けいおん! 〜大切な事は君が教えてくれた〜 (あいとわ)
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-1st Grade-
#1 出会い!


はじめまして、あいとわでございます。

私が大好きだったけいおん!という作品に今更2次創作を作ろうという訳ですが…笑
私はけいおん!を見てベースを始め、バンドを組み、今でも趣味の一環としてギターやベースを弾いています。
あの大ブームだったけいおん!が過疎化を辿っているのは悲しいですが、頑張って執筆していきますので、どうか暖かい目で見てください。

あのローソンフェアとか頑張ってた当時を思い出します。笑 感想文等でファンだった方達と語り合えればなと思ってます~
それではよろしくお願いします!

また第一話は諸事情で大幅に改変させていただきましたので、改めて読むといいかもしれません。
雑文だったのが少しはマシになっています(笑)



 

ふと思う。

俺は誰と居たのかな・・・。

こんなにも長く。

こんなにも一瞬で。

こんなにも儚く。

 

 

こんなに残酷で引き裂かれる想いがするなんて。

 

 

それは残酷にも、容赦なく、俺に現実を突きつけた。

 

 

目の前には"卒業式"の文字。

 

そんなものを目の前にしても、俺は心のどこかで信じていなかった。

まだどこかで繋がっている自身があったのだ。

 

 

ただ。

 

ただ、俺はまだ認めたくなかったのかもしれない。

 

こんなにも当たり前で。

 

こんなにも眩しかった毎日に、終止符を打ってしまうことを。

 

 

どうして、引き裂かれる?

 

 

俺はまだずっと一緒に居たいよ。

 

 

情けないが、本心を伝える。

 

それは大好きだった物語が終わってしまうかのように。

大好きだったドラマ、アニメ諸々が、最終回になって、視聴者を置いていくように感じるのと同じ感じで。

置いていかないでくれ・・・。

 

悔しいけど、本心を伝える。

 

 

皆でバカみたいに騒いで。

 

夏はキャンプファイヤーをしたり、肝試しをしたり。

 

冬はコスプレパーティーとかやったっけ?

 

そんな一瞬一瞬が走馬灯のように駆け巡って・・・胸を締め付ける。

 

 

 

「本日をもって、皆さんの高校生活は終了となります・・・。今まで本当にありがとう。それじゃ・・・解散・・・」

 

 

 

 

そうか。

 

 

簡単なことだ。

 

 

やっと身をもって、実感することが出来る。

 

 

 

そうか。

 

 

 

 

俺は・・・・・卒業するんだ―――。

 

 

 

*************************************

 

 

 

目覚める。

 

 

唐突の目覚めだった。

ジリリリ、と耳を劈くような目覚ましの不快な音で俺は目覚める。

布団をめくり、立ち上がる。

部屋が二つしかない小さな部屋。そこには俺しか住んでいない。

 

訳ありで両親とは違うところに住んでいる。所謂、一人暮らし状態だ。

 

今日から高校生だが、こんなこと学校にバレて大丈夫なのだろうか…。

まぁいいか。

壁に掛けてある制服に目をやる。

青いブレザーと白のシャツ。そして、水色のネクタイ。

さぁ、着替えて高校へ行こう。

入学式から遅刻は不良だからな。

 

大急ぎで着替え、朝食もまともにとらず家を飛び出る。

駅までの道のりは近い。

電車で3駅の場所に高校はある。

 

 

名は、"桜ヶ丘高等学校"。

 

 

最近までは女子高だった場所だ。

今年度から共学になったらしい。

そんな学校に行くのは不安で仕方ないが、父親の紹介でこの学校に入学することになった。

 

"逃げてきた"っていう表現の方が正しい、か。

 

まぁ、今はいいや。

今は。

どうせ誰にも打ち明けることのないことだし。

 

「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」

 

ふと背後から声がした。

女子の声だ。

別に気にする程のことでもないが、耳に入ってくる。

 

「うん!もー憂は心配し過ぎだよ~」

「今日だってギリギリまで寝てたじゃんっ」

「だってぇ・・・」

 

仲睦まじい姉妹がいるもんだと思った。

今時珍しいのではないか?

 

チラリ、と制服を見るからに・・・お姉ちゃんらしき人は桜ヶ丘高等学校の生徒だ。

やはり元女子高ってこともあって・・・女子が多いな。

 

「ッ!!!」

 

一瞬頭が真っ白になる。

何かを考えるよりも先に体が訳もわからず動き出す。

誰よりも先に足を前に踏み出し、姉妹の方へ向かう。

 

刹那、そのお姉ちゃんの方が思いっきり何かに躓く。

 

あなたその運動神経はなんですか?って言いたくなるくらい大胆に顔から地面に突っ込んだ。

 

 

・・・はずだったが、間一髪俺が下に入りクッションになる。

 

 

「あっぶな!!!」

お姉ちゃん(とこの際呼ぶ)は俺の肩にしがみ付き、半泣き状態。

いや・・・どちらかといえば泣きたいのは俺かな・・・。

犠牲にした太ももの裏がジンジンする。

絶対擦りむいた・・・地味に痛いやつだ。

 

「お姉ちゃん!!大丈夫!?」

「ううぅ・・・ごめんなさいっ、大丈夫ですか?」

 

黄色ピンで前髪を留める、ショートヘアーの女の子。

意外と妖艶な顔つきをしていて目の場所に困った。

 

「すいません、ありがとうございました。お怪我はございませんか?」

 

礼儀正しい妹だなという素直に思う。

妹も妹で妖艶な顔つきだ。

 

「大丈夫です、なんともないです」

 

「良かったです・・・!」

「あの・・・ありがとうございました・・・っ!」

 

お姉ちゃんに凄い勢いでお辞儀をされる。

いえいえ、と適当に返す。

 

「ひょっとして、その制服って・・・?」

「ああ、桜ヶ丘高等学校です。」

「やっぱり!!1年生ですか?」

「あぁ、はい」

「私も!よろしく!」

「そうなんだ、よろしく」

 

まさかの1年生か。

多少塩対応な気もするが、入学当日からなんか天然系の女の子と話してて大丈夫だろうかと思った。

 

「平沢唯です~」

 

「尾形相馬です」

 

彼女は満面の笑みで微笑みかけてくる。

何か悩みとかなさそうなタイプの子だと勝手に思った。

 

「じゃあ私こっちなので・・・お姉ちゃんしっかりね!お姉ちゃんをよろしくお願いします!」

 

えっ!?

よろしくって何、よろしくって・・・!!

ちょ、妹よ・・・!

 

アワフタしている間に、妹は交差点で違う方へ曲がって行った。

いきなりお姉ちゃんと2人っきりに。

噓でしょ・・・!?

 

「あの平沢さんは・・・」

「唯でいいよ!」

 

!?。

マジか。

とりあえず学校までは一緒に行くことにする。

 

「あの・・・唯はさ・・・どこから通ってるの?」

「電車で三駅のところだよ!」

「マジか。俺もだ。」

 

まさかの住んでるとこ被った~。

初っ端からビンゴするとは思わなかった・・・。

 

「ところで、和ちゃんどこ行ったのかな~うーん・・・」

 

「誰だ?のどかって」

「幼馴染!朝一緒に行こうって事になってたの」

なんで俺が一緒に行ってるんだろう・・・。

 

「ふーんじゃあ探すか、俺も手伝うよ」

「えぇ、いいよ!付き合わせちゃうの悪いよ・・・」

「気にすんな、友達いないからさ」

「そうなの?」

「あぁ、知り合いもいないと思う・・・出身違うし・・・」

 

1人暮らしだし、とは言えなかった。

 

 

 

「じゃあ・・・私が友達1号だね~!」

 

 

 

「えっ―――」

 

 

 

思ってもない一言だった。

思わず、聞き返してしまいたいレベルで。

 

 

満面の笑みで・・・えへへと笑う彼女。

 

 

馬鹿馬鹿しい・・・。

会って数分の人に心を許すなんて・・・。

 

でも・・・さりげない一言かもしれないが、とても嬉しかった自分がいた。

自分があまりこんな事を言われる経験がないからであろうか。

自分でもよく分からない。

 

 

 

 

俺はまだ知らない。

 

 

 

彼女との出会いが、一生忘れる事の出来ぬ、最高の青春を送るキッカケになることなど―――。

 

 

*************************************

 

「えー、皆さまはこれから輝かしい"青春"と呼ばれるものに全力を注いでください―――。」

 

 

校長がこんなことを言っていた気がする。

入学式は意識が遠のくのを我慢し、必死に睡魔と戦っていた。

どれくらいの時間が経ったかは分からないが、ようやく終了し、一年生は玄関前に集合させられた。

人がザワザワといたが、どうやらクラスが発表されたようだ。

一緒でよかったー、などの声が聞こえてくる。

そんな中で俺も掲示板をのぞいてみた。

 

「1-3・・・か」

 

予想通り、知っている人は誰一人いない。

ここまでくると清々しいな。

名前を順に追っていくが、知っている名前など―――。

 

 

「ひら・・・さわ・・・ゆい・・・?」

 

 

どこかで聞いたことのある名前だと思った。

あれ・・・どこだっけ。

さっきまで発してた言葉だったと思うんだけd―――

 

 

「尾形くーーーん!!一緒だったね!クラス!嬉しいよ~!」

 

この子だ・・・。

朝から豪快にズッコけた天然系美少女・・・。

俺の高校生活に色んな意味での不安が過った気がした。

 

先ほど探してた和さんも一緒にいた。

やれやれ、という表情で唯に手を引かれている。

 

「尾形くん、一年間よろしくね~!

「私からもお願いするわ・・・この子友達出来るか不安だから・・・」

「なんか和さんも大変ですね・・・」

「そうなのよ」

 

苦労人は語っている。

幼馴染とかすごいな。

 

「唯は素直でいい子だから、仲良くしてあげてね」

 

「おう―――」

和さんはクスリと笑うと、じゃ行こうと告げ教室へと向かった。

 

*************************************

 

「君!柔道やらないかッ!!??」

「バスケ興味ない~!?」

「文芸部、いかがですかー!?」

「オカルト研究会・・・どうですか・・・?」

 

 

なんか一つ明らかに怪しいのがあった気もするが気にしない。

教室へと向かう途中、女の先輩から沢山の勧誘を受けまくる。

そうか・・・新歓時期だもんな。

少しでも多くの一年生をゲットしたいのだろう。

 

部活・・・。

中学の時はバスケやってたけど、ここ女子高だし男バスなんてないんじゃ・・・いやでも勧誘を受けたってことはあるのかな・・・。

 

少し嫌なことを思い出したので、考えるのはもうやめよう。

流れるままに昼食の時間に。

 

「うーん、どうしよう」

「どうした?」

「何悩んでるのよ唯」

 

「部活何にしようかなぁーって思って」

 

「それ俺も悩んでた・・・まぁ大体決まってはいるけど」

「尾形くん何にするの?」

「バスケ・・・かな」

「すごーい!バスケ出来るんだ!」

「いや・・・中学の時にやってただけだよ・・・」

「キセキの世代?」

「いや待て、それは違う。」

 

まぁ中学は強豪で俺も選抜選手だったけど・・・。それがこんな無名高校に・・・。

 

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「でも唯、早く決めないとね。ニートになっちゃうよ?」

 

ズバッという和さん。

幼馴染の力は強い。

 

「部活やってないだけでニート!?」

「それはまぁ少し言い過ぎだけどな」

「何かやらなきゃいけないような気はしてるんだけど・・・一体何をすればいいんだろう」

 

何か今の唯は昔の俺を思い出す。

何かをしなければないない義務感。

そういう時は何もいい案が思い浮かばないものだ。

力になってあげたい気もする。

 

「和さんは決まったのか?」

「私は生徒会に入ろうかなーって思ってるよ」

「おお、生徒会か!お堅いですなあ・・・」

「和ちゃんすごいね!中学の時もやってたじゃん!」

 

 

平沢唯。

 

真鍋和。

 

初日でこの二人と知り合い、行動を共にすることになったが―――。

 

 

どんな高校生活になるんだろうか。

 

三年後、俺はどうなってるんだろう―――。

 

唯、和さん。

 

 

この2人とも一緒に居るだろうか。

 

 

唯の笑顔を思い出す。

それがどうしても頭から離れない。

 

 

「友達1号・・・か―――」

 

 




奇跡の物語・・・始まる―――。


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#2 軽音部!

ご無沙汰しております、あいとわです。
今回は放課後ティータイムのメンバーが登場します!

まだまだ駆け出しですが、感想等ありましたら、お願いします!


これは夢・・・?

最近よく見る夢。

 

俺には大切な人がいて。

その子の事が、俺は大好きで。

顔は見えないんだけど、何人か集団の中にいて。

全員大好きだけど、とびっきりその子のことは好きで。

 

 

 

でも、いつも夢の終わりには遠く離れてしまう―――。

 

 

 

誰かに連れ去られるような。

そんな感覚。

俺は手を伸ばす。

でもあと少し届かない。

 

そうして夢は終わる。

 

俺は泣きながら、目を覚ます。

 

*****************************************

 

「うわっ・・・?!!!」

 

 

大声をあげて目を覚ます。

また変な夢を見た。

最悪だ・・・。

教室中から絶賛視線を浴びる。

すいません、と小さく謝る。

そんな中、背中をちょんちょんと突かれる。

 

「尾形くん大丈夫かーい?」

「えっ、ああ・・・大丈夫。ごめん」

唯が小声で囁く。

何やら面白そうな顔で見てくるんじゃないよ唯くん。

コラ、和も。

あー、まだ友達もそんな居ないクラスで気持ち悪い奴みたいな印象植え付けちまったああああ。

 

なんやかんやで授業は進み、お昼の鐘が鳴る。

俺はくるっと後ろを振り返り、自炊のおにぎりを鞄から出し唯の机に並べる。

和も続いて机の横側に自分のお弁当を持ってくる。

もう学校が始まって一か月が経とうとしてるが、これが俺のお昼のスタイルだ。

 

「相変わらず和ちゃんのお弁当って美味しそうだよね~いいな~」

「唯も美味しそうでしょ。」

「尾形くんも自炊してるの凄いよね!いつも大変そう」

「あら、そんなこと言ったら私も自炊よ?」

「えええ!何で皆そんなスペック高いの!?」

「いや、おにぎりくらい誰でも作れるから・・・」

「ぇ。そそそそうだよねねね」

「お前分かりやすすぎな。」

「まぁ、唯には憂がいるからね。」

「憂?」

「妹よ。唯の妹!」

あぁ、あの時の・・・。

出来た子だなっていう印象だ。

今度会ってみたいな。

 

「それで、みんな部活の方は決まったの?」

 

「あぁ、俺はバスケ部に入る事にした。」

「私も軽音部ってとこに入ることにしやした!!」

「えっ!?結局入ることにしたの!?何するとこなの?」

「どうしてもって言われて~。でも楽しそうなんだ!ギターとかやるの」

「マネージャーじゃないのか?」

「人に言われるとなんか悔しい・・・。ちゃんとメンバーとして入ったんだから!」

 

数日前に唯は部活見学に行ったらしい。

というよりも辞めさせて下さいって言おうとしたらしい。

軽音。

軽い音楽と書いて軽音。

何を勘違いしたのか、口笛とか吹いてる適当な部活だと思ったらしい。

まぁ唯らしいといえば唯らしいが・・・。

 

「演奏聴かせてもらったんだけどね、なんか凄く良かったんだ。心に響いたの」

 

「へぇ」

「それは良かったわね。」

「メンバーの皆もいい人ばかりだし、美味しいお菓子も出てくるし、最高だよ!」

「先輩は?」

「去年で全員いなくなっちゃったみたい。だからいないよ~」

「やりたい放題って訳ね・・・」

「ギターどうするの?」

「部費で落ちないかな~って思ったんだけd・・・」

すかさず和と俺が、

 

「落ちないよ」

 

「え」

一瞬唯が固まる。

だがすぐ笑顔になる。

「でもでも、五千円くらいで買えるよね~」

もう唖然とするしかなかった。

こんな子掴まされて大丈夫か?軽音部・・・

「今日和ちゃん達部活?」

「あぁ。」

「私は今日はないわ」

「私はぶ!か!つ!ある~」

どんだけ強調したいんだよ・・・。

今までやってこなかったのか?

 

「じゃあ尾形くん一緒に帰ろっ!」

「おう、部活終わりどこに行けばいい?」

「うーん、じゃあ体育館前まで行くよ!」

「分かった」

 

*****************************************

 

放課後。

体育館に集合する。

男子は俺含めメンバー七人・・・か。

本当に少ないな・・・。

練習は週に2回。

本当に少ない気もするが、強豪でもないしそんなもんか。

 

一人の男子が話しかけてくる。

「名前は?」

「尾形相馬だ、ガードやってた」

ガードというのは比較的背が小さい人がやるパスしたり、スリーポイントを打ったり、主にゲームメイクする司令塔の事だ。

「俺は仙崎一馬。センターだ」

センターは背が大きく、ゴール下でリバウンドボールを取る人のこと。

とにかく背がでかい。

仙崎は身長が185センチくらいあった。(俺は175)

 

試合が始まる。

3対3のゲーム。

バスケは楽しい。

嫌なことを全て忘れさせてくれる。

この感覚。

コート全てが見えているようなこの感じ。

俺はずっとガードをやってきたからなのか、人の視線やアイコンタクト、そして違和感を人の倍感知出来る。

後ろを見てても誰かが自分を必要としていれば、俺は気付くことが出来る。

いや、別にキセキの世代とかじゃないよ?

 

ボールを受け取り、スリーポイントを打つ。

・・・ように見せかけドリブルでゴールへ駆け込み、レイアップを決める。

こんなもんお手のもんだ。

チームのレベルは低くもないが高くもなかった。

とりわけ、仙崎はずば抜けて上手かった。

強豪校でもいたのだろうか。

恐らく、仙崎が中心に―――。

 

もうやめよう。

競争心はもう捨てたんだ。

いいじゃないか、一番じゃなくても―――。

 

 

その想いとは裏腹、俺は無意識に加速していく。

バスケにのめり込んでいく。

気付けば、俺のマークは仙崎になっていた。

恐らく、誰も止めることが出来なかったからであろう。

仙崎・・・。

背がでかいからって俺を止められるとでも?

即座にスリーポイントを放ち、リングにボールが吸い込まれるように通過するのを見届ける。

 

おお~と歓声があがる。

この感じ久々だな。

 

こうして部活は終わり、解散となった。

唯はもう来てるだろうか・・・?

気付けばもう夜だった。

時計は七時をまわっている。

俺は体育館入り口へと向かう。

入り口のすぐ傍に唯はいた。

 

「あっ、唯!待たせたな」

「あ、ううん!全然!それより尾形くんバスケ凄かったね!」

「え、あぁ・・・見てたの?」

「うん!少しね!メンバーの子も一緒なんだ~」

 

え。

 

唯の後ろからゾロゾロと人影を感知する。

「こんにちは~」

「律・・・こんばんはの時間だと思うけど・・・」

「うふふ」

三人の声。

一人は、髪の毛をカチューシャであげている女の子。

一人は、黒髪清楚系の目がキリッとしてる女の子。

一人は、ほんわかしてる天然お嬢様系な女の子。

それと・・・唯。

「こんばんは、田井中律ッス!」

「こんばんは、尾形相馬です」

「琴吹紬です。」

「えっ、えっと・・・」

「あ~コイツは秋山澪です」

人見知りなのかな・・・。

てか美人多くね・・・。

なんなんだこの学校は・・・。

 

「みんなが軽音部の皆だよ~紹介したいなって思って!」

 

「あ、うん・・・」

気まずい。

非常に気まずい。

「ところで皆さんでこの後お食事でもしません?」

琴吹さんが何やら提案してくる。

「さんせーい!」

「いや、待て待て!俺初対面ですけど!?そこんとこ理解してる!?」

「もういいじゃーん。同じ高校なんだし」

田井中さんが睨み付けてくる。

この子馴染むの早っ!

「わ、私は帰るかな・・・!」

「いいよ、澪のあんな写真とかバラまいちゃお~」

「うわーーー!何のだよーー!!」

2人がボコスカ喧嘩し始める。

それはニコニコと笑う琴吹さん。

 

「なんか軽音部って・・・お前にピッタリな気がするよ・・・唯・・・」

 

「そう?なんか嬉しい!」

「嬉しいって・・・」

 

爽やかな笑み。

苦笑する俺だが、この笑顔本当にかわいいと思った。

いや、別に惚れてるとかそういうんじゃないけども。

 

 

そして俺はまだ知らない。

 

この出会いが、また更なる奇跡の日々を生み出すことも―――。

 

 



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#3 夜ごはん!

更新が遅れてすいません!
今回はHTTメンバーと尾形がご飯を食べるところから始まります!
感想、意見、評価よろしくです~!!


 

「き、気まずい―――――」

 

 

なんで俺は此処にいるんだろう。

俺以外全て女子。

そして唯以外ほぼ初対面。

どうしてこうなった。

田井中さんを見る。

「もういいじゃーん。こっちも澪が男子慣れしてないから練習しないとなんだよ~」

「何言ってんだ!!!このバカ律!!」

澪ちゃんが律ちゃんをぶん殴ってる。

あぁ、カチューシャがぶっ飛んでるよ。

「ちなみに何処で食べるんだ?」

「それならウチんちおいでよ~」

ふいに唯が言う。

それなら俺んちも近いしいいかもだな。

流石に出会って数十分の女の子をあげるってのも良くないと思う。

 

「おうちの方は大丈夫なのか?」

澪ちゃんが問う。

恥ずかしがり屋そうなのに、口調は男勝りなんだな。

「うん!今お母さんとお父さん、結婚記念日でいないんだ~」

「あら、唯ちゃん。妹いるっていってなかった?」

「いるよ~。でも妹なら大丈夫!」

「何が大丈夫なんだろう」

唯の妹ってことは・・・。

あの入学式にいた子か!

 

そうこうしてるうちに唯の家へと着く。

一軒家であった。

「り、立派なお家だ・・・」

思わずつぶやいてしまう。

親里離れ一人暮らししてる俺からすれば本当に羨ましい。

「おじゃましまーす」

全員で告げる。

すると玄関の方からひょこっと女の子が飛び出してくる。

 

「あ、お姉ちゃんおかえり~!あれ、お友達?」

「憂~!ただいま!そうだよ!軽音部の人たち!」

あの、僕違います。

「へ~そうなんだ!初めまして、妹の憂です。姉がお世話になってます~」

で、出来た子だ・・・。

きっとこの軽音部の全員が思ってることだぞこれ。

絶対思ってる。

この田井中律の表情を見ればわかる。

靴を脱ぎ、リビングに全員で向かう。

結構広めの家で、散らかってなどいなく清潔に保たれていた。

「きれい~」

「律の部屋は汚くて見せれたもんじゃないからな~」

「別にいいもん!誰が来るわけでもないし!」

「みんなゆっくりしてね~憂が夕飯作ってくれるって~」

「それにしても妹があんな出来た子だとな~」

ニヤける律。

「唯のいいところ全部持ってかれちゃったんじゃないの~」

「え~なんでなんで~!!」

全力で焦る唯。

「冗談だよ冗談~」

 

そんなやり取りをしてる後、憂ちゃんが夕飯を持ってきてくれる。

ハンバーグだと!!

「おおおお!!ハンバーグ!!」

「凄いわね、憂ちゃん!」

「そんなことないですよ~」

照れる憂ちゃん可愛いです。

みんなが感激してる中、自慢そうな表情をする唯。

「あの・・・お前のこと褒めてる訳じゃないぜ?」

「ふんす!」

「・・・・・」

この子は放置しておこう。

ハンバーグは一口食べただけで舌がとろけそうになる。

本当においしい。

店出してもいいんじゃないの。

皆で感激する夕食だった。

 

*****************************************

 

夕食を食べ終わる。

「んで、あたしがドラム!」

「私がキーボードです」

「わ、私はベース・・・」

「ギター!ふんす!」

「へ~それで廃部寸前だった軽音部を唯が入ってどうにか免れたってことか」

「そうだよ!」

「唯ギター弾けるようになった?」

「ううん、全然」

「・・・・・。ちなみにギター買った?」

「ううん、まだ」

「・・・・・。」

「唯はこういう子なんだ!許してあげて!!」

全力で訴えかける。

軽音部の方々、どうかこいつを見捨てないで!

「いや、知ってるよ・・・」

律が俺の肩をポンッとする。

彼女の目は悟りを開いているようにも見えた。

「今度ギター買いに行こうよ、唯」

「そだね!練習もしたいし!」

「軽音部は喫茶店じゃないからな~」

呆れる表情の秋山ちゃん。

一瞬目が合うも逸らされる。

 

「ところで、尾形くんは何してんの?」

キョトンとしながら田井中さんが聞いてくる。

「ん、俺はバスケ部に入ってるよ」

「運動系か~」

「あぁ。今日も早速バスケしてきたよ」

「見てたわよ。凄かったわね!」

目をキラキラさせる琴吹さん。

「あ、ありがとう」

「長い事やってらしたの?」

「えーと・・・」

 

「尾形くん!凄いんだよ!中学バスケのMVPだったんだって~!」

 

全員が固まる。

「すげえ!道理で巧かったわけだぜ!」

「凄いな!尾形くん!」

「いや・・・色々事情はあったけどね・・・」

思い出したくない過去。

今は目をつぶろう。

 

「俺は上手くなんかないよ、ただ負けず嫌いなだけ―――」

 

*****************************************

 

時計は午後の九時を回る。

時間が過ぎ去るのは早いものだ。

皆で家を出る。

「おじゃましました~」

皆で帰路に辿るが、俺は家が割と近めなので皆と逆方向だった。

「じゃあな、尾形くん!」

「また明日!」

「じゃ、じゃあ・・・」

「おう、また明日な!」

手を振る。

 

さて、帰るか。

今日のことを思い出す。

皆で夕飯を食べた。

とんでもない出会いがあったもんだ。

でも、すごく楽しかった。

 

久しぶりに温かい気持ちに―――。

 

 

 

ズキッ、と俺の頭の中の警報音が鳴った。

 

 

 

「頭いってぇ・・・」

なんなんだ。

幼少期からあるこの感じ。

これが起きた時は何かが起こった時だ。

何か不幸な何かが―――。

 

 

「尾形さん!」

 

待ってました、かのように後ろを振り向く。

気配は結構前から感じていた。

人の視線などは敏感に感じ取るのは俺の悪い癖かもしれない。

「憂ちゃん、どうした?」

「あのっ、秋山さんが財布忘れちゃってて!探してたら尾形さんがいたので!」

「そっか。じゃあ俺が届けとくよ!」

「本当ですか!助かります!」

「おう」

憂ちゃんから財布を預かる。

さてひとっ走り行くか。

駅方面にいるかな?

「あの、尾形さん。ひょっとして入学式の時会いましたよね?」

「そうだね。あの時会ってた、俺達!」

「何かの縁ですね、これからお姉ちゃんをよろしくお願いします!」

「任せとけ!唯の扱い、やっと最近分かってきた!」

お互い笑い合う。

 

本当だ。

 

お姉ちゃんと一緒で、笑顔が無邪気で可愛い。

 

俺はこの笑顔に色々助けられてるのかもな・・・!

 

「今日のハンバーグ、最高に美味かったぜ。また食べに行くからよろしくな!」

「はいっ」

もっと話してたい。

でも、今は急がなきゃ・・・。

秋山さんが・・・。

「じゃあ、財布お願いします!」

「分かった!何か・・・嫌な予感がするんだよね・・・胸騒ぎみたいな」

「えっ」

「まぁただの勘違いならいいんだけど―――。じゃ!」

 

 

手を振り、走り出す。

勘違い、か。

 

 

そんなこと今までに一回でもあっただろうか。

 

 

誤魔化しはいらない。

 

俺は夜の道を駆ける。

 

財布を届けるためではなく。

 

秋山さんを助けるために―――。

 




尾形、駆ける―――。


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#4 進展!

今日は澪ちゃんが多めにでてきます!
僕は最初澪推しでした・・・!
それではどうぞ!!


 

「ふぅああああああ・・・」

 

とてつもなく大きな欠伸をする。昨日、いや今日は本当に疲れた。

誰もいない朝の校舎を歩く。

朝の澄んだ空気と日差しが心地よい。

今は一部の教師しかいないのではないだろうか。そのレベルで早い時間に学校に着いていた。

 

昨日あんなことがあれば普通寝れないよなぁ・・・。

 

「あっ」

ふと声が漏れる。目の前には秋山澪ちゃんがいた。

ちゃんとセットされた髪に透き通る瞳がハッキリわかる。

「おはよう」

「お、おはよう・・・」

少し恥ずかしがりながら返事を返してくれる。

彼女もまた寝れなくて早めに来たのだろうか。まだ朝礼まで二時間もある。

「昨日はありがとうな・・・尾形くん」

「いいってことよ―――。」

会話が途切れてしまう。

なんとか繋ぎ止めなきゃ。

 

「・・・体育館行かね?」

「えっ、でも―――」

「ごめん、何か用事でもあった?」

「ないけど・・・」

「じゃあ行こう。バスケでもしよーぜ」

しばらく考え込んだ後、了承してくれた。

 

2人で歩き出す。

彼女の性格なのか、自分からは話し出さない。

とても人見知りがすごい子なのかな?

だから気を遣わない田井中さんとかにはあの口調なのか。

「うーん、誰もいない校舎は気持ちいいな~」

「そうだな~」

彼女も大きく手を広げ、深呼吸をしていた。

 

体育館へと着く。

中からは音は聞こえない。

本当に誰もいないんだな・・・。

体育館の事務員の方はいたので、体育館の鍵を拝借する。

部室からボールを一つ出し、ダムダムとドリブルさせながら秋山さんの方へと向かう。

「そういえば、尾形くんはバスケ部だったな。」

「うん」

シュッとボールを放つ。

何の抵抗もなく、ボールはリングの中を通過する。

「おおっ!凄い!」

「あざ~す!」

バスケ部では決めて当たり前のシュートだったが、こんなにも褒められると逆に照れた。

秋山さんは目を輝かせて、こちらを見る。

「秋山さんも打ってみなよ、シュート」

「えっ、私は無理だよ!運動音痴だからな・・・」

「いいから」

ボールを渡す。

慣れない手つきで、えいっ!とボールを放る。

ボールはリングを通過することはなく、その手前へ落ちていく。

「ほらな・・・」

やれやれという表情でこちらを見る。

・・・可愛いっていうか美人だな。

こんな顔も出来たんだ、この子。

今まで目も合わせてくれなかったくらいだからな。

 

「膝を使うんだよ、手だけで打ってるから届かないんだ」

「膝?」

「そう、思いっきり曲げて打ってみ?」

「分かった」

再び秋山さんはボールを放る。先ほどと違うのは、膝を曲げていること。

 

シュパッ!

 

と気持ちのいい音が鳴った。

ボールがリングに当たらず、ネットだけを通過する音だ。

「やったぁ!!」

バンザイをしながら、ピョンピョンと飛んで喜ぶ彼女。

思わず見惚れてしまう―――。

 

「凄いな、尾形くんは!」

 

「・・・相馬でいいよ」

 

「えっ?」

なんて事を言ってしまったんだ俺は!!!

何の躊躇いもなしに言ってしまった!!

しかも秋山さんに限って・・・!

嫌われたか・・・。

「分かった。相馬は中学MVPなんだろ?」

「えっ、あぁ・・・そうだよ。昔の話だよ」

あれ、すんなりと呼んでくれた。

この気持ちはなんだろう・・・本当に嬉しい。

「昔っていっても一年前でしょ?」

「あぁっと、そうだった―――」

「面白い奴だな」

ウフフ、と笑う秋山さん。

俺も自然と笑みが零れた。

「私のことも澪って呼んでくれ。私だけじゃ恥ずかしいからな・・・」

「分かった、み―――」

 

 

 

「なーにやってんの~お二人さーん」

 

 

 

「うわあああああ」

2人して大声をあげて驚いてしまう。実際ニヤニヤしてしまう場面だったけども!!

そこに居たのは田井中さん。

そしてその後ろからひょこっと唯と琴吹さんも出てくる。

「律・・・驚かすなよ・・・」

「なかなかいい感じの雰囲気だったからさぁ~ん」

「うるさいよ田井中さん」

「2人ともバスケしてたの?いいな~!」

唯、空気読みなさい。

「澪ちゃん、大丈夫そう?」

「あぁ、もう大丈夫!」

「澪~良かったよ~!私も後でソレを知ったからさ~」

「うん、相馬が守ってくれたんだ!」

「おお~!男前だね尾形くん!」

「あざーす。」

 

「いや待てそれより澪、今なんて呼んだ・・・!?」

 

「相馬だけど・・・」

「やはり進んでいたか」

「お前殴るぞ」

「ひゃ~」

なんかいつもの日常に戻って良かった。

高校に入って女子ばっかで嫌なところもあったけど、これはこれで毎日楽しいな。

 

「今日放課後お前も来いよ!相馬!」

ふいに田井中さん。

「なに、なんて?」

「君も軽音部に入るんだ、相馬さん!」

色々急すぎてついていけないんだけども。

「気が向いたらな」

 

・・・・・。

軽音部に入る、か。

 

思ってもみなかった一言。

 

しかし、今思ってみれば。

 

どこか気持ちの奥底で考えていたのかもしれない―――。

 

*****************************************

 

時は、昨晩に巻き戻る。

俺は夜の道を駆け、駅方面へと向かっていた。

本当に嫌な予感がする。

そしてそれに伴い痛みを増す頭痛。

絶対に何かが起きているに違いなかった。

 

キャーと声が聞こえた。

 

もう近くだ・・・!

急げ―――。

曲がり角を曲がると、そこには秋山さんと琴吹さんがいた。

それと男の影が3人。

思わず息を飲む。

男達は一目瞭然、酔っ払いであった。

一人は秋山さんの肩を掴んでいた。

 

 

「や、めろ―――ッ!!」

 

 

無我夢中で駆けだす。

秋山さんを掴むその手を振り払う。

「尾形くん!」

「もう勘弁してください、相手は女子高生ですよ」

彼女ら二人を自分の背の後ろへ。

「お~い兄さん男前だねぇ~!かっこい~」

「ヒュ~ヒュ~」

酔っ払いらは俺を煽り始める。

そんな低俗な挑発には乗らない。

「逃げろ。とりあえず今は全力で―――」

「えっ・・・」

恐怖で足が竦んでるのか動けない二人。

 

「早くッ!!!」

 

言われるがままに逃げ始める二人。

酔っ払いは追うことはしなかったものの、俺に対しての目つきは変わっていた。

男なんてこんなもんだ。

酔っぱらっているフリなど、いくらでもできる。

民度の低いことを・・・。

「お前さ、自分のこともっと大事にしろよ」

「あれ、友達?」

「そうです」

「偉いね~もっちょっとでお持ち帰りできたのに」

「そんなことさせねーよ」

「威勢のいい高校生だな、まぁ今回はこれで勘弁してやるよ」

男達はどこか闇の中へ消えていった。

 

すぐさま俺は彼女らの後を追っていく。

2人を探し出すのに時間は掛からなかった。

近くの公園にいたからだ。

秋山さんは泣きながら蹲っている。

「大丈夫?」

「尾形くん・・・」

琴吹さんは心配そうな表情だった。

「もう俺が追っ払っといたから大丈夫だ!な!」

「うん・・・」

ゆっくり頭をポンポンとする。

「それじゃ、帰ろう。家まで送っていくからさ」

「うん・・・」

「それと財布、唯ん家に忘れていったろ?憂ちゃんが届けてくれたよ」

「ありがとう・・・」

 

三人で並んで駅へ向かう。

琴吹さんと俺が会話をし、秋山さんは黙っているままだった。

少しでも気分が良くなれば、と思い明るい会話をした。

 

 

 

そして次の日の朝、二人の関係は進展することになるのであった―――。

 




生まれる絆―――。


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#5 楽器!

お待たせしました!お気に入り増えてて嬉しいです!
出来れば、感想や評価をいただきたいです!頑張れる糧になります!
それでは、お楽しみください!


 

放課後になった。

チャイムの音と共に、皆が帰宅の準備やら、部活の準備やらを始める。

今日はバスケ部は休み・・・か。

「相馬、今日バスケ部?」

和が話しかけてきた。

今日は生徒会なのだろうか。

「いや、今日は何もないや。」

「じゃあ先生に提出物があるんだけど、職員室に持って行ってもらってもいい?」

「おう」

「悪いわね、ありがとう」

そういえば、和も名前で呼んでくれるようになった。

もう入学式から二か月。

結構日が経った。

一方唯も―――。

 

「相馬くん!」

「どうした?」

唯だ。

今日も相変わらずうだーとしている。

机に突っ伏し、顔だけをこちらに向けている。

「今日軽音部おいでよ~!」

「えっ」

「ダメ?」

全く無意識だろうが、上目遣いはやめろ。

一応俺も男だ。

「いや、別にダメじゃないけど」

「やったっ!じゃあおいで!」

「迷惑じゃないなら・・・分かった」

「うんっ!」

凄く嬉しそうだ。

分かりやすい。テンションの上がり具合が半端ない。

「じゃあ先生に提出物預けたら、行くな!」

「音楽準備室で待ってる~!」

「おーう」

パタパタと手を振る唯。

本当に無邪気だな。

不意に笑みが零れてしまう自分が気持ち悪かった。

 

*****************************************

 

「・・・あっ!相馬くん!」

「うーす」

提出物を渡し終え、音楽準備室へと向かう。

音楽準備室は三階の階段を登ったところにある。

中からは音楽は聴こえてこない。

そんな階段の三段目に唯は座っていた。

「行くか」

「うん!皆喜ぶと思うよ!」

「そうかぁ・・・?」

勢いよく扉を開ける。

 

「唯、遅いぞ~って相馬っ!?」

 

あわふたする澪。

心なしか顔がほんのり紅く見える・・・?

「おやおや、相馬も来たのか!大歓迎だぜぃ!」

律が肩を組んでくる。

ところが背が届かず、肩を組むといっても余りにも不釣り合いな感じになってしまった。

「お前・・・背でかいな・・・」

「普通だよ・・・」

「今、お茶入れますね~」

ムギちゃんがお茶を入れてくれる。

あれ・・・ここ軽音部じゃね・・・?

 

あれから彼女たちとは休み時間の廊下等ですれ違ったり、律がたまにウチのクラスに来るか。

そんくらいの程度でしか会っていなかった。

だから少し新鮮だな。

 

「お前ら、練習しねーの?」

 

「まぁまぁ慌てるなや、少年よ。腹が減っては戦は出来ぬだろう」

「そういうことか」

「納得するんかいっ!!」

慌てて澪が突っ込むが、お構いなし。

目の前の高級そうなお菓子に俺は目が惹かれる。

「これは全部ムギちゃんが用意してくれたんだよ~凄いよね!」

唯も同じらしい。

お前ギター早く買え。

 

「結局、相馬は軽音部に入るのか~?」

 

頬杖をつきながら律が聞いてくる。

「兼部っていいんだろうか・・・」

「問題ないっしょ!」

「まじかよ・・・」

「運動部と文化部の掛け持ちってモテそうだよな」

澪がキョトンとしながら呟く。

その言葉を聞き逃さない。

 

 

「よし、入ろう」

 

 

「単細胞かお前」

「いや、男のサガってやつよ」

「は?」

「ごめんなさい」

睨むな澪。

軽く傷つく。

 

「じゃあ部長のあたしが処理したってことでッ!相馬、入部決定ッ!」

 

 

「軽音部へ~!ようこそ~~!!!」

 

 

割と大袈裟に歓迎される。

「あ、どうもどうも」

少し恥ずかしくなるが、表情に出さない。

にしても・・・俺が軽音部か。

 

この俺が―――。

 

いいのだろうか。

 

俺はまた壊してしまわないだろうか。

 

また抱えてしまっていいのだろうか。

 

 

大事なものを―――。

 

*****************************************

 

「とりあえず唯はギター買わないとだよな」

 

 

初の軽音部はこの一言から始まった。

「軽音部は喫茶店じゃないぞ」

「いい加減に諦めなさい唯」

「学園祭に出るしね・・・」

「皆~そんなに言わなくてもいいじゃ~ん・・・」

「いや、入部から二ヶ月経ってるのにギターを買ってない軽音部員も凄いけどな」

冷静な突っ込みに硬直する唯。

本当に分かりやすい奴だ。

 

「じゃあ、今度の休みに買いに行こ!あたしら付き合うからさ!」

 

「りょ」

「だな、了解!」

「分かりましたわ~」

「ありがとね・・・!みんな!」

皆が微笑む。

 

 

「ちなみに俺は何をすればいいの?」

 

 

しーんと時が固まる。

そんな気がした。

「えっ」

「あー、いやポジションは全て埋まってしまったけど、やりたいものがあったらどうぞ!」

敬礼しながら律が叫ぶ。

なるほど、唯でポジションは一応全て揃ったのか。

・・・となると。

 

 

「そういえば、俺ギターとベースなら少し弾けるけど・・・」

 

 

「ええええええッ!!?」

全員が声をあげて驚く。

そりゃそうか。

「いや、父親が元バンドマンで家にあったんだよ。小さいときに少しだけ教えてもらってたんだ」

「へぇ~!」

「じゃあ私、相馬くんに習う!」

はいはーいと手を挙げながら唯が叫ぶ。

目がキラキラしてて何か辛い。

「待て、今の俺は唯より弾けるかどうか分からない」

「それって初心者ってことだぞ」

「Cコードなら押さえられる!」

「アホか!初心者じゃん!」

「でも一応コードは知ってるんだな~」

澪が一応関心してくれる。

優しい。

「Cコードって?」

「ギターを始めた人が最初に押さえる事が多いって言われてるコードだよ。」

「へ~」

「とりあえず、相馬は保留で!唯の指導役でもよし!」

「マネージャーってことか」

「一旦ね!」

「分かった」

 

とりあえず今日はこれにて解散となる。

次の休みにギターを買いに行く事となる。

 

*****************************************

 

日曜日になった。

時計を見ると、十二時過ぎを示していた。

・・・そろそろか。

一時に駅に待ち合わせだから早めに行こう。

家を出て駅へと向かった。

 

 

「うーす」

待ち合わせ場所には唯以外全員揃っていた。

「あいつは・・・?」

「遅刻だとさ・・・」

「あの野郎・・・」

そういえば、全員の私服は初めて見る気がする。

改めて女性なんだな、と思い知らされる。

新鮮だった。

素直に言うなら、可愛いの一言だった。

律はボーイッシュな服装、澪はジーパンや大人の服装、ムギはお嬢様っぽいワンピース。

それぞれ違って、それぞれが良かった。

そんな事に関心していると、唯が慌てて改札から出てきた。

 

「ごめんなさい!!!」

「よし、じゃあ行こうか」

やれやれ、という表情で楽器屋へと向かい始める。

唯のキャラで許されるんだろうな。

誰一人として怒るような人はいない。

 

楽器屋へと着く。

様々なギターやベース、ドラムが並べられており、一同は感動の目を光らせる。

「レフティーのベースだ!!」

左利きの澪が物凄く目を輝かせている。

普段左利きのベースはあまりないらしい。

楽器にも右利き左利きあるんだな~。

「スティック新しいの買おうかな~」

「これ可愛い!!」

「レフティーまたあった!レフティーフェアだって!!!」

 

 

「あのさ・・・君達・・・本来の目的を忘れてはいないだろうな・・・」

 

 

誰一人として俺の話など聞いてなかった。

隣で苦笑いしているムギ。

彼女だけは一般常識があって接しやすい。

いや、澪は例外。

少しムギと話すことにする。

「ムギのおうちって、その何をやっているんだ?」

「詳しくはよく分からないのですけど、ここもウチの系列のお店ってことは知ってる・・・かな?」

「え、そうなの!?」

「何かのビジネスをやってるのだけれど詳しくは分からないの」

「へ~。スゲェな・・・」

「相馬くんは今日はバスケはやらないの?」

「あぁ、今日はサボりだ!」

「あらまぁ・・・」

口に手を当て、驚いた表情を浮かべる。

本当に一つ一つがお嬢様っぽい。

 

「ムギはさ、どうして軽音部に入ったんだ?」

「え?」

「なんか軽音やるようには見えなかったからさ、なんでかなーって思って」

「あぁ、なるほどですね。中々いないような素敵な人達と部活をしたかったからよ」

ニコッと微笑む彼女。

一瞬ドキッとしたが、すぐに視線を逸らし話しを続ける。

「確かに、素敵かどうかは置いといて・・・なかなかいないよな。あんな奴ら」

「えぇ。だから毎日が楽しいわ」

クスクスと口に手をあて微笑むムギ。

その視線の先には、各々楽器に夢中になっている三人の姿があった。

 

*****************************************

 

結局ムギの一声でギターを買うことに成功した唯ちゃん。

何をしたのか分かりませんが、まぁ琴吹家って凄いなってことですねはい。

帰り道、唯と二人で帰る。

「ギター!本当に可愛い!本当に嬉しい!」

「良かったな」

「うんっ!」

満面の笑みだ。

つられてこっちも微笑んでしまう。

 

彼女はひょうたん型のギター、いわゆるレスポールギターを購入していた。

外側は赤で中はオレンジ色と言った方がいいのだろうか。

確かにいいギターだ。

これから唯の相棒のギターになる。

購入した寸前から溺愛状態に陥っているしな。

「これから練習頑張れよ」

「相馬くん教えてね!!」

「いや俺より澪の方がいいだろ・・・」

「澪ちゃんにも教わりたいけど、相馬くんも教わりたい!」

「なんだよそれ・・・」

「なんでしょうかねぇ~!」

やけにテンションが高い。

おっと、もう家に着いてしまった。

 

「じゃあ、俺ここだから」

「え!相馬くんってマンションに住んでるんだ!」

「一人暮らし状態だけどな。学校には内緒だよ?」

「了解しやした!」

ビシッと敬礼される。

俺も敬礼を返すが・・・。

 

「送ってくよ、家まで」

 

「えっ、ほんと!?」

「あぁ、澪のこともあったしな」

「やった!紳士だね、相馬くん」

「俺が紳士な訳ないだろ」

「どうして?」

「どうしてって・・・」

「ありがと!」

強引に話を打ち切られる。

唯の家まであと五分ほどだが、送ってくことにする。

まぁ頭痛はないから大丈夫だとは思うけど。

 

 

そして。

 

この後、買い物途中の憂ちゃんと遭遇して、夕飯をご馳走になるのは数分後の話だ。

 

 




積もる想い―――


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#6 特訓!

ご無沙汰しております、あいとわです。
今回はアニメ第三話をベースにしております!
最後が結構ドキドキする展開なので読んでみてください('ω')

文時さん、評価ありがとうございました!

それではどうぞ~!


 

「ギターの弦って怖いよね、細くて硬いから指切っちゃいそう」

 

 

シャンシャンとギターの音色を奏でる音がする。

唯だ。

音楽準備室には律、澪がいた。

ムギは遅れてくるそうだ。

 

ギターを弾く唯を見つめる。

唯はギターを購入してから、かれこれ一ヶ月が経った。

あまり大きな成長を感じることは出来ないものの、着実に上手くなっているのは確かだ。

「唯、弾き続けてれば指の先が段々と硬くなっていくからそれは大丈夫だ」

「へ~相馬くんは指硬いの?」

「いや、俺はもうやってないからフニフニだよ」

「ほんとだ~!フニフニ~!」

俺の手の先を触る彼女。

なんていうか・・・恥ずかしい。

「コードどんくらい覚えた?」

「うーんとね・・・CとD!」

「他には?」

「忘れちゃった~」

えへへ、と舌を出して笑う彼女。

一ヶ月やって二つのコードしか覚えていないとか逆に有り得るのだろうか。

「あのなぁ・・・」

 

だが。

彼女はさりげなく練習曲などをサラリと弾けているのを知っている。

ひょっとして彼女はコードを覚えるうんぬんではなく、感覚で弾いているのでは・・・と。

 

実は天才肌だったりする彼女が怖い。

努力家のタイプである俺からすると凄く羨ましいものだ。

「相変わらずチャルメラは弾けるんだな・・・」

「いえいっ!」

 

「おーい、お二人さーん」

律が遠くから叫ぶ。

「明日からテストだから今日は早めに解散するぞ~!」

え。

「え。」

今、俺の心の声がそのまんま隣から聞こえた気がするんだけど。

ふと隣を見ると青ざめた唯がいた。

「そんなこと言って律~、お前私に勉強教わりたいだけだろ~?」

半分呆れながらに澪。

「ち、違うもん・・・!」

と言いながら小声でウインクする律。

俺も教わりたいんだけども・・・カッコ悪くて言えないよなぁ・・・。

まぁ授業は聞いてるし、暗記教科だけしっかりやっとけば大丈夫だろ。

 

なんやかんやで強制的に部活は終了となった。

ムギは残念がってたが、あなた勉強出来るんでしょどーせ。

今日は寝れないな・・・。

 

大きくため息を吐いた。

 

*****************************************

 

あれから数日が経過した。

ようやくテストから解放され、しばらくは終業式までは休みになる。

そんなわけで今日はテスト返しであった。

放課後、軽音部は音楽準備室に集まる。

 

「んーー!やっとテストから解放されたぁ~!!」

「長かったな」

「中学とは違って勉強も難しくなったから大変だったわね」

大きく伸びをする律と一息つく澪とムギ。

そして・・・。

 

「色々な意味で大変そうなやつが此処に・・・」

 

アッハッハッハと無気力な笑みを浮かべる唯ちゃん。

俺は唯の前の席だったから知っている。

コイツ、答案が白紙に近い状態だった。特に数学が。

「クラスでただ一人・・・追試だそうです・・・」

「うわぁ・・・」

「今回は勉強方法が悪かっただけだって!ちゃんとやれば余裕余裕!」

「勉強は全くしてなかったけど・・・」

「私の励ましを返せェ!!」

俺はどうにか平均点を取り、セーフ。

唯もなんだかんだやる奴だと思っていたが、まさか追試だとは・・・。

「追試はいつだ?」

「四日後!」

「割と早いな。補講とかあるんじゃないの?」

「多分・・・」

「しっかりやりなさい・・・」

 

「そういうりっちゃんは何点だったのさ!!」

 

憤慨する唯。

だが、律は余裕の表情を見せる。

「余裕ですよ!この通り!!!」

「な、なに!」

思わず声が出てしまう。

コイツ・・・87点も取ってやがってるだと・・・!?

澪の教え方が上手いのか・・・!

「テスト前日に私に泣きついてきたのは、どこのどいつだ~?」

ツンツンと律を突きながら薄笑いを浮かべる。

「私です、ごめんなさい」

「よかろう」

「それでこそ、りっちゃんだよ」

「赤点取った奴に言われたくねぇ!」

本当にその通りだよ、唯。

 

「しっかりやれよ!勉強!唯がいないと練習出来ないんだからな!」

「ふんす!みんなの為にも私・・・頑張るッ!」

 

澪が尻を叩いてくれたからいいものの・・・。

本当に大丈夫なんだろうか・・・。

 

*****************************************

 

 

「澪ちゃん~~、助けてぇ~~・・・」

 

 

今日の軽音部はそんな一言から始まった。

まぁ、大体予想はついていましたね。

「え、勉強したんじゃないの・・・?」

困惑な表情を浮かべる澪。

まぁ仕方ないだろう。

「出来なかった・・・」

唯は半泣き状態だ。

勉強をやろうとしてもギターを触ってしまったらしい。

「じゃあ・・・今日は特訓だな!」

「え?」

「徹夜で勉強!」

「おお!いいね!」

何故かそれに乗ってくる律、唯。

唯ちゃん、空気読んで。

「やりましょう!?」

ムギもやる気満々だった。お嬢様ってお泊り会とかしたことないのかな。

「肝心な宿だけど、どうする?」

「うーん、私は今日お母さんお父さんいるからダメだぁ」

「ムギは?」

「私のお家・・・前々から予約を取ってないとダメなの・・・本当にごめんなさい・・・」

「あ、いいよ全然っ」

予約って・・・すげぇな。

「律の部屋は汚いから無いとして、私もパパとママいるからな・・・いきなりは・・・」

「ちょっーと!どういう事だよ!」

ムッとした表情で澪に怒る律。

返り討ちにあうよ、やめときなさい。

「・・・となると」

あー、嫌な予感。

 

 

 

「相馬ん家はダメそうか?」

 

 

 

「一人暮らしだし別にいいけど・・・」

「一人暮らしなの!?どうして!?」

律がグイグイ聞いてくる。

「色々事情がありまして・・・」

「へ~!じゃあ相馬ん家でいいね!」

「賛成ですわ!」

「さんせーい!」

「あ、うん・・・」

反論するまでもなく、決定してしまいました。

家片付けといて良かった~。

となれば、皆は一斉に支度を始め、俺ん家に向かい始める。

心なしかみんなウキウキしてる。

確かに一人暮らしって親の目もないし、憧れを持ったりもするよな。

そういう・・・もんだよな。

 

家に着く。

「おじゃましま~す!!」

四人で一斉に部屋に上がり込む。

入学前、誰がここに女の子四人を連れ込むなんて想像出来ただろうか。

全部唯と出会ったからだよな。

出会いって不思議だ。

 

「唯!さぁ家宅捜索だッ!!」

「ラジャッ!!」

「え?」

「テーブルの下!本棚の奥!ベッドの下!探せェ!」

「お前らな・・・」

いきなり家宅捜索される。

これってキレてもいいのかな?

エロ本でも探そうってか・・・?

「隊長!どこにもありません!」

「うむ・・・なかなか敵は手強いな・・・」

 

「何をしてんだッ!!」

 

澪にゲンコツを喰らうりっちゃん。

見てるだけで痛々しい。

「うぅ~・・・なんであたしだけぇ・・・」

「さぁ、唯。やるよッ!」

澪はゴムで髪を一つに縛ると、教科書を開く。

本当に先生みたいだな。

「じゃあいい?ここはね・・・」

 

 

こうして地獄の特訓が始まった―――。

 

*****************************************

 

「―――ッ」

 

ハッと目覚める。

あれから六時間以上経過しただろうか。

みんなで夕食を食べて、また勉強して・・・。

途中から一切記憶がない。

つい俺はウトウトして寝てしまったのか。

しかもベッドで。

あー、やってしまった。

寝息があらゆるところから聞こえる。

 

 

 

「ぇ、―――ッ!?」

 

 

 

何かよく分からないが、言葉にならない現象が俺に起きていた。

この状況を整理するのに三分はかかったかもしれない。

 

 

簡潔に言うならば、目の前に唯の顔があった。

 

 

目を閉じてスヤスヤと寝ている。

起きる気配は全くない。

時計が目に入る。

まだ午前の六時頃であった。

思わず顔を背けようと体を動かそうとするが、それは叶わない。

唯の手が俺の首に回っているからだ。

冷静になれ尾形・・・!

お前はやれば出来る子だ・・・!

 

改めて思うが、この子は可愛い。

自分で気づいていないかもしれないが、本当に可愛らしいと思う。

こんな至近距離で女子の顔を見たことなどなかったので、かなり焦る。

あぁ、神よ。

俺に力を―――。

 

長いまつ毛、妖艶な顔立ち、そして小さな唇から出る小さな寝息。

 

これらがこんな至近距離にあるのは良くない。

非常に良くない。

健全な男子青年だったら皆思う事だ。

ど、どうする―――。

とりあえず周りのみんなが起きないうちに手をこの状況をどうにかしなければ・・・!

 

だが、そんな俺の願いも空しく砕ける。

 

俺は世界中が停電になったかのような感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

「―――ん。―――あ、おはよう相馬くん―――」

 




それは余りにも突然に―――。


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#7 追試!

どうも、あいとわです。
お気に入り、感想どうもありがとうございます!やる気の糧になっていきます~
どうぞご意見感想ありましたら、ドシドシ待ってます!

今回はオリキャラが出てきますが、ビックリしないでください(笑)
いつも通り、ゆるーく軽音部をお送りします~


 

「オ、オハヨ・・・」

 

 

緊張の極みというのはこういうことだろうか、と思い知らされる。

俺の顔面から約数十センチの距離に女の子の顔がある。

この事実だけで俺は死にそう。

そんな彼女が目を覚まし、しっかり目が合っている。

空気を打ち破ったのは、なんと唯からだった。

 

「あ、手ごめんね!」

何事もないかのように手をどけてくれる。

「あ、うん」としか返せない自分が情けない。

そして、本当に何もなかったかのように起き上がり伸びをしている。

 

「うーん・・・!よく寝たぁ~!」

「・・・そうなの?」

「うん!先に相馬くん寝ちゃったから澪ちゃんと皆で勉強してたの!」

「それで?勉強の成果はどうだ?バッチリ?」

「うーん、たぶん!」

「多分って・・・。頼むよ唯」

「大丈夫だって!任せなさい!」

軽くウインクされる。

俺は少し口角を上げて笑う。

なんか意識しすぎてた自分が可笑しいぜ。

 

「―――んお?唯・・・起きたのか~?」

 

むくっと起き上がってくる律。

目をゴシゴシこすりながら何度も欠伸をしている。

てか、カチューシャ外すと前髪長いな・・・。

「律、おはよ。先寝て悪かったな―――」

「いいってことよ。ただ、女の子を地べたで寝かすとは良い度胸しておるな、お主」

「本当にごめんなさい」

とりあえず土下座してみた。

女の子の扱いはよく分からない。

こんなに女の子と仲良くするのも初めてだからだ。

中学はただひたすらにバスケに打ち込み、女子と話す事さえあまりしなかったからな・・・。

 

そして澪とムギは未だに爆睡している。

ムギは本当にスヤスヤと寝ており、寝てるだけでお嬢様感が伝わってきた。

澪も安らかに寝ている。

「澪ちゃん、ムギちゃん可愛い!」

クスクスと笑いながら二人の寝顔を眺める唯。

起こしちゃうからやめなさい。

「唯、追試だろ?何時からだ?」

「九時!」

「じゃあ最後の復習して学校行きなさい」

「了解ッ!」

 

そしてキッチンからゴソゴソと音がする。

りっちゃん、何やってるの。

「相馬、卵使ってもいい?」

「別にいいけど」

「あたしの手料理・・・!披露してやんよ!」

「待て、卵をダークマターに変えるのだけはやめてくr――」

最後まで言わせてもらえず胸倉を掴まれました。

「何か言った?」

「いいえ、何も。」

「待ってなさい」

「はい」

 

十分後、俺はこの世の奇跡を見ることになる。

「な、なんだと―――ッ」

本当においしそうな卵焼きが出来上がっていた。

ど、どうして・・・!

「いい匂いする~!」

すかさず唯が飛んでくる。

「憂ちゃんには敵わないけど、卵焼き作ってみたから食べていいぜ~!」

「本当に!?ありがとーっ!」

いただきまーすっという声と共に美味しい!という声が聴こえてくる。

そして同時に律からの視線を感じる。

「お前・・・食べる?」

「はい頂きます」

 

律は見た目、性格によらず、女子力が高い女子だということを知れた。

 

*****************************************

 

冷たい風が頬を叩く。

朝の空気は澄んでて気持ちがいいが、早朝は寒い。

だが唯はプリントを眺めながら追試の為の最後の確認をしている。

「学校まで送ってくれるの?」

「うん、今日ちょうどバスケの練習あるしな。それに寝過ごしたら大変だろ?」

「え~寝過ごさないよ~!」

「そんなの分からないよ」

電車に乗り、桜ヶ丘高等学校へ向かう。

唯は最後の最後までプリントを眺めていた。

これを試験前にやればいいのに。

心の中で軽く苦笑する。

 

校庭に入る。

もう終業式前の休みなので、人気がなかった。

でも、体育館付近はドリブルをする音や女子バレーボール部の掛け声がした。

「うわ~皆朝早いのに頑張ってるね~!」

「軽音部も頑張らなくていいのか?」

「今日から頑張るし!ふんす!」

「今日部活あるんだっけ?」

「あるよ!相馬くん来れそう?」

「午後練がなかったら行ける。」

「分かった!待ってる!」

「おう」

体育館前に着く。

唯とここでお別れか。

「じゃあまた後でね~!」

「おう」

軽く手を振り、体育館へと入る。

・・・が。

 

「唯ッ!」

 

もう一度入り口に戻り、遠く歩いてしまっている彼女へ叫ぶ。

クルっと振り返る彼女。

寒さからか頬がほんのり紅いのが可愛らしかった。

 

 

「テスト、頑張れよッ!!!」

 

 

叫ぶ。

なんと表現すればいいのか分からないが、娘を持つ父親の気分に似ていた。

心の底から応援している。

 

彼女は何かを返すことはせず。

 

 

ただただ満面の笑みで、ピースサインを俺に送ってきた―――。

 

*****************************************

 

体育館に入るともうメンバーは集まり、自主練を行っていた。

ダムダムとドリブルをつく音とバッシュが地面に擦れる音が、俺の闘志を上げる。

「おーす、さっきのは彼女かい?」

仙崎一馬。

このチームのエースポジションにいる奴だ。

相変わらず身長が大きい。

彼女、というのは唯のことだろう。

見られていたらしい。

「ちげーよ、ただの友達だ」

「ふーん。結構可愛かったよな」

 

仙崎は何の意味もなく、ただそう思ったからそう言っただけなのに。

何故か、その言葉は胸に突き刺さった。

どうして・・・?

唯が自分に向けているあの笑顔を他の誰かに奪われてしまうと考えたからだろうか。

 

否。

 

元々俺のものではないし、そう考えてるのは間違っている。

そう考える自分が気持ち悪い。

 

 

「あれ、相ちゃん―――?」

 

 

聞き慣れている声がした。

すごく久々に聞いた。もちろん、忘れてなどいない。

「茜―――」

柴咲茜。

俺の幼馴染だ。

家も近く、昔からの腐れ縁ってやつだな。

だが、中学のあの時以来連絡を取っていなかった。

まさか同じ高校に通っているとは―――。

 

「相ちゃんだ!まさか桜ヶ丘に通ってるなんて!久々だね!」

「おう」

「―――バスケ続けてて、良かった」

「まぁ・・・な」

どこを見る訳でもなく、茜は告げた。

やはり彼女の中でも引っ掛かっていたことなのだろう。

「ところで、何でお前がここに?」

「私はマネージャーです!あんま相ちゃん練習来ないから知らなったでしょ!」

「わりぃな・・・」

「今度インターハイ予選あるから、ちゃんと練習出るんだよ!」

「もうそんな時期か」

インターハイとは、まぁ野球で言うなら甲子園のようなものだ。

こんな無名高校でインターハイなど行けるわけが・・・。

 

そんなこと彼女に言ったら殺されるだろう。

 

彼女は本気で勝てると信じている。

中学の時からそう。

 

「もう本気でやりたくねェよ―――」

 

*****************************************

 

(SIDE:軽音部)

 

 

「唯、大丈夫かな―――。」

澪は落ち着かない。

部室には律、紬、澪の三人がいる。

尾形の家から出て、各自家に帰って準備を整えてから再び学校に来た。

そんな三人が学校に来た理由は、軽音部の練習でもあるが、やはり一番の理由は唯だ。

 

唯の追試。

 

これをクリア出来なければ、唯が学園祭に出れることもまず出来ないであろう。

澪にとってそれが一番恐れている事態であった。

流石に昨日かなり問題を解けるレベルまでいったのだから、大丈夫だとは思うのだが。

 

ガチャ、と扉が開く音がする。

 

三人はその音にバッと振り返る。

勿論の如く、唯がそこにいた。

なんというか、魂の抜けた感じが漂っている。

その状態に教師であった澪は動揺を隠せない。

「ど、どうだった・・・?」

「澪ちゃん・・・どうしよう・・・」

「えっ、またダメだった―――?」

 

 

「ひゃ、ひゃ、百点採っちゃったッ―――」

 

 

「極端な子―――ッ!!!」

 

 

澪のカメラで記念の一枚を撮る。

結局、唯は勉強してなかっただけの話。

やれば出来る子なのだ。

その事に澪は安堵する。

それは紬や律も同じ。

となればやることは一つだ。

 

「練習しよう!」

「そうだね~!」

「唯は試験期間中にも練習したってことだし、少し弾いてみせて!」

キラキラした表情で澪が告げる。

それに対し唯は自慢の表情で、

 

「XでもYでも何でも来い~!」

 

え、と場が固まる音を生で聞いたのは久々だな、と澪は感じた。

とりあえず澪は律と紬の方を見つめてみる。

彼女らは苦笑しながら首を振る。

「どうしたの・・・?」

「忘れた―――」

「ええええええッ!?」

「昔よく褒められたんだよね・・・唯は一つ覚えると他の事全部忘れちゃうって」

「多分それ違うぞー・・・」

「また最初から教えるの―――!?」

「お願いしやす、澪ちゃん!」

「もぉー・・・」

 

*****************************************

 

(SIDE:尾形)

 

 

「えっ!?唯!百点だったのかッ!?おめでとう!」

 

とんだ朗報だった。

やはり彼女は天才肌ではないだろうかと思う。

練習が終わり颯爽と駆けつけた甲斐があったってもんだ。

「でもコード全部忘れちゃったって・・・」

やれやれ、という表情で律が告げた。

まぁなんとなく予想はしていた。

彼女の性格からしてそうだろう。

なんというか器用だけど不器用だよな。

 

 

「夏合宿をしますッ!!!」

 

 

唐突に澪が叫んだ。

ど、どうしたってんだ。

「どうしたの急に」

淡々と律が突っ込む。

「もう夏休みでしょ!?夏休みが終わったら学園祭あるし時間がない。だから、バンドの強化合宿をします!」

「ねぇねぇ、高校の文化祭って凄いんでしょ!?」

唯ちゃん、空気読みなさい。

「模擬店!」

「焼きそば!」

「たこ焼き!」

「私お化け屋敷やりたい!」

「いいや、メイド喫茶だな!」

律と唯が地雷を踏みまくっていく。

あー、怖い。

 

「バンドの強化合宿って言ってんだろォ―――ッ!」

 

律だけ何故か殴られる。

「うぅ・・・なんでアタシだけ・・・」

「それに私達は軽音部でしょ!?ライブやるの!」

「まぁまぁ」

ムギがその場を宥める。

「場所はどこにするの?」

「そうだぜ~宿とか使うなら結構高くね?」

「うっ、それは・・・」

その手を使うか、澪。

一瞬にして澪の視線で何を考えているか分かった。

 

「ムギ、別荘とかって持ってない―――?」

 

「ありますよ?」

 

あるんかい。

流石はお嬢様。

「あのー」

とりあえず素朴な疑問を一つ彼女らに叩きつけてみる。

 

「これって俺も行くの?」

 

「逆に問おう。行かないのか?」

「あん?」

「女子だけの宿に入れるんだぞ、花園だぞ。ありがたいと思え。」

「あ、うん」

「相馬も一応メンバーなんだから唯の指導役、よろしくな!」

「・・・えぇ~」

「澪の水着、見れるよ―――」

小声で律が耳打ちしてくる。

なんだ、そういうことか。

 

「よし、行こう―――」

 

その後、二人揃ってゲンコツを喰らったのは言うまでもない。

 




運命の時、近付く―――


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#8 夏合宿!(1)

更新が遅れてしまい、本当に申し訳ありません!!
あいとわでございます!
今回から夏合宿編スタートです!!

色々なメンバーとの深い交流を中心に執筆していきますので、どうぞお楽しみに~!

感想・お気に入り・ご意見などドシドシお待ちしております~!


 

「ごめんなさああぁぁぁい!!」

 

 

 

こんな叫び声から軽音部の夏合宿はスタートした。

勿論、この叫び声の主は・・・唯だ。

なんというか・・・予測はしていた。

前日に澪とこんなこともあるかな~と会話していた。

半分冗談で、半分本気だった。

 

集合時間の十分前に目覚めるという伝説級の遅刻をした唯のせいで、新幹線に本気で乗り遅れるところであった。

 

なんとか半分駆け込み乗車をし、駅員に睨みつけられながら、座席へと座る。

唯は何度も"ごめんなさい"、と謝っていた。

 

「ふぅ・・・なんともまぁ・・・」

呆れながらに律が一言。

朝から汗だくである。

日頃走り慣れてる俺ならまだしも、この子達は文化部ですよ。

「楽しみすぎて夜寝れなくて・・・」

「小学生か・・・」

「そうでもないみたいだぜ?」

俺は目の前のムギを指差しながら告げる。

全員の視線がムギに向けられる。

 

そこにはスヤスヤと寝るムギの顔があった。

「ふふふ・・・ゲル状がいいの・・・」

「ゲルッ!?」

「どんな夢見てるんだろ~?」

「さぁな・・・」

 

こんな感じで二時間近く新幹線に乗っていく。

長いトンネルを抜け、海へと出る。

ムギの別荘とやらは海辺にあるらしい。

 

律と唯は窓を開け、はしゃいでいる。

その様子を遠くから見守るムギと澪と俺。

どうやら澪は少し複雑そうな表情であったが。

 

なんとなくではあったが、その真意は分かっていた―――。

 

*************************************

 

新幹線が到着すると、また更に電車に乗り換え、三十分程度乗る。

そこからバスで10分。

ムギの別荘へと着く。

そして家を見るなりこの一言。

「で、でかすぎない・・・?」

「す、凄い・・・」

簡単に言うなれば、豪邸だった。

玄関の門構えは一般の家を遥かに凌駕し、家の広さはパーティー会場ですかと言わんばかりの大きさだ。

 

「ごめんね・・・大きい所は予約がいっぱいで小さいところしか借りれなかったの。多少狭いかもしれないけど、我慢してね・・・?」

 

「一番小さい・・・?」

「これで?」

申し訳なさそうに見つめるムギに全員何も返す言葉が見当たらない。

 

早速、ムギと澪と俺はスタジオへと向かった。

家の中にスタジオついてるっていうのが、まずそもそも一般人の常識を遥かに上回るのだが、もう突っ込まないことにする。

「長く使ってないから、ちゃんと使えると心配だけど・・・」

「うん!大丈夫そう!」

目を輝かせながら澪は叫ぶ。

本当に音楽が好きなんだなと思う。

だが―――。

 

「あれ、唯と律は?」

「あら、さっきまで居たんだけど・・・」

「あいつ等、水着に着替えて外飛び出してたぞ・・・」

「なぁにぃいーーー!」

ガックリ肩を落とす澪。

やはり・・・な。

 

「なぁ、澪。」

「んー?」

 

「なんかあったのか?」

 

「なんかって・・・?」

「いや、急に夏合宿しようって言い出したし、学園祭近いって言ってもまだ二か月はあるだろ?」

「"二ヵ月"しかないんだよ~」

ゴソゴソと自分のカバンをいじりだす澪。

その中から出てきたのはラジカセだった。

「これは?」

「聴いてみて」

澪がスイッチを押すと、音楽が流れ始める。

 

 

何やら、何かのバンドの演奏のようだった。

 

だが、圧倒的にこのバンドより上手く、そしてクォリティーが高かった。

 

パンク系の曲なのかな。

叫んだり、激しいロックを奏でている。

 

ドラムの刻むビートは速く的確。

ベースはそれを支えながらも、存在感を圧倒的に醸し出している。

そしてギターは上手いという表現が当てはまるのだろうか。

素人の俺には異次元のように感じた。

このバンドの曲調は俺の好みではなかったが、認めざる得ない。

"別格"だ。

 

 

「上手い―――」

ムギが小さく呟いた。

それを聞き逃すはずもなく、澪が続ける。

「これ、桜ヶ丘軽音部のOGの人達のバンドの曲。整理してたら見つけたんだ。」

「なるほどな。それで夏合宿を―――」

 

「うん。負けたくないなって・・・。」

 

若干澪は恥ずかしそうに言ったが、その瞳は頑固たる決意の表明を示していた。

芯が通ってる強い女の子だな。

 

「負けないと思う」

 

「私達なら―――。」

 

それに応えるようにムギが告げる。

それには何の根拠もなかったし、単なる強がりかもしれない。

でも。

 

「あぁ、俺はお前等の演奏を信じてる」

 

 

「みんn―――」

 

 

 

「いえーーーーーすッ!!!遊びに行くぞォ!!!」

 

あちゃ~。

 

「澪ちゃん、ムギちゃん、相馬くん!早く海行こっ!凄くキレイだよ~!」

「早くしないと日が暮れちゃうぞ~?」

「え、あの練習は!?」

「それは夜~!お楽しみはまた後で!」

唯と律は散々俺らをクシャクシャにしたまま飛び出していった。

 

「本当に―――?」

 

ただ一言澪が言葉を発する。

「たぶん・・・」

ムギと俺はハモる。

「ムギ、澪。一旦今は遊びに行こうぜ。明日もあるんだし」

そう、この合宿は二泊三日だ。

明日タンマリと練習できる。

 

「じゃあ、待ってるから。澪ちゃん」

「俺も」

 

あまり乗り気ではない澪を置いて二人で外に出る。

一人残された澪は何をする訳でもなく。

 

 

「私も・・・行くぅ・・・ッ!」

 

 

*************************************

 

さーて、お待ちかねと言ってもいいであろう、"この時間"が来た。

水着タイムだ。

悪い、俺も男だった。

この世の健全な男子高校生の諸君・・・ええい、隠すな!

正直なことを言いたまえ。

 

気分が上がらない訳がないであろう・・・。

 

だが落ち着け。

クールになるんだ。

俺はあくまでも信頼されている。

そうそう、余計なことは考えてはいけない・・・!

 

 

「あ~ら、相馬くんったらァ!女の子の水着を見て何を感じてらっしゃるのかしら~ん?」

 

 

そうだ・・・コイツがいた・・・。

頭を抱える。

この人が感じていても言葉を発することの出来ない事を、言うことが出来るスキル・・・羨ましい。

「うるせぇ、律。お前には何も感じてねーよ」

「今テメェあんつった!?ああん!?」

「ごめんなさい」

逃げ惑う俺。

本気でNGワードらしい。

 

「おいおい、そんなはしゃいでたら夜眠くなっちゃうぞ?」

 

澪が呆れながらに俺らの方へと来る。

 

あ、と何か時が止まる音がした気がした。

 

 

「母音。」

 

「喰らえッ―――――!!」

 

無差別に澪にボールを投げつける律。

見事それは顔面に直撃し、澪は倒れこむ。

律となぜか唯が泣きながら走り去っていった。

とりあえず澪に手を貸してやる。

 

「大丈夫か?」

「あ、うん。ありがと・・・」

その手を取ってくれる。

後から恥ずかしかったのか、顔を赤くしているのが可愛らしかった。

それにこっちも恥ずかしくなる。

「それにしても・・・綺麗なところだな」

「そうだな」

「こんな透き通ってる水の海を見るの・・・初めてだ」

「俺も。これて良かったよ」

「あぁ。遊ぶのもいいだろ?」

「・・・それもそうだな。アハハ!」

無邪気に笑う。

それにつられ俺も笑う。

 

 

こうして、一番乗り気でなかった澪が一番はしゃいで終わり、気付けば夕方になっていた―――。

 

 

*************************************

 

一日目が終わろうとしていた。

今は八時。

大変豪華な夜ご飯を頂き、もう幸せも腹も一杯だ。

女性陣は風呂へと向かっている。

俺も風呂へと向かう。

 

ものすごく広い露天風呂に一人で浸かれるというのは本当に気持ちがいい。

バスケ部の合宿だったら男まみれで、ゆっくり浸かれやしない。

そういう意味でも、軽音部は俺の息抜きにはピッタリな場所だった。

心が休まる。

俺の中にある大きな穴も、埋めてくれる。

 

 

弦結―――。

 

 

君を忘れたことなど、一度もない。

あの日から俺は何か変わったのかな。

逃げてるだけの日々じゃないかな。

どうか俺を許してほしい。

 

こんな俺を―――。

 

 

「相馬ーー!?」

 

 

隣から声がした。

もしや・・・。

繋がってるのかッ!?壁一枚で仕切られているだけなんだ・・・!

「そちらの湯加減はいかがですか~?」

ムギの問いかけに、バッチリ!と答える。

「もしこの仕切りが何かの拍子で壊れちゃったら~澪ちゃんの裸が男子の目に晒されることn―――」

あ、律が澪にゲンコツを喰らったな。

もうお約束過ぎて予測可能だよ・・・。

 

「それにしても気持ちいいよね~景色もいいし、夜空が綺麗~!」

「夜空?」

ふと見上げてみると、そこには満点の星が広がっていた。

無数に輝く星達は、俺らを照らすかのように夜の海に輝いている。

同じく月も。

 

「なぁ、"夏の大三角形"って知ってるか?」

「あ!聞いたことある!」

「冬にも別のがあるんだけどな、夏は左からデネブ・アルタイル・ベガって言うんだ」

「へ~!物知りだな!」

「凄い、相馬くん!」

「いやいや、それほどでもないよ」

「冬にも大三角形あるんだ~」

「あぁ、プロキオン・シリウス・ベテルギウスっていう名前の星だよ。」

「ベテルギウスは聞いたことある~!」

 

そんな会話をしながら、宇宙への思いに馳せる。

こんなに気持ちのいいことがあるだろうか。

向こうの様子は分からないが、同じ空を見上げている。

 

こんなに素敵なことは。

 

あるだろうか―――。

 

*************************************

 

「んじゃ、そろそろ寝るぞ~」

「はーい」

律が大きな欠伸をしながら、寝室へと向かう。

先ほど各々がしいた敷布団と布団があった。

本来なら大きなお姫様ベッドがあったのだが、みんなで寝ることが出来ないので、全員で雑魚寝しようということに。

 

「じゃあ俺はあっち行くよ」

「え、相馬もこっちで寝ればいいじゃん」

「え?」

「えっ、り、律!?」

あわふたと澪が律をつつく。

「なーにさ?」

「流石に高校生が男女同じ部屋で寝るのはまずくないか・・・?」

「いやー、相馬はそこら辺の男とは違うだろう」

「どういうことだよ・・・」

「襲ったらムギのSPが射殺するからね?」

「怖すぎだろ・・・」

 

「まぁ・・・確かに相馬なら大丈夫だな・・・」

 

澪も納得したのか、頷く。

嬉しいような、悲しいような。

 

「わーい!みんなで一緒に寝よ~!」

無邪気に騒ぐ唯とムギ。

みんなでお泊り・・・夢だったって言ってたもんな・・・ムギ。

ちょっとだけ心が温かくなる。

 

「じゃ、消すぞ~」

「おやすみ~」

「おやすみー」

各々が寝始める。

一日目だからか、疲れているのか。

皆がすぐに寝息を立てているのが分かる。

 

「明日は練習か―――」

 

 

 

「―――――ッ」

約一時間半くらい経っただろうか。

少し寝れたのだが、すぐに目覚めてしまった。

最悪だ。

少しうっすら汗もかいている。

気持ちが悪いので少し水を飲みに行くか。

皆が爆睡をしている中、一人リビングへと向かう。

 

冷蔵庫を開け、炭酸を一口飲む。

シュワッ!という痛快感がたまらなく美味しい。

目が少し覚めたな。

 

フカフカのでかいソファーに座る。

 

 

窓には月の光で照らされる海が見える。

 

 

―――――。

 

この雰囲気だからであろうか。

 

俺は、軽音部について考えてみようと思った。

 

 

高校に入ってもう半年。

 

中学の時の自分は、こんな高校生活を思い描いていただろうか―――。

 

否。

 

そんなことはなかったはずだ。

 

俺は一人孤独の闇の中にいて。

 

誰もそこから救い出せないのだろうと思っていた。

 

でも違った。

 

違ったんだ―――。

 

 

高校初日に、唯と出会ってから。

 

全てが変わったんだ。

 

 

"友達一号"だと言われた。

 

 

彼女にとっては、別に大きな意味をもって言った事じゃないのかもしれない。

 

でも、俺にとっては大切な。

 

かけがえのない一言だった。

 

俺は・・・・・。

 

 

軽音部に救われていたんだ。

 

 

 

「相馬―――?」

 

ふと真後ろで声がした。

驚き、慌てて振り向くと。

 

 

そこにはパジャマ姿の、澪が立っていた―――――。

 

 




運命の悪戯---


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#9 夏合宿!(2)

あいとわです!
今回は早めの更新ということで、夏合宿編の続き・・・お楽しみください!

久々に二期の最終回見て泣いたとか・・・口が裂けても言えない・・・(笑)


月夜に照らされる部屋。

その中に佇む、秋山澪。

薄暗い部屋中でも、澪の顔はしっかりと見えた。

 

「澪―――?」

 

「やっぱり相馬か・・・。こんな時間に何やってるんだー?」

ホッと安心する素振りを見せ、強張る表情が解けた。

泥棒か何かと勘違いされたのかな。

まぁ、部屋の電気もつけてなかったし・・・当たり前か。

 

「少し喉が渇いちゃってさ。澪こそ何やってるんだ?トイレ?」

「うん、そうしたらリビングに人影があってビックリしたよ」

「悪かったな」

「ううん、大丈夫。隣、いいか?」

「おう」

 

澪がソファーの隣へと来る。

彼女もまたソファーのフカフカさに気持ちよさそうだ。

 

しん、と静かな部屋。

目の前には月夜に照らされる海。

幻想的な空間だった。

まるで世界に俺と澪だけしかいないような。

そんな感覚がした。

 

「綺麗、だな―――」

 

「うん―――」

 

こんな時間が来るなんて。

普段だったら女子とこんなところに二人きりなんて、緊張で何も喋れないのだろうけど。

 

でも、今だけは違った。

何故か嬉しかった。

今、ここに居られて。

今、ここに居ることが出来て嬉しかった。

 

 

「外・・・出てみないか?」

「外?」

「あぁ、何か目覚めちゃってさ・・・」

「ハハッ、なんだよそれ」

「少しだけでいいから」

 

俺は澪を外に連れ出す。

半ば強引感が否めないが、今は外の風にあたりたかった。

玄関を飛び出し、浜辺へと出る。

真っ暗なのかな、と思いきや意外とそうでもなかった。

蒼色に光る満月が程よく浜辺を照らしていた。

俺と澪は浜辺へは出ず、堤防沿いを歩いていた。

 

波の音しか聞こえない。

そんな中で澪と歩いている。

何か不思議な気分だ。

 

「どうだ、気持ちいいだろ?」

「こんな時間に普段出歩かないからな・・・気持ちいい!」

「夜の空気って昼とまた違っていいよな」

「うん!」

 

思いっきり深呼吸する澪。

パジャマにパーカーを羽織った姿はとても可愛らしかった。

澪も女の子なんだなって思った。

近くに居すぎて、あまり意識したことはなかったけど、女子だ。

可愛いし、美人だし・・・男子からモテるんだろうな。

 

「不思議だな~」

 

ふと澪が呟いた。

 

「何が?」

「私、こんなに自然に男子と話せたこと・・・ないんだ」

 

後ろで手を組み、チラリとこちらを見る。

少し胸が高鳴る音がした。

「私極度の人見知りだし・・・女の子でさえ気を許すのに時間かかるしさ・・・」

「なるほどね」

「でも軽音部は違う。私自身が素の私のままでいられる。だから好き―――。」

「俺もだ――」

「そうなのか?」

 

「あぁ、それをさっき思ってたんだ。俺は軽音部に救われてるんだなーって。」

 

「面白い奴だな。私らは何もしてないよ?」

「いや、一緒にいるだけでソレは満たされる」

「へ?」

 

 

 

「俺、中学時代にな、友達を亡くしてるんだ―――」

 

 

 

「―――――!」

真剣な瞳でこちらを見つめ返してくる。

彼女にだから言えることなのだと思った。

真面目で正直で、何事にも真っすぐな彼女だからこそ。

 

「そいつはバスケ部のエースだった。俺よりずっと凄い奴で、ライバルだった。」

 

蘇る"あの時"、"あの瞬間"。

弦結―――。

 

 

「そいつが本来ならMVPを獲るはずだった。俺より才能があったし、何より努力を欠かさない人間だった。」

 

「でも―――。」

 

「ある時、そいつは病気で亡くなった―――。突発性のものだった。」

 

「いつも当たり前のようにいた存在が、いきなり居なくなった。」

 

「俺は・・・いつも二番目だった・・・それでMVPに選ばれたって訳だ―――」

 

「強豪校からのお誘いも来た・・・でも全部蹴って俺はここに進学した・・・」

 

 

「逃げたんだよ。あいつがずっと俺を見てるようで・・・あいつを超えちゃいけないと思った―――」

 

 

「ここはまだ出来上がって一年目の新設校。強いわけがないし、そもそもバスケ部もなかった。」

 

「でもそこに俺は身を置いて、ただただバスケだけは続けようって思って・・・」

 

 

 

「そんな時に、唯に出会った。」

 

「君たちに出会った―――。」

 

 

澪の方を見る。

月明りだからよく見えなかったけれど。

少し瞳が潤って見えた気がする。

口をつぐみ、黙って俺の話を聞いていてくれた。

別に慰めてほしくて言った訳じゃないが、それでも澪は俺の話を?み砕き、しっかりと受け止めてくれた。

 

 

「そうだったのか・・・」

「あぁ、だから俺がやってることの全てが"逃げ"だ。あいつに会わせる面がないよ」

「そんなことない―――」

「どうして?」

「私が保証するから。」

「え?」

 

 

 

「私が、相馬に出会って、救われてるから―――。」

 

 

 

「え―――?」

 

一瞬だが、波の音が重なり、よく聞こえなかった。

彼女は大事なことを言っていた気がするが・・・。

「ごめん、なんて・・・?」

「ううん、なんでもない。元気出せっ!」

澪は笑顔で背中を擦ってくれた。

女の子に励まされてるようじゃ・・・俺もまだまだだな―――。

 

「よし!明日はみっちり練習だぞ!しっかり寝なくちゃな!」

「おー、澪先生、よろしくお願いします!」

「うふふ」

 

俺と澪は別荘へと戻る。

来たときとは違う。

 

 

何か違う想いを秘めて―――。

 

 

*************************************

 

「おっっっはよーーーーございますッ!!!」

 

 

耳を劈くような音が響き渡った。

律がドラムを叩き始めたのだ。

一瞬で脳が目覚め、上半身を起き上がらせる。

 

「やっめろぉぉおおおぉ!!」

 

と叫ぶものの、寝ていたのは俺だけだったようだ。

あれ・・・今何時だっけ。

時計を見る。

・・・八時か。

「いつまで寝てんだ相馬!朝風呂行くぞ~!」

「あのさ・・・心臓と耳に悪いから朝に人の隣でドラム叩くのはやめて・・・」

「そうでもしないと起きないだろ~?」

「起きるわ!」

 

着替えとタオルを持ち、浴室へと向かう。

その間に澪がおはよう、と言ってきてくれる。

そうか、そういえば昨日俺と外に出たっけか。

澪はなんとなくだが、テンションがいつもより高かった。

 

 

 

朝風呂を終え、朝食。

律とムギが厨房に立ち、朝食を作ってくれた。

俺と唯はフカフカソファーで二度寝をかます。

 

「おいおい、二人とも出来たぞ~」

やれやれという表情で俺と唯の顔を覗き込む律。

律は男勝りなところがあるが、女子力は高かった。

「わーい!卵焼き~!」

「へっへ~アタシ特製の卵焼きは格別だぞ~!」

「頂きます田井中さん!」

「上手い!」

「ムギは味噌汁を作ってくれたのか!」

「ええ。、アサリも入れてみました~!」

「ムギちゃん!本当に美味しいよ!」

「あら、唯ちゃん。ありがとう」

確かに美味しかった。

本当に人の手料理って・・・最高だな。

 

 

**

 

 

「朝食も食べ終わったところでっと。」

律が腕を組みながら、立ち上がる。

「れんしゅ―――」

 

「海いっくぞおおぉお!!」

 

「えええぇええええぇえ!!??」

 

「ごめんごめん、お約束じゃん?」

「ふざけんな!」

「澪ちゃん怖い怖い~」

「みんなもあの演奏聴いたでしょ?昔では軽音部のライブって言ったら相当有名だったらしいよ。私達も頑張ろうよ!」

「分かってるよ~」

「スタジオいこっ」

 

ムギと澪に引き連れられ、スタジオへ。

律はドラムを移動させるのに忙しそうだった。

自業自得だ・・・。

 

「よし、じゃあ作曲したフレーズを1から弾いてみよう!」

あぁ、一回聞いたことある。

ギターのソロから始まるやつか。

「唯、弾けそう?」

「えーと、スコア持ってくる~!」

「律は叩けそうか?」

「まぁ、特別難しいってことも無さそうだから・・・練習すれば何とか・・・」

「そうか、私もあとちょいってところだから頑張ろっと」

「あのー・・・」

「どうした?相馬?」

「俺は何をすればいい?」

「じゃあ、録音!そして音のズレとかあったら教えてくれ」

「了解」

 

唯、律、ムギ、澪が各々セッティングへと入る。

そして律がスティックを大きく上にあげ。

「行くよー!?ワンッ!ツーッ!スリーッ!」

 

ジャカジャカッ!と唯がソロを奏で始める。

すごい!

スコアを見ながらではあるが、弾けるようになってる!

それに合わせるように澪がベースを混じらせ、ムギと律が遅れてやってくる。

 

 

一つ一つがバラバラでも。

それが一つに合わさった時。

 

 

彼女らが創り出す世界が始まった―――。

 

 

*************************************

 

 

キャンプファイヤー。

 

 

・・・と呼べるのだろうか。

ただ数本の薪に火を付けただけの小規模なものだったが、それでも炎は輝き始めた。

あれから本当にみっちり練習し、個人個人のスキルはかなり上がっていった。

そして音のブレもかなり修正され、文化祭への演奏に近づいて行ってる気がした。

そして夕食を外で食べ、キャンプファイヤーをやろうといった次第だ。

 

「ほーのおよ、燃えろーよ!炎よ、燃えろーよ!」

 

「・・・なんの歌だよ・・・」

「キャンプファイヤーの歌!知らない?」

「知らねーよ・・・」

「そっかぁ~」

「綺麗!みんなでキャンプファイヤーやるの夢だったの~!」

「夢多いな~ムギは~」

 

炎をみんなで囲う。

律が皆に切ったスイカを食べながら、燃え上がる炎を見つめる。

 

「いやー今日は本当に充実してましたなぁ~」

「だね!」

「うん!」

「だな!」

「俺も聞いててレベルアップの音を聞いた気がする」

「パンパカパンパーン!みたいな?」

「そうそれ」

「アハハハ!」

 

皆で笑いあう。

 

 

 

"こんな時間が永遠に続けばいいのに。"

 

 

 

「もうすぐ文化祭だな」

 

「今まで色んなとこあったね!」

 

「だな~最初はメンバー集めに苦戦したっけ・・・?」

 

「そうそう!唯が入って来なかったら廃部だったもんな~」

 

「誰かさんは私の文芸部の申し込み届も破ったしな」

 

「アーラ、誰のことかしらァ~ん?」

 

「私は合唱部だったわよね~」

 

「さすがりっちゃん!部長!」

 

「エッヘン!もっと褒めるがいい!」

 

「そうやってあっという間に高校が終わっちゃうんだろうな・・・」

 

「さり気なく嫌なこと言うなよ・・・」

 

「俺も・・・バスケ頑張るか―――」

 

「そうだよ!相馬くんの試合観に行きたい!」

 

「お、いいぜ。俺のバスケシーンはかなりカッコイイぞ?惚れてもしらないからな」

 

「ますます見てみたい!」

 

「いいぜ、唯!絶対だからな!」

 

「うん!」

 

 

 

俺らは五人だった。

最高の友達だ。

それぞれが、それぞれの個性を発揮し、いい感じに纏まっている。

そんな感じが、素敵だった。

 

今度は失いたくなかった。

 

こんなにも大切なものを。

 

 

 

失いたくなどなかった―――。

 

 

*************************************

 

「準備出来たか―――!?」

「おっーけいです!」

「私も~!」

「唯がやりたいって言った事なんだからな~!チャンスは一回しかないぞ~」

「うん!ふんす!」

 

澪と俺は黙って座っている。

何やら別荘に戻る前にやっておきたい事があるらしい。

一体何をしようってんだ・・・?

静かな浜辺に立つ唯。

 

そして―――。

 

 

「せーーーのッ!!」

 

 

 

刹那、バッ!と無数もの光線が空へと舞い上がった。

打ち上げ花火だ―――!!!

その前に立ち、エアーギターをしている唯。

・・・正直それになんの意味があるのか分からなかったが、スター気分になりたかったのだろうか。

でも、それでも唯は輝いて見えた。

文化祭でスポットを浴びる唯は、あんな感じなのだろうか―――。

たった数十秒の出来事だったけれど。

 

 

俺には輝いて見えて。

 

 

少しだけ。

 

 

ほんの少しだけ、唯が遠くへ行ってしまう気がして複雑な想いだった―――。

 




その想い、確かに―――。


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#10 試合!

お久しぶりです、あいとわです。
今回は尾形君の試合ですね!
夏合宿編で言っていたことが、実現した感じです!

そろそろ、さわちゃんとあずにゃんを出したいと思うこの頃・・・。

次章は文化祭編!
楽しみにしていてください!


 

「りっちゃーん!」

 

元気な唯の声が聞こえてくる。

唯が集合場所にやってきたのは集合時間の十分後であった。

もう既に律、澪、紬の三人は揃っており、やれやれという表情で唯を迎える。

 

集合場所は、中央体育館。

 

桜ヶ丘高等学校から5駅離れた場所にある大きな体育館だ。

何故、そんな場所に集まったのかといえば―――。

 

「相馬の試合、もうすぐ始まるぞ!?早く行こうぜ~」

 

唯一の男子部員である、尾形相馬のバスケの試合が行われるのであった。

桜ヶ丘高等学校男子バスケットボール部。

今年から新設され、まだ過去に記録がなく、新参者だ。

弱いかも強いかもわからない。

一体どこまで勝ち進んでいけるのか、見物であった。

 

「うわ~!凄いね!人がいっぱい~!」

唯は目を輝かせ周りを見渡している。

あちらこちらにジャージを着た男女がうろついている中、私服の彼女らは観客席へと向かう。

普段から行き慣れない場所で落ち着かない四人だが、いざ会場内に足を踏み入れると、四人は更に圧倒される。

 

キュッキュ!とバッシュが擦れる音、ブザーの音、笛の音。

 

聞いてるだけで青春を感じざる得ない音が会場内で木霊していた。

「ま、眩しすぎるよ・・・りっちゃん」

「そ・・・そうだな・・・唯」

「本当に青春って感じね~」

「す、凄い!興奮するな!!」

「澪は以外とスポーツ観戦好きだもんな~」

目を輝かせながら身を乗り出すようにコートを見つめる澪。

唯、紬、律は圧倒させながらも、ささやかに興奮していた。

 

「そろそろ男子の時間じゃない~?」

一番端で座っていた律の隣から声がした。

紫色のジャージを着た女子生徒がゾロゾロと観覧席に座り始める。

「一年、ビデオ回して~」

「はーい」

総勢二十人近くだろうか。

「おおっ、なんか部活みたいだな」

「いや、部活だろ」

律と澪のいつものやり取りが終了した中、唯が澪に小声で耳打ちする。

 

「ねぇ、澪ちゃん。ジャージに"桜ヶ丘"って書いてあるよ!」

 

澪が固まる。

「え、じゃあこの人たち桜ヶ丘の女子バスケ部なんだ」

「らしいな~」

「じゃあ、男子バスケ部のを応援してるんだ」

 

そんな中、桜ヶ丘女子バスケ部の女子達が歓声を上げ始めた。

それにつられ四人もコートを見る。

 

どうやら桜ヶ丘男子バスケ部が登場したようだ。

 

 

そして当然のように。

 

 

 

四人の瞳には、"尾形相馬"の姿が映っていた―――。

 

************************************

 

(SIDE:尾形)

 

 

試合開始のブザーが鳴る。

マネージャーの茜は落ち着いた表情でベンチに座っていた。

こう見ると、思い出すものだな。

中学の時も同じ感じだったっけ。

唯一違うのは―――。

 

「あいつら―――」

 

唯が全力でこちらに手を振っている。

軽く俺も手を振り返す。

 

 

「おい、尾形。大丈夫か?」

 

チームメイトの仙崎が話し掛けてくる。

軽音部に行ってることもあって、練習にそんなに参加してなかったのが現実だった。

だが、メンバーが少ないのもあってスタメンに起用された感じだ。

「あぁ、大丈夫だよ」

「相手はちょい強豪だ。気を引き締めてけよ」

「わかってる」

 

ジャンプボールからスタート。

最初にボールを手にしたのは俺らだった。

 

久々の感覚だ。

 

相手のディフェンスが始まる。

バチバチと圧迫してくるディフェンスをしてくるな。

気迫がすごい。

とりあえず仙崎にボールを渡す。

仙崎はお得意の一対一で勝負を仕掛けた。

うまく相手をドリブルで抜き去り、強引にリングにボールを捻じ込む。

歓声があがる。

 

最初の試合の流れは俺らになってたはずなのだが、徐々に差を開かれていく。

元々の実力差だろうか。

 

だろうな、と思いながら流れ作業のように試合を進めていく。

まだ無得点だ。

こんなこと中学じゃ考えられないな。

バスケは10分の試合を4回繰り返す。

そうして最後のブザーが鳴る際に、点数が多いほうが勝ち。

 

現在は第3クォーターの5分過ぎたくらい。

息が上がって苦しい。

普段から走りこんでおけばこんなことには―――。

 

 

「君さ―――」

 

自分のディフェンスをしている男に話し掛けられる。

顔は見たことないし、知らない人だ。

 

 

 

「中学MVPの"尾形相馬"―――だろ?」

 

 

 

「―――だったら?」

 

 

「いや別に」

男はふいと顔を背け、笑う。

 

 

 

 

 

「こんなもんか、って思ってよ―――」

 

 

「・・・なんだと?」

 

 

ブチリと。

何かスイッチが入った音がした気がした。

 

闘争心が湧いてくる。

体中の疲れが嘘みたいに消えていく。

点差は20点。

まだ100%逆転不可能な点差ではない。

巻き返す・・・!

 

ピッーと笛が鳴り、ベンチへと戻る。

タイムアウトの時間だ。

所謂、作戦会議。

仙崎は息が上がり、かなりしんどそうだ。

そりゃ相手チームからはエースだと思われ、ディフェンスが徹底的にマークしているか体力も減るか。

俺がヘバってられない。

 

「おい、尾形」

「ん?」

 

「お前、相手に挑発されて黙ってるほど・・・そんなタマじゃねーだろ?」

 

「・・・・・」

「MVPの力見せてくれよ」

「それ嫌いなんだよな」

「え?」

 

弦結の顔が思い浮かぶ。

"高橋弦結"。

 

最高のライバルで、友達で、若くして亡くなってしまったプレイヤー。

 

俺はあいつの分も頑張らなきゃいけないのに―――。

全力を出せないままでいる。

軽音部の夏合宿で、澪に話したことを思い出した。

マネージャーの茜以外で初めて打ち明けた・・・気がする。

でも・・・。

 

 

「俺はMVPだとか、そんな器じゃないんだよ俺は―――。もっと上手い奴がいて、俺なんかまだまだだ。」

 

 

「でも、今自分に出来る最善のことをしないのは違うよな・・・。俺は俺が出来ることをするしかねーよな・・・!」

 

 

「俺があいつの分までやってやる―――ッ!俺に任せろ・・・!」

 

 

ブザーが鳴り、再びコートへと戻る。

息を吸い込んで深呼吸をしてみる。

疲れてはいるが、体が温まってきた。

ふと応援席に目をやると、女バスと、軽音部がいた。

ガヤガヤと声援が木霊する中、アイツらの声だけはしっかりと聞こえた気がした。

 

唯。

何を言ってるかは分からないけど、身振り手振りですごく応援してくれてるんだなって伝わるよ。

 

律。

いつもお調子者のくせに、こういう時はクールに応援してるんだな。

 

澪。

顔を真っ赤して応援してくれてるから、薄っすら汗をかいてるな?

 

ムギ。

小さく手を振ってくれるあたり、他のメンバーとは違う"頑張れ"が伝わってくる。

 

彼女達には彼女達の世界があって。

彼女達はそれを自分たちの手で生み出すことができて。

それがすごいと思った。

いつか文化祭で彼女らはスポットを浴び、輝くだろう。

俺は・・・いつ輝く?

彼女達みたいに・・・いつ輝くべきだ?

 

 

「"今"・・・か」

 

 

*************************************

 

 

 

「「「試合、お疲れ様~!!!」」」

 

 

 

どーんと労われる。

すっかり夜になってしまっていた。

終わるのを待っていてくれていた軽音部らと合流し、唯の家で夕食を頂くことになったのだ。

試合後何も食べていなかったので、本当に腹が減っている。

今なら大食い選手権出れるのでは?というレベル。

 

「相馬くん、お疲れ様です」

 

満面の笑みで憂ちゃんが案内してくれる。

既に夕食の準備は整っており、なんとカツカレーが用意されていた・・・!

「な・・・なんと・・・!」

「今日、試合に勝ったって聞いたので!今度の試合の願掛けにも!」

「あぁ!そうさせてもらうよ!」

「さすが憂ちゃんだな~美味しそう」

「唯は幸せものだな~」

「そお?」

「いや、冗談でもそれは言っちゃダメ」

「えへへ~」

 

「「「いっただきま~す!!」」」

 

早速、スプーンでルーを啜り、カツを食べる。

う・・・旨すぎる!!

腹減ってるからとかじゃなく、料理のレベルが高く感じる。

お店出しな、憂ちゃん。

結局、約五分で平らげる。

「おかわり!」

「相馬くん食べますね!」

「憂ちゃんのご飯なら半永久的に食べれるよ☆」

イケボで言ってみる。

・・・が律に睨まれ、すぐやめた。

 

「にしても、今日の相馬は凄かったな~」

唐突に律が切り出す。

「そうだよな!特に最後!」

「そうね、ルールあんまり分からない私でも凄いと感じたわ~」

「スリーポイント?一本も外してないもんね!」

「一人で何点くらい取ったんだ?」

「知らん。とにかく必死だったからな~」

「次回もこの調子で勝てるといいね!」

「目指せ!相ちゃん!甲子園!だよ!」

「うーん、何か若干違うし、甲子園は野球な」

「そうなの?」

「あのな・・・バスケはインターハイだよ」

「へ~」

 

 

「ウチらは武道館目指してるから、相馬もそのインターハイっての?・・・目指したまえ!」

 

 

「も~りっちゃんそれまだ言ってたの~?」

「りっちゃんったら~」

 

 

そうか。

 

たとえ夢だとしても。

 

目指すことは悪いことではない。

 

彼女達は、本当に武道館を叶えてしまいそうで。

 

少し怖い自分がいた―――。

 

 

*************************************

 

 

「あ、相馬くん寝ちゃった」

 

「本当か?」

 

「そりゃな~あんな頑張ってたんだから・・・仕方ない仕方ない」

 

「寝かしてあがましょ。今日は唯ん家泊まらせてあげな」

 

「分かった~」

 

 

「おやすみ、相馬くん☆」

 

 




尾形は夢の中で何を想う―――


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#11 お祭り!

こんにちは!あいとわです!
今回は夏休み、最後のイベントをお話にしてみました!
完全オリジナルですので、どうぞお楽しみください!

次回から本当に学祭編突入です~!


 

 

「じゃ!相馬!そういうことだから!今日の5時に唯ん家に集合なッ!約束だぞ~!」

 

 

「えっ、いや待て―――」

 

 

半強制的に電話を切られる。

律はいつもこうだ。

何か提案をしては皆を巻き込む。

なんていうか・・・簡単にいうならトラブルメーカー?

まぁ、慣れたもんである。

 

気付けば、夏も終わりに近づいていた。

日が落ちるのが早くなってきた気もする。

 

振り返ってみると、充実した夏だったなと思う。

いつも男だらけだった中学生活と比較してみると少し恥ずかしい気もするが、女子という点を除いても、一緒に居て楽しい連中だった。

最高に楽しい友達だった。

そんな夏ももう終わりを迎える。

早いもんだな・・・。

 

それにしても、一時間前になって急に誘うアホな話があるだろうか。

まぁ、暇だったからいいけど。

 

俺は仕方なく、重い腰をあげ、支度を始めた。

 

*************************************

 

カナカナカナ・・・。

ひぐらしが鳴く音だけが聞こえる静かな場所。

そんな中を歩く。

何故か唯ん家の隣には神社があり、その周りにあるちょっとした木々を横手に通り過ぎる。

そうして唯ん家に到着する。

 

「おーーい!相馬!遅いぞー!!」

「一時間前に誘われて来たことをまず評価してくれ部長・・・」

「うむ!よくやった!」

「ごめんな、相馬」

「いや、暇だったし大丈夫だよ。ん・・・?」

さりげない優しさ澪ちゃん。

「どうした?」

 

 

・・・というか大事なことを見落としていた。

 

 

「なんで皆浴衣・・・ッ!?」

 

 

なんてことだ・・・!

水着の次は浴衣かよ・・・!

最高かよ夏!!

 

「これからお祭りに行くんだよ~!」

「私、皆でお祭りに行くの・・・夢だったの~!」

「やった!じゃあまた一つ叶ったね!」

「うん!」

「律、相馬に言ってなかったのか?」

「相馬は浴衣持ってないだろうな~って思って。悪い悪い!」

「いや、いいけど、どこでお祭りやるんだ?」

「少し歩いた所にデカい公園があるだろ~?そこでやってるんだとさ!」

「毎年行ってるんだ~!」

「へ~。じゃ、行くか」

 

冷静を装い、歩き始める。

みんな・・・どうしたってんだ。

浴衣は人を輝かせる効果でもあるのだろうか?

 

唯は髪を上げ、触覚(というのだろうか?)を内側に巻いており、いつものピンで前髪を留めている。

律はカチューシャがいつもと違い、花がついた可愛らしいものになっていた。

ムギはお嬢様感漂うピンクと白の浴衣を着ており、ポニーテールにまとめていた。

澪も同じくポニーテールで、綺麗に前髪が整えられていた。

 

甲乙つけがたいくらい皆可愛かった。

 

「着いた!」

「お~。でかいな!」

公園というよりも、もう広場に近いくらいの大きさだった。

芝生やアスレチックなど子供が遊びまわったり、ハイキングをしたりするのに持ってこいな場所だった。

 

既に屋台はいくつも並べられており、射的やくじ、金魚すくいなど様々なものがあった。

あまりこういうところに来ない俺からしたら、かなり新鮮だ。

少しテンションがあがる。

しかもこんな美女達と一緒に来れたのだから尚更だった。

 

「りっちゃん隊長!かき氷がありまする!」

「なんだと!行くぞ!」

「了解~!」

「私も~!」

ムギまでついて行ってしまう。

「おーい、ちょっと!お前らー!」

澪が声を掛けるも、3人はグイグイと行ってしまう。

なんかもういつものパターンだった。

 

「射的でもするか?澪」

適当に誘ってみる。

そうだな、と言わんばかりに苦笑し、彼女は頷いた。

「何が欲しい?」

何やらカッコイイ台詞を言ってみる。

少し頬を赤らめながら、彼女は指をさす。

 

「あ・・・あれ・・・」

 

なんというか、ウサギさんの人形だった。

 

しかもでっかい。

 

あんなの獲れる訳がないし、店員も絶対罠を張っていた。

 

「うーん・・・アレか~。難しそうだな~」

「大丈夫だよ!嘘だから嘘!あのブレスレットがいいかな!」

「ふーん」

 

このままじゃ男の名が廃る・・・!

なんとしてもウサギの人形を取る!

神様、俺に力をくれ!!

今だけゴ〇ゴサー〇ィーンにしてくれッ!!!

震える手で銃を構える。

 

照準を定め、俺は―――!

 

*************************************

 

「おーい、澪~!」

「律!探したんだぞ!」

「いや~唯が金魚すくいに夢中になっちゃって!」

「小学生か・・・」

「そっちのおデートはどうだったんでちゅかぁ~?」

 

カァ~と顔を真っ赤にする澪。

何もそんな恥ずかしがらんでも・・・。

「なぁーにぃー!で・・・デートじゃない!」

「はいはい。んで何してたの?」

「射的をやってたんだ~」

澪が笑顔で腕にはめてあるブレスレットを律に見せた。

「お~それ獲ったの!?」

「うん!相馬が獲ってくれたんだ!」

「へ~!澪ちゃんいいな~!」

やめて、人形獲れなかったっていう話の下りになるからその話やめてー!

 

「私も射的やってみたいわ~!」

「じゃあ、やりに行こうぜぃ!」

「うん!」

「え・・・また行くの・・・」

絶対そういう話になる気がする。

という俺の声は誰にも届かない。

やれやれ、と再び向かい始めた。

 

 

 

・・・が、刹那、空に大きな花火が打ちあがった―――。

 

 

 

ドン!という心臓が揺れるような爆音が耳を劈く。

それでも、それが夏っぽかった。

とても大きな花火。

それは俺ら5人の足を止め、見惚れさせた。

 

「あ!いい場所あるんだ~!みんなついて来て!」

唯が爆音に負けじと叫ぶと、俺らはその後を追った。

 

 

誰も行かなそうな森へと入り、しばらく歩く。

その森を抜けた先には、誰もいない小さな芝生のスペースがあった。

それにベンチもある。

「お~!秘密基地っぽい!」

「律は小学生か・・・。でも凄いな!花火がよく見える~!」

「すげぇ・・・!」

「綺麗ね・・・」

 

「でしょ~!?」

唯は誇らしげな顔をし、ニコニコと笑っていた。

ドキッと胸が高鳴る音がしたが、それは俺以外誰にも聞こえない。

 

こんな夏が送れるなんて―――。

最高だ。

百点満点・・・なんてな。

 

 

こんな時間がいつまでも、いつまでも続けばいいと思った。

 

*************************************

 

時間が過ぎ、日も暮れ、祭りも終盤に差し掛かっている頃であった。

 

「もう10時回ってるなー、そろそろ帰ろうか」

「そうだな」

「あれ?相馬くんは?」

「あら、さっきまではいたのだけど・・・」

「どっかで女の子ナンパしてるんじゃないの~?」

「それはないだろ・・・」

 

「あ!あそこに相馬くんいたよ!」

 

唯が不意に指を指す。

皆の視線がそちらへと向かう。

 

そこには尾形と女の子の姿があった。

何やら会話をしているようだ。

やけに親しげであった。

「やーだ、澪ちゃ~ん。嫉妬とかしちゃったりしちゃっ・・・グホォ!。」

澪の痛恨の一撃を喰らう律。

お約束である。

 

「あの人、バスケの試合のとき居た人だよ!」

「か、彼女なのかな・・・!?」

 

「え・・・てことは・・・今日キ・・・キスとかしちゃったりしてるのかな・・・キャッーー!!」

 

「ないない」

「澪ちゃんメルヘンだね~」

「そ、そんなことないもん!」

 

つまりは尾形の幼馴染の茜であった。

軽音部のメンバーはなんだかんだで初対面である。

「邪魔しない方がいいだろ、帰るか?」

「そうね―――」

「それもそうだな―――」

全員が背を向け、歩き始めたその時である。

 

 

「おーい、澪~!」

 

 

ふと声を掛けられる。

 

その声は尾形のものであった。

 

全員が後ろを振り向き、尾形を見る。

 

「これ!欲しがってたろ?」

 

尾形が手に出したものは、"大きなウサギのぬいぐるみ"。

先ほど、尾形が獲り損ねたものであった。

「俺が実力で獲ったもんじゃないけどさ・・・幼馴染の父親があの店やっててさ・・・貰ったんだけど・・・」

「・・・・・」

「そんなんで良ければ・・・あげるよ―――」

「・・・ありがと」

 

少し照れくさそうな二人。

律は何かを察したのか、ニヤニヤしていた。

唯は目を輝かせながら羨ましがっている。

 

大きなウサギのぬいぐるみを抱き締め、澪はそれに顔を埋めている。

 

 

それが今後、彼女らが生み出す歌の歌詞になることなど・・・誰も知らなかった―――。

 

 

 




恋に堕ちる、音がした―――


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#12 顧問!

今回から学祭編スタートです!
唯達の青春をどうか再び見届けてください~!

尾形は一応仮想上の主人公ですが、当時のファンの気持ちとか、時々我々サイドの気持ちを反映してるとこもありますので、そこも懐かしいと思っていただければ幸いです!

それでは学祭編どうぞ~!


 

爽やかな日差しが差し込む。

とても心地よい。

そんな気分を堪能しながら、教室の窓側の席に座る俺は、校庭で生徒が体育の授業を受けているのをボーと見つめていた。

 

後ろでスースーと寝息を立てている奴もいるが・・・。

 

確認するまでもなく誰だか分かる。

唯だ。

授業中寝るのが趣味なのだろうか。

1限からずっとこの調子だ。

また中間テストで泣くことになるぞ・・・。

 

二学期が始まった。

すっかり夏休みボケが執着してしまったせいで、勉強などやる気が起こるはずもない。

しかもお昼ご飯の後に古文の授業って・・・。

寝ろって言ってるのと同じだろう。

しかし和はしっかりと受けているので意識の問題かな、うん。

 

 

そういえば、そろそろ文化祭シーズンか。

 

お昼の時間もあちらこちらで実行委員や生徒会が忙しそうに動き回っていた。

・・・うちの部は大丈夫なんだろうな。

うちのクラスは模擬店とかやるのかな?

この後のホームルームの時間で話し合うのかな?

 

それにしても中学の頃の文化祭は、とてもつまらなかった。

女子がとにかく仕切り、男子はボロ雑巾のように扱われただけで終わった。

結局女子の自己満足なのだ。

変なことを思い出してしまった・・・。

 

今年の文化祭は、楽しめるかな?

 

否。

 

主役は俺じゃない。

 

唯達が主役だ。

 

俺は傍で応援してやるとしよう―――。

 

*************************************

 

「うーす~」

 

音楽準備室の扉を開け、中に入る。

俺は一応軽音部だ。

楽器は弾かずとも、彼女らと駄弁りに行く。

 

「おっ!来たか!相馬!」

「久々にこの部屋で皆と会った気がするな」

「夏休み以来だからね~」

 

中には唯と律がいた。

澪とムギはいないのだろうか。

 

「二人は?」

「今ね・・・部活申請用紙を出しに行ってるの・・・」

「え?」

 

「実はまだ軽音部はちゃんとした部活って認められてなかったみたい・・・」

 

「・・・はい?」

「部活申請用紙って言うのを提出しなきゃいけなかったらしいよ~」

「律、書いてなかったのか?」

「えぇーと、そんなもの貰ったかなぁ~・・・?」

 

 

 

「貰っただろぉおおぉーーーッッッ!!!」

 

 

 

どこともなく現れた澪がどす黒いオーラを纏い、律に襲い掛かった!

うぅ、怖ぇ・・・。

頭にタンコブが出来た律は泣きながら生徒会室へと向かっていった。

 

「うーん、まぁこれは律が悪いな。」

「文化祭出れるよね・・・?」

「そういえばさ、軽音部って顧問とかっていねーの?」

「顧問?」

 

唯は不思議そうにこちらを見る。

いや待て、俺は別にそんな特別なことは言っておらん。

「いや、普通部活っていったら顧問はいるだろ」

「そっか・・・そうだよね・・・!いない!」

「マジかよ・・・」

「でも部活って認められてなかったのに、こんなに音楽室自由に独占して良かったのかな・・・?」

「・・・俺は知らないYO」

「私も知らないYO」

 

「・・・。冗談は置いといて、顧問にするとしたら候補とかいるのか?」

「うーん、山中先生かなぁ・・・」

「やまなか先生?」

「うん!山中さわ子先生!すっごく美人でね、優しいの!」

「へ~。ってあぁ、あの人か。音楽の先生だろ?」

「そう、でも吹奏楽部も受け持ってるから、兼任出来るのかなぁ」

「聞いてみるかないな」

「でも、私思うことあるんだけど」

「なに?」

 

「山中先生ね、ここの卒業生なんだって!でね、澪ちゃんが見つけた昔の軽音部のアルバム見てたんだけど・・・」

 

「え、もしかして・・・」

「そう!山中先生らしき人がいたの!私ビックリしちゃって!顔そのまんまなんだもん!」

「マジかよ・・・」

夏合宿に聞いたあのロックバンドを思い出す。

確か、"お前らが来るのを待っていた・・・!"とか言ってなかったっけ・・・?

あれ、山中先生が言ってんの・・・?

 

人って外見じゃ何も分からないもんだな・・・。

 

「じゃ、あとで聞いてみるか。それもついでに・・・」

 

*************************************

 

 

「先生、バラされたくなかったら顧問やってください」

 

 

「「「りっちゃん、たくましい子ッッ!!!」」」

 

 

一連の流れで見事部長の律が山中さわ子先生を引きずり込むことに成功した。

なんか俺もあんな感じで入部したのかな。

りっちゃん、怖すぎる。

 

「じゃあ、文化祭でどの曲やるか、私に見せてごらんなさい!」

「おぉ!さわ子先生やる気だ!」

「別にやる気って訳じゃないわよ!あなた達の勧誘が凄いから、あなた達がどれくらい上手いのか見せてもらおうって思ってんの!」

「なんか・・・イメージ崩れたな~」

それは言うな律、みんな思ってる。

 

皆が楽器を取り出し、シールドを差し込み、アンプに繋いでいく。

唯は勘でチューニングを行い、アンプのボリュームを調節している。

あの子、実は凄いんだよな。

絶対音感持ってるし。

 

「・・・ところで貴方は何をしてる人なの?」

 

うぅ、それを言われると困るわ・・・。

「一応唯の先生役・・・まぁマネージャーです」

「軽音部にマネねぇ・・・」

「嘘です、雑談要員ですすいません」

「ハァ・・・こんな緩い軽音部で大丈夫かしら?」

 

「準備出来ました~!」

「はーい。じゃあ聞かせてもらえる?」

「はいっ」

 

律がドラムの椅子に座りながら全員を見渡す。

ムギ、澪、唯。

四人は頷き合い、律の掛け声から唯のソロが始まった。

「・・・この曲―――」

俺はこの曲を知っていた。

夏合宿で練習していた曲だ。

こんなに上手になっていたなんて。

練習してないように見えても、しっかり上達しているんだ―――。

 

何故かこの曲を聴いていると、胸が苦しくなった。

 

何故かは分からない。

別に思い入れがあるわけでもないし、特別なわけでもない。

でも彼女達の結束が垣間見え、俺の居場所を失うような気がするからであろうか―――。

分からない。

 

 

そんなことを考えていると、演奏が終了していた。

澪が声を発す。

 

「前振り後振りとか、リズムセクションがバラバラとか・・・色々気になることはあったけど・・・」

 

顔を顰めながら、さわ子先生は言う。

 

 

「まずボーカルはいないの?」

 

 

あ、それ俺も思ってた。

「えぇーと・・・」

「じゃあ、ひょっとして歌詞もまだとか・・・?」

「・・・・・。」

澪、マジか。

ん?

一瞬で俺はさわ子先生の豹変さを見抜いた。

空気感が読める俺には分かる。

「あなた達音楽室占拠して一体何をしてたの!?此処はお茶を飲む場所じゃないのよ!?」

「お、怒られた・・・」

「大体な―――」

 

「先生ッ!」

 

思わず俺が声をあげていた。

「なに?マネージャーさん」

「彼女らは確かにノロノロやっていたのは事実です、でも彼女達は本気でいつも音楽と向き合ってました」

「そんなこと誰が証明できるの?」

「俺です」

「それでこのクォリティー?」

棘のあること言うな・・・。

 

「唯は初心者でした、それでここまで頑張ってきたんです!それは評価されてもいいと思います・・・!」

 

「まぁ確かに高校から初めてスキルは大したもんだとは思うけど・・・」

「でしょ!だからこいつ等なら本番までに完成させて、いいライブにします!」

「うーん、そこまで言われると弱っちゃうわね、私が意地悪みたいじゃない!」

「いや、そういう訳じゃ・・・」

「とりあえず明日までに歌詞を考えてくること!いいわね!?もう文化祭まで一週間切ったわよ!?」

「「「はーい」」」

 

*************************************

 

 

翌日のことだ。

文化祭まであと五日という日まできた。

委員会と生徒会がものすごく忙しそうにしてる。

俺らは四日前から準備日となる。

つまり、明日からだ。

 

高校最初の学園祭が始まろうとしていることに気分があがる。

 

こんなにも青春を感じたことはない。

恐らく、人生においてもう経験のすることのない貴重な時間だ。

大切にしないと。

 

 

**

 

「歌詞が出来た~!?」

「あぁ、うん・・・」

「見せて!」

澪がものすごく恥ずかしそうにしながら一枚の紙を握り締めていた。

昨日の曲の歌詞が出来たのだ。

俺も興味がある。

だがなかなか見せない澪にさわ子先生は時期に苛立ちを覚え始めていたのが見せたので、強引に俺が見ることにした。

「おらよっと!」

「あぁ、相馬!」

 

「うーんと、なになに?」

隣でさわ子先生と律が紙を覗き込んできた。

 

 

"君を見てると、いつもハートDOKI☆DOKI☆"

 

"揺れる想いはマシュマロみたいにフワフワ"

 

 

なんていうか、とてもメルヘンだったのであった。

 

「破り捨てたい・・・ッ!!」

「背中が痒い・・・ッ!!」

 

どうやら律とさわ子先生には合わなかったようである。

まぁ無理もない。

俺は別に嫌じゃないが・・・。

「唯は?唯はどう思う?」

「すごくいい・・・」

「マジで!?」

「澪ちゃん、私はこの歌詞、すっごく好きだよ!」

「ほんと?」

唯ちゃんもメルヘンなのね。

どうやらムギも良いと思ってるらしい。

 

「ねぇ、さわちゃんはこの歌詞ないと思うよね!?」

「さわちゃん!?」

「どうですか・・・?」

「そ、そうn―――」

と言い掛けたところで。

 

「わ、私もぉ~この歌詞・・・好きかもぉ~?」

 

「えぇええぇえ!?」

 

というわけで、澪の歌詞が採用されることとなりました。

これをメロディーに合わせるとどうなるんだろ。

 

「じゃあ澪がボーカルってことで」

「いや、無理だよ!こんな恥ずかしい歌詞・・・歌えないよーー!」

「おい作者・・・」

「じゃあ、唯ちゃんやってみれば?」

「え、いいの!?」

「ま、まぁ」

「え~でもぉ~私で務めるかどうかぁ~分かんないっていうか~」

「ふーん、じゃあいいやっ」

「ごめんなさい!歌いたい!歌いたいです!」

 

なんの茶番劇を見てるんだ、俺は・・・。

唯がボーカルか。

なかなか新鮮だな。

そして大出世じゃないか。

一番新人だった唯、君が一番のスポットを浴びることになるなんて―――。

 

 

こうして俺らの最初の学祭は幕を上げた―――。

 




運命が動き出す―――。


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#13 文化祭!

お久しぶりです~
今回から学祭編スタートとなります!
そろそろあずにゃんを出したいと思っていますが・・・。

一年生編はそろそろ終了させ、二年生編に移りたいですね!

それではお楽しみください!


 

「練習させすぎちゃった☆」

 

 

「声枯れちゃった☆」

 

 

 

「「「なぁぁぁああぁぁにぃいぃいぃいいッ!!??」」」

 

 

学祭間際に大問題である。

本番まで三日というのに唯が声を枯らせてしまったという―――。

さわこ先生が唯に歌いながら弾く、という練習をさせすぎてしまったせいで・・・。

 

いや・・・まじか。

俺・・・前回の締めで、なんかカッコイイこと言っちゃってた気がするんだけど・・・おい。

 

「どうするんだよ!ボーカル!」

「唯ちゃん以外に出来るって人になると・・・」

全員の視線が澪に向かう。

 

「えっ!?私・・・ッ!?」

 

「そうね~澪ちゃんなら歌詞覚えてるものね~」

「歌詞作った本人だし!」

「澪ちゃん!頑張って!」

「ふぁいとだよ!」

「が・・・頑張れ・・・」

 

案の定、澪は顔を真っ赤にし、その場に倒れこむ。

頑張れ・・・澪。

こりゃ・・・本番はどうなることやら・・・予測がつかなくなってきたぞ・・・。

 

*************************************

 

「・・・という訳で、うちのクラスは模擬店をやるということになったのですが、他に案ある方いますか?」

 

和が教室の前に立って声をあげる。

今年は焼きそばを提供することになりそうだ・・・!

焼きそばなら自分でも作ったことあるし、キッチンの方でも対応出来そうだ。

当日に焼きそばの具材と、調理器具が届くらしく、その模擬練習を行っていく。

初めての学祭・・・か。

中学時代は無縁だったものだし・・・楽しみだな。

 

バスケ部も何かやるみたいだが、主なシフトは入れないようにしてもらい、俺はクラスの方に集中することにした。

そして・・・唯達のライブを応援することにした。

 

軽音部が出演するのは二日目の午後。

主に最後のステージで、皆の注目が集まる時間帯だ。

そしてその後は後夜祭。

生徒全員でキャンプファイヤーとステージが行われる。

 

俺に出来ることはなんだろう。

考えておくか。

 

**

 

 

「では皆さん、協力して作業を終わらせましょう!」

 

はーい、という返事と共にクラスの模擬店の準備が始まった。

外装や内装、そして器具の配置や席の配置を決める。

 

俺と唯はキッチンと受付担当に。

 

「相馬くん、一緒だね!」

「キッチンは死ぬほど忙しいらしいぞ。唯、頑張らないとな」

「頑張ります!ふんす!」

 

相変わらずのガラガラ声で笑う。

やはり本番そんなんじゃ歌えないよな。

澪がやるしかない・・・。

あの澪が・・・。

 

「これをえーと・・・こうして・・・うーん??」

 

受付に立つ唯。

一緒に頑張る日が近づく。

 

思えば、もう唯と出会ってからもう半年が経とうとしていた。

長かったような短かったような。

最初は変なやつって思ったけど、こんなに仲良くなるとは思わなかった。

意外・・・というか予想もつかなかった事だな。

 

唯の無邪気な笑顔を見ながら、密かに思った―――。

 

*************************************

 

学祭当日を迎えた。

 

天気良し、風なし、交通機関乱れなし!

学祭には持ってこいの最高の日が訪れた。

俺は律に鬼電話をかけられ、仕方なく朝八時に音楽準備室へと向かった。

 

「おはよー・・・」

「相馬!遅いぞ!」

「おはようございます、相馬くん」

「おはよう、ムギ」

「じゃあ、練習するぞ~!」

「クラスの集合時間は?」

「9時!うちお化け屋敷やってるからおいで~!」

楽しそうに笑う律。

これは澪を誘ってって言ってるだろ・・・。

 

「じゃ、練習始めよっか!それぞれ準備して!」

 

 

**

 

演奏が終了する。

一通りやったが、澪が歌わずの音だけの練習となった。

「じゃーん、と」

「うん!音はいい感じなんじゃない?」

「うん!バッチリだった!」

「澪、歌わないのか?」

 

さりげなく聞いてみる。

「うんー・・・明日やるよ・・・。家ではちゃんと練習してるから大丈夫・・・」

「あとは人前で歌えればな~」

「か、簡単に言うなよ律!私がそういう性格なの小学生から知ってるだろっ」

「うんうん、分かってるって!また観客をパイナップルみたいに見ればいいんじゃない?」

「その手があったか・・・」

藁にも縋るとはこういうことか・・・。

 

「じゃあ、みんなまた後でね!クラス、遊びにいくね~!」

「うん!じゃあまた~!」

「ばいばーい!」

 

それぞれ散っていく。

俺には俺に出来ることをしよう。

 

 

軽音部、として―――。

 

*************************************

 

 

「いらっしゃーい!安いよ安いよ~~ッ!!」

 

9時を過ぎ、出し物が開始された。

あちらこちらで客寄せの声が聞こえ始めた。

よし、俺らもいっちょ・・・やるかッ!!!

 

・・・といいたいとこだが。

 

「唯、何だその恰好・・・」

 

頭に何故かフワフワした紫のアフロのカツラを乗っけ、どこかの民族のような服装をしていた。

ここってこういう設定だったっけ!?

いやいや、違う!

だってみんな普通に制服だよ!?

唯ちゃんだけ何か特殊じゃない!?

「どう?相馬くん!似合ってる?」

「えーと・・・うーんまぁ・・・」

「わーい!」

・・・。

彼女が喜んでるなら、それはそれでいいのではないだろうかと思いました。

 

**

 

時間はあっという間に過ぎ、気付けばお昼を回っていた。

思った以上に大盛況で人もずっと満席状態であった。

バイトってこんな感じなのかな?

すごく忙しい充実した時間を送れた気がする。

 

「相馬くん、お疲れ様!みんなのとこ遊びいこっ!」

「だな、行ってみるか!」

「うん!」

すごく嬉しそうな表情だ。

文化祭はなんだろう、何かいつもと違う非日常感を味わうこと出来る。

ドキドキするようなそんな感じ。

 

俺らは制服に着替え、まずはムギのところへ遊びに行ってみることにした。

ムギのクラスの出し物は喫茶店であった。

和風カフェらしい。

抹茶が出てきたり、和菓子が出てきたり。

 

それでもってムギは和装を施していた。

一目見て、可愛い、と感じてしまう。

「似合うな・・・着物・・・」

「そうかしら?ありがとう」

「うん!すっごく可愛いよムギちゃん!」

「動きづらいんだけどね・・・頑張るわ~」

 

「あっ、唯!相馬!」

 

遠くから声が聞こえてきた。

この声はまさか。

 

「澪!居たのか!」

「澪ちゃんだ~!会えたね~!」

「私今休憩中でさ!律は?」

「まだシフト中じゃないか?」

「じゃあもう少ししたら律のところに行ってみようか!」

「そうだね~!」

「私も行きたーい!」

ムギが目を輝かせながら言う。

文化祭で気分が上がるのは俺だけじゃないらしいな・・・!

「じゃあ、ムギが終わったら行ってみようか!」

 

**

 

「お待たせしました~」

 

ニコニコと笑いながら教室から出てくるムギ。

浴衣だから少し時間かかっただろうに。

「じゃありっちゃんのクラス、行ってみよ~!!」

「行こう行こう~!」

「ムギ、律のクラスってなにやってるんだっけ?」

澪がムギに問う。

あっ、このパターンは・・・。

 

「分からないわ。行ってみてからのお楽しみ!」

 

「そっか・・・」

少し不思議そうな表情を浮かべるも、付いていく澪。

苦笑する俺にムギがそっとウインクしたのは内緒だ。

 

**

 

目的地(お化け屋敷)へと着く。

着くな否や、早速。

 

「私、帰る」

 

「おーと、お嬢さんまてまてまてーいッ!所詮文化祭レベルのお化け屋敷やで!?大丈夫だよ~!」

唯ががっちし肩を掴む。

澪は逃げられない・・・。

そして強制的に連れていかれる・・・。

 

「よく来たな諸君!そして唯!よく澪を連れてきた!」

「もう帰りたい・・・」

「うちは物凄く怖いって有名だから覚悟しときな~!」

「無理!本当に帰りたい!」

「はい~もう入ってください~!」

「うわああ!!嫌ぁああぁ!」

 

前から唯、ムギ、俺、澪の順番で入ることに。

いや、なんで男の俺が真ん中?

「唯、俺前行くよ・・・?」

「大丈夫!私お化け屋敷大好きだから!」

「大好きって・・・」

「さぁ、ムギちゃん行くよー!」

「お~!」

「いや、ちょっ・・・待t・・・」

 

あの、澪さん。

始まる前から俺の腰にしがみつき過ぎでは・・・?

「相馬・・・ごめん・・・!今だけは傍にいて・・・ほんとお願い!」

「えっ、あ・・・うん」

顔は見えなかったが、すごく頬に熱を帯びるのを感じた。

・・・とは裏腹に前の二人はどんどん進んでいく。

 

中に入ると真っ暗の中で、赤いライトで道が照らしだされていた。

呻き声や、どこともなくお経が聞こえてくる。

律が言う通り・・・少し怖いな。

「じゃ・・・行くぞ?」

「うん・・・」

一歩一歩進んでいく。

前で唯とムギがキャーと叫ぶのが聞こえてきた。

それにつられ、こちら側もそれに驚く。

特に後ろの方が。

澪の握る手が強くて、制服にシワが付きそうであった。

 

「ほんとダメ・・・もう引き返したい・・・」

 

「いや・・・もう中盤だから引き返すとしても同じ道通ることになるよ?」

「無理・・・」

「だろ?」

「窓から飛び降りたい・・・」

「いやいや・・・無理だろ・・・」

 

どさくさ紛れだが、しっかりと澪の手が俺の手を握りしめていた。

少し胸が高鳴る。

こんな真っ暗闇の中で。

絶対今顔赤い自信がある。

そして出てくるお化け。

ゾンビみたいなやつだった気がするが、澪がもう壮絶に叫び走り出す。

俺もそれに引っ張られるように走る。

 

「ちょっ、澪―――うわっ!」

不覚にも俺が足を引っ掛からせてしまう。

最初に出会ったときの唯のような感じで大胆にすっころぶ。

・・・澪も巻き添えにして。

黄色い声をあげながら、澪を守るようにして態勢を崩す。

そのせいか・・・。

 

 

確かに3秒くらいだが、澪を抱き締める形に。

 

 

「キャッ・・・―――」

「ご、ごめん・・・!」

すぐさま手を放すが、胸のドキドキが止まらない。

正直死ぬかと思った・・・。

 

いい髪の匂いがしたのが感想です。

 

 

 

**

 

 

「じゃ、おつかれ~!」

「また明日な!」

「ほーい」

 

それぞれが解散する。

昼間はあんなにも人がいたのに、今は誰もいない。

 

静まり返る廊下。

何か不思議な感じだ。

このギャップが寂しい気持ち。

 

「相馬くん」

 

「唯―――」

 

「帰ろ?」

 

「だな」

 

相変わらずガラガラ声な唯。

ボーカルの座を射止めたってのに・・・残念なやつ。

 

唯は疲れた表情など全くで、むしろテンションがまだ高かった。

今日あったことを俺に話してくれた。

そうなんだ、と相槌を打っていたが、話は全く耳に入って来なかった。

 

そこにある、目の前の唯の幸せそうな表情に見惚れていたからだ。

 

「相馬くん、大丈夫?ボーッとしてるよ?風邪?」

「あぁ、いや、違うんだ」

「どうしたの?」

 

「もう半年も経つのかーって、思ってさ」

「私達が出会ってから・・・だね」

「こんなに仲良くなるなんてな」

「私がたくさん話し掛けたからです!えっへん!」

「ハハハ・・・それもそうだな」

 

沢山のことを思い出す。

 

出会った時の事。

 

軽音部に入った事。

 

楽器を買いに行った事。

 

唯の追試を皆で手伝った事。

 

夏合宿に行った事。

 

夏祭りに行った事。

 

 

本当に濃い春と夏だった。

幸せだった。

唯と出会わなければ・・・こうはならなかっただろう。

 

そして明日。

 

明日に彼女らは一番輝く。

 

春から夏にかけての努力の成果を出す時だ。

 

俺も是非、力になってあげたい。

 

 

そう決めたんだ。

 

 

 

そして迎える、当日の朝。

 

 

 

俺は風邪を引くことになる―――。

 

 




忍び寄る、不幸―――。


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#14 ライブ!

どうも、あいとわです。
今回は文化祭編最終回となっております!

唯達は無事にライブを成功させることが出来るのか!!??


 

 

「なに!?まだ相馬が来てない!?」

 

軽音部の朝ミーティングは律のその一言から始まった。

現在時刻8時30分。

約束の時間は8時ちょうど、昨日と同じであった。

 

「まぁ相馬は演奏メンバーじゃないからまだいいとして・・・」

「あいつ、寝坊とかしてるんじゃないだろうなー・・・」

「文化祭二日目に!?今日一番混むのに!」

「未だに連絡なしか・・・」

「私、連絡とってみる!」

「唯、よろしく・・・!」

 

唯がすかさず携帯をバッグから取り出す。

すると画面には一通の通知がきていた。

「あ、憂からだ!」

「憂ちゃん?なんだって?」

初めはスラスラと読み上げていた唯であったが・・・。

次第にその表情は青ざめていく。

 

「えっ・・・大変っ。どうしよう・・・」

 

「唯ちゃん落ち着いて、どうしたの?」

 

 

 

 

「どうしよう・・・相馬くん・・・倒れちゃったみたいっ・・・―――ッ!」

 

 

 

 

*************************************

 

(SIDE:尾形)

 

 

「――――ッ。」

 

 

目覚める。

俺は一体何を―――。

 

「相馬くん、大丈夫ですか?」

 

「・・・憂ちゃん?」

 

 

なんで目の前に憂ちゃんがいるんだ・・・?

どうして・・・?

何がなんだかさっぱり分からないし、何故今俺はここにいる?

文化祭は?

・・・というか体がすごく熱い。

そして全身のダルさ。

汗でシャツが背中にくっついて気持ち悪い。

 

「倒れちゃったんですよ、相馬くん」

 

「え・・・?」

 

「今日、朝ジョギングしててその帰り、相馬くん見つけて話し掛けようとしたら、倒れちゃって・・・」

「俺・・・倒れたの?」

微かに記憶が蘇ってくる。

確かに文化祭に行く準備はしていたハズ・・・。

「ちかくにいた人にも手伝ってもらって私の家まで運んでもらったんです」

「貧血かな・・・?」

「多分そうだと思います。たまたま近くにお医者様がいらっしゃって、貧血だろうって。」

「じゃなかったら救急車乗ってたかもな・・・ハハハ・・・」

「無事でよかったです、ほんとに」

「憂ちゃんありがとうな・・・迷惑かけました・・・」

「いえいえっ。お粥、作っときましたんで!」

「ありがとう・・・」

 

ふと気が付くとここはいつものリビングじゃないか。

寝ているところはソファー。

ご両親の方がいたらなんて言われていたか・・・。

 

ん、何か大事なことを忘れている気が・・・。

 

 

「憂ちゃん!!今何時ッ!!!??」

 

 

「11時ですけど・・・?」

 

 

俺の中で一気に血の気が冷めていく―――。

 

こんなことをしている場合じゃない・・・!

 

 

「行かなきゃッ・・・!」

 

「え!?どこに!?」

 

「学校!クラスの模擬店もあるし・・・それに・・・」

 

「それに・・・?」

 

体がきついなんて関係ない。

そんなことはどうでもいい。

本当にどうでも良かった。

 

 

「あいつらの・・・あいつらのライブがあるんだ―――――ッ!」

 

 

****

 

 

憂ちゃんが作ってくれたお粥を体に流し込む。

もう光の速さで制服に着替えた。

あとは家から出るだけだ。

「相馬くん、本当に行くんですか・・・?」

「行くよ」

ぴしゃりと答える。

本当に憂ちゃんは俺の事心配してくれているのが伝わる。

・・・いい子だなぁ。

 

「俺さ―――」

 

親が出掛けに行ってしまうのを制止する子供の表情をする憂ちゃんに、優しく告げる。

何も言わず、憂ちゃんは俺の話を聞いてくれる。

 

「唯に初めて会った時、変な子だなって思った。」

 

「えっ?」

 

思わず驚きながら苦笑してしまう憂ちゃん。

だよな。

そうだよね。

 

「ドジだし、天然だし、たまに訳分かんないこと言い始めるし・・・」

 

「そっか・・・」

 

「でもな。」

 

 

目を閉じれば、浮かんでくるあの笑顔。

そして、いつも周りを元気づける性格。

 

 

 

 

そんなところが、俺は大好きだ―――。

 

 

 

 

こんなこと、憂ちゃんに言える訳ないけど。

心の中で苦笑する。

気持ち悪いな・・・俺。

 

 

「いつも笑顔で周りのことを気遣えて、」

 

 

「こんな俺に、"友達1号"って言ってきたんだぜ?ほんとおかしいよな!」

 

 

「ほんっと・・・・・スゲーよ、唯は―――。」

 

 

「知ってます。お姉ちゃんは凄い人だってことも。」

 

 

憂ちゃんは続ける。

どこか頬を赤らめながら。

 

 

 

「相馬くんが良い人ってことも―――。」

 

 

 

「憂ちゃん・・・」

「お姉ちゃんと仲良しでいてくれて・・・仲良くしてくれてありがとうございました!」

「そんなそんな!」

「自分の事のように嬉しいんです!お姉ちゃんが幸せでいることが、私にとっても幸せなんです!」

「本当に平沢姉妹は仲が良いな・・・唯も前同じことを言ってたよ」

「ウフフ・・・そっか」

 

さりげなく微笑むその笑顔も、俺は知っている。

唯のそれにそっくりだ。

憂ちゃんの笑顔も、俺は大好きだった。

 

「一緒に観に行こう、唯のライブ!」

「えっ、いいんですか?」

「当たり前だろ!今からだったらギリギリ間に合う・・・!」

「はい!行きます!」

「よし!」

 

憂ちゃんも着替え、俺と憂ちゃんは平沢家から飛び出る。

急いで駅に向かう。

 

あいつらの演奏を聴いていたい―――。

 

いつまでも・・・!!

 

 

そんな想いだけで。

 

 

俺は走った―――。

 

*************************************

 

 

「よし!今こそ・・・練習の成果を魅せるときだぜ―――ッ!!」

 

 

「そうだね~!」

「うん!!」

律のガッツポーズに唯と紬が応える。

三人とも衣装を変えていた。

さわ子先生が作ったものである。

なかなか全員の雰囲気が変わる衣装であり、男子受けがよろしいものであった。

 

「ねぇ・・・ちょっと律・・・!」

「ん、どうした?澪」

「本当にこんな格好で歌わなきゃいけない・・・?」

 

澪の服装は・・・なんというかメイドさんの服にそっくりであった。

その容姿を見て三人は絶賛する。

「なかなか似合ってますわよ澪ちゅあん!」

「うん!すっごく可愛いよ!」

「澪ちゃん、自信もって!」

三人からの誉め言葉に、今のこの状況と澪の性格上、素直に喜べる訳がない。

 

「んんーーもうッ!!」

 

若干涙目の澪。

そこにやってくる衣装を作った、さわ子がやってきた。

「皆ー、揃ってるわね~?」

「はい・・・一応揃ってるんですけど」

「一応って何よー?」

「あの・・・尾形君がいない状態なんですけど・・・」

「別にいいじゃなーい。演奏する訳でもないんだし」

「そ、そうですけど・・・」

 

さわ子はやれやれ、とため息を吐いた。

眼鏡をクイッとあげながら、口を開く。

 

 

「あの子なら、来るわよ。絶対―――。」

 

 

「えっ?」

四人が口を合わせて、はもる。

さわ子が言った意味がよく分からなかったのだ。

何を根拠にそんなこと言っているのか・・・。

 

「前にね、二人で話したことがあるのよ。軽音部についてね」

 

「そうなんですか?」

「ええ。一人だけ男で、しかも演奏をする訳でもない。なんで軽音部にいるのかって話をね」

「まぁそりゃあ・・・」

「そりゃあはないだろ、律・・・」

「テヘッ☆」

 

 

「1人1人に個性があって、でも演奏するとそれが一つになって・・・そんな音楽をずっと傍で聴いていたいんだって。だから居るんだって―――。」

 

 

「へ~!なんかプロポーズみたい!」

「やめなさい唯ちゃん」

「普段そんなこと言わないからな~相馬は・・・」

「じゃあそういう訳だから、頑張りなさい!いっぱい練習したんでしょ!?」

「はい!」

 

さわ子は少し微笑みがながら、メンバーに語り掛ける。

 

 

「ムギちゃん、あなたの奏でるピアノのメロディーは独特で、周りと合わせつつ、自分の存在感を醸し出してる。頑張ってね。」

「―――はい!」

 

 

「りっちゃん、あなたのドラムはたまに走る事があるけれど、リズム隊の要として、自分らしさを演出しなさい。頑張ってね。」

「はーい!」

 

 

「唯ちゃん、あなたの成長には目を見張るものがあったわ。その実力、ここで活かしきりなさい。頑張ってね。」

「さわちゃん先生・・・」

 

 

「澪ちゃんも緊張し過ぎないように!私もボーカルだったけど、もっと凄いの歌ってたから!」

 

「え・・・」

「お前等が来るのを―――」

「あぁああ、いいです!さわちゃんん!これ以上澪を陥れないで!」

「分かったわよ!じゃ、頑張ってね~!」

 

さわ子が幕の裏に下がっていく。

「青春ね~。私もこんな時があったのかしら?」

少し微笑むさわ子に誰も気づかない。

 

時期にこの垂れ幕も上に上がる。

それぞれ位置につき、"その時"をじっと待つ。

 

 

そして、その十秒後。

 

"軽音部の演奏です"というアナウンスと共に。

 

 

彼女等が生み出す世界が、始まった―――。

 

 

*************************************

 

(SIDE:尾形)

 

「急げ!憂ちゃん!」

「待ってくださーい!」

 

改札を通過し、駅の入口から飛び出す。

俺ら二人とも息が上がっていたが、そんなことは気にしていられない。

さぁ、ここからだ・・・!

 

「私、ここから歩いていきます・・・!相馬くんは行ってあげてください!」

息を荒げながら言う憂ちゃん。

「えっ・・・でも―――」

 

「いいんです!お姉ちゃんの為に・・・軽音部の為にも・・・行ってあげてくださいっ!」

 

「憂ちゃん―――」

「お姉ちゃんは・・・相馬くんに見て欲しいハズだから・・・」

「どうして・・・」

 

「いつも楽しそうに話してました・・・!相馬くんのこと!今日は二人でこんな練習をしたとか、教わったとか・・・!」

 

「そうなんだ―――」

「だから行ってあげてください!お姉ちゃんの為に!」

 

「分かった、後で会おうな、憂ちゃん!」

 

 

それだけ告げると、俺は全速力で学校へと駆け出す。

まだ体のダルさと吐き気は残っていたが、そんなことはどうでもいい。

唯の為に、軽音部の為に、俺が何を出来るのか。

 

それだけを考えれば、自然と答えが出るはずだ―――ッ!

 

 

信号を渡り、交差点を右に曲がる。

そして見えてくる桜ヶ丘高等学校の校門―――。

試合をしているかのようなスピードで俺は駆け抜ける。

 

人通りを掻き分けながら、進んでいく。

 

そして。

 

 

 

 

講堂への扉を開けた―――。

 

 

 

**

 

 

「えっと・・・軽音部です・・・。よろしくお願いします・・・!」

 

 

澪がカッチコチになりながら、挨拶をしている。

まだ序盤か!

良かった!

ヒューヒューとあちらこちらで声援が聞こえてくる。

これがライブというものなのか。

熱気が凄い。

人も込み合っており、どうしても遠くから覗き込む形になってしまう。

そんなのは・・・嫌だ!

だがどうすれば・・・!

 

「相馬!こっち!」

 

背後から声が聞こえ、振り返るとそこには和がいた。

「和!」

「こっちから入れるわ!来て!」

和が手招きをしているで、つられて俺もそちらへ向かう。

するとそこは外に通じており、一気にステージ前へと向かうことが出来た。

「後で憂ちゃんも来るだろうから、入れてあげてくれ!」

「分かったわ」

和は頷くと、仕事へと戻っていった。

本当に頼りになる奴だ・・・!

 

 

そして・・・。

 

ステージの上に立つ彼女らを見る。

 

 

スゲェ―――――。

 

 

この一言しか出てこなかった。

 

あんなにいつもお菓子ばかり食べていて。

 

ロクに練習もサボっていた彼女らなのに。

 

 

どうしてこんなにも輝いて見えるんだろう。

 

 

どうしてこんなにも素敵に見えるんだろう。

 

 

 

「それでは聴いてください・・・。ふわふわタイム!!」

 

 

 

「ワン・ツー・スリー・フォーッッッ!!!」

 

 

律がドラムスティックがカウントを取る。

すると、ジャカジャカと唯がソロを弾き始めた・・・!!

ここは夏合宿で練習していたフレーズだ!

 

思わず涙が出そうになる。

 

 

 

「"君を見てると、いつもハートDOKI☆DOKI☆"」

 

 

 

これは・・・いつか見たメルヘンな歌詞だ。

澪の声に合わせて、歌われるとこんなになるんだ・・・!

 

「"揺れる想いはマシュマロみたいにフワフワ"」

 

いいぞ、頑張れ澪・・・!

あいつが頑張ってるの・・・知っていた!

 

 

「"お気に入りのウサちゃん抱いて~今夜もオヤスミ☆"」

 

 

これは―――。

 

ふと蘇るあの記憶。

 

そういえば、夏祭りで俺がウサギのぬいぐるみをあげたような―――。

 

考えすぎか・・・。

 

 

ふわふわタイム・・・スゲー良い曲じゃねーか。

 

 

 

完敗だ・・・。

 

 

最高にお前等・・・カッコイイよ―――。

 

 

***

 

 

「みんな・・ありがとーーーーッ!!」

 

一通り、演奏が終了し、澪が叫んだ。

それに合わせ皆が声援を送る。

俺も憂ちゃんもそれに合わせ、声援を送った。

 

演奏中に一瞬澪を目が合った気もするが、よく分からない。

 

でも彼女達は最高に頑張ったし、最高のライブだったハズだ。

成功して良かった。

心の底からそう思える・・・。

 

 

 

刹那。

 

ビビッ!と頭の中で何かが警告音を鳴らした。

 

考えるよりも早くに俺は体を動かす。

 

それと同時に澪がシールドに引っ掛かり、大勢を崩した・・・!

 

 

俺はステージ上に颯爽と上がり、スライディングをするかのように倒れこむ澪を抱きかかえる・・・!!

 

間一髪だ・・・!危ない!

 

目の前に澪の顔。

 

そして俺に浴びせられるスポット。

 

 

 

俺が心の中で大絶叫するのは、言うまでもない話だ。

 




その一瞬一瞬を、刻んでいく―――。


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#15 大好き!

お久しぶりです、あいとわです。

今回は少しドキドキする回となっております!!
お楽しみくださーい!!

そして次回からはイベント編です!
それが終わればあずにゃんが出てきます!!


 

「えー、みんな!ライブ・・・お疲れ様~!!」

 

 

「「お疲れ様~~~!!!」」

 

 

ライブが終わり、音楽準備室へと戻る。

気付けば、既に夕方に近付いていた。

文化祭最終日はクラスの模擬店の方は全然力になれなかったな・・・。

なんでよりによって貧血なんか起こすんだ・・・。

 

「それにしても、唯!初めてのライブにしては上出来だったよ!良く頑張ったね!」

「えへへ~途中に失敗しかけたけど、どうにか頑張りました!」

「うん!次は新歓に向けて曲作りと、更に腕上げていこ!」

「そうだね~!」

 

「ムギもキーボード相変わらずバッチシだったよ~!最高だった!」

「あら、ありがと~!」

「ムギちゃんの作曲って人を惹きつけるよね~」

「嬉しいわ~!」

 

「そして・・・澪!!本当によく頑張った!!ベースボーカルお疲れ様!!!」

 

「あ・・・ありがと・・・」

「これで澪も恥ずかしがり屋は克服出来たんじゃないか~?」

「そ・・・そうかもな・・・」

「澪ちゃん、良かったね~!」

「澪ちゃんの声、素敵だったわよ~」

 

「うんうん。相馬もなんか言ってあげな」

 

全員の視線が俺に向く。

正直、遅刻した身であまり偉そうなことは言えなかった。

 

 

「皆・・・最高だったよ。あんなに何かに見入ったのは初めてかもしれない。」

 

 

全員が照れくさそうに。

そして満足そうに。

 

 

「だから、ありがとな。何してないけど、こんな俺を仲間に迎え入れてくれて―――。」

 

 

「相馬くんは大事な軽音部の仲間だよ!」

「そうだぜ!来年は弾いてもらうかな~」

「え!?それは勘弁・・・」

「それもいいかもしれないな。私みたいにボーカルやってみなよ!」

澪が微笑む。

「お前っ、さっきまで意気消沈してたじゃねーか!」

「相馬くんの演奏もいいかもしれないわね~」

「嘘だろ・・・ムギ・・・」

「うふふ」

 

来年は演奏する側にいるのかなぁ・・・。

どうなるか本当に分からないもんだな。

そんな中でふとある一つの事実が思い浮かぶ。

 

「高校生活の軽音部としてのライブ・・・3回あるうちの1回はもう終わっちゃったんだな・・・」

 

「高校一年も早かったね・・・なんだかんだ」

「そうだな~いつの間にか卒業まで行っちゃったりしてな~」

「そんなの嫌だ~ずっーと放課後でお茶してたい!」

「あのなぁ・・・前に澪も言ってたけど、軽音部は喫茶店じゃないんだよ・・・」

「ふーんだ、知ってるもーん。ね!ムギちゃん!」

「そうね、軽音部にお茶は大事よね~」

「ね~!」

「・・・・・」

 

こんな日々がずっと続いていくのだろうか。

ずっと。

 

否。

心のどこかで思っている事を、隠してはいけない。

こんな日々がずっと続いて"ほしい"のだ。

いつからか、俺はそんなことを考えるようになっていた。

 

 

―――。

 

まぁ、今はいい。

 

 

とりあえず、目標であった文化祭での初めてのライブを終える事が出来て。

 

 

ここにいる彼女達が今、心の底から微笑み、楽しんでいるのだから。

 

 

それで俺はそれを目の前で見ることが出来て、彼女等の演奏を見守ることが出来たのだから。

 

 

だから今はそれ以上の事は考えない。

 

 

だから今はいい。

 

 

 

 

 

今は―――――。

 

 

*************************************

 

夜になった。

恒例であるらしい、後夜祭のお時間の始まりである。

 

生徒だけで学校中のあちらこちらを周ることが出来たり、体育館でイベントがあったり。

それに加え、キャンプファイヤーが学校の庭で行われた。

こんな町の真ん中で火なんか起こしていいのだろうか・・・と思ったが、何やら恒例行事らしく市に許可を取っているらしい。

面白いことをするもんだな・・・。

 

俺はクラスで一緒の唯と和と一緒に体育館へと向かうことにした。

「和、生徒会はこれに参加しなくていいのか?」

「うん!これは後夜祭実行委員ってのがあるからね。私達はそれを許可するのが仕事なのよ」

「へぇ」

「みてみて!イベントで何か面白そうなことやってる!」

唯が俺と和の腕を引っ張り、体育館へと入る。

 

 

「みんなーーー!乗ってるかーーいッ!!!」

 

 

いえーーい!!と周りが歓声をあげる。

ものすごい熱気だ。

ライブを思い出させる。

・・・とていうか元女子校ってだけあって声援が黄色い。

キャーキャーという声しかむしろ聞こえない。

唯もその一人だった。

 

「今回のお題は~!!胸キュン☆文化祭イベントォ~!!!」

 

司会の女の子が腕を大きく振りながら、告げる。

胸キュンイベント・・・?

なんだそれ・・・リア充の集いの発表とかそういうやつか?

 

「今回・・・最も票が集まって・・・そして私達実行委員も満場一致でコレ!っていうモノがあります!!!」

 

おおおッ!!!と歓声が上がる。

そんなに盛り上がるもんなの・・・これ。

いや、十分楽しいけどさ・・・!!

「気になります~?気になりますよね!では!こちらをご覧ください!!奇跡の一枚!!」

 

ステージの後ろ側にあるスクリーンにある画像が映し出される。

瞬間、会場が黄色い声援で包まれた。

 

これは―――――。

 

 

 

 

「キャーー!あれ相馬くんと澪ちゃんだよ!!!」

 

 

 

 

唯が目を輝かせながら、叫ぶ。

そして俺の腕を掴み、揺らしてくる。

「嘘だろ―――?」

「あらまぁ・・・」

和もポンッと俺の肩を叩いた。

「まじかよ・・・」

 

そう、映っていたのは俺が澪をお姫様だっこしている写真であった。

 

そしてお互いがお互いを見つめ合っている一枚であった。

会場中の盛り上がりがボルテージMAXとなる。

 

何やらザワザワし始め、どこにいるのかを探し始めるアホがいるらしい事を悟る。

ステージ上に上がるのだけはごめんだ・・・!

そしてそれは澪の死を意味する!!

せっかく恥ずかしがり屋を克服したのに、それはまずい!

 

「わりぃ・・・俺出るわ!」

「あ、待って!相馬くん!!」

「もう・・・仕方ないわねぇ」

 

 

***

 

 

静かな学校へと移る。

三階の窓がある場所。

俺、和、唯の三人でちょっとしたスペースに座り込む。

 

窓から、夜の校庭を眺める。

先生や実行委員がキャンプファイヤーの準備をしていた。

結構大がかりなものなんだな。

 

「やっぱり私も行かなきゃかしら?」

ふと和が口を開く。

「・・・大丈夫か?」

「少し様子見に行ってみるわね!曽我部先輩いるし!」

「おう、頑張れよ」

「頑張って!和ちゃん!」

「ありがと!後でね!」

 

 

和の背を見送る。

 

二人きりで。

 

窓の外を見る。

 

 

「静かだね~」

「だな。楽しかった―――」

「本当に!来年はもっと楽しい文化祭にしたいな~!」

「これ以上に楽しいのか・・・最高だな!」

「でしょ!?体の方は大丈夫?」

「あぁ、もう大丈夫!実は寝れなかったんだ・・・」

「寝れなかった?」

「うん。なんか明日が本番なんだな~って思ってさ」

「うふふ、相馬くん可愛いね」

「なんでだよ・・・」

 

「ありがとね、相馬くん」

 

急に言われる。

彼女は何を言い出すのだろうか。

 

「相馬くんが軽音部に入ってくれたから、もっともっと軽音部が楽しくなった気がするんだ・・・私!」

 

「そう?別に俺は何もしてないよ。ただの雑談要員だよ」

「そんなことない!来年からは演奏してもらうもん!」

「あのな・・・それは」

 

 

 

 

 

「いつも本当にありがとう!大好き!相馬くん―――!!!」

 

 

 

 

瞬間。

 

キャンプファイヤーに火が点いた―――。

 

 

*************************************

 

 

キャンプファイヤーって凄い。

なんというか、女子とフォークダンスするんだってさ。

そんな青春を感じざるえないイベントある?

 

・・・とまあそんなことを考えていた。

俺も男なんだと改めて認識していた。

フォークダンスのペアはランダムで何人かと入れ替わるらしい。

そして俺の最初の相手は―――。

 

 

 

「なーんで相馬なんだよー。」

 

「悪かったな・・・相馬で・・・」

 

 

なんと、田井中律さんであった。

律はなかなか手を出してこない。

そんなに俺が嫌なのだろうか・・・。

 

「おいっ、律!音楽始まるって!」

「分かってるよーっ。」

 

それでもなかなか手を出してこない律の手を俺は強引に取る。

もう勝手に握りしめる感じで。

「キャッ・・・うわっ・・・もー!なんだよー。」

「お前でもキャとか言うんだな」

「一応女なんですけどー?」

「すいません・・・」

 

適当に音楽に合わせながら踊る。

体育で練習したのと同じだ。

ダンス自体は難しくないので楽だった。

 

「それにしても、体育館の写真、凄かったわねぇ~!」

律がニヤニヤしながら言ってくる。

こいつ・・・。

見てやがったのか・・・。

澪は嫌がってなかったかな・・・。

「澪はなんて言ってた・・・?」

 

「まぁ、恥ずかしがってたけど、嬉しそうだったぞー?」

 

「なんだよそれ・・・」

適当にあしらったが、俺も少し嬉しかったのは事実だった。

だが、それは誰にも言わない。

もう少し自己分析してみる必要があるな。

 

 

 

「なぁ。相馬は澪のこと好きじゃないのかー?」

 

 

 

「えっ!!!???」

 

唐突な質問で思わず変な声をあげてしまう。

なんか察されたら嫌だな。

俺が・・・澪を・・・?

 

今思うとそういうった感情は全く考えたことなかった。

 

でも・・・それはどうなんだ?

 

澪は好きだ。

 

でもそれはさっきの唯と同じで、"友達"としてなのか・・・?

 

実、際唯から"友達として"と言われた訳ではないが・・・俺はそう思った。

 

 

「わかんねー・・・」

 

 

それが回答だった。

律は嬉しそうに、かつビックリしたように、頬を赤らめる。

「えー!!!いいじゃんいいじゃん!うちは応援するぞー!!」

「って嘘だよ。そんな訳ねーだろ?易々だまされてんじゃねーよ!」

「ハァ~?なんだよそれ。面白くなると思ったのにさ~」

「面白がるなよ・・・」

 

実際のところは、分からないが本音だった。

うん。

 

 

俺は・・・俺の・・・本当の気持ちなど・・・俺以外分かるはずもないのに―――。

 




交わる想い―――。


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#16 クリスマス会!

お久しぶりです。
更新遅れて申し訳ありません。。。

それではお待たせしました!
今回はクリスマス会の回でございます!

次回からは二年生編となりますので、ご期待ください!
長かったな~笑

そして何より!
お気に入り登録100越え、ありがとうございます!
とても嬉しいですし、やる気の糧になります。
これからもよろしくお願いします~。



 

「え~、これから冬休みになりますが、決して怠けることなく、自主学習を怠らないように。」

 

 

「以上、解散!」

 

 

担任の教師が叫ぶ。

もう冬休みだ。

いつの間にか季節は冬。

校庭には雪が降り積もっていた。

部屋の暖かいこの感じも、教師が叫ぶのも、授業を受けるのも、もう当分おしまいか。

普段は嫌気がさすのに、なんだが少しだが寂しくなるな。

 

 

 

「相馬くん!」

唯が後ろから背中をつついてくる。

「どうした?」

「部室いこ!さっきりっちゃんが終わったら集合って言ってた!」

「律が?分かった」

 

「アンタ達、帰んないの?」

 

「和ちゃん!」

「あぁ、悪い。なんか集合かかってるみたいなんだ」

「そうだ!和ちゃんもおいでよ!」

「えっ?私部外者だけど・・・」

「大丈夫だろ、別に大事な話をする訳でもないし」

「そうかしら・・・」

「うん!んで、一緒に帰ろ!」

「分かったわ」

 

少しだけ和は嬉しそうに微笑んだ。

唯は和の手を引っ張り、部室へと向かった。

 

***

 

部室のドアを開ける。

もう中には俺ら以外全員揃っていた。

 

「おっ!来たな!和も来たのか!」

「どうも」

「んで、なんだよ?招集ってのは?」

「ふっふっふ、今日を呼んだのは他でもない・・・!」

律はもったいぶるように。

「クリスマス会をします!!!」

「クリスマス会?」

「そう!お泊りをしたいと思います!!!」

「マジかよ・・・」

 

「何、相馬さんはクリスマスに御予定でもあるのかしら~ん?」

 

律が睨むように俺を見てくる。

「そ・・・そうなのか?相馬・・・」

なんか澪も見てくるんだけど・・・。

「相馬くんって彼女いるの?!」

「いやいや待てお前等・・・!」

「天然って怖いわ・・・」

和がやれやれと首を振る。

「いねーよ!てかいたことねーよ!」

 

「そうなのか!?」

 

物凄い勢いで澪が叫ぶ。

それから、あっ、と恥ずかしそうに顔を赤くする澪。

「ま、まぁ・・・お付き合いはお互い成人してからだな・・・!」

「澪・・・お前意外と古風的だな・・・」

それを見て律が澪を肩を組みながら、

 

「じゃ、決定な☆」

 

「場所は?」

「ムギん家って思ったんだけど、ダメなんだよね?」

「うん・・・前から予約ないとダメなの・・・」

「っという訳で相馬!!お前ん家だッ!!!」

「・・・別にいいけどさァ」

「何その嫌そうな顔は・・・」

「いや、なんでもないよ」

「じゃ、決定!」

 

「ねえねえ、プレゼント交換しない!?」

 

唯が思い出したかのように叫んだ。

それにムギが目を輝かせ反応する。

「しようしよう!!」

「いいわね、クリスマスっぽい」

「プレゼント交換ねぇ・・・」

 

「じゃ、各々用意して、24日の昼くらいに相馬ん家集合な!」

 

 

*************************************

 

 

とりあえず、前日になったのでヤバいと思い、プレゼントを買いに行くことにする。

既にもう夕方近くになっていた。

ショッピングモールにでも行くか。

 

といっても俺以外全員女子だからな・・・。

何を渡せば喜ぶんだろう。

化粧品?お菓子?何かの便利グッズ?

うーん・・・分からない。

まぁ適当に選べばいっか。

 

電車に乗り継ぎ、少し家から離れた場所で降りる。

そして大きいショッピングモールへと入った。

ここに用事があってちゃんと来るのは初めてだな。

何か新鮮な感じがする。

 

 

「あ!相馬くん!」

 

 

ふと背後から声を掛けられる。

・・・この声は。

 

「―――ムギ!」

「こんなところでお会いするなんて~」

「何してるんだ?」

「プレゼント選びよ。何にするか迷っちゃってて・・・」

「実は俺も!女子って何を渡したら喜ぶんだ?」

「それで迷ってたのね。確かに難しいかも。」

「だろ?」

「でもあまり気負わず、自分がこれ!って思ったのだったら皆喜ぶと思うわよ~!」

「気負わず・・・か」

 

二人で雑貨屋に入ってみる。

久々に来たが、何かムギは嬉しそうに目を輝かせていた。

恐らく人生で初めて来たのだろう。

彼女はどこに行くにしても、新鮮な反応をとっていた。

 

「ムギはどんなものにするんだ?」

「うーん、迷ってる・・・。やっぱ私って言ったらお菓子かなぁ・・・?」

「お菓子って・・・なんだよそれ・・・」

思わず笑ってしまう。

いつもお菓子を提供するのはムギだが、クリスマスまでもムギがお菓子を出すことが可笑しくて。

同時に少し可愛らしく思えた。

自分のポジションがお菓子って面白い。

 

「なんで笑ってるのー?」

「悪い悪い、ちょっとツボにハマっちゃってさ。そうだな、俺もちゃんと選ぼう」

 

俺が適当に棚に手を伸ばす。

すると何かのバランスが崩れ、本が落ちてきた・・・!

それが頭に当たり、ムギの前へ。

 

 

「―――もうっ。」

 

 

「えっ?」

その本は・・・。

まぁ所謂、健全な男子が読んで楽しむ本であった。

女性の前で読んだら社会的に抹殺されるであろう。

なんでこんなものが雑貨屋に置いてあるんだ・・・。

「えーと、ごめんなさい」

「早くしまってください~」

「はい」

 

何か微妙な空気になった瞬間であった。

 

***

 

「よし、福引行くか!」

「ええ」

 

各々購入が終わり、ショッピングモールの外でやっている福引売り場へと向かう。

外は少し肌寒かった。

「もう冬って感じね~」

「だな、でも冬は好きだ」

「私も~。楽しい行事が沢山あるもの。私、今まで家族と過ごしてきたから友達と過ごすのは初めてなの~」

「そうなんだ」

 

やっぱりお嬢様・・・なんだな。

そんな彼女が高校に入って、軽音部に入って。

 

「中学の頃と違って刺激的で毎日楽しいわ」

「中学は退屈そうな言い方だな」

「いいえ!そんなことはないわ!そんなことはなかったけど・・・」

「―――?」

「女性としての品格とか、マナーとかそういうのを重視する学校で、あまり青春っぽいことは出来なかったの」

「あ~。俗に言うお嬢様学校ね・・・」

「そうかもしれないわね。」

ムギは微笑みながら、

 

 

「私ね、毎日が変わったの!とっても楽しいの!」

 

 

彼女は満面の笑みで、そう言った。

軽音部の中では、お嬢様キャラっていうのはあるけど、俺には普通の女の子に見えた。

こんなにも普通で、一般的なんだって。

 

「俺も―――。」

 

「え?」

 

「俺も変わった、一緒だな―――!」

 

 

**

 

「一等賞~!!!おめでとうございます!!」

 

「ええええっ!!??」

「うわぁ・・・ええ・・・どうしよう、相馬くん」

「いや、スゲーよ!!どんだけ幸運の持ち主なんだよ!」

「でも・・・」

 

なんと一等賞は海外旅行の券でありました。

こんなにも簡単に海外旅行って当たるんですね。

しかも俺の後で・・・。

ムギは持ってる子なんだな・・・。

 

 

「え!?すごーい!!!ムギちゃん!!!!」

 

 

ふと。

唯の声らしき声が背後からした。

 

「あ!相馬くんもいる~!」

「相馬じゃない~」

 

なんと唯と和が一緒にいた。

この二人も買い物だろうか。

なんともまぁ、偶然な・・・。

 

「唯~どこだーって・・・相馬!?」

「なーんで相馬がここにいるのさー・・・ってムギ!?」

 

再びお馴染みな声が聞こえてくる。

澪と律だ。

 

「何してるの~?」

「ムギと・・・相馬?」

「プレゼント買ってて、福引引いてたんだ。ムギとはたまたま会ってさ―――」

「へぇ~」

ニヤニヤしながら、わざとらしい返事をしてくる律。

「おい、律・・・」

「私達もたまたまそこで会ったんだ~。やっぱ皆ここで買うんだね!」

「まぁ、ショッピングモールだしね」

「しかも、ムギがさ!俺の目の前で海外旅行引いたんだ!凄くねーか!?」

「それは凄いな!なんという強運!」

「す、凄いな・・・」

 

澪は意外と反応が薄かった。

・・・あれ?

 

「でも、私、皆で人生ゲームやりたかったから変えてもらったの。」

「ええええっ!!??ええええっ!!??」

「だからみんなでやろ~!!」

 

「「「あ・・・うん」」」

 

 

やっぱりこの子はお嬢様・・・だ。

 

*************************************

 

24日になった。

クリスマスイブだ―――。

 

中学の時はクリスマスなんて遠い存在で、気にも留めなかったけど。

・・・ワクワクするもんだな。

なんて考えながら一人で部屋の飾りつけをしている。

あいつら喜ぶかな・・・。

 

瞬間、ピンポーン!とインターホンの音が鳴った。

俺は玄関へと向かい、ドアを開ける。

 

「よっ!相馬!」

「メリークリスマスイブ!」

「メリークリスマスイブって・・・」

「お邪魔するわね」

「おう」

 

律、澪、唯、和、ムギ、憂ちゃんが俺の部屋へとゾロゾロと入ってくる。

冷静に考えると、周りの人からの目が凄い気もするが、気にしない。

俺らはそういう関係ではない。

・・・"友達"だ。

 

 

そういえば、唯の前の台詞はなんだったんだろう。

 

 

大好き・・・とは言ってたけど・・・。

あれはどういう意味なんだろう。

異性として―――ではないハズだ。

ないないない、絶対ない。

唯はそういうやつなんだよ、うん。

そういう事を平気で言えちゃう子なんです。

 

 

唯。

 

彼女への気持ちも・・・俺は―――。

 

 

「っと・・・何考えてんだ・・・俺は・・・」

「どうしたー?相馬」

律が顔を覗かせてくる。

慌てて、なんでもないと答える。

余計なことを考えるのはやめよう。

 

「よーし、じゃあ始めるぞ~!」

「あれ、ケーキとかは?」

「買ってあります!」

憂ちゃんが颯爽と持ってくる。

「さっすが憂ちゃん!!」

「本当に出来た子だな~」

「そ、そんなことないですよ・・・」

照れる憂ちゃん。

か、かわいい・・・。

 

テーブルの上に憂ちゃんの作った料理やチキン、そしてケーキが並べられた。

「飲み物はたくさん買ってあるから好きなの選べ~」

「ほーい」

「私オレンジジュース~!」

「そんな急ぐなって・・・」

 

用意は整った。

生まれて初めてのクリスマス会。

始まる!

律がグラスを大きく上に掲げる。

 

 

 

「それじゃ行くぞ~?カンパーイ!!」

 

 

 

**

 

ここからはもう記憶が飛ぶくらいはしゃいだ。

隣の人から苦情が来たレベルだ。

今年一楽しい出来事だったかもしれない。

 

プレゼント交換をしたり。

 

途中でさわこ先生が来たり。

 

一発芸をやったり。

 

コスプレパーティーをやったり。

 

・・・澪可愛かったな。

 

 

夜通しはしゃぎまくった俺らは、次の日のクリスマスは寝て終わってしまった。

 

 

まぁ、これもまた一興・・・かな。

 

 

*************************************

 

 

「「「明けましておめでとう~!!」」」

 

 

 

こうして迎えた年明け。

今年からは二年生か。

早いものだ。

 

という訳で1月1日の早朝、俺らは近くの神社に集まることに。

何故か澪だけ袴を着ていた。

 

「澪、気合入ってるな」

「・・・うるさいっ」

「どうしたの?」

「律が明日袴着ていく?って聞くから、皆着ていくのかなって・・・」

「聞いただけ~!」

「なぁにぃ・・・!」

澪が顔を赤くして怒る。

まぁお約束だ。

「今年も澪ちゃんのポジションは相変わらずね~」

「・・・そうみたいだな」

 

 

「着替えに帰るっ」

 

 

憤慨した澪が口を膨らませながら、俺らに背を向けた。

すかさず頭で考えるよりも体が先に動いた。

 

「おいってば、大丈夫だよ。」

「相馬だって笑ってたくせに・・・」

「大丈夫だって、可愛いよ」

 

「えっ―――?」

 

「えっ?!」

 

あまりにも咄嗟に出た言葉なので俺自身も戸惑ってしまった。

なんか空気が凍ってる。

なんとかしなきゃ・・・!

 

 

「ま、まぁ・・・似合ってるってことだ・・・!うん・・・!」

 

 

「あ、ありがと・・・」

 

 

「なんか二人共、恋人みたいだね~」

「お似合いよね~」

「ヒューヒュ~!」

三人から冷やかされ、俺も顔を真っ赤にしてしまう。

違う・・・そんなんじゃない!そんなんじゃ・・・!

「うるせっ!俺は女心が読めるからな!サラッと紳士っぽい事を言えちゃうんだよ!引っ掛かったな!」

「・・・・・・」

「ごめんなさい」

 

女子全員から睨まれたので、とりあえず謝っとく。

 

 

もうすぐ三学期が始まる。

それが終われば・・・二年生か。

新歓の時期だな。

新入生とか来るのかな・・・?

沢山入って部活が賑やかになればいいと思う。

でも、この緩い感じは崩れずに。

俺はいつまでもこの感じで過ごしていたい。

 

今年の抱負を祈りに、神社のベルを鳴らす。

 

俺の今年の抱負・・・。

 

何があるかな。

 

 

 

軽音部の皆と、更に楽しくて充実した毎日が送れますように―――。

 

 

軽音部の皆と、かけがえのない思い出が作れますように―――。

 

 

軽音部の皆と―――――。

 

 

あれ、これじゃ全部軽音部じゃないか・・・。

 

本当に大切な存在なんだな、と改めて思い知らされる。

 

 

バスケ部の皆で、インターハイに出場出来ますように―――。

 

最後の一つだけ。

 

もう一つだけお祈りしたい事がある・・・。

 

 

 

 

俺の中の"この気持ち"が・・・ハッキリしますように。

 

 




絡み合う想い―――。


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-2nd Grade-
#17 新歓!


あいとわでございます。
お待たせしました・・・。ようやく更新です。

今回から唯達は二年生!
どんな物語を描いていくのか、ご期待くださーい!

そして遂にあの子が登場・・・!?


 

桜舞い落ちる季節。

四月となったこの桜ヶ丘高等学校は再び新入生が入る時期となった。

 

そんな中、平沢姉妹は同時に家を出る。

平沢唯と平沢憂。

唯が姉で憂が妹。

・・・のはずなのだが、性格は逆で姉の方が妹らしく、妹の方が姉らしかった。

 

「お姉ちゃん」

「なにー?」

「洗濯のタグ付きっぱなしになってるよー」

「嘘っ!?憂取ってー!」

「はいはい。それとココ癖ついてるよ」

憂は唯の髪に手を伸ばす。

確かに横髪が少し段になっており癖がついている。

「時間がなかったんだよ~」

「もう少し早く起きようね」

「うんー」

確かにこのやり取りと聞けば本当に姉妹逆転も分からなくない。

 

唯は高校二年。

 

憂は高校一年となった。

 

憂は姉と同じく桜ヶ丘高等学校に通うことにした。

それほど憂は唯が好きなのだ。

逆に唯もそれは同じ。

相思相愛状態の本当に仲のいい姉妹であった。

 

**

 

「あっ、私二年二組だー!」

「あっ、私も~!」

「あっ、あたしも~」

「あっ・・・・・」

「澪ちゃんはどうだった!?」

 

「二年一組・・・・・」

 

「「「ありゃ・・・」」」

全員が澪に対して同情の瞳を向けた。

それに対し澪は憤慨する。

「な、なに!その目は・・・」

「寂しくなったらいつでも遊びに来てもいいんだよ?」

半分冷やかしながら澪の肩を叩く律。

これが彼女らのコミュニケーションだ。

 

「私は小学生かっ!ふんっ!律こそ、私と離れてもいいのか?もう宿題見せてやれないぞ?」

「へへ~ん!平気だよーん!こっちにはムギがいるもんね~!」

満面の笑みを浮かべながら紬の手を握る律。

それを見て微笑む唯。

「うっ・・・そうだった・・・」

 

「皆さん、おはようございます!」

 

「あっ、憂ちゃん!」

そこに現れる平沢憂。

今日から高校一年生である。

「ほほ~!似合ってる似合ってる!」

「初々しいわね~」

「そっ、そうかな・・・?」

憂は顔を赤らめ照れくさそうだ。

きっと、姉と同じ制服を着て、それを褒められたことが嬉しいのだ。

 

そこで朝礼の鐘が鳴る。

クラスに戻り、出席を取る合図だ。

周りにいる生徒達もざわついた様子で教室の中へと入っていった。

 

「よし、あたし等も行くか」

「あれ、二組って二階だっけ?」

「ええ」

「いかにも上級生って感じだよな~!じゃあな~!一階、一年二組の秋山澪さーん!」

「うっ、うるさい!」

「休み時間にまた~」

 

澪を除く全員が階段を登っていく。

その背中を見送ることになるなんて。

正直強がっていたものの、澪は内心心中穏やかではなかった。

 

 

「―――さみしい。」

 

 

**

 

(SIDE:澪)

 

 

まさか律達と違うクラスになるなんて・・・。

最悪だ・・・。

担任の先生も知らない人だし・・・知っている人がいるかどうかも―――。

日頃私がどれだけ人見知りで、一部の人しか関わっていなかったか思い知らされる。

ああぁ・・・どうしよう。

教室に入るのが怖い。

 

そっと教室の戸を開ける。

黒板には担任からのメッセージと席順が書いてあった。

それを恐る恐る覗く。

・・・自分の席は教室の中央だ。

うわぁ・・・最悪だ。

1人でいるのにはとってもつらい席だ。

 

しかも・・・。

 

周りを見渡せば、知っている人など誰一人としていない。

 

えっ、これ私軽く詰んでないか・・・?

1人きりで行動とか本当に嫌だ・・・。

唯、律、ムギがいる二組が本当に羨ましい!

どうしよう―――。

 

 

「澪!!」

 

 

なんと、そこから救いの声が背後から聞こえた。

この声の持ち主は知ってる・・・!

 

 

「和!!!!」

 

「良かった~。今年は唯とクラス離れちゃって知っている人がいるかどうか心配だったの。」

その台詞と、和の姿を見て、一気に私の心のダムが決壊した。

「これから一年間よろしくn―――

「よろしくッッ!!!!」

「う、うん」

 

良かった!

1人じゃないし、しかも和だ!

もっと仲良くなりたいと思ってたから本当に嬉しいな!

 

 

 

 

 

「―――んっ、澪?和?」

 

 

 

 

 

またまた背後から聞こえる声。

この声も知ってる。

何故なら、考えるよりも先に体が反応したからだ。

 

「相馬―――!!!」

「相馬も一緒だったのね」

 

「おう、よろしくな!」

 

体中が燃え上がるかのように嬉しかった。

なんで・・・?

分かんない。

なんかよく分からない感情が私の中で芽生えてる。

相馬と同じクラスってだけで。

 

たったそれだけのことで、こんなにも嬉しいなんて。

 

それは和、澪、相馬の三人でこれから行動出来るから。

 

そして一緒に体育祭を頑張れるから。

 

そして一緒に。

 

 

軽音部に行くことが出来るから―――。

 

 

さっきまでとは違って気分が本当に良い!

こんなにも一年間が楽しみなんて!

神様ありがとう!

 

これから三人で頑張っていこう―――!

 

*************************************

 

(SIDE:相馬)

 

 

「なーんだ相馬が澪のクラスにいたのかよー」

こんな一言から新学期の軽音部は始まった。

 

「まぁな、一階なのは少し嫌だけど・・・」

「可愛い一年生をたーくさん見れるからいいんじゃないの~?」

「はぁ?」

「図星~」

「何言ってんだ・・・」

 

そんなことよりも、唯とクラスを離れることになってしまうなんて。

少し心寂しい。

和、唯、俺の三人は入学式からの仲だからな。

願わくばずっと一緒に居たかった。

 

「そんなことより!今日からビラ配り出来るだろ!?」

「何張り切ってんんだ澪?」

「律!新歓が始まったんだよ!後輩勧誘しなきゃ!」

「あ、そうだった」

「おまえな・・・」

「相馬くんはバスケ部の方も顔出さなくちゃいけないんじゃ?」

さりげなくムギがお茶を入れながら俺に話を振ってくる。

「そうだな」

「じゃ勧誘は4人でやるか・・・」

「今日は4人でやろ~!」

 

な訳で、俺はバスケ部の方へ行くことへ。

 

「澪、作ってきた~?」

「うん!ざっと30枚くらいはあるよ」

「よし!今日の目標は30枚全て配り切るぞ!」

「そだね!」

 

 

***

 

 

三学期はあまり練習出来なかったので、結構久々にバスケ部に参加することになる。

少し行きづらい気もする。

まぁ気にしない気にしない。

 

「うーす」

「あ、相ちゃん!」

マネージャーの茜が話し掛けてくる。

久々に顔を出すってのに、優しい奴だな。

 

「久々だな」

ん、この声は・・・。

「仙崎・・・」

このチームのエースだ。

相変わらず身長が高い。

 

「今日から新歓だろ?ビラ配りすんの?」

「そうだ、特に男子をメインに勧誘する」

「茜目当てで入ってくる奴はいるんじゃねーの?」

少しジョークを言ったつもりだったのに、場が少し凍った気がして、気まずくなった。

俺と茜と仙崎は中庭に出て勧誘を始める。

 

「バスケ部どうですかー?」

「共に青春の汗を流さないか!?」

「男子もあるよ~」

「一緒に未来のスターに・・・」

 

「「お前の勧誘重すぎ!!!」」

 

茜とハモりながら仙崎を叱る。

こいつ・・・こんな体育会系のやつなのか。

「わ、分かったよ」

「全く・・・そんなんだと後輩に逃げられるぞ?」

「―――、そういえばだが尾形。」

仙崎がふと口を開いた。

 

 

 

「俺と同じクラスの班だったんだが・・・お前の所属する軽音部・・・の面々がいたぞ」

 

 

 

「え?」

 

思わず聞き返してしまう。

体中が燃え上がる感じが一瞬で。

 

冷めた。

 

「平沢さん・・・?とか田井中さんとか。」

 

「あ、あいつらか・・・」

 

「あぁ、賑やかでいい奴そうだった。俺が好きなタイプだ。」

 

「好き・・・?どういうことだ?」

 

 

 

「異性として。当たり前だろ?」

 

 

 

何故。

 

何故その一言がこんなにも深く心に突き刺さったのかは分からない。

 

俺の中で、真っ先に思い浮かぶのは―――。

 

 

「平沢さん・・・?可愛いよな。守ってあげたくなるタイプだ」

 

 

そう、唯だった。

 

 

*************************************

 

 

「んじや、トイレ行ってくる~」

「はーい」

「すぐ戻って来いよー」

「分かってるって」

 

俺は動揺しているのを悟られないためにトイレへと向かった。

なんで俺がこんなことで動揺しなきゃいけないんだ。

気持ち悪いな・・・!

女々しい自分に腹が立つぜ・・・。

 

 

自問自答を繰り返しているうちに、俺は目先の事に全く気付かなかった―――。

 

 

瞬間、いきなり何かと俺は激突する。

 

 

「キャッ!」

 

「いてっ!」

 

だが俺がバランスを崩すことはなく、崩れたのは相手の方だった。

ぶつかった感じ、相手はかなり華奢だった。

「ご、ごめん!大丈夫っ!?」

慌ててその子の元へ。

 

「だ、大丈夫です!」

「肘見せてみ・・・?ほら、血が出てる・・・」

「ほんとだ・・・」

「保健室へ行こう。一年生?」

「はいっ」

「じゃあ、案内するよ」

 

その女の子の容姿は、今時珍しいツインテール。

澪を同じくらいの髪の長さだ。

日本人形のように透き通る肌と、大きい目が特徴的だった。

 

「ほんとごめんな・・・」

「全然大丈夫ですよ!こんなのヘッチャラです!」

「名前何て言うんだ?」

 

 

「中野梓です、よろしくお願いします!」

 

中野・・・梓・・・か。

 

「中野さんか。俺は尾形。尾形相馬だ。」

「尾形先輩ですね!」

先輩か・・・もう俺も先輩になったのか・・・。

 

「ほれ、ここが保健室だ。」

「ありがとうございます!後は一人で大丈夫です!」

「え、いや付き合うよ―――」

「いえ!大丈夫です!先輩の手を煩わせる訳にはいかないので!ありがとうございました!」

 

中野さんは深くお辞儀をすると勢いよく保健室へと入っていった。

そんな・・・。

怪我させたのは俺なのに・・・。

 

申し訳ない・・・。

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

俺はまだ知らない。

 

 

 

彼女との出会いが、更なる奇跡の連続を生み出すことを―――。

 




動き出す、奇跡の連続―――。


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#18 新入部員!

あいとわです~!
お待たせしました!

今回は新入生歓迎会の回ですね!
あずにゃんが登場します!

次回からHTTメンバーでの日常編となりますのでご期待ください!
またアニメではないイベント編を結構執筆します!

それではどうぞ!


 

「はぁー、今日も1人も来なかったね・・・」

 

 

そう溜息を漏らす唯の声。

新歓活動を始めてから既に2日目が経とうとしていた。

なんとも言えない空気が流れる。

 

そんなわけでいつも通りの放課後を迎える俺たち。

 

ムギがお茶を入れ、それぞれお菓子を食べる。

甘いものはあまり食べない性格だったが、もう変ってしまったよ。

バスケをやってなかったら太ってる確実。

 

「なんで来ないんだろうな?」

そんな空気を脱する為に一言放つ俺。

「なんでだろ・・・興味がないのかな?」

「カッコよくないとか?」

「部員が少なそう・・・とか?」

「いや実際少ないな」

「どうすればいいのかしら?ビラ配りも上手くいないし・・・」

「こうなったら憂ちゃんを捕まえてくるか~」

「いや、虫じゃないんだから・・・」

 

憂ちゃんか。

そういう手もあるな・・・。

 

「まぁでも新歓ライブもあるし、そこで挽回すれば大丈夫だろ」

 

澪がティーを啜りながら言う。

それに皆が納得する。

・・・が、それは本当に最終手段に近かった。

本来なら軽音部というだけで見学くらいは来るはず。

それでもって新歓ライブでダメ押しするはずなのだが・・・。

 

新歓ライブがまさかの最終手段になるとは・・・。

 

 

・・・何か俺に出来ることはないだろうか?

 

 

俺が軽音部に入った理由はなんだ?

よく思い出してみる。

懐かしい思い出が蘇る。

 

一年前のあの日。

 

唯と出会って、唯が軽音部に入ることになった。

たまたま唯が軽音部を率いて、そのままの流れでご飯を食べ・・・。

いや、待てだめだ、特例過ぎて参考にならん・・・。

 

でも結束力・・・というか、4人のキャラの良さというか。

 

4人と一緒にいることが、とても自分にとって心地いい場所になっていったのは確かだ。

 

それを伝えられればいいんじゃないんだろうか・・・?

 

 

 

だがそれは至難の業だ―――。

 

新歓において、楽器を弾く事に興味があっても、ジャズ研究会ならぬ"ジャズ研"に新入部員は吸収される。

あちらの方が部として確立しているし、部員も多い。

そっちの方が将来性も明るく、そっちに流れるはずだ。

 

・・・難しいな。

 

 

 

「結束力が逆に入りづらい環境を生み出している・・・とか?」

 

 

「「「「・・・・・!!」」」」

 

 

全員の視線が俺に集中する。

さりげなく放った一言だけど、意外と的を得てたらしい。

「それだよ相馬!」

律が肩を組んでくる。

「あたしたちは少人数精鋭に見られているから入りづらいんだ!!」

「少人数は合ってるけど、精鋭ではないな」

「ライブ・・・ならそれなりにクォリティーの高いものを披露して一部の新入生を獲得する事を目標をしないとな」

「そうだな、相馬ナイス!」

軽く澪がウインクしてくる。

ふっ、と視線を逸らしてしまう。

意識してしまう・・・。くそ。

 

「じゃ、相馬歌ってみる?」

 

「ごめん無理」

 

即答だった。

「でも男子もいるって分かれば男子部員も来るんじゃないか!?」

「なるほど!」

「イケメン後輩男子を獲得だぜ!!」

「黙れ律」

「澪ちゃんひっどい~」

「おいおい、ふざけるなって。俺が今から歌う曲なんてなんて、このバンドに存在するのか?」

「しません」

「はい、正解」

「男子が歌える用の曲も作らないとな~」

「澪ちゃんの歌詞はフワフワしてるもんね~」

「メルヘンだからな~」

 

「って訳で、明日の新歓ライブで全てを賭けるぜ!行くぜお前等!」

 

「「「お~!」」」

 

「・・・で盛り上がってるとこ悪いんだけど、セットリストとか決まってんの・・・?」

 

「まだでした」

「おい部長・・・」

「じゃあ、決めないと・・・」

 

律がルーズリーフとシャーペンを取り出す。

 

「えーと、最初は"ふわふわタイム"。そんで新曲の"私の恋はホッチキス"・・・あと一曲どうする?」

「あれは?」

「なに?」

「私が感動した"翼をください"!」

「いや待て・・・それやんの!?」

「ネタ要素的な?」

「いらん!」

 

 

「"Cagayake!Girls"・・・は?」

 

 

「あの幻の一曲をやるか!?」

「あの曲難しいんだよね~」

唯がぐだっーと机に突っ伏す。

そういえば最近弾いてない曲だが・・・。

「いいじゃん!やろうよ!ムギはどう思う?」

「私もあの曲好きだからやりたいわ~」

「じゃ、決定な」

「う、分かったよ~」

 

「そうと決まれば・・・!練習だ!」

 

 

***

 

上の階から彼女達の音楽が聴こえてくる。

ふと歌詞を口ずさむ。

 

男子が歌うには少し恥ずかしい歌詞だけど、俺は好きだ。

それを一番前で聴いてる俺は幸せ者だと思う。

 

 

「―――あ!」

 

 

真横から声を掛けられる。

この声は聞き覚えのある声だった。

 

「尾形先輩!」

 

黒髪ツインテール、中野さん・・・だっけ?

 

「おぉ、おっす~」

 

正直名前に自信がなかったので適当に返事を返す。

・・・ごめんね適当な先輩で。

 

「何してるの?」

「先生に資料を貰ってました!」

「なるほどね。学校には慣れてきたかー?」

「そうですね・・・まだ場所とか分からない時とかありますけど、やってけそうですね!」

「でも保健室は大丈夫だろ?」

少し意地悪そうに告げる。

冗談交じりに笑う彼女。

「肘、大丈夫か?」

「はいっ!全然大丈夫ですよ!」

「良かったよ、ほんとに」

「じゃあ、私こっちなので!」

俺とは逆方向を指さし、歩き始める。

「じゃあな~」

軽く手を振り、すれ違おうとしたその瞬間だった―――。

 

 

「待って・・・!」

 

 

俺は呼び止める。

「はい?」

くるりと振り返り、俺の方を見つめる。

 

「何部に入ることにした?部活とか見学した・・・?」

 

「そうですね・・・ジャズ研とか観に行きました!」

「音楽やりたいの!?」

「はい!」

 

き、来た・・・!!

だが、ジャズ研に片足を踏み込んでいる・・・!

強敵!ジャズ研!

 

「け、軽音部とかって見たりした・・・?」

 

「軽音部ですか?」

「う、うん・・・」

 

「軽音部ってあるんですか?」

 

「え」

 

存在すら認知されていない状態でしょうか。

こりゃ新歓ライブとか言ってる場合じゃないんですけども。

まぁいい。

この子と会ったのは奇跡だ。

チャンスをモノにするぞ尾形!

 

「あるよ!明日、新歓ライブやるらしいよ~」

「へ~、上手いのかな?」

「え?」

「私、カッコイイ先輩がいるところがいいなって思ってるんですけど・・・」

「へ、へぇ~そ、そうなんだ・・・」

 

こりゃ明日のライブ・・・本気出さないとヤバいぞ・・・。

 

 

*************************************

 

 

「新入生の皆さん!!入学おめでとうございます!!軽音部です!!」

 

 

唯の声が体育館に木霊する。

そこに居るのは新入生の数々。

9割が女子なので黄色い声援と拍手があがる。

一応、俺も軽音部なので舞台袖で見学する。

 

「軽音部はとっても楽しい部活です!皆で仲良くお茶したり、話したりして、すぐ仲良くなれます!」

「活動日はほぼ毎日なんですけど、行けない日は行かなくても大丈夫なので緩い部活です!」

「私、軽音って"軽い音楽"って書いて軽音なので、カスタネットとかやる、かる~い部活だって思ってたんですよ!」

 

「なのでそんな感じで軽い気持ちで入部してください!!」

 

満面の笑みで唯が言う。

薄っすら額に汗をかいて、頑張って話している。

唯も先輩か。

なんか感傷的になってしまう。

だが、唯のMCは安心して聞いてられるな。

 

 

「それでは聴いてください!"私の恋はホッチキス"!!」

 

 

『なんでなんだろ。気になる夜、君への想い、便箋にね書いてみるよ』

 

 

この歌詞、澪が書いたのか。

澪のセンスは相変わらずだよな。

でも、聞いていられる。

 

そして唯、初ボーカルうまくいってんじゃん!

 

澪はあの事件以来歌いたがらないからな・・・。

練習で歌詞飛ばしてたからな、良かった。

 

そういえば、あの子来てるかな?

中野さん・・・だっけ。

この演奏聴いて、入ってくれればいいけど。

 

全ての想いを乗せて、届けばいいと思った。

 

*************************************

 

「おーい、そんなところで見てたら、来るモノも来ないぞ~」

 

 

演奏が終わり、俺らは部室にて待機していた。

ライブは大成功に終わり、盛り上がりもかなり良かった。

だが、人が・・・来ない。

ムギと俺は苦笑しながら、お茶を啜る。

 

「今日も美味しいな。」

「あら、ありがとう」

「結局、あの子も来ず仕舞いか・・・」

「なに?」

「あ、いや・・・なんでもないんだ」

 

「みなさーん、お茶注ぎ終わりましたよ~」

 

***

 

「こうなったら憂ちゃんを捕まえるか・・・」

「だから虫じゃないんだから・・・」

「なんでかなぁ~なんで入って来ないんだろー」

「部員が少ないのが原因なのかなぁ・・・」

 

各々それぞれ落ち込んでいるようだ。

まぁそうか。

あのライブは大成功だったもんな。

 

でも、この4人と今年も頑張るってのも悪くないかもな―――。

 

 

と思っていた矢先だった。

 

 

 

 

 

 

「あのー・・・」

 

 

 

 

 

 

入口の扉が開き、1人の女の子が顔を覗かせた。

 

その姿を見た時、全身に電撃が走ったような衝撃が走った。

 

 

「入部希望なんですけど・・・」

 

 

「今なんと?」

 

 

「入部希望・・・なんですけど―――――。」

 

 

 

 

皆がお互いの顔を見合わせる。

 

そして顔を赤らめ、そして・・・。

 

 

 

 

 

「確保おおおぉぉおおぉッ!!!!!」

 

 




遂に、出会う―――。


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#19 その日!

遅くなりました!
今回は、梓が軽音部に対してあれっ?となるところから始まります!
どう辞めていく梓を引き留めるのか・・・ご期待ください!

そして最後はシリアスで終わります。

それではどうぞ!!


「入部希望・・・・・なんですけど・・・」

 

 

つ・・・ついに軽音部に入部希望者が訪れた!!

 

し・・・しかも・・・あの子は・・・!

 

って訳で早速唯と律が彼女を椅子に座らせる。

彼女・・・と言っても、俺はこの子を知っている。

 

なんと、あの中野さんだ!!!

 

大変嬉しい限りだ。

俺の勧誘で来てくれるなんて、本当に嬉しい。

椅子に座らせても、足が地面についていない。

背が低いんだな・・・。

 

「名前はなんて言うの?」

とムギ。

「あっ、中野です・・・!」

 

「パートは何やってるの!?」

と律。

「えっと、ギターと少々・・・」

 

「好きな食べ物は!?」

と唯。

「えっ、えっとーー」

 

 

「「一回、落ち着け」」

 

と澪と俺。

 

 

***

 

 

「えっと、一年二組の中野梓といいます。パートはギターを少し・・・」

中野さんは手を前に組みながら、礼儀正しく告げる。

「おっ、唯と一緒だな!」

「よろしくお願いします!唯先輩!」

「えっ、あっ、うん!」

唯のこの雰囲気から先輩呼ばわりされたことに絶対感動してる。

なんだかんだで唯の考える事が分かる尾形さんなのであった・・・。

 

「私は部長の田井中律!ドラムやってます!よろしくな!」

「よろしくお願いします!律先輩!」

「元気があってよろしい。こっちが秋山澪、うちのベース!」

「よろしく~」

「はい!よろしくです、澪先輩!」

「んで、こっちがキーボードの琴吹紬!うちらはムギってよんでるよ~」

「よろしくお願いします、ムギ先輩!」

「んで、こっちが―――」

 

 

中野さんは目を輝かせながら、

 

「えっ!尾形先輩、軽音部だったんですか!?」

 

「梓ちゃん相馬くん知ってるの?」

「はい!新歓の時から知ってます!」

「相馬、貴様ナンパしたな?」

「してねーよ?」

なぜ、そうなる・・・。

「梓ちゃん可愛いからな~分かるけどダメだよ相馬くん!」

「あのな・・・」

「違います!私が迷ってたら案内してくれて・・・!」

ありがとう、必死に怪我のこと隠してくれて・・・。

「新歓ライブの事も教えてくれたのは先輩なんです!」

「よくやったな、相馬!」

澪がグッドマークをしてくる。

 

「まぁ、改めまして。尾形相馬です、よろしく!」

 

「相馬先輩、よろしくお願いします!」

相馬先輩か、悪くないな。

「なーに照れてんだ相馬」

「照れてません」

 

「まぁ、入ってくれて良かったよ!ありがとうな!」

「いえ!先輩達の演奏を聴いて、感動しました!私は技術的にはまだまだですが・・・これからよろしくお願いします!」

ペコリと元気よくお辞儀をする中野さん。

良い子だな。

 

俺と同じように、感動したんだ。

 

こいつらの演奏に―――。

 

 

「じゃあ、梓ちゃん!何か弾いて見せて~!」

唯が早くも先輩風を吹かし、中野さんに自分のギターを持たせる。

手慣れている様子ではあったが、もしや・・・。

「じゃあ・・・軽く・・・」

中野さんはピックを持つと、自分の演奏をし始める。

リードパートではなくリズムパートで演奏しているが。

全員がこの演奏を聴いて、同時に思ったことがある・・・。

 

 

(((う、上手い・・・)))

 

 

「こ、こんな感じです!聞き苦しかったですよね、すいません・・・!」

「あっ、いや、全然違うよ!」

「ほらっ、唯。なんとか言ってあげなよ!」

「うっ・・・」

明らかに渋そうな顔をする唯、君ってほんと分かりやすい。

「ま・・・まだまだねっ!」

「「「「えっ―――」」」」

中野さん以外の他全員が同じ反応を示す。

一方、中野さんはそれに凄く憧れを感じたようだ。

・・・唯より上手いのに。

 

「私、唯先輩の演奏もう一回聞いてみたいです!」

 

「うっ・・・」

あちゃ~、自分で蒔いた種だぞ・・・唯。

「今・・・ぎっくり腰だから・・・また今度ね!」

「あっ、はい!」

嘘つけよ・・・。

 

「それじゃ、入部届は確かに受け取ったから!明日からよろしくね!」

 

「はいっ!よろしくお願いします!」

中野さんは深々とお辞儀をすると教室を出ていった。

そして流れる沈黙。

 

「わっ、私どうすれば・・・!」

 

 

「「「練習しとけ」」」

 

 

*************************************

 

 

「相馬くん!相馬くーん!」

「起きろ~相馬!」

 

思いっきり体を揺さぶられる。

あぁ・・・なんか最低の気分だ。

 

「どうした・・・?相馬・・・」

 

「え?」

 

澪に顔を覗き込まれて、自分の異変にようやく気付く。

 

「相馬・・・目から涙出てるぞ?」

「涙?そんなわけ―――」

手を目に当てると、少し湿っているのが分かる。

嘘だろ・・・?

なんで・・・。

「なんかあったのか?」

「いや、何も。お前等の演奏を聴いてたら気持ちよくなって寝ちゃっただけだよ・・・」

「やっだ~相馬くん!」

「うるせー律・・・」

 

「こんにちは!!」

 

勢いよく部室の戸が開き、中野さんが入ってくる。

「お!元気いっぱいだな!」

「はい!放課後が待ち遠しかったです!」

「じゃ、早速・・・」

「練習ですか!?」

中野さんは目を輝かせ、即答する。

・・・が。

 

「お茶にするか~」

 

「え!?」

「ティータイムだよ、梓ちゃん!」

「学校でして大丈夫なんですか・・・?」

「大丈夫大丈夫!」

あぁ、やっとこの異変を指摘してくれる人がいた・・・。

「そうなんですか・・・」

 

するとまたまた戸が開く。

「お、揃ってるわね~?」

この声は・・・。

「さわちゃん!」

「待ってたよ!」

「さわ子先生!」

この"先生"という単語にビクつく中野さん。

「えっと・・・あの・・・これは・・・」

恐らく、学校で違反物を出していたを想ったのだろう。

でも・・・。

「私、ミルクティーね」

 

「えええ!??」

 

「どうしたの?梓ちゃん!一緒にお茶しよ!」

「あっ、いえ。なんでもないです・・・。」

まぁ、先生が違反物許容してたら普通戸惑うわな。

 

「この子が新入部員?」

「はい!中野梓と申します!」

 

「顧問の山中さわ子です、よろしくね!」

「よろしくお願いします!」

 

「早速だけど"猫耳"つけてくれるかしら?」

 

「えっ!?」

 

 

何をするかと思えば、いきなり猫耳カチューシャを出した!

え!?

この人どこに隠し持ってたの!?

「いきなりそんな事しちゃまずいですって!」

「何よ、あんたも男子なら見たいでしょ!?」

「はい!」

「単細胞かお前」

 

澪に頭を叩かれる。

俺は一応止めに入ったが、唯が既に中野さんに猫耳をつけていた。

 

「かわい~!!!梓ちゃんとっても可愛いよ!」

「うん!似合ってる似合ってる~!」

「梓ちゃん猫耳似合うわね~!」

「おい・・・お前等・・・」

「相馬はどう思うの?」

「似合ってる!!」

「だから単細胞かって!」

再び叩かれるが気にしない・・・。

それほど中野さんは似合っていた。

 

「あの・・・外していいですか・・・?」

 

「ダメだよ~可愛いんだから!"にゃ~"って言ってみて!"にゃ~"って!」

「えっ・・・」

「一生のお願い~!」

そんなんで一生のお願い使うなよ・・・。

 

「にゃっ・・・にゃ~・・・」

 

俺含め五人(澪除く)がぶっ倒れる。

可愛すぎる・・・。

「後輩ってこんなに可愛かったのか・・・!?」

「あだ名は"あずにゃん"で決定だね☆」

「あずにゃん、可愛いわね~!」

「でしょ~!」

 

いや、確かに可愛いんだが。

 

可愛いんだが、これは予想外の方向に進んでいるな。

 

状況的に言ってみれば・・・だが。

 

 

 

彼女が描いている軽音部とのギャップが在りすぎて困惑している。

 

 

 

澪はそれを見抜いているのか、呆れたように溜息をついていた。

 

 

 

 

その予想は見事当たり、翌日、中野さんは軽音部のメンバーに大激怒することになった―――。

 

 

 

 

*************************************

 

 

あれから、数日間、中野さんは軽音部に顔を出さなかった。

 

「なに、澪。急に緊急会議って。」

 

突如、澪が全員にメールを送り緊急会議を開くことになった。

中野さん抜きでの会議となる。

やはり、澪は気付いていたか。

 

「新入部員も入ったし、いつまでもまったりしてちゃじゃまずいと思うんだよな」

「そうなの・・・?」

「このままじゃ梓・・・やめてしまうかもしれないぞ!」

「えっ・・・あずにゃんが居なくなるのは嫌だー!」

「くそっ、何か弱みとなる写真を―――」

澪のグーパンが律に激突。

「ちゃんと活動計画を立てたほうがいいんじゃないか?」

「そう、ナイス相馬」

「活動計画?」

「確かに・・・じゃあ梓の歓迎会をやるかッ!!」

 

「いやいや、待て。俺もやりたいところだが、澪の意見に賛成だ。」

 

まだ事の重大さが分かっていないな。

「相馬くん?」

「中野さんは入る前、カッコイイ先輩がいる部活に入りたいって言っていた。」

「そうなのか?」

「あぁ、今のままでは中野さんの目指す方向性と、軽音部の現状がマッチしない」

「それってつまり・・・」

「そう、中野さんは辞めてしまう可能性がある」

やっと唯達が本当の意味で青ざめる。

 

「・・・歓迎会もいいが、中野さんが求めてるものはそれじゃない」

 

「練習。高みを目指してるんだよ、彼女は」

澪が付け足してくれる。

「別に俺らのティータイムを無くそうとか、体育会系の如く鬼の練習を強いてる訳じゃないさ。ただ練習を全くしないのは彼女的にはアウトなんだろ」

「そういうこと!」

 

「なるほどねぇ」

「分かった!ちゃんと練習しよう!」

 

 

「・・・手遅れじゃなきゃいいが・・・。」

 

 

***

 

 

その日の帰り道。

買い物があるので学校近くのスーパーへ向かう。

「今日の夕飯はっと・・・」

 

そこでチラリと見覚えのある後ろ姿に遭遇する。

「あれは確か・・・中野さんだ」

周りを警戒しながら早歩きで角を曲がっていった。

・・・軽音部について話を聞いてみるか。

俺はその後を追った。

 

 

 

「ライブハウス―――」

 

確かに彼女はこの中へと入っていった。

 

そこから導き出される事実はただ一つ。

 

彼女は軽音部を辞める、ということだ。

 

今からでも間に合うだろうか・・・。

今からでも軽音部に勧誘しても気持ちは変わってくれるだろうか。

 

軽音部の魅力は俺が誰よりも知っている。

こんなところで、せっかく入ってくれた新入部員を失ってしまうのはダメだ。

確かに、ティータイムの時間はすごく長いし、練習はあまりしない。

だが、本番のときの演奏はどんなバンドより輝いている。

 

それだけ、人を寄せ付けるだけの才能がある。

 

彼女も惹かれたから、軽音部に入部を決めたのだ。

 

そんな気持ちを忘れさせてはいけない。

あいつらが動けないのなら、俺が動く。

これは俺の仕事だと思う。

 

俺が勧誘した一年生なのだから―――。

 

その想いを胸に、ライブハウスへと俺は入る。

物凄い熱気で人込みだった。

様々なロックバンドが魂込めて歌っている。

音楽に対する練習度が桁違いだ・・・。

 

だが、それでも彼女達の音楽を俺は応援する。

 

あの日から俺は何一つ変わっていない。

そう、何一つ―――!!

 

 

人込みの中で他のバンドマンに声を掛けられてる中野さんを見つけた・・・!

すかさず俺は彼女の手を取る。

少し強引かもしれないが、この際構わない・・・!

 

「えっ―――!?相馬先輩!?」

「俺と来てくれ!!頼む!」

「でも・・・!」

「いいから!」

「―――――!」

 

 

なんとか必死の思いでライブハウスから抜け出す。

中の熱気のせいか外が涼しく感じる。

 

「いきなりごめん・・・」

「いえ・・・どうしたんですか・・・?」

 

彼女の言葉は俺を気遣っていたが、目は本気だ。

 

 

 

「中野さん、君の今の気持ちを聞かせてくれないか―――。」

 

 

 

「気持ち・・・」

「そう、軽音部に対しての」

 

「正直・・・分からなくって・・・」

 

彼女はゆっくり口を開いた。

その瞳はどことなく、うっすら潤んでいた。

そんな気がする。

だが、俺はそれでも目を逸らさない。

 

「どうして軽音部に入ろうと思ったのか・・・どうして新歓ライブの演奏にあんな感動したのか・・・」

 

彼女は自分の気持ちを吐露することを続ける。

 

 

「しばらく一緒にいれば分かると思って・・・ずっとやってきたけど・・・それでも分からなくって・・・」

 

 

勘所の頬を伝う涙。

それを手で拭ってあげる。

俺にはそれくらいしかしてやることが出来ない。

 

 

 

頷く事さえ、卑怯。

 

ただの言い訳だった。

 

 

 

「どうして・・・?どのバンドよりもうちの軽音部より上手いのに・・・」

 

 

「どうして・・・軽音部がいいのか・・・分からなくて・・・」

 

 

 

 

 

「なるほどな。」

 

「・・・・・ごめんなさい。」

 

「いや、いいんだ。俺もなんとなくで入部したからさ」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ、俺はたまたま唯と仲良くて、そこから律達に会って、入部することになったんだ。」

 

「へぇ・・・」

 

「何か楽器を弾く訳でもなく・・・ただ軽音部の雑談要員として入った俺だけど。」

 

 

 

「毎日あいつらの演奏を聴いてるとな、不思議なことが起こるんだよ」

 

 

 

「次もまた聴きたくなるんだ。」

 

 

 

「・・・!!」

 

 

 

 

「聴くと少し切なくなって、熱くなって、そしてまた聴きたくなる。」

 

 

 

 

「そういう魔法が掛けられてるんだよ、あいつ等の演奏にはさ。」

 

 

 

 

「梓。」

 

改めて、彼女の方に向き直る。

 

 

 

 

「明日、部室に来てくれ。それでもう一度考え直してみないか。明日、軽音部の演奏の全てを・・・梓に聴かせるから。」

 

 

 

「・・・はい。相馬先輩がそこまで言うなら・・・きっと・・・。」

 

「きっと?」

 

「いえ。行きます。聴かせてください、軽音部の演奏を、もう一度!」

 

 

俺と梓は微笑み合う。

 

「そうこなくっちゃ・・・!」

 

 

*************************************

 

 

翌日。

軽音部のメンバーには既に伝えてある。

梓が今日来ること。

そして全身全霊の演奏を聞かせようじゃないか・・・ということ。

 

「じゃ、梓があの時の気持ちを思い出せるように!」

「私達の演奏を・・・頑張ろう!」

「うん!」

「相馬、ありがとうな!」

「いいんだ、俺に出来る事をしたまでだから。頑張れよな、澪!」

「うん!」

 

 

その時、ノックと共に梓が入ってきた。

 

 

これで軽音部に顔を出すのは五回目くらいだろうか。

彼女が失ってしまった気持ちを・・・今取り戻す!

 

「あずにゃん!」

「さ、座って!演奏するぞ!」

「あっ、はい・・・!」

ちょこんとベンチに座る。

緊張の空気が流れる。

 

「それじゃ・・・行くぞ!ワン・ツー・スリー!!」

 

瞬間、律のドラムの音と同時に"私の恋はホッチキス"が演奏される。

ボーカルは唯。

サブボーカルは澪だ。

 

チラリと梓の様子を見たが、俺より早くに演奏に聞き入ってるようだ。

やはりな。

結局、梓と俺は同じなんだ。

 

「やっぱり、俺はこのメンバーの演奏を聴くのが好きなんだと思う。」

 

「えっ?」

 

「きっと皆もそうで―――。」

 

 

俺は、一年前の自分に告げるように。

 

 

「だから、いい演奏になるんだと思う―――。」

 

 

その一言が決め手になったんだろうか。

梓は涙を零し、ようやく自分の中にあった疑問を解消できたようだ。

 

今、一年前の自分と今の自分が重なった気がした。

 

 

 

 

「さ、もう十分だろ?行って来いよ・・・!梓!」

 

 

 

 

梓は涙を振り切り、叫んだ。

 

「はい!私、やっぱり先輩方と演奏したいです!」

 

「良かったー!あずにゃんが帰ってきた!!」

思いっきり梓を抱き締める唯。

それに少しうれしそうな表情をする梓。

新たな一ページが今日、刻まれた。

 

これからは五人の演奏が聴けるんだ―――。

 

「まぁ・・・これからもお茶飲んだり、ダラダラすることもあると思うけど・・・それもやっぱり必要な時間なんだよ!うん!」

澪がすごく良い事を言った気がする。

「そうですよね・・・!」

「ところで、いつから相馬は梓呼びになったの?」

「えっ、いや・・・いつからだっけな・・・」

「うわー、隠したー」

「べっ、別に変な意味はねぇよ!」

 

 

 

中野梓。

 

 

 

新たなメンバーを加えた上で、軽音部の日常は再び始まっていく――――。

 

 

 

 

 

だが、俺の心の何処かにある靄は晴れない。

 

 

それは昨日見た夢のせいだ。

 

 

所詮は夢、だが・・・どうも他人事のように思えないのだ・・・。

 

 

この事は誰にも言うつもりはないが・・・。

 

 

 

誰にも言えぬ、孤独が俺を蝕んでいく―――。

 

 

 

*************************************

 

 

 

夢を視た。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはどこだ。

周りを見渡してみると、少し今より綺麗になっている俺達の部室があった。

いつの間にか寝ちまったんだ、俺は。

 

ふと立ち上がってみる。

 

それと同時に鳴ったガタっという音と共に、俺は足元に誰かがいることに気づく。

 

 

 

―――――。

 

それはみんなだった。

軽音部のみんな。

 

相変わらずな表情で、全員が手を繋ぎ・・・寝ていた。

 

とても満足そうな表情で。

 

とても満たされている表情で。

 

なんだか、俺までも満たされた気持ちになった。

 

 

 

気付けば、俺が勧誘した中野梓ちゃんまでも輪の中に居た。

 

ムギ、梓ちゃん、唯、律、澪。

 

この順で床に座り、壁に背を預け、手を繋ぎ、寝ている。

 

どうしてどんなところで寝てるんだ・・・?

 

よっぽど疲れたんだろうか・・・?

 

 

夕暮れの日差しが部室に差し込む。

 

柑橘色に染まる部室はとても幻想的だった。

 

だがそれと同時に満たされている気持ちは薄れ、孤独感が湧いてきた。

 

 

・・・俺はどうしてこんなにも孤独な気持ちなんだ。

 

 

 

「うーーん・・・」

 

 

 

唯が頭の位置をずらしたのか、少しだけ目覚めた。

ふと唯に目をやる。

 

 

 

 

 

「H・・・T・・・T・・・?」

 

 

 

 

 

なんだ、HTTって。

これは何のTシャツなんだろう。

 

気付けば、全員が揃ってこのHTTと印刷されているTシャツを着ていた。

 

お揃いで着てるんだ。

 

意味は分からないけど、とても目頭が熱くなった。

 

 

だからどうして・・・!!?

 

 

心のダムの決壊はすぐそこまで迫っていた。

 

あぁ・・・ダメだ・・・堪え切れない。

 

 

 

気付けば、泣いているのは俺だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「唯~?お疲れ様~・・・って寝てる。」

 

 

音楽準備室の戸が開き、和とさわ子先生が入ってくる。

 

和、少し大人っぽくなったな。

 

「今はそっとしておいてあげましょ。幸せそう。」

 

和、さわ子先生は俺には気付かないようだ。

 

俺をガン無視すると、唯達の寝顔を見てクスリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"彼"も喜んでるわね。」

 

 

 

 

 

 

「はい―――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも落書きをしているホワイトボードを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

"相馬くんと一緒に、私達はライブを絶対成功させるッ!!!"

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は嗚咽を伴い、号泣した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、どこにも居なかったのだ――――。

 




耐えられぬ、孤独―――。


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#20 球技大会!

どうも!お久しぶりです。
更新遅くなって申し訳ありません。
これからはなるべく頑張りたいと思います。
お気に入り130越え、嬉しいです!

今回はオリジナルの話で、球技大会が行われます。

次は夏か~!

それぞれの恋路をお楽しみに!


 

「えー、皆さん。明日は球技大会ですので、朝に体温測ってきてくださいね~」

 

 

新歓が終わり、6月に突入した。

梅雨の時期だが、こんな時に我が桜ヶ丘高等学校全体で行われる行事がある。

・・・そう、球技大会!

1年生~3年生全員が参加する生徒会が主催するものである。

今年の競技は恐らくバスケ。

和が仕切っている為、俺がお願いしといたのだ。

やったぜ!

「なぁ、相馬。去年はバレーボールだったけど、今年は何するか分かる?」

「あぁ、バスケだよ」

「え!?やったじゃん!」

ニコリと微笑む澪。

その妖艶な顔立ちに思わず顔を背けてしまう。

め、目が合わせられない―――。

 

「今日は練習あるのか?」

「あるよ。来ないのか?」

「んー、考え中」

「だったら来なさい」

「はい」

 

軽く微笑みながら叱られる。

もうすぐ放課後だ。

今日も軽音部に行くか。

 

*************************************

 

翌日。

キチンと体温を測り、ジャージに着替え、学校に向かった。

今日だけはジャージ登校を許されるので嬉しい。

清々しい気分で歩いていると、ふと声を掛けられる。

 

「おはようございます!」

「ん?おぉ、梓か。おはよう!」

元気よく挨拶してくれたのは軽音部期待の新入部員、中野梓ちゃんだ。

ツインテールと黒髪が良く似合う女の子。

赤いジャージを着て登校していた。

ちなみに俺らの代は青色だ。

 

「今日はバスケですよねー・・・、嫌だなぁ」

「バスケ嫌いなのか?」

「いえっ、見るのは好きなんですけどやるとなると・・・」

あからさまに嫌そうな顔をしている。

「私、スポーツ全般ダメなんですよね」

「俺もダメなんだよなぁ」

・・・と軽く嘘をついてみる。

「文化部って運動苦手多いですよね・・・」

「そういうもんかねぇ」

チラリと梓の方を見ると、彼女は本気で信じているようだ。

顎に手を当てながら何か考えている。

こう見ると俺と梓の身長差って結構あるんだな。

 

「二人とも~!」

 

はたまた背後から声が聞こえる。

後ろには、唯がジャージ姿で走ってくる姿があった。

「おはよ~!」

「おはよう」

「おはようございますっ!唯先輩!」

「あずにゃん~!今日も可愛いね!」

「や、やめてください・・・」

「嫌がんないでよ~!」

 

梓が入部してもう一か月か。

・・・入部してくれて良かった。

その楽しげそうな顔を見ると、そう思う。

これで良かったのだ。

新入生は一人しか入らなかったけど、これでいい。

 

そんな事を考えながら、三人で学校へと向かっていく。

 

 

*************************************

 

朝から一斉に体育館に集められる。

周りを見渡す限り、女子は本当に眠そうだった。

やる気を一切感じられない。

まぁ、そういうもんか。

そこで生徒会副会長である和がステージの上にマイクを持ちながら立つ。

 

「おはようございます。今日は球技大会ですが、競技はバスケで、クラス対抗になっています。女子と男子は交代ずつで行います。」

 

クラス対抗・・・か。

そこから導き出されるのは茨の道だ。

"あいつ"がいる。

まさか新歓以来であいつとまた戦う時がくるなんて。

バスケ部のエース、仙崎だ。

正直勝てる要素がない。

チラリと仙崎を横目で見る。

かつて仙崎が俺に言った一言。

 

そう、唯の存在。

 

この気持ちはなんだろう。

 

 

・・・負けたくない。

 

 

 

「相馬、おはよう!」

「ん、おぉ!澪」

「今日はバスケだな、見せ場じゃん!」

笑顔でそう告げる澪。

恐らく本当にそう思って言っているのだろう。

「そうだな、俺のファンが増えなければいいが―――――」

「なんだそれ」

白い目で見られその場から立ち去られる。

・・・なんか怒ってる?

そんな感じの印象が残る。

 

すると遠くの方で笛の鳴る音が聞こえてきた。

恐らく、試合開始の時間なのだろう。

クラスの男子が手招きをして呼んでいる。

よし、向かうか。

 

始まる――――!

 

 

~第一戦目~

 

相手は三組。

・・・ということは次が二組か四組か。

二組が一番厄介だ。

となると、ギアをもう入れておく必要があるな。

このチームにはバスケ部の奴が二人いるが、実力は仙崎ほどではない。

・・・いける!

 

ジャンプボールは背が高いバレー部の男子が担当し、皆が配置についた。

出場者以外の男子は横のベンチに座っており、クラスの女子は男子の試合の見学をステージの上でしている。

 

・・・意外と人数が多く、歓声がすごい。

 

体育館では2面でしか試合を行わない為、かなり休憩するクラスが多く注目度が高い。

やりづれぇ。

瞬間、ボールは審判の手から高く舞い上がる。

と同時にゲームスタート!

最初は俺らボールだ。

クラスの奴がボールを確保し、すぐさま俺に渡す。

ほとんどが初心者でドリブルが少し出来る程度なので、うまいことパスを回して、簡単なシュートを打たせるしかないな。

 

 

「さ、行こうかッ!!!」

 

 

*************************************

 

(SIDE:梓)

 

 

「すごい――――」

 

 

何が起こったかというと。

尾形先輩がものすごい勢いで点数を取っていた。

一人で今10点くらい取ってる。

え、何・・・あの人運動めっちゃ出来るじゃん!

昨日と言ってたことと違う・・・。

 

「ねぇ、憂。尾形先輩ってバスケやってたの?」

隣にいる憂に話し掛ける。

憂は全く持って意外そうにせず。

「うん!相馬くんね、中学生のときMVPだったんだって~!」

「えっ!?すごっ!」

じゃあ昨日のはからかわれたんだ・・・。

「なんでそんな梓ちゃんむすくれるの?」

「なんでもなーい!」

 

 

本当に上手いな。

ボールが手に吸い付くようにドリブルしてる。

あんまり詳しいルールとかは分からないけど、上手いっていうのは私にも分かる。

あんな簡単に人をドリブルで抜けるってすごい。

そしてディフェンスが何人も飛んでるのに、片手で放ってシュートを決めるって・・・。

外す気配がない・・・。

 

そして決める度に湧き上がる黄色い歓声。

人気だなぁ・・・。

 

「あ、澪先輩!」

「澪さん?あ、本当だ!」

コートの脇でクラスの女子が応援してる中、そこに澪先輩もいた。

結構熱くなって叫んだり、ピョンピョン跳ねてる。

・・・可愛いなぁ。

なんかいいな、先輩達って。

仲良くて羨ましい。

 

「キャ――!相馬くん、また決めた!カッコイイ~!!」

 

憂が目を輝かせながら叫ぶ。

正直、カッコイイ。

誰がどう見てもカッコよく見えるだろうな。

先輩ってすごいんだな~。

私も応援しよっと!

 

「尾形先輩!!!頑張れ~!」

 

*************************************

 

(SIDE:尾形)

 

「ハァ―――ハァ・・・」

 

 

だいぶ息があがってきた。

あまりバスケ部に顔を出していなかったからだろうか。

もう息が切れる。

とりあえず第一戦は乗り越えた。

大差で勝つことができたけど・・・問題は次だ。

 

二組も順当に勝ち上がってきている。

 

唯や律、ムギも仙崎を全力で応援している。

・・・何故かモヤモヤする。

別に当たり前のことなのに・・・何故だ。

 

そんなことを考えながら、時間は過ぎていく。

そして・・・迎える事実上の決勝戦――――。

 

 

「よう、尾形」

「おう」

「覚悟は出来てるかァ?」

ニヤニヤしながら煽ってくる。

まぁ冗談なのは分かっているが、練習をあまり出ていない俺には負けたくないのだろう。

負けたくねーのは一緒って訳か。

やってやるよ、仙崎。

 

ジャンプボールが始まる。

最初は相手ボール。

すぐさま仙崎にボールは渡り、マッチアップはもちろん俺だ。

「オッ・・・ラァァァッ!!!!!」

ものすごい勢いでドリブルして突進してくる。

もう体格の違いか俺は強引に外に押し出される。

所謂、体格負けだ。

 

バスケほど身体能力の差が出るスポーツはない。

 

コートは狭く、ゴール下では激しくぶつかり合うスポーツだ。

身長が高い奴がいれば、それだけで有利になり。

シュートが上手い奴がいれば、とことん点が入る。

 

だからこそ、それらを両方兼ね備える仙崎を完璧にディフェンスするのは至難の業だった。

成す術なくリングにボールを捻じ込まれる。

勝利の雄叫びと共に、次は仙崎が俺をディフェンスする。

試合の流れは一気に二組だ。

・・・だが負けられない!

 

頭はクールに、心は熱く。

 

「行くぞ・・・仙崎!」

ドリブルを開始し、左右に仙崎を揺さぶりながら、自陣のコートへとボールを運ぶ。

そして――――。

 

「スリー!!」

 

一瞬のスキをついて、スリーポイントを放つ。

仙崎のディフェンスはそれに追いついてはいたが、俺のシュートの方が速かった。

ボールの軌道は綺麗な弧を描き、シュパ!とネットを潜る音が聞こえる。

そしてワッ!とうちのクラスと周りから歓声が上がった。

思わず拳を握りしめる。

 

「相馬!!ナイスッシュー!!」

ディフェンスに戻る途中で声が聞こえる。

その方へ顔を向けると、そこには顔を赤くして応援してる澪がいた。

俺は軽く澪に微笑むと再びディフェンスに専念する。

この試合は澪や和が見てる。

一組が優勝する為には俺が全力を費やさなければならない。

 

そして何より。

 

唯や律、ムギのクラスにはなんとしてでも勝ちたかった。

 

 

 

試合時間は10分。

残り時間は1分を切った。

 

両者息が上がり始める。

辛いのはここからだ。

そして勝負のここから。

点数は同点で、お互いが取った点数も同じくらいか。

あの仙崎相手によく喰らいついているもんだ。

我ながら誇らしい。

だが、日頃の運動不足と、格上の相手をし続けることで体中が悲鳴をあげている。

少し足の動かし方を誤れば、すぐさま攣るだろう。

足が攣ってしまえば、もう敗北も同然。

ここからはミスれない。

一回でもミスれば、それがゲームオーバーだ。

 

実質上の決勝戦。

 

この上なく熱く、盛り上がる。

そんな舞台に立ったのは久々だ―――。

 

一瞬、澪と目が合う。

彼女もまた緊張してる顔で見守っていた。

「尾形、大丈夫か?疲れてねーか?」

「うるせーぞ、仙崎。さっさとかかってこい!」

「じゃ、遠慮なく―――――!」

仙崎はドリブルで突進してくる・・・と思いきやその体を宙に浮かせた。

勢いよく手を伸ばし、シュート態勢に入る。

「ジャンプシュートか・・・!」

かろうじて見えた予備動作に反応するも、向こうとの身長差でボールに手が届かない。

「あめぇよ・・・」

 

残酷にも背後からネットをボールが潜る音が聞こえた。

 

会場がワッ!と盛り上がる。

もうみんながどっちを応援しているのか分からない。

「くそ・・・!」

「チェックメイトだよ、尾形。」

「まだ・・・これからよ。あと一分もあるしな」

そんなことを言いながら、体はもう既に限界を迎えようとしていた。

鍛錬の量なら遥かに仙崎が上にも関わらず、身体能力もアイツの方が上だ。

そんな状態で今までどうにか食らいついたものの・・・どうする・・・?

「相馬!頑張れ!!!」

「え?」

真横から澪の声が聞こえた。

こんな大勢から声援を浴びせられていても、澪の声だけはやけにハッキリ聞こえる。

「まだ逆転できるよ!ファイト!」

「澪・・・」

再び前を見る。

女の子に気づかされちゃ・・・俺もまだまだだな。

・・・弦結。

お前の分も、俺はここで全ての力を出し切る―――!

 

 

残り20秒。

 

 

全神経を集中させディフェンスをする仙崎の前で。

 

 

落ち着いて。

 

 

そして。

 

 

 

 

「ウッッ!!!ラァァ!!!」

 

 

 

ダックイン。

アヒルの如く、背を低くし中にドリブルで切れ込む技。

体格差で負けているなら、スピードで勝負するしかない。

仙崎の右脇目掛け、飛び込む。

だが、その動きは仙崎に読まれ、すぐさま封じられることは分かっていた。

「そう、来ると思っていた・・・よ」

俺の得意分野はスリーポイント。

勝負するなら、そこだ―――――!

前に飛んだ反動を使い、後ろへステップバックする。

仙崎はしまった、と言わんばかりに後退する。

俺と仙崎の距離はほんの体一つ分。

 

でも、俺がシュートを打つには十分すぎるほど空いていた。

 

 

シュート態勢に入り、ボールを放る。

 

 

誰しもが息を飲んだ瞬間だった。

 

 

ボールがリングに届くまでわずか一秒ほどであったが、更にもっと長く感じた。

 

 

そして―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入った――――――!!よっしゃぁ!!!!」

 

 

 

 

*************************************

 

 

球技大会の帰り道のことであった。

俺は軽音部と合流して近くの楽器屋に寄ることになった。

 

「律!!またレフティーフェアやってるよ!!見てもいい!?」

「行ってくればいいじゃん・・・」

「うん!!」

澪が目を輝かせながら走り出す。

本当に左利き用ベースに目がないんだな。

一方、俺はもう足が痛い。

立ってることさえ苦痛だった。

 

俺はどうにか仙崎率いる二組には勝利したものの、全てを出し切ったせいか、その後の四組に惨敗したのだ。

 

それで元気がある方がどうかしてると思う。

脹脛も痛くなってきたな・・・。

「私もスティック見てこよーと。」

「じゃあ私はスコア見てくるわ~」

律とムギも各々どこかへ去ってしまう。

どちらかと言えば、もう俺は動きたくなかった。

「じゃあ私はここで待ってる!」

「唯は何か見なくていいのか?」

「うん!相馬くん一人じゃ可哀想だし」

唯はギターを下し、椅子に座った。

「こんな時でもギターは持ってきてんだな・・・」

俺も続いて座る。

「梓も座りなよ、ほら」

「あ、ありがとうございますっ」

梓は軽くお辞儀をして俺の左に座る。

 

「今日は先輩凄かったですね」

 

席に座るや、言葉を発す彼女。

「いやー、まぁその・・・一応経験者だからな」

「ズルいですよ、嘘つき」

「え?」

「バスケ出来ないって、運動音痴だからって言ってたじゃないですか!」

「あぁ、アレか・・・。ごめん。」

軽く頬を膨らませながら俺を睨みつけてくる。

・・・かわいい。

怒ってるけど。

「でも、本当に相馬くん凄かったよ!参りやした・・・」

「たまたまだよ。本来の実力なら、仙崎の方が上だったさ。」

「そうかなぁ・・・。」

「え?」

唯はどこを見るわけでもなく、告げた。

 

 

 

 

「私は相馬くんを応援してたけど。」

 

 

 

 

「え――――。」

一瞬だが、頭が真っ白になる。

こんなにも熱く、そして耳が赤くなっているのが分かる。

いや、待て待て。

唯はそういう事を平気で言えちゃう子なんだって・・・。

「そういえば、もうそろそろ夏休みですね!」

何か気まずい空気を察したのか、梓が話題を変えた。

そうか、もうすぐ夏休みか。

「今年も夏合宿やんのか?」

「やりたいね!また花火したい!」

「もう合宿っていうか、遊びに近い感じなんですかね・・・」

「梓、もう何も言うな・・・」

「でも去年はちゃんと練習もしたよ!」

「まぁな、二日目はちゃんとしたか。」

 

もうあれから一年が経つのか。

早いもんだな。

もう高校生活も折り返し地点にいるのか。

 

ふと切なくなる。

彼女達との学生生活が終焉に向かっていることに。

考えてみれば、高校2年が最後の学生といっても過言ではないだろう。

3年は受験がある為、遊ぶことは出来ないはずだ。

何も考えずに遊ぶことが出来るのは・・・今年が最後だ。

 

 

これが最後。

 

 

 

澪が目を輝かせながらベースを眺めている。

律が悩みながらスティックを見物している。

ムギが右手でキーボードを弾きながらスコアを眺めている。

唯と梓が仲良く会話している。

 

 

 

そんな姿を見ながら、俺は再び、思う。

 

 

 

 

 

 

これが最後なんだ―――――。

 

 

 




ふと、想う―――。


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#21 また夏合宿!

お久しぶりです。
今回は再びやってくる夏合宿編です~!

お楽しみ下さい!!


 

 

真夏の炎天下。

どうにか期末テストを乗り越えた軽音部は・・・。

 

 

「夏合宿だぁぁぁあああぁ!!」

 

 

というわけで、今年も海です。

またムギの別荘を借りたのだが、去年よりも大きくなっているのにも関わらず・・・まだ一番大きいものではないという。

・・・まじかい。

木造建築のログハウスのような別荘であった。

だがここもスタジオが付いているという。

「本当にムギん家はスゲェな・・・」

「来年は大きいのにするね!」

「あぁ、うん」

これに一番驚いているのは梓だ。

ムギの家の経済力の大きさに驚愕している。

 

「これでスタジオ付いてるんですね・・・凄すぎる―――」

「だろ?まぁ、思う存分練習しよ―――――」

 

 

 

「レッツ!!!オーーシャンッッ!!!」

 

 

 

あー、やばい。

水着に颯爽と着替え、海へとダッシュする律と唯の姿が見えた。

それを白い目で見る梓。

「うぉおおぉいッ!!!」

澪がすかさず止めに入る。

「遊ぶのは練習してから!!約束したでしょ!?」

「えー、遊びたい!」

「遊びたい!」

いつも食い違うよなぁ・・・。

「じゃあ、多数決にしよう!」

「いいよ!」

今のとこ、梓、澪が練習派。

律、ムギ、唯が遊びたい派。

 

・・・一斉に俺に視線が集まる。

「相馬はどっち!?」

 

 

―――悪いな、澪。

 

 

 

「遊びたいでーす」

 

 

*************************************

 

全員水着に着替え、浜辺に出る。

合宿前に女子達で水着を買いに行っていたみたいだから、去年とは違っていた。

今年は俺も泳ぐか!

「相馬くん!ビーチバレーやろ!」

「いいぜ!受けて立ってやる!」

「呑気でいいですね~・・・」

「梓はやらないのか?」

「・・・・・。」

「球技苦手なんだっけ?」

「苦手じゃないです!やってやるです!」

頬を膨らませながら、立ち上がり俺らの輪の中へ入る。

 

「さ、行くぞ!」

俺は高くボールを舞い上げ、唯へトスする。

それを唯は目で追いかけながら走り、手で梓へ。

梓は小さい身体を動かしながら、俺にトス。

だが・・・パワーが足りず俺の下へは届かなかった。

「ありゃ。」

「んーーーーー。悔しい・・・!」

「もっと膝を使わないとな~。バスケと一緒だよ。」

「分かってます!もーー!」

結構梓は負けず嫌いなんだなー、と思う。

それがあそこまでのギターテクニックを身につけさせたのだろう。

そういや、澪にもバスケ教えたことあったっけ。

・・・懐かしいな。

 

 

***

 

 

そこから俺らは泳いだり、鬼ごっこをしたり、律を砂に埋めたり、色々なことをして楽しんだ。

多分、今年一笑ったと思う。

あっという間に日は暮れ、星が見え始めてきた。

「ハァ~~疲れた~!」

「もうご飯食べたーい!」

律と唯は砂浜で寝ころびながら、叫ぶ。

「いや、練習は?」

白い目で見る澪。

「んー、明日やろ!」

「そう言うと思った・・・今日絶対やるからな!」

「だから最初に練習がいいって言ったんですよー!」

それを聞いた梓がノコノコとやってくる。

・・・全身茶色になっていた。

まぁ全身日焼けしていた。

「梓が一番楽しそうに遊んでた気がするけど・・・」

「そっ、そんなことないもん!」

「「「「・・・・・・。」」」」

「そんなことないもんっっ!」

 

 

*************************************

 

夜ご飯はみんなでバーベキュー。

梓と澪が食材を買ってきて、皆で調理をした。

俺と唯は肉を焼く担当。

梓と澪はおにぎりを作る。

律とムギは野菜を切っている。

 

練習は全くしてないし、一応軽音部の夏合宿だけど。

 

でも、こういう時間もいいと思う。

 

「相馬くん、ボーとしてるよ?考え事?」

唯が首を傾げながら聞いてくる。

「いや、違うよ。」

「元気?」

「めっちゃくちゃ元気」

「良かった!そっち焼けてるよ!」

「あっ、おう!ありがとう」

肉をトングで摘み、ひっくり返す。

・・・と同時にバチッ!と火の粉があがり、それが俺の指に触れる。

「あちっ!」

反射ですぐさま指を舐める。

その声に皆が反応して、俺の様子を伺ってくる。

 

「大丈夫!?相馬くん!?」

「どうした?相馬!」

「何かあったんですか?」

梓と澪と唯が近づいてくる。

ムギが奥から絆創膏を持ってきてくれるのが分かる。

「なーんだ、火傷か。唾ぬっときな!」

「俺は少年か・・・」

「ムギ~絆創膏もってきた~?」

「はい~」

花柄の女の子がつけるような可愛い絆創膏をムギが持ってきた。

それを律が受け取り、俺の指に貼ってくれる。

「ほら、これで大丈夫だろ~?」

「おう・・・ありがとう」

「よし!じゃあ作業再開しよっか!」

「「「はーい」」」

 

皆で作業を進めていく。

そして、皆で肉を食べていく。

「美味しい!私みんなで焼くお肉が一番好きだわ~!」

「おお!ムギが言うなら本当だな!」

「このおにぎりも旨いな」

手に取ったおにぎりを食べながら言う。

これはどっちが作ったおにぎりだろ。

「小さい方が梓だよ~!」

「うるさい!」

澪が若干涙目で律に叱る。

・・・手の大きさってことか。

まぁ梓の方が小柄だし、普通っちゃ普通か。

 

 

***

 

 

さて、夕食も終わり、すっかり夜も更けた。

そんな中で部長がこんな提案を。

「肝試しをしよう!!」

「お~!」

「小学生か・・・私はやらないぞ。」

澪が冷静を装いながら背を向ける。

「あれ~澪ちゃん怖いの~?」

「うっ・・・こ、怖くないよ!」

「じゃあやろうか??」

「・・・・・」

あからさまに嫌な顔をする澪。

去年の学園祭を思い出すな。

お化け屋敷に入って絶叫してたな~。

「じゃあ、ペアを決めるぞ~?えっと――――。」

クジをした結果、ペアはこうなった。

 

ムギと唯。

 

律と澪。

 

梓と俺。

 

 

 

「おっ、相馬は梓とか~!」

「ちゃんと守ってあげてね、あずにゃんのこと!」

「何から守るんだよ・・・」

「そりゃ"お化け"でしょ!?此処・・・出るらしいよ~?」

「マジかよ・・・」

「それじゃ!ここの墓地一周ね!よろしく~!」

「なんか本当に罰が当たる気がするぞ・・・」

 

一番手はムギ・唯ペア。

二人とも怖さ知らずなところがあるので、余裕な表情だった。

二番手は澪と律ペア。

恐らく、このペアが一番危ない。

律が何もしなければいいけど。

「先輩、お化けとか信じますか?」

「あ、うーん。どうだろ。非現実的なものは信じねー主義だからな。」

「一緒です。高校生にもなって肝試しするもんなんですね・・・」

「それもそうだな・・・。まぁそれが軽音部らしいってもあるけど。」

「確かにそうですね!」

軽く微笑む梓だったが、ここでずっと気になっていたことを一つ聞く。

「最近どうだ?」

「何がです?」

「軽音部だよ。慣れてきた?」

「まぁ、なんとか。相変わらず唯先輩とかはダラダラしてるけど・・・」

苦笑いをする。

まぁ、そりゃそうか。

「でも演奏になると人が変わったように凄くなるんだよな」

「そうなんですよね!そこは尊敬してるんですけどね~」

「そこはって・・・」

 

 

瞬間。

 

 

キャ――ッ!と遠くから叫び声が聞こえた。

 

 

「―――――ッ!!澪か!?」

「多分この声はそうですね・・・澪先輩のだと!」

「え、出たのかな・・・幽霊」

「怖いこと言わないでください・・・」

「そろそろ時間だ。行くか!」

「尾形先輩!先お願いします~・・・」

「ちょっと怖がってんじゃん・・・」

「うぅ・・・。」

小さく固まる梓を背に、俺と梓は歩き出す。

墓地に挟まれる道を通るってのは本当に気味が悪い。

まぁ所詮怖いと思うから霊とかが見えるのであって、俺はそんな非現実的なものは――――。

 

 

 

俺は"あるモノ"が目に入って思考が停止した。

 

 

 

「ごめん、梓。さっきの言葉撤回・・・」

それと同時に足も停止する。

それに戸惑う梓が俺に声を掛ける。

「急にどうしたんですか!?」

 

 

 

 

「み、み、見えちゃった~~~」

 

 

 

 

「え、お化けですか・・・!?」

「あぁ・・・もう典型的なやつ・・・白いワンピースを着た女性・・・」

梓の顔を見なくても分かる血の気の引く音。

心臓の音だけがやけに大きく感じた。

「戻りませんか・・・先輩・・・!」

ギュッと確かに梓は俺のTシャツの裾を掴んだ。

それから伝わる震え。

やはり澪の絶叫はこれが原因か――――!?

 

俺は震える梓の手の上、手首を優しく掴む。

 

今戻るのも誰も居ないし、危ない。

ここは先に進んで、止まってる澪達と合流したほうがいい。

さっきのは俺が見えただけで、梓も見たわけじゃない。

俺の見間違えって可能性もある。

「先進むぞ、梓」

「え・・・無理ですよ・・・怖いです・・・!」

「俺が付いてるから大丈夫だよ。さっきのは見間違えだ。大丈夫。」

「うーん・・・はい。分かりました・・・!」

 

俺と梓は墓地の間の通路を進んでいく。

今にも出そうなその雰囲気、確かに俺の中の危機を知らせる第六感的なものが警告音を鳴らしている。

だが、男である以上引き下がる訳にはいかない・・・。

初めて弱気な梓を見た気がした。

だが。

 

 

「梓ちゃあぁぁああぁぁあん―――――――――」

 

 

 

 

「「うわああああああああああああああぁぁあッ!!!!???」」

 

 

 

 

二人して情けない悲鳴をあげた。

とっさにだが、梓を自分の背後にやり状況を整理する。

遂に霊が出たのか・・・!?

いや、でもこの声聞き覚えあるぞ・・・。

まさかな・・・。

「・・・山中先生じゃないですか」

白いワンピースを着た女の人。

あぁ・・・マジか・・・。

「ヤダ☆バレちゃった☆」

「「・・・・・・・・・」」

二人して白い目で見る。

 

すると奥からその悲鳴を聞きつけた唯とムギがやってきた。

 

「さわちゃん!来てたんだ!」

「途中で迷子になっちゃってぇ・・・」

「あ、はぁ」

この人大人だよな・・・。

「まぁ、何もともあれお化けじゃなくて良かった・・・」

「あ~ら、相馬ちゃん。怖かったの?怖かったんでしょ?」

「はいはい、怖かったよ!ちくしょー!」

想定内と言わんばかりに山中先生が煽ってくる。

 

ふと梓と目が合う。

 

「梓も怖かったよな?」

「え、えぇ。まぁ・・・。でも先輩が居たので・・・。」

「やはり二人はそういう関係なのね~」

「「違いますッ!」」

 

 

*************************************

 

 

「じゃ、寝るぞ~?」

 

無事?夏合宿一日目終了。

かなり疲労でもう眠い。

「おい、律。また人の耳の側でドラム叩くなんてことはしないでくれよ?」

「分かってるって~」

ニヤニヤしながら返事するな、怖いから。

去年と同じく俺は女性陣と同じ部屋で寝る事になる。

 

そういえば、去年は澪と海辺を歩いたんだっけ?

 

「懐かしいな・・・」

「今、去年のこと思い出してた?」

突然、澪が俺に話し掛けてくる。

「ああ。澪と散歩したっけなって思ってさ」

「懐かしいな」

「だろ?もう一年経つんだな」

「あぁ。早いよな~」

 

 

なんとなく過ごしている毎日だけど。

 

決して当たり前なんかじゃない。

 

そして、ソレは終わりに近づいている。

 

ゆっくり、ゆっくりと。

 

確かに少しづつ。

 

 

すると澪が俺に顔を近づけ、耳打ちしてくる。

 

 

 

「今年も散歩する?」

 

 

 

「え――――?」

 

少し頬を赤らませながら。

澪は小声でそういった。

思わず俺も赤くなる。

胸の鼓動が高鳴る音がした。

 

「いや、何言って―――」

 

「なーんて、なっ!冗談だよ冗談!」

 

爽やかな笑顔をこちらに向けてくる澪。

思わずそう返してしまったが、俺は確かに一瞬行きたいと思ってしまった。

澪も冗談を言うと、ついつい可愛く思ってしまう。

あまり言わないからだろうか。

理由は分からないけど、目で追ってしまうのだ。

「おやすみ、相馬!」

「おやすみ・・・」

「それじゃ寝るぞ~!」

唯と律とムギの枕投げが終了したので、電気が消される。

暗闇になる部屋の中で夜月の灯りだけが部屋を照らし出す。

「――――。」

 

 

 

 

俺は澪が好き・・・なんだろうか―――?

 

 

 




相馬、気付く―――。


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#22 うん!

お久しぶりです、今回はドキドキする回になっていると思います!

それぞれの恋愛が徐々に動き出します~!


 

夏合宿二日目。

俺らは朝食を済ませ、早速スタジオへと入る。

去年と同じく二日目は練習に明け暮れるのだろう。

 

「ねむい・・・」

「唯ちゃん、しっかり!」

「ムギちゃん眠いよぅ~」

「昨日しっかり八時間睡眠とっただろ?」

「うんー・・・」

「まったく!」

呆れながらに律が溜息をつく。

「でも昨日、私トイレで起きたんですけど・・・」

ふと梓が声をあげる。

唯の方を向きながら、

「唯先輩、一人で練習してました!」

「そのあと一緒に練習したもんね~!あずにゃん!」

「唯にしては偉いな!」

「それで眠かったのね~」

「うんー・・・」

何度も目を擦る唯。

 

 

「さーて、来月に本番を控えてるので、本気を出さないとね!」

「そうですね!」

梓が目を輝かせながら言う。

そうか、梓は学祭が初めてなんだ。

そりゃ気合も入るな。

 

「ねぇ、さわちゃんは?」

キョトンとしながら唯が尋ねる。

「あーさわちゃんなら昨日の疲れでまだ寝てるよ・・・」

苦笑しながら律。

 

「んで、まず歌は何にするかだな?」

「はい!"ふわふわ時間"!」

先ほどまで眠たがっていた唯がすかさず手をあげ叫ぶ。

「急に元気だな・・・」

 

「いいんじゃないか?俺、唯が歌う"ふわふわ時間"好きだぜ」

 

「ほんとっ!?」

「あぁ、今年もやりなよ」

「うん!ありがと~!」

とても、それはとても嬉しそうに笑う唯。

なんだかこちらまで嬉しくなる。

「それじゃ~・・・"ふわふわ"は入れるとして・・・他には?」

スティックを指でクルクルさせながら皆を見渡す律。

今日はカチューシャではなく、前髪をゴムで縛っているだけなのでチョンマゲのような形になっていた。

意外と似合っていて可愛かった。

・・・っと今はそんなこと考えている場合じゃない。

 

「私はあれ歌いたいな!"ふでぺん・ボールペン"!」

「お!早速新曲だな~?いいね!」

「あの歌好きなんだよな~私!」

俺は聞いたことなかったが、澪が言うからにはいい曲なのだろう。

これは澪がボーカルなのかな?

「他には?」

「んー。何がいいだろうね。」

「あれはどうですか?私の恋はホッチキス!」

「梓が入部してくれた曲か!」

「いいね!いれよ!梓歌う?」

「いいね~!あずにゃん歌いなよ~!」

「えっ、い、いいですよ!唯先輩や澪先輩が歌ってくださいっ!」

「えーなんでー?」

「私、ボーカルやったことないんで・・・」

 

「意外と音痴だったりしてな・・・ハハハ」

 

と俺が言うと空気が凍り、梓から睨まれたのですかさず謝った。

「じゃあ私とハモってみるか?」

「えっ、そんな・・・澪先輩とだなんて・・・!」

目をキラキラさせ興奮している梓。

なんかこう俺らとは違う視線だよな・・・。

「梓はほんと澪を慕ってるよなぁ~」

「当たり前です!律先輩とは違うんです~!」

「言ってくれるな小娘がっ!」

律は強引に梓の首に手を回し、頭をグリグリする。

「ご、ごめんなさいいい!」

「グヘヘ・・・もっと悲鳴をあげんか!―――グハァ!」

 

 

律がお約束のゲンコツを澪に喰らったところで、音合わせの練習はスタートした。

 

 

初めに練習したのは、"ふでぺん・ボールペン"。

出だしのリフがカッコイイ。

ひょっとしたら今までで一番好きかもしれない。

 

このまま頑張ってほしいものだ。

 

************************************

 

午後になり、昼食を済ませ、再び練習へと戻る。

俺は気分転換(飽きた・疲れたと言ったら殺されるので)で夕食の買い出しに向かうことにした。

 

夏の海を横目に見ながら長い道路を自転車で漕ぐ。

自転車がある時点で、本当にムギの別荘は何でも揃ってるよな。

なんか車まであったし・・・。

 

すると背後から車のクラクションを鳴らす音が聞こえた。

 

「ん?あ、さわ子先生・・・!」

「おはよう。どこにいくつもり?」

「ちょっとスーパーまで。夕食の分とか色々・・・」

「乗っていきなさいよ!後ろに自転車乗せて!」

「・・・これ先生の車じゃないですよね・・・」

「あら、ムギちゃんが許可してくれたわよ?」

「もう敵いませんわ・・・」

「ほんとよね」

 

俺は助手席に乗る。

車の中はクーラーが効いていてとても涼しかった。

なんか運転するさわ子先生は少しカッコよかった。

いつもあんなんだからな。

 

 

「あなたもすっかり軽音部ね~」

「そうですね。なんでなんだか自分でも。」

「いいんじゃない?男の子一人でハーレムだし。」

「うるさいですよ~。それ皆に言われるんですから。」

「他には何やってるんだっけ?」

「バスケ部です。」

「そっちは大丈夫なの?」

「上手く両立してます。今度また大会があるんですよね」

 

「目指せ!相ちゃん!甲子園!―――か。青春ね~」

 

「あの先生・・・それ競技違うんで。」

「あれ、バスケはなんなの?」

「インターハイですよ。それ分からなくても甲子園じゃないのは分かるでしょ・・・」

「ヘテッ☆」

「いや、あの、キツイデスヨ」

とっさに睨まれたので即座に謝る。

この人怒らしちゃいけない人だった・・・忘れてた・・・。

 

「スーパーだとアレだから、デパート行きましょうか。」

「え?」

「ほら、あなた達、花火とかしたい年頃でしょ?だから付き合ってあげるって言ってんの!」

「あぁ、ありがとうございます!」

 

実際いい先生なんだよな・・・。

地味に自分もやりたいオーラ出てるけど。

 

 

***

 

 

デパートに行き、食材や花火等を買い占める。

なんかさわ子先生の買い物にも付き合いさせられるし。

まぁ、色々買えたからよかった。

だが、少し長居し過ぎてしまったらしく、すっかり夕方になっていた。

 

そんな、帰りの車の中にて。

「あら、こんなとこでお祭りやってるわね」

さわ子先生が運転席側の窓を見る。

視線の先には、結構規模の大きい祭りがやっていた。

「ほんとですね~」

「あとであの子達も誘ってみましょうか。」

「そうですね、練習で疲れてるだろうし」

「ほんと青春よね~あなた達」

 

 

「先生も昔、軽音部なんでしたよね?」

「えぇ、そうよ」

 

 

さわ子先生はこちらを向かずに返した。

遠くを見つめるように。

そして軽く微笑みながら。

何かを懐かしむように。

 

「懐かしいわ」

「そうですね」

「今の軽音部とは方向性はまるで違うけど、それでも私はあの時が一番輝いてたわね、確実。」

「輝いてた―――」

 

「ええ。だって青春だもの。」

 

何故か。

本当に何故か、その言葉は俺の胸に大きく響いた。

そうか、誰にだってあった時期なんだ。

それは誰しもではないかもしれないが、輝ける場所なんだ。

一番、可能性のある自分なのか。

 

「私にだって青春の時期はあったんです~。今と違って女子高だったけど、他校に好きな先輩だっていたし、友達と喧嘩したり、色々大変だったわよ~」

 

「へぇ」

「でもそれら全部含めて、今良かったと思えるから、青春なのよ。今しかないのよ、今しか!」

「今しか・・・ない、か」

「えぇ。あなたも全力で楽しみなさい!現に、あの子達はものすごく楽しんでるじゃない?」

「そうですね」

「どうかしたの?」

 

さわ子先生は今度はこちらを向いて問いかけてきた。

赤信号待ちがとても長く感じる。

 

「いや、別に」

「私は仮にも先生なのよ、話してごらんなさいよ。恋の悩み?」

「あっ、いや・・・そういう訳じゃ・・・」

「じゃあなに?」

 

 

「怖いんです、俺」

 

 

「何が?」

 

 

「いや、今が楽しすぎるから・・・俺こんなに楽しかったのは初めてで・・・。」

 

「うん―――。」

 

 

 

「こんな生活がずっと続けばいいな、って思ったんですけど・・・。そんなのは無理な話で・・・」

 

 

 

「おんなじね、私と。」

「え?」

予想外の返事が返ってきて、案外驚く。

同じってどういうことだろう。

 

「私、三年になって最後の学祭終わった瞬間に号泣しちゃってね、今まで貯めてた気持ち全部曝け出すかのようにね。」

「――――」

「もう終わりなんだなーって、ずっとバンドしてたいなーってさ」

「そうですね」

「でも時間は待ってくれない、進んでいくものなのよ。」

「・・・・・」

「気が付けば、卒業式。いつも見送る立場だったのに、見送られる立場になっちゃってね。いつもみんなと帰ってた道もこれで最後か、ってなってまた泣いちゃって。」

さわ子先生はまた、軽く微笑んだ。

 

 

「そういうものなのよ、青春って。そういうものなの。だから貴重なのよ?」

 

 

「先生・・・何か俺先生に対する考え方変わりました・・・」

「どーゆーことよ!?」

口を尖らせる先生だが、実際見方が変わったのは事実だ。

来年の担任は先生がいいな。

そんなことを考えていたら、さわ子先生がニヤニヤしながら俺に語り掛けてきた。

 

 

 

 

「それで?あなたは誰を選ぶの?」

 

 

 

 

「・・・はい?」

「あら、はぐらかしちゃって~。先生はなんでもお見通しなのよ?」

「本当に分かりません。」

「好きな子はいないの?」

「そういうことですか・・・」

 

「若い子の恋愛話は大好物なのよ。どうなの?澪ちゃんは?」

 

思わず吹き出してしまう。

横目でチラりとさわ子先生を見るが、言い逃れは出来無さそうな様子だった。

「なんで澪なんすか・・・?」

「気付かないとでも思ったの~?青春を感じたわよ、先生のセンサーがね」

「どんなセンサーですか・・・」

「でどうなの?」

この人からは・・・逃げられねーか。

一回溜息をついてから、口を開く。

 

 

 

 

 

「正直、分かんねーす。自分がどんな気持ちなのか・・・これが好きなのかっていうのも・・・。」

 

 

 

 

 

「可愛いわね~澪ちゃんの事は目で追っちゃう?」

「うるさいですよ!どうなんですかね・・・いつも一緒にいるし、分かんないですね」

「なるほどね、自分なりに決めればいいのよ。自分なりに、ね」

「自分なり・・・か」

「まぁ軽音部は可愛い子しかいないから、あなたも大変でしょうけど。」

「それはまぁ認めます」

「素直じゃない。私はてっきり唯ちゃんかと思ってたけどね。」

 

 

 

「え―――――」

 

 

************************************

 

 

「うっわ~!こんな山奥でもお祭りやってるんだ~!」

「凄いわね~!」

「うん!確かに凄いな!!」

「久々にお祭り来ました!」

「テンションあがるね~!あずにゃん!」

「くっつかないでくださーい!」

 

さわ子先生に連れられて、さきほど見かけたお祭りへと彼女達を連れて行った。

練習で疲れてたのか、彼女達は大喜びしていた。

「連れてきて良かったわね!」

「ですね!」

 

「相馬!あっちで花火配ってるぞ!行くぞ!」

目を輝かせ、俺を呼ぶ律。

ドラムの疲れなどどこにも見えなかった。

タフだな、と思う。

 

「早く早く!」

「分かったよ!」

係員の人から花火を人数分もらい、律と半分個ずつ持つ。

「無料配布ってすごいな。余ったのか?」

「余計なことは気にしないの!」

「だな。律、それ持つよ」

「え?」

「お前、ドラムで疲れてんだろ?ほれ!」

律の前に手を出す。

少し頬を赤らめながら、ありがとと小さく言った。

意外と乙女っぽいんだよな、律って。

「じゃあ皆のところ戻ろうぜ、行くぞ」

「うん!」

 

 

***

 

 

 

時間は少し巻き戻る。

 

「うんしょ、うんしょっと」

 

唯はさわ子の荷物運びを手伝っていた。

車にのせた買い物袋やさわ子の荷物を降ろしていたのだ。

「ごめんね、手伝わせちゃって。本当なら相馬くんにしようと思ったんだけど・・・」

「全然いいよ~!私力持ちなんで!ふんす!」

「た、頼もしいわ~」

「よいしょっと!」

「これ運んだら終わりよ!ありがとう!」

「はーい!」

 

最後の荷物をリビングへと持っていく唯。

さわ子はその跡を追う。

うっすら汗をかいているTシャツが見える。

練習頑張ったのか、とさわ子は納得する。

 

夕暮れになり、部屋もすっかり薄暗くなったリビングには、さわ子と唯の二人しかいない。

 

「さわちゃん先生~ここでいい~?」

「ええ、ありがとう」

「ふぅ、疲れた~」

「ありがとね、後で美味しいもの買ってあげる」

「わーい!ありがと~!」

「皆は?」

「外で遊んでると思います、たぶん」

「そうなの」

 

さわ子はどこを見るわけでもなく、軽くソファーに腰掛ける。

唯は自分の背以上に大きい窓の前に立ち、大きな伸びをする。

短パンとTシャツがキュと引き締まって背中が少し見えた。

こう見ると、唯はかなりスタイルがいい方である。

足も細く、スレンダーである。

さわ子は若干羨ましそうにするも、自分の愚かさに呆れ、溜息をついた。

「どうしたの?」

「いいえ、なんでもないわよ」

 

静まり返る、リビング。

こんな状況は去年にもあったが、それは誰も知らない。

 

 

 

「ねぇ、唯ちゃん。」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

「唯ちゃんは、相馬くんのことが好きなの?」

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

どこを見るわけでもなく。

 

唯は何も躊躇わず、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん!」

 

 




秘められた、恋心―――。


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#23 嫉妬!

お久しぶりです!
更新遅れてごめんなさい!

今回はオリジナル回で、相馬の気持ちが揺れ動きます~

次回から学祭編!突入します!!


 

「おーい!憂~!」

「あ!梓ちゃん!」

 

梓が大きく手を振りながら、憂の方へと向かってくる。

横断歩道を右左首振りながら、渡る。

一週間ぶりくらいの再会だが、そのこんがり焼けた梓の肌を見て、憂は戸惑う。

 

「誰!?」

「ひっどい・・・!憂までそんなこというのぉ~・・・」

「えへへ、ごめんごめん。ちゃんと分かってるよ~!」

「そういうとこは唯先輩そっくりだよね」

「えへへ~」

「褒めてないし!」

 

二人は挨拶を終わらせると、近くのファミレスに入った。

ウェイトレスに案内され、一番奥の席へと向かう。

「じゃ、ドリンクバーとポテトにしよっかな~」

「私も同じので!」

「夏合宿どうだった?」

 

「楽しかった!!」

 

梓は思わず目を輝かせて叫んだ。

憂はそれを見て微笑んだ。

「そっか!良かったね!」

「・・・あ。」

何か思い出したのか、少し照れ臭そうにする梓。

最近まで軽音部の愚痴しか言っていなかったものの、なんだかんだで軽音部色に染まってきた事に気づいたからであろうか。

憂はそれを感じ取り、嬉しく思ったのだった。

「何が楽しかったの?練習?」

「うーん、まぁ練習もしっかり出来たけど、やっぱり遊びの方が多かったかな。でも楽しかった!みんなで花火とかしたし!」

「夏らしいね~!」

「うん!あとお祭りにも行ったよ!あと海!肝試しもした!」

「たくさん夏を満喫したんだね!」

「楽しかったな~。今まで部活の合宿っていったら朝から夜まで練習だったから、こんな遊んだの初めて!」

「良かったじゃん!いいなー、私も行きたかった~」

「憂も軽音部入ればいいのに!」

「うんー。でも今更って感じだし・・・」

「そんなことないのに~。」

 

ウェイトレスが運んできたポテトをつまむ梓。

それに続いて、憂も手を伸ばす。

 

「うーん。もう夏も終わりか~」

「そうだね、二学期が始まっちゃう」

「嫌だぁ~」

「でもまたみんなに会えるから、私は楽しみだな~」

「呑気でいいわね~」

「そう?」

 

「梓ちゃん、変わったよね。」

 

「へ?」

憂はなんとなく嬉しそうにしながら。

「もちろん、いい意味でだよ?梓ちゃん、なんか楽しそう!」

「そ、そうかな?」

「うん!最初は軽音部の練習について色々言ってたけど、なんか最近は遊ぶことも楽しそう!」

「う・・・それは・・・」」

「お姉ちゃんも楽しそうだったな~夏!」

「たまには羽目を外して遊ぶのもいいなーって。そう思うようになったかも・・・」

「いいことだよ!軽音部らしくなってきたね!」

「うるさーい」

「あ!写真見せて!夏合宿の!」

「いいよ!」

 

梓はショルダーバックから写真を何枚か取り出す。

大事そうにビニールに包まれている。

「はい!」

「お~!相馬くんだ!」

「へ?」

「これ!」

「あ、それは肝試しのやつ!私、尾形先輩とペアだったんだよね。」

「いいな~」

「いい・・・の?」

「うん!相馬くん守ってくれそう!」

「あー・・・、確かに・・・守ってくれた・・・よ」

「やっぱりーー!かっこいいよね、相馬くん!」

テンションが何故かあがる憂を見て、唯の姿を思い出す梓。

本当にこの姉妹は似てる、と感じる。

(尾形先輩がカッコイイ・・・か。)

梓はどこを見るわけでもなく、尾形の顔を思い浮かべる。

確かに、尾形は梓を守ってくれてはいたが・・・。

(顔は普通より上・・・アイドルや俳優みたいなカッコよさではない・・・すると行動がカッコイイ?)

果たして、憂はどこがカッコイイと思っているのか、素朴な疑問を持つ。

 

 

(そういえば、ギター弾いてる男の人とかは、漠然にカッコイイとか思った事はあるけど、恋愛したことないからなぁ・・・)

 

 

「梓ちゃんは好きな人とかいないの?」

 

「へっ!?」

 

思わず梓は変な声をあげてしまう。

自分が考えていたことと憂が言った事がシンクロしたからであろうか。

「い、いないよ!私、好きとかよく分からないし・・・」

「そうなの?」

「うんー。」

「ギターが恋人?」

「それは憂のお姉ちゃんでしょー?」

「ギー太ね~!」

「そうそう」

「確かにお姉ちゃんはギー太好きだけど・・・」

憂はストローに口を当て、飲み物を口に含み、飲み込む。

 

 

「最近は、それだけでもないみたいだよ?」

 

 

************************************

 

 

 

「いや~始まりましたな~!二学期!!」

 

律のこの声でいつも通りの放課後が始まる。

蝉の鳴き声が静かになる頃、二学期がスタートした。

久し振りに学校に登校した尾形は、久々のこの空気感に懐かしさを覚えた。

この教室中がザワザワする空気感と、外から聞こえる部活の朝練の掛け声。

これだけで学校が始まったな、と実感するのであった。

 

随分と久しく、部室に入った気がする。

夏休みに何度か清掃のために来たものの、やはり懐かしさを感じるのであった。

 

「二学期と言えば~!?」

律が思いっきり皆を煽る。

尾形以外に澪と梓も目を点にしていたが、唯と紬はノリノリであった。

「ライブ!」と紬。

「学祭!」と律。

「屋台!」と唯。

「メイド喫茶!!!」と律。

 

その言葉を発せられた瞬間に、澪の怒りの鉄拳が律の顔面にクリーンヒットした。

こうなることを予測されていたのだろう。

変な発言をしなくて良かった、と安堵する小心者の尾形であった。

 

「今年もそういうこと言うのかな?律ちゃんは・・・」

「殺気出すな、澪・・・」

チリチリと感じるどす黒いオーラが痛い。

「相馬も見たいんだろ?澪!貴様に仲間はいないぞ~!」

横目でニヤつきながら律は尾形の横腹を突いた。

考えていたことがバレた、と言わん顔で、ひえっと尾形は変な声をあげる。

「そうなの・・・?」

「おいおい、誤解だぜ誤解。俺がそんなこと思うわけないだろ~。俺は紳士なジェントルマンだぜ?」

「あぁ、そう・・・」

 

少し拗ねた表情を浮かべた澪は、尾形から視線を外した。

それに?マークを浮かべる尾形。

結局、乙女心は難しいのであった。

「そんなことより!もう学祭まで時間ないですよ!?練習しましょうよ!」

あまりにも脱線し過ぎた話題に痺れを切らしたのか、梓が叫ぶ。

「そうだね!さすが真面目あずにゃん!」

「真面目っていうか・・・これが普通なんですけどね・・・」

「梓にとってもこれが初めての学祭だから、緊張するんだろ?練習したい気持ちもわかるよ」

「澪先輩・・・」

「くっー、また澪にいいとこ持ってかれたぜ・・・」

「律、君が悪い」

 

なんだかんだで始まる学祭。

尾形達二年生にとっては二回目の学祭。

梓にとっては初めての学祭。

ここに違いなどあるだろうか?

否。

このバンドメンバーにとっては、そんなものは存在しなかった。

ただ純粋に。

ただ単純に。

そう楽しむだけだった。

毎回新鮮な気持ちで挑むことができる、それがこのバンドのいいところなんだろう、と尾形は感じる。

その唯達が互いに笑いあって練習する光景を見ているからこそ、思うのかもしれない。

 

改めて、このバンドに入ってよかったと感じる尾形であった。

 

 

************************************

 

(SIDE:尾形)

 

 

「相馬!起きて!起きてってば!」

「ん・・・んん!?」

 

ふと体を強く揺さぶられて、睡眠の底にいたところ叩き起こされる。

いきなり現実に突き戻される感がたまらなく気持ち悪かった。

この声は誰だろうか・・・。

澪、か。

 

「あれ、俺いつの間にまた寝ちまったんだ・・・」

「もう放課後だよ?掃除始めるぞ?」

「そうか・・・そんな時間か・・・」

ふと時計に目をやると本当に午後四時くらいになっていた。

だがまだ眠い。

二学期に入ってからこの調子だ。

「終礼のときも寝てたじゃん!先生も呆れてたぞ~」

「わりぃ。最近家だと寝付き悪くてさ・・・」

「そうなの?なんで?」

「わかんねー。なんでだろ」

澪はそんなことを言う俺の目をずっと見てくる。

俺がなんだよ、と言おうとした瞬間。

 

「何か悩みでもあるのか?」

 

ちょこん、と聞く澪。

いきなりの質問で何を返せばいいのか。

「いや、そういうんじゃないけど・・・」

 

「その・・・こ、恋の・・・悩み・・・とか?」

 

何故か照れ臭そうに言う澪。

頬を赤らめながら髪をいじる。

「なんでそうなる・・・?」

「違うのか?」

「あたりめーだろ。俺の恋人はバスケだ!」

「・・・そうなんだ」

「いや、そんな白い目で見ないで・・・」

「じゃ、部活行くな!相馬はバスケ部頑張れよ!」

「あ、おう―――」

 

澪はスタスタと教室を出ていき、俺に背を向けて廊下を歩いて行った。

 

 

 

***

 

 

俺も部活、バスケ部に行くとするか。

教室を出て、体育館へと向かう。

多くの生徒が下校へ、校門へと向かう。

その校門を通り過ぎ、俺は体育館へ。

 

最中、俺はあるものを目にする。

 

 

 

「平沢~、これ忘れていったぞ~」

この声と顔は知っていた。

同じバスケ部の仙崎だ。

そして、彼が呼んだ名前の苗字もまた、俺は知っていた。

 

「あ!仙崎くん!ありがと~!」

「おう、前も忘れていったよな。平沢はおっちょこちょいか?」

「えへへ~、それ友達にもよく言われるんだ~」

「ハハ、やっぱ面白いやつだな。平沢。」

「そうかなぁ?」

「今度試合見に来いよ、軽音部頑張れよ!」

「うん!観に行きたい!あちがと!じゃあね!」

 

その一連のやり取りを、俺は見てしまった。

別に普通の会話だが・・・。

 

そうだ。

俺と唯はクラスが違う。

もう一年の時みたいにずっと一緒ではない。

あいつにも新しい出会いなどがあるわけで・・・。

それが自分の部活のライバルってことも十分あるわけで・・・。

そんなことにずっと気付かなかった自分がいて・・。

 

「お!よう、尾形!」

「よ・・・よう」

「何してんだ?部活行くぞ」

「あぁ・・・」

 

「平沢唯、軽音部で一緒だろ?」

 

急にそんなことを言われる。

全身から嫌な汗が流れる。

「あぁ、そうだよ」

「可愛いよな~、俺のタイプだ。ストライクっていうの?」

「そうなのか?」

「あぁ。同じクラスで同じ班なんだ。今年は文化祭で模擬店をやることになったし、さぞかし可愛いんだろうな!」

「そうだろうな」

「なぁ!軽音部での平沢ってどんな感じ!?」

「・・・明るくて良い奴だよ」

どうしても声のトーンが落ちてしまう。

くそ・・・、何なんだこの気持ちは・・・!

「好きになっちまうよ・・・全くよ。今度試合に誘ったんだ!お前からも誘ってやれよな!」

「いいよ、別に・・・」

「頼むって!じゃ、行くか!」

 

いつの間にか体育館へと着いてしまう。

あぁ、くそ。

嫉妬?憎悪?独占欲?

この気持ちはなんだ。

 

俺は澪が好きなのではないのか・・・?

でも澪は確かにモテるが、男子と仲良く話すところを見ていない。

・・・というか常日頃からそんなことはあいつの性格上起こらない。

だが、唯は別だ。

唯は友達なんじゃないのか・・・?

 

なんだっていうんだ・・・。

 

 

************************************

 

 

夕暮れ。

すっかり時計も七時を回っていた。

校門でバンドメンバーが俺を待っていた。

「うぃーす!お疲れ!相馬!」

「おう」

律が腕を肩に回してくる。

「どうだった?何点決めてきた!?」

「今日は試合じゃねーよ。てか汗臭いのバレるからやめろ・・・」

「全く可愛げがないのぅ。」

「お疲れ様でした~」

「サンキュームギ。」

「先輩バスケ部もやってるなんて・・・大変ですよね。」

「掛け持ちはつらいよ、ふう」

 

いつもの道を歩く。

駅までの道のりが短く感じる。

律やムギや唯が今日あったことを面白おかしく話してくれる。

澪も梓も俺のバスケ部の話を聞いてくれる。

 

だけど、そんな中で会話に集中できない俺がいた。

 

どうしても、唯のことが気にかかってしまうのだ。

別に唯に友達がいていいはずなのに、当たり前のことなのに。

まぁいずれ時間が解決してくれると思う。

そうなることを祈ろう。

 

いつの間にか駅に着き、解散となる。

俺は電車に乗り、唯一駅が一緒の唯と帰る事に。

 

 

「今日、相馬くん元気ないね。」

 

 

「え?」

 

 

不意に彼女は言葉を発した。

その表情に、いつもの彼女の笑みはない。

心配そうな表情でこちらを見つめている。

 

「そ、そんなことないよ!」

咄嗟にでた台詞がそれ。

取り繕ってしまう。

 

「ううん。絶対そう!何かあったでしょ!唯先輩に話してみなさい!」

「先輩って・・・。なんもねーて。」

「嘘だぁ~」

 

彼女の優しさが逆に辛い。

俺の中での気持ちが何かに変わっていく。

 

 

 

 

「なんもないって!!そう言ってるだろ!!??」

 

 

 

 

気付けば。

俺は思わず声を荒げてしまっていた。

 

唯は何も悪くないのに・・・。

なんてことをしてしまったんだ・・・俺は・・・。

 

 

「ご、ごめん・・・。相馬くん・・・。」

 

「あぁ、いや!違う!違うんだ!今のは・・・俺が悪かった・・・唯は何も悪くないよ。ごめんな・・・」

 

「何かあったら言ってね・・・私で良ければ聞くから。」

なんて優しいんだ。

唯は・・・何も悪くないのに・・・。

この思いを唯に打ち明けてもいいのだろうか。

それが解決策なのだろうか。

分からない。

分からないことだらけだ。

 

でも・・・聞かなきゃ。

 

そんな矛盾している思いが、俺の口を動かした。

 

 

 

 

 

「なぁ、唯は好きな人とかいないのか?」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

一瞬だが、時が止まった気がした。

本当に一瞬。

会話を続ければ、無限にでも続けられるような子なのに。

そんな彼女でさえも止まってしまう。

そんな重くとらえなくてもいいつもりで言ったが。

それでも俺は茶化さず待った。

彼女が返答するのに、僅か三秒くらい経過したが、それがものすごく長く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「好きって、どんな?」

 

 

 

「どんなって・・・その・・・恋愛面において。」

 

 

 

「恋愛かぁ。私、恋したことないから分からないんだよね、あんまり。」

 

 

 

「そうなのか?てっきり俺はあるのかと・・・」

 

 

 

「いつもボーッとして過ごしてたからかな?あんま考えたことなかった!」

 

 

 

「そうなんだ・・・まぁ唯っぽいっちゃ唯らしいな。」

 

 

 

「えへへ。」

 

 

 

そんなことを言い微笑む彼女の横顔を見て、思わず見惚れてしまった。

 

いつもは見せない女性の一面を見たからだろうか?

 

そうだとしても、思い返せば、唯とそういう話をしたことすらなかった。

 

だからこそかもしれない。

 

「相馬くん、恋のことで悩んでるの?」

 

ふいに彼女が口を開いた。澪と同じことを聞かれる。

 

 

 

 

「あぁ、そうだよ」

 

 

 

でも答えは違った。

 

何故だろう、唯には素直に話すことが出来た。

 

理由は分からない。

 

でも、今のこのモヤモヤした気持ちを晴らすには、それしかないと思った。

 

「そうなんだ。じゃあ私はあんまし力になれないかもなぁ・・・。経験ないし・・・」

 

「俺も同じだよ、ない」

 

「あはは。一緒だね!」

 

「嬉しくないけどな・・・」

 

こんな唯は初めて見た気がする。

 

いつも無邪気で、元気で、いつも笑っていて。

 

そんな唯の一面しか見てこなかったから余計に。

 

だからこそ。

 

 

 

 

 

「相馬くんは好きな人、いるの?」

 

 

 

 

 

「―――――、いる。」

 

 

 

 

 

「えーー!!誰ーーー!?気になる気になる!!!」

 

 

 

 

 

「それは―――――・・・」

 

 

 

 

 

「澪ちゃん・・・とか!?」

 

 

 

 

 

「え!?」

 

 

 

 

 

「あたり?」

 

 

 

 

 

何故か、嬉しそうにこちらを見る唯。

 

なんでそんな嬉しそうなんだろう。

 

しかもなんで澪ってドンピシャで言われるんだ・・・?俺って分かりやすいのかな。

 

「ち、ちげーよ・・・」

 

さすがにここまで素直になれなかった。

 

でも、またそれで心の中の霧は深くなっていった気がする。

 

「え!?じゃああずにゃんとか!?私のあずにゃんがーーー!待って!りっちゃん、ムギちゃんの可能性もあるなぁ・・・キャーー!!」

 

「待て待て、勝手に話を進めるんじゃない・・・。なんでそもそもバンドメンバーに限定される!?」

 

「えー、だって私クラス違うし、そこしか分かんないもん。もしや、和ちゃんとか~?」

 

楽しそうに話す彼女の言葉一つ一つが胸に響く。

 

・・・そんなんじゃないのに。

 

「まぁ、私で良ければ、相談に乗ろう!」

 

ふんす!と意気込む彼女の笑顔が・・・痛い。

そんなことを思っていると、いつの間にか唯の家へと着いてしまった。

いつもの帰路が速く感じた。

 

「あぁ、頼んだ」

「うん!任せて~!」

「おう」

「じゃ、またね!」

「おう、またな!」

 

手を振り、彼女を見送る。

一人になり、そして自分の家へと帰っていく。

夜の風が少し心地よく感じた。

 

そんな気がした。

 

 

***

 

 

刹那。

 

ブーッと携帯のバイブが鳴った。

 

真っ暗な夕闇の中で携帯を開く。

 

宛先覧を見ると、そこには"平沢唯"と書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『好きな人・・・実は!私もいるんだ~~!』

 

 

 

 




ハジマル―――――。


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#24 放課後ティータイム!

お久しぶりです。
今回の回は原作とオリジナルを混ぜ合わせました!
学園祭編スタートです!
もうすぐアニメ一期の内容が終了に近付いていますね!
この物語も折り返しにきました!最後まで楽しんでくださいね!


 

 

放課後、軽音部の部室にて。

さわ子先生がパソコンを貸してくれて、それで去年の学園祭のライブ映像をみんなで見ていた。

特に梓は目を輝かせて眺めていた。

ふわふわ時間の曲が流れる。

 

「んー。それにしてもライブの時だけは凄い演奏してますよね~!」

チラリと唯の方を向きながら梓は言う。

だがそれに反応したのは律だった。

「君も言うようになったなぁ~このこの!」

律は軽く後ろから梓の首を締めた。

ぐへえと変な声をあげる梓。

 

「うふふ・・あははッ!」

突如笑う唯。

「どうしたんだ?」

「いや、色々思い出しちゃってさ・・・!」

「あ~!この時、唯ちゃん声ガラガラだったわよね~!」

「そうそう!朝起きたら全然声でないんだもん!」

「それで澪ちゃんに代わりにボーカル頼んだのよね!」

「うんー。申し訳なかったなぁ~」

ムギと唯が盛り上がっている。

まぁ、この話は俺も分かる。

さわ子先生の特訓を受けた後、彼女は声を枯らしてしまい、ボーカルは澪になったのだ。

「もう一年前の話なんだな・・・。早いもんだ。」

「相馬!お前、演奏するんだろ!?」

「律、無理言うな」

「無理じゃないよ!ドラム叩いてみる!?男子が叩くドラムってカッコイイよな~」

「曲が成り立たなくなるけどいい?」

「そこで助太刀として私が登場すれば―――!」

「りっちゃんが神となる・・・!!」

「唯先輩も律先輩も、ちゃんと真面目に考えてください!」

「ちぇ~」

「いや、普通やらないから・・・」

 

「まぁ、梓にとっては、初めてのライブだもんな!」

「頑張れよ、梓」

 

俺と律の言葉に少し照れ臭そうにしながら、

 

「はい!私・・・頑張ります!」

 

 

・・・という良いムードなのも束の間。

いきなり和が部室へと入ってくる。

少し飽きれ気味な顔をしている。

もしやこれは―――。

 

「お!和!どうしたの?」

「どうしたのじゃないのよ、律。」

やれやれと首を振りながら律に紙を一枚渡す。

「こーどーしよーとどけ?」

「"講堂使用届け"な?」

若干澪がキレ気味で律の肩を掴む。

律もその雰囲気に戦慄する。

 

「去年にもこんな事あったな」

 

「いやあ~あの時はァ~」

 

一瞬だけど、澪の鉄拳が律の顔面にクリーンヒットした様を見た気がした。

 

 

***

 

 

「じゃー、使用届け書くぞ~。梓、書記な!」

「私ですか?分かりました・・・」

しぶしぶだが、筆箱を取り出し、紙を律から受け取る。

「えーと・・・使用者は軽音部っと。あのー、ここのバンド名ってなんでしたっけ?」

梓は本当に自然に聞いた質問だが、ここから展開が面白くなった。

「チョコレートメロディー!」と澪。

「スイートスマイル!」と唯。

ごめん、律はよく聞き取れなかった。

まぁ要は全員バラバラだったってことだ。

認識が全員違うってあり得るのか普通!

もう一年も活動してるんだぞ・・・。

 

「そういえば決めてなかったね・・・」

「いい機会だから決めるか!」

「そうだね~!」

 

「ねえねえ!"平沢唯とズッコケシスターズ"ってどう!?」

「あたし等何者だよ・・・」

 

「"ピュアピュア"とかどうかな?」

「澪、もうネタはいいから真面目に考えようぜ」

「うぅ、割と本気だったのに・・・」

「本気だったんかい!」

やはり澪のセンスはちょっと乙女チックなんだな。

「ほら・・・人のセンスは色々ですから・・・!」

「梓・・・ありがとな・・・」

 

「よーし!分かった!私が決めてあげる!!」

 

そこで名乗り出たのが、さわ子先生。

いや、アンタかい。

「「「「もう少しみんなで考えよーう」」」」

「団結したな・・・」

「ドンマイです、さわ子先生」

「うるさいわよ!尾形君も考えなさい!?」

「えー・・・じゃあ"バッド・ガールズ"」

「それセンスいいわ!!!さすが!分かってる!」

 

「「「「もう少しみんなで考えよーう」」」」

 

「・・・ダメみたいでした」

「そうみたいね」

 

「じゃあ、決まってからでいいから後で生徒会室までお願いね~」

和が苦笑しながら部室を後にした。

「あ!待って!和ちゃん!あとで帰りにお茶しよ~!」

「分かったわ、唯。また後でね」

「うん!」

「お前等、相変わらず仲良いんだな」

「何言ってるのさ、相馬くん。一年の頃から三人で仲良かったじゃないの~!」

「お、おう」

ニヤニヤしている唯。

なんで笑ってるんだ。

 

「んじゃ、学園祭も近いことだし、練習すっか!」

「はい!」

 

目を輝かせながら梓は返事する。

 

これでいいんだ。

これでいい。

 

俺は最後まで見届ける、それでいいんだ。

 

 

************************************

 

 

放課後の帰り道。

俺は澪と律、梓の四人で帰っていた。

唯とムギは和とお茶に行ってしまったのだ。

帰りは俺らだけになってしまったのだが、他愛もない会話が続く。

 

「今年はどんな出し物やんのかなぁ~」

「律先輩のクラスはメイド喫茶じゃないんですか?」

「それもありそうなんだけど、澪がいないからなぁ~」

「確かに澪先輩ならメイド服似合いそうですよね!」

「「よく言った梓!」」

俺と律のハモリにイラつきを隠せない澪ちゃん。

殺気でてるって・・・。

「でも澪先輩、ファンクラブあるんですよね?私の友達も入ってました!」

「え!?嘘ーー・・・」

「本当に人気なんだな、澪は―――。」

「いいよ、私は!人気じゃなくたって・・・」

 

どこか寂しげな表情を浮かべる澪。

なんだろう、最近よく目にする気がする。

スッと浮かべるその表情。

彼女が何を想っているのかは分からないけど、時に一瞬。

本当に刹那的に。

俺はその一瞬一瞬に立ち会っている気がして、少し気にかかっていた。

 

「まぁ澪は恥ずかしがり屋さんだからな~。しゃーないっしょ!」

「前に話聞いたけど、あれ完全に律のせいな気がしてならないんだが・・・」

「そ、そんなことないもーん」

「そんなことあるだろ」

「何ー!?なー、澪も何か言ってやれよー!」

 

律が澪に話し掛けた時、澪は何か思いついたように、体を反転させた。

 

「ごめん!私、和に渡さなきゃいけないものあるんだった!今日はここで!バイバイ!」

 

「あ、うん・・・!」

「お疲れ様でした!」

「じゃあな、澪」

 

軽く手を振ると、彼女はそそくさと喫茶店の方へと向かっていった。

本当に一瞬で去っていったな。

あの表情と何か関係でもあるのかな。

まぁ、深くは詮索しないでおこう。

 

 

 

「なーんか澪の奴も変わったよなぁ~」

 

 

 

ふとそんな一言が律の口から放たれた。

何か・・・違和感を感じた気がした。

 

「何が?」

「いや、べっつに~。」

「なんだよ、気になるだろ。言えよ。」

「―――――。」

 

少し彼女が俯いた気がした。

その瞳に宿るのは・・・闇だ。

どうしたんだろう。

 

「いや、新学期始まってから思ってたんだけどさ」

「うん」

「ほら、私と澪は小学校から仲いいじゃん?ずっと一緒だったけど、初めてクラスとか離れて―――」

「あー、なるほどな」

「遠くにいってしまったことで、初めて分かる事ってあるじゃん?」

「遠くっていっても、下の階のクラスじゃ?」

「いや、梓。相当仲良かったらそう感じるときもあるよ」

「そういうものなんですかね・・・」

「あぁ。俺も一緒だから。」

 

パッと浮かぶのは唯の顔。

そして、仙崎と唯が話している光景。

俺はただクラスが違うってだけだったけど、二人が友達になっている事なんて知らなかった。

 

仲良いからこその、孤独感。

 

特別な感情があるのだろう。

 

「じゃあ私ここなので!」

ふと梓がたまたま通ったデパートの前で立ち止まった。

「ん?なんかするの?」

「はい!ちょっと弦錆びちゃってて買ってくるのと新しいスコアが欲しいので!」

「そうなんだ」

「部長として嬉しいよ~後輩が勉強熱心で!」

「も~」

 

梓に手を振り、律と二人で帰る事になる。

駅まであと少しだが、俺はどうしても気になっていたことがあった。

 

「少し飯でも食っていかないか?」

「え?」

「ほら、腹減ったろ?俺が奢ってやるからファミレス行こうぜ」

「あ、うん。分かった」

「ちょっとは嬉しそうにしなさい。奢ってあげるんだから」

「キャ~!嬉しい!」

「・・・・・」

 

 

***

 

 

テーブルにつき、適当な品物を頼む。

高校生に御用達のドリンクバーも。

 

「それで?」

「へ?」

「さっきの続きだよ」

「さっきって?」

キョトンとする律。

「澪のこと、だよ」

「あ~」

 

律は頬杖をつき、少し寂しそうな表情を浮かべた。

 

「何て言うんだー。澪が遠くに行っちゃった気がするんだよなぁ~」

「遠く、か」

「うん。ずっと一緒だったし遊んでたからね」

「確かに律には澪もガツガツ行けるしな」

「余裕で頭ゴーンとかされるけどね!」

 

小さく舌を出し、茶化す律。

なんだろう、あまり二人で話す機会がなかったからだろうか。

律の新しい一面を見た気がした。

 

「なぁ、澪はどんなやつなんだ?」

「何々~澪のこと気になっちゃってる感じ?」

「言葉の綾だよ。誤解だ」

「そういえば前も聞いたよな、そんなこと」

「あ~。学園祭のフォークダンスの時だっけ?」

「確かね。二人はお似合いだと思ったんだけどな~私の勘違いか」

「・・・・・」

「そうでもないみたいだな」

 

時に律は鋭い。

伊達に部長をやっているわけではない。

よく皆のことを見ている。

 

「澪はそうだな~。自分をしっかり持ってて、でも他人も尊重できる・・・良い奴よ~」

「へぇ。どんなところが?」

「見てれば分かるじゃん!」

「まぁな」

「人見知りだけど、仲良くなれば別。ちゃんと向き合ってくれる子だよ。」

「・・・だな」

 

「でも中学でも澪はおとなしくてあまり私以上の友達ってなかなかいなかったから・・・」

 

「嫉妬ってやつ?」

 

「・・・・かもね」

 

「やけに素直だな、認めないかと思った」

「私にだって素直なときはあります!」

「和と俺と同じクラスになって、新しい友達が出来てるとこの複雑さ、か」

「私が勝手に感じてることなんだけどね」

「まぁ仕方ないっちゃ仕方ないさ」

「和はすっげー良い奴だし、澪も任せられる!でも最近澪の対応が塩対応なんだもーん」

「あ~。まぁでもそれは仲良いからこそだろ」

「そうか~?」

「あぁ。信頼してるからだよ。俺はそう感じる」

「うーむ。まさか相馬にアドバイスを貰うときが来るとは・・・」

「どういう意味?」

「なんでもないよーだ!」

 

普段元気な女の子だけど、こう話してみると普通な感じもする。

まぁ当たり前だけど。

 

 

「それで~?澪ちゃんとはどうなのよ!最近!」

 

 

「だからなんでそうなる・・・」

「あれから一年経つけど、何か気持ちに進展あったのか~?」

ニヤニヤしながら聞いてくる。

そんなに俺は分かりやすいか?

唯にもさわ子先生にも聞かれた。

「どうしてそんな風に思うの?」

「勘だよ勘!女の勘!」

「なにそれ・・・」

「相馬と澪はお似合いだからな~」

「どうして?」

「どうしてってそりゃ~。なんでだろうね~」

「おい・・・」

 

「いくら律がそんなこと言ったって、澪が相手にしちゃくれねーよ、俺の事なんて」

 

「どーだか!」

「え?」

 

 

意地悪する子供のような表情の律。

 

なんか無邪気で可愛かった。

 

 

 

 

 

「相馬はうち等にとって魅力的な男子だと思うぞ?そこらへんの男よりは信頼できるし」

 

 

 

 

 

「え―――――」

 

 

そんなことを言われるとは思わなかった。

さすがにドキッとしてしまう。

律の顔をうまく見れない。

 

「な、なんだよそれ!からかうでないぞ」

「からかってないよ。本当の話。」

「マジかよ・・・」

「うん。こんだけ一緒にいれば、そう思えてくるもんでしょ!」

「そういうものなのか」

 

 

 

 

「それは相馬も一緒でしょ?」

 

 

 

 

「・・・まぁな」

 

 

珍しく俺も素直だった。

・・・珍しく。

 

 

「私が相談に乗ってやるよ!楽しくなってきたぞ~!」

「そういう律は彼氏とかいらねーのか?俺が相談乗ってやるぞ?」

「今はいらないかな~学祭終わったら考える!」

「じゃあ、学祭終わってからだな」

「任せたぞ、相棒」

「おう」

 

 

律は周りが見えてて、良い奴だ。

周囲のことも気にかけれるし、男子だったらモテてるだろうなーって思う。

時たま見せる女の子らしさがギャップでいいのだろう。

今度、乗ってやるか。相談。

 

 

あれから二時間程度話し込み、いつの間にか九時半を過ぎていた。

 

「そろそろ帰るか」

「そうだな」

「うん、じゃあお会計よろくぅ~~!!」

「ケッ、可愛くねーなぁ」

「へへーん!」

 

お会計を済ませ、外へ出る。

すっかり夜になっていた。

駅まで見送るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!相馬くんとりっちゃんだー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え!?!?」」

 

ふと背後から声が聞こえた。

本当にお馴染みの声。

「唯!?」

「お!唯~!和と澪も!」

「何してるの~!?」

「相馬とご飯食べてたんだ~」

「いいなぁ~!」

「律達もこっち来ればよかったのに・・・」

「二人で密会してたのさ~!」

「してねーだろ・・・」

「補導されるわよ、アンタ達」

「やましいことはしてません、一切!」

 

五人で駅まで歩く。

澪の方を見る。

一瞬目が合ったものの、すぐ逸らされてしまう。

 

・・・どうなのかなぁ・・・。

 

 

************************************

 

 

翌日の放課後。

 

「それで?バンド名結局どうするんだ?」

「あ、忘れてたー」

「忘れるなよ!」

「もう適当に決めちゃう?」

「いや、そこちゃんとした方がいいと思います・・・」

「あずにゃん決めてもいいよ!?」

「困ります・・・」

 

 

 

「じゃあ私が決めるわ!!!!」

 

 

 

さわ子が律の手から紙を取り上げ、ボールペンで書き込む。

 

 

そこにあった名は・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「放課後ティータイム!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「あら?私はお似合いだと思うけど?皆には特にね!」

自信満々にいうさわ子先生。

確かに俺らにはピッタリなバンド名だが・・・。

「ゆ、緩すぎませんかねぇ・・・」

「確かに・・・」

「でも私は好きかも!この名前!」

「うん!私も気に入ったよ!」

澪と唯が大賛成の様子。

ムギも表情と反応からして賛成だろう。

「梓と律はこれでいいのか?」

「・・・まぁいいだろう」

「私も良いと思います!」

「じゃあ決まり!放課後ティータイムで!」

「お~!」

 

放課後ティータイム。

緩すぎる気もするけど、でも確かに俺らを象徴していていいネーミングかもな。

やるじゃん、先生。

 

「じゃあ練習すっか」

「そうだね」

 

 

 

それぞれがポジションに着く。

 

 

 

だが俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭の前に訪れる、放課後ティータイムの絆に亀裂が入ることなんて―――――。

 




伝説のバンド、結成―――。


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#25 ピンチ!

お久しぶりでございます。
更新遅れて申し訳ありません。

ついにこの作品も評価欄に色が付きましたね~!
嬉しい限りです(^^)/
お気に入り200目指して頑張りますので、ぜひぜひ応援よろしくお願いします!

今回はHTTメンバーの亀裂?のお話と、相馬くんの恋についてです。
いやはや、今回は結構今後の展開を動かす大事な話ですのでお見逃しなく!!

お楽しみに~!


 

チャイムが鳴る。

今日も放課後の時間が始まる。

皆が揃っておしゃべりを始めたり、部活の準備を始める。

そんな中、隣の席に座る澪も準備をし始めた。

 

「相馬ー、いこっか!」

「おう」

 

二人で和にさよならを告げ、部室へと向かい始める。

そういえば、澪と二人で廊下を歩くのにも慣れてきた気がする。

最初なんて、体育館に連れ出すので精一杯だったりしたのに。

 

「そういえばさ、昨日律とご飯楽しかった?」

 

そんなことを澪は聞いてきた。

 

「あぁ、楽しかったよ」

「良かったね。私も最近律と二人でご飯とか食べにいってないなー。」

「まぁクラスも違うしな」

「でも和とは前もご飯食べに行ってて、久々に軽音部以外で友達が出来たって感じする・・・かな」

「和いいやつだよな、俺も最初の時から知っているけど」

「そうなんだよ!私、和といると安心するんだ!」

「気持ちは分かるぜ。」

 

「でも、律ったら、昨日これからお昼も練習するから!とか言ってきたから・・・しばらく和とご飯食べれなくなっちゃった。」

 

「・・・そうなのか?」

昨日の律の話を思い出す。

複雑な問題にならねーといいけどな・・・。

ふと考えてしまう。

あの一年の初めから仲の良かった律と澪。

この二人が離れてこそ起こる問題か。

 

「まぁ・・・考えすぎだよな・・・。」

 

 

***

 

 

澪と部室へと向かう。

いつも通り、他愛もない会話をしながら、いつも通りの廊下を歩いていく。

 

澪といると落ち着く。

そして話していて楽しい。

だが、それは最初から持っていた感情ではない。

次第に心が決まってきたのだ。

 

 

 

 

俺は・・・澪のことを女性として意識してるのか―――――。

 

 

 

 

澪の横顔を見つめる。

無邪気に話す彼女の横顔が眩しい。

本当に整った顔をしているよな・・・。

律は俺の気持ちなんてお見通しってことか。

部室へと着く。

扉を開けると、既に律とムギと唯、梓がいた。

「遅いぞ~!お前たち!」

「すまん。澪と話しててさ。」

「あ、そう・・・。」

律は何かを察したのか俺にウインクをしてきた。

まぁ、そりゃそう思われとるよな。

 

「いや~今年の学園祭は澪どんな風に盛り上げてくれんのかなぁ~?」

 

律が一人でに話し出す。

澪は特に返事をせず、ベースをアンプに繋げる作業をしている。

「去年はパンチラだったし、今年はへそ出しとかかな~?」

「はぁ・・・?」

「そういえば澪にいいもの持ってきたんだった!!」

「なに?」

「恐怖ビデオ!!」

「ひゃあああ!!!」

澪は大きく顔を背けると、律は面白おかしくそれを笑っていた。

相変わらず澪は怖いものが苦手だ。

あと痛々しいものやグロテスクなもの。

それは皆が承知の上で話している。

 

「なぁ、練習しないのか?もう本番まで近いんだぞ?」

「すーるよ~!」

「じゃ、じゃあ・・・」

「ポニーテール!」

 

すると律はいきなり澪の髪の毛を掴み、二つ縛りにしてみせた。

それに困惑する澪の表情。

 

「ねぇってば・・・」

「りっちゃん・・・?」

「律先輩・・・」

 

いつもと違う違和感。

明らかに律の絡み方が今までと違う。

ひょっとして―――。

 

「あと怖いビデオもう一つあるんだよ―――――

 

 

 

 

 

 

「練習するんだろッ!!?」

 

 

 

 

 

 

律の言葉を遮るように、澪が叫んだ。

流石に苛立ちを隠せない澪の様子がそこにはあった。

メンバーもその様子にどよめきを隠せない。

 

「練習しないんなら帰るぞ?」

「いいよ、帰れば?」

「は・・・?」

 

邪険な雰囲気が流れる。

これはまずいかもしれない。

 

「悪かったよ、和との楽しい下校を邪魔してさ!!」

 

「・・・ッ!そんなこと言ってないだろッ!?」

 

 

 

 

 

「え、何・・・?どうしたんだろ・・・?」

「お二人とも・・・!」

唯とムギがおどついた様子で二人に声を掛ける。

澪と律がお互いに睨み合っている状態。

俺としたこたことが・・・もっと早めに気付いてればよかった。

この一年半五人で過ごしてきたが、こんなに律と澪があからさまに対立したのは初めてだったのだ。

 

「お茶にしよ!お茶にしない?ね・・・?」

 

ムギが必死に取り繕う。

・・・が二人は睨み合ったままだ。

だが―――。

 

 

「み、皆さん!!仲良く練習しまょ・・・う・・・!」

 

 

ここでなんと梓が猫耳を自らつけてその場を制止した。

彼女なりの場の収め方を考えたのだろう。

その姿はとても勇敢で、さすがの律と澪もこれを見てまだ続けるほど子供ではない。

若干涙を浮かべている梓の隣で俺も口を開く。

 

「律、澪。一旦二人とも落ち着け。律、お前は少し澪の気持ちを考えな。おふざけも度が過ぎると澪も怒るのは当然だろ?」

「ッ・・・。分かったよー・・・」

「澪、お前も律だからって、ちょっとしたことで腹を立ててると周りの人も雰囲気に飲まれちゃうから、気を付けなよ?」

「あぁ・・・ごめんなさい。」

 

 

 

 

「みんな、学祭まであまり時間がないんだ・・・!今俺達が団結しないでどうする?梓は初めての学祭なんだ、最高の思い出にしてやろうぜ?」

 

 

 

 

ここで思い出す。

初めての学園祭。

去年の学園祭。

まだ俺らが一年生のとき。

 

 

「最高の思い出かぁ。」

「そうだ。思い出してみろよ。」

「去年は相馬くんと模擬店やったよね~!」

「楽しかったよな。唯は変な衣装まで着ちゃってさ。」

「うん!!」

 

「そう言われてみると、お化け屋敷も入ったわよね!?」

「ムギちゃん!!入った~!」

「そうそう、澪が怖がっててさ。」

 

「相馬・・・倒れたよな?」

「澪、それは言っちゃだめ。」

 

自然と皆の笑顔が戻ってくる。

それくらい去年の学園祭は楽しかった。

 

「だから・・・梓にもそれを教えてあげようぜ?こんなところで喧嘩している場合じゃない!」

「それもそうだな。悪かったな、梓。」

「い、いえ!大丈夫です・・・!」

 

梓は猫耳を外さないまま叫ぶ。

 

「あのっ!私、放課後ティータイムとしての演奏、すっごく楽しみにしているんです!新歓で見たあんな素敵な演奏をする側に自分も行けるって思うと・・・ワクワクが止まりません!」

「あずにゃん!!良い事いう~!!」

「だから学祭のステージを最高のステージにするために・・・皆さんと頑張りたいです!」

「よく言った!梓!」

「梓ちゃん・・・」

 

「・・・練習するか。」

 

律の一言に皆が頷いた。

 

 

***

 

 

「じゃあ行くぞ。ワンツー・・・!」

 

"ふわふわ時間"の最初の唯のソロが流れ始める。

もうこのリフは完璧だな、唯。

去年とは大違いだ。

その他みんなの成長も聞いていて感じる。

 

・・・はずだった。

 

「律、ドラムは知らないのはいいけど・・・パワー足りなくないか?」

いきなり演奏を中止して澪は律の方へ振り返る。

それに合わせ、皆も演奏を中止する。

―――が皆も同じことを思っていたようだった。

 

「律?」

 

律は下に俯いたまま、何も答えない。

俺らはなんて声を掛けたらいいのか分からず・・・何もできなかった。

 

「ごめん。なんか調子でないや。また明日練習しよー。」

 

いきなり律はそれだけ言い放つと、部室を後にした。

俺が後を追おうとすると、それを澪が制止する。

「いいよ、相馬。」

「・・・いや、でも!」

「いいんだよ。バカ律・・・。」

 

 

今までこんなことなどなかった。

・・・ほんの少しのすれ違いだったのに。

それが深い溝になってしまった。

 

こんな学園祭前なのに。

 

俺がなんとかしなくちゃ。

 

俺が出した結論は・・・それだけだった。

 

 

**********************************

 

 

結局、次の日の昼も放課後も、律は来なかった。

 

 

部室にいるメンバーは五人、そしてさわ子先生。

律がいないだけで、こんなにもこの部屋は静かなのか。

いつも当たり前にいた存在の重さを知る。

 

「律先輩・・・来ませんね・・・。」

「どうしたんだろ・・・」

「そりゃ澪ちゃんがりっちゃんに冷たいからよ~。」

さわ子先生はどこを見るわけでもなく呟いた。

「え!?」

「軽音部のために・・・!一日りっちゃんのオモチャになってきなさい!!!」

「えぇ!?」

 

「でも・・・もしこのまま戻って来なかったら・・・学園祭どうなっちゃうんでしょうか・・・?」

 

梓が気にしているのはそこだった。

初めての学園祭のために今まで練習してきたのに、こんなことになってしまうなんて・・・。

 

「練習しよう・・・!」

 

澪がおもむろに立ち上がる。

その表情は硬かった。

 

「え・・・?りっちゃんなしで!?」

「し、仕方ないだろ・・・。」

「ええぇ・・・」

「でも律先輩・・・呼びに行かなくていいんですか!?」

 

 

 

「もしくは"代わり"を探すとかね―――――?」

 

 

 

さわ子先生は静かに告げた。

俺らより長く生きて、長く音楽に携わってきた彼女がそんなことを言う。

決して冗談などではないだろう。

「まぁ、万が一ってことを考えてだけど。」

「でも・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「りっちゃんの代わりはいません!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ここでムギが叫んだ。

俺らは代わりを選択肢にすらしちゃいけない存在。

それが律だ。

そう言わんばかりに。

 

「待っていようよ・・・。必ず戻ってくるから!!」

「そうだな、そうしよっか・・・。」

「うん・・・」

「待ちましょう。」

 

 

「俺、今日律の家行ってくるわ。」

 

 

「え?」

「俺、一昨日あいつと飯食ってきたんだ。だから少し気持ちも分かるんだ。だから少し話してくるよ。」

「相馬・・・」

「相馬くん・・・」

 

素直になれない気持ち。

これがこの問題の原因だ。

 

俺が話に行く。

そしてケリをつけてやる・・・!

 

そして迎えるんだ―――――。

 

みんなで学園祭を―――――。

 

 

**********************************

 

 

律の家は何度か行った事があるから覚えている。

この曲がり角にある一軒家だ。

そこそこいい家に住んでいるんだよな~。

もう暗いけど、あいつちゃんと家に帰ってるんだろうな・・・。

俺は携帯電話を開くと、律に電話を掛けた。

プルルル…とコールが始まる。

俺はその時をずっと待つ。

 

『もしもし・・・?』

 

出ないかと思ったその瞬間、律は電話に出てくれた。

 

「もしもし、律。今外出れないか?」

『外?なんで?』

「今お前ん家の前にいるんだよ。」

『なっ、なんでいるんだよ・・・』

「話したいんだよ。」

『うぅ・・・。分かったよ。』

 

律は電話を切ると、部屋着に少し上着を羽織り、外に出てきてくれた。

だが彼女は何故かマスクをしていた。

俺らは近くの公園へと場所を移す。

 

「弟に彼氏か?って聞かれちまっただろ~?全く、家までくる必要あったのか~?」

「あるんだよ。まず、第一に律、お前風邪か?」

「えっ、あぁ・・・まぁね。なんか微熱あってさ・・・。」

「それならそうと、俺らに言えよな。無駄に心配しちまっただろ。」

「わ、悪かったって・・・。」

 

 

 

 

「みんな―――、律を待ってるぞ―――――。」

 

 

 

 

「え?」

「皆、お前を待ってんだよ。当たり前だろ、部長は誰だと思ってんだ?」

「でも・・・あたし・・・部長でいいのかな・・・。」

「はぁ?澪に嫉妬してたんだろ?」

「ええっ・・・!?あちゃ~、見破られてたかぁ~。」

「あったりめーだ。この前のご飯だって、あんなの俺からしてみれば伏線だっつーの。」

 

 

「律が澪を想ってるからこそだろ?でも、物理的な距離は離れても同じ。お前らが親友なのに変わりないだろ?」

 

 

「相馬・・・」

彼女ははうっすら涙を浮かべながら、何度も頷いた。

不器用な奴。

好きな気持ちが遠回りしてやんの。

―――俺も同じだから分かる。

俺も唯と仙崎が仲良くしているのが気に食わなかった。

唯は親友で、盗られてしまったように感じたのだ。

でも今俺が律に言ったセリフは自分に言い聞かせているように、感じたんだ。

 

唯は最高の親友だ。

クラスが違ったって、親友なのに代わりはなんだから。

俺はそれだけで十分なはずだ。

 

「分かったよ・・・。明日ちゃんと澪と皆に謝る。」

「それで一件落着だな。学祭、頑張ろうぜ!」

「・・・おう!!」

 

律は満面の笑みで笑った。

どうやら吹っ切れたようだ。

放課後ティータイムの間に亀裂が入ってしまいそうになったけど、どうにか乗り越えることが出来た。

 

あとは無事に本番を迎えるだけだ。

 

 

 

「相馬!」

 

「ん?」

 

「ありがとうな!」

 

「良いってことよ。」

 

 

律と俺は拳を合わせる。

副部長っていう役職もいいかもな、って一瞬思った。

・・・なんてな。

だが、そんな中で律は俺に肩を寄せてきた。

 

 

「そして、相馬くん・・・君はとっとと澪をどうにかしなさい。」

 

 

「はんっ!?」

思わず声が出る。

そして体中が熱くなっていく。

「相馬、お前・・・澪が好きだろ?」

「そ、それは―――。」

「他人のことに精一杯で自分のことはオッペケペーですかぁ?」

「う、うるせぇ!!」

「早くしなさいよ、澪の気持ちが逃げちゃう前にさ!」

「え、どういうこと!?」

「さぁーねぇ~。」

「お、おい・・・!律!!」

「タイミングは相馬に任せる!!澪を頼んだぞ!!」

「ちょ、ちょっと待てって!!」

 

 

「相馬、男ならしっかりしな!これは冗談でも何でもないよ。」

 

 

珍しく律が真剣な顔をしてくる。

もう自分からは逃げられないってことか・・・。

そろそろ向き合う時が来たのかもな。

 

「もう秒読みかねぇ~これは~。」

「う、うるせぇ!」

「好きなんだろ?相馬!澪のこと―――。」

 

澪の親友の一人として。

しっかりと俺に話し掛けてくる。

もう偽れない。

自分を。

いつかじゃなんだ。

今。

 

もう今、なんだ―――――。

 

 

 

 

「お、俺は・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「澪が好きだ―――――。」

 

 

 

 

 

 

 

初めて口にした。

何故か恥ずかしさなど一切なかった。

なんでだろう。

ずっと口にすることを躊躇っていたはずなのに。

もう今はすんなりと言うことが出来る。

俺の気持ちが固まったからだろうか?

それは分からない・・・。

でも、これは進歩だと思う。

少しずつだけど、前に進めているんだ。

 

 

 

 

「やっと言ってくれたね、相馬――――。」

 

 

 

 

律はやけに嬉しそうだった。

真剣な表情から、柔らかい表情へと変わっていく。

 

 

 

「告白はいつすんの?」

 

 

「ブッ!!」

いきなり過ぎて吹き出してしまう。

最近の若い子はそんなにせっかちなの!?

・・・自分で突っ込んでて嫌になる。

 

「学園祭・・・とか?」

「おおおお!!いいねいいね!ライブが終わった後とかに『澪、君が好きだ・・・』って言いなよ!キャー!!」

「お前妄想が過ぎるわ・・・やめろ・・・」

「まぁ、それは二人のタイミングってことで~。協力して欲しかったら言うんだよぉ~!」

満面の笑みの律。

くそ・・・何も言い返せない。

「唯とかムギとか・・・あいつら鈍感そうだから分かんなそうだしな~。」

 

「ははは・・・それな―――――

 

 

 

と言い掛けた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ・・・私が友達1号だね~!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、と。

 

 

俺の中で"ある女の子"の笑顔が鮮明に映し出された。

 

 

それは突然に。

 

 

前触れもなく。

 

 

その顔は俺が良く知っている顔だった。

 

 

 

 

 

平沢唯。

 

 

 

 

 

何故ここで彼女の顔が出てくるんだろう。

 

 

彼女は俺の中で、親友なはずなのに。

 

 

―――――どうして?

 

 

 

 

 

 

「あぁ・・・・・くそッ・・・・・!!!!!」

 

俺は思いっきり頭を掻きむしった。

確実に自分の愚かさを思い知った気がする。

本当に自分が気持ち悪い。憎たらしい。

 

「相馬?どうした?」

「いや・・・なんでもない・・・」

「もしかして、迷ってるのか?」

「え?」

 

 

 

「唯」

 

 

 

ピシャリと、ソレを言われた。

律にはなんでもお見通しなのだろうか。

「そんなことだろーなーって思ったよ!言ったろ?なんでもお見通しなの。仮にも部長なんだから。」

「・・・どうすればいい?」

「今すぐ答えを出さなくてもいいでしょ。学園祭までまだ一週間近くあるんだから。ゆっくり考えな。それでも答えが出ないんなら、答えが出るまで納得するまで考えればいい。」

「唯は親友なんだ。そう思ってたんだよ・・・本当だ。」

「うん。自分でもよく分からない時はあるよな。仕方ないよ。」

「律・・・。」

「贅沢な悩みだよ、ほんと。澪と唯なんてどっちも魅力的な女の子じゃん!」

「あぁ・・・そうだな。でも―――」

 

でも、と。

俺は続ける。

こんな中途半端なのは嫌だからだ。

俺はそんなことしたくない。

 

 

 

 

 

「いや、俺は澪が好きだ。それは変わらない。だから澪にちゃんと想いを伝えるつもりだよ。」

 

 

 

 

 

「言うようになったねぇ、相馬。」

 

 

 

 

 

「・・・そうでもしないと自分を嫌いになりそうだからな。」

 

 

 

 

 

「ふーん。じゃあ、全てをちゃんと話せる?唯に。」

 

 

 

 

 

「え―――――。」

 

 

 

 

 

「澪が好きで、お付き合いしたいんだって。ちゃんと話せる?唯に――――。」

 

 

 

 

 

「あっ、当たり前だろ!?唯は親友なの!うん!」

 

 

 

 

 

「ふーん、ならいいけどさ」

 

 

 

 

 

数々の思い出が蘇る。

 

澪のことは好きだ。

 

でも、唯のことも恋愛対象としてではないけど、好きだ。

 

唯にも好きな奴がいるって言っていたし、元々想いなど通じ合うはずもない。

 

それでも、俺はちゃんと話せるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえ、これで全てが終わってしまうとしても―――――。

 

 

 

 

 

 

 

たとえ、これで全てを終わらせてしまうとしても―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、ちゃんと。

 

 

 

 

 

 

 

 

話すことが出来るのだろうか――――――?

 

 




たとえ、全てが終わってしまうとしても―――。


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#26 準備日!

どうも!
今回は早めに更新できました。この調子で頑張ります。

今回のお話は学園祭の準備日となります。
主にオリジナルですが今後の伏線等も含まれているかもしれませんのでお見逃しなく!
あと数話で"運命のお話"が登場するのでお楽しみに!

唯~はやく風邪直せ~!(笑)


 

文化祭準備日となる。

運命の演奏まであと3日。

演奏しない俺まで緊張してきた・・・。

 

あれから律は澪としっかり話し合い、仲直りすることができた。

本当によかった。

そして律は風邪を治すことに成功したのだが・・・。

 

 

「なに、唯が風邪引いたッ!!??」

 

 

「そうなのよ。唯が風邪引くなんて珍しいんだけどね。」

和は穏やかそうに言った。

さすが唯と長い付き合いだけある。

慌てる事もなく、唯の調子を淡々と語る。

 

「こんな時に風邪引くなんて弛んでる証拠だ!!」

「お前がうつしたんだろ!律!」

「え、あたし!?」

「時期的に考えてもそうですよ!」

 

梓、澪、律、憂ちゃんと部室の前で会話しているがまさに今唯の話題で盛り上がっている状態だ。

そんな中で憂ちゃんが、あっ!と何かを思い出したようだ。

 

「あっ!でも多分――――。」

 

憂ちゃんが言うに、さわ子先生が作ってきた衣装をどれにするか決める日に、気に入った衣装があってそれを一日中着ていたそうな。

それが冷えて風邪を引いたかもしれないということ。

まぁ・・・唯っぽいちゃ唯っぽいが・・・。

 

「この時期に風邪引くか・・・?普通・・・」

「相馬!それを言うな!ある意味KYなところが唯のいいところなんだ!」

「憂ちゃん違うよ、今のは律が勝手に言ったことだからね。」

「憂ちゃんん!!違うんだぁあーー!」

「だ、大丈夫ですよ~っ!」

 

何気に唯のことをいじると傷ついてしまうお姉ちゃん想いの憂ちゃんなのだった。

 

「てかさ・・・あの時の衣装もさー、イケてるような気がしたけど・・・」

「冷静になって考えると・・・恥ずかしいですよね・・・」

「なー?澪?」

 

沈黙が流れる。

律の問に対して、澪は顎に手を当てたまま答えなかった。

「澪?」

 

「梓」

「はい?」

「今日からリードギターの練習もしておいてくれないか?」

「「「え!?」」」

 

リードギター。

これが唯のバンドの役職だ。

リズムギターが梓でリードギターが唯なのだが、リードなしで演奏は成立しない。

その練習を梓が今日からするというのだ。

 

「澪、それって・・・」

「唯先輩が間に合わないかもしれないってことですか!?」

「いや、あくまで万が一に備えてのことだから・・・」

「・・・はい」

 

「じゃ、練習しようか。」

 

**********************************

 

 

帰り道は憂ちゃんと一緒に帰る事になった。

明日はクラスの出し物等で練習が放課後のみとなってしまう。

間に合うだろうか・・・。

梓はどうにか持前のテクニックでリードギターの代行をしていたが。

唯ほどの安定感はまだなかった。

 

「ごめんなさい」

 

「え?」

「お姉ちゃん・・・風邪引いちゃって・・・皆さんに迷惑掛けちゃって・・・」

「なんで憂ちゃんが謝るんだよ。全然大丈夫だって。」

「でも――――」

「大丈夫だよ、唯なら明日にでもケロッと学校に来てんだろ。本当さ。」

「だといいんですけど・・・」

「憂ちゃんは本当に唯のこと好きだね」

「はいっ!もちろんですよ!」

 

満面の笑みで答える憂ちゃん。

この顔は唯にそっくりだった。

思わず見惚れそうになるが、そんなことは言ってられない。

 

「しゃーねーな!唯の看病に行くか!」

「えっ、でもうつしたら悪いですよ!大丈夫です!」

「大丈夫!俺はうつらんさ!」

「なんでですか?」

「馬鹿だから!」

 

憂ちゃんは苦笑いしてくれるものの、唯は本当に大丈夫だろうか?

なんでか去年も俺が倒れたりと学祭前にはハプニングが続く。

困ったものだ・・・放課後ティータイムは・・・。

そんなことを考えていると、唯の家へと着いてしまう。

 

「本当に入ります?」

「あぁ、長居はしない。少し様子を見たら帰るよ」

「分かりました」

 

憂ちゃんに案内されるがままに、唯の部屋へと入る。

久々に唯の部屋に入ると、何故か懐かしい匂いがした。

部屋の中はカーテンで覆われ、暗くなっている。

 

「お姉ちゃん?起きてる?」

「うんー。起きてるよ~」

「相馬くんが来てくれたから少し電気付けるね」

「え!?相馬くん来てくれたの!?う、うつったら大変だよ・・・!」

 

何か暗闇の中でジタバタする唯。

髪型を直しているのかな?

 

「よ!唯。元気してるか?」

「そ、相馬くん・・・!ごめんね・・・こんな時に風邪引いちゃって・・・」

「まぁ俺も去年同じ感じだったし、気にすんなよ」

「うんー・・・申し訳ないです・・・」

「それより早く風邪直せって。みんな心配してるぞ!」

「ありがとー。早く治してライブ頑張るぞ!ふんす!」

「体調は良さそうだな」

「えへへ」

 

俺は唯にゆっくり近づいて、おでこに手を当てた。

その指先から伝わるのはじんわりと熱くなる彼女の体温。

熱があるのは明らかに分かる。

これは治すのに時間を要するのではないか、と少し不安になった。

だが、それを口に出すほど空気が読めない訳ではない。

こんなのすぐ治るよ、と元気づけるのだった。

すると唯は相変わらずの満面の笑みを俺に見せてくれた。

 

俺は―――――。

 

俺はこの笑顔に何度救われたのか・・・。

力になってやりたい。

 

「必ず治る。だから今はいっぱい寝とけ、な?」

「うん。ねぇ、相馬くん。」

「ん?」

 

彼女はそっと布団の中から手を伸ばした。

 

 

 

「約束!指切りげんまん!!」

 

 

 

「小学生かよ・・・。」

 

と言いつつ、俺もそっと手を伸ばす。

そして小指を絡め。

 

 

 

「約束だからな―――――。」

 

 

 

 

「うん―――!」

 

 

 

**********************************

 

 

 

文化祭準備日。

今日は主にクラスの出し物の準備を行う。

今年はなんとメイド喫茶である。

つまり―――――。

 

 

「澪のメイド服が見れる!!!」

 

 

と同時に頭に何者かの鉄拳を喰らった。

くそ、目眩がしやがる・・・。

このまま死ぬのかな俺・・・。

 

「誰が着るもんですか!」

「って言っても澪、お前が着ないと始まんねーぞ?」

「うぅ・・・だから私は反対だったのにー・・・」

「仕方ないじゃない、クラスの半分以上が賛成だったんだから」

「そうそう、諦めて着ろ!クラスの女子は全員着るんだぞ!」

「和も着るの!?」

「私は生徒会だから最終日に着るわ・・・」

「それ絶対着ないやつじゃーん!」

 

涙目で訴える澪。

和は苦笑しながらもさわ子先生が作ったメイド服を澪に渡す。

うーん、和のメイド服っていうのも気になるっちゃ気になるな。

普段の和からじゃ想像できないし・・・。

 

「ところで律達のクラスは何をやるんだっけ?」

「今年もお化け屋敷・・・とか?」

「確か律のクラスはデザート屋だった気がするわよ?」

「いいなぁーー。」

「うちも売り上げ上位になって表彰されようぜ!」

「いやだよー・・・」

「いいじゃない。ライブで着る衣装の練習だと思えば!」

「和・・・やめて・・・今年は浴衣で演奏するんだ・・・」

「来年の新入部員を獲得するチャンスだぜ?頑張ろう!」

「いいよな・・・相馬は舞台袖から見てるだけで・・・」

「俺演奏しないしな」

「うぅ・・・」

 

なんか本気で嫌がってるけど大丈夫かこれ。

唯の問題もあるけど、澪も問題ありだな・・・。

それより唯がもし復活できなかったら澪がボーカルになるんだぞ・・・。

去年の恥ずかしい思い出が蘇る。

 

「それじゃ私は生徒会の仕事があるから行くわ。」

「おう、頑張れよ!和!」

「うん、ありがとう!」

「じゃあな、和!」

「さ、俺らはどうする?」

「律達のクラス覗きに行くか?」

「いいね!」

 

俺と澪のクラスは一階なので律達の教室がある二階へ移動する。

色々なクラスが準備に取り掛かっている。

この雰囲気は学園祭そのものだった。

何て言うんだろう、青春とでも言えばいいのかな?

唯も来れれば良かったのに・・・。

そんなことを考えていると、たまたまジャージ姿の梓が通りかかった。

 

「お、梓じゃん!」

「あ!澪先輩!相馬先輩!」

「頑張ってるな!」

「クラスの出し物は何をやるの?」

「模擬店です!主に駄菓子をメインで!」

「へ~!本番遊びに行こうかな~」

「澪はメイドをしなきゃだろ?そんな暇はないの」

「なに??」

「ごめんなさい」

 

だんだんと澪のメイドに対するどす黒いオーラが大きくなっている気がする。

下手なことを言うと殺されそうだ。

 

「澪先輩、メイドさんやるんですか?」

「うっ・・・それは・・・うん・・・」

「えーー!絶対可愛い!観に行きますね!」

「梓、一緒にお客さんとして行こう」

「はい!」

「ほんとやめて・・・」

「そういえば今日って練習あるんですか?」

「あるよ!放課後な!」

「やった!楽しみにしてます!」

「お、気合はいってんな」

「もちろんですよ!初めてのライブですから!」

「頼りにしてるぜ!梓!」

「任せてください!」

「じゃ、また放課後な」

「はい!またあとで!」

 

梓と別れると、俺らは階段をあがり二階へと向かう。

律の教室は階段をあがってすぐ目の前だ。

 

「よ、律!」

「あら、お二人さんお揃いで~!どうしたの?」

「ちょっと様子を見に来てな」

「ほう!今年は模擬店よーん!食べに来てね!」

「模擬店多いなぁ。うちも模擬店なんだ」

「澪のメイド服の噂はこっちにまで広がってきてるぞ~!カメラ持ってかなきゃ!」

「律!一眼レフな!」

 

お約束の二人してゲンコツを喰らう。

なんかもうそろそろ脳細胞が死滅しそう。

 

 

***

 

 

放課後になる。

学園祭準備日が終わる。

そんな中、部室へと俺と澪は足を運んだ。

 

「お、来たな」

「お茶入りましたよ~!」

「さんきゅームギ!」

「これ飲んだら練習しましょう!」

「そうだな、梓」

 

それぞれ定位置の場所に座る。

ムギが入れてくれたレモンティーを啜る。

相変わらず美味い。

 

「ここでなんだけどさ。」

「どうしたの?りっちゃん」

「唯が本当に間に合わなかったときのことを考えたんだけど」

「「「うん」」」

 

 

 

 

「相馬が演奏するっていう手もあるよな―――?」

 

 

 

 

「うん、ない」

とりあえず即答してみる。

だが律は何か考えがあるみたいだ。

「別に相馬に歌えとは言わないよ!だけどギターかじってた相馬ならリズムギターくらいなら弾けるんじゃないの?」

「いや無理だろ・・・しかももう本番まであと2日しかないんだぞ?」

「って思うじゃん?でも練習しといて損はないと思う。頼む!!!」

「ええぇ・・・まじかよ・・・」

「マジだ!!万が一に備えてだから!ね!」

「いいじゃないりっちゃん!それいいと思うわ~!」

「・・・弾けても一曲だけだぞ?」

「それで大丈夫!何にすっかな~、やっぱ"ふでぺん・ボールペン"かな?」

「嫌だ!あれ難しそう!」

「大丈夫だって!梓がみっちり教えてくれるから!」

「えっ、はい。私は大丈夫ですけど・・・」

「みっちりって・・・」

「相馬~ライブ成功したら女子にモテモテだぞ~?」

「弾きます」

 

即答した結果、本日三回目のゲンコツを澪に頂きました。

・・・なんで?

 

 

***

 

 

結局、皆に押されるがままにギターを練習させられた放課後であった。

久々に弾いたために指にマメが出来てしまった。

ジンジンして痛い。

これまた剝けて血が出るやつだな。

まぁギターやベースを弾いてる人ならそんなの慣れっこか。

 

それにしても演奏する側に回ると、皆の実力の高さが思い知らされる。

 

澪のベースは全くブレることなく、リズム隊の律を陰で支えて曲に艶を出している。

律のドラムは澪をうまくマッチングしており、曲全体の根底を担っている。

ムギのキーボードは曲に鮮やかさを与えており、メロディーの基盤を作り上げている。

梓のリードギターは言うまでもなく曲全体を引っ張り、先輩達が創り出す音楽を完成させている。

 

それに対し俺なんかちんけなものだ。

改めて思う。

演奏する側はすごい。

これを最前列で聞けた俺は幸せ者だ。

バンドってすごい。

彼女達の奏でる音楽は何処のバンドよりもカッコよかった。

 

だからなのだろう。

俺が放課後ティータイムを好きな理由。

 

彼女らの曲を耳にすると、熱くなって、嬉しくなって、ふと切ない。

 

そんな恋情の想いが、彼女らの音楽を際立てているんだ。

俺も頑張らないと。

唯がもし帰って来れなかったら・・・。

俺が唯の代わりになるしかないんだ・・・。

 

 

 

頼む、唯。

 

 

 

神様、どうかお願いします――――。

 

 

 

明日までには熱が下がってますように―――――。

 

 




相馬の願い―――。


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#27 また文化祭!

お久しぶりです。
更新遅くなって申し訳ありません・・・!

お気に入り170越え、ありがとうございます!とても嬉しいです!
200目指して頑張ります!

今回から文化祭が始まりますが、相馬くんの気持ちが色々揺れ動きます。
いや~、青春!

今が最高!!(笑)



 

文化祭前夜。

俺は家でこっそりとライブの練習をしていた。

弾く曲は"ふでぺん・ボールペン"。

リズムギターは割かし簡単なのと梓に電話でもレッスンをされた為に、ある程度は弾けるようになっていた。

あとは皆で合わせられるようになるか・・・だな。

 

こうしてみると音楽って楽しい。

 

バンドを組んでいる彼女らが少し羨ましくなっている自分が居た。

まぁ万が一だし、俺が弾かないのが一番いいんだけどな。

リズムギターはある程度コードを覚えれば弾けるため、ギター経験がある俺にとっては少し楽に思えた。

 

「そういえば作詞とか作曲してみようかな・・・」

 

我ながらにとんでもない事を思いつく。

でも二回目の文化祭を目の前に控えている今、それが出来そうな気がした。

真っ白な紙が彼女らの想いで綴られていく。

 

 

 

『少し伸びた前髪を、掻き上げたその先に見えた』

 

『遠くへ行ってしまう君の後ろ姿が見えたんだ』

 

『いろんな言い訳で着飾って "仕方ない"と笑っていた』

 

『傷付くよりは まだ その方がいいように思えて』

 

 

 

「ってマジになりすぎたか・・・」

自分で書いて、自分で苦笑する。

でも今の自分を形容している歌詞だった。

色々な言い訳や、自分に言い聞かせる形で、本当の想いから遠ざけていたのだ。

 

自分がそれに気づいて・・・傷つかないように。

 

 

 

**********************************

 

 

遂に、文化祭一日目となった。

朝七時に部室集合となっている。

俺は遅刻することなく、部室へと向かった。

 

「おはよーす」

「あら、おはようございます」

「おぉ、ムギか。早速お茶入れてるな?」

「ええ。この一杯があって一日が始まるわ~!」

「確かにな。みんなはまだか?」

「うんー、もうすぐ来ると思うんだけど」

 

と言い掛けたと同時に律と澪、梓が部室へと入ってくる。

梓はいつもツインテールにしているのだが、今日は髪を一つ縛りにしていた。

クラスの出し物の影響だろうか。

男子は、こういうのに弱い。

女子が体育の際や、何かイベントがある際にいつもと違う髪型をすることに、かなり弱い。

これは共感してくれる人もいるのではないだろうか。

今日の梓は全く持ってそれで、なんとなくドキドキしてしまう。

 

「おはようございます!」

「お、おはよう」

「あら~、相馬くんったら梓に見惚れてるぞ~!」

「そんなことねぇ!」

「アハハ」

 

梓は口に手を当てて、小さく笑った。

いつもと同じように律が馬鹿にしてくるが、何故か怖くて澪の方を見れなかった。

 

「ところでなんだけど、唯から朝に連絡あった。今日の昼には来れるってさ!」

「何!本当か!?」

「唯ちゃん・・・!」

「唯先輩!」

「唯・・・!」

 

律の一言で皆の顔が明るくなった。

ちゃんと治すの頑張ったんだな・・・!

偉いぞ・・・唯!

約束、ちゃんと守ってくれたな―――。

 

「じゃあ今日は放課後とお昼に練習ってことで!それまで各自クラスの出し物に集中!」

「「「「お~!」」」

 

 

***

 

 

俺と澪と梓の三人は階段を下っていく。

クラスの集合時間は八時なのでちょうどいいくらいだ。

他のクラスも出し物の準備を行っているのが見える。

 

「梓は皆ポニーテールなのか?」

「え?あ、はい!駄菓子の出し物をするので和風をイメージしてとのことで・・・」

「そうなんだ」

「澪はツインテールにするんだぜ?」

「ええ!絶対かわいい!」

「相馬ぁ!!!」

 

何故か頭にゲンコツを喰らった。

もうKOだって。

なんやかんや雑談をしていると、俺と澪の教室が見えてきた。

 

「じゃあな、梓」

「はい!またあとで!」

「じゃあな~」

 

梓と別れ、教室に入ると和が現場を仕切っているのが見えた。

教室の内装は昨日より進んでおり、ほぼほぼ完成に近づいていた。

いかにもフリフリした内装になっており、メイド喫茶らしいのは一瞬で分かる。

何人かの女子はもう既にメイド服に着替えているのが見えた。

やはり女子がいきなり普段と違う服装をするとなんだがドキマキしてしまう。

これは男子諸君なら一度は経験したことあるだろう。

 

「澪、覚悟は出来たか?」

「うぅ・・・もうダメ・・・」

「頑張って着替えてこい!」

 

こうして澪を更衣室へと連れていく。

歩くのを嫌がる犬のようにその場を動かない澪だったが、手を引っ張り容赦なく連れていく。

こう見るとベースなんてあんな太い弦を自由自在に動かしている割に手が華奢だった。

手首細いな、というのが感想だった。

嫌がる澪を無理やり更衣室へ入れると、俺は仕事へ戻るため教室へ向かった。

 

「相馬、澪のこと頼んだわよ?」

「はん?」

「澪かなり恥ずかしがるだろうから、アンタが面倒見てね」

「なんでだよ・・・」

「アンタ、軽音部でしょ?」

「うっ、そうだけどよ」

「澪のこと頼んだわ、あと現場監督は私が居ない時は相馬に頼むわ」

「えっ!?なんで俺っ!」

 

「信頼してるから、よ」

 

軽くウインクしながら手をそっと振り、再び現場の指揮へ戻る和。

信頼、か。

そういえば和なんて最初からずっと一緒だったもんな。

和は軽音部じゃないけど、大切な友達だ。

そんな和が俺に任せてくれたんだ、頑張ろう。

 

ふと、昔亡くなった弦結を思い出す。

 

弦結、元気してるか―――?

そういえばお前の命日そろそろだよな。

お前の分まで、俺は頑張って生きることを決めたよ。

 

だって今が・・・俺の栄光時代だからな。

 

 

 

そんなことを考えていると、教室の入口から女子の黄色い歓声が聞こえた。

自然にそちらへ目をやると、なんと澪がメイド服姿で立っていたのだ。

しっかり頭にカチューシャまで付けて。

これにはクラスの男子もおおぉっ叫んでいた。

俺もしっかり見て、しっかり顔を赤らめていた。

(うぅ・・・本当に可愛いな・・・澪は・・・)

しかもそれを自分で一切認めていないのがまた可愛い。

 

「おっと、俺は仕事に戻らなきゃ」

 

そろそろ文化祭が始まる時間だ。

お客さんが来る時間。

 

 

 

 

今年も始まるんだな―――。

 

文化祭が―――。

 

 

 

 

*************************************

 

 

文化祭が始まって二時間が経過したが、うちのクラスは大盛況で大盛り上がりを見せていた。

どこかそこらの人気のレストランと同じくらいのお客さんが集まっているのではないだろうか。

俺は会計を担当していたが、列が収まる気配すらない。

これは黒字確定だな。

去年の売り上げを大きく上回るだろう。

男性客も女性客も同じくらいの割合で来ているが、やはりメイド服というのが注目の的なのだろう。

中でも澪は際立っており、澪を一目見ようとお客さんが来る。

列を並んでいる時から「澪ちゃん」というワードが独り歩きしている状態で、色々なところから聞こえてくる。

 

そんな状態で澪は、あらゆる人から写真を撮ることを頼まれている。

 

「もう一躍有名人じゃねーか・・・」

といっても、他の女子も写真を撮っていたりしているので、やはりメイドが当たりだったのだろう。

どんどん入るお金を見てシメシメと思うが、そんな中で俺はある人物に声を掛けられる。

 

 

「よう、尾形!大盛況じゃねーか!」

 

 

そこにいたのは同じバスケ部の仙崎。

頼れるチームのエースである。

「おっす。一押しは澪ちゃんだぜ、写真撮ってもらいな~」

「その噂、さっき聞いたわ!どの子かなぁ~?」

「どれって、あの真ん中にいる・・・」

 

 

 

 

「あの子だよ!澪ちゃん!!」

 

 

 

 

ふと仙崎の後ろから声がした。

本当に馴染みのある声。

なんなら昨日聞いた声。

 

「おぉ、そうなのか!平沢」

「うん!かわいいでしょ!」

 

 

 

 

「あーーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

思わず声をあげて立ち上がってしまう。

 

そこには居たのは、紛れもなく平沢唯だったのだ。

 

「唯!お前、大丈夫なのか!?」

「うん!もう平気~!」

「で、でもまだマスクつけてるじゃねーか!」

「まだ咳が出るからね~!咳止め飲めば平気!」

「平気って・・・」

 

ニコニコ笑うマスクをつけた平沢唯。

マスク越しでも満面の笑みというのが伝わってくる。

 

「今、平沢にお前のクラスまで案内してもらってたんだ!俺が奢るから飯食ってこうぜ!」

「え!いいの!食べたい!」

「任せな!」

「やった~!」

「ご、ごゆっくり・・・」

 

ピョンピョン跳ねる唯を前に、会計をする俺。

少し心は曇るが、これでいいんだ。

俺は別にこれで悩む必要などない。

唯が幸せならそれでいいんだ。

流れるままに二人は店の中へと入っていく。

俺はその背中を目で追うしかなかった。

 

「悪い、ここ頼む・・・」

 

暇そうにしていたクラスメイトに自分の位置を譲り、俺は部室へと向かった。

 

 

 

・・・素直になれねーのは俺じゃねーか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

部室へと着く。

意外と部室は静かで、賑やかな外の音と隣の音楽室でジャズ研が弾く演奏の音しか聞こえなかった。

たまにはのんびりと黄昏るのもいいかもしれない。

誰も居ない部室。

ここに来てもう一年半。

もう高校生活も折り返しか。

 

ふと目に入ったアコースティックギターを手に取る。

家で作った歌でも弾いてみるか。

コードがバラバラで適当に作ったが、俺にとっては自分の気持ちを代弁するような歌だった。

 

 

"それでいいはずなんだ"

 

 

それが歌詞の最後。

「・・・なんのことを言っているのやら」

するとガチャと部室のドアが開いた。

俺はギターを弾くのを止め、ドアの方へ顔を向けた。

 

「唯・・・?」

 

「お、相馬くんだ!部室から音楽が聴こえてきたから誰かいるのかな~って思って!」

「そっか」

「相馬くん、ギター上手だね」

「そうでもねぇよ、コード少しかじったくらいだし」

「ううん、歌としてちゃんとしてたよ」

「え!聞いてたのか!?」

「うん!あの歌自分で作ったの?」

「ま、まぁな・・・。適当にだよ、適当に」

「いい歌じゃん!文化祭で歌えば?」

「アホか・・・そんなの披露したら笑いものになっちまうよ」

「そんなことない!」

 

彼女はそんなことを言いながら、俺の手を握ってきた。

俺はえっ、と軽く声を発しながら彼女を見つめる。

唯も見つめ返してきた。

その瞳は真剣そのものだった。

思わず吸い込まれそうになる。

 

「あ、ありがとな・・・そう言ってくれると・・・嬉しいよ」

 

思わず取り繕って出た言葉がそれ。

今の俺にはそれが限界だった。

「唯、仙崎と飯食わなかったのか?」

「うん、相馬くんどっか行っちゃったから探してたの!」

「え、そうなの?なんで?」

「約束!」

「約束?」

 

「覚えてないの?したじゃん!約束!必ず風邪治すって!」

 

「あ、ああっ・・・!あれか!」

「だからちゃんと報告したかったの!だから探してたの!」

「あそこでいいじゃんか」

「言ったでしょ?"ちゃんと"って!」

「なるほど」

 

とは言ったものの、その意味があまり理解できないままでいた。

変なところに頑固なんだよな~唯って。

そこが好きなんだけどさ。

 

 

 

 

 

好き、か――――――。

 

 

 

 

 

脳裏に浮かびあがる一人の女性。

そこにいるのは秋山澪。

俺は律に宣言したんだ、彼女が好きだって。

それは今でも変わらない。

クラスにいても彼女を目で追ってしまう。

前に、さわ子先生に言われたことがある。

目で追うのは好きな証、と。

だから俺は澪が好きなんだ。

 

その気持ちをちゃんと伝えたい―――――。

 

でも今目の前にいる唯の存在はなんだろう。

ムギ、律、梓とはまた違う"何か"。

三人とも可愛いと思うし、魅力的な女の子だと思う。

でもその三人とも違うし、澪とも違う気持ち。

これはなんなんだろう。

誰か答えを知っているのなら教えて欲しい。

 

 

 

 

 

 

『ふーん。じゃあ、全てをちゃんと話せる?唯に。』

 

 

 

 

 

 

『澪が好きで、お付き合いしたいんだって。ちゃんと話せる?唯に――――。』

 

 

 

 

 

 

蘇る律の声。

あの場では言えると言ったが、俺は本当に言えるのだろうか。

いや、今がチャンスなのではないだろうか。

なかなか軽音部で二人きりな状況になるのは同じクラスとかではないと厳しい。

それにこれからライブが始まるのだから尚更だ。

・・・"今"なんじゃないか・・・?

今しかないんじゃないのか・・・?

ちゃんと気持ちを言うのは・・・!

 

「どうしたの?相馬くん」

「え?」

「なんか暗い顔してるよ?もしかして風邪うつっちゃった!?」

「いや、それはない。元気だよ!」

「そっか~。よく分からないけど・・・元気出して?」

「あはは、ありがと!」

 

やはり今しかない。

伝えるなら・・・今しかない・・・!

 

 

 

「あのさ、唯。」

 

 

 

「んー?」

 

 

 

「聞いてほしいことがあるんだ・・・」

 

 

 

「なになにー!?」

 

 

 

「あのさ・・・俺・・・――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺―――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先の言葉が出てこない。

 

 

 

自分の気持ちを伝えるって、こんなにも難しいんだ。

 

 

 

でも伝えなきゃ・・・。

 

 

 

俺はやらなきゃいけないんだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

これで全てが終わってしまうとしても――――――・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な唯の顔が蘇る。

 

 

"テストで赤点取って、夜通し勉強して一緒に学校にいったな。"

 

 

"ボーカルやりたかったのに声枯れちゃって・・・最初の文化祭は悔しい思いをしたな・・・"

 

 

"本当に最初の最初から・・・俺と仲良くしてくれたよな・・・"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャーー!あれ相馬くんと澪ちゃんだよ!!!』

 

 

 

 

 

『みんなが軽音部の皆だよ~紹介したいなって思って!』

 

 

 

 

 

『私がたくさん話し掛けたからです!えっへん!』

 

 

 

 

 

『私は相馬くんを応援してたけど。』

 

 

 

 

 

『いつも本当にありがとう!大好き!相馬くん―――!!!』

 

 

 

 

 

 

・・・これで全てが終わってしまうとしても―――――ッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!?相馬くん・・・・・・なんで泣いてるの――――――?」

 

 

 

 

 




本当の気持ち―――。


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#28 平沢唯!

大変・・・大変・・・お待たせ致しました!!!!!

皆さま、大変お久しぶりです!
"あいとわ"でございます。

約一年ぶりの更新となりました。
前回が良い所で終わったばっかりに、一年の間更新を止めてしまい申し訳ないです。
しかし、私の記憶ではお気に入り170だったのですが久々に(半年)確認すると、いつの間にかお気に入り200を超えていました。
本当に感謝致します。

また、一年も更新を止めているにも関わらずまだ見てくださっている方がいることに驚きです。
なので、ここは頑張ってまた執筆を再開致します・・・!

さてさて、前回本当の気持ちに気づいた相馬・・・!
一体どうなっていくのか―――――!?



 

 

二人だけの世界―――――。

 

 

 

 

 

まるでこの世界に二人だけしかいないような。

 

 

 

 

 

そんな世界。

 

 

 

 

 

 

そんな世界にいる気がした。

 

 

 

 

 

 

黄昏ている。

 

 

 

 

 

 

そんな訳がなかった。

 

 

 

 

 

 

彼女の方は小さく震え、下を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

俺と視線を合わせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、泣いていたのだ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

 

 

 

 

 

"それでいいはずなんだ"

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・相馬くん・・・なんで泣いてるの――――――?」

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

あれからどのくらいの時が経過したのか。

自分でも忘れてしまうくらい緊張していた。

心配そうに顔を覗き込む唯。

 

ふと頬に手を当てると、そこには一粒の涙の跡が確認できた。

泣いている・・・?

どうして・・・?

俺は何故涙を流してるんだ・・・!

がもその理由が分かる筈がない。

 

「い、いやっ・・・違うんだ!埃が・・・!そう!目に埃が入っちゃって・・・!」

 

自分でもよく分からない言い訳をし始める。

自分が何も言っているか分からなかった。

 

「埃?大丈夫?」

「あぁ・・・ちょっと顔洗ってくる!唯は教室に戻ってて!!」

「え、う、うん!」

「わりぃな・・・!」

 

 

 

「―――――相馬くん!」

 

 

 

唯に呼び止められる。

俺には振り向ける自信と余裕がなかった。

 

 

「話したいことって――――」

 

 

「ま、また今度な!!」

 

 

強引に話を打ち切り、部室から飛び出る。

なんて身勝手な野郎なんだ俺は―――。

 

 

がむしゃらに走り出す。

文化祭で賑わう人々の群れの中を掻き分け、俺はただひたすらに走った。

自分のでも吐き気がする。

自分の愚かさと女々しさに。

 

 

あと少しだった。

あと少しだったのに・・・。

俺はなんでこんな簡単なことも出来ないんだ・・・。

女々しいっちゃありゃしない。

 

 

無我夢中で体育館裏の人目のつかない水道へと走る。

そこで埃なんて入ってないはずの目を洗った。

 

まるで自分が唯に言ったことを正当化するように。

 

騒がしい周囲の文化祭の音さえ騒々しく感じた。

"いらっしゃい、よってらっしゃい"の声掛け、子供の騒ぐ声、風の音。

何もかもが俺を強く批判しているように聞こえた。

 

「なんで・・・なんで言わなかった・・・。なんで言えなかった・・・。」

 

自問自答してみる。

時に人は気持ちを言葉にしてみることで気持ちが整理できるらしい。

でも分かる筈もなかった。

 

唯に嫌われるかもしれないことが怖かった?

 

唯に泣かれてしまうかもしれないと思った?

 

 

 

 

 

―――――俺が唯に対して嘘をつこうとしていたから?

 

 

 

 

 

違う・・・!

嘘じゃない・・・!

澪を好きな気持ちに嘘偽りなんてあるものか!

でも・・・この形容できない気持ちはなんだ・・・!

じゃあなんなんだ―――――。

 

 

 

唯は俺にとってどういう存在なんだ――――。

 

 

 

律に言われた言葉が胸に突き刺さる。

俺は律に言われた通り、唯に真実を告げることができなかった。

馬鹿野郎が・・・。

 

 

時間が無限にあるだなんて思ってんじゃねぇ・・・尾形相馬・・・。

 

 

顔を洗い、滴る水滴を拭いながら、改めてこの文化祭について考える。

 

 

この音、雰囲気、関係性、目指すもの。

 

 

全ては無限に続く訳じゃない、一回限りのもの。

 

 

合宿でさわ子先生も言ってたじゃないか。

青春は一回きり、戻って来ない。

だからこそ貴重だと。

こんなところで時間を無駄にしちゃいけない。

加えて、唯や澪、軽音部とちゃんと向き合わなければ。

 

 

 

でも――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、くそ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、俺の心のダムが大きく決壊した。

あふれ出る涙が止まらない。

俺は強引に水道で洗い流すも余計に涙は出てくる。

それは自分に対する嫌悪感からだった。

 

ずっと気付かないふりをしていたのは分かっていた。

 

分かっていて気持ちに蓋をしていたのだ。

彼女と対面し、腹を割って話をしようとしたときに。

俺の中の思いに嘘はつけなくなった。

今の気持ち。

今の気持ちに、映るのは一人の女性。

たった一人の女性。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、平沢唯だった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

(SIDE:軽音部)

 

 

平沢唯がいる音楽準備室の戸を開く音が聞こえた。

唯はそっと視線を戸へ移す。

 

「よっー、唯!」

 

「あっー!りっちゃん!」

 

現れたのは田井中律。

うっすら額に汗をかいているところを見えると、クラスの出し物である飲食店がよほど大盛況だったことが分かる。

律はふぅ、と息をつきながら椅子に座り、持っていたペットボトルの水を飲み干した。

ジャズ研は今集まりがないからであろうか。

やけに音楽準備室は静かであった。

周囲の盛り上がる音だが微かに聞こえる。

 

「もう平気なのかー?」

「うーん、もうちょっとって感じ!咳だけ!」

「そっか・・・」

 

律は遠くを見つめながら。

 

「なんかちょうどいい気温だな」

「そうだね~」

「もうすぐお昼だけど、皆来れるのかな?」

「来るでしょ~!あ、さっき相馬くんは来てたよ!」

「なにっ、相馬が!?」

「うん!でも目に埃が入っちゃったなんかで顔洗いに行っちゃったー」

「ほ、ほう・・・」

「最近風邪流行ってるもんね~」

「お前が言うなっつーの~」

 

マスク越しでも分かるが、まだ唯は完全回復などしていなかった。

本当ならまだ家で安静にしてほしいくらいだ。

でも、唯がどれだけ文化祭を楽しみに思っていたか・・・。

律の中にあるのは唯の楽しみな気持ちを奪いたくない、それだけだった。

 

「今日は絶対安静!そこの長椅子で寝ててもいいからっ!」

「はーいっ」

「明日のライブ出来ない方が大変なんだからなー!」

「分かってるよう・・・」

 

 

「明日のライブの為にずっと練習してきたんだ――――。絶対成功させような!唯もボーカル新歓ライブ以来だし、頑張ろ!」

 

 

「りっちゃん・・・!うん!!」

目を潤ませながら頷く唯。

それを見て頭をポンと優しく撫でる律。

 

そこへ再び準備室の戸が開き、紬と澪が入ってきた。

 

「あら、唯ちゃん!」

「唯!もう平気なのか!?」

 

「ムギちゃん!澪ちゃん!」

事の経緯を説明し、今日は安静にな、と再び言われる唯。

熱はないのだが、咳と鼻水が止まらないというボーカルにとって致命的な症状が残っていた。

 

「とりあえず梓来るまで練習してよっか!!」

 

 

 

***

 

 

(SIDE:尾形)

 

 

「・・・もう全員揃ってるな」

 

俺はあちらこちらから出し物への勧誘を受けながら、音楽準備室へと向かった。

手すりに亀とウサギの彫刻がある階段に差し掛かった際、準備室から音楽が聴こえた。

 

「もう練習始めてたか。この曲は・・・」

 

 

 

「相馬先輩?」

 

 

 

背後から声を掛けられる。

その声は、中野梓だ。

背中にギターを背負い、普段とは違うポニーテールで髪はまとめられていた。

 

「ん、梓か」

「お疲れ様です!」

「おう、練習頑張れよ」

「行かないんですか?」

「えっ、あぁ、行くよ」

「一緒に行きましょう!」

「おう」

 

 

「なんか元気ないです?」

 

 

「えっ?」

「なんか先輩元気ない!」

「そ、そんなことねぇよ・・・!」

 

この子意外に鋭いよな・・・。

生意気そうな瞳を俺を見つめる。

梓の黒い瞳を見つめると、何か吸い込まれそうになる気がした。

 

「何かあったら私に話してもいいですよっ!」

「そうなのか?」

「はいっ!私人の相談とか聞くの好きなので!」

「なにその新事実・・・」

「頼ってくださいな!先輩!」

 

梓は階段を駆け上がり、俺に振り向き意地悪そうな表情で軽く舌を出した。

それだけだったらいいのだが、駆け上がった弾みでスカートが少し捲れ、透き通る肌色の太腿がちらりと見えた。

思わず心臓の鼓動が速くなってしまうが、それは俺だけにしか分からない。

 

(単純なやつ・・・俺・・・)

 

戸を開けると、既に皆が揃っていた。

一瞬、唯と目が合ったが、すぐ逸らしてしまった。

男が女子の前で泣いたなんて恥ずかしいし。

 

「やっと来たか!相馬!最後練習するから録音してくれ!」

「おう、了解!」

「ギー太!いくよ!」

「えっ・・・ギー太って何・・・?」

「えっ、私のギターの名前!!」

「「「oh―――」」」

「名前なんてつけてないで練習してください!」

「してるもん!あずにゃんの分からず屋~!」

「もー!」

 

 

 

 

 

 

 

今年も始まった文化祭。

 

 

また彼女達の演奏が見れるんだ―――――。

 

 

 

 

 

 

それはそれは。

 

 

 

 

 

 

とても幸せなことだ。

 

 

 

 

 

 

幸せなことって案外幸せなときは気付かない。

 

 

 

 

 

 

だから噛みしめよう。

 

 

 

 

 

 

この上ない青春の軌跡を――――――。

 

 




そんな軌跡をもう一度―――――。


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#29 嘘!

御無沙汰しております、あいとわです!
今回も文化祭一日目をゆるりと提供していきます~!

・・・と言いたいところなんですが!!!

今回はそうはいきません。
物語も大きく動き出すこの回。
そして物語も終盤へと近づいて行ってます!(実質的なハラハラ感という意味で)
三年生編もありますのでご安心してくださいね(笑)

感想頂きまして大変嬉しい限りであります。
僕も頑張っていきますので、皆さまどんどん評価ください!
ぜひぜひよろしくお願いします!

それでは今作史上最もドキドキする第29話・・・お楽しみくださいませ~!



「はっ・・・はっ・・・ハックション!!!!」

 

 

 

曲の途中でこんな声が聞こえてきた。

もちろん、ボーカルである唯の声であります。

鼻水を垂れ流しながら、ぐへぇ~と蹲る唯。

 

「き、きたねぇぞ・・・唯・・・」

「そうだぞ~唯。唯も高校生なんだから少しくらい女の子らしくしなさい!」

「だってぇ・・・」

「律には言われたくないって顔だな」

「それはど~ゆ~意味かしらぁ~ん?澪ちゅぁ~ん?」

「うっ、気持ち悪いから近寄るな・・・!」

「ボーカルがくしゃみしてどうするんですか・・・?」

「あずにゃ~ん・・・」

「去年は相馬くんが風邪引いちゃって・・・今年は唯ちゃんか・・・」

 

悲しそうに眉を下げながら呟くムギ。

 

「いや、俺は別に風邪引いたってライブには支障ないんだから大丈夫だったよ・・・問題はだな―――」

 

 

 

「――――そんなことない!」

 

 

 

ムギが珍しく声を荒げた。

それは。

それは本当に悲しそうな顔をしていた。

自らの制服のすそをギュっと握りしめながら。

 

――――そうか。

彼女はメンバー"全員"でライブを達成したいのだ。

 

――――そうか。

演奏していない俺もメンバーとしてちゃんと認めていてくれたのだ。

 

なんだかすごく胸の奥が熱くなった。

今さっき涙を流したからであろうか?

俺はちょっとしたことでもうるっと来るようになってしまった。

 

「ムギ・・・」

「ほーら、相馬!ムギを泣かしちゃ駄目だからな!」

「えっ・・・あっ、ごめんな―――」

 

 

 

「私は普段あまり目立つタイプではないし・・・歌も歌えないけど・・・本当に軽音部が大好きで――――!!」

 

 

 

微かに瞳を潤ませるムギに対して俺はなんて良いのか。

唯が風邪を引いて、ライブで出れないかもしれないという事態を誰よりも重く受け止めていたのだ。

 

「ムギ先輩・・・」

「分かってるよ、ムギ。ムギがちゃんと軽音部を大切に思う気持ちが誰よりも強い事は知ってるよ」

 

優しく澪が諭す。

ムギは軽く下唇を嚙み、泣くのを堪えているようだった。

 

「こりゃ、ムギちゃんにあたし達は色々教わっちゃったねぇ」

「そうだな・・・」

「みんなで練習しよ!唯ちゃんも明日には絶対風邪治ってるよ!」

「うん!ありがとうムギちゃん!!」

 

 

また軽音部が一つになる。

 

 

俺はまたそれを見て強くなれる。

 

 

 

 

 

軽音部として、また強くなれる――――。

 

 

***

 

 

今日の昼練習は無事終了した。

ムギの一声で雰囲気がガラリと変わり、思いっきり練習に打ち込むことができたのだ。

また、万が一に備え、俺も唯の代わりで演奏を練習した。

"ふでペン・ボールペン"のみなら一応音を合わせられる。

唯ほど完璧に弾けるわけではないが・・・。

 

また、練習途中にさわ子先生が部室に突入してきた。

文化祭で歌う衣装を持ってきたのだ。

今年のは去年より大胆でフリフリで浴衣が動きやすくなったような形であった。

ちゃっかり男子の僕は皆の生足が見れることに勝手にドキドキしていた。

澪は本気で嫌がっていたが、せっかくさわ子先生が二徹で作り上げた傑作(仮)を無駄には出来ないと決断し着ることにした。

 

 

 

気が付けば、長い文化祭一日目が終わっていく。

 

 

 

本当に長かったと感じる。

クラスの出し物に昼練、放課後練習もあり、クラスの明日に向けての総括もあった。

あれだけ多かった人通りも四時を過ぎると少なくなっていった。

去年にもあったこの感じ。

誰も居ない廊下、夕日が差し込む校舎。

まるで昼の熱気が嘘だったかのように静まり返っている。

 

 

 

そんな中、隣には秋山澪がいた。

 

 

 

静まり返った廊下に窓を背に、生徒会の仕事がある和を待っているのだ。

窓を少し開けている為、そっと風になびく黒髪が美しかった。

たった数秒だったがその横顔を見つめていると。

 

 

「ん――?なに?」

 

 

ふと横目で俺を見て、黄昏ながらそう告げた。

澪はまるでアニメでも見ているような、そんな美しい横顔であった。

 

「い、いや・・・。別に。」

「何よー?」

「なんでもないって・・・」

「そう―――」

 

再び視線を元に戻し、外を見つめている。

 

「相馬。」

「ん、なんだ?」

 

 

 

 

 

「絶対、ライブ成功するよな―――――。」

 

 

 

 

 

 

彼女はそんなことを言う。

本番は明日だ。

不安にでも思っているのだろうか。

まぁ、確かに唯もことを考えれば不安になるのも分かる。

ここまで来ると、何故か緊張している自分が恥ずかしくなった。

 

 

 

 

 

「なーに当たり前のこと言ってんだよっ」

 

 

 

 

 

軽くポンっと澪の肩を叩く。

そうすると緊張が嘘みたいに解けていった。

女子は触れる事すら無理だった俺でも、今だったら全く余裕な気がした。

仲間を励まそうと思っているからかな。

なんか自分を客観的に考えすぎて訳が分からなくなる。

 

「ハハッ・・・だよな――――。」

「当たり前だ。そのためにずっと練習してきたんだろ?」

「うん――――。」

「ならそれを信じるしかないだろ。」

 

まるで自分に言い聞かせるように。

 

 

 

 

「夏合宿とか頑張ったじゃないか。まぁ、少しふざけたところもあるけど、それでも力を出せるのは去年証明済みだろ?」

 

 

 

 

「うん。」

「ほら、元気出しなさい。澪ちゃん。らしくないらしくない。」

 

 

 

「ありがとうな、相馬――――。」

 

 

 

「おう」

 

 

 

「また相馬に助けられちゃった。全く、私は相馬に助けられてばっかりだな―――――。」

 

 

 

「助けるって・・・。俺はそんなカッコイイもんじゃないよ・・・。別に普通に―――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううん。相馬は・・・その・・・・・かっ・・・カッコイイよ――――。すっごく――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人ともお疲れ様」

 

 

 

俺の思考が停止している中、ふと委員会の仕事を終えた和が戻ってきた。

ありがとう和・・・。

和がいなければ俺は何かの症状で死んでいただろう。

全身から噴き出る汗を隠しながら、平然と装い、三人で帰る。

高鳴る鼓動のせいで和と澪が何を話しているのか全く耳に入らなかった。

 

校舎を出たところでムギ、唯、梓、律が待っているのが見えた。

おーい!とこちらに手を振っている。

 

「おまたせ~」

「和ちゃん!お疲れ様!!」

「唯・・・そんなマスクつけちゃって本当に大丈夫なの・・・?」

「うん!明日には絶対!ぜっーーたい治すから大丈夫!!」

「そ、そう・・・ならいいけど。」

「明日は全力で出し切るしかないな!」

「梓も頑張れよ!」

「はい!!先輩達の熱い演奏の一部になれることがとっても幸せです!今!!」

「お前も言うようになったなぁ~!このこのぉ~!」

 

律がいつも通り梓に抱き着き、おちょくる。

やめてくださいよ~と幸せそうな表情を浮かべる梓。

初めは色々なことがあったが、今では梓も立派な軽音部の一人だ。

それがとても嬉しく思う。

 

「だって俺が梓を勧誘したんだからな――――!」

 

「おーい、心の声が漏れてるぞ~」

「あっ・・・!やべ・・・!」

「相馬先輩!ありがとうございますね!」

 

珍しく梓がテンション高く、俺の腕に手を回してくる。

ぐほぉ!と俺はテレ死にしそうになったが、律にゲンコツを喰らってすぐ離されてしまった。

何故か唯が羨ましがっていたが、意味不明だった。

 

 

 

それぞれが帰路につき、俺と唯、和が同じ駅で降りる。

そして和も帰路で別れ、唯と俺のみになった。

 

 

 

("あの事"を話すか・・・?いや、今はとても話せる気分ではないし・・・気持ちの整理がついていない・・・)

 

 

 

「ねぇ、相馬くん!」

 

 

 

唐突な唯の呼びかけ。

俺は恐る恐るそれに応じる。

 

「私ね、高校入ったばっかのとき、何かしなきゃ・・・でも何をすればいいんだろうって思ってたの・・・。」

 

「うん。」

 

「そういえばって今思い出したんだけど、本当に出会いって不思議だよね。こんな幸せで大切な場所ができるって思ってなかったもの!」

 

「そうだな。」

 

 

 

そう、始まりの場所はここなのだ。

唯と俺が初めて出会った場所。

唯が何故かすっころんで、俺がそれを助けて・・・。

出会いはたったそれだけの些細なこと。

でもそれがこんな大きく、そして重要なものに進化していったんだ。

たった一年半で。

 

 

気付けばキッカケはいつも唯だった。

 

 

何があっても、そこには必ず唯が居た。

 

 

いつもニコニコ笑っていて、誰かの幸せを願い、どんくさい奴って思うかもしれないけど、それが彼女の長所で。

 

 

一緒にいるだけで周囲をも笑顔にしてくれる、不思議な女の子。

 

 

それが唯だった。

 

 

本当にスゲー奴だよ、唯は―――。

 

 

こんな女の子がこの世の中にいるんだ。

 

 

そんな女の子に出会えて俺は本当に幸せだと思う。

 

 

もっと。

 

 

 

 

 

もっと早く唯と出会いたかった―――――。

 

 

 

 

 

高校なんて三年間っていう短い間だけじゃなくて。

 

 

幼馴染とか、幼少の時からもっと。

 

 

そうしたら俺はもっと幸せだったのだろうな、と思う。

 

 

そんな風に思わせてくれる唯はすごい。

 

 

本当にすごい。

 

 

 

 

 

 

 

「唯。」

 

 

 

 

 

 

 

 

自然と口が動いていた。

頭では何も考えていない。

俺の感情が溢れかえって、つい口から零れ出てしまったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"嘘"ついてもいいか―――――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――。いいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも唐突なことだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唯も戸惑っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも唯はしっかりと聞いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は今後一生・・・何があっても・・・放課後ティータイムの"ファン"で居続ける――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日のライブ・・・必ず"成功"させる――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで―――――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「           ・・・・・       、"   "     ―――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん―――――」

 

 

 

 

 

 

 

この日、夏にしては遅すぎる、夏の大三角形流星群が観測されたという――――――。

 

 




やっと言えた"嘘"―――――。


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#30 感謝!

待たせたな・・・。
ということで大変お待たせ致しました!!!

やっとこさ、30話目突入・・・!ということで、お気に入り等も215突破致しました。
本当にありがとうございます。

そして、2018年も終わりますね。
皆さまはいかがお過ごしだったでしょうか?
来年こそは更新頻度を更にあげられるように頑張りたいと思います!

さて今回は伏線がチラリチラリ見える回となっております。
原作アニメを見てらっしゃる方は、お分かりになると思います!

次回あたりにライブに突入しますので、どうぞご期待ください!

それではどうぞお楽しみくださいませ!
感想お待ちしております!
メリークリスマス!!







 

 

キミの笑顔想像して

 

 

 

 

 

 

いいとこ見せたくなるよ

 

 

 

 

 

 

情熱をにぎりしめ

 

 

 

 

 

 

振り向かせなきゃ

 

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

 

目覚める。

いつもと変わらぬ、いつもの天井。

 

上半身を起こし、グルリと周りを見渡す。

いつもと変わらぬ、いつもの部屋。

 

眩しい朝日が部屋に差し込んでいる。

何故かそれだけで心が満たされるような自分がいた。

 

身支度を済まし、制服に着替える。

現在の時刻は早朝六時。

まだ早すぎる時間だが、それでもよかった。

体がウズウズして震えが止まらない。

それだけ聞くと風邪の症状だが、それは違う。

 

 

 

今日は"特別な日"。

 

 

 

俺達"放課後ティータイム"が大活躍する日だ。

 

 

 

こんなに心躍る日はないだろう。

楽しみがゆえに、胸が張り裂けそうだ。

別に俺は演奏するわけでもない。

何かする訳でもないが、俺が世界で一番好きなバンドの生演奏を聴けるのだ。

しかも目の前で、講堂で。

 

それだけで俺は本当に幸せだった。

嬉しかった。

 

この高校に入学して良かった。

軽音部のみんなと出会えてよかった――――。

 

そんな満たされた想いが俺の鼓動を高く鳴り響かせていた。

 

俺は学校に向けて歩き出す。

何故かいつもの通学路が輝いて見える。

 

人気のない昇降口。

上履きを履き替える毎日。

バッシュがキュッキッと音を立てている。

放課後はそんな感じで。

ずっと騒がしくて。

とりとめもなくて。

慣れた毎日だった。

だけど。

君らがソコにいてくれた。

今はソコにいてくれる。

 

通学路なのに、まるで学校にいる気分だった。

 

 

 

 

 

最初は、唯と出会っていろんなことがあったな―――――。

 

 

急に軽音部のメンバーと夕食することになって―――――。

 

 

律が俺を軽音部に誘ってくれて―――――。

 

 

一年生の夏合宿は、澪と二人きりで外を散歩して―――――。

 

 

学祭は俺が風邪引いちゃって―――――。

 

 

クリスマスに、みんなでコスプレパーティーしたっけ―――――?

 

 

そういや、たまたまムギと買い物中に会ったな―――――。

 

 

もう一年くらい前の話か―――――。

 

 

新歓があって、梓が入ってきて、新しい軽音部になって――――――。

 

 

そして、"今"がある―――――。

 

 

とても信じられない軌跡だった。

俺は・・・こんなに充実した高校生活を送れるだなんて思ってもいなかった。

親友を失ってバスケから逃げるように来たこの高校で・・・。

もう誰も失いたくないって思っていたのに・・・。

とても感傷的だ。

 

 

たった一年半だったけど・・・とても長く、一瞬に感じた。

 

 

なんという矛盾。

 

 

でも楽しい日々というのは、そういうものだろう。

 

 

でも楽しい瞬間というのは、そういうものだろう。

 

 

 

 

 

ふと、さわ子先生の言葉が脳裏に蘇る。

 

 

 

 

 

 

"おんなじね、私と。"

 

 

 

 

 

 

"私、三年になって最後の学祭終わった瞬間に号泣しちゃってね、今まで貯めてた気持ち全部曝け出すかのようにね。"

 

 

 

 

 

 

"もう終わりなんだなーって、ずっとバンドしてたいなーってさ"

 

 

 

 

 

 

"でも時間は待ってくれない、進んでいくものなのよ。"

 

 

 

 

 

 

"気が付けば、卒業式。いつも見送る立場だったのに、見送られる立場になっちゃってね。いつもみんなと帰ってた道もこれで最後か、ってなってまた泣いちゃって。"

 

 

 

 

 

 

"そういうものなのよ、青春って。そういうものなの。だから貴重なのよ?"

 

 

 

 

 

 

最後の学祭が終わった瞬間泣いた―――――。

 

つまり、俺らで言うとそれは一年後のことだ・・・。

 

考えたくないがどうしても心の何処かで引っ掛かる。

 

"終わり"を意識したところで、何かが変わるわけではない。

 

変わるわけがないんだ・・・。

 

ずっと高校にはいないし、皆各々それぞれの道に進んでいく。

 

・・・俺だってそうだ。

 

だから・・・"終わり"を意識するなら、その分毎日全力で楽しめばいい・・・それだけじゃないか。

 

たったそれだけだ。

 

しかも今日は学園祭。

 

とても素晴らしい日になる。

 

こんなことでクヨクヨ女々しい事は言っていられない・・・!

 

 

 

 

 

俺はなんとしても学園祭を成功させるんだ―――――!!!!

 

 

 

 

 

**********************************

 

「相馬くん?」

 

 

ふと背後から声を掛けられる。

応じるように振り向くと、そこにはムギの姿があった。

心なしかほんのり顔が赤く見えた。

息も上がっており、走ってきたのかなと推測する。

 

「ムギ!おはよう」

「おはようございます~!」

「走ってきたのか?」

「うん!なんだか体がウズウズしちゃって!」

「ハハハ・・・唯みたいなこと言うんだな・・・」

「それは相馬くんも一緒でしょう?」

「バレた?」

「ええ、じゃなきゃ、こんな朝早くに登校しないもの」

「だよな」

 

二人で並んで登校する。

学校まであと五分程度で到着する。

 

「今思うと初めてだよな?二人で登校するのはさ」

「ええ、そうね。私誰かと登校するの夢だったの~!」

「また一つ、叶ったな」

「ええ!」

 

とても満足そうな表情のムギ。

彼女のこの表情を見て、気付く。

前に彼女が言っていたことだ。

 

"軽音部の入部した理由"

 

なかなかいない、一緒にいて楽しい人と青春を過ごしたかった・・・だっけ?

もう遠い前の話のように感じる。

確か、唯のギターを買いに行ったときに話したことだったもんな。

そんな事を脳裏で思い出しながら、俺は口を開いた。

 

 

 

「ムギはさ、軽音部に来てからどのくらい夢が叶った?」

 

 

 

「え?」

「"夢"だよ、"夢"。いつも夢が叶った!って言ってただろ?」

 

 

 

あぁ~、と少し苦笑しながら、少し恥ずかしそうな表情だった。

そして、ムギは遠くを見つめながら、そっと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――数えきれないわ。みんなと時間を過ごすと、どんどん夢が溢れてくるんだもの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「"溢れて"くる?」

「ええ。みんなと一緒にいると、次はみんなでアレをしたいな!とか、コレをしたいな!とか。色々浮かび上がってくるの。」

「ムギ―――――」

 

 

 

 

 

「おかしいわよね。夢が一つ叶っても、また一つ夢が増えていくの。」

 

 

 

 

 

困ったように。

意地悪するかのように。

小さく舌を出し、苦笑する彼女は、とても妖艶だった。

 

 

「そうか・・・それは大変だな。」

「えぇ、だから毎日が早く感じるわ~!」

「同じだ・・・俺も・・・」

「そうなの?」

 

 

今日まで日々を一瞬で振り返る。

 

 

「あぁ。とても・・・とても・・・早く感じるさ・・・」

 

 

これが本音だった。

結局のところ、俺もムギと一緒だったのだ。

 

 

 

「私ね、みんなに恩返ししたいの。とっても恩返ししたい!」

 

 

 

唐突にムギが口を叫んだ。

とても何か興奮しているようだ。

 

「恩返し?そんなこと考えなくてもいいよ・・・」

「ううん!私の毎日を変えてくれたのはみんなだもの!とっても感謝したいの!」

「そ、そうか・・・。じゃあ・・・楽しみにしておくな?」

「うん!」

 

 

 

彼女の瞳はとても真っすぐで。

 

 

 

とても清らかだった。

 

 

 

彼女の軽音部への思いを文化祭で思いっきりぶつける、こう言わんばかりの表情だった――――――。

 

 

 

**********************************

 

教室に荷物を置き、俺とムギは音楽準備室へと向かう。

 

誰も居ない静かな学校。

強いて言うなら、先生とたまにすれ違うくらいか。

あと30分程しないと人気は増えないだろう。

 

そんな中、音楽準備室からギターの音色が聞こえた。

 

「あら、唯ちゃんかしら?」

「・・・いや。この音色は梓だ」

 

ゆっくり戸を開けると、中には中野梓がいた。

本日はしっかりと二つ結びのツインテールになっている。

そしてほんのりほどかされている、うっすらメイクが窺えた。

それほど今日のライブには気合が入っているのだろう。

 

「ムギ先輩!相馬先輩!おはようございます!」

「おはようございます~」

「おっは~」

「朝早いんですね!」

「それはこっちの台詞だよ。俺らでさえ早すぎたって話してたのに、梓はもっと早いんだからな・・・」

「何かあったの?」

「い、いえ!ただもうウズウズしちゃって朝四時くらいに目が覚めちゃったので、学校に来ちゃいました!」

「相当気合入ってるな」

「はい!!もうバッチリです!!!」

 

満面の笑みでそう答える梓。

なんでこんな軽音部は美人が多いんだろう・・・。

俺は幸せ者ですなぁ。

おっと、いけない・・・。

 

「"ふでぺん~ボールペン~"の練習してたのか?」

「はい!唯先輩は大丈夫だと思うんですけど・・・万が一ってこともあるので!」

「リズムギターとリードギター両方練習してたのか!?」

「凄いわね~!」

「い、いえ・・・!そんな事ないですよ・・・!唯先輩がどれだけ凄いのか思い知りましたし・・・」

「そ、そっか」

 

多分君の方がうまいと思うぞー・・・。

 

「ちょっと冷えてるから温かいお茶入れてくるわね~!」

「おう!サンキューなムギ!」

「ありがとうございます!」

 

無言が流れる。

ただ鳴り響くのは、梓の奏でるメロディー。

それはなんだか子守歌のように優しく、そして草原にいるかのような壮大さだった。

思わず俺も口ずさむ。

そんな時間が続いていると。

 

 

 

「梓」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軽音部、楽しかったか―――――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分でもわかる優しい表情で告げた。

まるでなんて答えられるか分かっているかのように。

そんな気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「不覚にも、とっても充実してました。やっぱり私の選択は間違ってなかったです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったら良かったよ。そう言ってくれて嬉しいさ」

 

 

「相馬先輩・・・本当にありがとうございました。私、感謝してもしきれないです」

 

 

「なんでだよ。決めたのは梓だろ?」

 

 

「キッカケをくれたのは相馬先輩でした。」

 

 

「キッカケか―――――。」

 

 

「はい。本当に感謝しています・・・!」

 

 

「人生って本当に何があるか分からないよな・・・。自分がどんな選択をするかも大事だけど、誰かにキッカケを貰うことも大事だ。」

 

 

「キッカケは自分で作り出すことは出来ないですもんね。神様のおかげ―――。」

 

 

「あぁ。だとするなら、神様にも感謝だな!」

 

 

 

 

そこでムギが教室に戻ってくる。

「お茶できたわよ~!」

「お~!ありがとう!」

「ありがとうございます!」

三人で席につき、乾杯をしてからお茶を啜る。

口の中に甘い香りと少しほろ苦い味が広がった。

 

 

キッカケ、か。

 

 

いつもソレをくれたのは・・・君だったな。

 

 

 

 

 

 

唯――――――。

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

 

「続いてのカリキュラムを発表致します・・・。

 

 

 

 

 

 

 軽音部『放課後ティータイム』より、バンド演奏です――――――。どうぞ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言から・・・始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺にとって最後のライブが始まったのだ―――――。

 

 




巡り廻る、キッカケ達―――――。


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#31 好きだ!

大変長らくお待たせいたしました!!!
まずは。。
あけましておめでとうございます。
今年も"あいとわ"をお願いします。

新年初っ端の更新です。
・・・なんと今回のお話は"完結"言っても過言ではないぐらいのクオリティーです!!
いや、本当です(笑)

物語の構成的にいつにするかずっと迷っていたのですが、新年初っ端かましちゃおう!ということで今回にしました。

原作では12話~くらいからの話になっております。
お待たせした分、存分に楽しんで頂ければと思います!
それでは、どうぞ!!



「よーし!みんな揃ったな!?」

 

 

 

 

 

「いやっ・・・あの唯ちゃんがいませんが・・・」

 

 

 

 

 

 

「「「えっ!!!???」」」」

 

 

 

 

 

 

このくだりもう何回目だろう・・・。

また寝坊か唯・・・。

まだ確かに学校の朝礼時間ではないが、軽音部は朝早く集合ということだっただろう。

だが・・・。

 

 

「もしかして体調悪いままとかねーよな・・・?」

 

 

全員の呼吸が止まる。

一番恐れていた展開だ。

 

「だ、大丈夫ですよ・・・!昨日だって熱は下がったって言ってましたし・・・!」

「そ、そうよね・・・」

「でも唯だぞ・・・?」

「こら律!縁起でもないこと言わない!」

「そうだな・・・。すぐケロッとして来るさ―――」

 

そんなことを言った。

あぁ。

口で言うのはなんて簡単なんだろう。

 

皆に言った事とは裏腹に。

昨日の帰りに、唯に言ったこと。

俺はそれを思い出した。

 

"それに関しては、決して間違ったことは伝えてないはずだ"

 

でも・・・。

唯がそれで何かを考え込んでしまったり・・・。

 

やはり言わない方が良かったのだろうか。

胸に秘めているだけで良かったのだろうか。

 

・・・今更考えたところで分からない。

でも後悔だけはしたくなくて。

唯がどんな気持ちになってしまったとしても、それだけは伝えたかったのだ。

一見、自己中心的な考え方だが、こればかりは仕方ないと思う。

 

 

 

 

 

「おはよー・・・」

 

 

 

 

 

「「「「!!??」」」」

 

 

 

 

 

 

そんなのを考えていた俺を嘲笑うかのように。

息を切らしながら唯が部室の戸を開けて顔を覗かせてきた。

 

「唯!!!」

「唯ちゃん!」

「唯先輩!」

「唯!!お前なぁ~!心配したんだぞ~!?」

「ごめんごめん。寝坊しちゃって・・・でも風邪は完全治りました!」

「良かったな!てっきり風邪がぶり返したのかと・・・」

「えへへ・・・。ごめんね。もう大丈夫です!」

「なら良かった・・・本当に」

「あずにゃん?」

 

「最低です・・・!こんなに皆心配してたのに・・・最低です!」

 

「ちゃんと埋め合わせしろよ?梓が一番心配してたんだから・・・」

 

涙ながらに叫ぶ梓の背中に唯がハグをした。

 

「あずにゃん・・・ごめんね。心配かけて・・・私精一杯やるよ!みんなと一緒に!最高のライブにするから・・・!」

「もう・・・特別ですよ・・・」

「仲直りのチュ~~~!」

 

刹那、梓の平手打ちが唯の顔面に直撃した。

そんな姿を見て、全員が安堵の息を漏らす。

本当に良かった。

これで二度目の文化祭も無事に迎えることができる・・・。

なんだかんだハプニングが続いたけど、ついにこの日を迎えた。

ムギが言っていた通り、皆意気込みを強く感じる。

なんかいいな、この感じ。

 

 

これを"青春"と呼ぶなら、それは凄くいいものだな―――――。

 

 

さわ子先生、ありがとう。

 

 

「よーし、練習すっか!」

「そうですね!!!」

「って言っても、もうこの前もやったし完璧っちゃ完璧なんだけどね~」

「唯、お前が言うな・・・」

「じゃあMCの練習でもする?」

「MC?」

「おいおい・・・君も無自覚で前回やってたろうに・・・」

「えっ?!」

「曲と曲の間に話すことだよ!よくライブとかでもあるでしょ!」

「あー!あれをMCって言うんだね!」

「もー・・・唯先輩は~」

「えへへ」

 

 

俺を除く五人はMCの話をし始める。

それを外からムギの入れたお茶を啜りながら聞く。

第三者。

端から見れば放課後ティータイムはこんな感じなのか。

なんか微笑ましいというか、いつまでも見ていられる気がする。

ほんわか日常の一ページを切り取ったような。

それは日常であるのだが、失われてしまってから気付く非日常のような。

 

 

「って・・・なんで俺はそんなこと考えてんだ。文化祭前だから感傷的になってるのかな・・・」

 

 

 

 

***

 

 

昼になる。

昨日以上に人は大混雑し、文化祭はピークを迎えようとしていた。

そんな中、メイド服姿の澪が俺の方にやってきた。

 

「一時半から軽音部のステージだから・・・そろそろ準備しないとな」

「おっ、そうだな」

「はぁー・・・緊張してきた・・・」

「相変わらず澪はあがり症なのは変わらないな~」

「し、仕方ないだろ・・・!」

「まぁまぁ」

 

俺はどこを見つめるわけでもなく。

 

「俺らがこれまでどんな事をしてきたのか、思い出してみろって」

 

「うん―――」

 

「昨日も言ったけど、これが放課後ティータイムなんだ。」

 

「・・・・・」

 

「もうこの舞台は二度と戻って来ない。今一度きりしかないライブ・・・思いっきり楽しみなよ!」

 

「そうだな・・・!」

 

満面の笑みで答える澪。

なんとその笑顔は美しいことか。

頑張れよ、澪。

お前ならできる。

俺が保証する―――――。

 

「じゃあ私は着替えてくるから先に準備してて!」

「おう!了解!」

 

澪の後ろ姿を見届けると、俺は準備を行うために講堂へと向かった。

 

 

 

***

 

 

講堂の入口からは中の音が駄々洩れで聞こえてくる。

今はダンス部の発表だったかな?

ゆっくり講堂の戸を開け、中へと入る。

 

すると目の前に律がいた。

 

「ん、律じゃん。何やってんだ?」

「相馬!準備しにきたの?」

「あぁ。律も行かないのか?」

「行くよ!」

「・・・どうした?」

 

「いや、一時間後に私たちがあの舞台に立っていると思うと緊張してきちゃってさ~!」

 

「なんか・・・みんな緊張してんだな」

「そりゃするよ~!梓もさっきずっと真顔で上の空みたいな感じだったし・・・」

「なんか・・・想像つくな」

「だろ~?だから相馬はしっかりと一番前の席キープしておいてな!」

「りょーかいです、部長」

 

ニコリと微笑む律。

頼んだぜ、部長・・・。

お前が要だ。

 

「じゃあ、準備しに行くか」

「だな」

 

俺らは講堂のステージ裏へと向かう。

ステージ裏へ入ると、舞台の関係者や実行委員会の人たちが沢山いた。

その人たちに会釈をしながら俺らも機材の確認をする。

 

「アンプは人数分あるな?」

「うん。シールドもある?」

「ある、大丈夫だ」

「おっけ」

「あとは楽器を持ってきて、音合わせして、楽器を運ぼう!」

「だな、ドラム重そう・・・」

「頼んだよ~相馬っくん!」

「えぇ・・・」

 

思いっきり肩を掴まれる。

ドラム重いって絶対・・・。

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、相馬。」

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

「決めたのか?自分の気持ち。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――あぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。良かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か、律はとても優し気な表情になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつ言うんだー??」

 

 

 

 

 

 

「んなもん、分からねーよ。」

 

 

 

 

 

 

「なんでよー!教えてくれたっていいじゃーん!」

 

 

 

 

 

「仕方ねーだろ、こんなの初めてなんだからよ」

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ~。まぁ、頑張りたまえ。部長は応援してるぞ!」

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

自分でも分かっている。

 

 

 

 

 

この気持ちの結末は近いってことは、な――――――。

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

時は1時15分。

ドラムとキーボードは既に俺が死ぬ気で運び、あとはギター組が各々ステージへ持って行くだけとなった。

 

「よーし、みんな集まったな~!」

 

律が叫ぶ。

はーい、と皆が応える。

 

「よし!みんな衣装に着替えたことだし、ギター組は各々持って講堂へ!」

「みんな~!私が作った衣装似合ってるわよ~!」

 

さわ子先生が満面の笑みで皆の頭を撫でていく。

あー、俺も撫でたい・・・。

 

「悔いなく演奏してきなさい!それで終わったらしっかり打ち上げしなさい!」

「打ち上げ楽しそう~!」

「唯先輩は呑気ですね・・・」

「梓も唯みたいにどーんって構えておいた方がいいぞ。真顔になりすぎてるから・・・」

「にゃっ!真顔じゃないですー!!」

「あずにゃん可愛い~!!!」

 

「梓、頑張れよ!」

「はい!!」

 

言われるまでもなく、彼女は元の中野梓へと戻っていた。

全身から溢れ出るやる気のオーラ。

やっぱり彼女は努力の天才だな。

 

「それと、相馬先輩!」

「ん?」

 

 

 

「軽音部、誘ってくれて、ありがとうございました!!」

 

 

 

「ばーか。そういうのは終わってから言うんだよ」

 

 

 

軽くおでこを突くと、彼女は少し涙を浮かべていたのであった。

 

 

 

全てが始まる―――――。

 

 

 

長かった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ・・・・・ない!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「え????」」」」」

 

「ぎ・・・ギー太・・・ココに置いてあったよね・・・・・・?」

 

「あ!!そういえば憂ちゃんがギー太持って帰ったぞ・・・!」

 

「じゃあ・・・家にあるってこと・・・!?」

「逆に何故気付かなかった・・・!!」

 

全員が不安の色に包まれる。

逆に最後の最後でこうなるのは唯らしいっちゃ唯らしいが・・・!

 

「仕方ないわね、私の使いなさい。」

 

さわ子先生が現役の時に使っていた刺々しいギターを唯に差し出す。

「さわちゃん・・・」

「唯、ギー太じゃなくていいのか?」

「うん・・・ていうか私・・・」

 

 

「ギー太以外のギター弾けない・・・・・」

 

 

「「「「「だろうな~」」」」」

 

 

唯は決意の表情を浮かべる。

本番まであと15分。

唯の家にいくまでに俺でも10分かかる。

ライブに与えられた時間は15分。

つまり、唯が取りに行けば・・・確実に一曲は弾けないことになる。

あぁ・・・・・くそ・・・・・・!!

 

 

「私、取りに帰るっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相馬くん・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「唯はステージにいるべき人だ・・・!!俺が行くッ――――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相馬!?」

「相馬くん、去年も途中から来たじゃない・・・!」

「でも、唯がいないよしマシだろ?俺が走った方が速いのは確実だしな!」

「うんー・・・でも・・・」

「いいから、任せておけ・・・・・!!」

「でもギー太以外のギター弾けないし・・・」

「そうか・・・そうだったな・・・」

 

 

「いいよ!相馬くんは講堂にいて!私が取りに帰る!!」

 

 

「唯・・・」

「ありがとね、相馬くん。最後の最後まで。」

「おう・・・。じゃあ一曲目って俺が弾くのか?」

「そうなります先輩」

「まじかぁ・・・」

 

「そうと決まれば・・・おっしゃあ~!!」

 

唯は勢いよく部室のドアを開け、走り始めた。

流されるかのように、俺も彼女の跡を追った。

何故かは分からない。

でも、体が勝手に動き始めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「唯!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「相馬くん―――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚えてるか?

 

 

 

 

 "明日のライブ・・・必ず成功させる――――――!!"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、"嘘"でしょ―――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ―――。だからライブは任せとけッ!!!行ってこい、唯!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の言った"嘘"が"本当"になっていく――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の言った3つの嘘。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は今後一生・・・何があっても・・・放課後ティータイムの"ファン"で居続ける――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日のライブ・・・必ず"成功"させる――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで―――――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ずっと言えなかったけど・・・・・俺は世界で一番、"平沢唯"が好きだ―――――。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、そういう事だった。

 

 

 




嘘が真実になっていく―――――。


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#32 軽音!

大変、大変お待たせ致しました!!
約四か月ほど間が空いてしまいましたが、やっと更新することが出来ました!
お待ちして頂いた方、本当に申し訳ございません。

今回は遂にライブ編へ突入します!!
是非"ふでペン・ボールペン"を大音量で聞きながら読んでください!!

当時のファンなら、涙が溢れてくるはずですよ!!(笑)


感想などドシドシ送ってくださいね~!!
それではどうぞ!!



いつも頑張る君の横顔

 

 

 

 

 

 

ずっと見てても気付かないよね

 

 

 

 

 

 

夢の中なら二人の距離

 

 

 

 

 

 

縮められるのにな

 

 

 

 

 

 

あぁ、神様お願い

 

 

 

 

 

 

二人だけの

 

 

 

 

 

 

Derem Time下さい

 

 

 

 

 

 

お気に入りのうさちゃん抱いて

 

 

 

 

 

 

今夜もおやすみ

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

騒がしい講堂。

 

 

観衆のざわめき。

 

 

そんな中へと足を踏み入れる。

 

 

今、自分の中で加速していく緊張感。

唯達はこんな緊張感の中で戦っていたのか……。

改めてだけど口では何とでも言えるな、と自嘲する。

あれだけ澪を励ましてきたのも、このプレッシャーを知っていたら口にすら出来なかっただろう。

 

でも、分かっている。

緊張しているのは、ライブだけのせいじゃないってことを。

瞼裏にに蘇る一人の女性の笑顔。

 

 

遂にだけど。

 

 

仮にだけど。

 

 

非常に間接的だけど。

 

 

俺は彼女に自分の気持ちを伝えてしまった。

 

 

そのことが俺の中で異常事態の鐘を鳴り響かせていた。

胸が今にも張り裂けそうなくらい大きく高鳴り、手も震えていた。

自分の思いを告白するってこんなにも大変だったんだ。

これでも俺はまだ逃げている方だ。

まだ直接『好き』と伝えることは出来ていないのだから。

 

 

「相馬、大丈夫か?」

 

 

そんな事を歩きながら考えていると、澪が俺の方へ顔を覗かせていた。

彼女は水色のフワフワ素材の衣装を纏っており、とても可愛かった。

 

「あ、あぁ。大丈夫だよ。」

「確かに急に演奏することになったからな……。大変だと思うけど……。」

「まぁ唯の事だ、こんなこともあろうかと、しっかり練習は積んできたさ。」

「さっすが相馬!」

 

彼女もテンションが上がっているのか、俺の腕をその綺麗な手でちょん、と突いた。

満面の笑みで微笑む彼女。

そうだ、澪はこれでもベテランの域だ。

もう講堂でのライブは3回目だし、どのように段取りを進めていけば大丈夫なのかを熟知している。

澪だけじゃない。

他の皆もそうだ。

梓はガッチガチのガチガチで表情が強張っていたが、律やムギは楽しそうに世間話を楽しんでいた。

本当に頼もしい連中だ。

いざ自分が演奏する側になると分かる。

 

そしてこれも分かっている。

 

 

 

 

 

俺は「放課後ティータイム・リードギター担当・平沢唯」の代わりを務めることなんて出来ない、ことを。

 

 

 

 

 

リードギター、平沢唯。

リズムギター、中野梓。

ベース、秋山澪。

キーボード、琴吹紬。

ドラム、田井中律。

 

この五人が揃うことこそが、放課後ティータイムなのだ。

異論は一切認めない。

否。

認めることが出来ない。

 

俺は一年半、放課後ティータイムが結成した時から彼女達を知っている。

そして、ずっと彼女達が織りなす音楽の世界を聞き続けている。

だからこそ、分かる。

誰かに、この五人の代わりを務めることなんて出来るわけがない。

五人が揃ってこその放課後ティータイムだ。

 

 

 

 

だからこそ。

 

 

 

 

だからこそ、俺はこのバンドのファンなんだ。

 

 

 

 

だから頼む、唯。

早くこの会場に戻ってきてくれ。

俺がやる放課後ティータイムは全くの別物の演奏になる。

君が入ることで放課後ティータイムは完成するんだよ。

頼む……。

君の大きすぎる存在に、俺は代わりを務めきる努力は精一杯するから……。

だから―――。

 

「みんな、頑張るのよー!」

 

そこでなんとさわ子先生が登場。

こういう時は顧問が頼りになる。

 

「急遽作った男の子用の衣装もなかなかね!似合うわよ~!」

「ほぼスーツじゃないすか……」

「かっこいいわよ~!ね、みんな!」

「まぁ、相馬にしてはなかなかキマってるんじゃないの~?」

「かっこいいわ~、相馬くん!」

「はい!カッコイイですよ先輩!」

「う……うん。か、かっこいいな……うん。」

「だって尾形くん!良かったわね!」

「あ、ありがとう。お前等も最高に可愛いぜ、ベイベー」

「それはキモイよ」

「なんでだよ……」

 

そんないつも通りの茶番で、いつの間にか少し緊張が解けていたのが分かる。

流石だ……。

さわ子先生ありがとう。

 

「緊張してるのか? 相馬?」

「あぁ……、していないと言えば真っ赤過ぎる嘘になるな。」

 

 

 

「嘘かぁ~。」

 

 

 

「ん、どうした?」

「ううん、なんでもない!」

「澪の方こそ、緊張してるんじゃねーのか?」

「してるよ。」

「やけに素直だな……。」

 

 

 

 

「私はこのライブ、歌、歌詞に全部の想いを掛けてるから―――――!」

 

 

 

 

やけに、この言葉は俺の琴線に触れた。

何故かは分からない。

その澪の見たこともない、真っすぐな瞳と何かを成し遂げようとする意気込んだ表情のせいなのかもしれない。

頬はほんのりとピンク色に染まり、うっすらと額に浮かべる汗。

彼女もやる気に満ち溢れてるってことか。

一瞬だが、律と視線が合う。

律は何を言う訳でもなく、コクリと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は唯に自分の気持ちを打ち明けたのと同様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澪にもこの気持ちを打ち明けなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澪含む、今この場にいる五人が成し遂げようとするライブが始まろうとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時に「軽音部『放課後ティータイム』より、バンド演奏です」というアナウンスが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな歓声と共に舞台の幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブが成功したら言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それまでいい――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからいい―――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!!!行くぞ!!!放課後ティータイム!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

 

 

 

 

 

ふでペンFUFU

 

 

震えるFUFU

 

 

初めて君への

 

 

GREETING CARD

 

 

ときめきPASSION

 

 

溢れてACTION

 

 

はみだしちゃうかもね

 

 

 

 

 

 

 

 

"そういえば入学式の時もこの道を走った"

 

 

 

 

 

 

 

 

君の笑顔想像して

 

いいとこ見せたくなるよ

 

 

 

 

 

 

 

 

"何かしなきゃ、って思いながら"

 

 

 

 

 

 

 

 

情熱を握りしめ

 

 

 

 

 

 

 

 

"何をすればいいんだろう、って思いながら"

 

 

 

 

 

 

 

 

振り向かせなきゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

"このまま大人になっちゃうのかな、って思いながら"

 

 

 

 

 

 

 

 

愛を込めてスラスラとね

 

 

さぁ書き出そう

 

 

受け取った君に

 

 

幸せが繋がるように

 

 

走る軌跡キラキラだね

 

 

そう乾くまで

 

 

待っててふでぺん

 

 

ごめんねボールペンはおやすみしてて

 

 

かなり本気よ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"ねぇ、私。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"あの頃の私、心配しなくていいよ"

 

 

 

 

 

 

 

 

"すぐ見つかるから"

 

 

 

 

 

 

 

 

"私にも出来ることが……夢中になれることが……大切な、大切な、大切な場所がッ!!!"

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、勢いよく講堂の戸が開く。

 

 

 

 

 

俺には誰だか、一瞬で理解することができた。

 

 

間違いなく、平沢唯だ。

 

 

「お姉ちゃん!」

「あぁ……!憂!!ピース!」

 

 

満面の笑みで唯は憂にピースすると猛ダッシュで講堂の舞台ステージへ向かう。

その背中にはギー太が背負われている。

なんて頼り甲斐のある姿なんだ。

ふと気付くと、俺の膝は震えていた。

初めてのライブだったからであろうか。

それは分からない。

たった一曲だったけど、俺には一瞬のように過ぎ去った時間だった。

本当に夢のような時間だった。

彼女が創る音楽世界の一部分に携われたことがとても、とても嬉しい気持ちだ。

それと同時に猛烈な達成感と脱力感に襲われる。

まだステージに立つには早すぎたってことかな……。

俺、頑張ったよな……。

俺、唯の代わりに少しでもなれたかな……。

 

 

 

「相馬くん、ありがとう!」

 

 

「唯……俺はもう限界だぜ……?後は頼んだぞ……!」

 

 

「うん!!任せて!!」

 

 

 

彼女は満面の笑みで微笑んだ。

なんて心強いんだ。

たったの四人から始まって、俺が入って、梓が入って。

こんなにも大きくなったんだな。

この大歓声を聞けば分かるさ。

お前等がどれくらい凄いバンドかってこと。

後は頼んだぞ、みんな。

 

唯は一回頷く。

 

そして澪、梓、律、ムギの方へ視線を移し、口を開いた。

 

 

 

「みんな……本当にごめんなさい。よく考えたら、いつもいつもご迷惑を……こんな……こんな大事な時に……」

 

 

 

頬を伝う一筋に涙が見える。

任せて、って言った側から泣くのかよ。

でも唯っぽいっちゃ唯っぽいな。

頑張れよ、唯。

そっと微笑みながら、俺は唯にハンカチを渡すと舞台裏に下がる。

俺の役目は終わった。

舞台裏から降りると、和が席に案内してくれた。

一番前の特等席。

放課後ティータイムが一番よく見える席だ。

 

嬉しかった。

 

ただただ嬉しかった。

 

そんなことを想っていると、唯は涙を拭いながら話し始めた。

 

 

 

 

 

「えっと、改めまして"放課後ティータイム"です!今日は私がギターを忘れたせいで、こんなに遅れてしまいました……ギー太も忘れてごめん。」

 

 

 

 

 

 

「目標は武道館!とか言って、私達の軽音部は始まりました!」

 

 

 

 

 

 

 

俺に脳裏に様々なことが蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆でウチでご飯食べたり、」

 

 

 

 

 

 

 

 

軽音部の皆と初めて話した時のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「毎日部室でお茶を飲んで沢山喋ったり」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムギちゃんの別荘で合宿したり」

 

 

 

 

 

 

 

 

澪と夜に外を歩いたことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「相馬くんのバスケの試合を観に行ったり、夏祭り行ったり、」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、皆の声援があったからあの試合に勝てたんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆でクリスマスパーティーしたり、」

 

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい、懐かしいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入部してくれる一年生を探したり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わき目も彫らずに練習に打ち込んできた、なんてとても言えないけど、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもここが……今いるこの講堂が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達の武道館です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、俺の心のダムは決壊し、涙腺は崩壊した。

 

なんだ、俺も唯と一緒じゃないか―――――。

 

なんだよ。

 

簡単なことじゃないか。

 

 

 

一瞬だが、唯と視線が合った。

 

 

 

そして律の合図と共に、彼女達が創る伝説のライブが始まった―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後まで思いっきり歌います!!"ふわふわ時間"!!!!」

 

 

 

 




最高の想いと共に―――――。


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#33 後夜祭の日!

大変、大変お待たせ致しましたー!!
ご無沙汰しております、作者のあいとわです。

随分久しぶりの更新となってしまいましたので、前の話を少し読んでから今回の話を読んでいただくと分かりやすいかなーって思います。

さて、今回は#28の冒頭部を軽く読んでからの方が、ちょっと泣けます(笑)
いやー、泣けるのかな~
微妙なところですが、作者は感極まって執筆しておりました。

今回のお話はライブ終了後の後夜祭のお話です!
完全オリジナル回なので存分に彼女達のやり取りを楽しんでいってくださいね!

最後まで読んだ方は感想欄でご意見を是非お願いします><
作者自身執筆しながらかなり悶絶してるのでご意見をご参考にさせて頂きたいです(笑)

それでは、どうぞ!



 

 

俺はこれをなんて表現すればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

形容し難いこの想い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなにも強く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後ティータイム、彼女達に恋をしていたんだ―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

時間というのは矢の如く早く過ぎ去っていくもので。

ライブが終了した。

あんなも時間を掛けて練習したのはこの為だったのに。

でも、終わってしまったんだ。

……遂に終わっちまったんだ。

 

俺は呆気にとられていた。

周りはとっくに帰る支度や、次の出し物に向けての準備を行っているのが見える。

 

 

その中で、ただ一人立ち尽くす俺。

 

 

周りから見たらただの邪魔な奴だろうな、と心の中で客観的に自分を見つめるも、そんな事はどうでも良いと感じる。

そう、どうでもいいんだよ。

頬を伝う涙を拭うこともせず、三回のうちの二回を終了した彼女らのライブの儚さを痛感する。

 

この姿を見れば人は俺を女々しい、と言うだろう。

でも。

好き、というのはそういう事なのだ、と思う。

何かを好きになれば、必ず人はそれを追い求める。

好きと向き合っている時間が濃いほど、それに伴う代償は大きい。

俺にとっての代償とは、ライブが終了してしまう、ということだ。

この軽音部という組織で結成された放課後ティータイムをいつまでも応援し続けたい、という気持ちが俺の胸を苦しくさせた。

 

 

だが、それと同時に込みあがってくる気持ちもある。

 

彼女達のライブを目の前で見ることが出来て、とても幸せだということだ。

彼女達と高校生活を共にすることで、とても幸せだということだ。

平沢唯を好きになれて、とても幸せだということだ。

 

今は思いっきり彼女達と喜びを分かち合いたい。

ただそれだけだった。

 

 

 

 

「相馬くん!!」

 

 

 

 

そんな声が聞こえた気がした。

とても、とても俺の心が満たされていくのが分かる。

 

 

「唯ッ!!」

 

 

唯は興奮で頬を赤らめ、うっすらかく汗を浮かべながら俺の右腕に抱きついてくる。

彼女の茶色の髪の毛からはとてもいい匂いが漂ってくる。

俺は緊張のあまり、そっと唯の手首を掴み、右腕から離させた。

高く心臓が高鳴っているのが分かる。

 

 

「相馬くん!どうだった!私達のライブ!」

「最高だったぞ……!ほんとお前等、最高だぜ……!」

「あーら、嬉しいこと言ってくれるわねぇん!」

 

 

律が舞台袖から降りて来ながら、叫んだ。

 

 

「律……!」

「相馬、演奏ありがとな~!お前も最高だったぞ~!」

「へへ……!サンキューな!」

 

 

次に出てきたのはムギだ。

彼女は最後の最後でサプライズ演奏を行い、"ふわふわ時間"のサビを再演奏してくれた。

恐らくそこがライブで一番盛り上がったと思う。

 

 

「ムギ!!」

「あら、相馬くん!演奏素敵だったわ~!」

「いや、俺の演奏なんかより!ムギのサプライズ演奏が俺は一番グッと来た……!ムギ最高だったよ!」

「うふふ。どうしてもやってみたかったの。それに前に言ったでしょ?"恩返し"がしたいって。」

「そういう事だったのか―――。」

 

 

次に降りてきたのは梓。

彼女も俺と同じで呆気にとられているようだった。

 

 

「梓、お疲れ!」

「先輩……相馬せんぱぁい……!」

「えっ!?おまっ、梓!泣いてんの!?」

「えぇー!!あずにゃん!?」

「だって……こんな凄いライブ……やったことないもん……!」

「梓――――。」

 

 

次に降りてきたのは澪だ。

澪はとっても頑張ってくれた。

苦手だったボーカルも上手く対応したと思う。

本当に澪には驚かれされてばかりだ。

 

 

「澪―――。」

「相馬、お疲れ様!」

「ありがとう、澪とっても良かったぞ!隣で演奏しててスゲーってずっと思ってた。」

「そんなこと……ないよ!」

「澪は本当に歌声が綺麗で透き通ってるよな!一曲目のサビなんて隣で聞いてて痺れた!」

「あーダメダメ!今澪を褒めちぎるとこの子爆発しちゃうから!」

「うぅ……」

「でも、本当の事だ――――。」

 

 

そうだ。

 

 

今言った事全て。

 

 

俺の中で、本当の事なんだ。

 

 

そこで憂ちゃん、さわ子先生、和も駆け寄ってきた。

憂ちゃんが唯を思いっきり抱き締める。

さわ子先生も昔を思い出したかのような優しい表情で皆を眺めている。

和は澪、律と手を取りながら話している。

ムギは梓にハンカチを渡し、頭を投げている。

 

 

これら全ての姿を見て、俺は強く思う。

 

 

 

 

 

とても幸せだ。

 

 

 

 

 

 

これからも彼女達が俺の中で強く生きるのだろう。

 

 

 

 

 

 

彼女達がくれた日々。

 

 

 

 

 

 

 

彼女達がくれた時間。

 

 

 

 

 

 

 

彼女達がくれた幸せ。

 

 

 

 

 

 

 

これが運命だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

それは分からない。

 

 

 

 

 

 

でも、これだけは自信を持って断言できる。

 

 

 

 

 

 

彼女達の存在が、俺の中の全正義のど真ん中にいるという事だ――――――。

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

時刻は17時を回る。

講堂の全出し物が終了し、展示も終了した。

来場客は全て校内を出て、全生徒が片づけを行いながら、後夜祭の準備を行っている。

そう。

 

俺にとっての高校生の文化祭は終了したのだ。

 

だが、今は感傷的というよりも後夜祭の楽しみの方が強かった。

前回の思い出が頭に過る。

もうあれから一年が経過したというのか。

時が過ぎるのは本当に早い。

 

日はすっかり暮れ、校内には薄暗さが増していた。

 

そんな中を歩く、放課後ティータイムのメンバー。

皆がライブの思い出に浸りながら、会話を続ける。

 

「んんー!この後は後夜祭か!最後まで思いっきり楽しもうぜ~!」

「ですね!後夜祭って何するんですか?」

「講堂ではなんかイベントやってて、外ではキャンプファイヤーかなー」

「澪先輩!一緒に行きましょう!」

「えっ!?いいけど……」

「どうしたの?澪ちゃん?」

「あ、あぁ……なんでもないよ、ムギ!」

「澪のやつ、へーんなの。」

「うるさいっ!」

「うふふ!とっても楽しみね!後夜祭!」

「フォークダンスもあったよね?」

「ええー……フォークダンスですか?」

「そうだよ~!あずにゃん!」

「男子と手繋がなきゃ……ですよね?」

「そうだぞ~?クラスにカッコイイ男子いないのかにゃん?」

「律先輩、可愛くないです……。それといないです。」

「じゃ、相馬!相手してやりなさい!」

「えぇ、俺!?」

「なんで少し嬉しそうなんだよ……」

 

そんな日常会話を続けていると、外から大きな歓声が聞こえてくる。

恐らくキャンプファイヤーが始まったのだろう。

律の声を合図にメンバーも向かうことにする。

 

ふと平沢唯の方を見る。

 

相変わらず整っている美しい横顔をしていた。

大きい瞳、綺麗な茶髪、どこかを見ているような表情。

その顔を見て、どこか俺は緊張してしまう。

俺……今顔赤くなってないかな。

 

そんなことを考えていると、横から律に肘内を食らう。

慌てて律の方を見ると、優しい表情をしているものの、どこか口角をあげニヤニヤしていた。

くそ……完全に楽しんでやがる。

律には感謝いないとな。

気付かせてくれたのは律なのだから。

 

 

「相馬、決めろよ。」

 

 

「えっ?」

「この期に及んでまだそんな"えっ?"とか言ってんのー?決めたんでしょ?気持ち。」

「……あぁ。」

「なら言わなくちゃ。恋はタイミングっていうけど、タイミングなんて男が自分から作らなくっちゃ。」

「……分かってるよーー。」

「なら、後日報告楽しみにしてるぞー?それと――――――。」

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「澪の方も、しっかり、ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――あぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

キャンプファイヤーの火が俺らの影を長く映した。

今年も立派なキャンプファイヤーだ。

生徒会や先生方のおかげです、ありがとう。

俺ら放課後ティータイム組は校庭にあるベンチで腰を下ろしていた。

今現在、校庭は人影が少ない。

恐らく、ほぼすべての生徒は講堂で後夜祭イベントを大いに楽しんでいるのだ。

 

……。

今の俺らにはその盛り上がりは必要なかった、と思う。

ライブという激動な時間を終えた俺らに今必要なのは黄昏る時間だ。

それぞれの思い出を語り、振り返る。

そんな時間がたまらなく楽しかった。

まるで一時一時を噛みしめるように。

思い出のノートを皆で眺めるように。

 

これで全てが終わる訳ではないが、それでも寂しいという気持ちがあったからだ。

 

ステージ上で輝くあの子達を見ることはあと一度しかない。

その事実が胸を締め付ける。

そんな中、律は口を開いた。

 

「キャンプファイヤーが始まるまであと30分くらいか……。あたしはどっかほっつき歩てようかねぇ~」

「はいっ!私も行きます!」

「よっしゃ!ムギ!行くぞ!」

「はい~!」

「あっ、私も行こうかな。」

「えっ、澪も?」

「うん。」

 

一瞬だが、律の動きが止まった気がする。

なんだろう。

 

「―――、分かった。」

「私は憂と潤に会ってきます!」

「唯と相馬はどうするんだー?」

「ん、俺はここ残ってるよ。足疲れちゃってさ……」

「ジジイかよ……。唯は?」

「んー。相馬くん一人になっちゃうから、少しここに居るよ!」

「オッケー。じゃあ、また後でな~!」

「ほーい!」

 

俺と唯除く四人が校庭から去っていく。

各々がどこかへ向かっていく。

 

……こんなことを言っている場合じゃなかった。

 

今、状況的にチャンスじゃないか?

いや、待て。

今言うのか……?

ふと自分の足を見ると震えているのが分かった。

人に想いを伝えるってこんなにも難しいんだ……。

 

そんな中、唯はどこかを見つめていた。

遠く。

遠く。

視線の向こうに、彼女の瞳に何が映っているのだろうか。

 

いつも俺に見せる無邪気な表情は、そこにはなかった。

ほのかに施されている化粧が、いつもと違う唯を際立たせている。

つまり、なんか大人な唯だった。

いつもは普通の女子高生。

だが今は一人の大人な女性に見える。

そのギャップが俺を戸惑らせた。

どう話し掛ければいいのか、分からない。

どう切り出していいのか、分からない。

 

 

「相馬くん」

 

 

「―――――。どうした?」

 

 

「去年と同じこと言うね、」

 

 

「えっ……」

 

 

 

 

 

 

 

「いつもありがとね。本当に。」

 

 

 

 

 

 

 

いつもの唯がそこにいた。

確か去年にも同じことを唯に言われた気がする。

満面の笑顔でこちらを見つめている。

 

いつもありがとう、か。

それはこっちの台詞なんだけどな。

 

 

 

いつだって助けられたのは俺の方だった。

 

 

 

軽音部に入ってなければ……俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ。"嘘"、ついていいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、また嘘ー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意地悪そうに微笑む唯の表情に引き込まれそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「唯、俺は―――――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を飲む瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、ある人物が背後から声を掛けてくる。

 

 

「お!!唯じゃん!」

 

 

「「え」」

 

 

なんということだろうか。

唯のクラスメイトの仙崎だった。

別に彼に罪はないが、本当に空気を呼んでくれ土下座してもいいから。

 

 

「こんなところで何やってんだ?お前等も講堂行こうぜ!」

「そうだね!」

「あ、あぁ……」

 

 

唯に気持ちを伝えるのはまた改めてになりそうだな……。

トホホ、とはまさにこの事なのだろうなと心底思った。

 

 

 

**********************************

 

 

 

あれから講堂に三人で向かい、イベントに参加することとなった。

そこで律やムギとも合流したが、早くこの場から抜け出したい気持ちが強い。

というか足が痛いのが本音だ。

未だに震えが止まらないっていうのもあるが。

 

「あれ、そういえば澪は?」

「さっきトイレ行ってくるって言ってたけど、そういえばずっと見てないな……」

「大丈夫か?」

「多分夜風にでも当たってるんでしょ。」

「マジかよ……」

 

少し気になるな……。

別に校内だから大丈夫だとは思うんだが。

……探しに行くか。

この講堂からも出たいし。

 

「俺、ちょっと行ってくるわ!」

 

軽く律達に挨拶をすると、俺は走って講堂を飛び出す。

澪がいそうな場所はどこだ……。

屋上、トイレ、教室……。

分からない。

どれも全て探し回るとなれば、かなりの時間を費やす。

少し大げさな気もするが、まぁいいか。

 

 

 

「ん、待てよ……。部室は――――――。」

 

 

 

なんとなくだが、澪はそこにいる気がした。

前触れもなく、唐突に。

 

 

 

 

澪……。

 

 

 

 

俺は一度足を止めて、思考を駆け巡らせる。

中途半端な気持ちで彼女と会話していいのだろうか。

唯に気持ちを伝えるということは、そういうことだ。

彼女の気持ちは聞いていないが、律の雰囲気からすると……そのまさかなのだろう。

 

前の俺だったら飛んで喜んでただろう。

 

 

澪のことを好きだったのは事実だ。

 

 

それは変わらないし、否定するつもりもない。

 

 

でも。

 

 

それでも。

 

 

あぁ……くそ!話さなければ何も進まねぇ……!

 

 

再び俺は走り出す。

 

 

澪がいるであろう部室へと――――――。

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

 

 

 

部室の戸を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

中は薄暗く、キャンプファイヤーの火が部屋に微かな明かりを当てているだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

その中に人影が一つ。

 

 

 

 

 

 

 

やはり、そこにいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「澪――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ないで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はそんなことを言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人だけの世界――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるでこの世界に二人だけしかいないような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな世界にいる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、何故彼女がここにいるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……馬鹿野郎! 目を背けるな尾形相馬……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は黄昏ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――そんな訳がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の肩は小さく震え、視線は下に向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無論、俺と視線が合う訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合わせようとしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は泣いていたのだ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あの夏、あの夜から、二度目の、二人きり―――――。


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#34 ぴゅあぴゅあはーと!

お久しぶりです~!
あいとわです!!

皆さん、お元気ですか!?
作者は最近多忙でしばらく更新することができませんでした><
もうすぐ2019年も終わってしまいますので、心残りのないように頑張りましょう!


さてさて、今回のお話は感動のお話!
まぁ、前回の終わり方からすればそうなりますよね…‥(笑)
やっとこさ続きを更新できました!
頑張って執筆しましたので、どうぞごゆるりと読んでくださいませ~!

最近執筆していないのにも関わらず、お気に入りの方も増えてきまして大変嬉しい限りです。
読んだ感想などはまた感想欄でお待ちしております!

それではどうぞ!!!



 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かっていたじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知っていたじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何を今更。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部、全部、分かっていたことなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女を前にして何も言えなくなるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙を流すのは俺の方なのに――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

目の前にいる彼女は泣いていた。

そう、泣いていたのだ。

俺はその光景をただ只管に眺めることしかできなかった。

スッと重力に逆らう事もせず、流れ落ちる一筋の涙。

それは彼女頬を伝い、下へ落ち制服へと滲んでゆく。

 

彼女が泣いている姿を見るのは初めてではない。

今までも何度も見てきた。

 

初めて澪と密に関わり、男から守ったあの日。

初めての文化祭の後。

初めて女の子と深夜の外を歩いた時。

 

どれも泣いている姿だった。

その度に俺は彼女に寄り添ってきた。

 

だが。

だが、今俺は目の前にしている彼女の泣いている姿は今まで見てきた姿のどれにも該当しなかった。

 

別に大泣きしている訳ではない。

ただ一筋の涙が零れ落ちているだけ。

でも、それの重みが今までのどんな姿より重かった。

俺の心のあらゆる場所を貫いてくるのが分かる。

 

"どうして泣いている―――――。"

 

そんな事を言える筈もなかった。

彼女を目の前にして。

俺は何も言葉を発する事ができない。

無言がこの場を支配する。

聞こえるのは彼女の小さな吐息と鼻を啜る音だけ。

何を言葉にしていいのか。

分からない。

俺がこれまで人生で積み上げたもの全てを積み上げても、分からなかった。

目の前がグルグル回り始める。

 

 

 

 

 

 

 

「相馬、ごめんな―――――。」

 

 

 

 

 

 

 

意外にも、沈黙を破ったのは彼女の方からだった。

彼女はそんなことを言う。

ごめんなって……。

なんだよそれ……。

なんで澪が謝ってるんだよ……。

澪がなんか悪い事でもしたってのかよ……。

なんで女の子に謝らせてんだ俺は……。

そんな想いが俺を硬直状態を容易く解いてくれた。

今、どうするべきか。

今、何を話すべきか。

この瞬間に全てが懸かっている。

 

 

 

「澪……その……」

 

 

 

「おかしいよな……。文化祭が終わったばっかだっていうのに一人でこんな所で泣いててさ……」

 

 

 

「そんなことはない!」

 

 

 

「……どうして?」

 

 

 

「それは……俺も泣いたことがあるからだ……!」

 

 

 

「相馬が?ここで?」

 

 

 

「そうだ。初めての文化祭の後、俺はここで一人で泣いた……!恥ずかしいけどな。」

 

 

 

「そっかそっか。それはまた私と一緒だね。」

 

 

 

「澪、――――――」

 

 

 

 

 

 

 

そこから先の言葉が出てこない。

もう喉のすぐ手前まで来ているのに。

あと言葉を発するだけなのに。

たったそれだけの事がこんなにも難しいなんて。

でも伝えなきゃ。

伝えなきゃならない。

いつまでも中途半端のままではいけない。

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ、澪。」

 

 

 

 

 

 

 

「うん―――。」

 

 

 

 

 

 

 

聞いてほしい事があるんだ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

「あれ、まーた一人減ったな~」

 

 

律が頬の汗を拭いながら告げる。

後夜祭の体育館イベントも終了を迎え、律、紬、梓、唯の四人は体育館を出るところであった。

 

「相馬くんならさっき澪ちゃんを探してくるって言ってたよね?」

「はい、言ってましたっ」

「あぁ、そっか。澪のやつどこ行ったんだろ……」

「そろそろキャンプファイヤーが始まるわよね」

「じゃあ和の手伝いでもしにいく?」

「それいいね!」

「じゃあお邪魔しましょ~」

「はいっ!」

 

四人は同時に頷くとグラウンドを目指し、歩みを進める。

その中での他愛ない会話。

そんな時間が四人を幸せにする。

ライブの話、余韻、これまでのこと。

そしてこれからのこと。

 

いつかは終わる、終わってしまう話は一切せずに。

これから。

次どんな曲を演奏するか、どんなバンドにしていきたいか、そして遊びの事、受験の事。

様々な事を話していく。

そんな話でも四人は永遠に話せそうなくらい。流暢に喋った。

 

時間はあっという間に過ぎ、四人はグラウンドへ到着する。

 

「のーどかっ!」

「和ちゃん!!」

 

作業を行っている和へ話し掛ける律と唯。

どうやらもう作業は最終段階へ進んでいるようだ。

 

「あら、皆お揃いでどうしたの?二人いないけど」

「二人は今どっか行ってるんぜ~い」

「それにしても、今年も始まるわね~キャンプファイヤー~」

「ムギは本当にキャンプファイヤー好きだよな~」

「えぇ。こんなこと滅多に経験できないもの!」

「キャンプファイヤーってどんなことするんですか?」

「ゲッ……」

 

少しではあるが律が苦々しい顔をする。

梓はそれを見て、

 

「律先輩?」

「去年はフォークダンスやったよ~!」

「フォークダンス……ですか?」

「うん!」

「それは男女ですか……?」

「えぇ。」

「なるほど……」

 

どちらかと言えば梓は律寄りの思考のようで、男女で手を取り合うのは苦手なようだ。

 

「去年は私相馬と踊ったから良かったんだけどなぁ……」

「相馬先輩!いいじゃないですか!」

「ね~!あずにゃんも相馬くんと踊りたい?」

「ま、まぁ……踊りたいってことはないですけど、他の男子は嫌ですね……仲いい人いないし……」

「梓ちゃん可愛いからモテモテよね~!」

「そんなことないです!」

 

そんなことを話していると、ふと背後から声を掛けられる。

 

 

 

 

 

「何をしにきた―――――。」

 

 

 

 

 

「「「「え。」」」」

 

 

 

 

 

声を掛けてきたのは一人の男子学生。

見るからに服装がキッチリしており、目付きも鋭い。

律が梓の様子を見る限りではとてつもなく嫌そうな顔をしている。

 

「中野梓、君に言っているんだ」

「あずにゃん?」

「こいつがいるから嫌なんですよ……」

「「「な、なるほど」」」

「こーら、音無くん。そんな事言わない。彼女達は手伝いに来てくれたんだよ、多分」

 

そこで和が男子生徒を制止する。

音無と呼ばれる男子生徒は「しかし……」と苦々しい顔をしながら和の方を見やる。

 

「彼、私の同級生で同じクラスなんです。生徒会の副会長です。」

「和ちゃんが会長だもんね~」

「よろしくー」

「はい、宜しくお願い致します。」

「なんかめちゃくちゃ堅いな……」

 

音無は一礼すると、元の自分の作業位置へと戻っていく。

先輩に対しては律儀なようだ。

律が梓の方を見やる。

 

「ほーう、なるほど。梓が苦手とする理由は音無くんか……」

「そういう事です……」

「梓ちゃんファイト!」

「ありがとうございます……頑張ります……」

 

梓は小さく背を向ける音無へ意地悪そうに「ベーだ!」と舌を出した。

 

「じゃあもうすぐ開始するから、火が点く瞬間少し手伝ってもらえる?」

「「「「はーい」」」」

 

 

 

 

 

 

今年もキャンプファイヤーが始まる。

 

 

 

 

 

 

**********************************

 

 

 

 

 

 

「あのさ……澪…‥聞いてほしい事があるんだ―――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

震える声で告げる。

 

 

 

言い訳なんていらない。

 

 

 

ちゃんと伝えなきゃいけないんだ。

 

 

 

澪のためにも。

 

 

 

ちゃんと伝えるんだ。

 

 

 

どんな言葉より遠い。

 

 

 

どんな言葉より重い。

 

 

 

次の一言を告げる為の時間が無限にすら感じた。

 

 

 

胸が張り裂けそうだ。

 

 

 

どうせ引き裂かれるのなら、己の身を引き裂かれた方がどれだけマシか。

 

 

 

でも時間は待ってくれない。

 

 

 

もう、沈黙を破る時が来たようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺さ、唯の事が……好きなんだ――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉を解き放つと同時に自分の中の全ての想いが一緒に吹き飛んでしまったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

生まれて初めての"告白"。

 

 

 

 

 

 

 

自分の想いを打ち明ける、という意味での"告白"。

 

 

 

 

 

 

 

まるで世界に二人だけしかいないような。

 

 

 

 

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

沈黙だけがこの場を支配する。

 

 

 

 

 

 

だがそれが長く続くこともなく、彼女の方から沈黙を突き破った。

 

 

 

 

 

 

彼女は笑顔で、一粒の涙を零しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、知ってたよ。相馬――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知、ってた――――――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、と頷く澪。

 

 

 

そうか、知ってたんだ。

 

 

 

俺はおもむろに下へ俯く。

 

 

 

じゃあ余計に澪に辛い想いをさせてたんじゃないのか……?

 

 

 

もっと早く俺が気持ちを伝えていれば……

 

 

 

彼女は――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもな、これだけは言える。私も相馬が好きだったって事――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この言葉を聞いて俺は体中が熱くなる。

 

 

 

 

生まれて初めて人に好きと言われるこの感覚。

 

 

 

 

言葉に表すことのできない想い。

 

 

 

 

油断すれば口から心臓が飛び出てきそうな。

 

 

 

 

そんな気分だ。

 

 

 

 

こんな素敵な女の子に好きといってもらえて。

 

 

 

 

俺はなんて幸せ者なんだろう。

 

 

 

 

なんて我儘なんだろう。

 

 

 

 

でも――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、ライブの前に言っただろ?このライブに歌、歌詞に全部の想いを掛けて歌うって――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

澪は確かに俺に向けてそんなことを言っていた。

 

 

あれは単なるライブ前の気持ちかと思っていたが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれはね、私が自分の気持ちに整理をつける為に言ったんだ。もうこれが"最後"って。」

 

 

 

 

 

 

 

「そうだったのか―――――。」

 

 

 

 

 

 

 

彼女は大きく息を吸って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、だから相馬……ありがとう。私、ずっとずっと相馬が好きだった。でもそれは今日のライブで終わりにする―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は自分の気持ちに深く嘘をついているかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

目に大粒の涙を溜めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日でその気持ちとはバイバイする。ありがとう―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はただ。

 

 

 

 

 

 

 

 

何を言うこともなく、澪の手を両手で握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、優しく。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、とても強く。

 

 

 

 

 

 

 

 

そっと、ぎゅっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"俺も好きだった―――――。ありがとう―――――。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまでの自分のありったけの気持ちを込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の中 思い出いっぱい

 

 

 

溢れそうなの ちょっと心配

 

 

 

とりあえずヘッドホンで塞ごう

 

 

 

欲しいものは欲しいって言うの

 

 

 

したい事はしたいって言うの

 

 

 

だけど言えない言葉もあるの

 

 

 

いきなりチャンス到来

 

 

 

偶然同じ帰り道

 

 

 

わお膨らむ胸の風船

 

 

 

急に足が宙に浮くの

 

 

 

上昇気流に乗って

 

 

 

 

飛んでいっちゃえ

 

 

 

君のもとへ

 

 

 

わたしの"ぴゅあぴゅはーと"

 

 

 

受け止めてくれるなら怖くはないの

 

 

 

この気持ちが大気圏越えたとき

 

 

 

君は見えなくなってた

 

 

 

道の向こう側

 

 

I Don't mind

 

 

 

 

 




一つの恋の終わり―――――。


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