ガールズ&パンツァー 逸見エリカの苦労日誌 (まもる)
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プロローグ

 ガールズ&パンツァーにはあまり詳しくありませんがゆっくり投稿出来たらと思います。


 

 私は最初は西住みほが嫌いだった。

 

 尊敬し憧れる西住まほ隊長の妹っていうだけで副隊長に就任したからだ。

 

 しかし、現実は違っていた。

 

 私がどんなに足掻いてもみほの才能には勝てなかったのだ。

 

 でも、みほの身の回りの世話をしている内に違う何かが芽生えていたのも事実だった。

  

 そんな、気持ちに気付いたのは決勝戦のプラウダ高校との試合で起きた事故からだった。

 

 

 崖沿いを追撃しなから、酷く降りしきる雨の中をフラッグ車であるみほが駆るティーガーを護衛するかのように私が車長を勤めるⅢ号戦車の目の前にはプラウダのT-34/85を中心に率いる本隊と遭遇したのだ。

 

 飛んで来る砲弾

 

 今、思うと徹甲弾ならさぞ良かっただろう。

 

 Ⅲ号戦車なら一撃で走行不能になり道を塞げたから・・・

 

 しかし、撃って来たのは榴弾だった。

 

 着弾したのは私のⅢ号戦車の側だった。

 

 崩れる戦車の足元

 

 ずり落ちるようにⅢ号戦車は濁流化した川に落ちたのだ。

 

 「「「「「キャァァァァ!?」」」」」

 

 車内は私達の悲鳴で響き渡る。

 

 濁流に飲み込まれて行く私達とⅢ号戦車

 

 車内にも水は入り込み、内部がいくら特殊カーボンでコーティングされているとは言われても侵入して来る水だけは防げないのだ。ただ、恨めしく思うならⅢ号戦車M型なら多少は違ったと思う。

 

 「やだ、死にたくない!」

 

 「小梅、落ち着きなさい!」

 

 私も全員に落ち着く様に叫んでも車内に侵入して来る大量の水に錯乱する砲手の小梅は扉を開けようとするが水圧で開かないのだ。

 

 他の搭乗員までも脱出しようと扉を開けようとしても水圧で開かなかったのだ。

 

 「あっ、ハッチが開かない!誰か、助けて!」

 

 「いっ、いやぁぁぁぁ!?」

 

 正直、私も死にたくなかった。

 

 試合が終わったら、みほと小梅の三人で買い物に行く予定だったのに・・・・・

 

 私も死ぬのだろうか?

 

 「あっぷぅ、嫌だ!死にたくない!助けて!」

 

 「ぶっはぁ、小梅、内法、藤木は砲塔側に上がりなさい!まだ、空気があるわよ」

 

 辛うじて、顔だけが出せるところまで車内には水が貯まり、私達は絶望的な状態だった。背の低い小梅は溺れ始め、私が足を車長席につけて支えていた。他の乗組員も同じく支え合ったのだ。しかし、侵入して来る大量の水はとどまることを知らず、戦車内を満たし私達を飲み込んだのだ。。

 

 私が最後に見たのは車内で意識を無くし水中に力無く漂う小梅や他の乗組員だった・・・・

 

 「みほ・・・・ごめん・・・・・・ゴッボォ・・・・」

 

 私は意識を手放したのだ。

 

 

 

 

 

 エリカさんと小梅ちゃん達が乗るⅢ号戦車が転落し濁流に流され飲まれていく光景。

 

 私はプラウダの戦車隊に激しい砲撃に晒される中、味方と相手高校、審判団に事故を知らせる発煙弾を出すように命令した。

 

 「信号弾を取って下さい!」

 

 しかし、Ⅲ号戦車は流され始め、沈み始めたのだ。

 

 救護隊は今の状況では絶対に間に合わない。

 

 早くしなければ、エリカさんと小梅ちゃんが・・・・

 

 浮かぶのは大切な友達の死だった。

 

 焦る私に不安になる乗組員達。

 

 最早、信号弾を撃つ暇は無い。

 

 「私が救助に向かいます。すいませんが信号弾をお願いします」

 

 「副隊長!」

 

 私は激しい砲撃の中、ティーガーのハッチを開けて降りると体にロープを巻き、濁流に身を投げたのだ。

 

 泳げないのも忘れ、がむしゃらに三号戦車が沈んだ場所に向かって泳ぎ潜ったのだ。

 

 川底にはⅢ号戦車が横たわり沈んでいた。Ⅲ号戦車の射撃手ハッチを開けるとエリカさんや小梅ちゃん達が力無く漂う姿に意識が無いのに気付いた。まずは、近くにいる小梅ちゃんからだと思い、小梅ちゃんを抱えて浮き上がり、岸にあげた時に見た光景はフラッグ車のティーガーが白旗を上げてやられた後だった。しかし、私は構わずに再び潜りエリカさん、内法さんに藤木さんを救助したのだ。

 

 ただ、私は西住流の西住みほではなく、普通の西住みほとして見てくれて、大切な友達のエリカさんと小梅ちゃんを助けたいだけだったのに・・・・

 

 救助が終わる頃には、事故の知らせを受けた救護隊が来ていた。

 

 だけど、私が見たのは意識が無く腕が力無く垂れ下がるエリカさんと小梅ちゃんが搬送される姿だった。

 

 エリカさん、小梅ちゃん嫌だよ!私を置いて行かないで!

 

 私の心で叫び、Ⅲ号戦車の乗組員は救護隊によって病院に搬送されたのだった。

 

 乗組員全員は命に別状も無く無事だったが、エリカさんと小梅ちゃんは意識が中々戻らなかった。その後、学園に戻った私は十連覇を逃した事に加えて、敗北の責任を押し付けられる形でOGや在校生に責めらたり、肉体的な指導をされたりと肉体的にも精神的にも堪えられなくなり、それを苦に私は部屋に閉じこもってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 私が目覚めたのは白い天井のある部屋だった。

 

 数日して退院したがみほの姿が無かった。

 

 当時のみほが乗っていたティーガーの乗組員を問い詰めたところ全てを知ってしまった。

 

 

 結果はみほが助けに入った事で指揮系統が乱れフラッグ車は撃破されプラウダに敗北したのだ。

 

 当然な結果かもしれない。

 

 しかし、実際はみほは装填手に事故を知らせる発煙弾を撃つように指示してから川に飛び込んだが発煙弾は撃たれる事は無かった。三年生だった操縦手に邪魔され揉め合っている間にプラウダに攻撃され撃破されたのだ。

 

 その三年生はその事実を隠したのだ。

 

 OGや在校生から非難されるのを逃れるために・・・・

 

 生け贄はみほがなってしまった。

 

 気がつけば、私と小梅は自分を責めるようになっていた。

 

 あの時、私達が濁流に落ちなければと・・・・

 

 しかし、事実を知った私達は全力でみほを庇い奔走したのだ。

 

 私達の命を救ってくれたみほを守る為に・・・・

 

 それでも、みほは十連覇を逃し勝手な行動をしたとかでOGや在校生に敗北の責任を押し付けられ責められたのだ。

 

 みほはその日を境に部屋に閉じこもってしまったのだ。

 

 みほを守れないで何が友達だ。

 

 いや、私はやっと、みほへの気持ちが分かった瞬間だった。

 

 私はみほが大好きだったのだ。

 

 だから、私が出来る事をしよう。

 

 それから毎日、いくら私達が責められても肉体的に指導されも我慢した。そして、食事を作ってはみほの部屋に通ったが中に入れてくれる事は無く、お盆に載せて入口に置いておいたが食べ終わる頃に行くと、それでも食事だけは食べてくれた様で安心していた。

 

 私も現状打破の為に隊長のまほ隊長に相談しようとしたが、実家や学園と話し合いをしている様で取り合って貰えず、歯痒さだけが残ったのだ。

 

 みほが閉じこもってから数日が経った夜に、私の部屋に隊長が訪ねて来たのだ。

 

 「エリカ、入るぞ」

 

 「隊長、今頃何ですか?」

 

 隊長も師範や学園から責められたのだろう。隊長の目の下には隈ができており憔悴しているのが判る。だけど、今更だと思い怒りが込み上げていたのだ。

 

 「みほの事なんだが・・・」

 

 「くっ、相変わらず、みほは部屋に閉じこもったままです」

 

 「そうか・・・・引き続き、みほを頼む」

 

 「頼まれなくても、みほは私の大切な友達です。隊長はみほと話さなくていいんですか?いや、姉として話すべきじゃないですか!いま、みほが苦しんでいるのに助けようとしないですか!」

 

 「くっ・・・・」

 

 みほへの気持ちが不満として溜まっていた事を隊長にぶつけてしまった。

 

 隊長は自分の唇を噛み私に睨むだけで何も言わなかった。

 

 これが、みほが大好きだった隊長の姿なのか?

 

 私が憧れる隊長像が壊れていったのだ。

 

 そして、私は隊長に言ってはいけない事を言ってしまった。隊長だって、みほの事が心配で堪らないはずなのに・・・・・・

 

 「隊長・・・・見損ないました。みほに関しては、私と小梅で見ますので関わらないで下さい。それと、みほが助けを求めているのに行かないで、そんな時だけお姉ちゃんぶらないで下さい!」

 

 「エリカ!私だって・・・・」

 

 「帰って下さい。隊長とはもう話したくないです」

 

 隊長はショックだったのか、私の部屋から出て行った。隊長の背中は小さく震えていたいたのは気のせいだったんだろうか・・・・

 

 

 

 翌日、私はみほの部屋に向かった。

 

 「みほ、朝ごはんを持って来たわよ」

 

 その日に限って部屋の鍵が開いていた。

 

 「入るわよ」

 

 ガチャリ

 

 「あっ、エリカさんありがとう・・・」

 

 「中に入ってもいいかしら?」

 

 「うん・・・・」

 

 やっと、みほの部屋に入る事が出来たのだ。部屋は薄暗く泣いて居たのだろうベッドのシーツは涙で濡れた後があり、みほ自身も元気はなく大分参っているようだった。

 

 「エリカさん毎日ご飯ありがとう」

 

 「別にいいわよ。それより、みほは大丈夫なの?」

 

 カッラン

 

 フォークが落ちるとみほは泣き出したのだ。

 

 「ヒックゥ・・・・分からない。私、どうしたらいいのか分からない。話したくてもお姉ちゃんは来てくれないし、お母さんは今度、帰港したら一度、自宅に帰るように言われたから・・・・」

 

 多分、隊長がやたらと電話していたのは母親と連絡していたのだろう。私も隊長には事実を全て話してある。だが、私は隊長を許せない。

 

 「みほは間違っていない。私と小梅が傍に居るから頼ってね」

 

 「エリカさん・・・・うわぁぁぁぁぁ」

 

 泣きじゃくるみほを抱きしめ、私はその日の授業を休んだ。みほを支える為に・・・・・

 

 私と小梅はそう決心したのだから・・・・

 

 

 

 一週間が経ち、熊本の母港に学園艦が帰港した。

 

 案の定、私と小梅はみほの母親の西住師範に来るように呼び出されたのだ。

 

 みほと三人でみほの自宅ではなく、西住流家元へと向かう事になった。

 

 執務室に通された私達は西住流師範と対峙することになったのだ。

 

 「良く来てくれました」

 

 「私達に何か用ですか?」

 

 「話はまほから全て聞きました。ですが、内容からしても西住流を汚した事には変わりません」

 

 私の中で何かが切れた・・・・

 

 「お言葉を返すようですが、あれは完全に事故でした。なのに、救助が間に合わない状況で、咄嗟の判断でみほは私達を助けてくれました。師範は私達が死んでまで勝利を掴めと言うのですか?」

 

 「いえ、そうは言ってないわ!」

 

 「隊長から話は聞いているんですよね!だったら、何故、みほが責められなければならないのですか?」

 

 「・・・・」

 

 「何も言えないですか?」

 

 「エリカさん止めて!」

 

 「みほ・・・」

 

 「お母さん、私が信号弾を使用していれば良かっただけです。でも、私は・・・・」

 

 「みほ、言い訳は聴きたくありません。みほにはもう呆れました。だから、あなたには破門を言い渡します。そして、私に刃向かった逸見エリカにも破門を言い渡します」

 

 執務室を後にした私達は学園艦に戻る事にしたのだ。

 

 「小梅、あなたには悪いけど隊長の事を任せられるかな?」

 

 「えっ?どうしてなのエリカちゃん?」

 

 「私とみほはもう黒森峰には居られないと思うわ。多分だけど、私とみほは転校になる。破門されてない小梅なら隊長の事を任せられる。それで、私はみほと話し合ってこれからを決めるから・・・・」

 

 「駄目!みほちゃんもエリカちゃんも居なくなるなら私も付いていく!私にはみほちゃんとエリカちゃんしか居ないもん!私も一人にはなりたくない!だから、私も連れてってよ!」

 

 私達は三人で話し合い黒森峰の戦車道を辞める事にしたのだ。そして、精神的に参っているみほのため、戦車道が無い学校へ転校することを決めたのだ。もちろん、私と小梅も一緒にだ。

 

 ただ、私は親からの猛反発があったが破門された事とみほを支える為に一緒に転校する旨を伝えて何とか承諾を取れたのだ。

 

 決まった翌日、私達三人は隊長の部屋に向かった。

 

 「失礼します」

 

 「三人揃ってどうしたんだ?」

 

 「隊長、私達三人は戦車道を辞める事にしました」

 

 隊長に辞める事を伝えて退部届けを出したのだ。

 

 「なっ、何故辞める?みほやエリカ達は間違っていないのに・・・・」

 

 隊長は慌てて立ち上がると辞めない様に引き止めたのだ。

 

 「お姉ちゃん、私とエリカさんはお母さんから破門だって言われたの。だから、辞めて転校する事に決めたんだ。戦車道が無い学校に・・・・」

 

 「みほ、お母さんがそう言ったのか?」

 

 「うん、言われたよ。破門だって・・・」

 

 「そうか・・・・エリカも小梅も辞めるんだな?」

 

 「隊長、私もそう言ったはずですが?」

 

 「そうか、分かった・・・・・・・みほ、済まない・・・・」

 

 隊長は俯き振り向くと窓を眺めながら何かを呟いていた。

 

 

 隊長の部屋を後にした私達は部屋に戻り、荷物をまとめると新学期から編入するために一路、大洗へと向かった。唯一、戦車道が無いのは大洗女子学園だけだったから・・・・

 

 大洗駅に着いた私はあることに気付いた。

 

 「みほ、小梅、少し良いか?」

 

 「どうかしたんですかエリカさん」

 

 「エリカちゃん、何かあったの?」

 

 「いや、私のお母さんの妹が学園艦に住んで居るんだ。元西住流の門下生でかつて大洗女子学園の戦車道の隊長を務めていたのよ。アパートの件でお世話になるから挨拶だけでもなと思ってね。だから・・・・」

 

 「大丈夫だから、私も行くよ?」

 

 「みほは小梅と一緒にこれから住むアパートで荷物の整理を頼めるかな?」

 

 「エリカさん、やっぱり行くよ。だって、これからお世話になるんだよね。だったら行くよ」

 

 「そうだよ。お世話になるなら私も行かないと」

 

 「気分が悪くなったら、直ぐに言ってよね」

 

 「うん」

 

 一路、学園艦行きのバスに乗り学園艦へと向かった。

 

 私達が住む事になったアパートは私の母親の妹の飛騨茜が所有するアパートだった。学生にも人気があったが一部屋だけ余っていたが、それは教職員用に作られた家族寮だった。しかし、母親から茜叔母さんに連絡を入れたらしく一部屋を用意してくれたのだ。

 

 部屋は2LDKの広い部屋だった。学生には広すぎるかも知れないが住むのは三人で住むのだから大丈夫だろう。

 

 そうしている内に茜叔母さんが住む近くのバス停だった。

 

 そこから、徒歩で数分だが途中、眠そうにふらつきながら歩いて帰る生徒が歩いていたが気のせいだろう。

 

 ピンポーン

 

 「ハァァイ!」

 

 茜叔母さんに会うのは何年ぶりだろうか。今は、中学生三年生になる一人娘と二人で暮らしていたと思ったけど・・・・

 

 玄関が開くと母親にそっくりな女性が出て来た。

 

 「良く来たわね。エリカ・・・・・」

 

 私が睨まれるのは仕方の無い事だった。

 

 代々、逸見家は西住流の門下生として続いた家柄だった。茜叔母さんも元は西住流の門下生で一年生の途中までは私達が居た黒森峰の生徒だった。しかし、私達と同じ事故が起きた時にみほと同じ様に助けに入ったが先代の師範によって破門にされたのだ。叔母さんも私達と同じくこの学園に転校したのだ。当時、私の母親と喧嘩をしたが今は仲を取り戻している。

 

 だけど、私は当時は幼かったが叔母さんに面汚しと言ってしまった。

 

 だからだろうか?

 

 「皆さんの事情は全て聞いていますから大丈夫ですよ」

 

 「叔母さん、お世話になります」

 

 「畏まらないでも良いわよ。みほさんと赤星さんは少し外で待ってて貰えるかな?」

 

 みほと小梅が外に出ると私は茜叔母さんに寝室に連れて行かれたのだ。

 

 「ちょっと、私はそんな趣味はないわよ!」

 

 「違うわよ!エリカだけに話して置きたい事があるの。聞いてくれるかな?」

 

 「なによ・・・」

 

 「転校して早々だけど、学園がきな臭いの。もしかしたら廃校かも知れない」

 

 「えっ?私、そんなの知らないわよ!」

 

 「もしかしたら、あなた達は弘子の娘に睨まれる可能性があるからこれを持って行きなさい。絶対に必要な力になるから・・・・」

 

 「その前に、弘子の娘って誰よ?」

 

 「この学園の生徒会長の角谷杏よ」

 

 私が渡されたのは電子錠の鍵とこの学園艦のマップだった。

 

 私達がまた、戦車道をやる事になるとはこの時はまだ知らなかったのだ。

 

 これから、起こる事に苦労して行く事にまだ、気づけないで居たのだから・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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登場人物

 まだ増えます


 

 逸見エリカ

 

 本作品の主人公である。原作と違い西住みほに対してはツンデレではなくかなりの世話焼きをしている。決勝戦の事故が原因で隊長との確執や黒森峰での生徒のやり方に疑問を抱く。みほがOBや在校生によって責められ、自室に引きこもるようになってからは毎日、食事を作り部屋の前まで届ける姿は健気である。西住流を破門となり、みほと小梅の三人で大洗女子学園へ転校してからは原作メンバー達と交遊を深める。

 

 乗車する戦車は赤星小梅と一緒だが、最初の練習試合では偵察戦車レオパルドを使用するが、大会本戦ではティーガーIIポルシェ砲塔タイプを使用する。

 

 所属チーム ワニさんチーム

 

 クラスは二年生(普通Ⅰ科B組)

 

 赤星小梅

 

 黒森峰時代はⅢ号戦車の砲手を務めていたが事故が原因でみほを庇う為に奔走する。普段はエリカと一緒にみほを世話をしたりしている。みほに対しては大切な友達であり、学園でのいじめを救ってくれた恩人でもある。三人で大洗女子学園に転校してからは原作メンバーと交遊を深める。

 

 所属チーム ワニさんチーム

 

 クラスは二年生(普通Ⅰ科B組)

 

 

 西住みほ

 

 原作では主人公を勤める。原作とは違い、エリカ、小梅の支えがあったため酷いトラウマにはなっていないが、西住流の破門や助けて欲しい時に姉のまほが来なかった為に姉妹に酷い溝を生む原因となった。原作同様に大洗女子学園へと転校し原作メンバーとチームを組む事になる。

 

 原作ではⅣ号戦車D型を使用していたが、使用するのは練習試合までで、大洗女子学園の戦車道が廃止なった当時の隊長である飛騨茜隊長(旧姓逸見茜)が使用していたティーガーIIポルシェ砲塔タイプを使用する。元が隊長専用だけに大会規定ギリギリの改造がエンジンから足回りまでされており、ただのティーガーIIと舐めてかかると酷い目に遇う。

 

 所属チーム あんこうチーム

 

 車長  西住みほ

 砲手  五十鈴華

 装填手 秋山優花里

 通信手 武部沙織

 操縦手 冷泉麻子

  

 

 飛騨茜

 

 今作品のオリジナルキャラクターで旧姓は逸見で逸見エリカの叔母にあたる。そして、20年前の大洗女子学園の戦車道最後の隊長である。学生時代は一年生の途中までは黒森峰女学園の生徒で戦車道の副隊長を務めていた。しかし、隊長のしほを庇い事故を起こした車両の救助に向かうがそれが原因により決勝戦を敗北する。元は西住流の門下生でもありしほと競いあった仲であったが、決勝戦の事故が原因で先代の師範により破門にされる。その後は大洗女子学園に転校し、大洗女子学園の二連覇の黄金期の隊長を担うことなる。戦車道が廃止になった時は黄金期を支えた主力を当時生徒会長で副隊長の角谷弘子と共に学園艦に隠したのだった。

 

 余談であるが、島田流師範の島田千代とは大洗女子学園の同期であり、当時隊長専用戦車のティーガーIIポルシェ砲塔タイプの操縦手を務めていた。島田千代は操縦技術でバミューダトライアングルの基礎を作り、秋山優花里の母親も当時は装填手を務めていたらしい。

 

 当時の編成

 

 使用戦車 ティーガーII(ポルシェ砲塔タイプ)隊長専用

 

 車長  逸見茜

 砲手  角谷弘子

 装填手 秋山好子

 操縦手 島田千代

 通信手 不明

 

 

 内法泰子

 

 原作では、決勝戦にてヤークトパンターの車長をしておりかめさんチームに何度も履帯を切られてかめさんチームに絶叫していた。今作では、エリカ達のⅢ号戦車の操縦手を努めており、試合の途中で事故に遭い副隊長のみほに救助される。みほ達三人が転校してからは次期副隊長候補だったが陰湿ないじめと嫌がらせに嫌になり、同じ三号戦車に乗っていた装填手兼通信手の藤木月乃と一緒に大洗女子学園へ転校したのだった。転校した初日、みほに泣きながら抱き着き謝る光景はシュールだった。

 

 使用する戦車は偵察戦車レオパルド

 

 所属チーム あひるさんチーム

 

 クラスは二年生(普通Ⅱ科C組)

 

 

 藤木月乃

 

 原作ではマウスの砲手を努める。今作では元々は砲手だったが急遽、エリカ達のⅢ号戦車の装填手兼通信手を努める事になる。事故の後は再び砲手として訓練を積むが陰湿ないじめや嫌がらせに加え、砲撃訓練中に仕込まれた薬莢により暴発事故を起こす。命の危険を感じて内法泰子と一緒に大洗女子学園へ転校する。

 

 所属チーム あひるさんチーム

 

 クラスは二年生(普通Ⅱ科C組)

 

 

 島田愛里寿

 

 原作では劇場版のラスボス的存在だったが、今作では大学へ飛び級していない。理由は三ヶ月前に門下生のチームで海外選手との練習試合をしたが大敗北を喫し、使用したセンチュリオンも修理不可能な大破をしてしまい、愛里寿と一緒の車両メンバーは全治二ヶ月の重傷を負う事になった。治療とリハビリの為に大学への飛び級をあきらめ、リハビリに全力を捧げる。そのかい在ってか、選手として復活する。偶然にも母親の母校の大洗女子学園が戦車道復活により、母親から代理として学園に編入するように言われ一年生として転入する。転入の当日、夢だったボコミュージアムで遊んでいる途中、みほとエリカに出会う。

 

 チーム レオポンチーム

 

 

 板野歩

 

 オリジナルキャラクターで黒森峰では整備科の生徒で戦車道を整備で支えていたエースだったが、マウスの暴発事故の罪をなすりつけられて、聖グロリアーナ女学院へ転校する。しかし、整備に関してはかなりの腕前だったが、イギリス系のマーリンエンジンの整備に挫折する。偶然、大洗女子学園との練習試合で元副隊長の西住みほが大洗に居たことで、学園長に大洗へ転校したいと整備しているチームと一緒に直談判しているところで、ダージリンに見初められる。その後、ダージリンと聖グロリアーナ女学院の生徒会の計らいにより、大洗へ転校を果たした。転校後は整備科が無い為に普通科に変更。自動車部に入部後にナカジマ達が愛里寿のチームに参加した為、大洗の戦車道整備班班長となる。得意な整備はドイツ系のトランスミッションとマイバッハエンジンで整備班で右に出るものはいない。

 

 

 クラスは二年生(普通Ⅱ科C組)

 

 山形唯

 

 オリジナルキャラクターで黒森峰では整備科の生徒で戦車道を整備で支えていたエースの一人。板野同様、聖グロリアーナ女学院へ転校し、整備班と一緒に大洗へ転校する。 

 

 クラスは二年生(普通Ⅱ科C組)

 

 

 

 西住まほ

 

 原作では黒森峰の隊長である。今作では、原作以上に苦労人であり、エリカの幼なじみの楼レイラの手助けが無ければ生活が出来ない程に忙しい生活をしている。それは、妹のみほに制裁を加えたOGや在校生を探し出して粛清するためにだった。しかし、粛清して行く内に自身の心が壊れ始めていたのだが、西住流の後継者としての重責と母親から黒森峰の戦車道の改革を命じられており一層苦労している。そして、戦車喫茶でみほに黒森峰で自分が知らなかった制裁や母親との確執を始めて知り心が崩壊する。そして、黒森峰の母港の熊本港に入った際に実家の書庫から本来、持ち出し禁止の西住流を全てまとめた閲覧禁止の書物を持ち出して、一回戦からそれを実践し蹂躙。二回戦の知波短はもっと悲惨でまほに突撃した知波短の生徒は全員病院送りの負傷を負わしている。それは、愛里寿をボコボコにしたドイツのプロリーグのチームの隊長のY・陽子・パイパーと同じ戦法まで習得している。

 

 

 楼レイラ

 

 ガールズ&パンツァーフェイズエリカの登場人物でエリカの幼なじみにして同級生として登場している。今作でも、幼なじみとして出ているが原作のエリカのポジションである。ただ、違うのは戦車道とプライベートでまほの女房役をしていることだろう。あの事故が無ければ、仲の良い友達のまま過ごせていたはずだったが、歯車が狂いみほやエリカ、小梅がこぞって転校してしまい戦車道を辞める生徒を引き止めたりと原作のエリカ以上に苦労人である。

 

 

 Y・陽子・パイパー

 

 重戦車とセーラー服からの登場人物である。原作では高校一年生だったが、今作では愛里寿と同い年でドイツのプロリーグのチームの隊長である。流派は西住流であり、西住しほの祖母に当たる代の西住流を習得している。実力は一対一の対決では愛里寿を秒殺している。

 

 

 

 

  



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戦車道やります!

 やっと、原作に入れました。


 

 アパートに三人で住みはじめて一週間が過ぎた。三人の中で目覚めるのが早いのはいつも私だった。部屋割りは小梅が一人部屋で私とみほは一緒の部屋で眠っていた。みほは一緒のベッドで隣で眠っており、お気に入りのボコを抱いて眠っていた。みほのその寝顔は私にしたら猛毒で抱きしめて二度寝したい気分だった。

 

 「みほが可愛い過ぎる・・・・」

 

 抱きしめて愛でたい気分になる。だが、今日から新学期だ。

 

 遅刻する訳には行かない。

 

 私はみほが寝ている姿を尻目にベッドを出ると自分が着ていたフリルの付いたパジャマを脱いでパジャマを布団の中に隠してから真新しい大洗女子学園の制服に着替えると、黒森峰に居た時から愛用している黒いエプロンを身につけて朝ごはんの準備を始めたのだ。

 

 「みほ達が寝てる間に朝ごはんの準備ね。う~ん・・・これにしたわ」

 

 今日も調理本を片手に調理を始める。

 

 朝ごはんのメニューはやはり定番のごはん、味噌汁、鮭の塩焼き、焼きのりだろうか?

 

 一応、私も関西系である為に朝食に水戸の名産納豆だけは無理だったが、何故かみほと小梅は平気に食べているのだ。まぁ、確かに美容には良いけど・・・・

 

 小梅が目覚めて来たようだった。

 

 「ふっわぁぁ・・・おはよう・・・エリカちゃん・・・」

 

 「ほら、小梅も今日から新学期なんだから、顔洗ってシャッキとしなさいよ」

 

 「は~い」

 

 タオルを投げて渡し、私は調理に専念する。

 

 ある程度、朝食が出来た段階でみほを起こしに行くのだ。それは、黒森峰女学園の寮生活から続いた私の日課だった。みほは朝が弱く、寮の部屋が隣だった為に毎朝起こしに行っていたのだ。もちろん、寝ているみほの部屋には鍵が掛かっているため、部屋の合鍵は持ってはいたがみほが寮に閉じこもった時は鍵だけでなくチェーンブロックまでされていたので中には入れ無かった。

 

 「みほ、起きなさい!遅刻するわよ!」

 

 「う~ん・・・後5分・・・」

 

 「起きないと布団退けるわよ!」

 

 私は自分のパジャマを隠していた事を忘れ、布団を退けたのだ。

 

 バッサァ

 

 「うっわぁ!?」

 

 勢い良くめくれ上がる布団に乱れたパジャマ姿のみほ。そして、一緒に隠していたふわりと宙を舞う私のフリル付きのパジャマは、やっと起きたみほと扉から起こす風景を見ていた小梅に私のパジャマを見られたのだ。

 

 「「かっ、可愛いパジャマ!?」」

 

 「みっ、見るなぁぁぁ!」

 

 私は、一瞬で熟れたトマトの様に顔を真っ赤にしたのだ。まさか、16歳になってもフリル付きのロリータファッションのパジャマを使っている事を・・・・

 

 一緒に住んでいるから隠しきれない事は充分に分かっていた。いつかは絶対にばれる事はわかり切って居たのに・・・・

 

 だが、私はそれを着ないと眠れない。だから、二人が眠ってからこっそり着替えて眠って居たのに・・・・

 

 とうとう、バレたのだった。

 

 「はぁぅぅ・・・・・」

 

 「エリカさん?」

 

 「エリカちゃん?」

 

 二人は瞳を滲ませ、私を見つめて来る。まるで、怒られのではと怯える子犬の様に見ていたのだ。

 

 頼むから、そんな目で私を見つめ無いでくれ。

 

 見られた事が怒れないじゃないか。

 

 「はぁ・・・仕方ない。みほは早く着替えて来なさい。朝ごはんが出来てるわよ」

 

 「みほちゃん、着替えを手伝う?」

 

 「こっ、小梅ちゃん、私はそこまで子供じゃないよ」

 

 「だって、また、パジャマのボタン掛け間違ってるよ?嘘・・・・また、ノーブラ!?みほちゃん、わたしよりも胸が大きいだからブラ着けて!私とエリカちゃん的にはオッケーだけど、男の目があるからブラ着けて!」

 

 「あわわ!?」

 

 私は小梅とみほのやり取りを見て微笑むと残りの朝食の準備にキッチンに戻ったのだった。

 

 ごはんを済ませ、三人での登校。

 

 黒森峰にいた頃と変わらない、いつもの風景だった。

 

 よそ見をして何時ものように看板に激突するみほと何も無いところで躓く小梅に私はみほの笑顔が続けばと願うばかりだった。

 

 あの時と比べたら大分、笑顔が増えて笑える様になったのは嬉しかった。

 

 そう、私はあの表情を無くし笑わなくなったみほの顔は二度と見たく無かった。

 

 私があの事故を思い出すだけでなく、また、水が怖いと思ってしまうから・・・・・

 

 

 

 クラス分けは私と小梅は普通一科B組でみほは普通一科A組だった。でも、お昼休みは一緒に食べられるし問題は無かった。授業の内容は・・・・・

 

 「エリカちゃん、授業の内容は簡単だったね」

 

 黒森峰では成績の悪い小梅がここまで言うのだ。

 

 「そうね。なんか、一年生の時の復習見たいな感じだったわね。なんか、拍子抜けよ」

 

 あまりにも簡単だった。私が黒森峰にいた頃の一年生がやるような内容ばかりだった。

 

 

 昼休みになり、私と小梅でみほを迎えに行ったが教室にみほの姿が無かった。食堂に行くとみほと知らない女子生徒と食事を受け取りカウンターに並んでいるところだった。

 

 「エヘヘ、ナンパしちゃった」

 

 「一度、西住さんとお話がしたかったんです」

 

 「えっ?そうなんですか?」

 

 「だって、いつもあわわしてて面白いんだもん」

 

 「面白い・・・」

 

 みほはへこんだ様に呟く

 

 「うん」

 

 「はい」

 

 三人の様子が見て居られなかった。だから

 

 「エリカちゃん、もう少し様子を見よ」

 

 「でも、みほが・・・」

 

 「だから、エリカちゃんも落ち着こうね。大丈夫だよ。みほちゃんなら・・・」

 

 私と小梅もカウンターに並び、食事を貰うことにしたのだ。

 

 そうしている内にみほは

 

 「なんだか、友達みたい!」

 

 とはしゃいで喜んでいる様で私は安心したのだった。私もみほを追いかける様に三人の座席に向かうことにしたのだ。

 

 「よかった。こっちでも友達が出来て・・・私、友達と三人で大洗に引っ越して来たから」

 

 「そっかぁ・・・人生だからいろいろあるもんね。泥間の三角関係とか・・・」

 

 「じゃあ、身内に不幸とか親の転勤とかですか?遺産相続とか・・・・」

 

 私はタイミング良く、会話に割り込んだのだ。

 

 「みほ、相席大丈夫かしら?」

 

 「あっ、エリカさんに小梅ちゃん」

 

 「えっと、そちらの方は?」

 

 「なんか、目つきが怖い・・・」

 

 「私は普通B組の逸見エリカよ。みほと一緒に引っ越して来たわ。それと、目つきが悪いのは生れつきだからね」

 

 「同じく、赤星小梅です。エリカちゃんとは同じクラスだよ」

 

 「さっき、三人で引っ越して来たのはエリカさんと小梅ちゃんとなんだ」

 

 「私、武部沙織だよ」

 

 「五十鈴華です。ところで、どうして三人で引っ越しを?」

 

 「五十鈴さんだったわね・・・・」

 

 みほを見ると知られたくないと目が訴えていたのだ。

 

 「ゴメンね。事情があって言えないわ」

 

 「そうですか・・・さて、ごはんが冷めない内に食べましょう」

 

 私達は会話を楽しみつつ昼食を食べたのだ。

 

 

 

 

 「会長、報告書です」

 

 生徒会室では椅子に座るツインテールの少女が報告書を読みにやけていた。

 

 「ありがとね~桃ちゃん、まさか、あの三人に情報操作がされてたなんてね」

 

 「何かの意図を感じますね」

 

 「そうだね、副会長。それに、黒森峰の副隊長に黒森峰の狂犬と黒森峰の与一が三人一緒に居るなんてさ、ラッキーだよね。何としても戦車道に入れるよ」

 

 「わかりました。では、そのように手配します」

 

 少女は干し芋を一つ頬張るとにやけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 食堂でみほ達と別れる前に私は念のために武部さんと携帯のアドレスを交換したのだ。

 

 「武部さん、ちょっと良いかしら?」

 

 「エリカさん、どうしたのかな?」

 

 「一応、みほに何かあったら教えて欲しい。だから、アドレスを交換しない?」

 

 「断然、いいですよ。はい、これは私のアドレスだよ」

 

 何故か嫌な予感がしたのだ。

 

 

 そして、午後の授業中に武部さんから早速メールが来たのだ。

 

 『生徒会長に何か言われてから何故かは分からないけど、抜け殻の様になってしまい、私と華で一緒で保健室に行っています』

 

 私は居てもたっても居られず、教室を飛び出したのだ。

 

 「ちょっと、逸見さん!」

 

 私が急に教室から飛び出した事に驚き叫ぶ教師を尻目に私は保健室に走っていったのだ。

 

 ガッラァ

 

 「みほ!」

 

 「寝ている生徒が居るから・・・・ヒッィ!?」

 

 私は保健の先生に注意されるが、今の私は黒森峰の狂犬、逸見エリカとしての表情をしており、睨み黙らせたのだ。黙らせた後、私はみほが横になっているベッドに向かった。私はみほの顔を見て言葉をなくした。

 

 「みほ・・・」

 

 あの時の様に表情を無くしたみほだったのだ

 

 私が一番見たくない表情だったのだ

 

 また、笑顔を無くしたみほ

 

 瞳には一切の光が篭っていない状態だった。

 

 「みほ、生徒会長に何を言われたのよ!」

 

 「ちょっと、逸見さんみほさんを揺らさないて下さい」

 

 「エリカさん、そうだよ。事情は私が聞いてるから!」

 

 「あっ、エリカさん・・・・」

 

 「みほ!」

 

 私は気付いたみほを抱きしめたのだ。胸の中で小さく怯え震えるみほは安心したのか、私の胸の中で泣き出したのだ。

 

 みほを泣かした生徒会長に怒りを覚えたのだ。

 

 事情は武部さんが全て話してくれた。落ち着き泣き疲れたのかみほは寝息を立てていた。

 

 「五十鈴さん、悪いけどみほをお願い出来るかしら?」

 

 「えぇ、大丈夫ですが、逸見さんはどちらに?」

 

 「私?そうね、狂犬らしく生徒会長に噛み付きに行こうかしらね」

 

 「「えっ?狂犬?」」

 

 私がニヤリと笑うと私の今の表情を見た武部さんと五十鈴さんは堪らずに小さな悲鳴を上げたのだ。

 

 「「ヒッィ」」

 

 どうやら、生徒会長は生徒会が主催する選択授業のオリエンテーションの準備で体育館に居るらしい。私は体育館に向かい、扉を開けたのだ。

 

 「角谷杏!」

 

 私は生徒会長の名前を呼び捨てで叫んだのだ。

 

 先輩だろうが関係ない。

 

 みほを泣かされた事に私は怒り心頭だったのだから

 

 「貴様!会長を呼び捨てに!」

 

 片方に眼鏡をかけた長身の生徒が噛み付いて来るが逆に噛み付き返したのだ。

 

 「何?」

 

 「ヒッィ!?」

 

 逆に睨まれ、縮こまる生徒。私は檀上で干しいもを頬張るツインテールの生徒を見付けたのだ。

 

 「あなたが角谷杏ね?」

 

 「そうだよ~うちが角谷杏だよ」

 

 私は杏の胸倉を掴んだのだ。

 

 「みほに何故あんな事を言うの?」

 

 「うっぐぅ、暴力は良くないよ。いやぁ、流石だね。元黒森峰の狂犬、逸見エリカちゃん。装填手から車長になっただけはあるよ。ただ、うちは生徒会長として西住ちゃんに頼んだだけだよ。戦車道をして欲しいってね」

 

 「今、何て言ったのよ?」

 

 「もう、一回言うよ。戦車道をして欲しいって頼んだだけだよ」

 

 みほに戦車道をやらせて、また苦しめと言うのか?

 

 また、みほからあの笑顔を奪うのか?

 

 やっと、みほに笑顔が戻って来たのにおまえは・・・・

 

 「・・・・・・絶対にやらせないわよ・・・・」

 

 「聞こえないな?」

 

 「あんたなんかにみほの笑顔は奪わせないわよ!絶対に戦車道はやらせない!あんたなんかにみほの笑顔を奪わせて堪るか!」

 

 私はみほを守る為に精一杯の声で叫んだのだ。

 

 「へぇ、エリカちゃんはそんなに西住ちゃんが大事なんだ。まぁ、西住ちゃんは絶対に選ぶと思うよ。それなりのカードは切らせてもらうけどね」

 

 「良い度胸じゃない。何なら、今すぐにでも一発殴ろうか?」

 

 既に私の周りには私を止めるべく風紀委員会の生徒や生徒会役員が取り囲んでいた。

 

 「やっぱり、エリカちゃんは狂犬いや忠犬だねぇ。二人が一緒に来た段階で分かっていたけど、一筋縄じゃあいかないや。まぁ、でも、うちは西住ちゃんをあきらめないよ。必ず、戦車道に引き込むからよろしく」

 

 そう、杏は言い切ると胸倉を掴んでいた手をなぎ払うと手を振りながら何処に行ったのだった。

 

 

 

 その後、私は無断で授業を抜け出した事に加えて、未遂だったが生徒会長への暴行未遂により担任にキツイお説教を2時間も受ける事になったのだ。しかも、選択授業のオリエンテーションの最中に生徒指導室でだけど・・・

 

 

 

 アパートに一人で帰ると既に小梅が帰っていた。

 

 四六時中、みほは選択授業の戦車道の説明で聞きたくない様な表情をしていたと小梅が話していた。もう、6時になるが、みほは帰って来てはいない。

 

 心配だった。

 

 また、みほが笑わなくなるのではないかと私と小梅は恐怖したのだ。

 

 そんな空気が部屋を支配されそうな時、玄関が開いたのだ。

 

 ガチャリ

 

 「ただいまぁぁ!」

 

 みほが帰って来たのだ。私と小梅は嬉しくなりみほの元に走って行ったのだ。

 

 「みほ!」

 「みほちゃん!」

 

 私と小梅はみほに抱き着いたのだ。

 

 「うっわぁ!?」

 

 「ばかぁぁぁ!ひっぐぅ・・・遅くなるなら連絡入れなさいよ」

 

 「そうだよ。心配したんだんよ。うわぁぁぁん」

 

 「エリカさん、小梅ちゃん泣かなくとも・・・・」

 

 「なっ、泣いてなんかないわよ!こっ、これは涎よ!」

 

 みほの笑顔が嬉しくて、愛しくて、ただ、私はそれを守りたかったから・・・・

 

 「よし、みほは夕飯は何が食べたい?」

 

 「う~ん、じゃあ、ハンバーグ」

 

 「私も食べたい!」

 

 「じゃあ、作るわよ。小梅、手伝いなさい!みほはお風呂に行ってサッパリしてきなさいよ。その間に作って置くわ」

 

 「うん!」

 

 その後は夕飯を食べてから、宿題を済ませた私はベッドに入った。既にみほは夢の中だった。

 

 「お姉ちゃん・・・・ごめんなさい・・・」

 

 みほが寝言を呟くとその言葉に何故か胸が締め付けられそうになる。

 

 そして、思い出すのは決勝戦の事故の事だった。

 

 急に震える私の体。

 

 怖い、奮えが止まらない。

 

 助けて・・・・みほ、助けて・・・・タスケテ・・・・・・

 

 私はみほの背中に抱き着いたのだ。聞こえて来るみほの心臓の鼓動は心を落ち着かせてくれる。本当の私は弱い人間だ。だけど、みほの笑顔だけは何としても守りたい。私もだが小梅だって、最近はやっと顔が水に浸けられるまで回復したのだ。でも、みほの前だけは強くて頼れる私を演じなければならない。

 

 「みほ、今日だけは抱いて寝るね・・・・」

 

 私はようやく夢の中に旅立ったのだ。こうしている時だけは怖い夢(事故の内容)を見なくて済むから・・・・

 

 

 

 翌日、昼食はいつものメンバーで食べていた。メンバーはみほと私に小梅の他にみほの新しく友達になった、武部さんと五十鈴さんだ。

 

 「ところで、みほは選択授業は何を選んだの?」

 

 「エリカさん、私は香道かな」

 

 「そうなんだ。私は茶道よ」

 

 「みほちゃん、私も香道だよ」

 

 「そうなんだ。小梅ちゃん、よろしくね」

 

 「私はみほさんと同じにしたよ」

 

 「私もですね」

 

 そんな楽しい空気を放送の呼び出しがぶち壊したのだ。

 

 『普通一科A組、西住みほ、普通一科B組、逸見エリカ、普通一科B組赤星小梅至急生徒会室に来るように。繰り返す・・・・・』

 

 しつこい連中だと私は思った。

 

 同時に、生徒会長をぶん殴ってやりたい気分だった。

 

 結局、武部さんと五十鈴さんもみほに着いていく事になり、私達は生徒会室へと行く事になったのだ。

 

 生徒会室では、生徒会長の角谷杏に副会長の小山柚子、広報の川河桃が私達を睨んでいたのだ。まぁ、特にメインで睨んでいたのは河嶋だったが・・・・

 

 しかし、広報の河嶋が持っていたのは三枚の用紙だった。それは、私達が選択して書いた用紙だったのだ。

 

 「これは、どういう事だ?」

 

 「何で選択しないかな・・・・」

 

 「他に戦車道経験者は皆無です」

 

 「終了です。我が校は終了です」

 

 どうやら、私を本気で怒らせたいらしい。

 

 私が文句を言うとした瞬間に二人がみほを庇い出したのだ。

 

 「勝手なこと言わないでよ」

 

 「そうです!やりたくないのに無理にやらせる気ですか!」

 

 「みほは戦車をやらないから!」

 

 私も反撃に出たのだ。

 

 「角谷杏、私はみほに戦車道はやらせないと言ったはずよ!」

 

 「そうだよ。みほちゃんには戦車道はやらせない!」

 

 「みっ、みんな・・・・」

 

 「あんた達、そんな事言っても良いのかなぁ?この学園に居られなくするよ?」

 

 「横暴だ!」

 

 「脅すなんて卑怯です!」

 

 「くっ、卑怯よ!」

 

 「それとエリカちゃん、黒森峰女学園から転入希望の生徒が二人も居るんだけど、断っても良いんだけどね」

 

 「「「!?」」」

 

 これが、言ってたカードだったのね。確かに、内法泰子と藤木月乃からはメールで学園内でのいじめが堪えられないから私達の居る学園に転校するとあった。

 

 あまりにも卑怯だ。

 

 「あんた、仲間を盾にするなんて卑怯じゃない!横暴よ!」

 

 「横暴は生徒会に許された特権だ!」

 

 ヒートアップし抗議にほエスカレートしていく武部さんと五十鈴さんに小梅。

 

 どんどん暗くなって行くみほ。

 

 私には堪えられない。

 

 そんな時だった。

 

 「わ、わたし、戦車道、やります!」

 

 みほが全身が震えながらも勇気を出して叫んだのだ。

 

 「みほ、無理することはない。嫌ななら・・・」

 

 「エリカさん、私は大丈夫だから・・・・」

 

 「判ったわ。なら、私もやるわよ。角谷杏、ただし、条件が二つだけあるわ」

 

 「何かな?」

 

 「一つ目は隊長はみほがやること。そして、副隊長は私がやるわ。二つ目はガソリンとエンジンオイルを満載に積んだタンクローリーと戦車が操縦出来る生徒を最低、十人は用意してくれるかしら?」

 

 「えっ?エリカさん、私は隊長なんて無理だよ」

 

 「隊長の資質なら私よりみほがあるわよ。みほの事をずっと、見ていた私が言うのだから間違いないわよ。それに、隊長がみほなら私と小梅は全力でサポートするわ。だから、みほ、隊長をお願い」

 

 「エリカさんがそこまで言うならやるよ」

 

 「二人で盛り上がっているところ悪いけどさ、何でタンクローリーを用意するのかな?」

 

 「やっぱり、杏は母親からは聞いてないわね。私の叔母から船倉の鍵を預かったわ。一応、中身を確認したら叔母が当時、使っていた大洗女子学園の主力戦車よ」

 

 「えっ?じゃあ、エリカちゃんが春休みに一人でパンツァージャケットを着て出掛けたのは・・・・」

 

 「そうね。二人に黙っていたのは謝るわ」

 

 「エリカちゃん、船倉に在った戦車は何かな?副会長、戦車の資料取って」

 

 「ティーガーIIポルシェ砲塔タイプが二両、ティーガーIIヘンシェル砲塔105ミリ戦車砲搭載型が一両、Ⅶ号戦車レーヴェ38口径150ミリ戦車砲搭載型が一両、パンターF型71口径88ミリ戦車砲搭載型が二両、ストームティーガーが一両、偵察戦車レオパルドが二両の全部で九両と入口の両脇の通路にポルシェティーガーとエレファント重駆逐戦車が一両づつあったわ。だけど、二両はレストアしないと使えないわ。他にも戦車が要るなら、これを渡すわ」

 

 私が渡したのは学園艦全体の地図で点を示した場所に戦車を隠してあるらしい。

 

 「ところでさ、エリカちゃんの叔母さんって」

 

 「杏の母親と同期の飛騨茜叔母さんよ」 

 

 「会長、資料に名前がありました!えっ?まさか、最後の隊長・・・・」

 

 資料を見て驚く川嶋に他資料で驚く小山さん

 

 「戦車の紛失届に全部の名前がありました!」

 

 そして、紛失届のサインを見た杏は

 

 「ママだったんだね・・・・・当時の生徒会長・・・・」

 

 結局、戦車の回収は自動車部がやるらしく、私達は生徒会室を後にした。

 

 翌日、回収された戦車の量に私は苦労するとは知らないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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戦車乗ります!(前編)

 


 

 翌日、私は急遽自動車部から呼び出されたのだ。

 

 急ぎ、学園に向かい戦車倉庫の前に私は思わず叫んでしまった。

 

 「叔母さん、戦車を隠しすぎよ!」

 

 私の目の前には船倉から出した戦車だけでなく、Ⅳ号戦車D型、M3リー戦車、Ⅲ号突撃砲F型、ルノーB1bis、八九式中戦車、三式中戦車、38(t)軽戦車の他に砲塔のないパンターG型や砲塔だけのパンターF型、車体だけのE-100超重戦車、Ⅳ号戦車F2型の砲身などがずらりと並んでいたのだ。

 

 理由は見て直ぐ判る。

 

 徹夜して車両を全て回収し稼動可能な所まで整備したのだろう、四人仲良く戦車に寄り掛かって眠っていたのだ。

 

 私は眠っている自動車部のそばに人数分の弁当とジュースを買って置くと生徒会室へと向かったのだった。

 

 「入るわよ」

 

 「おっ、お前は■■エリカ!?」

 

 「河嶋さん、逸見エリカです。あと、人の名前を勝手に間違えないでくれるかしら?それに、私、あのツンデレ女優じゃないわよ!」

 

 全く、河嶋さんは私をあのツンデレ女優と一緒にしないで欲しい。確かに、黒森峰に居たときはみほに対してはツンデレだったのは認めるけど・・・・

 

 「済まない。で、何の用だ?」

 

 「この4台を売却して、ヘッツァー改造キットと三式中戦車の長砲身キット、Ⅳ号戦車H型改造キットを買えないかしら?」

 

 「えっと、E-100超重戦車、M3リー戦車、八九式中戦車、ルノーB1bisか・・・・多分、買えるぞ。」

 

 「そう?なら、よかったわ。あと、余ったら高速撤甲弾もお願いするわ。特に三号突撃砲と改装したらヘッツァーとⅣ号戦車H型などの75ミリ戦車砲搭載型に数発だけでも載せるから頼んだわよ」

 

 「あぁ、何とかやってみる」

 

 河嶋さんに頼んだ私は、再び戦車倉庫に向かった。

 

 戦車倉庫では、目覚めたらしく弁当を食べながら休憩する自動車部の部員達がいたのだ。

 

 「少ない人数で整備させて済まないわね」

 

 「気にしないっすよ。あっ、弁当とジュースありがとう」

 

 「戦車はどうにか使える?」

 

 「う~ん、そうだね。ルールブックとパソコンで確認したけどレギュレーション違反の可能性から、パンターF型88ミリ戦車砲搭載型、ティーガーIIヘンシェル砲塔105ミリ戦車砲搭載型、Ⅶ号戦車レ-ヴェは使えないかもね。ただ、パンターとティーガーはノーマルの75ミリ戦車砲と88ミリ戦車砲に取り替えれば大丈夫かも。まぁ、運良くパンターF型に付いていた88ミリ戦車砲はティーガーIIに使えるから大丈夫だね。レ-ヴェは完全にレギュレーション違反だから売却だね。だから、今使える車両はティーガーIIポルシェ砲塔タイプが一両、レオパルド偵察戦車が二両、三式中戦車が一両、Ⅲ号突撃砲が一両の五両だけ。後は、足回りやらエンジン周りをオーバーホールしないと使えないし、Ⅳ号戦車と38(t)は改装する予定で使えないからひとまずはその五両かな」

 

 「分かったわ。悪いけど、あとⅣ号戦車D型も追加して、その六両を優先して整備をお願いするわ」

 

 「任されたわ。だけど、シュトルムティーガーはいくらモスボール状態だったからって言っても完全にオーバーホールものだから何時、使えるかは分からないよ」

 

 「判ったわ」

 

 私は戦車倉庫から離れ、みほと小梅に携帯で少し遅れて学校に行く事を話すと叔母さんの所に向かった。理由は何故、こんなにもレギュレーション違反の戦車があったか知りたかったのだ。

 

 途中、みほと小梅の二人とすれ違ったが、黒髪の生徒は半分ほど眠っておりみほと小梅に担がれているのは確か学年トップの普通Ⅰ科2年A組の冷泉麻子だった気がする。

 

 叔母さん家に着き、チャイムを押すとテレビや雑誌で見慣れた女性が出て来たのだ。

 

 「あら、いらっしゃい。あなたは確か、黒森峰女学園の・・・・」

 

 「いえ、元です。なぜ、島田流の島田師範が叔母さんの家に?」

 

 「えっ、私? そうね、茜に急に呼び出された事とそれを文句を言いに来たが正解よ」

 

 「お待たせ!って、エリカも来ていたの?」

 

 「叔母さん、来て悪いですか?」

 

 「悪くないけど、どうしたの?」

 

 「なぜ、レギュレーション違反の戦車を隠したのですか?」

 

 「えっ?茜、まさかあそこを開けさせたのかしら?」

 

 どうやら、島田師範も戦車が隠されてた事実を知っている様な素振りに見えたのは私の気のせいだろうか?

 

 いや、違う。

 

 だって、現に

 

 「えぇ、開けさせたわよ。最低でも、ティーガーIIとシュトルムティーガーの他にOB会が戦車道協会と役人に無理矢理だけど承認させた偵察戦車レオパルドは戦力になるもの。何せ、また、糞眼鏡の役人が噛んでるとなると私達だと大会には無理だけど後輩達ならギャフンと言わせられるしね。後は売るなりして貰えば、戦力の増強に充てられるだけの当面の資金にはなるでしょ?」

 

 「ちょっと、待ちなさい!また、私達を嵌めたあの役人が噛んでるって本当なの?」

 

 「弘子の情報だから間違いないわ。それに、弘子の娘の杏ちゃんがその役人に廃校だと言われた事も弘子から聴いたわよ。あの時はあの役人に嵌められて大洗女子学園の戦車道を廃止にされたけど、飽き足らずに今度は私達の母校が廃校だなんて酷い話よね」

 

 「すいませんが、叔母さんも島田師範も私を無視しないでくれますか?」

 

 「「あら、居たの?」」

 

 「目の前に居たじゃないですか!その事について全て話して貰うわよ」

 

 「千代ちゃん、エリカに話して上げてね。私、お茶を持って来るから」

  

 「ちょっと、茜!一応、私も家元なんだから、あなたが話しなさいよね!って、また逃げる!ハァー仕方ないわ。まずは、私は元大洗女子学園の戦車道で隊長車の操縦手をしていた島田千代よ。それよりは島田流の家元の師範の方が有名かしらね。あの当時は西は黒森峰女学園、東は大洗女子学園の二強だったわ。黒森峰が優勝すれば、大洗が準優勝していたし逆もあったわ。43回戦車道大会前に、大洗女子学園は大々的に戦車の入れ替えをしたの。今は、私の家元にある車両と娘が使っているセンチュリオンの他にⅢ号突撃砲や三式中戦車などを練習用にしたり売却して、船倉にあった戦車をOB会の了承を得て一気に購入したのよ。ところが、戦車を購入する際にあの役人が嵌めたのよ。何時までも続く二強時代を終わらせる為に・・・・レオパルドを含む一部の車両はOB会が戦車道協会と役人に認めさせたけど、役人から紹介されて売り付けた業者の戦車のほとんどはレギュレーション違反の車両だった。当時の私達はそうとは知らずに使用することになったの。ところが、大会直前にレギュレーション違反が発覚して私達、大洗女子学園は失格になり責任を取らせる形で戦車道も廃止になったのよ。だけど、当時の生徒会長で副隊長の角谷弘子は購入した戦車を全て紛失した事にして船倉に隠したの・・・・・・私のその後は、聖グロリアーナ学園に家元である親の都合で転校する事になったけどね・・・・」

 

 島田師範の話は長かったが、これで話の合点が合った瞬間だった。

 

 何故、叔母さんが学園がきな臭い事を私に言ったのか、何故、生徒会長の角谷杏が懸命に戦車道を復活させたのか全てが分かってしまった。

 

 逆に私はなんて愚かな事をみほに頼んでしまったのだろうと後悔したのだ。

 

 みほには笑顔のまま学生生活を満喫して、私が世話を焼かなくても良いような彼氏を作り普通の高校生活を送って欲しかったのに・・・・・・

 

 これでは、みほはまた苦しむのでは?

 

 もし、みほが知ってしまったら萎縮するでは?

 

 多分、このことは生徒会長は絶対に隠し通すはずだと思ったのだ。

 

 「だからなのね・・・・生徒会長が腹黒いやり方だったのは・・・・・」

 

 「えっ?どうしたの?」

 

 叔母さんと島田師範が心配そうに私を見ていた。

 

 私は気を引締めると、島田師範と叔母さんに頼んだのだ。

 

 「叔母さん、島田師範にお願いがあります。今の大洗女子学園が優勝するために指導をお願いします」

 

 だが、二人には断られたのだ。

  

 「無理よ」

 

 「エリカ、あなたの流派は破門されようがどう転んでも西住流よ。それに、みほちゃんや小梅ちゃんもね。千代ちゃんはあくまで島田流よ。もし、指導したとしてもエリカが思っている以上に現実は厳しいわよ。それに、千代ちゃんは大学選抜の指導もあるし、私は戦車道から離れすぎたから指導はとてもじゃないけど出来ないわ」

 

 「なら、どうしたら?」

 

 「担当の教官次第ね。その後は、私と千代ちゃんで考えるわ」

 

 「わかりました。私は学校に戻ります」

 

 私が叔母さんの家を出ると学校に戻るのだった。

 

 

 

 

 同じ頃、黒森峰では大変な事が起きていた。

 

 戦車道の部員が立て続けに辞める人が増えていたのだ。

 

 副隊長の席も空いており、副隊長の座を賭けて身内同士の骨肉の争いが起きていたのだ。

 

 理由はともあれ、今の隊長のまほが副隊長を指名しなかったのもあるが、副隊長を担える人材が一気に抜けたのが酷く響いたのも一連していた。

 

 副隊長になるためなら、実力者を陰湿ないじめで蹴落とし、時には事故に見せかけて怪我をさせて辞めさせたりと最早、隊長のまほでも手に負えない状況にまでなっていたのだ。

 

 ここは、黒森峰の隊長が使用する隊長室には西住まほが一人憔悴していた。机の上に山盛りで置かれているのは戦車道をしていた生徒の退部届けだった。

 

 「私はどうしたら良いのだ?みほはもう居ないし、エリカも小梅も居ない。そして、今年からティーガーIIの車長にする予定だった、内法や藤木もあの事故の当事者だっただけにいじめられ、それが原因でみほが居る大洗女子学園に転校してしまった・・・・・私に隊長である資格は在るのだろうか?みほ、私が悪いなら悪いと言ってくれ!私がみほもエリカも小梅を一切、庇わないで現実から逃げたから・・・・逃げたからなのだろ?誰でも良い、教えてくれ!」

 

 私が叫ぶが虚しく響く隊長室。

 

 私は鏡を見るとあまりにも酷い顔だった。

 

 髪はボサボサで、目の下には数日ほど全く寝ていないのもあり隈が出来ていたのだ。

 

 無理もない。

 

 頼れる副隊長も隊員もいないのだから、書類整理や書類作成だけでなく訓練メニューや配車などを私一人でこなしていたのだから寝ている暇は一切無かったのだ。

 

 そんな中、隊長室に入って来た生徒がいた。

 

 「隊長、失礼します」

 

 「レイラか・・・入ってくれ」

 

 楼レイラはパンターの車長を勤める生徒だった。レイラは退部した生徒を説得するために奔走しており、今日も説得の為に奔走していたのだ。

 

 「隊長、五名ほど説得したら戻ってくれるそうです。私は退部した生徒の説得に行きますので無理はしないで下さい。今、隊長が倒れられたら間違いなく黒森峰の戦車道は崩壊します。あと、お気に召したらですが、辛子レンコンを挟んで作ったハンバーガーです。少しでも食べて休んで下さい」

 

 レイラは気を使い、辛子レンコンを挟んだハンバーガーを持って来たのだ。

 

 私は嬉しかった。

 

 気付かないでいたのだ。

 

 まだ、頼れる人材が居たことに・・・・・

 

 私は気付かされたのだ。

 

 歴史の人物は曰く、人は石垣。石垣無くして城は建たん

 

 そんな大切なことを忘れていたのだ。

 

 私は副隊長を任命する書類に楼レイラの名前を書き、レイラを副隊長に任命したのだ。

 

 私も人の大切さに気づき、今まで以上に接する様にしたのだ。みほに対して漸く振り向きいつかは謝れるように私も代わる決意をしたのだから。

 

 そして、副隊長をレイラに任命した事もあり、黒森峰の戦車道に纏まりを見せ始めたのだ。

 

 それでも、戻って来た生徒を含めても参加する生徒の数が昨年の決勝の時の半数だった。

 

 

 

 

 叔母さんの家から学校に戻った私は丁度、生徒達が昼休みに入る所だった。職員室で担任に今来た事を伝えて食堂に向かったのだ。

 

 「なによ、これ・・・」

 

 それを見て絶句する私。

 

 「「西住みほ副隊長!あの時は本当にすみませんでした!うわぁぁぁぁん!?」」

 

 「えっ?ちょっと、内法さんに藤木さん!?泣かないで下さい。私、気にしてませんから」

 

 「ヒックゥ、それでも、副隊長には・・・・」

 

 「命を救われたのですから!」

 

 「華、これが修羅場なの?」

 

 「沙織さん、意味が違うかと・・・・」

 

 私が見た光景はみほに泣いて謝りながら抱き着き、泣き喚くのは今日から学園に転入した内法と藤木の二人だった。みほはアタフタしながら二人を慰め、一緒にいた武部さんと五十鈴さんは困惑していた。それも、そうだろう。二人には戦車道をしていた事は話してあるが、黒森峰で副隊長をしていた事は話していない。

 

 「ほら、内法、藤木は何時まで泣いている気なのよ。みほを見せ物にする気?」

 

 「「あっ、逸見さん」」

 

 「みほは気にしてないわよ。それに、謝るのは私よ。向こうで辛い思いをさせてゴメン」

 

 私は二人に言葉を掛けずに引っ越した事に後悔していたのだ。

 

 「逸見さんも悪くないです。逸見さんは小梅さんとみほさんを守る為に奔走したのに私達は何も出来なかった。いえ、逃げてました。だから、謝るのは私達です」

 

 内法がそう言い切ると藤木と一緒に頭を下げたのだ。

 

 「全く、いつまで頭を下げてる気?私もみほも小梅も気にしてないわよ。午後から選択授業なんだから、早くご飯を食べるわよ。ほら、二人もご飯を貰って来なさい。ご飯を食べながら、積もる話を聞くわよ」

 

 「わかりました。逸見さん達は選択授業は何を選択したのですか?」

 

 「私達は生徒会に頼まれて戦車道よ」

 

 「「私達も戦車道に参加します!みほさんの為なら・・・・」」

 

 「分かったわ。ほら、早く行きましょ」

 

 昼食を食べていて気付いたが、私と小梅に内法、藤木と事故当時の三号戦車のメンバーが全員揃った事に気付いたのだ。みほもそれには気付いており、私達、四人を見て困惑していた。それでも、みほに命を助けられた事に私は感謝していたのだから。

 

 午後の戦車道の授業になると、戦車倉庫の戦車は既に授業前に自動車部によって片付けられていた。戦車道を選んだ生徒は全部で25人ほどだった。

 

 「さて、戦車道の授業を始めるよ!」

 

 杏さんの一言に注目する生徒達。

 

 「あの、使用する戦車はティーガーですか?それとも、パンターですか?」

 

 一人の生徒が質問して来る。確か、生徒の名前は秋山優花里だったと思う。茜叔母さんの家に在った、写真に写っていた五人の中に似た生徒が居たような気がした。

 

 「それに付いては、隊長を努める西住みほと副隊長の逸見エリカに任せる。二人共、任せる」

 

 私とみほは前に出たのだ。

 

 「今日から隊長を努める事になりました。西住みほです」

 

 「同じく、副隊長を努める事になった、逸見エリカよ。さっきの質問だけど、大会で使用する戦車は劣化が酷くてオーバーホール中よ。これから、訓練で使用するのは戦車倉庫にあるわよ」

 

 私は戦車倉庫を開けたのだ。

 

 「「「「戦車が一杯ある~」」」」

 

 倉庫の中で並ぶ六両の戦車に瞳をきらつかせる生徒達。

 

 「でも、なんか汚い・・・・」

 

 「うっわぁ、ベトベトする・・・・」

 

 確かに戦車は整備はしたが、汚れが酷く汚いままだ。

 

 「全員、注目!戦車は整備してあるから使用可能よ。ただ、明日に教官が来るから戦車を掃除するわよ!あと、五チームに別れて貰うわよ!四チームには経験者を付けるから質問して!」

 

 すぐに全員が別れた。

 

 みほの所には武部さん、五十鈴さんの他にみほが声を掛けたらしく、秋山さんだった。バレー部はバレー部で固まり、歴女が集まるメンバーだったり、一年生は一年で集まったり、生徒会も生徒会で纏まったのだ。そして、私達四人は小梅がバレー部の行き、私が生徒会へ行き、内法は歴女の集まりへ、藤木は一年生の所へ行ったのだ。本格的な車両の振り分けは後でも良かったので配車して行ったのだ。

 

 みほが選んだのはⅣ号戦車だった。私が選んだのはレオパルド、小梅も同じくレオパルド、内法はⅢ号突撃砲、藤木は三式中戦車だった。それぞれ、選んだ戦車を倉庫から出している間に体操服に着替えるよう指示を出し、着替えて掃除を始めたが

 

 「なんで、水遊びになるのよ・・・・」

 

 私が担当したレオパルドは何故か白いビキニに着替えた小山さんが洗車していた。制服からでも判る巨大な胸が水着で強調されて私は目のやり場に困っていた。

 

 「逸見さん、どうしたの?」

 

 「どうしたのって、小山さんの水着姿に目のやり場に困っているのよ!」

 

 「別に大丈夫じゃない?女の子同士だし、ねっ」

 

 「ねっ、じゃないわよ!もう、私は中の掃除をするわ」

 

 レオパルドに乗り周りを見るとやはり、水遊びになっていたのだ。怒りたくなるが、私は内部を掃除しようとハッチに手を掛けた時だった。

 

 バッシャ

 

 「冷た!?」

 

 誰だろうか?

 

 私に水を掛けた阿保は・・・・

 

 私は全身ずぶ濡れだった。

 

 仁王立ちで立った為に体操服は透けて体に張り付き、下着が透けて見えていた事に私は気付かないでいたのだ。

 

 「今のだれよ!」

 

 「黒いブラ・・・・色っぽい大人のブラだね・・・・」

 

 「嘘、逸見さんは下着が黒だったの?」

 

 何故、下着の話になる?

 

 下を見ると体操服は濡れた事で体に張り付き、下着が透けて見えていたのだ。一瞬で私は顔が熱くなるのがわかる。

 

 「なっ・・・・・」

 

 そして、水を掛けたのは隣で洗車する小梅だった。

 

 「ゴメン!エリカちゃん!って、下着が黒!?」

 

 私は小山さんからホースを奪い取り、小梅に仕返しをしたのだ。

 

 「小梅、下着の色が黒で悪い!仕返しよ!」

 

 バッシャ

 

 小梅も全身がずぶ濡れになり、下着が透けたのだ。

 

 小梅の体操服が張り付き透けて見えた下着は白に赤いリボンが付いた可愛いブラだった。小梅は胸を抑えて顔が真っ赤にして、目尻に涙を溜めながら私を睨んだのだ。

 

 「う~エリカちゃん酷いよ。良いもん!エリカちゃんのパジャマをばらしてやるから!」

 

 「「「えっ?逸見さんのパジャマ?」」」

 

 「えっ?どんなパジャマ?」

 

 まさか、私がフリフリのロリータファッションのパジャマを使っていることをばらすと言うのか?

 

 辞めてくれ!

 

 それは、死刑宣告に等しい。

 

 私は小梅に対して二択しか無い。

 

 素直に謝るか、バラされるかだった。

 

 「小梅、ごめんなさい!」

 

 バラされたくないから素直に謝ったのだ。しかし、半泣きで怒った小梅が許す訳が無かった。

 

 「許さないもん!言ってやる!」

 

 「辞めてくれ!私がフリフリのロリータファッションのパジャマを使っているのを知られたら・・・・」

 

 完全な自爆だった。

 

 「「「「「えっ、えぇぇぇ!?」」」」」

 

 気付いた時には手遅れだった。

 

 「あっ・・・・・」

 

 まさかだろう。

 

 私がフリフリの様なロリータファッションのような可愛い服が好きだったのは・・・・

 

 だが、周りの反応は違っていた。

 

 「エリカさん、マジ可愛い!」

 

 「うん、エリカさんは可愛いんだよ」

 

 みほの擁護なのか止めなのか分からないが、怖そうに見えるが実は可愛いエリカと印象付けた瞬間だった。後日、みほや小梅、内法、藤木の元黒森峰組と沙織さんや華さん、麻子、優花里達を加えた九人でパジャマパーティーをすることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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戦車乗ります!(後編)

 沢山のお気に入り登録ありがとうございます。執筆も頑張って行きたいと思います。


 

 恥ずかしい思いをした授業の後は学園の大浴場で入浴だった。黒森峰ではこういった施設は無く、変わりにシャワー室がメインだった。だけど、あの学園には私の好きなノンアルコールビールがシャワー室に常備されていた。しかし、今は学園の大浴場に来ているし飲むことは出来ない。一応、自宅のアパートには常備してあるがやはり、お風呂上がりのあれが忘れなかった。

 

 あのキンキンに冷えた喉越しにホップが効いた苦味は格別だった。だが、それを思うと・・・・・言葉に出ていたとも知らずにいたのだ。

 

 「あぁぁ、あれが飲みたい・・・・」

 

 「逸見さん、あれが飲みたいって何です?」

 

 「あっ!?五十鈴さん、私が黒森峰にいた頃はお風呂上がりにノンアルコールビールを飲んでいたのよ」

 

 「そうでしたの?」

 

 「あっ、あぁぁぁ!また、エリカちゃんの病気が始まった。このままじゃあ、戦車道じゃなくておやじ道一直線だよ!」

 

 「別に良いじゃない!あれと茹でたてのウインナーの組み合わせは格別なのよ。アパートに戻らないと飲めないのよ!小梅、あれにハマった私の苦しみ判るの?」

 

 「いえ、分かりたくありません」

 

 「全く、小梅の味覚はお子様なんだから」

 

 「別に良いもん!エリカちゃんは飲み過ぎて豚さんになっても知らないもん」

 

 小梅とのやり取りに、みほが爆弾を投げたのだ。

 

 「でも、私も久しぶりにノンアルコールビールが飲みたいかも・・・・」

 

 「「みほ(ちゃん)はダメ!悪酔いするから!」」

 

 「ふっぇ」

 

 一度だけだが黒森峰に居た時にみほがノンアルコールのビールを飲んだ事があった。アルコールが全く入っていないのにあろう事か酔っ払ったのだ。

 

 その後のみほが正直に言うと大変だった。

 

 私の秘蔵の麦のジュース(本物のビール)を瓶で三本も飲み干し、誕生日で飲もうとして貯めて買ったドンペリまでも飲み干したみほは甘えた声で私の名前をよびながら甘えて抱き着き、普段では出ない力で私を拘束してファーストキスを奪い、何度も濃厚なキスされた後は理由が分からないが全身が力が入らなくなると服を全て脱がされ全身にキスをされる嵌めになったのだ。

 

 そう、全身がほてり力の入らない私は最早、まな板の鯉だったのだ。

 

 そして、何度もみほにいかされ意識を手放した私は翌日ベッドの上で全裸のままで寝かされており、みほも全裸で私を抱いたまま気持ち良さそうに寝ていたのだ。

 

 そして、当の本人は当時の記憶も無く、二日酔いもせずケロッとしているのだ。

 

 正直、西住師範と同じく笊になりそうで将来が恐ろしい・・・・・

 

 ただし、西住まほは全く飲めない。

  

 

 「逸見さん?良かったら、私のアパートに黒森峰特産のノンアルコールの黒ビールがありますが?」

 

 藤木の一言に私は嬉しくなった。

 

 「えっ?あるの?」

 

 「はい、引っ越す時に30ダースほど買いだめしたので・・・・」

 

 「って、買いすぎよ!ネット通販で取り寄せが出来るの知らないの?今の時代はネット通販で各学園艦の特産品ですら取り寄せが出来るのよ。少しは部屋を広く使おうとは思わないの?」

 

 私も人のことは言えないがあれの中毒者がやはりいたのだ。

 

 「逸見さん、ネットショッピングするんだ。どんなのを買うの?」

 

 「沙織、逸見さんじゃなくてエリカでいいわよ。みほと同じく名前で呼んで欲しいわね・・・・」

 

 「「「「エリカ」」」」

 

 「なんか、名前で呼ばれるのもこそばゆいわね。やっぱり、買うのはロリータのワンピースよ。原宿に行かないと買えないし、寄港しないと買えないから・・・・」

 

 「そうだ!みほりんの家に行ってみたい!」

 

 「えっ?エリカさんに聞かないと・・・・」

 

 「別に良いわよ。じゃあ、久しぶりに料理に腕を奮いましょうかしら」

 

 「えっ?エリカさん料理出来るの?」

 

 「ちょっと、失礼ね。みほ達のごはんを毎日作っているんだから当然でしょ?それに、中学生の時から自炊しているんだから年季が違うわよ」

 

 「そうだよね。エリカちゃん、私達のアパートだとお母さんだもんね」

 

 「お母さん言うな!」

 

 「じゃあ、行ってみましょうか」

 

 結局、私達の自宅で夕飯を食べることになったのだ。アパートでは叔母さんが夕飯を作りに来る乱入騒ぎがあったりと大変だったが、みほもみんなと楽しくしていたので良かったと思う。しかし、叔母さんの帰り際に明日来る教官の事を話していたが安心出来る人物であると太鼓判を押したのだった。

 

 翌日の戦車道授業の前に配車とチーム分けをしたのだ。これは、みほと昨晩の内に話し合い決めたのだ。まだ、仮だが各チームに経験者を入れた形にして見たのだ。

 

 Aチーム

 

 使用戦車 Ⅳ号戦車D型

 

 車長兼通信手 武部沙織

 砲手     秋山優花里

 装填手    西住みほ

 操縦手    五十鈴華

 

 Bチーム

 

 使用戦車 偵察戦車レオパルド

 

 車長  逸見エリカ

 砲手  角谷杏

 装填手 河嶋桃

 操縦手 小山柚子

 通信手 澤梓

 

 Cチーム

 

 使用戦車 偵察戦車レオパルド

 

 車長  赤星小梅

 砲手  佐々木あけび

 装填手 磯部典子

 操縦手 河西忍

 通信手 近藤妙子

 

 Dチーム

 

 使用戦車 Ⅲ号突撃砲

 

 車長  内法泰子

 砲手  左衛門佐

 装填手 カエサル

 操縦手 おりょう

 通信手 エルヴィン

 

 Eチーム

 

 使用戦車 三式中戦車

 

 車長  藤木月乃

 砲手  山郷あゆみ

 装填手 坂口佳利奈

 装填手 大野あや

 操縦手 坂口佳利奈

 通信手 宇津木優季

 

 

 今日は朝から選択授業で教官が来る日でもあった。

 

 「今日も戦車道の授業を始めます」

 

 隊長のみほが号令をかける。

 

 「今日は教官が来るから、粗相の無いように」

 

 「あの!教官ってカッコイイ人何ですか?」

 

 「私には分からないわ。杏さん、聞いてる?」

 

 「一応、カッコイイ教官だよ」

 

 杏さんが説明している間になにか轟音が聴こえて来たのだ。

 

 多分、音からしてジェット機だろう。

 

 そして、音がする方を向くと来たのは輸送機だった。

 

 低空で吐き出したのは陸上自衛隊の主力戦車の10式戦車だった。戦車の下に引かれた減速板で回転しながら減速すると誰かの高級スポーツカーを跳ね飛ばし、停止するとその車を潰したのだった。

 

 「あれはまずくない?」

 

 「エリカさん、確かにまずいです・・・・」

 

 「あっ、学園長の車!?」

 

 「スゲー」

 

 小山さんの叫びに様子を見て喜ぶ杏さん、どうやら学園長の車だったらしい。河嶋さんはあれを見て顔を真っ青にしていた。

 

 それすらを無視して進んだ10式戦車が私達の前に止まり、降りて来たのは見慣れた人物だった。

 

 「皆さん!こんちには!」

 

 大会ではお馴染みの審判長の蝶野亜美だった。こういった紹介は生徒会に任せよう。

 

 「紹介しよう。我が校の戦車道特別講師の・・・」

 

 「陸上自衛隊戦車教導隊の蝶野亜美一尉です。戦車道が初めての方が多いと聞いていますが、一緒にかんばりましょう!」

 

 「「「「お願いします!」」」」

 

 敬礼して挨拶したため、私と元黒森峰組の三人は癖で返礼してしまったのだ。

 

 もう、私達は黒森峰では無いのに・・・・・

 

 「う~騙された・・・・」

 

 「まぁまぁ、沙織さん」

 

 「おのれ、生徒会・・・」

 

 沙織は教官が女性だった為に落ち込み、みほが慰めていたのだ。

 

 「あら、あなたは西住流の西住師範の所の娘さんですね?」

 

 「「「西住流?」」」

 

 「戦車道を代表する流派の一つが西住流よ」

 

 「そうですが、今は破門されて普通の西住みほです。西住流とも関係ありません」

 

 「西住流を破門!?どうしてなの?あれは、戦車道協会が事故を調べたら当時の砲手で2年生の刈谷雅子が西住みほさんに指示されたにも関わらず、操縦手で3年生の五十嵐君代が信号弾が撃てない状況にした事と、プラウダ高校が事故が起きたこと気付きながらも攻撃を継続した事だって分かったので西住みほさんの罪は無いわ!むしろ、激しい砲撃の中で救助した精神と行動は賞賛すべき事と、そして、戦車道の未来を守ってくれたのに?どうして!」

 

 私はみほが思い出してしまい怯えているのが分かったのだ。

 

 「止めてもらいますか?みほが思い出して怯えてます」

 

 「あら、あなた達は確か黒森峰の逸見エリカさんに赤星小梅さん、内法泰子さん、藤木月乃さんですね。どうして、大洗女子学園に?」

 

 「私達はみほの友達よ。苦しむみほを守る為なら一緒に転校を選ぶわ。それに、私も破門された身だし、私達は既に黒森峰に居場所はないわ」

 

 「そう、だからあの事件以降、黒森峰の戦車道の生徒の転校が多かったのね・・・・」

 

 私は蝶野教官の意味はまだ分からないでいたのだ。

 

 だから、転校が多い?

 

 「どういう意味よ?」

 

 言葉に出ていたが、教官に聴こえる事は無かった。

 

 「さて、今日はさっそく練習試合をやってみましょう♪」

 

 「蝶野教官、ちょっと待ちなさいよ!いきなり、素人に戦車を使って練習試合は厳しいわよ!」

 

 「逸見さん、苦情は受け付けないわ。あなたはそうなると見越してチームに経験者を必ず一人は入れてるんでしょ?なら、大丈夫よ!ダァァと動かして、バァァと操作して、ドッーンと撃てば良いんだから!」

 

 私はあまりにもラフな説明に顔を引き攣りながらも引き下がったのだ。

 

 これは、絶対に苦労すると思ったからだ。

 

 「いやーかなりざっくりした説明だね~」

 

 「会長には言われたくありませんが・・・」

 

 「では、さっそく始めましょう!全員整列!戦車道は礼に始まり礼に終わる。一同礼!」

 

 「全員、乗車!」

 

 みほの号令にみんなは戦車に乗り出したがある問題が起きたのだ。

 

 レオパルドが実は四人乗りだったのだ。しかし、再編成するには時間が無かったのだ。そんな時に自動車部が一両の戦車を持って来てくれたのだ。

 

 「あっ、逸見さん!丁度良く、主砲が違反していたパンターF型に大丈夫なノーマルなF型の砲塔乗せ替えて整備が終わったから持って来たよ!」

 

 「助かったわ!みほ!チームを少し再編成するわよ!」

 

 「エリカさんに任せます」

 

 私は急ぎ考えて編成したのだ。

 

 「澤さん、小梅、大野は着いて来なさい!私と一緒にパンターF型を使うわよ!」

 

 急遽、編成したチームはFチームとして作ったのだ。

 

 「あの~振り分けは・・・・」

 

 「そうね。私が車長と通信手を兼任するから、小梅は砲手を大野さんは操縦手を澤さんは装填手をお願いすわ」

 

 それぞれが配置に付き、小梅は大野に操縦を教えていたのだ。

 

 「全員、チェックは終わった?」

 

 「あの~エンジンはどうやってかけるんですか?」

 

 「あっ、教えて無かった!ゴメンね。イグニッションを入れてくれる」

 

 パンターのエンジンがかかるとマイバッハエンジンの鼓動が私には心地良かった。また、このエンジンの鼓動を感じて戦車道が出来る喜びに私は酔いしれたのだ。そんな心地良い気分を壊したのは小梅だった。

 

 カッチィ

 

 どうやら、小梅が戦車砲の照準器のスイッチ?を入れたらしい。そして、小梅の変なスイッチまでも入ったようなのだ。

 

 「あぁぁぁぁ!」

 

 「「「!?」」」

 

 小梅の叫び声に驚く私達は振り向くと、顔が蕩けパンツァーハイになっていたのだ。

 

 「しゅごいよ!しゅごいよ!エリカちゃん!これ、ステレオ式の照準器だよ!しかも、オートジャイロが付いてるから走行間射撃しても照準がぶれないんだよ!ドイツの科学は世界一!って叫びたいよ!どうしよう、私もう、蕩けそう!」

 

 小梅のパンツァーハイに引き気味の大野さんと澤さんの二人。

 

 「あの~赤星さんはどうしたんですか?」

 

 引き気味の澤さんが小梅の状態を聞いて来たのだ。

 

 「戦車道をしている生徒に起きるパンツァーハイね。小梅、落ち着きなさい!」

 

 「だって、ステレオ式だよ!マウスと同じ照準器なんだよ!これなら私、距離3000の的に当てられちゃうよ!あぁぁ、どうしよう・・・・」

 

 事実、黒森峰に居た時に小梅はマウスで射撃訓練した時に距離3000で的に当てている。そして、そのパンツァーハイが原因でマウスから外されているのだ。だだ、砲手としての腕は確かなので本当に当てそうである意味怖い。しかし、パンツァーハイの状態の小梅をどうにかしないと先に進めないのだ。毎回の事なのだが・・・・・

 

 「大野さん、澤さんは少し目を閉じててくれる?」

 

 「「はい?」」

 

 「小梅を物理的に黙らせるから・・・・」

 

 「「えっ?物理的?」」

 

 二人が目を閉じたのを確認すると、私は拳を握り小梅の頭を叩いたのだ。

 

 そう、私が編み出した小梅のパンツァーハイ対策だ。例えるなら、壊れたテレビは叩けば治るそんな乗りだ。

 

 ゴッチン

 

 「いったぁぁぁ!?って、あれ?私・・・・・」

 

 「開けて良いわよ。小梅、チェックはどうかしら?」

 

 「大丈夫だよ」

 

 ゲンコツを受けたのに何事も無かった様に小梅はテキパキとチェックを済ませたのだ。

 

 「大野さん、クラッチを踏んでギアを入れて繋げば大丈夫よ。焦らず、ゆっくり丁寧にやれば行けるわ」

 

 「はい!」

 

 「澤さんは75ミリの砲弾は重いかも知れないけど頑張りなさいよ」

 

 「任せて下さい」

 

 「じゃあ、行くわよ。パンツァーフォー!」

 

 パンターはゆっくりと動きだし、林のスタートポイントに向かったのだ。蝶野教官より、指示された場所は吊橋を越えたジャンクションだった。右に進めば生徒会の乗るレオパルドに、左に進めば一年生が乗る三式中戦車。吊橋の向こうは、中央の林にみほ達が乗る四号戦車で挟み込む様にⅢ号突撃砲に乗る歴女組にレオパルドに乗るバレー部達だった。

 

 私達のパンターの最高速度はトランスミッションの関係で45キロしか出せない。しかし、レオパルドの速度は60キロに達する。速度を生かした一撃離脱か、回り込みに注意しないといけない。

 

 正面装甲の硬さを生かし、私が選んだ作戦は吊橋を背に生徒会と一年生組を待ち伏せすることにしたのだ。

 

 スタートすると、生徒会と一年生組が吊橋に向けて進軍を開始したのだ。

 

 「大野さんと小梅は戦車が来たら指示を出すから11時10分の方向に砲塔と車体を向けてくれる」

 

 「「分かりました」」

 

 「来るまでは待機よ」

 

 私はキューポラから身を出して周りを確認したのだ。吊橋の向こう側ではⅣ号戦車がレオパルドとⅢ号突撃砲に追われており、私は即座に援護射撃を小梅に下命したのだ。

 

 「小梅、Ⅳ号戦車を援護するわよ!距離、約2500目標レオパルド!」

 

 「エリカちゃん、Ⅳ号戦車が射線に入って撃てない!」

 

 ところが、Ⅳ号戦車は煙幕を展開すると一気に吊橋まで来たのだ。私は今は攻撃の意思が無い事を手合図でみほに知らせたのだ。

 

 私はみほが渡り切るまで、見守る事に徹したがみほが戦車から降りて誘導して橋を渡り始めた時に吊橋のワイヤーを切り落ちそうになったのだ。

 

 「みほ!」

 

 叫ぶけど、それよりⅢ号突撃砲の砲弾がⅣ号戦車の後部装甲に当たったのだ。

 

 双眼鏡越しで見えるのは華がハッチから顔が出ており衝撃で頭をぶつけたのだ。

 

 「操縦者、失神操縦不能!」

 

 秋山さんの叫び声が私の耳に聴こえたのだ。みほは急ぎ四号戦車に戻ったが動く気配が無かった。しかし、レオパルドとⅢ号突撃砲は追撃しており、対岸から見える位置まで前進していたのだ。丁度、Ⅲ号突撃砲もレオパルドも射線に入っていたのだ。

 

 「小梅!今なら撃てるわよ!射撃準備!」

 

 「照準よし!」

 

 「撃て!」

 

 パンターの主砲が火を噴いたのだ。砲弾はⅢ号突撃砲の側面に当たり行動不能にしたのだ。

 

 「次行くわよ!弾種、榴弾!信管設定は短延期に設定!跳弾でレオパルドの履帯と車輪を吹き飛ばすわよ!」

 

 信管設定は小梅が行い装填していたのだ。

 

 「装填よし!」 

 

 「照準・・・準備よし!」

 

 「撃ったら、即装填よ!撃て!」

 

 レオパルドの直前の地面で跳弾して車輪に命中すると履帯と車輪を吹き飛ばすやり方で無理矢理に横に向かせたのだ。それは、パンターの主砲でも傾斜装甲を持つレオパルドの正面装甲は抜けないのだ。えげつないやり方だが、履帯と車輪を吹き飛ばしただけでは修理可能で復帰可能なのだ。

 

 「装填よし!」

 

 「照準よし!」

 

 「撃て!」

 

 レオパルドの側面装甲に砲弾が命中し行動不能としたのだ。

 

 2両を片付けている間にⅣ号戦車の動きが変わったのだ。さっきのぎこちない動きだったが洗練された動き、みほが操縦している感じでは無い。みほは装填手ハッチから顔を出しており、誰が操縦しているのか気になったが、正面からもレオパルドと三式中戦車が来ていたのだ。

 

 まず、先に撃って来たのは三式中戦車だった。

 

 ガッン

 

 「キャア!」

 

 大野が悲鳴をあげるが、パンターの正面に当たっただけで問題はない。

 

 「大丈夫よ!三式中戦車の砲弾なら正面装甲は抜けないわよ!」

 

 Ⅳ号戦車はそうしている間に三式中戦車に突撃したのだ。しかし、突撃に驚き逃げようとするが履帯が片方しか回っておらず、地面に履帯が沈んでいき、履帯が切れた後にエンジンから煙りが上がって行動不能になったのだった。

 

 しかし、生徒会の乗るレオパルドが残っており、林を抜けた平原で決着を付ける気なのだろう。しかし、レオパルドは私達のパンターを見るなり平原へと逃げたのだ。

 

 「追撃するわよ!」

 

 私はレオパルドを追ったのだ。

 

 平原に出た私が見たのは撃破されたレオパルドだった。後部のエンジンルームをやられていたのだ。

 

 「待ち伏せでやられてるわね・・・」

 

 キュポラーから身を乗り出し周りを確認するとⅣ号戦車を見つけたのだ。

 

 「見つけたわよ!」

 

 私は白星を付けるべくⅣ号戦車に挑んだのだ。

 

 

 

 

 エリカさんに再編成を任して私達は一足先にスタート地点に移動。

 

 途中、優花里さんがパンツァーハイになる事があるも私は車長をやりたく無かった。

 

 スタートと同時に沙織さんが生徒会を倒そうと言った為、吊橋へ移動するが三号突撃砲とレオパルドに追われる事になった。途中、草原で寝ている麻子さんを回収して吊橋に渡ろうとしたら、橋の向こうに陣取るのはパンターだった。

 

 キューポラから身を乗り出して合図して来るのはエリカさんだった。あれは、黒森峰でも使われた手合図で意味は戦う気は無いらしい。私は吊橋を渡る事にしたが華さん操縦では難しく、Ⅳ号戦車が落ちそうになったのだ。

 

 悪い事は続き、Ⅲ号突撃砲が追いついたのだ。Ⅲ号突撃砲が主砲を放ち、Ⅳ号戦車に直撃。

 

 衝撃で、華さんが気絶してしまい、私は戦車に戻ったのだ。そして、私は反撃するため、操縦手をやろうとしたら麻子さんが操縦してくれたのだ。私は周囲確認で見たのはエリカさんのパンターの援護射撃だった。一撃でⅢ号突撃砲を沈黙させ、レオパルドは射撃したのは小梅ちゃんだろう。跳弾射撃が出来るのは黒森峰では小梅ちゃんくらいしか居ない。無理矢理、側面を晒されたレオパルドは徹甲弾を撃ち込まれ沈黙したのだった。

 

 吊橋での援護射撃はエリカさんの戦い方そのものだった。吊橋を渡り切り、エリカさんのパンターを狙うのは三式中戦車だった。私は急ぎ三式中戦車の方へ突撃するように沙織さんに進言したのだ。

 

 「沙織さん、三式中戦車の方に逃げて下さい。私達が突撃すれば、相手は慌てるはずです」

 

 「分かった。やってみる」

 

 「麻子さん、慌てる様に猛スピードで突撃してください」

 

 「やってみる」

 

 案の定、三式中戦車は一年生と藤木さんのメンバーだった。藤木さんは砲手としての経験はあるが車長としての経験が皆無だった事もあり、慌てた一年生を宥められずに自爆したのだ。

 

 そのまま、平原へと逃げる形で走ると向こうから逃げて来るのは生徒会が乗るレオパルドだった。

 

 私は、まだ発見されていない事に気付き、

 

 「麻子さん、バックで林に入って下さい。このままレオパルドを待ち伏せします」

 

 「分かった。やってみる」

 

 「優花里さん、レオパルドが通ったらエンジンルームに撃って下さい。あそこなら、Ⅳ号戦車の主砲でも撃ち抜けます。落ち着いて狙って下さい」

 

 「はい!西住殿任せて下さい!」

 

 レオパルドが通ると

 

 「撃て!」

 

 側面から撃たれたレオパルドは行動不能になったのだ。

 

 Ⅳ号戦車を林から出るとパンターがレオパルドを追撃したのだろう。

 

 私はエリカさんに勝てるだろうか?

 

 Ⅳ号戦車の主砲は短砲身だから、正面、側面は抜くのは無理。唯一、抜けるなら背面のマフラーがある場所だ。そして、砲手をしているのは小梅ちゃんだ。多分、正確無慈悲な射撃をして来るはずだ。だけど、逆に読みやすい・・・・どうする?

 

 「戦車って車見たくドリフトできないかな?」

 

 麻子さんの一言に私は閃いたのだ。履帯を上手く滑らせれば理論上出来るはずだ。

 

 なら、やる事は一つだ。

 

 「麻子さん、ドリフトは理論上出来ます。猛スピードでパンターに突っ込んで下さい。私がタイミングを計ります。合図したらステアを切って下さい。滑り出したらそのまま維持して、次の合図で停車して下さい。出来そうですか?」

 

 「今の説明なら出来る。ようは裏に回れだろ?やってみる」

 

 「優花里さん、牽制射撃を行います。私も出来るだけ装填を急ぎますので・・・・」

 

 「みぽりん、装填は私がやるよ!タイミングを計るなら車長席がいいでしょ?」

 

 「分かりました。装填は沙織さんに任せます。優花里さんはエンジンルームに一撃をお願いします」

 

 これが、私達がチームを組み初めてやるドリフトしての回り込みだった。

 

 「それでは行きます!パンツァーフォー!」

 

 Ⅳ号戦車は猛スピードでパンターに突撃したのだ。やっぱり、エリカさんはそれでは慌てない。怖いのは小梅ちゃんの正確な射撃だ。

 

 コツン

 

 麻子さんに左にステアを切るように合図。

 

 即座に左に切り主砲を交わす。

 

 「麻子さん、今です!」

 

 コツン

 

 Ⅳ号戦車のエンジンが唸り高い回転を維持したまま滑りパンターに回り込んだのだ。

 

 「優花里さん、射撃準備!」

 

 「装填よし!」

 

 「撃て!」

 

 Ⅳ号戦車の主砲が火を噴いたのだ。主砲はパンターのマフラーを吹き飛ばしして行動不能にしたのだ。

 

 私達の練習試合は終わったのだ。

 

 再び、戦車倉庫の前に集まるとエリカさんが悔しそうにしていた。

 

 「全く、みほは戦車でドリフトだなんてやるわね。驚いたわよ。完敗よ・・・・」

 

 「エリカさん、麻子さんが居たから出来たんだよ。私達だけでは負けてたよ」

 

 「だから、あの時、空気が代わったのね。でも、次は負けないわよ。だって、楽しそうなみほは久しぶりだった。私にはそれが嬉しいわ」

 

 「エリカさん・・・・」

 

 そして、教官の蝶野さんが来たのだ。

 

 「みんな、グッジョブ!ベリーナイスよ!初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ!特に、AチームとFチームは良くやったわ!それでは、今日の訓練は終わりよ!」

 

 「一同、礼!ありがとうございました!」

 

 私達の戦車を使用した戦車道の初日はこうして終了したのだった。

 

 

 私はみほ達と別れた後、小梅と一緒に戦車倉庫に残っていた。

 

 「えっ?エリカちゃんこれを使うの?」

 

 「そうよ。小梅、手伝いなさいよね。練習試合までには間に合わせるわよ。私達の相棒のティーガーIIポルシェ砲塔を副隊長仕様にするわよ」

 

 「私、パンターF型が良かったなぁ」

 

 「パンターでも構わないけど、小梅がパンツァーハイにならなければ考えるわ」

 

 「えっ?それって、無理じゃん!ステレオ式だったら無理だよ~」

 

 「じゃあ、やるわよ」

 

 「う~エリカちゃんの意地悪!」

 

 私はティーガーの整備に勤しんだのだった。

 

 理由は聖グロリアーナ学院がブラックプリンスの導入を決めたらしいと情報があったからだ。どうあれ、ブラックプリンスが相手だとティーガーII一両だけでは不安だったのだ。だから、足回りの整備中のティーガーIIを急いで整備していたのだ。

 

 ある程度終わる頃には夜が更けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




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大会に向けた配車と個性的な戦車

 最近、つらい・・・

 何故だろうか?

 寒いからだな・・・・


 

 

 ティーガーIIを整備が終わり、私は小梅と自宅のアパートに帰った。

 

 「あれ、これ・・・配車なの?」

 

 「うん、一応、私だけで考えて見たけど、どうかな?」

 

 みほはリビングのテーブルにノートを広げ、担当させる戦車や人員の配置を書いていたのだ。確認すると、みほのチームが使用しようとしていたのはパンターF型かⅣ号戦車F2型(練習試合の後に主砲を載せ換えている)で迷っていたのだった。

 

 「みほはティーガーIIを使わないの?」

 

 「隊長用でも、速度が遅いかなって」

 

 「隊長用のあれは普通のティーガーⅡじゃないわよ?」

 

 「えっ?そうなの?」

 

 「一応、整備のついでに演習場で乗って見たけど足回りもエンジンも規定ギリギリまで強化されてるから、今日見たいな事をやっても充分持つわよ。それに私もティーガーIIを使うわよ。それに、履帯を着けるところまで終わらせてきたわ」

 

 「エリカさんとお揃いなんだ♪あと、人員の配置なんだけど・・・・」

 

 みほのチームに冷泉麻子の名前があったのだ。

 

 「あの操縦が上手い子もやるのね」

 

 「うん、あのあとにみんなでお風呂に入った時に誘ったらね。最初はやりたくないって言っていんだけど、沙織さんが説得して特典で遅刻無しになると聞いたら、戻ってきて借りを返すからってやることにしてくれたんだ」

 

 「そう、安心したわ」

 

 「えっ?」

 

 あの子ならみほの指揮に間違いなくついて行ける。いや、あのチームそのものがみほを立ち直らせてくれると信じて見たかったのだ。

 

 「これで、みほのチームは五人になったからね。私は・・・・・」

 

 私のチームには小梅と生徒会の杏さん、小山さん、河嶋さんが入っていたのだ。今日のメンバーの方が動き易かったが、短時間で動けた生徒会チームに期待してしまったのだ。ただでさえ、繊細な操縦が求められるティーガーⅡだけに・・・・

 

 ある程度、書き終わっていたので以下の通りになっていたのだ。

 

 

 

 Aチーム

 

 使用戦車 ティーガーⅡ

 

 車長  西住みほ

 砲手  五十鈴華

 装填手 秋山優花里

 操縦手 冷泉麻子

 通信手 武部沙織

 

 

 Bチーム

 

 使用戦車 ティーガーⅡ

 

 車長  逸見エリカ

 砲手  赤星小梅

 装填手 河嶋桃

 操縦手 小山柚子

 通信手 角谷杏

 

 Cチーム

 

 使用戦車 偵察戦車レオパルド

 

 車長兼通信手 内法泰子

 砲手     藤木月乃

 装填手    坂口佳利奈

 操縦手    大野あや

 

 Dチーム

 

 使用戦車 Ⅲ号突撃砲

 

 車長兼通信手 エルヴィン

 装填手    カエサル

 砲手     左衛門佐

 操縦手    おりょう

 

 Eチーム

 

 使用戦車 パンターF型

 

 車長兼装填手 磯部典子

 通信手    近藤妙子

 操縦手    河西忍

 砲手     佐々木あけび

 

 Fチーム

 

 使用戦車 偵察戦車レオパルド

 

 車長兼通信手 澤梓

 砲手  山郷あゆみ

 装填手 丸山紗希

 操縦手 宇津木優季

 

 

 みほの配置や配車に一つ一つに苦悩と苦渋が見て分かる。

 

 一両でも多く増やしたい。

 

 偵察を強化して情報から有利に戦いたい。

 

 そんな思いが強く出ている配置だった。

 

 多分、みほは西住流の戦術ではなく、戦車のそれぞれの特性や特徴を生かした戦い方をする気なのだ。その考え方は島田流に近い。だから、ティーガーⅡより小柄で軽いパンターF型とⅣ号戦車F2型で迷っていたのだ。

 

 そうすると、確かに少ない戦力でも戦術や作戦次第で勝てるかも知れない。でも・・・・・

 

 それでも、一、二回戦は最大十両までだから何とか戦えるが準決勝は十五両、決勝と最大が二十両となりそうは行かない。昨年もそうだったが決勝では最低でも半数は欲しい。だが、叔母さんのおかげではあるが、こういった強力な戦車が少しでもあるなら勝機はあると思う。このことはみほも充分分かっているだろうし、戦術や作戦で勝つしかないだろう。

 

 だけど、もう少し人が欲しいわね。

 

 これだけは生徒会と相談しないといけない。

 

 そして、気になるのは聖グロリアーナ女学院とプラウダ高校だ。つい最近だが、一部の戦車を売却した時に買い取りに来た業者から聞いた話では聖グロリアーナ女学院ではOG会とOB会を説き伏せたらしくブラックプリンスとコメット巡航戦車の導入に踏み切るらしい。そして、去年の優勝校のプラウダ高校も連覇を狙う為にISー3の導入が噂されている。それだけでなく、サンダース大学付属高校にも新しい戦車の導入の噂があるのだ。

 

 そんな、去年よりも荒れた大会に優勝はかなりキツイだろうと予想はついていた。

 

 「キツイわね・・・・」

 

 「えっ?何がですかエリカさん」

 

 「やっぱり、もう少し人が欲しわね」

 

 「ですが、そこは戦術と腕でカバーするしか無いです。でも、今は戦車の数があるので戦術の幅が取れるようになりましたので人員不足は何とかカバーは出来そうです」

 

 「みほがそこまで言うなら大丈夫ね。さて、夜も遅いから寝るわよ」

 

 「うん、エリカさん?」

 

 「どうしたのよ。みほ?」

 

 「抱いて寝てもいいかな?」

 

 「別に良いわよ。起きる時には抱かれてるから変わらないわ」

 

 「うん♪」

 

 何時ものようにベッドへと入ったが

 

 ガチャリ

 

 「エリカちゃん、みほちゃん・・・・一緒に寝てもいい?」

 

 小梅だった。

 

 小梅の顔が真っ青で泣き出しそうな表情だったのだ。それは、まるで今にも壊れてしまいそうな表情だったのだ。

 

 「また、あの夢を見たの?」

 

 「うん、怖かったよ。私・・・・起きることなく冷たくなって死んでいるんじゃないかって・・・・」

 

 また、あの夢を見たらしい。

 

 あの時の事故の夢を・・・・・

 

 そして、みほも事故で意識が無く目覚めない私達を見ている。

 

 そのため、私とみほの部屋のベッドは三人で寝ても良いようにキングサイズのベッドを入れている。

 

 私は時々、思ってしまう。

 

 いつまで、私達は悪夢にうなされるのだろう。

 

 いつになったら私達は悪夢から解放されるのだろうか

 

 だけど、今はみほの温もりがあり、私の温もりがあり、小梅の温もりがある。それぞれの温もりが感じ合えるうちは大丈夫だと思いたいのだ。こうして、温もりを感じ合える間だけは・・・・

 

 「ほら、早く入りなさい。三人で寝れば大丈夫だから・・・」

 

 「うん、みほちゃん、エリカちゃん入るね」

 

 「おいで、小梅ちゃん」

 

 みほに抱かれ、小梅はすぐに落ち着いたようで寝息を立てていた。

 

 私もみほの背中に抱き着き夢の中に旅だったのだった。

 

 

 

 

 翌日の戦車道の授業は基本的な走行訓練や射撃訓練だった。

 

 私達が使用するティーガーⅡも授業を始める頃には自動車部が履帯を着けてくれた様で履帯の張りを調整するだけだった。

 

 それにしても・・・・

 

 「バラバラね・・・・」

 

 「エリカさん、でも、最初よりはだいぶ良くはなっていると思います」

 

 「みほ、流石に・・・」

 

 走行訓練では横隊、縦隊もバラバラで速度も合わせられないでいたのだ。

 

 「Fチーム!速度出し過ぎよ!Cチームはもう少しスピードを出しなさい!」

 

 無線越しに指示を出して行くが

 

 「Eチーム!間隔を開けなさい!Dチームにぶつかるわよ!って、ぶつかっているわね・・・・」

 

 そして、射撃訓練では

 

 みほが無線越しに

 

 「一斉打ち方用意・・・・・撃て!」

 

 的に当てたのは小梅と藤木の他に意外にもAチームの五十鈴さんだった。

 

 その後の射撃訓練でも距離500でも当てられない砲手には小梅が作ったプリントで予習するようにしてもらったのだ。そして、何故か小梅と藤木、五十鈴さんが的当てゲームの熱戦になり、距離1500で藤木が外して脱落し、距離1750で外して五十鈴さんが脱落したのだ。結局、小梅が距離3250を当てて次の距離3500で外して悔しがっていたのだ。

 

 「うぅ・・・・外した・・・・」

 

 「小梅、距離3250で当てただけでも充分じゃない」

 

 「ダメです!目指せ!距離4000!」

 

 「有効射程外だから!」

 

 「でも、Ⅱ号戦車とチハなら抜けるよ!いざとなったら、曲射でも当てるよ!」

 

 小梅との言い合いで藤木は顔を真っ青にしていたのだ。

 

 「嘘・・・・赤星さん曲射も出来るんだ・・・・・」

 

 「小梅、あんたが言っていると、マジで冗談に聞こえないから!」

 

 実際、小梅は曲射での照準計算もできる。黒森峰時代に紅白戦で榴弾を使っての曲射でヤークトパンターのエンジンハッチに直撃させて撃破判定をもぎ取っているのだ。

 

 小梅はそれ以降、黒森峰の与一と言われる由縁である。

 

 だだ、パンツァーハイがなければ非常に優秀なのだが・・・・・・

 

 それで、私とずっと組んでいるのだ。

 

 訓練も終わり、私と小梅は自宅へと帰るが、みほは沙織さん達と買い物に行くらしく、遅くなると言っていた。

 

 夕飯の支度を終えてみほの帰りを待っているとみほが帰って来たのだ。

 

 「ただいま・・・・・」

 

 沙織さん達と買い物に行ったはずなのに、元気もなく表情が暗くなっていたのだ。

 

 「みほ、どうしたのよ?」

 

 「うん・・・・・テレビでお姉ちゃんを見たら・・・・・」

 

 私はみほを抱きしめたのだ。

 

 「みほ、何も言わなくて良いわよ。私、いえ、私達がいるわ。だから、隊長の言った事は気にしなくていいわ。だから、私達をもっと頼って」

 

 「うん・・・ありがとう・・・・エリカさん・・・・少しだけ、泣いてもいいかな?」

 

 「いいわよ・・・」

 

 「うん・・・・ヒックゥ・・・私、逃げてたのかな?」

 

 「!?・・・みほは逃げて無いわよ!みほは優勝よりも人命を取っただけ。でも、それは、戦車道の未来を守ったのよ。それに、私達の命を助けてくれたのよ。だから・・・・逃げてない・・・・逃げてない・・・・」

 

 それは、自分にも言い聞かせる様だった。

 

 「うん・・・・うっ、うわぁぁぁぁ」

 

 みほは私の部屋着が濡れるほど胸の中で泣き叫んだのだ。それは、ガラス細工の様に繊細で強く抱きしめたら壊れてしまいそうに弱々しいみほだった。

 

 私は改めて決心したのだ。

 

 何が何でもみほを守ると・・・・

 

 落ち着いたみほは一応、夕飯を食べたがあまり食欲がなくあまり食べなかった。

 

 みほは一言も発せず部屋に戻り、ボコを抱きしめ眠っていた。

 

 それでも、やはり隊長いや姉として好きだったのだろう。

 

 「お姉ちゃん!遊ぼ・・・・」

 

 みほの寝言は、あの頃の無邪気で、熊本の田園地帯で三人で遊んだ頃の夢を見ているのだろうか?

 

 本当に懐かしい。

 

 初めて、みほと隊長と一緒に遊んだ幼い頃の思い出。

 

 それを見て居るのだろうか?

 

 でも、悲しい事に二人は私と一緒に遊んだ事を覚えて居ない。

 

 私が幼い頃に二人に会ったのはたったの二回だけだった。

 

 そして、あの頃は麦わら帽子を被り、フリフリワンピースを着た私はワニの人形を抱いたまま、無邪気で笑顔が絶えない二人に振り回されただけだった・・・・・

 

 私もベッドに横になると直ぐに眠りに着いたのだ。

 

 そして、私が見た夢もあの頃の隊長もみほも笑っていた懐かしい夢だった・・・・・

 

 「まほちゃん、どうして・・・・・・」

 

 何故か、私も昔の呼び方で口ずさんでいたのだ。

 

 

 

 朝、起きるとみほは私に抱き着いていた。

 

 抱いていたボコの腕はあらぬ方向に向かっていたので直して置くのだ。みほの場合はパンツァーハイは無いが、替わりにボコのDVDを見たりボコの痛々しい姿を見るとボコハイになるのだ。

 

 多分だが、母港の大洗に戻るとボコミュージアムに連行されるだろう。

 

 いや、されるが正しい。

 

 今更ながら、大洗にそれがあることを言わなければ良かったと後悔もしていた。

 

 だけど、ミュージアムでみほにも私にも今後の流派を考える出来事になる出会いが在るのはまだ知らない。

 

 さて、冗談をさておき、私は二人の朝食だけを作り、みほが少しでも楽になるように戦車道の授業の準備の為、一足先に学校に行くのだ。

 

 一昨日、作った配車表を戦車倉庫に張りだし、第二倉庫の整備中の戦車の確認と各種弾薬の確認などを済ませのだ。それらが終わると教室へと行けるのだ。やはり、シュトルムティーガーはバラバラになっており、傷んだパーツが年数のダメージで痛々しい。好きな戦車だけに残念だった。

 

 午前中の授業が終わり、午後は選択授業だ。

 

 急ぎ、小梅と戦車倉庫前に行くと、私は絶句したのだ。

 

 「なっ、何よこれ・・・・」

 

 「エリカちゃん、私、悪い夢を見てるのかな?」

 

 あろう事か、戦車に塗装していたのだ。

 

 Ⅲ号突撃砲はどこぞの赤い彗星ヨロシクと言わんばかりに赤く染められて戦国時代のようなのぼりが立ち、光と闇の迷彩が美しかったレオパルドはピンク色に染められ、パンターF型はバレー部の広告車の様に描かれ、副隊長車のティーガーⅡは河嶋さんがツィンメリットコーティングをグラインダーで削り落とすところだったのだ。

 

 「河嶋さん、何してのよ!」

 

 「いや、会長が金色に染め・・・アガァ!?」

 

 私はやらせまいと河嶋さんの顔を掴んだのだ。続に言う、アイアンクローだ。

 

 私も車長になる前は装填手なだけに腕力と握力には自信がある。

 

 河嶋さんの顔を握り体を持ち上げながら聴いて見たのだ。

 

 「何を金色に染めるですって?」

 

 河嶋さんが宙ぶらりんになりがらも力は緩めない。むしろ、徐々に力を入れて行く。

 

 「痛いから離せ!」

 

 そんな時、杏さんが来たのだ。

 

 「桃ちゃん、染めた?あっ・・・・・・アガァ!?」

 

 河嶋さんの今の惨状を見てやばいと思ったのか後ずさるが、左手で杏さんの顔を掴んでアイアンクローを決めたのだ。

 

 生徒会の会長と広報の二人がアイアンクローを決められ、宙ぶらりんになる光景はかなりシュールだったが、もし、金色に染められたら光り輝き過ぎて隠れる事も出来ずに見かるだけだ。良いことなど一つも無いのだ。

 

 これが黒森峰なら即退学ものだ。

 

 「エリカちゃん、マジでギブ!染めないから離して!」

 

 「あっ、会長ずるい!」

 

 一応、反省したため二人を離したのだ。

 

 「いやぁ、エリカちゃんの握力と腕力は凄いねぇ。マジで顔が潰れるかと思ったよ」

 

 「これでも、元は装填手なので」

 

 「で、物事は相談なんだけど、金色に染めたら駄目かな?」

 

 「杏さん、懲りてないの?」

 

 手をワキワキさせると杏さんは首を横に振るだけだった。

 

 丁度、みほ達も来たところだったのだ。

 

 「あっ!?戦車達が!?」

 

 「みほ、済まないわね。Ⅲ号突撃砲とレオパルド、パンターF型が・・・・」

 

 「そうですよ!あんまりですよ!」

 

 みほも三両の惨状をみて

 

 「うっぷ、あっはははははは・・・お腹が痛い・・・おかしすぎて、お腹が・・・・」

 

 みほはお腹を抱えて爆笑したのだ。

 

 「ちょっと、みほ!」

 

 「だって、戦車をこんな風にしちゃうなんて考えた事もなくて、何か楽しいよね」

 

 「そう言えば、みぽりんが戦車を見て笑うの初めてかも」

 

 「確かにそうね。でも、認められてるのは内部だけだから戻しなさいよね!」

 

 「「「「えっ、えぇぇぇ」」」」

 

 「当たり前じゃない!作戦や地形によっては戦車を乗り換えるわよ!さぁ、みんなで戻すわよ!」

 

 染めた戦車はみんなで塗り直し、美術部の力を借りて元の迷彩に戻したのだ。

 

 

 

 授業が終わり、私とみほは生徒会室に呼ばれたのだ。

 

 「悪いね。呼び出しちゃってさ。あのさぁ、今度の母港に着いた時に練習試合をやるからさ、作戦を考えてくれるかなぁ?」

 

 早すぎないかと私は思うが、実戦経験を得るには良いかもしれなない。

 

 「何処とやるのですか?」

 

 「強豪校の一つ、聖グロリアーナ女学院とだよ。向こうも何だか、慣熟訓練ついでに練習試合を受けてくれたんだ」

 

 「!?・・・やっぱり・・・・・」

 

 「おっ、エリカちゃん何か知っているね?」

 

 「えっ、エリカさん?」

 

 「みほ、隠しててゴメン。確証が無かったから言えなかったのよ。みほ、杏さん確かに私は知っていたわよ。噂だと思ったけど、慣熟訓練ついでで確証したわ。聖グロリアーナ女学院にブラックプリンスとコメット巡航戦車を導入したようね」

 

 「えっ!?ブラックプリンセスとコメット巡航戦車・・・・」

 

 「エリカちゃん、説明してくれるね?」

 

 「ブラックプリンスとコメット巡航戦車は両方とも17ポンド砲を搭載した戦車よ。ティーガーⅡでも側面を晒したら撃ち抜かれるわ。それだけ、強力な戦車を導入したのよ。ただ、速度が速いのはコメット巡航戦車の50㎞でブラックプリンスは18㎞よ。多分、巡航戦車を練習試合に投入は考え難いけど警戒が必要ね」

 

 「ねぇ、エリカさんまさかだと思うけど、ティーガーⅡの整備を急いでいたのは・・・・・」

 

 「噂だったから警戒してただけよ」

 

 「そう・・・・では、作戦を立てたいと思いますので失礼します」

 

 作戦を立てる為に生徒会室を退室しようとしたら、杏さんに引き止められたのだ。

 

 「あっ、そうだ!もし、勝ったら好きなものを買ってあげるから!」

 

 「もし、負けたら?」

 

 「そうだねぇ、あんこう踊りでもして貰おうかな?」

 

 「「って何(よ)?」」

 

 「とにかく、恥ずかしい踊りだよ~じゃあ、任せたよ」

 

 生徒会室を後にした後、私は教室に帰りながらみほに謝ったのだ。

 

 「みほ、ゴメン・・・・」

 

 「気にしてないよ。でも、生徒会に何か隠してない?」

 

 「つっ!?みほには言うわ。プラウダ高校は多分だけどISー3を導入するかも知れないわ。ただ、正確な情報が無いから確証には至ってはないのよ。あと、サンダース大学付属高校も強豪二校が強力な戦車を導入する噂から対抗処置でパーシングの導入をする噂があるわ。隠してて本当にゴメン・・・・」

 

 「ISー3にパーシング・・・・・」

 

 みほが他校の噂で落ち込みそうになる時だった。

 

 「みぽりん!」

 

 教室で皆が待っていたのだ。

 

 「エリカちゃん、生徒会に何言われたの?」

 

 「そう言えば、西住殿も呼ばれたですね」

 

 「小梅達に言っておくわ。今度、大洗に戻ったら聖グロリアーナ女学院と練習試合よ」

 

 「えっ!聖グロとなの!」

 

 「小梅さん、驚いてどうしたの?」

 

 「沙織殿、聖グロリアーナ女学院は全国大会で準優勝した事もある強豪校ですよ!」

 

 「秋山さんの言う通りです」

 

 「それにしてもさ、聖グロリ何ちゃらって、強豪校なんでしょ?」

 

 「そんな所といきなり試合だなんて・・・・」

 

 「いやいや沙織殿、こちらには西住殿をはじめ、元ですが、黒森峰の狂犬と黒森峰の与一がおられるのですよ!いくら強豪の聖グロリアーナといえど・・・・」

 

 「でもさ、ゆかりん。みぽりんやエリカさん、小梅ちゃん達がどんなに強くても他は私を含めて全くの素人だよ」

 

 「沙織さんの言う通りよ。しかも、今回の練習試合はただの練習試合じゃないわ。今回は新に導入した戦車の慣熟訓練を目的とした言わば的見たいな物よ。それと、明日から更に厳しい訓練を組むわよ。特に、今度の試合はレオパルド組の観測が肝になりそうね。だから、小梅はレオパルド組には観測測定の基礎を徹底的に教えて上げてくれるかしら」

 

 「エリカ殿、参考までにどんな戦車ですか?」

 

 「多分、絶望するわよ?」

 

 「大丈夫です」

 

 「ブラックプリンスとコメット巡航戦車が来るかも知れないわ」

 

 秋山さんに話すと

 

 「ティーガーⅡでも危険じゃないですか!17ポンド砲搭載型の戦車ですよ!」

 

 「大丈夫よ。そのための観測測定だから」

 

 「観測測定?」

 

 「私とみほは作戦を立てるから先に帰るわ。小梅は観測測定を教えるのは任したわ」

 

 「うん、エリカちゃんに任されました。だから、任せて!」

 

 私はみほと一緒に帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     




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壮絶!聖グロリアーナ戦

 難産でした。


 

 寄港する残りの一週間は射撃や偵察、距離の測定などを最低レベルでも出来る様に訓練したが問題が起きたのだ。直接照準から曲射による射撃が出来る小梅は問題無いのだが、五十鈴さんが曲射での射撃が合わなかったのだ。

 

 そこでみほは大胆にも作戦を変更したのだ。

 

 レオパルドの速度を生かして掻き回し、ジャンクションなどでティーガーⅡやパンターF型、Ⅲ号突撃砲による待ち伏せで戦力を削る作戦に変えたのだ。生憎、レオパルド用にも高速徹甲弾は大会の為に購入してある。

 

 そして、ある程度撃破したら地の利を生かした市街地戦で決着をつける作戦にしたのだ。

 

 レオパルドの砲塔もパンターF型と同じ造りなのでステレオ式照準器にオートジャイロが付いているので走行間射撃も可能だった。

 

 「とりあえず、当日に相手の戦車を見ないと作戦は選べないわね」

 

 「そうですね」

 

 私とみほの結論は当日にならないと分からないとなり、レオパルド組には更に走行間射撃の訓練を追加したのだった。無論、ティーガーⅡとパンターF、Ⅲ号突撃砲にも射撃訓練や全車まとめての偽装などを徹底的に訓練したのだ。

 

 大洗港帰港当日、みほの携帯から少し遅れると連絡が在った。

 

 私は理由を聴いて少し呆れたのだが、麻子が寝坊して起こすのに三人掛かりでやっと起きたらしい。それも、まず、沙織さんが布団をめくり、秋山さんが起床ラッパを吹き、これでもかと言うかのようにみほ達が迎えに行ったティーガーⅡの空砲でやっと起きたらしい。

 

 みほの空砲は流石にやり過ぎだと思うが隊長が来ないと話にならいし、私がこの面子をまとめ上げる自信はない。

 

 「エリカちゃん、西住ちゃん急いで向かっているってさ」

 

 「杏さん、悪いわね」

 

 通信手の杏さんが通信越しに報告してくる。私達のティーガーⅡを先頭にパンターF型、Ⅲ号突撃砲、レオパルドが二両と一例の隊列を組み学園艦から埠頭に降りる為のバイパスを使っている。キューポラから半身を出すと街の人達が頑張れと手を振っていた。

 

 「「「お~い、頑張れよ!」」」

 

 「これも、悪い気はしないわね・・・」

 

 

 埠頭に降り、みほ達と合流すると演習場へと向かったのだ。

 

 そして、彼女達が乗る戦車を見た時、絶句し絶望したのだ。

 

 「何よ!これ・・・・」

 

 まさか、こんな戦車で来るとは全く思わなかったのだ。

 

 これが本気の聖グロリアーナ女学院なのかと一瞬だが疑ってしまった。優雅に戦うのが売りの聖グロリアーナ女学院では無かったのだ。後ろの三両は情報にあったコメット巡航戦車だったが前を走る三両には全く情報が無かったのだ。それを見た秋山さんが顔を真っ青にしながら呟いたのだ。

 

 「増加試作A41型センチュリオン・・・・・」

 

 隊長車がブラックプリンスでは無かったのだ。だが、一両のセンチュリオンから降りて来たのはあのノーブルシスターズだった。一度だけ、みほが風邪で寝込み、代役で隊長と一緒に聖グロリアーナ女学院の学園艦に行った事があった。その時に見たのがダージリン、アッサム、オレンジペコ達だった。

 

 そして、彼女達はメイドらしき女性からティーカップを貰うと優雅に紅茶を飲んで居たが、私を見つけるとダージリンが私の元にやって来たのだ。それも、挨拶をするために行った生徒会の三人を無視してだ。

 

 「やぁ、忙しいのに練習・・・・あれ?」

 

 「あら、黒森峰の狂犬がこちらにいらしたんですの?」

 

 「悪い?」

 

 「えぇ、とっても悪いですわ。えぇ、とっても・・・・お慕いしていたみほさんが転校する噂を聞いた時に、是非、聖グロリアーナ女学院に転入させるつもりが狂犬と一緒に大洗に行ってしまったのですから。わたくし、みほさんにはとっておきのゴールデンティップという名前を用意してお待ちしていたのに残念でしたわ」

 

 「みほは転校の条件で戦車道がない学校を選んだわ。黒森峰での精神的疲弊から戦車道から離れるためよ。私達が一緒なのは、みほの笑顔を守る為よ!」

 

 「くっ、こんな確言を知ってる?『イギリス人は恋愛と戦争には手段を選ばない』そのために、今日はブラックプリンスではなくセンチュリオンにしたのですから・・・・」

 

 瞳から光の消えたダージリンに睨まれた私は一瞬、その瞳に恐怖したのだ。

 

 その目は、今すぐにでもお前を叩き潰してやるから覚悟しろと訴えているようで、まるで恋をした乙女が恋人を違う相手に取られて、睨むようなそんな目だったのだ。

 

 だが、ダージリンがみほと隊長同士の話している時は少し顔を赤らめ、みほを見る目は間違いなく恋する乙女そのものだった。

 

 何故、ダージリンが私を目の敵にするのかが分からないが、センチュリオン三両にコメット巡航戦車三両の相手をするのはかなりキツイ状況だと理解したのだ。

 

 

 

 

 

 やはり、みほさんと久しぶりに話すのは嬉しくもあり、黒森峰との練習試合以来だった。それでも、決勝戦での勇敢さと優勝より人命を優先した事に体中に稲妻が走る衝撃だった。そう、その衝撃は恋だった。そう、わたくしはみほさんに恋をしたのだ。それ以来、どんなに優れた殿方よりも、西住みほの存在が愛しく思ってしまったのだ。

 

 すぐさま、アッサムを黒森峰に送り調べさせて知ってしまったのだ。

 

 西住流の破門と転校する噂に・・・・

 

 それは、アッサムを通じて直ぐに耳に入った。

 

 生徒会を操り、どんな手を使っても構わないから、みほさんを聖グロリアーナ女学院に編入させようと手を尽くしたが、大洗女子学園に転入を済ませた後だったのだ。

 

 それでも、みほさんが愛しかった。アッサムが戻るまでの間、あまりの愛しさのあまり、入浴後のオレンジペコにみほさんの髪形にして替わりに愛でた事もあった。それが、オレンジペコに何時もと違う髪形だと判ると怒って粉末の紅茶にされる事もあった。

 

 でも、オレンジペコを抱いても心が満たせなかった。

 

 いや、みほさんの替わりにはならなかったのだ。

 

 みほさんが欲しい・・・・

 

 ところが、わたくしの逆鱗に触れる存在がいたのだ。

 

 それは、黒森峰に潜伏するアッサムから、彼女の側にいる二人の存在を知ったのだ。

 

 黒森峰の狂犬、逸見エリカと黒森峰の与一、赤星小梅の存在に・・・・

 

 黒森峰から戻ったアッサムから数枚の写真を渡され、それを見たわたくしはショックでティーカップを落とすほどの衝撃だった。

 

 落ち込み、俯くみほさんをまるで好きな人に懸命に尽くすような優しさで世話をする逸見エリカと赤星小梅だったり、そこまで、詳細に写真を撮る必要は無かったのに寮の寝室で三人で抱き合いながら眠っていたり、逸見エリカがみほさんの抱きまくらにされたりと・・・・・写真を見るだけでキリが無かった。

 

 世話をするだけなら良いかもしれなない。

 

 だけど、みほさんの笑顔は全て二人に向けていたのだ。そして、その笑顔を見て笑顔で返す二人。

 

 許せないと思ったのだ。

 

 わたくしには許せないのが二つ出来たのだ。

 

 一つはみほさんの笑顔を独占する逸見エリカの存在だった。

 

 もう一つはみほさんをイジメ抜いた黒森峰のやり方だった。

 

 それからのわたくしの行動は早かった。隊長だったアールグレイから隊長を任されるとまず、戦力増強を理由にOG会とOB会を説き伏せてチャーチルMkーⅦからブラックプリンスに切り替え、クルセイダー乗りから武装の強化を求められた為に更に強力なコメット巡航戦車に切り替え、マチルダ歩兵戦車から17ポンド砲搭載型のセンチュリオン増加試作A41型を導入に踏み切ったのだから。

 

 乙女のわたくしなら、打倒逸見エリカであり、戦車道のわたくしなら打倒黒森峰なのだと・・・・

 

 

 そして、今日は・・・・

 

 目の前には、逸見エリカがいたのだから。

 

 ティーカップを片手に指示を出す。

 

 「全車、前進。大洗女子学園に敗北の二文字を刻みなさい」

 

 前進する、六両の戦車達。

 

 一糸乱れぬ隊形はある種の美しさを醸し出す。

 

 例えるなら芸術だろうか?

 

 そして、この時だけは美しく優雅に紅茶を・・・・・

 

 ズッドン・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒュルルル・・・・ズッガァァァン

 

 「!?」

 

 『ダージリン様、済みません。センチュリオン三号車やられました!』

 

 カッシャン

 

 いきなりの砲撃と砲弾の落下音を聞いたと思った瞬間、エンジンルーム辺りに直撃を受けて行動不能になったセンチュリオン三号車

 

 砲撃の音は遠かった。

 

 一体、何処から?

 

 しかし、降り注いでいるのは等間隔で落下してくる榴弾

 

 その中の一発がセンチュリオンに命中したのだ。

 

 それに驚き、ティーカップを落としてしまったのだ。

 

 「おやりになりますわね・・・」

 

 「ダージリン様、ピンチじゃないですか?」

 

 「ペコ、この言葉知ってる?」

 

 「はい?」

 

 「人間は負けたら終わりなのではない。辞めたら終わりなのだ」

 

 「元アメリカの大統領、リチャード・M・ニクソンですね」

 

 「全車、散開」

 

 これ以上、砲撃に晒されたら・・・・・

 

 全車に榴弾の標的になるのを避けるために散開する様に命令したのだ。

 

 「えっ?ダージリン様、砲撃が・・・・」

 

 「止まったの?」

 

 嫌な予感がして、ぺリススコープを覗くと追撃を掛けるように両脇の崖を疾走して下り二両の戦車が突撃して来たのだ。

 

 「迎撃」

 

 しかし、コメット巡航戦車に砲撃して離脱を図る二両の戦車。

 

 ローズヒップが乗るコメット巡航戦車に砲弾が命中するが弾くだけだった。

 

 しかし、コメット巡航戦車の部隊はローズヒップのコメットを先頭に二両の戦車を追撃したのだ。

 

 「追撃しますわよ!聖グロの韋駄天、ローズヒップの乗る戦車より速いですの!」

 

 「ローズヒップ、罠よ戻りなさい」

 

 聞く耳も持たずに二両の戦車を追撃して追って行ったのだ。

 

 「全車、追撃」

 

 仕方なく、追撃したのだ。

 

 スピードの差が在った為にコメットが見えなくなり、山岳地帯を抜ける頃には塗り忘れがあったのだろうか、一部ピンク色の白旗を上げたレオパルドと側面を撃たれた二両のコメット巡航戦車だったのだ。

 

 「ローズヒップ!」

 

 「ダージリン様、済みませんですわ。まさか、茂みにパンターとⅢ号突撃砲が隠れていたなんて・・・・残りのコメット巡航戦車には先行偵察を命じましたわ」

 

 結局、今の現状はセンチュリオンが一両がやられ、待ち伏せでコメット巡航戦車二両がやられた事になる。そして、こちらはレオパルドを一両だけ。

 

 先行したコメットにより新たな情報がはいる。

 

 「大洗の主力を発見しまた!数は三両、ティーガーⅡとパンターにレオパルドです。向かう方角は市街地です!ただ、Ⅲ号突撃砲とティーガーⅡがいません!」

 

 わたくしは考える。

 

 待ち伏せしているのはティーガーⅡとⅢ号突撃砲のみ。なら、残りの三両で撃破は出来るかもしれない。

 

 キューポラから身を乗りだし周りを見渡す。

 

 雑木林の一部がおかしい事に気付いたのだ。

 

 あそこは雑木林なのに何故、藁が積まれているのだろうかと?

 

 「うふふ、あれは無いですわね。アッサム、3時方向に積まれている藁に砲撃」

 

 「はい、ダージリン様」

 

 「装填完了です」

 

 「撃て」

 

 センチュリオンの主砲が火を噴いたのだ。

 

 藁を吹き飛ばし、直撃したのはⅢ号突撃砲だった。

 

 藁ではなく、枝や葉っぱだったら間違いなく分からないまま待ち伏せされていただろう。

 

 ある意味、相手のミスで助かったとわたくしは思う。

 

 しかし、ティーガーⅡとレオパルドにパンターの三両は市街地に逃げられた事になる。地の利は当然ながら大洗にある。しかし、こちらもセンチュリオン二両に先行偵察しているコメットがいる。確か、レオパルドは50ミリ戦車砲だったはずで、怖いのはティーガーⅡの主砲だけだ。こちらは三両とも17ポンド砲搭載型で・・・・・。

 

 やる事は一つしか無い。

 

 「全車、市街地に進撃。コメットは市街地入口で合流しなさい」

 

 市街地へと進路を変えて追撃したのだ。

 

 ただ、遅れて来るだろう、ティーガーⅡを迎え撃つために・・・・・

 

 

 

 

 

 少し遡る事、ダージリンに睨まれ後は全身から汗が一気に滲むような感覚だった。

 

 私はダージリンに何かしたのだろうか?

 

 いや、それよりも聖グロリアーナ女学院の戦車の編成に対処しないといけない。普通ならチャーチルとマチルダだが、今回はセンチュリオンとコメットの編成だ。両方とも硬い上にコメットに至っては足が速い。とにかく、最終的には市街地戦で決着を付けられるようにしないといけない。

 

 「みほ、どうするの?」

 

 「う~ん、作戦通りに榴弾による長距離射撃で足止めして、各ポイントでの待ち伏せして数を減らして行きます」

 

 「作戦名はどうする?」

 

 「正面から戦わないでコソコソしながら戦うので『コソコソ作戦』です」

 

 「全く、相変わらずのネーミングセンスね」

 

 「いま説明した通りです!私とエリカさんで射撃ポイント102ポイントに展開しますので、内法さん、澤さんのレオパルドは観測ポイント303と403ポイントへ急いで急行して観測を開始して下さい。残りは格待ち伏せポイントまで急行します!全車、パンツァーフォー!」

 

 全車が散開して格ポイントへと急いだのだ。

 

 私のティーガーⅡとみほのティーガーⅡは射撃ポイントへと急いだのだ。そこは、榴弾を射撃する上で足りない射角を確保できる法面があるからだ。

 

 『こちら、内法です。ポイントへ到着しました。観測開始します』

 

 『こちら、澤です。ポイントへ到着しました。観測を始めます』

 

 『了解しまた。まず、ポイント五番へと砲撃をしますので観測距離報告お願いします』

 

 二三分しないで二人から通信が入ったのだ。

 

 『観測完了しました。距離2250』

 

 『こちらも完了です。距離2210』

 

 「小梅、40mほどズレがあるけど大丈夫なの?」

 

 「散布界の範囲だから大丈夫だよ。だだ、相手に散開されたら厄介かも」

 

 「そうなったら、みほの作戦の第二段階ね。レオパルドが走行間射撃しながらコメットに突撃して本隊から切り離すわ。まぁ、上手く行けば良いけどね」

 

 「エリカちゃん、来たようだよ」

 

 『センチュリオンがポイントに入りました。四秒間隔で射撃します。エリカさん、射撃準備」

 

 「みほ、準備できてるわよ」

 

 『砲撃始め!』

 

 ティーガーⅡ二両よる、榴弾射撃が始まったのだ。レオパルドからの無線は小梅に直に入るようにしてある。レオパルドから修正補正が無線から滞りなく入ってくる。

 

 「おっ、重い~」

 

 ただ、河嶋さんの力の無さに呆れてはいるが・・・・

 

 88ミリや75ミリの砲弾ならまだ優しいと私は思う。私が装填手だったときはヤークトティーガーやマウスの128ミリ戦車砲の砲弾を毎日を装填していたのだ。それと比べたらまだ優しいと思う。

 

 今更、嘆いてはいられない。

 

 「河嶋さん、代わるわよ!」

 

 「済まない・・・」

 

 「少し休んで、腕を冷やしなさい」

 

 革手袋を嵌めて、砲弾の装填に勤しんだのだ。

 

 「あれ?装填が速い・・・・あっ、エリカちゃんだったの?」

 

 「河嶋さんが今さっきダウンしたわよ。今、休ましているわ」

 

 「あっ、エリカちゃん、みほちゃんから通信だよ」

 

 「センチュリオンを一両撃破してポイントは通過されました。内法さん、澤さんは作戦の第二段階です。『おちょくり作戦』開始です。コメットに砲撃して本隊から引き離して、待ち伏せポイントまで誘導して下さい」

 

 「「「「了解」」」」

 

 じゃあ、私達は次のポイントへ移動ね。

 

 「途中、Ⅲ号突撃砲と合流したら市街地入口まで移動するわよ」

 

 私達が移動する間に、レオパルドの内法と澤さんは本隊からのコメットの引き離しに成功してパンターとⅢ号突撃砲が待ち伏せしている所に誘導して二両を撃破したが澤さんのレオパルドが残りのコメットに追われて砲撃され撃破されたのだ。残った、コメットは全速で逃げられ、逃げたコメットの方向によって、みほの本隊が市街地入口付近で見つかってしまった。

 

 悪い事は続き、雑木林で待ち伏せしていたⅢ号突撃砲が撃破された事がわかり、センチュリオンを追う形で私のティーガーⅡは市街地に向かい、途中の雑木林にはⅢ号突撃砲が偽装を間違えて撃破されたが判ったのだ。

 

 結局、私と後ろから挟撃する予定のⅢ号突撃砲とレオパルドが撃破され、単独で市街地に向かったのだ。

 

 市街地に通じる県道には、コメットとセンチュリオンの三両が合流していた。距離に換算さして約2000mほどだ。キューポラから身を乗りだし、足の速いコメットに狙いを定めたのだ。

 

 「小梅、コメットを狙うわよ。射撃準備して、小山さんは戦車停車・・・・」

 

 「おっ、重い!装填よし」

 

 「エリカちゃん、照準いいよ」

 

 「撃て!」

 

 しかし、それは罠だった。命中したのはコメットではなくセンチュリオンだったのだ。コメットが下がる事でセンチュリオンの正面装甲で弾かれたのだ。

 

 距離、2000mでは遠かったのだ。

 

 「チィ!戦車前進!一両破壊したら離脱するわよ!装填、急ぎなさい!」

 

 気付かれていたのだ。

 

 いや、最初からダージリンは私が出て来るのを狙っていたのだ。

 

 そう、試合前に言った事を有言実行するために・・・・

 

 「小山さん、車両を1時方向へ、小梅、12時方向に向けて!」

 

 「まさか・・・・・・エリカちゃん?」

 

 「久しぶりに狂犬らしく、殴り合うわよ。角谷さん、みほに無線で合流は出来ない。と入れて!」

 

 「任せて~」

 

 「じゃあ、行くわよ!」

 

 ティーガーⅡ一両でセンチュリオン二両とコメット一両の三両と殴り合いをしたのだ。

 

 無謀だろう。

 

 だが、みほならその意味を理解して逆に挟み撃ちができるはずだ。

 

 たけど、こちらが一発撃つ間に何度も砲弾がノックしていくのだ。コメットを狙うにしてもコメットはセンチュリオンを背に隠れて砲撃して来るために狙いはセンチュリオンになってしまうのだ。

 

 「きりが無いわね-・・・」

 

 ガッン、ガッン、ガッン

 

 「ティーガーⅡの正面装甲は抜けないわよ!小梅、何とかセンチュリオンを一両を黙らせられない?」

 

 「この距離だと弾かれるかも」

 

 「なら、正面向けて進んでみたら?」

 

 「角谷さん、それこそ危険だよ」

 

 「なんで?」

 

 「正面に砲塔を向けたらショットトラップを狙われます。それに、ノーブルシスターズのアッサムは砲手の腕は確かだから、確実にショットトラップを利用してくるよ」

 

 「小梅の言う通りよ」

 

 「でもさ、今の状況にラチが開かないよ?」

 

 確かに、小山さんの言う通りでもある。

 

 どうする?

 

 そんな時だった。

 

 「えっ?コメットがやられた?」

 

 コメットの側面が撃たれ、白旗が上がったのだ。しかし、センチュリオンはその方向に反撃しているのだ。

 

 一体どこから?

 

 『エリカさん、お待たせしました』

 

 「みほ、ゴメン!」

 

 しかし、みほの挟撃にも対応してレオパルドが真っ先に撃破され、バレー部のパンターも履帯を狙われ、履帯を破壊するともう一両のセンチュリオンでパンターまでもやれたのだ。本気のダージリンの指揮の高さに舌を巻いたのだ。

 

 残りは二対二

 

 なら、私はみほの作戦に従うだけよ。

 

 

 先に動いたのはセンチュリオンだった。

 

 私を狙うあたり、ダージリンだと判る。

 

 正面から突っ込んで来たのだ。

 

 「ダージリン、正気なの!」

 

 ティーガーⅡの正面にぶつけると、主砲をティーガーⅡの主砲の防楯の下にねじ込んだのだ。

 

 これはで、嫌でもショットトラップが起きる。

 

 私は叫んだ。

 

 「小梅!」

 

 ティーガーⅡの主砲もセンチュリオンの主砲の下に入り込んでいたのだ。

 

 二両の戦車の主砲が同時に火を噴いたのだ。

 

 爆煙につつまれた。

 

 白いはたが立ったのは私のティーガーⅡとダージリンのセンチュリオンだった。

 

 そして、みほもセンチュリオンの側面に体当たりしてゼロ距離から主砲を放ち撃破したのだ。

 

 

 『聖グロリアーナ女学院全車戦闘不能!よって、勝者県立大洗女子学園!』

 

 私達は聖グロリアーナ女学院に勝ったのだ。

 

 そして、通信手にして生徒会長の角谷杏さんが黒い笑みを浮かべていたのだった。

 

 「さて、聖グロリアーナ女学院にも罰ゲームを受けて貰おうかな?」

 

 今の呟きに私は聞かなかった事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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練習試合の後と新たな出会い

 たくさんのお気に入り登録ありがとうございます。


 

 練習試合も終わり、私の乗ったティーガーⅡはそのまま修理業者に運ばれ修理することになったのだ。それは、現状を見た自動車部の話では砲塔のターレットリングが酷く歪み学園では直せないらしい。一応、黒森峰でも使っている業者なので大丈夫だろう。

 

 それだけ、ゼロ距離射撃の衝撃が凄かったのだ。

 

 だけど、相打ちだったダージリンのセンチュリオンも主砲が裂けており、ターレットリングが歪むほど酷かったのだ。

 

 当の本人は角谷会長の黒い笑みの餌食となり、今頃はステージであれを踊る事になったのだ。

 

 

 そう、角谷会長は

 

 「やあぁ、ダージリンさん、挨拶してるのに流石に無視は無いよね?そうだ、ちょうど街上げての交流会だからステージの踊りを頼んでも良いかなぁ?」

 

 「えっ?聞いておりませんが・・・・」

 

 「戦車道は礼に始まり礼に終わるだよね?なら、当然だよね?」

 

 あの、ダージリンに有無も言わせなかったのだ。

 

 ダージリン達は仕方なく踊る事になったのだ。

 

 恥ずかしいあんこう形をしたピンク色のタイツ衣装を着てステージで踊る、ダージリン達をしり目に私達は負けなくて良かったとみほと一緒に見ていたのだ。

 

 顔を真っ赤にしながらステージであんこう踊りを踊るダージリン達を含む、聖グロリアーナ女学院の戦車道の生徒一同。

 

 もしかしたら、あのステージに立っていたのは私達だったかも知れなかったのだ。

 

 「ねぇ、エリカさん?」

 

 「どうしたの?みほ」

 

 「私が乗る車両にはあんこうのエンブレム書いても良いかな?」

 

 「どうしてなのよ?」

 

 「もしかしたら、負けたのは私達だったかも知れない。だから、それを忘れない意味を込めたいの」

 

 「別に良いんじゃない?みほが隊長なんだからさ」

 

 「うん、エリカさんありがとう・・・・」

 

 視線を感じて感じた方にはダージリンが何故かハンカチを噛みながら踊っていたのだ。

 

 私の前でクルリと周り、満面の笑顔のみほ。

 

 「エリカさん、じゃあ行こうか?」

 

 そうだった。

 

 忘れていたのだ。

 

 今日のラスボスはダージリンではなく、みほだったのだ。

 

 これから、ボコミュージアムに行かなくはいけないのだ。

 

 うん、諦めよう・・・・・・

 

 「車を借りて来るわ」

 

 「うん」

 

 くろがね四起(四人乗り)を借りて向かったのだ。

 

 

 

 そして、運転しながら思い出したのは私がみほとまほと出会い、ボコを初めて知ったのは幼き日の熊本だった。

 

 あれは忘れもしない雨が止んだ後だった。

 

 あの日はいつものお気に入りのフリルの着いた白いワンピースを着て麦わら帽子を被りワニの人形を抱きしめながら歩いてる時だった。一台の自動車が通り過ぎ、もう一台の自動車?いや、Ⅱ号戦車が物凄いスピードで通り過ぎたのだ。

 

 「お姉ちゃん!行け、行け!」

 

 「よし、みほ飛ばすぞ!」

 

 バッシャ

 

 私の全身は跳ねた泥水で泥だらけだったのだ。お気に入りのワンピースと人形の酷い惨状にショックで泣き出したのだ。

 

 「うっ、うぇぇぇぇぇん!?」

 

 泣き出した私にみほが気付いたのだ。

 

 「お姉ちゃん、止まって!」

 

 「どうした?」

 

 Ⅱ号戦車が止まり、みほとまほが降りて来たのだ。

 

 「ねぇ、大丈夫?」

 

 みほが声を掛けて来るが、私は泣いたままだった。

 

 「うぇぇぇぇん!?」

 

 「済まない・・・」

 

 「ごめんなさい・・・・」

 

 二人が謝って来るけど、素直になれないで言ってしまったのだ。

 

 「ひっくぅ・・・・許さないもん!子供だけで、戦車に乗ってるの先生に言い付けてやるんだから!」

 

 そのあとは、まほに手を繋がれて公園まで連れて行かれたのだ。

 

 「一先ず、泥を落とそう」

 

 「お姉ちゃん、水を掛けて洗ったら速いよ!えっぃ!」

 

 みほは考え無しに水道に繋いだホースで私に水を掛けたのだ。

 

 バッシャァァァァ

 

 「!?」

 

 「落ちたから・・・・」

 

 バッシャァァァァ

 

 「落ちたって言ってるでしょ!」

 

 ベッチィィィン

 

 私はワニの人形をみほの顔面に投げ付けたのだ。ぶつかった衝撃でみほのバッグから落ちたのは包帯の巻かれた熊のぬいぐるみだった。私は腹いせにそのぬいぐるみを地面に叩き付けてぼこぼこに殴ったのだ。

 

 「こんな、ぬいぐるみ殴ってやるんだから!」

 

 ところが、みほはそのぬいぐるみがボコボコになる姿を見て、瞳を輝かせ見ていたのだ。

 

 「うっわぁぁぁ、ボコがぼこぼこだぁぁ!」

 

 「えっ?」

 

 私はみほの一言にフリーズしたのだ。

 

 何故、ぼこぼこにされると喜ぶの?

 

 普通は大切なぬいぐるみだから、泣くはずなのに・・・・

 

 まほが、申し訳なさそうにタオルを持って来たけど、みほの暴走は止まらなかった。

 

 「済まない、濡れたままだと風邪引くからタオルで・・・・」

 

 バッシャ

 

 「「!?」」

 

 みほはあろう事か、私とまほにバケツで水を掛けたのだ。ずぶ濡れになる私とまほ。

 

 「何すんのよ!」

 

 「あっはははは!えっぃ!」

 

 バッシャ

 

 みほは自分で水を被ったのだ。

 

 「これで、みんな一緒だね?」

 

 「ふぅ・・・うっぷぅ・・」

 

 「仕方ないんだからね!・・・うっぷ・・・・」

 

 「「「あっはははは・・・・」」」

 

 みほの呆れた行動に一斉に吹きだし、三人で笑い合ったのだ。そして、濡れたままだと風邪引くからとまほに言われ、近くまで送って行く事になったのだ。

 

 「ヤッホー!」

 

 「いっ、イヤァァァァァァ!?」

 

 Ⅱ号戦車の砲塔の上に乗る、私とみほ。猛スピードの中を笑いながらみほは楽しみ、私は顔を真っ青にして怖さから絶叫していたのだ。

 

 そして、近所まで来ると止めて貰い降りたのだ。みほに感想を聞かれたけど私は髪はボサボサで体がボロボロだった。でも、本当は楽しくて良かったのに私は・・・・・

 

 「どう、だった?」

 

 「せっ、戦車なんて・・・・大っきらいよ!うっわぁぁぁぁぁん!?」

 

 そんな気持ちを認めたくなかったから泣いて二人から逃げるように帰ったのだった。でも、それがみほと長い付き合いになるとは今でも懐かしく思えるのだ。

 

 

 

 

 「懐かしいわね・・・・」

 

 「エリカさん、何が懐かしいですか?かなり、にやけてましたが?」

 

 「そうね。みほと初めて会った時の事を思い出していたのよ」

 

 「えっ、中学だったかな?」

 

 「違うわよ!忘れたとは言わせないわよ!ワニの人形を抱いた女の子を覚えて無い?」

 

 みほに聞いて見たのだ。多分、覚えていないと思うが、黒森峰でも隊長とみほの会話でも何回か話に出ていたけど不安だった。みほは申し訳なさそうに答えたのだ。

 

 「もしかして・・・・あの時のツンデレの女の子?」

 

 「そうよ」

 

 「じゃあ、ロリータファッションはあの頃からだったんだね」

 

 確かに、みほと隊長には思い出して欲しくてロリータファッションをしていたけど・・・・

 

 グッサァ

 

 みほに思い出して貰えたが、何かを失った様なそんな気がしたのは気のせいだと思いたい。そして、胸に何か突き刺さる様な痛みは何故だろう・・・・

 

 そして、ボコミュージアムに着いたのだ。

 

 ボコミュージアムは大洗町の郊外にある総合アミューズメントセンターでもあり、ボコをメインにしたテーマパークである。しかし、現物を見るまでは

 

 「かなり、建物がボロボロね」

 

 「うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!ボコミュージアムだぁぁ!」

 

 みほはボコミュージアムを見て、戦車道では見せない満面の笑みを浮かべながらハイテンションになっていたのだ。そして、気になるのは私達の他に駐車場にロールスロイスが一台止まっていたが、私が考える暇さえなくみほに中へと連行されて行ったのだ。

 

 「さぁ、行くよ!」

 

 「ちょっと、みほぉぉぉ!?」

 

 みほに有り得ない力で引っ張られて中に入ると、入口にはボコの等身大があり入場者を迎える。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁ!?エリカさん、見てよ!等身大のボコだよ!」

 

 最早、手の付けようがない状態のみほ。ここまでになると諦めるしかないのだ。それは、中学から付き合いだから何となく判る。これから、私の身に起こることも・・・・・

 

 私は、みほに嬉しさのあまり首に抱き着かれ体を揺さぶられる状況だった。

 

 「グッエェェ!?みほ、首が締まるわよ!」

 

 「しゅごぉぉい!ボコだよ!ボコがいっぱい居るんだよ!アァァァァ!」

 

 「だから、首を締めないでぇぇぇ!?」

 

 抱き着くのは構わないが、首を絞めないで欲しい。

 

 一瞬だけど、川の向こうに花畑が見え、川と川辺に積まれた石が見えた気がしたのだ。

 

 超ハイテンションのみほにズタボロにされながらも、ボコワールドをまわり、スペースボコワールドを見学し、最後に辿り着いたのはショーをするための劇場だった。

 

 劇場の椅子には一人の少女が居たのだ。髪の色は私と似ており顔付きは以前見た記憶があるが思い出せなかった。

 

 「隣、良いかな?」

 

 「うん・・・・」

 

 みほは少女に話掛けると、少女は頷くだけだった。

 

 私も少女に袖を引っ張られる形でみほと少女に挟まれる形で座りショーが始まると、既に二人の瞳は輝いており、この少女もかと内心突っ込みを入れていた。

 

 「ボコ、頑張れ!」

 

 「ボコ、頑張れ!」

 

 二人は既に意気投合してボコを必至に応援したのだ。

 

 しかし・・・・・ボコがライバル猫にぼこぼこにされると・・・・

 

 「「あっ、あぁぁぁぁぁぁ!?しゅごぉぉいよ!ボコの腕が有り得ない方向に曲がったぁぁぁ!それでも、立つよ!ボコ、頑張れぇぇぇ!」」

 

 「グッエェェ!?ちょっと、首が締まってるわよ!みほ、お願いだから胸を顔に押し付けないでよ!・・・・・・・・・・・ぐるしいぃぃ・・・・・・・・」

 

 二人してボコハイによる興奮状態でハァハァしながらも、この状態までも二人は一緒なのだ。そして、私に抱き着くのも同時で少女には首を絞められる様に抱き着かれ、みほには胸を顔に押し付けられた状態で二人はボコを応援したのだ。

 

 私は息が苦しくなって来ると、意識が遠くなって落ちたのだった。

 

 気がつくとショーは終わっており、みほに膝枕をされていたのだ。抱き着いた少女も私を見て申し訳なさそうに見て居たのだ。

 

 「エリカさん、大丈夫?」

 

 「まぁ、何時もの事だからなんとかね」

 

 「あの・・・ごめんなさい・・・・」

 

 「別に気にして無いわ。ところで、あんたの名前は?」

 

 「島田愛里寿・・・・」

 

 名前を聴いて判ってしまったのだ。私と同じ色のライトグレーの髪にあの目付きはやはり・・・・

 

 「まさかだけど、島田師範の娘さんなの?」

 

 「うん・・・」

 

 「私は逸見エリカよ」

 

 「私は西住みほだよ」

 

 「西住・・・・みほは西住流の?」

 

 「元かな。愛里寿ちゃん」

 

 「ねぇ、みほ。学園艦は来てるの?」

 

 「えっ?どうしてなの?」

 

 「ママに大洗女子学園に行けって言われたの・・・・」

 

 「来てるわよ。何なら、お土産を買ったら家に来る?」

 

 「うん、行く・・・・」

 

 お土産を買い、駐車場に行くと私達の車には何故か大きなバッグが三つも積まれていたのだ。そして、駐車場に止まっていたロールスロイスから降りて来たのは一人の女性だった。

 

 「あっ、ママ」

 

 「エリカ、久しぶりね」

 

 「島田師範・・・」

 

 「それに、西住みほさんですね?」

 

 島田師範だったのだ。

 

 「はい、西住みほです」

 

 「そう、茜としほりんから聴いているわ。そして、西住流を破門された事も・・・・」

 

 「えっ?しほりん?あっ・・・・・・」

 

 私は一瞬、みほを守るために構えたが・・・・

 

 「エリカ、構えなくても大丈夫よ。それに、しほりん・・・こっほん、西住師範から面白い反応が見られたからね」

 

 「えっ?お母さんに?」

 

 

 

 

 そう、博多の屋台の駆逐戦車おでんは私達が唯一、邪魔されずに娘の話や愚痴を零す場所だった。良く、集まるメンバーはしほりんに私、茜に弘子だったりする。時々、しほりんの門下生の蝶野や私の門下生の馬鹿三人組も来たりする。

 

 「ちよきち、聴いてよ。まほが全然、話し相手をしてくれないのよ」

 

 「黒森峰があんな風になったら、忙しくて無理じゃないの?」

 

 「私は悪く無いもん。ただ、みほと逸見を破門にしただけよ?」

 

 最近、黒森峰の戦車道の生徒が転校が目立ちすぎるのは、今までは目を光らせていた逸見エリカと西住みほ、赤星小梅が居たからいじめがあまり無かったらしい。ところが、決勝の敗北の責任を副隊長のみほに押し付けただけでなく、酷いいじめと嫌がらせからみほさんは疲弊と衰弱が要因となり、三人が一気に転校し抜けた為にブレーキが効かなくなり、いじめが内部でエスカレートしたのだ。そして、転校の拍車を掛けたのはマウスの暴発事故だった。それにより、内法泰子、藤木月乃が転校。藤木月乃は運良く、ゴーグルをしていた為に失明せずに済んでいたが左腕に火傷をしている。だから、最初の三人が抜けたのが原因かもしれない。

 

 「あなたねぇ、みほさんがした事はあなたの西住流を守っただけでなく、私達の戦車道までも守ったのが分からないの?」

 

 「そんな事ぐらい判っているわよ!みほに守られた事ぐらい!でもね、認めてしまったら他の門下生に示しが付かないのよ!私だって、苦しいのよ!だから、みほを守る為に破門にしたの。そして、逸見さんには悪いと思ったけど、あの状態のみほを任せられるのは逸見さんと赤星さんしか居なかった。汚れ役は私とまほで充分なのよ!おじさん、日本酒頂戴!」

 

 全く、不器用過ぎるわよ。

 

 「じゃあ、みほさんが戦車道を再び、始めたのは知っているかしら?」

 

 「ちよきち、冗談は顔だけにしてよ。嘘よ。今のみほにそんな勇気はないわ。」

 

 「本当よ。しかも、騙されて買わされたレギュレーション違反の戦車を一部を除いて戦車を直して使用しているわ。今年の大洗は手強くなるわよ。なんだって、私達があの頃に対黒森峰対策で考え抜いた戦車ばかりだから」

 

 「本当なの?」

 

 「車両は教えられないわ。ただ、西住流と島田流の両方の作戦が組みやすいかもね。特に、みほさんなら」

 

 「なら、勘当を言わないといけないわね」

 

 「この、脳筋馬鹿!そんなことしたら間違いなく娘の二人に嫌われるわよ。特にまほさんに面と向かって大っきらいって言われて、妹を追って転校しちゃうかもね?特にまほさん、みほさんが大好きだもんね♪」 

 

 「そっ、それだけはいやぁぁぁぁ!?娘に嫌われたら・・・・うわぁぁぁぁん!?」

 

 一升瓶を抱きながら泣きわめくしほりん。

 

 だけど、みほさん、エリカ、小梅ちゃんは間違いなく強化選手になる逸材だ。

 

 他にも、弘子を通じて大洗女子学園の戦車道の選手の名簿を見て感じたが訓練次第だが、冷泉麻子、五十鈴華、秋山優花里、武部沙織はみほさんと一緒のチームなら強化選手候補いや強化選手に化けるだろう。

 

 ある意味、大洗女子学園はダイヤの原石の宝庫だったのだ。

 

 私としては大洗は島田流の息のかかる学園にしたいのだ。一応、聖グロリアーナ女学院も同じだが、両校は私の母校だからだ。

 

 黒い話、磨けば光るダイヤの原石を見逃すほど私は甘くない。これから発展していく島田流には必要な人材だから・・・・・・

 

 そんな事も分からない、しほりんに呆れつつ止めを刺そうか・・・・

 

 「ねぇ、まだ本人には言ってないんだけど、みほさんと逸見さん、赤星さん他にも大洗女子学園の生徒を私の門下生に迎えても良いかなぁ?破門にしたんだから良いよね?」

 

 「みほと逸見、赤星はダメだぁぁぁ!特にみほは私の娘よ!いくら破門にしても・・・・」

 

 「家元が破門を言った意味判る?みほさんの未来をしほりんが奪ったのよ!はっきり言うわよ!母親失格よ!それに、強化選手の条件は流派の家元の推薦が必要なのよ!破門を言ったしほりんにみほさんを推薦する資格はないわ。だから、私が育てるわ。私の門下生として・・・・・・」

 

 「ひっくぅ・・・・みほ、ごめんなさい!うわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 しほりんは泣き崩れたのだ。

 

 しほりんは娘を破門にした事の重大さに気付いたが全てが遅すぎたのだ。

 

 事の重大さをエリカ達に隠しつつ話したのだ。

 

 

 

 

 

 「って、感じに泣いて居たかな?」

 

 それを聴いた私は、あの西住師範を泣かす島田師範が怖くなったのだ。

 

 「でも、実は言うと私は表立って教えられない。西住流とは喧嘩をしたくないからね。だから、こう考えたの。私がダメなら、娘を生徒として送ればいいとね。愛里寿ちゃんは丁度、門下生との試合で怪我して三ヶ月ほど寝込んでいたから進学してないのよ。学園長との話し合いで入学式を逃したけど、一年生として飛び級して転入する事になったわ。住む場所も茜に頼んでアパートもエリカ達の部屋だからよろしくね」

 

 「えっ?」

 

 「エリカ、みほさん、私の島田流に門下生になる、ならないはまだ、答えなくて構わないわ。だから、ゆっくり考えなさい。自分はどうしたいかを答えが見付かったら力を貸すわ」

 

 

 島田師範はいろんな爆弾を投下して帰ったのだ。

 

 まずは、爆弾を解体、もとい島田師範の言葉を整理しよう。

 

 私とみほ、小梅は島田流で育てるらしいが答えはゆっくり考えてからにする。

 

 直接、教えられないから代わりに娘の愛里寿を師範の代役として学園に編入させた。

 

 

 考えてみると、いろんな意味で大変だとわかる。いや、考えるのを手放したと言った方が正解だろう。

 

 それにしても、みほの実家は今頃、大変な事になっているのが判ってしまったのだ。

 

 

 私は学園に戻る為、埠頭に急いで戻ったのだ。車は学園艦でも返却出来る為、バイパスから入ると風紀委員会が居たのだ。

 

 「ちょっと、待ちなさい!」

 

 風紀委員会に止められる私。

 

 「何よ」

 

 「免許も無いのに車を乗っているの?校則違反よ!」

 

 「免許なら有るわよ。はい、これ」

 

 私はポケットから免許証を纏めた手帳を渡したのだ。一応、黒森峰に居た時に普通免許からヘリコプター、大型特殊、セスナ、危険物取り扱いなど戦車道に関わる資格を全て習得したのだ。そして、大洗女子学園に来ても資格だけは更新してある。みほや小梅も大型特殊と危険物取り扱いだけは更新させている。

 

 「有るわね・・・・」

 

 「じゃあ、行くわよ」

 

 これからの生活に不安を覚えつつ、自宅への足取りはとても重く感じたのだった。助手席と後ろの座席にはみほと愛里寿がボコを抱きしめ寝息を立てて眠っていたのだった。

 

 




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英国流淑女?のおもてなしと交流会


 黒いオレンジペコさん登場です。


 

 

 今、大洗の港は大忙しである。

 

 理由は大洗を母港とする大洗女子学園の学園艦と隣には横須賀を母港とする聖グロリアーナ女学院の学園艦が並んで停泊している。そして、港では両方の学園艦に補給作業で大量の大型トラックや大量の燃料を積んだタンカーが押し寄せているのだ。

 

 通常で補給作業が終わるのは約二週間程度で終わる。

 

 特に聖グロリアーナ女学院の学園艦は大洗女子学園の学園艦より大型であるため補給作業は戦場である。因みに、国内最大級の黒森峰の学園艦の補給作業は約三週間程度で終わるがこれでも昼夜問わず行われてだ。 

 

 

 その間、学園同士で交流会が盛んに行われるのだ。

 

 そして、私達のアパートのポストにラブレター?いや、招待状が来ていたのだ。

 

 「エリカちゃんとみほちゃん宛に聖グロのダージリンから手紙が来てるよ!」

 

 「えっ?」

 

 「ダージリンさんから?」

 

 「うん、そうだね」

 

 手紙の内容はどうやら、私達を茶会に呼びたいらしい。呼ばれたのはみほのAチームと何故か私のBチームの二チームが呼ばれたのだ。

 

 しかし、戦車で来るようにとあるが、みほのチームのティーガーⅡは練習試合の後にエンジンが不調で点検整備中で使用出来ず、私のチームのティーガーⅡは練習試合で酷く損傷して修理業者に入院している。

 

 結論から言うと私達のチームに戦車が無いのだ。空きの戦車は在るが、使えるとすればパンターF型が二両とⅣ号戦車F2型しかないのだ。他にも空きの戦車はあるけど主砲の換装作業で主砲が付いていないのだ。

 

 「みほはどれを使うの?私はパンターを使うわ」

 

 「連携を考えたら同じ車両にしようかな」

 

 「みほ、待って。わたし、訓練にパンターを使うよ」

 

 パンターの選択に待ったを掛けたのはパンツァージャケット姿の愛里寿だった。この姿の時だけは恥ずかしがらずに普通に話せるのだ。

 

 「愛里寿ちゃん、パンター使うって誰と?」

 

 「わたし、自動車部の生徒で操縦が上手な人を見つけたの。最初はバレー部のチームでも良かったけど、何かと根性ってうるさくて指示が出しにくいから、自動車部の生徒を戦車道に誘ったらやるって言ってくれたの。だから、自動車部の生徒とチームを組むよ」

 

 「うん、分かったよ。じぁあ、私はⅣ号戦車を使うよ。愛里寿ちゃん、自動車部も初めてだから優しく指導してね」

 

 「うん、分かった。みほ、帰ったら一緒に劇場版を見てくれる?」

 

 「うん、見る!」

 

 どうやら、私と小梅は二人の餌食になる事が確定のようだった。既に小梅は意味を理解していたようで苦笑いをしていた。

 

 愛里寿が部屋に来てから、みほは更に明るくなったと思える。それは、ボコ友を得たからだけでなく同じ傷を負った仲間なのかも知れない。

 

 昨日、愛里寿が来た夜に学園に来た本当の理由を話してくれたのだ。

 

 去年の11月に愛里寿を隊長に執り行われた島田流の門下生を中心に組まれたチームとドイツのプロチームとで練習試合をしたらしい。しかし、結果は惨敗。相手チームの隊長は日本人とドイツ人のハーフでY・陽子・パイパーでドイツ系の重戦車を中心にしたチームらしい。

 

 試合の経過を話している途中は表情は苦しそうだったが私達の後学のために愛里寿のタブレットで試合の映像を見せてくれたのだ。

 

 はっきり言って、同い年の隊長とは思えない指揮だったのだ。ダージリンでは無いが『戦車に通れない道は無い』を具現化した作戦だった。

 

 歴史で例えるなら、アルデンヌの森の戦いを成功させたようなやり方だった。

 

 そう、愛里寿のチームに奇襲をかけるために普通なら戦車が進攻することを避けるような密度の高い森を抜けて来たのだ。

 

 それを、重戦車でやってのけたのだ。

 

 奇襲され、側面を叩かれた愛里寿達は一気に八割の戦力を失い、愛里寿も単騎で八両を倒したが、その時、既に遅く三十両有った戦車は愛里寿のセンチュリオンを残して全滅だった。

 

 結局、十五両の重戦車による集中砲火によりセンチュリオンは修理不可能レベルの大破をしており、センチュリオンの乗組員と愛里寿も全治二ヶ月の重傷を負う事になったのだ。

 

 今は愛里寿は選手として復帰したが隊長としての自信も無くし、自分が弱かったからと責める姿に荒治療ではあるが大洗に行かせたのだ。島田師範がみほ達に預けて元の可愛い娘に戻る事を信じて・・・・・

 

 そして、その間は学生生活を楽しみなさいとの親心も感じ取れたが・・・・・

 

 気にしないでおこう。

 

 私もドイツのプロチームの隊長が気になり調べたが、指揮能力は天才であり奇策を用いた作戦が得意らしい。だが、性格に難があって、必ず隊長車だけを残して全車両でゆっくりと痛ぶりと蹂躙するのが趣味らしい。愛里寿と同い年ながらプロチームの隊長である事に驚くが私は絶対に戦いたくないと思ったのだ。

 

 だが、それは後に悪夢となって実現する事は私達にはまだ知らなかった。

 

 

 私達はみほと小梅の三人で学園へと向かい、あんこうチームと何故か、私のチームはワニさんチームになっていたが小梅の話しだと、杏さんが電話でとうとう母親に話しを聴いたらしくて偶然にも娘の事でやけ酒中の西住師範と相席中だったらしい。そうしたら、西住師範の酔った勢いで私とみほ、まほの幼い頃の三人が入った写メが在ったらしく母親経由で杏さんに渡ったのだ。

 

 そして、幼い私が抱いていたワニの人形を見て

 

 「逸見ちゃん、ワニが好きならワニさんチームで良いよねぇ」

 

 とその場のノリでワニさんチームになったらしい。

 

 そして、乗る車両にステッカーで貼れるように何枚も作って在ったのだ。

 

 既にみほはあんこうチームのステッカーを貼り、Ⅳ号戦車を暖気していたのだ。私も仕方なく諦め、ワニさんチームのステッカーを貼り、暖気して行く準備をしたのだった。

 

 

 

 同時刻、聖グロリアーナ女学院の戦車道隊長室ではメイド姿でティータイムの準備をするメイドがいた。メイドは誰かが来るのが楽しみにしており、彼女達が来る前にいろいろと試そうとしていた。

 

 コンコン

 

 「ダージリン様、呼ばれて参りましたオレンジペコです」

 

 「同じく、アッサムですわ」

 

 メイドはニコリと笑うと扉を開けたのだ。

 

 「お帰りなさいませ、ご主人様♪♪こんな言葉を知ってる?お食事にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・・・♪♪ダージリン?」

 

 「「・・・・」」

 

 バッタン

 

 メイドの姿を見た二人は一瞬で固まり、隊長のメイドに感化された姿を見なかった事にするために扉を閉めたのだ。

 

 

 

 

 ダージリン様が隊長に指名され、私は一年生ながらも隊長車の砲手兼副隊長に任命された。だけど、最近のダージリン様は私に余りにも酷い仕打ちがあった。

 

 みほ様をお慕いしているのは分かってはいるけど、私の髪型までみほ様の髪型にして戯れるのは辞めて欲しいのだ。だって、それでは私がみほ様の代わりだと言っているのと同じだから。

 

 だから、私もヤキモチでダージリン様に仕返しをしたのだ。

 

 紅茶を入れるのに茶葉を使わずに粉末の紅茶にしてやったのだ。

 

 ところが、ダージリン様に一口飲まれただけで分かってしまった。そして、激怒したダージリン様と怒った私はブラックプリンスとセンチュリオンを率いたダージリン様とコメットを率いた私と試合という形で喧嘩をしたのだ。今週末に大洗女子学園と練習試合があるのに・・・・

 

 結果は引き分けだった。

 

 だけど、ダージリン様が乗るブラックプリンスだけは意地でも大破させたのだ。

 

 そして、ブラックプリンスは修理の為に練習試合には間に合わなかった。

 

 だけども、それを差引いても、昨日の大洗の練習試合ははっきり言えば、ダージリン様の個人的な逆恨みだと思う。エリカ様は中学からみほ様を支えていた節がプロフィールからでも判る。だから、ダージリン様がいくらお慕いしても入り込む余地はないのに・・・・・

 

 試合前から大洗の一人の生徒に執着した事がアダとなり逆に利用されて敗北し、大洗の古狸(角谷杏)の黒い笑みで試合の後は思い出したく無いけど全身タイツ姿であんこう踊りをさせられたのだ。

 

 タイツのせいで体のラインがくっきりと出ており、スタイルの良いダージリン様やアッサム様ならまだしも私は体に自信の無い。だって、私の体は見た目が幼児体形だから・・・・・

 

 恥ずかしかった。

 

 もう、お嫁に行けないと思うほどだった。

 

 設立時から学園別のランキングでお嫁さんにしたいランキングで常に一位をキープして来たのにあんまりだと思う。

 

 そして、今日は朝からアッサム様と一緒に呼び出された。

 

 昨日の内にアッサム様がみほ様の自宅に招待状を贈り届けた時点で茶会を開く事は判る。

 

 だけど、何故、私とアッサム様が呼び出されか分からない。

 

 そして・・・・・・

 

 隊長室でダージリン様のメイド姿に呆れる私とアッサム様。

 

 扉を閉めた後、二人同時にため息だった。

 

 「「はぁ・・・またですね」」

 

 正直、ダージリン様が何に感化されたか知りたくも無かった。既にアッサム様は自身に何がこれから起こるのかが判ってしまったようで瞳から光が消えていた。

 

 バァァァン

 

 ダージリン様が勢いよく扉を開けると満面の笑みで

 

 「いやだわ、ペコ。照れなくてもよろしいのに!さぁ、遠慮なくお入りなさい!」

 

 正直、照れていない。むしろ、見逃して欲しい。

 

 ダージリン様に室内を案内されると

 

 「メイド喫茶ダージリンの館へようこそ!」

 

 はっ、はいぃぃぃ!?

 

 心が叫んでいた。いや、叫びたがっていたのだ。

 

 一応、アッサム様と合わせて

 

 「ダージリン様の呼び出しなので何かあると思いましたが・・・」

 

 「今度は何に感化されたのかしら・・・・?」

 

 ダージリン様は紅茶を入れながら答えてくれた。多分、いつものパターンだろう。

 

 「こんな言葉を知ってる?本当に幸福になれる者は人に奉仕する道を捜し求め、ついには、それを見出だした者である」

 

 「シュバイツァーですね」

 

 毎回、そうだ。たまには自分の言葉で言って欲しい。学校の勉強だけでなく、諺や格言を調べる私の身にもなって欲しいのだ。

 

 そして、感化されたダージリン様の暴走は止まらず、私達、二人に感謝を込めてご馳走するらしい。そして、在ることに気付いたのだ。ダージリン様が厨房で調理している間にアッサム様に聞いたのだ。

 

 「アッサム様、ダージリン様の料理の腕って・・・・?」

 

 「ペコ、諦めなさい。多分、死にはしないでしょう・・・・」

 

 「だと、良いですけど・・・・」

 

 そして、ダージリン様が戻られると私の前に出て来たのはオムライスだった。

 

 「はい、お待たせ!ダージリン特製の手作りオムライス!」

 

 見た目はまともだった。

 

 「頂きます!」

 

 まともだったのは見た目だけだった。

 

 一口食べると口の中でご飯の甘味と一緒に広がる、洗剤の味。そして、意識が飛びそうな程のケチャップの塩辛さ・・・

 

 誰もが、口を揃えて言うだろう。

 

 糞マズイと・・・・・

 

 そして、私は副隊長であるが故に言えない。

 

 これを食さなければいけない。

 

 あぁ、哀しいかな。

 

 「ペコ、どうかしら?」

 

 「おいひぃれひゅっ・・・・・・」

 

 「あら、本当?嬉しい!」

 

 食べ切った私は意識を手放したのだ。

 

 

 となりでは、オレンジペコが変な汗をかきながらオムライスを食べ切り気絶してしまった。そして、次の対象はわたくしである確率は100%だった。震えるわたくしの体。嬉しそうな、ダージリン。

 

 呼ばれるわたくし・・・

 

 「アッサム!」

 

 「ひぃぃっ!はひぃっ!」

 

 裏返るわたくしの声

 

 もはや、これは・・・・

 

 「アッサムの好きなローストビーフだけれど、ちょっと手間がかかってしまって用意出来てないの」

 

 申し訳なさそうに言うダージリン

 

 これは、チャンスだ。

 

 全力で断ろう。

 

 胃腸の弱い、わたくしには致命傷になるなから・・・・

 

 「いえ、いえ、いえ、いえ、お気遣いなく!お腹すいてませんので、全く、コレポッチも、全然!」

 

 「あら、そう?」

 

 よし!断れた・・・・

 

 「じゃあ、軽くフィッシュ&チップスでもつまんでて!」

 

 わたくしの目の前に出て来たのは、油の切っていないフィッシュ&チップスだった。それは、油でギトギトでベチョベチョなフィッシュ&チップスは、もはや食べ物でもなかった。

 

 わたくしは心の中で叫んだのだ。

 

 (おっ、重ぉっ!?)

 

 正直、■田胃酸が欲しい。

 

 いや、■コンの力だろうか?

 

 「頂きますわ・・・・」

 

 やはり、油の味しかしない。魚の風味もチップスの塩気も感じない。

 

 ただの油の味だった・・・・

 

 食べている途中で、ペコが意識を戻したがダージリンの追撃は止まることを知らない。

 

 「こんな言葉知ってる?『食べてるうちに食欲は起こるものだ』二人とも!どんどんお代わりを注文しなさい!」

 

 もはや、死刑宣告だった。

 

 なんとか、食べ切りぐったりするわたくしとペコ。

 

 「モンテーニュですね・・・・・」

 

 「いえ、お腹も胸も、もういっぱいで・・・うぇええっぷ・・・・」

 

 そんな時、戦車道の部室前にエンジン音が聞こえて来たのだ。

 

 「車が入った見たいですね」

 

 「車というか戦車の音じゃなくって?」

 

 「私達以外にも誰かお呼びしたんですか?」

 

 「その通り!大洗のみなさんよ!じぁあ、おもてなししてくるわね!」

 

 それを聞いてしまったわたくしは大洗の皆様に申し訳なさと『逃げて!』と叫びたくなったが、既に、時遅しだった。

 

 既に、ダージリンは大洗の皆様をお迎えしており、手に負える状態ではなかったからだ。

 

 それを、小物動物のように震えながら大洗の皆様を見る、オレンジペコは目から光を無くした大洗の皆様を見て顔を真っ青にしていたのだ。

 

 

 

 

 私はみほ達と一緒に聖グロの隊長室に足を運んでいた。

 

 「エリカさん、お茶会ですね。初めてだから楽しみだね」

 

 「そうね。聖グロリアーナ女学院の生徒が淹れる紅茶は確かに有名ね。まぁ、私は・・・・」

 

 「あっ、エリカちゃんはまたビールと言いたいでしょ!」

 

 「別に良いじゃない。五十鈴さんは?」

 

 「抹茶ですね」

 

 入口で騒いでいると扉が開いたのだ。

 

 バァァァン

 

 「おかえりなさいませ、ご主人様♪こんな言葉知ってる?お食事にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・・・・ダージリン?」

 

 ダージリンのメイド姿に驚きを隠せないが、私以外は全員フリーズしていたのだ。

 

 当然だろう。

 

 ダージリンがしたのは、新婚の新妻が夜に帰って来た旦那を迎える場合だろうと私は思う。だが、隊長のみほの顔を立てるのが副隊長の役目よ。我慢しよう・・・・

 

 だが、出て来た料理に我慢が出来なかったのだ。

 

 出て来たのはダージリンの手料理だろうと思われる、オムライスとフィッシュ&チップスだった。一口食べて判るマズさに私は流石にキレたのだ。

 

 「ちょっと、ダージリン!聞くけど、お米は何で洗ったのよ!」

 

 「洗うのですから洗剤ですわ」

 

 「次に聞くけど、油は何度で揚げたの?」

  

 「えっ?分かりませんわ・・・・」

 

 「ちょっと、オレンジペコさん良いかしら?エプロンある?」

 

 「はっ、はぃぃっ!今、お持ちします!」

 

 「ダージリン、あなたに教えながらやるから見てなさい!本当の美味しいオムライスとフィッシュ&チップスを作ってあげるわ!」

 

 「えっ、えぇぇぇ!?」

 

 私はみんなが見ている前にも関わらず、ダージリンを厨房に連行したのだ。

 

 厨房に入ると、いつも手首に巻いているゴムで髪をひとまとめに束ねると、すぐ様に調理を開始したのだ。

 

 材料は・・・・充分にある。

 

 「ダージリン、まずは下ごしらえよ。お米を洗って、先に炊くわよ。つぎに、幸い二つの料理に共通する食材は玉葱よ!玉葱をみじん切りにして、半分はレンジで三分程チンして苦味を取って、タルタルソースの材料に使うわよ。残りはオムライス中身のチキンライスの材料にするわよ。チキンは一口大に切って・・・・・・」

 

 私は小姑の如く、ダージリンに教えながら調理を実践して教えたのだ。

 

 私にガミガミ言われながら、教わった為にダージリンが半泣きだったのは秘密にしておこう。

 

 調理すること、45分くらいで調理が完成したのだ。

 

 流石にオムライスとフィッシュ&チップスだけでは、バランスが悪いためにサラダや簡単な野菜スープを作り、隊長室へと運んだのだ。

 

 「あの~何故、ダージリン様が半泣きですの?」

 

 私が戻って来た一言目がアッサムからの質問だった。

 

 「余りにも料理の手順が酷いから矯正しながらやったからよ」

 

 「うぅぅぅ・・・・エリカさん、小姑ですわ・・・・」

 

 それを聞いた小梅とみほはダージリンの一言に納得していたのだ。

 

 「あはは・・・・エリカさん、アパートだとお母さんだもんね・・・・」

 

 「うん、みほちゃん・・・それ、判るよ・・・・」

 

 「私だって、悔しいわよ!学園別のお嫁さんにしたいランキングでダージリンは何気にTOP10入りしてるのよ!私なんか、鬼嫁候補で名前が入っているのよ!しかも、黒森峰なんか鬼嫁の一大生産地って言われてたのよ!まぁ、今は私は大洗だけど・・・・」

 

 「エリカさん、紅茶でも飲んで落ち着いて下さい」

 

 「悪いわね。オレンジペコさん・・・・」

 

 「えっ?えりりんって結婚願望有ったんだ・・・・」

 

 「沙織殿、そこはオブラートに・・・・」

 

 ダージリン達を交えた交流会は昼食を挟んで楽しく進んだのだ。

 

 午後は、ダージリン達と共に戦車道の訓練に参加をしたのだ。

 

 確かに、ダージリンの指揮は私やみほに取っては良い勉強になり、砲手の小梅は聖グロリアーナの砲手達に連行され、講義をさせられていた。装填手はオレンジペコさんと一緒に筋肉トレーニングをしたり、ランニングをしたりと充実した訓練をしたのだ。

 

 一通り訓練をすると紅白戦をする事になり、私とみほは別れる事になったが久しぶりにみほに挑んだが、惨敗だった。

 

 こうして、交流会の一日目が終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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ダージリンからの呼び出しと集う旧黒森峰 

 


 

 昨夜のみほと愛里寿のボコ劇場版のDVD鑑賞が原因による暴走で全く睡眠が取れなかった私に追い討ちをかけるべく、朝早くからダージリンから電話が来たのだ。

 

 「ん・・・はい・・・・?」

 

 「エリカお姉様、昨日いらした際に来ていた事を知ったらしくて整備科の生徒と一般生徒が是非、エリカお姉様とみほ様にお会いしたいと言ってましたの。みほ様達、旧黒森峰のメンバーだけで来ては頂けないですか?」

 

 昨日、ダージリンの料理の酷さに呆れ、短時間ながら徹底的に教えた為に何故か、お姉様と呼ばれる様になってしまったのだ。そして、オレンジペコにまでエリカお母さんと呼ばれる始末だった。

 

 でも何故、旧黒森峰のメンバーなのだろう?

 

 だけども、それより・・・・

 

 「ダージリン、あんたねぇ!今、何時だと思っているのよ!」

 

 「朝の5時ですわ」

 

 「まだ、隣にみほと愛里寿が寝てんのよ!」

 

 私は後から、叫ばなければ良かったと思ったが遅かった。

 

 「う~ん・・・エリカさん、朝から叫んでどうしたの?」

 

 「エリカ・・・・朝からうるさい・・・・」

 

 お揃いのボコのパジャマを着た、みほと愛里寿が目覚めてしまったのだ。

 

 目覚めるだけなら、まだ、マシかも知れない。私とみほ、小梅は黒森峰時代は起床が5時だったから慣れている。みほと小梅は戦車道を再びやり始めてからは、5時半には起きて、かつての日課だったランニングを再びするようになったから。

 

 だが、愛里寿は違う。

 

 愛里寿はスッキリ目覚めて起床するのは6時だ。

 

 そして、今は5時・・・・その意味は・・・・・

 

 途中で起こすようなら機嫌が悪くなる。

 

 さて、今の愛里寿の状況は最悪の一言に尽きる。

 

 「ねぇ、誰から電話なの?」

 

 「ヒッィ!?」

 

 ガラッン

 

 そう、愛里寿は寝起きで機嫌が非常に悪かったのだ。

 

 そして、既にみほは勘で何かを察したのか、私と愛里寿に気付かれない様にランニングウェアーに着替えて、既に部屋にはいなかったのだ。

 

 部屋に残された私と不機嫌な愛里寿・・・・

 

 目の前に居るのはボコられグマのパジャマを着た愛里寿だ。普通の状態なら誰もが可愛いと言うだろう。しかし、目付きは鋭く不機嫌な愛里寿は逆に怖いのだ。そう、例えるなら鉈を持った般若が私を睨み付けている感じがしたのだ。

 

 見た目、可愛い天使が一辺して獰猛な悪魔になっているのだ。

 

 危険を感じてランニングに脱出したみほの判断は正しいと私は思う。

 

 先程から落とした携帯は通話状態であり

 

 『エリカお姉様!どうかしましたの?』

 

 ダージリンの声が聴こえてくるが逃げる方法がないのだ。

 

 「エリカ、電話の相手が元凶?」

 

 威圧感丸出しの愛里寿の追及・・・・

 

 私はダージリンを売る事にしたのだ。

 

 だけど、愛里寿の無言の威圧から言葉を発せられず首を縦に振ったのだ。

 

 「そう・・・・私も行くから・・・・」

 

 愛里寿はそう言うと布団を被り眠りに就いたのだ。

 

 「ふぅ・・・・・・朝ごはんの仕度を・・・・・あっ・・・・腰が抜けてる・・・・・」

 

 私は愛里寿の威圧から解放されるとペタリと座り込み、一息入れるて朝食の準備をしようとするが腰が抜けているのに気付いたのだった。

 

 結局、朝食はランニングから戻ったみほが行ってもらい、朝食を食べながら小梅が話を聞いて爆笑する始末だったのだ。

 

 「エリカちゃんが腰を抜かすって・・・・」

 

 「小梅!あんたねぇ、島田師範の威圧を受けた事がないから言えんよ!」

 

 「だって、あのエリカちゃんが腰を抜かすって・・・・・あっははははは!」

 

 「エリカさん仕方ないよ」

 

 「エリカだから・・・・」

 

 「ほらぁ、早く食べないと遅刻するわよ!」

 

 私はごまかす様に言うけど、みほと愛里寿は私だからと何故か納得していた。

 

 「エリカさん、私達はダージリンさんから呼ばれてるんでしょ?」

 

 「そうね、行くしかなさそうね」

 

 ご飯を済ませ、私達は学校へと急いだ。

 

 学校では、連絡を受けた内法と藤木が来ており、沙織さん達も一緒に戦車を用意して倉庫前にはⅣ号戦車とパンターが出ていたのだ。しかし、手狭だがパンターだけでいけるのだが、パンターには沙織さん、華さん、麻子、優花里がスタンバイして待っていたのだ。

 

 「みほ、今日はみほのチームを少し鍛えるから借りるね」

 

 「えっ?」

 

 「ちょっと、愛里寿待ちなさい!一緒に行くんでしょ?」

 

 「うん、一緒に行くよ。訓練の相手は聖グロリアーナの生徒とダージリンを捕まえるから・・・・」

 

 未だに、今朝の無理矢理に起こされた事を根に持っているようだった。

 

 配置だが、パンターには愛里寿が車長として行き、Ⅳ号戦車には車長はみほで操縦手は内法、無線手は藤木、砲手は小梅、装填手は私だった。この配置は黒森峰にいた一年生の時の紅白戦でパンターを使った時以来だった。

 

 聖グロリアーナ女学院の中までは一緒に向かったが、私達のⅣ号戦車はダージリンから言われた戦車を整備する倉庫へと向かい、愛里寿達が乗るパンターは訓練に乱入すべく、今頃は戦車道の生徒が訓練しているだろう演習場へと向かったのだ。

 

 念のため、藤木にパンターの無線を聴くとみほが反応したのだ。

 

 「えっ?愛里寿ちゃん、これって・・・・おいらボコだぜ!を歌ってる・・・・」

 

 まさかだと思いたい。

 

 確かに・・・・

 

 『やってるやる やってるやる やってるやるぜ!

 

 イヤなあいつをボコボコに・・・・・・・・』

 

 歌っている。

 

 嫌な予感がして演習場へと向かうと愛里寿は一対複数で練習試合方式で訓練していたのだ。

 

 「あれ、パンターの動きじゃないよね?」

 

 内法が疑問系で小梅に聞き、

  

 「内法さん、私に聞かれても・・・・・」

 

 パンターを見て内法に聞かれ逆に困惑する小梅。

 

 「みほ、あの動きって・・・・」

 

 「うん、今、あんこうチームで練習している技だね・・・・」

 

 「あんな、動きしたら普通なら履帯切れるわよ?」

 

 「うん、パンターは重いもんね・・・・」

 

 そう、私達が見た光景はパンターが囲まれても、とこぞのドリフト族よろしくの様に砲弾を交わし、砲塔を回しながら射撃してウィークポイントに的確に撃ち込んでいたのだ。それも、無線越しけど的確な指示を出しているのが判る。それだけでなく、沙織さん達も普段からの訓練量は他のチームより多くやっているから努力の結果だと思う。

 

 私も経験者だけに沙織さん達を期待しているが・・・・・

 

 あえて、彼女らの名誉の為に名前を伏せるが新たにセンチュリオンの車長になった茶髪で三つ編みで短気な生徒やコメット巡航戦車の車長になった赤髪の自称、聖グロの俊足がいる紅白戦中に乱入したのだ。既に両名の戦車には白旗を掲げており撃破されたのがわかる。他の車両も白旗のオブジェクト化していたのだ。

 

 そして、最後に残るダージリンが乗るブラックプリンスも愛里寿の標的にしていた。

 

 しかし、愛里寿はあれはわざとなのだろうか?

 

 砲塔の車長席側だけを執拗に狙い、ダージリンに紅茶を飲ませまいと砲弾が弾くように射撃をさせて追い回していたのだ。それを見ていた、聖グロリアーナの生徒は顔を真っ青にするほどだったのだから・・・・・

 

 私達は聖グロリアーナの名誉を守る為に、これを見なかった事にして整備倉庫へと向かったのだった。

 

 

 整備倉庫の前には、私達を待って居たのか11人の生徒が待っていたのだ。

 

 Ⅳ号戦車が倉庫の前に止まり、私達が降りると一斉に私達を取り囲んだのだ。しかし、みほは何かに気付き言葉にしていたのだ。

 

 「えっ、板野優さんに山下霞さんなの?」

 

 「「はい、みほ副隊長・・・・」」

 

 私は二人の名前で気付いたのだ。

 

 二人は黒森峰の戦車の整備班ではエースの二人だった。

 

 黒森峰の戦車はエンジンやトランスミッションが良く不調を起こす事があった。それでも、高い稼働率を出していたのが板野さんと山下さんのほかに黒田さん、伊藤さん、加藤さんの五名のチームだった。

 

 他に、よく見ると元整備科の生徒や元機甲科の生徒もいたのだ。

 

 そして、元機甲科の四人の生徒が藤木と内法の前に行くと他の生徒がいるにも関わらず土下座したのだ。

 

 「「「「藤木先輩、内法先輩、先輩から脅されたとは言え、マウスの砲弾をすり替えてすみませんでした!」」」」

 

 私は四人の一年生に見覚えがあった。

 

 黒森峰付属中学校で戦車道をしていた生徒だった。

 

 駆逐戦車を良く使っていた生徒で、リーダー格の岩下歩、砲手の山形唯、操縦手の岩上一美、装填手兼無線手の浜田絵里だった。私と小梅、みほが転校した後に入部した生徒だったのだ。

 

 内法から聞いた話だと、今年期待の一年生だったらしいがイジメから逃げる為に従ったらしい。

 

 藤木がマウスで暴発事故を起こす前にもⅣ号駆逐戦車ラングでも暴発事故が起きており、射撃手だった生徒は暴発した破片で顔を重度の負傷をして自主退学している。

 

 要は見せしめだった。

 

 ラングの砲手の様になりたくなければ、有無言わずに従えと先輩に酷く脅されたと四人が口を揃えて言っていたのだ。

 

 そして、従った結果がマウスの暴発事故だった。

 

 しかし、マウスの暴発事故は当時、射撃訓練で車内に居たのは藤木と内法だけだった。

 

 いつも二人は一緒だっただけに狙われたと私は思う。

 

 暴発事故はマウスの主砲が竹の様に裂け、逃げきれない熱風と破片が車内を襲い、熱風と破片が内法と藤木を襲ったがゴーグルをしていた為に失明を避けられたのだ。しかし、藤木は左腕を火傷し、内法は背中を火傷している。

 

 指示した生徒は黒森峰でも泣く子も黙る風紀委員会に次々と捕まり、計8名が退学処分となり、岩下達は事の全てを戦車道協会の調査委員会に話して責任を取る形で転校したのだ。

 

 ただ、脅され、友達を仲間を守りたいからと従っただけなのに・・・・

 

 岩下達は私とみほに全てを話してくれたのだ。

 

 ここにも、私達の居場所がない。

 

 出来るなら、内法先輩と藤木先輩に償う機会をくれるなら、もし、出来るなら転校して協力したいと。

 

 同じ様に整備科の生徒もマウスの暴発事故で主犯格の先輩から罪をなすりつけられて、イジメられた挙げ句に一緒に転校したのだ。そして、全員はバラバラに転校したが、受け入れ先がなく偶然にも聖グロリアーナ女学院が受け入れられ、チームを組んでいた生徒は全員が揃い、全部で11名が受け入れられたねのだ。

 

 私は彼女達の話を聴いて、ぐちゃぐちゃの気持ちで一杯だった。

 

 これが、今の黒森峰の戦車道なのか?

 

 隊長は何をして居るんだ?

 

 張り裂けそうな怒りと今の黒森峰に悲しくなる混沌としたこの気持ち・・・・・

 

 私がかつて、憧れた黒森峰は一体何処に行ってしまったのだろう・・・・・

 

 もう、怒りを通り過ぎて悲しさが浮き上がってくるのだ。

 

 そして、私は・・・・・・

 

 気が付けば、私は泣いていたのだ。

 

 「・・・・・あれ?・・・涙・・・なんで?・・・・私、なんで泣いてるのよ・・・・」

 

 「エリカちゃん・・・・・ひっくぅ・・・・どうして・・・・涙が止まらないの?」

 

 「私もだよ・・・・どうしてかな?・・・・黒森峰にはエリカさんと小梅ちゃんだけの思い出しか無いのに、どうしてかな?・・・・」

 

 つられる様に、小梅もみほも泣いていたのだ。

 

 涙の連鎖は周りにも伝わり、ここに居た元黒森峰の私達は泣いていたのだ。ある人は抱き合いながら泣き合い、ある人はその場に座り込んで泣き、ある人は子供の様に泣きじゃくっていたのだ。

 

 みほの前では二度と泣かないと、決めていたのに・・・・

 

 私は涙が止まらないのだ。

 

 「どうしてなのよ!どうして・・・・・うっ・・・・あぁぁぁぁぁ・・・・」

 

 少しだけ、黒森峰が立ち直って欲しかった淡い期待だったのかも知れない。

 

 でも、私は黒森峰ではなく、みほを選んだのだ。

 

 それだけは後悔していない。

 

 でも、悲しくて堪らないのだ。

 

 

 みんなが泣き止む頃には、日が傾きかけていたのだから・・・・・・

 

 

 

 翌日、整備科の生徒7名と普通科の生徒4名の合わせて11名は聖グロリアーナ女学院から大洗女子学園の普通Ⅱ科として転校が決まった。ダージリンからの話では、元々、みほを受け入れる積もりが何かの手違いで受け入れてしまったらしく処遇に困っていたらしい。丁度よく、みほ副隊長がいるなら、大洗に移りたいと学園長に直談判していたところだったのだ。

 

 今、正門には聖グロリアーナを去る11名の生徒にダージリンは言葉を贈ったのだ。

 

 「あなた方の門出に、この言葉を贈りますわ」

 

 「「「「えっ、ダージリン様から?」」」」

 

 「ねぇ、この言葉知ってる?『涙と共にパンを食べたものでなければ人生の味はわからない』」

 

 「ゲーテですね」

 

 「ですので、大洗に行っても頑張って下さい」

 

 「「「「ありがとうごさいました!うっ、うわぁぁぁぁ」」」」

 

 ダージリンからの言葉に泣き出す生徒達。

 

 なんか、美味しいところはダージリンに持って行かれたように感じたが気のせいだろうか?

 

 

 転校後、元整備科の生徒は整備倉庫にバラバラになってオーバーホール中のシュトルムティーガーを見て目を輝かせていたのだ。

 

 「隊長!是非やらせて下さい!」

 

 「整備班エースの力を見せてやります!」

 

 「えっ、ナカジマさん達がいらしゃるんですか!」

 

 と自動車部に入り、そして、戦車の整備も担当となって稼働率が上がったのは言うまでもない。

 

 また、岩下達は改造が終わったばかりのヘッツァーを見ると、駆逐戦車乗りの血が騒いだようで四人一緒にチームを組んでヘッツァーを愛車に参加したのだ。

 

 「駆逐戦車がある!」

 

 「ねぇ、あっちにはレストア中のエレファントがあるし、ポルシェティーガーからの改造中のもあるよ!」

 

 「じゃあ、エレファントが二両になるんだね」

 

 「乗るなら、これでしょ!」

 

 「おっ、ヘッツァーだ!私達の車両はこれに決まりだね!」

 

 「あんた達、作戦次第では車両も代わるわよ!」

 

 「「「「えっ?エリカ副隊長、マジで・・・・」」」」

 

 「本当よ」

 

 「お願いします!私達には駆逐戦車を!」

 

 「わかったわよ。じゃあ、西住隊長と島田副隊長に伝えておくわ。でも、期待しないないでね」

 

 私は倉庫を後にすると、整備倉庫に向かった。

 

 「どう?本戦には間に合いそう?」

 

 「一回戦には間に合いませんが、二回戦前までは終わらせますよ!」

 

 ようやく、パーツ交換が終えて組み立て作業中のシュトルムティーガーだった。

 

 「絶対、黒森峰戦とプラウダ戦には必要になるわ。お願いね」

 

 「お願いされました!」

 

 私は各班の見回りが終えると、みほが居る部室へと向かった。

 

 部室では、みほ達あんこうチームと愛里寿が書類とにらめっこしながら処理していた。そこは、島田流のチームで元隊長をしていた愛里寿だけに手際が良かった。

 

 「みほ、見回りが終わったわよ。一応、一回戦までに使える戦車をまとめて置いたわ」

 

 「ありがとう、エリカさん。う~ん、やっぱり、重戦車が多いな・・・・」

 

 確かに、重戦車が多い。

 

 ティーガーⅡが三両、パンターF型が三両、Ⅳ号戦車F2型が一両、レオパルドが二両、三式中戦車(長砲身)が一両、Ⅲ号突撃砲が一両、ヘッツァーが一両の合計が十一両。

 

 そして、レストア中がエレファントが一両、エレファントに改造中のポルシェティーガーが一両、オーバーホール中のシュトルムティーガーが一両だった。

 

 「どうしてよ?」

 

 「もし、会場が砂漠だったら、ティーガーⅡとパンターは防塵とラジエーターの関係で使えないかも」

 

 「確かにね。でも、最低でもパンターは使いたいわ」

 

 「う~ん・・・・パンターは絶対にオーバーヒートしそうだね」

 

 「みほ、しそうだね。じゃなくてする」

 

 愛里寿かみほに突っ込んだ時だった。

 

 「西住ちゃん、居る?」

 

 「杏さん、どうかしたの?」

 

 「あのさぁ、さっき空輸便で西住ちゃん宛てに戦車が二両も届いてるんだよねぇ。で、贈り主が判らなくてさぁ、何か知ってる?」

 

 「えっ?誰からなの?」

 

 私が校庭のすみには、確かに戦車が二両が置かれていた。

 

 特徴ある二両は見た感じで判る。

 

 あの角張った、車両に太くて短い砲身は150ミリはあるのはやはりブルムベアだった。

 

 「あと、一緒に手紙も一緒に合ったよ」

 

 みほは杏さんから受け取り、封を切ると誰かからだと判ったようで手紙を読み続けたのだ。

 

 その手紙を読み終わると顔を手で被うように泣き出したのだ。

 

 「なんで?・・・・どうして?・・・・・・うっ、うわぁぁぁぁ!」

 

 「みほ、手紙を見るわよ!」

 

 「ひっくぅ・・・うん、見て・・・・」

 

 「わかったわ。読むわよ・・・・」

 

 私はみほが読んだ手紙を読んだのだ。

 

 

 

 拝啓

 

 みほ、体の管理を怠らずしていますか?

 

 あの日、大洗に転校してからは私はずっと、みほを破門にしたことを悔やみ続けました。

 

 私は友人に言われて、初めて気付きました。

 

 撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 

 

 それが西住流・・・・

 

 あの日、みほは違う形で西住流を守ってくれました。

 

 今を守るのではなく、未来を守る。そして、実は西住流を汚してはいなかったこと

 

 ですが、全てが遅かった。いえ、私がその事に気付くのが遅すぎたのです。

 

 私はみほがもし、島田流を習うのあれば止めはしません。いや、止める理由がありません。

 

 今のみほは、西住流の西住みほではなく、西住家の娘・・・・普通の西住みほなのですから。

 

 その代わり、自分の戦車道を見つけて下さい

 

 学校でもがき苦しむみほに気付かずに破門にして、何も母親らしいことができなかったことは謝っても許されることではありません。むしろ、嫌われて当然かも知れません。

 

 本当に不器用な母親ですいません。

 

 ですが、母親として出来る事で、みほの部屋はそのままにしてあります。

 

 また、親子としてやれるなら、帰って来たら大洗での出来事を聞かせてください。

 

 みほへのせめてもの償いで、家元の倉庫に眠っていたブルムベア二両をお贈りします。

 

 

 

 

 手紙の内容は西住師範からの謝罪だったのだ。

 

 みほはうれしくて泣いていたのだ。

 

 私も嬉しくて、少し泣いたのは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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抽選会とすれ違う姉妹

 やっと、更新ができました。


 

 戦車道大会の参加が正式に決まり、静岡の抽選会会場に行った時の出来事だった。

 

 戦車道の選手と隊長と副隊長はもちろんのこと全員で抽選会に行っていた。初出場の大洗が白い目で見られるのは当然だが、それをかき消すかのように、去年は全座席六分の一を占めていた黒森峰の生徒が異様に少ない事に会場がざわついていたのだ。

 

 「なんか、今年の黒森峰の生徒が少なくない?」

 

 「でも、あれだけの不祥事をやってて良く出られるよ」

 

 やっぱり、耳にするのはマウスの暴発事故の話題だった。

 

 内法から話を聞いていたから、まさかだと思いたい。

 

 だけど事実、黒森峰の人数は一回戦で十両出せるぎりぎりの人数の50人位だったのだ。 

  

 かつては内部組と外部組を合わせても200人以上は居た黒森峰だったのに・・・・・

 

 それでも、なんとか参加出来る人数を確保して参加した隊長はさすがだと言いたい。

 

 私達も指定された席に着き、くじを引く順番を待ったのだ。

 

 そして、呼ばれたのだ。

 

 『県立大洗女子学園』

 

 みほが壇上に上がると、黒森峰の一部の生徒が騒ぎ出したのだ。

 

 「なんで、副隊長が?」

 

 「嘘でしょ!?」

 

 「どうして、大洗に?」

 

 騒ぐのも無理もない。

 

 みほや私、小梅が転校をしたことを知って居るのは姉のまほさんと西住師範、学園の教職員と学園長くらいだった。

 

 そう、私達は黒森峰を去るように転校したから・・・・

 

 そして、みほが引いた番号は六番だった。

 

 トーナメント表を見ると、一回戦の相手はサンダース大学付属高等学校だった。そして、二回戦に勝ち上がってくるのは、アンツィオ高校だろうと私は思う。

 

 黒森峰の一回戦の相手はヴァイキング水産高校、二回戦は勝ち上がれば知波単学園かヨーグルト学園だったが、三回戦にもし勝ち残ると大洗に当たるのだ。

 

 抽選会もおわり、会場を出て帰ろうとすると黒森峰の数名の生徒が立ち阻み私達に話しかけて来たのだ。

 

 「ちょっと、大洗学園待ちなさい!」

 

 「私達に何か用かなぁ?」

 

 対応したのは生徒会長である杏さんだった。

 

 「なんで、大洗にそんなに裏切り者が居るのよ!」

 

 「おかしいなぁ?ここに居るのはうちの学園の生徒だけどなぁ?」

 

 「あんた、私達を馬鹿にしてんの!そこに居るのは副隊長と逸見、赤星達は元は黒森峰の生徒じゃない!裏切り者じゃなくてなんのよ!」

 

 私達は裏切り者ね。

 

 確かに、黒森峰を去った私達は黒森峰の生徒からしたら裏切り者かもしれない。でも、私達をそうさせたのは紛れも無い黒森峰であり、そこに居場所を無くした私達の末路かも知れない。だけど、今の居場所である大洗は心から暖かくなれて、居心地が良くて、今まで笑えなかった私達に笑いながら楽しむ事を与えてくれたのだ。

 

 「喧嘩なの?」

 

 「なんか、初出場の学校が黒森峰に絡まれてるぽっいよ」

 

 「えっ、何で?」

 

 「ほら、やっぱり噂は本当だったんだよ」

 

 「あぁ、制裁を理由にイジメられて嫌になった機甲科と整備科の生徒が一気に転校したあれね・・・」

 

 「一部の生徒が流れ着いた先が大洗らしいよ・・・」

 

 「えっ、マジで・・・」

 

 騒ぎを聞き付けて、私達の周りには他校の生徒が集まっていたのだ。

 

 「杏会長、行くわよ。ここで、問題を起こしたら出場停止も有り得るわよ。ほら、みほも小梅も皆も行くわよ」

 

 「う、うん・・・・・」

 

 「そうだねぇ。じゃあ、逸見ちゃん行こうか」

 

 私達は何も言い返さず帰ろうとしたが

 

 「元黒森峰の狂犬が聞いて呆れるわね」

 

 「そうよね。あの連中は、あのまま川の中で死んでいれば良かったのにね」

 

 大丈夫・・・・・

 

 私達ならいくらでも堪えるから・・・・

 

 みほは立ち止まると暴言を吐いた生徒に言ったのだ。

 

 「エリカさんや小梅ちゃん、内法さん、藤木さんに謝って下さい!死んでいれば良かったって・・・・」

 

 「副隊長、いや元副隊長でしたね!本当の事を言って何が悪いの?」

 

 「みほ、気にしてないから、ほら、行くわよ」

 

 「でも、エリカさん・・・・」

 

 「大丈夫よ。戦車道で語れば良いのよ。みほが正しかった事をね」

 

 「逸見!無視するなぁぁ!」

 

 私達は叫ぶ黒森峰の生徒を無視するように後にしたのだ。

 

 

 

 

 そのあとは、私達は沙織さんに喫茶店で気分転換をしよって言われ、連れて行かれて向かったのは、女子高生に大人気の戦車喫茶だった。

 

 私も黒森峰に居た頃は小梅とみほの三人で大会の度に通っていた。

 

 私が頼んだのはチョコレートケーキだ。ケーキがしっとりとしていて三種類の苦味の違うチョコレートクリームの組み合わせがお気に入りだ。小梅は酸味と甘みのバランスが美味しい、ベリータルトを頼み、内法、藤木はそれぞれイチゴショートとチーズケーキを頼み二人でシェアしている。

 

 隣の席にはみほ、沙織さん、華さん、優花里、麻子、愛里寿の六人で座っている。

 

 隣で談笑を楽しむ中、みほが動きを止めて見上げていたのはまほ隊長だった。

 

 「みほ、先ほどはうちの生徒が済まないことをした」

 

 「えっ、お姉ちゃん!?」

 

 「「「「「えっ?」」」」」

 

 姉の登場に一斉に驚く沙織さん達。

 

 姉の登場にみほも驚いて居たが、みほの様子がおかしかった。

 

 いや、空気が急に変わったのだ。

 

 まるで、みほと姉のまほさんが砲弾が装填された戦車砲を向け合っているような感じだったのだ。

 

 「あと、再び戦車道をはじめたそうだな?」

 

 みほは間を置き、口を開いたのだ。

 

 「・・・・・うん、お姉ちゃんはじめたよ。でも、お母さんは再びはじめた事は知っているよ」

 

 あの頃のみほなら、姉とは笑って会話したはずなのに何故か違和感しか感じない。

 

 みほに笑顔や悲しい顔ではない。

 

 私は、はじて見るかも知れない

 

 みほが初めて私達に見せる、姉に対して怒りが滲み出ている表情に・・・・・

 

 「そうか・・・・」

 

 「お姉ちゃん、今なら聞けるけど、どうして、部屋に来てくれなかったの?私、あの日、お姉ちゃんが来てくれると信じてたのに、助けて欲しかったのにどうして?」

 

 まほさんに聞きたかった事だった。

 

 だけど、言葉の一言の一つ一つが鋭利な刃物の様に鋭く感じるのは何故だろう。

 

 私も転校した後にみほに言われたが、あの日、みほの部屋の鍵を開けて居たらしく。もしかしたら、お姉ちゃんが来てくれるかも知れない。みほはそんな淡い期待をしていた。そして、あの時の苦しかった思いをまほさんに話したかったと言っていた。

 

 現実は残酷で姉のまほさんが部屋の中で痛みと苦痛で泣くみほに怖くなり、どう接していいのか判らなくなり、一度も来なかったのだ。

 

 ただ、みほは姉の優しさと姉の温もりが欲しいだけなのに・・・・・

 

 実際にみほの部屋の中に来たのは食事を持って来た私だった。

 

 そして、みほは泣きながら私に苦してつらい事を全てを話してくれたのだ。

 

 みほは私に言ったのだ。

 

 エリカさん、私を助けてと・・・・・・

 

 元より、私はみほを最初から支える積もりだったし、命を助けられた事もあるだからだ。

 

 それよりも、私はみほが一番大切な友達でもあり、大好きで大切なみほの為なら一生を捧げる積もりだった。

 

 「あの日、行けなかった事は済まない」

 

 だけど、まほさんの遅すぎた謝罪が引き金となり、みほは涙目になりがらも沙織さん達に隠し続けた事を言ってしまう事になったのだ。

 

 「お姉ちゃんだから言うよ。私が大会が終わってから他の生徒に何をされて来たか、何を言われて来たか、エリカさんや小梅ちゃんが目覚めない間に機甲科の先輩やOGに私が、どんな嫌がらせをされて来たか、お姉ちゃんは知っているの?知らないなら話そうか?先輩やOGに決勝で負けたから、全部、私の責任にされて、指導(制裁)を理由にお腹を殴られたり蹴られて痛かったよ。教室では、教科書やノートが破られたり捨てられたりして辛かった。毎日が怖くて気が狂いそうだったよ。だから、堪えられなくて、全てが嫌になって部屋に閉じ篭ったんだよ!でも、エリカさんや小梅ちゃんが居たから戦車道だけは嫌いにはならなかった。だって、戦車道が在ったからエリカさんと小梅ちゃんと友達になれたんだもん。でも、お姉ちゃんがあの時も、今もどんなに大変だったかは私も判るよ。でも・・・・・・・」

 

 正直、私もこの事はあの日にみほから聴いていた。

 

 だけど、まだ、みほはマシかもしれない。

 

 私達、事故の当事者だった四人はみほ以上に悲惨だったから。

 

 (だけど、この事はみほには言っていないし、本編でも語る気はない。余りにも悲惨すぎるから)

 

 だから・・・・

 

 「みほ!もう、話さなくていいわよ!いいから・・・・」

 

 「嘘・・・こんな事が・・・・みぽりんに・・・・・ひど過ぎるよ・・・・」

 

 「みほさんに・・・・・」

 

 「西住殿・・・・」

 

 「惨い・・・」

 

 咄嗟にみほを抱きしめる私。

 

 「うっぐぅ・・・・エリカさん・・・うわぁぁぁぁ」

 

 みほさんに全てを吐き出し、胸の中で泣きじゃくるみほ。

 

 「そうか・・・・・・済まない」

 

 隊長に謝られたが、私はどうしたら良いのか判らなくなったのだ。

 

 内法や岩下から私達が去った後のことは全て聞いていたし、毎日みほの部屋と隊長室を行き来していたから隊長室で隊長が誰と話していたのかは大体は想像出来る。あの時も、隊長室では戦車道協会へ提出する、プラウダ高校への非人道的な行いを非難する抗議文を作成していたのだから。妹のみほを助ける為に・・・・

 

 「私は・・・・・まほさんが私達が居なくなった後が大変だったことは知っています。それでも、あの時のみほに残った心の傷は一生残る傷です。なので、私はまほさんが謝ったとしても許すことができないです。以前にも言ったと思いますが、戦車道も黒森峰も関係ない普通の姉として接していたらと私は残念に思います。今もこれからも・・・・・」

 

 「みほにエリカ、私は何処で道を間違えたのだろうか?」

 

 「・・・・・・・お姉ちゃんには私とエリカさん達のあの辛さは判らないと思うよ・・・・・・」

 

 「だけど、みほ。帰る前に一言だけ言わせて欲しい。あの時、あんな命令をして済まなかった。そして、助けに行けなくて、本当にごめんなさい・・・・・」

 

 「今更、お姉ちゃんが謝っても、許す、許さないは決められないし黒森峰には戻らないよ。だから・・・」

 

 「みほ、私が代わりに言うわ。まほさん、後は戦車道で語り合って下さい」

 

 「そうか・・・・・・・判った。三回戦で待っている」

 

 そう、言うとまほさんはお店を出て行ったのだ。

 

 だけど、私には判ってしまった。

 

 まほさんの瞳は以前の憧れた西住隊長に戻っていた事に私は気付いたのだった。

 

 

 「みぽりん、大丈夫?」

 

 「みほさん?」

 

 「西住殿?」

 

 「みほ?」

 

 「沙織さんも華さんも優花里さんも麻子さんも大丈夫だよ。ごめんね、心配かけちゃって・・・・でも、いつかは解決しないといけない姉妹の問題だから・・・・・」

 

 こうなったら、ケーキをみんなでとことん食べて楽しんでやろう。

 

 みほの気が紛れるなら・・・・・

 

 「ほら、みほも沙織さん達もケーキを頼みなさいよ。ケーキを食べて、楽しみまくるわよ!ほら、みんなも注文さしなさい!仕方ないから奢るわよ!」

 

 「エリカ殿、太っ腹ですな」

 

 「おっ、おぉぉぉエリカありがとう・・・・」

 

 麻子の重ねられた皿を見ると既に四皿目だったのだ。

 

 「ちょっと、麻子は何皿食べれば気が済むのよ!」

 

 「そうだよ麻子!太っちゃうよ!」

 

 「沙織には言われたくない。エリカが奢るって言うなら財布が空になるまで食べる」

 

 「麻子、それはマジで勘弁して!」

 

 「「「「「はっははははは」」」」」

 

 戦車喫茶に私の絶叫と笑い声が響いたのは言うまでもない。

 

 結局、麻子には八皿も食べられ、愛里寿もケーキ喫茶のケーキの味に火が付いたようで四皿を食べたようで、会計時に一枚の諭吉が羽を生やして飛んで行ったのだった。

 

 

 

 学園に戻り、私とみほ、愛里寿は生徒会室に呼ばれていた。

 

 「一回戦の相手は強豪のサンダース大学付属だねぇ。西住ちゃんは何か勝算はある?」

 

 「去年のサンダースを考えると一回戦の車両は十両までだからシャーマンフライはないと思う。でも、エリカさんからの情報を照らし合わせると、今年はパーシングとシャーマンフライが出てくる可能性があります。でも、車両の編成が分かれば・・・・」

 

 「西住、逸見、それは確かなのか?」

 

 「河嶋さん、信じたく無いけど、聖グロリアーナがセンチュリオン、コメット、ブラックプリンスを導入していた。それは、噂が確実ならプラウダがIS-3を導入していて、サンダースも対抗処置でなら考えられるわ」

 

 「第二次末期の戦車ばかりね」

 

 愛里寿は何故か納得の様子だった。

 

 結局、サンダースが何を使うかが、とある人物の行動で判ることになる。

 

 

 翌日、優花里と同じクラスになった整備担当の板野の話では優花里が学校を休んでいると知ったのだ。

 

 まさかと思い、優花里に電話をするが圏外だったのだ。

 

 みほ達のクラスに行くとみほ達も優花里が休んでいると知っていたようで帰りに優花里の自宅に見に行くらしい。一緒に行きたいが、私と小梅は整備担当と一緒に一回戦の会場である雪原に向けた準備をしないとならないのだ。

 

 まず、水性塗料による冬季迷彩への変更だった。

 

 もし、パーシングが出るならティーガーⅡとパンターF型は出番になる。六両の迷彩は全て三色による光と闇の迷彩だった。

 

 私も久しぶりに整備用の繋ぎ服に着替えて作業を始めたのだ。

 

 まずは、みほのティーガーⅡからだ。

 

 あんこうチームのエンブレムと大洗のマークをホワイトで消さない様にマスキングを施してから塗装するのだ。

 

 「ティーガーⅡだけに、意外に塗りでがあるわね・・・・」

 

 「だね。エリカちゃん・・・・」

 

 私は大型のエアスプレーでホワイトを吹き付けつつ悪態は吐いたのだ。周りでも、同じ様に整備担当者達が他の車両を冬季迷彩へと変えていく。ティーガーⅡが二両とパンターが三両を塗り終えたところでみほから電話が来たのだ。

 

 『もしもし、エリカさん』

 

 「みほ、どうしたの?」

 

 『優花里さん、実はコンビニの貨物船に乗って、サンダースに潜入調査をしてたらしくて・・・・・』

 

 「はっ、はぁぁぁ!?優花里は何してんのよ!」

 

 『あっははは・・・でしょ!優花里さんらしいよ。エリカさんは今、何してるの?』

 

 「私?会場が雪原に決まったから、今は整備担当者達と冬季迷彩への変更と防寒対策の準備をしているわ。みほの事だから、迷彩を変えないで出るだろうからね」

 

 『うぅ~エリカさん酷いよ』

 

 「冗談よ。でも、優花里からサンダースの使用する車両は判ったの?」

 

 『はい、判りました。エリカさんの言っていた通り、パーシングが二両とM4A1シャーマンが六両でシャーマンファイアフライが二両の全部で十両です」

 

 「五両編成の二小隊編成ってところね。フラッグ車は?」

 

 『パーシングみたいです』

 

 「一応、私の方でティーガーⅡが三両とパンターが三両を用意してるけど、みほは変更するの?」

 

 『そうですね。組めるチームが八組だから、ティーガーⅡが二両、パンターが三両、Ⅳ号戦車が一両、Ⅲ号突撃砲が一両、ヘッツァーが一両かな』

 

 「用意しとくわね。配車は私でするから、みほは沙織さん達と楽しんで来なさい。あと、今夜は愛里寿は島田師範と夕飯を食べに行っているみたいだから、もしかすると一泊すかも知れないわね」

 

 『うん、エリカさんありがとう』

 

 私は電話が切れると作業を再開したのだ。

 

 「板野さん悪いけど、ティーガーⅡヘンシェルは無しでⅣ号戦車とヘッツァー、Ⅲ号突撃砲が追加よ。一緒にウインターケッテンに変更よ」

 

 「じゃあ、履帯も履き替えだね。みんなぁ!さぁ、やるよ!後、ティーガーⅡの鉄道輸送用の履帯も準備するよ!」

 

 「「「「「おぉぉぉ!」」」」」

 

 ウインターケッテンやティーガーⅡの鉄道輸送用の履帯は何故か島田流の家元に保管されていたらしく、島田師範が来たのも三両分の鉄道輸送用履帯とウインターケッテンを届けに来て、ついでに愛里寿と一緒に夕飯が食べたかったらしい。

 

 「私は非常食と冬季装備を準備して来るわ」

 

 私は八両分の非常食と冬季装備を整えなければならない。

 

 用意する非常食はライ麦パン、ウインナー、チーズにフリーズドライの野菜とスープの元で良いだろう。それを各車両に積んで、後は裁縫部に頼んだパンツァージャケットと防寒服だけだ。

 

 カイロや手袋、箱に入れたりしてある程度の準備が終わったのだ。

 

 次に私が取り組んだのは、大会の配車だった。

 

 聖グロリアーナ女学院との練習試合の編成を元に編成したのだが、みほが組んだ編成に私は

 

 「ふぅ、やっぱり、みほには敵わないわね」

 

 と頭を掻きながら悩むのだった。

 

 

 

 

 

  おまけ

 

 紅白戦が終わった後、私は寮の部屋で砕けたお気に入りのティーセットを前に膝を折って両手を床に付く形で泣いていた。

 

 「ひっくっ・・・・・・高かったのに・・・・・」

 

 私はダージリン様に島田流、島田師範のご息女の愛里寿様が大洗女子学園に編入されて、自宅はエリカお母様の家に住んでいるから、連絡するなら七時以降にして下さいと言ったのに・・・・

 

 

 そう、ダージリン様は私の忠告を全く、聞かなかったのだ。

 

 そして、悪夢は大会のレギュラーを決める紅白戦で起こったのだ。

 

 十両対十両の殲滅戦だった。

 

 私はいつものように、ダージリン様の乗るブラックプリンスの装填手席に入りダージリン様に紅茶を淹れてダージリン様が開始の合図を出して、紅茶で喉を潤す時に起こった。

 

 「では、全車前進」

 

 ガッツン

 

 「ガッバァ!?熱っ!」

 

 バッシャ・・・ガッシャン

 

 ブラックプリンスの砲塔に砲弾が掠めたのだ。ダージリン様は紅茶で喉を潤す途中だったのか、ダージリン様も衝撃で顔面に紅茶を被り、私も衝撃でティーポットを落としたのだ。

 

 「誰ですの?」

 

 怒りをあらわにするダージリン様。

 

 その時は、いきなりの乱入だから、ダージリン様が怒ったのかもしれない。しかし、ダージリン様がペリスコープで裏を見ると

 

 「大洗のパンター?誰だかは知りませんがお仕置きしましょう。全車に・・・」

 

 指示を出す前に無線手の生徒が叫んだのだ。

 

 「ダージリン様、歌が聞こえます」

 

 「えっ?」

 

 無線をオープンにして聞こえきたのは確かに歌だった。

 

 『やってやる やってやる やってやるぜ イヤなあいつをボコボコに ケンカは売るもの 堂々と 肩で風きり 啖呵きる・・・・・』

 

 そして、ペリスコープで見るとキュポラーから半身出している少女を見てダージリン様か怯え出したのだ。

 

 「えっ?愛里寿様が?まさか・・・・・」

 

 「ダージリン様、愛里寿様に何かしたんですか?」

 

 「したわよ。エリカお姉様に電話したら、愛里寿様が丁度よく寝てたわね・・・・」

 

 まさか、ダージリン様は愛里寿様を起こしたと・・・・・

 

 「これでは、私達全員は死刑宣告に等しいじゃないですか!」

 

 「ペコ、大丈夫よ。いくら、愛里寿様でも・・・・・」

 

 だけど、あの戦車の動きは・・・・・・

 

 「ダージリン様、あの動きはみほ様のチームの操縦手の癖に似てますよ?」

 

 「ペコ、こんな言葉知ってる?」

 

 「はい?」

 

 「逃げるが勝ちよ」

 

 もう、ダメじゃないですか!

 

 「ハァー、ダメダメですね。ここは素直に謝りましょうよ!」

 

 結局、他の車両は紅白戦で撃破されたのもあるけど、ダージリン様を守ろうとした車両は問答無用で全て撃破され、最後は私達の車両のみ残されて島田師範が来るまで追い回れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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サンダース戦 淡く儚い夢の続き

 更新できました。


 

 一回戦の準備が終えた翌日、私は師範代モードの愛里寿がティーガーⅡに一緒に乗り込みワニさんチームの強化訓練を受けていたのだ。

 

 「小山さん、もっと履帯を滑らして!雪上だからまだ滑るわよ!」

 

 「はい!やってみます!」

 

 「河嶋さん、連続射撃行くわよ!装填急ぎなさい!」

 

 「装填が遅い・・・」

 

 やはり、凡人である私に島田流の技であるバミューダトライアングルや辻斬り、忍者殺法は難しいのだろうか?

 

 既に、みほのあんこうチームと愛里寿のレオポンチームは辻斬りや愛里寿の忍者殺法を修得していた。

 

 それは、麻子の天才的なドライビングセンスに、華さんの高い集中力から来る小梅並の命中率、それを地で支える沙織の素人離れした通信能力と連続射撃が可能な優花里の高い装填手としての腕前らが上手く合わさり、みほの高い指揮能力が存分に発揮できる環境だった。

 

 正に、天才には天才が集まるのを具現化したチームだった。

 

 でも、私はみほには負けない物がある。

 

 いくら、打ちのめされても立ち上がる雑草魂と、ただ、ひたすらに努力を続けて、使える物はどんな物でも自分の物にできる器用さだった。小梅は逆に目の良さと計算能力の高さから高い命中率を叩き出している。

 

 だけど、愛里寿はこのワニさんチームには懐疑的だった。

 

 今日の訓練後にとうとう言われたのだ。

 

 「角谷さん、河嶋さん二人とも適性検査で高い砲手の適性があるのに何故、砲手をしないの?」

 

 杏さんは笑いながら答える。それを、聴いて開いた口が塞がらない愛里寿。

 

 「だって、面倒じゃん」

 

 「なっ・・・・」

 

 河嶋さんの場合は違った。

 

 「それと、その眼鏡はふざけてる?適性が高いのにそんな眼鏡のせいで当たらないのはもったいないし、装填手の才能は皆無。今からでも砲手に転向して」

 

 「こっ、これは参謀に見えるから・・・・」

 

 「参謀役は既にエリカと私がいるから必要ない。河嶋さんには師範代として言うけど、自分の目に合った眼鏡を新調してきて」

 

 何故、愛里寿の立場が高いのかは元西住流だった私とみほに小梅の三人は答えを出していないが他の戦車道の生徒は島田流の門下生扱いになっているのだ。それは、杏さんが強権発動(生徒会権限)を連発している事と学園長が娘のやり方に困っていることを聞いた島田師範の計らいで、家元から娘への資金援助を理由の他に島田流家元が後ろ盾になる条件が大洗の戦車道の生徒は島田流の門下生になる事だった。

 

 そんな好条件に強力な後ろ盾を喉から欲していた杏会長は承諾したのだ。

 

 それを機に愛里寿は正式に家元の島田師範から師範代を言い渡されたのだ。

 

 「桃ちゃん仕方ないよ」

 

 と小山さんが慰めるが、結局、人数の関係からこの件はうやむやになる。

 

 

 今、学園艦は北緯50度を過ぎており、試合会場へは港から直通の鉄道で内陸に入ったところにある。

 

 そのために、ティーガーⅡを使用しているから急がないといけない。サイドアーマーを外して履帯を鉄道輸送用に換えて会場に輸送をしないといけない。そして、会場では逆の作業があるのだ。

 

 そして、会場へ着くと貨物列車からティーガーⅡを二両、パンターF型を三両、Ⅳ号戦車F2型、ヘッツァー、Ⅲ号突撃砲が順次に降りて行き、ティーガーⅡ二両をガレージに入れて履帯の交換作業を板野達率いる整備班と作業していたのだ。

 

 「へぇ、初出場の大洗にしてはパンターが三両にオンボロ戦車が三両の六両でサンダースとやり合うの?金持ちのこちらにはパーシングがあるのよ!直ぐに、潰してやるわ!」

 

 どうやら、騒いで挑発しているサンダースの生徒はガレージの外にある車両が全部だと思っているらしい。

 

 「西住隊長、逸見副隊長、ティーガーⅡの履帯の交換作業が終わりました!」

 

 「板野、悪いわね」

 

 「板野さん、ありがとう」

 

 「いえ、いえ。みんなぁ!戦車がガレージから出るよ!」

 

 ティーガーⅡの周りに置かれた工具が片付けられティーガーⅡをガレージから出したのだ。

 

 「そこのあんた、誰が六両だけと言ったのかな?」

 

 「えっ?きっ、キングタイガー!?しかも、二両も!?サンダースにそんな情報はないわよ!」

 

 私の一言に慌てふためく、サンダースの生徒だった。そして、もう一人は杏さんに挨拶に来ていたのだ。

 

 「Hey!アンジー!」

 

 「やぁ、ケイじゃないか」

 

 「大洗との試合前に挨拶に来たわよ。親睦会を含めて暖かい物あるわ。みんなも楽しんでね。これも、レッツ、戦車道!じゃあ、試合で会いましょ」

 

 ケイは手を振りながらアリサを連れて自分達のガレージに戻ったのだ。

 

 私達は試合前のミーティングで会場を見ながら地図を確認すると、私もみほ、愛里寿も絶句したのだ。

 

 「なっ、何よ!この会場!」

 

 「これ・・・」

 

 「厳しい戦いになる・・・・」

 

 私が見た地図は、中央には町を囲む様に川もあり、町の周りには針葉樹林や雪原が広がるマップだったのだ。

 

 それは、実史でのレーニングラードの戦いを思わせる様な試合会場だったのだ。

 

 町を取り、守備陣地を構築すれば要塞になるが、逆に包囲されたら非常に危険である。しかし、相手に町を取られれば逆も有り得る。高い戦略眼がないと苦戦する会場だったのだ。

 

 「こんなの、プロリーグで使う様な会場・・・・なんで?」

 

 愛里寿が呟いていたのだ

 

 こんな事なら、シュトルムティーガーかブルムベアーを持って来れば良かったが後の祭りだった。でも、今は後悔よりもサンダースにどう勝つかだった。

 

 「みほ、どうする?私なら町を取りたいけど包囲されたら・・・・」

 

 「逆に針葉樹林を抜けながら町を迂回して奇襲する手もある」

 

 私と愛里寿の提案に考えるみほはまさかの判断をしたのだ。

 

 「なら、二つとも取りに行きましょう。フラッグ車のあひるさんチームはレオポンチーム、うさぎさんチームのパンター中心のチームとかばさんチーム、へびさんチームは町に向かい、奇襲をかける私のあんこうチーム、ワニさんチーム、かめさんチームに別れます。慣れない雪上での戦闘となりますが頑張りましょう」

 

 確かに、フラッグ車は町に隠れながら守ればやれるし、町の周りは川もある。しかも、町に入るには二つの石橋をどちらかを渡らないといけない。最悪、片方の石橋を落とせば強固な要塞になる。愛里寿を向かわせたのは変幻自在の戦いができるからこその人選だったし、孤立しても愛里寿の指揮なら大丈夫とのみほの判断だった。それに、師範代での愛里寿の姿はテレビで見る姿は凛とした姿そのものだったからだろう。

 

 

 ミーティングも終わり、私と隊長のみほは試合の挨拶の為、審判を挟みサンダースの隊長ケイが来ていた。

 

 「あなたは、確か西住流の・・・・」

 

 「はい、西住みほです」

 

 「私も入れて、元だけどね」

 

 「あなたは・・・えっ?黒森峰の・・・・」

 

 「今は、大洗女子学園戦車道の副隊長、逸見エリカよ」

 

 「じゃあ、正々堂々とやりましょ」

 

 「一同、礼」

 

 「「「「お願いします」」」」

 

 こうして、サンダース戦が始まったのだ。

 

 私達がスタート地点に戻り、戦車に乗り込むとみほが一斉に指示を出したのだ。

 

 『これでは、ミーティング通りにお願いします。パンツァーフォー!』

 

 

 愛里寿達のパンター三両とヘッツァー、Ⅲ号突撃砲の五両は町に向かい、私達のティーガーⅡ二両とⅣ号戦車は針葉樹林を抜けて奇襲する為に町を迂回して針葉樹林へと向かったのだ。

 

 そして、私は聴いてしまったのだ。

 

 その歌声は久しぶりに聞くかもしれないが、歌う姿が雪と木漏れ日の光に照らされて、何とも言えない美しさを出していたのだ。

 

 「嵐も雪も 太陽蝶々たる 灼熱の日も 身を切る極寒の夜も 顔が埃に塗れようとも・・・・」

 

 「美しい・・・」

 

 思わず呟いてしまったが、それは黒森峰でよく歌われたパンツァーリートだった。

 

 私もみほにつられる様に口ずさんでいたのだ。

 

 「「陽気なる我等が心・・・」」

 

 気付けば、小梅も内法も藤木も歌っていたのだ。

 

 「「「「「然り、我等が心・・・・・」」」」」

 

 私は今まで、想像してはいけないと思っていたが想像していたのだ。

 

 

 黒森峰のパンツァージャケットを纏い、副隊長であるみほのティーガーに一緒に乗員として乗り込み勝利を掴む、叶えられない儚い夢を・・・・・

 

 もちろん、砲手は小梅で操縦手は内法、無線手は藤木、装填手は私でだ。

 

 そして、みほのパンツァーリートを聞くと、楽しかったあの頃を思い出して心が踊るのだ。

 

 勝利を掴めと・・・・

 

 

 奇襲予定地点に着いたが主力も居なくなっており、履帯の跡だけが残っていた。愛里寿から無線で町の奪取に成功しており、防御陣地を構築して待ち伏せの準備をさせていたのだ。

 

 『全車、停止!』

 

 みほが何かに気づき、停止命令に私のティーガーⅡも足を止める。

 

 私はキュポラーから身を乗りだし、手合い図でみほに聞く。

 

 (どうしたのよ?)

 

 (エリカさん、空を見上げて下さい)

 

 私が見たのは無線傍受の気球だった。かつてのサンダースの常套手段で直線距離で約3500mはある、だが、ケイが隊長になってからは見なくなったが。後ろの内法にも手合い図で内法だけ来るように送り、みほのティーガーⅡに行ったのだ。

 

 「あれは、無線傍受機じゃないですか」

 

 驚きを隠せない内法。

 

 「はい、無線傍受機です。まさかと思いましたが沙織さんが愛里寿ちゃんのパンターにメールで確認したら町の方に主力が集まっているようです」

 

 「えっ?メールって、まさか・・・・」

 

 「通話はダメですが、メールなら大丈夫です」

 

 「みほどうすんの?」

 

 「一応、町の正面の橋は愛里寿ちゃんが落としたのでしばらくは大丈夫です。回り込もうとしているサンダースの小隊を側面から攻撃して撃滅します」

 

 「わかったわ。でも、私はあの無線傍受機の車両だけは血祭りに上げて来るわ。内法はみほの護衛を頼んだわよ」

 

 「逸見さんに任されたよ」

 

 「それでは、内法さん行きましょう」

 

 私はみほと別れ、無線傍受をしている車両を血祭りに上げに向かったのだ。

 

 

 

 

 

 私も今日だけはケイの車両の砲手として一緒にパーシングに乗り込み、アリサの無線を聴き主力を引き連れて町に向かったが既に大洗に制圧されていたが、異様な空気に勘が働いていたのだ。

 

 「ケイ、あの町からなんかヤバイ空気を感じるが気のせいか?」

 

 「ナオミ、気のせいじゃないの?」

 

 「町を制圧のやり方は流石は西住流の電撃戦だが、うちらが来るのがわかった途端に守備に転換した。その意味わかるかケイ?」

 

 「No.way!」

 

 『こちら、六号車です。町、正面の石橋がパンターに落とされました!えっ、なんで?あの生徒、歌いながら・・・・ジーザス!?砲がこっちに向いた!?キャァァァァ!?やられました』

 

 どうやら、町にはとんでもない化け物がいるらしい。射程外から双眼鏡で覗くとパンターから身を乗りだし周りを見渡す生徒がいたのだ。

 

 「ケイ、パンターの車長の顔に見覚えない?私、テレビで見覚えがあるわね・・・・」

 

 「歌いながらで何となく・・・・」

 

 私とケイは同時に言って見たのだ。

 

 「「島田流の島田愛里寿」」

 

 島田流の島田愛里寿が大洗に居たのだ。だが、普通は有り得ないのだ。島田流の島田愛里寿が西住流の電撃戦を使って来る事自体が・・・・・

 

 まさか・・・・・

 

 そんな時だった。

 

 『フラッグ車のアリサです!見つかりました!』

 

 「「はっ、はぁぁぁぁ!?」」

 

 ハモり、驚く私とケイの二人。

 

 アリサのパーシングが見つかった?

 

 何故?

 

 ケイはアリサに聞き出さしたのだ。

 

 「アリサ、どうして見付かったの?」

 

 「どうやら、無線傍受機を上げていたらそれを目印にされた様で・・・・」

 

 無線傍受機!?

 

 「Shut up!お説教は後よ!さっさと逃げなさい!」

 

 『イエスマ厶!』

 

 私はアリサに半分呆れながらもアリサを助けに向かう事になったのだ。

 

 

 

 

 

 私は試合開始と同時に針葉樹林に隠れながら、大洗の無線傍受をしてた。

 

 「なんで、無線傍受できないのよ?」

 

 「知りませんよ!」

 

 「っん?ちょっと、待ちなさい?」

 

 『ザッ・・・ザザ・・・・こちら、かめさんチーム南石橋に配置・・・・』

 

 どうやら、大洗は町に入ったらしい。

 

 「隊長、大洗が町に入ったようです」

 

 『アリサ、わかったわ。包囲して叩くわよ!」

 

 だけど、それを最後に大洗からの無線が聞こえなくなったのだ。

 

 あれから、30分が過ぎただろうか?

 

 バッキィ・・・バキィバキィ・・・・

 

 「うるさいわね・・・・」

 

 しばらくして、外が騒がしくなったのに気付き、キュポラーから頭を出すと私は一番見たくない物を見てしまったのだ。

 

 昔のご先祖様も戦場では同じ気持ちだっただろうか?

 

 そう、私が見たのはキングタイガーのキューポラから身を乗りだした白銀の髪の生徒。

 

 朝、私をコケにした大洗の副隊長の逸見エリカだった。

 

 「見付けたわよ!この、盗聴魔!」

 

 「見付かったわよ!急いで前進!」

 

 「イエッサー!」

 

 「誰が盗聴魔よ!」

 

 パーシングは全速力でキングタイガーから逃げ出したのだ。運よく急発進した事でキングタイガーからの砲撃を交わしたのだ。私達がいた場所は虚しく雪が爆炎で舞い、キングタイガーも私達を追撃して来たのだ。

 

 向こうからも、叫び声が聞こえてくる。

 

 「あなた以外誰がいるのよ!」

 

 私は逸見の叫び声を無視しつつ、直ぐに隊長のケイ隊長に無線を入れたのだ。

 

 「フラッグ車のアリサです。見つかりました!」

 

 『どうして、見つかったの?』

 

 正直、言いたくなかった。

 

 フェアプレーを好むケイ隊長は多分、いや、絶対に怒るだろう。

 

 「どうやら、無線傍受機を上げていたらそれを目印に・・・・・」

 

 『Shut up!お説教は後よ!さっさと逃げなさい!』

 

 「イエスマ厶!」

 

 ケイ隊長から無線を切られるとキングタイガーからの砲撃が激化していた。

 

 「さっさと、反撃しなさいよ!パーシングは大丈夫よ!なにせ、虎を狩るために作られたのよ!シャーマンの強化版なのよ!シャーマンより強力な90ミリ砲搭載なのよ!」

 

 「90ミリ砲が弾かれてる段階で効いてないですよ!」

 

 「うるさい、うるさい!効いてないならジグザグに逃げるわよ!」

 

 何故か、積んで在ったハンドスピーカーが在ったのだ。多分、訓練で使ったままだったのだろう。こうなったら、あいつに八つ当たりしてやる・・・・

 

 私は再び、キューポラから身を乗り出すと叫んでやったのだ。

 

 「さっきから、盗聴魔ってうるさいわよ!この、金魚のふんが!」

 

 だけど、逸見エリカは地声で叫んでいたのだ。

 

 「別に気にしてないわよ!まさかだと思いたいけど、彼氏にも盗聴しているんじゃないの?」

 

 何故、タカシの事を?

 

 「告白してないのに出来ないわよ!あんたなんかにタカシの事知らないくせに!」

 

 

 

 口撃と砲撃の応酬にパーシングとキングタイガーとの追いかけっこ。

 

 誰がこんな展開を予想するだろうか?

 

 エリカはアリサを罵りつつみほを自慢し、アリサは悔しがるようにタカシの事で叫び、小梅とパーシングの砲手は主砲を撃ち合ったのだ。

 

 この試合を見ていた、ある人物はエリカのみほの自慢話しを聞き、妹に未だにやって貰った事のないシチュエーション(内容は伏せます)だっただけに隊長室で荒れ狂って

 

 「ラーテを使わせろ!今すぐ、エリカを消し炭にしてやる!」

 

 「誰か!隊長をとめろ!ラーテは駄目です!レギュレーション違反で使えませんよ!」

 

 「いや、その前にラーテは持ってないですよ!」

 

 と荒れたらしい。

 

 あと、もう一人はダージリンだった。

 

 ダージリンはこの鬼ごっこの終始を見ており、お腹を抱えて笑っていたらしい。

 

 

 試合はエリカさんのティーガーⅡとパーシングとの長い鬼ごっこの途中で、パーシングがスリップして針葉樹に激突して雪に埋もれたところを撃破したのだ。

 

 『フラッグ車、走行不能!よって、県立大洗女子学園の勝利!』

 

 この試合終了後に両校の隊長は握手しながら大爆笑したのだった。

 

 この珍試合は違う意味で記録に残ったのだ。

 

 

 

 試合が終わり、部屋に戻ると疲れたのかみほも小梅も愛里寿、そして私も眠るのが早かった。

 

 久しぶりに夢を見たのだ。

 

 目の前にあるのはダークイエローで塗装された黒森峰のティーガーⅡだった。私の服装も黒森峰のパンツァージャケットを纏い、誰かを待って居たのだ。

 

 ティーガーⅡを撫でながら待つと後ろから来たのは黒森峰のパンツァージャケット姿のみほだった。

 

 「エリカさんお待たせしました。さぁ、行きましょう」

 

 「えっ?何処に行くのよ?」

 

 「エリカさんこれから試合ですよ。私の副隊長車の装填手なんですから」

 

 そうか。

 

 私は試合中に想像していたあの夢の続きだった。

 

 ティーガーⅡの中には操縦席に内法が座り、無線席に藤木が、砲手に小梅が居たのだ。

 

 「ちょっと、待ちなさいよ!私達、事故で・・・・」

 

 「事故?そうだったね。私達は転校したんだよね?」

 

 風景が代わり、黒森峰のティーガーⅡは大洗のティーガーⅡポルシェ砲塔に代わっていたのだ。

 

 みほも黒森峰のパンツァージャケットから大洗のパンツァージャケットに代わっていたのだ。

 

 もちろん、私もだ。

 

 「全く、二人揃って学校を間違えているんじゃないわよ」

 

 「そうですね。私は今が大洗の隊長で」

 

 「私は副隊長よ」

 

 それがとても可笑しくて、悲しくて、なんて表現しらたら良いのかわからない気持ち。

 

 でも、今は二人揃って笑っていたのだ。

 

 「全く、私まで間違えたじゃない!」

 

 みほ顔が近づき、みほは言ったのだ。

 

 「だって、エリカさんは私の側にいてくれるんだよね?」

 

 その距離はキスが出来るほど近かった。

 

 「当たり前でしょ!」

 

 「エリカさん大好き!」

 

 みほは私にそう、言った後に・・・・

 

 

 

 目が覚めたのだ。

 

 隣ではみほも起きたようだった。

 

 「エリカさん、久しぶりに夢を見たら目が覚めちゃった・・・」

 

 どんな夢だったんだろう

 

 「どんな夢を見たのよ?」

 

 「あのね、実はあの事故が起きなくて、二年生になった私が黒森峰に居て、車両もティーガーⅡでメンバーも小梅ちゃんや内法さん、藤木さん、エリカさんが居たの。隊長はお姉ちゃんで私が副隊長のままだったんだ。。それで、エリカさんも私も学校を間違えているのに気付いたらね、ティーガーⅡが私が使っている大洗のパンツァージャケットに代わっていたんだ。二人で笑っていたの。不安になって、私はエリカさんに聞いたの。側に居てくれるだよねって。そうしたら、当たり前だって怒られたけど・・・・・」

 

 全く同じ夢を見ていたのだ。

 

 「ねぇ、エリカさんは私の側に居てくれるよね?」

 

 みほは私に近付き、顔と顔の距離は10センチも無かった。

 

 私も正直になろう。

 

 ツンツンして隠すのは辞めよう。

 

 「当たり前でしょ。だって、私が大好きなみほから離れるわけがないわよ。だから・・・・っん-・・・」

 

 私からみほにキスをしたのだ。

 

 みほの唇は柔らかくて、暖かくて・・・・・

 

 その唇の味は甘酸っぱくて・・・・・

 

 唇を離すとみほはニッコリと顔を紅くしながら笑っていた。

 

 「エリカさん・・・・私もエリカさんが大好き・・・・・」

 

 そのまま、抱き合う様に眠りに着いたのだ。

 

 そして、小梅が起こしに来るまで眠って居たのは、別の話・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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これが、アンツィオ戦です! 前編

 難産でした。


 

 

 一回戦を勝ち抜いた夜から、みほの甘えん坊ぶりに拍車がかかった様な気がするのは気のせいだろうか?

 

 いや、気のせいでは無かった。

 

 だって、現に・・・

 

 「エリカしゃぁぁん・・・」

 

 別にみほが、またノンアルコールビールを飲んで酔っ払っている訳ではなく、腕を絡ませていつも以上に甘えて来るのだ。

 

 小梅はそんな私とみほを見ては

 

 「とうとう、エリカちゃんがデレた・・・・」

 

 と私をツンデレ扱いするのだ。

 

 「だから小梅、私はツンデレじゃないわよ!元からデレてるわよ!」

 

 「だって、見てて砂糖吐きそうだもん。こうして、エリカちゃんを弄らないとね。ねぇ、愛里寿ちゃん?」

 

 「うん、朝から砂糖を吐きすぎて、味覚が分からなくなりそう。だから、八つ当たりじゃないけど、みほを弄るよりエリカを弄る方が楽しい」

 

 「二人共!どんな暴論よ!ほら、みほもなんか言ってやりなさいよ!」

 

 「うん、エリカさんが一緒なら・・・えッへへ」

 

 みほの頭の中がどうやらお花畑化しているようだった。

 

 「あんたねぇ!プライベートなら構わないけど、学校と戦車道だけは分別を付けなさい!」

 

 「はうぅぅぅ」

 

 「おっ、いつものエリカちゃんだ!」

 

 いつも、小梅を弄る側だっただけに小梅にいいように弄られる私。

 

 立場逆転だろう。

 

 でも、そんなにいつまでも弄られてる私ではない。

 

 小梅にニッコリ笑い言ってやったのだ。

 

 「小梅、ちょうど良くシュトルムティーガーが使える様になったから、砲弾の代わりに詰め込んであげるわ!」

 

 「えっ?エリカちゃん、そっ、それだけは・・・・・」

 

 小梅は顔を青ざめながら、私に拝みながら謝っていたのだった。

 

 そう、次からはシュトルムティーガーも使用出来る様になったのだ。

 

 次の対戦校はアンツィオ高校だった。

 

 何故か、今年のアンツィオは強くなっており、一回戦の映像を見たがⅣ号戦車G型が四両とセモヴェンテda75/18が二両にセモヴェンテda75/46が四両の編成で勝ち抜いている。だけど、CV33が一台も出てないことに少し疑問になった。それに、あのⅣ号戦車は間違いなく黒森峰にあった戦車だし、Ⅳ号戦車で指揮していたあの顔立ちはまさかと思いたいが、アンツィオの隊長は強化合宿でまほさんと一緒だった安斎千代美さんじゃないだろうか?

 

 もし、Ⅳ号戦車が黒森峰からなら、アンツィオ高校に貸与している事になる。

 

 だけど、あの堅物のまほさんだけにアンツィオとの取り引きは有り得ない。

 

 何故・・・・・・

 

 

 

 

 場所も代わり、アンツィオ高校

 

 一人の生徒が報告書を抱えて私に報告していた。

 

 「総統アンチョビ、いよいよ三日後に大洗女子との対戦ですね」

 

 「カルパッチョ、皆の士気はどうだ?」

 

 「はい、新参者には負けないと息巻いています」

 

 「大洗女子について、何か情報はあったか?」

 

 「はい、大洗には西住流家元の娘の西住みほと元黒森峰の逸見エリカや赤星小梅などの生徒がいるようです。それと、大洗が使用していた重戦車の出所は不明ですね」

 

 私は西住みほの名前を聞いた途端に嫌悪感に襲われた。あの、土砂降りの中でプラウダとの決勝は見ていたが、あの絶望的な濁流に呑まれたⅢ号戦車の乗組員を救助し戦車道の未来を守った事は称賛すべき事だろう。だが、勝てる試合を見逃した事に加え、試合後に彼女の身に何が起こったかは知らないが戦車道から背を向ける様に逃げて、再び違う学校で始めた事だけは許せなかった。

 

 それだけではない。

 

 私の手元にあるプロフィールが書かれたファイルには次期エースになるだろう生徒がこぞって黒森峰から逃げる様に転校した生徒にも怒りを感じたのだ。

 

 黒森峰のマウスの暴発事故が引き金となった、機甲科や整備科の戦車道の生徒の大流出事件は学園長すら代わる前代未聞の事件で他校を騒がしたのはつい最近の話だ。だが、それは資金不足と慢性的な戦力不足だったアンツィオ高校戦車道には幸運をもたらしてくれたが・・・・

 

 「・・・・・・・やっぱり、まほの妹も大洗に流れて居たのか。そして、元黒森峰の生徒も・・・・」

 

 「総統?」

 

 「いや、カルパッチョが気にする事じゃないさ。ただ、黒森峰から無期限でⅣ号戦車六両と資金を貸与する代わりに元黒森峰の生徒を20名ほど、貸して欲しいとまほから言われた時は驚いたからね。まぁ、おかげで軽戦車のCV33を二両だけ残して全部売却して、P40重戦車が二両とセモヴェンテ75/48が六両も買えたのだ。黒森峰には感謝しないとな。それにしても、うちの学校に外部組と内部組を合わせもの元黒森峰の生徒が流れ過ぎないか?確かに、私が転校希望の黒森峰の生徒を生徒会に受け入れを頼んだのは事実だが・・・・」

 

 「そっ、そうですね。60名の手続きだけでも生徒会が徹夜だったと聞いていますね」

 

 「そりゃあな、プラウダには絶対に行きたくないし、知波単にも行きたくない。行くとなれば、うちのアンツィオかサンダースか聖グロリアーナの三校だろうしな」

 

 「ですが、大洗女子にも約20名ほど流れてますね。特に、今年の二年生と一年生の中でも次期エースクラスの生徒がほとんどです。しかも、西住みほに親しい人物ばかりですが・・・・」

 

 だけど、大洗がティーガーⅡやパンターを所持している理由にはほど遠いな。

 

 「カルパッチョ、他に情報は?」

 

 「はい、まだ噂程度ですが、大洗女子学園は島田流の保護下に在るようです」

 

 「しっ、島田流だと!?何故、早く言わないのだ!」

 

 私は、机の鍵を開けて一冊のアルバムを出したのだ。

 

 「総統?」

 

 あるページを開くとカルパッチョに見せたのだ。

 

 「これは・・・・・」

 

 「そうだ。私の母親の写真だ」

 

 「まさか、一緒に写真に写って居るのは島田流の島田師範ですか?」

 

 「そうだ。あと、後ろのティーガーⅡを良く見ろ」

 

 「えッ!?このティーガーⅡは一回戦で大洗が使用したのと全く同じ!?」

 

 「そうだ、これが理由だ。私の母親は島田師範と同じ母校で大洗女子学園の戦車道の生徒で隊長車の通信手だった。そして、大洗女子学園の戦車道が復活することを信じて隠したのだろうな。全く、馬鹿な事をしてくれる。これでは、アンツィオが勝てる見込みが無いではないか!」

 

 ガチャン

 

 慌てた形相でペパロニが部屋に入って来たらしい。

 

 「あっ、姐さん!次の会場が決まったっすよ!」

 

 「ペパロニ!何処だ?」

 

 「砂漠っすよ!」

 

 ペパロニの報告に私は笑いたくなった。

 

 「はっ、はっはははは!勝ったぞ!大洗女子は重戦車を使えない!」

 

 「姐さんどうしてっすか?」

 

 そうだった。

 

 忘れていたが、ペパロニは馬鹿だった。

 

 「良いか、砂漠では防塵処理とラジエターを何とかしないといけない!しかも、ラジエターに難があるパンターにそれの発展型のティーガーⅡはたとえ、防塵処理をしてもオーバーヒートは確実だ」

 

 「難しい事は分からないっすけど、さすが姐さんっすよ」

 

 「はぁ・・・・ペパロニに説明した私が馬鹿だった・・・・・・」

 

 説明しても理解をしていないペパロニだった。

 

 

 

 

 再び、大洗女子学園に戻り生徒会室

 

 生徒会室では書類が空を舞い、一人の生徒が会場のくじの報告書が原因でキレており暴れながら絶叫していた。

 

 「さっ、砂漠!?何なのよ!何の嫌がらせよ!雪原の次はなんで砂漠なのよ!」

 

 「エリカさん!落ち着いて!」

 

 「おい!誰か、逸見を取り押さえろ!」

 

 そう、生徒会室でキレて暴れているのはマジギレ怪獣エリゴン・・・失礼、エリカちゃんだった。川嶋さんが生徒会のメンバーで取り押さえようとしているけど止まる気配はない。見かねたみほちゃんが宥めるけど、逆に・・・・

 

 「みほ、良く落ち着いていられるわね!次の会場は砂漠なのよ!寒冷地仕様から砂漠仕様に変更しないといけないのよ!エンジン周りだって、ラジエターも強化しないといけないのよ!しかも、8台を寒冷地用の装備を外して砂漠仕様にしないといけないのよ!」

 

 逆効果だった様で火に油だった。

 

 「逸見ちゃん大丈夫だよ。既に整備班と自動車部の面々が二徹覚悟で作業してるよ」

 

 「うん、杏さんの言った通りだよ。だから、エリカさん落ち着いて。板野さんから整備の関係でオーダー早く出す様に言われたから、砂漠戦でも大丈夫なオーダーを板野さんに出したんだよ」

 

 「みほ、どんなオーダー出したのよ?」

 

 私もみほちゃんが出したオーダーが気になっていた。

 

 「みほちゃんどんなオーダー?」

 

 「えっとね、試して見たい戦術があるから、ブルムベア後期型が二両、Ⅳ号戦車F2型、レオパルドが二両、三号突撃砲、三式中戦車に秘密兵器枠にシュトルムティーガーを入れます」

 

 みほちゃんはシュトルムティーガーを投入するんだ。

 

 ちょっと、みほちゃん。

 

 私、嫌な予感がするよ?

 

 だって、シュトルムティーガーってロケット弾だから弾道射撃を計算するから・・・・・

 

 そんな、複雑な計算出来るのは私だけだから・・・・・

 

 確実に砲手は私だよね?

 

 そうすると、必然的に車長はエリカちゃんがなるから・・・・

 

 「小梅ちゃん、シュトルムティーガーの車長兼砲手を頼めるかな?」

 

 「えッ?」

 

 まさか、私が車長なの?

 

 私、車長の経験が無いから自信ないよ?

 

 「小梅、私が車長じゃなくて装填手をやるわよ。どうせ、クレーンと玉掛けの資格があるのは私だけでしょ」

 

 エリカちゃんが装填手?

 

 そうだよね。

 

 うん、だって350kgもある38cmロケット臼砲の砲弾だもんね。中の専用のクレーンで吊すだもんね。クレーンと玉掛けが無いと危険だもんね。戦車道のメンバーで資格あるのはエリカちゃんだけだもんね。

 

 「いやぁ、逸見ちゃん。実は、自動車部と小山は玉掛けとクレーンは持っているよ。あと、西住ちゃんには朗報で、風紀委員会から三人ほど参加するからよろしく」

 

 えッ?会長さん?

 

 さりげなく流れたけど、私が車長が確定なの?

 

 結局、私が車長をやることになり、二回戦の当日を迎えたのだ。

 

 

 

 

 試合当日

 

 私は試合前に大洗女子のガレージへと足を運んでいた。理由は言わずとも西住みほに文句を言いたかった。去年の大会の決勝では勝てる試合なのに人命を優先して敗北したことに加えて、ケーキ喫茶での話を全て聞いていたのもあるが、戦車道に一度、背を向けた事に怒りを感じていたからだ。

 

 そして、ガレージの外には五両の戦車が止まっていた。そして、三つあるガレージは何か入っているようだったが覗くのはさすがに不作法だろうと思い覗かなかった。

 

 「総統、あの方が生徒会長の角谷杏です」

 

 「カルパッチョ、知っている」

 

 生徒会長の角谷杏の前に行ったのだ。

 

 「やぁ、アンチョビじゃないなか。今日の試合はよろしく頼むよ」

 

 私も知っている。

 

 大洗女子の生徒会長の角谷杏だった。

 

 「あぁ、よろしく。ところで、西住みほは居るか?」

 

 「「西住ちゃん(さん)!?」」

 

 「お~い!西住!」

 

 眼鏡を掛けた生徒が西住みほを呼び出す。

 

 銀髪の長く背の低い生徒と姉に見えるもう一人の銀髪の生徒と三人で話し合っていたのだ。

 

 姉に見える生徒はファイルで確認して判る。

 

 元黒森峰女学院の逸見エリカだ。

 

 もう一人の逸見エリカの妹に見える生徒はファイルの中に情報が無かったが、カルパッチョが見て何かを気付いたらしい。

 

 「総統、あの子が例の島田流の島田愛里寿です」

 

 「そうか、カルパッチョ」

 

 やはり、噂は本当だった。

 

 島田流家元の娘である、島田愛里寿が大洗女子学園に居る意味は保護下にする意味でもあるが、11月に行ったドイツのプロリーグとの対外試合で重傷を負っている。

 

 だが、今は島田愛里寿には用は無い。

 

 用が在るのは・・・・・

 

 「お前が西住みほだな?」

 

 やはり、姉妹だけあってまほに似ている。

 

 彼女も私に気付き

 

 「何でしょうか?」

 

 ここで、はっきり言ってやろう。

 

 もし、気づけたなら彼女はもっと強くなるはずだ。

 

 だから・・・・

 

 「西住みほ!貴様の戦車道は弱い!」

 

 「えッ!?」

 

 「ちょっと、あんたねぇ!」

 

 やはり、逸見エリカも狂犬のままだな。何時、私に噛み付きそうな良い目をしている。今の姿を強いて言うのなら、飼い主を馬鹿にされ唸り続けるご主人に忠実なドーベルマンだろうか?

 

 だけど、あなたが甘いままだとみほが弱いままである事に気付いて欲しい。

 

 「後、お前もだ!島田愛里寿!」

 

 用は無いと言ったが、心底、あの敗北でいじけたままなのだろか?

 

 「っ!?」

 

 その反応は、やはり図星か・・・・・

 

 「西住みほに島田愛里寿!この際だからはっきり言ってやる!去年の決勝と対外試合を見させて貰った。そして、確信したよ。一度、戦車道に背を向けた者に我々は負けない!せいぜい、覚悟するのだな!はっ、はっははははは!」

 

 私はマントを翻し、彼女達の前から笑いながら立ち去ったのだ。

 

 だだ、過去の心の傷を思い出し、みほと愛里寿は顔を真っ青にしていたのだ。

 

 

 

 

 

 私はみほと愛里寿に対して一つだけ思う。

 

 私を糧に立ち直って欲しかった。

 

 もし、立ち直れるなら喜んで勝利を授けよう。

 

 そして、勝つために手段を選ばずに暴走している私の大親友のまほを止めて欲しいのだ。

 

 あんな試合は戦車道では無い。

 

 ただの蹂躙劇だ。

 

 だけど、私も人の事は言えない。

 

 私もアンツィオの為に利用出来るものは徹底的に利用したのだから。

 

 そう、抽選会が終わった夜だった。

 

 

 「まほから電話するなんて珍しいね」

 

 「みほの事と学校の事で相談したい」

 

 「みほの事はケーキ喫茶で全部聞いている。学校の事は何だ?」

 

 「アンツィオに元黒森峰の生徒が多数いるな?」

 

 「居るけど、あんなにどうしたのよ?普通じゃない!」

 

 「頼む、何も聞かないでくれ。学園長と生徒会には話は付けてあるから、元黒森峰の戦車道の生徒を20名ほど貸して欲しい。代わりに、黒森峰からはⅣ号戦車G型の無期限の貸し出しと強化合宿で話していた車両を買えるだけの資金を提供する。このままでは・・・・・」

 

 そう、まほからの電話で全てが判ってしまったのだ。

 

 今回の一件に私はアンツィオの為に利用したのだ。

 

 転入して来た元黒森峰の生徒から事情を全てを聞いていたが、20名の生徒に黒森峰に貸し出すという愚行をしたのだ。だが、その生徒達は

 

 「総統の為なら!」

 

 「そうだ!行き場のない私達を拾ってくれたのだ!」

 

 「再び、地獄(黒森峰)に行っても心はアンツィオだ!」

 

 「我等の心は総統の為に!」

 

 「「「「総統!総統!総統!」」」」

 

 と叫び、学校の為に行ってくれたのだ。

 

 返礼に黒森峰からは要らなくなったⅣ号戦車G型を六両を無期限の貸し出しを理由に貰い、セモヴェンテ75/48が八両とP40が四両が纏めて買えるだけの資金提供があったのだ。

 

 しかし、一括で買った為にバラバラのパーツで来たが、急ぎ組み立てたが間に合ったのはセモヴェンテ75/48が四両とP40が二両だけだった。

 

 ここに来た、黒森峰の生徒はある意味幸せだろう。

 

 今まで、女子高生らしく遊ぶ事を知らず、美味しい物を食べて喜ぶ事を知らずにいたのだ。

 

 ここに来てからの生徒達は遊びを知り、美味しい物を食べて感動することを知ったのだ。

 

 だから、勝ち負けよりも戦車道を楽しんで欲しいのだ。

 

 

 そう、泥をかぶるのは私とまほで充分だから・・・・・

 

 しかし、試合前にも関わらず、何故か気持ち悪い感覚にいらついていたのだ。

 

 何故、イライラするの?

 

 全くわからないままで試合に臨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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これが、アンツィオ戦です! 後編


 アンツィオ戦終了です。


 

 アンツィオの隊長に言われた事に顔を真っ青にしたままのみほと愛里寿は俯いたままだった。

 

 「みほ、愛里寿気にすることはないわよ」

 

 「そうだよ!みぽりんと愛里寿ちゃんが気にする事じゃないって!」

 

 「でも、あの隊長の言っていたのは間違いじゃないです・・・・」

 

 「うん、みほの言う通りだね。私もあの対外試合から逃げてたし、いじけてたかも・・・・」

 

 みほも愛里寿も二人の性格が似ているから落ち込むのも一緒だった。しかし、このままでは士気に関わる。久しぶりに見るかも知れないけど、あの頃の様におどおどしていたのだ。

 

 「あっ、もう!見てられないわね!全く、いつまでもくよくよしてんじゃないわよ!みほは隊長で、愛里寿は私と同じ副隊長なのよ!しっかりしなさい!いい、確かに言われて当然よ!分かり切っている事なの!でもね、これだけは覚えて置きなさい!周りには私達が居る。昔見たく一人で抱え込んでないで、もっと頼りなさいよ!愛里寿、あなたもよ!みほと同じ性格なんだから、頼る事を覚えなさい!判った?」

 

 「「はい・・・・」」

 

 「それにしても、エリカちゃんのお説教モードは久しぶりに見たね」

 

 「うん、うん久しぶりだね」

 

 「こっ、小梅に内法は私が良いこと言ってんだからぶち壊さないでよ!」

 

 「うん、確かに逸見さんには似合わないね」

 

 「ふっ、藤木まで!」

 

 何故か、小梅と内法、藤木に弄られる私だった。

 

 でも、みほと愛里寿は

 

 「「あっはははは」」

 

 と笑ってくれたから、良いと思う。

 

 「笑いはさておき、みほは作戦はあるの?」

 

 「はい、あります。今回は少数精鋭で行こうと思います。愛里寿ちゃんにはレオパルドをお願いします」

 

 「みほ、あれは四人乗りだよ?私のチームは五人だから・・・・」

 

 「ナカジマさんには今回はエリカさんのチームに入ってもらいます。内法さんも同じく、レオパルドを」

 

 「まぁ、元々レオパルドだったから大丈夫だよ」

 

 「エリカさんは小梅ちゃん、ナカジマさん、柚子さん後は・・・・」

 

 「みほ隊長、私が行くよ」

 

 「えッ?板野さん?」

 

 「シュトルムティーガーのロケット弾の装填には力自慢が必要でしょ?だから、行くよ」

 

 「では、お願いします。岩下さんのチームはブルムベアを澤さんのチームも同じくブルムベアをお願いします。杏さんは澤さんのチームの砲手をお願いします」

 

 「隊長、任せてください!」

 

 「西住ちゃんの頼みだから行くよ」

 

 「Ⅲ号突撃砲はかばさんチームにお願いします。三式中戦車はアヒルさんチームにお願いします」

 

 「任せろ!」

 

 「今回の作戦の鍵は内法さんのチームと愛里寿ちゃんのチームが要です。まず、待ち伏せポイントの608ポイントで私達と一緒に行って貰い、距離測定用のフラッグを正方形に四本立てて貰います。ブルムベアとシュトルムティーガーのチームは正方形の中に着弾出来る様に距離観測をお願いします。私達、三両でアンツィオの部隊を引き付けますのでマスに入ったら一斉射撃で主力を一気に倒したいと思います。撃ちもらしはⅢ号突撃砲と三式中戦車が行います」

 

 全員がそれぞれの車両に乗り込み、作戦に向けて移動したのだ。

 

 

 

 

 

 

 妙な胸騒ぎが治まらないまま、時間が過ぎていた。

 

 私はⅣ号戦車に乗り込み、Ⅳ号戦車二両とP40二両の四両で砂漠を走りつつ周囲を見渡しても大洗が見付からないのだ。前進部隊には元黒森峰の生徒には傭兵部隊と名付けており、Ⅳ号戦車二両とセモヴェンテ75/48が四両の編成だった。元々、私の学校ではⅣ号戦車四両とセモヴェンテ75/48が二両が組めるだけの30人くらいしか居ない。

 

 「中々、大洗は見付かりませんね。総統?」

 

 「カルパッチョ、簡単には見付からないだろうな」

 

 そんな時、先行した傭兵部隊から無線が入ったのだ。

 

 『こちら、傭兵部隊一号車、フラッグ車を発見しました。フラッグ車のⅣ号戦車とレオパルドに守られています、あっ、反転して逃げた!追撃します!』

 

 「待て!追撃するな!合流する!」

 

 『ですが、発見した以上、乗りと勢いが大事です。追撃します!」

 

 「確かに、乗りと勢いは大事だが、まっ、待て!くっ、無線が切れたか・・・・全車、前進!傭兵部隊を支援するぞ!」

 

 私はⅣ号戦車を全速力で走らせ、傭兵部隊を追ったのだ。

 

 そして、走らせる事数分で傭兵部隊の後方の約3000mまで追い付いたのだ。

 

 しかし、双眼鏡から見える、四本の赤いフラッグが気になる・・・・

 

 私は何故か、赤いフラッグが気になったのだ。

 

 「こちら、アンチョビだ。傭兵部隊二号車、左下方向の赤いフラッグに砲撃してみろ!」

 

 『了解!これより、左下方向に砲撃します!弾種、榴弾。撃て!」

 

 砂煙が上がるだけで何も起きなかったのだ。

 

 しかし、大洗のフラッグに吊られた傭兵部隊がフラッグの中に入るとフラッグの意味が判ったのだ。

 

 ボッシュゥゥゥゥ

 

 シュゴォォォォォ

 

 遠くからロケット推進音が聞こえて来たのだ。

 

 「んっ?ロケット推進音だと?」

 

 ロケット推進音が段々近くに聞こえて、傭兵部隊の真ん中に辺りに着弾したのだ。

 

 ズッガァァァァァァン

 

 それは、イタリアのエトナ火山が大爆発したように見えたのだ。

 

 爆心地に居た戦車はどうなったかは判るだろう。

 

 固まって走行していた四両のセモヴェンテ75/48は吹き飛び空を飛んでいたのだ。

 

 履帯や転輪、戦車の付属品を撒き散らしながら飛んでいたのだ。

 

 私は悪夢を見ているのだろうか?

 

 出来るなら、夢で在ってほしい。

 

 しかし、現実は無情で巨大なクレータを中心に落下した四両の戦車からは白旗が上がっていたのだ。

 

 そのクレータを見て、私は思ってしまった。

 

 戦艦から艦砲射撃を受けたのではないかと・・・・・

 

 そのクレータはどう見ても、戦艦クラスの主砲の砲弾が落下したような威力だったからだ。

 

 だが、それだけでは無かった。

 

 難を逃れた二両のⅣ号戦車は何とか逃れようとするが榴弾の雨によって逃げ道を遮られ逃げられないのだ。

 

 そう、鳥かごに閉じ込められたⅣ号戦車と言う名前の鳥の様に・・・・

 

 その榴弾の威力も大きい事から150ミリ以上の主砲だろう。

 

 一両が落下した榴弾の直撃を受けて白旗が上がり、もう一両は隙を突いて突破したのだ。

 

 その一両が使用している車両が判明するきっかけをくれたのだ。

 

 三両は岩場の向こうに隠れていたのだ。

 

 『総統、榴弾を撃っていた奴を見付けました!ブルムベアが二両とシュトルムティーガーです!』

 

 その直後に待ち伏せしていたⅢ号突撃砲にⅣ号戦車は撃破されたが、貴重な情報を残してくれたのだ。だが、逆に嬉しくなったのだ。

 

 そして、西住みほの戦い方にも・・・・・

 

 西住流でもなく島田流でもない。

 

 これは、オリジナルの戦い方だ。

 

 敵を懐に誘い込んで榴弾やロケット弾の雨を降らす。そして、逃れ撃ちもらしたら各個で撃破する。点で駄目なら面で面が駄目なら点でか・・・・・

 

 そして、傭兵部隊からの報告・・・えッ?シュトルムティーガー・・・・・

 

 「しゅ、シュトルムティーガーだと!?それに、ブルムベアもか!?・・・・・ふっふふ・・あっ、はははははは!面白いぞ!西住流の戦い方じゃない、オリジナルの戦い方だ!」

 

 榴弾の射撃術は難しい半面、奥が深い。

 

 しかし、時間を与えるとシュトルムティーガーがロケット弾を装填してしまう。

 

 だが、下手に突撃するとブルムベアから榴弾の雨が降って来る。

 

 「カルパッチョ、何か手はあるか?」

 

 「迂回するにしても、周りが岩場で逆に的になりかねないですね。ですが、P40の全面装甲なら突撃したとしても榴弾の雨に晒されますし防御の堅い陣地ですね」

 

 確かに、堅い陣地であることは代わりない。

 

 しかし、西住みほは私にしたら末恐ろしい。だって、西住流の枷を外したみほの・・・・いや、流派の縛りを受けない作戦や戦略を繰り出すのだ。

 

 どれだけ、兵法書を頭に詰め込んだんだろうか。

 

 どれだけ、戦闘事例を読破したのだろう。

 

 どれだけ、それらを吸収していくのだろう

 

 まるで、私の親で自衛官で機甲師団の参謀長をしている母親の安斎和子を相手にしている様な錯覚になる。

 

 だけど、ここで負ける私ではない。

 

 私はゴーグルを掛けて、全車に下命したのだ。

 

 「戦車前進!これより、全車で突撃する!突撃!」

 

 突撃戦法は知波単だけではない。

 

 アンツィオも突撃戦法は得意としているのだ。

 

 ただ、突撃が出来る戦車がいままで無かっただけだ。

 

 爆走する四両の戦車

 

 降り注ぐ、榴弾の嵐

 

 爆発で飛び跳ねる岩石

 

 榴弾の直撃で動かなくなる味方のⅣ号戦車をしり目に岩影に隠れていたⅢ号突撃砲を見つける。

 

 「砲塔、右90度に砲塔を回せカルパッチョ!目標、Ⅲ号突撃砲!」

 

 「はい、総統!」

 

 「今だ!撃て!」

 

 「ペパロニ、左ターン!カルパッチョ、次は三式中戦車だ!」

 

 Ⅳ号戦車をドリフトの様に滑らせ、三式中戦車を仕留める。

 

 Ⅲ号突撃砲と三式中戦車を沈黙させ、鳥かご(フラッグ)から逃れたのは私のⅣ号戦車とP40の二両だけだった。そして、私の目の前にはフラッグ車である大洗のⅣ号戦車とレオパルドの二両だった。

 

 キューポラから身を乗り出して居るのは、西住みほと島田愛里寿だった。

 

 「西住みほに島田愛里寿!私は楽しいぞ!さぁ、もっと私を楽しませろ!」

 

 「エリカさんが来てないけど、行きます」

 

 「うん、私も行く。みほ、あれをやるよ」

 

 急加速してくるⅣ号戦車とレオパルドは・・・・・

 

 「これは・・・見たことが在るぞ!マズイ!対外戦で三姉妹が見せたバミューダトライアングル!?」

 

 「みほ!」

 

 「愛里寿ちゃん!」

 

 加速して来たⅣ号戦車とレオパルドはVの字になるように横滑りしてP40を狙っていたのだ。対外戦で見た三姉妹のバミューダトライアングルはドイツの選手の前では連携を見せる事なく不発に終わったが、島田愛里寿が得意とする忍者殺法を合わせたようでP40は瞬殺されたのだ。

 

 「瞬殺・・・・・」

 

 西住みほと島田愛里寿が叫んでいたのだ。

 

 「これが、私の戦車道です!足りない物は勉強して補い、みんなと一緒に強くなって行く」

 

 「それが私達の戦車道!」

 

 そうか、既に自分の戦車道と成るべく道標を見付けていたのか。

 

 だが、簡単にやられる私ではない。

 

 「ペパロニ、急速バックだぁ!レオパルドにそのまま、ぶつけろ!」

 

 「姐さん!」

 

 「カルパッチョ、ぶつけたら零距離をかましてやれ!」

 

 バックしてレオパルドに体当たりをしたが、主砲が当たる事は無かった。

 

 ガッン

 

 「撃て!」

 

 「急速前進!」

 

 「交わされた?」

 

 私もキューポラから身を乗り出したまま、カルパッチョやペパロニに指示を出して行く。

 

 一対一なら良い試合だろう。

 

 「華さん今です!」

 

 ズッドン

 

 皮肉にも西住みほのⅣ号戦車の存在を忘れていたのだ。

 

 無情にもエンジン部に命中して私のⅣ号戦車は走行不能になったのだ。

 

 『アンツィオ高校フラッグ車、走行不能!よって、大洗女子学園の勝利!』

 

 「負けたか・・・」

 

 「総統・・・」

 

 「姐さん・・・」

 

 だが、やることはまだある。

 

 ガレージ前に戻った私達は大洗女子にある事をやることにしたのだ。

 

 「負けてしまったが、これから大洗女子を労うぞ!湯を沸かせ!パスタを茹でろ!アンツィオ流でもてなすぞ!」

 

 「「「「おぉぉぉぉ!」」」」

 

 だが、元黒森峰の連中が居たのを忘れてたのだ。

 

 「私達も総統に負けるな!湯を沸かせ!ソーセージを茹でろ!ジャガ芋を蒸せ!そして、キンキンに冷えたノンアルコールビールでおもてなしするぞ!」

 

 「「「「おぉぉぉぉ!」」」」

 

 テーブルに並ぶ、大量のイタリア料理にドイツ料理の数々。

 

 何を血迷ったか、元黒森峰の生徒はディアンドルを纏い大洗女子をもてなしたのだ。

 

 逆に大洗でも、元黒森峰の生徒が同じくディアンドルを纏いノンアルコールビールを片手に飲みながら一緒になって踊り出したのだ。

 

 私は西住みほと島田愛里寿、逸見エリカを呼び、奥のテントで話をしながら食事をすることにしたのだ。

 

 「大洗女子の諸君の勝利、見事であった。試合前の無礼は済まなかった。ペパロニの特製料理を食べながらで構わないから話を聞いて欲しい」

 

 「はあ?試合前にあれだけ言っといて何なのよ!」

 

 「エリカさん、大丈夫だから落ち着いて。アンチョビさん、何故私達を?」

 

 「済まない。出来れば、みほとエリカが黒森峰で何をされたか教えて欲しい。つらい思い出かも知れない。頼む!」

 

 「みほにも初めて話す事だから小梅も呼んで良い?流石に、小梅抜きだと話せないわね。それと、愛里寿には刺激が強すぎるから大丈夫?それと、私達の内容は食事時に話せる内容じゃないわね」

 

 「えッ?エリカさん?」

 

 「エリカ、私は構わない。ママから全部を聞いている」

 

 「判った。食事時が終わってから聴こう。なら、先に愛里寿の話しを聞かせ欲しい」

 

 「安斎さん、話す事はないよ。映像で見たままだよ。逆にみほに聞きたい事がある」

 

 「えッ?何かな?」

 

 「ドイツに西住流はあるの?」

 

 愛里寿の意味が分からなかった。

 

 まさか、ドイツのプロリーグの試合の相手が西住流だと?

 

 西住流は国内だけの流派のはずだ。

 

 「うん、あるよ。ただ、私達が知っている西住流じゃないよ。茶道でも裏千家と表千家が在るように、西住流にも裏と表があるのは最近、お母さんから聴いたの。あれは、西住流でも禁忌とされた裏の西住流の一部だよ。戦車道に向かないとの理由でお母さんの先代が無くしたらしいです」

 

 「やっぱり、在ったんだね。殲滅戦に特化した裏の西住流・・・・」

 

 「ちょっと待ってくれ!まほが暴走しているのは!?」

 

 「えッ?お姉ちゃんが?」

 

 「まほさんが?」

 

 「関係あるよ。知波単との試合は録画した映像で見たけど、私が負けた対外試合と一緒だった。みほ、実家に西住流の書庫はある?」

 

 確かに、知波単との試合は酷いの一言に限る。

 

 知波単も戦力強化でチハから四式中戦車と三式中戦車長砲身の他に少数であるが五式中戦車もあった。それでも、半数を撃破する大戦果を上げたがまほが率いる本隊の突撃と重戦車の前に敗北したのだ。だだ、やり方に物議を起こしていたのだ。

 

 「愛里寿ちゃん、確かにあるよ。ただ、閲覧禁止の本が何冊もあったよ。でも、お姉ちゃんは忍び込んでは良く読んでいたよ・・・・」

 

 「「それ(だ)!」」

 

 「えッ?」

 

 「もしかしたら、その中に裏の西住流の極意とかを示した書があったんじゃない?」

 

 「わからない。でも、あの書庫の本の量なら有り得ます」

 

 「でも、読んでなければ知波単戦の説明が付かない」

 

 「みほ、結論を出す前に聞くけどまほさんをどうしたい?許すなら、許しても私は構わないし、許さないなら・・・・・でも、どんな結論を出しても私達はみほに付いていくわ」

 

 「エリカさん、やっぱりお姉ちゃんと仲直りしたい。あのね、試合前に戦車道協会から手紙があったの。プラウダに対しての非人道的な行いに対しての抗議が受理された見たいなの。書いた人を見たら、お姉ちゃんだった」

 

 「そう、なら良かったわ。でも、一度まほさんと思いっきりぶつかりなさい!姉妹喧嘩は戦車道でけりをつけなさい!そうでしょ。安斎さん?」

 

 エリカは私の考えを読んでいたか・・・・

 

 「確かに、まほを助けて欲しいのは嘘じゃない。あいつは不器用過ぎるから全部を背負い過ぎて、黒森峰のOGを叩き潰す気だろう。ダージリンが新しい戦車の導入の為に聖グロリアーナでOGとぶつかり合い、負け続ける伝統まではいらないと言い切った様にまほも黒森峰の古き伝統を壊す気だからだろうな。だから、まほは転校する生徒を止めなかったかも知れないわね」

 

 「アンチョビさんはお姉ちゃんが大好きなんですね」

 

 「ただの腐れ縁よ」

 

 こうして、私達は大洗女子と交流会をしたのだ。

 

 私は思う。

 

 不幸な事故がなければ仲の良い姉妹だったのではと。

 

 

 

 おまけ

 

 少し遡る事、私は内法のレオパルドと乗り換える時だった。

 

 「逸見さんお待たせ!」

 

 ちょうど良く、内法が来ていたのだ。

 

 「来たわね。内法、乗り換えるわよ!」

 

 私は小梅を連れてレオパルドに乗ろうとした時だった。

 

 「内法、履帯が切れてるわよ!」

 

 「あっ、本当だ・・・・」

 

 「これじゃあ、みほに合流出来ないじゃない!」

 

 「エリカちゃん、地団駄踏んでも仕方ないよ!履帯を直すよ!」

 

 「そうね。内法、予備の履帯を取って!」

 

 「逸見さん、直す前に叫んでも良い?」

 

 「構わないけど?」

 

 「何で、黒森峰から今まで履帯が重いのばかりなのよ!うちの履帯は重いだぞ!」

 

 結局、履帯を直すのに時間がかかり終わった頃には試合が終わっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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師範達の乱入


 土日が忙しくて投稿できなかった・・・・・


 

 

 アンツィオ戦は勝利で終わり、今は熊本に入港して補給を受けているが黒森峰戦に向けて準備をしており、みほと愛里寿と私の三人で作戦会議を開き黒森峰戦での人員の配置なら早く終わるが、車両の組み合わせや黒森峰の重戦車にどんな作戦でどのように封殺するなどで紛糾。気付けば時間は深夜を回っていたのだ。

  

 「みほ、黒森峰戦は車両はどうするのよ?」

 

 「そうですね。黒森峰はティーガー、ティーガーⅡ、パンター、ヤークトティーガー、エレファントに出てくれば、マウスも考えられますね。こちらも、ティーガーⅡ、パンター、シュトルムティーガーが有効だけど・・・・・・数の差から正面から戦いたくないし・・・・」

 

 「確かに、正面から無理ね。」

  

 「アンツィオの時の様に榴弾射撃はうまくいかないのは念頭に置く必要があるし、慎重に行かないと・・・・」

 

 三人で揉めているところに、ある人物が肩を組みながら二人も乱入して来たのだ。

 

 ガチャリ

 

 「ヒックゥ・・・・しぽりんと飲んでるついでに会いに来たわよ~ほら、愛里寿ちゃん、ママだよ~」

 

 「ちよきち・・・飲み過ぎだ・・・ヒックゥ・・・・せっかく熊本に立ち寄ったんだから、みほを見に来たわよ!」

 

 「えッ?ママ!?」

 

 「えッ?お母さん!?」

 

 そう、隊長室に乱入したのは、西住師範と島田師範だったのだ。

 

 だだ、問題なのは日本酒の入った酒瓶を持っており、かなり酒臭く泥酔しているみたいだが・・・・・

 

 「みほ~、愛里寿~エリカ~あなた達に良いもの持って来たわよ~ヒックゥ・・・・まぁ、明日には届くから使いなさいなと言っても元は大洗女子の戦車だけどねぇ・・・・・」

 

 「ちよきちばかりずるいぞ!ヒックゥ・・・・みほと愛里寿にはボコの熊本限定を・・・・」

 

 ドッサァ

 

 「「Zzzz・・・・」」

 

 「「「えッ?倒れて寝たの?」」」

 

 やっぱり、酷く泥酔していた様で床に倒れると西住師範も島田師範も眠っていたのだ。

 

 パッサァ

 

 「ん?何だろ・・・」

 

 みほが西住師範のかばんの中身から落ちたらしく何かを拾っていたようだが、二人を保健室のベッドに運んで寝かせると私達も会議を続ける為に隊長室に戻り、再び、どの車両を選び、いろいろな車両の組み合わせをしながら何十何百の作戦を立てては紛糾し、絶叫していたのだ。

 

 朝になり、私達は気付けば髪はボサボサになっており目の下にも隈が出来ていたのだ。

 

 そして、窓の外は日は高くなり時計は午前11時を回っていたのだ。

 

 「みほ、ひとまずシャワーを浴びてご飯でも食べようか?」

 

 「そうですね。休憩にしましょうか・・・・」

 

 「エリカ、私はエリカの手料理が食べたい・・・・」

 

 「愛里寿、私に料理をするだけの気力はないわよ・・・・悪いけど、食堂に行くわよ・・・・」

 

 「うん、エリカの手作りハンバーグが食べたかったけど仕方ないかな」

 

 「エリカさん、何か戦車倉庫の方が騒がしくないですか?」

 

 「言われて見ればそうね?」

 

 「はっ!?みほ、エリカ!戦略的撤退を進言するよ!見付かったら・・・・」

 

 「えッ?愛里寿ちゃん?」

 

 「一体、愛里寿は何を見たのよ・・・・・あっ・・・・」

 

 一時中断してシャワーを浴びて、遅い朝食にしようとしたが外が騒がしかったのだ。そして、私達が見たのは・・・・・

 

 「しぽりん!一応、大洗女子の戦車道の生徒は私の門下生なのよ!鍛えてくれるのは嬉しいけど、やり過ぎないでよ!」

 

 「ちよきちのやり方では軟弱者しか出来ません!鋼の心と肉体を身に付けるにはこれぐらいが丁度良いのです!」

 

 「その前に、生徒が潰れるわよ!」

 

 そう、大洗女子の戦車道の生徒が島田師範と西住師範の訓練を受けていたのだ。

 

 そして、二人共二日酔いもせずにジャージ姿で一緒になって訓練をしていたのだ。

 

 恐るべし、師範・・・・・

 

 ただ、問題なのは二人が火花を散らしながら訓練をしたために、体力を切らして横たわる死屍累々の生徒達。元黒森峰の生徒達も黒森峰で西住師範の訓練を受けていたとは言え、何をどうしたらこんな結末になるのだろう。

 

 私は二人の服装に気付いが、ここで突っ込んではいけないのだ。

 

 師範達が着ているジャージは大洗女子の体育のジャージだとは間違えても言えないのだ。

 

 犯罪臭漂うとは言ってはいけないのだ。そう、年齢的にアウトだと・・・・

 

 言ったら最後、地獄の果てまで追われるだろう。

 

 そして、私達は既に徹夜での作戦会議で体力を消耗しており、その場から撤退しようとするが・・・・・

 

 「みほに逸見・・・・・」

 

 「愛里寿ちゃん・・・・」

 

 ガッシィ

 

 名前を呼ばれ、誰かに背後から肩を掴まれたのだ。

 

 私達は油の切れた歯車の様に首を振り向かせると、師範二人がニッコリ笑っていたのだ。

 

 「「「ぴっぃぃ!?」」」

 

 「あなた達、隊長と副隊長が訓練にいないのはどんな領分かしら?」

 

 「いくら、作戦会議で徹夜明けでもねぇ・・・・」

 

 「「逃がさないわよ!」」

 

 私達は此処に来た段階で師範達に見付かって居たのだ。

 

 そして、二人から来る威圧感からその場から逃げ出したかった。

 

 だが、出来なかったのだ。

 

 私は車長になる前は装填手だったが、西住師範のように腕力と握力はない。

 

 そう、西住師範に捕まった時点で逃げると言う道が途絶えていたのだ。

 

 既にみほと愛里寿は涙目になっており、新たに作られた手信号で聞くが・・・

 

 (逃げられないです・・・)

 

 (無理よ!力の差が在りすぎるわよ!愛里寿は?)

 

 (駄目、体力を消耗し過ぎて逃げられない)

 

 諦めるしかないのだろうか?

 

 今の三人の状態では死を意味する。

 

 (みほ、愛里寿に良い手があるわ)

 

 (どんな手ですか?)

 

 (興味がある。どんな手?)

 

 (下手すると西住師範と島田師範が大泣きするわよ?それでも?)

 

 (ママから逃げる為なら・・・)

 

 (みほは?)

 

 (愛里寿ちゃんの様子次第で・・・)

 

 (愛里寿、島田師範に『ママなんかだっきらい』って言って見なさい)

 

 (えッ?それって、ママが絶対に泣くよ?)

 

 (戦略的撤退するためよ!)

 

 「ほほぅ・・・逸見、逃げる手立てか?」

 

 ぎっりぃ

 

 「ぐぅ!」

 

 どうやら、西住師範には読まれていたらしい。更に、掴まれている肩に力が入る。

 

 「さぁ、みほ、逸見、愛里寿・・・・訓練を受けるのか、特別メニューを受けるのか決めて貰うぞ?」

 

 (愛里寿、頼む!)

 

 (無理!)

 

 脅え涙目で愛里寿が無理と言っている意味が島田師範を見て判ってしまった。

 

 「愛里寿ちゃん?せっかく、センチュリオンを持って来たのよ?やるわよね?」

 

 と言いつつも、愛里寿を見る目は獲物を狩る狩人の目だった。私もそんな目で見られたら泣くだろう。正直、怖い。

 

 三両のⅣ号戦車と、ある人物達がやって来たのだ。

 

 『ノリと勢いとパスタの国からドゥーチェ参上!』

 

 何故かⅣ号戦車G型に乗りアンチョビがやって来たのだ。

 

 だが、タイミングが悪い。

 

 これほどまでにタイミングが悪いのは見たことがない。

 

 何故なら・・・・

 

 「なっ、何故、西住師範と島田師範が学園に居る!?」

 

 師範達を見て固まるアンチョビに

 

 「たかちゃん!?どうしたの?」

 

 体力切れで倒れているカエサルを介抱するカルパッチョ

 

 「あら、確か今日から短期転入でやって来たアンツィオの・・・・」

 

 「そうだな・・・・丁度いいな。みほ、逸見、愛里寿はちよきちが持って来たセンチュリオンに乗りなさい」

 

 新しい獲物を見付けた師範二人に師範達に睨まれ一斉に固まるアンツィオの生徒達・・・・

 

 西住師範のはみほを見ながら聞くが・・・・・

 

 「お母さん、拒否権は?」

 

 「無いわよ。西住流に撤退の文字はないわ」

 

 「お母さん?私、もう西住流じゃないだよ?それに私達はまだ作戦会議中だよ?シャワーに浴びに来ただけだよ?」

 

 どうやら、撤退の文字はないの一言にみほがキレたらしい。

 

 「ちょっと、みほ?」

 

 「何かな?エリカさん?」

 

 「せっかく、西住師範と仲直りしたのに・・・」

 

 「うん、知ってるよ?だから、普通の西住みほとして、初めて親子喧嘩するんだよ?せっかく、お姉ちゃんの説得の為とエリカさんや愛里寿ちゃんを驚かそうと短期転入でアンチョビさん達を呼んだのに・・・・」

 

 正直、怒ったみほが怖かった。

 

 いや、久しぶりに見たとでも言うのだろうか?

 

 「いや、そんなに怒らなくても?」

 

 「エリカさん違うの。訓練ならいくらで受けるよ。ただ、お母さんのバックに入っていた物に怒っているの。ねぇお母さん、これ何?」

 

 ドッサァ

 

 「こっ、これは・・・」

 

 みほがスカートのポケットから取り出して西住師範の前に投げたのは一冊の本だった。それを見た私もそうだが、島田師範も言葉を無くしていた。

 

 西住師範はみるみる顔が真っ青になって行くのが判る。そして、これを見ていた、愛里寿が島田師範を見てニヤリと笑っていた事から、何かを企んでいたようだった。

 

 みほが西住師範の前に投げた、その本の題名は

 

 『娘との正しい付き合い方』

 

 みほはその本を拾いページをめくりながら西住師範への尋問が始まったのだ。

 

 「お母さん?これはどういう事かな?『適度なお小遣いを上げる』だよね?何で、挟まっていた封筒には使用金額が無制限のブラックカードが二枚もあるのかな?しかも、カードには私とお姉ちゃんの名前が在るんだけど?」

 

 「えッ?それはお小遣いとして渡そうかと・・・・」

 

 「お母さんなら、絶対に無言で渡すよね?」

 

 「そっ、それは・・・・」

 

 図星だったらしい。凄い剣幕で責め立てるみほ。

 

 「もし、無言で渡されたら勘当されるかと思いますよ!ただでさえ、無口で威圧感が有るんだよ!」

 

 「娘から威圧感があると言われた・・・・・」

 

 みほにはっきり言われ、がっくりとうなだれる西住師範だが、それで終わるみほでは無かった。そう、たたみ掛けたのだ。

 

 まるで、西住流のように・・・・

 

 「しかも、何かな?『親子で適度に遊ぶ』って在るけど、同じところに挟まりれた編成表は門下生を集めた紅白戦だよね?何で三十対三の殲滅戦なのかな?普通に考えたら無理な編成だよね?エリカさん、この編成を見てどう思うかな?」

 

 「えッ・・・何・・・・これ・・・・・」

 

 私に飛び火して、みほから紅白戦の編成表がわたされ、編成を見て言葉を失った。

 

 どう見ても、不可能だ。

 

 勝てる要素が全くないのだ。

 

 ドイツ軍戦車隊の大エースのミハエル・ヴィットマンでも逃げ出す編成だったのだ。

 

 門下生チームはマウスが四両、ティーガーⅡが八両、ヤークトティーガーが六両、パンターG型が八両、Ⅲ号戦車が四両の合計三十両の編成に対して師範のチームはティーガーが二両とティーガーⅡが一両の三両だけだった。

 

 「ねぇエリカ、私にも見せて・・・」

 

 「そうね。見せて下さる?」

 

 島田親子で編成を見て、島田師範が叫び、愛里寿は呟きながら脅えていた。

 

 「えッ・・・しぽりん、これ本当にやろうとしてるの?しぽりん、これは無謀よ!」

 

 「あっ・・・・これ、死んだ・・・・」

 

 「確かに無理よ。マウスが四両、ヤークトティーガーが六両が居る時点で88ミリ砲で撃ち抜くのは無理よねって、その前に、これは適度に遊ぶレベルじゃないわよ!ヘビィよ。ヘビィ!何、何なの?このレベルが適度なの?これ、普通に遊びなの?違うでしょ!」

 

 思わず叫んでしまった。

 

 「逸見、違うのか?」

 

 「エリカさん、違うのかな?」

 

 キョトンと私を見るみほと西住師範。

 

 「あっ、もう!何で親子揃いも揃って天然ですか?適度に遊ぶなら、自宅でテレビゲームをするとか遊園地とか水族館に出かけるとかあるでしょ!みほ、あんたも突っ込むところが間違っているわよ!お小遣いで、ブラックカードって何よ!普通、お小遣いなら15万ぐらいよ!」

 

 「ちょっと待て!お前もだ!逸見エリカ!」

 

 突っ込んで来たのはアンチョビだった。

 

 「なっ、何よ?」

 

 「適度な遊びなら自宅でテレビゲームするとか遊園地とか水族館に出かけるは正解だろう。しかし、おこずかいの金額が根本的に間違っているぞ!普通なら貰えて2万円ぐらいだぞ!逸見エリカが言っている金額は成人した人の給料の手取りぐらいだ!」

 

 「えッ?私、実際に生活費以外にお小遣いで、それくらいは貰っているわよ?」

 

 「どっ、何処のお嬢様だぁ!」

 

 「こう見えても社長令嬢よ!」

 

 「えッ?マジ?」

 

 社長令嬢に何故か驚くアンチョビ。

 

 私は社長令嬢に見えないのだろうか?

 

 「エリカさん、社長令嬢だったんだ。知らなかったよ・・・・」

 

 そして、長く付き合いながも社長令嬢だった事を知らなかった天然がいたのだ。

 

 「みほ、大洗にも競技用の砲弾を納めてるでしょ!あれは、パパの会社よ!西住師範に聞いてみなさいよ」

 

 実際、この学園にも私がパパに問い合わせて協会を通して格安で砲弾を仕入れている。流石に、中古の競技用の砲弾では事故が起きかねないからだ。

 

 「確かにそうね。逸見の母親は西住流の門下生にして黒森峰付属中で戦車道の顧問として教鞭を振るっているし、父親は競技用の戦車砲の砲弾を製作している会社の社長ね」

 

 何故か、私が社長令嬢に見える見えないの話でみほと西住師範の親子喧嘩はパタリと止んでしまったのだ。だが、師範達がお姉ちゃんのキーワードを聞き逃すほど甘く無かった。

 

 「みほさん、アンツィオからの短期転入と西住まほさんの件は私に話が無かったのは何故かしら?」

 

 「何、まほがどうかしたのか?」

 

 「えッ?お母さんは黒森峰と知波単との試合を見てないの?」

 

 「まほが勝つに決まっているから見るが必要ない」

 

 「しぽりん、私が飲みに誘った理由がそれだったのよ?」

 

 「あぁ、西住流に裏の西住流の話だな。それがどうしたのだ?」

 

 「ママ、私が話す。西住師範、去年の11月の対外試合を覚えてますか?」

 

 「知っている。島田流の門下生が中心のチームがドイツのプロリーグのチームに惨敗した件だったな」

 

 「はい、私はあの試合では総隊長をしてました。そして、知波単戦でまほさんが使った手も作戦も対外試合と全く同じでした。西住師範ならその意味が判るかと思いますが?」

 

 「えッ?そんなはずはない!まほは西住流の後継者よ!邪道の裏の西住流を使うのよ!」

 

 「じゃあ、お母さんは黒森峰のOGの事も知らないのね?」

 

 「いえ・・・・それは知っている。まほにあの事件に絡んだOGと在校生を粛清(退学)するように言ったのは私だから・・・・みほや逸見達をあんな風にしたOGを潰して膿を出さなければ黒森峰に未来はない。あと、逸見にはごめんなさい。家元として事故の原因を調べていれば、戦犯としてみほも逸見達が責められずに済んだはずなのに・・・・」

 

 「師範は知っていたんですね?」

 

 「ごめんなさい。全て調べさせて貰いました。逸見達、Ⅲ号戦車の乗組員が退院した後、逸見と赤星がみほを面倒を見ていた事も。そして、みほの身代わりになってリンチを受けた事も知っています。逸見・・・・いや、逸見さんには謝っても謝っても許されない事は判っています。貴方がリンチで・・・・」

 

 「西住師範、待って下さい。その事は私がみほに言います」

 

 「えっ、エリカさんどういう事なの?」

 

 みほに隠して来た事を話すしか無かった。アンツィオ戦ではまほさんの事で流れたけど、隠せないは判っていた。

 

 私はみんなが居る前で話す事にしたのだ。

 

 「みほ、ゴメン!私と小梅が退院する前にみほが部屋に閉じこもった後、私達も先輩やOGから制裁を受けたのよ。みほはいくら制裁を受けたとしても隊長や師範の後ろ楯が在ったから命の心配は無かった。だけど、私達は違っていたのよ。先輩達にまた落ちても大丈夫な様に訓練しましょと言われて、手足を縛られたまま天井クレーンに吊されて下水を貯めたドラム缶に頭からドラム缶の中に入れられて溺れるまで浸され、上げられては下水の臭いで自分の顔を嘔吐物で汚して、再び、ドラム缶の中に浸され気絶すると角材で背中やお腹を叩かれて逆さまに吊されたまま放置されて死にそうにもなった。クラスでもノートや教科書の紛失は当たり前で、顔以外の暴行も当たり前の様に日常だった。私は運が悪くてお腹を安全靴で蹴られた衝撃で左側の卵巣が潰れたわ。だけど、不幸中の幸いで卵巣が片方が残っているから子供は産めるわ。でもね、こんな辛い思いをしないといけないのって、一時期、みほに助けられた事を恨んだ事も在った。こんな辛い思いをするなら、あのまま死んでいればどれだけ良かったかって、気が狂いそうにもなった・・・・・・」

 

 「エリカさん・・・・」

 

 「でもね、気付いたのよ。私はみほが大好きで、小梅も内法も藤木もみほが大切な友達でみほは私達を大切な友達だと思っている。だから、耐えて耐えて、ずっと、耐えて行こう。そうしたら、今の学園の様に一緒に暮らせて心から笑える日が絶対に来る。そう信じて耐えようってね。みほの為に私達が側に居よう、みほに出来る事をやろうって決めたのよ。そして、私はみほとの転校を選んだの。小梅は置いて行かれるのが怖くて一緒に行くと言ってたわね。でも、本心はみほと一緒に居たかった。こんなにも暖かくて優しくなれる場所だから。みほに黙っていたのはごめんなさい」

 

 「うんん、エリカさん。私、知っていたよ。だって、あの日に来てくれた時のエリカさんの体がボコの様に見てて痛々しいだもん。だから、私も転校を選んだんだよ。だから・・・・・ずっと一緒だよ」

 

 「みほ!」

 

 私は嬉しくなり、みほに抱き着いたのだが

 

 「えっ、エリカさん!?」

 

 「コッホン。逸見、誰がみほに抱き着い良いと?」

 

 「しっ、師範!?」

 

 「まぁ、良いわ。これからもみほを頼むわ」

 

 「しぽりん達が和んでいるところで悪いけど、黒森峰戦の作戦に目処は付いたの?」

 

 「はい、アンチョビさん達が来てくれたおかげで何とかなりそうです。島田師範、センチュリオンはありがたく使わせて頂きます」

 

 「なら、良かったわ。私が家元に運び込めたのは元大洗で使っていたセンチュリオンだけだったし、家元で飾って置くのもね・・・」

 

 そして、師範達の帰り際に西住師範からは

 

 「みほ、逸見には済まないと思いますが、まほの心を助けてあげて。敗北を知ればきっと、裏の西住流が間違いだと気付くはずですから・・・」

 

 「わかりました。私もお姉ちゃんと仲直りしたいから・・・・」

 

 「そう・・・・」

 

 何故か、寂しそうに島田師範と一緒に帰る西住師範だった。

 

 「ところで、みほは黒森峰で使用する車両を決めたの?」

 

 「うん、決まったよ。ティーガーⅡが三両、パンターF型が三両、センチュリオンが一両、シュトルムティーガーが一両、Ⅲ号突撃砲が一両、ヘッツァーが一両、Ⅳ号戦車F2型が一両の十一両で挑みます。今回のフラッグ車はあんこうチームでやります」

 

 「みほ、センチュリオンには私が乗る」

 

 愛里寿がセンチュリオン乗るとなると・・・・

 

 「わかりました。愛里寿ちゃんにはセンチュリオンを任せる積もりだったので大丈夫です。その代わりにパンター小隊の人選と指揮をお願いします」

 

 「判ったよ。じゃあ、私は四両編成の小隊の指揮を取るんだね」

 

 「はい、お願いします。特に、愛里寿ちゃんには小隊規模で黒森峰の戦車隊を掻き回してもらいます」

 

 「みほ、私はどうするのよ?」

 

 「エリカさんとアンチョビさんには私のティーガーⅡの小隊に入って貰います。丁度、ティーガーⅡが三両あるので小隊を組んで黒森峰のフラッグ車を狙い、シュトルムティーガーはⅣ号戦車と組み隙が在ればロケット弾を撃ち込んで相手の錯乱と分断を狙って貰いましょう。Ⅲ号突撃砲とヘッツァーには待ち伏せで撃破よりも履帯を切る事に専念して貰いましょう。とにかく正面からは戦いません。分断と待ち伏せがメインで行きましょう」

 

 「じゃあ、私の小隊の役目は引っ掻き回してキルゾーンに誘導したり分断だね」

 

 「それだと、会場が決まるまでは待ち伏せと分断の訓練がメインになりそうね」

 

 「安心しろ、私も決勝が終わるまでは大洗の味方でいるつもりだ」

 

 アンチョビ達はどうやら決勝までは大洗に居るつもりのようで、みほとどんな契約をしたか気になるが聞かないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 アンツィオ戦終了後、私はアンツィオの寮に帰った。

 

 「ハァ・・・負けちゃったな・・・・」

 

 雑誌や衣類が散らかる部屋の中、ベッドに座りながら今日の試合を振り返る。

 

 結果は負けだ。得意な砂漠戦なだけに、とても悔しかった。

 

 だけど、私的には新しい発見とこれからの戦術を考えさせられるのも事実だった。

 

 今までの戦車道の試合は戦車同士の平面での殴り合いがメインだったが大洗が使った手は平面ではなく立体的な攻撃だった。

 

 これの意味は大きいと私は思う。

 

 プロリーグや大学でも、シュトルムティーガーやブルムベアなどの導入する話を聞いた事があるが、実際はまだ試行錯誤の繰り返しだったりするのが現状だった。

 

 だけど、負けた以上は黒森峰からの資金の融資はないだろし、多分だけど大洗も対黒森峰対策を練っているだろう。貧乏高であるアンツィオではこれ以上の戦力の充実は難しいのが現状だし、考えるなら戦略を一から練る必要が在るだろう。

 

 だけど、私には来年がないのだ。

 

 来年からは大学生だし、次期隊長はカルパッチョと決まっている。

 

 「せめて、まほに一泡吹かせてやりたかったなぁ・・・・・」

 

 思うのは黒森峰の隊長であり、幼なじみのまほだった。

 

 まほとは小学生までは一緒の学校だった。

 

 あの頃のまほとの戦車道は楽しかった。

 

 だけど、私は茨城に引っ越してしまった。

 

 親の転勤だった。

 

 だが、次に出会ったのは角谷杏だった。

 

 中学卒業までは角谷杏と戦車道をしていた。

 

 私が車長で杏が砲手をしてくれた。他には、杏の幼なじみの小山柚子や川嶋桃と四人でつるんだりもした。私もこのまま杏達と戦車道が出来るかと思っていたが、中学卒業と同じくして今度は母親の宇都宮基地への移動だった。

 

 仕方なく、アンツィオへと入学した。

 

 そこでは、戦車道の経験者は私だけだった。

 

 二年の歳月を掛けて、アンツィオの戦車道の育成に力を入れ、気付けば私はドゥーチェになっていた。

 

 思い出に浸っていると携帯が鳴ったのだ。

 

 ディスプレイは『非通知』だった。

 

 「もしもし、安斎だが?」

 

 「あの、アンチョビさんですか?大洗女子の西住みほです」

 

 電話の相手は西住みほからだった。

 

 「西住、どうしたんだ?」

 

 「アンチョビさんにお願いがあります。決勝までで構わないので10人だけでも良いので短期転入はできませんか?どうしても、お姉ちゃんを止めたいんです。だから、力を貸して下さい」

 

 まさかの西住みほからの頼みだった。

 

 みほとも小学の時に面識があるが、私の事など覚えて居ないだろうと思っていたが・・・・

 

 だけど、まほに一泡吹かせるチャンスだった。

 

 小学生の時にⅡ号戦車を使った試合での決着を付けてやろう。

 

 ただ、行くだけではつまらない。

 

 条件を付けて行ってやろう。

 

 「良いだろう。短期転入で私を含めた10名で行ってやる。だが、二つだけ条件がある」

 

 「えッ?どんな条件ですか?」

 

 「一つは角谷杏を私が乗る戦車の砲手にする事と滞在期間中のパスタを用意する事だ」

 

 「わかりました。その条件なら大丈夫です」

 

 「よし、契約成立だな。行くのは私とカルパッチョ、ペパロニと元黒森峰の生徒で練度が高い生徒で良いだろう。その方が連携も取りやすいだろう」

 

 「ありがとうございます。アンチョビさん・・・・」

 

 私は直ぐに生徒会へと連絡して大洗へ行く準備を始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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かつて、東の最強と言われた英雄

 


 

 何故、こうなった・・・・

 

 私にも理由がもわからない。

 

 ただ、言えるのは悪魔が降臨したとしか言えない。

 

 そして、倉庫前でティーガーⅡから降りてきた乗組員達を見た四人の娘達はただ、顔を真っ青にするだけだった。乗組員達は娘の側に行き、反応を楽しんでいるのか呆れているかも分からない。

 

 ただ、見聞きしたのは・・・・・

 

 黒い笑みを浮かべながら『池田流を再教育ね♪』と言われ、顔を引き攣る生徒会長の角谷杏

 

 一昨日に引き続き、再び現れた事に涙目になっている副隊長の島田愛里寿

 

 仕事で居ないはずの人物が目の前に居て、お小遣の減給を言われムンクの雄叫び状態の安斎千代美

 

 目の前に居る人物を見て、現実を受け入れられない秋山優花里

 

 演習場では、撃破され白旗を掲げたⅣ号戦車H型シュルツェン装備のキューポラから身を乗り出したまま、何故、負けたか理解出来ずに涙目になるみほ。

 

 整備で使えなかったはずのティーガーⅡのキューポラから身を乗り出し、私達を睨むパンツァージャケット姿の飛騨茜・・・・・

 

 そして、演習場には白煙を上げ白旗のオブジェクト化した大洗の戦車隊・・・・・

 

 私はティーガーⅡから飛び降り、煤で汚れながらも叔母さんに叫ぶが小梅に宥められ取り押さえられながらも何故こうなったか理解できなかった。

 

 だが、現実はたった一両の隊長用のティーガーⅡに十一両の戦車が成す統べなくして全滅したのだ。

 

 

 

 

 

 事は遡ること一日前・・・・・

 

 学園艦は未だに熊本港で補給の真っ最中だった。

 

 九州新幹線の高架下には博多から来ている移動屋台の『駆逐戦車おでん』には、実に15年ぶりの再会が行われていたのだ。

 

 「なんで、私まで呼び出すかなぁ?娘はアンツィオ高校だし関係ねぇだろ」

 

 関東の宇都宮駐屯地から呼び出され仏頂面の和子。

 

 「まぁまぁ、和子が居ないと始まらないわ。私だって、旦那と優花里の目を盗んで外泊で来たのよ。たまには、良いじゃない」

 

 宥めながらも、その場の空気を和まそうとする好子。

 

 「そうよ。私だって、学園の仕事を生徒会に丸投げして来たのよ。危うく、杏に気付かれる所だったわよ」

 

 いつも、生徒会に仕事を全部丸投げしているが、それを気にしない弘子。

 

 「あら、皆さん集まった様ですね」

 

 「久しぶりね」

 

 酒瓶を片手におでん屋に入る千代とほろ酔いで出来上がっている私。

 

 「「「呼び出しておいて遅い!」」」

 

 「ゴメンゴメン。ちよきちが学園で訓練を見て来たついでに、様子を聞いたらアンツィオ戦の勝利に浮かれてるからお仕置きしようって、ちよきちと決めてたのよ」

 

 「って、また、てめぇかよ!まぁ、隊長の頼みだから行くけどさぁ。でも、その前に好子と千代に言いたい事があるけど良いか?」

 

 和子は相変わらず口が悪いが、私の頼みはいつも聞いてくれた。だが、ちよきちと好子の喋り方に違和感を感じていたのだ。

 

 「えッ?何かしら?」

 

 「そうね?」

 

 首を傾げる、ちよきちと好子の二人。

 

 「あのさ、その口調きめぇよ!いくら、歳を食ったからって丸くなり過ぎだろ!」

 

 「ああん!何か言ったかぁ?和子さんよぅ」

 

 和子にガンを飛ばし、キレる好子に

 

 「今は家元だからキレないわよ」

 

 涼しい顔で、日本酒を飲むちよきち

 

 「でもよ、元ダージリンって言ったら?」

 

 挑発を辞めない和子。とうとう、言ってしまった。

 

 ちよきちへの禁句いや聖グロリアーナに転校した時の黒歴史を・・・・

 

 「ぶっ殺す!」

 

 「上等だぁ!」

 

 三人がギャアギャア騒いでいると、隣の移動屋台『重戦車おでん』では眼鏡を掛けた男性が飲んで居たのだ。

 

 「全く、五月蝿いですねぇ!何処の馬鹿ですか?顔が見てみたい!」

 

 火に油だけは辞めてくれ・・・・

 

 この、三馬鹿トリオを押さえる私の身にもなって欲しい。

 

 「あっ、てめぇは!」

 

 和子が誰だか気付き

 

 「あっ、お前は!」

 

 好子も気付き

 

 「あら、奇遇ね。死にに来たのかしら?『何処の馬鹿ですか?』は私達ですが何か?」

 

 そいつを見て凄まじい形相のちよきち

 

 「げぇ!?しっ、島田師範に安斎参謀長・・・・って、この面子は・・・元大洗の問題児集団!」

 

 嫌な予感しかしない。

 

 「げぇとは何でしょうね?元大洗の問題児集団?やっぱり、ぶち殺しましょうかね?」

 

 「奇遇だな。千代とは珍しく気が合うねぇ!ぶっ殺す!」

 

 「私が押さえるから二人共任せたわよ!」

 

 あの役人だと判った瞬間に好子が自慢の怪力で取り押さえると、どう料理をしようかと話し合うノリノリの三馬鹿トリオ。ちよきちが何かを思い付いたように店主に最後の晩餐と言わんばかりの一番高い日本酒を一升瓶で頼んで居たのだ。

 

 「おじさん、一番高い大吟醸を一本頂戴!」

 

 「あいよ」

 

 「しっ、島田師範!ちょっとしか飲めないから辞めてくれ!」

 

 「い・や・だ!えっい!」

 

 やっぱり、こうなるのね・・・・

 

 「んっ、ゴォ!?ごくごく・・・・」

 

 役人風の男性は口に瓶の飲み口を押し込まれて無理矢理飲まされて居たのだ。

 

 毎回、私は一緒に飲んでいて思う。しぽりんとちよきちが居るなら避ければ良いのにと・・・・・

 

 前回はしぽりんを酔った勢いで挑発して殴り飛ばされ、今度はちよきちを・・・・・

 

 懲りない人だなぁと私は正直に思う。

 

 だけども、私達はこの男には恨みはある。

 

 20年前に、私達を騙したのだから・・・・

 

 物理的に消すのは簡単だが、戦車道で晴らすと決めたのだ。

 

 それが、私達五人が決めた事だった。

 

 そして、三馬鹿トリオは・・・・

 

 「あら、良い飲みっぷりねぇ」

 

 片手で瓶の底を押さえて役人にグイグイ飲まして、日本酒の入ったコップを片手に悪い笑みを浮かべる千代に

 

 「んじゃあ、もう一本行っとくか?」

 

 空になった一升瓶を抱きながら店主にお代わりの酒瓶を頼み、悪酔いしてノリノリの和子

 

 「ダメじゃん!これ、もう酔い潰れてるじゃん・・・・」

 

 コップを片手に酔いながらも、空いた片手でフェンスの方に酔い潰れた役人を投げ捨てる好子

 

 ある意味、このトリオだけは敵にしたなくないと思ったのだ。

 

 「茜、私達を集めたのはお仕置きだけじゃないでしょ?」

 

 「おっ、さすがは古狸の弘子だね。宙ぶらりんでいる三人にはそろそろ決めて貰わないとね。確実に黒森峰の一連の事件で一番の被害が出るのは紛れも無く西住流だよ。私はしほが嫌いな訳じゃない。でも、西住流が復興するまではちよきちが率いる島田流が日本の戦車道を引っ張れば構わないし、だからと言っても西住流まで潰れてしまうと日本の戦車道の未来が困る。それで、お灸を据えるついでに今の大洗をみんなに見て貰おうって事よ。それに、来年からは私の娘の楓も大洗に入学させるし」

 

 「けっ、めんどくせぇな。だが、確かに大洗が廃校になるのは困るしな。いろいろな意味でな。そうだった。千代、ドイツのプロリーグの隊長の話を聞いたか?」

 

 「えッ?何がよ?」

 

 「うちの諜報部からの情報だか、愛里寿のお嬢をこてんぱんにした隊長は確かパイパーだっけ?あれが文科相の学園艦担当の役人の要請で九州大学に留学したぞ。後、パイパーの使っているティーガーの乗組員とチームの若い連中も一緒にな」

 

 「えッ?本当なの?」

 

 「九州大学までしか情報が掴めてない。でもよ、千代は大学の戦車道の理事長だろ?そっちで掴めるんじゃないか?」

 

 「大丈夫よ。文科省の息の掛かった九州の大学選抜がかなりきな臭いから。そのうちにぼろが出るわ」

 

 「それを含めてよ。嫌な予感がするの。だから、今のうちに彼女達を育てたいのよ。私達の時間が許される限りにね。私達も40近いし、英雄である時代は終わりよ。彼女達にはかなりの重荷かも知れない。でも、西住みほちゃんなら大きな可能性が見えるのよ。だから、お願い!ちよきちからは島田流を、弘子からは池田流を教えてやって欲しいの」

 

 私はエリカから戦車道の指導をして欲しいと言われた時は正直に言えば悩んだ。エリカにはまだ隠しているが、各流派の書物を読み漁りもしていた。だけど、実際に物に出来たのはしぽりんの西住流、ちよきちの忍者殺法の島田流、弘子の単機早駆けによる喧嘩殺法の池田流の他に、旦那の実家でもあり、隠蔽し相手を欺き立体的に攻め立てるが極意の飛騨流・・・・・

 

 だけど、弘子の池田流も旦那の実家の飛騨流もすでに存在していない。

 

 一応、弘子は娘の杏には教えていたようだったが、杏の臆病な性格が祟り極意を習得するまでには至っていないし、私も旦那の実家から運び出した極意を書き記した書物と幼なじみでもあり旦那から、少しだけ教わったに過ぎないのだ。何故、私達がチームを組む事になったかは、大洗女子に入学してからだが、全員は車長は出来るが組める人と車両が無かったのも事実だ。そして、余った私達は丁度良く得意な席があったから、そこに座ったにすぎなかった。それが私達のチームの始まりだった。

 

 話が逸れた・・・・

 

 「別に構わないわ。私の門下生だし・・・ヒックゥ・・・・」

 

 と酔いながら答える、ちよきち

 

 「私は逸見エリカに興味が在るわね。学園で娘に噛み付いた血の気の多さは池田流に相応しいし、杏より鍛えがいがあるわね。」

 

 とエリカに興味津々の弘子

 

 「じゃあ、私は装填手を鍛えてあげるわね。せめて、4秒に一発は装填出来るレベルに・・・」

 

 大洗の装填手達に合掌したくなるような感じだがノリノリの好子

 

 「仕方ないなぁ、私は無線手にアマチュア無線二級または三級が取れるレベルに教育すれば良いんだろ!私は休みが取れて二週間だけだからな!」

 

 私は・・・・

 

 「弘子、私ならみほちゃんのチームとエリカと小梅コンビのチームには教えられるだけ教えてみたらどうかな?でも、その前にやることが有るよ?」

 

 「「「「「お仕置きだな」」」」」

 

 おでん屋の店主が震え上がるような黒い笑みを浮かべた私達だった。

 

 弘子にはティーガーⅡの隊長用かセンチュリオンを確保する任務を与えて飲み会が終了したのだ。

 

 

 

 

 今日の訓練では、基礎訓練に加え新たに入った整備班と風紀委員会の三人組にアンツィオから来たメンバーを含めた全体訓練の予定だった。しかし、戦車倉庫にはみほが乗るティーガーⅡが使えなくなっていたのだ。

 

 ティーガーⅡには使用禁止と学園長の判が押された張り紙がされていたのだ。

 

 「みほ、何か聞いてる?」

 

 「あっ、エリカさん。何も聞いてないよ?」

 

 「じゃあ、愛里寿は?」

 

 「えッ?知らないよ」

 

 杏さんが学園長に電話をしてくれたが電源が切れてるらしく謎が深まるばかりだった。

 

 「隊長、ならⅣ号戦車を使って貰っても良いですか?」

 

 整備班の班長の板野だった。

 

 「板野さんどうして?」

 

 「昨日、生徒会が注文していたH型改造キットが届いたのでF2型から改造したんです。整備班と風紀委員会のチームに使わせる前に不具合を出しておきたいです。そっちにはアンチョビさんに許可とったのでアンツィオのⅣ号戦車G型を使わせるので・・・・・・」

 

 「分かりました。あんこうチームはⅣ号戦車H型を使います」

 

 こうして、訓練が始まったのだ。

 

 ただ、この時に板野の提案を押し退けてまで、みほにティーガーⅡを使わせていればと後悔する事になるが知るよしも無かった。

 

 訓練が始まり、基礎訓練が終わり全体訓練に移ってから30分ほど経つと悪夢が起きたのだ。

 

 『こちら、カモさんチーム!何者かに砲撃を受けて、走行不能!』

 

 Ⅳ号戦車G型が何者かによってやられたのだ。

 

 やられたのは組んで間もない風紀委員会と整備班のチームだったのだ。

 

 みほから全体に下した命令を出すが・・・・

 

 『全車、散開!相手を見極める必要があります』

 

 『こちら、レオポンチーム。車種判明、隊長用のティーガーⅡ』

 

 愛里寿のチームからの情報で隊長用のティーガーⅡだと判る。

 

 『こちら、かめさんチーム!うっわぁ!こっち来るな!すいません、やられました!』

 

 今度はパンターF型を使う内法のチームが食われたのだ。

 

 『同じく、ウサギさんチームもやられました!』

 

 『こちら、アヒルさんチーム!やられました!』

 

 パンターの小隊が壊滅した事になる。

 

 「ねぇ、エリカちゃん。何か、装填速度が早くない?」

 

 「小梅もそう思う?」

 

 あのティーガーⅡに自動装填装置はないが装填速度が約2秒から3秒だとすれば化け物だ。

 

 だけど、先程から被害報告が止まらないのだ。

 

 既に、へびさんチームのヘッツァーもカバさんチームのⅢ号突撃砲が喰われ白旗を掲げていた。そして、ティーガーⅡが見え始めた頃には最高速度の38㎞を維持したまま、慣性ドリフトをしながらキリンさんチームのシュトルムティーガーを左側面に一撃を入れて喰い散らかし、マングースチームのアンチョビが駆るティーガーⅡには後ろのマフラーの所に主砲を撃ち込んでいたのだ。

 

 最初の報告から換算して10分にも満たない時間で八両が喰われたのだ。

 

 残るのはみほのあんこうチーム、愛里寿のレオポンチーム、私のワニさんチームの三両だけだったのだ。

 

 最早、悪夢でしかなかった。

 

 キューポラから身を乗り出し、双眼鏡でティーガーⅡを見ると見覚えのある人物が身を乗り出したまま指揮をしていたのだ。だが、その前に嫌な予感がしたのだ。

 

 「小山さん!信地旋回!前面をティーガーⅡに向けなさい!喰われるわよ!」

 

 しかし、正面に向けても無駄だったのだ。

 

 「小梅、射撃準備!川嶋さん、装填を早くしなさい!」

 

 ガッン

 

 「くっ、大丈夫よ!ティーガーⅡの主砲でも正面装甲は・・・・」

 

 「エリカちゃん!エンジンが止まったよ!」

 

 「なっ、なんですって!?」

 

 車内に響く音に命中した衝撃にエンジンが止まったのだ。キューポラから身を乗り出すと、私のティーガーⅡは白旗を掲げていたのだ。

 

 「えッ・・・・・・嘘でしょ?」

 

 私が見たのは操縦手ハッチの砲塔寄りの場所に砲弾が刺さっていたのだ。

 

 まさかのショットトラップだったのだ。

 

 弾痕は主砲の防楯脇にある丸みがある辺りに当たっており、そこからショットトラップが起きたのだ。その構造的欠陥が在るために黒森峰ではヘンシェル砲塔を使用している。

 

 それが、起こる様に狙ってやったと思うと砲手の腕前に背筋がゾッとしたのだ。

 

 だけど、ティーガーⅡの蹂躙劇は終わらなかったのだ。

 

 最後まで残っていた、みほと愛里寿の二両がコンビを組んでティーガーⅡに振り回されながらも食らい付いていた。

 

 愛里寿が砲撃をドリフトしながら交わした一瞬の隙を突いて、みほが一気に仕掛けたがⅣ号戦車が後部を狙っての慣性ドリフトしたのだが、ティーガーⅡによってⅣ号戦車の後部を狙う様にバックで体当たりをやられた上に弾かれ、止まった所に主砲をⅣ号戦車に撃とうとしたが、隙を突いてきた愛里寿のセンチュリオンが側面を狙っている事に真っ先に気付き、超信地旋回で砲弾を前面装甲で受けると同時に射撃してセンチュリオンを撃破。そして、みほのⅣ号戦車が体制を整えて逆襲しようとしたが、再び、ティーガーⅡの体当たりを受けて弾かれて木にぶつかった所で止まり主砲を撃たれてしまい、みほも撃破されたのだった。

 

 瞬きを一切許さない三両の動きだったがみほも愛里寿も簡単にやられたのだ。

 

 私からしたら天才と呼べる二人が弄ばれるようにやられたのだ。

 

 ショックを受ける前に悔しくなる。

 

 そして、撃破されたみほは何故やられたかも分からず、キューポラから身を乗り出したまま涙目になっていたのだ。

 

 だけど、私達には泣くことすら許しては貰えなかったのだ。

 

 ティーガーⅡの操縦手ハッチから顔を出したのは知っている人物だった。

 

 そう、操縦手ハッチから顔を出したのは島田師範だったのだ。

 

 そして、島田師範が私達に叫んだのだ。

 

 「大洗女子戦車道の生徒はその場から走って倉庫前に整列!」

 

 全員、倉庫まで走って戻ると、島田流家元に所属する多数の整備関係者と所有する戦車回収車が来ており順次に演習場へとやられた戦車を回収するために走って行ったのだ。私達は息を切らしながらも戦車倉庫前に整列した。

 

 倉庫前にティーガーⅡが止まり、乗組員が全員降りて来たのだ。真っ先に反応したのは生徒会長の杏さんにアンツィオのアンチョビ、副隊長の愛里寿、あんこうチームの装填手の優花里だった。四人とも顔が真っ青であり口をパクパクしながら一斉に叫んだのだ。

 

 「「「「何故!」」」」

 

 「「ママ」」

 「「お母さん」」

 

 「「「「がいるの!」」」」

 

 まず、口を開いたのは学園長だった。

 

 「杏、戦車道の試合に勝ったのは学園としては嬉しいわね。でもね。嬉しいのは判るけど、私からしたら浮かれたまま訓練をしているに様にしか見えないわよ!いい、池田流を再教育だから覚悟しなさい!」

 

 「あちゃぁ・・・・」

 

 どうやら、学園長が杏さんの母親だったらしい。再教育と言われ、更に顔が青くなる杏さんだった。そして、次に口を開いたのはアンチョビの母親だった。

 

 「千代美!来年から大学だろがぁ!大洗に負けたからって腑抜けた訓練してんじゃねぇぞ!小遣い減らすぞ!」

 

 「ヒッィィィ!?」

 

 既に、ムンクの雄叫び状態のアンチョビ・・・・

 

 「愛里寿ちゃん、あれは何かな?茜ちゃんに言われなくても反応が出来る温い砲撃だったわよ?」

 

 「ヒッィ・・・・」

 

 ガッタァ、ガタガタ・・・・・

 

 愛里寿は自分を抱きしめる様に脅えており、母親の本気の操縦技術にさらに震え出して顔が真っ青だった。最後は優花里だった。

 

 「何故、お母さんがいるのですか?私に戦車道をしていた事を隠していたのです?」

 

 「・・・・」

 

 「お母さん!」

 

 「落ち着いてから話そうってしてたのによ、全くめんどくせぇな。パンツァー・ハイになるとこんな口調になるから隠したんだよ。優花里の装填速度には文句はない。だけど・・・」

 

 優花里は母親が戦車道をしていた事に加え、お母さんの話す口調の違いに現実を受け入れる事が出来ないでいたのだ。 

 

 最後に口を開いたの茜叔母さんだった。

 

 「注目!」

 

 茜叔母さんに注目するとやはり、叱咤だった。

 

 「勝利して浮かれるのは構わない!だけど、訓練まで浮かれたままでは事故が起きるわよ!それに、そんな状態のままで黒森峰に勝てるほど甘くないわよ!よって、生徒全員には黒森峰戦まで強化合宿を行うわ。千代、あれで締めて」

 

 「えッ!あれをやるの?」

 

 「うん、当たり前だね」

 

 「ハァ・・・仕方ないわね・・・・」

 

 何処から出したか分からないがティーカップ持ち、中身には紅茶が入っていた。

 

 そして・・・・

 

 「皆さん、この言葉知ってる?」

 

 「「はい?」」

 

 何故かダージリンに見えてしまうのは何故だろう。

 

 「滅びる原因は、自らの内にある。徳川家康の言葉よ」

 

 こうして、私達は島田師範の監修の下で強化合宿をやる事になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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強化合宿 新たな出会い


 最近、眠れない日々・・・・


 

 茜叔母さんが乱入した後、私達三人は島田師範と茜叔母さんに隊長室に呼び出された。

 

 理由は分かりきっている。

 

 強化合宿の件だろう。

 

 「エリカ、みほちゃんに小梅ちゃんは来たわね」

 

 「三人共、長話になるから座ってくれるかしら?」

 

 どうやら、違う話のようだった。

 

 ただ、師範に促されるままソファーに座ると茜叔母さんがDVDプレイヤーに電源を入れたのだ。

 

 「エリカとみほちゃんに小梅ちゃんには聖グロリアーナとプラウダとの二回戦の試合を見て貰うわね」

 

 「叔母さん何故です?」

 

 「確か、去年のプラウダの副隊長はカチューシャとノンナだったわね?」

 

 確かに、プラウダの副隊長は忘れもしないカチューシャとノンナだったはずだ。

 

 「茜さん、まさか二人とも出てないですか?」

 

 「いえ、みほちゃん二人とも出でるわ。ただ、隊長でも副隊長でもない感じだったわね。ただ、新しい隊長は調べたら赤軍高校からの転入生でカツコフらしいわ。でも、プラウダ高校で何か重大な事件が起きたのは確実のみたいね。」

 

 DVDが再生されると、映し出されたのはプラウダの重戦車群だった。

 

 「えッ!嘘でしょ?試作型のT-44Vじゃない!」

 

 「えぇ、確認出来たのは一両だけね」

 

 その他にはIS-3が二両にIS-2初期生産型が四両、ISU-152が二両、T-34/85が二両の編成だった。そして、対する聖グロリアーナは高い防御を持つブラックプリンスが一両に走攻守のバランスの取れたセンチュリオンが四両と機動力のあるコメット五両の編成だったが次々と撃破されて行く光景だったのだ。もはや、122ミリ砲や100ミリ砲、152ミリ砲の雨では殲滅戦のような一方的な蹂躙だった。

 

 それは、練習試合でも知っていたが聖グロリアーナの戦車の主砲は全て17ポンド砲に統一されていた。それでも、意地だったのだろう。撃破が出来たのはISU-152とT-34/85の二両だけだった。IS-3やT-44Vが余りにも装甲が堅く17ポンド砲でも虚しく弾かれ装甲にノックするだけだった。

 

 DVDを見終えたが話が掴めずにいたのだ。

 

 「プラウダは三回戦は継続高校とやるわ。ちよきち、どっちが勝つかな?」

 

 ニヤリと笑いながら島田師範に聞き出す茜叔母さん。

 

 「継続高校も奮戦するけど勝つのはプラウダ高校かもしれない。でも、今年の継続高校にはアンツィオ高校に及ばないものの元黒森峰の生徒も居るから所有する全戦力を出せるわね」

 

 「あら、残念ね。親ba・・・「手が滑ったわ」・・・・・ガッハァ!?」

 

 ヒュン・・・・・・・・・スッコン・・・・・ドッサァ

 

 島田師範は小梅やみほが見えないスピードで茜叔母さんに本棚にある広辞苑を投げてけて居たのだ。おでこに命中した茜叔母さんには白い煙りを出しながら気絶していた。

 

 撃てば必中は西住流だけど、何かを言おうとした茜叔母さんを一瞬で封じてからの忍者殺法による暗殺?いや、瞬殺が正しいのだろか?

 

 「ねぇ、エリカちゃん。茜さんに何か飛んで行ったように見えたけど?」

 

 「小梅、島田師範に消されたく無かったら気にしない事よ」

 

 「あっ・・・・茜さんが気絶してる・・・・何で?」

 

 「みほも気にしたら負けよ。人には触れてはいけないものがあるのよ」

 

 「エリカさん、そういう物なの?」

 

 茜叔母さんを余所に師範は合宿について話始めたのだ。

 

 「さて、これが今年のプラウダ高校よ。って言いたいけど、黒森峰戦までは強化合宿に強制参加して貰うわね。場所は横浜の島田流家元が合宿場所よ。大洗女子の戦車は私が責任を持って整備班に整備させるわ」

 

 「あの、アンツィオからも来て居るので全部で54人ですが大丈夫ですか?」

 

 「みほさん、何を言っているの?横浜に行くのはみほさんのあんこうチーム全員とエリカのワニさんチームからはエリカと赤星に小山、かめさんチームからは内法、藤木、レオポンチーム全員の全部で15名だけよ。他は別れてそれぞれの合宿場所に行って貰うわ。それと、明日から同じ場所で聖グロリアーナ女学院と大洗女子付属中の戦車道の一部の生徒と合同で行うから遅れない様に来なさい」

 

 「「「えッ?明日から?!」」」

 

 つまり、聖グロリアーナと大洗女子付属中と合同合宿って事らしい。

 

 だが、私は肝心な事を思い出していた。

 

 ここは、熊本だ。

 

 横浜に向かうには新幹線で横浜駅に行くか、熊本空港から羽田空港まで行かないといけない。そして、島田流家元の場所は横浜港から少し離れた場所にある。一番早い方法は横浜港にある飛行艇で行った方が早いのだ。

 

 つまり、私の実家にある飛行機コレクションの一つの二式大艇の輸送機型である『晴空』で横浜に行けと・・・・・

 

 横浜だから飛行場は遠いから飛行艇よね・・・・・

 

 「分かりましたよ。私が飛行艇を出せば良いんでしょ!ここからなら私の実家も近いから・・・・・」

 

 「あら、エリカ。まだ、私は自分達で来いとは言ってないわよ♪それじゃあ、エリカに頼もうかしら?」

 

 ニッコリ笑う島田師範。

 

 「ぬぐぐぅ・・・嵌められた・・・・」

 

 「嵌めてないわよ。エリカの自爆よ」

 

 結局、私は実家に電話して晴空を熊本港に準備させてる間に横浜行きのメンバーの召集をしたのだ。1時間後には晴空準備が終え、横浜行きのメンバー15名と島田師範と茜叔母さんが一緒に乗り込み熊本港を後にしたのだ。

 

 熊本港から横浜港までは片道約1000㎞はあり飛行時間で2時半位で到着する予定だ。私は使用人が持参してくれた飛行服に着替え、操縦席では計器をチェックしながら飛行を続けている。副操縦席には小梅が座り、無線席にはアマチュア無線二級を習得した沙織さんが座り無線手を担当している。沙織さんは二級を一回戦終了後に習得していたために宇都宮での合宿は参加せずにこちらに参加する事になっている。

 

 みほと愛里寿はと言うと・・・・・

 

 師範が暇だからと持参した携帯型のDVDプレイヤーを上目遣いをしながらお願いして愛里寿が奪い取り、自宅から持参したOVA版ボコを一緒に観賞していた。そして、操縦席まで響く歓喜と悲鳴・・・・・

 

 誰かは察するだろう。

 

 「「ボォォォコォォォ!?」」

 

 「グッェェェ!?あっ、愛里寿ちゃん?ママ死んじゃうから、首絞めないで!?」

 

 「こう殴って脳を揺らさないと!」

 

 バッキィ

 

 「グッヘェ!?ちょっと、みほさん!私までボコにしないでぇぇ!」

 

 「「キャァァ!ボォォォコォォォ!?」」

 

 ギュウゥゥゥ・・・・バッキィ・・・ドッガァ・・・・・・・

 

 「ギャァァァァァ!?」

 

 副操縦席の小梅が心配そうに海図席の三人を心配している。

 

 「ねえ、後ろ大丈夫なの?」

 

 「小梅、安全な飛行な為に師範には生け贄になって貰うわ」

 

 「えっ、エリカちゃん?良いの?」

 

 「小梅なら判るはずよ。ああなった、みほと愛里寿は誰にも手に負えない事を・・・・・」

 

 熱いパトスは既に止まらないことを私は悟っていたから・・・

 

 私は黄昏れる様に遥か彼方の空を眺めたのだ。

 

 「そうだね・・・・・毎回いや毎晩、エリカちゃんが生け贄だったもんね・・・・」

 

 小梅も一緒に黄昏れる様に空を眺めたのだ。

 

 

 2時半後には、無事に横浜港の飛行艇用の桟橋に着水して横浜に着いた。

 

 桟橋では二人の生け贄となって気絶して担架で運ばれるボコ状態の島田師範の姿はシュールだったが、私達は迎えに来たバスに乗り込み島田流家元に向かった。

 

 

 合宿宿舎に着いた私達は割り当てられた部屋に荷物と渡された訓練着に着替えるため、宿舎に入る時に入口の真ん中で喚き叫ぶ訓練着姿の中学生にぶつかってしまったのだ。

 

 「何で、私まで強化合宿に行かないと行けないのよ!」

 

 ドッン

 

 「キャア!?」

 

 ドッサァ

 

 「なっ、何すんのよ!」

 

 尻餅を付いた中学生は何故か、私の中学生時代を思わせる様な風貌で私と同じく肩まで伸びた白銀の髪に鋭い目付きをしていた。まるで、みほへの気持ちが変わる前の牙剥きだしの私を見ている様な気分だった。

 

 「あなた、大丈夫なの?」

 

 「ふん、大丈夫に決まっているでしょ!」

 

 「そう、ならよかった」

 

 「あの、大丈夫ですか?」

 

 私が手を貸して立たせるとみほがその中学生に心配して様子を見に来たのだが、何か様子がおかしい。みほを見ると顔を真っ赤にしながらもじもじしているのだ。

 

 「えッ?大洗女子のにっ、西住先輩!?はっ、はじめまして!わっ、私は大洗女子付属中の戦車道の隊長をしています飛騨楓でっ、でしゅ!」

 

 「あっ、噛んだ・・・」

 

 楓は更に顔を真っ赤にして私にキッと見て叫んだのだ。

 

 「かっ、噛んでなんかないもん!ただ、舌を歯で挟んだだけだもん!」

 

 あっ・・・・やっぱり、昔の私だ。

 

 みほと小梅が何かに気付き言ったのだ。

 

 「ねぇ、みほちゃん。楓ちゃんってエリカちゃんにそっくりだよねぇ」

 

 「「えッ?」」

 

 楓と一緒にハモってしまった。

 

 「うん、エリカさんが二人居るみたいだね」

 

 「「にっ、似てないわよ!」」

 

 「ほら、息もピッタリだね」

 

 「「ち、違うわよ!」」

 

 そして、次の一言が止めになった。

 

 「エリカちゃんの妹みたいだね♪」

 

 「こっ、小梅!誰が、楓の姉よ!」

 

 「嘘・・・・こんな奴の妹扱いだなんて・・・・」

 

 私と楓が落ち込むのを余所に宿舎の中からもう一人の中学生が出て来たのだ。

 

 「楓ちゃん!監督が点呼を取るから早く!」

 

 それを見た、沙織さんが気付き叫んだのだ。

 

 「えッ!詩織!?」

 

 「えッ?おっ、お姉ちゃん!」

 

 「詩織も戦車道をしてたの?」

 

 「えッ、お姉ちゃんもなの?」

 

 どうやら、沙織さんの妹らしい。

 

 「お姉ちゃん!ごめんね!遅刻したら、パンターの履帯を抱えてランニングになるから行くね!ほら、楓ちゃんも行くよ!じゃないと、監督にまたどやされるから!」

 

 「ヒッィ!?それは嫌!おぼえときなさい!絶対に似てないんだからね!」

 

 そう、言って楓と詩織は走ってグランドの方に走って行ったのだ。

 

 「やっぱり、ツンデレのエリカちゃんだったね・・・・」

 

 「誰が!」

 

 「じゃあ、エリカさん。私達も着替えて行きましょうか?」

 

 「そっ、そうね・・・・」

 

 私達も着替えてグラウンドに行くと、既に学校別に生徒が整列していた。聖グロリアーナからはダージリン、アッサム、オレンジペコ達の隊長車のメンバーとセンチュリオン隊隊長のルクリリ、コメット隊隊長のローズヒップの15名と楓と詩織を含む大洗女子付属中の10名、私達の大洗女子の15名の計40名の合同合宿だったのだ。

 

 

 

 

 私がまとめて訓練の様子を見ていたが、大洗女子と付属中には訓練に基礎体力の練習を入れるように楓とエリカには言っていたから大丈夫だろう。

 

 しかし、聖グロリアーナの生徒は・・・・

 

 「ハァハァ・・・・ぺっ、ペコ・・・・・」

 

 「何ですか?」

 

 「・・・・紅茶が飲みたいわね・・・・」

 

 「ダージリン様、紅茶は諦めて下さい。宿舎に入った時に全て没収されたのをお忘れですか?」

 

 「そうだったわね・・・・それにしても、ペコは何故、そんなに余裕なのかしら?」

 

 「自主練習で毎日、ランニング10㎞とバーベル上げ70㎏を欠かさずにしてますから」

 

 「そっ、そうよね・・・・優雅に装填出来ませんものね・・・・・それにしても、ルクリリとアッサムにローズヒップは良く体力が持ちますわね・・・・」

 

 「ダージリン様、わたくしは走る事が好きですのよ」

 

 「わたくしはローズヒップを捕まえて、作法を身につけさせる為に追っているだけよ」

 

 「アッサムと同じく・・・」

 

 やはり、頭脳派であるダージリンは他の生徒よりは体力はあるけど問題ね。

 

 次は・・・付属中ね。

 

 「ヒィィィ!鬼!悪魔!糞ババァ!何で、私だけパンターの履帯を抱えてランニングなのよ!」

 

 「仕方ないよ」

 

 「隊長だもんね・・・」

 

 私の娘ながら履帯を抱えて走れるのは中々やるわね・・・・・

 

 確かに、遅刻した罰で言ったのは私だけど・・・・

 

 大洗女子もみほちゃんが中心に元黒森峰の生徒と一緒に訓練をさせていただけはある。

 

 ただ、それにしても・・・・・・

 

 反抗期真っ盛りなのはいたけない。

 

 「楓!親に向かって誰が糞ババァよ!付属中、連帯責任でランニング五周追加よ!」

 

 「「「「隊長の馬鹿ぁぁ!」」」」

 

 「地獄耳!」

 

 

 

 

 私達も茜叔母さんの指示の下、ランニングしていた。

 

 「ハァハァ・・・さすがにきついわね」

 

 「エリカさん、付属中よりはマシですね。楓ちゃんは茜さんの娘さんだったんですね。道理でエリカさんに似ていたんですね」

 

 「みほ、似ているのは認めるわよ」

 

 「でも、エリカちゃんにみほちゃん。来年は付属中から上がって来るから戦力の強化はできるね」

 

 「でも、戦車道の試合よりタンカスロンの経験があるみたいだね」

 

 タンカスロンと聞いて、黒森峰でも出ていた事を知っている。

 

 特に、試合に出る事がない機甲科の生徒で有志を募り経験を積む為に出ていたらしい。

 

 「みほもタンカスロンには興味があるの?」

 

 「う~ん、大洗女子は出ないほうが無難かも。もし、出るにしても一番軽くてもヘッツァーの15.9tだし、Ⅱ号戦車F型か38(t)があれば考えるけど纏まった数が要るからね。あれは・・・・」

 

 「そうね。私もタンカスロンだけはやりたくないわね」

 

 ただ、後に奉納祭で巻き込まれる事になるのは遠くない話だったりする。

 

 ランニングが終わり、次は筋肉トレーニングだったが、今日は初日ということで筋肉トレーニングが終わり次第、今日の訓練は終了した。

 

 昼食の時間になり食堂ではいつものメンバーで食事を取る事にしたのだが、そこにダージリンやオレンジペコ、アッサムとも食事を食べる事になったのだ。

 

 もちろん、私のお昼ごはんはハンバーグ定食である。

 

 「で、何でダージリンまで居るのよ?」

 

 「あら、別に良いじゃない。みほさんやエリカさんとたまにはご一緒したいわ」

 

 「すいません。私もダージリン様にお邪魔しない様に言ったのですが、荷物検査で紅茶の茶葉とティーセットを没収されてしまったので、せめて、みほ様とお昼をご一緒にと聞かないものでしたので・・・・」

 

 「オレンジペコさん没収って、どんだけ持って来たのよ?」

 

 「茶葉でダージリンとアールグレイ、アッサムなどを鞄で三つとティーセットの入ったケースを三つほどですが?」

 

 「持って来て良いのは着替えと携帯までよ。見なかったの?」

 

 「はい、見たのですが・・・・・」

 

 「ダージリンに押し切られたと?」

 

 「はい・・・・」

 

 「苦労してるわね・・・・」

 

 オレンジペコの苦労に同情したくもなる。私とオレンジペコが話している間にダージリンはみほと会話を弾ませて食事をしていたのだ。ただ、それだけなら私がキレることは無かっただろうと思う。

 

 だって、私の前には・・・・

 

 「逸見エリカ!」

 

 「何よ?」

 

 茜叔母さんの娘の楓が居たのだ。

 

 「何で、お前が大洗女子に居るのよ!何で黒森峰に居ないのよ!」

 

 「私が居たら悪い?」

 

 「悪いわよ!」

 

 楓に絡まれたのだ。

 

 何故、私が黒森峰に居ないのかか・・・・・

 

 みほを支える為もあったし黒森峰に私達の居場所は無いのも確かだ。

 

 だけど、私の本心は立ち直ったみほと一緒に戦車道がやりたいのだ。

 

 歪んでいると言われれば歪んでいるかも知れない。

 

 愛してしまったみほの全てを独占したい。

 

 そんな感情も混ざっているのも確かだ。

 

 「ふん!どうせ、去年の決勝で負けて居場所を無くしたでしょ?」

 

 「えぇ、無くしたわよ。それを、あんたはみほに同じ事言えるの?今でも、私は後悔しているわ。あの時、私達が濁流に落ちなければ良かったってね」

 

 今でもあの時の事は後悔している。

 

 「でもね。みほが助けてくれたから、私達がこうして生きてる実感を感じられる。だから、私はみほに着いていけるのよ・・・・」

 

 「で、結局、負けた原因はあんたじゃん!あのまま流されていれba・・・グッヘェ!?」

 

 バッキィ

 

 ガッシャーン

 

 気付けば、私は楓の顔面をぶん殴っていた。

 

 殴られた楓は食堂のテーブルを薙ぎ倒してルクリリやローズヒップが食べていたテーブルまで吹き飛んだのだ。人が飛んで来た事に驚く、ルクリリとローズヒップ。テーブルが薙ぎ倒された事でみほや小梅達も気付いたのだ。

 

 「楓!もういっぺん言って見なさいよ!それは・・・・」

 

 「エリカさん止めて!」

 

 「何度でも言ってやるわよ!あのまま流されていれば良かったのよ!」

 

 「えっ?楓ちゃん?あっ・・・・・・・」

 

 「あっ・・・・・・・嫌だ!?しっ、死にたくない!あっぁぁぁぁ!?」

 

 「みっ、みほ!?小梅!?」

 

 「みほさん!?貴女もしっかりなさって!」

 

 「みぽりん!?小梅ちゃん!」

 

 そんな言葉を聞いてしまったみほは瞳から光が消え放心状態になっていたのだ。ダージリンがみほを支えていたから倒れずに済み、小梅もあの時の開かなかったハッチを思い出してしまいその場で頭を抱えたまま錯乱状態だった。そして、その元凶に対して私の中で何かが切れた・・・・

 

 「かっ、かえでぇぇぇ!あんたは、みほの笑顔だけでなく、小梅までも奪う積もりなの!」

 

 バッキィ

 

 「グッヘェ!?」

 

 楓の胸ぐらを掴み殴ったのだ。

 

 「誰か!あの二人を止めて!」

 

 騒ぎになる食堂。一方的に殴られる楓に同級生達は叫ぶだけだった。

 

 「お姉ちゃん!止めてよ!あのままだと、楓ちゃんが!」

 

 「詩織、楓ちゃんはエリカさんやみぽりんへの、それだけじゃないのみぽりんの大切な黒森峰からの友達への禁句、いえ、トラウマを呼び起こしたの。それより、みぽりんと小梅ちゃんを」

 

 「直ぐに、医務室に運びましょう。みほさんの瞳孔が開いているわ!それと、赤星さんには鎮静剤を!」

 

 「わたくしが小梅さんのお薬を持って来ます!」

 

 「ダージリンさん、急ぎましょ」

 

 みほは優花里が持って来た担架で運ばれ、華さんは小梅のバッグに薬が在るのを知っていたため、持って来て飲ませていた。愛里寿は急いで師範と茜叔母さんの所に向かったのだ。そして、騒ぎを聞き付けた師範と茜叔母さん、警備員に私は取り押さえられたのだ。

 

 

 師範の執務室では警備員に連行され、私と楓は正座をさせられていた。

 

 鋭い眼光で私達を睨む島田師範と茜叔母さん。

 

 「赤星さんと西住さんは医務室で落ち着いて眠っていますが、二度とあんな騒ぎを起こさないように!」

 

 「師範、叔母さんすいませんでした」

 

 「エリカ、楓に手を出した事にはそれなりの罰は受けてもらいます。一応、中学生に暴力を振るった事が問題です。エリカさん軽率な行動で、下手したら出場停止だって有り得ますよ考えなかったのですか?」

 

 「返す言葉もないわ」

 

 「ふん、エリカ怒られてやんの」

 

 「楓!貴女もです!喧嘩を売る様な真似は二度としない様に!」

 

 「何で、私までお母さんに怒られないと行けないのよ!本当の事言って悪いのよ!」

 

 「エリカ、楓に背中を見せてやりなさい!」

 

 「えッ?何でよ!」

 

 「私も一年生の夏までは黒森峰の生徒よ。黒森峰の指導と名ばかりの制裁は知っているつもりよ」

 

 私は仕方なく、上着を脱いだのだ。

 

 「何、これ・・・・」

 

 「ひっ、酷い・・・・」

 

 背中にある無数の傷痕を楓に見せたのだ。

 

 同じ様に小梅も内法も藤木も同じ様に傷痕がある。

 

 島田師範も初めて見る様で絶句していた。

 

 「楓、これがエリカ達が大洗女子に来た理由よ。エリカ、ごめんなさい。隠してはいたけど、転入して来た段階で調べさせて貰ったわ。エリカと小梅はみほさんの精神的な面を支える為に一緒来たと言っていたけどね。みほさん以上に身の危険を感じた事とみほさんを守るのが本来の理由でしょ?」

 

 「叔母さんには敵わないですね。確かに身の危険を感じてました。だけど、みほを支える事に偽りは無いわ。だって、やっと両思いになれたからね」

 

 「そう・・・・」

 

 「あの、エリカ先輩?」

 

 「何よ?」

 

 「あんな、深い事情があるに傷をえぐる様な事を言ってすいませんでした」

 

 「私も殴って悪かったわね。同じ事をみほや小梅に言ってやりなさい。みほなら今以上に可愛がって貰えるわよ」

 

 「コホン・・・・エリカ、楓の罰は合宿が終わるまでの間はエリカは厨房で調理を担当し、楓にはトイレ掃除を言い渡すわね。拒否権は無いから、よろしくね」

 

 「「分かりました」」

 

 「なら、部屋に戻りなさい!」

 

 こうして、部屋に戻ったのだ。

 

 

 

 

 

 「全く、茜も人が悪いわよ」

 

 二人が部屋に戻った後、私は茜に文句を言ったのだ。

 

 「そうかな?エリカ達にはあれを見つめ直す為に娘を噛ませ犬にした事かな?」

 

 「娘の反抗期を終わらせ、尚且つみほさんやエリカ達に見つめ直す機会を与えるって、下手したら皆潰れているわよ」

 

 「でも、見つめ直して貰わないと駄目なのよ。傷の舐め合いは終わらせて欲しいのよ。彼女達が強くなる為には・・・・」

 

 「そして、数年後にはプロリーグのチームを作ると?」

 

 「さぁ、どうかしらね?」

 

 本当、茜は本気になると恐ろしい。

 

 どんな策を張り巡らし、どんな相手でも狩り取る姿勢は全く、私でも予想が出来ない。だだ、言えるのは味方である事が私の安息かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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強化合宿 ぶつかり合う天才?

 

 地獄の強化合宿も四日が過ぎ、今日も午前中の基礎訓練も終わり午後から四対四の紅白戦だった。

 

 チームはみほのあんこうチーム、ダージリン率いる隊長車のメンバー、私のワニさんチームに内法と藤木が混ざる混合チームにそして、楓が率いる隊長車のメンバーだった。対するチームは愛里寿のレオポンチーム、リクリリが乗るセンチュリオンのメンバー、ローズヒップが乗るコメットのメンバー、付属中のメンバーと別れて行ったのだ。

 

 私達がくじ引きで貸し出された戦車はⅣ号戦車G型が四両の編成に対し、愛里寿達はクロムウェル巡航戦車Mk.Ⅲが四両の編成だった。

 

 「エリカさん、ダージリンさんごめんなさい。Ⅳ号戦車しか引けなかった・・・・」

 

 「G型なだけマシよ」

 

 「そうよ。落ち込む事はないわ。昨日の紅白戦はわたくしが引いたくじのせいで、カヴェナンターで試合開始30分で会敵する前に全員が茹で上がったですのよ。Ⅳ号戦車だなんて天国ですわ」

 

 ダージリンの言う通り、昨日の紅白戦は最悪の一言だった。

 

 昨日は、ダージリンがくじ引きを行い巡航戦車カヴェナンターを引いたのだ。愛里寿は運が良いのかT-34/76を引いている。そして、試合開始30分後には全員がラジエーターの配管の廃熱で茹で上がり会敵する前に手動で白旗を上げたのだ。

 

 「それを、あんたが言う!」

 

 「あの・・・・それを言ったら、エリカ先輩もですよね?」

 

 「うぐぅ!?まさか、楓に言われるなんて・・・・」

 

 確かに、一昨日のくじは私が引いたのだが。そして、引き当てたのはⅡ号戦車L型ルクスだった。この時だけは愛里寿はチハ新砲塔を引き当てている。

 

 「でも、Ⅱ号戦車でチハ相手なら20ミリ機関砲でエンジンルームが撃ちぬけます。要は腕と戦術次第でしたが、愛里寿ちゃんを何とかしないとキツイのが現状です」

 

 「でも、西住先輩。実際は負けましたよ?」

 

 「はぅぅぅ」

 

 「楓さん、みほさんを萎縮させるなんておやりになりますわね」

 

 「ダージリン先輩も優雅にやり過ぎです。もっと、アグレッシブに攻めても?」

 

 「楓さん、こんな言葉知ってる?」

 

 「はい?」

 

 「それが、聖グロリアーナ女学院だからよ」

 

 「意味が分かりません」

 

 「うっぐぅ・・・・」

 

 ダージリンをあっさり黙らせるなんて、楓は中々やるようだった。正直、私達が卒業した後の隊長候補の澤が心配になる。本来なら愛里寿に隊長をやってもらうはずだったが、愛里寿は副隊長のままが良いとの事で澤が隊長候補になったのだ。今は戦車道の授業の後にみほや愛里寿が教えていた。

 

 それより・・・・

 

 「みほ、クロムウェルの速度は速いから振り回されない様な作戦はあるの?」

 

 「う~ん、愛里寿ちゃんには作戦が全て看破されてるからね・・・・でも、手はあります。森に逃げ込み、クロムウェルの速度を出させない様にさせるしかないです。後は速度が落ちた所を狙い撃ちましょう」

 

 「浸透戦術も使えなそうですわね。Ⅳ号戦車の装甲ですとクロムウェルの6ポンド砲の餌食になりますわね」

 

 「ダージリンはまた真っ先にやられたい?また、負けてパンターの履帯抱えて走りたい?」

 

 「それは・・・さすがに二日連続は嫌ですわね・・・・・」

 

 事実、二日連続でパンターの履帯を抱えてのランニングコースだった。力の無い麻子は筋肉痛に悩み、内法は「何故、パンターの履帯なのよ!」と半狂乱気味に叫んでいたのだ。

 

 「なら、先輩方。私が囮をやって引き連れるのはどうかな?伊達にタンカスロンで荒稼・・・コホン・・・引っ掻き回すのは得意よ」

 

 「ねぇ、楓?今、荒稼ぎと言わなかった?」

 

 「きっ、気のせいよ!ただ、38(t)A型を後、四両買うためよ!」

 

 「言っているわね?」

 

 「楓ちゃん、付属中に何両在るのかな?」

 

 「今は十二両かな。38(t)A型じゃないと出られないし、黒森峰付属中と黒森峰女学院をこてんぱんに出来ないしさ」

 

 どおりで大洗女子が黒森峰に目の敵にされたかと納得したが、多分、理由は他にも在るんだと思う。それにしても、付属中も黒森峰も学園に迷惑をかけない様に違うチームネームで出ているみたいだが大洗女子付属中にタンカスロンでこてんぱんにやられてるって・・・・・・・

 

 まほさんが知ったら卒倒ものよね。

 

 でも、今のままさんにはそんな事は関係ない。

 

 あるのは、勝つことのみ。

 

 だけど、まほさんは・・・・・・

 

 それよりも今は紅白戦だ。

 

 愛里寿以外は倒せるだろう。

 

 しかし、本当の天才に勝てるのだろうか?

 

 私はただの凡人

 

 出来る事は・・・・・・・

 

 噛み付くのみよ。

 

 鋭く鋭利な牙で噛み付き

 

 ただ、食い散らかすのみ。

 

 そう、狂犬のように・・・・・・

 

 私達はⅣ号戦車に乗り込み紅白戦が始まった。

 

 私達は楓と別れ、一路ポイント568の森林地帯へと急ぎ、三両は草木などで偽装を施して森林に隠れたのだ。そして、無線越しに会話を始めたのだが・・・・・・

 

 「みほ、愛里寿が掛かると思う?」

 

 「分かりませんが、あれをやらせない為には森林地帯しかないです。ですが、こちらも動きが制限されますがやるしかないです」

 

 「そうね。愛里寿さんのあれは、たとえブラックプリンスでもチャーチルでも危険ですわね。今日は優雅にと行きたいですが、久しぶりにアグレッシブに行きましょうか。ペコ、わたくしに一杯貰えるかしら?」

 

 『はい、ダージリン様』

 

 まさか、オレンジペコはあれをやるのだろうか?しかも、紅白戦の最中に・・・・

 

 「えッ?・・・・・頂くわ。ずっ、ズズズ・・・・」

 

 麺を啜る音。

 

 やっぱり、オレンジペコはやったようだった。

 

 「ペコ、鳥ガラと程よく効いた鰹出汁に合わせ醤油の風味・・・・青竹での平打ちのちぢれ麺・・・・ローズポークのバラで丁寧にお作りになったチャーシュー・・・・美味しいラーメン、癖になりますわね」

 

 『えッ!そんな!?』

 

 どうやら、ダージリンが上手だったらしい。無線越しに美味しそうにラーメンを食べるダージリン。オレンジペコに醤油ラーメンを作らされたかいはある。

 

 「ペコ、美味しい醤油ラーメンをありがとう。でも、味付けの癖はエリカさんかしら?」

 

 そして、ダージリンに私がラーメンを作ったのがばれたのだ。

 

 「だったら?」

 

 「後ほど、お代わりをお願いしますわ」

 

 ダージリンからの要求は後でお代わりの要求だった。確かに、今回のラーメンは自信作である。それを聞いたみほからも無線が入る。

 

 「エリカさん、私にもスープの濃い豚骨ラーメンを作ってね?もちろん、紅生姜はたっぷりね」

 

 「合宿が終わったら作ってあげるわ」

 

 やはり、ラーメンは豚骨ラーメンだろう。私もみほも九州の人間だからソウルフードだ。まぁ、豚骨スープ作りは寝不足になることは確定だけど、お店で出せる味付けなのは保障は出来る。だが、ちゃんぽんも捨て難いわね・・・・・小梅には長崎が生まれなだけにちゃんぽんを作ってあげよう。

 

 「エリカさんありがとう!」

 

 ちょうど、楓から無線が入って来たのだ。

 

 『こちら、楓です。連れましたよ!って、ダージリン先輩は無線越しに何、ラーメン食べてるんですか!流川!何としても交わしなさいよ!ちょっと、何なのよ!ペチャパイって叫んだだけでキレるのよ!』

 

 どうやら、愛里寿にペチャパイと言って挑発したらしい。そして、言われた事に激昂した愛里寿が先頭に楓を追い回していたのだ。もちろん、あの歌を歌いながらだと思ってはいたが違っていたようだ。

 

 確かに、同年代の女の子から言われたらキレるお年頃だろう。楓も中学三年だが、ああ見えても胸はみほよりもある。羨ましいが、スタイルも茜叔母さん同様に着痩せするタイプだった。

 

 私やみほは一度も言われた事は無いが・・・・・

 

 そして、楓の無線越しに聞こえて来る愛里寿の叫び声

 

 『おっ、お前なんか、ボコみたくボコボコにしてやる!』

 

 『そんな、涙目でキレなくても!』

 

 『うるさい!ママやお姉ちゃんにもペチャパイって言われた事無いのに!ボコボコにして、その脂肪の塊を揉んでやる!』

 

 『揉まれるのだけは、いっ、イヤァァァァァ!?』

 

 相当、キレているようだった。

 

 「小梅!射撃準備!小山さんは音を絞ってエンジン始動よ!」

 

 私のⅣ号戦車からも胸を押さえながら全力で逃げる楓のⅣ号戦車が見え始め、後ろからは愛里寿のクロムウェルを先頭に四両が釣られたのが分かる。双眼鏡からも愛里寿が涙目で胸を押さえながら怒っているのも確かのようだった。

 

 楓は多分、挑発は言葉だけじゃないだろうな・・・・・

 

 小梅にリクリリが顔を出すクロムウェルに狙いを定めさせ、スピードが落ちる瞬間を待ったのだ。

 

 楓が森林に入り、愛里寿が私のⅣ号戦車を通り過ぎリクリリのクロムウェルが森林に入り込むと同時に速度を落としたのだ。

 

 「後ろががら空きよ!撃て!」

 

 「まっ、待ち伏せ!?」

 

 Ⅳ号戦車に施していた偽装ごと吹き飛ばしながら主砲を放ち、ルクリリのクロムウェルのエンジンルームを貫いたのだ。

 

 「小山さん!急速発進よ!このまま、奥地まで誘導するわよ!」

 

 「任せて~」

 

 私が隠れていた反対側でも、ダージリンがローズヒップのクロムウェルを撃破し同じ様に離脱していた。みほは付属中が乗るクロムウェルを軽く捻り、愛里寿のクロムウェルを楓のⅣ号戦車で包囲するために追撃を始めていた。

 

 ここまでは、同じ展開だ。ここらが大変なのだ。

 

 愛里寿のクロムウェルは、ちょっとでも広いところになるとアンツィオ顔負けのナポリ・ターンでダージリンのⅣ号戦車の履帯を破壊し、木に激突したところで止めを刺していたのだ。

 

 「ごめんなさい。やられましたわ」

 

 クロムウェルを駆る愛里寿の反撃は終わらず、次に主砲を向けたのは楓だった。

 

 『楓の揉んでやる!』

 

 『急停止!だから、謝るから許してぇぇぇ!』

 

 『やだ、泣くまで揉んでやる!』

 

 寸のところで砲弾を交わして、楓は逃亡を図る。しかし、それを許す愛里寿ではない事は分かり切っている。それでも、みほと私が追いつき包囲していた。

 

 だけど、それを愛里寿は怒りながらも分かっていたようで、超信地旋回しながら正確に主砲を撃ち放ち私と楓は忽ち撃破されたのだ。それを見ていたみほも驚きの顔をしながらも離脱を図る。結局は何時ものように、みほ対愛里寿の対決になるのだ。

 

 私は二人の対決に目を奪われた。

 

 極限まで履帯を滑らしてお互いの砲弾を交わす両者と錯綜する砲弾の応酬。

 

 短期間で愛里寿の戦い方を吸収した天才的なみほの頭脳と戦術に、それらを支えるあんこうチームのメンバー達の並ならぬ努力。

 

 それすらも追随を許そうとはしない愛里寿の瞬間的な判断力とその指示に追随していく自動車部のメンバーの技量。

 

 何時までも見ていたくなる対決だった。

 

 でも、悲しい事に必ず終焉は来る。

 

 最終的にお互いは正面を向き合っていた。

 

 ただ、違うのはつばぜり合いのように主砲が錯綜していた事だった。

 

 主砲を撃たせまいと主砲を主砲でぶつけているみほ。

 

 何としても、主砲をウィークポイントに放とうみほのⅣ号戦車の主砲を跳ね退けて放とうとする愛里寿。

 

 そして、主砲は意外にも衝撃に弱いものだったりする。

 

 そう、ちゃんばらの様にぶつかり合っていれば、どうなるか位は分かるだろう。

 

 バッキィ・・・・ゴットン・・・・

 

 「「あっ!?」」

 

 バッシュ

 

 主砲が折れて撃てなくなれば、当然の様に白旗が上がる。

 

 結果は引き分けだったのだ。

 

 当然、引き分けもパンターの履帯を抱えてのランニングは決定だったのだ。

 

 昨日と違うのは全員でパンターの履帯を抱えてランニングをしたのだ。

 

 まぁ、ランニングコースを二周を走れば解放されるのだが・・・・

 

 今日の訓練が終わればお風呂だった。

 

 ここのお風呂は優に200人が入れるほど広くて綺麗だった。私達はいつものメンバーに加え、ダージリンやオレンジペコ、アッサムが輪になって浸かっていた。

 

 愛里寿と楓はと言うと・・・・・

 

 「本当、ペチャパイって言ってすいません!」

 

 綺麗な土下座を決める楓だったが、手をワキワキしながら

 

 「やだ、謝っても許さない!だから、覚悟!」

 

 背中から抱き着かれた楓は抵抗虚しく、愛里寿に胸を揉みくちゃにされていたのだ。

 

 「あっ、イヤァァァァァ!お願いだから直に揉まないでぇぇぇ!」

 

 「こんな胸なんかぁぁぁ!」

 

 「いっ、イャァァァァァ!?」

 

 それをしり目に、ダージリンが話していたのだ。

 

 「アグレッシブに楓さんを責める愛里寿さんも見物ですわね」

 

 仕方なく、自販機で売っていたペットボトルの午後の紅茶を飲みながら話すダージリン。

 

 「ダージリン様、問題はそこでは無いと思いますが?」

 

 顔を真っ赤にしながら、愛里寿と楓のやり取りに困っているオレンジペコ。

 

 「ダージリン、やはり受けですの?それとも、攻めですの?」

 

 「アッサム、わたくしはやはり受けですわね」

 

 「あんた達は何を言っているのよ?」

 

 「「百合よ!」」

 

 急に楓が静かになったのが気になり愛里寿の方を見ると全身をピクピクしながら楓は床に倒れたまま惚けた顔でダウンしていた。

 

 何故か、楓の胸と自分の胸を見比べていた愛里寿の怒りは収まらずに居たのだ。

 

 「あそこにも、浮いてる物がある・・・・・揉んでやる・・・・いや、浮かぶ胸は揉んでやる・・・・」

 

 楓の次に狙われたのはダージリンだった。

 

 私は潜水しながらダージリンに近寄って来る愛里寿が見えた為に、みほと小梅を連れて逃げる事にしたのだ。

 

 「ダージリン、先に上がるわよ。私達で夕飯を作らないといけないから」

 

 「えぇ、夕飯を楽しみにしてますわ」

 

 「みほ、小梅行くわよ」

 

 湯舟から出て、更衣室に入るとダージリンの悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

 「ヒャァァァ!?ちょっと、何なさいますの!いっ、イャァァァァァ!?」

 

 「エリカさん、見に行かなくて平気?」

 

 「みほ、気のせいよ」

 

 「そうかな?」

 

 ダージリンの悲鳴をわざと聞き流して夕飯を作りに行ったのだった。

 

 

 

 

 翌日、愛里寿も楓もダージリンも訓練には参加していない。

 

 私が聞いた風の噂では、執務室の前では般若顔の島田師範に正座で座らされ説教を受けていた三人が居たと誰かが呟いていたらしいが定かではない。ただ、夕方には涙目でいる愛里寿と楓の他に淑女らしからぬゲッソリした姿で自室に帰る姿が在ったらしい。

 

 残りの訓練も何事も無く日数を消費して行き無事に強化合宿が終了したのだった。

 

 そして、長かった強化合宿も終わり、私達は飛行艇で大洗へと戻った。

 

 飛行艇の後部座席には付属中の生徒も一緒に乗っていたが、大洗港へ着くとバスに乗り込み付属中へと帰って行った。ただ、楓が帰り際に私に言ったのは

 

 「絶対、黒森峰とプラウダに勝って優勝しなさいよね!来年は15名が大洗女子に行くんだからね。だから・・・・大洗女子を守ってね・・・・・ママの母校なんだから・・・・・・」

 

 デレた表情で私に言うと楓はバスに乗り込み帰ったのだ。

 

 私達も大洗女子学園行きのバスに乗って学園へと戻ったのだ。

 

 学園に着いた私達はそれぞれ寮に帰宅したが、私とみほに小梅は戦車倉庫に向かった。

 

 戦車倉庫では、初めて見る戦車が一両が修理されていた。

 

 「みほ、あれって現物を見るのは初めてだけど、パンターⅡじゃない?」

 

 「そうですね。足回りがティーガーⅡと同じだから間違いです」

 

 「でも、エリカちゃん。付いている砲塔はパンターG型の砲塔だよ?小型砲塔じゃなかった?」

 

 「そうね。確か、黒森峰の戦車博物館にあるパンターⅡは88ミリ砲搭載型の小型砲塔だったわね。でも、あれは完成予想通りに作られた戦車で実際は終戦時にパンターG型の砲塔を載せた物が回収されているわね」

 

 「でも、茜さんから貰った地図を元に探索した時はパンターⅡは無かったよ。どうして?」

 

 「小梅、私に聞かれても知らないわよ」

 

 「エリカさん、なら、あそこで作業している整備員に聞いてみたらどうかな?」

 

 ティーガーⅡを整備していた一人の男性の整備員に聞いたのだが・・・・

 

 「すいません!」

 

 「みほじゃないか」

 

 「えッ?」

 

 みほが聞いた男性を見た途端にみほが固まったのだ。

 

 「久しぶりだな。みほ・・・・」

 

 「えッ?なんで、パパが居るの?」

 

 「島田師範からの仕事の依頼が在ったからね。ここの戦車を全て整備しているんだ。でも、良く整備された戦車ばかりだな。ここの整備班は良い仕事をしているよ」

 

 そう、大洗女子の戦車を合宿中に整備していたのは西住師範の旦那でみほの父親の常夫さんだった。

 

 「あっ、そうだった。パパ、なんでパンターⅡがあるの?」

 

 「あぁ、それかい?島田師範と飛騨さんの頼みで第二次広域探索をしたんだ。そうしたら、体育館のステージ下に隠れていたんだ」

 

 「この学園、戦車を隠し過ぎてない?」

 

 「そうだね・・・・・・」

 

 「仕方無いさ。まともな、戦車道をするようになったのは島田師範達が入学してからだし、その前は角谷学園長の従姉妹や池田流がまだ在った頃は喧嘩上等の戦車道だったらしいからね」

 

 「それは、流石に引くわね・・・・」

 

 「じゃあ、このパンターⅡは?」

 

 「多分、島田師範の前の世代の戦車だろうね。一応、整備に手間取ったのはパンターⅡのトランスミッションや焼けたエンジンの交換だったからね。だから、大会でも使える様に許可は西住流を通して取ったから使えるよ」

 

 「うん、パパありがとう!」

 

 「あれっ?お礼だけ?みほはパパに抱き着いてくれないの?」

 

 「お母さん呼ぶよ?パパがセクハラするってね?」

 

 「みほ、マジでごめんなさい!しほが呼ばれたらパパ泣いちゃうよ?」

 

 「大丈夫だよ。また、ボコボコにされるだけだからね。ボコのライバル猫の着ぐるみ着れば大丈夫だよ?」

 

 ライバル猫って・・・・・

 

 「みほ、ライバル猫ってあの黒くて目つきの悪い奴よね?」

 

 「エリカさん、そうだよ。なんで?」

 

 「ちょっと、お聞きしても良いですか?」

 

 「あっ、逸見さんか。良いよ」

 

 「みほが小さい時にライバル猫の着ぐるみを着て師範にボコられませんでしたか?」

 

 「あっ、懐かしいね。ボコの着ぐるみを着たしほにやられたね。着ぐるみの頭が外壁の外に飛んで行ったのを鮮明に覚えているよ」

 

 やっぱり、そうだったんだ。

 

 私がトラウマになって猫嫌いになった要因に・・・・・・

 

 「うっぐぅ・・・・・えっぐぅ・・・・」

 

 「エリカさん泣き出してどうしたの?」

 

 泣きたくもなるよ。

 

 あんなのが目の前に落ちて来たのよ。

 

 怖くて、その場でお漏らしたのよ。

 

 「えッ?まさか・・・・拾いに行ったら漏らしたまま泣いていた女の子は・・・・」

 

 「悪い、私よ!怖かったんだから!うわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 私はそのまま、泣き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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黒森峰戦 吠える狂犬と散るエリカ

 

 大洗女子と黒森峰の準決勝の会場は周りが平原に囲まれた旧ベルリン市街を思わせるような市街地だった。合宿前に予定していたオーダーは白紙となり頭を抱えるみほと私に愛里寿の三人。

 

 遭遇戦は当たり前の重戦車群を護りに使用するれば黒森峰が有利な地形。

 

 そして、市街地に入れば何処から狙われるか分からない入り組んだ路地。

 

 しかし、市街地を抜けてしまえば見晴らしの良い平原が広がっていた。

 

 黒森峰のスタート地点は市街地の総統府の付近で私達のスタート地点はあろう事か平原からだった。これは、どう見ても黒森峰が有利な地形で数に劣る大洗が不利なのだ。

 

 それでも、みほはしばらく考えた後に黒森峰戦で使用する戦車十一両の編成をまとめたのだ。

 

 「エリカさん、愛里寿ちゃんどうかな?」

 

 みほから渡されたオーダーは前回と同じくフラッグ車はみほのティーガーⅡだったが、何かが違うのだ。愛里寿は何かに気付き叫んだのだ。

 

 「みほ、これ、本気なの!」

 

 「うん、そうだよ」

 

 「愛里寿、どういう事よ?」

 

 「エリカ、オーダーにシュトルムティーガーとブルムベアーがある段階で気付かない?」

 

 「えッ?」

 

 確かに、オーダーにはシュトルムティーガーとブルムベアーが入っている。

 

 みほの真意が分からないのだ。

 

 何故?

 

 「エリカには分からない様だから私が説明するよ。榴弾で建物を破壊して市街地を迷路に変えるの。逆に私達が迷えば各個撃破されるのが落ちだけど、逆に相手を迷わせる事が出来れば有利に立てる」

 

 確かに、上手く運べば有利だと思う。

 

 しかし、孤立する危険が拭えないのだ。

 

 「えッ?みほ、危険よ!」

 

 「大丈夫です。そのために、三小隊編成で挑もうと思います。あんこうチーム率いるのはティーガーⅡ三両、レオポンチームにはセンチュリオンとパンターF型が三両とパンターⅡを率いて主力とします。残りはカバさん、キリンさん、ヘビさんチームにはブルムベアーとシュトルムティーガーによる市街地に砲撃を行い、ポイントに沿って建物を破壊して進路を塞ぎ私達は二つに別れて進攻して確実に叩きます」

 

 「みほ、作戦名はある?」

 

 「愛里寿ちゃん、あります。巻貝の様に誘導しながら確実に叩くので、名付けてぐるぐる作戦です」

 

 黒森峰戦に使用する戦車と作戦は決まり、私達は黒森峰戦に突入したのだ。

 

 

 

 翌日、私達は車両の点検でガレージ前には11両の戦車がズラリと並び、20年の歳月を経て私が使用するティーガーⅡはマイバッハエンジンがいつもより調子が良かった。まるで、早く黒森峰の豹や虎を狩らせろと自己主張をしている様なエンジンの旋律だった。

 

 そして、合宿後の大洗女子のパンツァージャケットも様変わりしており、島田流家元の島田師範が抱える大学選抜チームのパンツァージャケット一式をグレー基調から大洗女子が使用していた紺色にしたジャケットが全員に支給されていた。無論、同じく使用されているベレー帽とワイシャツにネクタイも一緒に支給されており大洗女子は完全に島田流の門下で在ることを対外的に主張していた。

 

 それだけに、島田師範が大洗に対する熱意を強く感じられるのだ。

 

 だけど、元黒森峰の生徒達には英国風のジャケットだけに不評だったが・・・・・・

 

 因みに、パンツァージャケット一式のデザインは全く一緒で大学選抜チーム、大洗女子、聖グロリアーナはそれぞれ色が違うだけだったりする。大学選抜はスカートは黒にジャケットはグレーが基調で聖グロリアーナはスカートは黒でジャケットは赤を基調とし、大洗はスカートは白にジャケットは紺色が基調となっている。

 

 と話しがずれたが、十一両の戦車はガレージ前で最終点検をしていたのだ。そんな時に黒森峰のパンツァージャケットを着た二人組が私の前に来たのだ。

 

 「エリカちゃん、久しぶりだね」

 

 確かに私には本当に久しぶりだと思う。

 

 目の前に居たのは中等部から黒森峰から去るまで一緒だった楼レイラだった。でも、抽選会には出てなかった。何故・・・・・

 

 「エリカ、試合前に挨拶に来たぞ。みほは何処にいる?」

 

 以前より鋭い眼光を放つ黒森峰の隊長のまほさん

 

 「みほなら、隊長車の点検してますよ」

 

 「そうか、私はみほのところに行く。レイラはエリカと話でもしていろ。」

 

 「はい、隊長」

 

 「で、なんでレイラが居るのよ?」

 

 「私?私は黒森峰の副隊長だよ」

 

 「そう、私も大洗女子の副隊長よ。でも、抽選会にはいなかったわね?」

 

 「そうなんだ。抽選会の時は風邪を引いて寝込んでいたんだ。それにしても、隊長がみほちゃんなのはともかく、一兵卒風情で大洗に行けば副隊長なんだね?」

 

 「へぇ、レイラも言うようになったじゃない」

 

 「えぇ、先輩にも仲間にも揉まれたおかげでね。でも、これだけはエリカちゃんには試合前に言いに言いたかったよ。みほちゃん達や皆が一気に黒森峰から去ってから危うく戦車道が出来なくなるところだった。なんで、私が苦しい時にエリカちゃんやみほちゃん、小梅ちゃんが居なかったのかって。私はエリカちゃん達の事を信じて居たのになんで、私には一言も相談してくれなかったの?隊長だって、あんな風になってしまったんだよ。全て、エリカちゃん達が悪いんじゃない!」

 

 「黒森峰の事は知っているわよ。でも、先輩連中やOGが蒔いた種よ。あの時、倉庫で吊されていた私達が制裁を受けていた時に助けてって言ったのにしっぽを丸めて端っこで脅えて見てるだけのレイラには言われたくないわよ!」

 

 「エリカちゃん、そうだよ!私はエリカちゃん達が殴られたり蹴られたりして、ドラム缶に沈められてて怖かったし、終わったら、次は自分じゃないかって脅えて見ていただけだった。でもね、今はみほちゃんが副隊長だった苦しみは嫌でも判るよ。だって、あんな重責は私には重過ぎるもん。でも、羨ましいな。だって、みほちゃんの隣にはエリカちゃんや小梅ちゃんが居たんだもん。だからね、最後にこれだけは言わせてね・・・・・・・・・・・エリカちゃん、私は何も言わずに去ったあなたを許さないから・・・・」

 

 そう、レイラは私に言うと隊長の元に行ってしまった。

 

 みほもアンチョビもまほさんに何かを言われたらしく、気が重いまま試合が始まったのだ。

 

 

 

 試合が始まり、予定通りに急行したシュトルムティーガーとブルムベアーは市街地前の砲撃予定地点に到達して市街地を迷路に変えるべく砲撃を開始したのだ。シュトルムティーガーのロケット弾により、メインストリートを瓦礫の山にして遮断に成功。同時に着弾した跡により、対戦車壕のようなクレータを同時に作り出したのだ。それを複雑にするように、ブルムベアーの砲撃が市街地を瓦礫の山に変えて通路を迷路へと変えて行く。

 

 ただ、余りにも作戦が上手く行き過ぎている事に私は嫌な予感がするだけだった。

 

 そして、予感は的中したのだ。

 

 みほの小隊と愛里寿の小隊が市街地に入ると事は一変していた。

 

 市街地には黒森峰の戦車が一両も居ないのだ。

 

 しかし、市街地から平原に出るにはこのメインストリートを通らなければ平原には出られない。

 

 一番高い教会の塔から市街地を秋山が見渡しているが戦車のせの字も無いのだ。

 

 在るのは、私達のみほの小隊と愛里寿の小隊の八両の戦車だけだった。

 

 そんな時、キリンさんチームの板野から緊急の無線が入ったのだ。

 

 『こちら、キリンさんチームの板野です。黒森峰の戦車群を発見!いや、私達に奇襲をかけて来てます!』

 

 「板野、どういう事よ!」

 

 私は無線越しに叫ぶが、既に三両は

 

 『大洗女子、シュトルムティーガー、ブルムベアー二両、走行不能!』

 

 撃破されていたのだから・・・・・

 

 そして、板野達からは

 

 『すみません!キリンさんチームやられました』

 

 『同じく、ヘビさんチームやられました』

 

 『カバさんチームもられた』

 

 一気に三両も失ったのだ。

 

 そんな中、キュポーラから身を乗りだして地図を見ていた愛里寿が何かを気づいたのだ。

 

 『此処の会場って、ベルリン市街がモチーフだよね?』

 

 『はい、1945年のベルリン攻防戦のベルリン市街がモチーフの会場です』

 

 『みほ、仮説だけど地下排水路があった場合は戦車が通れる幅はあるの?』

 

 『仮にそうだとすれば、幅と高さ的に大丈夫だと思います』

 

 『みほ、直ぐに総統府方面に離脱しないと包囲される。地図には地下排水路の終わりは市街地の南南東にある川に出ている。だから、そこから出て来たなら非常にまずいよ』

 

 つまり、黒森峰は地下排水路を使って、私達の後ろに現れた事になる。私達が合宿で会場の下見をしていない。だけど、黒森峰は徹底的に下見を行い地下排水路を見付けている。

 

 それは、黒森峰に居た時もそうだった。

 

 隊長と副隊長が下見をしている間は二軍や一年生が操縦訓練の為に走らせている。

 

 もし、偶然にも地下排水路の入口をスタート地点の近くで見付けており、最後まで走ったら南南東にある川に出ている事を知っていたなら、今回の後ろからの奇襲に説明が付く。

 

 市街地戦での最悪な事を想定したら、まずは進路の封鎖からくる各個撃破が想定しているだろうし、逆に防御戦にしても同じだ。もし、後ろから来るなら私達は逆に包囲される事になるのだから・・・・・

 

 

 

 

 

 少し遡る事、試合開始前の黒森峰では・・・・・

 

 「まさか、下見で地下排水路が在るとはな」

 

 「はい、隊長。一年生には感謝ですね。多分、地下排水路は会場が1945年のベルリン攻防戦をモチーフにした会場です。ヒトラーの脱出用に作られた通路の可能性が在りますね。あと、一年生の報告では幅は5m、高さ4.5mもありマウスも通行可能との事です」

 

 「そうか、なら地下排水路を使い、大洗女子の背後から電撃戦を仕掛ける」

 

 隊長の言う通りなら、背後からエリカちゃんを襲える。挨拶の時に在ったシュトルムティーガーに積んでいたロケット弾は徹甲弾ではなく建物を破壊する徹甲榴弾だった。そして、今日の為にタングステン芯の徹甲弾を何時もよりも多い30発を積ませている。あれなら、ティーガーⅡは怖くないのだ。

 

 私の愛車であるパンターでエリカちゃんを討ち取ってやるんだ。

 

 「パンターを使用する者は暗視用スコープを装着して!地下排水路は暗いからパンターが先行して障害物を排除します」

 

 「では、総員乗車!大洗女子を蹴散らす!」

 

 「「「「「オォォォ!」」」」」

 

 「戦車前進!」

 

 そして、私達は地下排水路を使い平原へと抜けたのだ。

 

 平原から出た私達は大洗女子を背後から奇襲するため全速力で市街地へと向かった。しかし、平原には大洗女子の姿は無かったが、市街地を見渡せるところにはシュトルムティーガーとブルムベアー2両が市街地へ砲撃していたのだ。

 

 「大洗女子の戦車を発見!」

 

 すぐさま、それぞれに照準を合わしていた。

 

 「撃て!」

 

 隊長の号令により、十五両の戦車の一斉射撃を行ったのだ。

 

 一斉射撃の奏でる射撃音は大洗女子の戦車への死のレクイエムだった。

 

 集中砲火浴びて爆煙に消える三両。

 

 そして、爆煙が消えるとスクラップと言って良いほどズタボロになり白旗を上げて沈黙するシュトルムティーガーとブルムベアーだった。

 

 次の獲物は市街地にいる大洗女子の本隊。

 

 私達はパンツァーカイルを組み、市街地へと進攻したのだ。

 

 

 

 

 私はみほと別れ、アンチョビのティーガーⅡとパンターF型を三両を引き連れて防御ラインの構築していた。既に、愛里寿が地下排水路の入口を榴弾で破壊していた。秋山は相変わらず、教会の塔から平原方面を見ており奇襲に備えていたのだ。

 

 そして、黒森峰が死神の鎌を携えてやって来たのだ。

 

 「小梅、砲撃準備・・・目標、先頭のパンターよ!レイラを先に黙らしてやりなさい!」

 

 「エリカちゃん、了解」

 

 こちらも、市街地の残骸を盾に砲塔を1時の方向に向けてショットトラップをさせないように回転させる。黒森峰のパンターG型は幸いにも初期型防楯だった。なら、パンターは小梅にしたら鴨にしかならない。

 

 今の私のティーガーⅡの乗員は二名がアンチョビのティーガーⅡに行っている。装填手と無線手はアンツィオの元黒森の生徒が担っている。

 

 近付いてくる黒森峰の戦車群・・・・

 

 距離が約2500mを切った段階で小梅に命令したのだ。

 

 「撃て!」

 

 ティーガーⅡから放たれる主砲。

 

 私は双眼鏡越しから確認する。

 

 先頭を走るレイラのパンターG型の防楯下に砲弾が命中したのだ。

 

 そして、防楯下に命中した砲弾は跳ね返り、吸い込まれる様に車体上部の装甲に命中したのだ。

 

 「えッ?嘘でしょ!?」

 

 撃破され驚きの表情をするレイラだった。

 

 まだ、私の仕事は終わらない。

 

 みほにはまほさんの元に行って貰うのだ。

 

 だから、私はその取り巻きを食い散らかすのだ。

 

 「次行くわよ!斎藤さん、榴弾の信管設定を短廷期に設定して!小梅は味方のパンターの援護射撃をするから跳弾射撃でパンターの履帯をガンガン破壊するわよ!」

 

 「「了解!」」

 

 「ワニさんチームからパンター各車へ。ワニさんチームとマングースチームが跳弾射撃による射撃を敢行するわ。パンター各車は順次、準備が出来次第射撃を開始!」

 

 『こちら、内法。カメさんチーム了解!』

 

 『こちら、澤。ウサギさんチーム了解です!』

 

 『こちら、近藤。アヒルさんチーム了解です!』

 

 『こちら、マングースチームの安斎だ。今、跳弾射撃って言わなかったか?「大丈夫、気にしなくて良いよぅ!以前に逸見ちゃんがやった短廷期信管でやった奴でしょ?任せて出来るから」おぃ、待て杏!ぐっ、仕方ない。安斎、マングースチームも了解した!』

 

 指示を出し、榴弾は今日の試合は少なく積んでいたので不安が在ったのだ。

 

 「斎藤さん、榴弾の残弾は?」

 

 「はい、少し待って下さい・・・・・・・榴弾の残弾は20発です。徹甲弾は40発、タングステンの徹甲弾は10発です」

 

 「分かったわ。これより、黒森峰を削るだけ削ったら引くわよ!」

 

 ティーガーⅡ二両から射撃される榴弾。

 

 パンターの転輪に命中して履帯ごと破壊され動きを止める黒森峰の戦車。

 

 追撃するように三両のパンターF型が徹甲弾の雨を降らして、降った後には撃破されたパンターが残ったのだ。しかし、黒森峰も黙ってやられる程甘くなかった。

 

 「くっ、ヤークトティーガーが前に出て来たわ」

 

 「エリカちゃん、嘘でしょ?」

 

 パンターを追い抜き前に出て来たのはヤークトティーガーだった。

 

 虚しく弾かれるパンターの砲弾。

 

 私のティーガーⅡの跳弾射撃もサイドアーマーで防がれるだけだった。

 

 ここで、一両でもやられると厳しくなる。

 

 なら、やることは一つだった。

 

 「みほ、ごめん!パンターは三両は倒せたけど、ヤークトティーガーが追い付いて来たわ」

 

 『エリカさん、それは予想していた事ですし仕方ないです。市街地の次のポイントまで撤退して下さい』

 

 「ワニさんチームから小隊各車へ、次のポイントまで後退するわよ!」

 

 『澤、ウサギさんチーム了解です!』

 

 『安斎、マングースチーム了解した!』

 

 『近藤、アヒルさんチーム了解!』

 

 『内法、ヘビさんチームりょ・・・きゃぁぁぁぁ!?』

 

 私は内法達の悲鳴にキュポーラから身を乗り出した。

 

 「えッ?嘘でしょ・・・・・」

 

 私が見たのは、二両のヤークトティーガーからの射撃をもろに直撃して私が乗るティーガーⅡの脇を吹き飛んでいた内法が乗るパンターF型だった。

 

 パンターのやられ方を見て瞬時に理解したのだ。一撃目で履帯と転輪ごと吹き飛び、二撃目には浮いて下部を晒したところに車体下を狙われ直撃したのだ。そして、ティーガーⅡにぶつかる様に吹き飛ばした事も・・・・それが分かった瞬間、こいつらは殺りに来ているのではと恐怖したが、こいつらだけは絶対にみほの下に行かせてはいけないと、私の脳内には警鐘がなっていたのだ。

 

 私はみほに後で謝らないといけない。

 

 今からすることは完全な命令違反だ。

 

 「ワニさんチームからマングースチームへ小隊の指揮権を委譲する」

 

 『逸見!貴様、何を考えている!』

 

 アンチョビが委譲の意味を一瞬で理解してまったのかキュポーラから身を乗り出して無線を片手に怒るのも無理も無い。だけど・・・・・

 

 「アンチョビ、悪いわね。でも、負ける訳にはいかないのよ。だから、残ったパンターを連れてみほに合流して!」

 

 『おっ、お前まさか!』

 

 「そのまさかよ。私のワニさんチームは黒森峰本隊に特攻するわ。小梅並の技量の砲手がいるヤークトティーガーだけは野放しには出来ないわ」

 

 無線を聞いていたみほからも無線が来たのだ。

 

 『エリカさん!特攻は止めて下さい!』

 

 「みほ、まほさんを正気に戻すんでしょ!なら、厄介なヤークトティーガーだけは絶対に野放しには出来ないわよ!それに・・・・」

 

 私は迷ってしまった。

 

 もし、負けたら大洗女子は廃校になる事を・・・・

 

 いくら、島田流の息が掛かっているとはいえ廃校を免れる為に力を貸しているに過ぎない事も・・・・

 

 『エリカさん?何か隠しているの?』

 

 そんな時、答えたのは杏さんだった。

 

 『逸見ちゃん悪いねぇ。それを言うのはあたしだよ」

 

 「えッ?杏さん?」

 

 『西住ちゃん達には楽しい学園生活を送って欲しかったから隠していたけど、負けたら大洗女子は廃校になる。逸見ちゃんは茜さんから話を聞いていたんだね』

 

 『えッ!そんな・・・・廃校だなんて・・・・』

 

 『西住ちゃんの負担にならない様に隠していたけど、西住ちゃんには戦車道を楽しんで欲しかったからね』

 

 『杏さん・・・・・』

 

 「だから、ゴメン。私は止められてもヤークトティーガーだけは倒すわ」

 

 『止めてもダメだね。エリカさん、帰って来たら覚悟して下さい』

 

 「えぇ、分かったわ。だから、みほゴメン!」

 

 私は無線を切ったのだ。

 

 「エリカちゃん、良いの?」

 

 「悪いわね。小梅まで付き合わせて」

 

 「大丈夫だよエリカちゃん」

 

 「小山さんも斎藤さんも滑川さんもゴメンね。付き合わせて」

 

 「気にしてないよ」

 

 「そうです。気にしてないです」

 

 「大立ち回りをしてやりましょう!」

 

 本当に皆、ゴメン・・・・

 

 「皆、行くわよ!パンツァーフォー!」

 

 

 

 私はティーガーⅡで黒森峰本隊に突撃したのだ。

 

 凄まじい、黒森峰の砲撃

 

 弾け跳ぶ、サイドアーマーや予備の履帯

 

 「まだ、終わらないわよ!小山さん、次のタイミングでドリフトかますわよ!」

 

 「了解!」

 

 「小梅、射撃準備!」

 

 「うん、任せてエリカちゃん!」

 

 パンターとすれ違い、ヤークトティーガーに肉薄したのだ。キュポーラから身を乗り出しまま、私はティーガーⅡを指揮して操る。ヤークトティーガーは128㎜の主砲が私のティーガーⅡを狙う。

 

 「今よ!」

 

 滑り出す、私のティーガーⅡは側面をさらけ出したヤークトティーガーに小梅がトリガーを引き撃破する。

 

 「まず、一両!」

 

 パンターが背後から狙いを定めていたがそのまま、信地旋回をさせて、正面装甲で受けて砲弾を弾きパンターの防楯下に主砲を放って沈黙させて、残りのヤークトティーガーへ突進したのだ。

 

 ただ、黙ってやられる黒森峰ではないのは私は知っている。

 

 ヤークトティーガーの前には二両のティーガーⅡがいたのだ。

 

 そんなことなど、どうでもいい。

 

 ただ、私がやることはヤークトティーガーを倒すだけだ。

 

 ティーガーⅡから身を乗り出す黒森峰生徒は狂犬の意味を理解したのだ。

 

 狙ったら最後まで噛み付きに来ると・・・・

 

 逆にヤークトティーガーを失ったら、大洗女子の重戦車を狩るのが難しくなる事を理解して私をヤークトティーガーに行かせまいと主砲を出鱈目に撃ってくる。

 

 装甲がボコボコになり始める、私が駆るティーガーⅡ

 

 しかし、まだ終われない。

 

 「全速力でティーガーⅡとすれ違える?」

 

 「足回りがそろそろまずいかも・・・・」

 

 後少しだけ、頑張って欲しい。

 

 「最後の突撃よ!」

 

 マイバッハエンジンは唸り上げ全速力でティーガーⅡとすれ違う。

 

 目の前には目標であるヤークトティーガーがいる。

 

 「今よ!」

 

 ドリフトしたが履帯は切れて弾け飛び、転輪が弾けるボタンの様に飛んで行く。再びヤークトティーガーの後ろを取ったのだ。

 

 「撃て!」

 

 二両のヤークトティーガーを食い散らかしてやったのだ。

 

 右側の履帯が切れ転輪を無くして動けない、私のティーガーⅡに待っているのは復讐心剥きだしの黒森峰の戦車群だ。

 

 私は最後の命令を下した。

 

 操縦手の小山さん、無線手の滑川さん、装填手の斎藤さんには頭を屈めて衝撃に備える様に言ったのだ。そして、私は装填手の手袋をはめたのだ。

 

 車内に響き渡る砲撃の衝撃。

 

 「小梅、悪いわね」

 

 「エリカちゃん大丈夫だよ。最後まで、私達の意地を見せてやろうね」

 

 「フッフフ・・・・そうね。狂犬と与一は健在だって教えてやるわ」

 

 砲塔を回し、固定砲台化するティーガーⅡは少しでも道連れにするために主砲を放ったのだ。

 

 パンターを一両撃破したところで、私は凄まじい衝撃に床に叩き付けられたのだ。

 

 「うっぐぅ!?」

 

 頭から生暖かいものを感じつつ、全身に痛みを感じながらも起き上がりキュポーラのペリススコープから覗くと左右の側面と後ろからティーガーとティーガーⅡにほぼ零距離からの砲撃を受けたのだ。

 

 私のティーガーⅡは撃破されたのだ。

 

 それでも、黒森峰に残った戦車はフラッグ車のティーガーとティーガーⅡが二両、パンターが三両だけだった。

 

 「小梅、大丈夫?」

 

 「イタタ・・・・うん、大丈夫だよ。エリカちゃん、頭から血が出てるよ!」

 

 「そうね、出てるわね」

 

 「エリカちゃん、これで血を拭いて」

 

 小梅からハンカチを受け取り、私はみほに無線を入れたのだ。

 

 「みほ、ヤークトティーガー二両とパンター一両を撃破したけど、私も撃破されたわ。ゴメンね」

 

 『エリカさん、皆は大丈夫ですか?』

 

 「えぇ、大丈夫よ。みほ、後は任せるわ」

 

 『はい、必ず勝ちます』

 

 無線を切り、キュポーラのハッチを開けたのだ。

 

 気持ちい風に私の一部髪が朱く染まりながらもふわりとなびいていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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黒森峰戦 交差する姉妹の思い


 これで、黒森峰戦は終わりです。


 

 私が撃破された後、回収車によってティーガーⅡはガレージへと運ばれていた。

 

 私はガレージに着くまでの間、小梅にティーガーⅡにある救護キットの中にある包帯で頭を巻かれていた。ただ、おでこをペリススコープの角にぶつけてパックリと切っただけなのに小梅に泣きながら治療をしてくれたのだ。そして、泣き止んだと思ったら怒り出していたのだった。

 

 まぁ、小梅が泣きながら怒るのも判るが・・・・

 

 「エリカちゃん、試合が終わったらみほちゃんと一緒にお説教だからね!」

 

 私に味方は居ないのだろうか?

 

 既に、私はみほからのお説教のフルコースが待っている。

 

 そこに、小梅のお説教が加わったら間違いなく凹むだろう。

 

 普段はほんわかしているみほだが戦車喫茶でもそうだが、怒らせたら一番恐いのだ。蛇足だけど、まほさんよりみほの方が何倍も恐いのだ。

 

 

 「小梅、分かったわよ。だから、モニターで試合を見るわよ」

 

 私はごまかすように小梅と一緒に試合中継か見られるモニターへと向かった。

 

 そこには、レイラも見ており真剣な表情で見ていた。

 

 「レイラ、試合はどうなっているの?」

 

 「・・・・・エリカちゃん、今は凄いことになって居るよ」

 

 こうして、普通に話しているのは久しぶりだと私は思う。レイラからは許さないとは言われたが、レイラはみほの様に心優しい子なのだ。

 

 だからだろう。

 

 三人一緒に話して居られるのは・・・・・

 

 「久しぶりだね。レイラちゃん」

 

 「小梅ちゃんも居たんだね。見事な砲撃だったよ。あ、あ~あ、悔しいな。やっぱり、狂犬と与一のコンビには天地が逆さまになっても勝てないね。皆が居なくなってから死に物狂いで訓練したのに、まさかさ2500mの距離を正確無慈悲に狙撃されて、おまけにショットトラップをやってくれるんだもん」

 

 「私もレイラと同じ意見よ。最近はみほに追いつこうと授業以外で訓練はしているけど、紅白戦の度に負けているわ」

 

 「えッ?エリカちゃんもなの?」

 

 「自慢じゃないけど、今の小梅はパンターF型の照準器で3800mは当てるわよ」

 

 「何それ!?第二次世界大戦のドイツの戦車兵並じゃない!チートよ!」

 

 でも、みほ達が不利な状況なのは変わらない。

 

 モニターからでも判るが二両のティーガーⅡに次々と撃破される大洗女子のパンター小隊。

 

 大洗女子は残るのはフラッグ車であるみほのティーガーⅡと愛里寿のセンチュリオンの他にアンチョビのティーガーⅡだけになっていた。そして、黒森峰はフラッグ車のティーガーⅠにティーガーⅡが二両、パンターが三両のままだった。

 

 そして、やっと合流を果たした矢先、アンチョビのティーガーⅡが動きが何故か変だった。マフラーからいつもの煙りより黒煙が出ていて攻撃を受けてない事からエンジンの不調になったのだろうか?そのまま走行不能でリタイヤとなった。

 

 もしかしたら、負けてしまうかもしれない状況の中、私は見る事しか出来ない自分が悔しかった。

 

 握りしめる拳からは血が滲みでていた。

 

 レイラがニヤリと笑いながら言っていたが正直なところ分からない。

 

 「エリカちゃん、どうやら黒森峰が勝ちそうね」

 

 「でも、あの二人ならやってくれるわ」

 

 私が言える唯一の言葉。今まで、そんな言葉を私から聞いた事が無かったレイラは目を丸くしていた。

 

 「だって、たった二両で何が出来るの?もう、詰みじゃない!」

 

 レイラの言う通りかも知れない。

 

 黒森峰に居た頃の私だったら、そう諦めていたかも知れない。

 

 あれを見たら正直、愛里寿を黒森峰戦に出したくなかった。

 

 試合開始前の愛里寿の表情には曇りがあった。

 

 やっぱり、あの試合を思い出してまた大怪我をするんじゃないかと、怖がっていた節もあったし、前のみほの様に自分の流派を汚してはいけないと思っているのだろうか。

 

 それは、私には分からない。

 

 今は、どうだろうか?

 

 審判席に居た、蝶野さんが騒いでいるみたいだったが、モニターからは両者の通信がオープンにされていた。私もレイラも小梅も釘付けになって映像をみる事にしたのだ。

 

 映像は愛里寿に変わり、試合前の表情とは変わっていた事に気付いた。

 

 何だろ。

 

 なんかの本で読んだが思い出せない。

 

 あんな、ウキウキした愛里寿は一緒に生活をしていて見たことがない。

 

 そうか、愛里寿は過去のトラウマとお別れをしたんだ。

 

 そして、明るくなった愛里寿は久しぶりに聞く、あの歌を歌っていた。

 

 『やってやる、やってやる、やってやるぞ!嫌なあいつをボコボコに 喧嘩は売る物  堂々と・・・・・』

 

 「えッ?何これ・・・・・」

 

 それを見ていたレイラは口を開けたまま固まっていた。

 

 確かに、あれはトラウマになるだろ。

 

 実際には聖グロリアーナのダージリンやルクリリにローズヒップまでもが、あの歌のトラウマになっている。あの歌を聞かされながら追い回されたのだから・・・・・

 

 愛里寿はみほがまほさんとの一騎討ちの邪魔をさせない為に、一両で黒森峰の戦車の相手をしていた。本来の島田流は一対多数を相手にする流派だ。池田流も同じ事が言えるだろう。

 

 愛里寿はセンチュリオンを全速力で走らせて、すれ違い様に十八番の辻切りからパンターを一両を撃破し、ドリフトしながら信地旋回をする離れ業をしてパンター二両を物の数秒で撃破し、ティーガーⅡに至ってはパンターを倒したままの加速を生かして慣性ドリフトをしながら後部に主砲を叩き込み、もう一両は砲塔の側面への零距離での四連射で撃破したのだ。

 

 だけど、愛里寿が駆るセンチュリオンの活動はそこまでだった。

 

 ガッタタタ

 

 『あっ!?』

 

 ボッン・・・ボッシュゥゥゥゥ

 

 『みほ、ゴメン。エンジンがエンジンブローした。後は任せる・・・』

 

 『分かりました』

 

 エンジンを全開まま走らした事でエンジンのピストンが抜けたかどこかが壊れたのだろう。ボッンと音と共にエンジンルームのハッチが吹き飛び、エンジンからエンジンオイルが大量に噴出してエンジンオイルの雨を降らせながら停止したのだ。センチュリオンは白旗が上がってリタイヤしたのだ。愛里寿は吹き出す前に振動で気づき、ハッチを閉めて車内に慌てて逃げていた。

 

 「エリカちゃん、センチュリオンのエンジン。あれは逝ったね・・・・」

 

 「小梅、試合中に頭が痛くなること言わないでよ・・・・また、工房の職人に小言を言われるわね・・・・ティーガーⅡも砲塔がベコベコで頭が痛いんだから・・・・・」

 

 「そうだね。工房のおじさん、腕は良いけどね・・・・でも、いっそのこと愛里寿ちゃんにティーガーⅡに乗せちゃったらどうかな?」

 

 「それが一番だわ。整備班がセンチュリオンの整備に四苦八苦していたし・・・・・」

 

 最後に残ったのはみほとまほさんだった。

 

 フラッグ車同士の対決だった。

 

 総統府の前で噴水を挟んで対峙する姉妹。

 

 これが、ドイツの戦車兵なら絵になる光景だろう。

 

 しかし、二人の姉妹はそんな空気ではないだろう。

 

 モニターから聞こえる姉妹の会話。

 

 『お姉ちゃん・・・・』

 

 お互い、キュポーラから半身を乗り出し見つめ合う二人。

 

 『みほ、受けて立つ・・・・』

 

 一気に加速するティーガーⅠとティーガーⅡの二両。

 

 そして、必殺の88ミリ戦車砲を放つ両者にそれをギリギリで交わしていく二人。

 

 そこは、私が立ち入れる領域ではなかった。

 

 「ねぇ、エリカちゃん。もし、私達がやられずに居たら邪魔になるよね?」

 

 「なるわね。下手したら、姉妹に瞬殺されるわよ。邪魔って言われながら・・・・」

 

 「うん、想像出来るね・・・・」

 

 私とレイラは想像してしまった。

 

 もし、私が乗るティーガーⅡとレイラが乗るパンターで邪魔したら・・・・・

 

 私はまほさんに速攻で主砲を叩き込まれ、レイラはみほに体当たりされ側面装甲に叩き込まれて私とレイラは速攻で白旗が上がるだろう。そして、何事も無かったかの様に姉妹の戦いは続くだろうと思ってしまった。

 

 「エリカちゃんもレイラちゃんも顔が真っ青だよ?」

 

 私とレイラは小梅の肩に手を置いて言ってしまった。

 

 「「先にらやられて良かった・・・・」」

 

 「エリカちゃん、この事も含めてお説教だね。レイラちゃんも一緒だからね?」

 

 「えッ?」

 

 小梅の右手に握られていたのは一枚の黒森峰の外泊届。それを見て更に顔が真っ青になるレイラ。

 

 そう、外泊届の名前を書く欄には楼レイラと書かれていたのだ。

 

 「こっ、小梅ちゃん!それ、黒森峰の外泊届だよ?どうしたの?」

 

 「私、物持ちが良いから黒森峰のこういう書類は全部保管してあるよ。だから、試合が終わったらまほさんに渡せばオッケーだよね?」

 

 「私、お持ち帰り決定なの?私、副隊長だから厳しいよ?」

 

 「大丈夫だよ。渡したら、飛行艇に押し込むだけだからね」

 

 「いっ、いやぁぁぁ!」

 

 「レイラ、小梅の冗談よ」

 

 「えッ?冗談・・・・ほっ・・・・・」

 

 「でも、一度は大洗女子を見た方が良いわよ。何故、みほの下に集まるのか、何で元黒森峰の生徒がいきいきと学生生活をしているのか判るわよ」

 

 「そうね。楽しみにしてるよ」

 

 「待っているわ」

 

 「・・・・・でも、本気だったんだよね・・・・レイラちゃんのお持ち帰り・・・・・・」

 

 「えッ?」

 

 私は再び、モニターに目を向けたのだ。

 

 

 総統府の前では両者の激戦は続いていた。

 

 撃ち合う主砲。

 

 弾け跳ぶ、戦車の備付けの備品やサイドアーマー

 

 だけど、みほの戦い方に疑問を持った。

 

 先程から、みほは島田流で学んだ技をほとんど使っていなかった。使っていたのは西住流での戦い方で追い詰めて行ったのだ。

 

 『お姉ちゃん!そんなの間違ってるよ!』

 

 『みほ、確かに私はやり方が間違っている事は分かっている。だか、今の黒森峰の機甲科とOGを変える為にはこうするしかない!』

 

 『どうして!』

 

 『私の単なる妹があんなことをされた逆恨みかも知れない。だが!」

 

 『そんなの私は気にしてない!』

 

 『みほやエリカ達の黒森峰での未来を奪われてもか!』

 

 『でも、私は良かったって思えてるよ!やっと、戦車道が楽しいって思えたから!』

 

 『それでも、私は後輩達の為に膿を取り除く必要がある!』

 

 姉妹は主砲を撃ち合い、それを交わす為にドリフトやブレーキを駆使して交わしていく。

 

 二人だけのワルツを踊るかの様に思えたが・・・・

 

 『そんなことしたら、私に制裁をした先輩達と変わらないよ!で、何!持ち出し禁止の書庫から閲覧禁止の本を持ち出して試してみたら上手く行ったからって続けて。今回は相手校に怪我が無かったから良かったけど愛里寿ちゃんの時みたく重傷者が出てもおかしくないんだよ!』

 

 『西住流を離れたみほに言われたくない!』

 

 『離れたんじゃない!破門にされたんです!お姉ちゃんの石頭!戦車道では尊敬出来るのに、普段は口下手の天然阿保娘!』

 

 『口下手の天然娘はみほだろ!それに、石頭はみほだ!子供の頃、私に頭突きしといて良く言う!』

 

 『天然は認めるけど、お姉ちゃんほど口下手じゃないもん!えっ、何?石頭の意味も分からないの!小学生からやり直したらどうなの!』

 

 『お姉ちゃんに向かってそれは無いだろう!』

 

 何だろ。この状況・・・・・・

 

 正直に言ってカオスだ。

 

 二両戦車は歩みを止め、双方の戦車が隣同士に止めるとキュポーラから身を乗り出した二人の口喧嘩に変わっていた。そして、最後の方は姉妹揃って熊本弁での口喧嘩に変わっていたが割愛しておこう。(だって、熊本弁が難しいので・・・・)

 

 それを聴いていた蝶野さんは・・・・

 

 「あっはははははは!何これ!砲撃の応酬じゃなくて、口撃の応酬!傑作だわ!ベリーグッジョブよ!あぁ、お腹が痛い・・・・」

 

 蝶野審判長、お腹抱えて爆笑してないで何とかして下さい。

 

 蝶野さんはお腹抱えて大爆笑しており、来賓席にいる島田師範と西住師範は何故か頭を抱えてぼやいていた。

 

 「ねぇ、しぽりん。かなり見苦しい試合ね」

 

 「これも、西住流よ。多分・・・・」

 

 「多分って、言わなかった?」

 

 「気のせいだ。ちよきち」

 

 モニターを前に唖然とする私達。

 

 喧嘩は犬も食わぬとは言ったものだ。

 

 こんなやり取りに困惑する私はどうしたら良いのか分からないでいた。

 

 「レイラ、こういう時どうしたら良いのよ?」

 

 「エリカちゃん、あれは諦めた方が良いかも・・・・・だって、ああなった隊長とみほちゃんは止めるのはねぇ・・・・」

 

 「そうだね。姉妹で滅多に喧嘩しないだけにレイラちゃんが言いたい事は判るかも・・・・」

 

 そう、二人は

 

 『ちょっと待て!確認するが、私はそんなに口下手か?』

 

 『うん、普通に勘違いされる位に酷いよ!』

 

 『そっ、そうなのか・・・・』

 

 ガックリとうなだれるまほさんだったが、いつの間にか姉妹の会話に戻っていたのだから・・・・・

 

 『さて、姉妹喧嘩は終わりだ。決着を付けるぞ!』

 

 『うん!決着を付けます。パンツァーフォー!』

 

 再び、動き出す二両の戦車。

 

 だけど、言いたい事を吐き出した二人は合図と共に戦車を加速させていた。だけど、先程のみほの動きとは打って変わっていた。

 

 『なっ、何だ!西住流とも島田流とも違う!?』

 

 『そうだよ!さっきはお姉ちゃんに間違いに気付いて欲しかったから、西住流で戦ったんだよ!でも、今度は違う。私の全てをお姉ちゃんにぶつけます!』

 

 『なら、みほ来い!』

 

 『麻子さん、あれをやります』

 

 『隊長、分かった』

 

 『みほ、ティーガーの装甲は簡単には抜かせないぞ!』

 

 『つっ!?・・・今度は、あれです』

 

 さっき、愛里寿が見せた島田流のバミューダトライアングルの応用である慣性ドリフトしながら信地旋回して後部を狙うと見せ掛けて、途中で急加速からの辻切りをしたが正面装甲を信地旋回をやられて前面装甲で弾かれ、池田流の喧嘩殺法の秘技の体当たりをしてティーガーⅠを吹き飛ばし、その反発した力を利用して側面装甲に主砲を叩き込もうとしたのだが・・・・

 

 『甘いぞ!撃てば必中・・・・』

 

 「なっ、何なのよ!普通に有り得ないわよ!」

 

 「うん・・・流石に隊長車の砲手だね・・・」

 

 「えッ?私、自信無くしそう・・・・」

 

 私が見た光景はみほが止めに側面装甲に主砲を撃ったが、同じタイミングでティーガーⅠも主砲を放ち、みほのティーガーⅡの主砲の砲弾を相殺したのだ。思わず叫ぶ私に何故か納得するレイラ。そして、涙目で俯く小梅だった。

 

 『えッ!相殺された・・・』

 

 『みぽりんのお姉さん、マジで凄いですけど!』

 

 『流石は西住流です』

 

 『わたくしも燃えて来ましたわ』

 

 『で、どうする隊長?』

 

 主砲を相殺された動揺はみほ達にも達していた。

 

 私でも、正直なところ精神的に堪えるだろう。

 

 やはり、まほさんの戦車道の根幹は西住流だと再認識させられる。

 

 それでも、まほさんを倒さないといけないみほの重責。

 

 再び、膠着状態に戻される今の現状。

 

 私は気がつけば、爪を噛んでいた。

  

 私にはどうにもならないのだ。

 

 それが悔しいのだ。

 

 だけど、みほは勇敢にも姉と決着を着けようとしていた。

 

 『麻子さん、燃料の残量はどうですか?』

 

 『ここで決着を着けないと足りなくなるぞ』

 

 『大丈夫です。ここで決着を着けます。華さん、精密射撃は行けそうですか?』

 

 『静止時間をコンマ3秒を頂ければ行けます』

 

 『向こうの砲手との集中力勝負になります。すみませんがお願いします。優花里さん、装填速度を今の半分の装填時間で行けそうですか?』

 

 『西住殿、2秒間隔なら最高5発までならいけるであります』

 

 『分かりました。では、行きます。パンツァーフォー!』

 

 同じくして、まほさんでも同じ事が起きていた。

 

 『原田、燃料は持ちそうか?』

 

 『隊長、はっきり言って持ちません。燃料の噴射率をマニュアルで下げましたが、これ以上下げるとエンジンが止まりそうですし、履帯も足回りも感覚的に限界です』

 

 『そうか・・・・山田、タングステンの徹甲弾はまだあるか?』

 

 『さっき、撃ったので最後です。後は通常弾頭だけです』

 

 『分かった。原田、最後の賭けをやる。ティーガーⅡの背後に回れるか?』

 

 『隊長、足回りが壊れますよ?』

 

 『フラッグ車を撃破出来れば構わん。伊藤、お前の腕に全てを賭けるぞ』

 

 『『了解』』

 

 『では、行くぞ!』

 

 そして、みほのティーガーⅡの砲撃を皮切りに再び開始されたのだ。

 

 ティーガーⅠもティーガーⅡの背後に回ろうと加速するが、みほも取らせまいと噴水の周りを走り逃げる。

 

 『今です!』

 

 みほが叫ぶとティーガーⅡはナポリターンをした直後に主砲を放ち、まほさんがキュポーラ内に待避したのを確認してティーガーⅠに突進したのだ。

 

 『正面を向いたか!伊藤、防楯下を狙え!』

 

 『掛かりました。麻子、華さん、今です!』

 

 『はい』

 

 『任せろ』

 

 まさか、みほが狙ったのは・・・・・

 

 『はっ!?まずい!伊藤、撃て!』

 

 『隊長、スコープにはティーガーⅡは・・・・』

 

 ティーガーⅠも主砲を放つが当たる事は無かった・・・・・

 

 何故なら、ナポリターンして加速した直後にドリフトしながら前進させた為に、ペリススコープから見える目の錯覚で正面に向いていると勘違いさせたのだ。そして、みほのティーガーⅡは連射してティーガーⅠの右側の履帯を転輪ごと吹き飛ばし、二射目で側面に無理矢理向けさせて三射目で側面装甲に叩き込んで仕留めたのだ。

 

 キュポーラから身を乗り出して唖然とするまほさん。

 

 『何故、ティーガーⅡが正面に居ない?』

 

 『お姉ちゃん、島田流の中伝の陽炎だよ』

 

 『そうか・・・・私は負けたのだな・・・』

 

 まほさんは瞳を閉じて負けを悟ったのだった。

 

 そして・・・・

 

 『黒森峰女学院、フラッグ車走行不能!よって、大洗女子学園の勝利です!』

 

 私達は黒森峰に勝利したのだ。

 

 

 

 しかし、このまま終わる事は無かった。

 

 試合も終わり、トラックの荷台に乗り込んで帰ろうとする黒森峰の生徒達にアンチョビが待ったを掛けたのだ。

 

 「お前達、ちょっと待ったぁぁ!」

 

 振り返ったのはまほさんだった。

 

 「なんだ、アンチョビ居たのか?」

 

 「まほ、私は試合に出てたぞ!」

 

 「そうだったか?」

 

 「ティーガーⅡに乗って居ただろう!」

 

 確かに、アンチョビはキュポーラからは身を乗り出して居ない。出ていても分からないのは当然だと私は思う。

 

 「隊長、エンジントラブルでリタイヤしたティーガーⅡですよ」

 

 「確かに居たな・・・・」

 

 「やっと、思い出してくれたか!私が居るのに帰れると思うか?まほ!」

 

 「いや、帰る。帰って、反省会だ」

 

 「まほ、高校最後の青春ぐらいは謳歌してもバチは当たらないぞ!それに、みほ達と少しは会話しろ。見ててこそばゆいぞ」

 

 「そうか?」

 

 「だから、ドゥーチェアンチョビが席を用意してやろじゃないか!」

 

 私にはただ、宴会をしたいとしか思えなかった。

 

 だけど、私達は過去との清算をするタイミングなのだろう。

 

 アンチョビはまほに有無さえ言わせずに命令したのだ。

 

 「さぁ、宴会だぁ!諸君、湯を沸かせ!パスタを茹でろ!」

 

 「「「おぉぉぉ!」」」

 

 アンチョビの号令の元、アンツィオ高校の面々が移動型の厨房を運び込みパスタやイタリアン料理を始めたのだ。だが、それだけでは無かった。

 

 「我々、傭兵部隊も後に続くぞ!湯を沸かせ!ソーセージを茹でろ!ジャガ芋を蒸せ!そして、キンキンには冷えたノンアルコールビールを出せ!」

 

 「「「おぉぉぉ!」」」

 

 そして、飛び火は黒森峰と大洗女子に来ているアンツィオ高校の元黒森峰の生徒に移り、大量のドイツ料理を作りはじめたのだった。

 

 帰るタイミングを失い、唖然とする黒森峰の生徒とまたかと諦める大洗女子の生徒は苦笑するしか無かったのだ。

 

 

 

 結局、黒森峰との交流会と私達の過去へ清算は時間が許される限り続き、元黒森峰の生徒にまほさんは一人ひとりに謝ってまわり戻らないかと聞くが今の学園に馴染んだからと断るられたが逆にまほさんへ責める者も去年の決勝についてみほを責める者は居なかった。

 

 そして、今まで遊びを知らなかった黒森峰の生徒も元黒森峰と交流することで和気藹々とした空気に私達は過去へ清算をすましたのだった。

 

 

 帰り道、私はあんこうチームとワニさんチーム、レオポンチーム、マングースチームを晴空に乗せて学園艦に一足先に戻っていたのだ。

 

 「いっ、逸見!学園艦ではなく大洗に行けないか!」

 

 操縦室に慌てて入って来たのは麻子だった。

 

 「どうしたのよ?」

 

 麻子は何故か顔が真っ青だった。

 

 「おばあが倒れた!」

 

 身内が倒れたらしい。

 

 「分かったわ。麻子はとばすから席に戻りなさい!」

 

 「ありがとう」

 

 麻子が席に戻ると沙織さんに通信を入れて貰ったのだ。

 

 「沙織、悪いけど大洗埠頭の管理局に晴空が行く旨を緊急信で伝えて!」

 

 「うん、任せて!」

 

 『機長の逸見から皆へ、学園艦への飛行を取りやめて大洗埠頭に向かいます』

 

 操縦桿を引き、大洗へと矛先を向けた途端に

 

 ガッタン

 

 「いったぁぁぁ」

 

 備付けのロッカーから簀巻き状態の幼なじみが出て来たのだ。

 

 「えッ?何でレイラさんが居るの?」

 

 目の前に落ちてきたみほは首を傾げてレイラに聞いている。

 

 「えッ?ここ何処?何で、みほちゃんが目の前に居るの?」

 

 「レイラさん、ここはエリカさんの飛行艇の中だよ?」

 

 「えッ!じゃあ、私は小梅ちゃんにお持ち帰りされたの?」

 

 そう、ロッカーから出て来たのは黒森峰に帰っているはずのレイラだった。

 

 副操縦席に座る小梅はルンルン顔だった。

 

 「小梅、まさかレイラをお持ち帰りしたの?」

 

 「うん、したよ。ちゃんと、外泊届を出して来たから大丈夫だよ」

 

 「小梅ちゃん!私を降ろして!帰って反省会なんだよ!」

 

 「レイラちゃん、大丈夫だよ。ついでだからまほさんには短期転校届も渡して置いたよ」

 

 「小梅ちゃん!小梅ちゃんが大丈夫でも私は大丈夫じゃないよ!」

 

 みほはまほさんに電話をしていたが

 

 「どうやら、お姉ちゃんの仕業みたいだよ。大洗に行って勉強してこいだって・・・・」

 

 「マジ?」

 

 「うん、本当みたいだね」

 

 「レイラ、諦めなさい。ここから降りても構わないけど、今の高度は5000mあるわよ?」

 

 「エリカちゃん、分かったよ。でも、決勝が終わるまでだからね!」

 

 「えぇ、分かったわ」

 

 大洗へと私達は向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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学園への侵入者

 

 麻子と沙織さんを大洗埠頭で降ろした後、再び学園艦向けて飛び立った。

 

 ロープで簀巻き状態だったレイラは解放されて無線手を沙織さんの代わりに務めて貰っている。何故、私達が急ぎ学園に戻っているかは理由があった。最近、学園艦の間で戦車の盗難が相次でいたからだ。最近の被害で有名なのはプラウダ高校のKV-Ⅰが盗まれたと聞いた事があった。

 

 そして、私達の学園にも窃盗グループが来ているらしいと風紀委員会から連絡が来たのだ。

 

 今、学園に残されている戦車はⅣ号戦車H型、偵察戦車レオパルドが二両、エレファント重駆逐戦車が二両、アンツィオ高校のⅣ号戦車G型が四両に第二次探索で艦首の鉄屑置場で発見されたタンカスロン仕様の38(t)C型が十両の計十九両だった。後、忘れていたがヘッツァーと三式中戦車(長砲身)、Ⅲ号突撃砲は茜叔母さんの頼みから付属中へ貸し出している。

 

 新たに発見された38(t)C型はタンカスロン用の戦車に改造されて、主武装は対空兵装でおなじみの37ミリ機関砲が主砲として装備されていて、エンジンも足回りも最高速度は優に55㎞は出せる様に規定ギリギリの改造されていた。そして、驚いた事に戦車道の公式試合にも使用出来る事をみほの父親から聞かされていた。

 

 それを当時、改造した犯人は島田師範の旦那と西住師範の旦那だったりする。

 

 それは、茜叔母さんから聞いた話だ。

 

 大洗女子学園はあくまでも県立高校だった。当時、いくら強豪校でも資金繰りに苦労したらしい。そこで大会の無い冬季はどうしたかと言うと、タンカスロンで荒稼ぎをしていたらしい。同じ強豪で出ていたのは知波単学園とアンツィオ高校だったりする。

 

 私は黒森峰だったから何とも言えないが、操縦手と車長の臨機応変を養うためには絶好の訓練にはなるだろう。付属中時代の私も38(t)C型には散々お世話になっている。

 

 そして、タンカスロンでの隊長は叔母さんではなく、学園長の角谷弘子と島田師範が交互に兼任したらしい。

 

 話が逸れたが、タンカスロン仕様の38(t)C型の叔母さんから聞いた説明だ。

 

 晴空は今は学園艦上空に来ているが学園からの連絡はない。

 

 先程から管制室に無線を入れているが反応が無いのだ。

 

 そんな時、操縦室に来たのは杏さんだった。

 

 「逸見ちゃん悪いねぇ。管制室にいくら無線を入れても繋がらないよ。連絡先は風紀委員会本部に入れてくれるかな?」

 

 「えッ?大洗女子には管制室がないの?」

 

 「在ったけど、数年前に廃止になったんだよ。だってさ、うち県立じゃん。戦闘機道とか昔は在ったようだけど飛ばなくなって管制室を風紀委員会に兼任させているんだよ」

 

 「杏さん、質問だけど学園には降りられるの?」

 

 「それは大丈夫だよ。アメリカの輸送機C-5スーパーギャラクシーが離着陸出来るだけの長さはあるからね」

 

 それだけの長さがあれば安心だ。

 

 「レイラ、風紀委員会本部に無線入れて」

 

 「エリカちゃん、了解。こちら、大洗女子戦車道一行の輸送機晴空。校庭への着陸要請します」

 

 『こちら、風紀委員会本部です。機長の名前を確認したい』

 

 「了解、戦車道副隊長、逸見エリカどうぞ」

 

 『登録免許を確認。既に薄暗いため、校庭を滑走路のように照らす。5分ほど上空待機』

 

 「了解・・・・エリカちゃん、5分ほど上空待機してだって」

 

 「分かったわ。上空で旋回して待機するわ」

 

 そして、学園艦の上空を旋回して待機していると演習場の方でチカチカと光り、爆発が起きている事に気付いたのだ。

 

 これは、見て判る。

 

 戦闘している光りだった。

 

 晴空を操縦している手前、乗っている仲間の命を預かっている責任もある。こんな時、二式大艇か一式陸上攻撃機ならさぞ良かっただろう。だって、晴空は武装を全く積んでいないのだ。

 

 尚更、校庭への着陸は危険である。

 

 「レイラ、至急風紀委員会本部に連絡して!演習場での戦闘の説明を求めると!.」

 

 「えッ?演習場で戦闘?」

 

 私は双眼鏡をレイラに渡し、爆発で光る演習場を見て貰ったのだ。

 

 「エリカちゃん戦闘だね・・・・でも、爆発光が移動しているから追撃戦の最中だね。直ぐに確認するね。こちら、晴空。演習場での戦闘の説明を求む」

 

 『こちら、風紀委員会本部。こちらも状況を確認中です。ですが、着陸可能です』

 

 「了解。誘導に従い着陸します・・・・・・エリカちゃん、チャンスは今しか無いよ。着陸をして」

 

 着陸体勢になると、滑走路脇に自動車がライトを点灯して照らしていた。三点を着陸するため、マニュアルで操作しつつ慎重に降りたのだ。

 

 着陸に成功すると、邪魔にならない場所に駐機すると、ラッタルを降ろして学園に帰還したのだった。

 

 ただ、降りてビックリしたのが風紀委員会の面々だった。

 

 鉄兜を被り、MP-40やパンツァーファウストを装備してピリピリとした空気でいたのだ。

 

 私が黒森峰に居た時でも厳重体制では無いが泣く子も黙る秘密警察と警備科がある為に治安は比較的に良かった。

 

 そして、私達にも問題が起きたのだ。

 

 小梅がレイラをお持ち帰りした事が原因だった。

 

 そう、レイラは試合直後のパンツァージャケットのままで居たからでもあるが・・・・

 

 「何故、黒森峰の生徒がいるの?まさか、スパイ!?」

 

 ジャッキィ

 

 「ヒッィィ!?」

 

 MP-40の銃口を突きつけられるレイラは両手を速攻で上げて悲鳴を上げる。弾丸は各学園艦の共通のゴム弾だが当たるとかなり痛い。

 

 「ちょっと、待ちなさい!レイラは関係無いわよ!」

 

 「じゃあ、何故パンツァージャケットのままの?」

 

 「はいは~い、風紀委員は下がってねぇ!」

 

 「かっ、会長!」

 

 ラッタルから急いで降りてレイラの説明をしてくれたのだ。

 

 「楼レイラちゃんは今日から短期転入で来た生徒だから大丈夫だよ」

 

 「失礼しました。ですが、紛らわしいのでせめて制服に着替えて下さい」

 

 「はい・・・・・・・恐かった・・・・・」

 

 解放され、私達は急ぎ戦車倉庫へ向かった。

 

 そこで見たのは、風紀委員にロープで簀巻き状態で確保された他校の十数名の生徒と何者かにパンツァーファウストで撃破され、倉庫に突っ込む形のⅣ号戦車J型が二両と倉庫内で履帯を切られた大洗女子の戦車群だった。倉庫内には大量の薬莢が散乱しており、薬莢からして37ミリ機関砲だと判る。唯一、無事なのはⅣ号戦車H型と二両の偵察戦車レオパルドだけだった。

 

 「みほ、一両だけ38(t)C型が無いから無事なⅣ号戦車とレオパルドで様子を見に行ってくれる?」

 

 「エリカさんは?」

 

 「私はあそこで簀巻きになっている他校の生徒に聞き出すわ」

 

 「うん、分かった。愛里寿ちゃん、麻子の代わりに操縦頼める?」

 

 「最初からそのつもり。エリカ、お母様を呼んでおいたから、終わったら一緒に謝る・・・・」

 

 簀巻きになっている生徒を見て愛里寿は何かを隠しているようだったが、みほに連れられⅣ号戦車に乗り込んだのだ。

 

 「エリカちゃん、私はどうする?」

 

 「レイラは内法達と組んでみほの援護をしてくれる。レオパルドにも赤外線暗視スコープがあるから持って行ってよ」

 

 私と小梅が残り、みほはⅣ号戦車に乗り込み、レイラは内法達とレオパルドに乗って演習場に向かったのだ。

 

 「さて、小梅悪いけどコンビニでおでんを買って来てくれる?」

 

 「えッ!エリカちゃん、まさか巾着でをアレをやるの?」

 

 「拷問なんてやるわけ無いわよ。ただ、この連中はかなりお腹を空かしているから、ほっとけないだけよ」

 

 「じゃあ、おでんじゃなくて菓子パンにするね」

 

 小梅がコンビニに向かうのを確認して一人になると私は高校を聞きだそうとしたが制服で分かったのだ。 

 

 「ねぇ、あんた達は継続高校の生徒よね?」

 

 「違うわ」

 

 「その特徴的な制服は継続高校しかないわ」

 

 「だとしたら、どうするの?連盟に突き出す?」

 

 「馬鹿ね。しないわ」

 

 「じゃあ、どうして!」

 

 ラジオで聞いていたから判る。

 

 今日の準決勝はプラウダ高校が圧勝したのだ。そして、敗北した継続高校に有無を言わさずに継続高校所有のKV-Ⅰが二両とIS-2が一両にT-34/76が三両の他にSU-152が二両の計八両を全てプラウダ高校に没収されたのだ。

 

 そこで、事件が起きたのだ。

 

 そして、試合後にその八両が没収される事に抵抗しようとした継続高校の一部の生徒達がプラウダ高校の政治将校の服装をした生徒が持つ軽機関銃のゴム弾で蜂の巣にされた事が問題となっている事を試合を替わりに見て貰ったダージリンから知らされていた。

 

 問題はそれだけでは無かった。

 

 そして、戦車道にあるまじき行為だと怒りを露にするダージリンから決勝のみ生徒を短期転入で参加させて欲しいと聖グロリアーナ女学院生徒会を通じて打診も受けていたのだ。

 

 聖グロリアーナだけでなく、サンダース大学付属高校の隊長のケイもフェアプレーに欠けると怒りを表しており抗議している。

 

 レイラが送られた本当の理由にはもう一つあった。

 

 継続高校とプラウダ高校の試合内容を知った西住流家元の西住師範がまほさんに撃たれた生徒は元黒森峰の生徒達であると知らせたのだ。師範とまほさんは表立って動けない為、黒森峰女学院が抗議すると同時に副隊長であるレイラが送られたのだ。

 

 「答えは準決勝で負けて主力を担っていたソ連製の戦車を全て失った事とⅢ号突撃砲G型二両とⅣ号戦車J型三両にBT-42だけの戦力では話にならない。そこで目を付けたのが大洗女子だった。各試合で違う戦車を入れ替わりで投入していれば当然のように倉庫に戦車が残されている。違うかしら?」

 

 「ぐぅ、そうよ。私達は継続高校よ。だから何なの?」

 

 「そう、もう少しだけだから我慢してなさい。小梅が来たら、お腹の足しになるものでも食べてなさい」

 

 「甘すぎるわよ!」

 

 「黙りなさい!風紀委員!」

 

 「逸見エリカ!あなたも風紀違反で拘束するわよ!」

 

 「私は戦車道、捕虜待遇の協定を遵守するだけよ!」

 

 「ありがとうございます・・・・」

 

 「勘違いしない事ね。ただ、あくまでも普通に待遇しただけよ。それと、風紀委員会は協定を遵守しなさい」

 

 私はそう風紀委員に言い放つと、戦車倉庫の戦車の惨状にため息が出るばかりだった。

 

 「参ったわね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 少し遡る事、1時間前だった。

 

 私は放課後、お母さんに連れられて大洗女子学園に来ていた。

 

 理由は大洗女子付属中学で戦車道選択の私を含む三年生18名の願書を角谷学園長に渡す為、監督でもあるお母さんと来ていたのだ。ついでに、大洗女子学園の戦車を見ておきたい気持ちもあったのは事実だけど・・・・

 

 「飛騨生徒会長、確かに願書は受け取ったわ。来年はよろしくね」

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 「そうだわ。戦車倉庫の戦車を見ていく?」

 

 「はい、是非お願いします!」

 

 「でも、準決勝で主力の戦車は出払っているけど、それでも、多少の駆逐戦車や戦車は残っているわ」

 

 私は学園長に連れられて三人で倉庫に向かったのだ。

 

 倉庫は私にしたら宝の山だった。

 

 「うっわぁぁ!エレファントがある!あっ、こっちは偵察戦車レオパルドだぁ!あれ、これはⅣ号戦車H型とⅣ号戦車G型だ。あっ、羨ましい!38(t)C型のカスタム戦車だ。良いなぁ!良いなぁ!37ミリ機関砲が主砲だよ。これなら、知波単のテケ車が怖くないよ!」

 

 

 私が倉庫で戦車を見学をしている中、お母さんと学園長は

 

 「悪いわね。三両も借りて・・・・・」

 

 「西住隊長から許可を貰ったから大丈夫よ」

 

 「それにしても、良く私達はこんなに隠したわね・・・・」

 

 「そうね。隠した本人だけに、ある意味尊敬するわね」

 

 「でも、まだ出て来るわよ。あの、カノッサの屈辱の時の先輩達の戦車群は未だに発見されてないのだから」

 

 「懐かしいわね。私達も資料を元に33B重突撃砲やパンターG型のガスタービン仕様を捜し回ったけど、あれのせいで逆に隠す側になったものね」

 

 カノッサの屈辱は私には聞き覚えがあった。

 

 確か、1980年代の初頭の冬に起きた事件だ。

 

 それは、腐敗する戦車道を正そうと立ち上がり、今の戦車道の礎となった直訴状を携えて黒森峰女学院と知波単学園に大洗女子学園の各生徒会と戦車道チームが合同で戦車道連盟に直訴を試みたが戦車道連盟本部の一階にある120ミリカノン砲の前で連盟本部の役員達が直訴状を開封せずに破り捨てた事が始まりの事件だった。そして、三高に対してその場で出場停止処分を下したのだ。そして、雪が吹雪く中を三日間を通い続けて直訴状の内容の承諾と出場停止処分を取下げる事に成功したのだ。

 

 当時のお母さんはまだ小学生でお姉さんの亜紀子叔母さんと西住師範と一緒に西住流の門下生として見守りに行っているからその時の話をお酒を飲んで酔った時に懐かしむ様に話していた。

 

 「だからなのよ。大洗女子学園の学園艦には私達や先輩方の戦車道や思い出が詰まっている。廃校なんてさせないわ。再び、大洗女子学園が強豪校として舞い戻って欲しいから」

 

 「弘子の言う通りだけど、私からしたら少し違うかな」

 

 「えッ?どうして」

 

 「戦車道は楽しんでこそよ。それを忘れたらダメよ」

 

 お母さんと学園長が昔話で盛り上がっていた時だった。

 

 ガッシャン

 

 「「「!?」」」

 

 第二戦車倉庫から扉が倒れた音がしたのだ。

 

 お母さんは何を察したのか私に言ってきたのだ。

 

 「楓、この鍵は第二弾薬庫の鍵だからそこから面白いものがあるから持って来なさい。場所はこの倉庫の左端にある扉がそうだから」

 

 「うん、分かった」

 

 私はお母さんに言われるままに第二弾薬庫に向かった。学園長が電話で風紀委員会に出動を言っていたようだが気にしなかった。

 

 弾薬庫にはお母さんが言った通り、面白い物が一杯あった。

 

 「へぇ、パンツァーファウストに吸着地雷じゃん。確かに面白いよ。タンカスロンなら喉から手が出る程欲しい装備だし・・・・」

 

 私は四本一箱になっているパンツァーファウストを担ぎ、お母さんの元に戻ったのだ。

 

 私が戻ると学園長とお母さんは38(t)C型に乗っており、大洗女子の戦車をⅣ号戦車でワイヤーで繋げてⅣ号戦車G型を持って行こうとしていたが行かせまいとワイヤーと履帯を機関砲で切っていたのだ。ワイヤーを切られたⅣ号戦車は肩透かしを受けた様に壁に激突していた。

 

 これは、撃破するチャンスだった。

 

 私もタンカスロンではパンツァーファウストを使ったり、戦車に飛び移りキュポーラのハッチを開けて催涙ガス入りの手榴弾やを投げ込んだりしていた。

 

 「あら、私はあのⅣ号戦車の撃破だね。後方確認よし、安全装置解除・・・・・ファイヤ!」

 

 バッシュゥゥ

 

 パンツァーファウストの弾頭部が飛んで行き砲塔の側面に命中してⅣ号戦車を撃破。

 

 もう一両のⅣ号戦車はワイヤーに繋げてエレファントを持ち出そうとしていたが、パンツァーファウストで履帯と転輪を吹き飛ばして沈黙させたのだ。しかし、まだ動けそうな感じだったのでⅣ号戦車によじ登り弾薬庫から持って来ていた催涙ガス入りの手榴弾をキューポラのハッチを空けて投げ込んだのだ。

 

 「てっ、手榴弾!?」

 

 「戦車道にありなの?」

 

 「何なのよ!この学園は!」

 

 「叫ぶより脱出よ!」

 

 しかし、ハッチを空けて脱出しようとしたが完全武装した風紀委員に取り囲まれており、直ぐに降伏したが全員ロープで簀巻きになって確保されたのだ。そこに、38(t)に乗ったお母さんが来たのだ。

  

 「楓、38(t)に乗りなさい。もう一両が演習場に逃げたから追撃するわよ。パンツァーファウストを載せて行くわよ」

 

 「うん行くよ!来年からお世話になるのにこんなことする奴はボコ見たくしてやる!」

 

 「そう?じゃあ、砲手は任せたわよ。もう一両倒せたら限定を買って上げるわ」

 

 「えッ!マジ!」

 

 「えぇ、マジよ」

 

 「よし、やる!」

 

 ボコを餌に乗せられた感はあったが、学園長が操縦する38(t)は全速力で走っているにも関わらず全く揺れを感じさせないほど丁寧かつ大胆に操縦していた。そして、演習場に逃げ込んだ戦車は履帯幅からお母さんが気付いようだった。

 

 「弘子、もしかしてBTシリーズかな?」

 

 「そうね・・・BTシリーズにしては足が早いわね」

 

 履帯の跡を元に追撃して15分ほど走ると履帯の跡が途切れたが、お母さんは何に気付いた様で私に言って来たのだ。

 

 「楓、3時方向に主砲を撃て・・・」

 

 背筋が凍るような錯覚がするお母さんの静かな命令。

 

 これが、私の知らない元大洗女子戦車道総隊長飛騨茜なのかと嫌でも思い知らされる瞬間だ。

 

 私はフッドペダルを踏み、言われた方向に調整用ハンドルを回して37ミリ機関砲を撃ち放つ。

 

 空の薬莢が金網の中で暴れる様に排出され、機関砲から弾丸が飛んで行く。

 

 茂みの中では弾が何かに命中したのだろか?

 

 跳弾してしているのが嫌でも判る。

 

 「居たわよ!機種判明、BT-42よ!弘子、追撃するわよ!」

 

 「了解」

 

 発見され、慌てて走り出すBT-42。

 

 お母さんは冷静尚且つ大胆な口調で追撃を命令する。

 

 急加速する38(t)

 

 空になった弾倉はお母さんが片手で抜き取り、下を見ずに新しい弾倉を挿していく。

 

 私には考えられなかった。

 

 37ミリ機関砲の弾倉は普通に6発入りで重さが15㎏は軽くある。

 

 それを片手で持つ腕力にある意味恐怖したのだ。

 

 それでも、逃げるBT-42を追撃して撃てるチャンスがあれば機関砲を撃っていた。

 

 「楓、エンジンルームではなく履帯を狙いなさい」

 

 「了解」

 

 しかし、履帯を狙う前にBT-42は履帯をパージしたのだ。

 

 「へぇ、珍しい戦車ね。履帯をパージしても装甲車の様に走れるのね。弘子、リミッター解除しても構わないわよ。どのみち、このままだと逃げられそうだしね」

 

 「じゃあ、やるわよ」

 

 「楓はエンジンルームに乱射しなさい。いくらでも弾倉は入れ替えるから仕留めなさい」

 

 「はい・・・」

 

 急加速する38(t)

 

 全速力で逃げるBT-42

 

 有効射程に入らせて貰えない事にいらついているお母さん

 

 「ちぃ、あのBT-42は軽く70㎞は出てるわね。リミッター解除して60㎞は出しているのに追いつけないなんてね」

 

 「茜がいらつくなんて珍しいわね」

 

 「確かにいらつくのは久しぶりね。まるで、千代の指揮を見ているみたいで非常にムカつくわね。でも、あの戦車の車長は間違いなく島田流の動きね」

 

 「えッ!島田流なの茜!」

 

 「うん、癖が千代に似てる」

 

 「お母さん、どうする?タイヤ狙う?」

 

 「楓、右方向に避ける様に牽制射程よ。弘子、池田流を使っても構わないわ。一発、体当たりをするわよ」

 

 私はお母さんに言われた通りに右に曲がる様に牽制射程をしたのだ。

 

 何度も弾倉を取替えるお母さん

 

 そして、BT-42は右に曲がり逃走をはかる。

 

 だが、逃げ込んだ先は林だった。

 

 お母さんは上空を見て、何かに気づきどんどん命令を出していく。

 

 「楓、今度は左に曲がる様に牽制射程」

 

 牽制射程してBT-42が曲がった先は岩があった。

 

 反応が遅れたBT-42は左側の転輪を岩にぶつけたのだ。

 

 転輪が外れたが、それでも逃走を図ったのだ。

 

 しかし、約30分ほど逃げ回ると逃走劇は終焉を迎えた。

 

 どこからか放たれた主砲の砲弾がBT-42の砲塔側面に命中して横に倒れたのだ。

 

 その主砲を放ったのはみほさんが乗るⅣ号戦車H型だったのだ。

 

 白旗を掲げ動こうとしないBT-42と機関砲を向けたままの38(t)と主砲を向けたままのⅣ号戦車とレオパルド。そして、Ⅳ号戦車の操縦手ハッチから降りて来たのは愛里寿ちゃんだった。

 

 何故か涙目の愛里寿ちゃん。

 

 プルプル震えた拳

 

 だけど、私は信じられない光景を見たのだ。

 

 「やぁ、愛里寿じゃないか」

 

 「・・・・出て来い!」

 

 バッキィ

 

 「つっ・・・・久しぶりの再開なのに酷いじゃないか」

 

 「もう一回言う。出て来い!」

 

 「ちょっと、乱暴しないでよ!」

 

 「そうだ!」

 

 「うるさい!これは、家族の問題だ!」

 

 BT-42のハッチをこじ開けると中で揉めてるようだったが、しばらくして中にいるチューリップハットを被った女性の手を握り引きずり出して来たのだ。

 

 「・・・・みんなに謝れ!」

 

 「ただ、風に・・・」

 

 バッキィ

 

 「ヒックゥ・・・お姉ちゃん!みんなに謝れ!」

 

 愛里寿ちゃんの悲痛な叫びだった。

 

 そこに止めに入ったのはみほさんだった。みほさんは愛里寿ちゃんを優しく抱きしめて止めたのだ。

 

 「愛里寿ちゃん良いよ」

 

 「うっ、うわぁぁぁぁぁ!?みほ、みほ・・・・やっと、お姉ちゃんに会えたのに・・・・こんなのあんまりだよ・・・」

 

 「ミカさん達はスパイとして連行します。良いですか?」

 

 「窃盗として捕まえない訳かい?」

 

 「はい、その前に師範が生徒会室でお待ちしてます」

 

 「そんなことに意味はあるのかい?」

 

 「あると思います。私がお姉ちゃんと和解したようにミカさんも愛里寿ちゃんと三人で話し合ってください」

 

 「そう、行こうか」

 

 迎えに来た回収車に三人は乗り込み、学園へと戻って行ったのだ。

 

 「さぁ、みんなは戦車を倉庫に戻すわよ!楓は38(t)の車長をやりなさい。私はⅣ号戦車を操縦して戻すわ」

 

 私は38(t)を指揮しながら倉庫に戻ったのだ。

 

 

 

 私は自動車部と倉庫である程度の残骸を片して、私も生徒会室に呼ばれた。

 

 一応、継続高校の生徒は風紀委員会が目を光らせるながらも食堂に誘導されて、その中でなら自由を認めていた。各々の生徒は解放された食堂で食事を取ったりしていたのだ。

 

 私が生徒会室で見たのは、継続高校隊長のミカさんを抱きしめる島田師範の姿だった。

 

 何故かミカさんの頬に青痣があったのかは気になるが、話の内容から敗北した継続高校には匿名で戦車を贈る事を言っていたが母親に甘えたくないミカさんの意地を見せる場面があったが泣きながらミカに説得する愛里寿の姿に渋々受けたのだ。

 

 そして、三人で水入らずでご飯を食べに行くと決まり出掛けたのだった。

 

 

 継続高校の窃盗未遂も無事に終えて自宅に戻ると部屋の荷物が無くなっていた。

 

 「あれ、荷物がない?」

 

 「うん、ベッドも無いね?」

 

 「「ボコが無い!」」

 

 「エリカちゃん達の部屋にしては荷物が・・・・」

 

 「あら、ゴメンね」

 

 後ろから来たのは叔母さんだった。

 

 「なんで、荷物が無くなっているのよ!」

 

 私が叫ぶと

 

 「シェアしてある人数が増えたから戸建てに替えたわよ」

 

 「はぁあ!?」

 

 「「「「えッ?」」」」

 

 得意そうな顔で自慢する叔母さん。

 

 「仕方ないじゃん!しほと千代から戸建に替えてって言われたから、学園の隣の戸建てを買ったから新しい新居だよ」

 

 どうやら、相当な額で買ったらしい。

 

 叔母さんの案内の元、新居に行くとそこでは師範と愛里寿、ミカさん達がご飯を食べて居たのだった。

 

 「お母さんの手料理・・・美味しい・・・」

 

 「母上も腕を上げたね・・・」

 

 呆然とする私達を余所に団欒を楽しむ島田親子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 おまけ

 西住家邸宅

 私は試合が終わり実家に戻ると玄関で待って居たのはお母様だった。

 「まほ、良く戻られました。さぁ、ご飯にしましょう」

 何故か私は暖かく迎えられたのだ。

 あんな間違った事をしたのに

 何故、許されるのだろうか。

 テーブルにはお母様が作ったカレーライスとサラダが並んで居た。

 久しぶりに食べるお母様の手料理。

 何故かいつもより塩辛く感じる。

 何故だろう。

 私には分からないでいた。

 そんな時、お母様に優しく抱きしめられたのだ。

 「まほ、ごめんなさい。苦しんで居たのに気付かないで・・・・」

 そうか、私は泣いて居たのだ。

 「ごめんなさい。お母様・・・・・うわぁぁぁぁぁぁ」

 私はひたすら、泣いてお母様に謝った。

 まるで、小さな子供が泣いて謝るように・・・・

 私が落ち着くとお母様から信じられない事を言われたのだ。

 「まほ、聞きなさい」

 「はい、お母様」

 「黒森峰は一年間の出場停止をすると学園長と話し合い決めました。その間にあなたを一から鍛え直します。よろしいですか?」

 「分かりました。お母様、私を一から鍛えて下さい」

 「分かりました。では、黒森峰戦車道の一年間の活動停止の決定と楼レイラは本日付けで副隊長を解任して大洗女子へ転校させました。まほには一年間の休学をさせます。留年にはなりますが、一から黒森峰を立て直しなさい」

 私は休学となり西住流家元でのキツイ修業の日々となるのだった。




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新しい新居と新しい住人


 


 

 茜叔母さんに案内され、新居へ到着した私達。

 

 叔母さんはジーパンのポケットから鍵を刺して開けようとするが、鍵が開いていた事に気付いたのだ。

  

 「あら、鍵が開いてるわね?」

 

 戸建ての新居の中は既に私達の荷物はアパートの時の様に配置されていた。

 

 だけど、アパートと違うのはリビングがとても広く大きなテーブルがある事だった。しかし、リビングには先客が居たのだ。

 

 「お母さんの手料理美味しい・・・・」

 

 「母上はまた腕を上げたね」

 

 「あら、そう?ミカも愛里寿ちゃんも沢山あるから食べてね」

 

 そう、何を隠そう島田親子がリビングで食事をしていたのだ。テーブルには愛里寿の席には好きなハンバーグとサラダが並び、ミカさんの席にはビーフシチューが置かれていた。師範は師範でエプロン姿のまま、各種揃えたチーズを肴にワインを愉しんでいたのだ。

 

 外食に行ったのではないのか?

 

 と私は思わず叫びたくなる。

 

 「あら、エリカやみほ達も帰って来たのかしら?」

 

 でも、そこは師範だ。

 

 私達が帰って来た事を気配で気付いたのだ。

 

 「あら、千代。外食に行ったじゃないの?あぁ、そういえば学園艦がまだ警戒体制で飲食店は軒並み休みになっていたわね」

 

 何故か嫌味の言い方が私とそっくりな叔母さん。たじたじになる島田師範は珍しい光景だろう。

 

 「あっ、茜、痛いこと言わないでよ。娘がしでかした事に私も・・・・」

 

 「茜さん、もしかしてお姉ちゃんの事を怒っているの?」

 

 「愛里寿ちゃん、ミカさんの事は怒ってないわ。ただ、千代に嫌味の一つは言わないとね気が済まないだけよ」

 

 「本当に済まない事をしたね」

 

 「愛里寿ちゃんがお姉ちゃんって言っていたけど?」

 

 小梅が気になるのも分かる。

 

 いつも、部屋で世話をしていたのもあるが愛里寿に甘えられるのが結構好きだったりしていたし、本当の姉妹の様に接していたからだろう。

 

 「そうだねぇ、アキやミッコが居ないから挨拶をしよう。私は島田千代の娘で長女の島田ミカさ。妹の愛里寿が世話になっているよ」

 

 「「「えッ!」」」

 

 まさかのカミングアウトだった。

 

 継続高校の隊長が島田師範の娘だったなんて私も知らなかった。みほも小梅も言葉を失い固まるだけだった。

 

 「ハァーそうよ。うちの放浪娘よ」

 

 ため息を吐きながら認める師範。

 

 「放浪娘は酷いじゃないか。ただ、風に流されているだけさ」

 

 「お姉ちゃん、ママが引退したら次期家元なんだから自覚持って。まだ、みほのお姉さんが潔い良いよ」

 

 「まほの事だね。まほなら試合が終わった日から休学することを私に言って来たよ」

 

 「えッ?お姉ちゃんが休学?」

 

 「どうやら、自身を鍛え直すらしいね」

 

 「あははは、お姉ちゃんらしいや」

 

 「ところで、何でうちの学園を狙ったのよ?」

 

 「それかい?この質問に意味があるとは思えないな」

 

 確かに意味はない。

 

 「お姉ちゃん、私も気になる」

 

 「そうかい?大洗女子は母上の母校だからね。探索すればいろいろお宝が出ると思ったのさ。学園の周りを探索する様に言ったんだけど、学園の倉庫の方に風に流されるように行ってしまったのさ」

 

 「確かに探索をする度にいろんな戦車が出て来るわよ。なら、隠した本人に聞いて見たら」

 

 「「えッ?私に振るの?」」

 

 「そうだね。私も気になる」

 

 「愛里寿ちゃんまで・・・茜、少しだけ話したら」

 

 「ハァー仕方ないわね。エリカ達、いや隊長と副隊長には話して置くわね。貴女達は私達の代の戦車は主力として今は使っている。そこは良い?」

 

 「そうね。叔母さんから船倉の鍵を預かったわね」

 

 「そして、何故か私の先輩連中は戦車を隠す事が伝統みたいなのよ。呆れるでしょ?そして、未だに発見されてないのはガノッサの屈辱の時の主力戦車だけなのよ。他の見付けた戦車は私達の代で半数以上は売却して、その資金で買い直してエリカ達が使っている戦車だけが私達の代の戦車よ」

 

 「その時の戦車は何だか分かるの?」

 

 「そうね。学園には一切の資料は無いはずよ。私達が戦車道が廃止になった時に教員達に売却されるのを阻止を目的に全ての資料と書類関係は焼却処理したし、今は手掛かりになるのは代々隊長だけに引き継がれる戦車道日誌だけよ。でも、私達が何とか分かったのはB33重突撃砲が二両とパンターG型後期型とヤークトパンター後期型のガスタービン仕様が四両ずつに五式中戦車が四両の計十四両だけね。後の十両は分からないわ」

 

 「叔母さん、呆れるを通り越して逆に尊敬するわね。総保有数なら黒森峰やサンダースよりあるんじゃないの?」

 

 「えッ?でも、エリカさん。未だに保有数の記録なら廃校になった湾岸ナイジェリア高校じゃないかな?」

 

 「みほ、あんな邪道の高校を知っているの?」

 

 「愛里寿ちゃん、黒森峰が九連覇する前は湾岸ナイジェリア高校だったの。ただ、バブル崩壊と一緒に廃校になった高校だよ」

 

 「あら、西住さん。訂正するとガノッサの屈辱の直後よ。バブルと同時に表れ、バブル崩壊と共に廃校になったわ。そのあとは私達と一つ上の代が奇跡の三連覇を果たし、四連覇をする前に失格となって戦車道が廃止になった。後は黒森峰の一強の時代よ」

 

 「師範、訂正ありがとうございます」

 

 「でも、廃校と同時に動いたのは当時の島田流家元だったわ。湾岸ナイジェリア高校が廃校と同じくして先代がパーシングやM24、シャーマン戦車76ミリ戦車砲搭載型をバナナのたたき売りの様にかなり安く買い取り、残りはサンダースが買い取ったわ。おかげで、茨城の筑波大を中心にした関東の大学選抜の戦車の確保が出来たわね」

 

 「だから千代は大洗女子から聖グロリアーナに転校して一段と腹黒くなったのね」

 

 「茜、ちょっと表に出ようか?」

 

 「望む所よ。また、高校の時のように完膚なきにボコボコにしてやるわ。それに、操縦手は装填手には勝てないわよ?」

 

 「そうだったわね。茜は黒森峰の時は装填手だったわね」

 

 お母さんもだったが、どうやら私の家系は装填手が多いようです。

 

 「エリカさん、どうしたの?何か、黄昏れているけど?」

 

 「みほ、私はつくづく装填手になる運命だったのねって思っただけよ」

 

 「でも、エリカさんはエリカさんだよ」

 

 「そうね」

 

 「じゃあ、エリカさん。今日は約束だから一緒にお風呂に入ろ?」

 

 「そうだったわね。まほさんに勝ったらお風呂を一緒に入るんだったわね」

 

 「うん、行こう」

 

 私はみほに連れていかれる形でお風呂に向かった。

 

 正直なところ、みほとはお風呂には入りたく無かった。

 

 かつて、黒森峰で制裁と名ばかりのリンチを受けた時にチェーンソーの切れたチェーンで叩かれ背中の肉をえぐられて付いた傷跡を見せる事になるし、みほの嫌な思い出を掘り起こしてしまうからだ。それでも、約束は約束。みほと入る事にしたのだ。

 

 脱衣所で制服を脱ぎ、ブラを外した時だった。

 

 「エリカさん、また胸が大きくなった?」

 

 みほは私の胸を見て言ってくる。

 

 「揉んで大きくしたのは誰よ!おかげでブラ貧じゃない!」

 

 私は恥ずかしくなり、胸を隠しながら叫ぶが

 

 「だって、エリカさんの揉み心地が良いだもん」

 

 「だからって、ひゃん・・・だからって・・・・・やん・・・・・・そうやって・・・・はぁぅ・・・揉むんじゃないわよ!」

 

 いつの間にか、みほのペースだ。こうして、気付けば揉まれている。

 

 気を許せばこの先までされてしまう。

 

 今日は人が多いから無理だった。

 

 だけど、いつもは薄暗い部屋でしていて背中の傷を見られる心配は無かったから許していたが、みほの甘えん坊モードは底を知らないのだ。

 

 だけど、みほが甘えて背中から抱き着いた時だった。

 

 とうとう、明るい部屋で見られてしまったのだ。

 

 「あっ、エリカさんの背中のその傷は・・・・」

 

 みほは初めて見るかも知れない。

 

 一生残る背中の傷。

 

 消えることの無い背中に唯一残された私の大きな傷跡を・・・・

 

 みほは確かめながら傷跡を指で優しく指でなぞられる。

 

 そして、気付いたのだ。

 

 これが、みほの身代わりにリンチを受けた跡だと・・・・

 

 「ひゃん!みほ、背中は弱いからやめっ・・・・」

 

 「その傷、私のせいだよね・・・・・ゴメンね・・・・エリカさん・・・・・ヒックゥ・・・・・ゴメンね・・・・・」

 

 私の背中に顔を埋めるように謝るみほ。そして、背中に温かく感じて流れているのはみほの涙だった。

 

 「馬鹿ね。私が気にする訳が無いでしょ。今は、こうして一緒に居られて、こうしてお互いの温もりを感じられるのよ。十分じゃない。それに、私は幸せよ。みほと小梅とまた戦車道が出来ているのだから・・・・」

 

 みほを優しく私の胸の中に抱きしめがら語る様に話したのだ。

 

 「でも、エリカしゃぁぁん!でも、でも!」

 

 涙で顔がボロボロのみほは泣き止む事は無い。

 

 再び、あの日の事を思い出して自分で責めているのだから・・・・・だから、私は結論付けたのだ。

 

 それを背負い、生きて行くと・・・・

 

 私達の運命を狂わせ、黒森峰が衰退する事になった事故を・・・・・

 

 「ほら、みほ聴いてみなさい。私は生きてるのよ。だから、大丈夫よ」

 

 「うん・・・・・エリカさんの心臓の鼓動が聞こえる・・・・・・」

 

 そのまま抱きしめ、私の心臓の鼓動を聴くみほ。

 

 「大丈夫でしょ?」

 

 「うん・・・・」

 

 私の心臓の音を聴いて落ち着いた様でよかったと思う。

 

 「ホラ、さっさと入るわよ。後がつかえるわよ。今日から大人数なんだからね。それと、覚悟しなさい!お返しにみほの揉んでやるわ!」

 

 「おっ、お手柔らかに・・・・」

 

 「逆に誘って、どうすんのよ!」

 

 私はみほと一緒にお風呂に入ったのだった。

 

 「愛里寿、お風呂空いたわよ」

 

 「うん、お姉ちゃん一緒に入ろ!」

 

 「そうかい。なら、甘えるとしよう。それにしても、お二人は随分、お盛りのようだね」

 

 「はぅぅぅ・・・」

 

 「なっ・・・・」

 

 私とみほがお風呂から出て、入れ替わる様に愛里寿がミカさんと一緒にお風呂に入ったのだ。

 

 ミカさんに言われた事に真っ赤にするみほと聞かれた事に羞恥心で一杯になる私・・・・

 

 何故か、チャンスだと思わんばかりにルンルン顔でほろ酔い姿の師範がお風呂に向かったのだ。

 

 その直後だった。

 

 お風呂場の扉が勢いよく開くと、全身びしょ濡れのままの愛里寿が叫び、裸のままお風呂場から走って逃げて来たのだ。

 

 「愛里寿ちゃんにミカ、久しぶりにお母さんと一緒に入りましょ?」

 

 「いや!ママとは絶対に入らない!」

 

 「ちょっと、愛里寿ちゃん!何で、ミカは良くて私は駄目なの!」

 

 それを追いながら、絶叫するバスタオル姿の島田師範。手にはバスタオルを抱えながら走っていった。

 

 さっさとシャワーを済まして何処から手に入れたのか大洗女子のジャージ姿のミカさん。その姿は貴重かもしれない。それを余所に逃げる愛里寿は嫌がる理由を叫んだのだ

 

 「だって、お酒とチーズ臭いだもん!」

 

 「これは、完全に母上が悪いね」

 

 確かに、師範は夕飯でチーズを肴にワインを飲んでいた。そして、愛里寿はチーズの臭いも味も苦手だ。

 

 私の周りで逃げる愛里寿とそれを追う島田師範。

 

 そして、二人の世界に入るのはテーブルで茹でたドイツソーセージを肴にノンアルコールビールを飲んでいる小梅とレイラは久しぶりの会話を弾ましていたのだ。

 

 「エリカさん、凄く賑やかになったね」

 

 「そうね。逆にうるさいくらいね」

 

 手を握り、微笑むみほを見ながら安堵する。だけど・・・・

 

 「愛里寿も師範も服を着なさい!」

 

 「服を着る前にママを何とかして!」

 

 「ほら、愛里寿ちゃん一緒にお風呂に・・・・」

 

 「母上・・・・」

 

 「はい・・・・分かりました・・・」

 

 ミカさんが懐から出したアルバムを見て、急に静かになる島田師範。そして、お風呂場に逃げ込み鍵を閉める愛里寿だった。

 

 「ミカさん、それは何なの?」

 

 「あぁ、これかい?母上の秘密さ」

 

 カンテレを鳴らし、1ページ目をめくり写っていたのは・・・・・・

 

 「えッ?・・・・お母さん・・・・・」

 

 「・・・・これは・・・・・」

 

 私とみほが見たのは若い頃の当時の大洗女子のパンツァージャケットを肩にかけて青いビキニ姿の島田師範と同じく、黒森峰のパンツァージャケットを肩にかけて黒いビキニ姿の西住師範のツーショットのグラビア写真だった。多分、年齢からして高校生の頃のだろう。題名も『二大流派の新星 西住しほ(17) 島田千代(17)』だった。

 

 「どうだい、驚いただろう。たまたま、長崎に立ち寄った時にフレンドリーな学園艦の図書館の月刊戦車道に在ったから回収したのさ」

 

 「ミッ、ミカ!それは、恥ずかしいから見せないでぇぇ!」

 

 絶叫しながら慌ててアルバムを取り上げようとするが、ミカは師範の手をひらりと交わしてバスタオルを剥ぎ取ってソファーに投げ捨てて、直ぐにアルバムを懐にしまい込むと寝室へと行ってしまった。バスタオルを剥ぎ取られた師範は豊満な胸を腕で隠してその場で座り込んでしまった。

 

 どうやら、島田師範にとっては黒歴史だったようだった。

 

 「みほさん、エリカさん、あれは見なかった事にしてくれるかしら?」

 

 師範の鋭い目に私とみほは頷くしか無かったのだ。

 

 「「はい・・・」」

 

 「それと、バスタオルを・・・・・」

 

 早くバスタオルを取ってと顔を真っ赤にしている師範だった。

 

 

 寝室は洋室で私とみほ、小梅で出し合って買ったキングサイズのベッドがあり、手狭だった本棚と箪笥には私とみほの荷物が分けて入れられていた。これは、師範からの贈り物だったらしく今まで段ボールで冬物や夏物も一緒に入れられる様になっていた。

 

 部屋割はみほと私が一緒の部屋で愛里寿と小梅が一緒の部屋だった。そこに新たに、レイラが加わりレイラだけは二階の和室を一人で使う事になった。

 

 師範とミカさんはそれぞれ一階の客間にて寝て貰っている。

 

 私はみほに優しいキスをされた後、みほは私を抱きまくらの様に抱きしめて眠っていた。

 

 やはり、疲れたのだろう。そもそも、まほさんとの試合もそうだが急ぎ帰ってからの継続高校の窃盗未遂も含んでいるのだろ。私も今日の試合と飛行艇の操縦に疲れたのかぐっすり眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 朝、私は体が動けない事に気付いた。

 

 「朝ね・・・起きて朝ごはんの準備を・・・・・あれ、動けない?何故?」

 

 頭に浮かぶのは大量のハテナマークだった。

 

 寝る時はみほに抱きまくらにされて寝ていたはずだ。

 

 なのに何故、動けないのだ。

 

 私は状況が分からず、確認するために瞼を開けると私は自分の部屋の寝室の床で眠らされており、布団で包まれロープで簀巻きにされていたのだ。

 

 一体、何故、私が簀巻きになっているのだろか?

 

 そして、みほはまだ眠っており、みほの隣には膨らみがある。

 

 そして、私の隣には服を脱いでそのままのロングスカートやカーディガンなどが散乱していた。

 

 一体、誰が侵入したのだろ?

 

 そんな疑問は直ぐに解決したのだった。

 

 「うぅぅん・・・・エリカしゃん、おはよう・・・・って、えッ?お姉ちゃん!?」

 

 みほは飛び起きて慌てて布団を退かす。そこに、下着姿で眠っていたのはみほの姉のまほさんだった。それでも、まほさんは起きる事なく眠っていたのだ。

 

 しかし、まほさんは休学して実家の熊本に戻っているとミカさんから聴いている。

 

 「みほ、驚いている所で悪いけど助けてくれる?」

 

 「あっ、エリカさんが簀巻きに・・・・うん、ちょっと待ってね」

 

 私はみほに助けを求め、簀巻き状態から解放されたのだ。

 

 しかし、私が簀巻きにされていた事にみほの拳はプルプル震えていた。

 

 状況からしてみほはかなりご立腹のようだった。

 

 しかし、疑問が残る。

 

 この新しい新居の玄関は電子ロック式で防犯も大丈夫なはずだ。

 

 そんな私の思考を次の一言で麻痺したのだ。

 

 「エリカさん、手伝ってくれる?」

 

 「えッ?みほ?」

 

 「罪にはならないので大丈夫です」

 

 「えッ?みほ・・・・」

 

 ゲッシィ

 

 「グッホォ・・・・Zzzz・・・・」

 

 そう言った瞬間にみほは、姉であるまほさんを私が簀巻きにされていた布団に蹴り落として、そのまま布団で包み込みロープで簀巻きにしたのだ。そして、何事も無かった様に携帯を確認していた。

 

 「はぁ・・・・やっぱり、お姉ちゃん家から抜け出してる・・・・」

 

 「みほ、見ても・・・」

 

 「はい」

 

 確かに西住師範からのメールだった。ここでも、師範が何故メールをしないのか分かってしまった。

 

 『まほいえにいないみほしらないか』

 

 ゆっくり読まないと分かりにくいメールだった。

 

 携帯をしまい、みほは客間で寝ているだろう島田師範を起こすのかと思ったが

 

 「すいません、お姉ちゃんをリビングに運びます」

 

 「えぇ、分かったわ」

 

 私はみほとリビングに運ぶと一枚の紙に『生物』と書いて巻かれていれ布団に貼っていたのだ。でも、どっちだろうか『なまもの』と読むのか『いきもの』と読むのか・・・・・

 

 程なくして、みほは師範の部屋に行ってしまったが、私は全員の朝食や弁当を作っているため、キッチンから離れられない。だけど、みほに呼ばれたのだ。

 

 「あっ、愛里寿ちゃん!」

 

 「キッャ!・・・・エリカさん、ちょっと助けて!」

 

 私はコンロの火を止めて師範が寝ているだろう客間に行くと、みほが島田師範の抱きまくらにされていたのだ。みほから事情を聞いたら体育座りでいじけている師範だったがみほが入って声をかけたら、みほを愛里寿と間違えたらしく抱きまくらにして眠ってしまったらしい。

 

 どんだけ、島田師範は愛里寿を溺愛しているのか分かった瞬間だった。

 

 それには流石に苦笑するしかない。

 

 私は悪いことを思い付いたのだ。

 

 「みほ、待ってなさい」

 

 「うん」

 

 私はリビングに戻り、簀巻き状態で放置中のまほさんを使おうと思ったのだ。

 

 私は心の中で謝りながらまほさんを引きずり、結束バンドで手足を固定するとみほを出して代わりにまほさんを寝かせたのだ。

 

 「ねぇ、これって・・・・」

 

 「まほさんに良い薬になるでしょ?」

 

 「うん、そうだね・・・・」

 

 私とみほはキッチンに戻り、朝食の準備を再開したのだ。

 

 朝食と全員の弁当を作り終わった頃に島田師範の部屋から悲鳴が聞こえて来たのだ。

 

 「ぬっわぁぁ!?」

 

 「きゃぁぁぁ!?」

 

 これを聞いたこの家の住民達は島田師範の部屋に集まっていた。

 

 「えッ!隊長!?」

 

 驚くレイラ

 

 「ママ、最低・・・・」

 

 絶対零度の冷えた目線で見つめる愛里寿

 

 「おや、これは見物だね・・・・」

 

 呆れた様に呟くミカさん

 

 「ちょっと、愛里寿ちゃんにミカ!これは濡れ衣よ!」

 

 「あれ、みほの部屋に忍び込んだはずだが?」

 

 「それより、何故、西住まほがいるの?」

 

 「島田師範、愚問です。みほに会うためなら、換気扇から忍び込むのは朝飯前です」

 

 盲点だった。

 

 まさか、換気扇から侵入したなんて・・・・

 

 「まるで忍者ね・・・・」

 

 呆れた島田師範の一言だった。

 

 いや、あながち間違っていない。

 

 忍道を極めた方が良いのではと思ってしまうのだが・・・・・

 

 「師範がそれを言いますか!」

 

 思わず、師範に突っ込んでしまった。

 

 「師範、すいませんがお姉ちゃんを頼めますか?確か、今日の予定はお母さんと会う予定でしたよね?」

 

 「えぇ、西住師範と会う予定だわ」

 

 「ちょっと待て!それではお姉ちゃんはお母様に叱られるではないか!」

 

 「お姉ちゃん、むしろ叱られて下さい」

 

 「みほぉぉぉ!?」

 

 まほさんが絶叫するのをみほは無視しながら再び、簀巻きにしていたのだ。簀巻きにすると今度は紙で『返却物』とまほさんのおでこに張り紙をしたのだった。

 

 朝飯を食べた後、私とみほ、小梅とレイラで簀巻きにしたまほさんをヘリコプターに投げ込み、ヘリコプターと共に島田師範と九州に戻って行ったのだ。

 

 そして、帰り際にもまほさんは

 

 「I shall retum!」

 

 と叫んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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集いし英国淑女と怒りのダージリン

 

 朝のまほさんの侵入事件の後、私は叔母さんとキッチンの換気扇を直すハメになってしまった。理由は言わずとも分かるだろう。まほさんがここの換気扇を外枠ごと外して侵入したからだった。

 

 「この換気扇高いのよ!」

 

 ギャアギャア言いながらもドライバー一本で手際よくハメ直していく叔母さん。

 

 一体、何者かと思ってしまう。

 

 現に学生と学園の教員向けのアパートを数棟を経営していており、大洗女子付属中の戦車道の監督をしている事を娘である楓から聴いていた。そして、今度は複数の高校生を対象としたシェアハウスまで始めたのだから経営者としての腕はあるのだろう。

 

 モデルケースとして私達の新しい自宅だったりする。

 

 さておき、ミカさんはみほと愛里寿に一緒に登校する形で生徒会室へ連行され、小梅とレイラで登校したのだ。

 

 ただ、レイラの荷物は黒森峰から直送で来る予定だが、大洗女子の制服をまだ貰っていない為に鞄に入っていた黒森峰の制服で登校していた。

 

 昨日、風紀委員に言われたのだが大丈夫かと心配になる。

 

 それは、レイラが許可書を忘れていたからだった。

 

 私も叔母さんとの修復作業が終わり、急いで学園に登校したのだった。

 

 

 そして、予想は当たっていた。

 

 「ちょっと、校則違反よ!制服が違うわよ!」 

 

 「昨日の今日で制服が間に合う訳ないでしょ!」

 

 「そうだよ!園さん、生徒会長に許可を貰ってます!」

 

 「それでも、規則は規則よ!」

 

 レイラは風紀委員会の委員長の園に捕まっていたのだ。

 

 「風紀委員長、ちょっと良いかしら?」

 

 「逸見エリカじゃない。あなたまで、私に文句を言いに来たの?」

 

 「違うわ。これをレイラに渡すのを忘れただけよ」

 

 私は生徒会長の直筆の許可書を見せたのだ。

 

 制服が出来るまでの一週間、元の黒森峰の制服が使用出来るように生徒会が認可した許可書だった。

 

 「まぁ、良いわ。風紀委員会は逸見エリカを何時でも睨んでいることを忘れないでよ」

 

 そう言って園は校門に戻って行ったのだ。

 

 「ありがとう、エリカちゃん・・・・」

 

 「別に構わないわよ。まだ、レイラには許されてなんだから」

 

 「そうね。黙って去った事は怒ってはいるけどね。でも、こうして一緒に戦車道が出来るのはうれしいな。だから、おあいこだよ。エリカちゃん、これでどうかな?」

 

 「そう?レイラ、改めてよろしく頼むわね」

 

 「エリカちゃん、レイラちゃん!私を忘れないでよ!」

 

 「小梅も居たわね」

 

 「もう、エリカちゃんは!」

 

 「ところで、みほは?」

 

 「先に生徒会室に行ったよ。ミカさん達の処遇を会議で決めてるみいたいだよ」

 

 

 

 話しをているうちに校舎前に来たが、十台の黒塗りのロールスロイスが停まっていた。

 

 「ねぇ、何処のお嬢様だろう」

 

 「でも、車に掲げられてる旗って、聖グロリアーナ女学院のよね?」

 

 「えっ、じゃあ・・・聖グロリアーナからの転入生かな?」

 

 車の周りには生徒の人盛りが出来ていたのだ。

 

 「エリカちゃん、あの車・・・・」

 

 「多分、聖グロリアーナ女学院の車ね」

 

 一台の車から付きのメイドが後部座席の扉を開けると、見慣れた女子生徒が降りて来たのだ。

 

 「エリカ様、久しぶりですわ」

 

 「ダージリンだったのね。こんな人数で押し寄せて、一体何のようかしら?」

 

 「あら、あんまりですわね。一昨日の継続高校の事を知らせたのに」

 

 「えぇ、聴いたわ。それにしても、かなり怒っているわね」

 

 「えぇ、当たり前ですわね。ローズヒップではありませんが、腹腸が煮え繰り返すほど怒っていますわ。昨日、我が校の生徒会長が自ら杏様に電話を差し上げましたが返答が帰って来ませんでしたので、こうして、直接来たのですわ」

 

 今の非常にまずい状況だった。

 

 生徒会室は、継続高校の生徒とミカさんの処遇に付いてみほを交えて会議中だ。

 

 そして、継続高校の生徒も食堂で処遇が決まるまで待機させている。

 

 それにしても、ダージリンだけで来るはずがないのだ。

 

 だが、いつもならオレンジペコとアッサムが居るはずなのに・・・・

 

 「ところで、連れはどうしたのよ?」

 

 「あら、オレンジペコとアッサムの事ですの?お二人でしたら、プラウダ高校の潜入調査ですわ」

 

 「あんた、二人を見殺しにする気なの?」

 

 「確かに、今のプラウダ高校は魔の巣窟ですわね。ですが、1時間後にこの学園に戻ると連絡が在りましてよ。ところで、みほ様はどちらに?」

 

 いつも以上に揺さぶりを掛けて来るダージリン。

 

 私には用がないらしい。

 

 「みほなら職員と生徒会を交えての会議中よ」

 

 「アッサムの情報は正しかったようですわね。上空から見た時に、荒れた演習場と壁が崩れた戦車倉庫が見えましたの。結論からして、その会議は継続高校の処遇かしら?」

 

 「そっ、その通りよ」

 

 知っていたから、校舎前に待機していたってところね。

 

 「では、わたくし達は会議が終わるまではティータイムかしらね?」

 

 「もし、参戦が駄目ならどうする気なのよ?」

 

 「あら、断れない理由を作れば良いだけですわ。プラウダ高校のお陰でわたくし達の戦車はほとんどがスクラップになりましたのよ?でも、こちらにもセンチュリオンがありますわ。準決勝ではエンジンブローでエンジンが駄目にしている。なら、スクラップになったセンチュリオンのエンジンやいろいろな手土産を持参してきたとなれば、多少は違くてよ」

 

 「本当、あんたは食えないわね」

 

 「ウフフフ・・・・・褒め言葉として受け取りますわね」

 

 ニヤリと微笑すると、そのまま校舎に入って行ったのだ。

 

 「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 「何かしら?」

 

 「何処に行くつもりよ?」

 

 「決まってますわ。食堂で待機してますわ」

 

 「全く、仕方ないわね。食堂に案内するわ」

 

 私は、ひとまず食堂へと案内してダージリンと別れたのだ。

 

 別れた後、私は教室に向かったのだった。

 

 

 HRでは私のクラスに転入生がやってきた。

 

 「転入生を紹介するから皆さんは席に着いて下さい!」

 

 副担任が全員に席に着く様に促していた。

 

 全員が席に着き、副担任は紹介を始めたのだ。

 

 「今日から二人の新しい生徒が来ます。では、入って下さい」

 

 教室に入って来たのは、レイラとローズヒップだった。

 

 「黒森峰女学院から来ました楼レイラです。よろしくね」

 

 「聖グロリアーナ女学院から短期転入で来ました野薔薇里美ですわ。よろしくですわ」

 

 まさか、ローズヒップが二年生だったとは知らなかった。

 

 いつも、オレンジペコかアッサムに怒られていた記憶しかないのだから・・・・

 

 ローズヒップがクラスに来たって事は聖グロリアーナ女学院の短期転入を生徒会が認めたらしい。これは、ローズヒップに確認するしかなかったが、先に生徒会から呼び出しが掛かったのだ。

 

 『三年普通Ⅱ科A組安斎千代美、三年普通Ⅰ科B組三田麗華、二年普通Ⅰ科B組逸見エリカ、二年普通Ⅰ科B組楼レイラ、二年普通Ⅰ科A組西住みほ、一年普通Ⅰ科A組島田愛里寿以上の者は至急、生徒会室に来て下さい。もう一度、繰り返します・・・・』

 

 その前に三田麗華は誰だろと思って居ると、ローズヒップが呟いて居るのが聞こえたのだ。

 

 「えッ?ダー様の本名が・・・・」

 

 ダージリンだったらしい。

 

 「えッ?」

 

 ちょっと、待って欲しい。

 

 私は三田麗華の名前に聞き覚えがあった。

 

 それよりも、呼び出しが掛かっているため急いでレイラと生徒会室へ向かったのだ。

 

 

 生徒会室では、既にメンバーが揃っていた。オレンジペコとアッサムは川嶋さんの手伝いを受けながら撮影してきた映像の準備を終わらしていた。

 

 「やあぁ、授業中でも集まって貰って悪いねぇ。オレンジペコちゃんとアッサムちゃんの二名がプラウダ高校を映して来たから見るよ。映像の説明はアッサムちゃんに任せるよ」

 

 一枚目の写真に映し出されたのは金髪碧眼の美少女だった。それは、気高く気丈な女性だと分かる。例えるなら、北欧神話の戦乙女を連想できた。

 

 「アッサムことアンリー・R・澤村が説明致しますわ。まず、プラウダ高校の隊長は元赤軍高校の二年生のカツコフでありますわ。そして、赤軍高校では白百合戦車旅団の総隊長を経験しており、赤軍高校での内部抗争により生徒会長を失脚。指揮する、白百合戦車旅団を連れプラウダ高校へ転入しましたわ。白百合戦車旅団に付いてですが、総数百五十両の戦車旅団です。装備はT-44/100が十両、IS-3初期型が十両、ISU-152初期型が二十両、IS-2初期型が三十両、SU-100が十五両、SU-122が十五両、T-34/76が三十両、T-34/85が二十両です」

 

 数を聞いて唖然とする私達。

 

 仕方ないのかもれない。

 

 だけど出て来るのはその中の二十両だけだ。

 アッサムの説明が続く。

 

 「カツコフが隊長まで就任した経緯ですが、ダージリン様が睨んだ通り次期隊長候補はカチューシャで副隊長のノンナでしたわ。そして、直後に起きた前隊長の責任追及で失っていたようです。その時にカツコフは指揮能力の高さから隊長に抜擢され隊長になりましたわ。ですが、カツコフの指揮とは裏腹に暴走しているのはプラウダ高校の風紀委員会でしたわ。戦車道の生徒として多数を占めていただけにカツコフが就任以前にプラウダ高校と継続高校は戦車を賭けての賭博試合をかなりの頻度でしていた。ミカ様、間違いないですか?」

 

 「その通りさ。私が隊長になってからは八両の戦車を試合に勝ってプラウダ高校から手に入れたのさ。それと、訂正するとこうさ。最初の試合でKV-Ⅰを二両を勝ったら譲るとなって試合をしたのさ。もちろん、私達は戦力が欲しかったから試合に承諾したさ。そして、殲滅戦で勝った。ところが、負けたのが悔しかったんだろうね。次はIS-2を賭け、次はSU-152を賭けて行きプラウダ高校は連敗を重ねたのさ。今回の一件だってそうさ。カツコフ隊長は全く悪くない。むしろ、その八両の所有すら認めていたさ」

 

 ミカさんの一言にざわめく生徒会室。

 

 ミカさんは全てを話すようだった。

 

 「ところが、認めない人達が居たのさ」

 

 「プラウダ高校の風紀委員会の面々だった?」

 

 「杏さん、そうさ。風紀委員会から代々隊長が選出されて来た伝統があるが、最初に隊長に選ばれたのはカチューシャだった。彼女も小さな暴君と言われるだけに期待していた。しかし、去年の大会での行動を隊長の命令と言われても責任を取らされたのさ。カチューシャの就任を良しとしない風紀委員会の謀略でね。そして、風紀委員会は北海道にある赤軍高校の次期生徒会長を選出する内部抗争を利用したのさ。自分達の新しいマリオネットになる隊長を呼び寄せる為に民主派の派閥に力を貸して赤派が敗北したのさ。そして、赤派にいたカツコフは白百合を連れてプラウダに流れた。そして、結果的にプラウダ高校には風紀委員会の力が強まると共に強力な戦車や高い熟練度を誇る生徒を大量に確保出来たのさ」

 

 今度は杏さんが説明を始めたのだ。

 

 「ところが、風紀委員会にしたら妹の転入は計算外だったんだね。カツコフちゃんは赤派には居たが実は民主派の生徒だった。双子の妹を人質に赤派に取られていたが赤派の敗北と同じして妹を救出してプラウダに逃げ込んだんだよ。それの深い事情を知らずに風紀委員会は受け入れたんだ。転入後にカツコフちゃんの双子の妹のエリツィンちゃんは元々在った高いカリスマ性で生徒会長に就任してしまった。武にカツコフ、知にエリツィンで風紀委員会は力を急速に失って行った。そして、風紀委員会は最悪の一手を思い付いたんだよ。戦車道の試合中に問題を起こせば生徒会長と隊長の失脚のチャンスになる。外道なやり方だけど、あの準決勝が一番早い方法だった。以前から因縁が在った継続高校との準決勝を利用したんだね。いやぁ、こちらでも調べたからね。丁度、聖グロリアーナ女学院から参戦の打診が来たからね。ある意味、助かったよ」

 

 「そうさ。これがあの試合で起きた事さ」

 

 「ところでさぁ、橘ちゃんはあれを買ってきたかな?」

 

 「あの、良いですか?これを積ませても・・・・」

 

 オレンジペコがテーブルの上に置いたのは二種類の砲弾だった。

 

 「非殺傷性の砲弾だからね。実際に野良試合で使われているけどさぁ、砲弾は戦車を貫通するけど服だけが破けて裸になる砲弾と同じくキャニスター弾だよ」

 

 それを聞いた私達は顔を真っ青になった。

 

 正直、冗談ではない。

 

 もし、みほがやられたら全裸のみほを見る事になる。それをまほさんが見たら鼻血を大量にだして倒れているだろう。

 

 そんなものを見られたら、下手したらお嫁にいけないレベルだろう。

 

 いや、その前に戦車道の公式試合に出られなくなるだろう。

 

 「あの、杏さんさすがにその砲弾は・・・・」

 

 「西住ちゃん、その砲弾はうちら(決勝戦組)には積まないよ。積ませるのは付属中に貸し出したヘッツァー、Ⅲ号突撃砲F型、三式中戦車に積めるだけ積んで貰うよ。あと、無償で38(t)C型を十一両を貸す事にしたよ。勿論、付属中の校章には書き換えるけどね。決行は決勝と同じ日に付属中には編成が済み次第プラウダ高校にタンカスロンに行って貰うよ」

 

 ガッタァ

 

 「杏さん無謀です!無茶です!下手したら全滅します!せめて、作戦が細かく練られる人がいないと!それに弾薬だって無限じゃないんです!」

 

 席から立ち上がり叫ぶみほ。

 

 全滅の可能性が高いのは分かる。タンカスロンは10t未満の戦車だけだがプラウダにも大量の軽戦車がある。数の暴力に曝され事を予見したのだ。

 

 「みほ様、心配には及びませんわ。聖グロリアーナ女学院からは弾薬運搬型のチャーチルが行きますわ。それに、同行するのは監督の茜様に参謀には角谷学園長ですわ」

 

 「それに、第二弾薬庫の弾薬も積めるだけ持って行かせるからよろしく」

 

 第二弾薬庫と聞いて私は分からなかった。

 

 「杏さん、第二弾薬庫の中身は何なの?」

 

 「えっとねぇ、川嶋!」

 

 「逸見、これがリストだ」

 

 私は川嶋さんからリストを渡されたのだ。

 

 中身は・・・・

 

 「えッ?戦車道対応型のパンツァーファウストに中身が催涙ガスの手榴弾に吸着地雷・・・・」

 

 まさかだとは思いたいが叔母さんはタンカスロンで使って暴れていた風景しか思い浮かばない。

 

 「エリカ様、あと宜しければパンジャンドラムもありますわよ?」

 

 そんな、欠陥兵器は要らない。下手したら仲間まで巻き込み兼ねない。とあるコミックでは仲間まで巻き込み窮地に陥った様子が描かれていただけに断りたい。

 

 それもだが、決勝に向けて準備しないといけないのだ。

 

 そして、愛里寿も

 

 「ダージリン、あんな欠陥兵器は要らないから弾薬運搬戦車と野外飯事車をもっと出して。みほが言ってた通り、確実に数の暴力で来るはず。タンカスロンなら補給ポイントさえ決めれば長期戦も大丈夫」

 

 とバッサリ切られたのだった。

 

 「あら、厳しいですわね。分かりましたわ。弾薬運搬戦車を増やしますわね」

 

 「野外飯事車ならアンツィオから調理が出来る生徒付きで出そう。動けるのはアンツィオと聖グロリアーナ女学院だけだしな」

 

 今度はみほが立ち上がり、プラウダ戦に着いて話始めた。

 

 「この度は聖グロリアーナ女学院まで短期転入の件はありがとうございます。はっきり言って去年のプラウダとは全く違います。白百合戦車旅団の戦い方は優花里さんにも見に行って貰いましたが、結論からして野良試合で付けた力だと思われます。実戦と変わらない戦い方が予見出来ますので細心注意が必要です。聖グロリアーナ女学院の生徒にはエレファントが二両、レオパルド偵察戦車が二両、ミカさんが発見し返却してくれた戦車であるクロムウェル巡航戦車の五両を使って貰います」

 

 「作戦はございますの?」

 

 「大洗女子の戦車は全部で十六両が参加します。それを四つの小隊に分けます。シュトルムティーガーとブルムベアーの砲撃支援小隊、センチュリオンを小隊長車に切り込み役のパンター小隊、重戦車が中心の小隊、それを支援する小隊で全部で四つです。フラッグ戦ですので二つの小隊を援護しつつプラウダ本隊に奇襲します。ただ、奇襲の鍵は真っ先にIS--3とT-44/100を倒す必要があります。この戦車だけはとにかく堅いので集中して叩きたいと思います」

 

 黒板に貼られた要注意車両をタクトて指しながら淡々と説明していく。

 

 私もIS-3とT-44/100は危険だと思う。

 

 あの異常な程の硬さはティーガーⅡの主砲で撃ち抜くのは正直キツイ。

 

 むしろ、弾かれる。

 

 そして、出来るなら一番やりたくない戦車だ。

 

 「ちょっとよろしくて?」

 

 「ダージリンさんどうかしましたか?」

 

 「その二両の他に追加したい車両が在りましてよ。ISU-152を追加してくださるかしら?」

 

 「どうしてですか?ISU-152はそんなに厄介ではありませんが?だだ、気をつけるなら152ミリカノン砲位です」

 

 確かに、ISU-152は厄介ではない。

 

 側面に当てれば簡単なはずだ。

 

 「いえ、言いにくいのですが、わたくし達はあれにやられたので・・・・」

 

 確かに、二回戦の映像ではダージリン達はIS-3とISU-152の集中砲火でやられていたわね・・・・・

 

 「いざとなれば、私達で片付けるわ」

 

 「助かりますわ」

 

 「それでは、具体策を詰めて行きたいと思いますので放課後に付属中を加えての作戦会議を開きますのでお願いします」

 

 みほが締めると解散となった。

 

 一応、ミカさん率いる継続高校の面々の処遇だったが一切のお咎め無しとなったが、それは表向きだ。実際は見付けた、クロムウェル巡航戦車が二両、IS-2後期生産型だったがクロムウェル巡航戦車を一両だけを返還させて、残りは適性価格で継続高校に売却したのだった。

 

 

 

 

 

 場所が変わり、西住家ではニコニコ顔の島田師範と対面するかの様に顔を真っ赤にしているお母様が座っていた。そして、私は島田師範の脇に置かれ手土産の様に布団とロープで簀巻きにされたまま放置されていた。

 

 「島田流家元、まほは物ではありませんが?」

 

 「あら、本当ね。返却物って貼られてるわね」

 

 師範の事だ。

 

 お母様を徹底的に弄り倒す気なのだろ。

 

 それよりも、私を解放して欲しい。

 

 私はみほの元に行く使命が在るのだ。

 

 そして、みほに言ってやるのだ。

 

 私は『返却物』ではない!

 

 私はお姉ちゃんだと!

 

 それにしても、最近のみほとエリカが冷たいのは何故だろうか?

 

 そして、二人は一緒のベッドで抱き合う様に眠っていた。

 

 そして、二人の表情は安心した様な寝顔だった。

 

 お母様と島田師範が居なければ叫びたい。

 

 みほの寝顔と一緒に寝るのは私だと・・・・・

 

 仕方ない。

 

 やりたくないが、芋虫の様に脱出を・・・・・

 

 ガッシィ

 

 「えッ?」

 

 進めないのは何故?

 

 私はこっそり、島田師範の手を見てみた。

 

 握られているのはロープだった。

 

 そして、繋がっている先は・・・・

 

 私だった。

 

 「まほ・・・」

 

 「まほさんどちらに?」

 

 顔は笑顔だが目の笑ってない二人。

 

 逃げる事を許されない状況に私はこの先どうなるのか予想が出来た。

 

 だが、私はみほの元に帰るのだ。

 

 私は西住流だから引かないのだ。

 

 なら、やることは一つだった。

 

 私は師範達から逃げるのではない。

 

 みほに向かって進むのだ。

 

 「ぬぉぉぉぉ!」

 

 私は叫びながら出せるだけの力で島田師範を引っ張ろうとしたが

 

 「クッス、あら残念・・・・」

 

 嘲笑うかの様に引っ張り返される私。

 

 底掌の構えをする島田師範

 

 そして、引き戻された力をフルに利用され島田師範が布団に打ち込んだのだ。

 

 「島田流格闘術、鎧通し」

 

 ドッガァ

  

 「ガッァ・・・ハッァ・・・・・」

 

 背中に突き抜けるような痛みと衝撃に私は意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 





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囚われのカチューシャ

 

 私は放課後、戦車倉庫を前に絶叫してた。

 

 「ハァァ!?なんで、大洗女子学園の38(t)があるのよ!」

 

 それも、そうだろ。

 

 だって、その戦車は私が大洗女子学園に願書を出しに行った時に実際に乗って戦ったからだ。

 

 その戦車は今、倉庫を背景に六台の戦車運搬車両から降ろされたばかりの十一両の38(t)C型タンカスロンカスタム(私が命名)だったからだ。そして、大洗女子学園から借りたヘッツァー、Ⅲ号突撃砲F型、三式中戦車も公式試合で使用する砲弾が降ろされていて、整備担当の生徒が聖グロリアーナ女学院のマークが入ったトラックから降ろされたばかりの砲弾を積んでいたのだ。

 

 私は隊長だけに気になり、整備担当者に聞いたのだ。

 

 「ねぇ、この砲弾はキャニスター弾よね?」

 

 筒状の砲弾は間違いないく対人用散弾のキャニスター弾だ。

 

 「はい、非殺傷性のキャニスター弾です」

 

 これを積まれこと事態が異常だ。

 

 一体、何処の軍団とやり合うのだか分からない。

 

 そして、もう一種類の徹甲弾は・・・・

 

 整備担当者に聞く前に見て理解したのだ。そして、内心で突っ込んだのだ。

 

 積み替えるのが気が早いと・・・・・

 

 「あっ!?」

 

 ドッガァァン

 

 どうやら、三式中戦車が新しい徹甲弾を試すべく私達の中等部の主力38(t)B型を相手に訓練していた。どうやら、38(t)に命中したところだったのだ。

 

 「えッ?何これ・・・・」

 

 そして、そんな光景を見て私は目を疑ったのだ。

 

 「いっ、いやぁぁぁぁ!?」

 

 「何よ!これ!」

 

 「もう、お嫁に行けない!」

 

 三式中戦車の放った主砲弾が命中し38(t)は装甲を貫通して爆発すると砲塔が吹き飛び、一緒に中から吹き飛ばされて出て来たのはパンツァージャケットがボロボロに破けてほぼ裸になった三人の同級生の姿だった。

 

 その、光景は正直に言えばエロい。

 

 それは、私ほど大きくはないが未成熟な二つの果実を腕で隠し、それぞれの趣味の紐だったり縞の破れ気味のパンツからはみ出ている、自己主張するほんのりピンク色の桃は男性がいたら見ていたいだろう。まぁ、見たらみたで私達が消し炭にするだろうが・・・・これぞ、消し炭流・・・・なんちゃって・・・・・・

 

 「「「貫通するって先に言ったのに、さつきのばかぁぁぁぁ!?うぇぇぇぇん!?」」」

 

 しかし、彼女達は胸を隠しながらその場に座り込み、羞恥心から激しく泣いていた。

 

 当然だろう。

 

 競技用の砲弾は貫通しないから安全だ。

 

 しかし、この砲弾は貫通して(75ミリ砲の砲弾だから貫通して当然だけど・・・)裸にされるのだ。恥ずかしいこの上ないだろう。

 

 私は一瞬、フリーズしたがハンドスピーカーで叫んだのだ。

 

 『全車両、訓練中止!」

 

 私は叫び様に次々と檄を飛ばしていく

 

 「亜紀ちゃんは瞳ちゃん達に毛布を持って来て上げて!」

 

 「はい!」

 

 「詩織は三式中戦車の四馬鹿にお説教を!」

 

 「うん、で楓ちゃんは?」

 

 「私は女子学園に行って文句言って来る!」

 

 「でも、お姉ちゃんにメールで確認したら車長級の会議中だよ?」

 

 「詩織、付属中の美学は?」

 

 「それよりも、後ろ・・・・・」

 

 詩織に言われ後ろを振り向くと監督、もといお母さんが仁王立ちして居たのだ。

 

 「楓、携帯は?」

 

 お母さんに言われ、ポケットの携帯を確認したら着信履歴にはみほ総隊長とエリカさんの着信が数件入っていたのだ。

 

 「すみません・・・」

 

 「まぁ、仕方ないわね。付属中は急だけどタンカスロンでの試合が決まったわよ」

 

 「えッ?試合?」

 

 「お母さん、相手は何処?」

 

 「もちろん、楓が嫌いなプラウダ高校とよ」

 

 私は一瞬、頭が真っ白になった。

 

 プラウダ高校だって?

 

 冗談じゃない。

 

 プラウダ高校のタンカスロンは数の暴力で相手を蹂躙してくる。

 

 「T-26の数の暴力に曝されるわよ!」

 

 「大丈夫よ。そのために、大洗女子から追加で私達がかつて使っていた38(t)C型を全部持って来たわよ」

 

 「プラウダ高校とやり合うなら38(t)に搭載できる弾薬も燃料だって足りない。いや、足りなくなる」

 

 「解決してるわ。聖グロリアーナ女学院から弾薬運搬戦車と燃料を満載したジェリカンとドラム缶も大量に用意してあるわ。後は、それらをどう隠すかだわ。それと・・・・・」

 

 「えッ?それをマジでやるの?」

 

 「うふふ・・・・楽しいでしょう?」

 

 「うっ、うん・・・・」

 

 私はお母さんから聞いた作戦に顔を引き攣るしかなかった。

 

 お母さんから聞いたのはプラウダ高校のタンカスロンでの部隊は砲塔にカラー色分けされているらしく、赤は風紀委員会所属、白はみほ総隊長が決勝でやり合うプラウダ高校のレギュラー陣の白百合戦車旅団のメンバーが中心で、白い車体に砲塔に黒いラインが入っているのは懲罰部隊らしい。

 

 まず、38(t)B型装備した部隊が囮で本隊を引き付け、脇から38(t)C型による一撃離脱で砲塔が赤く染められたT-26だけを真っ先に撃破するらしい。

 

 「さて、私も忘れていたけど、楓と詩織は作戦会議に召集が掛かっているわよ。さぁ、行くわよ」

 

 「えッ?霞達のお説教は?」

 

 「あっ・・・・そうね、霞、さつき、村雨、時雨の馬鹿四人は反省文を明日でに20枚書いて来なさい!」

 

 お母さん、マジで忘れてただろうと突っ込みたいが命が惜しいからしない。

 

 「「「「まっ、マジでぇぇ!」」」」

 

 「さぁ、行くわよ」

 

 私は詩織と一緒に女子学園の生徒会室へと向かったのだ。

 

 私達が生徒会室へ着く頃には、聖グロリアーナのダージリンさんとオレンジペコさん、アンツィオの安斎さん、継続高校のミカさんとそして、総隊長のみほさん、副隊長のエリカさんに愛里寿ちゃんが居て、現生徒会会長の角谷会長が座っていた。

 

 「付属中で最後だね」

 

 「遅れてすいません」

 

 私は角谷会長に謝りながらも座席に着いたのだ。

 

 「さて、みんな集まったし始めるよ。今回、付属中まで巻き込んだのはプラウダ高校から逃げ延びた生徒からの要請だった。私は説明が面倒だから、本人に説明して貰うよ。入ってきて!」

 

 角谷会長の一言に一斉にずっこけそうになるが何とか堪えた。

 

 ガチャリ

 

 「失礼しますわ」

 

 会議室に案内されて入って来たのはプラウダ高校の制服を着た生徒だった。その生徒は私やエリカさんの様に銀髪で髪が長く目は碧眼の生徒だった。思わず、綺麗と言いかけたが言わずに済んだ。

 

 「紹介するね。プラウダ高校の留学生で三年生のクラーラちゃんだよ。一昨日、うちの学園艦の総合病院で眼を覚ましたばかりだけどね」

 

 「この度、助けて頂きありがとうございます。私はプラウダ高校の三年生のクラーラです」

 

 眼を覚ました?

 

 私は彼女が病院で眠っていた事はお母さんからも聴いていないし知らなかった。

 

 「じゃあ、クラーラちゃんが救助された時から説明するよ。麗華ちゃん、説明頼んだよ」

 

 「杏様、ダージリンとお呼び下さいます?」

 

 「短期転入している間は悪いけど本名で呼ぶよ」

 

 「くっ、分かりましたわ。では、わたくしが僭越ながら説明しますわ。クラーラ様を救助したのはプラウダ高校との二回戦が終わった後ですわ。わたくしの元に航海科からパンツァージャケットを着た女子生徒が海で浮いている所を救助したと報告がありしたの。身元を確認をしましたところ、プラウダ高校の三年生のクラーラ様であるとアッサムを通じて分かりましたわ。一応、念の為に身体検査をしたところ、数々の暴力を振るわれた跡がございましたわ。プラウダ高校には報告する義務が在りましたが、何日も海に浮いいた為に衰弱が酷かったので治療を理由に保護しましたわ」

 

 そう、言って紅茶を口に含んでいた。

 

 「ありがとね。その後なんだけどね、三校合同合宿をしている間に学園長がうちの学園艦で引き取ったんだ。いろいろと臭っていたからね。まぁ、理由は逸見ちゃんや西住ちゃんの時の様な感じに見えたからさぁ、ついでに調べさせて貰ったんだ。いやぁ、真っ黒だったね。いろいろ出てくる出てくる。それは、午前中に説明した通りだよ。で、ここからが肝心なんだ。クラーラちゃんが目覚めた時にある程度の事情聴取をしたんだ。西住ちゃんと逸見ちゃんの気分が悪くしたらゴメンね。このことだけは黒森峰にも深く関わっていた事だから」

 

 「気にしなくて大丈夫よ」

 

 「うん、大丈夫です」

 

 「調べて行くうちに判ったのはプラウダ高校と黒森峰の決勝の事故は最初から作られたシナリオだったんだ。うちも大洗女子学園にも身に危険が及ぶから、あんまり深く足を踏み込みたくないけど、プラウダ高校の風紀委員会を利用していた政府の人物がいた見たいだね。後、隊長候補だったカチューシャとノンナはあの大会の事件を口実に口封じで懲罰クラスに送られている。そりゃあそうだよね。西住ちゃんの優しい性格とずば抜けた状況判断能力を逆に利用すれば絶対に逸見ちゃん達を助けに行くし、逆に逸見ちゃん達に何かあれば・・・・・そうだねぇ、例えるなら生徒の死亡とかね。そうしたら、黒森峰と西住流に何かしらの大ダメージは確実だね。でも、西住ちゃんは逸見ちゃん達を助けた。別に悪い事じゃない。だけど、優勝を逃した事で黒森峰は内部崩壊を起こして今回の大会を最後に一年間の出場停止を決めたんだ。西住師範の選択は良かったかも知れないね。西住流と黒森峰の大ダメージを回避が出来たからね。さて、本題だね。何故、うちらの決勝中に付属中がプラウダ高校にタンカスロンを仕掛けるかだね?」

 

 「そうね。私も気になったわよ。みほも知らない事だったわね」

 

 「逸見ちゃん、説明するから待ってね」

 

 「わかったわ」

 

 「最大の目的はカチューシャとノンナ達の旧プラウダ戦車道の生徒の解放だよ。その為には風紀委員会の連中をタンカスロンで倒す必要がある。暗号通信でプラウダ高校の生徒会には連絡してあるから、タンカスロンで決着が着いたら生徒会と白百合戦車旅団のメンバーが風紀委員会の捕縛に動くからね。付属中は絶対に無理しないでね」

 

 

 と角谷会長が締め、全体会議が終了したのだ。

 

 

 

 

 同じ頃、プラウダ高校

 

 ここは、風紀委員会や生徒会によって捕まり、粛清対象になった生徒達が収監されている木造の校舎にはプラウダ高校の旧戦車道の120名の生徒が収監されていた。プラウダ高校の制服しては余りにも程遠く質素で継ぎ接ぎだらけの囚人服を着せられていた。

 

 だけど、その中の一人の小さき暴君の瞳には闘志が未だに消えずに居たのだ。

 

 「ノンナ!今日の予定は?」

 

 「今日の予定は木の伐採作業です」

 

 「なら、目標は百本よ!切って、切って、切りまくって終わったら少しでも訓練するわよ!」

 

 「ですが、カチューシャ様?」

 

 「なによ?」

 

 「チェーンソーの燃料とオイルがありませんが?」

 

 「ノンナ、諦めたら終わりよ!無いなら無いで、斧でも鉈でも構わないから切るしかないわ!後、炭鉱に回される生徒は必ずポケットに石炭の欠片を入れて持って来なさい!あなた達だけが、寒さを凌ぐ希望よ!頑張りなさい!」

 

 そう、私はみんなに檄を飛ばすしかなかった。

 

 もし、戦車道の大会に出られたなら謝りたかった。

 

 西住みほに・・・・・

 

 私の傲慢で臆病な私だ。

 

 最初は正直になれないだろう。

 

 だから、試合の後に捨て台詞の様に言えたら最高だろう。

 

 だけど、私にそんな夢が果たせなくなった。

 

 抽選会が終了後に風紀委員会に拘束されたのだ。

 

 拘束された生徒は戦車道に関わっていた生徒がほぼ全員が拘束された。

 

 それは、関係の無い一年生まで及んだ。

 

 いつの間にか、収監する校舎は満員になっていた。

 

 それでも、増え続ける粛清対象者。

 

 それと同じく、プラウダから去る粛清された生徒。

 

 私は自ら説得して留まる事を頼み続けた結果、今の120名だけが残ったのだ。

 

 

 あれから二ヶ月も堪えに堪え忍びに忍んだ結果、私達にもチャンスが来たのだ。

 

 二回戦の後、クラーラが行方不明になった。

 

 クラーラは今の風紀委員会の現状を他校に知らせる為に脱走。風紀委員会にゴム弾を乱射され、撃たれながらも海へと身を投げたのだ。

 

 学園艦の最上甲板から身を投げたのだから死んだと私は思っていた。

 

 だけど、彼女は生きて居たのだ。

 

 私達に希望という名の光を持参して・・・・

 

 それを知ったのは、大洗女子学園が決勝に上りつめ、プラウダ高校も決勝へと駒を進めた事を知った翌日だった。私とノンナは連行される様に風紀委員室へと連れて行かれた。

 

 部屋に居たのは、風紀委員長と白百合戦車旅団の隊長のカツコフと私の後釜の副隊長のジェーコフだった。

 

 委員長は笑いながら、私達に言ったのだ。

 

 「聞いて、笑いなさい!大洗女子学園付属中学校からタンカスロンを申し込まれたわ!そして、決勝の相手も付属中の本校である大洗女子学園よ!カツコフ、あなたは大洗女子学園を血祭りに上げ上げなさい!ジェーコフ、あなたはタンカスロンの戦車部隊を指揮し、付属中を血祭りに上げてプラウダ高校の外庭に十字架に張り付けて晒して上げなさい!」

 

 タンカスロンって聞き、動いたのは大洗女子学園だと判った。今は島田流がバックに付き、かつての栄光を手にしていた戦車群を使用していた点から私は注目していた。

 

 「ちょっと、委員長。よろしいか?」

 

 「何よ?」

 

 「決勝だけにジェーコフの観察力は外せない。大洗女子学園の隊長は元とは言え、西住流。舐めて掛かると私達がスターリングラードの二の舞になりかねない。よって、タンカスロンの指揮はカチューシャに任せたいが?」

 

 「却下よ!何なら、私自ら指揮するわよ!カチューシャ!あなた達は風紀委員会の戦車隊の楯よ!全員を引き連れ、私の指揮下に入りなさい!」

 

 「うむ、それなら私は文句は言わない。カチューシャ、最後まで諦めるな」

 

 「カツコフ、あなただけには言われたく無いわ。委員長、やってやるわよ!大洗女子学園付属中なんて削って、削ってピロシキのお惣菜にしてやるわ」

 

 「では、こちらからも人員60名を置いて行きましょう。決勝に必要な110名は確保済みです。委員長の期待に添えられる働きをしてくれます」

 

 「あら、助かるわ。これで百両が用意出来たわね。カツコフ、あなたの旅団から戦車を少し売却してT-26を大量に買いたいわ。構わないかしら?」

 

 「えぇ、構いません。売却可能な八十両のリストは置いて置きます」

 

 カツコフは踵を翻して委員長室を後にしていた。

 

 私も訓練をさせたいと申請してT-26の慣熟訓練をしたのだ。

 

 慣熟も済み、私達の戦車に塗られていたのは戦車自体が白かったが砲塔には黒のラインが書かれていた。他にも、白百合は砲塔に白百合戦車旅団のロゴが描かれ、風紀委員会の戦車は砲塔は赤く染められていた。

 

 

 そして、タンカスロンか開かれる二日前は学園艦の物資搬入港には輸送船の往来が激しかったらしい。一つは、サンダース大学付属高校からはタンカスロンの見学を理由にM4A1と乗り組員が入り込み、同じくして聖グロリアーナ女学院からは砲塔の無いチャーチル戦車が戦車運搬車に載せられて来ており、アンツィオからは数台のトラックが、最後は大洗女子学園からは戦車が載せられた二十六台の戦車運搬車と生徒が乗っているバスが搬入されたのだ。

 

 逆に、同日に白百合戦車旅団は二十両の戦車を戦車運搬車に載せて決勝戦の会場である富士演習場へと旅立ったのだ。

 

 

 大洗女子学園付属中は雪上に慣れる為に徹底的に訓練を課していた。使用する戦車は38(t)B型と38(t)C型の混成の二十四両だった。しかし、38(t)C型だけは違和感が在った。

 

 38(t)C型の主砲は37ミリ戦車砲だったはずだ。しかし、砲身が長いのだ。

 

 そして、ノズルの形状から私はある結論を出したのだ。

 

 あの38(t)C型は一番危険だと。

 

 私は頭で理解しながらも嫌な予感だけしかしなかったのだ。




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決勝戦ともう一つの戦い

 さて、プラウダ戦が始まりました。片方は戦車道大会の決勝とタンカスロンの戦いです。


 

 富士演習場では、大洗女子学園が利用するガレージには十七両の戦車が立ち並んでいた。

 

 支援砲撃担当の小隊には偽装ネットが取り付けられ、力仕事ではあるが木々が取り付けられていた。他にも、遊撃と奇襲を担当の小隊は愛里寿とダージリンがタブレットを片手に作戦内容の確認や注意事項の説明を隊員達にしてる。

 

 みほはと言うと

 

 「私達の小隊はあくまでも囮と奇襲要員です。愛里寿ちゃんの小隊がIS-3とT-44を撃破するまでは正面に留まり、重装甲を生かして相手の戦力の削減に努めます。撃破次第、合図により私達はプラウダ高校本隊へ総攻撃を仕掛けます」

 

 「なら、私達はCポイントから支援砲撃だな?」

 

 「板野さんその通りです。Cポイントからなら射程はギリギリですが、150ミリ榴弾砲と380ミリロケット弾が届きます。ですので、スタートと同時に迅速に移動をお願いします」

 

 「判った。任せて」

 

 「みほ、私の小隊も説明は終わった。最終的にはダージリンの小隊は私の小隊に吸収して本隊突入の支援で構わないな?」

 

 「うん、愛里寿ちゃんありがとう」

 

 「お礼なら、優勝したらボコミュージアムだな」

 

 「うん!エリカさんも行く?」

 

 「みほ、大会後の連休なら良いわよ」

 

 「なら、私もそうする」

 

 大会前の説明もある程度が終わり、いつもの談笑に変わっていた。二人は大会が終了後の連休でボコミュージアムがご所望らしい。

 

 一昨日の全体会議の後、プラウダ高校のクラーラは一通り説明だけした後は体の痛みが酷いために総合病院に戻っている。会議の結果、継続高校の生徒の処遇は半壊した戦車倉庫の修理と継続高校でエンジンが無くて使われていないⅢ号戦車J型の二両を大洗へ無条件での譲渡を条件にプラウダから売りに出されていたT-34/85が二両とKV-2が一両、KV-1が二両の計五両を通常の半値で大洗が購入して譲渡する事となった。ミカさんが急ぎ運ばせたおかけでⅢ号戦車J型は急ぎアンツィオのⅣ号戦車G型のエンジンを載せた事で出場可能となり、決勝戦直前に二年生の猫田さん達ゲーマー仲間の三人組が参戦を決め、Ⅲ号戦車J型を観測戦車に改造して使用する事になった。

 

 ただ、そのⅢ号戦車J型だけは黒森峰から不吉の象徴で継続高校に売られたしい・・・・・

 

 そう、それは私達がかつて事故を起こした時に使っていたⅢ号戦車J型で黒森峰の十五号車だった。そんな想いに更けていた時だった。

 

 ガレージの前に一台のジープが止まった。

 

 「ハァーイ!みほ!」

 

 「あっ、ケイさん!」

 

 ジープに乗って居たのはサンダース大学付属の隊長ケイとナオミだった。後一人居たはずだがいない。

 

 「ケイじゃない」

 

 「エリカも居たのね。みほと同じくエキサイティングな試合を期待してるわ」

 

 「そうね。恥ずかしくない試合をするわよ。それと盗聴魔はどうしたのよ?」

 

 「アリサね。アリサならプラウダ高校のタンカスロンに見に行ったわよ。何でも、う~ん・・・頼まれたついでだかららしいわね」

 

 アリサが行ったみたいね。

 

 通信傍受装置と無線中継の機材があるのはサンダースだけだった。そこでサンダースには協力を仰ぎ、プラウダからの無線中継を頼んである。これにより、みほは決勝中でもプラウダ高校に行った付属中の状況がリアルタイムで知る事が出来るし、いざという時に指示も出来るはずだ。

 

 次に来たのは私服姿のまほさんだった。

 

 「みほ、来てやったぞ」

 

 「あっ、お姉ちゃん・・・・・」

 

 しかし、みほは何故か逃げようとしていた。

 

 「みほ、何故逃げようとするのだ?」

 

 「お姉ちゃん、まさかと思うけど訓練から逃げて来てないよね?」

 

 「ギッグゥ・・・・・逃げて無いが?」

 

 何故かまほさんは冷や汗をかいていた。

 

 それを見逃さなかった。

 

 「お姉ちゃん、やっぱり・・・・」

 

 みほは呆れた顔になってガレージに行ってしまった。

 

 「エリカ?」

 

 「はい?」

 

 「非常に嫌な予感がするが気のせいか?」

 

 「私でも庇いませんよ?」

 

 「頼むから助けてくれ」

 

 みほが戻ると手にしていたのはロープだった。

 

 「お姉ちゃん、素直にお母さんの所に帰るか強制送還されるのどっちが良い?」

 

 「みほにハグで」

 

 真顔で言い切るまほさん。

 

 「・・・・・・・・エリカさん、これ持ってて・・・」

 

 「えッ?」

 

 私はロープの端を渡されるとみほはロープでまほさんを巻き始めたのだ。

 

 「ちょっと、みほ!?」

 

 「お母さんに返却するから」

 

 「ちょっと、ロープが胸に食い込んで痛い!」

 

 「エリカさん、このままガレージの柱に縛り付けます」

 

 しかし、みほに簀巻きにされておでこに『危険物』ではなく『危険人物』と貼られガレージの柱に括り付けられたのだ。それには私は苦笑するしかなかった。

 

 みほが西住師範に連絡してまほさんは菊代さんに回収されて応援席に連れて行かれたのだった。

 

 帰り際、まほさんは叫んでいたようだったが聞かなかった事にしておこう。

 

 菊代さんが応援席に戻った後だが、水色のスカートに白と水色のセーラー服を着た生徒が二人来たのだ。一人の特徴は長身で髪の色は銀髪でロングヘアーで目の色が蒼い瞳をしていた。ただ、頭にはシルバーで作られたヘアバンドをしていた。もう一人は金髪でポニーテールの髪形だった。

 

 「大洗女子学園の隊長は居るか!」

 

 金髪の生徒が叫んでいた。

 

 「何か用かしら?」

 

 「貴様に用はない!」

 

 「かなりの物言いね。私は逸見エリカ、大洗女子学園の副隊長よ」

 

 「ジェーコフ、下がりなさい」

 

 「隊長、すみません」

 

 「野良試合と違う。戦車道は礼に始まり礼に終わる。礼節を守りなさい。紹介が遅れた。私はプラウダ高校所属、白百合戦車旅団の隊長のカツコフよ。逸見副隊長、部下の非礼は部下に代わり謝罪する。ところで、大洗女子学園の隊長西住みほはどちらに?」

 

 「ちょっと待ってなさい。呼んで来るわ」

 

 「判った」

 

 私はみほを呼びに行ったのだ。

 

 カツコフの第一印象は潔い武人を連想させた。それだけとは思えない何かがあると感じたが試合に集中しよう。

 

 「みほ、プラウダ高校の隊長が挨拶に来てるわよ」

 

 「うん、今行くね」

 

 私はみほとカツコフが待つガレージ裏に向かったのだ。

 

 「隊長を連れて来たわよ」

 

 「済まない。隊長の西住みほだな?」

 

 「はい、西住みほです」

 

 「そうか、私はプラウダ高校所属の白百合戦車旅団の隊長カツコフよ。良い試合をしよう。それでは失礼する」

 

 カツコフとジェーコフは自分の陣地へと帰って行ったのだ。

 

 「エリカさん・・・・あの人、強いかも知れない」

 

 「大丈夫よ」

 

 「でも、作戦が読まれるかも知れない。だから、エリカさんも気をつけてね」

 

 試合前に腕を抱えて脅えるみは始めてかも知れない。

 

 「みほ、確か彼女は野良試合って言っていたけど何か知ってる?」

 

 「多分、去年行われたリングオブファイヤーって名前だったかな?野良試合の日本一決定戦だったと思うよ。優勝したのは確か、群馬の野良中戦車同好会だったかな。カツコフさんは確か準優勝した赤軍高校だったと思う」

 

 それだけの実力者って事ね。

 

 「何が在っても、みほだけは守るわ。だから、自分を信じて自分の戦車道を貫きなさい」

 

 「うん、エリカさん頼りにしてるね」

 

 私達の決勝戦が始まるのだ。

 

 双方、一同に会するメインステージには蝶野審判長が間を挟み号令を掛けた。

 

 「これより、プラウダ高校対大洗女子学園の決勝戦を始めます!一同、礼!」

 

 「「「「「「お願いします!」」」」」」

 

 私達は別れ、自分達の戦車に向かったのだ。

 

 決勝戦の大洗女子の編成は以下の通りだった。

 

 ティーガーⅡ(ポルシェ砲塔)あんこうチーム、フラッグ車

 

 ティーガーⅡ(ポルシェ砲塔)ワニさんチーム

 

 ティーガーⅡ(ヘンシェル砲塔)マングースチーム、アンチョビ乗車

 

 三両で囮小隊(あんこう小隊)

 

 センチュリオンA41型レオポンチーム

 

 パンターF型が三両、かめさんチーム(車長はレイラ、操縦手内法、砲手藤木)うさぎさんチーム、アヒルさんチーム

 

 切り込み小隊(レオポン小隊)

 

 シュトルムティーガー キリンさんチーム

 

 ブルムベアーが二両ヘビさんチーム、カモさんチーム

 

 Ⅲ号戦車J型(観測戦車仕様)アリクイさんチーム

 

 砲撃支援小隊(キリンさん小隊)

 

 クロムウェル巡航戦車(ダージリン乗車)クマさんチーム

 

 エレファント重駆逐戦車が二両ゾウさんチーム(リクリリ乗車)、ダチョウさんチーム

 

 レオパルド偵察戦車が二両が二両サルさんチーム(ローズヒップ乗車)、ネズミさんチーム

 

 遊撃支援小隊(クマさん小隊)

 

 以上十七両

 

 そして、プラウダ高校

 

 T-44/100(カツコフ乗車)フラッグ車

 

 IS-3が三両(内、一両にジェーコフ乗車)

 

 ISU-152初期型が四両

 

 IS-2初期型六両、T-34/85が六両

 

 計二十両

 

 

 

 

 

 同じ頃、プラウダ高校の第一演習場では300人生徒が並ぶプラウダ高校の風紀委員会率いる戦車道生徒達と96名の大洗女子学園付属中の戦車道の生徒が一同に会していた。

 

 向こうの隊長は黒淵眼鏡の風紀委員長の腕章を付けた生徒だった。

 

 試合前に交わされた試合条件には私達が負けたらプラウダ高校の校庭に十字架で張り付けにするか60日の強制労働にするらしい。しかし、こちらの条件はタンカスロンで得た興行収入を全て貰う事にしたのだ。

 

 私は一昨日、お母さんから言われた。

 

 「私が結婚して直ぐに知った事ですが、楓なら大丈夫かな。失われた流派、飛騨流の極意を教えます。『潜める事は森の葉に等しく、攻めるは一陣の風なりや』これは、潜める時は森の中に落ちた落ち葉の様に隠れ、攻める時は風の様に攻めるのです。先に言って置きますが、今までの訓練は飛騨流を使える様になる為です」

 

 「うん、判った」

 

 「さて、タンカスロンの会場に仕掛ける物は仕掛けますよ」

 

 私達は全員でスコップやコードリールを片手にチャーチル弾薬運搬戦車で運んで貰ったシュトルムティーガーのロケット弾やブルムベアーの榴弾の信管を地雷用信管とコードを繋げて連続起爆式に全て取り替えた物を進路上の地中に埋めたり、付属中の応援に来た生徒に持たせるパンツァーファウストや投擲型の対戦車吸着地雷を林に大量に隠したのだ。

 

 最後の仕上げに、チャーチル戦車に土木用のユンボが付いた物で対戦車壕を掘って作り、プラウダの生徒が大量の丸太を切ってそのままにして在ったのでワイヤーで片方を縛り付けで私達が逃げる側に輪になる所を雪で隠して対戦車壕を丸太で蓋をしたのだった。そして、丸太はワイヤーで引いて外し、そのままワイヤーで固定して纏めれば、砲撃から守る楯に代わるのだ。

 

 タンカスロンのルール上問題はない。

 

 ただし、戦闘地域では自己責任。

 

 だから、戦闘地域に立ち入るのは対戦車狩猟訓練を受けた二年生以上のサバイバルゲーム部の精鋭150名だけだ。準備が終われば、弾薬と燃料を満載にしたチャーチル弾薬運搬戦車は監督が見て周り決めたポイントに隠したのだ。

 

 準備は念入りに行ったし、大丈夫だ。

 

 こちらも審判を挟み一同に挨拶したのだ。

 

 「「「「「お願いします!」」」」」」

 

 そして、私達のタンカスロンが始まったのだ。

 

 

 

 

 試合が始まり、あんこう小隊はクマさん小隊に守られる形で森林地帯を抜けてBポイントに向かっていた。同じして、キリンさん小隊もレオポン小隊に護衛されてCポイントへ急行していた。

 

 こちらも、Bポイント直前でクマさん小隊と別れ、クマさんチームはレオポン小隊の支援へと向かって行った。

 

 私達、あんこう小隊は白百合戦車旅団をつり上げる為にBポイントから予想進路へ移動していた時だった。緊急の通信が愛里寿から来たのだ

 

 『こちら、レオポン小隊T-34/85の部隊に奇襲を受けた。奇襲は不可能と判断して、迎撃戦に変更する』

 

 『分かりました。レオポン小隊の判断に任せます』

 

 「みほ、やっぱり・・・・」

 

 『うん、作戦とポイントが読まれてるかも』

 

 「どうすんの?もしかすると、キリンさん小隊が危険よ」

 

 『どうかしましたか沙織さん?』

 

 『みぽりん、エリリン。今度はクマさんチームがISU-152の部隊に砲撃を受けたって通信がきたよ!』

 

 「沙織、落ち着きなさい!ダージリン、聴こえる!」

 

 ダージリンの乗るクロムウェルに咽喉マイク越しに叫ぶ。返って来たのは同じく、いや、珍しいだろう。

 

 『エリカ様、うるさいですわよ。レオパルドが一両食われましたが、ISU-152を一両を撃破しましたわ。ローズヒップ下がりなさい!エレファントの射線に入っていますわよ!』

 

 引っ切り無しに指示を出している姿に・・・・

 

 『西住、マングースチームのアンチョビだ。これは完全に作戦の破綻だろう!』

 

 『はい、相手に読まれた様で、私も作戦は破綻したと判断します。皆さん、新しい作戦を伝えます。全車両はEポイントの丘の山頂に集結してください。なお、襲撃を受けた小隊は迎撃しつつ煙幕を張って離脱して集合ポイントへ向かってください!』

 

 私達も丘に向けて移動しようとした時だった。

 

 ズッガァァァン

 

 「っつ!?みほ、IS-2の襲撃よ!」

 

 『エリカさん、そのまま迎撃します。2000m以内に入れない様にしてください!入られたらティーガーⅡの正面装甲でも危険です』

 

 「了解したわ。小梅!距離2500m以内のIS-2は撃破できる限り撃破するわよ!後、華聴こえる!」

 

 『聴こえます』

 

 「みほからも言われると思えるけど、IS-2の正面から撃破しないとデッドラインに入られるわ!だから、小梅にも指示を出すけど、IS-2は初期型だからバイザーブロックを狙いなさい!華なら出来るわ!小梅もバイザーブロックを狙いなさい!」

 

 『エリカさん、ありがとうございます』

 

 「小梅、行ける?」

 

 「エリカちゃん、愚問だよ。3000から撃っていくよ」

 

 「任せたわ」

 

 『これより、迎撃します!各車両は自由砲撃を認めます。各車両、砲撃始め!』

 

 みほの指示により迎撃戦が始まった。

 

 私のティーガーⅡも獲物を狩るが如く主砲が放たれていく。

 

 私も危険だが、キュポーラから身を乗りだし双眼鏡で確認していく。

 

 「小梅、2時方向最優先!」

 

 「了解」

 

 距離2500mにいたIS-2のバイザーブロックをぶち抜き、白旗のオブジェクトに変えていく。みほも9時方向から来たIS-2をバイザーブロックに撃ち込み撃破する。アンチョビも0時方向のIS-2を跳弾射撃で履帯を破壊して、二射目で確実に撃破していた。

 

 「撃て!」

 

 私の指示で射撃した砲弾は砲塔下の円みに当たり、ショットトラップを起こして撃破したのだ。撃破した後、向こうの小隊長車が撃破されたのか残りの二両は反転して離脱したのだった。

 

 私は未だに嫌な予感が拭えないでいたのだ。

 

 『すみません!こちら、キリンさん小隊。全滅しました』

 

 「えっ?嘘でしょ?」

 

 『エリカさん、嘘ではないです。キリンさん小隊はプラウダ高校の本隊の奇襲で壊滅しました』

 

 そして、追い撃ちをかける様に愛里寿からも無線が来たのだ。

 

 『みほ、ごめんなさい。こちらもレオポンチームとかめさんチームを残してパンター二両がやられた。だけど、T-34/85の六両は何とか壊滅させた。こちらもEポイントに全速力で向かっている』

 

 今の報告で大洗女子は残り十両を切った事になる。

 

 Eポイントまでに何両残るか分からない状況になったのだ。

 

 そして、もう一方の戦いでも・・・・・・・

 

 

 同じ頃、こちらも苦戦していた。

 

 「各車!Jポイントまで撤退!」

 

 私達も数の多さに苦戦していたのだ。

 

 正直に言えば、百対二十四の戦いだ。

 

 防衛戦なら何とかなるだろう。

 

 「詩織、A中隊とB中隊の残りは!」

 

 「A中隊は残り十両、B中隊は脱落なし!」

 

 「判ったわ。B中隊はJポイントに着き次第、隠したワイヤーを車両に固定!A中隊はそのまま奴らを引き付けるわよ!」

 

 「楓ちゃん、B中隊に目が行かなくてよかったね」

 

 「分からない。でも、この作戦が上手く行かないと負けは確実よ」

 

 私はキュポーラから身を乗りだし後ろを確認する。後ろには怒り狂った、プラウダ高校の隊長が死に物狂いで追いかけて来たのだ。正直、形相からしてマジで怖い。

 

 まさか、向こうの隊長も『洗濯板』の一言で釣れるとは自分でも思っていなかった。

 

 過去に愛里寿ちゃんが『ペチャパイ』で釣れたのだから同性としては・・・・

 

 だけど、その後は愛里寿ちゃんに捕まり胸を揉まれまくり、人生で初めて絶頂を体験させられたのだ。

 

 「楓ちゃん、さすがに向こうの隊長の前でボインボインはキレると思うよ。ただでさえ、楓ちゃんの胸は超重戦車級なんだから。私だって、たまに羨ましいって思うくらいだよ」

 

 そう、私は向こうの隊長車を見つけた時に自分の胸を揉みながら言ったのだ。

 

 「そこの洗濯板!間違えた、ペチャパイ!」

 

 「せっ、洗濯板ぁぁぁ!?さらに、ペチャパイですってぇぇぇ!?絶対にぶっ殺す!貴様だけは600ルーブルの強制労働にしてやる!全車突貫!大洗女子学園付属中を踏み潰せぇぇぇ!」

 

 「「「「「「「「「「ypaaaaaaaaaaa!!」」」」」」」」」

 

 「エッ!?マジで・・・・・全車、撤退!」

 

 今、思い出すだけでもマジに恐かった。

 

 百両の一斉突撃は見ていてマジでキチガイだ。

 

 さて、頃合いだな。

 

 前方には交代の要員のB中隊からC小隊の38(t)B型が来ている。

 

 ここからが勝負だ。

 

 『隊長からA中隊各車へ。煙幕を張りA小隊とB小隊は右へ、C小隊とD小隊は左方向へ散開!B中隊のC小隊には私達の後、Jポイントへの誘導を開始!キルゾーンへ入った後は赤いフラッグを頼りに安全地帯まで撤退せよ!』

 

 私達は崖を上る山道へ逃げて待ち伏せポイントまで撤退したのだ。

 

 待ち伏せポイントにはチャーチル弾薬運搬戦車が隠されており、全員で一気に弾薬の補給を行い。空になった薬莢やマガジンを弾薬運搬戦車に載せたのだ。ついでに、機関砲の砲身もあるので取り替えて置くのだ。それを時間にして二分以内に済ませたのだ。

 

 そして、崖の下には38(t)B型を追いかけるT-26の軍団。

 

 私は爆破装置のスイッチを片手にタイミングを待ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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決勝戦 丘の争奪戦とプラウダに上がる花火

 

 襲撃ポイントから眺める私は、B中隊のC小隊にいる四馬鹿の一人の椿の操縦技術には舌を巻くほどだった。普通に走ったらフラッグは飛んでしまうがスキーのモービルをするようにケツを振り砲弾を交わして行きながらフラッグを避けて走って後続が困らない様にしていたのだ。

 

 霞達も私と同じ三年生。

 

 来年には大洗女子学園へ入学することは決まっていた。

 

 だけど、それはみほ隊長が率いる大洗女子学園が優勝しないと駄目らしい。

 

 一応、私の戦車だけは決勝戦の会場からの無線が引っ切り無しに入って来ている。

 

 大洗女子は窮地に立たせられているのだ。

 

 しかし、私達もタンカスロンに勝たないといけない。

 

 来年の学園への憂いを無くす為に・・・・・・

 

 

 こうしている間にもプラウダ高校のT-26は騙されたかの様に霞達を追いかけていた。

 

 そして、霞達が丸太を渡り切りプラウダ高校の後続が黄色いフラッグを通り過ぎたのが見えた。

 

 「B中隊、今よ!B小隊、D小隊はワイヤーを引けぇぇぇぇ!」

 

 無線越しに叫び、号令と共に丸太にくくり付けられたワイヤーは38(t)によって引かれ現れたのは夜中に掘った対戦車壕だ。

 

 「たっ、対戦車壕!?全車、停止!エッ?滑って止まらない?じゃあ・・・・キャァァァァァ!?」

 

 「キャァァァァァ!?」

 

 「止まった・・・・キャァ!?押すな馬鹿!うわぁぁぁぁ!落ちるぅぅぅ!」

 

 丸太が退かされて対戦車壕が急に現れた事に慌てるプラウダ高校の戦車隊。

 

 「慌てても遅い!昔から言うでしょ。戦車は急には止まれないってね」

 

 「楓ちゃん、それを言うなら車だよ・・・・」

 

 先頭車両が急ブレーキをしても無駄だった。

 

 勢いは止まらず、雪で滑りながら戦車壕に落下していくT-26や何とか止まれたが後ろから追突されて落下していく車両も在った。そう、雪崩のように・・・・・

 

 既に、私を追いかけていた隊長車も戦車壕に落下していた。そして、落下した戦車は上がれない為に白旗を揚げるしか無かったのだ。最初、監督から聴いた時は、あまりのえげつなさから顔を引き攣ったのはこのためだ。

 

 対戦車壕が渡れないなら後退する戦車が出はじめた頃に私は退路を絶つために起爆スイッチを押したのだ。

 

 T-26が居る一帯にはロケット弾や榴弾が等間隔で埋めてある。

 

 それが、最後尾から起爆したのだ。

 

 プラウダ高校にしたら悪夢だろう。

 

 コードで繋いだ起爆用の信管に替えた砲弾は次々と爆発を起こして、プラウダ高校の戦車隊を地面ごと吹き飛ばして行ったのだ。

 

 前は対戦車壕で後ろからは起爆した砲弾の嵐。

 

 最早、逃げ場は無かった。

 

 戦車壕を無理矢理渡ろとすれば丸太を楯に隠れている38(t)からは砲弾が飛んでくる。

 

 それでも、プラウダ高校の戦車隊を半分しか倒せていない。

 

 しかし、それで十分だった。

 

 「A中隊のC小隊、D小隊は突撃用意!」

 

 『了解』

 

 崖の角度は約60°だ。

 

 崖の上からの襲撃は予想していないだろう。

 

 「同じく、A小隊、B小隊も突撃用意!」

 

 操縦手がエンジンを吹かしていく。

 

 突撃をさせろと言っているかのように。

 

 お望みならしてやろう。

 

 「A中隊、突撃!私に付いて来なさい!」

 

 「「「「「おぉぉぉぉ!」」」」」

 

 「エッ!?崖の上から襲撃!?」

 

 37ミリ機関砲を乱射しながらの突撃だった。

 

 「撃ちまくれぇ!」

 

 崖の上からの襲撃に浮足立つプラウダ高校。

 

 機関砲だから、精密な照準なんていらない

 

 いや、できない。

 

 崖から突撃する私達は機関砲の砲身を上下するだけでT-26の上部装甲やエンジンルームを貫き白旗のオブジェクトに変えていく。マガジンを取り替える装填手は地獄かもしれないが十両による側面からの突撃のだ。

 

 私が率いるA中隊が乱戦に持ち込んでいる間にB中隊は崖の上に素早く移動し、次のポイントまで撤退していたのだ。無論、乱戦に持ち込んだ私達もただは済まないのは分かりきっている。

 

 「ノンナ!」

 

 「はい、カチューシャ様」

 

 あれは・・・・地吹雪のノンナにじゃあ、あの小さい子がカチューシャだ。

 

 突入した私達に次第に数の暴力が牙を剥き始めた。

 

 まずやられたのが、高い技量の同級生を中心にした私の小隊だった。

 

 一両のT-26の体当たりを受けた四号車が六台のT-26に囲まれて一斉射撃を受けたのだ。

 

 「まゆ、ちいちゃん、麗ちゃん、響ちゃん大丈夫!」

 

 詩織が無線で叫ぶ。

 

 「A小隊四号車!すいません、やられました!でも、みんな大丈夫です!」

 

 「後は任せて!隊長車から各車へ!絶対に止まるな!速度を生かして一撃離脱に切り替えなさい!」

 

 「「「「了解!」」」」

 

 詩織の無線には各車から被害が次々と入ってくる。

 

 「嘘!?ジャムった!?キャア!?C小隊一号車、やられました!」

 

 「隊長ばかりにカッコイイ所を持って行かせるじゃないわよ!もっと、撃ちまくれ!エッ?何?砲身が焼き付いたですって!?D小隊一号車、砲身交換で離脱します!」

 

 「B小隊二号車やられました!」

 

 もう、そろそろ限界ね・・・・

 

 「隊長車から各車へ!A中隊はKポイントまで撤退するわよ!」

 

 私達が離脱を図る頃には私の一個中隊四個小隊が二個小隊まで激減したのだから・・・・・・

 

 

 向こうは向こうで大打撃を受けていた。

 

 

 

 「全く、風紀委員長が指揮を執っただけで何なの!酷い有様じゃない!」

 

 私は最初からこうなる事を懸念していた。

 

 相手が大洗女子学園の付属中だからだ。

 

 数の差があるなら奇策やいろんな作戦を立てて来るのは分かり切っていた。

 

 だけど、風紀委員長は数的有利なのだから作戦はいらないと言い切ったのだ。

 

 何もせず、あぐらをかいていたせいで寝首をかかれたのだ。

 

 そう、挑発に乗せられて全車両で突撃した挙げ句に対戦車壕に転落して自滅。

 

 全く、笑えない。

 

 癇癪すら起きない。

 

 そして、止めに地面埋められた大量の爆発物で半数を失うなんて、うちのOGがもし見ていたら笑い者にされるだろう。だけど、冷静に考えたらタンカスロンだから出来る芸当かも知れない。

 

 「ノンナ!部隊の立て直しにどれくらいかかるの!」

 

 「カチューシャ様、先程の乱戦で被害は甚大。ですが、幸い残ったのは戦車道をしている二、三年生の去年の主力メンバーです。数もまだ二十両はあります。立て直しをはかると五、六分は必要です」

 

 「遅いわ!動ける車両は私に付いて来なさい!」

 

 私は付いて行ける車両のみで撤退する付属中を追ったのだ。

 

 「それにしても、引き際も見事ね・・・・」

 

 いつの間にか、見えなくなっていた38(t)に悔しさだけが残っていた。

 

 

 

 

 私達のあんこう小隊は合流ポイントのEポイントに向けて走っていた。途中、レオポン小隊と合流に成功するもレイラの乗るパンターF型がボロボロなのが見て分かる。

 

 「レイラ、パンター大丈夫なの?」

 

 『G型だったらやられたかな。ただ、予備の履帯は砲塔に付いていたのは跳弾で吹き飛んだから履帯が切れたら無理かも』

 

 「いま、丘に向かっているわ。ダージリン達がどれだけ残っているかで攻めに転じるか、市街地で迎え撃つかどちらかになるわね」

 

 『エリカさんの言う通りですが、ダージリンさん達次第だとは思わず、先に電撃戦を仕掛けて丘を奪取して丘の上から対抗します』

 

 『西住、それだと足回りが弱いティーガーⅡには荷が重いぞ』

 

 『いや、みほの手が最良だ。電撃戦で丘を奪取して奇襲を受けるリクスを減らした方がいい』

 

 愛里寿の一言で決まり、五両による電撃戦に切り替えたのだ。

 

 先行したのはパンターF型だった。

 

 この五両の中では最速だ。

 

 私達もパンターを追う用に丘に進撃をしたのだった。

 

 しばらくして、先行したパンターから無線が入った。

 

 『こちら、かめさんチームのレイラ。丘にはIS-2が二両のみです』

 

 『分かりました。では合流次第、仕掛けます』

 

 レイラのパンターと合流すると丘の奪取を始めたのだ。

 

 先行したのは愛里寿のセンチュリオンだった

 

 『みほ、私が仕掛ける』

 

 『分かりました。各車はレオポンチームの援護射撃を始めてください』

 

 センチュリオンがIS-2の砲撃に曝される中、私のティーガーⅡも撃たせまいと砲撃を始める。しかし、IS-2は隠蔽壕を作っているらしく砲弾が当たっても装甲で弾かれるだけだった。

 

 「撃ちまくりなさい!愛里寿がやられたらかなりきつくなるわよ!」

 

 「エリカちゃん、叫ばなくても判ってるよ!でも、どうする?このままだと、いつ増援が来るか分からないよ?」

 

 「小梅の言う通りね。みほ、聴こえる?」

 

 『はい、聞こえます。エリカさんどうかしましたか?』

 

 「みほ、私も仕掛けるわよ。小梅が増援の懸念をしてるわ」

 

 『そうですね。沙織さん、くまさんチームにつながりましたか?』

 

 『ダメ、みぽりん。繋がらない。でも、ぞうさんチームには繋がったよ!エッ?やだもぅー!くまさん小隊が全滅みたいだよ!』

 

 『エッ!本当ですか?』

 

 『ちょっと、待って!確認するね・・・・クロムウェルは集中砲火でやられて搭乗員は全員気絶したって!でも、大丈夫だって全滅したけどリクリリさん達が介抱してるよ』

 

 『分かりました』

 

 ダージリン達がやられたとなると、丘に陣取るIS-2は・・・・・・まさか!?

 

 「みほ!まずいわよ!あれは、足止めよ!」

 

 『どういう事エリカ!』

 

 『ハッ!?そういう事か!逸見の言う通りだ!島田、西住まずいぞ!』

 

 『エリカさん、アンチョビさんどういう事ですか?』

 

 「みほ、いい?IS-2が足止めに徹しているのは、私達以外を撃破する事が目的よ!』

 

 『西住らしくないぞ!どうした?』

 

 「そうね。みほらしくないわね」

 

 『ごめんなさい・・・・作戦が読まれた事に動揺してた・・・・・』

 

 そういう事なのね。

 

 みほにしたら初めて作戦を破綻させられ全て読まれた相手だった。

 

 だから、試合前にあんなに怯えていた・・・・

 

 久しぶりに言ってやろう。

 

 あの頃の私の様に嫌みを・・・・・

 

 「みほ、あんた馬鹿じゃないの!」

 

 気付けば、咽頭マイク越しに叫んでいた。

 

 『エリカさん!?』

 

 止まらない・・・・私の心からの叫び・・・・・

 

 「良い、聞きなさい!あんたは最初から読まれるかもって言っていたじゃないのよ!はぁあ?何?一度や二度くらい読まれた位で落ち込むの?動揺すんじゃないわよ!馬鹿!いつものあんたなら読まれて上等じゃないの?いつものあんたならボコボコになっても立ち上がるんじゃないの!そんな、みほは私が知っているみほじゃないわよ!いつも、私をボコボコにするあんたに戻りなさいよ!」

 

 私はみほに言うだけ言って無線を切ったのだ。

 

 「あっちぁ~いつものエリカちゃんになっちゃったよ」

 

 「うるさいわね!小梅、久しぶりにやるわよ!さっさとIS-2を片付けるわよ!」

 

 「うん、最後まで付き合うよ」

 

 「悪いわね。なら、行くわよ!パンツァーフォー!」

 

 私のティーガーⅡのエンジンは唸り上げてIS-2に突っ込んで行く。

 

 「穴に入り込んでいるなら、引きずり出してやるわよ!」

 

 斜面を駆け登り、IS-2からの砲撃が私のティーガーⅡに襲って来る。

 

 「そんな弾当たらないわよ!」

 

 側面の地面を虚しく叩き岩が装甲をノックする。

 

 『エリカさん、それ以上の接近は危険です!』

 

 みほがさっきから無線で叫んでくる。

 

 でも、関係ない。

 

 やる事をやるだけだよ!

 

 掩蔽壕を無理矢理、よじ登りIS-2の上に乗っかってやった。

 

 「ティーガーⅡの重さは72tよ!主砲の長いあんた主砲なんか、乗れば簡単に曲がるのよ!」

 

 ベッキィィィ

 

 ティーガーⅡに乗られたIS-2の主砲は乗られた事で主砲が撃てない角度に曲がり果てていた。

 

 まだ、終わらない。

 

 「ポルシェ砲塔の利点は主砲が車体より下に向けられるのよ!小梅、今よ!」

 

 愛里寿が近寄れなかったIS-2を側面から撃ってやったのだ。砲弾は砲塔上部装甲に当たり、白旗が上がったのだ。

 

 『エリカさん・・・・凄い・・・・』

 

 「褒めても何も出ないわよ」

 

 『エリカさん、丘の奪取には成功しましたが破棄します。向こうの隊長の考えは多分、市街地で決着を付ける可能性があります。なら、私もそれに乗ります』

 

 『みほ、市街地に最短ルートで行く?』

 

 『はい、森林を抜けて最短ルートで市街地に行きます。幸い、私達なら全速力で森林を走れるメンバーばかりです。なら、全速力で向かえば裏をかけます』

 

 「判ったわよ。なら、条件があるわよ」

 

 『何ですか?』

 

 「私が殿を努めるわよ。良いしら?」

 

 『はい、お願いします』

 

 森林地帯を全速力で走り、市街地へと向かったのだった。

 

 

 

 

 一方、プラウダ高校の白百合戦車旅団の隊長カツコフは・・・

 

 「丘が墜ちたか・・・・仕方ない。大洗女子の行方は?」

 

 「分かりません」

 

 まさか、簡単に堕ちるとは思っていなかった。

 

 しかし、これも楽しいものだと再確認できる。

 

 野良試合とは違う戦い。

 

 憧れた、西住みほとこうして戦える喜びに私は嬉しくなっていた。

 

 赤軍中から本校の赤軍高校に上がってからも野良試合ばかりだった。

 

 私を中学生時代に楽しませてくれた、島田かのんやバイパーがドイツに行き日本から居なくなってからは・・・・・そこからは、私と妹が生徒会の政治に利用された。いや、利用されるだけの生活だった。

 

 つまらない試合ばかりだった。

 

 今日はどうだろうか?

 

 楽しくて、楽しくて堪らない。

 

 だって、こんなに楽しい試合は島田かのん以来だったからだ。

 

 今、思って見れば些細な事に気づけたからだ。

 

 もし、気付かずにいたらと思うと一瞬で殲滅されて負けていた。

 

 それだけに、好敵手に会えた事に感謝しよう。

 

 だけど、カチューシャには本当に済まないと思っている。

 

 私もあの試合は見ていたから西住みほに謝りたかったのは分かる。

 

 そんな夢を奪った私にカチューシャは許してくれるだろうか?

 

 いや、許しては貰えないだろうな

 

 だから、そのためには優勝しなければならない。

 

 IS-3を駆るジェーコフがやってきたようだ。

 

 どうやら、お嬢様学校の連中を片付けたようだな。

 

 「同士カツコフ!お嬢様学校の連中を始末しました!」

 

 「ご苦労。それにしても、大洗女子はやるな」

 

 「はい、まさか戦力の分散して来るとは思いもしませんでした。ですが、砲撃専用の部隊が居た事に驚きましたが良く気付かれました」

 

 「リングオブファイヤーの経験からだな。島田かのんも奇策の達人だったし、西住みほの柔軟さは厄介だからな。ジェーコフも油断はするな。私も市街地に向けて進撃しよう」

 

 残ったISU-152が三両とIS-3が三両、私が乗るT-44/100は市街地へ向けて進撃したのだった。

 

 

 

 離脱を成功した私達はA中隊とB中隊が無事に合流を果たしたが、数はA中隊は残り五両でB中隊は対戦車壕を現すまでは砲撃に曝された為に八両まで減らしていた。

 

 ここからは、狩猟部隊もいるから援護射撃も期待は出来るがプラウダ高校の隊長車後を引き継いだのがカチューシャだった。今よりもっと苦しい戦いになることは明らかだったし中学生である私達に疲労すら見えて来ている。

 

 今、私達はKポイントで最後の補給をしていた。

 

 「楓ちゃん、勝てるかな?」

 

 沙織さんの妹の詩織が心配して、私に聴いてくる。

 

 「ちょっと分からないかもだね。フラッグ戦だったら勝ちだったけど、今回は殲滅戦だからね。ちょっとだけ、読めない」

 

 「うん、だよね・・・・でも、無線での会話だけどお姉ちゃん達、無事に危機を脱出して市街地に向かったよ」

 

 みほ隊長は市街地で決着を付ける気のようだった。

 

 私もプラウダ高校の連中が追い付き次第、KポイントからFポイントに移動して狩猟部隊の援護射撃を元に叩く予定だった。既に、サバイバルゲーム部はFポイントに陣取り応援している。あそこからなら、パンツァーファウストや投擲型吸着地雷が届くだろう。

 

 あの連中も全国大会で優勝する猛者ばかりだ。

 

 なにせ、野良中と木更津女子中、九十九里中の連合チームを破っている。

 

 「補給、終わりました!」

 

 霞達が補給を終わらせて待っていた。

 

 そして

 

 「プラウダ高校の追撃部隊接近!」

 

 「よし、総員乗車!殲滅するわよ!我に続け!」

 

 38(t)のエンジンをフルに唸らせて私達は最後の決戦に挑んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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決勝戦 双方の決着


 これで決勝戦は終わりです。次から劇場版に入ります


 

 補給が終わり、追撃して来たプラウダ高校を返り討ちにすべくLにKポイントからFポイントに向けてゆっくり目立つ様に走っていた。

 

 「楓ちゃん、砲塔の上に立ち上がるなんて危ないよ!」

 

 「大丈夫。弾なんて中々当たるもんじゃないし」

 

 こうしている間にも後方から迫るプラウダ高校を見付けたのだ。

 

 「B中隊は私達のA小隊と一緒に一撃を加えたらFポイントへ逃げるよ!」

 

 「「「「了解!」」」」

 

 「全車、突撃!」

 

 A中隊とB中隊はUの字を描く様に反転してプラウダ高校の戦車隊に突撃を刊行。

 

 戦車隊を目前に二手に別れ、挟み込むように主砲や機関砲を浴びせたのだ。

 

 「チィ!やっぱり、ここに来てみんなの疲れが一気に出たみたい」

 

 嘆くのも無理もない。

 

 これが中高生の体力の差だと嫌でも分かる。

 

 すれ違い様に叩けたのは、たったの合計で四両だけだった。

 

 逆にB中隊に被害が出て残った八両の内、逆に喰われたのが四両もやられたのだ。そして、私達のA中隊も一両が操縦を誤り、T-26と正面衝突を起こして二両とも白旗が上がったのだ。

 

 再び、反転して一撃を加えようとした時だった。

 

 ズッガァァァン

 

 「なっ!?」

 

 「エッ!?」

 

 私達の戦車隊とプラウダ高校の戦車隊の間に榴弾が落下して雪煙が上がったのだ。

 

 『プラウダ高校生徒会である!双方、試合を中止せよ!試合を続けるなら力付くでも止める用意がある!』

 

 相手から叫ばれた方角には主砲を放ったと思われるプラウダ高校生徒会の旗を掲げたIS-2後期型を先頭にT-34/76を二十両を引き連れやって来たのだ。

 

 私達の38(t)ではIS--2やT--34/76には敵わないし、37mm機関砲では豆鉄砲も良いところだし、疲労困憊のみんなには荷が重過ぎる。私は苦汁の選択をしたのだ。

 

 「全車、停止!次の指示があるまで待機」

 

 全車に停止を命じたのだ。

 

 向こうでも、カチューシャが停止命令を出して停車していた。IS-2が向こうの指揮しているだろうT-26の脇に止まり、少し話した後に無線で指示が来たのだ。

 

 『大洗女子学園付属中の隊長車はこちらに来る様に』

 

 指示に従い、私の戦車はIS-2の脇に止める。38(t)から降りるとカチューシャも降りていた。

 

 「あんたが付属中の隊長?」

 

 「はい、付属中の隊長飛騨楓です」

 

 「ふ~ん、あんた、去年の大会で川に墜ちたⅢ号戦車の車長をしてた生徒に似てるわね」

 

 「その生徒は、元黒森峰女学園の生徒で大洗女子学園の戦車道の副隊長の逸見エリカですね。エリカさんとはいとこです」

 

 「エッ?いとこ・・・・ごめんなさい・・・」

 

 「それは、本人に言って上げて下さい。私はいとこというだけで、エリカさんとはただの身内なだけですから」

 

 「判ったわ。そうさせて貰うわ」

 

 「付属中の隊長とカチューシャ」

 

 驚いた表情き謝ってきたのだが、それよりもIS--2から降りて来た生徒に声を掛けられ、私は驚いてしまった。

 

 「エッ?うっ、嘘でしょ?」

 

 「うふふふ、何かしら?」

 

 何故なら、その生徒は今は富士演習場でみほ隊長と決勝戦で戦っているはずの人物に似ていたからだった。だけど、次の彼女の一言で杞憂に終わった。

 

 「自己紹介がまだだったですね。私はプラウダ高校生徒会、会長のエリツィンよ。双方、試合を中断させてごめんなさい」

 

 「私は気にしてないわ」

 

 「プラウダ高校に勝てそうだっただけに残念かな」

 

 私の思った一言だった。

 

 でも、彼女はニッコリ笑っていた。

 

 「お気になさらずにして頂くと助かりますが?」

 

 「稼ぐチャンスだったから・・・・」

 

 「ご心配なさらずとも大丈夫です。後ほど、それなりに埋め合わせて頂きます。それと、カチューシャ」

 

 「はい?」

 

 「現時刻を持って、プラウダ高校戦車道への復帰を認め、戦車道関係者は全員解放します」

 

 「エッ?」

 

 「それと、風紀委員長をこちらに連れて来なさい」

 

 ロープに簀巻きにされて生徒会役員に連行されてきた風紀委員長

 

 「私をどうする気よ!」

 

 「あなたを含む風紀委員会の幹部には西住流家元及び黒森峰女学園に身柄を引き渡します。それと、本日付けで退学を言い渡します」

 

 「何でよ!私が何をしたのよ!」

 

 「大洗女子学園に保護されているクラーラが全て話してくれました」

 

 「エッ!クラーラが生きていたの?あんな所から飛び降りて!?」

 

 「クラーラは無事なの?」

 

 「はい、怪我をして入院してますが無事ですよカチューシャ」

 

 カチューシャはその場に座り込み声を上げて泣いていた。

 

 「良かった・・・・・・ノンナ!クラーラが、クラーラが生きてたよ!うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 「はい、はい・・・・カチューシャ様・・・・・」

 

 「・・・・・」

 

 「風紀委員長達をヘリポートへ連行し、九州の西住流家元へ護送しなさい!」

 

 うなだれ、連行されて行く風紀委員会の人達。

 

 ただ、虚しいタンカスロンだったと私は思う。

 

 「それと、みなさんは決勝戦をご覧になりますか?今、体育館で全生徒が観戦中です。既に付属中には席とボルシチや暖かい物を用意してあります」

 

 「見ます」

 

 生徒会長の案内で体育館へ移動して決勝戦を見る事にしたのだ。

 

 丁度、体育館に着いた頃には大洗女子が市街地に入る所だった。

 

 掲示板には残りの台数を見て、言葉を無くす付属中の面々。

 

 「嘘・・・・」

 

 「これって、まずくない?」

 

 私も絶望的だとは思う。

 

 プラウダ高校の戦力はT--44/100、IS--3が三両、ISU--152が三両に対して大洗女子はティーガーⅡが三両、センチュリオン、パンターF型だけだ。そして、パンターはズタボロでいつ止まってもおかしくないダメージを受けている。

 

 でも、希望がある。

 

 みほ隊長が得意とする市街地戦だ。

 

 ここで見守る事しかできない私はただ歯痒さだけを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 市街地に無事に入る事が出来た。

 

 しかし、断然不利であることには変わらない。

 

 「みほのティーガーⅡにタングステン弾頭は残りいくつなの?」

 

 『エリカさん、ちょっと待って下さい。優花里さん、タングステンは残りいくつですか?・・・・・・二発ですか。ありがとうございます』

 

 「アンチョビは?」

 

 『わたしか?ちょっと待ってろ。カルパッチョ、タングステンは残りいくつだ?・・・・八発まるまるあるが、どうした?』

 

 「アンチョビ、悪いけど、みほと私に二発づつ分けてくれない?」

 

 『その前に、逸見の残弾はいくつなんだ?』

 

 「悪いわね。最初のIS--2の迎撃で残弾は無しよ。もし、エレファントが残っていたらそっちから分けて貰う積もりだったから」

 

 『だから、IS--2を正面からぶち抜けたのか?』

 

 「いえ、バイザーブロックを狙う様に指示しただけよ。ただ、通常弾では不安だったからタングステン弾を使わせたわよ」

 

 「よし、判った。タングステン弾を分けてやるから通常弾を二発よこせ。それで、残弾数は同じになるだろう。それにしても、高速徹甲弾はないのか?」

 

 「買ってないわよ。みんな口を揃えて言って来るけど何気に高いのよ。まだ、安いタングステン弾の方がましよ」

 

 『そうでね。私だけだったら両方買わずにいたかも。でも、エリカさんには弾薬の仕入れをやって貰っていたから感謝ですね』

 

 急ぎ、アンチョビのティーガーⅡに横付けしてタングステン弾を貰い通常弾を渡したのだ。

 

 同じくらいにして、プラウダ高校の戦車隊が市街地へ入ったと偵察に出ているレイラと愛里寿から無線が入って来た。

 

 『プラウダ高校の本隊が市街地に入ったわよ。先頭にはIS--3で固められて、後方にはISU--152が脇を固めてる。私と愛里寿副隊長車は路地から迂回して合流するね』

 

 『ちょっと待って下さい。そのまま、作戦を発動します。待ち伏せして各個撃破します。名付けて〈こそこそ作戦〉です。私もT--44/100と決着をつけます。なので学校の校舎の中庭におびき寄せる必要があります。皆さんも各個撃破か誘導をお願いします』

 

 「みほ、その作戦乗ったわよ。ただ、私はIS--3をやらせて貰うわよ。なんか、向こうの副隊長は昔の私の様に見えるし、もしかしたらみほの邪魔をするかもしれないわね」

 

 『分かりました。IS--3の引き付けはエリカさんにお任せします』

 

 「ありがとう、みほ」

 

 『じゃあ、みほ。私はISU--152をレイラと一緒に撃破する。みほはT--44と戦う事だけを考えて』

 

 『では、皆さん作戦開始です』

 

 私は一路、みほと別れて市街地へと入った。

 

 メインストリートからは愛里寿のセンチュリオとパンターがプラウダ高校の戦車隊を引き付けて誘導していた。私も路地から単独でIS--3が通るのを待ったのだ。

 

 『エリカ、もう少しでそちらに着く。IS--3の引き離しを任せる』

 

 「了解。小梅、機銃用意」

 

 「了解。IS--3が来たら撃つね」

 

 『こちら、レオポンチームISU--152の引き離しに成功。そちらにT-44/100とIS--3が向かった。ワニさんチームIS--3を任せる』

 

 「了解。アンチョビ、やるわよ!』

 

 『任せろ!後ろから、一撃をくれてやる!』

 

 ドッゴォォン

 

 『よし、一両撃破!マズイ!?もう一両居たぞ!ペパロニ、下がれ!』

 

 とみほのティーガーⅡが通り過ぎるとアンチョビのティーガーⅡかメインストリートに出て、右端のIS--3に主砲を撃ち込み撃破。しかし、もう一両に気付かれ追われる事になった。アンチョビも必死に逃げて引き離しに成功したのだ。

 

 私もT--44/100の後ろのIS--3に機銃を撃ち込んだのだ。

 

 「今よ!」

 

 「了解!」

 

 ガッガガガガガガガガ

 

 MG-34がIS--3の側面を機銃でノックする。

 

 「また、貴様か!」

 

 「あら、奇遇ね。私も隊長の所には行かせないわよ!」

 

 キュポーラから身を乗りだし激昂するジェーコフ。

 

 私もみほには生かせまいとIS--3目掛けて突撃したのだ。

 

 「正気か!?突っ込んで来るなんて聞いた事がないぞ!撃て!なんとしても、カツコフ様の後を追うのだ!」

 

 慌てたジェーコフのIS--3が主砲を放つ前に体当たりで射線をずらす。

 

 「あんたこそ、私の事を何て呼ばれているか知ってる?」

 

 「知らん!野良試合ばかりだったからな!」

 

 私はジェーコフの顔を睨みながら、ニヤリと笑う。

 

 「知って置くのね。私は大洗女子の狂犬、逸見エリカよ!あんたなんかにみほの所には絶対に行かせないわよ!」

 

 「なら、狂犬らしく調教をしてやろう!」

 

 「調教だけならみほだけで充分よ!それにしても、IS--3は軽いわね!ティーガーⅡで簡単に押せるわ!」

 

 「ティーガーⅡが重過ぎるのだ!」

 

 キュポーラから叫び合う私達。

 

 ティーガーⅡはバス乗り場のスロープまでIS--3を押して行く。

 

 「良いこと教えてあげるわ!あそこのスロープまで押したら、あなたの戦車はどうなるかしら?」

 

 「ハッ!?やめろ!そんな事したらひっくり返るだろう!」

 

 「叫んでも無駄よ!いい加減に寝てなさいよ!」

 

 ガッガガガガカガ

 

 履帯が装甲を掠める度に火花を散らし、IS--3をスロープに押し上げる。

 

 そして、IS--3の履帯か片方が法面に落ちるとシーソー状態になったのだ。

 

 「そのまま寝てなさい!」

 

 上がっていた左側の履帯を勢い良く体当たりしたのだ。

 

 「うっ、わぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 ジェーコフは叫びながらIS--3はひっくり返り、白旗を掲げたのだ。

 

 

 

 一方、目を覚ました私は市街地での戦闘をモニターから見ていた。

 

 「ペコ、装甲の堅いIS--3をあんなふうに倒せるのね」

 

 「ダージリン様、あれはエリカさんだけじゃないですか?」

 

 「いえ、今度、試してみようかしら」

 

 「やめたほうが良いかもしれませんよ?」

 

 

 そして、ケイがお腹を抱えて笑うのは一回戦以来かもしれない。

 

 「あっ、ハハハハ!?」

 

 「ケイ、笑ってどうした?」

 

 「だって、ナオミ。久しぶりにエキサイティングな戦いを見られたのよ!笑わないともったいないじゃない」

 

 

 

 

 市街地に入ってからは味方からの立て続けの被害報告に私は愕然としていた。

 

 私の作戦の読みは間違っていないはず。

 

 何故、逆を突かれた?

 

 だって、現に西住みほの作戦を全てを読み切り、奇襲を掛けさせて破綻させたのに・・・・・

 

 地図を見て、遠距離からの砲撃を事前に察知できたから砲撃される前に叩き潰したのに・・・・

 

 島田愛里寿のプロフィールや流派を確認して別方向からの奇襲を警戒し、逆に奇襲をしたのに・・・・・

 

 どうして・・・・・

 

 そして、聖グロリアーナのダージリンも性格的にリベンジを掛けて来る事も察知して参加を見越して重駆逐戦車を用意した。これだけは上手く行き、完封無きに叩き潰した。

 

 だけど、西住みほは間違っていた。

 

 IS--2による重戦車による奇襲を跳ね退け、丘を取る事を事前に察知して残りのIS--2で防御陣地まで作らせたのに丘を奪取された。しかし、数の不利から何処かに消えた。

 

 私は市街地に来ると読んでいた。

 

 読みは当たっていた。

 

 その、予想を裏切る形だったが・・・・・

 

 市街地戦を仕掛けられた私達に襲い掛かるのは破滅への序曲だった。

 

 市街地戦では駆逐戦車は使い物にならない。

 

 しかし、待ち伏せなら違っていただろう。

 

 しかし、攻める側になれば、相手は通り過ぎるのを待って居れば後ろはがら空きでただの鴨に成り下がる。

 

 予想通りに狭い路地に誘導されセンチュリオンとパンターに撃破された。

 

 次に狙われたのは、白百合戦車旅団が誇る重戦車のIS--3だった。

 

 市街地の路地を巧に使い、後ろからの撃破。

 

 あのヘンシェル砲塔のティーガーⅡの車長は待ち伏せを心得た人物だろう。

 

 そして、あの西住みほの脇にいる副隊長だ。

 

 白百合でもかなりの熟練度を誇る彼女のIS--3をひっくり返すやり方で撃破したのだ。

 

 本当に、この西住みほと副隊長の逸見エリカと島田愛里寿は楽しませてくれる。

 

 まるで、チェスをしながら紅茶を嗜むように私が浮かばない様な新しい戦術や作戦をいくつも繰り出してくる。

 

 あの時の島田かのんの様に・・・・・・・・・・

 

 彼女がドイツに行く時に言われたな。

 

 《カツコフちゃん、私達は野良試合で名を上げたけど、戦車道は全くの別物よ。私はバイパーちゃんの後を追ってドイツに行って、戦車道は何なのか肌で感じて来るよ。だから、戦車道をするなら今までの戦術は通用しない》

 

 全くその通りだ。

 

 しかし、西住みほは野良試合で使われた手を幾つもやって来た。

 

 そうか。

 

 そうだったのか。

 

 だから、私は事前に察知出来た。

 

 そして、逆に叩き潰せたのか。

 

 かのん、判ったよ。

 

 言っていた意味が・・・・・

 

 そして、彼女の立てた作戦は戦車道のやり方そのものなのだな。

 

 

 

 私も釣られて、西住みほのティーガーⅡを追って学校の中庭でサシの勝負を挑もうとしている。

 

 なら、丁度良いじゃない。

 

 お互い、フラッグ車同士だ。

 

 今は目の前の事に集中しよう。

 

 

 

 先に走り出したのはティーガーⅡだった。

 

 まるで、正面から戦わない様に走り出す。

 

 私も後を追う様に走り出す。

 

 「戦車、前進。あのティーガーⅡを必ず仕留めろ!」

 

 私も誇れる仲間と共にティーガーⅡを追う。

 

 「カツコフ様、ぐるぐる回られたら照準がつけられません!」

 

 この100ミリ戦車砲ならティーガーⅡの正面装甲を撃ち抜ける。

 

 しかし、当たればの話しだ。

 

 T--44も前面装甲は堅いが軽量化の為に側面は薄い。

 

 殺気を感じて停車を叫ぶ。

 

 「ハッ!?急停止!」

 

 校舎の窓からの砲撃だった。

 

 向こうの砲手はかなり手慣れだ。

 

 窓と窓が真っ直ぐなら躊躇せずに撃ってくる。

 

 100メートルも離れていないからお互い、一撃が決まれば決まる距離だ。

 

 「打ち返せ!アーゴイ!」

 

 虚しく校舎を破壊するだけだった。

 

 なら、これはどうかしら?

 

 「榴弾装填!校舎を崩して進路を阻め!」

 

 これで逃げ道が無くなるはずだ。

 

 「砲手、次の角を曲がったら砲撃!」

 

 しかし、砲撃は当たらない。

 

 それは、急速にバックして体当たりをされたからだ。

 

 信地旋回で真っ先に逃げられ、再び中庭で対峙する。

 

 次は決める・・・・

 

 再び、走り出すティーガーⅡ

 

 私は砲撃を命じた。

 

 「アーゴイ!」

 

 しかし、砲撃は当たらず砲弾は虚しく空を切るだけだった。

 

 「何処に行った!」

 

 まさか・・・・私は顔を横に振り向いた。

 

 私の視界に映し出された光景。

 

 こんな機動をして良いのか?

 

 絶対に足周りが壊れる。

 

 それは、ティーガーⅡが足回りの転輪や履帯を吹き飛ばしながら慣性ドリフトをして背後を取ったのだ。

 

 ティーガーⅡによって放たれる砲弾。

 

 エンジンルームに直撃したT--44

 

 言われずとも分かっている。

 

 パッシュ

 

 T--44に揚がる白旗。

 

 「負けたのだな・・・・・」

 

 私は瞳を閉じて敗北を認めたのだ。

 

 そして、アナウンスが流れる。

 

 『プラウダ高校、フラッグ車走行不能!よって、優勝は県立大洗女子学園!』

 

 

 

 

 

 

 プラウダ高校の体育館でその瞬間を見た私達は一斉に叫んでいた。

 

 「「「大洗女子学園が優勝だぁぁぁぁ!?」」」」

 

 詩織が泣きながらやって来る。

 

 「楓ちゃん、来年から通えるよ!うわぁぁぁぁん」

 

 「良かったじゃない。あんこうチームにいるお姉ちゃんと通えるからさ。でも、泣くんじゃないわよ!。釣られて、私まで・・・・・ひっくぅ・・・・やっと、通えると思うと私だって・・・・・うわぁぁぁぁ」

 

 泣いていたのは、私達だけではなかった。

 

 付属中の三年生は来年からは大洗女子学園に入学が決まっている。

 

 だからなのだ。

 

 私達、三年生は全員抱き合い、声を上げて泣き叫んだ。

 

 後ろでは、悔しくて泣くプラウダ高校の生徒達が拍手で大洗女子学園の優勝を讃えていた。

 

 

 

 

 同じくして、富士演習場でも勇猛果敢に戦い傷付いた私が乗るティーガーⅡとサイドアーマーや工具箱が破壊されボロボロの愛里寿のセンチュリオン、装甲がベコベコに凹みかろうじて動いているレイラ達が乗るパンターF型の三両と回収車にワイヤーで牽引されたみほが乗るティーガーⅡが大洗女子の生徒が待っている観戦席まで戻って来たのだ。

 

 一斉に駆け寄る生徒達や泣き出す生徒までいた。

 

 私もティーガーⅡを止めて降りると小梅が泣きながら抱き着いて来た。

 

 「うぇぇぇん!?エリカちゃん!やったよ!優勝出か来たよ!うわぁぁぁぁん」

 

 「ほら、小梅。ハンカチで顔を拭きなさい。涙で顔がグチャグチャじゃない」

 

 「うん、ありがとう」

 

 涙を拭くまでは良かったが、鼻をかんだのだ。

 

 「ちょっと小梅!鼻をかむんじゃないわよ!」

 

 向こうでは、アンチョビのティーガーⅡの砲手を努めた杏会長と無線手をした河嶋さん、私のティーガーⅡの操縦手をした小山さんがみほにお礼を言って河嶋さんが号泣していた。

 

 そして、杏会長は

 

 「西住ちゃん、これで学校が廃校にならずにすむよ・・・・」

 

 「はい・・・えっ、会長さ・・・」

 

 みほに抱き着いて

 

 「ありがとね・・・・」

 

 杏会長が見せる初めての涙だった。どれだけの重責だったかは、私には分からない。でも、一つだけ言えるならみほ以上に孤独で辛い戦いをしていたのは彼女だったかもしれない。

 

 そして、みほも

 

 「いえ・・・・わたしこそ・・・・ありがとうございました!」

 

 私でも、実感できる学校を守った事実。

 

 「エリカさん!」

 

 抱き着いて来たのは、みほだった。

 

 「エリカさん、やっと夢が叶ったよ」

 

 「そうね。わたしもよ」

 

 私もみほににこやかに微笑みを返す。

 

 「エリカさん、わたし・・・・」

 

 「言わなくて良いわ。だって、みほと肩を並べて戦車道が出来て、こうして、優勝が出来たのよ。最高じゃない」

 

 「うん!エリカさん!」

 

 私に最高の笑顔を見せるみほは私の唇に優しく唇を重ねたのだ。

 

 「「「「「えっ、えぇぇぇぇぇ!?隊長と逸見さんって恋人同士だったの!?」」」」」

 

 今更ながら、騒ぎ出す一年生と生徒会の三人。

 

 「良し!みんなで打ち上げだよ!ガールズトークもしちゃうよ!ついでに、二人のなれ染めを聞いちゃおう!」

 

 「「「「「「「「おぉぉぉぉぉ!」」」」」」」

 

 杏会長からの打ち上げで根掘り葉掘り聞く積もりだ。

 

 そんな事実に気付いた、みほは瞬間湯沸かし器の様に顔が真っ赤にしていた。

 

 「あわ、あわわ。どっ、どうしよう、エリカさん!」

 

 「馬鹿ね。どうしようもないでしょ!しかも、全国中継で何かましているのよ!」

 

 「だって、嬉しかったから・・・・」

 

 「だからって・・・・みほ、逃げるわよ!」

 

 「うん、エリカさん!」

 

 私はみほの手を握り走り出す。

 

 小梅もレイラも気付き、私達を追って叫んでいた。

 

 「えっ!エリカちゃん、みほちゃん!わたしを置いて行かないでよ!」

 

 「小梅ちゃんの言う通りよ!エリカちゃん、私まで置いて行くな!」

 

 そんな日常がいつまでも続けばと私はみほの笑顔を見ながらそう思っていたのだ。

 

 

 三日後、私達は地元である大洗に帰還した。

 

 大洗女子学園、アンツィオ、聖グロリアーナの学園艦が大洗港に停泊している。

 

 大洗駅から降りた戦車群は大洗女子学園の十七両の後ろからは付属中の二十二両の38(t)も参加している。

 

 何とか、整備担当が動けるまでは修理したが私達も付属中も激戦だった事を戦車がボロボロな事で物語っている。

 

 もちろん、優勝旗を掲げるのはみほのティーガーⅡだ。

 

 大洗港にある私達の学園艦まで凱旋パレードだ。

 

 「小梅、帰って来たわね」

 

 「そうだね。エリカちゃん」

 

 私達は、学園へ帰って行ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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幻のエキシビションマッチと決勝の傷跡

 ここからは劇場版を踏まえつつオリジナルストーリーになります。


 

 優勝後だが、出所は分からないが聖グロリアーナ女学院と大洗女子学園が姉妹校として締結する噂が出ていた。理由は何となく解るが、島田流家元の島田千代師範の母校であることと両校が島田流の保護下にある学校である事が主な理由だろう。

 

 しかし、それが新たな問題を呼び込む事になる事と30年以上前の事件の真相を知るきっかけになる事は未だに誰も知らない。

 

 

 「「ハァー」」

 

 溜息の止まらない私と整備班班長の板野の二人。

 

 目の前には、決勝戦での激戦の結果、勝利して優勝はしたが参加した車両は無傷な戦車は一両も無く自走が何とか出来るレベルまでは直せたが戦車倉庫には修理が必要な戦車がほとんどだった。

 

 それもそうだろう。

 

 決勝戦とタンカスロンでほとんどの所有する車両は軒並み大破だった。

 

 取り分け、損傷が一番酷いのがシュトルムティーガーとエレファントだった。

 

 決勝戦ではプラウダ高校の主力部隊の奇襲を受けて砲撃支援小隊は壊滅。その際、装甲の堅さが祟りIS-3、T-44、ISU-152の七両による集中砲火を受けて撃破された。幸運な事に乗員は無事だった。

 

 普通に撃破されただけならまだ良いかもしれない。

 

 シュトルムティーガーの破損状況は深刻だった。ロケット弾を打ち出す為の主砲の内筒の破損した挙げ句、脱落して紛失しており、閉鎖器の重度の故障で閉鎖不可能では使い物にならない。それに加えて外部装甲が酷く損傷しており特殊カーボンに亀裂や剥落している箇所が多く学園艦の修理設備では修理が不可能であると整備班が判断して熊本の西住流が経営する整備工場に送る事になった。

 

 しかし、熊本の整備工場でも完全修理は不可と匙を投げられたが、車体だけは無事な事と西住流家元の倉庫に在庫して長年放置されていたティーガーⅠ後期型改造キットが在った事でティーガーⅠへ改修案が整備工場から出されたのだった。

 

 ティーガーⅠへの改修はみほの父親からの話でみほの一つ返事で改修が決定しティーガーⅠ後期型へ改修が決まったのだった。

 

 そして、隊長車であるティーガーⅡも自走出来るレベルまでは直せたが足回りの懸架装置が酷く損傷していた。

 

 もちろん、頭を抱えるのは私と整備班の板野だ。

 

 「ねぇ、板野?」

 

 「逸見さん、どうかしました?」

 

 「隊長車のティーガーⅡの修理ってまだなの?」

 

 「無茶言わないでくださいよ。サスペンションの棒バネが中で右側全部が折れてるし、初期生産型だからパーツだって少ないんですよ。今、熊本の工房でティーガーⅡのサスペンションの在庫がないか確認中ですよ」

 

 「じゃあ、シュトルムティーガーはティーガーⅠに改造は確定なの?」

 

 「あれは、酷くやられ過ぎて無事だったのは車体だけです。たまたま、工房に後期型改造キットが在ったからみほ隊長に確認の上で改造に踏み切りましたよ」

 

 「ちょっと、待ちなさい!そうしたら、砲撃支援はブルムベアーだけになるわよ」

 

 「そのための、ティーガーⅡ一両をヤークトティーガーに改造にするみたいです」

 

 「はぁぁ!?何よそれ!エレファントがあるでしょ!」

 

 「いえ、言いにくいのですが、エレファント二両とも廃車レベルのダメージでニコイチで一両に修理はできます。エレファントの修理で余ったポルシェ式サスペンションで隊長車のサスペンションを直したついでにヤークトティーガー(ポルシェ車体)にするって話がでてます。あと、ブルムベアーも熊本の工房に送ってⅣ号戦車H型に改造するそうです」

 

 「って、戦力のほとんどじゃない!現状で使える戦力はあるの?」

 

 「一応、こちらで修理して使える戦車はティーガーⅡ(ポルシェ砲塔副隊長車)とティーガーⅡ(ヘンシェル砲塔)、Ⅳ号戦車H型、Ⅲ号戦車J型が二両、パンターF型が三両、センチュリオンの九両だけですね」

 

 「半分もないわね・・・・」

 

 「そうでね。後の残りの車両はこちらの施設では直せないので鉄道輸送で熊本の工房に送ります。付属中に貸し出し中の十五両の内、Ⅲ号突撃砲とヘッツアーだけも返却するようにしませんか?」

 

 「返して貰うならヘッツアーね。これなら、九チームは組めるわ。これはみほに伝えて置くわね」

 

 後に、この板野が九両以外の車両を修理の為に九州の工房に送った判断が私達の窮地を救う事になる。

 

 

 同じ頃、隊長室ではみほと愛里寿がエキシビションマッチで参加を申し込んで来た学校を選んでいた。

 

 「結構来てる」

 

 「そうでね。プラウダ、継続、サンダース、聖グロリアーナ、アンツィオ、知波単のほかに八校が来てるね」

 

 「うん、今年出場しなかった高校からも来てる。聖グロリアーナは確定だけど、どうする?」

 

 「そうだね・・・・私ならサンダースとプラウダかな。知波単も良いけど・・・・悩むね・・・・」

 

 「私ならお姉ちゃんのいる継続高校と組みたい。サンダースとプラウダを組ませるのも面白いかな」

 

 コンコン

 

 「入るわよ」

 

 来たのはエリカだった。

 

 「エリカ、修理状況はどうなった?」

 

 「ほとんど、ダメね。決勝戦に参加した車両は軒並み工房送りよ。後、これは板野がまとめた工房送りの一覧表よ」

 

 私は一覧表を見て顔をしかめた。

 

 無理もないとは思う。

 

 決勝戦に参加した車両で一番被害が酷かったのは砲撃支援小隊と遊撃小隊の車両だった。試合終了後はクロムウェル二両は継続高校に譲渡したけど、砲撃支援小隊無しでも火力があるのはマシとも言える。みほのティーガーⅡだってサスペンションを直せれば良かったが重量があるために学園の施設では直せない。マングースチームで使っていたティーガーⅡがあるから直るまではみほが使うだろう。

 

 「愛里寿ちゃん、ちょっと見せてくれる?」

 

 「はい、みほ」

 

 みほが受け取り一覧表を見ていた。

 

 「結構酷くやられたね。ティーガーⅠへの改造は何とかエキシビションマッチまでに間に合うから大丈夫です。私のチームのティーガーⅡは時間が掛かるけどそのまま直します」

 

 「じゃあ、みほはエキシビションマッチは何を使用するの?」

 

 「そうね。私も気になるわよ」

 

 「エキシビションマッチの編成だけど、私はティーガーⅠを使おうかな。ティーガーⅡにはキリンさんチームに任せたいから」

 

 「じゃあ、エキシビションマッチの編成はどうしてるのよ?」

 

 「一応、当日の配車だよ」

 

 人員配置と配車を見せた。

 

 私も気になり、エリカの脇から覗き込んだのだ。

 

 ティーガーⅠ あんこうチーム

 

 ティーガーⅡ(ポルシェ砲塔) ワニさんチーム(エリカ、小梅、藤木、内法、レイラ)

 

 ティーガーⅡ(ヘンシェル) キリンさんチーム

 

 センチュリオン レオポンチーム

 

 パンターF型 カバさんチーム

 

 パンターF型 アヒルさんチーム

 

 パンターF型 ウサギさんチーム

 

 Ⅳ号戦車H型 ヘビさんチーム

 

 Ⅲ号戦車J型 アリクイチーム

 

 Ⅲ号戦車J型 カモさんチーム

 

 ヘッツァー カメさんチーム

 

 「それと、エキシビションマッチで私達の学園がチームを組むのは継続高校と知波単の三校で相手はプラウダ高校、サンダース、聖グロリアーナの連合チームとだよ」

 

 「みほ、試合形式は?」

 

 「二十対二十のフラッグ戦で継続から四両と知波単からも五両が参加するよ」

 

 「継続高校と知波単が参加する車両は分かっているのみほ?」

 

 「うん、一応、継続高校からはⅣ号戦車J型が二両とⅢ号突撃砲が二両の計四両。知波単からは四式中戦車が四両に五式中戦車が一両の計五両が参加かな」

 

 「そういえば、アンツィオはどうしたのよ?」

 

 「うん、参加はするけど試合には出ないみたいです。こないだのサンダースとの練習試合で修理が間に合わないから代わりに屋台をやらせて欲しいって」

 

 「じゃあ、これが相手チームの参加する戦車かな?」

 

 一枚の参加車両の一覧表だった。

 

 「うん、それだね。プラウダ高校からはIS-2初期生産型が六両がカツコフさん率いる白百合からの参加でT-34/85が三両とISU-152が一両が戦車道チームからの参加。サンダースからはM4A1/76が三両とパーシングが二両が参加。聖グロリアーナからはブラックプリンスが一両とセンチュリオンが二両とクロムウェルが二両の五両が参加します」

 

 それを聞いた私は大洗の町が壊滅するのではと一瞬、思ってしまった。市街地戦と機動戦ならこの編成は頷ける。普通なら二校のタッグだが、あえて三校の連合チームにしたのだ。

 

 

 

 

 

 一方、学園長室では怒り狂った弘子がいた。私は戦車道連盟と各流派の家元会議の結果を弘子に持って来た所だったのだ。

 

 「何なのよ!」

 

 ガッシャァァァン

 

 電話を本棚に投げてガラス張りの本棚の扉のガラスと電話が砕け散る。丁度、そんな時に入ったのだ。部屋は書類が散乱しており、本棚のガラス張りの扉はガラスが砕けて床に散乱していた。それを見た私は、いつも冷静沈着の弘子には似合わない光景だった。

 

 「落ち着きなさい!」

 

 昔の隊長だった頃の様に弘子を宥めるが

 

 「隊長!いえ、茜!落ち着いてなんか居られないわよ!あの子達になんて説明すれば良いのよ!ねぇ、教えてよ。どうしたら良いのよ・・・・」

 

 「一体、どうしたのよ?」

 

 私は聞きたくない事実を知る事になった。

 

 「娘が膝を抱えて久しぶりに泣いて居たのよ。私は杏に『どうしたの?』って聞いたのよ。そうしたら、なんて言ったと思う?『口約束は約束じゃないの?わたし、西住ちゃんや逸見ちゃんになんて説明したら良いのかな?』て言われたのよ。最初は意味が分からなかった。でもね、さっき学園艦管理局から電話が在ったのよ。そうしたら、8月31日付けで大洗女子学園は廃校だそうよ。娘の言っていた意味が分かったの。何故、杏が戦車道を復活させて必死に戦い優勝したのかさえ・・・」

 

 私も戦車道が復活する話は聴いていたから、エリカに協力する意味で私達が隠した戦車を使わせた。私のあの判断は間違ってはいないし正しいと思う。

 

 その意味・・・・

 

 「私は勘付いて、杏の机の引き出しで見付けたボイスレコーダーを再生させたの」

 

 弘子はポケットからボイスレコーダーを取り出した。

 

 再生内容は戦車道で優勝したら廃校を取りやめる。それも、杏ちゃんと学園艦管理局の局長の辻康太の肉声だった。

 

 「ひっ、弘子!完全に賭博じゃない!」

 

 「そうよ。完全な賭博。だから、廃校にしたくない一心で戦車道を復活させて、おまけに熟練度の高い黒森峰や他校の生徒が転校する噂や話を聞けば必死に説得して大洗女子に引き込もうとしたの。あの子の力では駄目だったけどね。そして、西住さんや逸見さん、赤星さんはその事を知らないままここに転校して来たのよ。その後は西住さんの所に黒森峰の親しい人達が集まってくれた。奇跡だった。そして、西住さんの指揮で優勝が出来た。でも、ひど過ぎるわよ!こんなのあんまりだよ」

 

 涙で顔がグチャグチャになっている弘子。

 

 私が出来ることをやろう。

 

 しほちゃんと千代ちゃんはプラウダ高校の風紀委員会の取り調べで、今は熊本の西住流家元に居るはずだ。

 

 「弘子、私はこれからしほちゃんと千代ちゃんに会ってくる。あと、これは家元会議の結果だよ」

 

 私は弘子に家元会議の結果を渡したのだ。

 

 「えっ?家元会議?」

 

 「うん、謹慎解除おめでとう。池田師範」

 

 そう言って、私は学園長室から出たのだ。そして、中では弘子が声を上げて泣いていた。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁ!?良かった・・・・・再興出来るよお姉ちゃん!あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 多分、中では弘子の十歳も上の姉の写真を抱きしめて泣いているのだろ。弘子の姉、池田輝子はこの世には居ない。あの事件で17歳の若さで亡くなっているからだ。だから、しほちゃんも千代ちゃんも家元の就任を待っていたのだ。池田流の謹慎が解けるまては・・・・

 

 私はしほちゃんと千代ちゃんに相談すべく、エリカ達が会議をしているだろう隊長室へと向かったのだ。

 

 

 

 

 私は未だにエキシビションマッチでどうやって市街地戦に持ち込むかで作戦を三人で練っていた。

 

 「やっぱり、ゴルフ場で聖グロリアーナをくぎ付けにするしかないわね」

 

 「それは、二人に同意見だ。ただ、プラウダ高校の突破力にどう対抗するかが肝心だ」

 

 「そこは、ミカさんと協議が必要ですね」

 

 「みほ、サンダースには誰を当てるの?そこは以外と肝心よ」

 

 「そこは、愛里寿ちゃんの小隊で充分です」

 

 「うん、シャーマンとパーシングならパンターとセンチュリオンで充分だ。私なら、ゴルフ場に入る前に撃破する」

 

 コンコン

 

 こんな、時間に誰だろと私は思う。

 

 みほが気付き、隊長室の扉を開けると立っていたのは茜叔母さんだった。

 

 「えっ?茜さん?」

 

 「大事なエキシビションマッチの会議中にごめんね。みほちゃん、エリカ、愛里寿ちゃんは私と一緒に熊本に来てくれるかな?無論、生徒会長の杏ちゃんも一緒」

 

 「何故、急になのよ?」

 

 「緊急事態かな。多分、エキシビションマッチも中止になる」

 

 意味が全く分からない。

 

 「なんで、エキシビションマッチが中止にならなきゃならないのよ!」

 

 「エリカさん落ち着いて!」

 

 「落ち着いて居られないわよ!もう、参加する学校だって決まっているのよ!自治体にも連絡済みで来週には開催なのよ!どうしてなのよ!」

 

 「まだ、答えられないわ。それだけ、重要案件なのは理解してエリカ」

 

 「叔母さん、後で説明してよ」

 

 「うん、必ず約束するわ」

 

 「分かったわ。熊本に行くから飛行艇を出せば良いのね」

 

 「お願い出来る?」

 

 「燃料の確認して準備をして来るわ」

 

 私は急ぎ、飛行艇へと向かい熊本に行く準備をしたのだ。

 

 飛行艇に乗り込んで来た杏会長の表情はとても優れない様子だった。好物の干しいもを食べようとするが手が震え上手く食べられない。みほ達が心配して見ているが、杏会長は

 

 「西住ちゃん、逸見ちゃんごめんね・・・・・本当にごめんね・・・・」

 

 と謝るばかりだった。

 

 それと、副操縦席には黒森峰の制服を何故か着ているレイラも乗り込んでいたのだ。

 

 「なんで、レイラまでいるのよ?」 

 

 「内容は言えないなけど、隊長から私も黒森峰の副隊長として来るように言われたから何も分からないかな」

 

 「気になるじゃない」

 

 「エリカちゃんに言われても、緊急招集だからね・・・・」

 

 

 私も気になるが飛行を続けなればならない。

 

 三時間ほどで熊本に着き、そこからは自家用車でみほの実家に行く予定だ。

 

 飛行艇が降りたのは熊本港である。

 

 何時もの逸見家が所有する係留場で飛行艇を泊めると私の実家の車が迎えに来ており全員車に乗り込んで、みほの実家である西住流家元に向かったのだ。茜叔母さんの連絡を受けていたのか、入口では使用人の菊代さんが待っていたのだ。

 

 「皆様方お待ちしてました。島田師範としほ様が広間にてお待ちしています。楼様はまほお嬢様が着いたら部屋に案内する様に言われてますので、このままお待ち下さい」

 

 「あら、菊代副隊長じゃない。久しぶり」

 

 「「「?」」」

 

 「茜様、みほお嬢様とお連れの方が困っていますので、その話は後ほどにお願いします」

 

 叔母さんが元黒森峰に居たのは知っている。

 

 だけど、使用人の菊代さんと知り合いだったのは初めて知ったのだ。

 

 そのままレイラとは別れ、私達は広間に通されテーブルの向こう側に座って居たのは西住師範と島田師範だった。特に、西住師範の表情が険しい事からとんでもない問題に直面している事が嫌でも解る。

 

 「皆さん、座りなさい」

 

 島田師範に促され、座布団に座る私達。

 

 みほと愛里寿に私は何が起きているのか分からないが、杏会長の表情がさらに悪くなっている事から大体の予想が着いた。

 

 「さて、大洗女子の皆さんご足労ありがとうございます。みほ、優勝おめでとう」

 

 「はい・・・・」

 

 やっぱり、師範の前では緊張するのだろ。

 

 「逸見エリカ、あなたもみほを支えてくれてありがとうございます」

 

 「いえ、大した事も出来てませんが」

 

 「角谷杏さん」

 

 「はい・・・」

 

 「茜と千代から全て聞きました。角谷さん、とんでもない事をしてくれましたね。学校を守りたい一心だったのは分かります。ですが、賭博紛いの事をするのは些か問題です。間違いなく、文科相は大洗女子学園を廃校にするでしょう。ですが、大人の都合で約束を違えるのは私てしても由々しき問題です」

 

 「西住師範、私も守る手がなかったです。だから、戦車道の大会で優勝をして廃校を免れようとしました。大好きな大洗女子学園を廃校にしたくなかった。あれしか、手がなかった・・・・」

 

 「分かっているつもりです。ですが、私はあくまでも高校戦車道の理事長の点からも問題だったのです。千代と話し合った結果、大学戦車道連盟、高校戦車道連盟、中学戦車道連盟、戦車道連盟からはこの件は不問と致します。ですが、明日の13時に記者会見を開きます。あなた方にも参加して貰います。それと、大洗女子学園の戦車道の生徒は全員、12時までにここに来るように連絡して下さい。私はこれから、高校戦車道加盟校に対して隊長、副隊長の緊急招集を掛けます。ここからは、母親としてですが、今夜は遅いから泊まって行きなさい。それと、みほ、あなたには西住流と島田流の家元としての政治を見て行きなさい。いずれ、自分の流派を立ち上げなくてはいけない立場です。よろしいですか?」

 

 「はい、お母さん」

 

 「千代、あなたからは?」

 

 「私からも一つ、優勝おめでとう。大学戦車道連盟からは、こちらも緊急招集を掛けます」

 

 西住師範に言われた通り、みほの実家で泊まる事になった。

 

 エキシビションマッチだが、西住師範と島田師範の判断により中止となったのだ。

 

 

 

 私は久しぶりの実家で泊まる事になった。エリカさんと付き合う様になってからも一緒にお風呂に入るのは日課になっていた。そして、今日も一緒に入っていた。

 

 「ルン~ルン・・・あっ、石鹸がない・・・エリカさん、石鹸を取ってもらえますか?」

 

 エリカさんなら隣で体を洗っているはずだ。

 

 「はい」

 

 「あっ、ありがとう」

 

 声がおかしい。

 

 エリカさんじゃない?

 

 じゃあ、一体だれが?

 

 私が振り向くと、明らかに私より大きい胸にエリカさんにあるはずの割れた腹筋がない。

 

 じゃあ、誰?

 

 そして、見上げて行くと私に似た髪形でやや黒い色で鼻からは血が垂れていた。

 

 「お帰りみほ」

 

 「えっ?お姉ちゃん?」

 

 鼻血を出しながら親指を立てながら満足そうなお姉ちゃんが居たのだ。そして、私は浴槽を見ると頭にコブを作り、お尻をプカプカと浮かびながら気絶しているエリカさんの姿だった。そういえば、シャワーを浴びた時に桶が落ちる様な音がした時にお姉ちゃんがやったのだろ。

 

 「えっ、エリカさん!?」

 

 私は浴槽からエリカさんを救出すると私は桶を握っていた。

 

 「お姉ちゃん、どういう事かな?」

 

 じわりじわりとお姉ちゃんに近付く私。

 

 「いや、待て!話せば判る!みほ、早まったマネは・・・・」

 

 「何で、毎回なのかな?」

 

 「本当に済まない!だから、見逃し・・・・アッギャ!?」

 

 パッコーン

 

 お姉ちゃんの頭を桶で叩き意識を刈り取ったのだ。

 

 頭にコブを作りながら気絶するお姉ちゃんを放置して、エリカさんを担いで部屋に戻ったのだった。エリカさんをボコのパジャマに着せて私のベッドに寝かせると私はエリカさんを抱きまくらに眠りに着いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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大人達の戦い

 


 

 朝、目覚めると着慣れないパジャマを身につけている事に気付いた。

 

 茶色い生地に包帯が巻かれた様な腕。そして、特徴的な獣の耳・・・・

 

 間違いなくみほのボコの着ぐるみ型のパジャマだ。

 

 ズッキィ

 

 「何で、頭が痛いのよ?」

 

 触ってみると後頭部付近にあるタンコブ・・・・

 

 横に寝返りすれば、目の前には破壊力満点の可愛い寝顔のみほだろう

 

 まさかと思い布団をめくり中を覗けば、みほの姿は可愛らしい白を基調とした下着姿。

 

 まさか・・・・・

 

 おそるおそる、自分のパジャマの中を覗いて見ると・・・・・

 

 「私、裸のままだ・・・・」

 

 何故、こうなったかはっきり言って覚えていない。

 

 ただ、覚えて居るのはシャワーを浴びて髪を洗っていたら、後ろから何かで頭を叩かれた記憶しか無いのだ。

 

 そして、布団から出て起き上がり周りを見渡せば、女の子らしい部屋の飾り付けにみほのコレクションであろうボコの縫いぐるみが大量あることからみほの実家の部屋であることが分かった。

 

 ふと、私はある物が目に入った。

 

 クリーニングがしてあり、ビニールで保護されている一着のパンツァージャケット。

 

 「これ、みほの黒森峰のパンツァージャケット・・・・」

 

 バッサァ

 

 「あっ、エリカさんおはよう・・・」

 

 下着姿のまま挨拶するみほ

 

 「おはよう、みほ」

 

 「あっ、そうだ。エリカさん下着を持って来て無いよね?」

 

 「確かに言われてみれば無いわね」

 

 「エリカさん、確か私の下着と同じサイズだったよね?」

 

 「ええ、Mだったはずよ」

 

 みほは衣装ケースから新しい下着を取り出す。

 

 手渡され、ボコのパジャマを脱いで下着を身につける。

 

 「うん、ピッタリだね。でも、ブラが・・・・」

 

 「ちょっと、揺るい感じね。まぁ、でも調整すれば大丈夫よ」

 

 肩紐を調整すれば大丈夫だったが、やはりみほの方が胸が大きいのだろ。

 

 以前にみほに揉みすぎだと怒ったが自分も人のことが言えない。

 

 最近は逆にみほを求めてしまう。

 

 そんな、思いを馳せながら下着姿のみほを見ながら身支度をしていく。

 

 着替えが終わった頃だろうか?

 

 浴槽から悲鳴が聴こえたのだ。

 

 『キャァァァァァ!?まっ、まほお嬢様!?』

 

 「あっ、菊代さんの悲鳴だね。大丈夫だよ。多分、倒れて居たのはお姉ちゃんだから」

 

 「えっ?良いの?」

 

 「うん、お母さんは知っているから。少し、放置しときなさいって言っていたから」

 

 「そうなのね・・・」

 

 私はツッコミのを忘れ、朝食が用意されている広間へと向かったのだ。

 

 

 広間には西住流門下生が寝泊まりする寮で一夜を明かしたレイラ、杏会長、茜叔母さんが座って朝食を食べていた。

 

 「あっ、おはよう。エリカちゃん、みほちゃん来たんだね」

 

 「おはよう、レイラ」

 

 「レイラさんおはようごさいます」

 

 「・・・・・逸見ちゃん、西住ちゃんおはよう」

 

 「会長、大丈夫なの?」

 

 「えっ、何が?」

 

 「何時ものあんたらしくないじゃない」

 

 「あっははは・・・だね。でも、翌々考えたら西住ちゃんや逸見ちゃん達には取り返しの付かない事をしたんだなってつくづく思ってさぁ。でも、二人には済まないとは思っているけどね、今でもあの判断は間違っていないと信じている。だって、西住ちゃんや逸見ちゃんに赤星ちゃんはそれに答えて優勝してくれた。あと、昨日は西住ちゃんは逸見ちゃんを寝かした後に西住師範になんて言われたのかな?」

 

 「杏さんには隠せないですね。はい、エリカさんを寝かした後、私も疲れて眠って居たのですが菊代さんに起こされてお母さんと少し話ました。もし、自分の流派を立ち上げるなら『ガノッサの屈辱』と『池田流が起こした事件と飛騨流の終焉』を調べなさいって言われました」

 

 「西住ちゃんには一言だけ忠告するよ。調べたら、絶対に戦車道が嫌いになるよ。以前、あたしに聞いたよね?。何で、砲撃が上手いのかって?」

 

 「はい、聞きました。どうしても、私の眼には経験者にしか見えませんでしたし、戦車に詳しく事に疑問に思っていましたから」

 

 「そうだね。あたしは西住ちゃんの思っていた通り戦車道の経験者だよ。あたしが中学に上がるまでは、池田杏だった」

 

 「えっ!?」

 

 「池田!?まさか、杏会長は・・・・」

 

 「そうだよ。池田流だよ。今は、角谷のはお母さんが中学に入る前に再婚したからで、やっと謹慎が解けたから池田流として名乗れる様にはなったけどね。まぁ、実際に池田流を名乗れるのはお母さんと私を除いて数人しかいないけどね」

 

 

 私は池田流と聞いて、ピンと来たのだ。

 

 かつて、日本の戦車道を支えた流派の中でもっとも気高く、荒々しい流派の池田流。

 

 別名、喧嘩殺法、単機早駆けの池田流だ。

 

 その荒々しさとは同等と言えるほどの訓練の厳しさから訓練の内容を例えた詩が在ったらしい。

 

 『鬼の西住流、羅刹の朽木流、夜叉の島田流、入るな鬼より怖い池田流』

 

 

 

 一方、私は記者会見の準備をしほと千代の三人で進めていた。

 

 「茜が来てくれると助かる」

 

 「そう?」

 

 「でも、懐かしいわね。逸見姉妹と私としほと四人であの事件を・・・」

 

 「千代、その話はやめなさい」

 

 「そうね。杏ちゃんやみほちゃんには余りにも酷な話になるわ。だから、私達はあれは墓場まで持って行く義務があるわ」

 

 でも、私は忘れない。

 

 あの事件。

 

 そう、道の真ん中で弘子が姉だった物、そう、首だけ残った遺体を抱きしめて泣き叫び、大洗女子や黒森峰、知波単、姉妹提携校の一部の生徒の体がバラバラになった大量の死体、四肢を失い激痛で泣き喚く生徒に重傷の生徒を泣きながら介抱する生徒などの地獄絵図・・・・・

 

 今でも、あの時は7歳にも関わらず鮮明に覚えている。

 

 

 それは、ガノッサの屈辱と呼ばれる事件。

 

 当時、日本戦車道連盟の本部は文科省の中に在り、文科相が管轄していた。そして、今のままでは戦車道が政治的要因などで駄目になる事を危惧した当時の戦車道の名門校の三校が立ち上がった。大会参加校が円卓で会議を開き、取り決め纏まった八ヶ条を記した書状を胸に抗議に行った。その名門校の三校が当時の大洗女子学園、黒森峰女学院、知波単学園と提携する姉妹校の戦車道の選手全員と生徒会が抗議に参加したのだ。しかし、122ミリカノン砲の前で八ヶ条を記した書状は読まれる事なく無残に破り捨てられた。その後、雪の中を三日三晩通い続けた結果、受理されたのだ。

 

 これが、新聞や資料に残る話だ。

 

 その先は戦車道界でもダブー扱いされている。

 

 しかし、破かれた後には続きがある

 

 そこで、激しく抗議したのが二人の隊長がいた。

 

 一人は松山西女子学園の戦車道の隊長池田輝子だった。

 

 松山西女子学園は大洗女子学園と姉妹提携している二校うちの学園の一つだった。

 

 もう一人は、私の旦那の姉で古河女子学園の戦車道の隊長の飛騨智美だった。

 

 古河女子学園は国内では唯一と言える黒森峰女学院と姉妹提携を結んでいた(古河女子学園は今は廃校となっている)その後は黒森峰女学園は姉妹提携を結んでいない。いや、結ばなくなった。

 

 二人の隊長が激しく抗議した事で当時の文科省の役人の一人が入口に在った122ミリカノン砲で抗議に来た生徒達に対して脅しの積もりで空砲を放とうとしたが、戦争での引き揚げ品だった為に砲弾が入っていたなど誰も知らなかったのだ。撃たれたのは榴弾。これにより、池田輝子と飛騨智美を合わせた各学園の生徒48名が即死し大量の重軽傷者を出したのだ。

 

 事実を知った各学園や生徒が所属していた流派の家元達、家族は文科省に対して猛抗議の嵐だった。

 

 下手をすれば官庁街を火の海にやりかねない状況にまで発展したのだ。

 

 これに慌てたのが当時の内閣だった。

 

 内閣は総辞職して責任を取るかたちで八ヶ条を飲んだのだ。

 

 それが今の戦車道のルールの礎となっている。

 

 ただ、この事件の最中で納得しなかった二つの流派が役人にも双方に大量の死者を出す大事件を起こし、責任を取らせる形で池田流には30年の謹慎と飛騨流には取り潰しの重い処分となる訳だが、今は語らないでおこう。

 

 

 

 こうしている間に、記者会見に使う書類は全て纏まっていた。

 

 

 

 場所が変わり、大広間では各学園の戦車道の隊長と副隊長が集まり出していた。一番乗りで来たのはサンダースだった。

 

 「ハァァイ!みほ!エリカ!」

 

 「来たぞ」

 

 サンダースからはケイとナオミが来ている。

 

 「悪いわね。こんな事に巻き込んで」

 

 「気にしてないわよ。それに、私達は別の話もあるみたいなのよね」

 

 「えっ?別の話?」

 

 「まっ、西住師範が話すだろうし、待っていましょ」

 

 ケイとナオミは大広間へ向かって行ったのだ。

 

 「エリカ様にみほ様」

 

 「ダージリンさんも来てたんですね。ペコさんも・・・・」

 

 「おはようございます。みほ様」

 

 「まさか、ダージリンまで来るとは思わなかったわ」

 

 「はぁ、高校戦車道連盟理事長自らの緊急招集ですのよ?行かない訳には行きませんわ。それに、エリカ様」

 

 「なによ?」

 

 「わたくしにしたら、今回の一件には政府に対して頭に来てますわ。安心なさって。聖グロリアーナ女学院の生徒会も学園長も味方になりますわ」

 

 「だっ、ダージリン様!お会い出来て光栄です!」

 

 もう一人、ダージリンの下に走ってくる生徒はあの制服は・・・・

 

 「あら、西呉王子グローナ学園のキリマンジャロいえ、白鳥霧じゃあありませんの」

 

 「誰なの?」

 

 「エリカ様、こちらは西呉王子グローナ学園の隊長の白鳥霧ですわ」

 

 「あなたが大洗女子の狂犬逸見エリカね。この一件が終わりましたら練習試合をお願いしたいわ」

 

 「隊長には伝えておくわ」

 

 「エリカ様、わたくしも他の隊長と話し合う予定がありますので、後ほど」

 

 三人は大広間へ向かったのだ。

 

 「みほ、エリカ決勝以来だな」

 

 今度はプラウダ高校の白百合戦車旅団の隊長のカツコフだった。

 

 「カツコフさん久しぶりです」

 

 「久しぶりね」

 

 「次は負けないと言いたいが、私達もこの一件には非常に怒りを感じる。プラウダ高校は大洗女子に全面協力する。あと、復帰した副官が用があるらしい。来い、カチューシャ」

 

 「副隊長に復帰したカチューシャよ。西住みほ、逸見エリカ、大会ではごめんなさい!」

 

 「大丈夫です。気にしていないです」

 

 「私も気にしてないわ」

 

 確かに、私達はあの一件は気にしていない。

 

 私はみほへの気持ちに正直になれたし、みほも大洗に来た事で友達が出来たのだ。

 

 「でも、カチューシャはみんなの人生まで狂わせた!何故、責めないのよ!カチューシャを責めてよ!」

 

 泣きながら、ポカポカみほの胸を叩き訴えるがみほは優しくカチューシャを抱きしめて言ったのだ。

 

 「私はカチューシャさんを責めないよ。うんん、違う。私もエリカさんや小梅ちゃんにも責める権利はないの。だって、隊長の命令だった。だから、責めないし、出来ないよ」

 

 「そうね。私もみほと同じよ」

 

 「うわぁぁぁぁぁ」

 

 そのまま、カチューシャはみほの胸の中で泣き叫んだのだ。

 

 その涙は、カチューシャの止めていた針を動かしたと共に私とみほの止まっていた針をゆっくりと刻み始めたのだった。

 

 みほとカチューシャのやり取りとは裏腹にタイミングを逃した隊長が三人ほど見ていた。

 

 「レクレール様、さすがにお邪魔するのは・・・・」

 

 「そうね。フォンデュ・・・・・」

 

 マジノ女学院の隊長レクレールと副隊長のフォンデュ

 

 「戦車道には、やっぱりいろんな物が詰まっているね。お邪魔するのは野暮だ。アキ行こうか」

 

 「そうですね」

 

 継続高校の隊長の島田ミカと副隊長のアキ

 

 「遅れてしまったではないか!」

 

 「総統が寝坊するからです!」

 

 「西住に挨拶しようとしたが、あれでは・・・」

 

 「お邪魔ですね」

 

 アンツィオ学園の隊長アンチョビと副隊長のカルパッチョ

 

 不憫だが、この三人の隊長は繰り返すようだが、タイミングを完璧にのがしたのだった。

 

 

 大広間には、高校戦車道連盟加盟校の大洗女子学園を先頭に黒森峰、知波単、聖グロリアーナ、プラウダ、サンダース、アンツィオ、継続などの全加盟校の28校に加え、大学戦車道連盟加盟校からは島田流の息が繋かる白波大学を中心に関東の大学選抜チームの隊長や副隊長が愛里寿を囲んでいた。

 

 「「「「愛里寿お嬢様!」」」」

 

 「なんだ、ルミ、メグミ、アズミ。朽木さん、私の代わりに隊長を済まない」

 

 「気にしてないわ。チームの大半が島田流とはいえ、朽木流である私を隊長に指名してもらったのですから。愛里寿お嬢様は高校生活を楽しんでくださいと言いたいですが、大洗女子学園の廃校の一件にはかなり頭に来てます。大学選抜チームも関東の各大学も大洗女子に全面協力します」

 

 「朽木さん、ありがとう」

 

 「「「ガッハァ!?お嬢様の笑顔が可愛い過ぎる」」」

 

 私はこの三人が不安に思えて仕方なかったが大学選抜チームに選ばれるだけに実力も折り紙付きなのだろう。しかし、何故大学まで招集対象にしているのはわからないでいた。

 

 気付けば、全ての大学の戦車道の隊長、副隊長が集まっている。

 

 私は気になったのだ。

 

 口を揃えて「協力する」意味が何となく分かって来たのだ。

 

 大広間の上座には島田師範、西住師範にあれは、中学戦車道連盟の理事長の朽木師範が座っている。全員、険しい顔で書類を見ていたのだ。

 

 「では、緊急招集を・・・」

 

 バッァァン

 

 「間に合った!」

 

 「えっ?嘘・・・・どうして・・・・・」

 

 みほの様子がおかしい。

 

 そして、赤い髪のツインテールの少女達が大広間の入口に立って居たのだ。

 

 そして、みほの隣に座る杏会長がみほに言ったのだ。

 

 「間に合ったみたいだねぇ。西住ちゃん、私からのせめての償いだよ」

 

 一同はその入口に立っている生徒を見ている。

 

 「ドイツからの急な転校先の変更で遅れました。大洗女子学園の中須賀エミ」

 

 「同じく、大洗女子学園のツェスカ」

 

 「ベルウォール学園が廃校に伴い転校して来ました。大洗女子学園の柚本瞳」

 

 「同じく、大洗女子学園の喜多椛代」

 

 「同じく、大洗女子学園の鷹見優」

 

 「同じく、大洗女子学園の白鳥渚」

 

 「以上、六名と戦車三両は本日付けで大洗女子学園に転校して来ました」

 

 エミと言う名前の生徒が締めて六名は私達と大洗女子学園の生徒が座る席に座ろうとしたのだったが

 

 「エミさん、大洗女子学園の生徒は隣の控え室で待ってて貰えますか?今は隊長、と副隊長だけの会議です」

 

 「「「「「あっ・・・・・・失礼しました!」」」」」

 

 西住師範に言われ、慌てる様に隣の控え室に向かって行ったのだ。

 

 「では、改めて始めます。皆さん、忙しい中を集まって頂きありがとうございます。本題に入る前に、大洗女子学園に起きた事を説明します。始まりは去年の終わり頃です。学園長へ廃校の知らせがありました。ですが、学園長は学園艦管理局へ何度も話し合いましたが取り合って貰えませんでした。今度は生徒会の会長達が行き今回、緊急招集をかける事態になったのです」

 

 一旦、区切りボイスレコーダーを再生したのだ。

 

 「内容を聴かれたように、大洗女子学園は優勝しなければ廃校。優勝すれば、廃校にはしない。と学園艦管理局、局長の辻康太の肉声での約束が執り行われました。そして、大洗女子学園は奮起奮闘の結果、優勝をもぎ取りました。賭博紛いである事は問題ですが、日本戦車道連盟での協議の結果は不問です。しかし、優勝した後に問題がありました。生徒会の会長、角谷杏は学園艦管理局局長に呼ばれるて行きましたが、大洗女子学園の廃校の決定の通告でした。肉声を録音したボイスレコーダーで優勝したら廃校は取りやめる事は、『口約束は約束ではい』と私達でも情けなくなるくらいに大人気ない対応で約束を覆したのです」

 

 西住師範の説明が終わると生徒達は怒りを露にしていた。

 

 「ふざけるな!」

 

 「大人気ないぞ!」

 

 「話は終わってません!」

 

 島田師範の一喝で静まり、今度は島田師範が口を開いた。

 

 「この件に対して、日本戦車道連盟、高校戦車道連盟、大学戦車道連盟、中学戦車道連盟は学園艦管理局に対してはこの後の記者会見を開き、抗議すると共に大洗女子学園に全面協力を発表します。そして、各大学、各学園は連判状に署名して貰います」

 

 その後だが、各学園、各大学は連判状に署名したのだ。

 

 そして、師範達と大洗女子学園の戦車道の生徒による記者会見により学園艦管理局は実名の公表の上で黒森峰女学園の事件から始まった一連の事件の黒幕の発表と学園艦解体業者との癒着までを証拠から全て公表した上で発表したのだ。

 

 一番、慌てたのは学園艦管理局を管理している文科相だった。

 

 学園艦の廃艦に関して、学園艦管理局の局長の独断である事と発表したのだ。

 

 局長を解任する事を決めたが、ただで倒れる局長ではなく廃校を取りやめにして欲しければ実力を見せろと言い、高校生以上20歳以下の選抜チームで組まれたU20ドイツ代表と試合をして勝てたら無くすと、また独断で決めてしまったのだ。

 

 酷い事に、決められた試合は取り消す事も出来ない様に準備をされていたのだ。

 

 そして、事の詳細を知ったドイツでも日本の学園艦管理局に猛抗議の嵐だった。

 

 しかし、西住師範を中心に各流派の家元が協力したため、大洗女子選抜連合チームとドイツのU20選抜チームの試合が実現する事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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登場人物(付属中編)

 

 

 

 飛騨 楓

 

 中学三年生

 

 飛騨茜の一人娘で中学生にしては抜群のプロモーションの持ち主。大洗女子学園付属中学校では戦車道を専攻しており隊長を努める。顔立ち、姿は逸見エリカと瓜二つの姿であるが、バストだけはエリカより大きく西住まほと西住みほの中間ぐらいである。

 

 付属中で使用する戦車は車長として大洗女子学園から貸与されているパンターⅡを公式戦で使用したり、タンカスロンでは38(t)C型37ミリ機関砲を主砲に換装したカスタム戦車を使う。得意とする戦術は強行偵察や相手の隊長車だったりフラッグ車を挑発して釣り上げてキルゾーンに誘い込む事。被害者は島田愛里寿やプラウダ高校の風紀委員長、カチューシャだったりと俗に貧乳と呼ばれる人達を釣り上げる。

 

 島田流による四校合同合宿の最終日に行われた紅白戦で島田愛里寿を貧乳と叫び激昂させて釣り上げてキルゾーンへ誘い込み、みほと合同で撃破に成功するが紅白戦終了後のお風呂では島田愛里寿に捕まり、胸を揉みくちゃにされ人生初めての絶頂を体験する嵌めになる。

 

 大洗女子選抜連合チームには訓練中の怪我で参加出来ない大学生のチームに代わり、パンターⅡを駆り参戦する。

 

 

 武部詩織

 

 中学三年生

 

 原作同様、アンコウチームの通信手の武部沙織の妹で大洗女子学園付属中学校に通う。楓とは幼なじみで同じく戦車道を専攻している。戦車道では副隊長を努め、たまに暴走する楓のストッパーだったりいろんな面でサポートしている。

 

 乗車する戦車は楓と同じくパンターⅡや38(t)C型で通信手や砲手を勤める。

 

 大洗女子選抜連合チームには楓と一緒にパンターⅡの通信手して参加する。

 

 

 

 綾波霞

 

 中学三年生

 

 四馬鹿の双子の姉妹の長女で風貌は艦これの霞そのものである。楓とは同じクラスであり戦車道を専攻している。公式戦で使用する戦車は大洗女子学園から借りたヘッツアーで操縦手をしていて、後に冷泉麻子の操縦テクニックを見て一目惚れしてしまい弟子入りする。麻子自身、霞の操縦テクニックを認めるほどの腕前でプラウダ高校とのタンカスロンでは一度も被弾を許していない。

 

 大洗女子選抜連合チームには楓のパンターⅡの操縦手として選ばれ参加する。

 

 

 綾波さつき

 

 中学三年生

 

 四馬鹿の双子姉妹の次女で姿は艦これの皐月そのものである。クラスも姉妹とも同じで戦車道を専攻している。戦車も姉妹同様ヘッツアーで砲手をしている。

 

 大洗女子選抜連合チームには楓のパンターⅡの砲手として選ばれ参加する。

 

 

 

 西条村雨

 

 中学三年生

 

 四馬鹿の一人にして西条四姉妹の三女で姿は艦これの村雨である。楓とはクラスは違うが戦車道を専攻しておりヘッツアーの装填手を務める。

 

 大洗女子選抜連合チームには楓のパンターⅡの装填手として選ばれ参加する。

 

 

 西条時雨

 

 中学三年生

 

 四馬鹿の一人で西条四姉妹のニ女で姿は艦これの時雨である。四馬鹿のリーダーをしておりヘッツアーでは車長を務める。

 

 

 西条白露

 

 中学三年生

 

 西条姉妹の長女で姿は艦これの白露である。彼女も戦車道を専攻しているがプラウダ戦では砲身が焼けた際に離脱。交換中に試合が終わると言うオチ担当である。使用する戦車は大洗女子学園から借りたⅢ号突撃砲の砲手を務める。

 

 

 西条夕立

 

 中学三年生

 

 西条四姉妹の末女で姿は艦これの夕立である。プラウダ戦では38(t)C型の車長を努め鬼神の働きをするが機関砲の薬莢がジャムを起こして撃破されている。

 

 

 

 島風葵

 

 中学三年生

 

 隊長車の操縦手を務める生徒でプラウダ高校とのタンカスロンでも38(t)C型の操縦手を務める。腕は確かでタンカスロンでも強化合宿でも楓が乗る戦車の操縦手を務めた。しかし、タンカスロンの試合の後は風邪を引いて寝込んでいる。

 

 

 

 用語解説

 

 大洗女子学園付属中学校

 

 学園長 角谷弘子

 

 生徒数 1480名

 

 

 元々、大洗女子学園の生徒数減少により、中高一貫のエスカレーター式の中学校を開設したのが始まりである。一応、県立であるが合併等を繰り返した結果と大洗女子学園の校舎に空きがあるために茨城教育委員会からの指示により実現した。

 

 開設当初、飛騨流の唯一の生き残りの飛騨茜の旦那であり教頭の飛騨洋一郎と池田流の忘れ形見の角谷弘子、旧姓池田弘子を監視する目的で付属中の開設を学園艦管理局が許可した経緯がある。

 

 付属中が使用する校舎は当時、茜達が通っていた旧校舎である。

 

 付属中戦車道

 

 不動産会社の社長をしており、大洗女子学園の戦車道最後の隊長だった飛騨茜を学園艦内での不動産経営を許可する代わりに教官及び監督として招き、いつか大洗女子学園の戦車道を復活させる目的で開設と同時に学園長と一緒に始めた。付属中戦車道の流派は池田流を教えている。学園長である角谷弘子は池田流再興を願っているため、中学校の戦車道の教本は池田流の物であり、監督である飛騨茜がさらにわかりやすくして作成されている。公式戦用の主力はパンターⅡがニ両、Ⅳ号突撃砲がニ両、三式中戦車が一両、Ⅲ号突撃砲が一両と38(t)B型が十ニ両を所有する。これらの戦車の持ち主がおり、38(t)B型は四国の松山市に在った池田流家元に在った物を運び、Ⅳ号突撃砲は飛騨流家元の所有していた車両である。パンターⅡニ両と三式中戦車、Ⅲ号突撃砲、ヘッツアーは大洗女子学園から借用している。

 

 

 

 

 

 

 




 まだ増えます


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会見の後に・・・・


 
 


 

 会見の後だが、私は気を失ったからはっきりと覚えてないが各流派の師範達が悪魔の笑みを浮かべて居たのは覚えている。

 

 「さて、皆さんにはドイツのU20選抜チームと試合をして貰う事になりました。対戦ルールは30対30の殲滅戦です」

 

 「えっ・・・」

 

 西住師範の一言に絶望の顔を浮かべ顔を引き攣るみほ

 

 「今のメンバーで勝てる気がしない・・・・でも、私が以前に試合したプロチームじゃないだけまだいい・・・」

 

 半泣き状態の愛里寿

 

 「マジなの?」

 

 未だに、信じられない表情で口が開いたままの私

 

 「大丈夫だよ。その為に選ばれるはずだった二人を(いろいろ暗躍して)大洗女子学園に呼んだからねぇ。紹介するよ!入って来てくれるかなぁ」

 

 杏会長が呼んだのは、先程の隊長と副隊長達の集まりに間違えて入ってきた中須賀エミとツェスカの二人と他に四名だった。

 

 「改めて、挨拶するわ。ドイツから転校して来ました中須賀エミです。みほ、久しぶりね」

 

 「うん!エミちゃん」

 

 「私を忘れないでくれる」

 

 「あっ、ごめんなさい」

 

 「同じく、エミのチームメイトで転校して来たツェスカよ。本来なら、二人とも提携校である黒森峰女学園に転入予定でしたが黒森峰女学園の戦車道が休止中な為、大洗女子学園に変更しました。また、会ったわね島田愛里寿!」

 

 「あの時はありがとう」

 

 「そう、なら良かった。相手がプロチームだったとは言え、最後のセンチュリオンへの砲撃は見ていて後味が悪かったし、愛里寿にはエミのお姉さんが瀕死の重傷を負わせたし、あんなのは戦車道じゃない。ただの蹂躙よ。だから、私とエミは頑張ってU20選抜チームのメンバーに選ばれるまでになった」

 

 「えっ?じゃあ、エミちゃんもドイツのU20選抜チームだったの?」

 

 「そうよ。ツェスカと組んでティーガーⅠの操縦手をする予定だったわ。でも、私はみほとの戦車道を選ぶわ。」

 

 「そうだったんだね。あのね、私、自分の戦車道を見つけたよ」

 

 「決勝戦を見て居たから知っているわよ。後、アレもね♪」

 

 「あわわわ、わっ、忘れて下さい!」

 

 そう言いつつも、エミは私を睨んでいた。

 

 「まさか、みほの相手がエリカだったなんてね」

 

 「悪い?」

 

 「いいえ、お似合いね」

 

 「エミ、それよりもU20選抜チームの隊長の事を教えた方がいいんじゃないの?」

 

 「そうね」

 

 「その必要はない!」

 

 振り向けば、西住師範と島田師範に朽木師範が私達の前に立っていた。

 

 「みほ、大洗女子学園から十両を選抜しなさい。そこから先は大洗女子選抜連合チームでの話になるわ。いいですね」

 

 「わかりました。既にエキシビションマッチで九チームは編成済みです。それに、エミちゃんのチームを加えれば十チームが出来ます。師範、それで問題は?」

 

 「チームだけなら問題ないわね。戦車はどうするの?」

 

 「ちょっと待って下さい!」

 

 「「えっ?」」

 

 待ったをかけたのは整備班班長の板野だった。

 

 「西住隊長、勝手かと思ったですが学園に置いて行こうとしたんですが貨物列車を手配して全車両をこちらの工房に送って置きました」

 

 「じゃあ、戦車は・・・・」

 

 「はい、工房にあります」

 

 「わかりました。少し、常夫さんに確認して来ます」

 

 西住師範は電話を掛けて確認していた。

 

 「はい・・・・・はい・・・・わかりました」

 

 「あの、お母さん?」

 

 「各学園、大学からの援助物資で全車両は直せるそうよ。みほ、二つほど確認したいから代わりさない」

 

 「はい、代わりましたお父さん。シュトルムティーガーとティーガーⅡどうするのって・・・・シュトルムティーガーは予定通りにティーガーⅠに改装でシュトルムティーガーは改装キットにしてくれますか?作戦によっては変更したいので。はい、ティーガーⅡはヤークトティーガーにはしません。・・・・・・・わかりました」

 

 「どうでした?」

 

 「うん、エレファント以外は全部修理できる。お母さん、選抜チームのメンバーは分かっているの?」

 

 「これね」

 

 西住師範から選抜メンバーが書かれた名簿を渡され、私も愛里寿も名簿を覗き込んだのだ。

 

 聖グロリアーナ女学院からはダージリン、オレンジペコ、ルクリリ、アッサム、ローズヒップが選ばれた。

 

 プラウダ高校からは白百合戦車旅団のカツコフ、ジェーコフを含めた15名が選出され、戦車道チームからはカチューシャ、ノンナ、クラーラなど15名の合計30名が選ばれ。

 

 継続高校からはミカ、アキ、ミッコがアンツィオ高校からはアンチョビが、黒森峰女学院からは西住まほと同級生の磨或レンを含めティーガーⅠの乗員合わせて5名が選ばれたのだ。

 

 サンダース大学付属高校からはケイ、アリサ、ナオミを含めパーシングの乗員合わせて5名が選ばれた。

 

 大学からは関東の大学選抜を中心に朽木流の家元の朽木結衣隊長にメグミ、ルミ、アズミ他に各大学選抜から集められたのだ。

 

 こうして、大洗女子選抜連合チームが出来たのだ。

 

 

 

 だが、本当の地獄はここからだった。

 

 大洗女子選抜連合チームは試合まで全員参加の強化合宿になったのだ。

 

 ただの合宿ではなく、西住流家元の演習場には島田師範と西住師範がいがみ合いながらも訓練に明け暮れていた。そして、西住流家元である西住しほは今更ながらみほの破門を悔やんでいた。大洗女子学園の戦車道は島田流の保護下にあり、一応門下生扱いになって居るのだ。

 

 最初は鍛えるとこんなにも輝くとは全く思っていなかった。

 

 しかし、実際に鍛えて行くと熟練度が大学選抜にしても遜色のない大洗女子の生徒にしほは、ある意味で羨ましいと感じていたのだ。

 

 「千代、こんなにも良い原石を独占していたの?」

 

 鍛えながらニッコリ笑う西住しほ。

 

 「しほ、大洗女子はあくまでも私の流派の保護下にしてるし、私の可愛い教え子になるのよ。譲れないわ」

 

 涼しい顔で、大洗女子を独占したい島田千代。

 

 「あらあら島田師範、独占は行けませんね。私はバレー部の生徒が気に入りました」

 

 「「朽木師範!?」」

 

 バレー部だけでも欲しがる朽木流の家元にして大学選抜の隊長朽木結衣。

 

 「はぁ、はぁ・・・・・やっと、着いたわ。杏と柚子と桃、千代美は渡さないわよ!私の流派の残りの門下生よ!それに、千代美の教えを貰った歴女チームもよ!」

 

 息を切らしながらも、門下生を渡さないと言い切る弘子。

 

 「それを言ったら、みほは私の娘よ!」

 

 「あら、愛里寿ちゃんもミカも私の娘よ!」

 

 なぜか、娘自慢対決に発展する西住師範と島田師範。

 

 「なら、みんなで仲良く鍛えたら?」

 

 そして、醜い争いに終止符を打つために冗談半分で私が言ってみる。

 

 「「「「それよ!」」」」

 

 西住流、朽木流、島田流、池田流の師範が口を揃えて叫んでいたのだ。

 

 嘘から出た誠とは正にこの事だった。

 

 「「「「くっくくく・・・・」」」」

 

 四人の師範は黒い笑みを浮かべて、大洗女子選抜連合チームを鍛えるかを見ながら仲良く話し合いを始めたのだ。そして、そんなやり取りを見ている大洗女子選抜連合チームは・・・・

 

 「ねぇ、エリカさん」

 

 「みほ、どうしたのよ?」

 

 「なんか、変な相談が聞こえて来るんだけど気のせいだよね?」

 

 「みほ、気のせいじゃない」

 

 「愛里寿ちゃん、顔が真っ青だよ?」

 

 「凄く、悪寒がする」

 

 愛里寿の言う通り、後ろには・・・・・・

 

 「あっ・・・・・」

 

 「ぐっすん・・・・・・」

 

 「マジなの・・・・・」

 

 四人の師範が立って居たからだ。

 

 「みほ、訓練中にお喋りとは良い度胸だ」

 

 「そうねぇ、愛里寿ちゃんと一緒に鍛えましょうかね?」

 

 肩を握られ、逃げられない二人。

 

 私も師範達の鋭い眼光に言葉を失う。

 

 そして、私達は四人に連行されて特別メニューをやる事になったのだった。

 

 私もあまりの厳しさから体力を使い切り、三人仲良く意識を手放したのだ。

 

 

 

 同じ頃、私も同級生のレンと訓練に明け暮れていた。

 

 「全く、レンやお前らまで休学を選ばくても良かったのにな」

 

 「良いのよ。みほさんが居なくなり、逸見も居なくなり、赤星達も居なくなった黒森峰を立て直すのはまほ一人では流石に無理よ。それに、元々は私は副隊長だったし元の鞘に戻っただけ」

 

 「そうですね。私は隊長のティーガーⅠの操縦手は譲る気は全くないわ」

 

 「そうそう。隊長は全く不器用の塊だからね。まぁ、私も装填手は譲らないわね」

 

 「済まないな。それと、レン」

 

 「隊長何かな?」

 

 「工房にパンターF型とパンターⅡを送ってくれたか?」

 

 「えぇ、手筈通りにパンターF型は大洗女子学園仕様に、パンターⅡは大洗女子学園付属中仕様して送ったわよ。でも、良いの?あれは、隊長が一年生の時に初優勝をした記念に学園長に買って貰った物でしょ?」

 

 確かに、記念で買って貰った物だ。

 

 「構わない。使われないで飾られてるより、みほの為に使われたほうがパンターF型もパンターⅡも喜ぶだろう。(そうすれば、みほは喜んで私に抱き着くだろう。そして、ミホニウムが補給出来るチャンスがくる」

 

 「隊長?」

 

 「どうした?」

 

 「隊長の心の言葉が駄々漏れですよ?」

 

 「うっ、うるさい!みほが大好きなのだから構わんだろ!」

 

 「さすが、シスコンクィーンだね。確かに、パンターFとパンターⅡはうちでは使わないですもんね。来年度はパンターG型を後期型の砲塔に替える予定ですもんね」

 

 全く、こいつらは言いたい放題なのだ。

 

 こいつらとは小学生からの付き合いだ。

 

 西住流で一緒に苦楽を共にし、付き合いが長いだけ在ってかクラスでも訓練でも私にいろいろと言ってくれる。だけど、私は一度だけ彼女達の救い手を拒絶した。

 

 みほもエリカも小梅も居なくなり、私は重圧に耐えられる自信が無かった。

 

 それに、彼女達を黒森峰のOG会の標的にされたくなかったし、黒森峰の戦車道を立て直す為に私は汚れる覚悟で膿を出す事に専念していた。

 

 そして、寂しさからレイラを副隊長にしたが本当はレンにしたかった。

 

 みほに叩き直されてからはレイラを大洗女子学園に転校させた。

 

 どの道、一年間は戦車道が出来ないのだ。

 

 戦車道が好きなレイラならエリカやみほの元でもやれるだろう。

 

 私達は休学した後、今の付属中の二、三年生が主力になるだろう。

 

 それに向けた訓練をして鍛えたいのだ。

 

 そんな矢先に、お母様からの緊急招集だった。

 

 みほと一緒に戦えるチャンスをくれたのだ。

 

 これが、最後のチャンスだ。

 

 

 

 

 私は来年度から黒森峰女学院にツェスカと転校する予定で日本に来ていた。そんな時、大洗女子学園の生徒会長角谷杏と出会ったのだ。

 

 事の発端は、転校先を見に行こうとツェスカと日本のホテルで宿泊した時だった。ホテルにある新聞には黒森峰女学院の戦車道が一年間の活動停止する事の新聞記事だった。

 

 私もツェスカも流石に活動停止には困った。

 

 次の希望先だった、ベルウォール学園にしようとしたが生徒の暴力事件と学園長の汚職で廃校が決まってしまった。そんな時、久しぶりに瞳から電話が在ったのだ。

 

 『エミちゃん、久しぶり』

 

 「えっ?その声、瞳なの?」

 

 『うん、そうだよ。エミちゃん、みほちゃんの話を聞いた?』

 

 「ゴメン、何も知らないわ」

 

 『まず、みほちゃんが黒森峰から転校したよ』

 

 「何か在ったの?」

 

 『詳しくはわからないけど、みほちゃんは優勝を逃して戦犯にされて、OGや戦車道の生徒から暴行やイジメに在ったらしいの。それで、数名の生徒と一緒に転校したみたい』

 

 「私とツェスカは姉妹校の黒森峰に転校予定だったけど、その様子だと他に在るわね?」

 

 『うん、今の黒森峰は危険だから辞めた方がいいよ。マウスの暴発事故で生徒が負傷したらしいけど、噂では副隊長争いの延長らしいってあるし、黒森峰の戦車道の生徒が原因なのかわからないけど転校が続出してる。流石にエミちゃんでも・・・・』

 

 「瞳はたしかベルウォール学園だったよね?」

 

 『うん、だったよ。私も友達と一緒に転校する事が決まったけど行き先がまだだよ。エミちゃん、良かったらだけど私達もエミちゃんに着いて行っても良いかな?学園の裏山に捨てられた、ティーガーⅠとヤークトティーガー(ポルシェ車体)、ヤークトパンター後期型が在るんだ。私と学園で出来た友達で自走が出来るまでは整備したから運ぶのを手伝って欲しい』

 

 「分かったわ。行き先が決まり次第連絡するわ」

 

 そして、瞳からの電話を切ると私が泊まるホテルの部屋の入口に立って居る日本人に気付いたのだ。

 

 「あんた何時から居たのよ?」

 

 「やぁ、やぁ、気にしないでくれよ。探し出すのに苦労したよ。アタシは中須賀エミちゃんとツェスカちゃんを迎えに来たんだよ。まずは自己紹介するよ。アタシは大洗女子学園生徒会長の角谷杏だよ」

 

 「大洗女子学園の生徒会長が私達に何か用かな?」

 

 「そうだねぇ、お願いかな。大洗女子学園に来て欲しい」

 

 だけど、ツェスカが角谷杏の表情の曇りを見逃さなかった。

 

 「ねぇ、あんた。何か隠しているでしょ?」

 

 「ツェスカちゃん、流石だね。学園艦管理局から帰って来たばかりだよ」

 

 確か、新聞には今年の戦車道大会で優勝したのは大洗女子学園だったはず。そして、その中にみほが居たのも知っている。ただ、生徒達の喜び方が異常に感じていたし、学園艦管理局と聞いて導かれる答えは一つしかない。廃校だ。そして、彼女は今、学園艦管理局から帰って来たばかりだと言う。

 

 私は意味が分かってしまった。

 

 一度は廃校を阻止が出来たが、今回は・・・・・

 

 「中須賀ちゃんは気付いたみたいだねぇ。まぁ、それとは別だよ。アタシがお願いしたいのは二人に巻き込む事に申し訳ないとは思う。だけど、西住ちゃんには心の傷が治らない内に巻き込んでしまった。逸見ちゃんには酷く噛み付かれたけど、それでも西住ちゃん達は期待に応えてくれた。だから、せめてのお礼で西住ちゃんと一緒にやって貰えればってね」

 

 瞳からの電話と角谷会長の話を聞いて私は答える事にしたのだ。

 

 「ツェスカ、一緒に来てくれないかな?」

 

 「えっ?何処によ!」

 

 「みほが困って居るなら、私は行くよ」

 

 「そうね。なら、私も行くわよ。エミだけでは行かせないわ」

 

 「ありがとうツェスカ。あと、角谷会長。ついでにですがベルウォール学園からも転校予定の幼なじみが居ます。それと、戦車輸送用に電車を用意出来ますか?」

 

 「手配するよ。整備班に取りに行かせるよ」

 

 「ありがとう」

 

 こうして、私とツェスカがベルウォール学園からは瞳達が大洗女子学園へ転校する事になったのだ。戦車も整備班が来て運び出し貨物列車に載せていた。

 

 

 

 私はお風呂の中でみほに今までの経緯を話したのだ。

 

 「エミちゃん、そうだったんだ」

 

 「でも、みほと戦車道が出来るなんて夢みたいね」

 

 確かに夢の様に思える。

 

 あれから、ドイツに行った後はみほと戦いたい一心で訓練に励み。そして、来年からは戦える喜びも在ったが、今はどうだろうか?

 

 みほには素晴らしい仲間、いや、友達に恵まれていた。

 

 訓練を見ていて判る。

 

 仲間と共に成長したのだと・・・・・

 

 「うん!エミちゃんに瞳ちゃんと出来て嬉しいよ」

 

 「でもね、本当ならみほと戦いたかったな。みほに最高な仲間が居るように私も最高の仲間でやってみたかった」

 

 「なら、エミちゃん!私とチームを組もうよ!私が装填手で渚ちゃんが砲手で優ちゃんが操縦手は喜多ちゃんがやるよ。だから組もうよ」

 

 確かに、瞳の提案は嬉しい限りだ。

 

 戦車は一人では動かせない。

 

 今日の訓練はアリクイさんチームと呼ばれるチームと組んで訓練を行って見たがしっくり来ない。なら、提案を受けてみよう。

 

 「ちょっと、待ちなさい!エミは」

 

 ツェスカが叫び、待ったを掛けていた。

 

 私も出来るならツェスカと組みたい。

 

 だけど・・・・

 

 そんな時、ツェスカに声を掛けたのは逸見だった。

 

 彼女も小学校は一緒だったし、今はみほのパートナーだ。

 

 「ツェスカって言ったわね。向こうでは何をしていたの?」

 

 「あなたは?」

 

 「副隊長の逸見エリカよ」

 

 「車長よ」

 

 「なら、カメさんチームの車長をお願いできかしら?」

 

 「車両はどうするのかしら?」

 

 「なら、新たに来たヤークトパンターなんてどうかしら?アンツィオのアンチョビと一緒ならチームが出来るわ」

 

 「せめて、パンターを使わせて欲しいわね」

 

 「あっ、そう言えば黒森峰からパンターF型が来てましたね。それでは、カメさんチームにはパンターF型を使って貰い、ヘビさんチームにヤークトパンターを使って貰いましょう」

 

 「みほ、師範がオーダーを出すように言っていたわよ」

 

 「あっ、忘れてた!」

 

 みほは慌てお風呂から出ると走って行ってしまったのだ。

 

 目の前には逸見エリカがいたのだった。

 

 ふと、目が合い

 

 「私に何か用かしら?」

 

 聞きたい事が沢山あるが、一つだけ聞きたいと思って聞いたのだ。

 

 「ねぇ、黒森峰でみほに何が行ったのよ?」

 

 「うん、私も知りたい」

 

 私と瞳はエリカを見ていた。

 

 「聞かない方が良いわよ」

 

 何故?

 

 「どうしてなの?みほちゃんに何が起きたのか、私もエミちゃんも知りたい」

 

 「そうね。事の始まりは去年の大会だったわ・・・・・」

 

 私と瞳はみほやエリカの身に何が起こったのか全て知ってしまった。

 

 エリカの背中に残る傷もその時の跡だと話していた。

 

 そして、三人で去る様に黒森峰から転校した事。

 

 大洗女子学園に転入してからの事も

 

 エリカが全て語ってくれた。

 

 最後まで話してくれたエリカの目には涙が流れていた。

 

 そして、最後に私に言ってくれたのは

 

 「エミ、瞳来てくれてありがとう」

 

 そんな顔で言われたら、急に恥ずかしくなり私は逃げる様にお風呂から出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





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作戦会議です!

 


 

 

 翌日、隊長と副隊長を中心に各車両の車長を集め、エミとツェスカによるドイツU20選抜チームの説明をすることになった。その前に、大洗女子選抜連合チームのオーダーはこのようになった。

 

 大隊長車 ティーガーⅡ(ポルシェ砲塔隊長カスタム)  あんこうチーム

 

      ティーガーⅡ(ポルシェ砲塔副隊長カスタム) ワニさんチーム

   

      ティーガーⅡ(ヘンシェル砲塔)       カメさんチーム  

 

      ティーガーⅠ前期型(黒森峰仕様)      西住まほ車

     

      ティーガーⅠ中期型            クマさんチーム

 

      ヤークトパンター             ヘビさんチーム

     

      ヤークトパンター             大学選抜選手車

 

      偵察戦車レオパルド            アリクイさんチーム

 

      偵察戦車レオパルド            カモさんチーム   

 

 

 中隊長車 センチュリオンA41型           レオポンチーム

  

      パーシング                ルミ車

 

      パーシング                メグミ車

 

      パーシング                アズミ車

 

      パンターF型               アヒルさんチーム

 

      パンターF型               ウサギさんチーム

 

      パンターF型               カバさんチーム

 

      パンターF型               大学選抜選手車

 

      M-24チャーフィー(変更後パンターⅡ)   大学選抜選手車(変更後飛騨楓車)

 

      M-24チャーフィー            大学選抜選手車

 

 

 中隊長車 IS-3                  朽木車

        

      IS-3                  カツコフ車

 

      IS-3                  ジェーコフ車

 

      IS-3                  カチューシャ車

 

      IS-3                  大学選抜選手車

 

      ISU-152                 大学選抜選手車

 

      パーシング (変更後T-29重戦車)       ケイ車

 

      ISU-152(変更後トータス)         ダージリン車

 

      BT-42(変更後ISU-152)           島田ミカ

 

      Ⅲ号戦車J型               大学選抜選手車

 

 「これが、大洗女子選抜連合チームのオーダーです。戦車に関してですが、大洗女子学園、黒森峰女学院、プラウダ高校、サンダース大学付属高校の車両を使います。作戦会議ですが、エミ選手とツェスカ選手からドイツ代表U20選抜チームの車両や隊長の説明をしてもらいます」

 

 「Hey!みほ良いかしら?」

 

 「わたくしもよろしくて?」

 

 オーダーに手を挙げたのはケイとダージリンだった。

 

 「ケイさんにダージリンさんどうかしましたか?」

 

 「アタシから行くわね。私達の車両だけど、パーシングから変更して来年度から導入予定の先行試作型のT-29重戦車を使うわ」

 

 「わかりました。では、ダージリンさん」

 

 「わたくし達もプラウダ高校のISU-152ではなく、せっかくですからトータスに変更させて貰いますわね」

 

 「わかりました。そのように変更します」

 

 「なら、私達も良いかい?ISU-152が空きになるなら私達が使うよ」

 

 ミカさんがBT-42からISU-152に変更したのだ。

 

 これで、纏まったのだ。

 

 ホワイトボードに張られた車両の割り振りと選手の割り振りが書かれた表を張り出していた。それでも、選手の足りない車両には大学選抜の選手が入る様に手配されて空席がない様になっていた。みほが説明すると、前に出て来たのはツェスカとエミだった。

 

 「説明が在った様私達はU20選抜チームに入る予定でしたが隊長や使用する戦車はわかります。今年の隊長は黒森峰女学院と提携校の戦車道の隊長でマリア・ロンメルです。彼女はかのロンメル元帥の曾孫娘ですが、プロチームの隊長のバイパーを一騎打ちで倒す腕前の持ち主と高い指揮能力があります。副隊長にはチームで唯一の日本人で構成されたチームのリーダーの島田かのんが努めています。選抜チームが使用する戦車は全てEシリーズの戦車で構成され、火力、機動力、防御に優れあまり隙がないです」

 

 「Eシリーズだと!?あれは、設計図とE-100とE-25の車体にエンジン無しまでしか完成していない計画倒れの戦車じゃないか!」

 

 まほさんは何かに気付き叫ぶ。

 

 私も黒森峰に居たから判る。

 

 Eシリーズは設計図は在るがドイツが設計図を保管している戦車だ。日本に存在する資料では良いところ、E-100かE-25なら何とか作れるだろう。しかし、日本の戦車道ルールではレギュレーション違反になる。

 

 ところが、海外の戦車道ルールは意外と甘い。

 

 確か、ドイツでは設計図があればセーフだったはずだ。

 

 まさか・・・・・

 

 「はい、日本ではレギュレーション違反になりますが聖地ドイツです。向こうのスポンサーには戦時中にE計画を実行していた企業も在りましたので図面と設計図の入手は容易だと思います。西住師範に確認しますが、今回の試合は日本のルールですか?それとも、海外ルールですか?」

 

 西住師範が立ち上がり答える。

 

 「今回に限り、ドイツの戦車道ルールが適用される。従って、レギュレーションに限っては設計図があれば大丈夫だとの事だ。だが、大洗女子選抜連合チームは日本のルールを守る事が条件よ。本当、忌々しい役人だわ」

 

 「西住師範、ありがとうございます。一応、予見出来るドイツのU20選抜チームの編成よ」

 

 ツェスカがホワイトボードに張り出したのは予想されるドイツのU20選抜チームチームの編成表だった。

 

 

 大隊長車  E-75         マリア・ロンメル車

 

      E-75         ドイツ選抜選手車

 

      E-75         ドイツ選抜選手車

 

      E-75重駆逐戦車    ドイツ選抜選手車

 

      E-50         ドイツ選抜選手車

      E-50         ドイツ選抜選手車

 

      E-50         ドイツ選抜選手車

   

      E-50         ドイツ選抜選手車

 

      E-50駆逐戦車     ドイツ選抜選手車

 

      E-25         ドイツ選抜選手車

 

 

 

 中隊長  E-75         島田かのん車

 

      E-75         ドイツ選抜選手車

 

      E-50         ドイツ選抜選手車

 

      E-50         ドイツ選抜選手車

  

      E-50         ドイツ選抜選手車

 

      E-50         ドイツ選抜選手車

 

      E-50         ドイツ選抜選手車

 

      E-50駆逐戦車     ドイツ選抜選手車

 

      E-50駆逐戦車     ドイツ選抜選手車

 

      E-25         ドイツ選抜選手車

 

 

 中隊長  E-100重駆逐戦車   ドイツ選抜選手車

 

      E-25         ドイツ選抜選手車

 

      E-25         ドイツ選抜選手車

 

 

 

 中隊長  E-75          バイパー車

 

      E-50         ドイツ選抜選手車  

 

      E-50         ドイツ選抜選手車

 

      E-25         ドイツ選抜選手車

 

      E-25         ドイツ選抜選手車

 

      E-25         ドイツ選抜選手車

 

      E-100         ドイツ選抜選手車

 

 

 「このように、ドイツ選抜チームの編成はこうなる可能性があるわ。火力で危険なのはE-100重駆逐戦車の170ミリ戦車砲とE-75駆逐戦車の128ミリ戦車砲ね。後、数は少ないけど、E-50駆逐戦車には要注意よ!ヤークトパンターと違って、E-50駆逐戦車の主砲は105ミリ戦車砲で88ミリ戦車砲と思っていると痛い目に合うわ!E-75の車載砲はティーガーⅡと同じ主砲の71口径88ミリ戦車砲です。E-50はパンターF型と同じ70口径75ミリ戦車砲、E-25は駆逐戦車と書いてはいませんが、駆逐戦車と思って下さい。E-25にもパンターと同じ、70口径75ミリ戦車砲が搭載されていて、どの車両も危険なのは変わりません」

 

 ツェスカが選手達に資料を配りエミが説明していく。

 

 分かっているのは猛獣軍団がいかに危険だとは理解している。

 

 そして、みほから呼ばれたのは私だった。

 

 「大洗女子で唯一、E-100を見たことがある選手に説明してもらいます。エリ・・・逸見選手お願いします」

 

 確かに、大洗女子でE-100を見ている。

 

 「逸見エリカです。売却してありませんが、確かに大洗女子学園の船倉にE-100が在りました。それは、組み立て途中で砲塔と履帯を付けてない状態で発見されました。経緯は、私が西住みほ選手と赤星小梅選手の三人で大洗女子学園に転入直後に私の叔母で二十年前の大洗女子学園の戦車道の隊長だった飛騨茜により船倉の電子鍵を預かり、中身を確認する意味で私一人で船倉に行き確認しました。そこには、皆さんがご周知の通りに今の大洗女子学園の戦車道の主力戦車として使っている戦車群が鎮座していました。そして、一番奥に先程話したE-100が在りました。車両に関しては、砲塔や履帯がなく車体にエンジンや転輪が付けられた状態です。サスペンションに関してですが、ティーガーⅡと余り変わりませんが、積まれたエンジンが高出力な事から時速は40㎞は出る可能性があり、資料にも在るようにE-75は時速50㎞以上、E-50は60㎞以上、E-25に関しては今のMTB並の速度が予想されますが足回りの問題を抱えている事には変わりません」

 

 私は説明を終えて席に着席する。

 

 「何か、やばくない?」

 

 「私も勝てる道が見えないわ」

 

 「化け物ですわ」

 

 「あぁ、聖グロ一の俊足が・・・・・」

 

 説明を聞いた選手達は顔を真っ青にしていた。

 

 理由も判る。

 

 ドイツ選抜チームには過去に一度しか勝っていない。

 

 それも、U15選抜チームでのまほさん率いる選抜チームの時だけだ。

 

 あの時はパンターやⅣ号戦車が中心だったが、今回は終戦時に計画された戦車が中心だ。それでも、大洗女子選抜連合チームの最高速度を持つのは偵察戦車レオパルドだけだ。さらに、車体性能でも差が在るのに選抜選手という組み合わせにより状況的に悪化しているのだ。

 

 みほもそのことは重々承知しているだろう。

 

 後、作戦に必要なのは地形の把握だ。

 

 「西住師範、試合会場は何処ですか?」

 

 みほの質問に西住師範はニヤリと笑い答える。

 

 「みほ、会場ですが大阪の市街地です。大阪城を基点にユニバーサルスタジオジャパンまでを囲った36㎞の会場です。これは、家元会議で私達からのせめての意地です。大阪城、ユニバーサルスタジオジャパンを上手く使い勝ちなさい」

 

 「師範、ありがとうございます」

 

 みほが地図を師範から渡され、地図を見ながら黙り込んでいた。

 

 「スタート地点は通天閣だから、大阪城までは・・・・・ドイツの選抜チームのスタート地点は花博記念公園・・・・・」

 

 呟きながら、大阪市の地図を見て考え抜いて行く。

 

 そして、みほは口を開いたのだ。

 

 「皆さん、作戦が決まりました」

 

 「何なの?」

 

 「はい、大阪城を真っ先に取り、大阪城である程度まで抵抗します。作戦名は『速攻でお家に帰ろう作戦』です。今は、それを最優先に訓練しましょう」

 

 今日の作戦会議は終わりを見せた。

 

 

 翌日から各作戦に沿って実行するために、大阪城での籠城などを考慮して訓練が始まったのだ。

 

 そんな、厳しい訓練の最中に事故が起きたのだ。

 

 訓練をしていた場所は熊本城の三の丸だった。

 

 一両のフューチャーが石垣に沿って高速移動訓練中に転落事故を起こしたのだ。

 

 『『『『『キャァァァァァァ!?』』』』』

 

 私のティーガーⅡの無線からでも彼女達の悲鳴が聞こえて来る。

 

 「内法、事故よ!現場に向かうわよ!」

 

 「了解」

 

 転落現場に真っ先に着いたのはみほだった。

 

 「みほ!」

 

 「エリカさん!」 

 

 私もキュポーラからはい上がり、戦車から降りてフューチャーを見ると横に向いた状態で転落したのかと思っていたが、車体の状態から転げ落ちた様に思えたのだ。

 

 みほは急ぎ、フューチャーへ向かいハッチを開けて中を確認したのだ。

 

 ガチャ

 

 「皆さん、大丈夫ですか!」

 

 「痛い!」

 

 「腕がぁぁぁ!」

 

 「エリカさん救助が必要です!手伝って下さい!」

 

 「分かったわ!全員、降車!救助に入るわよ」

 

 私もみほとハッチに入ると頭を打ち気絶していて右腕があらぬ方向に曲がった車長、砲弾ラックから砲弾が足へ落下して下敷きになった装填手、側面にたたき付けられ腕を押さえて痛がる砲手、砲手と装填手の方に投げ出され気絶している操縦手と通信手の二人。

 

 ティーガーⅡのクリーニングロッドとボックスに入れてある毛布やTシャツ数枚を重ねて二本のクリーニングロッドを着せる様に通してで即席の担架を作りリレー方式で丁寧に一人づつ車外へと運び出す。出せば、私達のティーガーⅡには必ず救急箱が在るため応急処置が出来る。これは、西住流で学んだ時に怪我が絶えなかったから、教訓で黒森峰の時から継続しており大洗女子学園の戦車には必ずと言って良いほど積まれている。

 

 みほと小梅が手慣れた手つきで応急処置を済ませた頃には救急隊が来て負傷した大学選抜選手五人は近くの病院に搬送されたのだった。

 

 しかし、選抜連合チームに一チームの空きが出来てしまった。

 

 

 

 同時刻、熊本にて黒森峰女学院付属中と練習試合が終えた一行がいた。

 

 「来年の黒森峰女学院付属中、かなりヤバイわ」

 

 「そうだね。黒森峰女学院の戦車道が一年間の活動休止だから、付属中には厄介な戦車ばかり集まっていたよ。そう言えば、熊本城は何故か封鎖されてたね?」

 

 「詩織、知らない?今日は熊本城を使って選抜連合チームが訓練してる見たいだよ」

 

 「霞ちゃん、そうだったの?」

 

 「そう言えば、楓が言っていたね。激しい訓練だから近付くなって」

 

 「お~い!」

 

 走って来たのは、楓ちゃんだった。

 

 「楓ちゃん、そんなに息を切らしてどうしたの?」

 

 「選抜連合チームで事故が起きたよ!霞と詩織で駐車場に停めたパンターⅡを持って来て!」

 

 まさかだと思いたかった。

 

 「まさか、行くの?」

 

 「当たり前よ!詩織、聞きなさい!校則は破るために有るのよ!先輩連中が選ばれたのに付属中からは誰一人も選ばれていないのよ!判る?」

 

 「楓ちゃん、それは判りたくないよ!選ばれてもいないのに、行ったら間違いないく角谷学園長や西住師範、島田師範にキツイお説教があるよ!」

 

 「おっ、何時もの夫婦喧嘩だな」

 

 装填手の村雨ちゃんが私と楓ちゃんを弄り始めたのだ。

 

 「「違うわよ!」」

 

 「ほら、息もピッタリ」

 

 「村雨ぇぇぇ!」

 

 「怖い怖い。隊長、行くんでしょ」

 

 「もちろん行くわよ。今、集まれるメンバーは?」

 

 「えっと、今ここか近くに居るのが私こと村雨とパンターを取りに行った詩織と霞、霞の双子の妹のさつきかな?」

 

 「丁度、五人だね」

 

 「じぁあ、パンターⅡが来たら行こう」

 

 「結局、止めても無駄だね。楓ちゃん、私も行くからパンターⅡを取って来るね」

 

 私は霞ちゃんとパンターⅡを駐車場まで取りに行き、楓ちゃん達と合流して熊本城へ向かったのだ。幸い、霞ちゃんが戦車運転免許証を持参していた為、捕まる事もなく熊本城へ入る事が出来たのだった。

 

 そして、楓ちゃんは訓練中の大洗女子選抜連合チームに乱入したのだ。

 

 「認めて貰えないなら、乱入するよ!霞!あの青い三角のマークの付いたパーシングをやるよ!」

 

 「了解!」

 

 パンターⅡのエンジンを吹かしパーシングに突撃したのだ。

 

 『付属中のパンターⅡは誰が乗ってますか?』

 

 「楓ちゃん!みほ総隊長から通信が来てるよ!」

 

 「まずくない?」

 

 砲手席に座るさつきが言ってくる。

 

 「解ったわよ。こちら、大洗女子学園付属中の隊長飛騨楓よ!」

 

 『どうして、選抜連合チームに楓ちゃんが来ていますか?』

 

 「事故が起きたと聞いて来ました!」

 

 『どうしてですか?』

 

 楓ちゃんは咽頭マイクに叫んだ。

 

 「私達も大洗女子学園付属中ですが、大洗女子学園の一員です!」

 

 『判りました。大隊長権限で参加を認めます。来てくれてありがとう。選抜から漏れた選手は帰ってますので助かります。ですが、西住師範と島田師範のお説教は覚悟して下さい』

 

 私達も大洗女子選抜連合チームとして参加したのだ。

 

 

 

 

 

 場所が変わり、ロシアのウラジオストク駅

 

 その駅はシベリア鉄道の東の始発列車が出る駅だ。

 

 そこの貨物ホームにはダークブラウンに染められた戦車達が次々て整備担当の者達によって貨物列車から降ろされていた。その貨物列車の長さもさることながらもその数は約70両編成だった。その内、30両は客車になっておりこの列車は第二便である事は集積所に駐車された戦車を見れば判る。

 

 「閣下、全車両は集積所に待機させました」

 

 「報告ありがとう。日本の皆さんには驚いて貰いましょう。そして、ドイツが世界一だと知らしめるのです」

 

 「ヤッボール!」

 

 「閣下、久しぶりです」

 

 「先見隊の指揮はありがとう島田かのん。日本人なのに良くやるわ」

 

 私の前に唯一の日本人チーム島田かのん副隊長がいる。彼女は二年前のリングオブファイヤーで優勝した後、ドイツにチームで渡り戦車道を深く学んだ。それは、私の叶う技量、指揮を持つ彼女はドイツ選抜チームの主力だろう。

 

 そして、もう一人。

 

 「しっ、島田かのん!何故、貴様がいるのよ!」

 

 「あっ、バイパーちゃん!」

 

 「こら、抱き着くな!」

 

 かのんに抱き着かれるのはもう一人の副隊長のバイパーだ。

 

 彼女も、ドイツ人と日本人のハーフだがあの年齢でプロチームに入り、去年は隊長として島田流のチームの隊長島田愛里寿に勝っている。そして、かのんと同じく連合チームとしてリングオブファイヤーに参戦して卒業しない内にドイツに来て戦車道を学んだ。

 

 二人は私の頼れる副隊長だ。

 

 本来なら、もう五人参加するはずだったが二人が日本に転校している。

 

 私は集積所に鎮座する戦車群に酔いしれた。

 

 「素晴らしい眺めだ」

 

 これから、日本選抜チームを蹂躙するのだから・・・・・

 

 「閣下、総員配置に付きました」

 

 私は時計を確認して迎えの大型輸送艦が来ているのを確認したのだ。

 

 「よし、これより輸送艦に乗船!ウラジオストクから舞鶴に向かい、陸路で会場の大阪に向かう!戦車前進!」

 

 私のE-75に乗り、輸送艦へと乗り込んだのだ。

 

 そして、戦車群の裏にはバラバラにされた攻城兵器の巨大戦車がトレーラーに載せられていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

      




 次回からやっと、大洗女子選抜連合チーム対ドイツU20選抜チームの激戦です。

 感想をお待ちしています。


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激戦です!大阪城の攻防

  
 とうとう、始まりました。大洗女子選抜連中チームとドイツU20選抜チームの大阪決戦です。


 

 午前、9時になると大阪城公園には審判を挟み、大洗女子選抜連合チームとドイツU20選抜チームが並んでいた。ただ、気になるのはドイツU20選抜チームの人数の多さだったが・・・・・

 

 日本戦車道連盟では久しぶりの対外試合が大洗女子学園の廃校を賭けた戦いに全国の戦車道の選手や連盟加盟校が注目しており、この大阪はかつてリングオブファイヤーの決勝戦をやった場所でもある。去年まで街中にラーテが放置されいたが、やっと行政が解体して撤去が終わっている。

 

 生まれて初めてラーテの実物を見た時の興奮とまほさんが黒森峰にも導入したいと騒ぎ、レギュレーション違反だからと説明しながら止めに入ったのは私達三人の良い思い出だ。

 

 私もみほ達のあんこうチームの隣に一列に並び、みほを見守っていた。

 

 エルヴァンが被るような制帽に黒いコート着込んだ金髪にロングヘアーに瞳が透き通る青い瞳一人の少女は隊長だろう。私にも聞こえる様に流暢な日本語で一言だけ言っていた。

 

 「貴女が隊長の西住みほね」

 

 「はい、西住みほです」

 

 「先に言っておくわ。貴女達を蹂躙してやるわ」

 

 「!?」

 

 『では、大洗女子選抜連合チーム対ドイツU20選抜チームとの試合を始める!一同、礼!』

 

 審判長の蝶野さんの号令に全員が挨拶をして試合が始まった。

 

 時計は9時半を過ぎ、スタート地点の通天閣付近の公園に待機している。

 

 私達の中隊は隊長及び大隊長は西住みほで中隊名はひまわり中隊で副隊長は私、逸見エリカとみほの幼なじみの中須賀エミが勤めている。そして、大洗女子選抜連合チームは作戦に従い大阪城へと進路を取っていた。

 

 『各車前進、チューリップ中隊、スズラン中隊は各作戦に従って大阪城を目指して下さい。私達、ひまわり中隊は県道30号線を北上して大手門に向かいます』

 

 「ワニさんチーム、了解よ」

 

 『『『『了解』』』』

 

 『こちら、レオポンチームだ。チューリップ中隊は天王寺から一号阪神高速に入り高速移動中。森ノ宮に向けて進攻開始』

 

 『こちら、朽木車よ。スズラン中隊は本丸の内堀と外堀を管理する水門がある大川に向かっているわ。行きながら橋を二本と水門を破壊した後、ひまわり中隊へ合流するわ』

 

 『判りました。皆さん、無理はしないで下さい』

 

 三中隊はそれぞれの目的に添い、大阪城へと向かった。

 

 

 

 

 

 私達、スズラン中隊は大川にある大阪城の外堀と内堀の水の源である大川に面している水門を破壊する任務を受けていた。ただ、破壊するだけではなく大川に架かる橋を落とす事も忘れてはいけない。今の大阪城の全てのお堀は空堀で二年前のリングオブファイヤーで一度は水が入ったが再び空堀にされている。

 

 空堀だけならまだ良い。

 

 防御する側になれば判るが、外堀と内堀には戦車が上り下り出来るスロープがある。それを使われたら、大阪城で籠城する意味が無くなる。そして、大阪城に架かる石橋も四ヶ所の内三ヶ所は落とす事になっている。

 

 そのためのスズラン中隊だ。

 

 水さえ入れてしまえば、三方向はお堀で護られている事になる。

 

 そして、大川に架かる橋の内一つには市外へ抜ける水運があり、その水門を破壊する事にもなっていた。水門を破壊してしまえば東側と北側は溢れた水で地面がたんぼの様になるので、足を取られたら良い的になる。

 

 私もプラウダ高校を卒業と同時に朽木流の家元に就任したが、このような作戦は聞いたことがない。西住みほ・・・・・将来が末恐ろしい。

 

 水門を破壊する作戦を聞いて、私はぞっとした。

 

 水門が破壊されれば、お堀の中にもしも味方も相手が居たら濁流に飲み込まれるだろ

 

 それだけでなく、大阪城に籠城する作戦はそもそも危険極まりない。だが、水門と石橋を破壊する事で難攻不落の要塞に早変わりする事は確かだが・・・・・・

 

 

 

 私は朽木流家元の一人娘だが、お母様は私が家元に就任させる理由が二人目が欲しくて妊活したいから任せたと言うのだ。

 

 いい加減である。

 

 それでも、元知波単学園の隊長だったと聞いて呆れるが・・・・・

 

 そもそも、まだ、大学生の私に家元は早計ではないかと思ってしまう。

 

 しかし、お母様は何かに脅えていた。

 

 大洗女子学園が戦車道を復活させたと知った日から・・・・・

 

 聞けば、まだ、四十代前半のお母様が何故、脅えているのかが分からない。

 

 それよりも、目の前の事に集中しよう。

 

 

 

 「こちら、朽木車よ。後5分で水門に到達します。ひまわり中隊、チューリップ中隊は到達したか?」

 

 『こちら、ひまわり中隊隊長車のあんこうチームです。あと二分で大手門に到達します」

 

 『チューリップ中隊の隊長車のレオポンチームだ。阪神高速の森ノ宮を降りた所でバイパーの中隊と遭遇、応戦中』

 

 『こちら、大隊長のみほです。レオポンチームはそのまま、市街地に相手を誘導して下さい』

 

 『誘導は不可能。バイパーの中隊は全てE-50で統一されていて最高速度は60㎞は出ている。パンターF型の45㎞では直ぐに追いつかれる。スズラン中隊、水門の破壊を早めてほしい。このまま、外堀内へ入り城内へ待避。バイパーを迎え撃つ』

 

 「了解。スズラン中隊は急ぎ、水門を破壊する」

 

 私達は急ぎ水門へと進攻して、スズラン中隊が大川の水門に到達して待ち構えていたのはE-100重駆逐戦車とE-25が二両の三両編成の小隊だった。しかし、こちらも重戦車対策は怠っていない。

 

 「再び、スズラン中隊からひまわり中隊へ敵と遭遇。車種E-100重駆逐戦車が一両、E-25が二両の編成。これより、殲滅します」

 

 『ひまわり中隊、了解しました。こちらも、大手門でE-75とE-50で構成する敵と遭遇しました。橋と門を破壊次第、ひまわり中隊は大阪城へ突入します。スズラン中隊は排除が終わり次第水門を破壊して下さい』

 

 通信を聞く限りではひまわり中隊もチューリップ中隊もドイツU20選抜チームの中隊や小隊と遭遇戦になった様だ。しかし、こちらもE-100重駆逐戦車とE-25の三両が水門を守っていたなんて・・・・

 

 私にはE-100重駆逐戦車が化け物に見えた。

 

 迫り来る三両。

 

 放たれる主砲

 

 最初に吹き飛んだのは大学選抜選手が乗るIS-3だった。

 

 『キャァァァァ!?』

 

 「ヒッィ!?」

 

 直撃したIS-3は宙を舞い、主砲がへし折れ、縦に転がりながら私の乗る戦車の脇を掠めながら後ろへと吹き飛んで行ったのだ。思わず、小さな悲鳴を上げる。

 

 それを見た私は、170ミリ戦車砲の威力はIS-3の装甲など紙切れに等しいと思い萎縮したのだ。

 

 そんな時だった。

 

 『トゥルータ!』

 

 私を狙っていたE-25がISU-152の主砲の直撃を受けていきなり吹き飛んだのだ。

 

 『朽木中隊長、ちょっと良いかい?』

 

 ISU-152に乗る継続高校の生徒からの通信だった。確か、愛里寿お嬢様の姉だったはずだ。

 

 「ミカさんありがとう」

 

 『そんなに萎縮して、君に意味は在るのかい?私には意味は在る。大切な妹の学園を守る為に風に流されて来たんだ。だから、私達にあの二両を任せて欲しい。朽木中隊長には大切な意味を成して欲しい』

 

 『ミカに遅れるんじゃないわよ!ノンナ、クラーラあんなでかい奴やってしまいなさい!ミカ、あんたがまた盗まない様に見張って上げるわ!』

 

 『そうかい?うちには、ISU-152があるから遠慮したいんだけどね。出来るなら、君が乗るIS-3が欲しいかな?』

 

 『やっぱりミカは信用出来ないわ!行くわよ!てっ、ノンナ、クラーラ日本語で喋りなさいよ!』

 

 『白百合、突撃!水門を破壊する為に血路を開く!』

 

 

 ミカさんが乗るISU-152は加速して、E-100重駆逐戦車とE-25に突撃していく。それに続く様にカチューシャが乗るIS-3とカツコフ、ジェーコフが乗るIS-3が援護していた。残された、私はこんな我の強い連中を纏めなくてはいけない事に今、気付いたのだ。

 

 『朽木中隊長、ちょっとよろしくて?』

 

 『はい?』

 

 今度は聖グロのダージリンとサンダースのケイからだった。

 

 『わたくしとケイは水門に到達致しましたわ。ご命令を下さいます?』

 

 『いつでも、行けるわよ!水門には劣化ウラン弾でもお見舞いして上げるわ!』

 

 いつの間にか、姿を消していたトータスとT-29重戦車が水門に到達して砲撃準備を終えて指示を待っていた。

 

 「もう、やっちゃって下さい!」

 

 やけくそ気味いや、完全にやけくそだった。咽喉マイクに叫んだのだ。

 

 

 

 少し遡る事、阪神高速森ノ宮出口。

 

 私のチューリップ中隊は素早く東門に行かなくてはいけない。

 

 三つの中隊で最速を誇るチューリップ中隊の主力はパンターF型とパーシングだ。

 

 しかし、私のセンチュリオンに砲撃が襲う。

 

 「急停止!」

 

 急ブレーキで停止。

 

 砲撃は直撃せずに側道に着弾するだけだが、目の前にはE-50が待ち構えていたのだ。

 

 キュポーラから半身を出してチュッパチャップスを舐めながら私を睨む少女には覚えがあった。去年、私を瀕死の重傷を負わせたバイパーだった。

 

 「ヒッィ!?」

 

 思わず、小さな悲鳴を上げる。

 

 苦しくなる胸、荒くなる息遣い。

 

 込み上げて来る胃液・・・・

 

 甦る、あの時の記憶。

 

 

 

 十五両の重戦車による一斉射撃で凹むセンチュリオンの砲塔や車体。

 

 内部の特殊カーボンの破片が私達、乗員を襲い来る光景。

 

 気付けば、照準器に頭をぶつけて顔中が血まみれで白目を剥いたまま気絶する砲手に着弾によって車内でピンボールの様に跳ねた事で腕と足の骨が折れ違う方向に曲がって『ギャァァァァァ痛い!助けて!』と女性が出してはいけない声で叫ぶ装填手。通信手の席は前面が潰れ、うめき声を出しながら助けを求める通信手、前面装甲が潰れた事でハンドルに胸を挟まれもがき苦しむ操縦手。

 

 私は辛うじて意識が在るけど、右腕が途中で折れて白い何かが肉を突き破って垂れ下がり、足も折れて逆に向いていた。背中も痛くて辛うじて動く左手で触ると装甲材が刺さっていた。気付けば、私がいた車長席は血の池を作っていたのだ。試合による興奮と負けたくない意志からなのかアドレナリンが大量に分泌していたから痛みはあまり感じなかった。だけど、それに気付いた私は意識を失っていた。

 

 気がついた時は三週間後の病院のベッドの上だった。

 

 「んっ・・・・・・」

 

 「あっ、愛里寿ちゃん!?うっぐぅ・・・・ごめんね・・・・ごめんね・・・・ママが無茶な試合を組んだばかりに・・・・あぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 「愛里寿!良かったよ。無事で・・・・・」

 

 意識を戻した私を見た時、初めて見るお母様の泣き顔に普段は絶対に泣かないお姉ちゃんは静かに涙を流していた。

 

 「お母様、ここは?」

 

 「愛里寿ちゃんは瀕死の重傷でサンダース大学付属病院に運ばれたのよ」

 

 お母様に聞いたら瀕死で意識不明の状態で搬送され、三十時間に及ぶ大手術だったらしい。

 

 聞きたくないが仲間が気になった。

 

 そして、聴いてしまった。

 

 「お母様、皆はどうしたの?」

 

 「ごめんなさい・・・・・愛里寿ちゃんの仲間は今は病室で寝てるわ。でもね、四人とも戦車道を辞める事になったわ。余程、砲撃に晒されたのが怖かったのね。PTSDを発症して戦車には二度と乗れないわ」

 

 それを聞いた瞬間、私は真っ暗になった。

 

 私が戦車道を始めてからずっと一緒に苦楽を共に訓練した仲間はこの怪我が原因で戦車に乗ることの出来ないトラウマを抱え引退してしまった。

 

 「私のせいだ・・・」

 

 「愛里寿ちゃん?」

 

 「愛里寿?」

 

 壊れていく私の心。

 

 私が無茶をせずに降伏していれば・・・・・

 

 違った未来だったかも知れないのに・・・・

 

 「あっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 心が壊れると同時に私は病室で叫んでいた。

 

 「愛里寿、ゴメン!」

 

 ブッスゥ

 

 「えっ、お姉ちゃん・・・・・・・」

 

 私はお姉ちゃんに鎮静剤を打たれ、意識を手放した。

 

 あれから、半月程で病院を退院。

 

 あの日から戦車窃盗騒ぎまでは、お姉ちゃんに一度も会っていない。

 

 中途半端に壊れた心。

 

 お姉ちゃんに対する怒り。

 

 壊れるなら完全に壊れて欲しかった。

 

 そして、心を癒す為にボコミュージアムに遊びに行ったらみほとエリカに出会い、私はリハビリをかねて大洗女子学園に編入した。

 

 

 

 再び、それが脳内にフラッシュバックして来るのだ。

 

 今度は自動車部の皆になってしまうのではないかと・・・・

 

 大好きな、皆をまた失うのではと・・・・・

 

 

 そして、私の精神状態を逆なでする様に舐めていたチュッパチャップスを口から出してバイパーは叫ぶ。

 

 「チュウ・・・パァ・・・久しぶりね。また、病院送りにされに来たかな島田愛里寿ちゃん?それとも、棺桶に入りたい?クスクス・・・・どちらにしても、蹂躙よ!」

 

 正直、言えば逃げたい。

 

 この場から逃げ出したい。

 

 でも、私は逃げてはいけないのだ。

 

 私が心から安息出来る、あの大好きな学園を守りたいのだ。

 

 だから、逃げない。

 

 去年の試合に負けていじけて、瀕死の重傷を負ったからって怯えきった私ではないのだ。

 

 だから、決めたのだ。私もボコの様になってやろう。

 

 だから、ボコの様に何度でも立ち上がり立ち向かってやるのだ。

 

 「「「「愛里寿大丈夫!」」」」

 

 チームメンバーの自動車部の皆が付いている。

 

 優しくてまるでお姉ちゃんの様に暖かくて、初めて出来た友達のみほが居る。

 

 ツンデレだけど、私の好きなハンバーグを作ってくれるエリカが居る。

 

 何時も寂しい時に抱きしめてくれる小梅がいる。

 

 そう、今の私には頼れる仲間がいる。

 

 大好きな大洗女子学園の仲間が居る。

 

 だから、余計に負けられないのだ。

 

 みほ、エリカ、小梅ごめんなさい。

 

 私はみほに通信を入れる。

 

 『チューリップ中隊の隊長車のレオポンチームだ。阪神高速の森ノ宮を降りた所でバイパーの中隊と遭遇、応戦中』

 

 『こちら、大隊長のみほです。レオポンチームはそのまま、市街地に相手を誘導して下さい』

 

 出来ない訳ではないが、嘘を付く事にしたのだ。

 

 『誘導は不可能。バイパーの中隊は全てE-50で統一されていて最高速度は60㎞は出ている。パンターF型の45㎞では直ぐに追いつかれる。スズラン中隊、水門の破壊を早めてほしい。このまま、外堀内へ入り城内へ待避。バイパーを迎え撃つ』

 

 『了解!』

 

 私は誘い出すべく賭けにでる。

 

 「私の下知従え。アヒルチーム、カバさんチーム、ウサギさんチームは発煙弾で煙幕を展開」

 

 『『『了解』』』

 

 「楓車はあの糞貧乳糞チビ野郎に挑発して外堀内に誘導。どんな手を使っても構わない。必ず釣れ」

 

 『愛里寿、今日は気が合うわね。あの糞チビは任せて!必ず釣ってくるわ』

 

 「任せた。メグミ、ルミ、アズミ、伊藤車は私と一緒に協力して中隊長車の取り巻きを一掃する」

 

 『『『『了解』』』』

 

 「では、私の下知に従い作戦開始」

 

 私の戦いが切って開かれた。

 

 

 

 

 

 同じ頃、大手門前

 

 大手門の向かい側にはひまわり中隊を待ち受ける中隊が合った。そして、三人の車長はそれぞれを睨んでいた。一人は私とお姉ちゃんを睨み、もう一人は、エミちゃんを睨み、最後は始めて見るかもれしない。エリカさんを睨んで待ち受けて居たのだ。

 

 「貴女達姉妹が西住姉妹ね!私は島田かのん!」

 

 E-75のキュポーラから立ち上がり、私とお姉ちゃんを睨む。

 

 「私が西住まほだ!」

 

 「西住みほ」

 

 私は叫びながらも、その少女に恐怖した。

 

 まるで、カツコフちゃんの様に凛としており、一言一言に力を感じていた。

 

 戦いを始めたのはお姉ちゃんだった。

 

 「みほ、私がやる。島田かのん、私と一騎打ちだ!」

 

 ティーガーⅠの主砲が火を噴いたが前面装甲で弾かれ、彼女も叫ぶ。

 

 「いえ、貴女達姉妹で掛かって来なさい!じゃないと・・・・」

 

 E-75の主砲が火を噴き、私達の戦車ではなく撃ち抜かれたのは側面を晒していたカモさんチームが乗る偵察戦車レオパルドだった。

 

 「カモさんチーム、大丈夫?」

 

 沙織さんが安否を確認する。

 

 『三人とも大丈夫です!』

 

 一安心して、私も叫ぶ

 

 「お姉ちゃん!」

 

 「判った!」

 

 「麻子さん、駐車場にE-75を誘導します」

 

 「隊長、任せろ」

 

 「カメさんチーム、三両は駐車場に行きます。ひまわり中隊の指揮を任せます」

 

 「西住ちゃん、任されたよ」

 

 私のティーガーⅡとお姉ちゃんのティーガーⅠは島田かのんのE-75を連れ、外堀の外にある駐車場に逃げる様に誘導したのだ。

 

 

 

 みほがE-75と対峙している間、私は目の前の人物に目を疑った。

 

 「エリカ、私は散々忠告したわよね?」

 

 容姿は髪の色以外似ているが間違いなく姉さんだ。

 

 「はぁん、知らないわよ」

 

 私はさっぱり分からない。姉さんだって、好き勝手にドイツに留学したくせに・・・・

 

 「去年の試合は見たわよ。意識の無い、エリカが搬送される姿に私はどんだけ心配したか判るの!怖かったわ。可愛い、妹が死んじゃうって思うと」

 

 「私はみほと一緒に戦車道がしたいだけよ!姉さんには分からないわよ!ずっと、憧れ、ずっと一緒に居られる様になった私の気持ちなんて判って欲しくないわ!」

 

 「寄りによって、西住流の恥さらしの妹と一緒なのが気に喰わないのよ!エリカを助けてくれたのは感謝している。でも、同じ西住流で試合をやりたかった私の気持ちも分かりなさいよ!この愚妹が!」

 

 私は主砲を撃たせまいと、姉さんが乗るE-50に体当たりする。

 

 「あんたねぇ!姉さんだろうとみほを馬鹿にするのは許さないわよ!」

 

 「キャァ!?体当たりじゃなくて主砲を撃ちなさいよ!」

 

 私と姉の姉妹喧嘩の始まりだった。

 

 

 

 本来なら、みほと戦う事になっていた試合でもあり、マミお姉ちゃんと一緒に戦う試合だった。

 

 目の前にいるのは判る。

 

 マミお姉ちゃんだ。

 

 やっぱり、怒って居るよね。

 

 いや、お姉ちゃんはまほさんにも睨んでいた。

 

 やっぱり、再戦したかっただろう。

 

 「お姉ちゃん!」

 

 「あら、エミじゃない。ドイツに居ないと思ったら大洗に行ったのね?」

 

 「そうよ!私はみほとの約束を果たしたいから。一緒に戦車道をやろうって言ったから」

 

 「エミ、言いたい事はそれだけ?」

 

 「そうよ」

 

 「なら、続きは戦車道で語るわよ!」

 

 私と姉さんの戦いが切って開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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それぞれの戦い

 結構、難産だった・・・・


 

 砲撃に晒されながらも全力で逃げるパンターⅡのキューポラには拡声器を片手に叫ぶ少女に言われた事に激怒し、それを追うツインテールの少女。東門の外では中隊長車の引き離しに成功し、三両のパンターFが煙幕を展開して煙幕の中を一両のセンチュリオンを先頭に一両のパンターと三両のパーシングが突入していた。

 

 隊形を崩されたE-50の群は一人のリベンジを果たそうとするセンチュリオンを駆る少女と同門でパーシングを駆る三人の先輩の独壇場だった。

 

 それでも、煙幕を使い果たした三両のパンターもE-50の側面を狙い再突入を果たすが相手がドイツU20選抜選手だったために二両のパンターF型が逆にE-50に主砲を叩き込まれ、白い旗を上げるオブジェクトに早変わりしていた。そして、同門の二人の先輩にも言えたのだ。

 

 そんな、状況を私は観戦席のモニターを見ているのではなく、何故、愛里寿お嬢様の操縦手として居ない事に悔しくて堪らない。

 

 お嬢様には心配されると思い言ってなかったが、私はあの試合で右足を煎餅の様に潰された事で二度と右足は動かない。そして、私は一生杖がなくては歩く事もままならない。

 

 「悔しい・・・・」

 

 それ以上にお嬢様の無理難題な指示を応える操縦手の腕に私は舌を巻くばかりだ。

 

 あれは、天才の分類に入るのだろう。

 

 確か、インターネットの紹介にはツチヤと大洗女子学園戦車道のプロフィールにはある。

 

 「内海、来てたのね」

 

 脇から声を掛けられ振り向くと、私と同じくお嬢様の専属砲手だった高橋だった。

 

 彼女も顔に一生残る傷を作り、今は島田流で経理を任されている。

 

 「高橋、久しぶりね。戦車には乗れなくなると、こんなにも悔しく感じるんだね」

 

 「そうね。私もあの恐怖からは立ち直れてないの。でも、戦車が好きだから経理として家元に雇って貰ったわ。それにしても、お嬢様は変わったわね。以前より、強くなられた。そして、私達ではできなかった笑顔も増えたわね」

 

 「認めたくないけど、そのようね。この試合は出来るならお嬢様の為に出たかった・・・・・・」

 

 「そうね。私もお嬢様の為に出たかった。だけど、この傷を鏡で見ると怖い。堪らなく怖いの」

 

 高橋は自分を抱きしめる様に怯えていた。

 

 「それより、この試合・・・・」

 

 「長くなるわね」

 

 確か、大洗女子選抜連合チームの隊長は大洗女子学園の戦車道の隊長をしている西住みほだったはずだ。最初から持久戦に持ち込む算段でもしているのかは本人でなくては分からないだろう。

 

 

 

 少し遡る事・・・・・

 

 ウサギさんチーム、カバさんチーム、アヒルさんチームが煙幕を展開しながら撹乱していく。

 

 「レオポンチームより各車へ。これより、相手中隊に対して撹乱させながら突入する」

 

 『メグミ、了解』

 

 『アズミ、了解』

 

 『ルミ、了解』

 

 『伊藤、了解』

 

 私のセンチュリオンは甲高いエンジン音を上げて、煙幕の中に突入していく。私はキュポーラから半身を乗りだし、周囲を見渡して行く。

 

 「レオポンチームより、メグミ、アズミ、ルミへ。これより、島田流突撃術を始める。最低でも、二両は撃破しろ」

 

 『『『了解』』』

 

 「伊藤車は私のレオポンチームの撃ちもらしを撃破しろ」

 

 『了解』

 

 『全車、突撃!』

 

 メグミ、アズミ、ルミの三両のパーシングが先に突撃して煙の外を横滑りしながら主砲を放って行く。私の車両も中央を全速力で突入し、メグミ、アズミ、ルミの三人のタイミングを合わせながら超信地旋回をしながら主砲を放ちE-50を屠る。中には、砲弾を弾く車両には後ろから来ている伊藤車が側面に主砲を叩き込み撃破していたが履帯を切られ動けなくなっていた。

 

 煙幕から抜けた、私のセンチュリオン。

 

 『メグミ、一両を撃破』

 

 『アズミ、同じく一両』

 

 『ルミ、すいませんやられました』

 

 『伊藤、履帯を切られたところをやられました』

 

 私が一両を撃破し、メグミ、アヅミが一両づつの計三両を撃破するだけなのに二両がやられた。さすがはドイツの選抜選手だと、私は思う。

 

 そして、煙幕の中で混乱したドイツ選抜選手が主砲を撃っているが、撃っている相手は仲間だと気付いて居ないだろう。

 

 だが、戦車道の試合では想定外がある。

 

 煙幕を使い果たした、カバさんチーム、ウサギさんチーム、アヒルさんチームが戻って来たのだ。そして、煙幕から抜けたE-50によりカバさんチームとウサギさんチームが二両のE-50によって撃破されたのだ。アヒルさんチームは気づき、急停車して回避して逆に主砲を叩き込み撃破していた。

 

 そして、煙幕の中で唯一残されたE-50もラッキーストライクをしたのだ。

 

 煙幕で周りが見えないからあてずっぽで主砲を乱射したのだろうか?

 

 『キャァ!?』

 

 「アズミ、どうした?」

 

 『すいません、やられました』

 

 「!?」

 

 アズミのパーシングは混乱したE-50が乱射する主砲の流れ弾に側面を叩かれ、白旗を掲げて居たのだ。直ぐに、私とメグミで残りの二両を撃破したのだ。前哨戦になる戦いで既にウサギさんチーム、カバさんチーム、アズミ、ルミ、伊藤の半数を失った事になる。

 

 私の失策だ。

 

 せめて、大阪城に篭るまでは減らしたくなかった。

 

 私のチューリップ中隊はメグミのパーシング、アヒルさんチームのパンターF型、楓のパンターⅡ、選抜選手の内藤のM-24の五両だけ。ならば、一番近いひまわり中隊にメグミ、アヒルさんチーム、内藤を送ろう。

 

 みほ、エリカ・・・・・ごめんなさい・・・・

 

 「メグミを指揮代行としてアヒルさんチーム、内藤はひまわり中隊へ合流し、あんこうチームに指示を仰げ。私はバイパーを倒しに行く」

 

 私は東門を潜り、楓が引き付けているだろうバイパーの元へとセンチュリオンと共に駆け抜けたのだ。

 

 

 

 同じ頃、外堀内では挑発に成功はしたが逆上したバイパーに追いかけられていた。

 

 「待ちなさい!その、牛乳(うしぢち)揉んでやるわ!」

 

 「ふん!貧乳に揉ませる胸はないわよ!やぁーい!チビ!貧乳!合法ロリ!」

 

 私は戦車の備品である拡声器で叫ぶ。

 

 バイパーは更に青筋を増やし、主砲を乱射して来る。

 

 「ムッカァァァァ!?また、言ったわね!」

 

 「何度でも言ってやるわよ!チビ!貧乳!見た目、小学生!」

 

 「ぶっ殺す!」

 

 バイパーが乗るE-50の主砲の砲弾が私のキューポラを掠める。

 

 「うっわぁ!?危ない!何すんのよ!この変態痴女!」

 

 バイパーの反応がおかしい。

 

 手をワナワナして私を涙目で睨んでいた。

 

 「そんな話、誰から聞いたのよ!それ、私の黒歴史よ!昔、かのんに野良試合で負けて、操縦手の竹内マリコに賭けの罰ゲームでM字開脚させられてシーシーポーズさせられた話よ!」

 

 彼女の完全な自爆だった。

 

 彼女は懐かしむ様にその操縦手にやられた事を顔を真っ赤にしながら話していく。

 

 どうやら、野良試合で負けたらしく賭けをしなければ良かったのにと私は引いていた。

 

 「うっわぁ・・・・マジだったんだ。マジ引くわ・・・」

 

 「なっ!?まさか、あてずっぽなの?」

 

 私は軽く頷くとバイパーは顔を真っ赤にしていた。

 

 「楓ちゃん、昔から人の黒歴史当てるの得意だよね・・・」

 

 詩織からも軽く引かれる私。

 

 それより、バイパーの様子がおかしい。

 

 「絶対、ぶっ殺す!お前を戦車から引き擦り出して戦車で引いてやる!そして、私も死んでやる!」

 

 まさかの心中宣言。

 

 私をミンチにしてバイパーも死ぬらしい。

 

 それだけ、恥ずかしい記憶だったらしい。

 

 これは非常に危険だ。

 

 「霞、全速力で逃げるわよ!」

 

 「楓、何処に逃げるのよ!」

 

 東門側に逃げるしかない。

 

 「東門よ!」

 

 「了解!」

 

 パンターⅡは更にエンジンを全開にして走り出す。

 

 「待ちなさい!絶対、ぶっ殺す!」

 

 逃げながら外堀内のスロープを駆け上がる。

 

 咄嗟に在ることを思い出し、村雨に指示を出す。

 

 「村雨、榴弾をタイマー信管に替えて私に頂戴!タイマーは10秒にセットよ!」

 

 「楓ちゃん、まさか、あれをやるの?」

 

 「時間が無いわよ!早く!」

 

 村雨は素早く榴弾をラックから抜き取り、工具片手に信管をタイマー信管に取り替える。砲弾の先にはピンが刺して私に渡した。

 

 「ピンを抜いたら、スタートだよ!」

 

 渡された榴弾のピンを抜くと石垣の隙間に投げ込んだのだ。

 

 「セットポジションから第一球振りかぶって、投げた!おりゃぁぁぁぁ!」

 

 力任せに榴弾を石垣に投げたのだ。

 

 「砲弾を捨てた!?」

 

 バイパーが驚くよりも早く離脱しないといけない。

 

 そんなことより、全速力でスロープを登り切り詩織が確認した愛里寿の場所へと逃げる。

 

 ドッゴォォォン

 

 タイマーが零を指し榴弾が爆発する。

 

 石垣は崩れバイパーのE-50を襲ったのだ。

 

 幸いだったのはバイパーはキューポラから半身を出していたが、崩れた石垣は起動輪を直撃し挟み込んだ事だろうか。しかし、起動輪の爪先は潰れており彼女の不幸を呼ぶ事になる。

 

 『待たせた』

 

 私にしたら天使でバイパーにしたら悪魔にでも見えたかも知れない。

 

 「丁度よ」

 

 『そう。楓が無事で良かった。バイパーは私がやる。楓は周囲警戒をお願い』

 

 気迫に満ちた、愛里寿を見ると手出ししてはいけない気がした。ただ、彼女はいつも以上に試合を楽しんでいるかの様にも見えた。なぜなら・・・・・

 

 『やってやる、やってやる、やってやるぞ!嫌なあいつをぼこぼこに 喧嘩は売るもの堂々と・・・・』

 

 最近、ボコの良さに気付き始めた私だから判る。

 

 歌を口ずさみ、何時も以上にエンジンが快調な音を奏でていたのだから・・・・

 

 スロープを登り切り、センチュリオンの前に止まるE-50

 

 「流石に、去年とは大違いね」

 

 「お前だけには負けない」

 

 「いえ、また、ぼこぼこにしてやるわよ!」

 

 「私はボコだから、負けない!」

 

 二人の戦車が動き出す。バイパーは先読みして予測射撃をするが、愛里寿はそれすらも先読みしてドリフト、超信地旋回で交わしていく。しかし、センチュリオンには不利だった。

 

 「くっ、早い・・・・」

 

 「最高速度は60㎞は出るのよ!センチュリオンなんて亀同然よ!」

 

 「なら、これはどう?」

 

 すれ違うと見せ掛けて、グリップを効かせて真横に体当たりをする。

 

 私はE-50の起動輪に異変が起きたのが判った。

 

 ギッギギィィィ

 

 潰れた爪先が履帯を噛み、履帯の穴から抜けなくなっていたのだ。履帯は起動輪が回る様に中へと食い込んでいった。張りすぎた履帯はどうなるか、戦車道をしている生徒なら当たり前に答えられるだろう。

 

 バッツン・・・・ジャラジャラ・・・・

 

 履帯が切れたのだ。

 

 切れた履帯は外れ、右回転するだけになった。

 

 「くっ!?履帯が切れたですって!?」

 

 「今!」

 

 センチュリオンの17ポンド砲が火を噴き、E-50はパーツをばらまき黒煙を上げる。

 

 「くそっ!負けた!」

 

 白旗を上げるE-50を尻目に愛里寿はリベンジを果たしたのだ。

 

 勝利を手にして・・・・

 

 「楓、これよりひまわり中隊へ合流する。私に続け」

 

 「了解」

 

 嬉しそうな声色に私も嬉しくなる。

 

 私は愛里寿のセンチュリオンを護衛しながらひまわり中隊がいる大手門へと向かったのだ。

 

 それと、同時に大阪城の外堀は水に満たされていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 大手門の外は未だに激戦の最中にあった。

 

 火を噴く、E-75にE-50、E-50駆逐戦車率いるドイツ選抜チーム。

 

 黒煙を上げる大洗女子選抜連合チームの戦車。

 

 一騎討ちで四両が抜けた穴は大きいのは正直わかる。だが、向こうも三両が抜けている。

 

 しかし、これでも六対七の不利な状況なのは変わらない。

 

 向こうにはバランス良く配備されていているのだ。

 

 向こうはE-75を指揮代行としてE-50、E-50駆逐戦車、E-25が配置されていて、既に装甲の薄いレオパルド二両は白旗を掲げたオブジェクトに代わっている。ただ、こちらもE-50を一両、E-25は意地で撃破したが、不利なのは変わらない。

 

 何か、手だては無いのか。

 

 何時もの角谷杏では駄目だ。

 

 あの頃の池田杏ではなくては・・・・

 

 私が座るのは砲手席だ。

 

 私が車長をすれば打開策はある。

 

 謹慎から解けたのだ。

 

 奴らにも、教えてやろう。

 

 戦車道の流派は西住流や島田流だけでは無い事を・・・・

 

 「ツェスカちゃんは車長の前は何してた?」

 

 「砲手よ」

 

 「そう。なら、あたしと交代」

 

 「はぁあ!?」

 

 ツェスカは驚いた表情であたしを見つめる。

 

 「千代美、柚子、桃あれやるよ」

 

 「杏、本気か?」

 

 千代美が冷汗を垂らしながらあたしを睨む。

 

 「池田流、突貫術『殴り込み』をやるしか無いみたいだねぇ」

 

 「判りました。私は頭をぶつけても良いようにヘルメット着用だね」

 

 柚子は何も疑いもなくヘルメットを被る。

 

 「ツェスカも被りなよ。かなり荒く行くから」

 

 ツェスカも驚きながらも、ヘルメットを被る。

 

 「ヘルメットを被るって、異常よ!」

 

 「ツェスカちゃん、気持ちも判るかけど、今は池田杏だから」

 

 あの頃の目付きでツェスカを軽く睨む。

 

 顔を真っ青にしながら渋々砲手席に座る。

 

 「カメさんチームからヘビさんチームと選抜選手へ。これから、カメさんチームが突撃を敢行するから援護射撃をよろしく」

 

 「了解」

 

 「了解」

 

 「千代美、榴弾装填。ツェスカ、目標は大手門の構造物ね。派手に壊しても構わないよ」

 

 「「了解」」

 

 「柚子ちゃん、最初から飛ばして行くよ」

 

 「任せて」

 

 「じゃあ、行くよ!先ずは、あのE-50に体当たり!そのまま、盾にして押して行くよ!」

 

 ティーガーⅡは主砲で大手門を破壊して相手が怯んだ隙に全速力で大手門の石橋を渡り、E-50に体当たりをしたのだ。それを押しながら更に奥に行き、手当たり次第に主砲を放つ。

 

 見た目は喧嘩をするかのように殴り込んで他の相手も殴ったり蹴るかの様に荒々しく・・・・

 

 それにより、E-50駆逐戦車とE-75を撃破する。

 

 後ろに控えるヤークトパンターからの援護射撃で側面を晒したE-50二両を撃破して行くが元々、エンジンの調子が良くなかった事もあり、不調になって次第に押せなくなり押していたE-50に止めを刺した後に二両のE-50とE-50駆逐戦車の集中砲火で私のティーガーⅡは沈黙したのだった。

 

 しかし、残り三両はチューリップ中隊から合流の命令を受け、救援に来たパーシングに乗るメグミ、パンターF型に乗るアヒルさんチーム、M-24に包囲され撃破するがM-24も撃破されたのだった。

 

 

 

 大手門と東門では激戦をしている最中、私とエミはそれぞれの姉と対峙していた。

 

 私はもちろん、姉さんのE-50に体当たりしたままキュポーラから身を乗り出してお互い言い合いをしていた。

 

 「いい加減、目を覚ましなさい!」

 

 「うるさいわよ!あんただって、何故、大洗女子学園が連合組んでまで試合してるかも分からないくせに!」

 

 「てか、横から押さないでよ!履帯が切れるでしょが!」

 

 「ごまかすんじゃ無いわよ!」

 

 主砲をE-50側に旋回させ、主砲の付け根に照準を合わせる。 

 

 「愚妹、何する気よ!」

 

 「こうすんのよ!」

 

 主砲を放ち、E-50の主砲を叩き折る。

 

 「あんた、主砲を折るなんて聞いた事無いわよ!」

 

 姉さんが叫ぶが言ってやった。

 

 「狂犬ほど牙を折られたら不様よ。どうかしら、姉さん不様でしょ?」

 

 「エッ、エリカ覚えておきなさいよ!」

 

 苦虫を口の中で潰した様な表情で姉さんは手動で白旗を掲げたのだ。

 

 

 エミ姉妹の戦いは手を出さないで見ることにしたのだ。

 

 流石はエミの姉でもあり、まほさんと戦っただけはある。

 

 双方一歩も引かなかったが、装甲に分があるエミが勝ったのだ。

   

 ただ、エミの姉もまほさん同様に重度のシスコンだと判り、試合に勝ってからが少し不安だったりする。

 

 そして、島田かのんと戦うみほとまほさんはティーガーⅠがティーガーⅡを支援し、操縦手の天才同士の戦いから始まり、砲手は砲手で砲弾を迎撃し合う状況だった。それでも、やはり性能ではE-75が優るのだろう。みほもかのんもキュポーラから半身を乗り出したまま戦いは続く。

 

 三人の天才同士の戦い。

 

 私とエミは中に入れない悔しさが込み上げて来る。

 

 それでも、やることは一つ。

 

 邪魔されない様に周囲警戒だ。

 

 そして、みほとまほさんの姉妹のコンビネーションに次第に押されて行く島田かのん。

 

 まほさんが体当たりを決め、みほがE-75に主砲を放ち撃破するが、みほと同時にE-75もティーガーⅠに主砲を放っていたが、砲塔の前面装甲に弾かれたのだった。しかし、試合はまだ終わらない。

 

 みほがひまわり中隊とチューリップ中隊に合流命令を出して、集まったのはひまわり中隊は途中、大学選抜が乗るヤークトパンターがエンジン不調を起こしてリタイヤして残り五両、チューリップ中隊も残り五両の合計が十両だった。

 

 しかし、ひまわり中隊とチューリップ中隊が大手門内で集結した時、落下音がしたのだ。

 

 ヒュルルルルルル・・・・・・・・ズッガァァァァァァァァァン

 

 「「「「「「なっ!?」」」」」」

 

 崩れ落ちる大阪城の天守閣は爆発と共に炎上したのだ。

 

 『ひまわり中隊、チューリップ中隊は急ぎ、大阪城から待避して下さい!』

 

 「みほ、何処に逃げるのよ!」

 

 『エリカさん待って下さい!』

 

 無線からスズラン中隊のカツコフからだった。

 

 『みほ、こちらはスズラン中隊指揮代行のカツコフよ。城陽中にカール自走砲を二両を発見した。スズラン中隊は急ぎ奇襲、城陽中のカール自走砲を破壊しようとしたが、一度だけ砲撃を許してしまったが二両とも撃破した。だが、スズラン中隊は私とカチューシャ、ミカとⅢ号戦車の内山さんを残して壊滅した。済まない』

 

 『大丈夫です。それよりも、ドイツ選抜の本隊は見つかりましたか?』

 

 『今はミカが探している』

 

 『判りました。では、全車両はUSJへ待避します。スズラン中隊の内山さんもⅢ号戦車での偵察をお願いします』

 

 

 見つからないドイツ選抜の本隊に焦るみほだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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決戦!USJでの戦い


 マジ疲れた・・・・・


 

 みほは未だにドイツ選抜の主力が見つからない事に不安になっていた。いくらスズラン中隊から偵察を出しても見つからないのだから・・・

 

 スズラン中隊がカール自走砲を発見した際に本隊がいたらしいが、カール自走砲が撃破されると同じくして煙幕を展開して離脱したらしい。

 

 つまり、カール自走砲はブービートラップだった可能性がある。

 

 現に私やみほでも戦ったら厄介な存在になるだろう朽木中隊長やプラウダ高校の狂犬にして高い技量のあるジェーコフや火力のあるトータスを駆り周囲の警戒や冷静な状況判断能力があるダージリンやT-29に乗り即決能力があるケイをカール自走砲を撃破して油断したところを再び戻って来た本隊に撃破されたのだから・・・・

 

 幸い、小さな暴君のカチューシャにみほの作戦を破綻させ、戦略眼のあるカツコフに島田流次期家元のミカさん、偵察で難を逃れたⅢ号戦車が唯一の救いだろうか?

 

 だけど、私達の悪夢はこれからだった事はみほですら気付いていない。

 

 

 

 水門の破壊と大手門のからの侵攻による大阪城の確保はカール自走砲によって未完に終わる。しかし、スズラン中隊の2/3を失う損失と引き換えに二両のカール自走砲を撃破したが、こちらは十三両が残り、相手は八両の本隊のみの状況だ。

 

 だけど、未だに本隊が見つからない。

 

 一体何処に居るのか見当すら付かないのだ。

 

 そして、大手門、東門の激戦で時間を大量に消費した事も不安の一つだった。

 

 もうすぐ、黄昏れ時。

 

 薄暮攻撃には最高のタイミングになるだろう。

 

 一応、各車両には携帯食糧や水は積んである。

 

 だけど、この拭えない嫌な感じは何だろうか?

 

 私は不安を覚えつつもみほに無線を入れる。

 

 「みほ、さっきから嫌な感じがするんだけど?」

 

 「えっ?エリカさんもですか?」

 

 やっぱり、みほもだったらしい。

 

 そして、もう一人。

 

 「みほ、エリカ。私もだ」

 

 愛里寿まで感じていたのだ。

 

 私は各車に備品として取り入れたタブレットを起動し、あんこうチームのタブレットと同期させてみほに相談する。

 

 「エリカさん、その地図、どういう事ですか?」

 

 「エリカ、私にも説明して」

 

 「そのまんまの意味よ。まさかと思うけど、カール自走砲はブービートラップだったじゃないって感じたのよ。あんな、見つかり易い場所にカールを配置しないわ。そして、わざと本隊が居てカールを撃破させてから油断した所を一網打尽にした。なら、スズラン中隊の壊滅に説明が付くのよ」

 

 「ちょっと待って下さい。うん、確かに説明が付くね」

 

 「みほ、エリカ、愛里寿。ちょっと良いか。私にも判るように説明してくれ」

 

 「まほさん、私達は罠に嵌められた可能性が在るって事です」

 

 「なっ、何だと!?」

 

 「お姉ちゃん、私もエリカさんに言われて気付いたよ。そうすると、私達も危険だよ。エミちゃん、奇襲をかけるなら何処かな?」

 

 「そうね。私ならこの先のスタート地点だった通天閣の側の茶臼山陣地跡ね。軽い稜線にもなっているし、私達は市街地での遭遇戦を避ける為に国道47号線から迂回して、ユニバーサルスタジオジャパンに向かっているから絶好の場所よ。ただ、気になるのは茶臼山には重戦車が渡れる橋が在るかどうかよ。在れば、確実性はあるわ」

 

 「愛里寿ちゃんはどうかな?」

 

 「私もそこしか無いと思う。私のマップにも充分に耐えられる橋が在るから、Ⅲ号戦車に向かわせてからでも遅くない」

 

 「愛里寿、遅いわ・・・・」

 

 「えっ?・・・・・・あっ・・・・」

 

 私達の前方にはE-75駆逐戦車の主砲を受け、真横に吹き飛ぶⅢ号戦車が見えたのだ。

 

 立ちはだかる様にゆっくりとE-75駆逐戦車とE-50駆逐戦車二両が茶臼山陣地跡に居座っていただろう三両が前進して来たのだ。

 

 ドッゴォォォン

 

 次火を噴いたのは住宅の壁を崩しながら街中から表れた二両のE-75と二両のE-50だった。

 

 しかし、この状況はマズイ。

 

 みほは咄嗟にピンを抜き、ドイツ選抜チームに投げ付ける。

 

 「全車、全速後退!砲手は光りを見ない様にしてください!」

 

 投げたのはフラッシュグレネードだった。

 

 閃光の中、全速力で後退し市街地へと逃げ込む。しかし、それを予期していた様で逃げるのが遅れたメグミさん、カチューシャ、カツコフ達の三両が駆逐戦車の主砲の餌食となった。

 

 みほは安否を確認しながらも市街地を猛スピードで駆け抜けたが、七両のドイツ選抜チームが私達を追う形になったのだ。そして、またヘビさんチームもE-75の遠距離射撃で餌食となり数を減らして行く。

 

 『絶体絶命』

 

 この四文字熟語が似合うだろう。

 

 しかし、ここで足を止めた姉妹がいた。

 

 「悪いけど、ここまでのようだ。みほさん、必ず勝って」

 

 「みほ、エリカ。私もお姉ちゃんと残る」

 

 ISU152に乗るミカと愛里寿の島田姉妹だった。

 

 「駄目です!」

 

 みほが悲痛の叫びで二人を止めるが

 

 「負けてしまったら、その後に意味は在るのかい?私はそうは思わない。これは必ず勝たないといけない」

 

 「そうだ、みほにエリカ・・・・大洗が皆が大好きだから私は戦える。だから、絶対に勝て」

 

 ミカと愛里寿は言うと通信を切ったのだ。

 

 「みっ、ミカさん!?愛里寿ちゃん!?」

 

 全速力で突入する、センチュリオンとISU-152

 

 私達の後方では砲声が鳴り響いていた。

 

 

 

 「愛里寿ちゃん・・・ミカさん・・・・」

 

 「みほ、愛里寿とミカさんの思いを無駄にしない為にも」

 

 「エリカさん、今はごめんなさい・・・・」

 

 「判ったわ。沙織、みほを頼めるかしら?」

 

 「エリリン、任せて」

 

 「各車、USJへ全力で逃げるわよ!」

 

 私達は愛里寿とミカさんの特攻により、追撃から逃れる事に成功する。

 

 しばらくして、市街地からの砲声が止みアナウンスが流れた。

 

 『大洗女子選抜連合、センチュリオン、ISU-152、ドイツU20選抜E-75駆逐戦車、E-50駆逐戦車、E-50駆逐戦車走行不能』

 

 それでも、私達の残った六両は勝利を信じてUSJへ向かう国道47号線に抜け、目前にUSJが迫った時に再び、一両の戦車に待ち伏せをされたのだ。

 

 「なっ・・・・」

 

 絶句するまほさん。

 

 「あっ、ははは・・・・マジやばいかも・・・・」

 

 乾いた声で笑い、冷や汗を流す楓。

 

 「私達、ピンチ?」

 

 「あっ、主砲がこっちに向いた!?」

 

 焦る、アヒルさんチームだったが主砲を放たれパンターF型が沈黙。

 

 「キツイ、アタック来たぁぁぁ!」

 

 「すいません。やられました」

 

 まさか、こんな物まで持ち込んで来たなんて信じられなかった。確かに設計図が在ればセーフだと言いたいのは判るが、Ⅶ号重戦車レーヴェを持ち込むとは思いもしなかったのだ。

 

 ユニバーサルスタジオジャパンのゲートに居座るレーヴェに後ろからのドイツ選抜チームが追い付き始める。

 

 しかし、この状況に動いたのは楓だった。

 

 パンターⅡは全速力でレーヴェに肉薄し、みほのやった応用でフラッシュグレネードをレーヴェに投げ付けたのだ。閃光で目を潰している間に、ゲートを力付くで入り込み裏に回ったのだ。

 

 しかし、それを許すドイツ選抜チームではない。

 

 回り切ったところで、追いついたE-50が主砲を放とうとしていたがまほさんが気付き撃破する。

 

 もう一両は

 

 「小梅、やらせるんじゃないわよ!」

 

 「任せて!」

 

 私のティーガーⅡが主砲を放ち沈黙させる。

 

 「撃て!」

 

 楓も後ろから主砲を放ちレーヴェを撃破したのだ。

 

 ズッドン

 

 「きゃあ!?」

 

 しかし、楓のパンターⅡもここまでで撃破した直後にE-75の主砲を受けてやられたのだ。

 

 みほが無線から指示を出す。

 

 「このまま、決着を付けます!私のティーガーⅡとエミちゃんのティーガーⅠでチームA、エリカさんのティーガーⅡとお姉ちゃんのティーガーⅠでチームBにします。私が隊長車とやりますので、エリカさんはE-75をやって下さい!」

 

 「判ったわ!まほさん、もう一両はみほから引き離します!」

 

 「エリカ、任せろ!」

 

 「みほ、援護は任せて!」

 

 私とまほさんで引き付けながら逃げた先はモンスターハンターのブースだった。

 

 勢い良く追ってくるE-75

 

 ここには頼れる先生が在るのを小梅から聞いたのだ。

 

 「って、何で小梅が知っているのよ?」

 

 「だって、私もモンハンをやっているから」

 

 「フ~ン、他にも在るわね?」

 

 つくづく、ここで女の勘が冴えないで欲しい。

 

 何故か、小梅がモンハンの話をした表情は恋する乙女そのものだった。

 

 「えっ、エリカちゃん!?ハゥ・・・・大洗に帰港した時にだけだけど、一緒に狩りに行ってくれる優しい男性が・・・・」

 

 「「「「なっ、小梅に男!?」」」」

 

 もじもじして恥じらいながら白状する小梅に車内で絶叫する私達。

 

 完全に断言できる。

 

 恋した乙女だと。

 

 しかし、今は試合中だ。

 

 決めたわ。

 

 試合が終わったら、沙織達を入れてガールズトークで白状させてやろう。

 

 「エリカちゃん、あそこの赤い飛龍で止まって」

 

 まだ、距離があるし向こうは警戒しながら進んでいる。小梅は工具箱を片手に砲手ハッチから降りて、飛龍の場所で作業をする。私は小梅を信じて、周囲警戒を行い待機する。

 

 小梅の話では赤い龍がリオレウスで緑の龍がリオレイアらしい。

 

 そして、コードを引きながら再び、砲手ハッチから中に戻って来たのだ。

 

 「小梅、何してたのよ?」

 

 「エリカちゃん、時間が無いからゆっくりあの飛龍の脇にティーガーⅡを隠してくれるかな?あと、まほさんのティーガーⅠは反対側の緑色の龍の脇に隠れる様に言って」

 

 「えっ、えぇ。判ったわ。まほさん、反対側の龍の脇に隠れてもらいますか」

 

 「判った。何か策があるのだな?」

 

 「小梅です。はい、あります。今、先程電源を繋げて来ましたのでタイミングを合わせて下さい。きっと、レイア先生が協力してくれますから」

 

 「「レイア先生?」」

 

 まほさんとハモりながらもタイミングを待ったのだ。

 

 そして、E-75が私達の前に通ると小梅はスイッチをONにしたのだ。

 

 『グッワァァァァ!?』

 

 赤い龍と緑の龍が咆哮を上げ、E-75に威嚇する。

 

 「ぎっ、ギャァァァァ!?ドッ、ドラゴン!?」

 

 キューポラから身を乗り出していたドイツ選抜選手は慌てて中に落ちる。

 

 「まほさん、今です!」

 

 スイッチを切り替え、龍がブレスを吐くと同じくティーガーⅡとティーガーⅠは主砲を放ったのだ。そして、砲塔の側面に命中して撃破したのだ。

 

 次のアナウンスで耳を疑った。

 

 『大洗女子選抜連合、ティーガーⅠ、ドイツU20選抜、E-75走行不能』

 

 まさか、エミがやられた。

 

 そして、私を現実に引き戻す様に目の前にみほが乗るティーガーⅡが横切り、それを追う様にE-75が駆け抜けて行く。それを見た、まほさんは妹のみほのピンチに走り出すが罠だった。

 

 「みほ!」

 

 「フフフ・・・馬鹿め!今よ!」

 

 「ぐっ!?くそ、やられた!?エリカ、後は任せる」

 

 その場で、ドリフトしてターンをすると側面を晒したままのまほさんのティーガーⅠを撃破したのだ。

 

 残り、一両に私達は二両。

 

 しかし、隊長車がかなり強いのだ。

 

 キューポラから身を乗り出しているドイツ選抜チームの隊長は私達を見ながら微笑み叫ぶ。

 

 「面白いわ!私達の選抜選手がこんな簡単にやられるなんて面白過ぎて涙が出るわ!」

 

 叫びながらも、みほから通信が入る。

 

 「エリカさん、ゆっくりこのまま下がって来て下さい。」

 

 私のティーガーⅡもゆっくり、下がり壁を壊して裏側に出る。そこにはみほのティーガーⅡが待っていた。

 

 「エリカさん、どうする?」

 

 「馬鹿ね。やるに決まっているでしょ!」

 

 だけど、手詰まりなのも事実。

 

 どうする?

 

 どうすれば、あんな化け物に勝てるの?

 

 「あのね、一つだけ手は在るの。でも、失敗するかもしれないよ?」

 

 「みほがそう言うなら、私はついて行くわよ。何処だって一緒よ。」

 

 「うん、エリカさんありがとう。手はね、一列に加速して後から・・・・・・」

 

 内容を聞いて、顔を引きずるがやるしかないようだった。

 

 私達のティーガーⅡの最後の決戦の場所に選んだのはウィザーディングワールドだった。中世のドイツに似ているだろ。

 

 対峙するかの様にマリアが半身を乗り出して私達を睨む。

 

 「鬼ごっこは終わりかしら?さぁ、ハイクを詠みなさい!終わりにしてあげるわ!」

 

 「終わりません!ここで、私達が勝ちます!」

 

 「そうね。私達が勝つわ!」

 

 同時にE-75が主砲を放つが、私のティーガーⅡを前面に押し出し、お食事の時間をする事で砲弾を弾く。みほも負けずに主砲を放つが、虚しく砲塔の装甲に弾かれるだけだった。

 

 「内法!加速するわよ!」

 

 「逸見さん任せて!」

 

 「藤木、薬苞のみ装填!」

 

 前を走る様にみほが走り出し、私のティーガーⅡも寸分遅れずに加速する。

 

 「小梅、主砲をみほのティーガーⅡに合わせて!」

 

 「やってみる!」

 

 最大速度に達するとみほがフラッシュグレネードを投げて視界を奪うと右腕を上げ、合図する。

 

 「小梅、今よ!」

 

 ガッコォ

 

 零距離での空砲だった。

 

 「撃て!」

 

 ズッドン

 

 さらに加速するみほのティーガーⅡ。

 

 「なっ!?」

 

 驚く間もなくティーガーⅡとE-75がぶつかり合う。

 

 弾かれたE-75はステッキを売るお店に側面を晒す様に突っ込み、みほと私が主砲を同時に放ったのだ。

 

 そして、E-75は

 

 シュポン

 

 音を上げ上がる白旗

 

 負けた事に信じられないマリア

 

 「えっ?負けたの?」

 

 『残り車両確認中・・・・・・・・・・・大洗女子選抜連合残り二両、ドイツU20選抜・・・・残り無し。よって、大洗女子選抜連合の勝利!』

 

 『ウワァァァァァァァァ!?』

 

 上がる歓声に喜び合う仲間達。

 

 膝を折、悔しがるドイツ選抜の選手達

 

 私もみほも凱旋するかのようにメインステージに戻る。

 

 戻った、私達を待ち受けていたのはチームのメンバーだった。

 

 私もみほも皆に担がれ、やられたのは胴上げだった。

 

 「うれしいけど、パンツまる見えになるから辞めて!」

 

 「ほうほう、逸見ちゃんのパンツは黒か・・・・」

 

 めくれるスカートを手で押さえながらの胴上げに予期していたかのように、みほは下にスパッツを履いていた。いや、優花里がホッとしている事から降りる前に渡したのだろう。

 

 何故、私だけ?

 

 その前に

 

 「胴上げしながらパンツ覗かないでよ!」

 

 「減るもんじゃないし?」

 

 「私の精神が擦り減るわよ!」

 

 「どうせ、隊長といちゃつくだろうし?」

 

 「そうだ!みほは私のだ!」

 

 「はい、はい、まほさんはこちらですよ」

 

 「ぬわぁぁぁぁ!?引っ張るなぁぁぁぁ!」

 

 黒森峰の仲間に拉致られるまほさん。

 

 「良いじゃない!恋人同士なのよ!」

 

 「みんな、逸見ちゃんをもっと、やっちゃって!」

 

 「「「「「「うぉぉぉぉ!」」」」」

 

 杏の黒い笑みに私は生け贄になったのだった。

 

 

 

 大洗女子選抜連合とドイツU20選抜の試合は辛うじてだが、大洗女子選抜連合の勝利に終わった。

 

 

 試合も終わり・・・・

 

 

 

 ドイツ選抜チームが寝泊まりしている神戸のホテルの一室では・・・・・

 

 

 私は試合が終わり、シャワーを浴びてバスローブ姿で今日の試合を振り返っていた。

 

 負けたか・・・・・

 

 しかし、今日は得るものが多かった。

 

 だが、あの日本の役人だけは許さない。

 

 本来なら、ティーガーⅡやティーガーⅠなどの黒森峰女学院と同じ戦車で挑むはずだった。

 

 それが、常勝ドイツの意地だった。

 

 それを、役人はドイツの戦車道のルールを適用するからEシリーズを使えと来たのだ。

 

 確かにEシリーズは素晴らしい性能だが、重大な欠点がある。

 

 もし、相手が知っていたら・・・・・・・

 

 想像してしまうと私はトイレに駆け込んだ。

 

 「おっ、オウェェェ」

 

 想像しただけで吐いてしまった。

 

 そう、重大な欠点とは車体下部の装甲が非常に薄く20ミリしかない。そして、トランスミッションが非常に燃えやすく、もし、被弾すれば火だるまになることは確定だった。

 

 そう、私は被弾したら大切な仲間が火だるまになる光景を見る嵌めになっていたのだ。

 

 「許さない・・・」

 

 コンコン

 

 「誰だ!」

 

 ガチャリ

 

 入って来たのは役人だった。

 

 「いやぁ、試合は残念でしたね。大洗女子選抜連合にかなりの制約を付けたのに残念です」

 

 一瞬、制約の意味に理解ができなかった。

 

 「制約だと?」

 

 「そうですよ。大洗女子選抜連合には日本の戦車道のルールを遵守するようにしてありましたし、隊長の西住みほだったかな?Eシリーズの弱点を知りながら、狙わなかった。いや、狙えなかったが正しいでしょう。だから、大洗女子選抜連合の動きが鈍かったんですよ。分かりますかね?二重にも三重にも足枷をしたのに、逆に命を救われながらも試合に負けた感想はいかがな物でしょう」

 

 役人に言われた事に気付いてしまった。

 

 だから、側面と背面しか狙わなかったのか。

 

 そして、私達は西住みほに助けられた事実に・・・・・

 

 だが、神聖なる戦車道を汚されたことには代わりはない。

 

 込み上げてくる怒りに自分の未熟さが入り交わり、私はポシェットからワルサーP38を抜き取り

 

 ガッシャ

 

 「貴様!日本だけでなくドイツの戦車道まで汚すか!」

 

 弾を装填して役人の口の中に銃口を向ける。

 

 このワルサーはお爺様から頂いた宝物だ。

 

 本来、ヒトラーを暗殺する為に使用する拳銃だった。

 

 「銃口を向くただけは無意味ですよ?私は役人から失業した身ですからね」

 

 「そうか?なら、良かろう!」

 

 バッキィ、ドッガァ

 

 ワルサーをしまうと、徹底的に元役人を殴り飛ばしたのだ。

 

 「誰か居るか!」

 

 ガチャ

 

 「「隊長!?」」

 

 「こいつをホテルの外に捨てて来い!あと、部屋を替えるから連絡しろ。私はまた、シャワーを浴び直して来る」

 

 「「了解」」

 

 二人の選抜選手に引きづられて行く、元役人はホテルの外に捨てられたのだ。

 

 そして、ウェイトレスから手紙を預かり新しい部屋で私は眠りに着いたのた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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試合の後に


 話しは終わらない。

 次からは夏休みとエキシビションマッチに入ります


 

 目覚めの悪い朝だった。

 

 それもそうだろ。

 

 日本の役人によって汚された戦車道の試合に加えての負け戦。

 

 本国に戻ったら、私は隊長職を追われるだろう。

 

 だが、昨日の大洗女子選抜連合の選手には何故か必死さがあった。

 

 そして、糞役人から知らされた大洗女子学園を廃校から護る為の試合。

 

 必死になるのも頷ける。

 

 それも試合内容は得るものが多かった。

 

 特筆するなら、先ずは大川水門や大阪城の大手門と東門の防衛戦だろう。

 

 選抜連合は絶対に大阪城を取り、籠城する可能性があった。

 

 歴史の本にもある難攻不落の名城である大阪城。

 

 それを凝固な防衛陣地を敷かれたら攻城戦の三倍の法則により、私達が逆に苦戦するだろう。

 

 しかし、ソ連製戦車を中心にした選抜連合の中隊は電撃戦で防衛していた駆逐戦車を壊滅させて水門が破壊した。

 

 そこで、私も逆襲するために一計を投じた。

 

 籠城された際に使用する予定だった二両のカール自走砲を囮としたのだ。

 

 それを目立つ様に中学校の校庭に配置させて、本隊が防衛している様に見せ掛けて一度引いてから油断したところを突いたのだ。それは、面白い様にソ連製戦車の狩り場化したのだが四両を逃してしまった。

 

 そして、それを壊滅させる時間稼ぎの為に大手門、東門にはかのんとバイパーの中隊を送り、大阪城を取らせまいとし、カール自走砲には意地でも大阪城の天守閣を破壊させる様に仕向けたのだ。そうすれば、大阪城を諦めて違うポイントへ向かうはずだった。

 

 ここに、西住みほと言う隊長がキーワードとなる。

 

 恐ろしく大胆にして繊細な作戦だった。

 

 後で判った事だが、三方向から大阪城を取る気だった事が試合後の地図で判る。

 

 私のかのん中隊とバイパー中隊を送っていなければ、三日以上の試合にさせられた可能性が見て判ってしまった。

 

 案の定、送った事により彼女の大阪城での籠城作戦は破綻してかなりの損害を与えたが、こちらも対価として二個中隊が全滅と大損害を被ってしまった。

 

 だが、構わない。

 

 彼女に大阪城を取られるよりはマシだ。

 

 もし、取られていたら苦戦は必須で彼女の試合を向こうで何度も見て居たから、どんな作戦や奇策を仕掛けて来るか判ったものではない。

 

 私でも彼女が全く読めないのだ。

 

 歴史上の人物で例えるなら、諸葛孔明や私のお爺様であるロンメルが似合うだろう。

 

 それだけ、彼女が試合が進むに連れて恐ろしさが身には染みて判る。

 

 そして、彼女を補佐する副隊長も危険人物だった。

 

 一人は島田流の家元の娘で次女の島田愛里寿だろう。

 

 去年、バイパーが島田流との試合で破っていたが、重度の怪我から復帰した彼女は去年とは全くの別人と思える強さと頼れる仲間を手に入れていたのだった。

 

 東門ではリベンジマッチとなり、バイパーがパンターⅡからの挑発に釣られて孤立したところで救援に来た愛里寿の手によって敗れたがあれでまだ14歳だから将来が恐ろしい。

 

 もう一人は、逸見エリカだった。

 

 彼女と暮らして居るようだが、戦車道から私生活までを補佐しており、彼女の作戦にはなくてはならない猛将だろう。消えない闘志に剥き出しの牙は狂犬に相応しいだろう。

 

 それよりも問題だったのは犬猿の仲だった島田流と西住流が政府のやり方に怒り手を組んだ事だ。

 

 いや、それだけではない。

 

 かつて、日本の戦車道を支えた四大流派が大洗女子学園の為に手を組んだのだ。

 

 剛の流派の西住流と謹慎から明けた喧嘩殺法の池田流に柔の流派で忍者殺法の島田流と巧みな集団戦術と集団突撃戦法に秀でる朽木流・・・・・

 

 もたらす意味は両方を備えた選抜選手を短時間で鍛え抜いた事だ。

 

 これが判っていたら、私も違った作戦を組めたはずだ。

 

 いや、負けるべくして負けたのだ。

 

 それが、今の私に出せる答えだろう。

 

 

 

 「やっぱり、悔しいわ・・・・」

 

 と思いつつも、私の視界に昨日渡された手紙があった。

 

 ペーパーナイフで手紙を開けるとやや丸字で書かれたドイツ語の手紙だった。

 

 書いた本人は・・・・・

 

 「えっ?西住みほ?」

 

 手紙の内容は神戸の第三演習場で交流会をしたいから是非参加して欲しいとの事だった。

 

 「フッ・・・・面白い」

 

 直ぐに、選抜チーム全員に参加するように伝えて、日本戦車道連盟によりチャーターされたバスに乗り第三演習場に向かったのだ。

 

 神戸の第三演習場に着くと、私は言葉を失った。

 

 見渡す限りの調理車が立ち並び、各学園の制服を着た生徒達が調理や交流に勤しんでいたのだ。

 

 一際目立つのが、黒十字の校章の黒森峰女学院と青い大の字に洗うと入った大洗女子学園、ピザを象るアンツィオ高校の調理車だった。他にも、金に物を言わすサンダース大学附属高校など多数の学園が参加していたのだ。ある意味、大きなお祭りにすら見える。

 

 「マリア隊長、来てくれたんですね」

 

 流暢なドイツ語で声をかけられ、振り向くと制服姿の西住みほだった。

 

 「随分、賑やかだな?」

 

 「いえ、試合が終わったら皆に労を労う。それはアンツィオ高校から教わったんです」

 

 「殊勝な事だな。それにしても、学園が廃校にならずに済んで良かったな。それと、一つ聞きたいがEシリーズの最大の弱点を狙っていなかったわね?」

 

 「はい、Eシリーズを偶然にも知っていた優花里さんと猫田さんから言われて気付きました。それに、戦車道は戦争ではありません。だから、作戦会議の段階で狙わない様に砲手には厳命していました」

 

 「そう・・・・でも、ありがとう。大切な仲間を業火に焼かれて死なすところだったわ」

 

 「いえ、ちゃんとした試合だったら、もっと楽しめたかも知れませんね」

 

 「それも、そうかも知れないわね」

 

 戦車道が楽しいか・・・・

 

 なら、聞いてみよう。

 

 彼女の戦車道とは・・・・

 

 「みほ、あなたの戦車道は何なの?」

 

 「そうですね。私の戦車道は皆と一緒に歩み、皆と一緒に強くなって行く事かな?」

 

 そんな単純な理由の戦車道か・・・・

 

 私と変わらないな。

 

 まるで、私が道化師ではないか。

 

 心から込み上げてくるおかしさに私は笑ってしまった。

 

 「フッ、フフフ・・・・あっははははは!?実に君らしい戦車道だわ。だけど、これだけは覚えて置きなさい。その甘さが己を殺す嵌めになる諸刃の剣だと認識しなさい」

 

 「はい、私の戦車道を見付けた段階で覚悟しています」

 

 「そう・・・杞憂で良かったわ。なら、私は交流会を楽しむわ」

 

 「はい!是非、楽しんで下さい!」

 

 私はみほと別れ、黒森峰のブースに向かったのだ。

 

 

 黒森峰女学院は私がドイツで通うシュバルツバルト女学院と姉妹提携している学園の一つだ。

 

 確か、去年の準決勝から4月から大会終了にかけて起きた不祥事で一年間の活動休止になったと聞く。そして、今回の試合前の記者会見により、戦車道の禁止はまのがれたが陰湿な先輩の指導、いや、制裁が問題となった。本国でもやっていないか、実態調査を受けた位だ。しかし、隊長の西住まほによりほとんど解決したと聞く。ただ、一年間の戦車道の大会の出場はできないがそのほかの練習試合や一部の生徒の貸し出しは辛うじて認められたと聞いていた。

 

 調理車でドイツソーセージの盛り合わせを黙々と作る生徒に隊長を聞いてみる

 

 「隊長は何処に?」

 

 「はい、隊長なら大洗女子学園のブースに行ってます」

 

 「ありがとう。済まないが、ソーセージの盛り合わせと冷えたノンアルコールビールを頼むわ」

 

 「では、どうぞ」

 

 盛り合わせを肴にノンアルコールビールを楽しみ、大洗女子学園のブースへと向かう。

 

 途中、私のチームの選手が聖グロリアーナ女学院のブースで何かを食べたらしく、泡を吹いて気絶していたり、アンツィオ高校のブースではイタリアン料理を楽しむ生徒や選手など、皆が楽しんで居るようで良かったと思う。

 

 そして、大洗女子学園のブースでは見てはいけない物を見てしまった様に思えたのは私だけだろうか?

 

 何故なら、うちのチームの中須賀が妹のエミを着せ替え人形のように遊び愛でており、ドイツの民族衣装のまま妹を抱きしめ、妹は顔を真っ赤にしながら抵抗していたのだ。中須賀は向こうでも妹のエミには溺愛しており、シスコンクィーンと言われていた。再び、日本でもこんなやり取りを見る事になるとは思わなかったが・・・・

 

 「エミ、そのままの格好で少しはお姉ちゃんに抱かれてなさい!」

 

 「嫌よ!て、言うよりもそんな衣装は絶対に着ないわよ!これだけでも、充分恥ずかしいんだからね!」

 

 そして、中須賀はバーニーコスを手にしており、エミは姉に捕まり後から抱きしめられて、その反応を楽しむ姉の光景に

 

 「エリカぁぁぁぁ!みほばかり優しくしないで、私にも優しくしてよ」

 

 「馬鹿言わないでよ!ただでさえ、酒臭いのに嫌に決まっているでしょ!手がかかるのはみほだけで充分よ!」

 

 「嫌よ!エリカに抱き着くわ~」

 

 「酒臭いから抱き着かないでよ!」

 

 「えっ、エリカさん・・・・私、手がかかるの?」

 

 「みっ、みほ違うわ!」

 

 顔を真っ赤にしながら絡み酒をする唯一の大学からの選抜選手の逸見姉に餌食になりそうになる妹のエリカ。そして、どさくさに紛れてみほを愛でようとする西住まほ。それを阻止しようとするエリカのやり取り・・・・

 

 カオスだな。

 

 「よしよし、みほ、私が慰めてやろう」

 

 「お姉ちゃん、嫌!エリカさんに慰めて貰うから」

 

 「仕方ないわね。みほ、来なさい」

 

 「うん、エリカさん♪」

 

 「「なぜだ!」」

 

 「鼻血を出しながら真顔で言わないで下さい!」

 

 「それは、みほが可愛いからに決まっているだろ!」

 

 「そうだ!エリカも可愛いからだ!」

 

 「「尚更、嫌です!」」

 

 何故だろう。

 

 たしか、何かで見た気がする。

 

 そうだ。

 

 あれだ。

 

 確か、『駄目だ!このお姉ちゃんは何とかしないと』だったかな?

 

 だが、妹が全力で拒否するのはお約束なのだろ。

 

 哀れ、お姉ちゃん達・・・・・

 

 そして、楽しかった宴も終わり、生徒や選手達は各々の学園へと帰って行ったのだ。

 

 

 そして、帰り際に西住みほから一通の招待状を渡されたのだ。

 

 内容はエキシビションマッチへの参加依頼だった。

 

 私達は黒森峰女学院の生徒としての参加を依頼する内容だったのだ。

 

 開催予定は夏休みの中旬頃です♪♪

 

 「はぁ?」

 

 内容を見て思わず間抜けな声を上げてしまう。

 

 夏休みの中旬って、すぐじゃない!

 

 私は招待状を片手に立ち上がり、窓に向かって叫んでいた。

 

 「西住みほぉぉぉぉ!?」

 

 「隊長、どうかされましたか!?」

 

 私の叫びに反応したのは中須賀姉だった。

 

 「いや、大洗女子学園からエキシビションマッチの参加依頼だが、選抜選手の中でシュバルツバルトの生徒は何人いる?」

 

 「はい、隊長と私を含めて30人だけですが?」

 

 「そうか・・・・その30人はこれより、黒森峰女学院へ移動する。私から本国の学園には連絡を入れておくから、他のメンバーは本国への帰路に着くように言いなさい」

 

 「分かりました」

 

 西住みほ、なかなかやんちゃな悪戯をしてくれる。

 

 だが、次は負けない。

 

 新大阪駅から博多駅行きの新幹線へと乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 一方、全ての戦車を修理の為に熊本の西住流の家元に送り、大洗女子学園の戦車道の生徒は何故か長崎へと向かっていた。列車の座席には私とみほ、会長の三人が座っている。何故、みほが長崎に向かうのか、疑問に思い会長に質問していた。

 

 「杏さん、何で長崎何ですか?」

 

 「あぁ、それはねぇ。私達が選抜連合で強化合宿中に糞役人が学園艦から全員を強制退去させて大洗女子学園の学園艦は長崎の解体ドッグに入れられちゃったんだよねぇ。」

 

 「「「「えっ、えぇぇぇぇ!?」」」」

 

 大洗女子学園の生徒達の絶叫で電車内か染まる。そして、私は会長の胸倉を掴み叫ぶ。

 

 「じゃあ、私達の戦いの意味は!?」

 

 「まぁまぁ、落ち着いてよ逸見ちゃん。でも、いち早く気付いた西住師範と島田師範、ママが門下生を連れて戦車で長崎の解体ドッグに殴り込みしちゃってさぁ、話が違うと解体作業を止めてくれたんだ。だから、学園艦は大丈夫だよ」

 

 「「ほぉ~」」

 

 学園艦が無事なことに一安心する。

 

 「だから、ママと西住師範が会場に居なかっただね」

 

 「愛里寿ちゃんもこっちに来たんだねぇ」

 

 「皆の絶叫で目が覚めた・・・・」

 

 「あっ、起こしちゃったかな?」

 

 「大丈夫。エリカの膝の上に座るから」

 

 愛里寿は私の膝の上にちょこんと座り、リラックスしている。ただ、みほが嫉妬した表情で私を軽く睨んではいたが・・・・・・

 

 「ふん!エリカさんなんか知りません」

 

 やはり、ヤキモチを妬いていたようだった。

 

 愛里寿はニヤリとしながら、私の太股の感触を楽しむ。

 

 「みほ、あまり妬いていると私がエリカを楽しむぞ?」

 

 「ダメです!エリカさんは私の・・・・・・」

 

 「いじめ過ぎたか。会長、少し席ズレて」

 

 「愛里寿ちゃんやるねぇ」

 

 愛里寿は膝から降りて会長の隣に座る。

 

 「そう言えば、マリアちゃんに招待状を渡してくれたかな?」

 

 「はい、私なりに書き直して渡しました」

 

 「まさか、みほ?」

 

 「エリカ、何かな?」

 

 「もちろん、ドイツ語よね?」

 

 「うん、もちろん」

 

 みほはかばんから手紙のコピーと開催内容の書類を私に渡す。

 

 私は内容を読みながら訳して行くと手がワナワナ震えて行くのが判る。

 

 「みほ、これ本気にやるの?」

 

 震えながら、みほに確認する。

 

 「やるよ。前例のないエキシビションマッチだよ。各校合同のエキシビションマッチでただ、連合組んでやるのは面白くないから、くじ引きで紅白に別れての紅白戦だよ。これなら、愛里寿ちゃんの夢も叶えられるからね。戦車も40対40のフラッグ戦にしようかお母さんと相談中だよ」

 

 確かに、面白いかも知れないわね。

 

 でも・・・・・・

 

 「西住ちゃん、数が多過ぎだよ」

 

 「それは、大丈夫。ママが既に大洗に許可を取ったから。それに、一度はみほやエリカと戦って見たい」

 

 「島田師範が?」

 

 「うんん、後、私のお母さんもだよ」

 

 「そうなんだねぇ。ところで、参加校は決まっているのかな?」

 

 確かに私も気になる。

 

 「まずは、黒森峰、聖グロリアーナ、アンツィオ、継続、プラウダ、知波単やサンダースなど他に参加したい学園からかな。あと、黒森峰は三年生の引退試合にするから優先的になるけど」

 

 「って、みほはいつの間にやったのよ?」

 

 「ほら、強化合宿中だよ。各学園の隊長クラスは居たからね」

 

 段々、みはがやんちゃに見えるのは何故だろう。

 

 確かに、幼少期はかなりやんちゃだったのは、この身を持って体験しているから知っている。

 

 「みほ、抜け目がない」

 

 「そうかな?」

 

 「まぁ、西住ちゃんがやるなら、学園復活祭として便乗しちゃおうかな?調理科や裁縫科、海洋資源科にお願いすれば、屋台も出せるから学園の足しになるねぇ」

 

 私は裁縫科と聞いて冷や汗が止まらなくなった。

 

 もしかすると、パンツァージャケットを作って貰った付けを支払う事になるかもれない。そして、裁縫科からも実は文化祭での出し物を指定されているのは、みほはもちろん、愛里寿にすら言っていない。

 

 因みに、指定された出し物は喫茶店だ。

 

 今のパンツァージャケットは島田流から着る様に指定されているが大洗女子学園のパンツァージャケットもあるのだが・・・・・

 

 「エリカさん、顔色悪いけどどうしたの?」

 

 「ははぁん・・・・逸見ちゃん、まさかとは思うけど裁縫科と何かあるのかな?」

 

 「かっ、会長・・・気のせいよ」

 

 「どう、思う?西住ちゃん?」

 

 お願いだからみほに振らないで!

 

 と叫びたかったが、既に遅かった。

 

 どうやら、みほと愛里寿が何かを話し合って居るようだった。

 

 「ねぇ、エリカさん?」

 

 「しゃい!?」

 

 思わず、舌を噛んでしまった。

 

 最早、ごまかせない。

 

 「エリカさんの事だからパンツァージャケットで無理を言ったかな?」

 

 はい、言いました。

 

 裁縫科に確かに無理を言った。

 

 さすがに、聖グロリアーナと連合試合でさすがに制服では格好が付かないから裁縫科にある条件で全員分のパンツァージャケットを作って貰いましたとは言えないわ」

 

 「ふ~ん、そうなんだね。エリカさん、やっぱり変わらないね。て、条件は何かな?」

 

 「声に出してたの?」

 

 頷く、会長とみほ

 

 「ハァー、白状するわよ。パンツァージャケットを作って貰う代わりに文化祭ではコスプレ喫茶をして欲しいって条件を呑んだのよ」

 

 「そうなんだね。小梅ちゃん!」

 

 みほが小梅を呼ぶ。

 

 「みほちゃん、どうしたの?」

 

 「小梅ちゃんは裁縫科の生徒と仲が良かったよね?」

 

 「えぇ、クラスメイトなので」

 

 「確か、文化祭って、9月の下旬だから、衣装作りをしてるね?」

 

 「そういえば、文化祭で戦車道が楽しみって・・・・あっ!?」

 

 「思い出した?」

 

 「はい、これかな?」

 

 「やっぱり、アニメのコスプレなんだ。って・・・・エリカさんの衣装可愛い!?」

 

 どうやら、メールで衣装を確認したらしい。

 

 「エリカちゃんの衣装があれだと、みほちゃんの衣装はこれかな?」

 

 「うっわぁぁぁ!可愛い!」

 

 「ちょっと、私にも見せなさいよ!」

 

 私は自分が着る衣装に絶句したのだ。

 

 まさかのローゼ・メイデンのあるキャラクターの衣装だなんて・・・・・ 

 

 

 だだ、誰が誰の衣装を着るかは知ってはいたのだが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 





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誕生!魔改造戦車です!

 


 

 長崎の解体ドッグでエリカさん達と別れ、私はあんこうチームのメンバーと整備担当の板野さん達と一緒に実家にあるパパの工房に来ていた。理由は大阪のドイツU20選抜との試合で、今のままのティーガーⅡでは厳しいと感じからだ。

 

 私達、あんこうチームのティーガーⅡは隊長用にカスタムはされているがエンジンや足回りを重点的に改修したに過ぎない。

 

 そして、私に常に付き纏う不安。

 

 西住流では重戦車はエンジンや足回りが弱い事を散々叩き込まれて来たからかも知れない。

 

 それは、大阪での試合では顕著に表れた。

 

 何とか、島田かのんさんとマリアちゃんには何とか勝てはした。でも、早い相手には玩ばれるほどに苦戦してしまった。それに、足回りが物を言う機動戦や撤退戦では麻子さんにかなりの精神的にも肉体的にもかなり無理をさせてしまった。

 

 いつも、脳内に過ぎるのはいざという時にエンジンやトランスミッションの不調や重戦車であるが故の速度不足。

 

 そんな時、提案を出してくれたのは私のお父さんだった。

 

 「いっそのこと、装甲を薄くしたらどうだ?」

 

 「そんなこと、出来るんですか?」

 

 一番に驚いたのは板野さんだった。

 

 「板野君、昔の戦車道では良く使われた手だよ。まぁ、規定ギリギリまでしか薄く出来ないけどね。ティーガーⅡポルシェ砲塔タイプなら出来るかな」

 

 「流石は西住殿のお父様です!」

 

 「で、具体的にどれくらい、薄くするんだ?」

 

 「そうだね。まずは、車体だけど薄くするのは前面上部装甲を150ミリから110ミリまで薄くして、側面装甲は同じく80ミリから60ミリまで薄くするのはどうだい?砲塔はやっても、強度の問題から側面装甲を少し薄くするくらいだな。分かりやすく言えば、パンターを少しだけ厚くした感じって言えば判るかな?」

 

 図面を広げながら、私達に分かりやすく説明してくれる。

 

 「お父さん、改造はどれくらいで出来そうですか?」

 

 「そうだね、装甲を薄くするだけなら三日ぐらいかな?ヤークトティーガーを作る時に装甲板の型とコーティング済みの装甲材は用意してある。だが、このティーガーⅡは元々、茜さんの指揮と島田師範の操縦の癖に合わせたチューニングだからサスペンションやトランスミッションは冷泉さんに合わせたチューニングにしよう。試合を見ていたが、どうも見ても操縦がやりにくそうだったからね」

 

 「麻子さん、そうだったですか?」

 

 「隊長、正直に言えばかなりやりにくい。箇所をあげるなら、クラッチが繊細過ぎて繋ぎにくいし、ステアリングも敏感、カーブでアクセルワークを間違えるとドリフトする。でも、島田流の技をやるには非常に凄く乗りやすい。だから、チューニングするならもっと、ピーキーなチューニングにしても問題無い」

 

 「そうか?なら、調整はあの人に頼もうか?」

 

 「誰ですか?」

 

 「気になる」

 

 そんな時、沙織さんの悲鳴が聞こえたのだ。

 

 「キャァァァァ!?」

 

 振り向くと沙織さんが知らないおじさんに太股も触られていたのだ。

 

 「ホッホッウ・・・サナちゃんやかのんには程遠いが良い張りの肌じゃのう」

 

 「やだもぅ!どこ、触っているの!」

 

 「すみません、沙織さんが嫌がってます。やめて下さい!」

 

 沙織さんから離れ、私の前に来て体を嫌らしく見て回るが、お父さんがスパナ片手に軽く叩く

 

 「フェルドナンド博士、娘に嫌らしい目で見ないで下さいますか?スパナで叩きますよ?」

 

 パコン

 

 「アダァ!?常夫、既に叩いとるぞ!この娘が常夫としほの娘かのう。よう、似とる。それにしても、何じゃ!このティーガーⅡの履帯は張りすぎで履帯がはち切れるぞ!エンジンもそうじゃ!不協和音で美しくも無い!そのうち、エンジンブロー起こすぞ!誰じゃ!このティーガーⅡを整備しとるのは!」

 

 急に、私達のティーガーⅡを見ただけで激怒する博士と呼ばれるおじさん。

 

 「お父さん、誰ですか?」

 

 「みほに紹介しよう。整備士でもあり、戦車マイスターであるフェルドナンド博士だよ。以前、みほがティーガーⅡからヤークトティーガーにして欲しいって頼まれた時に博士を呼んでいたんだよ」

 

 「そうなんだ」

 

 「フムフム・・・・良かろう。可愛い常夫の娘に免じて、ワシが直々に改造してやろう。常夫、ワシは戦車道のルールはイマイチ判らん。だから、規定以内に納まる様に手伝え!」

 

 博士の元、私達のあんこうチームのティーガーⅡの改造が始まったのだ。

 

 

 燃料タンクからガソリンが全て抜かれ、解体されて行くティーガーⅡは砲塔がクレーンで外され装甲板は溶接跡を元に剥がされ、内部構造が向きだしになっていく。

 

 そして、ついでと言わんばかりに板野さんはトランスミッションや通常整備では手が行き届かない所や砲塔を回転させるモーターなどを新品のパーツに替えて行く。そして、エンジン周りを見ていた博士が叫ぶ。

 

 その中で最もくたびれていたのはエンジンだったのだ。

 

 「ウムゥゥ・・・やっぱり、ワシの目立て通りじゃな・・・・」

 

 「えっ!?」

 

 「嘘!?」

 

 私と板野さんがエンジンの状況を見て絶句する。

 

 ただの変態博士かと思っていたけど、エンジンに限っては酷い状態だった。これでも、大洗女子学園にあるマイバッハエンジンの中で一番調子が良く、状態の良いエンジンを板野さん達、整備班が徹夜してまで調整したエンジンだ。黒森峰でも一流の腕前から信頼しているから私でも驚きだった。

 

 「じゃが、これはお嬢さんが整備していたのかい?」

 

 「はい、私が自ら担当して整備していました」

 

 「君の腕前だったからここまで持ったと思って良い。君の思いと車長の思いがこのエンジンが頑張っていた証拠じゃ。だが、常夫でもこれは弄るのは骨だろう?」

 

 「はい、さすがにマイバッハエンジンのパーツはドイツから輸入しないと修理は無理でしたし、黒森峰で破棄されたエンジンから使えるパーツを見繕ってやってましたから・・・・」

 

 エンジンの話しの矛先は私に降られたのだ。

 

 「みほちゃんだったかな?」

 

 「はい」

 

 「おぬしは大阪で島田かのんとやり合ったそうじゃな?」

 

 「はい、とても強かったです。お姉ちゃんが居なかったらやられていたのは私でした」

 

 確かに強かった。

 

 お姉ちゃんと一緒にじゃなきゃ、やられて居たのは私だった。

 

 「それも、そうじゃろうな。かのんは野良中戦車同好会を立ち上げ、仲間と共にリングオブファイヤーに初出場して優勝した戦車乗りじゃ。それに、かのんの乗っていたパンターF型を完全に修理したのはワシじゃ。その時に使った同じエンジンで先行試作型マイバッハHL234 /4ストロークV型12気筒液冷ガソリンエンジンを持って来てやった。一応、日本戦車道連盟からの使用許可は常夫が取ってあるが、載せ変えるか?」

 

 博士は木箱を解体して出さしたのは一基のエンジンだった。

 

 「えっ!?先行試作型マイバッハ234ガソリンエンジンですか!あれは確か、マイバッハHL230P30の改良型のエンジンで1944年の試作段階でティーガーⅡに載せてテストして900馬力を出したエンジンですよ!まさか、実物を見られるなんて夢みたいですよ!」

 

 木箱からだされたエンジンを見て、興奮しながら解説する優花里さん。

 

 「ゆかりん、そんなに凄いエンジンなの?」

 

 「武部殿、今積まれているエンジンと比べたら月とすっぽんの違いですよ!しかも、一度は載せているからレギュレーションにも引っ掛かりません。さらに、付け加えたら以前のエンジンより重量が軽いのも魅力ですよ!」

 

 「もし、載せ変えたらスピードはどれくらいですか?」

 

 「そうじゃな・・・・45㎞から50㎞くらいはでるじゃろう。なにせ、ドイツ選抜チームが使っていたE-75やE-50と全く同じエンジンだからのう」

 

 「「「「「えっ!?」」」」」

 

 「西住殿、言い忘れてましたが、そのエンジンは本来Eシリーズに積まれる予定のエンジンですよ」

 

 「そうだったんだ・・・・」

 

 みんなと話している間にも博士とお父さんは手慣れた手つきでエンジンをティーガーⅡから降ろして行く。エンジンを降ろして、板野さんがエンジンルームの内部に入ってエンジン周りの部品の交換作業をしたり、摩耗した燃料パイプを交換して行く。博士は新しいエンジンを微調整しながら黙々と作業を進めていく。

 

 エンジンを載せると一度、エンジンを掛けて調整する。

 

 確かに、いつものエンジン音とは違い軽やかにして軽快なリズムを刻んでいるのが判る。

 

 次の作業はトランスミッションのオーバーホールだった。

 

 「全く、トランスミッションもか!」

 

 「博士、今日の作業はここまでにしましょう」

 

 気づけば、夕方の6時を指していた。

 

 道具を片付け、屋敷に戻る。

 

 あんこうチームや板野さん達にも今日は屋敷で泊まって貰う。

 

 みんなと夕飯を食べながら、お母さんはあんこうチームのメンバーに大洗に転校してからの話しを聞いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 場所も変わり、大洗女子学園

 

 無事に長崎を出た私達は解体業者の人に戦車倉庫に呼び出された。

 

 「済まないね。学園艦の最下層で戦車を見付けたから出して置いたんだ」

 

 確かに三両は戦車だ。

 

 しかし、書類には記載されていたが、何故、最下層に戦車が有るのだろうと私は不思議に思ってしまう。

 

 三両共、共通して言えるのは頼もしく思える事だ。そして、解体業者の話しでは三両一緒に隠されていたらしい。その、倉庫前に並ぶ三両の戦車の発見を聞いて飛んできたのは茜叔母さんだった。

 

 「やっぱり、在ったわね」

 

 「三両ともパンター系なのは分かるけど何なのよ?」

 

 「あら、エリカも居たのね」

 

 「最初から居るわよ!」

 

 「エリカちゃん、怒らない」

 

 「悪かったわ小梅。何で、叔母さんが来てるのよ?」

 

 「やっと、見つかったのよ!私達の代でも見付からなかった、先輩達の隠し財産・・・・ガスタービン仕様のパンターG型よ。だから、一目見たくてね」

 

 「叔母さん、残念だったわね。肝心のガスタービンエンジンは積んで無いわ。いえ、エンジンルームがからっぽだったわ」

 

 「えっ、そっ、そんな!」

 

 「多分、あの解体業者が知っていそうだけどね。なにせ、エンジンルームが綺麗過ぎるのはおかしいわ」

 

 冷や汗が止まらない解体業者に私と叔母の鋭い視線。そして、解体業者を取り囲む戦車道の生徒達

 

 「口が答えないなら・・・・・内法!おでんの餅巾着を買って来なさい!黒森峰流のアレをやるわよ!」

 

 「「「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 私の指示に一斉に驚く生徒達。

 

 黒森峰は良く戦車道の大会の前後では偵察で忍び込む生徒が後を絶たなかった。そこで、生徒会所属の秘密警察は躍起になって捕まえていたらしい。そして、過去に捕まえられなかったのは聖グロリアーナのMI6だろう。

 

 最近、聖グロリアーナと手を組んでから知ったが、アッサムがMI6に所属している。

 

 そして、大学選抜にして島田流の門下生であるツグミさんはBC自由学園出身だと聞いて居たが実は聖グロリアーナの生徒だった事がアッサムから聞いて驚いたのは最近の事だった。

 

 島田流の保護下である大洗女子学園では諜報にも、さらに力を入れはじめツグミさんを指導員に指導を受けている生徒が数名いる。あんこうチームの優花里も指導を受けている。

 

 「エリカちゃん、アレは止めよう!」

 

 小梅が止めに入るが、叔母はかなり乗り気だった。

 

 だって、既に・・・・・

 

 「ねぇ、ガスタービンエンジンはどうしたのかな?」

 

 解体業者にアイアンクローをして、尋問中だった。

 

 「ギャァァァァ!?こっ、答えるから離して!」

 

 「あら、そう♪」

 

 何故か、直ぐに吐いた解体業者だった。

 

 ガスタービンエンジンは良い金になるから、勝手にエンジンを降ろして売ってしまったらしい。

 

 それを聞いた叔母は・・・・

 

 ブッツン・・・・・

 

 何か切れた音がしたのだ。

 

 空気が一瞬で変わり、怯え出す生徒が出て来たのだ。叔母の表情はニッコリ笑顔から般若の表情に変わっていた。

 

 確かに怖いわね。

 

 今なら楓の気持ちが嫌と言うほど判るわね・・・・・

 

 そうじゃない!マズイ!

 

 「まずいわ!叔母を止めなさい!」

 

 絶対に死人がでると直感した私は叔母を止める様に指示。

 

 十人掛かりで押さえ付け、解体業者もその場でロープで羽交い締めにしたのだ。

 

 内容を直ぐに角谷学園長と杏会長に報告して事なきを得たのだ。

 

 解体業者にはガスタービンエンジンの弁償とパンターG型の修繕代を請求する事になり、解体業者の経営が傾く金額だったのは学園艦の一部を解体していた事が発覚し、その修繕費も加算されたからだ。

 

 正直、ご愁傷様だと言いたい。

 

 結局、三両のパンターG型は通常エンジンになったのは主砲の防楯があご無しだったため、あごありに改修して、ガスタービンエンジンより通常エンジンの方が燃費か良い事が分かり通常エンジンにしたのだ。

 

 そして、学園艦の修繕作業でしばらく大洗港から身動きが出来ない事になる。

 

 

 

 

 

 西住流の演習場では、改造が終わったティーガーⅡが疾走していた。隣に同じスピードで走るのは西住師範が乗るⅡ号戦車L型のルクスだ。そして、門下生達はルクスに並走しているティーガーⅡを見て開いた口が開いたままだった。

 

 まるで、見てはいけない物を見てしまった様な信じがたい光景を見てしまった表情だった。

 

 「麻子さん、水温計は大丈夫ですか?」

 

 「問題ない。むしろ、心地好い感じだ」

 

 「華さん、照準器はどうですか?」

 

 「いい感じです。砲塔の旋回スピードも上がりましたし、モーターも静かです」

 

 『みほ、今のスピードは45㎞を超えたわ。まだ、スピードを上げる?』

 

 お母さんからの通信。

 

 「はい、最高速度を把握します。麻子さん、スピードを限界まで上げて下さい」

 

 「任せろ」

 

 ぐんぐんスピードを上げるティーガーⅡに並走して速度を計るルクス。

 

 「隊長、55㎞で限界だ。サスペンションにはまだ余裕があるが辞めて置いた方が良い」

 

 「分かりました。麻子さん、慣性ドリフト行きます。華さん、ドリフトしながらですが進行間射撃行きます。優花里さん装填お願いします。沙織さんはお母さんからの通信を聞いてて下さい。異常があれば通信が来る手筈になってます」

 

 ドリフトしながら、的に射撃をしていく。

 

 三つの的に放つが当てたのは一つだけだった。

 

 「やっぱり、予測射撃は難しいですね」

 

 「そうですね。ですが、このスピードで当てたんですから凄いです」

 

 「それでも、全て当てたかったです」

 

 華さんは少し悔しそうにしていた。でも、スピードに慣れれば当てられる様になると確信したのだ。

 

 今度は門下生を相手に四対一での訓練だった。

 

 結果から言えば、二分で門下生は壊滅。

 

 島田流の辻切りから一両撃破して離脱。追わせる様に仕向けてからの慣性ドリフトによる進行間射撃で決めたのだ。さっきの慣性ドリフト中の進行間射撃が悔しかったのだろう。華さん、優花里さんが頑張り、三両のウィークポイントを正確に狙い撃ち撃破したのだ。

 

 慣熟訓練を終え、ティーガーⅡはお父さんが戦車道連盟での車検に出して受かれば使える様になる。待っている間は熊本の散策だった。

 

 夕方には戦車道連盟での車検が終わり、結果はもちろん合格だった。

 

 門下生にも手伝ってもらい、修理の終えた戦車は熊本港からチャーターした揚陸艦に乗せて、私達は大洗へと帰ったのだ。

 

 もちろん、学園に提出するティーガーⅡの仕様書を抱えて・・・・・

 

 

 ティーガーⅡ(ポルシェ砲塔)あんこうチーム専用カスタム

 

 主砲   71口径88ミリ戦車砲

 

      砲塔前面110ミリ側面60ミリ

      車体前面110ミリ側面60ミリ背面50ミリ

 

 エンジン 先行試作型マイバッハ234 4ストロークV型12気筒ガソリンエンジン

 

 馬力   900馬力

 

 最高速度 55㎞/h

 

 重量   52t

 

 

 私は揚陸艦のデッキでエキシビションマッチが楽しみだと思いながら潮風に髪をなびかせたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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抽選会とタンカスロンへの正式参入

 イベント満載夏休み!
 
 奉納祭にエキシビションマッチにいろいろ展開していく予定です。


 

 みほが熊本から戻った翌日の戦車道の訓練で私は言葉を失った。

 

 「なっ!?」

 

 「ティーガーⅡの動きじゃないよ!」

 

 明らかにティーガーⅡにしては速いのだ。

 

 私達の戦車道のチームで一番の練度を誇る全速力で走るアヒルさんチームのパンターを普通に追い抜き、普通にカモさんチームのレオパルドを追っているのだ。

 

 「ちょっと、早過ぎるのは校則違反よ!」

 

 園が叫びつつ全力で逃げる。

 

 「エリカ、みほを止める?」

 

 「速くて無理ね・・・」

 

 私のティーガーⅡと愛里寿のセンチュリオンがみほのティーガーⅡを追撃する。しかし、みほのティーガーⅡは最高速度まで達しており、私のティーガーⅡでは到底、追い付けない。愛里寿のセンチュリオンが何とか追い付こうとするが、それでも追い付けないのだ。

 

 そして、カモさんチームが的に主砲を放つ前に慣性ドリフトしながら主砲を放ち、一撃で的を射抜きそのままのスピードでターンをしてゴールに向かっているのだ。

 

 タイムレコードはティーガーⅡなら三分弱でクリア出来るコースを約一分弱でクリアしたのだ。

 

 カモさんチームが六発目で的を射抜く間に私と愛里寿も的を射抜きゴールへ疾走したのだ。

 

 「みほ、早過ぎるわよ!」

 

 「えっ?そうかな?まだ、慣熟訓練で何とか使える様にしているだけだけど?」

 

 今、みほが乗っているのはあんこうチーム専用の隊長車のティーガーⅡだ。

 

 慣熟訓練?

 

 それに、カラーリングもダークイエローからダークブラウンに代わっている。

 

 隊長車用なら慣熟訓練は要らないはず・・・・

 

 「まさか、修理の際に改造したの?」

 

 「うん、前回の試合でエンジンとトランスミッションをほとんどが交換しないといけない状態だったから、チームのみんなで考え抜いて熊本の工房で改造を施したんだ」

 

 私はみほから渡された仕様書を見て叫んでしまった。

 

 「はぁぁぁぁ!?何よこれ、ティーガーⅠより軽くて速いじゃない!しかも、下手なMBTより強いじゃない」

 

 私の絶叫に小梅も愛里寿も集まる。

 

 愛里寿は仕様書を見て対抗心を燃やしたのか、携帯で母親に電話しており、小梅は逆に褒めていた。

 

 「装甲はパンター並だね。でも、慣性ドリフトしながらの射撃には驚いたよ」

 

 「うん、薄くして軽くしたんだ。でも、あの技はまだ未完成なんだ」

 

 多分、聖グロリアーナの韋駄天がいたら欲しがる逸品だと言えるだろう。

 

 そもそも、最高速度55㎞/hもでるティーガーⅡは悪夢でしかない。

 

 パンター並に軽くて、ティーガーⅡ並の火力を実現って・・・・・・

 

 「良く、戦車道連盟の車検が通ったわね」

 

 「それはね、昔良く使われた手らしいよ。でも、このティーガーⅡも以前より打たれ弱くなったから、それでじゃないかな」

 

 「みほ、ちょっといい?」

 

 愛里寿がみほに質問している。

 

 「どうしたの?」

 

 「私のセンチュリオンもパワーアップするから許可貰える?」

 

 「良いけど、センチュリオンはアレ以上はパワーアップは・・・・」

 

 「お母様が出来るって。ギリギリだけど、センチュリオンMk-Ⅱのエンジンなら大丈夫だって」

 

 どうやら、愛里寿のセンチュリオンもMk-ⅡのエンジンであるミーティアMk.ⅠVB元にチューニングするから大丈夫らしい。

 

 私のティーガーⅡもパワーアップが必要な感じもあるが、プラウダ高校との決勝の後にエンジンの積替えとトランスミッションのオーバーホールをしているから無理ね。

 

 そう、思いながら私はパワーアップを諦める事になったが、西住流の工房からみほが手配したのだろうか?パンター、ティーガーⅡ、ティーガーⅠ用にマイバッハHL234エンジンが台数分送られて来る事になる。みほに確認するが分からないらしく、ただ、送り主はフェルドナント戦車工房からだったのだ。

 

 みほが添えられた手紙を確認すと、どうやら、ドイツ選抜チームがEシリーズを解体して廃車にしたらしくフェルドナント戦車工房がエンジンを全て購入したらしい。フェルドナント戦車工房が大洗女子へのスポンサーになった手土産にエンジンを送ったのだ。

 

 

 そして、訓練の帰りは決まって沙織がクレープ屋へと連行してクレープを食べる事になる。

 

 しかし、クレープのメニューに久しぶりに食べるメニューが在った。

 

 「なっ、こんなのがなかとばい!」

 

 「「「「えっ?」」」」

 

 「私も食わすばい!」

 

 「「「「えっ?」」」」

 

 「みほちゃん、エリカちゃん!方言出てるよ!みんな、困惑してるよ」

 

 「「あっ・・・・」」

 

 「西住殿と逸見殿の熊本弁ですか!?」

 

 「あっ・・・うっかりしてたわね。辛子レンコン二つ」

 

 「おっ、お嬢ちゃんは熊本出身かな。なら、辛子レンコンは増し増しでも大丈夫だね」

 

 「お願いするわ」

 

 何事もなくごまかそうとしたが、みほが顔を真っ赤にしていた。

 

 久しぶりの辛子レンコンのクレープを楽しみつつ、熊本料理を懐かしむのだった。

 

 

 

 やはり、みほや小梅、私も含めて懐かしむ郷土料理には抗えなかったので学園の自宅に戻るとエプロン姿に着替えて熊本料理を作り初めていた。もちろん、今日はあんこうチームの面々も一緒にだ。

 

 みほが熊本から持参してくれた鮮度の良い馬肉。

 

 やはり、ここは馬刺しだろ。

 

 そして、新鮮な魚が手に入る大洗なら、酢締めの魚を贅沢に散らしたぶえん寿司。

 

 まだ、料理は終わらない。

 

 みほと小梅は黒森峰での放課後での思い出の料理であるアップルケーキをホールから一人分を切り出して盛り付けをしていく。もちろん、アップルケーキは熊本にある黒森峰女学院直営のアンテナショップで購入出来る。

 

 それを目を輝かせて見ているのはフォークを構えて待っている愛里寿だけではない。新たな住人であるツェスカとエミに瞳達だ。

 

 瞳を除く五人共、共通して言えるのは家事が壊滅的である事だった。どうやら、瞳だけは寮で自炊をしていたようだが、他に限っては学食だったりコンビニ弁当で済ましていたらしい。

 

 この、シェアハウスに私がいる限り不健康な食事はさせない。

 

 もし、みほだけで転校していたらと思うだけで身の毛もよだつのだ。

 

 リビングのテーブルには出来た料理が並んで行く。

 

 瞳も負けずにイナダの活け作りを作り上げテーブルに運ぶ。

 

 だが、忘れてはいけないが沙織達もいる。

 

 沙織も負けずに定番である唐揚げやポテトフライを作りテーブルに並べていたのだった。

 

 テーブルの料理は一見豪華に見えるほどだった。

 

 「「「「「「「頂きます!」」」」」」」

 

 全員で夕飯を食べはじめる。

 

 無論、ツェスカにエミをはじめ、私と小梅もノンアルコールビールの黒ビールで晩酌する。

 

 「まさか、みほ達の胃袋を掴んでいたなんてね」

 

 「エミ、仕方ないわよ。みほは中学に入って来た時から家事が壊滅的だったのよ」

 

 「みぽりん、特訓だね」

 

 「はぅ~沙織さんまで・・・・」

 

 「みほちゃん、エリカちゃんはあんな風に言っているけど、実は休み時間にはみほに何を食べさせようか、悩むくらいだったんだよ」

 

 「へぇ、逸見殿が」

 

 「あら、まぁ」

 

 「別に良いじゃない!黒森峰の同じ学年で自炊していたのは私だけだったのよ」

 

 「エリカちゃん、黒森峰の学食は結構美味しかったよ。ほら、アップルケーキだって学食で出ているんだよ」

 

 「まぁ、私もデザート食べに行くぐらいはするわよ」

 

 「ところで、西住殿は聞きましたか?」

 

 私も知らない。

 

 ども、もうすぐ奉納祭だったはず。

 

 「何も聞いてないかな?」

 

 「大洗の神社で奉納祭があるみたいですよ。それも、エキシビションマッチの一週間前です」

 

 「まさか、奉納祭で戦車道の試合をやれって事じゃないわよね?」

 

 「いえ、今回はタンカスロンみたいです。ただ、試合エリアは立ち入り禁止にすることは決まり見たいですが・・・・」

 

 「何処が相手なのよ?」

 

 「いえ、それよりも問題なんですよ。これは、西住殿にも逸見殿にも言わない様にキツク言われていたんですが、アンチョビ殿とペパロニ殿はエキシビションマッチに参加出来ないみたいなんですよ。たた、代わりにカルパッチョ殿が参加するみたいですが・・・・」

 

 「詳しく話しなさい!」

 

 「逸見殿!?目が怖いですよ!話しますから」

 

 アンチョビとペパロニに何が起きたか優花里から聞き出したのだ。

 

 優花里の話しでは、楯無高校とアンツィオ高校とのタンカスロンでの試合中にボンプル学園が横合いから乱入したらしくて、半身を出していたアンチョビが車外に投げ出されて負傷したのだ。そして、逆上したペパロニがボンプル学園の隊長車に突撃したが待ち伏せしたボンプルの戦車の集中砲火を浴びてペパロニまでも負傷してしまったのだ。

 

 「皆さん、すみませんが夕飯を食べたらお開きにします」

 

 これを聞いていた、みほはいままでにない怒りを宿していたのは誰も気付かなかった。

 

 みほはいままで、夕飯を食べてからのお開きは一度もしたことがない。大概、そのままお泊り会になる。私はそう思い、小梅と寝室の用意はしたのだがみほの怒りは相当なものだと瞬時に理解したのだ。

 

 意味を察したあんこうチームのメンバーも名残り惜しみながらも帰宅して行った。ただ、優花里だけは残る様に言って・・・・・・・

 

 隊長であるみほと副隊長の私と愛里寿は優花里を連れて地下にある部屋に行く。この部屋は防音処理された部屋で今は会議室に使ってはいるが、本来は楽器の演奏やカラオケに使うための部屋である。

 

 「エリカさん、ボンプル学園について知ってる?」

 

 「そうね。ボンプル学園の戦車道の隊長は二年生ヤイカがやっているわ。ただ、戦車はお粗末でポーランド系の豆戦車が主力で去年は知波単の突撃戦法に一回戦で敗北しているわね」

 

 「逸見殿に加えて、タンカスロンでは最強の学園であります。主力戦車は7TPやTKSであります」

 

 「軽戦車ばかりね」

 

 「ですが、逸見殿は知らないと思いますがタンカスロンでは無類の強さを誇ります。実際にBC自由学園や楯琴高校に完全試合で勝っています」

 

 「そうですか・・・・優花里さん、すみませんが抽選会には風紀委員会にも警備に参加する様に言って下さい。もしかすると、一悶着ありそうなので」

 

 「了解したであります」

 

 「エリカさんにもすみませんが、奉納祭のタンカスロンの隊長をお願い出来ますか?」

 

 「別に構わないわ」

 

 「それと、副隊長には付属中の楓ちゃんを指名します。メンバーの抽出はエリカさんの一任で構いません」

 

 「みほ、私もタンカスロンを経験したい」

 

 「愛里寿ちゃんは今回は諦めて下さい。町が公認でも戦車道連盟には非公認なので」

 

 私は会議室から出て夕飯の片付けを行ったのだ。

 

 

 

 翌日、授業もなく修業式だけだった。ただ、午後からは戦車道上げてのイベントみたいなもので風紀委員会が忙しく動き周り、学園に来る他校の生徒の誘導や校庭に降りてくるヘリコプターや飛行機の誘導に明け暮れていた。

 

 以前からの話し合いで、割り振りも決められていた。

 

 まず、大洗女子学園はキリンさんチームを除く十両が参加で黒森峰と聖グロリアーナ、サンダース、プラウダが十両で継続、知波単、アンツィオは三両で、他は二両までとしたのだ。

 

 だが、アンツィオ高校の生徒が体育館の前でボンプル学園の生徒に絡んでいると警備中の風紀委員会が知らせて来たのだ。

 

 私は板野を連れて、体育館へと急行するがみほも来ていた。

 

 だが、絡むだけならマシかも知れない。

 

 アンツィオ高校だけではなかったのだ。

 

 「てめぇ!良くも総統をやってくれたわね!」

 

 「そうだ!私らもアンツィオ高校のペパロニさんの鉄板ナポリタンやピザが楽しみだったのよ!」

 

 「他校が試合中に殴り込むなんて卑怯者のする事よ!」

 

 だけど、ヤイカはその場で笑い言ってしまったのだ。

 

 それが、みほにどんな影響を及ぼすかも知らないまま・・・・

 

 「アッハハハハハ!戦の最中に第三勢力に介入されないと思った?三つ巴、四つ巴の泥沼の戦がないと思った?味方が裏切らないと思った?あぁ、来て良かったわ!やっぱり、あなた達は何も知らないのね!?これがタンカスロン、闘争の見せ物野蛮人の暇潰しよ!」

 

 「エリカさん、私、あの人が嫌い・・・・」

 

 「えっ、みほ?」

 

 ここまで、拒絶反応をするみほは始めてだった。

 

 「みほ、嫌いなのはわかるわ。でも、場を収めないと」

 

 「そうだね・・・・」

 

 「総隊長、私がやるよ」

 

 「えっ?楓ちゃん」

 

 しかし、その場を収めたのは付属中の楓だった。

 

 「あら、ヤイカ来てたの?また、付属中にタンカスロンでも公式戦でも負けに来たのかな?」

 

 「うそ、中学生に負けてるの!」

 

 「って、大洗女子学園付属中は中学で話題沸騰中の新星じゃない」

 

 「噂ではプラウダ高校にタンカスロンで勝利したとか」

 

 「えっ、マジ?」

 

 ヤイカは顔を真っ赤にしながら楓に叫ぶ

 

 「あんな戦い方は認めないわよ!」

 

 「何の事かな?タンカスロンでは普通に機関砲の乱射と公式戦は榴弾の雨を降らせただけだけど?あぁ、タンカスロンでは360ミリロケット弾や152ミリの砲弾を埋めた地雷もやったわね。何か問題でもある?それに、地雷を埋まっているのを知っいればギャラリーも危険な距離には入らないわ。ギャラリーをコントロールするのも作戦よ。公式戦はフラッグ車を優先したに過ぎないわ」

 

 「えげつない・・・・」

 

 「ヌッググ・・・帰るわよ!」

 

 ボンプル学園は帰って行ったのだ。

 

 「みほ隊長、大丈夫ですか?」

 

 「楓、ボンプルともやり合っていたの?」

 

 「うん、普通に」

 

 「エリカさんと総隊長にですが、黒森峰が楯無、BC自由連合とタンカスロンの試合をやった見たいですよ。残念ながら黒森峰が負けたけどね」

 

 「えっ?黒森峰が負けたの?」

 

 「うん、負けた。僅差だったよ。映像在るので見ますか?」

 

 「楓ちゃん、隊長室に持って行ってくれる?抽選会が終わっら見るから」

 

 「はい、分かりました。既に置いありますよ」

 

 「ありがとう」

 

 「じゃあ、私達も抽選会に行きましょう」

 

 「だね」

 

 その後、抽選会は無事に終わりを迎える。

 

 私は白組だったがみほは赤組になったのだ。

 

 

 

 白組が控える作戦室では悲壮感が漂っていた。

 

 まるで、お葬式のように・・・・

 

 それも、仕方がない。

 

 赤組にはドイツ選抜チームの隊長だったマリアやまほさんを始め、知波単の西隊長、付属中の楓や学園では随一の練度のアヒルさんチーム、駆逐戦車乗りのヘビさんチーム、次期隊長候補の澤がいるウサギさんチーム、プラウダのカチューシャ、ノンナ、クラーラにサンダースのナオミなどが揃っていた。

 

 私達の白組は愛里寿率いるレオポンチーム、エミ率いるクマさんチームにエミの姉や聖グロリアーナのダージリンやリクリリ、ローズヒップ、サンダースのケイにアリサ、プラウダの隊長カツコフにジェーコフ、継続の島田ミカなどくせ者揃いだったのだ。

 

そして、白組の隊長に就任したのは愛里素だった。

 

 最初はかなり嫌がっていたが、副隊長に私とミカが就く事で就任してくれた。

 

 赤組に関してはみほが隊長で副隊長にはカチューシャとまほさんが就き、マリアが就任しなかったのはみほの参謀として同じ小隊に志願したらしい。

 

 私も紅白戦のメンバーを確認したのだ。

 

 

 赤組            白組

 

 西住みほ(あんこうチーム)  島田愛里寿(レオポンチーム)

 澤梓  (ウサギさんチーム) 逸見エリカ(ワニさんチーム)

 岩下歩 (ヘビさんチーム)  中須賀エミ(クマさんチーム)

 磯辺典子(アヒルさんチーム) 猫田   (アリクイチーム)

 エルヴィン(カバさんチーム) 園みどり子(カモさんチーム)

 マリア  (黒森峰)     ダージリン(聖グロリアーナ)

 西住まほ (黒森峰)     リクリリ (聖グロリアーナ)

 カチューシャ(プラウダ)   ローズヒップ(聖グロリアーナ)

 ノンナ   (プラウダ)   カツコフ (プラウダ)

 クラーラ  (プラウダ)   ジェーコフ(プラウダ)

 ナオミ  (サンダース)   ニーナ  (プラウダ)

 西    (知波単)     アリーナ (プラウダ)

 福田   (知波単)     玉田   (知波単)

 エクレール(マジノ)     ケイ   (サンダース)

 カルパッチョ(アンツィオ)  アリサ  (サンダース)

 ナポリタン (アンツィオ)  フォンデュ(マジノ)

 橘銀千代  (松山西女子)  島田ミカ (継続) 

 源田八重子 (松山西女子)                    

 他22チーム         他23チーム

 

 大洗奉納祭の編成

 

 隊長車 

 

 38(t)C型カスタム 

 

 メンバー 逸見エリカ 赤星小梅 内法泰子 藤木月乃 

 

 副隊長車 

 

 38(t)C型カスタム

 

 メンバー 飛騨楓 武部詩織 島田葵 西条白露

 

 時雨車

 

 38(t)B型改

 

 メンバー 西条時雨、西条村雨、綾波霞、綾波さつき

 

 

 

 

 

 




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奉納祭です!


 奉納試合です。

 はじめてタンカスロンを経験するエリカはいかに・・・


 

 何故、私はこうなるのよ?

 

 何故、私の作戦が簡単に読まれるの?

 

 私は止まらない動揺と悔しさの中、小梅に予測射撃をさせながら37ミリ機関砲を住宅の隙間を縫う様に乱射していく。

 

 しかし、弾丸は急ブレーキや急加速を巧に使い使って交わされていき、虚しく向こう側のブロックを白く染めるだけだった。

 

 そして、味方だった楓と時雨は向かい合ったまま白旗を靡かせてキューポラに半身を出したまま、顔や体をペイント弾で白く染まり気絶していた。でも、私は歩を止めるわけにはいかない。

 

 みほの隣を歩むと決めた時から・・・・・・・

 

 

 

 

 夏休みに入り、エキシビションマッチだけでなく奉納祭の準備の真っ最中だった。

 

 夏休み前に私はみほから奉納祭に出るように言われた。

 

 別に嫌ではない。

 

 始めて、経験するタンカスロンに戸惑っただけだ。一応、サポートに副隊長に楓が付いてくれている。楯無高校は一両だけと聞いていたから、こちらは三両の小隊編成で挑む事になった。

 

 だが、大洗女子学園仕様に戻され、帰って来た38(t)C型カスタムを乗りこなすには黒森峰時代に乗り回していただけに充分だった。

 

 学園の演習場は午前はエキシビションマッチに向けた訓練に費やし、午前からは私と楓、時雨の奉納祭に向けた訓練に当てたのだ。

 

 もちろん、相手をするのはエミ、ツィスカ、レイラに何故かノリノリで38(t)C型を操縦して乗り回す愛里寿だった。もちろん、砲手に華、装填手に優花里、車長にみほをもれなく添えて・・・・・・

 

 結果から言えば、ノリノリの愛里寿の蹂躙劇だった。

 

 それも、終始の様子は

 

 「♪♪♪」

 

 だった。

 

 愛里寿の操縦技術に加え、華の正確無慈悲の射撃で回避不可の近距離からの機関砲の乱射は交わせと言うのが無理だ。さらに、追い討ちを掛けるべくみほの作戦指揮能力が加わるのだ。

 

 最早、悪夢以外何でもないのだ。

 

 だけど、愛里寿とみほに言われたのは当たっていた。

 

 「エリカ、もっと頭を柔軟にしろ」

 

 「うん、エリカさんを見ていると頭がガチガチだよ。それだと、足元をいつか掬われるよ」

 

 確かにそうだ。

 

 みほの立てる作戦は全て理解出来ると言えば、NOだ。

 

 今までも、ほとんどが力押しで全てをやってきた。

 

 柔のみほに剛の私・・・・・

 

 そして、相反する二人だから惹かれ合ったのも事実だ。

 

 今までの試合の中、変わらなければいけないのは分かっていた。だから、奉納祭に私を指名したのも理解していた。

 

 今のままでは、みほの隣を立てなくなることぐらいに・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 エリカさんとの訓練が終わると私は詩織と時雨を連れて、大洗の街中に来ていた。

 

 理由はもちろん奉納祭の下見だ。

 

 「時雨、楯無高校がタンカスロンで使用する戦車は何だか知ってる?」

 

 「僕は、知らないかな。多分だけど、大洗騒乱の前後に出て来たからだと思うよ」

 

 「詩織は?」

 

 「さつきちゃんには悪かったけど、副隊長権限で富士演習場と黒森峰第四演習場に行って貰ったよ。楯無高校の戦車はテケ車だった。数は一両だけだけどね」

 

 「あのディスクはさつきが撮影した映像だったんだ」

 

 「うん、そうだね。でも、あれは私達にやられたらと思うと背筋が凍るね」

 

 確かに、総隊長に映像を焼いたディスクを渡す前に映像を確認している。サンダース戦は完全に損傷箇所を確認しなかった凡ミスだったが、一両を倒す為に二両を撃破されていた。自分達ならC型で高速を活かした一撃離脱を優先させるだろ。その後のB型による仕上げで決まるだろう。

 

 しかし、黒森峰戦ではそれを否定された。

 

 タンカスロンでは近距離まで観客が来る事が多い。それを彼女は利用したのだ。

 

 煙と炎から逃げる様に仕向け、そこを突いて黒森峰を撃滅したのだ。

 

 そして、士気上げる為に自ら犠牲になったBC自由学園の元隊長であるアスパラガスの犠牲で・・・・

 

 私も総隊長も同じ意見だが、犠牲が在ってこその勝利には勝利とは呼べないことを思っている。あれを見た、総隊長はどう取るかわからないが彼女を見るために大洗に呼んだのだろう。

 

 「楓ちゃん、それにしても地元とは言ってもバラバラにされたら個別に撃破されるね」

 

 「うん、私でも個別撃破を狙うね」

 

 「でも、逆に狙われたら?」

 

 「時雨、不吉な事言わないでよ!」

 

 「今回の隊長は誰かな?」

 

 「エリカさんだね・・・」

 

 「うん、そうだよ。僕が言いたいのは、付属中だけの編成なら地元らしい戦い方が出来る。でも、エリカさんは大洗に来て一年も満たない。なら、地元ならではの戦い方は出来ないよ」

 

 「だから、私達が選ばれたんでしょ!」

 

 「楓ちゃん、エリカさんと親類だからって言っても、僕は付属中ならではのやり方は崩すつもりはないよ」

 

 「うん、分かっているわ。最悪、エリカさんには囮になって貰う。奉納祭で地元が負ける訳にはいかないから」

 

 だけど、これが足元掬われる要因になったのは誰も気付かなかったのだ。

 

 

 

 

 奉納祭、当日になり私は愛里寿ちゃんにエミちゃん、瞳ちゃんの三人を連れて大洗の街中に来ていた。彼女達を探していたら、小腹が減り久しぶりに大洗ならではの食べ物がないか探し回ると誘導先である『うすや肉店』から香ばしい揚げ物の臭いが私の鼻孔を刺激する。

 

 ぐぅぅぅ

 

 「みほ、まさかお腹減ったって思ってないわよね?」

 

 エミちゃんに言われてもお腹が鳴った事は隠せない。

 

 「エミちゃん、ちょっと食べない?」

 

 「あっ、あぁぁぁ!ここの串かつ、凄く美味しいんだよ!」

 

 「瞳ちゃん、そうなの?」

 

 「うん、やみつきになるよ」

 

 「みほ、私も食べたい」

 

 「じゃあ、みんなで食べようよ」

 

 そんな時、後ろの方から履帯に統制式エンジン独特の奏でる音が私に聴こえて来る。そして、三人の女性の声も・・・・・

 

 「フライのいい臭い・・・・姫!寄ってっていい?」

 

 「なんだ、まだ食べるのか?」

 

 「だって、おいしそーなんだもん。でも、停められるかな?」

 

 私は愛里寿ちゃんが抱いているボコのチャックからこっそり出した写真であの子達だと判る。

 

 「みほ、来た・・・」

 

 「うん、だね・・・」

 

 そして、大洗駅に軽戦車が降りて来た段階でここまで誘導する様に商店街の各出店には協力を彼女達を呼ぶ段階から求めていた。

 

 つまり、商店街が彼女達の誘導に成功した事になる。

 

 作戦名は名付けて『茨城の名産をあげちゃおう作戦』だね。

 

 私は早速、接触を図る事にしたのだ。

 

 「エミちゃん、ちょっと誘導して来るね」

 

 「分かったわ」

 

 早速、彼女達を隣の駐車場に誘導する事にしたのだ。

 

 私は彼女達の戦車の前に出て誘導する。

 

 「オーライ!オーライ!こっちに戦車スペース空いてますよ!」

 

 彼女達が降りて来るまでの間に私達と彼女達の分の串かつを注文しておくのだ。

 

 「みほちゃん、いつも悪いね」

 

 「ありがとうございます。でも、今は名前を伏せて貰いますか?」

 

 「おっと、悪かったね。お代はおまけしておくよ」

 

 ニッコリ笑い笑顔で返事をしたのだ。

 

 そして、彼女達が降りて来る頃には串かつは揚げたてホヤホヤが来るのだ

 

 「はい!串かつおまちどう!」

 

 先に彼女達から食べて貰った。

 

 「「「おいしいっ!」」」

 

 私達も串かつを貰い、ウースターソースをかけて早速頬張る。ジューシーな豚肉にサクサクの衣が堪らなく美味しい。だって、彼女達も

 

 「この、揚げたてのホクホク感が・・・・」

 

 「おいしいよね♪」

 

 「あっ・・・・!さっきは誘導ありがとうね!」

 

 「どういたしまして!」

 

 そして、私達は駐車場で彼女達の戦車に気付く。

 

 「珍しい!九七式軽装甲車なんて」

 

 「うん、確かに珍しい・・・」

 

 「そうね」

 

 「えへへ、ありがとうございます」

 

 私は食べ終えた串をごみ箱へ入れ、この場から離れる事にしたのだ。

 

 「じゃあ、よい夏祭りを!」

 

 だけど、ロングヘアーの女の子に呼び止められる。

 

 まさか、正体がばれたかな?

 

 「あの!」

 

 「はい?」

 

 「お口にソースがついてますよ・・・・・?」

 

 「あわわ」

 

 私としたことがここでソースがついていたなんて・・・・

 

 私は彼女達から離れたのだ。

 

 

 

 

 

 栗毛に白いワンピースを着た女性と熊の人形を抱いた銀髪にブラウスに黒いロングスカート、赤髪にツインテールでホットパンツにTシャツの女の子達・・・・

 

 まさか・・・

 

 「どうしたの姫?」

 

 「う~む、あの御仁まさか・・・いや、人違いだろう・・・・」

 

 「でも、一人は判るよ。島田愛里寿じゃないかな?」

 

 「いや、気のせいだろう。あの、西住みほ殿があんなにのどかな訳がない」

 

 「そっちじゃなくて、銀髪の女の子だよ」

 

 「小動物のように島田愛里寿が、あんなに可愛い訳がない!」

 

 

 

 私は心の整理が付かないまま、商店街が用意した近所にある旅館肴屋本店に泊まる事になったのだ。

 

 ただ、外では綺麗な花火が大輪を咲かせており、彼女達も学園艦から見ているのだろうか?

 

 そして、大洗女子学園の数は三両と商店街から聴いている。

 

 警戒されているのだろか?

 

 正直、分からない。

 

 いや、私達が生徒会を通じて大洗に呼ばれたのは・・・・・・・

 

 ブッルル・・・・

 

 考えた矢先、震えが止まらなくなった。

 

 未知への恐怖と西見みほへの恐怖に・・・・・・・

 

 「Zzzz・・・」

 

 鈴は気持ち良さそうに夢の中に旅だっている。

 

 私も考えるのを辞めて眠ろう・・・・・

 

 

 

 翌日、私はみほに言われた意味が分からないまま大洗文化センター前に集合している。

 

 『ワァァァァァァ!?』

 

 いつもと変わらない歓声

 

 いつもと変わらない応援してくれる町の人達

 

 私には変わらない光景だった。

 

 私はいつものパンツァージャケットを着込み、対戦相手を睨む。

 

 「隊長、落ち着きましょう」

 

 「楓、落ち着いているわ。大洗の地理には疎いから頼むわ」

 

 「僕を失望させないでね」

 

 「時雨、きつい事言わないでよ」

 

 そうしている間に二人組が私の前にやって来る。

 

 「御主らが相手か?」

 

 「そうね。私は大洗女子学園戦車道の副隊長の逸見エリカよ」

 

 「同じく、大洗女子学園付属中、戦車道隊長の飛騨楓」

 

 「ひっ、飛騨楓!?」

 

 どうやら、鈴と呼ばれる生徒は私ではなく楓に反応したのだ。

 

 意味は判る。

 

 タンカスロンでは楓の方が一日の長があるし、中高関係なく資金稼ぎで暴れ回る隊長だ。そして、最近知った事だが公式戦でも黒森峰女学院付属中に大激戦を繰り出した猛者だ。

 

 結果は負けて、準優勝だったが・・・・・

 

 「だが、御主らは似ておるが姉妹か?」

 

 「いとこよ」

 

 「私ら弱輩には隊長は要らぬのかな?」

 

 「何が言いたいのよ?」

 

 「もし、勝てたなら西住みほ殿との一騎討ちを所望すると言っておる」

 

 獰猛な笑みで私を見つめる。

 

 良い目をしているわね。

 

 だけど、みほをやらせない。

 

 だから・・・・・

 

 私も久しぶりにあの目付きになり、二人を睨む。

 

 「「ひっぃ!?」」

 

 「大洗女子学園の狂犬逸見エリカと知ってかしら?」

 

 商店街から放送が流れる。

 

 『奉納戦車試合、5分後に始めます!』

 

 それを聞き、私は彼女達に挨拶をする

 

 「「「お願いします!」」」

 

 彼女達も私達に習うように挨拶を返す。

 

 「「お願いします」」

 

 そして、私達は自分達の戦車へと向かう。

 

 

 

 大洗ホテルの屋上、私達はそこから全体を見渡していた。

 

 「みほ、エリカは勝てると思う?」

 

 エミちゃんは意図が分かっていながら意地悪な質問して来る。

 

 「多分、エリカさんは負けるよ」

 

 「「「「えっ?」」」」

 

 まだ、あんこうチームのメンバーには意図を説明していない。

 

 だから、驚くのも無理はないと思う。

 

 「西住殿、逸見殿が負けるってどういう事ですか?」

 

 「そうだよ、みぽりん!エリリンは学園で一番の撃破数を持っているのに?」

 

 「優花里、沙織、私が説明する」

 

 「えっ?島田殿?」

 

 「愛里寿ちゃん?」

 

 「愛里寿ちゃんがお話しする前にわたくしが宜しいでしょうか?」

 

 「華は気付いた?」

 

 愛里寿ちゃんの質問に華さんは無言で頷く。

 

 「はい、逸見様は今までは全て力押しだけで撃破しています。ですが、逆に搦め手で撃破されている事が幾度か在ったからですか?」

 

 「華さん、正解だね」

 

 「このままでは、エリカは搦め手に弱くなる。なら、搦め手を使う相手と戦わせて経験を積ませる。それは、私とみほが話し合って決めた。エリカには来年からは重戦車の小隊の指揮を執らせたい。でも、こんな不安な状態ではみほが立ち上げようとする小隊に不安が残る形なる」

 

 「西住殿は新しい戦術を考えてるんですか?」

 

 「うん、今までは島田流を元に作戦を組んでいたけどね、私ならではの作戦に移行しようって思うんだ。でも・・・・・」

 

 「エリカね。私もみほから聞いた時は驚いたわ。まぁ、私も人のことは言えないけどね」

 

 「ねぇ、みぽりん!試合が始まったよ!」

 

 沙織さんの一言で注目する私達だった。

 

 ただ、エリカさんには頑張って欲しい。

 

 私の隣に居るのはエリカさんしか居ないのだから・・・・・・

 

 

 

 

 試合始まって早々、時雨には計画通りに消防署に向かって貰う。それは、大洗の市街地を一望出来るのは神社よりも消防署の方が直ぐに合流が出来る利点があるからだ。

 

 私は楓を護衛に市街地を進む。

 

 『時雨です。テケ車を発見!場所は大洗カントリークラブ方面から市街地方面に進行』

 

 「了解、時雨はその場から合流して楓とペアを組みなさい」

 

 『了解、合流します』

 

 私達は役場入口の信号で合流した矢先にテケ車を発見して追撃する。

 

 「追い詰めるわよ!」

 

 発見された事に慌てるテケ車は急に旋回して路地に入り込む。

 

 私も追撃、楓達と別れ私も一本手前の路地をドリフトしながら高速で曲がる。

 

 私は壁伝いに見える彼女を見ながら主砲をむける。

 

 彼女達を追い詰めたのだ。

 

 一本向こう側を疾走するテケ車に隣の路地を走りながら、さらに追い詰めて行く。

 

 「小梅!射撃用意!」

 

 「楓、時雨は次の路地で挟み込むわよ!」

 

 「「了解!」」

 

 私だって、大洗女子学園の生徒だ。

 

 みほ同様、大洗の地形を把握する為の努力を怠ってはいない。

 

 それに、ティーガーⅡでは無理だがこの38(t)なら狭い道をいくらでも行ける。

 

 だけど、仕掛けさせてもらうわ。

 

 ちょうど、平屋の民家があり窓も全開なら出来るはずだ。

 

 「小梅、早いけど仕掛けるわよ!」

 

 「エリカちゃん、まだ、早いよ!」

 

 「いえ、民家の開いた窓に四連射するわよ!」

 

 「行くよ!」

 

 ガッガガガガガ

 

 小梅は言われた様に窓に機関砲を連射していく。

 

 「!?」

 

 キッィキィィィ

 

 しかし、相手は殺気を感じたのか急ブレーキで交わす。

 

 「ハッギャ!?」

 

 「やだもぅ!ペイント弾でベトベトよ!」

 

 ただ、虚しくギャラリーとブロック塀を白く染めただけだった。

 

 何故、ギャラリーが居るのかは競技用の砲弾ではなく、ペイント弾で試合をするからギャラリーに当たっても問題ないらしい。

 

 しかし、みほは学園の38(t)C型カスタムのスペックを説明したがペイント弾だし問題ないとの事だった。

 

 そして、タンカスロンの一番の醍醐味だからエリア内の立入禁止をしなかったのだ。

 

 いや、できなかったのだ。

 

 「全く、良く交わすわね!」

 

 悪態を付きながらも、追撃は辞めない。

 

 「こちら、楓。路地の出口で待ち伏せ完了」

 

 「了解、出て来たらぶっ放しなさい!」

 

 楓達が待ち伏せを完了している。

 

 最早、袋の鼠だ。

 

 私も楓達に合流すべく速度を上げる。

 

 私があることを見落としていたとも知らずに・・・・・

 

 

 

 

 待ち伏せを完了し、テケ車が出て来るのを待つだけだ。

 

 「楓ちゃん、なんか嫌な予感がする・・・・」

 

 「詩織、どうしたのよ?」

 

 「なんか、作戦がすんなり行き過ぎるよ」

 

 詩織の一言で意味を理解したが、既に遅かった。

 

 「時雨、撃つな!」

 

 私の咽喉マイクで叫ぶけど遅かった。

 

 時雨の38(t)B型改の主砲と私の38(t)C型カスタムの37ミリ機関砲が火を噴いていた。

 

 出て来る者を確認せずに・・・・

 

 真っ白に代わっていく何か

 

 「射撃中止!」

 

 真っ白になり果てたのは無人のパワーショベルだった。

 

 操縦席にはアクセルにはブロックが置かれており、テケ車が出て来なかったのだ。

 

 「なっ、何でパワーショベルなのよ!」

 

 「嵌められた!?」

 

 「マズイ!?」

 

 もうすぐ、エリカさんも追い付く。

 

 「時雨、下がりなさい!狙われてるわよ!」

 

 「!?」

 

 時雨は急発進して後退する。

 

 時雨が居た場所に砲弾が着弾する。

 

 時雨が下がった路地から凄いスピードでテケ車が飛び出して逃走を計る。

 

 私の心は掻き乱され、ワナワナとしていた。

 

 「良くも、私をコケにしてくれたわね」

 

 最早、エリカさんと合流はどうでも良くなったのだ。

 

 怒りに燃える私。

 

 直ぐに、時雨に命令を出す。

 

 走り出す、私の38(t)C型カスタムと時雨の38(t)B型改がテケ車を追走する。しかし、ハッチから半身を出している彼女は私を見るなりニヤリと笑い、再び路地を入り込んでいく。

 

 「時雨!エリカさんを待たずにやるわよ!次の路地を左折!私は右折して彼女を追い込むわ!あの先はここをグルグル回るしかない道よ!挟みこんで、蜂の巣にしてやるわ!」

 

 彼女を追い、38(t)C型カスタムの最高速度である56㎞/hで全力で走る。

 

 私と葵なら出来る芸当だ。

 

 私の指示と葵の操縦技術。

 

 さらに、葵は麻子さんから操縦技術を学んで腕をさらに上げている。

 

 不可能ではない高速移動。

 

 「見付けたわよ!」

 

 「!?」

 

 「詩織、撃て!」

 

 機関砲が火を噴いてテケ車を襲うが右にハンドルを切り交わす。

 

 「ッツ!?アレを交わすの!」

 

 やっぱり、愛里寿ちゃんと同じだ。

 

 彼女は操縦手に一言も発していない。

 

 なら、考えられるのは足による指示だ。

 

 まるで馬を扱う様に・・・・・

 

 テケ車の正面から、時雨が乗る38(t)B型改がやって来る。

 

 ハンドサインで私が右側を時雨が左側を狙うように指示する。

 

 しかし、彼女はこれすらも交わす。

 

 交わされたって事は・・・・

 

 「ヤバイ!?」

 

 彼女が交わすと同時に住宅の中に入り込んで逃げる。

 

 最高速度が出ていた私と時雨は相対する意味と正面同士で撃った意味は

 

 お互いに撃った砲弾が・・・・

 

 「「ギャァァァァァ!?」」

 

 私の顔面と上半身に38(t)Cは真っ白に染まる。そして、時雨も私と同じ様に・・・・・

 

 薄らいで行く意識の中、私は彼女にフレンドリーファイヤーを誘われた事に気付いたのだ。

 

 

 

 二人がやられた事を知らないまま、テケ車を探していた。

 

 そして、機関砲特有の射撃音に私は音がする方へと向かう。

 

 路地を進むに連れて見えたのは、白旗を掲げた二両の38(t)だった。

 

 まさかだと信じたい。

 

 あの、楓がやられたのだ。

 

 よく見れば、二人とも半身を出したまま気絶している。

 

 車両に何発も受けている状況を見て理解したのだ。

 

 テケ車には速射能力はない。

 

 考えられるのはフレンドリーファイヤーをやった事だった。

 

 彼女が曲がっただろう、民家を曲がり追跡する。

 

 案の定、彼女は直ぐに見つかる。

 

 彼女は神社に逃げ込んでいたのだ。

 

 その前に視線を感じ、見上げると大洗ホテルの屋上でみほが見ていたのだ。

 

 このままでは、みほに顔向け出来ない。

 

 そして、彼女は私を見るなり、境内の階段を戦車で降りたのだ。

 

 「ハァァァ!?戦車で階段を降るなんてどんな神経してるのよ!」

 

 戦車に通れない道はない。

 

 正にそうね。

 

 なら、彼女らが出来るなら私に出来ない訳がない!

 

 「内法、階段を降るわよ!」

 

 「えっ!?逸見さん、危ない!」

 

 「大丈夫よ!戦車に通れない道はないわよ!」

 

 私も彼女を追撃すべく、階段を降る。

 

 彼女が降りた先は浜辺だった。

 

 半身を乗り出す彼女は観戦客に叫ぶ。

 

 「遠からん者は音に聞け!近からん者は目にも見よ!我等こそは百足組(ムカデさんチーム)也!此度、故あって大洗磯前神社祭神に射撃奉納する也!互いを的にいざ一射とくとご覧じよ!」

 

 これは・・・・

 

 「エリカちゃん、平家物語の那須与一の扇の的だね」

 

 「小梅、あんたまさか?」

 

 「ゴメンね。エリカちゃん、機関砲をフルオートからシングルに変更して」

 

 「まさか、やるつもり?」

 

 「エリカちゃん、元黒森峰の与一は伊達ではない事を見せてやる。だから、装填をマガジン式から手動装填に変更。弾種、高速徹甲弾装填」

 

 小梅から言われる様にしていく。

 

 砲弾ラックから高速徹甲弾を手動で装填する。

 

 「小梅、良いわよ」

 

 ここまで、集中した小梅は見た事がない。

 

 「スゥーハァー・・・・・・」

 

 私は自由射撃を認める様に手を肩に乗せる。

 

 とても、長く感じる瞬間。

 

 小梅が引き金を引く。

 

 お互いが放つ砲撃。

 

 砲弾はテケ車の砲弾を砕き、空中で砲弾が爆発する。

 

 しかし、時間になりアナウンスが流れる。

 

 『時間切れにより、ただいまの奉納試合は両者引き分け!繰り返す、両者引き分け・・・・』

 

 しかし、引き分けでも私は負けていた事に気付く。

 

 込み上げて来る悔しさ。

 

 終始、彼女に振り回された事実。

 

 私は・・・・・・

 

 「みほ、ゴメン・・・・・」

 

 グッシャ

 

 「エリカちゃん!?」

 

 被っていたベレー帽を握り潰し、みほに謝りながら砲塔の中で膝を抱えて縮こまり、私は悔しくて声を殺す様に静かに泣いたのだ。

 

 

 

 

 

 





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奉納試合の後に・・・・ 動きだす歯車


 結構難産だった事と戦車道大作戦のイベントの報酬、金のチケットやっとヤークトティーガーの装甲Aランクをゲット出来ました。ただ、CACは流石に酷い・・・・

 でも、AABのヤークトティーガーが作れたかな・・・・・


 

 大洗女子学園に戻りながら愛里寿ちゃんと話ながら、エリカさんが指揮を取る試合を見た私は罪悪感に駆られていた。

 

 そして、偶然にもボコミュージアム近辺の土地が売り地である事を奉納試合の最中に知ったのだ。直ぐに、愛里寿ちゃんと相談してボコミュージアムと近辺の土地を押さえられないか、私のお母さんと島田師範に相談していたのだ。

 

 「少し、悪い事しちゃったかな?」

 

 「みほ、だけどエリカにはもっと強くなって欲しい。じゃないと、みほが立ち上げようとしている流派の師範代にはなれない」

 

 「うん、そうだけどね。愛里寿ちゃん、ボコミュージアムの件はどうなった?」

 

 「それなら、島田流家元と西住流家元から資金提供をして共同経営する話にまとまった」

 

 「なら、良かった」

 

 あの近辺の広大な土地は流派を開くにはちょうど良かった。

 

 そして、あの近辺を演習場にするよりも、ボコミュージアムを残しつつカフェテリアを作って観戦席を設けた方が収入源にもなる。それに、島田流を離れる事にした愛里寿ちゃんと新たな流派を立ち上げる様に言われた私にはピッタリな場所だった。

 

 だけど、調べなくてはいけない事もある。

 

 『ガノッサの屈辱』

 

 『飛騨流の終焉』

 

 これが、お母さんから出された課題だった。

 

 だけど、調べてもどの資料にも黒く塗り潰されていたり、閲覧制限を掛けられたりと調べるのが難しかったりする。いや、予想以上に難航しているのが現実だった。

 

 だけど、これは生徒会会長を決める選挙後に大きく動く事になる。

 

 「みほ、エリカの所に・・・・」

 

 「うん、そうだね。でも、エリカさんは強いから大丈夫だよ。だから、学園で交流会の準備をしようかな?」

 

 愛里寿ちゃんに言われて私はアンチョビさんとペパロニさんにカルパッチョさんが旅館から観戦していたのを大洗ホテルから見えていた。ここはアンチョビさんとペパロニさんにカルパッチョさんに交流会の料理を頼もうと思っていたし、あとは今後の開く予定だったカフェテリアの相談もしたかったのだ。以前、自分の店を持ちたいと聞いていたからかも知れないが・・・・・

 

 

 

 

 試合も終わり、私は車内で泣いたままでいた。

 

 試合は引き分けだったが負けに等しい位の敗北だった。

 

 「エリカちゃん、挨拶が残っているよ」

 

 小梅の一言に我に返る。

 

 「そうね。挨拶が終わるまでが試合だったわね・・・・・」

 

 私は握り潰したベレー帽を被り直し、小梅から渡されたハンカチで顔を拭いて車外にでる。そして、小梅に支えられながら迎えに来ていた商店街のトラックの荷台に乗り込み文化センター前に移動したのだった。

 

 

 文化センター前には気がついた楓達が私を見ていた。先にやられてしまった申し訳無さと相手を舐めていた事による反省から楓も時雨も今にも泣き出しそうな表情だった。

 

 そして、私の前に来ると

 

 「エリカさん、ごめんなさい・・・」

 

 「気にして無いわよ」

 

 パッァァァン

 

 「ヒャァ!?」

 

 楓のお尻を軽く叩き、檄を飛ばす。

 

 「ほら、行くわよ。挨拶が終わるまでら試合よ!」

 

 「はい!」

 

 私は彼女達を見ながら挨拶をする。

 

 「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 観客達が私達の試合を讃える様に拍手で迎えてくれる。

 

 悔しかったけど、楽しい事には変わりはない。

 

 だって、彼女達はみほの様に楽しんでいたのだから・・・・

 

 そんな時、私の携帯にメールが入る。

 

 相手はみほからだ。

 

 内容は三人と大洗女子学園で交流会を開くから連れて来てとの内容だった。

 

 仕方なく、彼女達を大洗女子学園に誘導する事になったのだ。

 

 「試合が終わって、申し訳無いけど付き合いなさい」

 

 「しかし、私達は帰る予定ですが?」

 

 ここで、私は嘘を付く事にしたのだ。

 

 「あなた達の戦車は修理するから整備班が持って行ったわよ?」

 

 「「えっ?」」

 

 だが、嘘も誠で実際にはみほに頼まれた板野が既に運んでおり、自動車部の面々が瞳を輝かせながら整備したらしい。特にレオポンチームの面々が魔改造させろと騒いだらしいが、板野が交流会に間に合わなくなるから止めたらしい。

 

 試合をした相手も私達もみほのメールに言われるままに誘導された先は大洗女子学園の戦車倉庫の前だった。

 

 倉庫内の戦車は倉庫前の校庭に並べられ、倉庫内は簡単なパーティー会場に様変わりしていたのだ。

 

 戦った二人と一緒にいる生徒は校庭に並べられた戦車を見ていたのだ。

 

 見ていた戦車はみほのティーガーⅡあんこうチーム専用カスタムだった。

 

 「あんこうチームのマーク・・・・これが、西住みほ殿の戦車か・・・・・」

 

 「姫、これは凄いよ・・・・軽量化された装甲に強化されたサスペンションに幻と言われたエンジンまで積まれてる・・・・こんな戦車、一度は操縦して見たい・・・・・」

 

 「あなた、鈴って言ったかしら?」

 

 私は彼女達に声を掛ける。

 

 「はい、ごめんなさい!乗ろうとだなんて・・・・」

 

 「良く、見た目で解るわね。もしかしたら、乗れるわよ」

 

 「えっ!そうなんですか!」

 

 「パーティーが終われば片付けの時に乗れるかもしれないわ」

 

 「御主はエリカ殿・・・・」

 

 「今日の試合は見事だったわよ」

 

 「否、引き分けだった」

 

 「いいえ、これは完全に私の敗北よ。砲手の小梅が砲弾に撃ってなかったから負けたのは私よ」

 

 「エリカさん!」

 

 後ろから走って来たのはみほだった。

 

 「えっ!昨日の御仁!?」

 

 「エッヘヘ・・・また、会いましたね」

 

 「みほ、三人に会って居たの?」

 

 「うん、どんな人達だったか気になっていたから」

 

 「そうだったのね・・・・」

 

 「ところで、二、三程聴きたいが?」

 

 確かに、私も気になる事だった。何故、この娘達とタンカスロンの試合が組まれたのか知りたかったりする。

 

 「はい、お答え出来る範囲なら構いません。でも、そろそろ打ち上げと反省会が始まりますので食事をしながら話しませんか?」

 

 「そうしよう」

 

 「そうね。反省会!?」

 

 「エリカさん、反省会はやるよ。今の大洗女子にはレベルアップか必要だからね」

 

 「お手柔らかに頼むわね・・・・」

 

 倉庫内に移動して、打ち上げが始まる。

 

 料理はアンツィオ高校のペパロニやアンチョビ達が既に用意していた。

 

 そして、観戦していたのはみほ達だけではなかった。

 

 「エリカ、元気にしてる様だな」

 

 「まほさん?」

 

 「大洗女子がどんな戦いをするか気になって見に来た」

 

 「あら、わたくし達も居ますのよ?」

 

 「エリカさん、お疲れ様です」

 

 「ダージリンにオレンジペコ、あんた達まで居たの!?」

 

 「みほ、エリカ見に来たぞ」

 

 「エリカ、今回も砲手に救われたな」

 

 「カツコフにジェーコフ!?」

 

 黒森峰からはまほさんが来ており、聖グロリアーナからはダージリンにオレンジペコ、プラウダからは白百合戦車旅団の隊長であるカツコフに副隊長のジェーコフが来ていたのだ。

 

 そして、みほの所にはサンダースからケイもいたのだ。

 

 そして、私が気になるのはみほの服装だった。

 

 黒森峰の時なら私服は許されないが、みほが自ら私服だったのだ。

 

 そして、他の人達も私服でパンツァージャケットのままだったのは奉納試合に出た私達だけだった。そして、チームメイトも好みの食事を取りアンチョビ達が作った料理に舌を鳴らしていた。

 

 「皆さん、今日の奉納試合はお疲れ様でした!特に、ワニさんチーム、付属中の皆さんは良い試合でした。さて、来年に向けてですが、新しい試みを導入したいと思います。このように、打ち上げをやりながら反省会もやりたいと思います。どうでしょうか?」

 

 みほの発言に皆は頷く。

 

 「では、食べたり飲んだりしていて構いません。反省会に移ろうと思います」

 

 みほはホワイトボードに地図を張り、四両の戦車の動きを赤ペンと青ペンで地図に書き込んで行く。それを興味深そうに見ていく他校の生徒。まほさんは見慣れているのか平然と見ている。

 

 「まずは、双方の作戦を聴きたいと思います。先にエリカさん!」

 

 「そうね。私達の取った作戦は地元の地理を活かした包囲殲滅を狙ったわ」

 

 「次はしずかさんはどんな作戦でしたか?」

 

 「私の作戦はたった一つ、逸見エリカから冷静さを奪う事だった」

 

 「「「「「えっ!?」」」」」

 

 周りからどよめきが上がる。

 

 無理もない。

 

 確かに、冷静さは欠けたが終始熱くはならかったと思う。

 

 「しかしながら、逸見エリカからは冷静さを奪えなかった。それが私の敗北ね。」

 

 「では、次は反省点を上げて行きたいと思います。まずは、大洗女子の動きから説明して行きます」

 

 ルートを書かれた地図を指しながら説明を始める。

 

 「はい、確かに動きでも解る様に付属中の38(t)は消防署から偵察行動をしています。しかし、ここで反省点があります。エリカさん、何故消防署を選びましたか?」

 

 「私なら、神社からの偵察でも充分だったかも知れません。しかし、包囲殲滅の作戦を取った作戦ではいち早く、合流出来る観点から消防署の鐘突き櫓からの偵察にしました」

 

 「合流は必要かも知れませんが、この後にしずかさんのムカデさんチームに策を講じられて、工事現場に在ったパワーショベルを身替わりに使われています。もし、消防署での偵察及び見張りに徹して居れば防げました」

 

 みほの看破にぐうの音も出ない。

 

 確かに地理の利を活かしてはいた。

 

 だけど、しずかは手を挙げて発言する。

 

 「確かに工事現場のパワーショベルを使いました。ですが、赤星殿の冷静な射撃にカードを切る事になりました」

 

 「小梅ちゃんやるね」

 

 「でも、タイミングはエリカちゃんの指示だよ。それに私もここで撃てば足止めにもなるから」

 

 結局、楓と時雨のフレンドリーファイヤーの件も反省点として上げられ、詳しい事は報告書でまとめる事になる。

 

 「さて、反省会も終わりにして、皆さん最後まで楽しんで行って下さい!」

 

 交流会へと移る。

 

 だけど、気になるのはしずかと鈴の所に会長とみほが居たのだ。

 

 私は少しだけだけど、聞いてしまった。

 

 「やあ、鶴姫ちゃん」

 

 「御主は?」

 

 「あたしは大洗女子学園の生徒会長の角谷杏だよ。よろしくー」

 

 「杏さん、やめときましょう」

 

 「西住ちゃん、彼女の力があればタンカスロンでの資金調達が楽になるんだよ?有力な選手は今のうちに囲わないとねぇ。実直に言うけど、うちの学園に来ないかなぁ?」

 

 「何故、私を?」

 

 「そうだねぇ、うちの学園もタンカスロンに力を入れる為だよ。鶴姫ちゃん達にはタンカスロン専門で来てほしいのさ。勿論、ただでじゃない。鶴姫ちゃん達専用に戦車の用意するし整備もこちらで負担するよ」

 

 それを聞いた他校の生徒の驚きは隠せないで動揺している。

 

 これは、大洗女子学園が正式にタンカスロンへの参入する意味を持つ。

 

 それに、既に強豪校までもが参入を明確にしている事は、うちの学園もタンカスロンと言う大鍋に入り込む事になるのだ。だけど、今の大洗女子学園にはタンカスロンまで割ける人材までは余裕がない。そして、生徒会長が付属中から38(t)Cカスタムを返還させたのは、これを読んでいたのではないだろうか?

 

 「良かろう。私と鈴は大洗女子学園の傘下に参加しよう。ただし、条件がある」

 

 「何かな?」

 

 「西住殿との一戦を望む」

 

 「それなら、構いません」

 

 だけど、結果から言えば瞬殺だった。

 

 他の生徒と強豪校の隊長が見ている中、みほ専用にカスタムした38(t)C型には操縦手に麻子、砲手に華、装填手に優花里がチームを組んでいた。

 

 二人の試合は大洗女子学園の演習場で行い、開始三分でテケ車を発見して正面から高速で接近してしずかが主砲を放つ瞬間だけを狙い、木の葉がヒラリと落ちる様にドリフトしながら交わして裏を取るなり37ミリ機関砲を斉射したのだった。機関砲の弾丸は無慈悲にもテケ車のエンジンルームを撃ち抜き、間抜けな音を出して白い旗を靡かせたのだ。

 

 「えっ?」

 

 「嘘・・・・動きが全く見えなかった・・・・」

 

 しずかと鈴の呟きを余所に、愛里寿が私に呟く。

 

 「木葉返し・・・・・」

 

 そして、私がみほに置いて行かれている現実を目の当たりしたのだった。

 

 

 

 

 場所が変わり、ボンプル学園の学園艦では知波単、楯琴高校連合チームをタンカスロンで破り、私は隊長室で調理に勤しんでいた。作る料理は勿論、ポーランド料理のジュレックだ。

 

 「ブシュナ!」

 

 くり抜いた、ライ麦パンにスープを注ぎ込み会議室に運ばせる。

 

 会議室には車長達が集まり、私が席に着くのを待っている。

 

 「諸君!祝おう!復讐の時来たれり!」

 

 「「「「オォォ!」」」」

 

 「隊長、大洗の奉納試合の報告です」

 

 さて、大洗女子はどうしたものだろうか?

 

 「聴こう」

 

 「お祭りのイベントとしてはうまくやったようですが、大洗女子学園の38(t)二両を撃破して浜辺で一騎討ちになりましたが時間切れで引き分けに終わったようです」

 

 「引き分け?あら、たいした事がないのね」

 

 拍子抜けだった。

 

 「ですが、この後に続報があります。強豪校がタンカスロンに参加する流れになっています。それが、大洗女子学園を筆頭に黒森峰、聖グロリアーナ、プラウダ、サンダースが参加するようです。それと、テケ車の二人組は大洗女子学園に転校するようです」

 

 「なっ、何ですって!?」

 

 思わず、叫ぶ私。

 

 そして、もう一人が私に報告に来る。

 

 「それと、もう一件報告があります。我が校にタンカスロンでの試合を承諾した学園ですが、プラウダ高校です・・・・・・」

 

 「まさか、白百合戦車旅団?」

 

 「言いにくいのですが、プラウダとも黒森峰と違うのです。白百合、シュバルツバルト連合です」

 

 私は大洗女子学園の西住みほの逆鱗に触れたことに未だに気付かずに居たのだ。

 

 そして、仲の悪かった黒森峰女学院とプラウダ高校の白百合カチューシャ連合の連合チームと試合になるとは思わなかったのだ。

 

 そう、マリアの短期転入で戦車道改革が黒森峰で成功して居たとは知らなかったのだ。

 

 

 

 

 熊本にある港ではエキシビションマッチとシュバルツバルト戦闘団で使う戦車が貨物列車に載せている真っ最中だった。Ⅱ号戦車が二十五両、ティーガーⅡ二両、ティーガーⅠ二両、ヤークトパンター二両が積み込まれ、マリアは一人喜びを感じていた。

 

 「キャハァ!まさか、みほちゃんと同じチームだなんて最高!どんな、戦いや作戦を見せてくれるか楽しみだよ!それにしても、私が使う217号車のティーガーⅠはみほちゃんが黒森峰に居たときの戦車だったなんて運命を感じるなぁ・・・」

 

 「あれが、マリアさんなの?」

 

 黒森峰の生徒が私を見て絶句している。

 

 皆は私をお堅い人と勘違いしているが、実はおちゃらけだったりする。

 

 つまり、楽しい事が大好きな女子高生なのだ。

 

 それを分かって欲しい。

 

 そして、残念な結果だったけど、大阪決戦は正直楽しかった。

 

 もう一つ、良い話を西住師範から聞いていた。

 

 来年は、大洗から三人ほど強化選手として選ばれるらしく、二ヶ月程みほちゃんとドイツで一緒に過ごせるらしい。

 

 「楽しみだなぁ・・・・」

 

 恋焦がれる乙女の様に私はみほちゃんとの再開を楽しみにしたのだ。

 

 

 

 同じ頃、瀬戸内海に一隻の二等輸送艦が航行していた。

 

 二等輸送艦には二両の戦車が載っており、一両は知波単の隊長車でお馴染みの五式中戦車とヤークトティーガーに似ているが、五式中戦車を砲戦車にした五式砲戦車ホリⅡだった。

 

 そして、甲板には長い黒髪を靡かせた松山女子学園の戦車道隊長である橘銀千代が居たのだった。

 

 そもそも、松山西女子学園は戦車道大会には出場していない。

 

 彼女達はエキシビションマッチに参加すべく大洗に向かっていたのだ。

 

 だけど、彼女達学園である松山西女子学園は大洗女子学園とはかつて深い絆を結んだ姉妹提携校であったが、とある事件を境に戦車道大会には参加出来なくなった学園の一つだった。

 

 今でも、稼動出来る戦車は五式中戦車と五式砲戦車の二両だけである。

 

 隊長の橘銀千代は大洗女子学園の真意を確認したく、エキシビションマッチへの参加へと踏み切った経緯がある。

 

 「噂なら良いんだけど・・・・」

 

 「隊長、ここにいらしていましたか」

 

 「あら、源田さん」

 

 「気になる事でも?」

 

 「源田さん、惚けないでくれる?大洗女子学園が聖グロリアーナ女学院と姉妹提携を結ぶと聞いて、私が落ち着いて居られると思うの?それに、大洗女子学園の学園長と生徒会長は池田様の一族なのよ?私達が池田流を絶やさずに居たのに、今は大洗女子学園は島田流の保護下なのよ?それでも、落ち着けと?」

 

 「それに、杏お姉ちゃんに会えるもんね?」

 

 「まぁ、杏ちゃんに会えるのは嬉しいけど・・・・」

 

 確かに、杏ちゃんに会えるのは嬉しい。

 

 それでも、姉妹提携するなら私達の学園を選んで欲しかったのだ。

 

 一応、生徒会長を脅して・・・・じゃなかった。お願いして転入届けすら用意してある。

 

 先輩達が果たせなかった大洗女子学園への数々の恩義を晴らす為でもある。そして、私達も大洗女子学園の大阪決戦に間に合わなかった後ろめたさがあり、駄目元で居座る積もりで行くのだ。

 

 そのために、私達は切磋琢磨して野良試合でも単独で勝利をするだけの技量と高い練度を維持して来たのだ。

 

 今の私なら断言出来る。

 

 黒森峰の西住まほにもタイマン勝負でも勝てると・・・・・・・

 

 松山女子学園に残された池田流の訓練内容は毎年30人が入っても、訓練がきつくて辞めてしまい、残るのは二両分の人材が残れば御の字だった。

 

 それだけに、昔は大洗女子学園のフラッグ車を守り、時には阻む戦車を駆逐したのだ。

 

 そして、私達には嬉しかったのだ。

 

 大洗女子学園の戦車道が復活して優勝した事が堪らなく嬉しかったのだ。

 

 「西住隊長、待っていて下さい。松山女子学園、今馳せ参じます・・・・」

 

 彼女が握る手紙にはエキシビションマッチ参加を許可する内容と赤組を知らせる通知書だった。

 

 

 

 

 





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エキシビションマッチ 目覚める軍神

 エキシビションマッチが始まりました。

 


 

 

 奉納祭が無事終わり、私は大洗港に停泊している聖グロリアーナ女学院の学園艦へと来ていた。つまり、白組の宿舎は聖グロリアーナ女学院の学園艦になっているのだ。

 

 それは大洗女子学園の生徒も例外ではなく、白組は聖グロリアーナ女学院へ移動となったのだ。

 

 「全く、馬鹿でかい船ね・・・・」

 

 「エリカちゃん、はじめて来るね」

 

 「エリカ、ティーガーⅡじゃないの?」

 

 そう、私はみほに勝つべく機動性の低いティーガーⅡから火力と機動性のあるティーガーⅠにしていた。そして、エミはティーガーⅠからティーガーⅡに変更している。エミのティーガーⅠと交換したのだ。

 

 「当たり前よ!みほに勝つのよ!勝つ為ならティーガーⅠに乗るわよ!」

 

 「で、アタシがエリカの援護して二人で仕留める算段よ」

 

 「エリカ、エミ、私も混ざる。向こうにはマリアも居るから二人だと瞬殺が確定。」

 

 「「なんですって!?」」

 

 私とエミがハモりながら叫ぶ。

 

 ここに、愛里寿とエミの連合チームが完成する事になると思っていたが、みほを狙うのは私達だけでは無かった。

 

 「あら、わたくしは仲間外れかしら?」

 

 「そうだ。私も居るぞ!」

 

 「アタシも居るぜ!」

 

 聖グロリアーナ女学院のダージリンにプラウダ高校の白百合戦車旅団の隊長カツコフに副隊長のジェーコフだった。

 

 「そうよ!私も居るわ!」

 

 「雪辱晴らしてあげるわ!」

 

 サンダースの隊長のケイにアリサまで居たのだ。

 

 正直、纏まるのかすら判らない。

 

 そこは、白組隊長の愛里寿だった。

 

 「みほに仕掛けるのは私達。ミカさんを筆頭にまほさん達を止めて欲しい。私達だけでは西住姉妹とマリアを同時に相手するのは無謀を通り越して自殺行為に等しいから」

 

 こないだの大阪決戦でのマリアの無双ぶりを思い出して、私達は一斉に真っ青になる。

 

 赤組にはマリアも居るのだ。

 

 顔を真っ青にしながらも愛里寿は言葉を紡いでいく。

 

 「奇抜な作戦、奇策上等のみほに個々での技量が高いマリアにまほさんがいる。それに、みほは危険なほどに見方を鼓舞するから計り知れない。これは、私が傍で見て居たから言える事。なら、どうするかはダージリン達なら判るはず」

 

 「そうでしたわね・・・・わたくしも、大阪決戦ではマリア様に瞬殺されてましたわね。なら、わたくしがする事は少しでも有利になるように情報収集ですわね。アッサム」

 

 「はい、ダージリン様?」

 

 「大洗女子学園に潜入して情報収集をしなさい」

 

 アッサムに大洗女子学園に潜入して情報収集をさせるようだった。

 

 「なら、私達は新規参入の高校の指揮を取るわよ!それと、アリサは貸し出し可能な戦車を用意しなさい!」

 

 「イエス、マム!」

 

 参加をしたが、戦車がギリギリまで用意できなかった学園には戦車を貸し出しをする様に手配するために他校に聴きに行くケイとアリサ。

 

 「カツコフには他校の中隊や小隊を陽動や奇襲を頼みたい。幸運にもカツコフの白百合戦車旅団のメンバーは白組にいるし、みほの作戦を破綻させた事があるカツコフにしか出来ない。あと、継続、バイキングも今回はソ連系の戦車で来る話を聞いたから、お姉ちゃんと話し合ってくれる?」

 

 「判った。行くぞ!」

 

 「はい、カツコフ様!」

 

 ミカさんと話し合う為にジェーコフを連れて行くカツコフ。

 

 ただ、判って居る事は私達の中隊メンバーと使用する戦車が判った事だろう。

 

 愛里寿中隊

 センチュリオンA41(レオポンチーム)

 センチュリオンA41(ダージリン)

 センチュリオンA41(リクリリ)

 センチュリオンA41(ローズヒップ)

 ティーガーⅠ中期型(ワニさんチーム)

 ティーガーⅡポルシェ砲塔(クマさんチーム)

 レオパルド偵察戦車(アリクイさんチーム)

 レオパルド偵察戦車(カモさんチーム)

 センチネル中戦車17ポンド砲搭載型(コアラの森)

 ヤークトパンター(黒森峰選抜)

 

 ケイ中隊

 パーシング(ケイ)

 パーシング(アリサ)

 センチネル中戦車17ポンド砲搭載型(コアラの森)

 四式中戦車(玉田)

 ブラックプリンス(白鳥)

 チャーチルMk-Ⅶ(西呉王子グローナ)

 コメット巡航戦車(聖グロリアーナ選抜)

 コメット巡航戦車(聖グロリアーナ選抜)

 ヤークトパンター(黒森峰選抜)

 ティーガーⅡ(黒森峰選抜)

 

 ミカ中隊

 IS-2後期型(島田ミカ)

 IS-3(カツコフ)

 IS-3(ジェーコフ)

 IS-3(プラウダ選抜)

 KV-2(ニーナ)

 T-34/85(継続選抜)

 T-34/85(継続選抜)

 ISU-152(アリーナ)

 KV-1(バイキング水産)

 KV-1(バイキング水産)

 

 フォンデュ中隊

 シャーマン76ミリ砲搭載型(フォンデュ)

 コメット巡航戦車(聖グロリアーナ選抜)

 コメット巡航戦車(聖グロリアーナ選抜)

 他シャーマン76ミリ砲搭載型

 

 

 

 

 同じく、大洗女子学園でも赤組のチームメンバーが集まりはじめていた。特に、目を引くのは知波単の西さんが持って来たオイ車だったり、マジノ学園、BC自由学園の主力戦車であるルノーB1bisで来ていた。

 

 アンツィオにはⅣ号戦車J型を持って来て貰っている。

 

 そして、私が作戦によって使う予定だったティーガーⅠ、元ブルムベアーのⅣ号戦車H型の二両のⅣ号戦車四両は整備倉庫で砲塔、上部装甲を外してブルムベアーとシュトルムティーガーへと戻している。

  

 つまり、シュトルムティーガーを小隊長にブルムベアー四両を付けた支援小隊を作ったのだ。

 

 何故、ブルムベアー四両分のパーツが在るのかは黒森峰戦で完封亡きに壊された経緯から予備パーツを用意していた。それを引っ張り出して四両を用意したのだ。

 

 「みほちゃん、何を考えている?」

 

 「あっ、マリアさん」

 

 「シュトルムティーガーにブルムベアーは機動戦には邪魔にしかならないか?」

 

 「エッヘヘ、この五両で分断に使ったり、ゴルフ場に足止めした車両に頭上からロケット弾や榴弾の雨を降らせたら面白いと思わない?」

 

 「・・・・えっ?」

 

 「マリアさん、相手を分断させてからゴルフ場に誘い込んで包囲したら、そこに降らせるんだよ」

 

 みほちゃんの言っている意味が理解出来ない。

 

 ただ、感じるのは寒気でしかない。

 

 私は大阪決戦で、こんなモンスターを敵に回っていたのだろうか?

 

 「ねぇ、みほちゃんは分断出来るの?」

 

 「マリアさん、可能だからこの布陣なんです。特に、お姉ちゃんにはミカさんの中隊を足止めをしてもらい、カチューシャさんにはケイさんの中隊とフォンデュさんの中隊を当てて見ようと思います。そして、私達本隊が愛里寿ちゃんの本隊を包囲すれば・・・・・」

 

 ブルブル・・・・・

 

 自分を抱きしめ、顔を真っ青にする私に、終始にこやかに作戦内容を淡々と説明するみほ。

 

 「みほ、そこに居たか?」

 

 「あっ、お姉ちゃん!そう、言えばお姉ちゃんはミカさんと決着を付けたいって以前に言っていたよね?」

 

 「あぁ、そう言えば、確かにみほが黒森峰に居た時に言った覚えがあるな」

 

 「決着を付けるついでに、ミカさんの足止めをお願い出来る?」

 

 「愚問だ。だが、みほの学園のパンター小隊と赤組にいる黒森峰の生徒は私の中隊に優先的に回してくれないか?」

 

 「大丈夫だよ。ただ、マリアさんだけは私の中隊には必要だからね」

 

 「うむ、良いだろうみほの頼みだ。やってやろう」

 

 西住まほを煽り、その気にさせて居たのだ。

 

 多分、私達の中隊とは言えない二個小隊の編成にする気なのだ。

 

 また一人、みほのところに来る

 

 「ミホーシャ!私も同じくチームよ!」

 

 「あっ、カチューシャさん!そうだった、カチューシャさんにお願いがあったの」

 

 「聴いて上げるわ!」

 

 「ケイさんとフォンデュさんの中隊に側面から奇襲をかけられますか?」

 

 「愚問ね!ミホーシャが囮に森まで引っ張って来て、機動性の高い戦車を優先して回してくれたら可能よ!パンター系はマホーシャがミカの足止めに持って行ったから残りで充分よ!」

 

 「わかりました。カチューシャさんの中隊には機動性の高い戦車を回します」

 

 「・・・・なら、行けるわ!じゃあ、そのメンバーで訓練して来るわ。ピロシキ~」

 

 みほは自分からは中隊の編成をしていない。必要な車両だけを用意していたのだ。

 

 仲間に作戦を伝えて、必要な戦車を選ばして居たのだ。

 

 まるでお爺様の様に作戦の詳細を教えて考えて動かす様に・・・・・

 

 私はドイツでは奇才と呼ばれていた。

 

 でも、私から見ても彼女は異常過ぎるのだ。

 

 何だろう。

 

 まるで、目覚めさせてはいけないような軍神を目覚めさせてしまったのだろうか?

 

 私には判らなくなっていた。

 

 彼女をどう支え、どう導けば良いのかさえも判らなくなっていた・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 エキシビションマッチの当日、私は既に悪夢を見ていた。

 

 場所は大洗カントリークラブの16番ホール

 

 小鳥のさえずりではなく、鳴り響くのは戦車砲の砲撃音だった。

 

 ゴルフ場だけにバンカーも多く、私達はハルダウンにて戦車を隠すが、周りには囲む様にみほが率いる赤組の本隊と合流したカチューシャの中隊。

 

 私が居る愛里寿中隊は不様にもゴルフ場に誘導されて孤立、完全に包囲されていた。

 

 最早、悪夢以外何でも無い状況だった。

 

 カン、カン、カン・・・・

 

 「あぁぁもう!さっきから、うるさいわよ!ティーガーⅠは木蓮じゃないわよ!」

 

 「エリカちゃん叫ぶよりも、みほちゃんの中隊に完全囲まれてる・・・・・」

 

 『エリカ、下手に動くとあのIS-3とシャーマン・ファイヤフライの砲撃の的になるわよ!』

 

 「エミ、それよりもあのオイ車をどうにかしなさいよ!」

 

 『あんな硬い戦車狙うのは無理に決まっているわよ!側面晒して狙い撃ちされるわ!』

 

 そして、先ほどからテンポ良く、カンカンと木蓮の様に砲弾が装甲を叩いて行き、バンカーで身を隠す事しか出来ない私のティーガーⅠとエミのティーガーⅡ・・・・・・

 

 隣のバンカーでも、愛里寿とダージリン達が乗るセンチュリオンが囲まれて円周防御体制で耐えている状況だった。

 

 そして、ケイの中隊とフォンデュの中隊は既に全滅して居ない。

 

 「小梅、まさかカチューシャが奇襲をしてから機動戦をするとは思わなかったわ」

 

 「だね。白百合が入る前は多重包囲からの殲滅だったし、白百合が入ってからは機動戦が主体になったからね。カチューシャさんも変わらないといけないと感じたのかな?だからだと思うよ」

 

 「そうね。その影響を与えたのがカツコフにみほだったのね・・・・・」

 

 ゆっくりと前進して包囲を狭めるみほに恐怖していた・・・・・・・・

 

 

 

 何故、私達がこうなったかは少し時間を巻き戻す必要がある。

 

 

 試合開始直前、私は赤組の中隊編成に度肝を抜かされた。

 

 みほの率いる中隊の数はたったの五両のみで、まほさんの中隊は十二両、カチューシャの中隊は十六両、カルパッチョの中隊は七両の変則的な編成だった。

 

 私達は主力はカチューシャだと思ってしまったが、実は違っていたのだ。

 

 それは試合が始まり、みほの悪い癖だが大隊長車自ら囮になり、誘われたのはみほのティーガーⅡを発見したケイとフォンデュの二個中隊だった。

 

 『みほを見つけたわよ!ハリーアップ!追撃よ!』

 

 『ケイさん、フォンデュ待って!それはみほの罠!』

 

 『罠でも、みほを先に叩かないと後がきつくなるわよ!』

 

 隊長の愛里寿がみほの罠だと気付き、ケイとフォンデュの二個中隊を止めようとするが全く聞く耳を持たなかった。

 

 みほの中隊はティーガーⅡあんこうチームカスタムを隊長車にティーガーⅠ、五式中戦車が二両、五式砲戦車ホリⅡの五両の編成でケイとフォンデュの中隊を釣り上げたのだ。

 

 みほの中隊を追う、ケイとフォンデュの中隊は私達の中隊を引き離して追撃に没頭する事になる。それが、罠だと知っていても・・・・・・

 

 やっとケイ達の中隊が見える所まで追い付いたが、演習場を抜ける直前にみほ達は進路を左に変える。

 

 しかし、ケイ達の中隊は目の前に広がる爆発音と共に歩みを止める。

 

 ズッドォォォン

 

 バッシュゥゥゥゥ

 

 

 

 ズッガァァァァァァン

 

 『全車、停止よ!』

 

 『!?停止!』

 

 ケイ達の歩みを止めるかの様に追撃出来ない状況になっていたのだ。

 

 あの爆発には見覚えがある。

 

 「みほ、まさかだと思うけどシュトルムティーガーとブルムベアーを投入したの!?」

 

 『判らない。でも、シュトルムティーガーは確実。私達の中隊でみほを追う』

 

 愛里寿の指揮により、砲撃を避けるルートでみほの追撃をはじめる。

 

 しかし、ケイ達の中隊には砲撃は当たらない。

 

 足止めと更なる分断と思っても構わないかも知れない。

 

 

 分断されさた私達の中隊はみほ達を追撃する事になったのだ。

 

 

 

 

 森の中、私の中隊はエンジンを切り待機していた。

 

 『カチューシャさん、後2分でそちらの傍を通ります。カルパッチョさんの小隊が私達から切り離す為の長距離射撃で私達の後ろにいる二個中隊を切り離します。その後、側面から奇襲をお願いします』

 

 ミホーシャからの通信。

 

 確かに、面白い状況ね。

 

 そして、この二人のやり取りも・・・・・・

 

 『Hey、ノンナ』

 

 『ナオミ、なんですか?今は、カチューシャ様を愛でるのに忙しいんですが・・・・』

 

 『固いこと言うなよ。どちらが上か、撃破数競わないかい?』

 

 『面白い提案です。大洗女子の赤星にも五十鈴にもそうですが、誰が一番か決めましょうか?』

 

 『わたくしも参加出来ないのが残念です』

 

 『華には本隊のメインディシュを取っておくよ』

 

 『ナオミさんありがとうございます』

 

 ノンナにナオミも撃破数を競うらしい。

 

 ミホーシャの話しでは、赤星も五十鈴も命中した距離で競っていたらしい。未だに赤星が優勢だとも・・・・

 

 「あなた達、そろそろ出番よ!ノンナ、競うのは構わないわ!サンダースのナオミをけちょんけちょんにしてやりなさい!」

 

 ノンナのIS-3とナオミのシャーマン・ファイヤフライの主砲が一斉に火を噴いた。

 

 『オーマイガッ!?やられたわ!アリサ、指揮任せたわよ!』

 

 『イエス・マム!』

 

 『プラウダが機動戦!?』

 

 『側面から奇襲!?』

 

 『中隊長代理、ティーガーⅡやられました!』

 

 もちろん、狙いを定めていたのは先頭にいるパーシングと黒森峰のマークが入ったティーガーⅡだった。これは、予めにミホーシャから狙う様に注文されていた。

 

 私もキュポーラから身を乗りだして通信機越しに叫ぶ。

 

 「ノンナ、ナオミの二両は後方からの援護射撃!残りは私に付いて来なさい!突撃!」

 

 森から横一列に並んだ、私の中隊は獰猛な牙で襲い掛かるかの様にケイとフォンデュの中隊を蹂躙して行く。マジノとBC自由の戦車隊も側面からの攻撃が面白い様に当てて行く。

 

 「クラーラ!マジノとBC自由の戦車隊を連れて、シャーマンを片付けなさい!ノンナ、ナオミは厄介な17ポンド砲搭載型をやっちゃいなさい!」

 

 「「「了解!」」」

 

 相手の戦車隊は見る見るうちに数を減らして行く。

 

 『フッ・・・・四両目・・・』

 

 『ナオミ、私は五両目です』

 

 『チィ・・・・』

 

 後方から援護射撃の二人が白熱しているせいかも知れない。

 

 それでも、私の中隊の被害は二つの中隊が壊滅する頃には四割の六両がやられ、ミホーシャからの合流命令に従いゴルフ場へと向かったのだ。途中、砲撃支援で神社を陣取っていたカルパッチョの小隊から知波単の西が乗るオイ車と合流したのだった。

 

 

 

 私の中隊も追って来る愛里寿ちゃん達を罠に嵌めるべく四つの作戦を同時進行していた。

 

 一つはケイさんとフォンデュさんの二個中隊を愛里寿ちゃんから引き離す事が目的の『すっぽん作戦』

 

 私のティーガーⅡの性能と同じ改装をしたもう一台の隊長用に用意していたティーガーⅠをマリアさんに使わせ、かつて黒森峰で私が使用したティーガーⅠ初期型をシュトルムティーガーに改装したのだ。

 

 これで、私達の中隊?いや、小隊の速度差は少なくなるはずだ。

 

 これも、見事に速度差は許容範囲内に収まり全力で逃げる事が可能だった。

 

 二つ目は、お姉ちゃんの心残りだったミカさんとの決着が目的でもあり市街地に釘付けにする『フラフラ作戦』

 

 お姉ちゃんの頑張りも在って、ミカさんを市街地に釘付けにする事を成功している。

 

 三つ目は引き離した、ケイさんとフォンデュさんの中隊を壊滅させる事が目的とする『横からコッツン作戦』

 

 最初のすっぽん作戦が成功した段階で九割が成功しただろう。

 

 アンナさんとナオミさんを一緒の中隊にすれば、間違いなく競い合う事は目に見えていたし、カチューシャさんの性格なら壊滅させることが出来ると思っていた。

 

 目論み通り、二個中隊は壊滅したけどカチューシャさんの中隊に四割の被害を被ってしまった。

 

 だけど、愛里寿ちゃんを包囲するには戦力が足りない。

 

 なら、どうするかは簡単だ。

 

 神社に居るカルパッチョさんの小隊から護衛であり、砲撃支援担当だったオイ車と合流させよう。

 

 そして、カチューシャさんの中隊が合流するまでは愛里寿ちゃんの動きを封殺し、エリカさんとエミちゃんをバンカーに押し込めてしまえば、二人の性格ならむやみに動けないはずだ。

 

 これが、四つ目の『ピンポン作戦』

 

 愛里寿ちゃんをバンカーに強制的に押し込める作戦だけど、被害担当はダージリンさんを巻き込む形なら下手に主砲を撃たれる心配がない。それに、聖グロリアーナのセンチュリオンは愛里寿ちゃん程、性能を100%出し切ってはいない。

 

 それなら、私達だけで六両はバンカーに押し込めたままに出来る。

 

 だけど、その前にヤークトパンターとレオパルド、センチネルが邪魔だ。

 

 「橘さん、センチネルを狙えますか?」

 

 『任せて』

 

 「源田さん、レオパルドの撃破頼めますか?」

 

 「無論だ」

 

 「マリアさん、ヤークトパンターをお願いします」

 

 『やっと、出番ね!任せて!』

 

 「これより、ピンポン作戦を開始します!橘さん、源田さん、マリアさんは撃破が終わり次第、他の車両をバンカーに押し込めます!」

 

 

 

 そして、今に至る。

 

 私はみほの作戦に完全に嵌められたよりも、現状をどのように打破するか頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 




 次回はみほ対愛里寿とみほ対エリカの対決になりそうですが、その前に市街地で決着を着けようとするまほ対ミカの対決が先になるかも・・・・・

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エキシビションマッチ それぞれの思惑と戦い


 難産だった・・・・


 

 市街地に誘い込まれた私はエリカ達がみほの作戦に乗せられ孤立したように、私もミカの作戦に乗ってしまい孤立してしまった。だが、唯一の救いは黒森峰の選抜メンバーの士気が赤組も白組も高いことだろう。

 

 そして、目の前でも遭遇したIS-3を相手に黒森峰選抜の山崎が乗るティーガーⅡはエリカがプラウダ戦で見せた体当たりを慣行して急カーブにある旅館の一階の玄関へと押し込む所だった。

 

 『黒森峰をナメるなぁぁぁぁ!やられたら、私は引退なのよ!突っ込めぇぇぇぇ!』

 

 『あんた、キチガイじゃないの!大洗の時といい、あんたといい、キチガイばっかりよ!』

 

 どうやら、IS-3の車長は白百合戦車旅団の選抜メンバーだったらしい。不運にも砲身が長いIS-3は砲塔の旋回が出来ない。そのまま、一階へと押し込まれティーガーⅡは旅館へと榴弾を撃ち込む。

 

 『旅館に榴弾を放て!』

 

 『えっ!?旅館を壊して、私を生き埋めにする気!?』

 

 『そのまんま、埋もれなさい!』

 

 ズッドォォォン

 

 ガラガラガラガラ・・・・

 

 『いっ、イヤァァァァァァ!?』

 

 シュポン

 

 そのまま、IS-3は崩壊した旅館の下敷きになり白旗を掲げる。

 

 そして、何処からか店主の叫び声が聴こえて来る。

 

 『あっ、あぁぁぁぁぁぁ、ワシの旅館(店)がぁぁぁぁぁ!?やったね!新築出来る』

 

 それよりも、ミカ達が見つからない。

 

 「レンならどう思う?」

 

 「西住隊長、私なら継続高校の練習試合の時の様に数両で足止めして、砲撃支援を叩きますね」

 

 「まさか?」

 

 「そのまさかだと思います」

 

 レンの予想が当たり、アナウンスが流れる。

 

 『赤組、シュトルムティーガー、ブルムベアー、ブルムベアー行動不能!』

 

 「なっ、カルパッチョ無事か!」

 

 『はい、無事ですが長距離から狙撃されました。先ほど狙撃して来たのはIS-3二両とIS-2にISU-152とKV-2です』

 

 やはり、ミカは神社に向かったか・・・・

 

 逆に神社を取られたら・・・・・

 

 「マズイ!みほ達が逆に砲撃に晒されるぞ!」

 

 「隊長、ゴルフ場にはカチューシャ達が合流していますが?」

 

 「いや、無駄だろうな・・・・・・」

 

 「では?」

 

 「私も神社に向かう!」

 

 私はペアを組んでいるティーガーⅡを引き連れ神社へと急いだのだ。

 

 

 

 

 カツコフの見立て通り、神社にはシュトルムティーガーと四両のブルムベアーを見付けたのだ。これが居る限り、妹の愛里寿達は囲まれて身動きが出来ないのだ。私達は即効で共同で神社の部隊を排除した所だったのだ。

 

 「カツコフ、君はみほが神社を取ると読んでいたのかい?」

 

 「えぇ、読んでいた。まさか、シュトルムティーガーとブルムベアーが居たとは驚いたけど」

 

 「ねぇ、此処からゴルフ場に狙撃は出来る?」

 

 「アキ、狙撃は可能だ。だが、問題もある」

 

 「なら、私が問題とやらを解決しよう。それなら、狙撃を頼めるかい?」

 

 私は一か八かでカツコフとジェーコフに狙撃を頼んだのだ。ここからなら、囲っているみほ達を一望出来るからだ。

 

 「ミカ、なら西住姉の足止めを頼む。彼女が居る限り、あの包囲網は抜けない。私とジェーコフでカチューシャ達の火力担当を排除する」

 

 カツコフとジェーコフのIS-3が長距離射撃体制にはいる。

 

 私はやる事は一つだけ。

 

 この神社に西住まほを到達させない事だ。

 

 「ミッコ、神社の麓の小学校に移動するよ。そこなら、まほを釘付けに出来るからね」

 

 「わかったよ」

 

 私が乗るIS-2は小学校に移動する。途中、中隊に集結命令を出したから味方も来るだろ。

 

 そして、向こうも合流命令を出したのか市街地の出口付近で再び衝動が起きる。

 

 「パンターF型だね。あれを所有するのは大洗女子の戦車隊だよ」

 

 「アキ、此処でパンターは葬るよ。ゴルフ場に行かせたら愛里寿がかなり危険だ」

 

 私は手元にあるカンテレを弾きはじめる。

 

 ♪♪♪♪♪♪~

 

 リズムに乗ったミッコが操縦するIS-2は砲手を勤めるアキ、装填手のマイがテンポ良く大洗女子のパンターF型を葬る。葬ったパンターの絵柄はウサギさん、カバさん、アヒルさんと大洗女子ではお馴染みのパンター小隊だ。そして、バイキング高校選抜のKV-1と戦うのは黒森峰選抜のパンターG型の二両と黒森峰のヤークトパンター中期型だ。

 

 「アキ!ヤークトパンターに照準!」

 

 『狙われた!?』

 

 「トゥルータ!」

 

 黒森峰選抜の生徒が気付いてキュポーラから身を乗り出して慌てるが既に遅い。

 

 ヤークトパンターの側面に主砲を叩き込み沈黙させる。

 

 しかし、バイキング高校の一両のKV-1がパンターG型に側面を叩かれ沈黙する。

 

 「ミカ中隊長、すいません!青師高校のパンターにやられました!」

 

 「ミカ、青師高校のパンターも合流して来てるよ!」

 

 私はキュポーラから身を乗り出し、確認すると青師高校のパンターD型だ。

 

 それにしても、まほの中隊は四個小隊も居るのだろうか?

 

 先ほど叩いたのは大洗女子パンターF型が三両、黒森峰のヤークトパンターの他に確認出来たのは青師高校のパンターD型型二両、大洗女子のヤークトパンター後期型、黒森峰選抜が大洗女子学園附属中から借りたパンターⅡが二両、まほのティーガーⅠ、黒森峰のティーガーⅡにマジノのルノーB1disの十二両の編成だろう。

 

 足止めさせていた、私の高校のT-34/85とプラウダのニーナとアリーナが乗るISU-152とKV-2がゴルフ場に行かせまいと道を塞ぐ。

 

 『あたしらも行くべ!ここはカツコフ様に良いとこさ見せて、赤組をゴルフ場には行かせないべ!』

 

 「うんだ!主砲放て!」

 

 ニーナのKV-2がマジノのルノーB1disを152ミリ砲で吹き飛ばす。次期副隊長候補のアリーナのISU-152も負けずに青師高校のパンターD型へと主砲を叩き込み沈黙させる。そして、ニーナとアリーナは唯一ゴルフ場へと繋ぐ道を塞ぐ形で赤組を通せんぼうをする。

 

 それでも、赤組は私をゴルフ場へと行かせまいと攻撃を続行する。

 

 そして、ニーナのKV-2から白旗が上がる。

 

 『追い付いたぞ!』

 

 私には最悪のタイミングだろう。

 

 黒森峰の隊長の西住まほがティーガーⅠを駆り追い付いたのだ。

 

 「まさか、追い付くとは思わなかったよ」

 

 「私を舐めるなよ?私はみほのお姉ちゃんだからな!お前をみほの所には行かせない!」

 

 「それは、残念だ」

 

 「何だと!?」

 

 「私は風に流されて、あなたを足止めに来ている」

 

 神社から砲声が響く。

 

 『赤組、オイ車、ファイヤフライ走行不能!』

 

 睨みつけるまほを余所に私は愛里寿が無事だと一安心する。

 

 だけど、まほはみほの所に行こうと私を排除しようとする。

 

 急加速する、ティーガーⅠにミッコが反応して急加速でバックする。

 

 目の前にはティーガーⅡとヘビのマークのヤークトパンター後期型までも追い付いて来た事に気付いたのだ。そのまま、一度停車すると発砲したのだ。

 

 気付くのが遅すぎた。

 

 自身を囮にティーガーⅡで狙撃させた事に気付いたが後の祭だった。

 

 「やるようだね・・・・」

 

 ティーガーⅡがギリギリの射程から背面装甲を曝したIS-3を狙撃したのだ。

 

 シュポン・・・・

 

 やられたのはジェーコフの車両だった。

 

 それでも、ゴルフ場の包囲が崩れたようだがこれ以上、戦力を失うのは芳しくない。

 

 やる事は一つしかなかった。

 

 「カツコフ、アリーナは私に続いてくれないかい?三両でみほとカチューシャの包囲を崩す」

 

 私はカンテレを弾きはじめる。

 

 その旋律は激情のままに奏でる。

 

 意図を理解したように各車両はまほの中隊の足止めに徹しており、ミッコもいつも以上に激しい操縦に集中する。

 

 「行くぞ!」

 

 『ミカ、逃げる気か!』

 

 まほが叫ぶが、今は愛里寿の救助が優先だ。

 

 「悪いね。私も愛里寿のお姉ちゃんだから行かせて貰うよ」

 

 まほが叫ぶのを無視したまま、カツコフ、アリーナを引き連れゴルフ場へと突入したのだ。

 

 

 

 

 試合開始30分で完全包囲された私。

 

 みほさんの作戦に見事なまでに嵌められた事になる。

 

 「ダージリン様、スコーンの様に堅く囲まれてますね」

 

 「そうね。でも、硬いスコーンほど割れやすくてよ。ただ、時が経つのを待ちしょう。ペコ、わたくしに貰えるかしら?」

 

 「はい、ダージリン様」

 

 ペコから紅茶を注いでもらい、紅茶に口をつける。

 

 でも、十六両に囲まれる状況の中では堪えるしかない。

 

 しかも、動きを見せれば降ってくる榴弾と狙いを澄ましたしように主砲を叩き込まれるだろう。

 

 それにしても、緒戦からの惨敗は・・・・・・

 

 ズッドォォォン

 

 パッシュ

 

 カッシャァァァン

 

 「!?」

 

 ティーカップを想わず落とすアッサムに未だに平然を装うわたくし。

 

 「ダージリン様、すいません!」

 

 「いっ、一体何が起きましたの?」

 

 驚きを二人に無理矢理隠しつつ、わたくしはキュポーラから顔を出して確認する。

 

 多分、酷い顔だとは思う。

 

 わたくしでも、バンカーの穴は違えど赤組の四個小隊に囲まれるといった失態を犯したのだ。

 

 だが、やられたのは味方では無かった。

 

 オイ車とシャーマン・ファイヤフライが白旗が上がっていたのだ。

 

 そして、二両を失い愕然とするみほさん。

 

 そうか、スコーンが割れたのだ。

 

 わたくしは叫んだのだ。

 

 「皆さん、ティーカップをお捨てになって・・・・」

 

 「「えっ?」」

 

 わたくしの叫びに固まるペコとアッサム

 

 「聴こえなかったですの?ティーカップを捨てなさい!優雅にではなく獰猛に行きますわよ!」

 

 意味を理解した聖グロリアーナの生徒は一斉にティーカップを捨てる。鳴り響く、ティーカップが割れる音に目付きが変わる生徒達。

 

 無線の意味を分かった愛里寿隊長も叫ぶ。

 

 『全車、前進!我に続いてゴルフ場より離脱する!』

 

 常に優雅に・・・・

 

 それを平然と出来るまでの訓練は怠ってはいない。

 

 「わたくし達は離脱しつつプラウダの戦車を削りますわ!』

 

 向こうのバンカーでもエリカ様とエミ様率いる三両もバンカーより離脱してわたくし達と同じカチューシャの居る方へと突撃する。

 

 『包囲が厚い方にくるなんて気でも狂ったの!?』

 

 「全車、走行間射撃を開始!」

 

 センチュリオンの主砲が一斉に火を噴いてプラウダのカチューシャ達を襲う。

 

 倒したのはプラウダのT-34/85にIS-2など六両を撃破。

 

 もちろん、カチューシャとノンナの車両も撃破してゴルフ場より離脱したのだ。

 

 途中、ゴルフ場へと突入したミカさんと合流して破棄されさ遊園地へ逃げたのだ。

 

 ただ、エリカ様とエミ様が居ない事に誰も気付かなかった・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 私は少しでも、戦力を削るべくエミと残っていた。

 

 ゴルフ場へと続く深緑の林道の中、みほが追って来るのを待ち伏せしていた。

 

 みほとこうして対峙するのは黒森峰以来だろうか?

 

 いや、大洗女子学園での初めての戦車道の授業以来だ。

 

 「エミ、行くわよ!」

 

 「タイミングは任せなさい!」

 

 向こうから、履帯と戦車特有のエンジン音が聞こえてくる。

 

 「小梅、自由射撃で構わないわ」

 

 「うん・・・・・」

 

 先頭を走るプラウダのT-34/85に照準を合わせる。小梅は息を整えるとトリガーを引く。

 

 砲弾は面白い様に車体と砲塔の間に吸い込む様に命中する。

 

 ここは、先頭車両を潰せば簡単なバリケードに変貌する。

 

 道を挟んで隠れるエミのティーガーⅡもプラウダのT-34/85を蹴散らしていく。

 

 「藤木、残弾は!」

 

 「残り、48発よ!」

 

 「エミ、向こうが味方が邪魔して撃てない内に削るだけ削るわよ!」

 

 だけど、それがおかしい事に私は気付いて居なかった。

 

 カチューシャの中隊の残りの二両を撃破した時に身をもって体験する事になる。

 

 私の前方に現れたのは松山西女子学園の五式中戦車と五式砲戦車の二両だった。

 

 多分、戦車道ルールで日本の戦車では最高位にある戦車だろうか?

 

 二人の車長は身を乗り出してハンドサインだけで狙いを決めていた。

 

 狙われたのは私ではなかった。

 

 エミは砲塔を向けて五式中戦車を狙うが交わされ、砲塔を向けたままだった。

 

 二両が急加速するとエミのティーガーⅡに体当たりをしてティーガーⅡを奥地へと押して行く。

 

 『きゃぁぁ!何よ!主砲が挟まれて砲塔が向けられない!?まさか、最初から狙われていたの!?』

 

 ズルズル・・・・

 

 『ちょっと、私を何処に連れて行く気よ!』

 

 「エミ!?」

 

 私はエミを助けようとするが、目の前にはみほのティーガーⅡが進路を遮っていたのだ。

 

 「エリカさん、ここで撃破させてもらいます」

 

 「上等じゃない。みほ、やれるものならやって見なさい!」

 

 「行きます!」

 

 こんな狭い場所ならみほのティーガーⅡでもあれは出来ないはずだ。

 

 そして、パンター並の装甲しかないみほのティーガーⅡは私のティーガーⅠの主砲で簡単に撃ち抜ける。そう、正面を向けたままなら撃ち負けることはないのだ。

 

 だけど、不安なのは何故?

 

 分からないまま、みほは木々を薙ぎ倒しながら私に突撃してくる。

 

 「小梅、一発ぶちかましなさい!」

 

 ズッドォォォン

 

 主砲が放たれるが、嫌がらせだろうか?

 

 「沙織さん、機銃でティーガーⅠの操縦席ののぞき窓に撃ち込んでください!」

 

 みほ、いまなんて言った?

 

 機銃でティーガーⅠの操縦席ののぞき窓に機銃の雨が降り注ぐ。まぁ、完全防弾仕様だから割れる心配がないが跳弾するので全く見えない。

 

 「逸見さん、前が見えない!」

 

 「内法、何とかならない?」

 

 「華さん、いまです!」

 

 「はい」

 

 ズッドォォォン・・・・・ジャラジャラ・・・

 

 「えっ?」

 

 「逸見さん、操縦不能!?左に寄ってくよ!」

 

 まさか、みほの狙いは・・・・・

 

 キュポーラから身を乗り出して確認すると、左側の履帯が切られていたのだ。しかも、ご丁寧にも左側の四番転輪が壊されており転輪を全て外さないと直せない様にされていたのだ。降りて履帯を直そうとするが、みほに止められる。

 

 「ぬぅぐぐぐ・・・・みほ、覚えておきなさいよ!」

 

 「エリカさん、ごめんね。あっ、でも降りない方がいいですよ!」

 

 「なぜよ?」

 

 ズッドォォォン

 

 パッシュ

 

 「やったであります!初撃破であります!」

 

 「えっへへ、こういう事だから」

 

 そう、私は知波単の福田が乗る五式中戦車にやられたのだ。

 

 私は嵌められた怒りより、福田にやられた悔しさが上回り叫ぶ。

 

 「覚えてなさい!」

 

 「エリカちゃん、仕方ないね。みほちゃんが上手だったから」

 

 小梅に慰められつつも、私はみほにやられた事が悔しかった。

 

 そして、エミもやられたらしい。

 

 回収車の上でエミから聞き、二人揃ってみほに嵌められたのだ。

 

 

 

 

 ゴルフ場入口でも小競り合いは続いていた。

 

 脱出して来た愛里寿達は逆襲するために私の中隊が餌食となったのだ。

 

 私もミカを追い、ゴルフ場まで来たが他の車両に足止めされてしまい突入できなかったが、ゴルフ場で足止めしたKV-1やT-34/85は全て撃破している。

 

 しかし、こちらも被害甚大で残ったのは大洗女子のヤークトパンター後期型に乗るヘビさんチームと黒森峰選抜のティーガーⅡをのみだった。

 

 「仕方ない。みほと合流しよう」

 

 「隊長、沙織さんからの通信では私達の方に白組が逃げて来ているようです」

 

 「待ち伏せが出来るが、愛里寿には効かないだろう。その前にダージリンに読まれる」

 

 「まほさん、それなら、聖グロリアーナだけを狙いません?愛里寿副隊長のセンチュリオンとは見分けが着きやすいですしティーガーⅡ、ティーガーⅠ、ヤークトパンターの主砲なら簡単に撃ち抜けると思いますよ」

 

 こうして、話し合っている内に白組が私達の前を通過していた。

 

 だが、幸いなのは林に隠れていたのだが、ダージリン達が通過するまで気付いていなかった。

 

 「隊長、あれは・・・・」

 

 「そうだな。通過されたな・・・・・」

 

 「まほさぁぁぁぁん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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エキシビションマッチ 決着


 短いです。


 

 愛里寿達を目の前に通過させてみすみす取り逃した私。

 

 エリカとエミを片付けて合流を果たしたみほにジト目で睨まれていた。

 

 「お姉ちゃん・・・・話し合っていたら愛里寿ちゃんを見逃すって・・・・」

 

 「済まない・・・・みほ・・・・」

 

 「仕方ないですね。愛里寿ちゃんたが逃げた方角は大体分かっています。中隊編成は解除して行きましょう」

 

 八両がまとまり、国道を抜けて破棄された遊園地へと向かう。

 

 途中、みほが好きなボコミュージアムがあったがみほは試合が終わったら、また愛里寿達と行く話をしていた。

 

 

 遊園地へと近づくにつれて、みほは顔をしかめる。

 

 それを理解するには時間はいらなかった。

 

 入口という入口が榴弾で破壊されて封鎖されていた。

 

 開いているのは、ラビリンスガーデン(薔薇の迷路)がある場所だけだった。

 

 「これは、絶対に待ち伏せしてるよね?」

 

 「間違いなくしてるだろうな・・・・」

 

 「みほ、東側の緊急用の門はどうだ?」

 

 「駄目かも。優花里さんが偵察してくれたけど、大量の障害物と入ったら直ぐに橋があるけど橋が落とされてる」

 

 「だが、行くしかあるまい?」

 

 「そうですね。装甲が硬い車両を前衛に突入しましょう」

 

 「じゃあ、一番硬いのは私達のヤークトパンターだね」

 

 「んっ?一番硬いのは、みほのティーガーⅡではないのか?」

 

 「お姉ちゃん、その前に山崎さんのティーガーⅡを忘れてるよ!」

 

 「た、隊長~」

 

 「でも、一列で入る事になるからヘビさんチームのヤークトパンター、山崎さんのティーガーⅡ、お姉ちゃんとマリアさんのティーガーⅠ、私のティーガーⅡ、福田さんと橘さんの五式中戦車、最後は源田さんの五式砲戦車でお願いします。突入したら、二両一組に組んで進攻します。では、パンツァーフォー!」

 

 

 

 迷路の入口から一列で突入していく。

 

 入った後は何もなく迷路を進むことなく真っすぐ進攻していく。

 

 それでも、会敵することなく薔薇の迷宮を進めて行く。

 

 優花里さんは外壁の塔へ登って貰い、ナビゲーションに努めていた。

 

 『西住殿、迷宮を抜けた橋の向こう側にT-34/85が二両とIS-3を発見したです!』

 

 「他に居ますか?」

 

 『見た限りでは・・・・・あっ、発見しました!ダークイエローカラーのセンチュリオンですから聖グロのですね。のんびりお茶をしているみたいです」

 

 「みほさん、私達もお茶にしますか?」

 

 「ミルクセーキがのみたい・・・・」

 

 「う~ん、抜けた所で待ち構えているのが継続のT-34/85とプラウダのIS-3だから、それは出来ないかな。多分、IS-3に乗っているのはカツコフさんだと思うし・・・・・」

 

 「ですよね。あの隊長さん、真面目ですものね・・・・」

 

 そんな会話が私の車両にも届く。

 

 「隊長、アタシらもノンアルコールビールでもどうです?キンキンに冷えたのクーラーボックスにありますよ?」

 

 「レン、真面目にやれ。借りにも副隊長だろ?まぁ、試合でなければ飲みたいがな・・・・」

 

 「今のところは膠着状態ですよ?こんな、遠距離から狙撃なんて・・・・・」

 

 ズッドォォォォォン

 

 「「えっ?」」

 

 

 

 ズッガァァァァァァン

 

 パッシュ

 

 『黒森峰選抜ティーガーⅡ走行不能!』

 

 まさかの狙撃だった。

 

 双眼鏡でやった奴を探す。

 

 「居たぞ!」

 

 迷宮を抜けた小高い丘にいたのだ。

 

 色からして愛里寿のセンチュリオンだった。

 

 その小高い丘を利用してティーガーⅡの上部装甲を撃ち抜いたのだ。

 

 愛里寿はついでと言わないばかりに迷宮から抜けた、知波単の五式中戦車を狙撃してあっさりと屠り離脱する。

 

 しかし、簡単には迷宮からは出さしてはくれない。

 

 全車が迷宮から抜けてもカツコフさんのIS-3と継続のT-34/85が行かせまいと阻んでいたのだ。

 

 「源田!」

 

 「橘隊長!了解!」

 

 ホリⅡが主砲をIS-3へと合わせ必殺の65口径の長100ミリ砲を叩き込む。それに続くようにみほ、橘がT-34/85に主砲を叩き込み戦闘不能へと変えていく。カツコフはみほ以外にやられたショックで呆然とするだけだった。

 

 戦闘も終盤へと向かっていた。

 

 白組の残りはミカさんのIS-2、聖グロのセンチュリオンが三両、愛里寿のセンチュリオンだけだ。こちらも、六両だけで予断を許さない状況だったが狙撃して後退した愛里寿とミカだけが見つからない状況でもあった。

 

 特に、聖グロリアーナのセンチュリオン小隊の反撃は凄まじいの一言に限るだろう。

 

 最初からみほだけを狙い、三両でみほを狙ってきたのだ。

 

 「今がチャンスですわ。全車、みほさんのティーガーⅡを狙いなさい!」

 

 「ダー様!お任せですわ」

 

 「「私らを忘れるな!」」

 

 姉の私以上に連携を取る松山西女子の二両の戦車。

 

 みほをやらせまいと五式中戦車がセンチュリオンに体当たりをして吹き飛ばして壁に挟むとホリⅡが零距離からの主砲を叩き込む。

 

 「あららららら!?」

 

 ズッドォォォォォン

 

 「隊長!後ろ!」

 

 「しっ、しまった!?」

 

 「今ですわ!」

 

 「西住殿!済まない!」

 

 「大丈夫です!怪我は?」

 

 「全員無事よ!」

 

 「ダージリン、私も居るぞ!」

 

 「ヒッ、ヒィィィィ!?マッ、マリア!?」

 

 しかし、ダージリンのセンチュリオンが松山西女子の五式中戦車に主砲を叩き込んで撃破するがマリアのティーガーⅠに再び撃破されていた。ダージリンはマリアへのトラウマを強くする事になる。

 

 私もみほを狙っていたセンチュリオンを発見し、後ろから撃破したのだ。

 

 「よし、今だ!」

 

 「私も居るぞ!みほはやらせんぞ!」

 

 「げっ!?西住まほ!?あっ、ヤバァ!?」

 

 残り二両・・・・・

 

 ククリリのセンチュリオンを撃破して聖グロ勢は壊滅したのだ。

 

 しかし、そのあとはミカのゲリラ戦術と愛里寿の正確な射撃に松山西女子のホリⅡ、マリアのティーガーⅠ、ヘビさんチームのヤークトパンターが餌食となってこちらも、みほと私だけになった。

 

 そして、愛里寿、ミカが待ち受けていたのは中央のメリーゴーランドや空中ブランコがある広場だった。

 

 「待ってた・・・・・みほと全力で戦える瞬間を・・・・・」

 

 「愛里寿ちゃん?」

 

 「そして、私が全力でこのメンバーを育て上げたチームとみほの育てたチームでやりたかった。だから・・・・・行くぞ!」

 

 そして、私もミカと・・・・

 

 「やぁ、やっと一対一で出来る状態だね。さて、こちらは次期家元同士でやるとしよう。かつて、お母様と西住師範が大会で決着を着けようとしたが、アレで夢になってしまった。まほさんならわかるだろう?」

 

 「アレとは何だ?」

 

 「そうだね、まほさんは知らないだね。かつて、大洗女子学園に起きたお母様の悲劇をね・・・・」

 

 初耳だった。

 

 「まさかだと思うが、今大洗女子学園が使用している戦車の事か?」

 

 「そう、黒森峰が重戦車を導入した事で三連覇中だった大洗女子も重戦車を導入しなければならない状況になっただね。確かに、センチュリオンやⅣ号戦車は優秀。だけど、重戦車には敵わないのは道理だったし、作戦次第でも何とかなるのはみほさんが証明している。だが、当時の西住師範は今のみほさんの様な戦い方だったらしい。だから、どうにもならないから重戦車を導入したが買った殆どがレギュレーション違反ばかりだったらしい。知らなかったお母様達は失格となり戦車道も廃止にされた・・・・・」

 

 初めて聞く事ばかりだった。

 

 みほが、お父様にティーガーⅡやパンターF型のパーツを注文していた理由だったのか・・・・・

 

 私とミカとの話を余所にみほと愛里寿の激闘が続いていた。

 

 「麻子さん、次でターンをして下さい!」

 

 「みほ、甘い!」

 

 すれ違い様に一撃を放つがお互いに外れる。みほのティーガーⅡはターンをして愛里寿のセンチュリオンの後部に主砲を放とうとするが急速バックして狙いを外させるが砲塔の工具箱にあたり工具を撒き散らす。

 

 そして、二人が私達の所に来るなり

 

 「お姉ちゃん、邪魔」

 

 「邪魔」

 

 私のティーガーⅠは愛里寿の主砲で撃破され、ミカのIS-2はみほの主砲で沈黙されていた。

 

 「お互い、妹がやんちゃになると苦労するね」

 

 「ミカ、それはお互い様だ」

 

 私は車内に入り、レンに冷えたノンアルコールビールを二本取らせる。一本をミカに投げ渡して妹達を見守ったのだ。

 

 姉二人の見守りを余所に妹二人の決着は結局、付かないで終わる事になる。

 

 終演は余りにも唐突で呆気ない終わり方だったのだ。

 

 ガッラガッラ

 

 ジャッボォォォン

 

 「「ふっぇ!?」」

 

 「総員、脱出!」

 

 前回はお互いの砲身が折れて引き分けだったが、今回はいつも以上に撃ち合いになり湖の桟橋で相対する事になるが、お互いがいた場所が非常にまずかった。桟橋が戦車の重量に最初から耐えられる事もなく桟橋が崩壊。お互い、仲良く湖に転落したのだ。

 

 「みほ、池ポチャ狙ってた?」

 

 愛里寿は泳ぎながらみほに聞く。

 

 「う~ん、愛里寿ちゃんが絡んで来なければ落ちなかったかも?」

 

 みほも泳ぎながら敗因を考えるが、まさか桟橋だとは気付いていない。

 

 「いや、みほと私の戦車が重過ぎた」

 

 そう、ティーガーⅡもセンチュリオンも絡む様に湖に転落してエンジンに水が入って自走不能となり二人とも同時に白旗が上がったのだ。

 

 搭乗員は幸いな事に戦車から全員脱出しているが、引き分けなことに残念と思っていたのだ。

 

 

 紅白戦が終れば、アンツィオが作る手料理や黒森峰が持参した名物料理で打ち上げパーティーだった。終始、全員が楽しんでいた。

 

 この紅白戦は各学園の名物となり毎年、行う行事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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二学期と言えば文化祭です!


 今回も短いです。


 

 長かった夏休みも終わり二学期に入る。二学期と言えば、体育祭や文化祭などの行事が目白押しである。戦車道にも出し物をすることが既に決まっていた。

 

 そう、コスプレ喫茶である。

 

 発案者は何を隠そう裁縫科の生徒であり、聖グロリアーナ女学院との練習試合にパンツァージャケットを急ぎ手配したエリカさんでもある。

 

 だだ、問題もある。

 

 黒森峰から短期転入を果たした、お姉ちゃんやマリアさんの他にアンツィオからもアンチョビさんやカルパッチョさんがまだいたのだ。一応、戦車道の試合ばかりで学園での単位が全く足りてない理由でもあるが・・・・・

 

 さて、お姉ちゃんとマリアさんを見た裁縫科の生徒は目を輝かせながら、数人で拉致を敢行してサイズを採寸し急ぎ衣装を造り出したり、エリカさんを私達の自宅から拉致して着せる衣装を採寸したりと、何処に裁縫科が居るのか怖い為に戦車道の訓練ではない。そして、裁縫科の生徒は何を血迷ったのか愛里寿ちゃんまでも拉致られる始末だった。

 

 要は、生徒会も私達もいや、学園全体が裁縫科に頭が上がらないのだ。

 

 採寸した衣装をお姉ちゃんが着て、マイクを持たされ歌の練習やエリカさんと一緒にエリカさんの声の代わりに声をやるといった手の込み様に、ただ、見守るしかなかった。

 

 そして、エリカさんもお姉ちゃんの声を使って接客の練習だ。そして、エリカさんのコスプレの対になるコスプレをするのはマリアさんだった。

 

 「あら、紅茶が飲みたいわね。水銀燈、入れてくれるかしら?」

 

 「紅茶が飲みたいですって!?真紅、その前にジャンクにしてあげるわ!」

 

 やっぱり、そのネタなのかと思ってしまう。猫田さんも遂に拉致され着せられた衣装は銀河鉄道999のとあるキャラクターだったり、愛里寿ちゃんは愛里寿ちゃんでお伽話の不思議な国のアリスを着せられていた。

 

 そして、遂に私にも毒牙がやって来たのだ。

 

 教室を移動するために廊下を歩いて居ると、四、五人の生徒に取り押さえられたのだ。

 

 「「「「「西住みほ、確保!」」」」」

 

 「ムッ!?ム~ム!」

 

 「そのまま、裁縫科に運ぶわよ!」

 

 簀巻きにされ裁縫科の衣装室に拉致れた私に用意された衣装はフリフリの青をベースにしたアイドルの衣装だった。そして、肩に掛けられた襷には『ヒロイン党 福岡代表 鬼丸静』と書かれており、お姉ちゃんもノリノリでピンクのロングのカツラを被り、歌とダンスを練習していたのだ。

 

 「西住みほさん、コレを着て貰います!」

 

 「えっ?拒否権は?」

 

 「無いわ」

 

 用意された衣装にカツラ・・・・

 

 まさか、アイドル事変の鬼丸静を私にやらせるのだろうか'?

 

 隣では、お姉ちゃんが

 

 「ラクス様!」

 

 「いや、ミーア・キャンベルでしょ!」

 

 と揉めてる辺り、乗りと勢いで両方らやらされるのでは?

 

 と思ってしまう。

 

 

 結局、私も衣装を着る事になり、ダンスや歌の練習をさせられる事になった。

 

 そして、裁縫科の生徒は呟いていたのだ。

 

 いけにえは揃ったと・・・・・・・

 

 

 

 

 文化祭、当日

 

 戦車倉庫は喫茶店の様に彩られて様変わりする。

 

 まさか、優花里さんまで餌食になっていたなんて私も知らない。

 

 優花里さんのコスプレ姿はバンドリのアイドルバンドグループのパステルパレットの大和麻弥のコスプレをされていたのだから・・・・・

 

 そして、私を含めたコスプレ店員はというと・・・・

 

 ネタにされたのか杏会長は碇ゲンドウだったり、澤ちゃんはキミキスのとあるキャラクターだったりと最早、いけにえ状態だった。そして、メインを勤める店員は

 

 ローゼンメイデンの水銀燈をコスプレしたエリカやマリアさんのコスプレはエリカさんのコスプレである水銀燈のライバルでもありヒロインの真紅だったり、猫田さんは眼鏡が無しの状態が銀河鉄道999のメーテルに見えたのかメーテルのコスプレにされていた。

 

 お姉ちゃんは言うまでもなく、ガンダムSEEDのラクス・クラインのコスプレでマイクを片手にライブ担当にされていた。

 

 そして、もう一人は大洗女子の制服姿で忍び込んでいた聖グロのアッサムさんも裁縫科に捕まりオチョー夫人こと竜崎麗香のコスプレにさせられていた。

 

 そして、私はアイドル事変の鬼丸静だった・・・・・・

 

 結果から言えば、コスプレ喫茶は大盛況で大変だったが楽しかったと言える。

 

 特に、私とお姉ちゃんの生ライブが大盛況で黒森峰からお姉ちゃんを見に来た生徒が凄かった。

 

 

 堅物で有名だった、お姉ちゃんだけにコスプレで生ライブは黒森峰の生徒には刺激が強すぎたのかもしれない。黄色い声を出しては気絶したり、アイドルを見ているかのように盛り上がりお姉ちゃんが歌う歌を聞いていた。そして、扉から出て来た他校の生徒だと思っていたら、魔法科高校の劣等生でお馴染みの司波深雪のコスプレをしたカルパッチョさんだった。

 

 「カルパッチョさんですよね?」

 

 「あら、西住さん?」

 

 「なぜ、カルパッチョさんも?」

 

 「気付いたら捕まってました」

 

 「同じだね・・・・・・」

 

 二人でお姉ちゃんのライブを観賞すると、やはり

 

 「ラクス様!?」

 

 「キャァァァ!?」

 

 ラクスコールで大盛況のライブ。

 

 そして、お姉ちゃんのライブが終わり、私のライブになる。

 

 やはり、最新のアニメだっただけに反応はイマイチだった。歌姫に一アイドルが勝てる訳が無い。

 

 

 文化祭の初日が終わる頃には全員がバテバテだった。

 

 

 二日目以降はライブの順番が代わり、私、カルパッチョさん、お姉ちゃんの順番でライブする事が決まった。カルパッチョさんも深雪コスプレから覆面系ノイズの有栖川仁乃に代わっていた。

 

 今日のお姉ちゃんのコスプレはラクスからミーア・キャンベルになっていて、私達のライブが終わるなり黄色い声の観客にたじろぐばかりだった。

 

 それでも、ライブ付きコスプレ喫茶は大盛況のままで終わりを迎えるのだった。

 

 売上金は戦車道の資金にしても良いと裁縫科から言われたが、裁縫科に忍び込んだ優花里さんからの情報で裁縫科主催で戦車道のコスプレ写真集を造っていたらしく、売上は私達の戦車道に遠く及ばない。

 

 久しぶりの戦車道の授業で全員が集まる。

 

 「皆さん、疲れている様ですが?」

 

 「隊長、あの写真集を回収して下さい!」

 

 どうやら、戦車道の出し物に参加できなかった生徒は裁縫科に捕まり写真集の写真にされていたのだ。

 

 「私も裁縫科には無理かな?勝てる要素が全くないです・・・・・」

 

 そして、私の勝てる要素がないと話しを聞いた生徒達は裁縫科を恐れる様になったのは言うまでもない。

 

 





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