呂堺ト天使 (雪亜)
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今の世界と昔の過去

別の小説投稿サイトで全然読まれなかったのでこっちで掲載します


今から五十年前、日本に天使たちが降りたと言うニュースが流れた。

舞い降りた天使たちは自分のテクノロジーを教える代わりに機械について詳しく教えて欲しいと要求し、見事和解した。

そして人と天使の手で中型装甲兵器「呂堺機(ロカイキ)」が生まれ、武装国家 日本へと発展した。

 

だが人は呂堺機を不要に使い燃料となる木材や石炭が不足するに陥った、そのため森林伐採が多く行われ福島、新潟、山形、宮城、秋田、青森、岩手、北海道以外の殆どの森が消滅した。

 

 

そんな中山形の山中に森に囲まれた村が有ることを知った政府は呂堺機の資源となる木を得るために直ぐに買収を試みた、だが村長で地主の夜森快晴(やもりかいせい)は一切動じず頑なに断り続けた、理由は村民が、息子がまだ森や山が好きで居てくれるからだ。

そして息子である夜森葉棟(やもりはとう)に訪れる羅堺機との戦い、学園生活、そして天使…これは命懸けで生きることを望む青年の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー…この辺りの伐採は終わったかな?」

痛み腐食がし始めている木をチェーンソーで切り、回りの木に養分が行くようにする作業を日課にするが日差しがひどい日はあまりしないようにしている。

 

「よし、疲れたから一回帰るか。」

丸太からロープを外しチェーンソーをしまう、この森は昔から入っているので殆どの隠れ場所や道具を隠している場所もわかる。

 

「よいしょっと…そろそろ店を開けるかなぁ…いや、まだ早いな。」

店とは父親が営んでいた定食屋の事で村唯一の食事処である、そして最近は俺に任せっきりになってしまい趣味に余り時間を削げなくなってしまっていた。

そして少い趣味の中で唯一続けているのがチェーンソーと錐(きり)、そして鐫(のみ)を使い木で鷹や虎などのを木造作って売り出す。

だけどこのままだとあまり売れないので友人に頼んでヤスリで削り漆を塗ってもらう、そしたら3000円で売れるので半分に分けて小遣いに当てる、だけどここは相当な田舎だから使い道がなく、殆ど駄菓子屋でお菓子を大量に買い漁り大食い対決をしたりして笑い合えている、それだけで幸せだった。

 

ただ呂堺機の存在が一番邪魔だった、母親は呂堺機の研究にとても深く関わっていたとのことで母親目的で黒いスーツの男が辺りで徘徊しているのがチラチラ見えていた、そのため父親は気に入らなくて一升瓶片手にしばらく帰って来なかったことも有った、家族を奪い、生活を狂わせ、人殺しの兵器なんかを普通に作り当たり前のように使う都会の人間も大嫌いだった。

 

「あー…なんかムカムカしてきた、帰ったら速攻で店を開けちまおう。」

もう呂堺機なんて物は、消えてしまえよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鯖味噌定食と醤油ラーメンお待ちどうさま。」

小麦粉を間違えて仕入れてしまったのでラーメンを作ってみたところ予想以上に売れるので結構内心焦っていた。

「大変だねぇ、おばあちゃんも手伝おうかい?」

「松さんは腰痛めてるからしっかり休んでよ。」

「すまないねぇ、それに比べてうちの孫は…」

「雛屋か…あいつ、どこでほっつき歩いてんでしょうね。」

「廻利はねぇ…あっちに親と行ってから帰ってこなくなってしまってね、一人だと寂しいもんだよ。」

「…松さん、雛屋が帰ってくるまで死ぬんじゃないよ。」

「お前は優しいねぇ、まるで本当の孫みたいだよ。」

「ははっ、じゃあ俺は戻るからなんかあったら言ってくださいよ。」

雛屋廻利(ひなやまわり)、小さい頃の幼なじみで結構しっかり者だけど頭が少し弱い位の女の子だった、ちょうど小学六年の頃に親の事情とかで都会の何処かに行ったと言っていたが恐らくは「逃げた」のだろう、俺らから賠償金がいつ来るか分かったもんじゃないしな…まぁ全然とる気もなかっただけに結構ショックを受けたなぁ…雛屋自体はどう思ってたんだろ?あいつは…。

 

 

 

 

 

 

「本当に、何してんだろうなぁ…。」

そして閉店し、もやもやするから山に散歩しに来ていたが、やっぱり気が張れない、こんな時は…。

 

「よし、鷹でも作るか。」

村から離れた山中にてチェーンソーで木を削りながらもやもやを解消する、特には破壊衝動は無いためただの憂さ晴らしだ。

だけど今日は何かもやもやが晴れない、何か本能が忠告している気がする、山も何か…。

 

「っ…何だ…いきなり強風が…何だよ…これ、呂界機じゃないぞ…。」

 

目の前に現れたのはコウモリ型の呂堺機みたいだが呂界機では無いものだった。

「…認証開始…完了、夜森麗葉(うるは)の息子、夜森葉棟であることが確認できました、これより身柄を確保します。」

「身柄を確保…?何でそんなことをする。」

「…抵抗せずに大人しく付いてくると言う手もあります、貴方はこのままでは…。」

「冗談抜かしてろっ!」

チェーンソーを空回りさせ土煙を起こす、これで三秒だけでも時間を稼ぐ。

 

「今のうちにっ!」

「…ターゲットが逃走、これより追跡します。」

鈍い音をたてて今度は蜘蛛形に変形する、仕組みはどうなっているんだ?

だが考えている暇もなく結構なスピードで追ってくる、だが山の中は把握しているからいくら早くてもこちら側が有利だった。

 

「このままじゃこっちの体力が無くなる一方だな…よし、あの土砂崩れで出来た窪みを使って反撃してみるか。」

チェーンソーを起動させ立ち止まる。

 

「…諦めて下さ…!?」

「やぁぁぁぁ!」

足元が少し崩れバランスが崩れた瞬間に関節にチェーンソーを叩き込む。

 

「くっ…体制を…。」

その時木をアームで掴むがアームの力が強すぎて木がへし折れてしまい近くに居た野犬に倒れてしまった。

 

「っ、大丈夫か…早く持ち上げなければ…よいしょっ…!ぐっ、この木は重たいタイプだったか…どうにかして退かさなきゃ…。」

「……。」

どうする、このまま見捨てるわけには…。

 

「…これで話を聞いてくれますか?」

いきなり軽くなったと思えば呂堺機(?)がアームで木を持ち上げていた。

 

「え…。」

「犬の保護、兼ねて治療をお願いします。」

「あ、はい。」

犬にはそこまでの怪我はなく、かすり傷ですんだ。

 

「…話くらいなら聞くから、その機体から降りて貰って話をしたい。」

「…良いですよ、ハッチを開けま…。」

突然空から砲撃が撃たれた、まだ完全にハッチが空いていなかったから恐らくは軽傷で済んだだろう。

 

「…悪魔め、まだ人を引き込もうとするか!」

「…ダメージ76%、まだ戦闘は出来ます。」

「青年、無事か?」

「ろ…呂堺機…だ…呂堺機が…砲撃を…。」

「何だ…?妙に呂堺機に怯えて…。」

「…無理もありません、その青年は適正値ssクラスの血脈を持っている夜森麗葉の息子ですから。」

「何だと…貴様…!」

「彼の母親からの言伝てで保護を命じられているので退くわけにはいきません。」

「!!?、母さんから何を…。」

「…こちらに来て下さい、全ての真実を…。」

「エリアルカノン!」

言い終わる前にど真ん中に砲撃が撃ち込まれる、関節はほぼへし折れ頭から潰れていた。

 

「…悪魔は全て私が掃討する、それが私の任務だ、だから…潔く死ね、そもそも夜森麗葉は数年前に行方不明だ。」

「え…行方不明…だって?」

「知らなかったのか?結構なニュースになったはずだぞ。」

そんな…母さんは…行方不明に…。

 

「ううっ…。」

「っ!大丈夫か!」

 

目の前に現れたのは俺より若い女の子だった。

「放っておけ、悪魔は…。」

「悪魔だの天使だのどうだって良いっ!目の前で死ぬところなんて見たくねぇんだよ!」

「…貴方は、やはり夜森麗葉の息子だ、言っていることが…ほぼ…同…じ…。」

「しっかりしろ、直ぐに村の診療所まで…。」

「…人の努力を救うのも天使の勤めだ、捕まっていろ。」

「え?ちょっ…。」

「加速する!」

その時、あまりのスピードに気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……これは、小学四年の頃の…俺?確かあの日は、一人で相当腐食が進んでいる木を切りに行ったんだっけ…。

 

 

 

 

「…チェーンソーは重いから鉈とロープと…よし、忘れ物は無いな、さっさと終わらせてしまおう。」

「っ…練(れん)ちゃん、どうしてここに?」

「雛屋、お前こそ…何だ、山菜採りか。」

「えへへ…沢山採れたから後でお裾分けに行くね。」

「助かる。」

 

そっか、昔俺は素っ気ない性格だったんだ、よくひねくれて喧嘩して、森に逃げてたなぁ…それと雛屋はずっと練(れん)と棟(とう)を間違えて居たな…自分でも分かんなくなったときもあったよ。

 

「…練ちゃん、聞いて欲しいことがあるんだ。」

「何だ?出来れば手短に…雛屋危ないっ!」

「えっ?」

 

…あの時、腐食した根本が抜けて雛屋の方向に倒れて、ギリギリ突き飛ばすことが出来たんだっけ、だけど木の枝が何本か突き刺さって倒れた木を退かせなかったんだよな…。

 

「練ちゃん!まずは止血を…。」

「…そこの鉈を取ってくれ、それと村の大人を出来れば呼んできて欲しい、どうにも…痛っ!…木が重くてな、身動きが取れないんだよ。」

「え、でも…。」

「安心しろ、この刺さっている枝を切っておくだけさ。」

「…うん、じゃあ直ぐに呼んで来るから待っててね。」

「…行ったか、結構血溜まりが出来てるな…何だか…意識が朦朧に…なって…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後目を覚ましたのは村から離れた大きな病院で、突き刺さった枝を手術で摘出したらしい、だが全部摘出した訳でもなく難しいところに残ってしまったと言うのだ、もう金も無くなってしまったのでこれくらいは大丈夫だろうと思っていた、だけど現実はそう甘くなかった。

スポーツを出来るのは最長30分、走るのは50分、それ以上運動すると足に残った刺が刺激し刺さった直後の痛みを脳が再現すると言う物だった。

自分で言うのも何だが運動神経は誰よりも良かった、色々なクラブや試合に呼ばれることなんて珍しい事ではなかった、だからこそ運動を出来ないショックは大きく、少しノイローゼになりかけてしまって家に閉じ籠った、その時俺に会いに来てくれたのが友人である東戸盃詩(ひがしどはいし)と夢張累夏(ゆめはりるいか)である、いつもは「四人」でバカやったり遊んだり少ない人数で共に学んだりしていた、その内の一人の雛屋が来てないと言うことはアイツもアイツで悩んでいるのだろうと思っていた、だけど裏にはこんなカラクリが隠されていた。

 

雛屋は先輩三人組に命令されて俺を動けないようにしろと脅され木に薬を撒き金槌で叩き脆くし俺に倒れるように仕組んだのだ、だが素人の手ではそんな芸当は出来るはずは無く自分に倒れてくることを仮定してなかった故に全く反応することが出来ず俺が突き飛ばしてやっと回避できた、それくらいギリギリだった。

だがこの事を知った時は雛屋が転校してこの村から居なくなって半年くらいだったのだ。

 

 

「…それで、雛屋は何て言いたかったんだろうなぁ…もし助けを求めていたら俺は助けられた…いや、これはただの自惚れか、雛屋の家は結構離婚の危機だったしなぁ…。」

 

…そろそろ目覚めるだろ、いい加減夢なんて見ている暇は無いもんな、天使だの悪魔だのワケわかんないことを完全に放置して学校に行く、それから問題を片付けよう、天使でも悪魔でも生きていることには変わらないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回 「旅立ち」



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旅立ち

これから呂堺機や羅堺機等の説明や補足を行っていきます。

呂堺機

全長4㍍位のロボットだが完全に動かすために体全体を使うAT形式になっている。

羅堺機

全長は大型ワゴン車と同じくらいの動物タイプが多いが隊長クラスだと呂堺機と同じ全長4㍍のロボットである。


目が覚めたのは村の診療所だった、あまりベッドで寝たときは無いために軽く落ちそうになったがまず心配なのは今は何時何分だということだ。

時計を見ると6時50分をちょうど過ぎた頃だった、5時起きの俺には結構ヤバい時間だった。

 

「やっべぇ!急いで支度を…。」

「おい、何処に行くつもりだ。」

「誰ですか?」

「昨晩の呂堺機のパイロット…名はマノだ、お前も名乗れ。」

「…夜森葉棟、しがない定食屋の仮店主で学生だ。」

「学生か…これは都合が良い、夜森葉棟、お前には呂堺機のパイロットになって貰う。」

「え?ちょっ…何で俺がそんな事やんなきゃいけないんだよ。」

「…お前は悪魔と戦う資格がある、それだけだ。」

「ふざけるな、俺は呂堺機なんてだいっ嫌いなんだよ、あんなもの…只の人殺しの道具じゃねぇか…。」

「なんだと?それは我々を侮辱してるとして取るぞ?」

「構わねぇよ、やっていることは変わんないんだし…それに、俺は今そこで眠っている子の心配と遅刻ギリギリの時間に焦っているんだよ。」

「愚かな…国のため戦士として命を投げ出す勇気も無いのか?」

「全く無いね、俺はこの森や山に害が及ぶような事でしか動かないからな。」

「…お前はいずれ、天罰が下るであろう、そんな身の回りしか気にしない奴にはろくな未来が…。」

「悪いけど俺は信仰高い天使より道端のお地蔵さまの方が大切なんでな、おっと、一回帰って教科書取りに行かなきゃ…。」

「全く…気が変わったら私を呼べ、直ぐに手続きを済ませよう。」

 

変な奴だったな、まぁ天使だから仕方ないか…と言ってたら目の前に幼馴染みの夢張が歩いていた。

 

「夢張、今日は早いな。」

「おはよう夜森くん、今日は日直だからなるべく急いでね。」

「あっ、完璧に忘れてた、直ぐにバッグを持ってくるから先に行っててくれ。」

「出来るだけ急いでね、今日は幸信先生だよ?」

「やべぇ…今日は鬼の日か…チャリで行くわ、夢張、恒例のアレを頼む。」

「仕方ないな…位置についてー、よーい…どん!」

「いよっしゃぁ!」

 

夢張は体があまり良くなく結構な運動規制や日傘着用を義務づけられていたため運動が出来ない夢張にスタートの合図は全て任せられていた、だから聞き慣れているため中々心が高揚する。

おかげで活動限界に支障をきたさない時間で家に着いた。

 

 

「っはぁ…はぁ…5分かかんなかったぞ、えーと、今日は…ええい面倒くさい!全部持ってく!。」

持っている教科書を全てエナメルバックにぶちこむ。

 

「よし、こんなもんで…あ、忘れるところだった。」

昔に父親から渡されていた青い線が幾つも入っている正方形型のネックレスを急いで首にかける。

 

「…行ってきます。」

仏壇に挨拶をして速攻でママチャリに跨ぎ全力でペダルを踏み込む、まだ7時20分…ギリギリ間に合うか?!

 

「っはぁ…キツイ…。」

「あ、以外と早かったね。」

「夢張?!先に行ったんじゃないのか?」

「夜森くんだけ怒られるのは可哀想だと思って私も同罪になろうとしてたの。」

「…まだ日直の仕事を完了するまで10分ある、早く後ろに乗れ、怒られないハッピーエンドにするぞ!」

「私達の冒険は始まったばかりだ、なんちゃって」

「勝手に終わらせんな、飛ばすぞ!」

「あはは、無理しないでね。」

「大丈夫だっての…あれは…盃詩!」

 

アスファルトに加工された道の真ん中に居るのは友人の盃詩だった。

 

「HEYタクシーィィィィ!」

「作戦、退く。」

「んなっ!?」

 

盃詩は回転しながらぶっ倒れたが無視してペダルを漕ぐ。

 

「…良いの?」

「大丈夫だろ、あいつは頑丈だ。」

「ダチを引き殺す気かー!」

「凄いな、全力で漕いでるのに走ってついてこれるなんて。」

「へへーん、まあな。」

「あ、足元にカエル。」

「ぎゃぁぁぁ!」

 

頑丈なこいつの弱点はカエルである、姉から無理やりズボンのなかに殿様カエルを入れられてカエル自体ダメになってしまったのだ。

 

「5分で着いた…さっさとやっちまうぞ、俺は黒板全般やるから花瓶をよろしく頼む。」

「うん、そういえば昨日の夜凄い音がしたよね?何だったんだろ…。」

「裏山に隕石でも落ちたんじゃね?」

「…その顔、嘘ついてる顔だよ、なにか知っているでしょ?」

「あー…後で話すからまずは日直の仕事を終わらせてしまうぞ。」

「うん…。」

 

 

 

 

それからギリギリ完了して席に着き、普段通り過ごし四時講目が終わり昼休みになったので夢張とついでに盃詩と昼食を取りながら話すことにした。

 

「で、散々追いかけ回されて和解しかけたんだけど上から呂堺機の砲撃が有ったんだよ、何でもあのキャノン砲の名前はエリアルカノンとか言ったな。」

「エリアルカノン!!?あの装備は最近軍が作り上げた新作なんだよ、柔軟な金属を使い空気圧を六つ同時に放出し一つの弾丸を弾道ミサイル以上の威力に仕立てあげた現在最高威力の武器なんだよ!」

「ふーん、それで敵ってだれ?」

「お前そんな事も分かんないのか?」

「私も全然知らないよ?」

「これだから脳まで田舎に染まってるやつは…良いか?呂堺機の敵は羅堺機と言う動物と人間を掛け合わせた機械なんだよ、羅堺機の得意とすることは転送と変形だ、体に害が及ばずに変形する技術を掛け合わせていて…。」

 

長々と話しているが全然頭の中に入ってこない、その時遠くから白い物体が近づいてきていた。

 

「あれ?あの人は診療所の…茂利さーん!」

「小僧!小娘が目を覚ましたぞーい!だが少し問題が発生しているんじゃがどうすれば良い!」

「問題ってー?」

「記憶喪失じゃー!」

「…ええええええーっ!?」

 

本日最初の問題が発生した。

 

 

 

「…名前は?」

「………。」

「これまでの経緯は?」

「………。」

「…大福食べる?」

「………うん。」

「うわー、本物の記憶喪失とか結構変な感じなんだな。」

「本人が気にしていることは余り口に出さない。」

「ごふうっ…お前の手刀は殺人クラスの威力があるから封印したんじゃ…。」

 

夢張の手刀の次には俺からの精神的ダメージを与えよう。

 

「お前の部屋の畳の下の隙間に隠してあるエロ本ベスト3をカエル池に沈めるぞ。」

「それだけは止めてくれ!つかなんで俺の個人情報がボロボロに!?」

「恨むなら姉を恨むんだな。」

「小僧ども、バカをやっている暇は無いだろうが!」

 

そうだった…まずはこの子のこれからをどうするんだろうか…。

 

「うーむ、ざっと見たところ身長的には小学5年って位だな、葉棟、お前が責任もって面倒見ろ。」

「…良いのか?正直こんなことになったのは俺が逃げたからだし、面倒は俺が見ようと思ってたんだが…。」

「いや、そこは驚けよ…一応聞くが襲ったりしねえよな?」

「こんな子供体型に興奮するとでも?」

「そりゃそうか…お前は標準が一番好きだもんな。」

「………。」

「あ、すまん、ついほったらかしにしちまったな、どうした?」

「……名前、戻るまで着けて欲しい…。」

「あー…そうだな、よし、朴葉(ほおば)なんてどうだ?」

「………うん。」

 

朴葉は最近庭に生やしたばかりの木の名前で朴葉焼き等が有名である。

 

「さーて、今から店を開ける準備をしなきゃな。」

「森はどうする?何だったら俺がヤバめの木を切り倒してくるぜ。」

「よろしく頼む、切りにくくなったら古い刃を捨てて新しい奴着けて良いからな。」

「へいへーいっと、じゃあ行ってくるぜ。」

「さて、茂利さん、今日はありがとうございました、お礼にうちで食べに来ませんか?」

「そうじゃなぁ、タダ飯なら喜んで食いに行くぞい。」

「じゃあ席開けておくのでまた後程。」

「………。」

 

それから歩いて帰路につくが全然喋ろうともしない、そもそも記憶喪失なら母さんの事も聞けない、せっかくの手がかりが消えてしまった。

だけど記憶の戻る手がかりは無いと言うわけではない、あの羅堺機と言うやつを調べれば何か出てくるかもしれないしこいつの仲間も来るかもしれない、そしたらちゃんと話をしよう。

そんな事を考えているともう着いてしまった、少し会話したかったんだが…。

 

「ここが一応暮らしている家で店もやっている、外装は少しぼろいが我慢してくれ。」

「…怖くないの?」

「何がだ?お前から恐怖を感じることなんて…。」

「記憶が無くても…人が怖がる姿が…頭から離れない…。」

「あー…まぁ心配すんな、お前をそんな事をする奴は俺がはっ倒すし今のお前は朴葉だ、前のお前を戻す努力をするが今は朴葉で居てくれ。」

「…朴葉…誰も、苛めたりしない?」

「だからそう言ってんだろ、あー…娘持つとこんな感じなんだろうな…。」

「…パパ?」

 

決めた、この子は俺の娘だ、異論は認めん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事に潰れていたな…こりゃあ特に残ってないかもしれないぞ。」

 

呂堺機の砲撃の跡を見渡したが完全に動かなくなっておりコックピットも見渡し辛い。

 

「これどうすっかな…動かすにしても大きさ的には大型ワゴン車位だから難しいし…。」

近づこうとすると首の真横に刀が構えられていた。

 

「動くな、動くと…首を撥ね飛ばす。」

 

綺麗に研ぎ澄まされた刀が月光に照らされていてより鋭利に見える。

 

「…誰だ?この羅堺機のパイロットの仲間か?」

「振り向くな、出来るだけ危害は加えない。」

「…悪いがこの羅堺機のパイロットは記憶が飛んでいる、迎えはもう少し後にしてくれないか?」

「…詳しく話を聞きたい。」

 

刀の仕舞う音が聞こえる、もう危害は加えないようだ。

 

「…振り向いてて良いか?」

「構わん、こちらも背中を見せられたままでは落ち着かん。」

「では失礼して…。」

「って貴方は…夜森様の息子様ではありませんか!」

「え?」

「知らずとはいえご無礼の数々、誠に申し訳ありません!」

 

地面まで付くくらいのポニーテールを揺らし突然膝を着き頭を下げながら謝られた、って息子様…?

 

「あの…顔を上げてくれませんか?それと母さんとはどういう関係で?」

「はっ、私は夜森麗葉様に助けていただいた羅堺機のパイロットで名はアモルです、以後お見知りおきを。」

「え、ええ…それより助けて貰ったって…。」

「ええ…我々羅堺に住まう者共は羅堺機の開発に熱心になりすぎてしまい衣類や植物、治療科学の発展が全く無くこのままでは自ら滅びる道に陥ってしまったのです、その時手を差し伸ばしたのが夜森麗葉様です。」

「まじか…。」

 

思ったより凄い人だったな、もっと普通なものだと思ってた。

 

「夜森麗葉様は全てお一人で難なくこなし、一ヶ月と経たないうちに呂堺の科学に負けない位力を身に付け、羅堺に住まう者達は夜森麗葉様を神と崇めるように…おっと失礼。」

携帯電話が鳴り、数メートル離れて会話している、どうやら態度的に部下だと思う。

 

「…了解した、では夜森様に伝えておいてくれ。」

「今のは?」

「夜森麗葉様の側近だ、伝言でこれ以上は自分の口から説明したいようだ、付いてきて…む?息子様の携帯も鳴ってますよ。」

「葉棟でいいよ、着信は…茂利さん?」

 

着信ボタンを押し少し耳から離して手を添えると丁度良い位に聞こえる。

 

「もしもし?」

『ようやく繋がったわい!小僧!雛屋の婆が急患で運ばれてき

た!ちょっと手伝いに来てくれ!』

「え!?今すぐいきます!すみませんが急用が出来たので失礼します。」

「…話しは聞かせてもらいました、葉棟様、私の夢霧丸(むぎりまる)なら30秒で着きます。」

「夢霧丸?名前が有るのか?」

「はい、夢に進むのを阻む霧を斬り(霧)捨てることからこの名にしました、それより時間がないのでは?」

「そうだった…じゃあお願いします。」

「…システム構築、バーニア、関節のロックをOFF…夢霧丸、起動!」

 

突如上から墜ちてきた機体は甲冑武者に鬼面となっていて不覚にも怖いと思ってしまった。

 

「さあ、掴まってください、振り落とさないようになるべく気を付けますが落ちる可能性は無いとは言えません。」

「むしろ振り落とすようなスピードで突っ切ってくれ、これ以上は無いってレベルでな。」

「…分かりました、リミッター89%解除、エンジンフルドライブ、システムバーニア…全開!」

「ぐっ…!」

目の前に凄いGが襲いかかり体が潰れそうな勢いで加速している、息も出来ないし正直腕の感覚も無い、死なないのが不思議なくらいだ。

 

「あの建物ですか?」

「っ……!」

 

喋れないから手をグッジョブにして答える。

 

「止まりますので反動で飛ばされないように気を付けてください。」

 

バーニアが逆噴射しギリギリぶつかる直前で止まった。

 

「着きました、大丈夫ですか?」

「ああ…お前は早くこの場から離れた方がいい、天使が居る。」

「了解です、では何かあったらこの連絡先に電話してください。」

「分かった、ありがとうな。」

「では失礼します。」

 

また更に速く加速し見えない所まで飛び去っていった。

 

「よし…茂利さん今着きました。」

「早かったな、お前は今のうちに物を退かして広めの空間を作っててくれ、わしは点滴の準備やらで忙しい。」

「分かりました、よし…やるか。」

それから盃詩と夢張も到着し、一応蘇生装置の準備を済ませ、茂利さんが準備を済ませる。

「よし、後はわしに任せて休んでおけ。」

「…一応聞きますが、松さんに会っても大丈夫ですか?」

「構わん、最後かもしれんからな…。」

「…ありがとうございます。」

 

別室のドアを開け横になっている松さんの近くに行く。

 

「…松さん、準備は終わったよ。」

「…葉棟君や、一つお願い事を頼めるかい?」

「何ですか?」

「好物だった漬物を廻利に…届けてくれないかい?」

「え?雛屋は…。」

「いつ帰ってきても…直ぐに食べれるように作ってたんだけどね…もう作れそうにも無いからねぇ…これは最後の頼みさ、頼んだよ。」

「松さん…。」

「終わったか?」

「茂利さん…俺、しばらくこの村を離れます。」

「…そうか、あの子はどうする?」

「連れてく、明日辺りにでも出発します。」

「…全く、親子変わらんな…このクソババアは任せとけ。」

「なんじゃと…このくそじじい。」

「…じゃあ、後はよろしくお願いします。」

「わかっとる、行くぞババア。」

「頼むぞジジイ…。」

ベッドから体を移動させ何かキャスターがついてるベッドっぽい物で部屋から離れていった。

 

「…さて、行くか。」

診療所を後にし天使の居るところに向かう。

 

「どうした?呂堺機に乗る気になったか?」

「…天使、呂堺機のパイロットになるかわりに色々教えて欲しいことがある。」

「ふむ…用件は飲み込めないものも有るが話しは聞こう。」

「一つ、人探しを兼用したいがこれは大丈夫か?」

「ああ、差し支えない程度であれば全く問題ない。」

「二つ、俺の生活はどうしたら良い、学校や住むところだ。」

「住むところはこちらで用意しよう、学校は呂堺機専門の学園がある、そこに転入するしかない。」

「三つ、朴葉を連れていくが差し支えないか?。」

「ああ、羅堺機に乗らない限り危害は無いと見た。」

「…俺からの質問は以上だ、何かそちらからも質問はないか?」

「…一つだけある、お前の首に引っ提げてる物はなんだ。」

「あー…このペンダントは…お守り?」

「なぜ疑問系なんだ…ちょっと貸してみろ。」

「ああ、因みにトンカチで叩いても凹みもしなかった。」

「乱暴だな…む?これは呂堺機専用ガレージの鍵じゃないか。」

「え?」

「この形式だと…何億通りのパスワードが組み込まれてるな、恐らく夜森麗葉の物だろう。」

「ちょっと待て、母さんはただ研究に関わっていただけじゃないのか?」

「何を言っている、文献によると彼女は16才から研究に参加し、呂堺機を完全に仕上げたのは彼女だ、知らなかったのか?」

「…全然知らなかった。」

「…まぁ、何を知ろうがお前の勝手だ、悪魔と関わる事があっても私は別に気にも停めないが…私は絶対悪魔を殲滅する、それだけの事だ。」

「そうか…店を開かなきゃならないから絶対に早く終わらせる、それが俺のすることだ。」

「ふふ、ではこれからよろしく頼むぞ?夜森葉棟。」

「ま、御手柔らかに頼む。」

 

俺は一人の戦士として戦う訳じゃない、俺は俺の為だけに戦うんだ、その為には何でも利用してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回 「ハイライト・バトル」



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ハイライトバトル

後書きに次回予告みたいな物も書いていきます。

呂堺機専用ガレージ

普通のガレージとは全く違い、まるで格納庫みたいな作りになっているが一応暮らしやすくなっている。

デバイス

ガレージを操作するための専用スマホ、ナビゲーターAIとの通信にも使える。


一度帰宅した俺は着替えや必要な物を準備し、後は迎えが来るまで休むことにした。

 

「悪いな、勝手に決めちまって。」

「ううん…パパが行くならそこに付いていくだけだよ。」

「…パパ…か、出来ればお兄ちゃんにして欲しいな。」

 

確かにパパと言う響きは素晴らしいが色々勘違いされるかもしれないからせめて兄留まりで居て欲しい。

 

「…パパは、パパだよね?」

 

前言撤回、やっぱりパパでやっていこう。

 

「ああ、やっぱりパパで良いよ、そっちの方がしっくり来る。」

「うん、ありがとう…。」

 

結局人間は欲望に勝てない事が分かった所で家の電話が鳴る。

 

「ちょっと電話に出てくるから待ってて。」

「うん。」

 

玄関近くに設置してるため一度階段を下りねばならない。

 

「よっと…もしもし、夜森です。」

「棟葉様ですか?」

「アモルさん?どうしたんですか?」

「1つ確認したいことが有りまして…少々お時間よろしいでしょうか?」

「うん、構わないけど。」

「えーと…今の名は朴葉でよろしかったでしょうか?」

「ああ、そうだけど?」

「実は彼女に定期的に飲まなきゃいけない薬が有りまして…それをお渡ししたいのですが。」

「何の薬?」

「彼女の人間に対する恐怖心を抑制させる精神安定剤みたいなものです。」

「…持って来てくれる?」

「はい、ただ時間が足らないのでポストに入れておきます。」

「時間がない?」

「すみません、ちょっと時間が押してるので…棟葉様がそちらに回ると言うことは私の部下と戦闘に成ることが有りますが…出来るだけ逃げるタイミングを与えて下さい。」

「…分かった、早くやることを済ませて母さんに会いに行くって伝えてくれると助かる。」

「分かりました、では御武運を。」

 

電話が切れ、ポストにガタンという音が鳴った。

 

「…恐怖症か、朴葉に何が有ったんだろう…よし!暫く店を閉めるんだし掃除だけでもしてくか。」

 

結局眠ることはせず、掃除後にチャーハンの作り置きを用意して荷物を確認する。

 

「…よし、大丈夫そうだな。」

「パパ…誰か来たよ?」

「ん?こんな時間に誰だ?」

 

玄関の鍵を開け顔を出してみると夢張がいつもと違う格好で立っていた。

 

「よう、こんな時間にどうした?」

「え、あ…うん、ちょっと聞いた話だけど夜森君がこの村を離れるって聞いて…。」

「まぁ…な、それよりもその格好どうしたんだよ?買ったのか?」

「…これ、ホントは明日渡す予定だったんだけど…もう要らなくなっちゃったね。」

 

それは水族館のペアチケットだった。

 

「何でこんなにタイミング悪いんだろうね…ホントに、一人で舞い上がって…バカみたいだったよ…。」

「…はぁ、それの期限いつまで?」

「一週間位だけど…。」

「…よし、じゃあ三日後に一回帰って来るからその時行くか。」

「え!?」

「ペアチケットなのに一人で行くと寂しい奴に見られるだろ?」

「…それはそうだけど…大丈夫なの?」

「ああ、いざとなったら呂堺機に引っ付いて飛んでくるから問題ない。」

「ふふっ、危ないからちゃんと新幹線でね?」

「冗談だよ、さて…そろそろだな。」

 

どうやら迎えらしき車がこっちにやって来た。

 

「…夜森棟葉様で宜しいでしょうか?」

「ええ、荷物はどこに積めば良いですか。」

「後ろのトランクに仕舞えます、お手伝い致しましょうか?」

「ありがとう、でも大丈夫です。」

「左様で御座いますか、では準備が出来たら出発致します。」

「分かった…夢張、指切りしとくか?」

「うん、約束破るかも知れないからね。」

「何気に酷いな…じゃあ指切りだ。」

 

二人の小指を絡め声を揃えて唱える

 

「「指切拳万、嘘ついたら針千本呑ます、指切った。」」

 

指を離し少しの沈黙の後、夢張が口を開いた。

 

「…生きて帰ってきてね?約束だよ?」

「ああ、生きて帰って来るから…ってちゃっかり死亡フラグ立てるんじゃねぇよ。」

「あははっ、バレちゃったか。」

「ったく…そろそろ帰った方が良いぞ、もう夜も遅いし、行かなくちゃいけないしな。」

「うん、またね。」

「またな、夢張。」

 

夢張の背中が見えなくなったところで全ての荷物をトランクに詰め込み朴葉と一緒に後ろのシートに座る。

 

「…お別れは済みましたか?」

「ああ、出発してください。」

「了解しました。」

 

小さい排気音が鳴りゆっくりと加速して行く。

 

「…これから何時間位で着きますか?」

「休憩を挟みますので明日の7時頃には着く予定です。」

「そうですか…。」

「…不安ですか?」

「まぁ…はい。」

「…これまで数々の候補生を乗せましたが、大半の皆様は不安と言うより期待の方が多い方ばかりでした。」

「…期待なんて持ちませんよ、本当は不安で心が押し潰されそうな人間ほど元気に振る舞うんですよ。」

「…となると夜森棟葉様はそこまでの不安はないと?」

「はい、これが自分のすべき事ですから。」

「…これなら孫娘を任せられそうだな。」

「何か言いました?」

「いえ何も、それよりお休みになった方がよろしいと思いますが、如何でしょう。」

「そうだな…朴葉も寝てるし、俺も少し寝る。」

「ではお休みなさいませ。」

 

カーテンが閉められて暗い空間で考える…雛屋は今何処に居るのか、俺はちゃんと戦えるのか…。

 

「いや…やるしかない。」

 

ペンダントを握りしめ、静かに目を閉じて眠りに着く。

 

「どうか…直ぐに見つかりますように…。」

 

小さな祈りでも、きっと何時かは届くと信じて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた理由は窓から差し込む太陽の光だった。

 

「お目覚めですか?」

「…今は何処ですか?」

「外を見てもらえば分かります。」

 

そう促され外を見てみると凄い景色が広がっていた。

 

「なんだここ…。」

「呂堺機の為に建築された都市、「大天界」です。」

「凄い広さだな…あの中央に有るのは?」

「あれは大天界を象徴とする高層施設、ハギオンピルゴスです。」

「ハギオンピルゴス…ね、随分と遠い未来みたいな都市だな。」

「無理もありません、これが呂堺の技術らしいですから。」

「天使なのに精霊の塔かよ、しかも何でギリシャ語…。」

「突っ込んだら敗けですぞ。」

 

道路を走行してるうちに港近くの施設に着いた。

 

「ここは?」

「呂堺機の専用ガレージです、ここには住居スペースも完備してるので御二人くらいでしたら不便無く暮らせます。」

「でも鍵なんて…あっ。」

 

そういや天使が鍵とか言ってたな。

 

「では荷物整理が終わり次第学園に向かいますので声をお掛けください。」

「分かった、後時間がかかりそうだから少し休んでて。」

「了解しました。」

「さて…朴葉起きろ、朝だ。」

「ううん…おはよう、パパ。」

「おはよう、とりあえず降りるぞ。」

「分かった…。」

 

寝惚け眼を擦りながら車から降り、トランクから荷物を下ろす。

 

「さて、入ってみるか…。」

 

ペンダントを外しガレージ脇の機械を調べてみる。

 

「うーん…これどうすりゃ良いんだ?」

 

つかこんな正方形のペンダントでどうしろってんだよ…。

 

「…ちょっと貸して?」

「え?分かるのか?」

「なんとなくだけど…やっぱり、ここに嵌め込む所がある。」

「ホントだ…よく分かったな。」

「何で分かったんだろ…。」

「直感じゃないか?第六感とか。」

「地味な第六感だね、それよりも早く中に入ってみようよ。」

「そうだな、えーと…これをここに嵌め込むんだよな…。」

 

恐る恐る嵌め込むと中に消えて行き、機械音声が流れた。

 

『総合データベース解凍、オールシステム異常なし、声紋認証確認完了、これより「夜森棟葉」をマスターキーとします。』

「えっ?ちょっ…。」

『専用デバイスをお受け取りしてください、デバイスから全ての操作が可能です。』

「ど、どうも…これかな?」

 

まるでスマートフォンみたいな端末を受け取り『前門解放』と名の付いたアプリ?をタップしたら分厚い二重扉が縦と横に開き中に見えたのは…。

 

「何だこれ…。」

 

まず最初に見えたのは青と黒のカラーの呂堺機だった。

 

「こんな形見たこと無いぞ…それに…これってカタパルトか?」

 

呂堺機の足元に有るのはよくゲームに登場するカタパルトそのものだった。

 

「…とりあえず荷物を片付けよう、住居スペースは二階かな?」

 

荷物を一気に担ぎ上げてエスカレーターに乗る、そこまでの高さはないが結構金がかかってるみたいだ。

「結構埃被ってるな、こりゃ大掃除が必要そうだな。」

 

荷物に持ってきたはたきや無造作に置かれてあったハンディークリーナーを駆使し部屋の掃除を進める。

 

「せめて住居空間だけでも…っ、なんだ!?」

 

ベッドのシーツを掃除していたら突然端末から警報が鳴り響いた。

 

「なんなんだいったい…。」

「パパ…下からも警報がなってるけど…。」

「わ、分かった、ちょっと行ってくる。」

 

駆け足でエスカレーターを降り、呂堺機の前に立つ。

 

「結構デカいな…どうやって乗るんだ?」

 

悩んでいると手元のデバイスから電子音が鳴った。

 

「え!?なんだ!?」

『緊急事態発生、半径100㍍以内に敵意を持った鳥形羅堺機が接近中、直ちに迎撃してください。』

「まっ、待て!まず呂堺機の動かし方すら分からないんだぞ、どうしろってんだよ!」

『私がレクチャーします、早く乗ってください。』

 

突然後ろの呂堺機の体が開き頭が吊るされた。

 

『後ろから体を入れるだけです、それだけで全ての操作が可能です。』

「パパ…。」

「朴葉…心配すんな、俺はお前を守る…今はそれだけだ。」

 

呂堺機に乗り込んで目の前が閉まり頭が降りてくる。

 

「…なるほど、普通に体を動かす感じにすりゃ良いんだな?」

『yes、後は扉を開けます…御武運を。』

「…夜森棟葉、出る!」

 

カタパルトに乗り勢い良く出撃する。

 

「…これが、空から見る景色か…っ!」

 

背後からの射撃…このままだと辺りに被害が及ぶ、ならば海の上に誘い込むか。

 

「こっちだ!」

 

なんとなくだが動かし方は理解できている、ならば…。

 

「武器は…無い!?」

『直ちに武器を転送致します、一分程耐えてください。』

「仕方ない、素手でやってみるか。」

 

だけど相手は機動力も有るし大型ライフルを背中に担いでやがる、どうするかな。

 

「とりあえず銃に気をつけながら突撃だ。」

「…墜ちろ。」

 

先程の機関銃ではなく大型ライフルからの狙撃が脇腹を掠めた。

 

「うおっ!ったく、危ないな…流石鳥だな。」

『準備が完了しました、これより転送します。』

「あれか…!」

 

空からコンテナらしき物が落ちてくる、もしかしてこれって…。

 

「俺に直撃するんじゃね…?」

 

気づいた時には既に遅く、眼前まで迫っていた。

 

「更に羅堺機の銃撃かよっ!」

 

もう武器を取り出している時間は無いからコンテナを盾にして扉を引き剥がして手を突っ込む。

 

「どぉらっしゃい!」

 

コンテナを振り投げて無理矢理中の武器を引き出す。

 

「!!?」

「隙有り!」

 

加速して更に蹴りを打ち込むと鳥形の羅堺機はよろめいた。

 

「武器はチェーンソーか!御誂え向きだな!」

『起動方法は脇のレバーを手前に引けば起動します。』

「これか、出来ればヒモが良かったなー…何て言ってる場合じゃないか。」

「くそっ…調子に乗るな!」

「…さっきの言葉を返してやるよ、墜ちろォ!」

 

直進してきた羅堺機の羽を切り落とし踵落としを中央に決める。

 

『…反応消失しました、これより帰投してください。』

「おう、色々ありがとな…。」

『浮かない顔ですが如何しましたか?』

「ちょっと…正直怖くてな。」

『…以前は震える程憎んで居たものに乗り込まざるを得ないとは、皮肉な物ですね。』

「え?なんでお前知って…。」

『…前方から呂堺機の反応が3つ、通信要請です。』

「誰だ?」

「先の戦闘苦労であった、えーと…あ、そうそう…貴殿の…えーと…。」

「佐渡さん!もう普通で良いのでさっさと済ませて下さい!」

「風間ちゃん…ごめん変わって!。」

「全く…羅堺機との戦闘、お疲れ様でした、軍の方ですか?」

「いや、全然違うが…。」

「では学園の方ですね?それではクラスと機体番号を教えて下さい。」

「えーと、今日入学予定、機体番号は知らない。」

『ルーツZ.0000です。』

「なるほど、では呂堺機を動かすのが趣味な方ですね、でなければさっきの動きが出来る筈がありませんし。」

「いや、触ったのも動かすのも初めてなんだけど。」

「…え?今なんと。」

「だから触ったのも動かすのも初めてって…何か問題が?」

「…羽織さん、後は任せました…私と佐渡さんは帰投します…。」

「…まずは一度帰投してください、私も同行します。」

「あ、ああ…分かった。」

 

早く戻るために加速を使おうとしたら突然それは目覚めた。

 

「!!」

「どうかしました?」

「ぐっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『出力総ダウン、着水します。』

 

そして俺は水底に落ちながら余りの痛みで気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回 「過去の代償」




過去に負った傷は牙を向き、今を襲う。
それを知りつつも戦うことを辞めない棟葉はある決断を下し戦闘に向かうのであった。



次回「過去の代償」


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