双子の姉と友達を守るためだったら無機物だって殺して見せる! (ねふてぃー)
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歯車は狂い始める
初めまして。刈夜です。ボクは俗に言う転生者というやつで、インフィニット・ストラトスの世界にある程度の特典を貰って転生しました。特典については後々わかると思うので今は割愛します。そんなことより、この世界でボクはとある家の長男になったようです。
「簪姉さん、一緒に遊ぼう‼」
「刈夜、ごめんね。今はちょっと忙しいんだ」
今のボクのセリフでわかるかもしれませんが、ボクは更織の家の長男になっています。ちなみに簪姉さんはボクの双子の姉なのです。
「……そう…なんだ」
「本当にごめんね」
簪姉さんは最近、遊んでくれない。隠しているつもりなんだろうけど、ボクにはわかる。簪姉さんはクラスメイト達に虐められているのだ。ボク達には隠しているつもりなんだろうけど、ボクにはわかる。ボクは簪姉さんが大好きだから。ずっと見てたし、困ったときは手を差し伸べた。困った顔が笑顔になったのを見ると、ボクも自然と笑みを浮かべる。それくらい簪姉さんが大好きだ。LoveなのかLikeなのかの区別はつかないけど、悲しんでいるならボクは元凶を滅ぼすだけだ。
「……簪姉さん。ちょっと、出かけてくるね。ボク、ちょっとイライラしてるんだ。ストレスの発散をしてくるよ」
「…あ、うん。気を付けてね」
「……ありがとう、簪姉さん。それだけでボクは頑張れるよ」
出かける時はいつも特定の服を着ている。これはある意味ボクの中の意識を変える物でもある。ボクは私に変り、誰かに誕生日に貰った指輪を左手の中指にはめる。
「簪姉さんを苦しめる馬鹿どもは…みーんな殺しちゃうからね」
自分が思う最大限に優し気な笑みを浮かべて、簪姉さんをいじめる者たちが集まるという公園に向かう。
公園に着いた。噴水やブランコがあるだけの公園の中央、ジャングルジムの上に一人の少年が立っている。あれこそが簪姉さんを虐めている筆頭であり、ジャングルジムの下にいる少年たちはその取り巻きである。それにしても人数が少ない、そんなことを思っているうちにジャングルジムの上に立つ少年が私の姿を見つけ、上から飛び降り、目の前に立つ。眉間にしわを寄せ、私を睨みつける。…その程度では全く怖くないというにも関わらずだ。
「……お前たちだな。簪姉さんを虐めているのは」
「あぁ?あー、お前は、更織の双子の弟だったっけ?おねーちゃんが虐められてるから助けようってわけか。ひゅーかっくいい。…でも、お前ひとりでこの人数相手に何が出来るっていうんだ?」
ジャングルジムの下にいた少年たちの他にも草むらからも数名の少年たちが出てくる。人数が少ないと思ったら、草むらに隠していたらしい。たかが数名増えた程度に私がやることは変わりない。…皆殺しだ。
「まずは一人目」
「…へ?…うあああああぁぁぁああぁ‼」
私の背後から襲おうとした少年の体に見える線を手でなぞる。はじかれそうになる手を無理やり押し付け、少年の一人を殺す。私の瞳は死を線と点として視認することが出来る。認識さえしてしまえばその線などをなぞってしまえばその存在は死ぬ。詳しい説明は次に使うときにでもするよ。今はちょっと忙しいからね。
一人の少年が何の抵抗もなく死んでいったことで、恐怖が体を支配したのだろうか。統率などが一切取れていないかのようにそれぞれが自分の本能のままに襲い掛かる。隠し持っていた金属バットや鉄パイプなんかを取り出し、殴り殺そうとする。が、それらが全て私の持つナイフによって切り裂かれ、消失する。
「全員、逃がさないから。簪姉さんを傷つけた罪は大きいぞ」
一人一人を処理していくのは時間がかかると知っているため、三人単位で切り殺していく。腕を斬り、足を斬り、腹を斬り、首を斬る。時に金属バットで殴りかかってくる者もいるが、金属バットを解体した後、解体する。
気が付けば、私の周りは血の海へとなっていた。やりすぎたとは全く思わない。むしろこれくらいのことしかできなかったことが残念で仕方がない。
「さて、死体の処理もしないとね。よろしくね、みんな」
――――――あー、たまには俺達も遊びたいんだけどな。そこら辺をきちんと考えてくれよ、刈夜。
「あぁ、分かってるって。もう少ししたら、たくさん遊べるようになるから。ま、女尊男卑の女に絡まれたら容赦なく呼んであげるからさ」
――――――(ノ・ω・)ノオオオォォォ
――――――その時を楽しみに待つとするよ。それじゃあ、帰るとするよ。じゃあね。
ボクが死体処理を頼んだ彼らは俗に言う悪魔と呼ばれる存在。ボクの誕生の時に机の上に上がっていた指輪から呼び出した。確かソロモンの指輪って手紙には書かれていたような気がする。誰からの手紙かは全く覚えていないけど、貰ったその日から処理をしに行くときはいつもつけるようにしている。普段はネックレスのようにしている。
「さて、もうそろそろ帰らないとね。簪姉さんも心配しているかもしれないし…刀奈姉も監視していることだしね」
来た道よりも軽い足取りで家へと帰る。背後でボクを見る刀奈姉は気にしない。そんなことよりも簪姉さんの方が大切なんだから。
「あー、早く。一分でも一秒でも早く家に帰って、簪姉さんと一緒に居たい。ボクから簪姉さんを奪う者、簪姉さんを悲しませるものは…家族でも殺す」
絶対の想いを心に秘め、家に帰る足を速めるのだった。
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認められたい想いは気づかれない
小学校を卒業し、中学生になっていた。刀奈姉は楯無の名を受け継ぎ、インフィニット・ストラトスのロシアの国家代表にまでなっていたらしい。らしいというのも、そもそも興味がなかった為、就任していたことにも気が付かなかった。今のボクには簪姉さん以外にも大切だと思える人が出来た。簪姉さんの友達の本音姉さん。ボクと同じ年齢で、のほほんとしているけど、なぜかボクは姉さんと呼んでいた。実際に姉弟ではないけど、姉さんって呼んでも悪くはないよね。
「……簪姉さん、本音姉さん。一緒に遊ぼう‼」
「…うん、たまには一緒に遊ぼう」
「うんうん、一緒にあそぼー」
ボクとは別のクラスである簪姉さんと本音姉さんの下に行くと、放課後に遊ぼうと誘う。もはや日常になっている光景に気にする様子を見せない簪姉さんたちのクラスメイト達。中にはボクに殺意の籠った視線を向けるモノもいるが、そのモノたちにのみ、殺意を向ける。…気絶したね。ザマーミロ。
放課後になると、急いで帰りの支度をし、簪姉さんたちがいる教室へと向かう。一緒に遊ぶことはなくても、一緒に帰ってくれるはずの二人は教室にはいなかった。それどころか、ボクに殺意を向けていた男たちの姿もない。
「……ねぇ、簪姉さんたちを知らない」
「し、知らないよ」
近くできょろきょろとしている男子生徒に話しかける。ボクの質問に体をびくつかせ、質問に答える。返答するときに目を合わせないところを見ると嘘をついているのはすぐにわかる。…簪姉さんたちが危ない‼
「分かった。簪姉さんたち関係の話で嘘をついたお前も死刑な。今日の帰り道は気を付けることだね」
そう一言告げると誰もいない校舎裏に向かう。本来であればこんなことで使いたくはなかったけど、仕方がない。
「我が呼び出す。我が願いに耳を傾け、我がもとに姿を現せ」
―――――呼び出しに応じて、参上しました。我が名はチャミュエル。大天使チャミュエル。今回の目的は既に知りえております。ついでに言うのであれば、既に簪様たちは見つけております。
「あぁ、助かった。我に道をしるし、我を彼女らの下へと届けよ」
――――――仰せのままに。我が、主様。
指輪の中に戻ったチャミュエルは指輪から光が放たれ、ボクの行くべき道を知らせてくれる。指を一度鳴らし、意識を切り替える。
――――――頼んだよ、
――――――わかってるさ、
指輪を左手の中指に付け替える。いつも使っているナイフではなく、神様がくれた一振の刀と一本の短剣を腰に差す。これが特典の一つ目。私に特典をくれた神様は、これを
指輪に導かれるがままに歩いていくと、体育館倉庫に着いた。誘拐や監禁というものは、どうしてこんな場所によって連れてくるのか、私には理解できない。だか、簪姉さんと本音姉さんを拉致した罪は重い。
ドアを勢いよく開ける。案の定そこには簪姉さんと本音姉さん、そして彼にとって殺意を向けていた男たちの姿があった。一つだけ違う点を述べるのであれば、簪姉さんたちの服が破かれていたことだろう。
「…刈夜、逃げて!!」
簪姉さんのその言葉を聴くとともに、私の中で何かが弾け飛んでいったのだった。人前では決して使わない、彼らを呼び出す。
「二人は目を閉じていて下さいね。私達は貴女達にだけは嫌われたくないので」
「…刈夜、口調が、変」
「取りあえず目を閉じていて下さい」
二人が目を閉じたのを確認すると”眼”を開く。視界を埋め尽くす死が現れる。短剣を右手で逆手に持ち、刀を左手に持ち、自然体に戻る。
「ふ、ふん。こけおどしなんかに驚かねえよ!俺達にはこれがあるんだからな‼」
名前も知らないクラスメイトの少年が懐から三枚の紙を取り出す。魔法陣のようなものが掛かれたその紙は発光を始め、床にも同じような魔法陣が現れる。紙が消えると同時に、魔法陣から人が出現する。紅い髪をした女性と赤い籠手を着けた茶髪の青年、剣を腰に携えた金髪の青年だった。
「世界を超えて召喚されましたか。…悪魔、ですか。こうしてみると、本当に非現実的なことなのがよくわかります。…ここに簪姉さんたちを居させるのは危険ですね。告げる。我の呼びかけに応じ、姿を現せ」
――――――私はザフキエル。神の番人を務めるモノです。
「簪姉さんたちを家まで頼んだ」
――――――わかりました。任せてください。
ザフキエルは服の破かれた簪姉さんたちをつれ、どこかへと向かった。きっと今頃家まで運んでくれているに違いない。
「えーっと、あなたたちが私たちを呼んだのよね?私たちに何を願うのかしら?」
「あぁ、あの男を殺せ」
「分かったわ。先に対価を貰うわね。あなたに貰う対価は髪の毛全て。いいわね」
「あぁ」
「契約成立よ」
少年の髪が全て抜け落ちる。契約が成功したらしく、紅い髪をした悪魔と赤い籠手の青年と金髪の青年が襲い掛かる。
「……折角使おうと思ったけど、彼らも使ってあげないと可哀想だよ。両義、悪魔には悪魔をぶつけるのが一番だよね」
「人間を殺した方が楽なのは確か。悪魔には悪魔…悪くはないね」
「何をぶつぶつと言っているのかしら」
紅い髪の悪魔は私達の呟きに不審な視線を向ける。
「よろしくね、みんな」
――――――(ノ・ω・)ノオオオォォォ
――――――ようやく、我らが出番か。
――――――最初の殺しが
三体の悪魔たちが同族に向かっていく。その隙に私は簪姉さんたちを襲ったゴミの下へと歩く。私が一歩近づくごとに彼らは一歩下がる。なん歩か下がり、もう下がれないことを知ると、地面に座った。
「
鞘は消え、真っ黒な刀身が姿を現す。短剣を一人の少年の体の中心にある点に投げつけると同時に、二人の少年の下へと走り出す。四肢や首と言った場所に存在する線を刀で切り裂く。終えると同時に三人は崩れ落ちたのだった。
「……ありがとね、
「いつでも呼んでね、
意識をボクの方へと戻し、悪魔たちの方を見る。すると案の定、紅い髪の悪魔たちは彼らにやられていた。死体となった今でも殴り続ける彼ら…とても楽しそうだよ。
「……ほら、もう帰るよ」
――――――(´・ω・`)ショボーン
――――――もう少し殴りたかったけど、ま、いいだろう。
――――――楽しかった!
指輪の中に戻る彼らを見届けると、家に帰る。帰ると同時に涙を流しながら突撃してくれる簪姉さんたちが可愛いと思ったのはボクだけの秘密にしようかな。
ボクの本当の想いは誰にも気が付かれない。気づいてもらえると嬉しいけど、きっと、誰も気が付かない。言って鬱陶しいと思われる方が、ボクは悲しいから。
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一つのコアとの出会い
中学ももう三年生になり、簪姉さんは日本の代表候補生になっていた。楯無様はロシアの国家代表になり、今はIS学園に行っている。いろいろと忙しい簪姉さんとは最近遊ぶことが出来ていない。それがたまらなく寂しく感じ、代わりとばかりに本音姉さんと遊ぶことが多くなっていた。
「ねー、刈夜君。最近、かんちゃんと遊べなくて寂しそうだよねー」
「……寂しい。本音姉さんと遊ぶのも楽しいけど、また、三人で遊びたい」
「でも、かんちゃんは日本の代表候補生になっちゃったからねー。そうだ!この機会に姉離れに挑戦してみるのってどうかな~」
「……姉…離れ?」
「そうそう。かんちゃんと遊ぶ機会が減ってるし、少しはかんちゃんに依存するのは抑えようよ~」
本音姉さんの言葉はボクの心を抉っていく。小さい頃も言った気がするけど、ボクは簪姉さんが好き。未だに姉として好きなのか、異性として好きなのかはわかっていない。わからないままの方がいいかもしれないと思い始めている。最近は簪姉さんと遊ぶ機会も減り、心の中はいろいろとすり減ってきているような気さえもする。袖があまる長袖の服を着ているため気が付かれることはないが、ボクの左腕はリストカットやアームカットにより、ボロボロにまでなっていた。
本音姉さんがボクのためを思って姉離れをさせようという気持ちはわかっている。姉離れをできる期間はこの時しかないということも。でも、ボクの心に余裕がない今、無理にそれをやろうとしてもだめかもしれない。…というよりは、心が簪姉さんと本音姉さんから離れることを拒絶している。
「…………うん、ゆっくり考えてくるね。ちょっと公園に行ってくる」
「そう?そんなに難しく考えない方がいいと思うよ~」
「……うん、それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい~」
いつもとは違い、指輪を右手の中指につけたまま短刀を腰に差し公園へと向かう。家から出るときに本音姉さんの「私もついていこうかな~」という声が聞こえてきたが、気にする必要はないかもしれない。
いつもの公園に着き、誰もいない廃れた神社がある方へと向かう。だいぶ前から使われていないようで、既に外見はボロボロになっている。腰に差している短剣を右手に持つと左の袖を捲る。何度も浅く刃物で斬ったような傷が腕中に存在していた。まだ傷のない部分に、短剣を突き立てる。左腕は既に痛みを感じない。肉を断つ感覚が心の中に安心を作る。
「……あぁ、最高に気持ちいい。でも、ちょっと物足りない。…あ、そうか」
左肩を服から出すと、短剣を突き立てる。腕と同じように痛みは一切ない。ただ、肉を断つ感覚が、心の中に安心を生む。簪姉さんと一緒に居る時とは違った安心が心の中に生まれる。ボクは根っからの殺人鬼なのかもしれないね。
肩を胴体から分ける。血が服を汚し、地面を容赦なく汚していく。しかし、心の中には先ほどまでなかった安心感がある。これならきっと姉離れもできるかもしれない。少なくとも今日だけは姉離れが出来る。
「……ボクの様子を見ている本音姉さんにも悪いし、早めに家に帰ろうかな」
――――――その腕って俺たちが貰っていいのか。
「うん、何時もキミ達にはお世話になっているからね。たまにはボクの方からプレゼントをさせてもらうよ」
―――――(人''▽`)ありがとう☆
―――――久しぶりの血肉だぜェェェ。
地面に落ちた左腕を空中に投げると、指輪から無数の腕が左腕を掴み、指輪の中に引きずり込む。ぐちゃぐちゃと肉を貪り、骨を齧る音が指輪から聞こえてくる。彼らが嬉しそうにしているならボクも嬉しい。
服を着直し、家に帰る。公園から出ようとするとき、頭の中にボクでも両義でもない別の人の声が聞こえてきた。
――――――ますたぁ、私を見つけてくださいね。
声の強くなる方向に歩いていくと、そこには虹色に輝く宝玉のようなものがあった。それがボクに声をかけているようだった。手に持つと、意識がどこかへと引っ張られていく。紅い地面に、桃色の桜が咲き誇る場所、そんなところにボクはいた。見たことのない幻想的な世界に目を奪われていると、背後から頭の中に聞こえてくる声と同じ声が欠けられる。
「ますたぁ、私を見つけてくれましたね」
「……キミのいる方向に行くと、声が強くなっていたから」
「嬉しいですわ、
緑髪の幼い白拍子風の格好に竜の角が生えた少女は自らをそう名乗る。
「私、気が付けばこの世界にいました。この場所で外の世界を眺めているとき、あなたが私の視界に入り込んできましたわ。多分、私、ますたぁに一目惚れをしてしまいましたわ。ですからますたぁ。私はあなたの物になりますね」
話を聞く限り、清姫は気が付くとISのコアの中にいたらしい。コアの中から外の世界を見ていると、ボクが清姫の視界にいたらしい。一目惚れしたからボクのコアになるとのことだった。そのままだね。
しかし、世界の認識としてインフィニット・ストラトスという代物は男性には使えない。それが常識であり、当然のことだった。未だに男性操縦者が出てこないのはISのコアにも人間と同じように人格が存在し、男性が乗ることを拒絶しているからというのがボクの考えだったりする。
「折角ですので、今、ここで私と一つになりませんか」
「……どういうこと?」
「旦那様はつい先ほど左腕を失いましたよね。私を左腕の付け根に埋め込んでください。私が左腕の代わりになりますわ」
意識が現実に戻る。あの世界で清姫に言われた通り、先ほど切った肩の付け根にコアを埋め込んでいく。清姫の艶やかな声が聞こえてくるが無視し、埋め終える。腕が出ろと思うと、半透明の腕が肩の付け根から出てくる。思った通りに動くのはどういう仕組みなのだろうか。
「……でも、ま、これでたくさんの人が殺せるよね」
――――――刈夜、発想がただの殺人鬼になっているよ。
「……簪姉さんと一緒に居られないんだから、忘れられるように別のことをしないと。心を安心できるのは肉を断つ感覚だけだよ」
――――――簪姉さんと一緒に居られないのは寂しいのも事実だからね。…うん、私も一緒に殺そうっと。いいよね?
「……もちろん。両義も清姫も一緒だよ」
明日からのことを考えながらも、家に帰ると本音姉さんがボクをみると泣き出す。ボクが腕を切り落とした瞬間を見ると、家に帰ってしまったらしい。…よかった、明日からボクがやることについては何も聞いていないらしい。
「……安心してよ、本音姉さん。頑張って、姉離れをするから」
「そんなに死んだ目で言われても、安心できないよ!無理して姉離れをしなくてもいいから、ね?。自傷行為はやめよう?」
「……大丈夫、もう自傷行為なんてしないから」
「安心できないよ!」
ボクは清姫が嫌う嘘をつく。体中を焼き尽くそうと内部から炎を噴き出すが、彼らがボクの心を冷やしていく。大丈夫。熱くない。清姫がボクを焼き殺そうとしても、二人のためになら平気で嘘をつく。二人が安心するなら、ボクの体が燃えても、嘘をつく。
大丈夫。ボクはこの世界にいてはいけない人間だ。ボク一人がいない程度で世界に変化などは訪れない。でも、ボクの命が消えるその瞬間まで、ボクは二人を守るために嘘をつき続ける。
――――――たとえ、この体が焼き尽くされたとしても。
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家出をした少年
俺は家出をした。唐突に言って悪いとは思っているけど、俺は家にいることが耐えられないと思うほど、心が疲れていた。優秀な姉と兄、いい成績をとったとしても姉たちがそうであったため、それが当然だと流される。剣道にしてもそうだった。姉は三日で師範を超え、兄も十日で師範と同じ領域にまで届いた。兄と同時期に始めたが、いつまでもその領域に届くことなどはできなかった。
家事もできない兄と姉の代わりに、俺が家事をする。料理本を見ながら料理を作っていたが、最初は分量のミスなどでおいしい料理を作ることが出来なかった。それでも、姉たちから一つでも勝てるものがほしくて必死に家事に取り組んだ。いつしかおいしい料理が作れるようになっていた。兄と姉にそれを出した時があった。三人分作ったはずなのに、俺の分すらも二人は食べた。それだけではない。二人が料理を食べているとき、俺は外に出されていた。
と、こんなこともあり、俺は家出をした。何処に行くかあてもなく、唯一心の癒しをくれたあの人はどこにいるかわからない。あの人の妹はダメだ。兄にぞっこん?で俺にはすぐに竹刀で殴りかかる。手加減を知らないあの妹は俺の腕をへし折ったとしても謝るということをしないだろう。もう、この生活は嫌だ。
ぐぅぅぅぅぅ。あぁ、お腹がすいた。動くこともままならない状態になってきた。
「そういえば…ここ最近、まともに食事をとったことがなかったっけ。一週間のうちに…食事は三回くらいだっけ?」
ふらふらになりながらも、どこかの公園に着く。水道で水を飲み、胃を水でいっぱいにする。何も食べないよりはマシだろうと思いながらも、水を飲む。
「水分補給もできたし、ちょっとそこまで歩いていくとしようかな」
確か、この公園には廃れた神社があったような気がした。そこまでちょっと歩いていこうかなという軽い気持ちでその場所に向かった。…それはある意味間違いだったのかもしれないし、正解だったのかもしれない。
目的の神社に着く寸前、近くの木に誰かがいた。…確か、あれはクラスメイトの布仏本音さんだった気がする。兄が狙っているとか何だった気がするけど、そもそも興味がなかった為、人の名前すらもまともに覚えていなかった。あんなクラスメイトもいたよなーという軽い気持ちで、その人の視線の先を見る。するとそこには、
『短刀で自分の左肩を切断する更識刈夜の姿』
があった。学校では無表情で、何時も楽しくなさそうにしている更識刈夜が、歪な笑みを浮かべ楽しそうに鼻歌を歌っていた。学校とのギャップが大きすぎて、思わず倒れそうになる。布仏本音はどうしているかとちらりと目を向けると、倒れていた。グロに耐性がなかったのだろう。それにしても、更識刈夜のどこまでも蒼いあの目、まるで俺の眼のようだった。
「…布仏を家に送り届けるついでに、ちょっと料理を作らせてもらえないだろうか」
布仏を背負い、家へと向かう。住所だけは以前に配布された全員の住所が書かれた紙で覚えているため、問題はない。一つ問題を挙げるとするのであれば、俺、いきなり殴られたりとかしないだろうか。ISという代物が出てから、学校も日常生活も女尊男卑に染まり、ISを使っていない女たちも男をこき使うようになった。幸い学校では更識刈夜という存在のおかげでそれは起こっていない。
「それにしても…軽すぎるだろ。本当に食事してるのか?…あ、俺が言えることじゃねえな」
カラカラと笑いながらも、目的地に着く。広い屋敷の手前には門があり、和風建築に似合わないインターホンが設置されていた。一度インターホンを押すと、女性の声が聞こえてくる。
『どちら様でしょうか?』
「あ、織斑一夏です。公園で気絶していた布仏本音さんを届けに参りました」
インターホンの向こうからガタッという音が聞こえてくる。何かまずいことでも言ったのだろうか?そんなことを考えていると屋敷と外の世界を隔てる門が開き、一人の女性が出てくる。見慣れない制服をきた人が俺の背負う布仏を持つ。よく見てみれば、どこか布仏と似ているような気がする。…姉か何かなのだろうか。
「ここまで本音を運んできてくれてありがとうございます。折角ですし、お茶でもいかがですか?」
「あ、ありがとうございます」
その人の言葉に甘え、家に入る。無数にある部屋の一室に案内され、座る。音もなく消えたと思ったその人は、いつの間にかお茶と和菓子を持ち、部屋の中にいた。ジャパニーズニンジャ‼と叫びそうになった俺は悪くないと思う。
カタリと湯呑と和菓子の乗った皿が目の前に置かれ、俺と反対の場所にはその人が座った。
「毒なんか入っていませんよ」
「そ、それじゃあ、いただきます」
久しぶりの食べ物ということもありがっつきたいという気持ちがあるが、どうにかこうにか抑え、ゆっくりと味わうようにして食べる。本当に久しぶりに食べるため、一生懸命噛み、お茶をごくりと飲む。気が付けば、目の前にはお茶も和菓子もなくなっていた。
「す、すみません。一人で食べてしまって」
「いえ、気にしないでください。私も誰かにおいしそうに食べてもらえてうれしいです」
「そ、そうですか。…いつまでもここにいるのは失礼ですよね。ここで、失礼させていただきます」
久しぶりに栄養補給もできたし。その言葉を飲み込み、更識家を後にしようとすると、突然腕を掴まれる。何事かと思い腕をつかんだ相手を確認すると、先ほどまで目の前で座って話していたその人だった。突然腕を掴まれたことにも驚いたが、それ以上に振りほどけないことにも驚いていた。…きっと表情は変わっていないだろうけどね。
「どうしたんですか?長い時間お邪魔するのも悪いので、家に帰りたいのですが」
「嘘ですね。あなた、家出でもしたのでしょう。そんなボロボロな体で何処に行くつもりなのですか?」
「どこでもいいでしょう?あなたには関係がないでしょう?」
眼を開き、わずかに力を解放しようとするとき、更識刈夜が返ってきたらしい。今まで倒れていた布仏本音が涙を流しながら、抱き着きに行く。あーあ、完全にこの場所を出ていくタイミングを逃したな。そんなことを思いながら、意識が薄れていくのだった。
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魔眼持ちの二人
…あ、課題をやらないと。それでは、、ゆっくりとみて行ってください。
本音姉さんを宥め続けること数分、落ち着いたのか眠り始めた。起こさないように気を付けながらも抱っこし、部屋に寝かせるととあることに気が付く。本音姉さんの姉が誰かを看病していた。確か、クラスメイトの織斑一夏だったかな。でも、大体のことを察することが出来る。初めて会った頃と比べると、やつれてしまっている。世界最強の姉とゴミの兄に疲れて家出をしたのだろう。…こんなにやつれているところを見ると、まともに食事をとることもできていないんだろうね。
「おかえりなさいませ、刈夜様」
「……うん、こいつはボクに任せて。ゆっくりと休んでていいよ」
「…はい、失礼します」
引き下がる虚を横目に、横になる織斑一夏の額に左手を乗せる。
「清姫、ISのエネルギーを少しだけ分けてあげて」
『はい、分かりましたわ』
半透明の左腕を通して、織斑にわずかばかりのISのエネルギーを分け与える。人間に与えても大丈夫なのかというあれはあるだろうが、エネルギーを人間でも摂取出来る形に変えてから送っているため、問題はない。
数分もする頃には、やつれた顔も前のように戻り目を覚ました。
「あれ、俺はなんでここにいるんだ?」
「……気が付いたんだね、織斑一夏」
「あぁ、更識刈夜か。悪いな、倒れたりなんかして」
「……気にしなくてもいい。そんなに食事をしていなければ倒れるのも無理はない。それに家出をしたそうじゃないか。折角だし、暫くの間、うちにいるといいよ」
ありがとう。そう礼を言う織斑一夏をおぶり風呂に入れる。さすがに汚かったので何も言わずに突っ込んだ。唐突に行ったため、変な顔をしたまま水に沈む。
「ブハッ…いきなり何をするんだよ!」
「……臭かったから、つい」
「ついじゃねえ!鼻に水が入って痛いじゃないか‼」
「……ザマア」
「学校とキャラが違いすぎるだろ!」
ごちゃごちゃと何かを言う織斑はびしょびしょになった服を脱ぎ、ゆっくりと風呂につかる。…って、ボクは一体何を見せられているのだろう。そんなことを考えていると、浴室の扉の方から簪姉さんと本音姉さんの声が聞こえてくる。
「…刈夜、一緒にお風呂に入ってもいい?」
「私もいるよ!」
ちらりと織斑の方を見ると、顔を真っ赤にして俯いている。…同学年の女性に耐性がないのか?そんな織斑の様子を見て、一言呟く。
「……ボク以外にも織斑がいるけど、気にしないなら一緒に入ってもいいよ」
「私は気にしないよ!」
「…刈夜も一緒だから、気にしない」
「ちょっとくらいは気にしろよ!」
叫ぶ織斑の声は届くことがなく、浴室の扉は開く。そこには眼鏡をはずし、体をバスタオルで隠す簪姉さんと狐のマスコットのような形の水着をきた本音姉さんがそこにはいた。さて、ここで現在の浴室の状況を確認してみよう。
織斑…全裸。浴槽に入っているため、首から上しか見えない。頭の上にはタオルが載っている。
簪姉さん…バスタオルで体を隠すも、裸体。顔を赤らめながらも、楽しそうにしている。
本音姉さん…狐のマスコットのような水着の着用。
ボク…ダボダボの長袖に制服のズボン。浴槽の縁に腰を掛け、織斑と会話中。
「「…裏切られた!」」
「仲いいな、オイ」
「……ま、これが二人だからね。ボクの大好きな二人だよ」
「まさかのシスコンか。いや、意外でもないか。三人以外全員が知っていることだしな」
地面に蹲る二人の姉。…一体何がそんなことをさせる原因になったのだろうか。両義に聞いても分からないといい、清姫はふてくされているため話を聞くことが出来ない。左肩に埋め込まれているコアを撫でると、満面の笑みに変わる。
「……織斑、なんで二人は落ち込んでいるの?」
「きっと、更識が風呂に入っていないからじゃないか。あと、俺のことは一夏って呼んでくれ。もう一人織斑はいるからな」
「……そう。それじゃあ、ボクのことも刈夜で構わない。簪姉さんも更識だからね」
今思えば、家族以外を名前で呼ぶなんて初めてかもしれない。…あれ?ボクってまともに友達って言える存在がいない…。あれ、おかしいな。そう考えると、目から水分があふれ出すような気がするよ。でも、簪姉さんたちがいればほかに何もいらないような気もするし…気にする必要はないね。
「……簪、ボクも一緒にお風呂に入ってほしい?」
「…うん」
「……それじゃあ、ボクにお願いをしてみてよ。お風呂に入ってほしいって」
「…え……」
きっと今のボクは意地の悪そうな顔をしているんだろうね。わずかに引いたような顔をしている本音姉さんと一夏。反対にわずかに顔を赤らめる簪姉さん。…うん、可愛すぎる。思わず抱きしめたくなっちゃうくらい可愛い。やっぱり簪姉さん、大好きだな。
「なあ、布仏。あいつって、ドSだったのか?」
「刈夜君が好意を持っている人に対してはドSなときはあるよ~。でも、かんちゃんには一番多いね。私に二日に一度あるとするのであれば、かんちゃんには一日に半日に一度くらいだね」
「あぁ、それで好意の度合いがわかるんだな。やっぱり双子の姉の方がいいんだな」
「それに、ドSの時は私達のことも呼び捨てにしてくれるからうれしいんだよね~」
本音と一夏は今のボクについて話しているようだった。顔をにへらとゆがめて嬉しそうに話すのは本音。わずかに口元を引きつらせ、ボクを見るのは一夏。
「……さて、簪。どうする?ボクは別にこの格好のまま話し続けるのもいいとは思うんだけどね。簪は嫌でしょう?」
「…うん。だからね、一緒にお風呂に入ってください///」
「……しょうがないな。それじゃあ、少し目を瞑っていてね」
「…うん!」
目を瞑る簪姉さん。本音姉さんはそのまま一夏と話し続けているようなので気にせずに服を脱ぐ。…あ、そういえば左肩を切断して初めてのお風呂だったね。そもそも腕を斬ったのは今日の話だったし、初めてなのは当たり前か。
「……清姫、腕、お願い」
『分かりましたわ、旦那様ぁ』
半透明の腕を人工皮膚で覆う。腕の感覚を確かめる。うん、今まで通りの腕だ。ISのエネルギーで作った腕には思えない。服を脱ぎ終え、浴槽につかる。…相変わらず筋肉が付きにくいな。
「……簪姉さん、目を開けてもいいよ」
「…うん、久しぶりに刈夜とのお風呂だー!」
「なんか、キャラ崩壊してないか?」
「デフォだよ」
抱き着く簪姉さんの頭を膝に乗せ、頭をなでる。気持ちよさそうに目を細める簪姉さんはまるで猫のようだった。しばらく撫でていると簪姉さんは眠り始めた。
「気持ちよさそうに寝ているな」
「……本音姉さんも一夏の膝で気持ちよさそうに寝てるじゃん。一日で相当仲良くなれたんだね」
「ま、名前で呼ぶくらいには仲良くなったよ」
一夏の膝の上でスヤスヤと眠る本音姉さん。ふと、思い出したかのように一夏に質問する。
「……ねぇ、一夏。キミの眼を見せてくれないかな?ボクもキミと同じように眼を持っているんだ。…わかるだろう?」
「まあな。本音が気絶していた公園で刈夜の眼を見た時、なんかがピーンと来たんだよな。同じように眼を持っていることを感じただけなんだけどさ。…で、俺の眼なんだが、制御が苦手でな。一度解放すると手当たり次第に石化させていくんだよ」
「……石化の魔眼か。すごいものを持っているんだな。それで、どうやって普段は隠しているんだ?」
「普段は視界のチャンネルを変えているんだ。だから、激怒しない限り勝手に発動することはないんだ。ま、ふとした拍子に出てくる時があるから困るんだけどな」
「…そんなキミにこれをあげるよ」
紅い色をしたバイザーを一夏に投げ渡す。
「これは?」
「……それは一夏の石化の魔眼を封じ込める『
「お、早速つけてみるよ。…うん、見えるね」
「……それはよかったよ。それじゃ、もうそろそろ上がろうか。このままここで寝かせるのも悪いしね」
「それもそうだな」
簪姉さんをタオルに包みお姫様抱っこをする。きちんと体をふき、服を着せると再びお姫様抱っこをして運ぶ。…浴室に一夏を放置して。
数分後、恥ずかしそうに顔を赤らめる一夏の姿があった。…なぜか、今後の生活が楽しくなるような感覚に襲われた。
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世界初の男性操縦者
ま、過ぎたことはあきらめましょう。次から原作に入って行きたいと思います。…いやー、深夜のテンションってやばいですよね。それでは、ゆっくりとみて行ってください。
高校の試験を受け終わった今日、世界で初めて、ISの男性操縦者が見つかった。藍越学園を受験しようとしたところ、道に迷い、適当に入った部屋に置いてあった訓練機『
「……一夏、世界初の男性操縦者だって」
「俺達も使うだけなら使えるんだよな。…なぁ、メデューサ」
『そうですね』
ボクと同じように公園に落ちていたというコアを拾った一夏。ISのコア名はメデューサというらしく、現在は指輪の形をしている。右の中指につけている。ISとしても展開することが出来るらしいが、全身装甲らしく、fgoに出てくるランサーのメデューサの姿をしている。ちなみにボクは清姫の姿をしている。武装は
「……清姫、もしIS学園に行ったとして、ボクが死ぬまでずっと力を貸してくれる?」
『もちろんです、私の
「メデューサ、力を貸してくれる?」
『仕方がありません。私もマスターには弱いですからね』
ボク達はきっと、明日の試験でISを動かすだろう。それゆえに、IS学園には必ず入学することになる。それはISのコアを使用することが出来る一夏も同じである。彼の兄である『
一夏の兄である織斑春人は転生者である。ボクと同じ神様によって、ボクよりも早く転生させてもらったらしい。そのおかげか、神様に彼の貰った特典の内容を聞かせてもらうことができた。彼の傲慢な態度が気にくわなかったらしい。他にも数名の転生者とは違って彼のだけは教えてもらうことが出来た。三つの特典を貰い、一つは『ISを操縦できる』こと。一つは『専用IS白式を自分の物にする』こと。最後は人外的スペックとのことだったらしい。正直、そんなにISに関わる特典が必要なのか疑問に思う。
あぁ、折角だし、ボクの貰った三つの特典について話そうか。今までは別に必要ないと思っていたから全く触れてなかったね。一つ目は『
「……さて、一夏。このまま家に帰るのもつまらないし、ちょっと遊ぼうか?」
「刈夜の遊ぶって、本当に疲れるんだよな。…ま、久しぶりに体を動かすのも悪くないしな」
一夏は不満を垂らしながら、紅い槍を手に持つ。ボクも同じように紅い槍を手に持つ。槍は得意ではないけど、扱えないわけではないからね。
「……ちょっと遊ぶだけだから、ちょっと本気を出すよ」
「マジかよ。俺も本気で行かないとやばいな」
槍を投合するために持ち方を変え、数十メートルほど距離をとる。それは一夏も同じようなことをしていた。
ボクらの動きは止まり、相手の動きをうかがう。…時が止まったかのように静止を続けるボク達の耳に、鳥の羽ばたく音が聞こえた。その瞬間、
「……
「
相手を粉砕すべく脳にかけられているリミッターを一時的に外し、全力で投げるボク。対して、魔槍を蹴り飛ばす一夏。それらはぶつかり合うと、はじけ飛ぶ。地面は抉れ、海は裂ける。…ちょっとやりすぎた気もするけど、別にいいよね。
「……ちょっと本気でやりすぎたかな」
「刈夜、体は大切に。私の物でもあるからね」
「……うん、ごめん」
久しぶりにリミッターを解除したことで体の節々に痛みを感じていた。そのとき、昼にはあまり出てくることのない両義がボクを心配してくれた。…ほんと、珍しいこともある物だね。
「今日は久しぶりに狩るから」
「……都市伝説になってるんだから、程々にね」
「善処する」
それだけを言い終えると両義は意識の底へと戻っていった。今日の夜は久しぶりに気持ちが高ぶって仕方がないんだろうね。…そういえば、清姫と一緒に行くのは初めてだったね。一夏とあったあの日以来、殺人衝動もある程度収まっていたけど…久しぶりに昂ってきたよ。
「……さて、一夏。立てる?」
「当然、ま、さすがに疲れたけどな」
「……今日はゆっくりと眠るといいよ。ボクはちょっと久しぶりに遊びに行くから」
疲れて地面に座っている一夏に持っていたスポーツドリンクを投げ渡す。健康に気を使う一夏はスポーツドリンクも冷たいものではなく、ぬるめのものを飲む。こんなこともあろうかと本音姉さんに用意してもらっていてよかったと本当に思うね。
「もうそろそろ帰ろうか、一夏君」
「いきなり両義に変わるなよ。驚くだろ!」
「……あぁ、気にしなくてもいいよ。そんなことよりもさっさと帰ろう。二人が待っているだろう?」
「それもそうだな‼」
地面を蹴り、枝や屋根を伝い、家へと戻る。スタっと地面に降り、家の門を開けたその先には…二人の般若がいた。正確には背後に般若を浮かべる簪姉さんと本音姉さんなんだけどね。試験が終わったらすぐに帰るって話をしていたけど、ちょっと寄り道をしたせいで遅れたんだよね。
うん、だから何だよね。
「…刈夜、ちょっと来て」
「いっくん…ちょっと来てくれないかなぁ~?」
服の襟をつかまれて連れていかれるボク等。好きな人には逆らえないからしょうがないんだけどね。…今日はいろんな意味で寝ることが出来ませんでした。
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