ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか? (ハヤさん。)
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プロローグ[ある日の冒険者と神様]

が、頑張るぞい!!


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俺は憧れていた。"救世主"に。世界を救うんじゃない。たった一人の世界を救う"救世主"に、俺は憧れた。

 

その物語の名は[セイバーレコード]、"救世の記録"。

 

 

さぁ、俺達の物語を創ろう。誰のものでも無い、"俺達の神話"を。

 

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プロローグ

     [ 救世の記録 / セイバーレコード ]

 

 

「"ツキ様"~?朝ですよ~?」

 

俺は、朝早めに起き、顔を洗い歯を磨き、洗濯物を取り込み終わり朝食を作っていたところで、神様を起こしていない事に気づく。目玉焼きを作っていた手を止め、二階の寝室に声を掛ける。さぁて···起きてくるかな···?起きなかったら、朝ご飯作ってから起こしに行こう。

 

「···はぁーい。起きてますよー」

 

少し眠そうな声で返事が聞こえる。起きたばかりのようだ。

 

「朝ご飯もうすぐ出来ますよー?」

 

「えっ!?ほんとですか!?すぐ行きます!!」

 

ドタバタと忙しい音が聞こえる。そんな急いで準備しなくても···可愛いからいいか?うん。いや良くないよな可愛いっていうのは。

 

鼻歌交じりにトーストを焼いていると、ふと目に入った階段を急いで駆け降りてくる黒い人影。それはいつも綺麗な月の紋様が入った黒い着物。綺麗な黒髪を纏める眩しい金の釵。平均より少し低い背丈。くりっとした金色の瞳。あわあわ、と忙しそうに動く綺麗な唇。どれをとっても綺麗で可愛い。

 

「ふふっ···おはようございます、"ツキ様"」

 

「ふあぁ!?あ、おはようございます、ルミナさん!!」

 

たどたどしく頭を下げて敬語で挨拶するツキ様。彼女こそ、我がファミリア[ツクヨミファミリア]主神[ツクヨミ]様だ。

どんな人にも敬語で話す丁寧で優しい彼女は今日も忙しそうだ。

 

おっと、自分の紹介を忘れてた。俺は[ルミナ·トゥルーレコード]。17歳の冒険者だ。今は[ツクヨミファミリア]でお世話になってる駆け出し冒険者。

 

「大丈夫ですかツキ様?もしかしてゴキブリでもでました?」

 

「そんな洒落にならない事言わないで下さい!!朝っぱらから不吉ですよ!!」

 

···G、ドンマイ。それが君の生きざまだ。可哀想だなおい。

 

「冗談ですよ♪」

 

「洒落にならないって言ったじゃないですか!!!」

 

「えっ···?洒落と冗談って一緒じゃないんですか···?」

 

「···えっ?一緒なんですか···?」

 

くそぅ。この世界にはあの御方がいらっしゃらない。困ったもんだ。gogl○せーんせー、って呼びたいが、それはできない。それがこの世界だからだ。あら、なんて不便。

 

「まぁそれは置いといて。今日はツキ様の好きなトーストエッグですよ。冷めないうちに召し上がって下さい」

 

「食べます食べます!!トーストエッグ大好き~~~!!!···はっ!?」

 

両手を万歳させて満面の笑みを浮かべるツキ様。しかし、俺がいることに気づいたのか(気づいていなかなかったのか···?)何この可愛い生き物。今すぐ抱きしめたいんですけど。ツキ様は一気に頬を染めて俯きがちになる。よっぽど恥ずかしかったのだろう。

 

「それじゃあ、いっただきます!!」

 

「いただきます···」

 

それぞれ朝食に取りかかる。ベーコンエッグが乗ったトーストは、外はカリッと、中はしっとり。エッグはとろとろ半熟でベーコンは肉厚で香ばしい味を引き出している。これは、美味しくできた···かな···?

 

「···(モグモグモグモグ)」

 

···ツキ様が一心不乱に食べているところを見ると、とても良くできたのだろう。

 

「それで、ツキ様。今日もダンジョンに行こうと思うのですが···」

 

「ハムハム···えぇ、良いですよ。でも、無理して上の階層まで行かないで下さいね?」

 

「大丈夫ですよ。それは心得ていますから」

 

「それなら安心です!!いってらっしゃいです!!」

 

「はい!!それじゃあ食べちゃいましょうか!!」

 

「(モグモグモグモグ)」

 

···いや、よく食べるなぁ~···あ、もう食べ終わった。お粗末様でした。

 

 

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「武器オーケー、装備オーケー、ポーションオーケー、道具オーケー···よし!!」

 

俺は背負いカバンと腰脇のポーチに入っているアイテムやツールをチェックし、武器を研ぎ直す。そして胸のチェストプレートと腕のガントレットを装備し、月の紋様が入った黒いロングコートを確認する。

すると後ろからツキ様の声が聞こえた。

 

「準備はできましたか?それでは、頑張ってきてくださいね!!私、ここで応援してますから!!」

 

ツキ様は両手を胸の前にもってきてグーを作る。いつもやるツキ様の応援のポーズだ。やぁ···いつも可愛いなぁ···。うし元気出てきた!!!!

 

「はい!!行ってきます!!ツキ様!!」

 

「あ!あと、もうひとつ」

 

「?はい?」

 

ツキ様は、少し俯いたあと、すたすた と近づいてきて、俺の左手を自分の両手で握りしめ、耳元でそっと囁いた。

 

「···絶対、帰ってきて下さいね?」

 

心配してるのだろうに、その美しい声に、俺の心臓は高鳴った。だから、俺は···

 

「···はい。必ず帰ってきます···だから、行ってきます」

 

「···はい!!!行ってらっしゃい!!」

 

···ツキ様を一人になんかしない。させはしない。ツキ様には、ずっと俺が着いている。だから俺は、ツキ様のもとへ帰ってくる。俺の家へ、俺の神様のもとへ。

 

 

プロローグ

     [ 救世の記録 / セイバーレコード ]

 

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次回予告(話す事がありませんでした···)

 

第3階層にて、救世主に憧れる主人公[ルミナ·トゥルーレコード]はキラーアントの群れに囲まれてしまう。そこで炸裂する、ルミナの魔法[レクレールサヴェーション/閃光付与]。

彼は、救世主への歩を着々と進めていく。

 

次回、ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか? 第1話[閃光の双刀使い]。




が、頑張ったんだぞい...。


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第一話[閃光双刀/救世頭角

短いなぁ...。


ダンジョン編スタートです!!

 

 

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   [閃光双刀/救世頭角]

 

 

「···いつ来てもスゲー人だなここは···」

 

俺は、[ツクヨミファミリア]が居住している小さな一軒家から出て、メインストリートへと走っていた。色々と入り汲んだ複雑な居住区なので、メインストリートまで出るのは時間がかかるが、裏道を見つけたり、近道を見つけたりしながら中心地へと歩を進める。

 

んで、今メインストリートってわけである。天下の往来だなぁここは。様々な人達が店や家に出たり入ったり。中央道を歩ったり走ったり。そんなこんなで、人で溢れかえっていた。

新鮮な野菜や果物、肉や魚を売ってる市場では、店の店主や店員の声、そして「まけてー!!」と叫ぶお客さんの声が響き渡る。帰りにツキ様にお土産買ってこうかなぁ···あまり贅沢はできないが。

 

「さて···行きますか···」

 

そして、俺は漸く目的地、[バベル]へとやってきた。

 

[バベル]。迷宮から這い上がってくるモンスターを抑える蓋、の役割を担ってる天を衝く塔。最高階層50階で、確か、20階までがショッピングセンターや、ファミリアが出している店が連なる商店街地区、その上が神のプライベートルームと聞いている。羨ましや、神。···妬ましくなんて、ない···んだからね!!!

 

「おっしゃ!!いっちょ攻略しますかぁ!!!」

 

さぁて、俺の剣舞をご覧あrーー

 

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前言撤回、助けて。

違うんだ、これは罠だ、僕を陥れるために仕組んだ罠だ!!!

 

「くっそ···せあぁ!!!」

 

「ギィィ!!!」バシュン

 

俺は左手に握る片手刀[鉄小太刀]を大薙ぎし、飛びかかってきた異形の蟻[キラーアント]を吹き飛ばす。キラーアントの体は黒炭になって[魔石]を落として消える。···そこまではいい。

 

「せあぁ!!」「ギィィ!!」バシュン

 

「せあぁ!!」「ギィィ!!」バシュン

 

斬って、斬って。

 

「せあぁ!!」「ギィィ!!」バシュン

 

「せあぁ!!」「ギィィ!!」バシュン

 

斬って、斬って···あの

 

「せ、あぁ!!」「ギィィ!!」バシュン

 

「···あぁ···!!」「ギィィ!!」バシュン

 

斬って···斬って···あの、多すぎやしませんか···?キラーアントさん···?そのー、手加減とかあったら嬉しいなぁー···なんて···

 

「「「「「「「ギィィ!!!」」」」」」」

 

「ギィィ!!じゃねーよ馬鹿ぁぁぁ!!!」

 

さぁて···ドウシヨ?なんか、非常にまずい状況なんだけど···まぁ、

 

そんなもの、決まってる。"全部ぶった斬る"

俺は剣を一回納刀し、両手を前に重ねて詠唱を開始する。

 

『瞬く閃光の剣撃、[レクレールサヴェーション/閃光付与]!!!』

 

"詠唱魔法"最近覚えた新たな戦闘技能。この魔法は[付与魔法/サヴェーションスペル]。閃光の素早さを体現するため、筋肉に電流を流し、活性化させ通常の何倍ものスピードで動くことができ、何倍ものパワーを誇る。俺の体に閃光が走り、体が輝きだす。うっへぇ、バチバチくるなぁこれ···さぁ、耐えられるか?蟻ん子共!!!

 

「···はぁぁ!!!!!」

 

俺は、[右手と左手、両方に刀を握る。] そう、俺は二刀流。刹那、俺の体はぶれ、消えた···ように見えたであろう、キラーアント達は。俺からすれば···遅すぎる。

まずは、三体。一匹の顎を蹴りあげ、残りの二体を大薙ぎで斬り倒す。そして残ってるのは···七体。あぁもういいや、全部斬っちゃえ。

右手の刀を逆手に持ちかえ、回転しながら斬りかかる。通称[リ○ァイ斬り]。高速回転で斬りかかり、同時に四体を倒す。そして、残った奴等に向き直り、串刺しにする。そして、七体は同時に黒炭になり、散っていった。

 

その間、約10秒。そして、10個の魔石が同時に、ゴトン と地面に落ちた。

 

「···っはぁ、はぁっ···」

 

剣を納刀した瞬間、閃光付与の効果が切れたのか、突然体が重くなり、ガクリ と膝をついてしまう。閃光付与の効果は[一定時間の身体能力向上、引き換えに効果終了時、一定時間の身体能力の低下]だ。つまりは、限界を超えると、後の反動がヤバいっていうあるある能力。

 

「···今襲われたらやばいな···」

 

今は、動けないという程でもないが、とても戦える状態じゃない。レベルアップすれば、この低下もあまり気にしなくなる程度になるらしいが···今の俺のレベルは1だ。まだまだ先は長い。

取り敢えず、今は何処かに身を隠そう。魔石の回収も忘れませんよ?やったぁ、儲かった。

 

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「ふぅ~···そろそろ大丈夫かなぁ···?」

 

俺は大きな岩影の元に腰を下ろし、水筒に入った冷水を喉に流し、体を休めていた。体はかなり軽くなり、さっきよりは大丈夫そうだ。そろそろ攻略を再開しよう。

 

 

 

···おかしい···さっきからモンスターの姿が見えない。誰かが倒しまくってるのか···?いや、それにしても···

 

瞬間、その光景が、俺の目に飛び込んで来た。

 

「どうなってやがる···?」

 

俺の周りには、複数の魔石や、黒灰が散乱していた。それだけならまだ分かる。しかし···目の前には、巨大なキラーアントが、通常のキラーアントを食い散らかしている光景だった。

モンスターが共食い···?そんな馬鹿な。他のモンスターはどうか知らんが、モンスターっていうのは、基本群れを成し、協力して敵を仕留めるはずだ。なのにどうだ、目の前の光景は。巨大なキラーアントは、その大顎を使い、キラーアントを噛みちぎり、ぶん投げている。

 

そして、その爛々と光る眼は、俺に向いた。

 

「っ!!!!????」

 

瞬間、俺は宙に浮いていた。息ができない。喉が潰されたように空気が入ってこない。地面に転がり、大きく咳き込む。何だ?何が起こった···?

 

「グルルル···」

 

まさか···今の一瞬で、俺を吹き飛ばしたっていうのか···?だとしたら···速すぎる。

 

「くっ···!!!」

 

俺は、両腰に下げている二本の刀を抜刀し、構える。落ち着け、見える。呼吸を整えろ、冷静になれ。ツキ様が言ってたじゃないか。"あなたは死なない"って。信じろ、ツキ様を、信じろ、俺自身を。

 

「こいつを、倒す···!!!!」

 

さぁ、冒険の始まりだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「グギャアアアアアアア!!!」

 

俺の双刀と、大蟻の大顎が、火花を散らし、交錯した。

やはり、こいつの力は半端ない。腕がもぎ取られるかと思った。そのくらいの衝撃が、刀を伝って腕響いてきた。こいつは···ヤバい!!!

 

「やあぁっ!!!」

 

俺は左手と右手を重ねるようにして刀を繰り出す。こいつ、でかい攻撃の後は遅い。顎が重いのか、地面に顎を着いたまま、動かない。刀はキラーアントの骨格を抉り、黒い粘着質の表格が地面に飛び散る。このまま、もういっちょ!!

 

「せあぁっ!!!」

 

「グギャアアアアアアアア!!!」

 

キラーアントと正面に向き直り、刀二本を頭に叩き落とし、頭部を両断する。そして下に落とした刀を再び上に持ち上げ後ろ向きになり、顎を斬る。そしてその勢いのまま、踵で顎を蹴りあげる。しかし、吹き飛んだ気配は、無い。

キラーアントは俺を正眼に捉え、突進してくる。空中に浮いたままの俺は、呆気なく諸に突進をくらい、大きく吹き飛ばされる。硬い岩肌に当たり、胴体がじんじんと痛む。

 

「くっそ···がぁ···!!!」

 

今の連続攻撃を喰らわして、びくともしないとは···恐れいった。だけど、まだ終わってない。

 

『···瞬く閃光の剣撃[レクレールサヴェーション/閃光付与]!!!!』

 

俺は、まだ戦える!!!!閃光が、俺の身体を包んだ。

 

 

しかし、運命というのは、残酷なものだ。

 

 

「グギャアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

 

突如、キラーアントが咆哮した。すると、至る所から、地面が盛り上がり、黒い物体が浮き出てくる。それが何なのか、容易に理解できた。

 

「···はぁ···?なんだよ、それ···!!!」

 

しかし、その現象を理解することは、難しかった。

キラーアントは、通常のキラーアントを自分の咆哮により、呼び寄せたのだ。そんな芸当ができるとは···しかし、この状況···非常にまずい。

 

周りには、眼爛々と光らせたキラーアントが、うようよと蠢いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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この度は、第1話を読んでいただき、ありがとうございます。結構閲覧数が増えていて、嬉しい限りです。誠にありがとうございます!!!これからも、よろしくお願いいたします!!

 

今回は、一応のルミナ君のステイタスを紹介したいと思います。これから何回かステイタスが更新されるので随時書きたいと思いますが、今のところのステータスをば。

 

・[ルミナ·トゥルーレコード] 職業:冒険者 / 人種:ヒューマン / 性別:男 / 年齢:17歳 / 武器:〔鉄小太刀×2〕/ 装備:〔ブラックコート〕〔チェストプレート〕〔ガントレット〕〔三日月の石護り(耐久、敏捷に補正あり)〕

 

基本アビリティ:力《138:H》耐久《123+50:H》器用《172:H》敏捷《153+50+35:G》魔力《201:G》

 

発展アビリティ:【閃光(アビリティ向上毎に敏捷補正、応用敏捷を付与)】【耐異常(状態異常に大幅な耐性を付与)】

 

スキル:【???】

 

魔法:【閃光付与/レクレールサヴェーション(敏捷に大幅な補正を付与。使用時、一定時間の身体能力向上、使用後、一定時間の身体能力低下)】

 

です!!プロフィールは、次の機会に。

 

では、次回予告

 

ダンジョン攻略中、"突然変異"のキラーアントと遭遇したルミナ。強大な力の敏捷に圧倒されるも、耐え凌いでいたが、通常のキラーアントの群れに囲まれてしまう。

ツクヨミの為、絶対に生きて帰ると、吼えたルミナを、黄金の光が包み込む。それは、発現されたルミナのスキル【限界解放/オーバーロード】。

全てを超える閃光は、全ての闇を斬り裂く

 

次回、ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか? 第2話[限界解放/オーバーロード]

 

 

 

 

 

 

 




短い。後書きっぽいのが最後に入っているのは、書き溜めておいたのが本編に混ざっちゃったからです...。


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第二話[限界解放/オーバーロード]

むぅ...なんか違う。


はい、第2話です!!今回はルミナのスキル発現回です。人を超えし力を得る[限界解放/オーバーロード]の力をご覧あれ!!!

 

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ツキ様は、俺に言ってくれた。

 

「あなたは死にません。大丈夫です。あなたは、救世主になるんですから。それに、私がついています。私が、あなたを護っています。護ってあげます、だから、怖がらないで、その一歩を」

 

そう言って、ツキ様は俺をそっと、しかし、ぎゅっ と力強く抱き締めてくれた。あの日は忘れない。そして、俺の生きる源になっている。

 

···何、弱気になってんだよ···立ち上がれ、剣を握れ···立ち向かえ!!俺は、ツキ様の下へ、帰ってくるんだ!!!

 

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「···はっ!?···ガハッゴホッ···!!」

 

俺は、冷たい地面の上で眼を覚ました。ここは···?そうだ、俺はダンジョンに行って、そして···

 

「キラーアントは!?」

 

辺りを見渡すと···辺りは黒い[何か]で埋め尽くされたいた。その黒い何かは、うようよと蠢き、赤い二つの光が爛々と光っている。···そんな···馬鹿な···?"これ"全部、キラーアント···なのか···?

 

「···ギィィ···」

 

その内の一匹。いや、違う···こいつが統率を執っている。さっき俺が対峙した巨大なキラーアント。おそらく、こいつが咆哮し続け、キラーアントを大量に呼び寄せたのだろう。そして、何を思ったかは知らんが、今まで俺を殺さずにいた、というところだろう。···良い趣味してるぜ、お前。

さて···これ···どうするか···?少なくとも、30匹以上いる。それに、あの巨大なキラーアントだ。総戦力は、大変な事になっているだろう。統率の執れた、殺戮蟻軍団ってところか···

 

「···ごめんなさい、ツキ様···」

 

俺は、もう帰ってこれないかもしれません···だけど、諦める選択肢は、無い!!

 

「···うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

高らかに吼え、刀を二本抜刀し、キラーアントの大群目掛けて突進する。まずは、こいつらから!!!

一匹一匹、個体の強さはそうでもない。当たり所が良ければ、一撃で倒すことだって、可能だ!!!

 

「せあぁぁ!!!!!」

 

ザシュッ という音と共に、一匹のキラーアントが黒灰となって消滅した。

 

今まで培ってきた戦闘技能を、覚えてきた知識を、そして、固めた覚悟を全てぶつける。

 

だから、俺は戦える。この戦場で、舞える!!!!

 

「うおおおおおおおおおおお!!!!」

 

こんなところで、死ぬわけにはいかない!!!

俺は両手を狂ったように振り回し、キラーアントを切り刻む。そして蹴りを入れ、相手を牽制し、最後の一突きをお見舞いする。今ので、五匹は消えた。でも、まだまだ···!!!

 

しかし、相手も無抵抗じゃない。群れを成し、キラーアントは襲い掛かってくる。小さいとはいえ、その顎から繰り出される攻撃は十分脅威だ。注意しないと···

しゃーない···一気に決めるか···!!! 俺は距離をとり、詠唱の準備を開始した。

 

『レクレールサヴェーション/閃光付与!!!』

 

全身に閃光が走り、電流が迸る。血が沸騰したような感覚と共に、視界がクリアになる。まず、動きが遅いのが、前の四匹、まずはそいつらから···っ!!!!

 

ビュッ 「···っあぁ!!!!!」

 

「ギィィ!!!!」

 

瞬間的にダッシュスピードを上げ、四匹をすれ違い様に斬り伏せる。恐らく、今の俺の動きは、[黒い閃光]だ。

さぁて···次は···こいつらだ!!!!!

 

しかし、俺が降り下ろした刀が、キラーアントを斬ることは無かった。

 

刀が空を斬る。そこに、斬ったはずのキラーアントの姿は無かった。何が起こった···?理由は至極簡単。我慢できなかった大型キラーアントが、俺が斬ろうとしたキラーアントを突進で吹き飛ばしたのだ。そして、その勢いを衰えさせず突進してきたキラーアントに、同時に俺も吹き飛ばされた。

 

「がふっ···!?」

 

「グルルルルル···」

 

また岩肌に体を強かに打ち付け、地面に崩れる。意識が暗闇に放り出されてしまわないように、舌を噛んで耐える。くっそ···まじかよ···

 

俺はキラーアントを睨み付ける。しかし、そこには先ほどまで見ていた大型キラーアントの姿は無かった。その替わり[深紅の装甲を持つキラーアント]が、そこに佇んでいた。

 

「···どちら様ですか···?」

 

「フシュゥゥゥゥゥ···」

 

何溜め息ついてんだこの野郎。

 

そして、紅い閃光は消える。

 

「···ぐがぁっ!!!!!????」

 

速い、速過ぎる。さっきのあれでも速かったのに、今度のは桁違いだ。まるで見えない。[閃光付与]で強化されている俺の肉眼で捉えられないなんて···もはや俺に勝ち目はない。だけど···

 

「ツキ様···俺に、力を貸して下さい···今しか、無いんです···ここまで来て、逃げるわけには、いかないんです!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

刹那、俺の身体を、黄金の光が包んだ。

 

*********************************************

 

人というのは、力を抑えている。脳から出される出力は、3%にも満たないらしい。それは何故か。身体が、その3%の出力に慣れてしまい、それ以上の出力が出されたら持たないからである。俗にいう"人の物理限界"はこれである。

 

なら、それを壊したら?それを超えたなら?それは、この後、ある少年により証明される。

 

スキル[限界解放/オーバーロード]、発動。

 

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何だ···これは···?身体が軽い。よく見える···何だこれ···!?

深紅のキラーアントが突っ込んでくる。しかし、それは"酷く遅い"

 

「···ふっ···」

 

「グガッ!?!?」

 

刀を後ろに引き下げ、渾身の一撃を放つ。それは深紅の装甲を突き破り、深々と突き刺さる。何でこんなに脆い?

続けて回転斬りを放ち、自慢の大顎が根こそぎ崩れる。スカーレットキラーアント(命名)はひっくり返り、地面をのたうち回る。俺は軽く地面を蹴り、それだけで大きく跳躍する。そして、剥き出しになった無防備なその腹に、両方の刀を思い切り突き刺す。

 

「ギィヤァァアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

最後の叫びを上げ、しばらく暴れたあと、ついにスカアン(めんどくさい)は動かなくなった。

 

紅い灰をぶちまけ、深紅のキラーアントの身体は吹き飛び、深紅の装甲の亡骸と、巨大な魔石がゴトン という音を立て、地面に転がった。

 

暫く、俺は放心状態にいた。しかし、意識がだんだんと戻ってくる。

 

「···勝った···のか···?」

 

漸く、深紅が居ない事に気づき、自分の勝利に気づいた。···まじか···やった···

 

「ぃよっしゃああああああああああああ!!!!!」

 

俺は地面に倒れこみ、ダンジョンの天井に向かって叫ぶ。やった!!やったぞ!!倒した!!勝った!!

 

 

そして、俺の意識は、暗闇に放り出された。

 

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···あ···れ···?ここは···?

 

俺は、何故かあるベッドの上で眼を覚ました。···さぁ、言ってみようお約束!!

 

「···知らない天井d「あ、眼を覚ましたのね、ルミナ君」···」

 

···えー···。言わせて下さいよ···

 

「エイナさん···」

 

「ん?どうしたの?まだぼーっとする?」

 

そう言ってエイナさんは、頼れるお姉さんスマイルを振り撒く。···可愛から許しますよ。えぇ許しましょう!!!いやぁ、この笑顔を見れただけ良いとしますか。

 

エイナさんは、ギルドの受付嬢で、なんとかなんとかさんの専属アドバイザーをしてるらしい。こうやって他の人の受付も行っているらしいが、基本、そのなんとかなんとかさんらしい。正直、羨ましい。でも、俺にはツキ様が···あぁ駄目だ!!そんな恐れおおいことを···

 

そんな煩悩はさておき。疑問。

 

「あの、なんで俺此所にいるんですか?俺、ダンジョンに潜って···あれ···?」

 

おかしいな···ダンジョンに潜って、そこから···あれれ···?そこからの記憶がプツンと途切れてしまっている。何があったんだ···?

 

「え?覚えてないの?君、ダンジョンで気絶してたんだよ?」

 

「気絶?」

 

「そう。それでね、おっきな魔石と、紅い灰が残っててね。中でも眼を惹いたのがこれ」

 

そう言って、エイナさんは白い布で包まれた[何か]を取り出す。それは、深紅で包まれた大きな板だった。あれ?それ、どっかで見たような···?

 

「これが残ってたんだって。ルミナ君、これ何?」

 

それ···は···確か···何だっけ···思い出せ···紅、深紅、板、ダンジョン···キラーアント···?そうだ!!!深紅のキラーアント!!!!

 

「···そうだ!!!エイナさん!!!聞いて下さい!!」

 

俺はベッドから身を乗り出して、エイナさんの顔に迫る。エイナさんの綺麗な、整った顔が目の前にあった。···後々考えてみれば、顔から火が出るほど恥ずかしい。

 

「わっ!ど、どうしたの?」

 

「あの···」

 

俺は、ダンジョンで出会った深紅のキラーアントについて、エイナさんに話した。

 

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「···ルミナ君、それマジ?」

 

「マジです」

 

エイナさんがマジ って言うの可愛いな。じゃなくて。

 

「···そんな、もうそんなに出現してるなんて···」

 

「···出現?」

 

もうそんなに?どういう事だ?

エイナさんは眉を寄せて顔を曇らせる。何があったんだ?

 

「···あのね、ルミナ君が倒したそのモンスターは、最近確認された[突然変異種]と呼ばれるモンスターである可能性が高いわ」

 

「突然変異種?」

 

「えぇ。その名の通り、通常種とは違う形態をもつ極めて稀な種類なんだけどね。まだ二匹しか確認されてないのよ。その内の一匹は、ルミナ君の深紅のキラーアント」

 

ほえぇー···ん?二匹?まさか、俺の他にもう一人、その突然変異種を倒した奴がいるのか?

 

「そして、もう一匹が[深紅のミノタウロス]。ベル·クラネル氏が倒した、ミノタウロスの強化個体よ」

 

···ミノタウロス···?あの、中層での高レベルモンスター···?それを、ベル·クラネルが···

 

「···その、ベル·クラネルって人は、レベル何ですか?」

 

「私も驚いたわ。レベル1よ。恐らく世界最速でミノタウロスを倒した人ね、しかも一人で」

 

「···」

 

···そんな···!?レベル1···!?一人で···!?そんな···馬鹿な···

 

 

 

俺は、自分の強さにそれなりの自信を持っていた。二刀流であることも、魔法を使えることも、一人で大量に狩る事ができることも誇りと自信を持っていた。

しかし、それは間違いだった。紛い物だった。それを今、気づかされた。

 

自分はまだ、全然強くない。上に、届いていない。自分と同じレベルの奴にさえ、届いていない。舞い上がっていた、錆び付いた剣を自慢そうに掲げる、ただの子供だった。

 

それが、悔しくて堪らない。

 

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「···ルミナさん···遅いですね···」

 

さすがに、帰りが遅すぎる。何かあったのだろうか···?

お茶の入った湯呑みに両手をつけ、暖める。

 

「···はっ!?まさか!?私に隠れて女の子と···!!!」

 

それなら帰りが遅いのも頷ける。ルミナだって17歳。そういうお年頃だ。女の子と一つや二つ、遊びたい盛りに違いない。

 

「はわわわわわ····!!!!そ、そんなぁ、ルミナさん···!!!!」

 

あぁ、今までぐずぐず、気持ちを伝えなかった自分が悪いのだ。ルミナのあの蕩けるような優しさに、自分だけを見てくれると錯覚し、その優しさに甘えていた自分が悪いのだ。自分の気持ちを伝えれば、あの優しい少年は快く、神だの人間だの気にせず、ツクヨミだけを愛してくれただろう。否、愛さなければならない使命感をもつだろう。

 

「···うえぇ···ひっく···うぅ···」

 

自然と、涙が溢れてくる。もう会えないわけじゃないのに、彼を独り占めしてしまいたい独占欲は、留まる事を知らない。神も、恋には盲目らしい。神だって、気づかないことがあるのだ。

 

ガチャ 「ツキ様~?もう寝ちゃってますか~?すみません、遅くなってしまって···」

 

「ルミナさぁーーーーーん!!!」ムギュ

 

「うわあああああ!?つ、ツキ様!?!?」

 

「うえええん!!!会いたかったんですよおお!!どうしちゃったんだろうと思って!!何かあったらどうしようって···もしかして女の子のくんずほぐれつしてるのかと思って「え、ちょっと待って下さいそれどういう意味ですか?」それで、私···!!!」

 

抱きつきながら、ツクヨミはこっそり彼の匂いを嗅ぐ。鼻腔を擽る甘ったるい匂いは、ツクヨミの身体を満たしていく。このまま眠れるくらいの気持ち良さに襲われる。

 

「あ、あのツキ様。俺、そんなくんずほぐれつなんてしてませんから、安心してください」

 

「···ぐすっ、ホントですか···?」

 

「はい、エイナさんと話してきたぐらいで」

 

「うわああああああん!!!!やっぱり女の子と話してるじゃないですかああああ!!!!あああ私の馬鹿あああああ!!!」

 

「ええええええええええええ!?!?」

 

ツクヨミの勘違いは、寝るまで続く。

 

 

 

~ちょっと落ち着こう~

 

「···と、いうわけなんです。分かってくれました?」

 

「···zzz···」

 

「···寝んなああああああああああ!!!!」

 

俺はこっくりこっくり舟を漕いでいる(ちくしょー!!!めちゃくちゃ可愛いいいいいいい!!!!)ツキ様を揺り起こす。

寝間着のツキ様はよく出てくるピンクの浴衣で、金の鈿で髪を纏めている。少し開いた胸元が、俺の理性をぐちゃぐちゃに掻き回してくる。また、袴の隙間から覗く白い太ももがチラチラと目に入り、もうあれが爆発しそうになる。はい駄目ですねごめんなさい。

 

「ふあぁ···はい、分かりました···私の勘違いだったんですね···」

 

「えぇ、そうですよ。」

 

大体、ツキ様と一番くんずほぐれつしt、ゲフンゲフン。

 

「はぁー···良かったぁー···一安心です」

 

「え?何でですか?」

 

「何ででしょうね?」

 

そう言ってツキ様は妖美な笑みを浮かべる。その黄金の瞳に吸い込まれそうになり、その唇に吸い寄せられそうになる。ツキ様は、身体の全てが吸引機だ。

 

「···あの、それでですね、ツキ様。」

 

「はい、何でしょう?」

 

「ステイタス更新をお願いします」

 

忘れてた

 

「あ、はい♪任せて下さい!」

 

ツキ様は、いつもの胸の前でガッツポーズを作る。やぁ可愛い。

 

俺はベッドの上で、仰向けになり、ツキ様が俺の背中に跨がる。すべすべとした感触の太ももがやヴぁい。

ツキ様は神血(イコル)垂らし、ステイタスウィンドウを輝かせる。相変わらず、神の恩恵とは凄い。

 

「···ツキ様、どうですか?」

 

「···ルミナさん、あなた今日、何があったんですか···?」

 

「え?さっき話した通りですけど···?」

 

「ルミナさん···おめでとうございます!!!レベル···2です!!!!」

 

ツキ様の嬉しそうな声が、部屋に、俺の鼓膜に響いた。

 

 

 

 

 

   [限界解放/オーバーロード]

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

今回は、ルミナ君のスキル[限界解放/オーバーロード]でした。内容は次回。そして、突然現れたスカアンも次回ということで!!

 

次回予告

 

遂に深紅のキラーアントに勝利したルミナ。街に戻ってきたルミナに、ギルドの受付嬢、エイナ·チュールから告げられる衝撃の事実。[突然変異種]の存在深紅のキラーアントを超える強化個体[深紅のミノタウロス]を倒した[ベル·クラネル]という冒険者の存在。そして、倒れた自分を救ってくれた一人の冒険者[セツナ·クロカゼ]。

 

少年は切に、強くなりたいと願う。一人の冒険者の背中を追いかけて。そして、少年は二つの月と出会う。

 

次回、ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか? 第3話[強き者/月夜見ノ双月/刹那の風]




違う。


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第三話[強き者/月夜見ノ双月/黒き風]

ふぅ...疲れた。


 

第3話

   [強き者/月夜見ノ双月/黒き風]

 

 

レベル2、冒険者にとっての一番重要と言っても過言ではない、冒険者のステイタスだ。レベルが1違うだけでも戦闘力は大きく変わる。

 

遂に、今まで積み上げてきた努力が報われた。俺も漸く、レベル2だ!!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あの···ツキ様」

 

「??どうしたのですか?ルミナさん?」

 

ツキ様との食事中、俺は唐突に口を開いた。

 

 

突然変異種、"深紅のキラーアント"との激戦から一夜明け、翌日。なぜか、俺より早く起きていたツキ様に朝を挨拶をし、一緒に洗濯物を干し(ああもう、ええ神様やぁ!!)、朝ご飯。

今日のメニューは黒糖パンと半分に切った茹で卵、こんがり焼いたベーコン、コンソメブロックを溶かして作った玉ねぎ入りコンソメスープ。うん、とても美味しい。

 

ホカホカの黒糖パンに少量のバターを塗り、溶けるまで待つ。トロリと蕩けてきたバターの甘い匂いを吸い込み、かぶりつく。舌を流れる黒糖独特の甘味とバターの香ばしい甘味が混ざりあい、思わず顔が蕩けそうになる。甘いものって素晴らしい。

こんがり焼いたベーコンを、ナイフを使って一口大に切り、肉汁が溢れ出す。うお、これは凄い。それではさっそく···

 

「···ルミナさん」

 

「あー···はい?」

 

口まで持っていき、ほうばろうとした瞬間、ツキ様が口を開く。なんだなんだ?

 

「···あーん、です」

 

そう言って、ツキ様は食べやすい一口サイズに切ったベーコンを、フォークに突き刺しこちらに持ってくる。え?あれ?はい?どゆこと?

 

「つ、ツキ様、こ、これは···?」

 

「···っ···!!!ち、巷で流行ってる神の食事法です!!わ、私あまりやったことないから、れ、練習しておこうと思いまして!!!」

 

···マジすか···?神様達何やってんの···?それ人間界ではやったら死ぬと言われる(否、殺される。)最終鬼畜奥義[はい♪あーん♪]じゃないですかぁ···!!!!

 

「···あああああ、あのおおおお!!!!そっそそ、そんな恐れ多いことを、俺がやるわけには!!!」

 

死ぬから!!!!余裕で鼻血吹いて死ぬから!!!

 

「い、いえ!!いつも頑張ってくれているルミナさんに、食べて欲しいのです!!!」

 

「いや、自分の分はありますから!!!」

 

「わ、私のベーコンが食べられないって言うのですか!?」

 

「めちゃくちゃ食べたいです!!!」

 

···やっちまったー···。

 

「ほら、そうでしょう···え?ルミナさん何て?」

 

しまった、口を滑らせてつい本音が···でも、食べたいよね?しかもあーんだよ?これが普通の反応であり人間として常識的な行動であって俺は何も悪いことはしてないつまり(ry

 

そんなこんなで、朝食は進んでいく。

 

それで、冒頭部分の俺の発言になるわけだ。メタいね。

 

「ツキ様、あの突然変異種のことで」

 

「え?まだ何かあったのですか?」

 

「はい、実は···」

 

俺は椅子の下に置いておいた白い布に包まれた板を取り出す。その布を巻き取り、その姿が露になる。

それは、光を反射する深紅の装甲。艶の掛かったその紅い光に一瞬目を眩ます。これは、あの"突然変異種/スカーレットキラーアント"を倒した際にドロップしたモンスターアイテム、[深紅の甲殻]。

 

「これのことなんですけど···」

 

「うわっ···凄いですねそれ!!」

 

「えぇ。それで、これをどうしようかなと思っていまして···」

 

モンスターアイテムなんて普段手に入らないから、どうしたらいいか分からない。

 

「そうですね···そうだ!!私が腕利きの鍛冶屋さんを知ってます!!これを機に、ルミナさんの防具を新調しましょう!!!」

 

「え!?そんな事できるんですか!!!」

 

あれ?どっかで見たことあるような流れ。

 

「もちろんです!!やりますか?」

 

「!!お願いします!!」

 

···被ったー···。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「では、加工が終わるまで、ダンジョンに行っては行けませんよ?今日はゆっくり休んでください」

 

「はい、分かりました」

 

ツキ様に深紅の甲殻を渡し、俺は玄関で靴を履いていた。俺のガントレットとチェストプレートを元に作らしいから、今日1日暇だ。なので、街を歩くことにした。

それに、[会いたい人物がいる]。

 

「それでは行ってらっしゃい!!」

 

「行ってきまーす」

 

さぁて、[セツナ·クロカゼ]さんって、どんな人だろう?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エイナさんから聞いた話だと、俺はその[セツナ·クロカゼ]という冒険者に、気絶して倒れていたところを助けてもらったらしい。

俺はそのお礼を言うために、掲示板に捜索表を張りに行っている。

 

掲示板は、街のいろんな人の悩みをクエストとして受けたり、誰かを探している時、捜索表を出して来てもらったりと色々便利な掲示板なのである。それは街の至るところにあり、俺は全部回っていった。

そして、最後の場所、酒場[豊饒の女主人]。

 

「こんにちはー」

 

「?あれ?ルミナさんですか!?ちょっと待っててくださいね!!!」

 

そこには、テーブルをせっせと拭く、豊饒の女主人店員[シル·フローヴァ]さんだった。振り撒く眩しい笑顔は、酒場に来ている冒険者の癒しの種らしい。俺もそう思う。

 

「あぁ、あの食べに来たわけじゃないんで···」

 

「リュー?ちょっと来てー?」

 

···え?···リュー···さん···?

 

「どうしたのですか?シル?まだ店は始まっt···」

 

階段を降りてくる、黄金の風。吸い込まれるようなエメラルドの瞳。整った異国風の顔立ち。彼女は、[リュー·リオン]

···俺の、"気になってる人"だ···。

 

「···るるるる、ルミナさん!?!?」

 

そんな人が、無防備な寝間着姿で出てきたら···?答えはこうだ。

 

「あわわわわわ(ブシュー)···きゅぅ~···」

 

正解は、鼻血を出して倒れる。これ正答。

 

「る、ルミナさん!?」

 

「あーぁーリュー、何やってんのー?」

 

「そんな事言ってる場合では!!あぁでもこの格好じゃあ···」

 

いつも冷静沈着、クールで淡白なリューでも、"気になってる人"の前では、それを失う。気になってる人の前では、普通の女の子になる。

 

「ふふっ···私が運んでおくから、リューは着替えて、"看病"してあげて?」

 

「···恩に切る」

 

リューは、名の通り風のように走り去っていった。

 

「さぁて···運べるかな···? あ!!!"ベルさん"!!!ちょっと来てもらっていいですか!?」

 

シルはシルで、頑張っているようだ。

 

 

~少年休憩中~

 

うぅ···ここは···?確か、女神を見たような気がしたんだが···ツキ様じゃないな···えーっと···

 

「···お目覚めですか?ルミナさん?」

 

女神が、そこにいた。

 

「リュー···さん···?」

 

···あれ、なんだ?この後頭部の感覚は?スベスベして、柔らかい。そして、整ったリューさんの顔が、寝ている俺の上にある。つまり···これは···?

 

「りゅ、リューさん!?こ、これは!?」

 

こりゃー···膝枕じゃないですかーーーー!!!!???

 

「いやあのこれは!!し、シルが看病するにはこれが一番効果的だと言われたので!!」

 

あの人何教えてんだ!!!! (てへっ☆※シルです)

 

「る、ルミナさん、あまり動いてはいけません···ふ、不本意ですが、このままいてください」

 

「···はい···」

 

うあぁ~···顔まともに見らんねぇー···。

俺は気まずくなり、目を背ける。しかし、リューさんは、頬を染めながらも、俺から眼を離そうとしなかった。そして、時折、俺の髪を撫でてくる。それがくすぐったくて後ろめたい事をしてるような気がする。身体を捩って堪えている俺を面白いと思ったのか、でも優しい笑みは消さず、ずっと俺の髪を、丁寧に五本の指を使って撫で続けていた。

 

そうして、のんびりとしたお昼前は過ぎていく。

 

 

「···リューさん···」

 

「はい?」

 

「···道行く方々が此方を見てるのですが···」

 

そういえば、店の前のベンチだった。ここ。

リューさんは、俺の顔を見てから、道行く人達を一瞥し、もう一度俺の顔を見る。そして、顎からおでこまで顔を真っ赤にしていく。

 

「やっ、あの···すみません!!!!」

 

リューさんは手をあたふた忙しなく動かし、急いでベンチから離れる。あまりにも早くベンチから離れてしまったため、俺は後頭部を強かにベンチに打ち付ける。いてぇ···。

 

「あ、あの大丈夫ですか···?」

 

「あ、あはは···大丈夫ですよ」

 

俺は後頭部を擦りながらベンチから起き上がる。さてと···俺は何をしにここに来たんだっけ?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うし···これで全部回ったかな···?」

 

やることは忘れてなかった。豊饒の女主人の店の掲示板に捜索表を張り、他の場所も回り終わった。こんだけ張れば、あの人にも目に入るだろう。

 

因みに内容は、[この紙を見たら、8時に[豊饒の女主人]まで。ルミナ·トゥルーレコード]。簡単な内容の方が怪しまれないと思い、簡潔に書いた。

 

「さてと···そろそろ時間かな···?」

 

もうとっくに日は暮れ、いい時間帯のはずだ。そろそろ行くか···

 

「···ルミナさん」

 

「わっ!?!?」

 

突然後ろから声が掛かる。でも、聞いた事のある、ドキドキする声。

 

「···びっくりしたぁー、リューさんかぁ···」

 

そこにいたのは、沢山の食材の入った紙袋をもった、リューさんだった。

 

「はい。すみません、驚かせてしまって···今買い出しの帰りなんです。確か、[セツナ·クロカゼ]さんという方を捜しているのですよね?」

 

「はい、来てくれると良いのですが···」

 

「···何故、その人を捜しているのでしょうか?」

 

「え?あぁ···ダンジョンで、俺気絶しちゃってたみたいで。それで、俺を入り口まで運んできくれた人が、セツナさんなんです。」

 

「気絶···ですか?···そういえば、深紅を倒したのはルミナさんでしたね」

 

「あぁ、や···俺のより凄く強いミノタウロス倒した人いるんで、俺なんかまだまだですよ···もっともっと強くならないと···」

 

事実、俺はその人を越えることができなかった。あの変な力のお陰だ。あれが無かったら楽勝で負けてた···そういや、あれ何だったんだろう···?スキル、なのか?

 

「···あなたは、強い人だ」

 

「···え?」

 

「人は、自分を遥かに越える者がいた場合、高みを目指す事を止めます。いいえ、眼を逸らす···という方が合っているでしょうか。とにかく、上がいるから高みを目指せる、なんてのはただのおとぎ話です。ですが、あなたの眼は、諦めていない。逸らしていない」

 

···そう、かな···?

 

「喋り過ぎましたね。あなたは、自分に自信を持って良いということですよ」

 

真剣な顔から一転、少し柔らかい表情になるリューさん。そっか···自分に、自信を···

 

「ありがとうございます、リューさん···」

 

「···いえ、どういたしまして」

 

リューさんと帰る帰り道は、少し暖かい気がした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ホントに来てるとは思わなんだ」

 

豊饒の女主人に着き、今日も元気の良い女将さんの声、そしていつも騒がしい冒険者達の声で、店は賑わっていた。

そして、あまりにもオーラが違う人が一人、二人用テーブルに陣取っていた。その人は、黒いローブを身に纏い、髪をポニーテールのように纏めてる。この人に違いない。勘だけど。

 

「···あ、あのー···」

 

「ん?おっ、君は···また会ったね。でも私しか君を知らないか」

 

やっぱり。顔立ちは···綺麗整った顔。女性みたいな顔立ちで切れ長の眼、結構背は無いな、俺と同じくらいか。綺麗な黒髪、ツキ様みたいだ···

 

「あ、はい。はじめまして、なのかな?[ルミナ·トゥルーレコード]です。この前は助けてもらって、ありがとうございました」

 

「ははっ、そんな畏まらなくてもいいよ。じゃあ私も。私の名は[セツナ·クロカゼ]。よろしくな」

 

そう言って、爽やかな笑顔を向けるセツナさん。うわぁ···眩しいなぁ···

 

「あ、あの···お礼がしたくて、お呼びしたんですけど···何か食べますか?俺、お金持つんで」

 

「えっ?いいのかい?悪いね···じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「えへへ···俺、腹減っちゃてるんで···すみませーん!!」

 

さぁて、食べますか!!!

 

~ムシャムシャモグモグ~

 

「そうだ、ルミナ君。すまないが、酒を頼んでも良いだろうか?」

 

「モグモグ···え?お酒飲めるんですか?」

 

「はっはっは。これでも18だ。すまない···えっと、これを頼めるか···」

 

すげー···格好いい···お酒飲める人ってめちゃくちゃ格好いい···。

 

「ふぅー···美味い。ここの酒は、良い酒だな···」

 

コップに入った氷を転がしながら、眼をうっとりとする。···モグモグ···。

 

「ん?おいルミナ君」

 

「?はい?」

 

「おべんと着いてるぞ?どれ、とってやる」

 

「???おべんt···」

 

···わお、名前ぴったり。刹那、俺の唇の側に、セツナさんの綺麗な手が伸びる。ふえっ!?えっ!?えっ!?

 

「ふふっ、食事中だと君も一人の少年だな」

 

そう言ってセツナさんは、指に着いたご飯粒をぱくっと食べる。···えっ?何?この人?やっばい。心拍数やっばい。やっばい。やっばい。何かもうやっばい。

 

「···(ぷしゅ~···)」

 

「お?赤くなったな?可愛いやつめ!はっはっは!!」

 

こうして、セツナさんとの食事会は過ぎていく。

 

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(sideツクヨミ)

 

「···そろそろですかね···これを渡すのも」

 

ツクヨミは、二本の刀を持ち、月を眺める。その刀は刀身に刻まれた文字が黄金に輝き、月光に負けない光を放つ。

 

これは、昔、"腕利きの鍛冶屋"に作ってもらった神器[月夜見ノ双月]。

 

「···あなたは、強くなりたいのですね···。良いですよ、たくさん"私を頼ってくださいね"」

 

ツクヨミは、首から下げた首飾り[三日月の石護り]に、そっと口づけする。その眼は、黄金の輝きの中に、淀んだ色が混じっていた。

 

 

 

 

 

第3話

   [強き者/月夜見ノ双月/黒き風]

 

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上手く形になっているでしょうか?


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第四話[刹那の剣/淀んだ三日月]

良い感じに仕上がってきました!!


第4話

   [刹那の剣/淀んだ三日月]

 

 

「ところで、ルミナ君」

 

「モグモグ···はい?」

 

場所は[豊饒の女主人]。いつも元気なミア母さんと、従業員のシルさん、リューさんを筆頭に様々な女性店員が働いている冒険者の食い処。冒険者と従業員、そしてミア母さんの喧騒に包まれる店の中で、俺はミステリアスな雰囲気を放つ冒険者、[セツナ·クロカゼ]さんにお礼をするため、一緒に食事をしていた。

 

「君はどこのファミリアなんだい?」

 

「え、俺ですか?俺は[ツクヨミ·ファミリア]ですけど?」

 

「ツクヨミ···聞いたことの無いファミリアだな」

 

「えぇ。まぁそうでしょうね。最近できたばかりだし、ツキ様と俺一人しか居ない零細ファミリアですから」

 

事実、戦えるのは俺一人だ。それでも生活していけるのはxツキ様が趣味でやってる工芸品の売り上げがいいのと、何とか俺が稼いでいるからである。ツキ様の[お守り]が売れてなかったら、こんな生活できないだろう。しかし、今は違う。

 

「あっ、お金の事は気にしなくていいですよ!!突然変異のキラーアントを倒したお陰で、報酬が沢山入ってきましたから!!」

 

そう、俺はあの深紅のキラーアントを倒したお陰で、10万ヴァリスという大金が手元に入ってきたのだ。なんでも、"勇気あるその行動とギルドへの情報提供料"らしい。情報提供料というのはおそらく、あの深紅の装甲の破片を「突然変異種の研究に使ってほしい」と渡したからだと思う。これから変異種は増えるだろう。またあの深紅のキラーアントが出るかもしれない。あの破片を研究すれば、弱点や耐性が解るだろうし、何より何故変異したのか、が解るかもしれない。

 

「いや、お金の事じゃないんだ。その、君に頼みたいことがある」

 

セツナさんは、お酒の入ったコップをテーブルに置き、俺を正面に見据える。その灰紫色の眼には、一切の迷いも濁りも無い、綺麗な色をしていた。

セツナさんは一度深呼吸をし、少し俯いたあと、唇をきゅっと結び、口を開く。

 

「私を、君のファミリアに入れてほしい。君のため、君のファミリアの主神のために何でもする。だから、私を君の仲間にしてくれないか···?」

 

「···えっ···?」

 

 

世界が止まった。そんな気がした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「···ねぇ、リュー···」

 

「(カチャカチャ)···何ですか?シル?」

 

「あなたはこのままでいいの!?!?」

 

···シル、あなたは何を言ってるのですか?

 

ここは豊饒の女主人、調理場。今日も家は大盛況で、山盛りの食器やらグラスやらが水洗場を占拠していた。この量は、凶悪だ。あ、これ一度言ってみたかったんです。え?小説でも、アニメでも言ってるって?気にしたら死にますよ?

 

「何がですか?」

 

「何がって···ルミナさんとあの黒い"女の人"の事!!!」

 

「···この量はきょうあk」

 

「はいそこ逃げなーい」ガシッ

 

何でこんな時ばっかり早いんだこの娘は?私が皿洗いに戻ろうとした腕を飛燕のような速さで掴んできた。何なのだ、本当に。

ルミナさん···なんて···

 

「···私は、気にしてませんから」

 

「···なんで、そんな事言うの···?」

 

なんで、そんな事を···?そんなの決まってる。

 

「私の、血で汚れたこの手を、彼が、握ってくれるはずがないから···」

 

そうだ。私の手は、濁った紅い血で汚れている。私が、誰かと結ばれるなんて、そんなおとぎ話を夢見てはいけない。それはきっと、相手に多大な迷惑と後悔が襲いかかる。そして、私は恨まれるのだろう。想いが通じあった相手に恨まれるのは、死ぬ事のように辛い。いや、それがルミナだったら、死以上かもしれない。私は、それが恐い。

 

「···そんな事、関係無いよ。私が聞いてるのと違うよ!!!」

 

突然、いつも温厚で穏和なシルが、私に叫ぶ。その眼は、明らかな怒りを孕んでいた。シル···?

 

「私が聞いてるのは、リューが、ルミナさんの事、[好き]なのかってこと!!!」

 

「しっ、シル!?!?!?」

 

突然、何て事を言い出すのかこの娘は!?ルミナさんに聞かれてたら···!!!

すると、シルがいやらしい笑みを浮かべる。

 

「ふふっ。今、ルミナさんの事考えたでしょ?」

 

「っ!?何で、それを···?」

 

「いいんだよ。それは相手を意識してる証拠だよ。ルミナさんの事を思ってる証拠。···リュー、あなたの手は、確かに血で汚れてるのかもしれない。ううん、実際そうなんだと思う。だけど、それに縛られなくていいんだよ?いつまでも、そうやって引き摺っちゃだめだよ。それに、ルミナさんなら、それを洗い流してくれるよ、きっと」

 

···シル···。

そう、なのか?私は、縛られなくていいのだろうか?ルミナさんなら、私のこの両手を取り、こびりついた血を洗い流してくれるのだろうか?あの優しい青年は、"私の手をとってくれるのだろうか?"

 

いや、きっとそうだ。彼は多分、縛られていても、引き摺っていても、全部抱き締めてくれる。全部受け止めてくれる。そういう人だ。

私は、良い友人を、いや"家族"を持ったな。

 

「···ありがとう、シル」

 

おそらく、私は穏やかな笑みを浮かべているだろう。それが分かるくらい、私の心は暖かかった。

 

「···!!うん!!!」

 

私は一度、深呼吸をする。もう一度、自分の気持ちを確認する。そしてそれを貫く覚悟を決める。どんなに汚れていようと、縛られていようと、引き摺っていようと、私は···

 

「···やっと決心がつきました。私は···ルミナさんが、好きです」

 

私は、彼が好きなのだ。この思い、そしてルミナさんを、もう壊させはしない。初めての恋を私は護りたい。

そうと決まったら、何かルミナさんとあの黒い女性が楽しく話しているのを見ると、腹が立ってきた。

 

「···ちょっと行ってきます。ミア母さんに言っておいてもらえませんか?」

 

「!!うん!!頑張って!!」

 

私の足取りは、速く、そしてとても軽かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「俺のファミリアに···?」

 

「そう。君のファミリアに」

 

···マジすか···?マジすか···?一人で頑張って早数ヶ月。ついに、俺にも仲間ができるのか···!?しかも、こんな凄そうな人が···!?

 

「あ、あの[すみません、ルミナさん]わっ!?あ、リュー、さああああああん!?!?」

 

俺は、知り合いの声に少しびっくりするも、聞いた事のある声に安心して振り向く。しかし、そこにいたのは、リューさん···なんだけど、いつもと違う···もはや別人だ。

リューさんに良く似合う深緑のワンピース、エメラルドを嵌め込んだイヤリング、ほんのり上気し、紅く染まった頬。そして、それらにより、より一層綺麗に見える、吸い込まれそうになる緑色の瞳、整った顔立ち。

そこにいたのは、いつも以上に綺麗になった、リュー·リオンだった。

 

「りゅりゅりゅりゅ、リューさん!?!?そそそ、その格好は!?」

 

うわああああ!!!何かもう凄すぎて、ろれつ回んねーーーー!!!

 

「あぁ、えっと···ミア母さんに今日は休みを貰って、たまたまルミナさんを見掛けたので···」

 

「偶然ナイス!!!!!」

 

あっ、思わず声が。

 

「···ところで、ルミナ君?彼女は···?」

 

···ごめんなさい、セツナさん。あなたの事忘れてました。完全に蚊帳の外でした···。

 

「す、すみませんセツナさん!!えっと、彼女は[リュー·リオン]さん。豊饒の女主人の店員さんで、俺の知り合いです」

 

···気になってる人です。

 

「あなたがセツナさんですね?噂は聞いております。私の知人を助けていただき、ありがとうございました」

 

リューさんが、セツナさんに向かって丁寧にお辞儀する。綺麗な服装と相まってより一層、その仕草は綺麗に見えた。

 

「いやいや、いいんだよ···それにしても、[知人]ねぇ···」

 

「はい?」

 

セツナさんが顎に手をあて、リューさんをまじまじと見る。

 

「ふふっ。[知人]のために、今やってた仕事を抜け出して、おめかしまでして来たんだね?ずいぶん[知人]思いだね」

 

ニコッと、セツナさんは、リューさんに笑い掛ける。何だろう、この笑顔は怖い。

 

「なっ···!?!?」

 

え?ドユコト?ドユコト?ドユコト?

 

「それにしても、何だね?私はルミナ君と楽しく食事をしているのだが」

 

「いえ、せっかく休みを貰ったので私も何か食べて行こうかと···ルミナさん、隣良いですか?」

 

何だろう···セツナさんとリューさんの間に、閃光が走っている気がする。すると、鼻腔を擽る、爽やかな柑橘類の匂いがした。隣を見ると、片手で髪をかき上げたリューさんが少し背を下げて、上目遣いでそこにいた。···俺の心臓撃ち抜く気か、この人。

 

「えっ!?あ、はい···やぁ、リューさんのそんな綺麗な格好初めてみましたよ」

 

「へっ!?あ、そうでしたか···」

 

「はい。とっても似合ってるし、綺麗ですよ。やぁ、いつも綺麗なのになぁ、こんなの反則ですよ」

 

俺は心からの素直な気持ちを述べる。うん、今のリューさんは洒落にならんぐらい綺麗だ。絵に描いて額縁に飾っておきたいほどに。

しかし、リューさんは顔を真っ赤にして、手をわたわたと忙しなく動かす。

 

「へっ!?あぅ···いや!?そんな事···ぁぅ···」

 

ぷしゅー、音を立てるかのように赤くなり手を膝におき(膝と言っても、あれ太ももの間ぐらいだと思う)俯く。···まずった···よくよく考えてみれば、さっきの台詞ってすんごく恥ずかしいやつじゃん···

 

「···むぅ···」

 

セツナさんは、何か面白く無さそうな顔してるし···どうしよ、この状況···。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぅー···結構食べたな···すまないなルミナ君、遠慮せずに食べてしまって」

 

「いえ、逆に遠慮なく食べてほしかったので、とても嬉しいですよ。リューさんも」

 

「へ!?あぁ、いや、ご馳走様でした···」

 

お金を払い終わり(ミア母さん、何故そんな眼で俺を見る?)メインストリートに出た俺達。そうだ

 

「セツナさん、ファミリアの事なんですが···」

 

「ん?そうだったな」

 

「はい。今日、ツキ様···ツクヨミ様に話してみます。でも俺は、セツナさんには家のファミリアに入ってほしいと、そう思っています」

 

セツナさんは、とても良い人だ。そう断言できる。だから、家のファミリアに入ってほしい。

 

「···そうか、嬉しいよルミナ君。それじゃあ、良い返事を待っているよ。そうだな···またここで待ち合わせにしようか」

 

「はい!!ありがとうございました!!」

 

セツナさんは、俺に手を振り、リューさんをじっと見つめる。そして、一瞬でリューさんの近くに行く。その動きに俺の眼はついていけなかった。

 

「···」

 

「···なっ!?」

 

···?何かリューさんに囁いたようだが、俺には聞こえなかった。何だったんだろう?リューさんに目を向けると、顔を真っ赤にして俯いているリューさんが目に入った。何があったんだ?

 

「あの、リューさん?」

 

「っ!?ひゃい!?」

 

ひゃ、ひゃい···?何ソレカワイイ。

 

「え、あ、あの···今日はありがとうございました···」

 

「あ、いえいえ。全然ですよ···あの、リューさん」

 

「はい?」

 

俺は一度深呼吸し、穏やかな笑みをリューさんに向ける。少しでも、この人の記憶の片隅に俺が残れるように、俺は口を開く。

 

「今日のリューさん、とても綺麗でしたよ」

 

「···!!ありがとうございます···」

 

リューさんも、俺に穏やかな笑みを向けてくれた。それは、夜の幃が落ちたこの街でも輝きを放つ宝石のようで、俺は恥ずかしくなり眼を背ける。駄目だ、これ以上このままでいたら理性が崩壊する。ここで、ずらかるとしよう。かなり名残惜しいが。

 

「では、俺はこれで。また来ます」

 

「はい、いつでもお待ちしております。ルミナさん」

 

この日は、俺の記憶の1ページに残るだろう。そして、リューさんの記憶の1ページにも残ってほしいと、夜空に輝く星々と、三日月に祈った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ツキ様~?ただいま帰りましたー」

 

「あ!!お帰りなさい!!ルミナさん!!」

 

あぁ、癒される音色だ···音色ではなくツキ様の声だが。しかし、そこら辺の楽器より何百倍も綺麗な声だと思う。リラックス効果でもあるのか?この声は?

 

「ツキ様、あの···」

 

「はい?」

 

俺はバックパックを背中から外し、中を探る。そして、硝子の箱に仕舞われた、黄金の輝きを放つイヤリングを取り出す。

 

「これ···いつもお世話になってるお礼で···ツキ様に似合うかな、と···」

 

これは、豊饒の女主人からの帰り道、少々値の張る装飾品店に行き、買ってきたものだった。前から欲しいと思っていた物で、懐に余裕のある今買ったというわけだ。三日月の形をしたイヤリングは、ツキ様にぴったりだ。

 

「···これを、私に···?」

 

「はい。神々からしたら、安っぽい物なんでしょうけど···俺の感謝の気持ちを伝えたくて···受け取ってもらえないでしょうか···?」

 

「······ほら、やっぱり私なんじゃないですか···」

 

「はい?今何て?」

 

「いえ!!ありがとうございます、ルミナさん。私にとってこれは、どんな綺麗な神々の装飾品よりも価値のある、私の宝物です。大切にしますね!!」

 

「···!!ありがとうございますツキ様!!!」

 

ツキ様は、とても幸せそうな顔して、イヤリングを受け取ってくれた。良かった···。あれ着けたら、もっと綺麗になるんだろうな···早く見たい。

それじゃ、本題に入ろう。

 

「それでですね···ツキ様」

 

「はい、“セツナ·クロカゼ„さんの事ですね?」

 

「っ!?何でその事を!?」

 

おかしいな。セツナさんの事は朝話しただけで、ファミリアとかは話してないんだけど···

 

「そ、それはですね···私は、ルミナさんの事なら何でも分かっちゃうんですよ!!」

 

「な、なんだってー!?」

 

そんな、神にそんな力があったなんて···知らんかった···え!?じゃあ今までのあんな事こんな事までも!!!???そんな馬鹿な!?

 

「···だから、ルミナさん。あまり他の女の子達とイチャイチャしてはいけませんよ···?私、妬いちゃいますからね?」

 

「···へ?」

 

「それでは、そのセツナ·クロカゼさんついてですが、ルミナさんの考えを聞きたいですね」

 

···何か、最近のツキ様は変だ。何か、得体の知れない何かがあるような気がしてならない。俺が聞き返すと、話をはぐらかすし、さっきみたいに何でも知ってたり···まぁ、神様だし、そんな力があっても不思議じゃないか···。何はともあれ

 

「はい。俺としては、レベル2なったし、そろそろ中層に挑みたいのですが···さすがに一人では限界が来ると思います。いつかは、進めない壁にぶち当たる···そんな気がします。それに、話してみてセツナさんは、とても良い人です。何より、俺を助けてくれた恩人の願いに添えたいのです」

 

「···そうですか···。はい、分かりました。"彼女”のファミリア入宗を許可しましょう」

 

「···え?彼女···?」

 

「えっ?はい。セツナさんは、女性ですよ?」

 

「えーーーーーーーーーー!?!?」

 

マジかーーーーー!!!どうりでドキドキすると思ったああああああああ!!!やられた!!あの人女だったのか!!!!!!

 

「···あの、ツキ様。ありがとうございます···俺の我が儘を聞いてくれて···」

 

「いえ。子どもの我が儘を聞いてあげるのも神の役目、そして私の役目です。ですが、これだけは約束してください」

 

「はい?」

 

「仲間を、裏切らない事。見捨てない事。そして、信じる事。それが、仲間の条件です」

 

「···はい、分かっています!!!」

 

セツナさんを、裏切らない···そんな、裏切るなんて事、できるわけがない。だから、大丈夫。

 

「はい、よろしい!!! では、私の方からもプレゼントがあります。ルミナさんの装備が届きました!!!」

 

「えっ、ホントですか!?」

 

そう言えば、朝ツキ様に[深紅の装甲]渡したな···もう出来たのか···早いな···。

 

「えーっとですね···[深紅の胴板(スカーレットプレート)]、[深紅の籠手(スカーレットガントレット)]、そしてこれは追加で頼んだのですが、[紅桜]。これは一振りの片手刀です。では、どうぞ」

 

「うわっ···こんなに···!!!ありがとうございますツキ様!!!」

 

「いえ、これでこれからも攻略頑張ってくださいね」

 

「はい!!!」

 

「それと、私からこれを···」

 

そう言って、ツキ様は白い布で包まれた何かを手渡す。···?軽い。何だこれ···?

 

布を取るとそれは、見事な装飾施された鞘に納刀された、双剣だった。これは···!?

 

「それは、[月夜見ノ双月]。私の力が注ぎ込まれた、神の武器」

 

「···これが···!?」

 

 

 

「あなたに、これを振るう覚悟がありますか?」

 

 

 

 

 

 

第4話

   [刹那の剣/淀んだ三日月]

 

 

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ヤンデレって最高。


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第五話[影入斬裂/シャドウケイズ]

良い事言った気がする。


 

第5話

[影入斬裂/シャドウケイズ]

 

 

「つ、ツキ様···ホントにいいんですか···?」

 

「勿論ですよ。ルミナさん、あなたは強くなりたいのでしょう?」

 

ツキ様から渡された二本の剣、[月夜見ノ双月]。なんでも、神の力が注がれた剣だそうだ。鞘に刻まれた文字が、神秘の力を秘めていることを窺わせる。

 

「···私は、これまでルミナさんにたくさんお世話になりました。そしてこれからも、たくさんお世話になると思うのです。だから、私はルミナさんの力になりたい」

 

ツキ様は、潤んだ瞳で俺を見つめ、手を握ってくる。その手はとても暖かい。

 

「この剣で、もっと強くなってほしいのです。私を、頼ってほしいのです」

 

「···ツキ様···」

 

俺は、剣を置き、躊躇い無くツキ様に抱きつく。強く強く抱き締める。そして、眼からポロポロと涙が溢れてくる。あぁ、俺は···このファミリアに入って良かった。

 

「ツキ様···!!!ツキ様···!!!」

 

「ふふっ···どうしたのですか?ルミナさん?」

 

「うわぁ···あぁ···!!!あり、がとう···ございます···!!うぅ···!!」

 

「···はい、どういたしまして···」

 

ツキ様は俺の背中をポンポン、と叩いた後、優しく撫でてくれる。

 

ツキ様と出会えたのは、間違いなんかじゃない。何も間違っていない。だってこんなにも暖かくて、幸せなんだから。だから、きっと

 

 

 

"俺達がダンジョンで出会ってしまったのは間違っていないんだ"

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ツキ様ー?行ってきまーす?」

 

「ふぁ~い···お気をつけて~···」

 

···可愛いな。じゃなくて!!!

 

俺はあの後、恥ずかしさのあまりベッドに籠ってしまった。しかし、ツキ様が俺のベッドに入ってきた時はどうしようかと思った。柔らかい感触が背中に伝わり、夜は一睡もできそうになかったので、ツキ様が眠ってしまうまで待ち、寝たらツキ様を抱き上げ、ベッドまで持っていった。···何も破廉恥な事してないよ!?ホントだよ!?したくなったけど我慢したよ!!!なんて事言ってんだこの馬鹿!!!

 

俺はツキ様からいただいた、深紅の胴板と籠手を嵌める。陽光に照らされ、紅い光が反射する。うん、ピッカピカだ!!!

そして後ろ腰に、[紅桜]を装着する。これは、他の武器の扱いもしておいた方が良い、というツキ様の計らいだろう。本当に良い神様だ。

そして、両腰に[月夜見ノ双月]を装備する。特徴的な形をした刃、三日月の装飾が施された黒い鞘。こんなに凄い剣を今まで見たことが無い。そういえば、何でツキ様はこれを持っていたんだ?···まぁいいか。ツキ様の事だ。何かあるんだろう。

 

俺は足取り軽やかに、ホームを飛び出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お、来たねルミナ君」

 

「おはようございます、セツナさん」

 

豊饒の女主人に着いた時にはもう、セツナさんは、モーニングのコーヒーを飲んでいた。うわぁ···この人ホントに女性?めちゃくちゃかっこいいんだけど···。

 

「おはようございます、ルミナさん」

 

声のした方を見ると、いつもの従業員の制服に戻ったリューさんが笑顔で挨拶してくれた。···ここに通い始めた頃は、挨拶してくれなかったのにな···うん、頑張った俺。今はとっても嬉しい。

今日もリューさんは、綺麗だ。

 

「あっ、おはようございますリューさん!!」

 

「···ふっ、私には!マークが付きましたね」

 

「ふん、抜かせ。私は私のキャラ上、!マークが付かないだけだ」

 

···え?何の話してんの···?何かツッコまなきゃいけない様な···?

 

「こら二人共!!そういう話しない!!!」

 

突っ込むべきか、突っ込まないべきか悩んでいたとこに、木のお盆が二人の頭に炸裂する。おぉお見事。ていうか、何で今の話分かったん···?

 

「シルさん···」

 

「あっ、おはようございます、ルミナさん!!!」

 

···二人をぶっ叩いた人とは思えない清々しい笑顔としゃきっとした挨拶。お見事です、シルさん。何で叩いたのかは聞かないでおこう。うん、懸命な判断。

 

「もうー、"ベルさん"が居なくて良かったですよー、居たら叩けないし···」

 

「居なくても叩かないでください···」

 

「それは無理♪」

 

···ベル···?ベル···って、まさか!!!

 

「シルさん!!ベルって···[ベル·クラネル]ですか!?」

 

「え?あ、はい。ベルさんなら、確か10分前ぐらいにダンジョンに行かれたと思いますけど···?」

 

「ダンジョン行ってきます!!」

 

俺はバベル目掛けて駆け出す。10分前ならまだダンジョンにいるはずだ!!!うおおおおお!!!待ってろよベル·クラネルうううううう!!

 

「お、おいルミナ君!!ファミリアの件はどうなったんだー!?」

 

後ろからセツナさんの声が聞こえるけど今はそれどころじゃない!!!(当初の目的を忘れる失態)あれ···?何か忘れてるような···?まぁいいか!!!

 

「···はぁ、しょうがない。追いかけるとするか···リュー、お代ここに置いておくから。釣りはとって置いてくれ」

 

「はい···あの、明らかに足りないんですけd」

 

「さらばだ!!!」

 

セツナは疾風のように駆け出し、ルミナを追っていった。そして、取り残される従業員二人。

 

「···次あったら腕の2、3本は覚悟してもらいましょう」

 

「うん。リュー?1本多いからね?それだと背骨までいっちゃうよ?」

 

さして問題では無いでしょう いや大問題だよ···

 

 

 

今日も、平穏ではない1日が始まる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ、はぁ···」

 

「ベル様!!!次、数は···3体です!!」

 

「うん!!ありがとうリリ!!」

 

ダンジョン11階。白髪の少年と、茶髪の背の低い少女がダンジョンモンスター[ゴブリン]と[オーク]と会戦していた。その数、合わせて七。

 

「はぁあ!!!」

 

しかし、少年にとって、それはあまり問題では無かった。彼こそが、最速でレベル2へ上がった[世界最速兎(レコードホルダー)]、[ベル·クラネル]。

小柄で華奢な体から放たれる、高速のナイフと蹴りは7体のモンスターを倒すのに十分、いやそれ以上だった。空中に飛び上がり、オークを串刺しにし、周りに群がるゴブリンを回転蹴りで消滅させる。

しかし、少年も無敵ではない。背後の死角からゴブリンの棍棒が放たれるのにベルは気づかなかった。しかし、ゴブリンの手は途中で止まり、代わりに苦しげな呻き声を放つ。リリの腕から放たれた矢が、ゴブリンの眼球にヒットしたのだ。

 

「ベル様!!」

 

「ありがとうリリ!!はあぁ!!!」

 

逆手に持ったナイフがゴブリンの首を吹き飛ばし、残った体が力無く地に伏し、黒灰と化した。

 

「うん、こんなもんかな。結構魔石も貯まったし···」

 

「そうですね。今日はこのぐらいにしておきましょうか」

 

二人分の魔石入れはパンパンに膨らみ、中には大小様々な大きさの紫の光を放つ魔石が光っていた。これが、モンスターの核(コア)となる部分であり、冒険者の主な収入源。今日も大漁だ。

 

ウオオオオ!! マチタマエルミナクン!!

 

「···?ベル様、何か聞こえませんでしたか?」

 

「えっ?何が?」

 

「??気のせいでしょうか···?」

 

「ウオオオオオオォ!!!」「待ちたまえルミナ君!!!」

 

「···大丈夫だよ、リリ。気のせいじゃない」

 

「デスヨネー」

 

うん、僕にもちゃんと聞こえた。しかし···誰の声だろう···?何か荒ぶってるっぽいけど···

 

「はぁ、はぁ···あ!!そこの人!![ベル·クラネル]って冒険者を見かけませんでした!?

 

綺麗な金髪を振り乱し、汗を流す冒険者。え?何で、僕の事···。

 

「···へ?僕に何か用ですか?」

 

「···え?あなたが、ベル·クラネル···なんですか···?」

 

何だろう、この人。会った事も、話した事もないんだけど···。

 

「···嘘だっ!!(声高め)」

 

「いや、本当なんですけど···」

 

何だ、何なんだこの人。格好は···黒いコートに、紅いチェストプレート。紅いガントレット···二本の剣、そして、後ろ腰にある一本の刀。装備は何か凄いな···

 

「おい、ルミナ君。どうしたっていうん···あぁ、なるほど」

 

「えっ?セツナさん···やっぱりこの人がベル·クラネルなんですか!?」「いや、本人が言ってるんですけど」

 

「あぁ、正真正銘、彼が[ベル·クラネル]だ。」「だから本人g」

 

「···嘘だっ!!(声高め)」

 

うわ、ネタの使い回ししたよこの人。もう一人の人は、濃い茶色がかったブラックローブに身を包んでいるが、隙間から鎖帷子(くさりかたびら)が見える。結構な重装備だ。

 

「っ!!ベル様、お話している場合では無いようです!!」

 

「僕だって好きでやってるわけじゃないよ!!!」

 

モンスターが再び沸いてでてきた。数はかなりある。目視できるだけで···およそ15体。結構な数だ。だけど、今のこの人数ならやれる。連携とかできないけど···ごり押しなら!!

 

「···私が"殺ろう"」

 

声がしたかと思った刹那、黒いローブの人が消えた。一瞬の出来事だった。

 

『影入斬裂/シャドウケイズ』

 

黒いローブの人がいた場所の地面から、黒い何かが伸びる。それはモンスターの群れにぐんぐん迫り、瞬間、斬裂音。

モンスターの至る部位が斬り刻まれていく。しかし、そこには何も無い。何も無いのに、モンスターは斬られていく。そして、一匹、また一匹と倒れていき、黒灰に変わっていく。何が、何が起こっているんだ···?

 

「これが私のスキル【影入斬裂/シャドウケイズ】さ」

 

「うわっ!?セツナさんいつの間に!?」

 

「はっはっは!!驚いたか諸君!!どうだ?凄いだろう?」

 

そう言って、ニンマリと笑う、セツナと呼ばれた黒いローブの人。本当に、いつの間に···?さっきまでいなかったのに···シャドウケイズ···影に入り、斬る···? !!そういうことか!!

 

「凄いですね···そのスキル···」

 

「そうだろうそうだろう!!はっはっは!!」

 

高らかに笑うセツナさんは、ご機嫌のようだ。

 

「···あの、ベル·クラネルさん···一度、ダンジョンを出ませんか?」

 

突如、金髪の少年から声を掛けられる。何だろう?

 

「あなたと、話したい事があるんです」

 

そう言って、少年はきっと僕の眼を見つめる。その眼には···何が描かれているのか分からない。ただ、僕の姿が写し出されてるだけだ。

 

「···リリ」

 

「···はぁ、しかたないですね」

 

リリも、しぶしぶのようだが、承諾してくれた。

 

「ありがとう、リリ。じゃあ、行きましょうか」

 

僕達は、ダンジョンの入り口に向かって歩き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ベル·クラネル···やっと会えた···!!俺の、目標···!!!

てか

 

「セツナさん?さっきのあれ何ですか?」

 

「ん?あれかい?あれはな···私のスキルだよ」

 

「スキル?」

 

俺はスキルを一つも持っていない。まだ発現していないのだ。いいなぁ、スキル。欲しいなぁ、スキル。

 

「私のスキル[影入斬裂/シャドウケイズ]は、相手の影に潜り込む事ができるんだよ」

 

「えっ!?何ですかそのスキル!?チートじゃないですか!!!」

 

そりゃそうだ。相手は影をどうすることもできない。こちらがやりほうだいってわけだ。

 

「ところが、そういうわけにもいかなくてね···影の潜れるのは、ほんの十数秒間。それに私の影に攻撃を受けるとスキルが解除されてしまうんだ。それにその攻撃はダメージ二倍の補正付き」

 

「うわぁー···メリットとデメリットのパレードですね···」

 

「ははっ、その表現で合ってるよ。でも私はこのスキルが気に入っているんだ」

 

そう言って、セツナさんは、穏やかな笑みを浮かべる。確かに、そのスキルはセツナさんにぴったりな気がする。隠れて行動する、なんて攻撃が、彼女のイメージにぴったりだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「···ルミナさん?何であんなに慌ててダンジョンに向かったの?」

 

「それはですね、エイナさん···この人を捜していまして···」

 

「?あら、ベル君!?」

 

「ど、どうも。エイナさん」

 

俺達はダンジョンを出て受付ホールに戻ってきていた。ついでにセツナさんが倒してゲットした魔石を換金する。···ジャラジャジャーン···ジャン!!2400ヴァリス!!!うむ、まぁいい方だな。セツナさんに後でお酒ご馳走しようっと。

 

「それじゃベルさん。場所を変えましょうか」

 

「?何処に行くんですか?」

 

ベルはこてん と首を傾ける。仕草が動物みたいな人だな。うむ、最速"兎"の名は伊達じゃない。じゃなくて。そうだけども。

 

「[豊饒の女主人]です」

 

「あー、なるほど」

 

あれ?知ってる?そういえばシルさんが言ってたんだから、知ってるのも当たり前か。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

 

 

~キング・クリムz(ry~

 

 

「それでですね、ベルさん」

 

「モグモグ···はい?」

 

俺達一行は、お馴染み[豊饒の女主人]で食事していた。今日もミア母さんは元気だ。こんなにも美味い飯をたんまり作ってくれて、おいたした奴にはしっかり厳しく叱って、悩んでる奴には優しく諭して。···そう言えば、俺には親の記憶が無い。ていうか、幼少期の記憶が無い。この街、[迷宮都市

オラリオ]に来たところまでは覚えているが、それ以前の記憶が途絶えている。俺に母さんがいたら、あんな人だろうか。妙に懐かしく感じる。

 

っと、昔話に浸ってる場合じゃないな。

 

「今日は、あなたに聞きたい事があるんです」

 

「聞きたい事、ですか?」

 

「はい。どうしても聞きたい事が」

 

今まで、ずっと聞きたかった事。彼の[強さ]について。その華奢な体の何処に、ミノタウロスを倒す力があるのか。1ヶ月半でレベル2に到達した、その成長の秘密を。

 

「あなたは、どうしてそこまで強いんですか?」

 

「···えっ···?」

 

突然ベルはうつ向き、黙りこんだ。まぁ、そうか。自分の強さをはいどうぞ、なんて見せる奴なんかいない。

 

しかし、ベルの返答は、俺の予想の180度反対の言葉だった。

 

 

 

「僕は、全然強くないですよ···少しも、早くも、強くも···」

 

そう言って、ベルは唇を噛み締めるように、また黙りこんだ。···は?少しも、強くない···?

 

「···あなたは強いでしょう···?多少の謙遜にしては、あんまりじゃないですか···?」

 

「そんな事ないです。僕は弱い。ちっとも強くもないし、早くもないんです。そんな事言うの、止めてください。僕は、まだ全然届いてないんですよ[アイズ·ヴァレンシュタイン]に···」

 

···そうか、そうか···。君は、そんな奴なのか···。なんか、残念だな···

 

普通、多少の謙遜はするにしても、強くありたいって言うのが普通なんじゃないか?なのにこいつは···弱い、強くない、早くない、届いてない···

 

あーもう···腹立つ。

 

パアアァァン!!!

 

喧騒に包まれる店に、乾いた音が響く。それは、俺がベルを平手打ちした音だった。

 

「···えっ···?」

 

「···お前、謝れよ。お前みたいな、へなちょこ野郎に、冒険者を名乗る権利はねぇ!!!!!!!!!!!!!!」

 

俺はひどく激昂する。腹立つ。ムカつく。自分を越えた奴が、こんななよなよした奴だと思うと、本当に腹立つ。

 

謙遜?まぁいいよ。俺つえー、なんて奴よりは増しだ。だけど、自分の強さを完全に否定する奴は、一番嫌いだ。こいつからは、強くなりたいと思う気持ちも伝わってこない。自分の力をもて余す、雑魚だ。そんな奴に、冒険者の名を汚されてたまるか。

 

分かってる。このベルという少年は強くなりたいんだろう。そんなのは誰だって分かる。そうじゃなきゃ、ミノタウロスなんてたおせない。

 

「お前は、ミノタウロスを倒したんだろ!?!?レベル1で!!!!冒険者成り立てで!!!!その時のお前は、そんな雑魚だったのか!!!!そんな奴がミノタウロスを倒せるわけがねぇ!!!!強くないだ?ほざけ!!!レベル1でミノタウロス倒した奴が弱いわけねぇんだよ!!!!届かないだ?抜かせ!!!!届くための努力が足んねぇだけだろうが!!!!もしくは、気持ちが伴ってねぇんだよ!!!!強くなりたいって、あいつを越えたいって、想いが足んないんだよ!!!!」

 

ベルは半ば放心したような顔で俺を見続ける。俺の口は止まらない。

 

「冒険者は、誇りある戦士だ!!!!自分の力を信じ、自分の技を磨き、自分を強くすんだよ!!!!自分が強いって思えるまで!!!!だがな、ベル·クラネル、お前にはその冒険者の覚悟が、冒険者の誇りがねぇんだよ!!!!ふざけんな!!!!そんな奴が、冒険者の名を語るんじゃねぇ!!!!!」

 

最後にテーブルをバンッと叩く。あまりにも強い衝撃に食器がカタカタと揺れ、グラスに入った水が零れる。だが、そんな事は気にしない。俺は、まだ、言いたい事を言ってない。

 

「···なぁ、ベル。お前は強いんだよ、一級冒険者と遜色無いぐらい。アイズ·ヴァレンシュタインだって越えられる。その覚悟が無いだけだ。だから、少しでいい。自分を強いなんて思わなくていい。だけど、自分が今までしてきた努力を、積み上げてきたその強さに、自信を持てよ。誇りを持てよ。そうしたら、お前は[冒険者]だ」

 

 

冒険者は、そうでなくてはならない。自分の強さに心酔せず、鈍らせず、過信せず、強くあらなければいけない。自分の磨いてきた、積み上げてきた強さを、技を、想いに、自信と誇りをもたなければならない。そう信じているからこそ、俺はベルに怒りを感じたのだろう。いや、本当は、自分よりも強いはずのこいつが、なよなよしてるからイラついただけかもしれないが。

 

「···ルミナ、さん···」

 

「もっかい言うぞ。ベル、お前は強い。だから、少しだけ自分に自信を持ってみろ。誇りをもってみろよ」

 

「···すみません、でした···。そうか、そういうことだったんですね···強さって···。だから、あの人は強いのか···」

 

「分かったんなら、いい。すまなかったな、いきなりぶっ叩いたりして」

 

そういや、勢いでぶっ叩いてた。ベルの白い頬は、殴られた衝撃で赤く腫れている。やり過ぎたか···?

 

「いえ、良い喝でした···。ありがとうございます、ルミナさん」

 

「おっ、おう···。あのさ、ぶっ叩いた相手に、さん付けされるのも、な···

 

 

 

「そう?それじゃあ、···[ルミナ]、ありがとう」

 

 

そう言って、彼は晴れやかな笑みを浮かべる。そこに、弱々しい、迷いの色は無かった。そして、俺達は、自然と握手を交わした。その手は、強く、強く、俺の手を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

第5話

   [影入斬裂/シャドウケイズ]

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

···タイトル詐欺?知らんな!!!

 

というわけで、シャドウケイズ要素3%でお送りした、第5話ですが、読んでいただきありがとうございました。

 

今回の目玉は、ルミナ君の説教ですね。彼なりの強さは、ああいう事なんです。

 

自分に自信を持つこと。それはとても難しい事です。自分を越える壁にぶつかれば、その自信は、いとも簡単に崩れてしまいます。それを保ち続けるのは、長年の努力をしていた人ほど、難しいことです。自分の今までの努力は無駄だった、と"錯覚"してしまうからです。

 

努力は決して無駄になんかなりません。だけど、結ばれることも、報われることも、絶対では無いというのが現状です。生まれ持った力を持つ者の方が、有利に生きるこの世界で、努力なんていうのは、一撃で壊れるぼろぼろの剣です。

 

だけど、それで立ち向かわなきゃ、勝てないのがこの世界。だから、その剣を信じなきゃいけないんです。誇りを持たなければいけないんです。努力は、報われない、結ばれないと自分で納得し、それでもその剣で立ち向かうことができたのなら、その剣は、決して折れない鋼の剣となるでしょう。僕は、そう信じています。

 

 

次回予告

 

ついにツクヨミファミリアに入団したセツナ。そこでいきなり問題発生?ツクヨミとセツナ、どっちを選ぶ!?さらにそこに、リュー参戦!?

 

そして、強さの意味を知ったベルは、今日もダンジョンに潜る。自分の強さに自信と誇りを持って。しかし、その先にある運命は、残酷であった。

 

その名は[怪物進呈/パス·パレード]。容赦無いモンスター達の攻撃が、ベル達を襲う。その時、ヘスティアは!?ルミナ達は!?

 

次回、ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか? 第6話[怪物進呈/救出決行]

 

 




上のやつ後書きで書けば良かったと後悔。書き終わったあと、「あ! やべこれ後書きじゃねぇ!」ってなりました。許して...。


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第六話[怪物進呈/救出決行]

書きだめしてるんで一気に投稿できるんです。


何か···アイズさんとか出番無いような···? ヘスティアも···。ゴメンよ、二人(一人と一神)とも···今回は出る思うから···アイズさんは、ちょっと待って。

 

「解せないわ」

 

では、どうぞ召し上がれ!!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第6話

   [怪物進呈/救出決行]

 

 

「神様ー? 朝ですよー? 」

 

「うぅーん···あとちょっと···」

 

今日も良い朝だ。僕はカーテンを開け、注ぎ込む陽光を思い切り吸い込み、うんと伸びをする。光合成でもできそうだ。

 

昨日、ルミナから貰った言葉[自分の強さに自信と誇りを]。これは、これからずっと僕の心に刻まれ続け、未来永劫消える事は無いだろう。

それにしても···リリとセツナさんが意気投合するなんて思わなかったな···何でも、好きな物が一緒らしく、今度また、[豊饒の女主人]で食事するのだそうだ。

 

「そうだ。神様が起きるまで、防具でも磨いておこう」

 

僕は、鍛冶師[ヴェルフ·クロッゾ]、ヴェルフから貰った防具を磨きに自分のクローゼットを開く。そこには、銀色の光を放つ防具が入っていた。···名前は[兎鎧(ピョンキチ)]らしい···何か、残念だ···。そうだ、ナイフも研いでおこう。

僕の武器は、今のところ二つ。一つは、神様から頂いた"神のナイフ"[ヘスティア·ナイフ]。僕の宝物であり、お守りだ。このナイフなら、どんな敵だって倒せる。そんな勇気が湧いてくる。

そして、もう一つは、ヴェルフがミノタウロスのドロップアイテム[ミノタウロスの角]から作ってくれた、短刀[牛若丸]。切れ味も見た目も凄い一級品。ミノタンにならなくて良かった···。

 

「うーん···あ、おはよう。ベル君···」

 

「おはようございます、神様! 」

 

ベッドからもぞもぞと顔を出したのは、ヘスティアファミリア主神[ヘスティア]様だ。寝起きはいつも以上に無防備で、二番目に危険なモード。一番危険なのは酔い。何されるか分かんない。

 

「···あ、そうか。今日は中層深部を攻略するんだっけ···忘れてたよ···ほっ、と」

 

神様は起き上がり、自分のクローゼットから何かを取り出す。···何だ?赤い、ローブ?

 

「これは、火蜥蜴のローブ。火耐性に長けているんだよ。中層深部からは、炎を使ってくるモンスターがいるんだ、注意してね」

 

そう言って、神様は"三人分の"ローブを手渡してくれた。これ···リリとヴェルフの分も···。そう言えば、エイナさんがこれつけて行けって言ってたな···。

 

「···ありがとうございます、神様···」

 

「ふふん♪ お礼は、帰ってきてから言いたまえ♪ ···無理はしないんだぞ?いいね?」

 

神様が満面の笑みを浮かべて、そして少し心配するような表情を浮かべる。

 

「···はい!! 」

 

大丈夫。僕は死なない。僕は元気良く、玄関から飛び出した。

 

「行ってらっしゃい···本当に、気を付けるんだぞ···? 」

 

ヘスティアは、一抹の不安を、拭いきれる事ができなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~バチバチバチ~

 

「あなたがセツナさんですか···」

 

「あぁ、[セツナ·クロカゼ]だ。よろしく頼むよ、ツクヨミ殿」

 

場所は変わってツクヨミファミリア。今は、セツナさんとツキ様が挨拶(?)を交わしているところだ。しかし、何故だ···?何故二人の間に閃光が見える···?

 

「この度は、"私"のルミナさんがお世話になりました」

 

ちょっと、ツキ様?なんで"私"って強調するんですか?

 

「はっはっは。いやいや、彼にはとても楽しませてもらったよ。うん、なかなかのテクニックだった」

 

···えっ!? 何の話!? テクニックって何!?

 

「ふえっ!?!?どどどどういう事ですか!?!? 」

 

ねぇ、セツナさん。何か誤解生んでない? ねぇ?

 

「どうもこうも、それしかないだろう? 」

 

「···はわわわわ···!!! そんな、ルミナさんの為に純血を保ってきたのに···!!! 」

 

じゅ、純血···? え? ドユコト? 俺の為···? えー!? この展開もしかしてー!?!?

 

「いやぁ、実に素晴らしかったよ。彼の[剣技]は」

 

「···へ? 」

 

え? 剣技?

 

「あの流れるような剣裁き、成り立ての冒険者とは思えないほど洗練された動き···かなりの努力をしてきたのが窺えたし、まずその剣だな。あの腰に刺してある紅い剣···あれは素晴らしかったよ···さて、ツクヨミ殿、あなたは何を想像していたのかな? 」

 

「へっ!?あ、あぅ···(ぷしゅ~)」

 

···つ、ツキ様···何考えてたんですか···?そんな顔が林檎みたいになるぐらいの事、って···。

 

「うぅ···セツナさん、あなたは強敵です···」

 

「ふふっ、誉め言葉として受け取ろう。しかしな···"そんな関係になるのは、やぶさかではないな?"」

 

「···うなぁぁっ!?!?」

 

···え? セツナさん···? それってどういう···

 

「よし。そうと決まったら、ルミナ君。一緒に風呂に入るとするか」

 

「ふえっ!? あ、いや···俺は···」

 

「ちょっとー!? なに自然な流れでお風呂に誘ってるんですかー!? 」

 

ちょっと待ってくれよ。セツナさん大胆過ぎじゃね? なんかもう恐いんだけど。

ツキ様はセツナさんの腰に抱きつき、必死に動かさんとする。背丈はあまり変わらない二人だ。セツナさんも、相手が神様だから無茶はできない様子。

 

「···そうだ!! ルミナ君に決めてもらおうではないか!! 」

 

「へっ? 何をですか? 」

 

「決まっているだろう。どちらと風呂に入るのか、君に決めてもらうよ」

 

····················???? んんんん~~~~~!?!?!?

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよセツナさん!! これ、俺が風呂入るの確定なんですか!? 」

 

「勿論そうだが?」

 

「俺の意思が入ってねーーー!!!」

 

ああもう!! 何でいきなりこんな問題が発生するんだ!! セツナさん、恐ろしい子!!!

 

「そそそ、そんな事、私が許しません!! ルミナさんの貞操を守るためにも、私がルミナさんと一緒に入ります!! 」

 

「ツキ様あああああああああ!?!?」

 

そ、そんな!!!??? ツキ様一緒にお風呂!? あ、あのツキ様のすべすべで、柔らかくて、宝石のような輝きを放つ、白い雪のような体をもつツキ様が···生まれたての赤ん坊の姿を···!?!? ···あ、やばい。妄想してたらやばくなってきた。妄想でこれだ。本物だったら、風呂場が鮮血で染まる。

 

コンコン 「ルミナさん? いらっしゃいますか? 」

 

た、助かった!!! この際誰でもいい!! この話を逸らす事ができれば!! でも聞いたことのある声のような気がしたのは、俺だけだろうか?

 

「神は死んだ!!!」「え!?まだ死んでませんよ」「ツクヨミ殿、突っ込んだら負けだ」

 

あーもう煩いな!!! ネタぐらい分かってよ!!! ···あとでシルさんに意味の無い暴力を振るわれそうだ。

 

そこにいたのは、[豊饒の女主人]の制服をぴしっ と着た、整った顔立ちとエメラルドの瞳、エルフ特有の長い耳を持った[豊饒の女主人]従業員、[リュー·リオン]さんだった。

 

「おはようございます、ルミナさん」

 

ネタに突っ込んでこないところ、リューさんはとても良い人だ。漫才やるなら彼女が良い。冷たいツッコミになりそうだが、それはそれで味がある。じゃなくて!

 

「おはようございます、リューさん!! それにしても、こんな朝にどうしたんですか?」

 

朝、俺が店に行くことは多いが、彼女が家に来るなんて、初めてだ。それを考えると随分仲良くなったものだ。毎日通い続け、毎朝挨拶した甲斐があった。···それを思うと、なんかドキドキしてきた。平常心、平常心···。

 

「あ、あの···朝食が余ったしまったので、ミア母さんが分けに行けと···朝食、まだでしたか? 」

 

「えっ!? 本当ですか!? うわぁ、朝からミア母さんの料理が食べられるなんて!!」

 

よく見ると、リューさんは少し大きめのバスケットを右手肘あたりに下げていた。うわ···一杯持ってきてくれたんだな···

 

「あ、バスケット持ちますよ」

 

「い、いえ···お構い無く」

 

、と言われてもな。女性に重い荷物を持たせるわけにはいかない。俺は、リューさんの右手をとり、

 

「···っ!!!」

 

「···?あっ!? すみません!! 」

 

と言いつつ、ちゃっかりバスケットを持つ。でも、確かに手を握ってしまったのは悪い事したな···早く離さないと···あれ?

 

「···リューさん···?」

 

リューさんは、俺の手を離そうとしなかった。強く、強く握りしめていた。どうしたんだろう···?

 

「···ないでください···」

 

「えっ? 」

 

「私の手を、離さないでください···!! 」

 

「リューさん···?」

 

本当にどうしたんだ? いつものリューさんと全然違う。何か、いつもの頼りがいになる人じゃなくて、少し弱々しい小動物のようだった。

 

「···私、何を···!? すみません!! ルミナさん!!」

 

「えっ? あ、いや···」

 

リューさんは顔を上げ、直ぐに俺の手を離した。俺の手には彼女の手の温もりがまだ残っていた···あれ? リューさん···

 

「リューさん、涙が···」

 

「えっ? あ、あれ? なんで、私···」

 

リューさんは目元を拭い、涙を拭き取る。何があったんだろう···?でも

 

「···リューさん、悩み事か何かあるんなら、俺に相談してください。俺は、あなたの力になりますよ」

 

リューさんは、俺に[強い人]と言ってくれた。だから、俺は彼女を強く支えたい。

 

「···はい、ありがとう、ございます···」

 

そう言って、リューさんは、俺に爽やかな笑顔を向けてくれた。うん、いつものリューさんだ。

 

「それじゃあ朝ごはんにしましょうか。リューさんもどうぞ」

 

「え? いいんですか?」

 

「勿論ですよ。一緒に食べましょう? あ、食べてきたんだったら、紅茶とか出しますけど」

 

「い、いえ!!まだ食べてないので、いただきます(はい、アーンのチャンス到来!!)」

 

「そうですか、それじゃあ···」

 

 

「ルミナ君と一緒に入るのは私だ!!!!」

 

「いーえ!!!私ですよ!!!」

 

···忘れてた···。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ···はぁ···」

 

「ぜぇ···はぁ···」

 

「はぁ···はぁ···」

 

ダンジョン第16階層。そこには、身につけている赤いローブがぼろぼろになった三人の冒険者がいた。それは、[ベル·クラネル]、[ヴェルフ·クロッゾ]、[リリルカ·アーデ]。

体力も魔力も底を尽きかけ、満身創痍の状態であった。

 

それは何故か。

 

[怪物進呈/パス·パレード]。通称[MPK(モンスタープレイヤーキル)]。あるパーティーを追いかけていたコボルト達を進呈された時から、運命の歯車は狂った。

 

次々と襲いかかるモンスターを退け、打ち倒してきたが、それも最早限界だった。ベル達は、[安全領域(セーフティゾーン)]へ到達するため、歩を進めている。これはリリの提案であった。[十数階戻るよりも、何階層か進み、18階層の安全領域へ進む。]

 

今、オラリオ最大勢力の一角[ロキ·ファミリア]が遠征中であり、ベル達の出発時間と、あまり時間差は無かった。今、この状態では通常のモンスターを倒すのもままならないが、幸い、階層主のモンスターは、倒されたあと、リスポーンするのに時間が掛かる。リリによると、リスポーンのタイムテーブルに間に合うらしい。一行は、リリの提案を信じ、歩を進めている。

 

しかし

 

「ふざ、けろっ···!!!!」

 

しかし今、二人は倒れ、ベルがそれを両脇に抱えている状態。亀のようなスピードでしか前に進めない。ヴェルフは[マインド·ゼロ(魔力消耗)]、リリは[ヒット·ゼロ(体力消耗)]で気絶してしまった。ベルは、残された体力と気力でなんとか前に進んでいる。

 

「···絶対に···三人で生きて、帰るんだ···!!!」

 

彼に、死ぬ未来も、二人を見捨てる未来も無かった。彼は今、強くあろうとしている。[ルミナ·トゥルーレコード]からもらった言葉が、彼の命を燃やしている。

 

 

虚空に、遅く、弱々しい足音が、それでも力強く響いていた。

 

18階層まで、あと僅か。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「···なるほど、そういう事ですか」

 

「あの、リューさん?納得しないでね? 否定してね?」

 

朝食を食べ終わり(何故か三人にアーンされた。リューさんどうしたんだ本当に!?)、再びセツナさんとツキ様が喧嘩を始める。あーもう、煩いし、恥ずかしい!!!

 

「私だ!!!」「私です!!!」

 

ぬぎぎぎぎ、とおでこを合わせて超至近距離から睨み合う二人。何なのこの二人···。普通だったら神様ありがとう!!!って喜ぶイベントの筈だ。美人のどちらかと一緒にお風呂とか、最強イベントだろう。なのに、なぜだか全然嬉しくない。

 

「はぁ···」

 

「···あの二人だと、嫌なのですか?」

 

「え? あ、いや···嫌じゃなくて、寧ろ嬉しくんですけど···ね···」

 

「じゃあ、何故?」

 

「···恥ずかしいんですよ···」

 

そうだろう。普通一緒にお風呂って、互いに恥ずかしいだろう。なのにどうだ?何だこれは?自ら一緒にお風呂入りたい、とか言ってるし。いや、そういうのもあるよ?そういうイベントもまた一興だろう。だがしかしね、この有り様だぜ?

 

「私が(自主規制)を(自主規制)してやるんだ!!!!」

 

「なっ!? (自主規制)!? だ、駄目です!!! そんなの絶対駄目です!! (自主規制)は私がやるんです!!!!」

 

「何だと!? このエロ神!!!」

 

「な、何ですかこのビッチ!!!」

 

あーもう止めて!?!? 何この状況!? 読者の皆さんすみません!!! 不快に思われたらブラウザバックを推奨します!!!! すみません大森先生!!! すみません全国のダンまちファン様!!!

 

「って何言ってんだ俺はあああああ!?」

 

しまった、俺もメタキャラになるところだった···。

 

「······(自主規制)···(自主規制)···!? く、口とm」

 

「リューさああああああああん!?!? ストップ、ストオオオオオオオオップ!!!」

 

だ、駄目だこの状況!!! リューさんも壊れた!! 今、この中でまともなキャラは俺一人しかいない!!

 

 

 

~そうして、また時は過ぎていく~

 

え?結局どうなったかって? ···三人で風呂に入らせました。そして今、入ってます。

 

「ん?ほう、ツクヨミ殿。なかなかのモノをお持ちだな」ワシッ

 

「キャッ!? な、何するんですかセツナさん!!」「大きさはまぁまぁと言ったところか」

 

「···セツナさんはスタイル良いですね···羨ましいです···」

 

「ん? そうかね? ···え? おい、リュー···」

 

「?はい?」

 

「···お前、着痩せするタイプなのか? なんか、見た目と全然違うような···主に胸が」

 

「そうですか? まぁ、更級を巻いているので」

 

「そうなんですか···では早速」モギュ

 

「····っ!?!?!?」

 

「こ、これは····!? むむむ···リューさんも強敵です···」

 

 

···ブバッ。駄目だ、耐えられない。外出よう。

 

俺は鼻血を出しながら家を出た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「本当に申し訳ありません!!!」

 

[ヘスティアファミリア]の団員が居住する、廃教会に、一人の女性の声がこだまする。彼女の名は[ヤマト·ミコト]。[タケミカヅチファミリア]団員だ。

 

そして、ベル達に[怪物進呈/パス·パレード]を行ったパーティーのメンバーでもある。

 

「···それは本当なのかい···?」

 

一人の女神、[ヘスティア]の冷たい声が響く。

 

「あぁ、本当だ。···すまない、ヘスティア···こいつらも必死だったとはいえ···」

 

その質問に答えたのは、[タケミカヅチファミリア]主神。男らしい体躯と髻を持つ男神[タケミカヅチ]だった。

 

「···もし、ベル君達が帰ってこなかったら···僕は、死ぬほど君達を恨む···だけど、憎みはしない。約束する」

 

ヘスティアは、右手を差し出す。後ろから差し込む陽光が、後光のように輝く。

 

「どうか、僕に力をかしてくれないか···?」

 

「···っ!!! 仰せのままに!!!」

 

「···へへっ、ありがとう」

 

そして、入り口から入ってくる影が二つ。

 

「俺も力を貸そう···ヘスティアの親友として、ね」

 

[ヘルメスファミリア]主神、[ヘルメス]。そしてそのファミリアのエース[アスフィ·アル·アンドロメダ]であった。

 

「へ、ヘルメス!!!」

 

「よーうヘスティア。俺も協力するよ、俺も、ベル君を助けたいんだ」

 

 

 

こうして、ベル一行救出作戦が決行された。

 

 

 

 

その廃教会の屋根に、座り込む影が一つ。

 

「···なるほどな···」

 

深紅の瞳、深淵を思わせる漆黒のローブ、鋭く光る刃歯、そして、"腕に浮かぶ神象文字"

 

彼の名は[ミュート·ガーネット]。"変異を操る異端児"

 

彼の唇が、三日月形歪む。その顔に浮かぶのは、無邪気な少年の笑顔だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「では、皆さん。また」

 

「おーう。また来いよリュー」

 

「あの、また来てくださいね···」

 

私は、[ツクヨミファミリア]が居住する一軒家を出て、二人(一人と一神)に挨拶をし、帰路につく。

 

あの後は凄まじかった。身体を洗っていたら、いきなりルミナさんの話になり、何度吹きそうになったり、顔を赤くしたことか···。ていうかあの二人(一人と以下略)、なんであそこまでルミナさんの事を知っているのだろう?そして、どのぐらい好きなのだろう···セツナさんは、ちょっとおかしい。会ってまだ数日しか経ってないのに、なんであそこまで好きなのだ?

 

まず、神が人に恋をしてしまっていいのだろうか?ツクヨミ様は、猛烈アピールをしているらしいが···そして、そのアピールの効果は出ているのだとか···。

 

あぁ、何か、もやもやする···心の底で何かがもやもやしている···。何だろう、この気持ちは。確かに、私はルミナさんが好きだ。だけど、これは好きだとか、そういう気持ちでは無いと思う。好きな気持ちというものは、どきどきするのだ。彼に会いたいと、彼に触れたいと思う事だ。

 

でも何故か私は今、彼に会いたいと、彼に触れたいと思っている。しかし、もやもやは晴れない。もやもやしながら、彼に会いたくはない。晴れ晴れとした気持ちで、彼におはようを言いたい。こんにちはを言いたい。こんばんはを言いたい。召し上がれを言いたい。おやすみを言いたい···さようならは、言いたくない。

 

そして、彼に、手を握ってほしい。

 

様々な感情がぐるぐると私の心を周り、消えては生まれ、生まれては消えて。何なのだ、本当に。この気持ちは、何なのだ。

 

 

私以外、誰かと話してほしくない。私以外、誰かを触れてほしくない。私以外、誰かの手を握ってほしくない。

 

「っ!!! わ、私は何を···!?」

 

自分の中に渦巻く感情を無理やり振り払う。何を考えているんだ私は!!! ルミナさんは、私のものなんかじゃ、ないんだ···。

 

「あっ! リューさん!!!!」

 

そして、今一番聞きたくて、一番聞きたくない声が聞こえた。彼は、こちらに向かって走ってくる。額に汗を垂らし、それのせいか、顔を少し上気させている。そして、私の名前を呼んでいる。

 

「る、ルミナさん···何処に行っていたのですか?」

 

私は至って普通に接する。平常心を保つ。だが、内面はぐらぐらと、今にも崩れそうなくらい不安定だ。

 

「えっ? ···いやぁ、変な気を起こさないように逃げたんですよ···あはは···」

 

「···?変な気···?」

 

「うっ···え、えっと···いや、美人三人がお風呂入ってたら、理性が爆発しそうだったんで···」

 

び、美人···!? その言葉だけで、私の心は舞い上がってしまう。他の二人も褒められているというのに、現金な奴だな、私は。それに、変な気···少しは、いや、多いに私を異性として見てくれている証拠だろう。私は、また少し前進できた。

 

「そ、そうですか···そ、それで、どうしたのでしょうか?」

 

「あ、そうだ!! 大変なんですよリューさん!! ベル達が!!」

 

「クラネルさん達が···?」

 

「とにかく、早く!!!」ギュッ

 

「っ!!!! ちょ、ちょっと···」

 

私は、またルミナさんに手を握られる。心臓が大きく跳ね上がり、顔が熱くなってくる。

 

しかし、そんな状況でも私は幸せだと、感じてしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さてと···どうしようかな···ミノとアントはもうしたし···そうだ、コボルトがいたな···そして、[ゴライアス]、か···」

 

少年は、文字が刻まれた腕を掲げ、呟く。

 

『巡り廻る輪廻の環[トランスポート/空間転移]』

 

 

神象文字を残し、そこにはただ無が残った。

 

少年少女、そして神々の運命は、少しずつ"変異"し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

第6話

   [怪物進呈/救出決行]

 

 

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何?お下劣?破廉恥? ···ふ、サービスさ。

 

というわけで、破廉恥満載でお届けした第6話でしたが、読んでいただき、ありがとうございました。さて、いかがだったでしょうか?たまには、ああいうシーンがあっても、良いと思うのです。(書きたいだけ)

 

今回は、リューさんの嫉妬心が芽生えましたね。いつもクールなリューさんが、好きな人を独占したいと妬いてしまう···じゅるり···。

 

リューさんは今までそんな事が無かったので、嫉妬心どころか、恋心も良く分かっていません。しかし、自分なりに貫いていく覚悟はあります。自分の手が血で汚れていようと、彼が自分の手をとってくれる限り、彼女は彼を好きでい続ける。いや、違いますね。手をとってくれなくても、自分から握りにいく。そんなリューに成長していくと思います。

 

さて、新登場した少年[ミュート·ガーネット]ですが、名前の由来を言っておきます。

 

ミュート=Mutation(ミューテーション)

 

ガーネット=garnet(ガーネット)

 

さて、意味は···? ・・・・・・正解は~~~

 

【深紅の変異】

 

 

 

 

 




僕の場合後書きっていらないんやなって。


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第七話[深紅火炎/迷宮楽園]

オーバーロードってかっこいい...って自分の中では思ってます。


第7話

   [深紅火炎/迷宮楽園]

 

 

「いきますよ、セツナさん!!!」

 

「あいよっ!!!」

 

俺は腰に差した剣、深紅の刀身をもつ[紅桜]を抜刀する。そして、セツナさんは小型短刀[クナイ]を指の間に挟むようにして抜刀する。珍しい武器だな。

向かってくるモンスターは、狼のような姿をしたモンスター[コボルト]。単体の戦闘力はそうでもないが、群れを成しての連携攻撃、そして

 

「ギャウ!!!」ボウゥッ!!

 

口から吐く[火炎息/ファイアブレス]は厄介だ。俺はそれを体を右に捻り、駆ける位置をずらし、すれすれでかわす。チリチリと、焼けるような音と共に、焦げ臭い匂いが、辺りに充満する。だけど、隙ができた!!!

 

「はあぁっ!!」

 

コボルトの頭を一刀両断し、黒灰となったコボルトから目を離し、次の獲物を見定める。しかし、そこには一匹のコボルトもいなかった。

 

「こっちは終わったぞールミナ君?」

 

「はい。片しておきました」

 

地面に落ちた数本のクナイを拾うセツナさん。そして、腰の鞘に納刀するリューさんの姿があった。凄いな···あの数を一瞬で···

 

「私としても、リリ達は救いたい。私の数少ない仲間だからな」

 

「···親友の頼みです。それにこれ以上、友人を死なせるわけにはいかない」

 

二人の瞳からは、堅い意思が伝わってきた。本気で、救いたいんだな···。

 

「はい。俺もです。皆さん!! 先に進みましょう!!」

 

待ってろよ、ベル···。絶対に助けるからな···!!!

 

 

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「えっ? ベルさん達が!?」

 

「そうなんです!! 俺もさっき、道を通りかかったヘスティア様に教えてもらって。今、救出パーティーが組まれていますから。ヘルメス様が、リューさんを連れてこい、って。」

 

時は、少し前。ベル一行救出パーティーが組まれている時。アスフィさんと一緒に来たヘルメス様は、何故かリューさんを連れてこい、と言った。リューさんって、もしかして···

 

「リューさんて、冒険者だったんですか?」

 

「···えぇ。昔の話ですが」

 

やっぱりか。纏う雰囲気や、話す言葉。何より前俺に言ってくれた言葉が、冒険者風だった。それにしても、神直々の指名だなんて···かなり凄い手練れだったりして···。

 

「到達レベルは、4でしたが」

 

「うえぇ!? 凄いですね!!」

 

レベル4。かなりの上位冒険者だ。

 

「···そう言えば、ルミナさん。前、クラネルさんに怒鳴っていませんでしたか?」

 

走りながら、リューさんが聞いてくる。あぁ、見られてたのか···ちょっと恥ずかしいな···。

 

「えぇ、まぁ···。喝っていうか···冒険者は強くあれって教えてたんですよ···。あ、今思えば、リューさんが、俺に"強い人"って言ってくれたから、俺はベルを怒鳴れたんだと思います」

 

多分そうだ。リューさんが、あれを言ってくれたから···おそらく、前の俺と、あのベルを知らない内に重ねていたんだろうな。だから、あんなに腹立って、あんなに怒鳴ったんだろう。

 

「え···? 覚えててくれたんですか?」

 

「はい。俺の心に、刻みつけてますよ。これからも」

 

「···!! そ、そうですか···さ、早くいきましょう」

 

「はい!!」

 

俺達は、ヘスティアファミリアの居住地へと急いだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「、と言うわけで、今に戻るってわけさ(バシッ)あだっ」

 

「誰に向かって話してるんですか···」

 

非行に走ろうとしたセツナさんにツッコミ、先を見る。まだまだか···。

 

「···おかしいですね···」

 

「ん? どうした? アスフィ?」

 

突然、アスフィさんが口を開いた。え?何が?

 

「モンスターが少な過ぎます。まるで、誰かが倒していったみたいに」

 

「それは、ベル君達が倒していったからじゃないのかい?」

 

おい、神二人。なんでここにいる。ツキ様はおとなしくお留守番してくれているんだぞ。あぁ、ツキ様がいればなぁ···

 

「いえ、彼らはまともに戦える状態ではないはずです。さっきの惨状を見れば明らかでしょう」

 

そう言えば、アスフィさんや、リューさん、ヘスティア様の判断で、ベル達一行は、18階層[安全領域]に向かった判断した俺達は先へ進んだ。

途中で、捨てたと思われるアイテムが散乱しているのを見つけたのだ。彼女達の判断は正しかった。

 

「なので、無理な戦闘は避ける筈です。なのに、モンスターはほとんどいない、いや···いる気配すら感じない」

 

「···あ···」

 

「? どうした、ルミナ君?」

 

···いや、でもまさか···。しかし、その可能性はあるし、今この状況は"それ"と酷似している。

 

 

「···全員、前方注意···来ます!!!!」

 

「? 何が···」

 

 

アオオォォォォォーーーン アオオォォォォォーーーン

 

 

 

大きな遠吠え二つ。俺達が進む道の先、[燃え盛る牙狼]が二匹、荒れた地面を疾駆してきた。

 

 

"突然変異種"[コボルト·ルージュ] 会敵。

 

その餓えた牙が、俺達を狙った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さ、これで少しは面白くなるかな···」

 

輝く[機械の右腕]を掲げ、呟く少年、[ミュート·ガーネット]。その腕刻まれた文字は、神の文字[ヒエログリフ]。

力持つ者によっては、神をも越える力を手にすることのできる力が宿った文字だ。扱えるのは、勿論、神のみ。その他は、力の恩恵を受けることができても、その力の本領を発揮させることはできない。

 

しかし、彼は"神の力を行使し、コボルトを変異させた"

 

「あの人数じゃ、すぐに兎の所に行っちゃうからね···少しは足止めしないと···。"ババァ"、あんたの思い通りにはさせないよ」

 

少年は、ぼさぼさに伸びた、燃えるような紅い髪を振り払い、ダンジョンの天井に阻まれた天空を見上げた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おい、何だあいつは!?」

 

「お、桜花!! それよりも···」

 

「桜花殿!! 今は、武器を····!!!」

 

三人を、燃え盛る炎が襲う。まずい···間に合わない!!!

 

『吹き荒れる凶ツ風[ディザスターウィンド]』

 

[深紅火炎(クリムゾンファイア)]を、吹き荒れる強い風が吹き飛ばす。リューの魔法[ディザスターウィンド]。強烈な風は、斬撃をも凌ぐ鋭さをもち、その威力は、コボルトルージュが放った火炎をも吹き飛ばす。威力の衰えない風が、コボルトルージュを切り裂く。

 

「···二手に分かれましょう。タケミカヅチファミリアの三人は私と!!! リュー、ルミナさん、セツナさんはもう一匹を!!!」

 

「了解!!!」

 

 

突然変異種とは、これで二回目か···やってやる!!!だって、今は、"これがある"

 

「ツキ様···俺に力を···!!!」

 

両腰に刺さった二本の剣が、黄金の輝きを放つ。

 

「「仰せのままに、マスター」」

 

知らない二人の声が聞こえた、ような気がした。

 

ルミナが、二本の剣を抜刀した瞬間、とてつもないスピードで剣が抜かれ、コボルトルージュ目掛けて飛んでいった。そして、意思があるかのように、弾き飛ばそうとするコボルトルージュの腕をかわし、斬撃を喰らわせる。

 

そして、二本の剣はルミナの手に戻ってきた。

 

「る、ルミナ君!? なんだい、その剣は!?」

 

 

 

「俺の、相棒···【月夜見ノ双月】です!!」

 

俺は、剣を前に突きだし、重ねる。

 

『瞬く閃光の剣撃[レクレールサヴェーション]』

 

身体中に電流が走り、身体が軽くなる。そして目の前の視界がクリアになっていく。さぁ、いくよ···!!

 

「はあああああぁぁぁ!!!」

 

「何だかよく分からんが···仕方ない!! 『シャドウケイズ/影入斬裂』!!!」

 

「私もっ···!!!『ディザスターウィンド』!!!」

 

 

俺が繰り出す双斬撃と、セツナさんが影に潜り込みクナイで肉を断つ。詠唱が完了したのを合図に、散開し、リューさんが放った風をかわす。よし、結構ダメージが···!?!?

 

「···む、無傷···?」

 

コボルトルージュは、悠然とその場に立っていた。まじか···。

 

「呆けてる場合ではありません!!!」

 

「その通りだ!! ルミナ君!! 避けろ!!」

 

「···っ!!! くっ!!」

 

ぼーっとしたせいで、コボルトが放った火炎息に気づかなかった!!! 俺は右に転がり、ぎりぎりのところでかわす。ちりちりと音がする。おそらくコートの端が焼けたのだろう。

 

「···ふぅ···」

 

落ち着け···どうする···? この状況···。相手の装甲はかなり固い。それに威力の増した火炎息も危険だ···離れても近づいてもやられるのか···だけど、怖がって場合じゃない!!

 

「···俺が、奴を抑えつけます。その間に、二人は···」

 

「···できるのか?」

 

「···大丈夫です。俺には、ツキ様がついてますから」

 

「そうか!! なら安心だ!!」

 

···ありがとう、セツナさん。よし···いこうか!!!

俺は、コボルトに急接近し肉薄する。超至近距離なら、火炎息は吐けないはず。そして残る攻撃手段は···

 

「ギャウウウウ!!!!」

 

その顎と腕のみ。

俺のチェストプレートとガントレットには、筋力補正がかかっており自身の持つパワーが上がっている。付与名[深紅装甲/スカーレットパンツァー]。あの[スカーレットキラーアント]の持つ異常な防御力と攻撃力の秘密はこれにある。

 

俺は、コボルトの両腕、そして顎をまとめて両腕でがっちりとホールドする。これなら、自由に動けない···そして、無防備な下半身を晒す事になる。

 

「くらいな、[シャドウ·イン·ケイズ]!!!」

 

『吹き荒れる凶ツ風[ディザスターウィンド]』

 

俺は、二人の技が放たれた瞬間コボルトから離れる。しかし、コボルトは俺の急激な動きについてこれなかったみたいだ。諸に二人の技をくらい、吹き飛ばされる。硬い岩肌に身体を打ち付ける。よっし···!!!

 

「よくやったルミナ君!!! 私がご褒美に抱き締めてやろう!!」ムギュ

 

「わっぷ!? せ、セツナさん!! まだ戦闘は終わってないですよ!?」

 

「はっはっは!! そう照れるな!!」

 

「···(···羨ましい···)」

 

しかし、コボルトが黒灰になることは無かった。のっそりと起き上がり、俺達を睨みつける。

 

「こいつ···タフですね···」

 

「あぁ···もう体力が尽きてもいいんだが···」

 

「起き上がるなら、叩き潰すまでです!!」

 

突如、コボルトの口から灼熱の炎が溢れた出す。

 

「っ!!! 二人とも!! 逃げてください!!!」

 

ルミナの声は、二人に届くには遅すぎた。二人は、コボルトルージュから放たれた[深紅火炎弾(スカーレットバレット)]に直撃し、大きく吹き飛ばされる。

 

「セツナさん!!! リューさん!!! くっ···!!!」

 

連続で放たれる火弾を避けつつ、二人を見る。···咳き込んでる···大丈夫だ、息はある。

 

「二人はそこで休んでてください!!!」

 

俺は剣を構え直し、コボルトを正面に見据える。···駄目だ···勝ち目はない···万事休すか···

 

『あなたは、そこで諦めるのですか···?』

 

「···えっ···? ツキ、様···?」

 

突然、頭にツキ様の声が響く。何だ···? これ···

 

『さぁ、あなたの力を···見せてみなさい[ルミナ·トゥルーレコード]!!!』

 

 

*********************************************

 

接続(コネクト)完了。接続媒体[ルミナ·トゥルーレコード]、接続容体[ツクヨミ]。

 

スキル[神力憑依/アースポゼッション]発動···スキル[限界解放/オーバーロード]、強制発動。

 

*********************************************

 

 

「うあぁっ····うああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!??????????????」

 

頭が、割れるように痛い。呼吸が苦しい。身体の感覚が無い。何だ、これ···!?!?

 

だけど···何だ···?よくよく感じてみれば···暖かい。懐かしい···大好きな感覚···。

 

「···これ···前の奴だ···」

 

これは、前[スカーレットキラーアント]を倒した時発動した、不思議な力。これなら···戦える

 

「はあああああぁぁ!!!!」

 

俺は、地面を蹴りつけ、[前へ跳躍]する。高速でコボルトに近づき、まずは前足を切り刻む。頭を下にして回転斬りを繰り出す。重力をほとんど無視し、地面とほぼ垂直、平行に回転斬りをする。今の俺は、その芸当ができるほどの力をてにしている。

 

「ギャアアアアア!!!」

 

前足を両断、続けざまに後ろ足も両断され、攻撃手段を失ったコボルトは、力無く地面に伏す。まだ、息の根は止まってない。俺は体勢を変える。次は地面に足をつけ、真上に跳躍し、コボルトの上空に陣取る。そしてそのまま、地面に剣を突き立てるようにして降下する。

剣は深々とコボルト突き刺さり、コボルトの身体が弾ける。ゴトン、と魔石の落ちる音が聞こえたが、気にしてられない。アスフィさん達のとこ行かなきゃ

 

「ふっ···」

 

地面を蹴り、アスフィさん達が相手をしているコボルトに突進する。

 

「なっ!?」

 

大丈夫ですよ、直ぐに殺ります。

 

「よっ···とっ!!!」

 

衝撃で吹き飛ばされたコボルトを追い、剣を突き立てる。直ぐに追いつき、剣がコボルトの肉に刺さる。そのまま刺さった剣を上に引き上げ、肉を断ち切る。黒い血が溢れだし、コボルトの言葉にできない苦し気な呻き声が聞こえる。だけど、俺の心には聞こえない。引き上げていないほうの剣をコボルトの腹に突き刺し、ぐりゅん と回転する。形容できない粘着質な音が響き、一瞬、嫌悪感に襲われる。だけど、俺は手を止めない。止められない。

 

「···っ!!!!!!!!!!!」

 

上に浮き上がらせたコボルトの腹の下に潜り込み、両手に持った剣を思い切り突き刺す。そして、頭に浮かんだ言葉を紡ぐ。

 

『輝く月と日の夜、今宵もまた光は踊り狂う[月蝕月夜/エクリプスナイト]』

 

両手の剣から、それぞれ黒と白の閃光が溢れ出し、それはコボルトを貫く。

 

最後の咆哮を上げ、コボルトの身体は四散した。俺は降ってきた何かを掴む。それは、通常のコボルトから考えられないほど、大きな魔石だった。

 

 

そこから、俺の記憶はない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その光景に、誰もが絶句していた。それはもちろん、神も例外ではない。

 

「···ねぇ···ヘルメス···あれって···」

 

「···あぁ。そうだよ、ヘスティア。禁術と言われた、神降ろしの術[神力憑依/アースポゼッション]···!!!!」

 

「で、でも!! あれの体現者···は···!!!」

 

「···その可能性が高いね···だけど、絶対にありえない事でもある。まだ残っていたとはな···[空を蝕む者]······!!!!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ···はぁ···」

 

こ、ここは···? 第18階層に、来れたのか···?

 

ザッ ザッ ザッ

 

誰か、来る···

 

「···すみま、せん···誰か、二人を、助けて···」

 

僕の意識は、そこで途切れてしまった。

 

 

「···良く、頑張ったね···」

 

綺麗な金髪を、夜風に揺らす美少女、[アイズ·ヴァレンシュタイン]は、心配した顔をしながらも、ぼろぼろになった少年の髪を撫で、優しく、そっと、彼の額に口づけをした。

 

ここは第18階層、[迷宮の楽園/アンダーリゾート]。

 

 

 

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真面目な戦闘描写って苦手。


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第八話[休息幸日/レストハッピーデイ

...3点リーダー全部ミスってるやん...申し訳ありません...。


「お、目が覚めたかい?ルミナ君」

 

目を覚ましたら、知らない所にいた。あれ···? 俺は···? セツナさんも、何でここにいるんだ···? まぁ、取り敢えず···今度こそ!!!

 

「···知らない天「ルミナ!!!目が覚めたんだね!!!」ベルこの野郎ーーーーーーーー!!!!」

 

俺はまだ痛む身体を酷使し、ベルの襟首を掴む。この前はエイナさんだったから許したものの、ベルは許さん。

 

「あいだだだだ!!! 痛いよルミナ!!!」

 

「うるせぇ!!! 貴様だけは許さん!!」

 

···あ、やばい···。俺の身体が持たん。身体の節々が何かミシミシ鳴ってる。うあ···意識が···

 

「···ルミナ君。無理はするな」

 

ぎゅっ、とセツナさんに抱き締められる。···え? え!? ···セツナさんって···女性らしい香りがする。温かく包み込まれるような、そんな感覚に陥る。実質、そうなのだが。···ていうか···

 

「せ、セツナさん!!! あ、ああああ、当たって···!!!」

 

「ん? はっはっは!! ···“当てている”と言ったら?」

 

セツナさんが、艶美な笑みを浮かべる。···え? あの···それって···まずくないですか···? だ、だって···こんな形の良い柔らかい···のを、当てている、とか···!?!?

 

「···ブバッ」

 

俺は鼻血を吹き出し、その場で倒れる。その後の記憶はない。

 

「···ふぅ···まったく、彼を抑えるのは疲れるよ」

 

セツナはそっとルミナを放し、敷かれた毛布に寝かせる。

 

「···せ、セツナさんって、何か凄いですね···恥ずかしくないんですか?」

 

ベルがおそるおそる聞く。そりゃそうだ。少しの羞恥心も無くあんな行為ができる者など限りなく少ない。

 

「···そうだな···。うん、まぁ少しは恥ずかしいかな?」

 

セツナは少し頬を染め、後頭部をかく。

 

「だけどね···そうやって恥ずかしがってたら、何時までも進めないからね」

 

セツナは、微笑を浮かべルミナの髪を撫でる。その顔には慈悲と愛情が浮かんでいた。

 

「···進めない···?」

 

「そうだ。君もそうなんじゃないのかい? その場で足踏みしかしてないんじゃないのか?」

 

「え···その、僕は···」

 

それは核心突いたことであった。ベルは、あと一歩が進めない。ヘスティアにも、アイズにも。自分から踏み出す事ができない。その場で足踏みをすることしかできない。

 

「···いきなり自分を変える事なんてできないのだよ。だから、少しずつ変わっていくといい。焦らず、じっくりと、確実に変えていくといい。そうやってゆっくり変わっていった者は、自分のピースをはめ忘れることはないからね」

 

「···?」

 

にこり、と先ほどの艶美笑みとは違う、穏やかで優しい笑みを浮かべる。

 

「いずれ分かるよ。それまで考える事だ」

 

そう言って、セツナは立ち上がり、テントから出ていった。

 

「···一歩を、進み出す···」

 

ベルは、暫くその場から動くことができなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ルミナ···大丈夫かな···。 僕は、ルミナが寝ているテントから抜け出し、外へと出た。

 

ここは、迷宮の楽園[アンダーリゾート]。第18階層に存在する[安全領域]。しかし、モンスターが居ない、というわけではなく、襲ってこないのである。

ここは、モンスターにとっても楽園らしい。豊富な水や、熟れた果実。射し込む陽光に似た、クリスタルの光。モンスターにとっても、冒険者にとっても、ここはリゾートなのだ。

 

···、とアイズさんや、アスフィさんが言っていた。

 

 

 

「ふあぁーあ···あー、良く寝た···」

 

俺は出血多量から回復し、テントの外に出る。···わ、なんだここ···? ダンジョン、なのか···?

 

目の前には、広がる大草原、先には深い森も見える。オラリオの街···では無いな。

 

「お目覚めですか? ルミナさん」

 

「あ、リューさん」

 

こちらへと歩いてくる、いつもの制服でも、この前着てきてくれた深緑のワンピースでもない、新緑のローブ、ところどころが解れ、ぼろぼろになっている服。恐らく、前使っていた戦闘服なのだろう。···あの、失礼なんですが···なんか、セクシーです、リューさん。

 

「良かった。皆さん心配していましたよ?」

 

「すみません···でも、もう大丈夫です!!」

 

俺は、左腕でガッツポーズを作る。···関節がみしっとなったけど、気にすんな! うん!!

 

「···あまり、無理なさらないでください。ツクヨミ様が心配します。それに、セツナさんも···そして、私も」

 

リューさんは、心配そうな表情を浮かべる。···あーあ···こんな顔にさせちゃうなんてな···俺もまだまだだ···。

 

「···はい。そうですね···俺は、もう一人じゃないから···」

 

「···はい」

 

いつの間にか吹いていた、穏やかなそよ風が、俺のコートを、彼女の新緑のローブを揺らした。···てか、ここどこ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて、ルミナ君」

 

「はい?」

 

俺はざっと関節が怪しかったため、テントに戻って、セツナさんに身体に包帯を巻いてもらい、その上に、月の紋様が入ったお気に入りのコートを羽織る。これは、[ツクヨミファミリア]に入団した時に、ツキ様からいただいた、大切なコートだ。今までに何回か解れてしまっているが、その度に編み直し使っている。今じゃ宝物の一つだ。

 

「ここには、[リヴィア]と言う迷宮都市があるらしいんだ。なんでも、冒険者の街だそうだぞ?」

 

「へー、そんな所があるんですか···ちょっと行ってみたいですね」

 

ツキ様へのお土産が買えるかもしれないし、失った消耗品の補充もできるかもしれない。幸い、前に貰った報酬のあまりが6万ヴァリスもあったため、4万ヴァリスは貯金して、1万ヴァリスずつ俺とツキ様が所持している。

 

「そうだろう、そうだろう···そこで、だ」

 

「はい」

 

 

「···私と、デートしないかい?」

 

にこやかに晴れやかに、清々しく爽やかに、目の前の美女は笑った。

 

「···はい?」

 

そりゃ勿論、理解も遅れますよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

冒険者の街[リヴィア]。店というより、祭りに出てくる出店と言ったほうがしっくりくる簡易な建物が立ち並ぶ、オラリオにも負けない活気ある街だ。

そこを、俺は隣の美女[セツナ·クロカゼ]さんと歩いている

 

 

 

「どうしてこうなった···」

 

「ん? なんだいルミナ君。私が隣を歩いていたら不満だと言いたいのかね?」

 

セツナさんは、唇を尖らして俺をじとっ、と見てくる。

 

「いえ!!! 寧ろ光栄、恐悦至極にございます!!!」

 

しまった、つい口が···

 

「···き、君は時々キャラが変わるな···。まぁ、誉め言葉として受け取っておこう」

 

「はい。でも、嬉しいのは本当ですよ」

 

「そ、そうか!! やぁ、照れるなぁ···」

 

セツナさんは心底嬉しそうだ。そして、[リヴィア]に並ぶ様々な店を見ながら楽しそうに笑う彼女の姿は、何処にでもいる、綺麗な女の子のようだ。

 

「あはは、セツナさん。そんなにはしゃいじゃはぐれちゃいますよ?」ギュッ

 

「ふえっ!? あ、あぁ···す、すまない···」

 

俺はぐれてしまわないよう、セツナさんの右手を取る。すると、セツナさんは茹でだこのように顔を赤くし、俯いてしまう。···どうしたんだ···ろう···? あ、成る程。

 

「やっ、あの!! すみません!!」

 

俺は慌てて取った手を振りほどこうとする。しかし、セツナさんは力強く俺の手を握りしめ、放そうとしなかった。

 

「い、いいんだ···このままで。···このまま、手を繋いでていいか?」

 

「あ、はい···どうぞ···」

 

「···ふふ。ありがとう」

 

俺達は、手を繋いで街を歩き始めた。心臓の高鳴りが止まらず、聞こえてるんじゃないかってくらい大きな音を立てて心臓が跳ねる。やヴぁい···やヴぁい···。これ、店選ぶとか難しいそうだな···。あれ、そういえば···

 

「セツナさん、他の人達は?」

 

「ん? 他の連中か? 多分皆街を回ってるぞ? 暫くは休暇をとるらしいからな」

 

「へー、そうなんですか···。じゃあ、リューさんもですか?」

 

セツナさんは、少し間を置き、俺をじっと見つめる。え? 俺何か変な事いったっけな···

 

「···君は、やはりリューが好きなのか?」

 

「···へ···?」

 

···へ···? へ? へえええええええええええええええええええ!?!??

 

「ちょ、ちょっと!? 何でそんな話になるんですか!?」

 

「君は一番リューを気に掛けてるし、前、[豊饒の女主人]でリューのあの姿を見た時の態度が、明らかに他の者に向ける態度とは違う。聞けば、あそこには毎日通ってるそうじゃないか。そして今、他の連中もいるのに、何故かリューだけを選んで聞いた。これはもう、確定じゃないか?」

 

くぅ!!!! 鋭い!!! よく見ている。恐れいった。でも、まだ好きってわけじゃ、無い気がする。確かに気になってはいる。だけど、何かそこから先へ行けない。

 

「···素敵な女性だとは思います。美人で、スタイル良くて、面倒見が良くて、そして···俺の話を聞いてくれたりして、とてもお世話になりました。だけど、」

 

「だけど?」

 

「···分からない事が多いんです。何であそこで働いているのか。どうして働くことになったのか、だって元冒険者ですよ? それに、何で冒険者を辞めたのかも分からない。そして、あの強さ···リューさんは、ミステリアスな女性なんです。だから、俺は彼女の事をほとんど知らない」

 

そうだ。俺はリューさんの事をほとんど知らない。毎日あの店に通っていても、彼女の素性を知ることはできない。だから、俺は···

 

「···ふっ。君も男の子だな」

 

セツナさんは、慈愛に満ちた優しい笑みを向ける。···???

 

「なに、これから知ればいいじゃないか。君はまだまだ若い。勿論、リューもだ。時間はまだまだあるさ。ゆっくり知っていけばいいじゃないか」

 

「···ゆっくり、と···」

 

「あぁ。時間をかけてゆっくりとだ。」

 

···そう、か。ゆっくりと知っていけばいいのか···俺は、焦ってたのかな。···おいおいおいおいちょっと待て。

 

「ちょっと待ってくださいセツナさん。何でこれ俺がリューさんの事好きだ、っていう前提で話進んでんですか!? なんか良い事言ってるし!! 一瞬錯覚しましたよ!!」

 

あぶねー!! あのまま錯覚していたら今日の内に告りに行くところだったー!!

 

「え? 好きじゃないのかい?」

 

「···気には、なってます」

 

「···そうか。じゃあ」

 

セツナさんは、ずいっ、と俺に顔を近づけてくる。ちょっとちょっとちょっと!?!? 近い近い近いいいいいい!!!!

 

 

「私にも、チャンスはあるって事だね♪」

 

その場でニコリ、と小悪魔的な笑みを浮かべた。···うわ···可愛い···。いや、綺麗、かな···。

 

「···さ、さぁ!!! 店回りましょうか!! あ! あれなんて良いんじゃないですか!?」

 

俺は小走りになりながら、セツナさんの手を引く。真っ赤になった自分の顔を見られたくなかった。そして、これ以上彼女の顔を見ていたらどうにかなってしまいそうだった。

 

 

「···もう。本気なのになー···」

 

セツナさんのその呟きは、喧騒に包まれて消えていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「···ルミナさん···何処···?」

 

 

場所は変わってロキファミリア、兼その他ファミリアキャンプ地。リューは、ロキファミリアから振る舞われる料理の中から、傷ついたルミナにも食べやすいようにお粥を作ってもらい、彼が寝ているはずのテントに入っていた。どこまでも献身的な彼女である。

 

「おかしいな···ここのはずだったのに」

 

「ルミナ殿をお探しですか?」

 

「っ···命さん」

 

声を掛けてきたのは、[タケミカヅチファミリア]のヤマト·命だった。彼女も怪我をしていたようで、所々にガーゼが見える。

 

「はい。何処に行ったかご存知ないでしょうか?」

 

「さっき街へ行くのを見かけました。確か、[セツナ]殿もいましたね」

 

ピシッ

 

リューの中で、何かが弾けた。街へ? 怪我をしているのに? 休んでなければならないのに? 私がお粥を持ってきたのに? セツナさん? ···あぁ、そうか。そういうことか···。

 

「ふふっ···先を越されてしまいました」

 

「え?」

 

命は何が何だか分からない、というように呆けた表情を浮かべる。そりゃそうだ。自分の中で、自分で納得しただけなのだから。

 

「いえ···ありがとうございました。では、私行きますね」

 

「あ、はい」

 

リューは、お粥を持ってテントから出た。

 

迂闊だった。外へ連れ出す事は無いだろうと甘く考えていた私のミスだ。セツナさんの事だ、そのくらいの無茶はするし、ルミナさんだって、断りはしないだろう。···やはり、私は彼が好きなんだな。彼が、私の傍に居ないから、少し胸が痛い。彼の体温を感じないから、私の手は少し冷たい。でも、何なのだ、この気持ちは? これだけはどうしても理解できない。

 

 

何故、私は···

 

 

セツナさんを憎んでいる?

 

 

その問いに、答える者はいなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そして、場所はルミナ達に戻る。リヴィアの街だ。

 

「おっ、ルミナ君ルミナ君。こんなのはどうだ?」

 

「はい? あぁ、良いですね。とっても似合ってますよ」

 

「そ、そうか? ふふっ···これにしようかな~···」

 

セツナさんは、身につける装飾品を体に当てて、俺に見せてくる。選んでいるのは黒い翼の紋様が入ったネックレスだ。黒がイメージカラーのセツナさんには、これ以上無いチョイスだ。しかし···高過ぎだろ、ここ。

 

「何なんですかね···ここ···一個1000ヴァリス以下の商品無いじゃないですか」

 

「そうだな。ここは所謂、闇市と同じような物なのだろう。法律も無いだろうし、物価の決まった額も指定されていないのだろうな。何より、警士の見回りや検査が無い。通常の市場には出回らない商品も数多くあるようだ」

 

確かに、そうなのかもしれない。何かヤバそうな商品がちらほら見える。にしても、さっきのネックレスだって2500ヴァリスだ。高い。レベル1~2での1日の稼ぎで、良い方ぐらいの額。高い。でも、ツキ様にお土産を買っていきたい。何か、良い物は無いだろうか···あ!!

 

「セツナさん、これなんてどうでしょうか? ツキ様のお土産に」

 

「ん? どれどれ?」

 

俺が提示したのは、黒い香水だ。三日月の模様が書かれていて、いかにも大人の女性って感じがする。女性の趣味は、俺にはよくわからないが。

 

「···あ、あぁ。良いんじゃないか? うん。凄く良いと思う」

 

「?? 何でそんな歯切れが悪いんですか?」

 

セツナさんは、何か、笑いを堪えるように言ってきた。怪しいな···

 

「い、いや···ククク。君達は、本当に仲が良いのだと思ってな」

 

「仲が?」

 

「あぁ。こんな高い物しか売ってない所で、そんな高い物を買うとはな」

 

あぁ、値段の事か。どれどれ···? 8500ヴァリス、か···。払えない額じゃないし、お留守番してくれているツキ様には、良い物を買っていってあげたい。それに、もともとの手持ちを合わせればまだまだお釣は来る。

 

「···俺、ちょっとこれ買ってきますね」

 

「あぁ。ここで待ってるよ」

 

俺は店員さんの下へ走っていった。

 

「···ククッ···帰ってから面白くなりそうだ。よりにもよって[あんな物]を選ぶなんてね···クククッ···」

 

···何故か店員さんに苦笑いされた。···何故?

 

「よし、買い終わったし、次の店行きますか」

 

「え? まだ行くのかい?」

 

「はい。セツナさんはもう良いんですか? セツナさんの分も買っておこうと思ったんですが」

 

「えっ? 私の分?」

 

「えぇ。ネックレスだけじゃ物足りないでしょう? 何か買いましょう?」

 

ここまで来て、ネックレス一個ってのも可哀想だ。何か買ってあげよう。日頃の感謝も含めて。

 

「···ふふっ。私は君のファミリアに入って正解だったよ」

 

セツナさんは、とても良い笑顔をくれた。それは眩しく光る宝石のようで、思わず見とれてしまった。

 

「い、いえ···それに、俺のファミリアじゃないですよ。[ツクヨミファミリア]です」

 

「おっと、そうだったね。ツクヨミ殿に感謝しないとな」

 

セツナさんは、さっきとは一変、コロコロと笑う。うん、笑顔がとっても似合う人だな。ファミリアか···そういえば···

 

「あの、セツナさん。一つ聞いていいですか?」

 

「ん? 何だね?」

 

「セツナさんは、何でうちのファミリアに入ったんですか? 前のファミリアは···?」

 

最初出会った時、彼女はもうレベル3だった。つまり、別のファミリアに所属し、かなりの年月をそこで過ごしたはずだ。そのファミリアから何故脱退したのだろう?

 

「···ここでは場所が悪い。買い物が終わってからで良いだろうか?」

 

セツナさんは、少し真剣な表情になる。なんだ? 重い話なのだろうか?

 

「はい。良いですけど···」

 

「うん。ありがとう。それじゃ、買い物を再開するとするか!!」

 

彼女は、また俺の手を握り直し、歩き出した。

 

その手は、少し震えていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

昔話をしよう。当時14歳だった冒険者の少女の話だ。彼女は、あるファミリアに入る事ができた。そのファミリアの名は[スクルドファミリア]。

 

そして、そこに入った少女の名は

 

[セツナ·クロカゼ]。

 

ある日、レベル3に上がり、18歳にまで成長した彼女はあるクエストを受けるため、一度ファミリアのパーティーから抜け、依頼主の元へと走っていった。

しかし、いくら待っても、依頼主は現れなかった。嫌な予感がした彼女は、パーティーが向かったはずのダンジョンへと入る。

 

そこで見つけたのは、大量の赤黒い血。仲間が身につけていた装備。仲間の肉片。そして、最も信頼し、尊敬していたリーダー[クロエ·サンバスタ]の持ち歩いていた剣[ハーミットステイル]。

 

そして、全身黒き[何か]で覆われた、謎のモンスター。

 

今、明かされる[セツナ·クロカゼ]の過去。

 

 

 

 

 

 

 

 

第8話

   [休息幸日/レストハッピーデイ]

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

セツナさんは、あんなに積極的で、思わせ振りな態度をとりますが、中身は初な恋する女の子なのです。何でルミナに恋をしているのかは、またの機会にでも。

 

 

では、次回予告

 

 

セツナから告げられる衝撃の真実。[私は、空っぽなんだよ] それを聞いたルミナがとった行動とは?そして、ベルを街へ連れ出すアイズ。彼女のアプローチは、ベルに届くのか? 必殺天然メロメロ攻撃が、ベルに炸裂する!!

そして、一人残されたリューは、ルミナの帰りを待つと同時に、命へ、剣術指南を承る。リューの戦闘能力に秘められた過去を、まだルミナは知らない。

 

そして、近づく不穏な空気。姿を現したのは、黒髪の少女[ムー·ノワルドール]

 

 

黒き変異が、ルミナ達に迫る。

 

 

次回、ダンジョンで出会ってしまったのは間違っているだろうか? 第9話[影鴉虚無/疾風虚無]

 

 

 




書き溜めしなきゃ良かった...。


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第九話[影鴉虚無/疾風虚無]

リューさんが病むと良いですよね。うん。


 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第9話 

   [影鴉虚無/疾風虚無]

 

 

 

「...うん。これにするよ」

 

「あ、決まりました? へぇー、良いですね、それ」

 

「ふふっ、そうだろう?」

 

セツナさんは、黒いマフラーを手にとっていた。細かい紋様が放射状に広がっているデザインが真ん中あたりにあり、きめ細やかな糸で編まれている。肌触りも良さそうだし、丈夫そうだ。

 

「じゃ、それにしますか。すみませーん、あのこれなんですけど...」

 

俺は財布を取り出しながら店員さんに声を掛ける。

 

ここは、第18階層[迷宮の楽園/アンダーリゾート]と呼ばれる安全領域。その中に存在する、冒険者の街[リヴィア]だ。

そこにある商店街で、俺とセツナさんは、買い物をしていた。俺は消耗品の補充と、ツキ様へのお土産(店員さんとセツナさんに何故か笑われた)。セツナさんは、装飾品の購入だ。

 

 

「よし。買い物はこれくらいで良いですかね?」

 

「あぁ。すまないね、色々と払わせてしまって。私も手持ちがあれば良かったのだが...」

 

「いえいえ! 気にしなくていいですよ。日頃の感謝の気持ちですから。それに、女性に払わせるわけにはいきませんよ」

 

女がいるときは、男が払うもんだ、ってばっちゃが言ってた。...ばっちゃって誰? とにかく、女性に払わせるわけにはいかない、というのが俺の信条だ。

 

「...君は、優しいな。...それが私だけに向かないのが残念だ...」

 

「はい? 何か言いました?」

 

まわりが五月蝿すぎてなかなか聞こえない。五月蝿いなぁ···まぁ、これが冒険者というものだと思うが。[豊饒の女主人]はいつもこんな感じだ。頭がくらくらしてくる。

 

「いいや。何でも無いよ。さぁ行こうか」

 

そう言って、セツナさんは、人混みを掻き分け進んで行ってしまった。や、やば! はぐれちゃう!! 俺は急いで彼女の下へ走った。

セツナさんを見つけた時、彼女の後ろ姿は、とても頼り無く、寂しそうに見えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、ルミナ君。...私の昔話をしようか」

 

「昔話、ですか?」

 

俺達は、商店街を出て、ロキファミリア、ヘファイストスファミリア兼合同ファミリアのキャンプ地に戻ってきていた。そろそろお昼時らしい。皆は昼食の準備をし始めていた。

 

「あぁ。テントの中に入ろうか」

 

そう言って、セツナさんは、俺が寝ていたテントの中に入っていく。俺もそれに続きそこに入っていく。俺達は、向かい合う形で座った。

 

「よし。私の前のファミリアの事だが...名を[スクルドファミリア]と言うんだ」

 

「...スクルド、ファミリア...」

 

聞いた事の無い名前だ。

 

「私はそこに13、4の時入ってね。最初は右も左も分からなかった。だけどね、私には救い主...まぁ、恩人だね。その人の名は[クロエ·サンバスタ]。当時、女剣士としては、アイズ·ヴァレンシュタインに迫る強さをもっていた」

 

「そんなに...」

 

「素晴らしい人だった。まだ幼い私に、剣を教えてくれた。ダンジョンを教えてくれた。そして、仲間の大切さを教えてくれた。誰よりも仲間を大切にする人でね。自分が進んでモンスターの攻撃を受けるような勇気と優しさを持つ人だった」

 

セツナさんは、遠い眼をする。まるで、遠き日の記憶を思い出すために、そこに行っているかのように。心此処に在らず。のような状態だった。

 

「私もだんだんと戦えるようになって、パーティーに加えてもらった。そして、様々なモンスターを狩り、どんどん上の階層に進んで行った。最高到達階層は、26、7層ぐらいだったかな?」

 

「そんなに行ったんですか...?」

 

「まぁ、大人数でだけどね。私だってレベル3だったし。...そんなこんなで私は充実した生活を送っていたのさ。だけどね...」

 

セツナさんは、詰まったようか顔をする。思い出したくないことなのだろうか...?

 

「せ、セツナさん。言いたくなければ、言わなくても...」

 

「いや。君には、言っておかなくてはね。...ある日、私は掲示板に貼られた一つのクエストを行っていた。一人でもできるし、通っていた店の関係者らしかったから、私はその依頼を一人で受けたんだ。他のメンバーの攻略の枷にならないようにね。」

 

セツナさん...やっぱり好い人だな。こんなにも優しい。

 

「だけど、いくら待っても、依頼主が来る事は無かった」

 

「...え? それって...?」

 

依頼主が、来ない?

 

「...あぁ。私は、私達は騙されたんだ。何者なのかは、未だに分かってないけどね...嫌な予感がした私は、一人でダンジョンに向かった。そこには...仲間達の死体やら、装備やらが転がっていた」

 

「...っ!!!???」

 

俺は絶句した。言葉が出なかった。死体が転がっていた事じゃない。装備が転がっていた事じゃない。セツナさんが、こんな平然とした顔で、こんな悲しい出来事を淡々と語っている姿を見て、絶句した。

 

「...んで...」

 

「ん? どうした?」

 

「...なんで、そんな平気そうな顔しながら、そんな事言うんですか?」

 

「...どういう事だい?」

 

セツナさんは、分からない、という風に首を傾げる。何で、そんな...分からないなんて...!!!!!

 

「...そんな、寂しい事言わないで下さいよ...」

 

「...ルミナ君...?」

 

俺は、いつの間にかセツナさんの両手を、俺の両手で包み込んでいた。俺は多分、分かっていたんだ。セツナさんの、何処か冷めきった顔に。その言葉に。その冷たさを、暖めてあげたかったんだと思う。

 

「...俺は、俺が死んだ時、セツナさんに泣いて欲しいです。俺の事を話す時、悲しげな顔になってほしいです。俺が居なくなって、寂しいと思ってほしいんです...だから、"空っぽになんてなってほしくないんです"」

 

セツナさんは、とても優しい人だ。俺は、セツナさんの事を尊敬し、敬愛している。だから、そう思ってほしい。何も思わない、空っぽの心になんてなってほしくない。

彼女は、少し驚いた顔をし、直ぐに憂いを帯びた微笑を浮かべる。

 

 

「...君は、分かっていたんだね...[私は、空っぽなんだよ。]あの日、仲間を失った、あの瞬間から、私の心には、何もかも残っていないんだ。...君は、私の心を、埋めてくれるのかな...?」

 

「...いいえ」

 

「...そうか...君なら、埋めてくれると思ったんだけどなー...」

 

セツナさんは、初めて寂しげな微笑みを浮かべた。···違う。違いますよ、セツナさん。

 

「違いますよ」

 

「...え?」

 

俺は、この寂しい鴉の心を、幸せで溢れさせてやりたいんだ。空っぽの心に、溢れんばかりの、幸福を。

 

「...俺はあなたの心を、暖かさで、溢れさせてあげます。俺が、包み込んであげます。だから、そんな寂しい事言わないでくださいよ、俺ら、仲間じゃないですか。寂しい時は、泣き止むまで傍に居ます。寂しさが無くなるまで...」

 

俺は手を放し、初めて、自分から彼女を抱き締める。寂しさで震えていた華奢な肩は、驚いたかのようにびくっ、と震える。

 

「...俺が、こうやって抱き締めますから」

 

そうだ。放すわけにはいかない。彼女を抱き締めてあげて、彼女の寂しさが紛れるのなら、いくらでも何度でも抱き締めよう。

 

「.........あれ...? おかしいな...涙が止まらないよ...うっ...うぅ...」

 

「良いですよ。今は、このまま此処にいますから」

 

「うっ...ひぐっ...か、顔は見ないでくれよ? 多分、酷い顔してると思うからさ」

 

「はい。眼、瞑ってますよ」

 

「...そうか。なら、安心だな...ルミナ君、ありがとう...」

 

セツナさんは俺の腕の中で、静かに泣いていた。だけど、彼女の体温は、とても温かかった。

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________________________________________

 

走る。行く宛も無く走る。息を切らし、目の前に見えた池の前に手を着いて屈み込む。

 

...見てしまった。私は、決して見たくないものを、見てはいけないものを見てしまった。その光景が眼に焼き付いて離れない。その場から逃げようとしたのに、足が動かなかった。脳から伝達される命令と、それを受けとる器官がうまく接続されていないんじゃないか、というぐらい私の身体は、私の言うことを聞かなかった。

 

その光景とは、ルミナが、セツナを抱き締めている光景。その腕の中で静かに泣くセツナ。そして、温かな微笑を浮かべ、彼女を抱き締めるルミナ。その光景は、私の精神を大きく揺さぶるのに、充分過ぎた。

 

訳もなく、涙が溢れてくる。そしてそれは止まらない。なんで、どうして...私は...!!! 何か事情があるんじゃないか? 違うんじゃないのか? セツナさんがまた何か大胆な行動に出たんじゃないのか? だけど、そうだったとしても、ルミナさんは、セツナさんを受け入れていることになる。そんな...そんな...!!!!!!

 

「...嫌、嫌...嫌...嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌...!!!!!!!!!!」

 

そんな事、赦したくない。私は、彼らを祝福すべきなのだろうけど、そんなのは、私の中にいる[何か]がそれを赦そうとはしない。そして、私はその[何か]に従おうとしている。だってそうだろう。私の中にいる[何か]だって、私なのだから。

 

いや、[何か]なんてもう分かっているはずなのだ。この気持ちを客観的に表せば簡単なのだ。

 

即ち[嫉妬]、[羨望]、[憎悪]、[独占欲]。私の中に渦巻くのは、この感情だ。

 

私は、ルミナさんに抱き締められているセツナさんに[嫉妬]している。

 

私は、ルミナさんに抱き締められているセツナさんに[羨望]を持っている。

 

私は、ルミナさんに抱き締められているセツナさんに[憎悪]を抱いている。

 

私は、ルミナさんを[独占]したいと思っている。私だけに話掛けてほしい。私だけ、私の手を握ってほしい。私にだけ、あの笑顔を向けてほしい。私だけを、抱き締めてほしい。

 

そんなのが叶わないのは分かっている。だけど、そう願ってしまうのは仕方の無い事なのだろう。だって、それが[恋]なのだろう。[愛]なのだろう。私は、この感情を嫌悪しない。初めての恋なのだ。そして、これからの人生、これ以上の恋は無いと思っている。ならば、全て受け入れよう。そして、この恋を叶えてみせる。そうすれば...

 

「...ルミナさんは、私の[モノ]です...」

 

だから、受け入れる。だって、私のモノにしたいと思っているのだから。これは、私の中の[何か]じゃなくて、[私]の気持ちだ。

 

「はぁ...これから大変ですね...」

 

これからは、覚悟してくださいね? ルミナさん?

 

ペロリ、といつものリューからは想像できない艶美な笑みを浮かべ唇を舐める姿が、水面に写し出された。

 

 

_____________________________________________

 

 

「ぷはー!! ごちそうさまでした!!!」

 

「うむ...美味であった」

 

俺達は、テントから出て、既に用意されてあった昼食を頂き、ご馳走になっていた。メニューは、鶏肉たっぷりのホワイトシチュー、香ばしい匂いのする焼きたてパン。あぁ、とても美味しい。鶏肉はパサつきが全く無く、さっぱりしていて、シチューは少量のスパイスがまろやかな味の中に、いい味を出していた。パンは、今まで食べた事が無いふっくらした食感と、香ばしい匂いをそのまま閉じ込めたその味。そして、そのパンをシチューに着けて食べると、これまた美味しい。

 

「すみません、何かご馳走になってしまって...」

 

「ん? いいや。これももてなしさ。遠慮せずに食べてもらって構わないよ」

 

そう言ってくれたのは、綺麗な翡翠の髪を持つ、[ロキファミリア]屈指の魔導師。副団長の[リヴェリア·リヨルブ·アールブ]さん。何処と無く、雰囲気がセツナさんと似ている人だ。

 

「では、ご馳走様でした...。あれ? そう言えば、ベルは?」

 

「あぁ、クラネル君かい? 彼なら、アイズとヘスティア殿と街に出掛けて行ったが?」

 

まじか...二人だと...? くそ、許せん...。

 

「イラつくから、三人の描写は書かない!!」

 

「...ルミナ君...さすがに、今のは私も見逃すわけにはいかない」

 

...すみませんでした。

 

 

__________________________________________________________________________________________

 

 

そんな楽しげなファミリアの様子を、高台から見つめる影1つ。

 

大きめのテディベアを片手に抱き、黒いリボン二つで、長い髪を纏めている。黒いゴスロリファッションを身に纏い、黒い、レースの着いた日傘を片手に持っている。

 

名を、[ムー·ノワルドール]。彼女もまた、[力持つ者]。右手の中指に光る黒い宝石の嵌まった指輪が光り輝き、彼女の後ろの茂みから、コボルトが二体出てくる。

その二体は、両方とも漆黒の毛皮に覆われていた。そして、彼女の前で膝をつき、項垂れた。まるで、忠誠を誓う騎士のように。

 

「...よしよし。いい子だね...」

 

彼女は優しげな表情で、二体の頭を撫でる。コボルトは心底嬉しそうに尻尾を振る。

 

「よし、じゃあ行くよ...[ノワール]、頑張ろうね」

 

彼女の抱くテディベアの瞳が、紅く光ったように見えた。

 

 

__________________________________________________________________________________________

 

 

「ねーねーベル君!! これどうだい!? ほらほら~!!」

 

「は、はい!? あ、良い匂いですね!!」

 

「ふふん♪ だろだろ~?」

 

「ベル。こっちも見て」

 

「ひゃ、ひゃい!? わぷっ...!?!?」

 

「どう?」

 

「ど、どうっ、て.............................」

 

「な・に・を・やってるんだ君はあああああああああ!!!!」

 

何やってんだあの人達は。

アイズさんは、何故かベルを胸に埋めてるし。ベルは顔真っ赤にして鼻血だして気絶してるし。ヘスティア様はアイズに噛みつかんばかりの勢いで飛びかかってるし...あれが剣姫なのか...。何か意外。

俺は、ベル達の元へ歩いていく。

 

「あの...そこら辺にしてもらえませんか? ベル首絞まってるし...」

 

「? あ、本当だ、ごめん」

 

「っはぁっ!! ごほっ、ごほっ...」

 

「大丈夫かいベル君!?」

 

落ち着きないなこの人達は...。

 

「全く...アイズ、良い加減にしろ」

 

「...うん。ごめん」

 

そこへ来たのは、綺麗な緑髪を流す、ハイエルフの魔道士。オラリオ最強の魔法使い[リヴェリア・リヨス・アールヴ]。...すげぇ...。

 

「すまないな、ルミナ君。うちの者が騒いでしまって」

 

「い、いえ! 大丈夫です。楽しいですし」

 

「そうか。なら良かった」

 

リューさんやセツナさんとは違った、綺麗な笑顔。優しく包み込まれるような、優しい笑顔だ。思わず、見惚れてしまう。

 

「どうしたんだ?」

 

「あぁ、いや。何でも無いです」

 

見惚れてしまうとろくな事が起きない。俺は慌てて目を逸らし、テントへと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした、ルミナ君? さっきから悩んでいるみたいだが?」

 

「あ、セツナさん。...あの、リューさんは...?」

 

駄目だ。これはまだ誰かに話せない。俺は話を逸らすため、他の話題を出す。...チョイスミスった。

 

「ふふっ...やっぱり気になるんだね」

 

「いや...さっきから姿を見ないので。昼食も食べてない事になります」

 

街から帰ってきた時もいなかった。いや、姿を見なかっただけかもしれないけど、皆が集まって昼食を摂っているここに来てないということは、何処かに行っているということだ。

 

「ふむ...そう言えばそうだね...何処か行ってるのかねー?」

 

「...俺、探しに行ってきます」

 

俺は、駆け出す。行くあては全く無いけど、探さずにはいられない。

 

「リューさん...何処へ...?」

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

私は、さっきの池から、キャンプ地に戻ろうと歩を進めていた。涙はもう出ない。恨みも、今は無い。セツナさんだって、ルミナさんが好きなのだ。それを憎悪してはいけない。

 

「...少し、恥ずかしいな...」

 

自分の感情でいっぱいだったのが、恥ずかしい。セツナさんは、こんな事思わないだろう。そう思うと、嫉妬でいっぱいの自分が恥ずかしくなってきた。

 

「リューさーーーーーん? どこですかーーーーーーーー?」

 

今のは...ルミナさんの声? 私の名を呼んでいる? 何かあったのだろうか...?

 

「...ルミナさん」

 

「うわっ!? あっ、リューさん!! 良かったー...」

 

私は、少し驚かせてあげようと、背後に回ってから声を掛ける。案の定、予定通りのリアクションをしてくれた。驚いている彼の顔は、とても可愛い。それだけで、私の心は幸せでいっぱいになる。思わず、笑みが零れる。

 

「すみません、驚かせてしまって」

 

「いやー、リューさん気配隠すの上手いですね...」

 

「まぁ、隠密は特技だったので」

 

他愛の無い話をするだけで、私の心は舞い上がる。今だけは、ルミナさんの眼が、心が私だけに向いていると思うと、どうしようもない幸せに包まれる。嬉しくて、嬉しくて堪らない。

 

「あっ、そうだ。お昼ご飯、もうできてますよ?」

 

「そうでしたか。では、行きましょうか」

 

「はい!!」

 

あぁ、これだ。私が求めているのはこれなのだ。私は、これを手に入れたい。この幸せを、ルミナさんの心を、手に入れたい。

 

 

_____________________________________________

 

 

 

「ふむ...何か腹立つな...」

 

私は、ルミナ君がリューを探しに行ったため、一人取り残されていた。彼が、他の女の元に行く、と思うと腹立つ。やはり、私は彼を好きになってしまったのだな。

 

「そう言えば、クラネル殿の姿が見えんな...」

 

さっきまで、あんなに馬鹿騒ぎしていたのに。また街にでも行ったのか...?

 

「何!? それは本当かい!?」

 

リリが、皆に叫んでいる。何かあったのだろうか?

 

「何かあったのか?」

 

「セツナさん!! 大変なんです!! ベル様が!!」

 

「どうした? 少し落ち着け」

 

「落ち着いてなんていられません!!! ベル様が、浚われたって!!!」

 

 

 

 

 

運命の歯車は、噛み合わせを失い、一つ一つ、落ちていく。それを広いあげる者は、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

第9話

   [影鴉虚無/疾風虚無]

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

次回予告

 

平穏に過ごすはずだった日に、ベルが連れ去られる。そして、次はヘスティア。しかし、それは、這い寄る黒き影の陰謀であった

 

姿を現す、二人目の異端児[ムー・ノワルドール]。「ねぇ、お兄ちゃん、お姉ちゃん。ムーと遊ぼ?」

 

次回、ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか? 第10話[運命狂乱/漆黒人形]




つぎはオリジナルストーリーです。なのでゴライアスはちょっと...。


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第十話[運命狂乱/漆黒人形]

書きだめが尽きた...。


第10話

    [運命狂乱/漆黒人形]

 

 

「ルミナさん...その...」

 

「はい? どうしました?」

 

俺達は、キャンプ場に戻るため、緩やかな山道を下っていた。リューさんと二人っきりとか...平静を保つ事が難しいのは勿論、普通に喋ることも難しい。あぁくそ。なにドキドキしてんだよ。

 

「聞きにくい事なんですが...その、セツナさんと...」

 

...え? もしかして...

 

「もしかして、見られてました?」

 

「...はい。すみません...」

 

...ぬおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!? なにこれ!? 新しいいじめ!? めちゃくちゃ恥ずかしい!! しかもリューさんに、リューさんに見られた!? ...やだ、死にたい。

 

「あああ、あのぉ...その...あれは、深い事情がありまして...」

 

「い、いえ。話せない事ならば構いません。しかし、これだけは教えてください」

 

「はい...?」

 

「...ルミナさんと、セツナさんはそのような関係で...?」

 

...は? そのような、関係...? つ、つまり...? そのような...そのような...そのような...? あっ!!!!

 

「ちっ、違いますよ!!!! 本当に、断じてそのような関係じゃ...!!!

 

てか、リューさんにその疑いは掛けられたくない。

 

「そ、そこまで否定するのもどうかと思いますが...でも、違うんですね」

 

「はっ、はい。俺とセツナさんは仲間ですから」

 

...仲間...そう。俺とセツナさんは仲間だ。だから、そんな関係ではない。

 

「ふふっ。そうですか...良かった...」

 

...? 良かった? どういう意味だろ...? 最近、リューさんの行動は変わってきた。最初、会った時は、軽い会釈程度。料理を運んでくる時は無言。だけど、懸命に声を掛けて、毎日通って...今思えば、なんで俺はあんなに躍起になっていたんだろう? でも、多分。セツナさんと同じなんだろう。あの時のリューさんも、空っぽに見えたんだ。

だから、初めて、おはようございます を言ってくれた時は飛び上がるくらい嬉しかった。いらっしゃいませ と言ってくれた時は、思わず笑みがこぼれた。そして、今。リューさんは、俺に笑顔を向けてくれる。笑顔で、いろんな事を喋ってくれる。

 

それが、とても嬉しい。

 

「...そろそろ見えてきましたね」

 

「あ、本当だ。そういえば、今日の昼食はシチューでしたよ。とても美味しかったですから、リューさんも食べてみてください!!」

 

「そうなのですか? ルミナさんが言うなら、間違いないですね」

 

こんな他愛ない話ができるようになったのも、つい最近で。でも、ずっと前から友達だったかのように、今は仲が良い。今は、これで良い。これで良いんだ。

 

俺は、皆の元へ駆け出した。

 

 

_____________________________________________

 

 

「ふむ...予定と違うな...でも、予定通りっちゃ予定通りなんだよなぁ...」

 

今回のベル誘拐。"ヘルメスは関与していなかった"予定では、ベルを魅惑の覗きに誘い、その後に...という予定であったが、誘おうとした時点で、ベルは居なかった。誰かが、ヘルメスと同じ考えを持っていたという事になる。

 

「ま、これはこれで面白そうだけどね♪ な?」

 

ヘルメスの唇が動く。しかし、その声は、突然吹いた風により掻き消された。

 

 

_____________________________________________

 

 

 

「それは本当か!?」

 

「はい! ベル様が誘拐されたと...見知らぬ人から...」

 

「見知らぬ人?」

 

俺は、キャンプ地に戻ってきていた。そして、そこでは"ベルとヘスティアが拐われた"という話が飛び交っていた。なんでも、最初にヘスティア、その話を聞き付けたベルが、助けにいったのだという。そして、ベルまでも拐われた...と。ん? おい、リリ。お前ヘスティア様の事忘れてない? 絶対忘れてるよね? ねぇ?

 

「はい。黒いローブを着た、背の低い人でした」

 

「...そうか...駄目だ。俺が見てきた限りじゃ、背の低い奴なんて街には居なかった」

 

「リリ、すまん。私にも心当たりが無いな...」

 

くそ...手掛かり無しか...でも、何でベルとヘスティア様を...? 拐った意味はあるのか? 何でだ...何が目的なんだ?

 

 

 

 

「それはね、ムーが遊ぶためなの」

 

突然聞こえた、幼い声。しかし、それに含まれた、凍えるような冷気に俺は、俺達は"ただ呆然と、その少女を見ることしかできなかった。"

 

「はじめまして、お兄ちゃんお姉ちゃん。ムーは、【ムー・ノワルドール】。ムーは、遊びに来たの。だから...」

 

その[ムー]と名乗った少女の後ろから、"漆黒の毛皮を持つコボルトが現れた。"

 

 

「ムーと遊んでくれる?」

 

コボルトが放った漆黒の火炎弾に、俺は反応することが出来なかった。

 

「ルミナさあああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」

 

刹那、俺の目の前で、疾風が弾けた。

 

 

_____________________________________________

 

 

「...ちっ、ムーの奴勝手に動きやがって...」

 

赤髪の少年は、舌打ちをし、爪を噛む。彼は[ミュート・ガーネット]。ムーと同じ【異端児/ミュータント】である。

 

「...まぁいい。あいつの好きにさせてやるか...」

 

すると上空に、巨大な影が現れる。最上級モンスター[ガーネットドラゴン]を越えた突然変異種[スカーレットドラゴン]。それは、ミュートの側に舞い降り、彼を頭部に乗せ、遥か上空へと飛び立った。

 

 

 

_____________________________________________

 

 

「次、そこなのです」

 

「くっっそ!!! なんだこいつら!?」

 

俺達は、ムーと名乗る少女が放った、二匹のコボルトに苦戦していた。こいつらは、あの少女の命令を聞いているように見える。少女の手に巻き付いている、あの蔦にも見える道具の力なのか? さっきからチカチカ光ってやがる。...とにかく、今は!!!

 

「セツナさん!!!」

 

「おうよ!!!!」

 

俺は、詠唱準備をし、両手を前に重ねる。セツナさんは、人差し指と中指を口の前に立てる。俗に言う忍者ポーズだ。

 

『閃光付与/レクレールサヴェーション』

 

『影入斬裂/シャドウケイズ』

 

俺の身体に電流が走り、血が沸騰したような感覚に陥る。これは身体中が活性化した証拠だ。そして、セツナさんは居なくなっていた。しかし、セツナさんがいた場所からは、長い影が延びていた。そして、一匹のコボルトに、斬撃が走る。

 

「...ルミナ君!!!」

 

「うおおおおおおおおっ!!!!」

 

衝撃により、空中のかち上げられたコボルトの、無防備な腹に俺の双剣が炸裂する。斜め十字型に斬撃の痕が残る。まだまだ!!! 俺は下に降り下ろした剣を上に持っていき、同じ箇所を、次は下から斬りつける。より痕が深くなり、形容できないうめき声がコボルトから漏れる。...あぁ、最低の気分だ。

 

「...だから、もうこんな気分にさせないでくれ...」

 

俺は、止めに剣の痕が交差している中心部分に、剣を突き刺す。そして、一気に引き抜く。びちゃびちゃ と粘着質な音と共に、どす黒い血のような物が身体に付着する。...あぁ、嫌だなぁ...。

 

「なぁ、ムーちゃんよ...止めにしようぜ?」

 

「え? なんで? ムーまだ遊び足りないよ」

 

「...は? がふっっ!?!?」

 

刹那、少女の顔が目の前にあったかと思うと、瞬間的に俺は吹き飛ばされていた。...なんつー瞬発力、それにパワーだ...あの身体からは想像できな...え...?

 

少女は、身の丈に合わない長大な杖を携えていた。そして、その先端から漏れ出す、電流らしき物を帯びた、蒼き薔薇の莖。

 

「これは、[精霊王の杖]。ムーの玩具なんだ...ムーの友達、殺したね...? 絶対に許さない...死ぬまで、ムーと遊んでもらいます」

 

瞬間、俺の閃光は消し飛び、代わりに、蒼き閃光が辺りを包んだ。

 

 

_____________________________________________

 

「...うっ...ここは...?」

 

おかしいな...僕、街を歩き回っていたんだけど...ていうかここどこ? なんか、木に縛られてるし...ん? 隣に誰かいる。

 

「ベル君!! 目が覚めたかい!?」

 

そこには、歓喜の表情を浮かべた、魅力的な胸と、童顔の神様、ヘスティア様がいた。あれ...? 神様...? そうだ!!!

 

「神様!!! 大丈夫ですか!? 怪我とか無いですか!?」

 

「...僕は大丈夫だよ。そんな事より、早く脱出しないと...」

 

あまり時間は、無さそうだからね...

 

 

遠くで、巨大な、遠吠えが響く。それは、異端によって歪められた、黒き巨人[ゴライアス]。このモンスターもまた、漆黒に変異した、変異種であった。

 

 

 

ついに、[迷宮楽園/アンダーリゾート]での、大規模戦闘が、幕を開ける。

 

 

 

 

 

第10話

    [運命狂乱/漆黒人形]

 

 

_____________________________________________

 

 

 




次回が長そうなんで短編にしました。


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