破天荒警察官と復讐少女(休載中) (獄華)
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第1話 両津、白咲町に向かう!

自分が執筆する中で復讐教室二次小説第二弾、こち亀は第一弾。
なお、こち亀と復讐教室以外のタグがついてる作品のキャラクターは登場人物としてだけ登場させる予定です。


東京都 葛飾区 亀有公園前 派出所……

 

 

『今日はポカポカ日和です!カムチャッカ半島及びスチャラカ半島から延びる移動性高気圧が……!』

 

パチ

 

「ふわぁぁぁぁ……全くこんな天気が良い日に仕事なんてしてたらバチが当たるよ」

 

警官はまた大きな欠伸をすると、スマホ片手に競馬ニュースを聞きながら競馬新聞に目を通した。

 

「ふむふむ成る程。ドンケツシンポリーはこのレーンが……」

「……両津く~ん」

 

声を掛けられた警察官は「ングッ!」と背中を震わせた。

 

「君は勤務中に競馬ニュースを聞いても良いと警官学校で習ったのかな~?」

 

「い、いや!違うんです大原部長!……これは今、流行りの『耳のマッサージ』と言う奴でして!ほら、わしこの頃耳が遠くなったから……!」

 

「ほ~う……耳のマッサージと言う奴は馬が走っている音やその様子を実況するものなのかね……!」

 

部長の身体がプルプル小刻みに震えだした。

 

『そこです!そこです!ドンケツシンポリー只今一着!』

 

「ゲッ!……音が駄々もれしてたのか!」

 

「この……バッカも~~~ん!!」

 

「ひぇぇぇ~!ごめんなさ~い」

「また、先輩に部長の雷が落ちましたね」

 

「自業自得よ、両ちゃんもあれで反省しないから……」

 

両津 勘吉

亀有公園前派出所に勤務する下町の有名警察官だ。

 

「貴様と言う奴はわしがどれ程怒ってもまた聞き出しおって……!」

 

「気の迷いなんです!もうやりません!」

 

「まぁ良い。今日の所は一先ず此れで勘弁してやろう」

 

中川と麗子はこれ以上の雷の追撃が無いことを疑問に思った。

 

「どうしたんでしょうか部長」

 

「両ちゃんを怒る事よりも大切な話が有るんじゃ無いかしら」

 

「ちょうど良い。中川に麗子君。君達も来てくれ」

 

「「はい」」

 

「うむ、此れで今日この派出所に勤務してる者は全員だな」

「では、話すぞ。近頃白咲町で暴動騒ぎが起きている事は知ってるな?」

 

「へ、なんですそれ?」

 

「両ちゃん……」

 

「先輩……」

 

「お前ら知ってるのか?」

 

「常識ですよ。つい最近何ですが白咲町で主に中学生達ぐらいの年の子の不良行為が目立つ様になってきてましてね」

 

「ほーう、物騒な世の中だな」

 

「ニュースにもなってたわよ。噂じゃ誰かが糸を引いてるんじゃ無いかとか言われてるわ。あくまで噂だけど」

 

「お前はギャンブル等しょうもない無駄な事ばかりに気を向けてるからそう言った世間の教養も入って来んのだ!」

 

「ぐぐ……当たってるだけに言い返せん……」

 

「それで我が葛飾署では全国に先駆けそう言った不良少年・少女の補導、犯罪抑止に向け何名か白咲町に派遣することとなった」

 

「へー、そうなんすか」

 

部長が両さんを指差す。

 

「え、まさか……」

 

「そうだ両津。お前もその一人に入っておるのだ。机仕事は向かんお前だが力仕事は得意だろう」

 

「わ、わしが白咲町に!!」




両さんには復讐教室の世界でも大暴れしてほしいもんです。
あと、正直あっちの小説の手詰まり感がヤバいwww


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第2話 ボルボの洗礼!


ボルボ西郷大暴れ


白咲町には3つの中学校がある。

 

1つ目は白咲中学校。

 

次に白咲ヶ丘方面に位置する白咲ヶ丘中学校。

 

最後に町外れに存在する外白咲中学校。

 

この3つだ。

 

この白咲の中学生達はあまり他の中学生達とつるもうとはせずその自分達が通っている中学校内で交流関係を作り出し形成していく。

よって他校の生徒とは小学の時からの幼馴染等と言った古くからの付き合いでなければ分からないのが殆んどなのだ。

 

……しかしつい最近になりどういうわけか

 

「オラァ!」

 

バギィ!

 

「グフッ!」

 

白咲中の生徒達の暴力騒ぎが町の所々で目撃され始めた。

暴力を振るう標的は他校のみ為らず自分の学校の生徒でさえ例外ではなかった。

何故、白咲中の生徒達が暴力沙汰を引き起こすようになったかは未だに謎である……

 

 

----

 

 

葛飾署からの異動命令から3日後……

 

「おお、ここが白咲町か」

 

「中々平和そうには見えるな今の所は……だが」

 

「何故僕まで……」

 

白咲の地を踏んだのは……両津勘吉、ボルボ西郷、凄苦残念(旧名 法条政義)の3名だ。

二人とも両津が伝令を言い渡された同日に其々の課で指令を受けたらしい。

 

「そうだ。わしも思ってたんだ残念!悪ガキ共の世話がお前に務まるのか~?」

 

「なんでも……僕は先輩とボルボさんのお目付け役兼白咲署への情報協力をするようにと、指名されたみたいでして……」

 

「お前が俺と両津のお目付け役か。俺らが無茶を踏むと読んでの上からの判断だろうがお前では止められないと思うぞ」

 

「それもそうですね……ハハハ」

 

「ま、取り敢えず飯だ!腹が減ってはなんとやら。食うぞお前ら!」

 

両津が景気よく告げた。

 

「おう!」

 

「まだ時間も有りますしね」

 

「お願い!辞めてぇ!!」

 

さぁ!飯屋を探そう!とした一行の脚が引き止められる。

 

「なんだ?」

 

声がした方を見ると一人の男子生徒が二人の男子生徒に袋叩きにあってそれを一人の女子が止めようと必死に訴えかけていた。

良く見ると暴行を働いてる男子と痛めつけられてる生徒の制服が違う。

 

 

「両津」

 

「あぁ、分かってる。あの暴れてる奴等と痛めつけられてる奴とその後ろの女の制服が違う事はな」

 

「暴力行為を働いてる生徒達の制服は確か白咲中の服ですよ……あちらの男の子と女の子は外白咲中ですね」

 

両津は残念の記憶力に感心した。

東大法学部出の頭は伊達ではない。

 

「成る程……葛飾署の言う通りこの案件には白咲中の生徒が関わってたわけか、ボルボ……行け!」

 

「任せろ!」

 

「残念!わしらはあの倒れてる奴の介抱をするぞ!」

 

「はい!」

 

…………

「うぉら!死ねやぁ!」

 

「くっ……」

 

もう完全に戦意喪失している男子生徒を甚振る手を一向に辞めぬ白咲中の生徒。

 

もしもここで俺が死んだら……

 

彼が大切な仲間達と高校に行くと言う夢が永遠に絶たれてしまう。

たった一度きりの今世で出会った最高の奴等との夢を……。

 

(みんな、もしも俺がこんなクズ共にぶっ殺されちまったらごめんな)

 

男子生徒は覚悟を決め目を閉じた。

「んだぁ!目なんて閉じやがって!」

 

生意気だぞこら!等と言う自分勝手な罵声をどんどん浴びせ、更に強く殴られた。

後ろでは相変わらず仲間の女子生徒が辞めて!と叫んでいる。

恐らくは涙や鼻水で顔がぐちゃぐちゃ何だろうなと男子生徒は想像する。

(綺麗な顔だってのに……俺と一緒につるんでたが為にか……)

 

ブン!

 

風を切る音がした。また無慈悲な拳が自分に直撃するのだろうか。

 

「おっと」

 

パシッ!

 

「なに!?」

 

(え?……)

 

少年の予想は裏切られた。

 

「こんな拳では人を殺すのに何発も必要だぞ。それと腰が甘い!無駄な力が入り過ぎている」

 

見ず知らずの坊主頭の男性が自分に向けられた拳を止めていたのだ。

拳を止められた生徒は激昂した。

 

「てめぇ!なに勝手な事してんだ!?マジ殺すぞ!」

 

「ほう、やってみろ」

 

うがぁぁぁ!と言う怒り狂った声を上げ生徒は何度もボルボに拳や蹴りを繰り出したが、全てかわされ全く当たらなかった。

 

「小僧。こんな事で自分が強くなったとでも思って居たのか?」

 

「……るせぇ!はぁはぁ……何で当たらねぇ!」

 

「出直して来るんだな、フン!」

 

「うぉ!」

 

ボルボは生徒を軽々と持ち上げジャイアントスイングの容量でグルグル回す。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「やめてくれぇ!俺の負けだ!」

 

「どりゃああああああ!」

 

「うひょおおおお!」

 

ブン………ガシャーン!

 

生徒は『発多理商会』と書かれた建物の硝子をぶち破り中に放り込まれた。

中からはなんだいあんた!?スタントマンかい!?と驚く声がする。

 

「全くこれで少しは懲りたかな……お前も俺の『説教』が必要か?」

 

もう一人の男子生徒はひっ!と声を挙げると、一真く~んと投げ飛ばされた生徒の名を呼び肩を貸してその場から立ち去って行った。

 

「嘘でしょ……」

 

「すっげ……」

 

殴られてた男子生徒と女子生徒は一部始終をポカーンと

見ていた。

 

「おい!大丈夫かお前」

 

「……あ、あぁはい!何とか無事です」

 

駆け付けた両津に男子生徒は問題なく答えた。

一先ず彼等は傷が付いた男子生徒の介抱の為にも今し方ボルボがぶち壊した発多理商会に詫びも兼ねて場所を貸してもらう事にした。

 

 

----

 

 

 

軍人のボルボが適切な処置を施す中、両津達は二人からこの町について聞いていく事にした。

 

「先ずは助けてくれてありがとうございます。俺の名前は菊地英治って言います。こっちは……」

 

「ヨハ……津島善子よ。本当にあの時は英治がどうなるかと……ありがとうおじ様達」

 

英治が苦笑している理由が両津達には分からなかった。

 

「そうだなわしらも自己紹介から行くかわしは両津勘吉けいさーー

 

「先輩!」

 

(おっと、そうだな。警戒感を持たれん為にも本職は伏せた方が良いか……気を取り直して)

 

「警察の方何ですか?」

 

「ち、違うぞ!計算!そう計算塾を開きに白咲町に来てね!実は私計算のギネス記録保持者なんだ!な、残念!」

 

「え?えぇ……まぁ……」

 

「目が泳いでるわよ二人とも……それに両津さんのズボンのポケットに入ってる警察手帳のマークが見えてるし」

 

「し、しまった……」

 

「先輩しっかりしてください……」

 

「両津の馬鹿野郎……」

 

三人は事情を話す事となった。

 

 





今回出てきた復讐教室のキャラは越知一真と川本大輔
僕らのシリーズは菊地英治
ラブライブ!サンシャイン!!はヨハネ(津島善子)となっています。
あくまで不定期投稿ですので次の話まで期間が空いてしまう事も有ることを御理解下さい。
藤沢彩菜は次話か次の次辺りに登場させる予定です。


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第3話 不穏と希望


藤沢彩菜……登場。


両津らが英治達と出会う1時間前……

 

時刻は午後3時。

白咲中では6時限目の授業が残り30分程で終わろうとしていた。

 

「それでよー」

 

「マジかい!?」

 

この時間帯になると生徒達の集中力は限りなく散漫になり皆が今日は何をして遊ぼうか等と遊びの事を考える生徒が多くなる。

「えー……このようにしてへのへのもへじのレレレの法則は……」

ようやくつまらない大人(先生)の頭にも入らぬ授業から解放される時間……。

皆そわそわし始めるのだが一人の少女は、無機質なロボットのようにただただノートに眼差しを向け、時間が終わるのを静かに待ちわびた。

 

そしてその少女をまるでボウフラを見るような眼差しを向ける少女が一人。

彼女の様子を見て自然と笑みが浮かぶ。

 

(もう、あいつに抵抗する力なんて一切無いはず、煙草を身体に押し付けられても表情も変えず、お金を寄越せと言われれば渡すだけの味気無い女……)

 

「そろそろ送ってあげるわ……」

 

『藤沢彩菜』

 

見つめている少女は音を出さずに口を動かした。

 

 

----

 

 

「「白咲町の犯罪抑制?」」

 

「うむ、あまりに悪ガキ共が好き放題やっとるらしいからな。前々から全国の警察で白咲町に他から応援を送る事は決まっとったらしい」

 

「それで両津さん達葛飾署の方達が先駆けて来たってわけスか」

 

「まぁ、そんなところだな!わしもこの頃身体がなまっていたからなぁ……ぐふふ、退屈せずに済めば良いが」

 

両津の狂気の笑顔に英治と善子は顔をひきつらせた。

 

残念はそんな二人に

 

「この人を怒らせないほうが良いよ……何するか分からないから……」

 

と、こっそり耳打ちで告げた。

はい……と二人は小声で返す。

 

笑顔だった両津は突然何かをふっと思い出したように真顔に戻った。

 

「ん?そういや……おい英治、善子。白咲町にも白咲署や交番等が各所に有るはずだろう?パトロールで取り締まったりせんのか?」

 

「確かにそうだな。そもそもこの町の警察がちゃんと犯罪抑制や補導等に力を入れていれば全国からの派遣の話自体起きなかったんじゃ?」

 

両津とボルボ二人の目線に英治と善子は少したじろんだ。

 

「ここの警察はね……」

 

話し出したのは善子だ。

 

「自分達のポイント稼ぎになるような事案しか扱わないの……だから私達子供が起こす事件なんて放ったらかし。そりゃそうよね……私達を助けたって点数になんかならないし……」

 

「なんと……」

 

三人は言葉を失う。

 

 

「確かに……白咲署は民間人等が少年達の暴行を住人が始めて通報したのを境に動き出したくらいですからね……面倒事は余程隠したいと言う事でしょうか」

 

「己の点数稼ぎの為に少年犯罪を切り捨てるとは……幾ら何でも自分勝手過ぎるな!両津、ここは俺達が目を覚まさせてやった方が良いんじゃないか?」

 

「慌てるなボルボ、わしらが白咲署の警察に楯突いたらそれこそここの子供達を救えなくなる……そうか、白咲の警察は見て見ぬ振りをしてたってわけか」

 

両津は腕を組み、じっと宙を睨む。

 

 

「すげぇや……」

 

英治は三人の様子を見てぽつりと呟いた。

その表情はまるで自分が憧れるヒーローを見るかのように。

 

「俺始めてだよ……こんなに俺らの事を考えてくれる大人を見るの、自分の損得じゃなくて他人の為に動ける大人達を見るのはさ」

 

英治の問に両津は満面の笑みを作り

 

「はははは!大したもんじゃねぇわしらは仕事だ。警察としてはちと不真面目だが義理人情には熱い方だぜ」

 

堂々と告げた。

 

「「両津さん……」」

 

「たまには、良い事言うぜ」

 

「全くです……でもそろそろ僕達が暫くお世話になる旅館へ向かった方が良くないですか?明日には件の白咲署への挨拶もあります」

 

これも白咲署の拒絶かどうか分からぬが両津達を署員として白咲署に置く気は無いのだろうか?

遊撃手のように自分達を活躍させるとはとても思えない。

 

「おお、もうそんな時間か!すまんがお前らまたな」

 

その言葉に二人はええーと落胆の声を挙げた。

しかし野宿をするのは真っ平御免だ。

 

「何て旅館に泊まるの?」

 

「残念、名前なんだったけ?」

 

「え~と……十千万(とちまん)って名前の筈です」

 

「うそっ!」

 

善子は手を合わせて叫んだ。

 

「な、なんだ……」

 

「そこ、私の先輩の実家の旅館よ!」

 

「偶然ってあんだな……じゃあ善子わしらの案内をしてもらえるか?」

 

「喜んで!このヨハネがリトルデーモン達を千歌さんの家に招待するわ♪」

 

凄まじいキャラの豹変に三人は唖然となる。

 

「ヨハネ……り、リトルデーモン……」

 

「残念さん……気にしないで大丈夫です。これが善子のキャラですから」

 

「善子言うな!」

 

「それがお前の名前だろうが、俺も両津さん達を旅館まで見送るよ」

 

「そうか、すまんな」

 

「いいえ応援してます!両津さん!」

 

5人は十千万へ向かった。

 

 

 

 

 

 





学年設定は千歌高1 善子と英治は彩菜と同じく中3です。


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第4話 十千万へようこそ!


サンシャイン!!のメンバー達の出会いはこの小説独自設定です。


午後5時……白咲町某所……

 

薄暗い廃ビルの中で壊れてボロボロになった事務机の上に一人腰掛け、ボロボロの地べたに命乞いをするかのような格好でひざま付いている二人の同級生の話を聞いている少年がいた。

その手には煙草が持たれている。

 

「それでお前ら……のこのこと逃げ回って来たってわけか……」

 

フー、と煙を吐き出した。

少年が発する言葉に二人の少年はびくりと肩を震わせる。

 

「す、すまねぇ!蓮!……結構上玉な女だったから……ツレをボコって動けなくさせた後に……ヤろうと……」

 

「一真……おめぇよぉ」

 

バギィ!

 

「う、ぁ……」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」

 

蓮と言う少年の腹部への強打により……一真は前方からバタリと床に倒れ込んだ。

大輔は止めようと思っても身体の震えを止める事が出来なかった。

 

「一真、気は失ってねぇんだから聞こえる筈だな」

 

「俺に無断で余計な事をするな」

「今度余計な真似したら……」

 

 

『お前でも容赦しねぇ』

 

 

蓮は倒れた一真とびびってる大輔に目もくれず、廃ビルを後にした。

 

 

----

 

十千万へ向かう道中……

 

「それでね~」

 

「うむ」

 

5人は話をして盛り上がっていた。

内容は英治と善子の馴れ初めについてだ。

 

「ほう、お前達はガキの頃からの仲なのか」

 

「そうっす。ちょうど俺と善子ん家は近かったんで飯事やら鬼ごっこやら色々遊びましたね。な、善子」

 

「当時は近場の遊び相手があんたくらいしかいなかったからね……あの時はただ延々と闇雲に走り回ってた記憶しかないわ」

 

「結構今時の子供も小さい時は外遊びするんだな両津」

 

「ふ、ワシが子供の時はベイゴマや月光仮面の真似をして楽しんだもんだがな」

 

ベイゴマと言う言葉に英治は興味を示した。

 

「ベイゴマ!?……ベイゴマってあの鉛で作ったコマ?……」

 

「そうだよそのベイゴマ地元の奴等や他の区の奴等ともよく遊んだもんだ」

 

「じゃあ両津さんベイゴマの回しかたとか分かるんですね?」

 

「あたぼうよ!そんなに興味が有るなら今度回しかたを教えてやっても良いぜ」

 

やった!やった!と英治は10年前に戻ったかのように大はしゃぎだ。

彼はベイゴマ自体は知っていたが実物に触れた事は一度も無かったのだ。

ベイゴマが流行っていた年代と彼が産まれた年代の差を考えれば無理もないことである。

津島善子は彼のそんな姿を見て

 

「ほんと……遊ぶ事には目が無いんだから」

 

と、呆れたような笑みを浮かべながら口にした。

それから数分後。

 

「あ、着いたわよ」

 

5人は旅館に到着する。

 

「おぉ……中々風格が有るところじゃないか」

 

「うむ、立派だ」

 

「へー、白咲のこんなところに旅館があったんだな……地元なのに全く分からんかった」

 

「全くあんたは……両津さん彼処がこの旅館の入り口です。あの表口から入ると受付口が有るから其処で予約の確認とかをすれば良いと思うわ」

 

「じゃ、両津さん俺はここで。今日は本当にありがとうございました!」

 

「おう!当分ここに滞在してるから困ったらいつでも来いよー!」

 

残念とボルボも「君は一人じゃ有りませんよ」 「無理せずに俺達に頼れよ!」と労いと勇気を与える言葉を掛けた。

 

「あ、善子ちゃんだ!」

 

善子の説明を聞いていた一行の目線が一気に十千万の方へと振り向かれる。

 

ガラガラ!

 

「おーい!善子ちゃ~ん!」

 

「ちょうど良いわね。あの人がこの旅館の娘の千歌さんよ。中学の時は同じ演劇部に入っていて千歌さんは私に色々教えてくれたの……実家の旅館を貸し切って練習させてくれたりね」

 

「後輩思いの良い先輩ってわけか……何処ぞのチョビヒゲ親父に聞かせてやりたいよ」

 

「激しく同意するぜ両津」

 

千歌は善子に近付き手を取り合って久しぶり!今日はどうしたの?と訪ねてきた。

 

「この人達が今日十千万に泊まる予定みたいなのよ」

 

「あー、お客さんね。お名前は?」

 

「両津だ」

 

「両津さんですね!じゃあ今宿泊予約名簿を確認致しますのでどうぞ旅館の中にお入り下さい!」

 

 

----

 

 

「はい!確かに!此方の旅館への御宿泊予定を承ってます」

 

「そうか良かった、ところであんたまだ若いのにしっかりしとるな」

 

「ありがとうございます!でもそんな事は有りませんよ……さっきも美渡姉に怒られちゃって……」

 

「千歌さんは意外とドジなところがあるのよね」

 

「ははは!失敗なんて何歳でもするもんだ」

 

「事実お前がそうだしな……今までどれだけ迷惑を掛けてきたか……」

 

「うるせぇ!ほっとけ!こちとらこれが性分でぇい!」

 

「これですからね……先輩は……」

 

千歌は三人のやりとりを見て笑いを溢した。

 

「うふふ!両津さん達面白~い!」

 

「実は私助けてもらったの、両津さん達に」

 

「本当に?……」

 

「うん、ちょっと白咲中の生徒に絡まれた……って言うか……」

 

「その話ちょっと詳しく聞かせてもらえる?……両津さん達も良いですか?」

 

「あぁ」

 

「志満姉~!少し受付御願~い!」

 

「は~い」

 

…………

 

……両津らが宿泊する部屋

 

「そんな事が……」

 

「事実なの……千歌さん」

 

「間違いない。わしらが証人だ」

 

「ありがとうございます。善子ちゃん達を助けてくれて……その、強いんですねボルボさん」

 

「こいつは元軍人だからな、ガキとの喧嘩なんざ屁でもねぇってわけよ」

 

「それに俺達の仕事はこの白咲の犯罪抑制だからな。未然に大事に到る前に止めるのも立派な仕事だ」

「警察官よ。両津さん達」

 

「嘘!?……すごい方達だったんですね……」

 

「はは。まぁこっちもこっちで色々あってな。とりあえず今日はわしらも休みたいからここら辺にしようか」

 

「分かりました。お疲れでしょうからゆっくり身体を休めて下さいね!夕食の時間にまた御呼びします」

 

襖を開け彼女は去って行った。

「私も帰るわね」

 

「おう!また会おうぜ!」

 

「勿論よ。素敵なリトルデーモンもといおじさま達」

 

「ふふ、またリトルデーモンですか」

 

「良く良く聞いたら軍隊のチーム名みたいで格好いいかもしれんな」

 

「もう!からかわないで!またね!」

 

プンスカ!と善子も去って行った。

「よし、後は明日に備えて飯食って風呂入って寝るぞ!お前ら!」

 

「だな!」

 

「お供させて頂きます」

 

意気揚々と彼等は風呂場へ向かった。

 

 

 

 

 





この小説の両さんの性格は、こち亀初期、中期、末期と様々な性格の両さんを登場させる予定でいます。


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第5話 欲への疾走

ぐぉぉぉぉ!

 

「うぅ……」

 

ぐぁぁぁぁぁ!

 

「ぬぅ……」

 

 

十千万の一室は猛獣のようないびきが漏れ出す魔の一室と化してしまった……

時刻はまだ午前3時30分なのであるが、二人の男は動物園の檻の中で眠るのと何ら変わらなかった。

ぐぉぉぉぉ!ぐぉぉぉぉ!

 

「だ、駄目だっ!俺はもう部屋を出るからな!」

 

「あ、何処へ!?」

 

「少し白咲町を走り回って来る!なぁに30週程だ!」

 

「……発情期を迎えたオス猫みたいですね」

 

襖がバタン!と思い切り閉まる。

 

じゃあ、僕も……と 残念も寝る事を諦め読書し勉強することにした。

 

----

 

 

そして……二人は走ったり、勉強したりしながら4時間後

 

「いやぁ!素晴らしい睡眠だった!」

 

猛獣はぐっすり、ぐっっっっすり、8時間程眠り気持ちの良い日の出を見る。

ん~と背筋を真っ直ぐ伸ばす。

 

「おや?どうしたんだ、ボルボ、残念。目の下にクマが出来とるぞ?ははぁ~さては緊張して眠れなかったんだな?」

 

駄目だぞ~眠らないと!と言われボルボは誰のせいだ!誰の!と腹の底で思いながらあぁ……少し色々なと返事し対する残念は別の宿にしようかなと腹の底で思いながら勉強したくて……と虚偽の返事を互いにした。

 

「確か9時までに白咲署に行く筈だったぞ」

 

「うむ、そうなるとあと一時間半しか残されて無いな……急いで飯を済ませよう」

 

「おう!」「はい!」

 

一行は食堂へと急いだ。

…………

 

ガチャ

 

「実に旨い飯だったな!」

 

「あぁ……これなら寝不足でも何とかなるかも知れん」

 

食後の会話をしてる彼等にドタバタした高海家の日常が聞こえてきた。

 

「千歌ちゃん!バス来てるわよ!」

 

「今、行くぅ~!」

 

ガラガラ

 

「こらっ!裏口から出なさい!」

 

「ごめんなさ~い!」

 

ドタドタ、ドタドタ……

 

「申し訳ありません……うちの妹が……」

 

黒髪の女性はいそいそと頭を下げた。

 

「ははは!あの娘も結構御転婆な所があるんだな!」

 

「元気だけは人一倍あるんですが遅刻が多くて……」

 

「なぁに、勉強だけ出来て仕事一筋の堅物よりましだよ。そういう上司を一人知っとる。あれは駄目な人間の鑑だな」

 

「まぁ……」

 

「おまけに趣味が盆栽でな。自分が天然記念物になりたいのかと思っとるところだ」

 

「おい……両津……」

 

「その辺にしておきましょう……」

 

「おっと!そうだったな。わしらにはやらなきゃいけない事が有る」

 

「そうですよ」

 

「よし!ボルボ!残念!早速敵地に乗り込むぞ続けぇ!」

 

 

おりゃあああああ!

 

 

両津は一人で爆走して行ってしまった。

 

 

「全く……あの馬鹿」

 

「うふふ、ユニークな御巡りさん」

 

「悪い方面への発想力と原動力がズバ抜けてますからあの人は……」

 

「それじゃ我々も」

 

「失礼します若女将さん」

 

「気を付けて下さいね」

 

 

----

 

 

登校、出勤時間真っ只中の白咲町では数々の人間が動いている。

パッ

 

信号機はその中でも種類を問わずに待機を強制させ人々の時間を削る代物だ。

この時ばかりはどんなに急いでいても足を止めざるを得ない。

 

ピタ

 

白咲中の生徒も無表情のまま歩行者信号機が青に変わるのを待っていた。

スッ

 

後ろに近付く2つの魔手に……気付かないまま。

 

(死ね!……彩菜!)

 

狂人の魔手が彩菜と呼ばれる生徒の身体を押そうとした時、突風が吹き対面している信号待ちの初老の女性が財布をビュン、ビュン車が走っている横断歩道の中に落としてしまった。

 

「あー……私の財布が~……」

 

チャリン

 

硬貨が地面に落ち甲高い音が鳴り響く。

 

その僅か2秒。

 

彩菜達の後ろの道路から砂煙を上げて全力疾走して来た男が居た。

「うぉぉぉぉ!金!金!金!金は何処だぁ!」

 

ドォン!

 

(…………え!?)

 

彩菜は何者かに手で押され横断歩道に出そうになったが

 

「どけぇ!お前ら!邪魔だ!」

 

ガァン!

 

「きゃあ!」

 

更に後ろから走って来た何者かにぶつかって車道には出ず真横に吹っ飛び結局歩道から出なかった。

 

「いたた……」

 

何事かと彩菜は車道を見ると落ちた財布から目を¥のマークに替えてお金を拾っている見るからにヤバそうな男の姿だった……。

 

(ヘ、変態だわ……)

 

「わしのお金ちゃ~ん……もう離さないからね」

 

「あんた!危ないぞ!」

 

「え?」

キキキキキ……ゴッ!

 

通行人が声を掛けたが時既に遅し、両津は車と激突した。

 

「あー、何と言う事だ……」

 

「でもあの人自分から轢かれにいったような……」

 

彩菜を押した生徒は両津に憎悪を募らせる。

 

(あのクソ親父じゃましやがって……!ちっ!このままじゃアイツに見つかる!)

 

押した犯人は別の道を辿る事にした。

 

「ぬぅぅ……!」

 

「おい生きてるぞ!」

 

これには白咲中の生徒二人だけでなく全員が思わず

 

「え!?」

 

と声を挙げた。

 

起き上がった両津はそのまま自分を牽いた運転手に掴み掛かる。

 

「おい貴様何処に目ん玉付けて運転してんだ!これが白咲町のわしらへの歓迎か!?わしじゃ無かったら死んでたかもしれんぞ!」

 

「だ、だって貴方がいきなり飛び出して……!」

 

「言い訳する気か貴様ぁ!」

 

わしが被害者兼証人だ~!とがくがくと運転手の襟を掴み揺さぶった。

 

彩菜は呆然となる。

 

(何なのあの人……車に跳ねられてぴんぴんしてるなんて……ん?)

 

彩菜の視界に自身の同級生に似たような人間が写った気がした。

 

(気のせい……か)

 

パチン!

 

「いて!」

 

「この泥棒猫!いや、泥棒ゴリラ!私の財布から出たお金だよそれは今すぐ返しな!」

 

「なに~!婆さんのだったのか……」

 

「そうだよ!全く卑しい男だね!」

 

女性は財布を奪うと早歩きで立ち去っていった。

 

「くぅ……わしのお金が……」

 

「あの……貴方を牽いてしまったのは事実ですから……警察署に行きましょう」

 

「あぁ……そうだな……ちょうどわしも警察署に用が有るしな」

 

「じゃ、僕の車の後ろに乗ってください」

 

「ちょっと待ってくれ。おい!そこのお嬢ちゃん!」

 

両津は彩菜に声を掛けた。

 

「な、何ですか?」

 

「あんたわしが走って来た時一番前に居ただろ?」

 

「ええ、まぁ」

 

「なら良く事故の瞬間が分かる筈だ。すまんがわしと一緒に白咲署に来てくれんか?」

 

藤沢彩菜は考えた

 

『どうせ学校に行っても屑共の玩具にされるだけだ』

 

「……構いませんが」

 

「よし!決まり!嬢ちゃん乗りな!」

 

バタン……ブルルル……

 

前方がひしゃげた車は白咲署ヘ、向かい動き出した。

 

 

 

一方……その頃……

 

 

「両津~!何処に行ったんだよぉ!」

 

「せんぱ~い!遊んで居る時間は無いんですよ~!」

 

二人は急にダッシュで視界から消えた両津を探し回っていた。

 



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第6話 初陣、白咲署


両津ついに白咲署へ……


午前8時30分……白咲署署長室……

 

コン、コン、という合図と共に誰かが部屋に入ってきた。

 

「署長……」

 

「うん?」

 

頭が禿げ上がり小太りの男が息を少し切らしながら自分たちの親玉に声を掛けた。

「どうしたのだ、遠野。今日は特に朝礼等の雑事はなかった筈だが」

 

違いますと遠野はハゲ頭を横に振る。

 

「あれですよ。ほら、東京の葛飾署から応援が此方に送られると決まったじゃないですか。今日がその彼等が所属されると決まった日です」

 

「なに!?……今日だったか……何時頃私のところに訪れる?」

 

「はっ……ええとですねぇ……スケジュール通りに署内案内しますと午前11時15分頃でしょうか」

 

額の汗を拭いながら遠野は告げる。

若い頃は犯罪者を走ったりして汗を掻いたものだが課長となった今では雑務をこなしてる時でさえ汗が止まらない。

遠野の言葉に署長は分かったと返事する。

 

「それでは私はこれでーー

 

「待て、遠野……万が一にもお前が口に出すとは思わんが念を押しておく。『あの話題』を奴等が聞いてきたら我が署としては最善を尽くしているとだけ答えろ」

 

「勿論、心得ております。奴等がそれでもうだうだ言って来たら有無も言わさず内勤にする手筈も整い済みですでは、失礼致します」

 

「うむ」

 

遠野は一礼し署長室を後にした。

 

 

----

 

 

ガチャ

 

「いやぁ、やはり車は早いなぁ~!歩くのが馬鹿らしくなってしまうよ」

 

白咲警察署の駐車場に両津の声が響いた。

 

「……全く驚かされましたよ。まさか警察の方だとはね」

 

両津を牽いた運転手……沢田 満は呆れながら語った。

背丈は180程あるまだ免許を取得して2年ほどしか経過していないらしい。

彼は両津と酒の話で気が合い様々な事を話した。

 

「とてもじゃないけど両津さんはおまわりには見えないよ」

 

「がはは、良く言われるぞ!お前も運が良い!わし以外の奴をドカン!……といったらどうなってたか死がないにしてもかなり入院する事になるだろうな」

「マジで肝に命じとくよ……で……彩菜ちゃんだっけ?」

 

「はいっ」

 

突然名前を呼ばれ少しびくっとしながら返事する。

 

「すまないね、今日学校なのに俺のせいで……」

「いえ、気にしなくて大丈夫です。この頃何かに付けて勉強ばかりで嫌気がさしていたから……なんか……解放されたみたいです、えへへ」

 

 

……なんて醜い嘘を吐くのだろうと自分自身に嫌気が差した

なんでこんな心にも無い事がすらすらと言えるのだろうと自分自身に怒りが沸いた

 

 

しかし彼女は悟られたり知られるわけには絶対にいかなかった……

 

自身がクラス内から虐めを受けていて……そのクラス全員に復讐をしようとしている事など……

 

 

沢田はそんな彼女にあぁ、そうなのかと引き下がる。

両津は何も言わずに彩菜の顔をただ見つめているだけだった。

程なくし彼等は白咲署に入った。

 

署内は中々広く署員もそれなりにいる。

両津達は早速人身事故を引き起こした事を交通課の署員達に告げ沢田はその場で事情聴取、両津と彩菜も事故の状況を話す事となった。

 

「成る程………状況は分かりました」

 

交通課の署員が話す。

 

「被害者も御無事のようですし、両津さんが被害届けをだされると言うのなら受理致しますが……」

 

「あぁ、構わん構わん。この通りわしは無事だ。こういう事故で如何に処理が面倒くさいかはわし自身が知ってるからな」

 

「そうですか、では沢田さんは今日はもうお引き取り頂き結構です。後日またお呼びするかもしれません」

 

「分かりました……あの、両津さん本当にすいませんでした!」

 

「はっはっは、気にするな」

 

「いえ、こんなんじゃ俺の気がすみません……そうだ!今度一緒に酒でも飲みましょう!暫く白咲町に滞在されるのでしょう?」

 

「おぉ!お前良いこと言うなぁ!わしは十千万と言う旅館に泊まってるから是非来てくれ!名酒じゃなきゃ受け付けんぞ!」

 

「はは、分かりました。では今度お伺いします」

 

「おう、またな」

 

沢田は手を振り両津と別れた。

 

「なんだ中々骨の有る奴も居るじゃないか」

 

ユニークな警察官だと場に居る全員が感じた。

復讐に心を奪われつつあった藤沢彩菜も例外ではなかった。

 

「さて……と彩菜」

 

両津は彩菜の方を向く。

 

「お前は白咲中の生徒だよな?」

 

「……はい」

 

「わしも問い詰める事はあまり好きじゃないんだが……お前、いじめとか受けていないか?」

 

「……っ!」

 

「おい、そこの貴様」

 

両津と彩菜の間にとある警官が割って入った。

 

「こんな中学生を相手にいきなり何を聞き出す?誘導尋問も甚だしい」

 

「なんだテメェは!わしは白咲町の子供達を犯罪に手を染めさせない為に来たんだ!此処の子供達に質問する事の何が悪い!?」

 

一度光にぐらついた振り子は急速に闇に引っ張り込まれる。

 

ダッ!

 

逃げるようにその場から離れた。

 

「あ、彩菜!!」

 

「ふん、娘さんもお前みたいな醜男の言う事なんざ聞きたく無いだろうな無理矢理立ち止まらせ話を聞かせる……噂通りの警察官だな。両津勘吉巡査長殿」

 

両津の肩にポンポンと腕を乗せその警官は場を立ち去った。

 

「ぬぅ~~~!何なんだあの野郎……!」

 

「あ!いました!」

 

「おい、両津全く一人で最初に乗り込むなんて!」

 

ボルボは声を荒げる。

両津を探し回っていた時に突如その本人から

 

『わしは先に行っとるよ~ん』

 

とメールが送られ猛ダッシュで白咲署に向けて二人は向かったのだ。

 

「なんの『インガ』でこんな目に……」

 

「気を落とすな残念……俺も同じ事を考えている……」

 

「すまなかったなお前ら後でなんか奢ってやる」

 

「「え?」」

 

唖然となった。

両津の事だから軽く「いやぁ、ごめんごめん!」等と心にも込もって無い謝罪の言葉を言うのだと思っていた。

二人は面食らう。

 

「せ、先輩……」

 

「何かあったのか?」

 

「まぁ……色々とな……だが益々仕事への意欲が沸いてきたところだ……お前ら!気圧されんじゃねぇぞ!わしらはわしらでこの町で出来る事を全力でやってくぞ!」

 

「勿論最初からそのつもりです」

 

「あぁ、何が待ち構えていようがやるしかないな」

 

「ふふ……それでこそ葛飾署の署員だ……じゃ先ずは敵地の見回りから行くか……敵を良く知らねばな……」

 

時計の針は午前8時55分を指していた。

 

 

ーーーー

 

 

同日……午前7時50分……

 

「何すんのよ!……あんた!」

 

「こっちの台詞だっつの!テメェ私達の顔見て表情変えたろ!」

 

「はっは!良いよ詩織!そんな生意気な女やっちゃいなよ」

 

「やめて久美子に手を出さないで!」

 

白咲中の生徒と外白咲中の生徒が争っていた。

きっかけは白咲中の生徒二人組が歩いて居るのを外白咲中の生徒が露骨に嫌な表情をしたと言う事らしい……

 

「あんたみたいな他校の奴が白咲中の通学路歩いてんじゃねぇよ!」

 

「はぁ!?家が近くに有るからしょうがないじゃない!!この暴力女!!」

 

取っ組み合いながら二人は喧嘩し続ける。

そしてそれをもう一人の白咲の生徒は笑いながら見つめている。

 

何か手は……と残された一人の生徒は考える。

 

その時

 

「こら!お前ら!何しとるかぁ!」

 

とある老人の声が響いた。

 

「喧嘩するならこの隠居爺が相手してやろう、わしと喧嘩したい奴はどっちだ」

 

老人は棒を持って威圧する。

 

「はぁはぁ……くそ!邪魔が入ったか!」

 

詩織は久美子から手を離した。

 

「行きましょ真央……あんたも運が良かったわね。次は殺すから」

 

差って行く詩織と真央に久美子はべーっと舌を出した。

 

「ありがとうお爺ちゃん助かったわ。あと純子も逃げれば良かったのに」

 

「何言ってるの!友達置いて逃げられるわけ無いじゃん!」

 

笑いながら二人は見つめ合う。

 

「聞くがどっちが先に手を出したんじゃ?あの短髪の女か……それともお前か?」

 

「あっち……自分達が悪い噂いっぱいだからって嫌な顔したら気に食わないんだって」

 

久美子はオーバーな身振りで語る。

 

「そうかあいつらがお前らに手を出したのか」

「そっ、今度からカバンに鉄板と画鋲でも入れとこうかな……ね、純子?」

 

「久美子……流石にそれは……」

 

「え~。いい案だと思うんだけどなぁ」

 

「てか、遅れちゃうよ!ルビィちゃんや花丸ちゃんとかもう学校着いてるって!」

 

慌てて久美子は自身のスマホで時刻を見た。

 

「ゲッ!8時03分……やっばー!いつもならルビィ達の家の前通ってる時刻じゃない!!」

「遅刻はよくないぞ。早く行った方が良いな」

「うんそうさせてもらう!ありがとね!お爺ちゃん!」

 

「本当にありがとうございました!」

 

久美子と純子は例を言い通学路を走った。

 





久美子はぼくらシリーズの中でも気が強いキャラなので詩織(復讐の唄シリーズ)と引けず劣らずの戦いが出来ると思い最後の喧嘩を書きました。


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第7話 ドッペルゲンガー!?


こち亀キャラオンリーの回です。
この回の両さんは初期を意識しましたw


 

「それでは葛飾署の皆様のご案内をさせていただきます誤道一直(ごどう いっちょく)と申します!以後お見知りおきを」

 

案内を任された警察官はまだ配属されて1年か2年程ぐらいしか経って居ないような若手の警官だった。

 

「うむ、苦しゅうないそれでは早速案内を頼むよ」

 

両津の物言いにボルボと残念は顔に手を当てるがいつもの事だと割り切った。

 

何より……両津は先ほど白咲署の警察官に挑発的な言葉を吐かれたばかりだ。

 

「はい、どうぞ此方へ」

 

三人は誤道の後を着いていく……

 

「畜生~……しかしさっきの野郎は何処に居るんだか……あの野郎今度あったらたたじゃおかんぞ……あいつの家の前に画鋲でもばら蒔いてやろうか……」

 

「全くお前はいつも通りだな……」

 

「ですが先輩。今トラブルを犯すのだけはやめた方が良いですよ。まだ日が経ってないここで東京(葛飾署)に返されたら……上は全国からの派遣を見送るか最悪派遣を中止にするリスクすら考えられます」

 

「うむ、そうか……わしとしてもあのマイホーム主義のチョビヒゲの顔は見たくないしなぁ……」

 

東京に帰ったら帰ったでまた口うるさい上司が居る事を考える両津だが、今一番に気にしていた事はつい数十分前まで行動を共にした藤沢彩菜の事だった。

 

(わしが質問した時のあの反応……そしてその時嫌味な警官が中に割って入ってきやがった……)

 

「中々面倒臭そうな仕事になりそうだ」

 

「どうした?今日のお前変だぞ?」

 

「だから言っとるだろう!仕事の意欲が湧いた!と」

 

「え~皆様ご熱心に会話している中申し訳ありませんが早速地域課へ着いたのでまず此処からご案内を」

 

「成る程、最初は地域課か……」

 

丁度、何の課か表す為の表紙が両津達の方から見ると真っ黒い為向かい側に何課か書いてあるのだろう。

 

トン、トン

 

誤道は地域課の扉を2回ノックした。

 

「失礼します!誤道一直です!ただいま葛飾署の皆さま方に我が署の経路案内をしていまして」

 

「おぉ、今日だったか。それで一番最初に我が課を見せるのだね?」

 

中から課長と思わしき男性が聞き返した。

 

「はい、やはり最初は市民との触れ合いや治安維持を第一に掲げて任務する地域課が良いかと思いまして……!」

 

「その治安維持が出来て無いからわしらが来たんだがなぁ……」

 

「先輩…しっ!…聞こえますよ」

 

幸いにも両津と残念のやり取りが誤道の耳に入る事は無かった……

誤耳の言葉を聞いた室内の課長が困惑の声を出したからだ。

 

「うむ?……ち、いき……か?……君ぃ。中に入らんで良いからその場で立ったまま今から私の言葉を聞いてくれたまえ……」

 

「はっ!」

 

何の迷いもなく堂々と誤道巡査は返事した。

 

「なんだ説教か?」

 

「……まさか」

 

何かを感じた残念は看板の表側が見えるところに足を進めた。

 

「なんだ残念の奴、わしらを置いて向かい側になんて行きやがって」

 

「彼なりに何か考えでも浮かんだじゃ無いのか?」

両津とボルボは何故残念が向かいに移動したのか分からなかった。

気になったのでその動向を二人は見ていたら突如残念が手招きしだし二人は残念の方に向かう。

 

「なんだ山岳救助隊でも有るまいし、100円玉でも見つけたか?」

 

「違いますよ!上のあれを見て下さい」

 

「ん?」

 

残念の指が指す物は課を表す看板だ。

 

「これは……」

 

ボルボは気付いたようだ。

 

「あれがどうしたと言うんだ?何の変哲も面白味もねぇ看板じゃねぇか?」

 

「気が付かんのか両津!さっき誤道巡査はこの課を地域課だと言っていた……」

 

「むっ、確かに……あの看板に書かれて居るのは……交通課だとっ!?あの野郎もさっきの奴の仲間か!わしらを騙しやがって!」

 

「ばかもーん!お前の頭はプラスチックか!」

 

「うぉ!?部長!?」

 

「すみません!」

 

両津は一瞬身構えたが視界に部長の顔はなかった。

 

「なんだ今のは……部長の声が聞こえたような気がしたが……」

 

「大体何故目的地に辿り着くのに10回は迷うお前に指示を出したのだ!?出した奴は誰だ!?」

 

「やっぱり部長の声だ……どういう事だ部長が居ないのに部長の怒鳴り声が聞こえるぞ……固体から気体になって空気中にでも漂ってるのか……?」

 

ボルボは両津の言葉に何故かランプの魔神を浮かべた。

なんともアラビアンである。

 

「この声大原部長では無くてこの交通課の課長なのでは?」

 

「なに!?」

 

確かに残念の言う通り声は部長にそっくりまたは瓜二つだがその声の怒っている先は両津ではなく誤道巡査である。

 

「……確かにさっきからあの誤道とか言うのが怒られてるからな」

 

「可能性は高いな……」

 

相変わらず部長似の怒鳴り声がとんでいる。

 

「お前は自分が所属している課の位置すら覚えられぬとはどういう事だ!」

 

「す、すみません!……昔からかくれんぼすると鬼役の子じゃ無くて地域の自治体のおじさんやお巡りさんに見つけて貰うのが定番で……」

 

「ええい!取り敢えずお前には後できっちり説教してやる!とにかく葛飾署の方々を中に入れて差し上げろ客人に対する無礼だ!」

 

「は、はい!それでは皆様どうぞ此方へ」

 

ガラガラガラ……

 

「う~む、何処にでも似たようなのは居るもんだな……」

 

「だな」

 

ガラガラガラ……

 

扉が閉まった。

 

誤道を怒っていた課長と思わしき人物が窓のディフェンダー越しに外を見つめている。

 

(うぅ……このどっかで見たような後ろ姿……)

 

両津は妙に嫌な既視感を覚えていた……この部長とは今日会うのが初めての筈なのだがどうも身近に居た気がしてならない。

 

クルリと課長は両津らの方を振り向いた。

 

「どうも初めまして、白咲署交通課の大ヶ原太二郎(だいがはら たいじろう)です」

 

この後一人の警官が「ぎゃあああ!ドッペルゲンガー!!!」と驚いたのは想像に容易い事だろう。





早く白咲中と外白咲中の生徒達の日常の過ごし方等も書いて行けたらと思っています。
絡ませたいですからねぇw


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第8話 決意


結構シリアス調です。外白咲の生徒達と……ある少女の決意……


「マジですげぇんだその両津さんが」

 

英治は昨日の熱烈な出来事を興奮気味に語った。

まだあの痛快で斬新な気持ちが心から離れない。

その回りに二人の同級生が集まる。

 

「へぇ、とんでもねぇお巡りがこの町に来たもんだな」

 

同級生の一人の日比野彰は好きな漫画に熱中している時のような様子で英治の話を聞いていた。

「しかも越地がやられるとはなざまあねぇぜ」

 

安永隆は心の底からその言葉を吐き出した。

依然彼はふとしたことで越地一真と喧嘩になり結局勝敗は着かずに騒動を聞いて来た警察官達に止められたのだ。

 

それが自分達の同級生を襲って警察官にボコられたらしい。

 

「まだあるが後で話すよ。そろそろ始まるしな」

 

「だな」

 

「楽しみにしてんぜ」

 

キーンコーン……

外白咲の朝のホームルームを告げるチャイムがなり始めた。

 

「何だぁ?久美子と純子は二人仲良く遅刻か?」

 

クラスのリーダー的存在の相原徹が机の上で足を交差させながら言った。

 

「うゆ……でも今朝いつもなら8時位にルビィの家の前に久美子ちゃんも純子ちゃんも来るはずなのに来なかったんだよね……二人に何かあったのかなぁ……」

 

純子や久美子と一緒に登校する程仲の良い黒澤ルビィは泣きそうな顔になる。

 

「はっ!……まさか純子と久美子は、魔界へのゲートを躙順したことにより悪魔に連れ去られ「断じて絶対にあり得ないとだけ言っておこう」

 

「何よ、和人!最後まで言わせなさいよ!」

 

善子の台詞をクラス一の秀才中尾和人が遮った。

不安に陥るルビィを……

 

「心配ないずら」

 

と、一人の生徒が励ました。

 

「二人は大丈夫だよ。純子ちゃんはおしとやかで優しいし久美子ちゃんも気が強いけど優しいところがあるから大丈夫ずら!」

 

国木田花丸だ。

ポン!とルビィの背中を叩いた。

呼応するかの如く。

 

バタァン!

 

「はぁ~間に合った~……」

 

「ギリギリセーフ……」

 

クラスの戸が思いっ切り開き二人が入って来た。

クラスからは

 

遅かったな心配したぜと言う声ややっとお出ましかと言う声が飛びかった。

「久美子ちゃぁぁぁん!純子ちゃぁぁぁん!」

 

二人の無事な姿が見れルビィは思わず二人に抱き着く。

 

「ちょ、ルビィ……どうしたの?」

 

「ルビィちゃん今日は迎えに行けなくてごめんね……理由は後で話すからちょっと席に着かせてね」

 

「うん……二人共生きてて良かった」

 

大袈裟だと二人は口を揃えた。

 

 

…………

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

白咲警察署から逃げ出した、否、両津勘吉と言う警官から逃げ出した少女、藤沢彩菜は町の公園のベンチに座り息を整えながらじっくりと考えていた。

 

あの両津と言う警察官は何者なのだろう……何故私が虐められていると分かったのだろう……

 

時計を見ると登校時間はとうに過ぎており、今更学校に行こう等と言う気力はとっくになくなっていた……それよりもあの両津勘吉と言う警察官が気になる。

 

「……家族はおろか他人にすら見せた事無いのに」

 

少し袖を捲ればそれは暴虐非道を尽くされた痣や火傷の痕等が無数に現れる……最初はもっと軽かった……だがいじめはどんどんと大きくエスカレートになっていき彼女は純血すら奪われた。

それでも親等に言わなかったのは心配を掛けたく無いためだ。

頭だって良い方では無いし何よりあと一年足らずで卒業出来る……それが彼女を襲う理不尽な暴力から我慢する唯一の糧となっていた。

……だが今日彼女は1つの疑問を持った。

朝彼女が待っていた信号の場だ。

起きた出来事は信号を待っていたら突風で向い側の老婆がお金を落としてしまいその音を嗅ぎ付けた両津に吹き飛ばされ真横に吹き飛ぶと言うもの……。

そして両津は車にぶつかったがかすり傷1つ負わず沢田の運転する車の前方がグシャグシャになるものだった。

 

そう、『両津が彩菜にぶつかり彩菜は真横に吹き飛んだ』のだ。

 

じゃあその前に彩菜を押したのは……?

 

彼女が前のめりなるほど勢い良く押され両津に吹き飛ばされなければ危うく彩菜が引かれるように仕向けた犯人は……?

あの場にいた同じ中学の制服を着た者の正体は……?

 

「はぁ」

 

絶望も希望も感じぬ無感覚な……だが裏に猛烈な憎悪を孕んでいるような溜息を吐いた。

 

前々から考えていた事だがこの日彼女は改めて強く決心した。

 

クラス全員に地獄を見せると……





そろそろ彩菜の復讐劇が始まります。
こち亀メンバーの出方は如何に(笑)


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第9話 接触


ようやく彩菜と英治達が出逢います。


「そして侍は盆踊りするのでおじゃった!」

 

彩菜が白咲中に来なかったこの日、クラスでは何事もなく最後の6時限目の国語の授業が終わろうとしていた。

 

キーンコーンカーンコーン

 

全授業の終りを告げるチャイムが鳴る。

 

「ムッ、もう時間か!それではさらば!」

 

国語の教師は笠で顔を隠し……『風が拙者を呼んでいる』と言って抜けて行った……。

 

「いや~終わったな最後の授業。でも国語って面白いよな俺『ワシが田野郡屋で候!』で感動しちゃったよ」

 

彩菜のクラスの男子のリーダー的存在の北浦亮が話した。

 

「あぁ、マジ心に響く授業だったな特に阿弥陀久慈太夫の生き様はマジイカすと思うわ」

 

「俺はやっぱ鵞丁(ガチョン)流鶏の舞やなー。かっこよすぎん?あれ」

亮と同じクラスメイトの阿部祐樹と辻本健太郎も続く。

二人は亮と同じクラスメイトというだけではなく部活も一緒のサッカー部だった。

その為この三人の絆は強い。

「早く掃除して部活行こうや。この時期は暗くなるの早いしなぁ」

 

「そうだな、じゃあ掃除し終わった後また集合な」

 

「おう!、じゃあ俺と健太郎は4階の空き教室の掃除してくるわ。行くぞケン!場所まで競争だ!」

 

祐樹は軽快に言うと同時に教室から飛び出した。

 

「あ、待てや!フライングやぞ!ほなまたな亮!あの馬鹿ドつき倒して来るわ!」

 

負けじと健太郎も猛ダッシュで駆けて行った。

 

「はは、あいつら元気だな」

 

二人の様子は相変わらずだ。

だけどそれが良い、あの二人には余計な心配など掛けたくなかった……だから今日も彩菜が登校してこない事が原因で『あの時』の記憶が甦って自分が苦しくなった心情を祐樹と健太郎に悟られなくて良かったと亮は思う。

 

「……まだあの時の事が頭から離れられないみたいだな俺……」

 

軽く目を閉じ息をふぅと吐いた後亮は担当場所である自分の教室の掃除に取り掛かった。

そういえば今日は自分以外にも様子のおかしい生徒が居た事を思い出した。

 

結城真莉だ。

亮と同じくクラスでは発言力、行動力を持つ女子生徒だが今日は機嫌が悪そうで何処と無くあまり誰とも絡ま無くたまに怒ったような表情を浮かべるのが気になった……。

 

彩菜が登校してこないのと何か関係が有るのだろうか?

あくまでも亮の推測で有るため確信は持てないが『イジメの対象』が登校してこない事に相当腹がたっているのかもしれない。

 

(彩菜の奴……このまま、学校に来ないんじゃ……)

 

イジメを断つには学校に来ないのも一種の方法なのかもしれない。

願わくば亮はこれ以上彩菜が酷い目に遇うのは嫌だった。

彼は彩菜が好きだ。

だが今から4ヵ月前に起きた『出来事』によって彼は彩菜が自身に嫌悪感を抱いているのではと考えるようになっていた。

(駄目だな、過去に振り回されてちゃ。彩菜の出席に関わらず俺は自分が出来る事をやってかないと)

 

考えるのをやめ、亮は掃除に集中した。

 

 

…………

 

 

ァハハハハハ!

 

「こら英治笑い過ぎだぞ!徹もこいつが笑いすぎだと言ってくれ!」

 

「いや……無理っす。正直俺も……笑いこらえんの限界なんで……くくく」

 

白咲署への挨拶が終わり十千万に帰ってきた両津達を出迎えたのは外白咲中の生徒達まるまる一クラス分だった、その為部屋はかなり狭苦しい。

 

で、今両津は子供達から色々と質問されている状況だ。

 

「はい、次は私良いですか?」

 

「おぉ、良いとも」

 

「ありがとうございます!両津さんは兄弟って居るんですか?」

 

聞いたのは中山ひとみだ。

実家が千歌の家と同じく旅館でスタイルも抜群に良いため同年代の女子からは憧れの目で見られている。

 

「あぁ、弟が1人居てな。ワシと違って苦労性な奴でないつも何かに悩んでるよ」

 

「へぇ~なんか意外」

 

「だが真面目な奴でな今日も自分の女房と坊主の為に働いてるよ」

 

「両津さんとは大違いっすね」

 

「うるさいぞ!英治!」

 

 

ァハハハハハ

 

「大人気だね~両津さん」

 

千歌と姉の美渡は微笑みながら子供らが無邪気に笑う様子を見つめていた。

 

「うん。なんか私こんなに笑ってる皆の顔はじめて見たかも……善子ちゃんや他の子達もこの頃なんか険しめな表情だった事が多かったし」

 

千歌も自分が居た中学校の後輩達が楽しんでいる様子が

嬉しく感じた。

この笑顔や暖かさがずっとこの子達を守ってくれれば良いのにと思う。

「ふ~ん。千~歌~」

 

ガシッ

 

「へ?」

 

千歌は突然美渡に体を掴まれた。

「そんなに嬉しいならお前も混ざってこーい!」

 

「きゃあ!?ちょっと!美渡姉~!」

 

まだ高一である彼女が姉の力に勝てる筈もなく……

 

「両津さ~ん!こいつも話に混ぜてやってぇ!」

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

半ば前のめりになりながら千歌は無理矢理部屋に入れさせられた。

 

「いたた……もう無茶苦茶だよ。美渡姉……」

 

「おいおい、千歌ちゃん。大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ両津さん!日常茶飯事だし……」

 

「何ともハードフルな姉妹だな……」

 

「つうかお久し振りっす千歌先輩。先公共に悪戯ばっかして英治と良く怒られてた相原徹っすけど覚えてますか?」

 

「うん!覚えてるよ!徹君は中学に入った時から親友の英治君と悪戯ばっかりしてて有名だったからね!」

 

「千歌先輩話すのはじめてですけど私の事分かりますか?」

 

話題は千歌に振られはじめたが両津はもう話したい事をちゃんと伝えていたため特に気にも止めない。

寧ろ、同じ出身校の先輩と後輩なのだからこれ以上自分の話をするのは野暮だと両津は判断する。

 

「仲が良くて気さくな奴らじゃないか」

 

その後、両津は一応英治達のクラスメイト全員とトークアプリやメアドの交換で全員分の連絡先を得ることとなり生徒達は全員帰宅した。

 

帰る際の生徒達に……

「お前ら!わしが言った事くれぐれも宜しく頼むからなぁ」

 

と声を掛けた。

 

生徒達は皆各々が

 

「分かってるよ」

 

「大丈夫です」

 

と返事した。

「ふふ、これで取り敢えずはよしとするかな」

 

「元気な子達でしたね」

 

「ところで両津……お前もとんでも無いことを頼むもんだ……」

 

「しょうがないじゃないか。こうでもしなけりゃ情報を得ることは出来ん」

 

…………両津達が白咲署を案内されていた頃……

 

「そして昼前は主に駅前の見回りをして……」

 

大ヶ原部長よりこの署の管轄区域と警らする場所を聞いていた両津はふと疑問に思った事があった。

「部長ワシらは白咲の子供達による犯罪が多くなって来たから派遣されたんですよ。なのに朝方と学生達は帰宅する夕方の警備体制が少し薄い気がすんですがね……」

 

すると大ヶ原部長は一瞬非常に険しい顔になった後……

 

「……私達も朝方や夕方の強化をしたいのですがいかんせん人数や勤務時間の問題が有りましてねぇ……」

 

まるで何かを隠すような口調で語ったのだ。

それで交通課を訪問した後の他の課の態度は最悪そのものであった。

 

少年犯罪率の多さを解いても知らぬ存ぜぬの繰り返し、署長に至っては

 

「我々は全力で取り組んでいるので茶化す行為はやめてくれ」

 

こう来ている。

そして両津達に……

 

「あまり軽はずみに捜査しないで我が署の方針に従うように」

 

等と抜かして来たのだ。

三人は腑に落ちぬまま旅館に帰った……。

 

 

…………

 

 

「まったくふざけてるとしか思えんぞ……ワシにはあの署の連中が敢えて目を瞑ってるようにしか思えない」

 

「大ヶ原部長の反応だけでも裏に何かが有る可能性は高そうですが……」

 

「一つの署を掌握出来る程の権力が働いてるってか……まるで映画や漫画みたいな話だぜ」

 

「まぁ、ワシらも明日から交番勤務。どんな奴らが居るか知らんが気を抜かんで行くとしよう」

 

三人は食事を取り眠りに就いた。

 

 

…………

 

 

翌日、英治達クラスメイトは早速両津が言った事を実行していた。

 

『白咲中周辺で暴行やら虐めに有っている生徒を見かけたら保護してワシに連絡してほしい』

 

この言葉に外白咲の生徒達は心をうたれた。

 

その為、英治達は班を作り色んな場所を調べる事にした。

 

キーンコーンカーンコーン……

 

最後のチャイムが鳴り生徒達は早速行動に出る。

 

「おっし、じゃあ皆集まれ」

 

クラスのリーダー格の徹の元に各々集まる。

「アプリで伝えた通りの班分けで皆調査してくれよな、この町をまた楽しい町にしようぜ」

 

笑顔で徹は伝えた。

 

早速4班の別れた学生達は白咲中周辺を調査する。

 

英治は、徹、エレクトロニクスの小黒健二、そして橋口純子の4人のメンバーだ。

 

「って言ってもさぁ……どこ探しゃ良いんだろうな?」

 

「おいおい英治、俺らが調査する相手の対象は俺らと同じ中坊だぜ。俺らに置き返りゃ良い。難しく考える必要はねぇよ」

 

やはり徹は考えが違うなと改めて英治は尊敬した。

 

その言葉に健二は……

 

「そうだな俺だったら電化製品売り場に入り浸りするかな」

 

「お前のは極論だな」

 

「皆が皆健二のように電化製品に興味が有るとは限らねぇからな白咲中にそんな奴居なさそうだし」

 

「も~う、英ちゃんも徹君も真剣にやらなきゃ駄目でしょ健二君もだけど」

 

返す言葉もねぇと徹は話した。

5分後通りを歩いているととある公園に……白咲中の制服を来た女子生徒1名が入って行くのが目に付いた。

 

「おい、徹……」

 

「あぁ、相棒。一応付けてみようぜ」

 

「俺、戦闘になった時の為にスタンガン持って来たけど不安だな……」

 

「何言ってるの健二君!早く行こうよ」

 

四人は公園の入口から光景を見た。

そこで見た光景は……英治達のクラスからは考えられぬ光景が広がっていた……。

 

「なんで昨日学校に来なかったわけ!?……彩菜ぁ!」

 

1人の女子生徒がもう1人の女子生徒に暴力を奮っていたのだ。

 

「英治!止めるぞ!」

 

「あぁ!」

 

二人は全力で走った。

 

 

 

 

 

 




この話がこの小説の年内最後の投稿となります。
まだ白咲ヶ丘中学(暗殺教室)の生徒が出て居ませんがこれ等はあまり多く出しません。
出すのは物語中盤ぐらいを想定しています。
来年もこち亀調のノリやギャグを用いて面白く小説が書いていけるように頑張る次第です。
御感想を書いてる皆様大変ありがとうございます。
来年からは復讐編に本腰を入れていけるように書いていきます……勿論こち亀調のノリやギャグを忘れずに(笑)







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第10話 喧騒なる集会

英治達が見ているのを知るのか知らぬのか髪をサイドに結んだ生徒は鬼のような形相でもう一人の同じ白咲中の女子生徒に掴みかかって攻撃してる真っ最中だ。

襲われてる彩菜と呼ばれた生徒は反撃もせずただ襲われるがままだ。

 

何故、反撃しないのか英治は疑問に思う。

 

(にしても徹の奴、どうやって止めようってんだ)

 

ちらりと自分と並走して走る徹を見つめた。

 

「おい。お前ら白咲中の生徒だな」

 

会話に支障が無い距離まで近づいた彼は先ずそう言った。

「……だったらなに?……外白咲の生徒が何のようかしら?」

 

いじめを行っている女子生徒が睨みながら返事をするが彼は全く動じない。

 

「良いのか?こんな町人憩いの場でそんな事して。この町の非行少年や少女の事はニュースになって全国に流れるぐらいなんだぜ。ちょっと悪ふざけが過ぎるんじゃねぇか?」

 

すると徹の言葉が届いたのか、襲っていた生徒はもう一方の生徒から手を離した。

 

「はぁ……分かったわ。一先ず外白咲のイケメン君の忠告を聞いてこの場は去ろうかしら……あんた名前は?」

 

「相原徹だ。そっちは?」

 

「結城真莉よ……相原君一つ言っておくわ……」

 

『ウチラ(白咲中)の事に首突っ込んだらどうなるか分からないからね』

 

「それだけよ。じゃあね」

 

真莉は鞄を片手に公園から出て行った。

 

「ふ、どうなるか分からねぇ……か。上等だぜ。この町を暮らしやすい町にしてみせる……で、君は大丈夫か?」

 

徹は倒れている彩菜に手を延ばした。

 

彩菜は少し戸惑った表情をしながらもありがとう。と徹の手を取った。

 

「先ずこの子から話を聞いた方が良いんじゃないかな?」

 

「あぁ、純子の意見に賛成だ」

 

英治と健二も続く。

 

「じゃあ話を聞く前に俺らの自己紹介からやっとくか。何にも知らねぇ赤の他人同士で話すとなると気不味いだろうしな」

 

「さっき、言ったけどまた改めて言うぜ。俺の名前は相原徹。外白咲中3年2組の生徒だ」

 

「俺は菊地英治。悪戯や皆で楽しい事をやるのが好きだ俺も徹と同じクラス」

 

「小黒健二。パソコンや電化製品売り場に入り浸るのが趣味だな俺も同じく」

 

「橋口純子です。実家はラーメン屋なの是非食べに来てね。皆に続いて私も3年2組」

 

「……藤沢彩菜よ。白咲中の3年3組」

 

「藤沢って言うのか」

 

3人は相原徹がどの様に彩菜に対して切り出すのか見守った。

 

「お前と結城って奴の争い見てたんだが……あれは明らかに常識を越えてるよな、単刀直入に聞くぜ。彩菜。お前はあいつから虐めでも受けているのか?」

 

「………………まぁ、そんな感じかしら」

 

「えぇ!?それは不味いわよ!早く教師とかに相談した方が……」

 

純子の発言に彩菜は一旦目を大きく見開いた後

 

「……ごめん、虐めてくるのはあいつ……真莉だけじゃ無いの。他にも教師とかに相談したら『秘密』をバラすって脅迫して来てる奴等が居てね」

 

「『秘密』って何なの?……」

 

「ちょっと言えないわ」

 

「そう……」

 

「相原君達。助けてくれてありがとう。でももう本当に関わら無い方が良いよ……あいつらの矛先があなた達外白咲の生徒達にも向いちゃうかもしれないし」

 

「心配はいらねぇぜ。俺らのクラスは馬鹿ばっかりだが友情や団結力ならどこにも負けねぇ自信がある。だから虐めなんかに屈しねぇさ」

 

「素敵なクラスだねあなた達」

 

「だからこそ救いたい目標もある」

 

英治が語る。

 

「俺らは俺らと『同じ町の同級生』がいじめを受けていると言う事実に我慢出来ない。だから藤沢。君を解放させたい。そのいじめから」

 

英治の目は小さな子どもが悪戯を考えた時のように輝いていた。

その目に彩菜は不思議と惹かれる。

 

「……どうやって?」

 

「ギャフンと言わせれば良いんだよ。悪人どもに!」

 

「はは、流石相棒。一泡いや百泡ぐらい吹かせてやろうぜ」

 

彩菜は彼らが何故こんなに楽しそうで自信を持てているか分からなかったがその光景は……彩菜の目に……楽しさと希望の2つとなって映し出されていた。

 

「ふふ、本当に面白い」

 

「おー、意外と笑った顔可愛いのな」

 

「からかわ無いで相原君」

 

「元気が出るのは良いことだ」

 

「じゃ、彩菜。そんな君に是非ついて来て欲しい所があるんだ」

 

「何処?」

 

「来りゃ、分かるさ」

 

彩菜は徹達に付いていく。

一体何処に行こうと言うのか……。

 

 

----

 

 

「ほい、着いた」

 

20分程歩いたところで徹が声を挙げた。

 

「此処は……旅館、十千万……?」

 

「なんだ?彩菜はあんまりこっちの方には来ねぇのか?」

 

「うん、あまり……外白咲の方には行く予定と言うか……特に知り合いも居ないしね」

 

「だよね~……やっぱ同じ白咲町内でも遊んでる地区とか違うもんね……私達のところは子供の数も少ないし」

 

純子が自虐気味に語った。

 

「おい、英治。健二と一緒に他の奴等には連絡入れてくれたよな。十千万に集まれって」

 

「おう」

 

「皆俺らを待ってる筈だぜ」

 

「うっし。じゃあ俺達が襲われてた町の同級生を保護した事を皆に伝えるか」

 

一同は旅館の中に入って行く。

 

「あ、来たかな?」

 

玄関口の戸の開閉音にいち早く反応したのは久美子だった。ドタドタと女子生徒数人は玄関口の方へ走って行く。

 

「徹達遅いわよ!このヨハネを待たせるとは良い度胸ね!」

 

「ヨハネ……?」

 

彩菜は目の前の頭にシニヨンを作って如何にも厨二病的なポーズをしている少女に深い疑問を覚えた……。

 

小声で英治と純子が「あいつの趣味みてぇなもんだから」「気にしちゃ駄目」と告げる。

 

「そこ!聞こえているぞ!」

 

「無事で良かったずら~」

 

「純子ちゃん!何ともない?……」

 

「うん、何ともないよルビィちゃん」

 

(ルビィ?……まさか人の名前じゃ……無いわよね……)

 

「なんだぁ、ルビィ?俺達の心配は無しか?」

 

「ピギッ……勿論してたよ……だけど徹君や英治君達なら大丈夫かなと思って……」

 

人の名前だった……。

「ねぇ、橋口さん……」

 

「なに?、藤沢さん」

 

「外白咲の人達って個性派揃いね……」

 

「う~ん、まぁ、でも退屈しないよ」

 

確かに退屈しなさそうだ。

 

「よし、じゃあ皆が居る部屋に向かうぜ。んでそこから俺が話をさせてもらう。彩菜、君からも話してもらって良いか?」

 

「構わないわ。もうこうなったら言った方が楽かもね」

「おし。決まりだな」

 

全員部屋に入った後、徹はクラスメイト達が鎮座する正面に座り早速今日の出来事を話した。

 

「体調が悪くて居ねぇ奴やサボってる奴は居ねぇな?じゃあ話すぜ、今日俺達の班は西白咲公園で白咲中の女子生徒2名が争ってる、いや、一方的に一人の女子生徒がもう一人を襲って居る現場に遭遇した」

 

聞いてる生徒達から響動めきが漏れる。

「んで俺らが止めてその襲われていた生徒を連れてきた」

 

徹は彩菜の方に手を向けた。

 

「じゃあ後は彼女から話をしてもらいたいと思う。話してくれ彩菜」

 

彩菜は少し前に移動し皆の方を向いてまた座った。

 

「…相原君から紹介に預かった藤沢彩菜です。まず相原君には襲われてるところを助けてもらったから改めて例を言うねありがとう」

 

「気にすんなって」

笑顔でそう告げる徹を横に彩菜も真実を言う決心が付いた。

 

「私は今白咲中の同じクラスメイトから虐めを受けているの。暴行を受けたり、恐喝されたり……犯されたりもした……」

 

また響動めきが上がる。

中には「信じられねぇ、なんだそいつら!」と怒りを挙げる声もあった。

 

「けど私は今まで行為を受けてる内に……行為が気にならなくなってきた。どうせ後少しで学校は終わるし大人しくして居ればいいんだって……けれど、私は殺されかけた」

 

皆静かに彩菜の話に集中していた。

 

「ハッキリと押されたのよ。私が横断歩道で信号を待っていた時ウチの学校の制服を着た生徒にね」

「藤沢さん。それで良く君は車に轢かれず済んだね」

 

クラス一の秀才の中尾和人が聞いてきた。

 

「ちょうどその時後ろから猛ダッシュで走って来たおまわりさんにぶつかって真横に吹っ飛んだのよ。だから無事だった」

 

この時英治や善子いや……クラス全員の脳内にとある警察官の顔が浮かんできた。

 

「ヨハネも聞きたいんだけど……その後、そのおまわりさんって……どうなったのかしら?」

 

「生きてたのよ。しかも自分で自分を轢いた運転手に掴み掛かっていったの……あれは本当にビックリしたわ……」

 

「俺今の藤沢の一言でその警察官が誰だか分かった気がするぜ……」

 

「奇遇ね安永。私も」

 

安永隆と堀場久美子が声をあげた。

 

「ははは。確かに『あの人』なら轢かれても、いや宇宙に解き放たれたって死ななさそうだしな」

「相原君まで……あなた達その警察官を知ってるの?」

「あぁ、めっちゃ親しい仲になってな。な、英治」

 

「うん。あの人は俺らのいや、この町の希望だぜ……それで藤沢。そのままじゃ藤沢は理不尽に平伏す事になるけどどうしたい?」

 

英治は真っ直ぐな瞳を向けて来る。

 

「私は殺らなければ殺られるんだと気が付いた……だから私は奴等に復讐をしたい…!…命を懸けてでも……ね」

 

「成る程な、その心意気は立派だぜ彩菜。だけど人生ってのは一回きりだぜ俺らなんて地球から見ればちっぽけな存在に過ぎねぇ……なら、辛く取り組むよりも皆で楽しく取り組もうぜ!なぁ!お前ら!俺らの手で同じ町の同級生を助けてやろうぜ」

 

リーダーの問いかけにおう!と次々と声が挙がる。

同時に「皆うるさいよー!」と千歌の声が聞こえた。

 

「あなた達……なんで……」

 

彩菜の目には様々な感情から涙を浮かべていた。

 

「ふ、決まってるじゃない。この世から迷えるリトルデーモンを救い悪しき魔物を取り払うのが私達の務め!」

 

「かっこ良く聞こえるが要するに相原君の意見に背のりってわけか」

 

「そうずらね」

 

「うるさいわよ!和人!ずら丸!」

 

「テンションが上がるのも分かるが堕天使も中尾も花丸もそれぐらいにしておけ……そろそろ帰って来る頃だな」

 

「え?」

 

ガラガラガラ

 

「やれやれ全く融通の利かん奴ばかりだったな!」

 

「全くだ!。地理案内ぐらいしてほしいもんだ!子供でも出来る事を何故、大の大人がしないのか!」

 

「自力で覚えて行くしかないですよ……」

 

喧しい、しかし身に覚えがある声が彼女の耳に届いた。

 

「彩菜、帰ってきたみたいだぜ。お前を吹っ飛ばしたおまわりさんが」

 

「嘘、本当に……」

 

紛れもなく先日聞いた声だ。

彩菜の身を結果的に救った警察官であると同時に…彩菜は彼の問いから逃げだしてしまった……。

 

「さぁて、今日もあいつらと話さなくちゃな。お前ら居るか-!」

 

襖は開けられた。

そして……

 

「うん?、見たことが無いのが一人……あ、お前は!?」

 

「……お久し振りです。両津さん」

 

藤沢彩菜と両津勘吉は2度目の出会いを果たす。

 

 

 





次話までに一人目(優人)に入れるだろうか!?


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第11話 明日への活力

久々の更新。


両津達は彩菜から7ヶ月間悲痛と苦痛に彩られた日々の話を聞いた。

 

「……そうか、クラスのほとんどの奴に君はいじめられたのか……」

 

「酷すぎます!。先輩!ボルボさん!即刻彩菜さんを我々で保護し第三者機関に連絡しましょう!」

 

ボルボと残念は憤慨した。

「やっ…と、大人に言えた……怖かった……凄く怖かった……!」

 

涙を流す彩菜の背中を花丸とルビィは優しく擦る。

 

「う~む、しかし……ぶつぶつ」

 

何故か両津は宙を睨み付けていた。

 

「両津、残念の言う通り教育委員会などに報告した方が良いんじゃないか?」

 

「うむ、わしもその方法は考えた。だが恐らく教育委員会を介入させようとしてもこの町の警察の邪魔が入るだろうな」

 

「「あ……!」」

 

「昨日わしが中学生に話しかけようとしただけで邪魔が入った。どこが手を牽いてるか分からんが同業者にも隠蔽しようとする連中だ。教育委員会ぐらいなんてことないんじゃないか?」

 

両津の言葉に一同絶望の雰囲気が走る。

 

「だが、裏を返せば奴等はある程度の学生達のイザコザには目を瞑るってわけだ。わしらはここを利用してやればいい。冗談じゃねぇぞ!白咲署の連中め!わしらはこの町のガキ共の補導と犯罪抑止の為に来たんだ!てめぇら本山が動かねぇならわしらがわしらのやり方で動いてやる!葛飾署のやり方でな!」

 

「両津!」

 

「先輩……!」

 

「泣くな彩菜、わしらはお前を見捨てる気も無いしお前に悪さした奴等を許す気もない。やり返してやればいいんだ!人間黙って受け身になるのだけが全てじゃない、ちゃんと自分の意志を発して相手に伝えることも大切なんだぞ」

 

「はい……両津さん……私逃げてた……いじめにあってもやり返せないで自分の人生から逃げてた……また戻れるのかな?」

 

「あぁ、大丈夫だ。今のお前は一人じゃない。そうだなお前ら」

 

両津の言葉に彩菜の後ろに居る外白咲の生徒達は「おう!」と掛け声をあげた。

 

「手伝うぜ彩菜の復讐。お前を虐めてきた連中に偉い目見せてやれ」

 

「フフフ、安心なさいリトルデーモン。このヨハネが悪しき者達に天罰を与えるわ!ゲヘナの焔を持って!」

 

「俺達が解放するんだ藤沢を!」

 

「白咲の奴等の鼻毛でもライターで炙ってやりたいなぁ」

 

「こんな愉快な奴等がお前の味方なんだ。だから今日はもう休め」

 

「うん。でも家に帰らなきゃ……」

 

「もう日が暗いわよそれに彩菜ちゃんの家は反対の区だから遠いんでしょ。泊まっていった方が良いわよ。彩菜ちゃんが泊まれるくらいの空きはあるから」

 

配膳に魚料理やら肉団子の汁などを載せた志満が部屋へやってきた。

その後ろに千歌も同じ組み合わせの配膳を持ってきている。

 

男子からは、おぉ!、俺腹ペコだったぜ~と歓喜の声があがった。

 

「悪い君達に美味しいプレゼント!食べていっぱい頭働かせてね~!」

 

「あざっす!千歌先輩!」

 

「志満さんもありがとうございます!」

 

「良いのよ。英気をつけて頑張ってね」

 

「あー、でも俺プレゼントだったら千歌先輩が良かったな~」

 

クラスで一番背が小さくお調子者の宇野がそんなことを言った。

 

「馬鹿なこと言わないの!。もう!宇野君にはあげないよ」

 

「冗談です先輩!」

 

ぎゃはははは!と笑い声が響き渡る。

 

「千歌先輩宇野の分俺にください!もう腹が減ってしょうがない」

 

「日比野、お前はデブなんだから食事の量をちょっと減らせ!そんなんじゃ彼女も出来ねぇぞ」

 

「なんだと天野」

 

将来レスリングの解説役を目指す天野の一言にまたも部屋に笑いが走る。

いつの間にか彩菜もその輪にまざり笑っていた。

 

「楽しい?私達のクラス?」

 

髪をツーサイドアップに結んだ女子が彩菜に尋ねてきた。

名前は確かルビィだった筈。

 

「うん……面白いね。ルビィちゃん達のクラスは。こんなに笑ったの本当に久しぶりだよ」

「本当に……。良かったぁ、彩菜ちゃんが楽しそうで」

 

「気遣ってくれてありがとう」

 

「うんうん!ルビィもやっぱり笑ってる人の顔を見るのが好きだから元気になって本当に良かったよ!」

 

「盛り上がってるね~。ルビィと彩菜ちゃん」

 

「あ、久美子ちゃん」

 

先程、鼻毛をライターで炙ってやりたいと言ってた女子だ。

「どう?彩菜ちゃん。親睦を深める為にも一緒にお風呂に入らない?千歌先輩の家旅館だし」

 

「構わないけれど……」

 

「よしっ!じゃあ決まりね。私ご飯食べたから先に行ってるね」

 

随分早い食事だな。と思いながら彩菜も食事を済ませ千歌に場所を聞いて風呂場へ向かった。

「待ってたよ彩菜ちゃん」

 

脱衣室には笑顔を浮かべた久美子が待っていた。

 

「つか、私ら同年代だし呼び捨てでよくない?彩菜って呼んでいい?私のことも久美子って呼んでいいからさ」

 

「うん、じゃあ久美子」

 

「なに彩菜?」

 

「外白咲の人達って面白い人ばかりだね」

 

「まぁね、相原君や英治君達がいると私らも飽きないよ。みんなあんな調子だしさ」

 

「そうなの」

 

「彩菜の白咲中にも面白い奴とか居ないの?。自分が在籍してる以外の他のクラ……」

 

途中で言葉が止まった。

彩菜の露になった背中の凄惨な傷の跡を見て。

 

「……ごめん変なの見せて」

 

「奴等がやったのねその傷も……」

 

「うん……。初めは泣いたりして抵抗してたんだけど途中からどうでも良くなって来ちゃって……」

 

「おかしい……そんなのおかしいわよ!。なんだって彩菜にこんな傷を!……イカれ過ぎてるわそいつら!」

 

久美子は自分の為に自分のクラスメイトに怒ってくれている。

長らく虐められる自分がおかしいと今日まで考えていたがはじめて公平な判断を聞いた。

 

風呂に入り二人は色々な話をした。

 

彩菜の父親が社長で、娘である彩菜に愛情を全く見せないこと。

 

久美子の父親は議員で、いつも票しか考えず家を疎かにすること。

 

性格は全く違うが似たような境遇だ。

 

「全く。ダメ親父を持つと苦労するね。子供はさ。あいつら私達より仕事が大事なんだよ。仕事と結婚すればいいのに」

 

「ふふ、そうだね。私も久美子みたいに強気な性格だったらいじめ受けてもやり返したり出来たのかな?」

 

「あはは、私なんて馬鹿親父にただグレてる反抗期の不良娘だって。彩菜がなっちゃ駄目だよ」

 

 

屈託のない笑みで久美子は告げた。

 

 

「それで、一人目の復讐相手は誰にするの?」

 

真面目な顔つきで聞いてきた。

彩菜の中ではもう一人目は決まっていた。

「うん、一人目は……」

 

 

『瀬尾優斗かな』

 

 

 

----

 

 

 

「あら、久美子ちゃんと彩菜ちゃんお風呂からあがったのね」

 

「いい湯加減でした流石十千万のお湯ですね!」

 

「初めて入りましたがいいお湯で疲れが取れました。ありがとうございます」

 

「いいのよ。あ、それと彩菜ちゃんのお家に連絡いれようと思うんだけど電話番号教えてくださらない?」

 

「大丈夫です自分で--

 

ポンと久美子が肩を叩いた。

 

「彩菜、大人に任せた方がいいって。子供の彩菜が変に泊まるって言ったら彩菜のお母さんがヒス起こすかもしれないし」

 

絵面を想像した彩菜は吹き出しそうになった。

やっぱり久美子は面白い。

 

「分かりました。志満さんに連絡してもらいます電話番号はこれです」

 

自分のスマートフォンを取り出し自宅の電話番号を志満に見せた。

 

「はい、分かったわ。ちゃんと理由つけておくから安心してね。親御さんが混乱しないような理由にしておくから」

 

ウインクし、志満は去っていった。

 

「く~。志満さんも悪い人だな。あぁいう大人本当あこがれるわ」

 

「出来る女的な」

 

「そんな感じ!。もう女子のなるべき姿だよあれ」

 

「なんか大げさね……」

 

「やっぱ出来る女が一番カッコいいじゃない!そしてあわよくばイケメン捕まえて玉の輿的な!。あ~これからはグレんのもいいけど女も磨かなきゃ!」

 

上昇志向が色んな方向に分散してるようだ。

しかしこのメンタルの強さは是非彩菜も見習いたいと思った。

ほどなくし居間に布団がしかれた。

途中男子達が枕投げをして遊んだが千歌の迷惑掛けちゃ駄目の一言でぴたりと止まった。

そろそろ消灯のようだ。

 

「じゃ、一人目の瀬尾優斗への作戦会議は後日練るとして今日はもう休みましょうか。相原君には明日いのいちで伝えるから」

 

「ありがとう久美子」

 

「あと、思ったんだけどさ、彩菜どうせ白咲行っていじめられんならウチ(外白咲)にこない?。なんとか言って理由つければ出来ると思うの」

 

「私が外白咲中に……大丈夫なのかな?」

 

確かに白咲中には行きたくないが……。

 

「考えたってしょうがないし私らが掛け合ってみるから今日はもうこの幸せが続くうちに寝よ」

 

「うん……」

 

不安は確かにあるがそれ以上に希望の方が今の彩菜には多い。

徹や久美子、英治、純子。

外白咲の生徒は皆優しくて心強い人達ばかりだ。

 

意識が遠のき彼女はひっそり眠りについた。

 

 




復讐回はぼくらシリーズとこち亀調のギャグ、要素をふんだんにぶち混んだものにしたいです。


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第12話 一人目 瀬尾優人

書いてたら10000超えてた。
ともあれようやく一人目にありつけました……。


翌日になり十千万に泊まった子供達は怠さを我慢しながら学校へ登校した。

両津達も勤める派出所へ通勤途中だ。

 

「相原君達が上手くいくか不安ですね……」

 

「分からん。だがわしはあいつらを信じてみたいと思う。ああいう徹や英治みたいな子供は今となってはあまり見掛けんからな。あの柔軟さでわしらが勤務してる間は彩菜と頑張ってほしいもんだが」

 

「確かに彼等は珍しいタイプだな。将来の大物かもしれん」

 

「言えてるな!。あいつらにはまだまだ成長してほしい限りだ!わしらはここにいる間人生の先輩として色々教えてくか!」

 

「先輩みたいな人間が量産されないと良いんですがね……」

 

何だと!残念、貴様!と怒鳴ってる内に派出所が見えた。

 

 

----

 

外白咲中学校の保健室では必死に懇願してる生徒達がいた。

 

「う~ん。だけどね。転校手続きも踏まぬまま学校を変えてはいけないのよ」

 

「え~。お願い西脇先生!。このままじゃ彩菜が可哀相よ!」

 

「お願いします、西脇先生」

 

次の日になり十千万から出た相原達は外白咲中の校内に入り外白咲の生徒達の母親的存在である保険医の西脇由布子に相原、英治、中尾、純子、久美子の5人が彩菜をどうかこの学校に通わせたいことを相談していた。

……話は中々難航しているが。

 

「だって藤沢さんのこと無理矢理犯したり、タバコの火を背中に押し付けたりする人達なんですよ!。そんなことされされ藤沢さんが無理に白咲中に登校する必要無いと思います!」

 

純子が声を大にして言った。

 

「確かに私も藤沢さんがそんな学校に行く必要は無いと思うけど、藤沢さんは自分の学校の先生には相談してみたの?」

 

「したら……イジメられてるクラスメイトに秘密をばらすぞって言われて。それに白咲中だったら相談しようとしてあいつらの目についてどんな報復されるか分からないから……」

 

手を震わせながら彩菜は喋った。

 

「成る程……。貴女が白咲中では孤立無援の中戦ってたってことは分かったわ。頑張ってたのね藤沢さん」

 

無意識のうちに頷く……。

西脇の一言に涙が出た。

昨日と今日と泣いてばかりだ。

 

「待ってて、校長先生に直接話してくるわ。もしかしたら少しの間は貴女のことをこっちで匿えるかもしれないから」

 

「マジすか!?」

 

英治は歓喜の声をあげた。

 

 

西脇が居なくなった後の保健室で彼らは今後について話し合う。

「ふぅ、取り合えず西脇先生の腕を信じるとして俺らは彩菜を酷い目に遭わせた奴等に復讐する作戦を今から練ってきたいと思う」

 

皆、相原に視線を向ける。

 

「ではまず、久美子から聞いてるが一応確認をとるぜ。彩菜一番最初に君が復讐したい相手を言ってくれ」

 

「瀬尾優斗」

「その瀬尾って奴は彩菜に何をしたんだ?」

 

相原が聞き返すのを見て、内容を昨夜の入浴の時に聞いた久美子は目を伏せた。

瀬尾優斗の名は相原に話したが内容は言っていない。

 

「騙して家に連れ込まれ犯されたの。元々別の不良達に私は犯されてたんだけど瀬尾はそんな私に君を助けたいって言って近づいてきた……ホイホイ信じた私も馬鹿なんだけど」

 

「そこで犯された。ってことだね」

 

中尾が聞いた。

 

「うん……。あいつは本当に許せない。助けるなんて甘いこと言ってやったことは奴等と同じなんだから……だから一番にしたの」

 

「本当女の敵ね!そいつ!あそこを蹴りあげてやりたいわ!」

 

「全くだね!」

 

怒りながら同調する久美子と純子を見て英治達は内容に恐れを覚えた。

瀬尾に対しての怒りだから怖がらなくてもいいはずなのだが内容が内容だけに恐怖してしまう。

廊下から保健室に向かい足音が聞こえてきた。

 

「西脇先生達が戻ってくるみてぇだ。じゃ、一人目は瀬尾優斗だな。後は奴の行動パターンを調べ近々作戦を実行にうつそう」

「徹、俺らには両津さんもいることだし是非助言をいただこうぜ」

 

「そうだな英治」

保健室の扉が開き西脇、校長の順番に中に入ってきた。

「この子が彩菜さんかね?」

 

「そうです。この子の様子を見る限り嘘を付いてるとは思えません。白咲中でずっと一人で頑張ってたみたいです」

 

西脇は落ち着きながら校長に説明する。

「相原君に菊地君、君達3年2組の生徒が彩菜さんを見つけたそうだね」

 

「ええ、まぁ」

 

「同じ白咲に住む同じ年代の者として彼女を放っておけません」

 

「……君達は素晴らしいことをしたな」

 

「「受けいれてくれるんですか!?」」

 

英治と徹の声が重なった。

 

「うん。しばらく彩菜さんは外白咲で様子を見よう。子供を捨てちゃ教師失格だよ」

 

校長の一言に久美子と純子は彩菜の手を掴みやった!やった!と大喜びだ。

英治と徹はハイタッチし、中尾も笑みを浮かべた。

 

かくして、彩菜は外白咲に暫く通うこととなる。

 

 

----

 

 

徹達はまた帰宅後十千万に集った。

今日は用事があるクラスメイトが多くひとみ、久美子、純子、英治、徹、健二、安永だけだ。

 

「しかし良かったな。まさか校長が認めてくれるなんてよ」

 

安永が嬉しそうに言う。

 

「本当だよな。俺一時はどうなるかと思ったぜ」

 

「心配すんな。そうなったら彩菜をこの旅館で匿って学校をボイコットするだけさ」

 

英治の言葉に徹は涼しい顔をして答える。

 

「徹君達……君達は十千万を何だと思っているのかな~!」

 

腰に両手をあてこちらを睨みつける千歌の瞳。

俺らの遊びの場所です!。なんて答えたら千歌に怒られそうだ。

 

大切な場所です。と英治と徹は口を揃える。

 

「それにしても両津さん達遅いね。まだ仕事中なのかな?」

 

ひとみの一言に一同壁の時計を見ると16時30分。

警察の勤務時間が英治達には良く分からないが中尾が平均的な勤務時間は8時間くらいと言ってた。

朝8時から勤務が始まるとして終わりは4時か?。

だったらもう帰ってくる。

いや、違う昼休みも一時間挟めば勤務終了時間は5時だ。

 

「中尾の言う通りだったらあと30分は来ないと思うぜ」

 

「そうか、じゃ、今日は両津さんに話すのはなしだ。俺らだけで軽く目標たてとくか」

 

敵を知るには行動から。

まずは彩菜に瀬尾優斗の特徴や習性を聞いていく。

 

「彩菜、そいつは普段はどんな態度で学校生活送ってんだ?」

 

「…普段は優しくて女子にモテて、優斗自身は自分の容姿を気にする典型的なナルシストなんだけど結構学業の成績も良いし評判は悪くないわね」

 

「彩菜を襲った時は本性が出たってわけか」

 

「うぇ~……やな男だね。きっと甘い顔してる時は心の中で相手を馬鹿にしてるに違いないわ!うちの親父みたいに!」

 

久美子の言葉に場に居た全員妙に納得した。

気さくな奴が裏では別な顔を持つ出来れば裏表がない人間になりたいが難しいのかもしれない。

「しかしよ、今の藤沢の話聞く限りそいつが相当な女好きだってことは分かったな。なぁ藤沢、そいつもしかしてデートとか頻繁にしてねぇか?」

「うん、後輩の女子とかと結構してるみたい」

 

「良く分かったな安永」

 

「ナルシストで自分の容姿気にする女みてぇな奴の行動なんてんなもんだろ?」

 

中々の考察力を安永は発揮する。

更に彼はこう加えた。

 

「普段頼れるパイセンってなら都合がいいぜ。その後輩に真実を伝えて失望させるのがいいんじゃねぇか?」

 

笑いながら彼は腕を鳴らしていた。

 

「確かに頼りがいあるイケメン先輩は本当は腹黒くて卑劣な男だったなんて知ったら後輩の方から白けるかもな。それにモテモテって個人的にムカつくぜそいつ」

 

「徹の言う通りだ!」

 

「英治、相原……怒りが別んとこに向かってるぞ……」

 

「ともあれ奴の行動パターンが分かった。後はここから瀬尾に対する復讐計画を建てるだけだな。よしクラス内でチームを2つに分ける。瀬尾の行動を数日変わりがわり監視するチームと復讐の計画を練るチームだ」

 

監視……、刑事みたいだ。

でも復讐計画を練る方も面白そうだ。

 

「瀬尾から直接手を下された彩菜は復讐計画チームが最適だと思うんだがいいか?」

 

「うん。ありがとう徹君」

 

「おもしれぇな。まさかクラス全員でこんなこと考える日がくるなんてな」

 

「張り切ってるな安永……」

 

色々あんだ。と英治に言い、監視チームと復讐計画チームの振り分けはどうすんだ?と相原に聞いた。

「明日学校で説明する。んじゃ今日はお開きだ」

 

失礼しましたー!と元気な声で子供達は去った。

 

「千歌ちゃん。あの子達色々考えてるみたいね。ふふふ」

 

「うん……。徹君や英治君達だから心配無いとは思うけど。一線を越えなければいいね……」

 

心配そうに子供らが出てった後の玄関を見つめた。

 

「ただいまー!。全くあの班長は愚痴が止まらんな」

 

「うむ、今日も昼飯がカレーライスがいいかハヤシライスがいいかでブツブツ言ってたな!」

 

「ああいう人物だと割り切るしかありませんよ」

 

「お帰りなさい!両津さん達!」

 

「千歌ちゃんは今日も元気だな!」

 

「ありがとう。今徹君達が出てったんだけど会わなかった?」

 

「あぁ!会ったぞ!清々しい顔して両津さんお疲れ様です!って走ってきやがった!ははは!。次お暇な時に力を貸してくださいと言ってたな」

 

「ダッシュで駆け抜けていきましたよ」

 

「なんか楽しいことでも会ったんだろうな」

 

楽しいこと、ね……と思いながら千歌は旅館の仕事に励む。

 

 

----

 

翌日、外白咲中の3年2組に彩菜はいた。

校長の話によれば特例中の特例とのこと。

白咲中学校とPTAを説得させるのにかなり骨が折れたようだ。

「似合うよ彩菜ちゃん!」

 

「可愛い……」

 

「そう、かな。ありがと純子ちゃん。ルビィちゃん」

 

制服も学校側から支給された。

彩菜と外白咲3年2組の女子生徒にも変化が起きる。

ほぼ全員の女子を名前で呼ぶようになっていた。

2日という短い期間の中で輪が深まったのか、彩菜は登校初日にしてクラスに馴染んでいた。

 

「おはよう彩菜。だんだん元気になってきてるみたいで嬉しいぜ」

 

「おはよう徹君。なんだか外白咲のみんなと話してると心が安らぐの。今までのことが嘘だったみたいに……」

 

本当に虚構だったらどれだけ楽か。

 

「そうか。よしじゃあ皆HRが始まるまでまだ時間があるから振り分けの話をするぞ」

 

「昨日アプリで送られてきた例の復讐計画のチーム分けか?」

 

「そうだ。お前らが見やすいように黒板に書いてくぜ」

 

徹はカツカツと音をたてチョークを動かした。

 

「できた。ほら。勉強よりも重要なことだから絶対忘れないで覚えろよ」

 

教師のように黒板を2回叩いた。

 

「分かったー」

 

「勉強は覚える気になれねぇのにこういうことは覚えんだよな俺って」

 

 

クラスメイト達は黒板に記された振り分けされた人物達の名前を其々、ノートに書いたり暗記するなどして頭に焼きつけていた。

監視チームは

 

安永宏、小黒健二、天野司郎、宇野秀明、菊地英治、谷本聡。

 

復讐チームは

 

藤沢彩菜、橋口純子、堀場久美子、朝倉佐織、津島善子、黒澤ルビィ。

 

 

相原が選抜したのは男子生徒、女子生徒、各6名ずつだ。

安永が疑問を浮かべた様子で相原に質問する。

 

「相原。クラス全員は動員しねぇのは分かったが俺が監視チームってのは納得いかねぇぜ」

 

「大人数でもやるようなもんでもねぇからな。お前の場合いきなりぶん殴ってなんの理由も知らず瀬尾のこと倒しても意味ねぇだろ?。復讐の方法は俺らチーム外の奴等も考えてくが復讐の実行は久美子に任せたいと思う」

「任せて!瀬尾のクソ野郎に女の恐さ教えてみせるから!頑張ろ!彩菜!」

 

「……うん!」

 

いよいよ始まるのだ。

瀬尾への復讐が。

 

 

 

放課後メンバーに選抜された生徒は十千万に向かった。

「徹の話だと今日は両津さんがいるらしいぜ」

 

「あの人がどんな風に行動しろって言ってくるか俺楽しみだ」

 

「安永君。手を下すのは私達女子よ。ま、両津さんにも協力してもらったら万々歳だけど」

 

お邪魔しまーすとそれぞれ挨拶を済まし、旅館の一室へと入った。

 

「やっぱ居たんすね。両津さん」

 

「今日は非番だからな。徹から聞いたぞ英治!。なにやら早速誰かに実行するみたいだな。ワシでよければ力を貸すぞ」

 

「ありがてぇ。でも本当両津さんで良かったよな。両津さん以外の大人だったら綺麗事並べられて藤沢は救えなかったろう」

 

嫌気がさした顔で安永は話す。

 

「そうよね!。どうせあなた達まで手を染めてやり返すことないでしょ!とか言ってさ!。被害者側は泣寝入りして終わりだよ!」

「安永、堀場。今日僕達は文句を言いに来たんじゃないだろう。両津さんに助力をもらいにきたんだ」

 

「そうよ二人とも……この堕天使の詠唱で静かに……」

 

「君も騙って話を聞くんだ善子」

 

「なによ!」

「はははは!結構、結構。むしろそれだけ元気があってこそ楽しく生きられるってもんよ。で、最初はどんな野郎なんだ?」

 

「瀬尾優人って男で……」

彩菜は瀬尾から受けた屈辱を全て話した。

 

 

「う~む、とんでもないゲス野郎だな……その若さにして白鳥麗次やチョビヒゲ頑固ジジイに匹敵するとは……」

 

「白鳥麗次とチョビヒゲ頑固ジジイって……?」

 

「キザな倒産の天才と脳が石で出来てる奴等だ。よしっ!ワシもお前達と一緒にやり返すのを手伝うぞ!。復讐チームは久美子達女子だったな?」

 

「はい!」

 

「では早速作戦会議だ!。彩菜の怒りを奴等に見せつけるぞ!」

 

おう!と活気よく女子達は返事する。

残された男子達も彩菜から示された瀬尾優人の情報を元に行動を監視する準備に入った。

 

「あいつらはヤル気満々なみてぇだな。俺らも負けられねぇ!」

 

「ヘッヘー!。瀬尾がやられてる様子を実況したいぜ!」

 

「天野……全く君は実況が好きだな。僕らも動こう英治」

「あぁ」

 

皆それぞれの思いを背負い動き始めた。

彩菜を救う為に。

 

白咲の町に平和をもたらすために。

 

 

----

 

 

……同日……白咲中……3年3組……

 

 

「と、言うわけで藤沢は今日から暫く外白咲中に通うこととなる。卒業までこちらに戻って来るかは分からん」

 

担任は身辺上の理由で彩菜が外白咲に通学するようになった話をした。

話を聞いたクラスメイトの大半はどうでもいいような状態で、「なんだそんなことかよ」 「嫌いだし顔見なくて清々したわ」 と、声を上げていた。

その裏で動揺を受けた生徒も少なからず居るわけだが。

 

(彩菜が……外白咲に……もう白咲には帰って来ないの?)

 

「まだ私はあのことを彩菜に……謝ってないのに……」

 

 

ある少女は小さく自分の内の気持ちを声にしていた。

……一方である少女は。

 

(逃げてんじゃないわよ……彩菜。アンタが誰とつるんでるか大方予想がつくわ。あの相原とかいう男でしょう。……外白咲にいようが絶対にあんたは……)

 

 

『必ず苦しめてやるから』

 

 

憎悪をさらに増した。

彩菜達の最初のターゲットとなった瀬尾もどうでもよさそうに担任の話を聞いていた。

 

(彩菜ねぇ、虐めに堪えきれず学校を変えるか。ポスターだかで見たっけな。転校もいじめ対策の1つだって、セオリー通り実行したってわけか)

 

フッ、と鼻で思わず笑った。

脳裏に蓮達から屈辱を受けた彩菜を助ける振りをして自宅に連れ込みさらに彼女を犯した光景を思い浮かべて。

転校する前にいい経験させてくれてありがとうと彩菜にでも会ったら言いたいくらいだ。

 

だが生憎今は一個下の別の彼女がいる。

名は池田沙智。

可愛くて良順な子だ。

しかしある理由により優人と沙智は表立って付き合えないでいた。

(そろそろまた始めるか……)

 

不敵に笑い彼は授業に望んだ。

 

 

『お前も彩菜と同じ目にあわせてやる』

 

放課後優人は早めに帰宅する。

「たしか待ち合わせ場所は……因知気商会の近くのカラオケ屋だったな」

 

家に着いた優人は沙智に「今から行くよ」と連絡を入れ着替えて細心の注意を払いカラオケ店を目指した。

歩くこと15分。

 

「待ってましたよ!優人先輩!」

 

「やあ沙智ちゃん。学校じゃないんだからそんな堅くならず優人君でいいよ」

 

やだごめんなさいと彼女は頭を下げ、優人の腕に自分の腕を組む。

そのまま二人は店へ行き受付を済ませ部屋へと入った。

彼女はマイクを握り歌う気満々だ。

 

「私から歌っていいですか優人君?」

 

「勿論。俺はゆっくり選ばせてもらうよ」

 

「ありがとう!今流行りのタンタンタヌキーズの歌をいきますね」

 

「いいねぇ。じゃあ俺はアナコンダデストロイの『ああ……私はトグロ』でも歌おうかな」

 

「渋いですね優人君」

 

 

----

 

 

「楽しそうに歌なんか歌ってやがる」

 

「全ての行動が癪に触るぜクソッタレ!」

 

「落ち着けよ。これからこんなことが少なくとも2週間ぐらいは続くんだろうからな」

 

和人がなだめるように言う。

監視チームの面々は早速瀬尾の動向を見張っていた。

まぁクラス全員で決めたこととは言えカップルの様子を見るというのは英治達にとって辛いものである。

しかし情報収集し瀬尾の習性をつかんで英治達は久美子達に報告しなければならない。

 

 

それから2週間、英治達は瀬尾を見張り続け大分彼の行動パターンが分かってきた。

瀬尾は彼女の池田沙智とほぼ毎日町中を歩き回りデートをしてること。

 

デート中の瀬尾が何かに異様に警戒してるように見えること。

 

後者は最初瀬尾が自分達の追跡に気づいているものかと思ったがどうも違うらしい。

何処か別の恐ろしいものに怯えてるようにも見える。

 

自分達の追跡がバレてるってわけではないので別に問題は無いが。

「それで僕達は瀬尾の習性をほぼ把握したことをいつ久美子達に伝える?」

 

「んなもん早けりゃ早いほどいいだろなぁ英治?」

 

「あぁ。早速今すぐにでも両津さんがいる十千万へ行こう」

 

最後の追跡を追えた彼等は十千万へ向かった。

 

 

「お邪魔しま~す……げっ!」

 

「おい英治急に立ち止まってんじゃねーよ。なに突っ立って……うぇ!」

 

「両津パトリシア勘子よ~。ハ~イ、おかえりなさ~い。英治君。安永君」

 

そこにいたのは……金髪でガタイがよく筋肉隆々な女装した両津の姿であったなんの罰ゲームか下は御丁寧にスカートで……。

 

「こ、これはこの世のものなのか。於曾ましすぎる……視力が一気に下がったかも……寒気が……」

 

「貴様どういう意味だ英治!」

 

直ぐ様、ワシだって好きでこんなことするかと両津が怒鳴り返した。

激怒する両津の後ろから久美子が姿を現す。

 

「ふふふ作戦よ英治君瀬尾に一泡吹かせるためのね」

 

「作戦……?」

 

両津さんに女装させる作戦ってなんだよ。と英治は首をひねる。

 

「ああそうだとも。これでそのガキをぎゃふんと言わせ改心させるのだ。更正もワシらの仕事だからな」

 

 

「ってことは両津さん達はもう作戦内容はバッチリってことすか?」

 

「もちのろんよ。あとはお前らの報告待ちだ」

「こっちもバッチリです。安永や和人や小黒達と一緒に2週間張り終えて瀬尾の動向は掴めました」

 

「うむ御苦労!あとは日時をしっかりと決めるだけだな。よし久美子達に加え英治、お前達も実行の段取りを決めるのを手伝ってくれ」

 

監視チームは「はい」と返事し作戦の段取りについて計画チームと話あった。

(始まるんだ……外白咲のみんなと……あいつらへの報復が……)

 

 

明日、学校が終わり次第作戦開始だ。

 

 

 

翌日……白咲中……

 

「ごめんよ。……今日は予定があるんだ」

 

「えぇ~!」

 

「そんなぁ……」

 

ウザい奴等だ。失せろ

今日はアイツを家に連れ出すんだからな。

優人は自身の計画のため後輩二人を追い払う。

 

「この埋め合わせはちゃんとするよ。ごめんね君達」

 

「「は~い」」

 

邪魔者が消えた。

顔が良くて成績もそんなに悪くない彼が他学年の生徒から告白されることは珍しくない。

だが自分が相手を襲おうと計画してる時それは邪魔以外の何者でもない。

 

「ん、どうしたんだい結子。俺の顔に何かついてるのかい?」

 

「別に……キザだなぁって……」

 

「おやおや失礼だな。この頃元気が無いが何かあったのかい?」

 

「あんたに関係ないでしょ。行こ恵美」

 

「う、うんっ!じゃあね優人」

 

「あぁ。またな恵美」

 

学級委員長とその友達を見送った優人は帰宅し行き付けのカラオケ屋へ向かった。

 

『沙智、楽しませてくれよ』

 

 

その頃、沙智は一足早くカラオケ屋へ着いていた。

 

「優人君。早く来ないかな……」

荒々しいブレーキ音を立て彼女の近くに酷く傷付いたバン型の警察車輌が止まる。

 

バタン!とドアを勢いよく開け女装した男が「お前は何回道に迷うんだ誤道!」と怒鳴りながら飛び出してきた。

「すみません。私教習所では筆記は問題無かったのですが……実技は逆走したり道なき道を越えたりで……」

「お前は下手に運転せずワシらがことを終えるまでジッとしてろ!いいな!」

 

「はい分かりました。両津巡査長殿」

 

「怖かったよぉ……」

 

「泣かないのルビィ」

 

「じ、実に地獄への道を走るような堕天的なドライブだったわね」

 

「彩菜ちゃんと純子も無事?」

 

「うん……」

 

「なんとかね」

 

女装した男の他に6人の自分より一歳年上だと思われる女子達も降りた。

特に一人は魔術師みたいな黒い服を着て。

(って言うかなんでこの人達警察の車に乗って来たんだろ……)

「全く方向音痴にもほどがあるぞ。君が池田沙智ちゃんか?」

 

「は、はい!。あ、あのおじさんは……張り込み的なので……その女装してるんですか……?」

 

話しかけられたので恐る恐る答える。

 

ヒソヒソ

 

(ねぇ、久美子……もしかしてもしなくても両津さん池田さんに怖がられてるよね)

(あんな格好だからね。第三者の目から見たら変質者としか映らないんじゃないかしら)

 

「いや確かにワシは警官であることには間違いないが重要な計画がありこんな格好をしている」

 

「なにに対しての重要な計画なんですか……?」

 

沙智はもう泣きそうだ。

 

「両津さんじゃもう無理みたいね。私達も説明するよ。純子、彩菜」

「うん」「ええ」

 

「怖がらせてごめんね。池田さん私達は別にあなたには何もする気はないから安心して」

 

笑顔で久美子は話かけた。

 

「は、はぁ。あれ……あなたはもしかして藤沢彩菜先輩ですか?」

 

「私のことを知ってるの……?」

 

「はい。先輩には1年の時に私が転んで怪我をした時助けてもらった恩がありますからあの時はありがとうございました」

 

沙智は深々と彩菜に頭を下げた。

 

「そう言えばそんなことあったかも。よく覚えてるわね池田さん」

 

「沙智で大丈夫です。それより小耳に挟んだのですが彩菜先輩が外白咲に通ってるってお聞きしました。でも転校したわけじゃなくて籍はこっちにあるとか。どうしたんですか?」

 

「それはねーー

 

「白咲中で彩菜があのクラスの連中にいじめを受けたからよ」

 

「え?」

 

久美子の言葉に沙智は言葉を失う。

いじめ?。

あんな楽しそうなクラスで?。

 

「あなたと付きあってる瀬尾優人。あいつも彩菜のことを助ける振りして犯した野蛮な男よ」

 

「う……そ……ですよね。優人君がそんな……」

 

思わず顔を伏せる。

 

「事実よ。私は優人を信じたら裏切られたの」

 

「そんな……」

 

膝をつき彼女は泣き出した。

瀬尾優人は絶対に許せないクズだったとしても彼女に直接語るのは少し酷か。

 

「だけどね池田さんあなたには未だ道がある。それは私達と一緒に彩菜の優人への復讐を手伝う道が彩菜をとる?それとも優人をとる?」

 

「私は……」

 

彼女にとり重い決断かもしれない。

どっちを選ぶのか。

 

「彩菜先輩を信じたいです。怪我の恩もありますしあの時の彩菜先輩の優しい顔は忘れられないから」

 

 

「沙智……ちゃん」

 

後輩の顔が目に焼きついた。

 

「それで私は皆さんとなにをすればいいんですか?」

 

「難しいことじゃないわ。強いて言えば女子会みたいなものかしらね男は優人一人よ。両津さんは華麗な勘子ちゃん役だから」

 

「うふ。ああ腕が鳴るわ~」

 

「仕掛け役はあなただからね彩菜負けないで」

 

「うん。ありがとう久美子」

 

「お礼は上手くいってから!さあ待つわよ!」

 

彼女達は受付を済ませ部屋を確保した後、「中学生ぐらいの男の子が来たらお友達は隅の部屋で待ってます」と言ってくださいと伝えた。

5分後。

優人は店に入ったが沙智の姿が見当たらない。

 

「あれ……待ち合わせしたのに」

 

「お客さま~中学生ですか?」

 

「まぁ、そうですけど」

 

「お友達は隅の部屋で待ってるとのことです」

 

「はぁ」

 

勝手に部屋取りやがって。

沙智の自分勝手な行動に少しイライラしながら優人は隅の部屋へ入った。

 

「沙智ちゃん……勝手に部屋を取るような真似は……」

 

「それでね~」

 

「やだぁ!本当に!」

 

どうなってんだと思わず優人は笑った。

外白咲に通い始めた彩菜の他に見たことのない女子が5名。

しかもどれも結構いい顔をしている……一人あからさまにゴツいのがいるが気にせずに。

 

 

「あ!優人君来たんですね!この人達は私の友達です」

 

こんにちはと彩菜を除く5人は頭を下げる。

 

「君も人が悪いな。こんなサプライズを用意してくれてたなんて」

 

「優人君の話を皆さんに話したら会いたい!って言ってね、久美子さん」

 

「そうそう。こんな美形な彼氏を持つ沙智ちゃんが羨ましいな~」

 

「久美子ちゃんはどこ中なの?」

 

「外白咲、こんな格好いい人うちらの中学には居ないよ~」

御世辞もここまでくると感心するものだ。

少なくとも彩菜にとっては性格は論外として顔も相原や英治や和人の方がよっぽど格好いい。

勿論いいのは彼らだけじゃないが。

「ありがとう嬉しいよ。それより彩菜はどうなんだい?馴染めてんの?あっちに」

 

「……まぁね。楽しいよ」

 

「ふ~ん。そりゃ良かった。いや心配してんだぜみんな。彩菜が学校嫌になったのかってな」

 

馬鹿にしたような口調で彼は話す。

だが皆で決めたんだ。

復讐していくと。

 

「心配?。よくもそんな出任せを口にできるわね」

 

「あ?」

 

「忘れるわけないじゃない。あなた達から受けたことをその内沙智さんも私と同じ目に会わせるつもりだったんじゃないの?優人」

 

「はは。いつの間にか冗談が上手くなったな。言い掛かりはやめろ……確かに彩菜が蓮達に犯されてたのは知ってるけどさ」

 

「確かにこのリトルデーモンの言ってることの確証は取れないでしょうね。でも私達にはこの子が嘘を付いてるとも思えない。彩菜の目は地獄を目の当たりにしてきたように弱々しい目をしていたのよだから私達は彩菜を信じる堕天使に誓ってね」

 

「……君厨二病?」

 

「堕天使だってば!」

 

「よし……ヨハネの言う通りよ。死にそうな私を救ってくれたのは外白咲のみんなのおかげ。だから私はあなたを許さない」

 

バン!と優人が机を叩いた。

 

「調子のってんじゃねぇぞクソアマ。テメェみたいにいじめられてた女が付け上がってんじゃねぇ!!」

 

「彩菜!」

 

優人の拳が勢いよく彩菜の顔を捕らえようとした瞬間……寸前で1つの手が優人の拳を受け止めた。

「認めてるじゃねぇかお前も、彩菜がいじめられてたってな!」

 

「やっぱお前男か……女装してんじゃねぇ。オッサンオカマか!?」

 

「馬鹿本官は立派な男だ!。お前みたいな悪ガキを更生するために派遣されたな!」

 

「面白いこと言うな!。なら止めてみな!」

 

「じゃ、遠慮なく」

 

「おぉぉぉぉぁお!?」

 

両津はそのまま優人を持ち上げ壁に叩き付けた。

プルルルと受付と繋ぐ電話がなる。

 

『お客さま~!なんかでっかい音がしましたが!』

 

「あ~ちょっとプロレスごっこやってるんで気にしないでください」

 

ドンガラガッシャーン!

 

『今の破壊音はなんです~!』

 

「過激な曲のイントロです!それじゃ!」

 

ガチャンと電話を切った。

 

「いくぞ!今度はジャンピングラリアットだ!」

 

 

ドーン!

 

 

「ぎぇぇぇ!」

 

優人は気を失った。

 

「どうだこの身のこなし。う~む、中々に動いたな全くこの仕事は神経を使うよ……」

あんたノリノリだったじゃないと全員心で突っ込んだ。

 

「それじゃずらかるか。ワシはこの馬鹿を背負っていく」

 

「うわ~漫画みたいに両目が渦巻きになってる」

 

「完全に延びるってこういうことを言うのかしら」

 

「優人をどうするの両津さん」

 

彩菜は気になり聞いた。

 

「更生させるんだよ。社会の厳しさを教えてな。ワシは道を外した者にはそれなりの罰が必要だと思う。甘えだけでは人は成長せん怒ってやることも必要なんだ」

 

目の前の両津勘吉が歩んだ人生と自分の人生の差を感じさせる台詞だった。

帰りの誤道が運転する車の中でずっとその台詞が頭に残る。



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第13話 沈痛の叫び


次々と友が消えていくある少女の嘆き。


「全く厄介なコトになったもんだ」

 

 

白咲中校長小俣は、忌々しそうに葉巻を咥え校長室から校庭を見下ろした。

 

 

『ある生徒が連絡もなく2、3日も学校を休んでいる』

 

 

そう告げられた時、頭が痛くなったのを覚えている。

最初、いじめの線を疑い全校生にアンケートを取ったりもしたが来なくなった生徒の瀬尾優人という者はいじめられるタイプじゃなくむしろ女子に人気が高い生徒だと判明した。

 

では、何故来ないのか?。

 

 

3年3組の担任、纓田が両親に連絡したところ『あの子は今、警察の方に保護されていて学校にいけない』と言ったのだ。

警察に保護されてる、と纓田から聞いた時は後々捜査で警察が来るのでは……と身構えたがココの警察に限ってそれはない。

ともあれ無事が確認出来れば学校側としてはどうでもいい。

 

「クソガキ共、学校内では問題を起こすなよ。俺のクビに関わるのだからな」

 

 

それにしても纓田には教師のセンスがない。

直近にも白咲中に籍だけ残し学びの場を外白咲に移した生徒がいる。

 

ただ単に奴が無能なのか……聞き分けがない生徒が多いのか……。

 

 

「ふっ、どちらだろうな」

 

 

笑いながら、煙を吐いた。

安定した老後を過ごすためにも不穏分子は教師、生徒関わらず注意しなければならない。

この町ではほぼ有り得ないが……マスコミに嗅ぎ付けられたら面倒なことになるのだから。

 

 

 

 

=====

 

 

 

「ねぇ、結子。優人ったら結局今日も来なかったね」

 

「そうね……」

 

 

暗くなった白咲中3年3組の教室で、学級委員長の滝島結子と窪田恵美は突然来なくなった同級生、瀬尾優人について話をしていた。

優人が登校しなくなってから早4日だ。

あの女好きの優人が、自分を待つ娘が多い学校を4日も休むなんて……どんな問題が起きたのだろう。

結子にとっては至極どうでもいいが、風の噂では学年問わず泣いてる女子もすくなくないらしい。

 

 

(あんなキザでナルシストでも待ってくれてる人はいるってわけね……あの子にはいないのに)

 

 

「なんかさ、誰かがウチらの担任に優人のことについて聞いたら詳しく言えないって言い返されたんだって」

 

 

「ハッ、なによそれ」

 

 

馬鹿にしたような調子で結子は言う。

「どう見ても何か知ってるわよねそれ。生徒である私達に言えないような大事に巻き込まれて戒厳令でも出てるのかしら?」

 

 

駄目だ関係ないのに自分の両親の姿が頭に浮かんでしまう。

 

外様にはヘラヘラ笑い、内では結子が規律を守らないと折檻する両親と優人が学校に来なくなった理由を言わない教師の姿が結子の中で繋がった。

 

 

 

 

体面を保つ為に大人は嘘を吐く。

 

 

 

なんて醜いんだろう。

 

 

 

 

 

「流石にそこまでは私も分からないけど……結子どうしたの?ちょっと怖いよ……」

 

 

「ごめんなさい怖がらせて。教師の対応聞いたらウチの親思いだしちゃってさ。……あの人達も言ってることやってることが違うから」

「親のことね……」

 

 

いつもの調子に戻ったのを見て、恵美は胸を撫で下ろした。

 

 

「今日もクラブに行くの?」

 

 

「うん。行かなきゃ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が……壊れちゃうよ」

 

 

 

 

 

(ゆ、う……こ……)

 

 

 

 

…………戦慄した。

結子の顔は笑ってるのに目は淀み全く生気を感じられない。

確実に彼女の精神は両親に蝕まれている……もし、もしも……ここで何か不吉な事が起き彼女の背中を悪い意味で押してしまったら……結子は……。

 

 

 

 

「やだ、何で泣いてるの恵美?」

「ごめん……!。ちょっと目に塵が……」

 

 

自分でも分からないうちに泣いてたようだ。

誤魔化すようにゴシゴシと目を擦る。

 

 

「そう。じゃあまた明日学校でね」

 

 

「うん」

 

 

戸を開け、結子は出ていく……。

 

 

 

「うぅぅぅ……!」

 

 

誰も居なくなった教室で恵美は一人涙した。

 

 

結子の今の状態は限りなく危うい……救いたいけど自分にそんな力はない。

そもそも彩菜すら、恵美は救うことが出来なかった。

結子と彩菜が決裂した際に……恵美もまた彼女と疎遠となったのだ。

 

 

 

いや、彩菜の他に疎遠となった人物はもう一人いた。

 

 

「どうすればいいの!?。私には……誰も救えないの?……また皆と仲良く笑うことは出来ないの!?」

 

 

少女の悲しみの叫びが黄昏の教室に響き渡った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新はのんびり待っていただければ幸いです。


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第14話 ぶつかり合う心


結子と恵美の話がメインですが他にも沢山キャラが出ます。


 

「先輩が白咲町に行ってもうすぐ一ヶ月近くになりますね」

 

「そうねぇ」

 

 

「居たら居たで煩いが居ないと居ないで静かなもんだ」

 

 

派出所の面々は両さん無き派出所で静かな日々を送っていた。

 

『えぶりでぃニュースの時間です。速報です。日本各地で旧日本軍の亡霊を見たとの目撃情報が相次いで続いており……』

 

 

「何!?」「そんな馬鹿な!?」「嘘!?」

 

信じられないと言った様子で中川はニュースの内容を検索すると……ズラリと目撃情報が出てきた。

 

「これって……!」

 

その画像に写し出された人物に中川は見覚えがあった。

 

「部長!麗子さん!この人、芋頭巡査ですよ!」

 

「え、この前東京に研修に来たあの人!?」

 

「どれ見せてみろ!」

 

中川のスマホを見ると確かに芋頭巡査の姿が写っていた。

 

『ある証言によるとこの亡霊の写真を撮った時に「やめてくれぇ魂を吸われる」等と発言したと言われており依然真相は不明のままです』

 

 

「……うむ。間違いなく芋頭巡査だ。そう言えば署長からそろそろ次の署からも送られるだろうと言ってたがまさか度井仲署だったとはなぁ……あいつらだけでも不安なのに更に頭が痛くなりそうだよ……」

 

「「部長……」」

 

 

大原部長は頭痛薬を飲みに居間の方に向かった。

 

 

「圭ちゃん白咲町は益々大変なことになりそうね……」

 

「はい、間違いありませんね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

………………

…………

……

 

 

 

 

 

 

 

「え~、コレガ真田幸村のちょんまげの法則であり……」

 

 

「ハァ……」

 

 

 

「東から太陽が昇れば西へ沈むというわけである」

 

 

塾での講習中、少女は溜め息をつく。

老いた講師の言うことも全く頭に入らない。

白咲中3年3組の生徒滝嶋結子は色んなプレッシャーに駆られ押し潰されそうになっていた。

 

いい成績を取らなかったり、遊んだりすると折檻する両親のこと。

 

 

 

その両親に隠れ年齢を偽り夜にクラブ『ムーン』なる場所に通ってること。

 

……最後に籍だけ白咲中に残し実質外白咲中に行ってしまった親友のこと。

 

 

 

クラブに通ってる時は楽しい『あの人達』と話せるからこれらの悩みも一時的に考えなくて済むが……学校、塾や家等では勢い付いて回る駒のようにこれらの思考に支配される。

 

 

 

(楽しい時は忘れられるなんて酒で上機嫌になるアル中みたい。)

 

 

ふと考え、窓に写る自分の顔を見つめ自虐的に笑った。

……今の自分はそんなアル中と何ら変わらない気がするのだ。

毎日両親に怯える日々は確実に自分の心をジワジワとゆっくり壊して来ている。

おまけに彩菜には酷い言葉を吐いて一方的に絶縁してしまった。

クラスの連中に虐められ苦しんでた彩菜はその日以来益々虐められるようになった。

 

 

 

 

 

 

……ふと過去の思い出が頭を過る。

 

 

 

 

 

 

 

『何泣いてるのよ……私が悪いみたいじゃない』

 

 

 

(……成績が良くても私は大馬鹿だ。)

 

 

 

『じゃあ友達辞めましょ!2度と話し掛けてこないでッ!!』

 

 

 

 

(何で私はこんな酷い事を言ってしまったの……。あの子は苦しんで私に助けを求めて来たのに。)

 

 

 

言うまでもなくその日以来彩菜の虐めは悪化の一途を辿った。

原因を作ったのは自分みたいなものだ。

 

 

 

「…な…ごめ……さ……」

 

蚊が飛ぶような声を漏らし、堪えきれなくなった結子は目を抑え静かに泣いた。

幸い席が一番後ろだったため彼女が泣いてることに気付く塾生はただ一人を除き誰もいなかった。

 

「結子……」

 

 

同じく一番後ろですぐ隣の席である恵美を除いて。

恵美は結子の背中を擦りながら彼女にハンカチを渡した……。

 

 

 

 

 

 

「それでは今日はここまで!。諸君!気を付けて帰るように!」

 

 

ありがとうございましたぁ!と元気な塾生達の声が響いた。

 

 

その中でも取り分け元気な「うぉぉぉぉぉ!」と言う雄叫びが上がる。

 

 

「脳に電撃が走るぜ!今なら脳内発電で電気を賄えそうだ!目指せ志望校!遺産が貰えるのは死亡後!」

 

「こら、落地田!騒がずゆっくり帰りなさい!」

 

「無理です!今俺の頭と身体は勉強に燃えています!正にストーブいらず!歩く火力発電!塾生の皆!大村先生さようなら!」

 

 

「……あぁ。さようなら。全くあやつは勉強馬鹿じゃな」

 

 

「あははは……。毎回のことですからね。難出君は……」

 

 

呆れて言う先生に恵美も苦笑いしながら相槌をうった。

難出 落地田(なんで おちた)、恵美や結子が通う塾のちょっとした有名人で勉強中や帰り気合いが入ると雄叫びを上げるクセがある。

今は大分マシになったが恵美と結子が塾に入りたての頃はもっと酷かった。

「分かったぜ!」と急に言ったり「俺の馬鹿野郎!」等と騒ぐからみな戦々恐々としていたものだ。

 

 

「全く煩い男だ……。何の因果か学校でも塾でもあいつと一緒のクラスになってしまうし僕呪われてるのか……?」

 

 

言いながらある男子生徒は耳栓を両耳から外した。

 

 

「浅野君も災難だね」

 

 

「全くだ。まぁ将来日本を背負って立つにはこれくらいのハンディキャップを乗り越えろって言う試練なのかも知れない。取り敢えず僕も帰るか」

 

 

「あ、うん。またね」

 

帰ろうとした浅野だが、ボソリと恵美に耳打ちした。

「滝嶋……この頃元気が無いようだが何かあったのか?」

 

 

浅野と恵美の目が泣き腫らした顔で悲しそうに外を見つめる結子を捕らえる。

右手に恵美から渡されたハンカチを握りしめ……。

 

「色々とね……。家や学校やクラスのことから結子いっぱいいっぱいなんだ」

 

「そうか。確かに以前彼女と話した時厳しい家柄と聞いたな。僕が言うのも何だが多感な時期だ。一人になりたくなる時もあるだろう」

 

 

だが。と浅野は付け加える。

 

 

「今を頑張らないとより良い人生を築けはしない。困難を乗り越えてこそ人の真価が試される。滝嶋は今その時期なのかもな」

 

「困難を乗り越えてこそ……か」

 

 

下を向き浅野の言った台詞を復唱する。

 

 

「窪田もその内分かるさ。じゃあな僕はこれで……大丈夫君らなら乗り越えられるさ」

 

 

「ありがとう!じゃあね!浅野君!」

 

 

後ろ姿越しに左手を挙げ浅野も教室を出ていった。

 

 

「いやはや全く浅野はしっかりしとるのう。流石浅野理事長の息子なだけはあるわい」

 

 

「浅野理事長って白咲ヶ丘中学校創設者の……。浅野君は理事長の息子さん何ですか?」

 

 

「左様。この塾でも浅野と落地田が全問正解100点満点のトップタイだが白咲ヶ丘中でもあやつらが並んでトップのようじゃな」

 

 

「すご」

 

 

白咲ヶ丘中は白咲町内で一番生徒の教育に力を入れてると言われてるがその噂は本当のようだ。

学区に寄って大まかに子供達が通う中学は別れているが白咲ヶ丘中の学区じゃない外白咲中や白咲中の学区の児童が遠距離になろうと白咲ヶ丘中に進むのも納得が行く。

 

 

形はどうであれ皆真剣に生きてるんだ、と実感した。

 

 

 

「ささ。教室を閉めるぞ。窪田と滝嶋も帰りなさい」

 

 

「あ、はい!。結子帰ろう!」

 

 

「……うん」

 

 

 

========

 

 

 

 

「星が綺麗だね~」

 

 

「……そうね」

 

 

どうも昨日のあの教室の時以降結子から元気を感じられない。

「言いたくないなら言わなくてもいいけど、さっきはどうして泣いたの?」

 

宥めるように優しい声音で恵美は訪ねた。

重く息を吐きながら結子はゆっくりと口を開く。

 

「……全てが嫌に感じたの。親のことも学校のことも塾の事もね。そして何より彩菜にキツく当たった自分が一番嫌になったこんな自分消えてしまえって」

 

「……結子。それ本気で言ってるの」

 

今まで聞いたことのない親友であり幼馴染みである彼女の豹変した声音に身体が固まる。

恐る恐る顔を覗くと恵美は怒った表情をしていた。

 

「当然よ!。彩菜には酷い言葉を吐いて!成績は上がらなくてっ……!親は厳しいし!私なんて生きてる意味ないのよ!」

 

 

パチンと結子の頬に痛みが走った。

 

「この馬鹿!」

 

ぶたれた、恵美に……。

 

「何すんのよ!」

 

「彩菜に謝りもしないで……一人で勝手に駄目だって決めつけて!あんた馬鹿何じゃないの!?もっと私を頼ってよ!」

 

「頼って解決するの!?。あんたに話せば急に事態が良くなるわけ?だったらなんぼでも話すわよ!…………でもそうならないからこうして苦しんでるんじゃない……」

 

膝を尽き結子はまた涙を流した。

 

 

「結子……」

 

30秒程静寂が二人を包む。

 

「恵美……」

 

 

静寂を先に破ったのは結子だった。

 

「私はね本来なら白咲ヶ丘中に行けって親に言われてたの」

「結子は頭がいいから当然だろうね」

 

「けど私は反対した。あなたと一緒の中学校に通いたかったから……あなたと一緒に楽しい思い出をいっぱい作りたかったから」

「私の為に……ありがとう。そしてごめんなさい結子……」

 

「本当よ。……って言うのは簡単だけど楽しかったよこんなことになるまで彩菜や美穂と一緒に遊んだりさ。辛かったいや、今でも辛いけど楽しい日々は確実に私の頭の中にあるもの」

 

胸に手を当て服をギュウと掴んだ。

 

 

「この日々は絶対に忘れない。例えこれからが辛くても」

 

 

「違うでしょ」

 

 

ポンと恵美が両肩を叩く。

 

「これからも楽しい日々にしてくよう頑張るんでしょ?」

 

 

「……ふふ、そうね」

 

 

これからの日々が楽しくなるなんて保証は何処にも無いが結子は不敵に笑った。

昔の結子のように。

 

(人生なんて計算付くでいけたら苦労しない。だから自分で楽しく過ごせるように変えてくんだわ)

 

 

「良かった、完全復活かな?」

 

 

「馬鹿ね7割にも充たないわよ。でもありがとう恵美。おかげで元気出た」

 

「本当にいい顔だよ結子」

 

 

カシャリとスマホの写真を取る音が鳴る。

 

「やったわねカメラマン志望者」

 

「志望はしてませ~ん」

 

あっかんべー、と可愛く恵美は舌を出した。

 

「まぁいいわ。ところで!あんた今日一発私のこと叩いんたんだから明日付き合ってもらうわよ」

 

「いいけど何処に?」

 

 

「ムーンよあんたも何回かいったことあるでしょう?」

 

「あー、あの結子がよくサボってるクラブね」

 

「サボってるゆうな!。英気を養ってると言ってほしいわね」

 

「いいよ。明日は勉強忘れて結子に付き合ったげる」

 

 

「ふん、いつも上の空のクセによく言うわ」

 

 

「なにをー!」

 

 

 

喧嘩を終え更に仲良くなった二人は駄弁りながら帰路に着いた。

 

 

 

 

 

その様子をとある一行が車の中から見つめていたとは知らずに…………。

 

 

 

「政、ネット社会の今でもああして拳で語り合う学生が居るんだな」

 

 

「へぇ、あっしもあんなに骨がある女子中学生達は始めて見ました。人間どんな時代になっても分からないもんです」

 

 

「ん!政、1句浮かんだ!」

 

 

「へい組長!」

 

 

「闇に潜み学生争うあーそーかい」

 

 

 

シーン……

 

 

「流石組長!……キレが違いますぜ。なぁ竜造!」

 

 

「ヘ、へぇ!政の兄貴!」

 

 

「うん。まだまだワシもナウいかな」

 

 

「そりゃあもうヤングキラーです組長は!」

 

 

「うん」

 

 

一句読み終えた御所河原組組長、御所河原金五郎之助佐ヱ門太郎を乗せた車は子分の政の運転で暗い白咲の街に消えていった。

 

 

 

 

 

また白咲町内の別の場所では……。

 

 

 

 

「此処等に両津巡査長殿が止まってる旅館があるはずなんだべが……」

 

 

旧日本軍の服装に身を包み三八式歩兵銃を肩に担いだ男が闊歩していた。

 






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