

 

「ううん、大丈夫。私も今来たところだから」

 

紗矢華は雪菜と会えると思うと前日から眠れず、挙句の果てに待ち合わせ時間の1時間半前からこの場所にいるのだがそんなテンプレートのようなセリフを平然と言ってのけた。

 

が、しかし元ルームメイトである親しい後輩の雪菜はそんなことはお見通しだった。

5月初旬といえど絃神島は常夏の島。

昼間には35度を越えることなどよくあることだ。

そんな中長く外でたっていれば疲労を感じるのは想像に難くない。

そして紗矢華の身体は今や吸血鬼、見るからにいつもよりしんどそうなのだった。

 

「走ってきたせいで喉が乾いたので、朝ごはんもまだですし…どこか喫茶店にでも行きませんか?」

 

そんな紗矢華の姿も雪菜にとっては、もうご愛敬。

紗矢華を傷つけず、休ませるために気を利かせてそんな提案をする。

 

「そ、そうね。朝ごはんは大事よね!」

「あはは…」

 

こんな調子で紗矢華の身体は大丈夫なのか、そんな心配を抱えながら雪菜は彼女を近場の喫茶店へと連れて入る。

紗矢華がアイスコーヒー、雪菜がアイスティーを

そして2人でクラブハウスサンドをひと皿頼み、それを挟んで久しぶりの会話に花を咲かせる。

 

「そういえば、紗矢華さん。最近その服着ていることが多いですね」

 

雪菜がなんとなく指したその服とは、紗矢華が羽織っている薄手の白パーカーのことだった。

 

「え!?」

「あっ…」

 

紗矢華の反応を見て雪菜は自分が少し無神経であったことに気づく。

白いパーカーを着ている人間と言えば2人の周りに1人しかいないからだ。

その人物に紗矢華が感化されていることは言うまでもなかった。

 

「私達『擬似吸血鬼』ですもんね、日光遮りたいって気持ちは分かりますよ!あ…」

 

咄嗟にフォローを出したつもりの雪菜だが、またしても自らの失態に気づいてしまう。

どちらから言い出したわけでもないのだが、古城の話はタブーという暗黙の了解のようなところがあったりする。

というのも、いざ古城の話となるとどちらも止まらなくなるのだ。

 

このままでは雰囲気が悪くなると判断した紗矢華は残りのサンドイッチを鷲掴み、口へとぶち込みアイスコーヒーで流し込んだ。

 

「雪菜、早くどこか行きましょうか。せっかくの休みなんだから時間を持て余す暇なんてないわよ」

「そうですね!」

 

支払いを終え、逃げるように喫茶店からでた2人は街を歩いていく。

 

しかし、どこへ行ってもお互い古城との小さな思い出が沸き起こってしまう。

 

「はあ…疲れるわね。この島ちょっと狭いんじゃない?」

「島に文句言わないでくださいよ、紗矢華さんったら…」

 

どっと疲れてしまった2人は顔を見合わせ笑い合う。

 

「仕方ないわ、今日はあのバカの愚痴でも言い合いましょうか」

「そうですね、お菓子とか買って帰──」

 

そんな雪菜の言葉を遮ったのは同時に鳴り出した携帯端末だ。

電話の主は藍羽 浅葱。

もう悪い予感しかしなかった。

 

「2人とも、仕事頼める?基樹のやつが勝手に休みにしたみたいだけど、人手足らないから!」

 

2人は同時に深いため息をついた。

 

「外の仕事にしてくれる?」

「私も当分はこっちでの仕事は…」

 

絃神島にいる限り古城のことをどうしても思い出してしまうのだ。

 

こうして2人の短い休日が終わり、姫巫女たちは日常へと帰っていった──




紗矢華と雪菜はこれ以降ずっと海外を飛び回って…ます苦笑


感想評価等お願いします。

お暇な方はつまらないオリジナル作品にも目を通していただけるとありがたいです。

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第53話

長らくお待たせしました…

色々考えること多くてなかなかだせなくて申し訳ありません!

UA60000超えありがとうございます!
本編長めにしておきました。

6/10に原作の新刊がでるみたいですが、原作は原作これはこれで楽しんでいただけると嬉しいです。


絃神島、またの名を暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)

常夏の島であり、今は4月下旬。

平均気温は30度前半、最高気温になると30度後半にもなる。

 

そんな暑さに似合わぬ声がオフィスに谺響した。

 

「寒っむい!ってそれどころじゃなくて、早急に迎えを寄越してくれる!?」

 

声の主は紗矢華だ。

 

「もう手配済み、それよりごめん…私のせい」

「あなたを責めてどうにかなるならいいけど、そうじゃないでしょ。それに、これは私のミスだから」

「うん…」

 

いつもなら紗矢華に対して強気に接する浅葱だが、彼女にとって雪菜がどういう存在であるかを知っているため、申し訳なさで胸が張り裂けそうになる。

そんな浅葱を気遣ってか紗矢華はこれからのことへと話を変えた。

 

「場所の目星は付いてるから直行するつもりなんだけど、誰か手の空いてる人はいる?」

「長くなりそう?」

「2日でいいわ」

「じゃあ、少し待ってて探してみる。あと、例のやつなんだけど間に合えば後から送る」

 

 

浅葱とのそんな少しの会話から数時間後、紗矢華は迎えの装甲飛行船ランヴァルドの中で思わぬ人物と再会を果たした。

 

「久しぶりだね、煌坂さん!雪菜ちゃんが攫われたって聞いていてもたってもいられなくなっちゃって来ちゃったよ。最近雪菜ちゃん学校にも来ないし、何してるんだろうって思ってたらいきなりこんなことになっちゃうなんて…」

「凪沙ちゃん…?もしかしてあなたが増援?」

 

紗矢華は露骨に心配そうな顔をしながら目の前に立つ少女にそう尋ねた。

 

「煌坂さん、もしかして私がなにもできない足でまといだって思ってるでしょ?」

「申し訳ないけど、その通り。厳しいことを言うけど素人がどうにか出来る問題じゃ──」

 

紗矢華の口に笑いながら指を宛てがいながら、凪沙は自慢気に口を開く。

 

「私だって古城くんの妹。いつまでも守ってもらってばかりじゃ困るからちゃんと頑張って修行?してるんだよ?もちろんまだ雪菜ちゃんには程遠いけどね」

「あなた…もしかして剣巫の訓練を?」

 

紗矢華の問に笑った凪沙の顔が答えだった。

彼女は古城がいなくなり、獅子王機関から多くの剣巫や真射姫がやってきてから日々剣巫となるための訓練を積んできたのだ。

 

凪沙には元から巫女としての類まれなる才能があるため、彼女が剣巫への適正があることは当たり前だった。

 

「そう、戦場(ここ)に来たっていうことは師家様の許可もあるのよね?」

「もちろんだよ」

「師家様、厳しかったでしょ?」

「あはは…」

「すぐ忙しくなるわよ、今はゆっくり休んでおきましょう」

 

紗矢華は凪沙のことを認めたのか、いつもの優しい後輩思いの彼女へと戻った──

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「──っ!」

 

転移魔術の余波で気を失っていた雪菜は目を開けるや否や、腕を使い大きく跳躍し周囲を警戒する。

 

辺りを見回しても見えるのは、気を失っている島民の姿とつい数時間前と何ら変わらない街の風景だけだった。

一見まるで何事も無かったかのように思えるが、雪菜は一つだけ明らかにおかしい事があることに気がついた。

 

「空がない…?単純に別の場所へ飛ばされたのではなく、空間ごと転移させられた?」

 

紗矢華や優麻と違い、魔術に疎い雪菜は考えることをやめ周囲の探索にあたる。

 

小さな島を1通り巡り、紗矢華と泊まっていたホテルのみが転移を免れていることを確認した雪菜は現状分かっていることを1人整理していく。

 

「この島は今回の事件に何も関係ないと考えるのが自然…、ということはこの島、あるいはこの島の人たちを使って何かを企てている者がいる…」

 

自らのやるべき事をこの事件の黒幕を明らかにすることと位置づけた雪菜が立ち上がったとき、急に背後から足音がした。

 

「誰ですか?すぐに姿を見せてください。でなければ、こちらから危害を加えることになりますよ」

 

瞬時に元いた場所から5mほどの距離を取り、音の方へと身体を向けた雪菜の前に現れたのは優しげな1人の神父だった。

 

「申し訳ありません、驚かすつもりはなかったのですが…」

「あなたは?」

「混沌界域の国境付近に位置する小国のしがない神父です」

「そんな方がどうしてここに?」

 

神父の一言で雪菜の警戒レベルが最大まで引き上がった。

中央アメリカ付近に位置する混沌界域付近の国がこの島にいることは有り得ない。

唯一布教や旅行目的という線もあることにはあるが、紗矢華と2人で島を調べた時点で把握しきれていないはずがないのだ。

 

「そうですね、それはこの空間を私たちが作ったからですよ」

「何のためにこんなことを?」

「姫柊 雪菜さん、あなたに会うにはかなりの手続きを踏まなければいけない。私達は可及的速やかにあなたに会う必要があった」

「それはどういう──!?黄金の獅子(レグルス・アウルム)!」

 

話の途中で多数の獣人に囲まれた雪菜は咄嗟に眷獣を召喚しようとする。

が、腕からは魔力が少しばかり放たれただけで雷光を纏った獅子が現れることはなかった。

 

「亜空間では眷獣の類いは使えなくなることがある。よもやお忘れですか?」

「くっ──、(ゆらぎ)よ──!」

 

呪力を限界まで増幅した雪菜の掌が獣人の身体へと繰り出される。

 

七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)を置いてきたのは間違いでしたね、ここにいる獣人はただの獣人にあらず。あなたの身柄を拘束させていただきます」

 

神父の不敵な笑みが雪菜の瞳へと映った瞬間、剣巫の未来視での先読みを越える速度で獣人の手刀が雪菜の首元へと放たれる。

その一撃で雪菜の意識は一瞬にして刈り取られた──

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

暗闇の中、視覚以外の感覚をすべて使ってゼロコンマ数秒ごとに目まぐるしく変わる周囲の状況を把握し続ける。

前後からの刺突、斬撃を横に身を捻ることで避け、追従する左右からの攻撃を上への跳躍で躱し、ときに金剛石の盾を張り、次元喰い(ディメンション・イーター)の空間断裂により防ぐ。

 

次々と身体を埋め増え続けていく生傷は治る気配を見せず、そこから刻々と身に宿る残り少ない魔力が漏出していく。

 

身も心もボロボロになりながら、それでも少年は迫り来る魔獣の群れを屠り続けることをやめない。

ただそれだけが自分のなすべきこと、存在理由であるように。

 

そんな少年の耳に不意に懐かしい声が聞こえる。

 

「どうして、そんなボロボロになるまで続けるんですか?」

 

その声は綺麗な黒髪を持つ人形のように美しい少女の声に似ていた。

 

「姫柊…」

 

本能のままに魔獣に力の奔流を叩きつける少年の感情の色を映さない無表情だった眼に微かな光が宿る。

 

「それは…もう見たくないから、オレの目の前で誰かが傷つくところは見たくない。だからこそ、全てを守れるくらいオレは強くならなきゃいけないんだ」

 

自らに言い聞かせるように、幾度となく発したものと同じ言葉を口にする。

 

「先輩、力に振り回されていてはダメですよ。力は制御し、振るうものですから」

 

彼女のその言葉を皮切りに古城の闘い方が激変する。

荒削りのセンスに頼りながらも、時間が経つごとに最低の魔力で最大の効果を得れるように動きが洗練されていく。

 

その闘い方に満足がいったように小さく笑った少女は最後に

 

「助けて…」

 

と囁いた。

 

 

それから300年の時が過ぎ、古城はなんとか生きたままアゼリアの元へと戻った。

 

「ほう、400年間生き延びたか。こちらでは2年かなり退屈な時間だったぞ?」

「うるせーよ…こっちはもうほとんど魔力がなくて死にそうだってのに」

「警告、生命維持が困難なレベルです。早急に血液の摂取を」

 

抑揚の少ない声を発しながら近づいて来たのはアスタルテだ。

 

「アスタルテか?髪伸びて、元に戻ったのか…短いのも可愛かったのにな」

 

アスタルテの滅多に変えることのない表情が驚きの色を帯びる。

古城は自分の手さえ見えない暗闇の中、離れたアスタルテの髪の長さを言い当てたのだ。

 

「どうやら、死にかけた甲斐はあったようだな。内なる眷獣の声に頼り闘うことをやめたか。那月の守護者は使えるようになったのか?」

「なる訳ねぇだろ…あんな魔獣みたいなのがわんさかいる所で」

「違いないな、強くなったのだから文句は言うな」

 

アゼリアと言葉を交わす中で古城はふと声のことを思い出した。

 

「なあ、アゼリア。むこうで姫柊の声が聞こえた気がするんだけど、気のせいか?」

「興味深いな、お前の気のせいという可能性もある。だがそれはこちらの世界に存在する、姫柊雪菜という女の要素がお前に引き寄せられ一時的に形を成したのだろう。姫柊雪菜で思い出したが、もうすぐ表の世界で面白いことが起こりそうだぞ?」

 

アゼリアの物言いに古城は一瞬硬直する。

 

「どうもめんどくさいやつらに目をつけられたらしい。あの娘の体質では仕方ないことだがな」

「どういうことだ!?教えろよ!」

「そう怒るな、自ら助けに行けばいいだろう?」

「どうやって行けって──」

「私もそこまで非情でもない」

 

古城の言葉を遮りながらアゼリアはそう言うと目の前に光る球状の物体を創り出した。

 

「これは?」

「空間転移系魔術と推測」

 

古城の問にアスタルテが淡々と答える。

 

「お前が那月を取るか、大事な女を取るか見物だろう?」

 

アゼリアは古城にとっての究極の二択とも言える問いを投げかけてくる。

どちらを取ればいいか、明確な答えを得れないまま黙り続ける古城に代わりアゼリアへと口を開いたのは隣にいるアスタルテだった。

 

「私が行きます。古城は…那月ちゃんの救出(セーブ)を──」

 

アスタルテが一瞬の間に予想外の言動を重ねたせいで古城の反応が遅れる。

 

「そうだな…アゼリアを説得して那月ちゃんを助けてオレもすぐ行く。頼むぞ、アスタルテ」

命令受託(アクセプト)

「それと、ご主人様のことをちゃん付けで呼んでいいのか?あとでチクっておいてやるからな」

「──それは困りました…」

 

しばらくの沈黙のあとボソリとそう呟いたアスタルテは見たことのない笑顔でアゼリアが作った光の中へと消えていった。

 

「さてと、アゼリア。オレを那月ちゃんのところまで届けてくれるか?お前ならできるだろ。無理って言っても──」

「よかろう」

「だから、無理って言ってもってあれ?今、いいって言ったか?」

「もちろんだ、あの人工生命体(ホムンクルス)の尊い決断に免じてな」

 

アゼリアはまたしても目の前に光る球状の物体を生成する。

 

「ほら、早く行け。間に合わなくなるぞ」

「そうだな、行ってくるよ。短い間だったけど色々世話になったな。また来るからさ、それまで消えるなよ」

「社交辞令であっても嘘は好かんな」

 

古城は光の中へと身体を入れる。

そして最後にアゼリアの方へと振り返った。

 

「嘘じゃないさ、必ずアゼリアのことも助けにくるからな」

 

そう口にした少年が消えてからアゼリアは彼がいた場所を見つめ続けながら心底面白そうに笑い続けた──

 




最近感想が増えてありがたいのですが…評価がなかなか貰えないのでお暇な方は評価もしていただければと思います。

拙い文章ですが、いつも読んでいただき本当にありがとうございます!

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第54話

今回、色々新しい単語が出てきてるので明日以降キャラ紹介の方にまとめますね。
とりあえず今日は更新だけ


装甲飛行船ランヴァルドに搭載された4基のターボプロップエンジンが駆動する微かな音を耳に、来る闘いに向け2人の少女が仮眠室で寄り添って寝息を立てる。

 

そんな2人を非日常へ誘うかのように船内へ、到着まで1時間となったことを知らせるブザー音が響きアナウンスが始まる。

 

「現在、混沌界域中心部上空を飛行中。目的地到着まで残り59分47秒です」

 

機械的な抑揚のないアナウンスを耳にした紗矢華は気だるげに起きると未だ隣ですやすやと眠る凪沙へと目を移した。

 

「ごめんね、凪沙ちゃんをこんな危険なところに連れてきちゃって」

 

眠る凪沙の頭を憂うように撫でながら紗矢華は自分の選択にほんの少し後悔の念を抱いていた。

不確定要素の高い場所へは基本的にツーマンセルかスリーマンセルで行くことが常識だ。

理由は2つ、生存率を高めるという当たり前のものと最悪誰か1人を犠牲に逃げ帰り、情報を共有し戦果がゼロになることを防ぐというもの。

 

これらの理由から紗矢華は浅葱に人員の手配を頼んだ。

紗矢華は魔術に強い優麻や、戦力として有り余るラ・フォリアが来ると踏んでいたがどうやら戦闘員の人材不足は否めないらしく、やってきたのは半人前の凪沙。

彼女は凪沙を自分1人で守り切れるか不安だった。

 

「凪沙ちゃんには擦り傷1つ負わさないから…」

 

紗矢華は最後、自分に言い聞かせるようにそう呟くとすやすやと眠っている凪沙の頬を軽く抓った。

 

「いつまで寝てるつもり?用意始めるわよ」

「むぐっ!?…用意?」

 

寝ぼけ眼で紗矢華の方を見る凪沙はいまいち状況を把握出来ていない。

そんな後輩に苦笑しつつ、紗矢華は淡々と自分の装備を確認しながら説明を始める。

 

「聖域条約機構に加入してる混沌界域の上空は事前に話を通してあるから問題なく飛べるんだけど、今から行く場所はそうじゃないから領空侵犯にならない国境ギリギリでエアボーンを──」

「エアバーン?」

「エアボーン…。簡単に言えばこの飛行船から飛び降りるの」

「飛び降りる!?でも、私パラグライダーとかパラシュートとかやったことないしさすがにそれは無理だと思うよ…?」

「そんなことしてたら、いい的でしょ。生身で一気に降りる、凪沙ちゃんは私が背負うから何も心配しなくても大丈夫よ」

 

凪沙は紗矢華の予想外の返答に思考が追いつかなくなる。

そんな彼女を他所に紗矢華は装備を完全に整え終わり凪沙の方へと向き直った。

 

「武装は何かある?」

 

紗矢華の口から放たれたのは必要最低限の質問。

つい少しばかり前の女の子の紗矢華から完全に真射姫としての紗矢華へと変わっていた。

 

「支給されてる八式降魔剣・改(タウゼント・シェーン)と呪式銃が2丁かな?」

「ダウングレードされた量産型の八式降魔剣・改(タウゼント・シェーン)…」

 

紗矢華は凪沙の装備を見ながら微妙そうな顔を浮かべる。

この2年で暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)の組織構造は大きく変わり、特区警備隊(アイランド・ガード)の後続として新たに帝国管理局(インペリアル・ヤード)の下、帝国保安部(インペリアル・ガード)が発足した。

帝国保安部(インペリアル・ガード)は一般人から選出された大規模な第1部隊、魔族と攻魔官から構成された対魔族スペシャリストの第2部隊、そして有事の際に要となる剣巫や真射姫、魔女に高等魔族など戦闘力が高く、特殊な能力者で成る第3部隊といった3部隊に別れている。

 

八式降魔剣・改(タウゼント・シェーン)はそんな帝国保安部(インペリアル・ガード)の剣巫たち用に新たに開発された量産型降魔剣。

コストを抑え、量産という点にのみ重きを置いたため能力は擬似空間断裂による切断能力に限られるあまり前線向きとは言えない武装なのだ。

 

「迷ってても仕方ないわね、危ないと思ったらすぐに逃げるのよ。約束して」

「分かってるよ、頑張りこそするけど無茶だけはしないつもりだから」

「そう、じゃあ行きましょうか」

 

紗矢華は凪沙に装備の入ったギターケースを背負わせるとその小さな身体を片手で抱え、一際大きな窓を開け身体を宙へと踊らせる。

機外へと出た2人の身体に例外なく物理法則が働き、自由落下を始める。

 

「へ…?えぇぇぇぇぇっ!?」

 

グングンと速度を増し、風圧で目が開けられなくなりながらも地面が近づいてくるのが本能で分かる。

 

「先に降りるわね、凪沙ちゃんは普通に落ちてきてくれればいいから。受け止めるのは任せて」

 

そんな言葉を凪沙の耳元で囁いた紗矢華は腕に抱えた小柄な少女を離し、頭を下向きにより加速を続ける。

 

「無理無理無理無理、無理だよ!?」

 

凪沙の声は遠く離れた紗矢華に聞こえるわけもなく、紗矢華が地上へと激突する凄まじい音だけが聞こえてくる。

その音による恐怖で一瞬冷静になった凪沙は自らの死を受け入れる。

 

「死ぬ前にオムライスが食べたかったよ…」

 

地面へとぶつかる寸前、凪沙はそんな素朴な願いを口にし衝撃へと身を固めた。

次の瞬間、圧倒的な下向きの力がより強引な横向きの力に干渉され何事も無かったかのように落下が終了する。

 

「大げさよ、これくらい」

 

目を開けると紗矢華が煩わしそうに髪の毛を整えている。

そんな姿を見て凪沙は自分が紗矢華に助けられたことを理解した。

 

「そういえば、どうやって受け止めたの!?」

「簡単よ、下に落ちてくるんだから下から斜め上に飛んで受け止めればいいでしょ?」

「そ、そうかな…」

 

凪沙は紗矢華のとんでも理論に驚きを隠せない。

 

「雪菜ちゃんが紗矢華さんはたまにすごいことするって言ってたけどこれかー…」

「何か言った?」

「ううん、大丈夫大丈夫、あはははは」

 

頭を抱える凪沙といつも通りの紗矢華はそのまま国境を抜け、紗矢華の探査魔術の信号を頼りに先へと進む。

 

「この辺りってどこの国なのかな?危なそうなところだけど」

夜の帝国(ドミニオン)の国境はどこもよく分からないところが多いからどうかしら。聖域条約機構に非加入っていう点で怪しい所なのは間違いないわね」

 

 

それきり大した会話も無く歩くこと数時間、遂に2人は紗矢華の探査魔術が示す場所へと到着した。

 

「おかしい…島1つ消えたのにここにはなにもないなんて」

「見渡す限り、岩が転がってるだけだね」

 

凪沙が疲れたのか近くに転がっていた少し大きめの岩へ腰掛ける。

すると地面がゴボゴボと盛り上がり始めた。

 

「え、なになに!?私何かしちゃった!?」

「知らないわよ、そんなこと!」

 

騒ぎながらそれぞれの武器を構える2人の周囲に地中から無数の食屍鬼が現れる。

数千を超える食屍鬼は本能の赴くまま2人の方へと走る。

 

「紗矢華さん…あれ、ゾンビ…?」

「食屍鬼ね、この辺り集団墓地かなにかだったみたい。基本的に食屍鬼は四肢が無くなるまで動き続けるから遠慮なく叩き切って!」

 

凪沙に最低限のアドバイスをした紗矢華は食屍鬼へ向かい走り出す。

瞬時に煌華鱗を展開し、鏑矢を上空へ放つこと2回。

人間の声帯では詠唱不可能な高等魔術が放たれた。

空から無数の雷撃が放たれ、疾風が吹き荒れ、無数の食屍鬼がその場に倒れるが、後続の食屍鬼がそれを越えて次々と押し寄せる。

 

「キリがない…」

 

不安そうに周囲を見回す凪沙を横目に、紗矢華は残りの鏑矢の数と迫り来る食屍鬼の数を見比べる。

残りの鏑矢での殲滅が不可能と判断した紗矢華は煌華鱗を弓から剣に戻し逃走ルートの確保へと動きはじめた──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

アゼリアの作った白い光のゲートを通り、古城はひたすら下へと降りていくような感覚を覚える。

やがてその感覚も消え、足元が硬いものへと当たった。

 

「さっきいたとこと何も変わらないけど、ほんとにこんなとこに那月ちゃがいるのか?」

 

古城の声が広く響き渡る。

その響き方に微かな違和感を感じた古城は違和感の方へ歩み寄る。

 

「随分といい身分になったな、どれだけ待ったか」

 

古城の耳にそんな懐かしい声が聞こえてきた。

 

「それとだな、教師をちゃん付けで呼ぶなこのバカ真祖」

 

古城を背後から容赦のない蹴りが襲う。

そんな理不尽な攻撃をした人物は南宮 那月。

従来の子供らしい小さく可愛い姿ではなく、年相応の色香をまとう本来の姿だ。

 

「久しぶりなのにその仕打ちはないだろ…」

「久しぶりか、お前はせいぜい数年しか経ってないはずだろう?」

 

古城は那月の言い方に疑問を持つ。

 

「お前はって那月ちゃんは?」

「そうだな…ざっと2000年か、こんな何もない空間でひたすら来るか分からんバカな教え子を待つ教師の気持ちも察して欲しいな」

「2000年!?そんなのどうやって耐え…ってか、なんでそんな長い時間──」

 

次々と疑問を投げつけてくる古城の口を拳で塞いだ那月はもう片方の手で隣を指差す。

そこにはボロボロになった静寂破り(ペーパーノイズ)と思われるモノが転がっていた。

 

「2000年という時間に耐えられなかったあいつはあのザマだ、色々と有益な話を聞いたのもだいぶ昔のことに感じるな。そのことも含めて色々と話した後、いい加減ここから出してもらおうか」

 

にやりと那月が嬉しそうに微笑んだ──




前回の更新から評価、感想ありがとうございます!
おかげさまで評価バーが真っ赤に染まってくれました^^*

感想、評価は物凄くやる気に繋がるのでお暇な方はこれからもどんどんお願いします!
質問でも構わないので!

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第55話

久々に日間ランキング載らせていただきました!(5位は最高記録タイ)
そして、2日でお気に入り数が30以上増え…お気に入り数が400を越えました!
ありがとうございます!
これからも自分なりに頑張って書いていくので駄文ですがよろしくお願いします。

さて、今回久しぶりに登場する方がベラベラ喋ります。
寂しかったんでしょう。察して上げてください。
そして、かなりのご都合展開…です。


周囲から際限なく湧き続ける食屍鬼の群れを強引に切り崩しながら、混沌界域国境の方向へと突き進む紗矢華と凪沙の2人はあと数100メートルという所で苦戦を強いられていた。

 

初の実戦投入ということもあり、凪沙は既に満身創痍。

おまけに対多数の戦闘で圧倒的アドバンテージを持つ頼みの煌華鱗の残弾数はたったの2矢。

もはや2人が食屍鬼の餌食となるのも時間の問題となりつつあった。

 

「煌坂さん…」

「なに?今、悠長にお喋りしてる暇はないと思うんだけど」

「うっ…」

 

凪沙は鬼気迫る紗矢華の迫力に押され喉元まで上がっていた言葉を飲み込む。

そんな彼女の反応に紗矢華は何か思うところがあったのか、前方の5体を一太刀で切り伏せるとバク転の要領で凪沙の元へとやってきた。

 

「ごめん、何かあるなら遠慮なく言って?戦場で上下関係なんて気にしてたら足元をすくわれるわ」

 

凪沙の目に一瞬、迷いの色が映る。

しかし紗矢華の先輩としての言葉に後押しされ飲み込んだ言葉が彼女の口から放たれた。

 

「私のことは気にしないでください…。私のせいでどっちも死んじゃうなら、どっちか片方が死んだ方がいいよ。煌坂さん1人ならなんとかなるはず…」

「あなた…」

 

紗矢華は一瞬自分が命の危機に晒されていることも忘れ、驚きの目で凪沙を見つめる。

確かに凪沙の言う通り、紗矢華だけなら逃げ帰ることはギリギリ可能だろう。

だが、それが凪沙を見捨てていい理由にはならないのだ。

 

「凪沙ちゃん、私ね最初あなたが増援として来た時はっきり言って足でまとい、半人前だと思ったわ。あなたの言う通り、私1人の方がいいと思った」

「え…」

 

紗矢華の容赦のない言葉が凪沙の純粋な心を深く抉る。

 

「でもね、師家様のお墨付きとあなたの目を見て私はたとえ足でまといのあなたでも守りきって絶対に生還すると決めたの。 何度も増援を要請したこととあなたを追い返さなかったことを後悔したわ。でも、それももうなくなった」

「え…?」

「あなたのその心意気は立派よ、皆がそう簡単に持てるものじゃない。あなたはもう十分1人前の剣巫よ」

 

慈しむように凪沙に微笑みながら紗矢華は迫り来る無数の食屍鬼へ鏑矢を放つ。

2人の背後に巨大な魔法陣が展開され凄まじい熱量の雷撃が発生する。

 

「凪沙ちゃん、もう疲れたでしょ?さっき私は上下関係なんて気にしないでって言ったけど、疲れたときは先輩に頼っていいのよ。こっちは何度もこんな修羅場くぐり抜けてきてるんだから」

「煌坂さん…どうして?」

 

心が折れそうな凪沙はあまりにも絶望的なこの状況でも諦めない紗矢華へと本音をこぼす。

 

「なんでもかんでも全てのことに理由を求めてもキリがないわよ。先輩が後輩を助けるのは当然のこと。理由が欲しいならそうね…あなたを死なせたりしたら、どこかのシスコン真祖に顔向けできないからってことにしておいて」

 

紗矢華は淡々としかし力強く言葉を紡ぎながら、凪沙の前に立ち押し寄せる食屍鬼たちを真っ直ぐと見つめ、厳かに祝詞を唱え始める。

 

「――獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る 極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり――!」

 

最後の鏑矢は上空へ勢いよく射られ、暗雲を穿ちながらどこまでも飛んでいき上空に一際巨大な魔法陣を生成する。

だが、それだけで雷撃が放たれることも疾風が吹き荒れることもない。

そんな紗矢華に凪沙が不安の声を漏らした。

 

「紗矢華さん…?」

 

食屍鬼の蠢く音で凪沙のか細い声は紗矢華へと届かない。

 

「さあ、根比べといきましょうか」

 

小さく呟いた紗矢華は煌華鱗を地面へと突き刺し、それを触媒に凪沙の周囲へ簡易的な結界を構築する。

凪沙の安全を最低限確保した彼女は武器も持たず単身、食屍鬼の大軍の中へ身を沈めた。

 

一瞬のうちに周りを囲まれ、紗矢華の美しい身体を次々と痛々しい傷が埋めていく。

第四真祖の『血の伴侶』である紗矢華の傷の治癒力は並の吸血鬼のそれを遥かに凌駕するが、その治癒速度を持ってしても追いつかないほどの速さで彼女の身体が確実に崩壊へと向かっていく。

 

「煌坂さん…もうやめて…、それ以上は死んじゃう…」

 

遂に常に鼓膜を揺らし続ける紗矢華の苦しげな声や骨が砕けるような音に耐えられなくなった凪沙が悲痛な叫びをあげた。

 

「あなたが傷つくより…マシよ…。それに、聞こえる…?この音」

「音…?」

 

ただの人間である凪沙の耳には紗矢華の言葉が指す音は聞こえない。

 

「あと20秒くらい…かしら…」

 

未だ食屍鬼に嬲られ続ける紗矢華は小さく笑みを浮かべている。

とうとう気でも違えてしまったのかという心配が凪沙の頭をよぎると同時に、彼女の耳に今まで聞こえなかった音が聞こえてきた。

 

「何か凄い勢いでこっちに飛んできてる…?」

「タイミングギリギリなのよ…、でも信じた甲斐はあった…わね」

 

紗矢華の頭上がキラリと光り、小型のミサイルのような形状の物体が地面へと激突し小さなクレーターを形成する。

土煙の中から現れたのは1つの細長い銀色のアタッシュケース。

そのアタッシュケースへと手を伸ばした紗矢華はなんの警戒もなく開封ボタンを押し、中から銀色の大剣を取り出した。

 

六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)…?」

 

煌華鱗とよく似た形状の大剣を見て凪沙が首を傾げた。

 

「これは八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)。殲滅戦特化の私専用に技術開発部が作成した降魔弓よ」

「殲滅戦?でも、六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)より少し細くなっただけじゃ…」

「まあ、見てて」

 

紗矢華は八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)を展開し剣から弓の形状へと変形させアタッシュケースから追加の鏑矢を5つ手に取る。

そしてその全てを前方に向かって、同時に射出した。

 

複数の属性の圧倒的規模の攻撃が食屍鬼を蹂躙する。

しかし、それだけではまだ1手突破には届かない。

 

「一瞬でいいから時間が欲しい…どうしたら…」

 

凪沙の方へ振り向くが、彼女にこの量を食い止めさせるのは一瞬とはいえ荷が重い。

そんな判断を下した紗矢華の前に淡い光が発生し、そこから懐かしい声が聞こえてくる。

 

執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)──」

 

見慣れた人形の眷獣が突如現れ、食屍鬼の洪水をガッシリと受け止める。

 

催促(リマインド)、あと10秒で突破されると予測」

 

機械的な声でそう告げるアスタルテがどこからどうやって現れたのか。

この一瞬では紗矢華にそんなことが分かるはずもない。

それでも彼女は真射姫としての経験からこの10秒が勝負の分かれ目と直感した。

 

その好機を逃さぬため、既に弓状へと展開されていた八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)を地面と水平に構える。

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の眷属となりし者、煌坂 紗矢華が汝の枷を解き放つ──!その身を以て、万象を無へと帰せ双角の深緋(アルナス・ルミニウム)──!」

 

紗矢華の呼び声に応え、第四真祖9番目の眷獣である緋色の双角獣(バイコーン)が彼女の後ろへ半実体化した。

 

「眷獣…?」

警告(アラート)、これ以上の時間稼ぎは不可能。離脱します」

 

アスタルテが眷獣の実体化を解き、身を宙へと踊らせたことで障害がなくなり食屍鬼が改めて紗矢華たちの方へと迫る。

 

「おかげで助かった、慣れてないから時間がかかるのよこの調節」

 

そんな言葉とともに紗矢華の身体からこの時のために温存してあった魔力が一斉に噴き出す。

彼女が弓へと添える手の指1本1本に緋色の魔力の塊が生成される。

 

「これで、終わりよ」

 

八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)の真の能力は鏑矢の斉射に留まらない。

次世代型降魔機装の正体は眷獣の持つ力を制御、増幅し、より扱いやすく圧倒的な火力を実現した『血の伴侶』専用の対魔族兵器だ。

 

人間の声帯でも鏑矢による高次詠唱でも不可能だった机上の空論である超大規模魔術を振動そのものである双角の深緋(アルナス・ルミニウム)はいとも簡単に実現する。

 

第四真祖の眷獣という災厄の権化であるかの如き破壊の力が増幅された必殺の一撃が同時に5発。

空中へ3人と食屍鬼を隔てるように5つの異なる魔法陣が現れ、神の御業とでも言える圧倒的な破壊が生み出され、あらゆるものを飲み込んでいった──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「悪い、那月ちゃん。あんまり時間がないんだ」

「姫柊 雪菜か…」

 

那月の当然のような返答に古城の顔が驚きの色へと変わる。

 

「職業柄色々と情報は入ってくるからな、予想の範疇だ。あの剣巫が神へと至る鍵と盲信する厄介な連中がいると聞いたことがある。こんな場所にこれ以上いる義理もない、少し手伝え」

「手伝う?なにを?」

「少しは成長したかと思えば、まだまだバカのままだったか」

 

わざとらしく那月は心底残念そうに頭を抱えてみせた。

 

「お前にわざわざ血を吸わせたのはこうなることを見越してのことだ。本来ならあの直後輪環王(ラインゴルト)に力を奪われ、殺されるはずだった」

「でも生きてるのは?」

輪環王(ラインゴルト)が私から力を奪うまでのほんの数分間を時間軸を捻じ曲げることで大幅に引き伸ばした。代償としてこんな場所で過ごすことになったがな」

「じゃあ、このままその数分を伸ばし続ければ大丈夫なのか?」

 

古城のそんな疑問に再度那月は呆れたようにため息をついた。

 

輪環王(ラインゴルト)の裁きの鉄槌が私に届かないのはこの空間にいる間だけ。加えて、今も加速した時間を逃げ続ける私の命を奪わんと追いかけてきているところだ」

 

古城は魔術の類いに疎いため、時間軸という永遠に続く道を那月と輪環王(ラインゴルト)が鬼ごっこをするイメージを思い浮かべる。

差詰め、数分で追いつかれてしまう距離を那月は何らかの方法によって引き伸ばし続けているといったところだろうか。

 

「お前のことだ、鬼ごっこのイメージでもしているんだろう?そのイメージで大体正解だ」

 

古城の頭の中を完璧に読んでみせた那月は補習のときに見せるサディスティックな笑みを浮かべながら説明を続けた。

 

「なかなか相手を捕まえられない鬼の気持ちはどうなるだろうな?」

「イライラする…?」

「そうだ、あいつも同じだ。自然と別の方法を考える。そこでこの空間までやってこようとするな?その方法がお前だ暁」

「オレ?」

「お前は私を助けるためにどうにかしてこの空間へやってくる。なら、お前と仮契約をしてここまでついてくればいいだろ?禄に魔術を使えなかったのは契約が実は仮契約だからだ」

 

那月の言葉で古城は自分がいくら努力したところで大した魔術が使えなかったことを思い出す。

契約が仮初めのものだと考えれば、それもおかしくはなかった。

 

「さて、ここからだ。実時間では2年経った、本来ならお前は卒業している頃だろうな」

「ああ…それがどうかしたか?」

「卒業試験だ」

 

古城の方へと近づいてくる那月の手がなにか糸状のものを手繰り寄せるような動きを見せる。

そして那月は古城の胸元から輪環王(ラインゴルト)を引き摺り出した。

 

「仕損じるなよ?暁」

 

自らの命を奪おうとする異形の相手を前に那月は満足そうな笑みを浮かべていた──




指摘のあった、フライクーゲルのルビ振りに関する私自身の考えを感想欄の方へ長々と…まとめてあるので気になった方はご覧下さい。
その件についての質問や指摘かなり待ってます!

いつものことですが、感想評価などお暇な方はお願いします^^*

批判でも質問でもなんでも構わないので!

次回くらいから大きく話が動くと思われます。

新規さんか増えているので過去話の駄文を弄りたいので更新少し遅いかもです。

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第56話

明日は、OVA最終巻の発売日ということもあり更新出来ない可能性が高いのでどうしても今日更新したい。というわがまま故に文章のチェックとか手直ししてません!
かなり変な文になってるかと思いますが、笑って読み流してください(そのうち直すので)

雪菜は次回です汗


仕損じるな──

那月は古城に確かにそう言った。

その言葉の意味は、失敗すれば取り返しのつかないことになるということだ。

それを理解している古城は那月とその目の前に現れた黄金の騎士へと全神経を集中させる。

2人の挙動を一瞬でも見逃さぬように。

 

そんな極限の集中は、古城の意識をより高位の次元へと誘う。

400年という長い時間、およそほぼ全ての生物が生きる上で1番頼っているであろう視覚を封じ、あらゆる感覚を研ぎ澄まし、戦い続けた古城の意識は不要な情報を全てカットしていく。

まず、視界から色がなくなる。

次に衣擦れの音、自分の心臓が鼓動する音その他あらゆる雑音が消え去る。

そしてそこに使われていた集中力は目に見えないものへと払われる。

 

意識は目に見えるものにのみ払われがちだが、世界には目に見えるものよりも目に見えない部分の方が圧倒的に多い。

そして、そこから何かが見つかることも案外多かったりする。

古城もまた、極限を越えた集中の中で自らの身体から伸びる透明な細い糸状のものを発見した。

それは目の前、那月の前に立つ輪環王(ラインゴルト)へと繋がっている。

 

そんな目に見えないものを見つけるまでゼロコンマ数秒。

古城の身体は考えるよりも早く動いていた。

 

右手に冥姫の虹炎(ミネラウバ・イーリス)の持つ物理、因果律を含めた切断能力を伴う魔力を纏わせる。

その紅く光る右手は古城と輪環王(ラインゴルト)を繋ぐ不可視の糸を簡単に切断した。

 

直後、黄金の騎士はその美しい身体の形を苦しそうに変え暴れ狂うように那月へと肉薄する。

 

「那月ちゃん!」

 

原型を留めず、ゴーストのようになった輪環王(ラインゴルト)の腕は那月を捉えようとするがギリギリのタイミングで那月に避けられる。

それでも諦めず、輪環王(ラインゴルト)は契約を破棄した代償を払わせるため幾度も手を伸ばす。

最初の数回こそ華麗な身のこなしで躱した那月だが、徐々に彼女の身を包むドレス、そしてその身体が傷ついていく。

 

刻一刻と那月の顔は苦しい色を増していく。

彼女の計画にはまだ何か1つピースが足りないのだ。

 

それを理解しながらも、古城は自分が何をすればいいのかが分からない。

そんな自分に憤り、せめて那月を守らんと金剛石を重力によって圧縮した高密度の楯を展開するが、既に完全な魔力体へと変わり果てた輪環王(ラインゴルト)の攻撃は防壁を簡単にすり抜け、那月へと届いてしまう。

 

「落ち着け、馬鹿者が。何事もゴールの設定を間違うな」

 

命の取引をしながらも尚、那月は古城のことを信じヒントを与え続けた。

 

「ゴール…、那月ちゃんを助けるのがゴールじゃないのか?」

 

古城は目の前で致死の攻撃を避け続ける那月の姿を見ながら考え、そしてその問いに答えを見出した。

 

ゆっくりと輪環王(ラインゴルト)へと近づき、その荒れ狂う魔力の塊の中へと腕を入れ、8番目の眷獣の能力により、襲い来る魔力の奔流を全て自らの体内へと導き枯渇した魔力を回復させる。

 

そこで輪環王(ラインゴルト)は身の危険を察したのか古城の方へ身体を向け、邪魔者の身を引き裂かんと腕を伸ばす。

しかしそれより速く輪環王(ラインゴルト)の姿が元の黄金の騎士へと戻り、さらにその鎧の色が白くそして黒く濁っていく。

 

「時間はかかったが、合格としてやるか」

 

そんな那月の言葉とともに灰色の騎士へ無数の鎖が殺到し、その身を縛り上げた。

 

輪環王(ラインゴルト)、お前は少し私を侮り過ぎたな。お前より私の方が上ということをその身をもって知るがいいさ」

 

ゆっくりと歩みよる那月は心底嬉しそうに笑う。

そして慈しむように崩れゆく鎧の身体を抱きしめた。

 

「散れ」

 

たったその2文字で那月の守護者であった騎士は跡形もなく弾け飛ぶ。

その爆裂音で古城は我に返った。

 

「那月ちゃん、守護者壊して大丈夫なのか?」

 

古城は昔、優麻が守護者を失い死にかけたことを思い出す。

 

「留年がお望みか?笑えんジョークはよせ。と言いたいところだが、生憎気分がいい。教えてやるか…」

 

「私の能力はあらゆる隙間に自らが思い描く任意の事象を挟み込む、一見最強の能力と思えるが1つ欠点がある」

 

那月はいつもの無表情な顔へと戻ると面倒くさそうに説明を始める。

 

「挟める事象の限界値が空間の大きさと時間の流れに反比例するというな。だからこそ、この狭く時間の密度が極端に濃い空間に連れ込む必要があった。どこかのバカ真祖があいつとの霊的パスを切断し、弱体化させられるかは賭けだったがな」

「結果的に上手くいったんだからいいだろ…」

 

嘲笑を向けられる古城は不満げだが嬉しげだ。

一先ず那月を助けるという第一目標は達成できた。

次は雪菜や紗矢華だ。

 

「那月ちゃん、1つ手伝ったんだからもちろん手を貸してくれるよな?」

「ちゃん付けで呼ぶな、それは命令か?一国民である私へ皇帝としての」

「オレ個人としての依頼ってとこかな」

「個人としてか、なら私も攻魔官としてではなく1人の知人として手を貸すことにしよう」

「初めて那月ちゃんとしっかり肩を並べて戦える気がするよ」

「五億年早い。だが背中くらいは任せてやろう」

 

そんなやり取りで久しぶりに結成された師弟コンビは紫色の魔法陣へと姿を消した──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

紗矢華の一撃により辺り一面が更地へと還る。

もうもうと立ち篭める土煙の中に立つのは2人の少女と人工生命体(ホムンクルス)1人。

 

「助かったわ、最悪腕の1本くらいは犠牲にしなきゃならないかと思ってたから」

「問題なし」

 

救急用の輸血パックから枯渇気味な血液を補充しながら、紗矢華はアスタルテと古城が一緒に消えたことを思い出した。

 

「そういえばあなた、古城はどこ?一緒にどこかへ行ってたって聞いたんだけど」

 

紗矢華の質問にアスタルテは口を開かず、ゆっくりとその指を紗矢華の背後へと向けた。

 

「え?」

「よう…煌坂。元気だったか?凪沙のこと…そんなになるまで守ってくれたのか、ありがとな…」

「まだ残ってたの!?消し炭になりなさいこ…の…って暁 古城!?大丈夫なの!?」

 

長く時間の流れが複雑だった空間に入り浸り、ギリギリまで魔力を使い切った古城はゾンビのように紗矢華の背中へと倒れ込む。

そんな古城を食屍鬼の残党と勘違いし、紗矢華は首に回し蹴りをくらわせ大きく吹き飛ばした。

 

「ちょっと、暁 古城!?」

 

紗矢華は自分で蹴り飛ばした古城をダッシュで拾いに行くと、意識の有無を確認するため顔をバチバチとビンタする。

 

「おい…煌坂…、死ぬ…死ぬから…」

「ごめんなさい…、つい…」

「ついで人を蹴るなよ…。それよりちょっと頼んでもいいか…?」

「うん、私にできることならなんでも…」

 

申し訳なさからか、紗矢華は弱気にそんなことを口にした。

 

「そうか…、悪いけど…ち、血を吸わせてくれ…」

「え?」

「ダメか…?」

「ダメ…じゃないけどそんな…乳を吸わせろなんて。でも、できることならなんでもするって言ったし…。あー!もう!吸いなさいよ!ほら!」

 

叫びながら服を脱ぎ、その豊満な胸部を露わにさせる紗矢華。

そんな紗矢華の霰もない姿を見て鼻血を出し、再度ぶっ倒れる古城。

ここまでくればもう、ひとり漫才だ。

 

「変わらんな、お前たちは…」

 

教育上不適切なものを見せぬよう、凪沙の視界を日傘で塞いでいた那月の呆れた声とパニックを引き起こした紗矢華の叫び声が響き渡る。

 

こうして紗矢華の待ちに待った古城との再会は果たされた──

 




ランキングに載ることが最近多くてなんと感謝を述べていいか分かりません!
いつも感想をくれる方の他にも感想いただければ嬉しいです^^*
運営からの感想通知ほど嬉しいものないので…

さて、ここからは宣伝ですがオリジナル作品の方もよろしくお願いします。
かなり力入れてるのでそれなりには面白いはずなので

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第57話

昨日発売のOVA最終巻はご覧になられたでしょうか。
雪菜と古城の夫婦漫才が個人的にベストシーンかなと。

霧葉ももうすぐ出すのでお待ちください。

偶然、狙った訳でもなくOVAでの話と若干類似する場所がある今話です。
説明回ということもあり、短いですが次回多めにするのでお許しください。

余談ですが、前々話のルビ振りを若干修正しました。
それに従ってキャラ紹介etcの方に2項目ほど付け足したのでこの話を読む前でも後でも読んでもらえたら嬉しいです。


ドーム状の空間の中に1人の少女が囚われている。

少女は天井から滴り落ちる冷たい雨水のおかげでなんとか目を覚ました。

 

「ここは…?確か紗矢華さんと別れて獣人に…」

 

少女、雪菜はこんなときでも冷静さを欠くことはない。

ただ今は状況確認だけが自分の役目と言わんばかりに記憶を掘り起こす。

自分が何者で、何をしようとしていたのか。

この2点さえ分かればとりあえず問題ない。

 

「牧師と獣人」

 

その2つは雪菜が意識を失う前に見たものだった。

今回の任務は過激な宗教団体の調査。

牧師が存在するということは宗教が絡むことは明白であり、獣人が絡みそうな過激な宗教といえば聖殲や天部絡みだろう。

つまり浅葱の情報は間違いではなかったのだ。

 

「となると、紗矢華さんたちは外から。私は内から探りを入れたいところですが…どうしましょうか…」

 

暗い空間にようやく目が慣れ、周囲の状況がようやく理解できるようになった雪菜は自らの身体が何らかの魔具、あるいは聖殲の遺産の中へ囚われていることに気づく。

自由に動くことはできるが、3mほどの筒の中から出ることは出来ない。

破壊を試みるにも雪霞狼は紗矢華を守るため置いてきてしまっており、獅子の黄金(レグルス・アウルム)を使おうものなら雪菜も一緒に焦げて死んでしまうだろう。

 

「困りましたね…」

「懸命な判断だ、といっても眷獣は使えないはずだがね」

 

ドーム状の空間に雪菜が最後に出会った牧師の声が谺響する。

その声と共に暗い空間に明かりが灯された。

 

「これは…祭壇?」

 

雪菜は壁一面に描かれる壁画と雪菜を閉じ込めるパラボラ状の何かを見てそう結論づけた。

さながら雪菜は生贄といったところか。

 

「いやはや本当に聡明なようだ。自身のことを分かっていれば当然かもしれないが」

 

品定めをするような目で雪菜を見る牧師は祭壇の周りをゆっくりと円を描きながら歩いている。

 

「あなたは何をするつもりなんですか!」

「気づいていないはずはないと思うが?この場所が祭壇であり、そこに鎮座する魔具。もちろんレプリカなんて安いものじゃない、正真正銘の本物だ」

 

雪菜にはこの男が考えることを理解することはできない。

自らが本来相反する霊力と魔力を身に宿し、およそ神の力と言える神気をも操る稀有な存在ということが分かっていてもだ。

 

「神格振動波駆動術式。七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)に搭載された魔力を無効化する術式。魔力と霊力は相反する力ではあるが、相互に代用することもできる。君が第四真祖の『血の伴侶』となりその身に宿る魔力で術式を起動させることは可能だ」

 

男はそこで脚を止める。

 

「しかしだ。魔力を無効化する術式を魔族が行使すればどうなるか、答えは単純。跡形も無く消滅するだろうな?」

「それがどうかしましたか?」

 

雪菜はあくまでも惚けてみせた。

 

「ならなぜ君は消滅しないか、それは魔力以外に未だ霊力を保持し続けるからだ。これを神の奇跡と言うことは易いが、私は単に生存本能によるものだと考える」

「つまり、私の身体が生存本能により進化したと?」

「進化であることは間違いないが、そうではない」

 

生物は皆等しく魔力、あるいは霊力を一定量その身に内包し生きている。その総量が著しく減れば体調を崩し、無くなれば死ぬ。

魔力と霊力をどちらも持つ特異なものは一定数存在するが、その力の総量はたかだか知れている。

雪菜ほど高いレベルで2つの力を両立するものは未だ確認されたことが無いのだ。

 

「術式が生物と混ざることがある。君の身体にも神格振動波駆動術式が形を変えて混ざっているはずだ」

「形を変えて…?」

「術式の本来の力は魔力の無効化に留まるのだろうか。君が魔力を無くて良いものと考えたからこそ、魔力は無効化されたのではないか?本来の能力は自らの思い描く世界へとこの世の理を書き換えることにあるのではないだろうか」

 

仙都木阿夜は雪霞狼の能力を世界を本来あるべき姿に戻すものと定義した。

しかし、それでは雪菜の特異な体質が生まれたことに説明がつかない。

神の奇跡、雪菜自身が特異であったとすればそれまでだが牧師の言うように力を定義すれば筋が通らないこともなかった。

 

「私が『血の伴侶』になった瞬間に霊力は必要なものと考え、自らの身に移る神格振動波駆動術式を用いて今の状態を無理やり作り出したと言いたいんですか?」

「そう考えれば自然だと思うが、どうだろうか。第四真祖の死を無きものにし、異境(ノド)の侵食さえ受け付けないことにもこれで説明がつくのではないだろうか」

「そうかもしれませんね、仮にそうであったとしてあなたの目的はなんですか?」

「神へと至る鍵。私達はあなたがそうであると信じている。世界の理を書き換える力、それを増幅し維持し続ければ理想の世界を作れるのではないか?」

 

牧師は手を広げ、神に祈りを捧げるように深々と頭を垂れた──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

古城の血を吸わせてくれという頼みをあろうことか乳を吸わせてくれと勘違いし1人でパニックになっていた紗矢華もようやく落ち着き、古城に吸血をさせていた。

 

そんな光景をアスタルテと凪沙に見せぬよう、少し離れた場所で那月は手持ちの情報と凪沙から得た情報で事の顛末を推測する。

1通り自らの問いに答えを出した那月はイチャつく古城と紗矢華に鋭い視線を送り、目の前に座らせるとその考えを共有した。

 

那月の推測は完璧なものであり、雪菜が牧師から聞く話と何ら変わりはない。

この辺りはさすがの一言だ。

 

「止めなきゃいけないのはよく分かった、今すぐ姫柊のところへ行こう」

「連れていってくれの間違いだと思うが?」

 

逸る気持ちを抑えきれない古城とは裏腹に那月は今すぐにという雰囲気ではない。

 

「ダメよ、古城。相手がどこにいるか分からないんだから、まずそれを…」

「腑抜けたな真射姫、相手ならこの真上にいる。複雑な術で隠れてはいるが明らかに大規模な術式が使われた形跡がある」

 

那月の指摘で紗矢華と古城は初めて微妙な魔力の残滓を感じ取った。

 

「アスタルテ、凪沙を連れて避難してくれ」

命令受諾(アクセプト)

「随分と手なずけたようだな」

 

息を吐くようにアスタルテへ命令をとばす古城とそれを瞬時に遂行するアスタルテ。その2人を見て那月が不満げな顔をした。

 

「30分。それ以上は保証できん、用意はいいか?」

 

那月の問いの真意は定かではない。

しかし、雪菜を助けたい古城と紗矢華は覚悟を決める他なかった。

 

「いくぞ」

 

その言葉と同時に那月の腕が横へと振るわれる。

そして空中に隠されていた島が1つ、まるごと姿を現した。

 

「真射姫、地上の獣人、魔具使いはお前に任せたぞ」

「はい?」

 

紗矢華の素っ頓狂な声に答えるものは目の前にはいない。

古城と那月の2人は紫の魔法陣へと姿を消し、どこかへと消えている。

 

「地上ってどういう──って何よこれ!私、完全に囮じゃない!」

 

上空へと浮かぶ島から紗矢華の声に反応して無数の強化獣人と黒フードの魔具使いが現れる。

 

「もう!あなたたち、悪いけど全員八つ当たりさせてもらうから!」

 

紗矢華はフラストレーションの全てを迫り来る敵ヘと向け、八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)が持つ擬似空間断裂の並列起動機能によりその全てを吹き飛ばした──

 

 




毎度説明回はつまらないかつ駄文でよく分からなくて申し訳ないです。
質問あれば受け付けます!

感想評価、じゃんじゃんください待ってます(Twitterでもらえることが最近多くてなかなか喜んでます)

そして例のごとくオリジナルのほうもよろしくお願いします!

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第58話

あれ…今回もいい所で切ったら短くなってしまった。

すみません、ほんと。

ついでのようですが、70,000UA越えありがとうございます!


牧師が去り、再び暗闇へと戻った空間で雪菜は寒さと恐怖に身を震わせていた。

 

雪菜が閉じ込められている3mほどの筒の中は1時間ほど前から徐々に冷水で満たされ始めている。

1時間かけてやっと膝下ほどの水位。

通常の冷水なら少し体温を奪われるだけだが、この空間に満たされる液体はただの冷水ではなかった。

 

この水には恐怖心を増幅、促進する呪術が含まれているのだ。

 

不死身である吸血鬼を殺す方法は少ないながら、幾つか確立されている。

その中で、1番といっていいほどよく使われるのが再生不能なレベルで身体を粉々にするというものだ。

しかし、これは第四真祖の『血の伴侶』である雪菜には効果が薄い。

そしてこの計画の立案者も、雪菜を殺してしまうというのは意に反することだろう。

 

「精神の破壊…。必要なのは私の体質だけということみたいですね…」

 

時間が進むにつれ、水位は上昇し雪菜の身体を呑み込んでいく。

吸血鬼とて呼吸ができなければ、そのうち窒息による死を迎えることは避けられない。

初めこそ冷静さを保っていた雪菜だが、暗闇の中ゆっくりと迫ってくる死を前に、冷水に付加された呪術の効果も相まってその心にも揺らぎが生じる。

1度そうなってしまえば、あとは恐怖心が募るばかりだ。

 

「せんぱい…さやかさん…」

 

雪菜は珍しく恐怖のあまり最も頼りになる2人の名を呼ぶ。

だが当然ながら、それに答える声はない。

 

時間の流れすら分からなくなり死への恐怖が雪菜を蝕んでいく。

遂に口元まで水位が上昇し、死へのカウントダウンも秒読みといったところか。

 

「苦しいか?」

 

いつの間にか牧師風の男が雪菜の前に立っていた。

 

「…」

 

男の声に雪菜はなんの反応も示さず、ただ虚ろな目で虚空を見つめ続ける。

 

「もう少し張合いがあるかと思ったが、壊れてしまったか」

 

男の声は雪菜に対する哀れみを帯びていた。

その声とともに再び空間に明かりが灯され、人間、魔族あらゆる種族のものが中央に位置する魔具を取り囲む。

 

「儀式を」

 

そのなかの1人が牧師へと囁く。

それに呼応しその場にいるほぼ全てのものが狂ったように同じ言葉を口にし、大合唱が巻き起こる。

 

「儀式を!」

「儀式を!」

「儀式を!」

 

「静まれ──」

 

中心に立つ牧師はそのひと言で全員を黙らせた。

どうやら、このメンバーでは彼が一番優位であるらしい。

 

「神へと至る鍵の意識は失くなり、残るはその身に宿る術式を魔具へと接続し力を注ぐのみ。我らの願いが叶うのも時間の問題だ」

 

男の言葉に対して周囲から歓声が上がる。

 

魔具とは遥か昔に作られた魔術的道具のことを指す。

その多くは現代の技術を持ってしても再現することが不可能な場合が多い。

そして一般的に世に流通しているものはそんな魔具を解析し作られた劣化版、レプリカであることがほとんどだ。

しかし、この場にあるものは違った。

 

「鍵の持つ術式で世界を書き換える。この魔具で術式の規模を拡大し、必要な力を増幅し続け術式の効果を維持し続ける。今宵、我らは神の座へと舞い戻るのだ!」

 

男の声に今一度周囲が歓声を上げた。

遂に雪菜と魔具のリンクが構築され始め世界の改変が始まる。

巨大な駆動音と共に魔具が放つ光は龍脈を伝い、その世の理を改変する力は世界中へと伝播する──はずだった。

 

 

30分。

それは那月が示した時間制限(タイムリミット)だ。魔具の効果が止められないと悟った那月は龍脈の流れを堰き止め、この改変の力が伝わろうとする道を断ったのだ。

 

「暁、残り25分。どうにかしてあの魔具を潰せ」

 

紫の魔法陣から招かれざる客、銀髪の少年と黒のドレスを着た女性が現れた。

 

「了解、姫柊は?」

「早く助けたいなら目の前のやつらをさっさと片付けろ」

 

那月の指示を遂行すべく、古城は眷獣を呼ぶべく腕に魔力を収束させる。

が、その力はすぐに霧散してしまう。

 

「眷獣封じか、なかなか小癪なことをしてくれる」

 

古城の動きが止まった一瞬の隙を見逃さず、無数の相手が攻撃を仕掛けに迫ってくる。

 

「那月ちゃん、5秒だけくれ」

「人を頼るなバカ真祖が」

 

そんな態度とは裏腹に那月の能力により、不可視の攻撃が挟み込まれ周囲の敵が吹き飛ぶ。

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)7番目の眷獣夜摩の黒剣(キファ・アーテル)──!」

 

眷獣封じの結界を膨大な魔力でぶち破り、古城はその右腕に意思を持つ武器(インテリジェント・ウエポン)である三鈷剣を呼び出す。

眷獣自身の重力制御能力により、多大なGをかけられた三鈷剣は本来の大きさから古城が持つのに丁度いいサイズまで縮小される。

 

「ほう、力の振るい方を覚えたか」

 

那月は満足そうに、敵の集団へと突進する古城を眺める。

 

「空隙の魔女…、どうしてここに?」

「少し頼まれてな」

 

彼女の前には牧師風の男が立っている。

ここにある魔具を操作しているその男を倒せば全ては終わる。

だが、事はそう簡単にはいかない。

 

あくまで那月が龍脈を断つことによって魔具の影響を防げるのは外界のみ。

この場にいる相手は世の理を改変し、その身に神の力を宿したものだからだ。

 

「この力を試すには丁度いい相手といったところでしょうか」

「一瞬で片付けてやるさ」

 

神を殺すために作られた真祖、神をも殺しうる力を手にした魔女と模造の神たちの闘いが始まった──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

殲滅戦特化の降魔兵器、魔弾(フライクーゲル)計画の完成系。

八式多段降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)はその名に恥じぬ戦力を発揮していた。

 

空中に浮遊する島から紗矢華へ向かって絶えず飛び降りてくる獣人、魔族、魔具使い。

その全てが紗矢華の私情、鬱憤ばらしついでに殲滅される。

 

「どれだけ湧いてくるのよ!ゴキブリなの!?死になさいよ変態!」

 

紗矢華の物言いは理不尽極まりない。

そんな中、上空から第1波、第2波と迫り来る敵の様子が一瞬にして変化する。

 

八式多段降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)の擬似空間断裂の並列展開による迎撃が効きづらくなってきたのだ。

 

「古城のやつ…、中でなにかやらかしたわね」

 

呆れた顔で紗矢華は淡々と鏑矢の斉射を続けた──

 




こちらのサイトの方でも感想、評価など待ってます!
もっと感想欄でワイワイやってもらえたら嬉しいです汗
その方が文字数も増えると思うので汗

56話の那月と輪環王(ラインゴルト)の戦闘?で質問があったので少々…

那月は輪環王(ラインゴルト)の間にある契約の内容を都合の良いように能力で書き換え挟み込みました。

那月の能力は"挟める事象の限界値が空間の大きさと時間の流れに反比例する"のですが、那月の作り出した空間は大きさが小さく、時間の流れが実時間よりかなり早く流れています。

なので、普段よりも時間を遡って事象を挟み込むときの労力が減ります。(能力の対象となる空間の範囲が狭く、とてつもなく長い時間の中において那月の現在から契約をした時までの時間は微小時間とみなせるため)

そして、古城のアシストもあり輪環王(ラインゴルト)は弱体化。

この2点によって56話で遂に那月は念願の輪環王(ラインゴルト)からの解放を成し遂げ、元の姿に戻りましたとさ…めでたしめでたし…

これで補完できるといいのですが汗

オリジナル作品の方もよろしくお願いします!

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第59話

若干いつもより長めですが…文章やばいかもです。
土日にまた一斉に直すのでお許しを…




(ぬる)く、ねっとりとした不快な液体のような何かの中をどこまでも下へ下へと落ちていく。

誰からも干渉されない自分だけの世界、深層意識の中へと閉じ込もった雪菜は不思議と安心していた。

 

走馬灯のように今までのことが思い出されては消えていく。

そんな中で雪菜は何者かの視線を感じた。

 

「誰ですか…?」

「深層意識の中に現れることができるものなんて限られてるよね?」

 

彼女の言う通り、雪菜はもう目の前の女の子が誰かわかっている。

 

「詳しい説明を求めても?」

「そうだね、なんて説明したらいいかな。私はあなたが歩むかもしれなかった道の1つってところ」

「私が歩んだかもしれない道…」

「そう、あなたが普通の女の子として生きる道を選んでいたら私になってたの」

 

人生とは常に無限に広がる可能性のうちの1つを選び続ける行為だ。

朝、家を出るとき右足から踏み出すか左足から踏み出すか、はたまたそもそも引き篭るのか。そんなことから少しの身体のズレや動作のタイミングのズレ、そんな些細なことでも未来とはガラッと変わってしまうかもしれない不安定なものだ。

当然そこには雪菜が普通の女の子として生活していた可能性もある。彼女はそんな道を歩む雪菜なのだろう。

 

「普通の女の子…、でもあなたはどこから…」

「裏の世界に凄い力を持った吸血鬼が来て、今は表と裏のバランスが不安定なんだよ。だからこういう限定的な場所になら干渉することが出来るの」

「裏の世界、平行世界(パラレルワールド)のようなものでしょうか…」

「少し違うけど…その発想でもいいかな」

 

力を持った吸血鬼という単語で雪菜は忘れ去ろうとしていた古城のことを考えてしまう。そんな苦しそうな雪菜の顔を見て目の前の彼女は遠慮ない疑問をぶつけてきた。

 

「ねえ、あなたはどうしたいの?このままここに閉じ込もって全て諦めて、なるようになっちゃえって感じ?」

「分からないんです。どうすればいいのか」

「ふーん、そっか。あなたはなんでも好きな世界を作ることが出来る。普通の女の子としてやり直すことも、世界を壊すことも意のままなのに悩むんだ」

 

彼女は心底つまらなさそうに雪菜を見つめてくる。

 

「悩んでるなら自分が好きなようにすればいいんじゃない?後悔しないようにね、もう1人の私」

「待ってください!まだどうすればいいか!」

「残念。時間切れ、また会えたら会おうね」

 

彼女は溶けるように姿を消していく。

そんな彼女へ手を伸ばす雪菜はまた1人、どこまでも落ちていった──

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

神、それは種類こそ様々だが人智を超えた力を持つという共通点を必ず持つ。ときにそれは世界そのものを創造し、あらゆる奇蹟を可能にする。

そんな神々の力を身に宿した存在を何百、何千と前にしながら、それでも古城は獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「どれだけいるのか知らないが、神殺しはオレの専売特許みたいなものだ。姫柊は返してもらう」

 

神を殺すことが可能な武器というのは伝承、神話などでも度々出現する。そのほとんどは危機を救った英雄譚が時を経て創作を加えられ昇華されたものがほとんどだが、中にはそれが事実であることも稀にある。

第四真祖という存在がその最たる例だろう。

だがそれは1対1に限られた話だ。拳銃を所持した人間も1対1では勝利することができるが、大勢に囲まれてしまえばその全てを倒し勝利することはほぼ不可能になるだろう。

 

そこで古城が選んだのが夜摩の黒剣(キファ・アーテル)の重力制御能力だった。

 

この空間に生じる力のベクトルの全てを掌握した古城に敵の攻撃は当たらない。

凄まじい破壊力を秘めた攻撃も当たらなければ意味が無い。

巧みに攻撃を受け流し、右手へと持った大剣で模造の神を屠り続ける古城を見ながら那月は満足気な笑みを浮かべていた。

 

「素人の振るう剣も神速で振られれば最強の剣技になるか…」

「余所見とは余裕ですね、空隙の魔女」

「態度がでかいのは元からか?」

 

那月と牧師の間に紫の魔法陣が現れ、古城が受け流した神の攻撃力を持つ致死の一撃が男を襲った。

 

「やはり、暁が相手をしている連中は偽物か」

 

まったくの無傷でその場に立つ男を見ながら那月は自らの推論に確信を持ったようだ。

 

「多神教は邪教だと思っているのでね」

「下の連中は神を守る騎士、天使といったところか…哀れだな」

 

那月は男の相手をしながらも攻撃の手を緩めることがない。

あらゆる方向から不可視の攻撃が繰り出されるが、ダメージを与えるどころか男がそこにいないかのようにすり抜け後ろへと飛んでいく。

 

「哀れだな」

 

男は那月と同じ言葉を使い皮肉ってくる。

 

「次元の違いくらい理解してるだろう?」

「そうだな。なら、時間稼ぎをさせてもらおう」

 

3次元から2次元へ、3次元から1次元へ高次元から低次元への干渉は可能だがその逆は不可能なのだ。干渉するためには相手を低次元へと引き摺り落とす、あるいは自らを高次へと押し上げる必要があるが那月にその術はなかった。

一定の距離を常に開けながら効かない攻撃を続け、古城が魔具を破壊するのを待つ。

 

そんな期待を背負う古城は時間との戦いに焦っていた。

那月が指定した時間制限(タイムリミット)は30分。

この場所に来てからもう20分が経過し、残り10分で目の前の敵を全て片付け魔具の破壊と雪菜の救出を達成しなければならないのだ。

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継ぎし者、暁 古城が汝の枷を解き放つ―――! 疾く在れ(きやがれ)10番目の眷獣麿羯の瞳晶(ダビ・クリュスタルス)──!」

 

古城の叫び声に応え水晶に覆われた魚竜が現れ、真祖の眷獣をも支配する魅了(チャーム)の力がほんの数秒模造の神達の動きを止める。

その一瞬のうちに古城は地を蹴り、魔具へその手に持つ大剣を振り下ろす。

 

しかし、重力制御の能力により限界まで加速された一撃は魔具を破壊するには至らない。

 

「クソっ!時間がないってのに!」

 

既に魅了(チャーム)の支配力を抜け出した模造の神達は古城を捕えんと迫っている。

そんな状況に叫ぶ古城を助けるように魔具に囚われる雪菜の腕から雷光を纏った獅子が現れた。

 

獅子の黄金(レグルス・アウルム)…?」

 

古城は目の前に現れた眷獣の名を口にするが、その大きさと佇まいに違和感を感じる。

目の前の獅子は古城のよく知るものより数倍は大きく、その躰は白みを帯びていた。

 

「神気を取り込んだのか…?」

 

那月の攻撃を受けていた男が始めてその顔に焦りの色を見せる。

 

「やめろ!この魔具だけは──」

 

魔具と獅子の間へと飛び込んだ男は爪の一薙ぎで蒸発する。

獅子の攻撃により生まれた余波が収まったあと、那月が傷をつけることすら出来なかった男はもはやこの世に存在していなかった。

 

雷光を纏う獅子はこの空間から男1人が消えたことなどまったく意に介さず、中心に据えられた魔具へ噛みつき破壊する。

その破壊力は圧倒的だった。

魔具が破壊されたことにより、世界の理が自然の復元力によって元に書き換えられていく。

 

「那月ちゃん!」

「お前は剣巫を助けてやれ」

 

呆然と目の前で起こることを眺めていた古城は我に返り落下する雪菜の元へと走る。

そんな姿を横目に那月は力を失い逃走を始める雑兵を追う。

 

「姫柊!姫柊!」

 

なんとか雪菜を地面への衝突から守り抜いた古城は腕の中でぐったりと意識を失う雪菜へ必死に声を掛ける。だがそれでも雪菜の意識は戻らない。

 

「そうだ、血を!」

 

古城は自らの手を噛みちぎるとその傷口を雪菜の口の中へと無理やり突っ込む。普段の古城ならそんなことは決してしないだろうが、それだけ古城も必死だった。

 

「姫柊!姫柊!」

「ん…?」

 

雪菜が意識を取り戻すと同時に白光を纏った獅子は姿を消す。

 

「大丈夫か…?」

「先輩…、私戻ってきたんですね…」

「ああ…」

「すみません」

「──っ!」

 

辛そうに立ち上がろうとする雪菜へ伸ばされた古城の手は雪菜に叩かれてしまう。

 

「姫柊…?」

 

古城はこの世の終わりのような顔で目の前の少女の名を呼ぶ。

 

「…」

 

沈黙。雪菜は何も喋ろうとしない。

ただその顔には苦しげな表情が浮かんでいるだけだ。

 

「な、なあ…。ちょっと見ない間に少し髪が伸びたか?そういえば背も…」

「先輩」

 

なんとかして絞り出した古城の言葉は冷たく鋭い雪菜の声にかき消されてしまう。

 

「どうしたんだ…?」

「私を殺してもらえませんか?」

 

雪菜の口から衝撃の言葉が放たれた。

 

「いや…待てよ、冗談だろ…?」

「冗談じゃありません。先輩に私を殺して欲しいんです。先輩になら私は満足して死ねるので」

 

苦しげな雪菜の表情とは裏腹にその口調はしっかりとしている。

なにかの間違いではないのだ。

 

「気づいたんです。私は自分のこの身体のことを甘く見ていました。私は存在してはいけない、そう思ったんです」

「だからってなにも死ぬことは…」

「先輩は優しいですから、そう言ってくれますよね。でもこんなことが何度も続いて、私のために先輩や誰かが傷つくなら…そんなことなら私なんていない方がいいんです」

「姫柊…」

 

古城には雪菜にかける言葉がなかった。

生半可な優しさで何かを言っていい次元の話ではない、彼女にしか分からない悩みなのだ。

 

「先輩、もう1度お願いします。今ここで私を殺してくれませんか?」

「無理に…決まってるだろ」

「本当に先輩は優しい方ですね」

 

雪菜の目に涙が溢れ、雪菜の隣に白光を纏った獅子が再び現れる。

彼女はその背に飛び乗ると天井を突き破り何処かへと去ってしまった──

 




さて、古城と雪菜の再会はなんともまぁ…な感じですね。
この章実はこれからのための導入だったりします。

次次回くらいでこの章も終わるかと思います!

感想、評価などお願いします!
例のごとくオリジナル作品のほうもよろしくお願いしますね。
自分ではなかなかの出来です()

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第60話 藍羽 浅葱IV

前回の最後…再会を楽しみにしてた方…すみません。
正直お気に入り登録数が半減してもおかしくないんじゃないかと思いました。

悪いようにはしないので読者の皆様にはああいう展開も受け入れてもらえたらな…と思います。




不安定だった空間は天井へ大きな穴を穿たれたことで遂に崩壊を始める。

そんな中、古城は雪菜が消えていった空を眺め立ち尽くしていた。

 

「暁、来い」

 

那月の放った銀鎖になんの抵抗もなく絡め取られた古城はそのまま力なく魔法陣の中へと引きずられていく。

 

そして誰もいなくなったその場所は人知れず崩れ去っていった──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「ちょっと古城!次から次へとゴキブリみたいに湧いてきたあいつらはなんなの!?おかげさまでヘロヘロよ…ちょっとくらいあなたの血を分けてくれてもいいんじゃ…って古城?」

 

自分に与えられた仕事をきっちりとこなしていた紗矢華は那月と共に戻ってきた古城の方へ駆け寄った。

だが距離が近づくにつれ古城の生気のなさに気づいてしまう。

 

「ちょっとどうしたの…?」

 

動揺する紗矢華の言葉に古城は何の反応も示さない。

しかし紗矢華も、もう気づいていた。本来帰ってくるはずの少女の姿がないことに。

 

「ゆ、雪菜は…?」

 

なにかに縋るように放たれる彼女の声は激しく揺れていた。

そんな紗矢華の姿を前にしても、やはり古城は何の反応も示さない。

 

「ちょっと!なんとか言いなさいよ!」

 

感情のまま紗矢華は古城の顔を叩いていた。

その小さな衝撃にすら古城は抗うことなくそのまま真っ直ぐ後ろへと倒れていく。

もうそれは生きた屍、ただの抜け殻のようだ。

 

荒ぶる紗矢華を見兼ねて那月が古城と紗矢華の間へと降り立った。

 

「やめておけ。お前まで使い物にならなくなるか?」

 

侮蔑を含んだその笑みを見て紗矢華は一瞬我に返る。

雪菜がいない今、古城だけでなく自分まで目的を見失ってしまってはいけない。そう、自分に言い聞かせた彼女はなんとか少しだけ生まれた平静を保った。

 

「なにが起こったのかお聞きしても…?」

「姫柊 雪菜は自らの意思で逃亡した。端的に言えばそんなところだな」

「逃亡ってそんな…どうしてですか?」

「それは付き合いの長いお前が知るところだと思うが」

 

雪菜が良くも悪くも全て1人で抱え込んでしまう性質なのは紗矢華もよく知っている。

なにか雪菜に責任を感じることがあったのだろう。そう分かりつつもそれが何に対してなのかが紗矢華には分からない。

 

「その腑抜けた吸血鬼を連れて捜索に出るわけにもいかん。ひとまず帰るぞ」

「はい…」

 

紗矢華は拗ねた子供のように地に座る古城を睨み続けていた。

そのまま彼女は奇妙な浮遊感を得ると見慣れた場所へと転移させられる。那月の空間転移魔術でそれぞれ別の場所へと跳ばされたらしく、もう既に紗矢華の目の前に古城はいない。

 

「よう、散々だな」

 

改築されたキーストーンゲート上層、紗矢華に与えられているこの部屋に勝手に入ることが出来るのは3人。

合鍵を持つ雪菜とこの国のトップである古城。

そしてこの建物の責任者であり、後ろに立つ矢瀬 基樹だ。

 

「もう知ってるのね」

「まあ、詳しいことは知らないが」

 

雪菜が失踪したことは知っている。と基樹は言いたげだ。

大方浅葱に衛星写真でももらったのだろう。

 

「何しに来たの?」

「愚痴でも聞いてやろうと思ったんだが」

「そう…」

 

同じ古城に振り回されがちな者として、紗矢華と基樹は近頃愚痴を言い合ったりすることが多い。

そのため基樹は気を利かせて紗矢華の愚痴を聞きに来たといったところだろうか。

 

「古城はどうだ?聞くまでもないか」

「あなたの方がよく分かってるでしょ?」

「違いないな。この2年何処で何してたか知らないが精神的に脆いところは変わらないか、それとも…」

 

雪菜が古城の中でそれほど大事だということなのだろうか。基樹はそう言いかけて言葉を止めた。そんなことは傍で2人を見ていれば誰にだって分かることなのだから。

 

「雪菜の場所は分かってるの…?」

「それが分かれば苦労しないんだが、どういう訳か画面から消えちまってな」

 

紗矢華とてそこまで期待していた訳では無いが、やはり心のどこかで居場所くらいはという思いがあった。

 

「明日雪菜を探しに出るわ」

「止めはしない。でも1人でいいのか?」

「ええ、心配ならあなたがついてくる?」

「やめてくれ、まだ死にたくない。ミーティングくらい参加してけよ」

 

紗矢華は首を横に振り、話は終わりと言わんばかりにベッドへと横になる。

 

「そうかい、気をつけてな」

 

そんな姿を見ても基樹は何も言わず部屋をあとにする。

ドアの閉まる音を聞いた紗矢華は数日の疲れがどっと出たのかすぐ眠ってしまった──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

紗矢華とは違い、古城は懐かしい自室のベッドへと飛ばされていた。

どうやら長い間あまり使われていないらしく、部屋の中は古城が去った2年前から全く変わっていない。

閉じ込められた熱気で身体から汗が吹き出し、意識が朦朧とするが古城はただ穴が開くほど天井を虚ろな目で見つめていた。

 

「姫柊…」

 

古城はぼうっとする意識の中で雪菜のことを思っていた。

彼女の心境。なんの前触れもなく身に余る力を持ってしまった彼女は何を思い、悩み、決断したのだろうか。その思いは自分が世界最強の吸血鬼、第四真祖の力を得たときと同じものなのだろうか。

いくら考えても答えはでない。雪菜のことは雪菜自身にしか分からない。そしてなにより古城は雪菜と根本的に違う。彼は自らの決断で力を得たのだから。

 

「古城、いるんでしょ。入るわよ」

 

懐かしい声が古城の鼓膜を震わせる。

 

そして自室のドアが声の主、浅葱によって開かれた。

 

「腐ってんじゃないわよ、あと暑い。冷房くらい入れなさいよ」

 

呆れた様子で部屋のエアコンの設定を最低温度にし電源を入れた浅葱は未だ天井を見つめる古城の隣へと腰を下ろした。

 

「だんまり?大きくなった那月ちゃんから古城が正気じゃないって聞いたけど、そういう訳でもないんでしょ?」

 

そこで古城は目線を隣に座る浅葱へと向ける。

 

「ショックなのはそうだろうけど、どうしたらいいか分からないだけでしょ。古城、あんたのそういうところ昔から変わってない。そうやってれば誰かがなんとかしてくれるの?」

 

浅葱の口から放たれる言葉は辛烈だ。

 

「そうだな…もういいんじゃないか?」

「1度拒絶されたくらいで何言ってんのよ」

「あれが姫柊の意思なら」

「古城、あんたね──っちょっと!」

 

何かを言おうとした浅葱は古城に力づくで押し倒されてしまう。

 

「なあ、浅葱。お前なら助けてくれるのか?」

「古城?何言って…」

 

こんなとき、こんな状況であるのに浅葱の胸の鼓動は止まらない。

それを分かってか古城がゆっくりと近づいてくる。

 

「お前なら…受け入れてくれるのか?」

 

古城に耳元で囁かれた浅葱は頬を赤く染める。

 

「え…でも…そんな…だめ…」

 

言葉とは裏腹に浅葱の拒絶する手の力は恐ろしく弱い。

当然、その程度の力で古城を止めることもできず、浅葱の首元へ古城の牙が深々と突き刺さった。

 

そのまま血を吸おうとしない古城に浅葱は心の中に潜む天使と悪魔に揺らされていた。しかしそれも一瞬で浅葱は古城の頭を抱いてしまう。

 

「ねぇ、古城…。あんた…ううん、もう好きにして」

 

浅葱の胸中は複雑だった。

やはり古城の中で雪菜という存在が1番大きく自分は適わないと再認識させられ、古城の情けない姿を見ても未だ古城のことは諦められず、こんな形であれど求められることに幸福を感じる。

やってはいけないと心では分かっていても浅葱は長年望んだこの瞬間を捨てることができない。

そして遂に彼女は自らのポリシーに反し全てを捨て、古城を受け入れてしまった。

 

首へと刺さる牙から血を吸われる心地よい感覚に浸りながら、浅葱は目に涙を浮かべていた。

嬉しいという気持ちも少なからずあるだろうが、そこには雪菜に対する罪悪感が溢れているのだろう。

 

「古城…、あんたは私でいいの?」

 

限界まで血を吸われ、古城の血を与えられた浅葱は身体に流れる魔力の奔流に戸惑いながらそう呟いた。

 

「私さ…ちょっと後悔してる。あんたを受け入れちゃったこと、終わったあとにこんなこと言うの卑怯…だよね。でも古城は姫柊さんとの方がお似合い…よ」

 

泣きながら浅葱は溢れ出る感情をそのまま口にする。

 

「私…ちゃんと姫柊さんに謝りたい。古城の弱みに付け込んで誑かして…って、だからいつまでも腑抜けてないで連れ戻してきて」

 

一瞬、古城は浅葱の苦しそうな顔に何かを言おうとする。

だがそれもすぐに引っ込んだようだ。

 

「わがまま言ってごめん、でも嬉しかった…。これ置いておくから使って」

 

浅葱は自分を見つめる古城に抱擁をするとどこからか出したUSBメモリーを古城の手に握らせる。

 

「私って最低…ね」

 

古城に聞こえない声でそう言った彼女は足早に部屋を出て行く。

 

手に握らされたUSBメモリーを眺めながら古城はドアの外から聞こえてくる浅葱の泣き声を聞いていた──

 

 




まず、最初に…前書きに引き続き。浅葱推しの方…すみません!色々考えた結果、後のことも考えて気づけばこういう展開に…
(あれ、ストブラってこんな黒い話だっけ)と読み直して気づいたんですが…ちゃんと伏線?なのでご理解頂けたらと…

さて、そんな皆さんのおかげで晴れて60話です。
こんな駄文かつクソストーリーにお付き合いいただけている皆様には感謝しかありません。

なかなか話が入り組んできて、前回や今回など皆様の意見かなり気になっているので、

どうか!60話記念ですし感想をたくさん…

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第61話 幕間Ⅰ

総合評価900ptありがとうございます^^*

お気に入り500件も、もしかしたらいくかもしれませんね…

さて今回幕間2つに割ったので短いです。お許しを…

10日には原作最新刊ですね!個人的にはあまり今の展開は気に入ってないのですが霧葉が出るようですし楽しみです。


浅葱が去った部屋は再び静寂で満たされていた。

その中で古城は涙を流した浅葱、怒りをあらわにした紗矢華のことを思う。

 

そんなゆったりと流れる時間の中に割り込むように甲高い固定電話の着信音が響いた。

けたたましく響く不快な音はワンフレーズで途切れ、小さく囁く基樹の声へと変わった。

 

「こっそり垂れ流しとくから聞いとけよ」

 

しばらくの沈黙の後、様々な人間が集まって話す音が聞こえてくる。

場を仕切るのは那月らしい。

 

「まず今回の姫柊 雪菜失踪の件だが捜索は困難を極めることが予想される。位置情報はロスト、さらに体質上探査系魔術の類は効果が望めない」

「ってことで、この件について帝国管理局(インペリアル・ヤード)の意見は保留で決定した」

 

那月の言葉を引き継いだのは基樹だ。

下された決定にその場にいる多くの人間が動揺するのが電話越しでも分かった。

 

「す、すみません!保留とはどういうことですか?」

「あん?」

 

基樹に意見した声は唯里のものだ。

めんどくさそうに返された基樹の言葉に怯みながらなんとか立ったままの姿を維持している。

 

「そのままだ、砂漠に落とした砂を探す気になるか?徒労に終わるだけだ。そんなもんに割く人員も暇もオレ達にはない」

「じゃあユッ…姫柊 雪菜の捜索は私が担当します!」

「めんどくせぇなぁ…、とりあえず却下だ」

 

帝国管理局(インペリアル・ヤード)傘下である帝国保安部(インペリアル・ガード)第3部隊に所属する唯里には基樹の決定に逆らうことは愚か、文句を言う権利もない。

それを理解しているため、大人しく席へと座ろうとした唯里の隣から新たに口を開くものが1人。

 

「私からも姫柊 雪菜捜索の件について今一度検討をお願いします」

「分かった分かった、勝手にしろ。本件は斐川 志緒と羽場 唯里に一任する」

 

雪菜が心配でない訳ではなかった基樹はにやりと笑っていた。

彼は最初から唯里と志緒を配置するつもりだったのだ。この件に必要とされる人材は雪菜のことを少しでも理解し単体での戦闘力が高く、自らの意思で任務に臨める者。

紗矢華だけでも問題ないが、保険として基樹は唯里と志緒の意思を試したのだった。

 

「那月ちゃん、本題よろしく」

「そうだな」

 

那月が再び前に立ったことで場の空気は一気に変わる。

 

「つい1時間前、混沌界域国境付近で起きたことについては知っていると思うがそのときこんな物を拾った」

 

机の上に悪趣味な人形と1枚の羊皮紙が置かれた。

 

「この紙に書かれていることは端的に言えば聖域条約機構に対する宣戦布告だ。内容はまだ詳しく教えることはできない。だが近いうちにまた戦争が起きるだろう…」

 

那月はその先を言うか言わないか迷うように基樹の方を一瞥する。

基樹はゆっくりと頷き、それに応えた。

 

「相手はおそらく最近噂になっていた過激な宗教団体。その規模は我々が思っていたよりもよほど大きなものらしい。そして、その教祖と崇められる者はこの人形(パペット)を使って誰にでも化け、あらゆる所に潜んでいると考えていい。警戒を怠るなよ」

 

そこで受話器から流れる音声は途絶えた。

 

雪菜の失踪に新たな敵の存在。その全てについてまだなにも分からないが、古城は自分が腐っている場合ではないことは理解した。

ゆっくりと風呂場へと進み、この2年でボロボロになったパーカーを脱ぐ。

 

「猫叉…」

 

2年前この家を出る時に雪菜が渡してくれたそのパーカーには不器用に刺繍されたネコマたんが今も残っていた。

 

「クソ…」

 

古城は胸の中から溢れてくる様々な感情を汗とともにシャワーで洗い流した。

綺麗な服へ着替えた古城は深々とパーカーを被り、外へ出る。

 

2年という短い時間でも発展著しい暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)はすっかり変わっていた。

そんな中を古城は1人、ただひたすら歩く。

夜の暗さに映える電飾の光のせいか、別の場所にいるかのような感覚に襲われどこか悲しさを感じていた古城の袖が後ろから引っ張られる。

 

「誰だ…?」

 

一般人には認識されないようにしっかりと気配を殺す古城に気づけるものは知り合いかそれなりの実力者かのどちらかだ。

必然的に警戒心を高める古城の前に立っていたのは小さな青髪の少女だった。

 

「アスタルテか。どうかしたのか?」

 

古城の質問にアスタルテは首を横に振る。

 

「心配かけちまったか…」

 

アスタルテの頭をゆっくりと撫でた古城は再び歩き始めた。

そんな古城を追ってトタトタと走ってくるアスタルテは古城に腕を絡めてくる。

傍から見ればそれは親子、兄弟のようだ。

 

「子供はそろそろ帰らないとやばいんじゃないか?」

「──否定、古城はこの国の皇帝。罪に問われる可能性は皆無」

「そりゃそうか…。なら、ちょっと付き合ってくれるか?」

命令受諾(アクセプト)──」

 

アスタルテは嬉しそうに古城の隣へと収まった。




ほんと久々なのに短くてすみません。

さて、今後の予定についてなのですが簡単に活動報告に載せたのでコメントいただけるとありがたいです。雪菜ファンには割と重要なので是非ご覧ください。

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第62話 幕間Ⅱ

遅くなりました…
昨日でこの作品(初めて小説を書き始めて)ちょうど5ヶ月。
ここまで続けれてるのも皆さんのおかげです。ありがとうございます!


夜の街の賑やかさが新鮮なのか興味津々といった様子で周りをきょろきょろと見渡すアスタルテを隣で見ながら古城はその顔に笑みを浮かべていた。

雪菜のことは気がかりで仕方が無いが、古城は久しぶりに歩く懐かしい街と近頃どんどん人間味を増すアスタルテの姿が嬉しかった。

 

そんな姿に少し元気をもらった古城の目の前から豪奢なドレスに身を包む女性が近づいてくる。

絃神島には数多くの魔族、人種が居住しているがこの暑い中そんな姿をする者は1人だけ。南宮 那月以外はいないだろう。

 

「夜間徘徊は感心しないな」

 

ゆっくりと古城とアスタルテの前で脚を止めた那月は一言そう告げた。

 

「いやでもオレもう高校卒業したし…痛って!」

「お前に保護者の権利はない。幼いアスタルテを連れて夜間徘徊したいならあと2年待つんだな」

 

体感した時間なら優に20年を越えている古城は那月の言い分に文句を言おうと思ったがそんなことで那月が許す訳がない。

もし許してくれるなら最初からこんな所までわざわざやって来るはずがないのだ。

 

「アスタルテ先に帰っていろ」

「…」

 

珍しくアスタルテは那月に反抗的だ。

そしてその顔は古城と2人でいる時間を邪魔されたのが気に入らないのか口を尖らせ不満そうに見える。

 

だが彼女の可愛らしい抵抗など空隙の魔女、南宮 那月には効果がないらしい。すぐにその身が紫の魔法陣に包み込まれ、彼女はその場から姿を消してしまう。

 

「相変わらず容赦ねぇな…」

「保護者として当然だ」

 

那月は機嫌を損ねたのか腕を組む。

その動作のせいで今までは崖に等しかった胸の膨らみが強調され古城の視線は思わずそこへ吸い寄せられてしまった。

 

「お前はどこを見ている」

「痛ってぇ…そんなに何回も叩くなよ馬鹿になったらどうすんだ!?」

「そんなことなら心配はないお前は私の生徒史上最高の馬鹿…いや、2番目か」

「え?」

 

てっきりいつものように馬鹿にされるだけかと思っていた古城は言葉の最後が那月らしくない気弱なものとなったことに驚いた。

 

「懐かしいな」

「ああ…」

 

那月が懐かしんでいるのは雪菜がこの島に来た当初のことだろう。

古城と雪菜がゲームセンターの前で那月に夜間徘徊について注意されたのだ。

 

「那月ちゃんが気に病むことはないんじゃないか?姫柊がいないことで色々と困ることもあるだろうし、これから問題が起こるのかもしれない。でもオレは姫柊の意思を尊重したい」

「意思を尊重…か。無理やりにでも見つけて連れ戻そうとするやつのセリフとは思えんな」

 

那月の身なりと容姿はいくら気配を殺しても隠せるものでは無い。

徐々に周囲からの注目を浴び始めた2人は話しながら裏路地へと入りキーストーンゲートの屋上へと転移した。

 

「とりあえずオレの心配はいいよ。もう大丈夫だ」

「誰が誰の心配をした?」

「痛い痛い痛い痛いっ!」

 

冷たい目で脚を踏んでくる那月のそれは完全に照れ隠しだろう。

普段は表に出さないが彼女は結局のところ優しいのだ。

 

「まあいい。とりあえずお前に言っておくことがある」

「オレに?」

「暁 古城としてではなく夜の帝国(ドミニオン)の領主としてのお前にな」

 

その言葉の重みに古城の顔は一瞬にして真面目なものへと変わる。

 

「姫柊 雪菜の眷獣に殺された牧師はよく出来た人形(パペット)だった。死体は消え、ただ1枚の暗号が書かれた紙が落ちていた」

 

那月は様々な形の図形が乱雑に並べられた、一見子供のいたずら書きのような紙を古城へと見せてきた。

 

人形(パペット)の出来からしてかなりの使い手だ。魔術の他に錬金術や様々な力の痕跡を感じる。かなり大きな敵がいるだろうな」

「そいつは姫柊を狙ってるんだよな?」

「それは分からん。1つ分かることはこのレベルの術者ならあらゆる場所、組織に人形(パペット)を忍び込ませることが可能ということだ。案外近くに潜んでいるのかもしれん」

 

那月の言葉は古城に重くのしかかった。身内に未知なる敵が潜んでいるなどとは考えたくはないが、あらゆる経験をしてきた那月が警戒しろと言っているのだから無視はできない。

 

「どう対策を取るのか、正体もわからない相手を追うのか無いものとして無視するのかしっかり考えるんだな」

 

それは那月なりの助言なのだろう。

ヒントを与え決断を委ねる。やはり彼女は優しすぎた。

 

「ああ。その紙浅葱に回すんだよな?」

「それしかないだろう」

「なら明日以降にしてやってくれ、あいつ多分今はまだ泣いてるだろうから」

 

初めて古城が浅葱と出会った時、そして真祖大戦のとき…彼女が涙を流すことは少ない。だからこそ古城はそっとしておいてやりたかった。自分のせいで彼女を泣かせた負い目もあるのだろうが彼もまた優しすぎるのだ。

 

「お互い他人に甘いな」

「え?」

「いや、なんでもない。明日帝国評議会がある。そこでお前の決断を聞かせてもらおう」

 

そう言い残し那月はその場から姿を消した。

 

屋上へと残された古城は夜風に吹かれながら空に広がる星を眺めている。

そんな姿を遠くから楽しそうに眺める者が1人。

 

「空隙の魔女、南宮 那月。第四真祖、暁 古城。その優しさと甘さが仇にならなければいいのですが。次はどう切り抜けるのでしょう…」

 

月光に映える銀色の髪を持つ彼女は笑みをこぼした──




長かった序章も今回で終わりです。
次回は久しぶりに日常パート(詳しくは最新の活動報告を)になります。
お付き合い下さい。

さて、ストブラ原作の新刊が出ましたね。昼に読み終わり色々頭を悩ましているんですが…(カス子どうやってねじ込もうかとか…)

まだ読んでない方もいらっしゃると思うので感想はやめておきますが九式が本当に殲滅戦特化みたいで…ちょっと感動したり、色々とこれから使う予定だった設定なども出てきて1人興奮してたりします汗
これだけ長く書いていれば多少被るのも当たり前かなとは思いますが…
いやでもしかし!前巻と違い今巻はストブラらしくてよかったですね。(自分の作品の存在意義が無くなった感ありますが笑)

長くなりましたがこの作品は真祖大戦以降のパラレルワールドとして、原作は原作で楽しんでもらえれば嬉しいです^^*
最新の活動報告是非ご意見ください!

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微睡の疼木篇
第63話


お気に入り500件越えありがとうございます!
今話から雪菜の番外編?が始まるので記念ですし是非感想いただければと…

時系列は古城がいなくなった1年ほど後の絃神島です。

導入なので短いですが雪菜ファンの方々(多分ほとんど皆さん)は期待しててください。


太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって造られた人口島。

 

その島の中心部の幹線道路を明らかに人間の限界を超えた速さで疾走する女子校生が1人。その身を青と白を基調とした制服に包み、手にはギグケースを握っている。

彼女が向かうのはすぐ目の前に広がる謎の人だかりだ。

平日の昼間、混み合う幹線道路のど真ん中であるにも関わらず車から降りて何かを見物する者、手持ちのスマホで動画を撮る者がいるその光景は控えめに言って異常だ。

 

その集団へと近づくにつれ、この状況が生み出された原因が明らかになる。どうやら魔族同士が言い争っているらしい。

普通であればすぐにでもパニックになりそうなものだがここは夜の帝国(ドミニオン)。魔族がどうこうといった事件など珍しくもなんともないのだ。

 

「そこまでにしてください」

 

美しく透き通った声を伴い、人の山を跳び越えて今にもぶつかり合いそうだった2人の間へと降り立ったのは道路を疾走していた女子校生だ。その姿で周囲の野次馬のテンションは大きく跳ね上がる。

 

「やばい生で初めて見たよ」「雪菜ちゃんかわいいな…」「あれが第四真祖の正妻か…」

 

そんな周囲の反応にウンザリしながら雪菜は手に持ったケースから雪霞狼を取り出すと目の前へと突き出した。

その動作には当然、抵抗するなという意味が込められている。

しっかりとその意味を察した2人は反省したのか落ち着きを取り戻すとすぐに人だかりの中へと消えていく。

たった数十秒、それだけのことで雪菜の周囲には拍手の嵐が起こった。

 

「はぁ…」

 

特に彼らに悪意がある訳では無いことは重々承知している雪菜だが朝からこんなことがもう6回。さすがに気が滅入ってしまう。

第四真祖が統治する夜の帝国(ドミニオン)であるこの島で雪菜たち『血の伴侶』の存在を知らない者はいない。

直接見ることが少ない古城よりも普段からメディアへの露出も多い『血の伴侶』の方が親しみやすいのか、その扱いはもはや国民的アイドルのそれに近い。特にラ・フォリアはその立場上、凄まじい人気を誇っている。

 

手に持つ雪霞狼をケースへと収納した雪菜は疲れきった様子で耳につけるインカムから流れる浅葱の声に従い、すぐに次の場所へと向かう。

ここ1ヶ月、1日当たりの事件対処数は小さなものを含めれば雪菜1人で30件を越えていた。

この島が夜の帝国(ドミニオン)として独立してから1年と少し。元々が魔族特区ということもあり住民が魔族に寛容で理解があるという理由で魔族が、真祖大戦で改めて世界最強の吸血鬼であることがほぼ証明された第四真祖のお膝下という理由で人間が、それぞれ永住権の審査が追いつかないほど流入してきている。

国民が増え、国力が富むのは嬉しいことだがその帳尻合わせはこうして雪菜たちへと来ているのが現状だ。

特区警備隊(アイランドガード)沿岸警備隊(コーストガード)が解体され新たに元獅子王機関の剣巫、舞威媛といった戦闘員そして公募の魔族、攻魔官を加えた帝国保安部(インペリアル・ガード)なるものが発足するらしいがそれもまだ先の話だろう。

それまでは動ける雪菜たちが頑張るしかないのだ。

 

「お疲れ様、今日は終了。深夜は他の人に任せてゆっくり休んで」

「分かりました」

 

22時過ぎ、とっくに日も暮れたところで浅葱からやっと帰宅の許可が降りた。

 

「未成年ってなんなんでしょうか…」

 

自分の年齢と待遇の差に少し疑問を感じる雪菜だがそれは考えても仕方が無いことだ。

待遇が普通でないという前に雪菜の立場が普通ではないのだから。

 

「凪沙ちゃん?毎日言ってますよね、寝るなら自分の部屋で寝てくださいと」

 

キーストーンゲート上階へと設けられた自室へ戻った雪菜はベッドで眠る凪沙へ声をかけた。

 

「ごめんごめん!雪菜ちゃんのためにご飯作ってたんだけどあんまり帰ってくるの遅いからうっかり寝ちゃってた。あはは…」

「そ、そうですか。ご飯なら紗矢華さんとラ・フォリアさんと先に食べてくれてよかったんですよ?」

「雪菜ちゃんが冷たいよ…。煌坂さんは今日はいなかったし夏音ちゃんのお姉さんはちょっと苦手かなーって…」

 

ラ・フォリアと凪沙の相性があまり良くなさそうなのは雪菜もなんとなく分かる気がした。

 

「なら早く食べましょうか」

「うん!雪菜ちゃん全然買い物行ってないでしょー、おかげで冷蔵庫の余り物で簡単なものしか作れなかったよ」

「簡単なもの…ですか」

 

雪菜の前に並べられているのはとても簡単なものという一言では考えられない料理の数々。雪菜も暇な時間を見つけては料理の練習に励んでいたりするのだが、やはりまだまだ彼女には適わないらしい。

 

「もう…お腹いっぱいですよ」

「ごめんね?つい癖で作りすぎちゃって…えへへ。雪菜ちゃん疲れてるよね、今日は自分の部屋に帰るね」

「は、はい」

 

凪沙が雪菜の部屋で寝ないのは久しぶりのことだ。彼女は古城がいなくなった後の雪菜のことを心配してくれているのだろう。

そして、今もこうして凪沙が作りすぎた料理を見て古城のことを思い出した雪菜を1人にしてくれているのだろう。

 

「もう先輩がどこかへ行ってしまってから1年ちょっと。心配をかけるのも大概にしないといけませんね…」

 

キーストーンゲート最上階に新たに作られた大浴場に行くことすら億劫だった雪菜は入浴を自室のシャワーだけで済ませながらそう独りごちた。

 

熱気の籠る寝室に備え付けられた大型の冷房装置で少し肌寒くなる程度に室温を調える。

 

常夏の絃神島では就寝時に冷房をつけることは1年を通して珍しくない。が、少々部屋の温度が低すぎる。

下着姿の雪菜がこのまま寝れば、まず間違いなく風邪をひくだろう。

 

「これでよしっと…」

 

そんな部屋の温度を確認した雪菜は満足そうにベッドにかけられた1枚の白いパーカーを手に取り、そのまま袖を通す。

かなり大きすぎるそのくたびれたパーカーにその細身を包むと彼女はベッドへとその身体を踊らした。

 

「先輩…」

 

パーカーに埋もれるように、身を小さく抱え込んだ人形のように美しい彼女はそんな一言と共に意識を夢幻へと手放した。

 




最近暑さにやられてたり忙殺されてたりと更新頻度遅いですがなるべく早くなるよう努力しますね汗

しつこいようですがお気に入り500件越えありがとうございます!
これからもよろしくお願いします^^*

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第64話

更新遅くなりました汗

次章の練り上げが難航していて少し更新にお時間をいただくことが続きそうです、すみません。


カーテンの隙間から射し込む陽の光によって、身体が活動を再開するための準備を始める。

重い瞼を手で擦りながら1人の少女、姫柊 雪菜は何か自分の身に違和感を覚えながらも自室のドアを開ける。

そんな雪菜を迎えたのは

 

「雪菜、今日から学校なんだから寝坊しちゃダメでしょ?朝ごはん出来てるから早く顔洗っておいで」

 

という聞きなれない声。

 

「え?」

 

幻覚だろうか、それとも幻術の類にかかってしまったのだろうか。状況を理解できず首を傾げる雪菜の前には少し長めの髪を後ろで束ねた自分と似た顔の女性と、珈琲を片手に新聞を読む厳格そうな男性が座っていた。

 

「パパ…ママ…!?」

 

どことなく自分と似た雰囲気を感じた雪菜の口からは自然とそんな言葉が零れる。だか彼女には妙に確信があった。

 

「何を狐につままれたような顔をしている?母さんの言った通り寝坊は感心しないな、初日から遅刻など恥晒しもいいところだ」

「す、すみません…」

「すみません?」

「あ…いえ…ごめんなさい」

 

やはり見かけ通り厳格な人柄らしい男に怒られた雪菜は一先ず顔を洗いに洗面所へと向かった。

よく知る何も無い殺風景な部屋はお洒落なインテリアで溢れている。

 

「歯ブラシが3つ…どうやらほんとうに私の両親のようですね…」

 

雪菜は小さな変化から現状をある程度理解した。

母親であろう女性に指示されたことを全て終わらせた彼女は少し緊張しながら食卓へと戻った。

 

「雪菜、お父さんが会社行っちゃう前に早く制服着てあげて」

 

一瞬自分が寝ぼけていただけで戻れば誰もいない、いつもの静かで殺風景な部屋が広がっているのではないかなどと考えていた雪菜はどうやら甘かったようだ。

 

「制服…ですか?」

「そうよ、今日から中学校でしょ。しっかりしないと」

 

そう言う母から手渡されたのはやはり見慣れた彩海学園中等部の制服だ。

 

「ほら、早く」

 

促されるままに制服を着せられた雪菜は違和感の正体に気づいた。

 

(胸が…萎んでる…?)

 

お世辞にも大きいとは言えないサイズではあったものの、雪菜の胸部にはそれなりの主張があった。それがすっかり無くなってしまっているのだ。

目の前の母親の言葉から察するに中1ということは当然なのかもしれないが、近頃1カップ上がったことで密かに喜んでいた雪菜にはかなり痛い事実だった。

 

「どうかした?」

「い、いえ…なにも…」

「そう?制服似合ってるわよ」

 

少し大きめの制服に袖を通した雪菜を1通り満足そうに見つめた母親はなにやら食器を洗いにキッチンへと戻っていく。

そんな彼女の様子を伺いながら雪菜が皿に乗ったトーストを1口齧ったところで部屋にインターホンの音が響いた。

 

「どうぞ〜」

 

母親の呑気な声を受け、玄関のドアが開かれる。

 

「雪菜ー?ちゃんと起きてる?」

 

聞こえてきたその声は聞き慣れた紗矢華のものだ。

 

「紗矢華さん!?」

「何慌ててるの?制服、すごく似合ってるわね!写真撮ってもいい?」

「そんなこと言っている場合じゃないですよ!私達幻術かなにかに──」

「幻術?」

 

怪訝そうな顔をする紗矢華。

 

「そうです、きっと──」

「雪菜、巫山戯るのはやめなさい。紗矢華さんが困っているだろう。すまないが雪菜が遅れないように連れて行ってやってくれ」

「は、はい、分かりました。お気を付けて…」

 

雪菜の必死の言葉も父親の心無い言葉によって遮られた。どうやら会社へと出勤するのか鞄を手に玄関から出て行ってしまう。

もう少し娘の制服姿について言うことはないのか、などと考えた雪菜は自分の置かれている状況を思い出し、慌てて邪念を振り払った。

 

「紗矢華さん、本当に分からないんですか?」

「どうしたの?今日はちょっと変よ?雪菜のお父さんみたいに常に堅苦しいのも困りものだけど…」

「苦手…なんですね」

「まあ…ね」

 

苦笑する紗矢華の顔は本物だ。思えばつい数秒前に言葉を交わしていた時の紗矢華は少しおかしかったように思える。

 

「ってそんなことはどうでもいいんです!だからその…」

「その?」

「あれ…?私、何を…言おうとしていたんでしたっけ…」

 

雪菜の中にはもう既に起きた時から感じ、考えていたことがなんだったのかが全く分からなくなる。

やがてすぐに何かを考えていたことすら頭から消え、物忘れ特有の言葉に出来ない喪失感だけが残った。

 

「げっ…やっば…こんな時間。雪菜、荷物持って!走るわよ!」

「え?紗矢華さん!?」

 

紗矢華に乱暴に右手を握られ引っ張られながら雪菜は家を出ると爆走に爆走を重ね、なんとか遅刻せずに学校へと到着した。

 

「雪菜の教室はそこを右に曲がったところの2つ目。何かわからないことがあったら電話して!じゃあ後でね!」

「は、はい。ありがとうございます!」

 

台風のように去っていった紗矢華がいなくなれば初日の学校は未知の世界。

教えられた教室へと入り、黒板に貼られた座席表に従い席へと座る。

特にやることもない雪菜には喋る友達もいないため完全に暇な時間が続く。

 

(またですか…)

 

1人でぼうっとしていれば周囲の会話は自然と普段よりよく聞こえてしまう。

小学校が同じなのか、何人かで固まって話す男子の中に自分のことを噂しているグループが2つあることに気づいた雪菜は煩わしそうにため息をついた。

雪菜自身は自分の容姿が並外れているが故に噂されているということを知らない。故に噂されているとネガティブな内容ではないかと勘繰ってしまう。

多感な時期である雪菜にとってそれは少し辛いものでもあった。

 

そんな時間を何分か過ごし、担任である女教師が教室へと入ってくると一気に入学式が始まる。

テンプレートの話をいくつも聞き、面倒な式を乗り越え中学校生活1日目が終了した。

特にすることはなかったものの雪菜は何故かどっと疲れてしまっていた。

 

「雪菜ー?」

「紗矢華さん…恥ずかしいからあんまり大声で名前を呼ぶのは…」

「もう、気にしないの。1年に超美人が入学したって噂になってるのよ?」

「それで…なにかご用ですか?」

 

もはや呆れた雪菜は冷たい目を向けながら紗矢華へとそう質問した。

 

「ご飯まだなら一緒に学食行かないかなって」

「まだですけど…」

「なら決まりね」

 

(まったく…紗矢華さんは…)

 

今日1日ハイテンションな紗矢華を見て雪菜は心の中で苦笑していた。

慣れない生活が今日から始まる雪菜のためにわざとそういう接し方をしてくれているのは分かっているため、文句は言えない。実際はその理由が半分と、純粋に雪菜とまた同じ学校に通えることが嬉しいという理由もあったりするのだが。

 

「仕方ないですね…今から帰って食べていたら遅くなりますし。行きましょうか」

 

食堂へと向かう紗矢華を追う雪菜の顔はその声色とは裏腹に笑顔だ。

 

このときの雪菜は今日という日、紗矢華の提案に乗り食堂へと向かうことで人生が変わってしまうなんてことを予想だにしていなかった。

 




さて、もうお気づきかも知れませんが雪菜のIFルートになります。
特にバトルとかはないので気楽に読んでいただければなと、IFルート故にかなり設定を蔑ろにする予定なのであまり突っ込まずに別物として楽しんでやってください!

さて、前書きでも書きましたが…更新頻度が遅くなると思われます。
申し訳ありませんがご了承ください。
もし読むものをお探しであれば投稿しているオリジナルの方にも目を通していただけると嬉しいです。

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第65話

2ヶ月振りです!

なんとお詫びすればいいのかわかりませんが…空白の20年が帰ってきました…

もう読む気ない方もいるかもしれませんが、更新したので是非読んでください。日常回なのと久々で文が安定しないのが申し訳ないです。


紗矢華に連れられ、学校敷設の食堂へとやって来た雪菜はあまりの人の多さに倒れそうになっていた。

 

「あっちゃー…、さすがに人が多いわね…」

「お昼時ですから…きっと少し待てば空きますよ」

 

そんな雪菜の言葉で待つこと10分、痺れを切らした紗矢華が睨みをきかせ、何とかテーブルを1つ確保することに成功した。

 

「何か買ってくるけど、食べたいものある?」

「そうですね…では、紗矢華さんと同じものを」

「雪菜?もう少し自分の意見を持った方がいいわよ?」

 

その容姿故か小さい頃からあまり友達のいない雪菜を紗矢華は密かに心配している。

もちろん、紗矢華としては雪菜を独占できるというのはそれはそれで美味しいのだが、このままでは彼女のためにならないことも理解していた。

 

「なら、紗矢華さんにお任せします」

「わかった。変なやつに絡まれたらすぐに呼ぶのよ?」

 

そう釘を刺した紗矢華は長いポニーテールを揺らしながら人集りの中へと消えていく。

紗矢華がいなくなれば雪菜は途端に手持ち無沙汰になってしまう。

それが寂しいと思ったりはしない雪菜だったが、暇潰しに読書をしようかと鞄から本を取り出した時だった。

 

「それでね、クラスにすごく美人のお人形さんみたいな女の子がいてね!それでそれで──」

「その話はさっきも聞いただろ…それより座る場所を…」

 

そんな男女の会話が雪菜の耳に聞こえてきた。

 

(とても仲が良さそうですが、カップル…とかでしょうか…)

 

仲のいい男女=カップルという歳相応な考えを浮かべ、ページをめくろうとした雪菜へ背後から突然大きな声がかけられた。

 

「雪菜ちゃん!そこ、座ってもいいかな?」

「──っ!?ど、どうぞ…?」

 

声の主は活発な黒髪の少女。

驚き、弱々しく放たれた雪菜の言葉が聞こえなかったのか、少女は猫のように可愛らしい顔で雪菜の方を見つめていた。

 

(確か同じクラスの…)

 

「す、好きに使ってください。私達は2席しか使わないので…」

 

雪菜がそう改めて言い直すと安心したのか、少女は机にお盆を置くとゆっくり雪菜の前へと座った。

状況から察するに席を確保する前に、食券を引換に行ってしまい困っていたというところだろうか。

 

「ごめんね、食べたらすぐに空けるから」

「いえ…遠慮せずごゆっくり…」

 

本当に申し訳なさそうに顔の前で手を合わせる少女の勢いに圧され、雪菜は同席を承諾するしかなかった。

クラスメイトであり、女同士であればそう気にすることもないかと思った矢先、雪菜はついさっきこの少女が誰か男と話していたのを思い出した。

雪菜がその事に気づいたと同時に、ひどくバツの悪そうな声が響く。

 

「凪沙はそれでいいかもだろうが…、さすがにクラスメイトでもない見知らぬ男がそこに座るわけには…だな」

「そう?」

 

2人の中で完結していた話が突然雪菜に振られる。

急に沢山のことが起こりすぎたのと目の前の2人の関係が気になったりと、なかなか答えを出せない雪菜はとりあえず

 

「紗矢華さんに聞いてみましょうか?」

 

と一言口にした。

その何気ない言葉で凪沙の隣に立っていた銀髪の少年の顔が一気に青ざめていく。

 

「ど、どうかしましたか…?」

「紗矢華って…煌坂か…?」

「ええ、まあ…」

 

どうやらこの少年は紗矢華のことを知っているらしい。

それならば聞くまでもないと判断した雪菜は目線で着席を促す。

 

「いや、煌坂と同席はやばい…。オレは誰か知り合いを探してくるから、凪沙と仲良くしてやって──っ!?」

 

どこか慌てている少年の言葉はそこで途切れ、不自然に身体が降り曲がった。

見れば男の股の下から1本の細い脚が生えていた。

 

「暁 古城?私の雪菜に何しようとしてるの?」

 

古城と呼ばれた男が手にもつ盆をゆっくりと机の上に置いたことを確認した紗矢華は、無慈悲にも力強く脚を古城の股下から引き抜く。

そして支えを失った古城はバタりと地面に倒れ込み、悶絶。

 

「さて、色々買ってきたけど何食べる?」

 

足元の古城には目もくれず、紗矢華は雪菜へと笑顔を向けそんなことを聞いてくる。

紗矢華が雪菜へと擦り寄る男を睨んだり、脅したり、最悪の場合暴力も辞さないことはもはや雪菜はよく知っているが、さすがに今のはやりすぎではないかと思ってしまう。

 

(というか…明らかに私怨が入ってる気が…)

 

紗矢華の後ろで転がっている古城へと向く雪菜の視線に、紗矢華も自分が少しやりすぎたのを気づいたのか、少し気まずそうな顔になる。

よく見ると雪菜の前に座る凪沙もなにか恐ろしいものを目にしたような顔をしていた。

 

「こ、こいつは女の子に股間を蹴られて喜ぶ変態ドM男だから……!」

「んなわけあるかっ!?」

 

名誉毀損も甚だしい紗矢華の言い訳にツッコめる程度には良くなったらしく、古城はゆっくりと凪沙の隣へと座る。

罪悪感と周りの空気のせいでもはや何も言えなくなった紗矢華も、最後の抵抗と言わんばかりに古城を冷たい目で見ながら雪菜の隣へ。

 

「ご飯も冷めちゃいますし、早く食べませんか…?」

 

微妙な雰囲気が長く続くことを恐れた雪菜の言葉で4人は各々、昼食を取り始める。

紗矢華以外の人間とはあまり話すことのない雪菜はもちろんのこと、つい数分前の光景を見た凪沙もいつものようにマシンガントークを展開する気にはならないらしい。

 

そんな沈黙を破ったのは紗矢華でも古城でもなく、第3者の声だった。

 

「古城、那月ちゃんが春休みの課題について……ってなんで…煌坂さんと楽しそうにしてるの?」

「お前にはこの通夜みたいな状況が楽しそうに見えるのか!?」「藍羽 浅葱!?」

 

古城と紗矢華はほぼ同時に、改造制服を着た金髪美女に向かって外にまで聞こえるほど大きな声を返した。

 

「ちょっとこいつ借りていくから」

 

鬼のような形相で有無を言わさず、古城の首を掴んだ浅葱はそのままズルズルと食堂の外へと向かって行く。

 

「ゆ、雪菜?私少し用事思い出したから…す、すぐ戻るから!」

 

おろおろと雪菜と古城が連れていかれた方向を見ながら、紗矢華はそう言うと人混みを掻き分けものすごいスピードで浅葱を追いかけて行った。

 

「あはは…なんだか変なことになってるね…」

「そ、そうですね…とりあえずご飯…食べちゃいましょうか…」

 

机の上に放置された4人分の食事を前に、雪菜と凪沙は半ば呆れた顔で苦笑し合った。

雪菜にとって、暁兄妹との出会いはこんな波乱のものだった──




元々、この作品は原作1章が終わり2章がどうなるか分からないとのことだったのでどうせ出ないなら自分で書くかと始めたものです。

しかし…原作が思ったより早く復帰してしまい(嬉しいことではありますが笑)特に書く必要がなくなったような気がしていました。
ですが、お気に入りが徐々に増えるのを見たり、Twitterで更新は?と聞かれることがありなんとか原作からの分岐IFルートとして書き続けることを決めさせていただきました。

勝手な都合でなかなか更新せず、本当に申し訳ないですがゆっくりと更新していくので是非応援していただければと思います!

励みにもなりますし、久々に皆様の意見も聞きたいので是非感想、評価などお願い致します。

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