第一次深海大戦 (夜間飛行)
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プロローグ:5人の兵士の物語
Siege


どうも!はじめまして!夜間飛行です!
新年を迎えて何か新しいことでも始めようかなーなんて感じで書き始めました!
処女作なので文章内容とかは駄文だと思います。
それでもなんとか頑張って書きたいと思います!


深海棲艦。それは我々人類の天敵。人類は太古の昔から数多くの争いを繰り返してきた。

 

もはや平和な時期よりも戦争をしていた時期の方が多いのではないかと思えるぐらいだ。

 

だが1900年12月31日。19世紀最後の日、1隻の貨物船が謎の爆沈を遂げたことによって全ては変わった。

 

原因不明のためとりあえず事故として処理されたが、それから同じ海域で謎の沈没する艦船が続出した。

 

そして敵はついにその姿を現した。

 

彼女たちは自らを『深海棲艦』と名乗った。

 

彼女たちは瞬く間にほぼ全ての海域を占領した。

 

現存の武器は通用せず、人類存亡の危機に陥った。

 

しかし、そこへ人類の希望が訪れる。妖精である。

 

妖精たちは技術提供を申し出てくれた。

 

様々な深海棲艦に通用する機関銃や手榴弾などを作った。その中に見慣れないものがあった。

 

それは女性が装着し海の上を滑り敵を攻撃するという『艤装』、空を翔け敵を攻撃する『飛装』、地を駆け敵を制圧する『戦装』と呼ばれるものだった。

 

直ちに実戦配備され、使用者の選定が開始された。

 

各国軍隊で厳正なる審査のもとその適合者が選ばれた。

 

人々は彼女たちをそれぞれ『艦娘』『空娘』『陸娘』と呼んだ。

 

---???side---

どうしてこうなった?私は艦娘だったはずだ。

 

なのに今は土まみれになりながら敵に向かって砲弾でだけでなく機関銃を撃ちまくり手榴弾も投げている。

 

私は敵の占拠している城を攻略中である。

 

私がビラール・ペロサM1915を撃つと深海兵が遠くで血飛沫をあげて倒れ、手榴弾を投げれば爆発が起き敵の手足が飛び散った。

 

主砲斉射で一気に片付けたいところだが、拠点を確保したい上の連中の命令で主砲射撃は禁止されている。

 

そういえば()()に一緒に来た妹たちは無事だろうか?

 

確か2人とも別の部隊だが同じ作戦に従事しているはずだ。

 

今はただそれだけが気がかりでならない。

 

兵士1「敵さんはいつまで抵抗を続けんだろうな!」

 

私「さぁね!しかし私が見るに敵はまだ隠し玉を隠し持っているようだけど!この考えがハズレならいいんだけど、用心するに越したことはないよ!」

 

兵士1「あのpesci(魚ども)の中にcorazzata pesce(戦艦魚)がいるかもな!」

 

それだけは何としても避けたい出来事だ。

 

戦艦棲姫とはあまり出くわしたくない。

 

だが、だからと言って逃げるわけにはいかない。

 

私は---だ。皆を守ると心に誓ったのだから。

 

ゆっくりと息を吸い、1.2.3でゆっくりと吐く。呼吸を整え突撃命令を待つ。

 

Vai avanti(全軍突撃)!!」

 

号令の笛が鳴り私も含めた全員が突撃する。敵の迫撃砲も砲撃を開始した。砲身が焼け付いても砲弾を撃ち続けた。血しぶきと土が舞い上がりほかの兵士たちに降り注ぐ。服が赤黒く染まっていく。私は気が狂いそうになった。いや、正気になったと言った方が正しいのだろうか。 こんな戦場で狂わない方が異常なのだ。暗い空、渦巻く硝煙、飛び交う銃弾、燃え上がる炎、誰のものとも知れぬ叫び声。乾いた風が吹くと、血腥い匂いが風に乗り私の体内に入って来る。それは私の中の何かを変えているように思えた。

 

その刹那、轟音と熱とともに身体に大きな衝撃が走った。敵の砲弾が至近距離に着弾したのだ。私は艦娘なので熱には強く火傷はしなかったが、そのお陰で目の前にあった窪地に落ちてしまった。意識が朦朧とする中、私の身体の上と周りにボトボトと何かが落ちてきた。それが味方の手足や臓腑だと気づくまでにさほど時間はかからなかった。目の前に首が落ちてきた。それは何度も一緒に飯を食い、馬鹿話に花を咲かせた友人だった。私は微かに高揚した。彼はこの地獄から解放されたのだ。だが私の中に大きな悲しみの感情が起こったのは確かなことだった。だが私は無意識のうちにその感情を押し殺した。ここは戦場。命のやり取りの場。一瞬でも隙を見せればその瞬間殺される。まだ多くの仲間が銃をとり戦っているのだ。仲間の死を悼む時間はまだないのだ。

 

私は銃をとり窪地から少しだけ頭をのぞかせ、隙を見てまた城へ向けて突撃を開始した。

 

敵の機関砲が射撃を開始したので私は岩陰に隠れ手榴弾を投げつけた。

 

土と土嚢が舞った。銃座そのものが破壊され、飛び散った破片が敵兵の命を奪っていく。生き残りの兵が白兵戦を開始した。銃剣で刺し殺す。スコップで殴り殺す。ただひたすら拳で殴り続ける者もいた。そこにある行動は全て敵兵の命を奪うために存在していた。私も機関銃を撃ちまくりながら突撃する。塹壕へ飛び込んで私は敵兵に馬乗りになりナイフで首を刺した。さらに横から叫び声をあげて敵兵が銃剣突撃をしてきたので私はナイフを首から引き抜きもう片方の手で銃の軌道をそらし、引き抜いた勢いそのままに首を掻き切った。

 

城の入り口までたどり着くと火炎放射器が待っていた。

 

私はすぐに身を隠したが仲間の1人は間に合わず炎をもろに浴びた。

 

「ああああああ!!!熱い!熱い!助けてくれぇぇぇ・・・」

私はすぐに火を消そうとしたが火を消す前にこときれていた。

 

敵討ちとばかりに私は放射兵へ向けて銃を撃ちまくると、背中のタンクに命中したようで爆発を起こし、敵兵の四肢が四散した。

 

私達はその後も玄関、階段、廊下と次々に征圧していった。

 

多大なる犠牲を払いながら大広間へとたどり着く。

 

「ココマデ攻メ込マレタカ。マアイイ。アレヲオ見舞イシテヤレバイイ。オイ!連絡シロ!」

 

扉を開けると窓の外から砲弾が撃ち込まれた。すると。

 

バァン ブシュウウウ

 

私「!?」

 

黄色味がかった煙が出てきた。

 

「マスタードガスだ!!防毒マスク着用ぉぉぉぉ!!」

 

 私は間に合ったようだが、間に合わなかった兵士たちは皮膚をただれさせて戦線後退した。襲いくる敵を撃ちながら進撃していく。

 

「ココマデ攻メ込マレタカ!」

 

「撃テ!撃チマクッテ足止メシテヤレ!」

 

再び機関砲が現れた。機関銃の弾が切れると死んだ仲間のライフルを取り射撃手の頭を撃ち抜いた。機関砲に駆け寄ると向きを変え敵を撃ちまくった。

 

最上階にたどり着いた。敵の指揮官がいると思われる部屋の前に行くと

 

 パァン ドサッ

 

乾いた破裂音が聞こえ何かが倒れる音が聞こえた。 ドアを蹴破ると敵の指揮官は自分のこめかみを撃ち抜き死んでいた。死亡を確認すると伝書鳩を飛ばし作戦の成功を本部に伝えた。

 

この日、この城の頂上にTricolore(三色旗)が翻った。

 

 

 

『人類が戦争を終わらせなければ、戦争が人類を終わらせる』―ハーバート・ジョージ・ウェルズ



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Icarus

どうも、夜間飛行です!!

今回は空が舞台になります。彼女は空で何を探し求め、そこに何を見るのだろうか。

今回の主人公は誰なのか推理してみてください。
(1人称でかなり絞られると思いますが・・・)


---???side---

「離陸準備完了!」

RAF B.E.2偵察機のRAF 1a空冷V型8気筒エンジン音がけたたましく鳴り響く。

 

滑走路を偵察機が進み俺の横を風が通り抜ける。

 

俺は今日付でこの基地に配属になった元艦娘の飛行機乗り。いわば、空娘。

 

今はジョナサン・エドワード基地司令に挨拶しにきているところだ。

 

エドワード「王立陸軍士官学校卒業、陸軍砲兵科に配属後航空科への転属を希望、訓練を修了し現在に至る。これが君の()()()経歴で合ってるな?」

 

アタシ「ああ、間違いねぇ」

 

エドワード「君のその口調は治せないかね?」

 

アタシ「無理だな。昔っからこの口調だからな。口癖みたいなもんさ」

 

エドワード「それは海軍だった頃からか?」

 

アタシ「・・・」

 

エドワード「・・・まあいい。言いづらいこともあるのだろう。ところで君は『飛ぶ』ということはどういうことか考えたことがあるかね?」

 

アタシ「いや。」

 

エドワード「これはこの基地に所属しているパイロット全員に出している宿題のようなものだ。私も答えはまだ出ていない。もしかしたら、永遠に考えても答えの出ない問題なのかもしれない。ここのパイロットは皆その答えを探すために飛んでいる。だが、大半のパイロットはその答えを知ることはない。今日も未帰還機が4機出た。皆20代または10代だった。自分より年下のものを戦場に送り出すことにはそれに勝る何かがある。」

 

アタシ「・・・」

 

エドワード「・・・すまなかったな。暗い話をしてしまった。君がその答えを探し出すことができることを願ってるよ。精進したまえ」

 

アタシ「ハッ」

 

さぁて、特にやることはねぇ。いろんなところを回るとするか。

 

その後は食堂、格納庫、兵舎などいろいろ見て回ったが、頭はずっとあの質問について考えていた。

 

エドワード『君は『飛ぶ』ということがどういうことか考えたことがあるかね?』

 

アタシ「『飛ぶということ』かぁ」

 

ウゥゥゥゥーーーーー!

 

空襲警報だ。アタシは格納庫へ急いだ、

 

アタシに用意された機体はソッピース トライプレーンだった。

 

アタシ「この機体は飛ばせるか!?」

 

整備兵「ええ!今すぐにでも!」

 

アタシはすぐに飛び乗り、大空へと旅立った。

 

「アト少シデ敵飛行場ダ!」

「クソ!マルデ溶鉱炉ノ中ヲ飛ンデイルミタイダゾ!」

 

戦場の空は青く天国のように美しいが地獄のように醜くもある。

 

火を噴く爆撃機、敵の護衛機に撃ち落とされる味方戦闘機、自らの寿命を悟ったのか敵の爆撃機に突っ込んだやつもいた。

 

アタシは必死に戦った。敵の背後につく。照準を合わせる。引き金を引く。撃墜する。これの繰り返し繰り返しだ。

 

アタシ「・・・!しまった!」

 

背後の戦闘機に気づかなかった。しかも2機。急降下、急旋回を繰り返したが、それでも敵は振り切れない。

 

やばい。死ぬ。

 

この言葉だけがアタシを一瞬で支配した。

 

エドワード『君は『飛ぶ』ということがどういうことか考えたことがあるかね?』

 

アタシ「司令、どうやらアタシもその答え出せそうにねぇな・・・」

 

時間が一瞬ゆっくりになる。引き金を引く。敵が先に火を噴いた。

 

一瞬何が起きたのかがわからなかった。

 

困惑していると目の前を1機の戦闘機が通り過ぎた。赤いフォッカー Dr.I。間違いない。アイツだ。

 

アタシ「赤い男爵(レッドバロン)だ!」

 

赤い男爵。伝説の撃墜王マンフレート・フォン・リヒトホーフェン。生涯80機の深海棲艦機を撃墜した英雄。

 

アタシでも知ってるその名は敵軍の中でも轟いていて、撃墜されたのちやつらはその遺体を敵の空の英雄として丁重に葬ったらしい。

 

「赤イ男爵ガイルナンテ聞イテナイゾ!」

「赤い男爵がいれば百人力だ!」

 

あいつの登場で敵はうろたえ、味方の士気は上がった。

 

あいつの飛行隊(空飛ぶサーカス)は見事な戦闘と射撃で敵を撃ち落としていった。

 

 結末をいうとこの日の爆撃は失敗した。多くが到達前に撃墜され投下も許しちまったが、基地に大きな被害を与えることはなかった。ザマアミロ。

 

 だが、戻る途中でエンジンがヘソを曲げやがった。エンジンから異常音が聞こえ、小さな爆発が起こりゴーグルが真っ黒になった。プロペラが止まりそうだ。

 

滑走路まで持ちそうにないと思った俺は脱出した。飛装は墜落しちまったが、搭乗員が生きていれば大勝利だ。

 

飛行場の近くに墜落したから、その日のうちに戻ってくることができた。

 

司令官への報告も済んだ。とりあえず風呂だ。身体中油まみれで気持ち悪かった。

 

「しっかし、飛装を失ったのは痛かったな。司令官はすぐに飛装を用意すると言っていたが、ありゃしばらくかかりそうだ。」

 

こんなことを言っているとある飛装が目に入った。

 

「ん?あれはブリストル F.2じゃねぇか・・・いいこと思いついた」

 

さぁ、こっからがアタシの武勇伝の始まりだ。

 

 

 

『天を駈け、敵機を見つけ、ただ撃墜しろ。あとはくだらないことだ』 ーマンフレート・フォン・リヒトホーフェン



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Tigress

今回はある女性の過去の物語。伝説の戦車部隊と謳われた部隊。そこに所属していた謎の陸娘の正体とは!?


--ーアルバート・レイノルズside---

1967年12月15日 イギリス サウサンプトン

 

【ジャーナリストアルバート・レイノルズによるサリー・バートンへの取材】

 

レイノルズ「バートンさん、本日はどうもよろしくお願いします」

 

サリー「ええ、お願いします」

 

レイノルズ「早速なんですが手紙で申し上げた通り、この写真の陸娘について取材したいのですが」

 

サリー「この子のこと?ええ、知ってるわ。いい子だったけど、不思議な子だった。私たちは第7師団第26戦車隊に所属していたの。第26戦車隊通称Tigress(雌トラ)は私たち『陸娘』ために設置された試験部隊なの。」

 

レイノルズ「その陸娘とはいつあったのですか?」

 

サリー「最初配属されたのは、私、イザベル隊長、アニー、キャサリンの4人だったんだけど、とある戦闘の途中で私たちの戦車、まぁ『べス』って呼んでたんだけどね、べスに敵の砲弾が命中したの。損傷は軽微だったんだけどキャサリンが着弾の衝撃で車内の角に頭を思いっきり打ち付けちゃったのよ。本人は大丈夫だと言って戦闘は続行。勝利を収め基地に帰ったら、基地に帰った途端倒れた。軍医に診てもらったら脳挫傷を起こしてた。それでそのまま死んじゃった。そんなキャサリンと入れ替わるように配属されてきたのが彼女よ。」

 

レイノルズ「先程この陸娘は不思議な子だったと仰りましたがなぜそのように感じたのですか?」

 

サリー「新しい陸娘が配属になるという話を聞いた後、一応念のためその子の経歴を調べることにしたの。RMAの出身みたいだけど、どう見ても東洋人だし、英語も聞き取れなくはないがうまいってわけでもなかったの。だけどね、砲術、馬術、射撃、戦車の操縦は私たちの中でもトップクラスのうまさだったわ。あれはどう考えてもどこかで専門教育を受けてきたって感じだった。そして何より、僅かながらに海の匂いがした。」

 

レイノルズ「海の匂い?それはその陸娘が海軍軍人だったということですか?」

 

サリー「いいえ。本人はずっと陸軍にいたって言ってたわ。海の匂いがするというのも気のせいでしょうって。他にも家族のこととか自分の趣味とか色々教えてくれたけど、何度聞いても教えてくれないことがあったの。」

 

レイノルズ「どのようなことですか?」

 

サリー「彼女の過去のことよ。」

 

レイノルズ「彼女の過去?」

 

サリー「ええ、子供の頃にどんなことがあったのかとか、そういう事は教えてくれたけど、どこの生まれなのか。それだけは絶対に教えてくれなかった」

 

 レイノルズ「何か彼女について覚えている事はありませんか?どんな些細なことでも構いません。例えば癖のようなものでもです。」

 

 サリー「そういえば、あの子がいつも口癖のように言っていた言葉があったわ。昔知り合いの海軍軍人から聞いた教えだそうよ。自分は陸軍軍人だけど、この教えはとても気に入っているから覚えてるって言ってた。でもあの子はいつも、英語じゃない言葉でそれを言っていたわ。かなりうろ覚えだけどどんな風に言っていたかは覚えてる。確か・・・

"シセニモトルナカリシカ・・・ゲンコニハヅルカリシカ・・・キロクニカクルナカリシカ・・・ドロクニウラミナカリシカ・・・ブショニワタルナカリシカ"

確かこんな感じだったわ。」

 

レイノルズ「どういう意味なのでしょう?」

 

サリー「私も聞いたわ。教えてくれた。『真心に反する点はなかったか。言行不一致な点はなかったか。精神力は十分だったか。十分に努力したか。最後まで十分に取り組んだか』という意味なんですって。」

 

レイノルズ「(これは彼女へ繋がる大きな手がかりになりそうだ!)あの、本日はお忙しい中時間を取っていただきありがとうござました!」

 

サリー「あら、もうお帰りになるの?」

 

レイノルズ「ええ。彼女に関して色々な貴重な話がたくさん聞けましたし、まだこれから取材がありますので。それでは!」

 

サリー「ええ。お気をつけて。」

 

俺は車に向かった。車に乗ると俺は最初に見せた写真を見つめた。どこかの写真館で撮った一枚。そこには全身黒の服装をした女の子が写っていた。

 

イギリス陸軍第7師団第26戦車隊通称Tigress(雌トラ)。現代に至るまで語り継がれる伝説そして史上最強の戦車部隊。

 

長くの間イギリスの陸娘だけで構成されていたと言われていたが、そこに東洋人と思われる陸娘がいたらしい。

 

黄禍論が囁かれていたとは思えない事実だった。調べてみれば面白いかと思った。

 

今回の取材で海軍と何らかの接点があった事、彼女が持つ天才的な才能、そして彼女がいつも言っていたというあの言葉。これらを一つ一つ丁寧に調べあげていけばきっといつか彼女の正体にたどり着くだろう。

 

 

 

『Mon centre cède, ma droite recule. Situation excellente, j'attaque.

《わが軍の右翼は押されている。中央は崩れかけている。撤退は不可能だ。状況は最高、これより反撃する》』 ーフェルディナン・フォッシュ



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Survival

---???side---

1900年3月24日 オレンジ自由国

私はアフリカのジャングルのど真ん中にいた。こうなった経緯を話すには時間を半日前に戻す必要がある。

 

私のいた連隊はサバンナを横隊陣形で進んでいた。目的はオレンジ川の北50キロの地点にある敵の拠点を潰す事。

 

しかし、敵は中々の知恵を持っており、地形や茂みに身を隠し、高い命中率の射撃で味方を撃ち殺していった。

 

退却した私たちはジャングルへと入っていった。ところが敵は、味方から奪った大砲を使ってジャングルへ砲撃してきた。

 

味方は四散し私は必死に逃げたものの、この通り見事なぐらいの遭難をしてしまったというわけだ。

 

とりあえず先ずは、自分の場所を知らなければならない。地図とコンパスだ。電探が使えればよかったのだが、完全に故障しており使えないのだ。瑞雲は燃料がない。故にこれしか場所を調べる方法がないのだ。

 

(調査中)

 

 よし、大体の場所がわかった。北に20キロ進むと名もなき川に出る。そしてそこから東に30キロの地点に味方の陣地がある。とりあえず川に向かおう。

 

 私はジャングルの中を愛銃であるリー・メトフォードとウェブリーを手にMk VI リボルバーを腰に下げ、ゆっくりと警戒しながら進んだ。

 

警戒すべきなのは敵だけではない。ジャングル(ここ)はいつでも食事の時間なのだ。

 

少し開けた場所が見えた。敵兵の死体が転がっていた。何かの動物に食い殺されたのだろう。

 

ガサガサッ

 

向こう側から物音だ。身を隠そう。敵兵か?そっとのぞいてみるか。

 

ヒョウだ。とにかく腹を空かせてないことを祈ろう。撃ち殺せばいいのだが、敵兵いるかもしれないのでおいそれと撃てないのだ。銃を使うのは本当に危険な時だ。

 

ヒョウがいなくなるのを待ってから通った。少し進むとまた開けた場所に死体が転がっていて、そのまわりをヒョウが動き回っていた。

 

両方にはかなり大きな大岩がありここを通過するには茂みのかなり外側を通るしかないようだ。

 

身を屈めて音を立てずに進む。どんな些細な音でも銃声のように大きく聞こえる。最接近した時は息を殺して通り過ぎるのを待つ。

 

どうにか無事に切り抜けられた。さてもう数キロ程で川が見えてくるはずだ。

 

もうすぐ日が暮れる。出来れば日が沈まないうちに川を渡りたい。

 

敵兵だ。だが相手も一人だ。私と同じく道に迷ったか?とにかくこのままいれば、確実に見つかる。ここで仕留めるしかないようだ。

 

木の幹の陰に身を隠す。ナイフを手に息を殺して敵が来るのを待つ。敵が最接近した瞬間、私は陰から飛び出した。敵兵に馬乗りになり手で口を塞ぎ、ナイフを振り下ろす。

 

周囲に変化はない。どうにか気づかれずに済んだようだ。

小川が見える。まずは水分補給だ。数日ぶりの水分補給は乾き切った私の喉に潤いを与えた。よし、水筒にも水を入れた。とりあえず川を渡り、今夜の寝床を探そう。

 

数時間後

 

今夜の寝床は木のうろにしよう。雨風がしのげればいい。食料はさっき捕まえた小動物だ。名前はわからんがきっと食べれるに違いない。

 

うまくもなく不味くもなくって感じだった。さて、明日も早い。もう寝よう。

 

しかし、夜というのは不思議なものだ。昼間は任務達成を考えるのだが、夜になるとやはりみんなの事を考える。姉は元気にしているだろうか。みんなは無事なのか。みんなに会いたい。帰りたい。自然と視界が滲んでいた。

 

翌日

 

まずい事態になった。敵の補給拠点を見つけてしまった。ここを回り道するのはかなり面倒だ。

 

強行突破。この言葉が頭をよぎったが、すぐに打ち消した。ダメだ、ダメだ!銃弾もかなり限られている。それに対し敵の銃弾は無尽蔵に近いだろう。

 

あのジャングルを攻撃してきた大砲があったら・・・ ん?大砲?ハハッ長いこと使ってなかったからなすっかり忘れていた。特大の大砲があるではないか。

 

「見張交代だ」

「ん?何だあいつは?」

「あの背中に背負っているデカい筒は何だ?」

「主砲斉射、撃てぇぇぇぇ!!!」

ドゴオオオオ

 

敵は大混乱だ!

 

「おい何だあの攻撃は!?」

「でかい音が聞こえたら、建物が吹き飛んだぞ!!」

「撃て!とにかく大砲を撃ち返せ!!」

「第二射、撃てぇぇぇぇ!」

 

ドゴオオオオ

 

 この第二射で大砲は破壊され敵の拠点は完全に崩壊した。私はそのまま乗り込んで何かいいものはないかと探した。本部と思われる半壊した建物に入っていくと、一枚の書類を見つけた。

 

「○月×日、○○○にある敵の拠点を攻撃する」

 1週間だな。これはマズイ。早く本拠地に帰らなければ!

 

---第三者side---

翌日の夕方、彼女は無事に本拠地へ生還することができた。彼女の手に入れた情報によって直ちに対抗策が考案され、敵の撃退に成功した。そして大英帝国はこの戦いに勝利を収めた。彼女はまさに英雄となった。

 

 

 

『最も良い組み合わせは力と慈悲、最も悪い組み合わせは弱さと争い』 ーウィンストン・チャーチル



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Hero and Traitor

今回はとある将校の最期のひと時を描く。彼はその最期のひと時に何を思うのだろうか。


---とある将校side---

 

1935年5月18日

イギリス ドーセット ボヴィントン陸軍病院

 

 私の人生は苦しくも悔いのない人生だった。私は栄えある国王陛下に仕える陸軍将校として帝国の国益のために全てを捧げてきた。

 

だが私は帝国の国益の代わりに多くの憎悪と争いの種を植え付けてきた。私はどうせ地獄に行く。ならばせめて悔いがないように私の滑稽で道化のような人生を思い出していくことにしよう。

 

私はウェールズのトレマドックで生まれた。大学生になるとオックスフォード大学のジーザスカレッジで考古学の勉強をした。昔から考古学が好きで20歳の頃自転車でフランスを旅し、古城を見て回った。

 

大学卒業後はアラビア語習得のため、レバノンのビブロスに滞在した。我が恩師であるデイヴィッド・ホガース博士率いる大英博物館調査隊に参加しカルケミシュで考古学の仕事に従事した。

 

私は若干の帰国の後中東に戻り、レオナード・ウーリー博士と共に研究を続けた。研究の傍ら、私と博士はイギリス陸軍の依頼を受けネケヴ砂漠の水源調査を行い、地図を作成した。

 

戦争が始まると、私は召集を受け陸軍省作戦部地図課に勤務することになり、12月にカイロにある陸軍情報部に転属になった。さらに2年後に外務省管轄下のアラブ局に転属となった。この頃私は大尉に昇進していた。

 

私は任務を通じてハーシム家当主の三男ファイサルと接触した。私は彼と配下のゲリラ部隊に目をつけ、アラブ独立のためにと共闘を申し出ることにした。

 

ある時、ゲリラ部隊の面々と接触する機会があった。私はその中に気になる女性を1人見つけた。彼女はアングロサクソンでもアラブでもなく明らかに東洋系の顔をしていた。栗色の髪で目は大きく顔も整っていてまさに美人といった顔立ちだった。服装もスカート以外は見たことのない服装をしていた。

 

不思議だったのは彼女は顔や服装は明らかにイギリス人ではない。それにもかかわらず、彼女は美しいキングスイングリッシュを話したことだった。

 

彼女とティーパーティーを繰り返して行くうちに打ち解け、信頼できる仲間となった。そして彼女とはその後の戦場を共にして行くことになる。

 

1921年に私は本国からの命令でイギリスに戻ることになった。彼女らは最後の夜に宴を開いてくれた。夜通し歌い踊った。その夜は私にとって人生で最も楽しい夜になった。

 

私はイギリスに帰ると激しい恥辱と自己嫌悪に取り憑かれた。いや、アラブにいた時からそうだったのだがイギリスに帰ってからさらに悪化したような気がした。

 

政府はアラブ独立のためと言っているがそれはあくまで建前で、戦後はフランスと分割統治を計画していた。さらに独立を約束した土地にユダヤ人にも国を作る約束をしていた。私はそれを隠して任務にあたってなければならなかった。

 

私はしばらく名前を変え行方をくらますことにした。最初は空軍にいたのだがすぐに正体がバレてしまった。2回目は戦車隊にいたのだが私はこの部隊が好きではなく、空軍に復帰すること申請し受理された。わたしは1935年に除隊になるまで空軍で勤務した。

 

除隊から2ヶ月後、私はここの近くでバイク事故を起こした。2人の子供を避けようとしたのだ。そしてここに担ぎ込まれ今に至っている。

 

私はもうすぐ死ぬ。これで思い残すことはない。ただ一つだけ残念なのは彼女ともう会えないということだ。生きている間も死んでからもずっと。私は地獄に落ちるが彼女はきっと天国に行けるのだろう。

 

---第三者side---

イギリス ドーセット州 モートン 聖ニコラス教会。ここにあの将校の墓はある。墓にはこう刻まれている。

 

" TO THE DEAR MEMORY OF

T.E.LAWRENCE

FELLOW OF ALL SOULS COLLAGE

OXFORD

BORN 16 AUGUST 1888

DIED 19 MAY 1935

THE HOUR IS COMING & NOW IS

WHEN THE DEAD SHALL HEAR

THE VOICE OF THE

SON OF GOD

AND THEY THAT HEAR

SHALL LIVE

 

DOMINUS ILLUMINATIO MEA

 

そして墓前にはティーポットと2杯の紅茶が置かれていた。

 

 

 

『作戦が50回阻止されたら、51回目で目標を成し遂げる』 ートーマス・エドワード・ロレンス




さっき確認したら、初のお気に入り登録が確認されました!


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Welcome to the war to end all wars
歴史学講義


今回は艦娘たちのもともといた時代が舞台となっています。吹雪が覚えた違和感とは?


1945年4月23日

横須賀鎮守府

この日の鎮守府は様子が違った。やたらと静かなのだ。いつもはうるさい工廠も静まり返っている。外を出歩いている艦娘もいない。間宮も伊良湖も鳳翔も臨時休業している。提督室にも誰もいない。

 

それもそのはず今日は深海棲艦の日。深海棲艦について学習する日なのだ。

 

これは世界中どこの陸海軍でもそうしている。なぜ今日が深海棲艦の日なのかというと、初めて深海棲艦の攻撃を受けたといわれる1900年の謎の爆沈の日付は文献によりまちまちで原因もただの事故とする学者もいる。

 

翌年の4月23日に受けた攻撃が一番日付と原因がはっきりしているからだ。これにより4月23日を深海棲艦の日にしようと世界で決まっている。

 

この日は全員講堂に集まり、今は深海棲艦と人類の戦い歴史について勉強をしている。講師は提督だ。

 

提督「深海棲艦の人類への攻撃はこの本では1900年12月31日にイギリスの貨物船サウサンプトン号が受けた攻撃が初めてだとしている。では吹雪。我々帝国海軍の前に初めて深海棲艦が姿を現したのはいつのことか?」

 

吹雪「はい。公式では1901年6月1日の龍翔丸への攻撃が初めてだと言われてますが、非公式ですと同年3月21日の天虎丸への攻撃が初めてです」

 

提督「そうだ。では、夕立。」

 

夕立「ぽい!」

 

提督「この『深海棲艦』という名前をつけたのは誰か答えてみろ。」

 

夕立「えーと・・・わからないっぽいぃぃ・・・」

 

提督「これはさっき教えたはずだぞ?あの時飢えた狼のように聞いていればわかる問題だ」

 

足柄のような言い方をする提督。

 

提督「『深海棲艦』という名前をつけたのは当時の海軍大臣山本権兵衛中将だ。わかったか?覚えとけよ?」

 

夕立「ぽい」

 

提督「今我々が学んでいる第一次深海大戦はそれまで人類が経験してきた戦争とは大きく異なった。何がそれまでと異なったか。それは第一次深海大戦が人類が初めて経験する国家総力戦の様相を呈したことだ。長門。国家総力戦とはなんだ?」

 

長門「国家総力戦とは国家が国力の全て、つまり軍事力、経済力、科学力、技術力、政治力、思想面の力を戦時体制で運用して争う形態のことです。」

 

提督「国家総力戦の特徴は?」

 

長門「その勝敗が国家の存亡に直結するため途上で終結させることが困難なことと市民生活にまで影響が及ぶことです。」

 

提督「完璧だ。さすが長門。」

 

長門「勿体なきお言葉です」

 

提督「では次は兵器の話をしよう。戦争では起こる度に新兵器が登場してきた。では第一次深海大戦ではどんな新兵器が登場したか。誰でもいいから答えてみろ」

 

那智「戦車」

 

睦月「飛行機です」

 

電「機関銃なのです」

 

加賀「毒ガス」

 

提督「その通り。あとは迫撃砲、火炎放射器、潜水艦とかだな。初めて戦車が使われたのは1916年7月1日から同年11月18日まで行われたソンムの戦いだが、ではその使われた車種は答えれるか?」

 

あきつ丸「マークI戦車であります!」

 

提督「陸軍のお前には愚問だったかな?この戦車が登場したことによって地上戦は新たな時代を迎えた。次は毒ガスについてだ。第一次大戦で初めて使われた毒ガスは『チクロンB』で、使用された場所はベルギーのラーフェンシュタール村だ。開発者はフリッツ・ハーバー博士だ。そして・・・」

 

数時間後

 

提督「以上で今回の講義を終了する。」

 

金剛「あぁ〜、やっと終わったデスネー」

 

霧島「お姉様、だらしが無さ過ぎますよ?」

 

金剛「今回の講義は難し過ぎマース!だいたい何デスカ国家総力戦の日本における歴史的意味合いって!?」

 

榛名「国家総力戦のナントカについては仕方ありませんが、他のこともあまり私たち3人と大差ありませんでしたね、お姉様。」

 

比叡「英国生まれですから欧州のことは私たちよりもご存知だと思ってました」

 

金剛「英国生まれデスケド大戦前デスネ。それで完成したらスグニ日本に送られマシタカラ。」

 

各々艦娘たちは帰り始めた。

 

最上「第一次大戦は陸戦が中心だったからね。あきつ丸にとっては簡単だったんじゃないの?」

 

あきつ丸「そうでありますな。基本的なことはほとんど士官学校でならったことばかりでしたな。」

 

赤城「間宮にでも行きますか、加賀さん」

 

加賀「そうしましょう、赤城さん」

 

提督「赤城と加賀はこの前のボーキサイトの異常消費の件で1ヶ月間宮禁止になっただろ。破ったら1ヶ月延ばすとも言ったはずだが?」

 

赤城・加賀「・・・」

 

吹雪「私もそろそろ帰ろうかな。あっ」

 

バサッ

 

吹雪は教科書を落とした。

 

吹雪「ん?」

 

吹雪は偶然開いたページの1枚の写真に注目した。それはイタリア戦線に参戦する部隊を捉えた写真だった。どこだか分からないが違和感を覚えた。

 

吹雪「なんだろう。うーん。ま、いいか!さぁ支度支度。」

 

睦月「吹雪ちゃん!早く行くよ!」

 

吹雪「待って!今行くよ!」

 

教科書を閉じ、吹雪は睦月と夕立のもとに向かっていった。

 

この日は深海棲艦の攻撃もなく、それぞれがそれぞれの1日を過ごしていった。

 

 

 

『歴史ーー大抵は悪党である支配者と、大抵は愚か者である兵士によって引き起こされる、主として取るに足らぬ出来事に関する、大抵は嘘の記述』 ーアンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』より



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月光

どうも、夜間飛行です!
今回は日向・伊勢ペアと摩耶・鳥海ペアを中心に話を展開します。月の光の中で彼女たちはどんな話をするのだろかか。


夕食も済ませ、風呂にも入った。あとは寝るだけ。提督室では大淀と提督が今後の予定を話し合っていた。

提督「明日はゴーヤたちにオリョクルに行ってもらわなければ・・・赤城、加賀の件がまだ片付いてないからな。昨日まで3ヶ月ぐらい連続で行かせてたけれどまだ足りない。まだまだ頑張って貰わなければ・・・」

大淀「(ご愁傷様です・・・)」

 

潜水艦娘の部屋

ゴーヤ「・・・!?・・・何か悪寒がしたでち。」

ハチ「私も」

イク「イクも」

ニム「同じく」

イムヤ「まさか・・・!?」

しおい「また!?」

ロー「行かされるの!?」

全員「イヤァァァァ!!」

この日潜水艦娘の悲痛の叫びがこだました。

 

深夜。寝静まった鎮守府。摩耶が寝ているベッドに鳥海がやって来た。

鳥海「摩耶」

摩耶「・・・ん・・・何だよ、鳥海。用事があるんだったら明日にしてくんねぇか?」

鳥海「一緒に寝ても、いい、か、な・・・?」

摩耶「・・・は?」

鳥海「一緒に寝てもいいかな?」

摩耶「何で?」

鳥海「ほ、ほら、今日は一緒に寝たほうがいいような気がしたのよ」

摩耶「変な奴。ま、いいけどよ。」

ベッドに入る鳥海。しばらくして鳥海が話しかけた。

鳥海「摩耶。もしも明日、自分が轟沈(しず)んじゃうとしたらどうする?」

摩耶「アタシだったらそんな日が来ねぇように、演習をしっかりやって、練度を上げる」

鳥海「そうじゃなくて轟沈(しず)んじゃう時の話よ」

摩耶「それでもアタシは練度を上げる。だってそうしねぇとみんなを守れねぇじゃねぇか。お前はその賢い頭でみんなを守れるが、アタシはバカだ。戦うことでしかみんなを守れねぇよ。」

鳥海「・・・」

摩耶「ただ、それでも轟沈(しず)んじまうときは、その時に悔いがないように一生懸命今を生きる」

鳥海「ねぇ、私今すごく怖いの」

摩耶「何が?」

鳥海「あなたがいつか居なくなっちゃうんじゃないかってことがよ」

摩耶「大丈夫だよ。お前を残して死なねぇし、どっか行ったりもしねぇから心配すんなって。もう遅いしアタシは寝る。お前も早く寝ろ」

鳥海「うん、おやすみ」

鳥海は不安を消し去ることができなかった。摩耶がいつかどこか果てしなく遠い場所に行ってしまう。そしてそれが今生の別れになってしまう。そんなあり得ないと思うが底知れぬ不安を胸に抱えながら眠りについた。

 

埠頭で1人座る日向。彼女の目の前には全てを飲み込みそうな暗い海。灯りはなく美しい満月の光だけが彼女を照らしていた。

 

伊勢「何をしてるの、日向?」

日向「ん?ああ、眠れなくてな。そこら辺を歩き回ってたらここから見る満月が綺麗でな、見ていたところだ。伊勢はなぜここに?」

伊勢「起きたら日向がいないから、心配になって探してた」

日向「それは心配をかけたな。すまなかった」

伊勢「隣座ってもいい?うわぁ、本当に綺麗だね満月」

日向「なぁ、私たちは今こうやって月を眺めているが、先の大戦の人たちもこうやって月を眺めてたんだろうか?」

伊勢「どうしたの急に。」

日向「ふと思いついたひとりごとみたいなものだ」

伊勢「うーん、どうだろうね。でもきっと眺めていたと思うよ。だって月はたった一個しかないからね。世界中のみんなが同じ月を見てる。きっと兵士たちも故郷の家族とか恋人を思っていて、家族や恋人の方もそうしていたと思うよ」

 

日向はそう答える伊勢の横顔を見て少し微笑んだ。

 

日向「そういえば私の子供の頃の話をしたことはあったか?」

伊勢「無いよ」

日向「女学生の頃、民族みたいなのが好きでな、親から貰った小遣いを貯めてはそういう本をよく買いに行ってた。これはその頃読んだ本の内容なんだが、アジアの未開の密林の奥地に住むある部族は月のことを混沌とした世界を照らす神の手と考えているそうだ」

伊勢「だとしたらその神様は無能だよ。その神様はこんなに明るく照らしているのに世界は混沌としたままじゃない。全能の神様なら深海棲艦から海を取り戻すことぐらい簡単でしょ?」

日向「私はこう思うんだ。神は確かに正しい道を示してくれている。だけど、私たち人類がその道標の指示に従わないだけじゃないのか。今のこの状況はこれまで多くの罪を犯してきた人類に対する神からの天罰じゃないのかって」

伊勢「じゃあ、その神様からの天罰に逆らってる私たちはなんなんなの?」

日向「さあな。でもこれだけは言える。私たちがいなければ、人類はとっくに滅亡してる。私たちは戦うことを運命付けられている。みんなを守ることが私たちの使命なんだって。」

伊勢「・・・」

日向「・・・」

 

若干の沈黙。海の音だけが静かに聞こえる。後ろから声が聞こえ沈黙が破られる。

 

憲兵「お前たち、こんなところで何してる?もうとっくに消灯時間は過ぎてるぞ。早く部屋に戻って寝ろ。」

伊勢「あっごめんなさい!すぐ戻ります!日向急ぐよ!」

日向「ああ、わかった」

 

急いで走り去っている伊勢と日向。憲兵はその後ろ姿を見ていた。

 

憲兵「戦う運命か・・・」

 

憲兵は自分でも聞き取れないぐらい小さな声でそう呟いた。

 

 

 

『戦いは相手次第、生き様は自分次第』 ー小野田寛郎



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事件

前置きがかなり長くなってしまいました。いよいよ今回から物語が始まります。


1945年4月24日

横須賀鎮守府

いつもと何ら変わらない静かな朝だった。総員起こしのラッパが鳴り響き、鎮守府全体が活動し始める。

【食堂】

A.M.6:00

長門「北上と大井、瑞鶴と加賀を一緒に組ませるか。あとは・・・」

陸奥「ご飯の時ぐらい仕事のこと考えるのやめたら?」

 

比叡「お姉様、今日はどんな予定ですか」

金剛「午後から演習デース!」

榛名「・・・」

金剛「Oh,榛名どうしたネー。全然ご飯食べてないデスネー?調子悪いんデスカー?」

榛名「いいえそういうわけではありません。ただ昨日夢を見てしまって・・・。」

金剛「Dream?」

榛名「暗い海の中を私と金剛お姉様が進んでいたら、お姉様がいつの間にかいなくなるんです。探していたら、足元に金剛お姉様のカチューシャが流れてきて私一人が孤独になるという夢です。私、前世(あの時)みたいに1人になってしまうんじゃないかって・・・。」

金剛「No problem 榛名。榛名の周りには誰がイマスカ?」

榛名「金剛お姉様、比叡お姉様、霧島」

比叡「それに他のみんなも」

霧島「榛名お姉様は1人なんかじゃありませんよ?」

金剛「もう二度と可愛い妹を1人になんてさせないデース!」

榛名「ありがとうございます。榛名はもう1人なんかじゃありません!」

 

食事の時間は終わり、それぞれの勤務が始まる。

 

P.M.2:25

 訓練場に摩耶、金剛、あきつ丸、日向、長門、陸奥の6人の艦娘がいた。その内摩耶と金剛は演習の準備、日向は提督への報告、あきつ丸は甘味処間宮へ、長門と陸奥は演習の見物をしにきたなど、ここへきた理由は皆それぞれであった。報告に向かっていた摩耶はふと空を見上げた。

 

摩耶「一航戦か・・・」

 

そこには一航戦の艦載機が見事な陣形を成して飛んでいた。

 

摩耶「アタシもしかしたらあそこでとんでいたのかもしれないな。」

 

彼女は艦娘になる前に艦娘になろうか飛行士になろうか悩んだ時期がある。一度は飛行士に決め、訓練を修了したものの艦娘になる夢を捨てきれず、元々海が好きだったこともあり、艦娘への転属を希望した。艦娘の訓練は厳しいものであったが、苦痛ではなかった。何よりも海の上を滑るという感覚が楽しくてたまらなかった。こうして彼女は訓練を修了し現在に至っている。

 

金剛「Hey!アッキー!どこへ行くのデスカー?」

あきつ丸「間宮へ行くところであります!」

間宮へ向かうあきつ丸は艦ではあるが所属は一応陸軍となっている。彼女は艦娘になる前は戦車兵で、支那戦線で戦っていた。そこに陸軍で揚陸艦を建造するという計画が持ち上がり、彼女に辞令が下った。そして1945年3月に彼女は艦娘となった。

 

見物に来ていた長門、陸奥は今後の作戦行動と練度について話し合っていた。

 

陸奥「FS作戦がじきに開始されるけどその辺はどうするの?」

長門「今、今度新たに編成される第五遊撃部隊の隊員を選定中だ。」

陸奥「候補は?」

長門「金剛、北上、大井、加賀、瑞鶴、そして吹雪を入れようかと思っている」

 

金剛と日向は艤装を装着し演習をする仲間を待っていた

金剛「Hey 日向!早く演習を終わらせてteatimeにスルネー!」

日向「静かにしてくれないか?だが、そうだな。瑞雲の手にかかればこんな演習すぐ終わらせてやる」

 

偶然訓練場にいた6人。だがそれは偶然ではなかったのかもしれない。突然空の雲行きが怪しくなる。

「何?雨?」

「あんな雲は見たことがないな」

雷鳴が聞こえてくると、各々が建物内に避難しようとした。その時特大の雷が訓練場に落ちた。鎮守府中が停電し、提督が

大淀に声をかけた。

提督「大丈夫か?大淀。今の雷はかなり近かったな。どの辺りに落ちた?」

大淀は雷が落ちる瞬間を目撃していた。そして口を開いた。

大淀「訓練場です!今あそこには金剛さん日向さん長門さん陸奥さん摩耶さんあきつ丸さんが!」

提督「何っ!?」

急いで訓練場に向かうと訓練場の施設は無事だったもののそこに6人の姿はなかった。その後、他の鎮守府からの応援部隊と共に鎮守府及び周辺海域の捜索が数週間にわたって行われたが何一つ見つからなかった。

この日長門、陸奥、金剛、日向、摩耶、あきつ丸、以上6名の艦娘は横須賀鎮守府から完全に消失したのであった。

この事件は「海軍戊事件」とされ、海軍の超重要機密事項となり、横須賀鎮守府及び捜索に参加した艦娘たちには箝口令が敷かれた。そしてこの日長門たちは出撃をしており、敵艦に撃沈されたということにされた。

後日、横須賀鎮守府では長門たちの葬儀が執り行われた。長門たちの棺が運び込まれる。その棺は異様に軽かった。棺にはそれぞれの名前が書かれた名札と重しの砲弾が入っているだけだった。提督の弔辞を述べた。

 

提督「・・・であった。長門型戦艦1番艦長門、長門型戦艦2番艦陸奥、金剛型戦艦1番艦金剛、伊勢型戦艦2番艦日向、愛宕型重巡洋艦3番艦摩耶、特種船丙型あきつ丸。以上6名は国家に命を捧げ自らの使命を全うし壮絶な戦死を遂げた!総員以上6名に敬礼!」

 

「捧げぇ銃っ!」

 

葬送のラッパが鳴り響き、棺がそれぞれ別々の内火艇へ運ばれる。出発してしばらく鎮守府の正面数百メートルのところで停船し、棺を海に沈める準備を始めた。艦娘の棺は名札の上の方を外に向けて沈められる。いつまでも敵を見据え、仲間を守れるように。

 

提督「沈めろ!」

 

弔砲が鳴り艦娘たちは一斉に敬礼をした。18発の弔砲と哀しい海鳥の鳴き声がこだました。

 

 

 

『兵を送りてかなしかり。戦地へ行く兵隊さんを見送って泣いてはいけないかしら。どうしても、涙が出て出て、だめなんだ、おゆるし下さい』 -太宰治『懶惰の歌留多』より



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霧の都

どうも夜間飛行です!

投稿がかなり遅れてしまいました!

今回はあきつ丸を主役に進めていきます。見知らぬ土地まで飛ばされたあきつ丸。そこで突きつけられる現実に彼女はどう向き合うのか。


石炭を燃やした匂い。外を走る自動車の音で目がさめる。薄汚れた白い天井が目に入る。時計台の鐘の音が聞こえその大きな音が脳を覚醒させる。あきつ丸は起き上がり周りを見渡した。目に入る文字は全部日本語ではなく英語だった。顔も東洋人ではなく明らかに西洋人だ。

 

軍医「おっ、起きたのね。気分はどう?」

 

横須賀鎮守府の全員が外国艦の影響で英語、イタリア語などが理解出来た。

 

あきつ丸「大丈夫であります。それよりもここはどこでありますか?」

 

軍医「どこって、陸軍病院だけど?」

 

あきつ丸「陸軍?帝国陸軍に欧米人がいるなんて話は聞いたことがないであります!」

 

軍医「西部戦線に日本人の従軍看護婦がいるって話は聞いたことがあるけど前線止まりで英国本土に来たって話はまだ聞いたことはないわ」

 

あきつ丸「・・・ん?」

 

あきつ丸は兵士の話の中の一つの単語に引っかかった。

 

あきつ丸「どこの国だと言ったでありますか?」

 

軍医「へ?え、英国」

 

あきつ丸「なぜ英国軍が日本にいるでありますか!?それに英国軍は1941年の英国本土攻略作戦で壊滅したはずであります!」

 

軍医も大きな違和感に囚われた。

 

軍医「え?1941年?英国本土攻略作戦?何のこと?」

 

軍医(ちょっと待って子供の頃読んだ小説にこんな展開があったな。ちょっと試してみるか。)

 

軍医は子供の頃SF小説を読みあさっていた。そこで読んだ本の中に今のような状況の本があった。軍医はそれの真似事をすることにした。

 

「君、これからいくつかの質問に答えてもらうよ。まず君の名前と所属は?」

 

「自分は大日本帝国陸軍所属特種船丙型あきつ丸であります」

 

「あきつ丸さんね。ん?陸軍所属って言ったけどあなた艦娘よね?」

 

「自分は帝国陸軍が開発した世界初のドック型揚陸艦『神州丸』を発展させた揚陸艦なんであります」

 

「なるほどね。我々の敵は何ですか?」

 

「もちろん深海棲艦であります!」

 

「ところで今日は何年何月何日ですか?」

 

「1945年4月24日であります」

 

軍医は黙り込んでしまった。どうやら軍医の予想は当たったようだ。

 

「あきつ丸さん。落ち着いて聞いて欲しい。今は1915年5月21日です。」

 

「・・・・・・・・は?」

 

あきつ丸の思考が止まった。

 

(え?1915年?自分は確か演習場にいて雷に打たれて・・・みんなは?じゃあここはどこ?)

 

「あ、あの!ここは・・・ここはどこでありますか!?」

 

「ここはロンドンよ。アーサー・ウェルズリー陸娘専用陸軍病院。あなたは一週間前テムズ川に浮かんでいるのを発見されたの。それで艤装が展開されていたから艦娘だろうということで一度海軍に引き取られたの。だけどこの戦争でどこの海軍病院も満員らしいのよ。それでとりあえず陸軍で預かっておくことになったってわけ。それで、問題はこれからのあなたの処遇についてなのよ」

 

「何か問題があるのでありますか?」

 

あきつ丸は恐る恐る聞いた。すると軍医は悲しげな顔を浮かべてこう言った。

 

「・・・さっきも言った通りあなたはテムズ川に浮かんでいた。つまりそれは艤装が機能してなかったってこと。それでね、海軍のほうで修理はできないかってことになったんだけど妖精さんたちが言うにはね、あなたの艤装とこの時代の艤装は根本的に構造が違うものらしいの。だから修理は・・・不可能だって」

 

「そんな・・・」

 

あきつ丸は底知れぬ絶望感に襲われた。その時ドアをノックする音が聞こえた。入ってきたのは白、ではなく黄土色の軍服を着た男だった。

 

「お目覚めですかなお嬢さん?」

 

「あきつ丸であります」

 

お嬢さんと呼ばれたのが気に入らなかったのか訂正するあきつ丸。

 

「これは失敬。私の名前はアラン・マクフィールド。陸軍参謀本部所属です。あきつ丸さん率直に申し上げます。どうか我が陸軍に協力していただけないでしょうか?」

 

このアラン・マクフィールドという男。普段はプライドがとても高いのだが、頭を下げなければいけない時はしっかりと頭を下げる。そう言った男なのだ。

 

あきつ丸はこれでも人を見る目は持っているつもりでいた。だからこそわかった。この人は本気で頭を下げているのだと。

 

いうまでもないが艦娘が陸軍に移籍する場合、陸娘か空娘のどちらかに変更になる。基本的には構造は同じなので艤装が使えれば他のも使用可能である。しかし我々人間も急に職場が変わるというのは困るどころの話じゃない。そしてそれは艦娘にも言えることだった。

 

「もちろん決定権はあなたにあります。急に環境が変わるのも困るでしょう。1週間期限を用意しました。その間じっくり考えて答えを出してください」

 

マクフィールドはそう言うとゆっくりと立ち上がり部屋から出て行った。出て行くと5月のさわやかな風が病室に吹き込んだ。

 

6日後

 

あれからずっと考えているが一向に決意が固まらない。あきつ丸は艦娘ではなくなる恐怖と闘っていた。そうしていると扉がそっと開く。

 

「随分と悩んでいるみたいね」

 

軍医が入ってきた。そして具合は続けて言う。

 

「少し外の空気を吸ってきたら?ここら辺ならハイドパークがいいわ。噴水があって野鳥やリスなんかもいるしいい場所よ?行ってくるといいわ。頭の整理もつくだろうし少し位ロンドンになれたほうがいいと思うの」

 

「そうでありますな。ではお言葉に甘えて。それでどうやって行ったらいいのでありますか?」

 

「ここを出て右に少し行ったところにバス停があるの。そのバス停で車体に26番って書かれているバスに乗って。それがハイドパークに向かうバスよ。まだ時間はあるはずだからゆっくり向かうといいわ。それに乗って5つ目のマーブルアーチというところで降りて。それで!あなたお金持ってないでしょ?ほらお金。」

 

「ありがとうございます!では行ってくるであります!」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

あきつ丸が部屋を出て行こうとすると軍医が何か思い出して呼び止めた。

 

「『イーストエンド』へは近づかない方がいいわよ」

 

「イーストエンド?」

 

「ロンドンの吹き溜まりのような場所よ。貧しくて犯罪率が高いの。戦死した兵士の遺族の恨みも強くて。もしかしたら殺されるかも・・・」

 

「わかりました。では行ってくるであります!」

 

あきつ丸は病院を出るとバス停へ向けて歩き出す。街行く人は女性が目立つのを除けばさほど大戦を感じさせず、平和な時間に包まれていた。

 

 

 

『平和そのものは仮面をかぶった戦争である』 ―ジョン・ドライデン



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