Muv-Luv -a red shiver- (北方線)
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プロローグ

久しぶりににこにこできるサイトでテッカマンをみてむらむらしたので書き始めました。SS自体は執筆経験があまりないので生ぬるく見守ってください。
基本投稿は不定期になります。


オービタルリング内部 

 

 かつて世界を救うために建造された人類の叡智の結晶オービタルリング。その姿に

当時の壮大さはなくいたるところから爆発が起きていた。

 そしてオービタルリング内部、燃え盛る炎の中で、一つの命が消えようとしていた。

赤き魔人は白き魔人に倒され、愛故の憎しみから解放された。そしてそれと同時に、

解放された命を散らそうとしていた。

 

 

 

「シンヤ…」

 

 

 

白き魔人、テッカマンブレードはその腕に赤き魔人、テカッマンエビルだった青年、

相羽シンヤを抱き呟く。その体は予想より軽く、まるで何かが抜け落ちているようであった。

 

 

 

「兄さん、悪い夢を見ていたみたいだよ」

 

「シンヤ…お前、元に…」

 

 

 

ブレードに抱えられ目を開けたシンヤは、テッカマンとなりエビルとして殺しあっていた

時からは考えられないほどのやさしい顔だった。

そしてシンヤはわずかに 顔を傾け呟く。その視線の先には黒くうごめく影があった。

 

 

 

「兄さん、足元を見てみなよ。そこに虫みたいなのがいるだろう」

 

 

 

シンヤが示す先に居たのは、瓦礫や炎に阻まれ辺りをうろついている

拳程度の虫のような生物だった。

 

 

 

「こいつは!?」

 

 

「そいつがラダムの本体さ。ラダムは元々寄生生物なんだ。身体を持たず脳髄だけが高度に進化した知的生命体かもしれない。

どんな環境だろうと高等生物の身体を奪うことでその星を支配できるからね」

 

 

 

シンヤの話を聞きブレードは驚愕し、そして怒りをたぎらせる。こんな小さなものに

、こんなもののせいで愛していた弟と争い、愛していた妹を失い、尊敬する父を失った。

そしてまだ倒さねばならない家族、その呪縛が怒りの炎を激しく燃え上がらせる。

 

 

 

「こいつがお前を! もっと早く気づいていればお前をもとに戻すことも…」

 

「それは無理だよ兄さん。僕はもうすぐ死ぬから、だからラダムは僕を見捨てたんだ。

仕方ないことだったんだ…っぐぅ」

 

「シンヤ!」

 

「大丈夫だよ…。今、世界で生み出されている素体テッカマンは彼らの肉体なんだよ。

…兄さん、ありがとう。僕と本気で戦ってくれて」

 

「もうしゃべるな…」

 

「もともと無理なブラスター化でボロボロだったんだ。最後に兄さんと全力で戦えて

嬉しかったよ」

 

 

 

シンヤがしゃべり終えた瞬間オービタルリングを激しい衝撃が襲った。その衝撃で

ブレードはバランスを失いシンヤも床へと身体を投げ出した。

 

 

 

「これは!?」

 

「Dボゥイ! ラダムがここに攻撃を仕掛けてきてるわ!!」

 

 

 

戦いを見守っていたアキが息を切らせながら二人の元に駆け込み,

その情報を聞き戦いに行こうとするブレードを立ち上がったシンヤが制する。そして

その手には赤いクリスタルがしっかりと握られていた。

 

 

 

「大丈夫だよ兄さん…。僕がいる…。僕が兄さんのために戦うよ…テックセッター!」

 

 

 

そう言ってシンヤは再び赤き魔人となり、背後からかけられる兄とその仲間の声を背に、

燃え盛る炎の中へその身を奔らせた。残るわずかな炎燃え上がらせて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オービタルリング外縁部

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 

 

エビルはオービタルリングに取りついているラダムをテックランサーで切り裂き、ブーメランのように刃を展開させ投げつける。

その先にいたラダムは体を真っ二つに切り裂かれ、そのラダムの死体によって作られた道をエビルは

駆け抜けていった。上下左右から次々に押し寄せてくるラダムをラムショルダーで切り裂き、

空間に余裕ができたところでラダムに突き刺さっていたテックランサーを回収した。

そして多くのラダムを殺したところにブレードが追いつく。

 

 

 

「シンヤーッ!!」

 

「何をしている兄さん! 早く月へ向かえ!! そこにオメガが、ケンゴ兄さんがいる!!」

 

「だがっ…」

 

「俺は、もう助からない…ならば、残り少ない生命、兄さんのために、家族のために使う!!

行くんだタカヤ兄さん! そしてケンゴ兄さんを、俺たちの宿命に終止符を打ってくれ!

それが俺の、いや俺たち家族の願いだ!!」

 

 

 

そう言ってシンヤは再び群がってくるラダムを切り裂いていく。その姿を見送りブレードは

背を向ける。そして悲しみの雄たけびを響かせ月へと飛び立った。

その姿を視界に収めながらエビルは残っているラダムを正面へと回す。

 

 

「兄さん…これが俺に出来る最後の事だ…今までありがとう、兄さん…そして

ごめんよ…」

 

 

ブレードを追おうとラダム達が我先にと押し寄せてくる。そんな奴らを体の真正面にとらえ、

エビルは身体に残っている力を振り絞り胸を前へと突き出す。そして徐々にレンズへ光が

集まり、赤い命の光を迸らせた。

 

 

 

 

「ボルテッカァァァァァァーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

その赤い光に飲まれたラダムは原子レベルから消滅しその先には何も残っていはいなかった。

そしてエビルもまた、赤い粒子を自分のいた空間に残し、その姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第1話 赤の目覚め

今回会話ないです。てかセリフがほとんどないです(・・;)
一応次話からセリフとか増えていくと思うのでご容赦を
誤字脱字などありましたら報告お願いします。
皆さんに楽しんでいただけるようにこれからも書いていきます。


京都市街地

 

 

ビルの屋上中央部に一人の男性を中心地として放射状に広がるあさいクレーター。ちょっとした衝撃ですら崩壊しそうな建物の屋上に彼、相羽シンヤは確かに存在していた。体から多少の血が流れコンクリートを濡らしている。傍目に見たら死んだようにも見える。しかし、その胸は確かに上下し生命の鼓動を刻み、そしてその傍らには赤いクリスタルが微かな輝きを放っていた。

 

 

そしてどれ程時が流れたか、長かったのか短かったのか、流れ出た血が固まりきらない時間を掛け、相羽シンヤはゆっくりと目を開けた。

この新たな戦が蔓延る世界に産声をあげたのだ。

 

 

 

 

「・・・ここは、どこなんだ。僕はなぜ生きているんだ・・・」

 

 

 

 

軋む体に鞭を打ち辺りを見渡したシンヤは最期の瞬間を思い出していた。

兄を送り、ラダムに向けてのこる力すべてを込めたボルテッカを放ち自身は意識を失った、いや生命を散らせた筈だった。

しかし実際自分は何処だかは分からないが生きている。夢か死後とも考えたが、自身の手に握りしめたテッククリスタルがこれは現実だと教えている。

死んだのであれば憎しみしかわかない自分にとってのラダムの象徴までついてくるなど冗談ではない。

 

 

少しの時間思考に耽っていたシンヤだったが生きている以上行動をしなければ、と動き始めた。

タカヤ兄さんとケンゴ兄さんの戦いはどうなったのか、また地球のラダムはすべて倒せたのか、

ラダムの支配から解放された彼はただ一人の人間として、優しい心を持つ人間として地球を心配していた。

 

 

シンヤは崩れそうなビルをかけ降り、近くになにか目印はないかと探し始めた。また幸いというべきか、ラダムに改造されたおかげで治癒能力は常人よりはるかに高いためある程度キズがふさがっていた。

捜索に支障はない、シンヤはそう判断したゆえの行動だった。またビルがあるということはそこそこの都市なのだろうから簡単に情報も手に入る。それにラダムがいたとしても、皮肉にもテッカマンになることはできる。故に対処も可能だろう、とシンヤはそう考えていた

 

 

捜索はスムーズに進んだ。求めることが何一つ出てこずに、という意味で。

そして捜索して見つかるのはなにかおかしいものばかりだった。

 

 

 

廃墟には見えない街、にも関わらず人一人見当たらず、

道に落ちている新聞等に書いてあることもラダムに関してはなに一つ触れていない。

触れてないというより、ラダムではなくBETAという生物がいるというのだ。

そして西暦という年号。それはすでに旧暦であり本来連合地球暦が今の暦のはずなのだ。

今いる地名は分かった、それだけが収穫といえる。そこかしこに散乱している看板や新聞にも京都と書かれているのだから

これで分かるなというほうが無理であろう。

 

 

シンヤは京都だということを理解すると捜索中に得た新聞や雑誌を片っ端から読み漁った。

その最中、シンヤのテッカマンとしての超人的な感覚が何かが近づいていることをとらえた。

もともとテッカマンの中でも前線部隊トップといえるほどの能力を誇っているため探査能力も優れているのだ。

 

 捉えたものをはっきりさせるため、さらに感覚を研ぎ澄ませていくと

その何かは確実に自分の所へ向かって来ていたのだ。

またその速さは人ではない、しかしだからと言って車やバイクかと思えば地面を踏み締める音がするのだ。

少なくとも人間ではない、そう考えたシンヤはテッククリスタルを構え音の正体の出現を待った。

 

 

そして、それらは現れた。醜悪な見た目をした化け物が。

像のような鼻を持つが二本足でたち血に染まっている化け物が、

蜘蛛のような見た目をしているが車ほどに大きく赤黒い見た目、歯を剥き出したような化け物が。

この世界を滅びに向かわせている元凶であるBETAが。

 

 

シンヤはそれに軽い嫌悪感を覚えた。まるでラダムを思い出させる禍々しい見た目。ある意味ラダムより生理的に気持ち悪いかもしれない。

化け物どもがこちらに向かって来たときには、シンヤは既に行動を初めていた。その手に握っていたテッククリスタルを空に掲げる。

 

 

 

「テックセッター!」

 

 

 

その掛け声と共にシンヤの体は赤い光に包まれ次の瞬間にはシンヤはより二回りほども大きい赤い魔人、テッカマンエビルが佇んでいた。

 

 

 

その姿をみて、一瞬動きが止まった化け物だったがすぐエビルへと向かってくる。シンヤはテックランサーを出しそれを十字に展開してブーメランのように投擲した。その進路にいた化け物は豆腐でも切るように次々に切られ体液をまきちらしその体を地面へと沈めていった。

一撃でおよそ半分程になった化け物をみてエビルはテックワイヤーでテックランサー回収した。

 

 

なるほど、耐久力はたいしたことはないな…。

 

 

万が一、自分クラスの耐久力をもつものが大量にいてはたまらない、そう考えての牽制と様子見を兼ねての攻撃だったが予想以上の結果をもたらしてくれた。

動きも特別早くなく耐久もないとなれば特におそれることもない。そう考えた。

 

 

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 

 

エビルは掛け声と共に距離を詰めテックランサーを横に薙ぎ払った。ただの一振り、それだけで前方の敵を切り伏せた。

そして回り込むように近づいてきていた化け物を察知し、真上に飛び上り化け物の包囲から抜けた。そして後ろに存ずる敵に向かい強襲をかける。

後ろににいた赤黒い蜘蛛等は人のような手を使いエビルを捉えようとするが、その手がエビルに触れようとすると、次の瞬間には体が真っ二つにされ二度と動きだすことはなかった。包囲されかけても独楽のように回りながらテックランサーをふるうだけで次々に死体の山が積みあがっていく。

 

 

エビルによる圧倒的蹂躙劇はものの数分で終わった。

血の池のような死体の中心にエビルは孤独な王の如く佇んでいた。

 

 

 

なんだ、異星生物といってもこの程度か、見た目だけでなくラダムと力も変わらない、飛ばない分弱いかもしれないな。

 

 

 

そう思いまた情報を集めようとしたエビルは激しい振動をとらえた。先ほどとは比べ物にならない規模であり、その数は先ほどの比ではないことが分かった。大した力があったわけではないが

どれほどの数かわからない相手と戦うべきでない、とエビルは判断しこの婆を離れようと考えた。

 

 

だがシンヤはその振動の先に化け物とは違う感覚があることに気がついた。なぜかは分からないが、ふと気になり、それを見るために空に飛び上がり何かを確かめた。それは、ロボットともいえるもので、向かってくる敵に銃撃を浴びせ続けていた。かつて戦ったソルテッカマンよりも大きくその形状からおそらく中には人がいるのだろう、とあたりを付けた。そのロボットは腕に損傷を負っておりこのままでは化け物に殺られるのも時間の問題に思われた。

 

そしてエビルはあのロボットを助けるべきか迷った。見ず知らずの相手、ましてやまだ自分の状況すら満足に把握出来ていない以上、下手に動くのは危険だと思っていた。

なにより自分は人間にとって恐怖の象徴ともいえるテッカマンエビルなのだから。自分の仮説が正しいかはまだ分からない以上、人間は自分を敵だと思っている可能性もある。ここは先のことを考えてまずは自身の安全を確保するべきだと思った。

 

 

しかし、ふと自分のタカヤ兄さんならばどうするか、と考えた。

 

 

 

迷うことなく助けるだろうな…。

 

 

 

と苦笑交じりに結論付け、兄さんが助けるなら僕もやらなくちゃね、と軽い対抗心を出して、人を助けるために動き出した。



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第2話 赤い戦慄

どうにもシンヤ君像がはっきりしてこない。
まあうちのシンヤ君はすこし感情的ってことでお願いします(汗)


京都市街地

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

男は持ちうるすべての砲門を迫りくる敵、BETAに向けた。

つい数十秒前自らの教え子たちが進んだ道へ進ませないために。

今の自分の体ではまともに機体を動かせない。そして機体自身も損傷している。そうな長くは持たないだろう。

である以上未来がある者たちに全てを託し自分はここで礎になろう。

男はそう考えてトリガーを引き続けた。突撃級には正面からではほとんど火器が

意味をなさない。しかしただひたすらに進みくるBETAに撃ち続けた。

身体に次々に打ち込まれた弾丸により倒れる要撃級や突撃級、そして巻き込まれつぶれる戦車級。

 

しかし次々に屍を乗り越えくるBETAについには銃弾がつき残すは自決装置のみになっていた。

 

 

 

「…ここまでか」

 

 

 

男は流れ出た血のせいで意識は朦朧としながらも最後の手段を使おうとしていた。

 

幸い機体の動力自体は問題なく稼働している。稼働をエネルギー臨界まで

上昇させ、自爆すれば

ここらに集まったBETAを葬るには十分過ぎる火力だ。

 

 

 

そういやあ小させぇ頃花火とかすきだったなぁ…、まさか自分が玉になるとはあの頃は考えもしなかったぜ。

 

 

 

男はそう自嘲しながらも動力の稼働状態を臨界値ギリギリに上げ、

自決用爆弾の起動準備を行っていった。

そして、早く早く近づいてこい、とBETAを急かした。

 

 

だが肝心な所で不運は襲ってくる。

自決装置の回路に異常が起き即座に発動ができなかったのだ。

どんなに起動しようとしてもタイマー設定になり爆発まで50秒はかかってしまう。

それでは意味がない。もうBETAは目の前にいるのだから。機体に武器はもうない。抵抗もできない。

 

 

 

「最後の最後でこれか…しまらんな。すまんな、ひよっこども」

 

 

 

彼はおのれの不運、絶望を感じ、目の前からの死を与える衝撃に目をつむった。

 

 

 

 

 

しかし数秒しても何も起きない。死とはこんなものなのか、と

男はいぶかしく思い重たい瞼を開けた。そして目の前に広がる光景に衝撃を受けた。

なんと自分の目の前にいたはずのBETAの大半が地に体液をまきちらし絶命していたのだから。

 

そして、ふと視線をその奥向けると、

そこには赤い姿をした戦術機、ではない人型のなにかが、一方的にBETAを

蹴散らしていたのだ。

 

赤い人型が手に持つ剣を振るえばBETAの頭部が飛び、

剣をブーメランのように投げたかと思えばそれは勢いを失うことなく

突撃級の堅牢な外郭にさえ阻まれず地面に刺さりようやくその勢いを止めた。

そして赤い人型はその剣にワイヤーを飛ばし剣を捉えると鎖鎌のごとく

振り回しBETAに死を与えていく。

その戦いぶりから赤い人型はBETAの命を狩りに来た地獄の使者にすら見えた。

 

 

 

男は一瞬その戦いに目を奪われたが、自決装置のカウント音に我を取り戻した。

 

 

タイマーのカウントは確実に進んでいた。赤い人型の奥からはまだ無数のBETAが押し寄せてきている。いくら赤い奴が強いとはいえすべてを食い止めるのはおそらく無理だろう。なによりこれ以上進ませては新人の後ろに行かれてしまう。食い止めるためには大規模な爆発でまとめて吹き飛ばすしかない。今まで赤い奴の情報を得たことはないし、通常時ならば絶対に信用などしない。

しかしあれは少なくとも自分を守るように戦っている。ならば現状味方でないにしろ敵ではないと判断した。

そしてオープン回線で通信を入れようとした。

しかし、あちらが回線を閉じているためか通じなかったため外部スピーカーで赤い人型に呼びかけた。

 

 

 

「赤い人型!、誰だかは知らんがここはいい!

俺の後方に向かったヤツらの援護に行ってくれ!!」

 

 

 

赤い人型はワイヤーを引き手に戻した両刃の剣を一薙ぎし、自身の周囲の敵を切り裂くと跳躍し

男の機体のすぐ横に降り立った。

大きさ的にはパワードスーツ程度なのにあの戦闘力そしてまるで本当の人間みたいな動きをする。

これは本当に中に人間がいるのか、人間の技術なのか、もしやこいつは新しい…。

 

 

 

「・・・それは君を見捨てていけ、そういうことでいいのかい?」

 

 

 

 

自分の言葉が通じたことで少なくともこいつもBETA、ではないにしろそういった類のものであるという最悪の状態でないことに男は安堵し、また赤い人型、エビルの声を初めて聞いた男はその声の若さに内心驚きながらも肯定の声を上げた。

その言葉に少し考える仕草を見せた赤い人型は、少し軽い言葉で告げた。

 

 

 

 

「どの道俺はもう持たん。貴官のおかげで時間は稼げたが

ここでやつらを食い止めねばこの先の防衛線までも喰い破られかねん。

頼む!」

 

 

 

素性もわからぬ謎の人型、それに頼るのもいささか危険、軍人としては失格ともいえる。

だが自分の勘、死に瀕し極限まで高まったそれがここは信じろ、そう訴えていた。

死の間際で思考がくるっているのかもしれない。だが、ここは、最後の己を信じるのみ。

自爆までの時間は残り10秒を切った。もう猶予はない。

男はわずかに残った力を振り絞り機体をBETAに向けて突撃させた。

 

 

 

「頼んだぞ! 赤き武者よ!!」

 

 

 

エビルが止める間もなく男はBETAの中心まで突撃し、そして光となった。そしてその強大な余波を浴びながらも微動だにエビル。

 

 

 

「まったく、俺の答え聞いてないよね。…でもここまでやったんだから

無視するつもりもないけどね。それに、どうにも心が昂ぶってくる」

 

 

 

こんなに感情的じゃなかったはずなのにね、そう零しながら

エビルはまだ燃え盛り辺りを照らす町に背を向け、示された方向に全力で飛行し始めた。男の最後の願いを果たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市街地外縁付近

 

 

 

 

 

唯依は己を守ってくれた瑞鶴を見上げ一言感謝を述べた。そして仲間が落ちたと

思われる方向へと向かった。

少し進むと地下鉄の階段あたりへ落ちた瑞鶴が見つかった。

しかしそのコックピットは解放されており、中には誰もいなかった。特に中に痕跡もなかったため周囲を調べるために辺りを軽くライトで照らす。

すると唯依はコックピットの真下に能登和泉が大切にしていたロケットを見つけた。

いつも彼女が惚けていた彼氏の写真が入っており二人の笑顔はとても綺麗だった。

 

 

 

「和泉…」

 

 

 

しかし、彼女が常に大切に持ち歩いていたこれを落とすなんて、そうそう考えられない。

唯依は嫌な予感を振り払うように地下の先へと進んだ。この選択が正しかったのか、それとも間違ってたのか答えはその先にあった。

 

 

唯依は見つけてしまった。

激しい出血の跡、そして引きずられた跡。唯依は自分の中の警鐘がなり止まず、

嫌な予感を押さえためらいながらも、その先をライトで照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはある意味予想道理の、最も外れてほしかった光景が眼下に広がっていた。

 

間違いなく能登和泉だったものが、BETAに咀嚼されていたのだ。その眼に光はなく

ただ四肢を、身体をBETAに喰われてた。

 

その光景を見た時唯依はこみ上げる嘔吐感をなんとか押しとどめ、声を押しとどめた。

今声を上げれば間違いなく気づかれる。それだけは避けなければいけなかった。

なんとか表面上自分を落ち着かせた唯依はもう一人の仲間、この付近に落ちたであろう山城上総を探さなければと、自分に活を入れゆっくりと辺りを探った。

もうしゃべることのできぬ友、能登和美に黙祷を捧げながら。

 

 

 

 

 

 

 

それはすぐに見つかった。瑞鶴に異常なまでに纏わりつく戦車級。はぎ取った装甲を

咀嚼し次々に瑞鶴を裸にしていく。

間違いなく山城上総の瑞鶴だ。

 

唯依は山城上総に通信を入れ無事を確認しようとしたがノイズしか入らず。

瑞鶴が解体される音しか聞こえない。何とか通信を入れようと繰り返すが、

ついにはコックピットがむき出しにされて山城上総の姿があらわになってしまった。

山城上総は頭か血を流し、体を震わせ、満足に動けない状態だった。

そして唯依は彼女と目があった。

そして彼女は決意をした眼を唯依に向けて言い放った。

 

 

 

「…篁さん、お願い私を撃って!」

 

 

 

「えっ…」

 

 

 

唯依は一瞬思考が止まった。

山城は唯依に自分を撃てと、BETAに喰われる前に撃ってくれと懇願してきた。

彼女の言ってることはわかる。しかし理解するのと納得するのは別なのだ。

唯依はふるえながら銃を構え山城を撃とうとするが、引き金が引けない。

 

決して仲が良かったわけではない。むしろ悪かったと言える。それでも彼女は

自分の仲間で、命を預けあった。そんな彼女を自分が殺す。

 

仲間を自分の手で殺す。それはBETAを目の前にした時以上の恐怖を唯依に与えた。

 

まだひよっこ、初めての戦場で中仲間の命の選択を決断できるほど

唯依は成熟していなかったのだ。

 

 

しかし徐々に伸びてくる戦車級の手に山城は叫びを上げる。

 

体は激しく震える。自分の体がBETAに蹂躙される姿を想像し、山城は理性を

失う前に最後の願いを叫んだ。

 

 

「早く撃ってよー!! こいつらに喰われる前に、唯依!! お願い!」

 

 

 

山城の悲痛な叫び。恐怖からその声は震え、彼女の顔からは絶望、恐怖以外の感情が消えていた。

その姿を見たとき唯依は自分の中の何かが『プツリ』と切れた音を

確かに聞いた。

 

 

 

「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

山城の最後の懇願、仲間を殺すことへの自分の覚悟、それが自分の中でわけもわからなくなるほど混ざり合い、

照準があちらこちらへ定まらぬまま唯依はその引き金を引こうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその時、横から赤い何かが山城の元へと疾駆していったのだ。

 

 

一瞬の出来事だった。唯依は夢でも見ているのかと思った。いやそれは山城も同じだろう。

唯依が放った弾丸により自分は命を断たれるはずだった。

 

しかし、自分はまだ生きている。唯依が外したわけでもない。銃声はしていない。

何故、何故、何故。

山城の頭の中はそれでいっぱいだった。

 

唯依はその姿を見ていた。

山城に伸びていた魔の手は赤い影により全て切り払われ彼女は危機から脱していたのだから。

自信の拳銃はいまだ前方を向いているがそれは何もとらえておらず、

彼女の視線の先には赤く、刺々しい身体をした戦術機、というには小さすぎる。

パワードスーツといったほうが的確だろうか。それが立っていたのだから。

 

 

 

「ふん、こんな害虫共がよくもまあここまで地球を荒らしてくれたものだね。

久しぶりだよ。こんなに気に入らないことは」

 

 

 

赤き超人、エビルはランサーについた体液を振り払うと視線だけコックピットで

固まっている山城に向ける。

 

 

 

 

「君、動けるの? 動けるならあっちの彼女とこにいってまとまっててくれない?

離れられてると面倒だからさ」

 

 

 

その時山城は初めて自分の前にいるエビルに気付いた。それと同時に

 

自分はまだ生きている。

 

それを実感し、体からいろんなものが抜けていくのを感じた。

 

 

エビルは山城が反応しないのでもう一度唯依のほうに行くよう促した。

 

 

 

「ねえ、聞こえてる? 動けないなら手くらいは貸すよ」

 

 

 

その声にようやく我に返った山城はどうにか体に力を込め唯依のほうに向かった。

その歩みはゆっくりであったが確実に生という実感を与えていた。

唯依は体を引きずるように向かってくる山城に駆け寄り肩を貸し後ろに下がった。

 

唯依の肩には間違いなく大切な仲間の重さ。先ほどまであった命を奪う恐怖、葛藤が

今の自分の中から消えているのに唯依は山城を手助けするので精一杯で気付いてはいなかった。

 

 

 

彼女らが合流したのを見たエビルはBETAと彼女らの間に身体を割り込ませテックランサーを構えた。

 

 

 

「あ、あの…」

 

 

 

「ん? 何か用かい?」

 

 

 

「…ありがとう、ございます、 助けて…いただいて」

 

 

 

山城はエビルに向かって感謝を述べる。少なくとも相手はBETAではなく、自分は死から

助けられた。彼女は混乱しながらも目の前の人物に助けられたという事実だけは

はっきりと認識していた。目の前の存在が味方なのかは分からないが今は助けられたことにただ感謝していた。

山城のその声はとぎれとぎれで死の恐怖から逃れたばかりのためか震える小さな声だった。

 

しかしその言葉は確かにエビルの耳に届いていた。

 

 

 

 

「ああ、気にしなくていいよ。頼まれちゃったしね、君たちの事。

それに今は感情を発散させる相手がほしかった所だったからね」

 

 

 

 

エビルは山城の言葉に軽く答えると、そのままBETAへと突貫していった。

表面は冷静でも、エビルは内心害虫共に対する怒りで

いっぱいだった。BETAをみると自分たちの運命を翻弄したラダムを思い出さずにはいられず、目の前で惨劇が起こる瞬間がかつての自分たちを思い出させ冷静ではいられなかったのだ。

エビルは体からにじみ出る怒りをそのまま力に変えBETAにぶつけていった。

多くが戦車級だったが無駄に数だけはいる。

 

 

一気に減らすか。

 

 

エビルはそう考え、テックランサーをブーメランのように投擲し、直線状のBETAを一気に切り裂いた。すこし地面に向けて斜めに投擲したため最後尾の戦車級を切り裂いたところで地面に刺さり停止した。

それを目の橋に映しながらエビルは肩に搭載されている二刀の剣、ラムショルダーを装備した。それは手を覆い篭手のようであったが、先端に鋭い剣がついていた。そして体を回転させ腕を広げて自分の周りのBETAを切り裂いていった。

 

 

 

「まったく、鬱陶しい!」

 

 

 

敵の数が思うように減らないことに苛立ちながらも両手の剣は前から向かってくるBETAを縦に切り裂き、横は腕を薙ぎ数体をまとめて切り飛ばした。次々に積みあがっていく死体の山に囲まれないように少しずつ移動をしていった。

横にいた敵を切り裂いた勢いでそのまま回転し、後ろから来ていたBETAを蹴り穿った。唯依達のほうに

向かいかけたBETAは真っ先に切り裂かれ、周囲を囲まれかけると驚異的な

跳躍をし、空中でラムショルダーを収納しテックワイヤーを使いテックランサーを回収するとそれで下にいるBETAを切り飛ばす。そして再びテックランサーを投擲し、BEATの命を絶っていく。

 

 

BETAは瞬く間にその数を減らしていった。

 

 

 

 

その姿は見たものに恐怖を抱かせるほどのすさまじさであり、

のちに彼の戦いを見たものはその姿を以て

 

 

 

『赤い戦慄』

 

 

 

と呟いた。

 




誤字脱字あったら報告お願いします。

シンヤくんのおかげで山城さん生存ルート余裕でした。


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第3話 各々の思惑

ようやくあげれました。待っててくださった方ありがとうございます。
ご期待に添えてるかわかりませんがよろしければ楽しんでいただければ幸いです。



 エビルがここら一体のBETAを殲滅するのに時間はかからなかった。

 

戦闘が行われていた空間は真っ赤にそまり、染まっていない

場所を探すことの方が難しい状態だった。

 

そして、この惨状を作り出した当人、エビルは返り血を浴び体中についた血を手で

鬱陶しそうに払っていた。

 

 

 

 

「まったく、手間だけはかけさせてくれるよ」

 

 

 

 

一通り体に付着した体液を払い落としたところで

ランサーについた血を振り払いながらエビルは呟く。

そして後ろの唯依と山城の方をみてとりあえずの無事を確認する。

 

しかし、この惨劇を見たためか二人の顔からは恐怖が滲み出し、山城に至っては体を震わせていた。

その震えが傷ではなく自分を見てだということは彼女らの視線が自分に集中していたことからも

明らかだった。

 

 

まあ当然の反応か…

 

 

とエビルは思った。この惨状を見れば自分が人間でないこと、それが理解できたのだろう。

エビルはその向けられる感情に対して特に何かを感じることがなかったと思っていた。

しかし確かにあった胸に残る僅かな重圧。

それをエビルはまだ悲しみだとは理解していなかった。

 

 

そして、エビルはどうしたものか、と考えていたところある感覚を捉えた。そしてそれがあるものだと感じると

エビルは彼女らに背を向け一気に外をへと飛び出していった。

 

 

振り返ることもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女らはエビルがここからいなくなったことにより恐怖が薄まっていた。彼女らを襲っていたのは

ただ単に、エビルが血にまみれ悪鬼のように見えたからではない。

未知への恐怖それが大半を占めていたのだ。人間というのは本能的に自らが知らないことに

恐怖を抱く。それは例えばBETAである。知識として知っていてもそれに実際に相対したときに

襲ってくるとなれば知識など何の役にも立たない。事実それが死の八分という壁になって

襲ってくるのだ。

 

 

彼女たちはエビルの戦い、それを見てエビルは戦術機、ましてやパワードスーツなどではない。

それを理解してしまったのだ。私たちとは違う、と。つまり、人間でない、と。

ある意味その理解は必然ともいえる。エビル自身この世界をまだ理解しておらず

全力でないにしろ、その力を隠すわけでもなく披露した。それは唯依らに

エビルが人間でないこと、それを解らせるには十分であった。

 

 

しかし、唯依はエビルが去って数秒後、はっと我を取り戻した。

 

 

そして自分らが恐怖したのは事実にしてもあのまま去らせるべきではなかった、と。

それこそ現状の混乱が残る思考では正しい判断ができていない可能性もあるが、

 

 

彼はもしかして日本を、人間を救える存在だったのでは、人間でないにしてもBETAは同志討ちをしない、

その原則にのっとれば彼、で正しいのかは不明だが、BETAと敵対する種であるはず。

ならばもしかしたら。

 

 

そんな思いが唯依の中で渦巻いていた。

 

 

 

「唯依、ちょっと唯依!」

 

 

 

少し思考に沈んでいた唯依を山城が引き戻す。山城はまだ痛み、恐怖で身体に震えを

残していた。

また、唯依がエビルの去った方向を見ていた間、目の前の現実に山城は直面していた。

先はエビルによって助かったが、そのエビルは去って行った。つまり今彼女らを守ってくれる

存在は何もない。たとえ人間でないにしても、恐怖の対象だとしても今この時は

エビルこそが救世主だったのだ。そのエビルが去った。

 

 

私たちは、見捨てられた…? なんで、なんで! もしかして、彼を恐れたから?

そんなのって…

 

 

しかし、そんな山城の内心を知ってか知らずか唯依はまだあさっての方向を見ていた。

山城はそんな唯依に心の動揺をぶつけるように大きな声を出した。

 

 

 

「唯依! なにしてるのよ、このままじゃ私たちBETAに殺されるのよ! 黙ってないでよ!!」

 

 

 

「…TYPE-00、武御雷」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

唯依のつぶやきに山城は唯依の視線を追う。そこにはゆっくりと風穴の開いた天井から、こちらに

視線を固定しながら、ここに降下してくる青い武御雷の姿があった。

その鋭い眼光は、はっきりと彼女らを捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エビルは唯依たちの前から飛び去ったのち、森林部にその姿を隠していた。

エビルは飛んでいるうちに多数の人の気配を感じその近くに降りていた。その結果それが

京都からの避難民の集団の一部であったのだ。護衛と思われる軍人らしき姿もあり、

流石に今の姿を見せることに抵抗があったため離れた場所からそこをうかがっていたのだ。

 

 

さて、どうしたものかな。

 

 

エビルは少しでも現状況を知りたいため、合流し、何食わぬ顔で難民のふりをして紛れ込むか、

それとも、個人で動くべきかその二つの選択肢を持っていた。

 

そもそもエビルはこの世界、というべきか、それになんとなくだが予想がついていた。ともすれば

あとはそれが真か否か、それを確かめるだけだった。そのためには人の周辺にいれば

自然と会話から情報が得られるだろう、とエビルは考えた。

 

 

そのためにはまず一度人としてまぎれこまないとね。それに、さっきからどうにも…ね。

 

 

そう考えたエビルは一度人の姿に戻った。赤い超人が人の姿に戻りその姿は長めの黒髪に若干

赤色が強い瞳の東洋人になっていた。

 

そしてシンヤは軽く一息吐こうとした。その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っぐがぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

シンヤの体を激痛が襲ったのだ。まるで焼けた鉄の棒を心臓に突き立てられたかのような痛みが

心臓に奔った。

常人ならばこの痛みに失神するほどだったが、シンヤは自身の強靭な精神がそれに耐えてしまい

その苦痛を直に浴び続けたのは不幸だったと言える。

 

膝をつき息を荒げながらもどうにか意識を保ち、思考した。

 

 

 

い、一体どうなってるんだ、こんな所に敵か…い、や、ありえない。エビルの状態の自分が

見逃すはずがない。なら何故…だ。

 

 

 

ふと、シンヤは痛む場所、その原因部に目を落とした。

 

 

 

…なるほどね、そういうことか。

 

 

 

痛む場所の中心は、兄タカヤとの戦いで最後に貫かれた胸部だった。あの時の傷が

心臓にダメージを残しており、テッカマンの時はテッカマンシステムによる強化で誤魔化せていたが

システムを解除した瞬間ダメージがそのまま人間体となったシンヤを襲ってきたのだ。

 

 

 

これは、まずい…ね…、死んだ…かな。

 

 

 

シンヤはどうにか繋ぎとめていた意識をついに手放した。瞼が落ちる直前、こちらに接近する影を

捉えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和の要素が盛り込まれた執務室。そこには二人の人物がいた。青の斯衛服に身を包んだ男性、

そしていかにも研究者だといった白髪をオールバックに撫でつけた壮年の男性。

青の男性は口元に僅かな笑みを携えながら研究者の報告を聞いていた。

 

 

 

「回収したデータを解析したところ、件の二人の衛士が述べていたことは真実でありましょう。

思惑はどうあれ、赤い人型がBETAと戦闘を行っていたことは事実。人語も介すことを

考えれば、いずれかの国の開発した兵器といったのが現実的かと…ですが」

 

 

 

研究者は口ごもりながら後につづける言葉を選ぶ。

 

 

 

「ですが、どうした。かまわん続けよ」

 

 

 

「…映像を解析した限りでは、あのような兵器を作り出すことは現技術力では

まず不可能なのです。もしあり得るとすればそれこそ第4、もしくは第5の方での何かしら

の成果と考えるしかありません。しかしそう考えても…」

 

 

 

「その存在はあり得ないと」

 

 

 

「はい、あの人型はあきらかに今の科学限界を超えています。それこそこの世界のものでない

のではと思えるほどに…」

 

 

 

「…そうか、件の二人ともう一度話してみたい。あとで通してくれ」

 

 

 

「は、了解いたしました」

 

 

 

そういうと科学者は背を向けて部屋から退出した。その姿を見送り青の男性は窓に歩み寄り

外を眺めた。

 

 

 

世界のものでない、か。…第4か第5の成果、そう考えるとまず第4だろうな。香月が提唱していた

因果律量子論。当初こそ眉唾の理論と思っていたが、なかなかどうして侮れんな。

あの理論を前提にすればあの人型の存在もあり得るが、あの女狐が手の内を見せるような

行動をするとも考えにくい。…あくまで可能性の範疇をでんな。

…それとも別の起源生命か。

 

 

 

男が思考の海に沈もうとした時部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。男性はノックの主

に部屋に入るように言うと中央にある応接用の席に向かった。

 

 

 

…赤い人型、人類の牙となるか、それとも…。

 

 

 

男性の口元には僅かな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、こちらの方が今回のお土産です。いやぁ現地民の方がぜひ貴女にというのでね。

なかなかかわいい像だと思いませんか、博士」

 

 

 

 

その男の恰好は研究室には不釣り合いな格好だった。どこか抜けてるようなスーツ姿、目深に

かぶった帽子。街にいれば違和感はない。

しかし今この場においては違和感しかない、といった出で立ちだった。

また、その手に持つ、かろうじて人型だとわかるなぞの像、それがまた怪しさを強調していた。

 

 

 

 

「毎回くだらないことに付き合わせないでちょうだい。さっさと本題に入りなさい」

 

 

 

 

男の声に反応した女性は椅子に座りながら苛々した様子を隠そうともせずに答えた。

 

 

 

 

「これはこれは淑女を怒らせるのは紳士の本懐ではありませんからな。ところで香月博士、

貴女は昔ヒーロー戦隊物をみたことがありますかな? いや、ああいったものは

久しぶりに見ると童心を揺さぶられるものがありますな。そしてやはり憧れるのは

リーダー的な赤い戦士でしてね、博士は何色が好みかとね」

 

 

 

 

「鎧依、いい加減にしないとそのふざけた像ごと手をぶち抜くわよ」

 

 

 

 

「ふむ、それでは仕事に支障が出てしまうので本題に入りましょう。先日の京都からの撤退戦

なかなかに面白い戦闘データがありましてね。そのデータがこちらです」

 

 

 

鎧依は懐からディスクを出し香月に渡す。

 

 

 

 

「ふーん、まあ目は通すけどくだらないものに今余計な時間を割く暇はないの。

この意味わかるわよね?」

 

 

 

 

「それはもう、少なくとも失望させるようなものではないかと」

 

 

 

 

香月の軽い脅しにひるむわけでなくむしろ軽い笑みさえ浮かべて鎧依は返す。

 

 

 

 

「では、そろそろ私は帰ることにしましょう。あまり博士の邪魔をしてもいけませんからな」

 

 

 

「はいはいそうしてちょうだい」

 

 

 

 

香月の投げやりな対応に気を悪くするでもなく鎧依は背を向けて部屋から退出していった。

しっかりと謎の像は応接用のテーブルに置いたまま。

 

 

 

 

鎧依が退出する時には香月はもう渡されたデータを確認していた。初めはつまらなそうに目を

通していたが、ある映像が映った瞬間普段からは想像できないほどに身体を乗り出して

画面を注視していた。

そしてデータに添付されていたある情報にも目を通すと彼女の持つ部隊の隊長を呼び出し

ある場所に向かうように命令した。データにあったとある人物の写真を渡し。

 

 

 

…なるほど、これは無駄ではないわね。仮にどちらに転ぶにせよ可能性は広がる。

手元に持ってこれれば直のこと、少なくとも第5に渡すわけにはいかない。

ともあれ今は事の真偽を確かめることの方が先かしらね。

 

 

 

香月は再び映像に目を移す。そこにはノイズが混じりながらもBETAと戦う赤い人型の何かが

映っていた。そして添付されていた証言データ。赤い人型に救出された衛士によれば人語を介したとされている。

あくまで可能性だがその存在は自身の理論の証明になりえ、またその力も今の人類には何よりも魅力に見える。

それを無駄にはできない、可能であらばその力を自身が利用できればなお良し、

香月はそう考えながら口元にはっきりと笑みを浮かべた。

 

 

 

魔女は魔女なりに世界を救うわ、その罪は全ての後に受ける。

 

 

 

魔女は嗤う、世界を嗤う、自分を嗤う。自分も道化と気付きながらも止まることをしないために、

全てを捨てても止まらぬために。




エビルfigmaかわなきゃ…


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