Fate/Relief of Justiceリメイク版 (葛城 大河)
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プロローグ1

どうも、この度はリメイク版を投稿することにしました。


 

それは何時もの公園で遊んでいた時だった。まだ■■士郎だった時の話だ。

 

 

「やぁ、少年。君は『正義の味方』について如何思う?」

 

「………おじさん誰?」

 

 

声がした方向に視線を向けると、そこには一人の老人が立っていた。老人は自身の髭を触り、再度尋ねる。

 

 

「俺はただの暇人だよ少年。さて、もう一度聞くが『正義の味方』を如何思う少年」

 

「『正義の味方』? そんなのカッコいいに決まってるじゃんっ‼︎」

 

「ふふ、そうか。カッコいいか」

 

 

少し考えた素振りをした後に、言い切った子供に対して隠さずに微笑みを浮かべる老人。そして老人は別の事を聞いた。

 

 

「では、少年は『正義の味方』になりたいとは思うかい」

 

「それはなりたいけど、俺には無理だよ」

 

 

老人の言葉に子供は無理だと否定の言葉を告げた。それに眼を細める老人である。まだこの子は憧れを抱いていないのだ。確かにその心には『正義の味方』がカッコいいという感情はあるが、それが憧れに変わっていないだけ。老人は知っている。後、数年もすれば、この子供はとある人物と出会い『正義の味方』に憧れるのを。彼は消える事のない(・・・・・・・)記憶で、全てを覚えているのだから。

 

 

「なら少年、もしも、もしもだよ。人を助けられる力があれば、なにをする」

 

「そんなの助けるに決まってるじゃん」

 

 

次の言葉に、子供は考える素振りすら見せずに即答した。その事に、本当に『正義の味方』なのだなと頷く。そしてそこで老人は本題に入る事にした。

 

 

「少年。実はね、俺は魔法使い(・・・・)なんだよ」

 

「………は? なに言ってるるんだよおじさん」

 

 

突然告げられた言葉に、子供は信じられないのだろう。呆気に取られて、ジト目で老人を見据えた。対して老人は、子供の方に手を差し出した。いきなりの行動に訝しむ子供だが、次の瞬間に眼を大きく見開く事になる。ボゥッと老人の手から炎が迸ったのだ。初めての超常現象に、少しやり過ぎたかと老人は胸中で呟くが、暫く迸る炎を見た子供は声を大にして叫んだ。

 

 

「なんだ今のっ⁉︎ おじぃさん如何やったんだ⁉︎」

 

「クスッ。今のが魔法だよ」

 

 

やはり、こういうのに憧れていたのか大はしゃぎする子供に、今のが魔法だと答えた。それに子供は先程の光景を思い出しているのか上の空だ。これで信じてくれる気になっただろう。

 

 

「これで分かっただろ少年。俺は魔法使いなんだ」

 

「魔法使いって凄いなっ」

 

「と、そこでだ少年。君も魔法使いになってみたくはないかい?」

 

「……………え?」

 

 

そこで突然の老人の提案に子供は暫く硬直した。だが、意味を理解すると満面の笑みを浮かべて叫ぶ。

 

 

「なりたいっ‼︎」

 

 

元気良く答えた子供に老人は、笑顔で頷いた。こうして、ここに一人の子供と奇妙な老人が出会った。この出会いにより、子供の未来が人生が大きく変化するなど、老人以外は予想出来ない。

 

 

 

 

 

 

 



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プロローグ2

 

アレから既に一週間が経っていた。取り敢えず、魔術を教える条件として、この事は誰にも、両親にも内緒にして話しては駄目だと言い。それさえ守れば、魔術を教えると約束した。そしてその約束を子供はちゃんと守り、老人と出会った場所である公園で毎日通い始めたのだ。この一週間、子供は基礎体力を付ける為に毎日、ランニングしたり老人の言う通りに筋トレをしている。

 

 

「ふむ、そろそろだな。少年、ちょっとこっちに来てくれ」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……分かった」

 

 

荒げた息をなんとか抑え、ふらふらながらも、子供は老人の元にへと歩いていく。そして歩き終えるとそこで、座って老人の話を聞く大勢になる。

 

 

「少年。そろそろ君の魔術回路を開こうと思う」

 

「魔術回路ってアレ。魔術を使う為の奴」

 

「そうだ」

 

 

この一週間、なにも筋トレだけをしてきた訳じゃない。少しの時間の間に魔術というものがどんなものなのかを教えていたのだ。そのお陰か、子供はある程度、魔術の事を詳しくなっていた。

 

 

「今からその魔術回路を開く。少年、眼を瞑るんだ」

 

 

その魔術師にとって重要な魔術回路を開くと聞けば、ワクワクが止まらない子供である。彼は老人の言われた通りに眼をギュッと瞑った。しかし、子供の体は興奮を隠せないようで、揺れていた。

 

 

「それでは開くぞ」

 

 

そしてそんな子供の頭の上に手を乗っける。魔術回路は、無理やり開けば、激痛を伴う。その事は老人は百も承知だ。故にゆっくりと、痛みを感じない程にゆっくりと魔術回路を開いていく。これが老人の力の一つだ。数分が経つと完全に魔術回路が開き切った。しかし、

 

 

(やはり、原作と同じか。よし、ここからが本番だ)

 

 

子供の魔術回路が自分が知っている知識と変わらない事に呟く老人は気を取り直して、ここ数十年使っていなかった力を解放した。自分がこの世界に転生して、神から与えられた数多くの特典の一つ。『拡張』。自分の任意でどんなものも『拡張』させる力。そしてその力は今、子供に向けられて行使されていた。老人が『拡張』させる対象は、子供の魔術回路である。回路が『拡張』され、幾つも増えていく。三十、四十、五十、六十、七十、と十単位で『拡張』を続けた。それを数十分と続け、漸く終わらせた。

 

 

(これでよし。数えるのが面倒な程に魔術回路は『拡張』したからな。後は、解析か)

 

「…………おじぃさん。もう眼を開けても良いのか?」

 

「うむ、良いぞ。それと少年、もう一つ用があってな、俺の眼を見てくれ」

 

「用ってなん…………」

 

 

そこで子供の言葉が途絶えた。何故なら、眼を開けて言われるがままに、老人の瞳を見て驚愕した。何故なら老人の瞳には虹色に輝く雫(・・・・・・)が浮かび上がっていたのだから。『全ての式を解く者』。それが今、老人が使用している魔眼の正体だ。その瞳に分からない物はなく、世界全ての式を解析し、完全に読み解く魔眼。序でに読み解いた式を分子や砂に変換させる事が出来る最強クラスといってもいい瞳だ。

 

 

この魔眼の力があれば、例え星の最強種でさえ、解析出来てしまうだろう。その魔眼を老人は代償なし(・・・・)に使えるのだ。その魔眼を浮かばせた老人は、次の段階に移行した。今、自分が使っている『全ての式を解く者』を子供に『譲渡』した。瞬間。老人の瞳から虹色に輝く雫の文様が消え、子供に現れた。そして、その両眼で子供は世界の全てを解析した。

 

 

────理解出来る。

 

 

何故か分からないが、今、自分は世界全ての構成と構造が理解出来、尚且つ如何すれば解除(・・)出来るかも分かってしまった。今、子供は視界に映るその全てを掌握したのだ。その異常性に子供は、分からない。

 

 

(これで完璧な解析が出来るな。最後にもう一つ付け加えるとするか)

 

 

呆然とする彼の姿に、頷き、駄目押しと言わんばかりに手を頭の上に翳した。老人はとある魔術を発動する。自身の知識を植え付ける魔術。といっても、原作知識を植え付ける訳ではない。では、なにを植え付けるのか?

 

 

子供が得意とする魔術は二つ。いや、実際には一つだ。投影魔術。魔力を元に武具を生成する魔術。本来は中身がないハリボテしか出来ないソレは、いずれ子供の中の起源が『剣』に変質し、固有結界が使えるようになる事により半永久的に存在する事が許されるようになる。故に見せる知識は、ただ一つだ。老人が前世で知り記憶した、英雄達が持つ宝具の数々。星の恩恵を持つ聖剣、その聖剣の姉妹剣でもある太陽の剣、あらゆる魔術や契約を破棄する歪な刃をもつ短剣、因果律逆転の呪いをもつ真紅の槍。

 

 

あげれば切りがない。宝具の数々。それを子供の記憶に植え付けていく。勿論、幼い子供の脳に負担がかからないようにだ。それともう一つ、子供の体にとある力を付与させた。それは彼の中にある固有結界を十全に使えるようにする為にだ。

 

 

老人はある特典を神に頼んだ。それが『隠蔽』。あらゆるモノを隠し欺く力。この力があった故に、誰も老人の力に気付く事なく、こうして平和に暮らせていた。だが、残り僅かな命となった老人は、その『隠蔽』の力を子供に『譲渡』した。しかし老人が子供のなにを『隠蔽』させるのだろう。

 

 

それは子供の存在を別の者に『隠蔽』させる為だ。固有結界は本来、悪魔や精霊種などが持つ力だ。精霊種が作ったものでない限り、顕現した心象風景という『異世界』には世界からの修正が働く。故に、人間が固有結界を発動すれば、維持するのに莫大な魔力を使ってしまい大魔術師でも数分が限界なのである。二十七祖クラスの死徒ですら数時間しか維持出来ない。

 

 

だからこそ、老人は子供に対して『隠蔽』を行う。世界に抑止力に人間ではなく、精霊種として。世界の一部として。

 

 

これにより、子供の運命(Fate)は大きく変動する。一つの出会いにより、変わる物語。これは悲劇ではなく、『正義の味方』が起こす喜劇でしかない。

 

 

原作通りに大火災に巻き込まれ、ある人物に拾われ衛宮士郎となった日、『正義の味方』に憧れを抱き、そこから老人が亡くなった数年後に物語は始まった。

 

 

さぁ、始めよう。転生者によって変えられた『正義の味方』の物語を。

 

 

 

 

 

 



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第一幕 そして物語が始まる、正史は歪む

赤。周りを見渡しても赤、紅、赫しか見えない。建物は全て瓦解し、足元には人だったもの(・・・・・・)が転がっている。

 

 

────如何してこうなった?

 

 

紅蓮に燃える地獄を歩きながら、赤銅色の髪をした子供は胸中で呟く。何故こんな事に。何度も何度も今の光景に対して呟く子供だ。防げた筈だ。自分はこんな災害など意に介さない筈だ。なのに、なんだコレは? 力があるのに、いざ使おうとすれば身が竦んで、この大災害だ。不甲斐ない。ギリッと歯を噛み締める。

 

 

情けない。力があってもなにも出来ないではないか。もうここには、誰も居ない。そう、自分に力を授けてくれたあの人は居ないのだ。自分は慢心していたのだろう。なにが来ても大丈夫と、舐めていたのだ。その結果が、この地獄。己は何処まで愚かなのだ。あの人が言っていたではないか。どんなに強くなっても、無敵ではない。慢心はするな。驕るな。口を酸っぱく言われた筈だ。

 

 

これではあの人の弟子失格だ。ふらふらと、体を揺らしながら歩を進める少年。彼の体は傷だらけだった。歩くのもやっとなのだろう。そもそもこの地獄の中で、未だに生きているのが異常なのだ。奇跡ではない。運が良かったからでもない。力があったから生きれた。ただ、それだけである。

 

 

(あぁ、このまま死ぬのかな)

 

 

黒煙によって黒く染まる空を、両眼に現れる虹色に輝く雫の文様と共に仰ぎ見る。分かる。この眼にかかれば、(わか)るのだ。全ての構成が構造が、手に取るように理解出来る。だからこそ、この地獄が作られる前に、上空に出現したアレも理解出来た。汚染された聖杯。アレは本来なら、なにもない透明な状態だったのだろう。しかし、なんらかのイレギュラーによって汚染されたのだ。この眼で見て、なにによって汚染されたのかも分かった。

 

 

────アンリマユ

 

 

その言葉が解析した自分の脳裏に過る。そうアレはアンリマユを取り込んで汚染されたのだ。少年の体が限界に達して、その場に倒れる。幾ら超常の力を所持しても精神面や肉体はまだ幼い子供のソレだ。初めての“死”を体験して精神が磨り減っていた。

 

 

仰向けになった子供は、黒い空を見る。気付けば、頬が濡れて涙を流している事が分かった。死にたくない。こんななにも出来ずに死にたくない。その思いが溢れ出し、助けを呼ぼうと口を開くが、声が出ない。喉が枯れて言葉を発する事が出来なかった。思えばどれほど水を飲んでいなかったのだろうか? 朦朧とする意識の中、子供の眼がゆっくりと閉じて行こうとした時だった。

 

 

ガラッ。なにかが、崩れる音を耳にしてそちらに視線を向けた。そこには一人の男が、涙を浮かべて自分の事を見ていた。その男は走り寄ってきて、自分の体を抱き寄せる。最早、子供の耳にはなにも聞こえないが、男が何故か感謝の言葉を告げているのが分かった。そして男は右手に一つのなにかの鞘(・・・・・)を振り上げている。そのまま、鞘を自分の体めがけで振り下ろした。子供が最後に見た光景は、光に包まれた体と、鞘の構成だった。

 

 

「………せ……ぱ………」

 

「………せ………ぱ………い」

 

「先輩っ‼︎」

 

「うおっ⁉︎ な、なんだよ桜」

 

「先輩如何したんですか? ボォ〜として、何処か体調が悪いなら、今日は休んだ方が」

 

「い、いや俺は大丈夫だよ桜。少し昔を思い出していただけだから」

 

「そうですか」

 

 

心配そうな顔を向ける自分の後輩に、頭を撫でながら笑みを浮かべ、大丈夫だ、と口にする。それに頬を赤らめながら、渋々と納得した後輩は朝食作りを再開させた。そんな毎日、家に通って甲斐甲斐しく世話をしてくれる少女に眼を向けてから、数日前から時折、思い出す過去に眉を顰めた。近い日になにかが起こる前触れなのか? そこまで考えて頭を振り、彼は自身の胸に手を置いて、誰にも聞こえないように呟いた。

 

 

「────解析、開始(トレースオン)

 

 

使うのは解析の魔術。魔眼を使っても良いが、アレは疲れるから使わない。

 

 

────魔術回路■■■■本確認

 

────魔力量正常

 

────体外面に損傷なし

 

────固有結界異常なし

 

────異物確認

 

 

自分の体を解析すると、あの時からある異物を確認した。もう正体は分かっている。

 

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)』。

 

 

それが己の体の中に眠っている。自分の魔眼で確かめたのだから、間違いはない。あの時、死にかけた自分に、二人目(・・・)の爺さんが入れた代物。爺さんがなにも言わなかったから、聞かなかったが、これはただの鞘ではない事が分かる。もうこの世には爺さんは居ないので、今更、何故このような代物を持っていたのかなど聞けない。だが、彼にとってそれは如何でも良かった。

 

 

爺さんがなにを隠していたのかは知らない。それでも、彼にとって爺さんは、自分の事を助けてくれた『正義の味方』なのだから。

 

 

「先輩。朝食出来ましたよ」

 

「あぁ、悪い。こっちももうすぐで盛り付けが終わるよ」

 

 

後輩の言葉に現実に戻り、今、自分が作った料理を皿に盛り付ける。それを後輩である間桐 桜(まとう さくら)に渡して、テーブルの上に運んでもらう。そんな紫髪の少女を眼で追い、元気に笑顔を浮かべる後輩に頬を緩ませる。ふわりと舞う髪は、完全な紫ではない。紫の中に少しだが黒が混じっていた。ソレは少女の中に巣食っていた害虫(・・)をこの手で消し、弄られた体内を治した事によって、変質した髪の一部が戻ったのだ。

 

 

完全に戻せなかったが、少女はこのままで良いですと言った。なんでも、自分が助けられた証だからと残しておきたいらしい。そんな昔の事を思い出していると、ドタドタドタと大きな足音が響き、引き戸を思いっきり開けて一人の女性が飛び込んできた。

 

 

「シロウーーーっ‼︎ おっはよぉ‼︎」

 

「はぁ、藤ねえ。走ってきたら危ないだろ」

 

 

朝の挨拶をする活発な女性に、右手を下ろして彼────衛宮士郎は苦笑してから窘めた。しかし、女性はそんな事、知らないとばかりにテーブルの前に座り、朝食はまだかと眼を輝かせている。その事に頭を抑える士郎だ。入ってきた女性の名は藤村大河、自分の通う学園の英語教師である。彼女とは二人目の爺さんと、この屋敷を買ってからの付き合いだ。所謂、幼馴染件姉貴分のような人だ。

 

 

相変わらずの活発な彼女を見て、笑ってから士郎もテーブルの前に座った。テーブル上にはさっき桜と共に作った料理が置かれている。そして三人は両手を合わせて、

 

 

『いただきます』

 

 

食べる前の挨拶をするのだった。これが今現在の衛宮士郎の日常である。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

朝食を食べ終えた後、士郎は食器を洗い学園にへと桜と共に向かっていた。そして学園に着いた士郎は、そこで教室が別な為、桜と別れて、自分の教室に入って行った。すると、そこで声をかけられる。

 

 

「衛宮良い所にきた」

 

「ん? 一成か。なんか俺にようか?」

 

「あぁ、少し頼みたい事がある」

 

「どうせまた修理だろ」

 

 

なにを頼みたいのかを分かっていた士郎は、そう告げると柳洞一成は、すまなそうな表情をする。

 

 

「すまんな衛宮。全く動かないので、壊れているかも知れんが、仮病かも知れないのだ。見てくれないか」

 

「仕方ないな。だけど、直るかは分からないぞ」

 

「あぁ、それでも良い」

 

 

自分の鞄を机に置くと、士郎は一成と共に、その壊れた家電がある生徒会室に向かうのだった。

 

 

解析、開始(トレースオン)

 

 

生徒会室の中で、士郎は目の前にあるストーブに手をかけて、自身の得意魔術を行使する。今、ここには士郎だけだ。一成には悪いと思うが、外に出てもらった。魔術は秘匿しなければならない。故に見られては困るのだ。

 

 

「これで大丈夫だな。一成、終わったぞ」

 

 

解析魔術をしてから数分、何処に不具合があったのかを知った士郎は、慣れた手つきで修理し、一成に声をかけた。

 

 

「如何だった衛宮」

 

「なんとか直したぞ」

 

「おぉ、やはり仮病だったか」

 

 

ストーブを持ち、一成が居る廊下まで運び出す。そこでボタンを押して、正常に稼働するのを見て一成が士郎に感謝の声を上げる。やはり感謝されるのは嬉しい。と、士郎達の横を一人の少女が通った。

 

 

「………遠坂、か」

 

 

遠坂 凛(とおさか りん)。この学園に置いて男女問わずに絶大の人気を誇る美少女だ。そんな彼女の事を士郎は気になっていた。いや、美少女だからではない。彼女が魔術師(・・・)だからだ。それを知ってから、遠坂 凛の事は気になっていた。あちらは、自分の事など知らないだろうが。

 

 

「如何した衛宮?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

遠坂が通った方向に視線を向ける士郎に、首を傾げて聞く一成に、なんでもないと頭を振る。

 

 

「これでもう良いだろ」

 

「ああ本当に助かったぞ衛宮」

 

 

どう致しまして、と答えてから、士郎は自分の教室に戻っていく。そして何時もと変わらない日常のまま、授業が終わり放課後となった。このまま帰宅すれば、日常は日常のまま進んでいたのだろう。しかし、衛宮士郎は今日、非日常に足を突っ込む事になる。それは『全ての式を解く者』を持つ彼でも分からない事だった。

 

 

 

 

 

 

「あちゃ〜、ノートを学園に忘れたかもしれないな」

 

 

自分の屋敷に帰って鞄の中を見て呟く。外はもう暗い。しかし、士郎は学生だ。勉学は重要なのだ。

 

 

「仕方ない。取りに行くか」

 

 

頭を掻いてため息を吐く。玄関で靴に履き替えてから、士郎は学園に向けて歩き始める。こうして、彼の歯車は狂い出す。そして参加する事になるだろう。二人目の爺さん。衛宮切嗣が参加し絶望した戦争に。

 

 

「なんだ、あれ」

 

 

学園に着き、自分の教室で忘れたノートを回収して、いざ家に戻ろうとした士郎の耳になにかの剣戟音(・・・・・・・)が響き渡った。気になった彼は、音がした方に歩きそこで赤と青の戦闘を眼にした。ガンッ‼︎ ギンッ‼︎ と金属音がぶつかり合う音が鳴り響く。その戦闘に風が巻き上げられ、地面が陥没する。アレは人と人の戦いではない。人を超えた者の戦いだ。

 

 

脳裏に師匠であり尊敬する爺さんの顔を思い出す。あの人に教えられた知識の中で、こういう存在を士郎は知った。

 

 

────英霊。

 

 

英雄が死後、祀り上げられ精霊化した存在。確か、そう教えてもらった。そこで士郎は考える。何故、その英霊がここに居るのか? しかも、二人もだ。と、彼は足元にあった小枝を誤って踏んでしまった。

 

 

パキッ。本来なら、小さくて聞こえない筈のその音は、しかし英霊の超人的な聴覚によって聞こえてしまった。

 

 

「─────ッ⁉︎ 誰だ⁉︎」

 

 

音を聞いた青い者が、声を荒げて叫ぶ。それに士郎は反射的に逃げる行動を取った。足を必死に動かし校舎の中を移動する、そして後ろを振り向き、誰も居ない事を確認して安堵の息を吐いた。次の瞬間だった。全身に寒気が走り、自分の直感に従い後ろに転がるように倒れ込む。そして自分の立っていた場所、厳密には心臓があった場所に真紅の槍が通っていた。

 

 

「ほぅ? 今のを避けるか坊主」

 

 

そこに居たのは、青い服を着た一人の男。真紅の槍を、クルッと回し肩に置く男は、感嘆した声を上げ、士郎を見ていた。

 

 

「なら、これは如何避ける?」

 

「ッ⁉︎ くそっ」

 

 

そして男は倒れる形の士郎に向かって、槍の穂先を向けて突いた。だが、士郎の瞳にはちゃんと槍の動きが見えており、焦りながらも横に転がる事で難を(のが)れる。それにへぇ、と笑みを浮かべる男だ。続けて追撃してくる男の槍撃を、なんとか躱す。その事がよっぽど面白いのか、徐々に速度が増していく。

 

 

この男は本気を出してはない。本気を出していたら、こうして士郎はなんとかであるが、余裕を残して避けれる筈がないのだから。恐らくは、最初の不意の一撃を避けた事で士郎に興味が湧いたのだろう。如何する。戦うか。士郎は、槍を避けながら胸中で呟く。自分の力を使えば、この状況をひっくり返せる。ならば、士郎は脳裏に最強の自分をイメージする。

 

 

師匠に最初に教えられた事だ。常に戦う時は、最強の自分をイメージしろと。そして同じく師匠から教えられた詠唱を心の中で口にした。

 

 

(─────Iam the boneof my sword(体は剣で出来ている))

 

 

最初に教えられた時、全く意味が分からなかった詠唱。しかし、自分の起源が『剣』となり、固有結界を持つ現在はその意味を完全に理解出来た。今思えば、あの人は未来を知っていたのではないかと思ってしまう。あまり使えなかった投影魔術を教えたり、そしてあの日以降から、投影魔術が自身の得意魔術になったりもすれば、そう考えてもおかしくはない。魔術回路を起動させ、魔力を手に集め、最も自分が使う武具を複製しようとした────時だった。

 

 

「─────チッ⁉︎」

 

 

青い男は舌打ちした次の瞬間、紅い外套を纏った者が、一瞬で横に現れ、その手に持つ陰陽一対の剣を振るう。それを紅き槍で受け止める青い男。士郎は突然現れた、その男に視線を向けて、何故か無性に気になった。が、すぐに逃げる事が先決だと決めて、足を男達とは反対側に向けて全速力で駆け抜ける。

 

 

「なっ⁉︎ あ、貴方まさか衛みy」

 

 

その際、聞き覚えのある声が聞こえた気がしたが、取り敢えず無視する事に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

自分の家である屋敷に戻り、走った事により荒い息を吐きながら、畳の上に横たわる士郎。

 

 

(はぁ……はぁ……一体如何いう状況なんだ?)

 

 

考えるのは先程の事だ。何故、あそこに英霊が居たのか。何故、英霊同士で戦っていたのか。疑問が増すばかりである。しかし、これだけは士郎でも分かった。なにかが。この冬木市でなにかが起こっているのだと。

 

 

「全く、情報が足りないな」

 

 

上体を起こして、情報が無さ過ぎる事に対してため息を吐く。すると、士郎はバッと天井を見上げた。そこには先程の男が真紅の槍を向けたまま落ちてくる光景が映る。ここに居れば槍に串刺しにされるだろう。そう理解した士郎は、勢い良く全身を転がせ、避けて見せた。

 

 

「へぇ、やっぱりお前面白えな。さっきも弓兵が邪魔しなかったら、なにをしてた坊主」

 

「さぁな、いきなり不法侵入してくる奴に教える訳ないだろ」

 

 

聞いてくる男に、冷静に周りを確認する。ここで戦うのは狭過ぎる。改めて男を見れば、グルンと槍を回してこの狭さでも十分に使える事が分かった。そう思ったと同時に士郎は、引き戸を蹴破り、背を向けて走り出す。それに男は、キョトンとした顔になり、白けたのか息を吐いた。

 

 

「おいおい、男なら真っ向から戦えよ」

 

 

士郎が走った道を通り、庭に出るとそこで士郎が待ち構えていた事に眼を丸くする。

 

 

「もう逃げぇのか」

 

「あぁ。ここでなら、あんたと戦える」

 

 

士郎の放ったその一言に、男は呆気に取られ、笑いが込み上げてきた。

 

 

「くくくく、俺と戦うつもりか?」

 

「そうだ」

 

「坊主。お前、本当に面白い奴だな」

 

 

男の言葉に即答で返す少年。それが面白いのか笑みを深くして、真紅の槍を回す。士郎はその回された真紅の槍に見覚えがあった。それは子供の頃、師匠に授けられた知識にあった『宝具』。確か名は────

 

 

そこまで考えて、士郎は目の前に居る者が誰なのか気付いた。アイルランド辺りでは、()の有名なあのアーサー王と同じぐらいの有名な人物かのだから。そして視線を鋭くさせ、自分がどう動くのかを待っている男を見据えた。

 

 

「…………行くぞ。アイルランドの大英雄」

 

「─────ッ、テメェッ」

 

 

士郎の発した言葉に、驚愕を露わにする男。自分の正体を看破されたら事に驚いたのだろう。その驚愕した瞬間を狙って、士郎は肉薄する。その手にはなにもない。その事に訝しむ男だ。

 

 

(────I am the bone of my sword(体は剣で出来ている))

 

 

だが、なにもないのなら、作れば良い。心の中で詠唱を口にし、魔力を手に集めた。奴を倒す為に作る武具は、巨大な斧剣。本来はギリシャ神話の大英雄を奉る神殿の支柱となっていた代物。次の瞬間────士郎の両手に現れるのは巨大な斧剣だ。普通の人間では持つ事が出来ない程のソレを士郎は、この武器を持っていた大英雄の力を憑依経験させる事によって、振るう事が可能になる。

 

 

「─────なっ⁉︎」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

突然現れた斧剣に、再度驚く男にめがけて横に振るう。ヴォォォンンンッッッ‼︎ と風を巻き起こして迫る斧剣に、男はそれでも後退する事により避けてみせた。だが、士郎は追撃の手を緩めない。横に振るった斧剣の勢いを止めずに、そのまま足を軸にし、体を回転させて後退した男にまた振るう。それを今度は避けるのが間に合わないと判断した男は、槍で受け止めた。しかし、

 

 

「な、に…………ッ⁉︎」

 

 

()の大英雄の筋力すら憑依経験で模倣した一撃は、完全に受け止め切れずに、男の体を吹き飛ばす。それでも男は、空中で一回転すると地面に着地した。だが、彼の顔は真剣そのものだった。

 

 

「坊主。テメェ一体何者だ」

 

「教えるとでも」

 

 

疑問を口にする男に、教えないと答える士郎。

 

 

「そうかよ。なら良い。その代わり、遊ぼうぜ坊主っ‼︎」

 

「……………くっ⁉︎」

 

 

疾走する男に士郎は呻き声を上げる。速い。男の移動速度が異常な程に速過ぎる。しかし、士郎はしっかりと瞳に捉えている。迫る男に迎撃しようと、斧剣を叩きつけるが、意図も容易く避けられ槍の刺突が襲う。それを態勢を態と崩す事で回避し、斧剣で薙ぎ払う。が、それすらも跳躍で躱す男だ。捉えきれない。見えてはいるのに、攻撃が届かない。もどかしい。士郎は自分が持つ斧剣に視線を向けた。

 

 

集中しろ。もっと技量を経験を力を模倣しろ。これが全てではないはずだ。大英雄の力はこんなものではない筈だろ。両眼を閉じて数瞬、再び開くと両の瞳には虹色に輝く雫の文様が浮かび上がっていた。士郎の視界に入る全ての構成、構造が解析される。その瞳を斧剣に向けて、解析した。この武器の持ち主の力の全てを。読み解け、読み解け、読み解け。

 

 

俺は誰だ? 衛宮士郎か。違う‼︎ 俺は────

 

 

「ヘラクレスだぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっっ‼︎」

 

 

ミチミチミチッ‼︎ と士郎の体が大英雄の身体能力を完璧に模倣する事によって音を鳴らす。それを師匠から教わった強化魔術で、無理やり全身を補強した。衛宮士郎は人間だ。故に、例え完全な模倣が出来たとしても、人の体である限り大英雄の力を模倣は数分が限界である。だが、その数分で十分だった。士郎は動く。まるで、斧剣というとんでもない質量を持っていると思えない俊敏さで。

 

 

「──────ッッッ⁉︎」

 

 

一瞬、男は彼の姿が視界から消えた事により瞠目するが、視界の端に映った少年に、槍を構えた。これはマジでやらなければ殺られる。男は迫る少年にそう確信する。あり得ない事だが、目の前に居るこの坊主は、人の身で英雄達の所まで至った。なにをして、そうなったのかは分からない。しかし、面白い。真っ向から立ち向かう士郎に、男は笑みを深めた。

 

 

「だが、舐めるなぁ‼︎」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ‼︎」

 

 

そして雄叫びを上げる士郎と、それに立ち向かう男。斧剣と真紅の槍が激突した。ドゴンッッッ‼︎ と轟音を響かせ、男の地面が大きく窪み陥没した。歯を食いしばり受け止めた男は、反撃と言わんばかりに、士郎に向けて蹴りを放つ。それに少し遅れて、腕で防いだ士郎は、しかし英霊の一撃によって後方にある蔵まで吹き飛び、扉を壊し中に転がる。

 

 

そしてすぐに立ち上がる士郎には、傷らしい傷は付いていない。すると、士郎を行動させまいと男は肉薄して刺突を何度も放つ。それを両眼で真紅の槍の構成、構造を解析しながら、避ける。が、大英雄ヘラクレスの身体能力の完全模倣という無茶な事によって、気付かない内に疲労が溜まっていたのか、足がガクッと力をなくした。

 

 

「や、やばっ⁉︎」

 

「もらったぁ‼︎」

 

 

そしてそんな隙を見逃す筈がなく、男は槍を振るう。対して士郎は穂先に当たる事を危惧して、自分から男に倒れ込んだ。すると、士郎は槍の穂先ではなく、槍の柄の部分に当たり体が吹き飛ぶ。倒れた士郎は、ググッと上体だけを起こし男を見据えた。それに男は、槍を向ける。

 

 

「中々、楽しかったぜ」

 

 

笑みを浮かべて、そう言うと男は、終わりだと言わんばかりに刺突の構えを取った。そして────男が刺突を放った瞬間、士郎は床に描かれている陣で、迎撃しようと魔力を込めた途端。床から光が溢れ出した。

 

 

「これは………ッッッ⁉︎」

 

「ッ⁉︎ おいマジかよ。坊主、テメェが七人目かっ‼︎」

 

 

両者はそれぞれ別の事で驚愕する。男は新たな参加者に。士郎は床にある陣と自分の中の鞘が反応(・・)している事に。数秒後、光が収まると、陣の上に一人の美しく華奢な少女が立っていた。彼女は、士郎に視線を向けると口を開いた。

 

 

「問おう。貴方が私のマスターか?」

 

 

まるで確かめるように言われたその言葉に、士郎は呆然としながら、

 

 

「いいえ、違います」

 

 

敬語でそう答えるのだった。

 

 

 

 



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