IS世界に世紀末を持ち込む少女 (地雷一等兵)
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登場人物 設定集


ここから先には“IS世界に世紀末を持ち込む少女”の登場人物についての設定が書かれています。
また、この先登場する予定の人物についても書いてありますので、ネタバレ的な要素があります。
あと、人物はまだ増える予定です。
まだ本編を読んでいない方はご注意下さい。




・北星南美

→本作品の主人公。総合格闘家兼格ゲー超上級者。

格闘スタイルは手刀と蹴りを中心とした破壊力に重きを置いた一撃必殺系(ジョインジョインジョインジョインミナミィ)

格闘の基礎は父親から教わり、それをひたすら磨き上げてきた。

行きつけのゲーセン、TRF‐Rの店員である“ほんわ君”に好意を寄せ、IS学園入学前に告白、無事に交際に至った。

交際前、格ゲーマー“ノーサ”のスイッチが入っている時は積極的にほんわ君とボディタッチを行うが、スイッチを切った後に冷静になってその事を思い出して恥ずかしくなり、奇声を上げて悶えることもしばしば…。

 

世紀末企業と名高い日本のThe Last of Century Enterprises社からスカウトを受け、専用機“ラスト”をもらい受ける。

 

 

 

・織斑一夏

→原作の主人公。そこまでの改変は加わっていない。

幼少期に両親を失っており、実姉の織斑千冬への恋慕すら疑われたことがあったほどのシスコンである(あまりそう言った描写はないが)。むしろ歳上にしか反応しないのではとも呟かれていたこともある。実際歳上好き。

顔良し、性格良し、家事良しという優良物件ではあるものの、どこか人生を諦めたような節があり、モテるにはモテていたが、そこまででもなかった。がしかし、中学2年の夏に北星南美と出会ったことで燻っていた強くなるという野心に再度火が付き、剣道を再開。モテ度が急上昇した。

実践的な、相手を倒すための剣術を求め、後述の狗飼瑛護に師事するようになる。

 

 

 

・セシリア・オルコット

→原作ヒロインズの一人。織斑一夏同様、さほど改変されてはいない。

原作同様に一夏に対して恋心を抱くと同時に南美に対して憧憬の感情を抱いている。

そのうち英国面に落ちると思われる。

 

 

 

・篠ノ之箒

→原作ヒロインズの一人、こちらも大きな改変はない。

剣道少女であり、その戦い方は正面から相手を圧倒するという単純明快なもの。

専用機を手に入れた一夏とその周りにいる専用機組に置いていかれないように実践的な技を欲して一夏と同じく狗飼瑛護の教えを受けるようになる。

 

 

 

・凰鈴音

→原作ヒロインズの一人で、大きく改変された人。

世紀末スポーツアクションゲーではサウザーを使用し、勝鬨の声と言わんばかりに高笑いする。RNはファリィ。

格闘技に手を染めた。師匠は後述される呂虎龍で、小さな体格というハンディを補うために手数と速さを活かして相手の急所を襲撃するスピードタイプ。

師匠との出会いは中学1年の頃、母親から教わった太極拳の練習を公園でしているとき、声を掛けられたのが切っ掛けである。

それからはジークンドーに目覚め、才能を開花させた。

その実力は南美に匹敵するレベルである。

一夏への恋心は半ば人生を諦めたような節のあった一夏に対して放っておけなさを感じたため。

そしてこれも原作とは違い両親は離婚していないものの、父親は亡くなっており、現在は母親が一人で中華料理屋を切り盛りしている。

 

 

 

・更識楯無

→名前だったりは出て来ているが、ほぼ出番のない人。本当はもっと出番を作ってあげたい。

恐らく原作ヒロインの中でも大きな改変がなされた人(トキインストール)。

柔の拳の使い手で、その流れるような動きは南美の憧れでもあった(ジョインジョインタテナシィ)。

恐らくナギッが使えると思われる。ただし病弱ではない。

 

 

 

・布仏本音

→そこまで大きな改変はなされていない。強いて言えば世紀末スポーツアクションゲームに染まったことである。

それを除けば、のほほんとした癒し系キャラのまま。

 

 

 

・更識簪

→更識楯無の妹で、日本代表候補生の一人。髪や瞳の色は楯無と同じだか、楯無の人懐っこい猫のような顔つきとは違い、簪はとても大人しそうな顔をしている。また楯無の髪が外はねなのに対して簪は内はねである。

投射型ディスプレイの代わりに眼鏡型のディスプレイしているため、目は悪くなく実は視力は良い方。

優秀過ぎる姉の楯無と事あるごとに比べられコンプレックスを刺激されてきた結果、アミバ病を発症した。

姉楯無に出来て自分に出来ないはずがないと、過去に楯無が為し遂げた個人でのIS作成に取り組んでいる。

 

 

 

・北星総合警備派遣会社-KGDO-(Kitaboshi Guardsmen Dispatch Office)

→南美の父親、北星義仁が立ち上げた警備会社。本来は義仁が現役時代に闘った強敵《とも》達と一緒に開いた小さな事務所が始まり。

所属するメンバーの腕が確かで仕事に実直なこともあり、次第に評判が上がり会社が大きくなっていった。

それからは義仁がスカウトしたり、メンバーのツテなどを使って更なるメンバーを増やしたことにより、今では日本国内で最大規模の警備会社へと成長し、国内シェア1位である。

 

 

 

・北星義仁

→北星南美の実父であり、元世界的格闘家。現在は日本最大手の警備会社、北星総合警備派遣会社KGDOの社長を勤める。ただしその肉体は全く衰えていない。

現役の時は日本人離れした体格を活かしての殴り合いが得意だった一方で、寝技への対処がかなり上手かった。

また、世界中を飛んで回ることが多かったため、日本語はもちろん、英語、ロシア語、ドイツ語、ポルトガル語、フランス語、スペイン語の読み書き会話が出来るというハイスペックである。

また、格ゲーが好きで南美に大きな影響を与えた。主な戦場はアカツキ電光戦記で、メインキャラはアドラー。

 

 

 

・狗飼瑛護

→KGDO社員で、現在はIS学園の警備を担当している。

彼の出自や腕を磨いた経歴は人に話せるようなものではないらしいが、雇った義仁自身はそんなことは気にしていない。

若いことと、仕事熱心で実力も確かなこと、社長である義仁からの信頼に厚いことなどから女性社員達からは優良物件として覚えがいいらしい。

趣味はバイクで、休みの日はたまに愛車のVMAXに乗ってひとっ走りする。

 

 

 

・呂虎龍(ルゥ=フゥロン)

→KGDOの社員で、現在はIS学園警備を担当している。その前は中国のVIPのボディガードとして1年近く向こうにいた。

格闘技の腕前はかなりのもので、凰鈴音にジークンドーを教えた人物でもある。

体格が小さく軽いため、それを補うための急所強襲という戦い方をする。

 

 

 

・川内弥子(センダイミコ)

→恵まれた体格を活かした足を止めての殴り合いが得意なパワーファイター。

相手の懐に潜り込んでからが本領であり、そのためのテクニックはKGDOの中でも屈指のもの。

圧倒的パワーで正面から捩じ伏せるその戦闘スタイルから人呼んで“撲殺”弥子という名で一部の人間に知られている。

その胸部は豊満であった。

余談ではあるが、家系図を辿ると実は博麗神社という由緒ある神社に繋がる人物で、そっち関係の知識にもそれなりに通じている。また従妹で妹分である霊夢という少女が博麗神社の巫女として務めている。

 

 

 

・ルガール=ベルンシュタイン

→KGDOの物資輸送部門を担当する人物。スーツに髭、閉じた右目と、怪しさ満点だが職務に忠実で、とても信頼出来る人である。

例に漏れず肉弾戦が得意であり、特に壁や障害物のある場所での戦闘はKGDOでもトップクラスの実力者。

相手を壁や障害物にぶつけ、すかさず別の壁や障害物にぶち当て続けるという恐怖のコンボ、通称“運送スペシャル”が得意技。

 

 

 

・アーデルハイド=ベルンシュタイン

→ルガール=ベルンシュタインの息子で、KGDO社員。父親譲りの格闘センスがあり、ドイツ大会では優勝の常連だった。

ドイツの大学卒業後、ルガールと義仁からの薦めもあり、KGDOに入社した。入社後もその才能を遺憾なく発揮し、急激に頭角を現した若手のホープ。

現在は輸送部門で意欲的に仕事をこなしている。

 

 

 

・飛田高明

→KGDO所属の元プロレスラー。関節技・寝技に長けており、その技術はKGDOの中でも五指に入るほど。

現役時代に膝の靭帯を痛め、その傷が大きな原因となって引退し、かねてからスカウトを受けていたKGDOに入社することになった。

たまに格闘大会の解説を務めることもあり、分かりやすいことに定評がある。

 

 

 

・クリザリッド

→KGDOで中間管理職を務めるアイルランド出身の元格闘家。

色々と濃すぎる上司と部下に挟まれ、常に胃薬と鎮痛剤が手放せない苦労人。

格闘だけでなく、事務処理能力にも長けていることが彼の苦労が加速する原因となっているのは明らかである。

なお、現在はとある中華料理屋の女性店主に恋心を抱いている模様。その事は彼の周りの社員ほぼ全員の知るところとなっており、関係の進展が期待されている。

 

 

 

・不破刃

→うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!

KGDOの社員で、事務方の人間ではなく実動員の一人。社員一同は皆、口を揃えて彼をこう評する、“……すごい漢だ”と。

実際の実力は確かであり、社長の義仁自らがスカウトに赴いたほどである。

彼の特徴は声が大きいこと。特に事務方からはうるさいことで有名。

鍛え上げた肉体を見せつけるように上半身裸で戦うという破天荒な人。ただし、強敵には最大限の敬意を払うなど、武人としての誇りを持っている。

 

 

 

・グスタフ=ミュンヒハウゼン

→KGDOでも屈指の実力を持つ人物。

黒の長髪をオールバックにし、黒いスーツに黒の革手袋、無精髭の優男で、渋いダンディボイスも相まって女性社員から人気がある。

半透明のワイヤーや、様々な飛び道具を上手く使って立ち回り、相手に何もさせないまま鎮圧することが得意である。

 

 

 

・ブロントさん

→KGDOの社員の一人。白い髪にやや黒い肌と、クリザリッドと被っている。

入社前はイギリスで騎士道競技の選手をしていた。

選手の頃は国内大会で9連覇し、10連覇11連覇と更なる記録更新なるかと騒がれていたが大会を辞退する。

なぜ辞退したのかとマスコミに尋ねられると『連覇数は9でいい。余りにもオレが勝ち過ぎると新人が育たないから(英語)』とだけ答えて現役を引退した。

とても丁寧な英語を話す一方で、日本語には未だ慣れずとても独特な日本語を操る。

性格はとても謙虚である。

 

 

 

・高野レン

→KGDOの社員の一人で、営業部。かつてはやきうのスター選手であったのだが、膝に死球を受けてしまい、それが原因で引退した。

打ってはホームラン、投げては奪三振の山を築く名選手で、彼女の引退には多くのファンが涙した。

ちなみに名前は“たかのれん“ではなくて、“こうやれん”である。

 

 

 

・ヘビィ=D!

→KGDOの営業部で高野レンとコンビを組んでいる社員。入社前は有能なボクサーで、王座にもついたことがあるのだが、対戦相手を死なせてしまい、その事が一種のトラウマとなりリングに上がることが出来なくなって引退した。

あてもなくぶらついているところを義仁に声をかけられる。そのあとはKGDOの営業として高野レンとコンビを組むこととなる。

 

 

 

・高町なのは

→KGDOの渉外部に勤める女性。数年前は新人育成の部署で教官として働いていたのだが、交渉の才能を開花させ、渉外部に人事異動することになった。

いまでは黒色が大好きな交渉人を相棒に、様々な事案に取り組んでいる。

 

 

 

・Last of century enterprises社

→日本のIS関連企業の1つで、スポーツ振興にも力を入れている。

テストパイロットとして北星南美を抱えており、専用機“ラスト”を開発した。

時代の流れから逆行した武装やなぜか開発側の予想を裏切った挙動を見せるパーツなどを多く開発し、近接戦に特化したパーツを数多く産み出した実績から“世紀末企業”の名前をつけられている。

営業の社員には元メダリストなども在籍している。

 

 

 

・鷲頭清雅

→last of century enterprises社の社長を勤めるナイスミドル。格闘技全般と格ゲーが大好きで、ニヤニヤ動画のプレミア会員。

北星南美を直接スカウトしに行ったりと、なかなかフットワークが軽い系の社長である。

 

 

 

・暁

→last of century enterprises社の技術社員で、南美の専用機“ラスト”開発部のチーフを勤めている

技術職ながら、カラテを嗜んでおり腕前はかなりのもの。

大食漢で、ざるそば十枚を軽く平らげる姿が社員食堂にて目撃されたこともある。

休みの日にはよく、夢弦市のとある寺に足を運んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 





KGDOのメンツは誰にしようかを考えるだけでも楽しいです。



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夢弦市 施設案内


南美の実家などがあり、IS学園を除けば物語の中心になる夢弦市にある大まかな施設・その他の解説と案内です。

“MUGENじゃねぇか!“、“MUGENでやれ!”という突っ込みは甘んじて受け入れます。




・駅前大型ショッピングモール“レゾナンス”

…駅前と言いつつ、駅内にも併設された大型ショッピングモール。ここにないなら市内のどこにもないと言われるほど店舗の幅が広い。

多くの施設があるため、休日は人で賑わう。

南美達、人間を止めつつあるゲーマー達が集うTRF‐Rもこの中にある。

 

 

・北星総合警備派遣会社KGDO本社

…国内トップのシェアを誇るKGDOの本社。トレーニング施設と社内食堂の規模が大きく、格闘業を引退した社員も満足の規模である。

 

 

・Last of century enterprises社

…世紀末企業としてその名を全国に知らしめるLOCエンタープライズ社の本社ビル。実験施設も併合しており、それなりに大きい。

 

 

・如月重工開発局実験棟

…変態企業と名高い如月重工が開発した物を試す為の施設。時おり爆発音が響いたり、地響きが鳴ったりするが、近隣住民は慣れているのか、何も騒ぎはしない。むしろ“また如月か”の一言で済ませている。

 

 

・博麗神社

…古くから続く由緒正しき神社。八百万の神を奉っていると関係者は口にする。昔は参拝者が来ないことに悩んでいたが、神主と親戚であった川内弥子が一躍有名になると、参拝者がよく訪れるようになった。

 

 

・命蓮寺

…美人な住職がいるお寺。住職の白蓮氏は人は誰しもが善人であり、どんな悪人にも改心する機会があるべきと考えている。たまにこの寺でLOCエンタープライズの社員、アカツキ氏の姿が目撃されている。

アカ白は俺たちの神仏習合!

 

 

・Flower shop 風見鶏

…ゆうかりんこと、風見幽香が経営する花屋。質の高い四季折々の花を取り揃えている。

中学生時代の一夏のバイト先でもある。

 

 

・八意診療所

…名医八意がいる診療所。よく喧嘩で大怪我した連中が運ばれる。

腕のいい医者兼薬師の八意氏と、弟子の鈴仙、なぜか狼の被り物を被ったお手伝いのガロン氏がいる。

大抵の傷や怪我はここに行けば治ると地元の人達からは言われている。

 

 

・お食事処“衛宮”

…赤髪で正義感の強い青年店主が営む飲食店。紫がかった艶やかな髪が色っぽい少女とともに厨房を回している。

若いながら料理の腕は確かであり、常連客の数は多い。

KGDOの社員達もよく利用しているため、時おり店内はカオスの様相を呈することもある。

 

 

・中華料理 凰

…凰鈴音の実家であり、母親の凰美鈴が切り盛りしている中華料理屋。常連客に愛されており、客の少ない日はほぼない。

KGDO社員もよく来ており、昼時は上記の衛宮に行くか、凰に行くかで社員同士がよく揉めるらしい。

 

 

・五反田食堂

…織斑一夏の幼馴染み、五反田弾の実家の定食屋。

地元民からは愛されており、昼時になれば座席フル回転の賑わいを見せる。この食堂もまたKGDO社員が訪れ、その度に厨房から高速でお玉が飛んで来る。

 

 

・甘味処「六文銭」

…夢弦市の中でもかなりの歴史を持つ老舗の甘味屋。六文銭という店名は旨すぎて極楽に昇るほどという意味合いがあるのだという。

安く、質の高いものを提供することをモットーに掲げている。

またアルバイトの女の子と、とある赤い常連客の焦れったくも甘酸っぱい関係に砂糖を吐くお客さんが大勢いるのも特徴である。

 

 

・居酒屋 夜雀

…割烹着の似合う女将が営む居酒屋。世間では珍しい八ツ目鰻を取り扱う店である。

もともとは女将が屋台から始めた店であるのだが、評判が評判を呼び店を構えられるまでに至った。

 

 

・バー「イリュージョン」

…元用心棒兼格闘家という異色の経歴を持つマスターが経営するバー。

マスターの美貌と雇っている双子のウェイトレスの容姿もあり、女性客のリピーターが多い。

バーということもあり、密かに人気の店である。

 

 

・夢弦大学

…夢弦市の地域密着型大学で、付属の小学校、中学校、高校がある。

学部も幅広く、大抵の学問ならばここで学ぶことができる。

教授陣も優秀な人材が揃っており、文化学では“文化における速さと早さ“という論文で有名な兄貴ことストレイト・クーガー氏。歴史学では緻密な考察に定評のある上白沢慧音氏。宗教学にアレクサンド・アンデルセン氏とゲーニッツ氏、物理学に岡崎夢美氏などが在籍している。

他にもアグレッシブ教授こと心理学者の横山孔明氏や、医学のファウスト氏など有名で優秀な人材が多数揃っており、全国から受験者が集まってくる。

 

 

・西行寺造園

…江戸時代から続く由緒正しき造園業者。現在は西行寺幽々子氏が取り纏めをしている。

夢弦市にある庭園の多くはこの西行寺造園が手入れを行っており、職人達の腕はかなり高い。

 

 

 

 

 





まだ増えるかもしれません。
上記以外にも織斑一夏・千冬の実家や篠ノ之神社があります。



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一夏対人関係図


この作品のもう一人の主人公こと織斑一夏くんの周囲との関係を現したものです。
作品が進む度に関係が変化していきます。




[一夏・南美]

一夏→南美

…越えたい目標、越えるべきライバル

 

南美→一夏

…急成長するライバル、早く彼の最高潮と戦いたい

 

 

[一夏・千冬]

一夏→千冬

…唯一の家族、強い憧れ

 

千冬→一夏

…唯一の家族、手の掛かる弟、最愛の家族

 

 

[一夏・箒]

一夏→箒

…剣術のライバル、気の知れた幼馴染み

 

箒→一夏

…剣術のライバル、初恋の相手だった、負けたくないライバル

 

 

[一夏・鈴]

一夏→鈴

…近接戦のライバル、気の知れた幼馴染み

 

鈴→一夏

…初恋の相手だった、ライバル

 

 

[一夏・セシリア]

一夏→セシリア

…クラスメイト、よきライバル

 

セシリア→一夏

…価値観を変えてくれた男、よきライバル、彼と美男子の絡みもまた…

 

 

[一夏・シャルロット]

一夏→シャルロット

…頼りになるクラスメイト、裸見ちまったよ…

 

シャルロット→一夏

…助けを求める切っ掛けをくれた恩人、もっと一緒にいたい

 

 

[一夏・ラウラ]

一夏→ラウラ

…ファーストキスの相手、大切にしないといけない

 

ラウラ→一夏

…最愛の人

 

 

[一夏・簪]

一夏→簪

…南美の相方をしてた日本代表候補の人、見た目に依らず色々とめちゃくちゃ半端ない人だ…

 

簪→一夏

…玉鋼の計画が凍結される原因になった男、中々骨のある男じゃないか…

 

 

[一夏・楯無]

一夏→楯無

…謎の多い年上のお姉さん、一緒に風呂入っちまったよ…、裸見ちまったよ…

 

楯無→一夏

…気になる年下の男の子

 

 

[一夏・真耶]

一夏→真耶

…おっちょこちょいな先生

 

真耶→一夏

…逞しい男の子ですね

 

 

[一夏・束]

一夏→束

…姉の親友、幼馴染みの姉、尊敬出来るけど出来ないでも凄い人

 

束→一夏

…好き、大好き、結婚したい、くんかくんかしたい、もふもふしてほしい、子どもは何人が良いのかな、ずっと一緒にいたい

 

 

[一夏・狗飼]

一夏→狗飼

…剣術の師匠、尊敬、いつしか越えたい目標

 

狗飼→一夏

…手の掛かる弟子、有望株

 

 

[一夏・カセン]

一夏→カセン

…一目惚れ、好き、カセンさんの特別になりたい

 

カセン→一夏

…自分の事を本気で好きだと言ってきた今時珍しい愚直な男の子、少し気になるかも…?

 

 

[一夏・犬走]

一夏→犬走

…師匠の後輩、尊敬、凄い人

 

犬走→一夏

…可愛い男の子、先輩の弟子

 

 

[一夏・幽香]

一夏→幽香

…バイト先の優しい店長さん、幼い頃からの顔見知り、頼りになるお姉さん、料理の先生

 

幽香→一夏

…千冬ちゃんの弟、幼い頃から見てきた弟分、素直で努力家なところが素敵な男の子

 

 

[一夏・美鈴]

一夏→美鈴

…鈴のお母さん、優しい店長さん、中華料理の先生

 

美鈴→一夏

…誠実な少年、娘の幼馴染み、娘の初恋相手、料理の弟子、婿に欲しい、娘と結婚してくれないかな?

 

 

[一夏・弾]

一夏→弾

…バカやってた大事な友達、何でも話せる男友達

 

弾→一夏

…バカやれる友達、朴念仁にも程がある、こいつが義弟になるのか?

 

 

[一夏・蘭]

一夏→蘭

…親友の妹、年頃の女の子はよく分からない

 

蘭→一夏

…好き、尊敬できる先輩、どうしたら振り向いてくれるのか?

 

 

 

 





さぁ一夏のハートを射止めるのは誰なのか?



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TRF‐R修羅紹介

※注意※
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件とは一切関係がありません。

またこの作品には中野TRF及び、そこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。


一応登場させる予定のある修羅の紹介です。
今後も増殖する可能性があります。

前書きも済んだところで、どうぞ↓



 

 

・ノーサ(北星南美)

TRF‐Rの修羅 全一シン使いでサブキャラはレイ、ジャギ、サウザー、ハート様

シスコン全一 リアルファイト全一 ムテキング二段の肩書きを持つ。

よく通る明るい声で聞き取り易い実況に定評がある。次期南斗実況拳伝承者候補。

修羅勢の中ではわりかし煽らない。

(ノサ・ω・)<南斗獄屠拳!!

 

・TAKUMA

TRF‐R所属の修羅、メインキャラは実況、サブはユダ。

よくダムがレッパに化けたり、レッパがダムに化けたりする。

ハイテンションかつほどよくネタを織り混ぜた実況が人気。南斗実況拳伝承者。

絶対と言って良いほど自重しないTRF‐Rの修羅勢を纏められる貴重な人材。別名 世紀末小学校修羅組担任。

(TA・Д・)<はい、ランランルー

 

・Kai(ケーアイ)

TRF‐Rの店員兼プレイヤー。全一レイ使い。黒カラーのレイは処刑人の証。八歳の時からゲーセンに通い詰め、なけなしの小遣い全てを格ゲーに注ぎ込んで来た。

それで培われた精密動作性と精神力は体力残り1ドットから逆転勝利を納めるレベルに強靭。通称“精密機Kai”

大会前に甘いものを渡すと負けてくれるらしい。

(Ki・Д・)<生キャラメル!

 

・眉毛

TRF‐R所属の修羅、全一サウザー使い。脅威のやり込みから来るキャラ対知識を武器にした立ち回りが持ち味。

TRF‐Rに所属する全サウザー使いのお師さん。

ある大会で意味不明な羽ばたきを行い、羽ばたき勢と言われるようになった。「死ねばいいのに」が口癖と言われるくらいに激しい口プレイが特徴。

(眉゜Д゜)<羽ばたき勢とか言うなし‼

 

・QMJ(究極の魔法使いジャギ様)

全一ジャギ使いで、赤カラーのジャギを使う。赤いジャギは通常の三倍と言わんばかりにジャギバスケ通称大魔法を平然と使いこなす。

サウザーに7:3つけたり、トキを作業したりするなど数名の修羅にトラウマを与えた。

(*M*)<トキがいてもこんなもんよ。

 

・えぐれシジミ

TRF‐R所属の修羅で、サウザー使い。同じサウザー使いの眉毛は師匠。他の修羅とのガチ撮り動画「えぐれシジミのガチ撮り100番?勝負」をニヤニヤ動画にUPして一躍有名になった。

色々と煽られるが、恐らく一番愛されている修羅。

(*´ω`*)<流行る

 

・┌┤´Д`├┐(読み方不明)

TRF‐Rの中で最も有名なプレイヤーの一人。シン使いで実力は確かなのだが、意味不明なコマンドミスやコンボミスをやらかす。けど勝つ。

TRF‐R七不思議の一つである。

ぶっぱなのか超反応なのかよく分からない獄屠拳や南斗雷震掌が特徴。

リアルサイクバーストやリバサスタートボタンなど数々の伝説を持つ。

┌┤´Д`├┐<ニドトコノゲーセンコネェ

 

・こあらさん

レイ使いの修羅。妙に和むへにゃふにゃボイスによる実況が特徴。

他の修羅から特技はコンボミスと煽られることもしばしば。

漫画「ハヤテのごとく!」のキャラ、西沢歩をこよなく愛し、西沢歩好き全一を自称している。

一時期バトルドームに浮気したりもしていた。

(こ・ω・)<超!エキサイティンッ!!

 

・鋼(本名:郡山徹平)

TRF‐R所属の修羅で、古参修羅とバスケ・百烈を開発した。AC北斗の拳を一周回って神ゲー(異論は認める)まで昇華させた功労者の一人である。

メインはレイ使い。実力も高く、格闘ゲームの祭典、闘劇では二日目の選手宣誓を務め、伝説を残した。ヴォーコウサーン

TRF‐Rのモヒカンを束ねるモヒカンリーダーでもある。

別ゲーをプレイしていた頃は知的なプレイスタイルだったが、北斗を始めて強さを求めるが故に知性を捨て去った。

通称、世紀末高校バスケ部顧問。

大会中に騒ぎ過ぎるとTAKUMA辺りから本名で名指しされる。

(♂・鋼・)<ンギモヂィィイイイ‼ ビグンビクン‼

 

(TA・Д・)<テッペイ オマエモウカエレッ‼

 

・らいぶら

TRF‐R所属の修羅でラオウ使い。激しい口プレイが特徴で別名口プレイ全一。

口プレイが(性的な意味で)大好きらしい。

実況としてマイクを握ることも多く、煽り過ぎて実況になってないことも多々ある。

実力者である一方でネタキャラとしてファンが多い。

ブルマ好きである事を動画内で暴露され、時折ネタにされる。

一日一万回感謝の小パンで培った目押しが武器。

(ら・∀・)<ソレジャライブラノアオリジッキョウヲハジメマース

 

・DEEP

TRF‐R所属の修羅でシン使い。ムテキング三段の肩書きを持ち、シンのバグ、ムテキングを自在に出せるように基板とROMまで買ったムテキングガチ勢。

ノーサに頼まれてムテキングについてレクチャーした過去がある。

別名汚いシン使い。ムテキングを狙わない方が強いのは言ってはいけない。

そしてたまにゲージを見ない。

オレガゲージミテナイカラニキマッテンダロ‼ 堂々と言うことではない。

(DP・Д・)<NDK?NDK?

 

・チクリン

丁寧な実況に定評のある実況ガチ勢。数少ないマミヤ使いの一人。

動画内で某アダルトゲームに嵌まっていることが知られ、一時期あだ名にされた。

パティシエを目指している妹がいるらしく、シスコンである。

こあらさんにバトルドームを布教した張本人。

(チ゜Д゜)<ストレスを溜めて有給というボムを撃つ、社会人というシューティングゲーム

 

・メビューシャ

TRF‐Rの新人のシン使い修羅。最初の頃は初級者というRNを名乗っていたが、周囲の修羅達にフルボッコにされる作業によりガードの固さに定評のある修羅へと変貌を遂げた。お前のような初級者がいるか。

修羅として活躍するとRNをメビウスに変更、だが初級者の印章も強く、いまではメビューシャと名乗るようになった。

(メ・д・)<自分まだまだ初心者なんで。

 

・真アナゴ(マアナゴ)

TRF‐R所属の修羅でケンシロウ使い。ガン攻めとも表されるイケイケな攻めと高い切り返し性能が特徴。一方で残悔拳を遠慮なく放ち(ブッパではなく狙ってやる分余計タチが悪い。)大会を沸かせる。

現在のTRF‐R1ラウンド最短撃破時間記録保持者でもある。

後進の育成にも熱心で、弟子には修羅が数人いる。

(真゜д゜)<コレが持続残悔拳だ。

 

・パラジクロロベンゼン

TRF‐R所属修羅でハート様使い。ハート様で闘劇に出場を果たした。ミスったようでミスってない起き攻めが特徴。

RNが長すぎて皆からはベンゼンと呼ばれている。

(パ・д・)<人の事を豚扱いとは良い度胸じゃないか。

 

・ベニケン

TRF‐R所属の修羅でアラブカラーのケンシロウ使い。

真アナゴの弟子の一人で闘劇の当日枠をもぎ取った実力者。

RNをベニケン@真アナゴの弟子にするなど師弟愛は強い。

リアル弟も修羅。

(ベニ・∀・)<お師さん。

 

・ミソノ

TRF‐R所属の修羅でベニケンのリアル弟でジャギ使い。リアル弟なのに使うのは兄である。

受け継がれる魔法戦士の系譜、QMJに並ぶコンボ精度とミソノ式と言われるオリジナル連携によってブースト・火力の効率が良い。日々の研究に余念がない。

見た目は幼いがちゃんと18歳以上である。

異常なガードの固さが自慢。

(ミ・ω・)<兄貴~。

 

・ナックス

TRF‐R所属の修羅。マミヤ使いのレジェンド。トキが跳梁跋扈する時代にマミヤで闘劇出場を果たした。

通称マミヤ立ち回り全一のナックス。

ゲージを全て立ち回りに注ぎ込み、絶対に捕まらない立ち回りが特徴。

(ナッ゜д゜)<コレがレジェンドマミヤの実力だよ。

 

・クソチェル

グー○ルも認めた負債王。BLAZBLUEのレイチェルをこよなく愛し、レイチェルに愛された男。どんなに弱体化しようともレイチェルを使い続けるなど、その愛は本物。

北斗の拳では一応ケンシロウ使いなのだが、ナギッを封印したトキ、通称那戯無闘鬼の第一認者としての方が有名。

とてつもないファンタスティックなプレイスタイルの一方で、勝利に対する執念深さがある。

クソチェル那戯無闘鬼とかいいから金返せ。

(ク゜Д゜)<レイチェルはオレの嫁だ。

 

 

 






ホントにキャラ濃いなぁ…。




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TRF‐R店員紹介 用語辞典


こちらも修羅紹介同様に随時更新していきます。




店員紹介

・モミー店長

TRF‐Rの店長を勤める偉大な人物。格ゲーマーとしての実力も高く、TRF‐Rで稼働する台の大半でそれなりの実力を見せる。

ゲームの裾野を広げるという目標を持ち、初心者にも優しいゲーセン作りというモットーがある。極端にマナーの悪い客には出禁も辞さない。

TRF‐Rから徒歩3分という抜群の立地にモミー邸と言われる本拠地(一軒家)を構える。終電に遅れてしまった(故意的なものを含む)TRF‐R常連の為の宿泊施設としても使われる。(泊まった者はどう言った経緯であれ、ニヤニヤ動画の生放送配信の労働力として働かされる。)

本名は不明で、店員の証であるネームプレートにもモミーとしか書かれていないため、常連からは店長、モミー、モミアゲ店長などと呼ばれる。

 

・ほんわ君

TRF‐Rの店員で、成人しているとは思えないくらいに見た目が幼い、いわゆる合法ショタ。

幼い外見とほんわかとおどおどした小動物っぽさがマッチし、女性客から絶大な人気を誇る。高校時代からTRF‐Rでアルバイトをしていたゲームガチ勢。対戦中は普段のおどおどした姿は一切なく、凛とした態度を見せる。そのギャップに惹かれる女性多数。

北斗とBASARAをプレイするが、メインはBASARA勢である。北斗の実力はモミー店長に言わせるとモヒカンの中で中の下くらいとのこと。

BASARAでは秀吉を本キャラとして使っており、その実力はかなりのもの。

周りから言われて店内大会に出場することもあるが、その時は対戦相手を投げまくり、時には毛利すら封殺することもある。優勝すると「ショタゴリラ少しは自重しろ‼」という野次と言う名の声援が飛ぶ。

その可愛らしい外見から彼の貞操を狙う者がいるという噂がある。アー♂

幼い外見が災いしてか、初見の居酒屋に行くと毎回年齢確認されるのが悩み。

 

・カセン

TRF‐Rの女性店員で、セクシー担当。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んだボンキュッボンなナイスバディが魅力的。

同僚のほんわ君と並ぶとオネショタ的な感じがして薄い本が分厚くなる。

北斗ガチ勢でユダ使い。ユダ本人と「イチコロ」を使って繋げる永久コンボが得意。ダガールを滅多に使わないどころか、速攻で真っ二つにすることもある。

ユダ様は本当に力押しの得意なお方。

ただ、店員という立場から自重して店内大会にはあまり出ない。Kaiは良いのかって?なぁにぃ、聞こえんなぁ。

胸が大きいと肩凝るし、邪魔なのよねぇとノーサの前で言ってしまい殺気の籠った眼で睨まれたことがある。

因みにだが、常連客の間では、同僚のほんわ君とのカップリングが囁かれ、ほんわ君×カセンの「ほんわかせん」派とカセン×ほんわ君の「かせほわ」派に別れている(あくまで客の妄想だが)。

好きなタバコの銘柄はわかば。

 

・Kai

TRF‐Rの店員で修羅の一人。マナーの悪い客には敗北をプレゼントする。

店員のくせに店内大会に出ることにつっこんではいけない、いいね?

店員なのに野試合しまくって大会進行を遅らせたりしていたりすることもあるが気にしてはいけない。

幼い頃からゲーセンに通っていた(親が厳しく、お昼御飯代の500円から費用を捻出。)

(Ki・д・)<トウテンハアマエゲンキントナッテオリマス

 

 

 

用語解説

 

・バスケ

いわゆる永久コンボ。AC北斗の拳がクソゲーから一周回って神ゲー(異論は認める)まで昇華した要因の一つ。

コンボ数が一定以上行くと、何故か体がバスケのボールのように跳ねることから名付けられた。

 

・MP

1.マジックポイントの略

2.モミーポイントの略。

 

1の場合、魔法戦士と呼ばれるQMJジャギのオーラゲージ・ブーストゲージの事を指す。MPが溜まっていることはQMJジャギの必殺技「大魔法(ジャギバスケ)」が発動することと同義と言っても過言ではない。

 

2の場合、モミー店長がマナーの悪い客につけるポイントで、一定以上貯まると出禁を喰らったり、フリープレイ禁止を言い渡される。

良い子の皆は台パンしたり、ゲージ無いのにトベウリャしないようにね。

 

・KP

Kaiポイントの略。主に北斗勢に向けたもの。マナーが悪く、Kaiがそれを見ていた時に覇者権限で一発出禁にしたり、Kai屠殺場二時間コースに問答無用で送られたりする。

ポイントが貯まるもクソもない。

 

・ノーサ道場、Kai屠殺場(処刑場)

TRF‐Rが誇るクイーン・覇者との連続野試合を指す。

具体的にはノーサかKaiと一時間から二時間ほどずっと試合し続けることである。一時間以上1回も勝てないことがあり、精神の弱い者が軽い気持ちで行くと発狂するため、モヒカンの間では禁忌とされている。

修羅のえぐれシジミは成長のため、過去にノーサ道場を1回、Kai屠殺場を2回訪れた。(ノーサ道場では一時間で24連敗0勝、Kai屠殺場では累計50敗4勝と、盛大に心の肋骨が砕けた。その影響で一時期仕込み槍がでなくなったらしい。)

 







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季節ネタ特別編
クリスマス特別編



どうも、みなさんメリークリスマス。

という訳で今回は特別編を投稿しました。
一応同じものを外伝集にも上げています。

ではどうぞ↓


この話は、南美達がIS学園に入学する前、ほんわ君がまだ夢弦高校の生徒であったときのお話。

 

 

 

「おはよー。」

 

「あ、おはよう姉さん。」

 

今日は12月24日、即ちクリスマスイブである。

夢弦も今日はクリスマス模様で、街はイルミネーションで飾られている。

 

そんな日の朝、ほんわ君はいつものように起きてリビングに降りると、既に彼の姉が朝食を用意していた。

 

 

「はい、コーヒー。で、今日もバイトなの?」

 

「いや、今日はないよ。だから久々に家でゆっくりしようかなって。」

 

そう言ってトーストをかじってテレビのニュース番組に目を向ける。

 

『続いてのニュースです。毎年恒例のことですが、昨日、夢弦市、由江(ユエ)市、板鹿棚(イタシカタナ)市の3市で今月の24日、25日の市内における闘争行為の全面解禁を発表しました。警察はこの2日間の闘争行為を止めるよりもむしろ推奨しており、職員の方々は「リア充死すべし、慈悲はない」や、「やれやれ、最近のカップルはやんちゃで困る」などと述べています。今日と明日の3市の治安維持に関してはいつものようにKGDOの警備員が動員されるとのことです。 では続いて次のニュースです。3日前に脱走した由江動物園で飼育されている2HM2(デュアルヘッドモケーレムベンベ)のレミちゃんですが、昨夜無事に保護されたとのことです。担当の飼育───』

 

「…やっぱり今年もかぁ…。」

 

流れてきたニュースを見て、一言しみじみと言ったほんわ君のスマートフォンに一件の着信が入る。

 

手にとって画面に目を向けると、ディスプレイには見慣れた人物の名前があった。

それを見たほんわ君はトーストを一気に頬張るとコーヒーでそれを流し込み、席を立った。

 

「用事が入ったから出掛けてきます。」

 

「はーい、遅くなるなら連絡しなさいね。」

 

「分かってるって。」

 

ほんわ君は部屋に戻ると外出用の服に着替え、コートを羽織って指示された場所に急いだ。

 

 

 

 

 

 

「すいません、遅れました。」

 

指定の場所まで行くと、既に複数人がそこにいて、会話を交わしていた。

そのうちの一際背の高い二人がほんわ君を見つけると歩み寄った。

 

「いや、急な連絡でここまで早く来れたなら大したもんだよ。」

 

「そういうことだ、気にするな。」

 

「…ジョンス先輩は呼び出した張本人なのであれですが、金剛丸先輩はどうして…?」

 

威圧感のある巨漢二人に目を向けるほんわ君。そのうちの一人である金剛丸三蔵がここにいることに首を傾げた。

 

「ん? ジョンスの奴に、“このまま街の風紀が乱れれば妹の彩にまで魔の手が伸びないとも限らない”と言われてな。」

 

「は、はぁ…。もしかして今日集まったのって…。」

 

ある考えに思い至ってほんわ君はジョンスの方に顔を向ける。

するとジョンスは右手の親指を立てて爽やかな笑顔を浮かべながら言葉を繋ぐ。

 

「もちろんリア充どもの粛せ─げふんげふん、街の治安維持だ(キリッ」

 

「嘘だッ!!」

 

白々しいにも限度があると言わんばかりにほんわ君はやや食い気味に声を荒らげた。

その様子に近くで見守っていた面々は次々と笑い始める。

 

「相変わらずこの手のことだと信用ないですね。」

 

「うるせー。」

 

クスクスと笑うカセンにジョンスは口を尖らせて不平を溢す。

そうこうしていると、ジョンスが声を掛けたであろう面々が全員集合した。そのほとんどが男である。

 

「よーし、全員揃ったな。今から人前で恥もなくイチャイチャするバカップルどもを鎮圧していくぞ。のりこめー^^」

 

「「わぁい^^」」

 

「「おー^^」」

 

ジョンスの掛け声と共に集まったれんちゅうはそのまま雪崩れ込むように街中へと駆けていった。

 

その横ではというと──

 

 

「ザーザースザーザースナーサタナーダザーザース」

 

「ウボァー」

 

 

「みんなー!」

「アーサーギ!アーサーギ!」

 

「ひでぶっ!」

 

 

「ジャーマン!ダブルジャーマン!!」

 

「ヒラメッ!?」

 

 

女と見るやすかさずナンパしにかかるチャラ男とそれを実力で撃退する女性陣によって死屍累々といった状態である。

そう、闘争行為の解禁はなにもリア充への妬みだけではなく、ナンパ男を撃退するためにも行使されるのである。

 

そしてそこは夢弦の女性、こと戦闘、それも街からの許可で全面的に許されるとなれば容赦はしない。

 

 

「うわぁ…右代宮会長すげぇ…。」

 

「ま、あれくらい出来なきゃ夢弦で生徒会長やれないでしょ。」

 

それを端から見ていたほんわ君とカセンは見知った顔の容赦のなさに開いた口が塞がらなかった。

 

「て言うかカセンさん、なんでコレに来たんです?」

 

「ん~、面白いもんが見れそうだから、かねぇ。ほら、そろそろ見れるんじゃないか?」

 

そう言ってカセンは先ほど仲間たちがカチコミしていった先を指差す。

そこにはハンマーを持った少女に蹴散らされる仲間の姿があった。

 

「塵は塵に、灰は、灰にー!!」

 

「「あべしっ!?」」

 

巨大なハンマーで殴られた男はそのまま吹き飛び、道端に積まれた雪に頭から突っ込んだ。

 

「人のデートを邪魔するとか、信じらんない!」

 

ハンマーの少女はそれだけ叫ぶと傍らにいる少年と手を繋いでその場を去っていった。

 

 

「ワワワワワワワワワワワワワワワワルイネ☆」

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアーイ‼」

 

そんなリア充カチコミ、返り討ちと言った図が至るところで繰り広げられている中で、とある二人が出会ってしまっていた。

これを見た周囲は口々にこう言ったという。“あーあ、出会っちまったか”と。

 

その二人は人間には恐らく不可能であろう動きを繰り出しながら拳を交える。

そんな姿はまごうことなき変態のそれである。

 

 

「なにあれ…。」

 

「ドゥエリスト同士は惹かれ合うからねぇ。あれもまた必然ってやつさ。」

 

人間離れした所業に若干引いていたほんわ君に、カセンはアッハッハと笑う。

そんなカセンの態度でほんわ君も「夢弦だし、仕方ないね」と納得して笑う。

 

 

もはや夢弦の住民ならば見慣れた喧嘩の祭りと、それを日常として受け入れてしまっている自分に、“染まってるなぁ”とほんわ君は呟いたのであった。

 

 

 

 





ジョンスと金剛丸が知り合いなほんわ君。何気にすげえ。



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バレンタイン特別編


すまない、バレンタイン編がこんなに遅れてしまって本当にすまない…。

色々と重なりましてこのように間が開いて、それも本編ではなく、特別編になってしまい、大変申し訳ありません…。
許してください、なんでも(ry

ではどうぞ↓


「マジでどうなってやがる。」

 

放課後、夢弦高校の2年A組の教室でジョンスは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。

そのジョンスと同じ様な顔をしているのは、彼と同じ、特別課外活動部の男子である。

 

「カンフー! お前らの獲得量は?!」

 

「はい! ゼロであります!!」

 

「同じくゼロです!」

 

「自分もッス!」

 

「右に同じくゼロです!」

 

ジョンスの前に並ぶ胴着姿の四つ子はピシッと背筋を伸ばして答えた。

あまりにも堂々としたその返事に、その場にいたメンバーは変に感心した顔になる。

と言うのも、今日この日、2月14日に彼らが集まったのはある賭けをしていたからだ。

その賭けとは、“バレンタインのチョコを一番貰えなかった男子が罰ゲーム”というものである。

 

今のところ、ゼロ確定はジョンスだけだ。

なぜなら…

 

「カンフー、家族の分を入れてみろ。」

 

「はい! 母親から1個であります!! 兄弟四人とも同じものをいただきました!!」

 

長男風のカンフーが背筋を伸ばしてそう言うと、ジョンスは目に見えて肩を落とす。

 

「誰だっけか、家族からもらった分も入れるとか言い出したのはよ…。」

 

「お前じゃ、ジョンス。」

 

容赦のない三蔵の返しにジョンスは更に肩を落として下を向く。

 

「タイムマシンがあったらあん時の俺を全力で殴りてぇ…。」

 

「まぁ、あれだ。取り合えず罰ゲームはジョンスのものだな。」

 

「まだだ! まだほんわの記録を確認してねぇ!!」

 

教室の中にほんわ君の姿がないことを確認したジョンスは死刑宣告に異議申し立てるかのように声を荒らげる。そんな彼に課外活動部の面々はまだ粘るつもりかと、心の内で呟いた。

 

「そうだ! アイツも結果が悪くて逃げたんだ!」

 

そう言って教室から出ていこうとしたジョンスであったが、それよりも早く教室の戸を開けてほんわ君が入ってきた。

 

「あ…?」

 

「す、すいません、遅れました…。」

 

申し訳なさそうな顔を浮かべて入ってきたほんわ君であるが、その手には紙袋が握られている。

その紙袋を見た瞬間、ジョンスはおろか、大半の面子の顔が一気に青ざめた。

 

「あ、あれはまさか!?」

 

「真にモテる者にしか許されないと言われる…!?」

 

「紙袋いっぱいのチョコレート…だと…?!」

 

「そんなバカな!! あれは2次元の中だけのものではなかったのか?!」

 

ざわざわと動揺の声に包まれる教室で、ほんわ君はその場の空気を読みきれず、呆然とするだけであった。

ただ、根が真面目な彼は遅刻の理由を告げるためにジョンスの元に歩み寄る。

 

「す、すいません…。あの、色んな人たちに呼び止められてしまって…。」

 

本当に申し訳なさそうに話すほんわ君に、その小動物のような姿を重ねてしまったジョンスは諦めがついたのか、大きく息を吐いて床に仰向けで倒れ込んだ。

 

「畜生が…。もう、煮るなり焼くなり好きにしやがれ。」

 

「安心せい、罰ゲームの内容は決めてある。」

 

ボソッと呟いたジョンスに三蔵はスッと告げる。そのあまりにもあっさりした宣告に、ジョンスは逆に絶望を抱いたのだった。

 

 

 

 

 

「カップルばかりかよ…。」

 

ジョンスへの罰ゲームが確定した特別課外活動部一行は、それを実行に移すために街中へと繰り出していた。

夢弦の街は2月14日の雰囲気に相応しく、どこもかしこも甘い空気を纏った男女のアベックばかりである。

 

そんなリア充の巣窟に踏み込んでしまった彼らはジト目で周囲を伺う。

そして粗方周囲を伺った彼らは離れたところに一人でいるジョンスへと視線を向ける。

 

「うっわぁ~…、ジョンスさん、めちゃめちゃストレス抱えてるよ。」

 

「外面良いのになんでかモテないからなぁ、あの人…。」

 

「なぜだろ?」

 

「鉄山靠だけで教師に勝ったからだろ?」

 

「コンクリを踏み抜いたからじゃね?」

 

「人を地面にめり込ませたからだろ?」

 

舌打ちを交えながら辺りを見渡すジョンスを眺めながら、活動部のメンバーは彼がモテない理由を考察する。

良い意味で人間を辞めている彼の操る八極拳はたった一発で地面を揺らし、コンクリを割り、人間を吹き飛ばすため、彼の印象に良くも悪くも大きな影響を与えている。

からなのか、男子は彼に憧れを抱き、女子は恐怖を抱くことが多いのだ。

 

 

「まぁ、あんくらいの方がなんとかなるじゃろ。」

 

物陰からジョンスを眺めている三蔵──その巨体で全く隠れられていないのだが──はイラつきのあまり怖い顔を浮かべる彼を見て満足そうに頷いた。

 

今回、ジョンスに言い渡された罰ゲームと言うと──

 

①イチャイチャしているカップルに絡む。

 

②しかし撃退される。

 

③去り際に捨て台詞として「やっぱり二人のラブパワーには敵わんわ」と言い残す。

 

という、どこの古典的なチンピラだと言わんばかりのものだ。

そしてジョンスはその罰ゲームを実行するために適当なカップルを探して街中をブラついているのである。

 

(……イチャついてて、それなりに腕の立つ奴、それなりに腕の立つ奴…。)

 

長年の経験から来る直感で腕の立つ男を探して周囲を見渡しているジョンスであるが、一般人からすれば睨み付けているとも取れる眼力の強さに街行く人々はジョンスを直視しないように目を逸らしていた。

 

 

「…目ぇ血走ってないッスか?」

 

「人殺してそうな目付きになってません?」

 

「あれは懲役食らってる顔ですわ。」

 

「もしかしたら俺らに危害が来ません、これ?」

 

「………かもしんないね。」

 

遠巻きにジョンスの様子を観察している面々は通話アプリ上の特別課外活動部のグループで実況を行っているのだが、あまりにも酷いジョンスの様子に距離を気持ち少し離した。

 

 

 

 

「…………。」

 

そんなことが巻き起こっている夢弦市の街中のとある一角に、とある少女が一人で佇んでいた。

その少女は着物姿で首もとに淡い色のマフラーと、まだ寒さの残る2月の夢弦市としてはやや薄着な格好をしている。そして彼女の右手には丁寧にラッピングされた小包が握られていた。

 

この日にラッピングされた小包と来れば、その中身も少女の目的も分かるというものであるが、少女の表情はどこか浮かないものであった。

 

「……はぁ…。これ、どうしましょう…。」

 

彼女は手に握られた小包を見下ろして大きな溜め息を吐く。

落胆の色を孕んだそれは、少女の心情をはっきりと表しているようだった。

そんな落ち込んでいることがはっきりと分かる少女は、男たちにとっては狙い目な獲物に映る。

 

「ねぇ、君。一人かい?」

 

「え、あ、その…?」

 

案の定、見るからにチャラそうな男が一人、少女に話しかける。少女はそんな状況に慣れていないのか、戸惑った様子であり、男からの問い掛けにどもる。

戸惑いを隠せていない少女はきゅっと小包を握りしめる。男はそんな少女の態度を見て、押せば行けると思ったのか、少女の腕を掴んで強引に引っ張って行こうとする。

そんな男に声が掛けられた。

 

「おーおー兄ちゃん。可愛い女の子連れとるのぉ(棒)。お、うまそうな物もあるやんけ。なぁ嬢ちゃん、ワシにもそのチョコくれよ(棒)」

 

ジョンスである。

はっきり言ってこれは酷いとしか言えないほど棒読みではあるが、その大きな体格と迫力しかない表情から男は思わず少女から手を離した。

 

「な、なんだよお前は!? じゃ、邪魔するなよ!」

 

男は声を荒らげ、ジョンスに向かって構えを取る。

その男の態度にジョンスはニィと口の端を吊り上げる。

 

「そう来なくっちゃ。」

 

ジョンスの顔は今日一番の笑顔である。

 

 

 

「…ジョンスさん、目的忘れてねぇッス?」

 

「もう暴れられれば誰でもいいみたいだな。」

 

「バーサーカーや、バーサーカーがおる。」

 

「止めた方がよくないですか?」

 

「止めれる奴おるん?」

 

「「「「「………。」」」」」

 

その後彼らはジョンスに気付かれないようにそそくさと密かに解散した。

 

 

 

「ふんっ!!」

 

「げぼぉ?!!?」

 

ジョンスが放った鉄山靠の一撃は見事に男の体を捉え、その衝撃は男を吹き飛ばすには充分だった。

吹き飛ばされた男はそのまま壁に激突する。

ミシリと、壁にヒビが入り、男は力なく路地にへたり込むも、次の瞬間には恐れをなしたのか、その場から脱兎の如く走り去っていった。

 

「……あ、やば…。勝っちまった…。」

 

「あ、あの…。」

 

勝負が終わり、我に返ったジョンスは罰ゲームのことを思い浮かべて青ざめる。

そんなジョンスに少女が声を掛けた。

背中から掛けられた少女の声にジョンスはゆっくりとその少女の方に振り向く。

 

「な、なんだ?」

 

「これ、どうぞ…。」

 

おずおずと少女がジョンスに差し出したのは先程まで大事そうに握っていた包みだった。

そんな彼女の行動に、ジョンスは目を点にして少女を見下ろす。

そして包みと少女とを交互に何度も見ると、「オレに…?」といつもの彼からは想像できない声で尋ねた。

 

「は、はい…。その、渡す相手もおりませんし、助けて頂いたお礼です。」

 

「お、おう…サンキュー…。」

 

ジョンスはそれを受け取ると、その包みを懐にしまう。

そして何かを思い立ったように少女を指差す。

 

「誰だか知らんけど、この夢弦でボケッとしてると危ねぇぞ。ここは闘いの街だからな。」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「あぁ。だから気ぃ付けろよ? それだけだ。じゃあな。」

 

それだけ言ってジョンスは少女に背を向けてその場を立ち去ろうとする。

少女はそんなジョンスの袖を軽く掴んで引き留めた。

 

「ん? どうした?」

 

「あ、その…お名前を聞きたくて…。私は清姫と申します、貴方のお名前は…?」

 

「オレか? ……ジョンス・リー、夢弦高校特別課外活動部2年のジョンス・リーだ。 それじゃあな、もう変なのに絡まれんなよ。」

 

名前を名乗ったジョンスは清姫に背を向けて今度こそその場を後にした。

 

「ジョンス・リー…様…。」

 

清姫は遠ざかっていくジョンスの背中を見えなくなるまで眺め続けていた。

 

 

 

 

その翌日、罰ゲームの事について追及されたジョンスであったが、その尽くをのらりくらりとかわし続けたのであった。

 

 

 





この特別編は時系列的にはほんわ君が夢弦高校一年の冬の時ですね。



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新入生特別編


どうも皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
季節ネタ特別編はほんわ君の夢高時代のお話をお送りしております。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

季節は四月、春である。

それは新しい出会いの季節。ここ夢弦高校でも例外ではなく、入学式から早一週間が過ぎた今でも初々しい出で立ちの一年生達が緊張した面持ちで校舎や敷地を歩いている。

そんな一年生達を上級生は微笑ましいものを見るように眺めるのもまた恒例行事である。中には自身が一年生であった時のことを思い出し、過去に思いを馳せる者もいる。

 

 

そんな時・・・

 

 

「「「仕合いだぁあああっ!!!」」」

 

朝の中庭に複数の生徒達の大声が響き渡る。

声の中心地では大勢の生徒達がある二人の生徒を中心に囲むように押しかけていた。

人だかりの中央、ぽっかりと開いた場所では二人の男子生徒が睨み合っている。

 

「対戦カードは?!」

 

「課外活動部のジョンスと料理部の草薙だよ!」

 

「さぁどっちに賭ける?」

 

「「ジョンス!!」」「「草薙!!」」

 

「張った張った!! もうすぐ締め切るぜ!」

 

やいのやいのと周りの生徒達は騒ぎ立て、胴元の男子が次々と集計していく。

そんな周りの喧騒もなんのその、ジョンスと草薙はお互い構えを取る。校内でも屈指の実力者の対決に全員のボルテージはぐんぐんと高まっていく。

 

 

 

「敷地内で賭けとは…。」

 

「仕方なかろうよ。ここはそういう場所だ。」

 

ガヤガヤと響く中庭からの喧騒に、職員室にいた新任の教員が溜め息を漏らすと、偶然近くに座っていた化学担当のズェピアがコーヒーカップを差し出し、その教師を宥める。

敷地内での私闘も、それを対象にした生徒間の軽い賭け事も、新任教師のそういった戸惑いも、全て夢弦高校の風物詩なのである。

 

 

 

「あ~、草薙…。そっちから言ってきたんだ、加減はしねぇぞ。」

 

「当たり前だ。手加減したらそれこそ吹っ飛ばすぞ。」

 

「オーケー、じゃあ殺ろうぜ。」

 

一定の間合いを取りながら二人は会話を交わす。

しかしそんな会話の最中であっても二人の気迫は確かなものであり、気の弱い者ならば直ぐ様逃げ出したくなるだろう。

それほどまでの殺気を二人は放っている。

 

そして、数秒の睨み合いが続いていくとある時を境にぴたりと喧噪が止む。

 

「ハァッ!!」

 

「オラァ!!」

 

喧噪が止んだその一瞬後、同時に二人は動いた。

草薙は右腕を大きく振りかぶって振り下ろし、ジョンスは大きく踏み込んで拳を突き出した。草薙の拳はジョンスの顔面を捉え、ジョンスの拳は草薙の腹を捉えた。

それぞれの拳は止まることなく目の前の敵を打ち付ける。お互いの衝撃にジョンスは右下に体を振られ、草薙の体は後方に軽く後ずさる。

 

「ふぅ、はぁ・・・。」

 

「ハァ、この・・・。」

 

二人は離れたまま睨み合い、荒くなった呼吸を整える。そうして均衡状態になった数秒後、草薙の体が糸の切れた人形のように倒れた。

 

「勝ったのは課外活動部、ジョンス・リー!!」

 

「「「うぉおおおおおおおっ!?」」」

 

草薙に駆け寄り、気絶を確認した胴元の一人がそう高々と宣言する。すると周囲を囲っていた生徒達から様々な声が辺りに響く。中には頭を抱える者、手にしていた紙をちぎって投げ捨てる者もいる。

 

 

そして仕合いに勝ったジョンスは人混みを掻き分けて静かにその場を後にする。そんなジョンスを物陰から見つめる一人の少女がいた。

 

「あぁ…ジョンス様、やっと見つけましたわ…。」

 

恍惚とした表情を浮かべた少女はそのまま始業のベルが鳴るまでその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

「あ~、やっと終わった…。」

 

「ういうい、部活だ部活だ。」

 

その日の放課後、退屈な授業から解放された生徒達はそれぞれの部活へと足を運ぶ。

夢弦高校、いや、夢弦大学附属の学校ではスポーツ系・文化系問わず部活動が盛んなのである。特に夢弦高校の野球部とバスケ部はその為だけに県外から来る者もいるくらいだ。過去には野球部に高野レンという選手が在籍し、高校野球の数々の記録を塗り替え、鳴り物入りでプロ入りしたことまである。

 

そんな夢弦高校であるが、その部活群のなかでも一際異彩を放つ部活がある。

それが特別課外活動部、通称“S.E.E.S“だ。彼らの活動は学内外を問わず、夢弦大学附属校の生徒達が関わった事件の解決などである。その為、課外活動部の面々は夢弦高校の中でもそれなりに腕の立つメンバーであり、学内でも信頼されている。

 

そんな彼らS.E.E.Sの部室は生徒会室の隣に位置している。

事件がない限り基本的に暇な彼らはやるべきこともないとこの部室を溜まり場にして暇を潰すのだ。

 

「やることが無ぇ…。」

 

「平和で良いじゃないですか。」

 

将棋盤に駒を並べながら、暇を嘆くように呟くジョンスにほんわ君は言う。基本的に頭脳労働担当のほんわ君はバイトがなければこの部室で本を読むことも多い。

そんなほんわ君にジョンスは駒を並べ終えた将棋盤を向ける。

 

「勝てる訳無いので将棋部に行って下さい。」

 

「別にいいだろ? 腕とか賭けてるわけでもなし。」

 

「いや、ジョンスさんプロ棋士じゃないですか…。」

 

ほんわ君は逃げるように本を閉じジョンスに言った。

部室には現在ジョンスとほんわ君のみであり、このまま行けばジョンスの暇つぶしに付き合わされるのは目に見えている。故にほんわ君は思考をフルに回転させ、どうにか逃れる術を画策する。

普段であればいつも部室にいるはずのカンフー四兄弟に話を振って場をわちゃわちゃさせてどさくさに紛れて逃げるのであるが、今は二人きりのためそれも出来ない。

せめてシオンが居ればと思うほんわ君であるが、もはやそれも望めない以上、どうしようもない。

 

徐々に逃げ道を無くしていくほんわ君の顔色はどんどん青くなっていく。

そんな時、まさに天の助けとでも言うように部室の戸が小さな音を立てて開けられた。

 

「あの…、特別課外活動部の部室はこちらで合ってましたか?」

 

戸を開けた着物姿の少女はおずおずと部室の中を窺う。

そんな少女の姿を見たジョンスが“あ…”と声を上げると、その少女は嬉しそうに部室の中に足を踏み入れた。

 

「ジョンス様! お会いしとうございました!!」

 

喜色満面の笑みを浮かべた少女、清姫はジョンスの前に足を進めると両頬を手で押さえる。

そんな清姫を見てジョンスは驚いたようにぎょっとした表情になる。

 

「き、清姫…? どうしてここに?」

 

「あぁ…、本当に、本当にジョンス様なのですね。私、あの時からずっとこうしてお会いできる日を心待ちにしておりました…。」

 

潤んだ目でジョンスを見上げる清姫を見たほんわ君は隣で戸惑いながら立ち尽くすジョンスをジト目で睨む。

そんなほんわ君の視線を感じ取ったジョンスはブンブンと弁解するように首を横に振った。そして今にも泣き出しそうな清姫を宥め、事の経緯をほんわ君に説明する。

 

 

 

 

「───っつう訳だ。」

 

「……あの罰ゲームの裏でそんな事があったんですか?」

 

事の顛末を聞いたほんわ君は呆れれば良いのか驚けば良いのか分からなくなり、もうどんな顔をすればいいのやらという状況に陥った。

ほんわ君の向かいに座るジョンスは乾いた笑みを、対してその隣に座る清姫はやんやんと頬に手を当てたまま身を捩っている。

 

「そ、それで清姫?…さんはどうして部室に?」

 

「あ、そうでした。大事なことを忘れておりました。」

 

ほんわ君の質問に我に帰った清姫は一枚の紙を取り出して二人に見せた。

 

「私、この特別課外活動部に入部します。既に顧問の先生から許可ももらっていますの。」

 

清姫が取り出したのは入部届であった。記入欄には清姫の名と特別課外活動部の文字、そして顧問であるブリュンスタッド女史のサインも書かれている。

 

「マジだ…。」

 

「行動力の塊みたいな娘ですね。」

 

顧問のサインを確認した二人は余りにも早い清姫の行動に絶句した。

そして二人は顔を見合わせてうんと頷く。

 

「ま、あのアーパー顧問が許可出したなら文句もねぇ。歓迎するぜ、清姫。」

 

「はい、不束者ですがよろしくお願いいたします。」

 

そう言って清姫はジョンスに微笑んだ。

こうしてまた特別課外活動部、S.E.E.Sに新たな仲間が加わるのであった。

 

 

 

 

 

 





はい、こちらの特別編では時間が進みました。

さぁジョンスの未来はどっちだ!?



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七夕特別編


季節特別編ですね、いつもの。
今回も例に漏れず、ほんわ君の夢弦高校時代を描いていきます。

では本編をどうぞ↓


 

 

「ふぁ~。」

 

「おはよ。」

 

「あ、おはよう姉さん。」

 

寝ぼけ眼をこすりながら、あくびを噛み殺してリビングに降りてきたほんわ君を出迎えたのはマグカップ片手にソファに座る姉だった。

ほんわ君は姉に挨拶をしてから洗面所に向かい歯を磨いて顔を洗うと、またリビングに戻ってきて朝食を摂る。

 

「今日も出掛けるの?」

 

「うん、部活でまた集まりがあるから。」

 

そう言ってほんわ君はトーストをかじり、テレビのニュース番組に目を向けた。

 

『では次のニュースです。昨夜未明、NPO法人、鉄華団の代表であるオルガ・イツカ氏が何者かの襲撃を受け意識不明の重体で病院に緊急搬送されました。この事件を受け、夢弦警察署では犯人を特定すると共に事件の背後関係も洗うとのことです。続いてのニュースです、由江動物園からヤッテヤルデスのあずにゃんちゃんが脱走しました。担当の飼育員は現在も行方を捜索中とのことです。もし見かけましたら───』

 

「最近物騒よね…。」

 

「うん。…ご馳走さま!」

 

「気を付けるのよー!」

 

「分かってるって。」

 

朝食を終え、身支度を整えたほんわ君は急ぎ目で家を出ていった。

 

 

「お、来たな。」

 

「もしかして僕が最後ですか?」

 

「まぁ、そうだが…。気にするな。皆同じくらいに来てる。」

 

夢弦高校の集合場所に滑り込み、肩で息をするほんわ君を出迎えたのは無頼だった。

無頼は集合場所に集まっている他のメンバーをちらりと見ると、安心させるようにそう言う。

奥には大きな竹を担いだジョンスと金剛丸がおり、女子班は大量の折り紙と格闘している。

 

「さ、準備をしようか!」

 

「はい!」

 

今日は七夕であり、夜に備えて特別課外活動部はこうして準備を行っているのだ。

 

 

 

「3時までには仕上げるぞ!」

 

「「「「ういッス!!」」」」

 

金剛丸の号令にカンフー四兄弟が気合いの入った声を挙げて大竹のいらない枝を落としていく。

そして整えられた竹に女子班が次々と七夕飾りを飾り付けて完成させる。その後、完成させた七夕用の竹は金剛丸やジョンス、無頼によって次々と夢弦市内に運ばれて飾られる。

 

 

「……この竹、ずいぶん根元がささくれだってるというか、雑にへし折れてるというか…。」

 

「あぁ、それか? 調達係がジョンスと三蔵だったからな。」

 

「まさか…、切らずにへし折ってきたとか?」

 

「じゃないか? おっと、もう次か。じゃあ行ってくる。」

 

作業の合間に雑談を重ねていたほんわ君と無頼であるが、無頼が完成した竹を見てまた作業に戻る。ほんわ君もまた話し相手がいなくなったことで、竹の根元を整える仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

「これで…ラストォ!!」

 

そして昼過ぎ、最後の1本が夢弦高校グラウンドの中央に立てられた。

一際大きな竹を使って作られたそれは高々と天に向かって真っ直ぐに伸びている。

 

「完成っ!」

 

「いよっし!」

 

「短冊じゃあ短冊じゃあ!!」

 

準備が完了した途端、それまで疲れ果てていたカンフー四兄弟たちは祭りのように騒ぎ立てる。

実際に祭りの様相であり、夢弦大学附属小学校や中学校の生徒たちは既に短冊を片手に駆けつけていた。

 

「おーし、良いぞ皆! 短冊を飾ってくれぃ!」

 

三蔵の言葉に駆けつけていた生徒たちは一斉にその手に持った短冊を飾ろうと竹の側まで近寄って、短冊を飾り付けていく。

 

 

「おーおー、今年も盛況だねぇ。」

 

「子どもの笑顔は良いもんだ。」

 

「だな。」

 

特別課外活動部3年の紅一点小野塚小町と、金剛丸三蔵、山本無頼の3人は遠巻きに短冊を飾ってはしゃぐ子ども達の姿を見て嬉しそうに談笑していた。

 

「それにしても…うちの代表は…。」

 

「『俺はロリコンじゃねぇ、惚れた女がたまたまロリだった』…か。」

 

「どんな言い訳だって話だ。」

 

ハッハッハッと3人は笑って前代表であるジョンスのいる方に目をやる。

そこには清姫と一緒に短冊を飾る彼の姿があった。

 

 

 

 

そうして子ども達や夢高生達が七夕用の竹に短冊を飾り付け、七夕祭りを満喫していき時間は流れていく。

夕日はどんどんと傾いていき、日が沈んで夜になると七夕用の竹は綺麗にライトアップされる。

 

 

 

「清姫、今日はお疲れさん。」

 

「あ、ジョンス様…。ありがとうございます。」

 

1日の作業が終わり、一息ついて座っていた清姫の隣に腰を下ろしたジョンスが缶ジュースを手渡した。

それを受け取った清姫は嬉しそうに頬を緩ませて小さく頭を下げる。

 

「清姫は…、何を短冊に書いたんだ?」

 

「え、あ、その…。」

 

ジョンスの質問に清姫は顔を真っ赤にして言い淀み、俯いてしまった。

そんな清姫の様子にジョンスは困ったように頭を掻いて“言いたくないなら言わなくていい”と言う。

しかしジョンスのそんな言葉を聞いた清姫はジョンスの服の袖を掴んで顔を上げる。

 

「あ、あの…、笑わないで聞いてくださいね…?」

 

「おう、笑わねぇよ。」

 

ジョンスの言葉を聞いて安心したのか、清姫は大きく息を吐いて一拍置いてから切り出した。

 

「ジョンス様と、もっとずっといられますように…と。」

 

清姫の願い事を聞いたジョンスは何かを言うでもなく、ぎゅっと清姫を抱き締めていた。

突然の抱擁に清姫は目を点にし、ジョンスの力強い腕に抱かれていると気付いた時にはテンパってアワアワと挙動不審になってしまった。

 

「ジョ、ジョンス様っ!? あ、あの、えと、その…?!」

 

「当たり前だろ、もう一生一緒だからな。」

 

「……はい!」

 

ジョンスの一生一緒宣言に清姫は満面の笑みを浮かべて抱き締め返した。

そんな二人の様子を遠くから見ていた3年の3人はハァと溜め息を吐いている。

 

 

「お暑いね~。」

 

「ばかっぷる…と言うのかのう?」

 

「…どうなんだろうな、実際に…。」

 

3人は今年度に入ってから早三ヶ月、二人が付き合うようになってからの1ヶ月でとうに見慣れてしまった光景に最早諦めや悟りに似た境地に達してしまっていた。

 

「ジョンスは、お清ちゃんのどこを好きになったのやら…。」

 

「さぁのう…。」

 

「健気なところとか…?」

 

「「「…う~ん…、分からん。」」」

 

3人揃って疑問に思っていることを話し合うが、一向に答えが出ることはなく、そこでお開きとなった。

結論は“当人同士が幸せならそれでいい”である。

 

 

 

「清姫…。」

 

「はい…。」

 

ジョンスは清姫を抱き締めたまま小さく彼女の耳元で囁いた。それに清姫は同じように小さく返事をする。

 

「好きだ。俺はお前の事が世界で一番好きだ。将棋のタイトルよりも、何よりも、清姫の事が大事なんだ。」

 

「…嬉しいです。…私もジョンス様の事が大好きです。世界で一番愛しています。」

 

ぎゅっと抱き締め合う二人はそう小声でお互いに囁き合う。

その周囲一帯が二人の世界と化した状態では誰も近づくことをせず、二人はその後長い時間を過ごした。

 

 

 





お清ちゃん可愛いよ。


ではまた次回でお会いしましょうノシ



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ハロウィーン特別編


いつもの季節特別編です。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

時期は10月末、世間ではハロウィーンのイベントなどでカボチャ関連のお菓子やハロウィーン仕様の商品が至るところで出回る頃だ。

そんな10月31日の朝、ほんわ君の家のチャイムを鳴らす人物がいた。

チャイムを聞いて玄関のドアを開けたほんわ君の視界にホッケーマスクを被った大柄な男が飛び込む。

 

「trick or DIE!!」

 

「……朝からなんですか? ジョンス先輩……。」

 

朝一番から物騒な言葉で迎えたほんわ君はやや不機嫌そうな顔でホッケーマスクの男を睨むと、男は笑いながらそのマスクを外した。

その人物はほんわ君の予想通り、特別課外活動部のジョンス・リーだ。

 

「やっぱりバレるか~。」

 

「そりゃ僕の周りでこんなことするのはジョンスさんくらいのもんですよ?」

 

「ハッハッハッ! 違いねぇ。」

 

ジョンスは屈託なく笑うと不機嫌な顔つきのほんわ君の頭に手を置いた。

 

「すまんすまん、ハロウィンでついついはしゃいじまった。詫びに今度飯奢ってやるよ。」

 

「御食事処衛宮の定食で手を打ちましょう。」

 

「オーケー、いいだろう。」

 

そうして取引を終えると、ほんわ君は家のなかに戻っていきたった数分で身支度を整えて学校に向かう。

やはりハロウィーン当日ということもあってか街中には朝から仮装して歩く人の姿もあり、いつもとは違った華やかさが夢弦の街を包んでいる。

体中に包帯を巻く者や、羽や牙をつけて吸血鬼に成りきる者、スーツ姿に馬の被り物をした者など、様々な格好をした者たちが行き交ってそれぞれの時間を過ごしている。

 

「これを見ると、夢弦もやっぱ他の所と変わらねぇんだな。」

 

「……そうですね。“闘争の街”夢弦、そんなここでもこう言うイベントの時は平穏ですよ。」

 

ジョンスもほんわ君もいつものノリから外れて流れる平穏な時間をゆったりと味わいながら夢弦高校に向かう。

 

 

 

「死ぃねぇ!!京ぉおおおお!!」

 

「ふん! 喰らいやがれぇえ!!」

 

学校に着くなり2人の耳に聞こえてきたのは耳つんざくような大きな怒声だった。

その声の発生源と思われる方向に目を向けると夢弦高校の生徒同士による殴り合いだ。その人物は料理部の草薙と音楽部の八神の2人。いつもの2人の私闘に周りの生徒たちは何でも無いかのように通り過ぎていく。

 

「これもまた日常ってやつだな。」

 

「そうですね~。」

 

ジョンスとほんわ君の2人も周りと同じように何も声を掛けるような事もせずに校舎に歩いていった。

校内にはちらほらと仮装している生徒たちが歩いている。普段から仮装しているような服装の生徒──着物やチャイナ服は序の口である──が大勢いるため、今更1人や2人仮装する者が増えた所であまり目立つことはない。

一応ハロウィーンっぽくゾンビや吸血鬼、包帯男といった定番の姿をしている者も居る。

 

「お、清姫!」

 

「あ、ジョンス様!」

 

廊下で出会った清姫はなんといつもの着物姿ではなく、ハロウィーンに合わせた黒い魔法使い風の衣装を着ていた。

黒いマントや衣装は彼女の決め細かな白い肌を一層際立たせており、恥じらう顔や仕草は可愛らしさを演出している。

 

「と、友達に勧められたので着てみたのですが、どうでしょうか……?」

 

「めちゃくちゃ可愛い。」

 

「ふぇ……?!」

 

「いつも可愛いが、今の格好の清姫もめちゃくちゃ可愛い。」

 

ふざけた様子など微塵もなく、真面目な顔つきで正面から清姫と目を合わせながらそう言うジョンスの言葉に清姫は恥ずかしそうにうっすらと赤かった顔を真っ赤に染めて目線を逸らす。

はっきりと褒められて嬉しいやら恥ずかしいやら、真っ赤な顔を隠すように彼女はジョンスに抱き付いた。

そんな彼女をジョンスはしっかりと受け止め、優しく頭を撫でる。

 

「ジョンス様はズルいです。いつもこうやって私を幸せな気分にしてくださるんだもの。」

 

「そんなオレは嫌いか?」

 

「いいえ、大好きです!」

 

清姫はジョンスの体にぎゅっと腕を回してそのまま強く抱きついている。ジョンスもジョンスで、そんな彼女の事をしっかりと抱き止めていた。

 

「……やれやれ……。」

 

そんな2人の様子を見たほんわ君は首を横に振るとその場から離れていった。

 

 

 

「おはよう、ほんわ。」

 

「おはようシオン。珍しいね、シオンがこういうイベントに乗り気なんてさ。」

 

ジョンスと清姫の世界から離れて教室に入ると、吸血鬼のコスプレをしたシオンが彼を出迎えた。

彼女の格好は黒いマントを羽織り、目の下には血のペイント、そして鋭い牙を着けている。

 

「父さんが折角だからって、断りきれなかったのよ。」

 

「あぁ、ズェピア先生……。」

 

シオンの言葉を聞いてほんわ君の頭にいつもマントを着ている化学教師の姿が思い浮かんだ。

いつも糸目で丁寧に話す彼のいつもの姿と、今のシオンの姿を見比べてほんわ君はクスッと笑う。

 

「それでその格好なんだ。」

 

「……癪ですが、一番用意しやすかったので。」

 

ハァと小さく溜め息を吐いて首を振る彼女の姿はどこか父親のズェピアと被って見えた。

 

 

 

「うーし、授業始めるぞ。席に着けー。」

 

怠そうに声を張りながら古典担当の藤原妹紅が教材片手に教室に入ってくる。

それを受けて生徒たちは一斉に自分の席に座った。

 

「あ~、ハロウィンってことで街中にゃ変な格好の連中が大勢いたし、校舎の中にもいるが気にしないで授業してくぞ。」

 

「妹紅先生はコスプレしないんですかっ!?」

 

「するわけねぇだろ。」

 

一人の男子生徒が手を挙げて質問すると彼女は怠そうに言葉を言葉を返す。

するとその男子生徒はショックを受けたように静かに席に座り突っ伏した。

 

「馬鹿が一人ダウンしたが、これも気にせず授業を進めるぞ。教科書開け~、この前の続きな。」

 

妹紅の指示で生徒たちはペラペラと教科書を捲り、ノートを開く。

 

「さて、前回の復習だが、光源氏はシャアだったって言う話だったな。」

 

「センセー、その略し方は大丈夫なんですか?」

 

「間違ってねぇから大丈夫だ。」

 

淡々と授業を進めていく妹紅の格好はいつものもんぺ姿。いつもとは変わらないこともこの夢弦高校では大事な事なのだ。

 

 

 

世間がハロウィンだろうと学校で行われることに変化などない。

授業が始まり時間が流れ、また授業が始まると言うサイクルを繰り返し、その日を締めくくるホームルームが終わる。

 

「はい、これで今日はおしまい。さっさと帰るなり部活行くなりしなさい。」

 

担任の教師が終わりを宣言すると部活や用事のある生徒たちが一斉に教室から出ていった。

 

「あぁ、今日は変な格好の連中がうろついてるから気を付けなさいよー。」

 

担任の教師も思い出したように付け足すが既に出ていった生徒たちには聞こえていない。

そんな生徒たちを見送りながら教師は職員室へと戻っていった。

 

 

「お疲れさまでーす。」

 

「おう、お疲れさん。」

 

ホームルームが終わり、それなりに急いで部室に到着したほんわ君を出迎えたのは山本だ。

彼はスパーリングの手を止めるとグラブを外してロープに掛ける。

 

「あれ? ジョンスさん達は?」

 

「ジョンスは遅れる。小町は教師に呼び出されてる。」

 

「あ、はい。」

 

他の面々の動向をある程度把握した彼らは今日の予定を確認する。

特別課外活動部として夢弦高校に通う大勢の生徒たちから何か依頼を受けている彼らは毎日投書がないかを確認するのだ。

そんな時、部室の戸をがらりと開けてシオンが入ってきた。

 

「今日の依頼は技術部からの協力要請です。」

 

「技術部か。了解した、行くぞほんわ。」

 

「はい。」

 

今はいないメンバーは捨て置いて山本、ほんわ君、シオンは技術部の部室へと向かった。

 

 

 

「ふん、よく来たな。」

 

「おう、大道寺。相変わらず態度がデカいな。」

 

「それが私だからな。」

 

ガレージとも言える部室、その部室に取り付けられた技術部と書かれたドアを開けた山本らを出迎えたのはスライムに下半身を漬けたスクール水着姿の幼女だった。

歳の割に落ち着き払った物腰の幼女を見て山本はハァと溜め息を吐く。

 

「依頼だって話ですが、用件は?」

 

「あぁ、簡単だよ。うちのロボのデータを取りたい。手合わせしてくれ。」

 

「そうですか……。無頼さん。」

 

「任せろ。」

 

シオンの言葉に無頼は赤いボクシンググローブを嵌めてニヤリと笑う。その笑顔を見てシオンは着ているマントを脱ぎ捨てた。

 

「カモーン! メカヒスイさんver.O(オリジン)!」

 

パチンと大道寺きらが指を鳴らすと格納庫のドアを開けてメカメカしい顔つきのメイド服を着たロボットが現れた。

明らかにメカっぽい顔つきと球体関節にメイド服という組み合わせはどこかちぐはぐながらも絶妙にマッチしていて、愛嬌を感じる。

 

「この前見つかった設計図を基にして作ったロボだ。設計者の銘を見るにOGの琥珀さんだろう。」

 

「あぁ、あの伝説の……。」

 

「一応スペック通りに仕上がっているとは思うが、念のために確認したい。」

 

スライムに座ったまま大道寺はメカヒスイさんver.0の体を撫でる。

その顔は愛娘を愛でる母親のように見える。

 

「オーケー、そう言うことなら──」

 

「──遠慮はしませんよ。」

 

山本はグローブを2度叩き合わせ、シオンは糸を構えた。

そしてメカヒスイさんver.0はドリルを取り出すと右手に嵌める。ギュリギュリと音を立てて回るドリルに心なしかメカヒスイさんの気分が高揚しているように見える。

 

「それじゃあ、戦闘開始!!」

 

ほんわ君の掛け声と共に広いマットの上で二人と一体が動き出す。

山本はグローブを顔の前に構えたまま小刻みなステップを踏み距離を詰め、シオンはその背後から銃口を向ける。

それに対してメカヒスイさんはドリルを眼前に突き出したまま山本に突進する。そしてお互いが射程に入った瞬間にメカヒスイさんがドリルを一気に突き出す。

 

「甘いぜ!」

 

「───ッ!?」

 

頭だけを動かしギリギリの範囲でそれを避けた山本は鋭いジャブをメカヒスイさんの頭に打ち込む。

衝撃で頭部が後ろに傾いたメカヒスイに山本は更に追撃を仕掛ける。

 

「シッ!シッ!シッ! フリーダムッ──パンチッ!!」

 

コンパクトなフォームから連続して正中線にパンチを打ち込み、完全にメカヒスイさんの体勢を崩した山本は大きく右腕を引き絞って最大の一撃、右ストレートを顔面に叩き付けた。

その衝撃は重いはずのメカヒスイさんの体を浮かせ、数メートルほど飛ばした。

 

「む……、やり過ぎたか?」

 

「……油断はしないでください。」

 

吹っ飛んだ先で倒れたまま動かなくなったメカヒスイさんにシオンは銃口を向けたまま、警戒する。

すると何やら関節の稼働部からガシャガシャと大きな駆動音を立てながらメカヒスイさんが立ち上がる。そんな彼女?の頭部からは白い煙がうっすらと立ち上っていた。

 

「…………、何だ、仕掛けてこない?」

 

「煙……、オーバーヒート?」

 

「な、何が始まるんです?」

 

立ち上がったまま一切動かなくなったメカヒスイさんに活動部の3人は不審な目を向ける。

そして沈黙のまま時が過ぎ、もうじき1分が経とうかと言うときにそれは起こった。

 

「ピーガガガ……、ダメージ甚大、回路熱量規定値オーバー……、秘密保持ノ為二、自爆シマス……。」

 

「「「「は……?!」」」」

 

機械的な合成音声で作られた声。そんな声から聞こえてきた言葉にその場の四人は目を点にした。

 

「おいおいおいおいオイィ!?」

 

「い、今自爆って?!」

 

「こ、これは計算外です……!!」

 

「ま、待てメカヒスイさんver.0!」

 

「カウント開始、3……2……1……──」

 

あわてふためく面々を他所にメカヒスイさんは淡々とカウントダウンを開始した。

そして“ゼロ”という声と共にメカヒスイさんのボディが光を放つ。

 

「ば、爆発オチなんて最低だー!!」

 

そして光と轟音が鳴り響き、技術部の部室でそれなりの規模の爆発が起こった。

 

 

 







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クリスマス特別編 第2期


季節番外編の投稿です。

では本編をどうぞ↓


 

 

今年もこの日がやって来た。年の瀬が徐々に近づき寒さも厳しくなって来た頃のこと、そうクリスマスである。

今年のクリスマスもまた何時ものように全面闘争解禁となる。しかしそれ以上に、夢弦の住民たちを震撼させるニュースが流れていた。

 

『えー、今年の夢弦ですが3年ぶりにサンタクロース狩り解禁ということです。その為、当日の24日、25日の屋外では激しい戦闘行為が予想されます、ですので参加されない方々は屋内に避難することを推奨するとハガー市長が発表しています。では次のニュースです。夢弦の側溝に住んでいたペニーワイズ氏がトラックに轢かれそうになっていた少年のジョージィ君を庇って轢かれるという事件が起こりました。トラック運転手には───』

 

そこでテレビの電源を消してジョンスが深く息を吐く。場所は夢弦高校特別課外活動部の部室である。

3年から1年全員が集まり、やや手狭な印象を受ける部室では緊迫した雰囲気が張り詰めていた。

 

「来たぜ、この日が! 3年越しのサンタ狩りだ!!」

 

「まさか、だな……。」

 

「あ~あ、来ちゃったねぇ。」

 

3年のジョンス、無頼、小町の3人はそれぞれのリアクションを見せつつもやる気に満ち溢れており、それを見た下級生たちは思わず息を呑んだ。

そんな中でまだ夢弦事情に疎い清姫がおずおずと手を挙げる。

 

「あ、あのその“さんたくろうす狩り”とはどのようなものなのでしょうか……。とても物騒に聞こえるのですが……。」

 

「ん? あぁ清姫は初めて聞くのか。」

 

「簡単に言えば、腕試しってヤツだねぇ。だいぶハードだけどさ。」

 

清姫の質問に小町が薄ら笑いを浮かべて答える。その質問に清姫は“はぁ……”と頷く。

しかしただの腕試しだけであるならばこうまで3年生が昂る筈はない。そうこの夢弦の「サンタクロース狩り」とは単なる腕試しのイベントではないのだ。

 

「夢弦を代表する最強格の人達がサンタクロースの格好をして街中を歩き回る。」

 

「それを撃破出来るかどうかってイベントさ。」

 

「手にするのはサンタを倒したっていう名誉、“魔女越え”に並ぶ名誉だ。」

 

“魔女越え”、夢弦高校に通う者ならば一度は夢見る最高の栄光。それと並ぶ名誉が得られるという言葉に清姫を筆頭に下級生たちは息を呑む。

それでも彼らは特別課外活動部、気圧されることなく真っ直ぐな視線をジョンスら3年に向ける。

 

「良い目だ。よっし行くぞ!」

 

「さて、倒せるかね。」

 

「やるだけやるさ。」

 

ベンチから腰を上げた3年に続いて下級生たちも腰を上げて向かい合う。

そしてそれぞれ得物を手に取りぞろぞろとクリスマスムードの夢弦へと出ていった。

 

 

 

 

「私を狩りに来たようだが、残念だったな。」

 

周囲の気絶して倒れた者たちを見下ろしながら暗い赤色をしたサンタ服の男、ヨハン・カスパールは笑う。

格好つけた、気取った話し方ではあるもののサンタ服のせいか威厳は薄れている。

さてそんな現場に居合わせた一向だが特にジョンスが嬉しそうに笑っていた。

 

「……その腕章、ベアトリーチェの所のか。なるほど、かかってくると良い。」

 

ヨハンは右腕を静かに掲げて構えを取る。そしてその言葉に反応するようにジョンスが駆け出した。

 

「あ~あ、盗られちまった。なら、アタシはこっちに行くかねぇ。」

 

「ならオレはあっちだな。」

 

ヨハンへと突撃して行ったジョンスを見て小町と無頼はそれぞれ別の方向を向く。そこにはまた別のサンタ服の人物が二人いた。

一人はルガール・ベルンシュタイン。口髭を蓄えた隻眼の紳士はいつものスーツではなく真っ赤なサンタ服を来てはいるがその眼力に衰えはない。

もう一人はズェピア・エルトナム・オベローン、夢弦高校で教鞭を取る化学教師だ。いつものマントも赤に変え、頭にはサンタクロースの帽子を被っている。

 

「ルガールさん、お相手願います。」

 

「ほう、良い面構えだ。良いだろう、掛かってきなさい。」

 

「あ~れま、ズェピア先生……、いや今は“ワラキアの夜”ですかね?」

 

「小町くん、良い観察眼だ。花丸をあげよう。」

 

無頼はルガールと、小町はズェピアにそれぞれ真正面に立ち構えを取る。

雪の積もる街中にピリッとした緊張感が走る。

そしてジョンスの震脚の音と同時に四人は動き出す。

 

 

「カットだ!」

 

「ジェノサーイカッタッ!」

 

「まだ、距離は詰められる!」

 

「拳の間合いに……ッ!!」

 

激闘を繰り広げる四人。下級生たちは黙ってそれを見守っている。

街路樹や植え込みは衝撃で大きく揺れ、雪は飛び散っていく。ルガールもズェピアも余裕の表情を崩さずに若者を迎え撃つ。さすがは長年夢弦で過ごしてきた強者と言うべきか、戦い方は巧妙そのものだ。

絶妙に間合いを管理して小町と無頼に決定打を打たせない。

 

 

「なかなか。やはりベアトリーチェの生徒、といったところか。」

 

「このぉ……!!」

 

軽快なステップを踏んで間合いに入り、高速の拳を打ち込んでいく無頼だが打つ拳全てを上手く受け流されてしまう。

熱くなって踏み込み過ぎたところにルガールの手痛い反撃を受けてしまう。

しかしそれでも無頼は折れることなく自分の間合いにルガールを入れる為に距離を詰める。

 

 

 

「カットだ!」

 

「アタシの能力で距離を詰めきれないか……、さすがは“ワラキアの夜”だ。」

 

「賞賛頂き恐悦至極。」

 

自身最大の強みである距離を自在に操る能力をもってしても完全に間合いを掴めないという事実が小町に重くのし掛かる。

目を閉じ、口の端に僅かに笑みを浮かべているズェピアはのらりくらりと小町との距離を保っている。

 

 

 

「なっ……ッ!?」

 

「さぁ潰れろ!!」

 

ステップを踏みながら間合いを図っていた無頼が足下の氷で脚を滑らせた瞬間だった。

ルガールは一瞬で間合いを詰めて無頼の顔を掴み、一番近い街路樹の幹へと勢いよく叩きつける。

 

「がっ!!」

 

「まだまだ行くぞ!」

 

叩きつけられ痛みに顔を歪める無頼。しかしルガールは手を緩めないでラッシュを仕掛ける。

 

「ほら!それ! ハァ──ジェノサーイカッタァ!!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

街路樹が邪魔して後ろには逃げられない無頼に対して容赦のない連撃をお見舞いし、最後には伝家の宝刀であるジェノサイドカッターで無頼の体を上空に蹴りあげ、叩き落とした。

衝撃で気絶した無頼にルガールは背を向ける。

 

「またの挑戦を待っている。」

 

 

 

終幕(フィナーレ)だっ!!」

 

「いつのまに!?」

 

鎌を構えていた小町のその鎌の内側に瞬間的に移動したズェピアは今まで閉じられていた眼を開けて小町の首を掴む。

大きく見開かれた瞳は深紅に染まっており、止めどなく真っ赤な血が涙のように流れ落ちている。

小町の首を掴んだズェピアはマントを翻して彼女の体を覆うと、次の瞬間には小町の体は宙に舞っていた。

 

「鼠よ廻せ!秒針を逆しまに誕生を逆しまに世界を逆しまに!廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セェェェ!!」

 

宙に舞った小町に対してズェピアが腕を振り上げるとその場に黒い風が渦を巻いて吹きすさび、小町を巻き込む。黒い竜巻に巻き込まれた小町は上下左右の区別すらつかないまま体を瓦礫や枝葉によって傷つけられていく。

そして風が止むとほぼほぼ意識を失っている小町は受け身すらとれずに雪の上に墜落する。

 

「採点をしてあげよう。……及第点だが、まだまだ主役級ではないな。精進したまえ。」

 

小町に勝ったズェピアは眼を閉じるとマントを翻してその場を後にした。

 

 

 

「うぉおおっ!!」

 

「ふんっ!」

 

ジョンス渾身の鉄山靠をヨハンは全身を使って衝撃を受け流し、反撃の右ストレートを打ち込む。

しかしそれでとジョンスは揺るがず裏拳の追撃をカウンターとしてヨハンの顔に打ち込んだ。

横っ面を弾くように殴り付けられたもののヨハンはその場に踏みとどまりジョンスに殴り返す。

 

「まだだぁ!」

 

「ハァ!」

 

かれこれもう数分、こうして二人は足を止めて殴りあっていた。

ジョンスの爆発的な一撃もヨハンは巧みに受け流し、衝撃を逃がしてカウンターを打ち込んでいく。

ジョンスも初撃を受け流されることは承知の上でカウンターを貰い、それに合わせる形で拳を打ち込む。

カウンターに対してカウンターを狙っているのだ。

 

「タフだな、あんた。」

 

「君もやるじゃないか。さすがは魔女越え候補生。」

 

「ジョンス様!」

 

必死の形相で相手を睨み付けるジョンスと余裕の表情を浮かべるヨハンの対照的な二人。

それでもジョンスは自分のペースを崩さない。力強く踏み込みながらジョンスは拳を突き出した。

 

「そんなパンチで……!」

 

「オラァ!」

 

「っ!?」

 

受け流そうと腕を盾にしたヨハンを無理なり腕を振りきって傍の生け垣に叩きつける。

当たった場所から力技でヨハンの体勢を崩すとそのまま起き上がりに攻撃を重ねる。

 

「らぁっ!」

 

「くぅ……!」

 

「これならよぉ! 受け流せないだろ!!」

 

「……見事っ!」

 

体勢を崩し、迎撃の動きを取れないヨハンに対してジョンスが最高のタイミングで鉄山靠を打ち込み、雪の壁に激突させた。

除雪の為に脇に寄せられて積み重なった雪は日中の間に少しだけ溶けて、夜になって冷えて固まっていた。そんな雪の壁に激突して頭を打ったヨハンはジョンスの鉄山靠の衝撃と合わせて意識を揺らす。

 

「流石はジョンス・リー。認めよう、君の実力を……。」

 

朦朧とする意識の中、ヨハンはグッと右手でサムズアップするとそのまま意識を失った。

そして衝突の影響か堆く積み重なった雪山は崩れ落ちる。

 

「……あっ! やっべ。」

 

「ヨハンさーん!?」

 

ジョンスの鉄山靠を食らい気を失って生き埋めになったヨハンを見て周りに待機していた課外活動部の面々が駆け寄り、雪を退けていく。

除雪用のシャベルを使って雪掻きしてどけると気を失ったヨハンが現れる。そうしてヨハンを救助した一同は息を吐いた。

 

 

「……ん、そうか負けたんだったな私は……。」

 

近くの救護用テントの中で目を覚ましたヨハンは周囲を見渡して息を吐いた。

そしてストーブの向こう側に立っているジョンスを見つけると頭に被っているサンタ帽子を手に取るとそれを持ってジョンスのもとに歩み寄る。

 

「ジョンス・リーくん。サンタクロース狩り、達成だ。おめでとう、このサンタ帽子はその証だよ。」

 

「ありがとうございます、ヨハンさん。」

 

「あぁ。数年後は君もサンタの側だろう。そうしたら一緒に飲もうじゃないか。」

 

「えぇ、その時は。」

 

ヨハンから帽子を受け取ったジョンスは深々と丁寧に頭を下げる。

このサンタ帽子こそがサンタを倒した証拠であり、その所持は夢弦では一種のステータスなのだ。

こうしてサンタを倒した者は周りから実力を認められ、更に力を磨いて今度は自分がサンタとなるのである。

 

これは夢弦の研鑽の歴史を物語る、一大イベントである。

 

 

ここは闘争の街「夢弦」

自らを磨きあげ、上を見上げ、目指す者たちの巣窟だ。

 

 

 

 





クリスマスももう二周目ですか。早いものですね……。

クリスマスという事で知り合いのシスターに教わった格言を一つ。
「クリスマスには童心に返ることも重要です。クリスマスの素晴らしき創始者もその日は誰よりも子供であらせられたのだから。」

だそうです。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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プロローグ
第1話 その少女は


思い付きで書いた作品です。

まだIS原作には突入しませんので悪しからず。

後悔はしていない(キリッ


駅前の大型ショッピングモール“レゾナンス” その一角に存在するゲームセンター、稼働台の7割を2D対戦格闘ゲームが占めるその店内は今、熱気に包まれている。

 

熱気の発信源である筐体の付近は異様な空気が漂う。

土曜の昼下がり、むさ苦しい男たちで賑わう店内には不釣り合いな幼さの残る少女が筐体の1P側に座っている。

 

ジョイントキィ ジョインジョインジョインジャギィ デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー ヒャッハー ペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッ ヒャッハー ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒ K.O カテバイイ

バトートゥ デッサイダデステニー ペシッ ヒャッハー バカメ ペシッ ホクトセンジュサツ コイツハドウダァ ホクトセンジュサツ コノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ ヘェッヘヘ ドウダクヤシイカ ハハハハハ

FATAL K.O マダマダヒヨッコダァ ウィーンジャギィ パーフェクト

 

「一撃決まってぇ、勝ったのはノーサジャギ‼ サブキャラのジャギを使って店内大会を優勝ぉ!トキを完全に消毒、お前のようなJCがいるかっ!!」

 

実況席でマイクを握る眼鏡の男が叫ぶ。それと同時に1P側に座っていた少女が元気にジャンプした。

 

「ヒャッハー! 優勝だぁ、ドーナツだぁ‼」

 

少女の顔は弾けるようなとびきりの笑顔である。

彼女の笑顔と明るい声に釣られ、1P側にいた男たちは「ヒャッハー!」と返した。その後店内では彼女のRNである“ノーサ”コールが暫く響いた。

 

 

 

「あ~ん、フフ~、うまうま。」

 

店内の隅で美味しそうにドーナツを頬張る少女こそが先程の店内大会で優勝を果たしたノーサである。

このゲーセン“東京ランキングファイターズーレゾナンス店”通称“TRF-R”所属のプレイヤーであり、主なプレイゲームは北斗の拳、他にはギルティギアと戦国BASARAXである。

彼女の名は北星南美(キタボシミナミ)、北斗の拳でシンバスケを実戦に投入しまくるだけの極々普通な中学二年生の女の子。

そんな彼女は北斗の拳の上位プレイヤー、通称“修羅”の集まるここTRF-R の常連であり、また彼女自身も修羅の一人で、最年少女性修羅として、同ゲーム業界では彼女のRNは有名であり、よく他の修羅達とのガチ撮り動画を撮影してはニヤニヤ動画にUPしているため、動画勢にもよく知られている。

その明るくよく通る声とファンタスティックなプレイスタイルで絶大な人気を誇るTRF‐Rのアイドルである。

 

世界的に活躍した格闘家で、格ゲー好きな父親を持つ彼女は生粋の格闘ゲーマーであり、格闘家でもある。物心つく前からゲーセンとジムに通ってきた彼女は全一シン使いであると同時に総合格闘技全国中学生大会チャンピオンでもある。

今日の店内大会で実況をしていた同じTRF-Rの常連であり修羅の一人であるTAKUMA曰く“シンで全一、レイだと関東で三指の実力、リアルファイトで全一”だと言う。

 

それもそのはずである。

彼女はまだ学生であるが、その時間の大半を格ゲーと総合格闘技に費やしている。他の同年代達が色恋沙汰に執念を燃やしている一方で、彼女は格ゲーのやり込みと自己鍛練に青春を捧げているのだ。

 

彼女もまた、格ゲーに魅せられた猛者の一人である。

 

 

これだけ言っていると、彼女が学生として馬鹿なのでは?と思う者もいるだろう。だが、彼女は決して馬鹿ではない。

それはひとえに彼女の母親のお陰である。

彼女の母親も格ゲーファンである。だが、それはそれ、これはこれ。としっかり線引きできる大人だ。

南美が格ゲーと総合格闘技に青春を捧げられているのは、母親の課す“学業を疎かにしない”という課題をちゃんと守っているからに他ならない。

そのお陰か、彼女は成績優秀、品行方正、態度良好、スポーツ万能という、絵に描いたような優等生として学校では有名人である。

 

もし、南美が母親の課す課題を無視した場合、母親からTRF‐R外、周囲のゲーセンに連絡がいき、出禁となる仕組みだ。

 

 

──テーレッテー テテテーレテテ テレテレッテー

 

 

南美がドーナツを堪能している時、スマホから着信音が鳴る。ディスプレイに表示されている名前は北星天慧(キタボシアマエ)、南美が溺愛する妹である。

彼女はすぐさま口の中のドーナツを飲み込み、電話に出る。

 

「もしもし、あーちゃん、どうしたの?」

 

上機嫌で話し始める。

北星南美はシスコンである。どれ程シスコンなのかというと、大会のRNをノーサ@妹の為に優勝する、やノーサ@妹と添い寝したい、ノーサ@妹ちゃんhshsprprなど、様々あったが、あまりにも酷すぎて実況のTAKUMAが放り投げたものもあった。

そして、極めつけが、妹が応援に来たという理由で総合格闘技全国大会の決勝戦で、対戦相手を瞬殺したのである。そのエピソードをTRF‐R内で弄られた時の南美は“妹っていうのは核融合炉以上のエネルギーを私にくれるんですよ。妹がいれば私は天すら握れますよ?”と言い放った。

 

そんなシスコンの南美に妹からの電話とくればテンション爆上げ待ったなしで、ヒャッハーと声高に叫びたくなるが、自重。

完璧なシスコンは愛する姉妹の前では完璧に振る舞うのである。

 

「今日はもう用事ないから早く帰れるよ? それがどうしたの?」

 

「うんと、お母さんがね、お姉ちゃんに話したいことがあるんだって。だから急いで帰ってきてねって。」

 

「あ、うん…、分かった。今から帰るって言っといて。」

 

単なる母親からの伝言と分かり、南美は分かりやすいくらいに落胆する。

 

それから二言三言交わしてから電話を切ると、彼女は腰を上げ、顔見知りに挨拶してからTRF‐Rを後にした。

 

 

 

 

side ???

 

夏も盛りの今日、姉の為にと駅前の大型ショッピングモールに来てみたが、あまり良さそうな物がなかったし、仕方ないよな。うん、仕方ない、出よう。

 

洋服店から出たオレの目の前をサングラスにマスク姿の男が走り去る。高そうな鞄を脇に抱えていた。

 

「引ったくりよ‼ 誰か捕まえなさい‼」

 

男が走ってきた方からヒステリックな叫び声がした。

どうやらあの女性が被害者みたいだ。今の時代、憂さ晴らしにああいう傲慢そうな女の人が被害に遭うのもよく聞く話だし、仕方のないことだとは思う。

けど、目の前で起きた犯罪をそのままにするのはオレの男としてのプライドが許さない。

 

「待てっ!!」

 

急いで男の後を追う。

この時ほどオレは自分の体が鈍っていると実感した時はない。

剣道を辞めてからずっと家の為にアルバイトに明け暮れる日々で体力はすっかり落ちていた。

 

数分前に始まったオレと引ったくりの鬼ごっこ、そろそろオレの脚が限界を感じ始めた時、引ったくりの進行方向に一人の女の子が歩いていた。

このままだとぶつかる。引ったくりもそれを感じたのか、拳を振り上げる。恐らく払い除けるつもりだろう。

 

「危ないっ!」

 

「どけガキィ!!」

 

引ったくりが怒鳴り声を上げる。これはマズイ、何とかしないと。

女の子は引ったくりの声に反応してこっちを見た。こんな時に抱く感想ではないが、とても可愛い。

女の子は引ったくりを見ると、ハァとため息をついて腰を落とした。

 

「南斗獄屠拳っ!!」

 

よく通る声とともに低い姿勢から放たれた女の子の飛び蹴りは引ったくりの顎を完璧に捉え、オレの方へとぶっ飛ばした。

オレはというと、ぶっ飛んできた引ったくりの体を支え切れず、そのまま尻餅をつく体たらくである。やっぱり体が鈍っている。

そして尻餅をついたオレの視界に飛び込んで来たのは見事な飛び蹴りの姿勢のままオレの上を飛び越す女の子の姿であった。

けど、拳なのに飛び蹴りとはこれいかに…。

 

女の子は着地するとこっちに振り向いて、引ったくりの顔を見る。

 

「うん、気絶してるね。」

 

女の子は引ったくりの気絶を確認するとオレの方へと顔を向ける。

 

「君はこの引ったくりを追ってたのかな? 正義感の強い人なんだね。今どき珍しい男子だよ。名前を教えてもらっていいかな? 私は南美って言うんだ。東西南北の南に美しい、で南美ね。君は?」

 

なんだこの子、凄いグイグイ来るな。答えた方がいいよな?向こうだけ名前を言って、こっちが言わないのは流石に失礼だもんな。

 

「えっと一夏です、織斑一夏(オリムライチカ)、織物の織に斑で織斑、名前は一つの夏で一夏です。」

 

「一夏くん…、ね。オーケーオーケー。正義感が強いのはいいことだけどさ、実力が伴わないとエゴだよ? 君は多分、昔は強かった、けど今はそうでもない。もし君が正義感に駆られた行動をして、達成したいならもっと強くならなきゃ。…、私からはそれだけかな。サヨナラ一夏くん、その引ったくりは君に任せるよ。」

 

女の子、南美さんはそれだけ言ってどこかに行ってしまった。その後ろ姿はどこか格好よく見えた。

 

 

その後、引ったくりを警備員に引き渡し、取られた鞄を持ち主に渡したオレは携帯を取りだして、姉に電話をかける。土曜の午後だし、多分大丈夫だろう。

 

「─プルル どうした一夏?」

 

案の定ワンコールで出てくれた。

 

「あ、もしもし千冬姉? 今大丈夫?」

 

「あぁ、構わない。それで、どうしたんだ?」

 

「うん、オレさ、剣道を再開したいんだ。千冬姉に迷惑かけるし、我が儘言って申し訳ないって思うけど、頑張るからさ。」

 

「……。」

 

沈黙、千冬姉は何も言わなかった。もしかしたら駄目かもしれない。

そんな考えが頭によぎった時、千冬姉は口を開いた。

 

「そんな事か、良いに決まっているだろう? 弟の我が儘を聞き入れてやるのも姉の務めだ。」

 

「千冬姉、良いのか?」

 

「勿論だ。むしろ私はお前が剣道を辞めると言った時は何を言っているんだこの馬鹿は?と思ったくらいさ。」

 

オレは良い姉を持った、幸せ者だ。

ちょっと口が悪くて、家事関係が全滅で、美人だけど男よりも男前で、そしていつもオレの力になってくれる。

そんな存在に心の底から泣きそうになった。いや、気づいた時にはもう泣いていた。

 

「ありがとう、ありがとう…、千冬姉。」

 

「この程度で泣くな馬鹿者…。」

 

その後、何度も感謝の言葉を口にして電話を切った。

やるとなった以上は結果を出して応えたい。

 

オレは昔使っていた道具の整備をするべく、急いで家に帰った。

 

 

side out...

 

 

 

 

side 南美

 

家につけば妹が迎えてくれる。

嗚呼、桃源郷はここにあったのね。

 

などと浮かれているのも束の間、母さんが私を客間に行かせた。

客間にはスーツ姿の厳ついオッサンがいた。ちゃんと手入れされた顎髭が渋さを醸し出している。

というより私を呼んだってことは私のお客さんなんだよね? 私こんな渋いおじさんを相手にするようなことしてないよ。

 

「君が北星南美ちゃんだね? 私はIS関連企業のLast of Century Enterprises社の社長を務めている鷲頭清雅(ワシズキヨマサ)だ。今日は君を我が社のテストパイロットにスカウトしに来たんだ。」

 

は? スカウト? 誰を?私を? ISってあれだよね、ちょっと前に開発された何でもできるパワードスーツみたいなヤツのことだよね? 今じゃ何でも戦車やら戦闘機とかに代わって国家的戦力扱いやらされてるみたいだけどさ。

目の前のおじさんは、そのISの部品とかを作ってる会社の社長さんらしい。で、私をテストパイロットにしたい、と。

ラストオブセンチュリーエンタープライズってなんか聞いたことあるなぁ、何だっけ? あぁ思い出した。確か格闘技の日本代表の人が何人も所属してる会社だ。

 

「それで、何で私をスカウトしに来たんでしょうか…?」

 

悪いが私は何の心当たりもない。自慢じゃないが生まれてこの方格ゲーと総合格闘技しかしたことないのだ。ISのことなんかさっぱり分からない。

 

「理由としては二つかな。まず一つ、君のIS適性が高かったから。」

 

IS適性…? あぁ、そういえばISって誰でも乗りこなせる訳じゃないんだっけ?

女性しか乗れなくて、男性には全くといって良いほど反応を示さず動かないとかなんとか。乗れる女性にも良し悪しがあって、適性が高いほどいいパフォーマンスができるらしい。

 

でも適性が高いと言われましても、そんなことが分かることをした覚えがないし…、あ、あったわ。半年前に受けた適性検査だ。興味なかったから覚えてなかったわ。

あ~でも、こうして偉い人がわざわざ来るくらいだもん、私ってよっぽど凄かったのね。

いやちょっと待ってよ? 適性高いだけなら私じゃなくても良いような気がするけど、だって今じゃISの専門学校があるくらいだし。素人をスカウトするよりもその学校に通う子をスカウトすれば良いじゃない。

 

「その顔、何で自分がって思ってるね?」

 

勿論だ。腑に落ちない理由で人生決められてたまるか。

 

「まぁ二つ目の理由の方が大事なんだ。その理由は君が総合格闘技のチャンピオンで、TRF‐R所属の修羅、ノーサだからだ。」

 

…ナニヲイッテルンダコノヒトハ?

私がチャンピオンだからって。いや、それよりも何で私がノーサだって知ってるの?

 

「私は格闘技と格ゲーが大好きでね。将来性のある格闘家の援助もほぼ無償でやってる。そして格ゲーもね、特にTRF‐Rの動画はよく見てるんだ。TRF‐Rの上位プレイヤーはみんな面白い試合を見せてくれる、特にノーサの試合はいつもファンタスティックだ。私は君のファンなんだよ。」

 

ここまで言われて悪い気はしない。

だが、本当にファンだからって理由だけで素人をスカウトするものなのかな?

 

「どうして君を選んだかはこの映像を見てくれれば分かる。これは我が社が開発する次世代型ISの試験運用中の映像だ。」

 

そう言っておじさんはパソコンの画面を私に見せる。

画面に映る映像には一機のIS?があった。

全身を機械の装甲が覆っていて、パイロットの顔も見えない。

青白い装甲で肩部分は赤く塗られているそれはどことなく南斗孤鷲拳のシンを彷彿とさせる。

まさか私をスカウトした理由って…。

 

「察しがついたかな? この機体は南斗孤鷲拳のシンをイメージして作られた格闘用の機体なんだ。我が社の抱える人材ではこの機体を活かしきれないんだ。けど君は違うだろう? 格闘技の天才で、格ゲーでもその能力を遺憾なく発揮している。君こそこの機体に相応しい。」

 

やっぱりか…。

格闘家として、ゲーマーとしての実力を評価してくれるのは正直嬉しい。けど、この話を受けるべきなのか?

多分だけど、この話を受けたら私を取り巻く環境は大分変わるだろう。もしかするとTRF‐Rに行けなくなる可能性だってある、もしそうならこの話は丁重にお断りしよう。

ISよりも私は格ゲーがしたいんだ。

 

そんな私の心を見透かしたようにおじさんが口を開いた。

 

「勿論、忙しくなってTRF‐Rに行けない、なんて事態にはならないようにするよ。君の試合が見れないなんて事になったら本末転倒だからね。」

 

ハハハ、とおじさんは笑う。それなら私としては歓迎すべき条件だ。けど、どうするかな…、私はまだ中学生だし、う~ん…。

 

「まぁ、急に言われても悩んでしまうよね。時間をかけてもいいから答えを聞かせて欲しい。私の連絡先だ。答えが出たら連絡してくれればいいから。」

 

そう言っておじさんは名刺を私に渡した。

そうだな、じっくり時間をかけて考えてみよう。

 

 

おじさん改め、鷲頭さんは帰っていった。

帰り際に色々と語られたけど(どうして格闘用のISを作ったのかとか、TRF‐Rの試合動画はどうして面白いのかとか。)、聞いてて退屈じゃなかった。

さて…、テストパイロットか…。

多分だけど、ISの専門学校に通ってる女の子にとっては一種の目標だよね?う~ん…。

母さんと父さんは応援してくれるみたいだけど。

頭を抱えたまま唸っていると天慧が近寄ってきた。

まだまだ甘え癖の抜けない小学三年生の妹は私の心の清涼剤だ。

 

「お姉ちゃん、アイエスのテストパイロット?になるの?」

 

上目遣いでこっちを見てくる。なんなんだこの可愛い生き物はっ?! 私を萌え殺す気なのか!!

 

「う~ん、お姉ちゃんはまだ悩んでるんだ。あーちゃんはお姉ちゃんがISのパイロットになったらどう思う?」

 

「うんとね、よくわかんないけど、格好いいと思う。もしお姉ちゃんがアイエスのパイロットになったら私みんなに自慢しちゃう!」

 

ズキュゥウウンッ‼

 

私のハートは撃ち抜かれました。こんな可愛い妹に格好いいと言われてやらないヤツは姉じゃねぇ‼

やってやる、やれるんだ私は!!

 

気づいた時には鷲頭さんに連絡してた。

待っててね、あーちゃん。世界一格好いいお姉ちゃんだって自慢させて上げるから‼

 

side out...

 

 

こうしてTRF‐R所属の修羅、ノーサはIS関連企業Last of Century Enterprises社のテストパイロットに就任した。

 

コレが伝説の始まりである。

 

 

 

 









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第2話 TRF‐Rの一幕



今回の話は北斗勢以外には多少分かりにくく書かれています。
私の実力不足です。申し訳ありません。

※注意※

この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件等とは一切関係ありません。

またこの作品には中野TRF、そして中野TRFに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

前書きが済みましたので本編をどうぞ↓



夏も盛りの土曜の昼下がり、TRF‐R北斗エリア。

 

「──はい、まわれーい、はい、まわれーい、ハイッハイッハイッか~ら~の~、それ、まわれーい、はい、掴んで投げたら死んだぁああ‼ 勝ったのはノーサハート様。えぐれシジミまたもや一回戦敗退ぃ!!」

 

2P側に座る南美が身を乗りだし年相応のイタズラっぽい笑顔を浮かべながら1P側に座る対戦相手を見る。

 

「えぐれさん、えぐれさん。N(ねぇ)D(どんな)K(気持ち)? NDK? レイを使ったのにJCハート様に2ラウンド連続でタイフーンループされてどんな気持ち?」

 

「悔しい、ビクンビクン!!」

 

1P側のえぐれが大げさに身を震わせる。そのやり取りに店内では笑いが起こった。

 

「続いて、1回戦の第2試合は…、鋼が野試合で無理だから飛ばして、第3試合も、眉毛さんが野試合してて無理だから飛ばして第4試合はできる? おけ、できるのね。じゃあ、第4試合“魔法戦士”対“西沢歩はオレの嫁”の試合を始めまーす。」

 

「はい、解説のらいぶらさんと代わったノーサです。って言っても私解説とか無理ですよ? 私は実践派なんで作業とトレモしか言うことないですし。」

 

「大丈夫でしょ、らいぶらの代わりなら煽っとけば大丈夫。っと、そうこう言ってる内に場所決めが終わって、1P側が魔法戦士、2P側が西沢歩はオレの嫁、さてノーサちゃんはどう思う?」

 

「西沢歩は、もう良いや、こあらさんはレイ使いですけど大事なところでコンボミスがありますからね。一方でQMJさんのジャギは6Aからでも投げからでもグレイブや遠C始動でもバスケに移れますからこあらさんはいかにワンコンボでジャギを仕留められるか…、じゃないですか?」

 

ジョインジョインジョインジョインジョインレィ ジョインジョインジャギィ デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

ニゲラレンゾォ フゥゥゥ シニヤガレェ ヒエンリュウブ

 

「QMさんのMPが溜まってないからバクステから牽制挟まないで攻めても良い場面だと思うんだけどなぁ。ガソリン撒かれたら鬱陶しいし。」

 

「おっと、ここでこあらレイに遠Cが刺さってぇ近D、そしてバニィ‼ 壁際に追い詰めてハイッハイッハイッ壁コンからのぉ羅漢撃ぃ。魔法の数字27がぁっと、落としてしまった。これは珍しい。」

 

「ジャギバスケのミスが珍しいは大分毒されてるね。」

 

コイツハドウダァ ホクトセンジュサツ

 

「グレイブが見えない、宙に舞って千手で追撃。星取って、コンボに移行、ハイハイハイハイハイ、2Aで殴って2Aで殴ってハイハイハイハイハイ最後は超ガソでフィニッシュ、死んだぁあああ!!! 1ラウンド目を取るのはQMJジャギ。」

 

バトートゥ デッサイダデステニー

「ガソリン撒いて、もう一丁ガソリン撒いてぇ…。さぁこあらレイはどう立ち回るんだぁ?! 魔法戦士のMPは既に充分溜まっているぞ?」

 

オイソコニスワレ ヌァンダソノメハァ ドカァ

 

「“おいそこに座れ!” さぁ露骨な投げからのコンボ、そして羅漢撃、魔法の数字27が決まってしまった‼」

 

「これは終わったくさいですねー、こあらさん、ドンマイです。」

 

ペシッベシッペシッペシッベシッペシッペシッベシッペシッペシッベシッペシッペシッベシッペシッ ドウアガコウトキサマハタスカランワァ ペシッベシッペシッペシッベシッペシッペシッベシッペシッペシッベシッペシッペシッベシッペシッペシッベシッペシッ ホクトラカンゲキッ ミロコノハヤイツキガカワセルカァ K.O ミィタカァ ウィーン ジャギィ

 

「勝者はQMJジャギ。赤いジャギは通常の三倍です。」

 

「TRF‐Rの常識ですね。」

 

「じゃあ、第4試合終わったので第2試合、鋼できる? 空いてる、じゃあやろう。第2試合、鋼対らいぶらの試合です。」

 

「「「ヴォーコウサーン!!!」」」

 

ジョインジョインジョインジョインジョインレィ ラオゥ オマエガレイカ ラオウノクビハオレガトル デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

 

「1P側が鋼レイ、2P側がらいぶラオウ。っと開幕へヴィー‼ 鋼レイよろけている。」

 

ヌゥオアァ ベシパシジョイアァ ペシペシペシ バシベシッ ジョイヤァ ペシペシペシペシペシペシ ジョイアアアァ ペシッベシッペシッバシベシ ジョイヤァ ペシッペシッペシッペシッペシッペシッ ジジョイヤァ ペシッペシッペシッペシッ

 

「さぁ開幕へヴィーからの釵ループそしてバニを入れてからの壁コン!! からのもういっちょ釵ぃ! ぺしぺしぺし、はい、空中コンボ、星取って、釵ぃ!それ、小パン小パン小パン小パン!! 裏釵もぉ、ミスらなーい、らいぶらでした。」

 

ジョイアアアァ コノオレモカナシミヲセオウコトガデキタワ ペシッベシッペシッペシッペシッペシッペシッ K.O コレゾテンヲモニギルサイキョウノケン

 

「最後に無想つけて小パン連打で決着。レイの星が溶けている。」

 

「2ラウンド目の展開が読めるわぁ。」

 

バトートゥ デッサイダデステニー フゥ ミキッタワ ドゴォベシ ジョイヤァ ウケテミヨワガゼンレイノコブシヲ テンニメッセイ FATAL K.O ヤハリテンハコノラオウヲノゾンデイルノダァ ウィーン ラオゥ パーフェクト

 

「無想で裏取って星取り一撃ぃ!」

 

「開幕立A振ったら死ぬゲーセンってどうなの? これの動画上げたら多分今頃ギャーコウサーンって弾幕が出てるんじゃないですか?」

 

(♂・鋼・)<アアアアアア、くっそ!!! おいKai、呑み行くぞ‼」

 

(Ki・Д・)<オレ呑めないデス

 

 

 

「じゃあ、眉毛さんが野試合終わらせてるんで第3試合にいきまーす。第3試合は眉毛さん対Kaiの試合です。」

 

騒ぎ倒す鋼を余所にTAKUMAが大会の進行する。

タイムテーブルに関係なく修羅達が騒ぐのはいつもの光景であり、一々気にしていると胃がストレスでマッハなのである。

 

「はい、場所決め終わって1P側がKai、2P側が眉毛さん。」

 

「羽ばたき勢ガンバです。」

 

(眉゜Д゜)<羽ばたき勢とか言うな‼

 

「さぁ珍しくノーサから野次が飛ぶぅ。今日は珍しい日です。いつもよりノーサがハイテンションでお送りします。」

 

ジョインジョインジョインジョインジョインレィ ジョインジョインジョインジョインジョインユダァ ギセイハショセンピエロノホシ ヨウセイヲイチダントヒカリカガヤカセルクズボシニスギン ユダヨウセイハニドトカガヤカヌ デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

 

─中略─

バカナ オトロエタナユダ オレハコンナシニカタハセン ザシュ ユダ レイ オレヨリツヨクウツクシイオトコヨ セメテソノウデノナカデ ユダオマエモマタコドク

ウィーン レィ

 

「残り1ドットが果てしなく遠い。リバサ昇龍からコンボ繋いで一撃ぃ! 眉毛ユダが一回戦敗退!!」

 

~~~~

 

「優勝はKaiレイ!! 順当過ぎる。」

 

「…。」

 

ヒャッハーと修羅やモヒカン達が騒いでいる中で、南美は遠巻きにそれを見つめていた。

 

 

side 南美

 

どうしようかな…、テストパイロットになったこと言うべきだよね? でもISのせいで少なからず損した人もいるだろうし…。

言ったらどうなるのかなぁ。そのせいでここに居ずらくなるとか嫌だよ、私。

 

そんな事を悩んでいるとモヒカンの一人が私の方に来た。

 

「なにしてんすか、ノーサさん。いつもなら率先して騒ぎに来るじゃないすか。」

 

「…、別にちょっとね…。」

 

「…おーい、ノーサさんがなんか言いたいことあるってよ‼」

 

はぁ‼ ちょっと待てモヒカンおい。ほれ見たことか、エサを見つけたピラニアみたいな目でこっちを見てきやがるぞ、あの修羅ども‼

 

「ちょ、違っ…。」

 

(ら・∀・)<え?何それは、突然の愛の告白ですか?

 

(♂・鋼・)<ノーサのデレタイムがキタァァアアア!!!

 

(モヒ゜∀゜)<ヒャッハー!!! 誰だ誰だ‼ オレだぁあ‼

 

(モヒ・∀・)<今だから言います。ノーサさん、大好きです!!

 

違うってのに、コイツらぁ。こうなったら…。

 

(ノサ・ω・)<南斗獄屠拳っ!!

 

(モヒ゜∀゜)<ひでぶっ!!

 

「違うっての!!! 特にモヒカン! 私に告白するなら全一修羅に勝ってからにしろ‼」

 

(TA・Д・)<じゃあどうしたん?

 

ぅ…、改めて話を振られると切り出しにくい…。

でもここまで来たら腹を決めよう。

 

「え~とですね、先週に、その就職先が決まりまして…。」

 

┌┤´Д`├┐<良いことじゃん。

 

(こ・ω・)<あれ? でもまだ中二だよね?

 

「はい、そうなんですけどその…、就職先って言うのが、ISのテストパイロットなんです。ラストオブセンチュリーエンタープライズって会社の。」

 

「「「……。」」」

 

沈黙が辛い…。

もしかして拒絶されるのかな…? もしかして“もうここに来るな”とか言われるのかな? 嫌だなぁ。ここが好きなのに。

みんなの顔が直視できなくて下を向いて目を閉じる。

次に来るだろうみんなの言葉が怖い。

 

──パァンパァンッ

 

「「「知ってたっつの、バーカ!!!」」」

 

…え?

聞こえて来たのは破裂音とみんなのいつもの煽る声。

みんなの手にはクラッカーが握られてる。

 

「どういうこと…?」

 

(ら・∀・)<始めッから知ってたってことだよ、バーカ。

 

(*´ω`*)<これは流行る。

 

(Ki・Д・)<ノーサ=サンの心配事はありまセン。

 

「ちょっと待って! なんで知ってんの⁉ まだここの誰にも話してないのに‼」

 

(*M*)<LOCの社長がわざわざここに来て説明してったんだよ。ちょっと忙しくなるから来る頻度が下がるからって。今のご時世、ISパイロットってだけで男から敬遠されるかもしれないけど、ノーサはそこら辺の女とは違ってそんな子じゃないから、今までと同じように接してほしいってさ。んなもんとうに知ってるのにな。

 

(眉゜Д゜)<つうか、そんな心配いらねぇし。あの社長よりも俺らの方がノーサとの付き合いなげぇし、お前がそこらの傲慢ちきな女と別もんだってのも分かってるっつの。

 

(TA・Д・)<そういうことだよ。水臭えぞ、オレらがそんな薄情だと思ってたのかよ? 軽く傷つくぞ? えぐれの肋骨折れちゃうよ?

 

(こ・ω・)<もう俺ら身内じゃん。悩みあったら言えば良いじゃん。

 

(ら゜∀°)<大抵は煽るだけだけどな。

 

「みんなぁ…。」

 

ほっぺたを暖かい水が流れる。

自然と体から力が抜けてその場に座り込んでしまった。

 

(モヒ・Д・)<うぉおおッ?! ノーサさんが泣いたっ!!

 

(DP・Д・)<NDK?NDK?

 

もう、この人達は…、こんなの、

 

「─しい、嬉しいに決まってんじゃん‼」

 

私は泣いた。恥も外聞もなく。

悲しいからじゃない、とても暖かく感じたから。

 

(♂・鋼・)<おっしゃっ今日はノーサの就職祝いだ、呑み行くぞ‼

 

(TA・Д・)<呑みてぇだけだろ!!!

 

やっぱりTRF‐R《ここ》は暖かい。

ここでみんなに会えてホントに良かった。

 

けど、それはそれ、これはこれだ。

 

(モヒ・Д・)<え、ちょっとノーサさん? 何で握りこぶしを?

 

「知ってたなら言えやゴラァッ!!」

 

私の葛藤をどうしてくれる‼ 修羅ども死すべし、慈悲はない。モヒカン死すべし、慈悲はない!

 

(TA・Д・)<お、おい、誰かノーサ止めろ‼

 

(ノサ・ω・)<イーヤー!!

 

(モヒ゜∀゜)<ぐわー!!

 

(TA・Д・)<さすがリアルファイト全一、見事な飛び蹴り!おっと、台車通りまーす。

 

(ノーサ・ω・)<道開けまーす、どーぞー。

 

 

side out...

 

 

今日もTRF‐Rは平和です。

 






イイハナシダッタノニナー


はい、前半はとても分かりにくかったと思います。
すいませんでした。






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第3話 専用機



今回は短いです。





TRF‐Rの修羅どもとモヒカンを粛清した翌日、南美はLOCエンタープライズ社のIS試験場に来ていた。

 

 

side 南美

 

黒塗りの車から降りると試験場の入り口には今日も今日とて渋さを漂わせる鷲頭さんがいた。

 

「暑いところをよく来てくれたね。ありがとう。」

 

「いえ、大丈夫です。迎えの車も来てくれましたし。」

 

ホントに助かったわ。車内は冷房効いてたし。まさか私一人の迎えにハイヤー回してくれるとは思ってなかったけど。

正直、初めて乗るハイヤーは緊張で余り乗り心地が分からなかった。

 

「さて、早速で悪いんだけど始めよう。」

 

「分かりました。」

 

今日の目的は私の“専用機”を本当の意味で私専用にチューニングすることだ。すでに初期段階の設定は済ませてあるが、私の動きと出来るだけ合うようにしなくてはいけないらしい。

どうでもいいけど、専用機とか特化機体とか聞くとテンション上がるよね。

 

試験場は強化ガラスに囲まれたグラウンドみたいな場所だ。

その真ん中に、私の専用機、“ラスト”と名付けられた機体が鎮座していた。

 

テストパイロットになると決めた日からそれなりにISについて勉強してきたが、このラストは今まで見てきたISのどれとも違う雰囲気を纏っている。

細い、第一印象はその一言に尽きた。私が見てきたISはどれも足や腕がゴテゴテしていたがこの機体にはそれがない。

すらりとした四肢、けれども関節にはしっかりとパワーアシストが施されている。

そして全身を覆う装甲はほんのりと蒼く、肩の装甲はその存在を主張するように鮮やかな赤色を放っている。

 

このISは小柄だ。私の体より一回り、二回り大きいくらいだ。だがそれを感じさせない力強さがある。

 

──あぁ、早く、早く乗りたい。このISの力を試したい!

 

自分の体が震えているのがはっきりと分かる。それくらい私は興奮していた。

 

 

すっとISに手を伸ばす。触れたところからひんやりとした感覚が広がる。

ISに乗るにはイメージ、自分がこの機体に乗るところを頭に思い浮かべればいいらしい。そう言われて頭にラストに乗った私の姿を浮かべると私とラストは光に包まれ、次の瞬間にはもう私はラストを纏っていた。

 

「フフフ、ハーハッハッハ!!! 最高だっ!!」

 

思わず高笑いしてしまった。

分かる、この機体の全てが私の頭に流れて来る。南斗孤鷲拳のシン、夢にまで見たあの技がついに…、笑わずにはいられない‼

 

「さて、ノーサ、いや南美くん。稼働テストを始めよう。動いてみて違和感があったら報告してくれ。」

 

そう言って鷲頭さんは強化ガラスの向こう側に避難していった。

 

「では早速…。」

 

後ろを振り向けば3体のダミーバルーン、これを仮想標的にすればいいと言うことらしい。

 

デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

 

頭の中にあのシステムボイスと音楽が自然と思い起こされた。

 

まずはこれだ。

 

「南斗獄屠拳っ!!」

 

飛び蹴りのモーションに入ると同時に背中のブースターが私の体を後押しする。蹴りが当たった瞬間、ダミーが吹っ飛んでいった。

なるほど、これは良いものだ。そして驚くべきは肘と膝部分から出た衝撃波か、原作再現しようとした結果なのだろう。これですれ違い様に相手の四肢にダメージを与えることができるっぽい。

 

じゃあ次はこれ…。

 

「南斗迫破斬っ!!」

 

おぉ…、これもまずまずと言った感じだ。

指先や足にエネルギーブレードを出して攻撃する感じのようだ。

だんだん楽しくなってきたぞ。

 

 

side out...

 

 

一通りの動作を確認した南美はISを解除して満足した顔で笑っている。

 

「どうだったかな? 動作に不備はあったかい?」

 

「いえいえ、思った通りに動いてくれました。こんないい機体をありがとうございます。」

 

頭を下げる南美の後ろにはズタボロになったダミーバルーンが3体転がっている。

 

まさかあの“ブースト”や“バニシングストライク”まで再現できるとは思っていなかった南美は調子に乗ってコンボを決めまくり、果てには今や彼女“ノーサ”の代名詞とも言えるノーゲージからのシンバスケ、「ノーサスペシャル」まで試し、用意されたダミーをまるでぼろ雑巾のようにしたのだ。

 

「そうかい、それは良かった。じゃあ今日のデータを見返してもう一回調整しておくよ。帰りはまた送っていこう。」

 

「ありがとうございます!」

 

 

こうして南美の専用機「ラスト」は完成への最後の一歩を迎えたのだった。

 

 

おまけ

 

(こ・ω・)<えぐれ、今度のドリクラ実況のゲストにノーサ呼ばない?

 

(*´ω`*)<命が惜しいからヤダ。

 

 







ノーゲージからでもバスケに持っていくノーサ。
秘訣はブースト回収に必死になること。

(*´ω`*)<ハヤル


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番外編 修羅達による世紀末キャバクラ実況



今回はカキタカッタダケーです。

余り深い意味はありませんので、肩の力を抜き、アルコールを摂取するか、深夜2時以降に読むことをお薦めします(某世紀末キャバクラ実況動画風)

ではどうぞ↓


TRF‐Rから少し離れたところに居を構えるこあら邸にて、とある動画が収録されている。

 

動画名を「えぐれシジミとこあらさんの世紀末キャバクラ実況」と言う。

 

内容は「ドリームクラブ」と言うゲームをTRF‐Rに所属する修羅が実況をするというものである。

深夜帯に収録し、プレイする修羅達もアルコールを入れているため、対戦動画とは違う修羅達の姿が見れると、密かに人気な動画である(おもに北斗、TRF‐R勢から、というのは実況中の雑談が基本北斗やTRF‐Rの修羅についてばかり話すのが大きな理由である)。

 

今日もまた、こあら邸にて夢のクラブに修羅が行く。

 

 

(*´ω`*)<じゃあ、世紀末キャバクラ実況part4の続きをお送りしまーす。

 

(こ・ω・)<イエーイ。

 

(チ゜Д゜)<そんじゃあ、また女の子を酔わせに行きましょう。

 

 

(*´ω`*)<まず誰指名する? この前がKaiリ(ケーアイリ)だったよね?

 

(こ・ω・)<魔璃でいんじゃね?

 

(チ゜Д゜)<それよりもさ、二人の顔のガーゼと絆創膏について聞いていい? むっちゃ気になってたんだけど。

(こ・ω・)<そういえばチクリンさんいなかったっすね、この前の土曜大会。

 

(*´ω`*)<ノーサがISのテストパイロットになったんすよ。けど、ISパイロットって昔のトキ使いみたいにマジで嫌がられることあるじゃないすか。

 

(こ・ω・)<で、それ言ったら俺らに嫌われるんじゃねって思い込んでたみたいで。見るからに先週から調子悪くて、誤魔化そうとして一周回ってハイテンション、みたいな?

 

(チ゜Д゜)<それで?

 

(こ・ω・)<俺らからしたら関係ないことで、むしろ祝おうと思ってたんすよ。けど、ノーサが言い出さないから、眉毛さんがじゃあこっちからやってやろうぜっつって土曜大会にみんなでクラッカー持ち寄ったんすけど。

 

(*´ω`*)<こっちから切り出すタイミングないまま大会終わって、その時なら行けんじゃねってなったんすけど、ノーサが全然輪に入ってこなくてそしたらなんか泣きそうになってテストパイロットになったとか言い出すから半ばドッキリみたいになったんすよ。“知ってたっての、バーカ!!!”とか言ったりして。

 

(こ・ω・)<そしたらなんかノーサがキレて、“知ってたなら言えやゴラァ!”とか言いながらリアル獄屠パナシてモヒカンが犠牲になりました。

(チ゜Д゜)<ノーサのヤツちっちぇことで悩むのな。

 

(こ・ω・)<いや~、あの子ってば最低週二でTRF‐Rに来てバスケやって俺らに馴染んで、バカやってますけど、根っこは真面目で凄い良い子だから逆に深く悩んじゃうじゃないんすか?

 

(チ゜Д゜)<それがアホだってば。眉毛もよく言うじゃん。ゲーセン来て挨拶交わせばもう身内なんだって。気ぃ遣う必要ねぇっての。

 

(*´ω`*)<そこで気を遣っちゃうのがノーサの美徳なんじゃない? ほら、いつもシン使ってわんぱくしてっから忘れがちだけど一応年下ってか最年少な訳だし。

 

(チ゜Д゜)<年下なら余計に俺らを頼ってほしくない?

 

(こ・ω・)<ていうか、俺らいつまで語るんすか、もう収録始まってるよ。

 

(チ゜Д゜)<え?もしかしてここも動画に入る的な? うっわ、はっずかし、コレ!!

 

(*´ω`*)<これは南斗編集拳でもどうにもできないわ。

 

 

~~~中略

 

(*´ω`*)<てかさぁ、俺らナオのこと最初さ、格闘技やってるとかでノーサだろコイツ!みたいなこと言ってたじゃん。

 

(こ・ω・)<あー、あのもしノーサがキャバ嬢だったらこんな感じじゃね?とか言う話だっけ?

 

(*´ω`*)<そうそうそれ。

 

(チ゜Д゜)<アン時は確か、酔ったノーサに南斗聖拳の真髄を見せてやるとか言われてボコられそう、みたいなこと言ってたな。それが本人にバレて俺ら全員ノーサ道場送りになったけど。

 

(*´ω`*)<ぶっちゃけさぁ、ナオとノーサって似てるようで全然違うよね。

 

(チ゜Д゜)<あーそれ分かる。ノーサはボーイッシュってタイプではないよね。

 

(こ・ω・)<見た目はマミヤ、中身はモヒカンみたいな?

 

(チ゜Д゜)<あんなつええモヒカンがいてたまるか。

 

(*´ω`*)<ほら、ノーサは何だろう、座ってれば可愛い女の子に見えるじゃん。しゃべったり、北斗やると本性バレるけど。

 

(チ゜Д゜)<立てば芍薬座れば牡丹、レバガチャ姿は世紀末ってか?

 

(こ・ω・)<ノーサのレバガチャマジで速いからね。眉毛さんより速い人俺初めて見たからね。残像見えんじゃねぇかってレベルだもん。

 

(チ゜Д゜)<そこで褒めるべきはその速度でも壊れない筐体の頑丈さだよね。

 

(*´ω`*)<間違いないね。

 

(こ・ω・)<ノーサの問題点はファッションセンスじゃね? 見た?この前の私服姿。

 

(*´ω`*)<あれでしょ? 胸元に北斗七星の柄が入っただけのシャツにジャージでしょ。この前は背中に“関節技第一”って文字だけのシャツ着てジーパン履いてた。

 

(チ゜Д゜)<色気ねぇなぁ‼

 

(*´ω`*)<でもほら、平日は学校帰りだから制服マジックがあるから。

 

(チ゜Д゜)<俺ら中身知ってっからマジックもクソもねぇんだよなぁ。

 

(こ・ω・)<なんなんだろうね、ノーサの残念美人感は。あいつ背が高いから実年齢よりも高く見えんじゃん。高校くらいの年にさ。活かせてないもんね。

 

(*´ω`*)<でも眉毛さんはね、“ノーサはコレだから可愛いのっ!!”って言ってたね。

 

(こ・ω・)<眉毛さんていつもノーサに甘いよね。

 

(チ゜Д゜)<おっと? コレは事案発生フラグか?

 

(こ・ω・)<チクリンさん、洒落にならないっす。

 

(*´ω`*)<あんさぁ、今気づいたんだけど、この動画、ノーサ見るよな?

 

(こ・ω・)<え? マジで? ちょっとヤバくない?

 

(チ゜Д゜)<てか眉毛も見んじゃね? どうすんのお前ら、動画アップした次の大会で“覚えとけ”とか真顔で言われんぞ。

 

(こ・ω・)<どうすんのえぐれ。

 

(*´ω`*)<編集で誤魔化し効かないレベルでしゃべったからね。覚悟決めよう。Kai道場でも何でも行こう。

 

(チ゜Д゜)<俺何も言ってないタイマニン

 

(こ・ω・)<チクリンさん、逃げられませんよ~。

 

 

 

後日、ノーサ道場に通い心の肋骨を折られた修羅達が3人ほど目撃された。

 









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第4話 全一とは何かを思い知らせる全一修羅



最近なんですが、死兆星が見えるようになった夢を見ました。
どういうことなんでしょうか。

※注意※
この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件とは一切関係はなく、また、中野TRFやそこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

いつもの前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


「さーて、今週の土曜大会の時間です。それでは組み合わせの発表に移ります。1回戦第1試合、QMJジャギ対ミソノジャギ、第2試合えぐれサウザー対眉毛サウザー、第3試合ノーサシン対メビューシャシン、それから第4試合がKaiレイ対72番クマレイ。で、5試合目が…」

 

 

 

 

(こ・ω・)<最初4つの組み合わせよ…。

 

(ら゜∀゜)<コレはえぐれさんの肋骨なくなるなー。眉毛さんに勝っても赤いジャギが待ってるし。

 

(こ・ω・)<QMJに勝っても待ってるのはTRF‐R《ココ》の覇者かクイーンのどっちかって詰んでんな。えぐれさん乙~。

 

(ら゜∀゜)<ゆーて俺らの側もレジェンドいるけどな。

 

(こ・ω・)<ベンゼンさんとナックスさんだろ?

 

(ら゜∀゜)<えぐれさん煽れる余裕無いんだよねー。

 

「さて時間も勿体ないので早速第1試合に行きましょう。1P側に座るはQMJ、2P側がミソノ。」

 

(眉゜Д゜)<どう思う?

 

(ノサ・ω・)<8:2でQMさん。隣のラーメン屋のニンニクマシマシヤサイマシモヤシマシマシアブラカラミマシ味噌ラーメンを賭けても良いです。

 

(眉゜Д゜)<成立するわけねぇだろ。ベニとミソノにゃワリィけど勝つのはQMだろ。

 

(ノーサ・ω・)<ですよねー。

 

 

ジョインジョインジャギィ ジョインジョインジョインジャギィ デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

ニゲニゲラレンゾォ ヒャッハー シネェ

 

(ノサ・ω・)<お互いバクステからの牽制合戦ですか。

 

(眉゜Д゜)<マジでQMの対空ショットガンうぜぇ。

 

(ノサ・ω・)<飛びたい時に限ってあれが飛んできますもんね。QMさんはホントに立ち回りの上手なお方。

 

「さぁ、お互い睨み合いが続く。っとここで均衡を破ったのはミソノジャギ、小足が刺さってコンボに移行。壁際に追い詰め、おっと落とした。起き攻めをQMしのいでガーキャン。ターン変わって今度はQMJジャギが攻める。まるでジャギのコンボとはこうやるんだと言わんばかりの見事なコンボ!!」

 

ホクトホクトセンジュサツ

 

「さぁ空中コンボ、1回補正切って起き攻め。起き攻めはミソノがしぶとくガード。そしてガーキャンがぁああっとぉ!?」

 

メガオトウトニニテイル

 

「ガーキャン狩り弟‼ からのハイ、ハイ、ハイッ!! しっかりコンボを決めつつ星を取って行く。1ラウンド目を取るのはQMJジャギ。」

 

バトートゥー デッサイダデステニー

 

「さあ2ラウンド目が始まった、魔法戦士のMPは既に十分過ぎるほど溜まっている。何か刺さればそのまま大魔法発動は目に見えている。」

 

ペシ ヒャッハー バカメ ペシホクトセンジュサツ コイツハドウダァホクトセンジュサツ コノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ ヘェッヘヘ ドウダクヤシイカ ハハハハハ

FATAL K.O マダマダヒヨッコダァ ウィーンジャギィ パーフェクト

 

「バニで星取って、グレイブ、からの千手殺。一撃に繋いでぇミスらない!! 勝ったのはQMJジャギ、全一ジャギ使いは伊達ではなかった‼」

 

 

(ノサ・ω・)<さすが魔法戦士…。

 

 

「さぁ、続いては眉毛サウザー対えぐれサウザー。えぐれさん大丈夫? ちゃんとカルシウム摂ってる?」

 

(*´ω`*)<さっきネイチャーメイドと煮干し食べてたから大丈夫。

 

「徹底してる~。さぁ場所決めが終わって1P側がえぐれサウザー、2P側が眉毛サウザー。」

 

ジョインジョインジョインジョインジョインジョインジョインサウザァ ジョインジョインジョインジョインジョインジョインサウザァ フハハハハハハハハ アソビハココマデダホロビルガイイ デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー ヒカヌッコビヌッカエリミヌッナントバクセイハッココマデダッ

 

「開幕退かぬから仕掛けるのは眉毛サウザー。きっちり刺さって起き攻めにバクセイとショウハを重ねていく。そして、ガードの上から殴って、グレイブ!! 空中コンボから槍、星取ってぇ殴ってぇ勝ったのは眉毛サウザー。ねぇ何でサウザーすぐ死んでしまうん?」

 

バトートゥーデッサイダデステニー ナントバクセイハッ ナントバクセイハッ ココマデダッ ナントバクセイハッ フハハハハ ココマデダッ

 

「東方爆星波が始まったぁ。しかしそこで攻めるのはえぐれサウザー。現在星3つは対サウザーでは即死圏内だが、さあ攻めていく。壁際に追い詰めて、グレイブ、星取ってコンボ。眉毛サウザーの体力残り3割弱と言ったところ。ガーキャンで切り返して、起き攻め。ハイ、刺さってコンボを繋ぐぅ」

 

ウケテミルガイイナントホウオウケンオウギテンショウジュウジホウ FATAL K.O オシモウスグアナタノセイテイジュウジリョウハカンセイスル ウィーン サウザァ

 

「一撃が決まるぅ、勝ったのは眉毛サウザー。」

 

(DP・д・)<星3つで2ラウンド目に入った段階でえぐれさんの負けは決まってたからね、しゃあない。NDK?NDK?

 

(*´ω`*)<悔しい!ビクンビクンッ!!

 

 

「第3試合、ノーサシン対メビューシャシン、さぁTRF‐Rのクイーンがお出ましだぁあ‼」

 

(モヒ・∀・)<ヒャァッハッー

 

(モヒ・д・)<ノーサさーん、今日もカワイイヨー!!

 

「ハイ、TAKUMAさんに変わって実況を勤めるチクリンです。さぁ1P側のノーサシン、いわゆるふつくしいシンです、ヤンチャだけど。今までこのヤンチャなシンの世紀末陸上に振り回された修羅は数知れません。対するはメビューシャシン、最近花開いた新規修羅です。ノーサ登場にモヒカン勢が盛り上がっている。」

 

ジョインジョインジョインジョインシィン ジョインジョインジョインシィン デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー シネェッベシベシベシズピシナントゴクトケンッ

 

「開幕グレイブゥ、からのジャンAジャンAジャンAジャンC、獄屠拳。最初に仕掛けたのはノーサシン。」

 

ペシッベシベシベシペシベシデエェヤアァッッペシベシペシベシナントハクハザンッ

 

「ガード崩してぇ、バニィ。から壁コン入って、ハイ、ハイ、ハイ、締めに迫破斬。起き攻めを空中から仕掛けるがメビューシャシンのガードが固い!さすがのガード力。伊達に修羅達にボコられてはいない。」

 

ジゴクヘツキオトシテヤルッペシッベシッツピシッナントゴクトケンッ

 

「南斗虐指葬。投げて壁コン、はいっはいっはいっ南斗獄屠拳。」

 

デエェヤアァッツピシッベシッツピシッユリアァァアアアッ

 

「バニコン決めて1ラウンド目はノーサシン。コレが全一シン使いの実力だぁ。ふつくしい…。」

 

バトートゥー デッサイダデステニー

 

「ノーサシンのゲージは溜まっているぞ、コレはノーサスペシャルが飛び出すのか?」

 

(ら゜∀゜)<ノーゲージバスケできる奴に二本も与えちゃダメだって。

 

(こ・ω・)<折れちゃう折れちゃう。メビューシャ折れちゃう。

 

「2C刺さってぇバニィ追っかけてもう1回バニィ、ブー立A、近D、ヒットストップキャンセル236DからのジャンBジャンC、ハイハイハイッ殴ってブースト殴ってブーストォ。必死にブーストを回収していく。」

 

(眉゜Д゜)<あーやって必死にゲージ回収するノーサって可愛いよな。

 

(こ・ω・)<憲兵さん、こっちです‼

 

ペシッベシッツベシッペシッペシッペシッナントゴクトケンッ

 

「80ヒット、からの獄屠拳で浮いたぁ!さあ後は好きにしますよとばかりにバスケを始めるノーサ。メビューシャが台から手を離したぁ。」

 

ユリアァァアアアッ

 

「パーフェクトで勝ったのはノーサシン。その圧倒的な実力を見せつけた‼ 見たかモヒカン、コレが全一修羅だっ!!」

 

 

 

~~~~中略

 

 

 

「ヒャァッハッー、優勝だぁっ!!」

 

決勝戦でパラジクロロベンゼンハート様を下したノーサが叫ぶ。

最終ラウンドにまでおよぶ激闘であった。

熱い勝負を見せた二人に称賛の拍手が送られる。

 

(眉゜Д゜)<はしゃいでないでとっとと賞品受けとれ‼

 

(*´ω`*)<ネイチャーメイドだけどな。

 

「ハイ、それでは優勝したノーサにはネイチャーメイド詰め合わせが贈られます。ハイ、拍手。」

 

(モヒ・∀・)<大人気ないぞノーサ!

 

(モヒ・д・)<最年少だけどなっ!!

 

 

 

...今日もTRF‐Rは平和です。

 

 

 

 

 

 

 





ノーゲージバスケの時に必死でゲージを回収する女の子、その名もノーサ。

そしてTRF‐Rの帰りか試合前に隣のラーメン屋で大盛りのラーメンを啜るノーサ。
注文メニューはニンニクマシマシヤサイマシモヤシマシアブラマシカラミマシ味噌ラーメン(日によってはニンニクの量を減らすか抜いている)。



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第5話 南美の悩み


今回はかなり短いです。

では、本編をどうぞ↓


TRF‐Rから少し離れたジム

 

「フゥッ、シェァ、シャオッ!!」

 

南美は四方をロープで囲まれたリングの上で甲高い声を発しながら目の前のサンドバッグを蹴っていた。

 

南美は総合格闘技では同年代最強である。それは全国大会2年連続優勝が何よりの証明だ。

彼女の優勝を支えた一つの武器が恵まれた体格である。中学生にして既に身長175㎝ そのリーチを生かした一撃こそが彼女の最大の武器。

 

「フウゥゥッ、シャオッ!!」

 

スパァン

 

乾いた音が響く。

いわゆるハイキックだが、ただのハイキックではない。体の柔軟性を活かし、上体を軸足につくまで曲げ、その勢いと体重を乗せた一撃である。

 

南美のファイトスタイルは南斗白鷺拳と南斗孤鷲拳を見よう見まねで彼女なりに組み合わせてアレンジしたスタイルであるが、その洗練された動きは見る者の目を惹き付けるには十分過ぎるほどだ。

その技のキレ、戦術眼、そして北斗で培った動体視力と反応速度は上の年代と比べても遜色ないレベルに仕上がっている。

 

鍛え抜かれた腕から放たれる手刀突き、鍛え抜かれた足から放たれる蹴りはどれも一撃必殺の威力と評され、その美しさと力強さを兼ね備えた彼女は時として一振りの日本刀に例えられる。

 

 

 

そんな彼女の最近の悩みは、スパーリングの相手がいないことだ。

強すぎる彼女とのスパーリングは一歩間違えれば大怪我をしかねないもので、同じジムのメンバーはやりたがらないのだ。

そんなことは彼女が一番分かっている。同年代の中で頭一つ飛び抜けた実力、敬遠されることくらいある。だが、露骨に避けられて平気でいられるほど図太くない。

彼女とて、まだまだ中学生の女の子なのだ。

 

「シャオッ!!」

 

故に心の平穏を保つためにこうして無心に黙々とサンドバッグを叩くのである。

その犠牲になったサンドバッグは数知れず、継ぎ接ぎだらけの姿でジムに吊るされている。

 

いつもサンドバッグを無心にボコボコにしている彼女だが、今日は一段とタコ殴りにしているように見える。新人のジム生が軽く怯えてしまうくらいには。

 

それには一つ理由があった。

妹に嫌われたという訳ではない。

実は今、南美には気になる人物がいる。その人物と南美が出会った──と言っても南美が一方的に見ただけなのだが──のは総合格闘技全国中学生大会の時である。

大会中、偶然にその人物の試合を見かけた時、南美は淀みなく流れるような動きに目を奪われていた。

まさしく“柔の拳” 力強さによる美しさを持つ南美の“剛の拳”とは対極にある技の美しさ。

 

南美はその人物と戦う事を心待ちにしていたのだが、戦うことはなかった。準決勝、組み合わせ通りならば勝ち上がった南美とその人物とで行われるはずだったが、彼女は現れない。

不戦勝による勝ち上がり。理由は分からないが、その人物は棄権していたのだった。

 

南美は彼女の事を詳しくは知らない。分かるのは日本人離れした水色の髪を持っていること、1学年上であること、そして更識という名前だけである。

そう1学年上、つまり彼女を見ることはもう出来ないということだ。

その事に南美はモヤモヤした何かを感じていた。

 

「ショオッ!!」

 

モヤモヤした、自分でもよく分からない感情に腹を立て、苛立ち紛れに蹴りを放つ。横に薙いだ蹴りはサンドバッグの真ん中を捉えた。その一撃にサンドバッグは限界を迎えたのか、布地が裂け、砂を吐き出し始める。

 

「あぁ、もうっ…。」

 

こぼれ落ちる砂を見て苛立ちを更に募らせる。

砂の流れが止まると南美は箒と塵取りを使って山になった砂を集めた。

 

 

side 南美

 

─テーレッテー テテテーテテテ テレテレッテー

 

砂を片付け終わるとタイミングを見計らったかのようにスマホから着信音がなる。

ディスプレイには鷲頭清雅と表示されている。

 

「もしもし、どうしました?」

 

「ちょっと南美君に話したいことがあってね。もしかして取り込み中だったかな?」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

むしろありがたい。今は少しでも別の事を考えたいんだ。鷲頭さんからの話ってことはたぶんISについてだろう。

 

「実はね、ラスト専用の立体機動戦特化型パッケージ装備の開発をしようと思ってね。」

 

「立体機動戦…ですか?」

 

なぜそんなものを? 空中戦も今のままで十分こなせるけれど、いや、もしかしたら必要になるかもだし。

まぁ私が口を挟むことではないよね。

 

「ラストが万能機だからあまり気にならないとは思うけど、一応近・中距離戦にも対応できるようにしようと思ってるよ。」

 

「分かりました、楽しみにしていますね。」

 

「あぁ、その時はよろしくね。」

 

そう言って鷲頭さんは電話を切った。

うん、違う事を話したお陰で少しは気分が楽になった。

それにしてもパッケージ装備かぁ…、どんなものになるのかな?

 

 






素手でサンドバッグを破いちゃう南美ちゃんでした。




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第6話 ヒャッハー年末大会だぁ


いつの間にかお気に入り登録が増えていました。
ありがとうございます。

※注意※
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件等とは一切関係はなく、また中野TRF及びそこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

いつもの前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


時は流れて冬も盛りとなり、寒さの厳しい12月28日、TRF‐Rはそんな寒さに負けることなく熱気を放っている。

 

「さぁ今年もこの日がやって参りました。TRF‐R年内最後の大会、TRF‐R北斗の拳 年忘れスペシャルだぁ‼ 盛り上がってるかぁ?!」

 

(モヒ・∀・)<ヒャッハー、忘年会だぁ‼

 

(モヒ・д・)<この大会見ねぇと年が越せねぇぜ!!

 

「さぁそれでは大会を始めるにあたり、選手宣誓を行います。それでは選手宣誓をモヒカンリーダー鋼さんにお願いします。」

 

進行役のTAKUMAに言われ、鋼がマイクの前に立つ。

 

(♂・鋼・)<選手宣誓ぇ、我々ぇモヒカン一同は、ゲーマー魂とスポーツマンシップを奪い取りぃ!!ジャギにニィッヒヒニィッヒヒニィッヒヒニィッヒヒニィッヒヒニィッヒヒされてもぉ! トォキにぃ、有情破顔拳!ンギモヂィィイイッ!! されてもぉ!空気を入れられて、人間バスケットボールだぁ‼されても、最後までぇ、最後までぇ、戦い抜く事を誓いまぁす‼ 20XX年、12月28日、モヒカンリーダー鋼ッ!! ンンン、ヒャッハー!! 年末だぁ‼

 

(モヒ・д・)<ヴォーコウサーン!!

 

(モヒ・∀・)<ヒャッハー!!

 

 

 

 

side 南美

 

相変わらず鋼さんはやること派手だなぁ。闘劇でも同じことやってたし、北斗を始めて知性を棄てたっていう話にちょっぴり信憑性が出てきたような…。

 

えぇと、第1試合がメビューシャさんとえぐれさんか…。

 

「ぁ、あの…。」

 

む、誰だ?今の私は試合前でちょっと昂ってるんだけど。

あぁ誰かと思えばほんわ君さんだ。相変わらずショタ感全開ですわ~。

 

「どもどもほんわ君さん、お疲れさまです~。」

 

「ど、どうもノーサさん…。今日は店内大会に出るんですよね? が、頑張って下さい、応援してますから。」

 

「もちろんです、出るからには優勝目指しますよ‼ 応援ありがとうございます。ほんわ君さんの為にも絶対に優勝しますね!」

 

ほんわ君さんの両手を握ってブンブンと上下に振ってみる。

あれ?ほんわ君さんの顔が赤い…。 熱でもあるのかな?今は冬だし、あり得るかも。

 

ちょっと失礼しますね。おでこをくっつけてっと…、う~ん、熱は無いっぽい?

にしても、やっぱりこうしてるとほんわ君さんとの身長差を実感しちゃうな…。

 

「あ、あの…、ノーサさん?」

 

「あ、すいません。顔が赤かったので熱でもあるんじゃないかって心配になって。」

 

「いや、そのボクは大丈夫なので…。」

 

そう言って私から顔を背けるほんわ君さん。

やっぱり失礼だったかな? そうだよね、私の方が年下だもんね。

後でお詫びの品を何か持っていこう。うん、そうしよう。

 

 

 

(眉゜Д゜)<リア充爆発しろしっ!!

 

ありゃ? 眉毛さんが何か怨み言を叫んでるような…。

まぁ良いや、今は大会に集中しよう。

 

ユリアァァアアアッ

 

お? えぐれさん勝ったっぽい。まぁ、半年間あんだけ修羅にボコられればそりゃ強くなるよね。

 

さて次はTAKUMAさんユダとKaiさんレイか。これはKaiさんだな~。TAKUMAさん乙です。

 

ナニガオマエヲコレホドマデニ

 

(Ki・д・)<TAKUMA=サン対策は完了していマス。

 

ですよね~。でも惜しかったなぁTAKUMAさん。あともう少しだったのに。

さて次は、┌┤´д`├┐とこあらさんレイかぁ。うっわ、マジでどっち勝つかわかんないぞ?

 

┌┤´д`├┐<見せてやりますよ、格の違いをね。

 

いや、寝起きの顔で言われても…。

 

アイリイイィィィッ

 

うっそ、え? 強くね?寝起きの┌┤´д`├┐強くね?

 

┌┤´д`├┐<オレ寝るから次きたら起こして。

 

いやいやいや、寝るなよ。勝ってすぐは寝るなよ、負けたこあらさんが浮かばれないわ。

さすがは┌┤´д`├┐だ。ワケわからない理由で勝つ。TRF‐Rの七不思議ね。

 

さて、次は私か…、相手はQMさんかぁ。う~ん、マジかぁ…、私苦手なんだよなぁQMさん。

あの絶妙な立ち回りとか、ホントに真似できない。

でもまぁ、頑張りますか。ほんわ君さんに応援されてますし、その期待に応えないとね。

 

 

くっそ、マジで攻めに持ってけないっ!!ホンットに腹立つ。

立ち回りが完璧すぎるっての。

1回触れれば…、1回触れさえすればそのままバスケに持ってけるのに。

 

よし来た。小足が刺せた。このまま壁際に追い詰めて星取って、よし、パターン入れた。獄屠で浮かせて、これで、バスケ安定。

 

よし、まずは1ラウンド。

ホントにQMさん相手だと魅せる余裕がまったくない。

星は取れたし、良い感じかな?

星が4つかぁ、バニ絡めてからのコンボで取って…、やれるかな? いや、やるしかないんだ。

 

バトートゥー デッサイダデステニー

 

マジで勝ちたい、いや、勝つ。

最終ラウンドまで長引かせたら確実に大魔法の餌食だ。それだけは絶対に避けないと…。

 

立ち回りは向こうが上、こっちは1ラウンド目と同じように慎重に動いてワンチャンものにするだけ。

 

あ、ヤバい、バニ刺された!! まずいまずいまずい、これはまずいっ! 落とせ、頼む、落としてっ!!

 

ユリアァァアアアッ

 

くそ…、マジで落とさねぇ。

バニコンからバスケ完走かぁ。星はまだ余裕あるけど、QMさんのMPが溜まってる…。

ヤバい、これはなんか刺さったら、間違いなく死ぬ…!

 

ファイナルバトー デッサイダデステニー

 

お互いゲージは世紀末、先に触った方が勝つ。

 

 

「最初に攻めるのはノーサシン、QMJジャギの対空を潜り抜けて果敢に攻める。だがQMJジャギのガードが固い。そしてガーキャンがぁ、千首龍撃で潰せるんです‼ ガーキャン見てから千首龍撃ぃ!! ふつくしい、良いもん見れました。全国のシン使いは是非参考にしてください。さぁ、千首龍撃から、攻めに繋いで、2Cからヒットストップキャンセル迫破斬、ブーバニ、ブー2C、グレ仕込み千手、からの千手キャンセル南斗翔鷲屠脚ぅ!! 全一修羅対決を制したのはノーサシン! TRF‐Rのクイーンとしての意地を見せたぁあああっ!!」

 

か、勝てたぁ…、もぉホントにしんどい。二度とQMさんとはやりたくない。あ、ヤバい、フラグ立ったっぽい。

 

「さぁ、熱い激闘でした。次は眉毛サウザー対ベニケンケンシロウ。」

 

(眉゜Д゜)<ベニケン、ミソノはオレがもらうぞ。

 

(ベニ・∀・)<なっ!? どういうつもりだ、眉毛。

 

(ミ・ω・)<やめて、ボクの為に争わないで~(棒)

 

出たな、南斗茶番劇…。

世紀末なTRF‐Rでの数少ない癒しだよ。ほんわ君さんには劣るけどね。

 

オシモウスグアナタノセイテイジュウジリョウハカンセイスル

 

ありゃ、ベニケンさん負けちゃったかぁ。ミソノくんとの茶番があったから力み過ぎたんですかね?

 

次は…鋼さんとDEEPさんか。

 

ユリアァァアアアッ

 

(♂・鋼・)<よっしゃあぁぁああっ!! ンギモヂィィイイッ!!

 

勝っちゃったよ鋼さん…。

さすがモヒカンリーダー、伊達じゃなかった。てか、そんな騒いでるとまたTAKUMAさんが怒るんじゃ…。

あ、そんなことないみたいだ。今日のTAKUMAさんはちょっと緩いな。良いのかな?

まぁ今日は祭みたいなものだし、楽しまなきゃ損だ。

 

 

side out...

 

 

こうして今年最後のTRF‐R店内大会が幕を開けた。

その結果は優勝賞品の甘味詰め合わせセット欲しさに覚醒したKaiが無双して優勝したのである。

 

(Ki・д・)<生キャラメルウマイ

 

「う~、負けちゃいましたぁ~。」

 

「惜しかったじゃないですか、次は勝てますよ。」

 

大会終了後、南美は店員のほんわ君のところに来ていた。といっても同じ敷地内なのだが。

 

「優勝したかったんです‼ それに約束したじゃないですか、絶対に優勝しますって。」

 

「その気持ちだけで十分ですよ。」

 

顔を赤くしながらほんわ君は後ろから抱きついてくる南美を宥める。

傍から見ると弟に甘える姉と甘えられて困惑する弟にしか見えないが、抱きつかれているほんわ君の方が実際は年上である。

 

「約束は果たしたいんですよ~。」

 

頬を膨らませて不満をこぼす南美に、何かを思い付いたのかほんわ君は振り替えって南美の顔を見る。

 

「じゃ、じゃあ、こ、今度の休みにか、かか買い物に付き合ってくれませんか? それでチャラってことで…。」

 

ほんわ君の提案に南美はう~んと少し考えて口を開く。

 

「ほんわ君さんがそれで良いなら私は構いませんよ。」

 

「じゃあ、その、お互いの都合が良い日に。」

 

「はい、分かりました。」

 

二人は向かい合って、微笑み合いながら指切りをした。

 

 

 

(眉゜Д゜)<マジでリア充爆発しろしっ!!

 

(DP・Д・)<QMJも死ね!

 

(*´ω`*)<激しく同意!!

 








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番外編 修羅達による世紀末キャバクラ実況part2


ちょっと短いです。

※注意※
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件等とは一切関係はなく、また中野TRFやそこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

いつもの前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


(*´ω`*)<はい、皆さまえぐれシジミです。

 

(こ・ω・)<こあらです。

 

(チ゜Д゜)<チクリンです。

 

(*´ω`*)<はい、また収録の時間がやって参りました。という事で世紀末キャバクラ実況part6のお時間です。

 

(こ・ω・)<イエイ!

 

(チ゜Д゜)<この時間が来てしまった。

 

(こ・ω・)<あれあれ? チクリンさんちょっとテンション低くないですか?

 

(チ゜Д゜)<いや、お前ら今何日だと思ってんだ? 29日だぞ⁉ ついこの前ってか昨日に年忘れスペシャルっつってあんだけ大会後も騒いだのになんでここで酔わなきゃなんねぇのよ。

 

(*´ω`*)<世紀末ゆえ致し方なし。慣れねば。

 

(チ゜Д゜)<慣れねぇなぁ⁉全然慣れないねぇ‼

 

(こ・ω・)<もう昨日の大会なんてレジェンドと全一が1、2回戦でほとんど潰し合ってましたからね。良い試合が多かった。

 

(*´ω`*)<皆さま是非動画をご覧になってください。

 

(こ・ω・)<はい、オープニングトークも終わったところで今日のゲストを紹介します。全サウザー使いのお師さん、眉毛さんです。

 

(眉゜Д゜)<はいどうも眉毛です。まさかオレが呼ばれるとは…。

 

(こ・ω・)<こっちも来てくれると思ってなかった。

 

(眉゜Д゜)<いやお前らマジでオレこの企画で被害喰らってっからね? part4の途中でお前らが変なこと言うからオレにロリコン疑惑が掛かってんの! ニヤニヤ大百科にも書かれてるからな‼ 大会の動画でオレ出る度に羽ばたきロリコンキタコレとかコメントあんだよ。ホントお前らふざけんなよ。

 

(*´ω`*)<世紀末ゆえ…。

 

(眉゜Д゜)<納得しねぇからな‼ くっそ、お前らマジでもう…死ね! ホントに死ね! …お前らが死んでも代わりは居ないけどな‼

 

(チ゜Д゜)<ツンデレですねぇ‼

 

(こ・ω・)<ツンデレいただきました。

 

(*´ω`*)<これはいいツンデレ、流行る。

 

 

 

(チ゜Д゜)<さて、ツンデレが見れたところで女の子誰にする?

 

(こ・ω・)<眉毛さんがいるんだしナオでしょ。

 

(眉゜Д゜)<ホントにお前らブレねぇなぁ!! ホントにオレそういうんじゃねぇから!

 

(チ゜Д゜)<またまたぁ~。

 

(眉゜Д゜)<おう、上等じゃねぇか。

 

(こ・ω・)<ちょ、やめて。ここ俺ん家だから。

 

(*´ω`*)<じゃ、そろそろ始めまーす。ナオでいいんだよね。

 

(チ゜Д゜)<よっしゃ行こう。

 

(眉゜Д゜)<お前らマジ次の大会覚えとけよ。ボッコボコにしてやるから。

 

(こ・ω・)<全一修羅が言うとマジで冗談に聞こえないから困る。

 

(チ゜Д゜)<えぐれの肋骨で何とぞ。

 

(*´ω`*)<何でオレだけなのよ。

 

 

 

(こ・ω・)<昨日の大会なんだけどホントにヤバかったよね。

 

(*´ω`*)<あぁ、あれね。今年で一番熱い試合が多かったんじゃないですか?

 

(眉゜Д゜)<間違いないね。

 

(チ゜Д゜)<ノーサシンとQMJジャギとかは凄かった。

 

(こ・ω・)<最終ラウンドの一撃コンでしょ? ノーサスペシャルpart1、思わず う、美しい…ハッ⁉ ってなっちゃった。

 

(*´ω`*)<アレはヤバい。流行る。

 

(眉゜Д゜)<ノーサとQMJに共通してヤバいのはあのゲージ回収力だよ。シンは他のキャラよりゲージに依存しちゃうから、ノーサのアレはシンを使う上で一番の武器になる。

 

(こ・ω・)<その域に行くまでにどんだけやり込んだかって話だけどね。

 

(チ゜Д゜)<てか、ノーサで思い出したんだけどさ、これね、たぶん言ったらまたアイツの伝説増えるんだけど。

 

(こ・ω・)<何があったのよ。

 

(チ゜Д゜)<アイツのナンパ男の撃退方法がヤバい。

 

(*´ω`*)<それ撃退(物理)じゃないよな?

 

(チ゜Д゜)<ちょっと違うのさ。この前、TRF‐Rの近くでノーサがが時間潰してた時なんだけど、見るからにチャラそうな男がノーサに話しかけたのさ。

 

(こ・ω・)<まぁノーサは確かに背高いから目立つし可愛い顔してるもんね。

 

(チ゜Д゜)<ノーサもノーサでナンパされんのに慣れてんのか、もう手慣れた感じであしらってたんだよ。

 

(*´ω`*)<それで?

 

(チ゜Д゜)<ナンパ男ももしつこく食い下がってさ。そしたらノーサのヤツ鞄から木の板を取り出してさ。厚さ1センチくらいのやつ。それを割らずに指を突き刺してさ、貫通してんだよ、指が!木の板を! で、空いた穴をナンパ男に見せつけて、笑顔で“帰れ ”って言って。男の方がマジでドン引きした顔で逃げていったからね。

 

(こ・ω・)<アイツはいつの間にか南斗聖拳を?

 

(眉゜Д゜)<北斗じゃねぇだけましだろ。それに石像を貫かないだけまだ人間だ。

 

(*´ω`*)<ナンパ男を撃退するのに何でそんな木の板を指で貫くとか面倒な事を。

 

(こ・ω・)<そこは何で木の板を持ち歩いてるのか突っ込むところじゃない?

 

(眉゜Д゜)<ノーサなら何を持ち歩いてても不思議じゃないと思える自分がいる。

 

(チ゜Д゜)<大分これ感覚麻痺ってるね。ノーサならあり得るの範囲がでかすぎる。

 

(*´ω`*)<ノーゲージシンバスケを平然とこなし始めた辺りからノーサが何やっても驚かなくなってきた。

 

(こ・ω・)<ホントそれな。

 

(眉゜Д゜)<つーか誰か実況しろよ。誰もゲーム見てねぇじゃん。

 

(こ・ω・)<まーた収録中にノーサの話をしてしまった。

 

(*´ω`*)<大丈夫大丈夫。

 

(眉゜Д゜)<区切りいいとこで1回締めようぜ。

 

(こ・ω・)<そうしましょうか。じゃあサクッと進めて終わらせましょう。

 

 

 

 

今日の収録により、ノーサの抱える伝説がまた増え、ニヤニヤ大百科に書き加えられたという。

 

 

 





ノーサなら何をやってもおかしくない。
これはTRF‐R勢の常識です。

TRF‐Rでは社会の常識にとらわれてはいけないのです。





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第7話 ヒャッハー恋バナだぁ


今回はいつもよりちょっと長めです。

※注意※
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件等と一切関係はなく、また中野TRFやそこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

いつもの前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


「あ、ほんわ君さ~ん、こっちです!」

 

冬の寒さも緩んできた2月の中頃、南美はTRF‐Rの店員、ほんわ君と待ち合わせをしていた。

と言っても場所はいつものレゾナンスである。

 

今日の南美の服装はいつもと違うショートパンツスタイルであった。なぜ彼女がそんな格好をしているかと言うと、同級生にほんわ君と買い物に行くことが伝わり、デートだと勘違いした(傍から聞けばただのデートだが)同級生達から気遣いを回され、コーディネートされたのである。

 

 

南美、いやノーサを始めとする修羅やモヒカン達の入り浸るTRF‐R(忘れているかもしれないが、TRF‐Rの正式名称は“東京ランキングファイターズレゾナンス店”である)のある駅前大型ショッピングモール“レゾナンス”には様々な店が存在するため、買い物にはうってつけの場所だ。

 

「ノーサさん、お待たせしてすいません。」

 

「大丈夫ですよ、私もついさっき来たところですから。」

 

「そ、そうですか。よかった…。」

 

そんなデートの待ち合わせのようなやり取りをする二人を遠巻きに見る複数の人影がいた。

 

 

 

(こ・ω・)<初々しいねぇ。

 

(モヒ・∀・)<青春ですわ~。

 

(眉゜Д゜)<おい、オレがノーサの事を言うと憲兵呼ぶくせに何でほんわ君はセーフなんだよ。

 

 

その正体はTRF‐Rの誇る世話焼き部隊、通称“ノーサちゃんの青春を見守り隊”である。

この隊はTRF‐Rに通う北斗勢のモヒカンや修羅だけでなく、ノーサがメインに据えてプレイするギルティギア勢やBASARA勢も構成員に含まれている。いや、むしろそれら三勢力に留まらず、TRF‐Rの常連ほぼ全員が構成員と言った方がいいくらい大規模組織だ。

 

彼らは今までノーサに気づかれないようにそれとなく彼女の青春を見守り続けてきた。イエス、ノーサ!ノー、タッチ!の精神である。

 

彼らはノーサと年齢が離れているがゆえに、彼女に手を出した場合お巡りさんを呼ばれる可能性が高い者達ばかりであることが大きな理由だ。

 

そして、ある者は年下の彼女に恋慕を抱き、またある者は娘や妹をに対する家族愛にも似た感情を抱き、彼女を見守る。

 

彼女に対する感情は別々であるが、一つだけ共通する信念がある。それは“ノーサが幸せになること”である。

 

彼女を泣かせることは彼ら全員を敵に回すことと同義である。

 

そして彼らは彼女が幸せになれるならば潔く身を退き、気づかれないようにバックアップする所存である。

 

 

 

「え~と、今日は何を買いに行くんですか?」

 

「店長が今使ってる撮影機材がそろそろ替え時だから、それを買いにね。」

 

「じゃあ4階ですね、さっそく行きましょう!」

 

 

 

(モヒ゜Д゜)<こちらB班、どうやら二人は4階の撮影機材売り場に向かう模様です。

 

(モヒ・ω・)<こちらA班、B班はそのまま尾行、気づかれるなよ。C班は4階に先回りしろ。

 

(モヒ・∀・)<こちらC班、了解した。

 

(*´ω`*)<コイツらガチだ。馬鹿しかいねぇ。

 

(眉゜Д゜)<北斗勢には馬鹿しか居ないがアホはいねぇから大丈夫だろぅよ。

 

(こ・ω・)<名言いただきました。

 

 

 

「運よく安く買えました。」

 

「今日が安売りの日でよかったですね。」

 

「はい。それで、ノーサさんは買う物とかの予定は決めてますか?」

 

「いえ、まだ決めてません。ですから適当にぶらついて見て行こうかなって。」

 

4階の撮影機材売り場にて、ほんわ君の目的を果たした二人は今後の予定について話していた。

 

 

 

(モヒ・ω・)<ノーサちゃん可愛いよ~。

 

(モヒ゜∀゜)<羨ましいぞ、ほんわ君っ!!

 

(モヒ・Д・)<目標が行動を開始、恐らく服を買いに行くと思われます。

 

(モヒ・∀・)<尾行開始します。

 

 

 

 

「ん~?」

 

「どうしました、ノーサさん。」

 

キョロキョロと不思議そうに周囲を見回すノーサを見てほんわ君が彼女を見上げながら尋ねる。

 

「いや、その…、さっきから誰かに見られてる気がして…。」

 

「ノーサさんが可愛いからみんな見てるだけですよ、きっと。」

 

「か、可愛い…ですかね?」

 

ほんわ君の放った何気ない一言にノーサの顔が瞬く間に紅潮する。

 

「はい、とっても。北斗をしてる時の凛としたノーサさんも素敵だと思いますが、やっぱり普通にしてるノーサさんも可愛いと思います。」

 

面と向かって言ったあと、自分の言ったことをようやく理解したほんわ君が隣にいるノーサと同じくらい顔を真っ赤に染め上げた。

 

「あ、ああ、そ、その今のは、ですね…。」

 

「え~と、その、悪い気はしませんでした。だから誤魔化さなくて大丈夫です…。」

 

「そ、そうですか。はは。」

 

お互い赤くなった顔を見られないように真っ直ぐ前を向く。

 

「あ、ここです。」

 

ノーサがある店の前で足を止める。そこは女性向けの洋服店だった。

 

「すこし春物の服が見たいので、付き合ってもらってもいいですか?」

「は、はい、構いませんよ。」

 

 

 

 

(モヒ・∀・)<あのノーサちゃんが、洋服を買う…だと⁉ それも季節を先取りして…。

 

(モヒ・Д・)<何てことだ。そんなこと、この海のリハクをもってしても見抜けなんだ…。

 

(モヒ・ω・)<しかもそれを間近で見れるとは、羨ましすぎるぞ、ほんわ君っ!!

 

(モヒ゜Д゜)<だ、誰かカメラの準備を! ノーサちゃんの貴重な姿が見れるぞ!!

 

 

 

 

「えと、どうでしょうか?」

 

試着室のカーテンを開けて姿を現したのは、普段のジャージやジーパンにTシャツという残念美少女なノーサではなく、どこか深窓の令嬢を思わせるような上品さを漂わせるしっかりと女の子らしい姿を魅せるノーサであった。

 

 

 

(モヒ・ω・)<か、可愛い…ハッ⁉

 

(モヒ・Д・)<女神がいる…。

 

 

 

「と、とても似合ってますよ。」

 

「そう、ですか、ありがとうございます。」

 

「いつもと違うノーサさんって感じで凄く可愛いと思いますよ。」

 

 

 

 

 

(モヒ゜Д゜)<「いつもと違うノーサさんって感じで凄く可愛いと思いますよ。」「そ、そんなこと言われ慣れてないからなんだか照れちゃいますよ…。」という感じの会話をしています。

 

(眉゜Д゜)<読唇術でそこまで分かるのな。モヒカンのスペック嘗めてたわ。てか、うちのモヒカン連中のスペックがおかしいぞ。

 

(こ・ω・)<いやー、青春してますね~。

 

(*´ω`*)<オレのコーヒーに砂糖をぶちこんだヤツ誰だよ。

 

(眉゜Д゜)<このテーブルに砂糖はない。

 

(*´ω`*)<なんっ…だと!?

 

 

 

「じゃあお会計しましょう。その服をください。」

 

「いや、そんな悪いですよ。私の買い物なんですし、自分で払いますよ。」

 

「いいんですよ、買い物に付き合ってもらったお礼です。」

 

ノーサの手からから先程来ていた服一式をいれたかごを取り、ほんわ君はレジに向かう。

だが、そんなことを簡単に許すノーサではなく、ほんわ君の肩を掴み、その挙動を抑える。

 

「元々今日は私が約束を果たせなかった埋め合わせじゃないですか。そこでほんわ君さんに甘えるのはなんかダメな気がします!」

 

「じゃ、じゃあ半分出します。それ以上は譲れません。」

 

「う、う~、分かりました。そこまで言うなら、申し訳ないですがお願いします。」

 

引き下がらないほんわ君の態度にノーサが折れ、肩を掴む手の力を緩める。

 

 

 

「なんだかほんわ君さんに負けた気分です。」

 

レジで会計を済ませた二人はちょうど昼時ということもあり、休憩も兼ねてフードコートエリアにて腰を落ち着けていた。

 

「さっきだってさりげなく私のご飯代も払ってくれてますし…。」

 

う~と頬を膨らませるノーサにほんわ君はあははと苦笑いを浮かべる。

 

「ノーサさんはもう少し周りに頼っても良いと思うよ?TRF‐Rじゃ最年少なんだしさ。チクリンさんだってあの動画の中で頼ってほしいって言ってたじゃん。」

 

「今回の話は頼る頼らないじゃありませんよ。お金で借りを作る・作られるのって私は苦手なんです。」

 

ノーサはむぅーと頬を膨らませて横を向く。

その姿にほんわ君は思わず頬を緩めてしまった。

 

「なんですか? 人の顔見てニヤニヤして…。」

 

「不機嫌になってるノーサさんの顔も可愛いな、と思いまして…。」

 

「きゅ、急にそんな話はしないでください!…ん?」

 

ガタッと立ち上がってほんわ君に詰め寄ると何か見覚えのあるものがほんわ君の肩越しから見えた。

 

するとノーサは大きく息を吐き出し、荷物を手に取った。

 

「もういいです。次の場所に行きましょう。」

 

「? う、うん。」

 

事態が飲み込めていないながらもほんわ君は置いていかれないように席を立ってノーサを追う。

 

「ノーサさん? どうしたの?」

 

「いえ、ちょっと早足になります。置いてかれないようにしてください。」

 

そう言ってノーサはほんわ君の手を握り、歩く速度を上げ、スッと曲がり角を曲がる。

 

(モヒ・ω・)<対象が角を曲がりました。

 

(モヒ・Д・)<見失う前にすぐに追います。

 

二人のモヒカンがノーサ達の後を追い、角を曲がるとそこにいたのは腕を組んで仁王立ちするノーサとその横で困惑した表情を浮かべるほんわ君だった。

 

「あんたらはこんなところで何をしているのかなぁ?」

 

(モヒ・Д・)<そ、それはその…。

 

(モヒ・ω・)<休日のショッピングですよ、はい。

 

「へぇ、あんた達はインカムマイクや双眼鏡を装備しながら買い物するんだぁ、ふ~ん、そうなんだぁ。」

 

膝の震えているモヒカンの前でノーサは笑顔を浮かべる。

 

「見たのよね? 買い物途中の風景を…。」

 

(モヒ・ω・)<は、はい、それはもうばっちりと。見てるこっちが恥ずかしくなりました。

 

(モヒ・Д・)<お、おい、バカ!

 

「どうせ他のメンツもいるんでしょ? さっさと全員集めなさい!!」

 

(モヒ・ω・)<は、はいいぃぃいいい! 今すぐに‼

 

 

 

 

──TRF‐R店内──

 

「それで? 何か申し開きはあるのかしら?」

 

ノーサは集められたモヒカン達(プラスアルファ修羅数名)をTRF‐Rの床に正座させ、その前で仁王立ちしていた。

 

(モヒ・Д・)<そ、その、すいません。

 

(モヒ・∀・)<許してください、ほんの出来心だったんです(大嘘)

 

反省した様子(上辺だけ)のモヒカン達を見てノーサはふ~んと呟き右手を前に差し出し中指と人差し指、親指を立てる。

 

「今日の私は紳士的よ、運が良かったわね。よって、ネズミのようにここから逃げおおせるか、リアルファイトで私のサンドバッグになるか、ノーサ道場に通うか…。どれか選びなさい!」

 

(モヒ゜Д゜)<ひ、ひぃ! オレは逃げるぞ、まだ死にたくねぇんだ!!

 

「南斗獄屠拳!!」

 

(モヒ゜Д゜)<ひでぶぅっ!!

 

「おめおめと逃げ帰れると思うなよ。貴様らに朝日は拝ませねぇ!!」

 

(モヒ・ω・)<オレ、実は故郷に婚約者がいるんだ。今年の夏に結婚式をあげる予定なんだ。

 

(モヒ・∀・)<弟の病気がやっと治るみたいなんだ。だからそろそろ顔を見せにいかねぇとな。

 

(こ・ω・)<待てやモヒカンども、何で死亡フラグおったててやがるんだよぉお!イヤだぁ、やめろぉ死にたくなーい、まだ死にたくなぁい!!

 

「南斗旋脚葬っ!! 南斗千手斬っ!! 地獄に突き落としてやる!!」

 

(モヒ・ω・)<あべしっ!!

 

(モヒ・∀・)<ちにゃっ!?

 

顔を真っ赤にしながらノーサは鬼神の如き強さを発揮する。

その顔が赤い理由はショッピング風景を見られた羞恥からか、それとも見られたことに対する怒りなのかはノーサ本人にしか預かり知らぬところである。

 

 

 

 

「おーおー、また一段と派手だねぇ。」

 

「あ、カセンさん。」

 

TRF‐Rの店内で繰り広げられる惨劇を遠巻きに眺めていたほんわ君に同僚のカセンが話し掛けた。

 

「頑張ったみたいだねぇ、あんたにしてはさ。」

 

「は、はい。らしくないことばかり言ってて緊張して、凄い疲れましたよ…。」

 

「はっはっは、それだけあんたがノーサに惚れてるってことさ。自分らしくないことでも、あの子に喜んでほしくて、笑ってほしくて頑張った。それだけでも一歩前進さぁ。」

 

カセンはそう言ってほんわ君に笑いかけると、くわえていたタバコに火を着けた。

スッと白い煙が立ち上ぼり、すぐに消えていく。

 

「カセンさんには感謝します。今日のために色々とアドバイスしてもらって。」

 

「いいんだよ、礼なんざ。私の趣味半分だしねぇ。」

 

ほんわ君の真っ直ぐなお礼にカセンは照れたように目を逸らして、髪を手櫛ですく。

 

そんなやり取りをしていると、もはやゾンビのように、と言うとやや大袈裟だが、ボロボロになった眉毛とこあらがほんわ君とカセンに歩み寄ってきた。

 

(眉゜Д゜)<よぉ色男…。

 

(こ・ω・)<マジな話でホントにノーサに惚れてんの?

 

「は、はい。それはその通りです。」

 

(眉゜Д゜)<お前いくつよ?

 

「21です、今年の秋で22歳になります。」

 

(こ・ω・)<合法ショタの実年齢聞くとほぇーってなるよね。

 

(眉゜Д゜)<ほんわが今年で22で、ノーサが今年の春でなんになるか分かるか?

 

「中学三年生です。」

 

眉毛の口調に小さい体をほんわ君はさらに小さくする。

 

(こ・ω・)<眉毛さん、言い方怖いって。別にほんわ君は中学生に対してなんかそう言う劣情を催すって訳じゃないんでしょ?個人としてノーサが好きなんでしょ?

 

「はい、そうです。」

 

(こ・ω・)<ほらね? だから眉毛さんが心配することないですって。このままだとオレら完璧悪役っすよ?ジャギっすよ?ジャッカルっすよ?モヒカンっすよ?

 

(眉゜Д゜)<分かってるっての。確認したかっただけだ。ほんわのヤツがいいヤツだってことくらい分かるわ。

 

(こ・ω・)<ごめんねほんわ君。じゃ、また。ほら、行きますよ、眉毛さん。

 

(眉゜Д゜)<わぁってるよ。

 

 

 

 

「まだ生きていたのか、烈脚空舞!」

 

(こ・ω・)<うわらばっ!?

 

(眉゜Д゜)<ひぎぃい~っ!!

 

「せめて痛みを知らず安らかに眠るがいい。」

 

 

 

FATAL K.O ウィーン シン パーフェクト

 

「ほら、早くコインを入れろ。」

 

(モヒ゜Д゜)<も、もうイヤだぁ⁉

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、すっきりした。」

 

モヒカン、修羅を粛清したノーサはTRF‐Rを後にし、一人で駅前のカフェに来ていた。

 

「…、結局渡せなかったなぁ。はぁ…。」

 

ノーサは鞄の中からあるものを取りだし、溜め息をついた。

それはキレイにラッピングされた小さな箱。丁寧に巻かれたリボンには「Happy Valentine」という刺繍があしらわれている。

そして、リボンと共に「ほんわ君さんへ」と可愛いらしい文字が書かれた二つ折りの紙が添えられていた。

 

「ほんわ君さん、どうすれば私の事を好きになってくれますか…。もっと素直になれば変わるのかな?」

 

渡せなかったチョコレートの箱を見つめる彼女の顔は恋する乙女のそれであったと、遠くから見ていたカセンは語った。

 

 

 

 

 

 

本日の被害者

修羅3名(えぐれシジミ、眉毛、こあらさん)

 

モヒカン23名

 

被害内訳

 

逃亡成功者 0名

 

重傷者(精神的) 8名(えぐれシジミ:ノーサ道場にて、圧倒的舐めプされても1勝すらさせてもらえず、心の肋骨が複雑骨折。他7名も同様。)

 

軽傷者(精神的) 16名(全員が軽いトラウマを負った。精神科医曰く、すぐに克服できるものらしい。)

軽傷者(肉体的) 26名(軽い打撲や切り傷、擦り傷など。医者曰く、ツバつけとけば治るらしい。)

 

 

 

 





恋する乙女は強くて可愛い。

ノーサがほんわ君に渡そうとしていたのは手作りのチョコレートです。
どのレベルから手作りかは皆さんのご想像にお任せします。


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第8話 春になりました。


今回は短いです。

では本編をどうぞ↓


4月になり、南美も中学三年生になって最初の土曜日、彼女はいつものようにTRF‐Rに来ていた。

 

(モヒ・ω・)<ノーサちゃん、進級おめでとう~。

 

(モヒ・Д・)<おめでとうございます‼ クイーン!!

 

南美が店内に入ると、手持ち無沙汰にしていたモヒカンが揃って祝いの言葉を彼女に掛ける。

その言葉に南美は「ありがとうございます」と笑顔で返した。

 

(Ki・д・)<ドーモ、ノーサ=サン。進級おめでとうございマス。

 

(眉゜Д゜)<来たな、JCクイーン。中学最後の1年間を楽しめよ?

 

(TA・Д・)<南斗実況拳の継承も忘れるなよ?

 

(こ・ω・)<超!エキサイティン!!

 

(*´ω`*)<今度リベンジマッチを企画してるんだけど、受けてくれない?

 

「どもども、今後ともよろしくお願いします。」

 

 

 

 

(TA・Д・)<それじゃあ、土曜大会新年度スペシャルを始めまーす。

 

(モヒ・Д・)<ヒャッハー、大会だぁ‼

 

 

 

「はい、え~と実況のTAKUMAさんが1回戦で心をへし折られたので、南斗実況拳伝承者候補のノーサがお送りします。」

 

マイク越しから通る声にモヒカン連中はイエーイと声をあげる。

 

「え~それでは2回戦第1試合が、Kaiさんが野試合で無理なので飛ばして、第2試合が鋼さんが野試合なので飛ばして、第3試合は眉毛さんとこあらさんが野試合なので飛ばして、第4試合ができるので第4試合からやります。第4試合はベニケンケンシロウ対えぐれサウザーです。」

 

 

オマエノコウシンモココデイキドマリダ フッデカイクチヲキクヨウニナッタナコゾウ

 

 

「壁際に追い詰めてコンボォ、締めに天破活殺。はい、死んだぁ。ねえ何でサウザーすぐ死んでしまうん?」

 

(*´ω`*)<あ、愛ゆえに…。

 

 

 

「さぁ続きまして、Kaiレイ対ミソノジャギ。1P側がKaiレイ、2P側がミソノジャギです。」

 

 

オマエガナナツノキズノオトコカ

 

「投ーげーたー! はい、そこからコンボを繋いで画面端、今度は逆サイドに運ぶぅ! はい、ブーンブーンブーンブーンブーン、キリサケでフィニッシュからの小足連打。」

 

 

その後も順調に大会は進み、予定より早く終るという異例な事態となった。

 

 

修羅達が大会後の野試合をしている時、店長のモミー店長がノーサに話しかけた。

 

「やぁノーサちゃん、進級おめでとう。」

 

「ありがとうございます、店長。」

 

ノーサからの礼に「それでなんだけど…。」と何か言いにくそうな顔でモミー店長が話を切り出し始めた。

 

「お願いなんだけどさぁ、ほんわ君のお見舞いに行ってきてくれないかなぁ?」

 

「はい?」

 

ノーサは思わず聞き返した。

その反応に「まぁ、そうだよねぇ。」と店長はこぼす。

 

「実はさぁほんわ君が熱出して倒れてさ。これ今朝に本人から連絡があってね、心配で様子見に行きたいけど私とカセンはまだ店があるし、ほんわ君独り暮らしだから看病してくれる人もいないっぽいからさ、頼めないかな?」

 

「そ、そうなんですか…。分かりました、お引き受けします。」

 

「そう言ってくれると助かるよ。じゃあこれ、お見舞いの品と看病用品買うための代金ね。で、はい。ほんわ君の家の住所と地図ね。あ、後は交通費だね、はい。じゃあよろしくね。」

 

モミー店長は地図の書かれた紙切れと往復分の交通費、そして一万円札をノーサに渡すと、そのまま店の奥に行ってしまった。

 

 

 

─ノーサ移動中

 

 

 

「こ、ここがほんわ君さんの家…。」

 

モミー店長から渡されたお金でおでこに貼る用の冷却シートや給水用のスポーツドリンクなどを買ったノーサはボロアパートの1階、ほんわ君の部屋の前で立ち止まっていた。

 

 

 

 



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第9話 In the ほんわ君room


今回は平均的な長さです。

では本編をどうぞ↓


前回のあらすじ…

 

ノーサちゃん進級

土曜大会新年度スペシャルだぁ、ヒャッハー

予定より早く大会が終わるという奇跡

店長「ノーサちゃん、ほんわ君のお見舞いに行ってくれない?」

ノーサ「分かりました。」

ボロアパートのほんわ君の部屋前←今ここ

 

 

 

 

side ノーサ(北星南美)

 

 

頼まれたまま遂に来ちゃったけど、い、良いんだよね?

 

あぁ、もっとお洒落な服着てくればよかった…。土曜大会だからって気を抜きすぎた、私のバカ!バカバカバカ!!

 

うぅ…、髪形とか変じゃないかな? 匂いとか大丈夫かな…、汗臭くない…よね?

 

やっぱりタオルとか家に取りに行った時に着替えれば良かった…。

だらしない女の子って思われたらどうしよう…。

 

 

よ、よし大丈夫。身だしなみはある程度整えた。

インターフォンを押して…と。

 

─ピンポーン

 

…アレ、反応がない、いや物音一つしないぞ…。

も、もも、もしかしてインターフォンに気づけないくらい重症なんじゃ。ダメだ、そう思ったら嫌なビジョンが浮かんできた…。

 

「ほんわ君さん、ほんわ君さん!」

 

私は頭を過る嫌なビジョンを振り払うように頭を横に振り、ほんわ君さんの部屋のドアを叩く。

 

何度目かのノックのあと、ガチャッとカギの開く音が聞こえた。

玄関のドアを開けたのはほんわ君さん、当然と言えば当然のこと。でも私はその事に凄い安堵を覚えた。

 

side out...

 

 

 

side ほんわ君

 

体が重い、怠い…。

まさかこんな時に熱を出すとは思ってなかったなぁ。

 

心当たりはある。ここ最近眠れてなかったからだろう。

それにしても、熱用の薬も冷えピタもこういう時に限って手元にない。

 

─ピピピ ピピピ

 

体温計のアラーム…、熱は38.9度か。今朝より0.2は下がったけど、依然として高いままか。

 

…お腹減ったなぁ、そういえばもうお昼はとっくに過ぎてたか。

 

でも、今の体調じゃあ碌に料理もできないし、どうしよう…。

 

─ピンポーン

 

ん? 誰だろう、大家さんかな? でも家賃とか払うものはとっくに月の頭に払い終えてるし。

じゃあ店長かカセンさん…もないな。今はまだ店はやってるし、僕が休んだ分、二人の仕事も増えてるんだし来れるはずがない…。

 

…もしかして、ノーサさん?

 

いやいやいや、これはもっとない。今日はTRF‐Rの土曜大会があるんだし、そもそも彼女はここを知らないんだ。

来るはずがないよ。

 

─ドンドンドン

 

「ほんわ君さん、ほんわ君さん!」

 

強めのノックと同時に聞こえてきたよく通る明るい声、そして僕を“ほんわ君さん”とさん付けで呼ぶのは彼女しかいない。

 

どうして来てくれたのかは分からないけど、間違いない、彼女だ。

僕の幻聴じゃないことを信じたい。

 

重い体に喝を入れて玄関に向かう。

こうしている間にも僕を呼ぶ声が聞こえる。

もうすぐで玄関だ…。

 

─ガチャ

 

ドアノブに手を掛けて開ける。

そこには僕が心の底から慕う女の子、ノーサさんがいる。

 

「ノーサさん…。」

 

気づいた時にはそう言っていた。

 

僕の姿を見たノーサさんは凄く安心しているように見えたって言うのはちょっと自意識過剰かな?

「ほんわ君さん、大丈夫ですか?」

 

ノーサさんの表情はとても心配しているみたいに見える。

心配かけないように振る舞った方がいいよね?

 

「大丈夫ですよ、それより立ち話もなんですから入ってください。」

 

あれ、足に力が…。まずい、倒れる…。

僕は次に来るだろう衝撃を想像して目を閉じる。

 

「ほんわ君さん?!」

 

聞こえてきたノーサさんの声。体は床に当たったような固い衝撃は感じなかった。代わりに柔らかい物に支えられた。

ノーサさんの体だ。どうやら倒れる前に支えてくれたらしい。

 

「えっと、すいません、ノーサさん…。」

 

「大丈夫ですよ、私なら。それより早く横になった方がいいですね、ちょっと失礼しますよ。」

 

そう言ってノーサさんは僕を抱える。いわゆるお姫さま抱っこというヤツだ。

やられると案外恥ずかしい。

 

 

 

 

「そうですか、店長に頼まれて…。わざわざありがとうございます。」

 

ノーサさんに運ばれ、ベッドで横になった僕は彼女がここに来た理由を聞いた。

自主的じゃなくてお願いされて来たのが少しだけ残念に思うけど、来てくれたことは素直に嬉しい。

 

ふぅと一息つくと今度は腹の虫が騒ぐ。

盛大にお腹の音を聞かれてしまった。

 

僕のお腹の音を聞いたノーサさんは小さく笑って立ち上がる。

 

「今からお粥作るので、キッチン借りますね。」

 

笑顔を浮かべ、慣れた手付きでエプロンを身につけた彼女はとても可愛く見えた。

 

 

─トントントントン

 

キッチンから聞こえて来るのは小気味良い包丁の音。最近久しく聞いていなかった音だ。

 

 

「お待たせしました、ノーサ特製の卵粥です。」

 

ノーサさんがお盆に乗せて持ってきたお椀の中身はなんの変哲もない普通の美味しそうなお粥。

 

ノーサさんはお椀を持ってベッドの横に置いてある椅子に腰掛けた。

僕もお粥を食べるために上体を起こす。

 

「はい、あーんしてください。」

 

ノーサさんはお粥をレンゲで掬うと息を吹き掛けて冷ましてからこっちに向けてきた。

 

「だ、大丈夫ですよ、自分で食べられますから!」

 

けれどさすがに恥ずかしいので反対する。

いくらなんでもそれは恥ずかしすぎる。そう思ってノーサさんの手からお椀を取ろうとしたけど、熱で弱った僕に遅れを取るようなノーサさんじゃない。

僕の抵抗は軽くいなされて終わった。

 

「ダメです。熱で体が弱ってて、握力も落ちてるんですから。お椀は渡せません。はい、いいからあーんしてください。」

 

そう言ってノーサさんは再度僕にお粥を掬ったレンゲを向けてくる。

 

仕方ない、のかな?

でもよく考えてみればノーサさんに食べさせてもらえる貴重な機会なんだ。

 

少しの恥ずかしさをなんとか自分の中で誤魔化しつつ、差し出されたお粥を食べる。

 

「おいしいですか?」

 

「おいしいです、とても…。」

 

お世辞抜きで本当においしい。

お米の控えめな甘さと程よい塩加減、卵の優しい味にネギの香り…。

 

ノーサさんって話には聞いてたけど、本当に料理が上手なんだな。

 

「お口に合って良かったです。どうですか? お椀によそってきた分は食べられそうですか?」

 

「はい、これならぺろりと行けそうです。」

 

「そうですか。じゃあ、はい、あーん。」

 

…やっぱりこうなるのか。

 

 

 

 

「それじゃあ、ほんわ君さん、脱いでください。」

 

あっという間にノーサさんが作ってくれたお粥を平らげた僕に彼女はそう言った。

 

「ぬ、脱ぐって…。」

 

「寝汗かいたままだと体が冷えちゃいますから。横になる前に1度拭いちゃいましょう。」

 

そう言うことか…。少しだけ期待してしまったのは胸の内にしまっておくことにしよう。

 

寝汗をかいて少し嫌な感じがしていたのも確かだし、ここは素直に従うのがいいだろう。

 

 

「じゃあ体を拭いていきますね。」

 

ノーサさんは水で濡らして固く絞ったタオルを僕の体に当てる。

その冷たさが気持ちいい。

 

「あの、上半身は終わったんですけど、その…、下は自分でできますか…?」

 

ノーサさんの顔が赤い…、下? あ、そっか、そうだよね。うっかりしてた…。

タオルを受けとるとノーサさんは急いでこっちに背を向ける。

 

 

「もう、大丈夫ですよ…。」

 

体を拭き終え、服を着てからノーサさんに呼び掛ける。

僕の呼び掛けに応じて彼女がこっちを向く。

 

「それじゃあ、お薬も飲みましたし、後は横になっててください。お洗濯とか私がやりますから…。」

 

そこまで任せて良いのだろうか…?

確かに今動けないからやってくれるのは凄い助かる。幸い見られて困るものはないし。

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。」

 

「はい、任せてくださいね。」

 

そう言ってノーサさんは洗濯をしに部屋を出ていった。

 

横になると、眠気が急に強くなってきて、ノーサさんがいることを噛み締めたい気持ちがある一方で僕は意識を手放した。

 

 

 

side out...

 

 

 

side ノーサ

 

掃除と洗濯を終えた私は1度ほんわ君さんの様子を見に部屋へ入る。

 

ベッドの上にはすやすやと規則正しい寝息を立てて眠るほんわ君さんの姿があった。

無防備な寝顔がとても愛くるしくて、思わず抱き締めたくなる。

けれど、それをぐっと堪えてベッドの横にある椅子に座る。

 

近くで見るとよりはっきり分かるその愛らしさ。

 

でも1度ゲームを始めるとこんな愛らしさからは想像できないくらい格好いい。

 

私はほんわ君さんのそんなギャップも好きだ。そしてこの愛らしい表情も。

だから今日、ここに来れて良かったと思う。モミー店長には感謝してもしきれないよ。

 

でも、そろそろ帰らないと時間的にまずい…。

名残惜しい気持ちが私の足を鈍らせる。

 

ただ、黙って帰るのも悪い気がして私はメモ用紙にペンを走らせ、それをベッド横の椅子の上に置く。

 

ごめんなさい、ほんわ君さん。今日はもう帰りますね。

 

 

寝ているほんわ君さんを起こさないように私は静かに部屋を出ていった。

 

 

 

side out...

 

 

side ほんわ君

 

ん…? もう朝…か。体もすっかり軽いし、熱もほとんど下がったっぽい。ノーサさんには感謝しないと…。

 

あれ?なんだろう、メモ用紙だよね。ノーサさんの筆跡だ。

 

え~と、「お熱はもう下がりましたか? これからはお体を大事になさってくださいね。ノーサより。 追記 また体調を崩されたらこのアドレスか電話番号まで連絡してください、看病に行きますね。」って、ノーサさんの連絡先が書いてある…。ホントに優しい人だなぁ。

 

なんか期せずしてノーサさんの連絡先を入手できちゃったよ…。

 

今回熱を出して良かったかも…。それに、ノーサさんを送ってくれた店長にも感謝しなきゃ。

 

後でノーサさんにはちゃんとお礼しないと。

 

 

side out...

 

 






ノーサは可愛い。




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番外編 北斗勢の夜


今回は少し短いです。

※注意※
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件とは一切の関係はなく、また、中野TRFやそこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

いつもの前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


 

(眉゜Д゜)<はい、かんぱーい!

 

(修д羅)<<かんぱーい!!

 

(モヒカン)<<かんぱーい!!

 

ここは駅前のとある居酒屋、TRF‐Rのあるレゾナンスから徒歩5分。

大会終わりにはこうして北斗勢が集まって飲むこともたまにある。

もちろん未成年のノーサは除いてである。

 

(♂・鋼・)<ヒャッハー酒盛りだぁ!

 

(TA・Д・)<徹平、お前もう黙れ!

 

(ら・∀・)<鋼さんは相変わらずっすねー。

 

レイ使いにして、AC北斗の拳を神ゲー(異論は認める)まで昇華させた功労者の一人、鋼が狂ったように騒ぐのはもはやいつもの光景だ。

 

そんな中で、成人男性だらけのTRF‐R修羅勢でも一際大きい男は唯一酒を飲まず、ウーロン茶を口に運んでいた。

 

(チ゜д゜)<Kai飲めよ~。

 

(Ki・д・)<自分酒呑めないんで。

 

全一レイ使いで、TRF‐Rの覇者と言われる男にも弱点はある。彼は酒に弱い。試しに薄めに作ったウーロンハイを修羅達が無理に飲ませたところ、たった一杯で顔を真っ赤にしていたらしい。

 

本人曰く「ウイスキーボンボン1個でもかなりヤバい」とのこと。

それを聞いた修羅達が大会直前に彼にウイスキーボンボンを食べさせようとしたことは言うまでもない。

 

(ナッ゜д゜)<あ~、理保に会いてぇ。

 

(こ・ω・)<今日収録予定じゃないんで無理です。

 

(*´ω`*)<てか、ナックスさんをゲストとして呼ぶ予定はしばらくないです。

 

(ナッ゜д゜)<なん…だと…!?

 

 

 

 

(モヒ・Д・)<眉毛さん、ゴチになりまーす‼

 

(モヒ・ω・)<あざーす!

 

(眉゜Д゜)<言っとっけど自分の分は自分持ちだかんな!

 

(モヒ・Д・)<わかってますよー。

 

(モヒ・∀・)<冗談じゃないすか~。

 

(眉゜Д゜)<お前らが言うと冗談に聞こえねぇ。隙あらば奢られようとしやがって。

 

(モヒ・∀・)<サーセン(棒)

 

 

 

 

(♂・鋼・)<ノーサってさ、オレらとバカやってたり、煽りあってるけど、なんか育ちが良さそうだよな。

 

(チ゜Д゜)<分かる。なんだろうね、こう…、根っこからくるあの育ちが良いよね感があるのさ。

 

(♂・鋼・)<それそれ。なんでだ? 姿勢もいいしさ。こう…、言葉で上手く説明できないあの上品さたるや…。

 

(TA・Д・)<家が実際そうとか?

 

(眉゜Д゜)<あり得そうだけど、想像できねぇ、お嬢様やってるノーサが。

 

(ら・∀・)<お嬢様ってキャラじゃねぇしな。

 

(こ・ω・)<今度聞いてみます?

 

(*´ω`*)<乙女の秘密で誤魔化されそう。

 

(TA・Д・)<お前のような乙女がいるか!

 

(Ki・д・)<本人の前では言わない方がいいデス。ノーサ=サン、それをかなり気にしてまシタ。

 

(こ・ω・)<さすが恋する乙女。

 

(眉゜Д゜)<もうノーサの話はよくない?

 

(*´ω`*)<確かに、別の話題にしますか。

 

(TA・Д・)<だな。

 

 

 

 

 

(モヒ・ω・)<あんさぁ、あの噂あったじゃん?

 

(モヒ゜Д゜)<あの噂? あぁ、ノーサちゃんのおっぱいは実は胸筋の膨らみだった説?

 

(モヒ・ω・)<マジでそれが真実なんじゃないかって思えてきた。

 

(モヒ・∀・)<ど、どういうことだ木村っ!? まさか見たのか貴様っ!! 我ら“ノーサちゃんの青春を見守り隊”の鉄の掟を忘れたのか!?

 

(モヒ゜Д゜)<イエス!ノーサ!! ノー!タッチ!! ノーサちゃんを愛する気持ちを言い訳に犯罪行為に手を染める等と言語道断だぞ‼

 

(モヒ・Д・)<吉田の言うとおりだ! 木村、貴様の所業をすべて洗いざらい話してもらうぞ‼ 映像記録があるならすべて出せ!

 

(モヒ・ω・)<ち、違うってば。見てないよ。オレは仕事帰りにジムに寄るんだ。そのジムが偶然ノーサちゃんと同じで、トレーニング風景をよく見かけるんだよ。

 

(モヒ・∀・)<ほう、それで?

 

(モヒ・ω・)<ノーサちゃんの筋トレメニューが明らかにヤバいんだよ。例えばベンチプレスで80キロを15回1セットで、何セットもやったり、スクワットだと140キロで15回を何セットもやったり。

 

(モヒ・Д・)<…。

 

(モヒ・∀・)<…。

 

(モヒ゜Д゜)<…。

 

(モヒ・ω・)<極めつけがこの前見たクレイジーファイブだったね。あれも確か80キロだったかな?それも足を上げてやってた。

 

(モヒ゜Д゜)<待って、俺らクレイジーファイブとか言われてもわかんねぇから。

 

(モヒ・ω・)<あぁ、クレイジーファイブって言うのはベンチプレスの親戚みたいなヤツで、バーを5秒掛けて下ろして、5秒間下ろした状態で空中で止めて、でまた5秒掛けて上げる、そっからまた5秒掛けて下ろしての繰り返しだよ。マジで胸筋にクるからね、アレ。

 

(モヒ゜Д゜)<は、半端ねぇ…。

 

(モヒ・∀・)<オレもう絶対ノーサちゃんを怒らせないようにしよう。

 

(モヒ・Д・)<俺も…。

 

(モヒ・ω・)<アレとか見てたらノーサちゃんのおっぱいってガチガチなんじゃね?って思えてさ。

 

(モヒ・Д・)<確かに…。

 

(モヒ゜Д゜)<カチカチなノーサちゃんのおっぱい…。将来的に大きくなっても乳揺れの1つも拝めないのか…、くそ!

 

(モヒ・∀・)<いや待て、秘孔大胸筋を突けば…。

 

(モヒ・Д・)<なるほど、それなら柔らかいおっぱいが…。そこに気付くとはやはり寺本、お前は天才か!

 

(モヒ・ω・)<秘孔大胸筋の位置は確か、鼻と左右のこめかみ!

 

(モヒ・∀・)<なら、今度さっそく…。

 

(*´ω`*)<止めとけお前ら。岩斬両斬破を喰らって終わりだぞ。

 

(モヒ・Д・)<ぐぬぬ、確かにこのままでは我々が牙大王になってしまう…。

 

(モヒ・∀・)<だがこのまま手をこまねいているだけでは!

 

(モヒ・ω・)<そんな事はもう分かっている!

 

(モヒ゜Д゜)<何か、何か手はないのか!!

 

(モヒ・Д・)<今の我々では無力…。くそぅ!

 

(モヒ゜Д゜)<諦めるな! 我々の為にも、そして我らが女神の母なるダブルマウンテンの為にも!!

 

(モヒカン)<ウォー!

 

 

 

 

(TA・Д・)<あいつらホントにアホな話題で盛り上がるな。

 

(チ゜Д゜)<ゆうて、あの噂流したのオレらだけどな。

 

(Ki・д・)<ノーサ=サンがここにいたら間違いなく殺されてますネ。

 

(眉゜Д゜)<間違いないね。

 

 

(ノサ・ω・)<良いだろう、ハイクを詠め、カイシャクしてやる。

 

(モヒ゜Д゜)<ア、アイエエエ! ノーサ=サン?! ノーサ=サンなんで!?

 

(ノサ・ω・)<ドウモ、皆さん、ノーサです。

 

(モヒ・ω・)<ま、待ってください…。オレには重い病気の弟がいるんだ(嘘) だから…。

 

(ノサ・ω・)<モヒカン死すべし、慈悲はない! イーヤー!

 

(モヒ・ω・)<グワー!

 

 

 

こうしてまたまたTRF‐Rの連中の夜は更けていく。

今日も北斗勢は平和です。

 






番外編がノーサのプチ情報発信地みたいになってきた。

いいんですかね?

あと、気づいたらUAが10000を越えていました。
凄い嬉しいです。


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第10話 北星家の1コマ


今回は普通の長さくらいです。

では本編をどうぞ↓


─北星家邸宅

 

「ただいまー、あれ? 父さん。お仕事の方は一段落ついたの?」

 

「あぁ、入学式シーズンも終わって、書類とのにらめっこ生活ともしばらくはおさらばさ。」

 

そう言ってハハハと笑う大柄な男の名は北星義仁(キタボシヨシヒト)、南美の父親である。

 

彼は昔、世界で戦う総合格闘家だったが、引退した今では昔のツテを使って作った警備派遣会社、今では日本国内シェアの7割近くを誇る大手企業の“北星総合警備派遣会社-KGDO(kitaboshi-guardsmen-dispatch-office)-”の社長を勤めている。

 

普段は仕事が忙しく、余り家に帰って来ない彼だが、今日は一段落付け、帰って来ていた。

 

「ゆとりがあるのは良いことだ。こうして愛娘達の顔が見れるし、何より、七海ともこうして会えるからな。」

 

そう言うと義仁は20代と言われても信じられる程の美貌と若さを保つ南美の母親、北星七海(キタボシナツミ)の腰に手を回して抱き寄せた。

 

「ちょっとアナタ、びっくりするじゃない。それに南美が見てるわ。」

 

「じゃあ見てなかったら良いのかい?」

 

七海の赤くなった顔を覗き込みながら義仁が尋ねる。

その質問に顔をますます赤くさせた七海は体をもじもじとさせる。

 

「当たり前じゃない。会えなくて寂しかったんだからね…?」

 

「ごめんな七海、お詫びに今度仕事が忙しくなるまで我が儘聞くから。」

 

「もうアナタったら…。ん…ちゅ…。」

 

七海と義仁は娘のいる前だというのにキスを始める。だが南美はもう慣れきっているのか、“はいはい、ご馳走さま”と言いながら自室に入っていった。

 

結婚から18年になるこの夫婦だが、いまだ新婚さながらのラブラブ加減を見せているのだ。

 

 

 

side 南美

 

まったくもう、毎度のことだけど両親のバカップルぶりには付き合いきれないわ…。

 

普通娘の目の前でキスなんかするかぁ? それもあんな、お、大人なキス…。

 

私もいつかほんわ君さんと…。

 

ふにゃあぁぁああっ!!?

 

自分で想像したことなのにスッゴい恥ずかしい…。

でも、顔がすごいにやけちゃう…、こんな顔誰にも見せらんないよ。

 

 

 

結局この日は悶々としてあまり寝られなかった…。

 

 

side out...

 

 

「フゥゥ、シャオッ! ショオッ!!」

 

「ぬぅぅ、でぇりゃぁ!」

 

日曜日の早朝、北星家邸宅内にあるジムに置かれたリングの上で、ある二人が拳を交えていた。

 

「「ハァ、ハァ、ハァ…。」」

 

刹那の攻防を終えた二人は同時に飛び退き、距離を開ける。

二人の荒々しい呼吸と流れ落ちる大粒の汗からその凄まじさが窺える。

 

「また強くなったな、南美…。我が娘ながら末恐ろしいな、どれ程強くなるのやら…。」

 

「父さんは逆に鈍ったんじゃない? やっぱり最近は書類仕事しかしてないせい?」

 

「ハハハ、娘にそう言われるとはな。だが、まだまだお前には負けてやれんぞ。父親としての威厳がかかっているからな。」

 

「私はいつか父さんを超えるわ。言ったはずよ、父さんの背中を見てここまで来たと…。」

 

「嬉しいことを言ってくれるな。ならばまだこの背中を拝ませ続けてやろう。」

 

言葉を交わし終えた二人は再度構えを取る。

彼らの表情は父娘のそれではなく、好敵手との一戦を前にした猛者のそれであった。

 

 

「フゥゥ、ショオッ!!」

 

「なんのぉ!」

 

南美の放った左の手刀突きに対して義仁は右の正拳突きによるクロスカウンター。

両者とも顔を横に逸らして回避し、次の一手に出る。

 

義仁は右腕でそのまま南美の左腕をロックし肘関節を極めようとする、だが南美は瞬時にそれを察知し左腕を捻ってロックから逃れた。

そしてがら空きになっている義仁の鳩尾めがけて右膝を放つ。

 

「流石は父さんね、これをガードされるとは思ってもみなかったわ…。」

 

「ふん、ギリギリだったがな。」

 

南美の放った膝は寸でのところで義仁の左手で受け止められていた。

 

「行くぞ!!」

 

「はいっ!!」

 

体勢を立て直した二人は拳を引く。

そして限界まで緊張した空気が一気に解き放たれ、二人は同時に拳を突き出す。

 

「二人とも~、そろそろご飯よ~。」

 

その声と同時に二人の拳が互いに当たる寸前で止まる。

 

「仕方ない、今日はここまでにしよう。」

 

「そうね、私はシャワー浴びてから行くって母さんに伝えておいてちょうだい。」

 

「そのくらいなら御安い御用さ。じゃあ、先に行ってるぞ。」

 

義仁はタオルで汗を拭いながら部屋を去る。

南美は義仁が完全に去ったのを確認してからジムに併設されているシャワールームに向かった。

 

ジムと言ってもあくまでこのジムはスパーリングを行うために義仁が建てたものなので、筋トレ用具はベンチプレスやスクワットなどの簡単な物しか置いておらず、代わりにサンドバッグやスパー用のミットなどがある。

 

思春期の娘の為にシャワールームまで完備する徹底ぶりだ。

 

南美はシャワールームのボイラーを着け、更衣室に入る。

用意していたスポーツドリンクを飲み干し、一息いれてから、シャワーを浴びる準備を始めた。

さっきまで着ていた汗だくのシャツを脱ぎ、籠の中に入れる。よほど汗を吸っていたのか籠の中に放り入れると小さく水音がした。

 

衣服を脱ぐと、その均整の取れた体が露になる。

無駄のない引き締まった体、けれども女性らしい柔らかな曲線を描く肢体はさながら芸術のようでもある。

だが…、

 

「ハァ、なかなか大きくならないなぁ…。」

 

南美本人は気にしていた。

自身の背の高さに見合わない胸部の小ささを。

 

というのも、南美が行くTRF‐Rにはカセンというナイスバディな店員がいる。

その圧倒的な胸部の差は南美の劣等感を刺激し、今ではその事を弄るだけでキレられる。

 

格闘技をやる上では邪魔になるだけなのだが、それでも少しは大きくありたいという複雑な乙女心である。

 

 

シャワーのノブを捻ると少しばかり熱い湯が出る。

お湯は南美の肌を流れ、床のタイルへと落ちていく。

 

(もう少し大きかったらペタいとか壁とか言われないんだろうなぁ…。)

 

シャワーを浴びながら南美は自身のコンプレックスに手を当てる。

 

(ほんわ君さんもやっぱり大きい方が好きなのかな? もしそうなら私のこと…。ダメダメダメ、弱気になったら負けよ!)

 

喝を入れるように自分の頬を叩く。

頬にほんのりと赤く手のひら形の跡がついたが気にしない。

 

汗を流し終えた南美は体を拭き部屋着に着替えた南美はおいしい朝食の待つ母屋に向かった。

 

 

「母さんおはよう。」

「はい、おはよう。さぁ朝ごはんを召し上がれ。」

 

食卓に置かれているのはほどよく焦げ目のついたトーストに黄身が半熟気味に焼かれた目玉焼き、ジューシーさを窺わせるベーコンと瑞々しいサラダ。

北星家の日曜日いつものメニューである。

 

「いただきまーす。」

 

手を合わせてお辞儀をする。

幼い頃から食事に対する礼儀を母親から教え込まれた南美にとってこの動きは無意識でも行うほどに身に付いた行動である。

 

さっそくトーストを1枚手にとってかじりつく。サクッと軽快な音と共に芳ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「ん~、おいしい。流石は母さんね。」

 

「当たり前よ。私は胃袋を掴んで結婚したのよ?」

 

「はいはい、母さん達の馴れ初め話はもう聞き飽きたわ…。何かある度にいっつも言うんだもの、もう暗記しちゃった。」

 

ご満悦な表情を浮かべる母親を見て、南美は溜め息をついた。

“仲がいいのは良いんだけどねぇ”と心の中で呟きながらトーストをかじる。

 

「今日もジムに行ってくるからお昼はいらない。」

 

「今年で中学最後の大会だものね。頑張ってらっしゃい。」

 

「南美の活躍はいつも見ている。俺も鼻が高いぞ。よく頑張ったな。」

 

「…うん、ありがとう。」

 

ぶっきらぼうにそう言って南美は顔を二人から背ける。

その顔に若干の照れが浮かんでいるのは秘密のことだ。

 

「お姉ちゃん、頑張ってね。」

 

「うん、ありがとう天慧。お姉ちゃん頑張るね。」

 

優しい笑顔を浮かべ妹の頭を撫でる。

撫でられている天慧の顔にも満面の笑みが浮かんでいる。

 

 

 

 

北星家はいつもこんな感じ。

 

 

 

 

 





お父さんはやっぱり強かった。
そして南美のお母さんの七海さん、最初の頃は七星(ナツホ)という名前だったのですが、名字と星が被るので没案になりました。


話は変わって今、ifルートの番外編を考えているのですが、南美が恋人のことをなんて呼ぶのか考えていたら訳が分からなくなってきました。候補は以下にある通りです。
①ダーリン
②お前さん
③○○(名前)
④○○(アダ名)

マジで訳が分からなくなりました。
(ifルートの番外編においては投稿する日は未定です。まだ完成もしていませんし。)


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第11話 梅雨でもモヒカン達は元気です

今回は平均的な長さです。

※注意※
この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件とは一切の関係はなく、また、中野TRFや、そこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

いつもの前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


 

 

6月、長く続く雨で湿気が増える時期のTRF‐R

 

 

「梅雨に負けるな!TRF‐R北斗の拳土曜大会の始まりです。」

 

外では雨が降り、肌寒くとも、ここTRF‐Rはいつも熱気に包まれている。

 

今日もまた、修羅による熱い戦いが記録に残る。

 

「1回戦第1試合はノーサシン対えぐれサウザー!」

 

(モヒ・ω・)<ノーサちゃぁああん!!

 

(モヒ・Д・)<クイーン、今日も素敵です!!

 

(モヒ・∀・)<ヒャッハー!

 

 

「さぁモヒカンが盛り上がっています。1P側に座るはノーサシン、2P側がえぐれサウザー。さぁまたしてもえぐれがビクンビクンしてしまうのか、注目の一戦です。」

 

ジョインジョインジョインジョインシン サウザァ

デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワンデッサイダデステニー

ナントゴクトケンッ

 

「さぁ開幕獄屠拳、歪みねぇなぁ。ペースを掴んで行くのはノーサシン、クイーンの名は伊達ではない。」

 

ジゴクニツキオトシテヤルッ

 

「はい、起き攻めはコマ投げ。はいはいはいはい壁コンそして肘鉄連打。こんなコンボはお前しかやらないぞ。」

 

ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシナントゴクトケンッ

 

「80ヒットを越えた辺りで獄屠拳を当てて浮かせるが死んだぁ、さすが聖帝、柔らかい。」

 

バトートゥ デッサイダデステニー

ナントバクセイハッココマデダッ

 

「開幕はお互いにバクステ、慎重な立ち回りを見せている。えぐれは牽制にショウハとバクセイを撒いて行く。」

 

ヒカヌッコビヌッカエリミヌッ

 

「おおっと、先に刺したのはえぐれサウザー、起き攻めにバクセイとショウハを重ねて、が刺さらない。ガーキャンで切り返して今度はノーサのターン。」

 

シズメ

 

「ブースラから、コンボを繋いで行く。バニからの壁コン、さぁすでに大幅に体力が減っているぞ。」

 

ナントコシュウケンオウギナントショウシュウトキャク

 

「一撃決まったぁ、勝ったのはノーサシン。コレがクイーンの実力、さすがのコンボ精度です。素晴らしい。さぁ第2試合は─」

 

 

 

次の出番が来るまで、ベンチに座って休んでいたノーサにカセンが近寄る。

 

「調子良さそうじゃないか、ノーサ。ハイこれ、差し入れ。」

 

「あ、カセンさん。どうも…。」

 

ノーサはカセンが差し出したスポーツドリンクを受け取る。買ったばかりなのか表面はまだひんやりと冷たい。

 

カセンはノーサの横に腰かけるとタバコを携帯灰皿に押し付けて、火を揉み消した。

 

「それで?格ゲーとリアルファイトは良いとして、どうなのさ、うちのバカとは…。」

 

「ふぇ、あ、そのほんわ君さんとはまだ、えと…。」

 

顔を薄く紅潮させながら煮え切らない態度を取るノーサを見てカセンはハァと盛大に溜め息をつき、自身の頭をワシャワシャと掻いた。

 

「あのバカの鈍感ぶりにゃ呆れるよ。こんな可愛い子がアプローチしてるってのにさ。」

 

「良いんですよ。まだ時間はありますし、これからゆっくりと時間を掛けていきますよ。」

 

儚げな表情を浮かべるノーサを見て、カセンは思わず彼女を抱き寄せた。

ちょうどノーサの顔がカセンの胸に埋もれる形である。

 

「良い子だねぇあんたは、ホントに…。アタシはそんなあんたが大好きさ。だから、なんか困ったらいつでも言いな。アタシに出来ることなら力になってやるからさぁ。」

 

「はい、ありがとうございます、カセンさん…。」

 

抱き寄せられたままの姿勢で礼を言うノーサ、その頭をカセンは優しく撫でる。

カセンの顔は慈愛溢れる顔をしていた。

 

「はい、次はぁ珍しい人物の登場だ‼ カセンユダ対DEEPシンの対戦です。」

 

「どうやらアタシの出番みたいだねぇ。行ってくるよ。」

 

「はい、頑張ってください。」

 

「ありがとね。まぁなんとかなるだろうけどさ。」

 

振り返らず手だけ振り返したカセンはそのまま1P側に座る。

 

 

 

ペシペシペシペシペシペシペシペシコノドクデイチコロトイウワケヨォペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ

 

「バニィからのコンボを繋いでイチコロ入ってまたコンボ。今度は逆サイドに輸送してコンボ。」

 

ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシコノドクデイチコロトイウワケヨォペシペシペシペシペシペシペシペシ

 

「はい、また逆サイドに輸送して行く。そしてまたコンボォ。ダガールを全く使わない! これは今ごろダガールがオレを利用しないのか~と叫んでいるに違いない。」

 

ペシペシペシペシペシペシペシペシ

 

「はい、浮かせてバスケに移行した。はい、殴って浮かせて殴って浮かせてぇ、はい、死んだぁ。ユダ様は本当に力業の得意なお方。」

 

バトートゥ デッサイダデステニー

 

「さぁ2ラウンド目、開幕バニで星取って、はいはいはい星を溶かして南斗紅鶴拳奥義が決まって勝ったのはカセンユダ。」

 

(DP・Д・)<え、マジで…? オレ何にもしてない…。

 

「相手が悪かったねぇDEEP。一応これでも昔はユダ使いじゃ関東屈指の人間だったんだ、悪く思わないでおくれよ?」

 

スッと立ち上がったカセンがタバコをくわえ火を着ける。

色気漂うその佇まいに何人ものモヒカンの視線が釘付けになった。

 

 

 

「久々に対人でやっても案外上手くいくもんだねぇ。」

 

カセンは遠くのベンチに座っていたノーサの元をまた訪れる。

その際にはちゃんとタバコの火を灰皿で揉み消している。

 

「1回戦突破おめでとうございます。」

 

「ありがとうよ…。さてと2回戦は誰が相手かねぇ。」

 

ん…と息を吐いてカセンは体を反らせた。ピキキッと小さく背骨が鳴る。

だがそれよりもノーサの目にはカセンの胸部にある2つの巨大な山に釘付けとなった。

 

──圧倒的敗北

 

比べるまでもない圧倒的な彼我の差をこの場で再認識する。

ゲーマーとしてではなく、女性としての魅力、その一点に置いてはノーサとカセンには天と地程の差があるように彼女には思えた。

 

敗北を認識したノーサは暗い表情のまま、その顔を見られないようにうなだれる。

ブツブツと周囲に聞こえないような声で何かを唱え始めた。

 

「はい、では続きまして2回戦第1試合、ノーサシン対こあらレイ。」

 

(モヒ゜Д゜)<ノーサ!ノーサ!ノーサ!

 

(モヒ・Д・)<クイーン!ガンバです!!

 

モヒカンからの声援もどこ吹く風か、ノーサはゆっくりと歩き、2P側に座った。

 

(巨乳は死すべし、慈悲はない。待ってなさいカセン、この大会で私はアナタを倒す…。)

 

暗く濁った目で画面を見つめるノーサがそこにいた。

 

(モヒ・∀・)<な、なんかノーサちゃん、殺気立ってないか?

 

(モヒ・ω・)<こあらさんなんかやらかしたのか?

 

(モヒ・Д・)<ヤバいぞ。ああなったノーサさんはマジでパネェんだ。

 

(こ・ω・)<(オレは何にもやってないんですけどォォおおお!!?? え、何で? 何でノーサはキレてんの?)

 

 

 

デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

 

 

「出たぁ!! ノーサシン名物の世紀末陸上! 右に左に上に下にとシンが飛び回っている‼」

 

ウィーンシン パーフェクト

 

「勝ったのはノーサシン、こあらレイに何もさせずに完封勝利を迎えた。修羅を相手にクイーンは怒涛の快進撃だぁ!!」

 

 

 

ナントコウカクケンオウギケッショオシ

 

「勝ったのはカセンユダ、さぁ自重していたユダ使いが本性を現した、これは荒れる予感がするぞ‼」

 

 

 

 

「カセンさん、アナタの快進撃もここまでだ‼」

 

「あらあら、勇ましい。」

 

「さぁ決勝戦に残ったのはクイーンことノーサ、そして自重していた店員カセンのこの二人。シン対ユダの勝負となります。」

 

ジョインジョインジョインジョインシン ジョインジョインジョインジョインジョインユダァ

デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

シネェッ

 

「開幕グレイブでノーサシンが仕掛けて行く。はい空中コンボから締めは獄屠拳。さぁ起き攻めから星取りに行ってコンボ、バニを絡めて星を溶かして行くぅ。」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!! シャアッ!」

 

「1ラウンド目を取るのはノーサシン、今日はいつもより気合いが入っています。気迫が違う。」

 

 

バトートゥ デッサイダデステニー

デエェヤアァッ

 

「開幕バニィ、コンボ、そして南斗弧鷲拳奥義が決まったぁ!! 優勝はノーサシン、女性対決を制しクイーンの座を見事に死守した!!」

 

「あれまぁ…、負けちまったねぇ。これが執念の違いってやつかい…。」

 

 

 

 

「優勝おめでとうさん、ノーサ。ホントに強いねぇあんたは。」

 

「カセンさんには格ゲーでは負けたくありません、というよりも格ゲーで負けたら他に勝てるところがありません‼」

 

「ちょいとお待ちよ、何の話をしてるんだか私にゃさっぱり分からないんだけど…。」

 

「うぅ、秘密です! でもでもカセンさんには絶対格ゲーでは負けません!」

 

カセンの問いにノーサは顔を真っ赤にしてお茶を濁した。

 

(モヒ・Д・)<ノーサちゃぁああん、かわいぃいいよぉお!!

 

(モヒ・∀・)<マジでプリティでチャーミングです、クイーン!!

 

(モヒ゜Д゜)<フウウゥゥウッ!!

 

 

「うっさい、黙れモヒカン!!」

 

(モヒ・ω・)<怒った顔も可愛いよ!!

 

 

 

今日もTRF‐Rは平和である。

 

 

 






ノーサちゃぁああん!!

ノーサちゃぁああん!!

可愛いよぉお!



そして、この作品、もうIS出なくて良いんじゃね?と思ってる皆様、あくまでこの作品はインフィニット・ストラトスの二次創作です。

あと数話で原作にたどり着けるんです。
ですので、IS原作に突入するのを楽しみにされている方はもう少し待っててください。




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第12話 夏に掴んだモノ


今回は少し短めです。

まさか1日に3話も出せるとは…。




「シャオッ!」

 

鋭い蹴りが少女のこめかみを捉える。

蹴られた少女はその場に倒れこみ、立ち上がらない。

近くにいる男のカウントダウンの声がよく響き、10カウント目を迎えるとゴングの音が鳴り響いた。

 

「またもや1ラウンドでノックアウト! 3連覇を目指す女王 北星南美、1回戦から準決勝までのすべてを1ラウンド目で勝ち上がっている!」

 

夏真っ盛りの今日は南美にとって特別な日だ。

全国中学生総合格闘技大会、南美にとって最後の中学生大会。

 

ノックアウトした相手を1度だけ見ると、リングと相手、そして審判に一礼をして南美はリングを立ち去った。

 

 

──TRF‐R事務室

 

(眉゜Д゜)<強すぎんだろアイツ…。

 

(*´ω`*)<他との格が違いすぎる…。

 

修羅勢が集まってテレビ放送されている南美の試合を見ていた。

もちろん事務室の住人であるモミー店長公認の行為である。

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、お疲れさま~。」

 

「ん、ありがとうあーちゃん。でもまだあと1試合残ってるわ。」

 

試合を終えた南美はタオルで汗を拭きながらギャラリーに上がる。すると天慧が走り寄って来る。

それを南美は片膝をついて優しく抱き止めた。

 

「やっぱり君は凄いね。」

 

「あ、鷲頭さん。いらっしゃったんですね。」

 

「勿論だよ! 私は君のファンだからね、試合があれば見に来るさ。」

 

スーツ姿で渋さを漂わせる鷲頭が笑う。

まさか、1企業の社長がここにいるとは誰も思うまい。

 

「さて、決勝戦だが勝算はあるのかい?」

 

鷲頭の問いに南美は不敵に笑う

その顔は格闘家北星南美として、自信に満ち溢れた表情だった。

 

「もちろんですよ、私が同年代で負けるとすれば、…あの人しかいない。けど、あの人はもうこの大会にはいません。よって私は負けない。」

 

南美の脳裏に彼女の姿が思い浮かぶ。

誰よりも美しく、そして強かった青髪の少女。

南美が父親以外に目指した唯一の存在。

 

鷲頭の問いに答えた直後、決勝戦の開始が近いことを告げるアナウンスが放送される。

それを聞いて南美は立ち上がった。

 

「それじゃあ行ってくるね、あーちゃん。」

 

「うん、お姉ちゃん頑張って!」

 

 

 

「あ、あの…。」

 

「ほんわ君さん!?」

 

控え室への途中、南美は思いがけない人物に呼び止められた。

 

「ど、どうしてここに…?」

 

「そ、その、ノーサさんの大会が今日だって聞いて。応援に来ちゃいました…。」

 

予想していなかった人物の登場に南美は一気に乙女モードになった。

想い人が応援に来てくれた嬉しさから、南美の心拍数はぐんぐんと上がっていく。

 

「あ、えと、その、ありがとう…ございます。」

 

「は、はいその頑張ってください。」

 

「~‼ あ、あのほんわ君さん…。」

 

茹でタコのように顔を真っ赤にした南美が切り出す。

 

「あ、あのですね…、私頑張りますから、もし優勝出来たらご褒美、くれませんか?」

 

「え…、あっ、はい! もちろんです。」

 

南美の言葉にほんわ君は力強く頷く。

ほんわ君の言葉を聞いた南美は小さく微笑み、右手の小指を立て、ほんわ君の方に差し出した。

 

「じゃあ約束ですよ?」

 

「は、はい。」

 

二人は指切りを交わして、そのまま南美は控え室に、ほんわ君はギャラリーの中でも特に見えやすい場所へと移動した。

 

「全国中学生総合格闘技大会決勝戦を始めます、第1コーナーは北星南美選手、第2コーナーは──」

 

審判の進行によって南美と対戦相手がリングの上に上がる。

南美の顔つきは先程までの乙女の面影は一つも残っておらず、格闘家北星南美の顔に戻っていた。

 

─カァン

 

試合開始を告げるゴングが鳴る。

 

小刻みなステップを踏みながらお互いに間合いをはかる。

 

「シャオッ!」

 

最初に仕掛けたのは南美だった。

鋭い踏み込みから一気に相手の懐に潜り込み、鋭い正拳突きを鳩尾に放つ。

 

「く、ふぅ?!」

 

反応の遅れた相手はもろにその一撃を喰らい、口から空気を吐き出す。

 

「ショオォ、シャオッ!」

 

体勢の崩れた相手を見て南美はさらに追撃する。

垂直に跳び、相手の顎をかち上げ、無防備になったこめかみに伝家の宝刀とも称される一撃必殺のハイキックを叩き込んだ。

 

相手はそのまま倒れ込む。

呆然としていた審判もそれを見てやっと我に返り、カウントを開始する。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ─」

 

リングの上で空しくカウントの声が響く。

南美は倒れている対戦相手をただじっと見つめているだけだった。

 

「エイト、ナイン、テン!」

 

─カァンカァンカァン

 

試合終了を告げるゴングが3度鳴る。

 

その瞬間、審判が南美の右手を掴み高々と掲げさせる。

南美の表情はとても誇らしそうな顔をしていた。

 

こうして南美は全国大会3連覇という偉業を成し遂げたのである。

 

 

その頃、剣道競技の会場では

 

─スパァン

 

南美が全国優勝の偉業を成し遂げた頃と時を同じくして、剣道競技の男女優勝者が決定していた。

 

 

 

 

 

「おめでとうお姉ちゃん!!」

 

「ふふ、ありがとうあーちゃん。」

 

南美の控え室で南美は妹から祝われていた。

妹だけでなく、日頃から友人として付き合ってきたクラスメイトが数名いる。

 

「スッゴいじゃんミナミン、優勝だよ?」

 

「まーた女子中学生らしからぬ伝説が増えるのか…。」

 

「おめでとう~‼」

 

「えへへ、ありがとう~。」

 

手放しに誉めてくる友人たちの言葉に南美は頬をだらしなく緩めていた。

その膝には妹の天慧を抱えたままで。

 

すると、控え室の入り口からほんわ君が中の様子を伺っていた。

 

「あ、ほんわ君さん!!」

 

「や、やあ…。おめでとう、ノーサさん。」

 

南美は天慧を下ろし、笑顔でほんわ君を出迎える。

 

「ほおほお、あれが噂の…。」

 

「話には聞いてたけど、ホントに年上に見えないね~。」

 

「合法ショタと女子中学生…、アリだね。これは冬の聖戦で売る本のネタに…!」

 

 

 

「えっと…さ、そのご褒美をあげるって話だったけど、具体的にはどうしたら良いかな?」

 

ほんわ君の言葉に南美はん~と少し考える素振りを見せる。

そして何かを思い付いた表情を浮かべると、小さく、ほんわ君の耳元で囁いた。

 

「今年のクリスマス、予定を空けておいてください。」

 

「え…?」

 

顔を赤くして戸惑うほんわ君をよそに、南美は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「クリスマスに私とデートしてください。」

 

「ふぇ、え、ええっ?!」

 

南美のお願いに赤くなった顔をますます赤くして戸惑うほんわ君、そんな姿を見て、表には出さないが南美はその可愛さに悶えていた。

 

「約束…ですからね。」

 

「は、はい…。」

 

 

 

 

ほんわ君とクリスマスの約束を取り付けた南美は友達に当日のコーディネートを頼み終わると、ある人物に電話を掛けた。

 

「─プルルル どうしたんだいノーサ…、あぁそれと、優勝おめでとう、テレビで見てたよ。」

 

「はい、ありがとうございますカセンさん。それで…なんですけど、その、アドバイスをもらいたくた…。」

 

「アドバイス? 何のだい?」

 

カセンからの質問に南美は顔を赤くして体をもじもじさせる。

 

「そ、その…ですね、ほんわ君さんとクリスマスデートの約束を取り付けたんです。だから、あの、どうすれば良いのか、アドバイスをください!」

 

「ふ~ん、あんたがやっとあのバカとデートを…。成長したねぇ。アタシは嬉しいよ。おっと、話がずれたね、それじゃあ──」

 

南美はカセンからのアドバイスを一字一句漏らさぬようにメモするのであった。

 

 

クリスマスまで残り4ヶ月のことである。

 

 

 

 






カセンさんは頼りになります。

南美ちゃんは強いです、世界クラスのお父さんとのスパーリングは伊達じゃない。

さあて中学三年の夏までやりました。残りは冬の一大イベントを消化して、入試をやれば原作だぁ!!

やったね。




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第13話 クリスマスですよ


今回はちょっと短いです。

では本編をどうぞ↓


 

 

12月25日、そうクリスマスである。

恋人同士がキャッキャウフフしたり、子供達がプレゼントに目を輝かせる日だ。

そんなクリスマスの夜にレゾナンスから徒歩5分の居酒屋“Go-Sho-Ha”では…

 

(眉゜Д゜)<リア充ども爆発しろやぁ!!

 

(モヒ・ω・)<ま、眉毛さん落ち着いて!

 

(モヒ・Д・)<そうっすよ。

 

(眉゜Д゜)<何でクリスマスに野郎だけで集まって酒を飲まなきゃなんねぇんだよぉぉおおお!!?

 

(モヒ・∀・)<仕方ないっすよ、ノーサちゃんは2月の一件(第7話参照)以来マジで警戒心剥き出しですからね。

 

(モヒ゜Д゜)<俺らが側にいると本心からデートが楽しめないんじゃないかと思いまして…。

 

(モヒ・ω・)<これもノーサちゃんの幸せの為だと思って我慢してください。

 

(眉゜Д゜)<ああああ、彼女欲しい~!

 

(*´ω`*)<来年こそは!

 

(こ・ω・)<必ずや彼女を!

 

 

独り身の修羅達が管を巻いていた。

 

 

 

その頃、駅前では…。

 

「あ、ノーサさーん、こっちです、ここです!」

 

ほんわ君の呼び掛けで彼を見つけた南美がほんわ君に駆け寄る。

その格好はいつもの残念美人な彼女や、ボーイッシュな姿でもなく、しっかりと女の子らしさを全面に押し出していた。

 

「ほんわ君さん、ごめんなさい待たせましたよね?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。僕も今来たばかりですから。」

 

「そ、そうですか…? それなら良いんですけど…。」

 

心配そうな表情を浮かべる南美。ほんわ君はその心情を察してか、彼女の手を握り引っ張る。

 

「早速行きましょう、ほら。」

 

そんなほんわ君の優しい気遣いに気付いてか気付かずか、南美の顔には笑みが戻っていた。

 

「はい、楽しみましょう。」

 

 

 

─前日 南美side

 

「つ、つつつ、遂に明日、ほんわ君さんとデートなんです。カセン師匠、アドバイスをください!」

 

TRF‐Rの事務室にて、椅子に腰掛けるカセンの前で地べたに土下座するノーサの姿があった。

 

「アタシは別にあんたの師匠じゃないんだけどねぇ…。」

 

土下座するノーサを見て呆れたような声を出すカセンはデスクに置かれた灰皿でタバコの火を揉み消した。

 

「そんなこと言わないでください! 力になってくれるって言ってたじゃないですかぁ!」

 

カセンの言葉を聞いてすがり付くようにノーサはカセンの膝にしがみつく。

 

彼女の顔はまさに必死と言うべきもので、目もとにはうっすらと涙が張っていた。

 

「あぁもう、引っ付かないでおくれよ。アタシは師匠って言葉を否定しただけじゃないか、協力しないとは言ってないよ。ちゃんと約束は果たすし、協力するよ。」

 

「うぅ、ありがとうございます。」

 

「全くもう。ほら、顔を上げな。こんなに泣いて…、可愛い顔が台無しじゃあないか。」

 

カセンは椅子から降り、ノーサと目線の高さを合わせる。そして懐からハンカチを取りだし、えぐえぐと泣きじゃくるノーサの目もとを軽く拭ってやる。

 

「落ち着いたかい?」

 

「はい、お見苦しいところをお見せしてすいません…。」

 

落ち着きを取り戻したノーサはカセンと向かい合う形で椅子に座らされた。

もちろんその正面には禁煙パイポをくわえたカセンが脚を組んで座っている。

 

「はっきり言って、アタシが出来るアドバイスなんざもうほとんど無いよ。」

 

「うえぇ!? ど、どういうことですか?!」

 

カセンの言葉にガタッと立ち上がりノーサが詰め寄る。カセンはそれを宥めるように手を前に出した。

 

「落ち着きな、何もしないって訳じゃないのさ。ただねぇこっから先はアドバイスもクソもないんだよ。」

 

「どういう…?」

 

「あんたのことだからねぇ、今年のクリスマスで決めるつもりなんだろう? IS学園に入学しちまったら滅多に会えなくなるからねぇ。」

 

ノーサ、いや北星南美は中学卒業後、ISについて学ぶため、ISの実力を高めるためにIS専門の学校、IS学園に入学するつもりでいた。

 

このIS学園は全寮制であり、入学した場合、南美は今よりもTRF‐Rに来れなくなるのだ。

それはつまり、ほんわ君と会える機会が減るということ。

 

「だからあんたが今年のうちにあのバカと良い仲になりたいのは分かるよ。だったら尚のこと、あんたらしく行かないとねぇ…。」

 

そう言ってカセンは笑った。

 

 

 

─前日 ほんわ君side

 

「カセンさん、僕にアドバイスをください!」

 

TRF‐Rの営業時間終了後、ほんわ君は恥も外聞もなく土下座していた。

 

「構わないけどさぁ…、あんた男としてのプライドは無いのかい? 」

 

土下座するほんわ君を横目に見ながらカセンはTRF‐R店員の証であり、制服でもあるエプロンをハンガーに吊るし、ハンガーラックに掛ける。

 

「ノーサさんと恋仲になれるのなら、この程度…。」

 

「何でこんな時に格ゲーやってる時と同じモードになってんのさ。まぁアドバイスはしてやるけどさぁ。」

 

「ありがとうございます!!」

 

土下座し続けるほんわ君に半ば呆れたようなカセンは、ハンガーをラックに掛け終えるとタバコをくわえ、椅子に座った。

 

(全く…。ノーサとほんわは相思相愛だってのに、何だってアタシがこんなことに…。お互い好きあってるのに気づかないとはねぇ…。)

 

ワシャワシャと髪を掻き、溜め息を漏らす。

カセンの内心は鈍感な二人への呆れでいっぱいだった。

 

「ほんわも分かってんだろ? 明日を逃せばチャンスは激減するってさぁ…。」

 

「はい、ノーサさんがIS学園を受験することも、合格出来るくらい彼女の成績が良いのも、全て分かっています。」

 

土下座した格好のまま、ほんわ君は話す。

 

「だったらもう、決めるしかないだろう、腹を決めなよ。」

 

「はい…。」

 

 

 

 

 

─駅前広場

 

((今日でなんとかしなきゃ!!))

 

南美とほんわ君の心の内は一緒だった。

 

こうして二人のデートが始まった。

 

 

 

 






次回に続きます。




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第14話 聖なる夜に…


はい、お待たせいたしました。

今回はいつもより長めになっています。

では本編をどうぞ↓


クリスマスの夜、南美とほんわ君はデートを開始した。

 

「それじゃあノーサさ─」

 

“ノーサさん”そう言おうとしたほんわ君の唇に南美が人差し指を当てる。

 

「今日は大会とかじゃないので、南美って呼んでください。それに、私は年下ですから、敬語じゃなくても良いんですよ?」

 

「じゃ、じゃあ…南美…さん?」

 

「むぅ~、さん付けは止めてください。その…呼び捨てで構いませんから…。」

 

「あ、ごめんなさ…じゃなくて、ごめん。」

 

南美との馴れない言葉使いでの会話に戸惑いを見せるほんわ君を見て南美は優しく笑う。

 

「ふふ、良いですよ。行きましょう?」

 

「うん、どこに行く?」

 

「そうですね~。」

 

二人は手を繋ぎ、今後の予定を話しながら歩き出した。

その様子はとても仲睦まじく見え、傍からは中の良い姉弟にも見える。

 

 

買い物や食事を楽しみ、街のイルミネーションを一通り見終える頃にはもう充分に夜が更けていた。

 

二人は今、イルミネーションの見える広場の端でベンチに座りながら身を寄せあっていた。

 

「今日は楽しかったです。」

 

「僕も楽しかったよ。その、…誘ってくれて、あ、ありがとう…。」

 

ほんわ君の言葉に、南美は繋いでいる手に自然と力が入った。

その折に冷たい風が辺りに吹き、南美は寒さに身を震わせる。

 

「えっと、これ着て…。」

 

ほんわ君は自分の上着を南美に掛ける。

急に温かさに包まれ、南美ははっとしてほんわ君の方を向く。

 

「ほんわ君さん…?」

 

「僕なら大丈夫だよ、体は丈夫だからね。」

 

「春先に体調を崩した人が言っても説得力がありません。せめてこれだけでも…。」

 

そう言って南美はカバンの中からリボンの巻かれた包を取り出す。

そして手早くほどいて中身を出すと、それをほんわ君の首に巻いた。

 

「これって、手編みのマフラー…?」

 

「は、はい…。私からのクリスマスプレゼントです…。ちょっと不恰好で、恥ずかしいんですけど、これくらいしか思い付かなくて…。」

 

南美がほんわ君に渡したのは白い毛糸で編まれたマフラー。丁寧に編まれ、ところどころに不恰好なところがある、手作りの優しさが感じられる物だった。

 

「あの…、迷惑、でしたか…?」

 

「ううん、凄く嬉しいよ。ありがとう。」

 

困惑の色を浮かべる南美、けれどほんわ君は南美の心配事など無いように笑って見せた。

 

「それに、夢だったんだ。好きな人からこうして手作りの物をプレゼントされるのが…。」

 

「え…? ほんわ君さん、それってどういう…?」

 

何気なく呟かれた言葉に反応する。

南美の問いに、意を決したようにほんわ君は南美の肩を掴み、目を合わせた。そして多少の気恥ずかしさを見せながらほんわ君は口を開く。

 

「好きなんです。僕は北星南美のことが世界で一番大好きです。だから、僕と付き合ってください!」

 

この言葉を聞いた瞬間、南美の目から大粒の涙がポロポロと零れ、頬を伝った。

 

そして感極まった南美は周囲の目など気にせず、ほんわ君の胸に飛び込んだ。

 

「私も、私も好きです…。ほんわ君さんのことが大好きなんです…。いつもにこにこしてて、優しくて、気遣いができて、それでいてゲームをすると格好いいほんわ君さんが大好きなんです。誰にも取られたくないくらいに…!」

 

「じゃあ…。」

 

「はい…。こんな私で良ければお願いします…。」

 

涙を目に湛えながら南美は上目遣いでそう言った。

 

 

 

side ほんわ君

 

 

「はい…。こんな私で良ければお願いします…。」

 

この言葉を聞いた時、僕はとても嬉しくなった。

もう死んでも良いやと思えてしまう一方で、もっと生きて一緒にいたいとも思う。

 

そして、上目遣いでこっちを見てくる彼女が、とても愛しく見えて、僕は思わずその唇を奪った。

 

「ん…、ちゅ、ん、ほん…わ、くん…しゃん…?」

 

口から漏れる彼女の声がより一層僕の感情を煽る。

理屈じゃ無かった。

本能から彼女のことが好きだ。

 

 

“女の子らしくない”

それは彼女がいつも気にしていることだ。でも目の前にいるこの子はどうだろう、こんな子が女の子らしくないだって?

そんなわけない、想いを伝えあって、嬉しくて泣くような子が女の子らしくないはずが。

 

 

僕の想いを伝えるように、僕は周りの目なんか気にせず力強く彼女を抱き締めた。

 

 

side out...

 

 

 

side 南美

 

好きだって言ってくれた、こんな女の子らしくない私のことを。ずっと好きだった人が。

それだけで私の体は火が着いたみたいに熱くなった。

 

もう周りの目なんかどうでも良い。今はこの人をもっと近くで感じたい。それだけだった。

そう思って私は彼の胸元に飛び込む。

 

そんな私の行動に驚きもせず、ほんわ君さんは受け止めてくれた。それはまるでどんな私でも受け入れると言ってくれたみたいで、また嬉しくなった。

 

顔を上げて彼を見つめていると不意に唇を奪われた。

けれどイヤじゃなかった。

むしろとても心地が良い。ほんわ君さんに求められていると思うと胸がキュンとなって、また体が熱くなる。

 

ほんわ君さんの舌が私の舌と絡む。

情熱的なキス、力強くて、それでいて優しいそれはとてもほんわ君さんらしかった。

 

キスが終わると力強く抱き締められた。

こうしているとほんわ君さんがいることを実感できて、とても気分が安らいだ。

 

 

 

side out...

 

 

 

 

駅前広場の隅でお互いの気持ちを確認しあった二人は冷静さを取り戻すと、人前で大胆になってしまった恥ずかしさから逃げるようにその場を去った。

そして行き着いた先はほんわ君の部屋だった。

 

「ご、ごごご、ごめん、勢いで僕の部屋まで…。」

 

混乱した様子で謝るほんわ君。その隣には南美が座っていた。

南美はほんわ君の手に自身の手を添えると、彼の耳元で優しく囁く。

 

「良いんですよ、私は凄い嬉しかったんです。今でも夢なんじゃないかって、そう思えてしまうくらいに…。」

 

「夢なんかじゃないよ。」

 

南美の言葉にほんわ君ははっきりと返す。

その返答に南美は薄く笑みを溢す。

 

「はい…、だから夢じゃないって、証明してください。もっと、私がほんわ君さんの恋人なんだって…。」

 

そう言って南美は自身の唇をほんわ君の唇に重ねる。

互いの舌が絡み合い、微かに水音を立てる。

 

キスは暫く続き、南美がやっと離れると、二人の口からは銀の橋が伸びていた。

 

「でも、そろそろ帰らないとダメなんじゃ…。」

 

「ふふ、大丈夫です。親には今日、友達の家に泊まるって言ってあるんですから…。」

 

年齢とは不釣り合いなほど艶っぽい笑みを浮かべる南美、その顔にほんわ君の理性は崩壊を迎えそうになっていた。

 

「だから、今夜はほんわ君さんを感じさせてください。その温かさを、もっと間近で…。」

 

そう言って南美は纏っている衣服を脱ぎ始めた。

1枚、また1枚と脱ぐ度に彼女の芸術品のような艶やかな肢体が露になる。

 

白く、キメの細かい肌はほんのりと紅潮し、妖艶さを醸し出していた。

 

そして全ての服を脱ぎ捨てた彼女はほんわ君に顔を寄せる。

 

「それとも、私には…、魅力ないですか…?」

 

「っ、そんなことない!!」

 

ぽつりと呟かれた彼女の言葉を否定するようにほんわ君は南美を押し倒した。

 

「…良いんですよ、ほんわ君さん。来てください。」

 

「南美…ちゃん…。」

 

肌を重ね、二人はまたキスをする。

 

「ちゅっ…、ん、はむ、ん…ちゅ、しゅきです。らいしゅきです…。」

 

「ん、ちゅっ…、南美、ぼくも、んんっ。」

 

 

とてもとても熱いキス、二人は時間も忘れて互いの唇を啄んでいく。

 

長く、ゆったりとしたキスを終えると、南美の顔はすっかり蕩けていた。

 

「ほんわ君さん…、私、その、初めて…、だから…。」

 

「うん、出来るだけ優しくするね…。」

 

 

──────

───

──

 

「っ……⁉」

 

「ごめん、痛いよね…?」

 

経験した事のない痛みに南美の顔が歪む、そんな彼女を安心させるようにほんわ君は彼女の頭を撫でる。

 

「だい、じょう…ぶ、だから、続けて…。」

 

気丈に振る舞ってはいるが、南美は腕に力を込め、ほんわ君の背に爪を立てている。

ほんわ君もその背の痛みを通して彼女が今味わっている痛みの一部を思い知っていた。

 

「南美、好き…。大好きだよ。」

 

「私も…、好き…。ねぇ、キス…して…?」

 

「うん…。ちゅ…。」

 

繋がったまま二人は熱いキスをした。

 

 

 

 

 

──

───

────

 

「ごめん、痛かったよね…。」

 

「…でも、それ以上に嬉しかったです。」

 

二人にとっての初めてを終えた後、彼らは布団の中で手を握りあっていた。

 

「僕も嬉しかったよ。…ねぇ、南美…ちゃん?」

 

「もぅ…、さっきは“南美”って呼んでくれたじゃないですか…。」

 

「じゃ、じゃあ…、南美…。」

 

「はい、何ですか?」

 

「好きだよ…。」

 

「私もです。」

 

お互いの気持ちを再度伝えあった二人はもう一度キスを交わす。

そして心地良い疲労感と共に微睡みに身を任せ、体を寄せ合いながら眠るのだった。

 

 

 

 

 

───翌日

 

 

side ほんわ君

 

 

朝の日差しの眩しさで目を覚ます。

隣にはまだ規則的な寝息を立てて眠っているノーサさん、いや恋人の南美がいる。

 

昨日の事が夢じゃ無かった事を実感して思わず口角が上がり、頬が緩む。ヤバい、この顔は確実にカセンさんに弄られるヤツだ…。

 

でも、カセンさんには後でお礼に行かないと…。こうして南美と結ばれたのはカセンさんの助けがあってこそだった。

 

 

side out...

 

 

 

side 南美

 

 

ん…、もう、朝なの…?

 

窓から差し込む光で目を覚ました。けど目の前の天井はいつもと違う、見慣れないもの。

ここはどこだったかを思い出そうとした時にほんわ君さんの顔が見えて、昨日の事を思い出した。

 

そうだった、私はやっとほんわ君さんと結ばれたんだ…。

思い返すと凄く嬉しくて今でもにやけちゃう…。

この顔はカセンさんに見られたら一発で何かあったか見抜かれる顔だ…。

 

あ、でもカセンさんには報告しないと…。

色々なアドバイスも貰ったし、一番先に報告しなきゃいけないと思う。

 

 

side out...

 

 

 

─TRF‐R事務室

 

晴れて結ばれた二人はその旨をカセンに伝えるべく、TRF‐Rを訪れた。

 

「取り敢えず、二人ともおめでとうと言わせておくれよ。よかったねぇノーサ、ほんわ。」

 

「あ、ありがとうございます。カセンさんのお陰で私はほんわ君さんと結ばれました。」

 

「ぼ、僕からも言わせてください、ありがとうございます!!」

 

二人は揃って頭を下げた。

その様子にカセンは微笑ましい物を見るような顔を浮かべる。

 

「まぁ、鈍感なアンタらが恋仲になったんなら、仲人のアタシもやっと一息つけるってもんだよ。全く相思相愛に気づかないとはねぇ…。」

 

カセンは大きく溜め息をつき、禁煙パイポをくわえ直す。

その苦言に二人は“あはは”と苦笑いするしかなかった。

 

「過ぎたことは仕方ないし、良いとして…。頑張んなよほんわ、自分の女に女としての悦びを教えんのも男の勤め…だからねぇ。」

 

「うえぇ!?」

 

「ふぇ?!」

 

「何だい、もう致しちまったのかい? ほんわぁ、アンタ見かけによらず手が早いねぇ…。」

 

初心な二人の反応にカセンはクスクスと小さく笑う。

3人がそんな風なやり取りをしていると、事務室の入り口からぼそぼそと小さな音がした。

 

 

「…まぁ、ほんわ、気張りなよ。ノーサを泣かせたら只じゃおかないからねぇ。」

 

そう言ってカセンは二人の間を通り抜け、事務室の入り口のドアノブに手を掛ける。

 

「そうだろう、アンタたち…。」

 

そう言うとカセンは一気にドアを開けた。

すると急に開いた空間にモヒカン達がなだれ込んだ。

 

「出歯亀とは感心しないねぇ…。ノーサが心配なのも分かるけども盗み聞きは良い趣味じゃないよ。よく言うだろう? “人の恋路を邪魔する輩は秘孔を突かれて爆発四散”ってさぁ…。」

 

(モヒ・ω・)<そ、それはどういう…。

 

(モヒ´Д`)<ことでしょうか…?

 

混乱を見せるモヒカン達に分からせるようにカセンは顎をしゃくって自身の背後を示す。

そこには世紀末覇者の如きオーラを纏う南美がいた。

 

「貴様ら生きては返さんぞ…。」

 

(モヒ゜Д゜)<ひ、ひぃぃいい?!!

 

(モヒ・∀・)<い、命だけはお助けを!!

 

 

「…許さん。」

 

(モヒカン)<嫌だぁあああああ!!!

 

 

 

(眉゜Д゜)<だからやめとけって言ったのによ。

 

(こ・ω・)<葬儀屋が儲かるね~。

 

(Ki・д・)<ノーサ=サンを怒らせてはいけまセン。

 

(*´ω`*)<まったくだ…。

 

(眉゜Д゜)<つーかほんわ、ホントにノーサでよかったのか?

 

(こ・ω・)<引き返すなら今のうちだぜ?

 

(TA・Д・)<リアルファイト全一と付き合う、後悔はねぇな?

 

「勿論ですよ。僕はノーサさんのああいうところも含めて大好きですから。」

 

(眉゜Д゜)<お、おう…。

 

(*´ω`*)<オレのブラックコーヒーが甘いんだけど…。

 

(Ki・д・)<ご馳走様デス。

 

 

 

クリスマスの翌日、TRF‐Rではモヒカン達はトマトケチャップにまみれ、修羅達には砂糖が振る舞われたという。

 

 

 

 

 

 






こうなってしまいました。
“こういうのはイヤ”派の皆さん、すいません。

こうならないようにしていたんですが、しっくり来なくて、何回も書き直すうちに自然とこんな展開になってしまいました。

それと補足ですが、ほんわ君の名前(店員ネーム)は“ほんわ君”です。だからくん付けだとほんわ君くんになります。

後、カセンとほんわ君は同い年ですが、正規店員としてはほんわ君が2年先輩です。
どういうことかと言いますと、

ほんわ君→高校一年生からTRF‐Rのアルバイト、高校卒業後にそのまま正規店員として雇用される。

カセン→高校一年生から(ほんわ君とほぼ同じタイミングで)TRF‐Rにてアルバイトを始める、卒業後は短大に進学。在学中もアルバイトは継続、卒業後はTRF‐Rに正規店員として雇用される。

つまりアルバイト時代から言えば同期なんですが、進学による時差が発生しただけです。


それと、余談ですが、次か、次の次辺りで原作編に突入しちゃいます。
大体こんな感じというプロットとかキャラに言わせる決め台詞みたいなのも考えてあります。

次章予告みたいな感じで先取りしたい方はいますか?
もしいたら次章予告を出しますが…。




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番外編 修羅の飲み会 そして次章予告!!


今回は短いです。

そして後半にはセリフだけですが若干のネタバレ要素が含まれています。

それが嫌な人は後半を読み飛ばしてください。

では本編?をどうぞ↓


修羅勢御用達の居酒屋“彩波軒(サイハケン)”、もう1つの行き付け、居酒屋“Go-Sho-Ha”とはまた違う趣のあるこの店で、今日もまた修羅達が集まって酒を飲む。

 

(♂・鋼・)<ヒャッハー、飲み会だぁ!

 

(TA・Д・)<お前は少し落ち着け。そんなんだから会社でネタにされんだよ。

 

(ら・∀・)<ねぇ鋼さん、会社でネタにされてどんな気持ちすか?

 

(♂・鋼・)<あれはねぇ、マジで恥ずかったね。まさか闘劇の開会式までDVDに収録とは思わねぇだろぉ?

 

(TA・Д・)<1回それで会社で弄られたのに、何で2回目やったんだよバカ‼

 

(♂・鋼・)<イヤ、だって1回目であんだけはっちゃけたんだぞ!? 3日目のアルカナ勢代表のハードルがどんだけ高くなったか知らねえのか?

 

(TA・Д・)<オメェのせいだろ!!

 

(♂・鋼・)<あんだけハードル上げて無茶ぶりしといてオレだけ逃げるなんて出来るわけねぇだろが!

 

(TA・Д・)<何でそこだけ真面目なんだよ!

 

 

 

 

 

(眉゜Д゜)<これでノーサにやっと春が来たのか…。

 

(ら・∀・)<あれあれ? 寂しいんすか?

 

(DP・Д・)<NDK? NDK?

 

(*´ω`*)<あれでしょ? 自分の娘を嫁に出す父親みたいな。

 

(*M*)<結婚もしてねぇのにそんな気持ちを味わうとはねぇ…。思いもしなかった。

 

(チ゜Д゜)<気にしたらダメっしょ。何ももうTRF‐Rに来ないわけじゃないんだからさ~。

 

(Ki・д・)<ノーサ=サンの事を考えるなら、ちゃんと祝うべきかと。

 

(TA・Д・)<確かになぁ…。

 

(♂・鋼・)<それじゃあ、ノーサとほんわの未来に幸せがあることを祈ってぇ、カンパーーイ!!!

 

(修羅勢)<<カンパーーイ!!!

 

 

 

 

 

次章予告!!

 

ノーサこと北星南美の中学生生活も終わり、ついに迎えるIS学園での高校生活。

期待に胸を膨らませる南美にはどんな未来が待っているのか…。

 

 

「教官との実技試験ねぇ…、別に勝っちゃっても構わないんでしょ?」

 

「ねぇ貴女、私《わたくし》の名前を言ってくださらない?」

 

「力こそ正義、良い言葉だよね!」

 

「もう一度だけチャンスを差し上げます。今謝れば許してあげないこともないですわよ?。」

 

「キミと私の間には決定的な違いがある…。それは欲望、執念だ。」

 

「その情報、古いよ…。」

 

「ヒャッハー、種籾かぁ!?」

 

「な、名も無き修羅が来やがったぁ!?」

 

「どいつもこいつも、お姉ちゃんお姉ちゃん、私の周りはみんなお姉ちゃんって、何でよ! どうして誰も私を認めてくれないの!?」

 

「あれ? 北斗七星の横にあんな小さな星ってあったっけ?」

 

「コレこそが君の専用機“ラスト”の立体機動戦特化型パッケージ装備、その名も“水鳥”さ。」

 

「何で諦める必要があるの? どうして迷うことがあるの! 奪い取れば良いじゃない! 今は悪魔が微笑む時代なんだから!」

 

「自ら望んで選んだ道…、今更躊躇いもないわ…。」

 

「僕だって今よりも明日を生きたいよ…。でも─」

「人間の皮を被った悪魔め!!」

 

「よろしくね、南美お姉ちゃん…。」

 

「ヒャッハー、海だぁあ!!」

 

「命は投げ捨てるもの…。」

 

「退かぬ!媚びぬ!省みぬ! 天空を羽ばたく鳳凰は決して落ちぬのだ!!」

 

「お帰りなさいませ、ご主人様?」

 

 

長かった中学生時代も終わりを告げ、IS学園に入学した南美、彼女に待つのは──

 

「IS世界に世紀末を持ち込む少女」、IS学園編をご期待ください。

 

 

 






結局修羅勢もただの人なんです。

そして居酒屋“Go-Sho-Ha”と“彩波軒”

どんな人が店主なんでしょう?

鋼さんがやらかした出来事に関しての元ネタは「ヴォーテツサーン 闘劇08 開会式」で調べると分かると思います。



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IS学園編 1st season
第15話 実技試験



今回は少し短いです。


では本編をどうぞ↓


「教官との実技試験ねぇ…、別に勝っちゃっても構わないんでしょ?」

 

IS学園入試実技試験会場の第2控え室で南美はぼやくように呟いた。

その言葉を同室にいる鷲頭はしっかり聞いていたようで、小さく苦笑いを浮かべる。

 

「自信満々だね、南美くん。まぁそれくらいの方が我が社のテストパイロットらしいよ、ハハハ。」

 

IS学園の入試試験は筆記試験と実技試験との2段構えになっている。

最初に筆記試験を行い、次に実技試験でもって受験者を振るいに掛けるのだ。

 

そして実技試験とはISに乗って試験官と戦う事を意味する。

 

だが一般的な受験生はISに乗ったことなどないのがほとんどであり、南美やその他の特別な受験生とISに対する経験値が大きく異なる。

そこで公平を期す為に、一般受験者と特別な受験者とを別の基準で試験するように成った。

 

南美他、特別な受験者は一般的な受験生と違い、ガチの模擬戦を行うのだ。

と言っても、試験官に比べ、経験の浅い彼女達が負けてしまうことは仕方ないことなので、試験は勝敗を見るのではなく、ISへの理解度等を見るのである。

時折、勝ってしまう者もいるらしいが…。

 

「別に自信がある訳じゃないですよ。ただ、そっちの方が入学できる確率が上がると思ったからで…。」

 

「相変わらずの心配性だね。キミの成績なら大丈夫だろうに。」

 

「少しでも潰せる不安要素があるなら取り除きたいだけです。今回は…まぁ、高校浪人になりたくないからで…。」

 

バツが悪そうに目線を逸らす南美、その様子に鷲頭が声を上げて笑った。

 

「キミの成績ではあり得ない話だろうが、もしそうなったら我が社に就職すればいい。キミなら大歓迎さ。」

 

「そして総合格闘技で世界を獲れ…と。それも悪くないですね~。」

 

「そうだろう? ISで世界一、総合格闘技で世界一…。キミならどちらも出来るだろうさ。」

 

「まぁ今はISでトップを…、モンド・グロッソの頂点を狙いますよ。」

 

よっと南美が腰を上げる。すると、そのタイミングで控え室のドアがノックされ、関係者という刺繍入りの腕章を着けた女性が入ってきた。

 

「え~と、七ヶ星(シチガホシ)中学校、LOCエンタープライズ社テストパイロットの北星南美さん、こちらの準備が整ったので実技会場にどうぞ。」

 

「ん~。さーて、一暴れといきますか。」

 

南美はぐっと背を伸ばし、固まった体を丁寧にほぐしていく。

 

「いよいよ伝説の始まりだね。」

 

「勿論です、殴り込みますよ~。」

 

全身を伸ばし終えた彼女は自信に満ちた顔で控え室を後にした。

 

 

 

 

─試験監督観戦室

 

「…LOCエンタープライズ社か…。あの世紀末企業に所属するテストパイロット…。」

 

「どんな子なんでしょうか…?」

 

「筆記試験の結果を見れば、頭は良いようだ。それに、この経歴…、全中総合格闘技3連覇ほか、数々のタイトルを獲得か。あの社長がスカウトしたのも頷けるな。」

 

南美の経歴が書かれた書類に目を通した女性、織斑千冬が溜め息を吐く。

その目線の先には専用機“ラスト”を装着した南美がいた。

 

 

 

side 南美

 

「どうも、北星南美です。試験官さん、今日はよろしくお願いします。」

 

「はい、ご丁寧にどうも。試験官の愛乃です。」

 

挨拶をすると向こうも丁寧にお辞儀までして返してくれた。

やっぱりアイサツは大事だね。

 

向こうのISは量産機の打鉄《ウチガネ》、防御に重点を置いた、いわゆる固い機体だ。

 

固い機体、好都合だ。

私の専用機“ラスト”は貫通力ともう1つ、あることに重点を置いて作られた機体だ。その力を試すにはもってこいの相手だろう。

 

時は金なり、やるなら早いところ始めよう。

さぁ行くよ、ラスト!!

 

 

side out...

 

 

side 試験官、愛乃先生

 

 

さすがに専用機は速い…。

 

でも見たところ接近戦しか出来ない機体みたいだし、弾幕を張りさえすれば押さえ込めるでしょ…。

 

そう思っていた時期が私にもありました。

 

いくら手加減して弾幕を張っていると言っても、まさかあそこまで簡単そうに掻い潜って来るとは思ってませんでした。

軽いトラウマです。

 

あの目の前に急に突っ込んでくる急加速やら手刀突きで吹っ飛ばされたことは暫く夢に出そうです。

 

ボコボコにされたせいで打鉄の調子も悪くなっちゃいましたし…。これって始末書行きでしょうか…?

 

すいません、彼女との試合を思い出したらちょっと涙が出てきました。

 

何ででしょうか、なんともないはずの肋骨が痛むんです…。

 

side out...

 

 

side 南美

 

 

勝った…けど、なんだろうこの罪悪感は…。

試験官の人のあの怯えたような、ハイライトさんが何処かに消えてしまったような、san値が削られたような目には…さすがの私でも罪悪感を覚えてしまう。

 

そんな罪悪感を胸に抱えながら控え室を目指していると、前の方から金髪縦ロールヘアといういかにもお嬢様な子が青いISを纏った状態でこっちに歩いて来た。

 

次の受験者さんか…。なんか凄い育ちの良さげな感じの子だ。

まぁ向こうにすれば試験前だし、集中したいだろうから話しかけはしないけどね。

それに他人のことよりも自分のことだよね。

 

「ねぇ鷲頭さん。」

 

「どうしたんだい、南美くん。」

 

「いや~、前に言っていたパッケージ装備ってどうなっているのかなと思いまして。」

 

「あぁ、それのことか。それならもうほとんど完成しているよ。後は最終調整をすれば運用出来るだろう。」

 

ほうほう、それはそれは。なんにせよ戦略の幅が広がるのは良いことだよね。

 

さ~て、今日は家に帰ってあーちゃんと一緒にゴロゴロして過ごそうかな。

 

 

side out...

 

 

後日、合格通知と一緒に届いた辞書並みに分厚い参考書を見て、意気消沈した南美の姿が北星邸にて発見された。

 






早速心の肋骨を折られる被害者発生。

そして某お嬢様とのご対面(通路ですれ違うだけだったけど。)




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第16話 1年1組のホームルーム


今回は平均的な長さです。

では本編をどうぞ↓


IS学園とはその名の通り、ISについて学ぶ場所である。

ISは女性にしか操縦できないため、必然的にそこは女子校となる。

 

だがそこに異質な存在が一人…。

 

 

side 織斑一夏

 

 

はぁ…、何でこんなことに…。

いや、試験会場を間違えたオレの責任もあるけどさぁ。

もういいや、それよりもこの教室の空気をどうにかしたい。

 

なんなんだこの空気は…。周りの女子全員がこっちを見ている。

 

何でこんなに注目されてるんだよ…。

 

誰か助けてくれ、こんな重い空気はオレには耐えられない。

 

「ねぇねぇ、そこのキミ~。」

 

救世主現る!

隣の席の人が話し掛けて来てくれた。

 

隣の人は背が高くて、綺麗な人だった。でも、何処かで会ったような…。

 

「織斑一夏くんだよね? ひさしぶり、で良いかな?」

 

え、ひさしぶり…? こんな人とどこで会ったっけか…。全然覚えてないぞ?

向こうもそんなオレの様子を見てか、何かを思い付いたように手を叩いた。

 

「さすがに覚えてないか、あの一瞬だもんね。北星南美だよ、夏のレゾナンテで引ったくりを捕まえた時の。」

 

夏、レゾナンテ、引ったくり…。あぁ!!

 

「南美さん…!?」

 

「おお、覚えてた。」

 

あの時の女の子か…。それで見覚えがあったのか。

いや、でもビックリだ。

 

「いや~、ニュース見たときはビックリしたよ。まさかあの時に会った男の子がISを動かすとは思ってなかったからさぁ! キミ試験会場で何したのよ?」

 

「実はさ、会場間違えちゃって…。」

 

オレの言葉に南美さんはケタケタと笑う。うん、笑われても仕方ないね。

まさか高校試験の受験会場を間違えるなんて事をやらかしたからな。

 

「いやぁ~、笑わせてもらったよぉ。一夏くんって抜けてる所あるんだねぇ…。」

 

南美さんの目には笑いすぎでうっすらと涙が浮かんでる。そこまで笑われるとさすがに恥ずかしくなってくるぞ?

 

「南美さんはどうしてIS学園に?」

 

「南美で良いよぉ、同い年なんだしさ。えっとね、私がIS学園に来たのは妹との約束があるからなんだよ。」

 

「妹?」

 

「そう、妹。うちの妹ったら可愛いんだよ~。」

 

そう言って南美はスマホを取りだし、妹らしい女の子の画像を見せて来た。

 

確かに可愛い。画像を見せながら南美はこの子の可愛さについて語り始めた。

 

 

side out...

 

 

 

 

side 南美

 

 

いやー、一夏くんとこんなところで再会するとはねぇ、ビックリだよ。

ニュースで見たときも驚いたけど、まさか同じクラスになるとは、思ってなかったな。

 

それに私の妹愛を語ってもしっかり聞いてくれるし、ほんわ君さん以外で初めてかな?

 

けど、一番驚いたのは彼の変わり様だ。

初めて会った時とは比べ物にならないくらい雰囲気が違う、体格が違う。

それだけで彼があの時から今までどれ程の鍛練を積んだのか、予想がつく。

男子三日会わざれば刮目せよとはよく言ったものだ。

 

彼が全中剣道競技を優勝した時は“あぁ、頑張ったんだなぁ”くらいしか思わなかったけどこうして見ればそんな感想では失礼に思える。

 

恐らく生半可なものじゃなかっただろう。それこそ自分を限界までに追い込んで…。

 

その覇気、その瞳は間違いなく最強を目指す男のものだ。

 

なんて感慨に耽っていると、一夏くんが可愛い女の子に連行されて行った。

 

初日から逆ナンとは、さすがの色男ですな。

とか考えている最中に誰かが私の背中を指でつついた。

 

「ねぇねぇ、ミナミナ~。」

 

おぅ? なんだ、話しかけられているのかな…。

スッと後ろを振り向くとそこには袖をダルダルに余らせた小動物っぽい女の子。

 

「ミナミナって私のことかな?」

 

「そうだよ~、南美だからミナミナ。」

 

妙に間延びした口調で話すこの子。

今までの私の人生では初めて出会うタイプの子だ。

 

それもそうなんだよね、私の交遊関係って狭いからなぁ。クラスだと友達はあの3人、学校外だとTRF‐Rとジムだけだったからなぁ。

 

そりゃあこんなタイプは初めてですわ。

 

「わたしはねぇ布仏本音《ノホトケホンネ》だよ。」

 

「北星南美だよ、よろしくね。」

 

私が手を差し出すと、本音ちゃんも“よろしく~。”と良いながら手を伸ばした。

 

本音ちゃんとは良い友達になれそうな気がするよ。

 

暫くすると一夏くんと、一夏くんを連れ出した女の子が教室に戻ってきた。

 

あの女の子、見覚えがあると思ったら全中剣道競技女子の部の優勝者だ。

えぇと、名前は確か…、篠ノ之…箒さんだっけか?

 

決勝戦の映像は見たけど、彼女も凄まじかったなぁ。なんというか、こう、立ち塞がる者には容赦しないっていう気迫があった。

 

 

「みなさーん、席についてくださいね。ホームルームを始めますよ。」

 

入ってきた先生への第一印象は“幼い”だ。けれど先生をしているのだから年齢は私達よりも上なのは間違いない、まぁほんわ君さんと同じでかなり幼く見えるのだろう。本人はそれなりに気にしてるだろう。それで弄らないようにしないと…。

 

「え~と、皆さん全員いますね。私はこのクラスの副担任の山田真耶です。それじゃあ自己紹介をしてもらいます、出席番号順でお願いしますね。」

 

自己紹介かぁ、何を言おうかな?

なんかクラスの子達みんな育ちがよさそうで、格ゲーとか絶対馴染みがなさそう…。

 

う~ん…。

悩んでいると隣の一夏くんが立ち上がった。もう彼の番なのね、そう言えば苗字が織斑だったね。

 

「え~と、織斑一夏です。中学校で剣道をしてました。男子が一人しかいなくてアレですけど、迷惑を掛けないようにします。それでは1年間よろしくお願いします。」

 

そう言って一夏くんは頭を下げて席に座った。

 

さて、私の番かぁ…、何を喋ろう。最前列の席だから後ろを向いて…と。

 

「どうも、七ヶ星中学校出身の北星南美です。総合格闘技をやっています。この学校には武道系の部活が柔道と空手しかないのが残念ですが、もしよかったら誰か一緒に新しい部活を作りませんか? よろしくお願いします!」

 

うん、やりきった。

 

さーて、座りましょう…か、うん?

 

「なるほど、北星南美…。近くで見るとやはり違うな。良い体つきをしている、よくその年でここまで鍛えられたものだ、感心する。」

 

前を向いた私の正面には腕を組んで仁王立ちするスーツ姿の人。

 

私は、いや、世界中の人はこの人を知っている。

織斑千冬…、ISの初代世界王者…!!

 

山田先生は副担任、じゃあまさか私の担任って…。

 

「ん…? あぁ、もう座って良いぞ。」

 

じっと見つめる私の視線に気づいた千冬さん、いや千冬先生は私に着席を促した。

私はその言葉に従い座る。

 

「すまなかったな、山田先生。クラスへの挨拶を任せてしまって。」

 

「大丈夫ですよ、このくらい。」

 

千冬先生の謝罪に山田先生は笑顔で返事をした。仲が良い教師同士では説明できない何かがありそうな気がする…。

山田先生からの一方通行な気もするけど…。

 

「さて、私が1年間君たちの担任を務める織斑千冬だ。私の使命は若干15歳の君たちを16歳まで育てることだ。私の指導には全てイエスだ。文句があるなら実力で示せ、良いな?」

 

お、おう…、なんという独裁宣言。世紀末に染まってなきゃドン引きしちゃうね。

その証拠に他の子達は──

 

「「「キャアアアアアアッ!!!」」」

 

「千冬様よ!まさか生の千冬様にこうも早く会えるなんて!」

 

「私、千冬お姉様に会う為に南北海道から来ました!」

 

「私は北九州です!!」

 

それはそれは遠い所から…。

 

「ヒャッハー、千冬お姉様だぁ!」

 

っ!? 今モヒカンがいたような?!

 

て言うか、え? なんなのこの子達…。Mなの? キマシなの? 何でさっきの独裁宣言でそんなに盛り上がれるの?

悩んでいると千冬先生がバンバンと出席簿で教卓を叩いた。その瞬間クラスが静まる。

 

かなり訓練されたキマシ集団だなぁ…。

 

「まったく…。私のクラスにはバカしかいないのか?! それとも何か? 私のクラスにバカを集まるようにしているのか?」

 

あぁ、コレ、毎年恒例なんですね。御愁傷様です。

私は心の中で千冬先生に手を合わせた。

 

「もっと罵ってくださーい!」

 

「でも時には温もりを~。」

 

「そしてつけあがらないように躾てください!」

 

もう手遅れだ…。

千冬先生の胃が修羅勢を押さえるTAKUMAさん並みにストレスでマッハだ…。

 

「ホームルームはコレで終わりだ。次の授業に備えろ…。」

 

そう言って千冬先生は教室を出ていきました。

 

 

 

 

 

 





何となくですが、千冬さんなら普通に北斗南斗が使えそうな気がしてならないんですよね。

天将奔烈とか、剛掌波とか。


そして一夏くんがまともな自己紹介。
南美のお陰で緊張が解けたからでしょう。

新しい部活?
そんなの世紀末バスケ部に決まってるじゃないですか。




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第17話 英国淑女


今回は平均的な長さです。

では本編をどうぞ↓


「へぇ、南美って総合格闘技全中チャンプなんだ。」

 

「一夏くんこそ剣道競技で優勝でしょ?」

 

「お~、オリムーもミナミナも凄い~。」

 

ホームルーム終わりの休み時間、雑談を交わす南美、一夏、本音の3人にある人物が近寄る。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「なんだ?」

 

「うん?」

 

「ほえ?」

 

3人に投げ掛けられる声。それはどことなく育ちの良さを窺わせると同時に、彼女が心の内に含む高慢さを見せていた。

 

3人が声の主の方へ顔を向けると、そこには金髪縦ロールヘアの少女が多少機嫌が悪そうにしていた。

 

 

 

 

side 南美

 

 

「なんですの、その返事は? 私《ワタクシ》に話しかけられているのですからそれ相応の態度があるのではなくって?」

 

この言葉を聞いて私は確信した。この子は今の社会にありがちな女尊男卑の思想に染まった人だ。

 

ISが社会に出て女性が社会的に強くなった。けどそれは法整備でだ。決して女性自体が男性よりも強くなった訳じゃない。

 

でも、社会は歪んだ。行きすぎた女性優遇政策はそのまま女性の意識を塗り替え、今では女であることイコール偉いなんて言い出す人もいるらしい。

そんな人を私は同じ女として恥ずかしく思う。

確かに今の世界ではISを使えるという意味では偉い。けれどそれは一部のISパイロットが、だ。それも国防に携わる極々一部の…。

 

それなのにその他大勢の人達はISパイロットでもない、誰かから尊敬されるほどの何かを成し遂げた訳でも、そう至るまでの努力をしたわけでもないのに“女”であるという、たったそれだけの理由で偉ぶり、自分よりも努力している男を貶め、扱き下ろす。

 

そんなのは間違っている。

 

そんなこともあって私はこの手合いが苦手だ。一夏くんも同じらしい。

 

「ごめんな、オレってISパイロットとかには詳しくないんだ。だからキミのことを知らない。」

 

「まぁ!? 私の事を知らないですって?!」

 

縦ロールお嬢様は凄い驚いた顔をしている。あれぇ、この子何処かで…。う~んと、あれぇ、どこだっけ…。

 

なんて事を悩んでいると、縦ロールお嬢様が私の方に目を向けてきた。え? なんで?

 

「ねぇ貴女、私の名前を言ってくださらない?」

 

なんだその貴族風ジャギ様はっ!?

え~と、何だ? この質問をしてくるってことはジャギ様? いやない、それはない。ジード?ジャッカル?バイクのエンジン音?

よし取り敢えず北斗から離れよう、うん、そうしよう。

 

う~んと、あ、そうだ。見覚えあると思ったら実技試験の時にすれ違った子だ!

あの時とは服が違うから分からなかった。

 

で、肝心の名前が分からない…と。

 

「え~と、ツァギ?」

 

「セシリア・オルコットですわ!」

 

ほうほう、セシリア・オルコットさんね。覚えたよ。

なんとも貴族っぽい名前と顔立ちだなぁ…。

 

「で、そのセシリア・オルコットさんがオレに何の用事?」

 

「えぇそうでした。世界唯一の男性操縦者を見極めようと思いまして…。恐らくですがISについては素人でしょうし、それならば私が教えて差し上げようかと思いまして。出来ぬ者に教えるのもエリートの務め、ですから。」

 

「へぇ、エリートなんだ。」

 

「勿論でございますわ。このセシリア・オルコットはイギリスの国家代表候補生、選ばれたエリートなのですわ!」

 

大袈裟な身振り手振りを加えながら優雅に話す姿はとても絵になるなぁ。

ミュージカルでも見てるみたいだ。

 

「なぁオルコットさん、質問良いかな?」

 

「ええ、よろしくてよ。平民の質問に答えるのもまた貴族の務め、何でもどうぞ。」

 

貴族っぽいと思ってたらホントに貴族だった。なるほど、それであの髪型なのか。

 

て言うか。周りの女子みんな聞き耳立ててるよ。

 

「そのさ、代表候補生って何だ?」

 

─ズゴォ

 

聞き耳を立ててた子達の大半がずっこけた。いやぁ良いリアクションだねぇ。

 

「あ、貴方!それは本気で言ってますの!?」

セシリアちゃんが物凄い剣幕で一夏くんに詰め寄る。

おぉ、怖い怖い。

 

「あぁ、すまないけど知らないんだ。オルコットさんの言い方から凄いってのは分かるんだけどさ…。」

 

見栄を張らない。素直で良いね!

でもまぁ、ここら辺で助け船を出そう。

 

「一夏くんや、一夏くんや、漢字で考えてみて。」

 

「漢字で…?」

 

「そうそう。国家代表候補生を単語でバラすと?」

 

「えぇと、国家の代表の候補…。だよな? あぁ、そういうこと…。」

 

うん、分かってくれて助かるよ。

思ったけど、一夏くんって…いや、何も言うまい。

 

「お分かり頂けたかしら? 私は選ばれたエリートなのです。そんな私とクラスを共に出来るということだけでも幸運なのです。その事を自覚しておりますの?」

 

「あぁ、ラッキーだな。それで話を戻すけどさ、オルコットさんにはオレがどう見えてるんだ? 見極めるとか言ってたよな?」

 

一夏くんの言葉にセシリアちゃんの目がスッと鋭くなる。品物を鑑定する鑑定士のような目、一通り彼の事を観察し終えたセシリアちゃんは“ふぅ~ん…。”と小さく納得したように呟いた。

 

「野心…、それもそこらの小者が抱くような下らないものではありませんわね…。私が今まで見てきた軟弱な殿方とは違う、意志の強さを感じます。」

 

おぉ、そこまで気付くのか…。英国貴族、侮れんな…。

私も思ったことだ。一夏くんの目は頂点を目指す男の目をしていた。

たぶんだけど彼はかつて彼の姉、織斑千冬が到達したISの頂点を目指している。

 

「ふふふ、面白い殿方ですのね…。」

 

そう言ってセシリアちゃんは自分の席に戻って行った。

それと同じタイミングで千冬先生が入ってきた。もう次の授業なのか…。

 

 

 

「さて、授業を始める…が、その前に再来週に行われるクラス代表戦に出場するクラス代表を決めてもらう。」

 

千冬の言った“クラス代表”にみんなが首を傾げる。

いろいろと説明足らずな千冬先生の言葉に、山田先生が口を開いた。

 

「え~とですね、クラス代表はその名の通りクラスの代表さんなんですが、色々な雑務、そしてクラス対抗戦に出て、他のクラスの代表と試合をしてもらいます。」

 

「自薦、他薦問わない。誰かいないか?」

 

むむ、対抗戦かぁ…。試合経験が積めるのは良いけど、雑務は嫌だなぁ…。

 

「はい、織斑くんが良いと思います。」

 

「私も‼」

 

「右に同じです。」

 

おぉふ、ドンマイ一夏くん。

女の団結力は恐ろしいのぉ。まぁ、分かりやすいもんね。けどなぁ、対抗戦…、う~ん悩むな…。

 

「織斑しか候補に出ていないようだな、これ以上出ないなら織斑に決定す──」

 

「納得行きませんわっ!」

 

ダンッと物凄い音を立てて抗議する人が1名。この声はセシリアちゃんだね、うん、合ってた。

 

「オルコットか…、不満か?」

 

「ええ、クラス代表とはクラスの代表! 即ちクラスでもっとも実力のある者がなるべきです!!」

 

うん…? 実力、だって?

 

「ならばIS素人の織斑さんではなく、イギリス国家代表候補生の私が──」

 

「代表になるなら力を示せ…。セシリアちゃん、キミが言いたいのはそういうことでしょ?」

 

「えぇ、その通りですわ。」

 

急な私の発言にセシリアちゃんもビックリして、自分がちゃん呼びされてることも気付いてないね。

千冬先生は動じてないみたいだけど。さすがは世界最強。

 

「力こそ正義、良い言葉だよね! 私は好きだよ。それにさぁ、そんな事を言われたら私も立候補せざるを得ないじゃない…。」

 

私の言葉にセシリアちゃんの眉が少しだけ動いた。

まぁそうなるよね。この言い方だと暗に私の方が優れてるって言ってる風に聞こえるもんね。

 

「ふむ、それもそうだな。ならば推薦のあった織斑と立候補の北星、オルコットの3人で来週に決闘を行え。それで決める。織斑も異論は無いな?」

 

「勿論です、千冬ね、いや、織斑先生。決闘、上等じゃねぇか。」

 

一夏くんが立ち上がって私とセシリアちゃんの両方を見る。

闘志に満ちた目をしてるよ。面白い…。

 

「ふふふ、よろしいですわ。貴殿方に格の違いを教えて差し上げますわ。」

 

「良いぜ、かかってこいよ。」

 

二人ともヤル気充分って感じだね、やっぱりこうじゃないと。

 

「よし、代表決定の話はここまでだ。では授業を開始する。」

 

 

 

ふふ、来週が楽しみだね。

 

 

side out...

 

 





一夏くんのキャラが大分違いますね~。
それにセシリアちゃんも。

まぁ世紀末故に致し方なし。




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第18話 平穏って良いよね


今回は短いです。
それと、誤字を指摘してくださる方、ありがとうございます。

では本編をどうぞ↓


 

─放課後

side 南美

 

「さて、一夏くんや。来週の決闘だけど、勝算はあるの?」

 

今までISに関わらずに、入学決定から始業までの間でしか学んでこなかった一夏くんと、ISエリートのセシリアちゃん、テストパイロットをしてた私の間には大きな経験の差があるのだ。

 

「正直に言うと無い。…けど、それで逃げるのは違うと思う。どういう理由であれ、推薦されたってことは誰かの期待を背負ってるってことだから…。」

 

…やっぱり真面目な人だね。不意の事故で通うことになったのに、それをしっかり受け止めて、自分に出来ることを少しでもこなそうとしてる。

激流にただ身を任せるんじゃなくて、その激流に乗ろうとしてる。なかなか出来ることじゃないよ。

 

「…残念だけど私はキミのライバルなんだ。だから協力は出来ないよ。」

 

「あぁ、仕方ないよ。そこまで甘える気はないし。むしろ情けは無用だぜ?」

 

「もちろんだよ。戦う以上手加減はしない、全力を出すよ。」

 

そう言うと一夏くんは不敵に笑った。

 

 

side out...

 

 

 

 

side 一夏

 

 

 

「勝算はあるの?」

 

痛いところを突かれたな…。

 

「正直に言うと無い。」

 

そう、今のオレはIS素人。この学園だと下の方だろう。

だとしても、

 

「それで逃げるのは違うと思う。どういう理由であれ、推薦されたってことは誰かの期待を背負ってるってことだから…。」

 

大半の人は押し付けやすいからだろうけど、中には本当にオレに期待してくれている人がいるかもしれない。

その“かもしれない”がオレにとっては足掻くには充分な理由だ。

 

「…残念だけど私はキミのライバルなんだ。だから協力は出来ないよ。」

 

南美は口の端に微かな笑みを浮かべている。

この状況を楽しんでいるのか?

 

「あぁ、仕方ないよ。そこまで甘える気はないし。むしろ情けは無用だぜ?」

 

要らない情けを掛けられるなんて、男にとっては一番の恥だ。少なくともオレはそう思ってる。

 

「もちろんだよ。戦う以上手加減はしない。全力を出すよ。」

 

ふん、そう来なくっちゃな。燃えてきたぜ。

 

 

side out...

 

 

「織斑くん、よかったぁ~、まだ教室にいたんですね。」

 

談笑し合う二人の前に山田真耶が現れた。

肩で息をしており、額には玉の汗が浮かんでいる。

 

「ありゃ?どうしたの山田先生?」

 

「あは、あはは、その、さっき織斑くんに渡そうと思ってた物をですね…。」

 

「渡し忘れた…と。」

 

真耶は“あはは…。”と苦笑いを浮かべる。

そしてポケットをごそごそと漁り、一本の鍵を取り出した。

 

「コレが織斑くんの部屋の鍵です…。で、荷物とか生活必需品とかは織斑先生がもう部屋に入れてくれてるらしいです。」

 

「そうなんですか、分かりました…。」

 

鍵を受け取った一夏は鞄を持ってそのまま教室を後にした。

南美もやることはもう残ってない為に、そそくさと寮に帰って行った。

 

 

 

──学生寮 1年棟

 

 

side 南美

 

ホントに無駄なくらい広いよね。いや、世界各国からエリートが集まるからそれほど無駄じゃないのか…?

 

まぁ良いや、え~と1022号室は…と、あったあった、ここだね。鍵は開いてるみたいだし、ルームメイトはもういるっぽいね。

 

「お邪魔しまーす。この部屋に住む北星南美です。よろしくね。」

 

「お~、ミナミナだ~。」

 

「本音じゃーん! この部屋なのか~。」

 

まさか同室になるとは。癒し成分を毎朝摂取出来るのは良いね。

さてと、本音とじゃれつつ部屋に届いている荷物を開けますか。私の段ボールはあれか。

 

「ミナミナの荷物の中身は~?」

 

「にひひ、これだよ。」

 

段ボールを開けて中からゲーム機と北斗(家庭用)を取り出す。他にも色々入れてるけど、まだ良いだろう。

 

「格ゲーかぁ、私はあまり得意じゃないなぁ~。」

 

…言っちゃなんだけどトロそうだもんね。コマ入力とか間に合わなさそう。

 

「まぁ見てるだけでも楽しいっしょ。たぶん…。」

 

さーてやり込みを始めましょう。

なにやら近くの部屋でドアをぶち破った強者がいるらしいけど無視だ無視。

 

ジョインジョインジョインジョインシィン

 

キャラ対は重要だからね。

 

 

side out...

 

 

この後南美はノーサモードになり、小一時間ほどバスケをし続けたという。

 

 

 

 

 

 

 





基本はやり込みですよ。
ノーサ曰く「やり込みは嘘を吐かない」です。




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第19話 世紀末の幕開け


今回は少し長めです。

それでは本編をどうぞ↓


side 南美

─ピピピピ ピピピピ ピダンッ

 

目覚ましを止め、布団から這い出る。春の早朝はまだ寒くて温かい布団の中が恋しいけども仕方ない。

「さて…と、この日が遂に来たよ。」

 

今日はセシリアちゃん、一夏くんとの決闘の日だ。出来るだけ体は起こしておきたい。

 

さて、本音は…。

 

「う~ん…、人の体はボールじゃないよぉ…、むにゃむにゃ…。」

 

どんな寝言だ…。

もしかして太り過ぎてボールみたいにまん丸になっちゃった夢かな?

それならうなされるのも納得だね。女子にとっちゃ太ったなんて、それこそsan値直葬級の出来事だもんね。

うん、そうだ、きっとそうに違いない。断じて初日に見せた“アレ”が原因なんてことはない…と思う。

 

さてと、まだまだ熟睡中の本音を起こすか否か、それが問題だ。

もし起こさないで私だけ朝食を摂り、本音が朝のホームルームに遅刻したらルームメイトの私も責任を問われるだろう…。

けど、本音を起こすのも手間なんだよなぁ…。

…仕方ない、起こそう。

 

「本音~、起きて、ほらっ!」

 

「う~ん、あと2時間~。」

 

阿呆ぬかせ!

もう自棄だ。こうなりゃ必殺の布団剥ぎだ!

 

「うりゃ!」

 

布団を引ったくられた本音は寒そうに身を縮めてる。

雨の中に捨てられた小動物のような目でこっちを見てくるが無視だ。

あれと目を合わせて罪悪感に駆られないほど私は極悪人じゃない。

 

「ほら、早く着替えて。朝ご飯に行くよ。」

 

「う~、分かったよ~。」

 

観念した本音は着ぐるみタイプのパジャマから制服に着替える。

 

 

side out...

 

 

 

遂に来た決闘の時間、IS学園の第3アリーナの観客席には大勢の生徒が開戦を今か今かと待ちわびていた。

 

「…織斑先生、質問よろしいですか?」

 

選手控え室のモニターからアリーナの様子を見ていた南美が手を挙げる。

千冬もどんな質問が来るのか分かっているのか、“言ってみろ”とだけ返した。

 

「なぜ1年1組以外の生徒が大勢いるんでしょうか?」

 

「私にも分からんよ。他の先生達は何をしているんだ?わざわざ授業の時間を潰して…。」

 

(…その言葉、思いっきりブーメランですよ、織斑先生…。)

 

自分も授業を潰して決闘やらせてるじゃないですか、という思いをそっと心の聖帝十字陵に閉まった南美は勘づかれないように平静を装う。

 

「それで、まだ一夏くんは戦えないのよな?」

 

「あぁ、まだオレの専用機が来ないんだ。万が一には量産機の打鉄を使おうとは思うんだけど…。」

 

同じ控え室にいる一夏は少しばかり焦っていた。

もしもの時の覚悟はしているものの、どこか不安が見えていた。

 

彼には専用機が支給される手筈だった。

世界唯一の男性操縦者、その稼働データ採取の目的で国家が彼に専用機を与える…はずだったのだが、まだ彼の手元には来ていない。

 

更に追い打ちを掛けるように、決闘までの1週間、彼はISに触れられなかった。

訓練機として貸し出す用の機体が他の生徒の予約で出払っていたからである。

そのため、彼はこの1週間はずっと篠ノ之箒と剣道ばかりしていた。

 

「まぁ、覚悟はしといた方が良いね。じゃあ観客を待たせるのも悪いし、私が先に行きます。織斑先生、良いですよね?」

 

「あぁ、構わないぞ。存分に戦うといい。」

 

千冬の許可をとり、南美はラストを身に纏い、カタパルトに乗る。

 

「last of centuryエンタープライズ、テストパイロット、北星南美。出撃ぃ!!」

 

カタパルトから勢いよく射出された南美は宙を舞い、アリーナに着地する。

アリーナでは既にセシリアがISを纏い、ライフル片手に待機していた。

 

「あら、最初の相手は貴女ですか…。」

 

「まあねぇ~、一夏くんの専用機がまだまだ来ないんだってさ。」

 

“私は前座だねぇ”と自嘲的に呟く南美を見て、セシリアがあることに気づいた。

 

「北星さん、貴女…、装備はどうしたのですか?」

 

南美は今手ぶら、普通の者から見ればまだ武装を展開していないか、元から持っていないように見える。

 

「ん? あぁ、武器なんかいらないよ。」

 

南美のISは徒手空拳、時代の流れに逆行した機体。よって兵装は何もないのは当たり前なのである。

だが、南美の言葉を聞いたセシリアは眉間にシワを寄せていた。

 

「つまり貴女は…この私を相手に素手で十分と仰るので…?」

 

怒りで片方の眉がぴくぴくと動き、ライフルを握る手には力がこもっている。

 

「ですが、私は心が広いので謝れば許して差し上げますわ…。」

 

「いや、だからね…。」

 

「言い訳をするということは、やはり本心ですか…。」

 

怒りで平常心を欠いているセシリアには南美の声は届いていない。

スッとライフルを構え、南美にその銃口を向ける。

 

「もう一度だけチャンスを差し上げます。今謝れば許してあげないこともないですわよ?」

 

「だからね、セシリアちゃん!?」

 

「問答無用!!」

 

突きつけたまま、躊躇いもせずに引き金を引く。

銃口から一閃の光が駆ける。

 

「ちょぉ、まっ!?」

 

一瞬の判断で右に避ける南美に次々とレーザーが撃ち込まれるが、南美も南美で撃ち込まれるレーザーを一発ずつ避け続ける。

 

(話くらい聞いてよ、英国淑女ってみんなこんな感じなの?)

 

南美は前後左右に高速で動き回り、セシリアの張る弾幕をいなし、突破口を探る。

 

(…立ち回りは射撃特化型かぁ。設置型じゃあないみたいね。接近型を相手にするには弾幕がまだまだ薄いけど、先読みと射撃の正確さでカバーしてるって感じだね。)

 

完全にISを操りきり、南美は弾幕の隙間を縫って飛ぶ。

 

 

 

─控え室

 

「す…げぇ…。」

 

モニターでセシリアと南美の試合を見ていた一夏が思わず呟く。

 

「よく見ておけよ一夏、そして篠ノ之。お前らの適性は近接、北星はその一点においてお前らの年代ではかけ離れている。」

 

ベンチに座る一夏とその隣にいる箒に千冬は言う。彼女の表情はその言葉に一切の誇張がないことを物語っていた。

 

その時、控え室の扉が勢いよく開かれた。

 

「織斑くん、来ましたよ! 織斑くんの専用機が!!」

 

「遂に来たか、間に合ってよかった…。」

 

専用機到着の報を聞き、一夏はスッと立ち上がる。

その目線の先には一機のIS、中世騎士の甲冑を思わせるフォルムの白い機体が鎮座していた。

 

「コレが、オレの専用機…。」

 

「はい、その名も『白式』です!」

 

「急いで最適化処理《フィッティング》と初期化《フォーマット》を行え、間に合わんぞ。」

 

千冬に急かされ一夏は急いで白式を纏い、作業を開始する。

そのISを本当の意味で自身の物にするために。

 

 

 

 

 

「なかなかしぶといですわね…。」

 

「お褒めに与り光栄にございますよ。」

 

戦闘開始から早くも十数分、南美は未だ被弾ゼロのままセシリアの周囲を飛んでいた。

 

 

side 南美

 

 

レーザー弾にもけっこう慣れてきたな。実弾の方は試験官の…愛乃先生のお陰で慣れたし、良い感じだね。

 

さ~て、大体の癖は掴めた…かな?

今までの動きが全部演技で、癖を読んだと思わせてズドンッなんて事をセシリアちゃんが考えてなきゃだけど…。

 

でもまぁ…、奥の手があっても使わせなきゃ良いんだ。

 

「フゥゥゥ、シャアッ!!」

 

 

 

side out...

 

 

 

side セシリア

 

 

当たりませんね…。大口を叩くだけはありますわ。

 

ですが、私とて栄誉あるイギリス国家代表候補生、極東の企業に所属するテストパイロット如きに敗ける訳にはいきませんの!!

 

「フゥゥゥ、シャアッ!!」

 

なんですの、この声は!?

 

─ズダァ

 

…え? 嘘、いつの間にここまで距離を…?

いえ、今はそんな事を気にしている場合はありませんわ。

 

早く、早く迎撃しなくては…。

 

 

side out...

 

 

 

観客は皆、自分の目を疑った。なぜならさっきまで離れていた南美が次の瞬間には既にセシリアに肉薄していたのだから。

 

セシリアは肉薄してきた南美を迎撃しようとライフルを向けようとするが、既に懐に入っていた南美は腕で銃身を払いのけ、セシリアの腹部に渾身の手刀突きを打ち込む。

 

するとセシリアの体は吹き飛ばされ、アリーナの闘技スペースと観客席を区切る遮断シールドに叩き付けられ、そのシールドエネルギーを更に減らす。

そして吹き飛んだセシリアに追従するように追っていた南美が上空から飛び掛かる。

 

「セシリアちゃん、キミの機体は遠距離特化。つまり、近づいてしまえば良いんだ‼」

 

そのまま南美は手刀を振り下ろす、だがそこに手応えはなかった。

 

「私にも誇りがありますわ、戦いの中で何もできずに敗けるなどと、私のプライドが許しませんの!」

 

セシリアは自身の持つライフルを盾にしていた。

南美の放った手刀はライフルの銃身を滑り、セシリアには届いていなかった。

 

セシリアはライフルを盾にしたまま前蹴りを南美の腹に打ち込み、壁際から逃げ出す。

 

「お行きなさい、ブルーティアーズ!」

 

距離を取ったセシリアの機体から4機のビットが飛び立つ。

 

「ハァ、ハァ…、ここからが本番ですわよ…。」

 

追い詰められたことで呼吸を乱したセシリアが南美と視線を合わせる。

 

(先ほどの瞬間移動のようなアレはなんですの…? 今までに習ってきた機動方法のどれよりも速く、鋭いなんて…。これ以上好き勝手にさせませんわ、ブルーティアーズで足を止め、ライフルで確実に仕留めるしかないようですね…。)

 

ビットは素早い動きで南美の周りを動き、彼女の視線を散らしていく。

 

(まだ奥の手を持ってたのね、さっきのバニからの流れで決められると思っていたのに。セシリアちゃん、まだ段階を残していたのね…。)

 

ビットに警戒しながら動き続ける南美の顔には笑みが浮かんでいる。

強敵との邂逅を喜んでいるような笑み、それはとても輝いて見えた。

 

「ごめんね、セシリアちゃん。私はキミの力を少しばかり見くびっていたよ…。」

 

「今更なんですの!?」

 

「これから見せるのは私が修羅の国で磨いた技、その1つよ。」

 

言い終わるとまた南美はセシリアの前にいた。

 

「シャオッ!」

 

移動した勢いのままセシリアの膝に蹴りを入れて崩し、体勢の崩れたセシリアに向かって右手に展開したエネルギーブレードを下から上に振り上げる。

 

「ショォオオッ!」

 

手刀突きでセシリアを吹き飛ばし、それに追従して加速し、追撃する。

その南美の背から綺麗な光が尾を引いていた。

「フゥ、ショオッ!!」

 

多段突きと下から上に振り上げるブレードでセシリアのIS“ブルー・ティアーズ”の装甲を剥ぐ。

 

「これで終わりよ、南斗孤鷲拳奥義! 南斗翔鷲屠脚!!」

 

体勢を低くしてセシリアの下に潜り込み、膝蹴りをセシリアの腹部に当て、そのまま足を伸ばして顎を蹴り上げた。

その時一筋の雷光が立ち上がる。

 

その瞬間、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

そして南美は膝をついて下を向くセシリアに近づき、片膝をつく。

 

「セシリア・オルコット…。」

 

「な、なんですの…?」

 

南美の問いかけにセシリアはビクリと体を震わせ、顔を上げた。

セシリアの目に映ったのは戦いを終えた戦士のような表情を浮かべる南美の姿であった。

 

「セシリア・オルコット、私はキミのような強敵《とも》に出会えたこと、戦えた事を誇りに思う。そして、キミの実力を甘く見ていた非礼を詫びよう。済まなかった…。」

 

「それは私もですわ…。貴女の実力を軽んじ、ビットを展開しなかった。この敗北は私の慢心が招いたもの、私こそ、貴女のような方と戦えて光栄でした。」

 

そう言って二人は互いの手を差し出し、握手を交わした。

 

こうして1年1組のクラス代表を賭けた決闘の第1試合は幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 





女の友情が芽生えた瞬間ですね。
戦い終えた直後だからか、南美にはまだスイッチが入ったままでした。




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第20話 サムライと淑女


今回は少し短いです。

では本編をどうぞ↓


女の友情が芽生えた第1試合は南美が専用機の力を遺憾なく発揮し勝利を納めた。

 

そして迎えた第2試合、セシリア・オルコット対織斑一夏の勝負。

 

南美との試合から自身の未熟さを知ったセシリアは試合開始前からビットを展開し、一夏を待っていた。

 

「待たせたな。」

 

カタパルトから射出され、一夏は勢いよくアリーナに着地する。

 

「逃げずによく来ましたわね。」

 

「男として逃げる訳にはいかねぇだろ? それもあんな試合を見た後でよ。」

 

一夏の顔には早く戦いたくて仕方がないと行った風な表情が浮かんでいる。

 

 

 

─控え室

 

「…一夏くんの機体ってもしかして…。」

 

「気付いたのか? さすがと言ったところか…。」

 

モニターでアリーナの様子を見る南美が何かに気付いたように呟くと、その隣にいた千冬が感心したように南美を見る。

 

「えぇ、たぶんですけど、あの機体ってブレードしか装備がないんですか?」

 

「その通りだ。」

 

「人の機体にとやかく言える立場じゃないですけど、何でまたそんな癖の強い機体を…。初心者に使わせる機体には思えないんですが…?」

 

「さぁな、私もよく分からんよ、あのバカの考えることなどな…。」

 

南美の問に千冬はどこか遠い目をしていた。

 

 

 

side 南美

 

 

何だろう、千冬先生から変な感じがする…。う~ん、考えても仕方ないか、今は試合を見よう。

 

セシリアちゃんは既にビットを出してる本気モード。アレは慣れてないと近付けないかもしれないね。

 

お、始まった。

一夏くんはブースト吹かして接近、まぁそうだよね。ブレードオンリーならそうしなきゃ何も出来ないまま蜂の巣にされちゃう。

 

けど、私もやってみて分かったけど、セシリアちゃんのあのビットはかなり高い精度だ。

加えてあのライフルによる狙撃、私が接近できたのは奇襲に成功したからだ。

 

ただの特攻じゃあ突破出来ないよ。

 

近接兵装の無いセシリアちゃんの機体“ブルー・ティアーズ”は相手に近付かれたら為す術なく負ける。

だからたぶんだけどセシリアちゃんは相手を近付けないことに特化して訓練してきたんだろう。

 

だから、機体性能を押し付けて正面からの突破は難しい。それも今の一夏くんみたいに直線的な動きだと特に…。

 

うん、予想通り一夏くんは回避する一方だね。

けど、一夏くんの専用機、白式だっけ? 基本性能が高いなぁ…。

基本性能だけならかなりのもの、でもそれをまだまだ活かしきれてない。

 

ん…? ビットの動きが妙だな…。さっきまでどこにもつけ入る隙が無かったのに、今は1ヶ所だけ薄い場所がある。まるで意図的にそうしてるみたいに…。

やっぱり、セシリアちゃんは凄いパイロットね、私との時は冷静さを欠いていたのもあるのかしら…。

 

ふふ、一夏くんも、弾幕の薄い場所を見極められるのも凄いけど、今回はセシリアちゃんの方が1枚上手ね。

 

相手をおびき寄せて罠に嵌め、そして一気に押し込む。ライフルとビットの一斉射撃は今まで地味に削られてきた一夏くんじゃ耐えきれないはず、この勝負はセシリアちゃんの勝ちかな?

 

あれ? ブザーが鳴らない…?

まだ耐えたってこと? でも白式はもう満身創痍でブルー・ティアーズの一斉射撃を耐えきれるほどシールドエネルギーは残ってなかったはず…。

 

くそッ、土煙が邪魔だ、早く晴れろ…。

よし、徐々に晴れてきた…、って、嘘でしょ…。

 

 

私の目に映ったのは無傷の白式、それもさっきまでのくすんだ灰色の装甲に覆われた機体ではなく、受けた光を綺麗に反射する純白の装甲に身を包んだ新しい姿だった。

 

もしかして一夏くん、白式はまだ一次移行《ファーストシフト》すら終わらせていなかったの?

それであの機体性能とか、どんだけなのよ。

 

「この刀は千冬姉が使ってた雪片の後継、その名も雪片弐型だ。」

 

雪片…だと…!? 冗談キツいよ一夏くん。

雪片と言えばキミのお姉さんが世界を取る要因になった化け物武装じゃんか…。

シールドエネルギーを含む全エネルギーを無効化する…。もしその一撃を食らえばシールドエネルギーの大半は消し飛ぶ。

 

一撃で7割、8割とかサムスピかっての、いやサムスピよりひどいかもしれない…。私の“南斗翔鷲屠脚”でさえ機体のリミッターを全解除して、フルに活用してやっとあの威力を発揮出来るのに、雪片の能力“零落白夜”は常時その威力を出せるんだ、厄介この上ないね。

 

おまけにあの機体性能か…。一次移行前であの性能だ、移行が済んだ今だとどれくらいなのかは想像に難くない。

 

でも弱点が無い訳じゃない…。千冬先生の初代雪片は零落白夜発動中は常に自身のシールドエネルギーを消費していた。つまり燃費が悪い。

粘りに粘ってスリップダメージで自滅させるのが一番の対策な気がする。

 

セシリアちゃん、その事に気付けるか? いや、ISパイロットなら誰でも知ってる雪片の能力を前にすればそのプレッシャーでそこまで気が回らないか…?

 

これで試合の流れが変わったか?

さっきまでのセシリアちゃんに傾いていた流れが徐々に変わってきてる…。

 

機体性能に頼った強引な攻めでもセシリアちゃんに食らい付けるんだ、それに零落白夜はエネルギー兵器オンリーのブルー・ティアーズとは相性が良すぎる。

もう一夏くんはセシリアちゃんのライフルを避ける必要すらないんだ。

 

一夏くんがセシリアちゃんに雪片弐型を振り下ろす。

けれどセシリアちゃんだって負けてない。もう接近されてからは取り回しの効かないライフルを盾に一夏くんの猛攻を捌きながら反攻の機会を窺ってる。

 

けど、やっぱり近接戦の経験値に差があるみたいだ。

徐々に押し込まれ、追い詰められていくセシリアちゃん。

そして押し込まれ、完全に体勢を崩した彼女に一夏くんは雪片弐型を振りかぶり、思い切り振り下ろした。

 

「インターセプター!」

 

──ガギィン

 

セシリアちゃんの声と、一寸遅れて鈍い音が響く。

あまりの衝撃に二人の周囲には土煙が舞っていた。

そしてそれと同時に試合終了を告げるブザーが鳴った。

 

まさか、セシリアちゃんの負け…か?

 

「試合終了、勝者セシリア・オルコット。」

 

え? セシリアちゃんの勝ち、だって?

じゃあ一夏くんが振り下ろしたのは当たっていない、いやその前にセシリアちゃんは反撃できる体勢じゃなかったはずだ。

 

「あのバカめ…。」

 

モニターに食いついて見る私の後ろで千冬先生が呆れたような声を出した。

それで私は何が起こったのかを把握した。たぶん一夏くんは雪片弐型にエネルギーを食い尽くされたのだろう。初めての武器ということもあり、エネルギー管理を忘れてガン攻めした結果だ。

ここがTRF‐Rなら画面見ろとか言われて煽られても仕方ないくらいには間抜けた負け方と言えるだろう。

 

でもまぁ、一夏くんは学習するだろうし、私との試合の時はそんな簡単には自滅しないだろう。

一筋縄じゃあいかないか。セシリアちゃんのお陰である程度の能力を確認できたのが幸いか…。

 

…さてと、あと十数分したら私の出番だ。

 

 

side out...

 

クラス代表を決める決闘の第2試合は織斑一夏の自滅という形で終了し、残すは南美対一夏の試合のみとなった。

 

 

 





南美から見た二人の試合という感じで書いてみました。

“分かり難いわ!”という方、すいません。

今回の書き方をフィードバックしまして、今後に活かしたいと思います。



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第21話 決着、そして終わりに…


今回は少し長めです。

では本編をどうぞ↓


「ヒューッ! 近くで見ると余計格好よく見えるねぇ。それがキミの専用機のホントの姿って訳か…。」

 

続く第3試合、準備を終えた二人はほぼ同時にアリーナに到着し、向かい合っていた。

 

「こいつの能力はもう分かってんだろ? 当たればタダじゃ済まないぜ?」

 

「残念だけど、当たれば即死なんて、こっちにとっちゃ日常茶飯事さ(北斗的な意味で)、ちゃんと立ち回りも心得てるよ。残念だったね。」

 

「そいつは残念だ。でも、策がない訳じゃない。南美、勝たせてもらうぜ。」

 

「上等じゃんか、やれるもんならやってみなよ。」

 

向かい合う二人は互いに笑う。

それは戦いを前にした戦士の笑みであった。

 

アリーナのディスプレイに数字が表示され、試合開始までの残り時間を告げる。

 

 

──残り3秒

 

一夏は闘志を燃やす目を更に鋭くし、雪片弐型を強く握りしめ、南美は息を吐き、全身の力を抜く。

 

 

──残り2秒

 

南美は脱力した体にほどよく力を入れ、一夏を観察し、一夏は雪片弐型を正眼に構える。

 

 

──残り1秒

 

一夏は零落白夜を起動し、いつでも斬りかかれる体勢を確保、南美は構えを取り、指先に力を込める。

 

 

──残り0秒

 

 

カウントが0を刻み、開始を告げるブザーが鳴り響く。その瞬間、両者とも動いた。

 

 

「うぉぉおっ!!」

 

「沈めっ!!」

 

正眼の構えのまま突進する一夏の足下を掠めるように南美が低い体勢からスライディングで潜り込む。

 

「シャオッ!」

 

スライディングで足下を高速で通りすぎた南美は直ぐ様起き上がり、背後からの一撃で一夏を遮断シールドまで軽々と吹き飛ばした。

 

「どうしたの? 策があるんでしょ?!」

 

「今のはほんの小手調べってやつさ…。見せてやるさ、オレの“策”ってやつをさ。」

 

遮断シールドに叩きつけられた一夏は苦い笑みを浮かべながら立ち上がる。

スッと雪片弐型を構え直すが、正眼の構えではなく、上段に大きく振りかぶったままの上段の構えだった。

 

「行くぞ南美…。さっき言ったけど零落白夜はシールドエネルギーを無視する。当たれば…。」

 

「あぁ知ってるよ。だけど当たらなきゃただのなまくら刀さ。人の心配するなら人に当てられるようになってからするんだね。」

 

絶大な威力を持つ雪片弐型の零落白夜を前にしても南美の態度は変わらない。

だがその目には一切の油断もない。

それも当然だ、今彼女が対峙しているのは当たればそれこそ一撃必殺の刀なのだから。

 

「フゥゥゥ…。」

 

南美は極限まで集中力を高め一夏を見る。一方の一夏は零落白夜により徐々に自身のシールドエネルギーが蝕まれていく中、じっくりと攻めいる機を窺っていた。

 

─睨み合い、一時の静寂がアリーナを包む。

 

 

 

「ショォオオッ!!」

 

緊張を破ったのは南美だった。

 

セシリア戦で見せた瞬間移動とも言える高速機動で一夏の前に一瞬で踏み込む。

だが一夏も反応できていた。南美が自身の間合いに入った直後、予め上段に構えていた雪片弐型を振り下ろす。

 

それがいけなかった。

南美には反応されることすら予想の範疇だったのだ。

雪片弐型が振り下ろされた事を感じた南美は上段に蹴りを振り上げ、雪片弐型を握る一夏の腕を横にいなした。

そして横から力を加えられ、横にずれた雪片弐型の側面を蹴り飛ばす。

 

だがそこは一夏、初撃で何が起こったのかを把握し雪片弐型を固く握りしめ、次の一撃で飛ばされることはなかった。

 

「フゥゥゥ、シャオッ!」

 

しかしそこで手を止める南美ではない。蹴りを放つと、上体を起こしながら、強烈な裏拳を一夏の胸に打ち込む。

 

南美の一撃を受けた一夏の体が揺らぐ、だが次の瞬間に一夏の左腕が南美の腕を掴んでいた。

 

「捕まえたぜ、南美…。こうなりゃ動きの差なんかねぇよな?」

 

一夏は裏拳の痛みを堪えながら笑っていた。

 

「…コレがキミの言う“策”かい?」

 

「あぁそうだ、我ながらバカな作戦だと思ったよ。でも効果的だろ?ここまで接近すればオレと南美の動きの差も意味を為さないからな。」

 

一夏は左腕のパワーアシストを全開にし、南美の腕を握りしめる。四肢を踏ん張らせ、蹴りを受けようとも揺るがないように体を固めた。

 

「南美がオルコットさんとの試合で見せた最後のアレ、オレの零落白夜と同じくらいリスクがあるんだろ? じゃなきゃ一発目にアレをかまして即終わらせただろうし。」

 

「勘が良いね…。」

 

彼女は憎々しげに呟いた。

策に嵌まり、容易に組つかれたからなどではない、ただ、彼があることを失念していることに苛立っていた。

 

「オレはまだまだ素人だからな。勝つためならなんだってするさ。」

 

「良い心構えだ、感心する…。けど、勝ちに執着するなら罠に嵌めた時点でトドメを刺せ。さもなくば負けるぞ。」

 

「なんだって?」

 

南美は一夏の左腕に飛び掛かり体重を込めて下に引きずり落とす。

そして下に叩きつけられた衝撃で左腕の力が緩んだ瞬間に南美は拘束から抜け出した。

 

「キミは私が何者なのか、忘れてしまったのか? 私は総合格闘家だ、あの程度のホールドなどいくらでも抜け出す方法がある。」

 

一夏の拘束から抜け出した南美はひらりと身を翻して離れた場所へと着地する。

 

「一夏くん、キミと私の間には決定的な違いがある…。それは欲望、執念だ。今のキミにはまだまだ執念が足りない、そんなことでは一生私に勝つことは出来ない!!」

 

「なんだとっ!」

 

「現にキミは私を拘束して直ぐに雪片弐型を振り下ろさなかった…。本当に勝ちに拘るなら直ぐ様仕留めるべきだった。」

 

南美の指摘に一夏は歯を食い縛る。

だが目だけは南美をしっかりと捉えていた。

 

「キミはまだ甘い…。その甘さが命取りだ!」

 

「なっ?!」

 

南美はあの高速移動を繰り返し、一夏の視界から完全に外れ、死角をついて一夏に肉薄する。

 

「ショオッ!」

 

「がはっぁ?!」

 

死角から放たれた強烈な手刀突きを脇腹に喰らい、一夏は肺の中の空気を一気に吐き出した。

 

「トベッ!」

 

苦しさからから前のめりになった一夏の顎を思い切り蹴りあげ、体を浮かせる。

 

「シャオッ! ショォオオッ!! ウリャッ!」

 

浮いた体を地面に着けさせてもらえないまま空中での連撃を決められ、白式のシールドエネルギーは零落白夜によるスリップダメージも手伝って、みるみるうちに削られていく。

 

「やられっぱなしじゃねぇぞっ!」

 

南美の攻撃と攻撃の合間にあったほんの僅かな隙に一夏は空中で体勢を立て直し、雪片弐型で斬りかかる。

だが南美は一夏の反撃を見てから回避した。

 

この時、既に白式のシールドエネルギーは3割を切っている。

 

「ハァ…、ハァ、くそっ…。まだだ! まだやれる!」

 

疲労困憊の様子を窺わせる一夏であったが、その目は未だ諦めておらず、手は雪片弐型をきつく握りしめ、正眼に構えていた。

 

「オレは、オレは…。」

 

「こんな劣勢になっても諦めない…か、さすがだね。その不屈の闘志に敬意を表して、…せめて奥義で葬ろう…。」

 

スッと手を合わせる南美、そして次の瞬間には一夏の目の前にいた。

 

「南斗孤鷲拳奥義、南斗翔鷲屠脚!」

 

腹への膝蹴りから顎を蹴りあげ、一筋の雷光が駆ける。

その瞬間試合終了のブザーが鳴り、アナウンスが南美の勝利を告げた。

 

 

 

 

──控え室

 

 

試合終了後、一足先に控え室に戻っていた南美はISスーツから着替え終わり、荷物を纏めるとスッと帰って行った。

そして、彼女と入れ替わるように一夏が控え室に入る。

 

「一夏…。」

 

控え室にはたった一人、織斑千冬が彼を待っていた。

ベンチに座っていた彼女は一夏が控え室に帰って来た事を確認すると立ち上がって彼を出迎える。

一夏は控え室に千冬と自分以外誰もいないことが分かると彼女に近づいた。

 

「千冬姉、ごめん…、負けて…。」

 

「…お前はまだ未熟者だからな、次はどうすれば良いのか分かるだろう?」

 

千冬の言葉に一夏は俯いたまま黙って首を縦に振る。

けれども彼は拳を握りしめ、唇を噛み締めていた。

 

そんな状態の彼を見て、千冬は思わず彼をその胸元に抱き寄せる。

 

「何を焦っているんだ、一夏…。お前はよくやったよ、それは誰の目にも明らかだ。イギリス国家代表候補生と企業テストパイロット二人が相手だったんだからな。」

 

胸元に彼を抱き寄せ、慰めている彼女の声は鬼教官と呼ばれる普段の彼女とはかけ離れた、包み込むような優しさに溢れた声だった。

 

「ごめん、ごめんよ、千冬姉…。」

 

「どうして謝る…?」

 

「だって、だってオレ、千冬姉と同じ刀を使ったのに負けて…。千冬姉の顔にまた泥塗っちゃった…から…。」

 

「そんなことか…。気にするな。」

 

千冬の胸に抱かれながら幼子のように泣く一夏を彼女は優しく撫でる。

 

「さっきも言ったろう? お前は初心者なんだ。経験者に負けるのは仕方ないことだ。だからな、これから頑張れば良い。そして次に戦う時に勝てるようになれば良い。」

 

「うん…、オレ強くなるから、千冬姉に守ってもらってばかりじゃなくて…。オレも、今度はオレが千冬姉を守るから、守れるくらい強くなるから…。」

 

「あぁ、今のお前なら出来るようになるさ。だから今は存分に学べ、吸収しろ、貪欲に…。分かったら泣くのは終わりだ。今日の経験を次に活かせ、良いな?」

 

千冬の言葉にコクコクと頷く。それを確認した千冬は一夏を離す。

 

「分かったならよし。私は仕事があるから先に行くぞ、じゃあな織斑。」

 

直ぐ様仕事モードのスイッチを入れた千冬はそのまま控え室を後にした。

 

 

 

 

──セシリア側ピット シャワールーム

 

 

シャワールームの個室からサァァと水の流れる音が響く。

 

個室にはセシリア・オルコットがおり、今日の汗を流していた。

水滴が陶磁器を思わせる白く、キメの細かな肌に当たっては弾けていく。

 

 

side セシリア・オルコット

 

(今日の試合…。)

 

試合の興奮から離れようとシャワーを浴びたものの、思い起こされるのは今日の試合のことばかり。

 

南美さんの一戦は私に久しく忘れていたものを思い出させてくれました。

織斑さんとの試合…。

もし南美さんと先に戦っていなければ私は負けていたでしょう。あの時、プライドをかなぐり捨ててインターセプターを出したから私は勝利を掴めたのですから…。

 

そして織斑一夏さん…。

 

彼の事を思う度に、逆連想のように出てくる私の父の姿…。

 

常にお母様の顔色を窺う弱い人だった。名家に婿養子として入った引け目から常に家の者にも弱々しい態度をとっていた父は、ISが出来てから益々その態度が弱々しくなった。お母様もそんな父の事を鬱陶しく思っていたのでしょう…。

 

お母様は強い人だった。幾つもの企業を経営し、1代で大きな成功を納めたお母様は私の憧れだった。

そう、“だった”…。

 

もう私の両親はいない、列車事故に巻き込まれて、3年前に私と莫大な遺産を残して…。

 

オルコット家の名を、両親が残した物を守るためにISパイロットになり、国家代表候補生に選ばれた。

そして国からの命令で来たこの日本で出会ってしまった、織斑一夏、私の理想、強い信念を持った殿方に…。

 

「織斑…、一夏さん…。」

 

彼の名前を口に出してみると、不思議と胸が締め付けられたように切なく、熱くなったのが自分でも分かる。

 

甘く、切ない気持ち…。

 

自分はこの気持ちがなんなのか、本能的に分かった。

私、セシリア・オルコットは彼に恋をしている。

出会って数日で恋に落ちるとは、三流小説のヒロインみたいですわね。

けれども、それで良いのかもしれませんわ。

この気持ちは紛れもない事実なのですから…。

 

 

side out...

 

 

こうして1年1組のクラス代表を決める決闘は一人の少年が次への想いを固め、一人の少女が自らの想いを知って幕を閉じた。

 

 

 

 





千冬さんが優しい…。
仕事モードとプライベートモードのギャップが激しいからですが、こんな千冬さんもアリ…ですよね?



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番外編 ほんわ君のとある1日


今回は番外編ということもあって短いです。

それでは本編をどうぞ↓


どうも皆さん、ほんわ君です。

 

今日は皆さんに僕のTRF‐Rでの1日を紹介して行きたいと思います。

 

まずは起床、朝の5時です。

僕は大体この時間に起きます。…早起きは昔からの癖なんです、爺臭いとか言わないでください。

これでも昔よりは遅く起きてる方なんですよ?

 

えー、話がずれました。

朝5時に起床です、それから朝ご飯の準備をします。

ご飯はとっても簡単なものですが、しっかりと摂ります。春に体調を崩したので…。

まぁ、そのお陰で南美ちゃんに看病してもらえたので、プラマイゼロですけどね。

 

それと、蛇足ですがカセンさんはいつも朝7時に起きるそうです。健康的な生活です。

え?僕が言っても説得力が無いって?

そうですよね、ごめんなさい。

 

それでモミー店長はTRF‐Rのあるレゾナンテから徒歩3分の場所に一軒家を構えているのですが、レゾナンテが駅前のショッピングモールなので、よくよく考えると店長の家って土地代含めてかなり高いような…。

 

 

朝ご飯を食べてから僕はTRF‐Rに向かいます。

自宅からTRF‐Rまでは何もないので割愛です。

 

TRF‐Rに着けばもう仕事です。

事務室の鍵を開けて、制服のエプロンを身につけます。

 

このエプロンと名札がTRF‐R店員の証です。

 

制服に着替えたあとは店内の掃除です。

店内の床を掃いたり、筐体回りの点検をしたりして周ります。地味な仕事ですけど、けっこう大変で大事な仕事なんです。

 

そしてそれが終わる頃にはもう開店時間です。

 

既にお客さんが何人か並んでいて、いつも驚きます。

 

常連の皆さんはいつも挨拶してくれるのでとても恐縮です。

ゲームをしているところを見ていると、皆さん本当にゲームが好きなんだなぁって思います。

 

TRF‐Rに来てくれるお客さんの多くは男性の人が多いですが、なかには女性のお客さんもいらっしゃいます。

その人がとても強かったりするので侮れません。

 

でも常連の女性客の方は僕に対してボディタッチが多いような気がします。

 

ここ最近になってからますます頻繁になった感じです。前までは腕とかを触ってくるだけだったのですが、最近は抱きついてきたりするんです。

僕だって男ですから悪い気はしませんが、勘弁してほしいです。

何でかって? 最近は女性のお客さんとこうしているとその、恋人のノーサさんからの視線が怖いんです。

 

何というか、ハイライトさんが遠いところに出張してしまった目で僕を見てくるんです。

 

回りの人達は楽しんでるみたいですが、僕からしたら大変なんですよ。

この後はノーサさんの機嫌を何とか元通りにすることになります。

 

 

 

 

「…、なんですか?」

 

事務室に不機嫌なノーサさんを連れて入ると、あからさまに不機嫌さを隠そうともしないで目を合わせてくれない…。

 

「その、機嫌直してくれない…?」

 

「私別に怒ってませんから!」

 

ノーサさんはふんッと鼻を鳴らして顔を背けた。

こんな拗ねた表情のノーサさんも可愛いけど、今はそんな事を言ってる場合じゃない。

 

「ごめんよ、その…、あの人達も別に僕の事を恋愛対象に見てる訳じゃないからさ、ね?」

 

「……。」

 

う~ん、今日は一段と頑固になってるなぁ。

 

取り敢えずベンチに座ってもらって、隣に座ろう。

 

「南美…。」

 

「何ですか…?」

 

呼び掛けると素直にこっちを向いてくれた。それを逃さずノーサさんを抱き締める。

 

「うにゅ…?!」

 

「ごめんね…。不安にさせちゃったよね? でも僕には南美しか見えてないよ。」

 

そう言うとノーサさんはぎゅっとしがみついてきました。

 

「うぅ~、だって、だってぇ…。」

 

駄々っ子みたいなノーサさん、こんな姿も可愛いと思うのは、それだけ僕が彼女にぞっこんだからなんだろう。

 

「私、女の子っぽくないですし、ほんわ君さんに言い寄る人たちはみんなキレイで可愛くて…。」

 

「いつも言ってるじゃん、僕は南美が好きなんだって。」

 

「…うん…。」

 

やっと素直になってくれた。

拗ねた顔も可愛いけど、やっぱりノーサさんはこうして素直な方が可愛い。

そんなことを思っていると彼女の方からまた強く抱きついてきた。

 

「南美…?」

 

「もっとぎゅーってしてください。」

 

「うん、良いよ。」

 

ノーサさんに言われた通りに抱き締めると、彼女の方からも強く抱きついてきた。

 

「しばらくこのまま…。」

 

「うん…。」

 

そのあと長い間二人で抱き合っていました。

 

しばらく店頭を留守にしていたので店長とカセンさんからはこっぴどくお説教を喰らいましたが…。

 

でも、ノーサさんと一緒にいられたので良い1日でした。

 

 

 

 





普段は普通に振る舞っているけど、ほんわ君の前ではデレちゃうノーサちゃんでした。

次の番外編は誰にしようか…。



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第22話 結局クラス代表は誰?


今回は少し短いです。

それでは本編をどうぞ↓


 

決闘の翌日、南美はいつものように目覚める。

 

南美はスッと布団から這い出ると、隣のベッドですやすやと寝息をたてながら時おり“世紀末病人”や“人間バスケ”などと意味不明な寝言を発する同居人の本音を起こしにかかる。

 

「ほら、本音、朝だよ。ご飯食べに行くよー、起きて。」

 

「にへへ、蓄積溜めてぇ起き攻めぇ、うへへ…。」

 

本音は体を揺すっても締まりのない表情を浮かべるだけだった。

 

「とっとと起きなさい!」

 

痺れを切らした南美は本音から布団を剥ぎ取ると同時に本音を空中に放り投げた。そして剥ぎ取った布団も上に投げると、布団越しに本音の腹に人差し指を突き立てる。

 

「ぐふぅ!?」

 

「目、覚めた?」

 

「は、激しいモーニングコールでバッチリだよ~、激しすぎて永遠の眠りにつきそうだけど…。」

 

「ちゃんと起きれば私も実力行使しなくて楽なんだけどね。」

 

「う…、善処します…。」

 

早朝の洗礼を食らってぐったりしている本音を着替えさせた南美は二人で一緒に食堂に向かった。

 

 

 

──食堂

 

「おぉ、南美。おはよう!」

 

「おはよう一夏くん、それと箒さんも。」

 

「あ、あぁ、おはよう…。」

 

食堂につくと偶然同じタイミングで食堂に来ていた一夏と箒に出くわした。

 

「それと、クラス代表就任おめでとう、南美。」

 

「は?」

 

突然言われた一夏からの言葉に南美は思わず素っ頓狂な声を上げた。

一夏も一夏で、“なんだそのリアクションは…?”と言いたげな顔をしている。

 

「どうしたんだ、南美。 クラス代表になれて嬉しくないのか? 決闘前はあんなに張り切ってたのにさ。」

 

「え、いや…何でもない。まぁ、その、アレだよ。お祝いの言葉は朝のホームルームで正式な発表が有ったら受けとるよ。」

 

一夏の態度を見て何かを確信した南美は笑いを悟られないようにしながら朝食を摂るのだった。

 

 

 

 

 

 

「はい、1年1組のクラス代表は織斑一夏くんに決定しました、1繋がりで縁起が良いですね~。」

 

「「おめでとう、一夏くん!」」

 

「…は? え、はぁぁあああああっ!? え、ええ?!」

 

朝のホームルームで山田先生から発せられた言葉の内容にワンテンポ遅れて一夏が絶叫と共に立ち上がる。

 

「え、どういうことですか? オレって全敗ですよね⁉」

 

「騙して悪いが…ってやつだよ一夏くん。」

 

ドッキリに掛けられたリアクション芸人さながらの反応を見せる一夏の横で南美がケタケタと笑う。

その言葉に一夏は南美の方を向いた。

 

「ど、どどどど、どういうことだよ南美!」

 

「それはねぇ──」

 

「私たちが辞退したからですわ。」

 

南美の発言を遮ってセシリアが話し出す。

彼女の言葉に一夏は怪訝な顔でセシリアに目線を移した。

 

「私と南美さんで昨日の夜に話し合ったんですの。クラス代表を一夏さんに譲りましょうって。」

 

「は、はぁ?! だってオレ、一番弱いんだぞ? それこそ南美の言ってた“力こそ正義”っていうのに反するだろ?」

 

「それはまぁ、そうなんだけどねぇ…。」

 

「それなら昨日の夜の事をお話し致しますわ。アレは決闘を終えた夜のこと──」

 

 

 

──昨晩 南美と本音の部屋にて

 

ジョインジョイントキィデデデテザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーナギッペシペシナギッペシペシハァーンテンショウヒャクレツナギッカクゴォナギッナギッナギッフゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O.イノチハナゲステルモノ

バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコー ハアアアアキィーン テーレッテーホクトウジョウハガンケンハァーン

FATAL K.O. セメテイタミヲシラズヤスラカニシヌガヨイ ウィーントキィ パーフェクト

 

 

「おお、コレが噂のトキ…。」

 

「って言っても私の持ちキャラじゃないからこれくらいしか出来ないんだよね。」

 

「え…? これより上がいるの…?」

 

「もちろんだよ、全一トキ使いなんてこれよりエグいよ?」

 

「ふぇぇ…。」

 

─トントントン

 

食事も済ませ、自室にて南美が世紀末バスケットボール講座を本音相手に開講していると、彼女らの部屋のドアが何者かにノックされた。

 

「ん~? 誰だろ、入って、どうぞ。」

 

南美が入室を進めると、ドアの外にいる人物はワンテンポ置いて入室した。

 

「お邪魔しますわ…。」

 

「およよ、セシリアちゃんじゃん、どしたの?」

 

部屋に入ってきたのはセシリア・オルコットであった。

その顔は真剣その物であった。そんな彼女の空気を察してか、本音は部屋の奥に引っ込んで行った。

 

「まぁ取り敢えず座りなよ、今本音がお茶を淹れてくれるからさ。」

 

「ふふふ~、ちょっと待ってね~。」

 

 

本音の淹れた紅茶が届く頃には、セシリアもやっと落ち着いたといった雰囲気になった。

 

「さて、用件は何かな?」

 

「…単刀直入に言わせていただきます。北星南美さん、クラス代表を辞退していただけませんか?」

 

「その理由は?」

 

「織斑一夏さんをクラス代表にしたいから…ですわ。」

 

「…それはどうしてだい?」

 

セシリアの発言に南美の目付きがスッと鋭くなる。

 

「南美さんは彼と戦って何か思いませんでしたか?」

 

「そりゃ思うところはあったよ。…あんな気概溢れる男は父さんの職場以外ではお目にかかれないからね。」

 

「それに彼は一次移行前の機体で私と張り合い、そして南美さんに食らい付きましたわ。まだISについては素人ですのに…。」

 

「…伸び代は充分あるってことか…。」

 

「えぇ、見てみたくありませんか? この先、経験を積んで化けた彼の強さを…。」

 

セシリアの提案に、南美はカップに注がれた紅茶を飲み干して笑った。

 

「…面白そうじゃんか。乗ったよ、その話…。オーケー、私はクラス代表を辞退するよ。」

 

 

 

───

──

 

「という感じですわ。その後は先生に報告して一夏さんをクラス代表にしてもらうようにお願いしたんですの。」

 

「いや~、てっきりセシリアちゃんからキミに話が通ってると思っててさ。ごめんよ~。」

 

あっけらかんと喋る南美に一夏は恨めしそうな視線を向ける。

 

「知ってたなら言えよ…。」

 

「だから言ったじゃん、セシリアちゃんから話が行ってるもんだと思ったってさ。」

 

「ぐぬぬ…。」

 

言いくるめられた悔しさに一夏は歯噛みする。だがそんなことは関係ないとばかりに南美はニヤニヤと笑っている。

 

「まぁ、私たちがクラス代表を譲ったんだから、それなりの結果は残してもらうよ?」

 

「そうですわね、少なくとも私たちより強くなってもらわなくては…。」

 

「上等だよ、やってやろうじゃねぇか!!」

 

ニヤニヤしながら煽る二人に一夏が吼える。すると一夏の頭にポスッと軽く出席簿が当てられた。

担任の織斑千冬である。

 

「ほら、そこまでにしろ。クラス代表は織斑一夏で決定、良いな?」

 

「「「異議なーし!」」」

 

 

こうして1年1組のクラス代表は織斑一夏に決定した。

 

 

 





徐々に世紀末に染まっていく本音さん…。
そして起こし方に容赦のない南美さん。

まぁ、世紀末故に致し方なし。



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第23話 世紀末企業の機体


お待たせしました…。
と言っても今回は短めです。申し訳ないです。

では本編をどうぞ↓


──IS学園 第3アリーナ

 

「さてそれではISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、北星は前に出ろ。」

 

千冬の指示に従い、3人が前に出る。

 

余談ではあるが、IS学園指定のISスーツのデザインはどことなくスク水を彷彿とさせる。学園の上層部にそういった趣味の人間でもいるのだろうか…。

 

そんなことは置いておいて、南美、セシリア、一夏の3人がみんなの前に出る。

 

 

 

side 一夏

 

「…、織斑、もっと早く展開しろ。熟練者はISの展開に1秒とかからないぞ。」

 

そんな事言われてもまだコツが掴めてないんだ…。

 

ISは一度フィッティング、つまりその人専用に合わせるとアクセサリーの形で待機できるようになる。

セシリアは左耳の青いイヤーカフス、南美は左足首のアンクレット、そしてオレのはガントレットだ。

…アクセサリーじゃなくて防具なのでは?と突っ込んではいけない。

 

意識を右腕のガントレットに集中させる。

ISを纏うイメージを膨らませ、力を込めた瞬間、白式が展開された。

 

やっぱりまだ慣れない…。

 

「よし、織斑、オルコット、飛べ。」

 

言われてオレとセシリアは急上昇する、のだが、オレの上昇速度はセシリアと比べるととても遅かった。

 

「スペック的には白式の方がブルー・ティアーズよりも上なのだがなぁ…。」

 

個別回線でお叱りの言葉をもらった。

まぁそりゃ確かにそう言いたくなるだろう…。

 

これに関してはホントに感覚でやるしかないみたいだし。この前南美にこれの理屈を尋ねたら聞いたことないような原理やら何やらで訳が分からなくなったからな…。

 

「さて、じゃあ今度は上空から急降下しろ。そうだな…、地表から10センチで急停止だ。やってみろ。」

 

10センチ…、またそれは無茶難題を…。

でもやんなきゃないし、やるっきゃない。

 

 

 

side out...

 

 

 

千冬の指示を受け、セシリアと一夏は同時に降下を開始する。

 

セシリアは体勢を崩さず、綺麗に静止した。だがその横で挑戦していた一夏は完全に止まることはできず、白式の踵がアリーナの地面に僅かだがめり込んだ。

 

「ふむ…。オルコットはさすがだな、織斑は、まぁ惜しかったな。勢いをつけすぎだ。」

 

めり込んだ踵部分を見てそう言った。踵はそこまで深く突き刺さっているわけではなく、勢いが殺しきれなかったことが見てとれた。

 

「よし、次は武装展開を披露してもらいたいが、1名ほどそれが出来ないヤツがいてな…。」

 

そう言って千冬は専用機を展開している南美を見る。

その視線に気付いたのか、南美はあははと苦笑いを浮かべた。

 

「仕方ないですよ、もともと私の機体は武器に頼らない戦闘での継戦能力の向上を主目的に開発されましたから…。」

 

「仕方ない、ならお前の機体について解説してくれないか? 代表決定戦の時のお前の動きについて疑問を抱いている者も多いからな。」

 

「分かりました。と言っても企業秘密的な部分はある程度ぼかしますよ。」

 

「構わん。」

 

千冬の許可をもらった南美ははーいと返事をしてみんなの方に向き直る。

 

「私の専用機“ラスト”は日本の企業ラストオブセンチュリーエンタープライズが開発した世にも珍しい格闘特化機体です。独自の機構として“世紀末ブースト”と“エネルギー再利用システム”があります。詳しいことは企業秘密ですが、その特性をこれから説明していきます。最初に、この機体の一番の特徴である“エネルギー再利用システム”について説明します。このシステムは簡単に言うと、行動をした際に発生する余剰エネルギー、いわゆるロスしてしまうエネルギーを別の形で機体内に貯蔵するシステムです。このシステムによってラストの継戦能力は格段に向上しました。

そしてそうして貯蔵されたエネルギーは何に使われるかと言うと、さっき言った“世紀末ブースト”ともうひとつ、“シールドオーラシステム”に回されます。

え~と、世紀末ブーストは正式名称が長くて面倒なのでこう呼んでます。で、どんなのかって言うと決闘の時に見せたあのギューンって移動するヤツです。これはISのテクニックである瞬時加速《イグニッション・ブースト》のようなものですが、出力はかなり高いです。専用のバッテリー?にエネルギーを溜めて好きな時に使用できるのが利点ですね。瞬時加速のように読まれるリスクが低いのもメリットです。

そして次にシールドオーラシステムですが、この機体の肝はこっちです。この機体はご存知の通り武器が一切ありません。なのでこのまま受け太刀するとシールドエネルギーが減ることになります。それを解決するのがシールドオーラシステムです。これは溜めたエネルギーをバリアのように展開することで多少の攻撃を受け止めるものです。範囲を狭めたり、広げたりは自由自在ですが、広いとその分溜めたエネルギーの消費は早いです。

世紀末ブーストとシールドオーラシステムのエネルギーはそれぞれ別のバッテリー?に溜まる親切設計です。

大体の説明は以上ですね。」

 

「ふむ…。良いだろう。じゃあ次に移るぞ──」

 

その後授業は問題なく進んだ。

 

 

 





ブーストとオーラガードの再現についてはかなり悩みました…。




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第24話 春先ってテンション高い人が多くなるよね


今回は少し短いです。

※注意※
この作品はフィクションです。実在の人物、事件、団体とは一切関係なく、また、中野TRF及びそこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

久々な前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


 

時は少し遡って南美のIS学園入学が決定してから2週間後の土曜日、この日TRF‐Rでは異様な光景が広がっていた。

いつもなら各々好きなところに陣取り、進行役の声を待っているはずのモヒカン一同は、今日に限ってなぜか整然と隊列を組んで並んでいた。それも皆、歴戦の兵士のような精悍な面持ちで。

そしてそんなモヒカン達の前に立つ一人の男がいた。そう、モヒカンリーダーの鋼である。

 

鋼はマイクの前で小さく息をつき、重々しくその口を開いた。

 

 

「諸君、私は北斗が好きだ。

 

諸君、私は北斗が好きだ。

 

諸君! 私は北斗が大好きだ。」

 

鋼の口から発せられる言葉。それに動じることなくモヒカン達は次の言葉を待つ。

何故なら“北斗が好き”であることなど、ここに集う者達には当然のことだからである。

 

「バスケが好きだ。百烈が好きだ。ドリブルが好きだ。タイフーンループが好きだ。ドラム缶ハメが好きだ。釵ループが好きだ。ブーンループが好きだ。一撃コンが好きだ。

 

トキで、レイで、ユダで、ラオウで、ケンシロウで、サウザーで、シンで、ジャギで、ハート様で、マミヤで…。

 

AC北斗で行われるありとあらゆる永久コンボと即死が大好きだ。」

 

ズイと鋼が身を乗り出した。

そこにはいつものふざけた彼の姿はなく、心の底から北斗を愛する真摯さが滲み出ている。

 

「対戦相手をバスケで殺すのが好きだ。空中高く浮き上がった対戦相手を更に追撃して心の肋骨をバラバラにした時などは心が踊る!

 

覇者の操るレイが他の修羅達を撃破するのが好きだ。覇者にへこまされ、逃げ出した先でクイーンに追い打ちされている所を見たときは胸がすくような気持ちだった。

 

屠殺場で待ち受けるクイーンが覚悟を決めたモヒカン達を蹂躙するのが好きだ。茫然としたモヒカンが、俄に残った意識で何度も何度もコインを投入する姿は感動すら覚える!

 

敗北した修羅達を煽ってる時などはもうたまらない!

私の言葉でえぐれシジミがビクンビクンという絶叫と共にびくびくと体を震わせるのも最高だ!

 

哀れなモヒカン達が弱キャラを使って健気にも立ち上がって来たのを、レイで完全に消毒してやった時などは絶頂すら覚える!!」

 

ダンッと鋼は愉悦の表情を浮かべながら床を踏み鳴らす。だがすぐに真面目な顔に戻って言葉を続ける。

 

「他の修羅達に滅茶苦茶にされるのが好きだ。

必死に積み上げてきた連勝数が止められ、逆に積み上げられるのはとてもとても悲しいことだ。

 

圧倒的なダイアの前に屈するのが好きだ。

覇者にちにゃられ、すかすかの財布でとぼとぼと帰るのは屈辱の極みだ!」

 

息をつき、一呼吸置いて、更に言葉を続ける。

 

「諸君、私は世紀末を、更なる世紀末を望んでいる。諸君、私に付き従うモヒカン戦友諸君。諸君らは何を望んでいる?

 

更なる世紀末を望むか? 情け容赦ない糞のような世紀末を望むか?

あらゆるコンボパーツを使い、どこからでも10割削る、嵐のような世紀末を望むか?」

 

鋼がモヒカン達にそう問いかけると彼らは一斉に腕を掲げた。

 

「「世紀末(クリーク)! 世紀末! 世紀末!」」

 

モヒカン達の一斉唱に鋼は満足げな笑みを浮かべる。

 

「よろしい、ならば世紀末だ。

 

我々は満身の力を込めて今まさに降り下ろさんとする握り拳だ。

だが、この暗い闇の底(TRF‐R)で何年もの間耐え続けてきた我々にはただの世紀末ではもはや足りない!

大世紀末を!

一心不乱の世紀末を!!」

 

鋼の力強い言葉を聞いてモヒカン達の顔はいっそう引き締まる。

 

「我等は所詮1店舗の常連客、30人程度のモヒカン集団に過ぎない。だが、諸君らは一騎当千の古強者だと私は信仰している。ならば諸君と私で総力30000と一人のモヒカン集団となる。

 

我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。

台の横に立って煽り尽くしてやろう。

連中に世紀末の恐怖を思い出させてやる。

連中に我々のやり込み量を思い出させてやる。

 

天と地の──」

 

(TA・Д・)<選手宣誓がなげぇよ!

 

(眉゜Д゜)<ホントそれな。

 

(♂・鋼・)<あぁ⁉ パフォーマンスではしゃいで何がワリィんだよ!

 

(TA・Д・)<今日の主役はお前じゃねぇから。もういい、土曜大会ノーサちゃん進学おめでとうスペシャルの開幕だぁ!

 

(モヒ・Д・)<ヒャッハー!

 

(モヒ・∀・)<イィィエェエエエッ!!

 

 

 

 

「さーて1回戦の第4試合、本日の主役、ノーサシンの登場です!」

 

(モヒ゜Д゜)<クイーン来た、これで勝つる。

 

(モヒ・ω・)<ノーサちゃぁあああんっ!!

 

「ヒャッハー! TRF‐Rじゃあ!!」

 

1P側に座りながらノーサが声を上げる。2P側では対戦相手のメビューシャが青い顔をしていた。

 

 

ジョインジョインジョインジョインシィン ジョインジョインジョインシィン

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニーナントゴクトケンッ

 

「さぁ、欲望まみれの開幕獄屠拳をパナしていくのはノーサシン。いつものように主導権を握っていくぅ。」

 

 

 

ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシナントゴクトケンッ

 

 

「君が、死ぬまで、コンボを、止めない!!」

 

「ペシペシ殴って獄屠拳、完全に浮かせて入部完了。クイーンがシンバスケを投入して殴り続ける! 容赦はしないと、そう言わんばかりの手元の動き。もはや人間には不可能ではないか?」

 

 

ユリアァァアアアアッ

 

 

「勝ったのはノーサシン。メビューシャの顔が真っ青になっています。」

 

(メ・д・)<オレノーサさんに何かしました?

 

(モヒ・∀・)<メビューシャ、ドンマイ!

 

(モヒ・Д・)<それなりにおいしいポジだから。

 

 

「続きまして、第5試合。鋼レイ対えぐれサウザーです。」

 

(♂・鋼・)<イィィエェエエエッ!! 空前絶後の、超絶怒濤の北斗プレイヤー! 北斗を愛し、北斗に愛された男ぉ、百烈、ドリブル、トラベリング、全ての永パの産みの親! そぉ、我こそはぁ─

 

(TA・Д・)<良いから試合始めんぞ!!

 

(♂・鋼・)<なぁぜぇだ!?

 

 

こうしてまた何事もなく大会は進み、いつもの北斗勢の姿がそこにはあった。

 

今日もTRF‐Rは平和である。

 

 

 

 

「ほんわ君さん!」

 

「ノーサさん!」

 

大会が終わると南美は店内の隅に駆け出し、そこにいたほんわ君に抱きついた。ほんわ君も南美のその行動にはもう馴れているのか、普通に受け止める。

 

そうして大会終わりのフリータイムに店内の一角で一部に有名なカップルがいちゃつき始めた。

店の隅に置かれたベンチに二人は腰を掛ける。

 

「えへへ、優勝しました。」

 

「うん、見てたよ。凄かった!」

 

モミー店長が二人の為に追加で置いたベンチで二人は彼らだけの空間を作っている。

こういう時、この近くには誰も近寄らないのがTRF‐Rの新しい暗黙の了解となっている。

 

TRF‐Rの常連客公認カップルであるため、このタイミングで彼らに話し掛けるような無粋な者はいないのである。

 

 

 

 





なぜだろう、こういう話の方が筆が進むという…。

ちなみに活動報告の方でアンケートを行っています。
時間のある方は一度覗いてみてください。



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番外編 修羅達による世紀末キャバクラ実況part3


番外編ということもあり、今回は短めです。

※注意※
この作品はフィクションです。実在の人物、事件、団体とは一切関係なく、また、中野TRFや、そこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

いつもの前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


(*´ω`*)<はい、どうもみなさん、えぐれシジミです。

 

(チ゜Д゜)<チクリンです。

 

(こ・ω・)<こあらです。え~、という訳で今回も世紀末キャバクラ実況のお時間ですよ。

 

(*´ω`*)<それでは本日のゲスト、ナックスさんとパラジクロロベンゼンさんです。

 

(パ・д・)<どうも~。

 

(ナッ゜д゜)<よっしゃ、俺のターン!

 

(こ・ω・)<はい!今日はマミヤ使いとハート様使いのレジェンドをお呼びしました。よろしくお願いしまーす。

 

(パ・д・)<いやぁ、まさか僕が呼ばれるとはね。正直予想してなかったよ。

 

(ナッ゜д゜)<俺はまだ3回目だ。もっと呼べよ!

 

(*´ω`*)<だってナックスさん呼ぶとオレの作業量が増えるんですもん。

 

(パ・д・)<過去のナックスが出た回見たらマジでコイツの発言無いからね。えぐれあんだけの量よく編集できたね。

 

(こ・ω・)<爆発音とかトキの“やめておけ”音声で被せて消してたからね。

 

(パ・д・)<北斗動画以外でトキの“やめておけ”をあんなに聞いたの初めてだよ。

 

(ナッ゜д゜)<褒めんな、恥ずかしい。

 

(こ・ω・)<褒めてないっす。

 

(パ・д・)<まぁね、ナックスのリアルキャバクラの立ち回りは汚れだからね。コイツがピュアなの2次元の中だけだから。

 

(ナッ゜д゜)<オレのどこが汚れだ。

 

(パ・д・)<リアルキャバのお前の行いを思い出せ!

 

(*´ω`*)<はい、前置きはここまでにして早速いきまーす。

 

 

 

 

(パ・д・)<いやぁ、この前の大会も凄かったね!

 

(ナッ゜д゜)<あぁ、ノーサの進学おめでとうスペシャルだっけか。いや、あれはノーサが主役じゃなくて鋼が主役だったね。

 

(チ゜Д゜)<はしゃいでたね~。

 

(パ・д・)<騒いだら騒いだでうるさいけど、静かにしてると違和感しかないね、鋼は。

 

(こ・ω・)<まぁ、静かな鋼さんとか見たくないっすからね。

 

(パ・д・)<限度があるけどね。開会式のあのパフォーマンスはさすがに長いよ。

 

(*´ω`*)<モヒカンリーダーの地位をこれでもかって利用したパフォーマンスでしたね。

 

(こ・ω・)<あのパフォーマンス、2週間前から台本作ってたらしいっすよ。

 

(ナッ゜д゜)<アホだ…、いや、バカだ。

 

(パ・д・)<それはほら、TRF‐Rには愛すべきバカしかいないってことで。

 

(チ゜Д゜)<アレにしっかり乗れるモヒカンもモヒカンだけどな。

 

(パ・д・)<うちのモヒカンは他に比べてかなり訓練されてるからね。仕方ないね。

 

(*´ω`*)<TAKUMAさんの胃に負担を掛けない点で言えば修羅よりも凄いですからね。

 

(パ・д・)<大会の話に戻すと、やっぱりノーサは強いね。相性の差があるとは言えね、修羅のハート様相手に9割勝利できるのはおかしいよ。ワンチャンすら掴ませてくれないから。

 

(こ・ω・)<あ~、確かに。ハート様使ってノーサシンに当たったら負け確みたいなところありますもんね。

 

(パ・д・)<ホントにおかしい。マジであれはおかしい。勝てない、ホントに。

 

(*´ω`*)<オレだってサウザー使って負け越しですよ?

 

(ナッ゜д゜)<屠殺場に自ら進んで行くヤツはそうなる運命だ。

 

(こ・ω・)<オレなんてレイで負け越しですけどね。

 

(パ・д・)<もしかしたらノーサの通算勝率9割越えてるんじゃないかな?

 

(ナッ゜д゜)<たぶんな。野試合とか除いて大会の結果だけ見ればそうかもしれねぇなぁ。サブキャラで遊ぶこと多いけど、シンだけで計算すれば…。

 

(チ゜Д゜)<うわ…、確かに…。

 

(*´ω`*)<ホントにKaiとの王座決定戦が見てみたい。

 

(ナッ゜д゜)<野試合入れれば五分五分だからな。あの二人は。

 

(こ・ω・)<どっちも執念半端じゃないすからね。

 

(パ・д・)<二人とも何か刺したらそのまま殺しにいけるからね、世紀末だわ。

 

(ナッ゜д゜)<精密機械と人間やめた女か、たぎるな。

 

(こ・ω・)<私は人間をやめたぞ! みたいなノリで人間やめてますからね。

 

(ナッ゜д゜)<それで中身が乙女だってんだから詐欺くせぇ。

 

(パ・д・)<大会終わりに何人砂糖を吐いたことか…。

 

(こ・ω・)<あれはねぇ…。

 

(*´ω`*)<青春してますよね~。命が惜しいのでこの場では言いませんけど。

 

(ナッ゜д゜)<パナせ、俺が許す。

 

(こ・ω・)<その時はナックスさんも道ずれですよ。

 

(パ・д・)<僕は知らない。

 

(チ゜Д゜)<オレ何も言ってないタイマニン

 

(ナッ゜д゜)<おぅ、逃げんな。

 

(パ・д・)<お前の無謀には付き合いきれねぇよ。命が幾つあっても足りねぇ。

 

(ナッ゜д゜)<よく言うだろ、命は投げ捨てるものって。

 

(パ・д・)<言わないね、少なくとも僕は言わないね。

 

(*´ω`*)<え~、この動画は深夜2時以降の視聴をお奨めします。

 

 

 

 





オチなんかなかった。

ノーサの使用キャラの強さは
シン>>>サブキャラ

サブキャラの中では
ハート様>>ジャギ>サウザー>レイ

の順です。


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第25話 蒼の聖女

今回は短いです。

では本編をどうぞ↓


南美は今、とある人物を探して学園の敷地内を歩き回っその人物とは南美が父以外で目指したただ一人の女性、リングの上でまるで舞うように戦っていた彼女。

 

その人物を見かけたのは入学式の時だった。在校生代表として祝辞を述べている姿を見たとき、南美は目を疑った。

まさか自分の目指していた人物とこのような所で出会えるとは思っていなかったのである。

 

「はぁ、はぁ…。見つけましたよ、更識楯無さん…。」

 

中庭で南美が見つけたのは彼女が追い求めていた青髪の少女。

彼女はベンチに腰掛け、儚げに空を見上げていたが、南美に呼び掛けられるとゆっくりと南美の方に顔を向ける。

 

「アナタは…、北星南美ちゃんね。」

 

「はい、私のこと知ってるんですね。」

 

「勿論よ…、LOCエンタープライズ社のテストパイロットで、イギリスの代表候補生に勝った子だって、もう有名よ。」

 

その少女は南美に優しく微笑む。

その顔は慈愛に満ちていた。

 

「私は、アナタと戦いたかった。大会でアナタを見たその時から…。アナタの流れるようなあの動き、あの技を目指していました…。」

 

「フフ、アナタにそんな事を言ってもらえるなんて光栄ね。嬉しいわ。」

 

「ですから、是非ともアナタと手合わせしたいんです!」

 

南美は手を合わせてから構えを取る。

その姿を見た少女は小さく息を漏らして立ち上がる。

 

「そうね、仕方ない。かかってくると良いわ。この更識楯無が相手になりましょう。」

 

少女、楯無も体から余計な力を抜いて構える。

 

「行くぞ!」

 

「っ!?」

 

さっきまで南美から離れた場所にいた楯無は一瞬で距離を詰める。

とっさの判断で右腕の手刀を突き出した南美だったが、楯無はその右腕を掴んで投げ飛ばす。

 

「ぐぅ…。」

 

「反応できるなんてさすがね。でも、私の方が1枚上手だったかしら?」

 

投げに対してしっかり受け身をとった南美はすぐに楯無の方を見る。

楯無は余裕そうな顔で南美を見つめていた。

 

(い、今のは…? まったく見えなかった、どうやってあの一瞬で距離を詰めたの? 消えたと思ったら私の目の前にいた…。)

 

不可思議な現象に困惑しながらも、南美は楽しさに胸を踊らせていた。

 

「やっぱりアナタは強い…。なので、全力で行かせていただきます!」

 

そう言って南美は楯無に向かって突進する。

 

「フゥゥ、シャオッ!」

 

鋭い手刀突きを繰り出すが、楯無は左腕を使って横にいなし、右の掌底を南美の腹に打ち込む。

だがそれで崩れる南美ではない。

 

「シャオッ! ショオッ!!」

 

「へぁっ!」

 

右手の手刀払いから左のハイキックを繰り出す。

しかし楯無はそれを全て正確に捌くと、左のハイキックに来た足を掴み、逆に南美に蹴りを見舞う。

 

「そのカウンター、やっぱり変わりませんか。」

 

「フフ、そうね。身を守るならコレが一番の方策よ?」

 

忌々しげに呟く南美に楯無は笑ってそう言った。

 

「フゥゥゥッ!」

 

南美は息を吐き、集中を高めていく。それはまるで刀匠が一振りの刀を研ぐかのように。

 

「ショオォオオッ!」

 

全身の筋肉を使い、南美は駆ける。

 

「シャオッ! ショオッ、 ウリャッ!!」

 

「く…。」

 

肉薄してからの右のショートアッパーから、鳩尾に向けた左の肘鉄、そして最後の締めにこめかみへのハイキック。

最初の2つを捌いた楯無だったが、その速さに徐々についていけなくなり、最後のハイキックをもろに喰らってしまった。

 

頭部へのダメージから楯無の体が微かに揺らぐ。

 

「ふぅ、ふぅ…。カウンターが主体ならカウンター出来ないくらい攻めれば良い!」

 

「フフ、凄いわね。まるで激流…。」

 

フラフラとなりながらも楯無は構えを取り続ける。

彼女の顔には笑みが浮かんでいた。それが虚飾の笑みなのか、それともまだ何か隠し玉があることの余裕から来る笑みなのか南美には分からない。

 

「激流を制するは静水…。この言葉を証明しましょう…。」

 

呼吸を整えた楯無はまっすぐに南美を見据える。

 

「どうしたの? かかってきなさい。」

 

「っ…、ショオォオオッ!!」

 

楯無の言葉に痺れを切らした南美は楯無に飛び掛かる。

 

「シャオッ!」

 

「でやぁ!」

 

高い跳躍から放たれる南美の蹴りを楯無は難なく受けとめ、逆に南美の体を突き飛ばす。

そして空中で体の自由が効かない南美の頭に、さっきのお返しとでも言うように蹴りを放ち、直撃させる。

 

「…、そう簡単には崩せないですよね。」

 

「アナタもね。…、もう少しアナタと楽しみたかったけど、もう時間みたいね。お昼休みが終わっちゃうわ。」

 

楯無の言葉に南美は中庭の時計に目を向ける。そこにはあと少しで昼休みが終わる事を告げる文字盤があった。

「ぐぬぬ…。」

 

「また会いましょう、その時は決着がつくまで…。」

 

その言葉を残して楯無は中庭を去っていった。

 

 

 

彼女の後ろ姿を眺めていたが為に南美が遅刻しかけたことは内緒である。

 

 

 

 

 





楯無さんが原作とは違ったテイストになってしまいました。
原作の楯無ファンの皆さん、ごめんなさい。

…こんな彼女もアリですよね?




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第26話 就任祝賀会と中国からの転校生

前回からやや時間がたっての投稿になりました。
連日投稿はやっぱり難しいですね。

今回は平均的な長さです。

では本編をどうぞ↓


「織斑くん、代表就任おめでとう!!」

 

「「「おめでとう~!!」」」

 

パンパカパーンとクラッカーが乱射される。クラッカーの紙テープや、紙吹雪がその中心にいる一夏の頭に乗っかる。

 

夕食後の自由時間に1年1組の面々は食堂の一角を占拠して、軽いパーティーを開いていた。

少女達は飲み物を注いだコップを片手に思い思いに談笑している。

 

「いやぁ、まさか食堂でここまで大々的にやるとはね。予想外だよ。」

 

込み上げる笑いを噛み殺しながら南美が一夏に話し掛ける。

その横には本音もいた。

 

「どしたのオリムー、元気なさそうじゃん。」

 

「や、その、ちょっとびっくりして…。」

 

「まぁ、びっくりするよね~。うちの女子の行動力には私も驚いたよ。」

 

戸惑いを見せる一夏に南美はアッハッハと笑う。

だが言葉とは裏腹に、その様子はむしろこういったことにはもう慣れたと言わんばかりである。

 

すると食堂の入り口から新聞部の腕章をつけた生徒が二人入ってきた。

 

「どーもー、新聞部でーす。今噂の織斑一夏くんの取材に来ました~。」

 

「おー! 来た来た!」

 

新聞部の二人が登場したことで、会場はまた盛り上がる。

すると二人組の片方、メガネを掛けている方が一夏を見つけ、すぐさま駆け寄った。

 

「いたいた、一夏くん。それにお隣には今話題の新入生、北星南美ちゃんもいるじゃない。あ、私は新聞部2年の黛薫子(マユズミカオルコ)って言うの。よろしくね~。」

 

嬉々として薫子は二人に名刺を渡すと、そのまま一夏にボイスレコーダーを向ける。

 

「じゃあ早速、織斑一夏くん、代表決定戦の感想をどうぞ!」

 

「感想…ですか。…悔しかったです。2連敗して、周りは気にするなとか、よくやったとか言ってくれて、嬉しかったけど、何も出来ないまま終わったってのはやっぱり悔しいですね。セシリアにはなんとかなったとは言っても作戦に嵌められたし、自滅して負けた。南美には自分の作戦の上を行かれたし…。」

 

最初は苦い表情を浮かべていた一夏であったが、語るにつれてその時の反省を思い出したのかつらつらと話すようになった。

 

「セシリアのビットは正確で何度も当てられたし、南美に至っては1発1発が凄くて、何度も意識がいきそうになりましたし…。」

 

「ほうほう…、1発1発が凄くて何度もイキそうになった…と。」

 

「でも、次からはそう簡単にはいかないようにしたいです。」

 

「下剋上ですか。なるほど。次は簡単にイカない…と。」

 

面白い素材を見つけた薫子はやや興奮した様子でメモを取る。

 

「それと、さっきから南美ちゃんとセシリアちゃんを呼び捨ててるけど、そこんとこは?」

 

「? 特に深い意味はないですよ。南美からは初日に呼び捨てで良いって言われたし、セシリアからは今日の昼に会ったときに呼び捨てで構いませんわって言われたからで…。」

 

「なーんだ、なんもないのか。」

 

“つまんないの”と露骨にテンションを下げる薫子の矛先は次に南美へと向いた。

 

「じゃあ南美ちゃん、なんで一夏くんに代表の座を譲ったの?」

 

「簡単な話ですよ。彼の可能性に期待してってことです。」

 

「ほう、可能性…。具体的には?」

 

キランとメガネを輝かせた薫子はずずいと南美にボイスレコーダーを近づける。

 

「少し考えてもらえば分かりますけど、一夏くんは素人同然の状態で代表候補生のセシリアちゃんやテストパイロットやってる私と負けたとはいえ、渡り合いました。そのポテンシャルは見過ごせないものがあります。世界が世界なら“騙して悪いが…”で新人潰しをされるレベルでね。」

 

「むむむ、確かに。ではセシリアちゃんもそのような理由で?」

 

南美の言葉を聞いた薫子はそのすぐ近くにいたセシリアにボイスレコーダーを向ける。

 

「え、や、そのそれは…、そ、そうですわ。勿論ですとも。」

 

急にボイスレコーダーを向けられたセシリアは顔をほんのりと赤くし、しどろもどろになりながら答えた。そんな状態を見逃す薫子ではない。

 

「な~んか怪しいなぁ…。よし、ここは一夏くんに惚れたからってことにしよう!」

 

「ど、どどどどど、どうして私が一夏さんに惚れてるって証拠ですの!」

 

「いやぁ、その方が面白いし。」

 

しれっと悪びれもせずに薫子はそう言った。

そしてカメラを携えたもう一人の新聞部員を呼ぶと南美、一夏、セシリアの順に並ばせる。

 

「んじゃ最後に3人の写真撮って終わるよ。」

 

「黛先輩、この並びに意味は?」

 

「ん~? 両手に花的な。」

 

「いや、さすがにそれは…。」

 

「別にいいんじゃない?」

 

「そ、そうですわ。私は気にしませんもの。」

 

困惑の色を浮かべる一夏とは逆に南美とセシリアは乗り気で一夏の隣に立つ。

南美は面白そうな笑いを浮かべ、セシリアは何かの期待をもった面持ちである。

 

「さて、それじゃあ撮るよ~。1、2の、3!」

 

薫子の“3”の声とほぼ同時に風が巻き起こる。

その発生源は1年1組の面々であり、シャッターが切られる直前に滑り込み、見事全員が写真に収まったのである。

なんと言う神業であろうか。

 

 

 

──などと、食堂で彼らが和気あいあいと談笑している頃、IS学園に生活品や食材等を運びいれる為の貨物船専用の港では…。

 

 

「ここがあの女のハウ…ゲフンゲフン、ここがIS学園ね。はぁ~、やっと着いたー!」

 

貨物船の甲板から港へと飛び降りたツインテールの少女は唯一の荷物であるボストンバッグを下ろすと背筋を伸ばして“ん~”と伸びをした。

 

「おぅ、嬢ちゃん。船酔いは大丈夫みてぇだな。」

 

「勿論よ。にしても乗せてもらって助かったわ。ありがとね、おじさん。」

 

「良いってことよ。定期便逃した女の子を見捨てるなんざ出来ねぇからな。こっちもIS学園に荷物届けるところだったし丁度いいってもんよ。」

 

恰幅の良い男はそう言って豪快に笑った。その様子にツインテールの少女も小さく笑う。

 

「じゃあ、私はもう行くから。お仕事頑張ってね、おじさん達。」

 

「おうよ、嬢ちゃんも頑張れよ!」

 

ツインテールの少女は快活な笑みを浮かべて、作業着姿の男達に手を振った。

男達もその少女の明るさに感化されたように笑い、手を振り返した。

 

 

 

「ぐぬぬ…。どこなのよ! せめて地図くらい寄越しなさいよね!!」

 

勢いよく港へとから敷地内に入った少女であったが、懐から取り出した紙を見て思わず大声をあげた。

取り出した紙には“IS学園本校舎一階総合事務受付”とだけ書かれていた。コレが彼女の目的地なのだが、基本的にだだっ広い敷地面積を誇るこのIS学園ではそんな文字だけの案内など、大抵は意味をなさない。

 

そうしてあてもなく敷地内をさ迷う内に彼女は迷子になっていた。

今の時間は外は日が落ちきっており、辺りには生徒はおろか教員の姿もない。

 

そんな彼女に一筋の光明が差した。

 

「そこの少女、こんな時間に何をしているんだ?」

 

少女に話し掛けたのは黒スーツ姿の青年だった。背の高い青年は少女を威圧しないように声のトーンをいくぶん柔らかくしている。

 

「えっと、お兄さんは誰?」

 

「…狗飼瑛護(イヌカイエイゴ)、警備員だ。」

 

瑛護は渋るような態度を見せると、それだけ言って少女と目線の高さを合わせる。

 

「それで、君は何を?」

 

「IS学園の警備員は勤務中はスーツ姿なのね。知らなかったわ。まぁいいわ。実は道に迷っちゃってね。ここに案内してくれない?」

 

そう言って少女は手に持っている紙を見せた。それに書かれてある文字を読んだ瑛護は小さく頷き背筋を伸ばす。

 

「そこならそんなに遠くない。こっちだ。」

 

瑛護は背後の建物を指差し、ゆっくりと歩き出す。少女はそれを見て黙って黙って彼についていった。

 

「ここだ。それと、私に案内されたことは内密に頼む。それじゃあ…。」

 

「分かったわ。ありがとうね、狗飼さん。」

 

事務受付のある建物まで来ると瑛護はそれだけ言葉を交わして、元いた場所まで戻って行った。

 

 

 

「手続きはこれで終了、IS学園はアナタの転入を歓迎します。これから頑張ってくださいね、凰鈴音(ファンリンイン)さん。」

 

愛想の良い受付の事務員はそう言って鈴音に微笑みかける。

 

「あの、織斑一夏って何組ですか?」

 

「ああ、あの話題の男の子ね。彼なら1組よ、そこのクラス代表ですって。凄いわよね。あ、鈴音さんは2組だから隣のクラスになるわね。」

 

愛想の良い事務員は噂が好きなのか、聞かれてもないことをすらすらと話す。

そんな彼女のテンションに引きずられず、鈴音は質問を続ける。

 

「2組のクラス代表ってもう決まってますか?」

 

「ええ、もう決まってるわ。」

 

「その人の名前は?」

 

「え、ええと、そんなこと聞いてどうするの?」

 

鈴音の質問に戸惑いを覚えた事務員が聞き返す。すると鈴音はニパッと笑みを浮かべた。

 

「クラス代表、変わってもらおうかなって思っただけです。じゃあ、ありがとうございました。」

 

良い笑顔を浮かべたまま鈴音は受付を後にした。

 

 

(フフフ、待ってなさいよ一夏。こてんぱんにしてあげるから!)

 

鈴音は自信満々の笑みを浮かべながら拳を高々と掲げた。

 

IS学園の夜は今日もまた更けていく。

次への波乱を感じさせながら…。

 

 

 





次はいつくらいに投稿出きるのか分かりませんが、お待ち下さい。

まぁオリキャラ出てきたけど、もう今更ですよね?
TRF‐Rの連中であれだけはしゃいでますし…。

そして密航者まがいの事をしてIS学園に侵入した凰鈴音ちゃん。




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第27話 中国の転校生はわりと凄腕


今回はやや長めです。そしてある人物に多少原作と違う部分が見られます。

それでは本編をどうぞ↓


side 一夏

 

「おはよう、一夏くん、ねぇねぇ転校生の噂聞いた?」

 

教室につくなりクラスの一人にそう聞かれた。

転校生? このIS学園に、それもこの半端な時期に。確実に何かありそうな気がするのはオレだけか?

IS学園の転入はかなり厳しい条件付きだ。試験は勿論のこと、転入には国家からの推薦が前提になっているからだ。

ということは…。

 

「なんでも中国の国家代表候補生らしいよ!」

 

やっぱり代表候補生か…。

…にしても中国かぁ、元気にしてるかな、アイツは。いや、元気ない姿が想像出来ないからたぶん大丈夫だろう。

 

「国家代表候補生ねぇ。」

 

などとそんな事を呟いているとオレの両肩に誰かの手が置かれた。その感覚から具体的には右肩に左手が、左肩に右手が置かれてることが分かる。

常識的に考えてオレの肩に手を置いている人物は二人いる。

 

「今のお前に他の女子を気にする余裕があるのか?」

 

「そうですわ。一夏さんにはクラス対抗戦でよい成績を残してもらわねばならないのですから。」

 

箒とセシリアか…。いや、予想はできていたんだ。ただ、その予想がオレの勘違いであって欲しかった。

 

「それはわかってるけどさ、アリーナの使用許可が降りないんだから仕方ないだろ?」

 

「問答無用!」

 

「アリーナでなくても出来ることはありますわ!」

 

ギチギチとオレの肩を締めてくる。この二人ほんとに仲が良いな。

 

「だ、大丈夫だよ! うちの学年は一夏くん以外に専用機持ちは4組にしかいないし、その人もまだ完成しきってないみたいだから。」

 

そうなのか? ってことは今のところクラス代表で専用機持ちはオレだけなのか…。

にしても、クラスメイトからのフォローがありがたいよ。

 

「その情報、古いよ。」

 

そんな事を考えていると突然声がした。

その方向に目を向けるとそこには腕を組み、入り口の壁に背中を預ける顔馴染みがいた。

 

「鈴? 鈴じゃないか! 久しぶりだな、元気にしてたか?」

 

立ち上がって声を掛けると、そこにいる幼馴染みである凰鈴音がニッと歯を見せた。

 

「元気だったわよ、あんたも元気そう、ねっ!!」

 

懐かしさから鈴に近寄るとその瞬間に手刀突きが飛んできた、角度的にまず間違いなくオレの眼球を狙ってる。

これはヤバい、えっと、こういう時は体を捻りながらバックステップ!

 

「…。」

 

危なかった、反応があと少しでも遅かったらオレの眼球は無事じゃなかっただろう。南美との組み手が役に立ったな。

鈴の奴もさすがのオレの動きに呆然としてるみたいだ。

 

「へぇ、昔よりも良い動きするようになったわね。IS学園に来てたるんでるんじゃないかと思ったけど、そんな事なくて安心したわ。けど…、この記事はどういうことじゃい!!」

 

いきなり鈴が新聞を投げつけてきた。

それを見て、セシリアや箒、他のクラスメイトもその新聞を覗きこむ。

 

「IS学園日報…。昨日の新聞部のヤツか…? えっと、っ!? おい、なんだよこの記事は!」

 

「質問に質問で返すな!!」

 

オレが鈴に食って掛かる後ろでクラスメイトがキャーキャーと姦しい声を上げている。

オレが持っていた新聞は一瞬で引ったくられた。

 

「え~と、『話題の男子生徒、織斑一夏に迫る! 暴かれた彼の性癖』…。」

 

「『彼は日夜クラスメイトに組み敷かれ、いつもイカされている』…。」

 

「織斑くん総受けかぁ…、アリね!」

 

…彼女達は何の話をしているんだ?

いや、それよりも今は鈴の誤解を解かないと。

 

「鈴、誤解だ、あの記事はデタラメなんだよ!」

 

「あ”ぁ”ん!? どういうことよ!」

 

「だから、カクカクシカジカで…。」

 

「マルマルウマウマって訳ね。はぁ、何で先に言わないのよ。」

 

オレの説明を聞いて鈴は大きく息を漏らした。いや、先に言う前にそっちが仕掛けて来たんだが…。

 

「じゃあ、あたしはもう行くわ。」

 

「は? どこに?」

 

オレが尋ねると鈴は物凄い良い笑顔になった。

 

「新聞部!」

 

それだけ言い残して幼馴染みは風のように走り去って行った。

 

 

side out...

 

 

 

──昼休み

 

「さぁ一夏さん、あの方との関係を教えていただきますわよ!」

 

「あぁそうだ! 知ってることは残さず話せ!!」

 

昼になって食堂へと移動する道中、一夏は両脇のセシリア・箒ペアからの尋問を受けていた。

その3人の後ろにはいまいち状況の掴めていない南美と本音のペアが歩いている。

 

「ねぇねぇ本音~。」

 

「なになにミナミナ~。」

 

「今の3人の状況を3行でよろ。」

 

「ん~、ムリだね~。」

 

朝の時間、ホームルームギリギリに教室へと駆け込むことになった二人は今朝起こった珍事を知らないでいたのである。

 

「遅かったわね、待ってたわ!」

 

一行が食堂の入り口に差し掛かると、ラーメンどんぶりを乗せたトレイを片手に持った鈴が待ち構えていた。

 

「一夏、場所は取ってあるからさっさと来なさいよ。」

 

それだけ言って鈴は立ち去る。今朝の一件から身構えていた一夏は拍子抜けしたような顔を浮かべている。

 

 

 

 

「こっちこっち!」

 

食堂で無事に昼食を手にいれた一行は鈴を探して歩いていると向こうから声を掛けられ、彼女が取っていた席に座ることになった。

一夏の正面に鈴、一夏の左右を挟むようにセシリアと箒が座る。

 

「ほんとに久しぶりだな、1年ぶりくらいか。懐かしいな。」

 

「ホントね。てか、何であんたがIS動かしてんのよ、ニュースで見た時、思わずラーメン吹き出したじゃない。」

 

「お前ってばほんとにラーメン好きだな。」

 

「別に良いじゃない。」

 

などと二人が和気あいあいと会話をしていると一夏の両隣を陣取るセシリア・箒ペアがわざとらしく咳払いをする。

 

「そろそろ説明してくれないか? コイツは一体何者だ?」

 

「そうですわ。納得できる説明を希望します。」

 

普段よりもはるかに圧倒的な圧力を纏い、二人が一夏に詰め寄る。周りのクラスメイト達も一夏からの返答を待ち、聞き耳を立てていた。

 

「何者って言われてもな、ただの幼馴染みだとしか説明できないよ。」

 

「た、だだの…。」

 

一夏の説明に鈴は分かりやすいくらいに肩を落とすが、そんな事が分かる一夏ではない。

そして落ち込んでいる鈴とは対極的に周りはほっと安堵した。

 

そんな中で南美と本音の二人はマイペースに食事を摂っていた。

本音はフレンチトーストにサラダを、南美はラーメン炒飯セット定食の大盛りを味わっている。

 

 

「そうだ、一夏。話は変わるけどさ、あんた、誰に体術を教わったのよ? それも私の不意打ちに対処できるレベルで。あたしが日本にいた時は剣道の足さばきしか出来なかったよね?」

 

気を取り直した鈴が顔を上げて一夏に尋ねる。すると一夏は無言で自分の後ろの席を指差した。

そこには無心で大盛りのラーメンと炒飯を食べ進める南美がいる。

 

「今オレの後ろで飯食ってるヤツから教わった。自衛の為にも素手である程度は出来るようにした方が良いからってな。」

 

「へぇ、そんな酔狂な人もいるもんなんだね。あたしが言えた立場じゃないけどさ。」

 

鈴の声は興味を持ったようなトーンだった。そしてスッと立ち上がり、一夏越しにその後ろにいる南美を視認する。

南美の後ろ姿から何かを感じたのか、鈴はテーブルを回り込み、南美のすぐ横へと移動した。

 

「ねぇあんた、一夏に体術を教えたってのはホントなの?」

 

鈴の質問に南美は食事の手を止め、向き直ってから口を開く。

 

「まぁ一応はそうなるね。言っても護身術の範囲を出ないけどさ。」

 

「ふーん…。あんた、かなりやるね。…ちょっと手合わせしない?」

 

鈴は南美の全身をくまなく観察し、そう提案した。

すると南美もニッと笑う。

 

「オーケー、面白そうじゃん。」

 

「フフフ、じゃあ中庭で。」

 

二人はお互い笑い合うと、鈴は自分のラーメンのスープを飲み干し、南美は定食の残りを全て胃の中に収納してから中庭へと歩いて行った。

 

 

 

──中庭

 

IS学園の広大な敷地の中に複数存在するなかでも、学生寮1学年棟にもっとも近いここでは今、二人の戦士が向かい合っている。

 

「おい、二人とも本気か?」

 

「勿論よ。」

 

「あたしの好奇心が疼くのよ。」

 

向かい合う二人の間には急いで昼食を済ませた一夏が立っている。

そして丁度よく審判を頼まれたのである。

 

「じゃあ行くぞ? 始めっ!」

 

声掛けと共に一夏は1歩分飛び退く。そして一夏の声と同時に鈴と南美の二人が前に出る。

 

「ショォオッ!」

 

「ウゥアチャアッ!」

 

南美は勢いを活かした右のミドルキックを放ち、鈴は見てからそれに反応して左腕でそれを防ぎつつ、右の正拳突きを南美の鳩尾目掛けて打つ。

その一瞬で判断したのか南美は右足を地につけ、左のショートアッパーで迎撃した。

 

「ぐぬ…。」

 

「ちぃ…!」

 

一瞬の攻防を終えた二人は同時に飛び退き、呼吸を整える。

一足先に呼吸を整えた鈴は構え直すと小さくステップを踏み始めた。

 

そしてそのまま高速で南美の懐に突撃する。

 

「アタァ! アチャッ! ファチャアっ!」

 

小さなモーションからの前蹴りで南美の膝を崩し、素早く無駄のない動きで今度は喉を突くも、南美は難なくいなす。しかしそれも計算の内にあったのか、次の瞬間にはもう鳩尾にもう片方の腕で肘鉄を放っていた。

だがその肘鉄は勢いよく上げられた南美の膝によって防がれた。

 

「ちょ、これも防ぐの? ちょっと一夏、コイツ何者なの?!」

 

「総合格闘技の全中3連覇覇者だよ。」

 

「おぉふ…。思ったよりも化け物だったわ…。」

 

驚いた様相の鈴の一方で、南美は何やら考え込むような様子でいた。が、直後に考えが纏まったのか口を開いた。

 

「ジークンドーベースの喧嘩殺法って感じかな?」

 

「え! そんな事まで分かるの?」

 

「ジークンドーなら少しだけかじったことがあるからね。」

 

そう言って南美はニカッと笑う。

 

「いやぁ参ったわ。まさか同年代でここまで強い人がいるなんてね。」

 

「それは私のセリフだよ。えっと、凰鈴音さんだっけ? すごい強いね!」

 

「あたしのコンボを捌いといてよく言うわね。あと、鈴でいいわ、そっちのが呼びやすいでしょ?」

 

「ふふ、じゃあよろしくね鈴ちゃん。私は北星南美だよ。」

 

そう言って南美は笑顔で手を伸ばす。鈴は躊躇いもせずにその手を握る。

 

「こっちこそよろしくね、南美。」

 

女同士、そして強敵《とも》としての友情が芽生えた瞬間である。

 

 

 

 





はい、凰鈴音さんが武術サイドに目覚めております。
原作の鈴ちゃんファンの方、ごめんなさい。



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第28話 朴念仁死すべし、慈悲はない


今回は短めです。

それでは本編をどうぞ↓


──学生寮1学年棟

 

「死にさらせ、この朴念仁がぁ!!」

 

放課後となり、夕食後の時間、割りと平和的なこの時間帯には珍しく、少女の怒号が1025号室を中心に響き渡った。

 

 

時間は遡ること数分前である。

 

 

──1025号室 織斑一夏・篠ノ之箒の部屋

 

「認めん、認められるか、そんな事!」

 

部屋の住人である篠ノ之箒が入り口で声を荒らげる。彼女の正面にはボストンバッグを担いだ鈴がいた。

 

「だーかーらー、あんたの意見は聞いたけど、もう一人の住人の意見がまだじゃん。それを聞こうって言ってんのよ!」

 

 

…口論の原因はうっかり口を滑らせた一夏にある。

放課後、夕食前の鍛練(という名の南美による扱き、いわゆる1つのジョインジョインジョインジョインミナミィである)を終えた時のこと。

 

一夏と箒は同室であるため、備え付けのシャワーは共有している。

そして鍛練終わりに汗だくとなった一夏が鈴の前で箒にシャワーを先に使う旨を口走ったのである。

その折りになんやかんやあり、一夏は女子との同室は幼馴染みだから気が楽だと言ったことから、セカンド幼馴染みである鈴が箒と部屋割りを代わってとお願いしに来て、そのまま口論へと発展したのだ。

 

 

 

「だから、部屋代わりなさいよ。一夏だって迷惑してるんでしょ?」

 

「えぇい、しつこい! 部屋を出ていくのはお前だ!」

 

「「ぐぬぬぬぬ…。」」

 

と二人が睨み合う一方で、1022号室では…。

 

 

 

ペシペシペシペシペシペシペシペシペシデンショウレッパコノドクデイチコロトイウワケヨペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ

 

「お~、本音もだいぶユダ使いが板についてきたね。」

 

「まだゲージ管理が苦手だけどね~。」

 

家庭用北斗で布仏本音がユダの永久コンボをやっていた。

 

「にしてもこの短期間でユダを使いこなせるようになるとはね、ビックリだわ。」

 

「それもミナミナが練習に付き合ってくれたお陰だよ~。」

 

えへへと頬を緩める本音だが、その手元は緩まず動き続けている。

 

その時である。

 

「南美~っ!!」

 

ノックもせずにIS学園の制服を身に纏った少女がツインテールをなびかせながらダイナミックにドアから突入してくる。

IS学園の生徒、凰鈴音のエントリーだ。

 

「ちょ、え? ちょっとどうしたの鈴!」

 

南美はダイナミックエントリーしてきた鈴を抱き止める。

鈴の目元は若干涙で濡れていた。

 

「グス、一夏のヤツ、約束覚えてながっだぁ…。」

 

そのまま南美の胸で泣き崩れる鈴を南美はそっと抱き締めて泣き止むまで優しく頭を撫でる。

 

 

「落ち着いた?」

 

「うん…、ありがと…。」

 

10分ほど経って落ち着いたのか、鈴は南美から離れ、対面のソファに座る。そして対面する二人の前には本音が淹れたお茶が置かれていた。

泣き続けて落ち着いた鈴は先程起こったことをそのまま打ち明けた。

 

「なるほどねぇ…。」

 

「オリムー酷いぞ~、女の子の告白を勘違いするなんて~。」

 

「でしょ、やっぱりそう思うよね!?」

 

鈴が打ち明けた話とは、彼女が中国に引っ越す前に同級生であり、想い人であった織斑一夏に自らの想いを告げた時のことである。

彼女の一生一代の告白は“私の料理が上手くなったら毎日酢豚を作ってあげる”という、なんとも胃の負担が大きそうで、昔ながらの「毎朝味噌汁を作ってください」に通じる奥ゆかしいものだった。

だがしかし、告白を受けた当の織斑一夏はというと、その告白の根幹である“作ってあげる”を“驕ってあげる”と勘違いしていたのだ。

それに憤りを感じた鈴は一夏に怒鳴り散らし、彼の部屋を後にして南美の部屋に転がり込んできた。

 

…鈴の言い回しが分かりにくかったと言えばそうなのかもしれないが、そんな事は乙女3人の前ではお構い無しである。

 

「ま、まぁまぁ二人とも、一夏くんだって悪気があった訳じゃないんだからさ。いや、やっぱり酷いか…?」

 

「酷いぞ、女の子の告白は一生物なんだよ~。」

 

「そうよそうよ! こうなったらクラス対抗戦でギッタギッタのけちょんけちょんにしてやるわ!」

 

「おお~、その意気だよ。」

 

打倒一夏に燃え上がる鈴と、それを無意識に焚き付ける本音によって南美の部屋は消灯時間まで対一夏の作戦会議室と化したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

「アミバ様のパーフェクトゲーム」

 

ジョインジョインアミヴァ デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンヨウソウサンカクナギックラエェナギッナギッナギッヒョオハァナギッオレハオレハテンサイダァナギックラエェヒョオヨウソウサンカクキャクナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O. コレデキサマモオレノデクダァ

バトートゥーデッサイダデステニー ナギッペシペシナギッペシペシハァーンヨウソウサンカクナギックラエェナギッナギッナギッヒョオハァナギッジダイハジダイハイガクヨリボウリョクヲナギックラエェヒョオヨウソウサンカクキャクナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O. ンン マチガエタカナァ

バトースリーデッサイダデステニー ゲキシンコウハアアアアキィーン テッレテー ホクトウジョウハガンケンハァーン

FATAL K.O. コレガアミバリュウホクトシンケンダァ ウィーンアミヴァ パーフェクト

 

 

 

 

 





アミバ様はアニメ版も無双版も好きです。
そしてアミバ様のパーフェクトゲームに関してはただの思い付きです。深い意味は特にありません。

あと最近思うのが、格ゲー作るならとりあえず開発をアークシステムに任せてみれば良いと思うんですよね。




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第29話 布仏本音のTRF‐Rデビュー


今回は短めです。

それでは本編をどうぞ↓


「モヒカン大会だよ⁉ 全員集合!!」

 

(モヒ・ω・)<ヒャッハー!

 

(モヒ・Д・)<ハラショー!

 

土曜の夕方、南美のIS学園入学に伴い、モヒ修羅大会が日曜に、モヒカン大会が土曜にずれ込んだ今日この頃、TRF‐Rにはモヒカン達が集っていた。

 

「さぁ今日はあのクイーン、ノーサ一押しの新人“のほほん”ちゃんが登場だぁ!!」

 

(モヒ・ω・)<のほほんちゃんカワイイ ヤッター!

 

(モヒ・∀・)<オレもうロリコンでいいや…。

 

(モヒ゜∀゜)<ロリ巨乳キタコレ!

 

「ナチュラルにセクハラしたやつ、後で屋上な。それでは早速試合を始めていくぞ。第1試合──」

 

 

 

「ほえー、ここがTRF‐R…。こんな熱気ムンムンなところだったんだね。」

 

「まぁ敷地面積狭いし、人口密度が半端ないからね。ちかたないね。」

 

土曜に移行したモヒカン大会を行うTRF‐R店内で本音(RN:のほほん)は自身を連れてきた張本人、ノーサのところに逃げるように駆けてきた。

 

「ふうぅ~、緊張してきたよ~。」

 

「大丈夫、だーい丈夫。本音なら行けるって。本音の練習相手をしてたのはこのクイーン、ノーサだからね。」

 

子犬のような本音の頭を南美はワシャワシャと撫でる。

すると本音は猫が喉をコロコロと鳴らすような声を出した。

 

 

「じゃあ次ね、のほほんユダ対サタスペはキジルシが楽しいんだジャギの試合を行います。」

 

「ほら、出番だよ。行っておいで。」

 

「う、うん。行ってくるよ~。」

 

 

 

ジョインジョインジョイジャギィ ジョインジョインジョインジョインジョインユダァ

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワンデッサイダデステニー

オノレェェ

 

「開幕バニィ! 新人とは思えない大胆不敵な開幕バニ!壁際に追いこんだ。」

 

ペシペシペシペシペシペシデンショウレッパオロカモノガオマエノウデデオレニカテルトオモッテイルノカペシペシペシペシペシペシユケッイチドオモイシラセテアゲヨウペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ

 

「のほほんちゃんの怒濤の攻めが止まらない! ホントにモヒカンなのか?!」

 

(そりゃあ練習相手が修羅だもん…。)

 

マイクを握るTAKUMAの実況に南美は頬杖をつきながら心のなかでため息をついた。

 

ヨウセイガツゲテオルワ カミガオレヲエランダト

 

「まさかのパーフェクトゲーム! のほほんユダ危なげなく1回戦を突破したぞ!」

 

(モヒ・ω・)<ざわ… ざわ…

 

(モヒ・Д・)<なん…だと…。

 

(眉゜Д゜)<カ、カワイイ…はっ!?

 

(モヒ゜∀゜)<アレがユダの動きだと⁉ じゃあオレは何だ!?

 

 

 

「ノ~サ~、勝ったよ~。」

 

「うん、すごいじゃん、のほほんちゃん凄い凄い!!」

 

試合を終えた本音は周りのモヒカン達の視線から逃げるように台から離れ、南美の胸元にダイブした。

もし本音に尻尾があったならブンブンと左右に振り回しているだろうくらいに彼女ははしゃいでいる。南美も南美で、はしゃいでいる本音を抱き抱えながら頭をワシャワシャと撫でる。

 

(モヒ・Д・)<キマシ?

 

(モヒ・∀・)<キマシ…。

 

(モヒ・ω・)<キマシタワー!

 

 

 

「はい、優勝はのほほんちゃんです、おめでとう!!」

 

その後、トントン拍子で大会は進み、本音は初の大会で優勝という鮮烈なデビューを飾ったのである。

 

そしていつも笑顔で癒しを振り撒く本音は殺伐とした世紀末のTRF‐Rで一躍アイドルとなった。

 

 

 

 





世紀末にそれなりに染まった本音ちゃんでした。



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第30話 一夏の新師匠


今回は平均よりも少し長いくらいです。

では本編をどうぞ↓


「シャオッ!」

 

「ファチャッ!」

 

早朝の中庭で二人の声が響く。

 

その二人とは北星南美と鳳鈴音である。出会った初日に拳を交えた彼女らは親友として、そして拳士として毎朝手合わせしているのだ。

だが今日はもう二人、木刀で切り結ぶ人影がある。

 

「相変わらず鈴と南美は強いな。オレたちも負けてらんないな、なぁ箒!」

 

「あぁそうだなっ!」

 

一夏と箒である。

鈴と南美の早朝トレーニングを知った二人は、部活だけでは発散しきれないストレス等のその他もろもろの解消や、自己鍛練の為に参加することにしたのである。

 

「シャオッ! ショォオッ!」

 

「アタァ! ホワチャ!」

 

中庭には鈴と南美の声と、一夏、箒が木刀を打ち合う澄んだ音が響く。

 

 

 

「いやぁ朝からいい汗かいたわ。」

 

「そうだね。私も腕が鈍る心配しなくてよくなったし。」

 

学生寮までの道のり、四人はタオルで汗を拭いながら歩く。

爽やかな青春の光景と言えるだろう。

だがそんな折に、一夏の視界があるものを捉えた。

それが見えたのはしっかりと手入れされた植え込みの奥、日陰を作るために植えられたであろう木々の中。

それは人影であった。

日が顔を出し始めた早朝はまだ薄暗いが、一夏の目はその人影の情報を捉える。

 

艶のある黒髪で、背は高い黒スーツ姿の男性、年はそこまで高くなく、むしろ若い。

そして何よりも、その手に鞘に納めた日本刀らしき物を握っていた。

 

決定的であった。男性は基本的にいないはずのIS学園の敷地内に凶器を持った男。

 

「なぁ皆、アレ…。」

 

一夏に促され、その方向に顔を向けた3人もその男を捉えた。

その直後、箒と一夏は木刀を手に男のもとへと駆ける。

 

「ちょ、一夏!?」

 

「二人とも、待って!」

 

鈴と南美の制止も空しく、二人は男のいるところに辿り着くとそのまま木刀を構える。

 

 

「おい、そこで何をしてる!」

 

「事と次第によっては…。」

 

一夏と箒に詰め寄られた男は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、次の瞬間には小さく溜め息吐いた。

 

「見つかってしまいましたか…。」

 

男は右手を額にあて、やれやれといった様子である。

そんな男の様子に一夏は明確な敵意を持って彼に近寄る。

そんな時、南美の声が響く。

 

「アレ、狗飼さん⁉」

 

「お嬢!」

 

「知っているのか、南美!? って、お嬢…?」

 

後方からの南美の声、前方の男、狗飼瑛護の声に思わず一夏はとぼけた声を出した。

 

「いや、知ってるも何も、私の父さんの部下だもん。」

 

「父さん? 部下…?」

 

「あ、言ってなかったっけ。私の父さんは北星総合警備派遣会社ーKGDOーの社長なんだよ。で、この人は狗飼瑛護さん、KGDOの社員さんね。」

 

南美が今一状況の掴めていない一夏に狗飼の事を紹介すると、狗飼はスッと頭を下げる。

 

「どうも、KGDOから警備員としてIS学園に派遣されてきた狗飼瑛護という者です。皆さんには日頃から内のお嬢がお世話になっております。」

 

「狗飼さん、お嬢って呼ぶの止めてよ。私そういう柄じゃないんだからさ。」

 

「ですがボスの娘さんですし…。」

 

「あー! あの時の警備員さんじゃん。」

 

南美と狗飼の会話を遮るように鈴が声を上げる。

すると狗飼も鈴の存在に気づいたのか、“あぁ”と小さく声を出した。

 

「君はあの時の…。無事に手続きが出来たみたいだね。」

 

「警備員さんのお陰だけどね。」

 

狗飼の言葉に鈴は小さく笑う。

 

その場の空気と、狗飼の礼儀正しさに毒気を抜かれた一夏と箒は構えている木刀を下ろした。

 

「にしても、警備員さんって南美と知り合いだったんだ。世の中狭いね。」

 

「いや、オレとしては南美が社長令嬢だって事のが驚きなんだけど…。」

 

「まぁ私のキャラじゃないしね。」

 

驚きを隠せない一夏に対して南美は“アッハッハ”と笑ってみせた。

そんな南美の様子に狗飼はほっこりしたような顔をする。

 

「それよりもKGDOは確か国内有数規模の警備会社だと認識していたが、そんな大企業の社員とは貴方はよっぽど凄いのだな…。」

 

「そんな大層なものではないですよ。私は実働員ですから。事務方の社員じゃないので学歴は…。」

 

感心したような箒の言葉に狗飼は“アハハ…。”と苦笑いを浮かべた。

 

「IS学園に派遣されてたから最近家に来なかったんだ。お母さんが言ってたよ? “最近は瑛ちゃん達がご飯食べに来なくて寂しいわ。”って。」

 

「ハハハ、それはすいません。まぁここ長らくはIS学園勤務でして、今年で3年目になりますよ。そろそろ女将さんの手料理が恋しいです。女将さんにそう言ってもらえるのは嬉しい事なんですが…。まぁ暇が出来たらそのうちに、とお伝えください。今の私には為すべきことがありますから。それと皆さん、私達KGDOの派遣員については他言無用でお願いしますね。」

 

そう言って狗飼は右手の人差し指を立てて唇に当てた。

 

「あぁ、隠密警備の契約なんですね。」

 

「はい、その通りです。」

 

南美の指摘に狗飼は深々と頭を下げた。どうにも頭が上がらないようである。

 

「あの…、狗飼さん、貴方はかなり強いですよね。」

 

「…さぁ、分かりません。」

 

「狗飼さんはかなり強いよ、剣術なら父さんの部下の中でもトップクラスだからね!」

 

はぐらかす狗飼の代わりに南美はない胸を張って“えっへん”というようなジェスチャーをする。

だがそれに対して一夏はリアクションを取るでもなく、その場に土下座した。

 

「狗飼さん、オレに剣術を教えてください!」

 

「ちょ、一夏!?」

 

「何を?!」

 

一夏の突然の行動に隣にいた鈴は目を点にしたが、逆隣にいる箒は同じように土下座する。

 

「わ、私も頼む!」

 

「…理由を伺っても、よろしいですか?」

 

狗飼の問いに一夏と箒は顔を上げる。

 

「オレは強くなりたいんです。千冬姉に守られるばかりはもう嫌なんです。ISに乗れるようになった今、オレは姉さんを越える! その為にも、道場剣術じゃなくて実践に特化した剣術が必要なんです!」

 

「私も、篠ノ之束の妹ではなく、篠ノ之箒個人として見てもらう為に‼」

 

必死に訴える二人の目を見るために狗飼は膝を着いて二人の目を見つめる。

交互に二人の目を見比べた狗飼はハァと小さく息を吐いた。

 

「分かりました、私の出来る限りの事は教えましょう。ハァ、この年でもう弟子を持つことになるとは…。朝の5時、この場所でよければ…。それではまた。」

 

やれやれといった様子で狗飼は木々の奥へと帰っていく。

 

「「ありがとうございます!」」

 

去っていく狗飼の背中に向けて二人は再度頭を下げた。

 

 

 

「あれ、狗飼センパイ…。なんか良いことあったんすか?」

 

「そうですね、良いことがあったのかも知れないですね。」

 

KGDO派遣員待機所に戻った狗飼はそこでくつろいでいる後輩にそう答えるとスマートフォンを手に取りある番号に電話を掛けた。

 

──プルルルル プルルルル ガチャ

 

「はいネ、瑛護。何か用アルか?」

 

「はい、フーさん。ちょっと相談が…。実は弟子が出来まして、フーさんにコツを教えてもらいたくて。」

 

電話の相手は狗飼の先輩、通称フーさんだった。

 

「オオ! 瑛護にも弟子が出来たカ、それは重畳、重畳…、私は嬉しいネ! 実はナ、私の弟子もIS学園に入学したのヨ。さすがは私の弟子ネ。」

 

「は、はぁ、それで、その、弟子を育てるコツなんかは…。恥ずかしながら、自分今まで誰かに指導をしたことなどなくて、ですね。」

 

「ん~? 育てるなんて思う必要はないネ~。こっからは私の持論だけどナ、弟子っていうのは自分の磨き方を教えれば勝手に育つものだヨ。大事なのはその磨き方をちゃ~んと教えて上げることヨ! ま、それが大変なんだけどネ~。」

 

それから電話の向こうでフーはけたけたと笑いながら自身の論を展開する。それを狗飼は真摯に一言一言受け止める。

 

「ありがとうございました、フーさん。このお礼はいつか…。」

 

「お礼なんていらないネ! 瑛護の弟子の成長について教えてくれれば良いヨ!」

 

「分かりました、ではそうしましょう。助かりました。それではフーさん、また今度…。」

 

「おう、次はIS学園でナ。」

 

そう言ってフーは電話を切る。

自由奔放な彼の行動には慣れっこだという感じで狗飼はスマートフォンをそっと胸ポケットへとしまった。

 

「さて、明日の準備だ…。」

 

狗飼は意気揚々と待機所の自室に戻り、竹刀の手入れを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 





えー、意味が分からねぇぞ!という方、広げた風呂敷は必ず回収するのでしばしお待ち下さい。



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第31話 決戦前日


今回はちょっと短めです。

それでは本編をどうぞ↓


5月、入学した新入生達も学園の雰囲気に慣れてきた頃、ここIS学園では大きなイベントが控えていた。

 

「さて、一夏…。来週にはクラス対抗戦が始まるが、大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

箒の質問にもはや定型文と化している決まり文句を返せるくらいには今の一夏には余裕があった。

その理由は1つ、狗飼という新たな師匠を得たこと。そしてもう1つ、南美や、セシリアとの日々の研鑽があったからだ。

 

「自信があるなら別にいいんじゃない? 周りが煽って変に力まれても困るしさ。」

 

「そうですわね、今の一夏さんなら向かうところ敵なしですわ!」

 

「自信がある訳じゃないけど、南美達に相手してもらったりしてたから、その、期待に応える為にもって感じだよ。でも、不思議と負ける気がしないんだ。ありがとうな、3人とも。」

 

一夏は振り替えると真っ直ぐな、それでいて自信に満ちた目で3人を見つめ、頭を下げた。

それを見た南美は他の2人の意見を代弁するように笑顔を作ってサムズアップする。

 

「言葉は不要さ…。私達への感謝は行動で、結果で見せてくれよ。」

 

「あぁ、なら優勝しないとな!」

 

とびきり良い笑顔の南美に倣って一夏も笑い、サムズアップする。

 

 

 

 

クラス対抗戦を明日に控えた日の早朝、木々が生い茂る木陰の中で、一夏は師である狗飼と対峙していた。

 

「でゃあっ!」

 

「踏み込みが、甘い!」

 

一夏が上段から振り下ろした竹刀を、狗飼は右手に握った竹刀で払い除け、そのままがら空きのボディに対して左肩で体当たりして突き飛ばす。

体当たりの衝撃を逃しきれなかった一夏はそのまま地面に叩きつけられ、肺の空気を吐き出す。

 

「…初日にも言いましたが、もっと思いきりよく打ち込んで来なさい。でなければ何本やっても無駄になるだけです。」

 

狗飼は竹刀を担ぎ、尻餅をついている一夏にそう言った。

一夏が狗飼に弟子入りして最初の稽古の時、狗飼は一夏と箒に対して“殺すつもりでかかってきなさい”と言い放っていた。それと同時に“何の為に刀を振るうのかを忘れるな”とも。

曰く“生半可な気持ちでは太刀筋が鈍り、目的のない刃では何物も断ち切ることは出来ない”という彼の持論かららしい。

 

「もう1本、お願いします!」

 

「良いでしょう…、来なさい。」

 

一夏は立ち上がると竹刀を正眼に構え直す。

そして狗飼もまた竹刀を握る手をだらりと下げ、一夏の襲撃に備える。

 

「でぇやぁああああっ!」

 

気合いの乗った声を張り上げながら一夏は素早い足さばきを駆使して突進する。

 

「フッ!」

 

狗飼は下げている竹刀を振り上げ、一夏が両手で握る竹刀を片手で真上に弾き飛ばすと、そのまま竹刀を一夏の左肩へと打ち下ろす。

 

「っつう…、うっ!」

 

そして狗飼は竹刀の一撃で動きの鈍った一夏の腹に前蹴りを入れて蹴り飛ばした。

 

「殺すつもりで剣を振るう事と、闇雲にただ突っ込む事は違います。」

 

狗飼は竹刀を肩に担ぎ、尻餅をついている一夏の方へつかつかと歩み寄る。

 

「君がこれから迎えるのは殺し合いの世界だ。そして殺し合いでは負ける側とは得てして思考を止めた者だ。」

 

一夏の目の前まで来た狗飼が竹刀を突きつける。

 

「偶然にも一刀にて決着をつけられるという君のISの能力は殺し合いに通じるものだ。故に思考し続けろ! 見て、聞いて、感じて、敵から、戦場から得られる全ての情報を基に考え続けなさい! それが勝つ、いえ、生き残る為の条件です。」

 

言い終えると突きつけた竹刀を再度肩に担ぎ直すと、一夏の手を引いて立たせた。

 

「一夏くん、初日に私が言ったことを覚えていますか?」

 

「はい、“人を殺めるのではなく、守るために刀を振るえ”ですよね。」

 

「覚えているならば良いです。…殺意を持てと言いながら、殺める為に振るうなと、訳の分からない事を言っていますが、いずれ分かります。それまで君自身でその答えを探してください。」

 

そう言って狗飼は一夏に背を向ける。これはこの日の稽古はこれで終わりである事を意味している。

 

「今日はこれでおしまいです。明日に向けて休養し、しっかりと英気を養うこと。明日、ベストを尽くせるように今日のベストを尽くしなさい。」

 

「はいっ!」

 

「言い返事です。…勝てると良いですね。」

 

はっきりと、優しさのある口調でそう告げた狗飼はそのまま木々の奥へと歩を進め、一夏の前から姿を消していった。

 

 

 

 

──夜

 

初めてのクラス対抗戦の前夜とあって、学生寮1学年棟はどこか浮き足立ったような空気に包まれている。

 

そんな中で、凰鈴音はルームメイトが外出中の自室である人物に電話を掛けていた。

 

──プルルルル プガチャ

 

「あ、もしもしお師さん、あたしです、鈴音です!」

 

「フフフ、言わなくても分かるヨ、私の大事な弟子だものネ。」

 

電話の相手は鈴のジークンドーの師匠である。電話越しの声からは、彼がどれほど鈴を溺愛しているかが窺えた。

 

「それでどうしたネ?」

 

「う、うんとね、お師さん、明日ね、試合があるの…。」

 

「フフフ、もしかして緊張してるアルか?」

 

「う、うん…。やっぱり分かっちゃう?」

 

「勿論ネ、鈴のことなら何でもお見通しヨ。」

 

鈴の弱々しい口調から何かを察したのか、師匠の男はからかうような、それでいてリラックスさせるような調子で語りかける。

 

「自信を持つネ! 鈴はこの私、呂虎龍(ルゥフゥロン)の愛弟子アルよ。それにいつも言ってたアルよ、“玉磨かざれば光なし、石も磨けば玉になる”ってネ。鈴は才能溢れた使い手ヨ、格闘技もISも。それに誰よりも努力家なことだって私は知ってるアルよ。」

 

「うん…。」

 

「だからナ、緊張することなんてないアルよ。もともと光輝く玉の鈴がずっと自分を磨いて来たんだから、今はどんなものよりも光る宝石ヨ! 明日の試合は今まで磨いてきた自分を信じれば良いネ!」

 

「うん、ありがとう。あたしね、お師さんと出会えて良かった。」

 

いつのまにか鈴から不安げな表情は消え失せ、今は笑顔が咲いていた。その事を電話越しに分かったのか、虎龍の声もいっそう嬉しさを増す。

 

「フフ、鈴は笑顔でいるが一番良いネ! いつも笑顔でいればどんな男もイチコロだヨ! 恋も戦いも、今の鈴には敵なしアルよ。」

 

「笑顔ですね! あたし頑張ります、明日はお師さんに勝利の報告をしてみせますから!」

 

「おう、楽しみに待ってるアルよ!」

 

 

 

──こうしてクラス対抗戦前日の夜は各人の思いを包むように更けていくのだった。

 

 

 





はい、鈴の師匠の名前は呂虎龍(ルゥフゥロン)です。
感想の方では色々と元ネタを予想してくださった方がいましたが、虎龍に関しては元ネタという元ネタがいません。

実を言うと鈴の師匠は悩みました。
中国・鈴繋がりで紅美鈴さん、凰繋がりでサウザーかオウガイ辺りを構想していましたが、どちらかを採用するとそれぞれギャグ・シリアスの極端に寄りそうな感じがして止めました。
お師さん呼びはその名残です。

それでは次回、クラス対抗戦です。
お楽しみください。




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第32話 開幕 クラス対抗戦!


今回の話は短めです。

では本編をどうぞ↓


──クラス対抗戦当日

 

この日、IS学園の貨物船用の港にある人物が降り立っていた。

 

「やぁやぁ瑛護、電話振りだナ。それにしても良い感じに盛り上がってる空気ネ~。フフフ、ここがIS学園、1度来てみたかったのヨ!」

 

「そのうち飽きますよ、絶対に…。なのでフーさんにも何か手軽な暇潰しの趣味を見つけることをオススメします。」

 

その人物は鈴の師匠である呂虎龍、その格好は腰まである長い髪を後ろで1本に束ね、服は狗飼と同じく、黒のスーツでピシッと決めている…のだが、成人男性の平均身長を大きく下回るその低い身長と、年齢よりも遥かに幼く見える童顔も相まって、どこか愛らしさが感じられる。

 

「ま、暇潰しはそのうち見つけるヨ。ただ、今は仕事ネ…。」

 

スッと虎龍の目付きが鋭くなり、先程までの愛らしい雰囲気は一切なくなる。

そしてちょいちょいと手招きすると、虎龍よりも背が高い狗飼は少しばかり屈んで耳元を虎龍に向ける。

 

「女権団の過激派が何やら不穏な動きを見せてるらしいネ。それに伴ってIS学園の警備レベルを1段階引き上げるって義仁は言ってるよ。」

 

「ボスが、ですか…。」

 

「そうネ。まぁ原因はきっと男がIS学園に入学したからアルよ。」

 

そう言って虎龍は狗飼から離れ、やれやれといったジェスチャーをする。

 

「まぁ、なんやかんやと騒ぐだけなら可愛いものヨ。 実際に行動したらただじゃ済まさないけどナ。」

 

そう言って嗜虐的な笑みを浮かべる虎龍に狗飼は背筋が凍りつくような感覚を覚えた。

だが、虎龍はまたいつものような愛くるしい雰囲気に戻る。

 

「義仁からの伝言は伝えたよ。数日したら正式な辞令が届くはずネ。それとナ、警備レベル引き上げの都合で、瑛護にはまだまだここで働いてもらうらしいヨ、まだまだ本土勤務にはならないみたいネ。」

 

「それは大丈夫です。ここでの暮らしも慣れましたし。」

 

虎龍の言葉に狗飼は残念そうな、それでいて嬉しそうに頬を緩ませた。

 

「さて、それじゃあ早速だけど待機所に案内してほしいアルよ。」

 

「ええ、こっちです。」

 

スッと虎龍に背を向け、待機所のあるほうへと歩き出した。

 

 

 

 

「…。」

 

「なぁに、緊張してんの?」

 

クラス対抗戦の参加者控え室で無言のままベンチに座る一夏に鈴が話しかける。

それに一夏は顔を上げて“いや、違う”とだけ返して立ち上がる。

 

「今のオレがどれだけ戦えるのかなって、ちょっと考え込んでただけだ。」

 

「ふん、心配して損したじゃない。野心で目ん玉ギラギラさせちゃってさ。まったく、アンタってば…。ま、その方がらしいっちゃらしいけどね。」

 

怖じ気づいた様子のない一夏を見て鈴は笑う。だがそれも後ろの雰囲気に上書きされる。

鈴は少しだけ体を捻って後ろを向くと、僅かながらに顔をしかめた。

 

「にっしても、辛気臭いわね。もっとこう…、ぐわっとならないのかしらね。」

 

「無理もないだろ、専用機と量産機とじゃかなりの性能差があるんだ。それで戦意を高めろなんて無理な話だろ? まぁオレも少し拍子抜けだけどな。」

 

他のクラス代表達の雰囲気に一夏と鈴はややガックリしていた。

二人としてはもっと血沸き、肉踊るような闘争を求めていたのだ。それがいざ蓋を開けてみれば、他のクラス代表の生徒は半ば勝ち抜く事を諦めているかのような雰囲気である。

二人にしてみれば水を注されたような気分だろう。

 

そんな風に二人が肩を落としていると、控え室のモニターに千冬が映った。

 

「聞こえているか、1学年クラス代表諸君。今から行われるのは単純な闘いだ。さて、前置きは置いておくとしてだ、本題に移ろう。お前達の組合せだが、たった今鉛筆を転がして決めている。でだ、湿気た面をしている諸君に私から1つ、アドバイスをくれてやろう。“何をしても勝てば良い”だ。いいか、今から君たちが行うのは闘いだ、本来ならルール無用なんだ、つまりルールに抵触しなければ何をしたって許される。卑怯などと言う言葉は所詮考え足らず共の言い訳に過ぎん! 誰が相手であっても最後まで足掻け! 良いな!」

 

最後に念を押してきた千冬の顔はSっ気に溢れていた。

 

「そして、専用機を持っていない諸君、君らにはチャンスだ。もし君たちが専用機組みに勝ってみろ、各国の注目は集まり、将来の明るい道は保証されるだろう。さぁ、諸君、自らの手で栄光を掴んで見せろ!!」

 

千冬から檄が飛ぶとそれまで意気消沈の様相でいた一般生徒組みから俄に活気が出てきた。

 

そしてそれを見計らったかのようなタイミングで組合せの書かれたトーナメント表が画面の中に現れる。

 

モニター越しにそれを見ていた一夏と鈴、そしてアリーナでも同様に映されたトーナメント表を見ていた南美達が驚きの顔を浮かべた。

 

「1回戦第1試合、織斑一夏対凰鈴音…。」

 

「最初からクライマックスですわね。」

 

 

「嘘だろ…。」

 

「ま、覚悟しなさい一夏。しばき倒してあげるわ。」

 

「負けねぇよ。」

 

笑顔で牽制しながら二人は立ち上がり、控え室を出ると互いに背を向けそれぞれ別のピットへと歩いていった。

 

 

 

 

 





人には誰しも譲れない物がある。己が己であるために、自分の生を証明するために。
人それを“信念”という。

次回
IS世界に世紀末を持ち込む少女 第33話「激突」

─戦場の少年は何を思うのか




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第33話 激突


今回はちょっと長めです。

では本編をどうぞ↓


 

「さぁ、始めましょうか。」

 

「あぁ、来いよ鈴!」

 

IS学園第3アリーナで、一夏と鈴は自身のISを展開して睨み合う。

鈴の専用機“甲龍(シェンロン)”は中国が生み出した第3世代型のISであり、燃費の良さとバランスの良い性能が売りである。

そして何より、近距離での殴り合いに特化した機体なのだ。

 

鈴と一夏、互いの領分は至近距離での殴り合い、シンプルだからこそ両者の差が明確になる。

 

「フフフ、めっためたにしてあげるわ。」

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ!」

 

鈴は2本の青竜刀を繋げ、肩に担ぎ、一夏は雪片弐型を握りしめ、正眼に構える。

 

そして開戦を告げるブザーと同時に両者とも突進する。

 

「ぬぅうぉおおおっ!」

 

「フゥゥアチャアッ!」

 

上段から振り下ろされる一夏の雪片弐型と横薙ぎに振られた鈴の青竜刀が激突し、激しい音を立てる。

鍔迫り合いになり、二人の腕が激しく震える。

 

「負けねぇよ。鈴、今日はお前に勝つ!」

 

「やってみなさいよ、このバカ一夏!」

 

二人は互いに鍔迫り合いの状態から力をずらし、拮抗状態を抜け出す。

 

「アタァ!」

 

「うらぁっ!」

 

得物を相手から遠ざけ、体の回転を生かしてそれぞれ蹴りを放つ。

二人の放った蹴りは互いのわき腹を捉えるが、そんな事お構いなしに二人は攻撃の手を緩めない。

 

「アタァ、ファチャッ! フゥゥアチャアッ!!」

 

「うらぁ、つっ、しゃあらぁあっ!!」

 

繋いだ青竜刀をバトンのように回転させながら体術を挟み、攻勢を緩めない鈴に対して一夏もガードなんか二の次で手を緩めない。

向かってくる青竜刀の刃を雪片弐型で叩き落とし、そのまま勢いを緩めることなく鈴を蹴りつける。

 

お互い肉を切らせて骨を断つかのような捨て身のスタイルで1歩も退かずに切り結ぶ。その様に見ている生徒達は息を呑む。

 

 

 

 

「うわぁ~…。」

 

「ガード度外視、いや、零落白夜があるから鈴は雪片弐型の一撃を避けながら、受けてもいいやつは受けながら殴り合ってる…。」

 

1年1組が集まって座っている場所で、並んで座っている南美と本音は冷静に戦況を観察していた。

 

 

 

「ちょこまかとっ!!」

 

「当たり前じゃない、こっちは当たっただけで落ちるし、当たる訳にはいかないっての!」

 

「のわりには余裕綽々じゃねぇか!」

 

二人は立体的な機動を繰り返しながら刃を交える。アリーナには二人の声と二人の得物同士がぶつかり合う音が響く。

 

「アタァタァアァタタ、フゥゥアチヮアッ!!」

 

「ぐっ…、くそっ!」

 

高速で繰り出される蹴りに押し込まれ、最後に薙ぐように振り回された青竜刀の一撃で一夏は吹っ飛んだ。

加速度的に攻め手の早さを上げる鈴に一夏はジリ貧になり、押され始める。

 

「くそっ、まだだ、まだ終わらねぇ!!」

 

致命的な一撃だけは防ぎつつ、反撃の機を窺っていた一夏は、鈴が大振りの一撃を放とうとした瞬間、ブースターを吹かし、突撃する。

 

だがその時、鈴の機体“甲龍”のショルダーアーマーが開き光る。すると、一夏が後方へと吹き飛んだ、まるで何かに殴り付けられたかのように。

 

(っ!? 今のは…、何だ?)

 

 

 

「何だ今のは?」

 

観客席から観戦していた箒が呟く。それに答えたのは隣に座っているセシリアだった。

 

「あれは確か…“衝撃砲”…。空間に圧力を掛け砲身を形成、余剰分の衝撃を弾丸のように打ち出す兵器ですわ。」

 

“中国の第3世代型兵器”と言葉を続けるが、箒の耳にはセシリアの説明は届いていない。

彼女にはアリーナにて激闘を繰り広げる一夏しか見えていなかった。

 

 

 

「中国も厄介なモノ作るねぇ…。見えない砲身と弾丸とか、面倒くさいことこの上ないよ。」

 

「ミナミナならどうする~?」

 

セシリア達と離れたところに座っている南美はいち早く鈴の使った兵装について看破していた。

 

「見えないなら見なきゃ良いんだよ。今の一夏くんならそれが出来るさ。」

 

本音の方を向いてそう言うと、意味ありげな笑みを浮かべ、またアリーナの方に向き直る。

 

「さぁ、見せてごらんよ、狗飼さんの指導で培った君の力をさぁ…。」

 

 

(考えろ、どうする、どうする…⁉ 近接はどっこい、一撃の重さならこっち、手数は鈴。さっき食らった攻撃がある分、離れればそれだけあっちが有利…。)

 

一夏は先ほどの鈴の一撃を“見えない弾丸を打ち出すもの”と当たりをつけ、狙い撃ちされないように高速で飛び回っていた。

それを鈴はその場で旋回しながら視界に捉え続ける。

 

「どうしたの? 近付いて来なさいよ、それとも怖じ気付いたかしら?」

 

鈴の挑発に一夏はグッとこらえ、距離を保ち続ける。

その間も鈴は一夏に向かって牽制として衝撃砲を打ち続ける。

 

(見えた‼ 狗飼さんの教えはそう言うことだったのか…。銃弾が見えないならそれを撃つ側の殺気を感じれば良い…。 これなら…いける!)

 

鈴の衝撃砲を見切り始めた一夏は逃げ回るだけだった機動から、懐に潜り込む為の機動へとシフトする。

 

「うぉぉおおおおっ!!」

 

爆発的推進力を得る瞬時加速《イグニッション・ブースト》による突撃は一瞬で鈴との間合いを詰める。

 

ガギィィン

 

一夏の振り下ろした雪片弐型の一撃は、寸での所で鈴の青竜刀によって防がれた。

二人の得物はギチギチと音を立てている。

鍔迫り合いになった瞬間、甲龍のショルダーアーマーが開く。

 

「吹き飛べっ!」

 

「見切った!」

 

ショルダーアーマーが開いた瞬間、一夏は上に飛び鈴の後ろに回り込み、雪片弐型を振りかぶる。

 

「うらぁああっ!!」

 

「ぐく…。」

 

振り下ろされた雪片弐型を迎え撃つように鈴は青竜刀を横凪ぎに振り払う。

重厚な金属音が響き、二人は互いに吹き飛ぶ。

 

「まさか、こんな早く見切られるとわね…。」

 

「はは、これでやっとこさ5:5か…?」

 

離れたまま睨み合う二人は互いに警戒しながら雑談し始める。

もう互いのシールドエネルギーは半分を下回っており、一夏の火力、鈴の手数を考えれば次の一合で決着がつくであろう事は想像に難くない。

 

「ふぅ…。さぁ、ケリをつけるか…。」

 

「結末は私の勝利だけどね。」

 

軽口を叩きながら二人は得物を構える。

 

「ぬぅうぉおおおおおっ!!」

 

「ウゥ、アァチャァアアアアッ!!」

 

大声を張り上げながら二人は互いの間合いに入ろうと前進する。

 

─その時それは現れた。

 

二人の間に閃光を迸らせ、上空の穴からアリーナへと降り立ったそれは、異形な姿のISだった。

 

 

 

side 南美

 

それは突然だった。

一夏くんと鈴の間にレーザーが撃たれたと思ったら、アリーナに張られているはずの頑強な遮断シールドに開いた穴から侵入してきたIS。

 

その姿を一言で表すなら“異形”だろう。

全身装甲の外見、爪先に届くくらい長い腕部、頭部に並んだ剥き出しのセンサーレンズ、それだけでそれが普通ではないことが分かる。

 

だが、何よりも不味いのは“異形”が持つあのレーザーだろう。ISに搭載されているエネルギーシールドよりも遥かに頑強なはずの遮断シールドを軽々と破壊したあの一撃は、喰らえば絶対防御が発動する暇もなく搭乗者の身体を焼くだろう。

そして今、アリーナにいる二人に向いているそれが無防備な生徒達のいる観客席に向かえばどうなるか、想像した瞬間、私の背筋に寒気が走った。

 

“異形”の乱入から数秒、やっと事態を飲み込めた生徒達の一角から悲鳴が上がった。

そして堰切ったように観客席から出口に向かって生徒の皆が走り始める。

 

 

side out...

 

 

 

「な、何アルか? 今の音は⁉」

 

「わ、分かりません、方角的に第3アリーナの方向だとは…。あ、千冬さんですか? 今何が起こってるのか分かりますか?」

 

無線機を手に取った狗飼は急いで千冬に連絡を取る。すると、多少ノイズ混じりであるが、千冬からの返答が帰って来た。

 

「何者かは分からんが乱入者が現れた。乱入者はISに搭乗、アリーナの遮断シールドを軽々と破るエネルギー砲を所持している。現在教員部隊が準備中だ。」

 

「分かりました。プランBに移行します。」

 

そう言って通話を終えた狗飼は別の無線機に手を掛ける。

 

「狗飼から各員へ、狗飼から各員へ。緊急事態だ、ISの侵入者だ。各々自分の持ち場を徹底的に見回れ、騒動を起こして侵入を試みる者がいないとも限らない。」

 

連絡を終えた狗飼は壁に立て掛けている日本刀を取り、虎龍と共に待機所を出ていった。

 

 

 





プランB、いわゆるISの侵入者ですね。



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第34話 オレに良い考えがある


今回はやや長めです(具体的には5000字くらい)

では本編をどうぞ↓


「どうする鈴?」

 

「さあね、取り敢えず様子見…かな?」

 

アリーナに突如として乱入してきた全身装甲のISを前に二人はフワフワと浮きながら個人間秘匿通信《プライベート・チャンネル》で話し合っていた。

 

「それにしても乱入してくるとはとんでもない奴だな。」

 

「そうね、遮断シールドをぶち破るってことは喰らえば即死ね。運が良くても…あまり想像したくないわね。」

 

「織斑くん、凰さん、今すぐ避難してください! そのISは教員部隊が対処します!」

 

対応策を考えている二人に真耶が開放回線《オープンチャンネル》で話しかける。その口調は大変慌てていた。

 

「いや、それは出来ないよ先生…。」

 

「え、ど、どうしてですか!?」

 

「先生も見たろ? あのエネルギー砲は遮断シールドすら貫通するんだ。オレ達が避難したらそれが観客席に向かわないとも限らない。だからせめて皆の避難が済むまでここを退く訳にはいかないんだ。」

 

「で、ですが…!!」

 

「言っても無駄だ、山田くん。」

 

慌てて反論しようとする真耶の言葉を千冬が遮る。

 

「織斑、凰、あと数分で教員部隊が到着するはずだ。それまで時間を稼げ、但し死ぬことは許さん。危ないと思ったらすぐに逃げろ、良いな?」

 

千冬の言葉に鈴が小さく鼻で笑う。

 

「時間を稼げ、ねぇ…。別に倒しちゃっても構わないんでしょ?」

 

「ふん、減らず口を…。だがまぁ、良いだろう。やれるものならやってみせろ。」

 

それだけ言い残して千冬は開放回線を切った。

 

 

 

「さて、避難が完了するまで持てばいいが…。」

 

腕組みしながらアリーナの様子を見ている千冬はポツリと呟いた。

平然を装っているものの指先は小さく震えており、不安であることが窺える。

そんな時に、無線から声が流れる。

 

「千冬先生! 隔壁が開かないよ! このままじゃ生徒の救援に向かえない!」

 

声の主は千冬の同僚であり、教員部隊の一員としてISを一機任されている教師だった。

その彼女の言葉に千冬と真耶は思わず“えっ!?”と声を漏らした。

 

「どういうことだ!」

 

「それが、降りた隔壁を上げようとしても、システムが何の反応も示さないの!お陰で教員部隊は格納庫に閉じ込められてるわ。」

 

「…ハッキングか! 山田くん、今すぐ3学年の腕利きを集めろ! 隔壁の操作を取り戻すぞ!」

 

千冬の号令に真耶は大きく返事をして管制室から飛び出して行く。

 

 

 

「出入り口が開かない、だって?!」

 

観客席にいる南美は非常口に近い生徒から聞こえてきた情報に頭を抱えてた。

アリーナの観客席に設置されている非常口、通常出口の全てが封鎖されたまま開かなくなっていたのである。

 

「ど、どうするのミナミナ~?」

 

「もちろん、開かないなら抉じ開けるしかない…、良いですよね、織斑先生!」

 

南美は専用機の開放回線を使って千冬に連絡を取る。それに対して千冬は“人命優先だ、やれ!”と二言返事で返す。

そして許可をもらった南美は専用機を装備し生徒の上を飛びながら一番近い出口に向かう。

それに倣ってセシリアもブルー・ティアーズを身に纏い、追従する。

 

「はいはいはい、出口のところ少し空けてね。今開けるから!」

 

南美の声を聞いて、出口に殺到していた生徒は少し落ち着いたのか少しずつ詰めてスペースを空ける。

 

「じゃあ行くよー、フゥゥ、シャオッ!ショオォッ!」

 

南美はエネルギーを纏った手刀で出入り口の扉をずんばらりんと切り裂き、端の切れなかった部分を蹴り飛ばし、強引に抉じ開けた。

 

「これでよし、皆、落ち着いて避難して!」

 

南美の声掛けに生徒はゆっくりと落ち着いて避難を開始する。

 

「セシリアちゃん、貴方は左回りで、私は右回りで、それぞれ出入り口を抉じ開けるよ!」

 

「了解ですわ!」

 

二人はそのまま左右に別れて、出入り口を抉じ開ける作業に移った。

 

 

 

「鈴、どうするよ。」

 

「とにかく片方が引き付けて回避、もう片方がその隙に攻撃って感じね、向こうの攻撃は絶対に喰らえないから踏み込み過ぎないでね。」

 

「オーケー、じゃあ行くか!」

 

一夏と鈴は肩から余計な力を抜き、非常にリラックスした状態で、乱入してきたISへと向かう。

 

「一夏、あたしが引き付けるからあんたがしばきなさい。」

 

個人間秘匿通信で意志疎通を行いながら二人は乱入者の周りをぐるぐる回る。

 

「アァァア、ファチャアッ!」

 

乱入者の視線が一夏に向いた瞬間、鈴はブースターを吹かし、乱入者の懐に潜り込むと青竜刀を横凪ぎに振り払う。

 

「手応えなしっ! でもここまでは予想通り!」

 

鈴の青竜刀を腕部で受け止めた乱入者はその長大な腕を畳み、掌につけられたエネルギー砲を鈴に向ける。

しかし、防がれることは二人にとって予定通りであり、鈴はそのまま青竜刀を振り回し乱入者の腕を真上にかち上げる。

 

「やれ、バカ一夏!」

 

「任せろ!」

 

正面切って乱入者と殴り合い、注意を引いた鈴は乱入者の視界に入らないように動いていた一夏に指示を飛ばす。そしてその指示を受けた一夏が雪片弐型を握り締め、斬りかかる。

 

だが、乱入者は後方の一夏が見えているかのように腰を回し、背後から迫る一夏に裏拳を当てて吹き飛ばした。

そしてそのまま回転を続け鈴も吹き飛ばす。

 

「こうなるかよ…。」

 

「ホントに面倒ね、どうしてやろうかしら?」

 

「任せろ、オレにいい考えがある。」

 

「フラグにしか聞こえないんだけどそれ…。」

 

一夏の言葉にげんなりしたような顔をする鈴に一夏は軽く笑いかける。

その間、乱入者は1歩も動かないでいた。

 

「それにしても不気味ねぇ…。動きが精密すぎるわ…。」

 

「確かにな。機械を相手にしてるみたいだ…、機械? なぁ鈴、もしかしてアイツ、AIでも積んでるんじゃないか?」

 

「はぁ? アレが無人機だって言いたいの? そんな事ありえないわよ、ISは人が乗らなきゃ動かないわ。それと、仮に無人機だとしてどうだって言うのよ。」

 

「オレの作戦が更に有効になる。パイロットがいないなら手加減しなくて済むからな。」

 

鈴の問いにドヤァという表情で一夏が応える。その表情に呆れたように溜め息を吐く鈴であったが、そこはもう幼馴染みとして慣れっこなのか悪態を突かずに乱入者へと向き直る。

 

そして二人は照準を合わせられないように複雑に動きながら合流する。

 

「うし、やるぞ鈴。合わせてくれ。」

 

「分かってるわよ、ヘマしないでよ?」

 

「任せろ、1発で決めてやるさ。」

 

二人は特に気負いすぎることなどなく、とてもリラックスしていた。

そして乱入者がその掌に内蔵されているエネルギー砲の砲口を一夏に向けると同時に彼はブースターを吹かして突撃する。

それに合わせて鈴は甲龍のショルダーアーマーを開き、一夏に向けて照準を合わせ、その見えない弾丸を打ち出した。

 

「うぅおぉおおおおっ!!」

 

圧縮され打ち出された空気の弾丸が一夏の背中を捉え、その速度を更に上げる。

それにより、一時的に速度の限界を超えた一夏は一瞬で乱入者の懐へと到達し、エネルギー砲を撃たせる暇さえ与えずに最大出力の零落白夜で一刀の下に切り捨てる。

 

一夏によって袈裟懸けにバッサリと切られた乱入者は切り口から幾筋かの電流を数秒ほど走らせると機能を停止したのか膝から崩れ落ちた。

 

「終わったわね。ま、私のアシストのお陰かな?」

 

乱入者の機能が停止したことを確認した鈴はゆっくりと一夏の背後に移る。

軽口を叩く鈴の一方で一夏は雪片弐型を右手できつく握り締め、自身が切り伏せた乱入者へと視線を落としている。

 

「…、良かった、ホントに無人機だった…。」

 

背後にいる鈴に気づいた彼はくるっと振り向いてその白い歯を見せて笑った。

その笑顔はまだ年相応の未熟さと快活さを見せている。

 

「なぁに、相手の心配してたの? ま、あんたらしいけどさ。」

 

一夏のこぼした言葉を聞いて、“甘いなぁ”と感じた鈴はフゥと息を吐き出して言うが、それ以上は何も言わない。

強さを求めて尚、誰かを気遣う優しさが一夏の魅力であり、美徳であることを知っているからだ。

 

「さてと、千冬ね、じゃないや織斑先生、終わりましたよ。」

 

乱入者に背を向けたまま一夏は開放回線で千冬に連絡を取る。鈴も鈴でそんな彼の横顔をまじまじと見つめている。

 

まだ彼らの足下に横たわる乱入者が完全に機能を停止していないとも知らずに。

 

「その所属不明機に関してはIS学園で調べる。作業は教員部隊が行う、お前らは早く帰ってこい。それとこの1件は他言無用だ、良いな?」

 

「分かりました。」

 

「了解です。」

 

千冬のドスの効いた声による念押しに二人は直ぐ様了承する。

そして二人が帰還するためにISを解除してハッチの方へ身体を向けた時、それは起こった。

乱入者は切られていなかった右腕を上げ、その掌を二人に向ける。

ギチギチと不規則な駆動音を上げての行動は直ぐ様気付き、ISを展開するが、それ以上の行動は起こさず、そして乱入者もそのエネルギー砲を放つ事はなかった。

何故なら──

 

「南斗獄屠拳っ!!」

 

専用機“ラスト”を纏った南美が自慢の飛び蹴りで乱入者を蹴り飛ばしたからである。

乱入者を蹴り飛ばした南美はそのままブースターを吹かして追撃する。

 

「フゥゥゥ、ショオォッ!!」

 

エネルギーを纏った右手の手刀を乱入者の胸部に突き刺しその機能を完全に停止させた。

 

「ふぅ…、間に合って良かったよ。大丈夫かい、二人とも。」

 

「あぁ、南美のお陰でな。助かったよ。」

 

「さすがの動きね。」

 

乱入者にトドメを刺しきった南美は笑顔で二人の方を向く。

二人に目立った外傷がないことを確認した南美はホッと一息ついた。

 

 

そうして難を乗り越えた3人はもう一度ISを解除し、ピットに帰った。

そしてピットに戻った一夏を待っていたのは──

 

「一夏っ!」

 

「え、ちょ千冬姉!?」

 

姉、織斑千冬からの熱い抱擁であった。

 

「心配させやがって、バカ野郎が…。」

 

辛辣な言葉使いとは裏腹に、千冬の言葉からは本気で心配していたであろうことが窺え、うっすらと目元に涙を湛えていることが確認できた。

 

がしかし、一夏を除く鈴と南美はそんな千冬の1面など見たことはなく、困惑の色を浮かべている。

それを察した一夏が千冬の耳元で小さくその事を教えると千冬は急いで一夏から離れ、軽く咳払いする。

 

「んん、えーと、凰、織斑、北星、ご苦労だったな。労いたいのはやまやまだが、お前達にはこの書類にサインしてもらう。」

 

そう言うと千冬は3人に1枚ずつある書類を渡した。

 

「あの、これは…?」

 

「誓約書だ。今回の事件に関して箝口令を敷くことになった。それに先立って実際に戦闘を行ったお前達には誓約書を通してもらう。手間だろうが頼む。」

 

そう言われて3人は素直に誓約書にサインした。

サインが終わると彼らは何事もなかったような態度の千冬によって寮に帰るように通達され、素直に自室へと帰る。

 

 

 

その日の夜、千冬はある場所を訪れていた。

そこはIS学園の下層、人工島の地下に作られた施設であり、特別な権限を持つ1部の人間のみ入る事を許された、いわゆる隠された場所である。

 

あのあと機能を停止した乱入者は直ぐ様この場所へと運び込まれ解析が行われた。

そしてその横にあるモニターで千冬は戦闘の映像を何度も何度も眺めている。

 

モニターに照らされている千冬はとても冷たい表情でその映像を見下ろしている。

 

現在この部屋には狗飼と虎龍、そして二人と同じスーツを着た男が二人と、山田真耶、織斑千冬がいる。

 

「千冬さん、このISの解析が完了しました。」

 

ディスプレイの前でキーボードを叩いていたスーツの男が声を掛ける。その呼び掛けに千冬はワンテンポ遅れて反応を示した。

 

「それで、どうだった?」

 

「徹底的に調べた結果、アレは完全にISです。それも無人で動く…。ラジコンのように誰かが外部から操作していたのか、それとも自律して戦闘していたのかはよく分かりませんでしたが…。」

 

「やはり…か、箝口令を敷いて正解だったな。」

 

男からの報告を受け、千冬は大きく溜め息をついて頭に手を当てた。

 

ISの遠隔操作や独立稼働は世界中で研究・開発されているISの中でもまだ完成されていない未知の領域で、それが今回乱入してきたISに使われていた事は世界を揺るがしかねない事実である。

 

「ただ、織斑一夏くんとおじょ、いえ北星南美さんの攻撃によって中枢部分が完全にイカれているので修復は不可能です。」

 

「それで、コアの方はどうだった?」

 

「登録外のコアでした。」

 

「…そうか、分かった。」

 

やはりな、と続けた千冬はどこか確信めいた表情で天井を見上げる。

そして暫く天井を見つめていた千冬はスッと目線を戦闘の映像を流し続けるディスプレイへと移す。

その目は教師ではなく、一人の戦士のものだった。

ブリュンヒルデ、嘗て世界の頂点に立ちそう呼ばれた彼女の眼光は衰えておらず、鋭いままである。

 

 

 

 





忘れた頃にやってくる優しい千冬さん。

そして影の薄かった狗飼さん達でした。



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第35話 少女達の休日part1


文字数少ないのにこんなに時間が掛かってしまった…。
楽しみにしている方はすいません、これからはペースが落ちます。

それでは本編をどうぞ↓


クラス対抗戦のあった週の日曜日のこと、一夏、鈴、箒、セシリアの4人はレゾナンスへと来ていた。

言い出しっぺは鈴、あの騒動によってクラス対抗戦がお流れになった憂さ晴らしのためという理由で一夏を誘い、その一夏が箒とセシリアを誘うことによってこの面子が成立した。

 

「それよりバカ一夏、何で南美がいないのよ。誘うなら南美も誘いなさいよ、このバカ!」

 

「誘ったよ、けど“次の日曜は用事があるから無理”って断られたんだよ。」

一夏にそう返された鈴は“ぐぬぬ”と言い淀み、フンと一夏から顔を背けた。

 

「さて、どこから行きますの?」

 

「取り敢えず2階に行こう、あそこなら大抵の種類の店があるからさ。」

 

「そうね、うん、そうしましょう。」

 

取り敢えずの指針が決まった4人は他愛もない世間話をしながらエレベーターでレゾナンスの2階に移動する。

2階に着き、チンとエレベーターのドアが音を鳴らして開くと、丁度そのタイミングで通り掛かった南美と本音の姿を4人は捉えた。

いつもと違うのはややガラの悪そうな男が2人ほど、彼女らのすぐ後ろを歩いていることである。

 

南美は横目で一夏達に気付いたが、直ぐ様目線を逸らして見なかった振りをして4人の前を歩いて去っていく。

 

 

 

「…今の、南美よね?」

 

「あぁ、間違いない。」

 

「布仏さんも一緒でしたわ。」

 

「何者だ? あのガラの悪い連中は…。」

 

エレベーターを降り、その後ろ姿を見送った4人はそれぞれ顔を見合わせる。

 

「何か良からぬことでもされているのでは? こう…脅されて…。」

 

「本音が人質にされてって可能性があるわね。」

 

「兎に角、尾行しよう!」

 

一夏の提案に他の3人は首を縦に振り、南美達の背中を追う。

そして尾行から数分後、彼女らが辿り着いた場所はとあるゲームセンターだった。

中からはゲーム筐体から流れてくるBGMや、客同士の煽り合う声が聞こえてくる。

間違いなく南美達はここに入っていった。

 

「ここ…だよな。」

 

「ええ、間違いありませんわ。」

 

外側から見ても分かる通り、店内には大勢の人が溢れており、その中には少しガラの悪そうな人物も見える。

 

「よし、行くか…。」

 

意を決して一夏が店内に1歩足を踏み入れると、その近くにいたガラの悪いソフトモヒカンとオールバックの男2人が直ぐ様振り向き一夏の両脇に立つ。

 

「ヒャッハー! 見ねぇ顔だなぁ!」

 

「種籾か?! 農民か!? 何だ!?」

 

2人の男は騒ぎながらジロジロと一夏の全身をくまなく眺めると、その様子を見守っていた鈴達に気付く。

 

「うぉおおおっ! 美少女だぁ!!」

 

「ヒャァアッハァアアアーッ!!! まじか、種籾かぁ!? そうなのかぁ!?」

 

「あぁん!?」

 

“種籾”、その言葉を聞いた瞬間に鈴があからさまに不機嫌な声を上げてソフトモヒカンの男に詰め寄る。

 

「誰が種籾だって…?」

 

「え、その、違うのですか…?!」

 

鈴の剣幕にソフトモヒカンの男はしどろもどろに問答を始める。

 

「分かったわ、分からせて上げる。台につきなさい!」

 

「ひ、ひぃぃいい?! 分かりゃしたぁ!」

 

鈴の凄まじい気迫に押されたソフトモヒカンは情けない声を上げながら空いている北斗の台につく。それを確認した鈴は首を鳴らし、ゆったりとした動作で座る。

 

 

 

 

 





鈴ちゃんみたいな妹が欲しかったっ…。




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第36話 少女達の休日part2


今回は短いです。

では本編をどうぞ↓


ジョインジョインジョインジャギィ サウザァ

オブツハショウドクセネバナランナ ホザキヤガレェ デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

 

─中略─

 

ウケテミルガイイナントホウオウケンオウギテンショウジュウジホウッ オシモウスグアナタノセイテイジュウジリョウハカンセイスル

ウィーンサウザァパーフェクト

 

「うわらばっ!?」

 

「下がれ、この下朗がっ!」

 

対戦で負けたソフトモヒカンは大きな声を上げなら後ろに倒れる。

鈴はスッと立ち上がり、男を見下ろすように立ち強い口調で言い放った。

 

「誰もこのあたしに勝つことは出来んのだ! ワハハハハハハッ!!」

 

鈴は高らかに笑い声を上げると満足したのかそのまま一夏達の方へと戻っていく。

 

 

「しゅ、修羅だ、名もなき修羅が来やがったぁぁ!!」

 

鈴に圧倒されたソフトモヒカンは情けない悲鳴を上げながら奥の方へと逃げる。

その声に反応した数人の男が鈴の方に目を向ける。

 

「名もなき修羅…だと?」

 

「カチコミか…。珍しい、惹かれるな。」

 

「てか、可愛くね? もろ好みだわ。」

 

「ロリコンめ…。」

 

「つーか、大会中なんだけど…。珍しくみんなが野試合してなかったから良いものの…。」

 

鈴に向けられた視線はどれも好奇心に溢れていた。

それは突然現れた修羅に対する興味であり、関心である。

突如として現れた鈴に騒然となるTRF‐R店内で、ある一団が遠巻きに彼女を見ている。

 

「ぬぅ…、奴はまさか…。」

 

「知っているのか眉毛!?」

 

その一団とはこのTRF‐Rが誇る修羅達の一角であった。

その中の1人、眉毛が鈴の操るサウザーの動き、そして彼女自身を見て小さく唸る。

 

「ああ、恐らくだが彼女は“ファリィ”というRNの修羅だ。こことは別のゲーセンのトップに立つサウザー使い…。いつも帽子を被っていたせいで顔は知られていないが、あのサウザーの動きは間違いない。この1年は活動目撃がなかったが、まさかここに来るとは…。」

 

「眉毛さんとどっちが強いんすか?」

 

眉毛の横にいる修羅のこあらが尋ねる。その質問に眉毛は少しばかり考え込むような様子を見せる。

 

「…分からん。ファリィのコンボ精度はノーサレベルだった、1度何かが刺さればそのまま削りきるだろう。オレだってワンコンで殺しきる自信はある、多分だが、五分五分だろうよ。」

 

そう言いながら苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる眉毛の視線はずっと鈴の背中を追いかけていた。

 

 

 

 

 





凰鈴音(CV:銀河万丈)の誕生した瞬間である。


そろそろ番外編を投稿しようかとも思いますが、北星父と母の馴れ初め話を複数話に分けて投稿する予定なのですが、需要があるのでしょうか…。




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第37話 少女達の休日part3


今回も短いです。

では本編をどうぞ↓


「あ~スッキリした。やっぱ種籾扱いされるのは嫌なものよね~。」

 

ソフトモヒカンのジャギをフルボッコにした鈴はにこやかにそう言う。

その一方で、店内は騒然と化している。

凰鈴音、RNファリィというサウザー使いの登場によってモヒカン勢に動揺が走る中、その原因である彼女は自覚していない。

 

─ざわ… ざわ…

 

「お、おい鈴…。なんだかすげぇ注目浴びてるぞ…。」

 

「ん~、それよりも南美を探しましょ。見たとこ女の客はそんないないっぽいし、直ぐに見っかるでしょ。」

 

周囲の好奇の視線を全く気にしていない様子の鈴はそのまま店の奥へと足を進める。

一夏達もそれに倣って奥へと向かう。

 

 

 

「はい、小足が刺さってコンボに繋げていく。そしてバニからの壁コン、からの羅漢撃ぃ!! 勝ったのはQMJジャギ。」

 

流れるように試合の実況をするのはTRF‐Rの修羅TAKUMAである。実況席とその周りにいる数名は鈴という乱入者の存在に気付けてないようである。

もちろんそれは試合風景をじっと見つめていた南美も同様だった。

 

「さぁ、次はノーサシン対えぐれサウザーの試合です。何回目の対戦か分からないくらいによく見る組み合わせ、さぁ勝つのはどちらでしょうか…。」

 

ジョインジョインジョインジョインシィン サウザァ

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワンデッサイダデステニー

 

 

 

「ん? あの後ろ姿…、あれじゃないか? ほら、あの台に座ってる人。」

 

店内の中程で辺りを見回していた一夏が足を止め、ある場所を指差す。そこには北斗の筐体があり、一人の少女、北星南美が座っていた。

 

「ホントだ。…あの動き、それにさっきのアナウンス…。」

 

南美の操るシンを見た瞬間、鈴の纏う空気が一変する。

 

「まさか南美がノーサだったなんてね…。」

 

誰にも聞こえない小さな声でポツリと呟いた鈴の顔は笑っている。

 

 

 

「ノーサシンのコンボは途切れない‼ えぐれが、泣くまで、コンボを、止めない!」

 

ノーサの操るシンの動きに合わせてTAKUMAの流れるような実況が響く。

そして鈴は足を止め、その試合の行方を見守っている。

 

「はいっ! 南斗孤鷲拳奥義の南斗翔鷲屠脚ぅ! 勝ったのはノーサシンでしたぁ~。」

 

(モヒ・ω・)<ハラショォォオオオ!!

 

(モヒ・Д・)<カッコいいよ!ノーサちゃん!!

 

(モヒ・∀・)<ヒューッ!

 

南美の勝利と同時に南美の側にいたモヒカン勢が一斉に騒ぎ立てる。

これも北斗勢にとってはいつものこと、チャメシ・インシデントなのだが、モヒカン勢初体験の一夏達は困惑の色が隠せないでいた。

 

「な、なんですの、この方達は?」

 

「わ、分からんねぇけど、多分あのノーサって人のファンなんだろ?」

 

「…そのノーサとやらの後ろ姿に見覚えがあるのだが…。」

 

「「「……、あっ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 









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第38話 少女達の休日part4


スランプ気味です…。

では本編をどうぞ↓


「「「南美(さん)っ!?」」」

 

ノーサこと北星南美を発見した3人は思わず大声を上げる。すると、それが聞こえたらしく、南美は3人の方を向いた。

 

「あり?一夏くんにセシリアちゃんと箒ちゃん、それに鈴も。どしたの?」

 

「それはこっちのセリフですわ。それより、本音さんは?」

「ん~、本音ならそこにいるよ。」

 

台から離れながら南美は横の方を指差す。そこにはいつものように袖を余らせた服装の本音がいる。

その表情はとても楽しそうだ。

 

「あ、あれ? あのガラの悪い連中は…?」

 

「…? あぁ、あの人達のこと? このゲーセンの常連だよ。まぁ、見た目が見た目だし、みんなが勘違いするのも仕方ないかな?」

 

そう言って南美はアハハハハと明るく笑う。

その近くでは、先程南美達と一緒に歩いていたガラの悪い男2人がいる。

 

「あ、さっきの…。」

 

「ん~、ここじゃ見ねぇ顔だな?」

 

ガラの悪い男2人はジロッと一夏の全身をくまなく見ると、今度は顔を覗き込む。

 

「コイツの面、どっかで見たことあんな…。」

 

「あああああっ!? コイツ、IS学園に入学したって言う男の!?」

 

「なぁにぃ?! あの美少女ばかりが集まるあのIS学園にだとぉ?!」

 

男の1人が騒ぐとその周りにいる男達が続々と一夏を取り囲み、女性陣は一気に蚊帳の外へと追いやられた。

 

「ってことは何よ、コイツは世の男が羨む美少女の園でウハウハと周りに美少女侍らせてやがるってのか?」

 

「許せんなぁ、許されねぇよなぁ…。」

 

「…という訳でだ、オレたちは兄ちゃんに恨みはねぇが、ちょっと痛い目にあってもらうぜ。」

 

ぎりぎりと歯噛みしながら男達は一夏に告げる。だが当の一夏はあまりの急展開について行けず、呆然と立ち尽くしている。

 

「ちょ、ちょっと待って、オレが何をしたって──」

 

「たった一人で女の園を歩き回り、美少女を侍らせていたっ! 貴様の罪はそれで十分すぎるほどだ、この優男が!!」

 

じりじりと男達は一夏に詰め寄る。

詰め寄られる側の一夏は男達の顔を見渡して、説得が不可能なことを悟ると諦めて後退を始めた。

 

「全国のモテない男達の苦しみを思い知らせてやる!」

 

「突然男が一人、女の園でウハウハ生活…。そんなラノベのようなことが許されて良いのか?! 否! 断じて否である!!」

 

「よってこれからオレたちが全国の男達を代表して──」

 

「いい加減にしな!」

 

凶行に及ぼうとする男達に待ったをかける声が上がった。

その声に男達は一夏に向いていた関心をその声の主へと向ける。

 

そこにはたわわに実った胸部を強調するかのように腕を組み、喫煙パイポをくわえた長髪の女性が立っていた。

 

 

 








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第39話 少女達の休日part5


細かく分けて早いペースと、長く纏めて遅いペースのどちらがいいんでしょうか?

では本編をどうぞ↓


「たった一人の、それもだいぶ年下の男の子を大人数で囲んで何する気だい、あんた達…。」

 

長髪の女性はギロリと男達を睨む。すると男達はその鋭い眼光にたじろぎ、後ずさる。

「け、けどよカセンさん…。」

 

そう、窮地に陥っていた一夏を助けたのはTRF‐R店員の紅一点、謎多きユダ使いのカセンである。

 

「あんたらは何をしにここに来たんだい? 私怨を晴らすためじゃないだろうさ。分かったらとっとと散りな。」

反論しようとした男に一睨み効かせ、そう強く言い放つと男達はそのまま渋々といった様子で散り散りに散らばって行った。

そしてカセンはやっと解放された一夏に近寄る。

 

「うちの客がすまなかったねぇ…。今日は大会の日で、ちょいと熱くなってたのさ、悪い連中じゃないから許してやっておくれよ。」

 

「あ、や、その…、何か実害があった訳じゃないですし、大丈夫ですよ。」

 

謝るカセンを見て一夏はしどろもどろになりながら言葉を返す。

それに対してカセンは“本当かい?”と尋ねながらさらに距離を詰め、一夏の顔を覗き込む。

 

「や、ホントに大丈夫なんで。」

 

「それならいいんだけどねぇ。…そういや自己紹介がまだだったねぇ、アタシはこのゲーセンで働いてるカセンってもんさ。本名は言えないけども、まぁよろしく頼むよ。」

 

カセンは一夏から顔を離し、いつもの顔に戻る。

その顔に一瞬だけ見とれていた一夏であったが、すぐさま我に返ると頭を下げる。

 

「えと、織斑一夏です。ありがとうございます、その…、助かりました。」

 

「礼なんかいらないよ、アタシは自分の仕事をしただけさ。」

 

まっすぐな一夏の礼にカセンはスッと横を向き、何でもないと軽くいなした。

だが、それでは気が済まなかったのか一夏はカセンに1歩近づく。

 

「でも助けてもらったのは事実ですし、その…。」

 

「なら、またこの店に来ておくれよ。ここの常連になってくれればいいさ。」

 

それだけ言ってカセンはくるっと向きを変え、店の奥へと歩いていく。

呼び止めようとした一夏にヒラヒラと後ろ手に手を振って振り替える意思のないことを伝えると彼女はそのまま奥へと姿を消した。

一夏はそんなカセンの背中を見送り、呆然と立ち尽くすのみである。

 

「……。」

 

「戻ってこい、このバカ一夏!」

 

「うがっ?!」

 

ぼーっとしてカセンの背中が見えなくなっても立ち尽くしていた一夏に業を煮やしてか、鈴が飛び上がりその脳天に強烈な回し蹴りをお見舞いする。

“ゴッ”という、日常生活で人体から聞くには珍しすぎる鈍い音が一夏の頭から響く。

当然、一夏はその痛みからその場にしゃがみこみ、頭を押さえる。

 

「まったく、美人と見たらすぐに見とれちゃってさ…。」

 

「み、見とれてなんか、ねぇよ…。」

 

鈴の言葉に一夏は目を逸らしながら答える。

痛みに耐えているからか、一夏からの返答はどことなく歯切れが悪い。鈴は歯切れの悪さを感じさせる一夏の返答に追及しようとするが、頭を押さえ、必死に痛みに耐える彼の姿にそんな気を失った。

彼の抱いていた感情は、彼にしか分からないままである。

 

 

 





カセンさんのヒロイン入りが決まってしまいました。
いや、ヒロインなのでしょうか…?


でもまぁ、一夏くんは歳上好きだから仕方ないね。



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第40話 少女達の休日part6


今回の話は世紀末的成分は全く含まれておりません。
世紀末がないと浄化されてしまう方はお気をつけください。

それでは本編をどうぞ↓


side 一夏

 

 

“キレイな人だなぁ”

それが最初に抱いたその人の印象だった。

 

複数の男に囲まれたオレを助けてくれた人、カセンさんと名乗ったその人はオレの記憶にとても深く残った。

千冬姉のような凛々しさがありながらも、女性らしさのある身のこなし。

背中を見せて去っていくカセンさんに何か声を掛けようとしても、上手い言葉も見つからず、結局何も言えなかった。

 

何故だか分からないが、あの人の、カセンさんのことを考えると、心臓が早鐘を打つみたいに高鳴って、頭がボーッとしてしまう。それなのに、カセンさんのことだけはなんでだかはっきりと頭に思い浮かぶ…。そして思い浮かべればまた心臓が大きく鳴る…。

 

オレとてこれでも健全な男子、コレがなんなのか自分で分かる。

いわゆる“一目惚れ”というヤツだ。オレ、織斑一夏はカセンさんに恋しているのだろう。

我ながら、なんと言えば良いのか…。生まれて15年ほど、色恋にはとんと縁がなかったから、こんなのは初めてでどうしたら良いのか全く分からない。

 

「戻ってこい、このバカ一夏!」

 

ガラにもないことを考えていると、オレの脳天に強烈な衝撃が走った。

これには覚えがある。鈴の“跳躍縦回し蹴り”だ。

電流が走ったような、弾ける痛みによってオレの意識は一気に現実へと呼び戻された。

 

 

 

side out...

 

 

 

「てか、なんで鈴達がここにいるのよ、セシリアちゃんとか、絶対ゲーセンとか興味ないでしょうに。」

 

「一夏さんと買い物に来たのですが、その、南美さんが少々ガラの悪い方と歩いてらしたので心配で…。」

 

一夏が現実に呼び戻されている一方で、そんなことには関せずとばかりに南美達は問答を始める。

南美の問いにセシリアが答えると彼女は一瞬だけきょとんとした顔を浮かべるが、直後に大きな笑い声を上げる。

 

「な~んだ、そんな事かぁ…。私がそこらのチンピラに負ける訳ないじゃない。心配しすぎだよぉ。」

 

ひとしきり笑った南美はハァと息を整えてセシリア達の方を向く。

 

「心配してくれるのは嬉しいけどさ、それで皆が危ない目に会ったらどうするのさ。今回は私の身内みたいなもんだったし、何事もなく済んだけど、次からは気をつけなよ?」

 

「は、はい…。分かりました…。」

 

南美の忠告に納得させられたセシリアは歯切れは悪いものの、了承の返事をする。

 

「なんか騒がしかったけど決勝行くよー。決勝はノーサシン対QMJジャギ!」

 

何事もなかったかのようにTAKUMAが大会を進める。

彼のアナウンスがかかって、南美は体を左右にねじると準備万端と言った感じで台の1P側に座る。

 

2P側にはTRF‐R最強のジャギ使いと謳われるQMJが既に座って彼女を待ち構えていた。

 

 

 






カセンさんのヒロイン√が完全に解放されました。

さぁ、修羅場になるがいい。



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第41話 少女達の休日part7



いつもより早く仕上がりました。

では本編をどうぞ↓


「QMJの操るジャギはジャギではない。QMJジャギという名の隠しキャラだ。だが、それはノーサシンも同じこと。ノーサの操るシンは一発刺せばバスケに行ける、そんなぶっ壊れた性能で敵を圧倒するのがノーサシン。」

 

ジョインジョインジャギィ ジョインジョインジョインジョインシィン

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

QMJも、南美も迷うことなく自分の持ちキャラを選択する。

それと同時に周りで見守るモヒカン、修羅達のボルテージは急上昇する。

 

「さぁ両者バクステから牽制合戦、ガソ撒いて、フェイント挟んで。最初に仕掛けるのはどちらだ。」

 

実況を務めるTAKUMAも興奮しているのか、彼の声はいつもより力が入っているように聞こえる。

そして、均衡状態を打ち破るかのように南美の操るシンがQMJジャギに向かって突撃を開始した。

 

「最初に仕掛けたのはノーサシン、しかしQMJジャギはこれをガードでしのいでいくぅ、石像が固い! がしかし、ノーサシンも攻勢を緩めない。これはただの攻勢ではない、大攻勢だ!」

 

「割れろ割れろ割れろ割れろぉ!!」

 

シンを操る南美は高速で手元を動かしながら絶叫する。

まさに執念とも言うべき粘りを見せ、ジャギのガードを上から殴り続ける。

 

「連打連打連打連打ぁ、ガーキャンを、千手龍撃で潰すぅ!! 鮮やかにガーキャン狩りからのバスケに突入!! 良いもん見れた!」

 

ジャギのガーキャンに挟み込むようなタイミングで放たれたシンの千手龍撃がドンピシャでカウンターヒットする。

そして画面端で起こった攻防によって画面端の壁に叩きつけられたジャギに追い討ちをかける。

 

しゃがみこんだシンの肘打ち連打によってジャギの体はノックバックと受け身のモーションを交互に繰り返しカクカクと動き続ける。

次第にジャギの体は浮き始め、それを追うようにシンも立ち上がり肘打ちから蹴りなどに移行する。

 

ナントゴクトケンッ

 

そして数十連打目を迎えると、浮き上がったジャギを更に追い打つようにシンの飛び蹴りが発動し、ジャギは画面外へと大きく跳ねる。

 

「さぁ魔法戦士の体が浮いたぁ! そして落とさない、絶対に落とさないのが“クイーン”ノーサ!! 赤いジャギを仕留めて1ラウンド目を取ったのはノーサシン!」

 

「ヴォォオオオオ! ノォオサァアア!!」

 

「良いぞクイーン!!」

 

「可愛いぞ!」

 

南美が1ラウンド先取すると、彼女のファンであるモヒカン達が一斉に鬨の声を上げる。

そして

 

 

「な、なんというか凄い熱気ですわね…。」

 

「そ、そうだな…。こっちにまで熱意が伝わってくる。」

 

外野でただ眺めているだけのセシリアと箒は北斗勢の放つ熱意に圧倒されていた。

 

 

 

 

 





ヴォーノーサー!



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第42話 少女達の休日part8


久々に5000字を超えました。

では本編をどうぞ↓


「残り1ドットが果てしなく遠い!! 落としてしまったのが運の尽きだったのか魔法戦士よ! トドメの獄屠拳が決まって、勝ったのはノーサシン!! 残り体力1ドットからの見事な逆転、これぞしなやす、コレが世紀末だぁああっ!!」

 

「優勝だぁあああっ!!」

 

「「「「ураааааааа!!」」」」

 

勝ちを掴み取った南美は大声を張り上げて立ち上がる。

それに呼応するようにモヒカン達が一斉に大声を上げる。

そして、歓喜に打ち震えるモヒカン達と対照的に勝利を逃したQMJは座りながら静かに天上を見上げている。

「…。」

 

「ねぇねぇQM=サン、JKに負けてどんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」

 

感傷に浸っているQMJを見て、覇者のKaiがすかさず煽りに行く。

だがそれはQMJ、世紀末幼稚園修羅組とも言われるTRF‐R所属の修羅の中でも人格者で通っている彼はそんな煽りなどどこ吹く風と受け流す。

 

「煽んないでよ、Kai。これでも負けてへこんでるんだからさ。…にしても、本当に強くなったなぁ、ノーサは。1年ちょっとくらい前なら大魔法使う余裕がまだあったのに…。」

 

QMJが体を横にずらすと、その視線の先には勝利にはしゃぐ南美の姿がある。

そんな彼女の姿を見てQMJは思わず目を細めた。

 

「ねぇKai、あの子が初めてTRF‐Rに来たときを覚えてるかい?」

 

「…もちろんデス。ノーサ=サンはとても強かった、それこそえぐれ=サンやこあら=サン、DEEP=サン辺りと初めから互角以上でした。びっくりデス。」

 

「そう、互角だった。でも今じゃその彼らを圧倒してる…。はぁ、時間が経つのは早いなぁ、なんて、考えてしまうのはおっさんだからかな?」

 

「…QM=サン達はノーサ=サンよりも歳上ですし、QM=サンはその中でも上の年代デスから。」

 

Kaiの返しにQMJは“そうだよねぇ”とだけ呟いた。

 

 

 

「フゥゥウウウウウウッ!! 優勝したぜぇ!!」

 

(モヒ・∀・)<おめでとうございます、クイーン!!

 

(モヒ・Д・)<урааааааа!

 

「やったぜ! 天敵のQMさんに勝ったぞ!」

 

(モヒ・ω・)<ハラショォオオオオ!!

 

相性最悪、天敵のQMJに勝って優勝を納めた南美は店内でモヒカン相手にはしゃぎ回っている。

彼女が叫ぶ度に、モヒカン達は合いの手をいれるように何かを叫ぶ。

そんな興奮状態の南美に近づく命知らずな者がいた。

が、南美はその人物を視界に捉えると何をするでもなく真っ先に抱きついた。

 

「ほんわ君さん!」

 

「はい、ほんわ君です。ノーサさん、大会お疲れさまでした。それと、優勝おめでとうございます。」

 

南美が飛び付いた人物はTRF‐R店員で彼女の恋人のほんわ君である。

その店員ネームに違わないほんわかとした表情で抱きついてきた南美を抱き締めている。

 

「えへへ、頑張りました!」

 

「うん、頑張ってるところちゃんと見てたよ。」

 

ほんわ君の笑顔を向けられている南美は先程までの闘志溢れる勇ましい姿はなく、デレッデレの恋する乙女そのものである。

 

「あ、あの殿方は誰ですの!?」

 

「南美でも、あんな顔をするのだな…。」

 

箒とセシリアは見たことのない南美の一面を知って、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしている。本音は何回か南美と来ているので、この光景を見るのは慣れている。

もちろん一夏と鈴は彼女らと離れた場所でリアルファイトを繰り広げているので南美のそんな姿は見えていない。

 

「おーい、箒ちゃん、セシリアちゃん。」

 

唖然としている2人に気付いた南美はほんわ君にくっついたまま大きく手を振る。

2人ともそれを目にすると、特に近くに寄らない理由もないため、促されるまま南美のそばに寄る。

 

「あ、あの南美さん、そちらの殿方はどなたなのですか?」

 

セシリアの直球な質問に南美とほんわ君の2人は互いの顔を見合せて笑い合うと、またすぐセシリアと箒の方に向き直る。

 

「この人はね、ほんわ君さんって言って、TRF‐Rの店員さんで私の恋人なんだ!」

 

言って南美は隣で微笑むほんわ君の腕に抱き付く。ほんわ君もほんわ君で嬉し恥ずかしといった様子である。

 

「えっと、ほんわ君と言います。店長の指示で本名はお客さんに言えなくて、ごめんなさい。」

 

見ているだけでも癒されそうな笑顔を浮かべたままほんわ君は頭を下げた。

それにつられて2人も名前を名乗ってから頭を下げる。

 

「あはは、丁寧にどうも」

 

ほんわ君はそう言うと、セシリアと箒の顔を交互に見て安心した表情を浮かべる。

 

「2人とも凄い良い人みたいだね。ノーサさんが親友だって言うのも頷けるよ。」

 

「そ、そんな親友だなんて…。光栄ですわ…。」

 

「そう…か、なんだ、その、悪くないな。」

 

ほんわ君の放った一言に2人は照れ隠しのように長髪の毛先をいじる。

 

 

 

「アタッ! ファチャッ!! ゥウワァチャアッ!!!」

 

「うおっ!? ちょ、まっ!?!」

 

店内の中央では鈴と一夏によるケンカ(という名の一方的な攻勢)が繰り広げられ、圧巻とも言えるその光景を見ようとした野次馬達による円形のフィールドが作られていた。

 

(モヒ・ω・)<あ、あのツインテちゃん、パネー! なんだあの動きは!?

 

(農゜Д゜)<あのイケメンヤローも負けてねぇ、どんな体捌きしてやがる?!

 

(モヒ・Д・)<どっちが勝つと思うよ?

 

(農・∀・)<女ぁ!!

 

 

 

「そろそろ終わりにしましょう、かっ!!」

 

「いでぇ?!」

 

大勢のギャラリーを迎え、大いに盛り上がった対決も遂に終わりを迎えた。

動く度に鋭さを増していく鈴の動きは次第に一夏の体を捉え始め、開始から30分後、鈴の放った蹴りが一夏の右膝完璧に捉える。

その鋭く重い一撃を受けた一夏は体勢を崩し右膝をついてしまう。

 

鈴はその隙を見逃すほど、甘えた指導を受けてはいなかった。

すぐさま距離を詰め自慢の拳を一夏の体に打ち付ける。

 

「アァァタタタタタタタタタタタタ、フゥアチャア!」

 

「ひでぶぅ!?」

 

鋭く力強い拳を何発もその身に受けた一夏は力なく後ろに崩れ落ちる。

 

(モヒ・ω・)<しゅ、修羅や、修羅がおる…。

 

(農゜Д゜)<でもあの子になら殴られたいかも…。

 

(モヒ・Д・)<(美少女から殴られるのは)我々の業界ではご褒美です!!

 

 

 

「その、なんというか、ラブラブでしたわね…。見ているこちらが恥ずかしくなりましたわ。」

 

「そう…だな、うん。っ…、口の中がまだ甘い感じがする…。」

 

「私はもう慣れたよ~。」

 

鈴による一夏の公開処刑が行われている一方で、セシリアと箒は大量の砂糖を口の中に放りこまれた気分で佇んでいる。そんな2人を横目に本音は平常運行である。

詳しい内容は南美の名誉の為に言わないが、少なくともセシリアと箒は目の前で発生した甘ったるい空間に参っていた。

ほんわ君と南美は既に奥のベンチに行ってしまったが、もう少し長く目の前で繰り広げられていたなら2人は口から砂糖を吐き出していただろう。

 

「セシリア…、渋い茶でも飲まないか?」

 

「そうですわね、賛成ですわ。」

 

「あ~、私も行く~。」

 

そうして3人は隣の喫茶へと入っていった。

 

 

 

店の奥にある外からは死角になる場所に置かれたベンチに、2人は隣同士で座っている。

 

「ほんわ君さん!」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「なんでもないです、えへへ。」

 

そう言って南美は屈託のない笑顔をほんわ君に向ける。

その花が咲いたような笑顔にほんわ君は思わず胸を高鳴らせる。

 

「あの、ノ、いや、南美…。」

 

「はい…。」

 

ほんわ君の呼び掛けに、何が言いたいのか察した南美は黙って顔を向けたまま目を閉じる。

そしてほんわ君はそのまま南美へと顔を近づけていく。

2人の顔が重なる直前、

 

──オーモーイーガーシュンヲ

 

南美のスマートフォンから大音量で音楽が鳴り、突然の音に驚いた2人は互いにバッと顔を離す。

 

「え、もうこんな時間っ!?」

 

スマートフォンを手に取った南美は驚きの声を上げる。

あらかじめ、IS学園のある人工島に帰る為の定期船を逃さないようにタイマー設定していた南美は慌ててカバンの中を確認する。

その様子にほんわ君は若干寂しそうな顔を浮かべながら見守っている。

 

「ごめんなさい、ほんわ君さん。もう帰らないと…。」

 

「うん、気をつけてね?」

 

「ふふ、はーい。それと…」

 

笑顔で返事をした南美はそのままほんわ君の頬にキスをしてイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 

「また来ますね、浮気したらダメなんですよ?」

 

「う、うん、もちろんだよ!」

 

ほんわ君の返事を聞いて満足したのか、南美はイタズラっぽい笑みを浮かべたまま、ベンチのある場所を後にする。

 

 

 

「鈴、一夏くん、そろそろレゾナンスを出ないと最後の定期船に間に合わないよ!」

 

「うっそ、もうそんな時間?!」

 

一夏の首根っこを掴んで引きずっていた鈴は南美の一言に腕時計を確認して驚愕する。

 

「ほら一夏、起きろ!!」

 

気を失っている一夏の両頬に何発かビンタを打ち込んで無理矢理起こした鈴は時間がないことを伝えて、セシリア・箒・本音に連絡する。

鈴からの連絡を受けた3人は待ち合わせ場所を伝え、鈴経由で一夏と南美にも伝えてもらう。

テキパキとやるべきことを済ませた鈴によって、手間取ることなく合流し、定期船の出る港近くの駅行きの電車に乗れた。

 

デキる女鈴である。

 

そうして直ぐに目的の駅に着いた一行はそのままバスに乗り、港へと到着する。

それからは焦ることなくIS学園行きの定期船に学生証を提示して乗り込み、割り当てられた小部屋で一息ついた。

 

「間に合ってよかったぁ~。」

 

「ホントよね…。」

 

全員で同じ小部屋をあてられた一行は座席に座って話し始める。

内容はTRF‐Rに時間を取られ、セシリアと箒はほとんど目的を達成出来ていないことや、南美のTRF‐R内での立ち位置、店員のカセンのことなどであった。

その会話の最中、一夏の脇腹が何度かどつかれたり、つねられたりしたことは言わないでおこう。

 

 

そうして時間を潰していた一行はもうじきIS学園の港に着くことを確認すると、気分転換に甲板へと出た。

もう外は日が落ちきり、真っ暗な夜空には星と月が輝いている。

 

「ん~、もう真っ暗だな。」

 

狭い小部屋から解放された一夏はぐ~と背中を逸らせて伸びをする。

その後ろからぞろぞろと続くように南美達が甲板に現れる。

 

「確かに…、それにこの時季はさすがに冷えるね。」

 

「そうですわね、まだ肌寒いですわ…。」

 

「ま、この時季は仕方ねぇよ。」

 

そう言い聞かせると一夏は夜空を見上げる。

天体にそこまで詳しくない彼は、あれが何座で~などということは分からず、メジャーな星座を見つけては頭の中で“あれが何座だ”と自己完結していた。

 

その時、一夏は北の空である星を見つけた。

7つの星が柄杓型に繋がる星座、北斗七星。そしてその脇で、まるで北斗七星に寄り添うように弱々しい光を放つ小さな星を。

 

「ん? 北斗七星の横にあんな小さな星ってあったっけ?」

 

思わず一夏はそう口にした。一夏本人は何気なく放ったであろうその言葉に反応を示したのは3人だった。

 

「ど、どれよ!?」

 

最初に動いたのは鈴だった。いや、南美と本音も鈴とほぼ同時に反応していた。だが、2人は互いの顔を見合せて、あの星があるであろう場所へと目を向ける。

 

「ほら、見えないか? 柄杓の持ち手側の先から2番目の星の横にある小さなヤツ…。」

 

一夏の証言を聞いて3人は確信する。そして鈴と南美、本音いや、その場にいる一夏以外の全員には一夏の言う小さな星は見えていなかった。

だが、敢えて3人は見えている素振りをし、一夏に話を合わせた。

 

 

 

その後、3人は一夏から離れると周りに聞こえないように小声で話し始める。

 

「…一夏の見た星って…。」

 

「間違いなくアレ…よね?」

 

「オリムーこのままじゃ大変だよ~。」

 

いつもはのほほんとしている本音も、今は焦った表情を浮かべ、余った袖をパタパタさせている。

焦った表情なのは他の2人も同様である。

 

「まさか、現実世界で死兆星を見た人間を拝むとは…。」

 

「予測可能回避困難な特大級のデスノボリをおっ立てるとはね…。」

 

「ど、どうするの~?」

 

「どうするも何も…。」

 

「一夏くんが死ぬ原因を取り除くしか無いよねぇ…。」

 

甲板の隅で3人はハァと溜め息を吐く。

その原因は明らかである。だが、こればかりは誰が悪いと言い切れないので、そこの追求は諦めた。

 

そのまま3人であーでもないこーでもないと今後の対策を立てているうちに、定期船はIS学園の港へと到着する。

 

 

 

「さて…と。」

 

帰寮報告を済ませた一行は寮監督室を後にし、それぞれの部屋に散っていった。

今、一夏は1025号室つまりは自室に戻ってきている。

もちろん箒も一緒である。

 

「なぁ一夏…。」

 

「なんだ?」

 

箒の呼び掛けに応え、そちらを振り向いた一夏は頬を軽く紅潮させた箒を視界に捉える。

薄く赤みを帯びた顔はどこか色気があり、年齢よりも艶っぽく見える。

 

「その、だな、もうすぐ学年別個人トーナメントがあるな…。」

 

「あぁ、楽しみだよな。」

 

箒の内心を知らずに一夏は満面の笑みである。

それこそ、自分より経験も実力も上の者と戦うことが今から楽しみで仕方ないといった様子だ。

 

「それでだな、もし、もしだぞ? 私がトーナメントで優勝したら付き合ってくれないか?」

 

はっきりと聞こえるように言い放つ。箒の姿はいつもの凛とした剣士のそれではなく、年相応の少女であった。

 

 

 

 





一人の少年が運命を見て、一人の少女が想いを告げた。

彼女達のこの先を知る者は誰一人としていない。
だが運命は待ってはくれない、更なる波瀾が巻き起こる。

次回、新章“IS学園編 2nd season”
IS世界に世紀末を持ち込む少女第43話
「独のロリ軍人と仏のブロンドショタ、ほむ…、続けて」
に続く!



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IS学園編 2nd season
第43話 独のロリ軍人と仏のブロンドショタ、ほむ…、続けて 前編



後半の投稿はやや遅くなります。


では本編をどうぞ↓


「ちぇりぃぉおおおおっ!!」

 

「っ!?」

 

早朝の植え込みの奥で、剣道少女の声が響く。

箒が満身の力を込めて振り下ろした木刀は狗飼の握る木刀で受け止められ、乾いた音を鳴らす。

 

「ぬぅおぉおおお、ぜぇりゃあっ!!」

 

木刀を受け止められた箒は後ろに跳んで距離を稼ぎ、再度突撃し、力強く木刀を振るう。

だが、歴戦の経験を持つ狗飼は慌てることなく繰り出される木刀の一撃をいなし続ける。

 

「つぇらぁあっ! やぁああっ!! ちぇすとぉおおおっ!!!」

 

乙女というよりも野武士のような叫び声と剣幕で狗飼に斬りかかる箒の姿は人には見せられないだろう。

 

 

 

「…今日はいつもより余計に力が入っていましたね…。いや、師としては教え子が稽古に熱心なのは嬉しいことなのですが…。」

 

一通りの打ち合いを終えた2人は木陰に入り汗を拭いながら体を休めている。

春も中頃を過ぎ始めた頃であるが、早朝のこの時間はまだ少し冷えるのだ。

 

「熾烈な攻めは箒さんの長所ですが、一転して受けに回るとそのまま押しきられてしまうことになりかねません。」

 

「ぐっ…。」

 

「自覚はあるみたいですね、なら…。」

 

ぐうの音も出ないといった様子の箒を見て、安心したように息を吐き出した狗飼は木に立て掛けてあったもう一本の木刀を手に取る。

その二本目は最初に使っていたものよりも少し短いものだった。

 

「次はこれで行きますよ。」

 

「に、二刀流…ですか?」

 

箒は面食らった表情で呟いた。

だが、それをスルーして狗飼は続ける。

 

「さぁ、やりましょうか。構えなさい。」

 

木陰から出た狗飼は箒の方に振り向いて二刀を構える。

狗飼に促された箒は大きく返事をすると、慌てたように木陰から出て木刀を構える。

 

3歩前に出れば木刀の一撃が届くほどの距離を置いて2人は向かい合う。

 

 

 

そうして箒が狗飼と稽古(という名の決闘)をしている時、別の中庭では…。

 

「ショォオオオオッ!!」

 

「ゥウワァチャアッ!!」

 

IS学園の1学年が誇る武闘派が鎬を削っていた。

互いが鋭い一撃を放てばそれを紙一重でかわし、カウンターの一撃を放ち、ガードし合う。

素人目から見てもレベルが高いと分かる2人の攻防はまだ始まったばかりであり、まだまだ加速していく。

 

「アタッ! ファチャッ!! アチャァアッ!!」

 

「シャオッ! フゥウウウ、ショォオオオオッ!!」

 

 

そしてそんな2人の打ち合いを校舎の窓から黙って見守る人物がいる。

その人物は静かに庭の2人を見つめ、暫くすると身を翻し、自分の仕事へと戻っていった。

 

 

 

「あ~、オリムーだ~。」

 

狗飼の方針で一日おきに稽古を行うため、箒が稽古を受けているため、時間をもて余している一夏は廊下を歩いていると本音に遭遇した。

 

「布仏さん…? 朝早いんだね。」

 

寝起きの体を起こすように伸びをしながら一夏は本音に話しかける。

基本的に一夏は生活リズムの整った人物である。

夜は自主練をしてから眠り、朝は稽古を受ける為に早朝に目を覚ます。

何もなくとも勝手に目が覚め行動を開始するという、この年代には珍しいのが一夏である。

 

「それはオリムーもそうじゃん、いつもこの時間なの~?」

 

本音はパタパタと袖を振りながら仔犬のように尋ねる。

 

「まぁな、だいたいこの時間には起きてるよ。」

 

「すごーい、オリムーは早起きが得意なんだね!」

 

「得意ってほどじゃないよ、体にしみついた習性みたいなもんだから。」

 

同年代の異性に誉められることにくすぐったさを感じた一夏は“大したことじゃない”と謙遜しながら食堂に向かう。

動ける体を維持する彼はそれだけ多くの栄養が必要であり、そうでなくとも食べ盛りの少年であるからして、お腹が空くのは必然である。

 

 

 

「だからね──」

 

「ホントッ⁉」

 

「あくまで噂だけど…。」

 

一夏と本音が食堂につくと、そこには大勢の女子が一塊になって何かを話している。

その一団からは時折“キャー!”“ワー!”“ハラショー”といった女子特有の姦しい声が聞こえてくる。

 

「ホントに?ホントに一夏くんと!?」

 

「俄然ヤル気が出てきた‼」

 

「みwなwぎwっwてwきwたwww」

 

「この機にお近づきになれば織斑くんと、デュフフ…。滾る‼」

 

女子の一団の会話の中に自身の名前を聞いた一夏は小首を傾げつつもその一団に近づいていく。

 

「なぁ、さっきオレの名前が聞こえてきた気がするんだけど…。何かあった?」

 

自身には女子から噂されたり、何か言われるような心当たりのない一夏はやや困った面持ちで尋ねる。

すると一夏が声を掛けた瞬間、密集していた女子の一団は跳ねるように散らばり、各人慌てたように目が泳いでいる。

 

「あ、いや、なんでもないよ!? うん、なんでもない!」

 

「そ、そうだよ! 誰も一夏くんのこととか話してないよ!!」

 

「「っ、バカァ!!」」

 

うっかり口を滑らせた女子は左右にいた生徒によって鎮圧された。

そしてそれを取り繕うようにまた別の生徒が一夏の前に立つ。

 

「あ、あのね、そう! 転校生よ! 転校生!!」

 

「転校生…?」

 

つい最近転校生が来たばかりということに違和感を覚えた一夏は提示された話題に食いついた。

それを好機と見た女子がここぞとばかりに話を変える。

 

「そう! また転校生が来るみたいなの、それも2人も! 気になるよね? 私たちも気になってどんな子なのか話してたんだぁ、アハハハハ!」

 

女子生徒の強引とも言える話題転換に一夏は“確かに気になるな”とこぼして思案顔になる。

完全に話題を逸らせたことを確認した彼女達は一夏に見えないように小さくガッツポーズする。

 

 

 

そうして噂の核心に触れることができなかった一夏は転校生のことを考えながら時間を潰し、朝食を摂る。

その際、本音や本音経由で近くに座ったクラスメイトと楽しく会話をしながら摂り、朝の稽古を終えてきた箒や鈴に少しだけ睨まれたのは内緒である。

 

そうして賑やかな朝食の時間を過ごした一夏達一行はそのまま教室に向かう。

その時、1学年の生徒から一夏がいつもより多くの視線を浴びていたが、鈍感男の一夏が気づくべきもなく、教室にたどり着いた。

 

「はーい、ホームルームを始めますよ~。」

 

朝の喧騒に紛れるように1年1組の副担任である山田真耶が出席簿を抱えて教室に入ってくる。

そしてその後ろには1年1組の担任にして、IS学園最強の織斑千冬が今日も今日とて凛とした雰囲気を纏ってついてきている。

 

織斑千冬の登場により、訓練されている1年1組の一同は一瞬にして自身の席に着く。

 

「えーとですね、今日は転校生を紹介します。入ってきてくださ~い。」

 

真耶の声を聞いて教室の外に待機していた人物が戸を開けて入ってくる。

 

一人は子供と見間違えるほど小柄で幼い印象を受けるものの、キビキビとした動きをする少女で、真っ白な肌と銀髪、そして左目を覆う眼帯が特徴的だ。

そしてもう一人、別の転校生が教室に入る。

すると1年1組の女子生徒が少しざわつく。

 

その人物は先程入ってきた銀髪の少女よりもやや背が高く、優しげな顔つきに、さらさらのブロンズヘアで、ズボンスタイルの制服を着用した人物だった。

その正体はどこか庇護欲を煽る少年、IS学園2人目の男子生徒である。

 

 

 






最近の忙しさに忙殺されそう。

鈴ちゃんみたいな従妹か、妹がほしい。



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第44話 独のロリ軍人と仏のブロンドショタ、ほむ…、続けて 後編


ラウラかわいいよラウラ

では本編をどうぞ↓


「お、男…?」

 

「はい、フランスの代表候補生をしています、シャルル・デュノアと言います。IS学園に同じ境遇の方がいると聞いたので、本国からこちらに来ました。」

 

誰かがぽつりと呟いた言葉にシャルルは丁寧に返す。その瞬間、ガタガタと1年1組の面々が次々に立ち上がる。

 

「2人目の男の子だぁああああっ!?!」

 

「しかも織斑くんとは違うタイプの守ってあげたい王子様系!!」

 

「地球に生まれてよかったぁ~!」

 

「Foooooooooo!!」

 

女子のテンションはとどまることを知らず、新しい男が来たことに喜び、うち震えている。

それを眼前で見てしまったシャルルは目を左右に泳がせ、誰かに助けを求め始める始末である。

 

その時である、

 

─ダンッ

 

織斑千冬が右足を教壇に叩きつけたのだ。

姦しい声を上げていた女子達にもその音ははっきりと聞こえ、次の瞬間には大人しく着席した。

 

「はい、フランスから来た転校生のシャルルくんです。ではもう1人、ラウラさんお願いします。」

 

「…。」

 

千冬による鎮圧が完了したことを確認した真耶はもう中1人の転校生、銀髪の少女に指示する。

しかし、銀髪の少女は先程の騒ぎにも動じず直立不動を貫き、真耶の指示があっても黙って立っている。

 

その態度に真耶は弱々しい視線を千冬に向ける。

その救援信号を受け取った千冬はハァと小さく溜め息をつき、銀髪少女の方を向く。

 

「ラウラ、自己紹介をしろ。」

 

「分かりました、教官。」

 

銀髪少女は千冬の方に向き直り敬礼をして直ぐ様前に向き直る。

その様子を見た千冬は誰にも気づかれないように小さく息を吐き出した。

 

「ここでは織斑先生と呼べ。私はもうお前の教官ではない。」

 

「はい。」

 

千冬の言葉に銀髪少女はキビキビと返事をする。

その様にクラスの一同は彼女に対して“軍関係者”という印象を与える。

 

銀髪少女は正面を向くと、熱のない瞳をクラスに向け、口を開く。

 

「ラウラ・ボーディヴィッヒだ。」

 

それだけ、自身の名を名乗るとラウラはまた硬く口を閉じ、立ち尽くす。

 

「…えっと、それだけ…ですか?」

 

「……あぁ、以上だ。」

 

ラウラの名前だけ自己紹介に困惑した真耶は“ふぇぇ”と泣き言を溢すが、生徒達の手前、なんとか平静を装う。

そして真耶がシャルルとラウラに着席を促すと、ラウラは自身の席が来たことにある方とは違う方向に歩みを進め一夏の前に立った。

 

そして──

 

─スパァンッ

 

乾いた音が響くと同時に一夏の頬に衝撃が走る。

ラウラが一夏の頬を平手で打ったのだ。

彼女の顔は先程の仮面を被っているかのような様はなく、怨みや怒りといった感情が渦巻いている。

 

「キ、サマァ…。」

 

だが、ラウラは平手の1発では満足しなかったのか、さらに表情を憤怒で歪め、一夏の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせる。

 

「何故避けない!?何故防がない?! キサマには今の平手が見えていたはずだ! 私の平手など避けるまでもないと言うのかっ!? 何故殴られた瞬間も私の瞳を見ていた!!」

 

ラウラは一夏の胸ぐらを掴み、憤怒に歪んで剣幕で責め立てる。

だが一夏はそれに抗おうとせず、ただ真っ直ぐにラウラの瞳を見つめている。

 

「さっきの千冬姉とのやり取りで分かったよ…。キミにはオレを殴る権利があるし、オレにはそれを受ける義務がある。だから避けなかった…防がなかった…。そんな権利、オレには無いから…。」

 

真っ直ぐな瞳でラウラのことを見つめながら一夏はそう言った。

 

 

 

 






この作品を読んでくれている友人から遅くなるの意味をもう一度調べてこいと言われました。

前後編で間が空くから遅くなると言っただけなのに…。




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第45話 KGDOの警備員さんは頼もしい


次の話の投稿は遅くなります。


一夏とラウラが教室で一悶着起こしている頃、IS学園の物資搬入用の港では──

 

 

「ふぅ、到着ですね。」

 

「あぁ、ここが新しい職場だな。」

 

ある2人が港に降りる。

港に降り立ったのは2人組の男女、男の方は黒のスーツに黒い革靴、黒い革手袋と全身黒づくめで無精髭を生やしたオールバックという風体。女の方は褐色の肌に艶のあるロングの黒髪、黒いスーツを着て、首もとから黒いハイネックのアンダーウェアが見えており、真っ白なワイシャツとのコントラストが映える。

 

そんな2人の男女を出迎えるデコボココンビがいる。

 

「グスタフさん、弥子さん、船旅お疲れさまです。」

 

「お~弥子~、久しぶりアルね~。」

 

狗飼と虎龍の2人である。

虎龍はだらしなく頬を緩ませ、弥子の豊満な胸部に向かってダイブするが、弥子の胸部に備わったダブルマウンテンに虎龍の頭が到達する前に彼女に頭を捕まれぷらーんと宙吊りになる。

その様子を傍から見ていたグスタフと狗飼はもう見慣れた光景なのか互いに歩み寄り握手を交わす。

 

「久しいな瑛護、お前がここ勤務になって3年目か。時間が経つのは早いな。」

 

「自分もそう思います。グスタフさんや弥子さんと同じ場所で働けるなんて、光栄です。」

 

「持ち上げてくれるな。ここでの勤務はお前の方が先輩だ。学ばせてもらうぞ。」

 

グスタフがからかうような顔でそう言うと、狗飼はぎょっとした表情になり、握手を交わす手にも力が入る。

 

「じ、自分のような若輩者にそのような大役など…。」

 

「ハハハハハ、そう言う生真面目なところは変わらんな。まぁ、それでこそ瑛護だがな。」

 

「そうですね。そういったところは狗飼くんの美徳だと私は思いますよ。」

 

虎龍の顔にアイアンクローをかまし、いまだに鷲掴みにしたまま宙吊りにしている弥子は笑顔でそう言う。

その笑顔は人の頭を鷲掴みにしているという絵面でさえなければ大抵の男はときめいてしまいそうなほど素敵な笑顔である。

 

「AHAHAHAHA、相変わらず弥子は照れ屋さんで愛情表現が激しいネ。」

 

「ふふふふ、虎龍も変わりませんね、その減らず口。これでも支えているのは利き手ではないのですよ?」

 

「い、いぎゃぁあああああっ!? 痛い、痛いアル! じょ、冗談!冗談ネ!!だから許してプリーズアルよ!!」

 

虎龍の言葉に気を悪くしたのか、弥子は虎龍の頭を更にギチギチと締め付ける。そのあまりにも酷い激痛に虎龍は体をジタバタさせてどうにか逃れようとするが弥子の手が緩む様子は一向になく、彼は情けなく悲鳴を上げるだけだ。

そして、虎龍の頭を握り締めている弥子の表情は変わらず笑顔のままである。

 

「ハァ…。そこまでにしておけ、オレ達は仕事に来てるんだ。」

 

その惨劇を見かねたグスタフが止めに入る。

グスタフの制止に弥子は渋々ながらも従い、虎龍の頭を掴む手を広げた。

空中で固定されていた虎龍の体は支えを失い、重力に従って垂直に落ちる。

 

「うぅ~、痛かったネー。」

 

「自業自得ですよ、フーさん…。」

 

オーバーリアクション気味に頭を押さえる虎龍に狗飼はやれやれといった様子で首を横に振る。

 

「さて、長くなったな。狗飼、呂、出迎えご苦労だった。早速で悪いが詰所に案内してくれ。これからの話を詰めたい。」

 

「分かりました、こちらです。」

 

グスタフの指示に従い、狗飼はくるりと踵を返して奥にある警備員の詰所にグスタフと弥子を案内する。

 

その後、詰所に現れたグスタフと弥子を見て、狗飼の後輩たちがKKRS(KGDO・警備員・リアリティ・ショック)を受けたことは言うまでもない。

 

 

 





KKRS(KGDO・警備員・リアリティ・ショック)
→KGDOの新入社員や新人警備員がよく発症する症状。
憧れや畏敬の対象であるKGDOの熟練や凄腕のメンバー達と遭遇することにより、嬉しさや困惑といった様々な感情が一度に発生することで発症する。
多くの者はあわあわと挙動不審になったり、その場から逃げ出したりするが、症状が酷い者になると気絶したりする。



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第46話 一夏とシャルルの逃避行


そろそろ番外編の一本や二本でも投稿したい。

では本編をどうぞ↓


「そんな権利、オレにはないから…。」

 

「っ…!? くそっ!」

 

一夏の言葉を聞き、真っ直ぐな瞳で見つめられたラウラは荒々しく舌打ちをして乱暴に一夏の胸ぐらを離すと、そのままずんずんと自分の席に向かった。

そして乱暴に胸ぐらを離された一夏は終始無言のままで、静かに席に座る。

 

 

 

 

「だーいじょぶかい?」

 

そのあとは何事もなくホームルームが終わり、一夏の隣の南美が頬の容体を尋ねる。

すると一夏は南美の方を見ずに“平気さ”とだけ言って席を立つ。

一夏が向かった先は勝手が分からずにおどおどしているシャルルの席であった。

 

IS学園で初めてできた男子のクラスメイト、仲良くしておきたいのはお互いにそうだろう。

 

クラスメイト達はシャルルと一夏の会話をしながらそれでいて静かに聞き耳を立てるという器用な真似をしている。

 

「えっと、シャルルだっけ? 同じ男同士、よろしくな。」

 

「織斑一夏くん、だよね。ニュースで見たよ。ボクの方こそよろしくね。」

 

一夏が手を差し出すと、シャルルは花の咲いたような笑顔を浮かべその手を握る。

2人ともジャンルが違うものの容姿は整っており、握手しているだけでもその姿はとても画になった。

 

「あ、握手してるよ!」

 

「うわ~、画になるなぁ…。」

 

「お母さん、産んでくれてありがとう…。」

 

一夏とシャルルの絡みを見ていたクラスメイト達は当人に聞こえないようにボソボソと思い思いの言葉を口にする。

それが一夏達の耳に届くことはなかった。

 

「さて、それじゃあ行くぞ。」

 

「え、どこに?」

 

一通りの挨拶を終えた一夏は握っている手を引っ張って立たせる。

当のシャルルは一夏の行動と言葉が分からずポカンと呆けている。

 

「更衣室だよ。次の授業はISの実習だから男子はアリーナの更衣室で着替えなきゃなんないんだ。」

 

「そ、そうなんだ。じゃあ急がないと。」

 

一夏の説明に納得したシャルルは必要なものを持って一夏と一緒に教室を出る。

それが迂闊な判断であったことをこの瞬間の2人に知る由はない。

 

「ヒャッハー! 転校生だぁ!!」

 

「一夏くんも一緒にいるよー!!」

 

2人が廊下に出ると、目敏い他クラスの女子が必見し、それを教室内のクラスメイトに知らせる。すると、タイムラグは1秒にも満たず廊下は女子達で埋め尽くされた。

 

「な、なにこれ!!」

 

突然廊下が女子によって埋め尽くされるという、非現実的な光景にあわあわと狼狽えるシャルルを横目に一夏は落ち着いた様子で足首を回している。

 

「落ち着けシャルル、対処法はある。」

 

「え? どうすればいいの?」

 

シャルルの質問に答える前に一夏は足にぐっと力を込める。そしてゆっくり口を開いて一言──

 

「逃ぃげるんだよォォォーーー!!」

 

「ふぇえええ?!」

 

足に入れた力を余すことなく床に伝え、全速力で走り出す。

シャルルも、さすがはISパイロットとでも言うべきか、突然の一夏の行動にワンテンポだけ反応が遅れたものの、次の瞬間には一夏の後を追って走り出した。

だか、女子達にとってその行動は予想の範疇だったのか、直ぐ様後を追う。

 

「ね、ねぇ!あれはなんなの!?どうしてなの?!」

 

「オレだって知らねぇよ!たぶんオレたちが男だからじゃねぇの!? 良いから走れ、捕まれば確実に次の授業に遅刻する!」

 

「う、嘘でしょぉお!?」

 

一夏の言葉にシャルルは信じられないと言ったような声を上げるか、それを口にした一夏の表情は真剣そのものであったため、シャルルは必死に走り続ける。

 

だが、一夏と比べて、いや同年代の男子と比べても線が細く華奢なシャルルは徐々に走る足が鈍くなり、あと数メートルほどで追いかけてくる女子達の集団とエンゲージする距離まで詰まる。

 

「ま、待って…。」

 

息を切らし肩を喘がせながらシャルルは一夏に助けを求める。

 

それを見た一夏は一瞬で切り返し、シャルルを肩に担いで再度アリーナに向かって走り出す。

 

「ご、ごめん…。」

 

「構わねぇって、軽いしな。」

 

シャルルを担ぎながらも一夏は速度を緩める事なく廊下を走る。

 

そして角に差し掛かった時、曲がり角の陰から出てきた青髪の少女とぶつかり、その少女に尻餅をつかせてしまった。

もともと体格の良い一夏が全速力で、それも人を1人担いだ状態で走っていたのだ、ただ歩いていただけの少女が当たり負けるのは当然だろう。

 

「きゃっ!?」

 

「ご、ごめん!!」

 

エネルギー量の違いもあり、一夏は倒れる事はなかったため、その青髪の少女に走りながら一言謝ってその場を後にした。だが、

 

「織斑…一夏ぁ…。」

 

尻餅をついた青髪の少女は絞り出すかのようにそう言うと、奥歯を強く噛み締めながら走り去っていく一夏の背中を怨恨の念が籠った瞳で睨み続けていた。

 

 

「うし、そろそろ良いだろ、ショートカットするぞ。」

 

後ろを確認し、女子集団と距離が離れていることを確認した一夏は一番近くにあった窓の鍵を開け、全開にするとシャルルを強く抱き締める。

 

「yes! Ican flyaway!!」

 

何故か良い発音でそう力強く叫んだ一夏はシャルルを抱えたまま校舎3階の窓から飛び降りる。

 

それなりの高所から飛び降りたにも関わらず、一夏は何事も無いかの如く着地し、アリーナへとまた走り始める。

 

 

「うぉっしゃ、到着!!」

 

ぷしゅっという空気の抜ける音と同時に更衣室にゴールした一夏の額には大粒の汗が浮かんでいる。

 

「す、凄いね…。ボクを担ぎながらあんなに速く走れるなんて…。」

 

「伊達に鍛えてないからよ…。」

 

ぜぇぜぇと息を切らせている一夏は大きく一息いれると、タオルで汗を拭ってからロッカーを開ける。

するとおもむろに制服を脱ぎ始め、その鍛えた肉体を露にしていく。

 

「ちょ、一夏!? なんで脱ぎ始めるのさ!」

 

「いや、なんでって、ISスーツに着替えないとダメだろ?」

 

一夏の体を見た瞬間、シャルルは顔を茹で上がったように赤く染め上げる。

そんな反応に首を傾げながらも一夏はISスーツへの着替えを続行する。

 

「ほら、シャルルも早く着替えろよ。遅刻するぞ。」

 

慣れた手つきで着替え終えた一夏はそう言い残して更衣室から出ていった。

それから一拍おいて、一夏が戻ってこないことを確認したシャルルは更衣室の端でいそいそと着替え始めた。

 

 

 

 






鍛え上げた肉体は伊達ではないらしい。



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番外編 KGDO社内大会!


久々の番外編です。
いつもより長いです。

それでは本編をどうぞ↓


これは南美達がIS学園に入学する1年前の年の瀬の出来事である。

 

 

 

 

「さぁ、今年も始まりましたKGDO恒例の社内大会だぁああ!!」

 

アナウンスと同時に会場のボルテージが急上昇する。

観客の熱気によって暖められた会場は年末であることを忘れるくらい暑く、そして熱い。

 

腕利き揃いで知られるKGDOは警備員同士の切磋琢磨と世間へのイメージ戦略として、いつも年の瀬に社内大会を開き、それを一般に公開している。

そしてその大会は格闘ファンにとっては堪らないものであるため、チケットは出る度に即完売となるのだ。

 

「取り合えずしょっぱな、というよりも常時解説は飛田高明さんにお越しいただいていまーす! 随時ゲスト解説を入れますけどね。」

 

「どうも、KGDO社員の飛田です。」

 

実況ブースに設けられた解説者席に座る飛田は小さく頭を下げる。

 

「さぁ、それでは早速第1試合と行きましょう! 第1試合は川内弥子さん対陣雷浩一さんの試合です。いやー、早速の好カードですね、飛田さん!」

 

「えぇ、弥子さんの実力はかなりですし、対戦相手の陣雷も負けてはいません。」

 

実況と飛田の掛け合いが終わると、リング上のディスプレイに弥子と陣雷の姿が映し出される。

そしてそれと同時に会場の対角にある入り口から白いスモークが吹き出し、その煙を裂くようにそれぞれの入り口から弥子と陣雷が姿を現す。

 

「赤コーナー! 白いスモークから姿を現すのは褐色の美女! だがその正体は全てを叩き潰す破壊の化身、“撲殺”弥子ぉ!!」

 

「「うぉおおおおお!!川内さぁあああん!!」」

 

リングに上がる弥子を見て彼女のファンが一斉に彼女の名前を叫ぶ。

すると弥子はその一団がいる方に顔を向け、拳を掲げる。

 

「対する青コーナー! ローキックの鬼、現役時代にこの男の餌食になった選手は数知れず、ハリケーンソルジャー!陣雷ぃ浩一ぃい!!」

 

「うぉっしゃぁあああああっ!!」

 

リングに上がると同時に陣雷は威嚇するかのように雄叫びを上げる。

そしてその雄叫びに答えるように青コーナー側の観客席から野太い叫び声が響き渡る。

 

 

「さぁ、両者リング上で睨みあっています。ここでルールの説明を少々。KGDO社内大会は基本的に何でもアリなんですが、社員同士の切磋琢磨が目的なので目潰しや関節技からの完全粉砕などは無しとなっております。」

 

解説の前置きが終わると、観客席の全ての視線は中央のリングに注がれる。

リング上の弥子と陣雷は既に臨戦モードであり、2人の目は獣のようにギラついている。

 

「時間無制限一本勝負、始め!!」

 

2人の間に立つレフェリーが後ろに下がりながらそう宣言するとゴングがなり、試合開始を告げる。

 

「らぁあああっ!!」

 

ゴングと同時に仕掛けたのは陣雷の方であった。

一歩前に詰めて弥子の膝に自慢のローキックを放ち続ける。

 

「ロー!ロー!ロー!もう一発ロー!!陣雷選手のローキック攻勢が止まらない!弥子選手の膝を削っていく!!」

 

陣雷から連射されるローキックを弥子はただただ構えを崩さずに耐えている。

一切の表情も変えずに弥子はひたすらに陣雷の蹴りを受け止め続ける。そして数秒後、陣雷の蹴りが一瞬止まった瞬間に弥子が歩を進める。

 

「はぁぁぁ、つぇらあっ!!」

 

強く踏み込み放たれた弥子の拳はその衝撃だけで陣雷の巨体を持ち上げる。

 

「うぼぉ?!」

 

鳩尾に突き刺さった弥子の拳によって陣雷は肺に詰まっていた空気を吐き出す。

だが弥子はそれだけで止まらない。浮いた陣雷の腕を掴み、自身の身を反転させ背負い投げの要領で陣雷をリングマットに叩きつけた。

叩きつけられた陣雷は軽く呻くと敗北を認めてそのまま意識を手放し、弥子の勝利が確定する。

 

「決着!電光石火とはこの事か! ローキック攻勢で優勢に立っていたはずの陣雷選手が次の瞬間にはマットに沈んでいたぁあ!! コレが“撲殺”弥子の実力なのか!? 飛田さん、これは一体…?」

 

「陣雷の攻め方は間違ってませんよ、相手が普通なら、ね。弥子さんのスタイルはパワー至上主義の一撃重視です。彼女の間合いに入ることは死地に赴くことと同義です。」

 

どよめきと歓声が渦巻く会場で、淡々と飛田が解説を続ける。

 

「弥子さんの一番の驚異は腕と脚のどれか一つでも生きてれば致命的な一撃を撃てる事です。いや、自分で言っておいてなんですが反則染みてますね。まぁ、膝を削ろうとした陣雷は間違ってません、けれどその程度では弥子さんを止められません。対処法は足を止めずに正面から打ち合わない事でしょう。」

 

「なるほどなるほど。飛田さんありがとうございます。それでは次の試合に行く前にゲスト解説の方を紹介します。先程の試合に勝利しました川内弥子さんです!」

 

実況が飛田の隣の席に手を向けると、そこにはにこやかな笑顔で座る弥子がいる。

試合を終えてから直行してきたのか、試合衣装のままであり、まだ所々に細かな汗が浮いている。

 

「どうも、ご紹介に預かりました川内です。解説は不馴れですが飛田さんもいますし、大丈夫でしょう。」

 

「さらりとハードルを上げますね。」

 

「飛田さんへの信頼です。」

 

解説席の2人が和やかに談笑をしていると、次の試合の時間へと差し掛かる。

 

 

「さぁそれでは次の試合です。次はルガール=ベルンシュタインさん対不破刃さんの試合です!」

 

「もうルガールさんが出てくるの?」

 

「例年よりも早いですね、クジの関係とは言え…。」

 

実況のアナウンスに解説の2人は驚いた顔をして、苦笑いを浮かべる。

だがそんな2人とは違い、観客席は大いに盛り上がっている。

 

そしてそうこうしているとリング上のディスプレイにルガールと不破刃の姿が映され、2つの入り口から勢いよくスモークが噴射される。

 

「まずは青コーナー! 鍛え上げた肉体を見せ、雄叫びを上げてリングに推参するのはKGDOきっての漢!! その内面を知る者達は彼をこう評する、“凄い漢だ”と!不破刃選手の入場です!」

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

スモークの中から雄叫びとともに勢いよく飛び出してきたのはいつものように上半身を晒した不破刃である。

その雄叫びを聞いた観客は皆、やまびこのように雄叫びを返す。

そうしてずんずんと進んでいく不破はリングロープを潜るのではなく、跳躍によって飛び越えてリングインした。

 

「対する赤コーナー! KGDO物資輸送部門のトップ。運送ならば任せておけ、運送の神とはオレの事だ、ルガール=ベルンシュタイン選手です!!」

 

アナウンスと同時に割れんばかりの歓声を受け、ルガールが登場する。

その風格は正に歴戦の勇士そのものである。

ルガールは勢いよくリングインした不破とは違い、ゆっくりと一歩一歩を踏みしめながらリングインする。

 

「今年もこの日が来たな!ルガール!!」

 

「あぁ、私も待ちわびたぞ。強者との闘争、望むところよ…。」

 

ルガールは薄く笑みを浮かべ、手袋を嵌め直す。

両者が準備を終えて数秒後、開始を告げるゴングが鳴る。

 

─シネェイ... ツブレロツブレロツブレロツブレロツブレロ(ry

 

 

「け、決着です! ルガール選手、頭突きにいった不破選手の頭を掴んでそのままリングポストに叩きつけたかと思ったら、次は対角のリングポストに叩きつけるの繰り返しに不破選手、あえなくダウン!」

 

「うわちゃ~、運送スペシャル…。」

 

「頭突きを読まれていましたね。恐らくですが興奮で頭に血が昇ってたんでしょう。」

 

解説の2人は揃って頭を抱えている。

原因は不破刃に何もさせずに沈めたルガールの荒業にあった。

 

「飛田さん、弥子さん、先程のルガール選手のアレは…?」

 

「自分達は運送スペシャルと呼んでます。」

 

「原理は簡単ですよ。相手の頭をリングポストに叩きつけて、跳ね返って来た相手の頭を掴んで対角のポストに運んで叩きつけての繰り返し。どんな相手も簡単に気絶させられるルガールさんの必殺技ですね。」

 

「と簡単に言っても、相手を高速で押し込んで運べるパワーとスピードを兼ね備えたルガールさんだからできる技です。」

 

2人の解説に実況はポカーンと口を開けていたが、すぐに我に返るとマイクを握る。

 

「なるほどぉ…。常人に真似できる事ではないと…。」

 

「「そうですね。」」

 

実況の言葉に弥子と飛田は揃って溜め息を吐き出した。

 

 

「ではでは次の試合に移りまーす。次はクリザリッドさん対アーデルハイドさんの試合です。」

 

「アーデルハイドくんはルガールさんの息子さんですね。ドイツではそれなりに有名な選手で、大学卒業からすぐにKGDOに入社した若手のホープですよ。」

 

「社内大会は今年が初参加なので実力はまだまだ未知数、楽しみです。」

 

ほうほう(梟)と実況が頷き、フンスと鼻息荒くしてアーデルハイドを見る。

 

「片やクリザはKGDOの中間管理職代表ですね。実力も高いですし、堅実な戦い方をしますね。」

 

「まぁ、私としてはクリザの肉弾戦より恋の進展の方が見たいですけどね~。」

 

弥子はアハハハハと笑いながらクリザリッドを見る。そこには会場の放送で恋沙汰をバラされてキョドるクリザリッドの姿があった。

 

(ドンマイ、クリザ…。)

 

そんなキョドりまくりな姿を晒すクリザリッドを見て飛田は小さく溜め息を吐いた。

 

 

「くそ…。調子が崩れる…。」

 

「ドンマイですね、クリザリッドさん。」

 

「…言うな…。」

 

リング上で向かい合う2人はこれから試合で手合わせをするとは思えないほど気の抜けた会話を始める。

だが、その身に纏う空気は本物の闘士のものである。

 

「さぁ、始めるぞアーデル。構えろ。」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

2人が構えを取ると同時にレフェリーの声が掛かり、ゴングが鳴らされる。

 

「行きます!!」

 

先に仕掛けたのは若手のアーデルハイドの方だった。

経験の差もあり、先手を譲ったら押し負けるという考えだろう。

 

「遅いぞ!」

 

体勢低く突っ込んでいくアーデルハイドをクリザリッドは彼のこめかみを抉るように鋭いローキックで迎撃する。

 

「中間管理職を甘く見るなよ。」

 

ローキックを思いきり食らい、体が揺らいだアーデルハイドにそう言い放ったクリザリッドは手を緩めずに攻勢に移る。

 

 

 

「終わりにしようか…。」

 

満身創痍で、今にも膝を付きそうになっているアーデルハイドにクリザリッドは冷たく言う。

 

「行くぞ!」

 

足下すら覚束無いアーデルハイドに向けてクリザリッドは鋭く踏み込む。

だが、アーデルハイドは折れていなかった。

踏み込んできたクリザリッドに対して全速で踏み込み、その頭を掴んだ。

 

「うあああああああっ!!」

 

クリザリッドの頭を掴んでアーデルハイドは渾身の力でクリザリッドをリングポストに向けて叩きつけようと頭を掴んだまま走る。

だが、そのままされるがままになるほどクリザリッドは甘い男ではない。

あと一歩踏み込み、腕を伸ばせば叩きつける事が可能な距離まで詰まった瞬間、クリザリッドはアーデルハイドの鳩尾目掛けて強烈な膝蹴りを見舞う。

 

「ぐぬぅ!?」

 

「うがぁあ!」

 

クリザリッドの膝蹴りをもらったものの、アーデルハイドの勢いは止まらずクリザリッドはリングポストに叩きつけられた。

 

アーデルハイドのその姿は父親であるルガール=ベルンシュタインを彷彿とさせる。そして彼の放った技が父親と同じものであるならばこの後はクリザリッドの頭を掴み、対角にあるリングポストに叩きつけるのだが、アーデルハイドはクリザリッドの頭を掴み叩きつけた姿勢のまま動かない。

 

「こ、これはどうしたのでしょうか…? クリザリッド選手もアーデルハイド選手も動かなくなりましたが…。」

 

「勝負あり…か。」

 

「そうですね。」

 

実況ブースにいる弥子と飛田がそう言うと、腕を伸ばしたままの姿勢でいたアーデルハイドが急に崩れ落ち、リングマットに沈む。

 

「え、え、ア、アーデルハイド選手がダウン! と言うことはクリザリッド選手の勝ち─」

 

「いいえ、勝ったのは2人ですよ。」

 

クリザリッドの勝ちを告げようとした実況の声を遮り、弥子が言う。

その視線の先にはリングポストに叩きつけられ、立ったまま気絶したクリザリッドの姿があった。

 

「ダブルノックアウト…。アーデルハイドくんの大健闘ですね。」

 

腕を組んだまま微笑む弥子は実況ブースから立ち去り、リング上の2人に駆け寄る。

そして2人の呼吸が規則正しいことを確認すると、頭を強打したクリザリッドは担架を持った救護班に任せ、自身はアーデルハイドを肩に担いでリング上を後にした。

 

「パンチドランカーを狙ったのか、偶然か…。どちらにせよ凄い新人ですね。」

 

弥子と救護班によって医務室に運ばれた2人を見送った飛田は賞賛の言葉をアーデルハイドに送る。

会場は最後に意地を見せたアーデルハイドへの拍手が鳴り響いている。

 

 

 

「さてさて、新人のアーデルハイド選手がクリザリッド選手に食らい付き相討ちという結果に終わった先程の試合で、会場は大いに盛り上がっています。」

 

「これは次の試合が楽しみですね。次の組合わせは?」

 

「はいはい、それでは次の試合です。グスタフ=ミュンヒハウゼンさんと狗飼瑛護さんの試合です。」

 

グスタフの名前が告げられた瞬間、解説席の飛田の顔が強張り、控え室で待機しているKGDOの社員全員がどよめいた。

 

 

「もうダメだぁ…、おしまいだぁ…。」

 

「あかん、グスタフさんはあかんのや…。」

 

 

「な、何やら観客席の社員エリアがとてもざわついてますね…。」

 

「今まで参加してこなかった、いや参加を自粛していたグスタフさんが早くも出てきましたから、動揺しているのでしょう。」

 

なんとなく分かっていない事務方出身の実況者に飛田は顔を強張らせたまま説明をする。

その最中も観客席に準備されている社員エリアではまだ動揺が走っている。

 

「試合を始める前に、弥子さんが医務室に行ってしまったので新しいゲストの方を紹介します! 先程大健闘したアーデルハイドさんのお父さん、ルガール=ベルンシュタインさんにお越しいただきました!」

 

「よろしく頼むよ。」

 

実況に笑顔で話を振られ、ルガールは微笑みながら頭を軽く下げる。

 

「それではKGDOの中でもベテランのルガールさんに質問です。今から試合をするグスタフさんとはどのような方なのでしょうか?」

 

「実直な男だよ。仕事に真面目だし、私生活もキッチリしてる。かなり信頼できる人物さ。腕も確かだしね。」

 

「なるほど、確かに写真を見るととても真面目そうに見えますね。」

 

実況がリング上のディスプレイに映るグスタフと狗飼の姿を見て少しだけ頬を緩ませた。

 

「さて、選手2人の準備ができたようなので、入場していただきましょう!」

 

声高に実況がそう告げると2つの入り口から勢いよくスモークが噴射され、同時に観客席から轟くような歓声が会場中に響く。

 

「まずは青コーナー! スーツに身を包み、現代に蘇った侍! その刀に斬れぬものはあんまりない!! 狗飼瑛護!!」

 

実況の声とともに真っ白なスモークの中から黒いスーツに身を包んだ狗飼が静かに現れる。

そして鋭い目付きでリングを見定め、歩みを進める。

 

「対するは赤コーナー! 今まで自粛していた男が遂に出場! その実力を見せつけに来た! グスタフ=ミュンヒハウゼン!!」

 

白いスモークから出てきたのは、全身を黒い衣服で包んだオールバックの男。

不敵に微笑み、リング上の狗飼を見定めるグスタフは余裕のある笑みのままリングに上がる。

 

「瑛護…。お前とやるのは久しぶりだな。」

 

「グスタフさん、今日は胸を借りるつもりでぶつからせてもらいます!」

 

竹刀を握り締めた狗飼は緊張していた顔から一気に戦士の顔つきになる。

同様にグスタフも余裕の表情は崩さないものの、その瞳に闘志が宿る。

 

2人の準備が整うと、ゴングの高い音が鳴り響く。

ゴングと同時にグスタフは一歩飛び退き、狗飼を見据える。

 

それを見て一瞬躊躇った狗飼だが、直後には足を踏み出して斬りかかる。

 

だが、3歩の距離に入った瞬間、狗飼の体は大きく揺らいだ。

 

「っ!?」

 

「さぁ、行くぞ!」

 

体勢の崩れた狗飼にグスタフが距離を詰めて襲いかかる。

黒いスーツに身を包んでいるとは思えないほど機敏な動きで瞬く間に距離を詰め、左右の拳でラッシュする。

 

 

「い、今のは…? 何もないところで狗飼選手の姿勢が崩れたような気がしたのですが…。」

 

「アレがグスタフさんの戦い方です。半透明のワイヤーを使っての搦め手を用いて相手を崩す、強いですよ。」

 

「大半の人間はアレを見切れずに負ける。」

 

実況ブースに座るルガールと飛田はグスタフの一挙手一投足をつぶさに目で追っている。

だが、実況は何が起こっているのか目で追えていないようで、困惑を隠せないでいる。

 

 

 

「吹き飛べ!」

 

開始から十分弱、ボロボロになった狗飼に向けてグスタフが手を振るうと、次の瞬間には狗飼の体が宙を舞いリングの外に落ちる。

 

「決着です! グスタフ選手、圧巻の実力!!」

 

「…狗飼も粘ってはいたのですが…。」

 

「相手が悪かったな、これは。」

 

竹刀を器用に使って凌いでいた狗飼であったが、グスタフの圧倒的な手数を前にして敗北を喫したのであった。

 

 

「荒らしや、荒らしがおる。」

 

「あかんのや、グスタフさんはホンマにあかんのや…。」

 

「ワイヤー、当て身、…うっ、頭が…。」

 

社員エリアでは圧倒的な実力を見せたグスタフの姿にトラウマを刺激された者達によって阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 

 

そしてそのまま大会は進み、最後の試合はルガール=ベルンシュタインとグスタフ=ミュンヒハウゼンによる30分以上に渡る死闘の末に両者気絶と相成った。

 

 

「以上でKGDO社内大会を終わります。実況は私、武富桜子。解説は─」

 

「KGDO社員、飛田高明でお送りしました。」

 

「それでは皆さん、また1年後にお会いしましょう!」

 

こうして毎年恒例KGDO社内大会は幕を閉じたのである。

 

 





呂虎龍が出ていないのは、この時はまだ中国国内でVIPの護衛をしていたからです。

狗飼はこの日だけ同僚に交代してもらってます。



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第47話 先生だってやれば出来る子


真耶ちゃんに“めっ”て怒られてみたい。

では本編をどうぞ↓


「さてと、これから授業を始める。」

 

アリーナに整列した1年1組、2組の前にジャージ姿の千冬が立ち、今日の内容を大雑把に伝えていく。

 

 

「今日はいつもより遅かったですね。」

 

1組の列の端、一夏と隣同士になったセシリアが少しトゲのある言い方で一夏に尋ねる。

 

「いつもより道が混んでたんだよ。」

 

「なるほど、あの転校生絡みですか…。」

ハハと乾いた笑いをする一夏を見て瞬時に何があったのかを察したセシリアは気の毒そうに一夏を見る。

 

「たっく、お人好しというか、バカというか…。」

 

鈴もまた何があったのか察したのか、同情のような感情で目の前の一夏に声を掛ける。

それから1組の列に並んでいるシャルルの方へと目をやった。

 

「アレが転校生ね。ホントに男なの? めちゃめちゃ線が細いけど…。」

 

訝しげな視線をシャルルに向けている鈴は視線の向きを変えずに目の前で立っている一夏に問う。

 

「いや、細いのは否定しないけど、その言い方はないだろ? シャルルだって気にしてるだろうし…。」

 

「でしたら一夏さんがシャルルさんに稽古をつけて差し上げたらいかがですか? そうすればシャルルさんは体力をつけられますし、一夏さんは転校生と友好的な関係を結べる。両者Win-Winではありませんか? 一夏さんにとっても悪い話ではないと思いますが?」

「そこまで一夏がしてやる義理はあるの? 男同士ってだけじゃない。」

 

「でも、ここじゃ2人しかいない男同士だ。できるだけ仲良くしたいさ。」

 

「そんなもんなのかねぇ…。」

 

「良いではないですか、男同士…。」

 

などと会話をしている3人に音もなく忍び寄る影があった。

その影は3人の死角に潜り込むと手にしている板のようなものを振り下ろす。

 

スパパパーンッ!

 

乾いた音が響くと3人は激痛に頭を抱える。

 

「話を聞いていたか?」

 

3人に忍び寄る影の正体は織斑千冬であった。彼女は彼らの頭をはたいた凶器である出席簿を肩に担ぎながら仁王立ちしている。

 

 

 

「さて、バカの粛清が終わったところでそろそろ授業内容に移ろう。内容は先程言った通り、格闘と射撃の実戦的な教練だ。」

 

涙目になりながら頭を押さえるバカ3人を横目に、集団の正面に移動した千冬はそう告げる。

すると、1組2組の生徒達にざわざわとした空気が広がるが、それを千冬は咳払い一つぜ静める。

 

「さて、それでは手本を見せてやろう。ちょうど、活力を余らせたバカもいることだしな。オルコット、凰、前に出ろ。」

 

千冬の指示に2人は最初驚いたような顔になるが、それもすぐあとにはヤル気満々の表情に変わる。

 

「ふん、ボコボコにしてやるわ。」

 

「あら、それはこちらのセリフですわ。」

 

2人は列から外れるとバチバチと視線を交差させながら煽りあい、列の前まで歩く。

女としてか、はたまた代表候補生としてのプライドか、2人はお互いに潰し合うことを考えていた。

 

「ハァ、何を勘違いしている。誰がお前ら同士で戦えと言った。お前らの相手は──」

 

─ドヒャアドヒャア

 

千冬の声を遮るように、荒々しいブースターの音を響かせながらある人物が列の中に飛んでいく。

 

「ふなぁあ、避けてくださーい!!」

 

そのISに搭乗している人物は、1年1組の副担任である山田真耶だった。

だがブースターを吹かせ過ぎたのだろうか、彼女の操るISはコントロールが効いていないような動きで一夏のいる付近へと急速にダイブする。

 

「えっ、ちょ、まっ!?」

 

「ふぇええん!!」

 

─チュドーン

 

ギャグ漫画のお約束のような音を鳴らして真耶の操るISは墜落した。

周囲には相当量の土煙が舞い上がり、視界を塞ぐ。

 

 

 

side 一夏

 

やっぱり千冬姉の鉄拳(出席簿)制裁は痛い。頭の表面だけじゃなくて、脳髄に響くようなこの痛みは狗飼さんの竹刀以上に頭に響く。

 

けど、セシリアと鈴が模擬戦か、オレもやりたいけど皆の手本になれる戦いができるともまだ思えないし…。

 

なんてことを考えているとオレの耳に“ドヒャアドヒャア”という、日常生活ではまず耳にする事のないような音が届いた。

その音がする方へ目をやればそこにいたのは量産機のラファール・リヴァイヴに身を包み、こっちに高速で飛んでくる山田先生。

ピッチリとしたISスーツのお陰で普段から存在感のある胸部がさらに強調されて目のやり場に困る。

 

いや、そんなバカなことを考えている場合じゃねぇ。

早く、一刻も早くこの状況をなんとかしないとオレはミンチィだ。

速…避け…無理‼ 受け止める…無事で!?出来る⁉ 否、死!!

 

こうなったら賭けだ。

 

オレは手首のガントレットを強く握る。

 

─チュドーン

 

次の瞬間、オレは山田先生のラファールに轢かれた。

 

 

…どうやら賭けには勝ったみたいだ。あの一瞬で白式を展開できたオレはなんとか生き残れた。

叩きつけられたトマト状態にならなくてホントに良かった。あぁ、生きてるって素晴らしい事なんだな。

 

ただ、一つ気になるのは、今オレはうつ伏せで倒れている。そのオレの右手は今、とても柔らかいものを握っているのだ。

 

それが何なのか気になって何度かむにむにとそれを揉んでみる。

そして、それは確かめている最中、山田先生の声で「やっ…、ん…。」といったとても艶っぽい声が聞こえてくる。

やめてください山田先生、オレだって健全な高校生の男子なんです。

そんな声を聞かされたら、ちょっとヤバいんです。

 

思考を巡らせているとある一つの結論に行きついた。もし本当にそうだとしたら今すぐに動かないとマズイ…。

 

が、時既に時間切れ…。オレの姿を隠してくれていた土煙は晴れてしまっていた。

そして目の前にはオレの予想通りの現実が広がっている。

格好だけを言うなら、オレは山田先生を組み敷いて、右手は先生の胸部にたわわに実り圧倒的存在感を放つその胸を鷲掴んでいた。

 

「お、織斑くん…。ダメですよ、私は教師で織斑くんは生徒なんですよ?」

 

形的には押し倒されている姿の山田先生はとても色っぽい顔でそう言ってきた。

正直に言うとオレの理性はほぼほぼ限界値を迎えてしまっている。

山田先生は確かに歳上だけど、その見た目はオレたちと同年代くらいに若く見える。

それでいて思春期の男子には毒なほどの抜群なスタイル。

そんな山田先生に艶っぽい声で、顔でそんな事を言われて揺らがないほどオレは枯れてない…。

 

あともう少しで理性が崩壊しようとしている、そんな時にオレに助け舟が渡された。

 

 

 

side out...

 

 

「い~ち~か~?!」

 

「い、ち、か、さん♪」

 

一夏の背後に佇むのはいつのまにかISを展開し、獲物を構えた鈴とセシリアの2人である。

鈴は自らの憤りを隠すことなく、表情に分かりやすく表している。一方で、セシリアはと言うと、いつもの高貴な笑みではあるものの瞳は笑っていない。直情的に怒りを露にされるよりもこちらの方がよっぽど怖いように思える。

 

恐怖と身の危険を感じた一夏は即座にその場から飛び退く。

その直後、セシリアのライフル、スターライトマークIIから放たれたレーザーが一夏の心臓があったであろう場所を通過する。

 

「セ、セシリアさん? 一体何を…?」

 

「あら、日本男児は恥を晒したら潔く自決なさるのでしょう? そのお手伝いを、と思いまして。」

 

「そういうことよ。という訳でとっとと首置いてけ!」

 

セシリアはその長大なライフルの銃口を再度一夏に向け、鈴は2本の青竜刀の柄を繋げ振りかぶる。

 

「「死にさらせぇ!」」

 

2人は叫び、一夏に引導を渡そうとする。

だがセシリアが引き鉄を引く直前、銃弾の音とともに何かがライフルの銃身を捉え銃口を上向きに押し上げる。その結果、スターライトマークIIから放たれたレーザーは上方へと向かい、アリーナの遮断シールドに相殺された。

 

そして鈴の投げた青竜刀は新体操のバトンのように回転しながら高速で一夏に迫る。

だがそれも次の瞬間には2発の銃弾の音とともに直進するエネルギーを失い地面に落ちる。

 

2人は驚いて銃弾の発射点であろう場所に目を向ける。

そこには仰向けのまま銃口から煙の立ち上るライフルを構えた山田真耶の姿がある。

 

「間に合いましたね。」

 

そう口にした彼女の表情はいつもの様におどおどしてはおらず、凛々しく引き締まっている。

 

 

 






前回投稿した話を読んだ友人がこう言ってきました。
「MUGENストーリーじゃないんだよね?」

そうなりつつあることは否定できないと思います…。



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第48話 実習開始…その前に


番外編ではなくて、外伝と称したものを新しく書こうかとも思い始めた今日この頃…。

では本編をどうぞ↓


「ふぅ、なんとかなりましたね。」

 

真耶はニコりと笑顔を浮かべて立ち上がる。

周りで彼女の一連の所業を見ていた生徒達は、普段の彼女とは駆け離れた凛々しい表情などに呆然としていた。

 

「何を驚いているんだ? 山田くんは元代表候補生、それも私がいなければ日本代表を務めていただろう実力の持ち主だぞ。」

 

「も、持ち上げ過ぎですよ、先輩。私なんてただの予備人員ですよ?」

 

「…私の予備人員を務められる人材が当時どれ程いただろうな…。」

 

どれだけ誉めても謙遜し続ける真耶を見て、千冬は小さく息を吐いた。

そんな2人を見て、生徒達はさらに呆然となる。

日本、いや世界最強の織斑千冬の予備人員を勤めあげられるとはどれ程強かったのか、と。

 

「まぁいい、オルコットと凰にはこれから山田くんと1対2での模擬戦をしてもらう。」

 

「い、1対2…ですか?」

 

「それは流石に…。」

 

多対1になることに気が咎めた2人が遠慮の色を示すと、千冬は鼻で笑ったような表情になる。

 

「半人前が2人で丁度いいと思ったが、なるほど、まだハンデが必要らしい。」

 

千冬の煽りにムッと来た2人はしっかりと自身の獲物を握りしめる。

それを見た千冬は分かりやすい連中だと言わんばかりの顔をする。

 

「やってやるわよセシリア!!」

 

「もちろんですわ!!」

 

 

 

「「サヨナラ!!」」

 

2人掛かりで真耶に挑んだセシリアと鈴は代表候補生の実力と経験から、拙いながらも連携を取り食らい付いていたものの、そこはやはり経験と地力の差か2人纏めてグレネードの餌食となった。

流石は初代ブリュンヒルデ織斑千冬と代表の座を競っていただけはあり、その実力は未だ錆びてはいないようだ。

 

「ぐうう、悔しい…。」

 

「まさか弾幕で追い込んでからあのように…。」

 

正面から2対1で叩きのめされたセシリアと鈴はがっくりと膝をつき、地面と見つめ合う。

 

「まぁ、それが今のお前らの現状だ。その段階から今の山田くんレベルとまで行かなくとも、1対1で互角にやりあえるまでにするのが私達の仕事だ。」

 

「はい、ですから皆さんはどんどん頼ってくださいね!」

 

えっへんと真耶が胸を張る。するとその胸部に実った果実が大いに揺れ、それを見た生徒の大半が自らの無力感に下を向くこととなった。

 

 

 

「さて、実習を開始する。各専用機持ちを班長に自由に班を作れ。」

 

専用機組の面々が列の前に並び、千冬がそう言うと生徒達は一斉に移動を開始する。その移動先の大半は男子である一夏とシャルルの班だ。

 

「一夏くん、よろしくね!」

 

「お、おう。でもオレで良いのか? 経験とかで言ったらセシリアとか鈴の方が…。」

 

 

「シャルルくん! お願い!」

 

「う、うん。ボクで良ければ…。」

 

男子2人に集まった女子達はきゃっきゃとはしゃぐ。

当然、2人に人が集まると言うことは他の専用機持ちの方には人がいないと言うことだ。

それでは授業が効率よく回るはずもない。

遂にその光景に臨界点を迎えた千冬はどこからともなく取り出したIS用の長大なブレードをアリーナの床に叩きつけた。

 

「いい加減にしないかこのバカ共が!!」

 

千冬が振り下ろしたブレードは重さを利用したとしてもそうはいかないほどに深々と突き刺さっている。

それだけで如何に彼女が人間離れしているかが分かる。

 

そんな光景を目にした生徒達は直ぐ様班を移動し始め、何も言われることなく出席番号順に班を構成した。

 

 






こちらとは違う形で外伝集を作成し、投稿しましたのでよろしければどうぞ。




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第49話 実技実習授業にて


この前から外伝的な話を「IS世界に世紀末を持ち込む少女 外伝集」として投稿しています。

早速読んでくださった方々、お気に入り登録してくださった方々、感想を書いていただいた方々、ありがとうございます。

では本編をどうぞ↓


千冬の一喝から数秒、生徒達は均一になるように出席番号順に並び班を編成し終える。

その様子に千冬は“最初からそうしろ、バカ共が…。”とだけ呟いた。

 

そうこうしてあっという間に班編成が終わり、遂に実習開始となった。

学園の生徒はIS実習が嫌いな生徒と好きな生徒、そして大好きな生徒の3種類に大きく分けられる。

 

嫌いになる理由は複数あるが、その一つがISの事前準備だろう。

専用機でない普通のISは専用機のように小型に出来ない。

そのため、実習で使うISを準備するのはとても大変なのだ。

人よりもだいぶ大きい機械の塊を台車に乗せてごろごろ引き摺る作業は男でも骨が折れるだろう。

 

そこで違いが出てくるのは一夏とシャルルの班である。

 

一夏の班は女子に重い物を運ばせられないという古き良き男の意地を持つ一夏が一人でISを運び、逆にシャルルの班は“シャルルくんにそんなことさせられない!”と体育会系の女子達が強烈な連携でもって運んだ。

 

同じ男子で、どうしてこうも差がついたのか。

 

 

それはさておき、各班に分かれるとそれぞれできゃぴきゃぴとした会話が始まる。

 

 

「出席番号一番、相川清香! ハンドボール部所属! 趣味はスポーツ観戦とジョギングっす!!」

 

「お、おう? どうして自己紹介を?」

 

一夏の班では班員が気合の入った自己紹介を始め…

 

 

「セシリアさん、よろしくね。」

 

「えぇ、先程は失態をお見せしてしまいましたが…。挽回させていただきますわ!!」

 

班員の言葉に先程まで落ち込んでいたセシリアがキラキラとなり…

 

 

「鈴音さん、後で一夏くんのお話とか教えてちょうだい!」

 

「あ”ぁ”ん!?」

 

一夏に近づこうとする生徒に対して鈴が牙を剥いたり…

 

 

「シャルルくん、分からないことがあったらなんでも言ってね! ちなみに私は今フリーだよ!」

 

シャルルの班では班員が親切さをアピールしながらも自身の事を売り込んでいったりしているが…

 

 

「………。」

 

「「「…………。」」」

 

その中で異彩を放つのがラウラの班である。

一切の無駄話もせず沈黙を保ち続けるラウラに班員は皆萎縮してしまっている。

 

他者を拒絶する絶対に口をききません的オーラに班員の生徒達はたじたじである。

 

 

 

「さて、それじゃあ出席番号順でやっていこうか。」

 

各班での世間話が終わるとそこから本格的に授業開始となる。

一夏の班では班長の一夏が支給された打鉄の横に立ってペチペチと打鉄の装甲に触る。

 

一夏の指示に従って、出席番号一番相川清香が前に出る。

 

「皆とりあえずはISに乗ったことがあると思うけど、装着から起動までをやろう。」

 

「は、はい!」

 

真面目な雰囲気になり、一人目の相川清香の番、装着・起動、そして歩行までが無事終わり二人目に無事移れると思った矢先のこと…。

 

ISに乗っていた相川と次に乗る番の生徒がアイコンタクトを交わす。その次の瞬間に

 

「あぁ、ついうっかり(棒)」

 

相川が立った姿勢のままISを着脱する。

もちろんそこにはISスーツ姿の相川と立ったままの姿勢を維持し続けるISがいる。

ISは人よりも大きいため、立ったままのISに乗るには飛び移って乗り込む必要がある。専用機と違って量産機が不便だと言われる理由の一つである。

 

「ぅえ…? どうしよう…。」

 

その光景に一夏は呆然と立ち尽くしてしまっている。

なぜなら完全に予想の範囲から外れたことが起こったからだ。

 

「どうしましたか?」

 

そんな一夏に救いの手が差しのべられた。

1年1組副担任の山田真耶である。

 

「山田先生…、実はかくかくしかじかで…。」

 

「まるまるうまうま…という訳ですか。」

 

一夏から事情を聞いた真耶はふぅむと腕を組んで思案顔になる。

その時、腕を組んだ事によって真耶の豊満な胸部がより強調されることとなり、一夏は思わず真耶から目線を逸らした。

 

「う~ん、仕方ありませんね。織斑くんが皆さんを抱っこして運んで運んでください。ISなら飛べるので安全です。」

 

真耶の提案に一夏の背後にいる女子らは皆計算通りといった顔を浮かべ、小さくガッツポーズした。

 

 

side 一夏

 

 

嘘だろ…。いや、うっかりやってしまった相川さんを責められないし仕方ないか…。

 

でもまさか同い年の女子を抱えることになるとは…。

 

ラッキー・アンラッキーで言えば間違いなくラッキーな部類に入ることだけど今はシチュエーションが悪い。ここにはオレしか男がいない。つまりはヘマしてもフォローしてくれる味方がいないのだ。

ヘタを踏めばオレは変態の烙印を押されかねない…。

 

それだけは絶対に避けねばならない。心を無にしろ、無の境地に至ればこんな状況なぞどうとでもなる!

 

 

side out...

 

 

 

「さて、じゃあ行くよ。」

 

ISを展開した一夏は軽く一言告げて次の順番の生徒を後ろから抱える。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

 

「お、おお!?」

 

抱えられた生徒は驚いたような恥ずかしいような微妙な顔をしながら先程まで自身が立っていた周りを見渡す。

 

「じゃあ下ろすよ。背中からゆっくりとね。」

 

クラスメイトを上まで運んだ一夏はゆっくりと彼女を下ろし打鉄を起動させる。

 

周りの班から羨望の眼差しが一夏の班員達に注がれる中で、強烈な殺意を纏った視線が一夏に突き刺さる。

その殺意に背中から震えるような感覚を抱いた一夏は急いで周囲を見渡すが、もうその気配は感じられなくなっていた。

 

 

 

side 箒

 

 

ぐぬぬぬぬ…。なんなのだ、なぜ抱える必要がある。

 

遠巻きに一夏の班を眺めている私の目にクラスメイトを抱える一夏が見えた。

あの顔は絶対に碌でもない事を考えているに違いない。ええい、何をデレデレしているのだ。

 

おのれ一夏、かくなる上は…。

 

「箒さん、お顔が怖いですわ。それと、貴女の番です。」

 

む? そうか、もう私の順番か仕方ない。

私は一夏に向けていた視線を外し、訓練用の打鉄に向かって歩く。

 

 

side out...

 

 

 

「さて、良い感じだね。じゃあ次の人に変わろうか。今度はしゃがんで──」

 

「おいしょー。」

 

“しゃがんで解除して” 一夏がそう言い終わる前に2番目の生徒の北里は立ったまま打鉄を解除した。

 

「まただよ(笑)」

 

天丼である。

北里は一夏にごめんねという視線を向けつつもやりきった顔で班員の列に加わる。

 

もちろん打鉄は立ったままなのでコックピットは上方で固定されている。

 

「はぁ仕方ない。またオレが運ぶよ。次は誰?」

 

観念した一夏はそう言って次の番の人も抱えて運んだ。

 

この後班員全員が連携し常に立ったまま打鉄は解除され、一夏は全員をお姫様抱っこで抱えて運んだのである。

 

 

 

「さて、各班終わったようなので午前の実技はこれで終わりとする。午後は各班で今日使用したISの整備を行う。授業開始前に格納庫で班ごとに集合しろ。専用機持ちは訓練機と専用機の両方を見ること。では解散!」

 

時間ギリギリではあったものの各班が歩行訓練までを終え、格納庫に自分達が使った訓練機を運び終えアリーナに再度集合した事を確認すると千冬は午後の分の連絡をして真耶と一緒に引き上げていった。

これで午前の実技授業は終了した。

 

 

 

 

 






外伝の宣伝

現在外伝集に投稿しているのは鳳鈴音・呂虎龍師弟の過去を書いた「中国師弟」編と南美の両親、北星義仁と七海の馴れ初め話を描いた「義仁×七海」編の2つとなっています。

そのうち、川内弥子や、狗飼瑛護、ルガールといったKGDO社員にもスポットを当てて行きたいと思います。



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第50話 お昼ご飯とパッケージ装備


記念すべき50話目ですね。
わりと時間がかかってしまいましたが…。

では本編をどうぞ↓


昼休み、それは育ち盛りの高校生にとっては待ち遠しいものの一つだろう。

それは女の園であるIS学園でも変わらないようで、昼休みの購買や食堂は大盛況だ。

 

そんな中、一夏達専用機組は今は誰もいない屋上へと来ていた。

普通の高校ならば屋上は立ち入り禁止の場所か、入れたとしても柵の張り巡らされた殺風景な場所のどちらかである。

だがさすがはIS学園と言うべきか、屋上に配置された花壇は季節の花々が咲き誇り、欧州の街並みを思わせる石畳が落ち着きのある美しさを演出している。

置かれた円テーブルにはそれぞれ椅子が置かれ、晴れた昼時であれば昼食を撮る生徒達で賑わう場所だ。

 

しかし、今は一夏達以外に誰もいない。

恐らくではあるが、噂の転校生シャルル・デュノアを一目見ようと皆食堂に詰めかけているのだろう。

当のシャルルは一夏と一緒に屋上に来ているのだが。

 

「さーて、そんじゃあパパっと食べちゃいましょ?」

 

弁当箱片手に鈴が椅子に座る。それを見て一夏達は彼女が座ったのと同じ円テーブルに着く。

 

一夏の両隣には箒とシャルル、向かい側に鈴とセシリアが座る。

 

「ほら、一夏。約束の弁当だ。」

 

「おお、サンキュー!」

 

箒は席に着くと小さな弁当箱を一夏に渡す。

それを受け取った一夏は待ってましたと言うように蓋を開ける。

 

そこにはほうれん草のごま和えに唐揚げ、鮭の塩焼き、こんにゃくとゴボウの唐辛子炒めというなんともバランスのとれたおかずが詰められ、見ただけでもそれが美味しいということが分かる出来だ。

 

そんな箒お手製のお弁当を眺めている一夏にずずいと大きめのバスケットが差し出された。

 

「さあ一夏さん、召し上がってください。」

 

そう言ってセシリアがバスケットの中身を一夏に向ける。

中には見た目にも美しいサンドイッチが詰められていた。

 

だが鈴は一夏に気の毒な奴と言いたげな視線を向けて小さな弁当箱を渡す。

 

「はい一夏、あんた食べたいって言ってたでしょ?」

 

「おお! 作ってくれたのか!」

 

鈴の渡した弁当箱に入っていたのは酢豚だった。

ご飯なしで酢豚単体という弁当の体をなしていないような気もするが、一夏にとってはそんなことは重要な事ではない。

 

誰かに作ってもらったことが重要なことなのだ。

彼は幼い頃から両親不在であり、実姉の織斑千冬は生活費をどうにかする為に仕事に奔走し、家にあまりいなかった。

そのため一夏は幼少期から自分で家事をこなし、食事も作っていた。だからこそ料理の大変さは知っているし作ってもらえる有り難さも身に染みて理解している。

 

故に一夏はそれがどんなにマズくとも出された物は完食するのだ。

 

 

 

 

「…鷲頭さん、ご説明をお願いします。」

 

南美は格納庫の前で電話相手の鷲頭に問う。

理由は単純、南美の専用機“ラスト”用のパッケージ装備が完成し、IS学園の格納庫に搬入されていた事をついさっき知らされたからだ。

 

ややご機嫌斜めな南美に対して、電話口の鷲頭は笑っている。

 

「ははははは、すまない。ちょっとしたサプライズのつもりだったんだ。ビックリしただろ?」

 

「ビックリはしましたが、時と場所、場合を考えてくださいよ…。パッケージ装備のような大事なものをパイロット側が知らされてないと言うのはダメだと思うのですが…。」

 

「キミのビックリした声を聞いてみたくてついね。今は反省しているよ。」

 

からかうような声でそう言った鷲頭は電話越しに笑っている。

だがこれももはや慣れたことなのか南美は小さく溜め息を吐いて話を進める。

 

「それで? パッケージ装備ですけど、具体的にはどんなものなんです?」

 

「あぁ、前に電話で話した3次元の立体的な機動力を重視したものさ。万能型のラストに尖った性能を持たせることを主題に開発された物の一つでね。」

 

電話越しに鷲頭の説明を聞きながら南美はそのパッケージ装備が入ったコンテナの前に移動する。

そしてスマートフォン片手にコンテナを開けるとそこにはIS用の武装パーツが納められている。

 

パーツは薄い青色をしており、洗練されたその流線形の装甲やスタピライザーは美しさを感じさせる。

 

「これが…ラストの新しい力…。」

 

「そうさ、コレこそがキミの専用機“ラスト”の立体機動戦特化型パッケージ装備、その名も“水鳥”さ。」

 

電話越しでもドヤ顔を浮かべていることが容易に想像できる調子で鷲頭は言った。

南美は目の前に存在する物の美しさに思わず息を呑んでいる。

 

「それの詳しいスペックはインストールしてみれば分かるから、時間のある時に確認してくれ。」

 

「はい、分かりました。稼働データはいつものように送れば良いですよね?」

 

「ああ、そうだね。いつものように頼むよ。開発班も楽しみにしているし、上手く行けば別のパッケージにも応用出来るかもしれないからね。それじゃあよろしく。」

 

最後にやや引っかかる言葉を残して鷲頭は通話を切った。

 

「別のパッケージって言ったよね、鷲頭さん…。」

 

鷲頭の残した言葉にワクワクするものを感じつつ南美はコンテナの中を眺める。

そこには変わらず美しさを魅せるパッケージ装備の装甲がいる。

 

一通り見て納得がいったような顔になると、彼女は次の授業の集合場所である所に向かう。

その時、一機の見慣れないISの傍に座り込み、端末を弄る青髪の少女が目についた。

 

その髪色と後ろ姿を見た南美は一も二もなく近寄る。

 

「楯無さん!」

 

快活な声でそう呼び掛けると青髪の少女はぴくりと反応し、ゆらりと立ち上がって南美の方を向く。

その少女は南美の知る更識楯無ではなく、別人だった。

 

そしてその少女は南美の事を一瞥すると奥歯を強く噛み締め口を開いた。

 

「アナタもなの…。」

 

 

 





近接格闘しかできないラストを万能型と言い張る世紀末企業の鑑、それがLast Of Century Enterprises社であります。



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第51話 AMBインストールGirl


タイトルでおおよその予想がついた方もいらっしゃると思いますが、今回の話に出てくるとある人物に物凄いキャラ崩壊が発生しています。
ご注意ください。

それでは本編をどうぞ↓


「アナタもなの…。」

 

「え?」

 

青髪の少女は恨みの籠ったような声で呟いた。

そしてその大人しそうな顔を次第に憎らしい物を見るような顔へと歪めていく。

 

「どいつもこいつも楯無楯無って、私の周りは皆お姉ちゃんのことばかり!! どうしてよ、どうして誰も私の事を認めてくれないのよ!!」

 

「いや、その…。」

 

なんとか言い繕うとした南美であったが、言葉を紡ぐ前に青髪の少女が次の言葉を放つ。

 

「アナタもどうせ姉さんの回し者なんでしょ!? 姉さんに言われて私の専用機に工作でもしに来たんでしょ?!」

 

少女は言い掛かりをつけながら南美にずいと近寄り胸ぐらを掴む。

 

「でも無駄よ。もうこの子は9割方完成してるんだから‼」

 

そう言って少女は胸を張り、ドヤァとした顔を浮かべる。

その彼女の後ろには存在を誇示する重厚な装甲に包まれた一機のISが鎮座している。

普通のISよりも太く、力強い四肢と胴体を覆うように張られた装甲は要塞を思わせるほどだ。

 

「これが私の作ったオリジナルのIS、その名も“玉鋼”よ。私を見放した倉持技研の打鉄弐式なんか目じゃないわ!」

 

「玉鋼…。」

 

テストパイロットとしてそれなりにISを乗り回してきた南美は本能的に分かった。

青髪の少女が誇るそのISの大まかなコンセプトが。

 

「ふふん、玉鋼の迫力に何も言えないみたいね。」

 

少女は得意気になり、自信満々に腕を組む。

その時、内側にはねた髪が軽く揺れた。

 

「その機体、玉鋼…だっけ? 凄いね…。」

 

「ほう…、なかなか見る目があるようね。」

 

南美の一言に猜疑心の強かった少女の目が変わる。

それを好機と見た南美が自分の事を洗いざらい話し、楯無の回し者でないことを伝えた。

 

 

「ふぅむ…。そうか、ふむ、なるほどね。どうやら姉さんの回し者じゃないことはホントみたいね。」

 

南美の言い分を聞いた少女は南美の瞳をじっと見つめて納得したように頷く。

彼女の目は先程までの濁ったようなものではなく、年相応のものに見える。

 

「信じてくれる…の?」

 

「まぁね、これでも一応は武芸の道を歩いた身だもの。アナタほどの人が下らない嘘を吐くはずもないって事ぐらいは分かるわ。」

 

少女は近くにあったベンチに腰掛け、南美を見上げる。

 

「私は更識簪よ。アナタは?」

 

「北星南美、よろしくね。」

 

「えぇ、よろしく。」

 

2人はお互いに手を差し出してその手をしっかりと握り合う。

どこか通じ合う何かがあったのか、もうお互い打ち解けあっていた。

 

 

「なるほど、決め手の兵装に迷ってたってことね。」

 

「そう、システム系は全て完成しているから動かすことも、もちろん戦闘だって万全に出来るわ。けど、決め手がないの。だから9割しか完成してない…。」

 

打ち解けた2人はベンチに座ってあることを話し合っていた。

内容は簪の自作IS“玉鋼”の武装に関してのお悩み相談である。

 

「私からみたら充分だと思うけど? グレネード砲に多連装ハイアクトミサイルにバズーカ、重ガトリングと大型ショットガン、もはや武器庫だよ?」

 

「それだけじゃ足りないの。さっきも言ったし南美だから分かってたと思うけど、この子のコンセプトは“重装甲による高耐久力で耐えつつ高火力でやり返す”なの。」

 

簪はタブレットを取り出して今の玉鋼の基礎スペックと量産機の打鉄の能力を南美に見せる。

 

「…高火力高耐久を実現させる為にこの子は機動力を犠牲にしているの。でもそうしてもまだ火力が足らないのよ。フルバーストで一斉に当てるくらいはしないとまだ甘い…。」

 

簪は悔しそうに奥歯を噛み締めると、タブレットの電源を消してカバンにしまう。

そして同じカバンの中から薄型のパソコンを取り出した。

 

「簪ちゃん、どうしてそこまでガチガチに拘るの?」

 

「…堅くて高火力が強いのは昨今のスーパーロボットが証明してるじゃない。」

 

「へ?」

 

予想だにしていなかった返答に南美は変な声を出してしまう。だが簪はそんなことを気にした風を見せずに言葉を続ける。

 

「スーパーロボット達はみんな、敵の攻撃を受け止め、それ以上のパワーでやり返す。そして必ず勝つのよ。」

 

そう語る簪の声には力が籠っていた。

それどころか瞳には熱意が籠り、自然に握られた拳はワナワナと震えている。

 

「そして何より、ガチタンには浪漫があるのよ!」

 

ガタッとベンチから立ち上がった簪は隣で座っている南美を指差して言い切った。

 

「…ハッ⁉ 浪漫は正義!!」

 

一瞬だけ呆然としていた南美であったが、我に返るとすぐさま立ち上がり簪を指差して叫ぶ。

 

その返答に満足したのか簪はうんうんと大きく頷いて右手を差し出す。

その意図を察した南美も同じく右手を差し出して簪の手を握った。

 

「フフフフフ、流石ね。この話についてこれるなんて。」

 

「私もよ。簪と出会えて良かった。」

 

 

彼女達がお互い理解しあった頃、授業5分前を告げるチャイムが鳴った。

 

その音を聞いた簪は残念そうな表情になり、手を離す。

 

「もう時間か、仕方ない…。またね南美。」

 

「うん、また語り合おうね、簪ちゃん!」

 

2人は手を振ってその場は別れていった。

南美は格納庫の更衣室で作業用の服に着替えて午前中に使用したISの前に行き、授業の開始を待つのであった。

 

 

 

 





ガチタンに浪漫を見出だした簪ちゃん。
…どうしてこうなった…。

浪漫は正義、カッコいいは正義です。

そして、簪ちゃんは原作よりも才能溢れる天才となりました。
それと彼女がインストールしたアミバ様はどちらかと言うと北斗無双でジャギの幻闘編に出てくる方をイメージしています。




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第52話 昼食で起きた惨劇


前回書かれていなかった一夏達サイドのお話です。

では本編をどうぞ↓


「うっぷ…。」

 

「どしたのシャルルくんや。顔色が悪いよ?」

 

授業の開始前、余裕を持って集合場所に現れたシャルルの顔色は明らかに悪かった。

 

「ああ、うん。実はね…。」

 

 

─それは時間を少し遡ってお昼休みのこと。

 

 

「ほら一夏。」

 

「はい、一夏。」

 

「さぁ、召し上がれ。」

 

屋上で昼食を摂ることにした一夏は今、3人の美少女からお弁当を差し出されている。

 

美少女から、お弁当を差し出される。

それも3人も。

 

世の男がこれを知ったならば恨まれても仕方がないと言った状況を、一夏は困惑の表情を浮かべて対峙している。

 

一つは箒の作った彩りも豊かなお弁当、一つはタッパーに鈴特製の酢豚だけが詰められたお弁当と言って良いのか分からない代物。そして3つ目、見た目こそキレイに作られているが何故か恐ろしい予感を抱かせるセシリアお手製のサンドウィッチ。

 

眼前に並べられたそれらを見て、一夏は息を飲んだ。

 

 

 

side 一夏

 

 

どうしたら良いんだ?

3人が作ってきてくれた弁当はどれもこれもオレに合わせてかそれなりのボリュームがある。

 

全部食べると、恐らく次の授業に支障が出るだろう。かといって残すことも食べ物に失礼だ。

けれど、どれかを完食して、どれかに手をつけなかったら角が立つ…。

 

…そうだ、ティンときた。

 

「シャルル、少し食べてくれないか?」

 

そう同じ男子のシャルルを巻き込めばいいんだ。

それもオレの手伝いという名目で。

そうすれば全部に手をつけられるし、残してしまう心配もない。

うん、我ながらよくできた作戦だ。

 

「え、良いのかい? それは皆が一夏の為に作って来たんじゃないの?」

 

うん、この返しも予想済みだ。

とても優しいシャルルならそう答えるだろうと思っていたぜ。

 

「みんなもいいよな? さすがにこの量はオレだけだと食べきれないし残しちゃったらもったいないからさ。」

 

うん、もっともな事を言った。

その証拠に3人とも“まぁ確かに…。”という顔をしている。

よし、上手くいったぞ。

 

…紳士的で心の底から優しいシャルルを利用するようなマネをするのは凄い心苦しいものがあるが、オレがこの先生きのこる為なんだ。

 

「じゃ、じゃあ…。セシリアさん、このサンドウィッチ、一つ貰うね?」

 

シャルルは遠慮がちに断りを入れてからセシリアの作ってきたサンドウィッチに手を伸ばす。

何やら鈴が悪代官を見るような目でオレの方を見てきているが無視だ。意識してしまったら罪悪感に潰されそうになるに違いない。

 

オレは自分のしでかした事を意識しないように、鈴の作ってきてくれた酢豚に口に運ぶ。

何故だろうか、あの美味しかった酢豚が今は何の味も感じない。

 

 

side out...

 

 

「いただきます。」

 

シャルルはサンドウィッチを小さい口に運ぶ。

柔らかいパンと間に挟まれた具材をしっかりと噛み、口に含んだ。その直後、とてつもない衝撃がシャルルを襲う。

 

「うっ…?!」

 

サンドウィッチを口にしたシャルルは途端に苦しむような短い声をあげ、まだ食べていない部分をお皿の上に置く。

 

原因は口にしたサンドウィッチだと頭では分かっているものの、シャルルは育ちの良さが邪魔をしたのか、吐き出すようなことはせず、涙を浮かべながらサンドウィッチを飲み込んだ。

その瞬間、シャルルの顔色はみるみるうちに悪くなり、シャルルは力なく椅子から倒れ落ちた。

 

「お、おい、シャルル!?」

 

見るからにマズい倒れ方をしたシャルルを見て一夏は急いで駆け寄った。

 

 

side シャルル

 

 

「いただきます。」

 

ボクが知った日本語の中でも特に気に入っている言葉の一つがこの“いただきます”だ。

ボク達が口にする食べ物、それらの命を頂いて生を繋ぐ。とても素晴らしい言葉だと思う。

だからボクは何かを食べる時は必ずこの言葉を言うようにしている。

 

セシリアさんから貰ったサンドウィッチはとても美味しそうで、このままレシピ本の写真にも使えそうなくらいだ。

瑞々しいレタスや香ばしそうなベーコン、きっとおいしいはずだ。

 

ボクは思い浮かぶ美味しさに期待しながらセシリアさんのサンドウィッチを口にした。

 

ふんわり柔らかなパン、そして挟まれた具材…アレ…?

 

なんだろうこれ…。

違和感を抱いた瞬間それは襲ってきた。

 

「う…?!」

 

小さく呻く事しかできなかった。

 

苦い…、甘い…、酸っぱい…、辛い…。

 

口の中にありとあらゆる味が広がる、ボクの語彙じゃあどうやっても形容しきれない味だ。それはサンドウィッチが本来持ち得るはずではないハーモニーの形。

食事という、命をいただくことに対するあまりにも冒涜的なその味にボクは自然と意識を手放しそうになり、倒れてしまった。

 

 

side out...

 

 

 

side 一夏

 

 

やっぱりこうなったか…。

何を隠そう、イギリス国家代表候補生のセシリア・オルコットは料理がとても下手なんだ。

 

以前に手料理を振る舞われたことのあるオレは知っている。でも言えなかった。

あの時、セシリアの指にはキレイなきめ細かい肌、そして白く細い指に不釣り合いな飾り気のない絆創膏が張られていたし、何よりもキラキラした目で感想を求めてきたセシリアに面と向かって不味いとは言えなかったんだ。

けど、こうして誰かが倒れればセシリアだって少しは上達しようと努力するに違いない。

 

そう、シャルルは犠牲になったのだ。…セシリア・オルコットの料理向上の犠牲にな。

 

「い、一夏ぁ…。」

 

気を失ったように倒れたシャルルはオレが駆け寄ると虚ろな目でオレを見上げてきた。

やめてくれ! そんな目でオレを見ないでくれ…!

 

今更ながらに罪悪感がオレの心を蝕んでくる。

違うんだ、こんなことになるなんて、オレは思ってなかったんだ…。

セシリアの料理がそこまで強い毒性を持ち始めたなんて、知らなかったんだ…。

 

ごめん、ごめんよシャルル…。

 

 

side out...

 

 

「ちょっ、セシリア、あんたサンドウィッチに何を入れたのよ!!」

 

「わ、私は普通にレシピ本通りに作って、それで…。個性を出そうと色々な調味料を加えただけですわ。」

 

「よし、ギルティ!」

 

セシリアの返答を聞いて鈴がばっさりと切り捨てた。

その判決に納得いかないといった表情のセシリアに更に続ける。

 

「何で味見をしないのよ、このバカ!!」

 

「ですが、見た目はちゃんとレシピ本の写真通りに出来ましたし…。」

 

「味も一緒にしなきゃダメでしょうが!!」

 

鈴は飛び上がってスパーンとセシリアの頭をはたく。

 

「料理舐めんなよ、このバカ!!」

 

鬼気迫る迫力でそう凄んだ鈴に気圧されたセシリアはしゅんと落ち込んだように返事をする。

 

この時からメンバーの間には暗黙の了解としてセシリアを一人で料理させないことが決まった。

 

 

 

「──ということがあってね…。」

 

「あはは、そりゃ災難だったね。」

 

青ざめた顔で語ったシャルルを労うように南美は彼の背中を軽く擦ってやった。

 

 

 





シャルルは不憫。



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第53話 水鳥装着


だいぶ遅くなってしまいました。申し訳ありません。
そしてこんなに時間がかかったにも関わらずとても短い…。

では本編をどうぞ↓


『メインシステム、通常モードを起動します。システム、オールグリーン。これよりパッケージ装備“水鳥”のインストールを開始します。』

 

流暢な発音のシステムボイスがシステム起動を告げると、今度は機体に繋いである水鳥のメインシステムが起動する。

 

「はえ~、すっごい。」

 

「これが南美の専用機なんだ。」

 

授業中の格納庫の一角で、訓練機と専用機のメンテナンスついでに南美はパッケージ装備の準備を行っている。

そしてインストールが終わるまでの間、南美はクラスメイトの作業を見守りながら、パッケージ装備のコンテナに同封されていた説明書を読んでいる。

 

 

side 南美

 

 

パッケージ装備“水鳥”

 

“南斗水鳥拳の使い手にしてAC北斗の拳では上位キャラであるレイをモチーフにして開発した。性能は近接万能機であるラストに遠・中距離にも届く兵装と高い立体機動性を持たせた。最高速度は現在開発中のパッケージ装備「鳳凰」の想定最高速度に劣るものの、高い水準でバランスの取れた性能は現在知られているどの専用機にも劣らないだろう。”

 

…なんて説明書の概要には書いてあるけど、まぁ名前の通りだよね。

 

飛び道具の飛燕流舞はもちろん、バリア的に使える南斗狂鶴翔舞があるのは嬉しい。

 

てか、“鳳凰”って絶対アレだよね。今から楽しみなんだけど。

 

叫んでみたい、それを装備して“退かぬ!媚びぬ!省みぬ!”って。

模擬戦でもいいからやってみたいなぁ…。

 

 

side out...

 

 

『準備が完了しました。これよりパッケージ装備を装着しリンクします。』

 

無機質なシステムボイスがそう告げると、コンテナ内で纏めていたラストと水鳥の装甲が眩しく光る。

 

「っ!?」

 

「な、なになに?!」

 

「目が、目がぁあ~!!」

 

突然の発光に驚いた南美は即座に目を腕で覆い目を守る。

が、偶然にも南美の傍にいた数名のクラスメイト達はその発光に反応が遅れ、目が眩んでしまった。

 

そしてラストと水鳥から放たれた強烈な光が止むと、南美は恐る恐る目を開ける。

するとコンテナの中には白い全身装甲の上から、薄青色の装甲を纏ったラストの姿がある。

 

「これが水鳥を装備したラストの姿…。」

 

「「う、美しい…ハッ!」」

 

「キレイ…。」

 

「カッコいい~…。」

 

南美が息を呑み、その姿を眺めていると、視力を取り戻したクラスメイト達もその水鳥の姿を見て思い思いの感想を漏らしている。

 

そして南美は気品を感じさせる佇まいのラストに歩みより、その装甲に触れ、その身に纏う。

 

『水鳥、通常モードを起動しました。これよりラストのデータをもとに構築したデータを修正します。マスター、修正の許可を。』

 

「オーケー、許可するよ。」

 

『ありがとうございます。それではデータ修正を開始します。』

 

無機質なシステムボイスで告げられた礼を合図に、水鳥はラストに蓄積していた南美のデータと今の生身の南美のデータとを比較し、修正する。

 

『修正が完了しました。』

 

「ん、オーケー。これで戦闘も出来るね。」

 

ものの数分でデータ修正が完了すると、ラストを纏った南美は満足そうな笑顔になり、肩を回す。

その仕草や表情から、クラスメイト達にも今の南美が戦いたくてウズウズしていることが容易に想像できた。

 

そして南美の目が向いた先にいるのは班のメンバーに振り回されててんやわんやになっている一夏である。

 

 

 

 





申し訳ありませんが、これからはペースが落ちます。本当にすいません。



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第54話 試運転開始


私の邪魔をするものは皆消えればいい!

そんな最近です。

では本編をどうぞ↓



「それが南美の新しい装備か…。」

 

「そうだよ、一夏くん。さぁ早く試合おうよ。」

 

ラスト専用パッケージ装備“水鳥”をインストールしたその日の放課後、南美と一夏はアリーナに来ていた。

2人だけでなく鈴やセシリア、箒といったいつものメンバーに加え、シャルルも一緒である。

 

「一夏、とっとと負けて順番譲りなさいよ。」

そのメンバーも例に漏れずISを装備している。

そして鈴は早く南美と勝負したいのか、落ち着きがない。

 

「嫌だね、南美とISで勝負出来るんだ。こんな機会を譲るほどオレはお人好しじゃないからな。」

 

そう言って一夏は好戦的な笑顔を鈴に向ける。

その顔にイラっときたのか鈴は2本の青竜刀を連結する。

さすがにマズイと思った一夏は視線を南美に向け直し急いで話題を逸らす。

 

「よし、やろう、さっそくやろう、すぐやろう!」

 

「そうだね、私も我慢できそうにないし…。始めようか。」

 

焦る一夏と対照的に南美は笑い、飛び立つ。そして南美を追うように一夏も高度を上げ対峙する。

 

 

「それじゃあ行くよー。レディ…ファイッ!」

 

下から眺めているシャルルの合図と同時に南美と一夏は前に出る。

 

「ショォオオオオっ!!」

 

「うぉおおおおおっ!! らあっ!!」

 

間合いに入った直後、一夏は雪片弐型を横一文字に振るう。しかしその一太刀は空を切る。

 

「どこを見ている!」

 

雪片弐型を振り切り、前のめりになった一夏の上をいつの間にか取っていた南美はそう言い放つと一夏の頭を蹴り飛ばす。

 

「シャオッ!! フゥウウウウ、ショォオオオオ!!」

 

拳を振り上げて一夏の体を宙に上げ、アリーナの壁に向かって蹴り飛ばす。

一夏も一夏で壁に激突する前に体勢を立て直す。

 

「私の動きは人間には捉えることは出来ない(ドヤァ)」

 

それが言いたかっただけと言わんばかりのドヤ顔を浮かべながら、南美は腕を組み空中で仁王立ちする。

 

 

「…今の動き、見えた?」

 

「なんとか、ですわ…。」

 

「「…右にフェイントを入れて下方に瞬時加速して一夏の下を抜けて上方にもう一度瞬時加速からの急制動。」」

 

セシリアと鈴の2人は南美が一夏の頭を蹴り飛ばす直前の動きを言い当てる。

そして、その動きのトンでも加減に言い知れぬ恐怖を感じていた。

そんな動きを可能にする南美という存在にも、その動きを現実の物として当然のように受け入れてしまっている自分にも。

 

「ホントにバカみたいな動きね。常識はずれにも程があるっての。」

 

「あんな無茶な動き、やろうと思っても普通ならば本能が拒否しますわ…。」

 

 

「さぁ、一夏くん。まだまだ始まったばかりだ。武器を取って立ち上がりなよ。」

 

腕を組んで仁王立ちしたまま南美は一夏を見下ろしてそう言った。

 

 

 








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第55話 南斗聖拳の真髄とは?


話が全く進んでいない…。

では本編をどうぞ↓


「さぁ、早く早く。」

 

「上等だよ、この野郎…。」

 

アリーナの壁に叩きつけられた一夏は何事もなかったように立ち上がり、雪片弐型の鋒を南美に向ける。

腕を組み余裕を見せる南美に対して一夏は目に闘志をたぎらせ、ギラギラしている。

 

「フゥウウウウ、ショオ!」

 

雪片弐型を構える一夏が高度を上げる前に南美は右足を伸ばしたまま宙を1回転する。

するとその足先から水色の何かが斜め下に放たれた。

それが向かう先は一夏ではなく一夏の手前側。一夏は高度を上げて南美と同じ高さまでに行こうとしたが、その時地面に接触した水色の何かは接触した瞬間に反射するように跳ね上がり一夏の足先を捉えた。

 

「は!?」

 

予想していなかった衝撃に一夏は慌てて足先を見やる。

そこには一部の装甲にダメージを受けた白式の足がある。

 

「よそ見してて良いのかな?」

 

「うおっ!?」

 

ほんの一瞬とはいえ、相手から目を切った一夏を諌めるように南美は告げる。

既に彼女は一夏の懐にいた。

 

それは得物を持った一夏の内側、南美の間合いである。

 

「シャオッ!!」

 

南美が右手の鈎爪を振り上げる。

風の刃を纏ったそれは的確に白式の装甲を捉え、確かな傷をつける。

しかしそれは致命傷ではなかった。

なぜか? 一夏がかわしたからである。

 

師狗飼との日々の研鑽は一夏を本能で回避できる領域まで引き上げていたのである。

 

「うらぁ!」

 

「っ…。」

 

鈎爪を振り上げた南美の体に一夏の体重を乗せた体当たりが直撃する。

攻撃を回避されることはまだしも、そこから反撃されるとは思っていなかった南美の体はそれだけで容易に揺らいでしまう。

 

「行っけぇええ!!」

 

南美の揺らいだ体を見て好機と捉えた一夏は雪片弐型を振りかぶり、横凪ぎに振り払う。

 

「ウリャッ!」

 

足を踏ん張らせ揺らいだ体を立て直した南美はこれから振られるであろう雪片弐型の一撃など眼中に無いかのように一夏との距離を詰めると強烈なアッパーをがら空きの顎にお見舞いする。

 

「ソコダッ!」

 

そして浮き上がった一夏の体に、正確には鳩尾に上空から落ちるような正拳を叩き込む。

のだが、不思議と彼女の拳には手応えが感じられなかった。

 

彼女の拳が当たったのは一夏の体ではなく雪片弐型の刀身だったのだ。

ギリギリのところで一夏は南美の追撃を凌いだものの、衝撃までは殺せずに勢いよくアリーナの地面に向かって吹き飛ばされる。

 

「ぐ、くそ…。あそこからカウンターかよ…。」

 

「それは私のセリフ。まさか初撃で仕留めに行けないとはね…。腕を上げたね。」

 

吹き飛ばされた衝撃から一息ついた一夏は正眼に構えた雪片弐型越しに南美を見据える。

 

 

「…もはや一夏さんは私と初めて相対した時とは別人ですのね。あの頃が懐かしくなりますわ。」

 

「あんたが戦った時がどんなもんだったか知らないけど、一夏の伸び方は早い。それこそあいつは高校に上がるまで1度もISに触れてないんだから。」

 

ISを展開したままセシリアと鈴、箒にシャルル達は南美と一夏の手合わせを眺めながら息を呑んでいた。

 

「一夏って天才…なのかな? この前はあんな風には動けてなかったのに…。」

 

そんな事を漏らしながら興味深い物を見る目でシャルルはじっくりと一夏を見つめていた。

 

「アイツは、一夏は天才なんかじゃない…。ただ人よりも努力するのが得意なだけだ…。」

 

そうこぼした箒は南美と激戦を繰り広げる一夏の姿をただじっと見つめていた。

 

 

「シネェーイ!」

 

「ちっ!?」

 

両腕を広げて突撃する南美を一夏はなんとかいなして体勢を立て直す。

そうして息をつくのも束の間、南美の鋭い蹴りが一夏を襲う。

 

「シャオッ! ショオ! ウリャッ!」

 

「ぐっ、うおっ?! ぐふぅ!?」

 

しゃがみ足払いで一夏の意識を下に向け、疎かになった上半身目掛けて鈎爪を振り上げ宙に浮かせると、逃がさないとばかりに強烈なアッパーを顎にお見舞いする。

 

「シネェーイ!」

 

そして絶好のチャンスを逃す南美ではない。

完全に宙を舞う一夏を見た彼女は両腕を交差させてから広げて一夏に突撃する。

そして壁に叩きつけられた一夏の体が落ちる前に同じ技を何度も何度も絶え間無く叩き込んでいく。

 

 

「シネェシネェシネェシネェシネェシネェ!」

 

「あ、あれはまさか武運流羽夫(ブウンルウプ)!?」

 

「知っているのか、鈴電!」

 

その光景にとてつもなく見覚えのある鈴が叫ぶと、険しい顔をしたシャルルが勢いよく鈴の方に顔を向ける。

 

「うむ。」

 

そして鈴もいつのまにか髭をつけた険しい顔でシャルルの問いに頷く。

だかそんなノリはいつまでも続かなかった。

 

「なんでもいいから知っているなら教えてくださいな!」

 

神妙な顔で語りだそうとした鈴の頭をセシリアがはたいたのである。

そのセシリアの行動に冗談は通じないと感じたシャルルと鈴は険しかった表情をいつもの柔和な顔に戻し、鈴に至っては付け髭を外してどこかへとしまった。

 

「あれは南斗鶴翼迅斬、いわゆるブーンよ。」

 

「説明になっていませんわ…。もう少し分かりやすく説明できませんの?」

 

「…噛み砕いて言うと、格ゲーのAC北斗の拳で使える南斗水鳥拳伝承者レイの必殺技の一つよ。AAのブーンに似てるから通称ブーン。北斗が知りたきゃあとで原作貸すわ。」

 

 

 

「これで終わりだ!」

 

何発目か分からないほど南斗鶴翼迅斬を打ち込んだ南美はそう強く言い切るとさっきと同じように南斗鶴翼迅斬を一夏に向けて打ち付ける。

だがそれだけで終わらなかった。一夏の体に左右の手刀を打ち込んだ南美はそのまま滑らかに動きのベクトルを変え、一夏の上空に位置取る。

 

「ふん…! 切り裂け!」

オーバーヘッドの動きから一閃の衝撃波を下方の一夏に放った。

南美のフルコン完走を食らった一夏は重力に従いアリーナの地面に落ちる。

 

そして南美はそれを見届けるとゆっくりと降り立ち一夏に背中を向けた。

 

「これぞ南斗聖拳の真髄!(ドヤァ」

 

「……。」

 

そんな殺りきった感を出してどや顔する南美の背中を見つめていた鈴はフゥと息を吐き出し足を前に進める。

 

「じゃあ次はあたし達ね。拒否権はないわよ。」

 

「貴様にも南斗聖拳の真髄を教えてやろう。…あたし、達…?」

 

ノリノリだった南美は鈴の言葉に違和感を覚えて思わず聞き返す。すると鈴は口の端に笑みを浮かべて小さく頷いた。

 

「そう、あたしとセシリアのコンビと試合してもらうわ。」

 

鈴がそう言い切り、セシリアと肩を並べる。そのセシリアも今は好戦的な目で南美を見つめている。

 

「私も、もうあの時の私ではありませんわ。それを今、お見せしましょう。私とブルー・ティアーズ、そして鈴さんと奏でるワルツで。」

 

セシリアの言葉と同時に二人は宙に飛んだ。

 

 

 

 








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第56話 乙女の決戦


調子がよく、早めに書き上がったので投稿しました。

大学の講義で配られたレジュメに書いてあった“オナリ神”という単語が“ナオリ神”に見えて2度見しました。

では本編をどうぞ↓


「お行きなさい! ブルー・ティアーズ!!」

 

セシリアのブルー・ティアーズから4基のビットが射出される。

射出されたビットはそれぞれ南美の周りを飛び回り、彼女をその場に釘付けにしようとそれぞれ射撃を開始する。

しかしビットから放たれる攻撃は南美の動きを多少制限するものの、当たることはない。

するすると射線の間を潜り抜けながら南美は宙を舞う。

 

「ゥゥアタァッ!!」

 

大きな声と共に鈴の強烈な青竜刀の横薙ぎが南美に迫る。

だが南美は視界の端で鈴の行動を見るや否や、即座に周囲のビットの位置を確認し、ビットから撃たれず尚且つ鈴からも距離を取れる場所へとブースターを吹かして飛んだ。

 

 

 

side 南美

 

…鬱陶しい弾幕張るね、セシリアちゃん…。少なくとも初めて戦った時とは段違いだ。

でもビットの射撃は来るタイミングが分かってれば崩されるほど強くない。怖いのはセシリア自身の狙撃…。

直撃を受ければ大きく崩されるのは目に見えてる。

 

そして崩れた瞬間襲ってくるのは鈴の強烈な一撃…。

このコンビ、実際隙がないよね。

中・遠距離のセシリアちゃんと近・中距離の鈴、面倒なコンビだね。お互いの得意なレンジが被ってないから纏めてどうにかするのも難しい…。

 

…やるしかないのか…。

大きく息を吐いて二人の方を見ると、セシリアの周りにはビットが飛び交い、鈴は二本の青竜刀を連結させてバトンみたいにグルグル回してる。

 

「どうしたのよ南美、防戦一方じゃない!!」

 

「貴女らしくありませんわね!!」

 

おうおう、煽るねぇ…。

ならご期待にお応えしましょうか。

 

「南斗聖拳の名にかけて…。ユクゾ!」

 

お生憎様、ブーストゲージはもう満タン、オーラもすでに貯まってんのよ。

 

 

side out...

 

 

「ゥゥアタァッ!!」

 

「ショオオオオっ!!」

 

鈴の青竜刀と南美のエネルギーを纏った手刀が正面からぶつかり合う。

鈍く大きな音が響き、二人はその場で力比べを始める。

 

「何で素手で私のこれに対抗できんのよ!」

 

「南斗聖拳に不可能はない(キリッ)」

 

鍔迫り合いを繰り広げる二人、それは豪快な隙に他ならない。そして英国代表候補生首席の彼女はそんな大きな隙を逃さない。

 

素早くビットを南美の背後に展開すると細かな照準などお構いなしにただ早撃ちだけを意識して直ぐ様撃つ。

 

が、南美もビットに気付いていたのか流れるような動きで鍔迫り合いから抜け出し、ビットによる狙撃からも逃れる。

 

「飛燕流舞!」

 

逃げる時にもタダでは逃げない。小さな衝撃波を展開し、鈴の追撃に牽制を入れながら距離を取る。

 

 

 

「なんであんなに避けれるんだよ…。」

 

南美達の攻防を眺めていた一夏はポツリと漏らす。その言葉を聞いたシャルルは小さく微笑んで一夏の隣に立つ。

 

「一夏と南美の差はね、射撃武器への理解度の差じゃないかな?」

 

「理解…?」

 

「うん、理解。一夏は射撃系の武器とかは使ったことあるかい?」

 

シャルルの問いに一夏は首を横に振る。するとシャルルは“そっか”と呟いて自身の武器であるサブマシンガンを一夏に見せる。

 

「これはボクがよく使ってる武器なんだけど、はい一夏。使用者ロックは解除してあるから、ちょっと下に向かって撃ってみてよ。」

 

「…?」

 

小首を傾げながらもシャルルからサブマシンガンを受け取った一夏は銃口を下に向けて引き鉄を引く。

 

銃を撃っている感覚を全身で感じた一夏は引き鉄から指を離すと、隣のシャルルに顔を向ける。

 

「どうだった?」

 

「えっと、思ったより、衝撃が…。」

 

「そう、実弾系の銃は撃つときに結構大きな衝撃が来るんだ。撃つときに照準がぶれないように使う側は脇を締めて、ちゃんと体を固めたりするんだ。中にはそんなことしないでも正確に撃ってくる人もいるけどね。」

 

一夏に渡していたサブマシンガンを受け取ったシャルルはペロッと舌を出して笑う。

そして真面目な顔に戻ると銃を拡張領域にしまう。

 

「それにね、射撃武器は撃つ側の事を知ればそれだけで避けやすくなるんだ。もちろん、知ってるだけで避けられるものじゃないけど、助けにはなる。だからさ、一夏。もしキミがもっと上を目指したいならボクが協力するよ。ボクが一夏に射撃武器について教えてあげる。」

 

真面目な顔でそう言ったシャルルはもう一度一夏と目を合わせ、笑った。

 

 

 

「ホォアタァッ!!」

 

「シャオッ!!」

 

鈴が振りかぶった青竜刀を振り下ろすと南美は鈎爪を勢いをつけて振り上げて迎え撃つ。

激突音を響かせ、火花を散らせるその一合に箒は思わず息を呑んでいた。

だが、彼女らのやり取りはそれだけでは終わらない。

そのまま鍔迫り合いに持ち込もうとする鈴の思惑から逃れるように南美はブースターを吹かして上空に逃げる。

 

「そこです‼」

 

「くっ…。」

 

その南美の動きを先読みしていたかのように正確に放たれた一条の光閃を南美はギリギリのところで身を翻してかわす。

その一瞬のタイムラグは鈴が追い付くのには十分な時間であった。

 

「アチャアッ!!」

 

「ショオッ!」

 

豪快に振るわれる青竜刀の一撃。南美はそれを敢えて正面から迎え撃つ。

水鳥の装甲が淡く光り、それと同時に南美は鈴に向かって多段の手刀突きを繰り出した。

 

「南斗虎破龍!!」

 

横っ腹に青竜刀の一撃を受けても南美は小揺るぎもせずに鈴の体に突きを打ち込む。

そして数発目の突きを受けた鈴が吹き飛ぶと、それに追撃するために南美はブーストを使って追いかける。

 

がそれを邪魔するように南美の眼前を一筋の光が横切った。

 

「私の事を忘れてもらっては困りますわ。」

 

その光の発生源に目をやると、そこには身の丈ほどの大きさを誇る長大なライフルを構えるセシリアがいる。

その周囲には4基のビットがまるでそれぞれ意思を持っているかのように不規則的に飛んでいる。

 

「セシリアちゃん…。ホントに強くなったね。」

 

「ふふ、南美さんにそう言っていただけて光栄ですわ。」

 

南美の言葉にセシリアはそっと笑みをこぼすも、次には南美へと照準を合わせ引き鉄に指をかける。

 

「よろしいのですか? 意識を私にだけ割いていて…。」

 

ちらっと横に目を向けたセシリアにつられて南美もその方向に目線だけを向ける。

 

そこには繋げていた青竜刀をばらし、二刀流にした鈴が突進してくる光景が広がっている。

 

「フゥアチャア!! アタァタァアチャ!!」

 

青竜刀を振り、時には空いている脚で南美を狙う鈴。そして避ける南美の動きを抑えるようにビットによる複雑な弾幕を張るセシリアのコンビネーションは厄介以外の何物でもない。

 

「まだ逃げてるだけ?!」

 

後ろに下がりながらビットの射撃を避ける南美に鈴が言う。その言葉に南美ら勝ち誇ったような笑みを顔に張り付ける。

 

「鈴…、この機体が水鳥の皮を被っただけのISだってこと、忘れたの?」

 

「え? っ──!!」

 

「遅いよ! 南斗雷震掌!!」

 

掲げた右手を下につけるとその右手からエネルギーが迸り、鈴を襲う。

その上へ上へと昇っていくエネルギーの流れによって鈴の体は宙に浮く。

 

「覚悟っ!…キリサケッ!」

 

「ぅあ…。」

 

そして宙に浮いた鈴の体に向けて南美は幾重にも重なる真空の刃を放つ。

その衝撃に鈴は耐えきれず、口から空気を逃がす。

だが、南美の猛攻は1度、そこで止まる。

南美のいる場所に向けて全方位からビットによる飽和射撃が始まったからだ。

 

「凄まじいエネルギーですのね。けれども、そんなにエネルギーを消費して大丈夫ですの?」

 

ビットを操りつつ自身も高速で起動しながらライフルの引き鉄を引くセシリアは南美に問う。

 

「ふふん、世紀末を甘く見てもらっちゃあ困るよ。」

 

南美はセシリアの目を見つめて不敵に笑う。だが、そんな態度とは裏腹に水鳥の装甲はそれなりに傷ついていた。

 

 

side 鈴

 

完全に忘れてた…、いや、油断してたわ…。そうよ、もともとあの機体はシンがベースなんだからそこにレイの力が使えるようになっただけ。

本質はなんら変わってない…。

 

くっそ…、甲龍の装甲がズタボロ…。しかも狙ったみたいに肩の衝撃砲がイカれてるわ。

ショルダーアーマーはパージね。ついてても邪魔だし。

さーてと、衝撃砲がなくなったなら本格的に殴り合いね。上等だわ。

 

ああ、修理が面倒だわ。仕方ないからせめて南美に勝って終わってやる。そうじゃなきゃ女が廃るってもんよ。

 

 

side out...

 

 

 

「フゥウウウウ!!」

 

「なんですの、そのバリアは!?」

 

南美は引き撃ちするセシリアを追いかけるために、最短距離を行こうと直撃弾は南斗狂鶴翔舞のバリアである程度無視し、ビットによる射撃を甘んじて受けながらもセシリアに突撃する。

 

一方のセシリアは苦々しげな表情で悪態をつく。

しかしそうこうしている間にも南美はセシリアとの距離を詰め、射程に捉える。

 

「南斗──」

 

「アチャア!!」

 

何かを繰り出そうとした南美とライフルを構えるセシリアの間に鈴が割って入る。視界の端に青竜刀の鋒を見つけた南美はセシリアへの攻撃を止めて鈴の迎撃にスイッチする。

 

「ふんっ!!」

 

右腕にエネルギーを貯め、それで以て鈴の青竜刀を受け止める。

 

「ゥゥアタァッ!!」

 

だが鈴は南美に青竜刀を止められた瞬間にそれを手放して拳を南美の胸部に叩きつける。

 

「むぅ…。」

 

「有情…、猛翔破!!」

 

反応が遅れ、もろに拳を受けた南美に鈴は更なる追撃を仕掛ける。

胸部に押し当てた拳をそのまま振り上げて南美の体を宙に浮かせる。

 

「アチャゥアタッ! ファチャアッ!!」

 

「フゥウウウウ!! シャオッ!」

 

南美の浮いた体に追い打つように鈴は蹴りを続ける。

が、南美も南美で直ぐ様体勢を立て直して直撃を受けないようにガードし、折を見て切り返す。

 

今のアリーナには二人のISの装甲が打ち合う音だけが響く。

その高度な空中戦に同じアリーナを使っていた生徒はおろか、セシリアでさえも見いっていた。

 

 

 

「北斗飛衛拳!」

 

「南斗獄屠拳!」

 

そして1度間合いを取った二人の飛び蹴りが交差する。

 

お互い背中を見せて着地する。

一瞬の静寂がアリーナを包み、その沈黙を破るように鈴が膝から崩れ落ちた。

 

「そ、そんな…。鈴さん!?」

 

コンビを組んでいたセシリアが驚きの声を上げて倒れた鈴に駆け寄る。

南美の勝利、そんな空気が漂った刹那、立ち尽くしていた南美が片膝をついた。

 

「さすが鈴…ね。ラスト相手に殴り合いで互角…か…。」

 

大きく息をついた南美は専用機を解除し、鈴の方を振り向いた。

そこには同じく専用機を解除し、セシリアに支えられながらもしっかりと南美の方を見つめる鈴がいる。

 

 

 





MUGENにて、東方のとある兎耳少女の皮を被った世紀末の住人がやったワンコン☆6というインパクトが忘れられない。



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第57話 乙女達の反省会


これから忙しくなるので、投稿ペースはまた以前のように遅くなります。

では本編をどうぞ↓


「勝負はここまでのようね…。」

 

「残念だけど、決着をつけるのは今じゃないってことか…。」

 

ボロボロのまま対峙する二人は心の底から残念そうに呟いた。

 

「行きましょセシリア…。今度は勝つわよ。」

 

「えぇ、私も努力致します。今度こそ、二人で勝ちましょう…。」

 

疲労困憊の鈴はセシリアの肩を借りながらよろよろと歩きアリーナを後にする。

その後ろ姿を見届けた南美は二人の姿が見えなくなると仰向けに寝転がり、天井に目線を向ける。

 

「ふぃぃ…、疲れたぁ…。」

 

「…二連戦しても疲れたで済むのだな…。」

 

「アハハ、慣れてるからね。今まで私は連戦を言い訳に出来なかったから。」

 

南美の言葉に箒は“そうか”とだけ呟く。

そして仰向けに寝る南美の隣に腰を下ろした。

 

「私は…強くなれるだろうか…。」

 

「どしたの急に?」

 

いつもの箒らしくない、弱気な発言に南美は彼女の顔に目を向ける。すると、うつ向いていた箒と目があった。

 

「私と一夏は今、狗飼師匠の稽古を受けている。そしてISの訓練も同じような事をしている。でも、一夏はどんどん前に進んで行くような気がするんだ…。今日の南美との試合を見て思ったんだ。私と一夏のどこに差があるんだ…。」

 

「……箒ちゃんはさぁ、どうして強くなりたいの?」

 

南美の質問を受けた箒は言葉に詰まる。

そして幾秒かの間の後にやっと口を開いた。

 

「…自分でも、わからない…。ただ、今よりも強く、もっと、もっともっと強くなれば、自由になれるかもしれない。そんな事を昔は思っていた。でも今は、い、一夏の隣にずっといれるかもしれないなんて事を考える自分もいるんだ…。」

 

箒の独白を黙って聞いていた南美は最後までその言葉を聞き終えると、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 

「乙女だねぇ。でもまぁ、好きな人の為にって気持ちは分からなくはないかな?」

 

「そ、そそそ、そんな! 私は一夏の事なんて、これっぽっちも…!!」

 

「嘘おっしゃい。今の態度でバレバレよ。」

 

「ぐぬぬ…。」

 

アハハと笑う南美を箒は真っ赤な顔のまま睨み付ける。

しかし南美はそんな箒の眼力もなんのその、ニヤニヤと箒の事を見続ける。

 

「まぁ好きな人の為に頑張ればその内花開くもんよ。焦らず頑張るしかないと思うわ。」

 

「だ、だから私は一夏のことなぞ!!」

 

「はーいはい、分かったから(ニヤニヤ)」

 

「ぐ、その顔を止めろー!!」

 

箒は木刀を取り出して南美に詰め寄る。そんな箒の反応を面白がるように南美は声を出して笑い、疲労の色を見せないまま走って逃げた。

 

「待て南美!」

 

「待てと言われて待つもんですか~。」

 

 

 

「ありがとセシリア…。」

 

セシリアの肩を借りて更衣室まで辿り着いた鈴はそのままベンチに腰掛ける。

 

「負けたわ、ね。」

 

「えぇ、2対1の勝負でしたから確かに私が残っていたので勝ちですが…。」

 

「あんな勝ち方じゃ、情けないし、勝ったなんて言えないわ。」

 

「同感ですわ。」

 

二人しかいない更衣室にはどこか重たい空気が流れる。

そして暫くの沈黙が場を支配していると、ベンチに腰掛けている鈴が口を開いた。

 

「…あたしらの連携もまだまだ、個人の力もまだまだってことね。セシリア、特訓の時間を増やすわよ。」

 

鈴の言葉を聞いたセシリアの瞳に光が灯る。そして好戦的な笑みを浮かべるとつかつかと鈴の前まで歩み出る。

 

「もちろんですわ! それでこそ私のパートナー、今度こそ南美さんに勝ちますわよ!」

 

「当たり前じゃない! さぁそうと決まったら早速反省会ね。忘れないうちにやるわよ!」

 

明るく言う少女達は自分の使うロッカーの中から中頃までの各ページにびっしりとメモ書きのなされたノートを取り出す。

 

「まず今回の反省点はセシリアの遠距離火力を活かせなかったことね。」

 

「えぇ、当たったのは囮だったビットの射撃…。私のスターライトmarkⅡの直撃はありませんでした。」

 

残念そうに首を横に振るセシリア。その正面では鈴が小さく頷きながらノートに書き込んでいる。

 

こうしてセシリアと鈴が遅くまで綿密なミーティングを行い、一夏がシャルルに銃について教えを請うて夜を過ごした。

 

少年少女達の研鑽の日々はまだまだ続く。

 

 

 

 

 






そろそろ番外編でも書こうかなぁなんて…。



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第58話 動き出す聖女


久しぶりに投稿した気がします。
ちなみに、これとはまた別の作品を投稿しました。
よろしければぜひ。

では本編をどうぞ↓


一部の者達にとってIS学園の朝は早い。

まだ完全に日が昇る前、東の空がうっすらと白くなり始める頃に彼女らは活動を開始する。

 

南美を始め一夏やセシリア、鈴にシャルルと言った専用機組に箒。そして熱心に自分を高めようとする彼女達に憧れて自分たちもそうなろうとする極一部の一般生徒達である。

 

「アタァッ!ファチャッ!! ゥゥアタァッ!!」

 

「ぜぇりゃぁあ!」

 

「シェアッ!!シャオッ! ショォオッ!!」

 

「どぅりゃあああっ!!」

 

その場にいる者達の声が響き、汗が流れ落ちていく。

 

そしてそんな青春の1ページを演じている中庭の風景をじっと見つめる、もっと言えばその中の一人、織斑一夏の事を物陰からじっと見つめる銀髪の少女がいた。

転校生のラウラ=ボーデヴィッヒである。

 

ラウラは物陰からじっと一夏を見つめて、もとい睨み付けている。

ギリギリと奥歯を噛み締め、憎悪の籠った目でその様子を見ていた。

 

「──ぜだ…。なぜ教官は、あんな男の事を…。あんな連中の為に…。」

 

憤怒と怨恨の念が籠った声を絞り出して呟いたラウラは誰にも気づかれないようにその場を後にした。

 

 

 

「ふぅ…。疲れたな、もう汗だくだ…。」

 

「あはは、仕方ないよ。あれだけ動いたんだもの。早く汗を流そう。」

 

朝からのハードワークを終えた一夏とシャルルは汗を流すために一緒に自室に向かう。

そして部屋の前に来て鍵を差し込んだとき、一夏はある違和感に気づいた。

ドアの鍵が開いているのである。

 

その事に気づいた一夏は動きを止めて今朝の事を思い返す。

 

朝、と言っても朝日が顔を覗かせるよりも前のことだが部屋を出るとき確かにドアには鍵を掛けたはず。

それは一夏だけでなくシャルルも確認していた。

ではなぜ鍵が開いているのだろうか…。

 

「どうしたんだい一夏?」

 

動きを止めた一夏を見て不思議に思ったシャルルが下から顔を覗かせる。

そのシャルルの問いに一夏は小さく頷くと、シャルルの耳元で小さくいた。

 

「(ボソッ)鍵が開いてる…。」

 

「っ!? (ボソ)鍵は確かに閉めてたよね? どうして…。」

 

「(ボソ)わからない…。けど、部屋の鍵を開けるには千冬ね、織斑先生が管理してるマスターキーかオレとシャルルの持ってる鍵を使うしかない。けど鍵はオレたちが持ってる…。」

 

そう言って一夏は今鍵穴に差し込んでいる自身の鍵とシャルルが握っている鍵に目を移す。

 

「(ボソ)もし、マスターキーを使って忍び込んだなら、それは織斑先生を無力化できる実力の持ち主ってことになる。」

 

一夏の言葉にシャルルは息を呑む。

“あの”織斑千冬を無力化できるほどの人物とは…。

一夏も同じ事を考えていたようでシャルルと顔を合わせるとひきつった笑みを浮かべる。

 

しかし一夏はそんな反応とは裏腹にゆっくりと鍵穴から鍵を引き抜き、静かにドアノブに手をかける。

そしてドアを勢いよく開け、何かあっても即座に対応できるように身を固める。

しかし部屋の中ではIS学園の制服を着た青髪の少女、更識楯無が静かに佇んでいるだけだった。

 

 

「だ、誰だ…?」

 

勢いよくドアを開けた一夏は部屋の中で静かに佇んでいる楯無に問う。

その問いを受けて楯無は小さな微笑みを一夏に向ける。

 

「私はIS学園の生徒会長を務める2年の更識楯無よ。織斑一夏くん。」

 

「ど、どうして生徒会長さんがボクと一夏の部屋にいるんですか?」

 

一夏に続いて部屋に入ったシャルルが質問する。

事前に一夏とシャルルが同室であることを知っていた楯無はシャルルの姿を確認すると意味ありげな顔になるが、またすぐにいつもの落ち着いた顔に戻る。

 

「えぇ、学園に二人しかいない男子生徒がどんな人柄なのか…、実際に会って話したかったの。」

 

そう言った楯無は一夏に視線を移し、じっと彼の事を見つめる。そして暫く観察が終わるとフフっと小さな笑い声をこぼし、二人の横を抜けて部屋の入り口に向かう。

 

「噂通りの子みたいね、ちょっと安心したわ。」

 

そう言って楯無は振り向いて自身を見る一夏の頬を撫でる。突然異性からのボディタッチを受けた一夏はぎょっとして飛び退く。

そんな一夏の反応にも面白そうだと言わんばかりの笑みを浮かべた楯無はそのまま部屋を出ていった。

 

 

「なんだったんだ…?」

 

「さ、さぁ…?」

 

嵐のように去っていった楯無に二人は首を傾げるしかなかった。

一夏の目にはそれにしてもシャルルは必要以上にドギマギしているように写った。

 

「シャルル…?」

 

楯無の来訪にもシャルルの態度にも疑問を抱いた一夏はそっと尋ねた。

しかしシャルルは“なんでもないよ”といつも通りの笑顔で返す。

 

「そ、それよりさ、早くシャワー浴びなよ。ボクは後でいいからさ。ほら、早く。」

 

「お、おう…?」

 

シャルルは一夏のベッドの上に置かれていた着替えとバスタオルを押し付けるとそのままシャワールームへと押し込んだ。

一夏もシャルルのやや強引な対応を不思議に思ったものの、シャワーを浴びたかったのは事実であり、されるがままにシャワールームに入っていく。

 

 

 

「会長…。」

 

「どうしたの、虚?」

 

生徒会メンバーしか入れない生徒会室の中で会長の席に座る楯無は紅茶を飲みながら副会長である布仏虚と会話する。

 

「どうして彼らのところに行ったの?」

 

「言ったじゃない、彼の人となりを見たかったのよ。」

 

欲しかった答えはそれじゃないとばかりに虚はむぅと眉間に皺を寄せる。

虚の表情で察した楯無はフゥと小さく息を吐き出して立ち上がる。

 

「…一夏くんの人柄はよく分かったわ。けど、私が気になったのはシャルルくんの方よ。虚、貴女も気にならなかった?」

 

「気になる…? 確かに資料を見たときは細身だとは思いましたし、顔つきもなんだか、その、愛らしいとは思いましたが…。」

 

「そこまで来たらもう答えは出てるわ。」

 

資料を見たときの事を思い出しながらその感想を述べる虚に楯無は背中を向け、窓の外に目を向ける。

そして右手の人差し指をピンと立てる。

 

「彼…、シャルルくんは女の子よ。」

 

静かにしかしはっきりと楯無は言った。

 

 

 

 





久しぶりに登場した楯無さん。



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第59話 廊下でのこと


膝を大怪我しました。
全治3ヶ月とか…orz

皆さんも怪我には気を付けてください。

では本編をどうぞ↓


「…っ!?」

 

食堂で昼食を摂っているとき、不意にシャルルの背筋に何か寒いものが走り、思わず周囲を見渡す。

 

「どうしたシャルル?」

 

「え? あ、いや、なんでもないよ。うん、大丈夫…。」

 

アハハと笑い、何気ない風を装うシャルルであるがその内心はどこか不安を感じていた。

先の楯無の意味ありげな表情を頭の中に思い浮かべる度に心臓は早鐘を打ち、不安は増すばかりである。

 

しかしそんなシャルルとは裏腹に周りのクラスメート達はいつもと変わらずに生活している。

シャルルにとっては今は普段通りというその風景が何よりもありがたかった。

 

 

 

「さて、と…。そろそろ学年別個人トーナメントが近い訳だが、掲示板を見てきた者はいるか?」

 

朝のショートホームルームで千冬は尋ねる。しかしその質問に首を縦に振るものはいなかった。

クラス全体の反応に千冬は“そうか”と呟き、話を続ける。

 

「詳しいことは掲示板に貼られている資料で確認するように。その上で分からないことは教員に聞きに行け。これで今日のホームルームは終わる。次の授業に備えておけ。」

 

それだけ言い残して千冬は教室の外に出る。その後ろを真耶がてくてくとついていった。

 

 

「“個人”トーナメント、か…。」

 

「腕が鳴るねぇ、楽しみだよ。」

 

ホームルームの話題から1学年バトルジャンキー筆頭の北星南美と、鍛練バカ筆頭の一夏が雑談を交わし始める。

そしてその話題が更に人を呼び、二人の周囲には早朝トレーニングに参加している生徒の輪ができた。

 

「トーナメント…、う~ん、勝てるかなぁ…。」

 

「朝からあんだけやってるんだし、なんとかなるって!」

 

「ふふふ、このトーナメントこそ生まれ変わった私の実力を証明する時ですわ!」

 

「セシリアはヤル気満々だね…。私は南美と当たらないか心配だわ。」

 

ワイワイガヤガヤと南美達を中心にした人だかりは時間と共に盛り上がる。

各々が今度のトーナメントに向けた目標や意気込みを述べたり、結果を予想しあったりしている。

 

 

午前の授業が終わり昼休みとなった今、一夏は一人で廊下を歩いていた。

理由は簡単である。男性用トイレが教室からかなり離れた場所にしかないからである。

 

そして曲がり角に差し掛かったとき、怒声にも近い声が一夏の耳に届いた。

 

「なぜですか教官!!」

 

「ここでは織斑先生と呼べと言ったはずだが?」

 

そのやり取りを聞いた一夏は角を曲がった先に誰がいるのか分かった。

 

 

side 一夏

 

 

「ならば織斑先生、なぜこのような場所にいるのですか? 貴方はこのような場所にいるべき人ではありません!! ぜひ今一度ドイツに!」

 

この声は、ラウラか…。

…ドイツ出身、千冬姉を教官呼び、あの動き…。十中八九、ドイツの軍人だよなぁ…。

 

千冬姉を呼び戻しに来たって感じかな?

 

それだけ千冬姉を尊敬してるんだろう。初対面でオレを殴ったのもたぶんそれが理由…。

 

キレて当然、オレはラウラに殴られても仕方ないんだ。それだけのことを、オレはしでかした…。

 

でも、それじゃダメ、だよな…。

 

 

「この学園の生徒は皆、ISをファッションか何かと勘違いしています。自分たちがISの操縦者という自覚もなく、危機感もない!そんな連中の為に教官が時間を──」

 

「そこまでにしておけよ小娘。」

 

低い声で静かに放たれた千冬姉の言葉。

別段声を荒らげている訳でもないのに、その言葉を向けられていないオレも恐怖を覚えた。

 

その威圧感にラウラは1度言葉を止める。けど、慣れているのかまた言葉を続ける。

 

「教官はドイツにいたころおっしゃっていました。“私より強いものなどいくらでもいる”と。ですが、教官より強いものなどいないではありませんか!」

 

「…いるさ、私なんかより強い奴はな。例えば、織斑一夏、とかな…。」

 

「な、何を言うのですか!?」

 

千冬姉が言い放った言葉にラウラは面食らったような声をあげる。

かく言うオレも驚いた。

まさか千冬姉の口からオレが強いなんてことを聞けるなんて思ってなかった。

 

「あのような者が教官より強いなどと、信じられません。私は認めない、あのような者が…!」

 

「好きにしろ…。あぁ、それと、そろそろ授業の時間だ。遅れるなよ。」

 

千冬姉はいつものトーンで告げる。

それにラウラは何か言いたそうにしていたのを飲み込み、去っていった。

 

 

「…盗み聞きとは感心しないぞ。私はそんな男に育てた覚えはない。」

 

やっぱり気づかれてたか。流石は千冬姉だ。

オレはすっと角から出ると、頭の上に千冬姉の手が置かれた。

 

「自惚れるなよ。努力こそお前の取り柄なんだからな。」

 

オレの頭を一撫で二撫ですると、千冬姉はその場を去っていく。その時、何かを思い出したのか、オレの方を振り向いた。

 

「それと、廊下を走るときはバレないようにな。それだけだ。」

 

簡潔に言った千冬姉はまた歩きだす。

オレは腕時計の文字盤を確認して、誰かに見つからないように走って教室に向かう。

 

 

side out...

 

 

 

 

そして午後の授業はなんやかんやあって無事に進み、今は放課後。

一夏をはじめとした専用機組はいつものようにアリーナに来ていた。

 

「そんじゃま、いつも通りやっていきますか。」

 

「今日こそは勝たせてもらうぜ南美!」

 

「オーケー、早速やっていこうか。」

 

ジョインジョインジョインジョインミナミィ イチカァ デデデデザタイムオブレトビューション バトーワンデッサイダデステニー

 

~中略~

 

「南斗孤鷲拳奥義! 南斗翔鷲屠脚!!」

 

コレガナントセイケンノシンズイダ(ドヤァ ウィーンミナミィ

 

 

「また派手にやられたね。」

 

アリーナの端で鈴・セシリアペアと南美の模擬戦を眺めている一夏にシャルルが話しかける。

 

「まぁ、な…。ISじゃまだ南美に勝てないか…。」

 

目の前で繰り広げられる戦闘を眺めながら一夏は大きく息を吐く。

しかし、その目にはまだまだ闘志が宿っていた。

 

「でも、届かないわけじゃない。いつか、いや、今すぐにでも追い付いてやる。」

 

「じゃあもっと頑張らないとね。大丈夫、一夏ならきっと出来るよ。」

 

ヤル気に溢れる一夏に微笑みかけながらシャルルは両手にアサルトライフルを取り出した。

 

 

 

「…くぁ…、疲れた…。」

 

今日の訓練を終えた一行はそれぞれ更衣室で着替え、帰路についていた。

その時、女性陣はそのままの流れで大浴場へと着替えを持って向かっていった。

そして今、一夏とシャルルは二人で寮への道を歩いている。

 

「…シャルル、先に帰っててくれ。ちょっと用事を思い出した。」

 

ふと一夏が足を止めると、隣を歩いていたシャルルに言う。

それに対してシャルルは“用事があるなら仕方ないね。”と素直に頷き、部屋に戻っていった。

 

そしてシャルルの姿が見えなくなると一夏は後ろを向く。

 

「出てこいよ、オレに用があるんだろ?」

 

後ろにある茂みに向かって言う。

 

「なるほど、ただのグズではないようだ。」

 

茂みの中からガサガサと音をさせながらラウラ・ボーデヴィッヒが姿を現した。

 

 

 

 





後輩に膝どうしたんすか?って聞かれたとき、“膝に矢を受けてしまってな”とでも返そうかと思った。

さすがに踏みとどまった。



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第60話 強襲と晩ご飯


最近暑い日が続いていますね。
熱中症には気を付けませんと…。

では本編をどうぞ↓


一夏の前に姿を現したラウラは1本の木刀を一夏の足下に放り投げた。

 

「使え。」

 

「…どういう風の吹き回しだ? お前はオレを叩きのめしたいんじゃないのか?」

 

「勿論、キサマを叩き潰すさ。だが、それにはキサマが全力であってこそ成り立つ。」

 

するりと袖の中から小さな木剣を取り出してラウラが構える。

その姿勢を見て一夏は仕方がないと、足下の木刀を拾い上げていつものように構えた。

 

「キサマさえいなければ…。」

 

ドスの効いた声で恨み言を吐くラウラ、その目には一夏のみ写っている。

 

「うぁあああああっ!!」

 

腰を落とした低い姿勢でラウラは一夏に突進する。

 

その突進を一夏は木刀を上段から振り下ろすことで止めようとする。

だが、それは失敗に終わった。

 

ラウラは一夏のみが木刀を振り下ろしたと見るや否や、直ぐ様左腕を盾にした。

勿論、一夏の振り下ろした一撃はラウラの左腕を捉える。

カァンと高い音が鳴った。

しかしラウラは特段痛がる素振りを見せず、一夏の懐に飛び込んだ。

 

「死ぃいねぇええッ!!」

 

怒りを全て込めたラウラの木剣が一夏の左胸に突き立てられる。

実物の刃物ではないにせよ、鍛えられた軍人の力で突き刺された木剣の先はしっかりと一夏の肉に食い込んだ。

 

その痛みに一夏は顔をしかめ、思わず足が後ろに下がる。

 

「キサマさえ、キサマさえいなければぁ!!」

 

獣が吠えるようにラウラは一夏に向かって叫ぶ。

そんなラウラの叫びを聞いて、一夏は下唇を噛んだ。

 

「っあ“あ”あ“あ”!!」

 

荒々しい叫び声と共にラウラは木剣を握る右手で一夏の頬を殴る。

その衝撃に、崩れた身体では耐えきれず、一夏は背中から倒れた。

 

「キサマは教官に相応しくない! 私こそが教官の教えを乞うに相応しい!」

 

ラウラは背中をついた一夏の上に馬乗りになる。

 

「キサマを叩き潰して教官の目を覚まさせる! 教官が、キサマより、弱いなどと、私は断じて認めない!!」

 

ラウラが抱いているのは明確な敵意、そして殺意だった。

一夏はラウラの瞳を見る。彼女の瞳から感じられる自身への感情に、過去に己がしでかしてしまった事の重さを再認識した。

 

しかし、それを認識した上で一夏はもう一度ラウラの目を見つめる。

 

「オレは、確かにやらかした。あの時、オレにもっと力があれば、千冬姉の邪魔はしなかったはずだ。ガキの頃から思っていたさ。」

 

一夏の声は震えていた。

過去に自分がしてしまったことを振り返る。

あの頃の無力さを思い知り、唯一の家族の邪魔をしてしまったことを。

 

「だからこそ、だからこそオレは強くなる!強くなって、周りに言わせてやるんだ。織斑一夏は、世界最強、織斑千冬が名誉を、栄光を投げ打ってでも助ける価値のある男だったってなぁ!!」

 

「ふざけるな!」

 

そんなことは聞きたくないと、ラウラが一夏の顔に拳を振り下ろす。

鈍い音が響き、一夏は顔を歪める。

そしてもう一度拳を振り上げて、一夏の顔に目掛けて振り下ろした。

だが、その拳は一夏に届く前に一夏の手が受け止めた。

 

「千冬姉は、お前の教官はこんな事をお前にさせるために力を教えたんじゃない、力を与えたんじゃないはずだっ!!」

 

一夏の身体に力が入る。

 

「ッ───!? 黙れっ!!」

 

虚をつかれたラウラだったが、顔を横に振りもう一度拳を振りかぶる。

 

「止めろよ!!」

 

一夏は叫ぶ。そして上体を起こして馬乗りになっているラウラを振りほどいた。

 

拳を振りかぶり、重心が上を向いていたラウラはその動きで容易に後ろに倒れる。

そして一夏は立ち上がりラウラの方を見る。

ラウラも一夏に遅れて倒れた状態から復帰し、睨み付けた。

 

「千冬姉の事を誰よりも尊敬してるお前が、千冬姉を汚すなよ!!」

 

「なっ!? なんだと!!」

 

一夏はラウラの肩を掴んで訴える。その叫びには一夏の心の内が詰まっているように聞こえた。

 

「千冬姉の教えを、千冬姉が与えた力を、お前が間違った風に使っちまったらダメだろ!!」

 

一夏の言葉に熱が籠る。それに比例するようにラウラの肩を掴む手に力が入り、つよく食い込む。

 

一夏の力と、なによりも迫力に気圧されたラウラは力なくよろめいた。

 

「な、ならキサマはこの力で何をする!!」

 

ラウラが一夏に問う。

その質問に一夏は一切迷うことなく答えた。

 

「皆を守る!千冬姉も、箒も、鈴も、セシリアも、シャルルも、南美も、オレの出来る限り、守れる限りを守る!!」

 

「……! そう、か…。」

 

そう答えた一夏の目は真っ直ぐにラウラを見ている。

そんな一夏の真っ直ぐさや単純さに、ラウラは何を思ったのか木剣を袖の中にしまい、一夏の腕を振り払って帰って行った。

 

「……。」

 

ラウラの姿が見えなくなり、完全に離れたことを確認した一夏は一息入れて近くの木に寄りかかった。

 

 

 

 

「ふーふっふーん、ふふふー…ん?」

 

鼻唄を歌いながら上機嫌で歩いていた南美はある人物を見て足と鼻唄を止める。

それはラウラ・ボーデヴィッヒだった。

けれども、その表情は苛立ちや憎しみと言った感情を湛えたものではなく、迷いが見えるものだった。

 

「ラウラ、ちゃん?どうしたの、そんな顔して…。」

 

南美に声をかけられたラウラは顔をあげる。そして記憶の中にある名前と目の前の顔とを合わせる。

 

「お前は、確か…。」

 

「南美だよ、北星南美。クラスメートじゃん。」

 

南美の自己紹介にラウラは“あぁ、そうだったな…。”と呟いた。

 

「ねぇ、ラウラちゃん。もう少しみんなと仲良くしたら?」

 

ラウラの態度にどこか思うところがあったのか、南美はそう口にした。

その言葉にラウラはそっぽを向く。

 

「お前達に何が分かる…。私は、私は…。」

 

「ラウラちゃんさぁ…、ホントは寂しいんじゃないの?」

 

南美の言葉にムッときたのか、ラウラは南美を睨む。

けれども、南美は続ける。

 

「私が、寂しがってる、だと?」

 

否定するように語気を強めるラウラ。

 

「うん、寂しがってる。だってさ、あんなに教官教官って、織斑先生にアピールしてるし、しきりにドイツに来てって言ってたじゃん。」

 

「…確かに、教官は尊敬に値する素晴らしい人だ。だが、教官にドイツへ来てほしいのは単純に祖国の為だ。そこに私情はない!」

 

「じゃあさ、その涙の跡はなに?」

 

南美はラウラの右目の脇にある跡を指差した。

ラウラは南美に指摘されると慌てたように袖で顔を拭う。

 

「ほら、泣くくらい寂しかったんじゃん。」

 

「違う、違うんだ…。」

 

小さな声で否定するラウラ。

その時、彼女の腹が盛大に音を立てた。

 

「ッ───!?」

 

「ふふ、自己主張の強いお腹だねぇ。ご飯食べてないんでしょ? ほらおいで。」

 

「や、やめろ!離せ!!」

 

うなだれるラウラの手を握り、南美は自室に連れていこうとする。

それに抵抗して身をよじるも、南美の前では焼け石に水であった。

 

 

 

「キサマ、どういうつもりだ!!」

 

「キサマ、じゃなくて北星南美だってば。」

 

南美の部屋に連れ込まれ、ソファに座らされたラウラは南美の背中を睨み付けながら抗議するも、部屋に備え付けられた簡易キッチンに立つ南美は柳に風と受け流す。

 

キッチンからはパチパチと油の音が聞こえる。

 

そして油で揚がる音が聞こえてから、暫くして、南美は大きめの皿を片手にラウラの前に現れた。

 

「はーい、お待たせ~。小さなジャガイモの素揚げmitバターだよー。」

 

南美がラウラの前に置いた皿の上ではコロコロと小さなジャガイモ達が、熱で溶けたバターを纏い、蠱惑的な見た目をしている。

その見た目以上に、バターの香りが空腹を刺激する。

 

「どうぞ、召し上がれー。」

 

その簡単な料理にラウラはゴクリと喉を鳴して唾を飲み込む。

そしてチラッチラッと南美の顔を伺い、それを見た南美が頷くとフォークを掴んでそのジャガイモに手を伸ばす。

 

ひとまずたくさんあるジャガイモの中の一つにフォークを突き刺し、2、3回息を吹き当ててから口の中に入れる。

 

「熱っ! 旨っ! 熱ッ!!」

 

揚げたてのジャガイモを口に入れ、噛むと中の熱々の実にハフハフと呼吸しながらも、バターの風味とホクホクのジャガイモにラウラは頬を緩ませる。

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

その後、熱々のジャガイモに火傷しそうになりながらも、美味しさを堪能したラウラはすっかり平らげ、空の皿を前に手を合わせていた。

 

「お粗末さまで。」

 

美味しそうにジャガイモの素揚げを平らげていくラウラを嬉しそうに見ていた南美は笑顔で皿を下げる。

 

「いやぁ、旨かった。なぁ、今のはどう作るんだ?どんな工夫がある!!」

 

興味津々といった様子でラウラは南美に尋ねる。

今の彼女は完全に角がとれて丸くなっていた。

 

「ふふ、まさかカルトッフェルにここまで満足させられるとはな。クラリッサが日本を侮るなと言っていた理由が少しは分かったぞ。」

 

「クラリッサ? 初めて聞く名前ね。どんな人?」

 

ハハハと朗らかに笑うラウラの正面に南美は座る。

 

「あぁ、そうだな。クラリッサは私が率いていた部隊の副隊長でな───」

 

聞かれるがままに、ラウラは楽しそうに語り始めた。

 

 

 





美味しいご飯で懐柔されるラウラちゃん、マジチョロ可愛い。

餌付けしたい。


ぶっちゃけた事を言いますと、今話の一夏対ラウラの勝負は当初の予定では一夏が本物のナイフで刺される予定でした。
初めは木剣を使っていたラウラが決着のつかないことに業を煮やして隠し持っていたナイフで一夏の腹をグサッとやる感じです。
結局ボツになりましたが。




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第61話 ラウラという少女


膝の怪我、骨だけじゃなくて靭帯にもいってるとか…orz
なんか逆に笑えてきた。

では本編をどうぞ↓


南美の部屋で楽しそうに話すラウラは顔をほころばせ、後ろに倒れこんだ。

 

「あぁ、こんなに楽しいのはいつぶりだろうか。」

 

「ふふ、わたしも楽しかった。」

 

部屋の中で二人は心から笑いあっていた。

この二人に限って言えば蟠りはもう無いだろう。

 

 

「ねぇ、ラウラちゃん…。そういえばなんだけどさ、なんで眼帯なんかしてるの…?」

 

「っ!? いや、これは、その…。」

 

南美の質問にラウラは眼帯を押さえて言い淀む。

 

「へ、変なこと聞いちゃったかな? 言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ?」

 

気を遣った南美の言葉にラウラは数秒目を泳がせると、また南美の方に向き直る。

 

「……、いや、話す。聞いてくれ…。」

 

迷いを見せながら、ラウラはゆっくりと語り始めた。

 

 

side 南美

 

 

ラウラちゃんはゆっくりと口を開いた。

その表情を見れば、ラウラちゃんにとって辛い事を話すって、なんとなく分かった。

 

「……私には、両親がいないんだ。優秀な兵隊を作る計画の一環で…、優秀な遺伝子を掛け合わせた、デザインベイビー、試験管ベイビー…。それが私だ。」

 

突然の告白、ラウラちゃんの抱える事情は私が想像していたよりも遥かに重い。

親無しなんてことはよく聞く話。けれども本当の意味での親無しなんてのは想像できなかった。

 

「私はもともと道具として生まれてきたんだ。私に求められたのは成績、誰よりも優れていることを証明しなくてはならなかった…。私が私であることを証明するには力しかなかったんだ。」

 

話しているラウラちゃんの身体が震えてる。

…辛いことを思い出しているんだろう。

 

「全ては上手く行っていたんだ、あの時までは…。」

 

ラウラちゃんはうつむき、前髪をぐしゃぐしゃと掻く。

髪を引っ張り、下を向くラウラちゃんの身体は小さく震えている。

それほど思い出したくない記憶なんだ。

けれど、私はラウラちゃんの話を聞くと決めたんだ。

 

ラウラちゃんが話し出すのを待つこと数分、深く呼吸を整えたラウラちゃんはやっと話を再開する。

 

「……ISの登場後、私はより使える駒を作るためにある処置を施された。その結果がこれだ…。」

 

ラウラちゃんは顔を上げると、左目を隠している眼帯を外しその下にある瞳を私に見せた。

そこにあったのは真っ赤な右目とは違う、金色の瞳。

 

「越界の瞳《ヴォーダン・オージェ》、簡単に言えばIS適性を高めるための措置だ…。けれど私は適合に失敗した…。それが原因で左の瞳は金色に変色、自分の能力を制御しきれなくなって、私は“出来損ない”の烙印を押されたんだ…。」

 

ハハハと乾いた笑い声を響かせるラウラちゃん、その姿がとても哀しく見えた。

 

「当時の私は失意のどん底にいたよ。力も制御できず、周りからは出来損ないと罵倒され、そのまま処分されることすら覚悟していた。そんな私を救ってくれたのが教官だったんだ。だから、私を救いだしてくれた教官には感謝してもしきれない…。」

 

「それがどうして、一夏くんを憎む理由になるの?」

 

おおよその理由は恐らく、織斑先生がモンド・グロッソ2連覇を逃した辺りにあるんだろう。

けれど、そこにどうして一夏くんが絡んでくるのか、分からない。

 

私が尋ねるとラウラちゃんは口を閉じた。

…どうやらこの話題は禁句のようなものらしい。

 

数秒、迷いを見せていたラウラちゃんは、ようやく決心したのか口を開いてくれた。

 

「教官が2連覇を逃したのは、織斑一夏が誘拐されたからだ…。ドイツの会場に教官を応援に来ていた織斑一夏は、犯人からしたら格好の獲物だったんだろう。」

 

ラウラちゃんの口から語られたのは衝撃の事実。

この世の大半の人が疑問に思っていた織斑先生の決勝戦放棄の秘密だった。

そして、彼女が一夏くんを恨む理由に合点がいった。

 

「教官は織斑一夏を助ける為に、欠場した。」

 

「…それで、織斑先生が連覇を逃す遠因の一夏くんを恨んでいる、と…。」

 

尊敬する人の道に泥をかけた人を恨む感情が行きすぎたんだろう。

 

「私も、……最初はそう、思っていた、思っていたんだ…。けれど…。」

 

ん…、違うのか…?

 

「けれど、アイツは…、織斑一夏は、軟弱な男ではなかった…。私の怒りを正面から受け止めようとしていた…。自分の弱さを克服しようと足掻いていた…。」

 

「ラウラちゃん…。」

 

ラウラちゃんはポロポロと右目から小さな涙の粒を流し始めた。

 

「私の身勝手な我が儘なんだってことも理解しているつもりだ…。さっき、織斑一夏を殴り付けた時に言われたよ、教官は私にこんなことをさせるために、力を与えたわけじゃないって…。 その通りだ、何も言い返せなかったよ…。眩しかった、アイツが、真っ直ぐなアイツの瞳が…。なぁ、南美…私はどうすればいいんだ?」

 

“どうしたらいい?”

ラウラちゃんの質問に私は暫く考える。

そして、実に私らしい答えが浮かぶと拳をラウラちゃんに向けて突き出す。

 

「拳で語って、本音をぶつければいいんだよ!」

 

「拳と、本音…。」

 

ラウラちゃんが困惑したように呟く。当然だよね。いきなりこんなバトルジャンキーで脳筋的な考え方言われたらそうなるよ。

 

「一夏くんだって、そのうちラウラちゃんと話し合って理解し合わなきゃなんないってのは分かってるだろうし。」

 

「そ、そうだろうか…。」

 

自信なさげに聞いてくるラウラちゃん。

私はそんな不安に押し潰されそうなラウラちゃんをそっと抱き寄せる。

 

「うん、きっとそう。だから、ツラいことがあったら一人で抱え込まないで。もっと誰かに頼っていいんだよ。」

 

抱き寄せたラウラちゃんの頭をそっと優しく撫でる。

キレイな銀髪はサラサラで、とても触り心地がいい。

 

ラウラちゃんも安心したのか私の胸に頭を預けてくれている。

 

「うん…、ありがとう、お姉ちゃん。」

 

………は?!

 

「ラ、ラウラちゃん…? 今なんて…?」

 

「え、お姉ちゃんって…。その、クラリッサが頼りになる女の人はこう呼べって…。」

 

クラリッサさんとやら、まだ会ったことはないけど話が合いそう…じゃなくて。これは1度O☆HA☆NA☆SIが必要ですね。

 

「それにな? 私には家族がいないんだ…。だから、その、南美には私の姉になってほしいんだ…。…ダメか…?」

 

私に抱き寄せられたまま上目遣いで見つめてくるラウラちゃん。

私は無意識の内に抱き締めていた。

 

 

前略お袋さま、お父さん、そして我が愛しのあーちゃんへ。

どうやら私に新しい妹が出来ました。

 

 

だって、ちょっと弱気になった顔で見上げられてお願いされたら断れないじゃん!!

 

「いいよ、ラウラちゃんは今日から家の子、姉妹だよ。」

 

「…ありがとう、南美、お姉ちゃん。」

 

今度はラウラちゃんから私に抱きついてくる。

うん、今はこれでもいい。

今のラウラちゃんに必要なのは温かさだ。

 

 

さて、ラウラちゃんと一夏くんの間をどうやって取り次ごうかな…?

 

 

side out...

 

 

 





あぁ、そろそろ番外編を投稿しよう。
久々に北斗を書きたい。



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第62話 今日よりも明日


原作改編が徐々に激しくなってきました。
これも世紀末ってやつの仕業なんだ。

では本編をどうぞ↓


ラウラに殴られた一夏はふらつく足で自室に帰ろうとしていた。

幸いと言うべきか、夕飯の時間は過ぎており他の生徒とは会わなかった。

 

 

 

サァァァァとシャワーの落ちる音が狭い空間に響く。

今、一夏の同居人シャルル・デュノアはシャワーを浴びていた。

 

男と名乗るには華奢な身体、そしてその胸には女性らしさを強調する柔らかな膨らみ。

シャルルは自身のそれに目を向けると大きく溜め息を吐いた。

 

 

side シャルル

 

 

また、大きくなった気がする…。このままじゃ、隠しきれなくなるのも時間の問題かな。

 

…一夏にバレたらどんな顔するから…。

驚く、よね。嫌われたらどうしよう…せっかく仲良くなれたのに…。

一夏は、ボクのこと、男の子だって、思ってくれてるのに。ボクは優しい一夏を騙して…。一夏の、優しさにつけこんで…。

 

こんな自分が情けなくなる…。

 

目の奥が熱い、あぁ、もう…。なんで今さら泣くんだ。決めたじゃないか、母さんが死んだあの日から、もう泣かないって…。

 

 

 

今を生きるためにも、ボクはまだ女だってバレる訳にはいかないんだ。

ごめんよ一夏…。

 

 

お湯を止めてボクはシャワールームをあとにした。

 

 

side out...

 

 

 

side 一夏

 

 

頭が重い、視界がぐらぐらする…。

ラウラに思いきり殴られたからなぁ。

 

こんな顔、見られたらどう言い訳する…?

階段で転んだ?よそ見して木にぶつかった?

いや、どれも不自然な気がする。

 

でも正直に言えば…。

 

ああ、くそっ! こんな時にいい考えが浮かばない自分に腹が立つ!

 

…同室のシャルルにだってなんとか誤魔化さなきゃなんないのに…。

 

多少の苛立ちを隠しながら歩いていると、1025号室、割り当てられた部屋の前に着いた。

 

あぁもう、こうなりゃ自棄だ。あとは野となれ山となれ。

ドアノブに手を掛けて一気に開ける。

するとそこには金髪の女子が裸でいた。

 

…そっとドアを閉める。

 

 

………待て待て待て待て、何だ今の!?誰だ?!

 

シャルルみたいな髪色で、身長はシャルルくらい、ただシャルルとは違って胸にはけっこう大きめな2つの、たわわな果実が…。

って、何を考えてんだよ!

 

落ち着け、あれが誰かは分からない。

 

…ここは1025号室、うん、間違いなくオレとシャルルの部屋だ。

つまり、オレは部屋を間違えて覗いたわけじゃない。うん、セーフ?いや、どっちかって言うとセウトだ。

 

ドアをノックすると、向こうからドアを開けてきた。

 

「い、一夏…。」

 

そこにいたのは紛れもなくオレの同居人、シャルル・デュノアだ。

ただし、いつものシャルルと違って胸元には膨らみがある。

 

「えっと、その、話を、聞いてほしい…。」

 

シャルルの顔色からして、とても深刻な話をすることが見てとれた。

オレはシャルルの誘いに乗って部屋の中に入る。

 

side out...

 

 

 

1025号室、世界で二人しかいないISの男性操縦者同士が同居するこの部屋は、今とても重い空気に包まれている。

ベッドに腰をかけたシャルルの対面に一夏が座る。

 

「…なぁ、シャルル…。」

 

重い沈黙の中で一夏が口を開く。

 

「その、どうして、だ…? どうして男の振りをしてたんだ?」

 

「っ……。」

 

いきなり核心をついた一夏の質問にシャルルはビクッと身体を震わせる。

しかし、1度深く息を吸って気持ちを落ち着かせたシャルルはうつむいたまま話し始めた。

 

「親の、命令だったんだ…。」

 

「親の…?」

 

「うん。ボクの父さんは、フランスのIS企業、デュノア社の社長なんだ。」

 

「で、でもなんで親が自分の子どもを…。」

 

「…ボクはね、愛人の娘なんだ。父さんの顔を知ったのだって、母さんが亡くなった2年前なんだ。」

 

相変わらずシャルルは下を向いている。

声は時おり震え、その小さな身体をより一層小さく見せる。

 

「デュノア社は第3世代のIS開発に遅れてて、国からの援助も切られそうになってるんだ。…もしそうなったらデュノア社はおしまい…。そんな時に一夏が現れたんだよ。」

 

「オレが…?」

 

「そう、世界で唯一の男性IS操縦者。そんな一夏の専用機を解析できればって、父さんはそう考えたんだ。でも、女の姿で近寄っても警戒される。だったら同じ男になればいい。会社の出した答えはそれだった。」

 

アハハとシャルルは乾いた笑い声を響かせる。

一夏にはそれがどうも哀しく見えた。

そしてシャルルは顔を上げて話を続ける。

 

「どうしてこうなっちゃったのかなぁ…。母さんが亡くなって、名前しか知らない父親に引き取られて…。義理の母親にはひっぱたかれて、流されるままにテストパイロットとして実験台にされて…。最後には、男装までさせられて、これだよ…。」

 

天井を眺めるシャルル。

そんな彼女の顔を涙が伝う。

 

「あはは、バレちゃったからなぁ。ボクはこの後は牢屋の中、かなぁ…。」

 

諦めたように呟いた。

その小さく呟かれた言葉は一夏に火をつけるのには充分だった。

 

「ふざけんなよ、シャル!!」

 

一夏は立ち上がるとシャルルの胸ぐらを掴んで怒鳴り付けた。

 

「何をそんな、納得した振りして諦めてんだよ!」

 

 

一夏は今、本気でキレていた。

まだ15歳の少女がこうして人生を諦めなくてはならないことに我慢ならなかった。

そして、そうさせてしまったシャルルの父親にも。その父親にも対して足掻こうとしないシャルル自身にも怒っていた。

 

「親から道具みたいに扱われて、目茶苦茶なこと命令されて、挙げ句の果てにバレたから牢屋行きだ?そんなバカみてぇな話があってたまるかよ!!シャルは納得出来んのかよ!?」

 

「…納得できるかどうかじゃないんだ…。ボクには、選ぶ権利なんて、ないんだ…。仕方な──」

 

「ふざけんな!!」

 

シャルルの言葉を遮るように一夏が叫ぶ。

一夏の怒りは既に臨界を迎えていた。

 

「仕方ないだと? そんなこと言うな、だってお前は何もしてねぇんだ!嫌だったんだろ?親の言いなりになって犯罪者紛いの真似をすんのが!!だったらなんで抗おうとしねぇんだよ!!流されて受け入れてんのに仕方がないなんて言うな!」

 

感情に任せて怒声を浴びせる。

そして言うだけ言い終わると一夏はシャルルをベッドの上に突き飛ばした。

 

「だって、ボクにはどうしようも…。」

 

「どうしようもなかったってか?本当にそうなのかよ、何もしないで逃げたんじゃないのか?!」

 

ベッドの上で震えながら一夏を見上げるシャルルに一夏は容赦なく辛辣な言葉を吐き続ける。

その流れは止まらなかった。

 

「できないのと、やらないのは全然違うんだよ!力の有無だとか、相手が何だとか、関係ねぇ!!やる前から逃げてんのはお前が、お前の心が弱いからだろうが!」

 

シャルルは一夏から目を切って下を向いた。

一夏に責められたのがよほど堪えたのか、それとも苦しいのか、恐いのか。

一夏と目を合わせようとしなかった。

 

「シャル、お前はハナっから逃げてんだよ!なんで明日の自由を求めねぇんだ!抗えよ、足掻けよ、悪足掻きでも何でもいい。無様だって笑われようがどうにかしようとしてみせろよ!今よりも明日を生きたいって思わねぇのかよ!!今ある仮初めの自由でお前は満足なのかよ!?」

 

ベッドの上で倒れているシャルルの上に馬乗りになると胸ぐらを掴んで怒鳴り付けた。

 

すると、それまで震えていたシャルルの震えの質が変わった。

怯えから、また別の何かへと。

 

「どうしろって言うのさ!!」

 

怒りを孕んだ声で言うと、シャルルは一夏の胸ぐらを掴んだ。

 

「相手は落ちぶれたって言っても有名な大企業なんだよ!ボクみたいな小娘一人に何が出来るって言うのさ、何も知らない癖に、勝手なこと言うな!!」

 

張り裂けんばかりの大声で怒鳴り散らしたシャルルはそのまま一夏の顔面を殴り付ける。

今度は逆に一夏をベッドの上から突き飛ばして床の上で一夏に馬乗りになった。

 

そして一夏の胸ぐらを掴んで顔を引き寄せる。

 

「ボクが何もしなかったって?あぁそうだよ!ボクは最初っから逃げて、諦めたんだよ!不自由になるのが怖かったから、小さな自由でよかったから、ボクは嫌な命令にも従った!逆らわなかった!戦って負けたらもっと酷い目に遭うって分かってたから、だからボクは逃げる事を選んだんだ!ボクは、一夏みたいに強くないから!」

 

大声で怒鳴り終えてシャルルは肩で息をする。

額には小さく汗が浮かんでいる。

 

だが、次の瞬間には顔を一夏の胸に押し付けた。

 

「ボクだって、ボクだって、今よりも明日を生きたいよ…。でも、どうしたら良いのさ…。」

 

そう言った声は震えていた。

 

「だったらよ、誰かに助けを求めりゃいいんだ。」

 

一夏は震えるシャルルの頭に手を置いた。

 

「弱いから戦えない、一人だから何もできないって言うならさ、誰かを頼ればいいんだよ。昔の偉い人はこんな言葉を遺してる、“言葉は人類最大の発明”ってさ。」

 

“なっ!”と言って一夏はシャルルに微笑みかける。そんな一夏の態度に安堵したのか、先程までのシャルルにあった力みが取れた。

 

「言葉ってのは万能じゃない。けど言葉にすれば伝わることもいっぱいある。だから一人じゃどうしようもない時は誰かに“助けて”って言えばいいんだよ。」

 

「でも、ボクの言葉を聞いてくれる人なんて…。」

 

「いるだろ?少なくとも目の前によ。」

 

弱気になったシャルルの頬を掴んで無理矢理目を合わさせる。

ニヤリと笑う一夏は頼りに思えた。

 

「ホント、に…?」

 

不安げに尋ねるシャルル。その問いに一夏は力強く頷いた。

 

「ああ、もちろん。オレは頭がよくないから全部を理解できないかもしれないけどよ。」

 

「一夏…。」

 

「だから、言ってみろって。お前は、シャルはどうしたいんだよ。」

 

一夏の問いに二人っきりの室内は一瞬の沈黙を迎える。

そして数秒、シャルルは口を開いた。

 

「……嫌だ、嫌だよ…、諦めたくない…!ボクだってまだやりたいことだって、叶えたい夢だっていっぱいあるんだ…。こんなところで終わりなんて絶対にやだ! 明日の自由がほしいんだよ…。」

 

シャルルは縋るように言葉を紡いでいく。

 

「助けてよ。一夏…。」

 

「あぁ…。絶対に助けてやるよ。」

 

「うん、うん…。」

 

シャルルは一夏の首に腕を回して泣き始める。

一夏は自分の胸でなくその少女をそっと優しく抱き締めた。

 

「よく言ったよ、シャル。誰かに助けを呼ぶのも、立派な足掻きなんだ。」

 

「うん…。ありがとう、一夏…。」

 

 

そうして一夏はシャルルの涙が止まるまで、優しく抱き締め続けた。

 

 

 

「さて、実際問題どうするか…。」

 

シャルルが泣き止むと二人は向き合って座り、今後についてを話し出した。

しかし、一介の学生に過ぎない彼らにしてはあまりに大きな問題なのもまた事実である。

 

「ボクらはまだ子ども、だからね。」

 

「どうするよ?」

 

などと彼らが頭を抱えていると、ガチャリと1025号室のドアが開けられた。

 

「話は聞かせてもらったわ。」

 

1025号室に入ってきたのは楯無だった。

楯無は扇子で口元を隠しながら二人の顔をうかがっている。

 

そしてシャルルに目を向けると、そのままシャルルに向かって近寄っていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、楯無さん!」

 

つかつかとシャルルに近づく楯無を遮るように一夏が間に割って入った。

すると楯無は扇子を畳み、クスリと笑う。。

 

「安心して一夏くん。私は貴方達の味方よ。」

 

「え…?」

 

「私も一人の人間として、今回のデュノア社のやり方は気に入らなくてね。だから貴方達の力になりたいのよ。」

 

そう言った楯無はシャルル達にそっと微笑みかける。

 

「で、でも、学生のオレらに何が…。」

 

「ふふ、それじゃあ一夏くん、問題よ。IS学園規則、特記事項第21の内容は?」

 

楯無の出した問題に一夏は顎に手を当てて考え始める。 そして数秒後、答えが出たのか、はっと顔を上げて楯無の顔を見る。

 

「そういうこと。特記事項第21項、“本学園における生徒はその在学中においてあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。”」

 

「つまり、ここにいる間は学園が、ボクの立場を保護してくれるってこと、ですか…?」

 

「ええ、この特記事項があるうちは本国への強制送還もないわ。安心して。だから、貴方が卒業するまでの3年間でどうにか方策を考えましょう。」

 

「は、はい…!」

 

シャルルは嬉し涙を湛えながら返事をした。

その様子に楯無は小さく頷く。

 

「それじゃあ私はこれで…。あぁそれと、シャルルちゃ、いや、シャルロットちゃん。何か困ったことがあったらいつでも相談に来てね。力になるわ。」

 

部屋を出ようとした楯無は顔だけをシャルルに向けてそう言うと、静かに部屋を出ていった。

 

 

「あはは、生徒会長には、何でもお見通し、かぁ…。」

 

楯無が部屋を出ていくと、シャルルは力なくベッドに座る。

 

「どういうことだ? それにシャルロットって…。」

 

「うん、ボクの本名なんだ。シャルロット、母さんからもらった大事な名前だよ。」

 

隣に立つ一夏に微笑みかけながらシャルル、いや、シャルロットは答える。

その柔らかな笑みに一夏の胸が少しだけ高鳴ったことは一夏本人だけの秘密である。

 

 

「3年、か。うん、なんとかなるよね?」

 

「あぁ、それだけあれば良い考えも浮かぶだろ!」

 

確認するように尋ねたシャルロットに一夏は笑顔で返す。

その笑顔に頼もしさを感じたシャルロットは後ろに倒れ、一夏を見上げる。

 

「ありがとう、一夏。」

 

シャルロットは短く、はっきりと言った。

その言葉に一夏は黙って右手の親指を立てることで答えたのだった。

 

 





楯無さんの“話は聞かせてもらったわ”のあとに“地球は滅亡する!”って自然に打ち込みそうになった自分はかなり毒されていると思う。

それと、ラウラに引き続き、シャルロットにも殴られる原作主人公。
体張りすぎだね。



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番外編 TRF‐Rの3on3大会


久々に書いたらけっこう長くなりました。

では本編をどうぞ↓



 

(TA・Д・)<切符持ちのトキがジャギサウザーシンぶつけられて本気で嫌がるゲーセンとはここのこと。本日もTRF‐Rからお送りします。

 

(チ゜Д゜)<1回戦QMJチーム対眉毛チーム、先鋒QMJジャギ対じぇにおトキです。

 

 

ジョインジョインジョインジャギィジョイントキィ

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン

デッサイダデステニー

トウケイコホウ シニヤガレェトウケイコホウシニヤガレェ

 

(TA・Д・)<最初の立ち回りはお互い地味に牽制し合っt─闘勁見てから差し込んだぁ!カウンターから、画面端、QMハウスにご招待。はいドラム缶!

 

ニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒニーッヒヒ

K.O. カテバイイ

 

(TA・Д・)<さぁドラム缶ハメ、まだドラム缶、ドラム缶ドラム缶!まだドラム缶ハメ!やっぱりQMさん上手いね。もう1回ドラム缶!倍プッシュ!!カンチョーもダメ、反射も無理!受け身も取れない!!QMハウスから抜け出せない!ブーストもダメ、カウンター、死んだぁ!魔法のドラム缶「26」、これで星が3つまで溶けて、QMJジャギのゲージは満タン。

 

バトートゥー デッサイダデステニー

ペシッヒャッハーバカメ ホクトセンジュサツコイツハドウダァホクトセンジュサツコノオレノカオヨリミニククヤケタダレロヘェッヘヘドウダクヤシイカ ハハハハハ

FATAL K.O.マダマダヒヨッコダァ ウィーンジャギィ パーフェクト

 

(TA・Д・)<バニで星を取って、センジュ、グレイブ、もっかいセンジュ、一撃が、入って、勝ったのはQMJジャギ!トキを消毒してパーフェクトゲーム!

 

(チ゜Д゜)<相変わらずのコンボ精度だわ。続いて眉毛チームの中堅、ホタル船長ケンシロウ。

 

 

─中略

 

オノレノムリョクサヲオモイシラセテヤル

 

(TA・Д・)<超ガソでフィニッシュ死んだぁあああ!勝ったのはQMJジャギ!

 

(チ゜Д゜)<ハンパネェ…。

 

(TA・Д・)<さぁ続いては眉毛チームの大将眉毛サウザーの登場です。

 

ジョインジョインジョインジャギィサウザァ

オブツハショウドクセネバナランナ ホザキヤガレェ

デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン

デッサイダデステニー

ニゲラレンゾォ ナントバクセイハッシネェ

 

 

テイオウニトウソウハナイノダッ

 

(TA・Д・)<そこでなぜ羽ばたくぅ!?はい、がら空きの背後から失礼しますよとQMJジャギが仕掛けていく!バニィ、から壁コン!はい!はい!はい!それ、北斗羅漢撃でフィニッシュ!!

 

(チ゜Д゜)<珍しいね、眉毛さんがあんなミスすんの。

 

 

バトートゥー デッサイダデステニー

 

─中略

 

ホクトラカンゲキペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッ

 

(TA・Д・)<魔法の数字「27」が発動して、はい刻んで行くぅ!

 

ペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッ

コノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ ヘェッヘヘドウダクヤシイカ ハハハハハ

FATALK.O.マダマダヒヨッコダァ ウィーンジャギィ

 

(TA・Д・)<バスケからの一撃が入ったぁ!本日の20割が早速登場!!

 

 

─省略

 

(チ゜Д゜)<まだ決勝だよ。

 

(TA・Д・)<QMJチームのQMJ、ノーサ、司馬懿の3人対、しっかチームのしっかさん、エジ、らいぶらの試合だね。

 

(し^Д^)<本気で嫌なんだけど!

 

(チ゜Д゜)<なんか切符持ちのしっかさんが凄い嫌がってるんだけど。

 

(TA・Д・)<対戦相手が相手だからね。誰だって嫌だよ。オレだって嫌だもん。はい、気を取り直してQMJチーム先鋒QMJジャギ対、しっかさんチームの先鋒エジの試合です。

 

ジョインジョインジョインジャギィ ジョイントキィ

ニゲラレンゾォ ホクトセンジュサツ ニゲラレンゾォヒャッハー

トウケイコホウ シニヤガレェ ニゲラレンゾォ

 

(チ゜Д゜)<開幕はやっぱり地味だね。細かい牽制。

 

(TA・Д・)<1発刺されば死ぬからね。ちかたないね。

 

 

ナギッナギッペシッバカメッ

 

(TA・Д・)<トキを捕まえたぁ!そこからバニィ!!なぜ見えるんだ!?

 

(チ゜Д゜)<壁際に追い詰めて、起き攻めはドラム缶!は凌いで切り返し、を読んでいた!弟が決まってコンボを繋ぐ!!

 

ペシッペシッコイツハドウダァホクトホクトセンジュサツペシッペシッペシッシネェ

 

(TA・Д・)<大きく浮き上がったトキにショットガン!はーい、そこからお好きにどうぞ、エジが手を離したぞぉ!!

 

(チ゜Д゜)<そのまま面白味もなく殴り殺してラウンドとるのはQMJジャギ。星も十分取ってますねぇ!

 

バトートゥーデッサイダデステニー

 

(TA・Д・)<‼ああっと‼

 

(チ゜Д゜)<遠Dが刺さって、これはまさか、まさか!!

 

ペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッ

 

(TA・Д・)<クロススパイダー!!そこから画面端に、持っていく!そこからバスケがスタート!!

 

 

ウィーンジャギィ パーフェクト

 

(TA・Д・)<勝ったのはQMJジャギ。今日でもう二人目のトキを消毒している。はい、続いてはQMJジャギ対中堅のしっかさんトキですね。

 

(し^Д^)<まじで帰ってもいい?

 

(チ゜Д゜)<ジャギを当てられて帰りたがる青切符持ちの図である。

 

ジョインジョインジョインジャギィジョイントキィ

デデデデザタイムオブレトビューション

バトーワン デッサイダデステニー

 

─中略

 

ホクトウジョウハガンケン ハァーン

FATALK.O. セメテイタミヲシラズヤスラカニシヌガヨイ

ウィーントキィ

 

(チ゜Д゜)<QMJジャギ、何もさせてもらえずに敗退!

 

(*M*)<ちょっとMP切れた。

 

(TA・Д・)<続いてはQMJチームの中堅司馬懿サウザー対しっかさんトキの試合です。

 

(し^Д^)<めっちゃやりたくない!ヤメローシニタクナーイ

 

(ノサ・ω・)<“やめろォ(建前)ナイスゥ(本音)”ですね、分かります。

 

(し^Д^)<まじふざけんな。

 

 

ジョイントキィサウザァ

デデデデザタイムオブレトビューション

バトーワン デッサイダデステニー

 

 

ホクトウジョウダンジンケン

K.O. イノチハナゲステ

 

(チ゜Д゜)<1ラウンド目を取るのはしっかさんトキ。

 

(TA・Д・)<まだ分からないよ?サウザー:トキは7:3でサウザーだから。

 

 

バトートゥー デッサイダデステニー

トウケイコホウ ナントバクセイハッ トベッ

 

(TA・Д・)<差し合いから、グレイブで浮かせて、起き攻めは爆星破を重ねていくぅ!

 

(チ゜Д゜)<すかしたぁ!!そのままコンボを繋いで、はい星を取って行く!

 

 

フハハハハッ

 

(TA・Д・)<浮かせて槍投げてKO、2ラウンド目は司馬懿サウザー。

 

ファイナルバトー デッサイダデステニー

ナギッナギッペシッペシッカクゴッペシッペシッペシッハァーンテンショウテンショウヒャクレツケン

 

(TA・Д・)<ナギ使って裏取ってバニからの壁コングレイブで星を取っていく。

 

(チ゜Д゜)<おっと、落としてしまった。画面端固めを司馬懿サウザーが凌いで…。

 

(TA・Д・)<ガークラァ!!さぁお好きにどうぞの体勢からトキが殴るぅ!!

 

テンヲミヨミエルハズダアノシチョウセイガ

 

(チ゜Д゜)<死兆星が灯ったぁあ!そっからトキが、座ったぁあ!!

 

ホクトウジョウハガンケン ハァーン

FATALK.O.セメテイタミヲシラズヤスラカニシヌガヨイ ウィーントキィ

 

(TA・Д・)<破顔拳でフィニッシュ!しっかさんがまだまだ勝つぅ!

 

(チ゜Д゜)<さぁQMJチームもう後がない。ここで登場するのはTRF‐Rの誇るクイーン、ノーサ!!

 

(し^Д^)<…いーやーだー!!ノーサとやりたくないんだけど!!いや、ホントに!!

 

(TA・Д・)<トキ使いがシン使いを拒否るゲーセン。

 

 

ジョインジョインジョインジョインシィントキィ

デデデデザタイムオブレトビューション

バトーワン デッサイダデステニー

シネェッペシッペシッペシッペシッペシッナントゴクトケンッ

 

(チ゜Д゜)<開幕グレイブからの空中コンボから南斗獄屠拳。画面端まで持っていって、起き攻めは空中から仕掛けていく。

 

ペシッペシッペシッペシッペシッ ペシッペシッペシッ

 

(TA・Д・)<当て身が不発ぅ!!

 

(チ゜Д゜)<当て身見てから小足余裕でした!そこからコンボを、おっとこれは落として…起き上がりにコマ投げ!画面端でトキが袋叩き!!

 

ペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッナントゴクトケンッ

 

(TA・Д・)<ヒット数稼いで獄屠拳、高く浮き上がった!

 

(チ゜Д゜)<バスケ部入部完了しました!!

 

ペシッペシッ ペシッペシッ ペシッ ペシッペシッ ペシッK.O.キサマノシュウネンハソンナモノカ

 

(TA・Д・)<1ラウンド目を取ったのはノーサシン。星も充分、開幕即ノーサSPもありえるが!?

 

(し^Д^)<……。

 

バトートゥーデッサイダデステニー

ウオォォッ

 

(TA・Д・)<欲望の開幕ヘヴィー!!

 

(チ゜Д゜)<からの2Cが刺さって迫破斬!ブーバニ!2C、グレ仕込み千手!星が溶けて南斗翔鷲屠脚!!

 

(TA・Д・)<勝ったのは!ノーサシン!!ノーサスペシャルが完璧に決まって勝利ぃい!!

 

(モヒ・Д・)<ヴォーノーサー‼

 

(し^Д^)<…う、美しい…ハッ!?

 

 

(チ゜Д゜)<さぁ、続いては最終戦。ノーサシン対らいぶらラオウ。

 

(ら・∀・)<いや、もうね…。

 

(し^Д^)<らいぶら、ブルマやるから絶対勝てよ!

 

(ら・∀・)<いや、オレブルマキャラでもなんでもないッスから!

 

ジョインジョインジョインジョインシィンラオウ

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン

デッサイダデステニー

ヌゥオオオオオ

 

(TA・Д・)<開幕ノーサシンのバクステ見てから呼法着けた。

 

(チ゜Д゜)<オラオラのゲージ回収ヤバすぎて気持ち悪いよね。

 

(TA・Д・)<さぁ、じりじりと間合いを測る!どちらも一撃刺してから殺せるぞ!

 

クラエイッ

 

(チ゜Д゜)<ラオウのグレイブが刺さった!

 

ペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッジョイアアアッコノオレモカナシミヲセオウコトガデキタワペシッペシッペシッペシッ

 

(TA・Д・)<釵ループから、バニキャン!はい小足小足!

 

(チ゜Д゜)<が、ブーストミスって落としてしまった!!起き上がりに、呼法を着ける。

 

クラエイッペシッペシッジョイアア

 

(チ゜Д゜)<グレイブが見切れない!ノーサシンが宙を舞って釵!

 

ペシッペシッペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッペシッジョイアアオレノゴウケンイツマデウケキレルカナ

 

(TA・Д・)<釵ループ、強化釵からの強化オラオラ!もりもり削れていく!!

 

ジョイアア フンペシッペシッペシッシュウネンガタリンゾッ

 

(チ゜Д゜)<目押しをミスった!ガードして切り返す!!

 

(TA・Д・)<そこからしなやすなるのか?

 

シズメッペシッペシッペシッペシッペシッペシッ

 

(チ゜Д゜)<ブー旋脚葬からコンボを繋いでいく。

 

(TA・Д・)<バニからの壁コン、繋いで、繋いでぇ!!

 

(チ゜Д゜)<起き攻めを下段から仕掛けて、南斗虐指葬!繋げて迫破斬!

 

(TA・Д・)<さすがのブースト回収率でコンボを切らさない。そのままラオウを削りきった!!1ラウンド目を取るのはノーサシン。

 

(ら・∀・)<今日ちょっと目押しの調子が悪いっす。いやマジで。

 

バトートゥーデッサイダデステニー

ミキッタワクラエイッペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッペシッジョイアアアペシッペシッジョイアアペシッペシッペシックラエイッペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッペシックラエイッペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッオレノゴウケンイツマデウケキレルカナジョイアアペシッペシッペシッジョイアアアペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッペシックラエイッペシッペシッジョイアアペシッペシッペシッペシッホクトゴウショウハッペシッペシックラエイッペシッペシッジョイアアペシッペシッユリアアアァァァッ

 

(TA・Д・)<無想からグレイブ、釵が刺さる!釵ループ、バニ!もっかい釵刺して、グレイブ、釵刺してグレイブ!裏釵はミスらない!!そっからまた釵ループ、バニ!

 

(チ゜Д゜)<オラオラ、ブーストで追い付いてコンボを繋げる。グレイブ、釵、膝をついてペシペシ!

 

(TA・Д・)<剛掌波、ブースト、釵刺してから追撃で死んだぁ!2ラウンド目はらいぶらラオウ。

 

(チ゜Д゜)<調子が悪いとはなんだったのか…。

 

 

ファイナルバトーデッサイダデステニー

 

(TA・Д・)<さぁ両者ともに即死圏内、じりじりと隙をうかがう。

 

(チ゜Д゜)<ブースト奇襲でノーサが仕掛ける!!ブースト南斗虐指葬でラオウを吸い込んで、投ーげーたー!

 

(TA・Д・)<そこから壁コン!上手くブーストを使って落とさない!

 

ペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッ ペシッ ペシッ ペシッ ペシッ ペシッナントゴクトケンッ ペシッペシッ ペシッ

 

(TA・Д・)<投げ始動からのシンバスケ!!獄屠で浮いて追撃!

 

(チ゜Д゜)<ここまでくればもうミスらない!!はいはいはい、ラオウの体が天に還る!

 

ナントライシンショウ

K.O.オマエゴトキデハオレニカツコトハデキン

ウィーンシィン パーフェクト

 

(TA・Д・)<雷震でフィニッシュ!!勝ったのはノーサシン!これで今日の3on3大会はQMJチームの優勝!!

 

(チ゜Д゜)<ジャギシンサウザーのチームで優勝ですよ。

 

(TA・Д・)<3体中2体が隠しキャラだからね。ちかたないね。

 

 





ちょっとした息抜きです。本編が若干シリアス寄りでしたし。



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第63話 個人トーナメントに向けて

どうもご無沙汰しています、地雷一等兵です。

期末の試験とレポートが一段落ついたのでようやく投稿できました。

では本編をどうぞ↓


シャルルが一夏に女であることを明かし、ラウラが南美の妹分になった翌日、周りは特に変わった様子を見せなかった。

ただひとつ変わったとすれば、ラウラの周囲への態度が軟化したことだろう。

 

「お、おはよう…!」

 

ガラリと教室の戸を開けたラウラは控えめな声で挨拶をした。

初日、あれほど冷たかったラウラが挨拶をした、その事実に1年1組のメンバーは入り口に佇むラウラを見て黙り込んでしまった。

 

教室に沈黙が訪れる。

 

ラウラはやってしまったとばかりに下を向いて黙ってしまう。

そんな状況を打ち破る存在がいた。

 

「おはよう~、ラウリィー」

 

布仏本音、通称のほほんさんである。

本音はいつもの余った袖をぱたぱたと振りながら、仔犬のようにラウラに近寄る。

 

そんな本音の行動にうつむいていたラウラは瞳をキラキラさせて本音に抱きついた。

 

「にひひ、ラウリィーもやっと心を開いたねぇ。」

 

ラウラに抱きつかれた本音はいつものように笑顔を浮かべてラウラの頭をワシャワシャする。

そんな和やかな光景に、最初こそ戸惑っていた1年1組のメンバーもやっと理解した。

 

ラウラの顔から険が取れている、と。

 

 

その時、入り口から一夏が入ってくる。先程までほぐれていた場の空気がまた固まる。

初対面でビンタをかまし、かまされた同士の対面にクラスのみんなは息を呑む。

 

ラウラも一夏の登場に気づいたのか、本音から離れ、ゆっくりと一夏の方に振り向いた。

 

「あ、あ、…。」

 

一夏の顔を見上げるラウラは何かを声にしようとしながらも、どこか迷っているような態度を見せる。

そのラウラの様子を察してか、一夏も席につこうとはせずに、黙ってラウラの言葉を待った。

 

そして沈黙から数秒、心を決めた顔でラウラは一夏に向けて頭を下げた。

 

「すまなかった…。謝って済む話ではないのは分かっている…。私に出来ることなら──」

 

「あぁ、いいよ。」

 

「は…?」

 

あまりにもあっさりし過ぎた一夏の返答にラウラは変な声を上げて一夏の顔を見た。

 

「お前がオレを恨むのだって、オレに原因の一端があったんだし、その…、よ、なんだ…。だから、あんま気にすんな。」

 

それだけ言うと一夏はラウラの肩をぽんと叩いて自分の席に着いた。

あまりにもあっさりし過ぎた一夏の態度のほんの数秒後、ラウラを手懐けた南美が教室に現れる。

 

「おはよー。」

 

「あ…!南美、お姉ちゃん…。」

 

ラウラから放たれたモハメド・アリのフィニッシュブローよりも強烈な発言にクラス中の注目が南美に注がれる。

 

「うん、おはようラウラ。」

 

南美はラウラの頭を優しく撫でる。

そんな光景に誰もが開いた口がふさがらなかった。

 

「お、おいおいおいおい!一体全体昨日の今日で何があったんだ南美?!」

 

ラウラの豹変ぶりに驚きを隠せない箒が南美に詰め寄る。

 

「それに“お姉ちゃん”とはなんだ?まさかお前にそんな趣味が?」

 

「ちょっと待ってよ。確かに私は妹大好きシスコンだけど、百合の趣味はないからね!」

 

ギリギリと襟を絞める箒をなだめるように南美が言う。その言葉を聞いた箒は襟を絞める力を弱めた。

 

「それに、話せば分かるけどあの子は良い子だよ。ちょっと不器用なだけでさ。だから、まぁ、話しかけてあげてよ。」

 

「お前がそう言うからには、まぁそうなんだろう…。」

 

渋るような口調で箒はゴニョゴニョとどもる。

 

「まぁ、手合わせすればわかるんじゃない?ラウラちゃんの人となりはさ。私らってばそういう人間じゃん?」

 

「…そう、だな。なら、今日の放課後にでもそうしてみよう。」

 

南美の言い分に若干呆れながらも、箒はそれを肯定した。

 

 

 

午前中の授業が終わり、昼休みになったときのこと。

IS学園の1学年達の間であることが起きようとしていた。

 

「ね、ねぇねぇこれ!」

 

「ん~?どしたのー?」

 

ある生徒が掲示板に貼られた学年別個人トーナメントについての資料を指差して一緒にいた生徒に声をかける。

 

そしてもう一人の生徒が指差されている箇所に目を通すと雷に打たれたような衝撃を受けて固まった。

ギギギギと油をさしていないロボットのようなぎこちない動きでお互いの顔を見合わすとこくりと頷き合って駆け出した。

 

そして彼女らの見た情報は瞬く間に女子生徒達の間を駆け巡り、数分もする頃には1学年の女子ほぼ全員が知るところとなった。

 

 

 

「さーてと、今日は何にするかな?」

 

昼に食堂に来ていた一夏はシャルロットらと一緒にメニューを吟味している。

そんな時、ドドドドドと地鳴りのような音と微かな床の振動を二人は感じ取った。

 

「「織斑くーん!!」」

 

「「シャルルくーん!!」」

 

その音の発生源は食堂に続く廊下を走る女子生徒の大群であった。

彼女たちに共通しているのは、皆手に1枚のプリントを持っていることである。

 

そして皆一夏とシャルロットに近寄ると、一斉にプリントを持っている手を差し出した。

視界いっぱいに手が伸びてくる様は一種のホラーである。

 

「「「私とコンビを組んでよ!!」」」

 

彼女らは一斉にそう言った。

が、彼女らから誘いを受けている一夏とシャルロットはいまいち状況が掴め切れずに、呆然と突っ立っている。

 

「え、えっと、さ…。どういうこと、かな…?」

 

あははと苦笑いを浮かべながらシャルロットが目の前の女子集団に問う。

するとやや興奮した面持ちの生徒が差し出されているプリントとは別のプリントを二人の前に差し出した。

 

一夏はそのプリントを手にとって内容を一読すると、“はあっ?!”と驚きの声をあげた。

 

「学年別“タッグ”トーナメント、だとぉ?!ど、どういうことだ?!」

 

「そのまんまの意味じゃないかな? 理由もまぁ、納得できるし。」

 

「一夏、ボクにも読ませてよ。」

 

シャルロットは驚愕の顔で固まる一夏の手からプリントを取ると、ふむふむと目を通す。

そしてすべてに目を通し終えると、あははと一夏に向かって笑いかける。

 

「まぁ、仕方ないね。諦めてタッグ戦の練習しようか一夏。実践的なIS戦闘の連携を実戦の中で学ぶために~なんて、学園が言ってるんだもん。それに、責任者が織斑先生じゃ、ボクらが何言っても小揺るぎもしないと思うよ?」

 

「ぐ…、くそぉっ?!」

 

シャルロットの指摘に一夏は目論見が崩れたとばかりに膝をついた。

 

「ちくせう…。」

 

シャルロットの説得で納得した一夏はよろよろと立ち上がる。

そんな一夏とシャルロットを周りの女子は爛々とした目で見つめる。

 

「あ~、皆オレらのところに来たのはそういうことか…。っても、専用機の奴と組むならオレじゃなくて南美とか、セシリアとか鈴がいるだろ?それにシャルも…。」

 

「あ、いや、その~、織斑くんとがいいかなぁ…なんて。」

 

「そ、そうそう!」

 

歯切れの悪い答えを返すクラスメイト達にん~?とハテナマークを浮かべる一夏であったが、隣にいるシャルロットを見るとガシガシと頭を掻いた。

 

「あー、っとさ、オレはシャルと組むからさ。なんつーか、ごめん…。」

 

目の前の同級生達にそう告げた一夏はハハハと小さく笑う。

そして女子生徒たちは、

 

「そっかぁ、じゃあ仕方ないね。」

 

「そうだね、下手に女子と組まれるよりも…。」

 

「むしろ、男同士の方が…デュフフ…。」

 

などと口々に発しながらその場を食堂を去っていった。

 

 

「とっさだったけど、あれでよかったんだよな?」

 

「もちろんだよ、一夏。助かった…。もし、一夏以外とペアになったら正体がバレちゃうかも、だったし…。」

 

「そうだよなぁ…。それも含めてどうにかしねぇとなぁ。」

 

「ふふ、大丈夫だよ一夏。卒業までまだ長いんだし、二人でゆっくり考えようよ!」

 

シャルロットはニッコリと笑って一夏に言った。

一夏もそんなシャルロットの言葉に励まされたのか、力強く笑って返す。

 

 

学年別タッグトーナメントまであと1週間

 

 





さて、まぁここから原作に沿いつつ原作を無視していく感じになります。



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第64話 放課後の模擬戦


いやぁ、遅くなりました。
期末と夏合宿とが連続で襲って来たもので…。

では本編をどうぞ↓


「さてと…。」

 

シャルロットと一夏がコンビを組むことを表明したその日の放課後、一夏はアリーナの中央でラウラと対峙している。

 

そしてそんな二人を見守るように南美は観客席の上段で佇んでいた。

 

「本当に良かったのか?」

 

観客席の手すりに掴まりながら缶コーヒーを飲み下した千冬は隣の南美に尋ねる。

 

「いいんですよ。こう言っちゃなんですが、一夏くんは“こっち側”の人間です。下手に口で話し合うよりも拳で語り合った方が早い。」

 

そう言って南美は手すりに寄りかかって、千冬の方を見た。

 

「まぁ、そうだな。……北星、お前は随分とラウラから慕われるようになったな。」

 

空の缶を握りしめながら千冬は話題を変えるように呟いた。

 

「………ラウラちゃんはまだ私達と同じ、子ども。こんなこと私が言えた立場じゃないけど、ラウラちゃんが見てきた世界は辛すぎる。」

 

「それは、…それは分かっているつもりだ…。」

 

「ただの格ゲーマーでバトルジャンキーの私にドイツのお国事情だとか、政治的なことだとか、ましてや試験管ベビーなんてことは分かりません。でも、これだけは分かります…、ラウラちゃんの親代わりだった貴女は、もっと何か言ってあげるべきだったって…。」

 

南美の指摘に千冬は下を向いて押し黙った。

そんな千冬に南美は言葉を続ける。

 

「千冬先生、貴女はちょっと不器用です…。一夏くんのことと言い、ラウラちゃんといい…。」

 

「言うな。そのくらい、自分が一番分かっているさ。私は口下手で、不器用な人間だ。」

 

そう千冬が言うと、南美はそれ以上何も言わなかった。

その代わりに、アリーナの中央で向かい合う二人へと、視線を移す。

 

 

 

「…決闘の申し出、受けてくれた事を感謝する。」

 

ISを装備した二人、そのうちの片方であるラウラが対峙する一夏に言った。

 

「……ああ。折角やるんだ、全力でやろう。腹の内までさらけ出して、後腐れなく、な…。」

 

そう言って一夏は雪片弐型を構える。

 

「ああそうだな。正々堂々とやろう。いざ、情ケ無用!!」

 

ラウラのその言葉を合図に二人は急加速する。

アリーナに響くのは二人の声とぶつかり合う重い激突音だけ。

 

南美と千冬は観客席から黙って二人の決闘を見守っている。

そしてそれは他の専用機持ちも同じ。

彼女らはピットの中で、モニター越しに二人の戦いを見守るだけだった。

 

 

 

「ぐっ!」

 

「どうした!!そんなものか!!」

 

ラウラのワイヤーブレードが一夏の雪片弐型を絡めとる。

そして思いっきりワイヤーブレードを握る腕を引き、雪片弐型ごと一夏の体を引き寄せる。

 

そしてラウラは拳を握り右腕を引き絞る。

それを見た一夏は雪片弐型を手放し上体を起こした。

 

「「ああああああっ!!」」

 

二人の声、そして腕が交差する。

両者の拳は互いの顔を確かに捉えていた。

 

次の一手は同時だった。

 

ラウラはすかさず左足で一夏の右膝を蹴り、一夏はラウラの右腕を捻る。

 

ラウラは肘を捻られながらも蹴りつけ、そのまま力に従って動き、空中で1回転する。

そして一夏は回るラウラの体から、ただ一点、頭目掛けて右足を思いっきり振り抜いた。

 

力強く、ISの補助も加わって放たれた強烈な蹴り。

それを受けたラウラの体はまたもや力の向く方向へと回転する…かに思われた。

しかし現実は違った。

ラウラは蹴られた瞬間に一夏の右足首を掴んでいたのだ。

 

一夏の右足首を掴んだラウラは逆さまのまま、体を真っ直ぐに伸ばし、振り下ろすような蹴りを一夏の頭に打ち込んだ。

 

完全に決まったはずの蹴り。それこそ渾身の一撃だった。それこそこのような間をおかない反撃が飛んでくるとは露にも思わないほどに。

しかし、それが現実である。

 

決まったと思い、力の抜けた一夏を襲ったのは衝撃だった。

 

堪らず一夏は距離を取った。

そしてラウラも間合いとタイミングを測るかのように1歩、また1歩と飛び退く。

 

「そんな、ものなのか…?」

 

不意にラウラが呟いた。回線を繋いだわけでもない、ただの小さなその言葉はただ一人、一夏にしか届いていない。

 

「そんなものなのか? あの時、守れる限りの者を守ると私に言い張った貴様の力はこの程度のものなのか!?」

 

ラウラの言葉は終わりに近づくほどに強くなる。

その言葉を受けた一夏は転がっていた雪片弐型を拾い上げる。

 

「そんなわけねぇだろ。さぁ、来いよ、こっからがオレの全力だ…。」

 

一夏は雪片弐型を正眼に構えてそう言った。

 

 

 





この前、夏休みを利用して自分探しの旅に出ている友人に頼まれて友人宅を掃除してましたら、“クラリッサが鼎二尉に見えてきた。”と書きなぐられたメモが見つかりました。

どういうことなんでしょう。
これと似た症状を知っている方はいますでしょうか?



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第65話 決闘は決着に向かって


暑い日と蒸し暑い日が続いて嫌になりますね。

では本編をどうぞ↓


「はぁああああっ!!」

 

「つぇりゃぁああああっ!!」

 

雪片弐型の刃とシュバルツェア・レーゲンのプラズマ手刀がぶつかり合う。

零落白夜やAICのような不粋なものなど立ち入ることはない、純粋な力と力のぶつかり合い。

 

鍔競り合いになり、二人は互いの顔を近づける。

二人の表情は確かな笑顔であった。

 

「楽しいなぁ、なんの柵もなく、自分の力を全て出すことがこんなに楽しいとは思わなかった。」

 

「はっ! だったらもっと来いよ!!」

 

一夏は雪片弐型でラウラを払いのける。

そして弾き飛ばされたラウラは目線を一夏から逸らささずに後ろに飛ぶ。

 

「ああ、こうして全力を尽くすことを楽しいと思えるとは…。」

 

ギラつく瞳で笑いながら一夏を見据えるラウラはワイヤーブレードすらもアリーナの片隅に投げ捨てた。

 

 

 

 

「ああああああああっ!!!」

 

「イィィヤッ!!」

 

雪片弐型がシュバルツェア・レーゲンの左肩を、ラウラの手刀突きが白式の左胸を同時に貫く。

ISの生体保護機能で大事には至らないものの、二人の顔は僅かながらに苦痛で歪む。しかし、次の瞬間には二人とも笑みを浮かべていた。

 

「フフフ、フハハハハ、いいぞ、もっとだ!!もっと、もっとぉ!!」

 

狂ったような笑みを浮かべながらラウラは一夏に叫ぶ。

そんな一夏もまた、戦いに愉悦を覚えた顔をしていた。

 

シュバルツェア・レーゲンの肩に食い込んだ雪片弐型を引き抜き、もう一度振りかぶる。

ラウラも一夏のその動きを見て、今度は左腕を引き絞る。

 

「らぁぁあああああっ!!!」

 

「シャアアアッ!!」

 

今度も同時だった。

振り下ろされた雪片弐型の刃はシュバルツェア・レーゲンの右肩のユニットを叩き斬り、ラウラの放った手刀突きは深々と白式の右胸に食い込む。

 

「浅いな…!」

 

両胸の装甲を貫かれたが、一夏の動きは鈍ることはなかった。

それどころかシュバルツェア・レーゲンの肩のユニットを切り落としてからもなお、さらなる追撃を狙っていた。

 

振り下ろした雪片弐型の向きを変え、力の向きを急激に変えて振り上げる。

その刃はラウラの右脇腹を的確に殴り付けた。

 

「がぁっ!?!」

 

その衝撃にラウラは体中の空気を吐き出す。

そして、数十分にも及んだ二人の殴り合いは決着をむかえる。

 

一夏の放った振り上げはもう満身創痍であったシュバルツェア・レーゲンの残りのエネルギーを空にするには充分過ぎるほどの一撃だった。

それを受けたシュバルツェア・レーゲンは飛行する力を失い、真っ逆さまにアリーナの地面へと落ちていく。

 

その事をラウラは自身のISからの信号を通じて理解していた。

 

 

 

(終わる…のか…? この、闘争の時間が…?嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ、イヤダッ!!)

 

墜落し、動かなくなったシュバルツェア・レーゲンを身に纏うラウラはそれまでの戦いを胸に浮かべながら立ち上がる。

 

(もっと、もっとこの戦いを続けたい!!そのための、そのための力が…!!)

 

『機体損傷度甚大、精神状態規定値に到達、システム起動』

 

機械的な冷たい声が聞こえると、シュバルツェア・レーゲンの装甲が黒く溶けていく。

そしてそれは意思を持つかのようにラウラの体にまとわりついていく。

 

「な、なんだ、これは!?違う、私が求めた力は、こんなものじゃない!!」

 

身を捩らせてその黒いナニカから逃れようとするラウラであったが、次の瞬間には全身を黒い何かが覆った。

 

 

 

「い、今のはいったい!?」

 

「分かりませんわ。それよりもあの再起動は…。」

 

モニター越しにアリーナの様子を見ていた四人の内シャルロットとセシリアがまず声を上げた。

 

モニターに映るのは、全身を黒い装甲で覆われたシュバルツェア・レーゲンとそれと対峙する白式の姿だった。

 

 

 

「あれは…!!」

 

観客席で決闘を見守っていた千冬が面食らったような顔で呟くと、すぐさまその場を離れようとする。

だが、その千冬の腕を南美が掴み、引き留めた。

 

「手出し無用ですよ、織斑先生…。」

 

「今はそんなことを言っている場合じゃないだろう!!」

 

焦ったように言う千冬の顔を南美は見上げるとニッと笑う。

 

「少しは一夏くんを信じてあげてください、織斑先生。」

 

笑顔でそう言いきった南美は千冬の腕を掴んだまま視線をアリーナにいる一夏へと移した。

南美のそんな自信ありげな様子を見た千冬は躊躇いを見せた後、その隣に座った。

 

 

 





登場人物設定に追加を行いました。

追加メンバー
・高野レン
・ヘビィ=D!
・高町なのは



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第66話 決着、和解、そして…


今回はいつもより長くなりました。
そして、後半に出てくるとある人物は原作とはかなりかけ離れてしまっています。

お気をつけください。

では本編をどうぞ↓


ゴォと音を立てて迫る刃を一夏は難なくかわしてみせる。

 

(…この太刀筋は、間違いなく千冬姉の太刀筋…。でも、本物の千冬姉はこんなんじゃない。)

 

意外なほどに冷静に目の前のシュバルツェア・レーゲンだったものの動きを観察する。

 

《一夏!そっちに行くからアリーナの入り口開けなさい!!》

 

シュバルツェア・レーゲンと対峙している折りに、個人間秘匿通信《プライベートチャンネル》から鈴の声が届く。

 

《嫌だ。これはオレとラウラの決闘なんだ。誰かの手を借りる訳にはいかない。》

 

《はぁ?!今はそんなこと言ってる場合じゃ──》

 

言い切る前に一夏が回線を切る。

そして一夏は深く息を吐くと、雪片弐型をきつく握り締めて、シュバルツェア・レーゲンの方を向く。

 

「ふぅ…。紛い物とは言え、千冬姉との勝負か…、いや、紛い物相手だからこそ負けらんないな。」

 

 

 

「鈴、一夏はなんて?」

 

「ラウラとオレとの決闘だから手を出すな、だってさ。」

 

控え室の中で四人は顔を合わせる。

そしてその数秒後、全員がはぁと大きく息を吐き出した。

 

「ほんっとにバカなんだから。バカは死ななきゃ治んないってのはホントみたいね。」

 

「ですが、ああいう所が一夏さんの魅力でもありますわ。」

 

「確かに、ああではない一夏なぞ、一夏ではないな。」

 

「妙に熱血で、優しくて、それでいてちょっと抜けてるのが一夏だからね。」

 

思い思いの言葉を口にすると彼女らは一斉に画面に映る一夏を見て笑いあった。

そして束の間、控え室の中に笑い声が響くと、鈴がどっかとソファに座る。

 

「さて、それじゃあ見せてもらいましょ?大見得切ったバカ一夏の腕前を。」

 

「そうですわね。あの場には南美さん、それに織斑先生もいらっしゃいますし。私たちは観戦と洒落込みましょう。」

 

 

 

「……。」

 

「ふっ!」

 

無言で振るわれる刀を一夏は鋒だけで弾き、シュバルツェア・レーゲンを懐に入れさせない。

 

「形だけ真似して強くなれる?そんなわけねぇよ…。」

 

自身の姉、織斑千冬のかつての専用機“暮桜”を模倣した眼前の敵を見て、一夏は静かに呟いた。

 

「…さっきの言葉…、お前は望んでいないんだろ?その力をよ…。」

 

一夏は頭に、黒いナニカに覆われる直前のラウラの顔を思い浮かべる。

その瞳は、弱く、助けを求めているように一夏には見えた。

 

目の前で助けを求めた相手を放っておくような人間ではない。

そして何よりも、自分の敬愛する姉を、姉の剣を弄ぶかのような事をした相手を斬らない道理はない。

 

一夏はふぅと息を吐き出し、かつて姉に教わったことを思い出す。

 

 

side 一夏

 

 

「“刀は振るうもの。体だけでなく心で振る”だったよな、千冬姉…。」

 

そうだ、今のオレにはある。今までがむしゃらに鍛えてきたこの体と技、そして千冬姉に教わった心が…。

 

オレは知ってる、力じゃない強さを。その強さを背中で教えてもらった。

誰かを守るために強くあり続けた人を、誰よりも長く見て、誰よりも深く知っている。

 

 

だからこそ、だからこそオレも、誰かのために強くありたいと心から望むんだ。

 

 

ギリっと強く右手の雪片弐型を握り締める。

 

(大きな刃は必要ない…。今必要なのは鋭く、速い…、洗練された刀だ…。)

 

そのイメージを浮かべると右手の雪片弐型は粒子のように霧散していった。

そして、何もなかった空間に一振りの刀が現れる。

 

オレの背丈よりもデカい、刀身。それでいて雑さはなく、洗練された美しさのある細く、長い刀…。

 

そうかよ白式…。これがお前のくれたオレへの答えか。

じゃあ、オレもまた、それに応えるとしようじゃねぇか。

 

オレは迷うことなくその刀を手に取った。

あぁ、馴染む…。まるでガキの頃から使ってたみたいにしっくりくる。

 

「待たせたな、ラウラ・ボーデヴィッヒ…。行くぜ?」

 

間合いを詰めると、シュバルツェア・レーゲンが袈裟斬りに刀を振り下ろす。

動きだけなら確かに千冬姉のそれだ。けれど、その動きには千冬姉の“意思”がない。

 

そんなものは所詮──

 

「真似事だ!!」

 

刀を振り上げ、直上に弾き飛ばす。

そして振り上げた刀を両手で握り締め、上段に構える。

 

「ズェァアアアッ!!」

 

そして上段に構えた刀をオレは全力で振り下ろした。

 

 

side out...

 

 

ジジ…と紫電を走らせ、シュバルツェア・レーゲンは動きを止める。

割れた黒い装甲の中からラウラ・ボーデヴィッヒの姿が現れる。

眼帯が外れ、露になった左右の瞳。その瞳の光はいつもの彼女とは違って、弱々しく見えた。

 

「そう、か…。そういうことだったか…。」

 

一夏と目を合わせたラウラは弱々しく呟く。

そして不意にフラッと一夏にもたれ掛かった。

 

 

side ラウラ

 

 

──ああ、やっと分かったような気がした。

“強さとは何か”

その答えを、この男と出会って、戦って理解した。

 

「強さとは、なんだろうな…。」

 

私は自分が見つけた答えを、この男と答え合わせしたくてつい尋ねた。

 

「強さ…、か…。」

 

私を片手で抱き止めながら、空いている手で頭を掻く。

さすがにすぐに返答が返ってくるとは思っていない。

暫く待つと、唸りながら口を開いた。

 

「強さってのは、心の在り方、なんじゃねぇかな?自分自身の拠り所、自分がどう在りたいのかを常に思うことなんじゃないかって、オレは思う。」

 

やはり…か。

予想通りの答えだった。そしてその言葉はなんの抵抗もなく、スッと私の心に染み込んでいく。

 

「だってよ、自分が何をしたいかも分からない奴は、強いとか、弱いとか以前に歩き方だって知らないもんさ。」

 

「歩き、方…?」

 

思わず口に出してしまう。

 

「どこに向かうのか、そしてどうしてそこに向かうのか、さ。」

 

──どうして、そこに向かうのか…か…。

 

「やりたいことはやったもん勝ちってやつさ。変に遠慮とか我慢なんかしてっと損だぜ?」

 

そう言ってニヤリと笑う。

その顔がどことなく教官と重なった。

 

「やりたいことをやんなきゃ、人生じゃねぇよ。」

 

「…なら、お前は…?どうして強くなろうと、強く在ろうとする?なぜ、強い…?」

 

「強くねぇよ、オレは全然強くない。」

 

即答だった。

その答えに私は思わず何も言えなくなった。

あれほどまでに強いのに、強くないと言う…。それがどうにも理解できない。

いや、この答えがこいつの考えている通りなら──

 

「もし、オレが強いって言うなら、それは…。」

 

私は言葉を待つ。

 

「強くなりたいから強いのさ。」

 

そう言ってこいつは私に優しく微笑んでくる。

 

「オレには夢があるからさ。」

 

「夢…?」

 

「ああ、お前には言っただろ?強くなって誰かを守りたい。自分の全てを懸けて、ただ誰かを守るために戦いたい。それがオレの夢なんだ。」

 

そう語るこいつの姿はまるで、教官のようだった。

 

「だからさ、お前のこともオレが守るよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。」

 

こいつは満面の笑みを私に向ける。そして私は自分の胸が高鳴った事を確かに感じた。

こんなにも強く胸の奥が揺さぶられたのは初めてだ。

『守るよ』そう言われて私は、ときめいてしまったのだ。

 

それを認めると、途端に心臓が早鐘を打ち、私に語りかける。

この男の前では私はただの15歳の女なのだと。

 

その時、昔教官に言われたことを思い出した。

 

“あいつは未熟者のクセになぜか女を刺激するのだ。油断すると惚れてしまうぞ?”

 

この言葉と、それを嬉しそうに語る教官の笑顔がとても印象的だった。

 

そして今なら分かる。

 

織斑一夏…。確かに、これは、惚れてしまう──。

 

 

眼前の織斑一夏の顔を眺めながら、私の意識は遠退いていく。

そして、完全に意識を手放す前に抱き止められたような温もりを肌に感じた。

 

 

side out...

 

 

 

「ふぅ…。」

 

気を失ったラウラを抱き抱える一夏は小さく息を吐くと、そのままアリーナから出て行った。

その様子を観客席から眺めていた南美は隣に座っている千冬を見る。

 

 

「ね?一夏くんは大丈夫ですよ。」

 

「あぁ、そうだな…。」

 

千冬は一夏の後ろ姿を見送ると、両手を顔に当てて俯いた。

 

「…一夏の奴め…。」

 

隣にいた南美の耳にも届かないほど小さな声で千冬は言葉を漏らす。

その顔はどこか嬉しそうで、それでいて寂しそうでもあった。

 

 

「帰ってきたわね~。」

 

「おう、ただいま。」

 

ラウラを連れたまま一夏は控え室に戻ってきた。

そんな一夏を一番に出迎えたのが鈴である。

 

「どうだったよ、オレの戦い振りは?もうそう簡単には負けねぇぞ。」

 

出迎えられた一夏は開口一番にそう言った。

そんな一夏の発言を鈴は鼻で笑って受け流す。

 

「やっと私達と同じラインってところね。」

 

「でも、まだまだですわ。うかうかしているとそのまま置き去りですわよ?」

 

胸を張る鈴の隣に進んだセシリアが言い放つ。それを聞いた一夏はニィと口角を上げる。

 

「あぁ、そうこなくっちゃな。そっちだって、いつまでも前を走っているなんて思わないことだな。」

 

そう言って一夏は挑戦的な笑みをセシリアと鈴に向ける。その仕草に二人も同じような笑みを浮かべる。

 

「やれるものならやってみなさい。」

 

「やってやるさ。まずは個人トーナメントだ。」

 

「望むところですわ!!」

 

そんな火花散る3人のやり取りをシャルロットと箒は静かに見守っていた。

 

 

 

 

──某所

 

 

「…いっくんは、そっちの道を選んだのかぁ…。アハ、ハハハ…、…はぁ…。」

 

薄暗い部屋の中で唯一の光源である複数のモニターから、たった1つの画面を眺めている女性がひきつったような笑い声の後に深く溜め息を吐いた。

 

その風体はよれたジャージに黒縁の眼鏡、そして長く伸びた髪は纏めることもせずに後ろに下げているというものである。

だが、それでも出るところは出ており、引っ込むところは引っ込んでいるという、女性らしい丸みを帯び、均整の取れたしなやかな曲線を描く体つきであり、よれたジャージの上からでも、その胸部はいかに大きいかを主張している。

そして顔立ちは非常に整っており、目の下のクマがあってもその美貌は充分過ぎるほどである。

 

疲れているのか、どこか虚ろな瞳のこの女性は、何を隠そうISの開発者、篠ノ之束であり、ここは彼女の研究所である。

そして、束は今、どこにでもあるような安っぽい椅子に座ってモニターを眺めている。

その画面には白式を装着しながらアリーナの中を飛び回る一夏の姿が映っている。

 

「でもでも、いっくんはやっぱり格好いいなぁ、ふふふ…。」

 

画面の中を縦横無尽に駆ける一夏の姿を見ている束は頬を弛ませ、恍惚の笑みを浮かべる。

 

アオニソマルマデー

 

そんなときに不意にデスクの上に置いてあった携帯電話がバイブ音と一緒に着メロを鳴らす。

突然のそれに驚いた束はビクリと体を震わせ、ディスプレイに表示される名前を確認する。

 

そしてその名前を確認した束は恐る恐るといった風に電話に出る。

 

「も、もしもし、ちーちゃん?」

 

「あぁ、私だ。」

 

電話の相手は織斑千冬であった。

世紀の大天才、篠ノ之束の唯一と言える親友である。

 

「ど、どうしたの?こんな夜更けに…。」

 

「どうしても聞きたいことがあった。」

 

「聞きたい、こと…?」

 

電話口の鋭い千冬の威圧感に束はしどろもどろになりながら言葉を返す。

 

「お前のことだ、どうせ見ていたんだろう?」

 

「え、えっと、それは、その…、うん…。」

 

顔が見えていなくとも、その表情を予想するに難くないその語調に、束の目は反復横跳びを開始する。

 

「あの刀はなんだ?白式には雪片弐型以外の武装はなかったはずだ。」

 

「え、えっとね、あ、あのね、も、もともと白式には雪片弐型ともう1つだけ武器を積んでたの…。それがあの刀なんだけど…。いっくんがある程度白式と仲良くならないと開放できなくなっちゃってたみたいで…。」

 

「できなくなっていた、だと?」

 

「ひうっ!?」

 

電話越しに聞こえてくる千冬の威圧的な声に束は思わず竦み上がる。

そんな小動物のような反応を聞いた千冬が小さな声で“やってしまった…。”と呟いた。

 

「お、怒らないでよちーちゃん…。ISの自己進化システムのお陰で私にも分からない所があったりするんだもん…。」

 

涙目になりながら言葉を返す束に千冬は溜め息を吐き、納得したように“あぁ、そうか…。”とだけ言った。

 

「分かった。あと、それと関連してだが、シュバルツェア・レーゲンに搭載されていたあの装置の件、お前は無関係なんだよな?」

 

「う、うん…。あの子のコアにあの装置がついてたのだって今回の件で初めて分かったことだし…。」

 

長い付き合いの親友の言葉に嘘がないと確信した千冬は“分かった”とだけ簡潔に言い、それまでとは打って変わって優しいトーンで話を切り出し始めた。

 

「今回はまぁそれだけを確かめたかったんだ。こんな時間に電話をして悪かったな。」

 

「う、うん、別にいいよ?その、久々にちーちゃんとお話できてよかったし…。でも、ちゃんと休みは取ってね?」

 

「ああ、分かっているよ。お前こそちゃんと食事は摂っているのか?」

 

「うん、も、もちろんだよ。だ、だって、いっくんとの約束、なんだし…。」

 

そう言った束の頬はほんのりと赤くなっていた。その見た目は本人の美貌もあって、とても絵になる。

 

「…束、前も言ったがな、お前のような引きこもりに私の大事な弟はやらんぞ?」

 

「ひ、引きこもりじゃないもん…。そ、そんな、人を社会不適合者みたいに言わないでよ…。ちょ、ちょっと知らない人と話したり、人混みが苦手なだけだもん…。」

 

「どうだかな…。さて、私も明日の仕事がある、そろそろ切るぞ。」

 

「う、うん。お休みちーちゃん。また、ね?」

 

“お休み、束”と千冬は返して電話を切った。

すると、束のいる部屋の外からバタバタと駆けてくる足音が響く。

 

「た、束様!!大変です!開発中の無人機が動作実験中にまたフリーズしましたぁ!!」

 

「ま、また、なのぉ…。」

 

部屋に駆け込んできた少女の報告に、束は胃がキリキリと痛む感覚に襲われ、デスクの上に置いてある胃薬の瓶に手を伸ばした。

 

その胃痛の感覚に、まだ今日は眠れなさそうだと束は確信するのであった。

 

 





残念美人になってしまった束さんでした。
原作と比べて、天才加減は押さえ目で、常識がある仕上がりになりました。

それと、VTシステムの作動はもう終わったので、個人トーナメントは最後までやります。



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第67話 決闘の後日談


早めに投稿することが出来ました。

では本編をどうぞ↓


「──ここは…?」

 

「ようやく起きたか…。」

 

目を覚ましたラウラの視界に入ったのは見慣れない天井。

そして聞こえて来たのは敬愛する織斑千冬の声だった。

 

「きょ、教官、私は…。」

 

「全身に負荷がかかったことで全身に筋肉疲労と打撲が少々、と言ったところだ。なに、明日には治る程度のものさ。」

 

それとなく話をはぐらかそうとした千冬であったが、そこは元教え子のラウラ。

簡単には騙されなかった。

 

「何があったんです?」

 

重く感じる体を起こした時、全身を激痛が駆け抜け、ラウラは顔を歪めるが、瞳だけは真っ直ぐに傍らに座る千冬を見つめている。

そんなラウラの態度を見た千冬は大きく息を吐き出すと、その鋭い目をラウラに向ける。

 

「一応は、重要案件且つ機密事項なんだがな。」

 

それとなくここだけの話であることを告げた千冬はゆっくりと口を開き、言葉を続ける。

 

「VTシステム、知っているな?」

 

「はい、正式名はヴァルキリー・トレース・システム…。過去のモンド・グロッソにおいて優秀な成績を残した部門受賞者《ヴァルキリー》の動きをトレースするシステムのことですよね…。ですがそのシステムは…。」

 

「あぁ、IS条約でもって現在ではあらゆる国家、組織、企業、機関においても研究、開発、そして使用、ありとあらゆる全てが禁止されている。…それがお前のISに積まれていた。」

 

千冬の宣告を受けて、ラウラはうつむいて口を閉ざす。

それでも千冬は言葉を続けた。

 

「システムは巧妙に隠されていた。機体に溜まったダメージやらなにやら、それに何より、操縦者の意思、願望が切欠になって発動するようになっていたらしい。現在学園でドイツに問合せている。近い内に国際IS委員会による強制捜査があるだろう。」

 

千冬の言葉を聞いたラウラはシーツをきつく、自身の爪が肌に食い込むことも厭わず握り締める。

噛み締めた唇からは一筋の赤い道が伝っている。

そんなラウラを見た千冬は椅子から立ち上がり、ラウラを見下ろす。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

 

「は、はい!?」

 

いきなり名前を呼ばれ、驚いてラウラは顔を上げて千冬と目を合わせる。

 

「お前は誰だ?」

 

「私は、私は…。」

 

言葉の続きが出てこない。

今の自分が何者なのか、それを言葉にできなかった。言えなかった。

 

「誰でもない、か。ふん、丁度良いな。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになれ。時間は山のようにあるんだ、これから3年間、この学園にいてもらうんだからな。」

 

満足したような表情で言いきった千冬はラウラを見下ろす。

それでも突然のことにまだ頭の整理が追い付いていないラウラを見て、千冬は彼女の頭を強引に強く撫でた。

 

「時間はまだまだたっぷりとあるんだ。精々悩み抜けよ、小娘。」

 

「あ……。」

 

笑った顔でそう言った千冬にラウラは何も言えなかった。まさか自分を励ましてくれるなどとは思ってもいなかったのだ。

何を言うべきか分からないまま、ラウラはポカンとして千冬を見つめていた。

 

そして千冬は自分の言うべき事を言って満足したのか、ベッドから離れて行き、出入り口のドアに手を掛ける。

そのときに何かを思い出したのか、立ち止まって、振り向くことなく声を掛ける。

 

「お前はお前にしかなれんのだ。背伸びをするなよ、じゃあな。」

 

それだけを言い残して千冬は部屋を去っていった。

 

 

「ふふふ、ははっ!」

 

千冬がいなくなってから数分後、ラウラは誰もいなくなった部屋の中で静かに笑っていた。

 

「ホントに、くく…、なんてズルい姉弟なんだ…。ふはは、二人揃って言いたいことだけ言って逃げた。」

 

どこか嬉しそうに呟くラウラ、笑いをこぼす度に、全身にひきつるような痛みが走るが、それさえも嬉しいと感じていた。

 

(自分で考えて、自分で行動しろ…か。そうだな、まずは…。)

 

 

決闘の結果は完敗、それも完膚なきまでに。

しかし、それが今はたまらなく心地よかった。

 

なぜならラウラ・ボーデヴィッヒという少女の生は、これから始まろうとしているのだから。

 

 

 

side 一夏

 

 

「おはよー織斑くん。」

 

「おう、おはよう。」

 

ラウラと決闘の翌日、1年1組の教室はいつもと大して変わらない。

でも、クラスのみんなが思い思いの会話をしているが、その中にラウラの姿はない。

そこまで酷い傷だとは聞いていないが、もしかしたら他の理由で来てないのかもしれない。

そう思ってオレは自分の席に向かう。

 

すると、ガラッと教室の戸を開ける音が聞こえた。

入り口の方を見るとそこには普段と変わらなそうな様子のラウラがいた。

 

「よう、ラウラ。体はもう大丈夫なのか?」

 

「あ、ああ、平気だ。」

 

そう返してくるラウラの顔は赤い。そしてなぜか体をモジモジさせている。

風邪でもひいたのだろうか?

 

「ラウラ、大丈ぶ──むぐっ!?」

 

声を掛けようとした瞬間だった。

 

ラウラに胸ぐらを引き寄せられ、唇を奪われた。

 

「っ!?!?!?」

 

「ん─ちゅ、む…。」

 

唇に伝わるのはラウラの柔らかな唇の感触、そしてオレの口の中を動くラウラの舌…って、舌ぁ!?

 

初めての感じに戸惑うオレ、けれども本能で理解した。

これをこのまま続けたらヤバいことになると。

 

「ひゃ、ひゃうは?(ラ、ラウラ?)」

 

「ん…ぷはっ。どうしたのだ?」

 

オレが何か言いたいのを察したのか、ラウラはオレの唇から離れて顔を見上げてきた。

頬は赤くなっていて、目は若干潤んでいる。そして、ラウラの口元は、光を反射していた。

そんなラウラの姿にオレは思わずドキッとしてしまう。

 

だが、そうもしていられない。

周りのみんなはあまりのことに呆然としている。

いや、目の前でクラスメイトが舌を絡ませるようなアダルティなキスをしたら誰だってそうなる。オレだってそうなる。

 

「ら、ラウラ…さん?急にどうしたん、ですか?」

 

「お前を私の嫁にする。これは決定事項だ。誰の異論も認めんぞ。」

 

「よ、嫁…?婿じゃなくてか?」

 

あまりにも突拍子もないラウラの発言に思わずそう冷静に返してしまう。

そしてそんな謎発言をしたラウラはオレの前でどや顔を披露している真っ最中だ。

 

「日本では気に入った相手を“嫁”と呼ぶのが一般的なのだろう?」

 

誰だよ、そんなデタラメを教えた奴は…!!

 

「「「あ、あ、あ…。」」」

 

ラウラの発言から遅れること数秒、クラスの中に変な間ができる。

そして、その直後──

 

「「「ああああああっ!!織斑くんがキスしたぁあああ!!?」」」

 

クラス総出の大絶叫だ。

これ、絶対他のクラスにも聞こえてるよね?

 

教室の中はもう黄色い絶叫で一杯だ。みんな口々に言いたいことを言ってやがる…。

 

「お説教の時間だオラァ!!」

 

そんな時に、教室の戸をぶち破って見知った顔が乱入してきた。

そう、鈴だ…。

両手にISを部分展開、手には青竜刀を握っていらっしゃる。もちろん表情は般若の如し…。

 

「ま、待ってくれ鈴!オレは何もしちゃいない、オレは悪くねぇ!」

 

「あんたが悪いに決まってんでしょうが!!」

 

既に青竜刀を掲げ、殺る気スイッチの入っている鈴、これはヤバい…。

 

「待て鈴、話せば分かる!!」

 

「やかましい!今死ね!すぐ死ね!骨まで砕けろ!!」

 

鬼の形相で青竜刀を振り下ろす鈴。

嗚呼、終わった、オレの人生はここまでか…。

 

諦めて目を閉じる。その瞬間に金属音が鳴り響いた。

そして覚悟していた痛みはいつまでも来ない。

恐る恐る目を開けてみると、そこにはスターライトMk.Ⅱで青竜刀を受け止めるセシリアの姿があった。

 

「落ち着いてくださいな、鈴さん。」

 

いつもの上品な言葉遣いで鈴を宥めるセシリア。助かった、これで──

 

「話せば分かるのですよね、一夏さん?ならご説明願います、私達の前でラウラさんとキスした理由を…。」

 

え?せ、セシリアさん?

そのお目目に光がありませんよ…。顔は笑ってるのに、目が全然笑ってない…。

 

これは、マズイことになった…。

早く脱出しないと命が危うい…。

オレはセシリアと鈴から逃げるように後ろに下がる。

そんなオレの視界の端に鋭く光る物が映り混んだ。

 

「おい、一夏…。逃げるとは男らしくないぞ?」

 

声の主は箒…。ということは視界に映っているのは、やっぱり日本刀だ。

 

「箒、さん。その物騒な代物をしまってくれませんか?」

 

「安心しろ、これは我が篠ノ之家に伝わる名刀の内の一本だ。首を落とすに不足はない。」

 

どう考えても話が通じる訳はない。

これは本格的にヤバいな、オレはまだ死にたくないんだ…。

 

どうにか起死回生の一手を模索するオレの目にシャルが映った。

 

「やぁ一夏。」

 

「よぉ、シャル。」

 

天使の笑顔を浮かべるシャル、女神はここにいたんだな。

地獄に仏とはまさにこのことだろう。

 

「一夏ってさぁ…、他の女の子の前でキスしちゃうような人なんだね。ボク、ビックリだなぁ。」

 

「あの、だな、シャル…。オレはキスされたんであって、キスしたんではないのよ。そんでさ、なんでISを起動してるんです?」

 

「なんでだろうねぇ…。」

 

いつの間にやら、シャルの手には巨大な銃が握られている。そして鈴も、セシリアも完全にISを身に纏っている。

 

はは、あはは、はははははははは…。

 

人間ってホントにヤバくなると笑うしかないってのはどうやら本当のことらしい。

 

 

ズダァァアアアアアアン!!

 

 

今朝の教室は轟音と爆音に衝撃で揺れ、硝煙の匂いが充満した。

 

 

side out...

 

 

もちろんこの1件が千冬に伝わらないはずがなく、ISの無断使用を行った凰鈴音、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、並びに騒動に荷担した織斑一夏、篠ノ之箒、ラウラ・ボーデヴィッヒの6名は来週に控える学年別個人トーナメントまでの間、ISの使用を一切合切禁じられたのであった。

 

 





完全に空気だった主人公の南美さん…。

じ、次回からはちゃんと出番あるし。
むしろ学年別個人トーナメントのために出番を取っといてるだけだし。



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第68話 束の間の出来事


久々にこんな早く投稿できた気がする。

※お知らせがあります!
活動報告でアンケートを実施しています。
内容は「IS世界に世紀末を持ち込む少女」の今後の展開に関わるものです。
是非是非!アンケートに回答をお願いします!


では本編をどうぞ↓


「ズェアッ!!」

 

「っ…。」

 

朝早くの中庭では木刀を打ち合う音と声が響いている。

そして一瞬の一合いの後、一夏と狗飼の動きが止まる。

 

「…太刀筋が、変わりましたね…。」

 

「え?」

 

何気なく放たれた狗飼の言葉に一夏は首を傾げる。

言われた本人としては何も変えたつもりはなかった。

 

「よくなりましたね、気持ちの籠った良い太刀筋です。」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

師狗飼から誉められた一夏は上がりそうになる口角を必死に押さえて頭を下げる。

 

「これからも慢心せずに励んでくださいね。それでは今日の稽古は終わりましょう。」

 

「はい!ありがとうございました!!」

 

感謝の気持ちを込めて一夏は頭をもう一度下げる。

そして狗飼がその場から立ち去った事を確認してから頭を上げ、部屋に引き上げていった。

 

 

 

「ふぅ…。」

 

手持ちのタオルで額の汗を拭いながら狗飼は敷地の中を見回る。

そんな狗飼にある人物が駆け寄った。

 

「狗飼さ~ん!」

 

「山田先生…。おはようございます。」

 

「はい、おはようございます。」

 

その人物は1年1組の副担任、山田真耶である。

その手には風呂敷に包まれた大きな荷物が抱えられている。

 

「すぐに見つけられてよかったです。はいこれ、皆さんで食べてくださいね。」

 

「いつもありがとうございます。入れ物はまた、夕方にでも洗って返しますね。」

 

真耶の抱えている荷物を受け取った狗飼は小さく頭を下げる。

その仕草に真耶は“良いんですよ、お礼なんて。”と照れ臭そうに返した。

 

「簡単なものしか作れてませんし、それに、いつも働いてくださっている皆さんへのお礼はこれくらいじゃ返せませんよ。」

 

エヘヘと外見相応に笑う真耶は、何かを思い出したように顔の前で手を合わせた。

 

「そうだ狗飼さん、朝ご飯はもう済ませましたか?」

 

「いえ、まだですが。」

 

「でしたらそこのベンチで一緒に食べませんか?差し入れの分も一緒に作ったら、その、作りすぎてしまって…。」

 

真耶からの誘いに狗飼は小さく唸り、顎に手を当てた。

そして数秒後、もう一度真耶の方に向き直る。

 

「では、ご一緒させていただきます。山田先生のご飯はいつも美味しいですし。」

 

「はい、では行きましょう。」

 

真耶は笑顔を浮かべ、近くにあるベンチに座る。

その隣に狗飼は遠慮がちに座った。

 

「差し入れのご飯と同じ内容になってしまうんですが、どうぞ…。」

 

真耶は取り出した大きめのお弁当容器の蓋を開ける。

おにぎりや玉子焼き、サラダと言ったいかにもなお弁当が詰められていた。

見た目にも色味鮮やかなそれは、素人目からでも栄養バランスに気を遣って作られたと分かるものだった。

 

「おお…。いつもながら山田先生のお弁当の出来は凄いですね。」

 

関心したように呟く狗飼はおしぼりで手を拭くと、目をキラキラさせながらおにぎりに手を伸ばした。

 

「それではいただきます。」

 

「はい、召し上がってください。」

 

ずいと真耶はお弁当を狗飼に渡し、自身はもう1つの小さなお弁当容器を取り出した。

二人は早朝の新鮮な空気の中でベンチに並んで座り、一緒に朝食を摂ったのであった。

 

 

 

時は進んで昼休み、北星南美は格納庫の中に来ていた。

 

「簪ちゃん、いる~?」

 

「ここだ。」

 

格納庫の隅で作業服姿の簪が南美に手を振る。

簪は南美の姿を確認するとすっくと立ち上がり、首から下げているタオルで顔の汗を拭う。

 

「どうした?」

 

「いやいや~、こいつを見てほしくてね。」

 

そう言って南美は1枚のプリントを差し出した。

それを見た簪はニヤリと口角を上げる。

 

「やっぱりそれか…。個人トーナメントのタッグ、私と組むか。ふふふ…。」

 

“面白い!”と口にした簪は南美からプリントを受けとると、胸ポケットからボールペンを取り出してサインした。

 

「目指すは優勝、そうだな?」

 

「もっちろん!やるからには徹底的に、全力で…だよ!」

 

二人はニヤリとした笑みを浮かべながら拳を付き合わせる。

 

「「ククク…、フハハ…、ハッーハッハッハッ!!」」

 

人気のない格納庫の中で南美と簪の笑い声だけがこだまするのであった。

 

 

 

「ふむ…、だいたい出揃ったか。」

 

千冬は教員室の中央に置かれたテーブルに、コンビ登録のプリントを並べて唸っていた。

 

「おおむね予想通りって感じですね~。」

 

千冬の横からプリントを眺める真耶が呟くと、千冬はそれらの中から4枚のプリントを手に取った。

 

「問題はコイツら、だな。」

 

「専用機組の子達ですね。確かに、これは偏り過ぎですよね…。」

 

千冬が手に取ったのは専用機持ち達のペア。

織斑一夏・シャルル=デュノアペア、セシリア=オルコット・凰鈴音ペア、ラウラ=ボーデヴィッヒ・篠ノ之箒ペア、そして北星南美・更識簪ペアの4組である。

 

「大会前に6名を練習禁止に出来たのは運が良かった。アイツらが出来ない内に一般生徒組が連携の練習が出来るからな。」

 

「そうですね、それくらいの準備はあった方がいいです。あとは組み合わせですね。」

 

「ランセレが仕事をしてくれれば良いんだがな…。」

 

ふぅと溜め息を吐いた千冬は真向かいのテーブルに置かれているパソコンに目を遣る。

そしてパソコンを視界に映すと、また大きく溜め息を吐くのであった。

 

 





アンケートですが、本編が臨海学校編を終える頃まで実施しているので、どうかよろしくお願いします。



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第69話 乙女達の作戦会議


連日投稿です!

アンケートもまだまだ受け付けてますので、よろしくお願いします。

では本編をどうぞ↓


「では、これで今日は解散だ。」

 

「「「ありがとうございました!!」」」

 

土曜日、半日だけ授業のあるIS学園は今日も平和に全ての授業が終わった。

解散となり、丸々午後の自由を与えられた生徒達はこれから思い思いの行動に移る。

 

ある者は目前まで差し迫った学年別個人トーナメントに向けてパートナーとの連携を練習したり、またある者はルームメイトや親友達と会話に花を咲かせたり。

 

南美もまた、来る大会に向けてパートナーの更識簪のもとを訪れていた。

 

 

「来たか。」

 

格納庫のいつもの場所で簪は南美を出迎える。

そんな簪の今の格好はと言うと、作業着の上をはだけ、袖の部分を腰で結び、白いタンクトップ姿を惜しげもなく披露している。

南美が来たことで、それまでの作業を一時中断し、顔についている油を首から下げているタオルで拭き取る。

 

「さて、そんじゃあ作戦会議を始めよっか。」

 

「私と南美のスタイル的に前衛後衛に別れるのは鉄板。あとは何を決める?」

 

「あんまり細かく決めてもな~。」

 

う~んと唸りながら南美は背中を逸らせる。

 

「いや、案外決めなくても良いかもしれない。」

 

簪の提案に南美は“へ?”と聞き返す。

 

「私の玉鋼と南美のラストは役割を完全に分担できる。だからこそ、やることは大して変わらない。あとは高度な柔軟性を保ちつつ、いかに臨機応変に対応できるか…。」

 

「なるほどねぇ。まぁ、確かに、その通りなんだけど。」

 

「私と南美のコンビならどんな相手にも負けはない。なにより、私には秘策がある。ちょっと耳を貸して。」

 

簪の言うとおりに南美は片耳を簪の方に向ける。

その耳に簪は手で作った筒を当てて小声で話し始めた。

 

「ゴニョゴニョ─でゴニョゴニョ──だ。どうだ?」

 

簪の話を聴き終えた南美は簪と目を合わせるとニヤッとする。

 

「簪ちゃ~ん、そちも悪よのう~。」

 

「ククク、誉めても何も出やしないぞ?」

 

 

 

「てか、どうするセシリア? 一夏とシャルル、ラウラと箒、あと南美と4組の代表のペア。本気で対策しなきゃヤバいわよ。」

 

「そうですわね、一夏さんの方は私に対策はありますが、他の方となると話は別ですわ。」

 

昼時の食堂で二人は向かい合って座り、昼食を摂りながらトーナメントに向けて話し合っている。

 

「私が盾になってセシリアが撃ちまくるとか、どう?」

 

「悪くありませんが、鈴さんが即座に落とされる危険性が高いですわね。それに、スターライトMk.Ⅱは連射が利きませんし。」

 

二人揃ってう~んと唸っていると鈴が何かを閃いたのか、パチンと指を鳴らした。

 

 

 

「さて、どうしようか一夏。」

 

「って言ってもよ、オレの出来ることがほとんどねぇからシャルにおんぶに抱っこ状態になりそうなんだよなぁ。」

 

「それで良いんじゃないかな?一夏は一夏の出来ることを全力で。ボクはそれを全力でサポートする。それがたぶん一番いい作戦だと思う。」

 

そう言ってシャルロットは笑ってサムズアップする。

その笑顔を見て一夏は同じように笑い、サムズアップを返した。

 

 

 

「ラウラ、私はどう動けばいい?」

 

「私もそこまで上手く戦いを組み立てられる訳じゃないからな。実戦的な練習もしてない内にアレコレ言っても仕方ない。ここはぶっつけ本番だな。」

 

ラウラの言葉に箒はむぅと小さく唸る。

そんな箒を見て、ラウラは握り拳を差し出した。

 

「そんなに気負う必要はないぞ。私も箒も、一夏も南美お姉ちゃんも、セシリアも、鈴も、シャルルも、みんなまだ未熟なんだ。自分に出来ることをやれば良いんだ。私の背中は任せたぞ、箒!」

 

「…ふ、そうだな。任せろ、お前の背中はこの篠ノ之箒が完璧に守ってやる。」

 

箒は目の前の小さな相棒の信頼に応えるように力強く言い放ち、拳を付き合わせた。

 

 





まぁ、短い回でした。

ちなみにアンケートはこちらから↓
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第70話 大会前の休日


連日投稿ならず。

では本編をどうぞ↓


「はぁ…。」

 

「どうしたの一夏、元気ないね?」

 

学年別個人トーナメントを目前に控えた日曜日、一夏はシャルロット、鈴、箒、ラウラと共にレゾナンスに来ていた。

しかし一夏は浮かない顔で大きく溜め息を吐いている。

 

「いや、やっぱり練習無しは不安だなって。」

 

「そんなの、ここにいる全員そうなんだけど?」

 

不安を隠しきれない一夏に、隣を歩く鈴が言う。

そしてその鈴の言葉にラウラが同意するように頷いた。

 

「嫁よ、万全の態勢で戦いに挑めることの方が少ないのだ。今更そんな泣き言は通用しないぞ。」

 

「それは分かってるんだけど、つい…な。」

 

「シャキッとしなさいよバカ!今更言っても仕方ないでしょーが!」

 

いつまでも諦めのつかない一夏の尻を鈴は思いっきり蹴り上げた。

 

「いって!!」

 

「まったく、あんたがそんなんじゃ楽しみが半減するでしょうが。」

 

ふんっと鼻を鳴らして鈴はずんずんと前を歩いていく。

その態度から、ある種の激励を感じ取った一夏は小さく息を吐いて、鈴の隣まで歩いていく。

 

「サンキュー鈴。」

 

「礼はいらないわよ?全力のあんたを正面からボコりたいだけだから。」

 

鈴はそれだけ言って目的の場所に駆けていく。

鈴の駆け込んだ場所からは大勢の男の声や、音楽が聞こえてくる。

 

鈴がその敷地に足を踏み入れた瞬間、中から“げぇ!?”という声が漏れてきた。

 

ここは全国の格ゲーマーたちの聖地TRF‐R。

日夜格ゲーマー達が集い、研鑽を積む場所である。

 

 

「ヤッホー!モヒカン諸君、このファリィが遊びに来たよー!」

 

(モヒ・ω・)<モヒカン勢いじめるのはやめてください。死んでしまいます。

 

(モヒ゜Д゜)<げぇ!?ファリィ!?

 

鈴が店内に踏み込んでいつもとは違うテンションで声を発すると、筐体の近くにたむろっていた若い男達が驚愕の表情を浮かべる。

 

「そんなに怖がんないでよ、今日は楽しくゲームしに来ただけなんだからさぁ。」

 

怯える男達を安心させるように鈴はあははと軽く笑って見せる。

その害意のない様子に男達はすっと警戒を解いた。

 

そうして場の空気が緩んだ時、鈴を追っていた一夏ら一行が店内に入る。

 

(農・ω・)<おー、イケメンくんも来てたのか。

 

(罪゜∀゜)<なんか美少女が増えてない?

 

(侍・Д・)<両手に花…。

 

(メル゜Д゜)<あの男の子、可愛いな。

 

(モヒ・ω・)<でもね、一番はファリィだよ。

 

(暁゜Д゜)<いや、ノーサだろjk

 

(蒼・Д・)<いーや、カセンさんだね!

 

一夏の顔を見た若い男達がその隣や近くを歩く箒やラウラ、シャルロットに目を奪われる。

 

一方で、完全に男達の眼中から外れた一夏は店内の奥に進み、ある人物を探す。

その人物とは1分もしないうちに出会うことができた。

 

「やぁ、また来てくれたんだねぇ。」

 

「カセンさん、お久しぶりです。」

 

一夏の探し人はここの店員のカセンであった。

カセンには以前、絡まれたときに助けられた事のある一夏はたまにここ、TRF‐Rを訪れてはカセンと親交を深めていたのである。

 

 

「あんたも暇だねぇ、こんなところに来るなんて、それも女連れてさ。もっと別のところに行けば良いのに…。」

 

店内のベンチに並んで腰掛けると、カセンはタバコから禁煙パイポにシフトする。

 

そしてからかうようなカセンの言葉を聞いた一夏は、横にいるカセンに顔を向ける。

 

「お、オレは、その…、カセンさんに、会いに来たから…。カセンさん、と、話したかったから…。」

 

「……、ぷ、あはははは!」

 

真剣な顔つきで見つめてくる一夏と、その言葉に最初は黙っていたカセンだが、遂には吹き出してしまった。

 

「冗談もほどほどにするんだねぇ、年上をからかうもんじゃないよ?あんたよりもだいぶ年上の女に何を言ってるのさ。」

 

「じょ、冗談じゃありません!」

 

熱くなって言葉を返そうとする一夏の唇にカセンの人差し指が当てられる。

 

「あんた位の年頃はねぇ、年上の女が現実よりもキレイに見えちまうもんなのさ。あんたのその恋心も、たぶんまやかしみたいなもんだろうねぇ。」

 

禁煙パイポを中指と人差し指で挟んだカセンはふぅとタバコの煙を吐く真似をする。

そんなカセンの手を一夏はキツく握り締めた。

 

「ち、違います!オレは本気で──」

 

「そこまでに、しなよ。」

 

“本気で好きなんです!”その言葉を一夏が言い切る前にカセンは言葉を挟む。

 

「あんたは…、バカみたいに真っ直ぐだねぇ。」

 

そう言ってカセンは一夏の手をゆるりと振りほどくと、エプロンのポケットからメモ帳を取りだし、それにボールペンで何かをさらさらと書き込んでいく。

 

「まぁ、それでも嬉しかったよ。真っ直ぐに好意を向けられるのも、悪くないねぇ。」

 

カセンはメモ帳の書き込んだページをビリっと破り、一夏に渡す。

 

「ここがそんなに忙しくない時間帯さ。たまにだったら話し相手くらいにはなってやるよ。」

 

禁煙パイポをくわえ直したカセンはそれだけ言って店の奥へと歩いていく。

その後ろ姿を一夏はじっと、背中が見えなくなるまで見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、IS学園に残ったセシリアはと言うと──

 

 

「チェルシー、コレが例の物ですのね?」

 

「はい、お嬢様。」

 

人気のない格納庫の中で幼馴染み兼専属メイドのチェルシーと会っていた。

セシリアの眼前には大きなアタッシュケースが置かれており、彼女の目はそれに釘付けになっている。

 

チェルシーはケースを開け、中に入っているものをセシリアに見せる。

 

「こちらになります。」

 

「…。」

 

セシリアは差し出されたそれを手に取る。そして食い入るように様々な角度から眺め、観察する。

その間、セシリアは細かくその物について質問し、チェルシーはそれに即座に答えていく。

 

「…パーフェクトですわ、チェルシー!」

 

「感謝の極み。」

 

暫くの観察と応答を終えたセシリアが笑顔でそう言うと、チェルシーは深々と頭を下げた。

 

「ですが、お褒めの言葉は執事長にもお掛けください。お嬢様のオーダーに応えるために最も貢献して頂きましたので。」

 

「そうでしたか…。これはもう執事長には頭が上がりませんわね。」

 

チェルシーの言葉にセシリアはふふふと小さく笑って、実家の屋敷を切り盛りしている執事長の老紳士のことを思い浮かべる。

 

「ならばチェルシー、執事長にお伝えください。“貴方のお蔭で優勝することが出来そうだ”…と。」

 

「かしこまりました、お嬢様。」

 

セシリアの言葉にチェルシーは頭を下げ、その場を後にした。

そしてセシリアは一人っきりの格納庫の中で、渡されたそれをきつく握りしめるのであった。

 

 

 





顔文字の説明を↓
(農・ω・)…BASARAプレイヤー
(罪・ω・)…GUILTY GEARプレイヤー
(侍・ω・)…サムスピプレイヤー
(蒼・ω・)…BLAZBLUEプレイヤー
(暁・ω・)…アカツキ電光戦記プレイヤー
(メル・ω・)…メルブラプレイヤー
(モヒ・ω・)…北斗プレイヤー

となっております。

え?南美はどこにいるのかって?
IS学園で簪ちゃんと悪巧みの真っ最中ですよ。


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第71話 大会前夜


そろそろこのペースが維持できなくなりそうです。

では本編をどうぞ↓


学年別個人トーナメントを翌日に控えた夜、生徒達はそれぞれの時間を過ごす。

 

いつもと変わらない生活を送る者もいれば、明日への入れ込みから気合いが空回りする者まで、十人十色である。

 

 

 

パターン1 北星南美の場合

 

 

「も、もしもし、ほんわ君さん?」

 

南美は人気のない中庭で、恋人のほんわ君に電話を掛けている。

相手のほんわ君も、3コールで電話に出た。

 

「はい、ほんわ君です。」

 

いつもと変わらない、優しい声。そんなほんわ君の声に南美は安心したような顔になる。

 

「どうしたの南美…。」

 

「あ、や、その…ですね…。あの…。」

 

南美は頬を赤く染めながらもじもじと身を左右に捩る。

やがて意を決したかのように息を吐くと、話を切り出し始めた。

 

「あの、ですね…。私明日に大会があるんです。だから、その~…。」

 

南美は1拍置いて呼吸を整える。

そして大きく息を吸い込んで、次の言葉を紡ぐ。

 

「だから、だから、が、頑張れって、言ってくれませんか?」

 

「はい、良いですよ。」

 

間を置かずにほんわ君は了承する。

そのあっさりした対応に南美は緊張していた体から力が抜けていくのを感じた。

それと同時に、さっきまでよりも心臓がより早く脈打つのを感じる。

 

「じゃあ言うよ?」

 

「は、はい…。」

 

きゅっと目を閉じて南美はほんわ君の言葉を待つ。

そして電話越しに優しく囁かれた言葉に南美はどこか、体がふわふわと浮くような感覚に陥った。

 

「あ、ありがとう、ございます。その、それで、ね…、もし優勝できたらね、ご褒美、欲しいなって…。」

 

「ふふ、良いよ。じゃあ優勝報告、期待してるね。」

 

「はい!」

 

その後、上機嫌になった南美はIS学園でのアレコレを話したり、他愛ない世間話をほんわ君と交わし、ご機嫌のまま眠りにつくのであった。

 

 

 

パターン2 織斑一夏の場合

 

 

「明日は大会…ですか…。」

 

「はい。」

 

一夏は師である狗飼のもとを訪ねていた。

場所は寮から離れた植え込みの奥、開けたそこには月の光がすぅと差し込んでいる。

 

「今の君ならよほどがない限り、負けはないでしょう。ISのことはそこまで詳しくありませんが、何故かそう思えます。」

 

「本当ですか!?」

 

「えぇ、まぁただの勘…ですが。」

 

最後の狗飼の言葉が聞こえていないのか、一夏はぐっとガッツポーズをして全身で喜びを表現する。

そんな一夏の様子に狗飼は“勘なんですがね”と小さく呟いて、頭上の月を見る。

 

「狗飼さん!明日は勝って、優勝してここに来ます!」

 

言うや否や、一夏は狗飼の返事も聞かずに全力で駆け出していった。

 

残された狗飼はふぅと息を吐いて、月を見上げるのであった。

 

 

 

パターン3 凰鈴音の場合

 

 

「………。」

 

凰鈴音は落ち着いていた。

ベランダに座り、目を閉じて今までの自分が積み重ねてきた事を思い出す。

師匠の呂虎龍と出会ってから、必死になって積んできた時間を。

 

(私は強い、そう、強い!誰よりも強い、誰にだって勝てる!一夏にも、南美にも、箒にも、セシリアにも、ラウラにもらシャルルにも、誰にも負けない!!)

 

「……よし!」

 

いつもの精神統一を終えた鈴はすっくと立ち上がると、パチーンと両手で頬を叩く。

くっきりと左右の頬に手のひらの跡が残るのも構わずに鈴は部屋に戻る。

 

同室のティナがその頬の紅葉について尋ねたが、鈴は“何でもない!”と力強く答えて眠りについた。

 

 

 

パターン4 セシリア・オルコットの場合

 

 

(…いよいよ明日、ですわね。)

 

セシリアはベランダの椅子に腰掛けながら、自分で淹れた紅茶を味わっていた。

その面持ちからは緊張が読み取れ、ティーカップを持つ手も小さく震えている。

 

(大丈夫、今の私は過去よりも強い。今の私ならば一夏さんにも勝てます、それに秘策だってあるんですから…。何も心配することはありませんわ…。私は、一人で戦う訳ではありませんもの。)

 

セシリアは自分のパートナーの顔を思い浮かべる。

すると、先程までの震えが嘘のように消えていた。

 

「そうですわ…、私は一人っきりではありません。」

 

すっと紅茶を飲み干したセシリアは右手で銃の形を作り、夜空に浮かぶ月に向ける。

 

「勝たせていただきますわ、私とブルー・ティアーズ、そして凰鈴音さんとの力で…。」

 

そう言ってセシリアは“パァン“と呟き、右手で作った銃を月に向かって撃つ真似をした。

 

 

 

パターン5 篠ノ之箒の場合

 

 

「はぁっ!!」

 

薄暗い剣道場の中で、篠ノ之箒の声が響く。

それと同時にだんっと踏み込む音が鳴る。

 

鞘から高速で引き抜かれた刀の刃が月明かりを鈍く反射していた。

 

「……ふぅ…。」

 

暫くの残心の後、箒は刀を鞘に納める。

そして刀を床に置き、おもむろに正座する。

 

(明日、いよいよ明日だ…。明日、優勝して私は一夏と…。)

 

凛とした顔つきとは裏腹に、やや不純な心持ちで箒は明日に向けて静かに闘志を高めていた。

 

 

 

パターン6 シャルロット・デュノアの場合

 

 

(明日、かぁ…。うん、大丈夫、ボクと一夏なら勝てるさ。)

 

部屋の中で一人、シャルロットは空を見上げていた。

明日への緊張も手伝い、大人しく寝ているような気分ではなかったのだ。

 

それでも不安はない。

 

周りの力を侮っている訳でも、自分の実力を過信している訳ではない。

そこにあるのはパートナー、織斑一夏への信頼感。

ISに関しては素人、けれども逆境に強い彼の事をシャルロットは心から信頼している。

 

(一夏はボクの恩人なんだ、助けてもらった恩を少しでも返すために、ボクは一夏と一緒に勝つ!)

 

シャルロットは拳を握り締め、明日への決意を固めるのであった。

 

 

 

パターン7 ラウラ・ボーデヴィッヒの場合

 

 

「作戦は充分練った…。箒の実力も確か…。」

 

“ふむ”と考えながらラウラは食堂の椅子に座る。

最近のラウラは考え事の最中にふらっと食堂を訪れるようになっていた。

 

それが何故かはラウラ本人にも分からない。

ただ、食堂にいるときは考えがすんなりと纏まることだけははっきりしていた。

 

(…あまり考え過ぎても仕方がない、か…。まぁ、今は私と箒の力を信じるしかないな…。)

 

暫くの間、虚空を見つめていたラウラはそう結論着ける。

 

(勝てれば良い、いや、勝つ。)

 

心のうちで明日への心持ちを上げていくラウラはすっと立ち上がり、そのままの足で自室に帰っていった。

 

 

 

パターン8 更識簪の場合

 

 

簪は夜の格納庫で最後の調整を行っていた。

彼女の表情はとても楽しそうで、その顔からも明日へのモチベーションがうかがえる。

 

「いよいよ明日だね、玉鋼…。やっと貴方が表舞台に立てるんだよ…。」

 

そう語りかける簪の目は、いつもの自信満々なものではなく、愛しい我が子を見守る母親のような目をしていた。

 

「私と貴方、それに南美もいる…。だから、絶対に勝つよ、玉鋼!」

 

夜も更けていく頃、簪は丹念に玉鋼の整備を続けた。

 

 

 

 

 

「いよいよ明日ですね、先輩!!」

 

「ああそうだな。」

 

教員室でトーナメントの組み合わせを表示するパソコンの前で千冬と真耶は画面に目を向けていた。

 

「うまい感じに専用機持ちの子たちが散らばりましたね。」

 

「うまくいきすぎな気もするがな。まぁいい。さてそろそろ帰るか、山田くん。明日も早いぞ?」

 

「はい!そうしましょう。」

 

パソコンの電源を落とし、教員室の戸締まりを確認した千冬たちはそのまま眠るために部屋に帰っていった。

 

 

 

 

そして翌日、決戦の日はやって来る。

その日は朝からどことなく浮き足立ったような、熱気に包まれた空気が漂っていた。

 

 

 




いよいよ次回から学年別個人トーナメントが始まります。

お楽しみに!!


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第72話 開幕!


(簪・_・)<いよいよ本格的に私の出番だ!

では本編をどうぞ↓


学年別個人トーナメント当日、その日は早朝から教員達によって廊下の掲示板やアリーナの出入り口にトーナメントの組み合わせが張り出されていた。

 

「…見事にバラバラになったもんだね。」

 

「決勝で織斑、デュノアペア対篠ノ之、ボーデヴィッヒペアの勝った方と、か…。」

 

張り出された組み合わせを見て、南美と簪は足を止める。

 

「まぁ、良いんじゃない?専用機持ち全員に勝たなきゃいけないって展開も予想してたんだからさ。」

 

「ふん、それはあるな。それよりもこれだ。」

 

そう言って簪が指差したのはセシリア=オルコット・凰鈴音ペアだった。

 

「順当に行けば準決勝の相手はコイツらだ。私達と同じタイプのコンビ…。楽に勝てる相手じゃない。」

 

「まぁ、それは当たった時に考えよう。今は目の前の試合…かな。」

 

「確かに…先を見すぎて足下を掬われるのは面白くない。」

 

南美と簪は自分達の対戦相手に目を移し、その名前を確認すると悪い笑みを浮かべながら控え室へと帰っていった。

 

 

 

 

「さぁシャル、試合だぜ!」

 

「うん、全力で行こう。」

 

1回戦第1試合、それが一夏とシャルロットの出番であった。

1学年の話題の男子ペアの試合と言うこともあり、アリーナの観客席には1学年だけでなく、上級生も観戦に訪れていた。

そんな彼らの対戦相手は至って普通の生徒である。

二人とも打鉄を身に纏い、緊張の面持ちでアリーナの中で一夏達が現れるのを待っている。

 

 

そして1分するかしないかと言ったところで、アリーナに織斑一夏とシャルロット・デュノアが登場した。

 

その態度に微塵の油断もなく、本気であることが容易に窺い知れた。

 

「あ、はは…、は…。」

 

「終わった……。」

 

一夏らの対戦相手は本気の二人を見て、意気消沈したのであった。

 

 

 

「危なげなく勝ったね~。」

 

「ふん…、そうじゃないとおもしろくない。織斑一夏を倒すのは私だ。」

 

一夏・シャルロットペアの戦いをモニターで見ていた南美と簪はアッハッハと笑いながらその感想を漏らす。

 

 

そして大会は順調に進行して行き、1回戦も中頃に差し掛かり、ラウラと箒の出番が回ってきた。

 

「ふぅ…。初戦か…。」

 

「箒、あまり気負い過ぎるなよ?私は箒が組んでくれただけでも嬉しいんだ。」

 

控え室の中で張り詰めた空気を纏う箒にラウラが言う。

その言葉に箒は“あぁ”と小さく呟き、頷いた。

 

「行こうかラウラ、私とお前の力を見せてやろう。」

 

箒は立ち上がり、カタパルト横に置かれている打鉄を身に纏う。

ラウラも専用機のシュバルツェア・レーゲンを身に纏い、カタパルトに入る。

 

 

 

「ラウラと箒か…。」

 

「ま、あの二人なら勝てるでしょ。」

 

観客席の冗談で二人は上級生に遠巻きに囲まれながら手元の組み合わせ表を眺める。

 

 

「ねぇ、あれが噂の男の子?」

 

「織斑くんも良いけど、あっちの子も可愛い!」

 

「二人とも好きな人とかいるのかな?」

 

女3人寄れば姦しいとはよく言ったもので、集まった上級生たちは一夏とシャルロットを肴にきゃいきゃいと騒ぐ。

 

もちろんそれが当人達に聞こえていないはずはなく、二人は若干の居心地の悪さを感じるのだが、今はラウラと箒の試合の方が重要だと判断したため、その場に留まった。

 

 

 

試合は終始一方的な展開だった。

ラウラが射撃によって追い込み、足の止まったところに箒の強烈な一太刀を浴びせる立ち回りを基本に対戦相手を難なく下したのである。

 

「はは、やったなラウラ!」

 

「ああ!さすが箒だ!」

 

控え室に戻った二人は満面の笑みでハイタッチを交わす。

年相応の笑顔を見せる二人はそのままハグし合い、先ずは目の前の一勝を喜んだ。

 

 

 

専用機持ちがその練度の高さを見せつけた1回戦、セシリア=オルコット・凰鈴音ペアも危なげなく勝ち、迎えた後半。

遂にあのペアの出番がやって来た。

 

その試合の観客席には専用機持ち達はもちろんのこと、彼女の噂を聞き付けた上級生も観戦に訪れていた。

 

 

「ヒャッハー!試合だぁああああ!!!」

 

大声を張り上げながらパッケージ装備“水鳥”を纏った南美がアリーナに姿を現した。

その後ろを追うように完全装備した玉鋼に乗った簪が現れる。

 

外見とのギャップが激しすぎるその登場の仕方に、彼女な本性を知らない生徒は度肝を抜かれた。

 

 

「さぁ、試合を始めようか!ハリー!ハリーハリー!ハリーハリーハリー!!」

 

「玉鋼…。貴方の力を見せつけるよ!」

 

片や笑いながら拳を打ち鳴らし、片や要塞状態で武器を構える。

そんな二人組と好き好んで対峙したいと思う者が果たしているだろうか、いや、いない。

ただ一部のバトルジャンキーを除いて、ではあるが。

 

もちろん、IS学園にはそんなバトルジャンキーなど数えるほどしかおらず、南美達と対峙しているのはただの普通の一般的な生徒である。

 

 

「や、やるしか、ないのよね?」

 

「う、うん…。」

 

1年5組に所属する生徒同士のペア、守矢・楓の両名は完全に萎縮してしまっていた。

 

それでもなお、モニターに映るカウントダウンは無慈悲にカウントを進めていく。

 

 

──3

 

南美は全身の力を抜き、何があっても対応できる体勢を整える。

 

──2

 

簪は武装のセーフティーを解除、常に全火力を発揮できるようにする。

 

──1

 

守矢・楓、両者は腹を括り、打鉄の刀を握り締める。

 

──0

 

カウントダウンが終わり、開戦のアラームが鳴り響く。

その音と共に全員が一斉に動き出した。

 

 

「フゥウウウウ、シャオッ!!」

 

先ずは一合い。

南美の強烈な蹴りが楓のISを捉え、蹴り飛ばす。

 

「簪!」

 

「任せろ!」

 

楓を蹴り飛ばした南美は追撃を簪に任せ、そのまま守矢の方へと飛ぶ。

「ソコダッウリャッ」

 

鳩尾目掛けた正拳からのアッパーカット。

その一連の攻撃を受けて守矢の体は無防備になる。

 

「ショオォッ!!」

 

そのがら空きのボディに会心の一撃をいれて守矢を壁際まで吹き飛ばす。

無論南美はブースターを吹かして吹き飛んでいった守矢を追う。

 

 

「ファイエル!!」

 

簪の掛け声と共に背部と肩、両手の火器が一斉に火を吹いた。

両手の重機関銃の弾幕と両肩のグレネード、そして背部のハイアクトミサイルによって楓のシールドエネルギーはみるみるうちに溶けていく。

 

精度なんてあったもんじゃない、物量に物を言わせた弾幕の衝撃は、それを見ていた者達を凍りつかせた。

 

 

「ふざけた火力ね…。」

 

「射撃というよりも、ただの暴風ですわね。」

 

 

「もしかしたらアレと決勝で戦うか…。」

 

「ぞっとするね…。」

 

 

「私のAICならなんとかなるかもしれないが…。」

 

「その隙を見逃すほど南美はお人好しじゃないよな。」

 

 

口々に警戒の言葉を漏らす生徒達。そんな視線など簪は気づくはずもなく、ひたすら引き鉄を引いている。

 

「倉持技研がなんぼのもんじゃい!織斑一夏がどれほどのもんだ!そんなもの、この子を破棄する理由にならない!!」

 

両手の重機関銃の弾を全て撃ちきった簪は、機関銃を投げ捨てると拡張領域《バススロット》から大口径のライフルを取り出す。

 

「フォイヤッ!!」

 

狙いを定め引き鉄を引く。

ライフルの銃口から放たれた弾丸は真っ直ぐに楓のISへと飛んで行き直撃する。

その瞬間、楓のシールドエネルギーは尽き、離脱を告げるブザーが鳴る。

 

 

「ショオッ!シャオッ!!トベッウリャッ!!」

 

中段の肘鉄から飛び蹴り、そして下段から手刀を振り上げ、高く上がった守矢の顎に強烈なアッパーを食らわせる。

それまでのコンボで既に守矢のシールドエネルギーは大方溶けているが、南美は手を緩めない。

 

アッパーによって更に高く、更に伸びきった守矢の体勢、それは南美にとっては絶好の的である。

 

「南斗孤鷲拳奥義!南斗翔鷲屠脚!!」

 

膝蹴りから上段へ繰り上げ、守矢のISを貫くように稲光が走る。

その直後に試合終了のアラームが鳴った。

 

完 封 勝 利

 

それが南美・簪ペアの記録である。

この1回戦で圧倒的な実力を見せつけた二人へのマークはより厳しいものとなるのであった。

 

 

 

 





今回は1回戦で一区切りとなります。
次回は2回戦以降となります。

今回登場しましたモブ子さんこと守矢・楓さんですが、どこかの幕末の剣客とはなんら関係ありません。


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第73話 激闘の準決勝第1試合


切る場所を間違えて少し長くなりました。

では本編をどうぞ↓



1回戦、専用機持ち達が自身の強さを専用機の性能によるものだけでない事を証明し、一層の警戒を密にさせた。

 

そして迎えた2回戦、その雰囲気は開会直後とは違い引き締まって感じられる。

 

 

「やっぱり、戦いの空気はこうじゃないとね。」

 

ピリッと引き締まった空気の流れる廊下を南美は簪と一緒に歩いていた。

 

すれ違う生徒達は南美と簪の姿を視認すると“あれが噂の…”と小声で彼女らの事を噂する。

 

周りのそういった反応に慣れていない簪はどこか居心地が悪そうにしながら隣の南美に半歩だけ近づいて歩くようになる。

それとは対照的に、南美は堂々と胸を張って歩く。

 

「この緊張感と張り詰めた空気…、良いね…。」

 

クックッと笑って南美は簪を伴って廊下を歩いていく。

 

 

 

「ズェアッ!!」

 

「ぐっ…。」

 

満身の力を込めて降り下ろされた刀を1年3組の朱鷺宮は正面から刀で受け止める。

 

だが上段から勢いをつけて振るわれた刀の重さに耐えきれず、朱鷺宮の体勢は大きく崩れた。

 

「そこだぁああっ!!」

 

その絶好の隙を見逃さず一夏は零落白夜の一撃を叩き込み、朱鷺宮のシールドエネルギーを0にした。

朱鷺宮の戦闘不能を確認した一夏は直ぐ様パートナーのシャルロットの状況を確認する。

 

するとそこには朱鷺宮の相方を制圧しているシャルロットの姿があった。

 

「こっちもオーケーだよ、一夏!」

 

シャルロット、一夏がそれぞれ単独で相手を撃破し、勝ち上がる。

そうやって一夏らが勝ち上がると、それに負けじと他の専用機持ち達が奮戦し勝ち上がる。

 

 

そしてトーナメントは進み、残すところはあと僅か。

準々決勝以降となった。

ここまで残った生徒達も強く、専用機持ち達に苦戦を強いたものの、やはり土を着けるまでには至らなかった。

それでも大健闘だと言えるだろう。

 

 

そして準決勝──

 

「ハッハッハッ!やっとここまで来たねぇ!」

 

組み合わせ表の前で南美がこれでもかと言うほどの笑みを浮かべて立っていた。

 

準決勝第1試合

織斑一夏・シャルル=デュノアペア

vs.

ラウラ=ボーデヴィッヒ・篠ノ之箒ペア

 

準決勝第2試合

セシリア=オルコット・凰鈴音ペア

vs.

北星南美・更識簪ペア

 

 

当然、至極当然のメンバーが揃ったとも言える組み合わせ。

しかしそれだけに、注目が集まる。

この4組の中で、どのペアが最も強いのか…。

会場の関心はそこに向かっていた。

 

「近接戦の鬼と移動要塞のペアか…。」

 

「一撃の重さなら織斑くんだってヤバイよ。」

 

「シャルルくんの援護も的確だしね。」

 

「バランスの取れた凰さんだって負けてないって!」

 

「セシリアさんは多角的な援護も出来るからね。」

 

「ラウラさんもヤバいでしょ?あの機動力はパないって!」

 

「てか何気篠ノ之さんって強くない?専用機持ちに普通に混じれてるよ?」

 

皆口々に残った8人の事を話し合う。

準決勝までに圧倒的な実力を見せつけた彼女らは生徒達にとっては絶好の話題となった。

 

特に篠ノ之箒の事は話題に上がった。

専用機持ちではないが、その力は充分であり、量産機でありながらも専用機持ち達と同格までの実力を持つ彼女は同じ立場の者からしてみればとても稀有な存在である。

 

そして箒の事を語る彼女達の語り口からは憧れのようなプラスの感情が多く見える。

 

しかしそんな事を箒は知る由もない。

ただ普通に彼女は目の前の一戦に向けて意識を研いでいた。

 

 

 

「あと2つ…。」

 

「そうだね、ここまで来たら絶対に勝つよ!」

 

控え室で試合の時間を今か今かと待ちわびている一夏の言葉にシャルロットが力強く答える。

 

対戦相手はラウラ=ボーデヴィッヒと篠ノ之箒、バランスの取れたラウラと、近接戦で実力を発揮する箒の組み合わせは一夏達と似ている。

 

だからこそ連携と個人の実力が出やすいというもの。

それを理解しているのか、先程から一夏は落ち尽きなく深呼吸を繰り返している。

 

そんな時、控え室に小さくブザーが鳴る。

試合の直前であることを告げる音だ。

その音を聞いた一夏は最後に大きく息を吐いて立ち上がる。すると先程までの落ち着きのなさが嘘のように消えていた。

 

「行こうぜシャル、時間だ。」

 

「え?あぁ…、うん!」

 

シャルロットは一夏の急な変化に戸惑いつつも返事を返し、専用機を身に纏う。

一夏も既に準備は終わり、カタパルトに乗り付けた。

 

 

 

「…時間だな。」

 

控え室でブザーの音を聞いたラウラは呟く。

その隣には既に打鉄を装備した箒がいる。

 

「勝つぞラウラ!」

「もちろんだ。」

 

短い言葉を交わした二人はカタパルトに向かう。

既に箒は打鉄の刀を握り締め、その手は軽く震えていたが、顔は笑っていた。

 

 

 

「…どっちが勝つと思う?」

 

控え室のモニターで対峙する四人を眺めながら南美が簪に問う。

その横で同じようにモニターを眺めていた簪が“ふん”と鼻を鳴らしてから答える。

 

「織斑一夏に勝ってもらわないと困る。くどいようだが奴を倒すのは私だ…。」

 

怨恨たっぷりの眼差しで画面に映る一夏を睨む簪に、南美は“やれやれだぜ…。“と呟いた。

 

 

 

「…。」

 

「…。」

 

アリーナで対峙する四人は以外にも静かであった。

ラウラやシャルロットはともかく、一夏がそれほどまでに寡黙であるのは珍しいことだと、その様子を見ていた鈴は思う。

 

無言のまま、残り数秒までカウントダウンが進む。

 

そしてカウントダウンが0になり、開戦のブザーが鳴り響いた。

 

「ズェァアアアアアっ!!」

 

「ハァアアアアアアッ!!」

 

それまでの静寂、沈黙が嘘だったかのような絶叫が響く。その直後に箒と一夏の刀が正面から打ち合い、火花が散る。

 

「くっ、ぜぇらぁ!!」

 

「やぁっ!!」

 

鍔迫り合いからお互い刀を振り切り、もう一度斬りつける。

しかし刀はまた同じようにぶつかり合い、火花が散った。

 

その後ろではラウラとシャルロットが高度な空中での銃撃戦を繰り広げ、見る者の目を奪う。

 

 

「これ、どっちの戦いを見ればいいの?!」

 

「両方に決まってるじゃない!!」

 

観客席では一夏と箒の斬り合い、そしてシャルロットとラウラの銃撃戦とを同時に見ようとてんやわんやになる生徒が続出した。

 

 

試合開始から5分、状況は酷く拮抗していた。

足を止めて斬り結ぶ箒と一夏の勝負は一向にどちらかに流れが傾く様子を見せず、それはラウラとシャルロットの銃撃戦もまた同じである。

 

 

「ラウラ!そろそろ脱落してくれないかな!?」

 

「それは出来ない相談だな!」

 

高速で飛び回りながら二人は引き鉄を引き、飛び交う弾丸を避ける。

 

「だが、そろそろ場を動かさせてもらおう。」

 

高速で飛び回り、常に一定の距離を保っていたラウラが急にシャルロットとの距離を詰める。

もちろんシャルロットも黙って距離を詰められる訳はなく、手に持ったサブマシンガンを乱射する。

 

「対応がありきたりだな。」

 

ラウラは拡張領域《バススロット》から大型の物理シールドを取り出して銃弾を防ぎながら突進を続ける。

そしてある程度まで距離を詰めるとシールドを使って作った死角からシャルロットに向けてワイヤーブレードを振るう。

 

「なっ!?」

 

「歯を食いしばれェ!」

 

左手のワイヤーブレードでシャルロットの左腕を絡めとったラウラはそれを思いっきり引き寄せる。

そして引き寄せられたシャルロットの頭部目掛けて、右手で持ったシールドを全力で叩きつけた。

 

「くぅ…!?」

 

「暫く大人しくしていろ!!」

 

シールドバッシュを喰らって体の揺らいだシャルロットの眼前にラウラは1つの球体を放る。

 

「っ!?」

 

その球体を視認したシャルロットは何かを察したのか、直ぐ様腕で顔を隠そうとする。だが、それよりも一瞬早く、その球体は大きな音と共に強烈な光を放って爆発した。

その強烈な光はシャルロットの視界を一時的に塞ぐには充分であり、あまりの衝撃にシャルロットは何が起きたのかが掴めていない。

 

そんなシャルロットをラウラは容易く蹴り飛ばし、真下に向かって急降下した。

 

 

 

「ズェアッ!!」

 

「ふんッ!!」

 

金属音を響かせ、火花を散らしながら一夏と箒は斬り結ぶ。

それでも互いの刃は相手に届かない。

一夏が刀を振れば箒はそれを的確に捌き、箒が突きを繰り出せば一夏はそれを受け流す。

 

まるで始めから動きの決まっている演武とも思えるほどに二人の動きは、近接戦を志す生徒にとってとても美しく見えた。

 

「箒、ホントにやるな!」

 

「お前こそ!狗飼師匠の元に通った甲斐はあったと言うもの!!」

 

二人ともギラついた目でお互いを見る。

そんな二人の表情はとてもいい笑顔である。

 

「一夏、お前は強い。だが、それでも勝つのは私達だ!」

 

そう言って箒が繰り出したのは鋭い刺突、何の変哲もないそれを一夏は受け流そうとする。

その時だった。

それまで真上でシャルロットと撃ち合っていたはずのラウラが高速で一夏の真横に降りてきたのだ。

 

「イィーヤッ!」

 

「がっ!?」

 

ラウラは真横にいる一夏に向けてシールドをフルスイングする。

箒の突きへの対処に神経を注いでいた一夏はラウラの登場に気づくのが遅れ、シールドバッシュをもろに受けて体勢が大きく崩れた。

 

「シュテルベンッ‼」

 

そして体勢を崩して即座に行動できない一夏に、ラウラは肩の大型レールカノンを放つ。

その衝撃に一夏は後方に大きく吹き飛んだ。

 

一夏の相手はラウラが担当することを確認した箒は未だに視界が潰れているであろうシャルロットに向かって飛び立った。

 

 

 

「くそっ!」

 

吹き飛ばされた一夏はすぐに体勢を整える。

しかしその目の前には既にラウラがいた。

 

「ハァッ!!」

 

「ちっ!?」

 

目の前で振り下ろされるプラズマブレードに、一夏は思わず舌打ちをする。

そしてその迫り来る刃を身を捩って回避すると、後ろに飛んで距離を取り、正面から向き合った。

 

「嫁よ、お前の相手はこの私だ!」

 

「そうかよ!」

 

ワイヤーブレードを展開するラウラを見て、一夏の刀を握る手に力が入る。

 

「さっさとそこを退いてもらうぜ!」

 

「やれるものならな!!」

 

一夏はラウラとの距離を自分の間合いに入れようと前に詰めるが、ラウラの巧みなワイヤーによって思うように距離を詰めれない。

 

「ちっ!」

 

「わざわざ懐に入れる訳がないだろう!」

 

「ああ!そうだなっ!!」

 

畜生と言いながら一夏は四方から襲ってくるワイヤーを的確に払い除ける。

 

 

 

「ぐ…、目が…。」

 

強烈な光に目をやられたシャルロットは吹き飛ばされた影響もあり、どっちが上でどっちが下なのかも分からなくなっていた。

 

(閃光手榴弾とは、やってくれるじゃないか…。でも、そろそろ目が戻る頃だ…。)

 

光に眩んでいた目がやっと元に戻ったシャルロットはゆっくりと目を開ける。

その真っ正面には上段に刀を構える箒がいた。

 

「でぇやぁっ!!」

 

「くぅ!?」

 

箒の奇襲に、反応が遅れたシャルロットは避けきれずに刀の刃をもろに受けてしまう。

それによってごっそりとラファール=リヴァイヴ・カスタムⅡのシールドエネルギーが削れた。

 

「当たれっ!」

 

「ちぇらぁっ!!」

 

至近距離から距離を離そうとして箒に向かって引き鉄を引いたシャルロットであったが、引き鉄を引く一瞬前に箒が銃身を弾いたことで銃弾は明後日の方向に飛んでいった。

 

「くそっ!!」

 

「逃がさん!!」

 

苦し紛れに後ろに飛んだシャルロットであったが、その数秒後に、それが完全に悪手であったことを悟る。

箒はバックステップで間合いから外れようとしたシャルロットの右足の甲に自身の左足を重ね地面に踏みつけるように叩きつける。

 

「ちぇすとぉおっ!!」

 

そして楔を打ち込むかのように自身の足ごと、ラファール=リヴァイヴ・カスタムⅡの足をブレードで貫いて固定した。

 

「これでもう私の間合いだな…。」

 

箒は拡張領域から2本目の刀を取り出して構える。

 

 

その後も箒に反撃を加えようと拡張領域から銃を取り出すが、その度に箒はその武器を弾き飛ばし、シャルロットに流れを掴ませない。

 

「当たれ当たれ当たれっ!!」

 

「無駄だぁ!!」

 

高速切替《ラピッド・スイッチ》で次々と武器を出していくシャルロットであったが、片端からそれを使わせずに箒は弾きとばす。

手持ちの数が少なくなり、シャルロットは苦い顔を浮かべる。

 

「あぁ、もう…。」

 

苛立った声を上げるシャルロットだったが、その小さい声は周りの歓声に掻き消され、箒には届かなかった。

 

そしてシャルロットは高速切替で右手に機関銃を取り出す。例の如く箒はそれを弾き飛ばすが、その瞬間に彼女は右手で箒の刀を振る右手を掴んだ。

 

「っ!?」

 

「逃げられないのは君も同じだよ箒…。まさか、決勝用に取っておいたコレを使わされるとはね…。」

 

シャルロットがそう呟くと、直後にバンッと火薬の炸裂音が響き、ラファール=リヴァイヴ・カスタムⅡの左腕に装着されていたシールドが落ちる。

そうして現れたのはリボルバーと杭とが合体した兵器、69口径パイルバンカー、《灰色の鱗殻》またの名を──《盾殺し》──

単純な破壊力だけならば第2世代最強の近接兵器だった。

 

「落ちろぉっ!!」

 

シャルロットは声をはりあげてその杭を箒の横腹に突きつける。

ズガンッという轟音を響かせて、その杭が箒の体を捉えた。

ISの絶対防御によって搭乗者自身の安全は守られるものの、その衝撃に箒は思わず顔を歪める。

 

「舐めるなよ…、シャルル…!!」

 

「えっ…?」

 

箒は右腕を握るシャルルの手を強引に外し、お返しとばかりに袈裟懸けに斬りつける。

ラウラから直撃をもらい、箒の奇襲でも直撃を受けた。

そして先程から地味に削られてきたラファール=リヴァイヴ・カスタムⅡのエネルギー残量はこの一撃を受けて危険域に達した。

 

「もう一度っ!!」

 

「ぐっ…!?」

 

箒は再度刀を上段に構える。それを見たシャルロットもパイルバンカーの先を箒に押し当てる。

 

「ちぇりゃぁあああっ!!」

 

「うぁあああああっ!!」

 

同時、ほぼ同時に繰り出された一撃はお互いを直撃し、周囲に土煙を立てる。

そして土煙が晴れると同時に二人は倒れた。

それと同時に試合終了の鐘が鳴る。

 

 

 

「見切れるかっ!!」

 

右へ左へと高速で動き回るラウラは死角から一夏に飛び蹴りを放ち蹴り飛ばす。

 

高速で動きながらその挙動を制御する秘密はラウラのシュバルツェア・レーゲンの装備する6本のワイヤーブレードにあった。

ラウラはワイヤーブレードをアリーナの壁や地面に突き刺すことで、その地点を中心に円の軌道を描いて移動する。そしてまた別の場所を起点に高速で動く。

それがラウラの急制動・急加速を可能にする高速機動の秘密である。

 

「ち…!」

 

「さぁ、どんどん行くぞ!!」

 

一夏は頭上を舞うラウラを見上げながら歯噛みする。

しかし、そのまま封殺される一夏ではなかった。

多少のダメージなぞ、零落白夜の一撃があればあってないようなもの。

今一夏はどうやってラウラの懐に飛び込み、零落白夜の一撃を当てるかを考えていた。

 

(…真っ直ぐ行って、ぶっ飛ばす!!)

 

結局思い付いたのは単純で、だからこそ互いの力量が勝敗を分ける正攻法。

ただの正面突破だった。

 

「行くぜぇええええっ!!」

 

清々しいまでの直球勝負、そんな一夏を見てラウラはふっと笑う。

 

「それでこそ嫁だ!来いっ!!」

 

ラウラはワイヤーブレードをしまい、迎え撃つ準備をする。

両手にプラズマブレードを展開、肩のレールカノンは一夏に照準を合わせる。

 

「ズェァアアアアアッ!!」

 

「ハァアアアアアアッ!!」

 

二人が激突し、アリーナの土が盛大に舞う。

それは二人の姿を覆い隠し、試合終了の鐘が鳴り響いた。

土煙が晴れるまでの数秒間、観客席は静かになる。

そして二人の姿が現れる。

そこには装甲に刀が食い込みながらも一夏の胸にプラズマブレードを突き立てるラウラと、胸を突かれながらも刀を袈裟懸けに振り下ろした一夏の姿がある。

 

試合終了を受けて、アリーナの電工掲示板に四人のエネルギー残量が示された。

 

シャルロット=デュノア:0

 

篠ノ之箒:0

 

ラウラ=ボーデヴィッヒ:0

 

織斑一夏:12

 

 

僅差、それもあと一撃の差。

そんな激闘を制したのは織斑一夏・シャルル=デュノアの二人である。

 

試合終了を受けて、観客席からは一斉に拍手が巻き起こる。

その拍手は負けた箒やラウラにも向けられていた。

 

「織斑くーん!格好いい!!」

 

「シャルルくん、次があるよー!!」

 

「ラウラちゃーん、すごかった!」

 

「篠ノ之さん、ナイスファイト!」

 

勝者にも敗者にも分け隔てなく、惜しみ無い称賛の声が掛けられる。

 

 

「ああ、また負けたか…。けれど、なぜだろうな、そこまで悔しくない…。」

 

一夏と対峙するラウラはそう呟く。彼女の顔はとても清々しい表情を浮かべている。

全力でぶつかり合って、力を競いあった。

それだけでラウラの心は今、とても満たされていた。

 

「すまん、ラウラ…。私がもっと強ければ…。本当に、すまない…。」

 

打鉄を解除した箒はパートナーであるラウラに歩み寄り頭を下げた。

 

「良いんだ。全力で戦えて、私は楽しかったよ。ありがとう、箒…。」

 

「ラウラ…。」

 

ラウラは箒の髪を撫でながらそう言うと、微笑みを浮かべて箒に向けた。

そのラウラの態度に込み上げるものがあったのか箒は目に涙を湛える。

 

「泣くなよ箒…。」

 

そんな箒の横に立ち、ラウラは背中を擦りながら一緒にアリーナを後にした。

彼女達に向けられる歓声や激励の声は二人が見えなくなるまで続いた。

そしてラウラと箒が見えなくなると、会場の声は完全に残った二人に向けられる。

 

「アハハ、凄い歓声だね。」

 

「ああ、こりゃもっと頑張らないとな。」

 

一夏とシャルロットは互いの腕を当てて笑いあう。

その仕草一つにも歓声は大きく膨らんでいく。

 

「うっしゃ、そろそろ退散するか!」

 

「そうだね。いこうか一夏。」

 

歳に似つかわしい、爽やかな笑顔で二人はアリーナを去る。

その背中にはアリーナ全体からの拍手が送られる。

全員が死力を尽くした激闘を制した二人に、惜しみ無い歓声が響き、二人はそれを背中で感じながらアリーナを後にした。

 

 

 

 

 

 

「…なんか、大会終わったみたいになってるけど、あと2試合あるんだよなぁ…。」

 

控え室からアリーナ全体の様子を見ていた南美は苦笑いを浮かべて、次に待つ自分の出番に備えていた。

 

 

 

 





決勝にコマを進めたのは一夏・シャルのペアでした。

次回はセシリア・鈴vs.南美・簪の勝負となります。
お楽しみに!!



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第74話 レェェッツパァアアアリィイイイッ!!(訳:コレがガチタンの素晴らしさだ!!)

切りどころを考えながら打ち込んでいたら間が開いてしまいました。

では本編をどうぞ↓


「感動的な試合だったねぇ、けど、まだ大会は終わってないよ~。」

 

カタパルトの中で南美は妙に間延びした口調で呟く。

そんな呟きを簪は軽く流して先にアリーナに出ていった。

 

「つれないなぁ…。ま、いっか。LOCエンタープライズ所属テストパイロット、北星南美、いっきまーす!!」

 

明るい声を響かせて南美はカタパルトから急加速してアリーナに参上する。

 

そこには既にセシリアと鈴、簪が揃っていた。

 

「あれ?待たせちゃってた?」

 

「いえ、私達もついさっき来たばかりですわ。」

 

「そういうこと。だから気にしないでいいわ。その代わり、全力でかかって来なさい!」

 

おどけた口調の南美に二人はいつも通りに返す。

その二人の言葉で南美はニィと笑う。

 

「いいね、いいね!そうでなくっちゃね!!行くよ簪!!」

 

「もちろんだ。」

 

既に四人とも臨戦体勢は整っていた。

あとは開戦の鐘を待つのみ。

 

 

カウントダウンの進む時間がとても長く感じるほど、彼女達の集中は極致に達していた。

 

 

3秒前、南美と鈴は大きく息を吸い込み、今からぶつかり合う相手に目線を移す。

 

 

2秒前、セシリア、簪の両名は引き鉄に指をかけ、セーフティを外す。

 

 

1秒前、四人全員が雑念を振り払い、眼前の戦いに全神経を向ける。

 

0──カウントダウンが終わり、鐘が鳴る。

そこで四人は一斉に動きだし、為すべきことに取りかかる。

 

 

「フゥウウウウウッ!シャオッ!!」

 

「ゥウウウ、アチャァアッ!!」

 

南美の手刀と鈴の青竜刀が交差する。そしてその背後から簪とセシリアが姿を現し、それぞれ鈴と南美を狙う。

 

しかし、視界の端でその姿を捉えていた南美と鈴は引き鉄が引かれた瞬間にその場から上昇して放たれた攻撃を回避する。

 

(流石に避けるか…。)

 

(コレが当たるとは思っていませんわ。)

 

弾が外れた二人はそのまま位置取りを替え、お互いを牽制しながら援護に回る。

 

 

「ショオ…シャオッ!!」

 

「ファチャッ!!ゥアチャッ!!」

 

先程、一夏と箒が繰り広げたものとはまた違う、一級レベルの近接戦。そしてそれらを広げるのは両者のパートナーによる的確な援護射撃。

その高レベルな戦闘に見ている者は思わず息を呑む。

 

 

「フゥウウウウウッ!」

 

「鬱陶しいわねっ!!」

 

鈴の放った衝撃砲は南美の展開した狂鶴翔舞で相殺すると、鈴は苛ついたように舌打ちする。

その舌打ちが合図だったかのように南美の周りを囲んでいるビットが一斉に攻勢を展開する。

 

しかしただでそんな事をさせる南美と簪ではなかった。

 

「私を忘れちゃ困るなぁ。」

 

「くっ!?」

 

南美への射撃に気を取られていたセシリアに対して簪は頭上からの強襲を仕掛ける。

もちろんセシリアも咄嗟の判断でそれを回避するが、それも簪には計算内であった。

 

「南美っ!!」

 

「オッケイ!!」

 

簪の合図を受けた南美は鈴を振り切ってセシリアにエンゲージする。

 

「さぁ、行くよー!!」

 

「お断りしますわ!」

 

セシリアは拡張領域から短剣を取り出して南美を待ち構える。

だが、近接戦の練度の差は歴然であり、セシリアは簡単に懐を許してしまう。だが、

 

「南美、後ろ!!」

 

簪の絶叫が響く。

その声に後ろを見ると、青竜刀を振りかぶる鈴が南美の背後に迫っていた。

 

「あれま…。」

 

南美は直ぐ様身を翻して鈴の攻撃を避ける。

そしてそのまま簪の隣まで飛んだ。

 

「アイェエ……。鈴ってば、どうやって?」

 

「すまん、ビットの弾幕で凰を足止め出来なかった。」

 

「あらら…セシリアちゃんってばそんなことまでできるようになってたのね。」

 

簪の言葉に南美は予想外といった顔を浮かべる。しかしその直後にはニィといつもの笑顔に戻った。

 

「さぁてさて、どうしよっかな~。」

 

困った顔で思案する南美。

場は膠着状態であり、セシリアと鈴も体勢を立て直しながら、南美達の様子をうかがう。

 

「なら、火力の差を思い知らせてやるか…?」

 

「ん~、それしかない、かな?私は直掩に回るよ。」

 

そう言って南美は簪より上に位置取る。

そして簪は拡張領域の中から大量の火器を取り出した。

 

「高耐久、高火力の恐ろしさ!ガチタンの素晴らしさを教えてあげるわ!!」

 

ドヒャアというブースターの音と共に簪は高度を上げる。そして肩、背中、両手に展開された重火器を一斉に打ち出した。

 

「レェェッツパァアアアリィイイイッ!!」

 

簪の絶叫とともにセシリアと鈴を高密度の弾幕が襲う。

ハイアクトミサイルや大型ショットガン、グレネード、重ガトリングによる弾幕は避ける以外に生き残る道を見出だせないほど分厚い。

 

「このっ…!?」

 

「っ…!」

 

そんな死の弾幕を二人は左右に分かれてやり過ごそうとする。

そして狙い通りに弾幕は片割れのセシリアに集中する。

運よく簪の集中砲火から逃れられた鈴に南美が取っ組み合いを挑む。

 

「やっほ!来ちゃった!」

 

「あぁ、もう!!」

 

いい笑顔で告げる南美に苛ついた鈴はそのイラつきをぶつけるように青竜刀を振り回す。

しかしその一撃を南美は腕の装甲で受け止め、懐に潜り込んだ。

 

「南斗──」

 

「アタァッ!!」

 

拳を引き絞った南美に鈴の豪快な右ストレートが決まる。

それと時を同じくして、さっきまで鈴が握っていた青竜刀がアリーナの地面に落ちる。

 

「こうなったら、あんたにとことん付き合ってやるわ。」

 

獣のような獰猛な笑みを浮かべて鈴はそう言った。

その笑顔に南美は気分の高揚を覚え、自然と口角がつり上がる。

 

「そう来なくちゃね…。」

 

「来なさいよ…。」

 

鈴の取った選択は拳同士の語り合い。

それはISという兵器の流れに逆行する原始的な決闘方法であった。

 

しかしそれはこの二人の土俵、最も得意とする分野である。

 

「シャオッ!!」

 

「アチャァアッ!!」

 

怒声と同時に響く殴り合う音。金属同士がぶつかり合い、火花を散らしていく。

南美が右拳を打ち出せば、鈴は怯むことなく左の拳を打ち出し、南美が蹴りを繰り出せば、鈴もまた蹴りを繰り出す。

 

ガードも回避も不要とでも言わんばかりの二人の殴り合い。それは見ている者の目をさらに惹き付けた。

 

「シャオッ!!フゥ、ショオッ!!」

 

「ファチャッ、ゥアチャッ、アタァッ!!」

 

みるみる内に二人のエネルギー残量は減っていく。

それでもお構い無しに二人は自らの拳を、蹴りを打ち出していく。

 

「そろそろキツいんじゃないの?!」

 

「そっちこそ!」

 

お互い軽口を叩き合う。

その最中でも殴り合う手を止めない。

 

「そろそろ決めさせてもらうわよ!」

 

南美にローキックを撃ち込んで足を止めさせた鈴は右腕を大きく引き絞る。

その瞬間を待っていたかのように南美は体勢を低く保ったまま、鈴にタックルした。

 

「you can't escape!!」

 

南美はタックルしたまま鈴の腰に腕を回し、がっちりホールドする。

 

「yeah!」

 

そして掴んだままぐわんと体を逸らせて勢いよく鈴をアリーナの地面に叩きつける。初撃のバックドロップを決めると腹筋を使って体を起こして地に足をつけ、もう一度鈴の体を持ち上げる。

 

「wow!」

 

掛け声とともにさらに1発、鈴にバックドロップをかます。そして同じように体を起こすと、今度は鈴を抱えたまま真上に跳躍した。

 

「ハイパーボッ!!」

 

空中で鈴の体を上下逆にホールドし直した南美は重力にしたがって落下していく速度を乗せて鈴の体を地面に叩きつけた。

 

「がぁっ!?」

 

3連続で加えられた強い衝撃に鈴は空気を思いっきり吐き出して、苦痛の表情を浮かべる。

ホールドが解かれ、起き上がるものの脳を揺さぶられた鈴の足はふらつき、どこか覚束ない。

 

「やってくれるじゃない…。この痛み、兆倍にして返す…。」

 

「残念だけど…、こっから鈴の相手は変わるんだなぁ。」

 

「は?!」

 

鈴が聞き返すのとほぼ同時に南美は高速で鈴から離れていく。

それを追おうと鈴が1歩踏み出した時、頭上という死角から簪の操る玉鋼の巨体が降ってきた。

 

 

 

南美と鈴の殴り合いの裏では、簪とセシリアによる銃撃戦が繰り広げられていた。

 

 

「ハーハッハッ!!How do you like me now?」

 

ハイテンションそのままに簪は引き鉄を引き、弾幕を張り続ける。

グレネードとミサイルによる爆煙は砂塵を巻き上げ、視界を覆う。

しかし簪はお構い無しに重火器の弾丸をレーダー頼りにセシリアへと撃ち込んでいく。

 

「く……。」

 

そんな激しい攻勢によって防戦一方のセシリアは苦虫を噛み潰したような表情でアリーナを飛び回る。

高密度な弾幕を避けることに意識を取られるあまり、ビットの操作も二の次にしなくてはならないほど、セシリアには圧力が掛かっていた。

 

「このままでは…。いえ、私は負けられないのです!」

 

セシリアの頭に敗北の2文字が過る。

しかしセシリアとてイギリス国家代表候補生の筆頭、黙ってやられる女ではない。

高速で飛び回りながらスターライトMk.Ⅱの照準を合わせ、引き鉄を引く。

 

放たれたレーザーを簪は回避しようとするが、間に合わずに肩の装甲を削られる結果となった。

 

「ちぃ…!!」

 

装甲を削られたことで、簪は忌々しげな目でセシリアを睨み付ける。

だがそれも一瞬のことで、簪は直ぐ様セシリアに撃ち返す。

 

「お返しに熱々のローストチキンにしてやる!」

 

「お断りしますわ。」

 

グレネードを撃ち続ける簪の周りを飛び回り、セシリアは機をうかがう。

そしてそれはすぐに訪れた。

 

「ちょこまかと!!」

 

頭に血が上った簪はセシリアのいる方角に狙いもつけずにぶっぱなす。

しかし、それは大きな隙を生むことになる。

 

グレネードの爆煙と重ガトリングの衝撃によって砂煙が舞い上がり、簪の視界までも覆い尽くした。

そしてその砂煙を吹き飛ばそうとグレネードを構えた瞬間に、それは起きた。

 

分厚い砂煙のカーテンの向こう側、完全な死角から放たれたレーザーは的確に簪の持つグレネードを捉える。

その一撃に耐えられなかったグレネードは瓦解し、暴発する。

 

「はぁっ!?」

 

「まだまだ行きますわよ!!」

 

目の前で起こったことに頭がついていかない簪は手に納めていた、それまでグレネード砲だったものをぼうっと眺める。

その隙を逃さずにセシリアはビットとスターライトMk.Ⅱによる飽和攻撃を仕掛ける。

 

(レーザーは…マズイ…。)

 

あらゆる方向から襲い来るレーザーに簪は顔をしかめる。

自身の愛機の特徴を掴んでいる彼女には今の状況のヤバさが完全に分かっている。

 

(機動力を犠牲にしたこの子じゃ近接戦には持っていけない…。かと言ってエネルギー兵器に弱いこの子じゃブルー・ティアーズとの撃ち合いは不利…。)

 

刻一刻と削れていくシールドエネルギーを見て、簪は焦る。

それでも撃ち返すことは忘れない。

拡張領域から新しく大型ショットガンを取り出して、レーザーが飛んで来た方に撃ち込む。

運が良ければビットを壊せるかもしれないという考えからの行動だ。

 

(まだまだ未熟…か…。)

 

あれこれ思考を巡らせた簪は腹を括ったように溜め息を吐き、個人間秘匿通信《プライベート・チャンネル》を開いた。

 

『南美…、お前に尻拭いを頼むことになりそうだ。』

 

『コンビなんだし、そこら辺は気にしなーい!』

 

簪の謝罪の言葉に南美は間を置かずにあっさりとした答えを返す。

そのあまりの簡潔な返答に簪は拍子抜けしたように体から力が一瞬だけ抜けた。

 

『私らはコンビ、言うなれば運命共同体。互いに庇い合って、互いに助け合って、互いに頼り合う…。だからこそ勝ち上がれる。ま、という訳でもっと頼って良いよん!』

 

『…、嘘を言うな、とでも返せば良かったのか?』

 

少し間を置いてそう返した簪は“だが…”と言葉を続ける。

 

『幾分か気が楽になった。ありがとう。』

 

『ハッハッハッ、律儀というかなんというか…。さて、そんじゃあ作戦を練っていこうか。』

 

そうして二人は個人間秘匿通信で作戦を練る。

案外すんなりと作戦を決めた二人は早速行動に移した。

 

 

「積んでて良かった、フラッシュロケット!」

 

簪は拡張領域からロケランを取り出すと、セシリアをロックオンしてぶっぱなす。

もちろん撃ち出された弾頭はセシリアの狙撃によって打ち落とされるが、それは簪の狙い通りの行動だった。

 

レーザーで貫かれた弾頭は、その瞬間に爆発音とともに強烈な閃光を放つ。

そしてその時を逃さない内に簪は全速力で移動し、鈴の真上まで行くとそのまま急速落下した。

 

 

「凰鈴音…、中国国家代表の力を見せてもらう。」

 

頭上からの奇襲をなんとかギリギリで回避した鈴に簪は言う。

対峙する二人の表情はどちらも余裕がない。

片や3度の衝撃によって足下がふらつき、片や自慢の装甲が削られている。

 

もはやどちらが勝ってもおかしくない状況である。

 

「上等じゃない…。やってやるわよ。」

 

鈴は強気にそう言ったが、今彼女の武器は龍砲のみ、主兵装の青竜刀は簪の後方に落ちている。

 

その事実に鈴は露骨に舌打ちをした。

 

 

 

「セシリアちゃん、行くよ!!」

 

フラッシュロケットの効果で一瞬だけISの視界を封じられたセシリアに南美は接近する。

すぐに視界が戻ったセシリアは南美の姿を見て、迎撃を選択した。

 

身の丈ほどもあるスターライトMk.Ⅱを構えるが、その長大さ故にすんなりと接近を許した。

だが、それを受けてセシリアの口角が僅かに上がる。

 

「迂闊ですわね。」

 

 

ドンッドンッドンッ

 

次いで響いたのは3発の銃声、それはセシリアが今まで使っていた武器からは絶対に鳴らないであろう火薬の音だった。

 

 

 





次回で準決勝第2試合は決着します。

…簪ちゃんが完璧ただの別人になってますね。
原作の簪ファンの皆さんごめんなさい。

では、また次回で会いましょう( ・ω・)ノシ


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第75話 全てを焼き尽くす暴力


あぁ、纏まらない。
大学の後期も、始まっちゃったし…。


タイトルがもうヤバい予感しかしないと感じた方、たぶん同士です。

では本編をどうぞ↓



「かっ!?」

 

南美は予想外の衝撃と痛みに肺の空気を吐き出した。

そしてセシリアに目を向けるとそこには巨大な拳銃を構える彼女がいた。

 

「マケドニウム加工水銀弾頭弾殻マーベルス科学薬筒NNA9、全長54cm、総重量24kg、装填弾数9発、18mm炸裂鉄鋼弾…、パーフェクトですわ、チェルシー!!」

 

銃口から未だ硝煙が立ち上る拳銃を握りしめながらセシリアは高々と歌うように叫ぶ。

 

「本来ならば一夏さん対策に作ったものですが…、致し方ありません。」

 

セシリアは凛々しい表情で南美を見つめ、銃口を突き付ける。

その仕草に南美は“あ~れ~ま~”と呟いて苦笑いを浮かべる。

そして南美を囲うように周囲をビットが飛び交う。

 

 

 

「ファチャッ!ゥアタッ、アチャァアッ!!」

 

鈴は玉鋼の死角を取りながらISの拳で殴り付ける。

 

「本当にかったいわね!」

 

いくら殴ってもキリがないと思わせる玉鋼に鈴は苛立ちを覚える。

それでも機動力で勝っているのは鈴の方であり、今の戦い方を続ければ勝つのは間違いないだろう。

 

「オラァ!!」

 

鈴は肩の衝撃砲を放ち、玉鋼の足を止める。

そうして勢いよく懐に潜り込もうとブースターを吹かした。

 

「凰鈴音、サッカーしないか?ただし、ボールはお前だ。」

 

「は?…っ、ちょ!?」

 

ガイィインッという金属音とともに鈴が吹き飛んだ。

理由は簡単である、簪に蹴り飛ばされたのだ。

ブースターを吹かして突進してくる鈴に対して簪は同じようにブースターを吹かして突っ込んだのである。

 

豪快に蹴り飛ばされた鈴はアリーナの地面を転がる。

その好機を見逃さず、簪は着地するとある武装を展開した。

 

『規格外ユニットが接続されました。』

 

ノイズ混じりのオペレートボイスがそう告げる。

 

 

 

「当たってくださいましっ!!」

 

「無理な相談だね!」

 

セシリアの隠し玉によって大打撃を受けた南美はセシリアから距離を取って飛び回る。

 

(やられたね~、こりゃプランBに移行かな。)

 

スターライトMk.Ⅱよりも取り回しが短く、連射も効く拳銃での弾幕は南美を正確に狙って放たれる。

 

3発の銃弾を至近距離で受けた南美のシールドエネルギーは既に4割を切っており、これ以上の追い討ちは避けたいところである。

それ故に南美は高速でセシリアの周りを飛ぶ。

 

「いつまで逃げるんですの?南美さんらしくもありませんわね。」

 

「負けたくないからね、その銃の一撃は痛すぎる。」

 

『規格外ユニットが接続されました。』

 

アリーナの上空を飛び回る二人の耳にノイズ混じりの機械音声が届いた。

それを聞いた南美は心の中でガッツポーズを取りながらセシリアに近寄る。

逆に何か怪しげな雰囲気を感じ取ったセシリアはその声がした方に目を向けた。

 

 

「何よそれ!?」

「なんですのそれは!?」

 

鈴とセシリアの声が重なる。それもそのはずだろう、今二人の目の前にあるのは自分達が今まで見たこともないようなまさに規格外の兵器だからだ。

 

簪が展開した武装は左右対称で、針ネズミのように突起物があらゆる方向に向いている。

それを装備している簪はセシリアと鈴の声を聞くと、さも当然のような顔になり、口を開いた。

 

(´簪`)<これはあの、一本一本付いてる棒があるじゃないですか?

 

(´簪`)<これが全部パルスキャノン。

 

簪の説明を聞いた二人の顔はみるみる内に青ざめた。

全方位殲滅兵器とでも言わんばかりの姿、それをもろに受けて兵器なISなぞいないであろうことは容易に想像できる。

それ故に焦った。

如何にしてこの化け物のような兵器をやり過ごせばいいのか。

 

地上の鈴と空のセシリア、それぞれで取ったリアクションは異なる。

 

鈴は後ろに後退り、少しでも距離を置こうとする。そしてセシリアはアリーナの上に逃げようとするが、それは叶わなかった。

 

「へいへーい、セシリアちゃん。死なばもろとも、じゃん?」

 

「み、南美さん!?」

 

南美である。

南美はセシリアを羽交い締めにし、自由を奪う。そしてそのまま簪のすぐ側へとダイブした。

 

 

「逃げられんぞ~?パルスッ!!」

 

後ろに下がる鈴を追いかけて簪は前に出る。そして上からセシリアと南美が降ってきた瞬間、アリーナは夥しい数のパルスキャノンの発射音と黄緑色の光に包まれた。

 

その凄まじいまでの衝撃に、観客席の生徒たちは目を閉じ、耳を塞いだ。

 

 

「……、どうなった?」

 

「えっと…。」

 

観客席で試合を見ていた一夏とシャルロットは音が止んだことを確認すると目を開けてアリーナを見下ろす。

 

アリーナでは舞っていた土煙が晴れて行き、視界が開けていく。

そしてやっと見渡せるようになって視界に写ったのは、アリーナに倒れ込むセシリア、鈴、南美の3名と、その中心に佇む簪の姿であった。

 

(簪・_・)<(´神`)は言っている、すべてを焼き尽くせと。

 

彼女が真顔でそう呟いた瞬間、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

結果は簪・南美ペアの勝利。

簪の持つ圧倒的な火力の暴力を見せつける形となった。

 

 

 

「…、勝てる、のか…?」

 

試合内容を見ていた一夏がポロっと弱気な言葉をこぼした。その言葉を聞いたシャルロットが呆れたように溜め息を吐く。

 

「一夏らしくないよ、そんな弱気なんて。ボクがいるじゃないか。」

 

パンッと軽くシャルロットは一夏の背中を叩き、笑いかける。恐らく同年代ならば性別問わずときめいてしまいそうなほどの笑みだった。

その笑顔と言葉に一夏は“そうだよな”と呟き、背筋を伸ばす。

 

「ありがとな、シャル。さて、そんじゃあ決勝に向けて作戦会議と行こうぜ。」

 

「うん、絶対に勝とうね。」

 

シャルロットの言葉に一夏は“おうよ!”と力強く返し、二人は拳を付き合わせる。

 

そんな二人のやり取りを見ていた生徒たちはあらぬ妄想の世界に旅立っていた。

 

 

 

そして一夏らが控え室で対南美・簪ペアの対策を練っているのと同時刻。

格納庫では──

 

 

「どう簪ちゃん。行けそう?」

 

南美の問いに簪は低く唸る。

 

「通常戦闘なら普通にこなせる。けど、さっきみたいな規格外ユニットは使えないわね。」

 

玉鋼の状態を確認した簪は小さく溜め息を吐き、優しく玉鋼の表面を撫でる。

簪から玉鋼の状態を聞いた南美は腕を組んで、眉間にシワを寄せる。

 

「どうする簪ちゃん。玉鋼の状態もあるし、棄権する?」

 

「それはイヤッ!!」

 

南美の言葉に簪はキッと振り替えって断言する。

その反応に“まぁそうだよね。”と南美は返す。

 

「なら、作戦考えなきゃね…。こっちは切り札が1枚ロストした状態だし。」

 

「うん…、でもどうする?手の内はほとんど晒しちゃったよ?」

 

格納庫のひんやりとした空気の中で二人は唸る。

 

 

 

 




前回の「レェェエッツパァアアアリィイイイ」や「How do you like me now?」からもう簪ちゃんがイロモノになっていく。
どうしてこうなったのか、コレガワカラナイ

それよりも、休んでいたらパッと変な案が浮かんだ。
→「ダンジョンでカーネフェルの真髄を見せるのは間違っているのか?」
…ベルがオズワルドと出会って暗殺術を習い、オラリオで冒険者になるお話。

それともう1つ。
Fate/zero~Fate/stay nightsのサーヴァントがMUGENから召喚される系の話が思い浮かびました。
こんな感じ

Fate/zero編
セイバー…ユズリハ(under night in-birth)

ライダー…ラオウ(北斗の拳)

アサシン…オズワルド(KOF)

キャスター…完全者(アカツキ電光戦記)

ランサー…真田幸村(戦国BASARA X)

バーサーカー…バルバトス・ゲーティア(TOD2)

アーチャー…そのまま

みたいな感じ。
誰か書いてくれる人とかいないかな?(チラ





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第76話 う、美しい…ハッ!?


タイトルからもう展開が分かってしまう方もいるかと思います。

これで学年別個人トーナメントは終わりになります。

では本編をどうぞ↓


「さぁ…て…。お時間ですよ~。」

 

「……。」

 

強張った顔で軽口を叩く南美。その横では簪が無言で深呼吸をする。

簪の瞳はどこか思い詰めており、殺気に満ちている。

 

「簪…、私達なら勝てるよ。」

 

「ああ、分かってる。」

 

すくっと立ち上がると簪はカタパルトに入り、玉鋼を装着する。

その様子に一先ず安心した南美も同じように隣のカタパルトに立ち、ラストを身に纏う。

 

「勝つ、そのためにも目の前に全力だよ。」

 

「勿論だ。私の持てる全力で叩き潰す。」

 

隣同士の二人は顔を合わせて笑う。そこには決勝戦に向けた気負いはない。

そして一息ついた彼女らは正面を向く。

 

「日本代表候補生、フリーパイロット、更識簪、玉鋼…。正面から行かせてもらう、それしか能がない。」

 

「Last of century enterprises社テストパイロット、北星南美、ラスト。出撃ぃいいいいっ!!」

 

二人はカタパルトから急加速してアリーナの空に飛び立った。

 

 

 

「行こうぜシャル。優勝まであと1つだ。」

 

「うん、あと1つ、絶対に勝つよ。」

 

カタパルトに入った二人はそれぞれの専用機を纏って笑い合う。

とてもリラックスした様子で話し合う二人は爽やかで、青春とはこのことかと思わせる。

 

「じゃあ先に行くぜシャル。」

 

「オーケー、ボクも直ぐに行くよ。」

 

ドヒャアドヒャアとカタパルトとブースターの音を響かせてこちらの二人もアリーナに飛ぶ。

 

 

 

「来たね来たねぇ!!かかってきなよぉ!!」

 

「織斑一夏ぁ!!貴様を!ここで!叩き潰す!!」

 

一夏・シャルロットペアよりも先にアリーナで待機していた二人は、彼らが出てきた瞬間、テンションマックス状態で叫ぶ。

その歓迎ぶりに二人は武器を手に取ることで答える。

 

「オレだって待ち遠しかったっての、さぁ殺り合おうぜ!」

 

「南美、手加減なしだよ!全力でボクらは勝つ!!」

 

一夏は身の丈ほどの刀を握りしめ、シャルロットは両手に重火器を取り出す。

この一試合を一目見ようと、アリーナの観客席は満員、中継映像を映すスクリーンの前も生徒達で溢れ返っていた。

 

 

「どっちが勝つか…。」

 

「南美よ、南美!って言うか、南美と簪に勝ってもらわないとあたしとセシリアの立場がないっての!!」

 

「そんなのはこちらも一緒だ。嫁に勝ってもらわねば箒と私の立つ瀬がない。」

 

「こういうのは勝った方が強い、でよろしいのでは?」

 

やんややんやと言い合いを始める鈴とラウラを嗜めるようにセシリアが呟く。

その言葉に二人はむぅと頬を膨らませる。

 

しかしそれでも関心は試合に向いているようで、四人はアリーナに視線を投げる。

 

 

 

「…どちらが勝つのか…。」

 

KGDO警備員の待機室の中で狗飼はモニターを眺めながら呟いた。

その隣でモニターを眺める面々も低く唸る。

 

「あの男の子が先輩に教わった子なんですよね?」

 

犬走が興味津々な様子で尋ねる。

質問に黙って首を縦に振ることで肯定した狗飼は手元のお茶を飲み干して、再度画面に目を向ける。

 

「鈴が負けちゃったアルからね、私はボスの娘が勝つと思うヨ。」

 

「私は白い方が勝つと思います。」

 

「ほう、その心は?」

 

「何となくです。」

 

狗飼の横ではグスタフと弥子、虎龍が試合結果を予想し合う。

娯楽の少ない状況の彼らにとって、これは絶好の機会でもあるのだろう。

 

 

 

「簪…。」

 

「分かってる。高度な柔軟性を保ちつつ、臨機応変に対応すればいいんだろう?」

 

「分かってるならよし。」

 

二人は言葉を交わすと会戦に向けて距離を開ける。

南美はいつものように体から余計な力みを取り去り、簪はフル装備する。

 

 

「シャル…。」

 

「うん、サポートは任せてよ。一夏はいつも通りに突っ込んで!」

 

一夏とシャルロットの二人は南美達とは対照的に距離を開けず、近い距離を保つ。

すでに決勝戦開幕まで秒読み状態、会場は固唾を呑んで見守っている。

 

 

 

「フゥウウウウウウウッ!!」

 

「ズェアアアアアアアッ!!」

 

南美と一夏の声が響き、同時に金属音が鳴る。

そして密着した状態から二人とも攻勢を展開する。

 

「シャオッ!ショオ、ウリャッ!」

 

「ズェアッ!ちぇすとぉおっ!!」

 

南美は手数を重視し、関節や急所に拳を突き込み、一夏はそれを食らいながらも豪快に刀を振り下ろす。

 

「そろそろ行くぜ!零落白夜!!」

 

最初の一合いから、二人は同時に距離を取る。

そして一夏が刀を握り締めると刀身が仄かに光を放つ。

 

「短期決戦って訳ね。そう簡単に行くかな?」

 

零落白夜の発動を確認した南美はニヤリと笑う。

 

「1発当たればこっちのもんだからな。逃げ切れると思うなよ?」

 

「一撃当てれば良いのはこっちもさ。忘れたとは言わせないからね。」

 

 

互いに互いの武器をちらつかせ、間合いを図る。

そして数メートル、ISならば一瞬で詰められる距離まで近づいた二人は同時に仕掛ける。

 

「ズェアッ!!」

 

「南斗獄屠拳っ!!」

 

上段から振り下ろす一夏に対して南美は下に潜り込んで蹴りを放つ。

南美の蹴りは一夏の腕を捉え、振り下ろされる刀を止め、その衝撃で一夏を数メートル後方に押し下げる。

 

「まだまだぁ!!」

 

そしてすぐさま体勢を整えた南美はブースターを入れて、一気に距離を詰める。

 

「シャオッ!」

 

勢いそのままに一夏をアリーナの壁に向けて蹴り飛ばす。

そしてそれを追従しながら南美は両腕をゆっくりと回し、一夏が壁に激突する直前、南美は上空へと跳ぶ。

 

「南斗究極奥義!断己相殺拳!!」

 

南美は上空から下にむけてエネルギーの刃を複数放つ。それは空中で複雑に軌道を変えながら、跳ね回り一夏に牙を剥く。

 

「もういっちょ行くよー!」

 

そしてエネルギーの刃によって受けた衝撃で体が浮いた一夏に南美は更なる追撃をかける。

 

「トベッ!ウリャッ!」

 

浮いた一夏の体を更に浮かせるように下段から手刀を振り上げ、狙い通りに浮き上がった一夏に極上のアッパーを決める。

 

 

 

「パイルバンカー!そいつは素敵だ、大好きだ!!」

 

シャルロットのパイルバンカーを見た簪は興奮した顔で叫ぶ。

そして拡張領域からとある兵器を取り出す。

 

「しかし私はこれも好きだ。」

 

簪が取り出したのは88mmの大口径砲だった。

それを簪は構えてシャルロットに照準を合わせる。

 

「ファイエルッ!!」

 

ロックが完了した瞬間、躊躇いなくぶっぱなす。

大口径の銃口から放たれた榴弾をシャルロットは身を捩ってかわし、簪に肉薄する。

 

「この距離…、獲った!!」

 

大口径砲の内側に入り、懐に潜り込んだシャルロットはパイルバンカーを引き絞る。

だが、そんなシャルロットの顔に銃口が突きつけられた。

 

「とっつき直撃はノーセンキュー。」

 

ズドンッという轟音と爆発と一緒にシャルロットの体が後ろに吹き飛ぶ。

 

「っ…、何が…?」

 

地面を転がったシャルロットは直ぐに起き上がり、簪に目をやる。

簪は大口径砲を投げ捨てており、手には小さめのハンドグレネードが握られていた。

 

「そう簡単に懐を取らせるわけがないだろう?」

 

ドヤァという効果音がつきそうなくらいのどや顔で簪はシャルロットに言う。

その態度にシャルロットは露骨に態度に出さないものの、イラッと来ていた。

 

(絶対にこれをぶち当てる!)

 

内心ピキピキ来ているシャルロットは心の中でそう決意した。

 

 

「シャオッ!ショオ!フゥ…カクゴ──キリサケッ!」

 

「かっ、はぁ!?」

 

蹴りあげられ浮いた体に連続してエネルギーの刃が打ち込まれ、白式のシールドエネルギーがごっそりと減る。

 

咄嗟に零落白夜を解除したことで、致命傷にはならなかったものの、ピンチには変わらない。

白式はどさりと音を立ててアリーナの地面に落ちる。

南美はすぐさまバックステップで倒れた一夏から距離を取った。

 

「…くそ…。」

 

長い間壁際でリンチされていた一夏は刀を杖にして立ち上がる。

しかし目には未だ闘志が宿っており諦めてはいない。

 

「やっぱ強いなぁ、南美は…。」

 

刀を握り直し、いつものように正眼に構えた一夏はぽそっと呟く。

それを聞いても南美は揺るがない。隙の1つも作らずに一夏の一挙手一投足に警戒する。

 

「けど、だからこそ燃える!だからこそ戦い甲斐があるってもんだよ!」

 

ギラつく瞳で笑う一夏、その笑顔に南美も同じような笑顔で返した。

 

「だったら、言葉は不要…。かかってくるが良い!」

 

「当たり前だ、行くぜ南美!!」

 

一夏は高速で踏み込む。南美もそれに負けじと踏み込んだ。

 

踏み込みの速度を活かして南美は右拳を一夏の顔面に打ち込み、一夏は顔を強打されながらも上段から振り下ろす。

 

「もういっちょ!!」

 

「まだまだぁ!!」

 

二人は止まらない。

南美は左腕を引き絞り、一夏の顎目掛けて振り上げる。一夏はそれを見てからがら空きになっている南美の右脇腹を蹴りあげた。

 

「がっ!?」

 

「ちぃ!?」

 

結果としては相打ち、両者ともに体が伸び上がる。

次に先に動いたのは一夏だった。

 

「ズェア!」

 

刀を振り上げ、南美の体を浮かせる。そして自身も飛び上がり追撃した。

 

「はぁ!ぜぇりゃ!ちぇすとぉお!!」

 

振り上げた刀を振り下ろし、南美の脇腹を蹴りつけ、踵落としでアリーナの地面に叩きつける。

 

「ぐっ?!」

 

「零落──白夜ぁあ!!」

 

また刀の刀身が鈍く光る。

そしてアリーナの床に倒れている南美に向かってその刃が振り下ろされる。

 

 

 

「ファイエルッ!!」

 

肩と背中の兵装から大量のミサイルが放たれる。

津波のように大挙して押し寄せるミサイルの波にシャルロットは引き撃ちしながら回避する。

 

「逃げてばかりか?そんなことでは勝てんぞ!!」

 

「攻撃させる気もないくせに!!」

 

「よく分かったな。ハーハッハッ!!」

 

逃げ回るシャルロットに向けて簪は大声で笑いながらガトリングをぶっぱなす。

ガトリングの発砲音と排薬莢の音が響き、簪のテンションは上がっていく。

 

「まだまだ行けるぜぇ!ミナミィイイイッ!!」

 

「調子に乗るなっ!!」

 

ミサイルとガトリングの弾幕をかわしながらシャルロットはアサルトライフルで撃ち返す。

だが玉鋼の装甲はアサルトライフルの銃弾で多少傷がつくだけで、小揺るぎもしない。

 

「貧弱!貧弱ぅ!!」

 

左手のガトリングをパージし、新しくグレネード砲を取り出して撃ち返す。

 

「ハッハー!!」

 

「くそっ!!」

 

近寄れない弾幕にシャルロットは歯噛みして悔しがる。

ギリギリと苦虫を噛み潰したような顔は普段のシャルロットからは想像できないものだ。

 

「How do you like me noooooow?!」

 

今日一番のハイテンションでグレネードを全弾ぶっぱなす。

放たれた榴弾は爆発を引き起こし、大量の砂塵を巻き起こした。

 

「おやぁ、やり過ぎたかな?」

 

巻き上がった大量の砂煙に簪は首を傾げる。

そんな分厚い砂のカーテンの中を的確な操縦でシャルロットは簪の裏を取る。

 

(これなら、行けるっ!!)

 

完全に裏を取った、そう確信したシャルロットはパイルバンカーを装備している左腕を引き絞る。

あと数メートルの距離まで迫った時、簪が振り返りシャルロットと目があった。

 

「とっつきはお前の専売特許ではない、ということだ。」

 

簪の右腕に装着されていたのは巨大な杭。

いや、それは杭と呼ぶにはあまりにも大きく、分厚く、重くそして大雑把過ぎた。

それはまさに鉄塊だった。

 

ISの身の丈ほどもあるであろう巨大なパイルバンカー、それを簪はシャルロットに向ける。

 

「か、回避っ!?」

 

「逃がさん!!」

 

シャルロットが身を捩ってその射線上から逃れようとするよりも早く、鉄塊が射出された。

その鉄塊は高速で打ち出され、シャルロットを襲う。

認識が早かったのがシャルロットを救ったのか、鉄塊は直撃しなかった。

しかし、擦っただけでシャルロットのシールドエネルギーをみるみる削る。

 

「ぐっ、うぁ!?」

 

膨大な質量の持つ暴力的なまでのエネルギーによってシャルロットは吹き飛ばされた。

すでにシールドエネルギーは底をついてしまっていた。

 

「私の背後を取ろうとした時点で貴様は負けていたのだよ、優等生。」

 

「ぇ…?」

 

鉄塊をパージした簪は倒れているシャルロットに歩み寄る。

シャルロットは朦朧とする意識の中で、注意を簪の言葉に傾ける。

 

「砂煙で視界が塞がったとき、お前は正面から私に接近するべきだった。わざわざフェイントを入れながら背後に回って私にアレを装備する時間を与えてしまったのだから。」

 

簪はメガネをくいっと上げる仕草をして、眼下のシャルロットを見る。

 

「だが、久々に熱くなれた…。楽しかったぞ、シャルロット・デュノアよ。」

 

ニィと笑顔を浮かべた簪はシャルロットの隣に腰を下ろす。

そしてシャルロットを抱き起こして座らせた。

そして鉄塊から受けた衝撃でふらつくシャルロットに肩を貸す。

 

「あとは見届けるだけだ。あの二人の戦いの結末をな。」

 

そう言う簪の視界の先には、対峙する南美と一夏がいた。

 

 

 

「ハァ…、ハァ…。やるもんだね…。」

 

「南美こそ、よく粘る…。」

 

睨み合う二人はどちらもボロボロだが、端から見ている者に取っては一夏の優勢に映っている。

シールドエネルギーの残りは一夏があと3割ちょっと、南美に至ってはもう1割を残すのみとなっていた。

 

(零落白夜の一撃…、アレをもらったのがでかすぎる…。エネルギーサイクルのシステムがなきゃ今頃エネルギー切れだ…。仕方ない、アレを使うしかないか。)

 

「行くぞ南美…!勝たせてもらう!!」

 

一夏が最後の一合に挑もうと足を踏み出す一瞬前、南美は両手をついて逆立ちの体勢から空中高く飛び上がる。

 

「南斗水鳥拳奥義!」

 

宙を舞う南美は逆立ちの体勢から半回転して両腕を広げる。

その所作の一つ一つの洗練された動きに会場の視線は釘付けになった。

それはシャルロットや簪もそうであり、一夏も例外ではなかった。

その動きに見惚れた一夏は握っていた刀を落とす。

 

「………、ハッ!?」

 

「飛翔…白麗!!」

 

我に返るも、既に手遅れであった。

青白く光る水鳥の両手は振り下ろされ、白式の装甲に深々と食い込みシールドエネルギーを一瞬で0にした。

 

「くそ…、あと1歩、だったのによ…。」

 

「末恐ろしいよ、これを使わなきゃ私は負けてたんだから。」

 

一夏のシールドエネルギーが0になったことで決勝戦は決着となり、それを告げるブザーが鳴る。

それによって一斉に我に返った観客達による1歩遅い歓声がアリーナを包み込んだ。

 

 

「あいつ、どんだけ強くなってんのよ!?」

 

「我が嫁ながら、凄まじい成長速度だな。」

 

「…少し、背筋が寒くなりましたわ。」

 

「一夏……。」

 

専用機組の面々は勝った南美よりも、その南美に食らいついてみせた一夏への驚愕を隠せないでいる。

はっきり言って異常、人よりもISに触れてきた彼女達にとって一夏の成長速度は異常の一言だった。

ISを学んで1年どころか、半年も経っていない彼がその僅かな時間で企業のテストパイロットと同等のステージに立てるまでに登り詰めたのだ。

“才能”という言葉だけで片付けるにはどうにも納得できないそれに、彼女らは言葉を失った。

 

 

 

「ンムハハハハ!!とってもスウィートな気分だよ南美ィ!練乳をイッキ飲みしたみたいになぁ!!」

 

「イェーイ!優勝したぜぇ!ヒャッハー!!」

 

「…………。」

 

優勝した二人は控え室の中で手放しに小躍りして嬉しがる。

そこにタイミング悪く来てしまった報道部の黛は“なぁにこれぇ?”と言った顔でその様子を眺めているしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いっくん負けちゃったかぁ…。…慰めてあげたら少しは好きになってくれるかな?いや、でも、落ち込んでる時につけこむのは人として…。でもでも、二人っきりの時に……。」

 

薄暗いラボの中で一人、篠ノ之束は画面に映る映像を眺めながらぶつぶつと独り言を呟いていた。

だが暫くしてハッと我に返ると、ブンブンと頭を振って携帯電話を手に取る。

 

「妄想してる場合じゃなかった…。箒ちゃんの為にも頑張んなきゃ。」

 

小刻みに震える手を鎮めるように束は深呼吸を繰り返す。そしてようやく手の震えが治まると、携帯電話の発信ボタンを押した。

 

「──prrrrr prrrrr prrrrrガチャ ハイハーイ、聞こえてるかなぁ?」

 

電話の相手は3コールで電話に出ると、束とは正反対のテンションと口調で捲し立てる。

それでも慣れているのか、束は多少顔をひきつらせながらも応答する。

 

「ふ、藤原…。あ、あのさ、例の話、お願いしても良いかな?」

 

「良いよぉ、試合の光景は見たし。ビビっと来たよ、ありゃ逸材中の逸材さ。ん~楽しみだ。」

 

束の提案に男は二つ返事で返す。

 

個人トーナメントの裏で何が行われていたのか、それを知っているのは当人二人だけである。

 

 

 





「う、美しい…ハッ!?」→ざっくり
という王道パターンでした。ホントはサラダバーさせようかとも思ったのですが、南美の性格上ガチの大会ではわざと負けようとはしないと思ったので。
ガチの大会では、ですが。

簪ちゃんはもはやフリーダム枠ですね、ちかたないね。
鉄塊まで使い始めたらもう、ね。


さぁ束さんの知り合いが出てきました。
一体何者なんだ…。

それと余談ではありますが前話の後書きで言っていたFateのサーヴァントがMUGENから出てくる話なんですが、書いて投稿しました。
タイトルは「Fate/zero×MUGEN」です。
気が向いたら読んでみてください。

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第77話 シャルロットの大胆な行動


学年別個人トーナメント終了後の一夏サイドの話になります。

では本編をどうぞ↓


「負けちゃったね、一夏…。」

 

「ああ…。」

 

決勝戦が終わり、一夏とシャルロットは控え室のベンチに座っていた。

ひどく落ち込む様子の一夏に、シャルロットは次の言葉を見つけられないでいる。

そんな時、不意に一夏が立ち上がる。

 

「わりぃシャル、先に戻っててくれ。」

 

「え?あぁ、うん…。」

 

立ち上がった一夏は簡単に着替えを済ませて部屋から出て行く。

シャルロットはそんな一夏の背中を黙って見ているしかできなかった。

 

 

 

「狗飼さん…。」

 

一夏が訪れたのは、いつも狗飼から指導を受けている場所。そこは昨日と同じように月の光が差し込んでいる。昨日と違うのは、一夏の顔が暗いということだ。

 

「こんばんは、一夏くん。今日もいい月夜ですね。」

 

「……。」

 

狗飼の言葉にも反応せず、一夏はぎゅっと下唇を噛み締める。

そして数秒の沈黙を破り、彼は頭を下げた。

 

「負けて、しまいました…。」

 

「なんで頭を下げるんですか?」

 

「だって、オレ…。狗飼さんにあれだけ教えてもらって、それで、優勝するって豪語したのに…。」

 

一夏の返答に狗飼は大きく溜め息を吐き、その頭を軽く小突いた。

その狗飼の行動に疑問を抱いた一夏はすっと顔を上げて狗飼を見る。

 

「ホントに君はバカらしいくらいに真面目ですね。確かに結果は準優勝、負けました。ですが、それで落ち込んでいては準決勝までに君に負けた人達が浮かばれませんよ?」

 

狗飼の言葉にハッとしたのか、一夏は眼を見開いた。

 

「気づきましたか?君は敗者であると同時に勝者でもあるのです。今はただ、勝った事実を認め、その結果を誇るだけで良いのです。勝者が勝利を誇らねば、敗者はより惨めになります。」

 

「っ…!? はい!!」

 

「分かればいいんです。それで、今日はどうしますか?」

 

そう言って狗飼は地面に刺していた木刀に手をかける。それを見た一夏はニィと笑って、木刀を手に取った。

 

「もちろん、よろしくお願いします!今度もまた勝つために、もう負けないために!!」

 

「いい面構えです。かかってきなさい。」

 

狗飼は木刀を構える一夏を見て、口角を釣り上げて笑う。

そんな彼を茂みの陰から観察する人物が数名。

 

 

「ほえー、先輩もあんな顔をするんですね。」

 

「近くで見ると余計好青年ですね。」

 

KGDOの犬走と川内である。

彼女らは無表情でありながら、ただならぬ雰囲気を放つ狗飼の様子を見て、心配になりこっそりと後を着けてきたのであった。

 

「ま、あの様子なら心配ないですね。」

 

「そうですね、戻りましょう。」

 

そんな二人であったが、今の狗飼の様子を見て、なにも危険はないと判断し、気づかれないうちに帰っていった。

 

 

 

「さて、今日はこれくらいにしましょうか。」

 

額に浮かぶ玉の汗を手の甲で拭って狗飼が言う。同じように汗だくの一夏はその言葉を聞いて仰向けに寝転がった。

 

「君も疲れたでしょう。山田先生から聞いた話ですが、今日は男子が大浴場を使えるそうですよ?」

 

「本当ですか?」

 

「こんな嘘を言う必要もないでしょう。まぁ、湯船に浸かって疲れを取るのも大事です。さっさと入りなさい。」

 

狗飼がそう言うと一夏はバッと起き上がり、頭を下げる。

 

「狗飼さん、また明日もお願いします。今日もありがとうございました!」

 

それだけ言って一夏は木刀を手にその場を走り去っていった。

 

 

 

「ただいまシャル。」

 

「おかえり一夏。……!」

 

汗だくで帰って来た一夏を見たシャルロットは、控え室を後にした時とは違って、どこか吹っ切れた様子に一安心して笑顔を溢す。

 

「どうしたんだよ、シャル…。オレの顔になんかついてるのか?」

 

「ううん、何でもないよ。それより一夏、さっき山田先生が言ってたんだけど今日は大浴場を男子が使ってもいいんだって!」

 

花が咲いた笑顔とはこう言うのだろう、シャルロットは笑顔でそう言うと一夏は“そうだよ!”と返した。

 

「オレもそれを聞いたんだ。やっと湯船に浸かれると思ってついつい走って来ちまった。」

 

無邪気な子どものようにはしゃぐ一夏をシャルロットは微笑ましく見守る。

そして一夏が着替えを携えて部屋を出ていったのを見送ると、座っていたソファから立ち上がり、そっと部屋を出ていった。

 

 

 

「ふぁぁぁ…、極楽極楽ぅ…。」

 

広い大浴場を独り占め、そんな贅沢をしながら一夏はゆったりと湯船に浸かる。

熱いお湯が疲れた体を出迎え、解放感から変な声が出てしまう。

 

「I'm thinkerふーふーふーふふーん♪」

 

エコーのかかる浴場でご機嫌に鼻唄を鳴らす一夏は、カラカラと入り口が開いたことに気がつかない。

 

「……。」

 

そして侵入してきた人物は静かに体を洗うと、ゆっくりと一夏とは離れた場所で湯に浸かる。

 

「I would talk about speed ──うぁっ!? せ、せせ、生徒会長さん!?」

 

歌っている途中で侵入者に気付いた一夏は、その人物、更識楯無を認識すると湯が大きく波打つことも厭わずに飛び退いた。

ここは風呂場、もちろん楯無も一糸纏わぬ姿である。

そんな楯無を直視できず、一夏は目を逸らす。

 

「楯無で良いわ、一夏くん。」

 

顔を真っ赤にして目を逸らす一夏を見ながら楯無はフフフと笑う。

 

「あ、あの、今は女子は使えないはずじゃあ…?」

 

「そうね、けど少し貴方とお話がしたかったから。」

 

白い肌は暖められてほの赤く、それがとても扇情的に見え、思春期の男子には刺激が強い。

一夏はチラチラと横目に楯無を見つつ、この状況をどうにかしようと話題を切り出す。

 

そして話題を切り出された楯無は真面目な顔つきになる。

 

「シャルロットちゃんのことなんだけど、そろそろ目処が立ちそうなの。」

 

「目処…ですか?──っ!?」

 

楯無から放たれた言葉に一夏は目を見開く。

がしかし、直ぐ様楯無の裸体が目に入り背中を向ける。

 

「うちの子達は優秀だから。そろそろシャルロットちゃんの状況も良くなるわ。」

 

「そうですか、良かった…。」

 

心臓の高鳴りを感じながら一夏は答える。

安堵したように言葉を漏らす一夏の背中に楯無が無言で手を当てた。

 

「本当に、優しい人ね…。」

 

「楯無さん…?」

 

遮るものなど何もなく、振り向けばそこに同年代の女性の裸が見える。そんな理性をゴリゴリ削るような状況で触れられ、一夏の頭と理性はもはや限界寸前だった。

 

「…ううん、気にしないで…。」

 

そんな一夏の心情を知ってか知らずか楯無は湯船から上がり、ヒタヒタと足音を浴室内に響かせながら出ていった。

 

一夏はドキドキと脈打つ感覚を味わいながら湯船に浸かる。

そしてさっきまで同じ湯に楯無が浸かっていたことを思い出すと、それまでとは比べ物にならないくらい顔が熱くなり、居た堪れなくなって湯船から出る。

しかし今脱衣場に楯無がいると思った一夏は出るに出られず、体を洗うしかなかった。

 

 

 

「おはよう一夏!」

 

「お、おう、おはよう…。」

 

あの後も脱衣場で楯無の残り香を嗅いでしまった一夏は脱衣場でもどぎまぎとし、一晩中悶々として一睡もできなかった。

完全に寝不足な一夏は生気の無い目で起き上がり、いつものように身だしなみを整えてから食事を摂り、教室に向かう。

学生として悲しいまでに身体に染み込んだ生活リズムである。

 

 

「あれ、シャルは…?」

 

教室に辿り着いた一夏はシャルロットの姿が無いことに首を傾げた。

自分よりも早く部屋を出たはずの彼女の姿がない。疑問に思う一夏であったが、今はホームルーム直前の時間。

目元にクマを浮かべ、浮かない表情の山田真耶が教室に入ってきた。

 

 

「はーい皆さん、ホームルームを始めますよ~。今日も転校生を紹介しますね~。」

 

疲れきった瞳に作り笑いを張り付けた表情は激務を乗り越えたことを容易に推察させる。

そんな真耶の様子も、転校生の話題に掻き消された。

 

「転校生…?」

 

「今度はどんな人だろ?」

 

ざわざわとにわかに騒がしくなる教室だが、その話題の人物が教室に現れた瞬間、水を打ったように静かになった。

 

「どうもシャルロット・デュノアと言います。皆さんよろしくお願いしますね。」

 

その転校生とはシャルロットであった。

唯一違う点は昨日までとは着ていたパンツタイプの制服ではなくスカートタイプの制服を着ているということ。

 

「「ア、アイエエエエッ!?女の子?!女の子ナンデ!?」」

 

数秒の沈黙の後、我に帰った1年1組の面々は鳩がアハトアハトを食らったような顔で驚愕の声を上げる。

そんなクラスの反応に少し顔を強張らせたながらシャルロットは自分の席に向かう。

 

「シャ、シャル…、どうしたんだよ、その格好…。」

 

「うん、もう自分を偽るのは止めようかなって。ここにいる間は自由なんだし、好きにしようって思ったんだ。」

 

シャルロットはそう言ってえへへと笑う。

悩みも何もない、清々しい笑顔だった。

 

 

 

だがしかし、当然年頃の女子高生達の話題がそこで途絶える訳もなく、同室で気がつかない訳が無いだろうと、彼女達の関心は一夏とシャルロットの関係へと移っていった。

その日1日、シャルロットはクラスメイトへの対応に追われることになったが、どこか楽しそうだった。

 

 

 





シャルちゃんとの混浴だと思った?
残念!楯無さんでした!


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次回予告!

人材の坩堝と書いてカオスと読む。
そんな賑やかな街、夢弦《ユメヅル》市。
住人達が巻き起こす愉快な日常と時おり砂糖を吐く甘い展開。飽きることのない夢弦市の生活を貴方にお見せします。

次回、IS世界に世紀末を持ち込む少女番外編
「夢弦市よいとこ一度はおいで」

ご期待ください!





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番外編 夢弦市よいとこ一度はおいで part1


予告した通り番外編を投稿させていただきました。

では本編をどうぞ↓


夢弦市、そこはIS学園行きの船が出る港も有する一大都市。

大きな企業の本社などもあり、人で賑わう場所である。

そんな夢弦市には個性的な人々が多く集まり(類は友を呼ぶ的なsomethingである。)、また色々な名所が数多く存在する。

 

 

 

昼下がりの夢弦市、その一角にある飲食店通りはその名の通り多くの飲食店が立ち並ぶ食の通りである。

店の中にはドカ盛り、安い、旨いという店もあり、学生の味方でもある。

 

 

「く、食い逃げだぁああっ!?」

 

そんな飲食店通りでも下らない犯罪やいさかいは起こるもの。ある飲食店から男が一人、慌てた様子で店外へと走る。

そう無銭飲食である。

店主も必死に食い逃げ犯を追うが、男の方が足が速く、どんどん差を広げていく。

 

「へへっ、捕まるわけねぇだろ!」

 

食い逃げ犯はにたにたと笑いながら先を急ぐ。そんな男の前にある人物が現れた。

食い逃げ犯はその男を突き飛ばして逃げようと、突進する。

 

「歯を食いしばれェ!」

 

男は叫びながら、食い逃げ犯に向けてキレの鋭い拳でラッシュする。そしてラッシュの締めに鉄山靠で弾き飛ばした。

食い逃げ犯は弾き飛ばされ固い地面に叩きつけられると、苦しそうに息を吐き出す。

 

「食い逃げとは卑劣な真似を…。」

 

男は食い逃げ犯の首根っこを掴むとずるずると引き摺って店の店主に引き渡す。

店主は男に何度も礼を言い、食い逃げ犯を引き摺って連れていった。

 

「アカツキさん!」

 

「おお、白蓮殿!」

 

食い逃げ犯を伸した男、アカツキは待ち合わせ相手の白蓮が来ると、そちらに振り向いた。

白蓮はアカツキの顔を見ると顔を綻ばせ、駆け足で近寄る。

 

「お待たせしたみたいで、すいません。」

 

「いえ、自分が早く来すぎただけですから。」

 

頭を下げる白蓮にアカツキは気にしなくていいと手を振る。そんなアカツキに白蓮は“ありがとうございます”とだけ言って、二人はゆっくりと目的の場所まで歩き始めた。

 

 

 

「おいィ?!ここで衛宮を選ばないとかバカすぐるでしょう?」

 

「何を言っている!ここは五反田食堂だろうが!!」

 

道の脇で背中にライオットシールドを背負い、全身をガチガチに固めた機動隊服の男と、青い頭巾を被った筋骨隆々の男が言い争っていた。

その横に呆れ顔をした男と青年がいる。

 

「わからんのか、この戯けが!」

 

「分かってにいのはお前の方だろ?」

 

頭巾の男、不破の言葉に機動隊服の男ブロントも、熱くなって返す。

ただ、通行の邪魔にならないように脇に避けているだけまだ冷静な方なのだろう。

 

「こうなったらコレで決着をつけてやる。」

 

「望むところだ。バラバラに引き裂いてやる。」

 

ブロントはライオットシールドと警棒を手に取り、不破は上着をビリビリに引き破り臨戦体勢になる。

そんな二人を見て、端から見ていたクリザリッドが頭に手を当てる。だが吹っ切れたのか、フラストレーションが頂点に達したのかは分からないが次の瞬間にはフィンガーグローブを嵌めていた。

 

「おいミスト、あのバカどもを止めるぞ。」

 

「任せてください。暴徒鎮圧は研修期間の訓練で慣れてます。」

 

「暴徒っておま…。もういい、行くぞ!」

 

クリザリッドと、もう一人の機動隊服の青年ミストは言い争いからリアルファイトに発展した二人に突撃する。

 

 

ウオオオオオオッ!! テュホンレイジ バックステッポゥ ナカマトシテモットハツゲンニキヲツカッテクレ

コノタワケガッ オチツケアンナヤスッポイチョウハツニ…ウオオオオオオッ!!

オウゴンノテツノカタマリデデキタナイトガカワソウビノジョブニオクレヲトルハズガナイ ウオオオオオオッ!! ブッツブレロォオッ ボウトノチンアツハナレッコデス ホウケイケンガイキタナ ハッハッテヤァシネッ

ミセテヤルワガチカラヲッ

ナンダッテイイコイツラニトドメヲサスチャンスダッ

 

─中略─

 

ウオオオオオオッ!?

 

 

「やっと大人しくなりやがった。」

 

2対2で不破とブロントを鎮圧したクリザリッドは痛む頭を押さえながら簀巻きにした二人を見下ろす。

 

「マジで騒ぎを起こすなよ…。始末書書くのは俺なんだぞ。」

 

「hai! すいまえんでした;;」

 

「ぬぅぅ…。」

 

キッとクリザリッドが睨み付けると二人は蛇に睨まれた蛙のように縮こまりながら目を逸らした。

その横でミストはライオットシールドを背負い、特殊警棒を腰のケースにしまう。

 

「昼飯は凰でいいな?異論は認めん。」

 

「「「hai!」」」

 

イライラしているのか、鬼の形相で言ったクリザリッドに3人は即座に返事をしたのであった。

 

 

 

また別の場所では──

 

 

「お前に足りないものはぁ!!情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!!そして何よりもぉ!! 速さが足りない!!」

 

「単位が欲しいならば、実力でもぎ取ってみせろ。AMEN!!」

 

「さぁ神に祈りなさい。」

 

「何が出るかな?何が出るかな?」

 

「はわわ!?」

 

「いつも言っているだろう?空想を科学するんじゃない。空想を科学にパラダイムシフトさせるんだ。」

 

「貴様には私の頭突きをプレゼントしよう。」

 

阿鼻叫喚の様相を見せるのは夢弦市の誇る地域密着型大学、夢弦大学だ。

現在は期末試験が終わり、単位が危うい学生達による教授陣への直談判の時期である。

そのほとんどが肉体言語(教授によっては口プレイという名の口頭試問)で行われるこの直談判シーズンは、果敢と言うべきか無謀と言うべきか生徒達が教授陣に挑み、そして玉砕するまでがデフォルトである。

 

「衝撃のファーストブリットォオ!!」

 

「dust to dust…。AAAAAMMEEEENN!!」

 

「ここですか?──お別れです!!」

 

「教訓、何事も控え目に。」

 

「斬首!!」

 

「その程度の理論は誰でも組めるぞ。問題はそれを何に使うかだ。もっと私を満足させてみろ。」

 

「私の授業で眠るからそうなるんだ。」

 

死屍累々、屍山血河とも言うべき惨状を作り上げた教授陣はそのまま自身の研究室に戻り、仕事に取りかかる。

生徒達は精も魂も尽き果て、落第の事実を胸に友人達と傷の舐め合いをするのであった。

 

 

 

そして、そんな学生達の手の込んだ自殺シーズンに入った頃、夢弦市のとある診療所ではというと…

 

「先生、急患です!」

 

「また夢弦大の学生かしら?」

 

「はい、そうです。」

 

今日で何度目か分からない急患の到来に赤と青の独特な衣装に身を包んだ医者、八意永琳は小さく溜め息を吐いた。

そして急患を担いで連れてきた助手、何故か精巧に作られた狼の被り物をしたガロンを恨めしそうに見つめる。

連れてきたガロン自身になんの罪も無いことは分かっているのだが、これくらいせねばモチベーションが保てなくなっていた。それくらい、この時期の診療所は忙しいのである。

 

「はぁ、こんなことならウドンゲをお使いに行かせなきゃ良かったわ。」

 

「だから言ったじゃないですか、買い物なら自分が行くって。」

 

軽く言葉を交わしながら、二人は運ばれてきた患者の治療にあたる。

ここ、八意診療所は地元の人間ならば誰でも知っている場所であり、怪我をしたならとりあえずここに行けと言われているくらいである。

 

 

 

「女将さーん、八つ目鰻の蒲焼きもう1つ~!」

 

「こっちにも~。」

 

「あんた達、ほどほどにしなさいよ?たかだか単位落としただけじゃないのさ。」

 

客の注文の声に、割烹着を着た少女にも見える外見の女将が言う。

が、女将の何気ない一言にかさぶたを思いっきり剥がされた若い客達は呻き声を上げてテーブルに突っ伏した。

 

「う、うぅ…。」

 

「あと1問…あと1点だったのに…。」

 

「ちくせう…。」

 

「飛び道具…ガード…掴み投げ…、うっ、頭が…。」

 

この居酒屋夜雀の座席の殆どを埋め尽くすのは、返り討ちに合い、落第が確定した夢弦大学の学生達である。

彼らは青い顔で何かうわ言を呟きながら中空を眺める。

そんな彼らを見た女将はやっちまったねぇと呟いて頭を押さえた。

 

「仕方ないねぇ、みんなに八つ目鰻を1品、サービスしようじゃないか。」

 

女将の言葉を聞いて、それまで突っ伏していた連中がガタッと立ち上がる。

 

「おばちゃんありがとー!」

 

「女将さん愛してる!!」

 

「結婚しよ!」

 

やんややんやと巻き起こる学生達の声に女将の顔はみるみる内に真っ赤になっていく。

 

「バカ騒ぎはそこまでにしなぁ!!」

 

生徒達による感謝の嵐に女将は照れたように声を上げる。

 

 

 

夢弦市の夜は長い。

 

 

 





オチなんかない。

夢弦大学で落第寸前だって?教授に実力で勝てばいいんですよ。
え?無理だって?
じゃあ、単位は諦メロン。

んもぅ…


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第78話 動き始める何か


大学の講義を聞いている最中に、いずれ書こうと思っていたブロントさんの話のプロットをティンと閃いて、気がついたらプロットが完成していた。
何を言って(ry

ちなみにこの「IS世界に世紀末を持ち込む少女」の中ではブロントさんは嫁がいます(結婚しているとはまだ言っていない。)

では本編をどうぞ↓


「prrrrr prrrrrガチャ はいこちらIS学園…なんだお前か…。何の用だ?」

 

「相変わらず冷たいねぇ、泣いちゃうよぉ?」

 

土曜日の昼下がり、授業を終えて一段落着いていた千冬のいる職員室に電話のコール音が鳴る。

職員室でコーヒーを飲んでいた千冬は電話に出ると露骨にテンションを下げた。

電話の相手は慣れているのか、それでも話を続ける。

 

「如月重工の人間として話がある。篠ノ之の妹…、篠ノ之箒をうちのテストパイロットにしたいんだ。」

 

「…それで?」

 

「一応本人にも確認したい、だからこの前の学年別個人トーナメントの時みたく許可を出してほしい。こういうのは直接話した方がいいからね。」

 

男の言葉に千冬は暫くの間、口を閉じる。

そして次に口を開くと、自然と言葉を紡いでいた。

 

「お前は、篠ノ之に何を期待しているんだ?」

 

「…オレは見たんだ、可能性ってヤツを…。その可能性の先を見てみたい。それに、篠ノ之との約束があるからな。」

 

「随分と懐かしい話を覚えているものだな。」

 

男の言葉に千冬は目を細める。

 

「まぁねぇ…。」

 

電話口から聞こえてきた男の声もまた、昔を懐かしむようなものだった。

 

「まぁ良いだろう。上と篠ノ之には話を通しておいてやる。」

 

「ありがとう、織斑。」

 

男は簡潔に礼を述べると、電話を切った。

 

 

 

「さて、今日はゲストを呼んでいます。」

 

土曜日の昼、木陰の中で狗飼は一夏に告げる。その言葉通りに、狗飼の隣には機動隊装備に身を包んだ犬走がいた。

 

「どうも初めましてですね。狗飼先輩の部下兼後輩の犬走椛と言います。」

 

全身をガチガチに固めた犬走はペコリと頭を下げた。それを見た一夏もつられて頭を下げる。

 

「そろそろ応用編に入ろうと思いまして。今日からは私か椛のどちらかが相手になります。取り合えず今日は埖が相手をしましょう。」

 

「っというわけでお相手しますね!」

 

笑顔でそう言う犬走の手には円形のライオットシールドと長めの警棒が握られていた。

そのやる気に溢れた姿に一夏は木刀を握る。

 

 

「準備はいいですね?では、始め!」

 

「ズェァアッ!」

 

狗飼の掛け声とほぼ同時に前ダッシュで犬走に突っ込む。そして間合いに入ると同時に打突を繰り出す。

犬走はその突きを盾で簡単にいなし、一夏に密着する。

 

「盾持ち相手に迂闊ですね!」

 

密着した体勢から犬走は背中を一夏の胸にぶつけ、そのまま背負い投げる。

そして地べたに叩きつけられた一夏の腕を捻り、木刀を蹴り飛ばすと、一夏に上から覆い被さった。

 

「はい、制圧です。」

 

「……。」

 

あまりにも呆気ない幕切れに一夏は目を点にして犬走を見つめる。

 

「ふっふっふ~。コレでもへヴィーファイトのインカレチャンプですよ?KGDOの社員ですよ?高校生にはまだまだ負けませんって。」

 

ドヤァとうざかわいい顔を浮かべる犬走を一夏はただ見つめるしかなかった。

師匠である狗飼とはまた違う剣技。また盗む相手が増えたと、一夏は心の底から嬉しくなる。

 

「犬走さん…。」

 

「椛でいいですよ。」

 

「椛さん、オレは貴女にも勝ちます!いずれ、絶対に!!」

 

一夏の宣言を聞いた犬走はムフフと面白そうな物を見つけたように笑い、ピョンと一夏の上から飛び退いた。

 

「そう簡単には負けませんよ~だ。」

 

生意気な笑顔を一夏に向ける椛は楽しそうに警棒をクルクル回して突きつけた。

 

 

 

食堂の一角で向かい合って座るセシリアと鈴。ラーメンを啜っていた鈴のリボンが揺れる。

 

「むむむ…、また新しいライバルの予感…。」

 

「何を下らないことを言ってるんですの?」

 

「いや、何となくそんな予感が…。気のせいかな…?」

 

向かいの席でバカデカい拳銃の手入れをしているセシリアに言われ、鈴は首をかしげてまたラーメンに箸を伸ばす。

 

 

 

「次のニュースです、夢弦市の銀行に強盗が押し入りました。強盗犯は銀行員にボストンバッグを渡すと、『札束を入れろ。それも1つや2つではない、全部だ!』と言って現金を強奪し逃走。現在警察による捜査が進められています。捜査関係者は『ほう、この犯罪者はどうやら死にたいらしいな』、『やれやれ、最近の犯罪者はやんちゃで困る』『強盗犯殺すべし!慈悲はない』等と述べており、市民からは事件の早期解決が確信されています。続いてのニュースは───」

 

テレビのニュース番組でアナウンサーが原稿を読み上げる。その報道を聞いたグスタフと弥子が溜め息を吐いた。

 

「…最近、事件が多いですよね。それも夢弦近辺で。」

 

「あぁ、それこそ何者かが噛んでるとさえ思えてくるくらいにな。」

 

「何者でしょうか…?」

 

「さぁな、そもそも誰かが暗躍してると言う証拠もない。」

 

コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置いたグスタフはふぅと小さく息をつき、頬杖をついた。

 

「それでも、我々相手に闘争を挑もうとするならば、全力で相手になろう。」

 

渋い声でそう呟いたグスタフの顔は笑っていた。どうしようもなく、狂っているように、好きなことに胸を踊らせる子どものような笑顔。

それを見た弥子は“これだからウォーモンガーは“と言うように鼻から息を漏らした。

 

 

 

「さて…現場だが…。事件当日の担当は誰だったか?」

 

クリザリッドはブロントを連れて、強盗に遭った銀行に来ていた。

ここの銀行は警備をKGDOに依頼しており、今回の事件によって浮き彫りになった部分を修正するための調査をするために派遣されてきたのだ。

 

クリザリッドの質問にブロントは持っていた分厚いファイルをペラペラとめくっていく。

 

「ん~、その日は中西とシェン・ウーが担当だったみたいだな。シェンが負けたことには正直驚いたが、あれに勝った強盗犯に関心が鬼なった。」

 

「言ってる場合か!これはうちの信用問題だ。今から問題点を洗い出して報告書を上に上げて、兎に角やることは膨大だ!暫く自宅でゆっくりできんぞ。」

 

「おいィ!?ちょとsYレならんしょそれ…。オレは深い悲しみに包まれた。」

 

「言ってろバカ…。」

 

クリザリッドに見えていた現実を突きつけられ、ブロントは膝から崩れ落ちた。

そんなブロントを見て見ぬふりしてクリザリッドはふんと鼻を鳴らして銀行の中に入っていく。

 

 

 

「それで、どんな人物でした?中西さん。」

 

KGDO社内の一角で、ミストは鉢巻きを巻いた少女の中西剣道に訊ねた。

中西剣道は銀行強盗の時に現場に詰めていた警備員の一人である。

 

「なんと言うか、小柄な女の子だったよ。どことなーく猫っぽい感じの。」

 

中西剣道の答えにミストはふむふむと頷きながらメモを取り、事前の調書と照らし合わせる。

 

「小柄って言ってましたが、どれくらいの背丈でした?」

 

「ん~、中学とか小学生くらいの背丈じゃないかなぁ。最近の子は発育が良いっていうから正確じゃないけど。」

 

「そんな小さな身体の子がシェンさんを殴り飛ばしただって?そんなの普通じゃ考えられない!!」

 

ガタッとパイプ椅子から立ち上がってミストは中西剣道に詰め寄る。

その剣幕に剣道はどうどうと馬を宥めるようにミストを落ち着かせる。

 

「私だって最初に見たときは自分の目玉を疑いましたって!あのシェンさんが幼女にしばかれたんですよ?」

 

「それで面食らってるうちに中西さんも殴り飛ばされた、と。」

 

「う…。め、面目ないっす…。」

 

バツが悪そうに中西剣道は頬を掻く。

その様子にミストもそれ以上は何も言えなかった。

 

「シェンさんに勝つなんて、一体何者なんだ…。」

 

ぽつりと囁かれたミストの言葉は誰の耳に届くこともなく消えていった。

 

 

 





中西剣道で通じる人がいるんですかねぇ…。

それよりも気がついたことがある。
この世界のブロントさんってかなり勝ち組な気が…。

イギリスで大会9連覇していて、スポーツ得意。
日本有数の企業の社員で、恋人もいる。
そこまで絵に描いたみたいなエリートにするつもりがなかったのに、気がついたらブロントさんの設定がこうなっていた。
さすがナイトは格が違った。

そして描写もなくやられるシェン・ウーさん…。




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第79話 デートと専用機、時々一夏


そろそろFateのサーヴァントにシモ・ヘイヘとか舩坂弘とかが出てもいいと思うの、作者です。
だって舩坂弘はリアル生きた英霊ですよ?ヘイヘもですが。というか、WWⅡの時代はリアル人外がどの国にもいたような気がする。特に空軍…。

今回の話で一応IS学園編2nd seasonは終わって、次回から新章に突入します。

そういうわけでアンケートの締め切りは近いですよ~。

では本編をどうぞ↓




「ほんわ君さーん!!」

 

「南美!うわっとと…。」

 

飛び込んでくる南美をほんわ君は体で受け止める。

南美は“えへへ~”と締まりのない笑顔でほんわ君の胸に頬擦りする。

 

学年別個人トーナメントが終わった週の日曜日、南美は優勝の手土産を引っ提げてほんわ君に会いに来ていた。

 

「ほんわ君さん!私頑張りましたよ、褒めてください!」

 

大会の時とは全く違う年相応の笑顔、それを向けられたほんわ君は南美をぎゅっと抱き締めて頭を撫でる。

 

「うん!凄い凄い!!」

 

「えへへ、もっと撫でてください!」

 

ほんわ君に撫でられた南美の顔はより緩み、声もますます甘えるようになっていく。

そしてほんわ君も、そんな南美のことを強く優しく抱き締める。南美も抱き締められる力を感じてほんわ君を抱き締め返す。

 

「ふふ、デートですよデート! どこに行きますか?」

 

抱き締められていた南美は視線を合わせて訪ねる。

そんな南美の手をほんわ君は優しく握り、軽く笑い掛けるとその手を引いて歩き出す。

南美もほんわ君の行動に照れながらも、満更でも無さそうに着いていく。

 

「ほんわ君さんとこうしてデートするのも久々ですね。」

 

「うん、いつもはTRF‐Rに来てもらっちゃって、外で会うことなんて少なかったもんね。」

 

「いいんですよ、私はほんわ君さんと会えるだけでも嬉しいんですから。」

 

繋いだ手を嬉しそうに南美はブンブンと前後に振る。

手を繋いで仲良さそうに歩く二人に、周囲の人々は微笑ましそうに笑う。

 

そんな微笑ましい二人のすぐ横を一人の小柄な少女が走り抜けていき、その直後に厳つい男たちが走り去って行く。

 

「待てコラ! そこの銀行強盗犯ワレェ!」

 

「シェンの兄貴の仇じゃ!」

 

「夢弦警察署の職員舐めんなや!」

 

疾風のように走り抜けていった少女と男たちの姿に、南美とほんわ君は数秒ほど立ち止まってしまっていた。

 

「あぁ、いつものアレかなぁ?」

 

「そうかもしれませんね。でも銀行強盗って聞こえましたし、あの女の子がこの前の犯人なのかも…。」

 

「まさかぁ、だって僕よりも小さい女の子だったよ?」

 

「普通の女の子なら、ですよ。普通の人は夢弦署の刑事さんと追いかけっこしませんよ。」

 

南美の言葉にほんわ君は“そう言えばそうだね”と笑う。

そうして気を取り直した二人はいつものようにレゾナンスへと足を踏み入れた。

 

 

「今日は何を買うの?」

 

「水着です。」

 

「え?」

 

「水着です。」

 

3階のショッピングエリアに到着するとほんわ君が南美に訪ねる。その南美の返答に即答すると、ほんわ君が思わず聞き返し、もう一度南美が即答した。

 

「そろそろ夏なので、新しい水着が欲しいんです。それで、その、ほんわ君さんに選んで欲しいんですけど…。」

 

もじもじとして、頬をほんのりと紅潮させる南美にほんわ君も恥ずかしくなり、顔を真っ赤にする。

がしかし、そこはほんわ君も一人の男である。

 

「う、うん、分かった。じゃあ行こっか?」

 

「はい!」

 

繋いだ手を引っ張って、ほんわ君と南美は水着売り場に向かった。

 

 

 

南美がほんわ君とデートをし、他の専用機持ち達や生徒らも街に繰り出している時、箒は千冬に呼ばれて応接室に来ていた。

広い応接室は、かなり金が掛かっているであろうソファや調度品が置かれており、それでいて上品な雰囲気を保っている。

箒は千冬の隣でソファに腰を下ろし、正面に座る男を見る。

 

「どうもどうも初めまして。如月重工開発局所属で、IS開発部の主任をしている藤原啓(フジワラヒロシ)って者だよ。よろしくね、篠ノ之箒さん。」

 

藤原はニッと微笑むと、その大きな手を箒に差し出した。箒も手を差し出してその手を握る。

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします。その、IS学園の篠ノ之箒です。」

 

緊張した面持ちの箒を見て、千冬はハァと息を吐いた。

 

「あまり緊張しなくてもいいぞ、篠ノ之。そいつは高校時代の私の同期だ。」

 

それだけ言って千冬はコーヒーを啜る。

その様子に藤原は苦笑いを浮かべて頭を掻く。

 

「クールだよねぇ、本当に…。ま、いっか。早速本題に入ろうじゃないか。」

 

藤原は手を離すとじっと箒を見つめる。

 

「単刀直入に言おう。篠ノ之箒くん、君を如月重工のテストパイロットにしたい。そしてこれが今ウチで製作したIS、“紅椿”だ。」

 

そう言って藤原は厚い紙束と1枚の赤いISが写った写真を渡す。箒は写真を一瞥すると、渡された紙束に目を通す。

 

「これは…!」

 

「時代の流れを汲みつつも逆行するをコンセプトに作った機体だ。基本装備は2本のブレードのみ、その2本に複数の機能を持たせることで多様性を持たせたんだ。」

 

藤原の説明に、横から資料を読んでいた千冬が大きく息を吐く。

 

「相変わらずだな如月重工。こんなピーキーでバカげたものを造るのはお前達くらいだろうな。」

 

「ブレオンで世界を獲ったドミナントがよく言うよ。オレに言わせれば、アレほど人間の可能性を感じたものはない。」

 

藤原は目を閉じていた。昔のことを思い返しているのか、表情はとても穏やかだった。

そして千冬は箒の隣で教え子と同期に顔色を見られないようにしているのか、顔を箒からも藤原からも背けている。

 

「だからこそ──いや、…昔の話は今は置いておこうか。それで、篠ノ之箒…お前の答えを聞かせてもらおう。」

 

藤原の問を受けて、箒は背筋をすっと伸ばして居住まいを正すと、藤原の目をしっかりと見つめる。

 

「その話、お受けします。」

 

「そうでなくっちゃ。ん~、面白くなってきた。」

 

予想通りの返答に藤原は満足したのかくっくと笑う。

その後、箒は契約書にサインと血判を押し、晴れて如月重工のテストパイロットに就任した。

 

 

「これが紅椿…。」

 

「あぁ、そうさ。如月重工の全力で作った第3世代機、これを上回るなら次の世代を持ってこいってんだ。」

 

アリーナの中央で、箒は最適化処理と初期化を行うために紅椿を纏いながらその美しさに息を呑む。

 

「ブレード2本という装備、近接戦の強さを活かすために機動力を重視した性能だ。そして速度を維持する為にジェネレータもそれに合わせて作った逸品、それによって可能なのは強襲からの離脱。究極のヒット&アウェイだ。」

 

その説明に箒は心を踊らせる。それに藤原は“あ~”と申し訳なさそうな声を出した。

 

「その代わり、脆いんだ…。とてつもなくね。火力と速さに重きを置いた分、防御を捨てている。だからこいつで戦う時は今までの打鉄みたいなことはできない。」

 

「いや、充分だ、それで。充分過ぎる。」

 

丁度すべての作業が終わった箒は2振りの刀を取り出して振るう。

 

「空裂と雨月、それが紅椿の装備であり、唯一の武器だ。空裂は斬りつけると同時にエネルギーの刃を飛ばし、雨月は刺突と同時にレーザーを放てるように作ってある。まぁ、浪漫の体現ってヤツさ。」

 

「そうか。」

 

藤原の説明が終わると同時に箒は2本のブレードを収納する。

 

「それで、どうだい使い心地は?」

 

「最高だ!実に手に馴染む。」

 

「そいつはよかった。」

 

爛々と目を輝かせて楽しそうに語る箒を見て藤原は目を細める。

そして次は運動試験とも言わんばかりに箒はアリーナの空に飛び立つ。

そんな彼女の様子を藤原はただ黙って見守っているのだった。

 

(箒ちゃんはやっぱりお前の妹だよ、篠ノ之…。)

 

ポリポリと後頭部を掻きながら、藤原は手元のタブレットを操作して、空を飛び回る箒の姿をデータに納めた。

 

 

 

「こういうデザインはどうですか?」

 

そう言って南美が取り出したのは黒の水着、それなりに露出はしているものの、フリルのあしらわれたそれはセクシーさと同時に可愛らしさもアピールしている。

 

「え、あ、その…。」

 

頭の中でその水着を着た南美の姿を想像したほんわ君は耳まで真っ赤にする。

その反応を見た南美は“ん~”と軽く唸って水着を元あった場所に戻す。

 

「ほんわ君さんには刺激が強いみたいですね。まぁ、私もあんまり派手なのは着るつもりないですけど…。」

 

「う、うぁ…。」

 

顔を真っ赤にして何も言えない状態のほんわ君を見た南美はイタズラし過ぎた子どもみたいな顔になる。

 

「ごめんなさいほんわ君さん、からかい過ぎちゃいました。」

 

素直に謝った南美はほんわ君の手を握って左右に揺する。ほんわ君はコクコクと無言で頷く。

 

「ご、ごめん南美…。なんの参考にもならなかったよね。」

 

「良いんですよ。ほんわ君さんの反応だけで充分でしたよ。」

 

南美は握ったほんわ君の手を引き寄せてその体を抱き寄せる。

そしてぎゅっと抱き締めた。“ほんわ君さん成分の補給です”と南美は笑顔で抱き締め続ける。

 

「私はほんわ君さんと一緒にいれるだけで、こうしてるだけでも嬉しくて、楽しくて、心がポカポカするんです。ほんわ君さんは私といて、どうですか?」

 

「うん、僕も楽しいよ。南美の笑顔が見れて。楽しそうにしてる南美を見るのが一番の楽しみだもん。」

 

ほんわ君も南美の背中に手を回して抱き締め返す。

そんな二人のすぐ側で“んっん”と咳払いする声がした。

そこには引き攣った笑顔の店員。二人は周りを見渡すと、恥ずかしくなりその店を直ぐ様後にした。

 

 

「あはは、やっちゃいましたね…。」

 

「そうだね…。」

 

売場から離れた場所まで駆け抜けた二人は、人気のない陰で息を切らせながら向き合う。

 

「ほんわ君さん…。」

 

「どうしたの、南美?」

 

「そろそろお昼にしませんか?」

 

“てへへ”と笑いながら南美はお腹を擦る。

その言葉にほんわ君は頷いて南美の手を引いて、空いている店を探して歩き出した。

 

 

「はい、ほんわ君さん、あーんしてください。」

 

「あ、あーん…。」

 

南美はくるくるとパスタを巻いたフォークを差し出す。

ほんわ君はやや恥ずかしそうにしながらも、その差し出されたパスタにパクついた。

 

「美味しいですか?」

 

「う、うん。」

 

顔のやや赤いほんわ君はモグモグとパスタを食べて飲み下す。目の前にはもう小さな口を開けて待っている南美がいる。

それにほんわ君は尻込みしながらもパスタを巻き、南美に差し出す。

そのフォークのパスタに南美は躊躇いもなくパクつく。

その彼女の顔はとてもいい笑顔である。

 

余談ではあるが、この日この時間のこの店では、コーヒーの売り上げ記録を更新したという。

 

 

 

「どっせい!」

 

「まだまだですねぇ。」

 

簡単に一夏を転ばせた犬走はそのままバックを取って首に腕を回す。

その腕を一夏が軽く2回触ることで、犬走はロックを外した。

 

「体術面がなってませんよ。そんなんじゃ私にも勝てませんね。」

 

「ぐ…。」

 

一戦後の反省会で一夏はぐうの音も出ないほどに犬走に指摘を受ける。

そのほとんどがいつも同じことであり、それを改善できない事実に一夏はついつい目線が落ちる。

だが犬走は下を向いた一夏の顔を掴んで無理矢理自分の方を向かせる。

 

「剣の方は先輩に教わってください。そ、れ、で! 体術の方を私が教えましょう!」

 

「はい!よろしくお願いします!!」

 

反省会の正座のまま一夏は頭を下げた。

 

 

 





一人の少女は新たな翼を得た。
一人の少年は新たな師を得た。

夏、それは青春の季節。
ある者は力を求め、ある者は恋に生き、ある者は愛を求め、力を求める。

次章、IS学園編3rd season「夏、青春、大騒ぎ」
第80話「どうして買い物に来ただけで修羅場になるんですかねぇ」
に続く!


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紅椿の性能は原作よりも低いです。
軽量逆関節ドヤ顔ダブルMURAKUMOと言えば分かりやすいでしょうか?
これは束さんが原作よりも飛び抜けていないことと、キサラギが1枚噛んでいることが要因です。それでも高性能なのは変わらないんですがね。

そして藤原さん、実はかなりの重要人物だったりします。



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IS学園編 3rd season「夏、青春、大騒ぎ」
第80話 私と買い物に、ですか?



第80話は「どうして買い物に来ただけで修羅場になるんですかねぇ」というタイトルで買い物回をやるといったな?

あ れ は 嘘 だ

買い物回前に挟んでおきたい小話を入れたら確実に長くなるのが目に見えたので分割しました。
次回こそ買い物回です。

では本編をどうぞ↓


「来週から校外特別実習が始まる。忘れ物なぞするなよ。三日間学園を離れることになる。自由時間では羽目を外しすぎないようにな。」

今日のホームルームで教壇に立つのは織斑千冬であった。それを見て教室を見渡した鷹月が手を挙げる。

 

「山田先生はお休みですか?」

 

そう今日の教室にはいつもいるはずの真耶がいなかったのだ。

鷹月の質問を受けた千冬は“あぁ”と思い出したように呟く。

 

「山田先生は、来週の視察の為に先んじて現地に行ってもらっている。」

 

「ええ!山ちゃん一足先に海に行ってるんですか!?」

 

「ずるいずるいー!」

 

「泳いでるよね、泳いでるんだろうなー!」

 

花の10代、女子高生とはすごいもので、何か1つ話題があれば一気に騒がしくなる。それを鬱陶しく思いながら千冬は話を続ける。

 

「一々騒ぐな馬鹿者どもが!山田先生は仕事で行ってるんだ。分かったな!」

 

千冬の言葉にクラスみんなで“はーい”と返す。こういったチームワークの良さもまた、彼女達のいいところなのだろう。

 

「これで朝のホームルームを終える。各人、今日もしっかりと励めよ。」

 

そう言って千冬は出席簿片手に教室から出ていく。

みんな揃って授業の準備を始めるなか、一夏だけ悶々とした表情で椅子に座っていた。

 

 

 

side 南美

 

 

「どうしたの一夏くん?」

 

「あ、南美…。いや、何でもない…。」

 

そう言って誤魔化す一夏くんの視線はチラチラとラウラちゃんの方に向いていた。

そしてラウラちゃんも、一夏くんと目が合う度にもじもじと視線を逸らす。

 

「…ラウラちゃんと何かあった?」

 

「っ!? な、なななな、何を言い出すんだ?!」

 

うん、この反応は何かありましたね。ラウラちゃんの姉としてこれは何があったのか聞かなきゃないね。

 

「君はラウラちゃんにナニをしたんだい?さぁ、早く答えようか、ハリー!ハリーハリー!!ハリーハリーハリー!!!」

 

「な、何もしてねぇって!!」

 

「それはラウラちゃんに何かしたくなるような魅力がないって言いたいのかな!?」

 

「お、お姉ちゃん落ち着いて!!」

 

勢い余って一夏くんに掴み掛かろうとする私の前にラウラちゃんが割り込んできた。

ラウラちゃん退いて!そいつ殺せない!!

 

「み、南美さん落ち着いてくださいまし!」

 

「落ち着け南美!」

 

ラウラちゃんだけじゃなくてセシリアちゃんと箒ちゃんまで私を押さえつけてきた。

3人に勝てるわけねぇだろって?バカヤロー私は勝つぞ。

 

 

side out...

 

 

 

「やっと大人しくなりましたわね…。」

 

「HA☆NA☆SE」

 

ロープで後ろ手に縛られた南美はせめてもの抵抗と言わんばかりに吠える。

だがそんな抵抗も空しくセシリア達は南美を無視して一夏に詰め寄る。

 

「さぁ一夏さん?聞かせて頂けませんか?ラウラさんと何があったのか…。」

 

「そうだ、聞かせてもらうぞ?嫌と言っても体に聞くまでだ…。」

 

「あ、あの、セシリアさん…?箒さん…?目が笑ってませんが?」

 

物々しい雰囲気を醸し出す二人に一夏は思わず後ずさる。

だがその後退を阻むようにシャルロットが一夏の背後にいた。

 

「ボクも気になるなぁ。一夏がラウラと何をしてたのか…。教えてくれるよね?」

 

救いの手に思えたシャルロットの目にも光はなかった。

四面楚歌とはこの事かと身をもって体験している一夏はポツリと、一言だけ呟いた。

 

「不幸だ…。」

 

 

 

「それで?一夏くんが朝起きたら下着姿のラウラちゃんが同衾していた、と。ほう…。」

 

取り調べ(物理)によってキリキリと事情を話した一夏に、その場の皆が疑いの目を向ける。

 

「ホントにそれだけなんだって!オレは何もしてない!!ラウラ、お前からも何か言ってくれ!」

 

「う、うん…。ホントに何もなかったぞ。私が寝惚けて嫁の部屋に入ってしまっただけだ。」

 

一夏の必死の言い訳とラウラの擁護によって一応は納得した様子で皆はぞろぞろと席に戻っていく。

その中から“ヘタレた?”だの、“度胸がないなぁ”等という声がしたが、どれも一夏には届かなかった。

 

 

 

そうして一夏の不能疑惑やヘタレ疑惑、ホモ疑惑、年上専などの噂が持ち上がっても恙無く授業は進む。

 

「さて、それでは今日の授業はここまでにする。解散!」

 

終わりのホームルームを終えた千冬がそのまま教室から去っていき、数名の生徒がその後を追いかけて行った。

 

一夏が部屋に帰るために机の荷物を出していると、一番下の教科書の更に下に1通の便箋が置かれているのに気がついた。

差出人の名前は狗飼瑛護となっており、一夏は何の躊躇いもなくそれを開ける。

そこには丁寧な文字で簡潔に文が綴られていた。

 

“今日から1週間、仕事でIS学園を留守にします。稽古の相手は椛を使ってください。”

 

「使ってって…。」

 

その内容に目を通した一夏は何と言っていいのか分からない感覚に襲われる。

そして1週間も狗飼の教えを受けられないことにがっくりとした。犬走との稽古も為にならないわけではないのだが、一夏の本分は剣であり、その事を自身で自覚しているのだから、余計に言いようもない感覚が湧き上がる。

 

「まぁ良いか…。」

 

何とか自分を納得させた一夏は教科書を全て鞄のなかにしまい込み、席を立った。

すると、ふとカレンダーが目に入る。どこにでもあるカレンダーの日付に一夏は何かに気がついたように手を叩く。

 

「そう言えばもう7月か。」

 

昔を懐かしむように呟いた一夏はそのまま鞄を持って教室を出ていった。

 

 

 

「一夏くんって鈍感なのか、女の子に興味が無いのか、どっちなんだろうね。」

 

アッハッハと他人事のように呟かれた(実際に他人事である)南美の言葉にその場に居合わせたシャルロット、セシリア、箒、ラウラ、鈴は溜め息を吐いた。

 

「あんの朴念仁はもうなんなんだろうね。」

 

「それでも年ごろの男子と同じくらいにはそういうことに興味もあるでしょ?」

 

「そうじゃなきゃ望みなんてないっての。」

 

「鈴さんにはお師匠さんがいるから良いのではなくって?」

 

「どういう意味よ!」

 

不貞腐れている鈴にたいしてそう言ったセシリアを睨み付ける。

セシリアは鈴に睨まれたまま左手の人差し指を立てる。

 

「鈴さんのルームメイトとはよくお茶会をする仲でして。それでよく聞かされてますの。鈴さんがいつもいつもお師さんがお師さんがってうるさいって。それもそれを楽しそうに話しているっとね。そんなに好きなんですの?」

 

ふふっとあくまで上品に笑うセシリアに、鈴は口をパクパクさせながら顔を真っ赤にする。

 

「私は、別にお師さんと、そんな…。う、うにゃぁああああああああっ!!」

 

「ふふ、恋多き乙女ですわねぇ。」

 

顔を真っ赤にしながらその場を目にも止まらぬ速さで去っていった鈴にセシリアは微笑む。

そして彼女の後ろ姿を見守るように見送りながら紅茶の入ったティーカップを口許に運ぶ。

こうして1名が逃亡したことにより、今日の専用機組の集まりはお開きとなった。

 

 

 

「今日もよろしくお願いします!」

 

「はいはーい、かかって来なさい。お姉さんが胸を貸してあげましょう。」

 

日も落ち始めたIS学園の敷地で、今日も今日とて一夏は犬走に挑む。

 

「ズェアッ!」

 

「ほいっと!」

 

振り下ろされた一夏の木刀を盾で簡単に軌道を逸らして、ローキックをお見舞いする。

負けじと一夏も更に踏み込んで犬走の襟を掴もうとするが、犬走の方が1枚も2枚も上手であり、一夏にペースを掴ませない。

 

「ほーら、重心重心。」

 

犬走は盾を使って一夏の突きを逸らし肉薄すると、木刀を握る両手の手首を掴むと、勢いよくしゃがみこんでそのまま木刀が突き出されている方向に投げる。

そして一夏の顔に股がると変則的な三角絞めに移行した。

 

「ふぐ───っ!?」

 

堪らず一夏は犬走の太股を叩いてタップする。

タップを確認した犬走は直ぐに一夏の上から退いて引き起こす。

 

「まだまだ甘いねぇ。そんなんじゃお姉さんは倒せませんよ。ま、時間もいい感じですし、今日はこの辺にしますか。」

 

「はい、ありがとうございます。…それと──」

 

ポンポンと服を叩いて汚れを落としながら終わりを告げた犬走に一夏は頭を下げる。そして何かを言い掛けて、1歩彼女に近寄った。

 

「椛さん、その、今週の日曜日って空いてますか?」

 

「今週ですか、え~と…。空いてますね、はい。」

 

思い出すように顎に指を当てていた犬走はパンと軽く両手を合わせて一夏に言う。

それを聞いた一夏はさらに1歩犬走に詰め寄る。

 

「それじゃあ椛さん、申し訳ないんですけど、買い物に付き合ってもらえませんか?」

 

「私と買い物に、ですか? またどうして?」

 

「や、その、頼りにできるのが椛さんしかいなくて…。」

 

犬走の問に一夏は頭を掻きながら申し訳なさそうに言う。その返答に犬走はふむと頷いてから胸を張った。

 

「そういうことならお姉さんに任せなさい。何を買うのか知らないけど、ちゃんとエスコートしてあげよう。」

 

張った胸をどんと叩くと、それなりに発育した胸が軽く揺れる。

その光景から目を逸らした一夏はまた犬走に頭を下げる。

 

「それじゃあ、その、日曜日はよろしくお願いします。それで、細かい時間とかなんですけど──」

 

それから数分ほど、一夏と犬走は日曜日に向けて待ち合わせやら何やらを話し合った。

 

 

 





一夏が女の人と出掛ける。あれ、これ死亡フラグじゃね?
今更か、うん。もう死兆星見えてるもんな、しゃあない。

それにこれからに向けて色々と伏線やらを仕込まんといけないしね。

ではまた次回にお会いしましょう。
…別に感想欄でお会いしてもいいんですよ?(チラ


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第81話 どうして買い物に来ただけで修羅場になるんですかねぇ


アンケートの締切ですが、今月の30日21:00までとさせていただきます。

では本編をどうぞ↓


特別実習を控えた日曜日、丁度犬走の休暇も重なったこともあり、一夏は犬走と一緒にレゾナンスに来ていた。

 

「それじゃあ行きますか。」

 

「はいはい、行きましょう。」

 

同じ定期船に乗ってやって来た二人はその足でレゾナンスに向かう。

一夏はラフな私服姿であるが、犬走の方はと言うとそれなりにしっかりとしたコーディネートで来ていた。

 

「はい、一夏くん。」

 

人込みに入る前に犬走は一夏に手を差し出す。

その行動の真意が見えない一夏の動きが止まる。

 

「人がいっぱい居ますし、はぐれたら面倒なので。手をつなぎませう。」

 

「え、あ、ちょっ!?」

 

さすがは歳上の女性と言うべきか、照れもせずに一夏の手を強引に握り、引っ張っていく。

 

 

そんな一夏と犬走を物陰から見つめる人物が数名ほどいた。

 

「ねぇセシリア…。」

 

「なんでしょう鈴さん。」

 

瞳のハイライトさんが緊急出張していなくなった目をした二人は物陰から手を繋いで楽しそうに歩いている一夏と犬走をじっと見ていた。

 

「あれ、手を繋いでるよねぇ?」

 

「ええ、繋いでますわねぇ。」

 

「あはは、そっかぁ…。白昼夢でも私の見間違いでも幻覚でもないんだぁ…。」

 

乾いた笑いをこぼしながら、鈴はゆらりと物陰から出る。

 

「よし、殺そう。」

 

アハッ☆と笑い、拳を握りしめる鈴を正気に戻ったセシリアが羽交い締めにして止める。

 

「お、落ち着いてくださいまし!流石に殺害は不味いですわ!」

 

「離せセシリア!あたしは必ずやかの鈍感不能の朴念仁を除かねばならんと決意したのだ!」

 

「貴女は牧人ではないでしょうに。」

 

羽交い締めにされてもがく鈴をセシリアはひょいと持ち上げて進めないようにする。

そうやってじゃれあっている美少女二人に周囲の視線が集まらないはずがなく、彼女らを見つけた知り合いが二人を囲む。

 

(モヒ・ω・)<ファリィさんお疲れさまです!

 

(罪゜Д゜)<ご友人の方もお疲れさまです。お荷物お持ちします!

 

「ありがたい申し出ですが、今のところ荷物はハンドバッグくらいですの。」

 

(モヒ・∀・)<いえ、そちらではなく、こっちの。

 

そう言ってストレートヘアの青年が指差したのはセシリアが羽交い締めにして抱えている鈴だった。

それで全てを察したセシリアは“よろしくお願いしますわ”と鈴を青年に投げ渡す。

 

(モヒ・∀・)<さぁさ、ファリィさんはこっちっすよ~。

 

「ちょ、離せ!」

 

鈴の小柄な体を肩に担いで青年はTRF‐Rの方に歩きだす。その後ろをほかの面子がやいのやいのとはしゃぎながらついていった。

その集団をセシリアがついて歩いていく。

 

「下ろせ! てか、どこ触ってんの!NOタッチの精神は何処に投げ捨てた!」

 

眉をつり上げて怒りを露にする鈴の怒声を右から左に受け流しながら青年は鈴を運ぶ。

途中で背中に拳を打ち下ろされても顔色1つ変えない様はもはやプロ意識の塊である。

 

 

 

「まったく、社を信じた私がバカだったわ。」

 

「あぁ?! 元はと言えばテメェの我が儘だろうが!」

 

「まぁまぁ、社もグーヤンも落ち着いて。ほら、甘いものでも食べようよ!」

 

そして歩き始めて数分後、言い争いをしながら歩く一団とすれ違った瞬間、鈴の背中を何か冷たいものが走った。

その感覚に直ぐ様すれ違った一団の方に目を向けるも、後ろ向きに担がれていた鈴からはその人物たちの背中しか見えない。

その一団は帽子を被った半ズボンの子どもと、銀髪の大柄な男、そして長く艶のある黒髪が目を惹く少女の3人組。その3人のただならぬ雰囲気に鈴は小さく歯を打ちならしてしまっていた。

そんな鈴の様子など露ほども知らない青年たちはえんやえんやと騒ぎながらTRF‐Rへと鈴を運ぶ。

 

 

(蒼・ω・)<人の邪魔しちゃダメだよ、ファリィちゃん。

 

(侍゜∀゜)<そーそ。そういう事すると黒王号に踏まれちゃうよ?

 

(暁^Д^)<そういうわけでTRF‐Rにご案内でーす。

 

やんややんやと担ぎ込まれた先はいつものゲーセン、TRF‐R。今日も今日とて人間を辞めたプレイヤーが集まっている。

 

(モヒ・∀・)<みんな~、ファリィさん連れてきたよ~。

 

(モヒ・Д・)<ヒャッハー!

 

(モヒ・ω・)<ハラショー!

 

「今日も元気ですのね、皆さん。」

 

(モヒ・∀・)<僕らから元気を取ったら格ゲーしか残りませんから。

 

「元気過ぎるのも考えものだけどねぇ。いい加減に下ろさないと少女誘拐の容疑でしょっぴかれるよ?」

 

鈴を担いだまま元気にはしゃぐ常連客にカセンはハァと溜め息を吐く。

その溜め息に鈴を担いでいる青年は丁寧に鈴を下ろす。

 

「やっと下りれた。」

 

(モヒ・∀・)<すいません、ついついはしゃぎ過ぎちゃいました。

 

「そんなに素直に謝られると困るんだけど…。」

 

鈴を下ろしてから素直に頭を下げた青年に鈴は困惑した表情をしながら髪を指先で弄る。

 

 

 

意図せずして鈴とセシリアを撒いた一夏と犬走はショッピングエリアのとある一店にいた。

 

「これとか、どうですか?」

 

「ん~、ちょっとイメージと合わないんじゃないですか?こっちとかの方がいいんじゃ?」

 

一夏が手に取った商品を眺めた犬走は首を傾げてそれを元あった場所に戻すと、その隣にあった商品を手に取る。

端から見たらただのデートにしか見えない二人のやり取りに物陰で歯噛みして悔しがる人物がいる。

 

 

 

「…やはり嫁は歳上が好きなのだろうか…。」

 

「どうだろうね…。ラウラにもボクにも手を出さなかったし、もう男にしか興味がないんじゃないかな?」

 

ふぅむと真剣に唸るラウラの言葉に目の死んでいるシャルロットは半ば適当に返す。

 

「そう悲観するなシャルロット、その時は自分の体で女の良さを教えてやればいいだけさ。」

 

「ラウラは前向きだなぁ…。」

 

ぐっと中指と人差し指の間に親指を挟み込んだラウラに物陰で膝を抱えて座り込むシャルロットは溜め息を吐く。そんな二人の背後に歩み寄る者がいた。

 

「お前たち、何をしている?」

 

「「ファッ!?」」

 

背後から呼び掛けられた二人はクイックターンも真っ青な速さで振り向く。するとそこには腕を組んで仁王立ちする千冬がいた。

 

「お、織斑、先生…。」

「教官殿…。」

 

気配を感じさせずに背後を取られたことに二人は恐怖した。

 

「こんなところでこそこそと何をしているんだ?逆に目立つぞ。」

 

「あ、いえ…。一夏が知らない女の人と一緒にいたので、つい…。」

 

シャルロットの“知らない女”発言に千冬はピクリと反応する。そしてつかつかと歩み寄り、先程まで二人が視線を向けていた先を見る。

 

「あれは…。ふむ、そうか…。」

 

犬走を視界に捉えた千冬は頷くと物陰から出て二人に近づいていく。

犬走の方も千冬の姿が見えたのか、軽く会釈して一夏にも千冬の存在を教える。

 

「どうも千冬さん、3月以来ですね。」

 

「犬走さんはお元気なようで。どうですか、他の方々にお変わりはありませんか?」

 

「健康そのものですよ。警備員は体が第一ですから。」

 

握手を交わしにこやかに世間話を始める二人。その脇で一夏は突然現れた姉に呆然としていた。

 

 

「さて、申し訳ないがこの愚弟を借りていってもよろしいか?」

 

「ええ、構いませんよ。学園内じゃ姉弟水入らずとはいかないでしょうし。」

 

「すまないな。行くぞ一夏。」

 

「え? 千冬姉? え…?」

 

そうして世間話に華を咲かせた後、千冬は一夏を連れて何処か別の店へと向かっていく。

流石に世界最強の後をストーキングしようとする猛者などいるはずもなく、この日、IS学園に帰るまで一夏の姿を見た者はいなかった。

 

 

 

その頃、IS学園の格納庫ではと言うと…

 

 

「お久しぶりです暁さん。」

 

「2ヶ月ぶりくらいか…。早いものだ。」

 

「ホントに早いですよね。…それで今日は新しいパッケージ装備を持ってきたと聞いてるんですが。」

 

「よくぞ聞いてくれた!」

 

 

世紀末企業の尖兵が話し合っていた。

 

 

 





さーて、さっさと水着回に突入しよう。
え?修羅場は何処かだって?
あったじゃないですか。買い物に来たら修羅(ゲーマー)と修羅(直喩)に会ったじゃないですか。

え?そんなんじゃダメだって?
まぁ話が進めば必ずある展開ですから。


それと、もう1つアンケートを行います。
出来ればそちらも協力いただけると嬉しいです。

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第82話 二つ目のパッケージ装備

昨日の21:00で今後の展開についてのアンケートは締め切りました。
意見を寄せていただいた方、ありがとうございました。

それでは本編をどうぞ↓


「これが“鳳凰”ですか…。」

 

「ああ、水鳥が万能性を高めたのに対して、これは機動力を尖らせたものだ。そして今のところ唯一武装がある。」

 

「それってもちろん…。」

 

「槍だ。」

 

薄暗い格納庫の中で淡々と行われるやり取り、その最後の暁の言葉に南美は“ですよね~”と言葉を漏らす。

 

今南美の目の前に置かれているのは水鳥に続く二つ目のパッケージ装備、その名も“鳳凰”である。

鳳凰をイメージした赤と橙をメインにしたカラーリングと翼を模した非固定浮遊ユニットが特徴的だ。

 

「最高速度だけなら白式にも負けず劣らず。それを活かした制圧的な攻撃性能も高い。その反面、脆い。受けに回った瞬間に溶けるくらいにな。」

 

「ピーキーなんてもんじゃないですね。」

 

「だが、君なら使いこなせるだろう? 少なくとも私達はそう信じている。」

 

真剣な眼差しを南美に向ける暁。その瞳に南美はふぅと息を吐き出して髪を手櫛で解く。

 

「そこまで言われちゃ使いこなさない訳にはいきませんね。任せてくださいよ!」

 

「良い返事だ。それでこそ、と言うべきかな。」

 

南美の返答に暁は軽く笑みを浮かべてインストール作業に取りかかった。

作業自体は簡単なものですぐ終わり、さて調整をという段階に移る。

 

「さて、実戦で感覚を確かめてほしいのだが…。」

 

「ん~、簪ちゃんは出掛けてるし、誰かいるかな?」

 

暁の提案に南美は顎に手を当てて唸る。

今誰かちょうど良いスパーリング相手がいなかったかみんなの予定を頭に思い浮かべていた。

 

「いますね、一人。」

 

「よし、なら早速データを取ろう。」

 

キランと輝いた目で暁は格納庫の外に出る。

南美は急いで鳳凰を待機状態に戻してその後ろを追う。

 

 

 

「いやぁ、ごめんね箒ちゃん。急に模擬戦の相手を頼んじゃってさ。」

 

アリーナに浮きながら南美はアハハと笑って頭を掻く素振りを見せる。

その正面には紅椿を纏った箒が既に臨戦モードで浮いていた。

 

特別実習前の休日に街に繰り出さずに残った箒は南美の試し台に採用されたのだ。

そしてそんな絶好の機会を逃す藤原と箒ではなく、南美の提案を即決で承認した。

 

「ハハハハハッ! 盛り上がって来たねぇ!!」

 

管制室のモニターを眺めながら藤原は声を張り上げて笑う。その横で暁は手元のタブレット端末に写る数字をを目で追う。

 

 

「さぁ、南美…。いざ尋常に──」

 

「──勝負っ!!」

 

二人は掛け声と同時に前に出る。

機先を制したのは南美だった。

 

 

「飛べぇ!」

 

踏み込んだ右足を勢いよく振り上げると、箒は二振りの刀でそれを受け止める。だが南美は力ずくで無理やり振り抜き、箒の体を浮かせる。

 

「ふんっ!でりゃ!そぉおい!!」

 

手刀を突き3発打ち込み、叩きつけるように踵を落とす。

強烈な一撃を叩きつけられ、箒の体は地面に打ち付けられる。

そして、ダウンした箒に更に追撃を掛ける。

 

「南斗爆星破っ!!」

 

南美が腕を交差させて振ると、十字型のエネルギー波がゆっくりとした速度で放たれる。

 

「ちっ!?」

 

「ワハハハハハッ!!」

 

起き上がりとほぼ同時に眼前まで迫るエネルギー波と南美の姿に箒は苛立ちながら後退する。

 

「退かぬ!媚びぬ!!」

 

「甘く見るな」

 

交差させる手刀から、突きの二段攻撃を箒は器用に捌くと、今度は前に踏み出して攻勢に出る。

 

「ちぇええすとぉおおっ!!」

 

「うおっと?! ふんっ!!」

 

力強い踏み込みから放たれた強烈な一閃、それをギリギリのところでかわす。

顔を掠めた刃を目で追った南美は直ぐ様踏み込んで箒の胸に手刀を突き込む。

 

「倍返しだ! その首置いて逝け!」

 

胸に突きを受けた箒は動きを止めずにもう1本の刀を南美の首に目掛けて振り払う。

咄嗟の判断で頭を下げて難を逃れた南美は後ろに跳躍し距離を開ける。

だが、

 

「逃がさん!!」

 

後ろに下がった瞬間に箒はブースターを吹かして南美に詰め寄る。

そして左手の雨月を鞘にしまい、右手の空裂を両手で握って振り下ろす。

 

「っ!? ちょおっ!?」

 

白刃取りしようと両手を構えた南美は振り下ろされる直前に何かを感じとり、直ぐに身を捩る。

南美が身を捩るのと同時に刀身と、エネルギーの刃がそこを通り抜けた。

 

「勘のいい奴だ…。」

 

「怖いわー、箒ちゃん怖いわー(棒)」

 

「ふん、あのタイミングで回避するお前の方が怖いわ。」

 

南美は箒の突進に警戒しながら距離を取る。

その南美を見送りながら箒は雨月を抜く。

どちらも火力と機動力に特化し、防御を捨てているからこそ、迂闊な攻めはできない。それが分かっているからこそ、二人は睨み合う。

 

「さーて、どうしましょうか、ねっ!!」

 

「ふんっ!」

 

均衡状態を打ち破ろうとして南美は槍を1本、拡張領域から取り出して投げつける。

唐突に投げつけられた槍を箒は慌てることなく弾き飛ばす。目の前には既に拳を引き絞った南美の姿。それを見た箒の行動は至極単純だった。

 

「ちぇすとぉお!!」

 

回避でも防御でもない。向かってくる南美に向かって踏み込み、正面から迎え撃つ。

真っ直ぐに突っ走ってくる南美に向けて空裂と雨月を同時に振り下ろす。

だが、その刀は宙を切るだけに終わり、南美を捉えることはなかった。

 

「ワハハハハハッ!!」

 

「くそっ!?」

 

次の瞬間には横に回り込んでいた南美は箒の肩を掴んで鳩尾を蹴り、投げ飛ばす。

そして背部のブースターを吹かして更に追撃を掛ける。

 

「飛べぇ!」

 

箒の体を蹴りあげ、南美もまたそれを追って宙に跳ぶ。

 

「でりゃあ!南斗爆星破!!からの~、そぉい!」

 

打ち下ろす蹴りからエネルギー波に繋げ、空中で箒の体を掴み、下に向けて投げつける。

 

しかし箒は地面に叩きつけられる直前に体勢を立て直して着地し南美の方を見やる。

 

「やられたらやり返す!!」

 

「かかってこいよぉ!!」

 

2本の刀を構えて箒は南美に斬りかかる。

南美はそれを上手く受け流しながら懐に潜り込もうとするが、そう簡単にはいかない。

熾烈な箒の攻めは南美の勢いを殺し、自身の守りを高める。攻撃こそ最大の防御という言葉を正に体現したような姿勢である。

 

「ちぇすとぉお!!!

 

「ちぃ!?」

 

豪快に横一文字に振るわれた一閃に南美は舌打ちして下がる。

そして拡張領域から槍を1本取り出して構える。

しかしその構えは箒からすれば隙だらけ、素人同然のものだった。

 

「ふん、武器の扱いは苦手と見える。」

 

「そりゃ私の専門は徒手空拳だからね、得物は拳だけさ。」

 

「ふん、なら拳でかかってくればいいだろう?わざわざ槍なんか構えずに。」

 

「まぁ、そうするよね!!」

 

二言三言言葉を交わすと、南美は持っていた槍を投げつける。そしてその槍の後ろをついていくように走り出す。

 

「それはさっき見た!!」

 

槍投げを見た瞬間に箒は空裂を振り、エネルギー波で槍を迎撃すると、その槍の後ろにいる南美に向かって雨月を突き出して刺突のエネルギーを放つ。

 

「わおっ!?」

 

「そこだっ!! その首、貰ったぁあっ!!」

 

刺突のエネルギーを横に跳ねてかわした南美の首筋を箒の空裂が捉えた。

もちろん絶対防御のシステムによって死にはしないものの、衝撃や痛みはしっかりと感じるし、何よりもその一撃でごっそりとシールドエネルギーが削れた。

 

南美の体は大きく吹き飛び、数回地面に擦れた後、地面に転がって倒れる。

 

「ぁぁ、痛いなぁ…。」

 

弱々しく南美は言葉を呟く。そしてゆっくりと立ち上がると油断なく構える箒を見る。

 

「けどまぁ…、死ななきゃ安い…ってね。」

 

ボロボロではあるが瞳の闘志は消えていない。

南美は胸を張ると、だらりと両腕から力を抜く。そして脱力した腕を左右に広げる。

 

「さぁ、受けてみると良いさ。南斗108派最強、南斗鳳凰拳の奥義を…。」

 

「あぁ、お前の全力を受けきってみせる。そして勝つ。」

 

独特な構えを見せる南美に対して箒はあくまでもオーソドックスな構えを取る。

 

「南斗鳳凰拳奥義──」

 

「篠ノ之流──」

 

南美は逆立ちの状態から腕を使って飛び上がり、箒は雨月を鞘にしまうと、右手で握った空裂を引き絞るように引く。

 

「天翔十字鳳!!」

 

“鳳凰”の背部スラスターからエネルギーの塊が溢れるように立ち上る。

それはまるで炎を纏う巨大な鳥にも見えた。

そして南美はそんなエネルギーの塊を纏った状態で箒に突進する。

 

「篠突き!」

 

箒は巨大なエネルギー塊になった南美に向けて全身のバネを使った突きを放つ。

二人が激突した瞬間、アリーナは眩い光に包まれた。

 

 

 

「……決着は…?」

 

「もう着いたみたいだねぇ。見なよアレ…。」

 

不意を打たれ、もろに光を見てしまった暁と藤原は暫くたってからまだチカチカする目を開く。

箒と南美の激突によって舞い上がった砂埃も晴れ、アリーナの中央で横たわる二人の姿が確認できた。

 

そんな二人の姿を見た二人は手元のタブレット端末の画面に目を向ける。

 

「シールドエネルギー、ゼロ…。」

 

「こっちもだね。ダブルK.O…いやいやぁ、面白いねぇ!!」

 

暁が驚きの声をあげ、藤原は愉快そうに高笑いした。

 

 

「引き分けかぁ…。」

 

「次は勝つ…。」

 

アリーナで倒れている二人は顔をあげてお互いを見つめ合う。

爽やかに笑い合う二人は歳に見合った幼さを感じさせる。

 

 

 

そんな女子二人が更なる友情を築いている時、IS学園行きの船の甲板ではというと──

 

「今日はありがとうございます椛さん。」

 

「いえいえ、構いませんよ~。」

 

甲板の上で一夏は携帯電話越しに犬走に礼を言う。礼を言われた犬走は何でもないと言うような口調で返す。

 

「いや、ホントに助かりました。お陰様で良いものが買えましたし。」

 

そう言って一夏は紙袋を持ち上げる。見えてはいないものの、電話越しの音からそれを想像した犬走は“若いって良いですね~”と溢す。

そんな犬走の発言に一夏は小さく苦笑いを浮かべる。

 

「ホントにありがとうございます。たぶん狗飼さんならこうはいかなかったと思いますし。」

 

「アハハ、確かに先輩はそういうのには疎そうですもんね。」

 

クククと電話越しに笑う犬走の声を聞いて一夏は小さく笑う。

 

「さすがに笑いすぎじゃあ…。」

 

「一夏くんもじゃないですか、ク、クク…。」

 

「それじゃあ、そろそろ切りますね。今日は本当にありがとうございました。」

 

「いえいえ、どういたしまして。私でよければ休日の都合がつけば付き合いますよ。」

 

「はい、その時はお願いします。」

 

一夏は頭を下げてから二言三言言葉を交わして電話を切った。

そして日の落ちて暗くなった空を見上げる。

北斗七星を見つけた一夏は小さく呟いた。

 

「…あの小さな星、前よりも明るくなってる…?」

 

 

 

一夏が船の上で犬走と話している最中、とある海辺の旅館では──

 

「へっくし!」

 

畳張りの部屋の中で浴衣を着て胡座をかいて座る狗飼は小さくくしゃみをした。

そんな狗飼に浴衣姿の真耶は心配そうに近寄る。

 

「風邪ですか? もしかして湯冷めでもしましたか?」

 

「い、いえ…。誰かが噂でもしたんでしょう。」

 

「ダメですよ、風邪はひきはじめが大事なんですから!」

 

真耶から顔を逸らした狗飼に真耶は更にずずいと詰め寄る。

すると、狗飼の顔が耳まで赤くなる。

 

「ん~、顔も赤いみたいですし、今日は早く寝ましょう。明日から生徒のみんなも合流しますから。」

 

そう言って真耶は部屋の真ん中に敷かれた二組の布団に目を向けた。

 

 

 

 

 





次回から水着回に入れる…はず。

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どしどしご意見・ご感想をどうぞ!

それではまた次回に会いましょう!



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第83話 海!泳がずにはいられない!


1週間ほど間が開きましたね。
…忙しかったんです。

では本編をどうぞ↓




「海だー!!」

 

トンネルを抜けるとそこはビーチが広がる海だった。

眼前に広がる海を見て、バスに乗っている1年1組の一行のテンションはいつもよりハイになる。

中には既に服の下に着ていた水着を見せている者までいる。

 

そんな事にも慣れているのか千冬はハァと小さく息を吐くだけだった。

 

 

 

「さて、ここがお前たちが世話になる旅館だ。迷惑を掛けるなよ?」

 

「「「よろしくお願いします!!」」」

 

旅館の前で整列した一同は女将さんに向かって頭を下げる。

そうして各自割り振られた部屋の鍵を受け取り、荷物を置くと我先にと言わんばかりに海に飛び出して行った。

 

 

そして一夏はと言うと──

 

「それじゃあ行ってくるよ。」

 

「あぁ、あまり羽目を外しすぎるなよ?」

 

「分かってるって。」

 

同室の織斑千冬に一言掛けて海に向かっていた。

元々一夏の部屋は一人部屋となる予定だったのだが、経費削減と彼の部屋に女子が忍び込まないようにという配慮から山田真耶の提案によって千冬と同室になったのだ。

 

 

 

「ヒャッハー海だー!!」

 

「ハラショー!!」

 

思い思いの声をあげて水着姿の女子たちが砂浜を走る。

瑞々しい若い肌を惜しげもなく披露する彼女たちに一夏は二の足を踏んでいた。

そんな一夏に物陰から声を掛ける人物がいる。

 

「何を躊躇っているんです?」

 

「っ!?狗飼さん!!」

 

そう、一夏の師狗飼瑛護である。

狗飼の服装はIS学園にいる時と変わらない黒のスーツ姿。そのことからここにいるのは仕事なのだろうと分かる。

 

「どうも、1週間ぶりですね。一夏くん。」

 

「え、あ、はい。お久しぶりです。」

 

マイペースに飄々とした態度で話し始める狗飼に動揺しながらも一夏は挨拶を返す。

時折狗飼は一夏から視線を外しては逃げるように物陰に隠れる。

 

「えっと、今日もまた見つかっちゃいけない的な感じですか?」

 

「はい。今のところ私の存在は教師と君しか知りません。」

 

「それならなんで自分に声を掛けたんですか?」

 

その問いに狗飼はすーと一夏から目線を逸らす。

何か言いにくいことを言うべきか悩んでいる顔である。

 

「…教え子が困っているようだったので…。」

 

目を泳がせて狗飼は告げる。子どもでも分かる嘘だ。

しかし一夏はそこに触れない。

その嘘にも少なからず本音が含まれていると直感したからだ。

 

「君とて健全な男子。目の前の光景に躊躇う気持ちもまぁ、分からないでもないです。ですが、楽しまなくては損ですよ。」

 

「え?」

 

「君がここにいられるのは色んな人の配慮やらなんやかんやがあったからです。だから、その人達の為にも楽しんでください。」

 

物陰に隠れながら告げられた狗飼の言葉に一夏は考える。

世界唯一の男性操縦者という特異な存在である自分の置かれた状況を、そしてそんな自分の周囲にいる人たちの事を。

 

「そうですね、そうさせてもらいます!ありがとうございます狗飼さん!」

 

一夏は勢いよく頭を下げると体の向きを変えて砂浜のほうに走っていった。

そして狗飼は一夏が砂浜に走っていったのを確認するとハァと盛大に溜め息を吐いた。

 

(言えませんよねぇ…。君の副担任と1週間同じ部屋で寝てたなんて…。)

 

 

がっくりと項垂れた狗飼はブンブンと頭を横に振り、頭の中を切り替えて仕事モードになると、どこかに姿を消していった。

 

 

 

side 一夏

 

 

やや様子が変だった狗飼さんに背を向けてビーチに来ると、南美が砂で作ったベンチに座ってオレの方を見てきた。

 

「遅かったじゃないか、一夏くん。」

 

やけにいい声だったような気がするのは気のせいだろう。うん、そうに違いない。

バリトンボイスな女子学生なんてそうそういるはずがないんだ。

 

そんな南美の格好はスポーツ水着だ。

左胸に小さくメーカーのロゴがプリントされてる。

ビーチに来ているというのに全く色気付かないその水着は何となく南美に似合っている。

 

「南美は何してんだ?わざわざそんな大がかりな物まで作ってさ。」

 

「アッハッハ、何となくかなぁ。ちょっと面白そうだから作っちゃった。ねー本音!」

 

「そうそう~、面白いは何物にも優先されるんだよ。」

 

そう言ってベンチの陰から布仏さんが手を振ってきた。

たった二人でこの超大作を作ったというならそれはもはや人間業ではない。

そして手を振ってくる布仏さんの水着、いや、水着と言っていいのか甚だ疑問でしかない。それは着ぐるみパシャマ的な感じの物だった。

これで水に浸かって大丈夫なのだろうか…。

 

まぁ布仏さんは海で泳ぐようなタイプに見えないし、大丈夫なんだろう。きっと。

 

 

この二人はこの二人で楽しんでるみたいだし、邪魔しちゃ悪いよな。

さて、どこかにオレと同じ暇人はいないかなっと…。

 

 

そうやって南美と布仏さんから離れたオレは暇をもて余してそうな人を探して歩き出す。

探し人は直ぐに見つかった。

 

 

side out...

 

 

「セシリアは泳がないのか?」

 

「えぇ、まぁ…。」

 

一夏が声を掛けたのはビーチパラソルで作った日陰に座るセシリアだった。

そしてセシリアも一夏が声を掛けてきたのはこれ幸いとばかりに一夏の腕を掴んだ。

 

「それよりも丁度良かったですわ。その、サンオイルを塗っていただけませんか?」

 

セシリアは上気したやや色っぽい顔で一夏に頼む。

一夏もサンオイルを塗ってくれと頼まれ、どこを触るのかを想像してしまったのか、頬を少しだけ赤く染める。

 

「そ、その…オレで良いのか?」

 

「構いませんわ。一夏さんの事は信頼しておりますもの。」

 

セシリアの言葉に反論の余地を無くしたのか、一夏はセシリアの隣に諦めたような顔つきで座る。

 

「ふふ、よろしくお願いしますわ。」

 

セシリアは一夏にサンオイルの入れ物を渡すと、胸を覆う水着を外してはうつ伏せになる。

自重で潰され、腋から見えるその豊満な胸が青少年の目に眩しい。

一夏は生唾を飲み込むと、その胸から目を逸らす。

そして1度大きく深呼吸してからサンオイルを掌に落とす。

そして掌の上で冷たいオイルを人肌に暖めてから慣れた手付きで塗り始める。

 

「あら? 一夏さん…。随分と慣れてらっしゃるのね…。」

 

「いや、まぁ…色々と、ね。」

 

言葉を濁す一夏にセシリアは“ふ~ん”と小さく唸る。

そんな彼女の反応を受けた一夏は小さく笑い声を溢すしか出来なかった。

 

「ほ、ほら、終わったぞ。」

 

無心にサンオイルを塗り終わった一夏はセシリアにそう告げて背中を向ける。

一夏に終わりを告げられたセシリアはやや残念そうに体を持ち上げて水着を着る。

その表情から若干の不満が見てとれた。

 

水着を着終わったのを確認した一夏が振り向くと、不満顔をしたセシリアに驚く。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「いえ、別に…。」

 

不満を抱いていると隠していないセシリアに一夏は困ったなと頭を掻く。

そして考えること数秒、良い案が思い付いたとセシリアに顔を近付けて耳打ちする。

一夏の提案を聞いたセシリアは喜色満面と言った面持ちで一夏の手を握る。

 

「では今夜!必ず!」

 

「お、おう…。」

 

ブンブンと握られた手を上下に振られて一夏は困惑する。

しかしどうにか機嫌を直してもらえたことにその困惑はどこかに吹っ飛んでいった。

そしてセシリアは“こうしてはいられませんわ!”と呟くとどこかに立ち去っていった。

 

 

 

そうしてまた一人になった一夏はビーチパラソルの陰から誰か暇な人がいないかを探し始めた。

 

 

 

「フハハハハハハ!中々やるなぁ凰鈴音!!」

 

「そっちこそ!!ただのメガネキャラじゃないわね!!」

 

ビーチの一角では水着姿の鈴と簪がビーチフラッグで対決していた。

どこから持ち出されたのか不明な黒板にはそれまでの勝敗がかかれており、今のところ6戦して勝率は半々と互角の勝負である。

 

「じゃあ行くよー!」

 

スターター係の生徒が寝そべっている二人に声を掛ける。二人は既に準備は済んでいると言わんばかりにサムズアップして見せた。

それを見たスターター係は右手を掲げる。

 

「ステンバーイ、セットレディGo!!」

 

掛け声と同時に振り下ろされた腕を見て、二人はほぼ同時に起き上がり走り出す。

 

「ぬぉおりゃあっ!!」

 

「ハハハハハハッ!!」

 

二人は一斉に数十メートル先にある旗目掛けて疾走する。

若い肢体が何本も行われた全力疾走によりしっとりと汗に濡れ、砂にまみれる。そしてさらなる運動によって流れた汗が夏の日差しによって輝いて見える。

 

「「獲ったぁ!!」」

 

ほぼ同じ速度で疾走する二人は旗の手前で同時にダイブした。

二人の着地した衝撃で砂煙が立ち上ぼる。

そんな土煙を掻き消すように二人の人影が立ち上がる。

 

「「獲ったどぉおお!!」」

 

掲げられた二人の手には旗が握られていた。

簪が根本を、鈴がその上を握る形で掲げられたそれは勝負の結果を告げていた。

 

「引き分けだねー。」

 

旗の側で勝敗を見ていた生徒が二人に告げる。

その言葉にぐぬぬと唸った二人は“もう1回!”と告げて先ほどのスタートラインに戻っていった。

 

 

 

「ラウラ、出てきなって!!」

 

そこから少し離れた場所ではシャルロットが逆さまになった大きめの段ボール箱に話しかけていた。

話しかけられた段ボールは抗議するようにガタガタと左右に揺れる。

 

「う~、なぜ私はこんな色気のない水着なんだ…。」

 

段ボール箱の中からはラウラの声が響く。その声から少しばかり泣いていることが読み取れる。

 

「だから言ったじゃないか、皆おしゃれしてくるって!ほら、諦めて出てきなって!」

 

「嫌だ…。こんな姿を嫁に見られたら嫌われる…。」

 

どうにかして段ボール箱を引き剥がそうとするシャルロットであるが、内側のラウラの抵抗によってその努力はなかなか実を結ばないでいた。

 

 

 

「…楽しそうだな…。」

 

鈴と簪、シャルロットとラウラの四人の光景をそれぞれビーチパラソルの陰から見ていた一夏はぽつりと呟く。

そんな一夏に近寄る陰があった。

 

「暇そうだな。」

 

「千冬ね、織斑先生…。」

 

一夏に話し掛けた人物は千冬であった。

もちろん水着は着用しており、その抜群のプロポーションを惜しげもなく披露していた。

程よく肉付きがありつつもしっかりと引き締まった体つきに豊満な胸部、そしてそれらを強調する黒のビキニ姿は同性である生徒達の目を惹き付ける。

 

「どうした? 鳩がアハトアハトを撃ち込まれたような顔をして。」

 

千冬の魅力的な肢体に釘付けになっていた一夏の顔を覗き込み千冬は尋ねる。

その問いにハッと我に返った一夏は千冬の目を見るとやんわりと微笑む。

 

「黒で良かった。やっぱりそっちのが千冬姉には似合うよ。」

 

「そうか、まぁなんだ。折角弟が選んでくれたんだ。着てやらねば可哀想だと思ってな。」

 

真っ直ぐな褒め言葉に千冬は照れ臭そうに目を逸らした。

 

 

 

「ぐぬぬぬぬ…。いっくんてば、あんなに鼻の下伸ばしちゃってぇ…!」

 

茂みの中で双眼鏡を覗き込んでいる束は歯噛みして悔しがっていた。

その格好はいつものジャージ姿ではなく夏物のワンピースである。髪もボサボサではなくしっかりと手入れされており、彼女の持つ本来の美貌を引き立てている。

 

「でもやっぱりちーちゃんもキレイだなぁ…。」

 

「篠ノ之も負けてないと思うけどねぇ…。」

 

やや諦めたような顔つきで呟く束に隣で双眼鏡を覗いている藤原はぽつりと呟いた。

二人ならんで茂みの中で双眼鏡を覗いているというその光景、誰かに見られたなら即通報ものだろうが、普段のこの二人はそんなヘマはやらかさない。

…のだが、今回ばかりは相手が悪かった。

 

「ドーモ不審者=サン、警備員デス。」

 

「「アイエエエエ!!警備員!?警備員ナンデ!?」」

 

振り向いた二人の後ろには日本刀の柄に手を掛ける狗飼がいた。

首からはKGDO警備員の証であるパスが提げられている。

目付きはもはや人殺しのそれであり、一瞬でも怪しい動きを見せれば斬ると瞳が語っている。

 

そんな目付きで睨まれた二人は抵抗することなどなく、簡単にお縄を頂戴することとなった。

 

それに気付いた者はいない。

 

 

 

 





…泳げよ…。

まぁね、KGDOのいる場所に不法侵入したらそりゃ捕まるよね。仕方ないね。

え?ラウラの着ていた水着は何かって?
胸元の名前欄に「らうら」って書かれたスク水に決まってるじゃないですか。片仮名じゃないです。平仮名です(←これ重要)。

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第84話 死兆星の輝く夜に


早めに書き終わったので、投稿しました。

では本編をどうぞ↓


特別実習1日目の夜、島津の間と書かれた部屋の前では鈴、シャルロット、ラウラ、箒の四人が戸に耳を押し当てて聞き耳を立てていた。

 

「あ…ん…、お上手ですのね、一夏さん、あっ…。」

 

「まぁ、千冬姉とか相手にしてたし…。」

 

戸越しに聞こえてくるのは艶っぽいセシリアの吐息混じりの声と、一夏の声。

そのやり取りや声に盗み聞きしていた四人の顔は真っ赤に染まる。

 

「そこだぁ!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

部屋の中から響いた一夏でもセシリアでもない声と同時に戸が開く。

戸に耳を押し当てていた彼女たちは支えを失ったことで部屋の中に雪崩れこんだ。

 

「…盗み聞きとは趣味が悪いな。」

 

「お、織斑先生…。」

 

「あ、あはは…。」

 

少女達の雪崩れこんだ先には腕を組んで見下ろす鬼教官。

もはや言い逃れできない状況に追い込まれた四人は冷や汗を流した。

 

「あれ、どうしたんだ?」

 

そこで声を上げたのは一夏である。浴衣姿であるが額には玉の汗が浮いている。

そしてその隣でうつ伏せになっているセシリアもまた四人を見て驚愕の顔を浮かべていた。

二人の衣服は乱れておらず、予想が外れた四人の顔はますます赤くなった。

 

「おうおう、マセガキども。どんなことを想像してたんだ?」

 

意地の悪い笑みを浮かべた千冬が視線の高さを合わせて問い詰める。

その尋問に対して四人は目線を逸らすことでささやかな抵抗をする。

そんな四人に千冬は“まぁいい”と口にして一夏の方を向く。

 

「一夏、風呂に入ってこい。今なら女子も使ってないだろう。その汗を流せ。」

 

「あ、うん。」

 

千冬に言われて額の汗に気付いた一夏はタオルでそれを拭うと着替え一式とタオルを持って大浴場へと向かった。

部屋の戸が閉められ、パタパタと遠ざかる音がしてから数秒後、沈黙を破って千冬が冷蔵庫を開ける。

 

そして中に入っていた缶ジュースを無造作に取り出しては5人に投げ渡す。

 

「飲め、私の奢りだ。」

 

「は、はぁ…。」

 

そう言って千冬は椅子に座り、5人をその周りに座るように目線で促した。

猛獣の前の小動物同然の5人はそれに逆らうことなどできるわけもなく、促されるままに座り、缶を開ける。

5人全員が開けたのを確認した千冬はニヤリと笑い、盃を取り出した。

 

「さて、飲んだな?」

 

千冬は5人に目配せをして、背中の後ろから桐箱を取り出した。そしてそれを丁寧に開けると1本の日本酒が姿を現す。

その中身を盃に注ぎ、匂いを嗅ぐと小さく微笑んだ。

 

「ふん、藤原の奴め…。中々良い酒を選ぶじゃないか。賄賂のつもりだな。」

 

きゅっと盃の中身を飲み干した千冬は満足したように呟く。

そんな千冬の様子を呆然と5人は眺めていた。

 

「どうした? どいつもこいつもカバの欠伸みたいに口を開けて。」

 

「あ、いえ…。その意外だなぁって…。」

 

「私だって酒くらい呑むさ。そうじゃなきゃやってられない時も、今まで幾つもあったしな。」

 

シャルロットの言葉に当然だと言うように返した千冬はまた盃に酒を注ぎ、あおるように呑む。

それに感化されたように5人もまた缶の中身を口にする。

 

そうして数分後、若干酒が回って来たのか、頬を薄紅色に染めた千冬は瓶と盃を脇に置く。

 

「それで、お前らはあのバカのどこに惚れたんだ?」

 

「「「「「えっ!!?」」」」」

 

あのバカ、それは一夏のことであるのは明らかであった。まさかその話題を実の姉であり、担任である千冬から振られるとは思ってなかった一同は目を泳がせる。

 

「いや、その…あたしは別に…あいつのことなんて。」

 

「た、ただの幼馴染み、というだけで、別にその…。」

 

「くく、そうか。じゃあアイツにはそう伝えておく。」

 

「「伝えなくて結構です!!」」

 

長い髪を弄って誤魔化す二人に意地悪な返しをすると、二人揃って同じ事を叫んだ。

 

 

「私は、一夏さんは、素敵な殿方だと思っていますわ。一夏さんと出会えたから今の私があるのですし。」

 

「ハッハッハ、そうかいそうかい。あのバカも人を変えられるくらいには成長したか…。」

 

 

「ボクは、優しいところが、好きです。」

 

「アイツは全員に等しく優しい奴だぞ?」

 

「それがちょっと妬ましい…ですかね。」

 

 

「強いて言うなら、強いところ、でしょうか。」

 

「アイツは弱いぞ?」

 

「いえ、強いです。私なんかよりも、ずっと。」

 

 

セシリア、シャルロット、ラウラの思い思いの言葉を聞いた千冬は笑い、思い詰め、見つめた。

その目にどんな感情が込められていたのかを5人は知る由もなく、また踏み込もうと思えなかった。

 

 

 

「炎の匂い、しーみーつーいてー──」

 

「ご機嫌ですね。」

 

「むせ──ふぁあっ!?狗飼さん!」

 

大浴場の湯舟に浸かりながら歌を口ずさんでいた一夏はいつの間にか隣で湯に浸かっていた狗飼に驚愕する。

そんな弟子のリアクションにも動じず、狗飼は一夏の方を向いた。

 

「そこまで驚くことでもないでしょう。修行が足りませんよ。コレが終わったら一稽古付けましょうか?」

 

ピンと右手の人差し指を立てて説教するように言う狗飼に一夏は呆然としていた。

それと同時に神出鬼没なこの師匠を相手に気配を察せない時点で自分は未熟者だということも悟った。

 

「あの、狗飼さん…?」

 

「なんでしょうか?」

 

「…気配察知の技術を教えてください。」

 

狗飼に正面から向き合って一夏は頭を下げた。

その口調は真剣そのもので、軽い気持ちではないことも分かる。

 

「…教えてどうこうなるものじゃないですよ。経験あるのみです、こればっかりはね。」

 

「やっぱりそうですか…。」

 

狗飼の言葉に一夏は顔を下に向ける。

そして数拍してから顔を上げると狗飼に掴み掛かった。

 

「狗飼さん! えっと、その…、もっと、もっと稽古を付けてくれませんか?!」

 

「それは、構いませんが…。」

 

鬼気迫る表情で迫ってくる一夏に狗飼は呆気にとられる。

そして真剣な瞳で見つめてくる一夏に溜め息を吐いて立ち上がった。

 

「仕方ありませんね。これからは今までよりも厳しくいきますよ。」

 

「はいっ!!」

 

頭にタオルを乗せたまま大浴場を後にする狗飼の後ろを一夏は着いていった。

 

 

 

「…マ~ジで…?」

 

波の打ち寄せる音が響く浜辺で、南美は一人夜空を見上げて呟いた。

彼女の目に写るのは満天の星空に輝く北斗七星、そしてその横で寄り添うように光る小さな星だった。

 

 

 





やめて!銀の福音の広域殲滅射撃で、シールドエネルギーを焼き払われたら、白式に乗っている一夏の体まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで一夏!あんたが今ここで倒れたら、銀の福音は誰が止めるの? エネルギーはまだ残ってる。ここを耐えれば、零落白夜で勝てるんだから!
次回、「一夏墜つ」。ISスタンバイ!


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第85話 一夏墜つ


連日投稿!

大学の講義で仁義無き戦いを見ることになりました。
何の講義かは皆さんのご想像にお任せします。

では本編をどうぞ↓


特別実習二日目、自由日だった昨日とは違って今日からは本格的なISの実習となる。

そしてそれは専用機組も同じである。

専用機を企業や国から与えられている一夏、南美、セシリア、鈴、ラウラ、シャルロット、箒、そして企業から半ばぶん獲った簪の8人は一般生徒とは違う場所に集合していた。

 

「それでは専用機組はこれよりパッケージ装備の実技に取りかかる。各自、運搬は済んでいるな?」

 

「「「「はい!」」」」

 

「いやいや、楽しみだねぇ!」

 

威勢のいい返事と同時に高笑いの声が響く。

千冬がやや不機嫌そうな顔つきでそちらを見ると、椅子に座ってタブレット端末をいじる藤原と、その横でノートパソコンを操作する束がいた。

 

「おい、何故だ、何故お前たちがここにいる!」

 

ドスの効いた声で凄む千冬。普通の人間ならば震えが止まらないであろうそれを受けても藤原は平然としていた。

 

「あの程度でオレを拘束できる訳がないだろぉ? 縛るならもっと徹底しなきゃね~。」

 

「お、怒んないで、ちーちゃん…。その、忍びこんだのは悪かったから、謝るから~。」

 

「自由行動は許可したが、これへの参加は許可していないぞ。」

 

全く悪びれもしない藤原と怯えた様子で縮こまる束という対照的な二人の言動に千冬は舌打ちを打って一夏達の方に向き直る。

 

「あ、あの織斑先生…。その二人はどなたでしょうか?」

 

「ああ、気にするな。私の幼馴染みのバカ二人だ。その二人は喧しい空気だと思ってくれて構わない。」

 

「あらら、厳しいねぇ。」

 

疑問を口にしたシャルロットに苛立ちを隠さない口調で千冬は告げる。

その一方で箒はハァと大きな溜め息を吐いていた。

 

「よし、気を取り直して──」

 

「先輩先輩大変です!!」

 

切り替えて実習を再開させようとしていた千冬に慌てた様子の真耶が駆け寄る。

そして千冬に耳打ちすると、千冬の眉間にシワが寄った。

 

「山田先生は一般生徒を室内に戻るように誘導してください。専用機組!お前らは近江の間で待機していろ!」

 

いつも冷静沈着な千冬にしては珍しく、慌てた様子にただ事ではないと察した専用機組たちは直ぐ様指示された通りに近江の間へと急いだ。

 

 

 

 

 

「揃っているな。ではブリーフィングを開始する。」

 

旅館の一室、専用機組の集められたその部屋では千冬が真剣な面持ちで告げる。

その横では真耶が酷く緊張した様子で端末を操作していた。

 

「事は緊急だ。アメリカ・イスラエル共同開発の軍用ISが暴走している。諸君らにはこれを鎮圧してもらう。これがそのIS、銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》だ。」

 

そういって千冬は端末の画面を見せる。

そこには一機のが写っていた。

銀色の機体カラー、顔を覆う物理装甲、そして最も目を惹くのはその巨大な翼にも見える背部パーツである。

 

「スペックは広範囲一掃型、広域殲滅をコンセプトにしたオールレンジアタッカーだ。」

 

「速度は、最高で時速2450キロ…。速すぎる…。」

 

「広域制圧のエネルギー兵器か…。速度も相まって私は役に立てんな。」

 

「と言うよりも、この速度に追い付けるかどうかでしょ。」

 

「…やりようはあるんじゃないか?」

 

口々に話し合う中で放たれた一夏の言葉によって部屋中の視線が彼に集まる。

 

「相手は速い。けど固いって訳じゃない。だったらオレの零落白夜を一撃でも当てれば良いんだ。」

 

説明を終えると拳を掌に打ち当てて一夏は顔を上げる。

しかし全員の顔は思わしくなかった。

 

「確かにそれが一番合理的なのでしょうけど…。」

 

「あんた、正気なの?」

 

言い淀むセシリアの隣で鈴は一夏を睨み付ける。

彼女の鋭い眼光を正面から受け止めて一夏は頷いた。

 

「このままだと色んな人や場所に被害が出る。それを止めるには誰かがやらなきゃいけない。オレが、白式の力がそれに適役だ、…だからオレがやる。それだけさ。」

 

平然と言ってのけた一夏にその場の空気が固まる。

実際一夏の言った“何度も攻撃する機会がないのだから一撃で決めてしまおう“という考えは正しい。

だがそれは銀の福音の持つ広範囲殲滅射撃に正面から挑むことを意味している。

 

「……ミスれば、死ぬよ?」

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

南美の言葉に迷いなく切り返した。

そこに慢心は見えない。むしろ自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。

 

「オレは出来る。任せてくれ。」

 

「………。」

 

「…実際問題、それしかないのよね、たぶん…。」

 

沈黙を破って鈴が賛同する。

それでも彼女の表情には迷いが浮かんでおり、理屈では分かっていてもどこか割り切れていない様子だった。

そんな鈴の心情を察したのか、それともこの部屋の空気に耐えきれなかったのか、一夏は鈴の隣に行くとポンと彼女の肩に手を置いた。

 

「…鈴、これはオレ達のやらなきゃいけない事なんだ。心配しなくてもオレは大丈夫だ。」

 

その力強い言葉にその場の空気が吹っ切れた。

沈黙も重苦しいものではなく、一夏への信頼のあらわれとなっていた。

 

「じゃあ次はどうやって一夏を銀の福音まで送り届けるか、ね。」

 

「オレが飛んでく、じゃダメなのか?」

 

「当たり前ですわ。白式の速度は高いですが、機動にエネルギーを割く訳にもいきません。」

 

「白式のエネルギーを温存しつつ、銀の福音にコンタクトを取らなきゃってこと。」

 

「白式と同レベルの速度か…。スペックだけなら私の鳳凰と箒ちゃんの紅椿じゃないかな?」

 

“う~ん”と皆が唸って考えていると、部屋の襖がガラッと開けられ藤原と束が現れた。

 

「話は聞かせてもらったよ!」

 

「出てけ!!」

 

空気を読まずに飛び込んで来た藤原を千冬が怒鳴り付けるも、藤原はチッチッチと指を振った。

 

「織斑、仲間外れはよくないなぁ。オレも入れてくれないと。」

 

「い、一応ね、その、解決策っていうか、えっと、外付けの加速装置があるんだけど。」

 

おどおどした様子で束が見せてきた画面にはロケットエンジンのような物を束ねた物が写っていた。

それはISよりも大きく、外見でもそれがとてつもなく速いことを物語っている。

 

「ヴァンガード・オーバード・ブースト、略してV.O.B…。速度はおよそ時速2500キロ、その気になれば3000はいけるよ。」

 

「ちょっとした興味本位で作った代物なんだけどね?篠ノ之妹に試してもらおうと思って持ってきてたんだよ。」

 

アハハハハハと高笑いする藤原に眉をピキピキさせながら千冬は右の握り拳を左手で押さえつける。

そんな千冬の怒りを知ってか知らずか、藤原は高笑いを止め、一夏の肩を掴む。

 

「コイツを使ってキミを銀の福音の懐まで送り込む。そっから先はキミ次第だ…。」

 

「……。」

 

一転して真剣なトーンになった藤原にそう告げられ、一夏は息を呑む。

 

「…やれます。」

 

「そうかい。」

 

真っ直ぐな眼差しで迷いなく答えた一夏に藤原は満足そうに頷いて背を向けた。

そして束とアイコンタクトを取ると、そのまま襖に手を掛ける。

 

「早速準備に掛かろう。着いてきな。」

 

「はい!」

 

背中越しに掛けられた言葉に一夏は力強く返事をしてその背中に着いていった。

 

 

 

「接続オーケー、各部リアクションに異常無し。篠ノ之、そっちは?」

 

「こっちも大丈夫。出力問題なし。各パーツ安定性オールグリーン、いつでも飛べるよ。」

 

浜辺では白式の背中に巨大なブースターを取り付ける作業が行われていた。

世界的、歴史的大天才の束と如月重工の技術屋による作業は一瞬で片付いた。

そして作業が刻一刻と完了していく中で、一夏は深呼吸を繰り返していた。

 

「い、いっくん…。」

 

「束さん?」

 

「V.O.Bは馬鹿げた出力で、無理矢理高速で飛ばす装備なの。だから旋回とか細かい動作はほぼ不可能。」

 

いつものおどおどした様子とは違い、真っ直ぐな目で一夏に説明をする束の顔は一人の技術者のそれであり、とても気高く美しく見える。

こんな時でなければ見惚れていたかもしれないなと一夏は心の中で呟いた。

 

「──でね、移動中は対応できなくなっちゃうから直掩として二人、北星さんと箒ちゃんがつくから。」

 

「分かりました。」

 

束の説明を受けて一夏は右手を胸に押し当てる。

失敗の出来ないミッションに一夏の心臓は高鳴っていた。

そこへ専用機を装備した南美と箒が合流する。

 

「やっほ、一夏くん。格好いいね~。」

 

「私と南美がお前のサポートに入る。やれるな?」

 

普段と変わらない様子の二人に一夏は変に力んでいたことをバカらしく思い、拳をほどいた。

 

「束さん、藤原さん、いつでも行けます!」

 

「オーケー! 見せてみな、お前の力を。」

 

一夏の言葉に藤原はニィと笑って一夏から離れ、束と一緒に仮設風防のある場所へと移る。

そして南美と箒はV.O.Bの側面にある取っ手を掴んだ。

 

「行くよ!3…、2…、1…、ファイヤ!!」

 

束のカウントダウンと共にV.O.Bは火を吹いて飛び出した。

経験したことのない速度に一夏は驚きながらも二人を背負っていることもあり、直ぐに冷静さを取り戻した。

 

すると、公開通信から千冬の声が届いた。

 

「一夏、聞こえているな?」

 

「あぁ、聞こえてるよ千冬姉。」

 

公開通信だと気付いていない一夏はついいつものように返した。

通信の向こう側からは千冬の咳払いの声がしたが、すぐ後にまた言葉が続く。

 

「初めての超高速戦闘だ。目を回すなよ?」

 

「大丈夫、必ず帰るからさ。待っててくれよ千冬姉。」

 

「ああ、待っているとも。」

 

優しさを湛えた千冬の声が聞こえるとそのまま通信が切れた。それを確認した一夏はフゥと息を吐いて目の前を向く。

 

「ハイパーセンサーに感あり、見えたよ。あれが標的だ。」

 

V.O.Bの側面から南美が告げる。

つられてハイパーセンサーの倍率を上げるとその先には確かに銀の福音が飛んでいた。

 

「…遅い? いや、動いていないのか?」

 

「…っ! 撃ってくる!!」

 

何かが光ったことを認識した南美が側面からV.O.Bの本体を横に押す。

ISからの力を受けたV.O.Bは横へとズレ、さっきまで飛んでいたラインをエネルギーの津波が通り過ぎた。

 

「奴さん、どうやらこっちを迎え撃つつもりみたいだね。」

 

「…結局こうなるのか。」

 

「上等だ、正面から打ち破る!」

 

一夏は拡張領域から刀を取り出して右手でキツく握り締める。

 

飛んでくるエネルギーは南美と箒が軸をずらすことで避け、高速で銀の福音まで飛んでいく。

そしてあともう少しの距離となってV.O.Bがパージされた。

 

「行ける!」

 

V.O.Bがパージされるも、勢いを保ちそのままブースターを吹かして一夏は突撃する。

 

「ズェアアアアッ!!」

 

「La……♪」

 

銀の福音から歌のような音と同時に広域にエネルギーの波が放たれる。

それを一夏は零落白夜で一部を切り裂いて、避けながら肉薄する。

 

「La……♪」

 

「無駄だぁあああああっ!!」

 

新たに放たれた射撃を無効化させながら一夏は遂に銀の福音の懐まで到達した。そして上段に構えた刀を振り下ろす。

 

零落白夜と直前で放たれたエネルギー波がぶつかり合い、強烈な光が迸る。

 

 

 

「…やったか…?」

 

「フラグが立ったな。」

 

一夏よりも離れた位置で見守っていた二人はハイパーセンサーで激突した場所へと視線を移す。

そこには健在状態の白式と、先ほどまでと外見の違う銀の福音が存在していた。

 

「「っ!?」」

 

二人は直ぐ様武装を取り出して突撃する。

 

 

 

「La……♪」

 

「第二次移行《セカンドシフト》!? ちっ!!」

 

驚いて初動が遅れた一夏は銀の福音のエネルギー波に僅かではあったが巻き込まれた。

致命傷には至らないものの、それは恐怖を教えるには十分な一撃だった。

 

(マジかよ…。ここで、決めらんないのか…。)

 

刀を握り締めながら一夏は銀の福音の周りを旋回する。

一ヶ所に立ち止まったら死ぬと、さっきの一撃で理解してしまったからだ。

 

「一夏くん!」

 

「一夏ぁ!」

 

槍と刀を携えた二人がそれぞれ距離を保ちながら一夏と合流し、3人で銀の福音を取り囲む。

しかし福音は一夏を最大の脅威と見なしているのか、体の向きは常に一夏へと向けていた。

 

「……仕掛けるよ!!」

 

「了解!」

 

南美が槍を投げつけると同時に箒と一夏が斬りかかる。

銀の福音は数発の光弾で槍を吹き飛ばすと、一夏と箒をわざと懐へと呼び込んだ。

 

そして二人に遅れる形で南美もその乱戦に参加する。

 

「ズェア!」

 

「チェストォオッ!!」

 

「ちょこまかと!」

 

 

福音は近接に特化した3人の猛攻を捌きながら、時には光弾を放つことで牽制する。

3人も、時おり不意を討つように放たれるその光弾に虚を突かれて攻めあぐねていた。

 

 

「埒が開かないね…。」

 

「零落白夜の一撃だけは全力で避けにいってる。このままだと、オレのシールドエネルギーがもたない。」

 

「さて、どうする?」

 

3人は1度距離を取って通信を介して話し合う。その間も銀の福音からの攻撃は止むことなく飛んでくる。

3人とも、それまでのやり取りで軍用ISのスペックの高さをまじまじと実感していた。

 

「…私と箒ちゃんで隙を作るから、一夏くん、その一瞬で片付けて。」

 

「でも二人の装甲じゃ…。」

 

「決定力ならばお前の方が上だ。それに何より、当たらなければどうという事はない。」

 

「そういうこと。私達が心配なら一撃で決めておくれよ。」

 

気負った様子もなく、二人は銀の福音に突撃する。それを迎撃するように放たれる光弾が時折二人を掠めていくのが一夏にも見えた。

 

 

「南美達には敵わねぇな…。オレももっと強くなんねぇと…。だからこそ、この一撃で決めてやる!」

 

その時だった。刀を両手で握りしめた時、不意に一夏の頭の中に何かの風景が流れ込んできた。それは木々の立ち並ぶ風景、直ぐ側を小川が流れ、暖かな日差しが照らす、そんか光景だった。

懐かしいような、新鮮なような、そんな不思議な感覚が頭の中を駆け巡る。

 

「なんだ、これ…。どこ、の、──」

 

その景色を頭の片隅から引き出そうとしたした時、スッと一夏の意識が刈り取られたように途切れ、白式ごと一夏の体は海までまっ逆さまに落ちていった。

 

 

 

「──白式の信号、ロスト!」

 

「なんだと!?」

 

レーダーの前に座り込んでいた藤原が声を上げると千冬が割り込むように藤原を押し退けて画面を見る。

そこには銀の福音を示す青いマーカーと、南美、箒を示すそれぞれ黄色と赤のマーカーだけが光っていた。

 

「そんな…。」

 

千冬の小さな声だけがその空間に響いた。

 

 

 

 





撃墜される訳でも、恋愛的に墜とされるわけでもなく、原因不明での墜落。その直前に見えた謎の景色。
そして白式の信号がロスト、これが意味する物とは!

次回に続く!!


アンケートはこちらから

各種アンケート↓
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オリキャラ専用機名アンケート↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=164933&uid=171292



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第86話 二人の少女


ハーメルンよ!私は帰って来た!

どうも皆様お久しぶりです、地雷一等兵です。
大変長らくお待たせいたしまして申し訳ありません。

どうもこちらの執筆の手が進まず、気分転換に他の作品を書いていたらいつのまにやら中間考査、レポート、プレゼンと重なりまして、このように…。
大変申し訳ありません。

これからはまたいつも通りに投稿できると思いますので、よろしくお願いします。

では本編をどうぞ↓


「白式の信号がロスト…?」

 

藤原の言葉を聞き、モニターを確認した千冬が膝から崩れ落ちる様を見た束はそう小さく呟いた。

 

「嘘…だよね、藤原…。」

 

「…オレはこんな時にそんな嘘が言える人間じゃあないよ。…白式の信号はロストした、これは紛れもない事実だ。」

 

「そんな…。…いっくん…。」

 

淡々と告げられた藤原の言葉に、束の視界は真っ暗に染まった。

 

 

 

 

 

 

side 一夏

 

「……、ここは…?」

 

不意に目が覚めて視界が明るくなる。

そこに広がる光景はオレの意識が途切れる前に見えた光景と全く同じだった。

 

木漏れ日の暖かな日射しと、程よい木陰の涼しさ。

近くを流れる小川の音。

平和そのものを表しているようにも思える。

 

けど、オレはさっきまで海の上にいたはずだ。周りにこんな自然の広がる島はなかったし、もし島に流れ着いていたとしても音が聞こえてもおかしくない。

 

それに何より、白式が、待機状態のガントレットが着いてないのだ。

 

これは夢、なのか?

 

それにしては妙にリアルな感じがする。

 

周りの散策を続けていると、川の水音とは違う音と、歌うような声が聞こえてきた。

ブンッブンッと何かが空気を割く音と、鈴のような透き通った歌声。

気になってその音と声がする方に進めば、開けた場所に二人の女の子がいた。

 

 

side out...

 

 

 

一夏が辿り着いた場所は開けた場所で、柔らかな日射しが心地よく、聞こえてくる川のせせらぎやその場の雰囲気も相まって眠気を誘う。

 

そしてそこには二人の少女。

一人は白く長い髪をそのまま下ろしたワンピース姿で、もう一人は同じように白い髪を1本にまとめ、白い戦装束を身に纏い、手には身の丈ほどの刀を握っている。

 

ワンピースの少女は歌い、その歌に合わせて戦装束の少女は舞う。

その様はとても美しく、舞や歌に詳しくないはずの一夏の目や耳さえも釘付けにする。

そして歌が止まると、戦装束の少女が大きく飛び跳ね、着地と同時に刀を鞘に納める。

 

それを見た一夏は何をするでもなく、思わず拍手を送っていた。

それを見たワンピースの少女は一夏に優しく微笑みかけ、戦装束の少女がゆっくりと一夏に歩み寄る。

 

「なぜ、力を求める?」

 

静かで、それでいて力のある声で戦装束の少女が問う。

その問いに一夏はすっと答えた。

 

「友達を、仲間を守りたいからかな。」

 

その一夏の言葉に戦装束の少女は小さく頷き、ワンピースの少女は嬉しそうに目を細める。

一夏は自分の答えに付け足すように言葉を続けた。

 

「ほら、その世の中ってさ色々理不尽なことがあって、戦わなきゃいけないこととかあるじゃん? 単純な腕力だけじゃなくて。」

 

一夏は思い浮かんだ事をそのまま話す。

自分でもここまで言葉が出てくるとは思ってなかったのか、多少顔色に戸惑いが現れていたが、それでも彼は言葉を続ける。

 

「道理のない暴力とか、そう言うのから皆を守りたいって思うんだ。肩を並べて歩く皆をさ。」

 

「そうか…。」

 

戦装束の少女は隣にいるワンピース姿の少女を見ると、彼女は大きく頷いた。

それを見た戦装束の少女はまた一夏の方を向く。

 

「ならば力を…。」

 

「あげるね!」

 

ワンピース姿の少女が明るくそう言うと戦装束の少女は持っていた刀の柄を一夏に向ける。

その意図を察した一夏はその刀に手を伸ばして掴んだ。

 

「我が身は空、我が身は鋼、我が身は刃。我は一振りの剣にて全ての『罪』を刈り取り『悪』を滅する者なり。」

 

「その力を君に…。さぁ名前を呼んで、この力の名前は──」

 

 

そこで一夏の意識は薄れていく。いや、戻されていく。

その中ではっきりと少女達の声を聞いた。

今から自分が手にする力の名前を。

最初に与えられていた力の真の名前を。

 

 

 

 





短いなぁ…。
というか、口上のせいでもうバレバレっていうね。

本作のタグに「MUGENでやれ」を追加しました。
もう薄々ね、感じていた人もいると思います。
クロスオーバータグついた瞬間に悟りました。これはMUGENでやれタグをつけるしかねぇと。

一応のね、言い訳としましてはこの作品は2つのパートから作られています。
IS学園のなんやかんやで話が行われる「ISパート」とその枠組みから出て話が行われる「夢弦パート」の2つですね。
前者はISの世界観に南美という存在が殴り込みを掛ける感じに仕上げられ、後者の方はISのキャラ達がMUGEN世界に放り込まれるという感じですね。

うん、ただのMUGENストーリーです。


そんなこんなでMUGENストーリー作品紹介↓

「特別課外活動部事件簿」(作:師走雨 氏)

ペルソナ3主人公(通称キタロー)が主役のMUGENストーリーで、メインキャラは多いです。
メルブラのキャラの登場率も高めです。
シリアス、シリアル、ギャグ、カオスがほどよいバランスで組み込まれ、時々ぶちこまれる砂糖分や2828もあり、それらが好きだと言う方にオススメ。
他にもペルソナやメガテン、メルブラが好きだと言う方にもオススメの作品です。
《完結済み》





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第87話 ヒーローは遅れてやってくる


原作、原作ってなんだ
投げ捨てるものさ。

そんな感じの「IS世界に世紀末を持ち込む少女」です。

では本編をどうぞ↓


「一夏くん!一夏くん!?」

 

「一夏!おい、返事をしろ!!一夏!!」

 

突然途絶えた白式の信号に南美と箒は大慌てで一夏の名前を呼ぶ。しかし返事は一向に返ってこない。

 

「La……♪」

 

「ちっ!空気が読めないね!」

 

容赦なく弾幕を張る銀の福音に対して南美は苛立ち紛れに舌打ちをする。

先程よりもさらに密度が増したようにさえ思えるその弾幕を南美と箒は散開して避ける。

 

(何があった? さっきまで白式の挙動には何の異常もなかった。突然の不調? いや、それよりも仮に海に墜ちたとしたら、この高さから生身の体で海水に…。くそ、せめて生きていてくれよ!)

 

「もしもし織斑先生!?聞こえる?!」

 

回線を千冬達の使っている端末に繋いでも返事は一向に返ってこない。

何度も呼び掛けても結果は変わらなかった。

 

「くそっ!肝心な時に繋がらないなんて!」

 

「一夏!返事しろ、一夏ぁ!!」

 

何度呼び掛けても繋がらない回線と、行方知れずとなった一夏という二重の想定外に二人は混乱した。

そこに追い討ちを掛けるように放たれる銀の福音の光弾を迎撃しながら飛び回る。

 

「箒ちゃん! 私が囮になるからその隙に離脱、本部に現状を報告して!!」

 

「み、南美…?」

 

大声で直接そう伝えられた箒は足を止めずにそちらに向き直って南美の顔を見る。

その顔には有無を言わせない力強さがあり、箒は南美の指示に首を縦に振った。

 

「分かった、直ぐに戻る。だから、墜ちるなよ!」

 

箒は反転すると旅館のある方角へと全速で離脱して行った。南美はそれを振り替えることなく見送ると槍を1本掲げて銀の福音に立ち塞がる。

 

「誰に言ってるんだい。天空を羽ばたく鳳凰は決して墜ちないんだよ!」

 

 

 

 

対策本部の置かれている近江の間では、力なく項垂れていた千冬が立ち上がり、部屋を出ていこうとしていた。

藤原がその千冬の腕を掴んで引き留める。

 

「織斑、お前どこに行くつもりだ?」

 

「決まっているだろう、一夏を探しに行く。」

 

千冬は藤原の手を無理に引き剥がそうとするが、もがけばもがくほどに藤原の手は力を強めていく。

 

「出来るわけねぇだろ。そもそもお前一人でどうやって探すつもりだよ。暮桜はねぇんだぞ。」

 

「ISなら他にもある!」

 

「ラファールと打鉄だろうが!量産機であの空域に入り込んで何になる!! 量産機が幾ら駆けつけた所で足手まといにしかならねぇ状況なんだよ!」

 

両者ともにヒートアップし、このままでは殴り合いにまで発展しそうな状況の中で鈴が二人の間に割って入って口を開いた。

 

「なら私達が救援に行きます!」

 

間に割って入り、突然そう告げた鈴に藤原と千冬は目を点にした。

鈴の目にはしっかりとした意思があり、そんな鈴に同調するように他の者たちも千冬の前に歩み出る。

 

「私達が向かいます。幸いと言うべきか銀の福音は足止めされて居場所が割れてます。」

 

「それならボク達の機体でもどうにかなる。」

 

「……。」

 

セシリアやシャルロットの言葉を藤原は黙って聞いていた。

しかし、彼女らの覚悟が本物であると確信すると険しかった顔を弛め、千冬の腕を離す。

 

「織斑、こいつらに指示を出してやんな。」

 

「あ、あぁ…。」

 

藤原に促された千冬は咳払いして専用機組達に向き直る。

その表情はいつもの落ち着き払ったものだ。

 

「オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒ、更識、以上の5名は今より戦闘領域に突入し、銀の福音と交戦中の北星、篠ノ之両名を援護。その後、消息を絶った織斑を捜索せよ。いいな!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

5人の返事が一斉に響くと、そこに慌てた様子の箒が襖を開けて雪崩れ込んできた。

 

「一夏が、一夏が!!」

 

「分かってる、原因は知らないけど墜ちたんでしょ?」

 

「ああ、そうだ!通信が通じないから、伝令に来た。銀の福音は南美が足止めしてる。だから早く!!」

 

「分かってるわよ。」

 

鈴は慌てた様子の箒の頭を撫でて落ち着かせる。そこには既に風格を感じさせる落ち着き様であった。

 

「既にパッケージはインストール済み、全員でこのまま南美の救援と一夏の捜索に移るわよ。」

 

「了解ですわ。」

 

「うん、ボクらならできるよ。ね、ラウラ。」

 

「勿論だ。さっさと終わらせて嫁を探すぞ。」

 

「火力支援ならまかせろー(バリバリー)」

 

思い思いの言葉を口にして全員が外に出る。その時、一番最後に部屋を出ようとした鈴が箒の肩に手を置いた。

 

「ぼさっとしない。あんたも来るの。この中で一番速いのがあんた、そんで前衛張れるのもあたしとあんたの二人。期待してるわ。」

 

「あ、あぁ…。任せろ!」

 

鈴の言葉に先ほどまで狼狽えていた箒の顔が引き締まる。

その顔に鈴は“良い顔できんじゃん”と呟いて部屋を出ていき、箒もその後に続いた。

 

 

 

「…ハァ…、ハァ…、シャレになってないわ~。」

 

福音の足留めに徹してから数分、鳳凰は限界近くに到達していた。

光弾を受け翼形の背部パーツは千切れ飛んでおり、腕や脚の装甲も部分的になくなっていた。

 

「そろそろ限界近いけどさ、一応箒ちゃんに言われたんだよね、墜ちるなってさ…。それにさ、私はまだ死ねないんだよ。」

 

弱った獲物を見つめる銀の福音を前に南美は笑ってみせる。

精一杯の強がり、しかしそれだけじゃない。

南美は新しく槍を取り出すとそれを福音に投げつける。

 

「世界一カッコいい姉になるって世界一可愛い妹に約束したんだ!それまで絶対に死ねない!!」

 

槍を投げつけた南美はそのまま福音に近寄り、間合いを測るように周囲を円を描いて飛び回る。

 

「La……♪」

 

歌うようなマシンボイスと共に光弾が幾つも放たれるが南美はそれらを槍で振り払う。

 

「退かぬ! 絶対にだ!」

 

死角から死角に潜り込み、福音の意識を自分に釘付ける。絶対にこの場に引き留めようという南美の本気の証だ。

 

 

「La……♪」

 

「喧しい!!」

 

マシンボイスと共に放たれる光弾を打ち落とし、肉薄した南美は背中に回り込み、槍を背部パーツに突き立てた。

そしてその反撃と放たれる光弾から逃げるように福音から離れる。

 

「そろそろ…かな?」

 

肩で息をしながら南美は福音を見やる。右側の背部パーツには先ほど突き刺した槍がまだ刺さっており、どことなく動きが最初に比べて遅くなっているように見える。

そしてそんな福音の横っ面を巨大な弾頭がふっ叩いた。

 

「ナーイススナイプ…。こりゃ簪かな?」

 

『正解だ。』

 

何となく呟くと、それに答える形で簪が答えた。自身に満ち溢れた言葉に南美は本当に彼女が来たことを実感する。

 

「あーうん、簪が来たってことは勿論…。」

 

『あったり前じゃない!』

 

元気一杯の声が通信に響くと、狙撃を受けて体勢を崩した福音の土手っ腹を鈴の青竜刀がジャストミートした

 

「さぁて、あたしのダチと幼馴染みを傷つけたこと、後悔させてやるわ!」

 

「私もだ!!」

いつもより荒々しくそれでいて洗練された体捌きで鈴と箒は福音との間合いを測る。

その福音の動きを阻害するようにシャルロット、セシリア、ラウラ、簪による援護射撃が行われる。

 

「La……♪」

 

突然現れた専用機組にも慌てることなく福音は対処する。光弾をシャルロットたち射撃組に向かって放ち、まず射撃による援護を封じる手に出た。

 

「ちぃ!回避できる機体じゃないってのに!」

 

「ラウラ、セシリア、散開!!纏まってたら良い的だ!」

 

「「了解!!」」

 

案の定射撃組は光弾への対応に追われ、援護が止む。そして光弾を切らさないように撃ち込みながら福音はその速度を活かして南美、鈴、箒の3人に近接戦を挑む。

 

「速い!」

 

「…さっきよりもね。まだ本気じゃなかったっての?」

 

手を抜かれていたかもしれないことに南美は苛立ちを感じるが、そんな余裕も直ぐに無くなる。

何せ今彼女達の目の前にいるのは四人もいる射撃組に正確に光弾を撃ち込みながら3人も格闘戦で相手取る化け物だからだ。

 

「チェストォオ!」

 

「フゥウ、シャオッ!」

 

「ゥアチャア!!」

 

「La……♪」

 

3人同時、多角からの一斉攻撃すらも福音は全て見えているかのように回避し、光弾の弾幕を張り巡らせる。

その弾は近接3人娘ではなくて射撃組の方へと飛んで行く。

 

ただでさえ誤射の可能性があるというのに、光弾から逃れながらではまともに照準を合わせることすら困難であり、四人とも南美達の援護ができないでいた。

 

「くそ! 玉鋼の装甲が役立たずだ!」

 

「シールド持ちのボクが援護する!ラウラとセシリアはなるべく食らわないようにして!」

 

「了解ですわ!」

 

「オーケー!」

 

対物理に特化し、鈍重な玉鋼は先ほどから高速で飛んで来る光弾によってボロボロになっていた。

福音もその事を分かっているのか、簪に向けて飛ばされる光弾の数は他の3人よりも多い。

 

「ゥゥアチャアッ!!」

 

「チェエストォオッ!!」

 

渾身の力を込めて振られた青竜刀と日本刀、しかし福音は避けることをせず、それぞれ鈴と箒の腕を掴むことで止めた。

 

「そこだっ!!」

 

しかし二人の腕を掴んだことで動きが止まった隙に南美が殴り込む。

が、福音はそれを見てから鈴と箒をかち合わせると、それを踏み台にして高速で突っ込んで南美と頭をぶつけ合う。

 

「ちぃ! がぁ?!」

 

上手いこと勢いを殺された南美は福音の腕を掴もうとしたが、掴みにいった腕を上手いこといなされ蹴り飛ばされる。

そして踏み台にした鈴と箒の二人を蹴り飛ばすと、その場から離脱し射撃組に威嚇射撃を行う。

 

「ちぃ!」

 

「回避!」

 

「耐えなきゃね!!」

 

「お返しだ!!」

 

飛んでくる光弾の射線からはずれるセシリアとラウラ、そして背に簪を庇いながら両手の盾でシャルロットは耐える。

そしてシャルロットに庇ってもらったことにより、余裕の生まれた簪は大型ライフルで応戦するものの、福音はそれらを軽々とかわしてみせた。

 

 

「…攻め手が足んない…。せめてあと1枚欲しいわ…。」

 

ボロボロの甲龍を纏いながら鈴は呟く。

その言葉は言外に今はここにいない幼馴染みの存在があればという願望を含んでいた。

 

射撃組の援護を使えば光弾でそれを封殺するがかと言って3人で近接すれば射撃組が誤射する可能性もある。

そしてそれを恐れて中距離で挑めば福音の機動力もあって当たらない。

 

どの距離で応戦しても決め手に欠けるのだ。

 

このままだとジリジリと押されて数の優位性を引っくり返されかねない、そう鈴が思ったとき、それは来た。

新しくレーダーに映った反応。速く、鋭いそれはとても見覚えのあるものだった。

 

「ズェァアアアアアアアッ!!」

 

聞きなれた声の雄叫びと共に白いそれが福音に斬りかかる。手に握られた刀は宙を切るが、その切り裂かれた空気にさえ、切れ味を思わせる鋭さがある。

その後ろ姿、纏うISは記憶の物とは違うが、纏う空気は確かに彼だった。

 

「遅いっての、バカ一夏。」

 

「ワリィ、待たせたな!」

 

今までの白式とは全然違う姿、細身で後頭部からは長い後ろ髪とも思える柔らかそうな何かが伸び、白く、無駄のないその姿は戦装束の武士にも見えた。

 

「でもよく言うだろ? ヒーローは遅れてやってくるってよ!」

 

新たなISを身に纏った一夏はその手に握った大きな刀を構えて高らかにそう言った。

そんな彼の姿を見て、その場にいた者はどこか妙な心強さを覚えた。

 

「白式弐型=ハクメン!いざ推して参る!!」

 

IS学園一学年専用機持ち、ここに全員が集合したのである。

 

 

 

 

 





はい、白式のセカンドシフトはハクメンさんでした。
バレバレでしたね、はい。

福音戦は次回で完結かな?
では次回で会いましょう!ノシ


そんなわけで2回目になるMUGENストーリー紹介↓

「カードキャプターみやこ」(かにさん 氏)

タイトルから分かる通り、あの人気作品「カードキャプターさくら」をモチーフにしたMUGENストーリーです。
主人公は有間都古、兄役はお馴染み師弟コンビのロック。
丁寧な演出とストーリー、そしてニヤリと出来る細かな再現などは必見です。
《未完》



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第88話 決着と月夜の呑み会


もう今年もあと少しで終わりという事実に驚きを隠せない作者です。
それと祖父からもらった鹿肉うめぇ。

では本編をどうぞ↓


「一夏!」

 

「ワリ、待たせた、ってか心配かけたな。」

 

洋上で銀の福音と対峙しながら一夏は公開通信回線《オープンチャンネル》でその場の全員に声を掛ける。

声を聞き、姿を確認したメンバーからは小さく安堵の息が漏れた。

 

 

「心配かけた分、ちゃんと働かせてもらうぜ。」

 

「おけ、じゃあ働け。」

 

一夏の言葉に鈴はスパッとそう言い切った。

それに対して一夏は“おう”とだけ返して福音に向き直る。

 

「射撃班は向こうの注意を引いて。一夏入れたフロント4枚で勝ちに行くから。」

 

「セシリア了解。」

 

「ラウラ了解。」

 

「シャルロット了解。」

 

「簪了解。」

 

鈴の提案に射撃部隊の四人は次々に返した。そ

して四人の返事を聞いた鈴は次に前衛を張る一夏、箒、南美の3人に指示を出す。

 

「さーて、攻め手が揃ったから正攻法で正面突破といきましょうか。」

 

「任せろ!」

 

「了解した。」

 

「止めは任せろー!バリバリー!」

 

各々がそれぞれの得物を構えて福音を取り囲む。

福音はその四人に注意を向けつつも、その四人の背後から自身を狙っている射撃組にも意識を向ける。

 

(…一夏。)

 

(オーケー。)

 

個人間秘匿通信回線で合図を送ると、一夏はスッと前に出る。それに合わせて、一夏と同じ側にいた簪が射線を確保しようと横にずれる。

その動きに福音の意識はそっちに傾いた。

 

どれだけ銀の福音が優れていようが、意識の全てをそれぞれに向けては、どこかに綻びが出る。それを全員が見逃さなかった。

 

「ゥゥアチャァアッ!」

 

仕掛けたのは位置取り的に一夏と正反対にいた鈴。

瞬時加速を使って一気に距離を詰め、青竜刀を福音の腹に向かって払う。

 

福音もさすがにそれには気付いた。急いで体を回し鈴の方を向くと、横薙ぎに振り払われる青竜刀を受け止める。

そして鈴の青竜刀を受け止めた福音の背後から、移動していた一夏が迫る。

 

「ズェアッ!!」

 

鋭く振るわれた一夏の刀は福音が振り向いて刃を止めるよりも早く、福音の片翼を引き裂いた。

 

「La…♪」

 

福音は振り向き様に鈴の胴体を蹴り飛ばし、一夏の方を向いて光弾を放つ。

鈴はそれを腕で横に払い、一夏は光弾を切りながら二人とも福音から距離を取る。

その二人の離脱を援護するように四方から銃弾の雨が福音に降り注ぐ。

 

「チェェストォオオッ!!」

 

「フゥゥゥ、ショオォッ!!」

 

そして足が止まった福音に箒と南美が二方向からの強襲を仕掛ける。

 

福音は強引に弾幕から外れ、箒と南美を視界に入れると、光弾をそれぞれ射撃組に飛ばしながら二人を相手取る。

 

「その首、置いてけぇえ!」

 

「南斗聖拳の前ではゴミ屑同然だ!」

 

右からは箒が、左から南美が福音に迫る。

福音は後ろに下がりながら振り下ろされる箒の刀を掴んで止めるが、同時に放たれたエネルギー刃で右のマニピュレーターを破損する。

 

そしてマニピュレーターが破壊されたことで一瞬だけ動きの止まった福音に南美の追撃が迫る。

 

「カクゴ──キリサケッ」

 

何発も放たれた南美の手刀は的確に福音へ致命傷を与える。

そして腕を振り切った南美は最後の締めに福音の腹を蹴り飛ばした。

 

そしてその先で待ち構えていたのは──

 

「ァァァアタァアッ!!」

 

鈴である。

飛んできた福音の顔面に鋭い軌道で右拳が襲いかかり、クリーンヒットする。

 

「まだまだぁ! ゥゥ──ファチャアッ!」

 

龍砲と左右の拳を合わせた高速のラッシュを福音の体に打ち込み、最後に大振りの回し蹴りで福音を蹴り飛ばす。

 

「最後は決めなさい、バカ一夏!!」

 

「任せろ!」

 

福音の蹴り飛ばされた先で待ち構えていた一夏は刀を水平に構える。

 

「───ズェアッ!!」

 

そして自身の方へ吹き飛ばされてくる福音に向けて鋭く1歩踏み出して突きを放つ。

 

突きが福音を捉えたかと思えば、1本、また1本と黒い何かが一夏と福音を覆い隠していく。

そしてそれが弾け飛ぶと、福音は力尽き、パイロットが剥き出しになった状態で海へと真っ逆さまに落ちていく。

 

「あっ…──」

 

パイロットのことまで考える余裕のなかった一夏は呆然とそれを見送る。

しかし、福音のパイロットはそれ以上落ちていくことはなかった。

 

「全く、肝心な所でそうやってミスする。」

 

「鈴…、助かったよ。」

 

既に万全の態勢でサポートに回っていた鈴によって口々に福音のパイロットは受け止められたのだ。それに一夏はホッと一息ついて右手に握る刀を背中の鞘に納める。

 

「…終わったか…。」

 

「えぇ、これで落着よ。」

 

一夏が確認するように鈴に尋ねると、鈴は簡潔に返す。そのやり取りに他の専用機組もホッと安堵して体から力を抜く。

 

 

 

その後、通信で帰還の連絡を入れた面々は旅館近くの砂浜に着地するとISを待機状態に戻した。

 

「思ったより、疲れたな…。」

 

「まぁ、しゃあないんじゃない?」

 

日に照らされて暑くなった砂を踏みしめた一夏がしみじみと呟く。

その隣では、福音のパイロットをお姫様抱っこして運ぶ鈴の姿がある。

 

他の専用機組もどこか疲れた様子でお互いを労っている。

そうしながら砂浜を歩いて旅館に向かっていると正面からとてつもない勢いで走ってくる人物がいた。

 

「一夏ぁ!!」

 

「千冬姉!? のぉっとぉ?!」

 

その人物、織斑千冬はその走ってきた勢いのまま一夏に飛び付いた。

その千冬の勢いと、全身の疲労が重なって一夏は受け止めきれずにそのまま押し倒された。

 

そして千冬は一夏のISスーツの首もとを掴んで上体を引き起こし、顔を近付ける。

 

「馬鹿者、この大馬鹿野郎が!!」

 

「ご、ごめんよ千冬ね…え…?」

 

謝ろうとした一夏を千冬は両腕で力強く、それでいて優しく抱き締めた。

千冬は顔を見られないように一夏の首もとに顔を押し付ける。

 

「バカ、が…。心配掛けさせやがって…。ホントに、ホントに心配だったんだぞ、お前が、一夏がいなくなるんじゃないかって、死んじゃうんじゃないかって…。」

 

震える声で絞り出すようにそう言って千冬は一夏に体を押し付ける。

肩を震わせて体を押し付けてくる千冬を見て、そして弱気になった彼女の弱々しい言葉を聞いた一夏はそっと彼女を抱き締めた。

 

「ごめんよ千冬姉…。いつも迷惑かけて、心配かけて…。でも、大丈夫だよ千冬姉。オレはもういなくならないから。」

 

「一夏…、一夏ぁあ…。」

 

ぎゅっと千冬は一夏を抱き締める力を強める。一夏はそれをしっかりと受け止め、千冬を抱き締め返す。

そんな二人だけの世界に、周りの専用機組は何も言葉を発せなかった。

 

専用機組たちはアイコンタクトを取りながら、誰かが言葉を発するように互いに牽制しあっている。

そんな空気を蹂躙するかのように、ある人物が突進してきた。

 

「いっくぅううううんっ!?」

 

何を隠そう篠ノ之束である。

束は砂浜を猛ダッシュして一夏に飛び掛かり抱きついた。

 

「いっくんだ、ホントのホントにいっくんだぁ…。生きてたよぉ…。」

 

束は一夏の後頭部に腕を回すと、ぎゅうっとその豊満な胸部に一夏の顔を押し付けるように抱き締めた。

一夏とて男であるからそんなことをされたら反応してしまうというもの。そうならないように束を引き剥がそうとしたが、元を辿れば心配をかけた自分が悪いのだからと、束の抱擁を受け入れた。

 

 

冗談抜きで世界を変えた女性二人がわんわんと泣きながら一人の少年に抱きついているという絵面にその場にいた7人は言葉を失い、ただその光景を見ていることしか出来なかった。

そんな状況を見てゆっくりと砂浜を歩いていた藤原はアハハと軽く苦笑いを浮かべた。

 

 

「アー、アー、え~とぉ…、聞こえてるかなぁ?」

 

誰かが仕切らなければ延々と続くだろうと判断した藤原はわんわんと泣いている千冬と束に声を掛けた。

藤原の声によってやっと正気に戻った二人は一夏から離れて、身なりを整える。

 

「大丈夫だ。わたしは しょうきに もどった!」

 

「それダメなヤツじゃん…。で、篠ノ之はもう大丈夫か?」

 

「大丈夫、問題ない。」

 

「お、おう…。」

 

なんとも不安になる返しをしてきた二人に藤原は少しの不安を感じながらも、専用機組に目を向ける。

 

「お疲れさん、今山田先生が身体検査・診断の準備してるから近江の間に向かってくれ。」

 

部外者が一番まともと思わせる状況に皆疑問を抱かずにはいられなかったが、この状況なら仕方がないと自分を納得させ、言われた通り旅館に向かった。

 

 

 

 

 

「……落ち着いたか?」

 

「あぁ、すまない。お前に引率者の役割を投げてしまって…。」

 

「ご、ごめんね藤原…。」

 

専用機組の八人が去ってから暫くして藤原は二人に尋ねる。

深呼吸を繰り返した二人は大きく頷くと、いつもの顔に戻っていた。

 

「唯一の家族がああなったんだ。平然としてられる方がおかしいよ。篠ノ之も、惚れた男が相手だしな。取り合えず帰ろう。織斑はあいつらから報告聞かなきゃだろうしな。」

 

それだけ言って藤原はもと来た道を引き返して旅館に向かう。千冬と束も同じように藤原の後ろをついていった。

 

 

 

その後、診断の結果、専用機組の全員に異常はないことが判明。

報告会が終了し、各自解散となって部屋を出ていくとき、千冬が一夏に“お前には山ほど説教がある。……楽しみに待っていろよ”と告げ、告げられた一夏が真っ青になったとか、ならなかったとか。

 

 

 

 

そんな日の夜、月が綺麗に海を照らしているのがよく見える場所で束は月を眺めていた。

 

「何を一人で黄昏てんの?」

 

一人で月を眺めていた束の隣に藤原が座り込む。右手に一升瓶、左手にはお猪口を3つ持っている。

そのお猪口の数と頭数を合わせるように千冬が表れ、藤原とは反対側に座った。

 

「藤原、ちーちゃん…。」

 

「ハッハッハ、あの映像ログを見たら、気になっちゃってさぁ…。篠ノ之の意見も聞きたくなった。」

 

一升瓶の蓋をあけ、お猪口に注ぎながら藤原はグリンと顔を束に向ける。

そうして出てきた質問に束もう~んと唸る。

 

「…よく、分からないのが実情、かな。白式のアレ、セカンドシフトの後のアレは全然知らないもん。」

 

チビチビと両手で持ったお猪口を何回も小さく傾けて、注がれた酒を舐めるように味わいながらそう返す。

その返答に藤原はふぅむと唸ってからお猪口の酒を喉に流し込む。

 

「…そもそも、初期段階で、フォーマットとフィッティングが終わった段階で澪落白夜を使えていたこと自体がおかしいことだろう。」

 

「それは、そうなんだけどね。でも織斑も薄々分かってるんだろ?」

 

「ある程度はな。」

 

千冬はもう一度お猪口に注いで一升瓶を目の前に置く。

そして揺れる酒の水面に映った月を見ながら切り出した。

 

「白式のISコア、アレは白騎士のものだろう? コアナンバー00、文字通り最初のISコアだ。」

 

「ご名答、さすがは織斑だ。」

 

「大方、白騎士をバラしたあと、ISコアを初期化して他のものと一緒に世界中の企業に送った。ナンバー00は倉持技研に渡った。そんなところか。」

 

「大当たりだよ。ま、誤算だったのは倉持技研で作られた白式が澪落白夜を起動させたことだね。」

 

「まさか初期化が不十分で残ってたなんて思わなかったよ。うぅ、ごめんねいっくん…。」

 

チビチビと酒を舐めていた束が膝を抱えてうずくまる。

それを見た藤原と千冬は「また始まったよ」というような顔で束を見た。

 

「私にもっと威厳とか、権力とか、そういうのがあればあんな形で発表することもなかったし、ちーちゃんや藤原に迷惑かけることだってなかったのに…。ごめんよ、ごめんよ~…。」

 

「ありゃ誰のせいでもねぇって。まったく。」

 

ボロボロと大粒の涙を流して泣く束を見兼ねた藤原は彼女を抱き寄せて背中を優しく撫で、宥め始めた。

 

「あの事件はオレも、織斑だって反対しなかった。だからアレは全員の責任なんだよ。むしろ、IS開発の名義をお前一人に押し付けたオレにも大きな責任がある。だから、泣くな。」

 

「うぅ、藤原ぁ~。」

 

そう言って慰める藤原に抱きつき、束はその藤原の厚い胸板に頭を押し付ける。

その様子を横から見ていた千冬は微笑ましそうに笑ってお猪口に口をつけた。

 

「…こうして、3人揃って話すのも、懐かしいな。」

 

「確かにね…。あ~、あの頃も楽しかった。」

 

月を見上げていた千冬がポソリと呟くと、藤原がそれに同調する。

そんな二人のやり取りを聞いていた束は、自分も同じ方を向こうと向きを直して座る。

 

「あの頃は、いや、あの頃も充実してたよねぇ。オレと篠ノ之が作って、織斑が試して、またオレ達が改良して。」

 

「それでISとか、いろんな物ができたよね。最初は私の妄想だったのが、いつのまにか形になって…。」

 

それまでチビチビと酒を舐めていた束が、そこで言葉を止めると、お猪口に残っている酒を一気に飲み干した。

 

「ちーちゃん、藤原、ありがとう。」

 

酒が入って口の軽くなった束は二人の方に向き直ってそのまま二人にむかってダイブする。

千冬も、藤原もそんな束のダイビングを受け止めて一斉に後ろに倒れた。

 

「ギャハハハハハ!!」

 

「ふん、このやんちゃ娘が。」

 

「えへへへへ。」

 

千冬も、藤原も束も童心に返ったように笑いあった。

鮮やかな月夜に彼らの笑い声と、微かな銃声が木霊したという。

 

 

 

 





うちの束さんはお酒が入ると涙もろくなったり、素直になったりします。

そんなこんなでMUGENストーリー紹介のコーナー!

「夢幻暁光奇譚」(Mr.ティン 氏)

アカ白ファンの聖地とも言える動画。
開幕から砂糖を撒き散らす甘々な製糖派な動画かと思えば、シリアスにも定評があります。
ストーリーが進むにつれてシリアス多めになりますが、その分番外編では砂糖マシマシになっていきます。
熟年夫婦のように安定したアカツキと聖のやり取りにニヤニヤすること間違いなし。
大甘波の到来により糖死者多数!
是非一度ご覧あれ。



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第89話 出揃う人外ども


皆さんどうも、地雷一等兵です。

これで年内投稿は最後になるのかな?

では本編をどうぞ↓


銀の福音事件から1日が経って、特別課外実習も終了した日のこと。ここに至るまで篠ノ之箒は終始ご機嫌であり、他の専用機組もどこか満足したような、ワクワクしているような顔をしている。ただ一人、南美を除いて。

 

そうして最終日の実技を終えて、旅館に挨拶をした一同はぞろぞろと大型バスに乗り込んでいく。

 

 

「もう帰るのか~、もっと遊びたかったな~。」

 

などと生徒達は口にしている。

なかにはガッツリと日焼けしている者もおり、この課外実習を満喫していたことが窺える。

 

そして1年1組の生徒一同が乗り終わると金髪の美女が乗り込んできた。

 

「え、誰…?」

 

「誰かの親戚?」

 

突如現れた金髪美女の存在によってバスの中は俄に騒がしくなる。

しかしその金髪美女はそんなざわつきなど気にせず、一夏の座っている座席にまっすぐ歩いていく。

 

 

「貴方が一夏くんね。」

 

「え、あぁはい。そうですけど。」

 

美女の呼び掛けに一夏が彼女の顔を見て立ち上がると、不意に一夏の両頬に彼女の手が優しく添えられた。

そしてその状況を一夏が完全に認識する前に、彼女の唇が一夏の口を塞いだ。

 

「─────…っ!?」

 

その事実を認識した一夏は驚愕のあまり思考が止まり、何も出来ずただされるがままにキスされ続けていた。

そして同じく1年1組の一同も乱入してきた見慣れぬ金髪美女の行動を傍観するしかない。

 

「──っ、案外初なのね。可愛い。」

 

一夏から唇を離した美女は妖しく微笑む。

その笑顔を向けられた一夏は口をぱくぱくさせながら顔を真っ赤にしている。

 

「あ、あ、あの、貴女は…?」

 

「あら、覚えてないかしら? 私はナターシャ・ファイルス、貴方達が止めてくれた銀の福音のパイロットよ。」

 

顔を真っ赤にしながら尋ねる一夏の耳元で美女は囁く。

それがまた耳を擽って、一夏はますますドギマギする。

 

「貴方達にお礼が言いたくてね。あの子を止めてくれてありがとう。本当に助かったわ。」

 

「い、いえ…。」

 

ナターシャの真っ直ぐな謝礼の言葉に一夏はむず痒くなって視線を逸らす。

そんな彼の反応を可愛い物を見る目で見ていたナターシャは途端に鋭く睨み付けてくる複数の視線を感じてクスリと笑う。

 

「それじゃあ、それだけだから。あまり長居しちゃうとアレだしね。じゃあ、さようなら。」

 

ナターシャはクルリと踵を返して歩みを進める。

優雅に髪を揺らしながら去っていく彼女の後ろ姿は同性の目さえも惹き付けていた。

 

 

 

「…あまり、ガソリンを注いでくれるな。」

 

バスを降りてきたナターシャに一言だけ千冬はそう言った。

そんな彼女の言葉にナターシャは薄く笑った。

 

「すいません、千冬さん。でも、お礼が言いたかったもので…。彼らのお陰であの子は人を殺めるなんて過ちを犯さなくて済みましたから。」

 

「…あの暴走も、けっこうキナ臭いけどね。」

 

千冬の横でそう呟かれた藤原の言葉にナターシャは黙って頷いた。

その顔はどこか思い詰めているように見える。

 

「…ナターシャ・ファイルス、君が何を考えているのかは知らない。だが、あまり無茶はしないことだな。」

 

「…人生の先達としてのアドバイスですか?」

 

「いや、IS乗りの先輩としてのアドバイスさ。嫌なら聞き流してくれても構わない。」

 

それだけ言って千冬はバスに乗り込んでいく。そして小さく彼女の声がしたと思った瞬間にピタリとバスの中の喧騒が収まった。

 

「まぁ、そういうことさ。じゃあねナターシャちゃん。縁があればまた会おう。」

 

ナターシャに背を向けて藤原は後ろ手を振りながら去っていった。

そんな藤原の後ろをいつものジャージ姿の束がとことこと歩いてついていく。

 

「……。」

 

ナターシャは暫く俯いたまま、何かを考えていたが、顔を上げると吹っ切れたような表情で旅館に向かっていった。

 

 

 

 

「「「…………。」」」

 

出発から数分、バスの中は沈黙であった。

その理由は簡単で、一夏とナターシャのキス事件が原因である。あの一件により専用機組は不機嫌になり、さっきまでご機嫌であった箒までもが微かに殺気を漏らしている。

さすがの1年1組の面々であっても、こんな状況で楽しくお話、なんてことができるほど神経が図太くないのである。

 

 

オートコナラー

 

「来ったぁぁあああっ!!!」

 

そんな重苦しい空気をぶち破るように誰かのスマートフォンが鳴り、そして一人の生徒が叫んで立ち上がった。

その空気ブレイクに何事かと皆が視線を集めるとその生徒は興奮した様子で鼻息を荒らげている。

 

「ちょ、どうしたの?!」

 

「来たんだよ速報が! 第五回モンド・グロッソの国家代表が次々と発表されてるよ!!」

 

「え! マジ!?」

 

「ホントに!?」

 

その生徒の言葉に皆一様にしてスマートフォンを取り出してニュースをチェックする。

 

「うわ、ホントだ! ロシア、ドイツ、フランス、イタリア、アメリカ、フィンランド、スイス、前回大会の上位国がどんどん発表してる! うっわ、ヤバ!」

 

スマートフォンで速報を確認した生徒達の興奮が伝播していき、バスの中が同じ話題の興奮に包まれる。

 

「イギリス代表、インテグラ=ヘルシング、専用機はキング・アーサー!」

 

一番最初に叫んだ生徒が次々と読み上げていく。

その度にバスの中で歓声が湧いた。

 

「ロシア代表、更識楯無! 専用機霧纏いの淑女《ミステリアス・レディ》!」

 

「生徒会長キター!」

 

「日本代表、井上真改、斬月!」

 

「お姉さまもキター!!!」

 

 

「ドイツは、…初出場! ヒルデガルト・ワーグナー、13歳! 専用機はラインの乙女《Frau der Rhein》!」

 

「13歳!? 嘘でしょ!」

 

 

「スイス代表! イザベル=ローエングラム、ギルガメッシュ!!」

 

「金ぴかクイーンも出てきたぁ!!」

 

 

「スペインはソフィア・ドラゴネッティ! 恋するドラゴン《ドラゴン=エネモラーデ》!!」

 

「ドラゴン来たぁ!!ってことは?」

 

「もちろん! イタリア代表アナシタージア・ブロット! 専用機はもちろんアナザーブラッド!」

 

 

次々と読み上げられていく代表の名前に生徒達の興奮はマックスに到達しようとしていた。

 

「最後にアメリカ代表、来た、来たよ! ハスラー・ワン!ナインボール!!」

 

「はぁ!? 第四回チャンプ!?」

 

「マ、闘技場の覇者《マスター・オブ・アリーナ》がまた出るの?!」

 

「みたいだよ。本人のコメントもあるもん。」

 

 

 

どんどん国家代表が報告されていくなかで、その渦中にいる彼女達はと言えば───

 

 

 

スイス某所で、狭い事務所のような場所では金髪の女性と青髪の女性が向き合って座り、青髪の方は新聞を読みながらわなわなと震えている。

 

 

「み、ミトメナイヤー」

 

「ふん、お前が認めようが認めまいが、今回も国家代表はこの我だ。」

 

青髪が新聞をテーブルに叩きつけて正面に座る金髪、イザベル=ローエングラムに叫ぶ。

しかし、イザベルはそんなものはどこ吹く風かと受け流す。

 

「もし我を抑えて代表になりたいなら、選考会の試合で我に勝てばよかろう、ベルンカステルよ。」

 

「むむむ…。」

 

「なにが“むむむ“だ。」

 

歯噛みして悔しがる青髪、ベルンカステルを横目にイザベルは部屋から出ていった。

 

 

 

ライバル同士がじゃれあっているスイスのご近所、ドイツではというと…

 

 

「ヒルダ、今日からお前が正式に国家代表だ。」

 

「えへへ、ヒルダ頑張ったよ、ほめてほめて!」

 

軍用施設とも思える場所の一角で、眼鏡をかけたツインテールの少女が甘えてくる茶髪の少女の頭を撫でる。

撫でられている茶髪の少女、ヒルデガルト・ワーグナーは嬉しそうに目を細めている。

 

「さて、もう教えることもないからなぁ。どうする?」

 

「ヒルダね、ヒルダね、ミュカレとお昼寝する!」

 

「仕方ない、か。今日だけだぞ? お前の代表就任祝いだ。」

 

眼鏡をかけたツインテはヒルデガルトを抱えて自身の部屋に向かっていった。

 

 

 

さてまたご近所のフランスでは──

 

 

「おめでとうアンジェ、さすがは君だよ。」

 

「…ジャック・デュノア…。」

 

自社のパイロットが国家代表に選ばれたにも関わらず浮かない顔のデュノア社社長、ジャック・デュノアを見てフランス国家代表のアンジェ・オルレアンは呆れたように溜め息を吐いた。

 

「其処まで気にするのなら最初からやらねばよかっただろうに。」

 

「…それでも、あぁしなければ今ごろ会社は潰れていたよ。そうなればシャルやアイツだけじゃなく、もっと多くの人間が不幸になっただろう。」

 

「本当に愛する家族と大勢の社員とを天秤にかけた結果、か…。」

 

「…嗤うなら嗤ってくれて構わないよ。」

 

ポツリと呟かれたアンジェの言葉に自嘲気味に返したジャックを見て、アンジェは首を横に振った。

 

「嗤うものかよ。お前があの人を本当に愛していたことも知っている。シャル嬢がいることも知って色々やったこともな。」

 

上等な椅子に座って項垂れるジャックに背を向けてアンジェはドアに手を掛ける。

 

「…見ていろ、今回の大会でデュノア社に大口援助の話を引っ張って来てやる。」

 

それだけ言い残してアンジェは部屋を出ていった。

 

 

 

そんなやり取りがあったフランスのお隣、スペインのISアリーナでは…

 

 

「大喝采!!」

 

そう叫んで空中で数回転して着地するのはスペイン代表に選ばれたソフィア・ドラゴネッティである。

彼女の眼前に広がるアリーナの床はどこもかしこも焦げてしまっているのが見てとれる。

 

「…いかん、火力の調整を間違えた…。」

 

ISを解除した彼女は周囲に広がる惨状を見て頭を掻く。

 

 

 

そんな焼き野原作製装置のソフィアのライバルと呼ばれているアナシタージア・ブロットのいるイタリア某所はというと…。

 

 

「ふふふ、ふふ、あは、あははははははっ!!」

 

パソコン画面の前、流れてくる速報を見て彼女は高笑いしていた。

妖艶な笑みを浮かべ、その視線は画面に写るソフィアの写真に注がれている。

 

 

 

様々な人間の思惑や野望が絡むモンド・グロッソ、その開幕は今年の冬、残り4ヶ月を切っていた。

 

 

 

 





本作ではモンド・グロッソは3年に1度開かれるという設定です。

では今回のMUGENストーリー紹介のコーナー!

「Dr.えーりん診療所」(にせぽに~ 氏)

言わずと知れたMUGENストーリーの名作。
八意永琳の営む診療所で繰り広げられるほのぼの日常系のお話。
主人公?は狼男のガロン(本作のガロンはMUGEN三大主夫の一人に数えられている。)、ヒロインは鈴仙。ややツンデレな鈴仙と朴念仁なガロンとの2828するやりとりや、公式からキモい扱いされる主人公の乱入してくるどたばたなど、見所は沢山あります。
また、視聴者コメントの仲もよく、本編を1回、コメントで1回、両方込みで1回と何度見ても面白い動画となっています。


では皆さん、よいお年をノシ




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第5回モンド・グロッソ 国家代表


どうもどうも

この話の前に1個前の「出揃う人外ども」を読んでおくことをオススメします。


各国の現在の国家代表。

国家代表の肩書きは時としてリアルチート、人外などが代名詞として使われる。それほどまでにどの人物も人間を止めた規格外ばかりである。

(表記は『代表者名/専用機名』となっています。)

 

 

アメリカ代表

 

・ハスラー=ワン/ナインボール

…第3回モンド・グロッソからアメリカ代表を務めており、第4回モンド・グロッソ覇者。4代目ブリュンヒルデである。本人が頑なにブリュンヒルデと呼ばれることを拒否するため、周りは彼女のことを「闘技場の覇者《マスター・オブ・アリーナ》」と呼ぶ。

赤いカラーリングと左肩に書かれた⑨のエンブレムがトレードマークの専用機“ナインボール”を操る。

機械のように正確無比な機動と射撃、そして土壇場で相手の懐に飛び込む度胸の持ち主。

ISパイロットとしてだけでなく、ビリヤードプレイヤーとしても有名であり、専用機名のナインボールもそこから来ている。

 

 

 

イギリス代表

 

・インテグラ=ヘルシング/キング・アーサー

ブリテンの英雄、アーサー王の名前を冠する第3世代機を与えられた女傑。若くして国家代表となり、第4回モンド・グロッソに出場している。

実家はイギリスの中でも名門中の名門で、いわゆる一つの良家のお嬢様。

生身の剣技でもかなりの実力を有しており、与えられた専用機との相性は抜群である。

正々堂々と正面から討って出る戦い方を好み、どんな相手にも全力を尽くすスタイル。

 

 

 

イタリア代表

 

・アナスタージア=ブロット/アナザーブラッド

イタリア代表を務める妖艶な女性。まず専用機を着た姿からしてエロいと評判である。普段着も赤いドレス調の服なのだが、スカートが透け透けで下着が見えてしまっている。

そんな性的な人柄と本人の露出が相まってメディア露出は少なめである。

しかしISの実力は確かであり、第4回モンド・グロッソでは完封勝利を納めることもあった。

戦い方は後の先を取るのが非常に上手いタイプで、相手に仕掛けさせてからその上を行く、相手の裏をかくという戦い方をする。

 

 

 

スイス代表

 

・イザベル=ローエングラム/ギルガメッシュ

英雄王の名前を与えられた第3世代機を持つスイス国家代表。拡張領域と空間を繋ぎ武装を射出する特殊兵装を使用したトリッキーな戦い方をする。

とてもプライドが高く、見下されることをかなり嫌っている。また気に入った相手を自分の側に置きたがる傾向がある。

ライバルであるベルンカステル氏のことを気に入っており、態度には出さないものの毎年行われる国家代表選考会での勝負を楽しみにしている。

 

 

 

スペイン代表

 

・ソフィア=ドラゴネッティ/恋するドラゴン《ドラゴン=エナモラーデ》

もともとはイタリアで生まれたが、幼い頃にスペインにある母親の実家へと引っ越した。そのため、今ではスペイン語、イタリア語、日本語、英語が喋れる。

物心つく前から母親から父親との馴れ初め話やらを聞かされて育ち、ロマンチックな恋愛に憧れるようになる。両親譲りのロマンチック思考と母親譲りの恋愛脳、父親譲りの行動力を遺憾無く発揮し、出会いを求めてIS乗りを志し、見事国家代表へと就任した。

周囲からライバル扱いされているイタリア代表のアナスタージアとの第四回モンド・グロッソ準々決勝の試合は今でも語り草である。

 

 

 

中国代表

 

・李青蘭/陽蜂

無邪気な子どもっぽさを残した少女。しかしその性格と外見とは裏腹に搭乗する専用機“陽蜂”の弾幕性能は他の国家代表のものと比べてもかなり高く、相手の技量次第では一方的な展開に持っていける。その反面、近接戦への備えはまるでなく、近寄られたら終わりである。

弾幕戦に特化し、格闘戦能力のない彼女の機体があっさりとアンジェ・オルレアンに敗北したのを見て、中国各企業は格闘戦もこなせる機体の開発に力を注ぐようになった。

 

 

 

ドイツ代表

 

・ヒルデガルト=ワーグナー/ラインの乙女《Frau der Rhein》

11歳からテストパイロットを務め、ロシア代表の更識楯無の最年少記録に並ぶ13歳という脅威の若さでドイツ国家代表を任されることとなった天才少女。年齢よりも幼く見える。変態的な変則機動と適格な射撃を持ち味としている。瞬時加速を連続で吹かして切り返す様はまごうことなき変態である。

しかしヒルデガルト本人の人柄は外見相応の幼いものであり、褒められたがりである。

先代の国家代表、ミュカレ氏をして“稀代の大天才”と言わしめ、ドイツ空軍幕僚兼初代代表のハンナ・ウルリカ・ルーデル氏から大絶賛されるほどの実力と才能を持つ。

 

 

 

日本代表

 

・井上真改/斬月

3代目日本国家代表を務めるサムライ乙女。寡黙で常に凛とした彼女に憧れるファンは数知れず。

マシンガンとフラッシュボム、そしてブレードだけを装備した潔い機体“斬月”を操る。瞬発力に特化した機体構成をしており、「斬月の視界に入っている=死」が普通に有り得てしまう。

半端に引き撃ちしようとすると急加速による肉薄からの一撃で簡単にお陀仏となる。

雲長流居合術「幻影博文流円月剣」の達人であり、その居合の速度は常人では目に見えないほど。

 

 

 

フィンランド代表

 

・スミカ=ユーティライネン/コーラルスター

2代目国家代表で第3回から今に至るまで代表の座を守り続けてきた。軽い口調で話すため、親しみを持たれやすいイメージがあるが、それは上の人間から指示されたからやっているに過ぎず、本当の話し方は割と過激。

血筋を辿ると、フィンランド軍のリアル人外であるエイノ・イルマリ・ユーティライネンやアールネ・エドヴァルド・ユーティライネンの家筋に繋がるという噂が真しやかに囁かれている。

一応対テロ対策組織の一員で、1つの部隊の指揮を任される立場の人間である。わりと偉い人。

 

 

 

フランス代表

 

・アンジェ=オルレアン/オルレア

フランス代表であり、近接戦の技量で言えば織斑千冬に最も近いと言われている女性。

マシンガンとフラッシュロケット、そして高出力ブレードと武装構成は井上真改の“斬月”とほぼ同じである。

両者ともお互いを意識しているようであるが、二人の過去に何があったのかは不明。今でも時折インターネットや週刊誌でも色々な噂が囁かれている。

第2世代の試作機をベースにした機体を用いているが、フルチューンされもはや別物と言って差し支えない極端に尖った性能とアンジェ氏の卓越した技量によりそれを感じさせない強さを誇る。

 

 

 

ロシア代表

 

・更識楯無

ロシア国家代表とIS学園生徒会長を務めている女傑。10代にして一人で自身の専用機を組み上げ、国家代表に就任するなど規格外のことを平然とやってのけた。

国内で行われた選抜試験では、堅実な戦い方を好み、モンド・グロッソという大舞台でも歳の割に落ち着いた戦い方をし、勝利を納めていく彼女の姿にファンとなった人は少なくないという。

彼女との戦いは見えない何かとの戦いだと、他の国家代表達は語っており、特にアンジェ氏は楽しそうに話していた。

 

 

 

 





もちろん、ここに載っていない国もモンド・グロッソには参加しています。


これで年内の投稿は最後になります。

では皆さん、よいお年をノシ


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第90話 強さを求めて


皆様、明けましておめでとうございます。

本年も「IS世界に世紀末を持ち込む少女」をよろしくお願いいたします。

では本編をどうぞ↓


IS学園の夏休みは標準的な長さである。

もちろん課題の量も標準的なもので、この学園に入ることが出来た者ならば負担にもならないものである。

 

そんな夏休みの過ごし方は人それぞれである。

 

海外からIS学園に来ている者にとっては故郷に帰れる貴重な時期でもあるのだ。

 

イギリス出身のセシリアやドイツ軍に身を置くラウラは夏休みに入ると荷物を纏めて実家や部隊に帰っていった。

 

 

 

そんな夏休みの初め、南美はというと──

 

 

 

side 南美

 

 

目が覚めて、いつもの天井が見えて安堵する。

 

夢に見るのは福音事件の夢、何も出来なくて、皆が撃墜されていく夢。

あの時からもう1週間は過ぎているのに、一向に消え去らない悪夢…。

その度に見せられる最悪の結末。

 

 

…寝汗のせいでパジャマが張り付いて気持ち悪い。

 

肌に張り付く服を脱ぎ捨てて、カゴに投げ入れる。

無様にも程がある。クソがっ!!

 

こんなにも自分が無力だったなんて思わなかった。

情けない、あれだけ大口叩いておいて、あの様だ…。

 

 

…もっと、もっと圧倒的な実力が欲しい。今までの競技内で通用するようなんじゃない、問答無用で相手を叩きのめすような、そんな強さが欲しい…。

 

 

どんどん沈んでいく思考を覚ますように、私のスマートフォンが鳴った。掛けてきた相手は鷲頭社長だった。

 

 

 

side out...

 

 

 

「こうして会うのは久しぶりだね、南美くん。」

 

「はい、お久しぶりです。」

 

電話で呼び出されて、実家からすぐ近くに店を構えている甘味処六文銭に来た。

鷲頭はすでに注文をしていたのか、わらび餅が置かれている。

 

「好きなものを注文してくれ、支払いは私がするからね。」

 

「はぁ…。」

 

鷲頭の言葉に気のない返事をして対面に座る。

以前までの彼女に比べ、明らかに覇気のないその姿に鷲頭は頭を掻いた。

 

「らしくないねぇ南美くん、我が社のテストパイロットとしての名が泣くぞ?」

 

「あ、いや、その…。」

 

何もかも見透かしたような鷲頭の表情に南美は一瞬目を逸らすが、暫くして胸のうちを打ち明け始めた。

 

自分の力が足りないことを思ったこと、圧倒的な実力が欲しいこと、その他にも色々なことを吐き出した。

 

 

 

「なるほどねぇ…。」

 

一頻り聞いた鷲頭は椅子の背もたれに寄りかかって腕を組む。

彼の表情はどこか楽しそうで、冒険の予定を立てる子供のように思える。

 

「…どうにか、できますか?」

 

「出来ないことはないよ?」

 

「えっ!?」

 

さらりと言ってのけた鷲頭に南美は驚愕の目を向ける。

それに対して鷲頭の表情はいたって普通だった。

 

「…夢弦市の裏ストリートファイトって知っているかい?」

 

「裏ストリートファイト…ですか…? その、都市伝説としてなら聞いたことはあります。」

 

「まぁ、そうだろうねぇ。でも、その都市伝説が事実だとしたら?」

 

鷲頭は懐を漁ってタバコを取り出したが、店内だということを思い出してもう一度懐にしまう。

 

「そこだと、ストリートファイトの勝敗を賭けて大金が動く。もちろん、参加者もその額に見合った実力者ばかりだ。」

 

タバコをしまった鷲頭は手持ち無沙汰を、誤魔化すためにコーヒーカップを口に運ぶ。

鷲頭の話を聞いた南美は息を呑んで、鷲頭の話を頭の中で反芻していた。

 

(裏ストリートファイト…、確かにそれなら…。)

 

「…無理にとは言わない。けれどもあそこなら君の求めるものも手に入るだろう。」

 

本当に南美の内心を見透かしているのか、的確にそう囁いた鷲頭の言葉に南美の心は簡単に傾いた。

 

「鷲頭さん、お願いします。私をそこに連れていってください。」

 

「オーケー、さて行こうじゃないか。強者達の戦場に。」

 

鷲頭はグッと笑って席を立った。

 

 

 

 

鷲頭が南美を連れてきたのは夢弦の外れ、由江、板鹿棚との境近くに位置する寂れた場所。

閑散とした場所は静かで、しかしどこか普通ではない雰囲気を持っていた。

 

 

「ここは…。」

 

「あぁ、うん。裏ストリートファイトの会場がある場所なんだ。あ、これ着けて。」

 

何かを思い出したように手を叩いた鷲頭は懐から新品のマスクを取り出すと南美に渡す。

それを受け取った南美は疑問に思って首を傾げたが、素直に従うことにしてパッケージを開けてマスクを着けた。

 

「まぁ、無くてもいいけど、用心の為にね。」

 

それだけ言って鷲頭はポツリと建っている古ぼけた2階建ての事務所に歩いていく。

 

その事務所の前には一人の女性がパイプ椅子に腰掛けている。その女性に鷲頭は気軽に声を掛けた。

 

「やぁ、ヴァネッサちゃん。久しぶりだね。」

 

「鷲頭さんか、珍しいね。直接こっちに来るなんて。」

 

アイビーグリーンのフレアパンツに腹部を露出したノースリーブの白シャツに赤ネクタイと、多少派手で露出の多い服装の女性は顔を上げて鷲頭を見ると驚いたような表情を浮かべる。

 

「今日は試合を見に来た訳じゃないんだ。ちょっとファイターを連れてきてね。」

 

「…そのマスクの子がそうですか?」

 

その女性、ヴァネッサは鷲頭の後ろにいる南美を品定めするようにじろりと見る。

全身をくまなく見定めたヴァネッサはふぅんと唸って、もう一度鷲頭に視線を移す。

 

「…悪くない。鷲頭さんが連れてきただけあって実力はしっかりしてる。でも、まだ甘いですね。」

 

「だろうねぇ。」

 

「その子くらいの実力者はうちに大勢います。彼女をファイターにしても鷲頭さんの得になるとは思えません。」

 

はっきりと告げるヴァネッサの口調に南美はむすっとするも、次の瞬間に自身の頬を掠めた何かによってその感情はなりを潜めた。

その何かとは、ヴァネッサの拳だった。

 

「っ!?」

 

「反応出来なかったでしょ? つまりそういうこと。私も以前はここのファイターだった。その時でもこれに初見で反応出来た奴は少ないけど、ここで長年やるにはこれに反応して尚且つカウンターかまして来る化け物とやり合うってことさ。」

 

何ともないように言うヴァネッサの態度に南美は息を呑んだ。

予想していたものより遥かに上の実力者。それがまだまだいるということに南美は震えた。恐怖かもしれないし、はたまた武者震いかもしれない。

ただ一つ、はっきりしているのはこの時南美が笑っていたということだ。

 

「…なるほどね。こりゃ歴としたこっち側の人間だ。鷲頭さんが連れてきたのも頷けるね。」

 

「はは、本当はもう少し後に連れてくるつもりだったんだけどね。いや、ホントにどうして、わからないものだね。」

 

笑う南美を見て、ヴァネッサは呆れたように鷲頭に目を向ける。すると鷲頭は小さく微笑みを浮かべながら肩をすくませた。

 

 

「チョーシに乗ってんじゃねぇぞオラァ!!」

 

「調子に乗るんじゃないわよ!!」

 

ヴァネッサが座っている事務所横の路地から男女の怒声が響き渡ったかと思うと、続いて何かが固いものに叩きつけられたような音が鳴り響く。

 

「…そう言えば、今日は彼らの試合の日だったね。」

 

心当たりのある鷲頭がニッと笑うとヴァネッサがコクリと頷く。

そんなやり取りの後、ぬっと路地から二人の人物が姿を現した。

 

一人は腰まで伸ばした艶のある黒髪をストレートに下ろし、一見和服にも見える服を着た絶世の美少女。

もう一人は日本人の平均身長を優に越える背丈にがっしりとした体つきをした銀髪の厳つい男だった。

 

「お疲れさん、やっぱりアンタらの勝ちなのね。」

 

ヴァネッサが路地から出てきた二人を見て、ファイルに何かを書き込んでいく。

一方で、ヴァネッサに声を掛けられた二人はニヤリと笑う。

 

「今日の相手は一段と張り合いがなかったわ。私が近づけば勝手に下がってくんだもの。」

 

「同じく…。どいつもこいつも1発掴んで叩きつけたらギブアップ、つまんねぇよ。」

 

髪先を指で弄びながら少女は愚痴をこぼし、男の方は退屈そうにあくびをする。

そんな二人の言い分にヴァネッサは手元のファイルにちらりと目を落とす。

 

「我慢なさい。アンタらはうちのトップランカー…。そうそう勝負になる奴もいないの。」

 

「分かってるわよ。じゃ、私は休んでるから。」

 

そう言って少女は事務所の中に入っていき、男の方も事務所の中に姿を消した。

 

「…あの二人は…?」

 

二人が完全に姿を消したのを確認した南美がヴァネッサに尋ねる。

するとヴァネッサはクスリと小さく笑って答えた。

 

「うちのトップランカーよ。男の方は七枷社(ナナカセ ヤシロ)、五指に入る実力者。で、女の方はラウンドネームをグーヤン、あんな華奢なナリして圧倒的な実力を誇る裏ストリートファイトのクイーンさ。」

 

「七枷社、グーヤン…。」

 

「そ、アンタが一番戦いたい連中なんじゃない?」

 

ヴァネッサの問いに南美は黙って頷いた。

どこまでも楽しそうに、明日の遠足を待つ子供のような顔をヴァネッサは黙って眺めつづけた。。

 

 

その日南美は裏ストリートファイトのファイターとして、ラウンドネーム「Ms.マスク」と名乗り登録した。

 

 

 





本格的にここから「裏ストリートファイト編」に突入します。
途中途中で「ドキドキ!? 一夏くんの国外旅行日記」編も挟んで行きたいと思います。

では恒例のMUGENストーリー紹介のコーナー!

「~Restaurant Dolls~」(にせぽに~ 氏)

前回で紹介しました「Dr.えーりん診療所」のにせぽに~氏による2作目のストーリー動画。
デュオロンとアリス(東方project)が二人で営むレストランとその周囲で繰り広げられるほのぼの日常系の動画です。
前作を知っている人はもちろん、知らない人でも楽しめる作品となっています。
ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。




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第91話 裏ストリートファイトの女王と時々一夏


久々に食べる実家のカレーライスが旨すぎてスプーンが止まりませんね。

正月太り?大丈夫だ、どうせ部活ですぐ痩せる。

では本編をどうぞ↓


「はいよ、Ms.マスクね。それで、ファイトマネーのことなんだけど──」

 

「あ、別にそこまで貰わなくて結構です。お金が目当てじゃないので。」

 

「あぁ、そうだったね。」

 

説明ようにファイルを取り出そうとしたヴァネッサは南美の言葉に掴んでいたファイルを置く。

 

「んじゃ簡単な説明しましょうか。」

 

パイプ椅子に座ったままヴァネッサは凝った首を解すようにぐるんと首を回す。

 

「まず、この建物ね。」

 

そう言ってヴァネッサは後ろの事務所を親指で指差した。

 

「うちの団体が管理してる建物よ。ファイターの控え室だったり、試合後の休憩所だったりに自由に使ってくれていいわ。」

 

なんとも豪勢なことなのだろうかと、ヴァネッサの説明を聞いた南美は感心した。

ストリートファイトの為だけに建物一つをこさえて、それを参加者に自由開放という気前のよさ。

しかし、それでも一試合で動く金額を考えればそんなことも簡単に出来てしまうのだろうが。

 

「それで次がっと。」

 

反動を着けて立ち上がったヴァネッサが次に歩みを進めたのは先ほど社とグーヤンが出てきた路地だった。

 

南美もヴァネッサに倣ってその路地に足を踏み入れるが、見えたのはコンクリートの壁だった。どうやらそこでT字路になっているようである。

 

「あのT字路の先がアンタらファイターの戦場になる。幅2メートル弱の狭い通路で殺り合うのさ。さて、まだ時間もあるし、見た方が早いだろ。おいで。」

 

「はい。」

 

ヴァネッサに手招きされ、T字路の先に行く。

建物の陰に隠れたそこは薄暗く、どこか現実とは離れているような感覚に陥る。

 

「一応フィールドには幾つかのカメラがある。試合の時はリアルタイムでそれが中継されてうちの団体が運営するサイトで配信されるのさ。会員専用だから、滅多なことも起こらない。」

 

「か、会員って…?」

 

「裏ストリートファイトの成立に協力してくれたVIPだったり、勝敗に金を賭けてる金持ち連中だったり、ようは金満道楽家ってことさ。」

 

ヴァネッサはチラチラと周りに視線を移し、路地の点検をする。

暫くすると何もないのが分かったのか、美南を連れて元いたパイプ椅子の場所まで戻った。

 

 

「で、どうする? 取り敢えず最速で試合したいなら明日にでも組めるけど。それとも、誰かの試合でも見ていくかい?」

 

ヴァネッサは薄いファイルをぺらぺらと捲りながら南美に尋ねる。

そして目当てのページを見つけると次々と書かれている文書に目を通す。

 

「…うん…。やっぱり明日は空きがあるね。どうしたい? 今日のこの後にある試合を見てから決めるかい?」

 

「はい、そうします。」

 

「はいよ。じゃあ事務所の中で休んでなさい。中に置いてあるお茶とかは自由に飲んでいいわ。」

 

ヴァネッサに促され、南美は事務所の中に入っていった。

入り口の階段を登り、2階フロアの一室に入るとそこには先ほどすれ違ったグーヤンが湯呑みでお茶を飲んでいた。

 

「あら、貴女はさっきヴァネッサの所にいた娘じゃない。新人さん?」

 

「あ、えっと、はい! 貴女はグーヤンさん、でしたよね。」

 

上等なソファに座り、優雅にお茶を嗜んでいるグーヤンは淑女そのものである。

そんな彼女の雰囲気に南美は思わず言葉に詰まる。

 

「そんなに畏まらないでいいわよ。さん付けもよして、グーヤンって気軽に呼んで。堅苦しいのは好きじゃないの。」

 

「は、はぁ…。」

 

外見に相応しい丁寧な言葉遣いと物腰、それらとギャップのある物言いに南美は多少困惑するも、まぁそういう人なんだと自己完結させる。

 

「いつまでも立ってないで座ったら? ここのソファ、座り心地がとてもいいから。お茶も今淹れるし。」

 

「え、あ、いや、お構い無く!」

 

「いいのいいの。私が好きで淹れるだけだから。」

 

慌てて止める南美の声を振りきってグーヤンは急須に湯をいれる。

そして蒸らすこと数十秒、グーヤンは2つの湯呑みに小分けにして交互にお茶を注いでいく。

 

「はい、貴女の分ね。お茶請けは…うん、これで良いかしらね。」

 

グーヤンは戸棚を開けて煎餅を取り出し、器に入れてお茶の横に置く。

完全な歓迎おもてなしムードに南美も断る訳にはいかず、グーヤンに対面に座った。

 

「ほら、貴女も食べたら? けっこう良いところのお煎餅だから。」

 

「は、はい。ではいただきます。」

 

グーヤンに進められ、南美はマスクを上げて鼻の辺りだけを隠すようにしてから恐る恐るお茶請けの煎餅に手を伸ばした。

 

 

 

 

「えーと、貴女…、名前は? 」

 

「は、はい、Ms.マスクと名乗ってます。」

 

急に始まったお茶会から暫くして、グーヤンは南美に尋ねる。

南美は突然の質問に戸惑うものの、なんとか自分のラウンドネームを返す。南美のラウンドネームを聞いたグーヤンは“ふーん”と唸ってまた湯呑みに口を着けた。

 

「なんか、見たまんまって感じね。てか、だいぶ若いわよね。」

 

ずいと南美に顔を近付けたグーヤンがじろじろと顔を眺めて呟く。

そんなグーヤンの行動に南美は“貴女もだいぶ若いですよね、というかめちゃ綺麗な顔してますよね”と言いたくなるのをぐっと押し殺した。

 

「なーんで貴女みたいな若い娘がこんなところに来てんの?借金?」

 

「あ、いえ、別にネガティブな理由じゃなくて、その、強くなりたいなって。」

 

南美の発言を聞いたグーヤンが目を点にして何度も瞬きを繰り返した。

そして数秒後、正気に戻った。

 

「何、その王道バトル漫画的な理由は…。」

 

「改めて言葉にすると自分でもそう思いますよ。…グーヤンさんはどうして?」

 

南美の質問を受けてグーヤンはやや困ったような顔を浮かべる。

そして湯呑みに残った一口を飲み干すとまぁ良いかという表情になり、口を開いた。

 

「私ってさ、こう見えてそれなりに良いところのお嬢様って奴だったのよね。蝶よ華よと育てられ、何不自由なく生活出来てた。でも…、退屈だったのよねぇ。唯一の癒しはテレビで見る格闘技くらいのもの。」

 

そこで言葉を切ったグーヤンは急須を持って流しに向かう。

そして少しだけ冷ましたお湯を急須に注いで蓋を閉じた。

 

「親もさぁ、世間体だなんだと口煩いし、学校もお嬢様学校で、友達との挨拶も“ごきげんよう”…。本当に苦痛だったわ。」

 

そう呟きながらプルプルと腕や背中が小刻みに震えている。

恐らく過去を思い出して怒りで震えているのだろう。

そしてスーハーと大きく息をついて、湯呑みに茶を注いだ。

 

「それでまぁ、退屈で窮屈な生活に嫌気が差してさ。まぁ、予想できるだろうけど、家を飛び出したの。流れ流れてこの場所に、今はファイトマネーで悠々自適に暮らしてるわ。」

 

飲み頃に冷めた茶を一口飲んでグーヤンはまたソファに座る。

 

「本当に今の生活は楽しいの。鳥籠から出れた鳥ってこんな感じなんでしょうね。」

 

そう言って笑う彼女の笑顔は、それこそ大輪の華が咲いたように美しく、そして気高く、同性である南美さえも惹き付ける魅力があった。

 

 

 

 

そうして南美が裏ストリートファイトに片足を突っ込んでいる頃、少しだけ時を巻き戻し、夏休み突入直後の時間軸。

実家に戻っている一夏はというと──

 

 

「それでは、お部屋にお連れします。」

 

「あ、はい。よろしくお願いします、翡翠さん。」

 

赤髪のメイド姿の女性、翡翠によって倉持技研の技術開発工房に案内されていた。

 

 

夏休み突入前の福音事件によって白式がセカンドシフトを果たした一夏は、夏休みに入るやいなや、倉持技研から呼び出しを食らったのだ。

 

 

「いやいや~、すいませんね一夏さん。わざわざ足を運んでいただいて。」

 

翡翠に案内された部屋で一夏を迎えたのは、彼女とそっくりな割烹着姿の女性だった。

 

「大丈夫ですよ、琥珀さん。夏休みも始まったばかりで暇だったので。今日は白式のデータチェックだって聞いてたんですが。」

 

「はい。なんでも白式、セカンドシフトしたらしいじゃないですか。これはもう調べるしかないじゃない!というわけです。」

 

竹箒片手に微笑む琥珀に一夏はアハハと軽く笑う。

 

「今回は白式のデータを取ったら、実戦データを取る為にうちの子と一試合してもらいますね。」

 

「あ、了解です。」

 

開発室に置いてある自身のデスクに座った琥珀の言葉に一夏は二つ返事で了承した。

それが地獄の始まりとも知らずに。

 

 

 





MUGENで技術者と言ったら琥珀さんか、岡崎教授かにとりってくらいには定着している開発者琥珀さんこと、Dr.アンバー。


では恒例のMUGENストーリー紹介のコーナー!

「アリスさん姉妹」(いちじょ 氏)

「おっぱいこのやろう」の名言を生んだ名ストーリー動画。
1度は削除されたものの、リメイクされて帰って来た作品です。
長女アリス、次女アリス、三女アリスのアリスさん姉妹による日常系ギャグストーリー。
THEギャグストーリーとも言うべき動画は一見の価値ありです。
ぜひどうぞ!



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第92話 ロボット、イギリス、師弟の再会


少しだけ間が開いてしまいました。
すいません。

いやー、成人式に出たんですが、中学の頃のクラスメイトが皆大人になってましたね。
特に女子はホントにキレイになってまぁ…。


では本編をどうぞ↓


「ふぃーばー!!」

 

「ウボァー!?」

 

掛け声とともに辺り一面で火薬が爆発し、鮮やかな火花が散ると、その衝撃で白式を纏った一夏は壁に叩きつけられる。

そして爆発の中心部では翡翠と瓜二つな何かがサタデーナイトフィーバーポーズで立っていた。

 

「つ、強い…。」

 

「ふふ、そうでしょう、そうでしょう。なんせその子は我が倉持技研が総力を上げて作り出した汎用メイド型戦闘ロボ、その名もメカ翡翠ちゃんです!」

 

「…そんな技術力があるならもっと性能の良いISが作れたんじゃとか言いませんからね。」

 

ボロボロになった一夏は刀を杖代わりに立ち上がって、強化ガラスの向こうにいる琥珀に呟く。

琥珀はそんなことなど露知らずむふーと胸を張っている。

 

 

 

「…それにしても、白式の性能は化けましたね。多少最高速度は落ちましたが、それでも既存のISよりもよっぽど速い。そして一番は瞬間火力、失った速度を補ってお釣りが溢れるほどに返ってくるまで伸びました。」

 

手元のタブレットに表示されている画面を見ながら琥珀は対面のソファに座る一夏に告げる。

琥珀の言葉に一夏は同意をするように頷いた。

 

「それは操縦してて感じました。すこし遅くなったのに違和感があって、始めは戸惑いましたけど、今はもう馴れました。」

 

「ふむふむ、なるほど。それなら大丈夫そうですね。あともう少しだけデータか欲しいので、手伝ってもらいますよ。」

 

「え? まだ戦うんですか?」

 

「白式のデータは充分なのですけど、折角の機会なのでうちの子達のデータを取っちゃおうかなと。」

 

そう言ってニッコリ笑った琥珀がパチンと指を鳴らすと、2体のロボットが扉を開けて現れた。

背の高いメカメカしい顔つきのロボットと、背の低いこれまたメカメカしい顔つきのロボットのペアだ。

 

「紹介しますね。こっちの背が高い方が高校時代の同級生をモデルにしたロボカイくんで、こっちの背が低い方がその同級生の恋人をモデルにしたロボレンちゃんです。」

 

「…しすてむ起動、ばとるしすてむ異常ナシ。」

 

「織斑一夏ヲ認識。」

 

ロボット2体は一夏を認識するとそれぞれ手元に得物とおぼしき物を握りしめ、つかつかと詰め寄る。

そんな2体の行動も予想済みなのか、琥珀はニコニコしている。

 

「サァ行クゾ。貴様ヲぼこぼこニシテヤル。」

 

「天然じごろ朴念仁ノ反応ヲ感知、女ノ敵ト認識シマシタ。」

 

背の高いロボカイは一夏の首根っこを掴んだまま戦闘フロアに引っ張って行く。

ロボットの合成音声にどことなく殺気が籠っていたのは気のせいだろう。

 

「サァ、サッサト構エロ!」

 

「今度は2体同時にお願いしますねー!」

 

「嘘だろ!?」

 

フロアの中央に手荒く放り投げなれた一夏は琥珀によって告げられた一言にかるく絶望した。

しかし現実は非情であり、ロボカイとロボレンは既に臨戦モードである。

 

もはや逃げ場はないと観念した一夏は白式弐型・ハクメンを展開して刀を構えた。

 

THE WHEEL OF FATE IS TURNING, REBEL1

 

ACTION!

 

 

一夏の地獄が本格的に幕を上開けた。

 

 

 

 

「ホラホラドウシタ!!」

 

「ぐっ!?」

 

合成音声で煽りながらロボカイは空中でハンマーを振り下ろす。重たい一撃を刀で受け止めた一夏はずずいと押され、高度を下げる。

 

そしてそれを見越していたのか、ロボレンは既に巨大ピコハンを構えており、目の前に降りてきた一夏へと襲いかかる。

 

「喰ラエ!!」

 

「ぬぅぉおっ!?」

 

ロボカイのハンマーを受け止めたまま、身を捩ってロボレンのピコハンを避けた一夏は、力ずくてロボカイを押し返し、ロボレンを蹴り飛ばす。

 

「2対1とか、卑怯だと思わないのか!!」

 

「全然思ワナイ。」

 

「勝テバイイ、ソレガ全テダ。」

 

一夏の言葉にロボット2体はぶんぶんと首を横に振って否定する。

正々堂々?何だそれは、旨いのか?と言わんばかりの2体の態度に一夏は“あぁ、そうかよ。”と呟いた。

 

「くそが!こうなったら自棄だ!お前ら2体ともスクラップにしてやる!」

 

「勇マシイナ、朴念仁。……後ロヲ見テミロ。」

 

ロボカイの言葉に一夏は2体の行動に警戒しつつ、視界の端で背後を見る。

するとそこには手をドリルにしたメカ翡翠が一夏に向かって突進してきていた。

 

「ふぃいばぁああああ!!」

 

「ぽっこぉおおおんっ!?」

 

メカ翡翠は目にも止まらぬ速さで、ドリル付きハンドで抉り込むようなアッパーを一夏の脇腹に叩き込んだ。

そのあまりの衝撃に、一夏はフロアの床にへなへなとうずくまった。

 

 

 

 

 

 

そうして一夏がロボット3人に次々と撃墜されている時、イギリスに帰国したセシリアはと言うと…

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

 

ロールスロイスから降りて屋敷の扉を開けたセシリアを一人の老紳士が出迎える。

黒スーツに赤いワイシャツの老紳士は、しかし、その老いを感じさせないほど若々しい体つきと身のこなしであった。

 

「ただいま爺や…。屋敷に変わりはありませんでしたか?」

 

「ええ、もちろんですとも。」

 

老紳士はセシリアの問に再度頭を下げて答えた。

それを聞いたセシリアは満足そうに頷いて言葉を続ける。

 

「ところで爺や、頼んでおいた件は大丈夫かしら?」

 

「はい、連絡を受けた日に招待状と航空機のチケットを送りました。」

 

「そうですか、ありがとう爺や。」

 

老紳士の返答を聞いたセシリアは嬉しそうに笑って、そのまま自室に戻っていった。

 

 

 

 

ロンドンのオルコット邸でそんなやり取りがあったのとほぼ同時刻、することもなくIS学園に残っていた鈴はというと──

 

「久しぶりネ、鈴。逞しく育ってるみたいで嬉しいアル。」

 

「お、お師さん…?!」

 

格闘技の師匠、呂虎龍と久々の再会をしていた。

 

 

 

「ふふふ、久しぶりアルね、鈴。」

 

「お師さん…、お師さーん!!」

 

鈴は虎龍を見るやいなや、直ぐ様駆け出した。

そんな弟子の様子を見た虎龍は小さな笑みを浮かべると両腕を広げて迎え入れる準備をする。

 

「お師さん!!」

 

「ふふ、相変わらず甘えん坊さんネ。」

 

鈴は虎龍の胸に飛び込むと、すりすりとその堅い胸板に頬擦りする。

虎龍はそんな甘えてくる弟子を抱き締めて髪型が崩れるのも構わずに思いっきり頭を撫でてやる。

その様子は二人の体格が近いことと、虎龍の顔つきが幼いことも手伝って兄妹のじゃれあいにも見える。

 

「鈴、本当に大きくなったアルね…。あの頃が懐かしいヨ。」

 

「えへへ、もうお師さんにだって簡単には負けないから!」

 

昔よりも大きくなった弟子を見て、虎龍は目を細めながらその頭を何度も撫でる。

髪を通る手の感触の懐かしさに、鈴は頬を緩ませてまた虎龍の胸に顔を埋めた。

 

 

「う、うわぁ…。あんな虎龍さん初めて見ましたよ…。」

 

「貴女はそうよね。でも昔はよくあんなふやけた顔晒してたわよ?」

 

微笑ましい師弟の再会を繁みの中から覗いていた弥子と犬走はそれぞれのリアクションを見せた。

犬走は尊敬する職場の先輩の見たことない表情に、見てはいけないものを見てしまったという具合に手を口許に当てて、食い入るようにその風景を見つめる。

一方で、犬走の隣で虎龍の様子を見ていた弥子はどこか懐かしい物を見つめるように、目の前の光景を眺めていた。

 

 

「…お師さん、どうしてここに? その、KGDOのお仕事は?」

 

「ふふ、仕事でIS学園に来てるアルよ。実はネ、鈴と同じくらいの日にIS学園に来てたアルね。」

 

「ふぇ?」

 

虎龍の発言に鈴はすっとんきょうな声を上げる。

そんな弟子のリアクションさえも愛しいと言わんばかりに虎龍は微笑んだ。

 

「今までは、鈴に会っちゃいけないと思ってたアルけど、たぶん…、鈴には必要になるって思ったから、会いに来たネ。」

 

「え、あ、必要になるって…、その、何が…?」

 

鈴の問に虎龍は今まで細めていた目を開いて、鈴の目をじっと見つめる。

 

「稽古ネ。」

 

「っ!?」

 

全てを見透かすような鋭い虎龍の目付きに鈴は息を呑む。しかし、虎龍は次の瞬間にはいつもの優しい笑みに戻った。

 

「…鈴は、昔から強くなりたいって、一生懸命な子だったアル。そんな鈴だから私は力を貸したくなったネ。」

 

「お師さん…。」

 

「だから、鈴が困っているなら手を差し伸べる、立ち止まっちゃったなら、背中を押してあげるヨ。だからまた私は鈴の前に来たネ。」

 

そんな虎龍の言葉を聞いた鈴はススッと虎龍から距離を置き、頭を下げる。

そして頭を上げるとキリッとした表情になり、いつもの構えを取った。

 

「ありがとうございます、お師さん…。でしたら、さっそく1本お願いします。今の私の全力を…。」

 

「ふふふ、そう来なくちゃネ! 良いアルよ、鈴の全力を見せて見るネ!」

 

鈴の行動に虎龍は笑顔を浮かべ、ネクタイを緩めると、スーツの上着をそこらに放って構えを取った。

 

 

 

 





今話のたった数行でオルコット家の爺やが分かる人は果たしているのだろうか。


恒例になりつつあるMUGENストーリー紹介のコーナー!

「ほら、僕らはショウマンだから。」(やつ戦国 氏)

綺麗なワラキアさんはここにいた!という感じの作品です。
他にも登場人物はいい感じでキャラが崩れていたり、しかしそれでいて嫌にならないように纏めてあります。
ほのぼのとした日常系のMUGENストーリーをお探しの人はおすすめです。





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第93話 更識家当主、更識楯無

今回はかなり短いです。

では本編をどうぞ↓


「………。」

 

都内某所に存在する更識家の屋敷。その一角、広々とした道場の中で、IS学園生徒会長の更識楯無は胴着姿で一人座禅を組んでいた。

 

道場の中は窓も閉めきっており薄暗く、空気は耳が痛いほどに静かだ。

静謐な空間で更識楯無はたった一人で目を閉じて呼吸を繰り返している。

 

そんな空気を打ち払うように男二人が道場の入り口を開けて、楯無の前に現れた。

 

 

「更識楯無、だな?」

 

「……。」

 

男の一人が眼前で座禅を組む楯無に問う。

だが楯無は座禅の姿勢からピクリとも動かず目を閉じていた。

 

「けっ、黙りか?」

 

「……貴方達は何者かしら? ただの強盗とは思えないけれど。」

 

ずうっと目を開けた楯無は得物を握った男二人を見上げる。

どう見ても堅気ではないであろう男達に睨まれながらも、楯無はいつもの冷静な顔を崩さなかった。

 

その変わらない楯無の態度に男の片割れはイラついたように片方の眉を吊り上げていた。

 

「俺たちはアンタを拐いに来た。」

 

「あら、殿方からそのように情熱的な言葉を言われたのは初めてね。ですが…。」

 

平静さを崩さない男の言葉に楯無は上部だけ嬉しさをつけたような言葉を吐き、道場の入り口に目を向ける。

 

「もう少しロマンティックなシチュエーションで言われたかったわ。それに、女性が一人でいる部屋に無作法に踏み込み過ぎじゃありません?」

 

「…アンタが一人の時を狙うしかなかったんでね。まぁ、そういう訳でだ、着いてきてもらおう。」

 

冷静な男はそう言うと懐から拳銃を取り出して楯無に向ける。それと同時にイラついていた男は日本刀を鞘から引き抜いた。

 

その行動に楯無は顔色を変えず静かに、そしてゆっくりと両手を上げた。

座禅のまま、二の腕が床と水平になるくらいの高さに手を上げた楯無を見て、イラついていた男は口の端を緩める。

 

「なんだ? 降参ってか?」

 

「そうですわね。最後に聞かせて頂けます? 貴方達は誰の依頼で私を?」

 

「………アンタに動かれると、嗅ぎ回られると面倒になる人間から、としか言えないな。」

 

「そう…、ありがとう。」

 

楯無は男の言葉を聞いて、また目を閉じた。

その様子にイラついていた男は1度刀を鞘に納めて一歩、楯無に近寄る。

 

「もう貴方達に用はないわ。せめて痛みを知らず、安らかに眠るといい。」

 

「あ“あ“っ?!」

 

「何をっ!?」

 

楯無の発言に男達は後ずさり、得物にまた手を掛けようとする。しかしそれよりも早く、楯無が掲げた両手を振り下ろした。

 

「ああ? なんだ、体が──ちにゃ?!」

 

「ひでぶっ!?」

 

男達の体は内側から膨れ上がり、内部から破裂するように飛び散った。

鮮やかな赤い血液や、それらを纏った肉片が男達の立っていた辺りに散らばり、道場の中を肉と血の匂いが覆う。

 

男達の絶命を確信した楯無は座禅を解いて立ち上がると足が汚れることも厭わず、真っ直ぐに道場の入り口を出た。

 

「黒子。」

 

「ここに。」

 

小さな声で楯無が呟くと、その横に片膝をついた格好で黒子姿の男が姿を現した。

黒い布のせいで顔は分からないものの、声や体格から男であることが分かる。

 

「少しやり過ぎてしまいました。後片付けをお願いします。」

 

「承知しました。」

 

黒子の男はその姿勢のまま、頭を下げるとスススッと道場の中に入っていった。

それを横目で確認した楯無は一呼吸置くと、軽く2回、手を打ち合わせる。

 

「クーちゃん。」

 

「…ここだ。」

 

楯無の言葉に反応して、一人の白髪の少女が天井裏からヒョコッと顔を覗かせた。

そんな常識外れな道場の仕方にも楯無は動じる事なく言葉を続ける。

 

「前からお願いしてた件だけど、そろそろ実行に移すわ。」

 

「ん、了解した。任せておけ。」

 

そう言って白髪の少女はまた天井裏に顔を引っ込め、顔を出していた四角い穴に蓋をした。

それを見届けてから楯無は雲一つない空を見上げる。

 

「ふぅ…。やることは山積みね。はぁ、全部やらなきゃいけないのが更識家当主の辛いところよねぇ、まぁ覚悟はしてたけど。」

 

 

 

 

 




MUGENカラーの強くなってきた作品に久々の北斗っぽさ。
まぁ、楯無さんはこの世界では狂キャラなんやなって。

で恒例のストーリー動画紹介のコーナー!

「便利屋のリーゼさん」(バイオノイド 氏)

便利屋を営む所長のリーゼと、その保護者兼助手のジェダさんを中心に描かれるまったり日常系ストーリー動画。
曰く、「緩流に身を任せ同化する」「緩流に身を任せまったりする」感じの作品。
MUGENストーリーでは珍しいまったりゆったり系の作品で、そういったストーリー動画を見たい方にはお勧めです。
こんなフリーダムなリーゼロッテは見たことないよ!




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第94話 オルコット邸にて


これはバレンタイン特別編の前書きに書けば良かったかも知れないけど、高校時代のクラスメイトがバレンタインになると男女とか問わずに回りにチョコレート配りまくってて、皆してそのクラスメイトをGHQって呼んでたなぁって。

では本編をどうぞ↓


夏休みになって帰国していたセシリアは、この日とても機嫌がよかった。

その機嫌の良さは長年一緒にいるチェルシーや執事長さえもそう何度も見たことがないほどである。

 

その理由は至極簡単である。

 

「お、おはようございます、お嬢様…。」

 

「ふふ、おはようございます、一夏さん。」

 

想い人の織斑一夏が執事として彼女の屋敷で働いているからだ。

 

そも、なぜ彼がオルコット邸にて執事の真似事をしているのかと言うと、時間は少し遡る。

 

 

あの日、メカ翡翠、ロボカイ、ロボレンの3体によってボコボコにされた一夏は満身創痍で自宅に帰宅した。

その時、郵便受けには見慣れない封筒が一つ。

差出人の名前はオルコット家となっていた。

 

見慣れた友人の名前を見た一夏は丁寧に封筒を開けると、中から航空機のチケットと丁寧に封された手紙が出てきた。

 

「…映画とかに出てきそうな手紙だな…。こっちは、イギリス行きの飛行機の…?」

 

チケットを見て内心首を傾げつつ一夏は封をしている蝋を剥がして手紙に目を通す。

手紙の文字はとても綺麗な日本語で書かれており、それが逆に外装とのちぐはぐさを強調している。

 

手紙の内容は簡潔に言えば、夏休みの数日間をイギリスで過ごしてはみませんかというものだ。

 

「あー、イギリスかぁ…。んー、行ってみたいには行ってみたいけど、どうするかなぁ…。」

 

夏休みの間、特に予定などはなく、日々を自己研磨に充てようと思っていた一夏には海外旅行をするつもりは特になかった。

しかし、常日頃に見聞を広めろ、視野を開けと姉から言われている彼からすればこの海外渡航の誘いはウェルカムなものだ。

 

がしかし、いざ目の前にそれが現れると戸惑ってしまうのもまた彼らしさと言うべきだろう。

渡航の費用はオルコット家持ち、宿泊もオルコット邸で寝泊まりして良いと言う破格とも言うべき条件で海外に行けるのだ。

ソファの上で胡座をかいて悩んでいた一夏は、悩み抜いた挙げ句、ある番号に電話を掛けた。

 

 

 

 

「何を迷うことがある、行ってこい。」

 

「アッハイ。」

 

電話口から帰ってきたのはあっさりとした一言だった。

余りに悩んだ一夏が保護者でもある千冬に電話を掛けて事情を説明したところ、彼女からの返答はたった一言、「行ってこい」である。

 

費用の心配も要らず、心配事もそこまでないとならば送り出すという決断だ。

さすがの一夏も千冬の一言で決心が着いたのか、キャリーバックを物置から引っ張り出し、数日分の着替えやら必需品を積めていく。

 

 

 

 

「ん、あぁ…。快適すぎたな。まさかファーストクラスのチケットだったなんて。」

 

飛行機を降りて空港内を歩いていた一夏は機内でのことを思い返す。

IS学園の寮室にも劣らない豪華で快適な内装の座席、と言うよりも一種の個室で余りにも快適な時間を過ごした一夏は“あれに慣れたらダメになるやつだな。”と独り言ちて手紙に書かれていた場所を目指す。

 

そしてキャリーバックを引いて約束の場所までくると一人のメイドが一夏を出迎えた。

 

「織斑一夏様ですね。お迎えにあがりました。」

 

「えっと、もしかしてセシリアの?」

 

「はい、オルコット家に仕えるメイドでチェルシーと申します。」

 

チェルシーは頭を下げると一夏の荷物を手にとってそのまま車に向かって歩く。

始めて見るメイドという肩書きの人物に呆然としていた一夏であったが車に乗り込もうとするチェルシーに声を掛けられてハッとして用意された車に乗り込む。

 

 

「一夏様のお噂はかねがね聞いております。なんでもとてもお優しいとか。」

 

「あっと、チェルシー、さん? その話はどこから…?」

 

慣れた様子で車を走らせるチェルシーはミラー越しに一夏と目を合わせる。

まさか話しかけられるとは思っていなかった一夏はぎょっとして言葉を返す。

その辿々しさにチェルシーは思わずフフっと笑う。

 

「もちろんお嬢様から、ですわ。…さ、もう着きましたよ。」

 

ゆっくりと車を停めたチェルシーは座席から降りると、荷物を降ろして一夏側のドアを開ける。

チェルシーに案内され、オルコット邸の門をくぐった一夏はあまりのそれに言葉を失った。

 

「き、貴族の屋敷ってどこもこんなに豪華って言うか、立派なんですか?」

 

「そうですね、オルコット家の屋敷はまだ小さい方でしょうか。」

 

「これで小さい方、なんですか?」

 

「えぇ。初代当主様は浪費がお嫌いな方だったらしく、屋敷も無駄に大きくしたくなかったとか…。」

 

一夏はチェルシーの話にはぁと感心しながら庭園を見回す。

隅々まで手入れが行き届いた西洋庭園は、日本庭園とはまた違った面白みがあり、見る者の目を奪う。

そして庭園を通り抜け、屋敷の入り口を開けると、老紳士を伴ってセシリアが一夏を出迎えた。

 

「お久しぶり…というほどでもありませんわね。」

 

「まぁそうだな。」

 

玄関で二言三言交わした二人は老紳士に促されるまま屋敷の奥へと歩いていく。

そしてある一室の前に着くと、老紳士は一夏の荷物を受け取る。

 

「一夏さん、着替えを用意してありますので、この部屋で着替えて頂けます?」

 

「着替え? あぁ、ドレスコードみたいなもんか。確かに少しラフだったかもな。」

 

一夏は自身の格好を見返して、確かに貴族の屋敷でジーパンというのも変だなと思い、セシリアの言葉に従って部屋に入る。

そして一夏の着替えを手伝うという名目で老紳士も部屋に入っていった。

 

 

「こちらが着替えでございます。」

 

老紳士が用意されている服を一夏に手渡すと、それを丁寧に広げた一夏は目を見開いた。

 

「こ、これって燕尾服…?」

 

「執事服にございます。着れますか?」

 

「た、たぶん大丈夫だと思います…。」

 

初めて見る執事服に一夏は戸惑いつつも着替えを始める。

老紳士はいつでも手が貸せるようにそれを見守っていた。

慣れない衣服ではあるが、スーツとほぼ変わらないこともありすんなりと着替えることができた。

 

「終わりました。」

 

「はい。…、ちゃんと着れてますね。では行きましょう。」

 

「はい、えっと…。」

 

「オズワルドです、オルコット家の執事長をしております。」

 

老紳士、オズワルドはそう言うとドアを開けて一夏に退室を促した。

それに従って部屋を出た一夏はドアの前で待っていたセシリアに視線を移す。

 

「あの、セシリアさん。この格好はどういうことでしょうか?」

 

「あぁ、そのことですか。説明が遅くなりましたね。さすがに学友とはいえ、オルコット家の当主が年頃の殿方を家に泊まらせているとなれば良くない噂を招くこともあります。そこで一夏さんをオルコット家の新人執事としてしまえばよかろうなのだ…という訳です。」

 

一夏の質問にセシリアはパンっと手を叩いて笑顔で答えた。

そのあくまでも悪気はなかったという笑顔に一夏はそれ以上咎めることも出来ずに閉口するしかなかった。

 

 

 

これがセシリアがご機嫌であり、一夏が執事の真似事をしている理由である。

 

 

 

「それで、今日の予定はなんだったかしら?」

 

「はい、少々お待ち下さい。」

 

朝食を摂り終えたセシリアは紅茶を注いだティーカップを眺めながら隣で佇む一夏に尋ねる。

一夏は懐から手帳を取り出してパラパラとページを捲って今日のページを開こうとするが、オズワルドがそれを手で止めた。

 

「本日は午後にペンウッド卿との会談があります。」

 

「あら、ペンウッドおじ様が?」

 

オズワルドの口から出た人名にセシリアは思わずオズワルドの方を向く。

 

「はい。なんでも後見人として成長したお嬢様のお顔を見たいとのことでして。」

 

「…そうですか、おじ様が…。」

 

セシリアは懐かしさに思いを馳せるような顔を浮かべてカップの紅茶を飲み干した。

 

 

 

「あの、ペンウッド卿って誰なんです?」

 

オズワルド、チェルシーの二人と一緒に三人で朝食を摂っていた一夏が思い出したように二人に尋ねる。

その質問に二人は顔を見合わせると、オズワルドが口を開いた。

 

「シェルビー・M・ペンウッド卿は英国海軍中将で、セシリアお嬢様の後見人です。」

 

「後見人…。」

 

「お嬢様がオルコット家の当主となったのはまだ幼い頃でした。そのため、お嬢様のお父上と若い頃から親交のあったペンウッド卿が後見人を買って出たのですよ。」

 

「そうだったんですか…。」

 

納得したように背もたれに深く背中を預けた一夏を見て、オズワルドはフフっと笑い席を立つ。

 

「さて、それでは仕事を再開しましょう。織斑くんももう大丈夫ですね?」

 

「は、はい! 任せてください。」

 

「ふ、良い返事です。」

 

オズワルドは笑うと食器を流しに持っていき水を張った器に入れる。

そしてパンっと手を叩いて笑顔でチェルシーと一夏の二人に話しかける。

 

「では、今日も1日働きましょうか。」

 

「「はい!」」

 

オズワルドの言葉に二人は返事を返し、各々の仕事に取りかかった。

 

 

取り掛かったと言っても、この屋敷で一夏が任されている仕事は少ない。

セシリアの身の回りのことはチェルシーが、その他全般をオズワルドがこなしているため、一夏に回ってくる仕事は屋敷の掃除くらいのものだ。

 

それでも任されている仕事は仕事なので、一夏は懸命にそれに取り組む。

これでも幼い頃は一人で家の大掃除をしていた一夏であるが、ここまで広い屋敷となると勝手が違うのか、初めての時はかなり苦戦していた。

 

しかし長い間磨いてきた主婦力のお陰か、二日目の今日は昨日よりもより丁寧に、より早く仕上げることが出来るようになっていた。

 

 

「驚きの成長速度ですね。」

 

「ええ、これには少々驚きました…。ですが、だからこそその資質を見極めませんと…。」

 

「…怪我にはお気をつけて…。」

 

サングラスを怪しく光らせ、その場を後にするオズワルドの背中にチェルシーはそっと言葉を投げた。

 

 

前日より一時間早く掃除を仕上げた一夏は成長の早さに驚くオズワルドとチェルシーの二人を尻目に与えられた余暇で庭の様子を見て回っていた。

すると、手入れの行き届いた庭園の一角に誰かが佇んでいるのを見つける。

その人物──赤いロングコートに赤いつば広帽子を被った長身の男性──も一夏のことを見つけたのか、一夏のいる方に体を向けるとゆっくりと足を進める。

 

「ほう…、マスターに着いて久々に来てみれば面白いものが見れた。…男…、それも日本人か。あのお嬢ちゃんにしては珍しい使用人だ。」

 

赤いコートの男は興味深いとでも言うような様子で呟きながら一夏に詰め寄る。

そんな男の行動や謎の威圧感に一夏は息を呑んで立ち竦んでいた。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。お久しぶりですね、ペンウッドおじ様。」

 

「や、やぁセシリア…、久しぶり。本当にキレイになったね…。」

 

その時玄関ではセシリアが自分の後見人であるシェルビー・M・ペンウッドを出迎えていた。

セシリアは数年ぶりに会うペンウッド卿を笑顔で出迎えたのだが、一方のペンウッドはどこか顔色が悪く、若干の冷や汗をかいている。

 

「おじ様…? 顔色が優れないようですが…。」

 

「いや、大丈夫だよ…。その…、あれだ…。」

 

ペンウッドはチラチラとセシリアから視線を外し、後ろや横を気にする素振りを見せる。

そうして心配するセシリアとそれを何でもないよと言うペンウッドという構図が出来上がったのだが、それはすぐに打ち消された。

 

「ペンウッド卿、もうよろしいですか?」

 

ペンウッドが降りてきた車から凛とした女性の声が聞こえた。

その声にペンウッドはあちゃーと言うように頭を押さえる。そして車から一人の女性が降りてきた。それに伴って運転席からも一人の老人が姿を現す。

その女性の姿にセシリアは目を見開いて驚愕した。

 

「イ、インテグラ=ヘルシング様…?」

 

「久しぶりね、セシリア。1年半前のパーティ以来?」

 

車から姿を現したのは現イギリス国家代表のインテグラ=ヘルシングその人だった。

 

「すまない、ペンウッド卿が君に会いに行くと聞いたら私も会いたくなってね。そのお陰で君の驚く顔が見れたが…。」

 

「い、いえ、その、光栄ですわ…。」

 

予想にもしていなかった人物の登場にセシリアは呆然としている。

そんな主を支えるようにオズワルドが一歩前に出る。

 

「そうでしたか。それではお部屋にご案内します。さぁ、お嬢様も。」

 

「え、えぇ。」

 

オズワルドの呼び掛けに正気に戻ったセシリアは一息ついて応対用の部屋に足を向ける。

そしてインテグラとペンウッド、運転手の老人も二人に続いて屋敷に入る。

 

 

「暫しお待ち下さい。」

 

案内された部屋で3人が席に着くとオズワルドは静かに部屋を出る。

 

「すまないねセシリア…。私が事前に連絡すれば良かったんだが…。」

 

「いえ…、大丈夫ですわ。すこし驚いただけですもの。」

 

オズワルドが出ていくなり、ペンウッドは対面のセシリアに頭を下げる。

しかしセシリアはペンウッドの言葉に首を横に振った。

 

「なんと言うか…、インテグラ様の突発的な行動にも慣れていますし、気にしていたら身が持ちませんもの。」

 

「ハッハ、言ってくれるじゃないか。さすがは国家代表候補生の首席だ。」

 

インテグラはニヤリと笑みを浮かべると、じろりとセシリアを見つめる。

 

「それでだ、この屋敷に新しく入った執事とやらはどこにいる?」

 

うっすらと笑みを浮かべたインテグラは周囲を見渡す仕草をする。

その顔からもしかしてと、今回の突然の訪問の理由を察したセシリアは苦笑いを浮かべてベルを手に取った。

しかし、セシリアがベルを鳴らすよりも早く部屋のドアが開けられた。

 

「その必要はない、セシリア・オルコット…。件の少年は私が連れてきた。」

 

その言葉と共に部屋に入ってきたのは、一夏が庭園で出会った赤コートの男であった。

男の後ろからはおずおずと一夏が部屋の様子を伺っている。

 

「い、一夏さん!?」

 

「ほう、彼が新しい執事か。」

 

男の後ろから顔を覗かせる一夏を見て、インテグラは興味深そうに頷く。

インテグラに一夏を見られたセシリアはあちゃーと言うように額に手を当てた。しかしインテグラはそんなセシリアの様子など素知らぬ様子でソファから立ち上がり、つかつかと一夏に歩み寄る。

 

「……ふむ、良い目をしている。野心溢れる、男らしい瞳だ。」

 

「やはりお前もそう思うかインテグラ…。IS委員会はかなりの人材を囲え込めたようだ。」

 

赤コートの男は心底嬉しそうな顔で口角を吊り上げて笑う。

その笑顔につられたのか、インテグラも小さな微笑みを浮かべて一夏を見る。

 

「だが、この男は飼い殺される男じゃなかろうよ。」

 

「それは言えてるな。」

 

インテグラと男は顔を向かい合わせながらクックと笑っている。

その行動にどうも要領を得ない一夏は首を傾げるしかなかった。

 

「あぁ、すまない。こちらの話さ。さて、新人執事くん?」

 

「え、あ、はい!」

 

呼び掛けられた一夏は背筋を伸ばしてインテグラの方を向く。そんな一夏の肩にインテグラはポンと手を置いた。

 

「イギリスは良い国だ。もっとも、食に関して言えば他の国の方が旨いものは多いがね。ここに滞在している内に楽しんでくれ。」

 

「は、はい。」

 

「良い返事だ。ウォルター、アーカード、そろそろ出るとしよう。新人執事くんの時間をこれ以上割くとまずい。」

 

インテグラは一夏の返事を聞くと満足げに頷き、赤コートの男と老執事を連れて部屋を去ろうとする。

がしかし、セシリアが赤コートの男を呼び止めた。

 

「お待ちくださいアーカード様! 今一度、貴方に挑ませてくださいませ。」

 

「ほう…、カスールカスタムすら満足に扱えきれなかったあのお嬢ちゃんが言うようになったものだ。」

 

「私があの時のままだと思わないで頂きたいですわね。」

 

赤コートの男、アーカードを呼び止めたセシリアはつかつかとアーカードに近寄り胸を張る。

その自信に満ち満ちた瞳を見たアーカードはニヤリと歯を剥き出しにして笑う。

 

「なるほど、口だけではないようだ。面白い! これだから人間は最高なのだ!」

 

「ふふ…。その余裕、今になくして差し上げますわ!」

 

セシリアとアーカードの二人は三段笑いを響かせながらその場を後にした。

 

 

 

「行ってしまわれましたな…。」

 

「アーカードめ、こういう時に歯止めが効かないのを直せと何度も言っているのに…。」

 

高笑いしながら去っていく二人の背中を見送った面々ははぁと深い溜め息を吐く。

各々の顔は皆苦笑いを浮かべている一方で、もはや慣れてしまっているようでもあった。

 

「さて、ああなった以上半日は戻ってこないだろう。さて、新人執事くん。街に出ようか。」

 

インテグラはそう言ってポンと一夏の肩に手を置いた。

その言葉に一夏は目を見開いてインテグラを見る。

 

「ん? どうした?」

 

「い、いえ…。」

 

「本来ならセシリアにも同行してもらいたかったが、うちのアーカードと勝負しに行ってしまったからね。だから私と1対1になるが、構わないか?」

 

一夏の意思をお構いなしに話を進めていくインテグラに一夏は“あ、この人も他人の話を聞かないタイプだ”と悟った。

悟ってしまってからの一夏の行動は早かった。

さらさらと並べ立てられるインテグラの言葉を頭の中で恐らくこう言うことだろうと本音に変換し、波風立てないよう相づちを打つマシーンへと転身したのだ。

 

「さぁ行くぞ。」

 

「あ、はい。」

 

意気揚々と一夏を連れてインテグラは街に出掛けていった。

 

 

 

 

そして、一夏がインテグラとロンドン巡りを楽しんでいる頃、ドイツではと言うと───

 

 

 

「なんだと?! セシリアが嫁を屋敷に招待した、だとぉ!!」

 

「はい、織斑一夏につけていた隊員からの報告です。間違いないかと。」

 

「ぐぬぬ、なんとも羨まけしからん! クラリッサ!!」

 

「はい、もう手は打ってあります。」

 

ハンカチを噛んで悔しがるラウラか勢いよく振り向くと、クラリッサは予想していたのか丁寧に頭を下げた。

そんなクラリッサの言葉にラウラはニヤリと笑い、掌を彼女に向ける。

その行動の意図を瞬時に把握したクラリッサはラウラの掌に自身の掌を打ち付ける。

 

「さすがは私の副官だ!!」

 

「お褒めにあずかり光栄です!!」

 

ハイタッチを交わした二人はお互いの手を力強く握り合う。

そして息ぴったりのタイミングで高笑いを部屋の中に響かせた。

 

 

 

 

 





うちのクラリッサさんは楽しいことに全力で取り組む勢です。

・今回はMUGENストーリー紹介はお休みです。
その代わりにMUGEN動画の紹介をば…。

・「秋子さんの謎ジャム寄せ集め」シリーズ
…あの水瀬秋子の超必、通称「謎ジャム」の対応キャラの演出を集めた動画です。
あのキャラ達のリアクションを楽しめる動画となっています。





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第95話 四条雛子というファイター



本ッッッ当に遅くなりました!
許してください、なん(ry

肉体的にも精神的にも追い詰められてしまいまして、こんなにも遅くなってしまいました。

では本編をどうぞ↓


「フゥゥゥゥシャオッ!!」

 

「ぐぬっ!?」

 

マスクでくぐもってはいるものの、特徴的な南美の甲高い声が路地裏に響く。

それから一瞬だけ間を置いて鈍い音が鳴る。

キャップとマスクで顔を隠した南美はコンクリートの壁にもたれ掛かる対戦相手に肩を貸して路地裏を出た。

 

「…お疲れさん。」

 

「ありがとうございます。」

 

出入り口のパイプ椅子に腰掛けていたヴァネッサが対戦相手を担いで出てきた南美にタオルを投げる。

南美はそのタオルを頭を下げることで受け取った。

 

「器用だねぇ。にしても、火の玉ボーイが手も足も出ないって、実戦に強いねぇ、Ms.マスク…。そいつも弱い訳じゃないんだけどねぇ。」

 

「まぁ、私も鍛えてますから。」

 

気絶した対戦相手をヴァネッサの横に寝かせた南美はサムズアップして事務所の中に入っていった。

そんな南美の後ろ姿をヴァネッサは“若いっていいわね~”と呟きながら見送った。

 

 

「さてと、冷蔵庫に飲み物入れてた筈だけど…。」

 

トントントンとリズミカルに階段を駆け登り、南美は2階の部屋のドアを開ける。

 

「およ?」

 

「あ?」

 

2階の部屋、南美がいつもストリートファイトの度に使っている部屋には先客がいた。

鍛え抜かれた肉体に銀髪、紛れもなくストリートファイターの一人、七枷社である。

 

「ようマスク。今日も中々やるじゃねぇか。」

 

「社さんこそ。聞こえてましたよ、いつもの声。」

 

厳つい見た目とは違いフレンドリーな社は部屋に入ってきた南美に対して笑顔で話しかける。

それに対して南美も友人と接するように返した。

ここ数日間、ストリートファイトに通う内に社とはすっかり仲良くなっていたのである。

 

「仕方ねぇだろ? ああやって声出さねぇと気合いが入らねぇんだよ。」

 

社は整った顔に屈託ない笑顔を浮かべる。

その顔からはストリートファイトの時の荒々しさなど微塵も感じない。

 

「その気持ちは分からないでもないですね~。」

 

「だろ? お前なら分かってくれると信じてたぜ。」

 

爽やかな青年のようなその笑顔は裏ストリートファイトの参加者とは信じられない。

がしかし、傷だらけの両手が彼の壮絶な日々を静かに物語っている。その傷こそが彼が裏ストリートファイトのファイターであることの揺るぎない証拠だ。

 

「つか、そろそろオレらの中の誰かと殺るんじゃねぇか?」

 

「…え?」

 

社が何気なく言った一言に南美は思わず聞き返す。

そんな反応に社はコーラを注いだグラスを置いて南美を指差す。

 

「当たり前だろ? デビューして今まで3戦無敗、運営側もそろそろビッグネームと当てたいだろ。」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「たぶんな。オレも連勝してるときに上位ランカーと当てられたし。連勝してきたルーキーに上位ランカーの壁を当てる、その壁を越えて上位の仲間入りか、そのまま落ちるか。それが狙いなんじゃねぇの?」

 

「なるほど…。だとしたら誰と当たるんでしょうか?」

 

社の話を聞いて飲んでいたスポーツドリンクのペットボトルをテーブルに置いた南美は顔を上げて社に尋ねる。

南美からの質問に社は顎に手を当てて考える仕草をする。

 

「あ~、うん、グーヤのバカはまだ早ぇし、かといって下過ぎても面白くねぇ…。とすればオレか、ヒナか…?」

 

「ヒナ…さん?」

 

「おう、ウチの上位ランカーだ。ほれ、ちょうど今──」

 

社がそこで言葉を切ってストリートファイトが行われる路地側の窓に顔を向ける。

 

「合掌捻り!」

 

少女特有の良く通る声が響き、それに続くように何かがコンクリートに強く打ち付けられた音と男性の呻き声が路地に響いた。

その声の主と思しき少女は薄暗い路地には似合わないほど華奢で可憐な出で立ちをしていた。傍らに気を失って倒れている男さえいなければ、先程の鈍い音が彼女によるものだとは誰も思いはしないだろう。

 

 

「あれがウチの上位ランカーの一人、四条雛子だ。あんな見た目だけどよ、どんなデカい奴も投げ飛ばすんだ。強ぇぞ。」

 

窓から身を乗り出して雛子を見る南美に社はそう言った。

冗談などではない社のその言葉に南美はごくりと唾を飲み込んだ。

自分と同じくらいの、それも自分より華奢に見える少女の強さに南美はじっと雛子に視線を向ける。すると雛子は顔を上げて南美のいる方に顔を向けて手を振った。

 

「社さま! また勝ちましたわ!」

 

「おう、聞こえてたよ。」

 

華奢な体つきとは真逆の、ボロボロな掌を見せながら手を振る雛子に社も小さく手を振り返す。

そんな社のリアクションに雛子は嬉しそうに笑顔を浮かべ、路地裏から出ていった。

 

「…どういう関係で?」

 

「相撲の勧誘を受けた仲だ。それ以上でも以下でもねぇよ。」

 

南美の質問に何でもないと社は返す。そして部屋の外からダダダダダと階段を駆け登る音が聞こえてくると社は困ったように頭を抱えた。

 

「社さま!」

 

バタンと力強くドアが開けられ、雛子が部屋に飛び込んできた。

蝶番がひしゃげるほど強く開けられたドアへの心配を残しながら社は顔を上げて雛子に向き直る。

 

「あ~、なんだ、その…もう少しドアは静かに開けろ。」

 

「あ、すいません…。」

 

とりあえず見えている地雷を避けて無難な言葉を選んだ社の言葉に、雛子はそう言えばというように背後で悲惨な状態に陥っているドアへと振り向く。

それを見た雛子は“やってしまった”という顔になり、ゆっくりと社の方を向いた。

 

「や、やってしまいましたわ…。」

 

「そうだな…。」

 

なにやってんだコイツという顔で社は雛子を見る。そんな彼の視線から逃れるように雛子は手で顔を覆う。

そんな時、その場の凍った空気を砕くように一人の少年が部屋に駆け込んで来た。

 

「や、社! ヒナちゃん! 大変だよ!!」

 

短パン姿の少年は手に持ったスマホの画面を二人に見せる。

雛子の後ろから画面を覗き込んだ社はニヤリとした笑顔を浮かべると、顔を南美の方に向けた。

 

「おいマスク! 次の試合が決まったぜ、Ms.マスク対四条雛子だ。」

 

そう告げる社の顔は楽しそうな笑顔であった。

 

 

 

 






やっと雛子を出せた。

ではまた次回で御会いしませう。



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第96話 一夏くんのドイツ旅行 1日目


今度はラウラのターン!

では本編をどうぞ↓


 

「一夏さん、いらっしゃいますか?」

 

インテグラに引き回されてのロンドン旅行の翌日のこと、チェルシーが1つの封筒を持って一夏のもとを尋ねた。

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「いえ、一夏さん宛の手紙がこの屋敷に届いておりまして…。差出人の名前はラウラ・ボーデヴィッヒとなっておりますね。」

 

「ラウラ?!」

 

友人の名前を聞いた一夏はチェルシーから手紙を受けとると、丁寧に封された封筒を開けて中身を取り出す。

中から出てきた手紙には可愛らしい手書きの文字が書かれていた。

そしてその手紙を読み終えた一夏はハァと大きく息を吐いて首をもたげる。

 

「あぁ、うん…。」

 

「手紙にはなんと?」

 

「いえ、セシリアの家だけにいるのは不公平だからドイツにも来てくれ…、だそうです。」

 

「あれま…。愛されてますね、一夏さん。」

 

あらあらとチェルシーは口許に手を当てて小さく笑う。

そんな彼女の反応に一夏はあははと小さく笑うのだった。

 

 

 

「それでは一夏さん、またIS学園で御会いしましょう。」

 

「あぁ、また会おうな。」

 

ラウラから届いた手紙に、飛行機のチケットも同封されていたこともあり、一夏は手紙を受け取った翌日、イギリスを発つことになった。

今は国際空港にて、ドイツに向かう一夏を見送るためにセシリアとチェルシー、オズワルド、そしてインテグラが集まっていた。

 

「また来るといい。今度は私の屋敷でもてなそう。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

インテグラは一夏の正面に立つと、白手袋を外して手を差し出した。一夏はそうして差し出されたインテグラの手をしっかりと握り返し、頭を下げる。

その後、幾らかのやり取りを交わした彼らはキリの良いところで話を切り上げ、その場で別れた。

 

イギリス代表との親交を深めた一夏は、そのままドイツへと足を向けるのであった。

 

 

 

 

 

「おお! 嫁よ、やっと来たか!!」

 

ドイツのとある空港で一夏を出迎えたのは軍服姿のラウラであった。

IS学園の制服とはまた違った、落ち着いた色合いの軍服はラウラの綺麗な銀髪も相まってとても理知的な印象を与える。

 

「久々だな、ラウラ。元気そうで何よりだ。」

 

「ハッハッハ! この私が体調を崩すなどあるものか、ドイツ軍人は風邪など引かん。」

 

快活に笑い、胸を張るラウラに一夏は“あぁいつものラウラだ”と安心するのだった。

そうして安堵する一夏の手を取って、ラウラは歩き始める。

 

「さて、立ち話もなんだ、早速案内しよう。」

 

「案内って、どこにだよ。」

 

「無論、私達の基地にだ。」

 

 

 

強引に手を引っ張られ、いつの間にか車に乗せられた一夏はどうすることもできず、されるがままにラウラの所属する部隊、“シュヴァルツェアハーゼ”隊の基地に連れてこられた。

 

「…本当に民間人、それも国外の人間を入れて良いのか?」

 

「勿論だ。」

 

「本当にか…?」

 

助手席に座った一夏は横目で隣にいるラウラに尋ねる。

車内で何度も繰り返されたそんな問答にラウラはハァと小さく息を吐いて一夏の方を向く。

 

「良いに決まっているだろう。お前は私の嫁、つまりは家族だ。家族を家に上げるのに、悪いことなどあるものか。」

 

それだけ言ってラウラは運転席から降りる。

あまりにも真っ直ぐな眼でそう言われた一夏は、釣られるように助手席から降りて、ラウラの後をついていく。

すたすたと歩いていくラウラが足を止めると、そこはラウラ達シュヴァルツェアハーゼ隊の隊員宿舎であった。

 

ラウラは1度だけ一夏の方を振り向くと、玄関のドアノブに手を掛けて勢い良く開け放つ。

 

「今帰ったぞ!」

 

「「「お帰りなさーい、隊長~!」」」

 

宿舎の玄関を潜ったラウラと一夏を出迎えたのは、ラウラと同じ軍服を身に纏った少女達であった。

彼女達は皆一様に眼帯を着けており、どこかラウラと被って見える。そして、そんな彼女達の中でも一回り大人びて見える女性が1歩、前に歩み出る。

 

「お帰りなさいラウラ隊長。それと織斑一夏さん。」

 

「あぁ、嫁には紹介せねばな。私の副官、シュヴァルツェアハーゼ隊の副隊長のクラリッサだ。」

 

「初めまして一夏さん。クラリッサ・ハルフォーフと言います。貴方の事は隊長から常々うかがっております。」

 

「えっと、よろしくお願いします。」

 

ラウラの紹介を受けたクラリッサはピシリと敬礼を取ると、ふわりと優しい笑みで一夏に微笑みかける。

そんなクラリッサの態度に一夏は戸惑いながら頭を下げた。

そしてラウラが周りの隊員に目配せすると、彼女達は静かに音も立てずに奥の部屋へと入っていった。

 

「さて、長旅で疲れただろう? 取り合えず食事にするぞ。こっちだ。」

 

ラウラは一夏の手を取って先程隊員達が入っていった部屋に連れていく。

その部屋のドアを開ける前から、何とも言えない美味な匂いが漂い、食欲を刺激する。そしてラウラがドアを開けると、匂いと共に見た目にも美味しそうな料理の数々が一夏の目に映った。

 

「ラ、ラウラ、これは?」

 

「…まぁ、その、なんだ…。私なりの歓迎、というやつだ。遠慮なく食べてくれ。」

 

「そうか…。じゃあ遠慮なくいただくよ。」

 

一夏はラウラと隣の席に座ると、テーブルに並べられた様々な料理に目を通す。

どれも一夏には馴染みのないものばかりで、彼の好奇心と興味を惹いた。

 

 

 

「これは?」

 

「それはSauerbraten(ザウアーブラーテン)、子牛の肉をワインビネガーに漬け込んで香辛料で味を整えてから煮込んだものだ。」

 

「へぇ、じゃあ早速、…旨い!」

 

「そうだろう? 私が腕によりをかけて作ったんだからな。」

 

一夏はフォークで煮込まれた子牛の肉を口に運び、じっくりと味わうと、途端に目を輝かせてラウラを見る。そんな一夏の反応に、ラウラは得意気になって胸を張った。

 

「あぁ、本当に旨い。ラウラって料理が上手かったんだな。」

 

「これでも軍人だからな。ある程度は出来るさ。それよりもまだ沢山あるんだ、どんどん食べろ。ほら。」

 

そう言ってラウラはフォークに巻いたパスタを差し出す。それには勿論一夏も断ろうとしたのだが、パスタを差し出すラウラの目力に負けて、遠慮がちにそのパスタを頬張った。

ラウラが小さく“旨いか?”と尋ねれば一夏は首を縦に振る。そんな一夏の反応にラウラは歯を見せて笑うのだった。

そんな微笑ましさ満点の二人を見て、他の隊員達はニヤニヤしながら料理を食べ進める。時おり睨み付けてくるラウラの眼光から視線を逸らしては二人の観察をするのである。

それはクラリッサも例外ではなく、もし彼女がビデオカメラの類いを持っていれば、確実に撮影していたであろう。

 

ラウラは自分が食べるよりも一夏に料理を説明して食べさせることがメインになっているようで、しかしそれでいてとても満たされた表情をしている。

一夏も一夏で、見慣れない異国の料理を堪能できて満足そうである。

 

それから暫くしてあらかたの料理を平らげた一同は片付けをして、部屋へと戻っていった。一夏も、宿舎に設けられている客室へと案内され、その部屋で眠りに着いたのである。

こうして皆が幸せになって一夏のドイツ旅行1日目は終わりを告げた。

 

 

 

───その頃更識邸では、当主である更識楯無がフランスから届いた報告書に目を通していた。

一通り資料に目を通し終えた彼女はトントンと机で紙束のズレを整えると両手を2回打ち鳴らす。すると、カコッと彼女の部屋の天井の一角が外れ、そこからひょこりと白髪の少女が顔を出した。

 

「呼んだか?」

 

「えぇ。それで用件なのだけど、前に言っていたあの件、実行に移すわね。」

 

「承知した。」

 

白髪の少女はそれだけ言うと顔を引っ込め、天井の穴を元に戻して何処かへと去っていった。

それを見送った楯無はスッと立ち上がると窓から見える空を見上げる。

 

「これでシャルちゃんの件は片付くけれど…、さて、どう転ぶのかしら…。」

 

そう言って楯無は小さく笑った。

 

 

 





まだまだラウラのターン!

そんなこんなで夏休み編はまだまだ続く。




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第97話 一夏くんのドイツ旅行 2日目前半


はいどうも地雷一等兵です。
またまた間が開いてしまいましたね。

その分今回は少し長めなのでご容赦ください。

では本編をどうぞ↓


 

「ん…、朝か…?」

 

時差ボケでまだ重い瞼を開き、体を起こすと清々しい晴れ模様が窓越しに映る。客室の上等なベッドから降りようと掛け布団を捲ると、そこにはいつものように下着姿のラウラが寝ていた。

もはや慣れてしまっている一夏は、健全な男子であれば動揺が止まらないであろうこのシチュエーションをスルーし、何事も無かったようにラウラに布団を掛けて着替え始めた。

 

「無視は酷くないかっ!?」

 

そんな一夏にラウラはガバッと起き上がって抗議する。

一夏はラウラの抗議を背中に受けながら振り抜くことなく着替えを続ける。

 

「もう何回目だっていう話だ。嫁入り前の女子がそんな真似をするなよ。」

 

「ぐぬぬ…。」

 

ラウラは悔しそうに一夏を見つめ、その視線を背中に受けながら着替え終えた一夏はラウラに服を着るように促して部屋から出た。

そしてその数秒後、昨日と同じ軍服に着替えたラウラが出てきた。

 

 

 

「いただきます。」

 

昨日の夕飯を摂った食堂にまた全員が集まり、食事を開始する。その時のラウラはいつもより表情が暗く見える。しかしそれでも身に付いた癖なのか、パクパクとパンを飲み込み、食事を終える。

 

「…この後はいつものように10時より組手の訓練を行う。各員用意はしっかりとな。」

 

そう言い残してラウラは食堂を後にした。

 

 

 

「アーイッ!」

「イィィヤッ!」

「シュテルベンッ!」

「シャイセッ!?」

「ウゥー!」

「フッ!アーイ!」

「ワレラニエイコウアレェー!」

「ナイン!」

 

10時も過ぎた頃、シュヴァルツェアハーゼ隊の所有する訓練所には隊員達の声が響き渡っている。

独特な発声の声と、軍隊仕込みの体術は見ていて興味深いものである。一夏はそんな彼女達の訓練をじっと眺めていた。

 

「……。」

 

「いかがです? シュヴァルツェアハーゼ隊の練度は。」

 

「凄いの一言ですね。あんなに動いているのに息一つ切らしてない。」

 

隣にいたクラリッサに尋ねられた一夏は思っていたことを素直にそのまま述べた。一夏の返答に軽く頷いたクラリッサは良いことを思い付いたとばかりに足元の箱を漁る。

そしてその箱から取り出したのは普通の竹刀であった。クラリッサはそれを一夏に渡すと満面の笑みで一夏の肩に手を置いた。

 

「私と一勝負いかがです?」

 

「…え? あ…。」

 

突拍子のないクラリッサの一言に一夏は反応がワンテンポ遅れるものの、そこはIS学園で培った経験ですぐに持ち直す。

クラリッサが差し出した竹刀の柄を掴んで受けとると、すぐさま重心を確認するように手首だけで竹刀を振る。そして確認し終えた一夏はフゥと息を吐くと、クラリッサに向き直った。

 

「そうでないと、ですね。」

 

「よろしくお願いします。」

 

ニッと口の端を吊り上げて笑ったクラリッサは訓練場の中央に足を進める。一夏はその後ろを着いていき、クラリッサに向かい合うと竹刀を構えた。

対するクラリッサは両手を腰ほどの高さで構え、開いたり閉じたりを繰り返している。

 

(……投げ…か? それとも立ち関節? どっちだ…。…何にせよ、楽しみだ。)

 

構えを取りながら一夏は正面のクラリッサについて考察する。

しかしクラリッサは考える時間などほぼ与えず、体勢を低くしながら一夏に突撃する。

それを見た一夏は取り合えずその突撃の勢いを削ぐためにクラリッサの顔の高さに突きを放つ。鋭い踏み込みから放たれた突きをクラリッサは事も無げに腕で払い肉薄する。

しかし一夏もそれを読んでいたのか、竹刀を払われた体勢からさらに前に踏み込んで、低い位置にあるクラリッサの顔面目掛けて膝蹴りを打つ。

 

「止まれ!」

 

「このっ!?」

 

その膝蹴りをクラリッサは額で受け止め、勢いを多少殺されながらも一夏の懐に潜り込んだ。そして潜り込んだ勢いそのままにクラリッサは一夏の右襟と袖を掴む。

 

「貰ったっ!!」

 

襟と袖を掴んだクラリッサはそのまま一夏を背負い投げる。しかし一夏は投げられた体勢から空中で反動をつけ、足から着地する。そして着地した瞬間身を翻しクラリッサの襟と肩を掴む。

 

「ふんっ!」

 

「なっ!? ふっ!?」

 

クラリッサと組んだ一夏はすかさず頭突きをかまし、ショルダータックルで突き飛ばす。クラリッサは襟と袖から手を離し、自分から跳ぶ形でショルダータックルの衝撃を逃がす。しかし一夏に掴まれ十分に跳ぶことが出来なかったクラリッサの鳩尾に一夏の鍛えられた肩が食い込んだ。

しっかり掴まれ簡単にはふりほどけないことを確信したクラリッサはもう一度一夏の襟と袖を掴み直す。そしてお互いがお互いの襟を引き合い、額をゴリゴリと押し付け合う。

 

「いい感じについて来れてますね…。驚きです。」

 

「これでも鍛えてますから。」

 

汗を浮かべながらもまだ余裕のある表情を浮かべる一夏を見てクラリッサは小さく笑う。その顔は単純に目の前にいる少年との仕合いが楽しくて仕方がないという顔である。

首相撲の体勢になってから場は硬直した。お互い襟を掴んだ手を小さく引いたり、足を動かすなどの小さな駆け引きを始める。

純粋な筋力という面ではまだ一夏の方がやや上ではあるものの、経験から来る技量という面ではクラリッサの方が何枚も上を行っている。一夏が強引にポジションを取りに行くものの、クラリッサはそれを上手くいなして取らせない。

そしてそんな状態が続いて数分が過ぎようかという所で二人の均衡が崩れる。

 

「隙有り!!」

 

「うぉ!?」

 

一瞬、ほんの一瞬のことであった。長い間続いた首相撲、一夏の疲労が集中力として現れたそんな瞬間を見逃さずクラリッサは一夏の体を巻き込むように軸足を中心に体を回し背負い投げる。そして同じ轍は踏まないとばかりに放るのではなく、落とすように叩きつけた。

ただの投げであれば最初の時のように足から着地することも出来たであろうが、今回のように投げられてから衝撃までが短ければそうもいかない。

 

「まだまだぁ!!」

 

クラリッサは投げた体勢から身を翻し、一夏の体に馬乗りになってマウントポジションを取る。

 

「タップしても良いんですよ?」

 

「冗談…、まだ降参なんてしませんよ。」

 

「そうですか、それはよかった。」

 

マウントを取られながらも一夏は不敵に笑って見せる。そんな余裕綽々といった様子の一夏にクラリッサは満面の笑顔を浮かべ、そして拳を一閃振り下ろした。

しかしそれを一夏は見てから寸での所で顔を背けることで直撃を避ける。

 

「良いですね、この距離で、この体勢で避けますか。面白いですね!!」

 

笑顔であったクラリッサの表情は一夏の歳不相応な技量を見て更に喜色満面の顔になる。そして左右の腕で交互に何発も拳を打ち下ろす。決して遅くはないクラリッサの拳を一夏は首を動かして避け、それが無理な時は額で受け、時おり打ち付けられる拳を取ろうと手を伸ばす。クラリッサも一夏の狙いを分かってか、自身の腕を掴もうとする一夏の手を払って追撃する。

 

「何、あの攻防…。」

 

「副隊長、凄く楽しそう…。」

 

傍から見れば一方的な、しかし実際は互角の攻防に周囲で見ていた隊員達は息を呑む。本来であれば軍人と民間人、一対一で戦えばどちらが勝つかは明白である。

だが一夏は食らい付いて見せている。

それだけで彼が積んできた研鑽の程が見えるだろう。

 

「やられっぱなしですか?!」

 

「そんな、訳、ない!」

 

打ち付けられる拳を左手で払った一夏は無理矢理胸から上を持ち上げて右拳をクラリッサの顎目掛けて突き上げる。クラリッサはそれを上体を持ち上げることでなんなく逃れる。

 

「流石にそれは届きません。」

 

「最初から届くとも思ってませんよ。」

 

拳が届かなかったことを見た一夏は起こした状態を腹筋で無理矢理持ち上げ、クラリッサをひっくり返す。

一夏の拳を避けるために体をのけぞらせて重心を後方に寄せたことが災いした形である。

マウントポジションを返した一夏は直ぐ様竹刀を拾い距離を取って構える。

 

(…まさかマウントからあんな形で抜け出されるなんて…。)

 

マウントポジションを返された瞬間、反射的に受け身を取って立ち上がったクラリッサは一夏を正面に捉えてまた構えを取る。

 

(予想以上に寝技、いや格闘戦が上手い。…が、まだまだ投げへの反応と対応が苦手と見える。崩すならそこからか…。先ずは肩…、次に足首…。)

 

構えを取るクラリッサの手にも力が入っているのか、彼女の瞳に明確な殺意が宿り、手の甲に血管が浮き出る。

そんなクラリッサの変化に気が付いたのか、竹刀を握る一夏の手にも自然と力が入った。両者の睨み合いが続き、緊張がマックスに到達した頃、ある声が訓練所に鳴り響いた。

 

「そこまでだ!」

 

膨らんだ風船に針を刺したようにその場の緊張は弾けた。そしてクラリッサと一夏を含めたその場にいる全員がその声の主へと視線を向ける。

 

「隊長…?」

 

「ラウラ…。」

 

そしてこれからと言う所で水を差された二人は複雑な顔で声の主であるラウラを見つめる。ラウラはそんな二人を厳しい眼光で睨み付けていた。

彼女はツカツカと二人の近くに詰め寄り、それぞれに一瞥をくれてやると深々と溜め息を吐いた。

 

「おい、クラリッサ…。」

 

「は、はいっ!」

 

「お前…今、本気で壊そうとしてたよな?」

 

「ハッ! 申し訳ありませんでした!」

 

お前の考えなどお見通しと言わんばかりに鋭い眼光でクラリッサを睨む。睨まれたクラリッサは先程までの殺意が完全に鳴りを潜めた。

クラリッサがいつもの様子に戻ったことを確認したラウラは今度は一夏の方に向き直る。

 

「お前もだ一夏!」

 

「……!」

 

「いくらクラリッサがフィンガーグローブを着けていなかったとはいえ、あんなリスクの高い戦い方をするな戯け!」

 

ずずいとラウラは一夏に詰め寄り、指を突きつける。そんなラウラの迫力に気圧されて一夏はつい1歩後ろに下がる。

 

「それにお前、わざと懐に誘い込んだだろ!? 最初のやり取りでももっとやりようがあった筈だ!! 何でだ!!」

 

「……試したかったんだ…。自分の技術がどこまで通用するか。」

 

「お前という奴は…、いや、それでこそ…か。」

 

ラウラは小さく息を吐くとポンと一夏の胸に手を当てる。

 

「高みを目指すのも良いが、実験台は選べ。じゃないと体が幾つあっても足りなくなるぞ。」

 

「そうだな。次からは気を付けるよ。」

 

小さく苦笑いを浮かべる一夏を見て、反省の意思を感じ取ったラウラは二人に背を向けて訓練所の隊員たちの方を向く。

 

「もうじき昼の時間だ。朝の訓練はこれで終わる。各自片付けをしてから解散だ。」

 

「「「はーい!」」」

 

ラウラの指示を受けて隊員達はそれぞれの得物を持って更衣室へと足を向ける。クラリッサもこれ以上ラウラに何かを言われない内にとその場をそそくさと後にした。

 

「ほら、お前はあっちの部屋を使え。」

 

「お、おう。」

 

ラウラは白いタオルを一夏の頭に乗せて背中を押す。

それに押されて一夏はタオルを受け取ってラウラに指示された部屋に向かう。

その部屋で着替えた一夏は外で待っていたラウラと一緒に食堂へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

「さて、今日の午後は前から言ってたように自由時間とする。それぞれ有意義にな。」

 

「「「はーい!!」」」

 

「では解散!」

 

ラウラの号令と共に隊員たちは席を立ち、それぞれがこの後の予定などを話し合いながら食堂から出ていく。女3人寄れば姦しいとはまさにこの事かとでも言うように、隊員達はとてもはしゃいでいる。

 

そんな隊員達が後にして、静かになった食堂に残されたのはラウラと一夏だけである。

 

「一夏、この後に予定はあるか?」

 

「いや、特にはないよ。ラウラは?」

 

「む? いや、特にこれと言った用事はない。強いて言えば街に出ようかと考えていたところだ。どうだ? 一緒に行くか?」

 

「そう…だな。ドイツの事とかよく知らないし、案内してくれると助かる。」

 

「いいだろう。車を回してくるから正門で待っていてくれ。すぐに行くから。」

 

そう言ってラウラは一時その場を後にした。そして一夏もまた部屋に戻って着替えてから正門へと向かう。

 

 

 

 

「……。」

 

シュヴァルツェアハーゼ隊専用施設の正門でラウラを待っている一夏は腕時計と正門とを交互に見ながら門の脇にもたれ掛かる。

すると一人の小さな女の子が門に寄り掛かる一夏に近寄ってきた。

 

「ねぇね、おにーさんだれ?」

 

純粋無垢という言葉が一番似合うその少女は小首を傾げて一夏に尋ねる。

一夏はそんな少女の視線に合わせるようにしゃがんだ。

ドイツという異国の地で現地の少女に日本語で尋ねられるという事態であっても一夏は冷静である。

 

「オレは織斑一夏。ここの隊長さんの知り合いだよ。」

 

「イ、チ、カ~?」

 

「うん、一夏。」

 

「イチカ! ヒルダ覚えた。あ、ヒルダはね、ヒルダって言うの!!」

 

ヒルダと名乗る少女は両手を挙げながらピョンピョンと跳ねる。

容姿相応の仕草に一夏はついつい小さく笑みを溢す。

そんな時に車から降りてきたラウラがその少女を見て、驚きの声を漏らした。

 

「ヒ、ヒルデガルト・ワーグナー!?」

 

「あ~、ラウラお姉ちゃんだ~!」

 

声に気付いたヒルダはニパっと笑うと両手を広げてラウラに突撃する。驚愕していたラウラはそのままヒルダに抱きつかれた。ラウラに抱きついたヒルダの顔はとても嬉しそうに緩んでいる。

 

「な、なんでお前がここにいるんだ!?」

 

「えっとね、うんとね、遊びに来たの!」

 

慌ててしゃがみヒルダを抱えたラウラは焦ったように尋ねると、ヒルダは抱えられたまま純真な笑顔で答えた。

そんなヒルダの態度にラウラはハァと小さく溜め息を吐いた。

 

「その様子だと世話係のゾル達は・・・。」

 

「うん、一人で来たの!」

 

「なぁ、その子ラウラの知り合いか?」

 

満面の笑みを浮かべ続けるヒルダと呆れたように溜め息を吐くラウラに一夏は尋ねる。

 

「知り合いというか、なんと言うべきか・・・。一応言っておくか、こいつはヒルデガルト・ワーグナー。今期のドイツ国家代表だ。」

 

「国家代表って、こんな小さな子が!?」

 

ラウラの言葉に一夏はぎょっとした表情でヒルダを見た。すると、ヒルダはラウラに抱えられたままエッヘンと胸を張る。

 

「えへへ、すごいでしょ? ヒルダね、いっっぱい頑張ったんだよ!」

 

どこか誇らしげな表情で胸を張るヒルダを一夏は未だ信じられないというような顔で見下ろす。

が、そんな少女を抱えるラウラの顔が真実であることを雄弁に物語っており、その表情から一夏はその事実を半信半疑ながら認めることにした。

 

「それで、なんで急にここに来たんだ?」

 

「ん~とね~、ラウラお姉ちゃんと遊びたかったの。」

 

「遊ぶって、何をするつもりだったんだ?」

 

「えっとね、アイエス勝負!!」

 

そう言ってヒルダは首から提げている黒いペンダントをラウラに見せる。するとラウラは合点がいったと言うように頷き一夏に目配せする。

その視線に気がついた一夏はコクリと頷く。

 

「ヒルデガルト、なら私よりもいい遊び相手がいるぞ。」

 

「ほんと!?どこにいるの?」

 

ヒルダは顔をぱぁっと輝かせてラウラに尋ねる。

期待に満ちた視線を向けられたラウラはすっと一夏を指差した。

 

「イチカ? でもでも、イチカは男の人だからアイエスに乗れないよ?」

 

「いや、それがだな、一夏は世界で唯一ISに乗れる男なんだ。」

 

「えぇ!? すごいすごい!!」

 

はじめは小首を傾げていたヒルダであったが、ラウラの説明を聞いてきらきらと目を輝かせてぴょんぴょんと跳びはねる。

 

「そういうわけだ。どうだヒルダ、やってみないか? 一夏の腕は私が保証する。」

 

「うん! やる!やってみたい!!」

 

ラウラの提案にヒルダはぶんぶんと首を縦に振る。

それを受けてラウラは一夏とヒルダをつれて専用施設のとある一角へと向かった。

 

 

 

 

「えへへ、楽しみ~!!」

 

シュヴァルツェアハーゼ隊の所有するIS戦闘用のアリーナでISスーツを纏ったヒルダと一夏が向かい合う。

そのアリーナのギャラリーでラウラは二人の戦いを見守ることにした。

 

「さて、それじゃあ始めるとするか。」

 

「うん! 負けないよ!」

 

一夏とヒルダはお互い言葉を交わすとそれぞれ専用機を身に纏う。

ヒルダの専用機は全体的に白色とくすんだ銀によってカラーリングされた流線型のデザインで、一言で言うならば“美しい”だろう。

それは、ヒルダの幼さの中にある美しさとも相まって絵画に描かれた妖精のような雰囲気である。

 

『システム戦闘モードを起動』

 

「!?」

 

突然ヒルダの専用機から流れた機械的な音声に一夏は不審に思い雪片を構える。

その機械的な音声と同時に目を瞑っていたヒルダであったが、その音声が止まるともう一度目を開く。

そこにいたのは先程までのあどけない笑みを浮かべる少女ではなく、紛れもなく一人の戦士であった。

 

 

 

 

 





流石に1話に2回も戦闘描写を挟むのはくどいので、今回はここまでです。

次回をお楽しみに‼



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第98話 一夏くんのドイツ旅行 2日目後半


はい、今回は早めに投稿できました!
まぁね、後半なので展開とか決めてあったのが大きな理由です。
次もこの速度とはいかないと思います。

では本編をどうぞ↓


 

───ドヒャアドヒャア と耳に残る独特なブーストの音を響かせながらヒルデガルト・ワーグナーは空を飛ぶ。

その動きは最早人間のものではない。

一夏もまた、この勝負開始から今までヒルダの動きを辛うじて目で追い、視界の端に捉えることは出来てもその動きを完全には追いきれていないのだ。

それに加え、ヒルダの正確無比な射撃は1発1発こそ軽いものの、白式のシールドエネルギーを確実に削っていっている。

 

(速すぎる…。けど、ここまで速いってことはその分脆い…はず。なら一撃で仕留める!)

 

一夏は旋回しヒルダを視界に捉えながら狙いを逸らさせるように細かく動く。

その間もヒルダはドヒャドヒャと独特な音を掻き鳴らしながら熟練のISパイロットもかくやと言わんばかり、いやそれ以上の機動で一夏の周りを飛び回る。

 

(落ち着け、落ち着け…。一撃で決めるためにも、今は心を落ち着けろ。)

 

右手できつく雪片を握り締めながら一夏は呼吸を整える。多少の被弾なぞ構うものかと言うその態度にガラス越しに見ていたラウラは笑い、飛び回りながら見ているヒルダは首を傾げた。

 

「この状況で、直撃以外なら構わないと割り切れるのか…。やはり、お前は凄い男だな…。」

 

ポツリとラウラが呟く。

一夏が動いたのはその時だった。

それはほんの僅かなものであった。ヒルダが右にブーストで走った瞬間、一瞬だけ勢いを殺したその時、一夏は前にブーストで飛び込んだのだ。

 

「ふぇ…?」

 

「貰ったっ!!」

 

 

結果はどんぴしゃ、ヒルダは右に跳んだ直後にブーストで左に切り返した。それをほんの僅かな兆候で見切った一夏が先回りをして待ち構えていたのである。

そしてヒルダを待ち構えているのは一撃必殺の刀、雪片弐型の零落白夜。

一夏は回り込んだ先でヒルダが間合いに入った瞬間にその刀を振り下ろす。

傍から見ていたラウラでさえ、一夏の勝利を確信した。

しかし、雪片弐型は宙を斬る。

 

 

──ドヒャドヒャドヒャア

 

 

一夏が雪片弐型を振り下ろす直前、ヒルダは更にブーストを吹かし、三連瞬時加速という離れ業をやってのけて一夏の一撃、必殺の刀から逃れたのだ。

 

「なん…だと…?!」

 

「い、今の動きは…?」

 

俯瞰で状況を見ていたラウラでさえ、一瞬何が起こったのか理解出来なかった動きである。目の前で見ていた一夏からすればヒルダが消えたように見えただろう。

そしてそんな動きをした当の本人は一夏から離れた場所でISを待機状態に戻すと、嬉しそうな顔を浮かべて一夏に駆け寄った。

それを見て一夏もISを待機状態に戻す。

 

「イチカすごーい!!」

 

「え・・・?」

 

「なんで、どうしてヒルダの行く先が分かったの? イチカとは初めて戦ったのに!?」

 

ヒルダは心底楽しそうにぴょんぴょん跳ねながらまくし立てるように一夏に尋ねる。

そんな彼女の質問責めに一夏は言葉を詰まらせながらも一つ一つ丁寧に答えていく。

 

 

 

「えへへ、すっごい楽しかった!!」

 

「そっか、そりゃよかった。」

 

その後、ISスーツから着替えた二人はラウラと合流し、宿舎のラウンジで休憩をとっていた。

ヒルダは椅子に座る一夏の膝の上に座り、満面の笑みを浮かべている。もう完全に一夏に懐いているようで、離れる素振りも見せない。

それどころか一夏に頭を擦りつけるなど、もはや飼い主のことが大好きな猫状態である。

 

「そんなに一夏のことが気に入ったのか?」

 

「うん! ヒルダね、イチカとまた遊びたい!」

 

ラウラの質問にヒルダは大きく頷いてにっこりと笑う。

その返答にラウラは“よかったな”と呟いてヒルダの頭を撫でる。撫でられたヒルダは嬉しそうに目を細める。

 

「えへへ…コホッコホ…。」

 

「いつものか…。」

 

「う、うん…。」

 

急に咳き込み始めたヒルダを見てラウラが顔を覗き込むと、ヒルダは申し訳なさそうに頷く。

 

「そうか、辛いなら休んでいいぞ。そのまま寝てていい。」

 

「うん、おやすみなさい…。」

 

そう言ってヒルダは一夏にもたれ掛かってすやすやと穏やかな寝息を立て始めた。

ヒルダが完全に寝たことを確認したラウラは一夏にアイコンタクトを取る。それだけでラウラの言わんとしていることを察した一夏はそっとヒルダを抱き抱え、ソファに寝かせてやり、ブランケットをかける。

 

「すまんな一夏。ヒルデガルトの遊びに付き合わせてしまって。」

 

「気にすんなよ。オレも色々と為になったからさ。」

 

席に着いてコーヒーを飲む一夏にラウラは頭を下げる。そんなラウラに気にすることはないと一夏は頭を上げさせた。

 

「取り敢えずヒルデガルトの事は上に連絡したからそのうち迎えが来るだろう。それまではあいつの子守りだ。」

 

「オーケー。それまで付き合うよ。」

 

「そうか。」

 

それから二人は他愛ない世間話をしながらヒルダの迎えが来るまで時間をつぶすのであった。

結局迎えが来たのはその日の夕方のことである。迎えが遅くなった理由として、迎えに来た担当曰く“シュヴァルツェアハーゼの宿舎なら心配はいらないと思った”らしい。

眠っていたヒルダを起こして担当の者に引き渡した二人はそろそろ夕飯の時間でもあったため、一緒に食堂へと向かった。

ちなみにヒルダが帰る時に泣いてぐずったのはここだけの話である。

 

 

 

夕飯も食べ終え、すでに月も昇り終えた頃のことである。

一夏はこれで二日目となるシュヴァルツェアハーゼ隊宿舎の客室のベッドで横になっていた。もう夜も更けているのだが、昼間のヒルダとの勝負が脳裏に浮かび、なかなか寝付けないでいたのである。

そんな時、一夏の部屋のドアがノックされた。

 

「開いてますよ。」

 

こんな夜更けに誰であろうかと疑問に思った一夏であるが、ここは軍の施設。いる人間はラウラとその部下である。ならば安心だろうと、一夏はノックした人物を部屋に招き入れた。

そうして部屋に入って来たのはラウラであった。

どこか思い詰めたような表情の彼女は部屋に入るとドアをゆっくりと閉めて一夏を見つめる。

そんな彼女を一夏は同じベッドの上、自分の隣に座らせた。

 

「どうしたんだラウラ?」

 

「あぁ、一度な、お前に聞いて確かめたいことがあったんだ。」

 

「確かめたいこと? それって?」

 

いつになく真剣な表情のラウラを見て、一夏もまた真剣な顔になる。

そしてラウラは息を呑み、意を決したように顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。

 

「お前の、一夏の気持ちが私に傾く事はあるのだろうか…。」

 

「…え…?」

 

「だから、お前が私のことを異性として、女として好きになる事はこの先あるのか…? 有り得るのか?」

 

小刻みに身体を震わせながらラウラは一夏に問う。

自身よりも目線の高い一夏の顔を見上げた彼女の頬には一筋の涙が通っていた。

 

「ラウラ…。」

 

「分かってはいるんだ…。お前には誰よりも心を寄せる想い人がいることも、その人からお前の心が動くことなど無いということも…。」

 

そこまで言ってラウラは一夏の服を掴み、その分厚い胸板に頭を押し付ける。

 

「それでも、それでもどうしようもないくらいに、私は一夏が好きなんだ…。」

 

一夏の胸に頭を押し付けたままラウラは胸の内に秘めた言葉を吐き出した。その言葉は冗談などではないことは確かであり、それ故に一夏の心に響く。

言葉を紡ぎ終えた彼女の身体はふるふると小刻みに震え、その言葉を発するのに彼女がどれだけ勇気を振り絞ったのかが容易に分かる。

 

「…私は二番で、愛人で良い。どんな形でも私はお前の傍にいたいんだ…。一夏が好きな人と付き合うまででも良い…、私の事を好きになってはくれないか…?」

 

「……。」

 

「自分でも身勝手なことを言ってるのは分かってる。でも、それだけ本気なんだ。理性で抑えられないくらい…。」

 

ラウラの告白、それを聞いた一夏は目を閉じて自分の胸の中で震える少女の事を考える。そしてラウラもまた一夏からの答えを聞くためにじっと静かに待っていた。

そして暫くの沈黙を破るように、一夏はその口を開ける。

 

「…ラウラ、顔を上げてくれ。」

 

発せられたのは静かなことばであった。その言葉に従い、ラウラは一夏の顔を見上げるように顔を上げる。

そして一夏は弱々しく見上げてくるラウラの唇に自身の唇を重ね合わせた。

 

「一、夏ぁ…ん、ぁ…。」

 

「…ん、ちゅ…あぁ…。」

 

長く啄むようなキス、まだ拙いながらも想いの籠った情熱的なキスを交わす度に部屋の中に小さく水音が響く。

そして長い長い間交わされたキスが終わり、一夏がラウラから顔を離すと、きつくその小さな身体を抱き締めた。

 

「ラウラ、オレはお前を幸せに出来ないかもしれないし、お前よりも好きな人がいる…。それでも良いのか…?」

 

「あぁ、それで良い。私は一夏の傍に入れるだけで幸せだから…。それに、あの人になら一夏を取られても構わない…。私は愛人で良いと言ったろう?」

 

「ラウラ…。」

 

嬉しさからなのか、ラウラの瞳からは止めどなく涙が溢れ、頬を伝って落ちていく。

一夏はそんなラウラの涙を指で拭ってやるともう一度ラウラの唇にキスを落とす。

ラウラも一夏からのキスを受け入れ、二人はそのまま同じベッドで眠りに着いたのであった。

 

 

 

 

「ん……朝…か…。」

 

朝、小鳥の囀ずりと朝日の眩しさで目を覚ました一夏はむくりと上体を起こす。布団が捲れ、その下で眠っていたラウラも眩しそうに目を閉じながら起き上がる。

 

「おはようラウラ…。」

 

「あぁ、おはよう。」

 

ベッドの上で向かい合った二人は挨拶を交わすと、気恥ずかしそうに顔を逸らす。

 

「オレたち…。」

 

「ふふ、これからもよろしく頼むぞ、旦那殿。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

二人は再度向き合い笑い合うと、お互いの唇を重ね合わせキスをした。

 

 

 

 





はい、今回はここまで!
恋する乙女は強いのですよ。大胆な告白は乙女の特権でございますから。

まぁウチのラウラさんは自分も平等に愛してくれるなら一夫多妻も認めるお方ですのでね。

ではではまた次回!




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第99話 更識のやり方


全盛期の早さに並ぶ勢い。
今回は色々と大きな動きがあります。ご注意下さい。

では本編をどうぞ↓


 

───フランスのIS産業メーカーのトップ、デュノア社社長のジャック・デュノアは愛深き男である。

彼には心から愛する一人の女性がいた。その女性こそがシャルロット・デュノアの母親なのだ。

 

しかしその女性は表向きには彼の愛人である。つまりシャルロットは愛人の娘ということになる。

彼は、ジャック・デュノアは本妻よりも愛人である女性の事を本気で愛し、そしてその娘であるシャルロットのことも大事に想っていたのである。

 

こう言うと、少しばかり疑問と誤解が生まれてしまうかもしれない。

その疑問と誤解を解決するために説明するならばこうなるだろう───

 

ジャック・デュノアの立ち上げたデュノア社はフランスを代表するIS企業である。

IS第2世代を代表する傑作量産機を生み出した世に知られる大企業、それこそがデュノア社だ。

そうそこまでは良かったのだ。

第2世代機ラファールを生み出したものの、続く第3世代機の開発に難航し、フランス政府からは第3世代機の開発に成功しなければ支援を打ち切るとまで言われてしまったのだ。むしろ、ラファール開発の実績があったからこそ、ここまで支援を粘れたのである。

 

 

ここで彼の本妻が絡んで来るのである。

ラファール開発の際に完成へと漕ぎ着けるための資金の援助がどうしても必要であり、本妻の実家の財力を頼らざるを得なかったのだ。

会社の命運を握る新型機の開発の為に彼は已む無く愛する女性を手放したのである。

心の底から愛した女性と、今まで自分を信じて着いてきてくれた数多くの社員達、それら2つを天秤に掛けた彼は断腸の思いで会社を取ったのである。

 

彼は自分を慕い、着いてきた社員達のことも自分の家族と思い、そう接してきていた。

 

それ故に彼は泣いた。

より多くの家族を救うために、二人の家族を犠牲にしてしまった自分の弱さに。

 

 

話はこれだけではなかった。

それでもなお、彼は彼女のことを、愛人と呼ばれる彼女の事を本気で愛していた。

 

 

生活面だけを切り取れば、本妻と愛人の差とは斯くあるべきと見えるだろう。

しかし実態は違ったのだ。

本妻とその子供達は一流の使用人が管理する豪華な邸宅に住み、有名なブレンド物で身を飾る

子供が通うのは学費も格式も高いフランスの名門校。

万人が万人、勝ち組の生活と言うそれである。

 

 

一方愛人とシャルロットの方は、不便な人里離れた山の麓に家を構え、身の回りのことは全て自分達で賄う。

生活は当然質素なものだ。通う学校もそこら辺にある普通の進学校。

 

シャルロットの母親が引っ越す前に、彼は都心の一等地の物件を抑えていた。それは二人で住むには十分すぎるほどの優良物件であった。

一般人からすれば手の出ないような高価な物件であるが、大企業の社長という彼の立場と財力からすればなんともない。

しかし愛人とシャルロットは不便な山の麓に移り住んだ。

これだけなら周りも孕ませた女性への義理や責任だと取ることも出来ただろう。

しかし、その後彼女達が移り住んだ場所で起きた変化を見ていけば彼が彼女をどれだけ愛していたのかが分かる。

 

 

毎年寄付という名目で多額の資金を、その地域の警察に渡し、治安そのものを向上させる事で彼女らの安全を護るという、財力に物を言わせた力業を行ったのだ。

彼女達がそこに引っ越す前と後とで、犯罪発生率が大きく下がっているのがその証拠である。

それだけではない。

彼女達が不便しないように、店を出したいという人間のスポンサー・パトロンになり、出店を後押しし遠くに買い物に行かなくても済むようにさせたり、娘のシャルロットが通う学校にも裏から手を回し、彼女が転校してからは優秀な教師が揃うようになっていた。

 

いったい幾らの金を注ぎ込んだのか。やりすぎの域を通り越した彼の所業を鑑みれば、本妻と愛人のどちらを彼が愛していたのか、どんなに鈍感な人間でも分かるだろう。

 

 

 

しかし、数年後彼を追い討つ出来事がおこった。

シャルロットの母親、彼の愛した女性がこの世を去ったのだ。

その報せを受けた彼はショックの余り、その日1日口も聞けなくなったという。彼の右腕でもある幹部の一人がそう証言していた。

 

母親を亡くし、独りになったシャルロットを彼は家に迎えれた。

彼からすれば愛した女性の遺した娘を引き取ることが出来たのは不幸中の幸いだろう。

 

 

これがジャック・デュノアの調査結果である。

ここまで深く愛した女性の娘に犯罪まがいの事をさせるとは思えない。

故に私はこれはジャック・デュノア以外の誰かによる仕業であると推察する。

 

───調査報告書はここでおわっている。

 

 

 

 

「ふむ…。まぁ、やらかしたのは十中八九、社長夫人なのよね、証拠的にも…。」

 

一通り部下から送られて来た報告書に目を通した楯無は報告書を封筒にしまうと目を閉じた。

 

「如何致しますか、お嬢…。」

 

「そうねぇ…。」

 

楯無の傍に控えていた一人の男性の問いに楯無は小さく唸る。

 

「……悲恋と悲劇は人の心を動かすのよね…。」

 

「は…?」

 

「フランスの国防を一手に担ってきた傑作機ラファール開発の裏側に隠されたエピソード…。資金難に漬け込んで社長を支えてきた恋人を追い落とした悪女…──」

 

何かシナリオを思い付いた劇作家のように楯無は立ち上がり部屋の中央に立つ。

 

「──そしてその悪女は社長夫人として豪遊、一方で追い落とされた愛人とその娘は片田舎で寂しく暮らす…。ジャック・デュノアは国防という大義のために涙ながらに愛を捨てねばならなかった…。これはそんな悲劇の物語…。」

 

すらすらと言葉を繋いでいく楯無はどこか遠くを見る目で視線を巡らせる。

そして暫くすると小さく頷き、パンと手を叩く。

 

「うん、それで行きましょうか…。ロジャーに連絡を取って。」

 

楯無は部屋の隅に控えていた男性に指示を出すと、その男性は音もなく部屋から出ていった。

そして自身以外誰もいなくなった部屋の中で楯無は小さく微笑んだ。

 

 

 

そこからは暗部を司ってきた更識家の本領発揮であった。

徹底的に調べあげられた社長夫人の乱れた生活はいつの間にかフランス国内の数々のマスコミにリークされ、同時に十数年前のデュノア社社長ジャック・デュノアの本当の恋人の存在が明るみに出たのである。

そして次に流れたのは、ジャック・デュノアの苦悩。愛と大義の狭間に揺れ動いた人間の悲恋の物語。

これにより現社長夫人は世間から完全な悪女として認識された。

 

そしてここで注目を浴びたのはジャック・デュノアの行いであった。

恋人と娘を陰ながら支援し続けたという事実が彼の愛が本物であったことを世間に強く印象付けたのである。

これで世論は完全に彼の味方となった。

さらにここで社長夫人への追い討ちが発動した。

 

愛人の子、シャルロット・デュノアを、IS適性が高いというたったそれだけの理由で危険なテストパイロットの仕事に従事させ、その身体を酷使させた。それだけに留まらず、織斑一夏という存在が公になったときは男装までさせてフランス政府を欺き、情報を浚ってくるように命令し、まだ未熟な少女の精神を酷く傷付けたことをフリーのライターにスッパ抜かれたのである。

 

これが完全な止めとなった。

社長夫人はチェスや将棋でいう所の“詰み”の状態に陥ったのだ。

 

 

そこからもまた早かった。

どこからともなく不正の証拠がごろごろと発見。彼女自身はもちろん、彼女に取り入ろうとしていた派閥の人間全員がお縄となったのである。

 

 

 

 

「…という訳なんですが、さてどうしますか?」

 

「確かに…、男装を見抜けなんだこちらにも落ち度はある。がしかし…。」

 

「そんなことで援助打ち切りの話が無くなる訳がないと?」

 

ある高級ホテルの一室で全身黒い衣服で固めた男となぜか学ラン姿の青年。その向かいの席にはどこか疲れた印象の壮年の男性が座っている。

 

「それは少し違うでしょう? 貴方達のせいで、貴方達が止められなかったせいで未来ある少女の心は深く傷付いた…。その責任は取るべきだ。そもそもそうなったのは貴方達が長い目で見てやれなかったからではないですか。」

 

「しかし、しかしだよロジャー=スミス…。」

 

「しかしも何もないでしょう?」

 

1対2、正確にはサシの交渉であるが、場は黒ずくめの男、ロジャー=スミス優勢である。

なぜならまだロジャーには切り札があるからだ。

 

「…貴方達、フランスIS委員会が、あの社長夫人から多額の賄賂を貰っていたのはとっくに調べがついています。」

 

ロジャーがポンととある資料をテーブルの上に置いた瞬間、男の顔が一気に青ざめた。

 

「貴方達は知っていたんだ、シャルル・デュノアが本当はシャルロット・デュノアで女の子だって事を…。」

 

ロジャーは席を立ち、向かいの男の後ろまでゆっくりと歩み寄るとその肩に軽く手を置いた。

 

「我々は別に揺するつもりはありません。ただ協力してほしいのです。」

 

「な、何が目的だ?」

 

「いえ、未来のための投資を・・・。そのための協力をしてほしいのですよ。」

 

 

 

・・・交渉は順調に進んだらしい。詳しい内容を当事者の三名は何も語らないため、すべては闇の中である。

 

 

その後、デュノア社では社長のジャック・デュノアに実権が戻り、シャルロットの居場所ができあがったのだという。

 

 

 

 





はい、こうなりました。
え? 学ランの青年は誰かって?
暗部で学ランとくれば、ねぇ…。

次でいよいよ本編が100話を迎えます。
まさかここまで続くとは…。この海の(ry

ではまた次回でお会いしましょうノシ

誰か南美の絵とか書いてくれる人いないかなぁ(チラ



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第100話 路地裏の勝負と中国国家代表候補生


そろそろペースが落ちるかも…。


では本編をどうぞ↓


 

「フゥゥゥ、シャオッ!!」

 

狭い路地の中で南美の特徴的な声が響く。

それと同時に振り下ろされるのは鋭い手刀である。それを雛子はこともなげに正面から受け止め、前進する。

鍛え上げられた下半身による前進の勢いは生半可な妨害では止まらない。

 

「えいっ!!」

 

「ちぃっ!?」

 

間合いを完全に詰めた雛子が繰り出したのはなんの変哲もない突っ張り。がしかしその細腕からは想像もつかないほど重い一撃を南美は右腕を盾代わりにして受け止め後ろに跳ぶ。

しかし雛子は逃がさない。すかさず前に走り、南美が跳んで開いた距離を一瞬でゼロにした。

 

「逃がしません!」

 

「逃がしてよ!!」

 

距離を詰めた雛子は再度突っ張りを繰り出す。南美は腕を使っていなしながら覚悟を決めて懐に潜り込む。

 

「フゥゥゥ・・・シャオッ!!」

 

南美は雛子の懐に潜り込むと体のバネを極限まで使った裏拳を雛子の腹に打ち込んだ。強力無比な一撃にさすがの雛子も後ろに下がる。

勝機は今だとばかりに今度は南美が攻勢に移る。

 

「ショオ、シャオッ!ショオォォッ!!」

 

体勢を崩した雛子の膝に追撃のローキック、そのまま逆の膝にももう一撃、そして両足に一撃を加えた後、胸元に正拳突きを打ち込んで突き飛ばす。

 

「ハァ・・・ハァ・・・。」

 

「ふぅ・・・、ハァ・・・。本当にお強いのですねぇ。」

 

お互い向かい合って呼吸を整えていると突然雛子が南美に微笑む。

そんな雛子の行動に南美は意図を掴めずに眉をしかめる。

 

「最近はあまり強い方と戦えず、少し退屈しておりました。なぜか上位ランカーとも当ててもらえず…。」

 

つらつらと言葉を漏らす雛子ははぁと息を漏らすと右足を高々と掲げコンクリートの床に叩きつけた。

 

「ですが、今日は違います。貴女のような強い人と戦えて楽しいですわ。」

 

そう言って笑顔で構えを取る雛子を見て、南美は納得した。この育ちの良いお嬢様然としたこの少女もまた“こちら側”の人間なのだと。

そう解った瞬間南美からも自然と笑みが溢れた。

 

「あぁそうだね…。私も嬉しいよ、こんなに強い人がまだまだ沢山いるんだもん。」

 

二人は距離を保ったままニィと笑い合う。

お互いがお互いの本性を理解したようで、その笑顔は相手を認めた合図であった。

 

「さぁて、行くよ!」

 

「えぇ! 勿論ですわ!」

 

雛子はいつもの低い姿勢を維持し、南美はそんな雛子の牙城を崩さんと勢い勇んで突撃する。

 

「フゥゥゥシャオッ! ショォオォッ!!」

 

「はっ! それっ!」

 

ノーガード戦法。二人が取ったのはそんな戦い方であった。

南美の鋭く急所を狙っていく一撃と雛子の豪腕から繰り出される一撃。どちらが先に倒れるかのチキンレースが始まった。

 

「シャオッ!!ショオッ!!」

 

「とりゃあ! それ!!」

 

南美の手刀は雛子の肩や腹を捉え、雛子の突っ張りは箇所を問わず南美の身体に重く響く。

 

 

 

「おーおー…。派手な殴り合いだなぁ、ありゃ…。」

 

「まぁ…そうなるのかしらねぇ…。」

 

待機部屋の窓からもうかれこれ十数分は続いている雛子と南美の試合を眺めている社とグーヤンは静かに笑う。

上位ランカーである二人はこの試合を見て確信したのだ。このMs.マスクを名乗る少女がこの裏ストリートファイトの新しいランカーになると。

 

 

 

「フゥゥゥ……シャオッ!!」

 

「っ!?」

 

南美の放った渾身の裏拳、それは雛子の肩に食い込み雛子は膝から崩れる。

しかし完全に膝を着く前に雛子は顔を歪めながらも踏ん張り持ち直す。だがそこで手を止めるような南美ではない。雛子が完全に体勢を建て直す前に追撃に移る。

 

「フゥゥ・・・───」

 

体を低く、その姿勢を保ったまま南美は右腕をいつも手刀を振り回す時のように左肩の後ろまで引き絞る。

そして間合いに入った瞬間限界まで引き絞った右手を解放し、思い切り手刀を振り切る。

 

「───シャオッ!!」

 

「とぉりゃあぁあっ!!」

 

しかし雛子もここで終わるようなファイターではない。南美が手刀を振ると同時に足を一歩前に踏み出して腰の入ったしっかりとした突っ張りを打ち出す。

肉と肉のぶつかり合う音が盛大に路地裏に響き渡った。

雛子の打った突っ張りは南美の左胸を、南美の振った手刀は雛子の首の側面を捉える。

 

二人はクロスカウンターのような形でお互いの渾身の一撃を受ける。そしてしばらくの沈黙から二人は同時に一歩二歩と後ろに下がる。

 

「ハ、ァ…、ハァ…。ァ───」

 

「ふぅ・・・、・・・ぁ・・・。」

 

そしてお互い何も出来ずににらみ合う構図が数秒続いた後のことである。

二人がほぼ同時に崩れ落ちたのだ。

コンクリートの路面に少女が二人崩れ落ち、音を立てる。そして倒れ込んだ二人はそのまま動かない。

 

「マジか!?」

 

「同時にダウン!? いや、それよりも・・・。」

 

全く動かない二人を見て窓から顔を覗かせていた社とグーヤンは待機部屋から出て急いで路地に向かう。

 

 

「おいマスク! ヒナ!」

 

「あんた達、しっかりなさい!」

 

路地に入って倒れた二人に駆け寄った社達は二人をに仰向けにし気道を確保する。呼吸は止まっていないことを確認した二人はほっと胸を撫で下ろす。

しかし強い衝撃で気を失ってしまった事は確かである。そこで二人はヴァネッサを通してこの場所に救急車を呼び、病院に緊急搬送させた。

 

 

 

南美が緊急搬送されているのと同日、南美のライバルで中国国家代表候補生の凰鈴音はというと───

 

 

「あ~、飛行機はやっぱダルいわね…。時代は船よ、うん。てか、なんでこんな時に呼び出すのよ。夏休みは母さんの手伝いしようと思ってたのに…。」

 

飛行機から降りて中国の国際空港に降り立った鈴音はコキコキと首を鳴らす。

本国からの要請により、一時的に中国に来た鈴音はダルそうにぼやきながら周辺を見渡した。

 

「さて、と…。迎えがいるんでしょ? どこよ…。」

 

鈴音に送られてきたメールには迎えがいるとだけしか書かれておらず、誰が何処にいるかなど全く触れられていない。

どこか似たような事を数ヵ月前に味わった鈴音は少しだけイラつきながら空港を歩く。

いつものように荷物はボストンバックただ一つで、それを片手にずんずんと進んでいく。

 

そんな鈴音に近寄る人物がいた。

 

「鈴センパーイ!!」

 

嬉しそうな声を上げて鈴音に抱きつくのは、腰ほどまである長い一本の三つ編みを伸ばした少女であった。

その少女の突撃を鈴音は正面から受け止める。

 

「お久しぶりです鈴センパイ!」

 

「久しぶりっても半年もたってないでしょ? もう、春はいつまでも甘えん坊なんだから。」

 

鈴音に抱きついて来た少女の名前は王春花、鈴音の一つ下で、中国国家代表候補生の一人である。彼女も鈴音と同じように専用機を与えられている実力者だ。

そんな春花は鈴音に抱きつき、スンスンと軽く匂いを嗅ぐとキョロキョロと周囲を見渡した。

 

「どうしたの春?」

 

「え、や、その…。鈴センパイ、呂さんと一緒に来ました?」

 

「お師さん? お師さんは一緒じゃないけど、なんで?」

 

「いえ、鈴センパイから呂さんの匂いがしたので…。」

 

鈴音は春花の返答に若干背筋が寒くなった。

そう、この王春花は鈴音の師匠呂虎龍のことが大好きなのである。彼女と虎龍の出会いは虎龍が仕事で中国を訪れた時に出会ったのだ。

仕事で護衛したVIPの孫が春花だったのだ。春花は祖父の護衛に来た虎龍に一目惚れし、以来会うたびに求婚している。

それだけであれば鈴音も恋する乙女の暴走として片付けられたのだろうが、それが徐々にエスカレートしていると感じたのは鈴音がIS学園に転入する僅か1週間ほど前のこと。

虎龍の縫いぐるみを手作りし鞄に提げるのは勿論のこと、虎龍のいらなくなった私物をどうにか手に入れられないかと鈴音に相談まで持ちかけていたのだ。

 

「そ、そうなの…。でもお師さんに会ったのは2日前なんだけどなぁ…。」

 

「え? 呂さんと会ってたんですか? というより会えてるんですかっ!? もしかして呂さん日本にいるんですか?! どうして教えてくれなかったんですか!?」

 

早口で捲し立てる春花に鈴音は気圧されたじたじと後ずさる。がそこは百戦錬磨の国家代表候補生、“教えれば押し掛けてくるでしょ?”という言葉を飲み込んで鈴音はまぁまぁと春花を宥める。

 

「う~、鈴センパイの意地悪~。」

 

「これくらいで涙目にならないでよ、あたしが悪いことしてるみたいじゃない。」

 

「はーい。それじゃあ役割を果たします。鈴センパイ、こっちに車を待たせてますから、ついてきてください。」

 

頭を切り替えた春花は鈴音の手を引いて空港の外に向かったのだった。

 

 

 





記念すべき本編100話目で緊急搬送される主人公…。

はてさて、どうなるのでしょうか。

そしてかなり前から出すと決めていた愛が重い系少女。
まぁ、本格的な出番はまだまだ先なんですけどね。


では次回でお会いしましょうノシ




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第101話 南美とほんわ君、後は某所のお話。


朝早くから失礼します。
地雷一等兵です。

最近の朝の早さがヤバイので、起きるついでに投稿させていただきました。

では本編をどうぞ↓


 

「ん…。」

 

目が覚めるとそこは見慣れない部屋だった。

白い天井と壁、清潔感のある部屋の中、心地よいベッドの上で北星南美は目を覚ました。

 

「南美!」

 

そして視界の中に心配そうな声と共に飛び込んで来たのは恋人のほんわ君の姿である。

ほんわ君は南美を抱き寄せると“良かった、良かった”と言葉を漏らす。

 

「ほんわ君さん…? えっとなんで、ここに?」

 

「それはボクのセリフだよ! 急に電話が掛かってきたと思ったら南美が病院に運ばれたって聞かされて、急いで来たんだよ!?」

 

南美の肩を掴んで険しい表情でそう告げるほんわ君からは純粋に南美の事を心配しているということが見てとれた。

そんな真剣なほんわ君の心配に南美は申し訳なくなって俯いてしまう。

 

「ごめんなさい…。」

 

「うん、許す。許すけど、何があったのかは教えてほしいな。」

 

下を向いて落ち込んだ様子の南美を抱きしめてほんわ君は頭を撫でる。南美はそんなほんわ君の優しさに思わずほんわ君を抱きしめ返した。

 

 

 

しばらくして南美が落ち着いてから、彼女は病院に搬送されることになった経緯を説明する。もちろん対外秘である部分はぼかしているが。

 

 

「少年漫画かな?」

 

「う…、それ参加者の人にも言われました…。そんなに変ですか?」

 

「ううん、南美らしい。」

 

ほんわ君の反応にふてくされたような態度で返した南美であったが、その後に返ってきた言葉に照れたように顔を背けた。

 

「まだ続けるんだとしても、もう少し自分の体を労ってほしいな。南美になにかあったらボクも悲しいからさ。」

 

「はい、ごめんなさい。」

 

「謝ることないよ。ほら、泣かない泣かない。」

 

顔を合わせながら泣く南美の頬に手を当ててほんわ君は頬を伝う涙を拭ってあげる。

南美はそれを拒否することなく、ほんわ君のするままに身を任せるのだった。

 

 

 

南美の気絶の原因は極度の緊張が一気に切れたことによるもので、身体的な影響はなく目が覚めたその日に退院することとなった。

その日の南美は親に友人宅に止まると言い、ほんわ君の家に泊まったと言う。

 

 

 

 

 

そんなことがあったとか、なかったとかしたりしていなかったりしていた頃のことである…。

フィンランド某所でのこと。

 

 

「それで、なんで新人の研修場所にこの部隊が選ばれるんだ? 正直スパルタの域を超えていないか?」

 

「…この部隊をそんな場所に変えている隊長がそれを言うんすか?」

 

ある部屋の中で二人の人物が話していた。一人はフィンランドの国家代表を務めているスミカ・ユーティライネンである。もう一人はやや色白であるが服の上からでも分かるほど鍛えられた肉体美の男性である。

二人はそれぞれ資料を片手に意見を突きつけあっている。

 

「それにしても研修の新人が二人、しかもそのうちの一人が国家代表候補生のヴィートか…。」

 

「知ってるんすか、隊長。」

 

「あぁ、優秀な子だよ。狙撃の腕に関してはそこらの軍人にも引けを取らないだろう。」

 

「へぇ、隊長がそんなに褒めるなんて、楽しみっすね。」

 

「あぁ、楽しみにしてろ。あいつは子供の頃からケワタガモを撃ってたらしいからな。」

 

などと話しながら二人は次々と書類に目を通して行く。

その中の一枚を見た瞬間、スミカの手が止まった。

 

「ん? どうしたんすか隊長。」

 

「ああ、これだ。」

 

「ん~? 過激派女権団の尖兵…っすか…?」

 

男がスミカから受け取った資料には、国際的に活動を行っている女性権利団体の中でも特に過激派として知られている団体の活動がより広範に、より危険度を増してきていると言う内容のものであった。

その団体の活動は主に欧州であったが、ここ最近になってアジア圏にも広がっており、また活動が行われてきた欧州での活動頻度が増えてきているのだ。

スミカの主な仕事は対テロ組織のもので、こういった世界各地の出来事には敏感になっている。

 

「女権団ねぇ…。」

 

「くだらないよな…。」

 

男の呟きにスミカはうんざりした様子で言葉を吐き捨てた。

 

「世界はなるようにしかならないのにさ…。それを強引に変えようとすると、世界は歪んじゃうんだ。ちょうどISの出現で上滑るように発展した今の世界みたいにな。彼女らがやっているのは歪みが修正されようとしている世界をまた歪めようとしているに過ぎないのさ。」

 

「…隊長の話はよく分からねぇっす。」

 

スミカの言わんとしている内容を理解しきれなかった男はバツが悪そうに頭を掻いた。それをみてスミカはクスリと笑う。

 

「今はそれでもいいだろう。そのうちお前にも分かるさ。」

 

「そんなもんなんすかねぇ。」

 

「そんなものだよ。」

 

それだけ言ってまたスミカは資料に目を通し始める。それにつられて男も資料読みを再開する。

そうして時間が過ぎて行き、翌日仕事を抱えたまま一晩過ごしたスミカの目元にはくっきりとした隈が出来ていた。いつもはテレビにも出るため身だしなみを整えるように上から指示されているスミカではあるが、モンド・グロッソ出場の話題が落ち着き、出演機会も減ってきた現在はそんなことは気にしないのが彼女である。

 

「あぁ…しんど…。まだ仕事あんのかよ…。」

 

「しゃあないっすよ、隊長。最近テレビに出ずっぱりでしたし。その分俺が手伝いますから。」

 

「おぉ、お前ホントにいいやつだなコスティ。これが終わったら吞みに行こうぜ、私が奢るよ。」

 

若干充血している目に目薬を差しながらスミカは言う。多くのフィンランド国民から国家代表として知られ、清潔感がありながらもお茶目で親しみやすい美人というイメージを抱かれているスミカ・ユーティライネンであるが、その本質はイメージとは離れた所にある。

少し乱暴な言葉使いと男らしさのある内面に、酒豪という彼女はテレビなどのメディアに出る際は上からの指示でがっつりと猫を被っているのだ。そんな自分を偽って人に接している反動なのか、基本的に部下と対する時は歯に衣着せぬ物言いと男らしさに拍車がかかる。

 

「てか隊長、例の新人来るの、今日っすよ。そんな状態で大丈夫なんす?」

 

「大丈夫だ。目薬と蒸しタオルで目つきのヤバさは消すし、疲れはドクペとマーマイト飲んどきゃなんとかなる。安心しろ。」

 

「いや、材料的に不安しか感じないっす。」

 

スミカから告げられた内のある一つにそこはかとない不安を感じるコスティであるが、そんな心配を他所にスミカは冷蔵庫の中からドクターペッパーとマーマイトを取り出した。

缶のドクターペッパーを一気に飲み干すと、次はマーマイトの蓋を開け、小匙のスプーンで中身をすくい、一気にスプーン一杯分を頬張る。

 

「あぁ…効くわぁ…。」

 

どこか座った目をしてそう呟いたスミカにコスティはハァと小さく溜め息をついて首を横に振る。

 

 

そうしてどうにかコンディションを好調とはいかずとも平常時まで戻したスミカはコスティと一緒に新人二人との顔合わせに向かった。

 

 

「待たせてしまったかな?」

 

ガチャリと部屋のドアを開けて入ると、ソファに腰かけていた青年と少女が立ち上がり敬礼する。青年は年の頃20歳前後といったところで、それなりにがっしりした体つきから、身長よりも大柄な印象を受ける。

少女の方は新雪を思わせる真っ白な肌が特徴的で、歳は14~15歳ほどに見える。

 

「あー、そう畏まるな。とてもやりずらい。」

 

「は、はい!」

 

「りょ、了解です!」

 

スミカの言葉に二人は緊張した様子で返事をした。

その様子にスミカは内心溜め息を吐く。スミカはフィンランド国内でアイドルのような好感度と知名度を誇る1種のカリスマ的な存在であるが彼女自身、そんなものに興味はないため、こうして緊張されるとやりにくいと感じてしまうのだ。

 

「あー、ヴィート・ハユハとウルマス・アウヴィネンだな。私はスミカ・ユーティライネンだ。」

 

スミカは少女のヴィート・ハユハと少年のウルマス・アウヴィネンとを交互に見て微笑みかける。

ヴィートは動じず、まっすぐと敬礼したままスミカを見つめ続け、ウルマスは頬を僅かに紅く染め、少しだけスミカから視線を逸らした。

 

「君たちはこれから人々を不当な暴力から守る仕事をするわけだ。もう上からも言われていると思うがヴィートは国家代表候補生として来年度からIS学園に新入生として入学してもらう。」

 

「はい。」

 

「それでウルマスはもう高校は卒業して、そのままこの職業か。それでウチに回されるとはね。ま、安心するといい、半年もすれば仕事には慣れるからな。」

 

「え、は、え?」

 

スミカはウルマスの肩に優しく手を置いて微笑むが、その言葉の真意を図り損ねて思わず目を剥いて驚いた。そんなウルマスのリアクションにスミカはハッハと小気味よく笑う。

 

「人のために身を粉にして働けるのは素晴らしいぞ。」

 

そう言い残してスミカはその部屋を去っていき、残りの説明は全てコスティが行った。

 

 

 

 





今まで書いてこなかった各国の国家代表についても書いていけるといいなぁって。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第102話 鈴音と春花


最近気がつきました。
この話、200じゃ終わらないって。
あれー? 当初の予定だと200話に納めようと思ってたのにな~。

では本編をどうぞ↓


 

「アアアアアッ! フゥアチャァアッ!!」

 

特徴的な甲高い声を響かせながら放たれた鈴音の蹴りは天井にレールで吊るされたサンドバックを数メートル吹き飛ばした。

そんな所業を見て、後ろから見ていた春花は驚いたように目を丸くして拍手する。

 

「やっぱり鈴センパイは凄いです! IS学園に入る前と比べて2メートルも記録を伸ばすなんて!!」

 

「ま、これくらいはね。じゃないと周りに置いてかれるんだもの。」

 

鈴音は額の汗をリストバンドで拭い、ツインテールをファサっと肩の後ろに流す。

そんなさも何とでも無いように語る鈴音を春花はキラキラした目で見つめるのである。

 

「そう言うあんたもかなりやる様になったんじゃない? 前よりもずっといい身体つきになってるもの。」

 

「あ、分かりますか? 鈴センパイがいなくなってからずっっと師匠と特訓してたんです!」

 

「あ~、そりゃ逞しくもなるわね。」

 

「はい! だから鈴センパイにもそう簡単には負けませんよ!!」

 

春花はぐっとガッツポーズを取ってみせる。そんな彼女の言葉に鈴音の眉が少しだけピクリと動いた。

 

「なら、少しだけ勝負してみない?」

 

「え、勝負ですか?」

 

「そうよ。ISで勝負してみない? 私も春の実力を知りたいし。ね?」

 

「で、でも鈴センパイがこっちに戻ってきたのってISのデータ解析ですよね? だったら今手元にないんじゃ…。」

 

びくついた様子でそう言う春花に鈴音は待機状態にしている自身の専用機を見せつけた。

 

「安心しなさい。上に渡すのは明日の夕方だから。今日は一日中使えるのよ。今さらデータの1つや2つ、嬉しい誤算でしょ。」

 

「そ、そうなんですか…。」

 

逃げ場などとうに無いことを覚った春花は一呼吸置いて覚悟を決めると、キッと鋭い目付きに変わる。

そんな春花の顔を見た鈴音は満足そうに笑う。

 

「やりましょう…。私と、私の流派の力を見せてあげますよ!」

 

「上等! 私と甲龍の力を甘く見ないことね。」

 

自信満々な春花に対して鈴音は不敵に笑って見せた。

 

 

 

急遽IS訓練用のアリーナを借用した鈴音と春花はその中央で睨み合う。

 

「始めましょうか…。来なさい甲龍!!」

 

「全力全壊です! 行くよ、漆虎《チィフゥ》!!」

 

お互いが十分な距離を取った状態で専用機を展開する。

完全に展開仕切った春花の専用機“漆虎”は全身を赤いパーツがマントのように覆っていたが、春花が片足で床を踏み鳴らすと中央で分かれ、背後にまで移動して止まり、まるで風に翻るマントのような形へと変形した。

そうして現れた春花は漆虎の名に恥じぬ漆黒のアーマーを身に纏い、腕を組んでいる。

 

「さぁ…行きますよ!」

 

春花は左足を上げ片足立ちになると左手を鈴音の方に向け、右腕は肘から先を捻り、掌を上に指先を鈴音へと向ける。

そんな独特な構えを取る春花に対して鈴音はいつも通りに自然体の構えを取る。

 

「かかってきなさい。本気で相手をするから。」

 

「はい、胸をお借りしますね!」

 

お互いいい笑顔で言葉を交わすと、次の瞬間には二人同時に動き出した。

 

「アチャアッ!!」

 

「はぁっ!」

 

先ずは小手調べとでも言うように放った両者の拳がぶつかり合う。ISの補助により上昇しているパワーが正面から激突し火花を散らす。

続いてその至近距離からお互いのハイキックがぶつかり、同時に体をひねって打ち出した裏拳がかち合う。

 

「フゥアァタアッ!!」

 

「ふんっ!はぁああっ!!」

 

頭突きでお互い牽制し距離を少しだけ距離を開け、そのスペースを利用して加速して脇腹めがけて蹴りを放つもそれも同時に当たる。

大きな衝撃があったにも関わらず二人は当たった蹴りが当たった瞬間に離れて距離を取る。

 

「これで決めます! 秘技…───」

 

春花は掌を突き出して体の前で円を描いていくと時計の文字盤のように十二個の梵字が浮かび上がり、その梵字一つ一つが小さな漆虎になる。

 

「──十二王方牌大車併!!」

 

春花が投げつけるような素振りを見せるとその小さな漆虎が一斉にそれぞれの意思を持っているかのように鈴音に襲いかかる。

 

「甘いのよ!」

 

「ウェ!?」

 

鈴音は青竜刀を二振り取り出すと次々襲いかかってくる小さな漆虎を切り落としていく。

そして次の瞬間には十二体もいた小漆虎をすべて切り落としていた。

 

「ぜ、全滅!? 3分も経ってないのに!?」

 

「まぁ、こんなもんよね。」

 

自慢の技を完全に攻略された春花は青ざめた顔と畏敬の目で鈴音を見つめる。逆に鈴音はドヤァという顔を春花に向けている。

 

「ま、まだです! 私の実力はこんなもんじゃありません!!」

 

「オーケー、それならもっともっと来なさいよ。」

 

「はい!!」

 

春花はまた片足立ちの構えを取り、息を整える。

鈴音は青竜刀を拡張領域に納め構えを取る。

 

「行きますよー!!」

 

春花は片足立ちの状態から前傾になり重力を利用して急加速する。

 

「…速い? いや、鋭い!!」

 

「ふんっ!!」

 

「まだまだぁ!!」

 

一瞬にして鈴音の真横まで潜り込んだ春花はそのまま抉り込むような角度で鈴音に向けてボディブローを放つ。

が反射的に肘をのばして鈴音はそれを止める。

そして春花のボディブローをアーマーで止めたことを衝撃で感じとった瞬間に鈴音はボディブローを打ち込んできた春花の右腕を掴んで逆間接を極めて背負い投げた。

 

「ウェエッ!?」

 

「フゥウウァチャア!!」

 

背負い投げて地面に叩き付けられた春花に鈴音は踵を振り下ろす。

 

「それはさすがにっ!!」

 

腕を掴まれているため横に転がって逃れられない春花は脚を高々と掲げ腰から跳ね上がって振り下ろされる鈴音の踵落としを脚で受け止める。対象が自分から近付いて来たことで照準が外れたことで鈴音の踵は当たらず、代わりに太股で跳ねてきた春花の身体を迎え撃つことになった。

十分な加速も得られずまた意図した部位での打撃でないため、春花には大したダメージは通らない。

そしてさらに春花は跳ね上がった反動を利用して身体を反転させて立ち上がる。

 

「ふぅ…破っ!」

 

そして立ち上がると踵落としを迎撃され若干姿勢を崩している鈴音の鳩尾目掛けて肘を打ち込む。

その一撃で完全に体勢を崩された鈴音に対して春花は更に追撃を重ねる。

 

「覚悟!!」

 

「なんの!!」

 

崩れた姿勢のまま鈴音は打ち下ろされる春花の腕を掴み、カウンター気味に空いている方の拳で殴りつける。

がしゃりと重い音を響かせて両者の体は地面に落ちた。そして二人とも着地と同時に転がってお互い距離を離す。

距離を取ってお互い構えを取り、睨み合う。その様子から両者ともにそこまで大きなダメージを受けていないように見える。

 

(なーんか、春の構えとか戦い方とか見覚えがあるのよね~。)

 

(やっぱり鈴センパイ強い…。でもだからこそ勝ちたい!)

 

睨み合いながらお互いの様子をうかがい場は硬直状態になる。

その間でも頭の中では相手の一挙手一投足に全神経を集中させ、何があっても即座に対応出来るようにギアを暖めている。

そうして睨み合いが続いて早数分、先に動いたのは春花だった。

 

「ふん! はぁ!!」

 

一気に距離を詰め、あと二歩という間合いまで詰め寄ると、ダンと大きく左足を力強く踏みならして踏み込む。

そして踏み込んだ左足を軸にもう一歩、右足をさらに素早く力強く踏み込ませ右拳を鈴音の鳩尾に向けて突き込んだ。

全身の体重と力を全て伝え、込められた破壊力は全て鈴音の鳩尾へと伝わる───はずであった。

 

「ァァアチャアッ!!」

 

「ふっかぁっ!?」

 

春花の一撃がきっちり芯を通すよりも先に鈴音の正拳突きが春花の額を見事に打ち抜く。

鳩尾に拳を受けながら放たれたその一撃は綺麗に決まり、春花の体は宙で縦に1回転した。

 

「アアアアアッ! フゥゥアタァアアッ!!」

 

そして機動の制御を一時的に失った春花を見て鈴音はぐっと右腕を引き絞り、溜めた力を一気に解放して乱暴に殴りつけた。

ものの見事に叩き付けられた拳によって春花と漆虎は地面に激突する。

しかしそれで終わるほど春花も柔ではない。叩き付けられた瞬間に腕を使って体を横に跳ねさせ、すぐさま鈴音の追撃の範囲から逃れた。

 

「…惜しい…。今ので決めたかったのに。」

 

「すいません、負けるわけにはいかないので…。」

 

大きく息を切らせながらも春花は小さく笑って見せた。

そして深呼吸して息を整えると足を踏み鳴らして胸を張る。

 

「新一派 東方不敗 王者之風 全新招式 石破天驚 看招! 血染東方一片紅!!」

 

気合いの入った力強い声で漢詩を一節歌いあげ、まだまだ英気の滾る瞳で春花は鈴音を睨みつけると再度片足を上げた構えを取る。

まだまだ春花の心が折れていないことを確信した鈴音は楽しそうに笑う。

 

「まだまだです、まだ、終わりませんよぉ…。私は、東方不敗の弟子だから…。」

 

「それならあたしも負けないわ。あたしのお師さんは現代の呂布、呂虎龍だから。」

 

二人はお互いに構えを取ったまま睨み合う。

ぴりぴりとした空気で場は硬直する。

 

 

「はぁっ! そいやっ!!」

 

「ファァァ、ァアタァアッ!!」

 

そしてピンと耳が痛いと錯覚するほどにアリーナの空気が静まり返った瞬間、同時に動いた。

同時に前ブーストを吹かして一気に距離を詰め、引き絞った拳をお互いの顔面に向けて放つ。

お互いが放った拳はそれぞれ別の腕で防いだため、致命傷には至らない。

続く第2波もほぼ相殺の形となり、お互いを傷つけることはなかった。そして第3、第4と何度も何度も続けていくも、それはかち合い続け、どちらも傷つかず、一進一退の攻防を繰り返す。

 

「フゥゥゥアタァッ! ファチャアッ!!」

 

「せい! かっ!?」

 

しかし遂に限界が訪れる。疲れ知らずにペースを落とさず攻め続けてきた鈴音の手数が徐々にではあるが春花を上回り始める。

 

「アタァッ!ファチャフゥゥアタァアアッ!!」

 

「む、くっ!? がぁっ!!?」

 

どうにか相殺合戦に持ち込んでいた春花であったが次第にその堅守の盾を抉じ開けて無理矢理にガードの上から鈴音が一撃を通していく。

 

「アタァッァアタァアッ!! フゥゥアタァアアッ!ファチャ!ゥゥアタァッ!!」

 

一度春花の体勢が崩れてからは圧倒的だった。

スタミナ切れもあり、即座に立て直す事の出来ない春花は怒濤の勢いで迫る鈴音の攻めを防ぐことも出来ず、押しきられる。

 

「ゥゥァアタァッ!!」

 

「ふんはっ!?」

 

そして最後に放たれた渾身の一撃で漆虎のシールドエネルギーはゼロになり、活動は停止する。

自身の空になったエネルギーをみて敗北を確認した春花は漆虎を待機状態に戻す。

 

「う~、また勝てなかった…。」

 

「まだまだ技量にスタミナと体が追いつききれてないわよ。そんなんじゃ勝てないって。」

 

まだ余裕の表情を見せる鈴音に春花は悔しそうに口をとがらせる。

その後二人は録画していたこの仕合いのログをみて反省会を行うのだった。

 

 

 

 





まぁ、春花の師匠ってもう丸分かりですよね。
はい、あの方です。


では次回でお会いしましょうノシ



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第103話 変態企業とドイツの軍人

これからレポート等が重なるため、投稿ペースが落ちていきます。
ご了承下さい。

では本編をどうぞ↓


 

「フフフフフ、ここが如月重工…。心が踊るな!」

 

「そうか、私は逆に胃が痛いよ。」

 

篠ノ之箒と更識簪の二人は夢弦にある如月重工開発試験場の前にいた。簪は遠足前の子供のようにこれから起こることへの期待に胸を膨らませ、それに反比例するように箒の顔は浮かないものである。

 

「なんでそんな顔をしているんだ?篠ノ之箒よ。」

 

「逆にお前は楽しそうだな。」

 

「あぁ、楽しいね。だってあの如月重工だぞ!? 私の憧れだ。そんな如月の、しかも開発室の人に会えるんだ。これがどうして平然としていられようか。」

 

簪はにやりと悪巧みする科学者のような笑顔を浮かべる。そんな簪を見て余計箒は不安を抱くのであった。

そうして入り口の前に立っている二人に自動ドアを開けて藤原が声を掛ける。

 

「おはよう二人とも。今日も元気そうで何よりだ。」

 

「おはようございます、藤原さん。」

 

相変わらずのスーツ姿の藤原にこの人も変わらないなと箒は感心する。

夢弦の夏は日本の例に漏れず暑い。にも関わらず、この藤原黒スーツである。

 

「まあ、立ち話もなんだし、入りなよ。あんまりおもてなしは出来ないけどね。」

 

そう言って藤原は箒と簪を建物の中に迎え入れた。

建物の中は冷房が効いているのか、蒸し暑さもなく、とても快適な空間になっている。

 

「篠ノ之妹には何回か来て貰ってるけども、今日は純粋にデータ取りだよ。そう身構えなくてもいい。ただ、とったデータをすぐに解析したいからここに来て貰っただけ。更識くんには技術屋として新しい意見を貰いたい。」

 

「私に…ですか?」

 

「あぁそうだ。高校生でたった一人であれほどのISを組み上げた君の実力を買ってのことさ。」

 

藤原の嘘の混じっていない本心からの言葉を聞いて簪の顔はほんのり赤くなる。そして照れ隠しのように下を向いた。そして小さく小刻みに肩を振るわせ始めた。

 

「か、簪…?」

 

「ち、違う……。泣いてなんか…。」

 

強がってそう言う簪ではあったものの、ぽたぽたと俯く彼女の顔の下に小さな水滴がこぼれていく。

今まで優秀過ぎる姉と比べられ、何をしても姉の二番煎じ、姉より劣ると言われ続けてきた彼女にとって、同じ技術屋の藤原からの褒め言葉は親友の南美とも違う何かがあった。

それが胸にこみ上げてきて、つい彼女は感極まってしまったのである。

しかし、箒も藤原もあえて何も言わなかった。

 

 

 

しばらくして簪が落ち着いた頃、三人は主任室と書かれた部屋にいた。

この部屋には給湯設備や冷蔵庫などの家電類が充実しており、その気になればここに数日ほどなら泊まれそうなほど整っている。

 

「さて、お茶も淹れたし、ゆっくりしていってくれ。」

 

ソファに座る二人にお茶を注いだ湯飲みを差し出して藤原は対面に座る。箒も簪もその湯飲みに注がれたお茶を一口飲むと藤原の方を向く。

 

「それじゃ篠ノ之妹のISは預かるとして、更識くんの件なんだけどさ…。」

 

「……。」

 

会話を始める藤原の言葉に簪は口を真一文字に結んで藤原を見つめる。

 

「本音を言えば今すぐ如月で雇いたい。社長もオレと同じ意見だよ。」

 

「っ! 本当ですか!?」

 

簪はガタッとソファから立ち上がり、興奮した様子で藤原に尋ねる。その質問に藤原は黙って頷いた。

 

「君の技術者としての実力はオレもウチの班員も、社長だって認めてる。だから君がほしい。既存の概念に縛られない自由な君がね。」

 

そこまで言って藤原は言葉を切って、“ただ…”と言葉を濁した。

どこか様子のおかしい藤原に簪と箒は首を傾げる。

 

「ちょいとややこしいことがあるんだ…。特に倉持技研関係でさ。」

 

「倉持技研…あ…。」

 

「把握したかい? そう、更識くんのIS、玉鋼のコアは倉持技研が所有するものなんだ。」

 

そう言う藤原と何かを察した簪の顔は暗い。

藤原は長くこのIS業界で生きていたことから、簪は代表候補生としての教養からそのことに気がついてしまった。

 

「更識くんをこのまま抱え込むと二重登録になっちゃうんだよねぇ…。権利関係云々はどうにかするけどこのままだと玉鋼を解体しなきゃいけないのさ。」

 

「そう、なりますよね…。」

 

藤原の言葉に簪は絶望したような顔をする。

憧れの如月重工の一員になるか、これまで辛苦を共にしてきた玉鋼を解体するかの二択は簪にとってはもはや究極の二択なのである。

 

見るからに沈みこんでしまった簪を見て藤原は困ったように頭を掻く。

 

「あ~、その、なんだ…、手段がない訳じゃないんだ。倉持技研には一応知り合いもいるし…。だから、そんな顔しないでくれないか?」

 

「はい、ごめんなさい…。」

 

「いや、更識くんが謝ることじゃないんだ。先に手段があるって言わなかったオレも悪いし…。」

 

何故だか変な空気になってしまった室内で、箒はどうすることも出来ずただ二人の様子を交互に見やるしかなかった。

 

 

 

そんな事が行われている中、現在ドイツにいる一夏はというと───

 

「ズェアァアッ!!」

 

「なんのぉ!!」

 

シュヴァルツェア・ハーゼ隊の保有するIS用アリーナでクラリッサとIS戦闘を行っていた。

クラリッサの操るISは彼女用にチューンされた専用機“シュヴァルツェア・シュピーゲル《黒い鏡》”であり、ラウラの専用機の姉妹機だ。

姉妹機とは言ってもそのコンセプトはラウラのものとは違い、近接戦闘による前衛の役割を主とする機体として開発されたものである。そのため、完全に前衛としての性能に特化した白式相手にも一歩も引けを取らない。

もちろん単純な性能の差であれば白式に軍配が上がるのだが、そこを技量で補うのがクラリッサである。

 

「未熟未熟未熟ぅ!!」

 

「ちぃ!? ズェア!!」

 

超がつくほどの至近距離まで詰め寄られ、一夏は思わず舌打ちする。

主要武器が大刀の一夏と拳のクラリッサでは懐に潜った時の熟練度で差が出てくる。

超近接戦闘の弱点を埋める為にIS学園で訓練していた一夏であるが、まだまだそれを主眼に置いた者には一歩譲ってしまう。

 

「見切れるかっ!!」

 

「このっ!?」

 

一夏は自身の上を取りながら自由自在に飛び回るクラリッサを目で追いながら雪片を牽制代わりに振り回す。

クラリッサの主兵装はブレードのついたトンファーであり、それを器用に扱って打撃と斬撃を使い分けるのが彼女の戦い方である。

 

「フゥーハハハ! 最ッ高に乗ってきたぁ!!」

 

「畜生めっ!」

 

ハイテンションそのまま高速で飛び回るクラリッサを一夏は若干のイラつきの眼差しで睨み付ける。

しかしそんなものはどこ吹く風かとクラリッサはマイペースを崩さない。それが彼女の強みでもあるのだが。

 

「さぁさぁ行くぞぉ!! シュツルム!ウント!ドランクゥウ!!」

 

ブレードトンファーを持ったまま腕を組んだクラリッサはグルグルと独楽のように高速で回転し、そのままの勢いで一夏に突撃する。

しかし一夏も向こうから近寄るならば好都合と足を止めて雪片を構える。

 

「止めれるものなら止めてみろ!!」

 

「ズェアァアッ!!」

 

独楽のように回転しながら突撃してくるクラリッサに対して一夏は零落白夜を発動し、全力で袈裟斬りに雪片弐型を振り下ろした。

クラリッサの独楽と一夏の雪片が激突した瞬間火花が散り、耳つんざくような金属音が鳴り響き、大量の土煙が二人を中心にして舞い上がる。

 

そして土煙が舞い上がる中、ブザーがなりISのシールドエネルギーが空になったことを告げた。

時間と共に徐々に土煙も落ち着いていき二人の様子が分かっていく。

 

「ハーハッハッ!!」

 

「あぁ、畜生…。」

 

土煙が完全に晴れるとそこにはISを完全に解除して膝に手を置く一夏と、シュヴァルツェア・シュピーゲルを纏いながら地面に大の字に寝転ぶクラリッサの姿があった。

 

クラリッサの顔はとても満足そうな笑顔であり、一方の一夏はクラリッサとは対照的に悔しさが滲んでいた。

 

「はっはっはっ! まだまだ冷静さが足りませんね!!」

 

「えぇ、その通りです。本当に…。」

 

寝転んだまま顔を持ち上げてニヤついた顔でそう言うクラリッサに一夏はしみじみと頷いた。

今回の一夏の敗因は判断ミスである。クラリッサの挑発にまんまと乗ってしまった一夏は高速で回転するブレードに雪片を振り下ろし、本体に直撃させることが出来なかったのだ。

そのことを理解しているからこそ一夏は悔しそうに歯がみする。

そしてクラリッサもきっちり読み勝ったからこそこうして一夏を煽るのだ。

 

「完全に焦って挑発に乗った自分の負けです。」

 

「分かっているならよろしいのです。」

 

クラリッサは反動を使って立ち上がるとサムズアップして一夏に笑いかける。

そのあと二人はそれぞれ更衣室でいつもの服に着替え、ほかの隊員達と一緒に夕飯を取ることにした。

もちろんというべきか、この日もラウラが一夏の部屋を訪れ添い寝したらしい。

 

 

 

 

 




ゲルマン忍法を体得したドイツ軍人、その名もクラリッサ!

特にここで言うべき事が見当たらないので、次回でお会いしましょうノシ



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第104話 レゾナンスの平和?な日常


ここ数話は全盛期レベルの速度でした。
自分でも驚いています。

では本編をどうぞ↓


 

退院した南美であったがストリートファイトの運営側からヴァネッサを通して念には念を入れて数日間の安静期間を設けることを言い渡され、持て余した時間を有効活用するために、今日はTRF-Rへと足を運んでいた。

 

今日も今日とてTRF-Rは格ゲーマー達の熱気により他の店舗とはやや異質な空気を放っている。

 

(TA・Д・)<はい、昇龍ブーン、からのブースト使って画面端まで運んでいく! 画面端、固めはおっと羅漢で切り返す!

 

(眉゜Д゜)<羅漢に確反はねえから!!

 

北斗大会が開かれている今日はTAKUMAと眉毛がマイクを握り解説と言う名の煽り実況を繰り広げている。

モヒカンや修羅達がやいのやいのと和気藹々と騒いでいる姿を南美は遠目で見守っていた。

 

 

(TA・Д・)<さぁえぐれさん、仕込み槍がでない!!

 

(眉゜Д゜)<あー、あれはイップスになってるね~。QMとのガチ撮りが響いてるわ。

 

どこか動きの悪いえぐれサウザーを見たTAKUMAが言葉を漏らすと、その一連の事情を知っている眉毛が補足する。

 

(TA・Д・)<あ~、噂に聞いた7:3事件ね。

 

(眉゜Д゜)<それそれ。ジャギに7:3つけられたっていうアレよ。

 

(*´ω`*)<まじで思い出させないで!! おい、そのグラフィック見せんな!!

 

(DP・Д・)<ねぇえぐれさん、どんな気持ち!? ジャギにダイヤ7:3つけられてどんな気持ち!!

 

(*´ω`*)<おいDEEP、まじ許さねぇ!

 

(眉゜Д゜)<いいからさっさと大会進めろ!

 

このままだと口プレイに発展しそうな状況になり、眉毛がそこで会話を切って大会を無理矢理進行させる。

こんな光景もまたTRF-Rにとっては日常である。

 

 

 

「みな…じゃない、ノーサさん、大丈夫?」

 

店内の片隅で呆然としていた南美にちり取りと箒を持ったほんわ君が話しかける。

エプロン姿に加え、掃除用具を携えたその姿は愛嬌があり、自然と南美から笑みがこぼれる。

 

「はい、大丈夫ですよ、ほんわ君さん。」

 

「そう…、ぼーっとしてたから、心配になってさ。」

 

「心配ありがとうございます。でももう大丈夫ですから。」

 

心配を顔にだすほんわ君に対して南美はガッツポーズを取って笑って見せる。そんな彼女の姿に納得したのか、ほんわ君は“じゃあまたね”と言い残してその場を去っていった。

 

そんなことが展開されているレゾナンスの2階フロアであるが、そのエリアから一つ上がって3階のフロアではと言うと……

 

 

 

「で、またここかよ。」

 

「いいじゃないの。安いしおいしいし。」

 

「そうですよ、社さま。」

 

レゾナンス3階に店を構えるパスタとピザ、イタリア料理のおいしい喫茶店「アーネンエルベ」で夢弦裏ストリートファイトの上位ランカー、七枷社、グーヤン、四条雛子の三人が同じテーブルに仲良く座っていた。

 

「いや、文句はねえけどよ。」

 

「ならいいじゃない。こんな美人二人と一緒にランチ出来るんだからラッキーと思いなさい。」

 

「うるせぇ。」

 

グーヤンの言葉に苦笑いしながら言い返した社はそのすぐ後に入店してきた二人組の男達に目を向ける。

 

「おい、グーヤ。」

 

「えぇ…。どうやら、楽しそうなことになりそうね。」

 

グーヤンもまたその二人組の男達から何かを感じ取ったらしく、口の端を小さく吊り上げて笑う。

その男二人は店員に案内され奥のテーブルに通されると、メニューを見る振りをしながらチラチラと周囲を窺っている。

 

「…グーヤ…。」

 

「んーん、もっと泳がせましょうよ。その方が面白いもの。」

 

「お前って奴はよ…。」

 

「あの、どうかなさったのですか?」

 

こそこそと小声で話す社とグーヤンの二人に雛子が首を傾げる。しかし二人は“お前はそのままでいろ”と何も言わなかった。

そのときである。例の二人組のうちの一人がテーブルに水を持ってきたウェイトレスの腕を掴み引き込んだ。そしてウェイトレスの頭に懐から取り出した拳銃を突き付ける。

 

「全員動くな!!」

 

ウェイトレスを人質に取ると、もう一人の男が大声を上げ手に持った拳銃を天井に向けて2発撃つ。その行為に、店内にいた客は悲鳴を上げ場は軽いパニックになる。

 

 

「お…。」

 

「面白くなってきたわね。」

 

「え、え?!」

 

男の行動を平然とした様子で観察していた社とグーヤンは何事も無いように呟く。そんないつもと変わらない二人の反応に雛子は二人の顔を交互に見る。

 

「おい、さっさと金をだせ! この女がどうなってもいいのか!!」

 

「まぁまぁ、少し待て。そう怒鳴られても金庫が早く開く訳じゃない。」

 

「早く開けるように急がせろ!!」

 

「了解だ。ランサーくん、いつもより急ぎ目で頼むよ。このままだと桂木くんが危ないからね。」

 

「了解っす。」

 

テンプレートな台詞を吐いて金を要求する強盗に対して、店長と思われる男は宥めるように返答する。

しかしそれでも強盗の態度は変わらず、それに困った店長は金庫の鍵を弄っている青年に急ぐように促した。

 

 

「……ん?」

 

「何か外に来てるわね。警備員かしら?」

 

「レゾナンスの店舗で警備員ってーと、KGDOか?」

 

「大体はそうね。」

 

店の外に強者の気配を感知した社とグーヤンはその正体に当たりをつける。

恐らくはあの警備会社の人間だろうと結論付けた二人はなら眺めていようという考えに至ってリラックスして椅子に腰を落ち着けた。

 

 

「おい、金はまだなのかよ!!」

 

「すまないね、うちの金庫は少々複雑になっていて、それなりに時間がかかるのだよ。だからもう少し待ってほしい。」

 

未だ開かない金庫に業を煮やした強盗は店長の男に詰めよって問い詰める。しかし店長の男はそんな状況になっても慌てず、もう少し待てと強盗に伝える。

そんな店長の言葉に強盗は舌打ちをしながら店内を見渡す。

 

「いいか、余計な真似さえしなければ何もしねぇ! 大人しくしてろ!!」

 

店内の人間に向かって銃口を向けながら強盗は怒鳴る。

店内のほとんどの人間はおびえたように縮こまり、おとなしくしている。ただ、ある三名と店長と金庫前の店員以外であるが。

そんな時、社が席を立った。

 

「お、おい!」

 

拳銃を突き付ける男の脅しにも関わらず、社はそのままグーヤンの隣に座った。そしてグーヤンは隣に座った社の袖に掴まり、小刻みに震え始める。

 

「すまねぇな、こいつが怖くてどうしてもって言うもんだからよ。」

 

「ちっ、リア充はこれだからよ。」

 

男はそう言って舌打ちをすると二人に背を向けてその場から離れる。

 

「……上手くいったな、ナイス演技。」

 

「このくらいは朝飯前よね。それで、どうしましょう。」

 

「頃合いを見て制圧だな。オレがウェイトレスの方、お前は店長側の男に行け。」

 

「はいはーい。」

 

悪企みを成功させた二人はそのまま強盗に聞こえないように小さく笑った。

 

 

そして、銃声が響いたことによって、異常が知れ渡ったアーネンエルベの店外はと言うと……

 

 

「まったく、こんな時にレゾナンスに来たくはなかったのに…。」

 

「それは非番の日に偶然ここに来ていたオレにも言えるがな。」

 

KGDOの職員である高町なのはとクリザリッドがハァと溜め息を吐きながら事件の渦中にあるアーネンエルベの前にいた。

他にも警備員の腕章を巻いた人間が集まってきており、アーネンエルベの周りはKGDO関係者で囲まれていた。

 

「さてと…、うちの班員も揃ったし、夢弦警察署の刑事が来て大事になる前に片付けないとな。」

 

「任せてください、暴徒の鎮圧には慣れてますから!」

 

「そうか…。」

 

「てか、最近忙しすぎてまともに家にも帰れてないんですわ?お?」

 

「それはオレもだよ、バカ野郎…。」

 

「んんんんんんんん、うお───」

 

「うるせぇ騒ぐな!!」

 

三者三様の反応を見せるKGDO特別課第一班、通称クリザリッド班のメンバーにクリザリッドは胃壁が薄くなっていく感覚を味わうのだった。

 

「それで、どうするの?」

 

「高町さんが相手と交渉して、その隙に我々が突入準備、交渉が上手くいけばそれでよし。無理なら制圧します。」

 

「はーい、じゃあ拡声器をっと。」

 

 

高町はカバンの中から拡声器を取り出す。

その間にクリザリッド班のメンバーはアーネンエルベの周りに待機を始める。

 

 

「くそっ! まだなのかよ!」

 

「すまないね。そこら辺の金庫とは違って手順がかなり多くて…。」

 

数分経っても開く気配のない金庫に強盗は苛立ちを覚え、店長に拳銃を突き付ける。

しかし店長は狼狽えることなく返した。

そんな時のことである。

 

「あー、あー、そこの強盗犯!」

 

店外にいた高町が拡声器で強盗に話しかけたのだ。

 

「あっ!? な、なんだよ!!」

 

「おや…?」

 

強盗が慌てて窓の外を確認し、店長はチラリと窓に視線を向ける。

そこには真顔で拡声器片手に立ち尽くす高町がいた。

 

「そこの強盗犯、人質を解放しなさい。そうすればまだ刑は軽くなるわよ。」

 

「な、何だ!? は!?」

 

「あ~、彼女か。」

 

窓の外にいる人物に二人はそれぞれの反応を見せる。

強盗は突然現れた少女に戸惑いを見せ、店長はハァと溜め息を吐いた。

 

「おーい、聞こえてますか~? リアクションしてくれないと対応に困るんですけど~?」

 

「くそっ! 誰が人質なんか解放するかよ!」

 

強盗は拒絶の意思を示すように拳銃で窓を割り、そこから床に向けて銃弾を撃ち込む。

その反応を見て、高町は“ふ~ん”と呟いた。

 

「私の交渉の師匠が言ってたの。ネゴシエーションのルールに従わない奴には、もう実力行使しかないって。」

 

様子の変わった高町は拡声器を握り締めながら、ジト目で窓から顔を覗かせる強盗犯を睨み付ける。

 

 

 

「……そろそろ動くか…?」

 

「そうね、ウェイトレスの娘もそろそろ限界でしょうし。」

 

強盗犯とは背を向ける席に座っている二人はこそこそと小さな声で話す。

その内容は完全に他の人には聞こえていないらしく、皆拳銃に怯えてしまっている。

そんな中で一番精神に来ているのが人質に取られているウェイトレスの少女であろう。銃口が常に自分の方に向き、いつどうなるか分からないというその状況は、年頃の少女にはこれ以上ないほどの負担だ。

 

「行くぞ、3…2…1、ゴッ!」

 

社の合図と共にグーヤンと社は同時に動き出す。

社はソファから立ち上がり、グーヤンはソファを飛び越えようと体の向きを反転させながら跳ぶ。

その行動に強盗犯二人の視線は社とグーヤンの方へと向いた。

その時である。

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

「黄金の鉄の塊で出来たナイトが銃装備の強盗犯に遅れを取るはずがない!!」

 

割れた窓から青い頭巾を被った上半身裸の男、不破刃が、急に開け放たれた出入り口の扉からは機動隊の防具で全身を固めた男、ブロントさんがそれぞれ突入して来たのだ。

 

「ふんっ!!」

 

「ハイスラァ!」

 

不破刃は窓際にいた強盗犯を掴み、窓から店外へと投げ飛ばす。そして外に投げ飛ばされた強盗犯を外で待機していたミストがライオットシールドを使って取り押さえる。

ウェイトレスを人質に取っていた男は突然現れたブロントさんに銃口を向けるも、大型のライオットシールドによるシールドバッシュで拳銃を吹き飛ばす。そしてそのまま距離を詰め、強盗の腕を掴んでねじ上げる。

そのあまりの激痛にウェイトレスの拘束を緩めた一瞬の隙を突いて、ブロントさんは強盗を壁際まで押し込んで壁にぶち当てて制圧した。

 

「これぞ唯一ぬにの盾。」

 

「我が流派は不敗が宿命…。」

 

一瞬にして立て籠りを制圧した二人は店内で勝ち誇ったような顔をする。

そんな現場に班長のクリザリッドが足を踏み入れた。

 

「怪我人は出してないな? それじゃあ犯人を拘束、夢弦警察署の刑事が来るまで待機だ。」

 

「了解。」

 

「承知。」

 

パッと見て店内の状況を把握したクリザリッドはブロントさんと不破の二人に指示を出す。

その二人の返答にクリザリッドは頷くと背を向けて店外へと出る。その時、“仕事は真面目なんだけどなぁ”と呟いていた。

 

こうして喫茶店アーネンエルベを襲った強盗は鎮圧され、夢弦警察署の刑事に引き渡されていった。

その一部始終を見ていた店内の客達は“さすがKGDOの警備員達だ”と口を揃えて証言したという。

その一方で、完全に暴れるつもりでいたグーヤンと社はというと───

 

「もぉおおおっ!!」

 

「うるせぇな、終わった事じゃねぇか。もう喚くな!」

 

「だってだってぇ!!」

 

完全に駄々っ子と化したグーヤンを宥めるために社は彼女と一緒にレゾナンス内に店を構える居酒屋“Go-Sho-Ha”に来ていた。

警察の事情聴取など受けていられないとばかりに二人はあの現場から警察が来る前にさっさと逃げていたのだ。

そこで二人は、特にグーヤンは大量の安酒をあおるように飲んでいたのである。

その日グーヤンは潰れるほど酒を飲み続け、社によって裏ストリートファイトの控え室まで運ばれたらしい。

 

 

今日もレゾナンスは平和である。

 

 





久々にTRF-R勢を書いた気がする。

では次回でお会いしましょうノシ



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第105話 父娘の再開と日本の剣士

良い感じで連続更新。
もう少し気の効いた前書きとか書ければなぁと思うこの頃。

では本編をどうぞ↓


 

フランスの一大IS企業、デュノア社の社長令嬢であるシャルロット・デュノアは今、フランスに来ていた。

自分を嫌っていた、そして自分を男装させてまでIS学園に送り込んだ社長夫人が逮捕され、自由の身になった彼女は父親との本当の意味での再開を果たそうとしていたのである。

 

「……あぅ…。」

 

「そう緊張するな。」

 

「アンジェさん…。でも…。」

 

応接室のソファに座り、不安そうな面持ちをしているシャルの隣にはフランス国家代表のアンジェ・オルレアンがいた。

アンジェは緊張で身を震わせるシャルの背中を擦ってやり、不安を取り除こうとしてやる。それでもシャルは不安で体を震わせながらアンジェの事を見上げている。

 

そんな時に、ガチャリと音を立てて応接室の扉が開くと、シャルは一段と大きく身を震わせた。

 

「シャル…。」

 

「父、さん…。」

 

応接室に現れたのはデュノア社社長にしてシャルの父親であるジャック・デュノアであった。

シャルの姿を確認したジャックは一も二もなく駆け寄り、彼女の小さな身体を抱き締める。

 

「シャル、シャル…!」

 

ジャックは大きな体でシャルを抱き締めると彼女の頭を乱暴に撫でる。

 

「と、父さん…、苦しいよ…。」

 

「あ、あぁごめんよ…。」

 

苦しさを訴えるシャルに、ジャックは我に返って彼女を離す。そしてシャルを見下ろして目を合わせたジャックは途端に泣き出し始めた。

 

「うぐぅ…、よかった、無事で、本当に…良かった…。」

 

堪えきれずに、ボロボロと大粒の涙を溢しながらジャックは大声を上げて泣く。恥も外聞もなく彼は泣いた。

そんな姿をさらすジャックを見て、アンジェはハァと小さく溜め息を吐いてジャックの尻を引っぱたいた。

 

「しっかりしないか、ジャック!!」

 

「ア、アンジェ…。うん、ありがとう…。」

 

アンジェの一喝でやっと平常心に戻ったジャックは目の前の娘にそっと手を伸ばす。

そしてシャルの柔らかな髪をそっと撫でる。

 

「お帰り、シャル…。」

 

「うん、ただいま、父さん!」

 

シャルは頭を撫でられながら、ジャックに抱きつき厚い胸板に顔を埋める。そんなシャルをジャックは優しく抱き止めた。やっと打ち解けた二人を見てアンジェは何も言わずに部屋を出て行った。アンジェ・オルレアンはクールに去るのである。

 

 

「父さん…。」

 

「あぁ、もうお前を離しはしないよ…。今まですまなかったね…。」

 

「うん、父さんありがとう。」

 

抱き合っていた二人はソファの隣に座ると仲むつまじく話し始める。

もう完全に二人の間のわだかまりはなくなったと言っていいだろう。

 

 

 

フランスでそんな親子の物語が展開されている一方で、ここ日本の夢弦ではと言うと……

 

 

 

「さて、予定より早く終わってしまったな。何をして時間を潰そうか…?」

 

藤原から呼び出されての用事も終わり、まだ昼下がりの夢弦市内を箒は手持ち無沙汰な状態で歩いていた。

いつものように街を歩く箒であったが、その途中で差し掛かった場所であるものを目撃する。

 

「離してください!」

 

「いや、そう言わないでさ、ね?」

 

「そーそ、退屈させないからさぁ。」

 

女性に絡む男二人と、明らかに嫌がっている女性の図だ。

元来正義感の強い箒はその光景を見て、躊躇いもせず男達につかつかと詰め寄る。そして女性の腕を掴んでいる男の腕を握ると強引に捻り上げた。

 

「いっ!? いでででででっ!? 何しやがる!!」

 

「天下の往来で一人の女に二人がかりで言い寄るとは…、それでも男か! 恥を知れ!!」

 

男の腕を螺上げながらそう啖呵を切った箒に、もう一人の男も怯む。だがしかしそこは夢弦のチンピラである。すぐさま持ち直し、懐からナイフを取り出した。

 

「邪魔しないでくれねぇかな、お嬢ちゃん!」

 

「そ、そうだって、オレらはただこの女の子と仲良くしたいだけなんだって!!」

 

腕を捻られている方の男も、ナイフの男に同調し、極められているはずの腕を力業で強引に外して拘束から逃れる。

そうして状況は正面からの睨み合いと化した。

 

「てか、このお嬢ちゃんもなかなかに可愛い…。」

 

「確かに確かに…。是非是非交際をお願いしたいものではある。どうする? この子も連れてく?」

 

「大賛成だな。」

 

腕を極められていた男の提案にナイフの男が賛同する。そして腕の男が懐からメリケンサックを取り出して拳に装着すると構えを取った。

それに対抗する要に箒は腰に手を伸ばすが、伸ばした手は空を切る。そこで箒は思い出した。この日はいつも持ち歩いている竹刀を置いてきてしまっていることに。

しかし動揺を表には出さない。直ぐ様箒は拳を構え、不敵に笑ってみせる。

 

「ふん、掛かってこい!」

 

あくまで気丈に振る舞う箒であったが、ナイシンハかなり焦っていた。

それを察してか、男達はどこか余裕のある笑みを浮かべ距離を窺う。

そんな時である。ある一人の人物が箒達を囲む人混みの中からするりと歩いて抜け出て男達に歩み寄る。だが周りの野次馬たちはその人物に気付いている気配はない。

 

「なぁ…。」

 

その人物は音もなく静かに歩み寄るとメリケンサックの男に声を掛け、二の腕を握る。

二の腕に刺激を感じたメリケンサックの男はそちらに顔を向けると、そこには黒髪ポニテで背の高い、マスクを着けた女性がいた。

 

「マナーが悪いんじゃないか…?」

 

「は──うぼぁっ!?」

 

女性が何かを呟いたかと思えばぐんと男を空中に片手で放り投げる。そして一瞬あと、宙を舞う男の体は急に加速するように真横に吹っ飛んだ。

 

「…峰打ちだ。」

 

そう女性が言うと、左手に持っていた鞘にチンという小さな音を響かせて日本刀が納まる。

そして次に女性が目を向けたのはナイフを持った男だ。

 

「は?! い、いつの間に!!」

 

「…街中で女性相手に強引に声を掛け、果ては丸腰の少女を相手に武器を使って二人がかりか情けないな。」

 

女性はまた日本刀の柄に右手を掛けると男を一睨みした。

そのあまりにも鋭い眼光に男は息を呑んで1歩後ずさる。そして覚悟を決めたのか、男はナイフを構えて女性に向かって突進する。

 

「──ふっ!」

 

しかし女性が一瞬だけ吹くように息を吐き出すと、彼女の周りで風が吹き抜ける。そして次の瞬間にはナイフの男は数メートル吹き飛び、気絶していた。

 

「終始…。」

 

それだけ呟くとまたチンと音を立てて日本刀が鞘に納まった。

しかし間近でそれを見ていたはずの箒でさえ、何が起こったのかを完全に理解しきれてはいない。2回とも鞘に日本刀が納められていたことから恐らく刀でもって男達を倒したのだろうことは理解できても、刀身すら見えないということの異常さに、頭が追い付かないのだ。

 

「ふぅ…。これに懲りたらその辺にしておくんだな。」

 

女性はそれだけ言うとさっと身を翻してその場から去っていく。

箒はその女性の後を追いかけていき、そこから現場から数メートル離れた場所で声を掛けた。

 

 

「す、すいません!」

 

「ん…。」

 

箒に呼び止められた女性は足を止めて振り替える。

 

「あ、あの…、ありがとうございました。」

 

「……。」

 

助けられたことへの感謝を素直に述べて箒は頭を下げた。女性は頭を下げた箒を暫くの間黙って見つめていたが、急にポンと箒の頭に手を置く。

 

「…正義感が強くて行動出来るのは素晴らしいけど、それで自分が危なくなったら意味がない。」

 

女性は箒の頭から手を離すとまたくるりと向きを変えて箒に背を向ける。

 

「……居合の師匠が言っていた言葉だが、“ヒーローの条件は最後に立っていること”らしいぞ。」

 

女性はそのまま振り返らず、スタスタと歩いていく。そんな彼女の背中に迫って、箒は服の裾を掴んで引き留める。

 

「すいません、せ、せめてお名前を聞いてもよろしいですか?」

 

「………。」

 

箒の質問に女性は少し困ったように顎に手を当てて考え出す。そして数秒後、答えをまとめたのかマスクを外して箒と向き合う。

 

「井上真改だ。それ以上でも、以下でもない。」

 

そう名乗った女性は日本国家代表の井上真改その人であった。

しかし箒にとってはまた違う意味で知っている人物である。いや、剣の道を歩む者であれば誰もが知っているだろ。日本剣道界を牽引している最強の剣士、それが彼女である。

かつては箒も彼女を目指していたこともあった。

 

思いがけない所で憧れていた人物に出会った箒はただ呆然とその場に立ち尽くすのみだ。

そんな彼女を置いて、真改はその場から立ち去っていった。

 

 

 





真改さん初登場。
もう少し寡黙なキャラになるはずだったのに。どうしてこうなった?

では次回でお会いしましょうノシ



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第106話 路地裏と世紀末と警備員さん

ゼミとその他のあれこれが重なってしまったので、2日に1回はたぶんそろそろ難しいです。

では本編をどうぞ↓


  

 

「フゥゥゥウッ! シャオッ!!」

 

鋭い南美の蹴りがこめかみを捉え、その一撃を受けた男はそのまま崩れ落ちた。

南美は倒れた対戦相手を担ぎ路地裏を出る。しかし、南美の顔は勝ったというのに、どこか浮かないものであった。

 

 

 

「…おいおい、なにしけた面してんだよ。おぉ?」

 

控え室で南美を待っていたのは社であった。南美を出迎えた社は怪訝な表情で尋ねる。しかし南美は社の質問に首を振った。

 

「なんか…、燃えないんですよね。この前の雛子との勝負以来、なんていうか…。」

 

「ふーん、なるほどな。」

 

南美の態度に何かを察した社はピッと南美に指を指す。

 

「分かるぜぇ、その気持ち。上位ランカーの壁を覗くとそうなっちまうんだ。それが上位とその他の差なんだよ。闘争の空気が違うのさ。」

 

裏ストリートファイトの上位陣の一人でもある社の言葉に南美はすっと自分の悩みが解きほぐれた気がした。

あぁそうかと社の言葉によってそこまで線で存在していた様々なことが一気につながり、南美は笑顔になる。そしてあまりにもあっさりと解決したことが少しばかばかしくなって大声で笑い声を上げた。

 

「は、いい顔するようになったじゃねぇの。」

 

「ええ、これも社さんのおかげです。」

 

二人はニィと笑い合う。そんな時にゆっくりと短パンの少年を伴ってグーヤンが部屋に入ってきた。

 

「お二人さん、二人の次のカードが出たわよ~。」

 

「お、お前が直々に来るってことはよ…?」

 

「あら、察しがいいわね。その通りよ。」

 

社の言葉にグーヤンはふふっと笑う。

 

「次の貴方達の仕合は七枷社対Ms.マスクよ。」

 

グーヤンの告げた対戦カードに社は口角を吊り上げて笑う。心底楽しそうに笑う社を見てグーヤンは小さく笑う。

どいつもこいつも戦闘狂しかいないことに恐怖し、短パンの少年はグーヤンから離れてドアの陰に隠れる。

南美もまた社の方を見て笑っていた。

 

 

 

その頃のレゾナンス、TRF-Rではというと……

 

(TA・Д・)<バシュンッ!! はい、のほほんちゃんがぁ!捕まえてぇ!! のほほんちゃんがぁ!ドリブルしてぇ! のほほんちゃんが打ち上げてぇ!! のほほんちゃんが画面端まで運んで、まだ入る!! のほほんちゃんがぁ!バスケしてぇ! のほほんちゃんがぁ!!!決めたぁああっ!!!

 

立派な修羅に成長した布仏本音が5様との決勝戦に挑んでいた。

 

(禅・Д・)<さぁ、2ラウンド目! 開幕の立ち回りで、競っていく!おっとのほほんユダが差し込んで、バニシングまで繋いで~、5様が~死んでしまった! 5様が打ち上げられて~、5様が~画面端で跳ねて~、まだ入る~、5様が~ドリブルされて~、5様が台パンして~、5様の浮きが高くなってぇ、5様が、死んだぁあああああ!!!

 

(TA・Д・)<はい! これでのほほんちゃんの2度目の店内大会優勝になります!拍手ぅ~!!

 

(モヒ・ω・)<ノホホンチャンカワイイヤッター

 

(モヒ・Д・)<おめでとー!!

 

(モヒ゜Д゜)<すごいぞー!!

 

(眉゜Д゜)<可愛いぞー!!

 

(モヒ・∀・)<結婚しよー!!

 

 

修羅の国、TRF-Rで完全に修羅として一人立ちしたのほほんこと、布仏本音はアイドルとしてだけでなく一人の格ゲーマーとして皆に愛されていた。

 

 

(*´ω`*)<…ガチ撮り、のほほんちゃんに挑むのありだと思う?

 

(こ・ω・)<…。

 

(*´ω`*)<なんか言ってよ!!

 

 

今日もTRF-Rは平和である。

 

 

 

「ふぅ…。」

 

「いつもお疲れさまです、狗飼さん。」

 

日差しの降り注ぐIS学園の中庭では、巡回していた狗飼と大きなお弁当箱をもった山田真耶が同じベンチに座っていた。

夏休みということもあり、生徒の大半が帰省した今ではこうして狗飼も堂々と敷地内を歩けるのだ。

そうして夏の日差しを木陰でやり過ごしている二人は同じベンチに座り、間にお弁当箱を置いてお昼にしている。

もはやこの二人がこうしてお昼を一緒にするのは恒例となっているが、きっかけは真耶から提案したことにある。

それ以来二人はこうしたお互いの時間を合わせては昼食を共にしているのである。

 

「どうぞ、今日の唐揚げは自信作なんですよ!」

 

「では…いただきます。」

 

狗飼は真耶が進めてきた唐揚げを一つ頬張ると、小さく頷いた。そんな彼のリアクションに真耶は嬉しそうに微笑む。

 

そうして仲睦まじくしている二人を物陰から見ている人物達がいた。

 

「あれ、本当に付き合ってないんですか?」

 

「えぇ、狗飼くんはそう言ってたけど…。」

 

「瑛護も隅におけないネー。」

 

完全に野次馬根性丸出しの犬走、川内、虎龍の3人である。

3人は同じ茂みの中に身を隠して狗飼と真耶の事を観察していた。その隠密技術はさすがKGDOと言うべきか、全く気付かれていない。

 

「あの先生の人、絶対先輩に惚れてますって。」

 

「確かに、あの顔は…。」

 

「雌の顔アルよ…。」

 

同じ解答を導きだした3人はお互いに顔を見合わせると深く頷いた。

そしてまた音も立てずに茂みの中から抜け出し、3人はどこかへと姿を消していったのである。

 

今後のIS学園には、もといIS学園の警備隊には一波乱がありそうである。

 

 

 

 





ヘイワダナー
そんな訳で短く詰め合わせてみました。


では次回でお会いしましょうノシ



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第107話 夢弦高校最強のOB

まだペースを保てていることに自分でも驚きを隠せないでいる…。

では本編をどうぞ↓


 

「ふぅ…。」

 

社との勝負が決まった翌日、南美は一人で夢弦の街中をうろついていた。彼女はこうして大きな仕合の前などは何かをするでもなくただ頭を空っぽにしながらこの夢弦を歩くのだ。

そうすると自然と気持ちが落ち着いて行くのだという。

一見整っているように見える街並みの中には型にはまらない個性的な住人達が行き交い、それぞれが強く主張しつつも、なぜかバランスのとれているのが夢弦という街なのだ。

 

 

(…裏ストリートファイトの上位ランカー、七枷社さん…。雛子から聞いた話だと、ランキングは雛子よりも上。現状雛子と引き分けた私がどう戦えばいいのか…。)

 

思い悩みながら街を歩いていると、南美の目にある人だかりが映る。

やいのやいのと何やら盛り上がっているその集団に興味を引かれた南美は興味本位でその集団に近寄る。

 

 

「おいおいおいおい!」

 

「死ぬぞアイツ!!」

 

周りが騒ぎ立てる中心地では二人の人物が距離を取って睨み合っている。

そのうちの一人に南美は見覚えがあった。白いYシャツに黒スーツを着崩したホスト風の男、それはほんわ君の家のアルバムで、そしてテレビでも何度も見た記憶がある。

ジョンス・リー、元夢弦高校特別課外活動部部長にして将棋界の新星、竜王である。

 

対してジョンスの前に立つ人物はスーツをしっかり決め、頭に“P”の文字の被り物を被った謎の人物だった。

 

「あのPヘッド、大丈夫か? 相手はあのジョンスだぞ。」

 

「夢弦高校の“魔女越え”達成者、その実力は只者じゃねぇ。」

 

「でもよ、あのPヘッド、かなり落ち着いてるぜ? 自信があるんじゃねぇの?」

 

ざわざわと野次馬達が騒ぐなか、騒動の中心にいるPヘッドとジョンスはとても落ち着いていた。

 

「でだ、賭けについてだが…。オレが勝てばあんたの事務所が無償でオレのスポンサーになる。あんたが勝てば、オレはあんたの事務所からアイドルデビュー…でいいんだよな?」

 

「あぁ、それで構わない。さぁサッソク始めようか。」

 

Pヘッドの人物はその外見からは想像できないほど良い声でそう言うとすっと構えを取る。

それを見てジョンスは膝を曲げ腰を落として構えを取った。ジョンスが構えを取ったのを見て、ギャラリーは息を呑んでぐっと押し黙った。完全に野次馬が静まり返った瞬間にジョンスから動く。

 

低い姿勢からの突進、充分に加速した状態からの背中での強撃、鉄山靠。

ジョンスの全身の力を持って放たれた一撃は軽々とPヘッドの人物を数メートル吹き飛ばした。

 

「うおおっ!!」

 

「出たぁ!!」

 

「やったかっ!?」

 

ジョンスの鉄山靠を間近で見てギャラリーは一気に沸く。

その一方で避けるでもなく直撃を受けて仰向けに横たわるPヘッドを心配する者も中にはいた。

しかしその心配を余所にPヘッドの人物はむくりと起き上がると、何事もなかったようにスーツのホコリを払う。

 

「なるほど、噂には聞いていたがこれが君の八極拳か。」

 

「…効いてねぇのか?」

 

全く堪えている様子もないPヘッドの人物に、ジョンスは怪訝な顔で尋ねる。

 

「いや、効いてるよ。効いてる…けど、オレは人一倍タフなんだ。」

 

Pヘッドはぐりぐりと首もとを回し、腕を回す。

それはまだまだ十全に動けていることをアピールしているようにも見える。

 

「ま、これくらい出来なきゃうちのプロダクションでプロデューサー業はやってられんのよ。」

 

「そうか…。なら、もっと強く打ち込んでいいな。」

 

「あぁ、勿論だ。全力で来ていい。」

 

ジョンスはPヘッドの言葉に再度構えを取る。Pヘッドの男は余裕の現れなのか今度はスーツのポケットに手を入れて直立する。その構えに少しだけジョンスはむっとするもすぐに冷静になる。

 

「行くぞ。」

 

ドンッとコンクリートを踏み抜く勢いでジョンスは力強く踏み込み、Pヘッドの胸元向けて正拳突きを繰り出す。その拳がきっちりとPヘッドを捉えたことを手応えで感じたジョンスはそのまま一歩離れる。

ジョンス渾身の一撃を貰ったPヘッドは数メートル吹き飛んだ先でうずくまっていたが、その数秒後にはすくりと立ち上がった。

 

「まだまだぁ…、まだ終わらんよ。」

 

「驚いたな、あんた本当に人間か? かなり強く打ち込んだはずだが。」

 

「だから言ったろ? オレは人一倍タフなんだって。」

 

「そうか…。」

 

Pヘッドはハッハと談笑するように笑った。それを見たジョンスはまた腰を低く落とした構えを取る。

そんなジョンスにPヘッドもまたボクシングのような構えになる。

 

「じゃ、今度はこっちから行くぞ。」

 

「おう。」

 

ジョンスが軽く手招きするとPヘッドは軽々とジョンスの頭よりも高く跳び上がり肉薄する。

 

「タコスッ!!」

 

そして肉薄した状態からPヘッドはその自身の最大の外見的特徴であるPヘッドによるヘッドバットを繰り出した。それを堂々とジョンスは正面から頭突きで迎え撃つ。

ガチンと人体から発せられたとは思い難い音があたりに響く。

 

「おぉらっ!!」

 

そして頭突きがかち合った状態からPヘッドは長い足を突き出してジョンスの胸を蹴り飛ばす。

長い足から突き出された蹴りにジョンスの上半身が揺らぐ。

そしてそれを見逃さずPヘッドはヘッドバットでジョンスの頭を叩く。

 

「がっ!?」

 

「おらッ!!」

 

ヘッドバットによって頭の下がったジョンスの顎に膝蹴りを叩き込み、Pヘッドは着地する。

一方のジョンスはよろよろと後ろに下がり、二歩三歩と下がった所で踏みとどまり、Pヘッドの方を見る。

 

「ふむ、君もなかなかにタフだ。やはりそのタフネスはアイドルにふさわしい。」

 

「断る。」

 

「そうかそうか。なら勝つしかないな。」

 

変わらないジョンスの態度にPヘッドは笑い声を上げながら構える。

ジョンスも同じく腰を落とし、いつもの構えを取った。

ピリピリとした空気に周りのギャラリー達も固唾を飲んでこの先を見守った。

 

 

 

「はッ!!」

 

放たれたジョンスの鉄山靠は見事にPヘッドの胴体を捉えきり、そのまま吹き飛ばして壁に激突させる。

コンクリート製の壁はミシリと音を立てヒビが入った。

完璧な一撃、もはやこれを受けて立てる人間なぞいないと思われるほどのそれにジョンスは構えを解いてPヘッドを見下ろす。

だがPヘッドはよろよろと立ち上がると、最初の時のようにスーツのホコリを手で払った。

 

「あぁ…、これは、凄いな…。うん…。」

 

だがしかし、それだけ言い残してPヘッドは前のめりに倒れてしまった。

その瞬間、周りで見守っていたギャラリーは歓声を挙げる。勝ったジョンスと、最後まで健闘したPヘッド、二人を讃える言葉が周囲に響き渡る。

ジョンスはつかつかとPヘッドに歩み寄ると、彼を抱え上げ、八意診療所の方へと歩き出した。

そんな二人をギャラリーは惜しみ無い声援でもって送り出す。

 

 

 

「……凄かったなぁ…。」

 

ジョンスとPヘッドの死闘を目の当たりにした南美は近くのベンチに腰掛け、先程までの二人の戦いぶりを思い返す。

お互いがお互いの全力で以てぶつかり合った死闘に、南美は心から尊敬の念を抱いていた。

 

「…うん。そうだよね、まずは全力で…だよね。」

 

いつの間にか抱えていた悩みの答えを掴んだ南美は勢いよく立ち上がると、良い笑顔を浮かべて帰路についた。

 

 

 

 

そんな時、ドイツにいた一夏はというと────

 

 

「イチカ、もう帰るの…?」

 

「あぁ、もう少しいたかったけど…。ごめんな?」

 

ドイツの国際空港でラウラ達との挨拶をしていた。

その中でも最年少のヒルダは今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で見上げながら一夏の服を掴んでいる。

そんなを見て一夏は申し訳無さそうな顔でヒルダの頭を撫でてやる。ここ数日で完全になつかれた一夏はヒルダを妹のように可愛がっていたのだ。

 

「また会いに来るから、それまで我慢してくれ。」

 

「ホントに? ホントに会いに来てくれる?」

 

「あぁ、本当だとも。だから、それまで我慢できる?」

 

一夏が頭を撫でながらヒルダに尋ねると、彼女はコクコクと首を縦に振った。それを見た一夏はニコリと笑い、ヒルダの頭を目一杯撫でてやる。

すると、満足したのかヒルダはそれまでぐずるように掴んでいた一夏の服の裾を離した。

 

「それじゃあ次に会うのはIS学園で、だな。」

 

「あぁ。と言ってもあともう少しで夏休みも終わりだけどな。」

 

「そうだな。それまで元気でいろよ?」

 

「勿論だよ。」

 

ヒルダの次はラウラである。

他愛もない世間話を交わした二人はそのあと軽い抱擁の後別れた。

また会うからと、二人はそう言って空港で別れたのである。

こうして織斑一夏はドイツを出発し、日本に向かった。

 

 

 

 

 




Pヘッド…、いったい何65プロの人間なんだ…?

では次回でお会いしましょうノシ



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第108話 北星南美 vs.七枷社

朝が早過ぎるせいで最近体の調子も悪い気がする。

では本編をどうぞ↓


 

「さて、いよいよ今日…。」

 

朝起きた南美はカレンダーの日付を確認し、気を引き締める。

今日は裏ストリートファイトのトップランカー、七枷社との勝負の日だ。

軽くシャワーを浴び、パーカーとショートパンツといういつもの服装に着替え、マスクを着けて南美は裏ストリートファイトの会場に向かった。

 

 

 

控え室にはグーヤン、雛子、短パンの少年、そして社が既に集まっていた。

社は既にやる気全開であり、普段の彼からは想像もできないほど殺気に溢れている。

 

「ふふ、今日は面白いものが見れそうね。」

 

「えぇ、全力の社さまはいつぶりでしょうか。」

 

グーヤンと雛子の二人は互いに笑いあっているがらその横にいる短パンの少年は社の殺気に充てられ、カタカタと震えてしまっている。

 

「…ふぅ…。先に行って待ってるぜ…。」

 

社は逸る気持ちを抑え部屋から出ていった。

南美はそんな社の後ろ姿を見送ると大きく息を吐いて深呼吸する。

気負いすぎず、緩みすぎずといった理想的な心理状態に整えた南美は“よしっ!”と一言決意したように呟くと、部屋を出て試合の会場へと脚を向けた。

 

 

「待ってたぜ…。マスクゥ!」

 

「そうですか…。では早速仕合いましょう!!」

 

狭く薄暗い路地、幅2メートル弱というその狭いフィールドで二人はお互い構えを取って睨み合う。社は腕を胸の前に上げ、前後にステップを踏みながら南美の動きを観察している。

対する南美はいつものように両手を平行に構えながら膝を上下に緩く動かしている。

 

「……ショオッ!!」

 

「オラァ!!」

 

先に仕掛けたのは南美である。路地に吹き込んでいた風が止み、辺りが急に静かになった瞬間に南美は一気に駆けだし間合いに入ると容赦なく鋭い上段蹴りを繰り出す。もちろん社もそれには反応し、南美の上段に合わせるように拳を振り下ろした。

社も南美も腕を使ってそれぞれに向かって繰り出されている攻撃を正面から受け止める。

しかし体重の差なのか、お互いの攻撃を受けたとき、南美だけ押し込まれて後退する。

だが南美はその瞬間も手を緩めずにまた一歩踏み込んで仕掛けた。

 

「シュゥウ…シャオッ!!ショオ!シャオォオッ!!」

 

「ち、この…!?」

 

ローキックから上段への手刀など上下左右に意識を揺さぶるように多角的に南美は攻めを展開する。体重と純粋な筋力で負けている南美からすれば正面からの殴り合いは愚の骨頂なのだ。故にこうして手数で攻めている。

最初からフルスロットルな南美の攻撃を社は致命的な部分は防ぎつつ受けに回る。

しかし簡単に受けに回るほど柔な社ではない。

 

「フゥゥ…シャ──」

 

「調子こいてんじゃねぇぞコラァ!!」

 

「ッ!?」

 

社は南美が突き出した手刀を掴み、背中を反らせて無理矢理変形のバックドロップに持って行き腕力だけでコンクリートに叩き付ける。

が南美は投げられた瞬間に体を捻って横の壁に足をぶつけて失速させると、その分の時間的な余裕を活かして足から着地した。

そして着地から即座に跳びオーバーヘッドキックで社を強襲する。

社も無理矢理投げた体勢からすぐさま立て直して南美の蹴りから逃れた。

 

「ち…。」

 

「決まりませんか…。」

 

離れた距離から再度睨み合いになった二人は息を整える。

どちらも極限まで集中を研ぎ澄ませている二人は互いの隙を窺うもののつけいる隙を見つけられずに場は硬直する。

それを窓から眺めているグーヤンと雛子は息を吞んで見守っていた。

 

「ふーん、速いわね…。」

 

「グーヤンさまはあの速度についていけますか?」

 

「さぁ…、目の前で見てるわけじゃないから分からないけど…。まだ勝てる範囲ね。」

 

グーヤンが興味深そうに南美を眺めていると隣いた雛子が尋ねる。その質問にグーヤンは小さく首を傾げてからティーカップに口をつけた。

その様子を傍から見ていた短パンの少年は窓から身を乗り出して社と南美の勝負に目を移す。

 

 

「フゥゥウ…シャオッ!!」

 

「甘えよ!」

 

懐に潜り込んで南美は手刀を振り上げる。

が社は振り上げられた瞬間に腕を使ってそれを止め、空いているもう片方の手で南美の頭を掴みにいく。だが南美はそれを腕で弾くと、社の膝に前蹴りを入れて距離を取った。

 

「フゥゥゥウッ!!」

 

「オラァ!!」

 

そしてすかさず間合いを詰める。

南美は全速力で社との距離を詰め、彼の首に目掛けて蹴りを放つ。社はそれを気に止める素振りも見せず、ただ真っ直ぐに南美の頭を掴みにいった。

南美の渾身の蹴りを受けても社は止まらず、南美の頭を掴んだ。掴まれた瞬間に南美は両手で社の肘関節を極める。

 

「ムダァ!!」

 

「ッッッ!?」

 

関節を極められながらも社は南美を掴んで壁にぶち当てる。路地裏に固いものに叩きつけられた時の独特な音が響く。

しかし叩き付けた社は顔を歪めて、南美を離した。支えを失った南美の体はズルズルと壁に沿って地面に横たわる。

 

「ぁ、あああっ!??」

 

「………。」

 

社は南美を掴んでいた右腕の肘を押さえて踞る。

一方で南美はよろよろとした足取りで立ち上がった。

南美の目は焦点が合っておらず、虚ろな目で社のいる場所を眺めている。

 

 

「……何が…?」

 

「Ms.マスク…、それは悪手じゃないの?」

 

眺めていた雛子は何が起こっていたのか分からず、隣のグーヤンへと顔を向けた。

ティーカップをくゆらせていたグーヤンは一拍置いてからカップを置き、人差し指を立てる。

 

「捨て身で肘を折ったのよ。まぁ、頭を庇わなかった分、マスクの方にもだいぶダメージが入ってるでしょうけど。」

 

グーヤンの言うとおり、頭を強打した南美の足元は覚束ない。

対する社は肘を押さえ、苦悶の表情になりながらもゆっくりと立ち上がった。どちらがより危ない状態なのかは一目瞭然であり、そんな二人を眺めているグーヤンはつまらなそうに溜め息を吐いて空になったティーカップを短パンの少年に下げさせた。

 

「社は右肘を持ってかれたけど、まだまだ動ける。一方でマスクは故障こそないものの、頭を強打してふらついてる…。」

 

「あ……。」

 

「そういうこと。時間が経って痛みに馴れれば社はまた動けるようになる。…この勝負、もうマスクに勝ち目は───」

 

窓から南美の顔を覗き込んだグーヤンはそこで言葉を失った。

笑っているのだ。今まで顔を隠していた白いマスクを外し、好戦的な、獣のような笑みを浮かべ、鋭い眼光で目の前の社を睨みつけている。

 

「…なんであんな顔が出来るの? 頭を打って気でも狂った?」

 

常人ならば倒れているであろうダメージを受けても尚、まだ戦おうとする南美にグーヤンは戦慄を覚えた。

何が彼女をそこまでさせるのかは分からないが、この時グーヤンははっきりと、眼下で笑う少女に恐怖したのである。

 

 

「楽しいですね、社さん…。」

 

「おう、そうだな…。たっく、どんな顔してるかと思えば、モデル顔負け。そんな顔してるかと思ったら、こんなエグいことしやがって…。」

 

右腕を抱えていた社はそう言うと力なく右膝を着いた。

プルプルと震える右足と、苦悶の表情を浮かべる社の様子を見て、南美はニヤリと笑う。

 

「博打だったんですけど、上手くいきましたね。」

 

「この野郎…。あの一瞬でオレの膝を蹴り抜きやがったな…。」

 

「えぇ、たぶん肘を折ったくらいじゃ止まらないと思ったので…。」

 

さらりと言ってのける南美であったが、それがどれほど難しいのかは社の実力を知るグーヤン達がよく分かっていた。だからこそ、社を含め、グーヤンも雛子も南美の所業に驚いている。

南美は肘関節を極めることで社の意識を自分と肘に集中させ、その隙に社の右膝へと強烈な蹴りを振り落としたのだ。

 

「1枚上を行かれたが、まさかそれで勝った気になってんのか?」

 

社は脂汗を流しながら、ゆっくりと立ち上がる。しかし明らかに右足には体重が掛かっておらず、左足だけで体を支えていた。

右腕と右足の関節を壊されながらも、社の目はまだやる気である。

 

「かかってこいよ…、マスクゥ!!」

 

「言われなくてもです。」

 

社の言葉に南美は一歩後ろに下がり、両手を胸の前で平行に構える。まだ全力で応えようとする南美の態度に社は満足そうに笑った。

 

「それじゃあ行きますよ。」

 

「応よ。」

 

笑っている社に向かって南美は全力で距離を詰める。

社は笑顔を絶やさずに南美の突撃を正面から迎え撃つ。

 

「シャオッ!」

 

「ぁあっ!?」

 

機動力を失った社は高速で突き出される南美の手刀を掴みにいく。

そして狙い通りに突き出された腕を掴み、腕力で無理矢理投げに行く。南美は逆に自分から跳んで肩口に蹴りを落としてから着地する。そして着地と同時に体を捻って社の掴みから抜け出した。

 

「まだまだぁ!!」

 

「シャオッ!」

 

強気に南美を懐に誘い込むものの、見事に寝技や掴みをいなされ社にダメージが蓄積されていく。

タフさだけならばこの裏ストリートファイトの中でも随一のものを誇る社はしぶとさでもまた裏ストリート有数である。

 

そして左腕で掴みにいく社とそれを利用しながら攻める南美の構図が出来上がって数分のことである。

 

「うぉらぁあっ!!」

 

「っ!?!」

 

社が南美の放った蹴りを掴み、それを外す暇さえ与えずに力任せに壁へと叩き付けたのだ。

だが躊躇なく社の剛腕で壁に叩きつけられた南美はその状態から壁を蹴って加速し、半ば放心状態の社に突撃する。

 

「フゥゥゥゥ───」

 

たった一瞬の出来事であったが、社は南美を倒せなかったことを認識した瞬間にそれ以上の抵抗を止めた。

最後の一撃はあの状態で出来得る最高のものだったという自信があった。それなのに、南美はこうして反撃を試みている。それを見た社は感服の念を以て南美の繰り出さんとしている一撃を受け止めようとしたのだ。

 

「シャオッ!!」

 

全力で放たれた南美の逆水平の一撃はずしりと社の体に響く。

そしてその一撃を受けた社は満足そうに笑い、仰向けに倒れた。その様子を上から眺めていたグーヤンと雛子は驚きのあまり、呆然と二人を見つめている。

 

「お前の勝ちだ、マスク…。」

 

「えぇ、私の勝ちです。」

 

仰向けに倒れている社の言葉を肯定した南美は社に背を向けるとぐっと右手を大きく掲げ、そのまま出口へと歩いていった。

 

 

この日の七枷社対Ms.マスクの仕合は裏ストリートファイトの会員達の間で大きく話題となった。

配信された動画のアクセス数は大きく伸び、最大再生回数記録を更新したという。

 

 

 

 





南美、勝利!!

では次回でお会いしましょうノシ



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第109話 決着の後と、一夏くんの帰国道中


昼間の気温が高くなってきて、洗濯物が楽になってきた今日この頃。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

 

「軽い脳震盪ですね、はい。間違いありません。」

 

社との勝負の後、ヴァネッサにより半ば強制的に裏ストリートファイト御用達の病院に連れてこられた南美は医師の診断を受けた。

診断結果は頭を数回打ち付けたことによる脳震盪であり、命に関わるものではないとのことである。そうして診断を受けた南美はその足でほんわ君の家に向かった。

 

 

 

 

「ん、ぁ…そこ…。」

 

「ここがいいの?」

 

「はい…。」

 

ほんわ君の家、南美とほんわ君は二人きりだった。

二人きりの部屋の中で南美の艶っぽい声が小さく響く。

 

「…もっと…、強めでも構いません。」

 

「うん、分かった。」

 

「っんぅ…、そこ、ですぅ…。」

 

「ここかな? どう、気持ちいい?」

 

「はい、気持ちいい、です…。」

 

部屋の中で南美はほんわ君に膝枕されながら耳かきされていた。

丁寧なほんわ君の耳かきに南美は気持ちよさそうな顔をしてほんわ君に身を任せている。

しばらくして耳かきが終わり、膝枕のまま静かにまったりしていると、南美が口を開いた。

 

「…ほんわ君さん…。」

 

ベッドの上でほんわ君の膝枕で寝ている南美は顔を上に向けてほんわ君を見る。名前を呼ばれたほんわ君は視線を落として南美と視線を合わせる。

 

「どうしたの南美?」

 

「もし、もし私が傷だらけの女の子になっても好きでいてくれますか?」

 

「もちろん。南美のことは、これからもずっと大好きだよ。」

 

南美の質問に即答で返すと、ほんわ君は南美の頭を撫でた。撫でられた南美は頭の向きを変え、照れている顔を隠すようにほんわ君の体に顔を押しつける。

 

「ほんわ君さんのそういうところ、ずるいです…。」

 

「そうかな?」

 

「そうです。」

 

頭を傾げるほんわ君はそのまま南美の頭を撫でている。南美はそうしてほんわ君の膝から頭を離すと、ほんわ君の体に抱きついた。

 

「ほんわ君さん…、大好きです。浮気したらダメなんですからね?」

 

「うん、ボクは一生南美一筋だよ。」

 

ほんわ君は南美の体を抱きしめながら彼女の頭を撫でる。南美はゆったりとほんわ君に体を預けて力を抜いた。

 

 

 

 

そうして南美とほんわ君が幸せな気分に浸っている時、日本へと飛行機で向かっていた一夏はというと……

 

 

side 一夏

 

 

どうも皆さん、織斑一夏です。自分は今飛行機の中にいますが、機内の空気がとてつもなく重いです。

 

「大人しくしろぉ!!」

 

…何で飛行機の中で銃を持ち出している人達がいるんでしょうね。あ、そういうドッキリとか? もしかして芸能人が乗ってるのかも。

……現実逃避はやめよう。うん。間違いない、この飛行機はハイジャックされている。ハイジャック犯は確認出来るだけで四人。一人だけならまだワンチャンあったけど、四人は多い。

 

「大丈夫か? 一夏くん。」

 

「あ、大丈夫です。」

 

俯いていたオレを心配してくれたのか、隣に座っているジョセフというお爺さんが声を掛けてきてくれた。このジョセフさんとはこの機内で隣同士になった縁で仲良くなったのだが、このジョセフさん、こういう事態になれているのか全く動じていない。

これが年の功というものなのだろうか。オレも年を取ったらこんな落ち着いた人になりたいと思う。

 

いや、そんなこと考えてる場合じゃない。このままだとどうなるんだ?

ハイジャックしたってことは少なくとも何かしらの狙いはあるってことだよな、じゃあその狙いを果たす為にこうしてる…。その間人質のオレ達は安全ってことだよな?

 

いざとなったら白式で…いやダメだ。機内じゃ狭すぎる。

まだ打てる手段はないか…。

 

side out...

 

 

一夏を乗せた飛行機はそのまま予定していた航路から外れていき、欧州スペインへと向かっていった。

 

 

 

 

「ハイジャックねぇ。」

 

「犯人からの要求はあるのか?」

 

ハイジャック犯を載せた飛行機はスペインの国際空港に着陸し、現場は緊張に包まれていた。

空港にはメディアが押し掛けると共に対テロリストの組織が派遣されメディアへの対応に追われている。

 

そんな中、管制室に設けられた臨時の会議室にはとある人物が二人、呼び寄せられていた。

 

「ソフィア=ドラゴネッティ、参上した。」

 

「セサル・ヴェニデ、召集により参上致した。」

 

その人物とはスペイン国家代表のソフィアと、代表候補生のセサルであった。

二人は既にISスーツを身に付けている。そのスーツはIS学園などで一般的なモデルのようなものではなく、袖着き裾着きでそれなりに露出は控え目である。

 

「来たか。まぁ君たちの出番はまだ先だ。楽にしていてくれ。」

 

「おう、そうさせてもらうぞ。」

 

ソフィアは男の言葉を聞いて、近くにあった椅子に座る。セサルもそれに倣ってソフィアの隣に腰を降ろした。

 

 

 

side 一夏

 

 

どうする、てか今どこだ?たぶん日本じゃない。ハイジャックの連中の口振り的にヨーロッパのどこかだとは思うけど…。

 

「そう暗い顔をするな一夏くん。いざとなったらワシがなんとかする。」

 

「は、はい…。」

 

ジョセフさんは凄いな。こんな状態なのに平然としてられるなんて。

でもなんとかするって、どうするつもりなんだろうか?ハイジャック犯は最低でも四人、最悪まだ乗客に紛れ込んでいる可能性もある。

そんな状況でどうにかできるのか?

 

[おい、飛行機の中のISパイロット、聞こえているか?]

 

[っ?! はい、聞こえています!]

 

悩んでいると突然頭の中に知らない女の人の声が聞こえてきた。これは個人間通信…、つまり話しかけてきているのはISのパイロットか…。

 

[ん? 男の声…、あぁ、そういうことか。織斑一夏だな。]

 

[は、はい、あなたは?]

 

[己《オレ》はソフィア=ドラゴネッティ、スペインの国家代表だ。今の機内の情報を教えろ。]

 

国家代表…。救助に来たのか…。だとすればこれ以上ない味方だ。

 

[今は銃を持ったハイジャック犯が四人、機内を見張るように立ってます。ただ、ファーストクラスまでは流石に見えません。]

 

[了解だ。少し待ってろ。こっちの交渉人が、今ハイジャック犯と交渉の連絡を取ろうとしている。その結果如何では武力行使もあり得るからな。]

 

[分かりました。]

 

それだけ会話を交わしてソフィアさんは通信を切った。

これで少しだけ希望が見えてきたかもしれない。

 

 

 

side out...

 

 

「犯人の要求を飲むのか?」

 

「しかしそれでは他国に示しが…。」

 

「それで人命を蔑ろにするのですか?」

 

会議室の中ではお偉方があーでもないこーでもないと言い争っている。そんな時に、傍で座っていたソフィアが口を挟む。

 

「おい、飛行機内部にいたISパイロットの正体が分かったぞ。織斑一夏だ。」

 

「…それは面倒なことになった…な。」

 

「いやぁ、どうしましょ?」

 

「何を迷っている。機内に専用機持ちがいるんだぞ? ラッキーではないか。」

 

頭を抱えるお偉いさん方に対してソフィアはズバッと言った。そんな彼女の言葉にお偉方全員が溜め息を吐いた。

 

「それで彼が怪我したらどうする? 国際IS委員会に要らぬ介入を受けるかもしれないんだぞ。」

 

「ふん、ISパイロットがそんな軟弱者なはずがなかろう。このまま交渉が膠着して時間を浪費するよりも、早く解決した方が世間からの評判も良いと思うがな。」

 

ソフィアの提案に、お偉方は皆“うぅむ”と唸る。何人かがチラチラと、ソフィアの隣に座って黙っているセサルへと視線を投げ掛ける。

その視線に気付いたセサルがハァと小さく息を吐いて言葉を続ける。

 

「私が読んだ交渉術の本によると、どちらかが交渉のテーブルに着かなかった場合、実力行使をするしかないらしいな。…それで、向こうに交渉の連絡を入れてから何分だ?」

 

「確か…もうじき20分は経つ頃だな。」

 

セサルの言葉にソフィアはわざとらしく近くの時計を見上げて言った。

そんなIS乗り二人の言葉にお偉方は観念したように息を吐く。

 

「分かった、後は君の判断に任せるよソフィア。」

 

「おう、任された。行くぞセサル。」

 

「了解です。」

 

ソフィアは不敵に笑い、セサルを伴って部屋から出ていった。

 

 

 

side 一夏

 

 

[おい、己だ。]

 

[はい、どうなりましたか?]

 

飛行機の中で待っていたオレにソフィアさんから連絡が入る。

 

[お偉方が己に全権を寄越した、これからハイジャック犯の制圧と乗客の救出をするぞ。]

 

[了解です。]

 

[こちらは己ともう一人、IS乗りがいる。そっちはお前一人だけだな?]

 

[はい、そうです。]

 

[分かった。己の合図でISを部分展開しろ。そうすればシールドエネルギーが働くようになる。それでハイジャック犯を制圧する。上からも飛行機の破損には目を瞑ると、許可を貰ったからな。]

 

そうか、部分展開があった。なんで今まで失念してたんだろうか…。

まぁいい。今はハイジャック犯の鎮圧だけを考えろ。大丈夫だ、国家代表とそれに肩を並べる人がいるなら何とかなるだろう。

 

落ち着け、平静を装え…。

オレは冷静だ。

 

[準備はいいな? 3…2…1…GO!]

 

通信から聞こえてきたソフィアさんの合図と一緒にオレは動きだす。

座席から立ち上がり、白式を部分展開する。

それとほぼ同時だった。

オレの、いや正確にはオレたちの頭上、飛行機の屋根が切断され、キレイに蹴り飛ばされ吹っ飛んだ。

 

 

「ガオー!!」

 

そして上空から一機の白いISが高速で降下してきた。

 

 

side out...

 

 

 

 

 

 





ISのちからってすげー!

では次回でお会いしましょうノシ



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第110話 一夏くんの帰国道中と先生の恋バナ飲みニケーション

前回の続きからスタート。

では本編をどうぞ↓



 

 

[3…2…1…GO!]

 

「せいやっ!!」

 

ソフィアの合図と同時にセサルは持っていた大斧を横凪ぎに払い、飛行機の船体に亀裂を入れる。

そこへ間髪入れずにソフィアがISの爪先をその亀裂へとねじ込み、蹴り上げた。すると飛行機の上部がキレイに剥がれ、内部まで丸見えになる。

 

「ガオー!!」

 

そして可愛らしい叫びを上げながらソフィアが飛行機に向かって降下する。

着地まであと僅かというところでソフィアは専用機を部分展開に切り替え、脚部だけ展開した状態になる。

普通のISのものよりも一回りも二回りも小さいその脚部パーツは例え客席の間であっても起動を妨げない。

着地したソフィアはそのまま目の前にいる銃を持った男をグーパンでのすと、すかさずその奥にいた男までダッシュする。

突然のことで反応出来なかった男は何も出来ず棒立ちでソフィアに懐へと潜り込まれる。

 

「ドラゴンアッパー!!」

 

繰り出したアッパーが男の顎を捉えたことを手応えから感じたソフィアはそのまま跳躍し、男の体を上に吹き飛ばす。

一夏がそんなソフィアの行動に見惚れていると、その逆側から二人の男の呻く声が響く。

一夏がそちらに顔を向けるとそこには完全にハイジャック犯を制圧したセサルがいた。

 

「任務完了。」

 

「は、早い…。」

 

「お~、そっちも終わったか。」

 

気絶させた男二人を引きずってソフィアは一夏とセサルに合流する。セサルは男達から上着をはぎ取り、それを使って簀巻きにする。

 

「さて、これで取り敢えずは全員か?」

 

ソフィアは周囲を見渡しながら確認する。乗客たちは突如として現れた人物の電光石火の捕物劇にぽかーんとしていたが、その人物がスペインの国家代表であることを認識すると、一気に沸き立った。

 

「おいおい、そんなに騒ぐなよ。早く避難しろ。」

 

わいわいと騒ぐ乗客を宥めるようにソフィアが言い、セサルが避難の誘導を始める。

彼女らと駆け付けたスタッフに誘導され、乗客たちはスムーズに飛行機を降り、その後の対応を待つこととなった。

 

 

 

「ふむ、お前が織斑一夏か。なるほど、実物の方がテレビで見たよりもイケメンだな。」

 

事態が収束してからソフィアによって半ば拉致されるようにとある小部屋に連れてこられた一夏は椅子に座らされ、じろじろと品定めされるように全身をソフィアによって見つめられる。

ソフィアの背後からはセサルもまた興味深そうに一夏をじっと見ていた。

 

「あ、あの、何か…。」

 

「ん? あぁ、ちょっとな。」

 

「ソフィアさん、何か掴めましたか?」

 

セサルからの質問にソフィアは一夏から顔を離して首を横に振る。

その仕草にセサルは溜め息を吐いて、手元のパソコンに何かを打ち込んでいく。

 

「なんの変哲もなく普通の男だな。どこかしら変わったなにかがあると思ったのだが…。」

 

「は、はぁ…。」

 

「もしかすれば、己の英雄殿に…とも思っていたが、女の匂いがするんじゃ手を出すわけにもいかん。」

 

ぽりぽり後頭部を掻きながら席に着く。代わりにセサルが一夏の前に立った。

セサルは興味深いものを見るように一夏の顔を触り始める。突然の行動に一夏は戸惑いを覚え、セサルの手から逃れるように立ち上がった。

 

「…すみません…。」

 

「い、いや…。」

 

我に返ったセサルはじっと一夏の事を見たまま謝った。

そんな彼女に一夏は疑問を抱きながらセサルの様子を観察する。彼女の様子はじっと一夏の力量を見定めるようにジト目で見ており、そこから何かを探ることは出来ないと判断した一夏はハァと溜め息を吐いてあきらめた。

 

「なかなかに強そうです…。織斑一夏さん、私の婿になりませんか?」

 

「は…、えっ!?」

 

突然のセサルの衝撃発言に一夏は目を点にして叫ぶ。しかしセサルは何を驚いているのかと言わんばかりの顔で首を傾げて一夏を見ている。

そんな二人の様子をソフィアは楽しそうに笑って見ていた。

 

「私は強い人が大好きなんです。」

 

「だ、だから…?」

 

「貴方のことが気に入ったということですよ。」

 

素直に気持ちを言葉にするセサルに一夏は顔を赤くするものの、脳裏にラウラとカセンの顔が思い浮かび、平静を取り戻した。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、その、すいません。」

 

「…そうですか…。残念です。」

 

断られたセサルは残念そうに溜め息を吐いて、一夏から離れる。

しかし、すぐに平静を装い、話しを切り出した。

 

「貴方はIS学園に居るのですよね?」

 

「ああ、そうだよ。」

 

「なら、来年には貴方は先輩殿ということになりますね。そのときは、よろしくお願いしますね?」

 

そう言ってセサルは手を差し出した。一夏はそんなセサルの手を取った。

一夏に手を握られたセサルは満足そうに笑う。

 

「申し遅れましたが、私の名前はセサル・ヴェニデと言います。よろしければセサルと気軽にお呼びください。」

 

「あぁ、よろしくセサル。」

 

「はい。」

 

優しい笑みを浮かべる一夏にセサルは頭を下げる。

そんな様子をにやにやと笑って眺めていたソフィアはぱんぱんと手を叩いて自身の存在を二人に伝える。

 

「そろそろ一夏を解放してやるぞ。そうじゃないと帰国用の便に間に合わん。」

 

「そうですね。それでは織斑さん、またお会いしましょう。」

 

セサルはその部屋を後にし、ソフィアが一夏を外へと連れていった。

外に連れてこられた一夏はそのままソフィアの案内で、用意されていた日本行きの飛行機に他の一緒にハイジャックにあった乗客達と乗り込んでいく。

 

その際にソフィアが“また会おう”という言葉を残す。

そんなソフィアの言葉に一夏は首を傾げて聞き返そうとしたものの、時間の都合でそれは叶わなかった。

そうしてモヤモヤした何かを抱えながら、一夏は今度こそ日本へと帰国するのであった。

 

 

 

一夏が事件に巻き込まれている頃、その実姉の千冬はというと───

 

「珍しいじゃないか、真耶の方から飲みに誘うなんて。」

 

「は、はい…、その、先輩に少し個人的な相談がありまして…。」

 

後輩の山田真耶と一緒に、夢弦のとある居酒屋に来ていた。

テーブルの上には軟骨のから揚げと生ビールの中ジョッキが二つ置かれており、まだまだ話は始まっていない。

二人ともいつものスーツではなく、それなりにラフな格好をしている。話を始める前に千冬はジョッキに注がれたビールを半分ほど飲み干した。

 

「まぁ、生きていれば悩みの一つや二つは当然だ。何でも話してみろ。」

 

「はい、それで、ですね…。」

 

命の水(アルコール)を摂取した千冬は真耶に相談事を話すように切り出した。その言葉を受けて真耶は少しだけ恥ずかしそうにしながら悩みを打ち明ける。

 

「あの、警備員の狗飼さんっているじゃないですか。」

 

「あぁ、いるな。」

 

真耶の言葉を聞きながら千冬は軟骨のから揚げに箸を伸ばす。そんな中、真耶は思いきったように口を開いた。

 

「わ、私…ですね、狗飼さんの事が好きなんです。」

 

「ほう、そうか。……うん? 今なんて言った?」

 

軟骨のから揚げを箸から落とした千冬は真耶へとしっかり顔を向けて聞き直す。

 

「だ、だから、その、狗飼さんの事が好きなんです、私…。」

 

「ほう、ほうほう…。初耳だ。」

 

「そりゃ初めて言いましたもん。」

 

珍しいものを見たというような顔をする千冬とその向かいには顔を茹でタコのように真っ赤にしている真耶がいる。

千冬はどことなくオモチャを見る子供のような瞳をしており、真耶は相談する人間を間違えたかもと、やや不安そうな顔になる。

 

「それで? どこまで行った、Aか?Bか?まさかCまで行ったか?」

 

「そ、そそそそそ、そんな、ことしてませんよ! そ、その、一緒にお弁当食べたりとか、お話したりとかですもん!」

 

「なんだ、つまらん。」

 

質問に慌てふためく真耶を見て面白がっていた千冬であったが、返ってきた質問に対してばっさりと打ち捨てた。

そんな千冬を真耶はむぅと軽く睨み付ける。

 

「ハッハッハ、悪かったよ。そんなに睨むな。」

 

「こっちは真剣なんですよ?」

 

「悪い悪い。つい、な。」

 

ジョッキのビールを飲み干した千冬は店員を呼んで追加の酒を注文する。

そして頼んだ酒が来るまでの間に、千冬は真剣な顔になって真耶の方を見る。

 

「本気で好きなら、ありのままの真耶を見せればいいさ。私が言えるのはそれだけだよ。」

 

「わ、分かりました。」

 

「ま、精々頑張るんだな。」

 

千冬はそれだけ言って軟骨のから揚げを頬張る。

それっきり、真耶の相談には何も触れなかった。こうして時間は緩やかに過ぎて行き、夜も更けていくのだ。

 

 

 

 




恋っぽいこと、しようぜ?

では次回でお会いしましょうノシ



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第111話 目覚め始める力


そろそろ話を進めていかなきゃと思うこの頃。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

「…ん、うぅん…。」

 

ふかふかの布団の中で南美は寝返りをうっていた。

朝の眩しい陽射しによる明るさが無理やりにでも起こそうとしているのだ。

 

[──I am the bone of my systems.───]

 

 

「…ん、…何…?」

 

突如として頭の中に聞き覚えのない声が響く。

南美が布団から顔を上げて部屋の中を見渡しても、そこにはいつものあまり物が置かれていない自分の部屋が映るばかりで誰もいない。

 

「…なんなの…?」

 

幻聴なのか、気のせいなのか分からないが不審に思った南美は時計を確認した。

時刻はまだ朝早く、かと言って二度寝するような気分でもない。そこで彼女は自宅に備え付けられているジムへと向かった。

 

 

 

「フゥゥゥゥ、シャオッ!!」

 

南美がサンドバックを蹴りつけるとスパァアンと耳にも心地よい音を立て、天井から吊るしている鎖がギシギシという。

かれこれ数十分ほどジムに籠っている南美は夏の暑さも手伝って額から大粒の汗を流している。

濡れて肌に張り付く服や拭っても拭ってもあふれでてくる汗を鬱陶しく思いながら、南美はサンドバックに向き合うのだった。

 

[──Steel is my body, and fire is my blood──]

 

「また…。」

 

今朝と同じように頭の中に声が響く。

聞き取れた言葉から英語であることを理解した南美は単語単語を分解して意味を考える。

 

(鉄の体、火が血液…? 訳が分からない。)

 

意味を理解しようとしても何も分からず、南美は諦めたように大の字に寝転び、天井を眺める。

浮かぶのは裏ストリートファイトの光景だった。

 

四条雛子、七枷社と言った強敵と戦い、充実した夏休みを送っている南美であるが、ISに関してはまだ大きな実感を得られないでいた。

ISの技術は合間を見てLOCエンタープライズの訓練室を使ってはいるし、性能面もLOCの技術者が日夜研究を重ねている。

だからこそ、実力が伸び悩んでいることに南美は少しだけ焦っていた。

 

 

[──I have tried over a thousand challenges──]

 

「もう…、なんなの…?」

 

そんな彼女の心情を無視したように頭の中で声がする。

そこで1度気持ちが切れたついでに時計を確認した南美はもういい時間であることに気づき、シャワーを浴びてジムを後にした。

 

 

「お姉ちゃん、おはよう!」

 

「あーちゃん、おはよ~!」

 

自宅の居間に来た南美は飛び付いて来た愛する妹を受け止めて抱き抱える。

抱き抱えられた天慧はすりすりと南美に頬擦りして顔を緩ませる。

ここ最近、外泊の多かった姉に久しぶりに甘えられてご満悦の様子だ。

 

「よしよし、ホントにいい子だね~。」

 

南美は甘えてくる天慧の頭を撫でながら、キッチンから漂ってくる匂いにつられ、ふらふらと歩いていく。

 

「おはよー、母さん。」

 

「ママ、おはよう!」

 

食堂に着いた二人は朝食の準備をしている母七海に挨拶する。

エプロン姿の七海は二人の姿を見ると、“はい、おはよう”と優しく笑った。

南美と天慧の二人は席に着くと、七海が用意した朝食を食べ始める。そうしていると、眠そうな顔をした義仁が食堂に現れた。

 

「おはよう父さん。」

 

「おはようパパ!」

 

「あぁ、おはよう。」

 

とても疲れている様子の義仁は椅子に腰を下ろすと、用意されているコーヒーを一杯一気に飲み干した。

 

「大丈夫なの父さん…? 最近忙しいみたいだけど…。」

 

「いや、大丈夫さ。ちょっと事件が多くて対応に追われているだけだから。」

 

義仁はハハと笑うが、どう見ても疲れているようだった。心配する南美であったが義仁は“大丈夫”の一点張りで押し通した。その頑なな態度に南美がそれ以上追求することはなかった。

 

 

 

「いらっしゃい、ゆっくりしていってくれ。」

 

その日の昼頃に南美はLOCエンタープライズに来ていた。

理由としては専用機“ラスト”のデータ解析と、LOCエンタープライズ専属の医師、不律氏の診断を受けるためである。

あの謎の声が幻聴なのか、はたまた本当に聞こえているのかが気になった南美はISパイロット新米時代からお世話になっている不律氏のもとを訪れたのだ。

 

「よく分からない声が聞こえる…じゃったか。」

 

「はい、聞き覚えもない声と文章で…。」

 

レントゲンやMRIなど一通りの事を受け、南美と不律は診察室で向かい合う。

レントゲン写真やMRI画像などを眺めながら不律はうなる。

 

「ふむ…、体にはなにも異常は見られん。健康そのものじゃ。あとは儂にはわからんの。」

 

「そうですか…。」

 

不律の診断に予想出来ていたかのように頷いた。

こうなると後可能性がある原因はラストになにかが起こっているという事だろうか。

少しの期待と不安を覚えた南美は不律に礼を述べて診療室を後にすると、暁氏がラストの解析を行っている技術室へと向かった。

 

 

「暁さん、ラストはどうなってますか?」

 

「あぁ、もうそろそろ解析が終わる。」

 

「少しだけ待っていろ。」

 

LOCエンタープライズのIS部門の技術屋である叢雲氏と暁氏はラストのデータが送り込まれてくるタブレット端末を二人で覗き込みながら眉間に皺を寄せる。

そんな二人の様子に南美は大人しく部屋の隅に座った。

 

「…ISの自己進化システムか…。なんとも恐ろしいものだな。」

 

「それを作り出したあの篠ノ之束はどれだけの傑物なのか…。」

 

「ここまで来ると、AIというよりもまるで──」

 

「自我だな。」

 

解析を終えた二人が端末の画面を眺めながら真剣な顔で言葉を交わす。

そして、二人がある結論に行きつくと、部屋の隅に座っている南美を呼び寄せた。

 

「結論が出たよ。」

 

「そ、それで結果は…?」

 

「君の言っていた不思議な声、その原因はラストにあるだろう。」

 

「ラスト…が、ですか…。」

 

やはりそうかと南美が頷くと叢雲が言葉を続ける。

 

「恐らくだが、ISの自己進化システムが働いた結果だな。」

 

「自己進化ですか?」

 

「そうだ。ISコアに搭載されたシステムだが、これがまたくせ者でな。ISコアが自身の判断で変化することがあるのだ。第二次移行《セカンドシフト》がいい例だ。」

 

そういう叢雲は部屋の隅に放置していたホワイトボードを引っ張って来る。そこキュッキュとなにかを書き込んで行く。

 

「ISコアがパイロット、この場合は専用機の保有者、ラストで言う君のことだが、のデータを自分で解析・理解して変わろうとするのだ。」

 

「えっと、もしかして…。」

 

「あぁ、ラストにも変化が起きつつある。」

 

叢雲の言葉に南美は驚いたように目を見開く。そんな彼女の反応に叢雲と暁は同時に頷いた。

 

「たぶんだが、君の格闘家としての実力の向上をラストが感じ取り、そして自身も君に相応しくあろうとしているんだと私は思っている。」

 

「それって、もしかして、もしかしてですよ…。」

 

「ラストが第二次移行をするかもしれない、それも遠くないうちに…。」

 

「ほんとですか!?」

 

第二次移行、その言葉に南美は顔を輝かせる。

いやそれも当然のことかもしれない。ISの、専用機のパイロットにとって専用機の第二次移行はモンド・グロッソに勝るとも劣らぬ憧れの一つである。それも間近で2回も第二次移行を見ている南美にとっては。第二次移行がどれほどの恩恵をもたらすのかは、他の人よりも知っているし、誰よりも憧れていた。

 

「と言っても、何時になるかは分かりません。こればっかりはラスト次第ですからね。」

 

「だが、これはいい傾向だ。君の実力の向上で変化をしているという仮説が正しければ、君の実力が上がればそれだけラストは成長するということだ。」

 

「え、え、や、やったぁあっ!? 喜んでいいんですよね? ね!?」

 

やや取り乱して興奮した様子で南美は叢雲や暁に尋ねる。大人組の二人はそんな南美をなだめるように落ち着かせた。

そうすることでやっと普段の冷静さを取り戻した南美はフゥと深呼吸して二人に向き直る。

 

「す、すいません。興奮のあまり取り乱しました。」

 

「なに、気にすることはない。」

 

謝る南美に暁達は大人の余裕を見せる。

そんな二人に南美は笑ってみせた。

 

「絶対、お二人に第二次移行後のISを解析させてみせますね!!」

 

「楽しみにしているよ。」

 

「期待している。」

 

こうして南美はある一つの楽しみを抱いてLOCエンタープライズをあとにした。

大きな喜びと希望は南美の悩みを吹き飛ばすには十分だった。

 

 

 




一応のフラグは立った…はず。

では次回でお会いしましょうノシ



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第112話 一夏くんの帰国


…そろそろ夏休み編も終わりかなって。

では本編をどうぞ↓


 

 

「ふう…、今度は無事に着けた…。」

 

ハイジャックに巻き込まれ、スペインの国家代表と候補生と知り合いになるなど、色々波乱にあふれた帰国であったが、なんとか五体満足で帰ってこれた一夏は久々の日本の空気を吸い、背筋を伸した。

当然のように迎えなど居るはずもなく、一夏は一人で空港を出た…のだが…。

 

 

「てやや~。お帰りなさいませ、一夏さん。」

 

空港を出た一夏を出迎えたのは倉持技研の琥珀であった。

帰国の日程などは何一つ伝えていないはずなのに、琥珀は知っていたとしか思えないような完全なタイミングで一夏を出迎えた。

 

「こ、琥珀さん…、どうしてここに?}

 

「それはもちろん一夏さんのお迎えですよ。」

 

ピンと人差し指を立てて琥珀は言う。一夏は知っていた、この琥珀はいつも謎にあふれたことをしでかす人物であり、その行動の法則は読めないのだということを。

笑顔で一夏に詰め寄る琥珀はずずいと顔を近づける。

 

「興味があるんですよね~、一夏さんが旅行中にため込んできたデータに。」

 

「…もしかして…。」

 

「はい、白式のデータを解析させてくださいな。」

 

語尾に音符でもつきそうなくらい上機嫌で言った琥珀を見て、一夏は観念したように溜め息を吐いてうなだれた。

こうなった琥珀は絶対に譲らないとこれまでの付き合いで分かっている。

下手に粘るよりも折れて付き合った方が早いのだ。

 

「さ、それでは早速行きましょうか。」

 

「はい。」

 

一夏は琥珀に連れられて車に乗り込み、倉持技研へと向かうのであった。

 

 

 

「久シブリダナ、小僧。少シハでかクナッタカ?」

 

「お、ロボカイか。久しぶり。ロボレンも、そこに居るんだろう?」

 

倉持技研の中に入ると、琥珀謹製のロボット“ロボカイ”が出迎えた。ロボカイの言動にも一夏はなれた様子で対応する。そして恐らくどこかに隠れて居るのであろうロボレンにも声を掛ける。

一夏の声に反応して柱の陰からロボレンが姿を現した。

 

「ナント、見ツカルトハ…。腕ヲ上ゲタナ。」

 

「ハハハ、マダマダ修行ガ足ラナイナ!」

 

ロボレンは悔しそうに地団駄を踏む。

そんなロボレンの頭に手を乗せてロボカイは笑った。

 

「はいはい、二人とも戦闘用意してきて。今から一夏さんと模擬戦をして貰いますよ。」

 

「ウム。」

 

「了解シタ。」

 

琥珀の言葉にロボレンとロボカイはそれぞれどこかに姿をくらました。

そして一夏もなれたようにアリーナの控え室に向かう。

 

 

「さて、あいつらとやるのも久々だな。」

 

ISスーツに着替えアリーナの中央で待機している一夏は目の前にいるロボレン、ロボカイを見る。

二人はいつものように自然体の構えを取りながら、一夏を見ている。

 

「それでは始めて行きましょう。よろしくお願いします。」

 

「ヨシ行クゾ。」

 

琥珀の合図と同時にロボカイが走り出す。その後ろを追走するようにロボレンも走り出した。

一夏もそれを見て機先を制するように動き出す。

 

「ズェアア!!」

 

「ソイヤッ!!」

 

一夏が振り下ろした雪片をロボカイはハンマーで迎撃する。その隙にロボカイの背後にいたロボレンはピョンと飛び上がり、頭上から奇襲する。

 

「コレデモ喰ッテロ!!」

 

「食べ物粗末にするんじゃね──ぇ!?」

 

ロボレンが振りかぶって投げつけてきたパイを腕で受け止めようとした一夏はあるものを視界に捉える。

それはパイの中にわざとらしく仕込まれた典型的で古典的な見た目をした爆弾である。

 

それを見た瞬間、一夏は本能的に受け止める方向からシフトチェンジし、片手で殴り飛ばした。

その直後に仕込まれていた爆弾が起爆し、ロボカイともども一夏は巻き込まれる。

 

「畜生、無茶苦茶しやがる。」

 

「フハハハハ、悔シカロウ!?」

 

「ホントにな!!」

 

ロボカイを盾にして爆風から逃れたロボレンは爆風で吹き飛ばされた一夏に詰め寄る。

しかし直ぐ様体勢を立て直した一夏はそれを容易に迎撃した。縦に振り下ろされた斧を雪片を横凪ぎに払っていなし、ロボレンの小さな体を蹴り飛ばして距離を取らせる。

 

「コノ…生意気ッ!!」

 

「うるせぇ!!」

 

「ソコダッ!!」

 

「うおっ!? この!」

 

再度ロボレンが投げつけたケーキを雪片で打ち払った一夏にロボカイが襲いかかる。

巨大なハンマーを身を捻って避けて、返しにロボカイの顔面を蹴りつけた。鋼鉄製の顔面は蹴りつけられた衝撃で後ろに倒れかけ、一瞬だけ動きが止まる。

 

「ソラヨッ!」

 

「まだまだぁ!!」

 

蹴りつけられて動きの止まったロボカイを踏み台にロボレンが高さをつけて強襲する。

そのロボレンを足を大きく蹴りあげて迎撃し、体を大きく捻って体勢を立て直したロボカイにも雪片の一撃をかましてから距離を取った。

 

「強イナ。」

 

「サテ、ドウスルカ?」

 

「あ、もう戦わなくて結構ですよー。」

 

さぁこれからという所で琥珀がマイクを通して止める。彼女の指示により、ロボカイ、ロボレンは武装を解除してアリーナから出ていき、一夏もそれに倣う。

 

 

 

「いや~、良いデータが取れました。ご協力ありがとうございますね、一夏さん。」

 

「いえ、オレも長旅で鈍った体を調整できたので。」

 

研究室で琥珀は一夏に頭を下げると、一夏もまた頭を下げる。

その部屋の隅ではロボレンとロボカイが大人しく将棋を差していた。

 

 

 

そんな事があった一方で南美はというと───

 

 

 

「あらあら、Ms.マスクじゃない。もうマスクはしないのかしら?」

 

「えぇ、何万回もあの仕合の動画も再生されてますし、もう今更って感じですから。」

 

控え室でグーヤンと一緒になった南美は軽く世間話をしながら時間を過ごしていた。

社との仕合で素顔を見せてしまった南美はそれ以来顔を隠すことを止めたのである。

 

「それで、只今人気最高のMs.マスクは何をしに来たのかしら?」

 

「……宣戦布告って所でしょうか。」

 

南美の言葉を聞いてグーヤンはニヤリと笑い、ティーカップをテーブルに置いた。

 

「裏ストリートファイト最強と呼ばれているグーヤンさん、私は貴方と戦いたい。」

 

「ふふ、確かにいいわね。面白そう…。」

 

グーヤンはクスクスと楽しそうに笑う。そんな彼女を見て、南美もまた笑う。

部屋の中心でテーブルを挟んで向かい合っているだけのはずであるのに、部屋の気温が数度ほど下がったような気がする。グーヤンの近くに控えて居た短パンの少年はその二人の気配にあてられ、がくがくと足を震わせてその場にへたり込んだ。

 

「おい、何してんだお前ら。」

 

「あら、社じゃない。」

 

そんな空気を打ち破るように、右腕を吊った社が部屋の中に入って来た。

右足は引きずりながらも歩けている様子だ。

 

「社さん、足はもう大丈夫なんですか?」

 

「おう、まだ走れはしねぇが歩く位は出来る。」

 

「ホントに頑丈よね。」

 

社が来たことによってそれまで殺伐としていた部屋の空気が緩み、いつものようになる。

そんな時のこと、ヴァネッサが控え室を訪れた。

 

「Ms.マスク、それにグーヤン、元気かしら?」

 

「あら、貴女がこっちに来るなんて珍しいじゃない。」

 

「まぁね。今回は上から直接二人に伝達しろって言われたのよ。」

 

ヴァネッサの言葉にその場の全員がぴくりと反応する。

その反応にヴァネッサは正解だと答えるように首を縦に振った。ヴァネッサの肯定を示すジェスチャーに社はおろか、グーヤン、南美も笑う。

 

「Ms.マスクの次の仕合相手はグーヤンよ。」

 

「マジかよ、一ヶ月も掛けずにランキング一位とやんのかよ…。」

 

「へぇ、運営サイドも面白いわね。」

 

社もグーヤンもそれぞれの反応を示していた。社は好奇心からはしゃぎたい気持ちを抑えるように呟き、グーヤンは袖で口元を隠す。

その一方で南美は静かに、ただ静かにグーヤンを見つめていた。

 

 

 

 





次回! 南美VSグーヤン ご期待ください!

そろそろ夏休み編も終わって、学園祭とかモンド・グロッソの話もやらなきゃなぁって。

では次回でお会いしましょうノシ



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第113話 女王 対 南美


サブタイトルももう少し捻られれば良いんですがね…。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

 

「最強のファイターに挑む最強のルーキーか…。面白いことになったな。」

 

「はい、お二人の戦いがこんなに早く見られるなんて思いませんでしたわ。」

 

社と雛子はいつもの部屋で眼下の路地裏にいる南美とグーヤンを眺める。

二人はいつもの格好であり、どちらも特別気負っているようには感じられない。

光の届きにくい薄暗い路地裏でグーヤンは小さく笑っている。

 

 

「マスク…、貴女怖くはないのかしら?」

 

「怖いとは、何がでしょうか?」

 

グーヤンの質問に南美はとぼけたように返した。それでもグーヤンは顔色一つ変わらない。

 

「貴女、私の仕合を何回か見ていたでしょう。知っているはずよ? 私と仕合った相手がどうなったか…。それでどうして笑っていられるの?」

 

「さぁ、楽しいからでしょうかね。私は今楽しみでしょうがないんですよ。こうして強い人と戦うことが、自分が強くなれることが!!」

 

「ホントにウォーモンガーね。」

 

どこまでも楽しそうにしている南美を見てグーヤンは呆れたように口元を袖で隠した。

それを見て南美がいつもの構えを取る。

 

「それじゃ始めましょうか。」

 

「えぇ…。」

 

グーヤンの合図と同時に南美はバックステップで距離を取る。南美は知っていた。グーヤンと戦った者の多くが開幕の一撃で倒されてしまった居るという事実を。

それが頭に入っていた南美は即座にグーヤンから離れたのだ。

 

「あら、判断が速いのね。それとも知ってたのかしら。」

 

「知ってただけですよ。」

 

妖しく笑うグーヤンに南美は冷や汗を流す。

そのまま笑みを浮かべたままグーヤンはゆっくりと歩き始める。周囲の目をいやでも惹きつける天性の美貌に妖しい笑みを浮かべながら、ゆったりと歩きだすグーヤンはしかし獰猛な獣にも似た何かを感じさせる。

南美は本能的に一歩後ずさった。

 

「あら、逃げないでよ。悲しくなるじゃない。貴女まで今まで捻ってきた有象無象と一緒だなんて思わせないで?」

 

「一撃で終わらせるつもりでよく言いますね。」

 

ゆっくりと歩みを進めるグーヤンの言葉に南美は頬をひきつらせて返す。

グーヤンの一撃はその細腕から繰り出されたとは思えないほど重いことを南美は何回も見てきたのだ。それ故に南美はその一撃を最大限警戒する。

 

「フゥゥゥ…。」

 

しかし何時までも逃げている訳にもいかず、南美は神経を集中させてグーヤンを見る。その構えを見てグーヤンは足を止めた。

 

「シャオッ!」

 

いつもの独特な声とともに南美はグーヤンの目の前から姿を消した。

南美の移動先はグーヤンの真上である。南美は跳躍すると横の壁を蹴って更に高く跳ね上がり、グーヤンの上を取ったのだ。

 

「フゥゥ、シャオッ!!」

 

「甘いのよ!!」

 

南美の繰り出したオーバーヘッドキックをグーヤンは右腕を振り上げて打ち返す。

バチンという激しい音が響くと空中にいる南美の体が一回転する。そして、その状態で自由の効かない南美にグーヤンは追撃を仕掛けた。

 

「砕けなさい!!」

 

グーヤンも跳躍し南美に向かって雑に腕を振り下ろす。南美はとっさに腕を盾代わりにしてそれを防ぐが、グーヤンは強引に力技で地面に叩き付けた。

 

「かぁ!?」

 

叩き付けられた瞬間、ミシリという音が南美の体に小さく響く。

そしてダウンした南美に追撃するとうにグーヤンは足を大きく掲げ振り下ろす。

さすがにその一撃は受けられないと南美はすぐさま体を転がしてその場から離れてグーヤンから距離を離して立ち上がる。

 

「まだ動けるのね。一撃で壊すつもりだったのに…。」

 

「は、ははは…。」

 

立ち上がった南美はグーヤンと向かい合い構えを取る。完全に死角を取った上での奇襲をいとも容易く迎撃され、さらにはカウンターまで貰った南美は雲行きの怪しさをどことなく感じる。

そしてグーヤンの一撃を受けた部分は青あざになっていた。

 

(ホント…想像以上に1発が重い…。)

 

息を整えながらゆっくりとまた距離を詰めてくるグーヤンを南美は観察する。

隙だらけのようでいて全く一分の隙も見せないグーヤンに南美は仕掛ける。

先程のように壁を巧く使って跳躍し、グーヤンに的を絞らせない。

 

「フゥゥゥゥ──シャオッ!!」

 

完全な死角、グーヤンが南美を追って体ごと反転させた時の隙を突いて南美はグーヤンの背後に回ることに成功した。

しかし、この時南美は気付いていなかった。グーヤンが右腕を大きく掲げていることに。

 

「ハァッ!!」

 

南美の一撃がグーヤンへと届く前に、グーヤンが振り向き様に振り下ろした裏拳は南美の体を芯で捉え、そのまま数メートルも吹き飛ばした。

体の芯に、骨に響くその一撃は南美を吹き飛ばし、壁に激突させる。

硬いものに人体が打ち付けられる音が狭い路地に響き、その様子を眺めていた雛子は激突する瞬間に顔を覆った。

 

 

「マスク…!」

 

「あ、あぁ、マスクさん…。」

 

窓から見ていた社と雛子は恐る恐る壁に激突した南美へと目を向ける。そこには壁に叩きつけられ、力なく座り込んで壁にもたれ掛かる南美がいた。

完全に防ぐことも出来ず、グーヤンの一撃をもらった南美は壁を背にして俯き、その顔色は分からないが、ピクリとも動いていない。

 

 

「…起きなさいな…。まだ生きてるんでしょ?」

 

壁にもたれかかったまま動かなくなった南美に対してグーヤンはその場から動かずに告げる。

すると、さっきまでぴくりとも動かなかった南美の指先が動く。そしてそこから腕、足と動いて行き、南美は立ち上がった。

 

「…ッハァ…ハァ…。」

 

「そうでないとね。」

 

深く、大きく呼吸をして顔を上げた南美の瞳を見てグーヤンは満足そうに微笑む。

 

 

(頭が、痛む…。意識も薄い。…体中が悲鳴を上げまくってる…。)

 

なんとか立ち上がったものの、南美は満身創痍であった。げに恐るべきはたった一撃でここまで南美を追い詰めるグーヤンの膂力だろう。

どう見ても鍛えている風には見えない細身の体でありながら、その実社さえ凌駕しかねない剛力を誇る彼女は、確かに裏ストリートファイトの女王の風格を備える立ち姿で南美を見下ろしている。

 

「ハァ…まだ、動ける…。」

 

「貴女ならそう言ってくれると思ってたわ。」

 

重たく感じる体にムチ打って南美はいつもの構えを取った。

視界は薄くぼやけ、目線は定まらず泳いでいるが、まだ目には力が宿っている。だからこそ、南美の顔を見たグーヤンは笑ったのである。今まで彼女の一撃を貰ってこんな顔をした人間は数えるほどしか居なかったのだ。

 

「やっぱり、貴女はいいわ。退屈しなくてすむもの。雛子と引き分け、社に勝った…。そんな貴女は見てて退屈しなかったわ。」

 

「……。」

 

「だから、全力で貴女を倒すわ…。」

 

グーヤンはそう言って笑うとまたゆっくりと足を進める。

一歩、また一歩と足を進めて近づいて行くグーヤンの姿は気高く、美しく、何より恐ろしく見えた。

南美は足に力を込め、しっかりと眼前のグーヤンに視線を合わせる。

 

「Come on! グーヤン…。」

 

「行くわよ。」

 

気丈に笑って見せる南美をグーヤンは射程に捉えた。

グーヤンは右腕を高々と掲げ、南美を見つめる。

 

「フゥゥゥ…。」

 

南美は息を整えるとグーヤンが動くよりも早く飛び上がり、また壁を使って跳躍する。

左右上下に動き、グーヤンの出方をうかがう。

 

(止めるな、動きを! このくらいの痛みがなんだっていうんだ!!)

 

痛みに顔を歪めながらも南美は動くことを止めない。止まったときこそが自身の最後であると、先程の一合で分かってしまったからだ。

 

 

「ショオォオッ!!」

 

そして暫くしてグーヤンが掲げていた右腕を下げた瞬間に南美は仕掛けた。

壁を蹴り、加速をつけて突撃する。

 

「甘いのよ!」

 

「シャオッ!!」

 

グーヤンは南美の突撃をサマーソルトのように体ごと持ち上げて蹴りを繰り出して迎撃する。

サマーソルトによって腕を蹴りあげられた南美は体勢を崩すことなく、反撃を試みる。蹴りあげられた腕を無理矢理加速させて振り下ろした。

その振り下ろした手刀は空中で身を翻していたグーヤンの肩を捉える。

 

「ぐぅっ!?」

 

「シャオッ!」

 

手刀が左肩に食い込み、苦痛に顔を歪めるグーヤンであったが、南美はそこで手を緩めず、爪先を使って突き刺すような蹴りを左肩の付け根に打ち込み蹴り飛ばす。

 

「くぅ…っ!」

 

「ショオォオッ!!」

 

蹴り飛ばされながらも受け身を取って着地したグーヤンに対して南美は更に追撃する。

しゃがみこんでグーヤンの足元を払い、下に意識を集中させると次は即座に立ち上がってハイキックをグーヤンの側頭部にお見舞いした。

 

「フゥゥゥゥ──シャオッ!!」

 

「調子に乗るんじゃないわよ!!」

 

南美がよろけて後退するグーヤンへと追撃のために踏み込んで突きを放った瞬間、グーヤンは人が変わったように声を荒らげ、右拳を振り上げる。

乱暴に振り上げられた拳は南美の胸部を捉え、南美の体を捉えたことを感じ取ったグーヤンは反射的に跳び、南美の体を空中に浮かせる。

 

「ハァアアッ!!」

 

「──ッ!!?」

 

宙を舞う南美に対して先に着地したグーヤンは飛び上がり右腕を大きく乱暴に振り下ろした。

宙で受け身を取ろうとしていた南美はそのグーヤンの行動を視界の端に捉えると、受け身を取ることは二の次にしてその振り下ろされる一撃を防ぐことに集中する。

腕を使ってハンマーのような強烈な一撃の衝撃を受け止めるものの、さすがにその勢いまでは殺しきれず、不完全な体勢で地面に叩き付けられる。

 

「ぐぅ!?」

 

「まだよ!!」

 

コンクリートに叩き付けられた南美に対してグーヤンは足を落とす。

しかし南美もそれだけは受けられないと身をよじってかわした。初めのリプレイのような光景であるが、ただ違うのは、空ぶったグーヤンの足がほんのわずかであるが、コンクリートにめり込んでいることである。

そんな体のどこにそこまでの力があるのだろうか。

 

「あら、ホントにしぶといわね。」

 

「く、くぅ…。」

 

グーヤンから距離を取って立ち上がる南美を見てグーヤンは小さく笑う。その一方でグーヤンの渾身の振り下ろしを腕で受け、その衝撃を地面に激突という形で受けた南美は満身創痍以外の何者でもない。

朦朧とする意識の中で南美は、しかし確かな意志でもってグーヤンを睨み付ける。

 

「まだ、です…。私はまだやれます…。」

 

「いいわね。その根性大好き!」

 

キラキラした目でグーヤンは南美を見つめる。そして最大の敬意を払うかのようにゆっくりと南美へと近づいて行く。

南美は痛みで息を乱しながら大きく呼吸して息を整えようとする。

 

(まだ…、まだ諦めない…。)

 

息を整えながら南美は必死に頭をフル回転させて挽回の策を考える。

 

「さて、これで終わりにしましょう。貴女との勝負…。」

 

無情にも策を思いつく暇もなく、グーヤンは南美の目の前にたどり着いた。

そして完全に決める意志表示をするようにその右腕を高々と掲げる。

その時だった。南美が動く。

右腕を掲げ、がら空きになったグーヤンの右の腹部にタックルして押し倒す。押し倒し、グーヤンの上に馬乗りになると薄れていく意識の中でしっかりと拳を握り、グーヤンの頭へと打ち落とした。

 

「ちょっ!?」

 

「────ッ!!」

 

マウントポジションを取った南美はそのままグーヤンの顔にパウンドを落としていく。

グーヤンは腕を使ってガードをするものの、落とされるパウンドの数発は防ぎきれず顔面にもらってしまう。

 

「あぁ、もう!!」

 

「───ッ!」

 

グーヤンが状況を打開するために右手で南美の頭を掴もうと伸ばす。

その瞬間、南美はパウンドを落とす手を止めてグーヤンの右腕を掴んで一瞬で極めて固めると同時に変則的な絞め技へと持っていった。

 

「は、離しなさい!!」

 

じたばたともがくグーヤンであったが、どう暴れようとも南美のロックが緩む気配はない。

右腕を封じられ、なぜか左腕にも力が入らないグーヤンはどうにかして南美の体勢を返そうとするが、腕を使えない状態ではそれも出来なかった。

 

(なんなの!? 寝技が上手すぎる!全然返せない! 左腕にも力が入らないし…、狙ったの!? ──っ息が…このままじゃ…、まずい…!)

 

「ッ!!」

 

頸動脈を絞められ、意識が遠のいていくグーヤンは左手で南美の体を軽く、数回だけ叩く。

すると、南美はグーヤンの首を絞める力を緩めた。

 

「かっ、ハァ……ハァ…。」

 

南美の絞め技から解放され、息苦しさが解消されたグーヤンは胸いっぱいに空気を吸い込んで深呼吸する。

一方の南美はそんなグーヤンから離れると、ばたりと仰向けに倒れてしまった。

 

「まったく…、大した娘ね、ホント…。」

 

グーヤンは倒れた南美に近寄り、口元に手を寄せると微かに呼吸を感じ、安心する。それと同時に、こうなるまで闘いを止めようとしなかったことに呆れと感心の念を抱いた。

 

「気絶したのはマスクだけど、先にタップしたのは私だものね…。」

 

グーヤンはそう言って立ち上がると気を失っている南美を背負って路地裏を後にした。

 

 

 

その後、搬送された病院で目を覚ました南美がヴァネッサによってグーヤン戦の結果を告げられ驚愕したという。

こうして南美は一月も経たずに夢弦裏ストリートファイトの女王に勝利を納めたのだ。

 

 

 

 





北星南美、グーヤンに勝利!?

では次回でお会いしましょうノシ



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第114話 一夏くんの平和な1日


のんびりまったり進行中~。

では本編をどうぞ↓


  

 

 

 

「ふぅ…。」

 

8月も下旬に差し掛かり、暑さもますますといった日の昼間に一夏は自宅の近くを歩いていた。

イギリス、ドイツ、スペインと渡り、帰国したと思えば倉持技研でロボと戦うという波乱の夏休みを過ごしていた一夏にとってこうしたゆったりとした昼は久々のものである。

そんな時、ふと近寄った“Flower shop 風見鶏”から聞き慣れたギターの音が聞こえてきた。

その音に懐かしさを感じた一夏は風見鶏へと足を踏み入れる。

 

 

 

「ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー アノノアイノノォオオオォーヤ──」

 

風見鶏へと足を踏み入れるとそこにはいつもの赤いチェックの上着とスカートを身に付けた店主の風見幽香が木箱に腰掛けながらギターを弾いて熱唱していた。

 

「──ラロラロラロリィラロロー ラロラロラロリィラロ ヒィー──あら、一夏ちゃんじゃない。」

 

一夏に気がついた幽香は演奏をやめて立ち上がると入り口に立っている一夏に近寄る。

 

「あらあら、暫く見ないうちにまた逞しくなったわね。」

 

「そう言う幽香さんも、また綺麗になりましたね。」

 

「もう、お世辞も上手くなって…。」

 

一夏の言葉に幽香は照れたように頬に手をあてる。

この風見幽香の経営するFlower shop風見鶏は一夏の中学校時代のバイト先であり、千冬が忙しく家に帰れなかった時は店主の幽香が一夏の面倒を見ていた過去がある。

 

 

「そうだ、今ちょうどパンが焼けたの! 良かったら少し持って行かない?}

 

「良いんですか?」

 

「もちろんよ。一夏ちゃん、私の焼いたパン好きだったでしょ?」

 

そう言って幽香はギターを置いて奥に引っ込んで行った。

店内を見渡せば四季の花々がそれぞれ区分けされて並んでおり、花独特の甘い匂いが漂っている。

そして暫くすると、紙袋を持った幽香が帰ってきた。

 

「はい、今日はメロンパンを焼いたのよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

幽香から紙袋を受けとった一夏は頭を下げると、その頭を幽香は優しく撫でる。

 

「ふふ、懐かしいわぁ…。昔はこうしてよく頭を撫でてあげてたわねぇ。」

 

一夏の頭を撫でながら幽香はふふふと笑う。そんな幽香の言葉に一夏は恥ずかしくなったのか、頭を上げる。

そんな一夏を見て幽香はまたふんわりと笑う。

 

「ごめんなさい、つい懐かしくてね。」

 

「い、いえ…。」

 

照れたように幽香から視線を外す一夏に対して幽香は頬に手を当てて微笑んでいる。

そうして暫く世間話に花を咲かせていると、ふと時計に目を移した幽香が驚いたように口元に手を当てた。

 

「いけない、父さんに着替えを届けに行かなきゃ…。」

 

「おじさんって確か…。」

 

「AIのプログラマーよ。最近はIS関係のこともあって忙しいみたいで、会社に泊まりっぱなし。」

 

「そうなんですか…。」

 

そう会話しながら幽香はレジ台の裏から大きな紙袋を取り出した。その仕草や会話などからもういれないと判断した一夏は挨拶して風見鶏を後にする。

 

「また来てね。一夏ちゃんと千冬ちゃんならいつでも歓迎だわ。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

軽い挨拶を交わした一夏は風見鶏の前で幽香と分かれて散歩を再開する。

 

 

 

「さあ!! 今年もこの時期がやって参りました。 夢弦市主催、大格闘大会ぃぃいいいっ!!」

 

「「「フゥウウウウ!!!」」」

 

夢弦市のほぼ中央に位置する夢弦市民運動広場ではマイクによって響き渡る声に対してその場に居る大勢の人間が歓声を上げる。

その声を聞いた通りすがりの一夏は“もうそんな時期か”と思いを馳せる。

夢弦大格闘大会とはその名の通り、夢弦市が主催している格闘大会である。優勝者には豪華な景品もあり、参加者は夢弦市の人間だけでなく、隣の由江や板鹿棚からも参加者が訪れるのだ。

 

盛り上がる参加者と観戦者を横目に見ながら一夏はその場を後にした。

 

 

 

そうして特にすることもなく商店街方面に足を伸していると一夏はあるものを目撃する。

 

(…あれは…。)

 

そのあるものを目撃した一夏は反射的に思わず物陰に隠れた。

それはというと……

 

 

「い、狗飼さんは、暇な時はどうしてますか?」

 

「そうですね…、こっちに来れる時はバイクをいじってますね。」

 

山田真耶と狗飼瑛護の二人である。

二人は最近オープンしたばかりのレストラン“Dolls”で仲良く食事をしていた。

二人で向かい合い、真耶がテンパりながらも会話を続けている微笑ましさを眺めている一夏に背後から近寄る存在がいた。

 

「ほう、あれは師匠ではないか。」

 

「うお!? 箒…。」

 

「あたしもいるわよ。」

 

「鈴まで!?」

 

一夏に背後から近寄ったのは同じ専用機持ちの箒と鈴音であった。二人は一夏の背後から視線の先を見ると、同様に食事を摂っている狗飼と真耶を見つける。

それを見た二人はニヤニヤし始め、LI〇Eを開いた。

 

 

 

[IS学園 一年専用機面子(8)]

 

篠ノ之 箒:私と一夏の師匠が山田先生とデートしてる。 既読7

 

ラウラ:ほう…kwsk

 

シャル:先生にもようやく春が来たんだね。

 

鈴:あれは完璧メスの顔ね、間違いないわ。

 

(簪・_・):写真はよ

 

織斑一夏:おいおい…

 

セシリア:ここは全力で応援すべきではなくて?

 

北星南美:狗飼さんの好みって山田先生みたいな人なんだ。少し意外かも。 

 

織斑一夏:まだ恋人同士って決まったわけじゃ…

 

 

 

などとL○NE上で好き勝手話している彼らであるが、暫くして狗飼が席を外した数十秒後に、一夏に狗飼から連絡が掛かってきた。

 

 

「はい、もしもし…。はい、…はい、わ、分かりました。はい!」

 

数分間会話を交わして電話を切ると、一夏は○INEを起動した。

 

 

[IS学園 一年専用機面子(8)]

 

織斑一夏:狗飼さん、師匠からアドバイスをくれって連絡が来た。

 

ラウラ:キターー(・∀・)ーーー

 

(簪・_・):おけ把握。

 

鈴:とりあえず夜まで粘ってホテルでしょ。

 

(簪・_・):パナしていくー

 

セシリア:鈴…もう少しプラトニックに行きましょうよ…

 

篠ノ之 箒:しかし師匠が気の効いた言葉を吐けるとも分からんし。

 

シャル:ボクもセシリアの案には賛成だなぁ

 

北星南美:狗飼さんでしょー、浮いた話は聞いたことないし、あんまし色恋沙汰には耐性ないかもねー

 

織斑一夏:師匠からLIN○来た。そろそろ店出るから案をくれだってさ。

 

鈴:夢弦大格闘大会でいいんじゃない? あれ夜までやるわよ。

 

(簪・_・):賛成だ。夢弦と言えば格闘技だろう。

 

セシリア:そうですわね…。

 

シャル:まぁ時間稼ぎには充分じゃない?

 

ラウラ:そうだな、それがいい

 

篠ノ之 箒:あれはいいものだ。

 

北星南美:確かにねー、あれは見てて燃えるよ。

 

織斑一夏:じゃあ、夢弦大格闘大会でOK?

 

(簪・_・):OK(ズドン)

 

ラウラ:( ・∇・)b

 

鈴:いいわよ~。

 

 

 

専用機持ち達による会議の結果、狗飼と真耶は店を出て夢弦市民運動広場へと向かったのだった。

 

そうして一夏、箒、鈴音が二人を見送るとまた三人はL○NEの画面へと視線を落とした。

 

 

 

[IS学園 一年専用機面子(8)]

 

 

(簪・_・):これはあれだな、大会終わった後に先生が「今日は帰りたくない」とか言うやつだな。

 

シャル:また簪はそんなこと言って…

 

ラウラ:いや、分からんぞ?

 

セシリア:し、しかしですね…

 

鈴:絶対そうなるわよ。

 

北星南美:ま、そんなもんよねー。

 

篠ノ之 箒:師匠にそんな意気地があればいいが…。

 

織斑一夏:…こんな流れだけど、みんなに報告があるんだが?

 

(簪・_・):面白そうだな、言ってみろ。

 

鈴:許可する

 

北星南美:hurry! say!say!

 

篠ノ之 箒:言うならさっさと言え

 

シャル:気になるな~。

 

セシリア:なんでしょうか?

 

織斑一夏:オレとラウラ、付き合うことになりました。

 

北星南美:……ファッ!?

 

(簪・_・):kwsk

 

シャル:へぇ、そうなんだ。

 

セシリア:おめでとうございます、一夏さん、ラウラさん。

 

鈴:あたしにくらい直接言いなさいよ。

 

篠ノ之 箒:そうだぞ、水臭い。

 

ラウラ:こんな所で言う奴がいるか…///

 

鈴:これは祝うしかないわね。母さんに話通しておくからウチの店に行くわよ。サービスするからさ。

 

織斑一夏:サンキュー鈴。

 

シャル:ラウラ、経緯とかはIS学園でいっぱい聞くからね。

 

セシリア:それを楽しみにしておりますわ。

 

ラウラ:おい、やめろ!

 

北星南美:ヘイヘイリア充!ヒューヒュー!

 

(簪・_・):おまいう

 

篠ノ之 箒:お前が言うな!

 

 

 

などとLIN○上で様々な言葉が飛び交い、すっかりお祝いムードになった。その後、一夏は箒と鈴音の二人によって“中華料理 凰”に連れ込まれ、根掘り葉掘り聞かれたらしい。

 

 

 

 





伏せ字の意味とは…。

この作品が完結したら都古ちゃん主人公で第二部とかやりたいなぁって。

では次回でお会いしましょうノシ



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第115話 夏休みのみんな

そろそろ夏休み編は終わるかな~って。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

「よう、Ms.マスク。おめっとさん。」

 

「おめでとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

裏ストリートファイトの控え室を訪れた南美は様々な場所をガーゼで覆っていたが、それでも体は元気なようでピンピンしていた。

そしていつもの部屋で社と雛子の祝福を受ける。

 

そして二人からの祝福の言葉に対してお礼を言っていると、部屋の中に短パンの少年を伴ってグーヤンが入ってきた。

 

「あら、体はもう大丈夫なの?」

 

「はい! もちろんです!」

 

元気な様子の南美を見てグーヤンは驚きを隠せない様子である。

 

「そう、それなら良いのだけど…。2発も全力で打ったから骨でも折ってないかと心配しちゃって…。」

 

「大丈夫ですよ、私頑丈なので!」

 

ガッツポーズを取って強がって見せる南美にグーヤンは心底安心したような顔になる。

それを見た社が気付き、ニヤニヤし出す。

 

「何を笑ってるのよ!」

 

「いーや、別に? ただ、女王様も人を心配するって感情を持ってるんだなって、思っただけだよ。」

 

「おい! 社ぉ…。」

 

「お、おい止めろ!!」

 

「逃がすかぁ!!」

 

グーヤンをからかっていた社であったが、突如としてグーヤンが右腕を掲げた瞬間、逃げるように部屋から出ていった。そしてグーヤンも逃げていった社を追うように部屋から出ていく。

 

[Unknown to Death.]

 

[Nor known to Life.]

 

そんな時に、南美の頭にまたあの声が響いた。

今までは一節ずつであったが、今回は連続して二節が聞こえてきた。

南美ももう慣れたのか、聞こえていることなど少しも態度に出さずにいる。

南美は追いかけっこを始めた二人を見るために雛子と一緒に部屋からでた。

 

 

そんな一幕が繰り広げられている一方で、キサラギ重工の開発局実験棟ではというと……

 

 

 

「そんな訳で、色々壊れちゃったパーツが転がってるけど、まぁ気にしないでくれよ。」

 

なぜか大量の壊れたパーツが散乱する実験用アリーナで箒を連れてきた藤原は豪快に笑う。

その隣にいる箒は隣で豪快に笑う藤原とは正反対にぴくぴくと眉を引きつらせながら、拳を握りしめていた。

 

「いや~、新しいマシンの性能試験をしたら暴走しちゃってさぁ、もうびっくりだよ。ギャハハハハハ!!」

 

なぜかここまでの大惨事だと言うのに、現場責任者の藤原はそれでもなお高笑いしている。

そんな藤原に箒もついに我慢の限界が来たのか、鬼のような形相で藤原の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい!! 貴様らはいったいいくつの機械をダメにしてきた!!」

 

「ん~、愚問だな箒くん…。君は今まで食べてきたパンの枚数を覚えているのかい?」

 

「13枚! 私は和食派だ! そして、質問に質問で返すな!!」

 

箒は藤原の胸ぐらを掴んだまま跳躍し、自身より背の高い藤原の頭部にヘッドバットをかました。ゴチンという鈍い音が響き渡ると藤原は涙目になりながらその場にうずくまる。

 

「お、おおう……。」

 

「まったく…。こんなにパーツが散乱して、姉さんが見たらなんて言うんだろうな。」

 

うずくまる藤原を見下ろしながら箒はふぅと溜め息を吐いた。

 

「うぐ…、篠ノ之を出すのはやめてくれ、割と効く…。」

 

藤原は頭を押さえながら立ち上がると申し訳なさそうな顔になる。

そんな藤原の顔と言葉を聞いた箒はなぜだろうと首を捻った。

 

「それで? 私はどうすればいい?」

 

「あ~、うん。申し訳ない話なんだけどさぁ、ウチの社員に片付けとかが得意なやつって居ないんだよね。いるにはいるけど、希少種っていうの?」

 

「……なんとなく想像はついたが…。」

 

「うん、片付けの指揮を執ってほしいんだ。」

 

良い笑顔でそういった藤原を見て箒はハアと大きく息を吐いた。がしかし、嫌だとは言わず、箒は鉢巻きを頭に巻く。

 

「それじゃあサッサと他の職員を集めろ。早く片付けるぞ。」

 

「うん、ありがとう。」

 

やる気を見せる箒を見て藤原は頬を緩ませて笑い、今居る職員に招集を掛けた。

そうして箒指揮の下にキサラギ重工開発局実験棟の夜を徹しての大掃除が開始された。

 

 

 

「うん…? お前今なんて言った?」

 

「いや、だから…その、ラウラと付き合う事になった。」

 

「ほう…。そうか…。」

 

織斑邸の居間ではちゃぶ台を挟んでエプロン姿の一夏と、Tシャツ短パンというラフな格好の千冬が向かい合っている。

一夏は緊張した面持ちであり、一夏に打ち明けられた千冬は缶ビールの缶を握りしめている。その顔にはうれしさとさみしさが同居したような複雑な感情が浮かんでいた。

 

「お前もついに誰かとそういう関係になるようになったか…。」

 

「う、うん…。」

 

「ちゃんと幸せにしてやれよ。」

 

それだけ言って千冬は残っているビールを飲み干して、空になった缶を握りつぶした。

一夏は千冬の言葉に黙って真剣な顔をして頷くだけである。

 

「山田くんと言い、お前と言い…。寂しくなるな。」

 

千冬は握りつぶした缶をゴミ箱に放り投げると、立ち上がり一夏の隣に座った。

そして何をするでもなく、隣の一夏にもたれかかる。

 

「お前は私に似て、不器用な所があるが、真面目で、誠実な…自慢の弟だ。」

 

「うん…。」

 

千冬は一夏にもたれかかったままするりと腕を回し、一夏の頭を自分の方に引き寄せる。

一夏は特に抵抗せず、千冬に引き寄せられ、頭同士がくっつく。

 

「暫くこうさせてくれ。」

 

「あぁ。」

 

そう言って目を閉じた千冬は体を一夏に預けて体から力を抜いた。

そんな姉を見て一夏は優しく微笑んだ。

 

 

 

「私の勝ちですわね。」

 

「驚きだな、あのお嬢ちゃんがここまで腕を上げるとはな。」

 

人形の的の前でアーカードは驚いたように目を開けている。一方でセシリアは誇るように胸を張っていた。

二人が立つ二つの的には一方には3ヶ所に穴が、もう一方には1ヶ所にだけ穴が空いている。

3ヶ所空いている方でも穴の感覚は1㎝程度であり、ごく僅かな差でしかない。

もう一方の的には的の円のど真ん中にだけ穴が空いている。

 

「まさか、カスール改を使って寸分の狂いもなく銃弾を打ち込めるのか。ここまで使いこなすとは思っていなかったな。…もう、お嬢ちゃんとは呼べないな…。」

 

「ふふ、お褒めいただき光栄ですわ。」

 

アーカードは赤いつば広帽子を深く被ってそう言った。その言葉を聞いたセシリアは、嬉しそうに微かであるが頬を緩ませたのだった。

 

 

 

 

「さて、荷物は良いな…。」

 

「隊長、ホントにもう帰るんですか?」

 

「あぁ、クラリッサにはまた負担をかけるが…。」

 

シュヴァルツェアハーゼ隊の宿舎にて、荷物をまとめ終えたラウラに副官のクラリッサは少し残念そうな顔を浮かべて話しかける。

 

「いえ、私の負担などは別に…。ただ、もう少し隊長と恋バナしたかったなぁ…と。」

 

「そんな事か…。」

 

ラウラはハァと呆れたように溜め息を吐き、荷物を持つ。

 

「通信でいくらでも出来るだろうが。これからは毎日惚気話を聞かせてやるからな。」

 

「はい! 了解です。」

 

 

 

 

「こんのバカ弟子がぁぁああああっ!!」

 

「ひぃい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃい!!」

 

春花は目の前の壮年の男性が繰り出す超高速の連撃をどうにかして捌きながら涙目で謝る。

がそれでも男性の動きについていけてることは事実であり、それが彼女の実力を示していた。

 

「流派!東方不敗は!!」

 

「王者の風よ!」

 

「全新!!」

 

「系裂!!」

 

「「天破侠乱! 見よ!東方は紅く燃えている!!」」

 

そして暫くの打ち合いの後、二人が息を合わせて拳を合わせるとなぜか後方が爆発した。

 

「精進せい!」

 

「はい、師匠!!」

 

 

 

 

「それじゃ、もう行くね。」

 

「辛くなったらいつでも帰って来て良いんだからな?」

 

「うん、ありがとう父さん。」

 

空港の一角では大きな荷物を持ったシャルがジャックとアンジェによって見送られていた。

ジャックは寂しそうに目を潤ませていたが、隣に立つアンジェによって爪先を踏まれることでなんとか理性を保っている。

 

「父さん、行ってくるね。アンジェさんも、お体に気をつけてくださいね。」

 

「あぁ、お前も気をつけろよ。」

 

「シャル、新しいパーツは無理に使わなくてもいい。怪我だけはしないように気をつけるんだぞ?」

 

「もう…、父さん心配しすぎだよ~。」

 

親ばか加減が天元突破しそうなジャックであるが、しかしアンジェの牽制によって情けない姿を晒すことはない。

そんな二人に別れを告げてシャルは日本に向かった。

 

 

こうして国外にいた専用機持ち達も次第に帰国を始め、またIS学園が騒がしくなる気配が漂うのであった。

 

 

 

 

 





夏休みが終わったら、学園祭とか、スティール・ボール・ランキャノンボールファストとかやらなきゃなぁって。

では次回でお会いしましょうノシ


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第116話 夢弦の夏祭り


まだまだこのペースが保てそうで嬉しいです。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

 

8月も下旬にさしかかり、IS学園の帰国組達も続々と帰国しており、いよいよ夏休みも終わるという頃のこと……

 

 

「ほんわ君さん、どうですか?」

 

「うん、よく似合ってるよ。」

 

今日は夢弦市の篠ノ之神社による夏祭りの日だ。この日、南美とほんわ君は縁日に来ていた。

南美の格好は明るい色合いの浴衣姿であり、縁日の雰囲気とマッチしている。

 

「ねね、ほんわ君さん! あっちに行きましょ!!」

 

「うん、いいよ。」

 

南美に手を引かれるままほんわ君はついて行く。

人混みの中を通っていくがその中に色々とほんわ君は見覚えのある人物達を見る。しかし、その人物達に声を掛けるよりも先に、南美に手を引かれて行き、声を掛けるには至らなかった。

 

 

 

「ハラショー!!」

 

「祭りだー!!」

 

祭りの行われている一角では祭りとは別の高揚感に包まれた人集りが出来ていた。

その人だかりの中心には四人の人物がおり、周囲の人間はみな、その四人にあこがれの視線を向けている。

そしてたまたまその近くを通りかかったほんわ君は“うえぇ!?”と驚きの声を上げて、足を止め、南美もそれにつられて足を止める。

 

 

「すまねぇな、勇儀…。こればかりは譲れねぇんだ。」

 

「気にしなさんな、ジョンスさん。お互い戦って白黒決めましょうよ。」

 

「ふぅ…、こんな形で戦闘か…。」

 

「概ね計算通りです。」

 

中心に居る四人はそんな会話を交わし、それぞれ戦闘態勢に入る。

人集りから遠巻きに見ていたほんわ君は呆れたような声を出す。

 

「ジョンスさんにカセンさんに無頼先輩にシオンまで…、何してんのさ…。」

 

「すいません、ほんわ君さん…あの方たち、ほんわ君さんのアルバムで見覚えがあるんですが…。」

 

「うん、ボクの先輩と同期だね…。ジョンスさんがいるってことは…、だよね、清ちゃんもいるよね…。」

 

すすすと視線を左右に動かしたほんわ君は人混みの中の最前列に青い着物姿の少女を見つけてさらにうなだれる。

 

 

「さぁ行くぞ。夢弦高校特別課外活動部第38代目部長! ジョンス・リー!!」

 

「いいねぇ…、それじゃあ…。特別課外活動部、第39期構成員、星熊勇儀、推して参らせてもらうよ!!」

 

「これは…乗るしかないか…。同じく第38期構成員、山本無頼!」

 

「それでは、特別課外活動部第39代目部長シオン・エルトナム・アトラシア、行きます。」

 

四人はそれぞれ構えを取り、口上を述べるとそのまま前に全力で突っ込んだ。

カセンこと星熊勇儀とジョンスは正面から拳をぶつけ合い、シオンと無頼はその二人を援護するように立ち回りつつ、お互いがお互いの妨害をする。

力対力の真っ向からのぶつかり合いは見ている者の気持ちを盛り上げ、さらにはその二人の周りで激しい攻防を繰り広げるシオン対無頼もまた華を添える。

 

「ふん!!」

 

「なんのぉ!!」

 

ぶつかり合う勇儀とジョンスの足場は周りよりも僅かに窪み始め、さらにそれは加速する。

お互いの拳と拳がぶつかり合い、音を立て、周囲の空気を振るわせる。

その空気を肌で感じ、周囲の熱は更にヒートアップしていく。

 

「セーフティ、解除。」

 

「うおっとぉ!?」

 

その脇で繰り広げられるシオンと無頼の戦いもますます白熱する。

無頼は自身から距離を取るシオンにステップを踏んで近寄り、放たれた銃弾さえ回避し肉薄し、そして渾身の右ストレートをシオンの顔面に打ち込んだ。

 

「フリーダムッ…パンチ!!」

 

「…ッ!?」

 

ボクシンググローブを着けた拳で顔を殴りつけられたシオンの体は宙を舞う。

しかし無頼は油断などせず着かず離れずの距離を保って構えを取り続ける。

 

「まだです!」

 

「そうだと思っていたよ。」

 

ファイティングポーズを取りながら無頼は立ち上がったシオンを見てにやりと笑う。

 

 

 

「破ぁ!!」

 

「ふん!!」

 

勇儀の突き出した手とジョンスの正拳突きがぶつかり合い、派手に音を立てる。

そしてお互いもう一方の腕で相手を殴りつけた。お互いの一撃が互いの顔面にヒットし、二人は大きくのけぞる。しかし二人ともすぐさま体勢を立て直し、もう一度別の腕で殴りつけた。

 

「「まさかまさかのノーガードォオオオ!!」」

 

「そこに痺れる!憧れるぅ!!」

 

「お前王位戦は良いのかよぉ!」

 

「勇儀、負けんな!!」

 

「おっぱいぷるんぷるん!!」

 

お互い防御など毛頭にもないと思わせる殴り合いに周りは熱狂する。その声に応えるように二人の勝負は白熱していく。

 

「決める!」

 

「トドメ!!」

 

ジョンスと勇儀はお互い一歩後退し、全力の一撃を撃つ為の予備動作に入る。

ジョンスは大きく一歩踏み込み、全力の鉄山靠を繰り出し、勇儀も全力で踏み込んで右拳で振り上げるように殴り付ける。

 

ジョンスの鉄山靠に対して勇儀は振り上げた右拳で迎撃し、続いて左腕でジョンスの突進を受け止め、そして最後に全力の右ストレートをジョンスの背中に繰り出した。

がジョンスの鉄山靠で受けた衝撃は殺し切れず、左腕で受け止めたせいもあって勇儀は後ろに倒れる。

 

「ホントに鈍ってないね…。プロ棋士一本に絞ったってのは嘘だったんです?」

 

「嘘じゃねぇさ。」

 

「信じられませんねぇ…。私の知ってる将棋指しは少なくとも鉄山靠1発で人の腕をどうこうできるはずじゃないんですが…。こりゃ、暫く北斗はやれないねぇ…。」

 

「すまんな、つい全力を出した。」

 

尻餅をつきながら右腕を気にする勇儀にジョンスは手を差し出し、左手を引っ張って引き起こす。

 

「カッコよかったぜ、ジョンスー!」

 

「カセンさん、かっけーッス!!」

 

「良い試合だった!!」

 

「サイコー!!」

 

「無頼ぃ! 渋いぜ!!」

 

「シオンチャンカワイイヤッター‼」

 

「みんなお前らの大ファンだぞ!!」

 

仕合が終わるとギャラリーは口々に四人への称賛の言葉を叫ぶ。

ジョンスと勇儀は周りに視線を巡らせながら歓声に答えるように腕を掲げる。

無頼とシオンは小さく胸を張り周りに小さく頭を下げていく。そんな四人に周囲のギャラリーはさらに大きな歓声を投げかける。

 

そんな四人に人混みの中をかき分けてほんわ君が駆け寄った。

 

「何してのさ!!」

 

「おぉ? ほんわ!久しぶりだな。」

 

「あら、貴方も来ていたのですか?」

 

無頼とシオンがほんわ君に気がつくと気さくに話し掛けた。

それにつられ、ジョンスと勇儀もほんわ君に気がつく。

 

「久しぶりに見る顔だな。」

 

「お、ほんわじゃないか。ノーサも一緒かい。」

 

勇儀は南美を見ると懐から取り出し掛けていたタバコの箱をまた懐にしまい直し、代わりに禁煙パイポをくわえる。それから七人は人目を避けるようにして移動し、東屋の中で腰掛けた。

 

 

「なんでこんな所でケンカしてるんですか!?」

 

「そんなに怒るなよほんわ、夢高時代は日常茶飯事だっただろ?」

 

「だからって、こんな時まですることないじゃないですか。」

 

「仕方ないのさ、話し合いじゃ決着着かない問題だったんだからさ。」

 

ジョンスに怒るほんわ君に対して勇儀が口を挟む。

その言い分になにやら嫌な予感を抱いたほんわ君であるが、ここまで関わってしまったならと、理由を追及する。

 

「かき氷で一番旨い味で揉めた。だから仕合った。」

 

「あほらし。」

 

理由を聞かされたほんわ君はばっさりと切り捨てた。

それを聞いたシオンと無頼は“だよなー”という顔になる。しかし、ジョンスと勇儀はそんな顔にはならず、むしろ

なぜそんな事を言うのかという顔になった。

 

「オレはイチゴ派なんだが、勇儀のやつがレモンって聞かなくてよ。」

 

「当たり前だろう? それは譲れないねぇ。」

 

「で、俺らは仕方ないからサッサと終わらせる為に手伝った。」

 

「つまり私と無頼さんは悪くありません。」

 

シオンは悪びれもせずに言い放った。

その横ではまた勇儀とジョンスが口ケンカをし出した。そんな二人を見てほんわ君はハァと大きな溜め息を吐き、そんなほんわ君を見た南美は小さく笑う。

この人達とほんわ君との高校時代はどれほど奇天烈で、愉快で、退屈しないものだったのだろうかと想像を膨らませたのだった。

 

そしてそこにいる七人は祭りの喧噪の中で、他愛もない世間話やほんわ君と南美の話、そんな様々なことを話しながら、祭りの最後を飾る花火を眺めたのであった。

 

 

 

 

 




夢弦高校メンバー一同が揃うと取り敢えずなノリで喧嘩が起こったりします。

特別課外活動部
第38期…ジョンス、無頼、小野塚小町

第39期…シオン、勇儀、ほんわ君、カンフー4兄弟

第40期…清姫、矢吹真吾

決めてるメンバーはだいたいこんな感じ。




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IS学園編 2学期
第117話 始まる2学期



ようやく二学期ですよ。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

 

「それでは今日から二学期だ。諸君らも変わりないようで何よりだ。」

 

夏休みも終わり二学期が始まったIS学園であるが、一年一組の面々は変わりなく揃っていた。

そのことを千冬は嬉しそうにこぼした。

もちろん真耶も教室にはおり、いつもの笑顔を浮かべている。

 

この日は始業式であり、学校自体は午前で終わり、昼からは自由時間となった。

 

 

「みんな久しぶりだな。」

 

「そうだね、LI〇Eとかで話してたからそんなに久しぶりって感じじゃないけど。」

 

「そうですわね。…それで一夏さん、馴れ初め話を聞かせていただきますわ。」

 

「うえ、その話って生きてたの?」

 

セシリアが切り出した話に一夏は思わずうろたえる。

そしてセシリアの話に他の面子も興味を持ったように視線を向けた。その視線に逃げることは不可能と覚った一夏は観念したように息を吐いた。そして鈴音と箒によって強制的にラウラの隣に座らされる。

 

それから十数分にわたり、一夏とラウラは尋問を受けたという…。

 

 

 

「はぁ…。恋に焦がれる乙女は強いわねぇ。」

 

尋問も終わり、IS学園の食堂に集った一年一組の面々は口を揃えてそう言う。

その言葉にラウラと一夏はお互い顔を赤くして居心地悪そうに肩を寄せ合っている。

そんな様子を見て周りは更にニヤニヤするのだが、二人はそれに気付いていない。

 

「まぁいいや、それじゃあ出し物決めちゃいましょうか。」

 

今日ここに一同が会した理由は近く迫ったIS学園の学園祭での出し物を決定する為である。

 

「他のクラスとは差をつけたいよね。」

 

「それはある。」

 

「なら取る手段は1つしかないよねー。」

 

ある一人がそう言うと、残りの全員が一斉に一夏の方を見る。

 

「そうだよねー。」

 

「うん、仕方ないよねー。」

 

「コラテラル、コラテラル。」

 

そう言いつつ、みんなはじりじりと一夏に詰め寄る。その視線に何か嫌な予感を抱いたが時すでに遅く、一夏は逃げる余裕もなく捕まってしまった。

 

「はい、確保ー!」

 

「ちょ、何する気だ?!」

 

「いやー、ちょいと体のサイズを測らせて貰うだけでさぁ。」

 

「おい、危ない目をしてるぞ!」

 

「うぇひひ…、だいじょぶだいじょぶ。」

 

色々と危ない手つきの面々に囲まれた一夏は恐怖を抱く。そしてその恐怖を振り払うように質問するがどれも要領を得ない解答しか返ってこない。

一夏を取り囲んだ面々は一夏の制服をはぎ取って行き、下着姿まで剥いた。

 

 

「お、おいぃ…、さすがにこの絵面はダメだろ…。」

 

パン一まで剥かれた一夏は腕でどうにか体を隠そうと努力しながら、周りの女子達に抗議する。

 

「まあまあ、落ち着けたまえ。」

 

「我々の出し物の集客の為に織斑くんにはコスプレをしてもらう。その為の採寸なのだ!」

 

「オレの意志は無視かよ。」

 

メジャーを手にした女子の言葉に一夏は大きく抗議する。しかし、そんな言葉に聞く耳を持つはずもなく一夏は他の女子達に取り押さえられ、体のサイズを測られていく。

 

 

「ラウラさん、止めないのですか?」

 

「止めたいのはやまやまだが…クラスの輪を乱す訳にもいくまい。」

 

「そうですか…。」

 

セシリアの質問に対してラウラは小さく溜め息を吐きながら返した。

 

 

 

「おけ、やっぱり大きいね。」

 

「もう…勘弁してくれ…。」

 

サイズを測られ尽くして疲れ切った一夏はぐったりとうなだれている。

 

「あ、もう着替えて大丈夫だよ。ありがとうね。」

 

紙に書き起こしたサイズの一覧を見てご満悦の女性陣から隠れるように一夏は制服を着る。そんな一夏にラウラは歩み寄り肩を叩いた。

 

「まぁ、なんだ、その、ドンマイ。」

 

「うん…。」

 

その後は女性陣による衣装案の会議が始まった。

一夏はそれに関与する気力もなく、部屋で休んだらしい。

 

 

 

そらから学園祭のためにIS学園全体が忙しない雰囲気に包まれ、時間が過ぎていく。

そしてそれから日は過ぎて、IS学園学園祭当日の日である。

 

この学園祭は機密保持など様々な理由により、各生徒に配られたチケットを所有している者しか来場することは出来ない。そのため、来場者のほとんどは生徒の親類縁者である。時折例外はあるが。

 

「はいはーい! 二年三組でーす!!」

 

「一年二組の喫茶店です!」

 

IS学園では様々な場所で大勢の生徒達の言葉が飛び交い、いつもとは違う賑やかさに包まれている。

そんな中でも、一年一組は大きな盛り上がりを見せていた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

 

一年一組の開いている喫茶店では執事服を着た一夏が接客を行っていた。校内唯一の男子生徒であり、その容姿も良く、一学期から話題になっていたことが手伝い、一夏目当ての客で周辺はごった返している。

 

「うわぁ…、凄い人だね…。」

 

「これは想像以上だな。」

 

厨房担当のシャルとラウラは押し寄せるように来る来客達に面食らっていた。

それは接客を担当している生徒達も同様である。唯一一夏だけが動揺を表に出さずに接客をしていた。

 

「シャル、三番テーブルに紅茶とケーキセットのAを二つ。」

 

「了解、すぐに用意するね。」

 

一夏からの注文を聞いてシャルとラウラは急いで準備に取りかかる。この忙しさにこの時間帯を担当していたメンバーは疲労の色を隠せていないようである。

そしてこのローテーションの組が休憩に入り、一時ピークも脱した頃、ようやく一夏も休憩に入れた。

 

「ふぅ…。」

 

休憩に入れたと言っても、一夏の服装は宣伝のための執事服である。

その格好で敷地を歩いていると、否応にも視線を集めてしまう。

 

「また目立つ格好ねぇ…。」

 

「鈴…、お前も大概だぞ?」

 

執事服の一夏にチャイナドレスの鈴音が話し掛けてきた。

いつもとは違う髪型で、頭の両側にシニョンを着けている。その格好は男で執事服の一夏ほどではないがそれなりに目立っていると言えるだろう。

 

「仕方ないじゃない。それでも、あんたの所に客持って行かれてだいぶ暇だけど…。」

 

「それは…、うちのクラスメイトに言ってくれ。」

 

「分かってるわよ。それより聞いた? 楯無会長のクラスの話。」

 

「いや、知らないな。」

 

二人は周りの邪魔にならないように移動しながら話す。その中で出てきた楯無の名前に一夏が反応を示した。

 

「屋外で屋台風の飲食店らしいけど、なんでも楯無会長に勝つと代金が半額になるとか。」

 

「うわぁ…。」

 

などと他愛ない会話をしながら歩いている二人はちょうど話題に上がっていた楯無にクラスの屋台の所を通りかかった。

 

「…シャオッ!!」

 

すると、二人にとって非常に聞き慣れた声が耳に入った。

その声を聞いた二人はその声が聞こえてきた方に目を向けると、そこにはやはり南美がおり、楯無と対峙していた。

 

「だよなぁ…。」

 

「そうよねぇ…。」

 

それを見た二人は近くに置いてある“観戦用”と書かれたベンチに腰掛けた。

 

時は数分ほど遡り、南美が会計を済ませようとしている時のことである。

南美の頼んだものは焼そば1パックだけであり、比較的安い。にも関わらず南美は楯無への挑戦を行う。理由は単純、戦いたいからだ。

 

「貴女との勝負は春以来ね。」

 

「えぇ、あの時はチャイムのお陰で不完全燃焼でしたけど。」

 

「そうね、だから今日は…存分に実力を奮いなさい。」

 

楯無は手を胸の前で合わせて南美に告げる。すると、南美は好戦的な笑顔を浮かべていつもの構えをとった。

周りで見ていた一般客や、彼女らの実力の底を知らない人々はこれから何が起こるのか分からずにただ好奇心から二人を見ている。しかし、二人の実力を知る者達はこらから起こるであろうことに期待で胸を膨らませた。

 

「フゥゥウウ……シャオッ!!」

 

先手を打って動いたのは南美だった。

鋭い動きで突撃し、楯無に肉薄すると、コンパクトな動きで上段からチョップを振り下ろす。が、しかし南美の振り下ろしたチョップは空を切り、楯無は振り下ろした場所から1~2メートルほど離れた場所に立っていた。

 

(相変わらず…、よく分からない動きをする…。さっきのも捉えた間合いのはずなのに…。)

 

「さぁ、次はこっちの番ね。」

 

そう言うと楯無は一瞬で南美の目の前に現れる。そして素早く南美の右手首を掴み、捻って投げた。

南美も手首を捻られたと認識した瞬間、自分から跳んで投げられ、そしてすぐさま起き上がる。だが、その直後に楯無がすでに間合いを詰めており、追撃を加えていく。

 

「はぁあっ!!」

 

「ッ…!?」

 

楯無の放った両手による掌底は南美の体の芯をしっかりと捉え、その衝撃に南美は数歩だけ後ずさる。

しかし南美はすぐさま体勢を立て直して反撃を行う。

 

「ショオッ! シャオッ!!」

 

低い体勢から鋭く素早く繰り出された連続の蹴りは空気を切り裂いて音を立てて楯無に迫る。

しかし楯無は苦も無くそれをよけた。しかし南美は手を足を緩めずに攻勢を続ける。

 

「フゥゥ、シャオッ!シィヤオ!! シャオッ!!」

 

「フッ…、ハァ!」

 

楯無は3発目に繰り出されたハイキックを片手で受け止めると、空いているもう片方の腕で南美を突き飛ばす。

 

「激流を制するは静水…。」

 

楯無はゆっくりと構えに戻り、南美を見つめる。

それを見ながら南美は立ち上がった。

そんな二人の攻防に、知らずに見ていた観客は目を点にしている。

 

「…ほんと、これだけでも金が取れるレベルでしょ。」

 

「全くだ…。…だからあんな所におひねり箱なんてのが置いてあるのか…。」

 

観戦用のベンチに座って見ていた鈴音と一夏はこのクラスの商魂たくましさに小さく溜め息を吐いた。

 

 

「ショオ!!」

 

限界まで近づいてから繰り出した手刀の振り上げもまた空を切り、楯無は南美から離れた場所に居る。そしてまた接近するが、さすがに何度も同じ手が通用する南美ではなく今度は距離を詰めてきた楯無を掴んで投げた。

 

「…さすがに…、二度はない、のね。」

 

「当たり前です。」

 

「そうね、春の時からだいぶ強い…。少しだけ本気になろうかしら。」

 

「ふふ、楽しみです。」

 

二人はお互い距離を保ち、笑っている。

しばし場に静寂が訪れ、次に動いたのはやはり南美だった。

 

「シャオッッ!!」

 

ブンという大きな音を立てて迫る南美のハイキック、しかし楯無は一歩踏み込んでそれを片手で受け止めて、逆の手で南美の鳩尾を狙う。それを南美は読み切り、突き出された楯無の腕を掴んで後ろに倒れ込みながら足を絡ませて三角絞めに移行した。

 

「おお!?」

 

「これは…決まった…!?」

 

一夏と鈴音は驚いたように歓声を上げる。

他の観客達も概ね似た予想だ。

南美は足で楯無の首を絞め、腕を使って右腕の肘関節を極めている。

 

「南美の寝技はかなりのもんよ、今まで受けてきた私が保証するわ。」

 

「確かに、寝技に持ってって返されてる所あんま見なかったな。」

 

「そう、抜けだそうとしても、別の体勢で寝技に入るのよ。アレはホントに辛かったわ…。」

 

どこか遠い目をしている鈴音を見て一夏は南美達の方に視線を戻した。

そこでは相変わらず、三角絞めの体勢を取った二人が居る。

 

(これなら…、落とせる…。)

 

「……、…まだ……。」

 

ぎちぎちと絞めつけている南美の脚をどうにかして外そうと楯無は空いている手で南美の脚を掴む。

単純な力だけで外されるような絞め方はしていない為、楯無が掴んだくらいじゃ小揺るぎもしない。

 

「外させ…ません…。」

 

「ふふ…、甘いわね…。」

 

首をきつく絞められているにも関わらず、楯無は余裕そうな顔を浮かべている。

そして、楯無が南美の脚に触れると途端に南美の脚のロックが緩み、その瞬間に楯無は立ち上がって腕のロックも外して距離を取る。

南美も外された瞬間に立ち上がった。

 

「流石の寝技ね。でも、まだまだよ。」

 

(なにが…? あの一瞬だけ力が抜けたような…。てか、関節・寝技だとカウント取ってくれないのね…。ダウンさせてのカウントが蓄積10秒ってことか。)

 

色々と疑問に思う南美であるが、その中で今回の仕合のルールを把握する。

 

 

 

「あれ、この仕合ってテンカウント方式って書いてなかったか?」

 

「あぁ、それね。さっき細かいの見たら寝技とか間接技でダウンしてる時はカウント取らないっぽいわ。んで、ダウンのカウントは蓄積するみたい。カウントが合計10になると負けってことね。」

 

「マジか。」

 

ベンチで座って観戦している一夏と鈴音は細かいルールの書かれている紙に目を通すと、二人して軽くうなって視線を南美に戻した。

 

南美と楯無の両者はどちらもまだまだ余裕がある表情であり、これからの激闘を観客たちに予感させる。

観客達はこれから始まるであろう更なる激しい仕合に期待を膨らませ、視線を二人に集める。

 

 

 

その後南美と楯無の死闘は制限時間まで続き、観客投票の結果、楯無の判定勝ちとなったらしい。

 

 

 

 





JKに勝てば飲食代が半額だって?やるしかないじゃないか。


では次回でお会いしましょうノシ




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第118話 IS学園の学園祭


最近体調不良が続いていますが、このペースは保ちたいと思います。

では本編をどうぞ↓


 

 

楯無と南美の激闘を見守った一夏は鈴音と別れ、ぼんやりと敷地内をぶらついていた。

 

「ちょっと良いかしら?」

 

その時、ある一人の女性が一夏の腕を掴んで呼び止めた。

茶髪のキレイな美人で、顔に笑顔を張り付けたいかにもという営業職の女性だ。

呼び止められた一夏は振り向いてその女性を一目見ると、見覚えのないその彼女に首を捻った。

 

「あ、すいません。私こういう者です。」

 

そう言って女性が差し出したのは名刺だった。一夏はそれを受け取って、名刺に書かれている文字に目を通す。

 

「IS関連企業“亡国機業《ファントムタスク》”渉外担当、巻紙礼子…さん。」

 

「はい。ぜひ一夏さんに我が社のパーツを使って頂きたいと思いまして。」

 

「あ、いや…、そう言うのは学園側を通してもらわないと…。」

 

女性の申し出に一夏はやんわりと断った。

というのも、白式にはどんな装備も積めないからだ。

なぜかこの白式、追加の装備が積めず、技術主任の琥珀曰く、“白式のコアが他の武装を積むのを嫌がっている”らしい。

そのため一夏はこれまでも、そしてこれからも白式に積まれた大刀1本で勝負していかなくてはならないのだ。

 

しかしそんな事情を他の企業に漏らすなと琥珀から口止めされている一夏は素直にそんな事を目の前の女性に言う訳にもいかず、こうして誤魔化すしかないのである。

 

「そんな事を言わずに、弱小の我が社を救うと思って!!」

 

礼子はすがり付くように一夏にしがみつくと、涙目で見上げる。

 

「す、すいません、人を待たせているので…。」

 

礼子がカバンからパンフレットを取り出そうと手を離した時、一夏はそれらしい理由を述べて、逃げるようにその場から逃げていった。

 

 

 

「まったく…大層なモンを貰っちまったねぇ…。」

 

IS学園の敷地に降りたカセンこと星熊勇儀は手に持ったチケットを見て小さく溜め息を吐いた。

そのチケットは手に一夏から送られた学園祭の入場チケットだ。

一夏に渡され、捨てる気にもなれずについ来てしまったのである。

 

「ふぅ…。」

 

勇儀はチケットを見せて受付を通ると、賑やかなIS学園の中へと入っていった。

 

 

 

「あ、カセンさん!!」

 

「…一夏じゃないか。よく私を見つけられたねぇ…。」

 

礼子から逃げ出した先の人混みの中で、周りよりも幾分背の高い勇儀を見つけた一夏は人を避けながら駆け寄る。

そんな一夏の見た目はもちろん執事服のままであり、それを見た勇儀は小さく笑う。

 

「なんだい、その格好は…。」

 

「あ、いや…、クラスの出し物で、コスプレ喫茶をしてまして…。」

 

「そうなのかい? そりゃぁ、この後接客して貰わなきゃねぇ。」

 

「え…、それは…。」

 

クスクスと笑う勇儀を前にして一夏はどぎまぎとしている。そんな一夏を見て勇儀は一夏の肩にぽんと手を置いた。

 

「そんなに狼狽えるんじゃないよ。」

 

「は、はい…。」

 

「さ、私を見つけたついでさ、案内してくれよ…。」

 

勇儀がそう言うと一夏は顔を上げて案内を始めた。

 

 

 

 

「ラウラ、良いの?」

 

「何がだ、シャル。」

 

休憩の時間になってやっと激務から解放された二人は屋上で休息を取っている。

そんな時にシャルがラウラに尋ねた。しかしラウラはシャルの質問の意図を把握した上で聞き返した。

 

「いや、一夏がああして他の女の人と会うのは良いのかなって。」

 

「私は別に気にしていないさ。むしろ、一夏がああして本気で好きな人と一緒にいれるようならそれでいい。」

 

「…なんて言うか、凄いねラウラ。」

 

「そんなんじゃない。私はあいつの近くに居たくて、しがみついている、どうしようもない女さ。」

 

それだけいってラウラは飲みかけだった缶の飲み物を飲み干して立ち上がった。

そんな彼女の後ろ姿を見たシャルは急いで立ち上がって横に並ぶ。

 

「ラウラ!」

 

「なんだ?」

 

「頑張れ!」

 

そう言って笑い掛けるシャルを見てラウラは小さく笑った。

 

 

 

「ホントに広いねぇ…。」

 

「そうですよね、自分も驚きましたよ。」

 

IS学園のなかを二人で歩いていた一夏と勇儀であるが、そのあまりの広さに勇儀が目を点にしていた。

そんな時の事である。

 

「見つけましたよぉ!!」

 

「うぇ!?」

 

人混みの中から先ほど捲いたはずの礼子が出てきて、一夏の腕を掴んだ。

その顔にはひどく疲れの色が浮かんでいる。

 

「れ、礼子さん?!」

 

「やっと、やっと見つけましたぁ…。大変だったんですよぉ、この人混みで人を探すの…。」

 

礼子の綺麗な茶髪は人混みに居たことで乱れ、いつもはクールな容貌の顔も疲労で陰りが見えている。それだけで礼子がどれだけ苦労したのか分かる。

そんな礼子は一夏の腕にしがみつき、疲れた目で見上げている。

 

「あ~、一夏…、長くなりそうだから、あんたのクラスに行ってるよ。」

 

「え!? あ、はい!」

 

勇儀はハァと溜め息を吐いて、一夏と別れ一年一組の方へと向かっていった。

一緒にいた人が離れたことでなんとか勝機を見出した礼子は一夏の腕を掴んだまま空いている腕で鞄からパンフレットを取り出し、一夏を人気のない方へとひっぱていく。

 

 

「どうですか、素晴らしいでしょう?」

 

中庭の辺りまで連れてこられた一夏はベンチに座らされて、礼子にパンフレットの数々を見せられている。そのパンフレットは一夏のスタイルに合わせてか、ブレードや追加装甲などが主だった。

それらを見ていた一夏は装備に興味を示しつつも、装備出来ないもどかしさと、申し訳なさに胃が痛くなっている。

 

「どうですか? 興味出て来たでしょう?」

 

「え、えぇそうなんですけど…。でも、あの…。」

 

情熱的に説明してずずいと近寄る礼子に一夏は目を逸らす。どうにもこういう対応は苦手な一夏は困り果てていた。

そんな一夏に救いの手が差し伸べられる。

 

「おいおいぃ、ちょいと強引すぎないか、亡国機業さん。」

 

「っ!……如月重工の藤原さん…。」

 

突然現れた藤原を見て、一夏の隣に座っていた礼子は驚いたように立ち上がった。

 

「強引な交渉は御法度って、国際IS企業連盟のほうで取り決めしてるじゃない。そっちの気持ちも分かるけどさぁ、流石にこれ以上は見逃せないよ?」

 

「あ、あぁ…、その…。」

 

「いや、ことを大袈裟にするつもりもないよ。君も今年のモンド・グロッソに出るしね。だから、そこで活躍しなよって話さ。」

 

藤原はポリポリと頭を掻いて諭すように礼子に言う。それを聞いた礼子は申し訳なさそうに俯いてしまう。

そんな礼子を見た藤原はハァと溜め息を吐いてから頭を掻く。

 

「どうしたもんか。…そういう所、君の悪い所だよ?」

 

「え、や、その…。」

 

「企業連の方にもなにも言わないから、顔を上げてくれよ。」

 

「はい…。」

 

俯いていた礼子は藤原に言われて顔を上げる。疲れた顔に彼女であるが、先ほどまでと違いどこか自信があった。

 

「そうですよね、私は国際企業連の代表ヴァルキリー、巻紙・オータム・礼子…。もっと自信を持たなきゃ…。」

 

ぶつぶつと小声で呟いて行くうちにそれまで猫背だった礼子の背はピンとまっすぐに伸びていった。

そして完全に背筋の伸びた彼女の顔はそれまでのものとは違い、高潔さがある。

 

「お、完全復活だね。」

 

「はい、今年のモンド・グロッソは絶対勝ちます。」

 

完璧に立ち直った彼女は藤原に微笑むと隣にいる一夏の手を握る。

 

「私が優勝したら、我が社のパーツの導入を前向きに検討してちょうだい。今日は迷惑掛けてごめんなさいね。」

 

それだけ言い残して彼女は中庭から去っていった。

 

「いや~ごめんねぇ、一夏くん。彼女、少しばかりメンタルが不安定なところがあってさぁ。」

 

「い、いえ…。大丈夫です。」

 

藤原の言葉に一夏は首を振る。そして一夏は藤原に礼を述べてからその場を後にして一年一組へと向かうのだった。

 

 

 

「ただいま。」

 

「あ、お帰り織斑くん。」

 

一年一組の教室に戻ってきた一夏はクラスメイトに歓迎されながらまたローテーションに入る。

そのとき、教室に隅に客として座っている勇儀に気がついた。

 

「いらっしゃいませ。」

 

「はは、なかなか様になってるじゃないか。」

 

接客モードになった一夏は店内を回ってから勇儀の場所に行く。すると、堂に入った一夏の接客態度に勇儀は小さく笑う。

そんな彼女の反応に少し恥ずかしくなったのか一夏はすこしばかり顔を赤くしてメニュー表を差し出した。

 

「それではご注文はなんでしょうか?」

 

「そうだねぇ…、流石に酒はないもんねぇ。取り敢えず、う~ん、あんたのお薦めはあるかい?」

 

「そうですね…、こちらのセットメニューなどいかがでしょうか。」

 

「そうさねぇ、それにしようか。うん、そうしよう。」

 

「かしこまりました。」

 

一夏は注文をメモると頭を下げて厨房スペースに向かった。

そして厨房係に注文を伝えるとまたフロアに戻る。

 

「にしても…、似合うねぇ、優男。」

 

「そうですか?」

 

「あぁ、周りの女もほっとかないだろう?」

 

「そんなこと…。」

 

褒めてくる勇儀に一夏は照れたように頭を掻く。そんな一夏の反応を微笑みながら見ている勇儀は背後からのある視線に振り返った。

 

「お嬢ちゃん、確か…前に店に来てた…。」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒです。」

 

物陰に隠れていたラウラは姿を現すと勇儀に向かって頭を下げた。その行動に驚いた勇儀は目を点にする。

しかしラウラはその後、何も言わずに勇儀の前から姿を消した。

 

「なんだったんだい、今のは…。」

 

「さ、さぁ…。」

 

何が起こったのか分からない二人はそのまま首を傾げるしかなかった。

 

 

その後もIS学園祭は盛況であり、各所で楽しむ生徒達の声が聞こえたらしい。

 

 

 

 





こんなオータムさんも可愛い。

さて次の話はキャノンボールファストですね。
お楽しみに。

では次回でお会いしましょうノシ



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第119話 ドキドキッ!? キャノンボールファスト!!

前回の予告通り、キャノンボールファストのお話です。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

 

「キャノン・ボール・ファスト…か…。」

 

昼休みの食堂で一夏は呟いた。その言葉に他の専用機持ちは頷いた。

 

「レースとは言え、大舞台、大勢の観客を前に飛べるんですよ。私は楽しみですわ。」

 

「そうだな。私も楽しみだ。」

 

同じテーブルに着いていたセシリアとラウラはこれからのレースに心を弾ませているようだ。しかしその一方でシャルと簪は乗り気ではなさそうである。

 

「ボクは、やっぱり緊張するなぁ…。」

 

「そもそも玉鋼はレース向きじゃないんだ。」

 

簪はフゥと溜め息を吐いてから南美と鈴音、箒の方に目をやった。

 

「三人は良いよな。バランスのいい性能しているし、パッケージで補いやすいし…。」

 

「言っても、そこまで良いもんじゃないわよ? それだけ器用貧乏になりやすいし。」

 

「そもそも、私のはかなりピーキーな所があるから…。」

 

「かと言って私の紅椿は速さ以外に取り柄がない。それに単純な直線での速さは一夏の白式の方が上だ。」

 

「いや、白式の燃費の悪さは知ってるだろ? あの速度を維持してレースはもたねぇよ。」

 

専用機組は口々にお互いの良さなどを言い合う。しかしそれは単に隣の芝が青く見えているだけだと判断し、その話題からは遠ざかった。

 

 

 

 

「さて、一年間で最大のイベントとも言えるキャノン・ボール・ファストが来週に迫っている。諸君、準備を怠るなよ?」

 

朝のホームルームで千冬がクラス全体に告げると、教室はやや浮ついた空気になる。

IS学園で最も大きな行事とも言えるこのキャノン・ボール・ファストは市の競技場を借りて行うISのレースであり、その時の観客動員数は万を軽く超える。

その観客の中には企業の重役などもいるため、知っている生徒たちの多くはこの行事を大きな目標としている者もいるらしい。

 

「うわ~、緊張してきた…。」

 

「ここまで来たら当たって砕けろでしょ。」

 

誰も彼も皆浮ついており、授業中もふわふわとしている。

これは一年生だけで無く、二年も三年も同じのようだ。こうして、IS学園全体が浮ついた空気に包まれて時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

そして訪れたキャノン・ボール・ファスト当日、会場には大勢の観客達が所狭しと詰め寄せていた。今年は、男性操縦者の一夏が居ることもあってか、例年よりも更に多くの人が来ている。

 

 

「……、ふぅ…。」

 

「なに、緊張してんの?」

 

「あ、いや、大丈夫だ、そういうのじゃない。」

 

選手控え室でベンチに座り込んで神妙な顔をしている一夏に鈴が話し掛ける。

この控え室には他の専用機持ち達もおり、二人の方向に視線を向けた。

 

「ちょっと、楽しみでさ。今までの直接的な戦闘じゃない、別のやり方でみんなと勝負できるのがさ。」

 

純粋に楽しもうとしている彼の本音にその場の全員が盛大に笑う。

 

「上等じゃないの。ま、一位は私のものだけど。」

 

「あら、私ですわ。」

 

「速度なら私も負けてないぞ。」

 

負けず嫌いの専用機組達はみな、好戦的な笑みを浮かべている。

全員が全員、負けることなど微塵も考えていないのである。そうしているなか、徐々にレースは進み、ついに一年専用機組達のレースの時間になった。

 

 

最注目とも言える一学年専用機組のレースに大勢の観客が詰め寄せていた。中には彼らと顔なじみの人々もいる。

 

「「ノーサァアアアアアッ!!」」

 

「「ファリィイイッ!!」」

 

中野TRF-Fの面々が観客席の一角で大声で声援を送っているのだ。

彼らの声が届いたのかは分からないが、呼ばれた二人は彼らの方を向いてガッツポーズを取る。

それを見た彼らはより一層大きな声で声援を送った。

 

「ホントに人気者だな。」

 

「まぁね。」

 

「人気でトップ、順位でもトップを取るよ、私は。」

 

鈴音と南美は勝ち誇ったようにサムズアップする。そして時間になり、各員が事前に説明されていた位置へと着いた。

八人がそれぞれ一直線に並ぶ様は圧巻の一言であり、特に全員が高速レース用に装備を揃えているいる姿は勇壮の一言である。

 

「…簪ちゃん…、ちょっといい?」

 

「なんだ?」

 

「…あのさ、…そのデンドロビウム、なに?」

 

南美は隣にいる簪に尋ねる。そんな簪の装備は大型の弾倉を両肩に備え、巨大で長大な砲身の大型ライフルを二つ備えている。

その様子はさながら宙に浮く機動要塞という風である。

 

「高速機動戦闘用パッケージ、“踏鞴(たたら)”だ。この前ようやく完成してな、これが初お披露目さ。」

 

「そうなんだ…。なかなかイカす見た目だね。」

 

「だろう? やはり浪漫は大事だ。」

 

そんな話をしていると、スタートのアーチから開始10秒前のブザーが鳴った。

その音に八人全員が気を引き締め、前を見る。

 

そしてアーチの上部に取り付けられた照明の一番上に明かりがともる。上から徐々に赤、赤、赤と灯っていき、最後に一番下の青いランプが灯り、一斉にスタートした。

先行して仕掛けたのはセシリアだった。

セシリアのブルー・ティアーズはいつもと違い、主武装のビットを腰周りに装着し、高出力のブースターとしている。その姿はさながら青いドレスのようだ。

両手にはいつもの大型拳銃を握っており、徹底抗戦の意志も見て取れる。

 

その後ろには“鳳凰”を装備した南美とパッケージを装備した鈴音、そしてスラスターで機動力を増強した箒がいる。そして彼女らに続く形で一夏、シャル、ラウラが一塊になっており、最後尾には簪がいる。

その簪であるが、右手に構えたライフルのスコープを覗いていた。

 

「目標をセンターに合わせて…、スイッチッ!!」

 

「うぉおっ!?」

 

簪は前を飛ぶ一夏に照準を合わせて引き金を引いた。そして銃口から放たれた銃弾はまっすぐに飛んでいく。一夏は反射的に体を反らしてその銃弾の直撃を避ける。しかし銃弾は白式の肩をかすめていった。

簪は舌打ちをし、スコープから目を離して腰だめにライフルを構える。

 

「落ちろ、蚊とんぼ!!」

 

「マジかよ!!」

 

「まぁ、そうなるな。」

 

「だよねっ!」

 

簪は2丁のライフルで狙いを定めずに弾をばら蒔く。

その弾幕に簪の前を飛んでいた一夏、ラウラ、シャルの3人はそれぞれ散開する。

 

「フハハハハハハッ!! 避けたら当たらないだろぉ!?」

 

「無茶苦茶だな。」

 

ハイテンションに弾丸をばら蒔いていく簪に一夏は蛇行しながら悪態をつく。

こうしている間にも、先頭集団とは徐々に差が開いていっているからだ。

 

「兎に角、簪をどうにかしなきゃね…。」

 

「……私は先に行くぞ。」

 

「ちょ、ラウラっ、うわっ!?」

 

ラウラは速度をぐんぐん上げてトップ集団へと迫る。そして最高速度に乗った状態でカーブへと差し掛かった。セシリア、南美、鈴音、箒はカーブに入ると曲がりきるために速度を落としたがラウラは速度を維持したままカーブに突入する。

 

「ラウラちゃん?」

 

「ラウラ…!!」

 

「ふんっ!!」

 

そしてワイヤーブレードをカーブ地点に打ち込むと、そこを軸にして速度を保ったまま曲がりきり、最高速度で直線を突っ切っていく。

 

「嘘っ!?」

 

「そんな使い方してくるのか…。こりゃ1本取られたね~。」

 

ラウラから1歩遅れて曲がりきって直線に入った四人は離されないようにラウラに着いていく。

セシリアが速度を上げてラウラの横に並び、その数メートル後ろに南美、鈴音、箒が並ぶ。そしてまた同じようにカーブに差し掛かるとラウラは同じようにワイヤーブレードを打ち込んだ。

が、同じやられ方を2度するような彼女ではない。

 

「ふっ!」

 

「させませんわ。」

 

カーブを曲がろうとした瞬間、セシリアの放った銃弾がワイヤーブレードを引き切り、ラウラは遠心力の影響からコースの外ギリギリへと吹っ飛んだ。

 

「ラウラさん。私がマークしている限り、さっきのような旋回は出来ませんわよ。」

 

「ふ、そうでないと面白くない。」

 

ビットによる推進力を巧く使い、コース取りやコーナリングをしっかりこなすセシリアと、高い機体制御能力を有するラウラによるトップ争いと、その二人の間に割って入る隙を伺う2位集団によって先頭集団は混戦の様相を呈してきた。

 

その中にまた一人、乱入する。

 

「ズェァアッ!!」

 

「っ!?」

 

高速で飛んできた白式弐型が振り下ろした一撃を鈴音はひらりと身体を捻って回避した。

 

「ちぃ、何であんたまで入ってくるのよ!!」

 

「アレとのドベ争いなんかやってられるか!!」

 

「yeaaaaaah!! レッツパーリィィィィィィィィィ!!!」

 

一夏が忌々しげに背後を一瞥するとそれにつられた先頭集団の面子は後ろを振り向く。

そこには大型のガトリングとランチャーを担いだ簪が満面の笑みを浮かべて向かってきている姿があった。その横には盾を構えながら並走するシャルもいる。

 

「ンムハハハハハハッ!! 熱々のローストチキンにしてやるぜ!」

 

「おい、待てぇい!!」

 

「いいや! 限界だ。撃つね! 今だッ!」

 

簪の放ったランチャーの砲弾と多弾頭ミサイル、そしてガトリングの嵐のような弾幕は目の前にいた面子に襲いかかる。

 

「うぉおぃいっ!?」

 

「洒落にならんな。」

 

「マ~ジか~!」

 

圧倒的物量による制圧射撃によって先頭集団は阿鼻叫喚である。

セシリアと箒、南美、一夏は速度を上げることで逃げ切る選択肢を選び、鈴音とラウラは迎撃を選んだ。

 

「AIC! 展…開ッ!」

 

「あ、これ詰んだかも…。」

 

「ハハハハハッ! 絶好調である!」

 

速度を落として迎撃を選んだ鈴音であったが、そのあまりの物量に選択を間違えたかもしれないと、軽く後悔した。

そしてその後悔は正しく、ラウラのAICの領域外からも弾頭は迫り、迎撃し切れずに直撃をもらう。

そして簪の横にいたシャルにも巻き添えのように大量の弾頭が撃ち込まれた。

 

「まぁ、そうなるか…。」

 

「ミスったわね~。」

 

「なんでボクまで…。不幸だ…。」

 

ミサイル直撃による爆発をもろに受けた三人のシールドエネルギーは一気に減り、完走できないレベルまで減少すると、三人はリタイアを宣言し、回収班によってコースから回収された。

 

 

「おい、鈴とラウラ、シャルが落ちたぞ。」

 

「みたいですわね。」

 

「いやぁ、なんと言うか、あの物量はないわー。」

 

背後から響く爆発音を耳にした残りの集団は落ちた三人のことを思い浮かべながらトップ争いの駆け引きを行う。

 

「てか、シャル…。」

 

「横にいれば当たらないとか思ったのかしら…。」

 

「完璧巻き添え食ったわねぇ、アレ…。」

 

「…簪を落としておきたいな。」

 

四人の共通意識として後ろからバカスカと撃ち込んでくる簪をどうにかしたいというものがあった。

早めに彼女を行動不能にし、以降のレース展開を楽にしたいからだ。

 

「そうねぇ…。」

 

「やるしかないか…。」

 

「そうですわね。」

 

四人は一時休戦し、得物を構えて簪を迎え撃つ体勢になった。

 

 

 

 





次回に続く!

簪ちゃんはフリーダムな可愛い女の子だよ。

では次回でお会いしましょうノシ



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第120話 続 キャノンボールファスト!!


前回から引き続き、キャノンボールファストです。

では本編をどうぞ↓


 

 

前回のあらすじ

 

・キャノンボールファストやるよ。

メタルフルフ簪による砲撃で鈴、ラウラ、シャルがリタイアだよ。

・残りのメンバーで簪をどうにかしよう。←いまここ

 

 

 

「フハハハハハハッ!!」

 

「来たぞ!」

 

高笑いしながら砲身を向けてくる簪に四人は気を引き締める。

あの簪が操る玉鋼は高い装甲と砲撃力によって正面からの戦闘にはめっぽう強い。そのため複数での乱戦に持ち込むのが大まかなセオリーである。

 

「How do you like me nooooooow!!!」

 

簪は大声を上げて四人に突っ込む。パッケージ装備の玉鋼の重量はそれだけでも十分な凶器となる。

その正面からのタックルを四人は海を割るようにして避けた。

しかしそれだけで終わらない。簪は180度急速旋回し、ライフルを撃ち続ける。

 

「ちぃ…。」

 

「これだよ…!!」

 

えげつないほどの弾幕に南美と一夏は思わず舌打ちをした。その中でセシリアと箒は死角に回り込んでいる。

 

「チェストォオオオオ!!」

 

「落ちなさい!」

 

死角からの箒の強襲とセシリアの射撃に対して簪は箒の刀をライフルで受け止め、銃弾は装甲で受け止める。

そして箒を突き飛ばすと、自慢のライフルでセシリアごと狙い撃った。

 

「ぬぅ…。」

 

「その装甲、本当にうっとうしいですわね。この銃でも致命傷に至らないなんて…。」

 

「フハハハハハハ!!」

 

簪は高笑いしてセシリアと箒に詰め寄る。そのとき。一夏と南美が簪の背後から奇襲を掛けた。

 

「フゥゥゥ…シャオ!」

 

「ズェア!!」

 

零落白夜の一撃と、南美の強烈な手刀が簪を襲う。

が、簪はその機体の見た目からは想像できないほど機敏に動き、二人から距離を取った。

 

「この…。」

 

「逃げ足も速いよねぇ…。」

 

「あの装甲をどうにかするしかないか…?」

 

「そうですわね。」

 

四人は簪を囲みながらコースを飛ぶ。飛びながら繰り広げられる五人の戦闘に観客達は一斉に沸いた。

 

 

「「ノーサちゃぁああん!!」」

 

「「ファリィ、ドンマイ!!」」

 

「優男! 根性見せろぉ!」

 

「セシリア嬢、ファイトォ!!」

 

「メガネの嬢ちゃんもすげぇぞ!!」

 

レースの様子を見ていた観客達は声を振り絞って声援を送り続ける。その声が聞こえているかどうかはさておいて、彼らは声を出し続けた。

 

 

「零落白夜で一撃と行きたいけど…。」

 

「それは難しいだろうな。」

 

「硬い相手には一撃って、それ一番言われてるけど…。」

 

「それだけは絶対受けないようにしているでしょうね。」

 

コースを走りながら四人は背後で照準を定めている簪を観察する。簪はスコープ越しに四人を観察しており、とりわけ火力を担当しているだろう一夏と南を注視する。

 

「さて…やるか…。」

 

箒は空裂と雨月を構える。その目には殺気がこもっており、完全に殺る気のようだ。南美も箒と同様に槍を構え、いつでも投げられるようにしている。

 

「簪には悪いけど…これ、現実なのよね。」

 

「一撃で沈めてやろう…。その首もらい受ける。」

 

南美と箒は足を止めて反転すると、簪に向かって加速する。

 

「チェストォオオッ!!」

 

「フゥゥゥ…シャオッ!!」

 

二人は相対速度的にこれでもかという速さで突っ込んだ。そして装甲の薄い場所にそれぞれ一撃ずつ切り込み、肩の弾倉を保護している装甲を引っ剥がす。

装甲を剥がされた簪は忌々しげに二人を見つめるも、その顔は笑っていた。

 

「次ィ!!」

 

「その首…、置いてけェ!!」

 

悪鬼羅刹のような顔を浮かべながら二人は簪に挑む。どちらが悪鬼でどちらが羅刹かは分からないが。

そんな二人を相手に簪は笑いながらその挑戦を正面から叩きつぶしに行く。

 

「長い砲身にはこんな使い方もあるんだ!!」

 

簪はその大型ライフルの銃口を向かってくる紅椿に押しつけ、そのまま引き金を引いた。銃口から放たれた一撃は紅椿の肩口を捉え、衝撃で軽々と紅椿を吹き飛ばす。

しかしその死角をついて南美が頭上から強襲する。

 

「シャオォッ!!」

 

「ぬぉっ!?」

 

南美が振り下ろした手刀は玉鋼の装甲に深々と食い込み、その一部を抉りとった。簪は南美にえぐれ取られた部分をパージし、急いで南美から距離をとる。

 

「この玉鋼の装甲が…。」

 

「案外いけるもんだね。さすがラスト…。」

 

距離を取って簪と南美は睨み合う。そんな時、箒は背後から簪に斬りかかる。

 

「首、置いてけェえ!!」

 

「うぉおッ!?」

 

横薙ぎに振られる刀の軌道はもろに簪の首筋を狙っており、その刀を簪は頭を下げて回避した。

しかしその状態は南美と箒にとって格好の的であり、タンデムラッシュを仕掛ける。

 

「オラオラオラオラオラオラッ!!」

 

「さっさとその首寄越せェ!!」

 

前後から挟むように繰り出されるリンチに近い何かによって玉鋼のシールドエネルギーは見る見るうちに減っていく。そしてあともうじきでゼロのなるという時になって南美と箒は一瞬だけ簪は距離を取る。

 

「南斗千手龍撃ッ!!」

 

紫電をまとった幾重もの突きが簪の玉鋼を捉え、シールドエネルギーをゼロにして撃墜した。

 

「オ・ノーレェェエエエ!!!」

 

エネルギーをゼロにされた簪は断末魔の絶叫を上げながら落ちていき、回収班によって救助された。これで邪魔者、というよりも最大の障害物が居なくなったことで残った四人はそのままレースを再開する。

 

「最後の最後まで自由な奴だったな…。」

 

「まぁ、簪ちゃんだし。」

 

「さてここからは普通のレースだな。」

 

「お先に失礼しますわ。」

 

残りのコースの距離はあと半分ほど、その距離で先行する為にセシリアが速度を上げた。

その後ろを応用に他の三人も速度を上げてついて行く。

残り半分となったコースはカーブが多く、速度よりもコーナリングの精度が重要になってくる。

 

「次に見えてくるのは…、三連ヘアピン!!」

 

「ちぃ…。」

 

先行するセシリアとそれにぴったりと追従する南美、そしてその二人の後ろを数メートル間隔を開けて一夏と箒が飛ぶ。

高速で飛びながら、三連続のヘアピンカーブを曲がりきり、次のコーナーに差し掛かる。

セシリアと南美は苦も無く曲がりきるが、一夏と箒はその機体の癖の強さもあり、速度を落として通過した。

速度を落とした分、一夏・箒とセシリア・南美の距離は地味に開く。

 

「このままじゃじり貧…か。」

 

(セシリアちゃんと最終ストレートまではこの状態でマークする。そうすれば…ブーストを使って刺せるはず…。)

 

「なんとかして距離を詰めないと…。」

 

(一夏さんと箒さんとはコーナリングで差を付けられます…。やはり、一番の障害は南美さん…。どうにかして南美さんとの距離を離さなければ…。)

 

それぞれの思惑を秘めながらレースはもう終盤戦へと突入する。

連続のカーブや180度のターンなど、今までよりも更にテクニックを要求するコースに四人はほぼ団子状態で入る。

 

(零落白夜で…、いや、落とせて一人だな。その後のエネルギーで追いつける保証がない。このままついて行って隙をみるか? でもそれじゃ…。)

 

(…とか考えているはず…。こちらから仕掛けるか…? そうすれば最悪セシリアが落ちる可能性はある。)

 

(燃費の悪い紅椿と白式でレース中に斬りかかっては来ないと思う…、ないよね? 流石に混戦狙いでそんなハイリスクなことはしないと思うけど、一夏くんだしなぁ…。)

 

(無いとは思いますが…誰かが仕掛ければこの状態から一気に大混戦になるはず…。そうなると近接武装の薄い私は分が悪い。それだけは阻止しなくては…。)

 

もう残りわずかであるこの状況でほぼほぼ硬直状態になるかと思われた。観客達も最終コーナーまで大きく動くことはないだろうと思っていたが、あの男は違った。

 

「ズェアァア!!」

 

この状況で動いたのは一夏である。一夏は零落白夜を起動し隣で走っていた箒に斬りかかった。まさか仕掛けて来るとは思わず不意を打たれた箒は直撃を受けシールドエネルギーを大きく減らした。

その予想外の行動に観客はおろか、その他のIS学園の生徒達も驚きを隠せないようである。

 

(どこまでも、最後まで足掻いてやる!!)

 

「まさかっ!?」

 

「そこっ!!」

 

一夏に気を取られたセシリアの一瞬の隙を突いて南美がセシリアに強烈な一撃を浴びせた。その一撃でセシリアは体勢を崩し、南美は1歩先を行く。

箒に一太刀浴びせ、蹴り飛ばすことで完全に箒をリタイアさせた一夏は全速力でセシリアと南美を追う。

 

 

(ここで箒ちゃんが落ちた…。セシリアちゃんにもキツい一撃を入れたから一夏くんは追い付いてくる…。逃げ切るよ、ここは。)

 

(やられましたわ。スラスターが二基損傷、出力低下…。これでは───やはり、そうなりますよね。)

 

「ズェァアッ!!」

 

南美の一撃でシールドエネルギーがもともと減っていたところにだめ押しのように零落白夜をもらい、セシリアが落ちる。

残りあと僅かという状況でレースは南美対一夏の一騎討ちとなった。

 

 

[Have withstood pain to create many systems.]

 

「来た来たぁ!!」

 

レースの最中にもまたあの声が聞こえ始め、テンションの上がっていた南美はさらにギアを上げていく。もう既にハイパーセンサーを使わずともゴールアーチが見えはじめて来た頃、まだ一夏と南美の差は開いていた。

2連続90度カーブを速度も落とさずに曲がりきると一夏もまた南美のすぐ後ろに並ぶ。

 

[Yet, those systems will never hold anything.]

 

「ッラスト! 最終ストレートの700メートル、力を振り絞れぇ!!」

 

「まだだっ! 白式、まだ行けるだろっ!!」

 

いつもの言葉を一節聞きながら、南美は最後のカーブに入る。そして最後のカーブをほぼ同時に曲がり、ゴールアーチまで最後の直線に突入した。

次のことを考える必要もなくなった二人はガンガン加速し、ゴールアーチまで突き進む。

 

「まだだぁ!!」

 

「負けるかよ!!」

 

加速しきり、最高速度を維持したまま二人は突き進み、ほぼ同時にゴールアーチを通り抜けた。

 

「「どっち!!?」」

 

ゴールアーチを通過した二人は同時に旋回し、掲示板を見る。しかしそこに結果は出ておらず、“審議”のランプが灯っていた。

そして掲示板のディスプレイ画面にゴール場面のスローリプレイが流される。

様々なアングルから映し出されるリプレイだが、どれを見ても二人とも同時にゴールアーチを潜っていた。

そのリプレイが流され始めてから数分後、審議のランプが消え、スピーカーから千冬声が聞こえ始める。

 

『あーあー、審判団代表の織斑千冬だ。審判による審議の結果、織斑、北星両名は同時にゴールしており、よって同時優勝ということにする。以上だ。』

 

「同時…──」

 

「優勝…。」

 

スピーカーから流れた「同時優勝」という言葉に観客席は一気に沸いた。

観客席だけでなく、生徒達も大いに盛り上がり、南美と一夏に称賛の声を送っている。

 

 

1年生レース終了後、その盛り上がりに恥じぬ高レベルなレースが上級生達によって繰り広げられ、今年のキャノンボールファストも大いに盛り上がった。

 

 

キャノンボールファスト 結果

 

1年生専用機組

1位 北星南美、織斑一夏

3位 セシリア・オルコット

 

閉会式と表彰式で同時に壇上に立った南美と一夏は一緒に優勝杯を掲げ、笑顔でガッツポーズを取った。

その後、各学年の専用機持ちと上位入賞の一般生徒達は新聞部の取材を受け、妙な高陽感を持ったまま学生寮に帰っていったらしい。

 

 

 





見事優勝を果たした一夏くんと南美ちゃん。
これでまたIS業界での知名度が上がったらしい。

では次回でお会いしましょうノシ


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第121話 目覚めた力


キャノンボールファストが終わり、ここから季節は冬に近付いていきます。

では本編をどうぞ↓


 

 

「ホントにいいのか?」

 

「うん、ちょっとね。」

 

IS学園のアリーナで南美は一夏、鈴音、箒と対峙していた。全員完全武装状態で、地味に殺気を隠せないでいる。完全に臨戦態勢の四人、しかし2対2ではなく、南美対三人の構図だ。

 

 

「無茶するじゃない、あたしら三人を同時に相手するなんて。」

 

「まあ、試したいのよ。」

 

「…ふぅん…。」

 

その後、二言三言言葉を交わした四人は少しだけ距離をとって睨み合う。四人の間に立つ審判役のセシリアが右手を掲げ、“始め”の声とともに手を振り下ろすと四人は同時に動きだした。

 

「フゥゥゥ…シャオ!!」

 

「ちッ…。」

 

真っ先に仕掛けたのは南美だった。誰よりも速く距離を詰め自身の得意レンジに持って行く。そして横になぎ払うように鋭い蹴りを一夏の胴体に当てて一夏の体勢を崩すと、その隣に居る鈴音に挑む。

 

「ショオッ!!」

 

「なんの!」

 

南美の一撃を鈴音は青竜刀で受け止めると、箒の方に弾き飛ばす。箒もそれが分かっていたようで、完全に待っていたタイミングで待ち構えており、きっちりタイミングを合わせて空裂を振り抜いた。

がしかし南美はそれを読んでおり、吹き飛ばされた瞬間にくるりと身体を反転させて箒の空裂を握る腕を掴んで、始動を止める。

 

「小癪な…。」

 

「何とでも言えばいいさっ!」

 

南美はもう1本の刀による追撃が来る前に箒を蹴り飛ばし、次に来るであろう二人の襲撃に備える。

南美の予想通りにそのすぐ後には鈴音と一夏が同時に南美へと襲いかかった。

 

「ズェァアッ!!」

 

「ゥアタァッ!!」

 

左右から挟み込むようにして一夏と鈴音は南美に仕掛ける。絶妙なタイミングでの挟み撃ちを南美は両方を受け止めてから一夏、鈴音の順に蹴り飛ばす。

しかし鈴音はその場に踏みとどまり、南美との殴り合いを開始する。

 

「アタァ!! ウアチャァ!!」

 

「ショオ! シャオッ!!」

 

ガードなど意識していない攻勢一辺倒の殴り合いにセシリアは息を吞む。そしてその戦闘に一夏と箒が乱入する。

 

「チェストォオ!!」

 

「ズェアァア!!」

 

「フゥアチャァア!!」

 

3方向から迫る近接戦の鬼の猛攻を南美は負傷覚悟で捌きながら反撃する。

しかしそれでも今の南美は神がかっている。致命的な一撃だけは絶対に食らわず、そう仕向けるためのフェイクまでも完全に看破していた。

 

「この…ッ!!」

 

「シャオッ!!」

 

袈裟斬りに刀を振り下ろす一夏の腕を勝ち上げて懐に潜り込んだ南美は踏み込みと同時に肘を一夏の腹にたたき込み、一夏が揺らいだタイミングで鈴音の腕を掴んで投げると、その勢いで箒に組み付いた。

 

「シャオ!」

 

「甘い!」

 

組み付いた体勢から投げようとした南美だったが、箒は刀を手放し南美を掴んで逆に南美を投げて脳天から叩き付ける。しかし南美はすぐさま起き上がり、箒を蹴り飛ばす。

そうして箒との一合いを制した南美に鈴音が迫る。

 

「フゥゥァアタァア!!」

 

「ショォオオ!!」

 

高速で飛び込んで来た鈴音を南美はその場で迎え撃つ。

持ち前の機敏さで南美の懐にもぐりこんだ鈴音は低い体勢から鋭くコンパクトに南美へと拳を突き出す。それを見た南美は一瞬の反応でその正拳突きに合わせる形でローキックを放った。

両者の放った一撃はそれぞれの一撃で相殺し互いに致命傷を与えることは出来なかったが、そのすぐ後に次の動きをとる。

 

「フゥゥゥゥ…シャオッ!!」

 

「ウゥゥァアチャァアッ!!」

 

南美が大きく踏み込みながら繰り出した突きに対して鈴音はその場で待ちながら上段蹴りで迎え撃つ。

お互いがそれぞれの一撃を食らい、大きくのけぞる。そんな時に箒と一夏が背後から南美に仕掛けた。

 

「首ィい!!」

 

「ズゥエエァア!!」

 

大きく振りかぶって仕掛けた二人であったが、南美はすぐさま体勢を立て直し、鈴音を巴投げのようにして背後に二人に投げつけることで足止めする。

 

「南斗雷震掌!」

 

南美は手を地面に叩きつけ、衝撃波を発生させる。その衝撃は一夏、箒、鈴音を三人まとめて吹き飛ばした。

そして吹き飛んだ三人にブーストを使って距離を詰め追撃する。

しかし三人もすぐに体勢を立て直しており、それを見た南美は無理と判断したのか、急停止し距離をとった。

 

「ちぃ…。ホントに今日の南美はいつもより手強いな…。」

 

「キレというか、気迫か…?」

 

「……そうね。いいわ南美、最高ね。」

 

3人は笑っていた。今目の前にいる南美というライバルがこうまで強くなっているという事実に嬉しくなっているのだ。

戦闘狂と言われても仕方のない3人の顔つきに審判役として間近で見ていたセシリアはハァと溜め息を吐いた。

 

 

「さて、まだ行けるよねラスト…。貴女はまだ、もっと高く飛べるはずだよ。」

 

南美もまた笑っている。自身の力の高まり、そしてそれに応えるようにして力を変えているラスト、その二つによって南美のボルテージは上がっていた。

 

[So as I pray,────]

 

南美の頭のなかにまたあの声が流れる。すると南美は広角をさらにあげ、満面の笑みを浮かべた。

 

「そうか、それが君の答えなんだねラスト…。オーケー、なら飛ぼう、一緒に。どこまでも高く、誰よりも強く!」

 

笑顔でそう叫ぶと、南美が纏うラストが強く光を放つ。

もうこれで三度目となる一夏にはそれが何かすぐに分かった。

 

「第二次移行《セカンドシフト》…!」

 

一夏が驚いていると、その光の中心から南美の声で何かが聞こえてきた。

 

 

 

 

___I am the bone of my systems.

─── 体はバグで出来ている

 

Steel is my body, and fire is my blood.

血潮は永久で、心は一撃

 

I have tried over a thousand challenges.

幾たびの調整を越えて不変

 

Unknown to Death.

ただの一度も修正はなく

 

Nor known to Life.

ただの一度もアプデされない

 

Have withstood pain to create many systems.

彼の者は常に独り電子の丘で勝利に酔う

 

Yet, those systems will never hold anything.

故に、そのシステムに意味はなく

 

So as I pray, UNLIMITED ARC SYSTEM WORKS.

その体は、きっとバグで出来ていた____

 

 

 

 

 

光が収まるとそこにはそれまでのラストとは違う機体を纏った南美が佇んでいた。

その機体は薄青色とも言うべき色の装甲で覆われており、十字の紋章の描かれたマントを着けている。そして機体のサイズは今までのラスト同様に通常のISよりも二周りも三周りも小さい小柄な物だった。

 

「…良いね、サザンクロス…。最高に馴染むわ…。」

 

「…第二次移行…か。どこまで強くなったのやら。」

 

恍惚の表情を浮かべる南美を見て鈴音と箒、一夏の3人は再度気を引き締め直す。

一夏の白式弐型しかり、銀の福音しかり、目の前で2度も第二次移行の実力を味わってきた彼女たちからすれば当然の反応である。

 

「北星南美…、サザンクロス…推して参る!!」

 

「来るぞ!」

 

「速い!」

 

一瞬だけ両手を合わせた南美はそのすぐあとに3人に向かって突撃する。

その速度は今までよりも速く、3人は散会する間もなく距離を詰められてしまった。

 

「ウゥゥアタァッ!!」

「フゥゥゥゥ──シャオッ!!」

 

最初に対応したのは鈴音だった。

鈴音は踏み込んできた南美に合わせて大きく踏み込み、その顔面に掌底を打ち込む。

しかし南美はそれでも止まらずに振りかぶった拳を鈴音の胸元に叩きつけた。

 

「くふっ!?」

 

「ショオッ!!」

 

胸元に拳を叩きつけられた鈴音は体勢を崩した。そして南美はその隙を見逃さずに踵落としで鈴音を地面に叩きつける。勢いよく叩き付けられた鈴音の身体はボールが床に落ちたときのように、不自然に高く跳ねた。

 

「…えっ!?」

 

「ジョイヤァアッ!!」

 

そして跳ねて来た鈴音に対して南美は再度踵落としを打ち込んでまた下に叩き落とす。そして同じように叩き付けられた鈴音はまた大きく跳ねる。

 

「フゥゥゥゥ───」

 

「ズェァアッ!!」

 

「チェストォオッ!」

 

しかし追撃は出来なかった。鈴音に追い討ちを掛けようとした南美を一夏と箒が止めにかかったのだ。

南美は鈴音から目を離して二人への対応に切り替える。

 

「シャオッ! ショオッ!!」

 

「ちっ!」

 

「この…!!」

 

南美はまず一夏の右手を突くように蹴り、雪片弐型の軌道を止め、続いて箒の腕を払って空裂の一撃を防ぐ。

そして2対1での攻防を繰り返していると、復帰した鈴音もそこに加わる。

 

「フゥァアチャァアッ!!」

 

「ズェァアッ!」

 

「チェエスゥトォオッ!!」

 

「フゥゥゥゥ!!」

 

3対1の状況で南美は笑顔を浮かべたまま、殴り合う。

もちろん対峙している箒も、一夏も、鈴音もみな笑っていた。

 

 

その後、数分間続いた殴り合いは、全員のエネルギーが底をついたことによって決着した。

引き分けという結果であったが、四人の顔はとても充実している。

 

こうして南美の新しい相棒、“サザンクロス”のデビュー戦は終わったのである。

 

 

 





遂に書けました…、南美の第二次移行です。
ワンオフアビリティも勿論考えてはいます。…いつ全貌を書けるかは分かりませんが…。

では次回でお会いしましょうノシ



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第122話 恋の季節?

もうだいぶ原作から掛け離れていますが、気にしたら負けです。
これもMUGEN連結システムのちょっとした応用さ。

では本編をどうぞ↓


 

 

「ほんわ君さんなんて知りません!!」

 

「み、南美…。」

 

土曜日の夕方、ほんわ君の部屋に南美の怒気を孕んだ大声が響き渡った。

その後、怒り心頭の南美は乱暴にドアを開けてほんわ君の部屋を出ていくのだった。

 

 

 

 

「聞いてくださいよカセンさ~ん。」

 

「……なんでここに居るのが分かったのさ…。」

 

南美が勇儀に泣きつくために駆け込んだのは、夢鶴市にある酒蔵の“茨木酒造”の一角である。この茨木酒造と勇儀の実家である星熊家は古くから続く名家であり、先祖代々交流があった。

そんな関係もあり、勇儀は何もない時はこうしてここに入り浸ることが多い。

 

「そんなことよりも、聞いてくださいよ̠カセンさん! ほんわ君さんって酷いんですよ!」

 

困惑の表情を浮かべる勇儀に構わず南美は話を切り出した。

 

 

「今日ですね、お泊りしようと思ってほんわ君さんの家に行ったんですよ。」

 

「あ、私の意志は無視なのね。」

 

「そしたら、そしたらですよ!」

 

南美はずずいと勇儀に顔を寄せる。勇儀はもうどうにでもなれというような顔で話を聞く体勢になった。

 

「ほんわ君さんの部屋にですね、その、え、エッチな本が…。」

 

「そりゃ、あいつも男なんだからエロ本の一冊や二冊くらいあったって不思議じゃないだろうさ…。」

 

「その、それが、おっぱいの大きな人特集みたいな奴で…。」

 

「あ~、うん。」

 

予想以上にくだらない話だったことに、勇儀はうんざりしたような顔を浮かべるとともに、聞くんじゃなかったとでも言いたげな風に溜息を吐いた。

 

「やっぱり、男の人って胸の大きな女の子のほうが好きなんでしょうか?」

 

「なんで私に聞くのさ。」

 

「だって、カセンさん…。」

 

そこまで言って南美は視線を落とした。その視線を追いかけた勇儀はハァと小さく息を吐きだす。

そして、ゴンと南美の頭に軽くげんこつを落とした。

 

「私にそんなの分かるわけないじゃないのさ。」

 

「う~。」

 

「それに、ほんわの奴がそんなことで女を選ぶような奴かい?」

 

勇儀の問いに南美はフルフルと首を横に振った。

 

「分かってるなら、いいじゃないか。」

 

「は、はい…。でも、私…。」

 

「あぁ、何となく分かる。キレてほんわを怒鳴ったんだろ? で、気まずくて…。」

 

「はい…。その、どうすれば良いのか分からなくて…。」

 

うつむく南美の頭に勇儀はポンと手を置いた。

 

「素直に謝ればいいのさ。お互い好き同士で一緒にいたいって思ってるんなら、素直に謝ってさ、また一緒にいたいって言えばいいじゃないか。」

 

「はい…、そうですよね…。」

 

勇儀の言葉を聞いて南美は強く頷いて立ち上がった。

そして、そのまま勇儀に頭を下げて部屋から出て行く。そんな彼女の後ろ姿を見送った勇儀は脇に置いていた瓢箪を手に取り、その中の酒を飲み下した。

 

「うん、良い酒だ。」

 

 

 

「あ、あの…ほんわ君さん…?」

 

ほんわ君の部屋に戻ってきた南美は恐る恐る部屋の中を覗き見る。すると、そこには入り口にいる南美に向かって

土下座するほんわ君の姿があった。

 

「ごめん!」

 

「ほんわ君さん…?」

 

土下座の先制攻撃を受けた南美は困惑し、困ったような顔でほんわ君と視線を合わせるようにその場にしゃがんだ。

 

「わ、私の方こそ、ごめんなさい…。ほんわ君さんの話も聞かずに怒鳴っちゃって…。」

 

正面から頭を下げた南美にほんわ君は顔を上げる。その後二人はお互いに謝りあった。そうして二人ともお互い謝りあっていると、それが何かおかしくなったのか、二人は一緒に笑い合った。

 

「ほんわ君さん、あの、私、胸も大きくないですし、女の子らしくないですけど、これからも一緒にいてください。」

 

「うん、喜んで。ずっと一緒だよ南美。」

 

向かい合って抱き合っている二人はそのままお互いの顔を近付けてキスをした。

 

 

「あれ、えぐれさんのだったんですか?」

 

「うん…。この前えぐれさん達が家に来てさ。その時に置いていったんだ。」

 

落ち着いた二人はソファに座って話し合っているとその中で、あの本の理由が明らかになり、南美は驚いた。そして驚きと同時に南美はえぐれに対して少しばかり殺意を抱いたらしい。

 

 

その後、究極の魔法使いジャギによって7対3をつけられたえぐれシジミは全一シンによって肋骨をへし折られたという。

 

 

 

 

そんな事があった一方で、IS学園ではと言うと…。

 

 

「女心とは、何なんでしょうね…。」

 

狗飼が警備員の詰め所でお茶を飲みながら、同じように待機しているグスタフや弥子、椛に尋ねた。

 

「私に聞かれても困るな。」

 

「私も、そこまで詳しくはないので…。」

 

「先輩、もしかして山田先生のこと…!」

 

3人の中でも、椛は目をキラキラさせながら興味津々な様子で狗飼に詰め寄った。

そんな彼女を“あぁ”と何かを察したようにグスタフと弥子は見詰める。が、しかし、以外にも二人が予想した出来事は起きなかった。

 

「え、えぇ…。その、山田真耶さんの事が、女性として好きになってしまっていたというか、はい…。」

 

分かりにくく、何処と無く顔をほんのりと赤くしている狗飼を見て、その場の3人は珍しい物を見たという顔になる。

 

「まさか、お前からそんな話を切り出されるとはな。予想外だ。」

 

「じ、自分でも、その、驚いています…。」

 

好奇の視線を投げ掛けられている狗飼は耳まで真っ赤して俯いてしまう。

 

「さ、最初はそんな、恋愛感情のようなものは一切なかったんです。ですが、その、真耶さんと会って、人となりに触れている内に、彼女の笑顔や、笑い声に、惹き付けられまして…。」

 

「ほう、ほうほう…。」

 

「いいですね、最高ですね!!」

 

初々しい態度の狗飼に女性陣二人はニヤニヤした顔になる。

そんな視線に耐えきれずに狗飼は顔を手で覆い隠した。

 

普段の凛々しい彼からは想像も出来ない姿に、3人はハァと息を吐き、相談に乗ることにしたのだった。

 

(両思いだって言うのは黙っておこう。)

 

(その方が何かと面白そうですし。)

 

その腹の内で、色々と企んでいることを、狗飼は察知出来なかった。

 

 

 

 

そんな事が詰め所で行われている一方で、同じくIS学園の学生食堂ではと言うと……

 

「ハァ…、男心、ですか…。」

 

一夏と真耶が向い合せで座っており、真耶は真剣な表情でいる。それに対して一夏はどこか気の抜けた表情だ。

真剣な顔で持ち掛けられた話が、男心を知りたいというものであり、しかもそれがすでに両想いが確定している二人のうちの片割れから持ち掛けられたものなのだから、こうもなろう。

 

「そうなんです…。その、私ですね、好きな人がいるんですが…。」

 

「あ、知ってます。」

 

「えぇ!?」

 

一夏の発言に真耶は驚いたように椅子から立ち上がる。しかしすぐに周囲の視線を気にして座りなおした。真耶はコホンと咳払いをして一夏に顔を近づけて小声で話しだす。

 

「どどどどどどど、ど、どうして知ってるんですか…!?」

 

「いや、その人オレと箒の師匠ですし…。」

 

「ふぇ?!」

 

一夏の発言にまたもや真耶は目を点にして驚いた。わたわたと落ち着かないように狼狽えている真耶に一夏は内心苦笑いを浮かべている。

 

「それで、山田先生はどうして狗飼さんのことを?」

 

「え、あ、はい…。その、さ、最初はKGDOの皆さんに差し入れを持っていってた時の窓口みたいな感じだったんです。その時に話してる内に、狗飼さんの真面目な所とか…、優しい所とか、気付いたら、す、好きになってたんです…。」

 

そう言って真耶は耳まで真っ赤にしながら“う~”と唸って恥ずかしそうに俯いている。

 

(…なんで両思いって気がつかないかな、狗飼さんといい、山田先生といい…。まぁ、言わない方が面白そうだな…。)

 

腹の中でやや黒い側面に目覚めつつある一夏であるが、その場はしっかりと真耶の相談に乗ったらしい。

その相談内容を他の専用機組達に話さなければ完璧な相談役と言えただろう。

 

 

果たして、警備員と教師の恋は実るのだろうか…。

 

 

 





巨乳物のエロ本話はいつかやろうと思ってました。
思い付いてからだいぶ過ぎましたが。


では次回でお会いしましょうノシ



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第123話 第5回モンド・グロッソに向けて


ここから暫く主人公達の霊圧が薄くなります。


では本編をどうぞ↓


 

 

12月、日本ではもう冬の時期、好きな人もいれば嫌いな人もいるだろう。しかし、今年の冬は殆どの人々が待ち遠しく思っていた。

なぜなら今年の冬は第5回モンド・グロッソが開催されるのだから。

 

開催地であるイタリアには続々と各国の国家代表が会場入りし、それに伴ってテレビ局や記者など様々なメディアが入国していた。

 

 

「アハハハハハハッ!!」

 

自身に与えられた部屋でイタリア代表のアナスタージアは高笑いをしていた。というのも、今回の第5回モンド・グロッソでは彼女の宿敵であるスペイン代表のソフィアと再び相まみえることができるからだ。前回の大会で惜しくも敗れたアナスタージアからすれば、今回は雪辱のための大会と言えよう。

 

「いよいよね…。待ってなさいソフィア…。アハ、アハハハハハハハ!!」

 

参加者リストを眺めながらアナスタージアは再度笑う。

 

 

 

今年のモンド・グロッソでは出場する各国家代表達は皆同じ宿泊施設に泊まることとなっている。

これは警備の面でも都合がいいというのが主な理由である。

そのためイタリア最高級のホテルには各国家代表達が勢揃いしていた。

 

 

「久しぶりだな、真改。」

 

「……久しぶり、アンジェさん。」

 

ホテルのロビーではフランス代表のアンジェ・オルレアンと日本代表の井上真改がばったりと出くわしていた。

アンジェに呼び止められた真改は静かに口を開くと、小さく会釈してその場を後にする。そんな彼女の態度にアンジェは首を傾げつつ、まだロビーにいる他国の国家代表の元へと歩み寄る。

 

「やぁイザベル、ベルンカステルも。元気そうで何よりだ。」

 

「ふん、相変わらず頭の高い奴だ。この(オレ)にそこまで気安く話しかけるとはな。」

 

「一年ぶりね、アンジェ…。変わらないわね、貴女も。」

 

ロビーのソファで寛いでいるスイス代表のイザベル・ローエングラムと予備人員のベルンカステルに話しかけたアンジェは割と友好的な態度で迎えられた。

 

「ハハ、そう言う二人も全然変わらないな。」

 

「ふん、人間がそう簡単に変わるかよ。」

 

華美なティーセットで優雅に昼下がりのティータイムを堪能しているイザベルはそう対面のソファに腰掛けたアンジェに言い放つ。

そんなイザベルの言葉にアンジェは静かに“そうかもな”とだけ呟いた。

そんな場に、3人の人影が近寄る。

 

「よう! 久しぶりだな。」

 

「ご機嫌よう、ローエングラム様、ベルンカステル様、オルレアン様…。」

 

「ほう、いい茶葉を使っているな。」

 

スペイン代表のソフィアと候補生のセサル、更にはイギリス代表のインテグラ・ヘルシングの3人である。

イザベルはソフィアを見るなり、やや眉をしかめて睨みつける。しかしソフィアの方はそんな事は何処吹く風かと受け流した、と言うよりも気にしていない。

インテグラはと言うと、マイペースにイザベルの隣のソファに座り、紅茶の匂いを堪能している。

 

「ホントに貴様らはマイペースだな。既に我の隣に座る者もいるしな。」

 

ややご機嫌斜めなイザベルがそう言うと、その場にいた全員がある一点に視線を投げかけ、驚いたような反応を浮かべる。

 

「ほう…楯無か。また腕を上げたようだな。」

 

「えぇ…。それは皆さんも同じようですが…。」

 

この場にいた全員に気付かれることなく楯無はイザベルの横のソファに座っており、その事に関心したようにアンジェとソフィア、インテグラの3人は微笑んだ。

一方で予備人員のベルンカステルとセサルはいつの間にか現れた楯無に目を点にしている。

 

「ふん、我の許可なく隣に腰を降ろすか…。貴様も偉くなったものだ。」

 

「ふふふ、今のように国家代表の皆さんが集まることもそう多いことではないので、つい…。」

 

にこやかに笑っている楯無にイザベルはつい小さく笑ってしまう。何事もなく会話している彼女らにまた歩み寄る者達がいた。

 

「皆揃って楽しそうですね。」

 

「あ、あはは、アンジェさん、お久しぶりです…。」

 

「イザベルの機嫌がいい…明日は雨ね。」

 

「テレビで見た人たちだ!!」

 

フィンランドのスミカ・ユーティライネン、中国の李青蘭、ドイツのミュカレと代表のヒルデガルト・ワーグナーの四人だ。

まだ猫を被っているスミカはどこか怯えた様子の青蘭の手首を掴んで引っ張っている。一方でヒルダは目をキラキラさせて皆のいるソファの方へと突撃した。

 

「ようミュカレ、まさかこんな子どもに代表の座を奪われたのか?」

 

「まぁな…。」

 

ソフィアが軽く煽るような顔で尋ねるとミュカレは小さく笑って肯定した。そんな態度に疑問を抱いたソフィアは片眉をつり上げる。

保護者がそんな会話をしている時、ヒルダは楯無やアンジェ、イザベルへと次々に突撃を繰り返して甘えた。さすがのイザベルも無垢な子供相手にいつもの態度は出来ず、されるがままに膝を椅子代わりにされていた。

 

「えへへ、お姉ちゃんのお膝温かい!」

 

「…そうか…。」

 

「くく…、あのイザベル・ローエングラムも子ども相手では分が悪いと見える、くく…。」

 

「黙れ雑種が…!」

 

幼い少女を膝にのせた微笑ましい光景にアンジェは笑いを噛み殺しながらイザベルをからかう。それが気に食わないのかイザベルは不機嫌さを隠しもせずアンジェを睨みつけた。

しかし膝にヒルダを乗せたまま凄まれても一切怖くなく、アンジェは必死に笑いをこらえている。

 

「はぁ、貴方の負けね…、イザベル。」

 

「くそっ!?」

 

ハァと溜め息を吐いてベルンカステルがそう言い放つとイザベルは悔しそうに舌打ちをした。

その様子にアンジェは必死に奥歯を噛みしめている。その行為がますますイザベルの神経を逆なでしているのだが、しかしアンジェは遠慮する様子はない。

これが彼女達なりの友情表現であり、一種の交流である。

 

「ふふん、阿呆が。」

 

「う、アンジェさん怖い…。」

 

「ミュカレ~! みんないい人!!」

 

「いやぁ、いい感じでカオスだわ…。」

 

マイウェイをマイペースでモデルウォークするようなこの国家代表達はどんな時も自分を崩さない。

それが彼女達であり、人外の代名詞たる所以でもある。

 

 

そんな事が繰り広げられている一方でその場にいない他の主な代表達はと言うと…。

 

 

(勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる…。私は企業連代表、そう、私は強いんだ…。)

 

国際企業連盟選抜の代表である巻紙・オータム・礼子は自室に籠り、ぶつぶつと自己暗示に励んでいた。

弱小企業である亡国機業(ファントムタスク)に所属する彼女にとってはこのモンド・グロッソという大舞台は宣伝の為の絶好の機会。それ故に彼女は酷く緊張している。

 

 

 

「……織斑、千冬…。戦いたかった…。」

 

同じように自室に籠っているアメリカ代表のハスラー・ワンは椅子に座りながら虚空を見つめ、物思いに耽っている。

彼女が頑なに“ブリュンヒルデ”の名で呼ばれる事を嫌がるのは、初代ブリュンヒルデの織斑千冬に対する憧れと、それゆえの対抗心があるからだ。

第4回モンド・グロッソを制覇した彼女であるが、『あの時の自分はまだ織斑千冬を越えられていない、もし第4回に織斑千冬が出ていたら自分は優勝出来ていない』と言う思いからブリュンヒルデと呼ばれる事を嫌っていた。

第4回から3年経った今、今度こそ織斑千冬を越えるという強い思いが彼女を第5回代表として駆り立てたのだ。

 

 

 

「師匠…、私は勝ちます。」

 

アンジェと挨拶を交わした後、真改は自室に籠って座禅を組んでいた。

彼女にとってこれは大きな仕合の前に必ず行う儀式のようなものだ。座禅を組んで精神統一を行い、常にベストな状態を保っている。

 

 

 

第5回モンド・グロッソ開催まであと3日……。

 

 

 

 





国家代表達が一斉に集まるホテルを襲う輩がいるのか甚だ疑問に思ってしまったけど、まぁ、いるんだろうなぁって。

では次回でお会いしましょうノシ



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第124話 開幕、モンド・グロッソ


最近はペルソナ3のサントラ聞きながら執筆しています。

では本編をどうぞ↓


 

 

遂に迎えた第5回モンド・グロッソ当日、開催地であるイタリアには大勢の観光客が押し寄せていた。

最注目は前回覇者、『闘技場の覇者(マスターオブアリーナ)』と呼ばれるアメリカ代表のハスラー・ワンと、国家代表最年少記録を打ち立てたドイツ代表のヒルデガルト・ワーグナーだろう。

 

他にも強い話題性を持つ者は多い。ロシア代表の更識楯無はもちろん、開催地イタリア代表のアナスタージア・ブロット、そんなアナスタージアとライバル関係にあるスペイン代表のソフィア・ドラゴネッティ等々…。

毎回大きな話題を提供するモンド・グロッソであるが、この第5回は歴代1の話題の多さだ。

 

 

 

 

「誰が優勝すると思う?」(一)

 

「私はイギリス代表のインテグラ様ですわ。」(セ)

 

「あたしは…、楯無会長に500ペリカ。」(鈴)

 

「…井上真改に700…。」(箒)

 

「ヒルデガルトの勝ちに血液100ccだ。」(ラ)

 

「なら私はソフィア・ドラゴネッティの優勝に250ccだな。」(簪)

 

「な、なんで平然と賭けをするのさ…。ボクはやっぱりアンジェさんかな。」(シャ)

 

「鷲津レートだと、10ccで10万、ペリカじゃ釣り合わなくない? 取り合えずハスラー・ワンに…、まずは600cc…。」(南)

 

IS学園の学生寮、専用機組の中では一番大きなテレビのあるシャルとラウラの部屋に集まって彼女達は第5回モンド・グロッソのテレビ中継を見ていた。

 

「皆バラバラなんだな。」

 

「まぁ、そうなるでしょ。ガチガチな鉄板レースじゃないんだから。」

 

「実力伯仲のメンバーが揃っておりますもの…。何が起こるのか、誰にも分かりません。」

 

テレビに映る映像を眺めながら彼女達は話し合う。そうして時間は過ぎていき、遂に仕合開始の時間となると、全員の視線が画面に注がれる。

 

 

 

「いきなりか…。」

 

「えへへ、アンジェお姉ちゃんだー!」

 

ついに始まった第5回モンド・グロッソの開幕仕合はヒルダ対アンジェの組み合わせである。開幕から最年少記録保持者の登場に会場は盛り上がる。

 

開幕のブザーと同時に二人は一緒に動きだす。どちらも機動力に重きを置いた機体であり、その速度に観客達は目で追うのがやっとのようである。

 

「あはは~、すごいすごーい!!」

 

「ほう…、これは…。」

 

この大舞台であってもヒルダは緊張の欠片も見せずに飛び回る。そんな彼女の様子をじっくりと観察していたアンジェがぽそりと小さく呟いた。そしてアンジェはもう一本の刀を左手に取り出すと、ゆったりとした自然体の構えを取る。

ドヒャドヒャという独特な音を響かせながらヒルダは飛ぶ。

満面の笑顔を浮かべながら高速で飛び続ける少女の姿に観客達の頬が自然と緩む。

 

「…そこだッ!!」

 

止まっていたアンジェが急加速して動き出す。

ゼロから一瞬で最高速度まで加速したアンジェのオルレアンはヒルダの操る「ラインの乙女(Frau der Rhein)」を捉えきった。

 

「ふぇ…?!」

 

「分かる動きだ…、読めるぞ。」

 

すれ違い様に繰り出された斬撃、それと同時に鳴るブザーに観客達は呆然とアリーナを見下ろしてしまう。

そこにはシールドエネルギーが底を尽き、地面に落ちたラインの乙女に乗るヒルダの姿と、悠然と刀を構えるアンジェの姿がある。

 

「え…、どうしたの、Frau…、ヒルダ、まだ、ぜんぜん…飛べる、よ…。」

 

突然動かなくなったラインの乙女にヒルダは呆然としたまま話し掛ける。しかしラインの乙女はぴくりとも動かない。そのことにようやく自分が負けた事を認識し始めたヒルダはぽろぽろと泣き始めた。

 

「やだよ…、ね、動いてFrau…。ヒルダ、まだ、飛びたいよ…、Frauがいなきゃ、ヒルダ飛べないのに…。」

 

「ヒルダ…!」

 

控え室からアリーナに駆けつけたミュカレはぼろ泣きするヒルダを抱き寄せて背中を撫でる。

 

「ミュカレ、みゅかれぇ…。」

 

「うん、うん…。」

 

泣きじゃくるヒルダはラインの乙女を待機状態に戻し、ミュカレに抱きついてワンワンと泣いた。

そんなヒルダを一瞥したアンジェは静かにその場を後にする。

 

 

 

「…今の見えたか…?」

 

「恐ろしく速い二連撃、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。」

 

「ま、簪じゃないけど、確かにアレは普通の人には見切れないでしょ。たぶん客席の人らには一振りにしか見えなかったんじゃない?」

 

テレビの前のメンバーはアンジェの神業に息を吞んだ。

見切れる云々の話ではなく、目の前でそれが迫ってきたときに反応出来るかを想像した彼女達は背筋が寒くなる感覚を味わった。

 

「アレが国家代表の本気か…。」

 

「あの怪物すら優勝できないっていうのが、もう、ね…。」

 

「それはアンジェさんが前回決勝で戦ったハスラーさんが強すぎただけのような…。」

 

戦々恐々としながら八人は画面に流れている先ほどのリプレイを眺めている。

それを見てアンジェの強さを再確認するともに、三年前にこれほどまでに強い彼女を下したハスラー・ワンという存在を思い出し、恐怖した。

 

 

 

「やはり…、国家代表は凄いな。女であることが惜しく思える。」

 

「…そうですね。」

 

控え室で映像を見ていたソフィアは隣に座るセサルに話し掛ける。投げかけられた言葉にセサルは小さく同意した。

 

「これほどの強さ…。もし男ならば(オレ)の英雄殿に…と思って仕方ない。が、やはり性別の壁は大きいな。」

 

「普段の言動的にそうは思えないのですが…?」

 

「いや、これでも己はノーマルだぞ? 女に親愛の情は抱けても愛や性欲の対象には出来ん。」

 

「は、はぁ…。」

 

普段から男女問わずに“愛し合おうじゃないか”などと言っているソフィアがけろりとした顔でそう言うと、セサルは驚いたような顔で返すしか出来なかった。

ソフィアはセサルがそんな反応をしても微塵も自分のペースを崩さず、話を続ける。

 

「やはり…、今まで会ってきた中ではお前の兄が一番だな。あの人にこそ己の英雄殿のなってほしい。“黒い鳥”と呼ばれるあの伝説の傭兵に…。」

 

「兄さん、ですか…。確かに優れた人ですが…、戦うしか能がない、とは本人の談ですよ。今でもカーチスという人に雇われてドンパチやってるらしいですし…。」

 

心ここにあらずのような状態のソフィアにセサルはハァと溜め息を吐いた。

国家代表とは言え恋に夢見る乙女でもある。そんな彼女がこうして時々自分の世界に浸ることにセサルはもう慣れきっていた。これでもソフィアのスパーリング相手を努めてきたセサルである、これくらいのことがスルー出来なくてはやっていけない事など、もうだいぶ前に承知している。

 

「嗚呼、英雄殿…。今すぐ己の逆鱗に殺意を突き立ててくれ…。」

 

「…さて次の仕合は…。」

 

自分の世界に突入したソフィアを置いてセサルはテレビに目を移した。

 

 

 

 

「……貴様か…。」

 

「あは、あはは…。」

 

第二仕合の組み合わせはスイス代表のイザベル・ローエングラムと中国代表の李青蘭の仕合だ。イザベルは眉間に皺を寄せて目の前の青蘭を睨みつけている。一方で青蘭は萎縮した様子で縮こまっている。

 

「ふむ、少しは楽しませろよ?」

 

腕組みをしたままイザベルがそう言い放つと、彼女の背後にいくつもの円形の波紋が広がり、そこから槍や剣や斧といった凶器が顔を覗かせる。

しかし青蘭もイザベルが臨戦態勢に入ると、それまでおどおどしていた彼女の態度は鳴りを潜めて強気な顔つきになった。

 

「行くぞ。」

 

「蜂の巣にしてやるー!!」

 

青蘭の纏う陽蜂の周りに色とりどりの球体が浮かぶ。そしてそのタイミングでイザベルのギルガメッシュの特殊武装が火を噴いた。

様々な角度から大量の凶器が陽蜂に襲いかかる。

 

「うひゃぁあ!?」

 

「ふん、雑種が。」

 

イザベルはその場から動くこともせずに腕を組んだまま逃げ回る陽蜂の様子を見ている。

 

「うぅ~、やられっぱなしじゃないもん!」

 

「下らんな。」

 

逃げ回りながらも陽蜂は抵抗するように周囲に飛ぶ光弾をイザベルに向けて撃ち込んだ。がしかしそれでもイザベルは動こうともしない。

光弾はイザベルへとぶつかり、大量の土煙を巻き上げる。

 

「や、やったの…。」

 

巻き上がる土煙に青蘭は足を止めてイザベルがいた方向を見る。すると土煙の中から大量の剣が飛んできた。突然の不意打ちに足を止めていた青蘭はすべて回避することが出来ず、いくつかが装甲を掠める。

そして土煙が晴れて視界がクリアになると、そこには更に険しい表情のイザベルが佇んでいた。

 

「その程度か…?」

 

「まだまだだもん!!」

 

青蘭は挑発してくるイザベルにムキになったような顔になり頬を膨らませて突撃する。その間も陽蜂の周りを漂う光弾は数を増していく。

 

「だだだだだだだだだだだだー!!」

 

青蘭は手を前に突き出して大量の光弾をイザベルに放つ。イザベルは波紋と繋がっている拡張領域(パス・スロット)から大きな仰々しい装飾の盾を取り出して正面からそれを受け止める。

光弾は盾に当たると大きな音を立てて消滅し、一際眩しい光を放つ。

 

そして陽蜂の攻勢が終わると、ぼろぼろになった盾を投げ捨ててイザベルがまた腕を組む。そして背後に出現した波紋からまた大量の武具を放った。

 

「痛い! 痛い痛い痛い痛い!!」

 

容赦なく武装を射出するイザベルに青蘭は悲鳴にも似た声を上げる。

そして暫くしてから武装の射出を止めると、ボロボロになった青蘭を見て息を漏らした。

 

「駄馬が…、この程度か…。」

 

「ひ、ひぃ…。」

 

鋭い眼光で睨みつけてくるイザベルに青蘭は怯んだように情けない声を上げ竦みあがる。

そんな精神状態の青蘭を見てイザベルは興が冷めたように溜め息を吐いてゆっくりと歩み寄る。一歩、また一歩とイザベルが足を進めるたびに青蘭は下がっていく。

 

「埒が明かんな…。」

 

一向に立ち向かってこない青蘭に業を煮やしたイザベルは空間の中の波紋に手を入れ、一本の剣を取り出した。無造作に剣を握ったままゆっくりとイザベルは近づいて行く。そしてその距離があと僅かまで近寄ると、青蘭は小さく口角を吊り上げた。

 

「お花畑ー!!」

 

青蘭はぐるぐると回転しながらイザベルに突進する。そのときに彼女の周りを漂う光弾が一気に増え、それらが一気に全方位に飛んでいく。

 

「何ッ!?」

 

「アハハハハ!!」

 

高らかにを笑い声上げながら大量の光弾を垂れ流して青蘭は突撃する。

 

「慢心する方が悪…い…!?」

 

「甘いわ!」

 

しかしイザベルは一瞬で切り返して踏み込むと手に持った剣で一刀のもとに青蘭もとい陽蜂を斬り捨てた。

 

「ふん。その程度でこの我をどうにか出来ると思ったか!!」

 

「きゅぅ~。」

 

その一撃ですでにギリギリ状態だった陽蜂のシールドエネルギーはゼロになり、決着を告げるブザーが鳴った。

 

 

 

「やっぱ強いか…。」

 

「はい…。青蘭さんも決して弱くないはずなのに…。」

 

控え室のモニターで仕合を見ていたスミカは険しい表情になる。彼女の言葉に反応して隣に立っていたヴィートも同じように険しい顔つきになった。

 

「銃撃戦で距離を取ればあの武装で、近寄っても近接武器でゴリ押す…。戦いづらいことこの上ないね。」

 

「えぇ…。近寄っても距離を開けても厳しい戦いを強いられそうですね。」

 

苦虫を噛みつぶしたような顔つきでスミカは紙コップを握りつぶすと、そのまま席を立って控え室から出て行った。

 

 

 

 





不意討ちすら効かない金ぴか…。
もうダメかも分からんね。


では次回でお会いしましょうノシ



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第125話 モンド・グロッソ1回戦


前回から引き続き、第5回モンド・グロッソの1回戦です。

では本編をどうぞ↓


 

 

「……なんで一回戦でアンタなのかね。」

 

「くじ運だろ、不平を言うものじゃないぞ。」

 

フィンランドのスミカ・ユーティライネンは正面にいるイギリス代表のインテグラをだるそうに見つめる。しかしインテグラは爽やかな笑みを浮かべてスミカに話し掛けた。

 

「嫌みなくらい爽やかですね。」

 

「うん? テレビで見る君に比べればまだまださ。」

 

煽るつもりもなく放たれたインテグラの一言にスミカはぴくりと反応してマシンガンを構える。それを見たインテグラは両手で握った長剣を構える。

 

「さて始めよう。」

 

「そうね…。」

 

二人はお互いの得物を構え示し合わせたようにほぼ同時のタイミングで動き出した。

青く騎士の甲冑を思わせるデザインをしたインテグラの専用機“キング=アーサー”の機動力は高い。その素早い動きでスミカの操るピンク色の機体、“コーラルスター”を易々と捉える。

 

「ふんっ!!」

 

「たっく…。」

 

振り下ろされた剣をハンドガンの銃身で受け止め、スミカはブースターを吹かせて距離を取る。

しかしインテグラもすかさずスミカとの距離を詰めた。

 

「一度捉えた間合いだ。逃がさない。」

 

(ホントに間合い管理が上手い! どうにかして距離を取りたいけど…。)

 

絶妙な間合い管理のテクニックにより距離をどうにかして離したいスミカはインテグラを突き放す事が出来ず、常に不利な間合いを取らされていた。

 

 

 

「やっぱり凄いなインテグラさんは…。」

 

「えぇ、勿論ですわ。あの剣術、そしてそれを十全に活かす間合い管理…。近接戦闘であればアンジェさんや真改さんにも決して劣りはしません!」

 

有利な立ち回りを見せるインテグラを見てセシリアが力強く拳を握った。

 

 

 

「ちぃ…、鬱陶しいなっ!」

 

「せいっ!」

 

ハンドガンやマシンガンの銃身を巧みに使ってインテグラの振る剣をいなしているスミカであるが、顔には苛つきが現れていた。

インテグラの剣捌きは今回の出場者の中では五指に入るもので、しかも間合いを外せないと来ては苛つくのも仕方ないだろう。

 

「この…!!」

 

「せやっ!」

 

銃身と物理シールドを使って耐える仕合に持ち込んだスミカであるが、顔からはかなりのストレスが見て取れる。

 

「舐めんなぁ!」

 

「おっと!」

 

シールドの陰からハンドガンを連射するも、インテグラは急速旋回をして直撃を避ける。そして回避した距離から一気に間合いを詰めて剣を振り下ろした。

 

(ちぃ…、やっぱりこの機体じゃパワー不足か…。誰だよ、装甲に全振りしたアホ設計者はよ!)

 

スミカは内心で自身の専用機設計者を毒づきながらインテグラの猛攻に対処する。

その顔は恐らくアイドル的な立場の女性がおよそしていいものではない。

 

「固いな、やはり。」

 

「それだけが取り柄の機体でね!」

 

「そうか…。出来れば決勝まで取っておきたかったが、固い相手には使わざるを得ないか…。」

 

インテグラは残念そうに、しかしながら顔にはやや喜びを浮かべてそう呟き、スミカから距離を取った。

突然のその行動にスミカは怪訝な顔を浮かべながらも、好機とみて距離を離しながら銃弾を撃ち込んでいく。

 

しかしインテグラはそれを気にする様子もなく、長剣を両手で握り、眼前に構える。

 

「……今、常勝の王は高らかに、手に執る奇跡の真名を謳う───」

 

インテグラは精神を集中させ、朗々と吟うように言葉を紡いでいく。その姿は気高く、美しく、見る者を魅了する。そして手にもった剣が仄かに光を放ち始めた。

 

「───束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるが良い!」

 

インテグラは眼前に構えていた長剣を振りかぶる。

その高々と掲げられた剣は強い光を放っていた。そして光を纏った剣を勢いよくスミカのいる方へと振り下ろした。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァアアアアッ!!」

 

「嘘…だろっ!?」

 

振り下ろされた剣からは強い光が金色の奔流となって放たれ、射線上のスミカを飲み込んだ。

光の激流に飲み込まれたスミカのコーラルスターはゴリゴリとシールドエネルギーを削られていき、ゼロになると同時に仕合終了を告げるブザーが鳴った。

 

 

「オーバーキルってレベルじゃねぇぞ!」

 

「ハッハッハ、すまないな。これを使わねばならないと判断したのでね。」

 

仕合終了後、向かい合った二人はお互い笑い合う。スミカが不平を言うように睨みつけると、インテグラは快活に笑って見せる。

そしてそれから数秒の沈黙のあと、お互いの健闘を称えあって握手を交わした。

 

 

 

「……なんだ、アレ…。」

 

「…インテグラ様の最終兵器、ですわ。」

 

「やっぱ紅茶キメてる国は違うわ…。」

 

テレビ越しにインテグラの専用機“キング=アーサー”の最終兵器を目の当たりにした8人は動揺したように口数が少なくなっていた。

 

 

 

「大喝采!!」

 

「ここで負けたら、カッコ悪いでしょう? うふふ…。」

 

「誰であろうと、私を越えることは不可能だ。」

 

「終始…。」

 

「せめて痛みを知らず、安らかに眠るといいわ。」

 

次々と前回大会参加者達が1回戦を突破していき、今日最後の仕合、鋭い目付きが特徴的な国際企業連盟代表の巻紙=オータム・礼子対赤いバンダナの映えるカナダ代表のアレクシア・ディオンの仕合となった。

 

 

 

 

「思い知らせてやる!」

 

「ほぁあああっ!」

 

礼子は右手のショットガンを構え、アレクシアは数回の屈伸運動のあと、気合いを入れるように大声をあげた。

 

そして仕合開始の合図と共に二人は一斉に動き出す。

 

「コイツはどうだぁ!」

 

「フゥッ!!」

 

礼子は拡張領域(パス・スロット)の中から取り出した石柱でもって突撃してきたアレクシアを打ち上げようとする。

しかしアレクシアはそれを片腕で受け止め往なすとそのまま礼子に向かって突進した。

 

「バカめっ!」

 

突進してきたアレクシアに対して礼子は顔面の高さにカウンター気味に蹴りを突き込み、怯ませる。

衝撃で仰け反ったアレクシアに礼子は上空から多段突きを繰り出してシールドエネルギーを削りにかかった。

 

「千手殺!」

 

「yeah! wow! yeah!」

 

礼子の繰り出した突きをアレクシアは両腕を巧みに使って往なし続ける。

そして全てを往なし終えると足を突き出して礼子を蹴り飛ばした。

戦況は五分五分というものであり、一進一退の攻防が続く。

 

「食らえぇ!!」

 

「You cannot escape!!」

 

お互いが引く気のない正面からの殴り合いに観客達は大いに沸いた。礼子が一撃をお見舞いすれば負けじとアレクシアも一撃をお見舞いする。エンターテインメントとして考えればこれほど盛り上がるものはないだろう。

 

「思い知らせてやる!」

 

「wow?!」

 

礼子はアレクシアをショットガンで殴り付けて体勢を崩させると、フライングキックで蹴り倒した。

そして急いで立ち上がるとショットガンを何発も撃ち込み、マウントを取る。

 

「あ~、please give up?」

 

「…No!」

 

「OK!!」

 

アレクシアはマウントを取られショットガンの銃口を突きつけられても尚、笑って徹底抗戦の態度を取った。

そんなアレクシアを礼子は満面の笑みを浮かべて殴り付ける。

そしてアレクシアもマウントを取られた状態から礼子にやり返す。

 

「ヒャッハー!!」

 

「yeah!!」

 

お互い奇声を発しながら殴り合い、それはシールドエネルギーが底を尽くまで続いた。

そしてブザーが鳴り、観客の視線がディスプレイに集まる。

 

「……どうだ! 見たかぁ!!」

 

「Oh…。」

 

ディスプレイに表示された結果は僅差で礼子に軍配が上がり、立ち上がった礼子はぐっとガッツポーズをとった。

そして二人は握手を交わし、観客達もそんな二人に拍手を送る。こうして第五回モンド・グロッソの初日は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 





アレクシアの元ネタ分かる人っているのかな?
…いるよね。

では次回でお会いしましょうノシ



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第126話 黄金の女王と青い騎士


エクスカリバーってビームをブッパする剣ですよね?

では本編をどうぞ↓


 

 

 

モンド・グロッソは1回戦ごとにくじを引き、組み合わせを毎回決めるのだ。

そして2回戦のくじの結果、2回戦第一仕合の組み合わせはインテグラ対イザベルとなった。

 

「ふむ、私もとんとくじ運がないらしい。」

 

「ふん、貴様となら少しは楽しめそうだ。」

 

イザベルは変わらず腕を組んで立っており、インテグラはそんなイザベルを長剣を構えながら見つめていた。既に臨戦態勢の二人はお互いの一挙手一投足を見逃さないように鋭い目でお互いを観察している。

イザベルの背後には無数の波紋が浮かんでおり、いつでも射出できる状態にある。

 

(…あの変則的な射撃武器…。少々面倒だ。)

 

「さぁ、こちらから行くぞ。」

 

イザベルは波紋の中から次々と武器を射出する。

それを見たインテグラはそれらの射線を的確に読み、避け続けた。それを腕を組みながら見ていたイザベルは楽しそうに小さく笑みを浮かべる。

 

「それ逃げろ逃げろ!!」

 

「ふ…、狐狩りをする貴族のつもりかね?」

 

「そうかもしれんな。」

 

逃げながらそう問うインテグラにイザベルは笑ってはぐらかすように答えた。そして撃ち続け避け続けること数分間、イザベルは拡張領域(パス・スロット)から独特な形状をした一本の剣を取り出す。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

「来い!」

 

剣を抜いたイザベルは拡張領域を利用した射撃を使いながらインテグラとの距離を詰める。

インテグラもそれに応じ、飛んでくる凶器の類いを無視して真っ直ぐにイザベルと真っ向から切り結ぶ。

 

「ハァ!」

 

「せい!!」

 

二人の剣が正面からぶつかり合い、甲高い金属音が響く。

お互いに高い技量を持った者同士の剣戟は観客達を大いに盛り上げる。そして視線の中心に居る二人は楽しそうな笑い声を上げながら剣を交えている。

 

「やはり、やるな…。面白いぞ! インテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングゥ!!」

 

「それはこちらも同じだ! イザベル・ローエングラムよ!!」

 

金属音を盛大に響かせて剣を交える二人、その戦いぶりは誇り高い剣士による決闘のそれだ。

インテグラが剣を振り下ろせば、イザベルはそれを払って返す刀で切りつけ、それをインテグラも防いで切り返す。

そんな高度な次元の斬り合いに見ている者達は息を吞んでそれを見守っている。

 

「せやぁ!!」

 

「ふん!」

 

数分間もずっとその場で足を止めて斬り合っている二人は幾合もの剣戟を交わし、同時に距離を離した。

そしてイザベルは今まで背後に出現させていた波紋を納め、ニヤリと笑う。

 

「光栄に思え。貴様に(オレ)の本気を見せてやるのだからな。」

 

「それはそれは…恐悦至極にございます。」

 

射撃兵器による援護射撃が止み、インテグラは全神経をイザベルに向ける。

イザベルは取り出した独特な形状の剣を観衆に見せつけるように掲げていた。

 

「……さぁ、今こそ開くぞ。我が最強の力の扉を─!天を仰いで見るが良い!! この天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を!!」

 

イザベルの掲げた剣を構成する3つの円筒が高速で回転して風を巻き込み、生み出された暴風が圧縮され鬩ぎ合い、一種の暴力的な破壊力を生み出している。

 

(…!? 形振り構ってられないのはこちらもか…!!)

 

それを見たインテグラも急いで長剣を構え直して最終兵器を起動させる。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァァアア!!」

 

イザベルの天地乖離す開闢の星によって発生した圧倒的暴風、その破壊力とインテグラの約束された勝利の剣が同時に正面からぶつかり合う。

その衝撃に観客席を保護している遮断エネルギーの膜がミシミシと音を立てて軋む。その迫力に直接観客席で見ている者はもちろん、テレビ越しに見ている者でさえ圧倒された。

 

そして他を圧倒するエネルギーのぶつかり合いによって砂塵が舞い上がり、目映い光が周囲を包み込む。

 

 

 

「……どう、なった…?」

 

テレビ画面越しに見ていた一夏たちはじっと煙と光が収まるのを待っていた。そして煙が落ち着くとアリーナの中心に健在のイザベルとインテグラの姿が見える。

 

「…、どっちだ…。」

 

「二人ともまだ行けそうに見えるけど…。」

 

画面に映る両者の様子はまだ余裕があり、どちらにも致命的な損傷は見られない。

 

 

 

「ほう…、耐えるか! 我の奥の手を!」

 

「そちらこそ、最終兵器だったのに、まさか相殺でやっととはな…。」

 

二人とも正面から睨み合い、得物を構えている。

そしてまたゆっくりと歩み寄り、もうすでに両者の間合いに入ると同時に動いた。

 

「ハァ!!」

 

「せや!!」

 

正面から二人は再度剣を切り結ぶ。

二人のシールドエネルギーはもう三分の一を下回っており、その攻防は最後の一合になるだろうと観客達は予想していた。

もちろんその予想は当たる。

 

 

「ハァアッ!!」

 

「せぃやぁあっ!!」

 

二人は同時に大きく踏み込んでお互い相手の心臓に向けて剣を突きだした。そしてそれは同時にお互いの胸に当たり、ブザーが鳴る。

インテグラもイザベルも、二人とも笑っており観客達はバッとディスプレイ画面に目を向ける。

 

「フフ、ハハ…、ハッハッハッ!!」

 

「ハハハハハハハハッ!!」

 

二人は一緒に専用機を待機状態に戻すと、向かい合って笑い合う。

両者の差はほんの僅かな物ではあるものの、勝ったのはイザベルだった。

第一仕合、2回戦の最初から高レベルな戦いを見せた二人に観客達から惜しみ無い拍手が送られる。二人はそんな観客達の歓声と拍手に応えながらアリーナから出ていった。

 

 

 

 

「……イザベル達の後の仕合か…殺りにくいな。」

 

「……。」

 

2回戦、第2仕合はフランス代表のアンジェ・オルレアンと日本代表の井上真改の組み合わせだった。

雑誌などでも前々から因縁めいたものを噂されていた二人の仕合だけに、観客達の期待は上々である。

 

「…斬る。」

 

「やって見せろ。」

 

アリーナの中央で睨み合う二人はどこか殺伐とした雰囲気で言葉を交わす。

そしてお互いの得物であるブレードを手に取ると構えを取った。

アンジェの構えは正眼に構えるオーソドックスなもので、一方の真改は居合いのような構えだ。

 

 

「行くぞ!」

 

「……。」

 

アンジェの突撃に合わせて真改はコインを2枚、同時にアンジェの顔の高さに向けて指で弾き飛ばす。

アンジェは真改の放った2枚のコインを剣で弾くと、既に目の前に真改の抜いた刀が迫っていた。

 

「っ!?」

 

「……。」

 

アンジェは即座に足を止めて後ろに飛び退き、事なきを得た。一方の仕留めきれなかった真改は露骨に舌打ちをして悔しがっていた。

しかしまたすぐに居合いの構えに戻り、いつでも斬りかかれるようにしている。

アンジェは真改から目を離さずに、自分が先ほど弾いたコインに目を向けた。地面に落ちている二枚のコインは四角い穴の空いたものであり、それらによって真改が何を言おうとしているのかアンジェにはすぐに分かった。

 

「確か…六文銭、だったか?」

 

「……。」

 

「私への手向けって、ことかい?」

 

アンジェの言葉にも真改は黙ったままで構えをとり続けている。そんな彼女を見てアンジェはハァと小さく溜め息を吐いて構える。

ぴりぴりとした緊張感に客席の観客達もしんと静まり返った。

 

「ふ…ッ!!」

 

「ッ!?」

 

ピンと真改が指でコインを弾いてアンジェに牽制してから高速で突っ込むと、アンジェは2本目の剣を取り出してそれを迎撃する。

二人は肉薄し、ガキンという鈍い音が響き渡った。

 

「甘い!」

 

「ッ……?!」

 

真改の一刀を受け止めたアンジェはそこから更に体を近寄せて膝蹴りを真改の腹にお見舞いして体勢を崩させ、突き飛ばした。

そして突き飛ばした真改に向かってアンジェは猛スピードで突進して斬りかかる。

 

「無駄…。」

 

「どうかな?」

 

二振りの剣をそれぞれ別々の軌道で斬りかかるアンジェに真改はブースターを吹かして突撃する。

そしてブレードがかすることも厭わずに体当たりでアンジェの体を崩しにコインを2枚、アンジェの顔に向けて弾き飛ばす。

顔に物が当たった衝撃で無意識の内に目を瞑ったアンジェを真改は乱雑に掴んで上空に放り投げた。

 

「良い的だ…ッ!!」

 

上空に放り投げられ、無防備な状態のアンジェに真改は高速の居合いで斬りつける。

どうにか一度斬りつけられるだけで間合いから逃げられたアンジェは体勢を立て直して真改を見る。そこには既に間合いを詰めて来ていた。

 

「まだ、負けてはやれないな。」

 

「…。」

 

アンジェと真改の振ったブレードは互いにぶつかり合い、音を立てる。

シールドエネルギーだけで考えれば、優位に立っているのは大きな一撃を入れた真改である。お互いメインレンジが被っていることもあり、二人の仕合は苛烈さを増す。

それは1発いれたかどうかの差など、最初からなかったと思わせるほどだ。

 

「過程は関係ない! 最後に立ってさえいれば!!」

 

「ヒーローの条件は最後に立っていることだ!」

 

竜巻のように吹き荒れる二人の剣戟に、観客達は固唾を吞んで見守った。

そして足を止めて斬り合うこと数分、仕合終了を告げるブザーが鳴る。

 

 

「……、無念…。」

 

「どちらが勝っても、おかしくなかった。でも、運で戦いは決まらない…!」

 

専用機を待機状態に戻した二人は向かい合ったままで、それぞれのリアクションを見せていた。

ディスプレイに表示された結果はごくごく僅かな差でアンジェの勝利だった。両者とも、自身の専用機の強みである機動力を使わず、正面からの斬り合いを挑み、それで得た結果に観客達は賞賛の拍手を贈る。

 

 

 

 





インテグラ VS.イザベルの勝負は最後までどちらに勝たせるか悩んだ挙げ句にコインを投げて決めました。

では次回でお会いしましょうノシ



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第127話 竜 VS.痴女


タイトルだけで誰が出るか分かるっていう。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

「さぁ…(ロマン)を始めよう…。」

 

「アハハハハハハ!!」

 

着々と2回戦が進み、次の仕合はスペイン代表で、専用機“恋するドラゴン(ドラゴン=エネモラーデ)”を操るソフィア・ドラゴネッティと、開催地であるイタリア代表、専用機“アナザーブラッド”を駆るアナスタージア・ブロットの仕合だ。

仕合前から睨み合う二人は、前回の第4回モンド・グロッソにおいて激闘を演じ、引き分け再試合という名勝負を作り上げた。その為、メディアでも彼女らの因縁を取り上げ、観客達はこれから起こるであろう激闘に胸を膨らませている。

 

 

 

「ガオーッ!」

 

「アハハ…。」

 

仕合開始と共に二人は同時に仕掛ける。

ソフィアは上空に飛び上がるとそこから急降下してアナスタージア目掛けて飛び掛かる。

それに対してアナスタージアは専用機の周囲に蠢く赤い流動体を展開する。

 

「血の水面に魅入る、写せ──」

 

ソフィアの拳が届く直前にアナスタージアの身体を赤い流動体が多い、四人のアナスタージアが現れる。

ソフィアが捉えたその内の1体は拳が当たった瞬間に赤い液体に戻り、弾けた。そしてその隙をついてソフィアの背後からアナスタージアが奇襲を行う。

 

「アハハッ!」

 

「一緒に踊ってもらおうか…!」

 

ソフィアはアナスタージアの奇襲を察知すると身体を翻し、手刀を打ち込んできたアナスタージアの顎を思いっきりアッパーでかちあげた。

 

(オレ)は知っているぞ、お前が格闘戦を苦手としていることなどな。」

 

「フフ、それがどうしたの?」

 

アッパーを食らい、宙を舞ったアナスタージアであったが、その顔にはまだまだ余裕の笑みを浮かべている。

そんなアナスタージアを見てソフィアはニヤリと笑う。

 

「ふふん、面白い。さぁ、お前の殺意を逆鱗に突き立ててみろ!」

 

「あらぁ、良いのかしらぁ?」

 

笑顔を浮かべる二人、仕掛けたのはソフィアだった。

ソフィアはずんずんとアナスタージアに駆け寄り、拳を伸ばす。

 

「血風を纏う、抱け!」

 

「っ!?」

 

ソフィアの拳がアナスタージアの出した赤い球体に当たると、その赤い球体は弾けて液体となりソフィアの足元に絡み付く。

そしてアナスタージアが両腕を振るうとソフィアの身体は大きく宙に投げ出された。

 

「禁忌の血を解放(はな)つ、侵せ──!」

 

大きく投げ出されたソフィアを見て、アナスタージアは前方に勢いよくブースターを吹かして突進した。そして丁度落ちてきたソフィアの頭を掴むとそのままの勢いで壁に叩きつける。

ソフィアが壁に叩きつけられると、まるで血飛沫のように赤い液体が辺りに飛び散った。

 

「ぬおぅ?!」

 

「アハハハハハハ!!」

 

ソフィアを壁に叩きつけたアナスタージアはその場から1歩飛び退いて喜びを表すように高笑いをした。

赤い液体を頭から浴びていることもあり、今の彼女の姿は鮮血を浴び、狂ったように笑う凶人にも見える。

 

「おおう、今のは効いたぞ…。」

 

ドラゴンも同様に頭から被った赤い液体を滴らせながら立ち上がる。

 

「いい物を貰ってしまったな…。これはお返しをしなくては。」

 

「あらぁ、気にしなくていいのよ?」

 

やり返す意思を見せるソフィアにアナスタージアはくすりと笑う。

笑う彼女の周りには赤い球体が浮遊しており、ソフィアはそれを冷静に観察していた。

 

(アレがアイツの新兵器か…、1回戦じゃ見せなかったくせに…。)

 

「うふふ。」

 

すっといつもの構えに戻ったソフィアを見てアナスタージアは周囲を飛ぶ球体を増やす。

 

「ドラゴンファイヤー!」

 

「っ!?」

 

ソフィアのいきなり口からビームを出すという突拍子もない行動に反応の遅れたアナスタージアは急いで眼前に赤い液体を展開してそれを防いだ。

しかし防御に気を取られ過ぎて、迂闊にもソフィアを懐に招き入れてしまう。

ソフィアは両腕を大きく回してアナスタージアを掴むと上空に放り投げる。

 

「ドラゴンファイヤー! アンド、ドラゴンアッパー!!」

 

そして上空にいるアナスタージアを撃ち落とすようにビームを吐き出し、落ちてきた彼女に向けて3連続の全身を使ったアッパーをお見舞いする。

 

「あぁんっ!?」

 

「ガオーッ!!」

 

アッパーの衝撃に悶絶しながら落ちていくアナスタージアであるが、ソフィアは手を緩めない。

アッパーの最後に跳ね上がったソフィアはそのまま上空から飛び掛かるようにアナスタージアに突撃する。

 

「己のターンッ!! ウァチャチャチャチャチャッ! ウゥ、乗ってきたぁ!!」

 

突進して浮かせたアナスタージアにソフィアは更に追撃する。

突進して一撃を入れると、激流のように何発も目にも止まらぬ速さで連撃を撃ち込み続けた。

そして最後、フィニッシュブローのようにアナスタージアを蹴り飛ばすと、ソフィア本人は上空へと飛び上がる。

 

「破滅のブラッドスクリームッ!!」

 

上空から巨大な龍のような物が姿を現し、その長大な口を開いて灼熱の息吹を吐き出した。

それは丁度正面にいたアナスタージアを捉え、こんがりと焼いていく。

 

「大喝采!!」

 

龍の姿が消えるとソフィアはぐるぐるとバク転してから着地する。

目の前の大地は熱されており、所々から湯気が立ち上っている。そんなアリーナの端で、アナスタージアは力なく横たわっていた。恐らくあまりの衝撃に気絶してしまったのだろう。

 

「…いかん、火力の調整を間違えた…。」

 

目の前の惨状を見たソフィアはばつが悪そうに頭を掻くと、ボロボロになったアナスタージアを回収してアリーナを去っていった。

 

 

 

「相変わらず派手ですね。」

 

「ふん、こういう時はこうじゃないとな。」

 

アリーナから退場し、通路を歩いていたソフィアはすれ違い様に楯無から声を掛けられる。そんな楯無の言葉にソフィアは得意になって返した。

その後、二三言葉を交わした彼女らは分かれ、楯無はアリーナへ、ソフィアはアナスタージアを担いだまま医務室に向かった。

 

 

 

 

「お久しぶりです、礼子さん。」

 

「ええ、久しぶり。」

 

次の仕合は国際企業連盟代表の巻紙=オータム・礼子とロシア代表の更識楯無だった。

面識のある二人であるが、そこまで親しいという訳ではない。むしろ礼子が楯無に対して少しながら苦手意識を持っている。

そんな二人だが、こと仕合となるとそんな事を微塵も感じさせない。アリーナに来てからの二人はお互い刺すような殺気をぶつけ合っている。そして仕合開始のブザーと同時に二人は動いた。

 

 

 

ジョインジョインタテナシィ ジョインジョインレイコォ

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン

デッサイダデステニー

ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォナギッナギッナギッフゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンサラシキウジョウダンジンケンK.O. イノチハナゲステルモノ

 

 

「本当に速いわね…。あぁ、面倒臭い…。」

 

「コレが取り柄、ですもの。」

 

まず最初の一合は楯無のペースで進んだ。目にも止まらぬ高速機動で礼子の間合いを外し、初撃を入れてからは途切れることのない連撃で自分のペースをしっかり確保したのだ。

 

バトートゥーデッサイダデステニー

ハァトウケイコホウヒャッハーペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッヒャッハー ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒ ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒK.O. カテバイイ

 

次の一合は逆の展開だった。楯無が牽制に放った衝撃波を礼子は飛び越えて仕掛ける。カウンター気味に楯無を壁際まで蹴り飛ばし、追い詰めると拡張領域(パス・スロット)から大量の爆薬と液体火薬を取り出し続け燃やし尽くす。

しかしそれだけで全部のシールドエネルギーを削りきれないと判断した礼子は最後に蹴りを一発お見舞いしてから距離を取った。

 

 

「やってくれましたね…。」

 

「仕留めきれると思ったのに…。やっぱり火力不足かしら…。」

 

壁際から立ち上がって警戒を露わにする楯無に礼子はショットガンの銃口を向けて牽制する。

 

 

バトースリーデッサイダデステニー

ユクゾユクゾヒャッハー ハァンクラエェフンハァ

 

お互い互角の状態で始まった差し合いは均衡状態で時間が進んでいく。

楯無が自慢の高速機動で礼子を掻き回そうとするものの、慣れてきた礼子はそれを冷静に捌く。しかし礼子も礼子で迂闊には攻められないでいた。

 

「コイツはどうだ!」

 

「──っ!?」

 

しゃがんだ状態で待ち受けていた礼子は楯無のほんの一瞬の隙を見て石柱を使って上空にかちあげる。

そして宙に浮いた楯無を追うように礼子も飛び上がり、追撃を加える。

 

「ヒャッハー! 千手殺!」

 

上空からオーバーヘッドキックで楯無の体勢を大きく崩し、無数の突きでもって追い討ちを掛ける。

そして地面に叩きつけられた楯無に礼子は着地してから直ぐ様駆け寄って起き攻めを仕掛けた。

 

「ヒャッハー!!」

 

「更識酔舞撃!」

 

しかし楯無は起き上がりに仕掛けられたローキックを両手で受け止めて体当たりで礼子を突き飛ばす。

 

ゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアテーレッテーサラシキウジョーハガンケンハァーン

FATAL K.O. セメテイタミヲシラズニヤスラカニネムルガヨイ ウィーンタテナシィ

 

 

「うわらば!?」

 

楯無は礼子を体当たりで突き飛ばした後、自慢の高速移動を使って追撃を行う。壁際で礼子を上空に蹴り上げると何発も突きを打ち込み、礼子が落ちるよりも先に着地して待ち構える。

そして落ちてきた礼子に上段突きを打ち込んで壁に叩き着けるとおもむろに座って両手を掲げた。そして掲げた両手から何かを出すと、勢いよくその両手を振り抜く。すると、一瞬で礼子のシールドエネルギーがなくなった。

 

「私の勝ちですね。」

 

「くぅ…、勝てると思ったのに…。」

 

礼子は立ち上がって楯無を軽く握手を交わすとそのままアリーナを後にし、楯無は暫くその場に残って観客達の声援に応えていた。

その後も二回戦は順当に進んで行った。

 

 

 





楯無対礼子は書いてて楽しかったです(小並感)

では次回でお会いしましょうノシ



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第128話 白竜と英雄王


嗚呼、第5回モンド・グロッソ編もそろそろ終わりが近付いています。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

 

どんどんと第五回モンド・グロッソは進んで行き、ついにベストエイトまで絞られた。

そして楯無、ハスラー、アンジェは危なげも無く対戦相手を下し、準々決勝最後の仕合はイザベル対ソフィアを残すのみとなった。

 

 

「がおー!」

 

「ふん、威勢がいいな。」

 

準々決勝最後の仕合、イザベルとソフィアはどちらもやる気十分な顔つきでアリーナに降り立った。

金ぴかの装甲を身に纏って既に波紋を展開しているイザベルの手にはすでにあの剣が握られている。一方のソフィアはいつもの白い装甲のISに身を包んでいた。

 

そしてブザーが鳴ると共に二人はそれぞれ動き出す。イザベルは波紋の中から顔を覗かせている兵器を勢いよく射出し、ソフィアはそんなものはお構いなしに突撃する。

 

「駄馬め!」

 

(オレ)は馬ではない、竜だ!」

 

ソフィアは次々と射出される武器を避けながらイザベルに肉薄する。

そして完全に懐に潜り込むと、低い姿勢から大きく跳ね上がってイザベルの顎を狙う。それをイザベルは体捌きだけで避け、カウンターを決めた。

 

「ちぃ…。」

 

「この(オレ)を誰と心得るか! イザベル・ローエングラム、スイス国家代表にして最強の王ぞ!!」

 

「なら己はスペイン代表で、竜の血を引く者さ。がおー!」

 

ソフィアはニヤリとした笑みを浮かべてイザベルの方を向く。

そんなソフィアを見たイザベルはまた波紋を複数展開する。そして先ほどと同じようにソフィアは縦横無尽にアリーナを走り、飛び回りイザベルに接近する。

それをイザベルはアリーナの中央で腕を組みながら目で追う。

 

「ガオー!」

 

「無駄だぁ!!」

 

上空から襲いかかるソフィアの拳をイザベルは手に持った剣で受け止める。そしてその状態から更にソフィアは肉薄し追撃を狙う。

 

「お前が王というなら、己の逆鱗にその刃を突き立ててみせろ!」

 

「あぁ、良いだろう! この剣をその身に受けるが良い!」

 

完全に懐に潜り、インファイトに持ち込んだソフィアは煽るように笑う。そんな彼女の言葉に応えるようにイザベルは剣を振るう。

剣の内側、完全に拳の間合いであるにも関わらずイザベルはソフィアと渡り合う。それはソフィアの技量が低いという訳ではなく、イザベルの剣術の技量が異常なまでに卓越しているが故である。

 

「ちぃ、やはり上手くはいかんか…!!」

 

「どうした、その程度か?!」

 

余裕を見せるイザベルは手に持った剣1本と体捌きでソフィアの攻撃を捌ききる。

鋭い目付きで全てを見透かすようにソフィアを見つめるイザベルの姿は、高貴な威厳さえ感じさせる。

 

「さぁ、そろそろこちらから行くぞ。」

 

「ッ!!」

 

インファイト状態からイザベルは大きく踏み込んで飛び込んできたソフィアに斬りかかる。

ソフィアはその振り下ろされる刃を腕の装甲を使ってガードするが、当たった瞬間に加えられた力で叩き落とされた。そして地面に落ちたソフィアに向けてイザベルは踵を落とす。

それをソフィアは体を転がすことで避ける。

 

「この…、ドラゴンファイアー!!」

 

「ふん!」

 

イザベルはソフィアの吐いたブレスを盾を取り出すことで防いだ。そしてやり返すように波紋の中から武装を射出する。

ソフィアは飛んでくる兵器を受け流しながら、また縦横無尽にアリーナを走り回る。

高速で走り回るソフィアを目で捉えながらイザベルは剣と波紋を構えた。そして、ソフィアは一気に距離を詰めて攻めかかる。

 

一緒に踊って貰おうか(Shall we dance!)!」

 

「我の踊りについて来れたら考えてやろう。」

 

「言質は取ったぞ!」

 

まだ余裕のある笑いをこぼすソフィアはイザベルを間合いに捉えると両腕を伸して掴みにかかる。しかしイザベルは後ろに飛び退いてその腕から逃れると波紋から槍を飛ばして反撃した。

しかしソフィアもそれを見てからすぐさま横に飛んで避けると、そのまま追撃の隙すら与えずにイザベルに仕掛ける。

 

「ガオー!!」

 

ソフィアは拳を突き出してイザベルに突進する。イザベルは余裕を持って回避するが、ソフィアの拳が当たった地面に勢いよく拳がめり込み、大きく陥没した。ソフィアは急いで拳を引き抜くとすぐさま追撃に移る。

しかしどこまで勢いに乗って攻め込んでもイザベルはそれを回避し、防ぎ、致命傷には至らない。それでもソフィアは手を緩めない。どこまでも真っ直ぐに、誰よりも諦め悪く仕掛け続ける。

 

 

「グラウンド──ゼロッ!!」

 

肉薄した状態から跳ね上がるようにして身体全部を使って放ったアッパーさえもイザベルはかわして見せる。

 

「まだだ…!! まだ己は、やれる!!」

 

ギリっとした鋭い瞳でソフィアはイザベルを睨みつけ、食らいつく。その姿勢に観客達は固唾を呑んで彼女の戦いを見守った。

 

「うぉおっ!」

 

「良いぞ、その瞳だ! 面白い!!」

 

ボロボロになりながらも臆することなく前のめりに仕掛け続けるソフィアにイザベルはニヤリと満足したように笑う。

 

「己のターンッ!!」

 

ソフィアは気合いを入れるように地面を一度踏み鳴らすと一目散にイザベルへと向かって全速力で走り出した。

それをイザベルは波紋から武装を射出して止めようとするが、それらを気にすることなく、飛んでくる凶器を防ぐ事もせずソフィアは真っ直ぐにただひたすら直線でイザベルを捉える為に走る。

 

「うぉおぁああっ!!」

 

「そこだっ!」

 

イザベルは低い姿勢のまま突撃してきたソフィアに対して手に持った剣を彼女の首へと落とす。

しかしそれをソフィアは左腕を振り上げることで迎え撃ち、振り上げて跳ねた勢いを利用してイザベルへと殴りかかった。

 

「何ィ!?」

 

「ゥウアタタタタタタタタッ!! ウゥアチャアッ!!」

 

初撃を全力で殴り付けたソフィアはイザベルの体勢を崩したのを確認すると何発も何発も、どこにあたっているかなど気にすることなく連続で殴り付ける。

そして最後に大きく回し蹴りを入れてイザベルを大きく蹴り飛ばした。

しかしソフィアはそれだけでは止まらない。蹴り飛ばしたイザベルに更に追撃を仕掛けるようにソフィアは彼女に飛び掛かった。

 

「くっ、ええい友よ!」

 

「ッ!?」

 

飛び掛かって来るソフィアを見て苦虫を噛み潰したような顔を浮かべたイザベルは右腕を前に突きだした。

するとソフィアの周囲にイザベルの兵装である波紋が出現し、その中から大量の太い鎖が飛び出してソフィアの身体を捉えて拘束する。

 

「ハァ…ハァ…。まさか、天の鎖(エルキドゥ)まで使わされるとはな…。しかし、これで我の勝ちだ!」

 

「ぐっ! この…!!」

 

「無駄だ、その鎖を引き千切ることは出来ん!」

 

最後まで抗おうとして鎖からどうにか逃れようと藻掻くソフィアであるが、その鎖はビクともしない。そして鎖で拘束されたソフィアを見るイザベルは勝ち誇ったようにその手に握る剣を掲げる。

イザベルが剣を掲げるとあの時見せた時のように剣を構成する円筒が回転し始めた。

 

「残念だったな、ソフィア・ドラゴネッティ…。竜とは英雄に狩られる宿命、英雄王たるギルガメッシュの、我の勝ちだ…!」

 

「いいや、己の勝ちだよ英雄王…。…バルムンク!!」

 

ソフィアがそう力強く叫ぶとイザベルの上空から黒い何かが高速で降下し、イザベルの専用機である“ギルガメッシュ”の黄金の装甲を切り裂いた。突然の出来事だったこと、そして天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)の発動準備をしていたことが災いしイザベルは動くことが出来なかった。

その黒いそれは黒刃の刃でもってギルガメッシュの装甲を傷つけ、一瞬のうちに残ったシールドエネルギーを空にする。

 

「何だと…、この我が…!?」

 

「慢心したな、イザベルよ…。」

 

ギルガメッシュのシールドエネルギーがゼロになったことで鎖の拘束が解けたソフィアはよろよろと歩き、仰向けに倒れているイザベルに近寄った。その傍らにはソフィアよりもやや大きな人型の何かがいる。それは黒塗りの甲冑を身につけた騎士のような出で立ちであり、手には大きな剣を握っている。

 

「これが己の唯一の第三世代兵装で最後の切り札だ…。よく言うだろう? 切り札は最後までとっておけ、とな。」

 

「……。そうか、ならば焦って天の鎖を使った時点で我は負けていたのだな…。」

 

イザベルは仰向けの態勢から立ち上がるとソフィアに向けて手を差し出した。その表情は晴れやかなものである。

 

「我を倒したのだ、必ず優勝しろよ。」

 

「勿論、己はそのつもりだ。」

 

二人は固く握手を交わしアリーナから出ていった。

こうして第五回モンド・グロッソの準々決勝は終わり、残す所は三試合のみとなった。

 

 

 

 





さて、誰が優勝するのやら。

では次回でお会いしましょうノシ



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第129話 幕間の予想会


戦闘書くの、そろそろ辛いかも。
でもね、やり始めたなら最後まで書かなきゃね。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

「さて…あと四人、ベスト4が決定したな。」

 

「はい。アンジェ・オルレアンさん、更識楯無さん、ソフィア・ドラゴネッティさん、そしてハスラー・ワンさん…。」

 

出場者に与えられた個室の中でスミカはモニターを眺めながらヴィートと話していた。

話題はもちろん第5回モンド・グロッソの準決勝まで残った四人のことである。

 

「このまま行けば刀剣部門はアンジェだろうな。」

 

「そうですね、イザベルさんも真改さんも、インテグラさんも卓越した技術を持っていましたが、やはりアンジェさんは頭一つ抜けてる気がします。」

 

「それは私も思うよ。間合い管理はインテグラ、鋭さは真改、扱いの巧みさはイザベルがそれぞれ長所として持っているが、やはりアンジェはどれをとっても3人より同格かやや上…。」

 

「それ故に総合力ではアンジェさんに軍配が上がる…。」

 

ヴィートが最後に呟いた言葉にスミカは小さく頷いた。

刀剣術の怪物、アンジェ・オルレアンの凄さを再確認し、その規格外さを改めて思い知ったからだ。

間合い管理の達人であるインテグラ・ヘルシング、そしてそれを下したイザベル・ローエングラムの実力を身を持って思い知っているスミカだからこそである。

 

「本当に…デュノア社はあんな化け物をどうやって抱え込んでいるのやら…。」

 

「…デュノア社と言えば、社長のジャック氏の恋愛譚が一時期話題になっていましたね。」

 

このまま話しているとスミカがストレスでティーカップを割りかねないと判断したヴィートは無理矢理に話題を変える。

その話題に食いついたのか、スミカはティーカップを置いてヴィートの方を向いた。

 

「なんだヴィート、あんな昼ドラのような話に興味があるのか?」

 

「あぁ、いえ…。展開自体ではなくその、ジャック社長が本当に愛した女性のほうでして…。」

 

からかうようににやにやしているスミカであったが、返ってきた答えに眉を上げる。

 

「自分も女性の身でありますから…、あのように深く殿方に愛してもらいたいな…と。」

 

ヴィートは真っ白な頬を薄紅に染めながらスミカの質問に答える。そして言い切ってやはり恥ずかしくなったのか、手に持ったファイルで顔を隠してしまった。

そんなヴィートを見てスミカはハァと小さく溜め息を吐いてからモニターに視線を移す。

 

「…やっぱり、問題はハスラー…か。」

 

そう呟いたスミカの目にはアメリカ代表のハスラーが映っていた。

 

 

 

「どう思うの?」

 

「何がだ白野。」

 

「誰が勝つと思うのかって話よ。」

 

栗毛色の長髪に白いワンピースを着た少女の質問にイザベルは“あぁ”と呟いた。

イザベルは肘掛け椅子に座り、モニターを見つめたまま優雅に頬杖をついて口を開く。

 

「大方の雑種共の予想はハスラー・ワンであろうな。しかし(オレ)はそうは思わん。」

 

イザベルの言葉に白野と呼ばれた少女は疑問に思い、イザベルの隣のソファに座る。

 

「どういうこと?」

 

「奴からは勝とうという気迫が伝わって来ない。それだけさ。同じ理由で更識もないな。奴も本気で勝ちに来てはいない。」

 

「…その二人は勝つ気がないってこと?」

 

「そうではない。少なからず勝つつもりはあるのだろうが…、奴らではソフィアとアンジェには勝てんだろうと言うだけだ。」

 

それっきりイザベルは何も語ろうとはせず、ただじっとモニターを見つめていた。自分だけ全てを分かって、それを説明しようともしないイザベルに白野と呼ばれた少女は少しだけムッとしてティーカップの紅茶を口に含んだ。

 

(我に勝ったのだ…。見せてみるが良いソフィア・ドラゴネッティ、貴様の言う(ロマン)とやらをな。)

 

イザベルはモニターに映るスペイン代表のソフィアを見詰めていた。

 

 

 

 

「誰が勝つと思う?」

 

「アンジェお姉ちゃん!!」

 

「わ、私もアンジェさんかな~って。」

 

ホテルのロビーに集まっていたミュカレ、ヒルダ、青蘭、真改達はロビーに置かれているテレビを見ながら話し合っていた。

ヒルダやアンジェにトラウマを植え付けられた青蘭などはアンジェの優勝を予想している。彼女らの周囲には遠巻きにメディアが押しかけてきており、写真などを撮影していた。

 

「真改さんはどう思うの?」

 

「……、アンジェさんは強い。それに、アンジェさんの専用ブレードがありますし。」

 

「…ヒルダちゃんを一瞬で倒しちゃったアレ、よね?」

 

「はい。月光(Clair de Lune)…、アレはほとんど自分の“月光”と同じ原理のブレードです。物理ブレードですが、斬る直前にエネルギー体を刀身に纏わせて破壊力を向上させて斬る…。」

 

真改は自分の専用機の待機状態である銀のペンダントを眺めながら呟いた。

ほぼ同じ機構を持つ者同士、どこか感じる部分があるのだろう。

 

「……嵌まれば一撃、そしてアンジェさんには嵌めるだけの技量がある。だから私もアンジェさんが勝つと思います。」

 

「アンジェお姉ちゃん強い! だから、負けない」

 

「そうだな…。」

 

ぶんぶんと腕を振ってアピールするヒルダに、ミュカレは彼女の小さな頭を優しく撫でてやる。

ミュカレの優しい手つきにヒルダは頬を緩ませて笑った。

 

「まぁ、ハスラーさんも強いけど…、流石に2連覇は出来ないとは思う。」

 

「フラグくさいなぁ…、それ。」

 

等々和気藹々と話している彼女達は表情に差異こそあれど、見ているのは一緒でアンジェ・オルレアンだけを見ていた。

 

 

 

「…アレクシア…、誰が優勝すると思う?」

 

「タテナシ!!」

 

「だよな!!」

 

試合後、すっかり意気投合した礼子とアレクシアは礼子の部屋で今までのモンド・グロッソの仕合のリプレイを見ながら優勝者について話し合っていた。

二人の意見はロシア代表の更識楯無であり、それについて食い違うことはない。

 

「タテナシのあのテクニック、アレは凄いな!!」

 

「そうだよな!!」

 

ハハと豪快に笑いながら彼女たちは肩を組む。片手にはコーラの瓶が握られていた。がしかし、彼女達の足下には度数の低いアルコールの類いの空き缶や空き瓶が転がっている。

そんな彼女達は上機嫌にコーラを呷りながら、テレビに映っている楯無の姿を真剣に見つめていた。

 

 

 

「……負けちゃったものねぇ…。」

 

「開催地の代表がベスト4にも残れないのか…。」

 

「なによなによ! 貴女だってぇ…。」

 

なぜか偶然ホテルの食堂で出くわしたインテグラとアナスタージアはどうしてかお互いの傷口に塩を塗ろうとしている。と言うよりも、アナスタージアが一方的に塩を塗り込まれている気もするが…。

ムキになって言い返すアナスタージアを見てインテグラが小さく笑っているのがいい証拠だろう。

 

 

 

 

「…ベスト4、誰が優勝するんだ?」(一夏)

 

「う~ん、ボクはアンジェさんに優勝してほしいけど…。」(シャル)

 

「賭けサイトを見たが、大方の予想はハスラーだな。」(簪)

 

「ホントだ…。残りの三人が団子状態になってる。」(箒)

 

「あたし的には楯無会長だと思うけど…。」(鈴)

 

「同感かな。」(南美)

 

「私はソフィアを推しているが…。」(ラウラ)

 

「どうなるのでしょうか…?」(セシリア)

 

テレビを見ていた八人はそれぞれの意見を出し合って予想し合う。冬休みという事も手伝い、一日中モンド・グロッソに関係するテレビ番組を見続けていた彼女らはもはや一種の情報通となりつつあった。

 

「ハスラーさんかぁ、やっぱり。今まで危なげ無さすぎだったもんな。」

 

「ホントにそれ。」

 

「対抗馬は…、ここまで来た連中ってどいつもこいつも化け物だったわ。」

 

3人の中から挙げようとした鈴音はその3人もまた怪物級であることを思い出して額に手を当てた。

そんな鈴音の様子に確かに確かにと肯定するように7人は頷く。

 

 

 

結果の見えない第5回モンド・グロッソ、残り3戦は遂に明日である。

 

 

 

 





皆さんは誰が優勝すると予想してますか?

では次回でお会いしましょうノシ



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第130話 剣士と拳士


遂に残り3試合となりました。

では本編をどうぞ↓


 

 

「ほう、面白い…。」

 

「これって…。」

 

個室でモンド・グロッソの中継を眺めていたイザベルは微笑みを浮かべて呟いた。

それに釣られて画面に目を移した白野は驚いたように目を点にする。

 

「準決勝第一仕合、更識楯無対アンジェ・オルレアン。第二仕合、ソフィア・ドラゴネッティ対ハスラー・ワン…。」

 

「これはこれは…。どうやら天命はソフィアに傾いているらしいな。」

 

ハッハッハッと愉快そうに笑うイザベルを白野は訝しげに見つめる。しかし、そんな事を知ってか知らずかイザベルは何も語らない。

 

 

 

 

「…手合わせ願います。」

 

「あぁ、望むところだ。」

 

第一仕合はこの大舞台に立つと言うのに全く緊張した素振りすら見せない楯無と、実に好戦的な瞳をしているアンジェの対戦である。

アンジェは楯無との対戦を心待ちにしていたようで嬉しそうに楯無のことを見つめている。

 

「……行きます!」

 

「来い!!」

 

ブザーとともに二人は動き出す。アンジェよりも先に楯無が仕掛けた。

自慢の高速機動で一気に距離を詰めて機先を制する。

 

「フンッハァ!!」

 

「…この感覚…、あぁ、これだ!!」

 

楯無の攻めを捌きながらアンジェは斬りかかり、声高々に笑う。それが楯無にはいまいち理解することが出来ずに首を傾げた。

そんな楯無の反応も意に介さずアンジェは斬りかかる。

 

「更識楯無!! いいぞ、もっとだ、もっと来い!!」

 

「…更識流…。」

 

楯無は迫ってくるアンジェから距離を取り、構えをとる。そしてその一瞬の隙を突いてアンジェは楯無との距離を急速に詰めて斬りかかる。

その高速で迫ってくるアンジェに楯無は冷静に対処する。

振り回される二振りの必殺の剣をしっかりと避け、その合間に挟まれる打撃に対して的確に反撃を行う。

 

「酔舞撃!」

 

牽制の為に放たれたアンジェのローキックを楯無は片手で受け止めて、もう片方の腕と反動を使ってアンジェを斜め上に吹き飛ばす。

そして楯無は右腕を引き絞り、全開のパワーで振り上げる。

 

「砕覇拳!!」

 

エネルギーを纏ったその強烈なアッパーは見事にアンジェを捉えて撃墜する。

しかし撃墜されたアンジェはすぐさまに態勢を立て直して楯無に突進した。

 

「……。」

 

「そこだぁ!!」

 

待ち構えている楯無に対してアンジェはそんなことなどお構いなしに突進していく。

 

 

 

「苛烈な攻めとは、正にこの事ね。」

 

「何か…、こう駆り立てられてるような、そんな感じがします。」

 

モニターで見ていたスミカはそんな言葉をぽつりと漏らした。

その言葉にヴィートも頷くように息を吞む。彼女達の目には卓越した技術を持ちながらも驕ることなくただひたすらに道を進み続けたアンジェという剣士の姿が映っている。

その一方で、そんな剣士と渡り合う少女の存在に冷や汗をかいた。

 

 

 

「ふ…、やはり人間は素晴らしいな…。」

 

「あぁ…。弛まぬ努力のみであの領域まで辿り着いた…。一人の人間として尊敬せざるを得ないよ…。」

 

個室でテレビ越しに二人の戦いを見ていたインテグラは隣に立っていたアーカードの言葉に頷いた。

二人が見ているのは二人の武人。ひたすらに己を磨いた末の力を以て戦う二人の姿。

そんな二人の姿に憧れを抱くとともに、負けたくないという感情をインテグラは抱くのだった。

 

 

 

「英雄とは斯くあるべき…、そうあれかしと(オレ)が思っている姿だな。」

 

「えぇ…、私もあの二人の姿には憧れを抱いてしまいます。」

 

会場の特別観客席で見ていたソフィアとセシルは手に汗を握りながら二人の勝負の行方を見守っている。

ソフィアは瞳を輝かせながらアリーナに視線を投げかけていた。まるでショウケースに飾られた玩具を見つめる子供のように。

セサルもまた同じように、しかしソフィアとはまた違った憧れの視線を二人に投げかけていた。

 

 

 

「アンジェお姉ちゃん、すごい…。」

 

「あぁ…。」

 

「でも、アンジェさんに着いて行けてる楯無さんも凄いよ…。」

 

ホテルのロビー、一際大きな画面で見ていた面々はその技術の押収に舌を巻いていた。ヒルダは単純に関心したように目をキラキラと輝かせながらアンジェの姿を追っている。

その一方でミュカレや青蘭はそんなアンジェとの近接戦について行き、互角に渡り合う楯無の技量にも驚いていた。

ヒルダはアンジェの一挙手一投足すべてに反応し、それら全てにリアクションを取っていた。まるで彼女の技術を盗もうとしているかのようだ。

 

 

 

 

 

「斬る…!!」

 

「そんな訳には…行きません…!」

 

二振りの剣を巧みに扱いながらアンジェは楯無に肉薄する。そして二振りの月光(Clair de Lune)拡張領域(パス・スロット)に収納して楯無に組み付いた。

剣を捨て相手の得意領域に乗っかって来たアンジェに楯無は驚きの顔を浮かべる。

 

「はは、驚いているな。けど、私は単なる剣士じゃない。勝つためなら(誇り)だって捨ててやるさ。」

 

「ッ!?」

 

組み付いたアンジェは有無を言わさず、体格差を使って無理矢理投げる。

そして楯無を組み敷いてアンジェは上を取った。

 

「さぁ、歯を食いしばれ!!」

 

アンジェは小さく微笑んで拳を握る。そして楯無の顔に向けて勢いよく振り下ろしていく。

顔に向かって振り下ろされる拳を瞬き一つせずに受け止めて片腕を使ってどうにか防ぐ。

 

「ふんっ!!」

 

「ツッ!!」

 

左腕で楯無の右腕を掴んでいたアンジェは右腕を振り下ろした一瞬、楯無が右腕の力を抜いたことを感じとり、即座に右腕の関節を極める。

アンジェは楯無に覆い被さるような体勢になり、足を絡めて下半身の動きを封じる。

 

「間合いを外すのが得意なんだろうが…、こうなれば関係ないな。」

 

(……外せ、ない…!)

 

「ハッハッ、これでも練習したんだ。簡単には抜けさせないぞ。」

 

がっちりとホールドしたアンジェは慢心せずにきっちりと肩と肘の関節を締め上げる。楯無はなんとかして返そうと空いている左腕で藻掻くが完全にポジションを取られているため、力ワザでは返せない。

 

(ふっ…、くッ!!)

 

「行くぞ!」

 

きっちりと関節を極めた状態でアンジェは膝を使って楯無に細かく一撃を入れていく。

そして暫くして楯無のシールドエネルギーが四分の一切った時に観客席の一角からどよめきが起こり、それが伝播して会場全体がざわめき始めた。

 

「お、おい、アレ…!!」

 

「嘘だろ?!」

 

「一体何が!?」

 

ざわざわと俄に騒がしくなる観客席、その視線はアリーナのディスプレイに注がれている。

アリーナのディスプレイに表示されている両者のシールドエネルギーだが、四分の一を切った楯無よりも、攻めているアンジェの方が下回っていた。その不可解な現実に計器の故障だと言う者も当然いたが、しかし画面に映し出されたアンジェの必死に攻め立てる顔が、表示されているエネルギー量が事実である事を告げていた。

 

(どんなトリックだ…? 楯無の方も減っているから反射ではないだろう、なら、この状態からダメージレースに勝てる何かをしているというのか…!? しかし──)

 

アンジェは関節を解いて一気に楯無から距離を取った。

そして拡張領域から月光を2本取り出して構えをとる。一方の楯無はゆっくりと立ち上がると両腕を広げてアンジェの方を見た。

 

「戦況は5分…ですね。」

 

「あぁ、そうだな。しかし…負けてはやらん。」

 

闘志の籠った瞳でアンジェは楯無を睨み付ける。そして楯無はそれに応えるように拳を握った。

恐らくこれが最後の一合になるだろうことは想像に難くない。観客達は息を呑んでじっと二人を見守った。

 

 

「フランス代表、デュノア社所属…。アンジェ・オルレアン! 斬らせてもらう!」

 

「ロシア代表、更識楯無。推して参ります!」

 

 

二人は名乗り口上を上げ、同時に前に加速して突撃した。

ドンッとぶつかり合い、砂塵が舞い上がり、終了を告げるブザーが鳴る。

観客達は舞い上がる砂塵の中央を見つめ、晴れるのを待つ。そして舞い上がった砂塵が落ち、二人の姿が見えるようになるとごくりと喉を鳴らす者もいた。

楯無の手刀突きがアンジェの左胸を、アンジェの右手の月光が楯無の左肩を捉えている。

 

「……。」

 

「……。」

 

二人はその体勢のままピクリとも動かずに睨みあっていた。しかし、暫くして両者共にISを待機状態に納める。

 

「ハッハッ…ハッハッハッハッ! 私の勝ちだな、更識楯無よ!」

 

「…えぇ…、あと僅か、あの僅かな踏み込みの差がこうまで現れるとは…。」

 

快活に笑い、勝ち誇るアンジェを楯無は己の敗因を冷静に考察すると苦虫を噛み潰したような表情で見つめる。

彼女の敗因は簡単に言えば“恐れ”。

死ぬことすら恐れぬ、更に言えば勝利の為に敗北さえ恐れないアンジェに気圧され、踏み込めずに負けたのだ。

 

「次はこうは行きませんから。」

 

「あぁ、楽しみにしている。君のトリックの謎も知りたいからな。」

 

二人はにこやかに、そして爽やかに言葉を交わしてアリーナを後にした。

 

第5回モンド・グロッソ、決勝に駒を進めたのはアンジェ・オルレアン。

残り2試合である。

 

 

 





楯無さんはまだ本気を出してないだけだから。
あ、明日から本気出すし…。

では次回でお会いしましょうノシ



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第131話 覇者と竜の仕合


今日からは期末試験が目白押しになるので、投稿ペースが落ちます。

では本編をどうぞ↓


 

 

「さぁ…始めようか。」

 

「誰であろうと、私を超えることは不可能だ。」

 

アンジェと楯無の激闘、その次の仕合はスペイン代表、ソフィア・ドラゴネッティ対、アメリカ代表にして前回覇者のハスラー・ワンの勝負だ。

前回覇者による2連覇とかかっているこの仕合の注目度は半端ではなく、会場の外に設置されているモニターも人でごった返していた。

 

(オレ)を倒せるのは英雄だけさ。貴様にその資格があるか?」

 

「…私は闘技場の覇者(マスター・オブ・アリーナ)…、お前が何者でも立ち塞がるならば打ち倒すのみ。」

 

ソフィアの言葉にハスラーは殺気に溢れた目で睨み返す。そんなハスラーの態度にソフィアは嬉しそうに口角を吊り上げた。

 

「そんな瞳で見るなよ、嬉しくなってくるじゃないか。」

 

「…ふん。」

 

ソフィアの台詞にハスラーは呆れたような顔を浮かべてブレードを手にする。

それを見たソフィアは吊り上げた口角をそのままに鋭い目付きになり、ハスラーを睨み付けた。

 

「さぁ、愛し合おうじゃないか!」

 

「倒す…。」

 

開始のブザーと共に両者とも前進して距離を詰める。

ハスラーは右手のライフルを腰だめに構えながらブレードを振る姿勢を作る。

しかしソフィアはそんなものは関係ないとばかりに全速前進で突撃する。

 

「ガオーッ!!」

 

「……。」

 

天真爛漫、そんな言葉がよく似合うソフィアとは対照的に、ハスラーはひたすら冷静に彼女を迎え撃つ。

突進してきたソフィアに対してハスラーはライフルで牽制を行いながら、構えていたブレードを彼女の顔面に向けて突き出した。それをソフィアは頭を横に倒すことで回避して、ハスラーに肉薄する。

しかしそれもハスラーは読んでいたのか、完全に肉薄される前に前蹴りをソフィアの腹に打ち込み、多少の間合いを取る。

それでもソフィアは愚直にハスラーへと掴みかかり、捉えきった。

 

「それっ!」

 

ハスラーの腰を掴んだソフィアは強引に持ち上げてバックドロップを叩き込んだ。しかしハスラーはその状態のまま左手のブレードを逆手に持ち、ソフィアに向かって突くように振り下ろす。

それを察知したソフィアはハスラーへのホールドを解いてその場から飛び退いた。そしてホールドが外れたハスラーは直ぐ様に立ち上がって肩の2連ミサイルを放って突撃する。

 

「……。」

 

「クールだなぁ、もっと熱くなろうぜぇ!?」

 

淡々と、まるで作業をこなすように戦闘を行うハスラーを見てソフィアは煽るように言う。それでもハスラーの表情は変わらない。

 

(私は超える…、織斑千冬を…!!)

 

「寂しいなぁ…。戦っているのに、他の女の事を考えられるなんて!」

 

どこか思い詰めた表情を浮かべるハスラーにソフィアは拗ねたような顔でアッパーを繰り出す。

鋭く繰り出されたソフィアのアッパーをハスラーはスウェイバックで回避する。

そして返す刀で左手に持ったブレードで斬りつけた。アッパーのモーションで回避の出来ないソフィアはハスラーによる斬撃をもろに受け、シールドエネルギーを大きく減らす。

一方のハスラーは斬りつけた後は、ライフルの弾丸をばら蒔いて追撃されないようにしつつ距離を開けた。

 

「徹底したヒット&アウェイ…。嫌になるね。そんなに己が怖いか? 闘技場の覇者ともあろう者が、たった一人の竜が怖いのか?」

 

「……。」

 

挑発するソフィアの言葉にもハスラーは顔色ひとつ変えずにライフルとブレードを構えていた。

そんな彼女の態度にソフィアはガシガシと頭を掻く。

 

「何故だ? 何故貴様は戦う。名誉か? 金か?」

 

「…その問答に答える義理はない。」

 

「おお、その通りだ。しかし己は気になる。何故貴様はこの場にいるのか、な。」

 

先程まで薄ら笑いを浮かべていたソフィアであったが、急に鋭い目付きへと変わり、正面のハスラーを見る。

だが、ハスラーはずっと無感情のような顔を崩さずにいた。

 

「貴様からは死んでも勝ってやろうという気概が感じられんのだよ。」

 

「それが、どうした?」

 

「ふむ…。気迫なき者に竜の首は獲れんという事だ!」

 

それだけ言いきってソフィアはハスラーへと距離を詰める。

ハスラーは後ろに引きながらライフルと2連ミサイルでソフィアに牽制を行う。そんな弾幕をソフィアは器用に避けながらハスラーに肉薄する。

 

「逃げるなよ!」

 

「……。」

 

ミサイルと銃弾の弾幕をくぐり抜けたソフィアは両腕を大きく突きだしてハスラーの体を力強く掴んだ。

そしてぐんっと根っこから引き抜くように持ち上げて上空へと放り投げる。

 

「ドラゴン……ファイアー!!」

 

「ッ……!」

 

ソフィアの放ったエネルギーがハスラーを捉え、シールドエネルギーを削る。

しかしハスラーも即座に空中で体勢を立て直してソフィアから離れようもするものの、その瞬間にはもうソフィアがハスラーの目の前にいた。

 

「一緒に踊ろうじゃないか!!」

 

「クソッ!!」

 

「ウァチャチャチャチャチャッ、ファチャァッ!!!」

 

きっちり逃がすこともせずに捕まえたソフィアはハスラーに向けて何発も何発もラッシュを仕掛ける。

そしてハスラーのシールドエネルギーを大きく削り取ると、締めのように蹴り飛ばした。

 

「破滅のブラストスクリーム!!」

 

「ッ…ァアッ!?」

 

空間から顔を覗かせる竜の放ったエネルギーの波に呑み込まれたハスラーは、今大会で初めて人間らしい呻き声を上げる。

 

(私はハスラー・ワン…。闘技場の覇者…。織斑千冬を超える者…!)

 

しかしハスラーは執念と意地でそのエネルギーの奔流に逆らい、その先にいるであろうソフィアに向かって歩みを進める。

ブースターを吹かし、前へ前へと突き進み、やっとの思いでエネルギーの中から抜けだした。が、その先には既にソフィアが姿勢を低くして待ち構えている。

 

「グラウンド──ゼロッ!!」

 

「かっ──」

 

エネルギーの奔流を抜け出たハスラーを出迎えたのは強烈なソフィアのアッパーだった。

全身の力を全て使った一撃はハスラーの顎をしっかりと捉え、軽々と意識を刈り取る。

 

「は……。」

 

「これにて落着、己の勝ちだ。」

 

シールドエネルギー、そして意識を失ったハスラーはその場に崩れ落ち、赤いカラーリングのなされた専用機“ナインボール”も待機状態に戻る。

 

「ハッハッハッ! おお 闘技場の覇者(マスター・オブ・アリーナ)よ きぜつしてしまうとは なさけない!」

 

煽るような口調で倒れたハスラーに告げるソフィアは小さく口角を吊り上げると、専用機を待機状態に戻し、彼女を担いで連れていく。

 

 

 

遂に決定した決勝戦の組み合わせ。

アンジェ・オルレアンとソフィア・ドラゴネッティ、この二人の組み合わせに、一部の賭けサイトでは波乱が起こっていた。

一番人気であるハスラー・ワンが準決勝で敗退し、ソフィア、アンジェが決勝戦へと出場したことで、かなりざわついているのだ。

 

「ハハハ、いやぁ…、荒れてるなぁ。」

 

そんなサイトの状況を見て、簪はブドウジュースを注いだワイングラス片手にあくどい笑みを浮かべていた。

その彼女を見て、他の七人は呆れたような顔になる。

 

 

 

こうして準決勝2試合は終わり、残りの決勝戦一つとなった。

準決勝終了から、時間を置いてその日の内に決勝戦が行われるのだが、世界中の人たちはそれを今か今かと心待にしていた。

 

 

 

 





特に後書きで言うことがあるかと言われればない。
強いて言えばもう少し強キャラ感を出せればと思うものの、文章力のない貧弱一般人には無理な話だった。

では次回でお会いしましょうノシ



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第132話 竜と剣士は闘技場で踊る


これでモンド・グロッソ編は終わりとなります。

では本編をどうぞ↓


 

 

「……いよいよ、か。」

 

「えぇ、始まるわよ。」

 

テレビの前で生唾を呑んでその仕合を待ちに望んでいた8人は緊張した面持ちで画面を見ていた。

そして映し出されるのはゆっくりとアリーナに入場するソフィアとアンジェの姿。二人はアリーナの中央に辿り着くと同時に専用機を纏う。

 

 

 

「…ソフィア・ドラゴネッティ、良い仕合にしよう。」

 

「望むところさ。」

 

お互い専用機を身に纏った状態で二人は睨み合う。

好戦的な笑みを浮かべているが、二人とも友好的な感情を向けている。

そして堅く握手を交わすと、二人とも後ろに下がって距離を取った。

 

 

「最強の剣士が相手とあらば、(オレ)も心が踊ると言うもの。全力で愛し合おうじゃないか!」

 

「あぁ、私もお前と闘って見たかった。直ぐに果ててくれるなよ?」

 

ソフィアはいつものように構えを取り、アンジェも月光(Clair de Lune)を二振り構える。

そして暫くの沈黙の後、観客達が見守る中開戦を告げるブザーが鳴った。

 

 

「ガオーッ!!」

 

「見えてる動きだ!」

 

全力で突進するソフィアに合わせてアンジェは右手の月光で切り払いにかかる。それをソフィアは跳ぶことで回避し、アンジェは跳躍したソフィアに対して反射的に左手の月光を突き出した。

 

「おおうっ!?」

 

「逃がさん!!」

 

「なんのッ!」

 

ソフィアは突き出された月光を左足で横殴りに蹴って払い、体を宙で一回転させて右足の踵をアンジェに向かって振り下ろす。

アンジェは振り下ろされる踵を右腕で受け止めると力業でソフィアの体を持ち上げて右手の月光で斬りかかる。持ち上げられた視界の端でそれを捉えたソフィアは身を翻して必殺の刃をギリギリで避けた。

そして着地と同時にソフィアは地面を強く蹴り、アンジェと距離を取る。

 

「「……。」」

 

一瞬の間の、技巧を凝らした攻防を終えた二人は距離を取ったまま無言で見つめ合う。

数秒間、そうして見つめ合った二人は突然声高らかに笑い始めた。

 

「「ハーッハッハッハッ! 最高だ!!」」

 

全く同時に、全く同じ事を口にした彼女達はまた得物を構える。

 

「嗚呼、最高に燃える相手だ。己の全てを懸けて倒すに値する強者だ。己は嬉しいぞ。」

 

「それはこちらの台詞さ。ソフィア・ドラゴネッティ、お前は私の持つ技量全てを尽くして斬る。」

 

本当に心の底から笑っている二人はその嬉しそうな顔のまま接近していき、お互いの得意レンジに入る。

そしてお互いが大きく踏み込んで最高の一撃を放つ。

ソフィアの右拳はアンジェの顔面を、アンジェの右手に握られた月光はソフィアの首を狙って放たれる。

 

「ッ!?」

 

「っ?!」

 

ソフィアの拳はアンジェの顎を捉え、逆にアンジェの月光は紙一重でソフィアにかわされた。

 

「甘いぜ!」

 

「アレを──かわすのか!?」

 

「そう言う訓練をしてきたからな!!」

 

顎を捉えられ、体勢を崩されたアンジェは驚愕に目を見開いてソフィアに視線を移す。

そして着地したソフィアは直ぐ様地面を蹴り。アンジェに追撃を仕掛ける。

 

「ガオーッ!!」

 

「ちっ!」

 

勢いよく突撃してくるソフィアを見て、アンジェは両手の月光を構えてそれを迎撃する。

直ぐ様体勢を立て直したアンジェは肉薄せんと突撃してくるソフィアに右手の月光を突き出す。

そしてそれをかわしたソフィアに左手の月光が襲いかかる。紙一重で突きをかわしたものの、最小限しか動かなかった為に、その一刀を受けてしまった。

 

「がっ?!」

 

「捉えたぁ!!」

 

なんとかして腕で受けて直撃だけは避けたソフィアであったが、アンジェの豪腕から放たれた月光の一撃によりソフィアの体は大きく揺らぐ。

そして止めと言わんばかりにアンジェは右手に持った月光を振りかぶり、勢いよく全力で振り落とした。

振り下ろされるブレードを腕の装甲でどうにか受け止めたが、俄然不利な状況であることは変わりない。

 

「ぐっ…──バルムンクッ!!」

 

「それは…見たっ!!」

 

アンジェは上空から急降下してきた黒鎧の騎士に即座に反応してソフィアから1歩飛び退く。

そしてソフィアを守るように立ちはだかった騎士とアンジェは激しい斬り合いを繰り広げる。

騎士が黒刃の大剣を力強く振り回すと、アンジェはそれに反応して捌き切り、切り返す。

その間にソフィアはアンジェから距離を取って立て直した。

 

「英雄殿…!!」

 

「斬り倒す!!」

 

騎士が上段から振り下ろすと、アンジェは左手の月光で受け止めて右手の月光で斬りかかる。それを黒騎士は避けると横凪ぎに大剣を払う。

そして騎士とアンジェが斬り合っていると、アンジェの死角となる背後の上空からソフィアが殴りかかった。

 

「ちっ!?」

 

「うぁったぁあっ!!」

 

前を騎士、背後をソフィアに挟まれたアンジェはソフィアの拳を甘んじて受けながら騎士の一撃だけは防ぎ、その場から離脱した。

 

「逃がすかぁ!!」

 

「───!!」

 

「ちぃ!?」

 

離脱するアンジェを逃がすまいとソフィアは黒騎士と同時に左右から仕掛けた。

右からソフィア、左から黒騎士がアンジェに殺意を剥き出しにして迫る。

 

「勝たせて貰うぞ!」

 

「こちらのセリフだ!」

 

アンジェは黒騎士の剣を防ぎつつ、ソフィアの拳にカウンター気味に蹴りを突き込む。

しかしそんなアンジェであってもすべてを防ぐことは出来ずに何発かはもらってしまう。

 

「うぅあぁたぁっ!!」

 

「ちぃ!? このっ!」

 

ソフィアの渾身のボディブローを貰ったアンジェは苦痛に顔を歪ませながらもどうにか踏ん張って切り返す。

しかしその一撃は黒騎士の剣に阻まれ、ソフィアに届くことはない。

そして黒騎士のサポートを盾にソフィアは力強く踏み込んで攻勢に打って出た。

 

(手数で押されてきたか…!! だが私は負けられない! ジャックの為にも、シャルの為にも!!)

 

踏み込んできたソフィアを見てアンジェは黒騎士を鍔競り合いの状態から押し返し、ソフィアに斬りかかる。

まだまだ気迫充分と言った様子のアンジェは鬼気迫る形相で月光をソフィアに振り下ろす。その刃は確かにソフィアを捉えた。

ソフィアの専用機、恋するドラゴン(ドラゴン=エネモラーデ)の装甲をしっかりと捉え、破壊する。

 

「まだだ!!」

 

ソフィアの右腕の装甲を破壊してもアンジェはまだ止まらない。

左手の月光を投げ捨ててソフィアの喉元を掴むと、右手の月光を引き絞り、彼女の喉に向けて突き出した。

 

「がっ…!?」

 

喉という急所を見事に突かれたこともあり、恋するドラゴンのシールドエネルギーは一気に削れ、しかも突き刺さったのが一撃必殺を信条としたアンジェの月光だったこともあり一瞬で空となった。

その直後に仕合の終了を告げるブザーがなり、歓声が沸き起こる。

 

 

 

「やった、やった、アンジェさんが勝った!!」

 

「……あれだけの攻めを捌いて攻勢に移れるのかよ…。」

 

テレビの前で手に汗を握りながら見ていた彼らであるが、アンジェの勝ちが決まった瞬間にシャルが嬉しそうに声を上げた。

他の面々はほぼ2対1の状況から攻勢に転じたアンジェの技量に面食らっている。

 

「あれが剣の道を極めた存在…なのか…。」

 

「恐ろしいな。」

 

 

 

アンジェとソフィアによる激闘の決勝戦が終わるとセレモニーが行われる。

ヴァルキリーとして出場した各国家代表達への労い、そして各部門での優秀者・最優秀者達への表彰、そして何よりも優勝し、ブリュンヒルデの栄冠に辿り着いたアンジェ・オルレアンへの優勝杯授与が行われたのだ。

 

 

以下は各部門の受賞者である

 

・総合優勝

フランス代表 アンジェ・オルレアン

専用機「オルレア」

 

 

・総合準優勝

スペイン代表 ソフィア・ドラゴネッティ

専用機「恋するドラゴン(ドラゴン=エネモラーデ)

 

 

・近接格闘(刀剣)部門

最優秀賞

フランス代表 アンジェ・オルレアン

専用機「オルレア」

 

優秀賞

日本代表 井上真改

専用機「斬月」

 

イギリス代表 インテグラ=ヘルシング

専用機「キング・アーサー」

 

 

近接格闘(拳闘)部門

最優秀賞

スペイン代表 ソフィア・ドラゴネッティ

専用機「恋するドラゴン(ドラゴン=エネモラーデ)

 

優秀賞

ロシア代表 更識楯無

専用機「霧纏いの淑女(ミステリアスレディ)

 

国際企業連盟選抜代表 巻紙・オータム・礼子

専用機「ジャッカル」

 

 

中距離戦闘部門

最優秀賞

スイス代表 イザベル・ローエングラム

専用機「ギルガメッシュ」

 

優秀賞

ドイツ代表 ヒルデガルト・ワーグナー

専用機「ラインの乙女(Frau der Rhein)

 

フィンランド代表 スミカ・ユーティライネン

専用機「コーラルスター」

 

 

遠距離戦闘部門

最優秀賞

アメリカ代表 ハスラー・ワン

専用機「ナインボール」

 

優秀賞

中国代表 李青蘭

専用機「陽蜂」

 

フィンランド代表 スミカ・ユーティライネン

専用機「コーラルスター」

 

 

各部門の受賞者の表彰が終わるとセレモニーはいよいよ終わりを迎え、盛大なファンファーレと共に幕が閉じた。

 

 

 





優勝はアンジェさんとなりました!

開催地代表なのにどの部門にもランクイン出来なかった恥知らずな国家代表がそこにいた。

では次回でお会いしましょうノシ



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第133話 クリスマスの日を誰と


またまた間が開いてしまいました。
お許しください。

今回の話は好きな人・嫌いな人がはっきりと別れると思います。
ご注意下さい。

では本編をどうぞ↓


 

 

第5回モンド・グロッソも終わり、12月24日を迎えた夢弦市。

うっすらと雪がちらつく今年もカップル達が街でイチャイチャしている。

そしてそれに嫉妬した連中がカップルに突っ掛かっては制圧されるのは様式美という奴だろう。

 

 

年の瀬も近くなったこの日はもちろんIS学園も冬休み期間である。

年末年始も休まず営業するのが方針のレゾナンスでは南美とほんわ君がいつものようにデートしていた。

しかし今回の主役はその二人ではない。

 

 

 

「おや? 一夏じゃないか。」

 

「か、カセンさん…。」

 

その日のシフトが終わり、いつもの店員用の服から私服に着替えた勇儀を一夏が出待ちしていた。

一夏の様子はどこか緊張した面持ちであり、その様子からこの後どうするのかが、ある程度は予想できる。

 

「あ、あ、あの、カセンさん! こ、この後お時間はありますか?!」

 

「そりゃあ、あるよ。この後は家で独り寂しく晩酌する予定だったさ。」

 

勇儀の返答を聞いた一夏は静かに呼吸を整えて話を切り出した。

 

「それじゃ、この後自分に付き合ってもらってもいいですか?」

 

一夏はそれだけ言って勇儀の返答を待つ。たった数秒間の沈黙が今の彼にはその何倍にも感じられたことだろう。

そして勇儀は一夏の手を取ると優しく笑い掛ける。

 

「なら、エスコートして貰おうかねぇ…、よろしく頼むよ。」

 

「は、はい!」

 

一夏は勇儀の手を握り返すと彼女を導くように歩きだした。

そんな二人を物陰からラウラは静かに見守っていた。

 

 

 

「あ、あのカセンさん…。」

 

「どうしたんだい?」

 

夢弦市の一角にあるレストラン“Dolls”で食事を摂っていた二人だが、一夏が何か思い詰めたような表情で話を切り出した。

 

「えっと、ですね…。その…。」

 

一夏はどこか酷く緊張したような顔であったが、一度大きく深呼吸をして口を開く。

 

「オ、オレは、カセンさんのことが、あぁ、でもこっちを先に言うのか、いやでも……。」

 

意を決した風の一夏であったが、ここ一番でまた思考の段階に戻ってしまった。そうして言うべきか、何を優先すべきかと迷い悩んでいるとカセンが口を挟む。

 

「悩んでいるのは、あの子関連のことかい?」

 

そう言って勇儀か視線を向けた先には顔を隠すようにメニュー表を広げたラウラの姿がある。しかし、彼女の顔にはいつもの笑顔はなく、とても血色が悪く見えた。

そんなラウラの姿を認めた一夏はガタッと席を立ち、彼女のもとに近寄る。

 

「ラ、ラウラ…!? 今日は布仏さんのところにいるって…。」

 

「すまない、その…。」

 

ラウラは俯いたまま一夏と目を合わそうとしない。しかし、テーブルの上に置かれた手は固く握りしめられていた。

小さな体躯(からだ)は小刻みに震えている。しかし、それは寒さからではない。俯いた彼女の頬を一筋の涙が伝う。

 

「怖かったんだ…、一夏が、私の隣からいなくなることが…。」

 

「ラウラ…。」

 

「最初は、最初は一夏があの人と結ばれたなら身を引いてもいいって、そう思ってたんだ…。けど、けど…、一夏と一緒にいれるようになって、すごく、毎日が楽しくて、幸せで…。でもだんだん、恐くなってたんだ、一夏に捨てられることが、日を追う度に…、いつか、一夏が本当に好きな人と付き合うことになった、その先が…。」

 

ぽそりぽそりと呟く彼女を見て一夏は膝を着き、ラウラと目線を合わせた。そしてそっと手を伸ばして彼女の頬を伝う涙を拭ってやる。

 

「一、夏…?」

 

「大丈夫だよ、ラウラ…。」

 

涙を優しく拭うと一夏は彼女の小さな頬を撫でる。

そんな二人の側にゆらりと勇儀が現れた。

 

「ふふ、罪な男だねぇ一夏。」

 

「カ、カセンさん…。」

 

うっすらと微笑むカセンを二人は見上げ、それぞれの反応を見せる。

一夏は今度こそ覚悟を決めたような顔を浮かべ、ラウラは小さく息を吐き出して、しっかりとした眼差しで一夏と勇儀を見詰めた。

 

「あの…オレはこれから身勝手なことを言います。それでも聞いてくれますか?」

 

「あぁ、聞こうじゃないか。」

 

腹を決めた武士のような顔になった一夏を見て勇儀は確かに頷くと、先程まで座っていた席に戻り、一夏もラウラを伴って座る。

そして一夏が咳払いをして顔を上げ、真っ直ぐに勇儀の目を見つめて切り出した。

 

「オレはカセンさんのことが好きです、女性として。」

 

そうきっぱりと言い放った一夏に、隣に座っていたラウラは“やっぱり”という風に俯いた。

しかし一夏はそれだけで言葉を終わらせずに、“でも”と続ける。

 

「カセンさんと同じくらい、ラウラのことも好きなんです。オレは不器用だから、割りきってどっちかなんて出来ません。二人とも幸せにしますとしか言えません。……オレ今すごい最低な発言をしてますよね、でも自分の嘘偽りのない言葉です。カセンさん、オレと付き合ってください!」

 

そう言って一夏は勇儀に向けて頭を下げた。

それを見たラウラはハッと我に返り、同じように頭を下げる。

 

「あ、あの、一夏は本当にいい男なんです! 優しくて、度胸もあって、根性もあって…。もし、もしカセンさんが二股が嫌というなら私が身を引きます、だから…。」

 

二人の言葉に、それを黙って聞いていたカセンが口を開く。

そして、それは小さな笑い声だった。

 

「ハッハ、アタシに告白してきた連中は今までそれなりにいたけど、二股宣言した奴は初めてだよ!」

 

愉快そうに笑う勇儀、それを見た二人はポカンとした顔を浮かべる。

 

「だから気に入った! 男ならそれくらいの度胸と甲斐性がなきゃね。」

 

勇儀はそう言ってニィと口角をつり上げると二人に向けて手を差し出した。

二人は数秒間、差し出された手の意味が分からずに呆然と眺めていたが、ホレホレと催促するように揺れる勇儀の手を見てやっと意味が分かり、その手を握った。

 

「ふふ、よろしく頼むよ一夏。あんだけ大見得切ったんだ、アタシら纏めて幸せにしないと、酷いからね?」

 

「は、はい! 勿論です!!」

 

「ラウラも、よろしくね。」

 

「はい! こ、こちらこそお願いします。」

 

勇儀は二人に微笑みかけると二人を抱き寄せて頭を撫でる。

二人は勇儀に抱き寄せられるままに彼女の胸に頭を預け、頭を撫でられる。

 

 

 

会計を済ませ、Dollsを後にした3人。

一夏はラウラと勇儀の二人と手を繋ぎ、チラチラと白い雪の降る街を歩いていた。

ラウラは喜色満面と言った顔で一夏の手を握り締め、勇儀は優しく一夏と手を繋いでいる。

正に両手に華な状態の一夏を見てすれ違う男性達は羨望や嫉妬の眼差しを向け、中には喧嘩を売ろうとする者すらいたが、一緒にいる女性が勇儀であることが分かると、逃げるように姿を消した。

 

「一夏とラウラ…、あんたらにもアタシの名前を教えなきゃねぇ。耳貸しな。」

 

勇儀に言われるままに二人は片耳を彼女に向ける。耳を差し出された勇儀は二人に囁くように本名を二人に明かした。

 

「ふふ、これからよろしくね一夏。」

 

「はい、勇儀さん!」

 

一夏は勇儀とラウラを一緒に抱き寄せて二人を抱き締める。

幸せ全開な一夏の顔を見ていた勇儀はやれやれと弟でも見るような目で彼を見ていた。一方のラウラは幸せに緩んだ顔つきで一夏の胸板に顔を埋めた。

 

夢弦だからこそ許される両手に華の状態に、一夏は心の底から嬉しそうに二人を力一杯抱き締めるのだった。

 

 

 

 





こんなんありかな?


お、お命だけはお許しください…orz



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第134話 クリスマスの日を誰と part2


最近筆が遅いです。
全盛期の頃が懐かしい。

では本編をどうぞ↓


 

 

なんやかんやあって一夏が二股を成立させたのと時を同じくして、今度は師匠たちの出番である。

 

 

夢弦市のある一角、とある広場の時計塔の下で真耶が一人佇んでいた。

いつもより大人びた雰囲気を帯びた彼女はその豊満な肉体も合わせて周囲の目を惹き付けている。

そんな彼女に声をかける者がでるのもトウゼント言えるだろう。

 

「あ、あのお嬢さん…?」

 

「一人?」

 

「え、え?」

 

やや軽そうな雰囲気の二人組、俗に言うところのチャラい男たちだ。二人は慣れているのか真耶を左右から囲むように立ち話しかける。

しかしそんな事態に慣れていない真耶は混乱した様子で男二人の顔を交互に見る。

緊張した面持ちの男二人であったが、相手が慣れていないと分かるとイケイケで話し始める。が、その内の片割れ、ニット帽を被った男の腕が突然捻り上げられる。

 

「い、いでで! いでででで!?!」

 

「……。」

 

腕を捻られ逃れるように上半身を前に倒したニット帽男の後ろには無表情で男の腕を掴む狗飼がいた。

 

「て、テメェ! 何を───」

 

「あ?」

 

文句を言おうとしたスキンヘッドの男をたった一睨みで黙らせた狗飼はニット帽男の腕を離すとずずいとスキンヘッド男に詰め寄る。

その有無を言わさない鋭い眼光にスキンヘッド男は縮み上がって次の言葉を発せなくなった。

そして狗飼から離れたニット帽男が狗飼の全身を見て思い出したように口をパクパクと動かし、スキンヘッド男もそれに遅れて何かに気が付いた。

 

「あ、あぁ…その目付き! その威圧感!! ま、まさか……──」

 

「伝説の総番…、狗飼瑛護さんッ!?」

 

「おぅ…。」

 

低く、短く、威圧するような声を出した狗飼はジロリと二人を睨み付ける。

すると男二人は萎縮し、チラチラと目を逸らすことしか出来なくなった。

そして沈黙。男二人は狗飼の威圧を前にして目を逸らして口を閉じる機械と化したのだ。しかしそれもいつまでも続くはずもなく、暫くの沈黙に堪えきれなくなった男たちは体を二つに折り畳む勢いで頭を下げた。

 

「「す、すいませんッしたー!」」

 

二人は大声で謝罪の言葉を口にすると一目散に脇目も振らず逃げていった。

その後ろ姿を見えなくなるまで見ていた狗飼はチッと舌打ちする。

 

「…あの…?」

 

「え、あっ!」

 

しかし真耶に呼び掛けられた瞬間に其れまでの目付きの悪さは鳴りを潜め、いつもの狗飼に戻った。

 

 

「お待たせしました。」

 

「いえ、私も今来たところですので。」

 

いつものスーツ姿で待ち合わせ場所に現れた狗飼に、いつもよりお洒落な服装の真耶が笑顔を輝かせて出迎える。

……信じられるか? こいつらまだ付き合ってないんだぜ?

 

さてそんな二人は連れだって街を歩き出す。

行き先は夢弦のお食事処が集まる商店街の一角、その名も“美食通り”。

『お食事処“衛宮”』、『中華料理 凰』、『五反田食堂』、『ラーメン葉隠』、『甘味処「六文銭」』、『居酒屋 夜雀』、『バー「イリュージョン」』、『愛屋』など、数々の店が軒を連ねている。

その中で二人が入っていったのは中華料理屋の『中華料理 凰』である。

ここはIS学園の凰鈴音の実家であり、母親の凰美鈴が一人で切り盛りしている店だ。

多くのKGDO社員達が常連として通う店でもあり、それは狗飼も例外ではない。

狗飼と真耶はこの店に入ると、店主の美鈴が笑顔で出迎える。

 

「いらっしゃい狗飼くん。」

 

「はい、美鈴さん。奥の座席は空いてますか?」

 

「空いてるよ、お水持っていくから座ってて。」

 

慣れたように店の奥の座席に真耶を案内した狗飼は彼女を座らせると彼もまた彼女の対面に座る。

その後二人は“中華料理 凰”で楽しく食事を楽しんだと言う。

 

 

 

 

一方その頃、修羅の集うTRF-Rではと言うと……。

 

 

 

(TA・Д・)<はい、それではこれで「えぐれシジミのガチ撮り100番(?)勝負、QMJリターンズSP」は終わりになりまーす! はい、拍手ーッ!!

 

(モヒ・∀・)<ypaaaaaaaa!!

 

(モヒ・ω・)<ハラショーッ!!

 

モヒカン達の歓声が響き渡り盛り上がる店内、そんな時に人の波を掻き分けて長身の男が2P側に回り込んだ。

 

 

(眉・Д・)<あ? Kai…?

 

(ki・Д・)<イヤ,ボクニカタナキャトシコセナイデショ?

 

(こ・ω・)<これは年越しさせる気ないわー。

 

(ら・∀・)<えぐれさんNDK?NDK?

 

Kaiはなんの躊躇いもなくスタートボタンを押し、乱入の画面を表示させる。

TAKUMAの言葉に既に事態は完結しているものだと思っていたモヒカン達はそんな覇者の行動に一瞬だけ呆気に取られてしまったが、すぐさま事態を把握し、また歓声を上げた。

 

(*´ω`*)<かかってこいよKai!!

 

 

 

こうしてTRF-Rはまた大きな盛り上がりを見せるのであった。

 

 

 

 





次回もたぶん遅くなります。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第135話 色んな人たちの年末年始


かなり間が開いてしまいました。
大変申し訳ありません。

では本編をどうぞ↓


 

 

「失礼致しますわ…。」

 

「やぁ、よく来てくれたね。」

 

ウォルターに案内されてセシリアが通された部屋はインテグラの待つ格納庫だった。

格納庫の中は薄暗く、しかしその中央にあるものは確かな存在感を放っている。

深い、血の色を思わせる赤色に輝く装甲をしたISのパッケージ装備。それを見たセシリアはなぜか強く心が惹かれるような感覚に陥った。

 

「あ、あの、インテグラ様。これは…?」

 

「コイツは私が、ヘルシング家が作ったISのパッケージ装備。その名も“アーカード”、我々の切り札の名前を冠する最強の装備だ。」

 

最強の装備、そう言い切るインテグラの言葉にセシリアの手は無意識の内にアーカードへと伸びていた。

そしてセシリアの白い指がアーカードの深紅の装甲に触れるとそれを起きる。ほんの一瞬、目映い光が発生したかと思えば、そのすぐ後にはブルー・ティアーズが起動し、それを身に纏っていたのだ。

 

「ふむ、やはりか…。」

 

アーカードを纏ったセシリアを見たインテグラは納得したように頷く。しかし当のセシリアは起きた出来事を把握しきれずに困惑の表情を浮かべている。

そんな彼女にインテグラはつかつかと歩み寄るとポンとセシリアの体に手を置いた。

 

「私からのクリスマスプレゼントだ、受け取ってくれ。」

 

「え? は、えッ?!」

 

更なる追い討ちにセシリアの混乱具合はますます増加する。

インテグラもさすがにこれはマズイと思ったのかパンッとセシリアの眼前で手を鳴らして落ち着かせる。

 

「落ち着きたまえ。」

 

「すごく落ち着きましたわ。」

 

「それはよかった。」

 

インテグラによって落ち着きを取り戻したセシリアはブルー・ティアーズを解除し、インテグラと目線を合わせる。

 

「な、なぜ私にパッケージ装備を……?」

 

「まぁ、私もそろそろ引退の時期だ。2度もモンド・グロッソに出るという栄誉に与り、またヴァルキリーとして名を連ねることが出来た。」

 

そう口にするインテグラの瞳はどこか遠くを眺めているようにも見えた。

“キング=アーサー”、ブリテンの英雄の名を冠した専用機を与えられ、それを以て国内の強豪を蹴散らし2度も国家代表の座に君臨した彼女。

イギリスのIS乗りにとって一種のカリスマとも言える彼女であるが、その中身は周りとそう大差のない“女性”なのだ。貴族、名門ヘルシング家の生まれだと言っても、その精神性は普通の女性となんら変わりない。

 

「そろそろ普通の貴族令嬢に戻りたいと思えて来てね。なんと言うか……満たされた、と言うべきだろうか。」

 

気恥ずかしそうにそう語る彼女の顔は普段のそれとは違い、乙女の顔をしていた。

第五回モンド・グロッソ、その大舞台の上で演じたイザベル=ローエングラムとの死闘。それが彼女の心を大きく満たしたのだ。今でも容易に脳裏に浮かび上がる彼女とイザベルの試合、それはその試合を観ていた者達にとっては印象深く、人によってはその勝負こそが最も印象深いと言う者もいる。

“満足したからこそ、後進に道を譲ろう”、そう決意した彼女は頷くと真っ直ぐに力強い眼差しでセシリアを見つめる。

 

 

「そして、それを君に渡す理由は、最も適正が高いからだ。BT兵器の適正が高く、さらに射撃の腕前はアーカードにも劣らない。……とも来れば、この兵装を渡すには十分だろう。」

 

「そこまで評価して頂けたことは素直に嬉しいのですが、その・・・・・・、本当に(わたくし)が受け取ってもよろしいのでしょうか?」

 

セシリアは不安さを湛えた顔でインテグラに尋ねる。しかしインテグラは“そんなことか”と口にし、彼女の肩を軽く叩いた。

インテグラの顔は普段通り多少眉間に皺が寄っているものの、その瞳には優しさがある。

 

「自信を持て、セシリア・オルコット。私はお前以外に適任が居ないと確信しているのだぞ。それなのに、お前がそんなでは、まるで私の目が節穴だと言っているみたいではないか。」

 

そう言って彼女はセシリアの肩に手を置いたまま小さく微笑む。凜々しく微笑む彼女の言葉にセシリアは息を吞み、コクリと頷いてみせた。

そしてインテグラの手を取り、力を込めて握る。

 

「お任せ下さいまし! 私が、このセシリア・オルコットが、インテグラ様の後釜を見事に継いでみせますわ!!」

 

元々の性格がチョロい、もとい乗せられやすく火が着きやすいことが幸いしてかセシリアのやる気はぐんぐん上昇しており、その日は聖夜であるというのに、インテグラとの1対1の訓練が行われたという。

 

 

 

 

「はぁ……、いっくん……。」

 

さてイギリスでセシリアが熱い夜を過ごしている一方で、日本国内、夢弦市の如月重工実験棟のとある一室では篠ノ之束が主任室で管を捲いていた。

来客用の上等なソファに腰掛て、藤原秘蔵の酒をちびちびと舐める束を横目に見ながら、オフィスチェアに座る藤原はハァと溜め息を吐く。

 

「篠ノ之~、いつまで引き摺ってんだ~。」

 

束は藤原秘蔵のコニャックをチビチビと呑んでおり、彼はそんな彼女に嫌な顔一つせずに対応している。

呆れているようで、それでいて愛でるように彼女を眺めていた藤原は椅子から立ち上がるとスッと束の横に座った。

そして彼女の手からコニャックの瓶を取ると、小さなグラスに注いで香りを楽しむように口に含んだ。

 

「ガキの頃しか一緒に居られなかった篠ノ之と()一緒にいるあの()らとじゃ、仕方ねぇだろ。」

 

「それでもやっぱり悔しい……。だって、初恋なんだもん。」

 

束は瞳にうっすらと涙を浮かべると膝を抱えて座り、隣の藤原に寄りかかった。

決して大声では泣こうとしない子供のような彼女の素振りに、藤原は優しく微笑み束の頭に手を乗せる。そして彼女の髪の感触を掌で感じながら彼はゆっくりと頭を撫でてやった。

 

「……すまねぇな、IS開発者の名義を全部お前に押し付けちまってよ。」

 

「いいよ、別に。その事は気にしてないから。」

 

「……そうか。」

 

藤原はそう言うとソファから立ち上がり、部屋に備え付けられている棚へと足を運ぶ。そして棚の戸を開けると中から一目見ただけで上質な物だと分かる桐箱を取り出した。

 

「今日は呑もうぜ? オレの取って置きを開けるからよ。」

 

「うん、いいよ。」

 

笑顔を向けられた束はそれに応えるようにグラスを差し出し、静かに笑うのだった。

 

 

 

さて、日付も場所も変わって新年を迎えたアメリカのとある場所、立派なIS用アリーナのある建物ではというと……───

 

 

闘技場の覇者(マスター・オブ・アリーナ)だかなんだか知らねぇが、今日で後進に道を譲ってもらうぜ! 老害が!」

 

「……。」

 

悪態を吐きながら武装を構える若者に対して、対峙しているハスラーは無言でブレードを取り出す。

挑発に一切乗らない彼女に若者は苛立ったように片眉をつり上げ、睨み付けた。

 

「扱いづらいパーツとかって話だが最新型が敗けるわけねぇだろ! 行くぞおおぉぁあッ!!」

 

若者、アメリカ代表候補生の一人であるウィレミア=R=J=ゴールディングは両手に装備した腕部一体型のブレードを展開してハスラーに向かって突撃する。

それを正面から見ていたハスラーは悠然とパルスライフルを構えて引き金を引く。その弾によってウィレミアの体勢は小さく崩れる。それを見逃さずに彼女は右肩に積んでいる二連ミサイルを放ち、ウィレミアを撃墜してアリーナの床に落とした。

 

「お、おお?!」

 

「……。」

 

驚きで目を見開いて倒れているウィレミアの直ぐ横にハスラーが降り立った。

そして無言のまま冷ややかな視線をウィレミアに向けると躊躇わずにブレードを振り落として試合を終わらせる。

 

「私はいつでも、誰の挑戦であっても受け付ける。故に越えてみせろ。この私を……。」

 

彼女はそれだけを言い残してウィレミアに背を向けて去っていった。

そんな彼女の背中をウィレミアは這いつくばりながら見送るのだった。

 

 

 

「あー……、いっそ殺せ、殺してくれ。」

 

「終わったら酒が呑めるんですから、我慢しましょうよ隊長。」

 

「……ハ、ハハ……。」

 

「おいィ? ウルマス! 死ぬなぁ!! 還ってこい!」

 

年末年始、終始部屋に缶詰めだったフィンランドのスミカは部下のコスティ、ウルマスと一緒に書類の山と格闘していた。彼女の横にはゴミ袋に詰め込まれた大量のエナジードリンクの空き缶がある。

虚ろな瞳をしながら慣れた手付きで書き込みを入れ、判子を押していくスミカの姿は圧巻の一言である。

 

「そもそも、年越しもこんな部屋で書類とにらめっこだぞ?! 常人なら発狂ものだ!」

 

ミシリと音がするほどに力強くペンを握った彼女はボソボソと上司への愚痴を溢す。

 

「お上の連中は気楽でいいや! 面倒なことは下に投げればいいんだから。今ごろ南半球でバカンスしてるんだろうなぁ! チキショーめ!!」

 

「終わったら休暇が取れるんですから、耐えましょうよ。それと文句は仕事を増やした犯罪者にどうぞ。」

 

「お? 良いのか? ()っちゃうぞこの野郎!!」

 

表情筋はあくまで笑顔を示しながらも声色に殺気を孕んでスミカは言う。そんな彼女に彼はハァと溜め息を吐きながら“早く終わらせよう”と手元を動かすのだった。

 

 

 

「阿呆が、まだ(オレ)のバトルフェイズは終了していないぜ!」

 

「な、なんですって?!」

 

「ドロー!モンスターカード! ドロー!モンスターカード! ドロー!モンスターカード!───」

 

「止めて! 私のライフはもうゼロよ!?」

 

「まだまだ引くぜぇ!!」

 

「いやぁあああああッ!?」

 

年も明けて間もないという時期にソフィアとアナスタシアは仲良く遊☆○☆王に勤しんでいた。結果は8枚連続モンスターカードという神引きを見せたソフィアによる見事なオーバーキルである。

 

 

 

Alles(アレス) Gute(グーテ) zum(ツム) neuen(ノイエン) Jahr(ヤー) !(明けましておめでとう!)」

 

ドイツの黒兎隊宿舎ではヒルデガルトとミュカレを迎えて、新年のお祝いをしていた。

クリスマスに余ったシュトレンやノイヤースプレッツェル、ラクレットなどをみんな笑顔で食べている。

成人済みのメンバーはワインやビール等を飲み、そうでないものはノンアルコールで雰囲気を楽しんでいる。

今年も黒兎隊は変わらないようだ。

 

 

 

 





新作を書いて気分を転換しようとしていたらこの体たらくです。
ごめんなさい。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第136話 TRF-Rの新年会


色々と大変ですが私は元気です。

では本編をどうぞ↓


 

 

(ノサ・ω・)<はい! 始まります。年始め、TRF-R北斗の拳キャラランセレ大会ぃい!

 

(モヒ・ω・)<イィエェエエエイッ!!

 

(ファ・ω・)<実況と!

 

(の・ω・)<解説は!

 

(ノサ・ω・)<TRF-R修羅勢3人娘が担当します!

 

(モヒ・Д・)<ypaaaaaaaa!

 

正月も過ぎ、小正月に差しかかった頃のTRF-Rでは北斗の拳の店内大会が開催されていた。

実況席にはTRF-Rが誇る美少女修羅のノーサ、ファリィ、のほほんの3人娘が座っている。

3人の司会進行にいつもとは違う雰囲気が漂っている。

 

(ノサ・ω・)<さぁ、クジを引いてキャラを決めてってくださいな。

 

(ファ・ω・)<ウェーイ!

 

ノーサの指示によって参加者の修羅・モヒカン達は箱の中のクジを引いていき、恐る恐る中身を確認していく。

 

(*´ω`*)<よっしゃ! レイ来た!

 

(眉゜Д゜)<サウザー!!

 

(゜ェ゜ジ)<トキだぁあああっ!!

 

(TA・Д・)<やべぇのにトキが渡ったぞ!

 

(ki・Д・)<マミヤ……。

 

(*M*)<……ラオウかぁ。

 

 

阿鼻叫喚の様相を呈している面々であるが、サブキャラの練習をしてこなかったのが悪いと言わんばかりに司会は進める。

 

(ファ・ω・)<はい! 落胆している下郎の皆さんはね、これを機にサブキャラを練習しましょう! あたしはユダでした! 使ったことないね!

 

(の・ω・)<私はね~、サウザーだった。辛い。

 

(ノサ・ω・)<フッフッフ! ハート様です! これがガーチャーの英霊と呼ばれた私の引きの強さですよ!

 

(ファ・ω・)<うっわ……! あんたとは当たりたくないわ。

 

(の・ω・)<同かーん。ノーサのハート様とサブキャラ未満の状態でやりたくなーい!

 

ノーサの引きにざわざわと俄に騒がしくなるものの、直ぐ様ノーサが“はいはいはいはいはい!”と釘を刺して静かにさせる。

 

(ノサ・ω・)<はい、それでは第一試合は5様ジャギ対GBシンです。

 

┌┤´Д`├┐<……使ったことねぇよ。

 

(GB°∀°)<やるしかねぇ!!

 

ジョインジョインジョインジャギィシィン

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

ニゲラレンゾォ ヘァッ

 

 

(ファ・ω・)<さて牽制やらガソリン撒くやらして地盤を固めていく。

 

(ノサ・ω・)<5様が、5様がすごいそれっぽい動きしてる!

 

(の・ω・)<お互いゲージが溜まって、5様が壁を背負う!

 

(ファ・ω・)<グレ!仕込み千手!獄屠拳!やったな!GBさん、ムテキングを狙っていった!!

 

(ノサ・ω・)<あ~、成功してますね。5様乙でーす。

 

 

ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッデヤァナァニィキコエンナァ

 

(ファ・ω・)<挑発までするのかこの男は……。

 

(ノサ・ω・)<オレの名、オレの名を使う!

 

(の・ω・)<決まるかなぁ……。

 

 

オマエゴトキデハオレニカツコトデキン

 

 

(ノサ・ω・)<知ってた。

 

(の・ω・)<次は、らいぶらラオウとえぐレイでーす。

 

(*´ω`*)<なんでらいぶらさん、メインキャラなんです?

 

(ら゜∀゜)<引いたら出た。でもねー、レイラオウとかやってらんないっすわ。この組み合わせはマジでクソゲーなんで。

 

ジョインジョインジョインジョインジョインラオウレェイ

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

フゥヒエンリュウブ ヌゥオオオオオ フゥ

 

(ノサ・ω・)<さぁお互いバクステから牽制しつつの静かな立ち上がり。らいぶらさんは呼法つけて、えぐれさんはジャンプからの流舞で牽制を撒いていく。

 

ジョイヤァペシペシペシペジョイヤァコノオレモカナシミヲセオウコトガデキタワ

 

(の・ω・)<ターンを取ったのはらいぶらさん~。

 

(ファ・ω・)<ラオウの釵が刺さってぇ!バニィ! バ、バニキャンとかやるのかここで!

 

ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ

 

(ノサ・ω・)<さぁ、画面端に持ち込んでぺしぺしぺしぺし!

 

(の・ω・)<えぐれさん逃げて~。

 

(ファ・ω・)<逃げ切れない、現実は非常である。

 

 

バトートゥーデッサイダデステニー

フゥミキッタワクラエイッ

 

(ノサ・ω・)<開幕ブー立ちAに夢想取ってグレイブ!!

 

(ファ・ω・)<グレイブから空釵!ぺしぺし!もっかい釵を刺して継続!!

 

(の・ω・)<いや~、迂闊だったね~。夢想つけたラオウとかケンシロウに迂闊になんか振っちゃダメだと思うんだ。

 

ウケテミヨワガゼンレイノコブシヲ テンニメッセイ

 

(ノサ・ω・)<はーい、一撃が決まって勝ったのはらいぶらラオウ!

 

(ファ・ω・)<ドンマイえぐれさん。

 

(の・ω・)<次は~、Kaiマミヤ対DEEPシンで~す。

 

(ノサ・ω・)<ムテキング勢にシンを渡してしまったか…。

 

ジョインジョインジョインシィンマミヤァ

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

ハッハッゴメンナサイ

 

 

(ノサ・ω・)<両者開幕バクステで落ち着いた立ち回り。お互い細かい牽制を挟んで機を伺っている!

 

(ファ・ω・)<DEEPさん的にはゲージを早く溜めたいでしょうね。露骨に()()を狙ってる顔してますよ。

 

(ノサ・ω・)<基盤勢の執念を見せたいんでしょう。

 

(の・ω・)<出るか、来るか! ムテキング!!

 

(ノサ・ω・)<いや、たぶん出来るよ。この前安定化ルート発明してたし。

 

(ファ・ω・)<マジかー。ムテキングが安定化かー。ヤバイねそれは。

 

(ノサ・ω・)<まぁ、それでも投げられるのがDEEPさんだけどね。

 

ペシペシペシペシゴメンナサイペシペシシュウネンガタリンゾ

 

(の・ω・)<今のはブーヘルメット?

 

(ファ・ω・)<マミヤ慣れてないなぁ。DEEPさんがガーキャンで切り返す。

 

(ノサ・ω・)<Kaiさん、プレイヤー性能に甘えすぎじゃないですか?

 

(の・ω・)<お! すかし下段を見切って、アレ!?

 

(ノサ・ω・)<見えないんすか?!

 

( KДI)<投げねぇ!このキャラ!

 

(ノサ・ω・)<すかし下段を見切ったが投げがなかったー!

 

(ファ・ω・)<HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!

 

(TA・Д・)<お前何年北斗やってんだよ!!

 

(゜ェ゜ジ)<バカ! すかしは投げるって体が覚えてたんですよね? でもお前の投げねぇから!

 

(TA・Д・)<HAHAHAHAHAHAHAHAHA!

 

(゜ェ゜ジ)<Kaiさん、マミヤに投げねぇっす。

 

 

 

(ノサ・ω・)<はーい、続いてはのほほんサウザー対エジトキです。

 

(ファ・ω・)<初心者サウザーが相手していいヤツじゃないね。

 

(ノサ・ω・)<もうダメかも分からんね。

 

ジョインジョイントキィサウザァ

デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

 

(ノサ・ω・)<触られたら死ぞ。

 

(ファ・ω・)<のほほん、ガンバ!

 

ナントバクセイハッフハハハハハハァットウケイコホウハァッ

 

(ノサ・ω・)<お互い差し込むタイミングを見計らっている!

 

(ファ・ω・)<エジさんはともかく、のほほんは触られたら負けるからね。

 

ハッゲキリュウヲセイスルハセイスイユクゾユクゾフンハァペシペシユクゾペシペシ

 

(ノサ・ω・)<ブー当て身!!

 

(ファ・ω・)<露骨ぅ!! 終わったくせー!

 

(ノサ・ω・)<これは浮くなー。

 

ペシペシペシペシフンハァキィーンホクトウジョウダンジンケンペシペシペシペシペシペシペシペシユクゾペシユクゾペシK.O.

イノチハナゲステルモノ

 

(ノサ・ω・)<露骨な当て身からの画面端でラウンド取るのはエジトキ。

 

(ファ・ω・)<ひっどい当て身の当て方を見た。

 

バトートゥー デッサイダデステニー

ユクゾユクゾユクゾユクゾユクゾユクゾユクゾユクゾ

 

(ノサ・ω・)<遊び始めた!

 

(ファ・ω・)<一人だけドラゴンボールやってるよ。

 

ナントバクホクトサイハケンッ

 

(ノサ・ω・)<爆星に砕覇が刺さった!!

 

(ファ・ω・)<うん、たまに見る光景だわ。

 

ユクゾユクゾペシペシユクゾペシユクゾペシ

 

(ファ・ω・)<さぁ、砕覇を刺してからナギッ使って画面端にご招待!

 

(ノサ・ω・)<死んだな、これ。

 

カクゴテンョウテンショウテンショウヒャクレツケンペシペシペシペシペシキィーンホクトウジョウダンジンケンペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ

 

(ノサ・ω・)<はいhit数稼いで、浮ーいーた!!

 

(ファ・ω・)<のほほん乙~!

 

ウィーントキィパーフェクト

 

(の・ω・)<知ってた。うん。やっぱ私はサウザー無理だ。

 

(ノサ・ω・)<もうね、カオスだね今日の大会。

 

(ファ・ω・)<そういう趣旨だからね、仕方ないね。

 

 

こうして大会はカオスな様相のまま進み、結果は本キャラを掴み取った眉毛の優勝となった。

 

 

 

 





久々に1話丸々北斗に費やしました。
楽しかったです(小並感)

ではまた次回でお会いしましょうノシ


次章予告

春になり、二学年に進級した南美たち。
新たに入学してきた初々しい新入生。そんな中で一夏らに声を掛けたのはスペイン、フィンランド、中国の代表候補生たちだった。
まだまだ波乱の続くIS学園。
次章二学年編、スタート



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2学年編
第137話 新学期



徐々にペースを上げていきたい。

では本編をどうぞ↓


 

 

4月。入学式シーズンが到来したIS学園では今日、新入生達が奔騰の意味でIS学園の生徒になる入学式が行われた。

校長や来賓、生徒会長に新入生代表などの長々とした話からもやっと解放され、IS学園の敷地を自由に歩けるようになった彼女達は思い思いの場所を散策し始める。

 

そんな中、在校生達は普段と変わらない様子で生活している。そして一夏ら、二学年専用機組はと言うと───

 

 

 

「皆浮かれてるなー。」

 

「ま、そりゃそうでしょ。IS学園は若いIS乗りの憧れだもの。」

 

彼らは食堂に集まって談笑していた。他の生徒達もちらほらと見かけるものの多くは自身が所属する部活の勧誘に駆り出されている。

そして食堂に居合わせた数人の新入生たちは彼らを遠巻きに眺めている。ヒソヒソという小さな囁き声からは“アレが噂の……。”といったような言葉が聞こえる。

 

「……なんか、うーん……。」

 

「一夏はともかく、ボクらも視線を集めているような……。」

 

どことなく自分達にも視線が集中している事を感じたメンバーは不思議そうに首を傾げる。

 

「噂にもなるでしょ。去年のキャノンボールファストとか、あたしら色々注目集めたんだから。」

 

「あ~……そっか、そういうことか。」

 

鈴の言葉にシャルは納得したように頷いた。“そうかそうか、なるほど”と小さく呟きシャルが辺りを見渡すと自身を見つめる数人の新入生のグループと目が合った。

彼女達は何かを期待するような眼差しでシャルの事を見つめており、それを察したシャルは微笑みながらひらひらと小さく手を振る。

するとそのグループの少女たちは嬌声を挙げて喜びながら食堂の外に駆けて行った。

 

「…………。」

 

「大人気ねぇ、シャル。」

 

「いわゆる一つの王子様系って感じなのかしら。」

 

「タカラジェンヌってヤツ?」

 

「それとは違うと思うぞ?」

 

「同性にもモテるのね、シャルって。」

 

「……その扱いは不本意だよ。ボクだって女の子なんだ。」

 

ハァと小さく溜め息を吐いたシャルはティーカップの紅茶を飲み干すとテーブルに突っ伏した。

そんなシャルを労るようにセシリアは彼女の背中を擦る。

シャルを労りながら優雅に紅茶を口にするセシリアの姿は淑女然とした雰囲気を感じさせる。

 

「それでも、さすがにこうも遠巻きに眺められると言うのもあまりいい気分ではありませんわね。どうせなら正面から来てほしいものですが……。」

 

ティーカップをテーブルに置いたセシリアは伏し目がちに周囲を見渡す。そんな時、ある一団が彼女たちに声を掛けた。

 

「なら、正面から話し掛けさせてもらいます。」

 

「お久しぶりです、鈴センパイ!」

 

四人いる一団の先頭に立っていたのは鮮やかな赤髪が映えるスペインの代表候補生、セサル=ヴェニデと鈴の後輩にあたる中国の王春花であった。

 

「春、この前も会ったばかりでしょうに。」

 

「え? セサルさん……?」

 

「お久しぶりです、織斑一夏さん。こうしてまた会える時を心待ちにしておりました。」

 

セサルは一夏に微笑みかけると小さく頭を下げる。

礼儀正しく振る舞う彼女と快活に笑う春花の存在は専用機組の警戒を下げるには十分だった。

そして話題は二人の後ろにいる少女に移る。

 

「それで、貴女は?」

 

「はい。フィンランド国家代表候補生のヴィート・ハユハであります。」

 

ヴィートは静かながらも力の籠った声でそう言うとピシッと敬礼した。

洗練された無駄のない彼女の身のこなしにラウラは感心したような目を向ける。そして話題は最後の一人、目付きの悪い少女に移った。

 

「未来のアメリカ代表、ウィレミア=(ロドニー)=(ジャック)=ゴールディングだ。オレはIS学園の頂点に立って本国に戻る。その為の踏み台になってもらうぜ。」

 

ウィレミアの言葉にその場にいた二学年専用機組の空気がピリッと引き締まった。そして彼女から最も遠い場所に座っていた南美が立ち上がる。

 

「なるほど、宣戦布告に来たって訳か……。まぁ、国家代表を目指すならそれくらいの気概がなきゃね。」

 

「ああ、そう取ってくれて構わない。」

 

ニィと笑う南美にウィレミアは笑ってそう答えた。そんな彼女に南美は親指で背後を指差すとくるりと背中を向けた。

 

「もしやる気があるなら着いてきて。アリーナの予約は取ってあるから。」

 

「面白ぇ、やってやろうじゃねぇか。」

 

ウィレミアは口角をつり上げ、目を輝かせると嬉々として南美の後ろを着いていく。

そんな二人を周りの専用機組はやれやれと言った具合でアリーナの観客席に向かった。

 

 

 

──IS学園第一アリーナ

 

普段はISの基礎を復習するためにちらほらと生徒の姿が見えるこのアリーナであるが、入学式のあったこの日はそんな生徒たちの姿はなく、たった二人が向き合っていた。

 

「どちらが勝つと思いますか?」

 

「聞くまでもないでしょ、賭けすら成立しないわ。」

 

「南美、しかないわね。」

 

観客席で見ていた専用機組の面々は当然と言わんばかりの顔でそんな会話をしながらアリーナを見下ろしている。

他の観客席にはこの戦闘の事を聞き付けた上級生や新入生達も集まり、ちょっとした騒ぎになっていた。

 

 

「さて、じゃあ始めようか。」

 

「あぁ、オレと“フィードバック”の力を見せてやらぁ!!」

 

ウィレミアは両腕に武装を呼び出し南美に向かって突っ込んでいく。

右手には腕部一体型のバズーカ、左手は同様な型のブレードを装備している。

 

「このフィードバックが負けるかよ! 行くぞぉおッ!!」

 

「トベッ!! ──ウリャッ!!」

 

南美は一瞬でウィレミアの懐に入り込むと腕を振り上げて彼女の顎をかち上げる。

そして上体の仰け反ったウィレミアに対して南美は大振りのアッパーを打ち込んでその体を宙に浮かせた。

 

「フゥ──シャオッ!ショオォ!」

 

(ち……、でもこれで体勢を──)

 

宙に浮いたウィレミアに対して南美は手を緩めずに追撃を掛ける。そして最後のフィニッシュと言わんばかりに踵落としでアリーナの床に叩きつけた。

これで仕切り直せると思っていたウィレミアであったが、それは誤算だった。

 

「はッ!?」

 

「One More Set!!」

 

叩きつけられたウィレミアの体はバスケットボールがバウンドするように跳ねたのだ。

人の体が跳ねるという、常識から外れたその現象に見ていた者たちは驚愕の顔を浮かべている。

そうして驚愕の視線を集めながら南美は跳ねてきたウィレミアにさらに追撃の手を伸ばす。

 

「フゥゥゥ、シャオッ!!」

 

大振りなバックブローをウィレミアの土手っ腹に鋭く打ち込み壁際まで吹き飛ばした。

それと同時に南美はブースターを吹かしてそれに追随する。吹き飛ばされ、やっと距離が取れたと確信したウィレミアにさらなる一撃を加えに掛かった。

 

「アリーナ端にご招待。さぁ……死ぬがよい!」

 

やや冗談めかしてそう言った南美は壁に叩きつけられたウィレミアの装甲を掴みもう一度壁に向かって投げつける。

 

「舐めんな!」

 

だかその時、大きな発砲音と共にサザンクロスの装甲を何かが掠めていった。ウィレミアが右手に装備しているバズーカからは発砲後を示す熱と煙が出ている。

そしてそのバズーカからガチャンという音が鳴ると南美は即座にウィレミアから距離を離したけど

 

「そこだぁ!!」

 

「ちぃ!?」

 

南美が充分に距離を離しきる前に砲弾が放たれ、サザンクロスの装甲を捉えた。

その衝撃で一瞬、ほんの一瞬だけ動きの止まった南美にウィレミアが迫る。鈍く光を反射する左腕のブレードが襲いかかった。

 

 

 

 

その頃、時を同じくしてアメリカ。ある男とハスラーが彼女御用達のアリーナの賓客室である話をしていた。

 

「ハスラー、君の推薦で彼女を送ったが、本当によかったのか?」

 

「あぁ、これからの、未来のアメリカ代表を考えるなら奴が適任だろう。」

 

男の問いかけに答えながら彼女は眼下で激闘を繰り広げる若いIS乗りの少女たちを見つめている。

その顔はやや柔らかく、少し前までの、それこそ第五回モンド・グロッソの時からは想像がつかないほどだ。

 

「アイツは強くなりますよ。鼻が効くから……。アイツは自分に無いものを持ってる格上を本能で探せるんです。それこそまだ無名だった私に初対面で絡んできた時のように。」

 

「……君が言うなら、そうなんだろうな。」

 

ハスラーの自信に満ちた声に男は安心したように口角をつり上げた。

そんな男の顔を見て、ハスラーが小さく笑う。

 

「やはり貴方はそうやって不敵に笑っている方が似合ってるよ、マイケル。」

 

「当たり前だ。私は合衆国大統領だぞ。」

 

ハスラーとマイケルはお互い小さく笑い合い、二人の小さな笑い声が賓客室の中に響くのだった。

 

 

 

 

 

「フゥゥゥ──シャオッ!!」

 

「がっ!? ──まだまだぁ!!」

 

南美の肘打ちを食らって上体を仰け反らせたウィレミアだったが追撃の暇も与えずに体勢を戻してバズーカで反撃を加える。

その砲弾すら避けて見せる南美にウィレミアは両肩の高機動ミサイルで牽制する。

ミサイルの発射を見た南美は直ぐ様ウィレミアから離れてミサイル迎撃の姿勢に移った。ウィレミアはそれを見逃さずバズーカを放つ。

 

「しぶとい!!」

 

「このフィードバックが! 簡単に沈むかよ!」

 

ウィレミアは大声でそう叫ぶと右手をバズーカからブレードに変更して南美に突撃する。

ミサイルと直前に放った砲弾もあってウィレミアはあっさりとクロスレンジまで距離を詰めた。

しかし───

 

「南斗雷震掌!!」

 

接近したウィレミアを待っていたのは強烈なエネルギーの塊だった。

迸るエネルギーの奔流をもろに浴びた彼女の体は宙に浮く。そしてそんなウィレミアを南美は蹴り飛ばし、もう一度壁際に追い詰める。

 

「南斗孤鷲拳奥義───」

 

壁際まで追い詰めた南美は体を低く屈め、右足を大きく振り絞っている。それは彼女の持つ最強の武器が使われることの前触れであった。

 

「──南斗翔鷲屠脚ッ!!」

 

低く屈んだ姿勢から大きく上に振り上げられた脚はウィレミアの体を捉え、その直後に雷が走る。

それによってフィードバックのシールドエネルギーは一瞬でゼロになり、決着を告げるブザーが鳴った。

 

「私の勝ちだ。」

 

エネルギーが空になったフィードバックを纏ったままその場に倒れるウィレミアに南美は告げる。そして彼女に背中を向けたまま歩いてその場から離れていく。

 

「──く生、畜生……。」

 

フィードバックを待機状態に戻したウィレミアはダンッダンッと地面を殴り付け、漏れ出そうになる嗚咽を圧し殺すように唇を噛む。

うっすらと血が滲むことも厭わずに悔しさを噛み殺そうとする彼女を見て、南美は足を止めて振り返る。

 

「ウィレミア=R=J=ゴールディング、君の欲望……、最後まで勝とうと挑む執念に敬意を──!」

 

静かで、それでいてしっかりと力強い言葉で南美はウィレミアの目を見据えて言った。

そしてそれだけ言って南美はまた彼女に背中を向ける。

ウィレミアは南美の言葉を受けとると、試合の疲れやダメージの残る体に鞭打って立ち上がり、彼女の背中に声を掛けて呼び止めた。

 

「絶対、次はオレが勝ってみせる! 待ってやがれ!!」

 

「……楽しみに待っているよ。」

 

南美は振り向くことなく、今度こそアリーナから去っていった。

 

 

 





ウィレミア=(ロドニー)=(ジャック)=ゴールディング
アメリカの国家代表候補生、GA(グローバル・アーマメンツ)社所属。
どんな相手にも普段の自分で接し、格上にも恐れず絡みに行く裏表のない肝の座った少女。
しかし祖父に対しては強い憧れを持っており、彼女が乱暴な言葉を使わない数少ない人物でもある。

専用機“フィードバック”
GA社が開発した次世代を担うSUN-SHINEシリーズをベースに作られたウィレミア専用機。
頑丈さと武装拡張性が取り柄であったSUN-SHINEシリーズの良さをそのままに全体的な性能向上が行われている。


ではまた次回でお会いしましょうノシ




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第138話 初対面からの


お待たせいたしました。
これからは週に1話くらいのペースで投稿になると思います。

では本編をどうぞ↓


 

 

「随分とあの子を買ってますのね。」

 

「……目が、ね。良い瞳をしていたから、ついね。」

 

アリーナを出ていつものメンバーと合流するとセシリアからの質問が飛ぶ。その質問に南美は小さく笑って答えるとチラリと背後にいるウィレミアを見る。

そこにはセサルの肩に寄りかかって運ばれる彼女の姿があった。

隣にはヴィートと春花が心配そうに寄り添っている。

それを視界の端で見た南美はセシリアたちの方に振り向くとグッと親指を立てる。

 

「here comes new rival!ってヤツだよ、楽しみだね。」

 

ニッと笑う南美に専用機組の皆は同じように笑う。

 

「そうだな。」

 

「そうね。」

 

「そうですわね。」

 

「楽しみだ。」

 

一夏もセシリアも鈴音も簪も、皆南美の後方にいる四人へと目を向ける。

それは同じ専用機を持つ者同士の好奇心、どんな性能の専用機なのか、どんな戦い方をするのか気になって仕方がないというような風だ。

そんな彼らの横をウィレミアを運びながら彼女達がすれ違う時に数人が目を合わせた。

 

「それでは私たちはこれで……。一夏さん、また今度。」

 

「それじゃあまた! じゃねー鈴センパイ!!」

 

「おさらばであります、先輩方。」

 

疲労困憊のウィレミアを連れた3人はそれぞれ言葉を残してアリーナから出ていった。

 

 

 

 

その日の夜のこと、上級生に入学式早々ケンカを吹っ掛けた新入生がいるという噂がそれなりに浸透しつつある時である。

2年生専用機組の面々が学生食堂に集まっていた。

 

「にしても、あの1年生凄かったな。ほぼ初見で南美の動きに食い付けるんだもんな。」

 

「それよりもあの武装でしょ。腕部一体型とか珍しいの使ってるわよね。」

 

「確か……グローバル・アーマメンツ社でしたか? そこがリーディングカンパニーになって開発している系統の装備ですわね。」

 

「見た目の浪漫性能は高いぞ、整備のしやすさは知らないがな。」

 

「でも一夏の言う通り、実力があるのも確かだよね。二次移行(セカンドシフト)した後の南美にちゃんと勝負まで持っていけたんだもん。」

 

「それはビックリしたよ。割と本気で行ったんだけどなぁ……。ちょっとだけ自信がなくなりそう。」

 

「……早く戦ってみたいもんだ。」

 

「えぇ、その機会があれば良いのですが……。」

 

口々に所感を漏らしながら食事を摂る彼らはチラチラと自身らに注がれる視線を感じながら、時折それに応えるように視線を合わせて手を振っている。

 

「この視線、どうにかならないかなぁ……。」

 

「無理だな。」

 

「無理でしょ。」

 

「慣れるしかないですわ。」

 

「その内消えるだろ。」

 

ハァと溜め息を漏らすシャルだったが、一夏らの言葉に“そうだよね……。”と更に深く溜め息を吐くのだった。

 

「もういっそのこと開き直って男装すれば?」

 

「なんでそうなるのさ。ボクは女の子にモテたいとかチヤホヤされたい願望なんかないよ。」

 

「勿体ないわねー。面しr─もとい似合いそうなのに。」

 

「おい、今なんて言い掛けた?」

 

「な、なーんにも? あー、ラーメン美味しー。」

 

鈴音の言葉にシャルはギロリと鋭い目付きを彼女に向ける。そんな殺意混じりの視線に鈴音はアハハと笑って誤魔化しながら視線を切るようにラーメン丼を持ち上げてスープを飲む。

 

「まったくもう……。」

 

シャルがそう小さく溢してその話題は終わり、その後、下らない世間話を交わして今日は解散となった。

 

 

 

そんな時、自室で横になっていたウィレミアは自身の携帯電話の着信音に驚いて飛び起きていた頃である。

 

 

「はーい、どちら様?」

 

「こちらグローバル・アーマメンツ社、ローディーだ。」

 

「お、お祖父ちゃん?!」

 

電話口から聞こえてきた声にウィレミアは横になっていた体勢から直ぐに起き上がり、背筋を伸ばした。

 

「ご、ごめん寝惚けててお祖父ちゃんからの電話って分からなくて……。」

 

「良いよ、私は気にしていない。それよりどうだ、IS学園は。」

 

「うん、凄い充実しそう。強い人もいっぱいいるみたいだし、お祖父ちゃんの所に帰る頃には今よりももっと強くなってるよ。」

 

ウィレミアの言葉に電話の向こうにいる老人は嬉しそうに笑った。そんな彼の笑い声を聞いてウィレミア本人も嬉しそうに頬を緩ませる。

 

「そうだ、お祖父ちゃん、また昔話を聞かせてよ。あの“赤い鳥”の伝説の話!」

 

「あぁ、いいぞ。……あれは私がまだ若かった時に聞いた話だ。中東に行った時にある噂を耳にした。“赤い鳥”、そう呼ばれた伝説の傭兵の話さ─────」

 

そうして語られ始めた昔話にウィレミアは楽しそうに耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

「あ、やっと見つけました! 虎龍さーん!!」

 

「っ!? 春花ちゃん!? な、なんでここにいるアルか?!」

 

月光が射し込むIS学園の中庭で月を眺めていた虎龍に春花が突撃する。

そして驚愕で固まる虎龍に回避する余裕も与えずに彼女は彼の胸元に飛び込んで抱きついた。

 

「お久しぶりです、ずっと、ずっとこうしてまたお会いできる日を待ち望んでおりました! 虎龍さんが日本に帰ってしまったとお祖父様から聞いた時は、胸が張り裂けそうなほど辛く……! でも、でも───」

 

「お、落ち着くアルよ……。も、もしかして今日から入学してくる中国の候補生って……。」

 

「はい! 私です! 嗚呼、こうしてまた会えることが出来るなんて……。」

 

春花は困惑して固まり続ける虎龍の胸板にスリスリと頬擦りをして想い人の温もりを存分に堪能している。

そんな二人の様子を草むらからこっそりと伺う人物がいた。何を隠そう弥子と椛である。

 

「……虎龍先輩にああいう関係の人がいたんですねぇ。」

 

「でもあの子、今年で高校生でしょ?」

 

「「……事案かっ!!」」

 

誰も突っ込むことなくその場の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

「一夏……。」

 

「どうしたんだ?」

 

寮の部屋のなかで胡座(あぐら)を掻く一夏の脚の間にちょこんと座るラウラは背中越しに一夏に話し掛けた。

 

「あのセサルと言う子とはどんな関係なんだ?」

 

「あぁ、別に大したことないよ。ドイツから帰るときにスペインの空港で知り合ったんだ。」

 

「本当にか?」

 

「本当だよ。」

 

ラウラは体の向きを変えて一夏と向き合うとじっと彼の瞳を見つめる。

そんな彼女の頭を一夏は優しく撫でて微笑んだ。

するとラウラはぎゅっと一夏の背中に腕を回してしがみついた。

 

「心配しなくて大丈夫だよ、オレが一番好きなのはラウラと勇儀さんだから。」

 

「うん……。」

 

一夏に抱き締められながらラウラは顔を彼の胸に埋め、安心したのかうとうととし始める。

 

「今日はこのまま寝るか?」

 

「うん、ぎゅってしてくれ……。」

 

「分かった。」

 

一夏はラウラを抱き締めて持ち上げるとそのまま同じ布団の中に入り二人は安らかに寝息を立て始めるのだった。

 

 

 

 

「今年の新入生も、灰汁が強いというか、個性的というか……。」

 

「わ、私も頑張りますから!!」

 

職員室では新入生の資料を見比べながら眉間に皺を寄せる千冬とそんな彼女をどうにかして励まそうとする真耶の姿がある。

 

「3年に2人、2年に8人、1年に4人……。あまりにも多すぎるな。正直に言って面倒くさい。」

 

「そ、そんなこと言わないで下さいよぉ!」

 

疲れた目で職務放棄しそうになる千冬に対して真耶はすがるように宥める。

専用機組への抑止力としても存在している彼女に職務を放棄されると色々と他の教員が困るのだ。

あまりにも必死に説得を試みる真耶の姿勢に千冬はハァと溜め息を吐き、資料とのにらめっこに戻った。

 

IS学園は今日も平和である。

 

 

 

 





ややオムニバス風になりましたがこれから2年生編が本格的に動いていくと思います。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



ヴィート・ハユハ
…フィンランド国家代表候補生兼テロ活動対策室に所属する少女。フィンランド国家代表のスミカ・ユーティライネンの部下にあたる。
色白で真っ白な髪の毛が特徴。父親が猟師をしており、ヴィート本人も幼少から猟銃を握って育った。主な獲物はケワタガモ。
最初の頃は年相応な少女の話し方だったが配属された部隊の影響で軍人のような固い話し方をするようになった。

トゥオネラの白鳥(トゥオネラン=ヨウツェン)
…ヴィート・ハユハに与えられた専用機。フィンランドの雪景色に紛れ込むような真っ白な装甲が特徴的。
専用のスナイパーキャノンを構えるときに脚の装甲を展開して盾代わりにする。
狙撃に特化した支援機であり、スミカの専用機“コーラルスター”と共同することを前提に設計されている。




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第139話 ジョインジョインサラシキィ


タイトル通りの更識回です。

では本編をどうぞ↓


 

 

「さて、進級おめでとう諸君。今日から君たち2年1組の担任を務める織斑千冬だ。1年間よろしく頼む。」

 

入学式から一夜開けて次の日。2年1組の教室では教壇に立った千冬が教室の中を見渡している。

このIS学園は2年生から科が分かれる、1年生の時と同じようにIS乗りとしてISの知識を培いながら、パイロットとしての技術を磨いていく“普通科”とISの整備員としての知識と技術を磨く“整備科”の2つである。

1年を通して自分はパイロットに向いていないと判断したり、戦闘が無理だと分かったり、サポートに回りたいと思った生徒たちが整備科に行き、クラス替えが行われるのだ。

そしてこの2年1組には2学年の専用機組8人全員が集まっている。多くは1年1組の面々だが、整備科になった者の人数分、他のクラスの者が増えている。

その増えた面々は他のクラスでも癖の強さを発揮し周囲からやや浮いていたりしていた者たちばかりだ。

信頼の出来る教師のクラスに集めたと言えば聞こえは良いが、本音を言えば二学年の癖の強い面々を織斑千冬に放り投げたと言えるだろう。

 

「まぁ諸君らに言うことは少ない。よく学び、実践し、体得しろ。それだけだ、励めよ。」

 

千冬はそれだけ言うと伝家の宝刀である出席簿を片手に教室を出ていった。

 

 

「南美、昨日言った話だが。」

 

「あぁ、アリーナの予約は取ってあるよ。」

 

「ナイスだ。」

 

千冬が教室から出ていくとそれぞれが仲のいい同士で他愛もない雑談を始める。

元々が気安い気質の1年1組の面々は他のクラスで交流が薄かった相手であろうとも直ぐに打ち解けた。

 

「箒、今日は狗飼さんの所に行くか?」

 

「勿論だ!」

 

「鈴さん、放課後に……。」

 

「オーケー、任せなさい。」

 

「ラウラ!」

 

「分かっている、こちらからもお願いしたい。」

 

専用機組の面々はいつものように放課後の予定を立てている。

そして時間はあっという間に過ぎていき、放課後。普段と同じようにアリーナに向かう南美達の耳にある騒ぎが入った。

その騒ぎとは“生徒会長に勝負を吹っ掛けた新入生がいる”というものだ。その話を聞いた彼女達はウィレミアの顔を思い浮かべ、アリーナに足を運ぶ。

 

 

 

「ごっほ……、クソッ!!」

 

「命は投げ捨てるものではない……。」

 

アリーナに出た南美達が目にしたのはボロボロになってアリーナの地面に横たわるウィレミアとその側で涼しげな顔で扇子を扇ぐISスーツ姿の楯無の二人だ。

 

 

 

 

事は今から数分前に遡る。

アリーナで専用機“霧纏いの淑女(ミステリアス・レディ)”を装備しながら舞うように型の確認をしていた時の事だ。

 

「アンタが更識楯無、だな? モンド・グロッソのロシア代表の!」

 

「えぇ、そうよ。そう言う貴女は……新入生のウィレミアさんね。」

 

楯無は型の動きを止めると真っ直ぐにウィレミアの方に向き直る。

 

「知ってんなら話が早ぇ。オレと勝負しろ!」

 

ウィレミアはフィードバックの武器腕を楯無に向けて突きつけた。

何を言っても引く気の気のないウィレミアに楯無は溜め息を吐き数歩下がって構えを取る。

 

「仕方がない、掛かってくるといいわ。」

 

「そう来なくちゃ!」

 

構えを取った楯無にウィレミアは目を爛々と輝かせ突っ込んだ。

 

ジョインジョインタテナシィ デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー

ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォナギッナギッナギッフゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンサラシキウジョウダンジンケンK.O. イノチハナゲステルモノ

バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーサラシキウジョーハガンケンハァーン

FATAL K.O. セメテイタミヲシラズニヤスラカニシヌガヨイ ウィーンタテナシィ パーフェクト

 

 

 

「あ~、うん……そうなるよね。」

 

「IS学園の生徒会長は“学園最強”の肩書きを持ってるって知らなかったのかしら。」

 

「いや、知ってて勝負を挑んだのだろう。しかし我が姉ながら容赦ないな。」

 

入り口から二人の姿を見た南美達は口々に言葉を漏らす。

そんな彼女達に気が付いたのか楯無はウィレミアを抱えると真っ直ぐに彼女達がいる入り口へと向かった。

 

「皆もISの訓練? 怪我のないように気をつけてね?」

 

ウィレミアを抱えたまま楯無は小さく微笑みアリーナから出ていった。

その楯無の後ろ姿を見送った彼らは気を取り直していつものように訓練に励む。

 

 

「フゥゥゥ──シャオッ!」

 

「なんのぉ!! どぉおりゃあっ!!」

 

南美が放った鋭いバックブローを簪は前に踏み込むことで勢いを止め、カウンター気味に右のストレートを打ち込む。

ISのパワーアシストを存分に受けた重い一撃は南美の体を揺らすには十分すぎた。

 

「ぬぅうりゃぁああっ!!」

 

「南斗虎破龍!!」

 

振り抜かれる拳に合わせる形で南美は懐に潜り込み手刀で突く。

しかしそれでも簪の操る玉鋼の分厚い装甲の機体は揺るがない。懐に潜ってきた南美を抱き込み、叩きつけるように投げ捨てた。

 

「ふぅぅ……砕け散れぇい!!」

 

「喰らわないよ!」

 

投げ捨てた南美に対して簪は全身の力を込めた両手の掌底を突き込もうと踏み込む。それに対して南美は投げ捨てられた先で片腕を付いて体勢を立て直すと直ぐ様その掌底を迎え撃つ。

突き出される掌底を掻い潜るように南美は低くスライディングで簪の足を払う。

 

「ぬ──ぅおぉあぁあっ!!」

 

「っ!?」

 

スライディングで足を払われバランスを失った簪は咄嗟の判断で肘を足元にいる南美の顔面に向けて落とした。

予想外の一撃に南美は避けることも出来ず腕を顔の前に持ってきて簪の肘をガードする。

 

「ぬぅうりゃぁああっ!! だっしゃあっ!! このままっ! 決めきるぅうッ!!」

 

「こっの!?」

 

専用機のパワーと大きさを活かして強引にマウントを取った簪はそのまま乱雑にパワーアシストを効かせた拳を振り下ろす。

マウントでの攻防には慣れている南美であるがIS装備という状態での殴り合いに、回避は出来ずガードに徹している。そのガードの上から簪は叩き壊すように玉鋼の拳を振り下ろし、シールドエネルギーを削っていく。

 

「どぉおりゃあっ!!」

 

「そこッ!!」

 

上体を起こし大きく振りかぶって拳を振り下ろそうとする簪に対して南美が体を起こして正拳を彼女の胸に突き込んだ。

 

「無駄ァ!!」

 

しかし玉鋼の重厚な機体は揺るがず、南美の反撃も気に止めず拳を打つ。

ドンッと重い音を響かせて打ち付けられた拳はアリーナに砂煙を巻き起こし、周囲の視界を一時的に塞いだ。

あまりの衝撃に周囲で飛んでいた者たちは皆二人のいた方向に視線を向ける。徐々に晴れていく視界から、その場の生徒は息を呑んで見守っている。

 

「フゥゥゥ──シャオッ!!」

 

「どぉおりゃあっ!!」

 

晴れた視界の先ではマウント状態から脱した南美が簪の周りを高速で飛び回りながら打撃を繰り出し、それを受けながら簪がブンブンと玉鋼の腕を振り回していた。

南美が簪を翻弄していると言えば聞こえが良いが、その実南美は当たれば敗北必至の一撃を掻い潜りながら、深く踏み込まない打撃を当てているに過ぎない。

状況はまだまだ簪有利と言えるだろう。

 

 

「簪の奴、砲撃だけじゃなくてとうとう格闘戦にまで手を出したの?」

 

「更識家の方なのですから、楯無会長と同じ体術の使い手でもおかしくはありませんでしょう。ただ、動きはどちらかと言えば楯無さんよりも鈴音さんに近いと思えますが……。」

 

「ああ、それは同感。何て言うか、会長が“柔”だとすれば私や簪は“剛”って感じだもんね。」

 

セシリアと鈴音は二人の攻防を眺めながらポツリと漏らす。

 

 

「ショオォオッ──シャオッ!!」

 

「じぇえりゃああッ!!」

 

南美が上空から飛び蹴りを簪の肩に打ち込み、さらにオーバーヘッドキックを放とうとすると、簪はそれを叩き落とすように上段に構えていた腕をチョップのように落とし、南美を撃墜する。

叩き落とされた南美は片腕を付いて着地し直ぐ様起き上がり、簪の追撃に備えた。

 

「どぉおりゃあっ!!」

 

「シャオッ!」

 

上からの勢いをつけた踵落としを放つ簪に南美は手刀を振り上げて反撃する。

簪の踵落としは南美の手刀により勢いを削がれ向きを変える。しかし南美も向きを変えさせることが精一杯だったのか体勢を崩し、そこからの追撃は出来なかった。

 

「この剛拳、いつまで耐えられるかな!!」

 

着地した簪は直ぐ様南美に対して連続して正拳を繰り出した。体勢を崩していた南美はカウンターに持っていくことが出来ず、防戦一方になる。

 

「どぉおりゃあっ!!」

 

そして最後の締めに大きく右の拳を振り上げて南美を殴り飛ばす。

 

「更識の剛拳は無類無敵!!」

 

簪は大きく足を踏み鳴らし誇示するようにその腕を高々と掲げた。

しかし南美はその簪の言葉を聞いて眉をピクリと動かす。

 

「なら、遠慮なく本気で行くよ。」

 

南美はそれまでの地に足をつけた構えからピョンピョンと軽快なステップを踏む構えに変えた。

その普段との違いから簪は踏み込もうとした足を踏み留める。

軽くステップを踏みながらタイミングを計る南美は小さく息を吐くと一気に簪との間合いを詰めた。

 

「ヒュゥゥウッ──ショオッ!!」

 

「ッ!?」

 

低い姿勢から振り上げるように放たれた蹴りは玉鋼の装甲に深々と傷を入れた。

そして更に大きく傷を刻み込もうと逆足の踵落としを同じ場所に振り下ろして装甲を切り裂く。

 

「ヒョオッ! シャオッ!! フゥゥゥ──ショオッ!!」

 

上段から下段まで様々な角度、場所から放たれる鋭い蹴りによって玉鋼の装甲はどんどんボロボロになっていき、トドメと言わんばかりに南美は簪を蹴り飛ばすとブーストを使って着いていく。

 

「南斗水鳥拳奥義!──飛翔白麗ッ!!」

 

壁に激突して跳ねた玉鋼の体を浮かすように下から跳躍した南美は空中で無防備な状態となった簪に向かって両手の手刀を振り落とした。

その流麗な一撃によって玉鋼のシールドエネルギーはゼロになり、勝敗は決する。

 

「私の勝ちだね、簪!」

 

「勝てると思っていたが、底の深さを見切れていなかったか……。しかし次はこうはいかんぞ。」

 

お互い専用機を解除して健闘を讃えるように握手する。

 

 

 

「……南美が蹴り技主体に切り替えるくらい強いのね、簪の格闘戦って。」

 

「簪さんがISでの格闘戦をし始めたのはキャノンボールファストの後から……、もともと経験を積んでいたのか、あるいはそれほどの才覚を備えていたのか……。」

 

「生身の格闘術が出来上がっていたとすればまだ納得がいくわ。けど、それでもISでの格闘は生身のそれとは勝手が違ってくる。そのズレを修正できるセンスが簪にあったってことでしょ。」

 

側で南美と簪の手合わせを見ていた二人は鋭い目で簪を見ていた。

特に南美と同じく格闘戦を主体としている鈴音は危機感を覚えた顔つきをしている。

 

「恐ろしきは更識の血かはたまた……。兎に角、また一人強烈なライバルが現れたわね。うかうかしてらんないわ。」

 

鈴音はふぅと息を吐くと首を回してセシリアに向き直った。

 

「こうしちゃいられないわね。セシリア!」

 

「えぇ、勿論ですわ。」

 

この後、二人も苛烈な訓練を積み、側で見ていた下級生を震えさせたという。

 

 

 





(ワン)春花(チュンファ)
…中国国家代表候補生の一人で、凰鈴音の一つ下。出自不明の格闘家に弟子入りしており、格闘技の腕前はかなりのものである。
その一方で実家は資産家でやや箱入り娘な面もある。
呂虎龍とは彼が祖父の護衛として来たときに知り合い、一目惚れ。それからは会うたびに求婚している状態である。真っ直ぐで一途な愛が重い系女子。
専用BGM:我が心明鏡止水~されどこの掌は烈火の如く~

漆虎(チーフゥ)
…王春花に与えられた専用機で、凰鈴音の甲龍の姉妹機。
格闘戦を主眼にして開発された機体であり瞬間の出力はかなり高い。
漆塗りのように鮮やかな黒い装甲とマントや翼にも見える深紅の背部スラスターが映える外見をしている。


ではまた次回でお会いしましょうノシ





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第140話 英国面のセシリアお譲さん


タイトルに誤字?いいえ、ありません。

では本編をどうぞ↓


 

 

その日、新入生達は知ることとなった。

IS学園に通う専用機組の中で最も敵に回してはいけないのは誰なのかと言うことを───

 

その日、新入生達は思い知った。

IS学園に通う専用機組の中で最も怒らせてはいけないのは誰なのかを───

 

その日、アリーナで行われたのは訓練でも、戦闘でもない、ただの一方的な蹂躙だった───

 

 

 

5月となり1年生のクラス代表マッチも終わり、次第に新入生達も学園の雰囲気に慣れてきた頃の事である。

天気の良い放課後のバルコニーで優雅にティータイムを楽しんでいるセシリアという、とても絵になる構図。しかしそれをぶち壊す怒声がバルコニーに響き渡った。

 

「イギリス代表候補生主席セシリア・オルコットォオッ! もう一度オレと勝負しろ!!」

 

その怒声の主はいつものウィレミアだった。

一度勝負の相手をしてからと言うもの、ここ数日間ことあるごとに勝負を挑まれているセシリアはそんなウィレミアに対して呆れたように小さく溜め息を吐くとティーカップを置く。

そしてそんなセシリアとウィレミアの席を“またか”という様子で眺めるシャルとラウラがいた。

 

「また始まったよ……。」

 

「ゴールディングも懲りない奴だな。セシリアはあれでいて中々頑固者なのに……。」

 

「ホントにね。」

 

もはや日常の1コマと化してしまっているセシリアとウィレミアの絡みを見ている二人はアハハと笑いあった。

さてそんな一方で当人達はと言うと──

 

 

「お断りしますわ。既に一度勝負しておりますもの、そんな(わたくし)と手合わせするよりも他の方とした方が良いのではなくて?」

 

困ったように眉間に皺を寄せるセシリアだったがウィレミアはそんなことはお構いなしに詰め寄る。

 

「もう一度だ、頼む! もう一度だけ勝負してくれ!!」

 

懇願にも近い言い方でセシリアに頼み込むウィレミアだったが彼女の解答は変わらなかった。

そんな時のことである。

 

「「「シャルロット先輩!!」」」

 

「げぇ!? またか!!」

 

これもまた日常の1コマとなりつつあるシャルの追っ掛け達の登場だ。

彼女達の登場にシャルはげんなりしつつも慣れたような感じでバルコニーからの脱出を試みる。

直ぐ様椅子から立ち上がるとバルコニーの柵を乗り越えて飛び降りたのだ。

 

「や~ん、また逃げられた!」

 

「まだよ!まだ追い付けるわ!」

 

追っ掛けの半分がそんなシャルの逃亡に諦めるものの、そうでない半分はシャルの後を追うように走って柵を飛び越えていく。

その時、彼女達が走り抜ける拍子にウィレミアとぶつかり、ウィレミアは体ごとセシリアのティーセットが置かれたテーブルにダイブしたのだった。

 

「あ……。」

 

「あ……。」

 

「あ───」

 

その瞬間、ラウラとウィレミア、セシリアの時は止まった。

ウィレミアはやらかしてしまったという声を、ラウラは何かを察したような声を、そしてセシリアは全ての感情が消失したかのような声を出した。

 

「あ、あの……。」

 

ウィレミアがダイブしたテーブルにはティータイムに必用な最低限の物しか置かれていなかったが、しかしその一つ一つが一級品であることは誰の目にも明らかである。

そんな高級品を壊してしまったという事実にさすがのウィレミアも顔面蒼白になる。

しかし壊されたセシリアはと言うと、ティーセットの置かれていた場所をじっと見つめていた。

 

「ティータイムを邪魔した者には──を……。」

 

ポツリ、その場にいる者にも聞こえないほど小さな声で何事かを呟いたセシリアはガタッと勢いよく立ち上がる。

そして満面の笑みをウィレミアに向けた。

 

「気が変わりましたわ。お相手して差し上げます。」

 

表情筋は笑顔を示している。しかし、肝心の目が、瞳が笑っていなかった。

言うなれば“殺意”、必ずや目の前の狼藉者を始末せんとする確固たる意志がそこにはあった。

 

 

───IS学園 第2アリーナ

 

 

またもや1年生と2年生の専用機組が野試合するという話が学園の中を駆け回り、アリーナの中には興味本位で見に来た生徒達でいっぱいとなった。

そんな彼女達の視線はアリーナ中央の二人に注がれている。

 

 

 

ブルー・ティアーズ=アーカード、(ブルー)の名前を冠していながらそれとは全く違う鮮やかな深紅の装甲を身に纏うセシリアは巨大な拳銃を両手に構えてウィレミアのフィードバックと対峙していた。

そんなセシリアの相手であるウィレミアはやや怯えた顔つきをしている。が、しかしそこはアメリカ国家代表候補生の誇る狂犬、まだまだ強気な風を崩さない。

 

「へ、へへ・・・・・・。テ、テメェなんざ怖くねぇ!!」

 

強がるように声を張り上げてウィレミアは両手にバズーカを構える。そんな彼女をセシリアは冷静に睨み着けていた。そして自身の周りにビットを展開し、銃口を向ける。

 

「さぁ、始めましょう?」

 

「行くぜ!!」

 

ウィレミアは肩の高機動(ハイアクト)ミサイルを連続して放ち突撃する。

ミサイルは高速でセシリアに向けて進み、それを盾にしながら彼女は仕掛けた。

 

「うぉおおおっ!!」

 

ミサイルでセシリアの注意を引きながらバズーカで展開されているビットを次々と撃ち落としていく。

しかし───

 

「そこ──!!」

 

「がっ!?」

 

連続した発砲音と共にセシリアの周りで爆発が起こったかと思うと強烈な衝撃がウィレミアの体を捉えた。

そして爆煙が晴れると笑顔を浮かべたセシリアが銃をくるくると回して弄っている。

 

「中々に良い腕をしている……。動き回るビットを的確に撃ち抜くその腕前、素晴らしい。」

 

セシリアの言葉遣いは今までのお嬢様然としたものではなく、彼女の知り合いを思わせる喋り方になっていた。

しかしそれを気にかける余裕はウィレミアにはない。

 

「ちッ……、ミサイルを撃ち落としやがったか、相変わらずの化け物かよ!!」

 

「近頃よく言われる……。では、その化け物と対峙する貴女は何者か?」

 

セシリアは銃をリロードしながらウィレミアに問い掛ける。ニヤリとつり上がった口角から彼女の感情が漏れているような気がした。

 

「オレは、オレはいずれ世界最強になる女! ウィレミア=R=J=ゴールディングだ!!」

 

「……そうですか。なら貴女をランクA以上のIS乗りと認定しましょう。」

 

そう口にしたセシリアは左手の銃を拡張領域(パススロット)に仕舞い込むとパチンと指を鳴らした。

するとブルー・ティアーズ=アーカードの背部に浮かぶ浮遊装備から赤黒い流動体が流れ出るように空間に現れ、猟犬のような形を取り、ウィレミアの方向を向く。

 

「な、何だよソイツ……!?」

 

「イタリアのアナスタージア様に協力を頂いて完成させた次世代のBT兵器ですわ。」

 

怯えたように腰が引けているウィレミアは怒鳴るように言葉を吐く。そんな彼女に対してセシリアは至極簡単に言葉を返した。

そして左手にまた銃を持ち直す。

 

「さぁ行きなさい、“ティンダロス”……!」

 

彼女の言葉に反応を示すように赤黒い猟犬はウィレミアに襲いかかる。

ウィレミアもそれには我に返り、戦闘行動に戻った。

高機動ミサイルを使い、迫り来る猟犬の動きを牽制しながらその奥にいる本体たるセシリアにバズーカの砲弾を飛ばす。

しかし、いくらミサイルが当たろうとも赤黒い猟犬は動きを止めることはなかった。

ミサイルの爆発にその体を構成する赤黒い液が飛び散ろうとも、また数秒すればその身体を再構築してウィレミアへの攻撃を再開するのだ。

 

「クソッ!! なんなんだよ、ソイツはぁあ!?」

 

(わたくし)の猟犬ですわ。」

 

猟犬から逃げるウィレミアにセシリアは淡々と銃弾を撃ち込んでいく。

拳銃と言うにはあまりに大きなそれの銃弾はたった一発であっても致命的な破壊力を持っていた。

ウィレミアはそれを掻い潜りながら猟犬からも逃げるという行為を強いられ、徐々に消耗していく。

そして遂に逃げていたウィレミアの体を一発の銃弾が捉えた。

 

「クッソ!!」

 

「まだ……終わりません。」

 

銃弾を撃ち込まれ、一瞬だけ足が止まったウィレミアに猟犬が食らい付く。

脚部装甲に襲いかかった猟犬はフィードバックの装甲を容易く破壊する。そしてその流れに乗るようにセシリアはジャッカルの銃弾を躊躇いなく撃つ。

 

「ガァッ!?!」

 

「……ティンダロス、戻りなさい。」

 

銃弾の雨によってアリーナの地面に投げ出されたウィレミアを見てセシリアは猟犬を自身の側に呼び戻した。

そして地面に横たわる彼女を見下ろす。

ウィレミアは上体を起こすと怯えたような瞳でセシリアを見上げていた。

 

「どうしました? まだ脚部装甲が9割失われただけでしょう? 再構築なさい! 武装を展開なさい! スラスターを使って飛びなさい! 展開した武装で反撃しなさい! 戦いはこれからですわ!! お楽しみはこれからです! さぁハリー!ハリーハリー!ハリーハリーハリー!!」

 

大きな笑い声を響かせながらアリーナに君臨するセシリアにウィレミアは恐怖を抱いた。

それは生命が生まれながらにして持つ、“死”への恐怖そのものであった。それほどまでの恐怖を心に刻み込まれた彼女はフィードバックを待機状態に戻し、こう心に誓ったのである。

“セシリア・オルコットのティータイムに2度と近付くものか”と。

 

 

 

 

 





英国面にイタリアをぶちこんで完成させたIS、それがアーカードだったりします。


セサル・ヴェニデ
…スペイン国家代表候補生の一人であり、ソフィア・ドラゴネッティのスパーリング相手を務めていた。
祖先はかつて傭兵稼業で登り詰めた豪傑であり、代々武門の名家として栄えてきた。兄がおり、現在兄は中東で傭兵として働いている。
武の名門ヴェニデ家の娘であることを誇りに思っており、強い女性を目指している。
専用BGM:COUP DE GRBCE

赤い鳥(パハロ=ロッホ)
…セサル専用機であり、近接~中距離での戦闘に比重を置いて設計されている。
左肩にはヴェニデ家の証である赤い鳥のエンブレムが刻まれている。





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第141話 あの個人トーナメントが近いよ


今日の5時に投稿しようと思っていたのに、うっかりしていました。

では本編をどうぞ↓


 

 

セシリアお茶会台無し(なんでやウィレミアそこまで悪くないやろ)事件、別名“英国面の覚醒(一方的な虐殺)事件”からもう数週間が過ぎ去り、ウィレミアの心の傷も癒えてきた頃。

既に季節は6月に差し掛かり、生徒たちの間ではある1つの話題で持ちきりだ。

 

「さて、今年もやって来たわよ、この時が!!」

 

バンッとテーブルを叩き、あるプリントを取り出した鈴音はそれを他の専用機組に見せつける。

そのプリントには学年別個人トーナメントと書かれていた。プリントを見た専用機組の面々は皆一様に口の端をつり上げて笑う。

 

「来たか……!!」

 

「今年もタッグかい?」

 

「いや、今年は完全な個人戦らしい。」

 

南美の言葉に簪が答えると他の面々も目を輝かせる。

去年の個人トーナメントは個人と銘打っておきながもタッグ戦ということで、楽しみはしたがどこか不完全燃焼気味だったこともあり、彼女達は胸をときめかせる。

 

「それは楽しみだね。個人戦の最強は誰か……、すごく気になるよ。」

 

「同じく。手加減はしないわよ?」

 

「勿論だ。」

 

飢えた獣のように瞳をギラつかせながら2年生の専用機組は食堂を後にした。

 

 

 

「……と言うことで、2年生の方々は盛り上がってましたね。」

 

「そうでありますか……。」

 

一方その頃、ウィレミアとヴィートの部屋には1年生の専用機組が集まっていた。

飲み物やお菓子を持ちより、花の女子高生としての生活を満喫している様子である。しかし、春花が持ち帰ってきた話を聞いてウィレミアとセサルの表情が険しくなった。

 

「学年別個人トーナメント……、専用機組は別に分けられるそうであります。ともすれば我々四人はライバル、ということになりますな。」

 

「上等だよ! 掛かってきやがれ。」

 

「まだその時ではないでありましょうに……。血の気を抑えた方が良いのでは?」

 

闘争に逸るウィレミアに隣に座るヴィートが溜め息を吐いた。

そんな二人にまだ朗報がと言わんばかりに春花が掲示板に貼られていたであろうプリントをテーブルに乗せる。

 

「実は実はこのトーナメント、専用機持ちは学年で別れずに1つのトーナメントに括られるのだ!!」

 

「な、なんだってー!(棒)であります。」

 

「下手な棒読みは止めてやれよ。」

 

ヴィートのリアクションに対してウィレミアを突っつくと、ヴィートは小首を傾げて片眉を上げる。

 

「“実は○○だったんだ”と言われたら“なんだってー”と返すのが日本のマナーだと教わったのでありますが。」

 

「誰から聞いたんだよ……。」

 

「上官からであります。」

 

小さく首を横に振ってウィレミアは春花の持ってきたプリントに目を通す。

その紙面に書かれた文字を一文字一文字じっくりと読み、些細なことも見逃すまいとしている。

 

「……しかし、3年に2人、2年に8人、そして私達の4人でトーナメントか……。運が良ければ一夏さんとも勝負できるだろうか。」

 

「……支援機の私に1対1は禁忌でありますよ。」

 

胸を躍らせるセサルとは対照的にヴィートがうつ向いて吐息を漏らす。

1年生専用機組の中で唯一近距離用の武装を持たないヴィートにとっては1対1の勝負は敗けが目の前にぶら下がっているようなものなのだ。

 

「合法的に上級生と手合わせできる機会! これは燃えるね!」

 

「おうよ! 目に物見せてやるぜ!」

 

基本的に戦闘狂(バトルジャンキー)な春花とウィレミア、セサルの3人はかなり乗り気なようだ。

 

 

 

その一方で、3年生の専用機組はと言うと───

 

 

「まさか、下の代とも一緒にトーナメントなんてね。」

 

「驚きだ……。でも、君は予想していたんだろう?」

 

「あら、さすがの私にも予想できないことはあるわ。」

 

「どうだか……。」

 

楯無の部屋のバルコニーで楯無と、もう一人の専用機持ち、“レン・イェーガー・フェイズィ・蓮改(はすかい)”は今回の決定について話していた。

3年で2人しかいない専用機持ちとあって、普段から交流のある彼女らは時おりこうしてお茶を楽しむのである。

 

「あの子たちの様子はいつも見てたけど、楯無が気にかけるのも分かるよ。」

 

「別に、そこまで気にしていなかったと思うけど。」

 

「端から見てれば分かるよ。特に妹さんのこと、結構目で追ってるの知ってるよ。」

 

「……。」

 

レンの指摘に楯無は視線を逸らしてだんまりを決め込む。

しかしそれは肯定と同義だとレンは更に追及する。

 

「素直に言いなさいな、妹の事が気になりますって。」

 

「……そうね。私は確かに妹の事を見てるわ、気にかけてるわ。……これで満足?」

 

「えぇ、確かな満足。」

 

不貞腐れたように顔を背ける楯無に対してレンはイタズラっぽく笑う。

その後も二人はほのぼのとしながらティータイムを楽しむのだった。

 

 

 

 

「良かったんですか? 専用機組を纏めてしまって……?」

 

「良いんだよ、さすがに二桁も人数がいればこうせざるを得まい。それに、管理が楽だしな。」

 

「そっちが本音ですか……。」

 

職員室では複数の教師が集まって迫る学年別個人トーナメントに関する業務に取りかかっていた。

 

「愛乃先生、この生徒は整備科2組です。普通科2組ではありません。」

 

「あ!? ごめんなさい! この子はそのまま普通科に行くと思い込んでたみたいで、ファイリングを間違えてました……。」

 

「次は気を付けてください。」

 

千冬と真耶、愛乃の3人は普通科・整備科の生徒達のファイルに目を通して改めて参加者名簿の一覧を作成している。

ザッザッとファイルのページに目で追いカタカタとパソコンのキーボードを叩いて打ち込んでいく。

その姿は正に仕事の出来る大人と言うべきものだろう。

 

 

「整備科のタイムスケジュールをどこまで緩く出来るかよね~。」

 

「最低でも作業インターバルは充分に取らせないと……。」

 

「充分な休息をとっても大会進行に支障が出ない範囲ってのが肝なのよね~。」

 

「整備科の疲労を考慮する、進行にも気を使う。両方やらなくちゃならないのが運営の辛いところだな。」

 

「覚悟は出来てますか? 私は出来てます。」

 

整備科を担当する教師たちは去年も参加していた整備科生徒と今年から整備科になる2年生たちの名簿に目を通し適材適所に班を割り振っていく。

 

 

「当日の巡回やら何やら……、雑用が多いわね~やっぱり。」

 

「やり甲斐はありますけどね。」

 

「あ~エネドリが切れてきたわ。」

 

「やっぱり私はスタドリ派!」

 

 

 

運営に関して万全を期すために教師が裏で幾つもの作業をこなしていることを生徒たちの殆どは知らないのだろう。

しかし彼女らはそれでいいと語る。個人トーナメントの主役は生徒たち、脇役の自分達にスポットは要らない、そう背中で示していた。

 

 

 

 





レン・イェーガー・フェイズィ・蓮改
…日本代表候補生の一人で楯無の親友。ハーフであることまでは公言しているが、日本とどこの国かまでは秘密にしている。
浪漫を理解しており、それを搭載している専用機の戦闘力は高い。

ゲシュペンストMk=Ⅱ
…レンの専用機であり、次世代量産機候補の試作機の改良型にあたる。
レンの専用機にするにあたって数々の改造が施され、かなりの性能に仕上がっている。

蓮改(はすかい)
…夢弦に古くから存在する名家の一つ。なぜかこの家の血を引く女性は似た顔つきになるらしい。



ではまた次回でお会いしましょうノシ




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第142話 シャルとヴィートとファンクラブ


今回から投稿時間を朝5時からもう少し遅い時間にずらします。

では本編をどうぞ↓


 

 

「「「シャルロット先輩!!」」」

 

「っ!! ゴメン!!」

 

お昼休み、鐘が鳴ると同時に2年1組の入り口に姿を現した1年生の集団を見てシャルは直ぐ様窓から飛び降りて逃走を始めた。

 

「B班、予想通り下に跳んだわ!」

 

シャルの対応を見て教室入り口の一人がトランシーバーを取り出して誰かに連絡する。

そしてそれと同時に窓の下から聞こえてきたシャルの悲鳴。

もはや日常の一部とも言えるこの光景に2年1組の面々はやれやれと首を振るのだった。

 

 

 

「くッ……まさか逃げた先にも居るなんて……!!」

 

教室の窓から飛び降りた先にも下級生の追っ掛け集団が待ち構えていたシャルはどうにかして包囲網を脱出し、今は中庭を駆け抜けていた。

その逃げている先に複数の人影を発見するとシャルは急いで走る方向を変えて校舎の方に逃げ込んだ。

 

「もう、なんだってこんな事に……。」

 

「何やら、お困りのようでありますな。」

 

校舎の一室に転がり込んだシャルに声を掛けたのは作業着姿のヴィートだった。

ヴィートは額にうっすらと汗を浮かべて駆け込んできたシャルを見ると、手に持っていたスパナを置いて歩み寄る。

シャルが駆け込んだ場所は小さな格納庫兼作業場のようで、床には錆の浮いた鉄板などが転がっている。

そのまま呑気にやり取りをしようとした時。バタバタという数人の足音が聞こえ、シャルはヴィートの両手を掴む。

 

「あ、ヴィートさん……!! お願い、少しの間でいいから匿って!!」

 

「了解であります。」

 

すがるように頼み込んだシャルの言葉にヴィートはノータイムで頷くとシャルの体を持ち上げ、近くにある大きな箱の中に放り投げる。

そしてその直後に部屋の入り口に数人の生徒が駆けてきた。

 

「あ、ヴィートちゃん! ここにシャルロット先輩か来なかった?」

 

「いいえ、見なかったであります。」

 

同級生達の質問にヴィートはなに食わぬ顔で嘘を吐き、その返答を聞いた1年生達はその場を去っていった。

そして同級生たちがその場から遠くに離れていったことを確認したヴィートはスパナを拾うとシャルの入った箱の側面を叩く。

 

「もう大丈夫でありますよー。」

 

「わ、分かったから、箱を叩くの止めて!」

 

ゴワンゴワンと言う鉄板独特の音が響きシャルは慌てて箱から脱出する。

自分の胸程までの高さのある箱を飛び越える事に多少苦戦はしたものの、さっと抜け出たシャルはキョロキョロとガレージ周辺を見渡す。

 

「心配しなくとももういないであります。」

 

「……みたいだね……。助かったよ、ヴィートさん。」

 

ヴィートの言葉通り、周囲に一年生たちがいないことを確信したシャルはほっとしたように息を漏らす。

 

「それにしてもなぜ逃げるのでありますか? そこまで必死に逃げる理由が見当たらないのでありますが。」

 

「いや、ボクとしても女の子は嫌いじゃないけど、あそこまで大人数に囲まれるのは、ね。」

 

アハハと笑い声を漏らすシャルにヴィートは小さく首を傾げる。暫くしてからポンと手を叩いて口を開いた。

 

「一人を選べないならハーレムルートを突き進めば──」

 

「違う! そういう事じゃない!」

 

分かったように見当違いな事を話し出そうとしたヴィートをシャルは止める。

ラウラとはまた一味違うタイプのボケ役にシャルはハァと溜め息を吐いた。

 

「慕われるのは嬉しいけど、皆ボクの分もお弁当を作ってくれてるんだ。さすがにあれだけの量は食べきれないし、誰かを選んで食べれば角が立つし……。今はコレが一番だと思ってさ。」

 

「なるほどなー。」

 

疲れたように近くのパイプ椅子に座り込んだシャルはヒラヒラと手を動かしながらヴィートに語る。そんなシャルの言葉を聞いてヴィートが顎に手を当てて暫く考え込む。

すると彼女が何か思い付いたように右手の人差し指を立てた。

 

「当番制にするであります。」

 

「は……?」

 

「大勢が一斉に詰め寄せてそれぞれがお弁当を持参するから駄目なのでありますよね? だったら当番制にして1日の相手は一人とか二人までにしてしまえばよいのであります。」

 

ヴィートはそう言ってグッとサムズアップした。

そんな彼女の発言にシャルは首を傾げ、唸りながら思考を回す。

そして数分間の思考の後、バッと顔を上げた。

 

「それしかない……!」

 

「Yes! シャルロット先輩、それしか助かる道はないであります。では私の方からも1年生達にそうするように言っておくであります。」

 

「助かるよ、ヴィートさん。」

 

ヴィートはもう一度サムズアップして格納庫から出ていき、シャルはそんな彼女の後ろ姿を感謝しながら見送った。

その日の夜、シャルロット・デュノアファンクラブの面々がヴィートによって食堂に集められ、食堂の一角に何十人という数の生徒たちが揃った。

 

「───という訳であります。なので公平にくじ引きで順番を決定していくのでありますよ。」

 

集まったファンクラブメンバーの前に出て事情を説明したヴィートが大量の竹串を詰めた筒を取り出した。

どうやら昼のあれからこれまでの間に空き時間を利用して人数分のくじを作っていたらしい。

 

「こう言うものが簡単に作れるのは、楽でいいであります。」

 

しみじみとそう言ったヴィートを他所に、ファンクラブのメンバーは会員番号順にくじを引き始めた。

その結果に喜ぶ者、順番が遅く落胆する者など、反応は様々であったが、おおよそ反抗的な態度の者はいない。

全員が引き終わり、結果が確定するとシフト表にそれを書き込み、その場は解散となった。

 

「ではこれからはこのシフトを守って、迷惑にならないようにするであります。」

 

「「「「はーい!」」」」

 

そうして平和に終わったその場を締めて各々わくわくを胸にしながら部屋に帰って行った。

 

 

 

「シャルロット先輩、結果が出たでありますよ。」

 

「本当? どうだった?」

 

「皆納得してくれたであります。これで昼休みや放課後に追い回されることもないと思われます。」

 

シャルロットファンクラブとの会合が終わったヴィートはその結果とも言えるシフト表を持ってシャルロットと箒の部屋を訪れていた。

箒は今席を外しており、部屋には二人だけだ。

 

「そっかぁ……もう窓から飛び降りたりしなくても良いんだ……良かったぁ。」

 

「……高校生の言葉とは思えない単語が出ていますな。しかし、まぁ人気者の辛いところでしょう。」

 

これからの取り戻された平穏を思い浮かべ、それを噛み締めているシャルのセリフにヴィートが小さく首を傾げる。

しかしそんな事はお構い無くシャルは虚空を見つめている。

 

 

さて、その一方でシャルロットファンクラブ達はと言うと──

 

「フフ、デュフフ……。シャルロット先輩と二人っきりのご飯。これは萌える、燃えてきた!」

 

「二人っきりの放課後……、個室に入って何も起きないはずがなく───」

 

「あわよくばあんなことやこんなことを……。」

 

「いつかと思って買っておいたこの薬をご飯に混ぜて……フヒ、フヒヒヒ。」

 

 

二人っきりというシチュエーションに萌えを見出だしたり、よからぬ妄想に興じる者や邪な計画を建てる者など、大勢に押し掛けられていた時よりも余程危ない状況に陥る可能性が高いことを、この時のシャルはまだ知らないでいた。

まぁ、この世の中には知らない方が良いことなんていっぱいあるのだが。

 

そうしてまた貞操の危機を感じたシャルが再度ヴィートの事を頼ることになるのだが、それはもう少し先の話である。

 

 

 

 





シャルロットは不憫可愛い。


ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第143話 個人トーナメントの開戦


またまたこのタイプの話が始まります。

では本編をどうぞ↓


 

 

「この日が来たな。」

 

「えぇ、そうね。」

 

6月中旬、専用機組の面々が待ちに望んだ時がやって来た。

学年別個人トーナメント、去年はなぜか個人と銘打っておきながらもタッグ戦という謎仕様であったが、今年は完全な個人戦。

1週間の期間を設けて行われる、IS学園でも特に大きな行事だ。そして今年もまた一味違い、専用機組は専用機組だけで括られ、学年関係ない一つのやぐらに入れられて競うのである。

 

「“学園最強”の肩書き、興味がありますわ。」

 

「……あぁ、そうだな。」

 

セシリアが嬉々として語る言葉に簪は神妙な面持ちで返す。

そんな簪の様子に南美や一夏が疑問を抱いたものの、彼女ならば心配することもないだろうと、声を掛けなかった。

それよりもこの場の雰囲気である。

その場にいる生徒たちの緊張と高揚感が混じり合い、闘争の空気が充満している。

そんな時、アリーナのディスプレイに千冬の姿が写し出された。

 

「あー、おはよう諸君。学年別個人トーナメント運営代表の織斑千冬だ。」

 

千冬の挨拶にディスプレイを見ていた生徒たちは一斉に挨拶を返す。

そして一拍置いてからまた千冬が口を開いた。

 

「今年もこの時がやって来た。そうだ、闘争の時間だ。諸君、闘う気持ちは整っているか? 目の前の相手を打ち倒さんとする意志は持っているか?」

 

淡々と紡がれ、告げられる言葉。千冬の口から放たれる一言一句全てを、その場の生徒たちは聞き逃すまいと耳を傾けている。

 

「勿論、諸君らの中には本格的な実戦はコレが初めての者もいるだろう。しかしそんな事は粗末な要素に過ぎない。闘いの場に“絶対”などというモノはないのだからな。」

 

「「「…………。」」」

 

沈黙。千冬の紡ぐ言葉に聞き入っているのか、それとも気迫に気圧されてしまっているのかは定かではないが、しかし黙って言葉を聞いている。

そな生徒たちの反応を画面越しに見ていた千冬は小さく咳払いをして更に言葉を続けた。

 

「知恵を搾り出せ、策を張り巡らせろ! どんな物でも使え、戦場全てを自らの引き出しと心得ろ! 勝て! 勝ちに拘れ! それでこそ得られる物があるのだからな。良いか!!」

 

「「「…っ、はいッ!!」」」

 

千冬の念押しに話に聞き入っていた生徒たちがワンテンポ遅れて返事を返す。

そんな彼女達の返事を聞いた千冬は小さく頷くと口の端を僅かに吊り上げた。

 

「そうだ、それで良い。その意気だ。では諸君らの健闘を祈る。それではこれからの細かい説明に移る。山田くん、頼む。」

 

「はいはーい、それでは代わりまして説明を担当します山田真耶です。今回の学年別個人トーナメントのレギュレーションを説明していきますね!」

 

千冬に代わった真耶が細かなルールを解説していく。

恐らく事前に予想されていたであろう生徒からの質問も織り込み済みと言った具合ですらすらと答えていった。

そうして開会式が終わり、生徒たちがアリーナから出ていくと、校舎の中は俄に騒がしくなる。

 

 

 

「いよいよ始まる……か。」

 

「Fooooo!! みwなwぎwっwてwきwたwwwww」

 

「落ち着けよ南美……。」

 

「そうよ。」

 

専用機組14名が揃う控え室でテンションが上がりすぎて挙動不審になりかけている南美を一夏と鈴音が宥める。

さすがに二人に宥められた南美はテンションの逃げ場を外部ではなく内部へと向けたのか、不審な挙動は鳴りを潜めた。

そんな二年生組の様子をそばで見ていたレンはクスリと笑う。

 

「フフ、相変わらず面白い子たちだね。」

 

「退屈しないでしょ。」

 

「あぁ、本当に。」

 

控え室のソファに腰掛けたまま紅茶をたしなんでいた楯無とレンはお互い小さく笑っている。

その一方で1年生4人組は今にも噛みつきに行きそうなウィレミアを他の3人が必死に押さえていた。

 

「うが、離せ!」

 

「はいはい、どーどー。宣戦布告はしなくてもいいから。落ち着きなさい。」

 

「そうであります。あまり噛み付いても良いことはないでありますよ。」

 

「そーそ、取り敢えず頭に昇った血を下げなって。勝てる勝負も勝てなくなるよ?」

 

息も荒々しく今にも暴れだしそうな様子のウィレミアだったが3人に説得されようやく全身の力を抜いた。

それに安心した3人はウィレミアに対しての拘束を解き、リラックスする。

 

各学年毎にそれぞれの時間を過ごしていると控え室のモニターが映像を映し出す。

そこには壁に貼り出されたトーナメント表が映っている。

 

「さて、ようやくサイコロと鉛筆を転がし終わった所だ。そして組み合わせが決まったぞ。今職員が校舎内にこのトーナメント表を貼り出しに向かっている。詳細はそれで確認してくれ。今から1時間後に1回戦を開始する。」

 

千冬の開始宣言にその控え室はおろか、格納庫や他の校舎中にいる生徒たちの空気がピリッと引き締まった。

1回戦の組み合わせが貼り出され、タイムテーブルがそれと同時に公開される。その表と時間を照らし合わせ、バタバタと生徒たちが忙しなく廊下を駆けていく。

 

 

 

───IS学園第4アリーナ

 

IS学園にはアリーナが幾つかあるが、この第4アリーナは今日専用機組のトーナメント専用として使われている。

そして2つある第4アリーナのカタパルトにはそれぞれシャルとヴィートが専用機を身に纏って待機していた。

観客席にはシャルの写真や派手な文字で装飾された法被や団扇にハチマキを身に付けた1年生達が一角を占拠している。

 

「うっわ……アレ全部シャルのファンクラブか?」

 

「みたいだね~。」

 

観客席で向かい側からシャルロットファンクラブの一角を眺めている専用機組達はその規模の大きさに目を点にした。

 

「アイドルの追っ掛けみたいね……。」

 

「“みたい”ではなくてそのものでしょう……、あそこまでいくと。」

 

「シャルは凄いな。」

 

「…………。」

 

そんな事を話しているとアリーナのディスプレイにシャルとヴィートの顔が映る。

それと同時にファンクラブ達のいる一角から大きな嬌声がアリーナ中に響き渡った。

 

「「「シャル先パーイッ!!!」」」

 

「「「カッコいいーッ!!」」」

 

アリーナに響き渡る黄色い声援、まるでその声に応えるかのようにシャルがカタパルトから姿を現す。

そしてシャルから一拍遅れる形でヴィートの白い専用機がカタパルトから射出されてきた。

 

「よろしくヴィートさん。」

 

「えぇ、お手柔らかにお願いするであります。」

 

小さく微笑みながら左腕のパイルバンカーを構えるシャルに対して、顔面蒼白状態のヴィートはスナイパーキャノンを構えてシャルに敬礼した。

 

 

 

 





次回、シャルvs.ヴィート、開幕であります。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第144話 パイラーvs.スナイパー


開幕戦です。

では本編をどうぞ↓


 

 

個人トーナメント専用機組の部、1回戦第1仕合の組み合わせは1学年ヴィート・ハユハと2学年シャルロット・デュノアだ。

観客席にはシャルロットファンクラブの面々が押し掛けており、その一角で異様な空気を生み出している。

 

「さて、始めていこうか。」

 

「はい。お願いするであります。」

 

お互いが武器を構えるとディスプレイに表示されるマーカーに光が灯る。そしてブザーが鳴るとともに一つずつ点灯していたマーカーが消えていき、最後の1つが消えると一際大きな音が響き、二人は動き出す。

 

「やらせてもらいます!」

 

「……?」

 

ヴィートは拡張領域(パススロット)から二つの大きな砲座付きの箱を取り出して設置した。

するとその箱に取り付けられた銃口が自動でシャルを追尾し始める。

 

(セントリーガン!!)

 

「こいつで……、どうにか!」

 

ヴィートが設置したセントリーガンにシャルが気を取られているうちに彼女はシャルから距離を置き、スナイパーキャノンを構える。右手の人差し指を引き金に掛け、長い銃身の中程を左膝の上に置くように構え照準を合わせた。

幼い頃からケワタガモを相手に銃口を向けていた彼女にとって、ISはただの大きな的だ。

 

(ショットッ!!)

 

ヴィートの放った弾丸は瞬時にシャルの頭部に直撃し大きくそのシールドエネルギーを減らす。

そしてそれを見た観客席から悲鳴が上がる。

しかしそんな周囲の反応とは裏腹にシャルは至って冷静だった。

ヘッドショットを受けた直後からシャルは高速で左右に飛び始め的を絞らせない。セントリーガンからの銃撃、砲撃による妨害もしっかりと視野の端に納めて冷静に回避する。

どんなに濃い弾幕も当たらなければ意味が無いのである。

 

「シャル先輩! カッコいい!!」

 

「またまた惚れちゃいます~!!」

 

そんなシャルの飛行にファンクラブの女の子達は黄色い声援を送る。

 

(……、あと2発……。どうやってその隙を作る?)

 

「逃がさないよ! 決めさせてもらう!!」

 

サブマシンガンで銃弾をばらまきながらシャルとの距離を離そうと画策するヴィートの対してシャルはパイルバンカーを見せびらかすように構える。

あまりにも露骨にそのバンカーを見せつける彼女にヴィートは不信感を覚えた。

 

(……流石に露骨でありますな、あのバンカー。もしやただのパイルではない? ……セントリーガンの残弾はまだ十分にある。このまま弾幕を張りながら判定勝ち狙いもあり……。いや、逃げ腰すぎてそれではスミカさんに叱られてしまうであります。)

 

マシンガンを引き撃ちしながら観察していたヴィートはフィンランドにいた頃のスミカとの訓練を思い出し、弱気になりかけていた自分に渇をいれる。

右手に持ったスナイパーキャノンを格納ハンガーにしまい、もう一丁のサブマシンガンを構えた。

 

「狙撃以外は苦手でありますがッ!!」

 

近距離に飛び込んだヴィートはそのまま両手のマシンガンの引き金を引き、弾丸をばら蒔く。

見境なく全方位に対して飛んでいく弾丸の嵐にシャルは物理シールドを展開して凌ごうとする。しかしそれはシールドの死角から襲い掛かるセントリーガンの弾が、砲弾が許さない。

 

「ちぃ……ッ!?」

 

「押し込ませてもらうでありますよッ!」

 

前方から撃ち込まれ続けるマシンガンの弾丸を盾で防ぎ、盾では防ぎきれない横や背後からの攻撃を避けるようにしてシャルは次第にアリーナの端へ端へと追いやられていく。

そんな彼女の姿にファンクラブの中からも悲鳴が上がり、中には目を覆う者もいた。

 

 

(このまま封じ込めて動きを封じ、狙撃の1発を叩き込めば……勝負が──)

 

「あまり……調子に乗るなッ!」

 

勝負を決めに行ったヴィートが右手のマシンガンをスナイパーキャノンに持ち替えた瞬間にシャルは反撃に打って出た。

それまで身を守っていたシールドをヴィートに投げ付け、それと同時に距離を詰める。

もう一丁のサブマシンガンから放たれる弾丸など気に留めることもせずに、殺意めいた気迫を込めてシャルはヴィートとゼロ距離まで肉薄した。

スナイパーキャノンと言う長大な兵器を握っていたことも災いし、ヴィートにはその肉薄を邪魔する手立てなどなく、簡単に懐を許してしまったのだ。

 

「この6連リボルバー式パイルの破壊力、味わってみろ!!」

 

シャルが持ち出したのはリボルバーの取り付けられたパイルバンカー。

間違いなく1発1発が抜群の破壊力を秘めているであろうことが想像に難くないその外見はヴィートの思考に逃走という選択肢をデカデカと突き付ける。

 

「逃がさない!! 絶対に、だ!」

 

後ろに跳んで逃げようとしたヴィートをシャルは左手でスナイパーキャノンを掴むことで一瞬だけ踏み留まらせた。

そう、一瞬だけで十分だったのだ。

 

「火薬の力を思い知れっ!!」

 

装甲に押し付けられたパイルバンカーの先端、その杭がズドンという火薬の爆発音と同時に射出されトゥオネランの白鳥(トゥオネラン・ヨウツェン)を捉えた。

そしてそれから一拍も置かずに五連発、火薬の音と杭が装甲を貫く音がアリーナに響き渡る。

 

「かッ……ハァッ!?」

 

その衝撃は絶対防御の上からでもヴィートの体を揺さぶり、呼吸を乱すには充分過ぎるほどのものだ。

押し込まれた杭に肺は内包していた空気を口から逃し、息を整えようと、酸素を取り込もうとした瞬間にまた肺から空気を逃がさなくてはならない。ほんの一瞬の事とは言え、強い痛みを伴いながら呼吸を止められたヴィートの体はISがなければその場で止まっていただろう。

 

「装甲が分厚いけど、でもこれで最後だ……!」

 

「……。」

 

リボルバーに装填されていた火薬を全て使ったシャルはそのパイルバンカーをパージしまた新しい物を装備する。

そしてバンカーに穴とヒビにだらけになった装甲を纏うヴィートを蹴飛ばし距離を開けた。シャルはその距離をもう一度ゼロに戻すためにブースターに火を入れ加速する。

 

「……ここ、だ……。」

 

「……ッ!?」

 

蹴り飛ばされて開いた距離、それはスナイパーキャノンの銃口をシャルに向けるのには十分な距離だった。

細かい照準は必要ないと、ヴィートは銃口を向けた直後に引き金を引く。銃口から射出された弾丸は何物にも阻まれることなく直進し、シャルの額を射抜いた。

しかし───

 

「チェックメイトだ。」

 

「……!」

 

再度のヘッドショットの衝撃に耐えたシャルは細長く射程の長いパイルバンカーをヴィートに向けて打ち出した。

先程のリボルバー式とは違い、機械駆動による射出は威力こそ低いものの、ヴィートの残り少ないシールドエネルギーを奪い去るには充分だ。

打ち出された杭の先端がトゥオネラの白鳥の装甲を穿つと仕合の終わりを告げるブザーが鳴り響いた。

 

「……負けたであります。」

 

パイルバンカーを食らって後ろに吹き飛ばされたヴィートはトゥオネランの白鳥を待機状態に戻して空を見上げる。

そんなヴィートにISを待機状態に戻したシャルが歩み寄り手を差し出した。

 

「ナイスファイト。最後の1発はしてやられたよ。」

 

「……先輩こそ、流石であります。アレで崩せると思ったでありますが……。」

 

差し伸ばされた手を掴んで起き上がったヴィートは悔しそうな、それでいて満足そうな顔をしていた。

そして観客席からは勝利したシャルを讃える声や、敗けはしたものの上級生相手に健闘したヴィートへの称賛の声が上がる。

そんな歓声を受けてすこし面映ゆいような気持ちになりながら二人はそれに応えるように手を振りながらアリーナを後にするのだった。

 

 

 

 

 





Aブロック1回戦組み合わせ

簪(シード)

シャルvs.ヴィート

箒vs.ラウラ

レンvs.春花


ではまた次回でお会いしましょうノシ




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第145話 紅椿対黒雨


少しばかりペースが落ちます。

では本編をどうぞ↓


 

 

シャルとヴィートによる激闘で温まった会場の空気、それを更に熱くするように次の仕合がアナウンスされる。

 

『次の組み合わせ、ラウラ・ボーデヴィッヒさんと篠ノ之箒さんの仕合は30分後に行います。』

 

2年生専用機組同士の組み合わせに、自分の番がまだまだ来ない生徒たちは第4アリーナの観客席に詰め掛け、そうでない者も近くのモニターで観戦をしようとする。

購買でコーラとポップコーンを購入して席に着く者さえいた。

 

 

「それじゃあ行ってくるよ。」

 

「ああ、頑張れよラウラ。」

 

第4アリーナの第1カタパルト前でラウラは一夏と拳を突き合わせた。

彼女の表情には一切の緊張もなく、ただヤル気に満ち溢れている。戦い前の兵士のそれとも違う、満ち足りた顔だ。

ラウラはカタパルトに乗ると一気に射出され、アリーナに飛び立った。

 

 

 

「さて……と、斬るか。」

 

アリーナには既に箒が待機しており、二振りの刀を構えていた。

目は飢えた獣のようにギラついており、普段のような落ち着いた様子はどこにもない。

 

「待っていたぞラウラ。」

 

「待たせて悪いな、早速仕合おうか。」

 

「そうだな。」

 

お互いがにらみ合い、武器を構える。

それは闘いの場において当然の行為であり、アリーナの緊張をピンと張り積めさせた。

緊張感により、観客も固唾を飲んで見守るなか、開戦のブザーが鳴る。

 

「でぇえりゃぁあっ!!」

 

ブザーと同時に箒は駆けた。赤い装甲を身に纏い、旋風となってラウラに迫る。

両手に構えるのは空裂と雨月、紅椿用に作られた名刀だ。殺意の籠った瞳をラウラに向けながら箒は射程に捉え、斬りかかる。

 

「フッ!アーイッ!」

 

「ちっ!」

 

振り下ろされる刀をナイフで受け止めると足払いをして箒の体を崩す。

そして追撃しようと落とされた踵を箒は転がって逃れると立ち上がってラウラの首筋を狙いにいく。

 

「その首を置いていけ!」

 

「おお、怖い怖い。」

 

自身の首に向かって迷いなく振られる刀を身を翻してラウラはかわす。

ひらりひらりと舞うようにして迫る刃をかわしながらナイフを投擲して箒を牽制し続ける。

 

「ちょこまかと……!!」

 

「無駄無駄ァ!」

 

「このっ!?」

 

横凪ぎに払われる刀の軌道から逃れてばら蒔くようにナイフを投げ付けるラウラに箒は怒気を含んだ声を上げる。

しかしラウラはそんな箒の怒気などどこ吹く風かと受け流し、攻勢の手を緩めない。

 

「そらそらそらそらぁ!!」

 

拡張領域(パススロット)の中から大量に取り出したIS用ナイフを雨のように投擲しながらラウラは箒との間合いを図る。

機動力と瞬間火力のみを追求した期待である紅椿はその分装甲が薄い。故にただのナイフであってもじわじわとシールドエネルギーが削れていくのだ。

 

「見切れるかっ!」

 

「く、このっ!?」

 

ナイフの投擲だけではなく、ワイヤーを使った変則機動から繰り出される飛び蹴りなど、上下左右に揺さぶるように飛び回るラウラを箒はどうにか刀で受け流しながら凌ごうとする。

しかし───

 

「ガードなど無駄だ!」

 

「っ!? 腕が───」

 

「無ゥ駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

左から跳んできたラウラの蹴りを左手に握る刀で防ごうとした箒であったが、その左腕が動かなかった。

まるで腕が中空に縫い付けられたかのようにピクリとも動こうとしなかったのである。そしてガードも出来ず飛び蹴りを食らい、連続で殴り付けられ吹き飛んだ。

 

「っ……、AICか。忘れていたぞ。」

 

「コレがある限りタイマンの勝負では私がまだ有利だな。」

 

「この野郎……。」

 

ニヤリと笑うラウラを見て箒は額に青筋を立てた。

 

 

 

 

「無駄ァ!」

 

距離を置きながらまたナイフの投擲を行い、じわじわと紅椿のシールドエネルギーを削るラウラを箒はイライラの募った顔で睨み付ける。

投げられるナイフを刀で弾こうとすればAICでその動きを止められ、避けようとすれば体のどこかを止められて当てられる。距離を詰めようにもラウラの高度な機動術に流されるようにいなされてしまっているのだ。

 

「この……!!」

 

「ハッハッハッ! 箒の動きは既に見切った!」

 

距離を取りながら高笑いするラウラに対して箒はギリッと歯噛みする。

機動力で間合いを強引に詰めようにもAICを使ったラウラのトリックに翻弄され、満足に踏み込むことすら儘ならない状況は箒にとって一番厄介な展開だ。

しかしそれでも打開策はある。AICはエネルギー兵器に対しては効果が薄いのだ。

 

「それならこれでも喰らうといい!」

 

高笑いしながら空を飛ぶラウラに向けて箒は右手に持った空裂を大きく振る。

するとエネルギーの刃がラウラに向かって飛んでいった。AICがエネルギーに対して効果が薄いことを理解しているラウラはその射線上からずれて逃げる。が、そのすぐ目の前をレーザーのように一筋の光線が貫いていった。

 

「ちっ……、外したか。」

 

「なるほど、中距離にも対応出来ると言うことか。」

 

いきなりの奇襲に対してもラウラは動じることなくその性能について考察を行う。

思考にリソースを割きながらも、飛んでくる攻撃への対処は怠らない、そして何があっても狼狽えない。それがドイツで彼女が叩き込まれたことである。

 

「ちぃとばかし驚いたが、それだけだ!」

 

「そうか。それがどうした。」

 

奥の手とも言える攻め手にも動じないラウラであったが、箒は至極冷静だった。

 

「どうであろうと首を取るだけだ。」

 

「なら取ってみろ!」

 

二本の刀を交差させて構える箒に対してラウラは自身の首を掻き斬るジェスチャーをして箒を挑発する。

そんな二人のやり取りも、2年生の専用機組にとっては見慣れたじゃれあいである。

 

「行くぞ……。その首置いてけぇえええっ!!」

 

「無駄無駄ァ!」

 

暴力的な加速で距離を詰めて斬りかかる箒にラウラはAICを使用して迎え撃つ。

中距離にも対応出来るとは言え、紅椿と搭乗者の箒の本領は近距離での斬り合いである。それさえどうにかしてしまえば箒に勝つことは難しくはない。それがラウラの考えだ。

ナイフによる弾幕でシールドエネルギーをじわじわと削られてきた紅椿は、既に残量2割と言った段階に突入し、危険域に達している。装甲の薄い紅椿にとってその量はもはや一撃で倒れかねないものだ。

 

「さぁて、そろそろ終わらせてやる。」

 

ラウラはニヤリと笑うと右手を大きく掲げ、指を鳴らした。

パチンという乾いた音が響くと、その瞬間に周りの動きが一斉に止まる。いや、止まったように動かなくなった。

 

「これで終わりだ。」

 

完全に誰も動かなくなった空間でただ一人ラウラだけは動けていた。

大量に取り出して投げ付けられたナイフは空中でその動きを停止させ、無数の刃が箒に、紅椿に突き付けられる。

ナイフをばら蒔くように投げ付けたラウラは完全に停止した箒の背後に回ると普段なら絶対にしないであろう大振りの拳を1発だけ叩き込む。そしてくるりと箒に背を向けて腕を組んだ。

 

「そして世界は動き出す……。」

 

ラウラの言葉が空気の中に溶けるようにして消えていくと、止まっていたナイフが一斉に動きだし、箒に牙を剥いた。

 

「な……っ!? うぁあっ!?」

 

襲い掛かるナイフの嵐によって紅椿のシールドエネルギーは底を尽き、ブザーが鳴った。

しかし観客達は一様に何が起こったのか分からないような、理解出来ていないような顔を浮かべている。

そうして頭上に疑問符を浮かべている彼女らを横にラウラはスタスタとその場から離れていった。

 

 

 

「お疲れラウラ。」

 

「あぁ、少し疲れたよ……。」

 

「AICの乱発とかするからだろ? 最後のフィニッシュだって……。」

 

ISスーツだけの姿になってふらつくラウラを抱き止めながら一夏はベンチに腰掛けた。

一夏に抱えられて膝の上に座るラウラは重そうな瞼を必死に開きながらうとうととしている。

 

「そんなに疲れたなら部屋に戻って眠ってて良いぞ?」

 

「い、や……。一夏の応援、する……。」

 

そう言いながらもラウラはこっくりこっくり船を漕いでおり、眠気に負けそうなのは明らかだ。

一夏はそんな彼女の頭を優しく撫でると彼女が寝付くまで柔らかく抱き締めるのだった。幸い、彼の出番はまだまだ先であり、時間に余裕はある。

 

 

 

 

「はーい、どもども。新聞部の黛でーす。」

 

「……手短に頼みたい……。」

 

箒の控え室にはカメラとボイスレコーダーを手にした黛薫子が入ってきた。負けた直後で気が滅入っている箒はそんな侵入者にポツリと告げる。

その意を汲み取り、小さく息を吐いた薫子は一歩だけ箒に歩み寄るとボイスレコーダーを向けた。

 

「では一言。ラウラさんと戦っての感想は?」

 

「…………、タイマンでAICはズルくないか?」

 

箒はそれだけ言うと拗ねたように頬を膨らませて薫子に背を向ける。その態度にこれ以上は聞き出せないと判断した彼女は控え室を出ていくのだった。

 

 

 

 





やべー、ラウラさんが強キャラになってる。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第146話 コール ゲシュペンスト‼


今度はこの二人です。

では本編をどうぞ↓


 

 

ラウラの勝利で終わった第二試合から30分、第4アリーナにはレンも春花が睨み合っていた。

入学したての1年生の相手が3年とあって、観客席にいる殆どの生徒たちは春花のことを可哀想だと言うような目で見ているが、当の彼女は自信に溢れている顔をしている。

 

「さぁ、始めよう。」

 

「手合わせお願いします!!」

 

ライフルを構えるレンに対して春花は足を地面に打ち付けて構えた。

力強く打ち付けた足の衝撃はアリーナの地面を揺らし、観客席にもその強さを伝える。

 

「こちらから仕掛ける! スラッシュリッパー!」

 

レンは上空に三機の小さなブーメランのようなブレードを設置すると体勢を低く構えて突撃する。

それを見ていた春花は空中に設置されたブレードにも気を配りながらレンの突撃を迎え撃つ。

 

「ジェットマグナム!」

 

「流派東方不敗の名の下に!!」

 

加速の乗ったレンの掌打を春花が肘鉄で迎撃し、そこからクロスレンジでの殴り合いに発展する。

レンは腕部に着けたプラズマカッターを使って、春花は装甲の厚さを利用して仕掛ける。

 

「フッハァッ!!」

 

「なかなかやるようね!」

 

格闘戦の技量で言えば春花の方がやや上なのだろうが、経験を活かしたレンの対応力の前に今一決定打を放てないでいた。

熾烈を極める二人の殴り合いは、レン側が距離を取ることで一度終わる。しかし、それから一拍も置くことなくレンが仕掛ける。

 

「さぁ、行くわよ。」

 

「行きます! 十二王方牌大車併!!」

 

ブースターを吹かしながら高速でアリーナを飛び回るレンに向けて春花は小さな漆虎(チィフゥ)を12体放って攻撃させる。

それぞれが意思を持つかのように複雑な軌道を描いて迫る小型漆虎に対してレンはプラズマカッターを使って打ち落としていく。

 

「そ~こ~だぁ!! ダークネス……フィンガー!!」

 

小型漆虎の対処に集中していたレンに背後から春花が奇襲を仕掛ける。

背後からということもあり、一瞬だけ反応が遅れたレンの頭を春花は掴み壁際まで押し込んでいく。

紫色に輝くエネルギーを纏わせながらブースターを更に加速させながら手に力を籠める。しかし──

 

「まだまだ甘いわね。」

 

「ふぇ?!」

 

壁に押し込もうとした春花の背後をスラッシュリッパーが強襲する。直撃を受けた彼女はその衝撃でレンを掴む手を緩め、離してしまった。

その瞬間にレンは体を捻って春花を蹴り飛ばす。そして距離が開いた直後にすかさずスラッシュリッパーを三機設置した。

 

「負けません!!」

 

「甘いのよ!」

 

近寄って拳を打ち込もうとする春花を見てレンは設置したスラッシュリッパーを起動させて迎撃の態勢を整える。

ビームライフルを構え、正確無比な射撃で春花の機動を無理矢理制限しスラッシュリッパーで追い込んでいく。

 

 

 

 

「どう思う?」

 

「先輩:春花ちゃんで7対3ってところじゃない? 一度触ってからペースを掴めば春花ちゃん。でも触りに行くまでが辛いから先輩有利……かな?」

 

「同感ね。」

 

控え室でモニター越しに試合の様子を見ていた面々は口々に所感を漏らす。

皆の意見はレン有利で固まっているが、流れを掴めば分からなくなるというものだ。

 

「設置するタイプの飛び道具とエネルギー兵器で牽制しつつ自分の間合いに持っていくのがレンさんのやり方みたいね。」

 

「おまけに対応力も抜群と来たもんだ。ホントに厄介な人だな。」

 

「春もまだまだね。自分の取り柄が分かってるならそれを活かす練習をしなさいよ。」

 

「いや、(ワン)が懐に飛び込むのが下手なのではない。彼女の技量を圧倒的に上回るほど蓮改先輩が上手いだけだろう。」

 

「懐に入れさせない技術か。」

 

そう口々に専用機組の面々が感想を口にしているとタブレットPCとにらめっこしていたシャルが唸る。

 

「次世代量産機の改良型か……。なるほど、汎用性と対応力が高いわけだ。」

 

「やはりシャルとしては気になるか?」

 

レンの機体データに目を通して険しい顔をしていた彼女に箒が声を掛けると彼女はコクリと頷いた。

 

「まぁね。似たようなコンセプトの機体を使ってる身としては気になるよ。」

 

モニターをじっと見つめていた彼女はそのまま視線を離すことはなかった。

 

 

「行け、春花! 3年に負けんな!」

 

一方別のモニターにかじりついて観戦しているウィレミアはヴィートに呆れられながら応援していた。

 

「私も見たいのでありますが……、いや、これは聞こえてないでありますな。」

 

「よし、そこっ!!」

 

試合の内容に一喜一憂しながら感情を顕にするウィレミアを見てヴィートはソファに深く座るのだった。

 

 

 

 

「必ぃいっ殺ぅッ!!」

 

「っ!?」

 

距離が離れた瞬間に春花が後方に素早く跳ねて更に離れると、彼女は大きく体を捻った。

そして捻った体のバネを利用して勢いよく回転し始める。

 

「超級!! 覇王!! 電影弾!!」

 

エネルギーを纏いながら高速で回転する春花はまさに弾丸であり、その姿のままレンに向かって突進する。

しかしそれすらも予想していたのか、レンは慌てることなく対処に移る。

 

「行きなさい!」

 

「うぅおおおおっ!!」

 

唸りを上げて回転しながら突進してくる春花を正面に捉えながらレンはスラッシュリッパーを三機設置してギリギリまで引き付ける。片手には身の丈はあるだろう大きなブレードを構え、いざ眼前にそれが迫ると彼女は大きく跳躍した。

 

「残念だったわね!」

 

「くっ、この~!? ぎゃふんっ!」

 

大きく跳躍したレンは手に持ったブレードを使って春花を後方に力強く打ち飛ばした。

突進の推進力も合わさり、止まれない春花は見事にアリーナの壁に激突する。

 

「避けられるかしら? スラッシュリッパー!」

 

壁に激突した春花に対してさらに追撃を仕掛けようと今度は六機、合わせて九機のブレードが空中に設置する。

そのうちの三機が回転したかと思えば春花に向けて高速で飛んでいく。

春花はその三機のブレードを叩き落とそうと身構えるが、その三機に遅れてまた別のブレードが三機、襲い掛かる。

 

「っ!?」

 

「逃がさないわ!」

 

六機による多角的な攻撃に春花は咄嗟に迎撃から逃走にシフトした。

しかしその行き先を狙い済ましたかのように正確なビームライフルの狙撃が彼女を捉える。

そして狙撃によって足の止まった春花に六機のスラッシュリッパーが襲い掛かり、シールドエネルギーを削る。

 

「くぅ……、正解は逃げないでしたか……。」

 

「腕はあるけどまだまだ経験が足りないようね。」

 

ビームライフルの銃口を向けて牽制しながらレンはまた新しく三機のスラッシュリッパーを設置する。

3本のブレードを回転させながら空中を飛び回り、春花の動きを制限するそれは一種の檻にも見える。

 

「デッドエンドシュートッ!だったかしら?」

 

ブレードの檻によって動きを制限されている春花に対してレンは大口径のビーム砲を取り出してその一撃を撃ち込む。

轟音を響かせながら迫る光の一閃はガードする春花を、そのガードの上からも呑み込んでシールドエネルギーを大きく削っていく。

 

「ぐ、くく、うわぁっ!?」

 

「隙だらけよ! デッドエンドスラッシュ!!」

 

衝撃に耐えきれず吹き飛ばされた春花に対してレンは大型のブレードを取りだし、追撃を行う。

手元で回転させながら春花を上空へと打ち上げると、そのまま設置していたスラッシュリッパーのある方向に突き飛ばす。そして春花の接近と同時にスラッシュリッパーは起動し、高速で回転しながら彼女の体を迎え入れる。

 

「決めさせて貰うわ。」

 

レンは腕を突きだし、決めポーズをしたかと思えば勢いよく上空へと飛び立った。

太陽を背に大空からアリーナを見下ろすレンは満足げに笑っている。

 

「この技を使うときは、叫ぶのが決まりでね。」

 

そして彼女はそう言ったかと思えばライダーを思わせる飛び蹴りのポーズを取ったまま、超高速でアリーナの中でスラッシュリッパーと格闘している春花に向けて突撃した。

 

「究極ッ!!ゲシュペンスト──キィイックッ!!」

 

重力とブースターの加速と、全てを乗せたその必殺のキックは当たった瞬間、それを目撃した者たち全員に空中に書き文字すら見えたと錯覚させるほどの迫力があった。

その一撃を受けた漆虎(チィフゥ)のシールドエネルギーは一瞬で消え去り、ブザーが鳴り響く。

そしてレンはアリーナの地面を抉りながら進むことで勢いを殺し、無事止まったかと思えば振り向いて地面に倒れている春花に話し掛ける。

 

「今回は私の勝ちのようね。機会があればまた仕合いましょう。」

 

そう言い残して、勝者であるレン・イェーガー・フェイズィ・蓮改はクールに去るのだった。

 

 

 

 

 





スパロボ的な組み合わせ。


ではまた次回でお会いしましょうノシ


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第147話 トラウマ再び


前回の投稿が一月前……、本当に申し訳ありませんでしたぁ!!


では本編をどうぞ↓


 

 

 

「大丈夫大丈夫大丈夫ダイジョウブダイジョウブ……、あのときとは違うんだ、もう負けないんだ……。」

 

レンと春花の試合から40分が過ぎた後、アリーナの抉れた地面も元通りとなり、Bブロック1回戦の第1試合を迎える。

アリーナの中ではガタガタと小刻みに体を震わせながら恐怖に打ち勝とうと必死に自分に言い聞かせているウィレミアがいた。

 

「そうだよ。このフィードバックの性能を発揮すれば負けることはないんだ!」

 

「……、吹っ切れたようですね。」

 

自己暗示を終えたウィレミアの目の前にアーカードを身に纏ったセシリアが降り立った。

それでもウィレミアは恐怖に負けず、平常心を保っている。

 

「相変わらずド派手な色だな。目が痛いぜ。」

 

「ふふ、鮮やかでしょう? まるで血の色のように……。」

 

笑顔を浮かべながら二丁の拳銃を構えるセシリアにウィレミアはふんと鼻を鳴らした。

武器内蔵型の両腕に視線を写した彼女はふぅと小さく息を吐き、セシリアから距離を取る。

 

「もう負けねぇぞ! 覚悟しやがれ!!」

 

「やってみろ……。」

 

威勢よく言葉を放つウィレミアを見てセシリアはニィと笑う。

その笑顔は普段の淑女然としたものではなく、獰猛な肉食獣を思わせる。

しかしその程度で怯むことはなくなったウィレミアはバズーカを構えて迎撃の姿勢を整える。そして開幕のブザーと共に高機動(ハイアクト)ミサイルを撃つ。

 

「今までのオレとは違うぜぇ!!」

 

「行け、ティンダロス。」

 

高機動ミサイルの弾幕に対してセシリアはあの猟犬を呼び出して応戦する。

呼び出された猟犬はところ狭しと走り回り、そのミサイルを壊していく。そうしてセシリアを囲むように放たれたミサイルは、一度もセシリアの体に触れることなく爆発し爆炎を上げる。

 

「ジャッカル、頼みましたよ。」

 

セシリアは両手に持つ拳銃を構えて引き金を引く。銃口から放たれるのは1発1発が強力無比な威力を誇る特別製の弾丸であり、その威力を身をもって体験しているウィレミアはその瞬間に回避体勢に移る。

 

「逃げてばかりですの?」

 

「まさかよ。」

 

その場で旋回しながら逃げるウィレミアを視界に捉えているセシリアに対して彼女は笑う。

その視線はセシリアの足元に向いており、その視線に釣られて警戒は保ったままセシリアは足元に目を向ける。

 

「っ! ボムッ!?」

 

「ヒャッハー! 食らいやがれ!」

 

セシリアが足元の爆弾を認識した瞬間にカチリと言う音と同時に爆弾し土煙が舞い上がる。

そしてそれと同時にウィレミアが煙の中心に向けて両腕のバズーカを何発も撃ち込んでいく。

 

「燃え尽きるがいい! そしてオレに道を譲って貰うぜ!!」

 

土煙の向こうにいるであろうセシリアに向けて放たれる砲弾で視界は更に狭くなる。

そしてその煙の中からやり返すように銃弾の雨が飛び出してきた。

 

「ちっ! やっぱりまだ生きてるか。」

 

「ふふふ……。」

 

ほぼ無傷の姿で土煙の中から姿を現したセシリアは不敵に笑いながら拳銃の引き金を引く。

すっと真っ直ぐに立ちながら淡々と引き金を引いて銃弾を放ち続ける彼女の姿には恐怖心を駆り立てる何かがあった。

 

「……ターミネーターかなんかかよ。」

 

苦虫を噛み潰したような顔になりながらウィレミアは無傷のセシリアに向けて砲弾を放つ。

しかしそれすらもセシリアは銃弾で撃ち落とし、寄せ付けない。ただ彼女はそこに立ち優雅に引き金を引くのみである。

 

「さぁ、もっと……、もっと撃って来なさい。」

 

「上等だコラ!」

 

涼しげな顔をしたまま煽ると、その挑発に乗ったウィレミアが背部のミサイルを全弾撃ち出した。

それぞれが複雑な軌道を描いてセシリアへと迫る。全方位、360度、視角なく迫るその砲弾に対してセシリアは眉一つ動かさずに見据えていた。

そして砲弾が直撃する直前に彼女の背中から赤黒い流動体が流れ出す。

 

「よっしゃあっ!! これなら流石に死んだろぉ!!」

 

結果は直撃。セシリアは避けることもせずにその大量に降り注ぐ砲弾を受け入れる。搭載された火薬による爆発によってアリーナの土が舞い上がり、彼女の姿を覆い隠す。

 

 

 

「……なんで避けなかったんだ?」

 

「…………アーカードのシールドエネルギーは減っていないぞ。」

 

「避ける必要もないってこと?」

 

端末とモニターを交互に眺めていた専用機組の面々は驚愕の表情を浮かべる。ミサイルの攻撃すら今のセシリアにとっては取るに足らないものなのかと、一同は息を吐いた。

 

「装甲には傷もついていない、つまり装甲以外の何かによってウィレミアの攻撃が防がれたと見るべきか。」

 

「あの時のセシリアは拳銃を構えもしなかったよな。ってことは打ち落としてもいない、か。」

 

「バリア的な何かを展開したとか?」

 

「あり得るわね、十二分に……。」

 

ウィレミアを実験台にアーカードの能力を彼らは冷静に考察する。

恐らくの推論は立つものの、それに確信が持てない彼女らはそこで思考を一時止めて試合へと意識を戻す。

画面には未だ無傷で拳銃の引き金を引き続けるセシリアとミサイルを撃ちながら高速で飛び回るウィレミアが映る。

 

 

「さぁ、どうした? それで終わりか?」

 

「畜生……、どうなってやがる!」

 

どれだけ砲弾を撃ち込もうとそれが通用しないどこか、その倍の量の銃弾を撃ち返される恐怖にウィレミアは怯えながらも攻撃の手を止めない。

しかしそれすらも受け流していくセシリアは口角を上げ、満面の笑みを浮かべた。

 

「さぁ、フィナーレだ。」

 

「っ!?」

 

「豚のような悲鳴を上げろ……!」

 

口角を吊り上げたまま歯を見せて笑うセシリアに言い知れぬ恐怖を感じ取ったウィレミアはその場から大きく退き、バズーカを構える。

その瞬間の事だった。

 

「いってぇえええっ!?」

 

ウィレミアの左腕に一匹の猟犬が食らい付いていたのだ。

武装した左腕の装甲も咬み千切らんばかりに牙を食い込ませて猟犬は彼女を振り回す。

 

「この、離せ!」

 

「そこですね。」

 

猟犬の対処に追われて無防備になっているウィレミアに対してセシリアは大量の弾丸を撃ち込み、シールドエネルギーをガリガリと削る。

銃弾の雨と猟犬の体当たりでどんどんと壁際まで追い詰められていく。火薬の音が響く度に強い衝撃で体が固まり、ウィレミアは抵抗出来ない。

 

「が──このぉ、バケモノがぁ!!」

 

「褒め言葉だ。」

 

悪態を突くように叫ぶウィレミアを見てセシリアはニヤリと口角を吊り上げる。

そこには普段の淑女のような面影などどこにもなく、一人の悪魔が笑っているようにしか見えなかった。

アリーナの中に一頭の猟犬を引き連れて佇む赤い魔女、その姿はウィレミアにトラウマを刻み込んだあのときよりも更に恐ろしく、見た者の記憶に残ることとなる。

 

 

「フハハハハハ! ハーハッハッハッハ!!」

 

ウィレミアを撃墜したセシリアは上機嫌な笑い声を響かせてアリーナから去っていった。

その後ろ姿を見て皆はある事を思い浮かべる。そして誰が言い始めたのか、一年生の間ではセシリアは“魔王”、“ラスボス”等と呼ばれることになるのだった。

 

 

 

 

 





名実共にラスボス級のナニカを手に入れたセシリアさんでしたとさ。

ではまた次回でお会いしましょうノシ


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第148話 赤い烏


皆様明けましておめでとうございます。orz
またお待たせしました。


では本編をどうぞ↓


 

 

「お相手お願いします!」

 

「ああこっちこそ、よろしく頼むよ。」

 

セシリアが魔王として君臨した試合からおよそ30分後、アリーナではセサルと一夏が向かい合っていた。

赤い装甲に、翼にも思える背部パーツを備えた機体。確かにその名前に相応しい外見だと言える。

 

「戦うのは初めてですね。手加減しないでくださいよ!」

 

「当たり前! 誰が手加減するかよ。」

 

巨大な斧をブンブンと振り回して威嚇するヴェニデに対して一夏は笑って雪片を構える。

2回、3回と素振りをしてピタリと目の前で止めたヴェニデはニヤリも笑う。

 

「今日の私は淑女的です。運が良かったですね……。」

 

「そうかよ。」

 

ニヤリとした笑みを浮かべた彼女に相対して雪片を握り締めた時に戦闘開始を告げるブザーが高らかに鳴り響いた。

その瞬間にそれまで淑女然としていたセサルの雰囲気がガラリと変わる。

 

「ぶるぁああああっ!!」

 

「っ!?」

 

急に雄叫びを上げて獣のように一夏に襲いかかるセサル。

手にした大斧を振り上げて肉薄する。ブンと振り下ろされた斧を雪片をで受け止めて鍔競り合いの形になる。

 

「ハッハァッ!!」

 

「ちぃ……!」

 

「その程度で、私を押し込めるものかよぉ!」

 

力業で一夏を突き飛ばして鍔競り合いから抜け出したセサルはそのままブースターを使って追撃を仕掛ける。

大振りの大斧による攻撃はこれがISでの戦闘でなければ死を覚悟するほどだ。

 

「んんん、ぶるぁああああっ!!」

 

「こっの!!」

 

上段から殺すつもりで振り下ろされる斧の一撃から一夏は転がることで難を逃れる。

そして誰に当たることもなく振り下ろされた斧は地面に突き刺さり、大量の粉塵を巻き上げた。

 

(チャンス!)

 

巻き上げられた煙によって姿をその中に眩ませたセサル、しかし一夏は今こそチャンスと音を立てずに距離を詰める。

そして背後まで忍び寄った一夏は雪片を振り上げる。だがその一夏の首をセサルが掴んだ。

 

「私の背後に立つんじゃ───」

 

一夏の首を掴んだセサルは満身の力を込めて彼の体を振り回し、頭から地面に叩きつける。

 

「──ねぇ!!」

 

「がぁ!?」

 

「いつまで寝てんだ!」

 

「ちょ!?」

 

頭から叩きつけられた一夏に対してセサルは足を大きく上げて踏みつけようと打ち下ろす。

それも転がるようにして逃れた一夏は雪片を構え直した。

 

 

 

「強いなぁ、セサル・ヴェニデ。流石はドラゴネッティのスパー相手だ。」

 

「国家代表といつも仕合してれば上達するのも納得ね。」

 

モニターでセサルの戦いぶりを見ていた簪と鈴音が言葉を漏らす。

豪快ともまた少し違う彼女のスタイルに全員が舌を巻いていたのだ。

 

 

 

「男に後退の2文字はねぇ!!」

 

「そうだな!!」

 

バックステップで距離を取ろうとした一夏に対してさらに大きく踏み込むことで追撃するセサルの斧を受け止めて一夏が苦笑いする。

絶対に射程から逃がさないという揺るがない意思を目に灯してセサルは斧を振る。一撃一撃がとても重いそれを捌きながら一夏は間合いをどうにかしてコントロールしようとするが、それを簡単には許さない。

 

「ぶるぁああああっ!!」

 

「ズェア!!」

 

乙女とはかけ離れた雄叫びを響かせながら振るわれる斧を受け止めて一夏はセサルを蹴り飛ばす。

そうして開いた距離を利用して一夏は加速しその勢いのままにセサルに切りかかる。

しかしそのままやられるようなセサルではない。ソフィア・ドラゴネッティのスパーリング相手とはつまり、あのタンデムを経験してきているということでもある。

単純なラッシュなぞ簡単に回避できる。

 

「甘えてんじゃねぇ!!」

 

「こっの!」

 

勢いだけの直線的な動きで振られる雪片をきっちりと捌ききり、状態を5分に戻す。

 

 

 

「あんな叫び声あげといて、なんて冷静なのかしら。」

 

「冷静に狂ってるって感じかな? 言い方は失礼だけど。」

 

「あながち間違いじゃないでしょ。」

 

モニター越しに見るセサルの戦いに同じ学年の3人はおろか上級生たちすらも息を呑む。

身の丈以上もある大きな斧を器用に、それこそ自分の体の一部のように扱いきるセサルの技量とどんな体勢からも5分に引き戻すテクニックはまさに圧巻である。

 

 

 

(思い出せ! ヴェニデの娘として生まれてから、誰に斧を習ってきた! IS乗りになってから誰と組手を重ねて来た!!)

 

戦いの最中、セサルが思い浮かべるのは自身に斧を教えた青髪の男の存在とISに乗り始めてからコーチのように戦い続けたソフィアの存在だった。

その二人の存在がどんな状況に陥ってもセサルを奮い立たせる。

 

(油断はするな、絶対に! 一夏さんの雪片は、零落白夜はどんな状況からでも逆転する!!)

 

(当てる! 2発、最低でもそれだけ当てれば充分に勝てる!!)

 

お互い得物が近距離用である為に競り合いは激化する。

どこまで優位を保っても一撃でそれをひっくり返す一夏の雪片にセサルは意識を集中する。

それは一夏も分かっているようで雪片以外の手段でセサルの意識の不意を突き、意識を散らす。

 

「ズェア!!」

 

「ぶらぁッ!!」

 

ガギンと音を立てて火花を散らす二人、視線は交差し相手を倒すという意思が混じり合う。

純粋なパワーであれば一夏と白式の方がセサルと“赤い烏(パハロ=ロッホ)”よりも上だ。それをセサルは培ってきた経験とテクニックで5分に戻している。

知的な戦闘狂(レディー・バーサーカー)、それは彼女がISに乗る前まで国内で呼ばれていた二つ名である。どんな状況でも強気に、それでいて恐ろしいまでに知性的に冷静な彼女は武門の名家、ヴェニデ家の中でも稀に見る才能の持ち主だった。

決して驕らず、家の名に恥じぬ彼女の振るまいとその才能は家の者を唸らせ、初代ヴェニデ家当主の名前を名乗れるほどに。

 

 

「ぬぅッ! ぶるぁああああっ!!」

 

「ちィ……!!」

 

上空から勢いよく降下しその勢いも乗せた斧の一撃を受け止めた一夏の体勢が大きく下がる。

パワーが足りないならば別の何かで補えば良かろうと言わんばかりの形相に観客席の生徒たちは気圧される。

 

「負けるかよ!」

 

「それはこちらの台詞です!」

 

鍔競り合いの状態を当て身と足技で崩そうとする一夏、それに対抗するようにセサルも体術を駆使する。

得物同士の打ち合いだけではない、高度な近距離戦闘を全員が固唾を飲んで見守っていた。

 

「零落──白夜!」

 

前蹴りで距離を開けた瞬間に一夏は勝負を決めようと切り札を切る。

それを見たセサルは反撃の為に踏み込み直そうとした足を一瞬だけ止める。

 

「掛かって来いよ! セサル・ヴェニデェッ!!」

 

「……ッ!」

 

挑む、全てを懸けてこの戦いに臨むという意志を持って叫ぶ一夏にセサルは怯えていた気持ちを払拭して踏み込む。

戦いに全霊で挑む者には最大の敬意を以て全力を尽くす。それがヴェニデ家に伝わる家訓であったからだ。

 

「うぅおおおおッ!!」

 

「ズェエエアァ!!」

 

大斧を両手で握り締め、振りかぶるセサル。それに対して雪片を水平に構えて突き進む一夏。

お互いの射程にお互いを捉えて激突する。水平に構えた一夏に対してセサルは大振りで斧を振り下ろした。

 

「ズェアァアッ!!」

 

「───ッ!?」

 

横凪ぎの黒い一閃がセサルを捉えた。それに続いて幾重もの黒い剣閃がセサルを、赤い烏を捉え続ける。

そしてその黒い閃光は幕のようにその場に残り続け、二人の姿を周りから隠す。

 

「ハクメン式奥義、悪滅っ!!」

 

「……、そん、な……ッ!!」

 

黒い幕が晴れ、二人の姿が視認できるようになったとき、ブザーが仕合終了を告げる。

勝ったのは一夏、逆転の一撃を決めて勝利を納めたのだ。その事実は他の専用機組たちに大きな衝撃を与える。

どんなに有利を保っていても、たった一撃で倒されかねないというプレッシャー。それはどんな兵器よりも恐ろしい。

 

「……、負けましたか……。」

 

「まぁ、白式の能力ありきの戦い方だけどさ。」

 

「それでも負けは負けです。」

 

そう言って小さく彼女は息を吐くと、すっと手を差し出した。

一夏も彼女の真意を察してさっとその手を優しく握る。

 

「また勝負しましょう。一夏さん。」

 

「ああ、望むところだ。」

 

手をほどいた二人はコツンと拳をぶつけ合い、それぞれアリーナを去っていった。

 

 

 





ヴェニデ家の娘、セサルちゃんは斧を握って戦いに挑むと性格が変わるタイプの美少女。


ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第149話 北斗と南斗


久々の連日投稿!

では本編をどうぞ↓


 

 

「いやー、1回戦からこの組み合わせとか。胸が熱いな。」

 

「うん……。」

 

残された最後の1回戦、北星南美対凰鈴音の仕合である。

2年生肉弾戦最強決定戦とも言えるこの組み合わせに、会場の観客席は一瞬で埋まり、立ち見する生徒も大勢いた。

この仕合だけは生で見ようと出番のない者、シフトの入っていない者たちはこぞって集まっていたのである。

 

「どっちが勝つんだ、これ……。」

 

「分からない。分からないけど、この仕合だけは見逃しちゃダメなんだと思う。」

 

控え室から飛び出てきた専用機組の面々もどうにかして席を確保してこの仕合を見守りに来ていた。

 

 

 

「ヒャッハー! 盛り上がってるねぇ!」

 

「そうね、あんたとの決着は決勝でって思ってたけど、くじ運なら仕方ないか。」

 

アリーナに立ち対面する二人は静かな殺意を向けあっていた。

緩い会話を交わして開戦までの暇を潰しているかのように見えて、その実お互いに腹のうちを探りあっているのだ。

 

 

「は、はわわ……。この仕合はスゴい予感が……。」

 

「体術最強は誰か……、モンド・グロッソの度に必ず上がる話題だ。今まではスペインのソフィアや楯無が筆頭格として挙がっていたが、もしかするとその番付に奴等の名が挙がるかもな。」

 

「ほ、ほえ? 織斑先生……?」

 

疑問に思った真耶が振り返った先にはうずうずとした表情で腕を組む千冬の姿がある。

戦いに生きる戦士の顔で眼下に映る二人を見つめる彼女は真耶から見ても少しだけ怖く見えた。

 

 

「フゥゥゥ!!」

 

「ウゥゥゥ!!」

 

開戦のブザーが鳴り響き二人は同時に走り出す。

体のバネを極限まで使い溜めた一撃を同時に放った。

 

「シャオッ!!」

 

「アァタッ!!」

 

南美の手刀払いに対して繰り出された鈴音の正拳突き、豪快に音を立てて火花が散る。

そしてその場で二人は足を止めて仕掛け合う。フェイントと本命,ガードと回避の高度な応酬はそれだけでも観客から金が取れるほどのレベルだ。

 

(右肘、フェイント! 本命はこの左のロー!)

 

(見切られるのは想定内、その上でこれは──!)

 

右肘鉄のフェイントを仕掛けてから鋭いローキックを放つ鈴音、そしてそのフェイントを見切りきっちりとローキックを受け止めようと右足の脛を差し出した南美。

その南美の頭部に衝撃が襲い、彼女の体が仰け反る。

 

(──見切れるかッ!!)

 

(っ……!? 衝撃砲か!!)

 

南美が吹き飛びながら視界の端に捉えたのは砲口の開いた甲龍のショルダーアーマーだった。

滅多に彼女が使わなかった兵器による不意打ちは回避することもさせずに南美の体勢を崩させたのである。

そして体勢を崩した南美に対して更に鈴音が仕掛ける。

 

「ゥアチャッ!!」

 

「ちっ!?」

 

鋭く跳ねるようにして繰り出された鈴音の飛び蹴り、それを南美は腕をクロスさせてガードする。

そして鈴音はガードした南美の腕を足場に跳ねて、今度は手刀を突き込むように南美の懐に飛び込んだ。

 

「七死騎兵斬!」

 

「そこだっ!」

 

「っ!?」

 

南美は一瞬で軌道を見切ると突き出された鈴音の手を取って突進してくる勢いも利用して逆方向の空中に向かって乱雑に投げ飛ばす。

乱雑に投げられ一瞬だけ上下の感覚を失った鈴音に対して南美が飛び蹴りの追撃を仕掛けてアリーナの壁まで蹴り飛ばした。

 

「南斗獄屠拳!!」

 

「ちッ!!」

 

「そらそらぁ!!」

 

鈴音を壁まで蹴り飛ばした南美はブースターを使用して一気に距離を詰めてさらなる追撃を加える。

 

「フゥゥゥゥ──シャオッ!!」

 

「ぐ……っ!?」

 

アリーナの壁に押し込まれた鈴音に対して南美の回し蹴りが鳩尾を捉える。

ブースターの加速、回転、重さ全てを乗せた一撃は甲龍のシールドエネルギーを大幅に削る。

 

「うっわ、強烈……。」

 

「かなり効いただろうね。」

 

観客席から見ても分かる南美の回し蹴り、その威力をもろに受けた鈴音は苦痛に顔を歪ませる。

ISのシールドエネルギーとて万能ではない。衝撃までは殺せないのだ。

そして回し蹴りの衝撃でまたも壁に叩きつけられた鈴音、その彼女に対して南美は手を緩めない。

 

「ショオォオッ!!」

 

「こっのぉ!?」

 

勢いをつけて繰り出された南美のハイキック、それは鈴音の側頭部を捉える。

だが鈴音は崩れず、歯を食いしばって蹴ってきた南美の足を掴んだ。そしてその足を掴んだまま前のめりに踏み出すと右ストレートを打ち出した。

足を捉えられた瞬間に鈴音の一挙手一投足に対して全神経を集中させていた南美は咄嗟に顔面を守る為に両腕をクロスさせてガードの体勢になる。

 

「フゥアチャアッ!!」

 

「いっ───!?」

 

ガードの上から叩き壊すような強さで打ち据えられた鈴音の拳、それには力業で道をこじ開けようとする彼女の意地が見える。

そして足を掴んだまま逃げられないように射程距離に捉え続けて鈴音は右腕でラッシュを仕掛ける。

 

「フゥゥウアタタタタタタタッ!! ゥアチャアッ!!」

 

「ぐ、このぉ!?」

 

片足でバランスを保ちながら両腕で鈴音のラッシュをガードしていた南美であったが、加速していくそのラッシュに抉じ開けられ、遂に直撃を受ける。

それからはさらに加速していく鈴音のラッシュによってシールドエネルギーを削られ、最後の一撃とも言える大振りのストレートによって南美は大きく吹き飛んだ。

殴り飛ばされた南美は瞬時に体勢を整えて着地するが、そこには既に鈴音が襲い掛かっていた。

 

「ファチャ! ウアタァ!! フゥゥゥアチャアッ!!」

 

「ち、この、まだまだぁ!!」

 

勢いに乗って攻め立てる鈴音の攻撃を南美は四肢を巧みに使い捌いていく。

徐々にリズムを掴み始めた南美は鈴音のラッシュを完全に捌き五分に戻す。

再度足を止めて仕掛け合いの応酬へと戻った二人、上級生はその中に織り込まれている彼女たちのテクニックを見て盗もうと視線を集中させ、下級生たちは感動さえ覚えていた。

 

 

 

「半端ないってレベルじゃないな。」

 

「世界レベルだよ。」

 

「単純な殴り合いならもう勝てないかもな。」

 

「間違いなく二学年の格闘戦最強決定戦ですわね。」

 

二学年の専用機組でさえ驚愕と感嘆の目を向けていた。ただ一人、簪を除いては。

 

 

そうして仕掛け合いの応酬から数分、二人は同時に後ろに跳ねて距離を開けた。

 

「ハァ、フゥ……。」

 

「ハッハッハァ……。」

 

距離を開けた二人は睨み合いながら呼吸を整える。

疲労度合いも同等、シールドエネルギーの残量もほぼ五分と言った状況。両者の残りシールドエネルギーはあと1割と少しといったところだ。

恐らく次の一撃、次の一合いで決まる。そう観客席の生徒たち、そして教員たちは思った。そしてそれが事実だと語るかのように二人は距離を保ったままじりじりと睨み合う。

タイミングを図るように、獲物の状態を見極めるハンターのように、鋭い視線がお互いに突き刺さる。

 

「これは……。」

 

「一瞬の差し合い……!」

 

二人の間に張りつめる緊張感は伝播しアリーナ中の観客全てが静かな空気に包まれる。

まるで真剣での果たし合いを見ているような、そんな気分が生徒たちの間に流れていた。

 

「……っ!」

 

「動いた!!」

 

二人は同時に、何かの合図が有った訳でもなく本能的に同時に動いていた。

紫色のエネルギーが南美の両手を覆い、青いオーラが鈴音の脚と腕を覆う。

 

「南斗虎破龍っ!!」

 

「北斗龍撃虎ッ!!」

 

南美は大きく踏み込んでエネルギーを纏った多段突き放ち、それに対抗するように鈴音はそれらを腕で受けつつ満身の力を込めたハイキックを南美の頭目掛けて放った。

 

「ぐぅ……?!」

 

「この──!?」

 

捌き切れなかった突きは鈴音の身体を捉え、防ぐ気のなかった鈴音のハイキックは南美の頭を打つ。

その瞬間にブザーが鳴り響き、全員が視線をアリーナの電工掲示板に向ける。

そこには両者ともシールドエネルギーの残量がないことを示すゼロの数字が二つ。そしてDKOの文字が浮かんでいた。

 

「……DKO……?」

 

「相討ち……だと……?!」

 

「これって、結果はどうなるの?」

 

「再試合、とか?」

 

IS学園の、いや国際大会などを見ても前例がない初めてのことに観客席にはどよめきが広まる。

ざわざわと騒がしくなるアリーナに千冬の凛とした声が響く。

 

『静粛に! 現在本部でビデオとシールドエネルギー表示機器の記録による判定を行っている。結果はまもなく分かるだろう。』

 

千冬のアナウンスによってざわつきも大人しくなり、アリーナでは今は静かな緊張感が漂っている。

前代未聞のダブルKOという結果に目を丸くする者や、珍しいものが見れたと満足げに笑う者など、その反応は様々だ。

そうして数分後、またマイク越しに千冬の声がアリーナに響く。

 

『表示機器の記録とビデオによる厳粛な判定の結果、コンマ数秒の差ではあるものの一方のシールドエネルギーが先に尽きていた。よって勝者は───』

 

勝者は決まった。観客席はそれを、勝者の名を聞き逃すまいとしんと静まり返る。

一瞬の間、今はそれが何分間にも感じただろう。

 

 

『北星南美!』

 

そして告げられる名前、水が乾いた土に染み込むようにその声はアリーナの中を駆け巡った。

反響が収まり訪れた一瞬の静寂、そして風船が割れたように観客席は沸き立つ。

 

「「うわああああああっ!!」」

 

「「二人ともスゴい!!」」

 

「南美センパーイ!」

 

「鈴ちゃーん!!」

 

「私二人のファンになりましたー!!!」

 

「かっこよかったですー!!」

 

「ナイスゲーム!!」

 

「ハラショォオオオッ!!」

 

歓声は惜しみ無い賛辞の言葉として二人に降り注ぐ。

シールドエネルギーがゼロとなり、専用機を待機状態に戻した二人は疲労の色を見せながらも気丈に振る舞い、歓声に笑顔で応える。

ガッツポーズや手を振り返しながら二人は並んでアリーナを去っていく。それでも歓声は収まらない。

二人の姿が見えなくなっても数分間は声が鳴り響き続けるのだった。

 

 

こうしてIS学園個人トーナメントの一日目は幕を閉じた。

 

 

 





書いてて楽しかったなぁって。

ではまた次回でお会いしましょうノシ




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第150話 更識簪


ギリギリ連日投稿!

では本編をどうぞ↓


 

 

IS学園個人トーナメント2日目、昨日の激闘の熱も冷めやらぬままに突入する。

2回戦第一仕合、シードになっていた簪とシャルの仕合である。

下級生から“パイルの王子様”、“鉄杭の貴公子”や“とっつキング”などという渾名で絶大な人気を誇るシャルの仕合ともあって観客席は早いペースで埋まっていく。

 

 

「どーなるか……。」

 

「玉鋼の装甲に対してシャル側が決定打として切れるカードはパイルバンカー、か……。」

 

「一方で玉鋼はシャル側に通せる武装が大量にある。」

 

「寄れればシャルか?」

 

「そう簡単な話じゃないでしょう。鈴さん曰く簪さんは体術もかなりのものだとか。」

 

控え室のモニター越しでまだ誰もいないアリーナを見ていた専用機組の面々はそれぞれの意見を述べ合う。

大方の意見は玉鋼を擁する簪有利となっていた。

玉鋼のガチガチに固められた装甲と並大抵のISならば一瞬で葬る火力は大抵のISに有利がつくからだ。

 

そして仕合時間となり、東西のカタパルトから二人が現れる。

シャルが姿を現すと観客席が大きく沸き、簪が姿を見せた瞬間にどよめきが走った。

 

「……っ!?」

 

「あ、あれはっ!」

 

「玉鋼の装甲が、ない……!!」

 

「南美のサザンクロスに似てるような……。」

 

カタパルトから現れた簪の乗る専用機はいつもの玉鋼ではなかった。機動要塞とも形容される分厚い装甲は取り払われ、両手に持つ巨大なロングバレルガンもない。

普通のISよりも二回りも三回りも小さい機体、そして全身を覆う装甲は青白く光を反射している。

すっきりと纏まった印象を与えるシルエットは同じ顔出し全身装甲(ハーフスキン)タイプのサザンクロスと似た雰囲気を持っている。

どよめきが広がるアリーナの空気を感じて簪はニヤニヤと不敵に笑っていた。

 

「ボク相手には玉鋼の装甲もいらないってことかい? 随分舐められたものだね。」

 

「くくく……。そうじゃない、これは挑戦さ。」

 

険しい目付きになり睨みつけてくるシャルに対して簪は小さく笑う。

その瞳には油断の欠片もなく、真っ直ぐにシャルを見つめていた。

 

 

「南美のサザンクロスと同じパワードスーツ型のISってこと?」

 

「そういうパッケージ装備なのか?」

 

「挑戦……? どういう意味だ。」

 

控え室の面々は唸りながら簪の意図を推し量る。しかしいくら考えても彼女の真意が見える訳でもなく、ただ見守るしかなかった。

 

 

「……そう。」

 

「さて折角玉鋼対策をしてもらったところで悪いが、この千種鋼には盾なんぞ意味はない。」

 

パイルバンカーの代わりにサブマシンガンと物理盾を構えたシャルに対して簪は楯無と全く同じ構えを取る。

そして開始のブザーと共に簪は一瞬でシャルの目の前に現れた。

 

「えっ!?」

 

「捉えきれないはずだ。」

 

簪はシャルの両肩を掴むと力強く投げ飛ばした。突然のことで反応が遅れたシャルはそのまま呆けた顔をして宙に浮かぶ。

 

「行くぞ!」

 

投げ飛ばされて宙を舞っているシャルのそばに現れた簪は彼女を蹴り飛ばし壁に向かって叩きつける。

そんなシャルの姿に一部から悲鳴が上がる。

壁際に追い詰められたシャルに対して簪は更に追い込むように立ち回る。どうにかして壁側から脱出しようとして足掻くシャルだったが、簪のほうが一枚上手か、脱出させてもらえない。

巧みに立ち回る簪は壁にシャルを縫い付けて離さない。

 

 

「あの動きは……。」

 

「まるで更識会長……!!」

 

瞬間移動めいてシャルの周囲を飛び回り逃がさない簪のワザマエに、控え室で見ていた専用機組の面々は息を吞む。そしてレンがちらっと楯無のほうに視線を向ければ、そこには微笑みながらティーカップに口をつける彼女の姿がある。

 

(更識流体術、柔の拳をここまで……。ふふ、頑張ったのね簪ちゃん。)

 

紅茶を飲みながら内心妹の成長を感じていた楯無はティーカップをサイドテーブルに置いてモニターへと今一視線を移す。

 

 

 

「行くぞ、捉え切れまい……!!」

 

「くそ……ッ!!」

 

視界の端から端、消えては現れ、現れては消えてを繰り返し続ける簪の変則機動にシャルは舌打ちする。

開始前に簪が言った通り、準備してきた玉鋼対策は何の意味もなしていないのだ。

盾も高速で繰り出される拳はそれをかいくぐり、パイルバンカーではそれを使う余裕さえ与えてくれない。そんな状況で苦し紛れに放ったマシンガンの弾丸すら掠りもしなかった。

 

「ひゅぅ! ひゅう!!」

 

「なんなんだよ、その呼吸はさ!!」

 

「そこだ!!」

 

苛立ちをごまかすように大声をあげて銃弾をばらまくシャル、それは簪にとって絶好の隙でしかない。

マシンガンを握るシャルの手を掴むと関節を極めるようにして捻る。パワーアシストでは完全に簪の玉鋼の方が上であり、シャルは逆らわないように身体を捻って投げられる。

 

「秘技……更識有情断迅拳!!」

 

宙に浮いたシャルとすれ違うように簪は低い態勢で駆け抜ける。その数秒後にシャルの身体は弾けたように震え地面に落ちた。

どさりと音を立ててその場に倒れ伏すシャル、ボロボロになったラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡと彼女の姿にファンクラブの少女たちが絹を裂くような悲鳴をあげる。

その悲鳴に釣られてざわざわと俄に騒がしくなるアリーナ、中には泣き出す者さえいた。

 

「秘孔を突ききってはいない、立てるだろう? なぁシャルロット・デュノア。」

 

「もちろん……だ。」

 

息も絶え絶えに立ち上がったシャルは闘志の籠った瞳で簪を見つめる。

まだ彼女は諦めていなかった。物理盾を背中に背負うと右手にパイルバンカー、左手にサブマシンガンを装備する。

 

(身体が重い……、でもまだヤれる! ()るッ!!)

 

ギラギラとした目付きでパイルバンカーを構えたシャルは重く軋む身体に鞭を打って大きく息を吐いた。

そんな闘志剥き出しの彼女に簪は嬉しそうに笑う。

 

「そうこなくっちゃ。では、行くぞ!」

 

「っ……!!」

 

また消えて目の前に現れた簪に対してシャルはパイルバンカーを横薙ぎに払う。

だがそれは当たらない。実体のない影を掴もうと手を伸ばしたかのようにそれは空を切った。

そして

 

「はぁんッ!!」

 

「くっ!」

 

背後から見舞われる簪の掌底、背中に背負った盾のお陰でダメージこそないものの大きく吹き飛ばされる。

 

「ひゅう! 覚悟!!」

 

独特な呼吸音を響かせて簪はシャルに迫る。

一瞬で距離を詰めた簪は高々と足を掲げるように振り上げてシャルの身体を宙に蹴り飛ばすと追従するように自身も跳ねる。

 

「はぁ……天翔百烈!」

 

次々と繰り出される強力な正拳突き、そして大振りに突き出された拳がシャルの身体を捉えた。

力なく宙を舞うシャルに簪は更に追撃を重ねる。

 

「ジョイヤー!」

 

踵落としのようにシャルの足に自分の足を引っ掻けた簪はそのまま同時に着地し肘鉄から強烈なボディブローでシャルを突き飛ばす。

そして壁に激突したシャルに止めを刺すかのように簪はブースターを勢いよく吹かして距離を詰めると右腕を大きく振り絞る。

 

「塵と砕けよ!!」

 

「これを……待ってたんだ!!」

 

勢いよく突進して拳を振り絞る簪に対してシャルは不敵に笑ってパイルバンカーを構える。

捉えきれないなら捉えられるまで待てばいい。幸いシャルの持つパイルバンカーは玉鋼本来の分厚い装甲すら貫けるように威力をこれでもかと高めたものだ。

普通のISと同等にも見える今の状態ならば当てれば倒せると踏んでの捨て身カウンター狙いである。

 

「更識の剛拳、受けてみよ!!」

 

「その顔吹っ飛ばしてやる!」

 

ごうと音を立てて突き出される簪の拳、そしてそれと同時に射出された鉄杭。

ぐわきんという凄まじい音がアリーナ中に響き渡り、衝撃から大量の砂ぼこりが舞い上がる。

だがしかし電工掲示板には視界が通り、観客が声をあげた。

 

「あ、あぁシャル先輩……!!」

 

「嘘、よ。そんなの!!」

 

電工掲示板を見たシャルファンクラブの面々が悲鳴にも近い声を響かせる。

掲示板にははっきりとシャルのシールドエネルギーがゼロであると示されている。対して簪のエネルギーはまだ余力があった。

 

「私の勝ちだな。」

 

「……、かすっただけ、か。」

 

敗北したシャルは静かに目を瞑るとハァと息を吐いた。

あの一瞬、簪は当たる瞬間に首を最小限にずらすことで逸らしたのだ。

下手をすれば直撃もあり得たであろう攻撃をかすらせることで身体のブレを減らし、シャルを確実に仕留めたのである。それもこれも自らが開発した機体に対する絶対の信頼があってこそだ。

 

「この“千種鋼(ちぐさがね)”に半端な攻撃は通用しない。」

 

「そっか……、あーあ! 良いところないなぁ。」

 

愚痴を溢すようにして声を漏らしたシャルに対してフゥと息を吐き出した簪は手をとって立ち上がらせるとそのまま並んでアリーナを出ていった。

 

 

 

 





ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第151話 ドイツの科学は世界一ぃいい


まだオレのターン(連日投稿)

では本編をどうぞ↓


 

 

簪の勝利から30分後の第四アリーナ、そこには自信に満ちあふれた笑顔で佇むラウラと神妙な面持ちでそれと対峙するレンがいた。

両者ともに一回戦を圧倒して勝ち上がってきた同士なだけに、会場の期待は高まっている。

そして2人が睨み合うとともにブザーが鳴った。

 

「スラッシュリッパー!!」

 

「ほう、そう来るか。ならば!!」

 

レンが先手を打って展開したスラッシュリッパーを見るや否や、拡張領域(パススロット)から重機関銃を取り出した。

その圧倒的なごつい見た目にレンは危険を感じて距離を取る。

 

「ふふふ、恐かろう! そうともこれは我らがドイツ軍の誇る最強の大佐が愛用した兵器と同等のスペックを持つのだからな!! 一分間に600発の徹甲弾を発射可能!30ミリの鉄板すら貫通可能な重機関銃なのだ!! ファイエル!!」

 

早口でしゃべり笑うラウラは大口を開け笑い声を響かせながら機関銃をレンに向けて掃射する。これでもかという轟音を響かせ、その銃弾の嵐は土を巻き上げる。

その煙は濃く、レンの体を覆い隠す。

 

数分間、重機関銃の弾丸が降り注ぎ、これではもうシールドエネルギーは残っていまいと、掃射をやめたラウラ。土煙の先ではレンが動く気配もなく、勝利を確信した彼女は重機関銃を拡張領域にしまい腕を組んで笑い声を張り上げる。

 

「フハハハハ!! 我らがドイツの科学は世界一ぃいい……アレ?」

 

高笑いしていたラウラであったが、いつまで経っても終了を告げるブザーが鳴らないことに疑問を抱いて首を傾げる。

そして次第に薄れていく土煙の中に動くものの気配を感じだラウラは即座に顔を引き締め、ナイフとプラズマブレードを構えた。

そして煙の中からレンのスラッシュリッパーが三基飛び出し、ラウラに襲いかかる。

 

「ムダァ!!」

 

不規則な軌道を描くスラッシュリッパーを巧みに迎撃したラウラはレンが居るであろう方角にナイフを投擲する。

しかし金属音が響き、お返しのようにビームライフルの攻撃が帰って来る。勿論それを喰らう彼女ではない。

一瞬で様々なやりとりが行われ、煙が晴れるとほぼ無傷のレンが姿を現した。

 

「……!! あの弾丸を無傷で切り抜けたとでも言うのか!?」

 

「まだまだ甘いわね。」

 

そう言って不敵に笑うレンの足元にはボロボロになったスラッシュリッパーの残骸が大量に落ちていた。

 

(回転するブレードを使って銃弾を叩き落としていたのか……。)

 

「さぁ行くわよ!」

 

考察の最中であるラウラに対してレンが仕掛ける。

ゲシュペンストの加速力を最大限に活かした突撃、しかしそのような突撃はラウラに通用しない。

 

「無駄無駄ァ!」

 

ラウラが腕を前に突き出すとまるで何かに掴まれたかのようにレンの動きがその場で止まる。

そうAICだ。だがラウラはレンから離れるように飛び退いた。

彼女が今までいた場所に襲い掛かるように六基のスラッシュリッパーが飛びかかってきたのだ。

飛び退くことでそれら全てを視界に入れたラウラは飛んで来るスラッシュリッパーを順々に破壊していく。

そうしているうちにレンに対する拘束は解け、援護射撃のようにビームライフルの攻撃が飛ぶ。

 

「くっ!」

 

「さぁどんどん行くよ!」

 

ラウラがスラッシュリッパーとビームライフルの対処に追われているうちにレンは更にリッパーを追加する。

決して攻撃の手を緩めず、ラウラを後手後手に回させること、それがレンの導き出したラウラ対策である。

 

(そのAIC、かなり集中するんでしょ? なら脳のリソースを削らせてもらうわ。)

 

(まぁ、そう来るだろうな。だからこそ……。)

 

飽和的に攻めるレン、しかしラウラは一気に加速して距離を詰めにかかる。

黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)は遠近万能機、だからこそ一撃離脱も視野に入れたチューンがなされている。それによって引き出される加速力は白式や紅椿のような特化タイプには劣る、しかし通常の万能機に比べれば速すぎるほどだ。

 

(だからこそ私はAICに拘らずとも勝てるように積んできた!!)

 

(突破力……!)

 

スラッシュリッパーとレン本人の妨害に負けることなくしっかりと触れられる距離まで詰めきった。

レールカノンなどの兵装はあるものの、それでも離れての戦闘ではレンに分があると判断してのことだ。これでもあのクラリッサ達と訓練に勤しみ、世界最強の織斑千冬の指導を直に受けてきたラウラ、格闘戦にも覚えがある。

 

「いわゆる一つの軍隊格闘術!!」

 

「かかって来なさい!!」

 

銃を使わない距離での戦いを臨むラウラに対してレンもそれに応える。

大型のブレードを手にしてプラズマブレードを展開するラウラを迎え撃つ。その懐に飛び込むようにしてラウラは極限まで姿勢を低く保って駆ける。

その姿は獲物を狩る肉食獣、冷静に獰猛に獲物に食らいつくそれである。

 

 

「ふふふ、恐いか?」

 

「かもしれないわね。」

 

低い姿勢でレンの周囲を駆け抜け続けるラウラは上目遣いでレンの顔色を窺う。

しかしレンの顔色や雰囲気に変わりはなく、依然歴戦の戦士としての空気を纏っている。会場の観客達はどちらから仕掛けていくのか、それを固唾を吞んで見守っていた。

 

 

 

「ふむ……あのスタイルをようやくモノにしたか。」

 

「織斑先生はご存じなんですか?」

 

「あぁ。私がドイツにいた時にな。」

 

大会運営本部に置かれたモニターでラウラの姿を見た千冬が懐かしそうに声をぽつりと漏らす。その瞳はどこか遠い場所を見つめているような風であり、昔を思い出しているようだ。

 

「と言っても、私がしたのは助言だけ。あのスタイルはラウラ天性のものだ。」

 

しばらくの回想から帰ってきたのか、千冬の目は戦士の色をしていた。それは彼女がまだ現役だった頃に真耶がよく目にしていたものと遜色ないものだった。

その当時のことを思い出したのか真耶は小さく体を震わせてしまったが、すぐに何もなかったかのように振る舞う。

 

「柔軟でしなやか、強靱な筋肉のバネを最大限に利用し引き出すラウラのファイトスタイル。あいつの本能がそうさせた獣のような戦い方、今でも覚えているよ……。」

 

「獣……ですか……?」

 

「あぁ。初めてラウラのあのスタイルと戦ったことは今でも鮮明に思い出せるよ。相手のどこを狙えば、相手を崩せるのか……。本能でそれを察知して攻めてくる。恥ずかしいが、あの時私は奴に恐怖を感じたんだ。」

 

過去を、その時のことを思い出した千冬は小刻みに震える右腕を左手で押さえると真っ直ぐな目で画面に映るラウラを見つめる。

 

「奴はAICを使わなくとも強い。それだけはたしかだ。そして今、それが開花した。」

 

千冬はそう断言するとくるりとモニターに背を向ける。

モニターから目を切ってもまだ目には闘志が灯っており表情は小さく笑っている。その表情、長年連れ添ってきた真耶には分かる。その顔になるときは彼女が戦いたくて仕方ない時である……と。

 

 

 

「hyuuuuuuu!!」

 

(キレがどんどん増している?)

 

甲高い奇声を上げながら跳ね回るラウラ、時が経つごとにその動きは加速し翳りを見せない。

その圧倒的な動きにレンはスラッシュリッパーを使って動きを封じにかかるも、それすら即座に粉砕してラウラは跳ねる。

そして跳ねながらすれ違いざまに的確にレンに打撃を加え、じわりじわりと彼女のシールドエネルギーを削っていく。

 

「syu-!! huuuuuuu!!」

 

「く……!」

 

カウンターを決めようにも気付けばブレードの届く範囲よりも遠くへと逃げているラウラのヒットアンドアウェイに翻弄され、レンは自分のリズムを崩してしまっていた。

 

「hyuoooooooooo!!」

 

「ち、ブレードが……!!」

 

自分のリズムを崩した選手が十全に力を発揮できるかと言われれば、答えは否である。

相手に翻弄され、相手にくずされてしまえば自分の力を全て発揮し、引き出すことなど出来はしない。

そうなってしまえば結果は見える。

 

仕合終了、レンのゲシュペンストのシールドエネルギーが底を尽きたことを示すブザーが鳴り、ラウラが動きを止める。

 

「負けたか……。」

 

「仕合、ありがとうございました。レン先輩さん。」

 

ラウラはピシッとした敬礼をレンに送るとざっと背を向けてアリーナから去っていった。

その姿は先程までの猛獣とはまったく違う、軍人のものだった。

 

 

 





獣でもあり、誇り高い軍人なラウラさん。
次回は皆さんお待ちかね?の楯無さん回です。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第152話 更識楯無


まだオレのターン(連日投稿)!

では本編をどうぞ↓


 

 

“IS学園生徒会長”とは、今期のIS学園において最強を意味する言葉である。

ロシア国家代表としてモンド・グロッソに2度も出場を果たし、世界を相手に戦ってきたことからもその実力の高さが伺えるだろう。

更識楯無、物静かであり氷のような美人であると評判の彼女は第4アリーナで対戦相手の登場を待っていた。

観客席は彼女の戦いを生で見ようと、今までとは比較にならないほどの生徒が押し掛けている。中にはシフトすら放棄している者すらいた。

そうして楯無が待つこと数分、真っ赤な機体を輝かせてセシリアが舞い降りる。

 

「お待たせしたようで、申し訳ありませんわ。楯無さん。」

 

「いいえ、そこまで待ってないわ。だから気にしないでセシリアちゃん。」

 

遅れたことを詫びるセシリアに対して楯無は優しく微笑んでそれを許す。

その物腰の柔らかさとは裏腹に、纏う空気は鋭い。

 

 

 

「いざ!」

 

セシリアが銃を構え、ブザーが鳴ると楯無が先に動いた。

一瞬で十数メートルの距離をゼロにした楯無はセシリアを突き飛ばす。しかしそこまでは想定内とセシリアが猟犬を呼び出した。

赤黒い流動体の身体をした猟犬は吠えるように大口を開けて楯無を威嚇する。さすがにそれに怯んだわけではないだろうが、楯無は足を止めてセシリアに追撃を加えることはなかった。

 

(わたくし)とティンダロスのデュオ、存分にお楽しみくださいまし。」

 

「ふふ……。」

 

二丁拳銃を構えて猟犬と共に迫るセシリアを見て楯無は笑う。

心底楽しそうに笑う彼女、言うなれば“はしゃいでいる”という表現がもっとも適切だろう。そんな彼女の表情を初めて見る生徒たちも多いのか、少しばかり観客席の一角がざわついた。

 

 

「面白いですわ! 血がこうも滾るのは久しぶりというもの!!」

 

「ふふ、そうね。私も楽しいわ。」

 

興奮しているのはセシリアも一緒だった。目は力強く見開かれ口角がつり上がっている。

興奮のためか頬もやや紅潮しておりどこか色っぽい。

しかし注目するのはそこではない。セシリアの戦い方だ。

楯無の戦型はモンド・グロッソを見ても分かる通り、近接格闘型。言うなれば近寄らなければ意味がない。そのためのあの瞬間移動のような機動手段なのだろうが、セシリアはそれで近寄られる前提で動いているのだ。

並大抵の者であるならば近寄らせないように弾幕を張って逃げようとするものだろうが、彼女は違った。近寄られた上でそれを凌ごうとしている。

 

それを可能にするのが愛銃“ジャッカル”とあの猟犬だ。

取り回しの簡単な拳銃であれば寄られても対応が容易であり、さらには寄った瞬間に猟犬が襲いかかることで狭い範囲での2対1を楯無に強制させる。そうすることによって楯無にペースを掴ませないのだ。

 

 

「すげぇ! セシリア、あの楯無さん相手に1歩も引いてない!!」

 

「なんて度胸……! あの楯無さん相手に近寄らせないじゃなくて“近寄られても構わない”戦い方を選ぶなんて!」

 

観客席の最前列で二人の戦いを見ていた専用機組の面々が目を皿にして観戦し舌を巻く。

1年前は近寄られれば何も出来なかったあのセシリアが、格闘術でモンド・グロッソのヴァルキリーに選ばれた楯無を相手に寄られても互角の戦いをしているのだからそれも当然と言えるかもしれない。

 

「面白いわ! 射撃主体でそんな戦い方を選んだのは貴女が初めてよ。」

 

「ふふ、貴女の初めてになれるなんて。恐悦至極の限りですわ!」

 

ジャッカルの銃弾を楯無に放ちながらセシリアは猟犬を盾に踊る。

舞うようにアリーナを飛ぶ彼女の姿は見るものの目を惹き付けて止まないものに思える。

そして弾丸の軌道から外れるように動いて楯無がセシリアを捕まえようとあの移動方を用いて距離を詰めていく。

 

「ふぅ……はぁっ!」

 

「ティンダロス!」

 

楯無が放った掌底をセシリアは猟犬を盾にして事なきを得るとその至近距離から拳銃の引き鉄を引く。

しかしそんな状態であっても楯無はその弾丸を回避してみせた。

人間の反応速度の限界に挑戦するその所業に、観客は皆目を点にする。

 

「はぁあんっ!」

 

「ぐ……、ですが……!!」

 

そして弾丸をかわした楯無の放つ蹴りを腕で受け止めたセシリアはなんとかしてその場に踏み留まり、もう片方の銃で楯無を攻撃する。

しかし引き鉄を引く時には既に楯無はセシリアから距離を取っていた。

 

(撤退も早い……、想定の1.2倍と言ったところでしょうか……。ギアを上げますか。)

 

セシリアは銃弾を楯無の足元に撃ち込みながらティンダロスを自分のもとに呼び寄せる。

常に数の優位を保とうという思惑である。

 

「ふぅ……!」

 

「っ! まだ速くなるのですね。」

 

放たれる銃弾をかわしながら楯無のは縦横無尽にアリーナを駆ける。

瞬間移動にしか見えないその機動力に多くの生徒はその姿を見失いながら観戦していた。

 

「捉えられまい……!」

 

「く、ティンダ───」

 

「遅いわ。」

 

背後に回った楯無はセシリアにティンダロスでカバーリングさせることも許さず投げ飛ばす。

そして自慢の機動力で投げ飛ばしたセシリアに追い付くと追撃を開始した。

ティンダロスからのカットが飛んで来るならばそれすらもいなしてセシリアへの追撃を続行する。

 

「はぁぁん……天翔百烈! ふぅ……はぁ、覚悟!」

 

アリーナの壁際で地面と数メートル上空とを上下に移動しながら楯無は舞でも踊るかのように優雅に、セシリアを追い詰める。

その姿はシャルを封じ込めた簪のそれと酷似していた。いや、楯無の方が洗練されているという印象を受けるが、それでもやはり似ている。

 

そして何発目であっただろうか、楯無の繰り出した振り下ろす手刀によってセシリアの身体は地面に叩きつけられる。

しかし楯無は手を緩めない。セシリアの身体と地面の間に足を入れ、上空へと足を使って投げた。

すると楯無は両手を胸の前で合わせたかと思うとセシリアとすれ違うように走る。

 

「……有情断迅拳……!」

 

「……っ、あ……!!」

 

「……これまでです。」

 

簪の放ったものと同じそれを食らったセシリアは身体を震わせて倒れる。

直後にシールドエネルギーが底をついたことを知らせるブザーがなり仕合が終了した。そして意識を失って倒れるセシリアを楯無は一瞥すると専用機を待機状態に戻して彼女を抱える。

そうしてセシリアを抱えたまま楯無はアリーナから出ていくのだった。

 

 

 

 





楯無さんはつおい

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第153話 単一能力のぶつかり合い


まだオレのターンは終わっちゃいないぜ。

では本編をどうぞ↓


 

 

2回戦最終試合、織斑一夏対北星南美の仕合だ。ベストフォー決定戦ということで暇な生徒たちが皆一様に集まっていた。

そして先にベストフォー進出を決めたメンバーからすればこれから自分のライバルになる相手の試合ということで観客席には簪、楯無、ラウラの姿がある。もっともラウラは一夏の応援の方が重要なのだが。

 

 

「一夏くんとガチで()り合うのも久々だね。」

 

「おう、手加減だけはしてくれるなよ。」

 

「もっちろん! そんな手加減(つまんないこと)はしないよ。」

 

アリーナで睨み合う二人、ひりひりと焼けつくような殺気を放ちながら向かい合う。

そして電工掲示板のシグナルが点灯し開始が近いことを告げる。独特な電子音と共に一つ、また一つと灯りの消えていくシグナル。

最後の一個が消えた瞬間に二人が駆け出した。

 

「ズェアアアア!!」

 

「フゥウウウウ!!」

 

二人とも声を響かせながら最初の一合に臨む。

南美は一夏の振る雪片を紙一重でかわしながら蹴りを放ち、一夏は南美のそんな蹴りを受けながらカウンター気味に雪片を振るう。

足をその場に止めながらお互い軽快なステップを踏んで切り合い、殴り合う。

しかし南美は大きく踏み込まない。下手に踏み込みすぎれば一撃必殺の刃が牙を剥くからだ。

だから彼女は何があっても対応できる程度にしか踏み込まない。

しかしそれでは決定打の出ないことも確か。故に彼女は一夏から飛び退いて距離を開ける。

 

「やっぱりその雪片のプレッシャーは半端ないや。」

 

「だろ?」

 

「だから、出し惜しみはしない。」

 

軽い問答を交わした二人。南美は軽く息を吐くとだらりと脱力して一夏を見据える。

そして胸に左手を当て何事かを呟き始めた。

 

 

 

 

I am the bone of my systems.(───体はバグで出来ている)

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は永久で、心は一撃)

 

I have tried over a thousand challenges.(幾たびの調整を越えて不変)

 

Unknown to Death.(ただの一度も修正はなく)

 

Nor known to Life.(ただの一度もアプデされない)

 

Have withstood pain to create many systems.(彼の者は常に独り格ゲーの丘で勝利に酔う)

 

Yet, those systems will never hold anything.(故に、そのシステムに意味はなく)

 

So as I pray,(その身体は) UNLIMITED ARC SYSTEM WORKS.(きっとバグで出来ていた)

 

 

朗々と力強く響いた声が最後の一節を唱え終えると、そこにはもう見慣れたアリーナの姿は無く、ボロボロになった格ゲー筐体の並ぶ薄暗い空間が広がっていた。

突如として起こった謎の現象に一夏はおろか、観客席に座る他の面々も喉を鳴らして驚愕する。

 

「なんだ……これは?!」

 

「空間の転移? いやそんなこと出来る筈がない!!」

 

「どんな仕組みなんだ?」

 

「一介のISが出来ていい芸当ではない……。」

 

ざわざわと一瞬の間に塗り替えられた景色によってその場は騒然となる。

投棄するように並んだ格ゲーの筐体はまだ画面に薄く明かりを灯しており、誰かが来るのを待ち望んでいるかのように見えた。

 

「これが私の単一能力、無限のバグ製(アンリミテッド・アークシステムワークス)だよ。」

 

「そうかよ。それで? アリーナをこんな空間に変えてどうするつもりだよ。」

 

「君に勝つ。」

 

「やれるもんならやってみな!」

 

テンポよく煽るように言葉を交わす二人、そしてそれを実行するように動きだす。

南美は両腕を大きく掲げると地面に思いきり叩きつける。その瞬間、一夏のいた地面が隆起し勢いよく岩が飛び出す。

もちろんそれを喰らう一夏ではなかったが、回避した瞬間に目の前に南美が迫っていた。それも通常の2倍とも思える高速で……。

 

「トベウリャ‼」

 

「が!?」

 

滑るように加速して懐に潜り込んだ南美のアッパーが一夏を捉える。しかしそれだけでは終わらない。

一夏の身体がそのアッパーに縫い付けられたかのように離れないのだ。

 

(……どういうことだ?!)

 

「フゥウウウウ!! シャオッ!」

 

そのアッパーが決まってから数秒後、南美は一夏を蹴り飛ばして距離を開ける。

そう、距離を開けたはずなのだ。しかし直後に一夏の身体が横っ飛びに吹っ飛んだ。

 

「がっ……!?」

 

吹っ飛んだ一夏の顔が苦悶に歪んでいることから何らかの攻撃を受けたのだろうということは分かる。

しかしあの状態からどうやって南美が一夏に攻撃出来たのだろうか、見ていた者たちはその謎しかない南美の戦いを見て息を呑む。

 

「どんどん行くよー!!」

 

「な!?」

 

吹っ飛んだ一夏の身体を持ち上げた南美は力強く地面に叩きつける。その瞬間、まるでボールのように彼の身体が大きく跳ねた。

跳ねた一夏に対して南美は情けも容赦もなく攻撃を加える。

 

(確かに一夏くんの零落白夜は驚異的だよ。でも使わせなければ何でもないのさ!!)

 

悪い笑顔を浮かべながら南美はアリーナの中を縦横無尽に一夏を攻撃しながら移動する。

その様はまるでボールをドリブルしているようにも見えた。

 

(そして相手に何もさせずに完封するのは色々と慣れっこなのさ!!)

 

(くっそ、受け身が取れない!?)

 

「フゥウウウウ! シャオッ!!」

 

完全にリズムを掴み一夏に何もさせない南美は一夏を壁際まで蹴り飛ばすと大きく跳躍した。

跳躍して両腕を広げる姿は空を飛ぶ鳥であり、見るものを釘付けにする。だが一夏だけが動きを止めなかった。

 

「そいつはもう……見てる!! 2度目はないぜ!」

 

一夏は弓を引くように真っ直ぐ雪片を引き絞る。いわゆる牙突の構えだ。その構えから突きを放って南美の攻撃が届く前に一撃をあててしまおうという魂胆である。

しかしそれすらも南美は分かっていたように笑顔を浮かべる。そしてあのときのように手刀で斬りかかろうと急降下する。一夏はそれを見て渾身の力で雪片を突き出した。

 

「知ってたよ……。」

 

「なっ!?」

 

南美は急降下していく軌道を逸らして雪片の突きを躱して一夏の懐に潜り込んだ。

さして右足を大きく引いて、全身のバネを解放し強力な蹴りを放つ。

 

「南斗孤鷲拳奥義!! 南斗翔蹴屠脚!!」

 

振り上げた足が一夏を捉え、一筋の紫電が走る。その衝撃で一夏の体は宙を舞った。

南美は足を振り上げた勢いで一回転して着地すると倒れた一夏に歩み寄る。

 

「またまた私の勝ちだね!」

 

「あー、くそ……。また負けちまったか……。」

 

「最後の最後で詰めが甘いねぇ! ねぇどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

 

「うーるーせー!」

 

和気藹々と会話を交わしながら二人はアリーナを後にする。

これで今期の四強が出揃った。

 

見紛うことなく最強格の更識楯無、2度のモンド・グロッソ出場とヴァルキリー選出という確かな実力。まだ謎の多い彼女の戦い方に、その技量に追い付ける者はいるのだろうか。

 

あの織斑千冬に恐怖を抱かせたラウラ・ボーデヴィッヒ、冷静に大局を見据える戦術眼と遠近万能の装備、そして強力無比なAICによる戦闘。戦闘経験の豊富さでも楯無には負けていない。

 

そして楯無の妹更識簪。2回戦では自慢の装甲も武器も捨て更識流体術のみであのシャルロットを撃破した。千種鋼と名付けたそのパッケージでラウラ相手にどう立ち回るのか、注目が集まっている。

 

そして最後、2学年1の問題児と呼び声高い北星南美。

第二次移行も終えた専用機サザンクロスを引っ提げて、身体一つで戦い続ける彼女を迎え撃つのは学園最強の更識楯無、この試合がどう転ぶのか俄然関心を引き付ける。

 

 

こうして四強が出揃い、期待が高まりながら2日目が終了したのだった。

 

 

 

 





ここでサザンクロスの単一能力「無限のバグ製」の簡単な説明を。

能力は単純で、ありとあらゆる格ゲーのバグを1度につきそれぞれ三秒間だけ再現できるというもの。
1度再現したバグはある程度時間が経過しないと再使用できないですが。
この話で使われたのはハート様倍速化バグ、バグ昇龍、時止めバグですね。


ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第154話 準決勝


まだ続くぜ全盛期の速度が!!

では本編をどうぞ↓


 

 

IS学園個人トーナメント、専用機の部。昨日の2回戦の激闘の興奮冷めやらぬまま3日目の準決勝だ。

第一試合は簪対ラウラ、第二試合は楯無対南美と誰が勝ってもおかしくない。

そんな組み合わせに第4アリーナは熱狂の渦に包まれている。

 

『さぁさぁさぁ!! やって参りました、ベストフォー!! これから行われる激戦に期待してか会場は人人人の大満員でございます!!』

 

昨日まではなかった特設実況席のテント、観客席の一角に設けられたその中には報道部の腕章を着けた生徒たちが機材を弄っていた。

 

『はい! という訳でIS学園の全てが注目しているこのベストフォー、実況は私! 報道部二年の姫海棠(ひめかいどう)あさりが! そして解説にはなんとなんと! あの織斑先生にお越しいただいておりまーす!!』

 

『よろしく頼む。』

 

あさりの紹介に千冬は周りに対してお辞儀する。意外とこう言ったことに慣れているのか、案外落ち着いた様子だ。

世界最強が解説ということもあり、観客席の期待はますます膨れ上がる。

 

『それでは織斑先生、準決勝の見所を解説していただければ!!』

 

『そうだな……。まずは楯無と北星の格闘戦だろう。モンド・グロッソで磨かれてきた楯無に対して北星がどこまで足掻けるか、魅せられるか……と言った所だな。あの単一能力は厄介だ、どんな種があるのか私にも分からんが、しかしそれだけで崩せる楯無ではないだろう。』

 

『なるほどー……、ではもう片方の試合はどうでしょうか!』

 

『こっちもこっちで、だな。ボーデヴィッヒのAICは面倒だがそれを簡単に使わせる簪ではあるまい。となれば試合はクロスレンジでの殴り合いだ。楯無と酷似した体術の簪があのボーデヴィッヒをどう対処するか、ボーデヴィッヒがどう攻めるのか、見物だな。』

 

『それは楽しみですね!!ではでは……。』

 

あさりがなにやらボタンを押すとアリーナの明かりが全て消え暗闇に包まれる。そして二カ所、赤と青に塗られた東西のカタパルトをスポットライトが照らした。

その明かりからカタパルトの中を隠すように勢いよく白いスモークが噴出される。

 

『赤コーナー!! 純白のスモークを突き破り入場するのは鎧を脱ぎ捨て!火砲も捨て去り!身一つで挑むと覚悟した天才!! 彼女は言いました、勝たなくてはならない人物がいると! ならば魅せてみよ、その身、その拳で!! 更識ぃ、簪ぃいい!!』

 

ハイテンションなあさりの入場アナウンスとともに千種鋼を身に纏った簪がカタパルトから射出されアリーナに姿を現す。

そして対抗するようにもう片方のカタパルトの出口がスモークで覆われた。

 

『対する青コーナー!! ドイツの科学は世界一ぃいいいいい!!!! 祖国の誇りを胸にいざ出陣! さぁビューグルを鳴らせ!死にたくなければ道を開けろ! 黒い猛獣のお通りだ!! ラウラァ!ボーデヴィッヒィイ!!』

 

スモークの中から現れたラウラはいつものレールカノンなどを全て取っ払った簡素な見た目になっていた。

その瞳には挑発的な光が灯っており、簪に正面から挑むことを宣言している。

両者がアリーナ中央で睨み合うと、あさりは実況者席にゴングを置くと思いきり叩き鳴らした。カァンという心地よい音が響き渡り二人は動き出す。

 

 

 

『な、なんとなんとぉ!! 決着!?』

 

『ふむ……見誤っていたか。』

 

試合が始まってから数分後、あさりが慌ててゴングを鳴らす。

アリーナの中央にはシールドエネルギーをゼロにされて倒れるラウラがいた。ほんの数分で終わった試合の結果に観客席はざわざわと騒がしくなる。

 

『織斑先生、これは……?』

 

『あぁ、どうやらまだ簪には隠し玉があったということか。』

 

面白いものを見たという顔で千冬は呟く。

俄に騒がしくなるアリーナを置いて、準決勝第一試合は終了した。

 

 

 

『さぁ! 第二試合です!!』

 

『さて、どう転ぶのか……。』

 

第一試合から30分後、またもアリーナの明かりを落としてスポットライトを起動する。

そして赤く塗られたカタパルトから叫び声が響きだす。

 

『おぉっと!既にコイツはやる気全開!! 赤コーナー、総合格闘技インターミドル三連覇!! 最強の格闘女王! 父親はあの世界覇者北星義仁、その血筋を受け継いだ格闘ジャンキーがIS世界に殴り込み!! 北星ぃ南美ぃ!!!』

 

「ヒャッハー!! 準決勝だぁ!!」

 

あさりのアナウンスに対してノリノリで応えるように叫んだ南美はスモークを突っ切って現れると観客を盛り上げるようにバク転のパフォーマンスを行う。

そうした彼女に魅せられた観客たちによってさらにアリーナは熱狂する。

 

『そして!そして!! 青コーナー!!生徒会長、それは学園最強を表す言葉! モンド・グロッソに出場し世界を相手に戦い続けて来た、貴様らと私では潜ってきた修羅場の数が違う! 霧纏いの淑女(ミステリアス・レイディ)、更識ぃ楯ぇ無ぃいい!!』

 

青く塗られたカタパルトから静かに、しかし確かな存在感を放って楯無が姿を現す。

真っ直ぐにアリーナにいる南美を見詰めた彼女はゆっくりと構えを取った。

 

「ISで貴女と戦うのは初めてね。」

 

「えぇ、最初から全力で行かせてもらいますよ!!」

 

楯無に対抗するように南美が構えを取るとそれに合わせてアリーナの光景が徐々に塗り替えられていく。

 

『で、出ました! 南美選手の単一能力、“無限のバグ製”です!』

 

『なるほど最初から使えるのか。』

 

アリーナの光景が完全に変わりきり、あさりがゴングを鳴らす。

先に仕掛けるのはやはり南美だ。

 

「フゥウウウウ!!」

 

「いざ!!」

 

いつもの声を響かせて迫る南美を楯無は冷静に迎え撃つ。

しかし南美は直前でブレーキを掛けて地面を叩き鳴らし、岩を隆起させる。

それから逃げるために楯無が横に跳ねて逃げればそれを追撃するのは倍速で動く南美だ。

 

「シャオッ! ショオオッ!!」

 

「そこ……!!」

 

しかしその状態から繰り出された南美のローキックを楯無は的確に受け止めると、南美の身体を回転させ上下を反転させる。

そしてその状態の南美の腹に楯無は両手の掌底を叩き込んで突き飛ばす。

そしていつものようにあの歩法を使って追撃を重ねようとしたのだか……。

 

「シャオッ!」

 

「……!?」

 

『南美選手! 突き飛ばされながらも体勢を立て直して反撃! 楯無選手の追撃を許さない!』

 

『いい空間把握だ。』

 

楯無の反撃を防いだ南美はその場で楯無と向き合い攻防を開始する。

それはかつて南美が夢見ていた、楯無とのガチ勝負だ。

 

「フゥゥゥゥ、ショオオッ!!」

 

「はぁぁんっ!!」

 

南美の蹴りに合わせて楯無の手刀が噛み合いお互いの衝撃を打ち消す。

しかしそのままで終わらない。南美は身体を回して回転の力を使って更なる蹴りを繰り出し続ける。

 

「フゥゥゥゥ!!」

 

「ふぅ……はぁぁん!!」

 

『ギアを上げたように攻撃のピッチを上げる南美選手!しかしそれを苦にもせず楯無選手は捌く!!』

 

『……見切っているのか、それとも無意識に効率的に捌いているのか……。』

 

(この速度でもダメ? なら───)

 

回転を駆使して速い連撃を繰り出す南美、そして次の瞬間には楯無の身体がふらついていた。

その隙を見逃す南美ではなく、更に苛烈に攻め立てる。

 

『な、何が起こった? 急に楯無選手が揺らいだ! 南美選手何をしたんだーッ?!』

 

(……一夏との試合で見せた謎のトリックか。興味深いな。)

 

『1度揺らいで後手に回ってしまった楯無選手、ここからの巻き返しはなるのかぁ!!』

 

一瞬の隙があれば南美は確実に致命傷を打てる。

楯無が突かれたのは一瞬どころではない時間の隙間。南美にしか認識できない時間の狭間を使われたのだ。

その時間によって放たれた致命的な一撃に楯無の身体は確かな存在感悲鳴をあげている。だがそれだけで簡単に崩れるほど楯無は弱くなかった。

 

『お、お、おぉ!? 徐々に!徐々に巻き返している楯無選手! あの状態から巻き返してきた!!』

 

数分は続いた長い攻防の最中で楯無は僅かずつではあるが自分のペースを取り戻して戦況を傾けていく。

最初は南美に向かって傾いていた流れを自身の実力で以てきっちりと五分にまで持ち直していた。

 

「こっの……!!」

 

「いざ……!」

 

「っ! しまっ───!?」

 

「はぁぁ、覚悟!!」

 

南美の放った拳を掴んで捻り投げた楯無、やられた南美はしまったという顔を浮かべる。

次に南美の身体を襲ったのはあまりにも重い衝撃、ダンプカーにでもはねられたのではないかと錯覚するほどに強烈な一撃を受けた南美はそのまま吹き飛ばされてアリーナの壁に激突した。

そして楯無はその場に座る。

 

「更識流奥義、有情破顔拳……!!」

 

更識は座禅を組むように座ったまま掲げた両手を振り下ろす。

その瞬間にサザンクロスのシールドエネルギーは底を尽き南美は敗北した。

 

『決着ぅ!!』

 

ブザー代わりに鳴らされるゴングの音、そしてそれを叩くあさりの声が響き渡る。

 

『楯無選手、南美選手の一瞬の隙を突いて反撃、強烈な一撃から見事な逆転劇ですッッッッ!!』

 

『ふむ……面白い。いや、実に興味深いな。』

 

『織斑先生、最後のあの楯無選手のあぐらは……?』

 

『分からん。何らかの意味が楯無にはあるんだろうが、今はそれを知る由もない。』

 

『そ、そうですか。では! 準決勝第二試合終了!! これで決勝戦の組み合わせが確定しまし!!更識簪選手対更識楯無選手です!!!』

 

あさりのアナウンスと姉妹対決という事実も相まって熱狂がIS学園を包み込み、3日目が終わる。

 

 

 





実況解説(協賛:IS学園報道部&技術部)


ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第155話 簪の独白、刀奈の独白


連日投稿、フゥゥゥゥ!!


では本編をどうぞ↓


 

 

「……ひゅぅ、……ひょお!」

 

月明かりの照らす中庭に独特な呼吸音が響く。

それは更識簪のものだった。うっすらと額に汗を流しながら型を確認するようにゆっくりと身体を動かす彼女は真っ直ぐに前を見つめていた。

その動きは更識流体術のもの、それも楯無の操る柔の拳の動き。

彼女の頭に過るのは過去のこと、まだ自身が幼いときのことだった。

 

 

 

簪 side

 

───凄いな、さすが更識の娘! まさに天才だ!!

 

───刀奈にも負けてない、いや彼女以上かもしれないぞ!

 

 

 

いまでもはっきりと思い出す。道場で更識流の体術を習い始めた時のことを。

姉と一年遅れで習い出したそれは私に合っていたらしかった、私には才能があるらしかった。

すぐに姉さんに追い付いた。自分でもそれが嬉しくて堪らなかったことを覚えている。なんでも出来る姉さんに自分が並べる唯一のことだって、そう思っていた。でも…………。

幼い時の記憶と同時に私の脳裏に思い浮かぶのはそれから数年後のこと、更識の“柔”を司る老師との会話だ。

 

 

 

─向いてない、どう言うことですか!?

 

──お主には柔の拳を扱えん、ということだ。

 

─それなら継承者は誰に!

 

──刀奈が、いや次代楯無が継ぐ。柔の拳の才能ならば奴の方が上だ。

 

─そんな…………!!

 

 

 

“才能がある”と私にそう最初に言ってくれたのは誰でもない、老師だった。

姉より優れていると、姉より上だと言われたのは、言ってくれたのは老師が最初だった。

だからこそ老師の辛い修練にも耐えられた。それなのに、老師はあの時から私につきっきりで教えることはなくなった。何も教えてはくれなくなった。

全てを、持てる技を姉さんに教えると言って。

 

悔しかった、寂しかった、辛かった。

 

それまでの私を全て否定されたような気がしたから。

 

姉さんに修練の度合いで劣っていたとも思わない。最近の組手でも私と姉さんは互角だった。

でも、でも老師は姉さんを継承者に選んだんだ。

私よりも姉さんの方が相応しいと思って。

 

 

 

そして一年半、更識の“柔”を全て修めた姉さんの組手を見て私は心奪われた。

なんて美しい動きなのだろう、と。老師が私ではなくて姉さんを選んだ理由も頷けた。

しなやかで美しく、それでいて強靭、それこそが“柔の拳”が目指す場所なのだろう。だからこそただ強靭なだけだった私の拳は選ばれなかったのだ。

 

 

 

姉さんに憧れて見よう見まねで柔の拳の歩法や動きを真似したこともある。

その時に気がついた、いや気付かされてしまった。

 

“柔の拳”の完全な行使には特別な肉体が必要になるということに。

柔の拳はその美しい見た目とは裏腹に、使用者の肉体にかなり大きな負荷を強いる、その負荷を耐えるには先天的な肉体の強さと後天的に習得する業が必要になるのだということを。

 

私と姉の違いはそこだった。

私には才能がなかったのだ、柔の拳を扱えるだけの身体の強さが。耐えられるだけの強い肉体が。

 

それが姉にはあった。初めから決まっていたのだ、どちらが“柔の拳”を継ぐかなど……。

 

憧れていた対象にはなれないということを、この時に突きつけられた。

私が欲しいものを姉さんは持っていた。

その肉体も、才能も、全て。

 

それでも私が体術を求めていたのは、単に憧れだった存在から、無理だと分かっていても目を離したくなかった、背を向けたくなかっただけだろう。

 

一口で言えば“意地”だ。 私は天才なんだって、だからこそ更識の体術を手放さなかった。

蔵で見つけた指南書を独学で納め、更識に伝わる“剛の拳”を身につけて見せた。

でも誰も私を褒めてはくれなかった、理解を示してくれなかった。あの老師さえも。

 

側にいてくれたのは本音だけ。

 

なぜか、それは姉の存在があったから。

たった一人でISを組み上げ、その年で国家代表の立場になった姉さんを家の者たちは拍手して称えた。

 

だから私もISを組み立てた。

織斑一夏の存在で倉持技研のバックアップがなくなったのはむしろ幸いだった。

 

これなら姉さんと対等の条件に立てる、そう思ったから。

そうして自分の抱えたロマンを詰め込んだ玉鋼が完成した。

でも家の者は誰も褒めてくれなかった。むしろ更識の娘ならばできて当然のような顔をしていた。

もうこうなったら手は一つしかない。姉さんを超える。

それしか、なかった。

 

それ以外に、私が家の人間に認めてもらうにはそれしかなかった。

 

あの眩しかった姉さんを超える。

 

そして訪れた絶好の機会。学年を越えて、1対1の勝負。それに勝てば皆が、更識が私を認めてくれる。

 

もう姉さんの背中を眺めるだけじゃない。

私は越えたかったあの人を越えて見せる。

正面から挑んで姉さんを打ち倒してみせる。

 

 

どんどん昂る気持ち。そして見た彼女たちの試合。

南美の、鈴の、織斑一夏の、ラウラの、セシリアの、シャルの、箒の、皆の、そして姉さんの試合を見た。

 

誰もが輝いて見えた。

 

顔も身体も土煙や油、硝煙に晒して、どうなっても目の前の相手を倒そうという確固たる意思で皆はいた。

 

アリーナに立てば勝つこと以外を考えない、力強く、美しい姿。

 

普通の女の子なら誰しもが憧れるような、煌びやかな衣装や綺麗なメイクみたいな、そういう世界とは真逆の世界。

 

でもそんな雄々しい姿こそが最も尊い、私も、皆もそんな世界に生きている。

 

 

忘れていたような気がする。

そう私もそんな世界に憧れて、この道を歩んできた。

誰かに認められたい、確かにそんな気持ちもあった。

でも、そうじゃない。私がこの道を歩み始めたのはそんな理由じゃなかったんだ。

 

輝きたい、この雄々しくも美しい世界で。

私という、簪という私の姿を残したかったんだ。

 

 

今見上げた月は、とても白く輝いていた。

 

 

side out...

 

 

 

 

その日、決勝戦を明日に控えた夜のことだった。

 

更識楯無は一人、静かな道場で座禅を組んでいた。

 

白い月明かりが優しく照らすその中で静かに呼吸を整えながら楯無は何を思うのだろうか。

 

 

 

楯無 side

 

 

簪ちゃんの動き、老師に無理だと言われていた柔の動きをほぼ完璧にマスターしていた。

そして私が無理だと思った剛の動きも。

 

それにあの呼吸、更識に伝わる秘伝の呼吸法まで覚えてしまうなんて……本当に天才よ、貴女は。

 

でも負けない。私は“楯無”を継いでいるのだから。

あの時、楯無を継げと父さんに言われた時は心底驚いたわ。

まだ父さんは若い、これからも仕事ができるのになんでって。

でも納得した。父さんが完璧に柔の動きを扱えないからだって。

誰にも、何者にも、どんな状況にも流されない強靭な精神と柔軟な心を持たぬ者に楯無の本領は務めきれない。

 

そしてその心を作るのが更識の“柔の拳”だから。

 

だから父さんは私が柔の拳を継承した時に楯無の名も継がせたんだ。

自分では楯無の責務を十全に務めきれないから。

 

だからこそ私は揺るがない。自分を、楯無の在り方を。

 

 

簪ちゃん、明日貴女がどんな攻め方をしてきても私は揺るがないわ。

それが私の、楯無の武だから。

 

 

……ふと見上げた月はとても綺麗だった。

 

side out...

 

 

 

 





次回決勝戦!!


ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第156話 姉の意地、妹の意地


姉妹対決です。

では本編をどうぞ↓


 

 

この日がやってきた。個人トーナメント4日目、専用機組の決勝戦だ。

姉妹対決でもあるそのカードは高い注目を集め、開始一時間以上も前だというのに観客席はもう満員となっている。

 

「……どちらが勝つんだ、これは?」

 

「ん~、どっちだろうね。」

 

一夏の膝に座るラウラの疑問に南美は頭を捻る。

どちらも同じ系統の技術を擁する二人であるため、はっきりとした差がでるだろう。

今までの戦いを見て純粋な技術だけであれば大した差はないと南美は思っていた。

それはセシリアや鈴音、箒も感じていたことである。

 

 

『らっしゃぁああああああっ!! さぁ決着の時がやって来ました! 専用機組個人トーナメントの決勝戦!! 司会進行実況は昨日と同じく私、姫海棠あさりです! そして解説には織斑千冬先生をお呼びしておりまーす!!!』

 

「いええええええええ!!」

 

「ハラショォオオオオオオッ!!」

 

「YA-HA-!!!」

 

煽るように声を張り上げるあさりの言葉に観客もノリよく応える。

熱狂で一体感を増す会場をさらに煽るために会場の明かりが消え、スポットライトが出口を照らす。

 

『姉より優れた妹などいねぇ!! 私こそが学園最強なんだ。頂点はこの私だ、依然変わりなく!! さぁ妹よ掛かってこい、この私は逃げも隠れもしない!! 3年生、更識ぃ楯無ぃい!!』

 

赤いカタパルトから勢いよく楯無が姿を現した。

それに対抗するように青いカタパルトがスモークで隠される。

 

『妹が姉に劣ると誰が決めた! いいか私は天才なんだ!! 首を洗って待っていろよ! その玉座、殺してでも奪い取る!! 2年生、更識ぃ簪ぃいい!!』

 

「私は天才だぁ!!」

 

力強く宣言して簪はアリーナに着地する。

不敵な笑顔を浮かべた彼女は目の前の楯無を見つめる。

 

「……勝たせてもらう。」

 

そして簪は両腕を身体の前で回すと胸の前で拳と掌を突き合わせる。

それを見た楯無もそれに倣い同じ動作で拳と掌を合わせた。

 

「私が目指したのは我が姉の柔の拳、時は来た! 私は今、貴女を超える!!」

 

「いいでしょう。ならばその言葉を果たしてみなさい。私はそれを正面から受け止めよう……!」

 

二人の間でボルテージがマックスまで高まった瞬間、開幕を告げるゴングが鳴り響く。

二人はまったく同時に動き出した。

 

「「はぁぁっ!!」」

 

同時に突き出された掌底はぶつかり合い、そこを支点にして二人は回し蹴りを放つ。それもまたぶつかり合い、装甲同士が火花を散らした。

しかし二人は動きを止めない。回し蹴りをぶつけた状態からお互い肉薄し両手を使った掌底をぶつけ合う。

お互いがお互いの動きを把握しきっているように、寸分の狂いもなくまったく同じ動きを見せる二人に観客は息を呑んで見守っていた。

そして数分後、一進一退の攻防を終えた二人は1度距離を取る。そこで切れた流れは観客に息をつかせ、熱狂が加速した。

 

『な、なんという攻防でしょうか!! 実況を差し挟む隙間もありませんでしたーッッッッ!!』

 

「す、すげぇ……。」

 

「美しい……ハッ!?」

 

「とても、綺麗な動き……。」

 

あさりもハッとして我に返りマイクを握る。観客たちも二人の動きに呑まれていたのか、あさりの声を聞いてやっと呼吸を思い出す。

舞踊のような、見る者の目を引き込み呼吸さえ忘れさせる美しい二人の組手、見事と言う他にないだろう。

 

 

「流石ね簪ちゃん。」

 

「ひゅぅ……、ひょぉ……。当たり前、姉さんを超えるために積んできたんだから。」

 

楯無に比べ呼吸の荒さが目立つ簪であったが、まだ瞳には余裕が見える。

睨み合いからまた二人ともまったく同じ構えを取った。そして示し合わせたように動き出す。

その動きはもはや常人に捉えきれるものではなく、ほとんどの生徒たちは追いきれていない。

 

「ひゅぅ、ひゅぅ! 行くぞ!!」

 

「いざ、捉えられまい……!」

 

高速でアリーナを飛び回りながら火花を散らす二人の姿をしっかりと捉えているのは専用機持ちとそれに準ずる力の持ち主だけだ。

卓越した技術の応酬、応酬、応酬!

それは達人同士の切り合い、気を抜けばすぐに死ぬ、そんな緊張感の漂う試合。その二人の空気に会場は熱気に包まれながら静かに、熱狂は収束し静寂が包み込む。

 

 

「……鈴、南美、二人はアレを全部見切れるか?」

 

静かさの中で一夏が喉を鳴らして唾を飲み下すと隣に座る二人に訪ねた。

その表情は真剣そのものであり、二人は試合から目を離さずにそれに答える。

 

「……どちらか一方の攻撃に対して回避に専念するなら見切れると思う。」

 

「こうして俯瞰で見てても両方同時は流石に無理ね。」

 

「それほど二人の技術は高度……!」

 

「二人でも無理なのか……。」

 

目を離さない二人の視線の先には勢い衰えることなく攻防を続ける簪と楯無、しかしそれら全てのやり取りが見えている訳ではない。

だがそれでも違和感を、不自然な感覚を感じとることは出来る。

 

「軋み、いや歪みかな……。」

 

「簪から違和感がある。」

 

「怪我?」

 

二人が感じた不自然な感覚、それは簪からのものだった。徐々に荒くなり乱れていく呼吸、痛みを堪えるような必死の形相、脂汗の浮く額。それだけあれば十分だ。

しかし三人、いや四人以外にそれに気付いた者はいない。

なぜならその変化を簪は悟られないように必死に隠しているから。だからこそ普通の人間には分からない。

長い間武の道にいた南美と鈴音、そして軍人だったラウラだけが観客席でそれを感じ取れたのだ。

そしてもう一人は現在進行形で簪と対峙する楯無だ。

 

「ひゅぅ……! ひゅぅ……!」

 

「はぁぁ!!」

 

高速で移動しながら呼吸を整える簪に対して楯無が強烈な一打を放つ。それを簪は受け流して距離を離した。

距離を置くことで一拍の間を入れた簪はすぐまた楯無と距離を詰めて仕掛ける。

 

(っ……ぁあ!? 筋肉が、骨が……!!)

 

常に全力を引き出し続けてきた簪の体が負荷限界間近になり悲鳴をあげる。

全身の筋肉が裂け、骨が軋むような感覚に襲われ簪は顔を歪める。しかしそれでも彼女は動きを見せる止めない。絶対に目の前の姉に勝ってみせるという意地だけが彼女の身体を突き動かしていた。

 

(柔の動きはもう限界……だが! それでも足掻く!!)

 

「……!?」

 

簪は至近距離からほぼノーモーションで跳躍し強烈な飛び蹴りを楯無にぶつける。

楯無はギリギリのタイミングではあったが腕を盾にすることに成功し直撃を免れる。だがその強烈な一撃に楯無の体は大きく壁際まで飛ばされた。

 

「あれは……獄屠拳!?」

 

「いつのまに?!」

 

簪の放った蹴りは南美の使う獄屠拳そのもの。

それを完璧に使って見せた簪に南美は目を見開いた。しかしそれだけでは終わらない。

簪は軽く跳躍すると空中で急加速して壁際に押し込まれた楯無に手刀を突き出して肉薄する。そう、鈴音の使う七死騎兵斬である。

 

「く……!」

 

「まだまだ! じょいやぁあっ!!」

 

奇襲のように放った七死はガードされるものの、それも簪の戦略のうちだった。腕で防がれたことを一瞬で認識した簪は軽く腕を弾いて離れる。

しかしその瞬間に右足を伸ばして楯無を自分側に引き寄せた。そして引き寄せる動きを利用して真っ直ぐに突き出した正拳突きを彼女にぶち当てる。

力強く見るものの心を雄々しく揺さぶるそれはまさしく更識の剛の拳だった。

 

『ここで一転! 簪選手の動きが変わる!! そして捉えた! あの楯無選手を完璧に捉えました!!』

 

「この剛拳、いつまで受けられるか!!」

 

「つぅ……!」

 

楯無のガードの上から力業で強引にダメージを遠そうと簪が拳を振るう。

そんな暴風のような簪の攻勢に楯無は防御に専念し始めた。

 

「すげぇ、あの楯無さんが防戦一方に追いやられた……。」

 

「単純に攻めの密度があがってる。あの1発1発の重さに加えて回転の早さ、さすがの楯無さんも受け流して攻めに回れない?」

 

「まさか、このまま会長が負ける?」

 

攻勢に出てからの簪は凄まじいの一言だった。

これこそが剛よく柔を断つという言葉を端的に表しているように見える。

 

(っ……、本当に強くなったわね簪ちゃん。柔軟に、貪欲に吸収して。私にはない姿勢。でも……!)

 

楯無が簪の苛烈な攻めを捌いていると、ざわざわと観客席がざわつく。

それはつい去年に行われたモンド・グロッソでも見られた光景だった。そしてついに全員が今起きている現象を完全に認識した。

そう、攻めているはずの簪のシールドエネルギーが楯無のそれを下回りはじめたのだ。

 

「な、あれは?!」

 

「アンジェさんとの試合でも見た……!」

 

攻めている側がどんどんと減っていくというその現象に観客席の生徒たち、いや教員でさえも疑問を口々に漏らす。

しかしそれでも何故それが起こっているとか完全に理解できる者はいない。そう、楯無を除いては。

 

(ふふ、霧纏いの淑女の力よ。驚いたかしら簪ちゃん。貴女がどれだけ仕掛けて来ても私は自分を崩さないわ。それが“楯無の武”だもの。)

 

(何が起こっている?! センサーには何も反応がない、それなのに……!! 早く決めなくては!)

 

徐々に減っていくシールドエネルギーを見て簪に焦りが生まれる。しかしそれがいけなかった。

焦りで生まれた時間の隙をついて、それまで守勢に回っていた楯無が動いた。

一瞬、そうほんの一瞬だけ簪のラッシュが緩んだ隙をついてのこと。

あの歩方を使って楯無は簪の横を取った。

 

「揺らいだ者に勝利はない。」

 

「な……っ!?」

 

素早い掌底の一撃を受けて簪の体は吹き飛ぶ。そしてその体はアリーナの壁にぶつかってバウンドする。

それを見た楯無は確信を持ってその場に座禅を組んで座った。

 

(ナノマシン活性率は規定値を超えた……。今なら打てる……!)

 

座禅を組んで座った楯無は両手を静かに掲げる。その姿勢は準決勝で南美に見せたアレと同じだ。

 

「有情破顔拳……! はぁぁん!!」

 

勢いよく振り下ろされる楯無の両手、そしてゼロになる簪のシールドエネルギー。

瞬く間の出来事にブザーが鳴ったあとも観客席は呆然としていた。

そしてコホンという千冬の小さな咳払いで我に返ったあさりがマイクを握る。

 

『け、決着ぅううううっ!! 学園最強はやはりこの人だった!更識楯無ぃいい!!』

 

スピーカーを通して爆音で響き渡るあさりの声でようやく観客席も試合の終わりを認識し、二人の健闘を称えようと言葉を投げ掛ける。

王座を死守した楯無への称賛、最強に対して肉薄し途中まで圧倒した簪への温かい言葉。

それら全てが一体となってアリーナの二人に降り注ぐ。

 

14人全員が死力を尽くして挑んだトーナメントはこれで終わりを告げた。

そしてこのトーナメントは、これからのIS産業に大きく影響を与えることとなるのだが、当人たちはまだそれを知らない。

 

 

 

 





楯無さんのアレのトリックですか?
そのうち説明するかもですししないかもです。

ではまた次回でお会いしましょうノシ




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第157話 和解した姉妹、動き出す世界


今回はいつもよりやや短いです。


では本編をどうぞ↓


 

 

──揺らいだ者に勝利はない

 

あの決勝戦で楯無から言われた言葉を思い出し簪は起き上がる。

場所は彼女がいつも使っている倉庫兼整備室。燦々と輝く日差しもあり倉庫の中は蒸し暑い。

蒸し暑さを少しでも軽減しようと簪は作業用のつなぎの上を脱ぎ、タンクトップ姿を露にする。

そしてどうせ休憩するならと軍手もその場に放り捨て、一つしかない小さな窓を全開にした。

そこまでしてやっと涼しさを味わえた簪は装甲を取り付けた玉鋼を見て息を吐いた。

 

「揺らいだ者、ねぇ……。」

 

暑さから額に浮いた汗が額から頬に伝い床に落ちる。

汗で張り付いたタンクトップが気持ち悪く、簪は胸元を扇いで火照った身体を冷やす。

あの決勝戦から時間が経っても思い出すのは姉の一言である。

確かにあの時彼女は揺らいだ。戦い方ではなくて自分の心が。楯無の反撃に一瞬だけ揺らいでしまったのだ。

それが彼女には悔しくて仕方がなかった。

しかし報われた部分もある。

あの決勝戦の夜のことだ。姉から呼び出された簪は呼び出されるままに応じた。そして誘われた部屋に入ると待っていたのは姉からの称賛。

 

認めてくれた、あの姉が、姉から認められた。

長年願ってきたことが不意に叶った簪はその時、訳も分からずに泣いた。

追いかけて、それでも届かなくて、でもやっぱり追い付こうともがいてきたあの人にようやく並べたような気がしたから。

だから彼女は泣いた。幼い頃、まだ姉に甘えていた時のように。

 

 

 

 

 

さて、そうして更識姉妹がまた姉妹の交流をしている頃、フランスのデュノア社では───

 

 

「お久しぶりですなぁ、デュノア社長。いや、暫くぶりです。」

 

「そうですねぇ、まぁ日本とフランスの間ですから仕方ないでしょう。」

 

如月重工の藤原とデュノア社社長のジャックが開発室で談笑していた。

開発室という、企業の秘中の秘とも言える場所になぜ藤原がいるのかと言えばジャックが招き入れた以外にはないのだが。

実を言ってしまえばデュノア社と如月重工は仲がいい。主にパイルバンカーで。いくつかの武装を共同で開発したこともある。

理由は波長が合ったから。技術者も上層部も。

そういった理由で如月重工はデュノア社が本当に苦しい時も支援を止めなかった。

 

だからデュノア社側から如月への信頼は篤い。

 

「それで……何の話でしたか……。」

 

「あぁ、それはコイツを読んでもらえば……。」

 

そう言って藤原は紙束をジャックに渡した。渡された紙束を手にとって中に書かれた内容を1文字1文字丁寧に読んでいたジャックが手を止めて藤原に目を向ける。

そこには相変わらず笑顔のままな藤原がいるだけだ。

 

「……中々に興味深いですなぁ……、しかし、世間が納得するかどうか……。」

 

「納得させるんですよ。ISは兵器じゃないって。その為にも貴方たちの協力がいるんだ。」

 

「兵器ではない、……そうですね。他の企業にもこれを?」

 

「勿論だ。如月(うち)とデュノア社だけが言っても意味がない。みんなが世界に言うんだ。今ごろはうちの交渉役が色んな所を飛び回っているはずさ。」

 

ジャックの質問に対して藤原は答える。その瞳は好奇心に溢れていた。まるで親に夢を語る子供のように。

 

 

 

「面白そうな話だ。(オレ)は乗るぞ。」

 

スペインのソフィア・ドラゴネッティも、

 

「あら? ソフィアが乗るのなら私も乗るわ。その方が面白そうだもの。」

 

イタリアのアナスタージア・ブロットも、

 

「……反対する理由がない。」

 

日本の井上真改も、

 

「あはは、藤原さん主導の企画に乗らない理由はありませんって。」

 

亡国機業(ファントムタスク)の巻紙・オータム・礼子も、

 

「面白い話だ。イギリス代表として1枚噛むぞ、なぁアーカード。」

 

「勿論だマスター。」

 

イギリスのインテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングとその従者も、

 

「おもしろそー! 私が協力すればいいの?!」

 

中国の李青蘭も、

 

「ジャックには話が通ってる、ね。用意周到なことだ。……いいだろう、協力する。」

 

フランスのアンジェ・オルレアンも、

 

「よかろう、頂点たる余が力を貸してやる。ありがたく思えよ。」

 

「頂点ってあんた……。でも本当に面白そうね。」

 

「認めてあげるわ、その提案。」

 

スイスのイザベル・ローエングラムと岸波白野、ベルンカステルも、

 

「ほ、ほんとにヒルダが協力すればいいの?」

 

「そうらしいな。」

 

ドイツのヒルデガルト・ワーグナーとミュカレも、

 

「レイコが乗ったんだろ? なら私だって乗るぜ!」

 

カナダのアレクシア・ディオンも、

 

「私としては異論はありませんよ? 上はどうか知りませんが。」

 

フィンランドのスミカ・ユーティライネンも、

 

「ああ、協力しよう。後輩のためにな。」

 

アメリカのハスラー・ワンも、

 

「むしろこちらからお願いしますよ。協力させていただきますって。」

 

ロシアの更識楯無も、

 

皆がみな、藤原の提案した話を快諾する。

誰もが荒唐無稽だと思うことを彼女らは実現すると、確信していたのだ。

 

そうして、世界は大きく動き出す。

 

 

 

 





そろそろ最終回です。(南美編が、ですが。)

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第158話 父と娘


大変お待たせいたしました!!(焼き土下座)







 

 

「ん……、朝かぁ。」

 

あの激闘の個人トーナメントのあった週の終わり、南美は実家に帰ってきていた。

そのまま妹と触れあい、つかれを癒すように自室のベットでぐっすりと寝た彼女はカーテンの隙間から漏れる朝日で目を覚ます。

時計を見ればもう8時、いつも早起きな彼女からすれば割りと寝坊助な朝だった。

 

大きく背伸びをして凝った身体を解して一階に降りれば父親の義仁がテレビを見ていた。

テレビではブラジルで開かれているバーリトゥードの大会の様子を中継している。義仁は中継されている試合の内容を事細かに観察するように眺めていた。

しかし娘の南美の姿を視界に捉えると直ぐに朗らかな笑みを向ける。

 

「おはよう、よく眠れたみたいだな。」

 

「うん、おはよう父さん。」

 

二人は挨拶を交わし、また視線をテレビに向け直す。テレビに映るのは今勢いに乗る格闘家、ギース・ハワードの試合、テレビに映る観客も皆、目の前で巻き起こる技と技のぶつかり合いに釘付けのようだった。

 

「……すごい、試合……。」

 

「あぁ、そうだな……。」

 

思わず南美はそう小さくこぼす。その発言に父、義仁は口の端に笑みを浮かべた。

 

「まるで、父さんの試合みたい……昔に見た、あの試合……。」

 

「ふふ、南美にはギースの試合がそう見えるのか?」

 

「うん……、キラキラしてる……。」

 

ポツリポツリと、普段の彼女とは違う受け答えの仕方に義仁はゆっくりと確認するように尋ねていた。

目の前の、父とは違う男の背中がかつて自らが憧れた父とそっくりに映る……、それは何故なのか、南美は自分の中で考えていた。

 

 

体格なのか……いや、違う……似ているけれどそうじゃない……

 

なら、技量なのか……、そうとも違う……

 

なぜ、あのときの父さんと重なって見えたのだろう……

 

 

 

「奴は……楽しんでいるな、心の底から、目の前の強者と戦うことを……。」

 

「楽しんでる……、そっか……。」

 

すとんと南美の中で納得したように、腑に落ちた。“あぁ、なんだ。簡単なことだったじゃないか”と彼女は自分を笑う。

答えはすぐそこににあったのだから。

楽しむ、その姿勢が父親と重なって見えていたのだ。

 

楽しむこと。自分自身が戦いを楽しみ、見ている者の心を揺さぶる、それこそが憧れていた父親のファイトだった。

 

南美は走り出した。自分の中で確たる答えが見つかったから。彼女は走る。義仁はその後ろ姿を目を細めて見送る。

息切らして、額に汗を浮かべ。それでも彼女は駆ける。目指したのは夢弦市で一番高い山の頂点。

高い所から夢弦の、生まれ育った街を見下ろして、そこで彼女はやっと息をつく。

額を伝う汗を拭い、薄い空気をめいっぱい肺に吸い込んで呼吸を整える。

そうして息を整えた彼女はまた肺いっぱいに空気を吸い込む。すぅと小さな音を立てて空気を吸い込んだ南美は意を決したように口を開いた。

 

「やってやる!やってやるぞ!!」

 

彼女の叫びが夢弦の街に響く。

 

 

 

 

 




 
次回は最終回になります。その後エピローグなどをして第一部完とさせていただきます。




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第159話 彼女達の晴れ舞台


これで「IS世界に世紀末を持ち込む少女」第1部は完結となります!
この話の後に、まとめのエピローグを挟んで第2部となります!


 

 

 

 

第5回モンド・グロッソから3年の月日は流れ、このときが来た。第6回モンド・グロッソ、IS乗りたち全員の目指す高みの世界だ。

開催地は日本、IS学園のある国であり、IS開発者の出身地ということもあり。例年よりもさらなる盛り上がりを見せている。だがしかしそれだけではない。

もう一つの理由があったのだ。

 

 

『さぁさぁさぁさぁ!! ついにこの時が来たぜ野郎どもよぉおおお!!!』

 

ここは東京、日本で一番広く大きなISアリーナ。実況席でマイクを握っているのはあの織斑世代と言われる世代のIS学園卒業生、元報道部の姫海堂だ。

熱のこもった彼女の言葉に会場に押しかけた人々は大きな声を張り上げる。

 

『この時を待ってたか!てめぇらぁ!!』

 

「「「うぉおおおおおお!!!」」」

 

『そうだよなぁ!私もそうだ!!IS学園にいたときから、この時をよぉ!待ってたぜ!!』

 

「「「うぉおおおおお!!俺らもだぁあああ!!!」」」

 

姫海堂の言葉に観客たちは更に大きな声を張り上げてアリーナを揺らす。もう待ちきれないとばかりに会場の至る所で叫ぶ声が響く。その声に共感した観衆が続くように声を張り上げる。

その意を汲んだ姫海堂が頷いて次の言葉を紡ぐ。

 

『それならよぉ!!もう待ちきれねぇ、奴らを呼ぶぞ!!!』

 

「「「いぇえええええええっ!!!」」」

 

姫海堂の言葉に反応してか、アリーナの低空でスモークが噴出し、視界を覆う。

 

『先陣を切るのはまずはコイツだぁ! 小柄な少女と侮るなかれ!鍛え抜かれたその肉体、その技術!百戦錬磨の格闘家!! 中国代表、甲龍……凰鈴音!!!』

 

「ぃいっよっしゃぁああ!!」

 

スモークで作られた白い地面を雄叫びとともに切り裂いて、赤黒い装甲を身に纏った鈴音が姿を現した。

その彼女の雄々しい姿に観客席の一部からエールを送る叫びが響く。

その声に応えるように鈴音は数回ほど宙を旋回してみせる。

 

『相変わらず派手好きだなぁ!!次だぁ!! 見た目は変わんねぇ!!変わったのはその覚悟!国家代表から譲り受けた最強装備をドレス代わりに、今日の舞台はモンド・グロッソ!イギリス代表、ブルー・ティアーズ・アーカード! セシリアァアアっ!オォルゥコットォオオ!!』

 

姫海堂の言葉、それを合図に現れると思っていた観客は地面を覆う白いスモークに注目する。しかしそれとは逆に彼女は上空から現れた。

深紅の鮮やかな装甲は光を反射してその美しさを見せ付ける。

アリーナに向かって垂直に高速で降下するセシリア、このままでは地面に激突する、観客達がそう思った瞬間にふわりとセシリアは体の向きを反転させて地面スレスレで停止する。

その衝撃で周りのスモークを吹き飛ばす。余裕綽々な表情のまま優雅に振る舞うセシリア、自慢の金髪を撫で周囲に視線を向ける。

 

『くぅうう!!痺れるぅ! 続いてコイツだぁ!! 久々に会ったら背が伸びててドキっとしたぜ!!在学中はファンクラブ凄かったよなぁ!! フランス代表!ラファール・リヴァイブ・カスタム・トロワ!シャルル・デュノア!!!』

 

「「「キャァアアアアアっ!!」」」

 

一際大きな黄色い声援を受けてシャルが姿を現した。IS学園にいたときよりも背は伸び、中性的な見た目に拍車がかかっており一層“貴公子”の二つ名が似合うようになっている。

あのときと変わらない、専用機を身につけて落ち付いた様子でアリーナを飛ぶ彼女の姿は観客の瞳を惹きつける。

 

『かぁああ!キザだねぇ!いかしてるぜ、シャル!次はコイツだ! “私は天才だ!”その言葉は真実だったぜ!私はあのときの戦いを忘れてねぇ! 日本代表、玉鋼! 更識簪ぃい!!』

 

「はーはっはぁ!!」

 

姫海堂のアナウンスが終わるといつもの笑い声を響かせながら簪が登場する。要塞を思わせるあの重厚な装甲で全身を包み込んだ簪はブースターの大きな爆音を轟かす。

祝砲のように空砲を上空に向かって一発、二発と打ち上げた簪は小さくブースターをふかしてシャルの隣に移動する。

 

『変わんねぇ!!嬉しいぜ!! 次はドイツだ!こいつだ!! お前いつの間に結婚したんだよ!自分のことみたいにうれしかったよ! さぁ幸せ奥様、腕は鈍ってないだろなぁ!! ドイツ代表!黒い雨(シュバルツェア・レーゲン)! ラウラ・ボーデヴィッヒ!!』

 

「ふん……!!」

 

シュパァッとキレのいい音を響かせながらカタパルトを飛び出し、空中を旋回したラウラは不敵な笑みを浮かべていた。

自信に満ちているとはまた違う、充足した笑顔だ。

 

『さぁて!!お次はこいつ!! 入学そうそう生徒会長に喧嘩を売った超大物! あのときの言葉、“闘技場の覇者”を越えるって大言を実現させたロックな野郎の登場だぁ! アメリカ代表! フィードバック! ウィレミア=(ロドニー)=(ジャック)=ゴールディング!!』

 

「最強は、このウィレミアだぁ!!」

 

彼女は両腕が武装と直結しているとう独特な、武器腕とも言われる武装による特徴的なシルエットの機体を乗り回す。

IS学園でも1、2を争う跳ねっ返り娘が姿を現した。かつての無謀と周りから言われていた言葉、それを遂に実現させてこの舞台へと乗り込んできた。

 

『Cooooooool!つーぎは、こーいつだぁ!! 立てば芍薬、座れば牡丹! 戦う姿は彼岸花!! 真っ赤な体を奮わせて、今日も戦うお嬢様! あのドラゴンを退けて代表になったって聞いた時はビビったぜ!! スペイン代表! 赤い鳥(パハロ・ロッホ)! セサルぅ!!ヴェニィデェッ!!』

 

「よろしく頼むぞ!」

 

翼を、巨大な鳥を思わせる機体が空を駆け、セサルがアリーナに降り立った。

高潔さを湛えた瞳は真っ直ぐに目の前のライバルたちを見据えている。

 

『お嬢!頑張ってくれよぉ!お次は型破りなコイツだぁ! この大会に出るために、代表候補生の国籍移籍って偉業を成し遂げた愛すべきバカ!恋する乙女は止まらない!香港代表! 漆虎! 王春花!!』

 

「婚活戦士は止まらないのだぁ!!」

 

ビュンっと音を鳴らしながら空を飛んでいた春花がふわりと着地し、演舞を披露する。

ピンと体に一本の筋を通したような、キレのある演舞は見る者の目を惹き付けた。

 

「いいねいいねー!この場にヴィートがいないのが悔やまれるぜ!さすがにスミカさんの壁は高かったと見えるぜ!

んじゃあ!お次だぁ!サムライガール!油断してたら二振りの刀で三枚卸しだぜ! 開催地枠! 紅椿! 篠ノ之箒ぃ!!」

 

「ふっ……!」

 

姫海堂の紹介を受けて、いつもと変わらない深紅の機体を駆るポニテの彼女がカタパルトから飛び出した。

腰には唯一の武装とも言える一対の刀を帯びている。

 

『いいねいいねー!くぁっこいいぜ!!そいじゃあ、次の紹介だぁ!』

 

『お次はあの男!唯一の男性操縦士!織斑千冬の実の弟!最強を継ぐために剣を握った剣士、国際IS委員会選抜代表!!織斑ぁ!一夏ぁ!!』

 

「うぉぉぉっ!!」

 

どひゃあっ!といつ独特なブースト音を鳴らしながら宙を舞い、墜落するかのような速度でアリーナへと降り立った甲冑、白い鎧武者がそこにはいた。

カチャカチャと鎧の音を鳴らしながら、アリーナにて待つ友の元へと歩み寄るその姿は、まだ幼さの残っていた学園時代とは違う、本物の男として、一人前の戦士としての誇りが滲んでいる。

 

「よぉ、久しぶりだなみんな。」

 

雰囲気が変わろうとも、中身はあのときの一夏で、気さくにライバル達へと声を掛ける。その姿にかつての級友たちは思わず頬を緩ませた。

次々と紹介される選手たち。楯無はもちろん、スミカ・ユーティライネンといった往年の代表も現れる。

そして、彼ら、彼女らは一様に最後の一人が出てくるであろうカタパルトへと目を向けた。

 

「最後はコイツだぁ!!私ら世代のヤベーイ奴! 国際企業連盟選抜代表! 最強の格闘家の血を引く女!我こそ最強! 北星ぃ南美ぃ!!」

 

「「「ヴォー!!!ノーサァァァア!!」」」

 

南美の名がアナウンスされれば、会場の一角から割れんばかりの大歓声が鳴り響き、彼らの女王を出迎える。

IS学園に入学し、その意識で周りに多大な影響を残した女、自らが最強であることを目指した女、同じ専用機持ちたちと共に研磨しあい、業を磨き続けてきた、自称最強の格闘家、北星南美の登場である。

 

「イィィッヤァッフゥゥゥゥゥ!!」

 

こうして、織斑世代と呼ばれたIS学園最強の面子がモンド・グロッソの会場へと出揃うのであった。

 

 

 

―時は流れ、数年後…ある一人の女性がペラリ、ペラリとアルバムをめくり、そこに納められた写真の1つ1つを眺めていた。

そして、あるページに差し掛かったところで、その指が止まる。マジックで「第6回モンド・グロッソ」と右上に書かれたページだった。そこに写るのは色とりどりの専用機とそれを身につけたパイロットたち。

ページの中央にはトロフィーを大きく掲げる少女と、それを祝福するように寄り添う親友たちを写した写真が貼られていた。

 

 

 

 

 



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エピローグ みんなのその後


これで南美編の終わりです!


 

 

・北星南美/サザンクロス

…第6回モンド・グロッソに国際企業連合選抜の代表として出場。総合優勝を果たし、ブリュンヒルデの称号を手にいれた。その後、優勝を手土産に恋人のほんわ君と結婚式を挙げる。その披露宴には各国の国家代表やらKGDOの重役やらが集まり、かなりの規模で行われた。

結婚後、男女の双子を出産し2児の母となる。母親となっても格ゲーの腕は衰えておらず、産気付いた場所がTRF‐Rだったことからも彼女の格ゲー愛が分かる。

 

 

 

・織斑一夏/白式弐型=ハクメン

…第6回モンド・グロッソに国際IS委員会選抜代表として出場し、総合準優勝、近接戦刀剣部門にて最優秀賞を授賞するなど、その存在感を示した。

その後、教員免許を取得しIS学園に教師として赴任。その結果、織斑姉弟目当てにする受験生が増えたらしい。

就任3年目、カセンこと星熊勇儀とラウラ・ボーデヴィッヒにそれぞれ給料3ヶ月分のダイヤの結婚指輪を贈り無事結婚へと漕ぎ着けた。

その時一悶着あったらしいが、当事者達は何も語らない。

ラウラ、勇義との間にそれぞれ子供を授かり二児のパパとなる。

 

 

 

・セシリア=オルコット/ブルー・ティアーズ=アーカード

…第6回モンド・グロッソイギリス代表として出場し、遠距離狙撃部門と銃撃戦部門で優秀賞を授賞し、ヴァルキリーの称号を得る。

その後は実家のオルコット商会の経営者と国家代表候補生の特別コーチに就任した。。

モンド・グロッソのヴァルキリーということもあり、社交界の華として扱われ、求婚してくる者は数多くいたがどの貴族の男性も彼女の心を射止めることはなかった。

子供は養子を一人引き取り、その子を実の子のように可愛いがったという。

晩年の彼女はインタビューで恋人も作らず、結婚もしなかったことについて尋ねられると微笑んでこう言った。

「結婚だけが女の幸せではありませんもの。それに、私の心を揺り動かした殿方はついぞ私に振り向くこともありませんでしたから。」と。

 

 

 

・篠ノ之箒

…第6回モンド・グロッソに開催地特別枠として選ばれて出場した。近接戦刀剣部門で優秀賞を授賞した。

その後は篠ノ之流剣術道場を継ぎ、師範として門徒の指導にあたる。モンド・グロッソに出場した者の道場として有名になり、幾人もの道場破りが現れたが、その全てを叩き伏せたという。

その後、婿を取り仲睦まじく親子で道場経営をしている。

 

 

 

・シャルル=デュノア/ラファール・リヴァイブカスタムトロワ

…第6回モンド・グロッソにフランス代表として出場、銃撃戦部門ではセシリアと優秀賞を分けあった。他の専用機たちと違い、量産型のカスタム機で大健闘したことでデュノア社の評価が再上昇する結果となった。

モンド・グロッソの後は副社長に就任、父の職務をすぐそばで支え続けた。

その後も来日することが多く、あのときの親友たちと旧交を温めるなどしていたらしい。

 

 

 

・ラウラ=ボーディヴィッヒ(織斑ラウラ)/シュヴァルツェア・レーゲン

…第6回モンド・グロッソにドイツ代表として出場、その後正式に一夏と夫婦となる。一夫多妻についてはいろいろと言われたものの「愛さえあればよかろうなのだァァァァッ!!」と周囲の小言を黙らせたという。

娘はラウラの色白銀髪の外見を色濃く受け継ぎ、一夏の剣術バカさ加減を受け継いでいた。

結婚後は、黒兎隊の実権をクラリッサに譲り、自分は一線を退いて子育てに専念したという。

 

 

 

・鳳鈴音/甲龍

…第6回モンド・グロッソに中国代表として出場、近接格闘部門で優秀賞に輝くなどの活躍を見せた。

その後は中国で国家代表候補生たちを相手に指導教官としての役割を務め、同国家での格闘戦の底上げをした。

後進に道を譲り日本に帰国するといつの間にか母親が再婚、KGDOのクリザリッドが自身の父親になる、ラウラの出産など驚きの連続であったと言う。

意中な男性と結婚すると娘を出産。一児のママとなる。

その後は母、自分、娘の親子三代で料理屋を切り盛りしたていった。

 

 

 

・更識簪/玉鋼

…第6回モンド・グロッソに日本代表として出場、直前に行われた最終選考会ではそれまでの代表である井上真改を下し文句なしの代表入りを果たす。

モンド・グロッソでは総合優勝を果たした南美と激闘を演じた楯無を限界まで追い詰めるなど、大会を大いに盛り上げた。

その後はぶらり武者修行の旅に出るなど、最後まで自由人である。途中南美の勧めもあり、夢弦裏ストリートファイトへと参加、人気ファイターとなる。

 

 

 

 

その後、歴代の国家代表や国際企業連盟、国際IS委員会による同時声明発表により、ISの軍事利用の全面禁止、スポーツとしてのISの側面が打ち出されていった。

 

 

 

 



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完結致しました

 

どうも皆様、IS世界に世紀末を持ち込む少女をお読みいただき、誠にありがとうございます。

 

投稿者活動報告でも書きましたが、この度本作をリメイクし、北星南美、織斑一夏たちの冒険をまた新しく始めることになりました。

 

世界観や設定などはそのままに、未回収に終わった伏線や不足していた描写、描かれなかった裏側などを新しく書き下ろしていこうと思っています。

 

タイトルを

 

「IS世界に世紀末を持ち込む少女リベイク」

 

と題しまして、投稿を初めていく予定です。

 

本作をご愛読して頂いた皆様に今一度深く感謝するとともに、今後とも地雷一等兵の作品へのご愛顧をよろしくお願いする次第であります。

 

「第二部を始める」という言葉もありましたが、第一部を駆け足に終わらせてしまった、且つ、その出来に、私自身が納得出来ない部分もあり、誠に我が儘勝手ながらリメイク版を編集、投稿させていただきます。

 

 

リメイクの内容と致しましては

 

・冗長と思われる話のカット

 

・↑の内容カットに伴う、描写変更や、細かなシナリオの変更

 

・登場人物の一部変更、主に一夏たちの師匠役となる人物らの変更

 

などを行う予定ですが、リメイク前、オリジナルと比べると大きくシナリオが変わる、ということはないと思われます。

リメイク版執筆中に、こうした方がより面白くなると思った場合は、脚本を変更するようなこともあるかもしれませんが、その時は生暖かい目で見守っていただければ幸いです。

 

では、長くなりましたが、ジャギドラム缶ハメを以て締めの挨拶とさせていただきます。

 

ジョイントキィ ジョインジョインジョインジャギィ デデデデ ザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー ヒャッハー ペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッ ヒャッハー ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒ K.O カテバイイ

 

 

 

バトートゥ デッサイダデステニー ペシッ ヒャッハー バカメ ペシッ ホクトセンジュサツ コイツハドウダァ ホクトセンジュサツ コノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ ヘェッヘヘ ドウダクヤシイカ ハハハハハ

 

 

 

FATAL K.O マダマダヒヨッコダァ ウィーンジャギィ パーフェクト

 

 

 

では皆様、今後とも「IS世界に世紀末を持ち込む少女」を何卒よろしくお願い申し上げます。

 

 

 



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