地獄に落ちたサイヤ人 (慧春)
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1話
書きたくなったので投稿!!
オレの名は『オニオス』――宇宙では対して珍しくもない戦闘民族達の住まう星『惑星ベジータ』出身の極普通の『サイヤ人』だ。
サイヤ人? 『ドラゴンボール』の見過ぎだって?
だが、非常に残念なことに事実です。
なんと――オレは二次創作に良くあるドラゴンボールの世界に転生し、更にはサイヤ人になったスーパー日本人(笑)なのだ!!
いや、何でだよ……
そりゃ…確かに、死んだ時にエライベッピンさんの女神様に特典でサイヤ人の肉体が欲しいですとは言ったぜ?
でも、生まれ変わる世界はランダムって話だったじゃん。いや、オレもどこの世界に転生しても無双出来るようにサイヤ人の肉体なんて頼んだからあんまり文句も言えないんだけども……ドラゴンボールの世界では、サイヤ人の下級戦士なんて、それこそ珍しくもない程度の雑魚出しかないのだ。
確かに、日本人だった頃に比べれば、身体能力や戦闘能力は比べ物にならないぐらいに上がったよ? でも、所詮は下級戦士。戦闘タイプですらないナメック星人にすら劣る木っ端の一人でしかない。
だが、なまじこの世界の主人公もオレと同じ下級戦士だったので、オレは希望を捨てずにサイヤ人としての『お仕事』をこなしながら、他の奴等の目を盗んで修行しつつ逃げる機会を伺っていた。
何で逃げるのかって? いや、サイヤ人の下級戦士って使い捨ての駒なんだぞ?
惑星とか攻める時には、そりゃ盛大に肉壁にされるか、生き残っても中級・上級のエリート共にコキ使われた挙げ句に手柄も全て持っていかれる……やってられるかっつーの!!
そんな訳で順調に修行を積んでいき、オレが二度目の人生に置いて前世での成人である二十歳になった誕生日――漸く、オレの戦闘能力が『一万』を越えた。
長かった――本当に長かった!!
原作の主人公である『孫悟空』が二十四歳のサイヤ人襲来の時点では確か『400』ぐらいだった筈だから、それを考えたら結構な物なのではないだろうか――でも、悟空はその一年後にはナメック星で最終形態のフリーザ様を正面から倒してるしな……
超サイヤ人の戦闘能力については、原作で数値化されてないがインフレ過ぎるだろとは思ったな当時は……いや、あれと比べたらダメだな。
あれはもうサイヤ人っぽい『ナニか』だ。
色々おかし過ぎる。
そんな訳で、今までに散々コキ使われた仕返しも兼ねて、偉そうにふんぞり返ってたエリート共をフルボッコにして反旗を翻し、オレの裏切りを惑星ベジータにいる王様やフリーザ様の耳に入るのを遅らせる為に、スカウターとか通信装置を全て破壊した後に、乗ってきた宇宙船を奪ってトンズラこいた。
いやっふ――っ!! オレは自由だ――!!
と、漸く解放された喜びからオレは調子にのった。
どのぐらい調子にのったのかと言うと、今にして思い返してみると、過去に戻って自分をぶん殴りたいと思えるぐらいだ。
当時のオレは、戦闘能力が一万もあれば、場所さえ選べば無双することも可能だろうと楽観的に考えていた。
むしろ、良い感じの星を見つけたら、そこを暴力で乗っ取って、楽園を創造する気でいた――そう、当時のオレは男のロマンである『ハーレム』を建設する気だったのだ!!
そんな訳で、フリーザ様の支配地域から結構遠く離れた有人の惑星に不時着するとオレは宣言した――
【この星は今日から、このオニオス様の物だ!! 文句のある奴は掛かってきやがれ!!】
この時のオレは、漸く抑圧された生活から解放されたせいで頭がパーになってたに違いない。
そのせいでか忘れてしまっていたのだ。
この世界は、宇宙は半端無く広いと言う事を――
そして、この広い宇宙にはサイヤ人なんぞ鼻唄を歌いながら指一本で殺せるような化け物が沢山居るという事実を――
そんな訳で、結論を言うならばオレの第2の人生は――『銀河ハーレム計画』を決行するべく、最初に攻め行った惑星の住民に返り討ちにされて殺されるという何とも情けない最期で終わった。
今思い出してもあれは恥ずかしすぎるな。
ていうか、なんだあの星!! 住民一人一人が戦闘能力『三万越え』ってなんだよ!!
オレを殺した奴なんか、十万越えてたぞ!!
しかも、戦いの経験が豊富なのか、立ち回りに全く隙がなかった。今思い出しても、あいつらの方がよっぽど戦闘民族だと思うんだが……サイヤ人? 戦闘能力が一万程度のオレで複数のエリート戦士をフルボッコに出来るという時点で察しろ。
そんな訳で、ハーレムを目指して先進した結果、現地の住民に殺されたオレは、現在は普通にドラゴンボール世界の『地獄』に居る。
そうだ。ドラゴンボールの原作でたまに描写がある、あの地獄だ。
そして、そんな無様極まりない最期の瞬間から、ざっと十年後――現在のオレは血の池地獄に、肉体を浸しながら、今日は誰と戦おうか考えている最中だったりする。
いや、地獄って意外と住んでみれば都ということに気がついてはや十年……オレは充実した生活を送っていた。
オレは地獄に落とされて最初の三ヶ月ぐらいは本当に地獄の日々だったよ。地獄だけにな!!
そんでちょうどそのぐらい……地獄の血の池地獄の温度や、針山地獄の剣山で体が貫かれる痛みに漸く慣れだした頃――曲がりなりにも、自分自身の事を『オリ主』――そう思っていたオレは、自分自身の呆れるほどの雑魚さ加減に本当に絶望していた。支配者気取っといて、瞬殺とかカッコ悪いにも程がある。
地獄に落ちた理由? オレ、サイヤ人だぜ?
そりゃ年がら年中、よそ様の星を攻めまくってたんだから、死んだら地獄行きに決まってる。
そして、その時には既に、オレの中の転生者にありがちな特別意識は擦りきれて無くなっていた。
なんせ、毎日毎日殺され続ける日々を繰り返しているのだ。
そりゃ精神ぐらい摩耗するわ。
そんでまぁ、地獄に落ちてからオレは毎日、切り刻まれたり、熱湯で死んだりしながらも毎日何故こうなったのかを考えていた。
オレは何故死んだのか――決まってる。弱いからだ。
サイヤ人としてそれなりに強くなったオレは、その強さに慢心し、自分が宇宙全体でみたらそれほど強くないという事実を忘れて、調子にのった。
確かにオレはサイヤ人の中ではトップクラスに強かった。単純に『気』の量が多くて、戦闘能力が高いだけじゃない。ちゃんとした体術を身に付けて、それなりに戦闘経験も積んできた。オレは比喩なしにサイヤ人の中では――いや、フリーザ軍の中ですらオレと並ぶ者なんて少なかったのだ。
それ故にオレは慢心した――してしまった。所詮オレなど『汚い花火だ』でお馴染みのキュイよりも戦闘能力で劣っているというのに……
その結果が地獄に落ちた今だ。
オレは回りを見渡した――因みに当時のオレは針山地獄で体を貫かれていたはずだが、その痛みには既に慣れた……というか、あんなに死んでたら普通に痛覚ぐらいは薄れる。
何で他の連中はあんなに痛がれるんだ? と疑問に思う程度にはオレも壊れているのだろうな………
耳を済ませば、相変わらずそこには盛大に苦痛に悶える声と誰に向かって叫んでいるのかも解らん憎悪の籠った声が聞こえてくる。
だが、中にはほんの一部ではあるがオレと同じように苦痛になれたのか、或いはこの程度の苦しみなど屁でもないのか、平然としている者達もいる。
北の宇宙の地獄であるここには、宇宙中の悪党共が集められている。当然ながら、種族もバラバラだ。
サイヤ人であるオレと同じで、地球人と大して造形が変わらない奴も要れば、異形としか言い様のない見た目の奴もいる。他にこれぞ宇宙人! という見た目の奴も……
見た目も体型も全く違うここの住民だが、全員に共通することがある。
それは、宇宙中から集められた悪党であるということだ。もちろん中には、子悪党も居るんだろうが、こいつらは悪党であると同時に、見方を変えるなら宇宙有数の強者でもあると言うことで……その時オレの脳裏にはある考えが浮かんだ――
既に死ぬことのない不滅の肉体――
周囲には自分よりも強い強者が存在する環境――
強い体をもって生まれたにも関わらず、情けない醜態を晒した最期――そして生前の後悔。
「そうだ――
もう、オレは死んだ――しかも、二回もだ。
それは覆せない事実で、変えようがないけれども――それでもオレはこれ以上情けないままで居るのは堪えられない!!
オレは弱くて、愚かで、醜くて、情けない。
しかし、サイヤ人なのだ。
せめて強く在りたい――いつの日にか、魂が完全に浄化され、生まれ変わる時が来ても――せめて、強かったんだぞと誇れる状態で『オニオス』を終わらせたい――
その時オレは、既に終了した二度目の人生を、もう一度始める決意をした。
最期の時に、オニオスはこれだけ強かったのだと誇れるように――これは、終わってしまった在りもしない物語。オレ以外誰も望んでいない続編だ。
それでもオレはもう一度行けるところにまで行こうと覚悟を決めた。
これが、大体死んでから三ヶ月くらい――
で、今のオレがどうなのかというと――
「オニオス!! 今日こそは貴様を倒す」
「またお前かよ……バーダック。まぁ、お前強いし良いけどよ」
「相変わらず、やる気の無さそうな締まりのない面をしやがって……その余裕無くさせてやる!!」
そう言うと、オレの入浴タイムを邪魔しに現れたバーダック――オレと
「……お前、また強くなったな? これで下級とか、サイヤ人の基準が解らなくなるな」
気を限界まで高め、とうとう『金色のオーラ』を纏い、髪を黄金に染めたバーダックを尻目にオレは呟いた。
「ごちゃごちゃうるせーぞ!!」
「ハイハイ……」
流石にあの状態のバーダックを相手にノーマルの状態で戦えるだけの実力は今のオレには無い。
なので、オレも気を解放し、バーダックと同じように髪と気を黄金に変色させる。
問答無用で殴りかかってくるバーダックの拳を受け止めながら答える。
そして、オレとバーダックは戦いを始める――そして何時ものように数分で決着が着いた。
「クソッタレが……っ!」
「やっぱ強くなったな……この間とは大違いだ」
「うるせぇ!! 欠片も全力を出してネェ癖にナニが!!」
「けど、今回はこれで終わりだ――惜しかったな! 強くなったらまた来いよ。お前だったら大歓迎だっ!!」
六年ほど前にバーダックが地獄に落ちてから初めて面識を持ったが、その時からバーダックは未だにオレに挑んでくる。
最初は当時のオレに片腕で捻られてからというもの、それが琴線に触れたのか、殺られては強くなってどこかで修行でもしているのか、より強くなってオレの前に立ち続けている。
そして、ついにはオレに『
「何が……だよ…」
オレの止めの一撃――気功波に真正面から飲み込まれながらゆっくりとバーダックの肉体は消えていった。だが、オレもバーダックも死人だ。肉体はなく、魂だけの存在であるがゆえに、死の概念は限り無く希薄だ。今頃は地獄のどこかで復活していることだろう。
それにしても、バーダックの奴も最近はオレがイラつくからというよりは、オレと戦う事自体に多少なりとも思うところがあるように見えるな。
さっきの消え去る瞬間も、オレの思い違いでなければ、割りと満足そうに見えた。
「目標にされるほど強くなった気は無いんだがな……」
とは言え、悪い気はしないが……
「地獄は広い――ここには、宇宙と同じぐらいに未知の強者がうようよ居る」
実際、『
ここに居るのは、余りに我が強く、転生のための装置ですらも魂を浄化できないような人でなしのろくでなしばかりが集う掃き溜めのような世界。
しかし――今のオレは満たされていた。
上には挑むべき相手が居て、目指すべき頂がある。
更に下にはオレを追いかけてくる好敵手が居て、オレを追い落とすべく強くなり続け、全力で挑んでくる。
「ああ――最高だ! お前達がそうであってくれるなら――きっとオレは」
高みへ――更なる高みへと登り続ける事が出来る!!
「
何度も言うが、これは既に終わってしまった男の、誰も望んでいない続編の物語。
オレの人生は既に終了し、その先など無い。だがそれでも前に進むことは出来る。
それを証明する為にオレは今日も挑もう――高みへ。
多分続きません
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