[番外編]テニスの王子様の世界にチート転生者が来たようです (型破 優位)
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銀華中に入部
テニプリの二次創作って少ないんですね。
「ふぁ……ん~~~!久しぶりによく寝た!……ジブリールは何処に行ったんだ?」
佑馬は目覚めた瞬間、自分のパートナーがいないことに気がついた。
とりあえず家の中を探し回るも、いない。
仕方がないので念話で話しかける……も、返答がない。
そこで、佑馬は異変に気がついた。
返答がないのではなく、この世界にいないのだと。
「お、おい……ジブリール!何処だ!!」
何故いなくなったのか、何処に行ったのか、いろいろな疑問が渦巻くなか、何よりも大きい感情は一つ。
――不安。
ジブリールに限って大事なことはないだろうが、この世界にいないという事態は今までに経験したことがない故に、冷静な思考をすることが出来ない佑馬。
ただ、何が最善策かだけはわかった。
(おい爺さん!ジブリールは何処行った!!)
自分とジブリールを転生させてくれた、神様に聞くことだ。
(ん、ああ、佑馬か。久し振りじゃの?)
(そんな呑気なこと行ってなくて良いから、ジブリールは何処か早く!!)
(ん?ジブリールがいないのか?ちょいまってるのじゃ)
そこで少しの静寂が訪れる。
佑馬の中では不安と期待が大きくなっていく。
不安が六で、神様への期待が四だ。
(ん、待たせたの)
(長く感じたけど、そこまで待ってはないと思う。それで、どうだったんだ?)
そこで、一拍間を置いてから、神は言った。
(その世界は『テニスの王子様』の世界じゃな。そして、『魔法科高校の劣等生』の世界は全ての時間が停止しておる。お主も含めてな。つまりじゃ)
(つまり……?)
(お主の魂だけが何故かそちらの世界に行ってしまったということじゃ。恐らく先の世界でそちらの世界の技を使いすぎたのじゃろう。魂がそちらの世界に呼ばれてしまったのじゃ)
(なるほど、それで、いつ戻れるんだ?)
(これはわしも予期せぬ事態じゃからのぉ……何時になるかはわからんが、戻せるようになるまでその世界を堪能するが良い)
(……ジブリールがいないこの世界で?)
(仕方がないじゃろ。お主の魂がそちらに勝手に行ってしまったのじゃから。自業自得と言われても可笑しくないのじゃぞ?)
(……わかったよ。じゃあこの世界の現状を教えてくれ)
正直、ジブリールがいないのでテンションが著しく下がっているが、自己責任と言われては諦めるしかない。
次に気になるのは、何処の高校なのかということ。
さすがに中学はないだろう。
(いや、お主は銀華中の三年生で、転校したことになっている)
(お、おう)
まぁ、確かに『テニスの王子様』って中学生なのに体格が高校生みたいだから、有り得るといえば有り得るのかと一人納得して、話の続きを聞く。
(時系列は越前リョーマが銀華中のテニス部を全員倒す日じゃな)
(そうか……ん、まて。今何時だ)
(八時三十三分じゃ)
(……遅刻じゃねーか)
学校に行った。
◆◆◆
制服に着替え、家にあったラケットをラケットバッグに入れ、登校。
外に出てみたら自分が転生する前に生きていた世界よりも、さらに少し前の時代の建物が並んでいた。
銀華中。
都大会ベスト四まで行きながら、神が言ったこの世界の主人公、越前リョーマにやられたことや、次の相手、越前リョーマが在学している青春学園のメンバーの実力を前に、棄権。
次の関東大会では、ある珍事件で全員が棄権するというある意味伝説を残した中学校だ。
場所は分からないため、この世界を堪能しながらゆっくりと探すことにし、ブラブラしていた。
「んー、転校したことになってるし、最後の手段で交番行けばなんとかなるか」
ちなみに、『魔法科高校の劣等生』の世界の魔法、『ノーゲーム・ノーライフ』の世界の魔法、『転生特典』は全て使えるようだが、この世界で必要なのは限られてくるだろう。
しばらく行くと、ハンバーガーショップを見つけたため、中に入る。
中はあの有名なチェーン店と同じ構造になっており、メニューも同じだった。
朝食がまだなため、いくつかハンバーガーを買って席につき、さっそく食べ始める。
一個、二個と食べていき、四個目に差し掛かろうとしたとき、あることに気がつく。
「あれ、家にあったから冬服着てきたけど、今って夏じゃね?しかも夏休み」
どうやら反射膜が快適に過ごせるよう勝手に作用してくれていたらしく、熱を反射してくれたようだ。
というわけで一旦家に戻り、着替えてから交番へ行って事情を説明し、銀華中に向かった。
◆◆◆
銀華中は大学みたいな感じの造りになっている中学校だった。
時間でいえば三限も終わりの時間だが、夏休みなため学校はない。
なんとか職員室まで辿り着き、出迎えてくれた先生に事情を説明、テニスコートへと向かう。
しばらくすると、テニスコートが見えてきて、部活動をしているのが見えた。
「お、やってるねぇ」
とりあえず外から練習を見てみる。
普通の人に比べたら確かに上手いし、選手層も厚い。
都大会ならベスト四にいける実力は確かにあった。
「ん?誰だお前」
そこで、一人の男が話しかけてきた。
「どうも、今日転校してきた中田 佑馬です。部長さんは何処にいるのでしょうか」
「部長は俺だ。この時期に転校って珍しくないか?何年生だ?」
どうやら部長の福士 ミチルはこの人のようだ。
「三年生です」
「そうか、俺は福士 ミチル。前の学校ではテニスはやってたのか?」
「いや、やってません」
嘘ではない。
出来るか、と聞かれたら出来ると答えるが、やっていたか、と聞かれたらやってないのだから。
「そうか……来週には都大会準決勝があるから、関東大会の前に少し練習参加させるぐらいしか出来ないが、いいか?」
「勿論。今日は見学しておきます」
とりあえず、練習を眺めておくことにした。
◆◆◆
そして、あれから数時間後、銀華メンバーはある一人の少年にボロ負けしていた。
「あいつ……強すぎる……」
「まだまだだね」
越前リョーマだ。
彼の友人、竜崎
そして、それを見つけるというていで、越前リョーマが部員一人十球、三十人いるため合計三百球を賭けて勝負、そして、現在三十人目が負けた。
「はい、俺の勝ち。ボールは全部貰ってくよ」
「はーい、ちょいまちー!俺まだやってなーい!」
「おい、お前じゃ勝てないって!レベルが違うんだぞ!」
せっかくの勝負できる機会、見逃すなんて勿体ないことするはずもなく、コートに入る佑馬。
出来ないと勘違いしている福士は止めにかかるが、実際は違う。
「へぇ、あんた見学じゃなかったの」
「まぁ、今日転校してきたんだけどね」
「そう。で、やるの?」
「勿論」
そして、越前リョーマとの試合が始まる。
これはすぐに終わります。
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最強の男参戦
制服なため、着替えるため部室を借りて、予め入れておいたスポーツウェアに着替える。
ラケットはクラウドで使ったのとよく似ているもののため、使い方は大丈夫だが、普通のテニスには『サーブ』というものがある。
これが打てなければ話にならないため、試合中になんとかするしかない。
そして、ボール。
硬式ボールはいいところに当てればよく跳ぶが、力が弱すぎたり変なところに当たればその分威力は落ちるし、コントロールもつかなくなる。
この試合で、硬式ボールになれつつ、サーブが打てなければリョーマに勝つのは不可能だろう。
裏を返せば、それさえ出来れば勝てるのだが。
ここで考えていても仕方がないので、佑馬はさっさとコートに向かい、リョーマと再び対面する。
「お待たせ。もういいよ」
「あんた初心者なんでしょ?やめた方がいいよ」
「お、言ってくれるね御チビ君。気持ちだけ受け取っておくよ」
その言葉を残してコートのベースラインまで下がる。
立った場所はセンターラインとアレーの真ん中。
「先サーブよろしく」
その言葉でボールを出してルーティンを始めるリョーマ。
持ち手は右手なあたり、初心者としての配慮はしてあるようだ。
そして、サーブが打たれた。
先ほどの銀華中のテニス部と同じくらいのスピードのサーブがサービスコートに入り、そのまま佑馬の右側に向かう。
(へぇ……態度の割にはちゃんと配慮出来るんじゃん)
まずはそれを軽く打ち返して、ラリーをする。
ボールの硬さ、反発力を確認しながら、まずはゆっくりと確実に。
「へぇ。初心者にしてはやるじゃん」
「そりゃどうも。君が手加減してくれたおかげだよ。だからもう左手で打っても大丈夫だよ?」
「そう。後悔しても知らないから」
慣れてきたため、挑発して左手に持ち変えさせてもらうようにする。
その挑発にのってリョーマは左手に持ち変えてさっきとは比べ物にならないスピードで打ってくる……が。
「うん、おかげでだいぶ慣れたよ」
その打球は既にリョーマ側のコートに入っていた。
「――ッ!?へぇ……やるじゃん」
「おい、嘘だろ……初心者なのに今の打球、全く見えなかったぞ」
「いや、テニスやってたか?って聞かれてたからやってないって答えただけで、やれるかどうかは聞かれてないからね」
佑馬の打球を見たリョーマは冷や汗を流しながら一言呟き、銀華中テニス部はありえないとばかりにザワザワしだす。
今度はバックサイドに移動し、サーブを待つ。
リョーマの手は右。
あのショットを見て右にしたということは、つまり、十八番サーブが来るのだろう。
トスを上げ、ツイスト回転をかけたボールが佑馬のサービスコートに入る。
「あれは!ツイストサーブだ!!」
銀華中の誰かがそう叫んだが、それがコートに届く前にもう、ボールはリョーマのコートへと落ちていた。
「んー、いい感じ」
「…………」
リョーマが恨めしそうにこちらを見つめるなか、またフォアサイドに戻って今度はルーティンをする……が。
「あ、一つ言うとさ。ラリーは出来ても、俺、サーブ打てるかわからないんだよね」
「「はぁ!?」」
そして、いきなりの暴露に今度は驚きの声を上げる銀華中テニス部。
息ピッタリなのは仕様なのだろうか。
とりあえず、再びルーティンを始める。
一球目を失敗しても二球目が打てるため、一球目は思いっきり打ってしっかりと感触を掴むことに専念する。
トスを上げ、打った。
「――ッ!!」
そして、それはサービスラインとベースラインの丁度間に落ちる。
だいたい感触は掴めた、次はいける。
再びトスを上げ、今度は先程より力を弱くして打った。
だが、これでもリョーマのツイストサーブよりも遥かに速い。
なんとか打ち返すリョーマだが、既に佑馬はネット際でボレーの準備をしていた。
「うん、なんとかなるわ」
そして、ドライブボレーを決めてポイントは佑馬が三、リョーマがゼロ。
「…………」
その圧倒的な実力に、最早誰も言葉を出すことが出来ない。
コート上のリョーマですら、圧倒的な壁を感じているのだから。
「御チビ君、次のサーブは君もよく知っている人のサーブだよ」
「……へぇ」
それにより、反応もだんだん薄く、表情は険しくなっていく。
バックサイドに移動してルーティンを少しやり、トスを上げ……ずに、回転をかけながらボールを離し、回転をかけながら
これはリョーマの先輩で天才と呼ばれる、不二周助のサーブ。
だが、一つだけ違うところがある。
「へぇ、不二先輩のサーブね。でも、これなら俺打てるよ」
「さて、どうかな?」
バウンドした瞬間、乱回転によりボールは消えたように見えるのがこのサーブの特徴。
そう、消えたように、
だが、このサーブは違う。
何故なら、本当に消えているのだから。
「御チビ君、構えているとこ悪いけど既に落ちてるよ?君の後ろにね」
「んなバカな……!!」
そう、コートに落ちて跳ねた瞬間に、リョーマの後ろへと移動させたのだ。
この理論は、誰も分かるものではない。
「さて、これで四対ゼロだ。どうする?」
「…………」
無言でルーティンを始めるリョーマ。
今回は少し長いところを見ると、作戦を考えているのだろう。
ラケットは左手にあるため、ツイストではなく単純な回転とスピードで勝負する気なのだろう。
そして、作戦が決まったのか、サーブの構えをし、トスを上げてサーブを打った。
それと同時に、走り込む。
(なるほどね。サーブ&ボレーか。まぁ、引っ掛かってやろう)
何をするのか気になるため、リョーマの方へ少しスピードを下げて打つ。
リョーマはいきなりしゃがみこみ、ボールの直前で飛び上がってきてドライブボレーを打った。
「出た!リョーマ様のドライブB!!」
桜乃と一緒に練習していたらしい……おさかな?っていう子が声を上げた。
ドライブBとは、飛び上がった力とドライブの力で超回転をかけることにより、高く跳ねすぐ沈むボールのこと。
「ドライブBか……じゃあ、これでいくか」
佑馬はそのドライブ回転のかかったボールを、スライス回転をかけることによりさらに回転を加えて、打ち返した。
それがコートに落ちた瞬間、そのボールは跳ねずに水平に移動していった。
「燕……返し……」
「そろそろ、終わらせよっか」
そして、勝負は決した。
十対ゼロで、佑馬の圧勝。
「君、名前は?」
「……越前 リョーマ」
「そっか。俺の名前は中田 佑馬だ。またやろうな」
「次は必ずあんたに勝つ……」
そしてリョーマは、ボール三百個を持って帰っていった。
「おい!なんで中田が勝ったのにボール持ってかれたんだよ!」
「いや、だって俺三十人の中に入ってないから。当然じゃない?」
「そりゃそうだけど……っというか、お前そんなに強かったのかよ!」
「まぁ、それなりにね。だから、来週の都大会は
「勿論だ。これで俺たちの都大会優勝も夢じゃないぜ!」
「「おお!!」」
結果として、ボールは取られたが士気がかなり上がって、さらにS3も貰えたため結果オーライというやつだろう。
次回、原作ではなかった対青春学園
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対青春学園とリベンジマッチ
しかも流し読み程度なので、十話いくかどうか。
あれから約一週間。
都大会の日になった。
「さて、俺の予想では
「そんな感じだと思います!」
「ならばS3は越前・海堂・桃城の三人のうち一人か。手塚は
「きっとそうですよ!」
そして、変化がある。
佑馬の扱いがまるで神のようになっているのだ。
その要因を作ったのもまた、佑馬なのだが。
「……よし、いくか」
「おーー!」
コートに入り、先にネット前で整列。
後から入ってきた青学が遅れた事に対する謝罪と共に、ネット越しに並んだ。
「………」
「そう睨むなって、越前リョーマ」
「ん?知り合いなのか?越前」
リョーマがずっと睨んでいるため、落ち着かせるためにも言ったのだが、反応したのは隣にいる桃城だった。
「……別に」
負けた相手、など言えるわけもなく、リョーマも引き下がったため、桃城もこちらを一瞥しただけで、深くは聞かなかった。
「これより、準決勝第二試合、青学対銀華中の試合を始めます」
審判の合図により、挨拶を済ませて佑馬はベンチに座り、D1の試合を見る。
「佑馬さん!どう行きましょうか!」
「んー、青学のゴールデンペアが相手とはいえ、練習のように基本を忠実にやれば拮抗出来るぞ」
「分かりました!ありがとうございます!」
銀華中は原作では全員仮病でデフォなため、この二人が何処まで拮抗出来るのか正直なところ楽しみであり、それを見たくてこの一週間特訓をしたのだ。
一週間で届くとは到底思えないが。
◆◆◆
「なぁ、越前。あいつ何者なんだ?ずっと睨んでるけどよ」
「…………」
「なぁー、えーちーぜーんー」
「……あ、すみません、桃先輩。なんですか?」
「いや、だからよぉ。あいつは何者なんだ?知り合いなのか?」
「……一応」
ダブルスが始まって暫くたったとき、桃城がさっき佑馬を睨んでいた理由を越前に聞くも、返ってきた答えは曖昧なものだった。
そして、桃城はその事は置いておいて今現在の試合の状況について話題を変えた。
「にしても、やっぱりベスト四に残ってるだけあって強いな銀華中!あのゴールデンペアから二ゲームも取るなんて!くぅー!俺も戦いてぇなぁ!戦いてぇよ!」
現在のカウントは青学四で銀華が二。
拮抗までは行かないまでも、抵抗はしている状況だった。
当然、越前は違和感に気がついているが。
(一週間前より明らかに強くなってる)
そこで視界に入ったのは、ベンチコーチをしている佑馬。
そしてリョーマは気がつかなかった。
佑馬がリョーマに笑みを向けているのを。
◆◆◆
「銀華中……やっぱり侮れないな。河村と不二がここまで苦戦する状況になるとは思っても見なかったよ」
D1の結果は三ー六。
全国区相手には善戦したといえる結果だろう。
そして、現在行われているD2。
青学五ゲームで銀華が四ゲーム取っている状況となっている。
しかも、あの超能力的技を使う人と超パワープレイヤーから基本に忠実なプレイでだ。
「なぁ、
「さぁ。俺のデータにも無い。一週間前に転校してきたらしいのだが、テニス部ではなかったということぐらいしかわからない」
「つまり謎なのか……テニス部ではなかったのにS3にいる。不気味だな」
『ゲーム&マッチ!青学!六ー四!』
青学が二勝を取り、青学陣営は大いに盛り上がる。
「よっしゃぁ!越前!このまま決めてこい!」
「……うぃす」
しかし……
「さて、越前リョーマ。この一週間で何処まで強くなったか見させて貰おう」
佑馬が立ってその一言を言った瞬間、雰囲気が変わった。
目に見えない何かに押し潰されるような感覚。
『彼』が絶対的な強者だと分かってしまう、それほどまでの圧倒的なオーラ。
そのオーラに、コートに入ろうとしたリョーマですら立ち止まる。
「確かにこのまま行けば青学の勝ちは揺るがないだろうな。だが、簡単に勝たせて貰えるとは思うなよ?」
そして、佑馬はユニフォームになってコートに立つ。
それを見てリョーマもコートに入り、対面のコートに立った。
「一ゲーム取れれば誉めてやろう」
「……あんた、やっぱりムカつくね」
「そりゃどうも」
『それでは!準決勝第二試合、青学対銀華のS3の試合を始めます!』
「ウィッチ」
「ラフ」
佑馬がラケットを回して、サーブ権を決める。
「スムースだな。じゃあレシーブで」
サーブ権をリョーマに渡してベースラインに着く佑馬。
なんとか平静を保とうとしているリョーマだが、今度は全く感じられないオーラが、逆に平静を乱していく。
『越前、トゥーサーブ!』
◆◆◆
「リョーマ君、大丈夫かな……」
「大丈夫よ桜乃!リョーマ君は同じ相手に二度負けるような人ではないわ!」
「二度負けるような?越前は以前、あの中田って人に負けたっていうことなのか?」
「……はい。実は一週間ほど前にある事情で十球勝負の試合を行ったのですが……」
「なるほど。それでカウントは?」
「……十対ゼロでリョーマ君の負けです」
その言葉に、全員が驚きの声を上げる。
「十対ゼロ!?あの越前が!?」
「何?あの越前がか?」
「ふぇー。おチビが一球も取れないなんて、あいつ何者かにゃ?」
「お前達!少し静かにしたらどうだい!!」
そこで青学の顧問でベンチコーチをしていた竜崎スミレが外野を怒った。
その声につられてコートを見ると、佑馬対リョーマの試合がもう始まろうとしていた。
◆◆◆
リョーマは右手でラケットを持ち、ルーティンをしている。
(ツイストサーブかな?)
右手で持っていることもあり、十中八九ツイストサーブが来ると予想する佑馬。
というより、それ以外で右から打つサーブで佑馬に通用するものはない。
ツイストサーブも微妙なところだが。
リョーマはトスを上げ、サーブを打った。
ツイストサーブだ。
「出たぁ!越前のツイストサーブ!」
サービスコートに入った瞬間、ツイスト回転で佑馬の方へ跳ねるが、それをいとも簡単に返す。
「おっと?」
しかし、返した瞬間、気がついた。
リョーマがラケットを左手に持ち替えて、しゃがみながらネットまで迫っていることに。
「いっけー!越前!ドライブBだ!」
だが、甘い。
この組み合わせは一週間前と全く同じ。
(前と同じことを試してみろってか?面白い)
これは、リョーマからの果たし状。
二度は同じ技は喰らわないというのを証明するためのもの。
「仕方がない。ノってあげよう」
それを燕返しで打ち返す。
「あれは……僕の燕返し……」
超回転がかかっているボールが高速でリョーマのコートの端に向かう。
前回はこれで決まった。
それをリョーマは……
「……へぇ。面白いじゃんそれ」
弾まないボール。
零式ドロップショットで対応した。
ドライブBでかかった回転を燕返しでさらに回転を追加したが、それをさらに使ってドロップショットを打った。
超回転のかかったドロップショットは弾まずに転がる。
それが青学部長、手塚 國光の代名詞ともいえる技だ。
「まぁ、おチビ君に付き合うのはここまでとして、普通に試合しようか。まぁ、試合になるかどうかはおチビ君次第だけどね」
「それはこっちのセリフだね」
「おっと?それは俺に本気を出させてから言うんだね」
宣戦布告もしたことで、ベースラインへ戻る二人。
再び右手に持ち替えてルーティンをする。
リョーマは再びツイストサーブを打ってから、また前へ出てくる。
「さて、この球の本質は何かわかるかな?」
そして佑馬が返した球は、なんの変化もない球。
「ハッタリだ越前!もう一回決めてやれー!」
「いっけー!おチビー!」
その球をみた桃城と菊丸は佑馬の言ったことがハッタリだと受け取ったが。
「いや……あの球はハッタリではないよ」
「何かある確率、百パーセント」
不二と乾はしっかりとこの球の本質を見極めたようだ。
「へぇ。テニスに関してはやっぱり化け物ばっかりだな」
その球がコートから跳ね返った瞬間、
「なっ……!!」
消えた。
「ストレンジショットっとでも名付けておこうか」
「ストレンジショット……奇妙なショット、不思議なショットという意味だが……どういう回転がかかっているのかが全く分からない」
「恐ろしい人だね。恐らく僕……いや、手塚よりも強い」
「不二がそこまで言う相手なのか……」
カウントは15-15
しかし、流れは佑馬にある。
「なぁ、おチビ君。俺はなんでもいいから一回本気でやって負けたい。そうすることによって、初めてまた別のことを知ることが出来るからな」
ルーティンをしているリョーマに、佑馬は話しかけた。
少しの、本当に小さな願望と期待をのせて。
「ふーん。じゃあ安心だね。俺に今から負けるから」
そう言って、リョーマはサーブを打った。
リョーマが言ったことは、ただ意気がっているだけ。
その小さな願望と期待は見事に打ち砕かれる。
「……もういいよ。一球だけ本気の球を見せてやる」
打たれたツイストサーブを、全ての力、ベクトルの方向を全て操作して、打ち込んだ。
そしてその刹那。
ドゴーーン!!!
轟音と共にコートに砂煙が舞う。
砂煙がだんだんと収まったコート、そこにあったのは。
「……なんだよこれ」
フェンスは大破、リョーマのラケットは粉々に砕けていた。
フェンスの後ろにあった木は数本倒れている。
「これでも意気がってられるなら、意気がってみなよ」
あえて英語では書きませんでした。
ねぇ知ってる?
……実はこの投稿の一秒前、つまり昨日が私の誕生日なんですよ!w
何歳かは企業秘密♪
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最強の男
雑談なんでも凸待ちで、普通にキャスもしますし、小説の方の質問、要望も受け付けていますので、是非どうぞ。
というか、来て下さい(´・ω・`)
「ほらほら!ストレートががら空きだぞ!」
「す!すみません中田さん!」
「口より先に体を動かせ!」
銀華中では現在、レギュラー陣が佑馬にしごかれており、その他の部員はそれぞれに課されたメニューをこなしている。
結局、青学との試合は負けた。
しかし、勝った後に青学の顔に喜びの表情はなく、むしろ重いものだった。
佑馬とリョーマのゲームカウントは6-0。
別次元の一球を見せてから、リョーマは徐々に崩れていった。
何処に打っても佑馬に返され、返されたボールは気がついたらコートに落ちている。
リョーマは正に、惨敗だった。
そして会場を変えての桃城対堂本だが、リョーマの様子をずっと気にして試合に集中することが出来ず、堂本が接戦の末、勝利。
S1は手塚対福士で、福士はなんとか手塚に食らい付いていくも、0-6で完敗した。
しかし、これは銀華中にとって過去最高の内容であり、今の銀華中テニス部はやる気に満ち溢れている。
「お前らの実力は青学にも劣っていない!関東大会、青学にリベンジするためにも、今は練習を頑張るぞ!」
「「おーー!」」
銀華中の青学にリベンジするための猛特訓は、さらにエキスパートしていくのだった。
◆◆◆
風の噂で、リョーマの調子がすこぶる悪いと聞いた佑馬は、練習の合間になんとなくでリョーマの家へと向かった。
すぐ行こうと思ってはいたのだが、何しろ住所が分からず、青学に行っても追い返されるため、青学と面識を持てる都大会が終わった今青学に行って、テニス部顧問、竜崎すみれに住所を聞いたのだ。
「んー、ここかな?やっぱり寺だなぁ」
パッと見はしっかりとした寺だった。
……テニスコートさえなければ。
「少年、そんな年で何か神頼みでもしたいことがあるのかい?」
その庭を見渡していると、いきなり後ろから声がかかる。
「えーっと……越前リョーマ君はいますか?」
「お、リョーマのダチか?残念だけど、リョーマは今部活だよ」
リョーマの父にして、世界を相手に三十七戦全勝をした『サムライ
「そうですか……ところで、南次郎さんですよね?」
「……イヤ?ワタシナンジロウチガウ」
しかし、南次郎とバレたくないのだろうか、何処からか取り出したサングラスをかけて口笛を吹きながら片言で否定した。
しかし、戦わずして作中最強の男と対戦するのを見逃すほど、佑馬も我慢強くはない。
というより、元々戦う予定で来ていたため、テニス用品一式を持ってきているのだ。
「それなら……自分とテニスやりませんか?南次郎さん」
「……なるほど。面白いな、少年」
そして、南次郎との試合が決定した。
◆◆◆
佑馬はコートに立ち、対面側にいる南次郎を見る。
ただ立っているだけ、なのに、佑馬をして『強い』と確信させるほどのオーラを纏っている。
「本当にワンセットでいいのかい?」
「勿論」
「りょーかい」
サーブ権は南次郎が譲ったため、佑馬が持っている。
(さて、作中最強キャラの強さはどんなものか、見させて貰うか)
ルーティンを済まし、まずは軽くサーブを打つ。
「ほらよっと」
それを軽々と返した南次郎の目は、閉じていた。
まずはラリーをする……が、南次郎は『サムライゾーン』を使っており、ベースラインの真ん中から一歩も動いておらず、佑馬は左右へと走っている。
「よっと。ところで、少年はリョーマよりも強いのか?」
ラリーしている途中、南次郎が佑馬に話しかけてきた。
「都大会では6-0でしたね」
「……なるほど。だから最近リョーマの様子が変だったのか」
その瞬間、南次郎が動いた。
「ならば少年。頑張れよ」
佑馬としては、普通の力で打ち返した球。
客観的に見ればとても速いが、それでもこの世界の中学生なら打ち返せるレベルの早さ。
しかし、精度は甘いと言えるものではない。
その球を、南次郎は決めてきた。
スピードは普通に見れば、とてつもなく速い。
しかし、佑馬にとっては、それなりに速いぐらいの球。
それくらいの球なのに、何故か
その球は佑馬の足元を通り抜け、ベースラインへと落ちる。
「今のが見えるったぁ、本当にリョーマに勝ってるんだな」
カッカッカと笑う南次郎だが、その本質は……なるほど、間違いなく作中最強だろう。
あれだけの球を打って、まだ余裕を見せているのだから。
「……なるほど。それでは少し本気でやらせていただきます」
「またまたそんなこと言っちゃってぇ。本気出してもいいんだぜ?」
ルーティンを済まし、サーブの構えに入り、南次郎を見る。
その瞬間、南次郎の目つきが鋭くなった。
佑馬から発せられるオーラを感じ取ったかのように、そして、その顔は、笑っていた。
そして、身体能力のみの力で五十ほどの力で打った。
「やるねぇ……よっと」
そのサーブは三百キロは出ていたはず。
なのに、南次郎は軽々と打ち返してきた。
だが、佑馬も返されるという前提でそのサーブを打っている。
コート端から抜けようとするボールは、佑馬のもとへと戻るように予め回転をかけて……いた……のだ?
「回転が、消えてる?」
返ってきた球には、回転が全くかかっていなかった。
それを瞬時に理解した佑馬は、そのボールの元へと全力で向かう。
大地が抉れて、そのままの力で振り抜いた。
凄まじい音とともに、南次郎のコートへと球は向かっていく……が。
「うお、これはさすがに、重いかな!!」
加減が出来ずに身体能力の全力を使って振り抜いたその球を、南次郎は多少ラケットが持ってかれそうになったが、普通に返してきた。
(……これは予想外。本当に人間か?)
その動体視力、身体能力に、佑馬も本気で人間か疑いたくなったが、今はボールの方に集中する。
カウンターのため、スピードはそのままで返ってくる。
その球のベクトルを操作し、文字通りの、全力の一撃を打ち込んだ。
「マジかッ!」
「……マジか」
その二人から、同じ言葉が違う意味で溢れた。
南次郎側のコートは抉れており、砂が舞い上がっているが、ボールはネットにかかっていたのだ。
つまり、音速を軽々と越える速さの球を、木を何本も倒したあの球を、ネットにかかっているとはいえ打ち返したのだ。
「いやー、今のはさすがにキツいなぁ」
「まさか当ててくるとは思っても見ませんでした」
しかも、その球を取ったラケットはまだ存命していた。
「だけど、試合は出来なくなっちまったかな」
南次郎は笑いながら抉れたコートとラケットを指しながら言った。
「ラケットも壊れちまったしな」
ラケットはラケットで、確かに存命はしていたのだが、それはもう原型をなんとか留めているだけで、実際はボロボロ。
一回振っただけでも崩れてしまうほどダメージを受けていた。
「すみません。大事なラケットを壊してしまって」
「いやいや、良いってことよ。初めて自分より強いと思える相手に出会えたしな」
「リョーマも来ないし……申し訳ないんですけど、今日は帰ってもいいでしょうか」
コートを抉って、ラケットを壊したまま帰るのは罪悪感が沸いてくるが、それをどうこう出来ないので邪魔にならないように早く帰ることを選んだ佑馬は、そう言った。
「おう、いつでも再戦待ってるぜ。ただ、今度の試合はラリーだけで終わってしまうかもな!」
またもやカッカッカと笑いながら言う南次郎。
その言葉に苦笑しながら、家を後にする佑馬。
「……あの少年と今度はしっかりとした場所でやりたいな」
南次郎は佑馬の後ろ姿を見ながら、そう呟いたのだった。
次もう関東大会入ります。
作中最強が負けるわけないじゃないですかー(棒
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vs立海大付属
約一ヶ月ぶりの更新。
次はノゲノラ出します。
「ゲームオンバイ立海。六ー四」
関東大会初戦早くもD1とD2を取られ、銀華中は崖っぷちの状態になっていた。
「……すまない、中田さん……」
「気にするな。シングルスの俺たちを信じろ」
その言葉に応えたのは、S3堂本だった。
銀華中は間違いなく強くなっている。
原作の銀華中なら全セットポイントすら取れずに負けていたであろう立海相手に、D2はニー六、D1は四ー六と善戦しているのだ。
「堂本。気張らずに行けよ」
「分かってる。一泡吹かせてやる」
S3の相手は二年の切原 赤也。
相手をいたぶるテニススタイルを得意とする者だ。
「気を付けろよ堂本。あいつのプレイスタイルは危険だ」
「それは中田が同じプレイスタイルを本気でやったときよりもか?」
堂本はその性格上、テニス部で唯一佑馬を呼び捨てにしている。
その堂本の確認は同じプレイスタイルで佑馬がやったときよりも危険なのかどうか。
そんなの答えは決まっている。
「そんなわけあるか」
「なら、大丈夫だ」
佑馬の返答に何故か安心したように言う堂本。
その言葉に少し首を傾げたが、すぐに意味を理解して首を縦に振った。
「頑張れよ」
「ああ」
堂本は佑馬の言葉に強く頷いて、テニスコートに向かった。
◆◆◆
「……クソッ」
佑馬は珍しく苛立っていた。
「アヒャヒャヒャ!真っ赤に染まり上がれぇ!」
「ぐはッ!」
堂本は現在、切原によって全身傷だらけになっていた。
いくら佑馬とはいえ、仲間が傷つけられて黙っていられるほど、人を思いやる気持ちはなくなっていない。
「ゲーム立海。四ー三。チェンジコート」
チェンジコートになり、堂本がフラフラしながらベンチに戻ってきた。
「大丈夫か堂本」
「ああ……なんとかな……」
本人は大丈夫だと言っているが、どう見ても重傷だった。
「棄権しろ堂本。これ以上やったら身体が壊れるぞ」
「それは出来ないな。あと三ゲーム取ったら勝てるんだ」
水分を取り、再びコートに向かう堂本。
最初の三ゲームは堂本がおしていたのだ。
ただ、四ゲーム目に入ったとき、堂本の球が切原の腹に当たってから状況が一変したのだ。
切原の眼が赤く変わり、口調は激しく、プレイスタイルも攻撃的なものになったのだ。
その切原がチェンジコートのため、佑馬の座っているベンチの近くを通りすぎる。
「切原、これ以上はやめろ」
「はぁ?何言っちゃってるんですかぁ?完全に潰すに決まってるじゃん」
「……やり過ぎた場合は実力で止めにいくから覚悟してろよ」
「お前ら程度で俺に叶うわけがねぇだろ!」
佑馬を嘲笑いながら切原はコートへと向かい、試合は堂本のサーブで再開した。
「はぁッ!」
「ヒャッヒャッヒャ!くらえぇ!」
堂本のサーブを切原は再び堂本に当てにいく。
「ぐはっ!」
「……ッ」
切原の打球に当たり、倒れる堂本。
それを見てる佑馬の握力がどんどん上がっていく。
再びサーブを打つ堂本だが、その球もまた、切原よって堂本の元へと打ち返され、堂本が倒された。
「……ッ!」
なんとか立ち上がり再びサーブを打つ堂本。
「アヒャヒャヒャ!さっさと死ねぇ!」
それをさらにスピードを上げて堂本に打ち込まれた球は
「……いい加減にしろよ」
佑馬が
「キミ!今は試合中だ!コートから―――」
「うるせぇよ」
審判が注意を促そうとするも、佑馬の殺気に当てられてダンマリしてしまった。
「またあんたかよ。雑魚が出てくる場所じゃ――」
「てめぇも黙ってろ」
そして、切原もまた言葉を投げ掛けるも、さらに強くなった殺気に当てられて一気に萎縮してしまった。
「さっき言ったよな?これ以上は実力で止めにいくって。調子に乗るのも大概にしろよ―――」
「おい中田……なんで出てきた」
さらに怒気と殺気を強めて言う佑馬に、反論が出たのは庇ったはずの堂本だった。
「俺は棄権もしないし、お前に庇われる筋合いもない……早くコートから出ていけ」
「これ以上は危険だ。諦めろ」
「だから早く出ていけ!俺はここで負けるわけにはいかないんだよ!せめて悔いがないようやらせてくれ!」
佑馬の冷たい言葉に、全力で反論する堂本。
佑馬もここまでの意志がある人に対して自分の意見を強制するほど冷めていない。
「……本当にいけるな?」
「任せてくれ」
強い意志を持った眼で佑馬を見る堂本。
それに対して首を縦に振り、審判と切原に一礼してベンチへと戻った。
そして、その後の切原は何かが切れたかのように萎縮して、堂本が七ー五で勝利を掴み取った。
◆◆◆
S2の柳対福士は福士が四ゲーム連取で銀華中有利となっていた。
ただ、柳はおされているというよりは観察しているといったスタイルを取っており、福士も油断せずに常に全力でプレイを続けた。
そして第五ゲームに入ったとき、柳が動いた。
四ゲームで集めたデータを元に、福士を一気に押し始めた。
福士の癖を見抜き、打ちにくいコース、打ちにくい打球を打って確実にポイントを取っていく。
「ゲーム立海。三ー四。チェンジコート」
三ゲーム連取されて疲れてベンチに戻ってきた福士に佑馬は労いの言葉をかける。
「ここが踏ん張りどころだな。相手は福士のデータをしっかりと集めたからここから一気にくるぞ」
「気を付けるよ……せめて、中田さんに繋げないと」
息を切らしながらも、まだ余裕がある雰囲気で答える福士は、かなり心強い。
この福士といい堂本といい、銀華中の中でもトップクラスの伸びを見せ、今や青学の不二と同レベルの実力を持っている。
この二人はもう既に全国区だろう。
水分を取り、汗を拭いてから再びコートに向かう福士を眺め、佑馬もストレッチを始めた。
◆◆◆
「ゲームオンバイ立海。七ー六」
柳対福士、結果は福士の惜敗となった。
「すみません中田さん……負けてしまいました」
「いや、よく頑張った。試合には負けても、次に繋がるいい試合だったぞ……よし、じゃあ俺もいくか」
落ち込んでいる福士を慰め、軽く伸びをして身体をほぐしてからコートへと向かう佑馬。
対面のコートにいるのは真田だ。
「先程はうちの赤也が失礼したな」
「いや、こちらこそ悪かった。俺が途中で入ったせいで切原は負けたようなものだからな」
「
謝罪されたと思ったら貶され、微妙な気持ちになったが気持ちを切り替えてベースラインまで下がる。
「せいぜい楽しませてくれよ?」
「それはこちらのセリフというものだ」
最後までお互いに上から目線で言葉を交わして、真田がサーブの準備をし、佑馬はラケットを構えた。
今回はここまで!
次で関東大会終了です。
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皇帝vs最強
なんでこんなにモチベがないのだろうか。
かなり更新遅れます。
ノゲノラ初期のころのモチベを取り戻したい。
「それでは、銀華中対立海大付属中のS1の試合を始めます」
審判の合図により、佑馬対真田の試合が始まった。
サーブは真田。
ルーティンをして、トスを上げて打つ。
その球は当然、普通の中学生が取れるレベルではない。
だが、それを佑馬は軽々と取って、双方ともにウォーミングアップと様子見をしながらラリーをしている。
(なるほど。口だけではないということか)
このラリーもそこらへんのテニスプレイヤーならついていけなくなるほどの早さだ。
しかし、ラリーと言うからには、打ち合っていることになる。
そこで、真田はグリップを握る力を強めた。
「多少は打てるようだな……だが、それもここまでだ」
「あ、マジで?ならもっとがんばろーっと」
真田の軽い挑発を感情の籠ってないてきとーな返事で返す佑馬に、フンッ、と鼻で嗤ってからラケットを振った真田。
そのラケットは文字通り、消えた。
所謂、見えないスイングだ。
誰もが決まったと思っただろう。
ラケットも球筋も見えなかった人も、見えた人も。
真田でさえ、中田佑馬を知らない者は決まったと思った。
「あーらよっと」
しかし、佑馬はその球を表情を変えずに、余裕を見せながら打ち返した。
「な、なに!?」
まさか初見で返されると思ってなかった真田は、反応が遅れてしまって浅いロブを上げてしまった。
だが、さすがは皇帝と呼ばれる男。
ロブを打ち上げてからすぐに体制を立て直して、スマッシュ、ボレー、ドロップ全て対応出来るように構えた。
「ほら真田。お返しだ」
そして佑馬が選んだのは、見えないスイング。
「なんだと!?」
ただ、真田との違いは
そして、そのとてつもないスピードでスイングされたというのに、ネットギリギリにドロップされているということだ。
「フィ……15-0」
真田のボールが決まると思っていた者たちは、誰も喋らない。
そして、皆がある一点を見つめていた。
「いいぞー!中田さん!」
「もっと見せつけたれー!佑馬!」
そう、銀華中テニス部だ。
今のプレイを見て平然としており、寧ろ普通だとばかりにそこら一帯だけが盛り上がりを見せている。
コート上の真田はただただ立ち尽くすばかり。
(何をした……あんなスイングをしたのにも関わらず、正確にドロップしてある。しかも、むやみに振ったのではなく、スイングも正確なのだ……)
「おいおい、さっきまでの威勢はどうした?皇帝ともあろう者がまさかこの程度なわけないよな?」
「……ッ無論だ!」
考えている途中に佑馬から煽られた真田は、反射的にそう答えてしまった。
本人は気づいていないだろうが、口元は笑っている。
つまり、無意識の内にテニスを楽しんでいるのだ。
「そうか。まだ一球しか終わってないんだ。まだまだこれからだぜ?」
「それはこちらのセリフというものだ」
皇帝vs最強の試合が、ここで本格的に始まった。
◆◆◆
「はぁ……はぁ……」
「ほら、もっと頑張れよ皇帝」
あれから数十分後、優劣が完全に別れた。
「ゲームオンバイ銀華中。5-0。チェンジコート!」
圧倒的に佑馬が優勢だ。
どう真田が打とうと、佑馬にとっては全てがチャンスボール。
未だに真田は一ポイントも取れていない。
さらに、真田はラケットのガットが五本切れている。
これは、佑馬の超スピンに逆回転をかけようとした結果だ。
「……柳さん、アイツは一体何者なんですか」
試合中誰もが沈黙するなか、先程の件もあわせてどうしても気になっていた切原が、一番知っているであろう柳に質問した。
それは他の人も同じようで、皆が柳の方へと注目する。
「中田佑馬、銀華中三年生。最近転校してきたらしいが、前の学校は不明。あそこまで強いのにも関わらず、これまで一切名前が出てこなかった謎の多い人物だ」
「柳さんでもそこまでしか知らないんですか?」
「そうだ」
しかし、期待した答えは柳から返ってくることはなかった。
「ただ、次世代のテニス界を動かす人物だというのは間違いない」
コートチェンジが終わり、佑馬のサーブゲームだ。
最初は佑馬のサーブはかなり手を抜かれており、真田も余裕を持って取れていた。
「15-0」
「……ッ!!」
ただし、今は違う。
超高速でボールがサービスエリアに入った瞬間、佑馬のコートへと戻っていく。
青学の天才、不二周助が使う『白鯨』をサーブとして使っているのだ。
ならば、ネットの前で待っていればいいと思うだろうか。
しかし、それも違う。
「30-0」
「……クッ!」
佑馬は当然、普通のサーブも打てる。
よって、前に来たら普通のサーブで抜かれるのだ。
「さぁ、このままだと後二球で終わるぞ?」
「はぁ……はぁ……」
佑馬は汗一つかかずに、逆に真田は今にも倒れそうになっている。
それでも皇帝の意地なのか、一回も膝はついていない。
その姿に佑馬は敬意を示して、さらにスピードを上げた小細工無しのサーブを打ち込む。
「……え?」
その早さに、審判は目視することが出来ずに判定に戸惑う。
「審判、サービスエリアに跡があるぞ」
「え?あ。40-0」
審判が佑馬に指摘されて真田のサービスエリアを見ると、サービスラインギリギリにくっきりと跡が残っていた。
よって、佑馬にポイントが入る。
「さて、マッチポイントだ。どーする」
「…………」
そこで、無言で次のサーブに備える真田を見て声をかける佑馬だが、真田から返事はない。
「……ん?もう聞こえてないのか?」
恐らく、意識がないのだろう。
今立ってること事態が、ありえないぐらいには。
それでも立ち続ける真田に、しっかりと敬意を払ってこの試合最速のサーブで決めに入る。
そう、決めに入ったのだ。
「……へぇ、やるじゃんか」
「……40-15」
この試合最速のサーブを、真田は取った。
雷の早さで移動し、佑馬のストレートを抜いたのだ。
「『風林火陰山雷』の『雷』か。これって全国大会で使うやつじゃなかったっけ?」
そう、今真田が使ったのは、『風林火陰山雷』の『雷』という、原作では全国大会決勝に見せる技だ。
「最後に一泡吹かせたってやつか?」
しかし、今のが最後の力だったのだろう。
真田は力なく倒れてしまった。
「……立海大付属の真田君が試合続行不能により、このゲームは銀華中の勝利とします」
そして、銀華中の関東大会は終わった。
佑馬と戦う相手は軒並み強くなっていくらしいです。
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日米親善ジュニア選抜
そしてもうすぐ終わり。
都大会の日から少し時が経ったある日。佑馬は福士と堂本と共に校長室へと来ていた。用件はその場とのことらしいので行ってみると、どうやら日米親善ジュニア選抜の練習合宿参加への打診のようだ。福士と堂本はまさか打診が来るとは思っても見なかったのかそれぞれが喜びの表情を浮かべているが、佑馬にはそれとは別途で一枚の紙を渡された。
校長を見てどういう内容か察し、念のため確認してみる。そして溜め息一つ。校長に質問をした。
「選手兼任コーチの打診って、それ大丈夫なんですか?」
「君のテニスプレイヤーとしての、そして指導員としての実力を買っての抜擢だ。多少のいざこざについては向こう側が責任を持つだろう」
選手兼任コーチということは、もう選手として出ることが決まっているということ。それはそれで問題が出そうな気はするが、どうしても勝ちたいということなのだろうか。佑馬としては監督してるだけで選手に選ばれるなら楽で良いのだが、この世界の中学生は血気盛んで実際に自分で体験しなければ信じない奴等ばかり。銀華中の時は越前を使って見せたから良いものの、あれが無ければ絶対に面倒なことになっていただろう。
「さすが佑馬さんだ。コーチにまで抜擢されるとは」
「佑馬がコーチやるなら俺はそこでやりたいな。お前の指導が一番強くなれる気がする」
佑馬がコーチに抜擢されたということで、その指導を望む福士と堂本。この銀華中で佑馬が特にしごいた二人だ。自分達の戦績からもしかして今年から開催される日米親善ジュニア選抜に参加できるかも、と思い練習してきた二人。実力は間違いなく全国区だ。
「……分かった。受けます」
「そうか。是非とも頑張ってくれ」
「分かりました」
◆◆◆
面倒だ。
今の状況はこの一言につきる。
まず朝。選抜合宿所へと向かった。選抜合宿が行われる宿舎はなんとも立派なものだ。いくら日米親善試合といえど、集まるのは地域単位だ。こんなに立派なものを使っても良いのだろうか。今回監督として参加するのは城成湘南の華村、氷帝の榊、青学で今回の総監督の竜崎、銀華の佑馬だ。彼らは全員が立派な選手を育て上げた名監督と言っても差し支えのない人たち。合宿内容は有意義なものになることは間違いない。
佑馬たちは一番最後の到着だった。
佑馬と邂逅があった者は一様に、様々な表情を浮かべながら視線を送った。
「やはり来たな銀華中。待っていたぞ」
「よう。あれから少しは強くなったか、真田?」
「無論だ。この合宿中に一度試してみるが良い」
「試させてくださいだろアホか」
彼らを代表して話しかけてきたのは、立海の真田。口ではこう言ってるが、かなり強くなっているみたいだった。予想ではあるが、「雷」はもう使えるようになっているのではないかと踏んでいる。そこまでは良かった。だが総監督の竜崎の話の時、それは起きた。
「今回、銀華中三年の中田 佑馬には選手と兼任で監督をして貰うことにしている。よってこの合宿で選出されるメンバーは残り七人だ」
予想通りというか、否定的な意見が飛んだ。
特に佑馬を実際に見たことが無い者は、猛烈に反対してきた。このままでは収拾がつかなくなる、そう判断した氷帝の監督、榊が「指導員としての実力はこちら側が保証する。選手としての実力は実際に体験した方がいいだろう」ということで、合宿早々試合をすることになったのだ。
相手は特に反発が強かった氷帝の部長、跡部。ワンセットやるということになり、もし跡部が勝ったら佑馬も強化選手として合宿に参加、跡部は選手になることが決定となることで両者合意した。
「噂は聞いているぜ? あの真田にラヴゲームらしいな。あ~ん?」
「だったら諦めてくれよ。お前真田より弱いだろ」
「……ハッ、まぁいい。吠え面かくなよ」
何が面倒だというと、プライドが高すぎることだ。真田が勝てない相手にどうして勝てると思っているのか、理解しがたい。
審判は事をまとめている榊。サーブ権は佑馬がいらないと言ったので跡部だ。
「ワンセットオブマッチ。跡部トゥーサーブ」
榊のコールと共に、跡部がルーティンを始める。
榊が跡部を出したのは間違いなく跡部のためだろう。榊は佑馬に跡部の壁を突き破らせるよう誘導しているのだ。
跡部はトスを上げて、サーブを打った。
やはりというべきか、真田にはかなり劣る。
佑馬はラケットにチョンっと当てて、ロブにしては低めの弾道でボールを返した。
「はあぁぁぁぁ!」
そこに勢いよく突っ込んできてスマッシュの構えをする跡部。彼の視線の先にあるのは、佑馬の持つグリップ。
「出るぞ! 跡部の
跡部の代名詞とも言える技。破滅への輪舞曲。
一回目のスマッシュで相手のグリップを撃ち抜いてラケットを落とし、そのまま戻ってきたボールを二回目のスマッシュで確実に決めるという技。
中学生、いや、人間にはありえない跳躍で球を捉え、跡部は佑馬のグリップ目掛けてスマッシュを打ち込んだ。正確にグリップへと向かう弾道。それはしっかりと佑馬のグリップへと当たり、ボールは跡部の元へと返ってきた。しかし、跡部は驚愕に目を開く。
(……俺様のスマッシュをまともに受けてグリップを落とさないのかよ!)
だが、もう止めることはできない。ボールは戻ってきている。それをしっかりとコースに決めれば良い。そう思って振りきった跡部。その瞬間、手に握っていたはずのラケットの感覚がなくなった。
「お返しだ」
そこから、跡部は全てがスローモーションに見えた。佑馬のコートに飛ぶボール。自分の手から落ちるラケット。スマッシュの体勢を取っている佑馬。間違いなかった。
――破滅への輪舞曲。
跡部の横を弾丸のように通りすぎたボールは、そのまま跳ねることなくバックスピンを伴ってコートの上を滑走。ネットに当たって止まった。
「0-15」
佑馬を知らないものは、目の前の光景に呆然としている。それもそうだろう。跡部の破滅への輪舞曲を初見で破られ、あまつさえやり返されたのだから。
対戦相手である跡部も冷や汗を流している。
「これはどうやら仕組まれた試合らしいからな。
跡部は気づいた。
煽ってはいけない人物を煽ってしまったと。
かなりとばしていきます
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跡部の挑戦
まだ一球終わっただけなのだが、いきなり流れは佑馬。今の一球でも有り得ないことがいくつも起きている。一つ目、スマッシュを受けてもグリップを落とさなかったこと。二つ目、二発目のスマッシュを打った直後、自分の手にラケットがなかったこと。三つ目。スマッシュを打ったはずなのに零式ドロップのような回転数。再びルーティンを始める跡部だが、先ほどかけられた言葉もあり胸中は穏やかではない。
トスを上げて、サーブを打つ。しっかりとコースに決めて打った。速さも申し分ない。だが佑馬は軽々と打ち返してきた。
跡部は力の差には気づいているが、諦めたわけではない。もう既に自分の負けが決まっているかのような言い種。舐められたものだ。
「俺様を、舐めんじゃねぇ!」
跡部のテニススタイル。それは相手の嫌なところをつく。とても堅実で、理想的なスタイル。それを可能としているのは、跡部のインサイト。つまり観察眼だ。
跡部はそれがあまりにも鋭い。
佑馬のフォーム、視線などから弱点を射ぬく。
「はぁっ!」
両手でボールがバウンドをした瞬間、片足を上げての気合いを入れての一球。狙いすまされた一球はシングルスコートのラインギリギリ。ジャックナイフだ。
その瞬間、跡部のコートに氷のつぶてがささる。
(う、動けねぇ……!!)
コートにささる氷のつぶて。その一つをボールが、ゆっくりと打ち壊していった。
「0―30」
完全に動けなかった。
ボールのスピードはとてもゆっくり。ロブではないかと言われるぐらいには遅かったのに、動けなかった。
「あの跡部さんが、あんな遅いボールに動けなかった……?」
「何か特別な仕掛けがある確率、98%」
「じゃあ、その2%の確率で外れだな」
「なんだって?」
桃城の呟きに答えた乾だったが、その答えはコート上の佑馬によって否定される。跡部のサーブ軽々と打ち返しながら、佑馬は続ける。
「跡部はただ単に動けなかっただけだ。死角を突かれた。テニスには普通のことだろ?」
今度は何をするでもなく、跡部と全く同じフォームで打ち返す佑馬。跡部は見るからに不機嫌だ。ラリーの内容は全国区のはず。なのに、佑馬はどうみても手を抜いているようにしか見えない。
「手を抜くんじゃねぇ! 本気で来な! あ~ん!?」
「これくらいはまだついてこれるのか。お前が付いてこれるくらい手を抜いちゃうとこの後俺の面倒事が増えるからな。もう少しだけ出してやるか」
これは普通の試合ではない。佑馬の選手としての力量に加え、跡部の
跡部がジャックナイフで返してきたボール。それをラケットを横にし、フレームで強打した。打ち出されたボールは見るからにブレ始め、
「なんだと!?」
いきなりの変化に跡部は付いていけず、落球。
「今のは……」
「橘さんの暴れ球!?」
「正解」
この技の持ち主は不動峰の部長、橘 桔平。今は足を怪我したまま切原と試合をしたことにより病院送りにされてはいるが、彼も全国区。同じ不動峰である赤髪の少年、神尾と青髪の少年、伊武はその球を知っており、即興ではできないことも理解しているための、驚きの声だった。
「0―40」
「次、リターンエース取るから。場所はお前からみて左側。サービスラインにバウンドさせるから、そのサーブの位置から二歩歩けば届くぞ」
「……とことん舐めやがって……あ~ん?」
サーブの位置についた跡部に、今度は打つ場所を懇切丁寧に教える佑馬。しかし、跡部の頭は冷静だ。これくらいの挑発に乗るほど、彼は子供ではない。だがプライドは傷つけられている。
(……だが、こいつは確かに強い。真田に圧勝するのも納得できるぜ。あ~ん。だけどな、俺だってそんなに舐められて黙っていられるほど!)
「大人でもないんでな! あ~ん!?」
心の中で思っていたことが、そのまま口へと出る。気合いの入ったサーブ。しっかりとコースへと決めて少しだけ左に寄りつつ右も警戒。どこへ来ても飛び付いてでも取るつもりで構えていたのだが――
「ゲーム中田。1―0。チェンジコート」
「……ッ!」
――見えなかった。
コートをみても、ボールの落ちている位置を見ても、佑馬の言った通りの場所を通ったのだろう。一番警戒していたところでもある。なのに、視認することすら許されず、ゲームを取られてしまった。
「次、いこうか」
◆◆◆
「ゲーム中田。4-0」
佑馬を知っている者も知らない者も、言葉を失う。
あの長期戦が得意な跡部が一ポイントも取ることが出来ず、尚且つ膝に手を付いて肩で息をして立っているのもやっとというのに対し、佑馬はまるで何もしていなかったかのように涼しい顔、事実、汗一つ掻いていなかった。
跡部からも佑馬からも、途中から言葉がなくなった。
佑馬は喋ることがなくなったから。跡部は喋る余裕がなかったから。両者理由は別々だが、最後まで喋っていたのはこの二人であるため、今のコートは打球音と榊のコールが響くのみ。
そのコートに、声が響いた。
「ハハッ……」
跡部の渇いた笑い声。
その笑いは彼のなかで共鳴するかのように声を大きくしていく。
サーブ権は跡部。
後十秒で打たなければ佑馬の点になる。
だがそれでも跡部は笑い続けた。
(まさか俺の得意な相手の弱点を見極めてそこを付くスタイルをやられてこのザマとはな……傑作だぜ)
跡部はサーブのフォームに入った。
ここまでの実力差を見せられ、一ポイントすら取ることが出来ていないのにも関わらず立ち向かってくるその精神、勝利に対する執念は恐れ入るものだ。
だが、あと少し。
彼が今の限界を越えて進化するのかここで終えてしまうのか。
トスを上げて気合いを入れながらサーブを打つ跡部。やはりというべきか、スピードこそあれど威力は全くない。佑馬はフォアハンドでストレートへ。
打とうと思えば打てたスマッシュをあえて打たず、スライスボレーで再び跡部がギリギリ届く位置へ打ち返す佑馬。だが、それは狙いとは裏腹に跡部が足を縺れさせたことにより戻ってくることはなかった。
「0―15」
跡部が疲れている理由。それは今のプレイにある。
跡部は毎回のごとくギリギリで取れるボールを返されており、失点理由は毎回足が縺れたことによる転倒。
精神的ダメージに加え、肉体的ダメージ、そして体力的な疲労。三方向からの容赦ない攻撃は、常人ならとっくに勝負を投げるレベルだ。
「……気に入らねぇな……あ~ん?」
「何がだ?」
突如として投げ掛けられる、抗議の意。聞き返す佑馬だが、そこに返答はない。跡部はそのままサーブの構えに入ったのだ。
(……変わったな)
そこで、佑馬は違和感を覚えた。ラケットの持ち方が少し違う。そして何よりオーラが変わった。
しっかりとラケットを構えて備える佑馬を見据え、跡部は高くトスを上げ、腰を一気に落とした。
「なんだ、あのサーブ!」
今まで閑散としていた外野がざわつき始める。全く知らない跡部のフォーム。明らかに今までと何かが違ったのだ。
「はぁッ!!」
力強く振り抜かれたサーブ。そのスピードは今日の跡部のサーブの中でも最速。そして何より、凄まじいほどの回転が掛けられている。
不用意に近づくことなく待ち構える佑馬。サービスエリアに入った打球は地面に落ち、跳ねる――ことはなく、地面と水平にスライドして行った。まさしくそれは――
「あれは、不二の燕返し!」
――青学の天才、不二周助の燕返しだった。
だがそこは佑馬。腰を一気に落とし、ラケットの面と地面を水平に構えた。
そして地面に着くか着かないかという打球を、フレームで滑らせるように、
普通ならアウトボール。しかし佑馬は普通ではない。
凄まじい回転がかけられた打球は高さをそのままに、ポールを越えたと同時に跡部のコートへと向かって急激に曲がった。
所謂、ポール回し。
「あれは俺のブーメランスネイク……」
「あれも返してくるのかよ……」
そのポール回しを含めた癖玉を得意とする青学の海堂はありえないとでも言うように呟いた。
畏怖にも似たそれは、だが次の瞬間には驚愕に変わる。
そして珍しく、佑馬も目を見開いた。
(跡部……何故
跡部は既に、打球の先にいた。それを視認したと同時に、佑馬のコートに
「はぁッ!」
そして、そのつぶては跡部の打球によって打ち抜かれ、佑馬の横を抜いていった。
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