総武高校男子生徒がサイゼで駄弁るお話し (カシム0)
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異世界召喚

 ふと思いついたお話し。
 八幡は魅力あるキャラなので、色んな作品にお邪魔することが多々見受けられます。
 俺ガイルのキャラがファンタジー世界に召喚されたら、というのを妄想していたらこんなん書いてました。
 じゃあどうぞ。


 

 

「異世界召喚されたい」

「何言ってんだお前?」

 

 俺の対面に鎮座している暑苦しい男、材木座義輝がわけのわからないことを言い出した。

 ここは学生の味方にして楽園たるサイゼである。そんな場所に、室内だというのに季節外れのコートと指出しグローブを外さない、高校生にもなって厨二を患う手遅れ患者がありていに言って阿呆なことを言い出したのだ。俺の返答もむべなるかな。

 

「うむ。以前から考えていたのだ。現代日本では我の剣の腕を振るう機会はない」

 

 逃げることが悪いことだとは思わない。現状の分が悪ければ一旦退いて仕切り直しすることに何の非があろう。戦略的撤退という言葉もある。

 だが、材木座のセリフは逃げどころか現実逃避である。さすがの俺でも現実からは逃げようとは思わない。現実とはちゃんと向き合って、迫りくるならば回避するのが俺の心情だ。戦わなきゃ、現実と。

 ってーか、剣豪将軍を自称する材木座はどれほどの剣の腕を持っているのだか。剣道習っているとか聞いた記憶はないが。

 

「さよか」

「うむ。我の隠された実力を発揮させるには、この世界は不自由に過ぎる」

 

 それしか言うことができなかった俺は何も悪くない。隠されたまま出てこない実力なんて、意味がない。そもそも妄言なのだから実在するかもわからんが。

 呆れてため息をついた俺は服の裾をくいくいと引かれる感触に気づく。そちらを向くと、天使がいた。

 

「ねえ八幡」

「お、おう。どうした戸塚?」

 

 戸塚彩加。小柄な体に透けるような肌、サラサラの髪。物腰は柔らかく、しかして芯は強い。一言でいえば天使。二言で言えば可愛いの代名詞。だが男だ。

 戸塚は意識してではないのだろうが、上目づかいで俺を見ていた。その様に俺の胸はキュンキュンしだしている。

 

「材木座くんの言っていることがよくわからないんだけど、イセカイショウカン? って、何のことかな?」

 

 戸塚はガンプラとかミニ四駆とか、男の子の遊びにはそこそこ詳しいけど、アニメはそれほどでもないもんな。というか、異世界召喚という言葉自体、ネット小説でも読み漁らないと普段の生活で聞くことはない言葉だ。

 さて、そういう人に異世界召喚を説明するには……

 

「簡単に言うと、現代日本から剣と魔法の世界に召喚される話だな。大体物語の初めは王様とかお姫様が『よくぞ召喚に応じてくれた勇者よ。世界に仇成す魔王を退治してくれ』とか、そんな感じか」

「ああ、なんとなくわかった。けど、どんな話があったっけ?」

 

 結構昔からあるジャンルではあるが、いざ例を上げろと言われてもすぐには思いつかないものである。最近の作品だとリゼロとかノゲノラとか、オーバーロードやログホラはカウントしていいものだろうか。

 いや、最近の作品はテンプレ外しが多いからな。先の例に沿った作品を上げるなら、戸塚にもわかりやすい作品を選ぶならば……

 

「ワタルとかラムネとか、かな」

「あ、再放送で見たことがある!」

 

 例が見事にロボットアニメに偏った上古いものになってしまったが、わかりやすかったようだ。もっと言うならばレイアースやエスカフローネも当てはまるだろう。こう考えると異世界召喚とロボットって親和性が高いんだな。

 

「ダンバインもそんな感じだよね」

 

 やはり戸塚のチョイスは渋い。戸塚の知識はひょっとしてスパロボから来ているのだろうか。

 

「いや、ロボットも悪くはないが、やはり自ら剣をふるい魔法を以て戦いたいものよのう。ゼロ使のような」

「お前はチートハーレムしたいだけだろ」

「な、何を言うか! 我は剣豪将軍、女に現を抜かすなど……まあ、あちらから来るというのであればやぶさかではないが」

「さよか」

 

 まさに童貞乙な材木座のセリフである。そうして呆れる俺の裾を、またもや戸塚がくいくいと引いてくる。いや、俺はすでに戸塚に惹かれているが。

 

「八幡、ちいと? って、何?」

 

 戸塚の可愛さはもはやチートかもしれん。いやいや、天然ものの戸塚にそんなことを思ったら失礼か。

 

「厳密には違うんだが、ゲームでズルをすることをチートっていうことが多いな。ステータスをいじったり、レアアイテムをゲットしたり、そういう行為をチートという」

「へー、そうなんだ。それで、何で材木座くんがチートをしたいの?」

「理屈はそれぞれあるけど、異世界召喚されると何らかの特別な能力が与えられることがある。使ったことない武器の使い方がわかったり、強い魔力を持ってたりな」

 

 ニコポナデポなんかもあるが、説明しづらいし割愛する。

 

「ふーん……自分の力で得た能力じゃなくて、誰かから与えられた能力で活躍するってこと?」

「まあ、そんな感じだ。例えば、戸塚がある日突然テニスが上手くなる、とかな」

「えー、それって何が楽しいの?」

「ぐふっ!」

 

 戸塚の清廉潔白な返答により材木座に多大なダメージ。闇属性に光属性は効果抜群だ。

 

「……ええい、夢のない奴らめ。というか八幡! 貴様も全く考えなかったなど言わせぬぞ。貴様も我と同じように想像したことがあるはずだ!」

「うっ……否定はできんが」

 

 黒い歴史を紐解くに、中二病を患っていた俺は永久欠神『名もなき神』の転生体であると信じていたし、親父のコートとお袋のファーでコスプレをしていたこともある。

 ここで重要なのは、こともある、の部分である。卒業しているのだ。貴様のいるところはすでに三年前に通過している!

 

「僕も昔、お姫様を助ける冒険にあこがれたことあったなぁ」

「そうだよな! 男の子なら誰だって一回はあるよな!」

「う、うん……材木座くんはまだ憧れてるんだね?」

「モハハ。我は童心をいつまでも忘れぬ男であるからな」

 

 童心しかないような気がするが。まあ、本人がそれでいいなら何も言うまい。

 鼻の穴をぴくぴくさせながら、材木座は踏ん反りかえって語りだす。

 

「そう。いつもと変わらぬ日常。ある日、帰宅途中の我の眼前に魔法陣が浮かび上がる」

「それが異世界からの召喚魔法?」

「うむ。我は異世界の民の助けを求める声に応え、ゲートに飛び込むのだ」

 

 心優しい戸塚が材木座の妄言に反応してしまったため、いい気になって設定を語りだす材木座。すでに手垢のついた設定だが、詳しくない戸塚には新鮮に聞こえるのだろうか。 無垢な戸塚に悪影響が出ないか不安になる。

 

「落下する感覚が終わり、目を開けると石造りの広間。目の前に桃色髪の姫が潤んだ目で我を見ている」

「桃色ガミ?」

「異世界だから髪の色も違うんだろ」

「ああ、神様じゃなくて髪の毛か」

 

 すでに材木座の妄想垂れ流しになっているのだが、なんとなく止めるタイミングを失ってしまった。周りに聞こえたら恥ずかしいが、サイゼで周りを気にする奴もいないだろうから放置する。

 

「姫は我に、勇者様世界をお救いくださいと頼み、我はそれを承諾する。そうして我の冒険が幕を開けるのだ」

「そんであれか? 岩か何かに刺さった聖剣を抜くんだろ。んで、私は男を捨てたとか言ってる男勝りの女騎士から剣を教わって、女扱いして惚れられる。優秀すぎて周りから浮いている女の宮廷魔術師から魔法を教わって、現代知識で魔術の改良して惚れられる。崇め奉られる聖女様と対等な付き合いして惚れられるんだろ?」

「ぬぐっ!」

 

 材木座の考えそうなことだ。オリジナリティがなくパクリまくり、細部を変えてこれはオリジナルだと主張する。マルパクリじゃなければパクリじゃないと考える様な奴だからな。

 俺たちのやり取りが分からなかったのか、戸塚が首を傾げている。その様も可愛い。

 

「えーっと、今のが異世界召喚のお約束、って奴なのかな?」

「そうだな。テンプレともいう」

「ぐはっ!」

 

 無垢なる戸塚の純粋なる疑問に、自分でも自覚していたのであろう材木座が崩れ落ちる。

 テンプレから脱却しない限り、作家材木座はいつまでも生まれることなくワナビのままだ。

 ちなみに、商業作品でテンプレをことごとく採用した強者がいる。

 

「八幡だったら違う行動しそうだね」

「ま、そうだな。人から与えられた情報を鵜吞みにするようなことはしないだろうな」

「フン。捻くれ者の八幡らしいではないか」

 

 正直者が馬鹿を見る世の中だ。捻くれているくらいがちょうどいいだろうと思うのだが、ふんぞり返る材木座を見て少しイラッとする。

 うむ。自称正直者の材木座に現実を突きつけてやるのもいいかもしれん。

 

「現実に当てはめてみればわかると思うぞ? そうだな……俺が召喚した神官で、材木座が勇者だ。戸塚がその国のお姫様だ」

「うむ。当然だな」

「僕お姫様なんだ……」

「俺と戸塚が材木座に我が国を攻め、王を惨殺した魔王を神から与えられし聖剣で退治してくれと頼む。材木座はそれを受けるか?」

「無論だ。可憐なる姫の憂いを晴らすなら、我は何でもやって見せよう」

「可憐なんだ……」

 

 予想通りの答えだな。少しは物を考えるということをしてはどうだろうか。

 

「ちなみに、俺はテロリストの一員でア○リカに殲滅されたグループの生き残り。戸塚はテロリストのリーダーの娘。魔王はアメ○カの大統領」

「な、なんと……剣で大国に立ち向かえと!? そんなことできるわけがないではないか!」

「大丈夫。勇者殿には我らが神から与えられし不思議な力が宿っております。神殿の外には魔王の手下、ア〇リカ陸軍が徘徊しておりますが、勇者殿ならば大丈夫」

「勇者様、我が民をお救いください。姫は勇者様の武運を祈っております」

「ぐ、ぬぬ」

 

 戸塚も俺の言いたいことを理解したのか、手を組み祈るような仕草を材木座に向ける。ハニートラップのようだが、戸塚にこんなことされたら俺も二つ返事で受けちゃうかもしれん。

 

「とまあ、召喚された世界、召喚した人が心優しいとは限らないだろ」

「そうだね。神様から与えられた力っていうのもよくわからないし、相手が同じ人間ってこともあるのか。やっぱり八幡みたいに少しは疑った方がいいのかな?」

「後出しは卑怯だぞ八幡」

「何も聞かないのが悪い」

「ぐぬぬ」

 

 何がぐぬぬだ。

 テーブルに突っ伏した材木座は放っておき、俺と戸塚はドリンクバーのおかわりに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ついでに材木座の分も入れてテーブルに戻ると、材木座は復活していた。相変わらず打たれ弱くとも立ち直りが早い奴だ。

 

「うむ、ご苦労。ところでな。いざ異世界に召喚されたとして、八幡はどんな武器を使うのだ?」

「あ? まだその話続いていたのかよ」

「よいではないか。こういう話ができる者が周りにいないのだ」

「あっ(察し)」

「あ、あはは」

 

 情けないことを堂々と言う材木座。同好の士ならネットに多々いそうではあるが、煽られ罵られ会話にならなそうでもあるな。

 まあ、たまにはこういうバカ話をするのもいいだろうか。

 

「武器かあ。縁遠くて何がいいのか想像もつかないや」

「だったら、職業で考えてみるといいんじゃないか? 材木座は勇者だから刀か剣だろ、どうせ」

「無論だ。世界を救う勇者は聖剣を携えるが当然!」

「じゃあ八幡は?」

「俺は……シーフとか忍者かな。影でこそこそしてるのが俺には似合ってんだろ」

 

 昔なら黒ずくめの格好でマスクつけて大鎌構えて死神ロールとかしそうだが、俺の影の薄さを有効活用して情報収集とかいいかもしれん。というか、モンスターの矢面に立つとか怖くてヤダ。

 

「ならばナイフの二刀流だな」

「あ、格好いいねそれ」

「弓矢とかもいいな。それで陰からチマチマ削る」

「影から助けてくれるのも八幡らしいね」

 

 肯定的に見てくれる戸塚の笑顔が心に痛い。そうか、俺も闇属性だったか。

 

「僕はどうだろう? やっぱり直接攻撃するのはちょっと怖いな」

「魔法使いでいいんじゃないか。戸塚が後方支援してくれたら俺が体を張って守ってやる」

「えへへ、ありがとう。じゃあ僕は杖かな」

 

 林間学校の肝試しでも魔女のコスプレしていたし。それに戸塚に泥臭いのは似合わない。テニスは別だが。

 戸塚の笑顔は癒されるから僧侶でもいいかもしれないな。

 

「勇者、盗賊、魔法使いか。戦力的にバランスはよいが、やはり戦力不足は否めんな」

「他の人も考えてみようよ。一人だけじゃなくて複数が召喚されたら、みたいな」

「うむ。最近ではクラス全体で召喚される作品もあるからな」

 

 その場合、クラスでぼっちとかいじめられてるのがハブられて、強くなって見返すのがパターンなんだが。つまり俺が当てはまりそうなんだが。

 というか、戸塚が話に乗ってしまっているな。まあ、戸塚も男の子なんだし、こういう話に適正はあるのかもしれん。

 

「じゃあ、由比ヶ浜さんなんかどうかな」

「由比ヶ浜か。あいつは優しいからな。戦うところなんて全く想像もつかんけど、かといって後ろでじっともしていなさそうだな」

「うむ。ならば後方支援ということでやはり魔法使いか僧侶ではないか? それか錬金術師」

「あいつは物づくり不器用だぞ。あ、ポイズンクッキングなんかできそうだな」

「ひどいなぁ八幡は。それなら、包丁とか?」

 

 戦場の料理人。ただしバフ効果はなくデバフのみ。そういう縛りプレイをしてるやついるか?

 

「あの怖い部長殿はどうだ? 戦闘得意そうだが」

「あー、自分よりでかい男投げ飛ばせるのは確かだが、モンスター相手だとどうだろうな」

「えっと……もしかして雪ノ下さんのこと?」

「あの女帝ならなんとかしてしまいそうだが」

「いや、納得しちまいそうだけど、体力ないからな。薙刀とかレイピアとか使えそうだな。姫騎士なんて呼ばれそう」

「くっ殺」

「おいやめろ。気高く気丈な雰囲気とかぴったりだけど」

 

 似合いそうだけどそれはマジでやめろ。似合いそうだけど。

 首を傾げている戸塚はそのまま純粋でいてくれ。

 

「あと氷属性の魔法が得意だろうな」

「リアルに使えるぞ、あいつは」

 

 背筋がゾクッとすること何回かあるしな、うん。

 ミニスカでブレストプレートつけて、レイピアと氷魔法で大暴れする姿が似合うな。

 

「じゃあ三浦さんは炎かな」

「対の勇者ってか?」

 

 イメージとしては対照的なんだが、実力的に三浦が雪ノ下に対抗できるかと聞かれると疑問符がついてしまう。

 

「えっと、じゃあ葉山くんは?」

「光魔法と白い鎧で剣。材木座みたいな似非勇者じゃないマジモンの勇者」

「っく、妄想の世界でもやはり立ちふさがるかリア充!」

 

 あいつは想像しやすいな。材木座みたいに騙されてるふりして裏を探る腹黒勇者かもしれんけど、材木座よりはまともな勇者をやってくれそうだ。

 

「逆に、職業に合いそうな人ってどうかな? 格闘家とか神官とか?」

「格闘家っつーか、殴るのが似合うのは川……崎とか?」

「あの女傑か。顔はやめなボディーにしなの」

「川崎さん? 川崎さんって別に不良じゃないけど」

「いや、あいつは、まあ、うん。とにかく、格闘家は川崎だな」

 

 確かに不良っぽいだけで真面目な奴だからな。大志関連になると一気に荒っぽくなるけども。

 

「神官と僧侶はどう違うのだ?」

「知らんけど、海老名さんでいいんじゃねえの?」

「ああ、巫女服着てたことあるね、そういえば」

 

 それもあるが、邪教を腐教しようとしている邪神官だ。近寄らないが吉。

 

「他にファンタジーな職業って何かあったかな?」

「狩人とか、踊り子とかか?」

「はぽん。八幡の妹御など狩人が似合うのではないか?」

「あ、そうだね。小町ちゃん器用そうだし、剣も弓も魔法もなんでもこなせそうなイメージが」

「言われてみると、そんな気がしてくるな」

 

 歌いながら戦ったり、アルティメット化しそうだな。う、頭が。

 

「踊り子……留美、かな。体操やってるし」

「ファンタジーの踊り子と言えば扇情的な衣装でエキゾチックに踊るあれではないか?」

「そういえば、何でかアラビア系のイメージがあるね。薄布とターバンで踊るような」

「いや、別に留美にそういう服を着せたいわけじゃないぞ」

 

 つるぺったんだしな。……それはそれで似合いそうな気もするが。いや、似合うだろうな、うん。最近成長期みたいだし。

 

「あとは、誰だろう。あ、生徒会長は?」

「生徒会長って、一色か」

「あのきゃぴきゃぴしたリア充の権化のような女子か。我には戦う様子が全く思い浮かばんが」

「ああ、あいつは戦うより戦わせるっつーか、それこそ姫様が似合ってんじゃねえの? あいつのために戦う軍団とか作ってさ。俺は参加せんけど」

 

 ネトゲだったら姫プレイやってそう。

 

「いや、しかし。結構思いつくもんだな」

「そうだね。なんか、途中から面白くなってきちゃったよ」

「うむ。これでいつ召喚されても大丈夫だな」

 

 こんな話だけで大丈夫な異世界召喚は簡単だろう。シリアスも何もないギャグストーリーに決まっている。

 

 

 

 

 

 くだらない話をし続けることしばし、さすがにネタが切れてくる。というか、こんなネタでよくもこれだけ時間を潰せたものだ。

 

「そろそろ帰ろうか?」

「うむ。間もなく夕餉の時間になってしまったな」

「少し気分転換のつもりだったのに、結構居座っちまったな」

 

 入店時は外はまだ明るかったのに、すでに暗くなっている。もう小町は家に帰っているだろうか。

 

「それじゃ、またね」

「うむ。またこのような話をしたいものだ」

「もうネタねえだろうけど、ま、時間があればな」

 

 それぞれに会計をすませ別れる。

 たまには、こんなバカ話をするのもいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男子高校生三名が退店してすぐ、彼らが座っていた席の反対側から身を起こす女生徒集団があった。

 

「帰った?」

「みたいですね」

 

 ひょっこりと顔を上げたのは五名の女子。うち四名は総武高校の制服を着ており、一名は付近の中学校の制服を着ている。

 お団子頭の、童顔ながら豊満なスタイルの由比ヶ浜結衣。

 肩までの髪に華奢な体つきの一色いろは。

 

「いやー、まさかお兄ちゃんたちとばったり出くわすとは」

「そもそも、なぜ身を隠すような真似をしたのかしら?」

「小町さんが盗み聞きしようとか言いだしたから、ですかね」

 

 八重歯が特徴的な、先ほどまで隣席にいた比企谷八幡の妹比企谷小町。

 長く艶やかな髪とスレンダーな体つきの雪ノ下雪乃。

 同じく長く艶やかな髪とスレンダーな体つきの、ただ一人中学生の鶴見留美。

 彼女らは、身を起こしてふうと一息ついていた。

 

「それで、言われるがままに息をひそめていたけれど、なぜ小町さんはこんなマネを?」

「お兄ちゃんが男の人と、普段どんな話をしてるのかなーって、気になりまして」

「普段の話じゃなかったみたいだけど」

「そだね。なんか、アニメとかゲーム? の話みたいだったし」

「最初の方、何言ってるのかわかりませんでしたけど、どうでした?」

 

 留美の問いに、全員が縦に首を振る。確かに最初の話はディープにも程がある話であったので無理もない。

 

「あ、でも後半はわかりやすかったかも。優しいから戦うところ想像つかない、ってところは嬉しかったけど。うう……最近お料理頑張ってるのにな」

「まあまあ結衣さん。小町なんか大したコメントなかったんですから、なんか言ってくれてるだけましってもんですよ」

「八幡、私が露出の多い服着るの想像してませんでした?」

「留美ちゃん!? いや、ヒッキーはそんな、ほら、……して、なかったと、思うよ? ちゃんと顔見てなかったけど」

「……小町さん、今度の日曜日なんですけど」

「お? なんだったら小町は友達の家に行っちゃうよ?」

「小町ちゃん! 何でそそのかしてるの!」

 

 留美が決意を固め、小町が後押しをし、結衣がそれを止めている最中、反対側のシートでは女同士の戦いが行われていた。 

 

「いやー、先輩ったら、私のことお姫様だって。まったくもー。ねー、雪ノ下先輩」

「痛いわ一色さん。それに、比企谷くんは私のことを姫騎士と称していたわよ。ただのお姫様ではないわ」

「ゆきのん、そんな張り合わなくても……」

 

 隣に座る雪乃の背中をバシバシと叩く命知らずないろはに、少しイラつき気味に雪乃が髪をかき上げる。

 テンションがダダ上がりのいろはと、いつもの負けず嫌いを発揮させた雪乃を結衣が宥めるが、どうにも収まりがつかない様子である。

 

「ところで、木材屋さんが何か言ってましたよね、くっ、なんとか」

「そうね。くっころ、だったかしら?」

「いつものネタなんでしょうけど、調べてみましょうかねーっと」

 

 言って、いろははスマホで検索を始める。雪乃も、反対側に座っていた三人も覗き込む。

 

「あ、一番上に出てきた……『くっ殺せ』? なんだか不穏な感じですけど……」

「……留美さんはこれ以上見てはダメよ」

「と言われても、こっちからだとよくわからなかったんですけど」

「調べてもダメ。いいわね、約束よ?」

「はあ……」

 

 検索ワード『くっ殺せ』の意味を把握できたのは、正規の位置で見ていた雪乃といろはのみ。ページを読み始めてすぐ、スマホを隠す。

 

「……うわー、こんな話をしていたんですね」

「……下劣なことを。どうしてくれようかしら」

「気高く気丈な女騎士とか言ってましたけど」

「それは、……それはそれとして、人を下劣な対象に見たのだから許しておけるわけないでしょう?」

 

 言い出したのは材木座であるが、雪乃の怒りは八幡に向かっている。非常に理不尽ながら。

 しかし、この後いろはに宥められ、盗み聞きのような真似をしていたのだから、と怒りを飲み込むのだった。

 後日、雪乃と八幡が出会ったときに、雪乃の八つ当たりがあったのかどうかは定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 書いてみてまとまりがない様な気もしましたが、たまにはこんなバカ話もいいのではないかなーっと。
 今後も似たような形で思いついたネタを上げていく予定です。
 ちなみに八幡たちの職業なですが、そのキャラのイメージと、中の人たちが演じてきたのを参考に適当に挙げてみました。

 気が向いたら、俺ガイルのキャラがファンタジー世界に召喚された話を書いたり、は多分しないですね。
 誰か書いてー。
 次は異世界転生のお話?
 じゃあまた。


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異世界転生

 書いてたら色々調べだして、結局モチベが下がる悪循環。
 もっと準備整えてから書けよとしみじみ思います。
 それはそれとして、どうぞ。


 

 

 

 

「異世界転生したい」

「何言ってんだお前」

 

 俺の対面に鎮座している暑苦しい男、材木座義輝がわけのわからないことを言い出した。ついこの間も似たようなことを言っていた気がするが、この男はいつでもわけのわからんことを言っているので、別にどうでもいいか。

 

「常々思っていたのだ。我は生まれる世界を間違えたのではないかと」

 

 本格的に現実逃避し始めたなこいつ。現世に見切りをつけて来世に希望を託すとか、末期である。

 とある黒い狂戦士も言っていたぞ。逃げた先にあるのはまた別の戦場だと。材木座は現代日本とは別の場所で生きていきたいようだが、またもや考えが足りない。

 

「我のような生粋戦士に、この世界は不自由に過ぎる」

「さよか」

 

 それしか言えない俺は悪くない。そもそも材木座だって本気で言っているわけではないだろうし。

 

「ねえ八幡」

「ん、どうした戸塚?」

 

 呆れた俺の裾をくいくいと引く戸塚。体勢的に上目遣いになっているのがまた、うん、何で男なんだろうなとしみじみ思う。

 

「異世界はこの間の話で分かるけど、テンセイって?」

 

 転生もまた普段使うことのない言葉である。輪廻転生とか仏教徒でもないと知らない言葉だろう、本来は。

 最近は異世界転生する作品がネット小説界隈で雨後の筍のごとく乱造されているが、とうとうアニメ化する作品まで出てくる始末。面白い作品もあるにはあるが、若干粗製乱造の感は否めない。

 異世界召喚と違って戸塚に説明するにも、例を挙げることはできそうにないな。

 

「日本で生きていた主人公が剣と魔法の世界に生まれ変わるんだ。大体主人公はトラックにひかれたり通り魔に刺されたりして死ぬ」

「ええっ!? ダメだよ材木座くん! 材木座くんが死んじゃったら、僕悲しいよ……」

 

 潤んだ瞳で材木座を見る戸塚。材木座の妄言に本気で対応する辺り本当にいい子だ。戸塚にこんな目で見つめられたら、死を考えていても考え直すだろう。

 戸塚に見つめてもらえるなら、それも悪くは……いやいやいかんいかん。俺は材木座ほど悲観はしていない。

 ともあれ、冗談を本気で受け取られた材木座は一気に慌てだした。

 

「い、いや、そのだな。我は別に死にたいと考えているわけではなくて、だな」

「冗談で言ったの!? それはそれでダメだよ! 冗談めかして言うことじゃないでしょ」

「は、はい、すいません」

 

 心配から激おこになった戸塚の勢いに材木座はタジタジである。材木座のようなバカを本気で心配する戸塚マジ天使。

 俺だから材木座が馬鹿言ってるなで済むが、異世界転生なんて言葉を知らない人からしたらただの自殺願望である。この場に戸塚がいることを考えず発言した材木座が悪い。

 

 

 

 

 

 ぐったりとした材木座を放置し、戸塚とドリンクバーに行く。

 

「まったくもう、材木座くんったら。言っていいことと悪いことがあると思うんだ」

「言ってることはただの妄言だったけどな、あいつに死ぬ度胸も理由もない。だから放っておけばいいと思うぞ」

「それでも、簡単に言っちゃダメなことだと思うよ」

「そりゃそうだな」

 

 この件に関しちゃ戸塚の言っていることが全くもって正しい。

 飲み物を持って席に戻ると材木座が復活していた。相変わらず凹みやすくも立ち直りが早い奴である。酷評されても復活できるようになりゃ、ネット小説でも何とかやっていけるんじゃないのかね。

 そわそわしている材木座に飲み物を渡すが、ソワソワ具合が見ていて何とも気持ち悪い。

 

「どうしたの材木座くん?」

「どうせ異世界転生の話をしたいだけだろ」

「そうなの材木座くん?」

「う、うむ。その通りではあるのだが」

 

 むうと材木座を睨むとつかわいい。じゃなくてだ。

 材木座のことで取りなしてやる必要性は全くないのだが。俺の人生に何ら影響を与えることはないのだが。

 だがまあ、バカ話をするのはそれなりに楽しいことであると、この間知ったばかりだ。だからまあ、たまにはな。

 

「ちょっと待ってくれ戸塚。材木座がバカなこと言っているのは確かなんだが、深く考えずただのバカ話として聞いてやってくれ」

「八幡……まあ、それなら。ところで、異世界召喚とどう違うの?」

「異世界召喚は今の自分がそのまま異世界に行くことで、転生はその世界に生まれることだな。そっちの世界に家族がいて。地盤持ってるかどうか、じゃないか」

 

 小町がいないならその世界に興味はないので俺はごめんだが。

 

「そんで、材木座は異世界転生にどんな希望を持ってんだ?」

「うむ! よくぞ聞いてくれた」

 

 憂い顔からぱあと明るくなる材木座のうざさを見て、さっそく話を振ったことを後悔し始めた俺である。

 

「そも異世界転生の話をするならば、その定義を決めなければなるまい」

「定義って、死んじゃって別の世界に生まれ変わることじゃないの?」

「うむ。まあ、それはそうであるのだがな。まず異世界の定義だ」

 

 異世界ねえ。作品の異世界というとだいたいが剣と魔法の世界だが、魔法がない中世風で地理が違えばそれも異世界ではある。文明が発達しすぎた未来の地球だって異世界といっていいだろう。

 

「まず、剣と魔法の世界であるとして、地理も気候も地球と変わらないものとする」

「わかりやすくていいね」

「違う気候や農作物が考え付かなかったんじゃねえのか?」

「ええいうるさい! 読者にわかりやすくするため、あえてそうしているのだ!」

 

 作者より頭のいいキャラクターはかけないというが、作者が知らないことは作品には出てこない。作品に深みを持たせるためには勉強も必要ということだ。

 

「そして転生についてだが、一般的な転生とする」

「転生は一般的じゃねえよ」

 

 少し見たことがあるが、ネット小説界隈で異世界転生物は一時席巻したそうだ。新着はどれも異世界転生、猫も杓子も異世界転生。そりゃテンプレも出来上がるというものだ。

 だが、俺も戸塚も、異世界転生のテンプレなんぞ知らん。

 

「それもそうなのだが、まず神様の手違いかどうかだ」

「神様の手違い? って、なにそれ?」

「チートがあるかどうかか?」

「その通りだ」

 

 よくは知らないが、異世界転生物はだいたいがトラックにひかれることが多いらしい。交通事故死者は一日一人のペースでも足りないのではなかろうか。嫌な世界だ。

 それはともかく、運命を司る神やら何やらが本来死ぬべきではない人を死なせてしまって、土下座して謝って望む特殊能力を与えて異世界に転生させるのがお約束なのだそうだ。

 

「神様が人ひとり死なせて土下座するの?」

「下っ端の神様だったんじゃねえの?」

「そうでなくとも異世界に転移した段階で何らかの能力を手に入れることが多いようではあるがな」

 

 普通間違って殺されたいなんて考えないと思うんだが、別に材木座だからいいか。

 

「あ、なんかどっかで聞いたことあると思ったら、幽〇白〇だ」

「神様じゃなくて閻魔で土下座もしないけど、生き返った後霊能力あるな。確かに」

 

 あれも確か主人公が子供を助けるとは思わなかった、とか何とかだったか。

 

「それで、結局異世界でチーレム無双したいってんなら、こないだの話と変わらなくねえか?」

「いや、あえてここではチートはもらわないでいく」

「えーっと、じゃあ普通に死んじゃった後に転生したってこと?」

「うむ」

 

 ほう。人生舐め切っている材木座が特典なしの苦行の道を選ぶとは。いったい何を考えているやら。

 

「今日話す異世界転生の定義とはこうだ。気候は日本と同じ、一年三六五日は地球と同じ。文明レベルは中世程度で剣と魔法の世界だが、転生する我に特殊能力はないもののその世界での普通レベルの才能はあるものとする。ただ、領主の子として生まれる」

「領主の子ってことは跡取り? それとも上に後継ぎいるの?」

「いや、嫡男で行こう」

「つまるところ、内政チートをやりたいってことか?」

 

 チーレム無双ではなく内政無双、というより現代知識無双か? こいつにできんのか、そんなこと? 材木座の成績ってどんなもんだろう。興味がないからわからんが、少なくとも国語の成績は悪いだろうな。登場人物の心情を計ることとかできなそうだし。

 

「領主の内政っていうと街の発展が目標でいいのかな? 現代で言うと県知事とか?」

「選挙とかじゃなく国王から任命されて世襲制だろうけど、やってることは似たようなもんか?」

「領主は一国の主と言っても過言ではなかろう」

 

 領主の仕事は、現代で言う立法、行政に加え、軍備も扱うわけだ。さすがに司法は裁判所や警察、はないだろうから騎士団あたりに任せるだろう。権力集中しすぎじゃねとも思うが、中世くらいならそんなもんだろうか。

 

「んで、そんな世界でお前は何をどうしたいんだ?」

「うむ。まずは子供のころから神童と称えられるところから始めなければなるまい」

 

 お前は、まずの意味を知った方がいい。話が全くもって繋がってねえだろ。ほれ見ろ、戸塚もぽかんとしてるじゃねえか。由比ヶ浜がやればバカみたいに見えるが、戸塚がやれば可愛い。とつかわいい。

 

「幼き頃から屋敷のメイドや料理長と仲良くなっておく。神童のイメージを植え付けておくのだ。この人ならば何をしておかしくないと、この人についておけば間違いないと、後々の味方を作っておくのだ」

「味方を作っておくのは間違いじゃないよね」

「まあ、そうだな。んで、どうやって仲良くなるんだ?」

「ふむうん。メイドと言えば女性、女性ならば甘いものが大好き。料理長ならば新しい料理に興味津々。ゆえに、スイーツだ!」

 

 目の付け所がシャープじゃないんだよなあ。考えが単純すぎる。小説ならそれくらいで目を掛けられるかもしれんが、料理に詳しいからと言って神童と思われるとは限らんだろうに。

 

「シュークリームやワッフル、ケーキを作る。こうして子供の言うことを大人に信用してもらう土台を作るのだ」

「お菓子でできるかなぁ」

「そもそもお前スイーツ作れんのかよ」

「そして何より、カレーだ!」

 

 聞いちゃいねえ。もしくは聞こえていても無視してるのか。ああ、そうかい。お前がそういう態度に出るなら、こっちもガッチリやったろうじゃねえか。

 

「八幡、どうしたの?」

「いや、メモっておこうかとな」

「ほほーう。なかなかの心がけではないか八幡よ」

 

 カバンからルーズリーフとペンをとる。間違っても材木座のプランに賛同しているわけではない。

 

「カレーは万人に受け入れられる奇跡の食品だ。日本と同じ食材があるならば味覚も日本人とほぼ同じであろう。ならばカレーは大人気間違いなし!」

「ねえ、八幡、これってひょっとして?」

「ああ、テンプレなんだろうな、異世界転生の」

 

 テンプレを沿うことしかできない材木座である。間違いないだろう。

 

「こうして子供のころから優秀さをアピールし、早いうちから政治にかかわっていくのだ!」

「政治っていうと法律改正したり、インフラ整備したり、かなぁ。僕が考え付くのだと」

「その世界の政治がどうなってるのかわからんが、無駄を省いて効率化、だろうな。素人ができることと言ったら」

 

 そもそも、材木座が現代の政治に精通しているとも思えんので、異世界の政治に口出しできるとも思えん。

 

「まずは奴隷制度の廃止。奴隷なんぞあってはならない。人間はみな平等なのだ。ゆえに、奴隷市も奴隷商人も廃止だ!」

「まあ、それはそうだね」

「奴隷、と。んで、他には?」

「医療の改革だ。住人全員分の抗生物質の確保によって伝染病被害もなくなるだろう」

「うーん、減るだろうけど」

「なくなるは言い過ぎだな」

 

 俺と戸塚の声は全く材木座に届いていない様子。聞く気がないのか、テンションが上がって聞こえていないのかわからんが、とりあえずうざい。

 

「飢饉に耐えうる作物を生産する農家に特別に報奨を出し、各種災害に備える。また、税についても見直さねばならぬな。二公八民が理想ではあるが、改革を進めるにつれ調整していけばよかろう。そして軍備だ。屈強なる常備軍を編成し、戦時徴用などされぬ安心な日々を過ごしてもらうのだ。領民の安寧を守るは領主の使命であるが故に!」

 

 と、材木座の演説が終わった。途中からツッコミをいれるのすら億劫になり、黙って聞いていたがそれすら苦痛であった。

 しかし、まあなんというか……浅い。

 

「うーん、いいことばかりには思えるけど……なんか、もし僕がその街の住人だったらと思うと」

「む? 何か思うところがあれば述べるがいい。我は臣民の声に耳を傾けぬほど狭量ではないぞ」

「臣民てお前、意味違ってくるぞ。ったく……と、よしできた」

「八幡、どうしたの?」

 

 準備完了。ここまで人の意見を聞かない材木座への反論タイムだ。

 

「さあて材木座。これからお前の全てを否定してやる!」

「な、なにぃ! 我の完璧なシュミレーションのどこに誤りがあるというのだ!」

「シミュレーションだ。いきなり間違ってんじゃねえか」

 

 書いていた紙を材木座と戸塚が見えやすいように前に出す。戸塚が俺の隣で身を乗り出してくるものだから、ちょっといい匂いがしてドキドキしてしまう。戸塚だから仕方ないよね!

 

「まず食い物関係だが、そもそもお前スイーツの類作れんのか?」

「……卵と砂糖と牛乳と小麦粉を混ぜれば、何とかなりそうな気がせぬか?」

「材木座くんはパティシエの人たちに謝った方がいいと思うな」

 

 優しい戸塚にこうまで言わせるとは、ある意味さすがである。

 

「それとカレーだな。お前カレー作れんの?」

「ふん。我はスイーツのような婦女子の食す物はよく知らんが、カレーならば少々自信があるぞ?」

「調理実習とか言わねえよな」

「それもある。が、我が家にて実践し、父母やじーちゃんに振るまったことがあるぞ。人参玉ねぎじゃがいも、そして肉を炒めてだな……カレー、ルー、を」

「材木座くん。カレーがないのにカレールーはないんじゃないかな」

 

 戸塚のツッコミに材木座は口をつぐむ。材木座は現代知識を異世界で展開するのに、現代で手に入るもので考えている。この程度の浅くて甘い考えでネット小説を投稿したら、それはそれはよく燃え上がることだろう。作家の才能無いでおじゃると言われても仕方のない。

 

「ぐ、む……いや、香辛料はあるのだ。だから、調合すればいい」

「カレーに使うスパイスを知ってんのかよ」

「し、知っておるぞ! えーっと、ターメリック、ハラペーニョ、シナモン、カルダモン、パプリカ、サフラン、ガラムマサラ、だったか? あとクミンやコリアンダー」

「ターメリックってウコンのことだぞ」

「ぬ? おっと、そうだったな。ウコンは違ったか」

「あれ、八幡? カレーのスパイスにウコン使うこともあるよ?」

「おっと、そうだった。いやー、勘違いしちゃったな。なあ材木座?」

「ぐむむ」

 

 どうせ、カレーの歌とか、アニメやゲームのキャラの名前で使われたか、何となく聞いたことのあるのしか知らないんだろうと思ったが、案の定簡単なひっかけに躓いてやがる。

 

「他にもとかローリエとか、色んな香辛料があるけどよ、どれがその香辛料か区別できんのか?」

「ロ、ロリエ? そのような淫靡な香辛料まで……い、いや、とりあえず、辛そうなものを入れておけばカレーっぽくなるのではないか?」

「材木座くんは料理人の人たちにも謝った方がいいと思うな」

「何をもって辛そうって判断すんだよ。言っとくが香辛料のほとんどは赤くないぞ。それにお前パプリカとピーマンの区別できんのか」

 

 日本と同じ気候だったら生姜とか山椒なんかはあるだろうが、他国原産のやつはそう簡単には手に入らないだろう。いくら領主だろうとも。そんな高価なものを気軽に試せるわけがないのである。

 

「んで、戸塚も言ってたが、仮にこれらが上手くいったとして、政治に口出しできるのかっつー話だ。料理が上手いからって政治にも明るいと考えてもらえるか?」

「ぐむむ、いや、しかしだな……」

 

 材木座の呼んだラノベだかネット小説ではうまくいっていたんだろう。仮にうまくいっているのだとしたら、それは主人公が地道に土台を作ったからだろう。大人はちょろくないぞ。

 

「次は、奴隷か。奴隷制はもちろん俺だって反対だが、いきなり廃止して大丈夫なのか?」

「どういう意味だ。奴隷なんぞ、あっていいものではあるまい」

「そもそも奴隷になるのってどういう人なの?」

「む、それはだな。借金が返せなくなり身を落とす、だとか敗戦国の住民とかであるか」

「財産としての奴隷を解放したら住民の財産を勝手に無効するようなもんだろ。それに敗戦国の奴隷を解放したら反乱が起きてもおかしくないんじゃねえの」

「いや、それはだな……えー」

「奴隷を解放するなってわけじゃない。いきなり今までと違う価値観を押し付けられたら反発するだろ」

「それもそうだね。えーと、まずは奴隷の人権確保から、とか?」

「だな。適正な賃金を得られて、自分を買い戻せる。それと命と健康の保証、あたりか?」

「むう……仕方あるまい。それで妥協しよう」

「何様だお前は。そもそもだ。一都市が奴隷を解放したとして、他の都市の奴隷が俺たちも開放しろって騒ぎだしたらどうすんだよ。下手したら内戦だぞ」

 

 歴史は物語る。過去の過ちを未来に伝える世界史の授業を真面目に聞いていれば、ちょっと考えればわかりそうなものだ。

 

「んで、医療か。抗生物質とか言ってたけど、どうやるんだ?」

「む? 知らぬのか八幡。ペニシリンはアオカビから作られるのだぞ?」

「偉人の逸話とかドラマとかで聞いたことあるけど、どうやってるんだろうね」

「そ、それは……あれだ。アオカビを培養して、他の菌を駆逐すればそこにできているのではなかったか?」

「まず、ペニシリンの有用性を知ってもらわなきゃならねえな。その世界ではウイルスやら細菌の存在は知られてるのか?」

「む、いや、ないな」

「アオカビを培養して、ペニシリンを発見、量産するってのを実現できる状態になってるといいな」

「住民全員分を用意するっていうのも、具体的にどれだけの量を準備すればいいのか調べないとね」

「ぐむぅ」

 

 知らないことを知らないままやらせたとして、従事する人間が正しく行えるかもわからん。かと言って材木座にゼロからペニシリンについて話せる知識があるとも思えん。まあ、無理だろうな。

 

「ならばどうすればいいというのだ」

「お前の案は何もかもいきなりすぎんだよ。身近なところから始めりゃいいんじゃねえの?」

「お外から帰ったら手洗いうがいを習慣化させるとか?」

「そうだな。下水道を作るとかもいいんじゃねえの」

 

 中世ヨーロッパは糞尿を窓から投げていたらしいし、乾燥した排泄物が風に舞って病気の元になったとも聞く。衛生に関して知られていないなら周知させるのも重要なことだ。

 しかしなんだな。ツッコミどころが多くてめんどくさくなってきた。

 

「飢饉に強い作物を作ったら褒賞を出すってのもな。領主が商売に口出ししていいのか?」

「むう、飢饉対策なのだが支持は得られぬだろうか」

「それはそれで重要だけどもな。実行したら市場が混乱するだろ」

「なん、だと」

「これを作れば売れるし褒賞ももらえるなら、その作物しか作らなくなるかも、ってことかな?」

「そうだ。戸塚は賢いな」

「えへへ」

 

 可愛いし賢いし、やっぱ戸塚って最強じゃねえか。それに引き換え材木座の教え甲斐のないことよ。

 

「で、税制改革か。税はどう徴収してるんだ?」

「えー、とだな」

「現実だとお給料から引き落としだよね」

「銀行はあるのか?」

「ない」

「だったら手渡しか。どうやって徴収する」

「それは……年貢のように役所の勤務員が直接赴いて、いや、逆に役所に届ける方がいいか」

「個別の給料いくらか把握してるのか?」

「雇い主が役所に届けておる」

「だったら雇い主がまとめて納税した方が漏れがなさそうかな」

「脱税対策はどうしてんだ? 誰がどこに何人で住んでどんな仕事をしてるか、把握してんのか?」

「それは、役所が住民一覧を作成する際に受けておる」

「仕事量とんでもねえな。二公八民ってのは北条氏の優れた治世あってだぞ。二公で十分な給料払えるのか?」

「ぐぬぬ」

 

 何がぐぬぬだ。公務員は成熟した社会には必須の職業であるが、言ってしまえば何も生み出すことのない職業である。少なくとも俺なら材木座統治下では公務員はしたくない。そもそも働きたくないんだが。

 

「で、最後に軍備だが一領主が軍事力もっていいのか? 反乱の意志ありと思われても仕方ないだろ」

「いや、しかしだな。戦時には貴族が先頭に立って領民を守るノブレスオブリージュがだな」

「どうせお前、釣り野伏やら寡兵で敵陣突破だとか、戦力数十倍の敵兵を撃破だのがしたいだけだろ」

「軍隊って何も生み出さないから常備軍の維持は大変だって聞くけど、それも二公でできるのかな?」

「あうあう」

 

 口をパクパクさせている材木座を尻目にジュースを一口。

 材木座がチュートリアルレベルで簡単だったこともあるが、完璧な論破だ。敗北を知りたい。

 

「ところで八幡、こういう、内政物? どんなアニメとか漫画があるのかな?」

「あー、俺もあんまり詳しくないんだがま〇ゆうっていう、掲示板の投稿から出版、アニメ化したのがあるな。多分、内政物とか魔王がラスボスじゃない作品のはしりだと思う」

「へー、すごいね」

「他には、同じ作者のログ〇ラとか、経営物だけど甘〇リとか、違う世界の知識を生かすんならドリ〇ターズも近い要素はあると思う。けど、内政物の商業作品てあんまり出てねえんじゃねえかな」

「そうなんだ。ちょっと気になったから見てみようと思ったんだけど」

「なあに、気にすることはない。我が八幡の意見を採用し、プロットを書いてくるから見せてやらんでもないぞ!」

「いや、見る気ねえし。っつーかいい加減プロットじゃなくて本編書いて来いって言ってんだろ」

 

 そもそも知識不足の材木座がまともな作品を書けるとは思えん。

 材木座の相手をするのは改めて面倒だ。まともに相手をしちゃダメな奴だな、うん。

 フゥハハーと高笑いをする材木座を、戸塚と二人して他人の振りしながら思うのだった。同じ席なんであまり意味はないだろうけども。

 

 

 

 

 

 さて。

 比企谷八幡が友人二人と連れ立って退店してすぐに、身を起こした女性たちがいる。総武高校奉仕部、および生徒会の女性陣、そして中学生の五名。わざわざ名を出すこともなく、お分かりいただけると思う。

 

「なんか、まーたわけわかんないこと言ってましたね」

「そうですねー。全く、お兄ちゃんだけじゃなくて戸塚さんも乗っちゃうんだもんな」

「いい加減、隠れる必要があるのか疑問なのだけれど」

「だってゆきのん。あたしたちが聞いてるってわかったら、いつも通りの話してるのかわからないよ?」

「前回と今回で、割としょうもない話をしてるのはわかりましたね」

 

 八幡らは結構な長い時間話していたのだが、その間ずっと身を潜めていたのか、という疑問はあるだろうがそれはさておき。

 

「別の世界かー。結衣先輩、ちっちゃいころおとぎ話のお姫様とかに憧れたでしょ?」

「んー、そだね。やっぱり白馬に乗った王子様、には憧れたかな。いろはちゃんだってそうじゃない?」

「まあ、人並みには。小町ちゃんは?」

「小町、実はそういうのないんですよ。ちっちゃいころはお父さんとお母さんが読んでくれてたんでしょうけど、お兄ちゃんが絵本を読み聞かせてくれてた方が覚えてるので」

「ヒッキーが? ヒッキーが読んでくれるとなんで憧れないの?」

「一番身近な異性がお兄ちゃんでしたからね。白馬の王子様とは似ても似つかないじゃないですか」

「先輩ねえ。何だかんだで助けてはくれそうだけど、颯爽とカッコよく、はないかな」

 

 ブツクサ言っている王子ルックの八幡を幻視し笑う少女たち。かぼちゃパンツがツボだそうだ。

 そして反対に座る、姉妹に見えるほど似ているが赤の他人である少女たちはと言えば、

 

「雪乃さんはどうでした?」

「別の世界に憧れるということかしら? それなら、パンダのパンさんと会ってみたい、とかは思っていたように思うわ。結局、姉さんにじっくり本の世界には行けないと説明されていたけれど」

「面白がってやったのか、好意で教えたのか、判断がつきかねますけど」

「姉さんのことだから面白がったのでしょうね。留美さんはどうだったのかしら?」

「別の世界ですか? 童話のお姫様に憧れはしてたと思いますけど、王子様には特に興味なかったですね」

「えー、何で?」

 

 二人の会話が聞こえたのか、結衣が身を乗り出し、ふにゅんと潰れ、それを見て自らのものを見下ろす各自。

 

「寝てるところにキスしてきたり、死んでるのにキスしてきたり、自分がされたらヤダなって思っちゃったんですよね」

「留美ちゃんがお兄ちゃんみたいな捻くれ者視点で見てる」

「あら、それなら私も目の前にいたら投げ飛ばしてやろうかと思ったわね」

「ゆきのんまで」

「シンデレラとか読んで、いいなーって思わなかったんですか?」

「特には」

「何もしない王子様より最初に助けてくれた魔法使いの方がいいって思いますけど」

「やっぱ似てますね、雪乃さんと留美ちゃん」

 

 思い描いた魔法使いの目が腐っていたかどうかは、各々の想像にお任せする。

 

 

 




 材木座って戸塚のことをどう呼んでたかなって。
 変なとこに悩んでしまいました。
 異世界転生増えてきましたね。アニメ最近あんまり見てないですけど。
 面白けりゃいいです。アニメ化にはそれしか求めない。

 次回は、ガンプラです。


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ガンプラ

 最近のガンプラはすごいですね。
 私の頃はただ組み立てただけでしたが、フレームから作るとか。最後に作ったのはXかエアマスターかレオパルドか。
 ニコニコ動画でガンプラ検索すると面白いのが多いですよ。一番のお気に入りはジムボールアームズの動画です。よろしければ検索してみてはどうでしょう。
 じゃあどうぞ。


 

 

 

 

「ガンプラバトルがしたい」

「お、おう」

 

 今日も今日とて憩いの場、サイゼにて妄言を吐く材木座義輝である。

 この言葉が一定の話の流れから出たのならば同意することもやぶさかではないのだが、何せこの男、空気を読むということを知らない。

 ノートを広げている最中にいきなり言われては、こちらもまともに応じることはできないというものである。

 

「ガンプラバトルかぁ、確かにやってみたいな」

「うむ。早くプラフスキー粒子が発見されないものかのう」

「八幡はどんなモビルスーツに乗ってみたい?」

 

 一応は勉強中だったんだが、戸塚が話に乗ってしまった。戸塚は見た目の印象に反して、男の子向けホビーは嗜んでいるし、結構ディープな話題にもついていけたりする。

 まあ、そろそろ一息ついてもいいころ合いだったんで別にいいのだが。何より戸塚との会話を無駄にするなんて以ての外である。

 

「リアルに考えるなら、死ぬまでにザクに乗ってみたいとは思うけどな」

「夢のない奴よのぉ。お主はスーパーパイロットになると宣言したのだから、AGE-2に乗りたいと言えばいいではないか」

 

 クリスマスのことよく覚えてやがんなこいつは。俺も忘れちゃいないが。

 

「材木座くんは?」

「そうさな。やはり我としては陸戦型ガンダム、いや戦場にて改修されたEz8のような泥臭いものが好みであるな。全弾発射はロマンだ」

「ああ、お前ヅダとかグフカスとかケンプファーとか、渋いのが好きとかいいそうだもんな」

「何を言うか八幡。お主とていぶし銀の良さがわからぬとは言わさぬぞ」

 

 まあ、俺もそこらへんのは好きなんだけどな。いや、フリーダムとかジャスティスがかっこいいのはわかるんだけど、そこいらのが好きって言うとにわか扱いされそうなのがね。

 

「僕はパーツ換装系が好きだから、ストライクとかガンダムMkⅡとかかな。色々装着するのってかっこいいし」

「うむ。パーツ換装によりどんな戦況にも対応できるのは強みであるな」

「何でもできれば色んなフォローもできるようになるしね」

 

 一機で何でもこなす機体はぼっちの俺にはピッタリだと思ったんだが、さすがの戸塚。俺のような考えはしていなかったか。

 

「高機動、実弾火器、援護の三体か。中々バランスの良いチームではないか」

「トライは三人のチームプレイだったよね。他にはどんなチームがあるかな?」

「他の三人組なあ」

 

 さてどんなのがいいものか。身近なところではうちの連中だが……そうだな。

 

「チーム奉仕部。由比ヶ浜はエアマスターでかく乱、雪ノ下はキュベレイでアタッカー。で俺がAGE-2か」

 

 空気を読む能力に長けた由比ヶ浜がEWAC装備で索敵かく乱。ワルキューレをやってもらおう。

 雪ノ下はニュータイプかラウンダー能力とか持ってそうだから、ファンネルやビットを使えるサイコミュ系モビルスーツ。エルメスかサザビーでもいいかもしれん。

 

「アタッカー二体のサポート一体か。これまたバランスの良いチームであるな。機体の統一感がないのが気になるが」

「それを言い出したらキリないだろう」

 

 そこまで機体に詳しいわけでなし、そもそも主人公たちだって統一してるわけじゃないしな。

 

「えーっと、じゃあ僕は去年のクラスメイトでチーム2F。三浦さんがジムスナイパー、海老名さんがビギナギナ、川崎さんがゴッドガンダム」

「してコンセプトは?」

「遠中近に隙なし、かな」

「だな」

 

 三浦は天元突破なスナイパーもいいが、ワイヤーとプラズマ手刀もといシャイニングフィンガーを兼ね備えるターンXもいけるんじゃなかろうか。停止結界はミダスで。

 海老名さんは名前からの印象だろう。俺も思ったし、エビナビナとかガンプラバトルに出てきそうだし。千成将軍を改造したらエビにできるだろうか。決してバカにしているわけではないのは明言しておこう。

 川崎はアデルが似合いそうな気もするが、ゴッドフィンガーで弾けろと叫んでほしい。足にローラーは必須だ。

 声が似てるからね。仕方ないね。

 

「むう、では我はチーム生徒会。現生徒会長はヘイズル、八幡の妹御はガーベラ・テトラ、書記の娘はデナン・ゾンでどうだ」

「ヘイズルってなんで?」

「うむ。SDガンダムで戦乙女であったのでな」

 

 AOZは世代としてはZと一緒で、スクランブルガンダムはZの改造機、あっ(察し)。ウーンドウォートちゃんでもいいような気はするが、どっちでもいいか。

 

「小町ちゃんがガーベラなのは、まあわかるとして」

「うむ。キララと輝いてくれることであろう」

「書記の人ってどんな人だっけ?」

「えーと、藤沢だな。二年生で眼鏡をかけた……デナン・ゾンってそういう?」

「うむ」

 

 SDガンダムで言うなら黄月英ガンイージが眼鏡をかけていた気がする。キット化されていないから無理だろうけども。

 しかしながら、こいつもこいつでネタに走ってやがる。

 

「なんで藤沢選んだ?」

「前生徒会長が思い浮かばぬでのう」

「あ、じゃあ雪ノ下さんのお姉さんは?」

「あの人生徒会やってないぞ。陽乃さんに似合いそうなのは、サタンガンダムだろ」

「むう。それではチームOGではどうか?」

「陽乃さんがサタンガンダム、城廻先輩が側近の騎士サザビー、平塚先生が闘士ネモ、だとちょっと弱いな。マックスガンダムで」

 

 魔王たる陽乃さんにはピッタリ合ってるだろう。強化外骨格みたいな外面ということでチョバムアーマー付きのアレックスでもいいか。ブラックドラゴンかジークジオンには雪ノ下の母ちゃんで。

 城廻先輩は戦う姿が欠片も思い浮かばんし、側近というより仲のいい先輩後輩ではあるが、近しい間柄ということで。

 平塚先生は臓物をブチ撒けろなデスサイズかキュリオスでもいいとは思うが、自慢の拳で切り開くマックスター、他の二人に合わせてSD化と。

 発売されてるかどうかなんか知らん。

 

「実用性とか強さを度外視してネタに走った感はあるが」

「甘いぞ八幡! ガンプラバトルに重要なのは、強さではなく愛だ!」

「そうそう。ガンプラはどんな自由な発想で作っていいんだから!」

 

 まあ、そういうことならな。何でもできる陽乃さんでも、ガンプラに手を出しては……いないよな?

 

 

 

 

 

「そういえば、八幡はあれからガンプラ作ってみた?」

 

 話し込んだのでドリンクバーのおかわりを持ってくる。ほっと一息をついて首を傾げて俺に問うとつかわいい、もとい戸塚。

 そういえばクリスマスの時、さっきと同様ガンプラはどんな自由な発想で作ってもいいんだと誘われていたな。作ってないけど。

 

「いや、結局あれからおもちゃ屋行ってないんだ。受験が上手く終わったら手を出してみようかとは思ってんだが」

「そっか。じゃあ、時間ができたら素組じゃなくて改造して、ガンプラバトルに参加できそうな作品作って見せっこしようよ!」

 

 戸塚に見せっこしようと言われると、そこはかとない背徳感が……ゴホンゴホン。

 

「お、おう。そうだな。なんにしようかな。ホントに最近のはよく知らんからなぁ」

「む? お主はAGE-2にてスーパーパイロットになるのではないのか?」

「そうは言ったけど、もっとオリジナル色を出したくなってきた。オー〇バトラーを再現したのとかいただろ?」

「ああ、タイの選手だね。あそこまで改造するのはかなり手間がかかりそうだけど、面白いよね」

 

 改造って、プラ板削ったりするんだっけか。しばらく作ってない上に工具も揃えないといけないが、ちょっと楽しみになってきたぞ。

 

「ふむん、そうさな。我ならばEz8を改修し、ゴッテゴテの重装備にしてHard8というのはどうか」

「ガンプラっぽいな。ただお前の好きな戦い方ができなそうだけども」

「うむ。やはり剣豪将軍の名を継ぐものとしてはアストレイレッドフレームで真っ向から竹割を扱いたいものであるが。トライオン3ができるのだから勇〇特急や勇〇王もいけるであろうか」

 

 と、ここで材木座が物思いにふける。

 

「うむ、いいことを思いついたぞ。八幡よ、Ez8を改修してEz8Manを作ってはどうか」

「エイトマンって加速装置でもつけろってか」

「あ、じゃあ僕EzHEROMANにしようかな」

「三人そろって08小隊である!」

 

 Ez8だけで小隊作ってもなあ。コンセプト統一はできているけども。

 ところで、あの世界でのガンプラ作成で一つ疑問があるのだが。

 

「そういやトランザムって、どうなってるんだろな」

「む? 太陽炉のGN粒子を一気に放出して機体出力を三倍に跳ね上げるのではなかったか?」

「いや、ガンプラバトルでのトランザム。太陽炉を乗っけとけば発動するのか? OOの機体はどれが太陽炉かってわかるけど、それ付けとけばいいのか? ファンネルなんかはわかりやすいけどよ」

「確かミノフスキークラフトはクスィーやアプサラスに搭載されていたと思うが、むう、どの部分はわからぬな。スラスターや足がそうだったとは思うが」

「えーと、今やってるダイバーズだと、完成度が高ければできるようになるはずだよね。それって誰が判断するんだろう」

「システム的なのって他にもバイオセンサーとかALICEとかEXAMとか? そこいらへんはガンプラバトルでどうやってんのかなってふと思った」

「うむう。明鏡止水やハイパーモードはアシムレイトで代用していたようであるが」

「まあ考えてもわからんことではあるけどもな」

「きっとあの世界じゃ、プラモ屋に売ってるんじゃないかな?」

 

 太陽炉やミノフスキークラフトだけをパーツ売りか。うーむ、まあ、きっとそうだ。そう考えた方が夢がある。

 

「それを言うならば、他のロボットアニメのプラモデルはどうなっているのかのう。八幡も言っておったが、オー〇バトラーはあるのだろうし」

「ガンプラに使われているプラスチックに反応するんだから、ガンプラ用プラ板で作ればいけるのかな?」

「ビルダーが作った武器がバトルで使えるんだから、その可能性はあるかもな」

「発売されているガンプラか、それを改造したもののみでしかガンプラバトルができないのならば、少々寂しいものがあるからのう」

「だったら、マジ〇ガーとかゲ〇ターとか作れるかな? 他のアニメのロボットに似てる機体を改造してさ。例えばイ〇オンとかガン〇スター」

「ジム神様とザク神様であるな」

「さすがに謎エネルギー武器は難しいかもしれんけど、見た目だけならなんとかなりそうだ」

 

 さすがに射程無限のソードやガン、マイナス一億度レーザーはできなかろう。

 

「プラフスキー粒子の応用でどうにかなるのはあるかもね」

「そもそも他のロボットアニメはどれだけの市民権を得ているのか。バトルできないなら買わない、という発想に至ってもおかしくなかろう」

「実は描写されていないだけでバトリングとかやってんのかもな」

 

 それはそれで楽しそうだ。あの世界はガンダムが世界を席巻してんじゃないかってほどにガンダム一色だったけども。

 ああ、こんな話していたら作りたくなってきたな。いやいや、受験生がガンプラに手を出したら、終わる。色んな意味で終わる。我慢我慢。

 

「八幡、材木座くん。受験終わらせて、楽しもうね!」

「もちろんだ戸塚」

「うむ! 我のガンプラが火を吹くぞ!」

 

 戸塚と楽しむために、さっさと受験を終わらせたいものだ。

 

 

 

 

 

 八幡ら総武高男子生徒が退店してしばし、身を起こす女性が三人。

 

「静ちゃん、行った?」

「みたいだな」

「はるさん、平塚先生。なんでずっと隠れてたの?」

 

 黒髪のショートカット、素晴らしいプロポーションを持つ女子大生。雪ノ下雪乃に似た雰囲気を持っている。それもそのはず、雪ノ下雪乃の姉、陽乃である。

 対面から身を起こしたのは長い黒髪、やはり素晴らしいプロポーションを持つ妙齢の女性。なぜか白衣を着ている彼女は平塚静。総武校の教師である。

 ノリノリで隠れていた二人に引きずられる形で隠れていた、穏やかな雰囲気のやはり女子大生である彼女は城廻めぐり。陽乃の後輩であり、八幡らの先輩であり、先代生徒会長である。

 可愛い、キレイな女性たちが身を屈めていたので、他の客から注目を集めていたのであるが、それはさておき。

 

「いやー、比企谷くんが見えたからさ。どんな会話をしてるのか気になっちゃった。っていうか聞いた? 比企谷くんって私の前じゃ言わないけど、私のこと陽乃さんって言ってるんだね」

「うれしそうだな陽乃」

「そりゃあね。小生意気な後輩が実は私のこと名前で呼んでるとか、可愛いじゃない」

「はるさん、その時ちょっと赤くなって」

「めぐりー、なんか言ったかなー?」

「ううん、別に。何も言ってないよ」

 

 にこやかな陽乃ににこやかに返すめぐり。何だかんだでよいコンビである。

 

「うむ。まあ、私も生徒たちが普段どんな会話をしているのか気になったのでな。悪いとは思いつつ聞かせてもらったわけだが」

「静ちゃん、すっごい話に入りたそうにしてたよね」

「だってそうだろう!? ガンプラの話をしているんだぞ。うちの先生たちはガンプラに興味ある人少ないし、男の先生ですらしないんだぞ。私もダイバーズの話とかしたい」

「よくわからないけど、大変なんですね、先生も」

「めぐり? 静ちゃんのは特別だよ」

 

 ぐぬぬと歯を食いしばる平塚教諭に同情するめぐりと、呆れながらなだめる陽乃。静の残念さはめぐりには伝わっていないようである。

 

「それにしても、失礼しちゃうなー。誰がサタンガンダムなんだか」

「あはは。私、サザビーのバッグとか持ってないけど、どうしてだろね?」

「めぐり、ブランドの方じゃないわよ」

「マックスターか。格闘は望むところだが、ガンプラバトルなら射撃武器が欲しいな。ティエルヴァのような」

「恋人を失って敵方に裏切っちゃうよ、それだと?」

「ふぐぅっ!」

「私はモビルアーマーとかいいかなーって。ユグドラシルみたいな三人で乗るやつとか」

「裏から上官を操ろうとするとか、お前にピッタリかもな」

「んー、静ちゃん何か言った?」

「言ったが、まあ別にいい」

「ふーん」

「?」

 

 若干険悪な雰囲気を出している二人をほんわかと見守るめぐり。本気で仲が悪くなることはないとわかってのことだろうが、なかなか胆力がある模様。

 

「しかし、陽乃も嗜んでいたか」

「ちょうど講義がなくて家にいた時期だったから。静ちゃんほどがっつりいってないよ?」

「そうか。しかし、あの三人も年代が違うだろうに結構詳しかったな」

「平塚先生、男の子のアニメ詳しいんですねえ」

「う、うむ。話題にできるというのもあるが、ただ純粋に好きだし」

「静ちゃん? 行き過ぎると男性の方もひいちゃうよ?」

「ふぐぅっ」

 

 泣きそうになる妙齢の女性がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 




 アニメを見る量が減ってきて久しく、ネタを探すのに苦労しました。ならなんでこんなの書いてんだとか言われそうですが。
 八幡が言ってるにわか扱いどうのは私が勝手に思ってるだけです。かっこいいのも好きですけど渋いのも好きです。

 一応ネタ解説。

 八幡・材木座・戸塚:声優さん
 由比ヶ浜:ガンダムに出てないんでマクロスデルタから。
 雪ノ下:アイラとユリンとララァ。
 三浦:ヨーコとラウラ
 海老名:ビギナギナとエビナビナが似てると思ってたら、原作でもそう言ってました。
 川崎:カレン
 一色:アイラの娘→スクランブルガンダム→Z→AOZ
 小町:キララ
 藤沢:眼鏡
 陽乃:魔王なのとレコンギスタから
 城廻:出てないからサタンガンダムの側近ということで
 平塚:拳を使うガンダムということで。あとAGE

 ところどころ強引なのは承知してます。めっちゃ悩んじゃった。
 
 次は声優でいきます。
 じゃあまた。


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声優

 皆さんが忘れずにいてくれたことが非常に嬉しいです。
 久しぶりに投稿したのにランキングに乗ったりしてね。
 嬉しいから書いちゃいました。
 じゃあどうぞ。


 

 

 

 

「声優さんと結婚したい」

「さよか」

 

 今日も今日とて勉強に飽きた材木座が阿呆なことをのたまっている。常日頃から(材木座も友達がいないので俺くらいにしか言ってないんだろうが)夢見ている材木座だが、天井を見上げしみじみと吐き出しているあたり相当キているようにしか見えない。

 

「材木座くん。好きな声優さんと結婚したいの?」

「うむう。それができれば万々歳だが、贅沢は言わぬので職業声優であれば文句は言わぬ」

「そうとう贅沢言ってる気がするが」

「お主とてこのご時世に専業主夫志望などと相当な贅沢ではないか」

「材木座くん、相手のことを見ないでただ声優さんだってだけで結婚したいって、失礼なことじゃないかな?」

「ふぐぅっ!」

 

 胸を押さえて悶える材木座である。

 こいつがラノベ作家になりたいのは、アニメ化してアフレコ現場でお近づきになって、そして声優さんと結婚するためなのだったか。材木座がそういうステータスが欲しいだけなのか、それともアニメ声の奥さんが欲しいだけなのか、どちらかは知らんし興味はないが、戸塚の言う通り相手の女性に失礼なことだ。

 俺は専業主夫でも可な人が好きになる人だからセーフ。

 

「そもそも何で声優さんと結婚したいの?」

「うむ。仕事で疲れて帰宅し、お帰りなさい♡と言ってくれたら、我は頑張れると思うのだ」

「気持ち悪いな」

「ふひっ」

 

 材木座の野太い裏声で言われても全く想像できん。だがまあ、わからなくもない、けどもな。いや、俺は言う方か。

 

「別に声優じゃなくても、声の可愛い子と結婚すりゃいいだろ」

「ふむう。だが、作家になれば出版会社か編集か声優さんとしか関わることもなくなるだろうと思うのだ。ならば声優さんの方が声がいいだろう?」

「声の可愛い編集さんがいたらいいんじゃない?」

「む、それは……アリだな」

「そもそも未だに雪ノ下や由比ヶ浜とまともに話すこともできないんだから無理だろ。まず人付き合い治す方から考えろよ」

「お主に言われたくないわ!」

「くっ」

 

 いや、俺はお前ほどひどくはない、と思うけどもな。俺はそこそこ喋ることはできる、うん。ドングリの背比べかもしれん。

 

「そういや、お前自身が声優になるっていう方法は選ばないのか? 作家より一緒にいる時間増えると思うけど」

「むう。声優になりたいというのは、ちょっと恥ずかしいし」

「ラノベ作家は恥ずかしくないの?」

「声優同士で結婚もしてるんだろ? ほれ、機動戦士とか伝記ものの作中でカップルでリアルでも結婚してる声優とかいるじゃねえか」

「やめろ、八幡。その話は我に効く。我が二十年ほど早く生まれていれば……くっ!」

 

 お前が早く生まれてもうまくいくとも思えんけどな。

 

「一緒の職場で一緒の仕事をしたら仲良くなりやすいんじゃない?」

「我、演技とかできぬしのう」

「普段から芝居がかった話し方してるじゃねえか。養成校だの専門だのあるだろうし、そこいらで勉強できるだろ」

「CMで結構見るよね。代々木とか大原とか」

「むう。ラジオなど聞くに我でもできそうな気はするが。キャラソンうまく歌えるかわからぬ」

「そこは売れっ子になってから考えろよ」

 

 俺も中学生のころDJのマネをしたものだ。小粋なトークに曲紹介など、タイムラインを書いたりなんかしてな。小町に『お兄ちゃん。夜にブツブツうるさいよ』と言われてやめてしまったが。

 

「実際生活できるのかのう。今声優の数やたら多いではないか。聞いたこともない名前もチラホラ見るし」

「僕あんまりアニメ見なくなったけど、声優さんって入れ替わってるの? えーと、メインの役をやるベテランと新人の割合というか」

「作品による、としか言えないな。俺も昔ほど見なくなったけど、昔っから主役級やってる人もいるし、最近はわき役に落ち着いている人もいる。年食ってから華咲く人もいるだろうし、新人からビックタイトルとるのもいるだろうし」

「世代交代はある程度されている感はあるのう。アニメが昔よりも多く作られているものの、有名どころや力を入れて作っているものはやはり有名声優が多いようだが」

「声優だけで生きていけないからバイトしてるなんて話も聞くしな」

「俳優さんとかお笑いの人もそんな話するよね。雑草にマヨネーズかけて食べてたとか、私服一枚しかなかったとか」

「むう……やはり我はラノベ作家を目指すぞ!」

「それだって売れなきゃ食ってけねえだろ」

 

 結局、材木座は相変わらずラノベ作家を目指すようだ。だったらプロット考えるだけじゃなくて一つでもいいから書き上げろと言いたい。

 

「お前は声優の恋愛とか結婚とかどう思ってんだ? 熱狂的なファンは怖い連中いるみたいだけど」

「怖いってどういう?」

「殺害予告だとか呪われろだとか、そういうの」

「そんな人がいるの!?」

「ふん、我をそこいらの連中と一緒にするでないわ。声優とて人間。恋もすれば結婚、出産、も……するであろう、よ。いたって、普通の、ことである」

「声と顔が一致してねえぞ」

 

 ぐぬぬと歯を食いしばっている材木座は、多分好きな声優の朗報を素直に喜べないんだろうな。

 

 

 

 

 

 材木座が難癖付けて逃げているようにしか思えなかったが、奴の人生だし好きにすればいい。俺には全く関係のないことであるし。

 ほっと一息ついていたところ、戸塚が口を開く。

 

「ところで、材木座くんの好きな声優さんって、どんな役をやってる人なの?」

「むう……我の嫁たるキャラクターは多々おるでのう。萩風、金剛、いや、高垣、川島」

「節操ねえなおい。とりあえずその二人が好きなのはわかった。俺も好きだし」

 

 上手いし可愛い声だし。そういえばあいつらの声って……まあいいか。

 

「えっと、じゃあ男性声優だと誰?」

「男性であるか。そうさな、檜〇修之氏かのう。爽やか熱血漢、クールな二枚目、チンピラなど、幅広い役をこなせる実力派声優である」

「お前勇者シリーズ好きだもんな。ライダーの敵モンスターで出演しててビビったことあるけど」

 

 実力派でも端役もしなければいけないんだろうかと思ったものだ。実際には本人の希望で出演したりしてるかもしれんけど。

 

「八幡は?」

「俺は特に好きな声優ってのはいないな。上手いなって思う人はいるけど。ディスティニーの子役とか」

「ふん。アニメ好きの風上にも置けんな」

「置かれたいと思ってねえから」

 

 なぜ材木座にキレられなければならんのか。

 

「ところで、声優の演技力についてどう思う?」

「どうって、必要不可欠じゃない?」

「可愛い、カッコいい声でも棒読みであればやっていけまいて」

「ああ、言い方が悪かったな。えーと、山〇宏一って、戸塚わかるか?」

「山ちゃん、だよね。渋い役からひょうきんな役までやってる人。映画の吹き替えの主役が多いイメージだけど。あ、ディスティニーの吹き替えでよく聞くかな」

「レジェンドであるな。ある映画では一人十六役をやっていたとか」

「そう、そんだけの幅広い役をこなしても聞けばすぐ山ちゃんだってわかるだろ?」

「あ、八幡の言いたいことわかった。声質に印象ありすぎてどんな役やっても印象が一緒になっちゃわないかってこと?」

「その通り」

 

 戸塚が俺の言いたいことをわかってくれると嬉しいのはなんでだろう。わかりあえているというか、心が温かくなる。

 

「むう。確かにツンデレ美少女というとある方が思い浮かぶな。無論、そういう役しかしていないわけでなし」

「正直なところ最近の女性声優の声が聞き分けられん。みんな可愛い声だけど似たり寄ったりというか」

「ほほう、それは我に対する挑戦と受け取るぞ?」

「勝手に受け取ってろ」

 

 別に困らん。

 

「まあ、女性に限らずなんだけどな。江〇拓也って声優がいるんだけど、引きこもりのニートとかひねくれ者の声をやったかと思えば陽気な役やったりな。エンディングで声の出演見て、え、この人なの!? って思うことがあった」

「ふむう。確かに奴は若手実力派と言っていいかもしれんのう。多くの作品に様々な役で出演しておるし」

「あ、僕が知ってる声優さんだと、小〇未可子さんもそうかな。女の子の役もやるし少年の声もやるんだけど、演じ分けが上手いのか聞き分けられないよ。もちろん、演技はうまいんだけど」

「ベテランに多いのではないか? 声のイメージが脳に焼き付いているから補完しているのだろう。ちなみに我の聞き分けはかなり高水準であるぞ」

 

 どっちが良くてどっちがダメってわけじゃないから、どうでもいい話といえばいい話ではある。

 材木座のドヤ顔並みにどうでもいい、は言い過ぎか。材木座がどうでもいい。

 

 

 

 

 

 さて、毎度のことながら三人が退店した後に身を起こした二人の女性がいる。

 奉仕部の二人、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣である。

 

「本気でわけのわからない話をしていたわね」

「アニメの話なんだろうけど、声優さんがどうのって言ってたね」

「映画の吹き替えやテレビ番組のナレーターくらいしか知らないけれど、芸能人は大変よね。ああいうのに好かれてもファンとして対応しなければならないのだから」

「い、言い方がひどいよ」

「ファンがいなければ成り立たない職業なのだし、折り合いは付けているのでしょうけれど」

「ゆきのん、そこまで。色んなところ敵に回しそうだから、そこまでで」

「……そうね」

 

 真顔の由比ヶ浜に若干気圧される雪ノ下。危うきに近寄らずである。

 

「そういえば、ヒッキーの言ってた好きな声優さん? なのかな。中二が何個か名前上げていたけど」

「よくはわからないけれど、比企谷くんのことだから透明感のある声が好きなのではないかしら?」

「そ、そうかなぁ? ヒッキーも男の子なんだし可愛らしい声が好きなんじゃないかな?」

「何を言っているの由比ヶ浜さん。専業主夫志望なのだし、そんな彼を養えるということは聡明でしっかりとした女性でしょう? 誰のようなとは言わないけれど」

「そうかもしれないけど、年頃の男の子ならキャピっとした可愛い声に惹かれるんじゃないかな? 誰のようなとは言わないけど」

「……」

「……」

 

 にこやかに笑顔を向けあう二人の対峙は、しばらく続くのであった。

 

 

 




 昔は馬鹿みたいにアニメ見てましたけど、最近は量が多いし、時間もないしでめっきり見る量が減りました。
 声の聞き分けなんかも簡単だったんですけど、歳ですかねえ。
 次回は小説です。
 じゃあまた。


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小説・二次創作

 ちと時間がかかり申し訳ない。
 自分で小説を書いていると他人の書き方が気になります。
 私の書き方が一番なんて思っていませんし、小説内でこけおろしているのはあくまでもダメな一例です。
 じゃあどうぞ。



 

 

 

 

「材木座くんの小説ってどんな感じなの?」

「おほん!?」

 

 戸塚の純粋な瞳が付随した質問に材木座が跳ねる。そう、物理的に跳ねたのだ。テーブルの反対側が非常にうざったい。サイゼのテーブルはそんなにでかくなく、材木座はでかい。ぶつかってコップからジュースがこぼれた。つまり、さらにうざい。

 

「僕も読んでみたいんだけど、いいかな材木座くん?」

「う、うむう。い、今書き直している最中なのでな。まだしばし時がかかると思うが」

「ほんと? やった! 時々八幡とそんな話してるから、ちょっぴり仲間はずれで寂しかったんだ」

 

 ニコッと太陽のように笑う戸塚。まさに天使のようである。トツカエル、サイカエル、どちらが語呂がいいだろうか。

 しかし、天使の笑顔を曇らせるわけにはいかないし、見えている地雷に突っ込ませることもないだろう。

 

「本気か戸塚。悪いことは言わないから、やめといたほうがいいぞ?」

 

 戸塚の読書レベルは知らないが、読書家であればあるほどに苦痛だ。

 

「え、えっと、そうなの?」

「失礼であるぞ八幡よ! 我の小説のどこに文句があると言うのだ!」

「お? 言うぞ? いくらでも言えるぞ」

 

 材木座の作品(?)への欠点なんてポコポコ出てくるぞ。文の書き方から作風まで、それこそ一時間あっても足りない。

 

「ぐ、ぬぬ……批評自体受けたくない、のだが……ネットの有象無象や部長殿よりかはマシと考えるか」

「批評受けたくないのは作家志望としてはよくないんじゃないのかな?」

「書いた作品をパソコンの中にしまっておくだけなら、それでいいんだろうけどな」

 

 自分が気持ちよくなるだけならそれで事足りるだろう。

 仮に自分一人で作った作品が良いものであったとしても、他者の目に触れなければ評価するのも楽しむのも自分のみだ。より良い作品を作りたいなら他者の目に晒されなければならない。

 だが、材木座に批評をフィードバックできるのかと言えば、できないだろうとは思っている。だってこいつ無駄に自分の作品に自信満々なんだもの。評価をされるのは嫌がるのにな。

 

「八幡よ。我の作品を評価することを許可するぞ!」

「どんだけ上から目線だ、お前は」

 

 とはいえ、ちょっとした休憩に話すくらいならいいかと思い直し、材木座の作品(?)を思い返す。感想というか批評というか酷評というか、自分でも驚くほどポンポン出てくる。

 とにかく褒めるところのない文章、というか文字の羅列だ。

 

「まず、相変わらずてにをはがなってない。雪ノ下に言われたの全く直ってないぞ」

「ふぐぅ……とはいうが、意識しておるのだぞ?」

「できてなきゃ一緒だ」

「てにをは、って何だっけ? 助詞の使い方だった記憶はあるんだけど」

「それで合ってるよ。簡単に言うと強調とか比較の文を書く時の使い方だな。本を読むのが好きです、本を読むのは好きです、とか」

「わかりやすい例えだね」

「むう、わかればいいと思うのだが」

「わかりづれえんだよ」

「ぐむ」

 

 なんでこう、こいつは自信満々なんだろうか。やっぱメンタル強いと思うんだがなあ。

 

「あと三人称の視点をころころ変えるな」

「む? 三人称は神の視点。視点移動こそが三人称の特徴だろうが」

「単元ごとに変えるならいいけど、一文で視点変えるなっつうの。Aが話をしていたのに文末でBが話していた時、行飛ばしたのかと思ったぞ」

「それは読みづらそうだね」

「む、いや、それはそういう手法であってだな」

「ブレてんのを手法のせいにしようとすんなよ。三人称でも主人公、俯瞰、神と視点が色々あるんだよ。描写は統一しろ。お前のキャラと一緒なんだよ」

「はぽん」

 

 ぐふっとばかりに胸を抑える材木座。いちいち反応が大げさなのが腹立つ。

 

「他にも、一人称で読者に語り掛けてくるのやめろ」

「む? だが、メタ発言するキャラなぞ多々おるではないか。賢明なる読者諸君! などあるではないか」

「二人称っていうのな。それだって頭から終わりまで二人称で統一してんぞ。メタネタやっても大丈夫なキャラならともかく、普通のキャラにやらせんな。デップーとか安心院さんくらいだぞ、そういうの」

「うむう。結構好きなのだが」

「ギャグ回とかでやるならともかく頻度がありすぎんだよ」

「たまにならいいけど、同じネタ使われすぎて食傷気味になるのってあるよね」

 

 そういうことだ。

 こころなしか材木座が萎れてきた気がするが、知ったことではないので続ける。

 

「倒置法を多用しすぎるのもそうだけど、地の文が単調すぎる。なんとかした、なんとかと言ったばっかだぞ」

「そ、そうだろうか? あまり意識していないが」

「だからだろ。意識して書いて、ちょっとは読み直して推敲しろ」

「うーん、でも僕もあんまり思いつかないな。ねえ八幡。例えばどんな表現があるの?」

「そうだな……呆れたなら肩をすくめた、怒ったなら腰を上げたとかこぶしを握り締めた。コーヒーを飲んだとか唇を湿らせたとか、かな」

「すごいね、八幡。そんなにすぐスラスラでてくるなんて」

「ふむう。なるほどなるほど」

 

 戸塚の尊敬の眼差しが心地よい。そして材木座の態度がむかつく。

 

「小説読めば色んな表現出てくるだろうが。読んでねえのか、お前?」

「パクリはいかんとおぬしよく言うではないか」

「模倣から学ぶことはあるぞ。パクリになるかはお前次第だが」

 

 ま、パクリにしかならないから材木座なんだろう。

 

「総じて、お前の書く文章は読みづらい」

「ふひっ」

「文も内容も、作者のお前にしかわかっていないことを読者に説明するんだからはぶくな。かと言って、説明台詞を無駄に入れるな」

「どうせよと言うのだ。矛盾しておるではないか」

「小説はマンガと違って絵で表現できないんだから、地の文で説明しろ。なんでこいつらこんな話してんだってところが多々あったぞ。せっかく作った設定を披露したいんだろうけど、関係あるんだかないんだかわからん話を延々されてもだれる」

「ぐぬぬ」

「あとな、戦闘シーンですごい体さばきなのを表現したいんだろうけど、実際には盆踊りみたいになってたぞ」

「なんとぉーっ!」

 

 大げさにのけ反る材木座がまたもやテーブルにぶつかる。あ、戸塚のジュースが零れた。万死に値するぞ、この野郎。

 

「ただでさえわかりづらいお前の文章を、少しでもわかりやすくする努力をしろ。文章に関してはそんくらいか」

「文章に関してはって他にもあるの? っていうか、まだあるんだ。さすがに材木座くんがかわいそうになってきたんだけど」

「うむ、むう。いや、我に同情などいらぬ! ガンガン来るがいい!」

「ああ、そろそろとどめを刺してやろうかと思っていたところだ」

「ふひっ!?」

 

 いつまでも材木座の読め読め攻撃にも辟易していたところだ。ここでしっかりと説明して当分の間の平穏を勝ち取ろうか。いや、どうせしばらくしたらまた言ってくるんだろうが、そこはもう諦めている。

 

「ストーリーもキャラクターも、どっかで見たような展開だったり既存のキャラの組み合わせだったりだな」

「な、何を言うでござるか!? 我の脳内より出でし、オリジナルキャラクターの繰り広げるオリジナル展開にケチをつけるつもりでおじゃるか!?」

「さっきまでと口調が変わりすぎだろ。お前が持ってくる小説? って、だいたい主人公はクールっぽい奴で、主人公の行動を仲間が褒めたたえるとか、それでヒロインに惚れられてんだよな」

「う、うむ。まあ我の作風はいまだ未完成故同じ展開に見えるやもしれぬが、昇華していくことで進歩しているのだ」

 

 物は言いようである。似たようなキャラで似たような展開しかできないだけじゃねえか。

 

「こっちは消化不良起こしそうだっての。お前のクールはクールに見えないんだよ。クールぶってるようにしか見えないから痛々しい」

「な、なんだとう!?」

「スリの被害者が犯人の少女を乱暴に捕まえてるからって、問答無用で被害者をぶちのめすのはクールじゃないだろ。仲間の誰もそこんとこ非難しないし」

「それは、うーん……女の子に目がないキャラクターの主人公だったら、あるかもしれない、かな?」

「主人公はそのような軟派なキャラではないぞ! 冷静沈着で感情を表に出さず、しかして義に厚く仲間を大切にする、根は熱いキャラなのだ!」

「そう見えねえって言ってんだよ。決め台詞は何だ?」

「罪過斬奸せしめん、が決め台詞である」

「あー、うー、ん……カッコいい、のかな?」

「狙いすぎて恥ずかしいでいいと思うぞ」

 

 厨二過ぎて何とも言えんレベルだ。なんでこう、罪とか古臭い言い方とか好きなんだろうな厨二病の奴らって。

 

「そんなのに惚れるヒロインは頭おかしいか、魅了でもされてるんじゃねえかとしか思えん。そもそも惚れるに至る経緯が雑で、チョロインってレベルじゃねえぞ」

「ヒロインが主人公に惚れなくてどうするのだ。出てくる味方キャラクターは主人公に好意を抱いていなくてはいかんだろう! ルート確定後に選ばれなかったヒロインを他の男にとられるのは言語道断である!!」

「な、なんか材木座くんの様子がおかしいよ?」

「ああ、ひょっとしたら材木座の地雷を踏んだのかもしれん」

 

 材木座のいう主人公はマンセーされてなきゃならないらしい。しかしながら、材木座の主人公は口でご立派なことを言っておきながら自分ではやらないダブルスタンダードで、ナチュラルに他人を煽り、他人からそうとわからないよう高度な自画自賛する奴なのだ。正直言って他者から好感を得るような人物には思えん。俺が言えた話ではないが。

 

「ストーリーはそんな奴らが旅してトラブルに巻き込まれて解決、ってのが流れだな。何パターンかあっても結局やってることは毎回同じで、結末も大体ヒロインを助けて惚れられて終わり。以上のことから主人公もサブキャラクターにも魅力を感じない」

「ぐぬぬ。言わせておけば、八幡! ならば、我はどうすればいいのか教えてください」

「とうとう材木座くんが低姿勢になったよ、八幡」

 

 いじめすぎただろうか。いや、でも真実を告げただけでいじめになるだろうか、いやない。本人が望んでやったことだからセーフだセーフ。

 

「お前が好きなキャラクターを参考にでもすりゃいいだろうが。パクリにならない程度に改変したり混ぜればばれないんじゃねえの? んで後はぶれないでキャラ貫き通せばとりあえずは炎上することはないだろ」

「なんだそのハイブリッドパクリは!」

「確かにパクリはいけないと思うけど、キャラクターの性格ってどこか似てるところはあるよね」

「まあ、商業もネットも含めりゃ相当な数の作品があって、キャラクターがいるからな。今までにいないタイプの主人公っつーと……ガチのクズとかチンピラとか、とても主人公に思えないやつくらいか?」

「むう、確かに見たことはないが……」

「うまく書くことができたらブレイクスルーだぞ。これまでの主人公観に楔を打ち込むかもな」

「人気は出そうにないと思うよ」

 

 作者が真っ当に書こうとした末にクズになったのではなく真正のクズや、チンピラみたいな性格と話し方だけど実は親分よりも強いとか、斬新かもしれん。マンガではすでにいるだろうけども、ラノベではそうそう見ないキャラクターであるとは思う。

 

 

 

 

 

 さて、話し込んだ結果飲み物が空になり、そろそろ休憩を終わらせようかという雰囲気になりつつも材木座はまだ話足りないようである。雪ノ下がいればまた別の切り口で材木座を罵ってくれただろうがいないのでどうしようもない。

 勉強のために来たのだが、そもそもサイゼで勉強すること自体が間違いだったか。ともあれもはや当初の目的はすでにどこかへ行ってしまい、勉強する雰囲気は跡形もなく消えてなくなってしまった。

 というわけで一息ついていたところ、ふと思いついたことがある。

 

「そういや材木座。お前、二次創作には手を出さんのか?」

「にじそうさく?」

「むう、考えなかったわけではないが、そちらはROM専である。それよりもオリジナルをかき上げたいと思ってな」

「キャラクターや設定を一から考えなくてすむ分、ストーリーに力を注げるだろ。キャラを動かすイメージもつかめるんじゃねえか?」

「むむむ……」

「ねえ八幡?」

 

 腕を組み唸り声をあげている材木座を尻目にジュースを飲んでいると、横から戸塚がくいくいと袖を引っ張ってきた。

 なんか、久しぶりな感じだ。可愛い。

 

「コホン。なんだ戸塚?」

「うん。にじそうさく? って何かな」

 

 ひらがなで言ってそうな戸塚の言い方が可愛い。わざわざ言うまでもないことだが仕草ももちろんのこと。

 

「えーっと二次創作ってのはだな。すでにある作品を一次として、その設定やキャラクターや世界観を流用した作品のことだ」

「えっと、それはパクリ、ではないの?」

「パクリというかファンフィクションだな。コミケってあるだろ? ああいうのに参加して同人誌とかで金をとる場合には著作権者に許可を取ったりするらしいけど、ネット上で無料で公開しているだけなら、黙認されているみたいだな」

「ああ、夏休みとか冬休みですっごい人が集まったりしてるよね。ちょっと興味はあるんだけど、行こうとまでは思えなくって」

「戦士が集いし熱き聖地。生半な覚悟で赴いては命取りになるぞ」

「そんな大げさな」

 

 これがいつもの材木座の大げさな物言いとは違い、本当に下手をすれば死に至りそうだから困る。戸塚の言うような物見遊山で行こうものなら、何もできずに熱気むんむんの会場を彷徨うだけで終わることだろう。ガチ勢以外お断りの場所だ。

 

「それで、二次創作ってどんなのがあるの?」

「俺はそんなに詳しくないから。材木座、頼む」

「ふむん。どうしてもというのであれば教えてやらんでもないが」

「あ?」

「……まあ八幡の頼みであるし、よかろう! しかと謹聴するがよい」

 

 ジロリとひと睨みで黙ったがうぜえの一言だ。グダグダ言わんととっとと喋ればいいものを。戸塚が乾いた笑いを浮かべている。

 

「二次創作には数多くのジャンルがある。だが、特に重要なのはオリ主がいるかどうかである」

「おりしゅ?」

「オリジナル主人公の略だな。オリぬしとも言われるみたいだけど、作品の本来の主人公とは別の作者が考えた主人公のことだ」

「へー、でもなんでそんなことするの?」

「うむ。主人公の友人であったり、兄弟であったり、はたまた主人公の立場に別の者がいたら、といわゆる設定の捏造であるな。そういった立ち位置の者がいたら作品はどう変わるのかというのを楽しむためである」

 

 メアリー・スーとも言われるキャラで、主人公の上位互換だとかヒロインが主人公に惚れる前に惚れさせる、みたいな主人公をかませ犬にするようなのをよく見かける。が、俺は主人公を食わないでちょうどいい活躍をするのが好きだ。

 

「さて、これから二次創作のジャンルについて語るが、オリ主が主人公であったりなかったりするのを念頭に聞くがよい」

「うん、わかったよ」

「大雑把にジャンルを分けると、過去、現在、未来、パラレルといったところか」

「……うん、わからないよ」

「材木座。それじゃわけわからんだろうが。人に伝えるときはもっとわかりやすくしろって言ったばかりだろうが」

 

 なんとなくわかってしまう俺が言うのもなんだが、材木座の説明はもったいぶっておりわかりづらい。演技がかった話し方をやめればいいのに、こいつは多分やめることはしないだろう。

 

「これより詳細に語る故待つが良い。先に言った過去とは逆行展開を言う」

「ぎゃっこう? 逆に行くの逆行?」

「うむ。記憶を持ったまま過去に跳んだキャラクターが、未来の知識を生かして原作での悲劇を回避しようとするものが多い。途中で退場するキャラクターを生存させたりなどだな」

「へー、例えばどんなのがあるのかな?」

「そうだな。原作終了後のア〇トがボソンジャンプで原作開始時の地球に飛んでしまったとか、シ〇ジが謎の力で第三新東京市に到着した時に飛んできたとか、でわかるか?」

「あ、わかりやすいね」

「ちょうどそのころに流行ってたらしいな」

 

 今ではもう読めない作品が多々あるらしい。俺tueeeの始まりはここら辺の作品が多いのだとか。

 

「逆行にも種類があり、転生と憑依が大半であるな」

「転生って異世界転生とかの転生だよね? 憑依っていうのは?」

「転生はその作品を見たり読んだりした者が物語の世界に生まれるので、まあオリ主であろう。憑依は未来の自分の魂が乗り移り記憶が蘇る。これはその作品のキャラクターであったりオリ主であったり様々であるな」

「うーん……言い方悪いけど、カンニングしてるような感じなのかな?」

「まあ、大体それで合ってる。現実に起きたら記憶通りに物事が運ぶなんてことはないだろうけど、二次創作を楽しむこつは多少の粗は流して適当に読むことらしいぞ」

 

 言っちゃなんだが、プロの作家でさえ粗があるんだから趣味で書いている連中が完璧な文章を書けるわけがないのである。

 

「現在は原作再構成やオリジナル展開を指す。再構成は原作のある部分を変えたもので、あの時にこうしていたらどうなったのか、あの時にあのキャラクターがいればどうなったのか、などであるな。そしてオリジナル展開は物語が進行している裏ではこういうことが起きていた、裏展開とも呼ばれるものがそうか」

「うーん。よくわからないや。八幡、例えば?」

「あー、キ〇が連邦じゃなくてザフトに所属しているとか、オ〇ブが襲撃されたときに死んでしまったのが妹でなくシ〇だったら、とかか? オリジナル展開はまんまア〇トレイがそうだな」

「ああ、わかりやすいね。ありがとう八幡」

「うむ。さすが我が相棒であるな八幡! さす八! ナイスフォローである」

 

 うぜえ。その言葉しか出ない。

 しかし、戸塚への説明はこれでいいのだろうか。ロボットアニメに偏っている気がするが、二次創作の説明じゃこれが無難か。決して俺と戸塚の共通の話題が思い浮かばなかったわけではない。

 

「そして未来。これはアフター物と呼ばれるジャンルである。本編終了後の作品のその後を書き綴ったものであるな」

「その後かぁ。ねえ八幡、クロ〇ボーンってアフター物かな?」

「その通りだな。俺がアニメ化を望んでいる作品だ」

「僕もだよ。ふふ、一緒だね」

「そ、そうだな」

「わ、我もだぞ!」

 

 長谷川〇一先生の作品はいちいち俺の琴線に触れるから困る。でも、戸塚とお揃いだから困らない。だけど材木座がうざくて困る。

 

「そしてパラレルであるが、これはTSやクロス、アンチヘイトなどがあたるか」

「TS? って、何かの略?」

「うむ。八幡。TSとは何の略であったかな?」

「知らねえのかよ。えーっと、トランスセクシャルとかそんなんじゃなかったか?」

「トランスセクシャル……性転換のこと?」

「うむ。主人公が女になったり、男女性別が逆転していたりするものだ」

「うーん、ら〇まとか転〇生みたいなの?」

「チョイスが渋いな」

 

 俺たちが生まれる前の作品だぞ。まあ、俺も知ってる名作だけど。戸塚の守備範囲が漫画やアニメ以外にどこまでなのか結構気になってきた。

 

「いや、そういうのじゃなくてな。男だったキャラが女になってるんだ。体は女、心は男。変身とかじゃなくてそもそも女として生まれている」

「へー、そんなのもあるんだ。それってどう面白いのか、よくわからないけど」

「うむ。我も以前はそう思っていたが、男ではうざいキャラも女となれば可憐なヒロインになったりもするようなのだ。他には、キャラクター間での友情やら愛情に変化ができるであろう?」

「んー、そうなんだ?」

 

 戸塚はどうにも納得いっていなそうだ。

 よく言われているところでは、ハ〇ヒは女子だから可愛いけど男だったらただのうざい男で、キ〇ンが女子ならクオリティの高いダルデレになるだとか。キャラデザの問題だとは思うがね。

 他にもF〇teの主人公は女子力が伴った美少女になり、ワカメの愛称の彼は女であれば主人公に素直になれないヒロインとなるだとか。最近では以〇さんが可愛いと言われてるが、TSしなくても可愛いんだよな、あの人。

 

「例えば僕が女の子で……八幡と恋人になるとか、そういう話、かな?」

「……そ、そうだな。うん、そんな感じだ」

 

 ちょっと赤面し小首をかしげる戸塚はやはりどこから見ても可愛い。俺も赤面しちゃう。可愛いが戸塚は男。戸塚が女の子だったら? それはもう完全無欠のヒロインといっていいんじゃないだろうか。

 だがまあ、戸塚が女の子だったら俺と友達になってくれなかっただろうし、戸塚が男の子でよかった……とも言いづらいんだよなあ。

 

「クロスはクロスオーバーが正式名称であるな」

「あ、知ってる。ア〇ンジャーズとかジャス〇ィスリーグとかでしょ?」

「スパ〇ボなんかもそうだし、あとル〇ン対ホー〇ズとか有名だな」

「うむ。つまり作品の壁を越え、別作品のキャラクターが共演するのだ。似たような設定の作品同士とか、はたまた共通項はなくともこの作品の中にこのキャラクターがいたら、とか」

「へー。高校が舞台のアニメでみんな同じ学校にいて、ドタバタ大騒ぎとか?」

「そういうのもあるだろうな」

 

 千葉が舞台のアニメってどんだけあったかな。千葉ネタが盛りだくさんで面白いかもしれん。久々に掘ってみようか。俺のスコップは材木座のせいで中々頑丈だ。

 

「最後にアンチ・ヘイト。これはその名のとおりであるな」

「あんまりいい意味じゃないよね。反対とか憎悪とかって」

「そうだな。作中のキャラクターの行動に納得いかない作者が、オリ主に説教やら断罪やらをさせて上から目線で自分勝手な論理や常識を押し付けるのが多いか?」

「うむ。今のお主の言葉に若干の偏りを感じるが、言っていることに間違いはないな」

 

 作品愛を感じられない物が多いことからあまり評判のいいジャンルとは言えない。しかし、キャラクターの行動を完全に客観的にみるとこうなるのか、と気づかされる場面もあったりして面白い部分もある。アハ体験的な意味で。

 

 

 

 

 

「とまあ、ざっとこれくらいであるかな」

「うん、ありがとう材木座くん。ちゃんとではないけどよくわかったよ」

「なんかすげえ疲れたな」

 

 材木座の小説の話から二次創作まで延々と語り続けてしまった。というか、勉強の一息のつもりが休憩の方が長くなってしまった。よくあることとは言え。

 

「それじゃ帰るか?」

「うん、そだね」

「うむ。帰宅するとしよう」

 

 さて、ここ最近は材木座も受験勉強に力を入れているとはいえ、いつまた生み出してくるとも限らん。せめて直視に耐える物であればまだいいんだけどもな。

 ま、多少付き合ってやるくらいなら、ま、いいかなとは思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、海老名大丈夫!? なんでいきなり鼻血噴いてんの!?」

「ぐ腐っ、まさかの戸塚くんがヒキタニくんに攻め。ハチ×トツだと思ってたけど、弱気攻めのトツ×ハチもまた」

「擬態しろし」

 

 八幡らが退店した後、すぱんと音が店内に鳴った。

 

 




 最初に二次創作ssを読み漁り始めたのは、GS美神からでした。
 そこからナデシコやエヴァ、そしてkanonなどに行き、そこからは雑食でした。
 当時はいわゆる最強系が流行っていました。今ではただの俺tueeかsekkyouか。
 自分の予想もつかない作品があって、インスピレーションを刺激されたり心折られたりして、面白いのを探すのは大変だけどその行為自体が面白かったりしますよね。
 次は何にしようかな。活動報告を見ていただけると助かります。
 じゃあまた。


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男のロマン

 ロマンとは心に熱く燃え盛るもの。
 ロマンとは未知への冒険。
 そして、ロマンとは決して色褪せない落書きのような違うような。
 人によって感じ方が違う子供のころの夢。
 童心を忘れない大人でいたいものですね、と三十代後半のおっさんが申しております。
 じゃあどうぞ。


 

 

 

 

 

「男のロマンとは何ぞや」

「……何だろうな」

 

 今日も今日とてサイゼリアで勉強をしている総武高校生男子三名。

 つい先ほどまで窓の外を見ていた巨漢がため息を一つ、黄昏れているかのごとく吐き出した。というか、材木座なのだが。

 最近は材木座の妄言が休憩の、そしてそのまま解散の合図である。ということで、おそらく今日の勉強はここで終わり、休憩が長くなるパターンであるのだが、

 

「どうしたの急に?」

「うむ。男のロマンについて考えていた」

「まあ、そりゃそうなんだろうなとは思うが、それならいいや。ゆっくり考えていてくれ」

 

 もうちょっと進めておきたかったので、材木座を無視して勉強を進めようかと思ったもの……

 

「ちょちょちょーい! どうした八幡!? いつものようにお話ししようではないっか!」

「……うぜえ」

 

 高いテンションの材木座に邪魔されてしまう。どうしよう。心底うざったい。

 

「ま、まあまあ。それで材木座くん? 男のロマン? について話したいの?」

「その通りである! 男のロマンについて語り合いたいのである!」

 

 俺がこぶしを握り締め、その力をふるう決心を固めていたのに気づいた戸塚が割って入る。戸塚はホントに優しいなあ。

 

「はあ……で、男のロマンったって色々あるだろうけど、何について語りたいんだ?」

「うむ。不変の男のロマンとは何か、という命題である」

「定義とかそういうこと?」

「量が多すぎる上に雑多すぎて明確にはできなそうだけどもな」

「ええい、やる前から諦めてどうするのだ! ほれ、男のロマンと呼べるものを挙げてみるのだ!」

「ったく、じゃあ言い出しっぺからな」

 

 まったくもってめんどくさい。だが、相手にしないともっとめんどくさいしな。というか、もはや勉強できる状況にないな。

 

「もはん! そうさな。男のロマンと言えば、ドリル! ギュインギュイン回る。回れば進む。動く限り進み続ける。ゆえに、ドリルこそロマンの塊である!」

「……まあ、わからんでもないか」

「え」

 

 勇者ロボにはカッコいいから、強いからとついていたドリルパーツであるが、あくまで必殺剣必殺バズーカの添え物であった。だがしかし、ドリルをメインに置いたあのテンション天元突破のアニメは、確かにロマンの塊であると言っていい。

 

「それだったらパイルバンカーもいいよな。射撃を掻い潜って超至近距離に突っ込んで一撃必殺。空飛ぶロボットよりローラーで地面を走ってる方がより良い」

「ふむう。わかっておるではないか。さすが八幡、我が相棒よ!」

「あ、そっちなんだ」

 

 ナイトメアは空飛ぶより地面走ってた頃の方が好きな俺である。スラスターで突貫も可。アル〇アイゼンはロマンの代名詞と言っても過言ではあるまい。

 しかし、戸塚がちょっとついていけない顔をしている。さて、ロボット系は行けるはずなのだが。

 

「僕、家とか船とか宇宙船とか、そっちの方をイメージしてたから」

「あー、そう言えばそれも男のロマンの代表だよな」

「う、うむ。我、そちらにはまったく意識が向いていなかったぞ」

「普通ならまずそっちに思い至るのか。俺、思ったよりもオタク寄りだったんだな」

 

 材木座と同じなのは非常に業腹であるが、残念ながら全く考えていなかった。いや、材木座がいきなりドリルを言い出したから、それに引きずられた可能性もあるか。

 オタク寄りであることに自覚はあったし恥はないが、なんだかちょっとショックだ。

 

「あ、でも僕も合体ロボとか好きだよ。合体攻撃とかも」

「うむ。ヒーローの夢の競演はいいな! 八幡、今夜はお前と俺でダブル〇イダーだ」

「やめろ気持ち悪い」

 

 肩に手を当ててきた材木座を振り払う。どうせなら戸塚と合体したい。

 燃えるシチュエーションだよな。ピンチの戸塚に颯爽と駆けつける俺、合体だと叫び機体名を轟かせる。俺と戸塚が一つになって……これ以上はやめておこう。

 

「俺もバイクとか乗ってみたいし、セスナとか運転してみたいけど、これって金持ちの道楽みたいな感じな」

「あー、でもそうなのかもね。最近じゃ車を欲しがる人とか減ってるみたいだし」

「うむ。時代の移り変わりよのう。しかし、不変のロマンは必ずあるはずである。我が思うに、ヒーローやロボットは殿堂入りと言ってもよいのではないか」

 

 時代に左右されない男のロマン、か。人によって感じ方が違うんだからこれと定義づけはできなかろう。くそ、段々楽しくなってきてしまった。

 

「それじゃあそれらを抜いたロマンだと、何があるかな」

「ああ、俺、戸塚がさっき言ってた家で思いついた。廃墟とか建設途中のビルとか、何となく見ちゃう」

「おお、我も覚えがあるぞ。駅前のビルは夜景がパンクでそそられるのだ」

「わかるな。工場とかセメントの会社のメカメカしい感じ、なんか好きなんだよね」

 

 俺も好き。なんかワクワクするし。戸塚も好き。

 メカメカしいのだと、設計図なんかもかっこいいんだよな。まったく読めないし理解できんけど。

 

「郊外にあるともっといい感じだと思う。周りは野原だったりすると、秘密基地感が出てな」

「あ、子供のころ作ったよね! 友達と藪の中に入ってさ」

「あー、俺の場合友達はいなかったけど、空き地にダンボールで囲いを作ったかな」

「我も孤高であったが故、一人であったな」

「……ごめん」

「いや、俺の方こそ、なんかごめん」

 

 そして沈黙。くそ、せっかく話が盛り上がっていたのに、俺と材木座のボッチエピソードで沈静化してしまった。足を引っ張るなあ、俺の過去は。

 

「えーっと、そういえば日本代表とかグランドスラムとか、そういうのもロマンか?」

「そ、そうだね。僕はそこまでいけないって限界見えちゃってるけど、憧れるよ、やっぱり」

「男として生まれたからには誰しも一度は最強を夢見るものよ。かくいう我も剣の道をだな」

 

 材木座はさておき、戸塚はテニスの道を歩き続ける気はないようだ。いや、歩き続けられないとみたのか。趣味で続けるならばともかく、上を目指すとなれば体格や環境などネックになる部分が多々ある。

 戸塚が女子として出ればいい線いけるんじゃないか、なんて考えたこともあったが、誰にとっても失礼な考えなのでやめた。本気の人をちゃかしてはいけない。

 

 

 

 

 

 ドリンクバーでおかわり。これだけ飲んで安価なのだから、人も集まるというもの。だから、あそこらへんにいるのは俺の知ってる奴なんじゃないかと思っても仕方ない。知り合いだとしても、別に話しかけに行ったりしないけどな。

 

「ところで、だな」

 

 席に戻ると材木座が神妙な顔をしていた。こいつの神妙さなんてのは全く信用ならないし、どうせまたくだらないことを言い出すのだろう。

 

「ハーレム、というのは男のロマンだろうか」

 

 ほらくだらない。

 

「ハーレムって、一夫多妻のこと?」

「うむ。最近の作品には多くてな。あれも一つのロマンの形ではないかと思うのだが」

 

 言われてみれば、最近の作品は確かにハーレム系が多い。多数から好意を寄せられたい作者が増えたのか、ハーレム好きが読者に増えたためかよくわからんが。

 

「あれは現実に可能なのだろうか」

「まあ、ある意味男のロマンなんだろうけど、少なくとも日本じゃ無理だな。世間体とか役所に届け出とかどうすんのかって話にもなるだろう。金持ちの道楽ですら無理だ」

「親とか子供にどう説明するのかもだね。まさか正直に言うとは思えないけど」

「むう、やはり無理か」

 

 当たり前だ。現代社会に真っ向から立ち向かっているんだから。

 

「んで、なんでいきなりハーレム?」

「うむ。これまでロマンで語ったのはカッコいい、強い、であったのでな。エロいロマンというのもあるではないか」

「……まあ、な」

「エ、エロいって、ここでそんな話するの?」

 

 今俺たちがいるのはファミレスであり、夕方で客はたくさんいる。そんな中で猥談をしろと言っているのに等しい。それなんて羞恥プレイって話だ。周りは俺たちの会話に興味はないだろうが、ちょっと戸塚との猥談には興味がある俺である。

 

「いやいや、そこまで言うつもりは無いのだが、小説にはお色気要素というのも必須である。絵は絵師に任せるが、シチュは我が頑張らねばなるまい?」

「捕らぬ狸の皮算用じゃねえか。お前の小説のネタ集めに協力しろってことか?」

「端的に言えばそうなる」

 

 開き直りやがったなこの野郎。

 

「我はハーレムを挙げた故、お主らも何かないか?」

「エロ系のロマン、ねえ」

「えっと、その……エッチな感じではないと思うんだけど」

「え、戸塚?」

 

 まさかの戸塚が先陣を切るという。赤くなってもじもじしているのが、なんというかイケナイことをしているかのようで……コホン。

 

「あの、昔小学校のころだったかな。スキー合宿に行った時に、ね? 一緒にリフトに乗った男の子が言ってたんだけど。女の子と遭難して山小屋で温めあいたい、とか言ってたの思い出したんだ。こういうので、いいのかな?」

「……いい」

「え?」

「あ、いや、いいと思うぞ。シチュエーションとしては確かにロマンがある」

「うむ。命の危機に燃え上がる熱情。一緒にいる女性が普段ツンケンしていて、デレるのならばなおよい」

 

 恥ずしがりながら話す戸塚の姿に、俺の心に熱い何かが燃え滾る。ああ、これがもえ(燃えにして萌え)いうものか。

 ところで、確かに遭難して温めあいは確かにいい。材木座と同意見なのは癪だが、あのシチュエーションはいい以外の感想が出ない。

 

「八幡は、何かそういうのってある?」

「お、俺か。昔だったら幼馴染が朝起こしに来るとかご飯作ってくれるとか憧れたけど」

「あはは、それで部屋の窓の向こうにお隣の壁があって残念に思っちゃうんだよね」

「うむ。まず我には幼なじみなどいなかったが、窓から誰か来ないかと夢想したものよ。ヒロインとか」

「まあ、今じゃありえないってわかってるからな。俺も幼なじみいないし、いたところでな」

 

 子供は夢が夢でしかないと気づいて大人になっていく。幼なじみがいないからと言って親を恨んでも意味がない。

 南ちゃんもまゆしぃもまもり姉ちゃんもこの世にはいない。仮に幼なじみがいたとしても俺を気にかけてくれはしまい。

 

「幼なじみと言えば、昔一緒に風呂入ってたとか、温泉を覗くとかそういうのもロマンなのか?」

「アニメの温泉会ではほぼ間違いなくやっておるな。未知の領域に挑戦するのもまたロマン」

「犯罪じゃないかなそれ?」

「だよな。ガキの頃ならともかく、スカートめくりだって今やったら犯罪だし」

「ぐむう。なんて現実的な意見よ」

 

 だってその通りだから仕方ない。逮捕されてもおかしくはないことをして、男のロマンで済ませようなんてのは都合が良すぎるというものだ。

 

「それでは犯罪にならない男のロマン的シチュエーションはないか?」

「犯罪にならないのは女性の方から色々してくれる場合じゃないか? はだエプとかはだワイとか」

「むう、しかしそれは安直というもの」

「ねえ八幡。はだ、エプ? ワイ? って何かな」

「あー、えーっと」

 

 戸塚が知らないようなので教えようかと思ったが、教えていいものなのだろうか。これはセクハラになるのか? いや男同士、いやでも戸塚だし。冬山遭難でさえ赤面した戸塚に卑猥なことを教えるのは、いいのか?

 

「ま、まあそれは後で調べてくれ」

「えー」

 

 ダメだと思ったので日和ることにした。でもこれって戸塚に軽蔑されるのを後回しにしただけかもしれん。くぅ、ここは戸塚に理解があることを期待するしかないか。

 そして沈黙。そろそろネタが尽きてきたことに誰もが気づいていた。ジュースを飲みながら考えるが、そうそう思いつくものでもない。

 

「むう、もはやロマンに拘らんので、何か良かったシチュエーションを教えてはくれぬか?」

「何でだよ。お前別に学園ラブコメを書こうとしてるわけじゃねえだろ」

「それでも参考になるかもしれんではないか! いいから教えるのだ。我にはそういった経験が欠片もないのだ!」

「え、えっと、僕も……ないかな、あはは」

「俺もない」

「とは言わさんぞ。あれだけ女子に囲まれているのだから、一回や二回イチャラブなシチュエーションがあったはずだ!」

「えー……」

 

 囲まれてるわけではないし、そんないいことは……まあないとも言えなくもないかな。とはいえ、こいつに喋るのもなんかやな感じだな。

 

「えっと、八幡。僕も知りたい、かな」

「そうだな! 戸塚、聞いてくれるか!」

「あれー、我の時と反応違くない?」

 

 材木座うるさい。

 

「えーと、夕暮れ時に保健室で手当てしてもらう、とか」

「うむ。普段は素気ないながら優しく手当てしてもらい、傷が染みたら優しく罵ってくれる。ふとした拍子に距離が近いことに気づいて慌てて離れたり、そのまま距離を近づけたり。周りが薄暗いのもポイントが高いな」

「やけに具体的だね」

「そ、そうだな」

 

 細部は違うが、実はあの場にいたのではなかろうかと思えるほどに当ててきやがるな。

 

「他には……浴衣で花火大会、とか」

「それって、デートだよね?」

「普通にデートの状況であるが、普段とは違う格好で、周りは夜闇、ロマンチックな状況に二人の気分は盛り上がり」

「待て待て。そこまでやっとらん」

 

 やってない、よな。まあ、正直ぐっと来たのは間違いないが。

 

「あとは、外では学校と違う一面を見せる小生意気な後輩とか」

「うむ。自分の前でだけ仮面を外す。それもまたロマンである」

「ロマンなのかな? 確かにいいシチュエーションだと思うけど」

 

 材木座のロマン認定はかなり緩いんじゃなかろうか。

 ロマン、ロマン……ロマンと言えば。

 

「ところで、俺がやったことじゃないが光源氏計画ってロマンなのか?」

「今の時代じゃかなり犯罪的だよね」

「むう? お主、小学生の女児と仲良くなっておらんかったか?」

「仲良くなるのと光源氏計画を一緒にするな」

 

 おちおち友達にもなれんじゃないか、全く。俺はただでさえ友達が少ないんだから、減らしてくれるな。

 

「とりあえず、これくらいしか思い浮かばん」

「うむ。参考になった。感謝するぞ八幡」

「う、うん。これくらいっていう割にけっこうあった気がするけど」

 

 そうだろうか。まあ以前に比べれば色々と接触する機会は増えてる気はするけども。

 

「んじゃ、そろそろいい時間かな」

「そだね」

「うむ。中々良い時間が過ごせたのである」

 

 さて、最終的に変なことを話してしまったが、さっき見かけた俺の知り合い連中のような集団はいないようだ。

 あれが本当にあいつらで、もし話している内容を聞かれていた日には……ああ、恐ろしや。

 ちょっと怖い想像をしながら、俺は帰宅したのだった。

 

 

 

 

 

 八幡らが退店して、ムクリと起き上がる女性たち五名。毎度のことながらどう隠れているのやらと言ってはいけない。

 

「いやはや、最初はバカ話でしたけど、最後の方は年頃の男子的な話をしてくれましたね。うんうん、お兄ちゃんが枯れてなくて小町一安心ですよ」

「そ、そうだね、ははは」

「はだエプにはだワイ、お兄ちゃんの好みが明らかに! 今度やってあげようかな」

「だめだよ小町ちゃん!?」

「まあ。下劣な妄想の一つや二つするでしょうね。戸塚くんのは、ちょっと意外だったけれど。そしてこの子はホントに兄のことが好きすぎるわね」

「戸塚先輩も男の子ってことでしょうかね。かなり可愛らしい感じでしたけど。小町ちゃんは先輩と二人きりの時どうしてんでしょうね?」

「……」

「留美ちゃん? どしたの?」

 

 そして、一人物思いにふける中学生少女。声を掛けられ周りを見渡し、一番話が通じそうな隣席に目を向ける。

 

「八幡が光源氏だとすると私は若紫ですかね?」

 

 その言葉に一人がむせた。そして二人は読んだことはなくとも意味を察し、最後の一人は全く意味が分かっていなかった。

 

「ちょ、留美さん? いきなり何を言いだすのかしら」

「いえ、光源氏で正妻になったのは紫の上だったかなって、思っただけです」

「留美ちゃん、それだとお兄ちゃんが光源氏に……あれ、でもお兄ちゃんてちょっとプレイボーイ? こんなにみんなに好かれてるし」

「ない、ないよ! 先輩が光源氏はないってば。ねえ結衣先輩」

「え? ええっと、光る、ゲンジ、ああ、あれって綺麗だよね!」

「由比ヶ浜さん、蛍のことではないわよ」

 

 そしてカオスに。

 

「ところで、八幡が言っていたシチュエーションって、みんなのことですか?」

「おっと留美ちゃん。ぶっこむだけぶっこんでさらっと次の話題に行こうとする」

「……この子は末恐ろしいわね」

「あ、あたしヒッキーと浴衣で花火見に行ったよ! 厨二が言うような盛り上がりは……無かったけど」

「わたしは先輩とデートしたけど、学校とは違う一面見せたかな……ああ、ちょっと積極的に行ったかも」

「……」

「あれ、雪乃さんは? 夕暮れで保健室じゃないんですか?」

「え、ええ、まあ、そんなこともあったけれど。材木座くんの言うようなことは決して」

「え、ゆきのんヒッキーと見つめ合ってたじゃん!」

「それに、八幡がいの一番に上げた例が雪乃さんのことなんですよね」

「むー、やっぱり一番好感度高いのって雪ノ下先輩なんじゃないですかねぇ」

「ちょ、ちょっと? みんな何を言っているのかしら」

 

 カオスはまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 




 活動報告への書き込みありがとうございました。
 まだまだ受け付けておりますので、よろしければお願いします。
 次は、書かないと言っていたことを書いてみようかなとか思ったり思わなかったり。
 ひょっとしたら『男の子女の子』を書くかもしれません。
 じゃあまた。


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男の子女の子

 今回の話は見る人によっては不快になるかもしれません。無理しないで左上の矢印をどうぞ。
 また、アンチ要素が含まれているかもしれませんが、作者にその意図はありません。
 あと、かなり際どい話をしていますが……R指定は、多分、無いのかな? よくわからなくなってきました。
 話しているキャラクターを貶めるつもりはありませんし、何ならあなたが思い描いているキャラクターとは別かもしれません。
 それでもいいなら、じゃあどうぞ。


 

 

 

 

 学生の強い味方であるところのサイゼリア。学校が近ければ多くの学生が通うのは当然のこと。

 今日も今日とて、二人の男子高校生がサイゼリアにて駄弁っていたのだった。

 小柄な男と大柄な男、彼らは友人の友人という迂遠な関係であったのだが、紆余曲折を経て友人になった二人であった。

 

「隼人君と戸部って、今日何してるんだっけ?」

「サッカー部にいってるんじゃないか。昨日言っていただろう」

「だよなー」

 

 仮に、そう仮に小柄な方を大岡、大柄な方を大和と呼称しよう。実在の人物とは関係ありません。

 

「どうかしたか?」

「いや、せっかくの休みに男二人でサイゼってのも色気ねえなと」

「仕方ないだろう。彼女がいれば俺だってお前と顔を突き合わせていたりしない」

「ひっでえの」

「お前だってそうだろう?」

「まあなー」

 

 大岡がため息をつきながらストローを咥え、ピコピコと揺らしている。大和はそれをチラと見ると腕を組み目を閉じた。

 

「はあ、彼女欲しいなー」

「いないものはしょうがないな」

「あー……正直言うとさ。俺隼人くんと仲良くなった時、ちょっと期待したんだよな」

「何をだ?」

「合コンとかやりまくるの。隼人くん目当てに群がってきた女から俺でもいいって言ってくれる子探したりしてさ」

「……お前な。それはかなり最低な発言だぞ」

 

 中々の下衆い発言に大和の眉間に皺が寄る。それを見てか、大岡はひらひらと手を振った。

 

「いや、誤解すんなよ? 隼人くんすげえいい奴だし、それ目当てで付き合ってんじゃないからな。だけど、お前だって少しは期待しなかったか?」

「……まあ、全くないとは言わないけど」

「だよな? 隼人くん、見た目かなりチャラいじゃん?」

「ああ。あそこまでガッツリ金髪にしているのはうちの学校でも珍しい。他は由美子くらいか? 茶髪くらいならいくらかいるが。戸部とか」

「だけど実際には真面目な性格で、でもお遊びにも付き合ってくれるし、自分からも遊ぶし。ギャップがあるじゃん?」

「そうだな」

「俺、こいつと仲良くなったらウハウハーのヤリヤリーみたいなバラ色高校生活になるんじゃねえかなってさ」

「そこまでは言わんが、今まで女に縁がなかった生活が変わるかもとは思った」

 

 共通の友人である金髪の男子を思い浮かべる。女にキャーキャー言われていても浮いた噂の一つもない友人である。

 

「だろ? あわよくば手を繋いだり、どうにかなってハグとか柔らかいところ触れたりとか、期待したろ?」

「お前の言いたいことは理解できるし共感できるんだが、言い方が下衆すぎてうんと言いづらい」

「誤魔化すなって。でも、実際はそうでもねえっていうな。まあ、由美子とか結衣とか海老名さんとか、隼人くんがいなけりゃ仲良くなってねえ、っていうか、ぶっちゃけ気にかけられることなかったんじゃねえかな」

「卑屈だな。ただのクラスメイトで今ほど話すこともなかっただろうってのは想像つくけど」

 

 さらに、その友人伝いに仲良くなった女子三人を思う。一見ギャルであったり、本来なら縁がなさそうな一見文芸少女であり、三人とも相当の美少女だ。

 

「それに関しちゃ感謝はしてるんだよ。だけど、こう、もうちょっと、こう、な?」

「意味わからん。というか、仮に隼人が合コンでもしようものなら、優美子が恐いぞ。覚えてるだろ、冬のこと」

「ああ、何でかヒキタニくんと隼人くんが一緒に他校の女子と遊んでた時のあれだろ?」

「しばらく優美子の不機嫌が限界突破してただろ」

「だな。あの二人もどうなってんだかわかんねえよな。優美子は確実に隼人くんラブだけど、隼人くんがどう思ってんのかわかんねえし」

「そういうこと言わないからな、あいつは。性格的にキープしてるってこともないだろう」

 

 二人の脳裏に浮かぶのは、おそらく何事かがあった翌日、教室で長くスラっとした脚を組み、不機嫌そうに眼を閉じていたリーダー格の少女の姿。普段ならばある程度気楽な会話ができるほどであったが、当時は近づくのを躊躇ったものだ。

 

「やっぱあれかな。親同士が仲良くて勝手に決めた婚約者とかいんのかな」

「今どきドラマでもないだろ、そんな設定」

「いやー、わっかんねえぞ。実際漫画みてえなキャラしてるじゃんよ」

「イケメンで頭もよく、運動神経抜群でサッカー部の主将。誰とでも分け隔てなく接する優しい性格。確かにな」

「少女マンガでヒロインに言い寄るのにいそうじゃね?」

「少女マンガを見たことがないからわからん」

「そうか? とにかく、来るもの拒まなかったら入れ食いだよな」

「かもしれないけど、そんな隼人なら俺たちも仲良くなっていないし、今ほどの人気者ではなかっただろう」

「あー、だな」

 

 色々といじった会話をしたのであるが、それでも得難い友人であることに変わりはなく、結局のところ彼に関する会話はだいたいが称賛を送るのがいつもであった。

 

 

 

 

 

「はー、女欲しいな」

「作ればいいだろう。優美子は無理にしても結衣や海老名に彼氏がいるとは聞いていないぞ。それ以外にも女子と全く絡みがないわけじゃないだろ」

 

 先ほどと同じようなことをため息をつきながら言う大岡。さすがに大和も呆れ気味である。

 

「っつーてもなー。結衣は好きな奴いるみたいだし、海老名さんとどうにかなったら戸部に悪いし。他の女子とはそれほど仲良くないし。ぶっちゃけ、優美子とかルックスいいから他の女子が見劣りしちゃうんだよな」

「かなり最低な発言だな。選り好みできる立場でもないだろうが」

「表には出さねえって。付き合うのに顔より性格っていう奴いるけどさ、顔良くて性格いい彼女出来たら最高じゃん?」

「贅沢すぎるだろ」

 

 かなりの下衆発言をした大岡に呆れながら、大和はコップに手を伸ばした。気が付けば相当温くなっていた。

 

「ところで、結衣は誰か好きな奴いるのか? 本人から聞いたことはないが」

「いや、普通言わねえだろ。俺も誰かってのはわからんけど、クラスの女子の話じゃいるっぽいな」

「そうか……なんか、ちょっと悔しいな」

「その気持ちわかるわー。俺たちより気安く接したりする相手がいるのってなんかな。結衣は見た目ギャルだけど、ああ見えてガード固いし」

「優美子も中身は乙女じゃないか? 海老名は、まあ、ちょっと恐いかな」

「だな。俺たちの周りの女子はギャップが激しい」

「隼人もそうなんだろ? じゃあ俺たち以外みんなギャップが激しい」

「だから何だよ」

 

 特に意味はなかったのだが。

 

 

 

 

 

 大和がドリンクバーのお代わりに立つと同時に大岡も立ち上がった。連れションではなくとも、なんとなく同じ行動をしてしまうあたり行動原理が近いのかもしれない。

 

「優美子も結衣も海老名さんもみんな可愛いじゃん?」

「まあ、そうだな」

「でも彼氏にはなれなさそうじゃん?」

「……そうだな」

「こう、もやもやしないか? せっかく仲良くなっても恋人になれないって思うとさ」

「全くなれないと決まったわけじゃないが、まあそう考えるとな」

「どっかの誰かが優美子の尻をもんだり結衣の巨乳を揉みしだいたり海老名さんの足を撫でさすったりすると思うとさ、ムカツクじゃん?」

「お前、酒を飲んでないのに酔ってるのか? 昼のサイゼってこと忘れてないか」

 

 ドリンクバーでコーラを入れている横でえぐいことを言い出した友人を心配する大和。病院は近くにあっただろうかと考えていると、大岡は氷を大量にコップに入れていた。どうやらアイスコーヒーを作ろうとしているらしい。

 

「酔ってねえし忘れてねえよ。普通の男なら見るしやってみたいと思うだろ? お前だって全くそういう目で見たことないとは言わないだろ」

「……まあ、三人とも可愛いしスタイルいいしな。正直そういう目で見たことはある」

「だろ?」

「ただ、ばれた時点で友達としては終わると思ってるからな」

「そらそうだ。男女の友情なんてどっちかが欲を見せた時点で終わる」

「わかっていてなぜ言った?」

「高校生男子だぞ? そんなん考えるに決まってんじゃんよ。っつーても、その後を考えると手を出すに出せないけどな」

「その後がなくても手は出せんだろう。お前ヘタレだし」

「うっせ」

 

 どっかとソファに座る大岡に、呆れながら大和が続く。席に着いた大岡はしかし、アイスコーヒーに口をつけようとしない。

 

「……はあ」

「何だかため息が多いな」

「いや、ふと思ってさ」

 

 今度は大岡が語るまでは待っていた大和であるが、直後に聞こえた言葉に若干後悔するのだった。

 

「お前さ、後腐れなかったら、誰とヤリたい?」

 

 それほどの衝撃的な発言である。

 

「お前な……」

「誰も聞いちゃいないって。俺は誰でもいいけど。っていうかぶっちゃけできるんならみんなとしたいけど」

「おい」

「まあ待て。そうだな……優美子を四つん這いにさせて後ろからガンガンいきたい」

「うわあ」

「いや、川崎も相模も捨てがたい。どいつも後ろから責めて涙目にさせたい。悔しそうに振り向かれたら最高だ」

「お、おう。お前の好みが気が強いキレイ系なのはわかった。けど、その無理やり屈服させたい願望はなんだよ。後腐れないんならイチャイチャでいいんじゃないのか」

「後腐れないから無理やりがいいんだよ」

「そ、そうか。ところで雪ノ下さんはいいのか? あの子もかなり気が強いだろ。とんでもない美人だし」

「あー、あの子はちょっと、ボリュームがな」

「あー」

 

 おそらく総武校で一、二を争うレベルの美人を思い浮かべるが、ある部分がかなり寂しいことになっている。どうやらこの二人にはそこは受け入れがたいところであった模様。

 

「で、お前は結衣の巨乳を後ろから好き放題したり、四つん這いの海老名さんに後ろからのしかかったりしたくねえの?」

「お前のやりたい体位がバックからなのはわかったよ」

「そういや、お前の好きなタイプって小柄な子だっけ? うちの学校だと誰だろ……いろはとか戸塚?」

「いろはは可愛いけどあんまり小柄って感じはしないなって、こら。確かに戸塚は可愛いが、男だ。……男なんだよなあ」

 

 さらに、現生徒会長と去年のクラスメイトであるところの、総武校で一、二を争うレベルの美少年を思い浮かべる。生徒会長は誰もが美少女というほどのルックスであるが、先述した雪ノ下ほどではないにしろボリュームに乏しいのでこの話では対象外であった。

 また美少年は男であることが不思議であり、話す内容が内容なので、大和は悔しそうに顔を歪めたのだった、

 

「なんかすまんな」

「いや。そうだな……平塚先生に手ほどきされたいかな。優しく」

「お前って年上趣味だったか? それとも好みとヤリたいタイプは違うとか」

「どうだろう。ただ、責められたい」

「Mっ気あったのなお前って」

「お前だって平塚先生にこんなに固くして、とか好きなように動いていいぞ、とか言われたら発奮するだろう?」

「うーん、まあ美人でスタイルいいしな、あの人。だけどお前の野太い声で言われてもキモイ」

 

 傍目には、という注釈が付くが大岡の語る通りのルックスとスタイルをもつ去年の担任である美人教師。大和の願う通りの対応をしてくれるのか、できるのかは不明である。

 

「それか去年の生徒会長。あのホンワカした人がリードしてくれたら最高だ。知識ないのに大人ぶってくれるのでもいい。あと、去年の学園祭に来ていた雪ノ下の姉とかもいいな」

「筋金入りだな、お前」

「お前も相当だろ。鬱屈したもの溜めこんでるんじゃないか」

 

 引きつった顔を見せる大岡に、お互い様だと返す大和。

 

「はあ……彼女欲しいな」

「仮にできても、すぐに破局しそうだと思わざるをえない」

「ちゃんと隠すよ」

 

 その後退店した二人だが、その隣の席に彼らの知り合いがいて、話を聞いていたかどうかは定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたか?
 不快感なく読めたあなたは懐の深い人です。
 不快感あって読み切った人は忍耐力のある人です。
 不快感あって途中をすっ飛ばして後書きを呼んでいる人は律儀な人です。

 冗談はさておき、高校生ってこういうことダベリますよね?
 ひょっとしたら大学生だったかもしれない。
 同じ学校に通う人が美人が多いって、目の保養にはなるでしょうけどもね。自分の母や姉が美人でも手を出せないように、美人たちとコミュニケーションを取れなければ意味がない。遠くから見てるだけ。そしてきもがられたり。

 それはさておき、ここまで読んでいただきありがとうございます。
 次回は……未定!
 じゃあまた。


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ダベルだけじゃ終わらない
In異世界召喚


 ま、やってみたくはあったんですよ、はい。
 最初は葉山グループも一緒に連れてこようかと思ったんですけど、それやってたら一話じゃ終わらないと思ったんでカットしました。
 週刊誌における読み切りと思ってください。
 じゃあどうぞ。


 

 

「……あれ?」

 

 俺は何をしていたんだったか。制服を着ているのだから学校にいたのか登下校していたのだと思うが、この場にいる前の状況が思い出せない。

 この石造りの壁はなんだ。四方を囲まれていて薄暗い。LEDすらあるこのご時世にランプとか時代錯誤にも程がある。千葉にこのような場所があっただろうか。どこかのアトラクションにでも紛れ込んでしまったか。

 

「比企谷くん……?」

「あ、雪ノ下、お前もいたのか。後ろにいるのは由比ヶ浜か」

「ヒッキー、それにゆきのんも?」

 

 後ろから声をかけてきたのは雪ノ下だった。俺の方を向いていて気づいていなかったようで、雪ノ下の後ろには由比ヶ浜の姿もあった。二人とも制服姿で、俺と同じくカバンを持っていなかった。

 

「ここ、どこかしら?」

「さっぱりわからん。なあ、ここに来る前って、俺たち一緒にいたのか?」

「え、そうなんじゃないの? 奉仕部にいたんだと思うけど……あれ、でも何してたか覚えてないや」

「雪ノ下、お前もか」

「……そうね。思い出してみようとしたのだけれど、朝だったのか昼だったのかもわからないわ」

 

 さて、いったい何事なんだ。俺たちを眠らせて誘拐したのか? だけど、頭がぼーっとするとか眠らされた感じもない。ならどうやったんだ。

 付近を見渡す。たまたま近くにいたからすぐに雪ノ下や由比ヶ浜には気づけたが、離れたところに何人かがいるように見えた。

 

「なあ、他にも何人かいないか?」

「ほぇ。あ、ほんとだ! 総武校の制服着てるよ!」

「あそこにいるのは一色さんではないかしら?」

 

 部屋中を探し回った結果、一色に小町、戸塚とついでに材木座。そしてなぜだか留美がいた。

 

「留美までいるとなると、学校にいて誘拐されたってわけじゃなさそうだな。どこで何してた

か覚えてるか?」

「ううん。気づいたらここにいたよ。でも、八幡がいてくれて、よかった」

 

 心細そうに俺の袖をつかんでくる留美。独りだけちょっと離れたところにいたからか、怖かったのだろう。頭を撫でてやると、猫のように目を細めた。

 

「ロリ谷くん? その不埒な手を放しなさい。状況に変化が起きる様よ」

「ん、ああ、そうだな。勝手に頭撫でて悪かったな留美」

「……いいのに」

「こんな時でも攻める姿勢を忘れない留美ちゃん、すごいなー」

「っていうかお兄ちゃん。小町には何もないんですかねえ」

 

 そんな一幕はさておき、薄暗い室内に光が差してきた。ゴゴゴと、重い音を室内に響かせながら重厚そのものの扉が開かれる。どうやら外から開かれている様子。

強くなっていく光のその向こうにいたのは、

 

「まあ、此度の勇者様はたくさんいらっしゃるのね! 召喚に応じてくださり誠に感謝いたしますわ!」

「……は?」

 

 一見してお姫様としか表現しかできない桃色髪のフワフワドレス少女と、一見して神官の雰囲気を醸し出している男が数名いたのだった。

 後ろで材木座が「異世界召喚キタコレ!」とか言ってるが、バカなことを言ってんなとは思えなかった。まさにその状況じゃねえのか、これ。

 

 

 

 

 

 何がどうなっているのやらと混乱している俺たちが石造りの部屋から出た後に連れてこられたのは、中世ヨーロッパ風の一室であった。見たことないのであくまで風であるが、RPGの城の中のような雰囲気があった。

 楕円上のテーブルの円弧の部分にまとまって座る。反対側に先の桃色髪少女と中年の男性が座る。勝手なイメージだけど大臣とかそこらへんの役職だろうか。頭頂部のハゲ具合とかがそれっぽい。

 そして、イスに座る俺たちの横からメイドさんが紅茶を入れてくれた。メイド喫茶に行ったことはあるが、さすがにバイトメイドとは一味違う存在感と手際の良さ。クラシックメイドさんに見とれていると、女性陣からの冷たい視線。居たたまれなくなり反対を見れば苦笑する戸塚と、わかっているぞとばかりに笑顔のうざい材木座。

 

「さて、もう落ち着かれましたでしょうか勇者様方」

 

 全員にお茶が行き渡ったあたりで桃色髪少女がニコニコしながら口を開く。普通に考えれば男性が話を進めそうなものだが、印象通りなら姫様の方が位は高いのだろうし順当なところか。

 そしてそれに誰が回答したものかと、皆が顔を見合わせる。こんなとき葉山がいれば間違いなく奴が応えたのだろうがいない。一番しっかりしているのは雪ノ下だが、あいつだってこんな状況で冷静でいられるとは思えない。というか、雪ノ下が俺を見ていた。いや、俺を見られても困るんだけどもな。初対面の女の子とまともに会話できるわけねえだろ。

 俺が困っているのがわかったのか、雪ノ下ははあとため息をつき、正面を向く。

 

「その、勇者様方、というのは私たちのことでいいのかしら?」

「ええ、もちろんでございます! 皆様方は我らが苦難に主神さまが差し伸べられた救いの手でございます」

 

 桃色髪少女の言葉に雪ノ下がこめかみを抑える。この子はあれだ。自分がわかっていることは相手もわかっていると思って話すタイプだな。

 

「その、状況が全くわからないのだけれど、詳しく教えていただけるかしら。どうやって私たちを連れてきたのか、なぜ私たちがここにいるのか、いつ帰れるのか」

「あら、皆様方は天の御使いではありませんの?」

「……言葉の意味はよくわからないけれど、違うと言っておくわ」

 

 雪ノ下がちょっと切れそうになっている。会話が成り立ってねえもんだから、気持ちはわからんでもない。

 そして雪ノ下が悪戦苦闘しながら聞き出した内容によると、俺たちは見事に異世界召喚された勇者であり、桃色髪少女は俺たちを召喚した国の王女だとか。ちなみに王様と第一から第三までの王子たち、つまり姫さんの父親と兄弟は魔物の討伐に出ているそうだ。

 この世界には白い力と黒い力があり、それらが固まり形を成すという。なんのこっちゃという感じだが、エネルギーが固形になるのだとか。白いエネルギーは神で、黒い力は魔らしい。

 黒い力が集まると魔物となる。それが一気に噴き出すのが『浸透』なる現象であり、それまで散発的に出現していた魔物が群れになる。白い力が魔物を倒せば倒すほど黒い力が削れていき、いずれは消滅する。それを『漂白』という。『漂白』されると世界は空白期と呼ばれる時期に入り、魔物が生まれてこない平和な時が流れる。

 そして、白い力とは俺たちのことらしい。白とか黒の力の概念がない世界に住む人間がこの世界に召喚されると力を吸収するので、白い力だけがを集めた場所に勇者を召喚し、白一色の勇者を作り出す。俺たちが最初にいたあの場所がその白い力が溜まる場所なんだろう。

 なぜ自分たちでどうにかしようとせずに他の世界の者を呼び出すのかと言えば、効率の問題のようだ。この世界の人間は白と黒、両方の力を常に浴びているので灰色の力を持っている。だから魔物を倒しても白一色の力を持つ勇者よりも黒色の力の浄化率が随分劣るため、この世界の人間だけで『浸透』を防ぐのはほぼ不可能なのだとか。

 ギリギリまで待たずにもっと早くから取り組めよと思うが、白い力を貯めるのに『浸透』と同じだけの時間がかかるのでダメなのだとか。なんとも融通が利かないというか。

 

「戦うって、私たちにそんなことをさせるつもり?」

「主神様より皆様の属性に応じた魔法や戦衣が授けられているはずです」

「魔法? そんなものが私たちに?」

「現に、私たちは会話を出来ているではないですか。翻訳魔法なるものだそうで。この世界ではどの国も共通の言語ですので、こういった機会でもないとお目にかかることはないのですが」

 

 会話はできていても話が通じているようには見えないんですが、それは。

 

「魔物と闘わなければ私たちは帰れない、とそういうわけかしら」

「いえいえ、何をおっしゃいます。『漂白』を成した暁には、皆様を国を救った英雄として歓待いたします。お帰りになられては困りますわ」

 

 これはどっちの意味だ。帰らせるわけないだろ、帰れるわけないだろ。いずれにしても一筋縄ではいかないようだ。

 さて、本気でそろそろ雪ノ下を止めないと面倒になりそうなので、説明(一方的な通達かもしれんが)を受けながら仕込んでいた策を発動させる。

 

「いい加減に、っ!?」

「そういうことならば姫よ! 我らが勇者一同、全力をもって世界を救うことに尽力いたしますぞ!」

「ま、まあ、それは心強いですわ! 我ら国を挙げてサポートさせていただきますわ」

「え、ちょ、勝手に……」

「雪ノ下、いいから黙ってろ」

「比企谷くん、どういう?」

「いいから。今は言うこと聞いてくれ」

「わ、わかったから、その、手を」

 

 雪ノ下を黙らせるのに相手から見える様にはできなかったのでテーブルの下で手を握ったのだが、効果は覿面だった。向こう側の女性陣の視線が怖いが、緊急避難ということで勘弁してもらう。

 

「だけど、ちょっと急な話だし、長くもあったから疲れちゃったね」

「であるな。姫よ、我らも急な召喚にて混乱しております。しばしの暇をいただけますかな? 皆で話し合いたき事がございます」

「あら、それは気づきませんで申し訳ありません。それでは私どもは席を外したほうがよろしいかしら」

「申し訳ありませぬが、お願いいたします」

 

 芝居がかった感じで材木座が他の連中を追い出してくれた。普段ならうっとおしいと思うところだが、俺が依頼したことなので何とも言えん。

 

 

 

 

 

 奴らが出ていき俺たちだけになった室内であるが、特に会話もなく、みな一様に黙っていた。なんでか俺が握った手をニギニギしている雪ノ下はいったん放置するとして、俺は材木座が懐に入れていたネタ帳として使っていたメモに必要事項を書き始める。

 

「えっと、あの、ヒッキー? どういう」

『フリートーク』

「はい? いや、あの」

「いやー。それにしても驚くことばっかりだね!」

「う、うむ! 全くであるな!」

 

 雪ノ下と姫様の会話の間、俺と材木座と戸塚は気づかれないように仕込みを入れていた。というか、材木座が持っていたメモ帳にやってほしいこととを書いて渡しただけだが。

 とりあえずは適当に話しておいてもらいたい。

 

「え、えっなに?」

「まさか、僕たちが勇者なんて、考えもしなかったよ」

「うむ。しかしながら、我らしかいないのであればやるしかないというもの」

『対盗聴。見られても多分字は読めない』

 

 つまり、材木座には俺が合図したら奴らに賛同するふりをして追い出してもらい、戸塚にはそのフォローをお願いした。

 そして俺は、メモ帳にしこたま書いている最中である。今この場を盗聴されていると仮定しての対策だ。この部屋に来る途中にいくつか部屋があったのだが、表札に書いてある文字が読めなかったことから、翻訳魔法とやらは言葉だけで文字には対応していないと推察した。

 

「そういうことね」

「ああ、なる。でも、小町たち戦うとか、したことないんですけど」

「ですね。なんか、魔法がどうのとか言ってましたけど、それでどうにかなるんですかね」

「そこは、国のフォローに期待するしかないかな」

「うむ。人類存亡の危機である。彼らも協力してくれることだろう」

『奴らは信用できない。言が正しいとは限らない。帰れるか不明。明言なし』

 

 雪ノ下と小町、それと留美は意図を理解してくれたようだが、俺の疑い深さに飽きれているようにも見える。

 

「そりゃそうかもしれませんけど、怖いですよね。普通に考えて」

「だ、だよね。魔物って、虎とか熊とか、そういうのより強い、んだよね?」

『だけど、今は奴らに従う』

 

 耳打ちされて由比ヶ浜と一色も理解してくれた。とりあえず、みんなには勝手に話していてもらい、俺は思いついたことを思いのまま書きまくる。

 

「軍人さんとかじゃなくて、私たちを呼んだっていうのはなんなんですかね」

「それは不明だが、全くの見ず知らずの集まりよりかはやりやすいというもの」

『今度の勇者はたくさん=昔は一人か少数?=八人いなくてもいい?』

 

 なんと材木座が一色の質問に答えている。チラとそちらを見てみると、顔中からだくだくと発汗している。そろそろ材木座のテンパリ具合がやばくなっているのが見て取れる。声がでかくなってきた。急がなくては。

 姫さんの発言から予想されることを書き連ねる。

 

「確かに、どこの誰とも知らない人よりかはやりやすい、かな」

「そうかもね」

『従わない→人質、脅迫or殺され、こうなりたくなければ従え』

 

 丁寧に書いていられないので若干雑だが、頭の回転が悪い奴はいないので何とかなるだろう。アホの子由比ヶ浜が少々心配だが、一色が横から小声でフォローしているので多分大丈夫。

 例えば俺が戦いたくないと言った場合、小町を人質に取られ、命が惜しくば戦え、だとか。勇者が八人もいなくてもいいのなら、俺一人くらい殺してしまい、こうなりたくなければ従え、だとか。様々なパターンが考えられる。

 ネガティブに考えすぎと言ってしまえばそうだけども、警戒するに越したことはないだろう。

 

「それに困ってる人たちがいて、助けられるのなら、頑張ってもいいのかなって」

「おおー、勇者的発言」

『しばらく情報収集。信じられる→そのまま ダメ→逃げる どうだ?』

 

 ベリベリと威勢よくメモを破っていたので、材木座が泣きそうになっている。だが、用心するに越したことはないので、我慢してもらおう。

 俺のメモに目を通したみんなが軽く頷く。とりあえずはみんなの同意を得られたので少しホッとする。

 

『気にしすぎると警戒される。適当に』

「じゃあ、やってみるってことでみんなはいいの?」

「そですね。魔法とか、ちょっと興味ありますし」

「その理由はどうかと思うけれど、そうね。さっきの人たちが戻ってきたら協力したいと伝えましょうか」

 

 メモを適当に胸ポケットに突っ込んでいると、雪ノ下がそう言ったところで扉がノックされる。

 

「勇者様方、そろそろよろしいでしょうか」

「……はい、構いません」

 

 顔を見合わせる。話が終わるタイミングを見計らったかのようで、予想通り盗聴なり盗撮なりがされていたものと考えていいだろう。休憩するにはさして時間が経っておらず短すぎる。

 しかし、あからさますぎてどう判断していいものか。あのお姫様が考えなしの阿呆なのか、気づかれても問題ないと考えているのか。前者だったらこれからが楽そうなのだが。

 

「お話しまとまりまして?」

「無論でございますとも! 我ら一同、全力をもって世界の平和を取り戻しましょう!」

 

 もとから芝居がかっていた材木座だから、この世界には似合っているんじゃなかろうか。この世界の騎士があんなんかどうかは知らんが。

 

「もし、勇者様方がよろしければ魔法や戦衣の説明に移りたく存じますが、いかがでしょう?」

「あたし、まだお腹空いてないし、大丈夫だけど?」

「そですね。誰かトイレ行きたい人ー」

「なんか、いっきに修学旅行感がしてきましたけど」

 

 適当にと書いたのは俺だが、緩すぎだなうちの妹は。雪ノ下もこめかみに手をやっている。なんだな、あんまり気にしすぎない方がいいな、うん。

 

 

 

 

 

 さて、その後連れてこられたのは、学校の校庭並みの広さがある訓練場だった。見上げれば空が見えており、屋外ではあるが周囲が壁に囲まれているので若干閉塞感がある。先ほどまでいた場所と同じ建物とみていいだろう。

 召喚の間(仮称)に応接間、そして訓練場。聞くところによれば食堂も、俺たち各自の部屋も、風呂場もあるそうだ。ここまで徹底して召喚勇者のための建物を作っているのは確かに効率的であるが、俺たちを外に出さないためなのではと穿って見てしまう。疑えば何でも怪しく見えるのだとわかってはいるが。

 

「さて、とりあえず今日のところは皆さまの魔法の属性や戦衣の確認をするだけにしようかと思いますが、いかがでしょう」

「はい。ではそれでお願いします。正直、少し疲れていますし」

 

 桃色姫様が頷き、一歩下がる。後ろにいたのは大きな杖を持ち、とんがりぼうしを被った一見して魔法使いの女の子。年齢は留美と同じくらいだろうか。ちょっとオドオドしているように見える。

 

「彼女はこの国一番の魔法使いです。我らと皆様の魔法は威力こそ違えど、根っこは同じもの。彼女から説明させていただきます。じゃあお願いね」

「は、はい。わたくしが皆様に魔法の説明を行わせていただきます。よろしくお願いいたします」

 

 ペコリと頭を下げてくる魔法少女。腰が低く丁寧な感じはこの年頃の少女としては普通なのだろうが、だからこそこんな子が一番の魔法使いなのかと驚かされる。

 そして材木座。ロリ魔法少女キタコレじゃねえよ。

 

「魔法は一人一人違う属性を持ちます。共通しているのは、使用者の意のままに魔力を操り形を作ることです」

 

 そう言って、魔法少女は手のひらに炎を生み出した。

 

「おー、ホントに魔法だ」

「わ、わ、あれ熱くないのかな」

「……物理法則やエネルギー保存の法則にケンカを売っているわね」

「雪乃さんならそう言うと思ってましたけど、細かいこと気にしない方がいいですよ」

 

 そして魔法少女は上空に火の玉を打ち出し、さらに反対の手で氷の矢を作り、火の玉を打ち抜いた。爆発した炎が上空から降りかかってくるも、それを風で吹き飛ばす。

 見世物ではないと分かっていても、俺たちは感嘆の声を上げ、魔法少女は気恥ずかしそうに帽子を被りなおした。

 

「え、えと、今のように、魔法とは魔力を心の内にて願った形に解き放つことであります。球にするも矢にするも、ただ漠然と放出するも、使用者の意のままなのです」

 

 えーと、つまりだ。使用者が思った通りの使い方ができるということか。ファイヤーボールもファイヤーアローも、特に詠唱をする必要はなく、こうしたいと願えば使えると。便利ではあるが、言っちゃなんだが趣がない気もする。

 

「さて、それでは勇者達よ! まずは属性を確認する。手を空に向け、体の前に出すがよい!」

 

 と、いきなり魔法少女の雰囲気が変わった。いや、雰囲気どころか見た目も変わっていた。オドオドしていた様子は微塵もなく、胸を張り尊大な態度で挑発的に笑っている。そして、少なくとも髪は白髪ではなかったはずだし、肌の色も褐色ではなかったはずだ。なんじゃこりゃ。

 

「あら、オババさま。急に出てこられては皆さま驚かれてしまいますわ」

「はは、許すがよい姫よ。久々の勇者なのでな、ワシもテンションが上がっておるのだ」

 

 俺たちがキョトンとしている間に語られたのは、偉そうな方は魔法少女の師匠であり、数百年王国に使えた宮廷魔導師なのだそうだ。その時代の優秀な才能を持つ魔法使いを育てるため、杖に意識を封じ常に指導しているのだとか。そして、時折魔法少女の意識を追いやり、勝手に外に出て好き勝手していくのだとか。はた迷惑な話だな。

 そして材木座。体は違法ロリ、精神は合法ロリBBAキタコレじゃねえよ。白髪褐色ロリに反応してテンション上げすぎだ。

 

「さあ、勇者達よ。魔力を感じるがいい!」

 

 ロリBBA魔法少女の言う通りに俺たちは円陣を組むように並び、手を出す。異様な光景だが気にしないでおく。

 

「目を瞑り、集中するのだ。皆の心の内にすでに魔力はある。イメージしやすければ如何様にでも構わぬ。頭から、心臓から、腹から、魔力は流れている」

 

 何となく。何となーくではあるが、体の中に何かがあるような気がする。それが頭なのか心臓なのか腹なのかはわからないが、俺の思う通りにかざした手の方へ流れている気がする。これは、かめ〇め破を練習したことがあるやつならイメージしやすいかもしれん。

 

「魔力を感じ取れれば、後は外へ出すだけじゃ。さあ、放て! 魔法使いの第一歩じゃ!」

 

 そして目を開ける。俺の目の前から黒い何か立ち上っていった。

 

「うおっ!」

「わっ!」

「きゃっ!」

 

 驚くと同時、黒い何かが消える。他のみんなも同じように驚き、掌から出していた何かが消えていた。

 

「さすがです勇者様方。皆様、魔力を放出することができておりました」

 

 いつの間にか戻っていた魔法少女がパチパチと拍手をしている。あのロリBBAと比べるとホントにいい子に見えてくる。ギャップが激しい。

 そして、なんかよくわからんが全員が魔力を出すことができていたらしい。みんな目を閉じていたし、目の前に魔法があったので驚いてすぐに消してしまったから詳しくはわからない。

 ということで、個人ごとに魔法を披露することになった。

 まずは雪ノ下。

 

「なんかキラキラしてる。これは、氷?」

「ですね。製氷皿の一個くらいの大きさですけど」

「精一杯やってるつもりなのだけれど」

 

 どうやら雪ノ下はいまいち魔法を信じ切れていないようで、そのため放出する魔力も少なくなっているようだ。だがまあ、雪ノ下のことだから三日もすれば簡単に扱えるようにはなっているんだろう。スペック高いしな。

 しかし、氷の魔女とか、イメージ通りだ。

 

「何かしら、比企谷くん?」

「いや、別に」

 

 なんで俺の考えてることがわかるんだか、不思議でしょうがない。

 次は由比ヶ浜。

 

「わぷっ!」

「あ、ごめんいろはちゃん!」

「手のひらからドライヤーみたいに風が」

「風属性ってことですか。お風呂上り便利そうですね」

 

 由比ヶ浜がかざした手から風が吹き出し、隣にいた一色の髪をぐしゃぐしゃにした。空気を読む由比ヶ浜だから風属性なのか?

 次に一色。

 

「わ、わ、いろはちゃん熱くないの!?」

「大丈夫みたいです。んー、なんか可愛くない」

「可愛い可愛くないの問題じゃない気がしますけど」

 

 炎が燃え盛っていた。しかめっ面で炎を見ているが、可愛い属性ってなんだ。苛烈な気質でもないし、性格は関係ないのか。

 そして小町。

 

「何か出てるの? 見えないけど」

「分かりづらいですけど、ピリピリしてます。マッサージにはちょうどいいかも」

「電気属性?」

 

 雷属性だった。なんか小町のイメージかって聞かれるとどうともいえんな。何属性が合うのかと聞かれても答えられんが。

 隣の留美はすでに構えていた。

 

「水、だね」

「はい。ちょっと試してみたんですけど、冷たくしても氷にはならないですね。雪乃さんのとは違うんでしょうか」

「蒸発はさせられるか?」

「ん……そこまではいけない、のかな。どうしても液体までみたい」

 

 水の定義とは何だろうか。とりあえず冷水から熱湯まで水属性でいける様子だ。しかし、属性まで雪ノ下に似通っているとは、将来が心配になるな。

 

「何かしら比企谷くん?」

「いや、別に」

 

 だから何で俺の考えてることがわかるんだよ。怖えよ。

 そして俺。

 

「……何、これ?」

「……多分、闇、とかか?」

 

 俺のかざした手の上に黒い丸が浮かんでいた。一応俺の考えている通りに動くので、魔力に間違いないのだろうが……やっぱ属性ってその人の性格が大いに関係しているに違いないな。

 

「さすがは比企谷くんね。陰湿な性格が属性にまで影響しているとは」

「うっせ。ってかこれ大丈夫なのか? 俺が魔物倒しても悪影響とかないよな」

 

 魔法少女によると闇属性と黒い力は別物であるとのこと。それが本当かわからんが、とりあえずこの世界の人は使えない希少な力であることは間違いないく、しかしながら印象良くないな。

 とりあえずはコツを掴めたので後で色々と試そうと思っていたところ、俺の横が光り輝いた。

 

「眩しっ!? 何ですかこれ」

「これは、光だ」

「光属性って、戸塚さんにはピッタリですけど、お兄ちゃん大丈夫? 浄化されない?」

「戸塚を直視できないかもしれん」

「ひ、光になーるぁー……」

「ご、ごめん! なんか調節が難しくて」

 

 うまく調整できないのか、ワタワタしている戸塚が可愛かったがさておき、これまた希少な力であるようだ。それに俺のと違って印象もいいだろうし、ちょっとうらやましく思っていたんだが、

 

「えへへ、八幡。おそろいだね」

「そ、そうだな戸塚!」

 

 はにかむ戸塚はさらに可愛かったのでよしとする。横から留美が抓ってきたので頭を撫でておく。

 そして、隅っこにいたせいか大トリになってしまった材木座はというと、視線が集まり目に見えて狼狽えていた。そして、

 

「……砂、かしら」

「しかもチョロチョロって感じですね」

「……なんか、戸塚先輩の後だと、地味」

「いろはちゃん、しーっ」

 

 サラサラと材木座の手から零れ落ちる砂は、ちょっと湿っている気がした。

 

「我の扱い、ひどくないか八幡よ?」

「いや、まあ。直前の戸塚が派手だったせいか、お前の地味さ加減が目立っちゃったな」

「ご、ごめんね材木座くん!」

 

 戸塚が悪いわけはなく、誰が悪いのかと言えば、巡りあわせだろうか。

 

 

 

 

 

 さて、本日の訓練(といっていいのかわからんが)の締めとして、お姫さんが何度か言っていた戦衣の説明になったのだが。

 

「神が御使いに贈られた装備であるので、私どもは詳細を存じません」

「そもそもその、いくさごろも、というのはどこにあるのかしら?」

「皆様の心の内に」

「……はあ、またそれなのね」

 

 心の内、ということから魔法の一種なのだろうか。名前のイメージからすると戦闘用の衣装でいいんだろうが、どうやって出したものか。うーむ、戦隊ヒーローのアレのような感じなのか。

 

「ただ、言い伝えとして過去の勇者様が戦衣を身に纏う際に、蒸〇、エマー〇ェンシー、メビ〇ス、テッ〇セッター、お色〇し、と呼称は様々あるようですが、このように唱えていたと。文献に」

「なんでそんなの文献に残してんですかねえ」

 

 アレのイメージでいいようである。っていうか先代勇者たち年齢層も趣味もバラけてるのかな。

 とはいえ、アレ系でいいのなら俺と材木座、そして戸塚はいける。

 

「あれヒッキー? 中二に彩ちゃんも、どしたの?」

 

 三人で顔を見合わせ距離を取ったのを見ていた由比ヶ浜に手を振り、そして、それぞれにポーズをとる。腰に手を、胸の前で交差し、入れ替えて、

 

「「「変身!!」」」

 

 ポーズに合わせたため掛け声も同一であった俺たちの叫びに合わせ、局所的な天変地異が起きていた。

 材木座が砂嵐に消え、戸塚は光り輝き(あ、いつものことか)、俺は闇に沈んだ。やはり厨二っぽいのが気になる。

 さて、異変が収まると俺たちの姿は戦衣であろうものに身を包み一変していた。

 

「ふむう。あまり重さは感じぬのだな。む、この武器ならばイーク〇ップの方がよかったかもしれん」

 

 材木座はフルプレートに身を包み、巨大な槌を軽々と振り回していた。非常に暑苦しい、典型的なヘビーアーマーの重戦士。戦衣は武器もセットなのだろう。

 

「そうだね。それになんでかな、なんとなく扱い方がわかるような」

 

 対して戸塚は胸当てと腰回り、手甲と脚甲。ライトアーマーというのだろうか、動きやすそうだ。どういうわけか制服を着ていた部位に肌が見える。手には戸塚の身長より長い槍。俊敏なランサーといった感じか。くるくると長柄を手慣れた感じに振り回す。

 

「武器も魔力性なのな」

 

 そして俺だが、見事に黒一色である。黒いシャツに黒いズボン、そしてフード付きのマントで、暗い時に見られたら通報されそうだ。暗殺者だこれ。そして右手に手甲と付属するボウガン。矢はどこだと探したら懐から勝手に出てくる。さらに蹴り用か、脚甲もある。

 

「まさに変身であるな。我、刀の方が好みであるが」

「えへへ、ちょっと恥ずかしかったけど、うまくいったね」

「感じからして、魔力を身にまとうって感じか?」

「うむ。そのためか先ほどよりもうまく魔法を使えそうな気がするぞ」

「うん。わかる気がするな」

 

 材木座が石突で地面を叩くと、土が盛り上がってきて槌を支える。戸塚は槍を天に掲げると、先端から光が立ち上る。そして俺は闇の球を浮かび上がらせ、形を短剣に変えて空に飛ばす。射程距離はどんなものか。

 

「ちょっと待ちなさい」

「ん、どうした雪ノ下」

 

 雪ノ下というか女性陣全員がぽかんとしていた。

 

「あなたたちが戦衣を着る前の掛け声? 辺りから展開についていけていないのよ。自分たちだけで分かっていないで説明してくれないかしら」

「それなら八幡。そちらは任せてよいかのう。我できるなら、魔法を少し撃っておきたいのだが。それに女子たちに説明とかできぬし」

「まあお前にそこらへん期待しちゃいないけどよ。それじゃ戸塚はどうする?」

「説明は僕もちょっと難しいかな。感覚的なものだし」

「よろしければわたくしが補助いたしますが」

「あ、じゃあお願いします」

 

 材木座と戸塚が魔法少女と連れ立って離れていく。若干押しつけられた感は否めないが、まあ仕方ない。

 

「で、何について聞きたい?」

「それ、いくさごろも? っていうやつ、着る前に三人して変身とか何とか言ってたじゃん。あれ何?」

「ただの掛け声だよ。昔の勇者が戦衣を着るときに言ってたの、特撮とかで変身するセリフのパターンだったからな。そのイメージがしやすい台詞を言っただけだ」

「ポーズは?」

「それは気にするな」

「文献にありましたが、女性より男性の方が戦衣を纏うのが早かったと」

「だから何でそんな文献残してるんですかねえ」

 

 昔の人の考えはよくわからん。

 

「私たちにも、それをやれと?」

「無言でもできればいいとは思うけどな」

 

 自分のキャラに合わないと思っているのか、雪ノ下が頬をひくつかせている。そこは恥を忍んでやるしかないだろう。

 

「お兄ちゃんは声に出した方がやりやすかったって言うけど、三人ともやってみたかっただけじゃないの?」

「それはなくもないけど、慣れれば無言でもできるみたいだしな」

 

 小町がジト目で絡んでくるので証拠をみせてやる。

 戦衣を出したり消したりと。うん、一回感覚を掴めば簡単だ。自転車の乗り方を忘れないようなものか。

 

「初回だけでもやりやすい方がいいんじゃないか」

「簡単に言うしやるよね、ヒッキー」

「戸塚さんまでやるのはちょっと予想外ですね。そんなイメージなかったし」

「いやいや、戸塚だって男の子だし、な」

「先輩。言ってる自分が自信無くすようなこと言わないで下さいよ」

 

 戸塚は男の子なんだよなあ。ソースの味だろうし核ミサイルを受け止めたりするだろう。

 

「それじゃさ。昔やってたプリキュアみたいな感じでやればいいの?」

「今でもやってるぞ」

「私は特にアニメとか見ていた記憶ないのだけど」

「私は最近まで見てたから、何となくわかります」

 

 こいつらプリン〇スエンゲージとか、レッツ〇まぜまぜとか言ってそうなのに、案外言ってないんだよな。フェリーチェは雪ノ下に声が似ていたかもしれんけど。

 

「八幡。イメージはどんな感じ?」

「あー、そうだな。さっき変身した時、土やら光やら闇やらが出てきてただろ? 体から属性が吹き出して、それが体にまとわりつく感じでいいんじゃないか?」

「それでいいのかな」

「感覚的なもんだって言ったろ。俺はできたがお前らができるかわからんし」

 

 ひょっとしたら変身じゃなくて装着の方がわかりやすいのかもしれんし、何とも言えん。

 

「それじゃ、なんて掛け声がいいの?」

「イメージしやすいのでいいだろ。開眼でもペルソナでもキュアップラパパでも」

「……最後のはなぜか耳に馴染む言葉ね。ともあれ、一番イメージのしやすい言葉でいいのではないかしら」

「雪乃さん、思いついてないんじゃないですか?」

「まあ、そうだけれど」

「それじゃ、みんなまとめて変身、でいいんじゃないかな」

「そうですね。みんなで一斉にやるのもいいかもしれませんし」

 

 女性陣は適当に距離を開け、等間隔に並ぶ。いや、別に俺に見せる様にしなくてもいいんじゃないかと思うんだが、空気を読んで黙って見ていることにする。

 ひとり雪ノ下がちょっとぐずったが全員一斉にやることに異論はない様子。

 目を瞑り、精神を集中させ、そして

 

「「「「「変身!」」」」」

 

 一斉の掛け声を上げ、それぞれの属性が吹き上がり、そして収まったそこには戦衣に身を包んだ少女たちがそこにいた。

 

「うまくいったわね」

「おー、できたできた!」

「やった、魔法と違ってわたしの鎧お洒落だ」

「これはどういう基準なんですかねえ」

「確かに魔法使いやすそうな感じがしますね」

 

 ブレストプレートにレイピアを装備した雪ノ下。スカートアーマーも相まって姫騎士といった雰囲気だ。言っちゃなんだが、くっ殺が似合いそう。

 どことなく巫女風の衣装に身を包み、弓を持った由比ヶ浜。マントもあるが、どことなく露出が多いのは気のせいか。和風のアーチャーだな。

 白いドレスアーマーにサークレットと、どこか姫を思わせる一色。持っているのは剣だが、刀身に線が見えるので蛇腹剣かもしれない。

 さらに小町。身軽そうな衣装に胸当て、手甲に脚甲だけ。武器はないところを見ると、格闘家だろうか。確かにどういう基準なんだか気になるな。

 最後の留美はどことなく雪ノ下の装備に似ている。違いはレイピアではなく双剣であるところか。雪ノ下と並ぶとまんま姉妹だ。

 と、一通りみたが、俺は今それを見てはいなかった。これは、悪くなくても悪くされるパターンな気がしてきた。

 

「ん、お兄ちゃんどこ見てんの?」

「どしたの、ヒッキー?」

「そっぽ向いて、何してるんです?」

「……私、前に八幡にバク転見せた時にこの対応されたことあります」

「留美さんがバク転をして、へえ……ねえ比企谷くん?」

 

 背筋に氷を突きつけられたかのような雪ノ下の冷たい声に身がすくむ。というか、いつの間にか雪ノ下はレイピアを俺に突きつけ、さらに氷の刃を複数向けていた。悪戦苦闘していたの時とは大違いで、一気に慣れてんじゃねえか。

 

「あなたは、なにを、見たのかしら」

「怖えよ。怖えから」

 

 両手を挙げて降参の意思を示す。俺に何ができるわけもない。

 

「これ、俺が悪いのかな」

「不可抗力であったかと思いますけれど」

 

 姫さんは味方してくれるが、今一番信用できない相手なのもどうなのか。

 

「答えなさい」

「……あー、そのだな」

「あの、もしよろしければ私がお答えしますが」

「いえ、結構。比企谷くん? さあ」

「……わかったよ。お前らが氷やら風やらに包まれた後、服が弾けた」

「服が?」

「弾けた?」

「ああ。こう、パンと制服が光って弾けて、そんで何つーか、光るレオタードみたいな感じになって、すぐに今の格好になった」

 

 簡単に言えば、超早回しの魔法少女の変身バンクを見ているかのようだった。デザインしたのが神だか何だか知らんが、いい趣味してやがる、全く。

 装備に共通するのは、みんな非常に可愛らしい格好であるというところか。デザイナーがいるのであればSNSでグッジョブと祭りになっていることだろう。

 自分で体を抱きしめて俺の視線から体を隠そうとしている由比ヶ浜が、ちょっと泣きそうな顔をして俺を見る。

 

「ヒ、ヒッキー、見たの?」

「いや、ひとつ言い訳させてもらうが、服が弾けたあたりで即座に目を逸らした。だからまあ、見てない」

「せんぱーい、正直に言いましょうね」

「小町は別にいいんだけどさ、いつも見られてるし」

「八幡。この服、可愛い?」

「いや、留美。お前だけなんかおかしくねえ? 可愛いけどよ」

 

 そして責め立てられる俺。小学校の帰りの会を思い出すな、ちくしょう。

 

「……その、若干体の線と肌色部分は見えた。けど、際どいところは見えてない。とはいえ、すまん」

「……まあ、いいでしょう。正直に言ったことだし故意ではないのだから」

 

 はあとため息をついた雪ノ下がレイピアを納めると、氷の刃も一斉に消えた。マジですげえな。もうほぼ使いこなしてるじゃねえか。

 

「いいのか?」

「ええ。水着のようなものと考えれば、すでにあなたには見られているわけだし。少なくとも私はね」

「不穏なこと言いやがって。由比ヶ浜。そういうわけだ、悪かった」

「ふえ、あ、いや、わざとじゃないんだし、いい、けど。っていうか、ただあたしが恥ずかしかっただけだし」

「一色も、すまん」

「まあ、いいですけど。今度プール行きますよ。ちゃんと水着見てもらいますから」

「何でだよ。それと、留美も」

「私はいいよ。レオタードより先になっちゃったけど、ちゃんと見せてあげるからね」

「いや、まあ、うん」

「……」

「はあ……ん、どした小町」

「お兄ちゃん、小町には?」

「いや、小町のはもう見慣れてるし、別によくね?」

「乙女の柔肌見ておいて何て言い草!」

 

 んなこと言っても本当に見慣れてるしな。お前、うちでいつもどんな格好してるか忘れたとは言わせねえぞ。

 

 

「それにしても、わたしたちの戦衣って露出多くありません?」

「ああ、俺たち男に比べると多めだな」

「お兄ちゃん。戸塚さんのも結構多めだよ?」

「まあ、戸塚だし、似合ってるからいいんじゃねえの?」

 

 

 

 

 

 そして、魔法と戦衣の確認が終わり、日が陰ってきたので今日のところはこれで終わりとなった。っていうか詰め込みすぎである。受験生だって一日でこんなに新しい知識を得るなんてことはないんじゃないだろうか。

 晩飯はかなり豪勢で、ディナーと呼ぶのが正しいだろう。雪ノ下くらいしか正式なテーブルマナーを知らなかったが、身内しかいないので簡単に教わりながら食べた。いずれは王族や貴族と食事する機会があるらしいが、雪ノ下に丸投げしよう。

 と思っていたら、ちょうどいい機会だから勉強しなさい、と俺に向けて言ってきた。読心術こわい。

 その後、大浴場に連れていかれたのだが、お世話係を付けられそうになったのには参った。正直なところ興味がないわけではないが、女性陣からの冷たい視線に断念したのだった。でも、戸塚と一緒にお風呂に入れたので全く問題ない。

 そしてそして、俺たちに与えられた部屋は個室である。これまでの歓迎っぷりから高級ホテルのスイート並みの部屋かと思ったが、八畳程度の広さでベッドと窓際にテーブルと椅子があるくらいの簡易な部屋だった。これは勇者がもっと少数なのを想定していたためだそうだが、むしろ助かるというもの。小市民にはこれくらいがちょうどいい。っていうか、俺や小町の部屋よりもでかい。落ち着かない寝室は簡便だが、これくらいなら許容範囲だ。

 安全性を考えれば大部屋でみんな一緒にいるのがいいのだが、さすがに八人の男女が一緒に寝泊まりできる部屋はないだろうし、それにこの方が色々と都合がいい。何せ、これからスニークミッションを開始するのだ。

 一日過ごして、まだこの世界の連中を信用するに値する情報が出揃わない。顔で笑っていても心で何を考えているかわからない、なんてのはどちらの世界でも一緒ではある。だが、下手に信用して裏切られたらを考えると、まさに命がけである。よって、足りない情報を補うためのお散歩だ。

 極端な話、今いるところが島なのか大陸なのか、はたまたここ以外に人間がいるのかどうかすらわかっていない。俺たちはまだ今いる建物から出てすらいないのだ。

 ディナーの際の会話では、お姫さんや魔法少女は近くに屋敷がありそちらに帰っており、ここには夜警の兵士しかいないらしい。それすらも本当かわからないが、とりあえずは信じて建物内を探索しようと思う。俺の属性は闇で戦衣は黒いので、闇夜にこそこそするのに適した隠密特化だろう。魔法を感じ取られることがあればバレるかもしれないが、それならそれで判断材料が増えるというもの。いきなり殺されるようなことはないだろうと思うのは楽観的過ぎるかもしれないかな。

 ふっと息をつき、戦衣を身にまとう。瞬時に現れる衣装は、三年くらい前の俺が着たらにやける顔を誤魔化そうとして誤魔化しきれず、気持ち悪い顔で決めポーズをとっていただろう。しかし、今の俺でもちょっと燻っていた中二心に火をつけてしまいそうなかっこよさがある。……ちょっとバサッとなびかせてみたりなんかして、

 

「……何をしているのかしら?」

「っと、ビックリしたー。雪ノ下? なんでお前ここに、ってかその格好」

 

 後ろから掛けられた冷たい声に、戦衣を消して振り向くと雪ノ下がいた。なぜか寝間着で。

 

「独りファッションショーを邪魔してしまって御免なさいね」

「いや、別にファッションショーじゃねえけど。っていうか、お前いつもノックしろって平塚先生に言ってるじゃねえか」

「それは、その……あなたに用事があったのだけれど、ノックしようとしたときに人の気配がしたので、つい入ってしまったのよ」

「なんだそりゃ? 別にやましいことしようとしてるわけじゃなし、堂々としてりゃいいだろ」

「や、やましいことなんて、あなたとするわけないでしょう」

 

 俺の部屋に入るのを誰かに見られたくなくて、慌てすぎて俺の部屋に勝手に入ってきたというわけか。これはまれによく見るテンパリ雪ノ下だな。

 どうしたものかと思っていると、部屋のドアが開いた。またもやノックはなし。勝手に俺の部屋に入ってくる奴多過ぎぃ!

 

「あ、いたいた! やっぱゆきのんだった」

「あれー、先輩の部屋で何してるんですか?」

「しかも雪乃さん、可愛いパジャマでお兄ちゃんの寝室に!」

「こんばんは八幡」

 

 ぞろぞろと入ってきたのは、女性陣全員だった。え、どゆこと?

 

「眠れなかったからゆきのんとお話ししようと思って、部屋出たら雪乃っぽい人影がヒッキーの部屋の前にいたから、来ちゃった」

「わたしは先輩とお話ししようと思ってたんですけど、雪ノ下先輩に先越されちゃいました」

「小町はお兄ちゃんにお休みのあいさつしに来たんだけど、修羅場っぽくてわくわくしてるよ!」

「私は八幡と一緒に寝ようと思って」

「ちょっと待て、いきなりすぎてわけわからん。それと留美、それはさすがにダメだ」

 

 女性陣を部屋に招き入れる。実家の部屋よりも大きいとはいえ、六人はさすがに多すぎる。しかも、こいつら風呂あがりな上寝間着なものだから、いい匂いがするし普段と違う服装だしで居心地が悪い。

 

「ゆきのんはヒッキーと何しようとしてたの?」

「今日のこととこれからのことを相談しようと思ってきたのだけれど」

「雪乃さん。パジャマでですか?」

「もう着替えてしまっていたからよ。別に他意はないわ。それより、比企谷くん。あなた、私が部屋に入った時、戦衣を着ていたわね。何をする気だったの?」

 

 さっきまではテンパリ雪ノ下だったが、時間経過で通常モードに戻った様子。そこは適当に流してほしかったんだが。

 

「いや、まあ……かっこよかったから、着てみたかったんだよ」

「嘘ね。あなた、この建物を探ろうとしていたのではないかしら」

「……わかってんなら聞くなよ」

 

 そして始まる女性陣五名からのお説教。いわく無茶するなだの、何かあったらどうするのだの、自分の価値を低く見積もるのをやめろだの、そういった内容を五人分受けた。部屋の中心で、正座で。

 

「あなたの言う通り、情報が足りないのはわかるわ」

「だったら必要なことをしているだけなのもわかってくれ」

「元の世界と同じやり方が通じるとは思っていないでしょう?」

「そりゃ、まあな」

「だったら、自分に悪意を集めるやり方はやめなさい。自分一人で何とかしようとせず、私たちを頼りなさい。それくらいには、私たちを信用してくれているのでしょう?」

 

 雪ノ下の言った言葉が、俺とは違う意味で一人でやってきた雪ノ下が言うからこそ説得力のある言葉が身に染みる。そうか、俺はまた間違えるところだったか。

 

「あー……すまん。確かにうかつだったかもしれん」

「ヒッキー、わかってくれたんだ」

「まったく、先輩こそ状況判断が甘いんじゃないですか?」

「そだよ、お兄ちゃん。無理してもし捕まっちゃったら、小町たちが大変な時に助けにこれなくなっちゃうよ」

「八幡が無茶しないように、私が一緒に寝て監視しましょうか」

「悪かったよ。そして留美、それは……いい考えかも」

 

 留美の際どい発言は最近よく聞くのだが、いいことを思いついた。いや、いいことかわからんな、まだ。

 

「比企谷くん? あなた今、何を言ったのかしら」

「いや、待て待て。変な意味じゃない」

「どう聞いても変な意味だよ!?」

「先輩がとうとう年下好きからロリコンに」

「うーむ、お兄ちゃん。これはフォローできない」

「いろはさん。私、ロリじゃないです」

 

 言い方を間違えたな。さっきのじゃ確かにただの変態だ。

 

「いや、つまりだな。探索してるのがばれたらまずいわけだろ。誰かが俺と一緒にいたと証言してくれればごまかせないかなと」

「……その誤魔化すのが、比企谷くんなら私の横で寝ているわよ、と彼らに伝えること?」

「……いや、いい考えかと思ったが、色んな意味でダメだな。すまん、バカ言った」

「え、えーっと、ヒッキー? どうしても、っていうなら、その、あたしは、いいよ?」

「あ、ずるい結衣先輩。わたしもいいですよ!」

「いやいや、皆さん。ここは妹の小町が」

「言い出しっぺは私なので、責任は取ります」

 

 結局、この後はドタバタごちゃごちゃして探索に出ることはできなかった。というか、うるさ過ぎて戸塚や材木座まで様子見に来てしまい、しばらく全員が俺の部屋にいることになった。

 まさかの、異世界にて生まれて初めてのお泊り会開催である。

 

 

 

 

 

 それからのことをダイジェストで語ろう。

 翌朝から戦闘訓練が開始したのだが、その担当として現れたのが、

 

「私があなたがたの戦闘訓練を担当する。これからよろしく頼む」

 

 雪ノ下とはまた別の、凛々しい女騎士だった。金髪碧眼での美女で、年のころは平塚先生くらいだろうか。材木座が喜ぶほどにファンタジーの典型的なヒロインタイプだった。

 並べられた的に向けて武器を振って、適当に武器に慣れた後女騎士との稽古になったのだが、まあこれが相手になるわけがなかった。なにせ俺たちは生き物に向けて武器を振ったことがないし、向けられたこともない。その躊躇を無くすための訓練とはいえ、初めてでうまくいくはずもない。

 しかしながら、雪ノ下は格が違った。雪ノ下の武器は女騎士と同じレイピアで、最初は錬度の違いから翻弄された雪ノ下だが、基本スペックが高く大抵のことはすぐに覚えると豪語した女である。しばらくすると慣れてきたのかだんだんと優勢になっていき、もう一息といったところでスタミナ切れで負けてしまった。それで女騎士にライバル認定されたようで、なんか妙に仲良くなっていた。

 俺はと言えば、真正面からやっても勝てないのはわかっていたから、真正面から堂々と不意打ちをし、攻め気を無くすよう動いていたらめっちゃ怒られた。雪ノ下との正々堂々とした気持ちのいい試合の後だったから、より一層俺のこすっからいところが目についたのだろう。根性を叩きなおしてやるとまで言われてしまった。平塚先生と似たタイプのようだ。

 これから訓練のたびに絡まれそうで、非常に憂鬱である。

 

 

 

 

 

 そして、戦場に出た俺たちはついに魔物との戦闘を経験する。

 魔物は死ぬと光になって消えてしまうのでグロい感じはしないのだが、それはそれとしていい気分はしない。初めて自分の意志で命を奪った日、眠れずにいると、またもや女性陣が俺の部屋に集合してきた。タイミングはずれたが戸塚や材木座も来た。俺と同じことを考えていたようで眠れなかったようだ。別に俺の部屋じゃなくても、とは思ったが野暮なことは言うまい。その日は、遅くまでいろんなことを話し合った。

 命を奪うことに慣れたくはないのだが、それでも続ければ慣れはする。基本的に俺たち勇者はチームで行動するが、戦場で初めて屋敷にいる者以外の人間と出会った。戦う兵士たちだ。

 いまだ信用ならない連中であるが、同じ姿で意思疎通が可能ならば魔物よりは親近感もわく。そんな兵士たちが命の危険にあるとならば助けないわけにもいかなかった。

 そんなことを続けていくと、勇者と呼ばれる俺たちは有名になっていく。

 氷雪の姫騎士。風舞の弓姫。紅炎の美姫。雷霆の神姫。流水の姫騎士。不動の重戦士。光の聖女。そして、影の暗殺者。

 突っ込みたいところは多々あるがさておき、綺麗で可愛い女性たちが戦場を駆け、兵士たちの命を救っていけばそれは話題にもなるというもの。いつの間にやら俺たちに二つ名的なものが付けられていた。

 戸塚は、僕男の子なのに、とむくれていた顔もかわいい。材木座はフルフェイスの兜で顔が見えないものだから、その素顔は美形に違いないだとか、武骨な男臭い顔だとか、色々と噂になっているようで、ハードルが偉い勢いで上がって我どうすればいいのか、などと悩んでいたりもした。

 そして俺だが、戦闘スタイルが影からチクチク、なものだから存在は知られていても顔は知られていない。本当に存在するのかもわからないと思われており、影の薄さはこちらでも健在だった。

 さて、美しさで有名になればお偉いさんに目を付けられるのもある種テンプレというか。召喚された日、姫様が言っていた魔物の討伐に出ていた王子やら将軍の息子やらにうちの女性陣が目をつけられたのだった。

 

「おお雪乃よ。麗しの姫騎士よ。我が愛を受け入れてはくれぬか」

「結衣殿。遠駆けに出かけませぬか。美しい日の出をぜひあなたと共に」

「いろはよぉ。いい加減俺のところに来るつもりはねえのか」

「小町ちゃん。わしの息子の嫁に来てはもらえんかのう。何ならわしのところでもいいぞ」

「る、留美! 今日もいい天気だな。僕と一緒に三時のおやつはどうだ?」

 

 とまあ見事に、雪ノ下に第一王子、由比ヶ浜に第二王子、一色に将軍の息子、小町に将軍の息子というか将軍自身というか、留美に第三皇子と。様々な高貴な方々が口説きにかかってきていた。っていうか将軍、コラ。あんたいい年こいて何言ってやがんだ。小町に手を出したらぶっ殺すぞ。

 俺はそれを大変だなあと遠巻きに見ていたのだ。あまり手荒な真似でもしてきたら助けには入るつもりではあったんだ。あまり波風立てない方がいいかと、そう思って。

 だが、俺がステルス全開で見守っていたのを、なぜか全員見つけやがった。結構魔法に慣れて、本気で王城に忍び込んだとしても誰にも気づかれないくらいには熟達していたはずなのだが。すぐにばれてしまった。

 そうしたら、全員がむくれた顔をした後俺をだしにしやがった。

 

「申し訳ありませんが殿下。私の、あ、愛は彼に捧げておりますので。行くわよ、比企谷くん」

「あ、すいません。今日用があるんです。おーい、ヒッキー!」

「殿下のところに行って、何かいいことあるんですかぁ? あ、ちょっとせんぱーい! お昼にパフェ食べに行く約束忘れてませんよね!」

「やだなあおじいちゃん、それはもう断ったでしょ。小町はお兄ちゃんとずっと一緒にいるのでダメです。お兄ちゃん、帰ろ!」

「こんにちはいい天気ですね。おやつはもう一緒に食べる約束しているので失礼します。行こ、八幡」

 

 おかげでヘイトが溜まる溜まる。誰だよ、悪意を集める方法はやめなさいだの頼りなさいだの言ったのは。

 しかも、俺の戦い方はフォローを重視しているものだから、あまり目立つ戦果を挙げているようには見えない。だもんで、なんであんな役立たずが、的な悪意を向けられている。

 なんだかなあ。俺なりに頑張ってんだけどな。

 

 

 

 

さらに、こちらで出会った姫さんや魔法少女や女騎士だが、そいつらと言えば、

 

「八幡さま。午後のお茶会にご招待したいのですが」

「あ、あのお兄さん。もしよかったら、闇魔法の性質についてお話を聞かせてください」

「うむ。八幡の魔法の使い方は独特だからな。なかなか参考になるのだ」

「八幡殿! 組手をするぞ」

 

 なんと言うか、なつかれたというかなんというか。

 姫さんに関しちゃ、俺が警戒心バリバリだったのが逆に刺激を受けたらしく、勇者との親睦を深めるとかなんとかでやたらとお茶会に誘ってくる。その際に判明したのが、姫さんは世間知らずの天然で、裏表のないいい子だった。つまり、当初俺が感じていたのは全て勘違いだったのだ。恥ずかしい限り。まあ、全く無意味だったわけでもないのでよしとしよう。そうと気づいてから指摘していたら、今まで誰も注意してくれなかったとかでやたら絡んでくるようになった。

 魔法少女は、ちっちゃい身体で頑張っているのを見たら小町や留美のように思えて、解除できないお兄ちゃんスキルが発動し世話を焼いてしまった。俺になついたらしくお兄さんと呼んでくる。小町や留美の冷たい視線が心に染みる。悪いことしてないはずなんだが。

 ロリBBAは、まあ色々とあったんだが、年甲斐もなくキャピキャピしていて、BBA無理すんなと言ってやりたいところだが、見た目が魔法少女なので似合わないこともないというか。つまるところ、扱いかねているといった感じだ。

 女騎士は、当初は俺を更正させるなんて劣化平塚先生みたいなこといっていたのだが、魔物との戦闘で俺の戦い方を認めてくれた。かなり脳筋である。危ないところを助けることができたのも少しは関係しているかもしれない。さらに、組手で翻弄されるのが気にくわないらしく、事あるごとに誘ってくる。

 

 

 

 

 と、色々と悩ましいことはあるが、何やかんやあって、最終決戦である。

 思い返せば様々なことがあった。世界の真実を知り、勇者召喚の本当の目的に衝撃を受け、姫様による王位簒奪やら、魔法少女の精神を乗っ取って復活しようとしたロリBBAを改心させ、女騎士の見合い話を妨害し……これ葉山みたいなキャラがやることであって、俺みたいな陰キャが出張ることじゃないよなぁ。

 

「何を呆けているの比企谷くん。非常に不本意だけれど、私たちの中心はもはやあなたなのだから、いつまでも目を腐らせてないでしっかりしてもらいたいものね」

「うっせ。どうしてこうなったのか考えてたんだよ」

「ヒッキーが頑張ったからじゃない? あたしたちとこの世界の人たちを守るためにさ」

「そんなことした覚えはないんだが」

「意識しないでやってたってことですか? 先輩あざといです」

「なんでだよ。俺は自分勝手にやってただけだろ」

「それが結果的にひねくれ勇者になったんだから、やっぱお兄ちゃんのねっこは働き者なんだろうね」

「……いやだ、働きたくない。社畜は嫌だ」

「これが終わったら私が八幡を養ってあげる」

「いやいや、さすがに留美に頼るのはダメだろ」

「じゃあ僕が養ってあげるよ」

「と、戸塚ぁ。幸せな家庭を築こうな!」

「むう。八幡よ。女性陣が恐ろしい目で見ておるぞ」

 

 おっと。ラスボス前に味方にやられては目も当てられん。さて、気を取り直して。

 

「あー、じゃ世界を救いに行くとするか」

「「「「「「「おー!」」」」」」」

 

 仲間たちのそれぞれの雄叫びとともに、最後の戦いに向かう。

 俺たちの戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 




 ご愛読ありがとうございました。
 カシム先生の次回作にご期待ください。
 ってなわけで、打ち切りです。

ネタ紹介
属性
八幡:一番合いそうだったから。
雪ノ下:一番合いそうだったから。
由比ヶ浜:空気を読んでどうのこうので風属性。
一色:三浦と雪乃で炎と氷の姫騎士、とかやってみたかったんですけど、断念したので代理で。情熱的なので合わないことはないかなって。
小町:シンフォギア。最速で最短でまっすぐに一直線に。雷を握りつぶすように。
留美:雪ノ下の妹的に。
材木座:ぶっちゃけあまりの属性を当てはめた的な。でも似合いますわな。
戸塚:闇属性の八幡のみならず小町さえも浄化しそうなほどの輝き。

戦衣
八幡:イメージはFGOのロビンフッド(黒)。裏でこそこそといったらこれでしょう。
雪ノ下:典型的な姫騎士のイメージ。重い武器使えそうにないのでレイピア。
由比ヶ浜:はたらく魔王さまの千穂ちゃん。弓道部なので。FGOの鈴鹿御前もいいかとは思ったんですけどもね。
一色:FGOのメイブ。アーマーはライダーで武器はセイバーの方にしました。武蔵ちゃんと悩みましたが、和風のイメージがなかったので。
小町:シンフォギアの響。アルティメットまどかで弓もいいかとは思ったんですけど、魔法と合ってるからこっちでいいやと。
留美:雪ノ下の妹的立ち位置ということで似たやつ。さすがに当初考えていた踊り子は合わないかなと。
材木座:ガオ〇イガー! ゴルディオ〇ハンマー!
戸塚:FGOのカイニス。まだ実装されてもいませんが。最初は法衣とメイスで聖女っぽさをマシマシでいってたんですけど、魔法使い系を無くそうと思ってからこちらに。あとはまあ、性転換したとかいう逸話があったなーって。

賛否あるかもですがこんな感じで。

あ、そうそう。活動報告のネタ募集もよろしくお願いします。
しておきながら、採用できるかわかりませんけれども。
じゃあまた。


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In異世界転生

新年(春)おめでとうございます。
今年初の投稿です。
さて、今回は書き方がいつもと違いますが、狙いあってのものです。
題名と内容が合っていないかもしれませんが、細けえこたあいいんだよ、ということで。
じゃあどうぞ。


 

 

まずは『シンデレラ』をお送りします。

 

 

 

 

 

「それじゃユキデレラ。お留守番しっかりね」

「じゃーね。部屋をきれいにしておきなさいよ。オーホホホ!」

「お城の舞踏会、楽しみねお姉さま!」

「いってらっしゃい」

 

 とある国のとある家庭。ユキデレラは義母と義姉たちを城の舞踏会へと送り出していた。

 扉を閉めると、疲れた様子でため息を一つ。テーブルへ向かうユキデレラの後方からノック音が響く。

 首を傾げ扉へと戻ると、扉の向こうには目の腐ったフードの男が一人。

 

「どうも」

「……何かしら。うちにはあなたにあげられるようなものはないわ」

「いや、物乞いじゃねえから」

 

 パタパタと手を振る男。

 

「それならば目的は私かしら? もしそうなら命をかけることね」

 

 ユキデレラはぐっと腰を落とし構える。その様はまるで歴戦の戦士のごとく。

 

「……あれ、間違ったかな? ここってユキデレラのお宅で合ってるか?」

「なぜ私の名前を知っているの? あなたストーカー? 官憲に引き渡すわよ」

「いや、待て待て。俺は魔法使い協会から派遣されてきたものだ」

「魔法使い? 目と一緒に頭も腐っているのかしら? この先に病院があるのだけれど、自らの意志で行けないのならば昏倒させて連れて行ってあげなくもないわよ」

「怖えよ。いや、だからそういうんじゃねえから。ほれ」

 

 目の腐った男は杖を一振りすると、ポンと音を立て煙が立ち上る。そこにはぐでーっと寝転んでいる猫がいた。

 男が杖を振ると猫が何かに支えられているかのようにふわりと浮かび上がる。

 

「……奇術師はお呼びではないのだけれど」

「いや、魔法だっつの。上司からここのユキデレラが報われない生活をしているから助けて来いって言われてきたんだよ。まさか武闘派とは思わなかったが」

「にゃー」

「失礼ね……誰が……武闘派、なの……かしら」

 

 杖の動きに合わせて右に左に宙を舞う猫。ユキデレラの視線は、杖と連動する猫から離れることはなかった。最も、魔法に驚いたというよりは猫から目が離せなくなっているようだが。

 

「えー、話し進めていいか?」

「え、ええ。そうね。百歩譲ってあなたが魔法使いというのは信じてもいいけれど、報われない生活というのは何かしら? それと、その猫抱いていいかしら」

「いいぞ。それで、魔法使いってのは言葉通りだな。うちの調査員が頑張っているのに報われない生活をしている奴を見つけて、下っ端の俺みたいな魔法使いを派遣して改善させるっていう、まあ奉仕活動みたいなもんだ」

「奉仕というのは恵まれた者が恵まれていない者に施すもの、と解釈していたのだけれど。お世辞にもあなたが恵まれているようには見えないわね」

「大きなお世話だ。魔法を人助けに使うっていうのが目的の組織なんだよ」

「それで、私がその組織とやらの対象になったということ?」

「そうだ。えーと、義母や義姉は遊び惚けているのに家で家事をしているとか、みすぼらしい服を着ているとか」

「訂正する箇所はないわね」

「んで、上から貰ってきたプランだと、白馬の馬車に豪華なドレスを着せて城の舞踏会に参加させてあげるって感じだな」

 

 男が杖を振ると、ほわんほわんほわんとどこからか音が聞こえ、イメージ映像が空間に浮かんだ。

 

「……ネズミを馬に、カボチャを馬車に、ね。魔法というのは荒唐無稽なものなのね。あと今の音は何?」

「時間制限があるが、大抵のことはできるな。歌は、違った音は気にするな」

「私を舞踏会に行かせることがあなたたち魔法使いのいう奉仕なのかしら?」

「舞踏会に行って王子様に見初められれば成功らしい」

「あなたの上司とやらの頭はお花畑なのかしら?」

「そだな。年頃の女の子は王子様とダンスをするのに憧れているっつー、自分の考えを疑っていない面倒な奴だ」

「そんな人が考えた内容に、私が賛同するとでも思う? 興味ないわ。舞踏会にも王子様にも」

「だろうな。お前そんな感じだわ」

 

 肩をすくめる男にユキデレラは眉をひそめた。

 

「どういうことかしら?」

「世間一般の年頃の女の子が憧れそうなシチュエーションとか、興味ないだろお前」

「……それは確かだけれど、私が普通じゃないと言われているようで癪だわ」

「自覚ないのか?」

「可愛いとか優秀である自覚はあるつもりよ」

「自信満々すぎんだろ」

「それはそうよ。本来は私が奉仕する立場の人間だもの」

「なるほどな」

「何か、私のことを理解しているような反応が気になるわね」

「短時間ではあるがお前の性格とか信条とかは、何となくだが」

 

 ユキデレラは椅子に腰を下ろし、足を組んで男をじっと見る。鋭い視線に男の背筋に冷たいものが走った。

 

「なら、聞いて見ましょうか? あなたが私をどう思ったのか」

「予想にすぎないし、さっき会ったばっかの男に勝手なこと言われたら気分悪いだろ?」

「あなたと顔を合わせている現段階で気分悪いのだから、誤差よ」

「さよか」

 

 男はユキデレラの正面に座る。服装はボロの私服だが美しさは損なわれていない。すらりと長い脚から目線を逸らし、ふうとため息を一つ。

 

「そうだな。頭がいいから義理の家族に冷遇されている原因をちゃんと理解している。気が強いから家を出るのは逃げるようで気にくわないから別の解決法を探している。自立心や向上心も持っているので誰かに助けられるよりも自分で何とかしたい。こんな感じか」

「……本当に気に入らないわね」

「それは合ってるという意味でいいのか?」

「否定はしないわ。一つ訂正すると、別の解決法はすでに見つけてあるの」

「ほう。優秀だと宣言するだけはある。ちなみに内容を聞いてもいいか?」

 

 ユキデレラは男を睨み、一息ついて胸を張り口を開いた。

 

「簡単よ。私が父の会社の後継者になるの」

「簡単かなぁ」

「簡単よ。もうすぐ開かれる会社の会議で会社の幹部たちに後継者として認めさせるわ。仕事はこなしてきたし、取引先との関係も良好。ふさわしいのが誰かは明らかでしょう?」

「義母たちはそれを妨害しようとしてるのか。別に逃げたきゃ逃げてもいいとは思うが」

「逃げても何も変わらないわ。前に進むためには変わらなくてはならない。ただ親の死を嘆いているだけではいけないのだから」

 

 ユキデレラは現実への適応のため変わろうとしているとも、逃げようとする心を抑えるために踏ん張っているとも見た。それが正答なのかどうかは結局のところ結果を迎えなければわかるまい。

 

「だから変えるのよ。私を取り巻く世界を彼女らごとね。彼女らの下劣な嫌がらせにへこたれている暇なんてないわ」

「なるほどな。ま、お前の選択を尊重するよ」

 

 男は立ち上がり扉に向かう。ユキデレラは他者による救いを求めていない。ならば、これ以上この場にいる意味もない。

 

「さて、俺は帰るが、このまま帰ったんじゃ子供の使いだな」

「親切心の押し売りは結構よ」

「わかってるよ。だから、これはただの保険だ」

 

 男が杖を振るとユキデレラの髪にリボンが巻き付く。艶やかな髪を持ちしげしげとリボンを見る。

 

「何かしら? あなたにしてはいいセンスのリボンだけど」

「罵らんと会話できんのかお前は。そいつは魔法のリボンだ。普段使う分には何も特殊な力はないが、どうにもならなくなった時、俺を呼びながら解け。可能な限り早く助けに向かう」

「私がそんな助けを求めるとでも思っているの?」

 

 胸を張って言うユキデレラは非常に凛々しく、助けを求めているようには見えないだろう。

 

「あいにくと、俺は人の善性ってやつをそれほど信じていなくてな。お前が会社の正当な後継者であり、引き継ぐのに相応しい才覚見せているのだとしても、それを認めない連中がいてもおかしくはない。物理的な排除に来た場合なんかは、いくらお前が優秀でもきついだろ。それでもなんとかしちまいそうではあるが」

「……あなたは先ほど私を観察して、性格や心情を言い当てたわね」

「ん、まあな」

「私もそうするわ」

「ん?」

「あなたは捻くれていて卑屈で目が腐っているわ」

「目が腐ってるのと性格は関係ないんだよなぁ」

「そして、根は真面目で働き者なのかしらね。ぶつくさいいながらも結局は働く。それに頑張っている人が報われないのは許せないと考えている。そうね、あなたロマンチストなのかもしれないわ」

「……はっ、俺が働き者でロマンチスト? お前の見る目も大したことないな」

「ユキデレラ」

「は?」

 

 肩をすくめやれやれとジェスチャーをする男は、ユキデレラの言葉に振り向き、思いの外近くに来ていた美少女に驚く。

 

「私の名前よ。さっきからあなた、私のことをお前としか呼んでいないじゃない」

「いや、知ってるから。初対面の女子を名前で呼ぶとか、恥ずかしいし」

「あなたの存在そのものが恥ずかしいのだから、今更でしょう。俺を呼べ、というのならあなたも名を名乗りなさい」

「……ハチマンだ」

「そう、ハチマンくん」

 

 ハチマンが固まっている隙にさらに距離を詰めたユキデレラは、抱いていた猫をハチマンに渡し、にこりと笑う。

 

「おそらくあなたにもう会うことはないと思うのだけれど」

「その方がいいだろうな。もしまた会ったらそんときは友達にでもなるか」

「それは嫌」

「即答かよ」

「あなたと友達なんてお断りよ。でも、そうね。もしまた、会うことがあったら……」

 

 ユキデレラははにかむ様に言いよどみ、そして

 

「私を、助けてね」

「お、おう。まあ自分で言ったことだからな」

 

 にこりと笑うユキデレラの笑顔は、自ら言うだけあって美しく可愛らしくハチマンを大層動揺させたのだった。

 

 

 

 

 

 それから。

 ユキデレラのリボンが解かれたのか定かではない。だが、名家の令嬢がある日姿を消し、所有の会社が別人の手に渡り、後に倒産したと言われている。さらに、その名家は後妻や連れ子の散財により没落したとも。

 そして、目の腐った魔法使いの相棒に艶やかな髪の美しい女性がいたとの話については、知るもののいない事柄である。

 

 

 

 

「比企谷くん」

「なんだ?」

「シンデレラの名前の由来は知っているの?」

「灰被りだろ?」

「ええ。諸説あるけれど、灰、つまりcinderとシンデレラの本名のellaを合わせてcinderella」

「それに基づくとcinder+yukino、シンデリュキノ」

「……語呂悪いわね」

「そういうことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いての演目は、『眠れる森の美女』。

 

 

 

 

 

 昔々ある国に、王女が誕生しユイロラ姫と名づけられました。

 国中がお祝いし、ユイロラ姫には妖精三人から贈り物が与えられることになりました。

 一人目の妖精は誰からも好かれる美しさを、二人目の妖精は誰の心をも惹きつける歌の才を。

 ところが、その場に悪い魔法使いが現れてこう言ったのです。

 

「心無き者、悪意の棘が姫を闇に誘う」

 

 なんと、悪い魔法使いはユイロラ姫に呪いをかけていったのです。

 まだ贈り物を与えていなかった三人目の妖精は救いの魔法を使いました。

 

「闇が姫を襲いし時、運命の者現れ闇を祓う」

 

 さあ、ユイロラ姫はどうなってしまうのでしょうか。

 

 

 

 

 

 15歳の誕生日を迎えたユイロラ姫は突然部屋に引きこもってしまう。あまりにも急な閉じこもりに王や王妃、家臣、さらには友人らが心配して部屋の前に集まるが、その誰の呼びかけにもユイロラ姫は反応を示すことはなかった。

 大臣がこれこそ呪いであると言い出し、国を挙げて姫の回復を願い、運命の相手探しが始まったのである。

 その様子を窓から覗いていたユイロラ姫は、憂鬱そうにため息を一つ。

 

「みんな、あたしのことを心配してるんだろうな」

「そう思うなら外に出て声をかけてやればいいんじゃねえの?」

「わっ!」

 

 他に誰もいないはずの部屋で、不意に聞こえた男の声。振り向くと、ドアに寄りかかっている黒づくめの目が腐っている男。

 

「ほえ、誰?」

「初めまして、ユイロラ姫。俺は、あんたに呪いをかけたことになっている魔法使いだ」

「え、歳いくつ?」

「魔法使いだから見た目年齢はどうとでもなる」

「へー、そうなんだ。あ、あたしユイロラだよ」

 

 ほんわかとした笑みを浮かべるユイロラ姫に、魔法使いは呆れたように息をついた。

 

「見知らぬ男と密室で二人きりなのに、怖くないのか?」

「え、なにかするの?」

「いや、しねえけど」

「だったらいいじゃん」

 

 ユイロラ姫の笑みを見てやりづらそうにする魔法使い。陰キャに陽キャの相手は難しいのである。

 

「それより、俺の要件を済ませていいか?」

「うん。あたしに何か用があってきたの?」

「姫にというか、この国にというか……最近相棒になった奴に誤解をそのままにしておくなと言われたもんでな」

「誤解?」

「悪い魔法使いが姫に呪いをかけたって言われてるが、どういう風に伝わってる?」

「え、と……『心無き者、悪意の棘が姫を闇に誘う』、とかだったような」

「詩的だな。俺が言ったのは『姫に悪意ある者が棘のある言葉を姫に聞かせれば、姫の心は曇るだろう』だ」

「えーと、どういう意味?」

「例えばあんたが好かれてるのは妖精の魔法のおかげだとか、歌が評価されてるのも妖精の魔法があるからだとか」

「っ……」

 

 息を呑むユイロラ姫。つい最近、その言葉を聞かされたばかりだった。

 

「言われたか?」

「……うん。学校の友達だったんだけど、その子の好きな子があたしの婚約者候補になったのと、歌のコンクールであたしが一位取ったのが重なっちゃって」

「ただの嫉妬だろ。気にしなきゃいい」

「そんな! そんな、こと……できないよ」

「難儀な性格してんだな」

 

 うなだれるユイロラ姫を前に魔法使いは近くの椅子に座り脚を組む。

 

「誤解を解きに来たって言ってたじゃん?」

「ああ」

「妖精さんの魔法を解きに来たのとは違うの?」

「違うな。そもそも、解く必要がない」

「なんで? 魔法であたしのこと好きになった人とか、いるかもしれないでしょ。そういう人を元に戻してあげたいの」

 

必死な顔ですがりつくかのようなユイロラ姫。

 

「まず知識の共有からしておくか」

「ちしきのきょーゆー?」

「前提として、妖精どもは基本善意で魔法を使うし、見返りを求めない」

「えっと?」

「簡単に言えばユイロラ姫に魔法をかけたことになんの裏もない。頼まれたからやっただけだ」

「頼まれたってパパとママ?」

「そうだな。そして、妖精の魔法はそこまで強力なものじゃない」

「そうなの?」

「ああ。だからユイロラ姫にかけられた、誰からも愛される美しさも人を魅了する歌声も、愛らしく育ちますように歌がうまくなりますように、程度の願掛けみたいなものだ」

「そうなの!?」

 

 驚くユイロラ姫。魔法で美しさや歌声を手に入れたのだとばかり思っていたから驚きもひとしおである。

 

「王妃の若いころの肖像画を見たことはあるか?」

「うん。あたしにそっくりだったよ」

「ならわかるだろ。美人の王妃の娘の姫が可愛いのは当たり前だし、似てるんだから遺伝だ」

「う、うん」

「それと、歌声が綺麗でも歌い方は姫が練習して体得したものだろう。だったら姫が好かれてるのも歌が人を惹きつけるのも、生まれつきのものだし姫が頑張ったからだな。だから魔法を解く必要もないということだ」

「そうなんだ。でも、なんかズルくない?」

「人は平等ではないってのはどこぞの皇帝が言った言葉だが、あんたは姫で王族、家族に恵まれていて可愛い。それをズルいとは言わないだろ……何をクネクネしてるんだよ?」

 

 姫はだらしなく顔を緩ませて、悶えるように身をよじっていた。

 

「にへへ。いや、褒められてうれしいっていうか、恥ずかしいっていうか」

「何照れてんだ。言われ慣れてるだろ」

「いやー、花のようとかうるわしいとか言われたことあるけど、全然ピンと来なくって。魔法使いさんみたいにすんなり可愛いって言ってくれる人、あんまりいないから」

「お、おう……まあ、一般的には、だよな、うん」

 

 えへへと笑う姫と気まずそうな男。ごほんと咳ばらいをしてごまかす。

 

「まあ、とにかくそういうわけで。呪いはかかってないから魔法を解く必要はないぞ」

「う、うん……だったら、なんで呪いってことになったの?」

「国の重鎮どもがスケベ心出したみたいだな。わが国には妖精の加護を受けた美しき姫がいるとか宣伝できるし。妖精はケチつけてきた俺が気にくわなかったんだろ。妖精どもには前々から無責任な加護をホイホイ与えるなと言ってるからな」

「ふーん」

「ま、そんなところか」

 

 言って、男は腰を上げ出口へと向かう。

 

「え、もう行っちゃうの?」

「ああ。今更この国全体に広まった誤解を解くのは億劫だし、姫本人に伝わりゃ別にいいかなって」

「その……もうちょっとお話ししたいなーって」

(闇が姫を襲いし時、運命の者現れ闇を祓う、だったっけ? だったら、魔法使いさんが運命の人。でもそういうの関係なく、もっとお話ししたいな)

「俺より、とっとと外に出て両親やらお友達やらと話した方がいいぞ。どうせもう二度と合わないだろうし」

「えー、なーんかやな言い方」

「事実だしな。それに、もう話すことないだろ」

「え、えーっと」

(なんか話題ないかな)

 

 本当にこのまま帰ってしまいそうな男に、ユイロラ姫は何か話のタネはないかと頭を抱える。

 

「あ、じゃあさ、あたしが部屋に籠ってから、ずっと様子見に来てくれた友達がいて、心配かけちゃったし謝りたいんだけど、どう言ったらいいかな?」

「知らん」

「即答!?」

「友達いたことないから仲直りの仕方とか知らん」

「あ、うん……ごめん」

「いや、まあ、素直に心配かけてごめんでいいんじゃねえの?」

「うん……」

(いやダメだ。話し終わっちゃった。えっとえっと)

「……あ、部屋から出たら運命の相手探しが始まっちゃうと思うんだけど、どうしたらいい?」

「それこそ知らん。姫の気に入った奴を選べばいいんじゃねえの?」

「それはそうなんだけど……」

(魔法使いさんを気に入ったって言っても、この調子じゃ無理とか言って逃げられちゃいそうだし)

「ほら、あたしが可愛いから好きみたいな、外見しか興味ないようなこと言ってくる人いるしさ」

「人が好印象を持つのは外見がまず第一だろ。その点で姫は断然優位になってるんだから、贅沢ってもんだ」

「そ、そうなのかな」

「可愛いのがやだとか言ってるようなもんだぞ。あるものは無くせないんだし、受け入れろ」

「え、えーっと、やっぱり照れちゃうな」

「いや、そういう意味で言ってないからな?」

 

 再度ニヘヘと照れるユイロラ姫と呆れる男。どうにもやりづらそうである。

 

「まあ、あれだ。人は外見じゃないとか、心が綺麗とか言ってくる奴はやめた方がいいんじゃないか」

「あ、それ言われたことある」

「俺が惹かれたのは目に見えるものじゃないよアピールしてくる奴に碌な奴はいない」

「なんか、嫌なことでもあった?」

「気にするな」

「うん……」

(だから、話終わっちゃう! なんか、なんかないかな…… )

「んじゃ、そろそろお暇するかな」

「あ、うー」

 

去ろうとする男に、苦悩するユイロラ姫。そして、とうとう姫は決断した。

 

「あ、あの、魔法使いさん!」

「お、おう。どうした」

「あの、その……また、会いたいな」

「……俺みたいな悪い魔法使いと縁をもってもいいことは何もないぞ」

「~~っ、もーっ! なんでそういうこと言うの!?」

「なんだ。いきなり大声出して」

「もーわかった。魔法使いさんは待っててもダメだってことが」

「お、おう?」

「だから、あたしから行くことにする」

 

 グイグイと押して押すユイロラ姫。その勢いにたじたじの男。

 

「ねえ、魔法使いさん。名前、教えて?」

「……ハチマンだ」

「うん。じゃあ、ハッちゃん」

「まさかの呼ばれ方だな、おい」

「ハッちゃんがあたしに会いに来てくれないなら、あたしから行くからね」

「俺は色んなところうろついているから、会えるとは限らないぞ」

「それでもいいよ。絶対、また会うから」

「……ま、頑張ってくれ。それじゃな」

 

 魔法使いが手を振ると、ドロンと煙が吹き上がり、男の姿は消えた。魔法を目の当たりにしたユイロラ姫は目を丸くし、しかし、笑みを深めていった。

 

「ぜったい、また会って見せるからね。あたしの運命の人」

 

 

 

 

 

 そして。

 ユイロラ姫が部屋から姿を現したことで城は一層騒がしくなり予想通りに運命の者探しが始まったのだが、姫は事の次第を語りたがらず、集まった名家の者たちの求婚を断り続けた。

 後に、ユイロラ姫は外交に励み他国との関係を深めることに大いに貢献した。

 ユイロラ姫が悪い魔法使いとの再会を果たせたかどうかについては、誰も知る由がない。しかし、ある日を境に、ユイロラ姫は自身の髪をリボンでまとめることが多くなったという。

 

 

 

 

 

「原作では妖精は12人いて、それぞれ加護を与えたらしいな」

「え、そんなにいるの?}

「本当は13人いたらしいんだけど皿が12枚しかないから一人ハブにして、呼ばれなかった妖精が呪いをかけたらしい」

「そんな理由で仲間外れはダメだよね」

「ハブられたから逆襲するのは素人のぼっちだな。プロのぼっちは空気悪くするかもしれないから最初から行かないんだ」

「そんな悲しい決意を聞かされても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いては『白雪姫』。

 

 

 

 

 

 ここはとある国のとある城、その一室にこの国で一番の魔法使いの美少女が鏡に向かっていた。その名はいろは。

 

「さて、と。これで魔法の鏡になったはずだよね。んんっ、えー、鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだーれ?」

「は? 知らねえよそんなの」

「あ、あれ? おかしいな。鏡よ鏡。この世で一番きれいなのは誰?」

「だから知らねえっての」

「おっかしいな。何でこんなひねくれやさぐれた感じの男の人の声なんだろ」

 

 ゴンゴンと縁を叩くいろは。しかし、鏡は一向に変化はない。

 

「叩くな。昔のテレビじゃねえんだから。それにひねくれやさぐれは大きなお世話だ」

「おっかしいな。何でも答えてくれる魔法の鏡のはずなんだけど」

「何でもは無理だ。知ってることだけしか答えられんぞ。あと、お前の込めた魔力じゃ世界には届かん。精々が近隣諸国だな」

「えー、なんかショボいなぁ。まあいっか。それじゃ、近隣諸国で一番美しいのはだーれ?」

「綺麗なんて個人の主観によるものだろ。そんなん決められねえよ」

「じゃあ、みんなが美人だって思う人は?」

「みんなって誰だよ。みんなの中に入ったことねえからわかんねえよ」

「……めんどくさいな、この鏡。じゃあ、鏡の主観でいいから答えてくださいよ」

「あんまり人の美醜に言及したくねえんだけど」

「い・い・か・ら! 答えてください!」

「やめろゆらすな。じゃあ、近隣諸国で綺麗なやつ……ほれ」

 

 鏡に映ったのは艶やかな黒髪を持つ、美麗な少女の姿だった。

 

「わー綺麗な人、って、誰ですかこれ!」

「北の隣国の姫で白雪乃姫だな。毒舌で求婚をばっさり切りまくってる。頭も運動神経もいいが体力はない。あと猫大好き」

「むー、美人だしスタイルもいいなぁ。顔ちっちゃいし、あ、でも胸は勝ってるかな」

「勝ち負けじゃねえと思うんだが」

「うっさいですね。みんな違ってみんないいとか求めてないんで」

「その意見には賛成だが」

「あ、それじゃ綺麗でスタイルもいい人はだーれ?」

「男目線? 女目線?」

「どう違うんです?」

「違うだろ。グラマラスかスレンダーのどっちだ?」

「じゃあ、おっぱい大きな人で」

「女の子がおっぱいとか言うんじゃありません。えー、じゃあこの人」

 

 鏡に映るのは、肩までの黒髪でにこやかに笑う美人。どことなく白雪乃姫に似ていて、しかしながら、少し怖い。

 

「わー、キレイでおっぱい大きい、って誰ですか!」

「白雪乃姫の姉、白陽乃姫だな。美人は美人だが、うかつに近づくとえらい目に合う」

「なんか実感こもってる感じが。じゃなくて! なんでわたしじゃないんですか!」

「何、エゴサなの? 自分を美人で挙げられたいとかすげえな」

「別にいいじゃないですか。そういう魔法でしょ?」

「そもそもお前って美人ってより可愛いの方だろ」

「え、そ、そうですか? って、なんでいきなり口説いてくるんですか。ありえないんですけど。下げてから上げるアレですか? もうちょっとうまくいってくださいよ。やり直し!」

「口説いてねえしなんで振られてたみたいになってんだよ」

「もー、じゃあ近隣諸国で可愛いくってスタイルいい子はだーれ?」

「えーと、じゃあ……はいドン」

 

 鏡に映るのは、髪をお団子にした少々幼げで、しかし似つかわしくないほどグラマラスな少女。

 

「わー、可愛くってスタイルいい、ってほんとにすごいなこの人。おっきくて腰細いし。絶対足元見えないでしょ。ちょっと鏡さん。この人は誰? スリーサイズは?」

「そんなん知るか。東寄りの北の隣国の姫、白結衣姫だな。ちょっとアホの子だが優しくて元気。あと白雪乃姫と仲がいい。知ってる奴からすると怪しい関係じゃないか疑われるレベルで」

「いや、そこまで聞いてないですけど。ってか、さっきから知り合いなんですか? やたら詳しいですけど」

「気にするな」

「気になりますけど。まあいっか。これもダメかー」

「お前はどっちかと言えば華奢な感じだろう。さっきの質問だとひっかからん」

「じゃあ、もっと簡単にいこうかな。近隣諸国で可愛いのはだーれ?」

「コマチ」

「即答!? 誰!?」

 

 鏡に映るのは、八重歯とピョンと跳ねたアホ毛が印象的な天真爛漫な笑顔を浮かべた少女。

 

「で、誰ですかこの子。可愛いのは確かですけど」

「俺の妹。世界一可愛い」

「妹!? 鏡なのに!? ってか、さっき世界には届かんとか言ってませんでした?」

「あ? 俺の妹にケチつける気か?」

「な、なんで怖い声出してるんですか。ケチつけてるわけじゃないですけど」

「いや、悪かった。あ、それじゃこっちはどうだ。はいドン」

 

 鏡に映るのは、柔らかな髪に華奢な体格、儚げな印象を与える可愛らしい一見して美少女が庭球に興じている。

 

「あら可愛い。……ん? この人って」

「西寄りの北の隣国の彩加王子」

「なんで男の人を可愛いでチョイスするんですか! 可愛いですけど!」

「俺の主観で選んでるからな。天使だぞ」

「ええ、キモイんですけど。もー、うまくいかないなぁ」

「曖昧検索だからな。詳細に条件を入力すればピンポイントで見つかるかもしれんぞ」

「いや、検索サイトじゃないんだから。じゃあ、近隣諸国で可愛くて華奢な感じのスラっとしたスタイルで、健気で可憐な子はだーれ?」

「そこまで指定されるとこの子だな。ほい」

 

 鏡に映るのは、艶やかな黒髪の小柄な美少女。ちょうどティータイムのようで、活発そうな美少女とお茶を飲んでいた。

 

「わー、可愛くて華奢な感じでスラっとして、健気そうで可憐な感じの子だー。……で、誰ですか?」

「東の隣国の白留美姫。もっと言えば賢くて芯が強く勇敢だ」

「属性盛りっ盛りじゃないですか。ずいぶん褒めてますけど年下趣味ですか?」

「事実を言ったまでだ。それにお前が健気で可憐ってのもなあ」

「は? 何か文句でも?」

「いや、まあ。ちなみに隣のは白留美姫の親友だな」

「こっちの子も可愛いですね」

「そだな」

 

 鏡の言葉に、ついにいろはの堪忍袋の緒が切れた。

 

「あーもー! 派手目の美人!」

「ほれ。南の白優美子姫。見た目派手だがオカン気質で面倒見がいい」

「地味目の美人!」

「地味と言うのが合ってるかわからんが、南の姫奈神官。白優美子姫のお付きで腐教に熱心」

「うー、ほんわか美人!」

「北の協議会のめぐり委員。一緒にいると癒される。白陽乃姫と仲いい」

「ぐぬぬ。きつめの美人」

「西の裁縫屋の何とか沙希嬢。弟妹を養うのに忙しく働いている、近所で評判の家族思い」

「……大人の色気」

「中央の静教諭。婚期を逃して焦ってるが、面倒見がよくて生徒想いの実にいい女。男より男らしいと評判のためあまり知られてないがな」

「もー! なんでわたしを写さないんですか!」

 

 いろはがバンバンと机を叩く。グラグラと揺れる鏡だが、意に介することはない。だって鏡だから。

 

「だって、ことごとくお前に該当しないワードだからな。仕方ないだろ」

「うー!」

 

 プンスカしているいろはを見て、鏡は思う。

 

(近隣諸国と指定がなけりゃ可愛いあたりで該当したんだがなぁ。小町の次に)

「ん、何か言いました?」

「いや、別に」

「そうですか? まあいいです。この国で一番可愛いのはわたしですからね!」

「はいはい」

(そう聞けばいいのになぁ)

「絶対わたしを映させてやるんですから!」

 

 鏡にいろはが映るのはいつの日か……。

 

 

 

 

 

 その後。

 いろははことあるごとに鏡に問いかけ、望む答えを引き出そうともできなくて。ついつい鏡の前で弱音を吐きだし涙を流す。

 その涙に慌てた鏡は素直な心情を吐露するが、鏡が見たのはペロリと舌を出し、目薬をしまういろはの姿だった。

 ということがあったとかなかったとか。

 

 

 

 

「原典だと王妃は三回も白雪姫を殺そうとしてるのに生き延びてるんだよな。しかもかなりガチで殺しにかかってるのに。白雪姫って何だ、異能生存体か?」

「……」

「あと王子様な。よく言われてるけど死体にキスするとかそうとうなレベルの特殊性癖だ」

「……」

「あー……原作だと白雪姫って七歳らしいな。そんな子供を一番きれいな女っていう鏡も鏡だな」

「先輩にピッタリじゃないですか? 年下好きだし」

「やっと話したかと思えばずいぶんだな」

「だって、なんでお姫様じゃないんです?」

「いや、思いついちゃったもんで」

「ふーんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に、『美女と野獣』。

 

 

 

 

 

 ある国を治めていた王子が、ある日を境に姿を消してしまう。

 様々な噂がされたが、王子が見つからないまま月日は流れていく。

 この話はその数年後、城の近くの村にベルミという賢く美しい娘が森に入ったところから始まる。

 

 

 

 

 

 森を駆ける少女ベルミ。彼女は薬草を集めに森に入ったところ狼に追われていた。普段ならば狼が村の近くに現れることはないし、ベルミも周囲を警戒していたので危険は無いはずであった。

 しかしながら、この日は運が悪かった。腹を空かせた狼がたまたま村の近くまで来ており、村の祭りで奏でられた音楽に驚き移動した先に、共に薬草採集に来ていた村の娘たちに置いて行かれていたベルミがいた。

 さらに、ベルミが逃げた先は村の反対方向であり、誰の助けも来ないはずであった。だが、

 

「キャインッ!」

 

 狼の悲鳴に、ベルミは足を止めて振り返る。追ってきていた狼の姿はなかった。

 何かが、何者かが、狼を襲ったのだろう。ならばその何者かがベルミを襲わない理由はあるだろうか。

 答えはすぐに判明した。

 

「何をしている」

 

 低く、地の底から響くような声がする。それはまるで野獣のようで、しかしながら、ベルミは不思議とその言葉に優しさを感じていた。

 

「お前のような少女がこんな場所まで来るものではない」

「……お前じゃない。ベルミ」

「ふん。気の強いことだ。ではベルミ。とっとと村に帰れ」

 

その言葉を最後に、ベルミの問いかけに答えることもなく声の主は遠ざかっていったようだ。そうと気づいたベルミはむうと頬を膨らませた。

 

 

 

 

 

翌日、ベルミは狼に追いかけられ、何者かに助けられた場所へと戻ってきていた。

 

「……よし。すぅ、」

「何をしている」

「あ、来た」

 

大声を出すために大きく息を吸い、呼びかけようとしたところで昨日と同じ声がした。

 

「恩には礼を返せと親から教えられているの。だから果物持ってきた」

「人の話聞いていたか? 危ないからここに来るなと言ったはずだが」

「危なかったら逃げるよ。でも、まだあなたと顔を会わせてお礼を言ってない」

「強情だな。後悔するなよ?」

 

そうして、森の闇からのっそりと現れたのは、直立する巨大な獣だった。ベルミが今までに見たどの動物とも似ているようで、しかしそのどれでもない。まさに野獣であった。

 

「……助けてくれて、ありがとう」

「芯が強い上に強情だな。礼は受け取った。だから村へ帰るがいい。また狼が出るやもしれん」

「……」

「どうした?」

 

礼を言うことができたベルミであるが、野獣に怯えることも立ち去ろうとせず、ただ野獣の顔を見ていた。

 野獣は歯をむき出しにして唸る姿を見せるが、

 

「この醜い姿が気になるか?」

「ううん。果物より肉の方がよかったかなって。大きな口だし」

 

 ベルミは恐れることはなかった。

 

「……なんか調子狂うな」

「一緒に食べよ」

 

 ベルミは切り株に腰掛け、隣を叩き野獣にそこに座れと促がしていた。

 野獣はため息を一つ、ベルミの隣に腰掛けた。

 

「お前はこの姿が恐ろしくはないのか」

「お前じゃない、ベルミ。だって、会話ができるもん。同じ言葉をしゃべってるのに会話が通じない人の方が恐いよ」

「それな。リア充どもとか価値観とか違いすぎて話にならない……あ」

 

 それまで重々しく威厳に満ちた威容を示していた野獣であるが、つい漏らしてしまった態度は年若い少年のようであった。

 

「それが素なの?」

「あー、くそ。この姿に似つかわしい言葉遣いしてたのに、共感できるボッチエピソードに反応しちまった」

「なんか無理してる感じがしてたよ」

「バレバレかよ」

 

 ベルミが果物を野獣の前に差し出すと、巨大な手で器用に摘み上げ一口で丸かじりにした。

 

「足りないかな?」

「いや、久々に食ったから上手いよ。ごっそさん」

「ねえ、名前は?」

「ん、名前がなんだって?」

「あなたの名前聞いてるの。普通わかるでしょ?」

「ああ、この姿になってから聞かれることなかったからな。まあ、野獣とでも呼んでくれ」

「ふーん、じゃあ野獣先ぱ」

「待て。なんでそうなる?」

「年上そうだったし」

「ハチマンだ。そう呼べ」

「そう。じゃあハチマン。ハチマンってもともとその姿だったんじゃなくて、人間からその姿になったの?」

 

 こめかみに手を当てていた野獣改めハチマンは、ベルミの言葉に動きを止める。

 

「どうしてわかった?」

「だって、隠す気ないでしょ? この姿になってとか久々にとか、端々に匂わせてたもん」

「む……そんなつもりはなかったんだが、無意識に気づいてほしかったのかな」

「ねえ、私でよければお話聞くよ?」

「まあ、大した話じゃないんだが……」

 

 そう言って語ったのは、数年前ハチマンに降りかかった災難話である。

 ある日の夜、両親が不在のため留守を守っていたハチマンに、使用人から館に訪れた者がいると連絡を受けた。みずぼらしい格好の老婆が一夜の宿を貸してほしいとのことであった。

 ハチマンは断ろうとしたのだが、老婆はこれでもか?と美しい妙齢の女性へと変身した。老婆は魔女だったのだ。それでもハチマンは断ろうとした。ボッチはハニトラになんてひっかからないのである。ところが、

 

「傲慢な男め。見かけで判断すると隠れた真実を見失ってしまうぞ」

「いや、人に不快感を与えないために清潔感は重要だろう。美醜はともかく」

「ええい問答無用!」

 

 魔女はハチマンや妹、使用人にまで魔法をかけ、姿を変えてしまった。

 

「真実の愛を見つけなければ、その魔法は解けることはない」

 

 という言葉を残し、魔女は姿を消した。

 以来、ハチマンは野獣の姿のまま、呪いを解く方法を探しているのであった。

 

「とはいえ、もともとボッチ気質な上この姿だから難航してな。人との会話に飢えていたのかもしれん」

「……」

「どうした?」

「それ、ハチマン悪くないよね?」

「というと?」

「お留守番してるところに知らない人が泊めてくれって言ってきたら、泊めたりしないと思う」

「そうだな。賊の手引きでもされたら事だし」

「それに、綺麗な人でもハチマン泊めなかったでしょ?」

「まあな。知らない人と一つ屋根の下とか、お断りだ」

「ハチマンのどこが傲慢なのか、私にはわからないな」

「そうな。俺ほど謙虚な奴もそうはいないと思うぞ」

「むしろ卑屈じゃない?」

「うるせ」

 

 ハチマンはベルミから渡された果物に不貞腐れたようにかじりつき、それを見てベルミはクスクスと笑った。

 

「それで、真実の愛って何? 誰かに好きになってもらえばいいの?」

「さっぱりわからん。俺の妹への愛は真実だと思うが、魔法は解けないしな」

「……妹?」

「ああ。コマチっていうんだが、最高に可愛いぞ」

 

 凶悪な顔を歪め牙をむき出し威嚇しているようにしか見えないが、ハチマンは笑っているのだとベルミは理解した。そして、ちょっとムッとした。

 

「ハチマンってシスコン?」

「いや、これくらい普通だろ」

「そうかな」

 

 そうこうしている内に、ベルミが持ってきた果物はほぼすべて野獣の腹の中に納まった。つまり別れの時間が近いのだと、ベルミは気づいた。

 

「ねえハチマン。また明日も会いに来ていい?」

「あん? もうお礼は受け取ったから来る必要ないだろ?」

「お礼じゃなくてハチマンに会いに来るの」

「……あー、獣がいて危ないからやめとけ」

「ハチマンがいたら近寄ってこないんじゃない?」

「……ベルミは強情だな。わかった、俺の負けだ。待ってるよ」

「うん。また果物でいい?」

「いや、いいよ。毎度持ってきたら負担だろ。今度は俺が持ってきてやる」

「うん。それじゃ、またね」

 

 

 

 

 

 こうして。

 村の少女ベルミと野獣ハチマンとの奇妙な友情が育まれた。

 ベルミは家の手伝いや勉強の合間を縫ってハチマンに会いに行き、ハチマンはいつもの時間にいつもの場所で待っていた。

 これが友情なのかはたまた別のものなのか、ベルミにはまだ判別はできなかった。

 しばらく後に、ベルミに惚れた男とハチマンが相対することになるのだが、その結果がどうなったのか、ハチマンへの呪いが解けたかどうかは、誰も知る由が無い。

 

 

 

 

 

「原作だと魔女は王子主催のダンスパーティに来て、バラ一輪と引き換えに泊めてくれと言ったとか」

「ダンスパーティーで泊めてっていうのもおかしいし、招待状なしに来た人返すのは当然じゃない?」

「だよな。とはいえ、昔の話は色々と理不尽なところが多くてな」

「だからといって八幡は捻くれ過ぎだと思うけど」

「ほっとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演目はすべて終了しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一通り見たけれど、やはり比企谷くんの捻くれ具合はすさまじいものがあるわね」

「さすがヒッキーって感じだね」

「むー、みんなプリンセスなのにわたしだけヴィランなんですけど」

「でも、八幡言ってましたけど、一番楽しく書けたって言ってましたよ」

「コメディチックだし、書きやすくはあったと思うけど」

「これで依頼は達成ということでいいかしら?」

「そだね。演劇部から名作の現代版アレンジって依頼されたときはどうなるかと思ったけど」

「どっちかと言えば八幡の捻くれアレンジじゃないですか?」

「比企谷くんが大筋を書き私たちが清書するとはいえ、少し負担が大きかったかしら?」

「お兄ちゃん家でぐったりしてますよ。受験生にこんなことさせるなって」

「確かに、結構な量ですよね」

「そう言えば、みんなをヒロインに割り当てて書かされてたことに首を傾げてましたよ。なんで俺はこんなことを、とかなんとか」

「これでお兄ちゃんが誰を好きかわかるかも、って言ってた雪乃さん。どう思います?」

「いえ、私は、無意識に比企谷くんの思考が漏れるのではといっただけよ。でもそうね……エピローグにバディとして選ばれたシンデレラは特殊かもしれないわね」

「えー、眠れる森の美女だって気にかけてるしプレゼントしてるよ」

「白雪姫は……可愛がってるのは間違いないですよね。どういう感情があるのかわかりませんけど」

「美女と野獣は確実に何らかのいい関係は気づいてますね」

「どの作品に一番力を入れたのかは各自の判断に任せるけれど……そういえば、小町さんの青い鳥はどうしたの? ここにないようだけれど」

「……これはどうしようもないです。チルチルが家から出ようとしないですもん。実家最高、実家にこそ幸せはあるとか、ニートみたいなこと書かれてます。ミチルはそんなお兄ちゃんを呆れながらも世話をするって感じで」

「あー、でも、ある意味ヒッキーの理想なのかも」

「こんな理想はいくら小町でも嫌ですよぉ!」

 

 




台本形式は性に合わないので、台本形式風にお届けしました。
決して地の文が面倒とかそういうことはなく。
次は何を更新しようかなー。
じゃあまた。


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小説・二次創作Acutually Try

 約一年ぶりです。お久しぶりです。
 順番がずれてますことご了解ください。
 Acutually Tryは実際にやってみた、です。
 お読みいただいている作品は総武高校男子生徒がサイゼで駄弁るお話しで間違いありません。
 じゃあどうぞ。


 

 

 かつて、大陸全体を巻き込む大戦があった。

 破壊神を信奉する魔王を旗頭とした一軍は世界の主要都市をまたたく間に制圧し、人族、つまり普人族、森人族、土人*1族、獣人族は窮地に追いやられた。

 しかし、魔王による世界の統一が目前に迫ったその時、神族に使わされた*2使徒の一団が天より舞い降り、人族は全滅の際から救い上げられ、使徒を中心にそれまでバラバラだった人族は連合を組み、一丸となって反撃に転じ、とうとう魔王を倒すことに成功する。*3

 しかし、*4魔王は死の間際に破壊神を復活させ、融合し連合軍に対峙した。あわや壊滅かと思われたが、それぞれの人族から英雄と謳われた4人の男女が現れた。

 使徒から与えられし聖具を用い、破壊神を倒した英雄は*5傑と称され、それぞれの部族をまとめ、今も残る王族の血統の始祖となった。

 だが、破壊神の身体は4傑により5つに別たれても脈動を続けていた。破壊神を破壊することはできなかったのだ。

 使徒は聖具を破壊神の身体の封印とし4傑の統治する王城に安置した。

 普人族は聖剣と両腕を、森人族は聖弓と翼を、土人*6族は聖槌と頭部を、獣人族は聖爪と両足を。*7

 そして残った胴体、心臓を大陸の中心に封じ、こう予言*8した。

 

『堕ちたりとは言え破壊神は神族。神族は不滅なり。しかし力を削ぐことはできる。これより人族は協力し、心臓がもたらす魔力を討滅せよ。心せよ人の子ら。相争い破壊神の魔力を溢れさせたその時が破壊神の復活である。和を以て世界を救え』*9

 

 破壊神の心臓は大陸の中心を迷宮と化した。そこから現れる魔物は破壊神の力の一部であり、倒せば破壊神の力を削ぐことになる。しかし怠れば破壊神*10復活させることになる。

 4傑はそれぞれの地域を統治するともに迷宮都市を建設し、精鋭たちを送り込んだ。今にゆう*11討滅者の始まりである。

 それは昔々の物語(ワンス・アポン・ア・タイム)*12

 これより語るは数百年後の世界。討滅者を夢見る少年の冒険の物語である。*13

 

 

 

 

 

 普人領ボールダー地方出身の青年*14アルサルは、討滅者となるべく幼なじみの少女モルガナと故郷を出奔した。*15

 数年後、期待の新人として他の討滅者から注目を集めるチーム、エクスカリバーのリーダーとなったアルサルはメンバーと共に街を歩いていた。*16

 

「ようアルサル、またランクアップしたんだってな! パーティーはうちの店でやってくれよ!」

「ああ、今夜頼めるか」

「アル坊、ポーションの取り置き早く取りに来なよ」

「ムウ婆さん、明朝伺うよ」

「あ、アルサルさんよ! エクスカリバーのリーダー!」

「カッコいいわねぇ」

「アル兄ちゃん、剣を教えてくれる約束いつだ?」

「ふっ、大きくなったらな」

「ちぇーっ!」

「モルガナさんよ、弓の手入れはどうだい」

「まだ大丈夫よ。今度お願いするわ」

「マリーン、論文読んだぞ。学会に発表するがいいか?」

「好きにして」

*17

 

 アルサルは討滅者でありながら街の治安維持も行っており、民からの信頼も厚いのである。*18

 そんなアルサル達が屋台街に到着した時、何やら騒がしいのに気づく。*19

 

「何だ、騒がしいな」

「アルサル、あそこ」

「むっ!?」

 

 マリーンの指差す先を見たアルサルは、血液が熱を持つのを感じた。*20

 

「痛い痛い、やめてよ!」

「このガキ、大人しくしろ!」

 

 薄汚れた格好をした少女が三人の騎士に取り押さえられていた。その様はかつて故郷で両親が死んだ時を思い起こさせる。*21

 

「貴様、その手を離せ!」

「な、何だ! ひええっ!」

 

 アルサルは一息に間合いを詰め、少女を取り押さえる騎士に剣を抜き放つ。元より当てるつもりもなかった剣閃に、騎士は情けなく尻もちをつきながら飛び退いた。*22

 

「き、貴様はアルサル! この、ボーエン様に何てことを!」

「新進気鋭などと煽てられ増長したか!」*23

「黙れボーエン=ボールダー! か弱き少女に狼藉を働いて何とする!」*24

 

 そう、三人の騎士はアルサルと同郷。討滅者になれず騎士となった落伍者。

 チック=チャイルドマン、ボーエン=ボールダー、デビッド=デリンドン。チビボケデカの三人合わせてチボデー三兄弟であった。

 ちなみに実の兄弟ではなく、ボールダー家の嫡男に使える取り巻きである。

 かつて同じ街で幼少期を過ごしたが、当時から悪童ぶりが話題になっていた。

*25

 

「こ、この娘は露店から品を盗んだのだ。それを捕まえて何が悪い!」

「幼気な少女にする振る舞いではない。やり方を考えろ」*26

 

 周囲の民衆の蔑んだ瞳を向けるのを見て慌てる三人。*27

 

「ち、覚えてろ!」

「ふん、斬奸しそこねたか」*28

 

 捨て台詞を残し慌てて立ち去る騎士たち。

 民衆から歓声と拍手が湧く。*29

 

「やっぱりアルサルはすげえや!」

「あいつらえばりくさりやがって、いい気味だ!」

 

 アルサルは転んだままの少女に手を貸し起き上がらせる。*30

 

「怪我はないか」

「う、うん。ありがとうお兄ちゃん」

 

 少女は薄汚れてはいるが、汚れを落とせば可憐な少女であった。

 アルサルは安心させるように笑みを見せ、頭を撫でる。少女は頬を染めた。*31

 

「でも、物を盗んだのはよくないわよ」

「そうね。ちゃんと謝ってきなさい」

「う、うん」

 

 少女はモルガナとマリーンに促され、立ち上がり落とした林檎を拾い、見ていた民衆の老婆の元へと歩み寄る。*32

 

「ごめんなさい。お腹が空いちゃって」

「しょうがないね。売り物にならないから持ってきな」

「え、でも」

「いいってことよ。今度は買いに来るんだよ」

「うん!」*33

 

 少女はおそらくスラムの住人だ。人が集まればあぶれる者も出てくる。そういった人が集まり、困窮した結果治安が悪くなるのも事実だ。*34

 

「あなた、親はいないの?」

「うん……去年流行病で二人とも死んじゃった」

「どうやって生活してるの?」

「ゴミを漁ったり、盗んだり」

「行政の怠慢ね」*35

「……よし、家に案内してくれ」

「え?」

「子どもが子どもらしく過ごせないなんて間違っている。俺が君たちを救ってやる」

「そ、そんな、いいの?」*36

「もちろんだ。ただし、俺が手を貸すのは最初だけだ。魚は与えない。魚の釣り方を教えてやる」*37

「ちょっとアルサル。俺がじゃないでしょ」

「ん。俺たちが、よ」

「ふ、そうだな。俺たちエクスカリバーが、だな」

「あ、ありがとう!」

 

 アルサル達は少女に連れられスラムへと向かう。しかしそこには想像を絶する環境が待ち受けていることを、アルサル達はまだ、知らない。*38

 

 

 

 

 

 訂正とツッコミだらけの文章の羅列を材木座に突きつける。赤文字だらけの紙を見てダラダラ汗を流したワナビが目を通す間に、苦行を乗り越えた戦友と語り合う。

 

「どうだった?」

「うん……疲れた」

「だな。最初は線引いてたけど途中からめんどくなった」

「後半は一段落ごとに書き込みしてた気がするよ」

「確実に書き込んでるよ」

 

 多分というか間違いなく、戸塚は後悔しているだろう。実に無駄な時間を過ごした。

 

「僕も材木座くんの書いた小説読んでみたいな」

 

 戸塚の不用意な一言に、発奮した材木座が書き上げた小説とは言い難い、形容できない何か。

 いつもの集まりの最中、材木座がケプコンケプコン言いながら自信満々に取り出した原稿用紙をサイゼで読み、添削したのは数十分前。体感では一時間ほど経過した気がする。それほどに苦行であった。

 

「前に八幡が言っていたことがよくわかったよ」

「あれだけ言ったのに全く活かされてないからな。もう頼まれても読まん」

「いや、待て八幡よ。それては我はどうすればいいのだ。サイトにアップすれば我は死ぬぞ」

「だったら成長の兆しを少しは見せろ」

 

 同じことを書くのも疲れんだよ。

 

「材木座くん。難しい言葉よく知ってるのはわかったけど、誤用が多いよ」

「ゲフウ!」

「辞書を何だと思ってるんだ。置物か? 枕か?」

「ぐぬぬ」

「最初の導入はいいと思うんだけど」

「かろうじてな。どこかで見た設定を混ぜ合わせた感はあるが」

「わ、我はオリジナルを書いておるぞ」

「まー、ぽこじゃか新作が出てくる時代だ。斬新な設定なんざそうそうは出てこないだろ」

「でも本編? 描写が足りないと言うか、羅列してるみたい」

「雑なんだよ。会話だけで成り立たせたい感が透けて見える」

「だからかな。地の文での説明が唐突で多いよ。三人の騎士を昔から知ってるにしても、もうちょっと別の書き方があったんじゃないかな」

「三人称に挑戦したのはまあいいとして、客観的に書けよ。主人公の感情が入りすぎた」

「フンヌア!」

 

 さっきから何語だ。悶え方がうっとおしい。

 

「主人公って魅力のステータスカンストしてるのってくらいに好かれてるけどさ、正直好きじゃないな」

「陰キャの妄想の具現化だな。誰からも好かれたい、クールに返したい、イキった奴をやっつけたい」

「べべべ別にそんなこと考えていないでおじゃるよ?」

「できてねえけどな。マンセーがきつい、ふって言ってりゃクールっぽく見える、誰よりも主人公がイキってる。サイコパスだ」

「ゴフウ!」

 

 たったこれだけの文章量でツッコミどころ満載なのはある意味すげえけど。ネットに上げれば袋叩きか全く相手にされないかのどっちかだ。

 やっと材木座が萎れて静かになったので一息つく。正直まだまだ言いたいことは山ほどあるが、酸素の無駄だ。

 ところが、心優しい戸塚はそうは思わなかったようで、机に脂ぎった頬を乗せている材木座を心配するように見ていた。

 戸塚。優しさは時に毒になるんだぞ。

 

「ね、ねえ八幡。この、作品? どうすればよくなるかな」

「っ!」

 

 ビクンと材木座が跳ね上がる。もう復活しやがった。

 戸塚。もうちょっと放っておいてよかったと思うぞ?

 ああ、もう。材木座が期待した顔でこっち見てるのがウザい。

 

「ゼロから書くしかないな」

「う、うん。その気持ちもわかるけど、これをたたき台にしてさ、設定とか作風とか、もっとよくなるにはどうすればいいかな。文章は置いておいて」

 

 無茶を仰る戸塚さん。

 それは難題だ。ゼロに何をかけてもゼロだし、マイナスに何をかけてもマイナスが大きくなるばかり。

 ……あ、思いついた。思いついてしまった。

 マイナスにマイナスをかければプラスになる。

 この設定のマイナス要素同士をかけ合わせると……ダメを矯正する、それなら主人公のキャラはこのまま、対比として騎士側に語り手、主役と主人公……うーむ。

 

「八幡?」

「ああ、すまん。考え込んじまった。材木座」

「うむ。何だろうか我が編集者」

 

 そんなもんになった覚えはない。ないが、これからやろうとしていることは似たようなものか。

 

「俺の案に乗ってみるか? 斬新だが斬新なだけの駄作になるかもしれんが」

「む、む、む……恥を承知で、頼む。八幡、お主の執筆能力を見せてはもらえぬだろうか」

「あん?」

「八幡が書いた小説を読みたいの?」

「うむ。参考にしてみたい」

 

 やめろバカ。受験生に無駄な時間を過ごさせるな。戸塚も読んでみたいかも、みたいな顔で見ないでくれ。可愛い。

 

 

 

 

 

 陽の光で起床する。うむ、今日もいい天気だ。

 騎士団の宿舎はボロいが綺麗に清掃され片付けられている。それというのも、我が信頼するは部下たちのおかげである。ちゃんと労わないといかんな。

 

「あ、ボス。おはようございます」

「おはよう」

「うむ、おはよう。チック、今日の予定はどうか」

「へい。今日は午前の訓練の後、午後から街の警らです。最近、スラムの住人が物を盗むってんで、要請が来ました」

「デビッド、スラムの状況は」

「この間、難民が来たから、スラム、一層治安が悪い」

 

 子供の頃からの部下であり、従者であり、共に騎士団に入った小柄なチック・チャイルドマンと大柄なデビッド・デリンドンが俺の質問にスラスラと答える。

 うむうむ。優秀な部下を持つとやりやすくてよいな。

 

「そうか。やはり、スラムなど潰さなくてはならんな」

 

 調和の取れた町並みから外れたスラム街は、ある程度栄えた街ならばどこにでもあると言ってよい。棄民どもに薄汚ない犯罪者の温床。百害あって一利なしだ。

 どこの領主も頭を悩ませているが、対処は簡単だ。潰してしまえばいい。

 

「そうでやすね。親なし子、逃亡奴隷、雑多なのをいいことに逃げ込む犯罪者に、最近じゃガキどもをとりまとめてる予備軍までいる始末」

「孤児院も、足りてない。子ども、楽しく遊べないの、ダメ」

「とは言ってもどうしやす? 上に話しても時間かかりやすし」

「ボスが命令するなら、俺もチックも、子供を助けて、犯罪者を始末、するけど」

「いや、さすがに3人では無理があるだろう」

 

 むう。焼き払ってしまうつもりで言ったのだが、チックもデビッドも、スラムを浄化する方向で考えている。

 というか、我ながら過激なことを考えていたが、部下たちもなかなかである。部下の手綱を引き締めるのも上に立つ者の努めだ。そこいらの犯罪者程度ならば百人いたところで制圧できるとは思うが。 

 まあ、焼き払ってしまうと後片付けが大変だし、再建にも時間がかかるか。俺はまだ騎士団の下っ端十人長として教練中なので、確実に駆り出される。さすがにそれは面倒だ。

 

「あ、そうだボス。正式に作戦立案してスラム浄化しちまいませんか? ちゃんと筋道立てて説得力ある企画作ればあの事なかれ百人長もダメとは言わんでしょう」

「うむ。確かにそうだな」

「ダメ言ってきたら、多分、犯罪者と組んでる」

「こらこらデビッド。あらぬことを言うものではないぞ」

「む。反省、する」

 

 反省は良いことだ。だが、確かに百人長には黒い噂があったな。

 他の十人長とも連名で提出するのがよいか。さすがに握りつぶせないだろう。

 

「とりあえず、警らして様子を見てからだな。チック、朝食は」

「へい。用意してやすが、まずは顔を洗ってきてからにしてくだせえ」

「おっと、確かにそうだな。デビッド、着替を持て」

「洗面所、用意してる」

 

 打てば響くとはこのことか。やはり優秀な部下はいい。それを使いこなせる俺も優秀なのだから、これはもう最強と称してよいのではないか?

 

 

 

 

 

 午前の訓練でひと汗かき、我がボールダー隊の面々は三人一組で警らに出る。一人は連絡要員として待機中である。

 疲れたので俺が残りたかったのだが、チックとデビッドが準備を済ませていたため出ざるを得なかった。優秀すぎる部下を持つと大変であるな。

 しかし、これも誇りある騎士団の務め。手を抜くことは許されぬ。

 警らを開始したが、無闇に歩き回っても致し方あるまい。通りすがりの男を呼び止める。

 

「あ、ボールダー隊長。お疲れさまです」

「うむ。最近の街の様子はどうか」

「へえ。人が増えたんで売れ行きはいいんですが、柄の悪いのも増えましてね。ちょいと困りもんです」

「具体的な被害は出てるんでヤスか?」

「いや、いまのところ……あ、屋台で果物売ってる婆さんいるでしょ? あそこで売上と品数が合わないとか何とか」

「婆さん、エミリ婆さんのとこ?」

「ああ、そうそう。婆さんも年だし、計算間違えてんじゃねえかとも思ったんですが、二度、三度と続くとなると」

「ふむ。少し寄ってみるか」

「エミリ婆さん、時々オマケしてくれる、けどボケてない」

「でヤスね。ちょいと前、お釣り誤魔化そうとした丁稚に怒鳴ってるの見たことありヤスぜ」

 

 ああ、あの婆さんか。見た目は今にも土の下に入りそうなのに怒鳴るとおっかない元気な婆さん。

 ご老人なのだから大人しくしていればいいものを、屋台街のショバ代を回収に来たゴロツキを追い返したとも聞く。

 さて、

 

「婆さん、いた」

「うむ。では行くとするか」

「あ、ボス。あのガキ見てくだせえ」

「む?」

 

 チックの指示する先に薄汚れた少女がいた。

 スラムにほど近いし、いることに何ら問題はないが……あ、やりおった。

 

「チック、確保だ」

「ガッテンでヤス!」

 

 少女が婆さんが別の客の接客中に、通りすがりにリンゴを懐に入れるのを目撃した。時機の計り方といい手慣れたやり口といい、初犯ではあるまい。

 小柄なチックは見た目通りに素早い。人波を何ら意に介さず通り抜け、少女を確保……できないだと!?

 接近するチックに気づいた少女は、こちらも人波をスルスルと駆け抜け逃走を図る。これはますます常習犯であるな。

 

「デビッド、周り込め!」

「了解」

 

 デビッドが跳び、人混みの僅かな空白に降り立つ。相変わらず鈍重な見た目の割に判断力のあることよ。

 突如として前に現れたデビッドに驚愕した少女は、迫るチックを回避すべく方向を変えるが、そこにはすでに俺が待ち構えていた。ナイスな連携プレイである。

 

「きゃっ!」

「確保だ、少女よ。大人しくするがよい」

「離してよ、この! 変態です、誰かーっ!」

 

 年の頃はまだ一桁だろう少女を、できる限り痛みのないように取り押さえる。俺は後ろで指示するのが仕事なので身体を使うのは苦手なのだが、日々の訓練のお陰でこれくらいは容易い。

 容易いのだが、人聞きの悪い事を言うのはやめてほしいところだ。周りの目が冷たい。

 いや、俺、騎士団の仕事でやっているのだぞ?

 

「痛い痛い、やめてよ!」

「この、大人しくするがよい」

 

 チックならば暴れても痛くないように抑えられるのだが、俺はまだそのような芸当はできない。なので、俺の下で暴れる少女には痛みがあるのだろうが、逃げられるかもと考えれば緩めることもできぬ。チックにデビッド、早く来てくれ。

 

「ボーエン!」

「む、貴様は!」

 

 俺の名を叫ぶ男が駆け寄ってくる。あれは最近討滅者として最近名を挙げている、同郷のアルサルか。

 過去に諍いがあった奴は俺を恨んでいる。今も憎しげに俺を睨み、剣を抜き放った。

 ええい、このような人通りの多いところで何をするか!

 

「その手を放せっ!」

「ボスッ!」

 

 判断が遅れた俺は、少女を放すでもなくアルサルに対応するでもなく、どちらも選べなかった。

 しかし、人混みを抜けたチックとデビッドが立ちふさがり、奇妙に身体を捻ったアルサルが立ち止まる。む、今の動きは何だ。何かを避けたような。

 

「ボス、代わる」

「う、うむ。丁重にな」

 

 少女の拘束をデビッドに任せ、アルサルと相対する。デビッドの大きな手に身動きが取れなくなった少女は、ようやっと抵抗を諦めた。

 アルサル後ろから駆けてくるのは、やはり同郷のモルガナと二人とチームを組んでいるマリーンとかいう魔術師だ。

 確か、エクスカリバーなる名前で活動しているのだったか。新進気鋭とは言え、豪華な名前を付けたものだ。

 

「アルサル。貴様、自身の行動に責任を持っているのか」

「黙れボーエン! 幼気な少女に暴力を振るうのが騎士団のやり方か!」

「阿呆か貴様。この者は屋台から商品を盗んだのだ。取り押さえて何がいけない」

「少女が痛がっていた。俺が剣を振るうのに他に理由はいらない」

 

 こやつは何を言っているのだ。

 少し考えたが理解できん。昔から独りよがりな正義感で突っ走り対立することがあったが、一層わけわからん成長をしたのか。

 後ろの女どももアルサルを停めないあたり、同じ穴のムジナか。我が故郷ボールダー領で同じようなのが増えていないか心配である。

 

「アルサル、あんたはボスがこの子を取り抑えている状況だけを見て、こんな人混みで剣を抜いたと、そう言うんでヤスか?」

「か弱き者を守ると、この剣に誓った。俺の剣は罪無き人を傷つけない」

 

 チックの問いかけにもブレず、剣を構え直す。

 うーむ、これほどまでに話の通じない奴であったか? 以前より悪化しているような。

 だが、何故だろう。周りの目がアルサル寄りになっていると感じる。

 むう。確かに端から見れば幼気な少女を取り抑える俺たちと、助けようとするアルサルの図ではあるが。俺たちは治安を守っただけなのに、何故か。

 

「ボス。この地域は騎士団にいい感情を持っていない連中が多いんでヤス。買い物に来た連中はスラムかスラムにほど近い貧民が大半でヤスから」

「ふん。貧民共が傷の舐め合いか」

 

 少し声が大きかったか。周りの目がより冷めていく。

 むむむ。業腹であるが、分が悪いようだ。

 

「デビッド。商品を回収し放してやれ」

「ボス、この子、商品捨ててる。持ってない」

 

 何と。あの逃走中に罪から免れるために商品を捨てていただと。ますます常習犯の可能性が高いが、仕方ない。現状、罪に問える要素が無くなってしまった。く、屈辱である。

 

「ボーエン、貴様は見間違えて関係の無い少女を捕まえた。その少女に謝るならば、俺は剣を引こう」

「何を言っているのだ、貴様は。謝るわけがなかろう」

「それはつまり、この場で俺とやりあうと、そう言うのだな」

「そのようなことはせん」

 

 こやつ、さては扇動者か。住民に騎士団への不満を煽ろうとでもいうのか。

 しかしながら、俺の不手際で証拠品を確保できなかったのも事実。

 ……引き下がるしか、ないか。

 

「チック、デビッド、行くぞ」

「へい、ボス」

「盗む、ダメ。ちゃんと謝れ」

「な、何よ。あたしは何もしてないんだから!」

 

 少女は優しく諭したデビッドに暴言を吐き、去って行った。

 あの年頃であの態度か。もはや染まりすぎているのかもしれんな。

 

「やはり、スラムは潰す他ないか」

「なにっ、ボーエン貴様! 今のはどういう意味だ」

「ふん。貴様に話しても何にもならん。行くぞ」

「待てボーエン! この俺がいる限り、無辜の民を傷つけさせはしないぞ!」

 

 背を向けた俺たちに気炎を吐くアルサル。

 後方から民衆共の歓声と拍手が聞こえ、陰鬱な気分が湧いてくる。

 

「ボス、どうしヤス?」

「放っておく、危ない」

「……戻り、立案書を書き上げる。匂いは元から消さねばならん。チック、デビッド、朝言っていた通り、他の十人長に連絡を取れ」

「ガッテンでヤス」

「あの子、早く助けてやらないと、手遅れになる」

「まだ、間に合えばよいがな」

 

 貴族の義務として民を導かなければならない。例え民が我らを嫌っていたとしても。

 それが高貴な家に生まれたものの務めであると理解はしているが、やはり辛いものがある。やり遂げたとて感謝されるかもわからない。

 だが、やるしかない。成果を出さねばならないのだ。そうしなければ、俺は……

 

 

 

 

 

 ボールダー隊の宿舎にて、灯りのない部屋にデビッドとチックが宝珠の前に跪いていた。

 宝珠は淡く輝き、空間に人の姿を浮かび上がらせている。

 ボーエンの父、バレリー・ボールダー伯爵その人である。

 

『それで、ボーエンの立てた計画は実行出来そうか?』

「は。他の十人長と連名で提出し、決済待ちです。書類に不備も、作戦に無理もありませんので、百人長も却下はできないものと思われます」

「受理した百人長が使いをだし、スラムに走ったのを尾行しました。犯罪組織の者と接触したのを確認しています」

『それならば拠点を変えて生き延びそうだが、スラムに手を入れることは出来そうか』

「おそらくは」

 

 チックは下っ端口調ではなく、デビッドは辿々しい話し方ではない。ボーエンが見れば目を丸くする事だろう。

 

『お前たちにボーエンの面倒を見てもらって早十年。成果はどうだ?』

「時折傲慢な部分が顔を見せますが、貴族の責務を果さんと邁進しております」

「貴族の鑑とまではいきませんが、面倒見のいいガキ大将と言えます」

 

 チックの口さがない言葉にデビッドが肘で突くが、バレリーは面白そうに大笑する。

 

『なるほどなるほど。言い得て妙だな。面倒見のいいガキ大将か。くはは!』

 

 バレリーの笑いが収まるのを待ち、チックが懸念事項を告げる。

 

「バレリー様。先に報告したボールダー領出身の討滅者ですが」

『うむ。アルサルとか言ったか』

「は。その者がボーエン様と対立しております。さらに、貧困層を手懐けて騎士団への不満を煽るような言動をしております」

『そうか……あやつの両親も法よりも感情で動く厄介者であったな。確か、反乱を企てた罪で処刑したかと思ったが』

「バレリー様の慈悲で、子には罪無しとして孤児院に送られたはずですが、この迷宮都市にて討滅者として名を挙げてきております。私の死角からの投石も難なくかわすほど」

『虎の子は虎。牙を抜けるはずもなかったか』

 

 バレリーは顎に手をやりしばし思考にふける。その間、デビッドもチックも微動だにせず待ち続ける。

 

『失われた五つ目の聖具の話を知っているか?』

「は。確か魔王の首を刈った聖鎌があると」

「ですが、あれは与太話の類では?」

『そのはずだ。処刑人の一族が密かに代々伝えていると。その一族は遵法精神に溢れていたが年代を重ねるにつれ、法に基かぬ自身の正義感で弱者の味方をするのだとか、貴族の統治を終わらせるのだとか。誰かを思い浮かべぬか?』

 

 バレリーの言葉に思い当たる人物が一人。

 

『そのアルサルという男。手が空いた時でよい。調べよ』

「はっ!」

「承知いたしました」

『くれぐれもボーエンを頼むぞ』

 

 消える映像と共に息をつく二人。

 

「チック、肝を冷やさせることを言うな」

「バレリー様も承知だ。笑ってたし、大丈夫だろ」

「お前な……まあいい。そろそろ夕飯の支度をするか」

「だな。ボーエン様の好物を作っておこう」

「美味しそうに食べるからな、あの方は」

 

 素に戻れるのはこの部屋の中のみ。部屋の外に出ればボーエンの言動に注意し、気を抜くとだらしなくなる生活態度を改め、護衛も務めなければならない。心の休まる暇はない。

 しかし、二人の顔に嫌気がさすことはないと確信がある。

 あの傲慢で怠惰で打たれ弱い、気が大きく向上心があり弱者を守る気概のある主人の世話をするのは楽しいのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またある日。

 何とか設定を引用して書き上げた小説をわざわざプリントアウトして、材木座と戸塚に見せている。

 コラムでも作文でもない文章を書くのは実に中学生以来だ。

 当時は厨二病真っ只中で、今読み返したら死にたくなるような、恥ずか死ぬ書き方だった。ある程度は俺も成長できたのだろう。

 人の設定で文章を書くのは始めてだったが、正直もうやりたくない。一から自分で考えた方が書きやすい。

 一度ドリンクバーにお代わりに行ったころに読み終えたようで、二人が俺を待っていた。

 

「すごいね、八幡。続きが気になるよ」

「そうか? とはいえ、この先はもう一生書く気はないけどな」

「えーっ、もったいないよ。設定も斬新だし、人気出ると思うな」

「疲れる」

 

 戸塚が気にいってくれたのならば嬉しいが、受験生にはキツい。

 そして材木座はと言うと、グヌヌと唸っていた。

 

「何だよ。何か文句あるか?」

「我の設定でこれを書くとは……ネトラレた気分だ」

「わけわからんこと言うな」

「ところで八幡。これ、前に八幡が言ってたチンピラ主人公なのかな?」

「んー、ボーエンが主人公でもいいけど、主役のつもりで書いた」

「主役? ドラ○もんが主役での○太くんが主人公みたいな?」

 

 戸塚のように察しがいいと話しやすいんだよな。材木座は何でも聞いてくるし。

 

「そんな感じだな。主人公はチックでボーエンの性格を貴族らしくするために昔から仕えてる」

「そっか。ボーエンが最後の方で成果を出さなきゃって言ってたのって、そうしないとボールダー領を継げないからとか?」

「おお、そこまで読み取ってくれるか」

「へへ、読んでてそうなのかなーって」

 

 行間や匂わせを感じ取ってくれるなら読ませ甲斐があるというものだ。

 

「しかし八幡! これではヒロインが出て来ぬではないか。イチャコラできないでは人気が出ぬぞ!」

「知らねえよ。どうしても出したきゃチックを男装してる女にしろよ。チボデーはサイ○ァーと風○○神イメージだ」

「何ぃ! 男と思っていたのに実は女だったなど、人気ヒロインの典型ではないか! 古くはど○ろ、お好み焼きうっ○ゃん、シャルルを名乗るシャル○ット、犬神の一族犬塚○ロ。幼なじみならなお良し。泥まみれで遊んだあいつと数年ぶりに出会うと美少女に成長していた。そう! この設定ならば、行ける!」

 

 材木座的にツボだったようだ。やかましい。

 

「なんかの捜査で女の格好をしてる時にボーエンに会ったのに気づかれなくてヤキモキするとか、実は気づいてるけど何か理由があると思って黙ってるとか。ま、色々できるわな」

「お主天才か!」

「女の子の格好の時にアルサルと会って気に入られちゃうとかもできそうだね」

「それワンチャンあるな!」

 

 戸部みたいな言い方するな、鬱陶しい。

 お前女だったのか、か。

 戸塚は実は……ってことはないか。残念。

 

「主人公がチンピラというか三下で女、異世界転生もしないから今の流行りとは合わぬであろうが」

「そこは書きようだろ。今は苦汁を舐めてるけど、後々民衆に受け入れられていく形にすればカタルシスを感じさせられる」

「そうか、ザマァもできるな」

「ザマァ? ってなにかな」

「うむ。ザマァとは……」

 

 鼻息も荒く揚々と語りだす材木座。ああ、一つ言い忘れた。

 

「ボーエンの口調とか性格とか、お前がモデルだからな」

「な、何ぃ! 八幡、そんなに我のことを」

「無駄に尊大な態度とか、周りに流されやすい性根とか、メンタルの弱さとか」

「ゲプワァッ!」

「ひどいんだ、八幡」

 

 だって書きやすかったんだから仕方ない。

 

 

 

 

 

*1
彩:あまりいい言葉じゃないよね 八:ドワーフのことなら土火人族とかにしとけ

*2
八:遣わされた

*3
彩:一文が長いね。途中で区切ったら?

*4
八:↑にもあるしくどい

*5
八:四。固有名詞は漢数字が一般

*6
八:同上

*7
彩:両腕、両足なら5つ以上じゃない?

*8
八:預言

*9
八:もっと短くまとめろ。預言をだらだら書くと神聖さが薄れる

*10
八:を

*11
八:いう

*12
彩:このルビいる?

*13
彩:数百年後なら↑の一文いらなくないかな。

*14
八:少年じゃねえのかよ

*15
八:出奔って逃げ出すことだけど故郷でやらかしたのか?

*16
彩:いきなり数年後?

*17
彩:急に雑になってない? 八:ヨイショがキモい

*18
八:適当にも程がある

*19
彩:ダイジェスト?

*20
彩:どういうことかな 八:怒ったのなら沸点低すぎる

*21
彩:騎士が警察だとするとご両親は犯罪者になっちゃうけど 八:出奔で合ってたのか

*22
彩:いきなりすぎない? 八:今のところただのイカレ野郎

*23
八:まさに正論

*24
彩:いきなり時代劇っぽい

*25
彩:主人公が騎士とこの人たちが大嫌いなのは伝わってきた 八:文章も表現もひどい。練り直せ

*26
彩:鏡見て 八:おまいう

*27
彩:やっぱりダイジェスト 八:民衆に向けられた蔑みの視線に、騎士たちは周囲を見渡す。とかかな。そもそも元の文自体変だけどな

*28
八:斬奸 悪者を斬り殺すこと。この程度で殺そうとするなよ

*29
彩:盗んだのこの子だよね 八:どいつもこいつもイカれてやがる。↓もな

*30
彩:ずっと転んだままだったの?結構やりとりしてたけど 八:台本形式にしてもヒドい

*31
八:雑な撫でポだな

*32
彩:起き上がらせてたよね?もう一回転んだの? 八:林檎を落としたのと女がいたこと描写しろよ

*33
彩:優しすぎない? 八:主人公が少女についたから乗っかったようにしか見えん

*34
彩:わかっててやったの? 八:乱暴とはいえ真面目に仕事してる人を殺そうとするなよ

*35
彩:この感想おかしくない?

*36
八:いい性格してる

*37
八:いいこと言ったつもりか?

*38
八:変にためるな




 物書きを趣味にしていると、書けるかは別にしてネタが溜まっていきます。
 この話は今回のために書き下ろしましたが、まだ日の目を見ないネタがいっぱい。
 当時斬新でもいつの間にか他の作品で使われてグヌヌとなることもあり、しかしながら日々の生活や仕事で書く時間が取れない。
 ま、仕事中に書いたりしてるわけですが。

 ほぼエタりかけてますが、ちびちび続けていきます。
 じゃあまた。


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男のロマン TURN INTO

長らく放置申し訳ない。
色々あって書けないでいたら鈍ってしまったのでリハビリがてら生存報告を兼ねて。

ちなみにですが、
雪ノ下 私
由比ヶ浜 あたし
一色 わたし 雪乃先輩 結衣先輩
小町 小町 留美にだけタメ語
留美 私 丁寧口調
で見分けやすくなるかも。

じゃあどうぞ。


 

 

「男のロマンの反対って何でしょうね」

 

 とあるマンションの一室で、少女が言った言葉に首を傾げる四人の少女。

 その内の一人、雪ノ下雪乃は呆れたように目を細め、ふうと一息つく。

 

「一色さん。あなた、比企谷くんに毒されすぎなのではないかしら?」

「うーん、先輩のせいだけじゃないですけど、ちょっと気になったんですよね」

 

 そしてポテチをひとつまみ。

 ここは雪ノ下雪乃の住むマンションの一室。女子会という名目で集まった見目麗しい五人の少女。

 

「この間ヒッキーと彩ちゃんと中二が喋ってたやつだよね、それ」

 

 いつもはお団子にしている髪を解いているため雰囲気が違う由比ヶ浜結衣。

 

「あー、そんなん話してましたね」

 

 あぐらをかいてユラユラ揺れている比企谷小町。

 

「ロボットがドリルがって言ってたあれですか?」

 

 一際小柄な唯一の中学生の鶴見留美。

 

「そうそう。男の人の燃える何やかんやがあるのはわかってるんだけど、女の子の憧れるテンプレ的なシチュエーションはなんて言うんだろうね」

 

 そして、言い出しっぺの一色いろは。

 彼女らは雪ノ下家のリビングにて、お菓子を囲みジュースを片手にだべっていた。

 そんな中、いろはが言い出したテーマが思いの外盛り上がることとなった。

 

「うーん。ロマンの反対だと……女のドリーム、とか」

「それだったら乙女のドリームの方が語呂が良くないですか?」

「女のリアルの方が反対になってそうな」

「反対にする必要はあるのかしら。そのまま女のロマンでいいのではなくて?」

「悪くはないですけども外連味が足りないじゃないですか」

「そもそもいりますか?」

 

 どれが誰の発言かは想像に任せるとして。

 

「みんなの彼氏との理想のシチュエーションってどんな感じです?」

「彼氏との理想って、イチャイチャする感じのやつ?」

「ですです。壁ドンとか顎クイとか色々あるじゃないですか」

「壁……顎? ごめんなさい。一色さんが何を言っているのか、よく」

「雪乃さんはそっち方面疎いですね」

「スラングには疎いのよ」

「どっちかと言ったら流行語だと思いますけど」

「留美ちゃんは知ってるの?」

「クラスの子が少女漫画の話してるので、門前小僧ですけど」

 

 ちなみに、ケレンって何味?や女の子なのに小僧?などと首を傾げていたのが一人いるのだが、割愛する。

 一区切りついたところで言い出しっぺがまた燃料投下。

 

「それじゃ、理想のシチュエーション暴露大会〜!」

「ドンドンぱふ〜。それじゃ言い出しっぺのいろはさんから」

「そもそもやるとは誰も言ってないのだけれど」

「わたしかー、そうだなー」

「……由比ヶ浜さん、私無視されたのだけど」

「あはは。いろはちゃんと小町ちゃんって、二人そろうとテンション跳ねあがるよね」

 

 呆れたような雪乃と苦笑いの結衣。実は似たような展開は何回かあったりする。

 

「顎クイも壁ドンも悪くはないんだけど、やっぱりあすなろ抱きかな」

「ああ、定番っちゃ定番ですね」

「それって、後ろからギュッとハグされるやつだっけ?」

「そうなんですけど、わたしはむしろ自分がハグする方ですかね」

「……留美さんは知っているのかしら?」

「ええ、まあ。母と再放送のドラマを見てた時に教えてもらいました。当時かなり流行ったらしいですよ」

 

 ちなみにやりかたはいくつかあるが、定番なのはおんぶのように首に手を回して抱き着くやり方である。

 名前の由来となったドラマでは激しく愛を表現するのではなく、しみじみと切なげであったのでハグもまったり気味である。

 女性からの場合、男性より身長が低いことが大半であるのでソファに座っていたり、床に座ってテレビを見るなどしている後ろから不意打ち気味に行うのが、やはり定番と言える。

 

「ちなみに理由は?」

「うーん。わたしの好きな人が良く言えば控え目だから、こっちから行かないとダメそうだから、かな」

 

 またまたちなみに、いろはの好きな人というのが全員の知己であり、さらにはそれぞれが好意を向けているため、一同に一瞬緊張が走る。

 

(いろはさんのあすなろ抱き……こんなんかな)

 

 ただ一人。該当人物の妹である小町はそのシチュエーションに想いを馳せていた。

 

 

 

ホワンホワンホワンいろいろ〜

 

 

 

 ある日の放課後。夕日差す生徒会室にて。

 

「先パーイ、もう終わります?」

「んあ? あー、もうちょいだな」

「えー、わたしの分終わってるんですから、早くしてくださいよ」

「お前な、そもそも奉仕部の俺がやる仕事じゃないだろうが。手伝ってるのになんつう言い草だ」

 

 二人きりの生徒会室。自分の割当作業を終わらせたいろはは、椅子に座り机に向かって作業する男の後ろに回る。

 

「感謝してますよ? でも、そろそろ帰りたいじゃないですか」

「明らかお前や他の連中より俺の分が多く感じたのは気のせいじゃないよな」

「やだなーそんなわけないじゃないですくぁ」

「わかりやすく棒読みだな、おい」

 

 気のせいではなく割当は多くしている。

 他の生徒会役員を先に帰らせ、二人きりになるため調整したのだ。

 普段は死んだ魚のような目をしているが、真面目な時はそれなりにイケてるその男。しかし、いろははどんなときでも、それこそ締め切りに追い詰められた死にそうな顔だとしても見ていたいと思う。

 しばらく作業が続き、いろはは男の後ろで待機している。

 

「ねえ先輩。もうすぐ卒業ですね」

「ん、あー、そうだな」

「どうでした、三年間。というより、わたしが生徒会長になってからの一年半くらい?」

「いらん仕事が増えたし受験勉強の時間削られるしで災難だったわ」

「……そう、ですか」

「だけど、まあ。貴重な体験をしたのは間違いないな」

「え……?」

「楽しかったんじゃねーの、他のやつは知らんけど」

「っ……せ、先輩。俺の高校生活はわたしのおかけでバラ色だったくらいのこと言えないんですか。やり直しです」

「少なくともバラ色ではなかったな。結局俺を養ってくれる人も見つけられなかったし」

「先輩、まーだ専業主婦の夢捨ててなかったんですか」

「起きてる時の夢は見るものじゃなく叶えるもの。捨てるものじゃなく諦めるものらしいぞ」

「彼女もいないのに」

「夢見る権利は誰にもある。諦めなければ、いつか、きっと」

「いつかとか言ってるんじゃダメダメですよ。すぐ行動しなきゃ」

 

 こんなふうに……

 いろはは、男の後ろから首に手を伸ばし、優しく、しかし逃さぬようにギュッと抱き締めた。

 

「お、おい」

「ねえ、先輩……わたしじゃ、ダメですか」

 

 胸のドキドキ、聞こえるかな。

 伝わるかな、わたしの好きな気持ち。

 届くといいな、精一杯のアイ・ラブ・ユー。

 

 

 

ホワンホワンホワン〜

 

 

 

(みたいなお花畑ポエム追加した感じで。いろはさんすらっとしてるけど結構ある(・・)から、あのスタイルなら十分あててんのよができる)

「小町ちゃん、どうしたの?」

「え、なんですか結衣さん」

「なんか、ボーッとしちゃってたけど」

「ああ、いえ。ちょっと考え事を。それじゃ次は誰です」

「続けるのね、これ。もしかして全員分聞くつもりかしら」

「何言ってるんです雪乃さん。当たり前じゃないですか」

「……はあ」

「それじゃ、私がいきます」

「お、留美ちゃん。乗り気だねえ」

「後に回ると面倒な予感がしたので」

 

 危機回避能力が発達している中学生と、ピンと来ていない高校生。雪乃は首を傾げていた。

 

「私はいろはさんとは逆ですかね」

「というと、一色さんの言っていたあすなろ抱きというのをされたい方?」

「はい。分類が同じにはなるんでしょうけど、胡坐かいているところによりかかるような」

「あー、留美ちゃん小柄だから、すっぽりはまっちゃいそう」

「本とか読んでそうですね」

「のんびりまったり、静かな時間を過ごすのはいいですね」

 

 そしてまた、いかがわしいことを考えているのが一人。

 

(留美ちゃんのあすなろ抱き……はっ、これは!)

 

 小町は目を輝かせた。

 

 

 

ホワンホワンホワンるみるみ~

 

 

 

 小町とその兄が住む実家であるところの比企谷家。両親ともに共働きで不在気味というラノベにありがちな環境。

 とある日。小町が帰宅すると、来客が兄とかなり緊密な距離にいた。

 

「ただいま〜、留美ちゃんいらっしゃい」

「おけーりー」

「小町さん、お邪魔してます」

 

 あぐらをかいて床に座り本を読んでいる兄と、その兄に座り同じく本を読んでいる留美。

 端から見れば仲の良すぎる兄妹である。実の妹を差し置いて。

 しかし小町はうろたえない。もはや見慣れた光景だからだ。

 

「もう、お兄ちゃん。お客さんに飲み物も出さないとか、どういうことよ」

「ん、そういやそうか。留美何か飲むか」

「ううん、大丈夫。小町さん。お構いなく」

「そういうわけにいかないよ。ちょっと待ってて」

 

 小町がキッチンへ向うと同時、八幡が身動ぎする。

 

んっ、八幡。動かないで。小町さんいるでしょ

おっとすまんすまん

 

 兄が何をしたのやら、留美に怒られている様子。しかし、気のせいか。留美の声が焦っているような。

 

「あれ、留美ちゃん。ほっぺた赤いよ。暑いかな、エアコン消す?」

「え、いえ。小町さんに見られてると思うと、急に恥ずかしくなってきて」

「だったら降りるか?」

「……降りない」

 

 仲のいいことだ。少し前ならお兄ちゃんが取られたと嫉妬するところだが、小町は出来のいい妹なので生暖かく見守ります。

 

あ、やっ……もう、()()()()()()

気づかないだろ。小町鈍いし

 

 いや、まあ。気づいてるんですけどね。ってか妹の前でナニしてるんだか。

 留美ちゃんのロングスカート、腰の位置、火照り具合、実は聞こえているコソコソ話。これはまさに!

 

 

 

ホワンホワンホワン〜

 

 

 

 

(ってな感じで、これ絶対入ってるよね状態に)

「小町ちゃんがまたボーッとしてる」

「それなりに付き合いが長いから何となくわかるのだけど、この子がこういうふうになった時って、ろくな事考えてないのよね」

「あー、言われてみれば」

「それって、私のことで変なこと考えてることに」

「まあいいじゃないですか。それじゃ、次は結衣先輩行ってみません?」

「うぇっ、あ、あたしかー」

 

 頬を赤くしどういうのがいいかなー、と考えている結衣の様は、この中で一番年長(誕生日が早い)とは思えないほどに幼く、可愛らしいというのに、発育の暴力という上乗せ。聴き逃がせないぞとキラリと目を光らせる小町であった。

 

「あたしは、そうだなー。膝枕して耳掃除とかしてあげたい、かな」

「結衣さんらしいですね」

「してもらうじゃなくしてあげるってあたり、結衣さんぽいですね」

「え、そうかな」

「そうね。由比ヶ浜さん、奉仕体質というか母性的というか」

「あ、わかりますそれ。結衣先輩、人に何かをしてあげるのを苦とは思わないでしょう」

「そ、そうなのかなー。なんか急に褒められちゃうと照れちゃうな」

「ただ、鼓膜を傷つけないか心配ね」

「それもわかります。不器用そうだし」

「ゆきのん、いろはちゃんひどい!」

 

 あははーと笑っていたのが瞬時にいじられる。この親しみやすさも愛される要因だろう。

 知らない者はいないとは思うが、膝枕とは太腿を枕に見立てた、古くは枕草子にも登場する古式ゆかしい親愛の行為である。

 ちなみに膝枕じゃなく腿枕ではとの指摘もあるが、諸説あるが、膝とは膝から上の腿までを指すので膝枕でよいのだとか。

 それはさておき、

 

(結衣さんの膝枕……きっとすごいことに)

 

 またもや思考にふける小町だが、そろそろ誰もツッコまなくなっていた。

 

 

 

ホワンホワンホワンゆいゆい〜

 

 

 

 いつか、どこかの部屋で、結衣はソファで八幡の隣に座っていた。状況が雑とか意見は聞かない。

 本を読んでいた八幡があくびをする。

 

「ヒッキー、眠いの?」

「あー、昨夜ちと夜ふかししちまったからな」

「そっか……じゃ、じゃあさ。膝枕、してあげよっか」

「……膝枕?」

 

 ぎこちなくもモモをポンポンと叩き、おいでと誘う。これに逆らえる者がいるだろうか。いやいまい。

 

「……んじゃ、お邪魔するかね」

「もう、そんなこと言って」

 

 横になる八幡。布越しだが伝わってくる柔らかさと暖かさに、ちょっと居心地が悪そう。

 横目に見上げれば山があり、見えないのだが嬉しそうに笑みを浮かべ、ちょっと固めの髪質の頭を撫ぜる。

 しばし穏やかな時が流れて。

 

「ヒッキー、耳掃除いつした?」

「ん、言われてみりゃ最近してないな」

「やっぱり? ちょっと汚れてるかなって」

「マジか。綿棒どこあったかな」

「だぁめ。ヒッキーは疲れてるんだからゆっくりしてないと。あたしがやってあげるから」

 

 そしてどこからともなく耳かきを出してくる結衣。準備万端である。

 

「まだ鼓膜を無くしたくないんだが」

「もう、イジワル言って。優しくするから、ね?」

「お、おう」

 

 目をつむりじっとしている八幡。そのせいか、頬から伝わってくる温度やら顔を固定してくる手の柔らかさやらが気になって。

 

「んー、見づらいな。よっと」

「お、おい」

「もう、動かないの」

 

 身を乗り出してくるものだから顔が見えない原因となっている双子山が迫ってきて潰されて。

 全く動けなくなってしまった。

 

「お、大物発見〜と、取れた!」

「お、おう。さんきゅな。もういいよ」

「何言ってるの、ほら、反対側も」

「……結構、押し強いよな、お前って」

 

 今度は反対側を向かされて、お腹を目の前により圧迫感を増した耳掃除が行われた。

 

 

 

ホワンホワンホワン〜

 

 

 

(こうなるよね、結衣さんなら。ガードは固いけど距離感近いって。男の理想なのではなかろうか)

「小町ちゃんはどこかの世界に旅立っているようです」

「それじゃ、ゆきのんの聞いておこうか」

「私やるとは一言も言っていないのだけど」

「みんなの聞いておいてそれは通じませんよ」

「それと、誰かのと同じのは厳禁です」

「……留美さん、これを読んで先に話したのかしら」

「こういうのって残り物に福がないんですよ」

 

 むうとうなる雪乃。考えたこともないのか、中々出てこない。

 

「誰と何したら楽しいかで考えたらどうです? 身近な男性で」

「私は、別に。比企谷くんと何したところで楽しいだなんて」

「……まだお兄ちゃんとは一言も言ってないんですが、まあ、雪乃さんがお望みなら思う存分お兄ちゃんを使ってください」

「ゆきのん、あたしが言うのも何だけど、ポンコツだなあ」

「可愛いですけどね」

 

 生暖かい目で見られて頬を赤くする雪乃。

 そうして、思いついたのか口を開く。

 

「ええと、そうね。比企谷くんは全く関係ないのだけれど」

「はい」

「横に並んで一緒に何かしたいかもしれないわ。例えば、料理とか」

「ちなみにうちの兄はそこそこ料理作れますよ。本人は大したことないとか言って作りたがらないですけど」

「そういえば、小町ちゃんが作るまでは先輩が作ってたんだっけ?」

「うう、あたしより上手なのは確実なんだよね」

「あの、比企谷くんは関係ないと言ったのだけど」

「むしろ、この状況で雪乃さんの隣に八幡がいないのは無理があるかと」

「えっと、その……そうなのかしら」

 

 またもや頬を染めむうとうなる雪乃。

 そしてまたもや目を光らせるのは小町であった。

 

(料理、エプロン、新妻……というより団地妻)

 

 なにやら不穏な言葉がまざりつつ、

 

 

 

ホワンホワンホワンゆきゆき〜

 

 

 

 前置きはなく、いきなり二人並んで料理をしている。おそらく、同棲しているのではないか。

 猫のかわいいエプロンと、色は黒だが同じデザインのおそろいのエプロン。ペアルックである。

 無言で野菜の皮むきをしている八幡。手際よく汁物を作っている雪乃。

 

「はい」

「おう」

 

 皮むきが終わった八幡に、タイミングよく包丁を手渡す雪乃。

 

「ほれ」

「ええ」

 

 先程まで揉み込んでいた塩を雪乃に渡す八幡。

 おわかりいただけただろうか、この二人。会話もアイコンタクトもなしに意思の疎通をしている。

 

「ん」

「はい」

 

 流れるような連携で皿に乗せ、完成。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 特に会話もなく食事。その中でも言葉もなく醤油を渡し、コップが空になる前に水を注ぐ。

 この場に小町がいれば熟年夫婦かとツッコミをいれることだろう。

 そして食後。皿を洗う八幡に果物を剥きコーヒーを淹れる雪乃。

 並んでソファに座り、テレビを見て……夜になったらやることは一つ。

 

 

 

ホワンホワンホワン〜

 

 

 

(雪乃さんは腰から脚のラインがきれいなんだよな〜。はだエプが似合いそう)

「どうしてこの子は毎回こうなるのかしら」

「たぶん思春期ですよ」

「小町ちゃーん。小町ちゃんの番だよ」

「おっと。小町の妄想垂れ流しの順番ですね」

「今までのそういうふうに思っていたんですね」

「でもなー。うーん」

 

 頭を悩ませる小町。まさかの滞りである。

 

「小町さん? あなた、色々言っておきながら自分のは言えないのかしら」

「いや、そういうわけじゃないんです」

「思いつかないとかですか?」

「ううん。お兄ちゃん相手にやったことがあって、キュンしたのどれだったかなって」

「ん? 先輩にやったことって、イチャイチャシチュエーションを?」

「そですよ」

 

 顔を見合わせる。

 まさかの恋人との理想のシチュエーションの話から自然と兄とのあれこれを語る妹であった。

 しかも効果があったこともあるらしい。

 

「ちなみに、ヒッキー相手にどんなことやったの?」

「みんなが言ってたやつはどれもやったことがありますよ」

「えっと、あすなろ抱きも膝枕も並んで料理も?」

「まあ、一緒に住んでればそれくらいは」

 

 普通はしない、とツッコミたくなったがこらえる。

 サラッと言っているが煽られているかのようである。

 

「じゃあ、彼シャツは?」

「兄シャツですけど、ありますよ。呆れてましたけど」

「壁ドンとか」

「小町がお兄ちゃん問い詰めるときに。胸ぐら掴んで顎グイもしましたけど」

「床ドン!」

「お兄ちゃんの上で寝っ転がったときに似たような体勢には」

「えーっと、えっと、くすぐり合い、とか」

「あー、昔ありましたね。お兄ちゃんが小町の胸触ってからやらなくなりましたけど」

 

 結衣といろはが羅列するもその全てに対応する小町。

 小町ちゃんおそろしい子と驚愕する。

 

「何を言っているのか、よくわからないのだけど」

「奇遇ですね雪乃さん。私もあまり」

「基本に戻って頭ポンポンとか普通にハグ」

「普通にしますね」

「あ、私もよくされます」

「留美さん?」

 

 こうして夜は更けていく。

 

 

 

 

男のロマン TURN INTO 乙女のドリーム

 

 

 

プラス 妹は思春期

 

 

 

プラス 他のメンツも思春期

 

 

 




R15にはなりませんよ。
性的描写なんてありませんもの。
ただ、思うのは自由です。
他のメンツも小町と同じような事考えてるとか、ねえ。

まだつらい日々が続くでしょうが、皆様ご自愛くださいますよう。
それじゃあまた。


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