真・恋姫✝無双 ~真田丸~ (こば氏)
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序章 追憶
1話 上田での再会~信之とくのいち~


まずは、ご覧になって頂き誠にありがとうございます。

初の執筆活動となりますので、拙い点があると思いますが、生ぬるい目で見て頂ければ幸いです。

さて、まず初めにですが、この話にはご都合主義、独自解釈、オリキャラ、転生者が多数登場予定となりますので、ご了承下さい。

ちなみに僕の原作知識ですが、戦国シリーズは全プレイ済み、恋姫シリーズは1作目のコンシューマをプレイと真の設定資料集のみとなっておりますが、キャラ的には英雄譚のキャラまで出す予定でいます。

そのため特に英雄譚のキャラは原作との性格の差がかなり出る可能性があります。公式サイトのキャラ紹介からなんとか齟齬が生まれない様に執筆しますが、本家では絶対取らない様な致命的な行動や言動があった場合は指摘して頂けると助かります。


慶長20年5月某日、安居天神――

 

「手柄とせよ・・・」

 

 男はそう目の前の足軽に呟くと、そっと目を閉じた。この男には、もはや抗う力は残っていない事は周りを囲んでいる誰の目からも明らかであった。

 この男を討ち取れば、この戦い最大の手柄となるだろうが、あの鬼気迫るとも神々しいとも言える戦いぶりを目撃した足軽達には事切れるまで、只見ている他には無かった。

 

男の名は真田左衛門佐(さえもんのすけ) 幸村―――

 

後に『日ノ本一の兵(ひのもといちのつわもの)』と評された男の死と、大坂城の落城により世に言う大坂夏の陣は終りを迎えた。

 

 

 

………

 

……

 

 

 

 

 それから七年程の月日が流れ、幸村に縁のあった地で民の間にある童歌が流行り始めた。

 

『花の様なる鶴頼様を~♪鬼の様なる真田が連れて~♪』

 

上田城下を視察した際に、その童歌を幸村の兄である真田 信之は耳にした。

 

「あの歌は一体?もしかしたら幸村は・・・」

 

 一瞬そんな考えが信之の頭の中を過ったが、大坂の陣後すぐに幸村の亡骸を自ら受け取りに行った為、馬鹿な事をと自分を笑った。確かに幸村には、他人であれば見間違う様な影武者が居たが、実の肉親である信之が見間違う等、限りなく無い事であった。

 

「ならばあの歌は一体、なんなのであろうか?」

 

 今度は、その様な疑問が信之の頭の中に沸いてきた。そもそも、この童歌には大きな疑問点が一つあった。

 

 それは鶴頼様とは誰の事を言っているのかと言う事である。この歌詞が茶々様を~であれば分かる話ではあるが、全く聞いた事もない知らない名前なのだ。

 

 茶々は、母であるお市が柴田勝家と共に自決した際に豊臣秀吉によって保護された。秀吉がお市に淡い憧れを抱いていたのは、妻のねねをはじめ多くの者が知っていた。その為、茶々の事を側室と思っている者も居るが、実際の所は養女として育てていたのだ。そして茶々は未婚だった為、大阪城落城と共に豊臣を継ぐ者が居なくなったのである。

 

 たかが童歌と切って捨てても問題無い様にも思えるが、先の戦いにより真田は反徳川の旗印としては十分効果のある名前となっていた。好からぬ考えを持つ者が、存在しない豊臣の遺児とその守護神をでっち上げ幕府に反旗を翻そうとしているのであれば、それは信之にとってとても許せる物では無かった。

 

(父上や幸村と袂を分かってまで、護り抜いた真田の家に危険が及んではならない。他の者から見れば神経質過ぎると笑われそうだが、唯でさえ秀忠様と懇意にしている事に良い感情を抱いていない者もいる)

 

と考え、信之は納得のいくまで、童歌を調査する事に決めた。

 

 上田城下や真田の郷では、得られる情報は無かったが幸村の死を告げると共に姿を消していたもう一人の家族と再会する事となった。

 真田の郷の川沿いの土手に、その女性は居た。川を眺めていて、こちらを向いていないが恐らく気付いているのだろうと思いながら、信之はその後ろ姿に声をかけた。

 

「久しぶりだな。元気にしていたか?」

 

そう尋ねると、女性は振り返り

 

「はい、ぼちぼち……ご無沙汰しております、信之様」

 

と答えた。

 

 女性の名を知る者はおらず、皆からは『くのいち』と呼ばれていた。

 元は二人の父である真田 昌幸が仕えていた武田家の忍びだったが、武田家最後の当主、武田勝頼が昌幸に認めた最後の文を届けに来た際に幸村と信之が昌幸に頼み、そのまま真田家に仕える事となった。

 

幼少の頃、くのいちが真田家に来て暫くして幸村と信之が本名を尋ねる事があった。

すると、くのいちは少々困った顔で

 

「私の育った村では夫婦になった人だけに教える『真名』と言う風習があって、10歳になると両親か村長がつけてくれてたんですよね。だけど、その前に村が戦で無くなってしまって真名を付けて貰えずに一人になっちゃたんで、両親に付けて貰った名を真名したんです。なんで家族って呼んでくれた二人には本当に申し訳ないですけど名前はごめんなさい!!」

 

そう答えると、普段のお茶らけた様子とは違い深々と頭を下げて二人に謝罪した。

二人がこちらこそ申し訳ないと謝罪を返し、気まずい雰囲気が流れそうになったが、くのいちが頭を上げて

 

「でも二人は家族なんで、特別に苗字は教えますにゃあ♪私の苗字は望月っていいますです!」

 

と満面の笑みを浮かべ伝えた。それがすぐにからかう様な表情に変わり

 

「あっ!!お二人が、大きくなって私の旦那様になってくれたら、その時は名前も教えますにゃあ♪」

 

と一言付け加えた。初心な子供二人には、顔を真っ赤にして

 

「・・・・・・そうか/////。」

 

と答える事が精一杯だったが、いつの間にか気まずい雰囲気は霧散していた。

 

 そんなムードメーカーな彼女だったが、現在の雰囲気は以前より暗い物となっていた。最後まで幸村に付き添い、その最後を看取ったのだ。それも仕方の無い事だと信之は思い、多くは聞かなかったが、今どうしているのかと言う事だけ尋ねた。

 

「今は、ただ色々な所をまわっています。あまり一つの所に留まっては居ませんが、近くまで来たもので。また近々発つと思います。」

 

と、くのいちはどこか寂しそうに答えた。

その様子を窺っていた信之は、くのいちに問いかけた。

 

「そなたさえ良ければまた真田に戻って来ないか?もちろん忍では無く真田の家族の一員としてだ。幸村もそれを望んでいると思う。」

 

「信之様、私は豊臣の落ち武者ですぜ。ご迷惑が掛かりますよ。」

 

「そんな事はどうとでもなる。それに家族なのだから、迷惑を掛けたり掛けられたり等、当たり前の事だ。」

 

戸惑う様子を見せるくのいちに対して、さも当然とばかりに信之は答えた。

そんな信之の言葉に、くのいちは少々考え込みながらも

 

「はい。またよろしくお願い致します。」

 

嬉しそうにそっと返事をした。

 

 上田に戻りながら、二人は何をしていたかや、周囲の人について話していた。信之が冗談交じりに、彼の妻である稲姫がそのまま居なくなった事を怒っていたぞと伝えると、くのいちは悪戯がばれた子供の様な表情でゲッと発した後、優しく微笑みながら

 

「稲ちんにも心配かけたもんにゃあ・・・素直に怒られますか。」

 

と呟いていた。そんな掛け合いを幾分かした後、思い出した様に信之はくのいちに質問した。

 

「ところで、望月そなたは真名を教える相手はできたのか?」

 

「私の周りには日ノ本一の兵、天下の将軍様の右腕、表裏比興だけど子煩悩な父親、はたまた小生意気だけど優秀な後輩忍者とか色々いい男が多すぎて、目が肥えすぎてしまいまして~。残念ながらまだおりませぬ~よよよ」

 

と以前の様な満面の笑みで、くのいちは答えた。

信之はその昔の様な笑顔が只々嬉しかった。




次回もこんな感じで戦国無双の世界での話が展開する予定です。

茶々の養女設定は公式サイトやゲーム内でも側室と記載がなかった為取り入れました。
なので、童歌の秀頼は勝手に名前変えちゃいました。

幸村登場は、今しばらくお待ちください。

書き溜めとかはしておりませんので、ペースは安定しないと思いますができるだけ早く続きをあげられる様、努力致します。

では、また。


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2話 その後の大坂

まだ、幸村出てきてませんが、戦国無双~真田丸~の壮年期について少々。

ぶっちゃけ、バランスブレーカー過ぎて公式チートです。
初めて使ったときは嘘やろってなりました。(それでも最終ステージはゴリゴリ体力削られますが)

つまりは、そういうことです・・・

そんな、小説になりますが、よろしくお願いします。


 信之が、くのいちを連れて上田に戻ると多くの者が彼女の帰還を喜んだ。特に稲姫においては今まで伝えられず、胸の奥にしまい込んでいた物が一気に溢れ出してしまっていた。

 

「もう、別れも告げず勝手に居なくなって!!どれだけ皆が心配したか」

 

「あはは……私も色々思う所があったのですよぉ」

 

「こんな時まで、おちゃらけないで!!幸村をはじめ西軍についた多くの者が帰らぬ人となった中、あなたは生きていてくれた。戦が終わり、また一緒に家族として暮らしていけると思ったのに…それなのに……貴方は………」

 

稲姫は最後まで言葉を紡ぐ事が出来ず、その場で泣き出してしまった。

 

「ごめん…ごめんなさい……稲ちん」

 

泣いている稲姫を抱きしめながら、くのいちは挨拶もせずに行方を眩ました事を詫びた。

 

「謝らなくていい。それより戻ってきたのだからいう事があるでしょ」

 

「うん……ただいま」

 

「おかえりなさい。でも今度、勝手に居なくなったら許しませんからね」

 

そう言いながら、二人は笑いあった。

 

「さて、再会の挨拶も済んだし、そろそろ夕餉とするか」

 

 今まで、黙ってその様子を窺っていた信之がそう声を掛けると、信之が居た事を完全に失念していた稲姫は顔を真っ赤に染めた。

 

「あらあら~稲ちぃん、顔が真っ赤でござるよ」

 

「もう!からかわないで」

 

 そんな二人のやり取りを見ながら、あの頃の様な日々がまた戻ってくるなと信之は昔を懐かしむのであった。

 くのいちとの再会から数日後、信之は二人を集めて例の童歌を調べに大坂に上る事を伝えた。

 

「望月が戻ってきたばかりなのに、もう発たれてしまうのですか?」

 

「あぁ、心配事はなるべく早くに解消したいのでな」

 

「信之様、その心配事てぇのは、もしかして今巷で流行っている童歌の事ですかい?」

 

くのいちは、心配事とは何かを察したような表情を浮かべ信之にそう尋ねた。

 

「そうだ、そなたは何か知っているか?」

 

「残念ながら何も。私も気になってちょっと調べてみたのですが、出所は特定できませんでした」

 

「そうか、ならば引き続き調べる必要があるな」

 

「その調査、私にも手伝わせて下さい」

 

「それは、助かるが…良いのか?」

 

信之は、くのいちにまた忍としての仕事を頼む事に躊躇した。

 

「そうですよ。出浦殿達もいるのですから、わざわざ貴方が行かなくても良いのですよ」

 

稲姫もまた同じ事を思いくのいちを引き留めるが、当の本人はと言うと

 

「お二人とも、心配し過ぎですぜ。別に誰かの企み事と決まった訳ではないですしね。まぁ、この件を稼業納めにしようかと思うのですよ。乗りかけたと言うか乗っていた舟みたいな物ですので」 

 

「そうか、ならば有難く手を借りるとしよう」

 

「分かりました。でも、危ないと分かったら無理をしてはいけませんよ」

 

と、自分の胸の内を伝え、二人はそれを了承した。

 

「それでは稲、留守は任せた。行ってくる」

 

「さくっと解決して、お土産持って戻ってきますぜ。いってきます」

 

と上田を出て数日二人は大坂に到着した。

 

「いやぁ、七年ぶりかぁ……大阪も活気が戻ってきましたにゃあ」

 

 実はあの戦以来、初の大坂入りであったくのいちは、活気が戻った大坂が嬉しくもあり、また同時に寂しさも覚えた。早朝に泊まっていた宿を出て、そのまま休憩を取らず大阪まで来た信之はくのいちお勧めの茶屋で一服を取る事にした。

 

二人が茶屋に着くと、ある二人組と出会った。

 

「げっ……熊姫」

 

「あーー!!あんたは」

 

と顔合わせも早々に言い合いをはじめた二人を余所に、取り残された組はマイペースに話をしていた。

 

「ほむ、そちは誰じゃ?教えよ」

 

「はぁ。私は真田 信之と申します」

 

「真田…という事は、幸村の縁者か?」

 

「はい、幸村は私の弟です。失礼ですが、あなたは?」

 

「うむ、わらわはガラシャ。明智 光秀の娘じゃ。弟御には世話になった、礼を申すぞ」

 

信之に礼を述べると、幸村が大阪に居た頃に茶々と一緒に気に掛けてくれていた事を説明した。

 

「なるほど、そうでしたか」

 

信之が事情を呑み込むと、一段落着いたのか、くのいちと元北条家臣の甲斐姫が口論を辞め戻ってきた。

 

「信之様、ご無沙汰しております」

 

「そなたは、甲斐殿だったか。無事であったのか」

 

「はい、生き残ってしまいました」

 

「あら?私の時は全然態度が違う」

 

「うっさい!ちゃかすな!!」

 

 また、二人の口論が始まりそうだったので、信之は甲斐姫とガラシャに例の童歌について聞いてみることにした。

 

「おぉ、その歌なら街で何度か耳にした事があるぞ!」

 

「私も!私も!」

 

「だが、誰が作ったとかは分からぬ。気付いたら流行っておったからの」

 

「やっぱ、どこも同じかぁ」

 

 二人の知識も、信之達と大差なく何か知っていそうな人物も心当たりは無いとの事だった。

 

 ガラシャ達と別れた信之達は、くのいちが街中の商人や住民、信之が再築している大坂城付近の役人や職人達へと別れて聞き込みをする事にした。

 

 

 

 信之が大坂城に向かうと、これまた懐かしい面々と顔を合わせる事となった。

 

「これは、皆々様おそろいで」

 

「おう、信之。貴様も来ておったのか」

 

 そう声をかけたのは、独眼竜との呼び声が高い伊達 政宗、他にも元浅井家家臣で茶々との関わりも深い藤堂 高虎、毘沙門天の化身と言われた上杉 謙信の義を受け継ぐ上杉 景勝、直江 兼続主従いずれも大坂の陣で幕府軍側からとはいえ、幸村の生き様をその目で見てきた者達である。

 

「今は、江戸が都ではあるが大坂もまだまだ重要な場所だからな」

 

「私も景勝様の供をして、今朝着いた所だ」

 

「うむ」

 

などとお互いの近況やらを話した後

 

「ところで信之、最近妙な噂が出ておるが、貴様は知っておるか」

 

と政宗から尋ねられた信之は、一瞬童歌の事かと思った。

 

 だが他のあった事もない者ならば兎も角、あの聡い政宗が根拠も無しにその様な事は言わないだろう。仮に何か掴んでいたとしてもこの様な場所で重要な鍵になる情報を軽々しく口にするはずは無いと判断し、否と答えた。

 

「おい、政宗やめろ」

 

と、内容を知っている高虎が止めに入るが政宗は当事者なのだからとその内容を信之に伝えた。

 

「関ヶ原のおり、真田の軍略見事と世間では誰もが褒めておるが、実は秀忠様が大御所様への逆心から手を抜いていた。また、真田が取り潰しにならないのはその秘密を共有しているからであるとな」

 

それに対し信之は馬鹿馬鹿しいと一蹴した。

 

「聞くに堪えん」

 

「その様な下らぬ噂を真に受けるなど、天下の伊達政宗公の名が泣くぞ」

 

と上杉主従も、信之を擁護する形を取ったが、高虎は

 

「噂の真意より、その噂が真田への中傷だけでは済まないという事だ。この噂を元に好からぬ事になるのを望む輩がいる」

 

「わしの言いたいのはそこよ。下らぬ噂でこの泰平が崩される等あってはならない」

 

「事実、お前と秀忠様は懇意の間柄。足元を掬われぬ様気を付けろよ」

 

「あぁ、勿論だ」

 

そう言うと、政宗と高虎の二人は去って行った。

 

「気にするな。奴らもお前の事は疑ってはいないだろうが、素直でない故あの様な言い方しかできないのであろう」

 

「お気遣い感謝する兼続殿」

 

信之が、兼続に謝辞を述べた後

 

「信之…今回はなぜ来た」

 

と景勝が信之の今回の大坂入りについて尋ねてきた。

 

「こんな話の後でなんだが……」

 

と童歌の件について、事情を説明した。

 

「なるほどな。我々はまだ来たばかりで状況は分からないが、何か分かった事があったらすぐ知らせよう」

 

二人が協力する姿勢を示してくれた後、信之達は大坂の陣の事やお互いの領地の情勢などを話して別れた。

 

 

 

 場面は変わり、くのいちは一番有力な情報が入ってくると踏んだ豪商をはじめ色々な者に聞いて回っているが、これといった情報を得る事は無かった。これは、やはりただの童歌なのだろうかと思い始めていると、背後から急に声を掛けられた。

 

「おい、女……」

 

「いや、あなた初対面の相手にいきなり女って……あれ、この声何処かで?」

 

振り返って顔を見てみるが、やはり見知った顔では無かった。

 

「服部 半蔵だ」

 

「えっ?ええええぇぇぇぇ!?」

 

くのいちは驚愕の事実に思わず大きな叫び声を上げてしまった。

 

「うるさいぞ。女」

 

「だから、女て…まぁ、いいや。確かに言われてみれば目元や口元は半蔵の旦那の面影が」

 

 半蔵の素顔を見た事も驚いたが、くのいちが一番驚いたのは雰囲気だった以前敵として相対していた時は、研ぎ澄まされた殺気がヒシヒシと伝わってきたが、今はそれが感じられない。

半蔵はその事に気が付いたのか

 

「影の任は終わった」

 

と短く伝えた。それを聞いたくのいちは、少しばかり肩の力を抜いて大坂に来た理由を尋ねてみた。

 

「ならば、半蔵の旦那は老後の気ままな一人旅ですかにゃ?」

 

 相変わらず、人を食ったような態度に一瞬半蔵の眉がヒクッと動くが、そこは服部忍軍の元頭領、冷静に返答した。

 

「墓参りだ。佐助の……」

 

 その言葉にくのいちから、さっきまでのおちゃらけた雰囲気が消えた。その様子を窺いながら半蔵は短く来るかと一言尋ねた。

 

 大坂の中心地から少し離れた寂れた寺に佐助は眠っていた。

 

「佐助……久しぶり」

 

そう一言、よく手入れされている墓に向かって声を掛けた所で

 

「色々話したい事もあるだろう。拙者は一度外す」

 

と言って、去って行った。

 

 その後、くのいちは天王寺口の戦いでの幸村の奮戦や別れ際の事などを話した。一通り話した後思い出したかの様に

 

「あっ、幸村様ももうそっちに行ってるから全部聞いてるかもね」

 

と、寂しそうに笑いながら言うと何処からともなく

 

『まだまだ、忙しくて休む暇がねぇよ。先輩』

 

と佐助の声が聞こえ様な気がした。くのいちは思わず周りを見渡すが当然その姿を見つける事は出来なかった。

 

「ははっ。そんな訳ないよね。」

 

気持ちが高ぶり過ぎて幻聴が聞こえたのだろうと割り切った所で、半蔵が戻ってきた。

 

「どうした女。狐に摘ままれた様な顔をして」

 

「いえ、別に…ってさっきから女、女って!!せめてくのいちって呼んで下さい」

 

いかにも、私怒ってますと言った雰囲気でくのいちは半蔵に訂正を要求した。

 




という訳で、2話終了です。

相変わらず、主人公及び恋姫面子出てきません。

今しばらく、今しばらくお待ちを・・・

一応次回で序章を締めるつもりでいます。

あと、ちょろっと伏線張ってみました。
素人が張りすぎて、線に絡まらない様に気を付けながら糸を張っていきたいと思います。(絡まらないとは言ってない)

なお、タイトルに章付けていたのを変更しました。


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3話 夢幻

「ところで、くのいち。お前はなぜ大坂に」

 

 佐助の墓参りが終わり、街へ戻るさなかで半蔵から今回の旅の目的を聞かれた。

 真相がまだわからない状態で本当の事を言っても良いものか、くのいちは若干悩んだが佐助の墓まで案内してもらった恩もあり打ち明ける事にした。

 

「なるほどな。その童歌なら服部忍軍も調べたと話が届いている」

 

「いいんですかい?そんな重要な情報」

 

 半蔵の思わぬ口の軽さに、くのいちは心底驚いた。

 

「隠居の拙者が簡単に話せる。つまりはそういう事だ」

 

「やはり、ただの童歌と言うことですか?」

 

「あぁ、だがその伝わり方は不可解なものだったがな」

 

「それは一体?」

 

「出所は明の商人から伝わった様だ。歴史書を元に作られた創作物の中に真田某という人物が登場するらしい。」

 

「じゃあ、鶴頼様っていうのも」

 

「おそらく、その話に登場する人物というのが、こちらの結論だ」

 

「なるほど~。天下の服部忍軍が情報源ならほぼ間違いないですかにゃ」

 

「だが、今の江戸は不穏。その童歌すら利用しようとする者の影もある。信之にも十分気を付ける様伝えておけ」

 

 そう言い残すと、半蔵は大坂の街中に消えていった。

 

 街に戻ったくのいちは、信之と合流すると半蔵から聞いた情報を伝えた。

 

「なるほどな。だが、珍しい大陸で真田など」

 

「ですよね。まぁ、大方明の商人が日ノ本の者にも伝わり易い、こちらでの読みを当てただけだと思いますけどね。」

 

「恐らくそうであろうな。それよりも問題は結局それを利用しようとする者が少なからずいるという事だ。戦がなくなったと思えば今度は権力抗争。つくづく人の業と言うのは」

 

と現状を嘆きながら、近々秀忠様に会わねばなるまいなと思案するのであった。

 

 

 

 童歌の真相が解り、二人が上田に戻ってひと月ばかりたったある日、秀忠から信之に顔を見せる様に連絡があった。恐らくあの噂関係の事であろうと予測を立てながら秀忠の待つ江戸に向けて出立するのであった。

 

 江戸に到着したばかりの信之はいつも通りの温和なものであったが、二人が話を終えて出てくる時には、普段見せない様な激高ぶりで周囲の者を大変驚かせていた。

 会談の内容は、上田召し上げの元、松代への転封と言ったものであった。数字だけ見れば加増という事になるが、先祖代々の地を離れればならない事に信之は大変憤慨し、真田縁の木を切り倒したり、領内の帳簿などを焼き払うなど凄まじいものがあった。

 

 その様子から、徳川は関ヶ原のおりの恨みを忘れておらずと言う周囲の認識が広がり、かの噂については収束していくのであった。

 

「信之様、昌幸様に似てきましたねぇ」

 

 転封の準備の最中、信之はくのいちからそう指摘を受けるが

 

「さて、何の事だか?」

 

と何を指しているか皆目見当もつかないと言った様子で返事をした。

くのいちはその後、なんとなくですよと一言付け加えたきり、その話題について触れてくる事は無かった。

 

「信之様、そろそろ出立の準備が終わりますよ」

 

稲姫がそう信之に声を掛けてにきた。

 

「そうか、いよいよだな」

 

「私は真田の者としてまだまだ新参者ですが、ここで沢山の思い出ができました。そんなこの地を離れるのはやはり寂しいですね」

 

「すまんな、稲。苦労をかける」

 

「いえ、信之様を信じていますから」

 

 二人が、夫婦の絆を確かめあっていると、またあの童歌が聞こえてきた。

 しかし、今回の唄声はどこか懐かしく聞き覚えがあった。信之はそれはあり得ぬ事と思いつつも、声の主を探して歩みをはじめた己が足を止める事が出来なかった。

 

 声の主を探す内に、信之はある場所に来ていた。そこは昔よく二人で川を眺めながら、多くの事を語り合った思い出の橋

 

「あれは……!?」

 

その橋へと駆けていく一人の少年、そう見間違えるはずのない、だが決してもう目にする事は無いはずの少年。

 

「幸村!!」

 

思わず、亡き弟の名を叫びながら少年を追いかけ橋のたもとまで走った。

そこに少年の姿は無く、最後に二人で話をしたあの時のままの後ろ姿が見えた。

 

「お前…なのか……?」

 

 そう信之が声を掛けると、後ろ姿の主が信之の方に振り返りそうになった。

 その時、突如として吹いた強風により舞い上がった砂埃から目を守ろうと腕で視界を遮ると次の瞬間には、もうその者の姿は無かった。

信之は懐に入っている、かつて弟と半分に分かち合った六文銭を眺めながら稲姫やくのいちが自分を迎えに来るまで物思いに耽るのであった。

 

 

 

―――――その後

 

 信之は稲姫の病死や御家騒動など生涯を通して苦労を味わうがそれでも、当時では珍しい93歳まで生きる。今際の際、本来自分が勤める筈だった幼子(当時2歳)の松代藩主幸道の後見人を内藤忠興に任せる際に、肌身離さず持ち歩いていた六文銭を幸道が物心着いた折に渡す様伝えると静かに息を引き取った。

 

 一方くのいちは、信之庇護のもと、身寄りのない者を引き取りながら主に一人でも暮らしていける知恵(忍の技術ではない)を教える私塾を開いており、周りからは望月先生やら望月先輩などと呼ばれ親しまれた。余談だが、おばさんやおばあさんと呼んだ者は須らくコテンパンにのされたので、くのいちをそう呼ぶものはいなくなった。そんな皆に親しまれるくのいちだったが、その下の名前を知る者は現れなかったと言う。

 

 

 稲姫を含め、三人が永い眠りにつく為、まぶたを閉じた時に移ったのは皆似た様な光景だった。

 

それは……―――――――

 




以上で、序章終了となります。

次回から、幸村登場と外史へと話が飛びますがその中で数点独自設定が盛り込まれますので、前もってご了承頂けると幸いです。

一刀は出すべきなのか出さないべきなのか悩んでます。でも登場するにしても邂逅はもっと後になるので、それまでゆっくり考えたいなと思います。

あと、次回から一人称視点の話を入れていくつもりです。

話の中で、視点が切り替わる事はないと思いますが、読みづらい等ありましたら感想欄でご指摘頂ければと思います。


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第1章 転生
4話 目覚め


夢を見ていた。

 

幼い頃に戻った私は、真田の郷をはじめ上田、安土、そして大坂……

 

様々な場所を只々駆け回っていた。走馬灯とはもっと色々な事が頭に浮かぶのかと思ったが案外そのような物なのだろう。

 

一通り周り終えた所で、私は再び今の姿へと戻っていた。そこは兄上とよく語り合ったあの橋。この夢も間も無く終わると感じた。

 

橋を渡り、門から出れば恐らく御仏の元に向かうのだろう。茶々様との約束を守る事が出来なかったのは悔やまれるが、もはや是非に及ばず。死の間際でこの様に未練がましくしていてはそれこそ「泰然となさい」と言われてしまうな。

 

そろそろ逝こうと一歩踏み出し、橋を渡り出そうとすると、前後から懐かしい声で呼ばれた気がした。

 

 

そこで私の意識は途絶えた。

 

 

……………

 

 

………

 

 

 

「…れ……くさま…ぇ……てお……ん」

 

「…う…です…き続き宜しくお願いしますね」

 

ふと、誰かが会話する様な音が聞こえ私の意識は引き戻された。

 

ゆっくりと瞼を開けると、そこには二人の主従らしき女性がこちらの様子を窺いながら話をしていた。

 

視界が段々とはっきりしてきた頃、主と思われる少女と目があった。少女は驚いた様子で数秒静止していたが冷静になったのか

 

「彼が目を覚ましたから、賈駆ちゃんを呼んできてくれますか」

 

と指示を出していた。

 

少女の言う、人名に聞き覚えがある気がしたが、どこで聞いたかまでは思い出せない。

確実に助からないと思ったあの状態からの覚醒と言う事態に思考が追い付いていない。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

物思いに耽る私に、少女が心配そうに尋ねてきた。体を軽く動かしてみるが特に問題は無く動いた。

 

「はい、特に不自由はありません。私はどの位眠っていたのでしょうか?」

 

「そうですか、御無事でなによりです。正確には分かりませんが私の家の前で倒れているのを見つけてから3日眠っていましたよ。」

 

家の門の前?私が倒れたのは安居天神のはず、それも周りを兵に囲まれていて私を運んで逃げる等到底できる事ではない。

 

さらに混乱する私と、その様子を見て少女が狼狽え始めた頃、バタバタと此方に近づいてくる足音が聞こえた。

 

「月!!あんた素性の分からない怪しい男と二人きりになるなんてどう言うつもりよ」

 

勢いよく扉を開けて入ってきた、恐らく呼ばれていた賈駆と思われる眼鏡をかけた少女は来て早々に私と話していた少女にそう捲し立てていた。

 

「へぅ、ごめん、詠ちゃん。でも、優しそうな人だよ」

 

その迫力に月と呼ばれた少女は、賈駆殿の勢いにたじろぎながら言い訳をしていた。

 

「そんなの結果論じゃない。もし行き倒れを装った族とか逃亡中の犯罪者だったら、月あんたどんだけ危なかったと思っているの」

 

月殿の言い訳も賈駆殿の怒りに燃料を継ぎ足しただけだった。

 

しかし、言い合いをする二人の会話をよくよく聞いていると賈駆殿は詠と呼ばれていた。これは一体どの様な……『真名』かつて望月から聞いたその言葉を思い出した。夫婦にしか教えぬと言っていた名であったな。二人が夫婦とは到底見えないが呼びに行かせた者の前には賈駆と伝えていたのだから特別な呼び名である事には変わりはなさそうだ。

 

そんな事を思っていると、賈駆殿の矛先はどうやらこっちに向き始めているようだ。

 

「あんた、月に何もしなかったでしょうね」

 

「詠ちゃん、いきなりそれは失礼だよ」

 

「どこの誰とも分からない奴なんて、油断は出来ないもの。あっ、私達をどうこうしようとしても無駄よ。こっちに向かう時、衛兵を集めておいたから」

 

そう警戒心を隠さず、私に伝えてきた。確かに賈駆殿がこちらにきて暫くしてから扉の向こうから数人の気配を感じていた。そういえば、現状を理解する事にばかり気を取られ挨拶をしておらぬな。こういう時こと泰然とせねば。

 

「これは、挨拶が遅れ大変失礼を致しました。私は真田 左衛門佐 幸村と申します。この度は倒れていた所を救って頂き、誠にありがとうございます。されど失礼ついでに窺わせて頂きます。こちらはどこになりますか?私は豊臣の落ち武者、大坂の周辺であれば、あなた方ご迷惑を掛ける事になってしまいます」

 

「あまり聞かない名ね。真田氏なんてあったかしら」

 

「あの失礼ですが、普段からその様に長い名前で呼ばれていたのですか?」

 

「いえ、普段は幸村と呼ばれております」

 

「そう、なら私達も幸村と呼ばせてもらうわね、私は賈駆よ。ところであんた何処かで頭でも強く打った?豊臣なんて豪族や野盗なんて聞いた事ないわ」

 

「幸村さん、私は董卓と言います。ほんとに具合の悪い所はありませんか?私も大阪という土地は聞いた事がありません。」

 

泰然にすると言ったばかりだが、二人の言葉に私は更に混乱した。今の時勢で豊臣を知らぬという事はまずありえない。

 

そして白銀の髪をした少女の名前が私は信じる事が出来なかった。かつての大陸の王朝『漢』、その王朝の終わりへの決定的な一石となった悪逆非道の大罪人の名こそが董卓。その人物を名乗るこの少女が同一人物だとは思えない。

 

そして先程は思い出す事の出来なかった賈駆と言う名。曹操率いる魏の軍師の一人、かつては張繍に仕えその智謀を以て、悪来と呼ばれていた曹操の親衛隊典韋を討ち取った鬼謀の持ち主の名だ。確かに目の前の賈駆殿も私がどの様な行動を取ってくるか一挙一動を見逃すまいとしている雰囲気が伝わってくる。

 

「ちなみに、ここは何処ですか?」

 

まだ冷静になれた訳ではないが確信を得て、私の身に起こっている事を理解するいや受け入れる為に場所を尋ねた。

 

「ここは天水になります」

 

「そして、ここの太守こそがこの娘、董卓よ」

 

やはり私の予想は正しいのだろう。ここは三国志に近しい世界だが私の知っているそれとはまた違う世界。

この目の前の優しい娘がいずれ三国志で描かれる様な人物へと変貌するのかは私の知る所ではないが、なぜ私がここにやってきたのかは考えねばなるまい。

 




1週間も間空けてしまいました。

自前のパソコンが壊れ、家族の共用パソコンを使用して作成してる為、今後もこの様に不定期に投稿する形と思います。

ところで、初の一人称。幸村の口調は変ではなかったでしょうか?
幸村は真面目なので言い回しを考えるのも中々大変だと痛感しています。
(まー君なら楽なのに、バカめ!!)

そして、この小説の真名の使用方法ですが、真名を許した者同士が同じ場所にいた時は許してない相手がその場所にいても真名で呼びますが、許していない者だけの場合は許した者の事も通名で呼びます。


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5話 疑惑と信用の狭間で

この状況に得心は得ていないが、理解は出来た。気持ちが落ち着いた所で先程は尋ね忘れていた、二人の呼び名について聞いてみる事にしよう。

 

「ところで先程から、お二方は違う呼び方をされておりましたが、それは真名と言うものでしょうか?」

 

「なに当たり前の事を聞いているのよ。やはり頭でも打った?いやまさか…でもそれなら真名がないのも……」

 

「詠ちゃん、どうしたの」

 

「月!この男から離れなさい」

 

賈詡殿は私に対しての警戒心を一気に強め、董卓殿に私から離れる様促していた。

私の先程の言動がこの状況を作り出したようだが、彼女が何に思い至ったのかは皆目見当も着かないので、ここは素直に尋ねる事にしよう。

 

「賈詡殿、真名にあまり詳しくないという事はここではそんなにいけない事なのでしょうか?」

 

「いけないも何も、真名は漢民族や漢民族と比較的親交のある民族には必ず付けられる名よ。頭を打って全てを忘れているならまだ安心出来るけど、あんたには真名という言葉の知識だけはある。」

 

「あんた、敵対している若しくはまだ漢民族とは親交の無い異民族なんじゃないの?」

 

「詠ちゃん、いくらなんでもそれは乱暴だよぉ」

 

「そんな事ない、ちょっと頭のおかしな行き倒れを装って私達の生活を調べに来たのかも」

 

望月から聞いた真名の知識が思わぬ方向に話を持っていこうとしていた。確かに大陸の者ましてやこの世界の者ですらない私だが、この二人に害しようなどとは露とも思っていない。これ以上話がこじれる前に止めなければ。

 

「賈詡殿のおっしゃる通り、私はこの国の者ではありません。私が住んでいた所はこの大陸を越えて、更に海を跨いだ日ノ本という国になります。ですが、私もなぜここに居るのか見当もつかず、この国をどうこうしよう等という邪な考えはありません」

 

「口ではなんとでも言えるわ。門の前で倒れていた時も鎧を付けておまけにあんな大きな槍を持っていたのだから少なくとも、そこら辺の兵士よりは武力はありそうだもの」

 

「私としては、信じてほしいとしか今はいう事が出来ません。誠もどかしくはあるのですが」

 

もう二人の良心に訴えかけるしか方法は無い。だがこの様な与太話を信じるという事は自分でもあまりないと思っている。もしこれで囚われる事となっても致し方あるまい。

元々終えたこの命だ。自分が生きると言う目的の為にここの者達を傷つけたいとは思わない。

 

暫く、黙って話を聞いていた董卓殿だが思案していたのが終わったのか口を開いた。

 

「詠ちゃん、私信じてみようと思うの」

 

「なんでよ月!」

 

「だって、仮に間諜だとしたら、お人好し過ぎるもの。嘘なんてつこうと思えば幾らでもつける筈だよ、素性も分からないのだから。真名の件だって態々自分から私達に聞いてきたし」

 

「確かに、それこそお人好しが服を着て歩いているような月に、お人好しと呼ばれるなんて間諜としてはやっていけなそうね。」

 

「へぅ、詠ちゃんそれは酷いよ」

 

そういって賈詡殿は、警戒と多少緩めてくれた。だがその言葉に腑に落ちないといった様子で月殿が頬を膨らませて抗議していた。

 

「月、むくれないの。幸村、一応は月の言葉を信じて投獄する様な事はしないわ。でも、信じてくれた月を裏切ったら絶対に許さない。その時は今投獄されな事を後悔させる様な目に合わせるわよ、忘れないで」

 

「はい、肝に銘じます。信じてくれて感謝致します。董卓殿、賈詡殿」

 

「べっ、別に私はまだ信じた訳じゃないんだからね。勘違いしないで」

 

 

 

「そういえば、幸村さんは真名について知りたかったんですよね」

 

話が一区切り着いた所で、董卓殿は当初の目的である真名について私に教えてくれた。

 

「真名と言うのは、その人個人全てを表す名とも言われます。ですので、本人が許していない者がそれを口にする事は大変無礼で、その事が元で命を奪われても仕方がないとまで言われます」

 

「そうなのですね、私の住む場所でも極々一部では真名という文化があった様なのですが、夫婦の間で交わす特別な名前と窺っておりました。ですが命まで取られるとは言っておりませんでしたので、似ている様で若干の違いがあるようです。恐らく元は大陸の方から日本に渡りそれが広まったと考えるのが妥当の様に思えます」

 

「まぁ、その可能性が一番高そうね。ところで幸村、あんたこれからどうするの?」

 

「正直、分かりません。気付いたらここに居たものですから」

 

国も時代も違うこの地で私に何をなせと言うのだろうか。守るべき真田も倒すべき徳川も無い近しい者も居ないこの世界で……

さすがの私も意気消沈してしまったが、その様子を見て董卓殿が一つの提案をして下された。

 

「幸村さん。良かったらですが、目的が決まるまでここで暮らしませんか?武の心得もあるようですし」

 

「それは……私は願ったりなのですが、宜しいのですか?私自身で言うのもの何ですが、こんな素性も分からない様な男に」

 

「幸村の言うとおりよ。私はそこまで信用できないわよ」

 

「私はあなたを信じると言いました。あそこに貴方が倒れていたのも何かの縁でしょう。困ったときはお互い様とも言います。遠慮なさらず頼って下さい」

 

そう言った董卓殿は性格も、容姿も違うが何処か茶々様と重なって見えた。目的が決まるまで御恩返しも兼ねて董卓殿の世話になる事にしよう。

 

だが、ここまで良くして下さる董卓殿に本当の事を言わずに世話になる事は出来ない。この事を伝える事で気が触れた者として先程の言葉を反故にされても栓無き事だろう。

 

「それでは、お言葉に甘えようと思いますが、その前に話しておきたい事があります。」

 

私は、お二人にこの時代よりずっと先の時代から来た事、そこで天寿を全うした事そしてその時代では二人をはじめこの国の人たちが歴史書として伝わっている事を伝えた。突拍子も無い事に二人は信じられないと言った様子だが、窺っていない二人の字を言い当てると賈詡殿はやはり間諜を疑ってきた。

 

「やっぱ、あんたって間諜じゃないの?でも今ここでそんな事言い出しても疑惑が掛かるだけで、なんの得にもならないし。あぁ、もうこんがらがってきた。まさかこれが狙い!?でも、こんな事ただの嫌がらせにしかならないし、気にするの辞めたらそこまでの話よね」

 

「詠ちゃん……もしかして幸村さん管輅って預言者さんの話に出てくる『天の御使い』なんじゃないの?」

 

「あの胡散臭い預言の?確かあの預言に出てくる御使いは白い布を纏っているって話だけどどこからどう見ても赤一色だったわよ」

 

「へぅ」

 

「なんなのですか?その『天の御使い』と言うのは」

 

「大したことじゃないわ。自称預言者の戯言よ。たしか流星が北の空に流れた時その御使いとか言うのがやってきてこの国に平和をもたらすとか何とか」

 

「月あまり不用意な発言はしないの。義勇軍とかなら良い旗印になるかもしれないけど、太守である月が御使いを保護したという噂が流れたら最悪国家反逆の罪に問われかねないわ。今でさえやっかみを受けているのに」

 

「ごめんなさい。詠ちゃん」

 

叱られた子犬の様に、落ち込む董卓殿。この様に優しい方でも疎まれる事もあるとは驚きだ。

 

「とりあえず、嘘をついている様にも、気が触れている様にも見えないから、さっきあんたの言ってた事は話半分に覚えておくわ。くれぐれも他の者に話しちゃダメよ。最悪、月の責任問題にもなりかね無いのだから」

 

「私の責任とかは気にしなくても全然良いのですが、私もこの話はあまり他の方にはしない方が良いと思います」

 

「私も、信じてくれると言ってくれたお二人にだから打ち明けたので、他の者にこの事を伝えるつもりは今の所はありません」

 

「そうですか」

 

「ところで、興味本位で聞くけど、その歴史書の中であたしはどんな風に伝わっているの?」

 

「類稀なる鬼謀の持ち主と伝わっています」

 

「へっ、へぇ……」

 

どことなく嬉しそうな賈詡殿を見ながらも内心私は焦っていた。

 

しまった、よく考えればこの話を聞けば、こう言う流れになる事も予想出来たはず賈詡殿は問題ないが、董卓殿は……

 

どうか気にしないで欲しいという私の願いはどうやら天には届かなかった様だ。

 

「あの、あの私は…?」

 

私は取り繕うと言った事が苦手だ。ここで変に嘘で誤魔化しても見破られてしまうだろう。

なるべく傷つけない言葉を選んで伝えよう。

 

「…何と申し上げればよいか、粗野な方だと伝わっております」

 

「へぅ」と発し、見るからに落ち込んでいく董卓殿を見て、それまで機嫌の良かった賈詡殿も激高し始めた。

 

「誰よ。そんな出鱈目を後世に伝えた不届き者は」

 

「ち、陳寿と言う方だった気がします」

 

賈詡殿の迫力に思わず、著者を伝えてしまった。

 

陳寿殿申し訳御座いません。

 

この世界に存在するか分からない、陳寿という人物に私は心の中で謝った。

 




月のセリフが圧倒的に少ない……

何か某主従の様な会話バランスになってる気がします。

ぐぬぬ、影が薄くならない様に上手く月の言葉を引き出さねばと思います。


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6話 武官試験

初の戦闘描写、超難産でした。

はじめ一人称で書き始めなんか違うなってなって、一度全部再構築しました。

今後おそらく、日常描写は一人称視点、戦闘描写等は三人称視点になると思われます。


董卓への言われも無い中傷に憤っていた賈詡も暫くすると落ち着きを取り戻した。

その様子を見た幸村は、董卓にこれからの事について尋ねた。

 

「ところで董卓殿。私がここに置いて頂いている間、何をすれば良いのでしょうか?」

 

「そうですね。とても立派な槍をお持ちなので、武に長けていると思ったのですが」

 

「はい、それなりの心得があります」

 

「それでは、武官関係のお仕事を手伝って頂きますね。詳しくは詠ちゃんに聞いて下さい」

 

「そうね…あんたの実力が分からないと何とも言えないのだけど、あいにく私は頭脳労働専門だから、とりあえずここの武官と模擬戦して任す仕事を決めようかしら」

 

ここの主な人事も賈詡が担っているが、武に明るくない賈詡は董卓軍の武官と、どの程度張り合う事が出来るかで実力を見ようとしていた。

 

「詠ちゃん。病み上がりの幸村さんには大変じゃない?」

 

ついさっき目覚めてばかりの幸村の事を董卓は気遣うが、肝心の幸村はと言うと

 

「董卓殿、ご心配頂き痛み入ります。されど寝てばかりでは体が訛ってしまいますので」

 

と言って、心配する董卓に礼を言うものの模擬戦自体に対しては乗り気であった。

 

「模擬戦とは言ったけど、それなりの武将を当てる予定なんだけど、その言葉大層な自信ね。調子に乗って布団に逆戻りとか勘弁してよ」

 

幸村の発言に、賈詡は董卓軍が甘く見られたと捉え、軽い皮肉を込めて釘を刺した。

 

(むむっ、甘く見てると取られてしまったか?)

 

己が発言が、賈詡にやや不快な思いをさせた事を察した幸村だが、変に取り繕っても余計に拗れそうなのでその皮肉を受け止めるのみで留めた。

 

「さっ、行くわよ」

 

……………

 

 

………

 

 

 

賈詡の案内で幸村は稽古場まで足を運んだ。ふと幸村は自分の愛槍の在処が気になり賈詡に尋ねた。

 

「賈詡殿、倒れていた時に私の傍にあった槍はここに保管してあるのでしょうか?」

 

「えぇ、そうよ。模擬戦終わりにでも受け取って行きなさい。」

 

「よろしいのですか?」

 

「なに?その槍使って暴れる気?」

 

「いえ、その様なつもりは」

 

「月が信じると言った以上、私はそれを支えるだけ。だけどさっきも言ったけど、そんな月を傷つけたら絶対許さないから」

 

「賈詡殿、かたじけない」

 

幸村が礼を述べた所で、賈詡は模擬戦を務める相手を探し始めた。

 

「それより、さっさと模擬戦を始めるは相手はそうね……」

 

「胡軫!ちょっと模擬戦の相手をしてくれないかしら」

 

「賈詡様が稽古ですかい?珍しい」

 

「馬鹿、違うわよ。隣の男とよ」

対戦相手として選ばれたのは、筋骨隆々とした長身の男。特に目立つのが胸元から脇腹に向けて付いている一つの大きな傷である。

 

 

「この人確か、門の前で倒れてた……大丈夫なんですかい?目覚めて急にそんな事して」

 

「本人が大丈夫って言ってんだから、問題ないわよ」

 

「ほぅ、それは随分自信があるようで」

 

やはり胡軫も董卓軍が舐められていると感じた様で目を細めた。

 

「私は真田 幸村と申す。宜しくお願い致します」

 

「董卓軍親衛隊副長、胡軫。こちらこそ宜しくどうぞ。」

 

二人が挨拶を交わし、稽古場の中央へと足を運ぶ。なお先程の発言から胡軫の挨拶はやや棘のあるものとなっていた。

 

模擬戦の形式は、お互い稽古用の刃を潰した武器で、幸村は十文字槍、胡軫は大盾と短槍を選択した。

 

「それでは、二人とも初めて頂戴」

 

賈詡の掛け声と共に模擬戦が開始された。胡軫は盾で半身を隠しながら間合いを取りながら、幸村の動きを観察している。決して正対状態を崩さ幸村が胡軫の間合いに入ってくる事を今か今かと待ち構えている。反撃重視の戦闘態勢が胡軫の得意とする所の様だ。

 

「どうした、真田の兄さん。起きたばっかりで寝ぼけて武器の振り方も忘れたかい?」

 

胡軫が挑発を試み、間合いに踏み込ませようとする。その挑発に乗った様に幸村は幾分か後ろに下がった後、胡軫に向け駆けた。

 

(ようやく、こちらの挑発に乗ったな!一撃目を全力押し返し突く。それで終ぇよ)

 

間もなく、胡軫の間合い。二人ともそれを理解し顔つきが更に険しいものへとなっていく。

そろそろ幸村の槍の一撃が来ると踏んだ胡軫は盾を持つ手に力を込める。だが、そんな胡軫の予測を裏切り幸村は上へ飛んだ。

 

(アイツこの間合いで飛ぶか。大方、俺を飛び越して背後をとるのが目的だろうが、そんな事を試みる奴なんか、過去何度も居たんでねぇ上も俺もまぁっ……)

 

過去に自慢の脚力を利用し空中から背後を取るという手で胡軫に挑む者も多数いた。そんな中の一人と判断し、頭上近くにきた無防備な状態を捉え様と胡軫は構えを変えた。

 

しかし幸村は更にその予測を裏切る。「はぁ!!」と気合を込めて、空中で槍を振るった。だが、幸村が振るう相手は胡軫ではなくその手前の地面である。

 

(くっそ!あいつとんだ隠し玉を…アイツ地面抉るとか何モンだよ!ってか…まずいぜ、これは)

 

大盾のおかげで、礫の直撃は防げたがその土煙で胡軫は目の前の視界を奪われる形となった。おまけに地面を抉った衝撃は胡軫をぐらつかせた。

 

「けほっ、なんなのよ。その出鱈目な一撃」

 

突如と上がる土煙は胡軫だけではなく、その模擬戦を見ていた者の視界も奪った。

土煙が散り、視界が開けるとそこには盾を落とした胡軫が幸村に槍を突き付けられている状態で模擬戦は決着していた。

 

「一体何があったのよ」

 

状況が呑み込めない賈詡は二人に事の詳細を説明する様に求めた。

 

「いつつ、こりゃ参りました。完敗ですわ」

 

ぐうの音も出ない結果に、胡軫は素直に負けを認め、己が身に何が起こったのかを賈詡に伝えた。

 

土煙で視界を奪われた胡軫が次に感じたのは肩への痛み。並の一撃であれば耐えられる胡軫の強肩をもってしても防ぎきれず盾を落としてしまった。そして拾い直す暇もなく首元に十文字槍の刃先があてがわれていた。

これが、今回の模擬戦の一連の流れであった。

 

「まさか、ここまでとは思っても見なかったわ」

 

あまりの一方的な展開に唖然とする賈詡。けして胡軫が弱い訳ではない、親衛隊の肩書は伊達ではなく一人ひとりが豪の者の親衛隊。その纏め役ともいえる副長がこうも容易く破られるとは思いもしていなかった。

 

「隊長、張遼殿、呂布殿と並ぶ武の持ち主だと思いますぜ」

 

一度、決着が着きわだかまりが解けたのか、模擬戦を始める前より柔らかな口調で胡軫はそう語った。

 

「たしかに、あれを見せられたら否定はできないわね」

 

賈詡もその事を肯定し、思わぬ拾い物をしたと内心喜んだ。

 

「幸村、あんたには客将としてここに居てもらうわ。あんたが月に仕えるってなら喜んで迎えるけど、今はまだそんな気持ちにはなれないでしょ」

 

本当は董卓軍の将として迎えたい気持ちを一応抑えながら、賈詡は幸村に伝えた。

 

「お心遣い感謝致します。賈詡殿」

 

そんな気遣いに幸村は素直に礼を述べるのであった。

 

「噂の行き倒れ君は、ごっつ強かったの~。血が滾ってまうわ」

 

「胡軫、せめて一太刀くらいは当てろ」

 

そう話しながら、二人組の女性が幸村達に向けて歩いてきた。

一人は関西弁と似たしゃべり方でサラシを巻いて上着を羽織っただけの軽装、もう一人は銀髪のショートヘアーで鎧の胸当を付ける以外は先程の女性と大差ない軽装と言った格好である。

 

「華雄隊長!張遼殿!」

 

華雄、張遼共に董卓軍きっての猛将であり、幸村も勿論その名前に聞き覚えがあった。

 

「お初にお目に掛かります。私の名は真田 幸村。本日よりここで客将として仕える事となりました。宜しくお頼み申す。」

 

「なんや、兄さん、かったいのぉ。うちは張遼や。気軽に呼び捨てでもかまわんで、うちも呼び捨てで呼ぶけどかまへん?」

 

「私は華雄だ。先程は部下の胡軫が世話になったな」

 

それぞれ挨拶がすんだ所で、張遼から提案が出された。

 

「なぁ、幸村。まだ、物足りへんやろ、うちらとも勝負しよーや」

 

「私はかまいませんが」

 

「という事で、詠。かまわんへんよな」

 

「本人同士で話がついたんなら特段何もないわ。ただ終わったら自分たちで片付けしなさいよ。今ですら、地面抉れてんだから」

 

「了解や。ま、抉れたとこは幸村頑張り―や」

 

「承知致した。ところで順番は張遼殿、華雄殿どちらが先であろうか」

 

「それなのだがな、幸村。先程の戦いを見て私達はお前の実力が我が軍最強の呂布に匹敵すると見ている。故に二人で挑ませてもらう」

 

「呂布ちんが何進の護衛として、でばってるから退屈してたんや。楽しませてもらうで」

 

「ご期待に応えられるからは、分かりませんが全力を持って当たらせてもらおう」

 

董卓軍最高峰の二人との、熾烈な戦いが始まろうとしていた。

 




ゲームで実際えぐってるから、しょうがないんや・・・

初オリキャラ胡軫、男ですたw史実だと華雄の配下で呉の程普に討たれます。
※感想でご指摘頂き訂正致します。上記の出来事は演義での胡軫となります。

今回は完全にかませになっちゃいましたが、決して弱い訳ではないんですよ。

幸村がチートなだけです。

次回も引き続き戦闘描写、魅せれる戦闘が書ける様に頑張ります。


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