魔法少女リリカルなのは~新たな人生を送る転生者~ (れお3)
しおりを挟む

プロローグ
第0話 「終わりという名のプロローグ」


最初に、◇◆◇は場面や話し手が変わった事を指しています。


 視界が真っ暗だ――

 黒く――

 黒く――

 どこまでも深い。

 その暗さが俺の過去のトラウマを思い出させる。

 必死にその暗闇から抜け出そうとする。頭を動かし、目を見開く。次に見えた色は……白。黒とは真反対の白。今度はどこまでも真っ白で、吸い込まれそうなほどの白。

 その美しさに数秒か見とれていると、ふと、あることに気づく。……俺の身の回りにはこんな真っ白しか視界に入らない場所などない。

 

(ここは……どこだ……)

 

 どうやら仰向けに倒れていたようで、体を起き上がらせたあと、首を動かし、辺りを確認する。そこにはありえない状況が続いていた。白が横にも奥にも伸びているのだ。白一面とはまさにこのことだろう。

 

「おお、目を覚ましたようじゃの」

 

 急に後ろから声が聞こえた。反射的に後ろを振り向く。そこにはひげが地面に着きそうなほど長く伸びていた。顔にはシワが何本も入っており、明らかに高齢者だと分かった。

 

「あなたは……誰だ?」

 

 単刀直入に訊く。不自然なこの場所。そこに現れた謎の老人。正体を確かめようとしない奴などいるものか。

 

「名乗る前に一ついいかの?」

「どうぞ」

 

 俺の了解を得ると、老人は凄まじい速度で膝を曲げ、手を地面につき、頭を限界まで地面に近づける。世に言う土下座だ。

 

「ごめんなさい!!」

 

 目の前で、超が付くほどの老人が高校生である俺に何度も頭を下げている。不思議な空間、誰一人、俺と目の前で土下座している人以外いないこの状況はとてもカオスだった。

 

「ちょっと待ってくれ! ……状況が良く掴めないんだけど」

「怒れないで聞いてくれる?」

「まあ、善処はする」

「では、改めて……」

 

 

◇◆◇

 

 

「というわけなのじゃ」

「なるほど……」

 

 目の前の老人が話した内容はこうだった。どうやら、目の前で俺に申し訳なさそうな顔をしてる奴は神らしく、ついさっき、俺の世界での存在証明とかいう紙を誤ってシュレッダーに入れたらしい。

それが消えると、世界で俺という存在が認知されなくなり、消滅するらしい。

 

「神の仕事は紙仕事か……」

「おっ、上手いこと言うの、お主」

「御託はいい。俺はこれからどうなる?」

 

 そう、全てはもう後の祭りだ。くよくよ考えたってしょうがない。今重要視すべきは俺の未来についてだ。

 

「こういうケースは大抵、他の世界に転生するのが基本なのじゃが……」

「元の世界に転生はできないのか?」

「無理じゃ……再び、存在証明書を書いて、戻ったとしても誰もお主を覚えておらぬ。それはある意味いないと同じじゃ」

「そうか……」

「くよくよするでない。元の世界には戻れなくても、わしがそれと同等の待遇をしてやる」

「例えば?」

「ん~、特典かの? 転生するに当たって、その特典の内容が付与される。人気なのが、その転生先がアニメの世界で、その世界での最強能力とか」

「……それは魅力的だが、俺は何もいらない」

「そういうわけにはいかん。何かなんでもいいので言ってみるのじゃ」

 

 どうやらこの神様、何か言うまで引き下がってくれそうにない。

 

「じゃあ、名前はこのまま」

 

 母と父から貰った大切な名だ。捨てたくなどない。

 

「後、二つじゃ」

 

 二つまでいいみたいだ。それじゃあ……。

 

「記憶の引き継ぎと……顔をこのまま?」

「……そんなものでいいのか?」

「ああ、構わない」

「珍しいのぉ……」

 

 とは言われても、あまり浮かばないのだ。超能力とか、アニメの世界とか魅力的だが、そんなの持ってたら早々と死にそうな予感がする。

 神様は空に手を動かすと、下から机と紙を出した。そこになにやら色々と書き込んでいる。

 

「良し、できたぞい。場所はこちらで勝手に決めさせてもらった。リリカルなのはの世界じゃ。そこで、一般人として暮らすも良し、原作キャラに話しかけるも良しじゃ。そして小学2年生として転生してもらう。そこらへんが一番、どちらを選ぶか分けやすいからの」

「分かった」

 

 文句はない。リリカルなのはの話は前世で見たことあるし、二年生も記憶の引き継ぎをギリギリ隠せるくらいの年齢だろう。

 

「ところで、なぜそこなんだ?」

「前のやつがそこに行ったのでの。設定が簡単なのじゃ」

「えっ、もしかしてその前のやつが俺が行くところと同じところなのか?」

「心配せんでも、そこらへんは分けるつもりじゃよ」

 

 そう言った途端、目の前に巨大な光の柱が出現する。神に少々、説教やあいさつを済ませ、柱の中に入る。

――光の色が濃ゆくなっていく。最後にうっすらと見えるぐらいになった時に、さっきまで手を振っていた神様が急に慌て出す。こちらに向かって何か言っているが、何故か、聞こえない。

 一段と光が濃ゆくなる。意識が、全てが光に飲まれる直前まで、何故、神様が急に慌てたかをずっと考えていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 「異常事態」

 光が収まると知らないリビングのテーブルに座っていた。テーブルの上に一枚の紙とネックレス。そして俺の銀行の通帳が置いてあった。俺は手を伸ばし紙を取ろうとしたが、手が届かない。

 

「そういえば、俺は今小学2年生だった……」

「――――何、当たり前の事を言ってるんですか」

「……!誰だ!何処にいる!」

「あなたの目の前にいますよ」

 

 そう言われたので俺は目の前を見る…があるのは一枚の紙とネックレスとかだけである。するとネックレスが急に浮かび上がった。

 

『初めまして。マイマスター』

「マイマスター?」

 

 マスターって言うってことはこいつデバイスか?

 

『無視ですか』

「ああ…悪い…」

『状況をつかめていないようですね。とりあえずこの紙を読んでください』

「手が届かないんだが……」

「しょうがないですね。私が読みます』

『橘和也へ

すまんの。他の転生者が居ない世界に飛ばそうとしたんじゃがの。間違って転生者が居る世界に飛ばしてしまった……すまん。そこの転生者は気性が荒くての。他の奴をここに転生させるなとかいろいろいっていたんじゃ。もし、お主が転生者とわかると恐らく、問答無用で殺しに来るじゃろう……そこで防衛手段としてデバイスを急遽作ったんじゃ。奴の能力はチート級じゃが無いよりかはましじゃろう。急いで作ったから動作チェックをしておらん。だから不具合があり上手く作動しないシステムがあるかもしれんがそこらへんは自分で直してくれ。学校の事なんじゃがお主は転校生として学校に行ってもらう。生活の事は心配しなくていいぞ。月に一回、お主の銀行の口座に十分すぎるほどのお金が振込まれるようになっているから。……本当にすまん。

神様より』

『以上で終了です』

「……」

 

 あの神様、ミスしすぎだろ……。さて、これからどうするかな。厄介な事になった。

 

『……おっと、自己紹介が遅れました。私の名前はリゼット=ヴェルトールと申します。これからよろしくお願いします。マスター』

「ああ。俺は橘和也だ。よろしく」

『橘和也様ですね。了解しました』

 

 忙しくなりそうだ。俺はそう呟き、また溜め息をつく。

 

『マスター、戦闘経験はお有りですか』

「あるわけないだろ。前の世界は平和だったからな」

『それなら、早速戦闘訓練を始めましょう』

 

 ……なんでそうなるんだ。そう言い、さらに溜め息をつく。…溜め息するのが転生してから増えたな。

 

『戦闘経験がないまま、この世界を生きていくなんて危険過ぎます!』

「わかった!わかったから落ち着け!」

 

 まぁ確かに、他の転生者がいるんならこの世界も原作通りには進まないだろうから戦闘訓練もした方がいいんだろう。

 

『では、始めますよ』

「ああ」

『イメージトレーニング開始』

 

 そして、俺はまた光に包まれる。

 

 

◇◆◇

 

 

 目を開けるとそこは広大な草原だった。辺り一面緑色の原っぱ。草以外には何も無い。青空が眩しく綺麗なところだな。

 そこで俺はある異変に気づき空を見上げる。―――――雲が動いていない。本来雲は時間の経過と共に移動する。しかしここの雲は何十秒見ようと全く動かない。という事はやはりここは現実ではないのだろう。前世ではこういう事が無いため現実と思いかけていた。

そう思いつつ空を見ながら惚けていると隣から声が聞こえた。

 

「何ぼーとしてるんですか?マスター」

「ああ……悪……」

 

 俺は隣を向きつつ謝ろうとしたのだが途中で言葉が詰まってしまった。なぜなら隣には見知らぬ少女が立っていたからである。

 

「…どうかしましたか?」

「……」

 

 白いゴスロリ服に身を包む少女。白い髪の毛。髪と同じくらい白い肌。そして碧眼が目立つ整った顔。世間でいう美少女という類のものだ。

 

「あっ、この姿を見せるのは初めてでしたね。リゼットですよ」

「リゼット……?」

「もう忘れたんですか!?」

「冗談だよ」

「…………」

 

 俺がそう言うと頬を膨らませながらこちらを睨むリゼット。危なかった。正直さっきまで忘れていた。

 

「おい、そんな睨んでもお前みたいな美少女がやっても意味ないぞ」

「…ッ!…」

 

 俺が率直に思っていたことを口にすると、顔を真っ赤にするリゼット。案外可愛いところもあるんだなこいつ。しかしデバイスなのにこんな表情ができるのか。神様が作ったからかもしれないな。

 

「でどうしたんだ?その姿」

 

 このままだとらちがあかないので話を急かす。俺はリリカルなのはの世界の話は知っているが正直豆知識とかには詳しくない。だから一から聞かないと、何もわからないのだ」

 

「そうでしたね!私は人型になることができまして、その時の姿がこれなんです!」

 

 そう言い、笑顔でくるりと一回転するリゼット。……が途端にその笑顔が暗くなる。

 

「なれるのは、ここだけですけど……」

「どうしてなんだ?」

「どうやら、人型のシステムに不具合があるみたいで……で、でも心配はいりません。今、自己調整していますから時間が経ったら使えるようになるはずです」

「そうか」

 

 神様が急いで作ったから動作チェックや調整をしていないって言ってたからな。まぁ時間が経ったら使えるようになるって言っているし問題はないか。

 

「他には?」

 

 他にも不具合があったら聞いておいて損はないだろう。もしあったらあったで大変だが。

 

「他には特に心配はありません。ただ……ロックがかかっている謎のシステムがありまして……」

「ロック?」

「はい…」

 

 ロック? かけたのは神様に違いないだろうがどうしてだ? かける理由を考えるが、中身が何かわからないのなら、考えてもらちがあかない。

 

「さぁ話も終わったし訓練するぞ」

 

 話が脱線しかけていたから話を元に戻そうとする。本音を言えば、普通に生きたいと言ったが魔法が使えるのなら使ってみたいからだ。

 

「まだ終わっていません」

「まだ?」

「はい」

 

 急に真顔になりながらそう言うリゼット。急に真顔になったからよほど大事な話なのだろう。緊張感があたりに漂う。

 

「まず、魔法について説明します」

「まずこの世界には魔力素というものが存在します。これは魔力で操ることができ、魔導師はこれを操り、自然摂理や物理法則に干渉、作用します。その作用を望む効果が得られるよう調節し、または組み合わせた内容をプログラムと言い、用意されたプログラムは詠唱・集中などのトリガーによって起動されます。つまり魔法は、自然摂理や物理法則をプログラム化し、それを任意に書き換え、書き加えたり消去したりすることで作用に変える技法というわけです。ここまではわかりますか?」

「あ…ああ」

 

 いきなり小難しい話になったので少々戸惑ったが、頭脳が高校生の俺はなんとか理解することができた。しかし、魔法ってそういう風に出来てたんだな。

 

「そして私にはこの魔法のプログラムは一切組み込まれていません。新たに入れることも不可能です。」

「……………はい?」

「ですから、私には魔法がプログラミングされていません。さっき言ったロックがかかった謎のシステムに容量をとられ……」

「ええええぇぇぇぇ-ーーーーーーーーッッ!!!!」

「…………うるさいです。マスター」

 

 いやいやいやいや待て待て待て!落ち着け俺!今リゼットはなんて言った!?魔法がプログラミングされていない!?そんなの有りか!?

 

「って事は、俺は魔法を使えないのか……」

 

 落胆しながらそう呟く。べつに使えなくてもいいのだが、使えると期待してた分ショックが大きい。

 

「だ、大丈夫です!デバイスが無くても魔法は使えます!」

「……本当か?」

「ええ!本来デバイスは魔導師のサポート役として存在しますから。別に無くても練習すれば魔法を使えるようになります!」

「……じゃあ、教えてくれ」

「…………」

「どうした?」

「……すいません。わかりません」

「だろうと思った……」

 

 魔法がプログラミングされていないということは魔法に関する知識が無いということだ。つまり教えることができないということだ。

 

「で、でもその代わりマスターには能力がありますっ!」

「能力?」

「はいっ!」

「わ、わかったから離れろ!」

 

 顔が近い!流石に美少女の顔が間近にあると緊張してしまう。そう言い俺はリゼットを突き放す。

 

「ったく、そんな簡単に顔を近づけるんじゃない!……緊張するだろうが」

「すいません……」

「で、何だ?能力って?」

「あ、はい。どうやら私のデータによるとマスターはセットアップすると魔力を使って風、火、水と氷、土が操れるそうです。理由は不明ですが」

「…………」

「どうしました?マスター?」

「お前……頭でも打ったのか?」

「ちーーがーーいーーまーーすーーッ!!」

「じゃあ試しにセットアップしてみてください!」

 

 そういうとリゼットはネックレスに戻り俺の手に収まる。にわかに信じられないが試してみる価値はあるだろう。

 

「………リゼット、セットアップ」

『イエス、マイマスター』

 

 俺がそう言うとリゼットから光が放たれ俺は光に包まれる。光が収まると俺の服が変わっていた。黒いシャツに白のロングコート。グレーのズボン。そしていたるところに防具みたいな物が現れる。

 

「ん?なんだこれ?」

 

 俺の手元には普通のよりちょっと長い両刃片手剣がある。柄やつば、刀身に至るまで真っ白だ。

 

『さあ?私にもわかりません』

「ま、いっか」

 

 武器はある方がいいに決まっている。というかいつの間にリゼットは俺の首に移動したんだ?

 

「さあ、そんなことより試してみてください」

「試してみてっておまえなぁ……どうやってやるかわからないんだが」

「そういうものはイメージが大事なんですよ」

「……イメージ……」

(風よ――――)

 

 俺は心の中でそう言い、竜巻をイメージし集中する。その瞬間、俺の周りに風が吹き出し竜巻を形成する。

 

「おおー!これはすごい!」

 

 すげー面白い!もしかしたら魔法より面白いかも。が集中を切らした途端に竜巻は嘘のように消え去った。

 

「………………」

『これは……訓練が必要ですね……」

「ああ……」

 

 これは先が思いやられそうだ。

 

 

◇◆◇

 

 

 リゼットとの訓練を終えた俺は家のソファーでゴロゴロしていた。それにしてもリゼットの鬼畜っぷりには驚いた。

 まず能力を戦闘に使えるようにすると言われ、何か一個だけ鍛えると言い風の操作練習をひたすらやらされた。(何を最初に鍛えるかは選ばせてくれた)集中のしすぎでもうヘトヘト。

 訓練を終えて戻ったときには既に午後八時にを過ぎていた。訓練する前は昼ぐらいだったから少なく見積もっても……え? 五時間!?

 

「そんなに!?」

『?…どうしました?マスター』

「あ…いや…なんでもない」

『そうですか』

 

 テーブルの上に置いてあるリゼットがそう言う。危ない。危ない。リゼットに聞かれると何されるかわかんないからな。……疲れたから寝るか。

 飯を食べ、風呂に入ったあと、俺はベットに入っていた。いや、もうほんと危なかった。だって湯船に浸かったら溺れたんだもん。体がちっちゃくなってる事を時々忘れてしまうから、前世の感じでやってると命がいくつあっても足りない。

 だってあれだぜ?いつもの感じで、料理しようと包丁持とうとしたら(料理を作るのは得意)、筋力が小二だからするりとね包丁がね……足元にね……もう死ぬかと思った。

 しかしこの家にはホント驚いた。広さは一人暮らしの若者が住んでそうな感じだけど、もう設備がすごい。生活必需品は全部あった。しかも冷蔵庫の中は食材がぎっしり。当分食事には困りそうに無いけど、いずれ買いにいかなくちゃいけなくなる。それまでにこの海鳴市の構造を把握しとかなくちゃいけない。

 やらなくちゃいけない事たくさんだな。まぁ、明日から学校だしさっさと寝るか。

 

 

◇◆◇

 

 

 気がつくと視界には白い天井が映った。……見覚えあるぞ、この天井。そして俺は体を起こし目の前にいるおっさんを睨む。

 

「いやぁ、すまんの」

「………………」

「あの~」

「……………………………」

「話を聞いてくれんかの」

「………………はぁ~、で何だ?」

「びっくりしたか?またここに来て」

「まぁ、多少は」

「なんじゃ、素っ気ないの…まあええか。お主に今日来てもらったのは説明のためじゃ。わしはこういう風にお前さんの夢の中に入ることができるんじゃ。要するにいつでも会えるちゅー事じゃな」

「話はそれだけか?」

「うむ。こんぐらいしかないの」

 

 じゃあ気になっていたことを聞いてみるか。

 

「じゃあ、俺のターン……ロックをかかったシステムは何だ?何でロックをかける?」

「ああ、あれか? あれは………秘密じゃ!」

「………………」

「ちょっと待ってくれ!殴りかかろうとせんでくれ! 理由を話すから!」

 

 このじいさんなめてんのか?そろそろ我慢の限界なんだが。

 

「理由は二つある。一つ目はあのシステムはまだお主の体ではシステムの負荷に耐え切れんからじゃ。」

「耐え切れない?」

「うむ」

「二つ目。………それじゃ面白くないじゃん。おもにわしが」

「…………」

ゴンッ!

「痛いんじゃが……」

「あー、すっきりした」

 

 いやね、なにいってんのこの人? 何、面白くないじゃんって。ふざけるのも大概にしろよ。世の中にはね限度ってもんがあるんだよ。

 

「……で、もうないんかの? 聞きたいこと」

「まだ、俺のバトルフェイズは終了してないぜ! ……………こほんッ! 無いなもう」

 

 危ない危ない! 怒りでおかしなテンションになってた!まあ確かにまだ殴り足りないけど。

 

「んじゃ、話も終わったしそろそろ戻りたいんだが?」

「最後にもひとつアドバイス、いいかの?」

「何だ?」

「デバイスについてじゃ。お主のデバイスは思いに反応する。思いが強ければ強いほどお主のデバイスは必ずそれに応えてくれる。某セイクリッド・ギアみたいに」

「そのせいくりっどぎあ?みたいなのは置いといて、アドバイスあんがとさん」

「じゃあの」

「ああ」

 

 その瞬間、意識が薄れようになり、俺の視界はぼやけていった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 「初登校」









「あ~、だるいーー」

『文句、言ってないで走ってください』

「と言われてもなぁー……あー、眠たい!」

『愚痴ばかり言っても、終わりませんよ』

 

 そう、今話していた通り、俺は今、絶賛ランニング中である。どうしてこうなったかというと、話は数十分前に遡る……

 

 

◇◆◇

 

 

『…てください』

「………………」

『…きてください』

「………ぅっ……」

『起きてください!』

「わっ! ……何だ…リゼットか…脅かすなよ…」

『マスターが何度呼んでも、起きないから悪いんです!』

「起きないって……今、何時だと思ってるんだ……」

 

 寝ぼけ眼をさすりながら、時間を確認する。うん、やっぱりどう見ても、短い針が5の数字の方向に向いている。つまり5時ということだ。

 

『昨日、言ったじゃないですか。マスターは魔力が少ないんだから、体だけでも強くするために、早朝トレーニングをします、って』

「聞いていないんだが……」

『聞こえてなかっただけだと思います』

「マジか……」

『じゃあ、準備してください』

「はいはい」

 

 リゼットに言われるがままに、スポーツウェアに着替え、俺は家を出発した。で、今に至るのである。全くリゼットの訓練意欲には、ほとほと呆れる。

 

「そういえば」

『何ですか?』

「俺、まだここら辺の事、よく知らないんだが…」

 

 そう、俺はここに転生して、まだ間もないから、右も左もわからないのだ。

 

『大丈夫です。ここの地図は私の中にインプットされてますから』

「この道は…」

『どうしました? マスター?』

「……なんでもない」

『……?…』

 

 俺が走っているこの道。雑木林に囲まれたでこぼこの道。――――――そう、すべてはここから始まるんだ……なのはとユーノが出会う場所だ。

 

 

◇◆◇

 

 

 早朝トレーニングを終え、シャワーを浴び終えた時には既に7時を過ぎていた。

 朝ごはんを食べ、私立聖祥大学付属小学校の制服を着て、学校に行く。

 

『マスター、私はどうすれば……』

「ちゃんと連れてくよ。リゼットに道を聞かないと迷うからな。」

『はい!』

 

 そして俺はリゼットを制服のポケットに突っ込み、家を出た。

 

 

◇◆◇

 

 

 学校に来た俺は職員室にいた。転校生だから色々しなくちゃいけないらしい。

 正直、またあの神様がポカしてないか心配だったがそれは杞憂に終わった。

 

「今日から転校してくる、橘和也くんですね。私は……」

 

 良かった。どうやらあの神様、上手くやってくれたみたいだな。まぁ、これくらいは普通出来て当然なんだろうけど。

 

「じゃあ、早速、あなたのクラスに行ってみましょうか」

 

 ん?どうやら考えている間に話が進んでいたようだ。

 

《リゼット、何がどうなって、こうなったんだ?》

 

 魔法を知らない人たちを前に普通にリゼットに話しかけることはできないので念話でリゼットに話しかける。念話は勘でやったら出来た。

 

《マスター、聞いていなかったんですね》

《考え事をしていたんだよ》

《そうなんですか。…大丈夫ですよ、別に気にしなくても》

《そうか…それならいいんだが》

「……痛てっ!」

「ん?」

 

 念話しながら話していると、知らない奴とぶつかった。ぶつかられた本人は俺に怒っているのか、まじまじと俺の顔を覗き込んでくる。

 俺もその時、顔を見る。俺の身長はおよそ120cmはある。だが、俺が見上げなければ見えない所からこいつは140cmはある。髪の毛から、他の毛や目の色まで全て黒だった。顔のパーツは整っており、男の俺から見ても圧倒的なイケメンだ。ただ、常に人を見下しているような口の形は気に入らないが。

 

「前には気をつけろ。俺にボコられたくなかったらな」

 

 顔を近くまで近づけてメンチを切ってくる。小学生にしては良いメンチだ。

 

「ああ、悪かった」

「こら、黒鐘君。転校生に喧嘩を売らないように」

「は~い」

 

 先生が言い聞かせると黒鐘という少年はどっかに行ってしまった。

 

「ごめんね。あの子黒鐘終君っていってね。優しい子なんだけど……」

「いいですよ。気にしてません」

「……それでは行きましょうか」

 

 

◇◆◇

 

 

 「紹介します。本日からここの一員になる橘和也くんです……自己紹介を」

「えっ……た、橘和也です。これからよろしくお願いします」

「「「よろしくおねがいしますーー!」」」

 

 教室に入った後、自己紹介をすると小さい子供の特権、大声でみんな返事してくれた。どうやら、元気のあるクラスのようだ。

 

「じゃあ、橘君も入ってきたことなので、席替えをしましょう」

「「「「やったー!」」」」

「はいはい、静かに。では、くじ引きで決めましょうか」

 

 そう言い、先生はそそくさと席替え用のくじを作り始める。それにしても、まだ原作が始まっていないから、他の転生者を探し出せないな。……いや、リゼットに聞けばわかるか?

 

《おい、リゼット》

《なんですか? マスター》

《この学校で俺以外に魔力反応ってあるか?》

《ちょっと、待ってくださいね》

《……………いました。2人いるようです》

 

 ビンゴ! 一人は確実に高町なのはだろう。つまり、もうひとりの方が転生者ってことになる。

 

《場所はわかるか?》

〈すいません。二人共、魔力がでかすぎて位置を把握できません》

 

 二人共魔力垂れ流しかよ……。まぁ、他に魔導師がいるなんて普通は思わないからな。

 

《そうか、まぁ大丈夫だ。気にするな》

 

 別に今分かっとかないといけないっていうわけじゃないしな。あまり気にする必用はないだろう。

 

「では前の列から順番に、くじを取りに来てください」

 

 どうやら、ちょうどいい感じにクジ作りが終わったようだ。んじゃ、俺も引くか。

 

「橘くんの席は、あそこになりますね」

 

 クジを引き、先生に見せるとそう言われた。うん窓際の席の一番後ろか。悪くないな。

 席に座ると前にいた奴から声をかけられた。

 

「僕の名前は山田佑樹って言うんだ。これからよろしく」

「ん? ああ、これからよろしく」

 

 いきなり声をかけられたから、少し焦ったがどうやら真面目そうなやつだ。髪は適度に伸びており、前髪は真ん中で分けている。メガネをかけすこし筋肉がついていない体つきをしている。文化系だと一目見てわかった。

 

 

◇◆◇

 

 

 学校が終わり、俺は家に帰り途中だった。しかし、転校生の初日は大変だな。いきなり知らないところから授業が始まるんだから。まぁ、俺は別にもう分かるからいいんだけど。

 そう考えつつ、歩道を歩いていると、ふと車椅子から転げ落ちている少女が目に止まった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 俺はすぐさま走りより、少女を抱き起こしながら、声をかける。

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 若干なまりがある返事が返ってくる。

 

「それにしても、何があったんだ?」

「いや、そのちょっと段差につまづいてしまって……」

「……無理に標準語と敬語で喋らなくていい」

「あ、いいんですか?」

「ああ、年も俺と多分変わらないだろうし、喋りづらいだろ」

「おおきに、ほんま助かったわ」

「気にするな。困ってる人を助けるのは当たり前の事だからな」

「あんた、ええ人やな。名前はなんて言うん?」

「名前を名乗るには…」

「まず、自分からやな。そうやね、私の名前は”八神はやて”言います」

 

 やっぱりか。どうりで似てるなと思った。

 

「そうか、俺の名前は”橘和也”だ」

「じゃあ、橘くんか、こういう事も何かの縁や。また会ったときは声かけてな」

「ああ」

「ほな、さよならや。橘くん」

 

 そうして、車椅子の少女……八神はどこかにいってしまった。

 

「まさか原作前に会うとは思っていなかったな」

『そうですね』

 

 俺は少なくとも後1年ちょっと経てば絶対に会うだろうけどな、と思いながらまた家に向かって帰り始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラクターシート~プロローグ終了時時~

これは手違いで削除してしまったキャラ紹介と同じです。前にそれを読んだことがある方はプラウザバックをお勧めします。



橘 和也(たちばな かずや)

 

性別 男性

 

総魔力量 C

 

望んだ願い

①記憶の引き継ぎ

②顔の引き継ぎ

③名前の引き継ぎ

 

 本編の主人公。神様のミスで死んでしまったがそのお詫びとしてリリカルなのはの世界に転生させてもらった。顔は中の上くらい。根っからの日本人で髪の色は黒。前髪はまつ毛にかかるくらいで、襟足は少し伸ばしている。簡単に言ってしまえばどこにでもいそうな男の子。

 本来、魔力は持たず転生する予定だったが神様のミスで別の転生者がいる世界に転生してしまったため、神様が急遽作った。予定には無いのに無理やりリンカーコアを作ったため魔力量を上げようにも上げられず総魔力量はあまり高くない。

 バリアジャケットはグレーのスラックスに黒のシャツ、その上に白色のロングコートが出現する。武器は片手剣で、セットアップすると風、火、水、土を操れる。

 

 

 

 

リゼット=ヴェルトール

 

性別 女性

 

主人公のインテリジェントデバイス。形状は王冠の付いたネックレス。王冠の中心に宝石があり、それがコア。マスター思いの優しい性格をしている。しかし、行き過ぎな所もあり、時々それが主人公を苦しめる。急遽作られたため、動作チェックや調整をしていない。よって色々とシステムやプログラムに不具合がある模様。

 

 

 

 

黒鐘 終(くろがね しゅう)

 

性別 男性

 

転校初日、主人公とぶつかった少年。西洋人を思わせるような銀髪だが目の色やほかの色は黒でハーフということが伺える。少々性格に難がある印象を和也は受けている。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジュエルシード編
第1話 「原作開始」


一年後―――――――

 

 

 あれから一年経ち、俺は小学3年生になっていた。ん? 空白の一年間はどうしたって? そりゃあ、いろんな事があったさ。あれ以来、友達になった佑樹と友情を育んだり、他のクラスメイトとわいわい騒いだり。楽しかったなぁ。

 そうそう、リゼットの鬼特訓のおかげで身体能力も上がり、能力もうまく扱えるようになったな。風の操作は完璧にマスターした。今は能力が戦闘に使えるようになったから、他の三つは均等に練習している)

 ……で、クラス替えで新しいクラスになったんだが。

 

「私、高町なのは。よろしくねっ!」

 

 前の席の栗毛のツインテールの少女……この世界の主人公、高町なのはが俺に向かって言ってくる。

 そう、俺は原作組と同じクラスなのである。しかも席順は出席番号順…つまり、名前順。俺の名前は”たちばな”この世界の主人公の名前は”たかまち”つまり…席が前。隣よりはいいが、正直危険である。俺はあまり原作に関わりたくないからだ。戦闘よりも、友達とわいわい騒いだほうが楽しい。

 

「ああ、よろしく」

 

 あまり、印象に残らないようにしなければ……

 

 

◇◆◇

 

 

 放課後になり、帰り支度をしていると、いきなり後ろからこちょこちょをされた。俺は、誰がやっているのか分かっているので、遠慮無くこちょこちょしている手を取り、捻り上げる。

 

「いたたたた!!僕が悪かったって! だから離して! カズヤ!!」

「ふん」

「ひどいよ……カズヤ…」

 

 俺が手を離すと、俺の友達……いや、親友の佑樹は涙目でこっちを睨む。

 

「嘘泣きはやめろ」

「……バレた?」

「バレバレだ。お前のその嘘泣きを何回見てきたと思っている?」

「これが、初めてのはずなんだけど…」

「それよりも、一緒に帰るんだろ?だったら早く帰ろうぜ」

「えっ、スルー?……うん、そうだね」

 

 こいつ、山田佑樹も俺と同じクラスだった。同じクラスだと知った時、表情には出さなかったがとても嬉しかった。

 そして帰り道、他愛も無い話をして二人で帰っていると、頭に直接響くような声が聞こえた。どうやら佑樹には、聞こえていないらしい。ということは念話―――

 

《助けて……》

 

 この声……!ユーノ・スクライア!とうとう始まるか…この世界の物語が――



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 「寂しげな瞳」

 ユーノ・スクライアの声が聞こえてから数日が経った。その日から、この海鳴市で建造物が壊れるという事件が多発している。さしずめ、高町達がジュエルシード集めをしているんだろう。

 駄菓子菓子…って違う!だが、しかし!そんな事、俺には、一切!微塵も!関係ない!……ということで俺は友達に誘われたので公園で隠れんぼ中。

 いやー、久しぶりにするけど、面白いな。

 今日は休日だから、リゼットを首にかけても何も言われないので、今は首にかけている。…まあ佑樹とかに3年でもうネックレスつけてるの?とか馬鹿にされたが。

 人数は7人程度で、隠れる範囲は公園内だけ。ルールは鬼に見つかると、そいつも鬼になるタイプのやつ。

 さっきはあっさり見つかったため、ちょっと本気を出して公園の奥へと来たのだが……

 

「迷ったな……」

 

 さっきから、真っ直ぐ進んでいるはずなのに、何故か歩道や公園へと出ないのだ。

 

「これ…俺が想像している以上にやばいんじゃ……なあ、リゼット。今俺らどこにいるかわかるか?」

 

 流石に嫌な雰囲気になってき始めたので、リゼットに訊いてみる。

 

『あ、あの…それが…私たち…どこか知らない空間に飛ばされてるみたいで……』

「……は?」

『多分、誰かの結界に入り込んでいるんだと思います…』

 

 ……えっ!? 何で? 俺がまだ魔導師……って言えるのか俺? 魔法使えないじゃん。ま、まあ今はそれは置いといて、何でだ?まだ正体はバレていないはずなんだけど(ただでさえ少ない魔力にロックかけて、ほぼゼロにしてるのに…)

 そこで、俺は視界の隅にあるものを見た。……なるほど、そういう事か……!

 

「リゼット、ロック解除とセットアップだ。後、バリアジャケットを着たとき顔を隠せるようにできるか?」

『え? いきなりどうしたんで……』

「答えろ!」

『……! それくらいならできます』

「そうか…じゃあ頼む」

『イエス、マイマスター』

 

 俺はバリアジャケットを装着する。視界が若干暗い。どうやら顔は黒い布を巻いて隠しているようだ。

 

『でも、急にどうしたんですか?』

「あれを見ろ」

 

 そう言い、俺は地面に落ちている青い石を指す。

 

『あ…あれは!』

「そう、願いを叶える宝石――ジュエルシードだ。…………来たか」

 

 ジュエルシードを拾いながらそう言う。そして後ろに振り返り、そこに立っている金髪の少女を見る。……こんな話、原作にはなかったんだがな。

 

「あなたには申し訳ないんですが、私はその石を集めているんです。だから唐突ではあるんですが、それをこちらに渡してくれませんか?」

 

 金髪の少女――――フェイト・テスタロッサがそう俺に言ってくる。……本当だな。原作で聞いたとおりだ。なんて寂しい目をしてやがる。

 

「あんた、なんか寂しいのか?」

「あなたの話に付き合っている暇はありません。…渡してくれないんですか?」

「だったら、どうする?」

《マスター! ダメです! かないっこありません!》

《リゼット、俺はな、ああいう風に全部一人で抱え込む奴を見てるとイライラするんだよ》

 

 前世の時もそうだった。いじめられているのに、誰にも相談しない奴を見ては説教しては、先生のところに無理やり連れて行かせたりしていた。

 

「だったら、力ずくで」

 

 テスタロッサはそう言って、バルディッシュを構える。

 

「そうこなくっちゃ」

 

 そうして俺も剣を構える。

 

「ひとついいか?」

「……何?」

「賭けをしよう」

「賭け?」

「そう。この勝負、あんたが勝てばジュエルシードをあんたにやる。俺が勝てばあんたのその寂しげな目をしている理由を教えてくれ」

「いいよ、勝てたらね」

「…じゃあ、行くぞ…」

 

 そう言い放ち、テスタロッサに向け、全力で駆け出す。まだ能力は使わない。俺の総魔力量は少ない。あまり、使いすぎると、すぐにガス欠になってしまうからだ。

 

「ふっ!」

 

 間合いに入ると同時に俺は思いっきり体を捻り、剣を横薙ぎに振る。

 

『ブリッツアクション』

「なっ…」

 

 がしかし急にテスタロッサの姿が消え、剣は空振りに終わる。

 速すぎる。姿が全く見えない。俺から見れば瞬間移動といってもいいくらい早かった。

 フェイト・テスタロッサは高い機動力を生かした中~近距離戦、射撃と近接攻撃を得意としている。つまり、こちらも高速で動き続けるか、相手の動きを見切らないとすぐ、首を持っていかれる。

 

(一瞬でも油断したら一気に決められる……)

 

 そう言い聞かせ、意識を集中する。感覚が鋭敏化され、視界が若干スローモーションになる。

 

「ッ!」

 

 それは反射的な行動だった。ふいに気配を感じ、後ろに剣を持っていく。途端に金属音が鳴り響き、柄から振動が手へと伝わってくる。

 

「なかなかやるね」

 

 テスタロッサは不敵に笑いながらそう言ってくる。

 

「冗談言うな」

 

 ほんとに冗談じゃない。今のは運良く当たっただけだ。本当だったら、今頃、地面に這いつくばっていただろう。

 

(出し惜しみしてたら、やられる…!)

「…ッ!風よ!」

 

 テスタロッサの上に見えない硬化させた風の塊を創りだし、それをテスタロッサへと叩き下ろす。

 

『ブリッツアクション』

 

 それはわかって避けたのか、それとも直感がそうさせたのかは分からないが、テスタロッサは見えない風の塊を避けた。ターゲットに当たらなかったため、目の前にクレーターができる。

 

「くそっ!」

 

 あんな風に移動されては勝ち目がない。雲を掴もうとするような物だ。魔力量でも劣っているため、短期決戦しかない。

 

《リゼット、あれやるぞ》

《はい!》

 

 リゼットはこの1年間の間にあるシステムの調整を終わらせていた。それは、俺の能力のアシスト。簡単に言うと、使いたい技名を言うだけでリゼットがアシストしてくれるという優れもの。これのおかげで大規模な力を瞬時に出せるようになった。

 

「ツイストフィールドッ!」

 

 俺を中心に円球状の竜巻が形成され、テスタロッサはそれに飲み込まれる。この技は竜巻で相手を攻撃しつつ、竜巻内に風の結界を作り、そしてターゲットを引きずり込むというもの。

 

「特殊な魔法を使うんだね」

 

 俺の上位技なのに、無傷で別段驚くこともなく、そう言ってくる。

 

「まあな。ようやく捕まえたぜ」

 

 この狭い空間ではあんな移動はできないはず。そう思い、俺は風のブーストを受け、テスタロッサの間合いに一瞬で入り込む。

 

「はっ!」

「ッ!」

 

 俺は突きを放ち、テスタロッサはギリギリで右に避けた。が避けられることがわかっていたので、そこから強引に右に振り抜く。

 防御されたが初めて攻撃がヒットしたことに少し、安堵感を覚える。勝てない相手じゃない。

 俺の攻撃を受け、吹き飛んだテスタロッサはギリギリまで俺と距離をとっていた。…?何をする気だ?

 

「撃ち抜け、轟雷……」

「ヤバッ!……!?」

 

動けない!まさかバインド!?…でも風を操って移動することぐらいならできる!

 俺は風を使い、回避行動を取り始める。

 

「サンダースマッシャー!」

「!?」

 

 回避しようとした瞬間、テスタロッサは後ろを向き風の結界にサンダースマッシャーを放った。

 あまりの唐突な事に集中が途切れ、結界に穴があきテスタロッサの脱出を許してしまう。

 

「ちっ!」

 

 俺は、バインドを解き風の結界を解除する。がそれはやってはいけないことに気づく。何故なら、俺の周りには、大量のスフィアが展開されていたからである。

 

「……もと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト。時間が無いんだ。…ごめんね」

 

ファランクスシフト!? 確か原作じゃ、テスタロッサの最強魔法じゃなかったか!?

 

《リゼット!あれに対抗できる技はあるか?》

《ありますけど、それを放つには魔力が足りません!》

「くそッ!!肝心なところでッ!」

 

……待て。確かテスタロッサの魔法には全て電撃が入っていた。そりゃ、そうだな。変換資質を持ってるんだから。って事はあれは電気と同じ……!

 なら、まだ手はある。その後は根性次第だな。

 

「撃ち砕け!ファイアー!!」

 

 矢継ぎ早に放たれる雷の槍。それが全て俺に直撃した……

 

 

 

                    ◇◆◇

 

 

「打ち砕け!ファイアー!!」

 

 そう言い、名も知らない男の子に向かって、フォトンランサーを連射する。

 フォトンランサー・ファランクスシフト――フォトンランサーのバリエーションにして、現時点での私の最大攻撃魔法。30発以上のフォトンスフィアより繰り出される、フォトンランサーの一点集中高速連射。リニスは発動・命中さえすれば防げる相手はまずいないと言っていた。

 ファランクスシフトを使う羽目になるとは思ってもいなかった。この男の子、想像以上に粘るのだ。母さんを待たせるのは嫌なので早めに決めさせてもらった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 このファランクスシフトはすごく疲れるので使いたくなかったが…と思いながら飛行魔法を解除する。そして男の子の方(今は土ぼこりで見えない)に向かって歩き続ける。

 

「―――――――なんとか耐えたな…」

「え…どう…し…」

 

 言葉を紡ごうとするが、目の前の事態に頭が追いつかない。

 

「どうして?って顔してるな?そりゃあそうだ。全部当たったハズなのに、どうして立っていられるのか不思議だよな。でも教えてやんね。敵にわざわざ教えるわきゃねーだろ。どうする?まだ続けるか?」

「くっ……」

 

 向こうはすでにバリアジャケットのいたるところがボロボロだけど、私の魔法を防いだトリックが分からない以上、これ以上続けたら、こちらが不利になる可能性がある。

 ここは、悔しいが一旦引くしかない。そう思い、私は飛翔魔法を使い男の子から引いた。

 

 

                    ◇◆◇

 

 

「ふぅー」

『よくハッタリが効きましたね』

「だな」

 

 そして、俺は地面に倒れかける。さっきいったことは本当だが、正直戦う力は残っていない。

 さっき使ったのは風を超圧縮して作った壁。空気の密度が高ければ、空気は電気を通さなくなる。俺が作った風だから、魔力も通さない。あいつの攻撃は完全遮断…ってわけだ。

 

「まあ、何回も使えないけどな、あの技」

『ですね。維持するにはかなりの魔力が必要ですし』

 

 そう、なぜ完全遮断なのに体中ボロボロなのかは途中で魔力が切れ素手でガードしていたからだ。

 

「引き分けか…いやさっき騙していなければ、俺が負けてただろうな。もっと強くならないと…」

 

 俺は手を上にかざし握る。次会うときには勝ってなぜそんな寂しそうなのかをを訊こう。




カズ「ジュエルシードどうする?」
リゼ「私が預かっておきます」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 「再開」

 テスタロッサとの戦闘を終えた俺は、木にもたれかかっていた。……体中、ボロボロなのだ。特に手でガードしていたため両腕がやばい。血がどくどく出てくる。バリアジャケットを着ていた時に、怪我をしたため、服は無傷ではあるが。

 

「とりあえず、あいつらに連絡しとかないと……」

 

 そう言いつつ、俺は今日一緒に遊んでいるメンバーに「帰る」ということを伝えるため、力が入らない手で携帯に電話をかける。

 

『もしもし、カズか。どうした?』

『悪い天満…みんなに、ちょっと怪我したんで帰るって伝えといてくれないか?』

『怪我って大丈夫なのか?お前』

『ああ、あまり心配するな』

『OK、じゃあ、伝えとくわ』

『頼む』

 

 そう言い残し、俺は電話を切る。今電話したのは俺の友達、天満 凌(あまみ りょう)性格は優しいんだが……体を鍛えるのが大好きな奴だ。まあ、当然そういうことは天満は……悪い言い方なんだが、バカだ。そりゃあ、凄まじい程に。電話した理由は電話帳を開くと、真っ先にあったからだ。名字があ段だから、当たり前か……。

 

「……さてどうするかな。これから……」

 

 正直、言うと家に帰る体力は残っていない。ここはかなり奥だから誰も来ることはないだろうが、ずっとここに居るわけにはいけないし、病院にも行けない。こんな姿見られたら、絶対に事情を聞かれる。それは面倒なので御免だ。

 

「能力使って移動……って無理か」

 

 まだ、家に帰るくらいの搾りかすみたいな程の魔力は残っているが、今は真っ昼間だ。一般人にこの能力を見せるわけにはいけない。

 

「とりあえず、行けるところまで行ってみるか……リゼット、家までの最短ルートの道案内、頼む」

『分かりました。マスター』

 

 そして、俺は悲鳴を上げる体を無理やり動かし、家へと歩き始めた。

 

 

◇◆◇

 

 

 こんな血まみれの姿、一般人に見せるわけにはいかないので今俺は人気の少ない裏路地を通っている。

 ったく、格下の相手に殺傷設定のファランクスシフトぶっ放しやがって、殺す気か! ……なにか、一人で抱えてそうな目をしていたので、前世の癖でつい熱くなって、勝負を挑んじまったが、今思うと、やっぱしなきゃ良かった……

 どのくらい歩いただろうか……そんなのもわからないほど俺は、意識が朦朧としていた。

 

『マスターここを左です』

「……」

『マスター? …マスター!?』

「…聞こえてるよ…」

『…ちょっと休みますか?』

「ああ…そうする…」

 

 俺は、そう言いつつ、裏路地の壁を背にもたれかかる。もたれかかった瞬間、俺は眠るように意識を失った…

 

 

 

◇◆◇

 

 

「…くん…」

「……」

「ちばなくん…」

「…ぅ…」

「橘くん!」

「うあっ!…痛っ!って、お前は…!」

 

 俺が目覚めた瞬間、真っ先に目に入ったのは少女の顔だった。しかも、その少女は……

 

「やあ、一年ぶりだな……八神。一回しか会ってないのによく覚えてたな」

「やあ、じゃあらへん! どうしたんや! その傷」

「…………それは言えない」

「なんか怪しいなぁー。ま、言えない事情があるんやろうからええわ。とりあえず立てる?」

「ああ…なんとか」

 

 さっき休憩(気絶)したから、多少は体力が回復した…と思う。しかし、ここで八神に会うとは…幸なのか不幸なのかどっちなんだろうな。

 

 

◇◆◇ 

 

 

 八神に連れられ、俺は八神の家で手当てを受けていた。…ん? 何でって?「家も近いし、手当てもしたるから、家に来ん? YESかYESで答えてや」と言われたからだ。

 

「それって、来いってことじゃん…」

「ん?なんかゆったか?」

「なんでもない…」

 

 まあ、別に家に帰るよりもこっちのほうが楽だし、手当ても自分一人では限界があったから、別にいいんだけども……

 

「…………」

「どうや?はやてちゃんが一生懸命手当てしてやった感想は?」

「…やり直せ…」

「…なんやて?…」

「やり直せって言ってるんだよ! 何で、何回やってもこんな風になるんだよ!?」

「ええー、文句多いなー。別にええやん。可愛いし」

「よくねーよっ!」

 

 どうやら、俺の傷はひどいようで、八神に包帯を巻かれるのだが、こいつ、何回やっても俺をミイラ男のように包帯をぐるぐる巻きにするのだ。…動きづらいし、暑いしでデメリットしかない。

 

「っもう、しゃあないなー。…………ほら、これでええやろ?」

「おおー。てか普通にできるんなら、最初からやってくれよ」

「それじゃ、おもろないやん…主に私が」

「俺はちっとも面白くねーよ……」

 

 なんでこんなにこいつは人で遊ぶのが好きなんだ…? 何ですか、関西人の性ってやつですか?

 

「っとまあ、手当ても終わったみたいだし、帰るわ」

「え?なにゆうてるんや。夕飯食べていきーな」

「え?…………あのさー、今更言うのは遅いんだろうけど、そう易々と男の子を家にあげんなよ。俺ら、まだ今日数えて二回しか会ってないんだぞ?なんで、そんなにフレンドリーなんだよ」

 

 俺だって、男の子だ。女の子の家に上がり込んだら、そりゃ緊張だってする。しかも、それが原作組の美少女達なら尚更だ。

 

「ええやん、ええやん。………一人でご飯食べるのは寂しいんや」

「ん? 最後の方が聞き取れなかったんだが?」

「…なんでもあらへん! でどうするんや?」

 

 八神に最後の方が聞こえないと言ったら、何故か頬を赤らめて、どうすると言われた。んー、家に帰っても冷蔵庫には何も無いしな。今日の帰りに行く予定だったのにこんなことになるなんて、微塵も思ってなかったからな。こんな姿でスーパーに行ってみろ。明らかに注目される。目立つのは苦手なので、そんなことには絶対に御免だ。て事は…

 

「あー、じゃあお言葉に甘えようかな」

「うん! じゃあ今から作るなっ!」

 

 八神は思わず見惚れそうな笑顔でそう言うと、キッチンに向かっていった。……今の笑顔は反則だと思う。男であの笑顔を見たら、一発でおちると思う。

 

「って、何やってるんだよ…俺は……」

 

 うわついた気持ちを切り替えるため、あたりを見渡す。大きいソファーにテーブルといった家具家電は一通りある。小学3年生一人が住むには少々大きいところだな。あれ? そもそも何で一人で住んでるんだっけ? 誰かが支援しているるため……誰かがの八神のためにこうされているのは、覚えているが、他がまったく思い出せない。前持っていた、原作の知識も時間の経過でもう主要キャラクターぐらいしか覚えていないからな。

 

「今は6時なのか……」

 

 どうやら、俺は裏路地で数時間近く気絶していたらしい。もしかしたら八神以外にも人は通っていたのかもしれない。

 

「そういえば、何で八神はあそこにいたんだ?」

 

 俺は、キッチンにいる八神に話しかける。普通はあんな道通らないはずだ。何か特別な理由でもあるんだろうか?

 

「え?別にたいした意味はあらへんよ。あっこから、家に帰ったほうが近道なだけや……できたで」

 

 お、どうやら考えているうちに料理ができてしまったようだ。美味しそうな匂いが辺りにたちこもる。

 

「今回の夕食は肉じゃがや!腕によりをかけて作ったから、たくさん食べてってな」

 

 俺の前に出される肉じゃが。他にも味噌汁にごはん、サラダなどもある。俺がついそれに手を伸ばしそうになると…

 

「っ痛! ああ、悪い。つい手が…」

「あかんでー。まず食べる前に言う事があるやろ」

「だな」

 

 そして、俺たちは両手を合わせ……

 

「「いただきます!」」

 

 そして俺はメインの肉じゃがを口に運ぶ

 

「これは…!うまいな…」

 

 口の中に広がる肉じゃがの味。入っている物は人参や玉ねぎ、じゃがいも、肉といった定番の物だが、味が十分にそれらの食材にしみており、とてもうまい。俺も料理は得意な方だが、八神と比べると、天と地ほどの差がある。

 

「これ、すごく美味しいな」

「………………」

「八神、どうした?…少し寂しそうな顔してるけど…」

「ん?ああ……いや、もし私に家族がおったらこんな感じやったんかなって思ってな…」

「……家族か…」

 

 俺にも前世には家族がいた。それはとても大好きだった母親や父親――二人はといきなり別れたため、最初は寂しさを感じなかったが、後々もう二度と会えないとわかると、すごく寂しさがこみ上げてきた。それがわかった日の夜はそりゃあ泣いた。一晩中泣きまくった。八神も同じ経験をしているんだろう。いや、もしかしたら俺以上なのかもしれない。

 だからこれは、勝手に口から出てしまった。同じ痛みを共用しているからこそ出てしまった。

 

「……なあ、これから毎日、夕食は八神の家で食べていいか?」

「…え?」

「ん? ああ、悪い。今のわすれ……」

「…ええよ」

「え?」

「ええよってゆうたんや。……いや、むしろ来て欲しいちゅー思いがわたしん中にある」

「えっ…あの、その…」

「これから、毎晩私の家に来てくれる?……橘、いや和也くん」

 

 うっすらと涙を溜め、こちらにそう訪ねてくる八神。…………そんな目で迫られると答えは限られてくる。

 

「ああ。俺でよければ」

「うん! ……あっ、でも毎晩私の家の食材使わんでよな」

 

 いつもの人をいじる時の表情に戻り、そう言ってくる八神

 

「そういう気はさらさらないよ。今度は俺の手料理を見せてやる」

「えー」

「舐めるな! 俺も一応料理は得意なんだ」

「ほう…じゃあ楽しみにしとるわ」

「任せとけッ!」

 

 たわいも無い話を続けながら、俺たちは夕食を食べていく……

 

 

◇◆◇

 

 

 俺は靴を履いて八神の玄関の前にいた。

 

「夕食と手当て、あんがとさん。助かった」

「そのお礼は10倍返しで返してな」

「うあ、ひっで!」

 

 そして、俺ら二人は笑い合う。…っともうこんな時間か

 

「じゃ、俺時間だから帰るわ」

「うん、また明日。和也くん」

「ああ、またな。はやて」

 

 そして、俺ははやての玄関を出て家へと歩き出した。

――なあ、はやて。もしかしたらお前と俺は似たもの同士なのかもしれない。母親と父親を失った者同士。だから、たった2回しか会っていないのに、あんなに親しく接しられたのかもしれないな……。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺は、はやてと別れてから家に帰って、ソファーに寝っ転がっていた。

 

「何で、あんなこと言っちまったのかな……」

『本当ですよ。 何であんなこと言ったんですか?さっきといい、テスタロッサさんの時といい、今日のマスターはなんかおかしいですよ。』

「うわっ!リゼット。どうして、今まで喋らなかったんだよ。急に声を出したからびっくりしたじゃないか」

『だって八神さんは魔法を知らないから、黙るしかなかったんじゃないですか』

「あっ、そういうこと……」

『…で、何でですか。マスターはあの人たちとあまり関わりたくはなかったんじゃないですか?』

「本当に、どうしてだろうな…俺にも良くわからない…ただな、ああいう風に一人で抱え込んでるやつを見てるとな……かわいそうに見えるんだよ」

『かわいそう……ですか?』

「ああ、一人で抱え込んでも何も良いことないのによ…それで苦しんでる奴見るとな……つい熱くなって、首を突っ込んでしまうんだ」

 

 前世の時もいつもそうだった。…………いや、単にあいつの真似事をしているだけかもしれない。前世の頃、狂気の中にいた俺を救ってくれたあいつに――

 

『マスター?』

「さあ、この話は終わり!さっさと、風呂入って、寝るぞ。明日も学校なんだから」

『は、はい』

 

今さら、あの人の事を考えたって仕方がない。もう、あいつはこの世界は当然、前世にもいないのだから……

 

 

◇◆◇

 

 

 風呂から上がった俺は、ベットで寝る準備に入っていた。…いやぁ、それにしても、怪我をしたあとの風呂って嫌だよね。傷口にこう…ズキッっとくるよね。…流石に両腕はビニール巻いて、濡れないようにしたけど。

 

「さあ、寝るか、リゼット」

『はい、明日も訓練があることですし』

「……マジで?」

『何言ってるんですか。当たり前ですよ』

「俺、今重傷を負ってるんだが…」

「次に襲われた時のためにも、もっと強くならないといけないんです!」

「わかった! わかったから、大声出すな! お前を枕の横に置いているから、耳元でうるさいんだよ!」

 

 出たよ、久々。リゼット様の訓練魂。そう思いながら、俺は安らかな眠りに着いた……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 「とある一日」

 訓練を終え、俺は学校に来ていた。そこである奴を見かけ、声をかける。

 

「よぉ、筋肉大好き野郎。この間はサンキューな」

「いやいや、いいってもんよ。カズ」

 

 俺が声をかけたのは天満。この間の礼を言うためだ。

 

「それにしても災難だったな。クマに襲われるなんて」

「………………は?」

「いや、何も言うな。お前の言いたいことはわかってる。どうして、知っているんだ!?ってことだろ」

「何言ってんだ?お前」

「あの電話を聞いたとき、俺は思った…」

「聞けよ、人の話」

「お前ほどの筋肉溢れる奴が怪我で帰るなんてただ事じゃあない。つまり、何かすごいことがあったって事だ。そこで、俺は考えた…ものすごく考えた」

「いや、大したことじゃないって」

 

 まあ本当はすごいことがあったんだが、天満に話すわけにはいかない。

 

「で、ふとひらめいたんだ。そうか!クマに襲われたのか!ってな」

「……待て待て。最後の言葉が理解できなかったから、もう一回言い直してくれないか?」

「なんだ?まあいい。ふとひらめいたんだ。そう…」

「そこじゃなくて! ……ホント最後の方」

「クマに襲われたのか!ってな」

「…………………」

 

 なんでそうなる!? ほかにも色々あるだろ! なんですか? 脳みそも筋肉でできてるんですか?

 

「どうだ?」

「いや、そのドヤ顔やめろって。普通に間違えてるから」

「えっ、マジかよ。つい合ってると思ってクラスのみんなにはなしちまったぜ」

「そこは…まあ、大丈夫だろう。クラスのみんなもそんな話信じないだろうし」

「お前も大変だな……」

「誰のせいだよっ!」

 

 手で殴ると傷口に悪いので、後ろ回し蹴りを天満の背中に叩き込む。硬ってぇーやっぱりコイツの筋肉は伊達じゃない。

 

「いやあ、悪い悪い」

 

 こいつはいつもこうだ。俺が何をしても、いつも平然としている。一回、熱くなって全力で、回転蹴り(ギアスでスザクが使うランスロットの蹴りみたいなの)を顔面にぶちかましたこともあったが、それも効かなかった。だから、俺はこいつに対してのツッコミはいつもこんな、派手な体術を使っている。…いつも効かないのが、ちょっとムカツク。本当に小3か?こいつ。…ま、俺もだが。

 そして、俺は自分の教室の扉を開ける。クラスの奴らは俺と暑いので袖をまくっている俺の両腕を見たとたんにすごい形相でみんな、俺に聞いてくる。

 

「ねえ、ねえクマに襲われたって本当!?」

「良く戻って来れたね!」

「天満くんが言ってたよ!」

「えっ…あの…それは」

 

 俺自身、まさかこんなになるなんて思ってもみなかったので、驚いて言葉が出ない。

 

「―――――黙りなさいッ!」

 

 その声で俺に迫っていた人たちが急に静かになる。

 

「今、確認すべきは一つのはずよ」

「バニングスか。助かった…」

 

 アリサ・バニングス。彼女の声は本当に聞き取りやすい。その澄んだ声はみんなに指示が通りやすいので、このクラスのリーダー的な存在となっている。まあ他にも理由はあるだろうが。

 

「で!大丈夫なの?その怪我」

「「大丈夫?」」

「ああ、別に大丈夫だ」

 

 バニングスとその仲良し組高町と月村がこちらに歩いてきてそう聞いてくる。俺は別に問題ないので、そう返す。

 

「そう……」

「「良かった…」」

 

 バニングスは返事を聞いたとたん、俺から興味を無くしたようだった。当たり前だが、どうやらバニングスは俺を心配したわけではなく、みんなの代表で聞いたようだった。後ろの二人はどうやら、違うようだが。

 

「アリサーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 一件落着かと思いきや、ある男の声でそれが止められる。教室から入ってきた奴は、小学3年生とは、思えない顔立ちだった。漫画とかでしか出てこなそうな感じのやつだった。…確か、ここ最近、ずっと高町たちといた奴じゃないか?

 

「大声が聞こえたから、何事かと思ったのに何だ?お前?俺のアリサやなのは、すずかの気を引こうとか思ってんのか?」

「…………(こいつ、ウザいな)」

「なんか言えよ!」

 

 そう言いながら俺の胸ぐらを掴みあげてくる謎の人物。だがどこかであったことがあるような気がする。

 

「ていうか…お前誰…だよ…」

 

 胸ぐらを掴まれているので途切れ途切れの声を出す。

 

「うるせーよッ!」

「がはっ……」

 

 さらに絞める力を上げられ、息ができなくなり始める。……ったく、どっち…だよ。

 

 

「ちょっと、やめなさいよっ! 苦しそうじゃないの!!」

「アリサ、こういう風に懲らしめとかないと、調子にのるんだよ。こう言う奴は」

「大体、何であんたは、馴れ馴れしく私の名前を呼んでるのよっ!」

 

 バニングスが声を荒げて言っているのが聞こえる。……そろそろ、息と堪忍袋の我慢の限界だ。

 

「カズっ! テメー……!」

 

 こいつに殴りかかろうとしている天満を手で静止させる。俺は、前からやられた物は倍返しで返すのが主義だった。だから心配すんな天満、こいつは……殺すッ!

 

「放…せ…っ!」

「あ?」

「放せ……って言ってんだよっ!」

 

 俺はこのイケメンクソ野郎の手を掴みあげ、思い切り捻り上げる。

 

「痛てっ! この…放せよ!」

 

 そのイケメン君を突き放したあと、蹴りの威力を上げるため距離を取る。

 

「テメェー……ッ! いい加減に…」

「うっせーよ」

 

 そして、俺は天満にした回転蹴りをイケメン君の顔にぶち込んだ。イケメン君は体を回転させながら教室の奥まで吹っ飛んだ。

 

(……? 今の感覚…)

 

 初めて天満以外にも使うから、良く分からないが流石にここまで威力はないはずだ。…まさか、能力の影響か? …いや、それは無いはずだ。だって、あれはセットアップ時しか使え…

 

「カズっ! 大丈夫だったか?」

 

 天満に声をかけられ、思考が中断される。

 

「大丈夫。それよりもあいつの方が……」

 

 つい、怒りでやってしまったが、今、後悔した。やりすぎた。周りのみんなは目を白黒させている。

 

「天満。とりあえず、あいつを保健室へ運ぶのを手伝ってくれ」

「おう」

 

 イケメン君を担ぎながら天満に手伝えと言う。そして、俺はその場から逃げるように保健室へ向かった。

 

 

◇◆◇

 

 

 

 保健室から戻った俺は、机でうなだれていた。……だって…クラス女子のみんなから避けられているんだもん。俺が結構危ない奴だと思われ始めているみたいだ。イケメン君を吹っ飛ばしたことも多少は影響してるんだろうな。

 

「はあー……」

「ちょっとっ」

 

 俺の女子からの信用が一気にゼロに……と思いながら溜め息をついていたら、声をかけられたので、顔を上げる。

 

「バニングス達か…どうした」

 

 前には仲良し三人組が立っていた。正直、近寄らないでほしい。今俺はブルーな気分なんだ。

 

「さっきは…その…ありがとう」

「は?」

 

 いきなりお礼を言われたので驚き、思考が停止する。

 

「ありがとうって言ったのよっ!」

「いや、それはわかってるけど、急にどうした?」

「……あいつはね黒鐘 終って言ってね、前から、私たちにずっとついてきて、正直ウザかったのよ。いきなり名前で呼んだりしてきたし」

 

 バニングスの後ろにいる二人も頷いている。どうやら、二人も同じらしい。

 

「だから、ぶちのめしてくれてありがとうって言ったのよ」

「ああ、そういう事」

「ありがとう」

「ありがとう。本当にありがとう」

 

 バニングス、月村、高町はそう言ってくる。しかし本当に嬉しそうだな、高町は。今までで見たことがないくらいの笑顔だ。

 だがそろそろ戻ってくれないか。唯一の味方、男子達からも睨まれてるんだよ。お前らと話しているから。

 

「じゃ、言いたいことはそれだけだったから」

 

 バニングス達はそう言い残し、自分の席に戻っていった。

 その日の夜の家では……。

 

『マスター』

「リゼット、何だ?」

『あの人たちとは関わらないんじゃなかったんですか』

「ああ、それか。もう面倒くさいので諦めた。もうどうにでもなれ」

『そんな投げやりな……』

 

 

◇◆◇

 

 

 あの一件以来、数日が経ち、俺の学校生活は大きく変わった。親しくない男子からは危険な奴と思われ、俺に近寄らなくなった。それと女子からは完全にハブられるようになった。ただ、3人を除いて………

 

「ねえ、今日は私たちと一緒に帰らない?」

「断る!!」

 

 ただいま放課後。この状況だから、俺は今、友達が少ない。女友達は誰もいないし、男友達は佑樹と天満くらいだ。でも!こいつらと一緒にいるとろくなことがない!

 

「そんな、すぐさま全否定しなくてもいいじゃない!」

「他にも誘えるやつぐらいいるだろう? 何で俺なんだ?バニングス。高町。月村」

「「「…………」」」

「だんまりか。俺が当ててやろうか? どうせ、黒鐘が近寄ってこないから。って感じだろ」

「「「…………」」」

「おーい、目背けるなー」

 

 そう、仲良し3人組だけはむしろ前より仲良くなった。理由は……言わなくてもわかると思うが、黒鐘が俺を避けているからだ。あの回転蹴りがトラウマになっているらしく、俺のそばには近寄ってこない。だから、こいつら黒鐘に絡まれるとすぐ、こっちにエスケープしてくる。その度に、俺は黒鐘に睨まれるんだが……

 だから、こいつらなるべく俺の近くに居ようとする。こっちからしたら、たまらない。佑樹達は遠慮して、こっちに来ないし、男子からは睨まれるし、黒鐘からは殺気を出されるしで大変なんだ。……で、俺が離れようとすると……

 

「じゃ、面倒なので俺は一人で帰……」

「逃がさない」

 

 高町に腕を掴まれ、動きを封じられる。しかもこいつ魔力で筋力強化してくるので、毎日鍛えている俺でもビクともしない。俺には魔力はあるが、才能は皆無なので、何も出来ない。こうなるとおしまいなのだ。

 

「HA☆NA☆SE!! 今日こそは一人で帰る!」

「一緒に帰らないと……」

「痛ッ…はい。一緒に帰らさせてもらいます」

「うん!」

 

 お、恐ろしいっ!こいつ、このままいってたら、俺の腕の骨を折ってたぞ…!

 

「っち!…」

 

 どうやら、教室の窓から黒鐘が覗いていたらしく、俺が高町達と一緒に帰ることになったのを見て舌打ちしながら、何処かへ行ってしまった。

 

 

「はあ……」

 

 朝昼はこいつらに絡まれ、夜ははやての家で飯を食べながらはやてと駄弁る。数日前の俺から考えると、ありえない事だと思う。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「……ねえ…」

 

 

 高町達と一緒に帰っているが、いつも俺は仲良し3人組の後ろを一人で歩いている。…が、バニングスがこっちに歩調を合わせ、俺の隣に来て、小声で何か言ってきた。

 

「何だ?」

 

 真剣な顔をしていたので、俺も小声で返す。どうやら、前の二人は話に夢中になっているようで、こっちの会話には気づいていない。

 

「最近、なのはの様子がおかしいのよ。何か隠してるみたいで……あんた、何か知らない?」

 

 それは、俺も気づいていた。時々高町は無理しているように見えた。まあ、原因は、大体察しがつくが……

 

「さあ、俺は知らないな」

「そう」

 

 こいつらにはまだ魔法のことを言うのは早い。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 こんにちは、高町なのはです。ある日、ユーノ君と名乗るフェレットに会って魔法少女になり、今はジュエルシードを集めています。それから、色々なことがありました。

 一つ目は2年生の時一緒のクラスで、妙に私に話しかけてきた黒鐘 終君が魔導師だったということです。いきなり、ジュエルシード集めを手伝ってやるって言ってきて、それからジュエルシード集めの時は行動を共にしています。

 正直言うと私は彼が苦手です。必要以上に体を触ってくるし、変な視線を送ってきたりするからです。前は学校の時も一緒にいましたが、今はある男の子、橘くんがいるから、終君と一緒にいるのはジュエルシード集めの時だけになりました。だから橘くんには感謝しています。

 そして、二つ目…今わたしが一番気になっていること。すずかちゃんの家に遊びに行った時に出会った少女。綺麗な瞳と髪をした、あの少女。ジュエルシード集めをしてると、またあの子と戦うことになる。そう考えると……

 

「なのはちゃん、大丈夫?」

「え?」

 

 考え事をしていたらすずかちゃんに大丈夫?と言われた。どう言う意味だろう?そういえば、アリサちゃんがいない。後ろを向くとアリサちゃんがいた。どうやら、橘くんと話しているみたいだった。

 

「ちょっと、悲しい顔をしてたから…」

「そんなことないよ。ほら?」

「うん…ごめん…」

 

 わたしはすずかちゃんに笑顔を見せる。けど…すずかちゃんの心配しているような顔は変わらなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「じゃあ、俺こっちだから」

「うん…」

「じゃあね」

「バイバイ」

「ああ、また明日」

 

 高町達に別れを告げ、俺は家へと向かう。バニングスに言われたからかもしれないが、別れる時、高町の元気がさらになくなっているように見えた。

 

「絶対にテスタロッサ関連だよな…」

 

 もう、うろ覚えだが原作でそんなことがあった…ような気がする。

 

「リゼットも待っているだろうし、さっさと帰るか」

 

 俺は独り言を言いながら、家へと走った。

 そして夜、はやての家で食材を持ち込み、料理対決をしたがやはりはやてのごはんの方が美味しかった。その時のドヤ顔がものすごくイラっときたのを覚えている。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 「温泉へ逝こう!」

 今、俺は海鳴市のとある温泉に来ている。高町家達と一緒に…

 

「どうしてこうなったんだろうか……」

「ん、どうしたんだい? 橘君」

「いや、何もありませんよ。…えっと、士郎…さん?」

「ああ、ならいいのだが…」

 

 なんでこうなっているのかは数日前にさかのぼる。

 

 

 

                   ◇◆◇

 

 

 それは、突然告げられた―――――――

 

「ねぇ~、一緒に温泉に行こう?」

「………は?」

 

 ただいま、学校での授業の合間の休み時間。これは高町から発せられた一言だった。

 

『えええぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

 

 その言葉にクラスメイトのほとんどが驚きの声を上げる。中には涙目になりながら、こっちを睨んでいる奴もいる。……あれ絶対、高町のファンだな。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て! 何がどうなって、そうなった!?」

「えっ…いや、いつもわたしたちのせいで、迷惑かけてるから、家族で温泉旅行に行くんだけど、一緒にどう?っていう意味で言ったんだけど……」

「分かるかっ! さっきの一言にそんな意味が込められてるなんて、普通分かんないって!!」

「そうね…今のはあんたが悪いわね」

「ふぇ…アリサちゃん、どうして?」

「それはね、今さっきの言葉だけを聞いたら、普通は二人っきりで温泉に……」

「…………!」

 

 バニングスが高町にさっきの言葉は普通どういう風に受け止められるのかを説明しているようだ。バニングスが言い終わったら高町の顔が一瞬で赤くなった。……今、湯気が出なかったか?

 

「ち、違うから! そんな意味で言ったんじゃないから!!」

「わかった! ……わかったから行くメンバーを教えてくれ」

「ふぇ、えっと…まずわたしの家族全員とアリサちゃんにすずかちゃんとそのお姉さんの忍さんとメイドさん達…ぐらいかな」

「………………俺の知らない人ばっかりじゃねーかっ!?」

 

 いや、実際顔は知ってるけど、絶対俺が行っても、なにもすることないと思う。

 

「あっそれは大丈夫。橘くんの事はお母さん達知ってるから」

「えっ…何で?」

「わたしが話したの。連れて行くのは別にいいけどどんな人なんだ?って訊かれたから」

「あ、そうなんだ。でOKもらったのか?」

 

 そう、知られたのはもう過ぎた事だから、どうでもいい。肝心なのは、OKが出たかどうかだ。事によってはまだ逃げようが……

 

「うん♪ むしろお父さん達、気に入ったみたいで早く会いたいって言ってたよ」

「……さいですか」

 

 嘘だろ……どこにも逃げ場なしかよ…。しかも戦闘種族に気に入られてしまったようだ。

 

「で、どうかな?」

「……わかった。逝くよ」

「うん♪ 良かったぁ、早速今日帰ったら言っておくね♪」

 

 

 

                   ◇◆◇

 

 

 

 というわけだ。一応リゼットは持ってきている。万が一って可能性もあるしな。

 

(本当にすることないな…)

 

 いま俺は恭也さんや士郎さん……つまり男が集まっている部屋にいる。が、初対面の人とペラペラしゃべれる根性は持ち合わせていないので、二人とは離れて、一人で窓の外を見ている。

 いま思い出したんだが、ここって高町とテスタロッサが戦う場所じゃなかったか?

 まあ、もうすでに原作とは若干話が変わってるから原作の知識はあまりあてにならないけど……

 

「なあ、君ってどうやって、うちのなのは達と知り合ったんだい?」

 

 どうやら、窓を眺めている間に恭也さんがこちらに近づきそう聞いてきた。

 

「え……どうしてですか?」

「いや、なのはが急にある男の子を連れてってもいいかって急に言ってきたもんだったからさ、少し気になっててね。あいつが男の子との友達ができたなんて聞いたこともなかったからさ」

 

 俺はほっとしながら肩をなでおろす。何だそういう事か。……ていうか友達なのか、俺? ただの黒鐘からの避難場所じゃないのか?

 

「そういう事でしたら…別にそんな大層なもんではありませんよ。ただある男の子がいましてね、その子は高町達に……そのゾッコン? でして」

 

 あながち間違ってはいないと思う。…だってあいつ、いつも俺に会うたびに俺のなのは達に手を出しやがって……とか言ってくるし。

 

「でも、高町達はそいつのことが嫌いなわけですよ」

「ああ」

「で、その男の子は俺のことが苦手でして…」

「どうして?」

「えっ?いや、その…初対面の時におもいっきり吹っ飛ばしてしまいまして…」

「ははっ、それはかわいそうに」

「で、高町達はそいつに追いかけられたら俺の所にエスケープしてくるんです。それが知り合った一番の要因ですね」

 

 あんなことをしなければ、俺は今頃、また天満達と遊んでいるんだろうな…しかしやってしまったこと…過去は変えられない。

 

「なるほど……」

 

 何かを考えながら、頷く恭也さん。……なにか嫌な予感がするんだけど。

 

「なら、学校でのなのはの安全は君にお願いしよう」

「…はい? どういうことですか?」

 

 ポカンと空いた口を戻しながら、恭也さんに言い返す。…なにいってんの? この人。

 

「俺はなのはの兄として、なのはや美由希を守ならければいけない。だが、学校の時には助けてはやれない。美由希はうちで鍛えてるからいいが…なのはがな。そのことにずっと悩んでいたんだ」

「はぁ…」

「だが、君にそのことを託しても良さそうだ」

「…………あの初対面の俺に任せていいんですか?」

「ああ。なのはは君を信頼してるようだからね。なのはが一目置いたなら俺も同じさ」

 

 なるほど、良く分かりました。つまり、あなたは重度なシスコンなわけですね、良く分かりました…ていうか普通そこまで考えないだろ。

 

「どうかな?」

「えっと……」

 

 あの………殺気を出しながら言われると、断れないと言うかなんというか……くそっ! やっぱり、兄弟は似るんだなっ!

 

「はい……分かりました」

「良し!では君になのはのボディガードが務まるか、テストしよう」

「テスト……ですか?」

「そうだ。でも心配しなくていい、ちょっとしたテストだから。そんな崖を登れとか言わないから安心して」

 

 うわぁ~、それでも嫌な予感しかしないんですけど…

 

「父さん!」

「ん?どうした?」

「木刀、持ってきてる?」

「ああ、4本持ってきてるぞ」

「そう。じゃあ、橘くんと試合するから、貸してくれないか?」

 

 やっぱり……。もういやだ…なんで、俺ばっかこんな不幸な事ばかり起きるんだろうか。せっかく、傷も癒えたばかりなのに。

 

「橘くんと?大丈夫なのかい?」

「ああ、大丈夫さ。それで、父さんには審判をしてくれると助かるんだけど…」

「構わないよ。それにしても珍しいね。恭也がやる気を出しているなんて」

「たまには、そういうこともあるさ」

「よし、じゃあそのあとに、仲良く三人で温泉に入るか」

「おっ、いいね父さん」

 

 あの~お二人方、わたしの気持ちは無視ですか。

 

「じゃあ行こうか?橘くん」

「………はい」

 

 俺たちはそう言いながら、ひらけた場所を探すべく、外へ出た。…今こそ、某アニメの主人公の口癖を言いたい。

 

(不幸だーーーーーーーーーーーーーー!!!!》

《うるさいですよ、マスター!!》

《えっ?ごめん……》

 

 心の中で叫んだつもりだったのだがどうやら、無意識に念話で叫んでいたらしい。

 

「はぁ~……」

 

 恭也さん達に連れられ、俺は旅館の外庭? とりあえず開けた場所に来ていた。…帰りたい。

 

「では、準備ができたら言ってくれ」

 

 ゲームでボス直前になると、仲間が言いそうな言葉を士郎さんが言った。…って今はそんなことを考えている場合じゃない!

 

「あのー俺、小学生なんですけど……」

「……それが?」

 

 恭也さん、このままいくと俺を殺しかねないと思ったので、小学生だから手加減してねという意味で殺気……漢字が違う! さっきの言葉を吐いたのだがたった、一言で返されてしまった。

 ………それが?って何!? 小学生相手に何で本気になってるんだよ、あんた! もうヤダっ! 先頭種族って恐ろしいッ!!

 

「ちょっとは手加減してくださいよ」

 

 俺は我慢しきれずに、本音を言う。転生して、まだ一年しか経ってないんだ。つまり、この世界での実際の年齢は一歳……一歳で死ぬなんて、一歳……だから漢字が違うって! 一切、御免だ。

 

「手加減? 手加減って何だ?」

 

 恭也さんはブ○リーめいた言葉で返答してくる。……このサ○ヤ人!!って事はなんですか? あなたは伝説のスーパーサ○ヤ人にもなれるんですか?

 

「冗談だよ。だが、どんなことであっても手加減は相手に失礼と俺は思ってるんでね。しかも、君は並の小学生じゃない、そう感じるんだ。……そろそろ、始めようか」

 

 なるほど……つまりあなたはアリがいたら、全力で退治する方なんですね。分かります。

 

「じゃあ、まずルールを確認する」

 

 士郎さんがこのテストの説明をし始めた。……今思えば必要なのか? このテスト。

 

「ルールは簡単。私が「そこまで」というまで戦ってもらう。それでいいな?」

「ああ、父さん」

「…………」

「橘くんは?」

 

 理不尽だが、ここまで来たら腹をくくろう。生半可な気持ちでやってたら、すぐやられるからな。

 

「ええ、いいですよ」

「そうかい。まあ頑張って。それでは……!」

 

 俺は始めの合図を待つと同時に目の前の恭也さんに集中する。今恭也さんは二本の木刀を持って何かの構えをとっている。場所を見つける最中に聞いたが、あれは高町家に代々伝わる御神流という流派らしい。あっちも本気ってことか…!

 

「始め!!」

「ッ!」

 

 始めと言われた途端、俺は一本の木刀の柄を握りしめ、恭也さんに全力で近づいた! 体力、筋力、手数、技術、どれをとっても恭也さんが上。となると……ここは…!

 

 恭也さんは間合いに入った瞬間、こちらに木刀を振ってくる。俺はそれを……………食らった。

 

 

「「……………」」

 

 

 二人共、無言。恭也さんも小手調べだったらしく、威力はそんなになかった。こうすれば、そこまでと言われるはずだ……が、そこまでと言われない。士郎さんを見ると、仁王立ちでこっちをガン見している。…スベった!!

 

(わざと、負けるのは難しそうだな…)

 

 士郎さんも武術の達人だ。相手が本気なのか、そうじゃないのかは見分けることができるのだろう。限界まで戦うしかないらしい。……クソッ!いい策だと思ったのに!!

 俺は改めて目の前にいる恭也さんに意識を集中する。徐々に感覚が研ぎ澄まされ、恭也さん以外見えなくなり始める。

 

「ようやく、本気になったか。じゃあ行くよ」

 

 恭也さんは言った途端に、すごく早く、そして鋭い斬撃を二刀で放ってくる。

 

「くっ……」

 

 俺はそれをかろうじて避けたり、ガードしたりしながら反撃のチャンスを伺う。ていうかホントに容赦ないなこの人!

 

「ほらほら、守ってばかりじゃ勝てないよ」

「………ッッ!」

 

 こちらは声が出せないほど、切羽詰まっているのにも関わらず、あちらは余裕しゃくしゃくである。くそ、隙が無い。反撃できない……!

 

「がッ……」

 

 遂に捌ききれずに恭也さんの左の木刀が俺の左腕に当たる。それをさかいに、嵐のような剣戟が恭也さんから繰り出される!

 ガードするだけで精一杯になった俺。……まだか? まだ士郎さんは止めないのか?

 

「…………………」

 

 こちらをさっきと変わらず、見続ける士郎さん。

 

「よそ見をするなっ!」

「がはっ!!」

 

 士郎さんを見て、恭也さんから目を離した俺がバカだった。攻撃は木刀でガードしたのに、そのまま吹っ飛ばされてしまった。

 数メートル吹っ飛びその勢いで恭也さんと距離を取る。

 ……怖い。体が恐怖で動かなくなりはじめる。もしかしたらこの世界に来て初めて俺は恐怖を感じたかもしれない。それほどまでに恭也さんの殺気は凄かった。

 

「ふうぅぅぅー」

 

 深呼吸しながら、気持ちを落ち着かせ目の前の()を見る。これはテストなんてものじゃない。本当の戦いだ。

 

(防御はいらない……!)

 

 どうやっても、あの攻撃からは逃げきれない。となるとダメージ覚悟で行くしかない。

いいか、防御は捨てろ。

迷うな。

臆するな。

やるべきことは……

 俺は木刀の柄を再度握りしめ、震える体を無理に動かし、自分にそう言い聞かせながら、恭也さんに突っ込む。

 

「攻撃だけ!!」

 

 俺は恭也さんに真正面から突っ込んでいく。そして俺の木刀が恭也さんに振られる直前……

 

「そこまでッ!!」

 

 士郎さんからのストップがかかった。不測の事態に頭が追いつかない俺。その隙に、恭也さんから手がさし伸ばされる。

 

「おめでとう。合格だ」

「…え?」

 

 合格?何でだ?まだ、俺は続けられるのに、どうして……

 

「悪いね。今回のテストは君の強さを試すテストじゃない。君の勇気を試したんだ」

「勇気……ですか?」

「そうだ。もちろん人を守るには強さは必要だ。だがその前に勇気…思いが大事なんだ。それを今試させてもらった。俺に立ち向かう勇気をね」

 

 俺は安堵のため息ををつく。……なんだ。そういうことだったのか。どうりで恭也さんがあんなに殺気を出しているのに士郎さんが止めなかったわけだ。

 

「これからなのはの事よろしく頼む」

「……えっ、えっと」

「よ・ろ・し・く!」

「……はい」

 

 キャラが変わってませんか? 恭也さん。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺と恭也さん達がテストの後の温泉から上がった時にはすでに夜になっていた。 どうやら温泉に長居しすぎたようだ。 いや、男同士で親睦を深め合っていたんだ、そしたら時間が………自分で言っているのに、気持ち悪っ!

 それにしても士郎さんの体を見たときは驚いた。 体中が傷だらけだったからだ。どんな人生を送ってきたんだろうか……

 

「おーい、橘くん。そろそろ寝るか?」

 

 恭也さんが声をかけてくる。 うん、確かに今日は疲れたから早く寝たいけど……

 

《どう思う、リゼット?》

 

 念話でポケットにつっこんでいるリゼットに問いかける。

 

《何で、私に聞くんですか?》

〈えっと……今日もこれから訓練とか言わないのか?〉

《さすがの私もそこまで鬼じゃありませんよ……帰ったらその分だけ訓練量を増やしますけど》

 

 まさかの答えが返ってきたと思ったら、やっぱりリゼットは訓練の鬼だった。くそ、帰ったら増えるのか……勘弁してほしい。

 

《ていうか、私をそろそろポケットから出してください! 私は本来首にかけるものです!》

《はいはい……》

 

 そう返しつつ、首にリゼットをかける。……まったく、わがままなデバイスだ。マスターをここまでシゴくデバイスなんてお前ぐらいだぞ。

 どうやら話しているうちに恭也さんが布団を敷いていたらしく、俺の前に布団が敷き詰められている。入口側から士郎さん、恭也さん、俺という順番になっている…という流れが出来始めている。空いている布団が窓際のやつしかないからである。

 

《まっ、いっか》

 

 夜の景色を見るのは別に嫌いじゃない。まあ、まだちょっと肌寒いのがきずだけど……

 

「じゃあ、明日も早いし電気を消すよ」

「ああ、頼む」

「ええ、いいですよ」

 

 恭也さんは電気を消すために立ち上がりながら聞いてきた。その問いに士郎さんと俺は賛成の声を上げる。

 電気を消すときの特有の音が、部屋中に鳴り響き明かりがいっさい無くなり、星の光が輝くようになる。

 

(寝るか……)

 

俺は瞳を閉じながら、眠りはじめた…

 

 

 

◇◆◇

 

 

「……………寝れない」

 

 何分たっただろうか? 俺は目を外の景色へ向けながらそう思う。みんなも経験ないだろうか。いつも、自分が寝ているベッドじゃないと、なかなか寝つけない事が……。今がまさにその時である。

 俺は外の景色を見るのをやめ、恭也さん達のの方向へと寝返りをうつ。……そこで恐るべき光景を目にした。

 

(寝ながら……戦ってる!?)

 

 そう、寝ながら戦っているのだ。戦っているのだ、寝ながら。大事なことなので倒置法も含め二回言った。

 俺の視線の先では、いびきをかきながら、恭也さんに馬乗りになり、拳を放つ士郎さん。そしてその拳をこれまた、寝ながらさばいている恭也さん。明らかにありえない光景である。

 

「ほんとに寝てるのか? この二人……おーい、シスコン~。親バカ~」

 

 やってはいけないことだが、二人の悪口を言い反応を探る。……返事が無い。ただの先頭種族のようだ……って、待て待て! おかしい! これはあまりにもおかしい!

 

「世の中って常識が通じないんだな…」

『そうですね。ところでマスター、近くでジュエルシードと魔力の反応があるんですけど……』

「で、それが?」

『えっ…リベンジしなくていいんですか? テスタロッサさんの反応がありますよ』

「今日はもう疲れた」

『そう……ですか。あちらはこっちに近づいてきてるんですが……』

「…………はぁ!?」

 

 リゼットの言葉に驚き、大声を上げる俺。やばっ! 恭也さん達を起こしたか?……いまだ、戦っている二人。どうやら大丈夫なようだ。ていうか、それよりも!

 

《何でバレてるんだよ?》

 

 さっきは起きなかったとはいえ、恭也さん達を起こしては悪いので、念話でリゼットに訊く。魔力は漏れていないはずなんだが……

 

 

『やっぱり、私が作った結界では隠しきれないようですね……』

 

 

 リゼットは小言のように何かつぶやいているが、声が小さくて聞こえない。ていうかリゼット…お前、しゃべるなら念話でしろって……隣でバトってる人たちに聞かれたらどうするんだ。

 

《とにかく、どうします?》

 

 リゼットは念話で訊いてくる。……確かに今は何故気づかれたよりも今どうするべきか…だよな。

 

《とりあえず、外に出よう。ここにいても、恭也さん達を巻き込むし、逃げる場所も少ない》

《そうですね…それしかないですね》

《そうと決まれば、セットアップだ》

《イエス、マイマスター》

 

 俺は素顔がバレると厄介なので、セットアップをする。ついでに魔力ロックも解除しておく。……今ので確実にあっちには気づかれたはずだ。テスタロッサ側も高町側も。

 

「さて、外へ出たはいいがどうしよう」

 

 俺は三階の窓から風を操りながら降り立った。風を使ったのはみんなもわかるとおり、使わないと悲惨な目にあうからだ。

 

『とりあえず、出来るだけここから離れましょう』

「だな」

 

 俺はどこに行くあてもなく、とにかく旅館から離れようと思い、全力で駆け出した。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺が全力ダッシュしていると、視界に気になるものが目に入った。……俺、今まで言わなかったけど、目はいい方なんだ。

 

「また、このパターンですか……」

 

 そう、目の前には青い宝石―――ジュエルシードがある。目の前のミニ川を挟んで、こちらに顔を覗かせている。どうやら、まだ覚醒前らしく今は何も感じない。……なぜ、俺はこんなにもトラブルに巻き込まれやすいのだろうか?

 

「流石にもう勘弁!」

 

 そう言いながら俺はまた走り始めた。恐らくあれが、後で覚醒してここでのあの二人の戦いの引き金になったのであろうが、はっきり言うと俺には関係ない。それにもしかするとあっちの方に目がいって俺の方には誰も来なくなるっていうこともありえるからな。

 

『マスター、追っ手が4人から1人になったようです』

 

 リゼットには、「状況をこまめに教えてくれ」と頼んでいたので、頼んだとおりに状況が報告される。…さっき、ジュエルシードが覚醒していたから、二手に分かれたんだな。……できれば、高町とは会いたくない。

 

「本当に痛そうだもんな…あの砲撃」

『何か言いましたか、マスター』

「いや、なんでもない。…それよりも、もうかなり離れたからここいらで迎え撃つぞ」

『了解です』

 

 俺は気持ちを切り替えながら、相手を迎え撃つべく臨戦状態に入る。…さあ、来るのは誰だ?

 

「あんたかい?もうひとつの反応は」

 

 出てきたのは大人の女性だった。………えっと、確か、テスタロッサの使い魔の……ダメだ、思い出せない。まぁ、こいつが来たってことは、向こうの方にスクライアと高町そしてテスタロッサがいるってことになる。

 

「何か言ったらどうだい、顔を隠した魔道士さん?」

「お前に話すことは何もない」

 

 俺は冷たく言い放つ。……だって、あの人話し合う気がさらさら無さそうだもん。ほら、殺気出しまくり。

 

「だったら、体に聞こうかね!」

 

 使い魔はいきなりこちらに向かって接近し拳を繰り出してきた。…だが、こっちも戦闘には備えておいたので、別段驚くこともなく、剣でそれを受け止める。

 

「いきなりか?」

「良く受け止めたね。大抵の奴は反応できないのに」

「それは……どうも!」

 

 俺は言葉を言ったと同時に腕に力を入れ相手を押し返す。押し返すと、相手は抵抗する事もなく俺の力を利用し俺と距離を作る。

 

「逃がすかよッ!」

 

 俺は風の恩恵を受けながら高速で相手に近づく。そして俺はその勢いを殺さず、相手に突きを放つ。

 

「ふっ!」

「……ッ!」

 

 が、俺の放った突きは、虚しくも相手の防御魔法によって阻まれる。……だがこれでいい。

 

「エアロ………ブレイクッ!」

 

 そして、突きを放った剣から、竜巻が巻き起こり、木々をなぎ倒しながら、使い魔を吹き飛ばす。

 エアロブレイク―――風の技の一つ。まあ単純に言えば風の砲撃だ。……ゼロ距離からこれを食らうとひとたまりもないはずだ。だが…

 

「あんたかい!フェイトが言ってた不思議な魔法を使う魔道士ってのは!」

 

 どうやら、逃げられたらしい。上空に浮遊している使い魔がそう言ってくる。だがダメージはあったようで服が多少汚れている。…ていうか、情報がバレてるし。

 

「……一つ聞きたいことがある」

「何さ?」

「あんたのご主人様は何か抱え込んでたようだけど、心当たりはあるのか?」

 

 テスタロッサと会ったときに気になっていたことを訊いてみる。あいつの使い魔となれば原因を知っているだろう…………が、どうやら禁句だったらしく、相手の表情が怒りに変わる。

 

「……あんたには、関係ない事さ」

「だろうな。でもな…………」

「何さ?」

「俺は困っている人を助けないほど落ちぶれた奴じゃないッ!!」

「他人は………他人は黙ってなッ!」

 

 俺は風を操り、使い魔の元へと飛翔する。あちらもこちらに急接近してくる。

 

「あんたに心配される筋合いはないよ!それに何さ!あんただったらフェイトを救えるっていうのかい!」

「確かに……ッ! そうだな……くッ!」

 

 俺たちは剣と拳同士で打ち合っていた。……いや、どちらかと言うと俺が押されている。実力は大差ないと思っていたが、怒っているせいか動きのキレとパワーが上がっているようだ。さすがは原作組、怒りでパワーアップとかシャレになってないって……!

 

「だったら、あたし達の問題に首を突っ込むんじゃないよ!」

「しまっ……!」

 

 遂に押されきってしまい、俺は吹っ飛ばされた。……それにしても、ここまでキレるなんて、コイツもテスタロッサの事、気づいていたんだな。しかも、原因も分かっているぽい。

 

「違う……!俺が言いたいのはそういう事じゃない!」

 

 俺は離された間合いを再び詰め、体を回転させ裏拳みたいに剣を振るう。その攻撃は防がれてしまうが、俺はそんなのはお構いなしに次の攻撃のモーションに入っていた。

 

「確かに他人の問題に首を突っ込むなんて、人の心に土足で踏み込むようなもんだろうな。……でもな、そうでもしないと人は救えないんだよ!」

 

 俺は剣を軸に回転し、風で強化した回し蹴りを叩き込む。どうやら、これは反応できなかったらしく使い魔は地面に落ちて激突した。

 俺はすぐさま追撃しようと思ったが、体が動かない。

 

「バインド!?」

「フォトンランサー・マルチショット!」

 

 俺が縛られているあいだに使い魔は体制を整え直し、フォトンランサーを撃ってきた。

 

「風よ!」

 

 俺は叫びながら、目の前に風のバリアを生成する。しかし、この選択が間違いであることにあとで気づく。

 

「くッ!」

 

 フォトンランサーが俺のバリアに当たった瞬間、凄まじい閃光が俺の視界を覆う。そう、使い魔は攪乱用に着弾時炸裂効果を付与したフォトンランサーを撃ってきたのだ。

 

「がはっ!」

 

 すぐさま、腹に衝撃が突き抜け、俺は地面に叩き落とされる。痛みをこらえ、敵を視ようとするがまだ俺の視界は戻りきっていない。

 

「チェーンバインド!」

 

 そう叫ぶ声が聞こえる。見えないが、恐らく俺の周りを囲むように鎖が飛んできているのであろう。俺はすぐさま、対応策として剣を上に掲げ、技を発動させる。

 

「ストームレイド!」

 

 俺がそう言うと、俺を中心に竜巻が起き、周囲に存在する物すべてを吹き飛ばしていく。もちろんチェーンバインドもこれで吹き飛んだはずだ。

 俺の視界が復活する。……そして使い魔の姿を上空で視認する。

 

「あんたはそう言うけど、そんなのは綺麗事さ。それにあの子がどんな闇を抱えてるか知らないくせによく言うよ。救いたくても救えないんだよ。どんなに頑張ったてできないことだってあるんだ、この世にはね」

「そうかもしれないな。でも……」

 

 使い魔はちょっとは落ち着いたらしく、さっきよりかは優しくなった口調でそうもらす。確かに頑張ったてできないことはこの世にはあるだろうが―――――――

 

「それはただの言い訳だ」

 

 俺は使い魔をまっすぐと見ながらはっきりと言う。そう言うと、また使い魔の顔が変わり始める。

 

「だったら……だったらどうしろって言うのさ!」

 

 使い魔は人型から獣型になりながら、高速で俺に突進をしてきた。

 俺はそれをサイドステップで避けるが、使い魔は着地時の衝撃などものともせず、そのまま俺を追尾してきた。

 

「くッ……はああッ!」

 

 その攻撃を一旦剣で受け止め、押し返す。……そろそろ、決めないと魔力が底を尽きてしまう。でも、一番俺の能力で威力がある火系の技はこんなところでは撃てないんだよな。そんなことしたら辺りが火の海になる。

 

「グランドバレット!」

 

 俺は考えながら牽制用に土で作った拳を地面から数個出現させる。……土系の技は地面からじゃないと使えないが、魔力消費量が少ないからこういう時には使えるな。

 俺は次の攻撃に移るため、構えをとっていると光とともに爆音が森に響き渡った。

 

《なんだ?》

《どうやら、テスタロッサさんと高町さんが交戦中のようです》

 

 俺はリゼットにさっきの爆音についての情報を訊く。が、戦闘中なのに意識を別の方に傾けたため、そこに一瞬のスキができる。

 

「よそ見するんじゃないよ!!」

「ぐっ! ……しまった!!」

 

 使い魔はそのスキを突き、俺に攻撃を仕掛けてきた。不意を突かれ、気が緩んでいたため、使い魔に剣を弾き飛ばされてしまう。そして、使い魔は人型に戻り、魔力の込めた全力のパンチをこっちに向けてくる。

 

「……ッ! 風よ!」

 

 俺は右手を前に突き出して一番、強度の高い風のバリアを創り、使い魔のパンチを受け止める。

 

「さっき言ったな……。だったらどうしろって」

 

 俺は耐えながらも使い魔に話しかける。

 

「そんなの俺もわからねーよ。でもな、お前が間違ってるってことはわかる」

「あたしが間違ってるって?」

「ああ。誰が必ず救わなきゃいけないって言った?それ以外でも別の方法はいくらでもあるはずだ。その人の味方になってあげるとかさ。相談できる人が一人いるだけで結構変わってくるもんだぜ?」

「味方に……その味方になれない人はどうすればいいのさ!」

 

 使い魔のパンチの威力が上昇する。

 

「だから…言ってるだろ。そんなのは言い訳だって。……そのくらい自分で考えろ。…………あと最後に言っておくぞ。どんなに頑張ったてできないことがある?甘えてんじゃねーよ。誰がそう決めつけた?試してもないのに?……まずは、本当に救いたいと思うなら、やってみることが大事だと思うぞ」

 

 俺はそう言いつつ、バリアに使っていた風を、使い魔を覆うように動かし、風の檻を創りだす。そして左手を前に出して……

 

「エアロ……ブレイクッ!!」

 

 俺の左手から凄まじい風の奔流が迸る。そして使い魔はそのまま、吹き飛ばされていった。

 

《マスター、転移魔法を使って逃げられたようです》

「そうか……逃げられたか。まっ、いいや。当たった感触はしたから、向こうは戦える状態じゃないし、もう反撃してこないだろう」

『そうですか』

 

 誰もいなくなったことによって、リゼットの声が念話から音声に切り替わる。

 

『それにしても、どうしましょう……これ、絶対にニュースにされますよ』

「は? 何だ、急に」

『いや、この光景ですよ』

「あっ……」

 

 俺の目の前には辺りには何もない土むき出しの地面。綺麗だった木々たちはものの見事に吹き飛んでいる。明らかに自然現象では起きないレベルのものだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 「帰宅と事件」

 俺はあの後、こっそり旅館に戻り、そのまま朝を士郎さん達と迎えた。てか、帰ってきたときには、もう朝方だったし。

 

(どんだけ、走ってたんだ俺は……)

 

 そう、あの後歩いて旅館に戻ったんだが、その途中、かなり歩いた。どれだけ、逃げてたんだよ俺は……。おかげで足が筋肉痛だぜ!!

 あっそうそう。恭也さんたちの格闘は俺が帰っても続いていたんだよな。ていうか二人共、今度は立って戦っていた。いやね…もう驚きの連続でしたよ。起床時間になりかけると二人共ピタリと格闘をやめて自分の布団に戻るのを見たときが一番驚いたね。

 

「ここを出る用意は出来たかい、二人共」

「ああ」

「はい……」

「ん?どうやら眠たそうだね、橘くん。眠れなかったかい?」

 

 士郎さんが訊いてきたので、俺は普通に返答した……つもりだったのだが、どうやら眠たい感じに聞こえたようだった。……まぁ、その通りですけど。

 

「はい。いろんな意味で眠れませんでした……」

「ハハッ、そうか」

 

 士郎さんは笑いながら言ってきた。士郎さん、笑うところじゃないですよ。いろんな意味にあなたも含まれているんですから。

 

「さあ、なのは達はもうチェックアウトして、車に集合しているらしいから、私たちも急ごうか」

 

 そして俺たちは部屋を出て、高町の下へ向かった。

 

 

◇◆◇

 

 

「アルフ……もうひとつの反応のところに行って何があったの?」

「別に、ちょっとヘマをしただ……痛っ」

「ちょっと、今は動かないで」

 

 あたしは家に戻って、フェイトに手当てを受けていた。…あのガキンチョに付けられた傷を癒すためだ。

 

(やってみる事が大事……か)

 

 あの少年が言ってきた言葉を思い出す。本当はバリアブレイクであのシールドは破れたんだけど、少年の言う言葉ひとつひとつが心の奥に刺さって、後半はもう戦闘どころじゃなかった。

 

「ねぇ…フェイト」

「ん、何?」

「……ううん、なんでもない」

 

  フェイトが抱えている問題の原因をあたしは知っている。でもその事を話しても無駄なことも知っている。

 

「終わったよ、アルフ」

 

 フェイトがこっちに笑顔を向けて言ってくる。……この笑顔だ。あたしが何を訊いても、いつもこの笑顔で話をはぐらかしたりしてくる。内に救いを求めているこの笑顔に……

 

(だったら、やってみるしかないよね)

 

 話を訊いてもはぐらかされるなら、フェイトが抱えている問題――――この子の母親の方を試してみよう。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺が車の所に行くと、士郎さんの言うとおり、みんな集合していた。しかも一番このグループと関わりが少ない俺が最後だったようだ。

 

「すみません、遅れてしまって……」

「遅い! ちんたらしてんじゃないわよ!」

「まぁまぁ、落ち着いてアリサちゃん」

「すすかは黙ってなさい! ほら、なのはもなんか言ってやったらどう!?」 

「……………………」

「なのは……?」

「えっ……あっ、そうだね」

 

 バニングスと月村が不思議そうな顔で、いや少し心配した顔で高町を見ている。

 

「じゃあ、みんな集まったことだしそろそろ出発しよう」

 

 士郎さんがそう言うと、各々車に乗り込んでいく。俺も士郎さんの車に乗り込む。

 

「げっ……」

 

 後部座席に乗り込もうと思い、ドアを開けたのだがそこにいたのは仲良し3人組だった。

 

「なに? あたしたちと一緒じゃイヤなわけ?」

「……いや、そんなわけじゃないけど」

 

 そうもらしつつ、車に乗り込む。…ていうか、美少女達に囲まれてイヤな奴なんて男だったらいないと思う。でもなぁ……隣が。

 

 

「……」

 

 さっきからずっと何かを考え込んでいる高町。暗い雰囲気を纏っている。車での移動は長いため、コイツの隣にずっといると、暗い雰囲気が移りそうで怖い。

 

「じゃあ、出発するよ」

 

 士郎さんはエンジンをかけ、車を動かし始める。俺は特にすることがないので、外の景色に目を移す。

 

「でね、あいつがさ……」

「ええー!? そうなんだ……」

「……」

 

 しばらくすると、3人組の話し声が耳に入ってきた。とは言ったもののただそれだけなので、意識をまた景色に向ける……

 

 

―――――――◇◆◇――――――――

 

 

「……橘くん」

「……………………」

「橘くん…起きて」

「うん……?」

 

 誰かが体を揺らしている気がする。朦朧とした意識の中、冷静に分析する。

 

「起きてってば」

「……なんだ、高町か。……どうした?」

 

 俺を揺らしていた人物は高町だった。ていうか、うっかり寝てしまってたのか。

 

「もうすぐ着くから……起こそうと思って」

「そうか…ありがとな」

「うん」

 

 外の景色を見ると、街中だった。ということは高町の言うとおり、もう少しで翠屋に着くのだろう。背筋を伸ばしながら考える。

 

「ところで高町……」

「……」

「お~い」

 

 高町の顔の近くで手を振ってみる。が気づかない。どんだけ集中してるんだ?……まぁ、いいか。

 

「着いたぞ」

 

 士郎さんは車を止め、後ろにいる俺らに向けて言ってきた。そしてみんな車から降りていく。

 

「じゃあ、解散しようと思うんだが、何か言いたいことがある人はいないか?」

 

 士郎さんがそう言うと、みんな首を横に振った。なにもないということだろう。

 

「よし、解散」

 

 そしてみんな、挨拶をして帰り始めた。……俺も帰るか。

 今いるみんなに一通り挨拶をし、帰ろうと思ったが、士郎さんに引き止められる。

 

「君にいいものをあげよう」

 

 そう言い、士郎さんは翠屋に入り、白い箱が入ったビニール袋を持ってきて渡してくる。……中身は大体予想がつく。

 

「家に帰ってから、食べるといい。でもすまないね。それ、一昨日(おととい)の残り物なんだ」

「いえ、別に構いませんよ。ありがとうございます。でもどうして?」

 

 頭に疑問符を浮かべながら尋ねる。

 

「ハハッ、いや、君には色々とお世話になっているそうだから、そのお礼とこれからもなのはをよろしく、という意味でね」

「ああ、なるほど」

「じゃあ、さよならだ。気が向いたら翠屋に来てごらん。歓迎するから」

「はい、分かりました」

 

 俺は士郎さんに別れを告げ、家に向かって歩き出した。

 帰ってから、士郎さんにもらった箱を開けると、中にはいろんな種類の焼き菓子が十個くらい入っていた。一つ試しに食べてみたが、めちゃくちゃ美味しかった。だが一つだけ問題が……。

 

「これ、美味しいけど、流石に全部は食いきれないぞ……」

『八神さんにあげればいいんじゃないですか?』

「……ナイスアイデア」

 

 

◇◆◇

 

 

 

『起きてください、マスター。訓練の時間ですよ』

「………頼むからその起こし方はやめてくれ。朝からテンション下がるから」

 

 ただいま、時刻5:00。訓練の時間である。

 スポーツウェアの袖に腕を通しながら、今日の弁当はどんな風にするか考える。

 

「よし、準備完了」

『行きましょうか、今日は二日分やりますからちょっとキツイですよ』

「はあ~」

 

 俺はため息をつきながら、家を出た。

 

 

 

                     ◇◆◇

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 訓練から帰ってきた俺は体の汗を流すためシャワーを浴びる。……いつもはここでまったりしたりするのだが、今日はそういうわけにはいかない。時間が押しているのだ。二日分やったため、いつもの時間感覚で行くと、遅刻する。

 

「やべっ!」

 

 シャワーを浴びたあと、着替えやらしているうちにもう家をでなければいけない時間がなってしまった。でも、まだ朝飯も食べてないし昼飯を作ってない。

 

「ああー! もう、行きがけにどっかによって昼飯を買っていこう! リゼット、行ってくる!」

『行ってらっしゃいませ、マスター』

 

 やってはいけない事だが、場合が場合なので財布を持って急いで家を出発した。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ギリギリ、間に合ったな……」

 

 途中でコンビニに寄り、惣菜パンを何個か買って、さらに信号に当たると、必ず赤の信号の状態に接触し、散々な事ばかり起きてもう間に合わないかと思ったが、ギリギリセーフだった。

 フラフラとおぼつかない足取りで教室の前まで来て、扉を開ける。そして自分の席に突っ伏す。……疲れた。

 

「あんた、今日はどうしたのよ?」

「ああ……。そっとしておいてくれ……」

「アリサちゃん、本当に疲れているみたいだから、そっとしておいてあげよう」

(サンキュー、月村)

 

 心の中で感謝する俺。

 俺はその後、HRが終わり次第、カバンを出しそれに頭を沈め、眠りに入った。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「――――いい加減にしなさいよ!」

「……!?」

 

 その声で俺の意識は一気に覚醒する。…え? な、何事!?

 

「この間から何話しても上の空でボーっとして!」

「ご、ごめんね。アリサちゃん」

「ごめんじゃない! そんなにボーっとしたいなら、ずっとしておきなさいよ! 行くよ、すずか!」

 

 どうやら、高町とバニングスが喧嘩したらしい。……あ、バニングスと月村がでていった。

 

(ていうか、今何時だ?)

 

 二人の喧嘩でクラスの雰囲気が悪くなる一方、俺はのんきに時間経過を確認していた。…もう昼休みか。なんで教師陣は俺を放置してんだよ。嬉しいんだけどさ。

 

「どうしたんだ? なのは」

 

 お、黒鐘が俺がいないと見て、高町に話しかけたぞ。

 

「あ、そうそう今日おれといっしょに……」

「少し一人にさせといてくれないかな…」

「……………わかった」

 

 どうやら、黒鐘にもデリカシーというものがあったらしい。空気をよんで、自分のクラスに戻っていく。出て行く時、やっぱり俺を睨んでいたけど。……俺も昼飯食べるか。

 食べるなら、景色や風が涼しい屋上がいいので、移動しようと席を立つ。…が、何故か天満と佑樹に引き止められる。

 

「なんだよ…?」

 

 朝飯は急いでいたので食べていない。だからこの手に下げているパンをすごく食べたいのだが、止められたので、若干不機嫌そうな声音を出す。

 

「何逃げようとしてんだよ……」

「そうだよ……」

 

 二人共こちらに近づき、小声で話してくる。…何に対してだ?

 俺が頭に疑問符を浮かべると二人共、呆れ顔でこっちをみた後、ある方向を向いた。

 その視線の先にいたのは、高町だった。……なるほど、あの状態をどうにかしろというわけですね。わかります。

 

「だが、ことわ……おっ、おい!」

 

 断ろうと、声を出したのだがその声は驚きの声に変わる。…天満から昼飯を取られたのだ。…まるで、あれをどうにかしたら返してやるよ。と言わんばかりに。

 

「お前が今一番この中であいつと仲がいいから、お前に頼むしかないんだよ。成功したら返してやるからよ」

「頼むよ…カズヤくん」

「見ろよ、周りの奴らを」

 

 天満にそう言われ、周りの奴らを見る。全員俺を見て、「頼んだ」みたいな顔をしている。くそっ! お前らこういう時だけは手のひら返しやがって!

 

「カズ…」

「カズヤ君…」

「……たくっ、わかったよ」

 

 そう言い放ち、高町の元へ歩いていく。…勘違いしないで欲しいが、みんなの為に動いたのだ。決して、昼飯のためではない。……お腹減った。

 

「高町」

 

 高町の元へ行き声をかける。そしたら顔を上げてこう返してくる。

 

「ちょっと一人にさせて欲しいからあっち行ってて」

 

 俺を見ている高町の目は俺を見ているようで見ていなかった。…心ここにあらずって感じだ。

 

「嫌だね……ちょっと来い」

「わわわっ!自分で歩けるよ~!」

 

 自分からでは動きそうになかったので、腕を取り、強引に引っ張る。場所を移すのは、人気のないところへ移動して、話を聞くためだ。

 高町を引っ張り、誰もいない体育館裏に来る。

 

「――――で、聞かせてもらおうか。何があったんだ?」

「…話さないとダメ?」

「当たり前だ」

「えっと――――――」

 

 

 

 

 

                    ◇◆◇

 

 

「というわけなの…」

「なるほど…大体わかった。結論から言うと…お前が悪い」

「それはわかってるよ」

「いいや、わかってない」

 

 きっぱりと、はっきりと言う。

 

「お前、バニングスがどうして怒ったのかわかってるのか?」

 

 俺がそう訊くと高町は頭に疑問符を浮かべた。

 

「わたしがずっと上の空だったから?」

「そうじゃなくて……バニングスはその上の空の原因を相談してくれないから怒ったんだよ。だって友達はそういうもんだろ?」

「そうだけど……」

「……話せない理由があると」

「うん」

 

 高町が頷く。

 

「だったら、その事をちゃんとあいつらに伝えないとな」

「ふぇ…どうして? アリサちゃんなら言わなくてもわかると思うんだけど…」

「……お前、本気で言ってんのか…?」

「え……?」

「…ふざけるのも大概にしろよ……!」

「ふ、ふざけてなんかいないよ!! アリサちゃんとは長い付き合いだからいつも近くにいたから言わなくてもわかるはずだもん!」

 

 俺の声音が強くなったので、少し怯えながらも怒気が混じった声で高町が俺の言葉を否定する。

 

「違うだろ…そうじゃないはずだ。……お前は知らないのか!? 近くにいたから、近づき過ぎたからこそ気付けないことだってあるんだよ! 言葉で伝えなきゃ伝わらない事だってあるんだよ!」

「……!」

「わかってくれたか…?」

「うん、……わたしアリサちゃんに謝ってくる」

「そうか…悪いな。怒鳴ったりして」

「ううん、別に」

「よし、じゃあ行って来い」

「うん!!」

 

 高町は頷きながらそう言うと、校舎へ走っていく。が途中で止まりこっちに体を向ける。

 

「橘くん!」

「ん? 何だ?」

「ありがとう!」

 

 高町は感謝の言葉と共に、今まで俺が見た高町の笑顔の中でも一番の笑顔をこちらに向けた。それを告げると走り去っていった。

 

「…………さて、飯を天満に返してもらうか」

 

 思わず、見とれて何分間ぐらいか固まっていたが、お腹の音で動き出す。そして俺も校舎に戻ろうとしたら、不意に連絡のチャイムが鳴った。

 

『3年2組橘くん、登校中の行為について話があるので至急、職員室まで来てください。繰り返します――――――』

 

 急いで、今の時間を確認する。…現在1;34 昼休み終了時刻は1;40 明らかに今から職員室に行って、天満の所へ行き昼飯を食おうと思っても間に合わないに決まっている。

 

(腹減った…………………昼飯ぃ)

 

 俺は涙ぐみながらも職員室に向かって歩き出した。




原作ではなのは達が何組か判明してないため、クラスは僕の想像で決めさせてもらいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 「邂逅」

 あの後、職員室に行くと教師達にとことん怒られた。誰かが俺がコンビニに寄った事をチクったらしい。……誰だよ! チクった奴は! おかげで昼飯が食えなかったじゃねーか!!

 

「やあ、どうだった?」

「……佑樹か」

「うん」

 

 教室に戻り席に座ると勇気に……やべっ…漢字間違えた。とりあえず声をかけてきた。

 

「さあな、一応成功したって言えばそうだな。後は高町次第だ」

「そう……」

 

 俺たちが会話をしていると俺の机にビニール袋が飛んできた。………こ、これは…! 今は食べられない俺の昼飯! 今食べ始めると中途半端にしか食えない。だから今見ると怒りしかわかない。

 

「ほらよ、お前の昼飯」

 

 天満がこちらに近づいてくる。……こいつよくもぬけぬけと。元をたどると昼飯にありつけなかった原因はお前にあるんだぞ。

 俺は耐え兼ねて天満に殴りかか……ろうとするが踏みとどまる。”腹が減っては戦はできぬ”この言葉の深さを知った瞬間だった。

 

「腹減った……」

「ふっ……」

「ムカつくけど何も出来ない……」

 

 俺が天満に毒づいていると、5時限目を告げるチャイムが鳴り響いた。天満も佑樹も席に戻っていく。俺は腹の空腹を抑えるためにうつ伏せになる。

 うつむく直前、視界に映ったのは高町とバニングスたちが楽しく喋りながら教室に入って来るところだった。

 

 

 

                    

                    ◇◆◇

 

 

 学校が終わり家に帰った俺は食えなかったパンを食べはやての家に行く準備をしていた。

 

「忘れ物は無いな…」

 

 持っていくものを入れた袋を確認しながら呟く。じゃがいも、人参、玉ねぎ、豚肉、カレーのルー。よし全部ある。今日はカレー対決だ。米はあっちで用意してくれるだろう。

 

『マスター、私と焼き菓子を忘れていますよ』

「あっ! 悪いなリゼット」

『いえいえ』

「じゃあ、行くか」

 

 リゼットを首にかけ、焼き菓子を新たに袋に入れ、俺は家を出た。

 

 

 

                    ◇◆◇

 

 

「―――――さあ、覚悟してもらおか」

「ストップ! 何でこんなことになってるのか頭の整理をさせてくれ!」

 

 ただいま、はやて家。目の前には、ハリセンを持ったはやてがいる。そしてハリセンは俺を待ち構えるように、はやての手に当たるたびにバシバシと音をたてている。

 俺は全神経を記憶の引き出しに集中させる。思い出せ……家を出た後は普通にはやての家に着いたはずだ。そこでインターホンを押して、中に入った。ここまではいつもと変わらなかった。ここからだ。そのあとはやてと会ったのだが、はやては俺を見た瞬間、顔をうつむかせ、こう言ってきたんだ。「そこに座れ」と――――うん、わけがわからない。

 

「なあ、何でそんなに怒ってるんだよ?」

 

 俺がこの言葉を発するとはやての頭に血管が浮かび上がる。

 

「二日間も、レディとの約束をすっ飛ばしといてよう吐けるな、そのセリフ」

「あっ……」

 

 思い出した。旅館に行くことを伝えてなかったんだ。なるほど、コイツの言ってることはそういう事か。

 

「待ってくれよ、旅行に行ってたんだから仕方がないだろ」

「じゃあそう伝えてくれれば良かったやん」

「……連絡手段がないだろ。俺はお前の携帯番号やアドレスは知らないし、歩いて伝えようにも急に言われたから、伝えるのは無理だ。……お前の家に来るのに小一時間はかかるんだぞ」

「むぅ~」

 

 良し、丸め込めそうだぞ! このまま行けばあのハリセンの餌食にならなくて良さそうだ。

 

「悪かったって。……おまえにおみあげもあるんだ」

 

 俺はおもむろに焼き菓子が入った箱をはやてに見せる。……が、この行為は無駄だった。

 

「でも……このやりようのない怒りはどうして発散させよか……そうや! 一発だけ打たせてくれんか? このハリセンの威力も確かめたいし」

「いや、断る」

「じゃあいくで」

「…………俺の話聞いてた!?」

 

 何で、俺の周りには話を無視する奴ばっかりいるんだよォォォォォォ! いい加減にしてくれ! 本当に!!

 はやてはもうハリセンを背中に引き、打つ体勢になっている。……もう、話しても無駄なようだな。

 仕方ない……とつぶやきながら俺は白刃取りの体勢に入る。驚くなよ……! リゼットにしごかれて鍛えた反射神経と動体視力の凄さに……

 

「堪忍や☆」

 

 そう言いつつハリセンを振り下ろすはやて。……ふん、所詮は病弱な少女が放つ振り。止まって見えるわ!

 俺はハリセンを横から挟もうと手を動かすが、その手は空を切ることになった。……ハリセンが消えたのだ。消えた途端に俺の頭にものすごい衝撃が走る。

 歪む世界。目の前が真っ暗になる。意識が遠のいていく感じがする……。それほどまでにそのハリセンの威力は凄かった。

 

(せめて、何が起こったのかだけは……!)

 

 俺は閉じかけている(まぶた)を無理やり開き、ハリセンを凝視する。……見えたのはハリセンの一方からジェットみたいに炎が出ている光景だった。

 

 

 

                     ◇◆◇

 

 

「……んだよっ、それはぁぁぁぁぁあああああッ!!」

「きゃっ!」

 

 目を開けると、知らない天井だった。……これを言うのは二度目だな。そして今どんな状況だ?

 俺は全力で状況の把握に務める。……俺が寝ているのは知らないベットの上。そして知らない部屋だ。近くには倒れた車椅子。ん? 車椅子?

 

「カズヤ君~、いきなり起きんといてーな」

 

 車椅子の近くには倒れているはやてがいた。何か顔が赤いけど……それよりも頭がズキズキする。

 自分の頭を撫でると、布特有の肌触りがした。

 

「これは……包帯か?」

「そうやで……いきなり倒れるからびっくりしたで。……取り敢えず立たせてくれへん?」

「ああ」

 

 俺はベットから抜け出し車椅子を立て、はやての膝と背中に手を入れ抱え上げる。……要はお姫様抱っこだ。

 

「ちょっ……! 恥ずかしいって」

「我慢しろ。他には思いつかなかったんだから……俺も一応は恥ずかしいんだよ」

 

 車椅子に乗せ終わると、俺とはやての間に気まずい雰囲気が流れる。

 

「ところで…何がどうなってこうなったんだ?」

 

 あたりを見回しながら、はやてに訊く。

 

「ああ、それは――――――」

 

 

 

                    ◇◆◇

 

 

「あっ…」

 

 

 わたしの前で倒れる彼―――カズヤ君。倒れた原因はわたしが持っているハリセンが原因やろう。……まさか、ここまで威力があるとは思わへんかった。

 このハリセン―超スーパーウルトラデリシャスハリセン。略して超SUDハリセン。(自分で名づけたんやないで)いつの日か、オーダーメイドで業者に頼んだものや。一方にジェット噴射を使って威力を倍増させてみたんや。で先日届いたんやけど、試す相手がおらへんかったから、カズヤ君に試したらご覧の有様や。

 

「これは、封印せなあかんな……ってまずはカズヤ君や」

 

 カズヤ君を無理やり引っ張ってわたしのベットルームに連れて行く。……さて、どうやってベットにあげよか?

 

「しゃあないな」

 

 カズヤ君をベットに立て掛け、わたしは車椅子から降りベットに乗る。そこから、カズヤ君の脇に手を入れ全力で引き上げる。

 

「………なんとかいけた……」

 

 カズヤ君をベットに寝かせながらそう言う。……包帯取ってこよ。

 包帯を持ってきて、寝ているカズヤ君の額に巻く。

 

「あっ……」

 

 色々と作業しているとふとカズヤ君の唇に手が当たる。

 

「カズヤ君……」

 

 自然に体が前かがみになり、わたしの唇と彼の唇との距離が狭くなっていく。――――”橘 和也”彼と出会ったのは、ほんの些細な出来事だった。時々起きる車椅子からの転倒。それで助けてくれた人の一人。ただ、それだけだった。次彼に会ったのは、裏路地。血まみれで、見たときとてもびっくりした。その日からだ。彼と会うと不思議な……

 

「……んだよっ、それはぁぁぁぁぁあああああッ!!」

 

 

 

                    ◇◆◇

 

 

「―秘密や!」

「あのさー、ごまかされるとガチな方で困るんだけど……」

「それよりも急がんと時間が遅れてしまっとるで」

「うおっ! 本当だ! 流石に一日零飯は辛い!」

 

 

 俺は時計を探し、見ると既に6:00を過ぎている。普通なら飯を食べている時間だ。

 今日は珍しく二人で一緒にご飯を作った。

 

 

◇◆◇

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 俺は今、急いで家に帰っている。今の時刻は確認していないから良くは分からないが、はやての家を出たのが6:50ぐらいだから、今は7:00ぐらいじゃないだろうか。

 

「くぅ……」

 

 何故俺がこんなに急いでいるかというと、やるべきことがまったく終わってないのだ。洗濯やら明日の用意やら……生活リズムが崩れるのは良くないからな。

 

「ああ、もうまどろっこしいな! 近くに人はいないな…良し、リゼット、セットアップ」

『えっ? どうしてですか?』

「さっさと家に帰りたいからに決まってるだろ」

 

 飯を食った直後に走ったので気分が悪くなったのも理由の一つだった。

 

「大丈夫、高く飛ぶから心配いらないって」

『……分かりました、でも高度は十分にとってくださいね』

「任せろ」

 

 俺がそう話しているうちにバリアジャケットへの換装が終了する。

 

「…………」

 

 人気のいない道に入り、風の操作に集中する。

 

(見られたらダメだから、一瞬で高度を上げないと……)

 

 俺は地面に片膝を突き、足元に風を纏わせる。イメージするのは、風のジャンプ台。風が頬を撫で、汗だくの俺を涼ませる。

 

(もっとだ……もっと…!)

 

 自分が創造、操作できる限界まで風を生み出す。そして地面に無駄な被害が出ないよう圧縮も同時に行う。

 

「……行くぞ」

『はい』

 

 リゼットが答えた途端に風を爆発させるように開放した。瞬間移動とも言えるほどの速さで上空へと駆け上がり、天へと舞い上がる。

 

「うえぇ~、気持ち悪ぃ~」

『すごく速かったですね』

「………急がないとな」

 

 余裕そうなリゼットに少し怒りを覚えつつ、家の座標を教えてもらい家に向かって飛ぶ。

 

「綺麗だな」

『ですね』

 

 俺は下…海鳴市を見ながら洩らす。立ち並ぶビルからたくさんの光が外へと出ており、まるで星空…と言っても過言ではないほど綺麗な景色になっていた。

 俺とリゼットが見惚れていると、あるところから中心にビルから電気が消え去り、辺りに雨雲が立ち篭め始め、終いには雷まで落ち始める。

 

「何だ? ……うあッ! ったく、危ないな」

『マスター! これに当たったらマスターといえど、無事じゃすみませんよ!』

「マジか……ふッ!」

 

 雷が俺の真横をかすめると、リゼットがそう叫ぶ。だが、当たるなと言われても初期動作が分からない以上、予想しながら避けるのは無理だ。反射神経に頼るしかない。

 しばらく時間が経つと、雷が突然消え去る。そして結界の中に入った時と同じ感覚に陥る。

 

「助かった…」

 

 俺は自分のバリアジャケットを見る。幸い、直撃は無かったが、かするのはよくあったため至るところが黒く焦げている。

 

『そうでもないですよ、結界の中に入ったんですから』

「そうだな……取り敢えず降りてみるか」

 

 結界の中に入ったのなら、この結界を張った奴には俺の位置がバレたはずだ。それならどこにいても同じだろうと思い、力を解除して重力に沿って落下する。

 高度を下げると、だんだん状況が読めてきた。俺の視線の先には高町とスクライア、テスタロッサとあの使い魔がいる。距離は、俺の予想着地位置から数百m離れたところだ。

 どうやら両方共、俺には気づいているのか、それとも眼中にはないのか、どちらかは分からないがこちらには誰ひとり意識を向けてはいないようだった。

 

「よし、今のうちにすぐに逃げ……」

『マスター!!』

「…わかってる!!」

 

 リゼットに言われなくても分かる。魔力探知ができない俺でさえ、分かるほどのものすごい魔力が急速で接近しているのを感じる。

 俺が感じた方向を向くと同時に()()()は姿を現した。

 

「ったく、ユーノの奴俺に指図しやがって…こんな雑魚の相手をしろってのか」

(お前は…!)

 

 現れたのは黒鐘だった。もう一回言う。黒鐘 終だ。いつも俺を目の敵にしているあの黒鐘。銀髪で左右で色が違う瞳を…って、あれ? あいつってオッドアイだったっけ? なんか、しっぽと獣耳みたいなのが腰と頭から生えてる。しっぽは俺が確認出来るだけで9本はある。

 黒鐘は何か「和!!」みたいな感じのバリアジャケットを着ている。……えっとどっかのアニメで見たことがあるぞ。

 すごい魔力が近づいてきたから、結構焦ったがそれが黒鐘とはな……何か安心した。

 

「さっさと死んでくれよ」

『スタン設定解除』

 

 黒鐘はこちらにすごい装飾がついた日本刀を俺に向けてきた。…あの日本刀があいつのデバイスのコアみたいだな。

 

『エナジーパンカー』

(……は?)

 

 黒鐘のデバイスが光ったと思うと、あいつの周囲に百は超える程の量のスフィアが出現する。

 俺は唖然とした。黒い布で表情はバレてないだろうが恐らく間抜けな面をしていると思う。

 

「放て」

『ファイアー』

 

 そのスフィアから一気に黒い魔力弾が発射される。どうやら、追尾弾ではないらしく一直線に俺へと飛んでくる。

 俺は魔力弾を時には避け、時には受け止める。……くそ、一撃一撃の威力が高い! どれだけ一発に魔力込めてんだよ!

 

(風よ!)

 

 前後左右では逃げ切れなくなり、タイミングを見計らって上空へと逃げる。これで上と下にも逃げられる。だが俺が上空へ飛んだ瞬間、黒鐘の顔が歓喜に歪む。

 

『エナジーパンカー・ドームシフト』

 

 俺の周りを囲むように展開されるスフィア。黒鐘はこれをするためにさっきの魔力弾を囮にしたのか!?

 

「…ッ!」

 

 俺はとっさに風のバリアを全方位に出現させる。魔力弾が俺のバリアとぶつかり火花を散らす。それが何度も行われるうちに俺のバリアにヒビが入り始める。

 

(しまった…)

 

 俺は心の中で後悔する。これじゃ、反撃ができない……!

 どんな能力にも弱点というものは存在する。この力にもそれはある。この力は、二つの属性を同時に扱えない。風を出現させているうちは火・水・土を一切使えない。つまり風を操って空を飛んでいる時には風しか操れない。この性質に気づいた時はさほど気にしなかったが、今は違う。

 

「ははっ!」

《このヤロー…! リゼット、あの技をやるが、俺は声を出したらあいつにバレるから代わりにお前がやってくれ》

《分かりました》

『スパイラルバースト』

 

 バリアが消え去り、魔力弾がいくつか直撃する。がすぐさま技が発動する。

 俺の四方から竜巻が出現しそこから不規則にかまいたちが発生し俺はその技でできた隙を突き、ドーム状に展開されていたスフィアから脱出する。そして一気に空を駆け、ビルの間と間に入る。

 

《リゼット、セットアップ解除! プラス魔力ロック!!》

《はい!》

 

 俺はひたすら走った。ひたすら、その場から離れる為に。あいつは俺と同じで、魔力反応を頼りに敵を見つけている。つまり裏を返せば、魔力反応がなければあいつは俺を見つけることができない。危険な賭けだが、これしか方法がない。黒鐘と戦うには魔力差がありすぎる。

 

 

 

 

                     ◇◆◇

 

 

 

「くそっ!! どこに行きやがった!!」 

『申し訳ありません』

「ったく、しっかりしろよ!! 神楽!!」

 

 俺はあいつを追っていると、急に魔力反応が消えさり、あいつを追えなくなってしまっていた。

 苛立ちを俺のデバイス―――神楽にぶつける。

 

「まあ、いい。早くなのはの所に戻らないとな。そろそろ、俺が恋しくなってると思うしな」

 

 俺は全速力でなのはの所へと飛んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 「過去」

『マスター、朝ですよー。訓練の時間ですよー』

「……毎度毎度、その起こし方やめろ」

『すみません』

「棒読みで言うな。お前、冷蔵庫の中に今日一日居ろよ」

 

 俺はすぐさま起き上がると、冷蔵庫を開け、リゼットを入れようとする。

 

『ちょっマスター!?』

「お前だったら大丈夫だろう」

『まぁ、そうですけど…じゃなくて!! やめてください! 昨日の戦闘で所々損傷してるんですよ!?」

「奇遇だな。俺もだ。じゃあ頑張れ」

『待ってください、マスター!』

「待たない」

『マスターーーーーーーーーーーーー!!』

 

 朝から楽しそうな事をしている二人だった。

 

 

 

                   

                     ◇◆◇

 

 

 

「よーし、じゃあ今から自由時間だ」

 

 体育系の肉体をした教師がそう高らか言うと、みんないろんな所へと散っていった。…まあ、今の時間は体育ですけど。

 リゼットとのコントを終えた俺は学校に来ていた。ちなみに今の時限はみんなもわかってると思うが体育だ。マット運動の。

 しかも、体育は隣のクラスの人と合同にやる。……つまり、言いたくは無いが黒鐘がいるのだ。

 

「見とけよ三人共、俺のカッコよさを」

「うるさいわね! どっかに行っててよ!!」

 

 黒鐘はバニングスと早速喧嘩を始めていた。…それにしてもまさか、あの黒鐘が魔導師だったとはな、100%あいつが転生者だな。ていうか色々と思い当たる節はあったハズなんだけどな…鈍感なのかも、俺。

 

『オオーッ!!』

『キャーッ!!』

 

 みんな前転とか、後転とか基本中な事をしている最中、黒鐘がハンドスプリングをしていた。みんな黒鐘に反応し「スゲー」とか「かっこいい」とか言っている。

 

「ふっ……」

「あ?」

 

 俺が離れた所で黒鐘を観察していると、あいつはこっちに顔を向けて笑って来た。明らかな挑戦状だった。俺も売られた喧嘩は買う主義なので、俺もマットに向かう。

 

「ハンドスプリングか……」

 

  前世の時は出来たけど、今はどうなんだろう。と不安も混ぜながら俺は助走を付け、手を伸ばしたままマットに突き、縦に一回転する。

 体重が小学生なので迫力に欠けるが、ドンッ!と綺麗な音を立てて一回転し着地する。

 

(出来た。ていうか前世の時よりも余裕があった。……リゼットの特訓のおかげかもな)

 

 俺は再び、黒鐘を見据える。見据えた時の奴の顔はこれくらい出来て当然だろうみたいな顔をしていた。クラスのみんなは、俺を見て目を点にしている。バニングスを除いて…あいつが驚いた所、見たことないな。いつか、驚かしてみたい。

 黒鐘は俺を鼻で笑った後、今度は体操選手がよくしている、ロンダートからのバク転をしてみせた。クラスの人たちから感嘆の産声が上がる。

 

「あれは前世の時にもできてたから、多分できるんだよな…良し、あれをやってみるか」

 

 なんだかいろんなことができそうな自分にワクワクし、黒鐘はどうでも良くなり、自分の実力を試したくなってきた。前世の時にできなかったトリッキング技”コークスクリュー”を試そうとする。……もうマット運動関係なくないか?

 

「まあ、良いか……!」

 

 右足を後ろに引いたあと、左足をさらに後ろに下げ、腕を回し、体に捻りを加える。そして勢いよくマットに手を突き、体を横に半回転させる。

 

(ここまではいつもどおり……!)

 

 このあと、一気に後ろに飛んで、2回転するのだが、前世は一回転しか出来なかった。だが今は違う。いけるかもしれない。

 半回転したあとに片足のバネで2回転! これまたドンッ!と音をたてる。

 

(出来た……!)

 

 ヤバイ、超嬉しいぞこれは。前世では何度挑戦して地面とキスしたことか。

 俺はその後、黒鐘やクラスのみんなを忘れて、前世の時にやっていた技をひたすらしていた。前宙、側宙、バタフライツイストetc.etc…

 自分の世界に入り込んでいると、不意にうめき声が聞こえ、現実に引き戻される。

 

「ぐぅッ…!」

 

 うめき声を上げている方を見ると、うずくまっている黒鐘が居た。足首を抑えて呻いている。……何があったんだ?

 俺が考え込んでいると、体育の先生が黒鐘を診て、保健室へ連れて行った。

 

「なぁ、何があったんだ?」

 

 バニングスに近寄り、声をかける。

 

「どうもこうも、ただあいつが自爆しただけ。調子に乗った罰よ」

 

 バニングスの声に頷いている高町と月村。

 

「なんかあたし達の方を向いて、「あいつより俺の方が凄いんだ。見とけよ」とか言ってきて、あのザマってわけ」

 

 バニングスが両手を広げ、やれやれといった仕草をする。……あいつって俺のことか?

 

「多分そうでしょうね」

「え? 何お前、俺の心が読めんの?」

「そんなわけないじゃない。ただの勘よ」

 

 だとしたら恐ろしい。勘で人の思考が読めるとか何者なんだよ。

 

「それよりもいい気味よ。これで少しはあなたのトコに行かなくてもあいつから逃げられるわ」

「ふぇ? どうして?」

 

 高町が首をかしげながら、バニングスに訊く。

 

「あれ、確実に骨折してたから」

 

 だからお前なんで分かるんだよ。

 

 

 

 

                     ◇◆◇

 

 

 

 あの後、先生が戻ってきて、各自着替えてチャイムが鳴るまで教室で席について、静かにするようにと言われた。なので俺も着替えて席に座り、窓からの外の景色を眺めている。

 

「ねぇねぇ……」

「ん? ……!」

 

 後ろから声をかけられたのでその声の方を向くと、高町の顔が近くにあった。あの~、めちゃくちゃ近いんですが……。

 

「…………」

「…………」

 

 離れろよっ! 何で離れないんだよ!! 俺は後ろに窓があるから下がれないんだよ!!……いや、あのマジで離れてください。お願いします。俺の心臓が破裂しそうなんで。

 

「あの、近いんだけど……」

「あっ……ごごごごごごめんね!!」

「いや……なんていうか俺もごめん」

 

 二人の間に気まずい雰囲気が流れる。今ものすごく顔が熱いから俺の顔は多分真っ赤だろう。それは向こうも同じだが。

 

「あんた達、何してんのよ?」

 

 が、バニングスと月村の介入によって雰囲気は一気に流される。

 

「なんでもないさ。な?」

「う、うん」

 

 バニングスの言葉のおかげで冷静さを取り戻し、いつもどおりに振舞う。

 

「で、改めてどうしたんだ? 高町」

「あ、あのね、マット運動の時凄かったね。わたしには絶対にできそうにない技ばっかりだった。……どこで、覚えたの?」

「それは、あたしも気になるわ。どうやって知ったのよ? あの動きは初めてじゃなさそうだったし」

「そうだね」

「えっと…答えなきゃダメか?」

「「うん」」

「ええ」

 

 三人に詰め寄られて、俺は戸惑った。言えないに決まってる。正直に伝えたとしたら、多分こうなるだろう。

 

「ああ、俺って前世の記憶があるんだ!」

「「「…………………」」」

 

 無言で自分の席に戻っていく三人。そして俺は本当に一人ぼっちになった―――完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいや待て待て! 安易に想像できる時点でもうダメだって!!

 くそっ! 高町だけなら丸め込めそうだったのに! この二人…特にバニングスには嘘が通じなさそうだしな…。唸れ俺の脳よ! この状況を回避できる知恵を我に授けたまえ!!

 

「………いやさ、あの技はある人に教えてもらったんだ」

「「「ある人?」」」

「ああ」

 

 俺は若干うつむきながら話し始める。嘘は言ってない。前世で起きたとは言わなければ大丈夫だろう。

 

「いろんな事を教えてくれたな……さっきの技もその時に教えてもらったんだ」

「へえ~、どうやって知り合ったの?」

 

 月村が訊いてくる。

 

「出会いはそんなに大したもんじゃなかったさ。公園で会った。ただな…その時の俺は荒れててさ、周りの奴に八つ当たりばっかりしてて、いろんな奴に嫌われてたんだよ。そんな一人ぼっちの俺をその人は助けてくれたんだよ。今の俺がいるのはその人のおかげってわけ」

「「「……………」」」

 

 俺の話に二人共黙り込む。ちょっとこいつらにはキツかったかな?

 

「そのごめん」

「えっと、わたしも何も知らずに訊いてごめん」

「あたしも」

「謝んなって。結局は過去の話なんだから」

 

 高町、月村、バニングスが申し訳なさそうな顔で謝ってくる。そう、所詮は過去の話だ。そんな風に言いながらもあの人―――他人行儀は人に話すときでいいか。…あいつに近づきたくて真似事をしているんだけどな。

 

「…最後に聞かせてくれる? その人は今どうしてるの?」

 

 黙っている中、バニングスが口を開き、訊いてきた。

 

「ああ、その人か」

「ええ」

「その人なら――――――死んだよ」

 

 その言葉を言った瞬間チャイムが鳴り響き、二人には聞こえなかったが、バニングスだけは聞き取れたようで、バニングスの驚いた顔が目に映った。

 

 

◇◆◇

 

 時間が飛んでただいま放課後。

 

「来いよ! 天満!!」

「行くぞぉおおおおおお!」

 

 俺は今、公園で天満や佑樹と一緒にサッカーをプレイングナウ。……まあ、ただのボールの取り合いだけど。

 

「遅いな」

「ちぃ!」

 

 突っ込んできた天満をフェイントを使って騙し、避ける。

 

「天満ぃ! 突っ込んできただけじゃ意味ないぜ!」

 

 

 天満はいつも動きが単調だ。だからフェイント一つ混ぜるだけでこうなる。……不意を突かれて来た時は絶対に取られるが。あいつのタックル威力高いんだよな…当たるとめっさ痛い。

 

「次は僕だよ!」

「有機家!」

「漢字が違う!! なんど間違えれば気が済むの!」

 

 佑樹が叫びつつ俺に突進してきた。ふっ…バカの一つ覚えもいいとこだ! フェイントで躱してやる!

 

「ふっ…おわっ!」

 

 フェイントで騙し抜かしたと思ったら、佑樹は器用に後ろから足を伸ばしボールを俺から抜き取った。

 

「油断はいけないよ、カズヤ」

「ふん…」

「あっ!」

 

 俺はすぐさま佑樹に追いつきボールを奪う。佑樹は取るのはうまいが、ドリブルはてんでダメだからな…。大口を叩くのはそれが上手くなってからにしろよ。

 

「死ねぇーーー!」

 

 瞬間、天満が縁起でもないことを言いながらスライディングしてきた。

 声に圧倒され思わずボールから離れてしまい、天満がそのボールを蹴り飛ばした。

 木々の間に入るボール。

 

「あ~あ。……僕が取ってくるよ」

 

 天満が取りに行くはずなのに、何故か佑樹が取ると言い、佑樹は公園の整備されていない木々の中に入って行く。

 そして、しばらくすると…

 

「あったあった!……? 何だ、これ?」」

「ようやく見つ………!」

 

 大きな声を上げた佑樹に反応して俺は振り返った。それと同時に視界に入った物に驚く。…どうして、ここにあれがあるんだ…!

 

《マスター!!》

 

 今の今までサッカーの邪魔だったのでベンチに置いていたネックレス――もといリゼットが念話で大声を上げた。

 

「佑樹! 今すぐその青い石を捨てろッ!!

「えっ?」

 

 佑樹が手にしていたのはジュエルシード。しかも発動しかかってる。このままだと佑樹がジュエルシードの発動の媒体になりかねない。

 

「うわッ!」

「佑樹!!」

 

 急に光り輝き出すジュエルシード。

 俺は確信する。―――――ジュエルシードが覚醒しやがった…!

 その事に気づいた俺は天満を放って、すぐさま佑樹に駆け寄り、手を伸ばすが、ジュエルシードが発動した余波で吹き飛ばされる。さらにジュエルシードと佑樹が共鳴し、本格的なエネルギーの波動が生まれさらに吹き飛ばされ、木に激突した。

 俺の意識はそこでブラックアウトした。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺は吹き飛ばされた痛みに耐えつつも目を開ける。

 そこに映っていた物は気を失い倒れている天満と得体のしれない()()だった。そう何かだ。人間の形をしているが、人とは思えない雰囲気を感じる。

 

「がっ…!」

 

 いきなり視界が真っ黒になり、体が浮遊している感覚に陥る。

 

(何が…起きた…? 一体…何…をされ…た?)

 

 俺は痛みをこらえつつ体制を立て直す。

 

「ッ!!」

 

 俺が体制を立て直すと同時に何かはまた俺の前に移動してきて、また視界が真っ暗になる。

 

(見えない…!)

 

 そう見えないのだ。おそらく、攻撃されているのだろうが移動の予備動作から、攻撃の動作までもが一切見えない。目が良く、訓練で動体視力が高い俺でさえまったく視えない。

 

《リゼット…どこだ!》

 

 途切れとぎれの意識の中、リゼットに念話を送る。返事が帰ってくるのはすぐだった。

 

『マスターーー!!!』

 

 リゼットの機械には似つくわない可愛らしい声が俺の耳に届く。さすがインテリジェントデバイス。念話で送るよりも声出して場所を特定した方がわかりやすいもんな。

 リゼットの位置は俺の斜め奥のベンチのようだ。

 

(どうにかしてあそこまで行かないと……)

 

 そう考えていると運良くリゼットがいるベンチ付近に吹き飛ばされる。…今しかない。

 俺は軋む体にエネルギーを送り込み、ベンチに向かってダイブする。俺がリゼットを掴んだのと何かが俺の目の前に移動したのは同じタイミングだった。

 

「リゼットッ!!」

『はいっ!!』

 

 俺はセットアップしセットアップ時に出現する剣で何かの放ってきた攻撃を受け止める。…重たい。風のクッションを使って、手から来る衝撃は和らいでいるはずなのに、手に来た衝撃は凄まじかった。

 

(やっぱりな…)

 

 心の中で確認する。こいつは一直線的な攻撃しかしない。俺だってセットアップするまでフルリンチされていたワケじゃない。ちゃんと何かの動きを分析していたんだ。

 

(そうとなれば、こっちのもん……)

 

 俺はすぐさま土を操り、何かの動きを封じて、剣を体に突き立てようとした。が、顔に刺さる直前、その切っ先が止まる。何かの頭にくっついてるもの。それはジュエルシードだった。

 

「お前、もしかして佑樹なのか……?」

 

 何かの顔は佑樹の顔だった。その驚きで集中が途切れてしまい、何か―――佑樹にしていた枷が破壊され、攻撃される。

 

「んな!?」

 

 それを剣でガードしていたのにもかかわらず体を吹っ飛ばされる。だが俺もさっきとは違ってセットアップしている。

 俺は吹っ飛んでいる最中、上昇気流を下から吹かせ、空に逃げる。

 

(ここまで来れば攻撃できないはず……)

 

 いくらジュエルシードの恩恵があるとはいえ、空は飛べないだろう。そう考え、空に上がったのだ。

 

『マスター! どうしてあの時、攻撃を止めたんですか!!』

「……」

『マスター!!』

「俺も分からない…どうして剣を振るのを止めたのか俺でも分からない。でも、大切な友達に…数少ない大事な友達にいくらスタン設定している剣とはいえ向けたくないよ」

 

 それに能力はスタン設定とかできないし。

 

『でも……やらないとやられちゃいますよ! 明らかにあっちはこっちを殺す気です!!」

 

 そう、そこが問題なんだ。暴走しているのは知ってるが多少なりとも干渉できるはずなんだ。でもその気配がまったくない。まるで佑樹自身がそれを望んでいるような―――――

 

『マスター!!』

「…ッ!」

 

 考える事に集中しすぎて自分に飛来する物体への反応が著しく遅れる。だがリゼットの助けもあり危機一発で回避する。

 

「もしかして木を投げてきたのか!?」

『ええ、そのようですね』

「…考える時間は終了のようだ。行くぞ…リゼット」

『でもどうするんですか? まだ決心はついていないんでしょう?』

「それでも、俺は――――」

『…はぁ~、分かりました。取り敢えず時間稼ぎをしましょうか』

「…いつも悪いな」

『いえいえ、そのための私ですから』

「そうか…」

 

 俺はいいデバイスを持ったな…そんなことを心で思いつつ俺は佑樹に向かって前進し始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 「アースラ」

「はぁ…はぁ…」

『大丈夫ですか、マスター?』

「大丈夫だ。問題ない………と言いたいところだけど正直キツイな」

 

 佑樹と距離を取り、離れながら言う。

 

「……」

 

 無言の佑樹。あいつの額には綺麗な青色をジュエルシードがある。一目見て、暴走状態と分かるのにコイツの動きは鋭かった。俺が攻撃を避けている最中、フェイントを織り交ぜて佑樹を騙そうとしてもそれに全然引っかからない。

 

(もしかしたら意識があるのか?)

 

 ふとそんな考えが頭をよぎった。そうでなければ今までの行動の説明ができない。

 

「佑樹ッ! この声が聞こえるか!!」

 

 声を張り上げ佑樹に訊く。

 

「…ァァ」

 

 少しだけだが声が聞こえた。

 

「佑樹…」

「ァ……アアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 だが、奇声を上げこっちに突っ込んでくる。さっきは見えなかったが、今はもう慣れているから佑樹の動きもまるわかりだ。

 佑樹が右こぶしを俺の顔面に向かって放ってくる。俺はそれを手刀で弾き、風を使い、距離を作る。

 

「やっぱり暴走してるのか…?」

『マスター! 魔力を無駄遣いしちゃいけません!!』

「お前は俺の母ちゃんか! でもまぁ確かにそうだな」

 

 助ける方法がない以上、長期戦になりそうだからな。

 

「『!?」』

 

 それから佑樹と戦っているうちにとある所から円形の光が発生し、俺たちを包み込む。

 

(これは結界か……?)

 

 緑色の色から察するに発動したのは恐らくユーノ・スクライアだろう。俺たちの戦闘に感づいて駆けつけたのかもしれない。

 

「じゃあ、高町が来るのか…?」

『って事になりますね』

 

 俺は胸をほっとなでおろす。なら安心だ。あいつが来ればジュエルシードを封印してくれるだろう。あいつに会うのは少々厄介だが、佑樹を救えないよりはマシだ。

 

「ァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 佑樹も何かを感じ取ったのだろう。苦しむように体をよじった後、こっちに突撃してきた。

 俺は別段驚く事もなく、紙一重で佑樹の蹴りを避ける。さらに佑樹はパンチをしてきたがバックステップで回避する。

 

「ァアアアアアアアア!!」

 

 悲鳴を上げると佑樹が伸ばしきった腕が伸び俺に向かってきた。忘れてた…! あいつも今は魔法まがいなものが撃てるんだった。

 

「くッ!」

 

 油断していたせいもあって回避が間に合わず、剣でガードするハメになる。腕が伸びるたびに一発殴られるような衝撃が体を突き抜け、どんどん吹っ飛んでいく。

 

「ガハッ…」

 

 この公園で一際大きい木にぶつかり、肺から空気が抜ける感覚と衝撃を体が襲う。それでもなお、佑樹のパンチは伸び続け、一定間隔の衝撃が訪れる。

 

「…剣が…!」

 

 ひたすら腕に力を入れ耐えていると剣にヒビが入り始める。次第にそれは広がっていき…

 

――――バリンッ!

 

割れた。無防備の俺の腹に拳がのめり込み、激痛が体を襲う。そのパンチは俺ごと木を貫くまで止まらなかった。

 そして俺は意識を失った。

 

 

◇◆◇

 

 

 目を開けると知らない天井だった…っていいよもうこの展開は!

 どうやら、俺はベットに寝ているようで、無骨な壁とひとつの窓から視える景色は異常と言っても良かった。

 体を起こそうとお腹に力を入れると、激痛が体を突き抜けた。

 

「あまり無理をしない方がいい。アバラ骨が何本かイってるようだからね」

 

 痛みをこらえてると、唯一あった扉が開き、黒い髪をした少年が入ってきた。

 

「おっと、悪い。説明がまだだったね。……ここは、アースラ。時空管理局、次元空間航行艦船さ」

 

 時空…なんだって? あまりに長かったんで聞き取れなかった。ホント、無駄に名前が長いやつはこれだから困る。

 

「君には事情を訊くために残ってもらったんだ。君は魔法を知ってるからね。あそこに居た二人は治療して家に返してるよ。心配しなくていい。……ところで顔を見せてくれないか?」

(…顔?)

 

 どうやらリゼットが俺が気絶してもずっとセットアップをしてくれていたみたいだった。ここで意地を張っても仕方がないのでおとなしくバリアジャケットを解除する。

 

「改めて…僕の名前はクロノ・ハラオウン。時空管理局で執務官をやっている。…君の名前は?」

「……橘 和也」

 

 しゃべると、腹が痛むので、出来るだけ最小限で話す。

 

「そうか。じゃああの状況を訊こうか。大体はある少女から聞いている。今から説明するから、付け加えたい部分があったら言ってくれ」

 

 

―――10分後

 

「とまぁ、こんなところかな。何かおかしな点は?」

「……特にない」

「そうか」

 

 ハラオウンから聞いた話は俺が気絶した後の話だった。高町とテスタロッサが来て、ジュエルシードを封印した…という話だった。

 

「橘くん!?」

 

 急に驚いた声が部屋中に鳴り響いた。声の主の方を向くと右手で俺を指して、動揺している高町がいた。それと隣に緑色の髪をした女性も。

 

 

「この人はリンディ・ハラオウン。アースラの提督だ。ところで、二人共知り合いかい?」

「何で、橘くんが! えっと、あっ…ええぇえええ~~!!」

「…うるさい」

 

 ギャーギャー騒ぐんじゃねーよ…傷口に響くだろうが!!

 

「これはちょうど良い。君もここへ来てくれ。話がある」

 

 ハラオウンがそう言うと、高町はオドオドしつつも俺の隣にある椅子に座る。今気づいたが、肩にスクライアがいるな。

 

「君たちに話があるのは一つだ。これ以降ジュエルシードに関わるかどうかだ。悪いがこの件は時空管理局が全権を持つ。これから続けるなら管理局の監視が付くだろう」

 

 あっ、このセリフ、聞き覚えがあるぞ。

 

「…僕は……こんなことになったのは僕の責任だから…やらせてください」

「ユーノ君がそう言うならわたしも」

 

 スクライアと高町は続けるようだ。

 

「「「……」」」

 

 無言で三人共、俺を見てくる。

 

「橘くんもどうかな…?」

 

 高町なりに勇気を出したのだろう。頬を赤らめて上目遣いでそう言ってきた。

 

「…じゃあ俺も」

 

 俺がそう言うと、高町は笑顔になり、ハラオウンも表情を和らげた。スクライアはフェレット状態なので表情が分からない。あえて言っておくが高町の上目遣いで決めたんじゃないぞ! 断じて違うからな!!

 

「じゃあ、決まりだな。ようこそ、アースラへ」

 

 

◇◆◇

 

 

 あれから数日が経ち、その間に色々なことがあった。アースラの人たちと仲良くなったり、ジュエルシードの封印の協力をしたりと。あー、そうそう、アースラの人たちにミッド式の魔法を色々と教えてもらったが、結局どれも出来なかった。悲しいことに俺には魔力系の才能は皆無なのかもしれない。

 

「なぁ、ユーノ…あの件についてなんだが…」

「わかってるよ…あの件だね…」

 

 俺とユーノは食堂のテーブルで互いに向かい合って座り、手を組みながら会話していた。ちなみにユーノとはもう友達と言えるほど仲良くなった。男同士は仲良くなるのは早いからな。クロノも同様だ。…と前置きは置いといて、俺はユーノと大事な事を話し合わなければいけない。

 

「そう、あれだ…」

「高町の誤射が多い…!」

「なのはの誤射がひどい…!」

 

 二人同時に静かに言う。今の俺たちは高町とユーノと俺でチームを作っている。魔力が少ない俺は基本接近戦。そして高町が遠距離砲台、ユーノがその二人のバックアップ…といった感じだ。

 で、誤射が多いというのはね、俺が接近して戦っていると、急に後ろから衝撃が襲ってきてね…後ろを見るとあたふたしている高町がいるわけですよ。一度や二度ならまだ分かります。俺も動き回っているから、そりゃあ当たりもするだろう。ですが、一回の戦闘で高町が誤射する回数は平均五回以上…もうね、なんの罰ゲームだよ!って思っちゃいます。しかも、当たるのは大抵ディバインバスター。何度意識が飛びそうになったことか…。

 

「この件についてどう思いますか? レイジングハートさん」

 

 レイジングハートさんも高町の許可を取り、ここに持ってきている。

 

『そうですね。マスターは才能はあるんですが…』

 

 レイジングハートが話し始めたと同時に艦内でアラームが響いた。俺たちは急いで提督であるリンディさんの所へ行った。

 

「どうやらロストロギア反応が同時に2つ出現したようです。至急、高町さんとユーノさんはジュエルシードを。橘さんはジュエルシードではないですがロストロギアを。各個回収、もしくは破壊してください」

「「はい!!」」

「えっ…俺一人ですか?」

 

 いくら2つ同時出現とはいえ、俺単体での出撃はおかしいと思い、リンディさんに問う。単体なら高町の方が適任だろうに。

 

「ええ。お願いします」

「は、はい」

 

 有無を言わさない口調で言われたので、思わずはいといってしまった。

 

「では、皆さん各自、その場所に転送するので、準備を」

 

 

◇◆◇

 

 

「いいんですか。彼を一人で行かせて」

 

 和也、なのは、ユーノが行ったあと、クロノは一人リンディ―母さんに訊いた。

 

「ええ。彼の実力を計るいいチャンスだわ。ほら彼の使う魔法ってちょっと特殊だから、実力が分からないのよね」

「……」

「…まぁ、彼なら大丈夫だって、心配ないわよ。ほら、あなたも行った行った!」

「はっ!」

 

 

◇◆◇

 

 

「どこだ…ここ?」

 

 セットアップを終え、転送された場所は木が生い茂る自然豊かな場所だった。恐らくどこかの世界だろう。

 次にロストロギアの反応を探そうとあたりを見渡した。が他の景色には似つかわしくないものがあり、それがロストロギアとわかるまでそう時間はかからなかった。

 

「じゃあ行くか」

『はい』

 

 リゼットの返事を聞き、俺はロストロギアの元に飛ぶ。飛んでいる最中、ロストロギアの形がだんだんわかってきた。

 姿は人型。だがそのデカさは異常で俺の百倍はあるだろう。簡単に言うと巨人だ。どうやら、まだあっちはこっちに気づいておらず、静かに佇んでいる。これは先制攻撃のチャンスだ。

 俺は背後に回り、超大技を放つため集中し始める。俺は封印しようにも封印魔法が使えないので、リンディさんから出撃する前、破壊許可は得ていた。

 

「……」

 

 息を潜め、静かに剣を巨人に向ける。俺が意識を集中させるとその剣の先端に炎が集まり始める。さらに練り上げ、そして圧縮する。技の準備から約30秒後、直径2メートルくらいの超高密度の炎球が完成する。

 

『マスター、今です』

「……アトミック―――ショット!!」

 

 技の起動キーを叫び、剣の先端にあった炎球から熱線がリゼットのシステムに誘導され、自動的に放射される。その軌跡は鮮やかな物で、綺麗な赤色をしていた。

 その熱線は巨人の腹を突き抜け、雲の彼方へ消えていった。

 

「良し…!」

 

 俺は技が当たった事に内心喜ぶ。

 このアトミックショットは俺が知る限り、技の中で一番威力は高いが、撃つまでに時間がかかる。理由はいくらリゼットのシステムでもこの技の全ての作業をを行うのは不可能らしく、放射と撃ったあとの制御ぐらいしかできないからだ。そのため、収束、圧縮は俺がしなくちゃならない。つまり、戦闘に不向きなのだ。技の発動シークエンスの間は無防備になるからな。自分の収束スピードを早くすればいいのだが、俺は生憎、高町程の収束才能は無い。恐らくこの先、この技を極めても撃つには10秒ぐらいかかるのではないだろうか。

 

『マスター、安心するにはまだ早いですよ…!』

 

 リゼットの声色が若干厳しくなった事で俺の意識も研ぎ澄まされていく。巨人の方を見ると、腹の穴は塞がりかけていた。さらに臨戦態勢でこちらを見ていた。

 

「あれ全体がロストロギアじゃないって事か…?」

 

 巨人の攻撃を避けながら考える。

 

「接近して調べるか」

 

 俺は接近してロストロギアのコアらしきものがないか探す。俺の勘は当たっていたようですぐコアが見つかった。

 俺はそのコアを剣で突き刺し、破壊した。

 

「むやみやたらに魔力を使うよりもちゃんと考えて戦わないといけないな…俺の場合は」

 

 あのまま考えずに戦っていたら、すぐガス欠になっていただろう。

 

〈お疲れ様。ゲートを開くから、少し待ってくれ〉

 

 クロノから念話が飛んできた。しばらくすると目の前にワープゲートが出現する。

 

「戻るか」

『はい』

 

 

◇◆◇

 

 

 アースラへ戻ると、高町とユーノがいた。ジュエルシードを封印して戻ってきたようだった。そして高町達と話していると本日二回目のアラームが鳴った。

 メインルームへ行くと、そこには、テスタロッサと使い魔―――えっとアルフって言うんだっけあいつ。とにかくその二人が映っていた。どうやらジュエルシードを一気に6つも封印しようとしているらしく、苦戦しているように見えた。

 

「私、現場に向かいます!」

 

 高町が切迫した口調でみんなに伝える。

 

「その必要はないよ。放っておいたら自滅するから。それに自滅しなくても、疲弊してるだろうからそこをついて捕まえればいい」

 

 クロノが高町の言葉を遮り、否定する。

 

「私たちは最善の策は選ばなくてはいけないの。……悪いけど、これが現実よ」

「そんな…」

「……ざけんな」

「えっ?」

 

 俺が急に出した声にみんな振り向く。

 

「これが現実? ふざけんじゃねーよ…! お前らが持ってる魔法はなんのためにあるんだよ。こんな現実を変えるために…人を助けるために存在してるんじゃないのか?」

「でもあいつは犯罪者だ。そんな奴まで救う道理はない」

「クロノ……!」

 

クロノの冷徹な言葉が艦内に響き渡る。

 

《良く言ったよ。和也》

 

 突然頭の中に響いた声により、体が思わず震えた。高町も同様のようで、俺たちは後ろにいるユーノを見る。

 

《僕がゲートを開くから、二人共行って。僕も後で追いつくから》

《…わかった》

 

 俺はすぐさま高町の手を取り、ゲートへ入る。途端にユーノは魔法を発動させ始めた。

 

「あの子の結界内へ転送!」

 

 

◇◆◇

 

 

 ワープした場所は海だった。太陽が照りついており光を放っている。

 

「行くよ橘くん…」

「ああ」

「リゼット!」

「レイジングハート!」

 

 俺と高町は手を繋いでたこともあり、俺は左手を、高町は右手を突き出す。手の中には各々のデバイス。

 

「「セットアップ!!」」

『『スタンバイレディ』』

 

 二人高らかに叫び、バリアジャケットへの換装とデバイスの起動をする。

 

「待っててね、フェイトちゃん!!」

『フライアーフィン』

 

 高町はそう言うと、飛行魔法を使い、すぐさま黒雲を突き抜けた。俺は魔力の無駄遣いを避けるため、自由落下をする。

 自由落下している途中に俺たちがさっきまでいた場所に光が集まり始めるのが見えた。恐らくユーノが来たのだろう。

 

「凄まじいなこれは…!」

 

 黒雲を抜けて見えた景色は凄かった。嵐がいくつも有り、青い電流みたいなのがあたりを飛び交っていた。

 高町がその電流を避けながら、テスタロッサの下にたどり着いた。

 

「さて、俺も手伝いますか」

『ですね』

「『ツイストフィールド!」』

 

 剣を持っていない左手を前に突き出し、ツイストフィールドを発動させる。

 今回は俺を中心にでは無く嵐を中心に風の結界を広めていく。数秒経って、結界は全ての嵐を飲み込んだ。それに伴い、今まで飛び交っていた電流が喪失する。

 

「ユーノ!!」

「うん!!」

 

 俺の目の前を飛び、結界の前にユーノが飛んでいき、両手を突き出す。

 今度はユーノがチェーンバインドを発動した。その鎖の先は俺の結界。そしてその鎖は結界に絡みつくと、締める力を強くして、結界を縮小させ始めた。

 

「くッ…! うぅ!」

「こらえろよ、ユーノ……!」

 

 ユーノひとりでは小さくするのには無理があるらしく、だんだん結界が大きくなり始めた。俺が小さくすればいい話なのだが、俺も結界の維持だけでも一苦労しているので、ユーノに小さくしてもらうことにしたのだが、どうやらひとりでは難しいようだ。

 

「ああ、もう見ちゃいらんないね!!」

 

 その声ともにアルフがチェーンバインドを使い、ユーノ同様、結界を締め上げた。

 

「高町! テスタロッサ! 狙いは絞ってやったぞ! 後は頼んだ!!」

「うん、任せて!!」

「……」

 

 高町は自身ありげに答え、テスタロッサは動揺しながらも魔法の発動を始めていた。

 

「ディバイィィィン……ッ!」

「サンダー……」

「バスタァァァアアア!!」

「レイジッ!!」

 

 高町のデバイスからは常識破りなまでの魔力砲が、テスタロッサからはさっきの電流よりもはるかに強い雷を天から落とす。

 その凄まじい攻撃はジュエルシードに直撃すると、大きな爆発を起こした。

 

「「……」」

 

 どうやら全て封印できたらしく、二人の間で煌々と輝いているジュエルシードがあった。

 

「友達になりたいんだ」

 

 何を思ったのかは分からないが、急に高町がそう呟いた。

 だが返事を待つ前に、空に異変が起き始める。

 

「母さん…?」

 

 テスタロッサが疑問形な声でそう漏らした。

 

「風よッ!」

 

 何故、体が動いたのかは分からない。だが、動かなければいけないと思った。

 気づいたら俺は二人の間に移動し、その二人を押しのけていた。

ドォォォオオオオオオン!!

 さっきまで高町達がいた場所―――俺がいる場所に紫色の雷が落ち、体に電流が迸る。

 

「がはッ……」

 

 体に脱力感が訪れ、風の飛行も解除され、海に落下し始める。

 最後に見えたのは目の前で泣きそうになりながら手を伸ばしている高町、俺の意識はそこで途絶えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 「一時の休息」

「痛ててててっ!」

「じっとして。手当てできないでしょ」

「すいません。エイミィさん」

「……良し! 出来たよ」

「……ありがとうございます」

「そんなかしこまらなくていいって。気にしないで」

 

 俺はエイミィさんに手当てされた部分をさすりながらさっきまで何が起きていたのかを思い出す。

 気がついた場所は数日前使っていたベットの上だった。その後、クロノが来て、俺が気を失った後の状況を説明してもらった。俺が気を失った後、ジュエルシードの争奪が始まって、クロノ達が3個。向こうも3個。といった具合で終わったらしい。一瞬、「まずは俺をまず助けろよ!?」と言いたくなったが、クロノが真剣な顔だったので俺も口を塞いだ。

 

「あなたたちの行動がみんなに迷惑をかける時もあるの」

 

さらにその後、高町、ユーノと合流してリンディさんの所へ向かった。聞かされた内容は説教だった。まぁ、罰は免除してもらえたから説教というより注意だな。

 

「クロノ、あなた言いたいことは?」

「あります。エイミィ、モニターつないで」

 

 クロノがそう言うと、俺たちの目の前に画面が浮き出てきた。画面の中にはある人物の情報が書かれていた。

 

「プレシア・テスタロッサ……ミッドチルダの()大魔道士です。さっきの次元魔法の魔力反応と彼女の魔力波が一致したので、放ったのは彼女でしょう。そしてフェイト・テスタロッサはその……」

「子供……」

 

 高町がクロノの言葉を引き継ぎ、呟くように言った。

 

「親と子ねえ……。よし、エイミィ。プレシアについてもっと調べてちょうだい」

「はい!」

「それじゃあ、アースラもシールド強化しないとね。…じゃあ、高町さんと橘くんは今日だけ、家に帰宅することを許可します。あまり親に心配かけるのもいけないしね。ただし、なるべく三人共一緒に行動すること。いつ、あの子達が襲ってくるか分からないから」

 

 リンディさんはそう言ってきた。家族か……。今頃、母さんと父さんなにしてるかなぁ。

 

「? 分かりましたか、橘くん?」

「は、はい!」

 

 反応が遅れた俺を不思議がり、みんなこっちを見ている。俺は笑ってごまかすしか無かった。

 

 

◇◆◇

 

 

 そして久しぶりに学校に行くと、みんなからの質問攻めにあった。……高町だけが。俺は嫌われ者なので話しかけてくるのは天満ぐらいだった。

 

(そういえば佑樹は……)

 

 俺は佑樹がいつも座っていた席を見た。がそこに佑樹の姿は無く、窓から吹いた風が誰も座ってない席を軽く撫でていただけだった。

 

「ちょっといい?」

 

 俺が一人孤独に席に座っていると、急に月村が高町を中心に出来上がっている人だかりを抜けて声をかけて来た。

 

「何だ?」

「あのね、二人共休みの間何してたのかなって思って。なのはちゃんに訊いてもおどおどして何も答えてくれないし……」

 

 月村は俯きながらそう言ってきた。なるほどな。確かに答えられないよな。

 

「……別に、俺は親戚にちょっと呼ばれたから休んだだけだけだ。高町の方は知らないな」

「そう……。余計なこと訊いてごめんね。それはそうと、今日なのはちゃんと久しぶりに遊ぶんだけど、橘くんもどう? アリサちゃんも見せたいものがあるって」

 

 遊びか……。そんな悠長な事してる場合じゃないけど、リンディさんになるべく一緒に行動しろって言われてるからな……。

 

「ああ、俺も行くよ」

「良かった。じゃあアリサちゃんの家でやるから放課後に来てね。場所はなのはちゃんが教えてくれると思うから」

「ああ」

 

 俺が返事をすると、月村は人だかりの中に消えていった。

 

 

◇◆◇

 

 

 放課後、高町やユーノと一緒にバニングスの家に向かった。結構遠かったが、これからどうするかを話し合っているうちについてしまったため、さほど気にはならなかった。

 

「来たわね。すずかはもう中に入っているわ」

 

 家にたどり着くと私服のバニングスが立っていた。

 

「見せたいものって何だ?」

「あれよ」

「「「!?」」」

 

 俺はもちろんのこと高町もユーノも驚いてしまった。バニングスが指差した先に居たのは俺が戦ったことがある相手。テスタロッサの使い魔、アルフがいた。よく見ると包帯が巻かれている。怪我をしているのかもしれない。

 

「怪我をしているみたいなのよ。……二人共、どうしたの? そんな驚いた顔をして」

「いや、なんでもない。な?」

「う、うん」

《高町、こいつの相手は俺がするからバニングスと話してこい。溜まりに溜まった話があるだろう?》

《僕も残るよ》

 

 俺の声にユーノも混ざってくる。

 

《……うん、わかった》

「さ、さぁ、アリサちゃん。早く中に入ろう?」

「ちょ、ちょっとなのは! あいつは?」

「お前ら先行ってろよ。ガールズトークを邪魔しちゃ悪いからな」

「ちょ、ちょっと~!!」

 

 バニングスと高町は屋敷の中へと入っていった。

 

「……よし、じゃあ何があったのか話してもらおうか、アルフ」

 

 俺がそう言うとアルフは観念したように首を下ろした後、こちらを向いた。

 

「ひとつ聞きたい」

「何だ?」

「アンタたちにフェイトを救える事が出来る?」

 

 アルフが俺とユーノを交互に見ながら真剣な顔で言ってきた。

 俺は、ユーノを見る。ユーノも同じ考えのようで俺を見ていた。そして互いに頷き合う。

 

「「何を当たり前の事を……」」

《言ってるんだ》

「「!!」」

「いたのかよ……クロノ」

「そうかい。じゃあ話すよ」

 

 

◇◆◇

 

 

「……って訳さ」

「なるほど……」

 

 アルフが言った内容は今までこっちが持っていたバラバラな情報を一気につなぎ合わせるようなものだった。

 

《高町……聞いたか?》

 

 どこにいるかは分からないが高町に向けて念話を送る。

 

《うん……全部聞いた》

 

 帰ってきた声はちょっと気落ちしているように感じた。それはそうだろう。テスタロッサが母親からどんな酷い仕打ちをしていたのかもアルフは言ったのだから。

 

《やるべきことは決まったよな?》

 

 今度はこの話を聞いていた全員に念話を送る。

 

《プレシア・テスタロッサを捕まえる!!》

《でも、フェイトちゃんは私に任せて欲しいの。友達になるかの返事も聞いてないし》

 

 みんな意見が一致したあと、高町からそんな声が聞こえてきた。

 

《もとよりそのつもりだ。フェイト・テスタロッサは君に一任する》

《……ありがとう、クロノ君》

《アースラへの帰還は明日の朝だ。それまでにフェイトと接触した場合は……言わなくても分かるか。各自それまでにやりたいことは済ませておけ》

《うん!》

《ああ》

 

 そのあと俺はユーノと一緒にバニングスの屋敷に入り、高町達と、遊べる時間まで目一杯遊んだ。

 

 

◇◆◇

 

 

 時計が鳴っている。時間を確認すると時計の針が4を指していた。

 俺はすぐさま支度をする。最近は肌寒い。しかも今は朝なので、服は風を通さないビニールのズボンに白い長袖、その上に赤色のチェック柄をしたパーカーを着る。

 持っていくものはない。アースラの方でほとんど用意されているからだ。だから俺はリゼットを首に掛け、家を出た。

 

「高町……何、律儀に制服着てんだ?」

「あっ……橘くんおはよう」

 

 集合場所の公園で高町と出会う。

 

「出てきて、フェイトちゃん……!」

『――サイズフォーム』

 

 高町が念話をオープンチャンネルで開くとすぐさまテスタロッサが現れた。ちょ、電灯光らすのやめっ……眩しいから!

 

「賭けて――互いが持っているジュエルシードを」

『プットアウト』

 

 高町がセットアップしながら言うと、レイジングハート、バルディッシュそれぞれがジュエルシードを解放し、二人の間でそれが飛び回る。

 

「なのは、危なくなったら援護するから」

「ダメだ、ユーノ」

 

 俺はユーノが言った言葉をすぐに否定する。

 

「どうしてさ? カズヤ」

「高町の顔を見ろ。……手を出すなって言ってるぜ?」

「そうだよ、ユーノ君。これは真剣勝負だから手を出さないで」

「……わかったよ」

 

 ユーノは心配しながらもそう言った。

 

「高町」

 

 俺は小さな声で高町に話しかける。

 

「何?」

「負けんなよ」

「……うん!」

「……」

 

 テスタロッサは無言でバルディッシュを高町へと向ける。

 

「さぁ、始めよう……。最初で最後の本気の勝負!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 「決戦」

「スターライト……ブレイカーー!!」

 

 桃色の閃光がバインドで拘束されているテスタロッサを貫く。その閃光が通り過ぎると、テスタロッサは気を失ったようで、海に向かってまっ逆さまに落ちていく。

 

「おっと……!」

 

 俺はすぐさま、風を操り、遠くにいるテスタロッサを風のクッションで受け止める。

 その後高町が急いで、テスタロッサの下に行き、抱きかかえた。

 

「勝負ついたな……」

「だね」

 

 ユーノも同じように言う。ちょいと今の戦闘の感想を一つ……。高町さん、えげつねーッス! 砲撃をテスタロッサに連続で二回も撃ち込むなんて、他の人にはできないことを平然とやってのける! そこに痺れるぅ! 憧れ……ねーよ。

 俺がそうやって一人ノリツッコミをしていると、綺麗な日の出をしていた空が急に暗くなり始めた。

 

「フェイトちゃん!」

 

 瞬間、テスタロッサに雷が落ちる。すると、テスタロッサの周りを旋回していたジュエルシードが雲の彼方へ消えていった。

 

「フェイト!!」

 

 今まで静かに戦いの行方を見守っていたアルフが急いでテスタロッサの下に飛んでいった。

 その後、予期せぬ事が起きたので、動揺しながらもテスタロッサをアースラで保護するため、艦に戻った。

 

 

◇◆◇

 

 

『私はあなたが……大嫌いだったのよ!!』

 

 突如告げられた一言。それはフェイトちゃんが大好きだったお母さん――プレシア・テスタロッサから告げられた一言だった。

 わたしたちが艦に戻った時には既に時の庭園に武装部隊が突入していた。そして武装部隊は最深部でとんでもない物を見つけた。

 それはフェイトちゃんそっくりの子。名前はアリシアと言うらしい。事故で亡くなっているらしく、フェイトちゃんはアリシアの代わりに造られた()()()()という聞くに堪えない話を聞かされた。

 隣にいるフェイトちゃんが崩れ落ちる。私とユーノ君は慌てて近づいて様子を伺うが、橘君はボーっとしていて下を見てうつむいたまま動かない。……橘くんの手から何か落ちている。

 

(あれは……血?)

 

 よく見れば体がわなわなと震えている。わたしも許せない気持ちでいっぱいだけど、橘くんは情深いからわたしよりも許せないんだろう。けどそれを言葉に出さないように堪えて、拳を握り締めているから手から血が……!

 

『私はアルハザードで全てを取り戻す!!』

 

 途端に地面が揺れ始める。そしてモニターにはおびただしい数の物体が浮かび上がる。

 

「魔力反応多数! どれもAランク以上です!!」

 

 エイミィさんが驚きの声で言葉を発する。

 

「取り敢えず、フェイトさんを救護室に!!」

 

 リンディさんに言われ、私たちは救護室に向かう。その途中ですごい形相で走っているクロノ君と会った。

 

「僕は今からプレシアを捕獲しに行くが君たちも来るかい?」

「行きます!!」

 

 私は即答する。

 

「僕も! アルフはフェイトについてて。……カズヤはどうする?」

「俺も行く……!」

 

 橘くんは怒りを堪えるように言った。

 

「そう……」

「じゃあ行くぞ!!」

「「はい!!」」

「……」

 

 

◇◆◇

 

 

 ワープしたところはおびただしい程の数の敵がいる時の庭園の入口だった。既にみんなセットアップしており、戦いに集中し始めていた。

 

「そこを……どけぇぇぇぇッ!!」

 

 俺は我慢の限界に達して、咆哮しながら巨人たちに突っ込む。

 

「橘くん!!」

 

 高町が俺を引き止める声が聞こえるが、そんなの知った事じゃない。俺はあのクソ野郎――プレシアを一発ぶん殴らないと気がすまない。

 

(最初から嫌いだったのに、仮面付けてテスタロッサを利用して……! そのくせ用済みになったら捨てる? ふざけんな……ざけんなよ……!)

 

 目の前にいた機械仕掛けの巨人が斧を振りかざしてくる。

 俺は足に風を纏わせ、爆発的なスピードで巨人の足に接近し、剣で両足を切り裂く。そのまま後ろも見ず、扉も切り裂き、庭園の中にはいる。

 その後は、魔力量のことすら考えず、風を足で踏み、まさに風のように巨人の足の間を次元震でボロボロの床を縫って通っていく。

 

「ギィアアアアアアアアアアア!!」

 

 途中、広間みたいな所で一際でかいのに遭遇する。他と同じように足をくぐり抜けようとするが反応速度が速いのか、俺が通るタイミングに合わせて、棍棒を振り下ろしてくる。

 

『マスター、間に合いません!!』

「ちィッ!!」

 

 リゼットに言われ、後ろにバックステップをする。棍棒はさっき俺が居たところを潰し、床に穴を開ける。

 

「邪魔なんだよ!!」

 

 すぐさま、体を捻りながら跳躍する。その回転力を剣に乗せて思い切り、横薙ぎに剣を大巨人のドテッ腹へと動かす。

――バシィィィィィン!!

 だが、見えない何かに阻まれて、空で剣が停止する。

 

『バリアが張られているようです。高威力の技であれば突破できます』

「だったら、これで……エアロブレイクッ!!」

 

 左手から風の砲撃を発射する。バリアにぶつかり一旦静止するがしばらくすると、バリアを突き破り、大巨人をも貫いた。

 

「……行くぞ!」

 

 その後、しばらくリゼットにプレシアの位置を特定しながら進んでいると一際大きな扉にたどり着いた。

 

『この奥です……プレシア・テスタロッサがいます』

「……」

 

 俺は無言で扉を無数に切り刻む。扉の欠片が落ちる中、奥には俺の目当ての人物が見えた。

 

「あなたね……。異様に早いスピードでこの時の庭園を駆け抜けていたのは」

「……」

 

 プレシアがこっちに気づき話しかけてくる。だが俺は相手の話も聞かずに、プレシアに向け全速力で走り剣を前に構え、突きを放つ。

 

「あら」

 

 俺の攻撃を難なく避けるプレシア。

 

「いいわ……正直暇を持て余していた頃なの。そんなチンケな魔力じゃ長くは持たないだろうし、少しだけ遊んであげる」

「俺はお前を許さない……! お前のあの話は本当にくだらなかったぜ。アリシアはもっと優しかった? アリシアはいう事を聞いてくれた? そのくせあなたは……っていったよな。当たり前だろ。この世に同じ人なんていないんだ。同じ記憶を持ってもそれは別の人間なんだよ」

「お黙りなさいッ!!」

 

 プレシアはそう言いながら杖を出現させ、アリシア・テスタロッサが入っている容器に硬そうなバリアを展開する。俺も剣を構える。

 大きな戦いになりそうなので一旦深呼吸をする。俺は、大魔道士が相手だというのにすごく落ち着いていた。ガラス張りの床なので、地面では激しい技を使えない事や、今までプレシアが使った魔法を思い返すなど、至極単純に落ち着いていた。負けられない戦いだからこそ冷静になってるのかもしれない。

 俺はすぐに空中に舞い上がる。この行為は風しか扱えなくなりリスクは高くなるが、その分強力な技が撃てる。

 プレシアも俺を追いながら空中へと舞い上がる。

 

「死になさい!」

『フォトンランサー・ファランクスシフト』

 

 プレシアは普通は長い詠唱の元発動するファランクスシフトを無詠唱で放ってくる。だが俺も二度見た攻撃をくらう程バカではない。

 

「風よッ!!」

 

 俺は左手に風を集束させる。時には避け、時にはその左手と、右手の剣で、何度も飛来してくるフォトンランサーを打ち落とす。

 

「あいつをあいつとして見ろよ! アリシアではなくフェイトとして! そうしたら何か変わるんじゃないのか!?」

 

――バシィィィィィィッ!!

 フォトンランサーの弾幕を抜け、俺のクロスレンジにプレシアが入り込む。すぐさま剣を上から下に斬り下げるがプレシアの防御魔法によって阻まれた。

 

「ふっ……」

 

 俺の攻撃が止まるのを知ると、プレシアの口角が醜く上がる。

 不吉な予感が体を襲う。俺は、すぐさま360°全てに風のバリアを展開した。

 

『サンダーレイジ』

「ぐッ!」

 

 頭上から雷が落ち、俺のバリアに直撃する。即席で作ったため、当然耐えられるわけも無いが、左手の風を雷に打ち付けて軌道をずらす事に成功する。

 

「……ッ!!」

「私はアリシアしか愛せないの。あの子なんかは愛せないわ」

『サンダースマッシャー』

 

 だがプレシアもその間に何もしないわけはない。近距離からのサンダースマッシャーが俺の体を狙う。反応しきれず剣で受け止めるハメになる。

 

《マスター、ここは少し被弾しても攻撃に繋げるべきです》

 

 念話でリゼットがアドバイスをしてくれる。そうしたいのは山々だが相手の威力がどんどん上がっていくのだ。正直、剣を放してしまそうなほどに。

 

「ウッ……! ごほっ! ごほっ!」

《今です!!》

 

 急にプレシアの魔法が消滅する。リゼットはそのチャンスをここぞと言わんばかりに声を張り上げた。

 

「このわからず屋が!!」

 

 俺はプレシアに突進する。もちろん防御魔法によって阻まれるが、俺はすかさずバリアを左手で掴んだ。拒絶反応で俺の手がジュウジュウと焼け始める。

 

「エアロブレイクッ!!」

 

 ゼロ距離からのエアロブレイクをプレシアにぶつける。プレシアのバリアはいとも簡単に壊れ、俺はゼロ距離の反動で、プレシアは俺のエアロブレイクによって吹き飛ばされる。

 俺もプレシアも途中で体制を立て直し、二人で視線を交差させる。

 

「この程度かしら?」

 

 プレシアは口から血を流していながらも退屈そうな顔で言ってくる。どうやらあの血は俺が与えたダメージによって流れたものではないらしい。

 

(ゼロ距離からも効かないなんて……俺はコイツに勝てるのか?)

 

 自分の技で怪我をした左手が動く事を確認しながら考える。

 

《――マスター、あれを試してみましょう。それで決めれなかったら私たちの負けですが、このままではどのみち勝てません》

「……!」

 

 俺の目に昨日の夜のある出来事の記憶が流れ出す。

 

 

◇◆◇

 

『マスター、お話しておきたい事があります』

 

 それは俺が夕食を作っている最中の出来事だった。テーブルに置いておいたリゼットが不意に俺に大事な事があると言ってきたのだ。

 

「何だ? 急に改まって」

 

 俺は調理を一旦止め、テーブルの近くの絨毯に座る。

 

『ついさっき、能力のシステムについてのバグが完全に取り除かれました。よって再度この能力について説明しておきます』

 

 その後、リゼットが言っていく言葉は俺が知ってるものばかりだった。風・火・水・土が扱える。技名を言うと自動でその技のアシストが入るなどなど。

 

「おい、知ってることばかりじゃねーか。夕食作らないといけないんだから、もういいって」

『まだです。最後まで聞いてください』

「なんだよ……」

 

 妙に真剣な声だったので踏みとどまる。

 

『そして、風・火・水・土にはそれぞれ最上位技があります。しかしそのどれもに詠唱が必要なのです』

「へぇ~、そんな物があったんだな。……ていうか! 決戦前日にそれ言うのはタイミング良すぎないか?」

『この能力にもこの世界の魔法と同じく詠唱で威力や技の強度を上げれるようです。それを最大限利用したのがこの詠唱技……。今から、その中で風の最上位技を教えます。まぁ、それでもアトミックショットの方が威力高いんですけど……』

「えっ……他のは?」

『マスターは風以外は操作がお粗末なので教えられません。一歩誤ると、相手よりも自分がダメージ食らうんですから」

「そうですか……」

 

 お粗末と言われ、心底凹む俺。ポーズはorzの状態。

 

『言いますよ……ちゃんと覚えといてください――』

 

 

◇◆◇

 

 

I() expect(望む) a() blade() of() the() whirlwind()――」

 

 一つ一つ丁寧に、焦らず、はっきりと唱える。エアロブレイクが効かなかった以上、アトミックショットか詠唱技かになるが、アトミックショットは時間がかかりすぎる。あいつがそれを待ってくれる事はありえない。

 

To() a ()good() person() a() blessing(福を),To() a() bad() person() punishment(裁きを)

「見たこともない魔法陣ね……?」

 

 俺の周りに魔法陣らしきものが何個も何個も出現する。

 

The() cause() of() the() guidance(元来) come() now()!」

『ジャッジメントハリケーン!!』

 

 リゼットが風の最上位技の名を言う。瞬間、プレシアを丸い形をした超高密度の風結界が包む。

 

「くッ……小賢しいマネを!!」

 

 プレシアは魔法をぶつけ穴を作ろうとするが何度やっても風の結界は傷一つつかない。

 

「あいつだってアリシアには無い良いものがあったはずだ。しかも心底お前を好いていた。それをお前は無下にした! あいつの気持ちになったことはあるか? いくら虐げられてもお前に付いていった気持ちが理解できるか? できないだろうな。でも……たぶん、アリシアってやつは理解できるとおもうぜ。あいつならフェイトを家族って思うだろうからな」

 

 俺は家族のことを思い出す。いつも俺がいるときは笑っていた母さん。何をしても俺の味方だった父さん。家には笑顔が絶えなかった。それが家族だ。本当の家族だ。

 

「あなたにアリシアの……私の何がわかるって言うのよ!」

 

 俺は静かに剣を頭上に上げる。刹那、凄まじい量の風が剣に集まり出す。剣に集まる風は竜巻を形成し始めた。そのデカさは俺が今まで出した竜巻のどれよりもデカかった。

 俺はその剣を風結界へと投げる。剣が結界の中に入り込む。剣がすんなり入ったのは、風結界は中は一切の干渉を受けないようになっているが、外の干渉はあっさり受け付けるからだ。

 

「救いようが本当にねーわお前。……ハジけろ!!」

 

 手を結界へと突き出し、その手をゆっくりと握り締める。途端に、結界内の剣が凄まじい音と共に、風を解放して大爆発する。すごく頑丈なハズの風結界もひび割れだし、風が漏れる。最後に風結界自身が爆発を起こした。

 その爆発の中、落ちていく人らしきシルエットの影が見えた。

 

「はぁ……はぁ……魔力切れだ……」

 

 俺は、風が解除され静かに地面に落下した。受身を取ったので、かろうじて怪我は無かった。

 

「――なかなか面白かったわ」

「『!?』」

 

 急に後ろから声が聞こえた。聞きたくなかった声だった。倒したはずだった。

 

「どうしてって思ってるわね……? 答えは簡単、最初から幻術魔法であなたを遊んでいたの。あの杖を出した時からね」

「なん……だと……?」

 

 プレシアはゆっくりと倒れている俺に手を向ける。

 

『サンダーレイジ』

 

 辺りが真っ白になり、意識が遠のいていく。必死に意識を保とうとするが、さらに二発目の雷が落とされ、俺は意識を失った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 「Re:決戦」

「ん……? ここは……」

 

 目を開けると、辺りは白一色だった。前にも来た事がある場所。神じいさんがいるところだった。

 

「神じいさん、俺は……死んだのか?」

「さぁ、どうじゃかのぉ?」

 

 俺の前で、じいさんは、顎から生えているひげをさすりながらそう返してきた。

 

「ごまかすなよ……。だってこんな所、死ぬか、あんたが、俺が眠っている間に呼ぶしか来られないからな」

 

 俺はそう言い放つが、じいさんはニヤニヤしながら俺を見てくる。

 

「……なんだよ?」

「いや~、悪いのぉ。さっきまであんなに激昂してたのに、妙に落ち着いているから……スマンのぉ」

 

 俺が不機嫌そうに言うと、じいさんは反省する気ゼロの返事を返してくる。正直、一発、鉄拳制裁をしたかったが今は戦いに負けたショックで、すぐにその気持ちは消え失せた。

 

「スマンが、お主の戦闘はわしも見させてもらった。正直に言う。あんな終わり方はこっちにとっても面白くない」

「……急にどうしたよ、じいさん」

「橘和也よ。お主はここで諦めていいのか?」

「どう言う意味だよ?」

「……」

 

 じいさんは俺が聞き直すと、静かに黙り込んで俺をじっと見つめてくる。

 

「実力が足りなかったんだ。仕方がないさ」

 

 幻術なんてチンケな物にかけられたことすら気がつかないくらい差があったんだ。

 

「わしが聞きたい答えはそういうものじゃない」

「だったらなんだって言うんだよ……!」

 

 ややこしいのは抜きにして欲しい。そう思い、声に力が入り、少し怒りの感情を混ぜじいさんに向けてその声を発した。

 

「悔しくはないか? 勝ちたくはなかったか? 倒したくはなかったか? 救ってやりたくはなかったか? 家族というものを教えたくはなかったか? ……お主はここで諦めていいのか?」

 

 じいさんは一つ一つ丁寧に言ってきた。優しく、強く、暖かく、正しく神のように。

 

「……そりゃあ、諦めたくなんかないさ……ッ!!」

 

 じいさんの気にやられたのだろう。本音を吐き出してしまった。それと同時にさっきまでの気持ちも体の奥から湧き上がって来る。

 

「その声が聞きかったんじゃ」

 

 じいさんは微笑みながら言ってきた。仏のような万円の笑みで。

 そして俺の胸に掛けられているネックレス――リゼットのコアから光が漏れ出し、ある言葉を発した。

 

『ロック解除――システムチェック開始』

「これは……?」

 

 随分と前に言われた事を思い出す。初めて能力を使った時、イメージトレーニングをした時に言われた事。――ロックが掛かっているシステムがある。

 

「本当は後ちょっと待って欲しかったんじゃが仕方があるまい。……覚えているかの? これは想いの力で強くなると」

 

じいさんの手から光が出ている。

 

「ぁ……ああ」

「さっきのお主の想いにはコレを起動するほどの力があると見受けられた。……受け取るがいい。運命を書き換える力を」

『チェック完了。すこしバグがあるが許容範囲内。”システムリライト”スタートアップ』

「さぁ、行ってくるがいい。お主はまだ死んではいない。わしが気絶した時にすぐ呼んだからのぉ。こっちでの時間はあの世界では一秒も経っとらん」

「待ってくれ、じいさん!」

 

 俺は光で目が見えないながらもそこにいるであろうじいさんに向け、手を伸ばす。

 

「心配せんでもそのシステムの使い方は頭の中に送っておくから心配せんでもいいぞい。後最後……それを維持できる時間は今のお前さんじゃ5分がいいとこじゃろう。気を付けるんじゃ」

 

 最後、その言葉を聞くと、一気に意識がどこかへ吸い込まれた。

 

 

◇◆◇

 

 

「死になさい」

 

 目を開け、前を見ると、プレシアが今まさに俺に向かって殺傷設定の魔法を心臓へ打ち込むところだった。

 

『フォトンランサー』

「……ッ!!」

 

 間一髪で、必死に体を回転させ、フォトンランサーの射線上から逃れる。さっきまで俺がいた場所の地面は穴があいており、さっきまでそこに居たら明らかに死んでいた事を物語っていた。

 

「あら、気がついていたの?」

「ああ、おあいにくさまでな。……残念だったな。もう少しで殺せそうだったのに」

「別に構わないわ。魔力が無いあなたなんて取るに足らない存在よ」

 

 プレシアは本当に、残念そうな顔をしてなく、虫けらを見るような目でこちらを見ている。

 

「それは、どうかな……?」

「なんですって……?」

《マスター、見せてやりましょう。新たな力を》

《ああ、ギャフンと言わせてやる》

 

 リゼットの励ましに、俺は相槌を打つ。プレシアは俺の言葉が気になったようで、怪訝な表情を浮かべていた。

 

「システムリライト――」

 

 記憶の中にはすでにこの力の知識があった。神じいさんが入れてくれたのだろう。その記憶を辿り、発動キーを発する。

 

「リ:コード。ブレイカー」

『承認。リライト――Burst(バースト) Drive(ドライヴ)!!!』

 

 刹那、リゼットから赤色の光が放たれる。その光は球体状になり、俺を包んだ。

 

 

◇◆◇

 

 

Burst(バースト) Drive(ドライヴ)!!!』

 

 その声を聞いたとき、少し後悔をしていた。

 

「あの力は使い方を間違えると、自分を死に追いやるからのぉ……」

 

 一人、白い空間で自分のヒゲをさすりながら呟く。

 

「じゃがのぉ……。あの時あんなあっさり死なれたら困っとったし……」

 

 それは本当だ。せっかく転生してやったのにこんなに早く死んでもらったら後味が悪すぎる。

 

「もうちょっと、あのシステムはチェックしたかったのじゃがのぉ」

 

 使用者に絶大な力を授けるあの力――転生者に会った時用の切り札。まだ先だろうと思っていたらこのザマだ。絶大な力なら、その逆、絶大な障害にもなり得る。だから入念にやっていたのだが、まさかこんな事になろうとは。

 

「おっ、どうやら成功のようじゃ」

 

 戦闘を映しているモニターを見て、安堵の息がそっと漏れた。

 

 

◇◆◇

 

 

 光の球体の中はすごいことになっていた。辺りにはホログラムの数字が飛び交い、それがリゼットのコアを出たり入ったりしている。

 時間が経つと、まず変化があったのはバリアジャケットだった。白いロングコートも黒いインナーシャツもズボンも全てが光と同じような赤――いや紅色に変わる。防具類は黒に変わり、位置も形も変化する。

 次に変化したのは体だった。なんというか、その力が溢れてくるって感じだ。魔力のような感じもするしそうじゃない感じもする。

 

『マスター、完了です。……行きましょうか』

「ああ」

 

 目の前の光を力みなぎる右腕で握り締めた剣で切り裂く。瞬間、数メートル先にいるプレシアと目が合う。

 

「影剣……」

 

 プレシアから視線を外し、剣を前にかざす。すると剣の影から波紋が立ち始め、最終的には影のように真っ黒な剣が俺の眼前に浮かび上がった。

 それを左手で掴み、持ち上げる。左手には漆黒の剣。右手には純白の剣を持ち、腕を伸ばし、リラックスした状態になる。

 

「二刀流ね。楽しめそう」

 

 俺は右手の剣を静かに持ち上げ、プレシアに向ける。

 

「さぁ、第二ラウンドといこうか」

「いいわ。来なさい……」

 

 プレシアは不気味に笑いながら、デバイスを変形させる。

 

「じゃあ行くぞ……!」

 

 体を傾け地面を軽く蹴る。だがそれだけでプレシアの懐に入るには十分過ぎる程のスピードと跳躍をみせた。

 そのまま、驚いていていて動けないプレシアの腹に右手の剣を横薙ぎにお見舞いする。一瞬、バリアによって動きを止めれたが、左の剣も右の剣と同じ部位に薙ぐことによりいとも容易く打ち破り、プレシアに向け、二刀の刃が迫る。

 だが、プレシアも大魔道士。瞬時に杖をその軌道上に入れてきた。しかしあまり意味は無く、野球ボールをバットで打つみたいにそのまま俺の剣で吹き飛ばされ、壁に激突した。

 

「どうしたよ? そんなもんか?」

「……あまり私を舐めないことね……!」

「……へぇ」

 

 プレシアは俺の挑発がカンに触ったらしく、壁から這い出て空中へと舞い上がった。そこからフォトンランサーの一斉掃射が行われる。

 

「……裂衝牙!!」

 

 静かに左に体を捻り、剣を目一杯後ろに回す。そこから全力で体ごと剣を、右に振り抜く。プレシアのフォトンスフィアに向けて空を斬る。刹那、そこから衝撃波が生まれ、プレシアのフォトンスフィアはいとも容易く崩壊した。

 実はこの技、魔力を使用しない。ブレイカーフォームの時の一つ一つの剣の重量は30Kgを軽く超えている。故にそこから、放たれる斬撃は旋風を伴う。それを一点に飛ばすことにより衝撃波として出せるのだ。

 

「あなた、一体何者?」

「ただのしがない少年さ」

「嘘はつかないことね。ただの少年がここまで戦えるわけがないわ」

「そうですか……!」

 

 話を打ち切り、プレシアへ跳躍する。時間があまり無いんだ。もうすでに二分経っている。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 プレシアに接近し、両手の剣を一気に振り下ろそうとする。途中、何個も魔力弾が飛来してきたが、全て剣で叩き落としていた。

 

『エクスディフェンダー』

 

 プレシアは防御陣を展開してきた。俺も構わず、振り下ろす。

――バリィィィィィ!!

 今度のバリアは強固なようで、二つの剣でも破れなかった。そしてバリアは魔力を一点に集中し始め……。

 

『ヴァリアントスフィア』

 

 極太の魔力弾が放たれた。いくらこの状態でもゼロ距離からの攻撃は対処できない。

 俺はその魔力弾と共に吹き飛ばされる。

 

「弾けなさい……!!」

 

 威力が弱まり始めた所をプレシアは追い打ちをかけるように魔力弾を爆発させた。その爆風でさらに吹き飛ばされる。

 

「ッ!!」

 

 壁に激突する直前、体をひるがえし、壁に対し垂直に着地する。反撃するため、すぐに跳躍しプレシアに向かって飛ぶ。

 

『サンダースマッシャー』

 

 だが、プレシアはすでに次の手を打っていた。俺に黄色い閃光が迫ってくる。

 

「裂衝牙・十文字!!」

 

 さっきは一刀で放った衝撃波を二刀で十字に放つ。閃光と衝撃波がぶつかった瞬間、大爆発が起こった。

 その爆発にプレシアも俺も巻き込まれ、地面に落下した。

 

「「はぁはぁ」」

 

 二人共、息絶え絶えしながら視線を交差させる。

 

「あまり調子に乗らないことね!!」

 

 プレシアを中心に薄い光の膜が広がっていく。これは見たことがあった。突入した局員を全員戦闘不能に陥れたエリア全体魔法……!

 

《マスター!!》

《分かってる!!》

「……システムリライト」

 

 前にも言ったが、どんな物にだって弱点は存在する。これもそれは存在する。だが、弱点を補う事は出来る。

 静かに唱える。だが急がないと、さすがの俺もヤバイので少し早口になってしまう。

 

「リ:コード。……ウィザード!!」

『承認。リライト――Wisdom(ウィズダム) Drive(ドライヴ)!!!』

「死になさい!!」

 

 プレシアの叫びと共に逃げ場のない落雷が降り注ぐ。光の雨が降った後は辺りは煙で何も見えなくなった。

 

「これで……」

「ストームレイド」

 

 立ち上る煙を切り裂くように現れた風がプレシアを直撃する。

 

「あなた……!!」

 

 プレシアは吹き飛ばされた後、土まみれの顔で心底殺意を剥き出しにして俺を睨んでくる。

 

《マスター、なんとか間に合いましたね》

《ああ》

 

 ウィザード。もう一つのリライト。簡単に言うとブレイカーが接近特化型ならこれは能力特化型。バリアジャケットがさっきの赤とは変わりにロングコートは無くなり、袖が無い青いジャケットとこれまた青いインナーシャツ。黒い長ズボンが出現し、その上に茶色のローブが重なり、魔導師的な雰囲気を醸し出している。

 防具系は左手に集中していて他には一切付いていない。そして一番の特徴は……剣が変形して出来た銃。刀身が半分に折れ、柄も斜めに折れ、銃の形をしている。

 

「さぁ、立てよ。時間がないのはお互い様だろ」

「図に……乗るな!!」

 

 遂にプレシアは激怒し、全ての魔力を杖に集めだした。あれはおそらく、ごく単純の魔力砲だろう。

 俺もそれに習い、プレシアに銃を向ける。

 

《リゼット。この状態はいつもの技の上位互換技を使えるんだろ?》

《はい》

《よし。じゃあアトミックショットの上位互換、行くぞ》

 

 全ての力を銃の先端に集め始める。この技は高町と同じく辺りの魔力を収束して放つ。いつもはその作業に時間がかかり発射が遅れるのだが、今は違う。この銃は収束のアシストをしてくれるのだ。

 

「これで終わりよ……」

 

 プレシアは杖の先端をこちらに向けた。その先端には凄まじい程の魔力が集まっていた。

 

「ああ。そろそろ幕引きと行こう」

 

 俺もさらに力を送り込む。銃の先端にはプレシアの魔力にも劣らない程の赤い光が集まっていた。

 

《……マスター、発射可能です!!》

 

「消えなさい!!」

「アトミック……ブラスタァァァァァァァァッ!!」

 

 一人からは紫の光が、一人からは赤色の光が放たれる。その二つは両者の間で激しい衝突音と共にぶつかりせめぎ合う。

 だが、それも長くは続かなかった。片方の光がもう片方の光を侵食し始めたのだ。侵食され始めたのは――赤い光。

 

《ちっ……! 初めて撃つから安定しない……》

《そんな……ウィザード状態でも勝てないなんて……》

 

 リゼットの言葉で、俺の中に一つの方法が浮かび上がる。

 

《サンキュー、リゼット。良いこと考えついた》

《えっ?》

 

 そうだ。今はウィザード状態。ていうことは……!

 

「……ッッ!!」

 

 両手で掴んでいた銃から無理やり左手を放す。放したとき、体制が大きく崩れたがなんとか耐える。

 そして放した左手を大きく開く。

 

「エアロ……」

 

 左手を前に向け……。

 

「ブレイクッ!!」

 

 竜巻を放つ。その竜巻は俺のアトミックブラスターを膜のように包み、攻撃と共にアトミックブラスターの安定にもなった。

 ウィザードフォームの時は能力の制限が解除され、二つまで、別々の物を操れる。さっきリゼットからウィザードという単語を聞いて思い出した。

 その活躍により、プレシアの魔力砲を押し返し始める。

 

「何故? 何故私がこんな奴に……?」

「……プレシア。お前とは覚悟が違うんだよ。その差がこの勝負を分けたんだ!」

 

 その言葉を言うと、俺は左手にも右手にも力を込めた。それと共鳴するように二つの技の威力も上昇していく。そして遂には魔力砲全てを飲み込み、プレシアも巻き込んだ。

 

「……」

 

 戦いは終わった。それを物語るように辺りは静まり返っていた。さっきまでの戦闘はまるで過去の遠い話のようにさえ感じるほど静かだった。

 その中、俺はプレシアを見つけ出しそっちに向けて歩き出す。

 

「何故? 何故?」

 

 プレシアは壊れたようにひたすら呟いていた。

 

「うぐッ……!!」

『マスター!!』

 

 歩いている途中、胸から何かがこみ上げてきた。耐え切れずこみ上げた物を咳と共に吐き出す。

 出てきた物を確認する。そこにあったのは血だった。

 しばらくして、急な脱力感が体を襲う。

 

「システムリライトの副作用か……」

 

 初めて使ったから消耗が激しかったのだろう。事実、まだ5分経っていない。

 

『セットアップ強制解除』

 

 リゼットが気を利かせて、セットアップを解除してくれるが気休め程度にしかならずその場で倒れうずくまる。

 

『マスター、大丈夫ですか!?』

「ああ、なんとか……」

 

 リゼットにはそう返すが、正直な所今すぐにでも気を失ってしまいそうだ。だがまだ気絶するわけには行かない。

 ものすごく重たい体を持ち上げ、プレシアの下へと辿り着く。

 

「よぉ、俺に負けた気分はどうだ?」

 

 必死に痛みを堪え、プレシアに平静を見せつける。

 

「あなたなんかに負けるなんて何かの間違いだわ……」

 

 プレシアは動けないようで、壁にもたれ掛かっているだけだった。

 

「いいや、事実だ。それよりも聞かせてもらおうか。どうしてフェイト・テスタロッサが嫌いなのかを」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話「虚数空間」

「フェイトに怒りを覚え始めたのは、フェイトを作って間もない頃よ……」

 

 プレシアはおもむろに話し始めた。

 

「最初はアリシアの代わりとして見ていたわ。フェイトが愛おしくてたまらなかった。けど……フェイトがアリシアとは違う事がわかると憎たらしく見えるようになったわ」

「アリシアの……アリシアの妹として見れば良かったじゃないか」

「そんなことは出来っこな……ごほっ!」

 

 プレシアは喋っている最中、手を口に当て咳ごみ口から血を吐いた。ドロドロとした赤い液体がプレシアの手から流れ落ちる。

 不意にその手が素早く動く。その手は俺の腹で止まった。

 

「何を……?」

 

 ニタリとプレシアが笑う。その顔を見た刹那、紫色の光によって俺の体は吹き飛ばされた。バリアジャケットも何も展開されてない状態での魔力波。さらにシステムリライトの副作用。その二つが相まった攻撃に吹き飛ばされ、床を何度もバウンドした後、突出した岩に激突した。

 

「……かはッ!!」

 

 気絶こそはしなかったものの、体がまったく動かない。少なくとも一つは体のどこかの骨がイったはずだ。呼吸がとてもしづらい。するたびにズキンと胸あたりに痛みが走る。

 

「でも今更遅いのよ! だから私たちは全てを取り戻すのよ。こんなはずじゃなかった世界を越えてアルハザードで!!」

 

 その時、壁が爆音と共に吹き飛び、中から人が出てきた。

 

「世界はいつだってこんなはずじゃない事ばっかりだよ!!」

 

 現れた人はクロノだった。見る限り負傷しており、ここまで来るのに苦戦していた事を物語っていた。

 

「母さんッ!!」

 

 そして今度はフェイトが現れた。プレシアはフェイトを見るととても驚いていた。

 そのままフェイトは前へと歩み出る。

 

「私はアリシア・テスタロッサじゃありません。あなたが作った人形なのかもしれません。だけど、私はあなたに生み出してもらって育ててもらったあなたの娘です」

 

 彼女はプレシアに向け手を伸ばしたあと、そう言った。力強い眼差し、迷いのないブレない瞳で。

 

「……ふっ……」

 

 場違いなのは分かっているが自然に笑みがこぼれてしまった。どうやら俺は無駄なことをしていたみたいだ。何も俺が関わらなくてもコイツは自分で答えを出せたんじゃないか。あいつもよく言っていた。大抵の人間はちょっと誰かが何かをしてあげるだけで自分で自分を救い出すと。あの時はよく理解出来なかったが、今はなんとなく分かる。

 

「……くだらないわ」

 

 だがプレシアの返事は残酷なものだった。伸ばした手は虚しくも空を斬る。

 

「崩壊が始まるぞ! 急げッ!!」

 

 クロノの声が崩壊しかけている庭園に響き渡る。

 途端に皆、動きを変えて撤収に入り始めた。

 

「ここにいたんですね……!」

 

 俺の前にフェイトが現れた。そのまま負傷して動けない俺に肩を貸してくる。

 

「いい……のか? プレシアを……助けなくて……」

「かあさ……あの人の邪魔をしてはいけないから……」

「良い……か。よく聞け……」

 

 ったく、決心したのにまた揺らぐんじゃねーよ……。

 

「確かに……プレシアはお前を……娘じゃないと決めた……」

「ッ……」

 

 俺が現実を伝えると、フェイトの表情に悲しみの色が出始める。

 

「けど!!」

 

 自分が出せる精一杯の声を出す。

 

「それが何だ!? 家族って物は母親が娘と認めないといけないのか!? 違うだろう!? もしそうならこの世に家族といえるものなんてほんの少しだけだ!! 家族って物は一方通行でもいいはずだ!!」

「うん……うん……ッ!!」

 

 フェイトの目から涙がこぼれ始める。

 

「だったらお前が『自分はプレシアの娘で家族』って思えばいいだけだろう……?」

「そう……だね……。さっき決めたばっかなのにもう忘れてたよ……」

 

 俺は無傷である左手で彼女の頬に流れている涙を拭き取る。

 

「ほら答えが出たならそんな悲しい表情はする必要なんて無いだろう? せっかく綺麗な顔立ちなのにそれじゃもったいないぜ」

「…………」

 

 俺がそう言ったらフェイトは頭を下げた。だがすぐに顔を上げた。そこには女神のように優しく微笑んでいる表情があった。

 

「ああ、いい笑顔だ……」

「……何を!?」

 

 俺はフェイトを押しのける。

 

「このまま俺を背負ったまま出ようとすると絶対に崩壊までに間に合わないだろうからな……。こうするしかないんだ」

 

 俺は後ろに重心を傾けながら倒れる。後ろには大きく口を開けて俺を待っている虚数空間が広がっている。

それを防ごうとフェイトは必死にこちらに手を伸ばすが、俺はその手を弾いた。

 

「最後に良いもん見せてくれてサンキュー」

 

 笑顔で返事をしたあと、後ろに少し飛ぶ。それだけで俺は虚数空間の中に入り込んだ。前にも高いところから落ちたことはあるが、この落ち方は他のとちょっと違うと思った。なんか上から見えない壁にどんどん押されているみたいな感じだ。

 体を翻し下を見る。

 下には色があるようでないような、形があるようでないような空間だ。

 俺はそれに吸い込まれるように落ちていった。

 

 

◇◆◇

 

 

「…………」

 

 みんな、無事あの時の庭園から脱出出来たのに押し黙って、浮かない表情をしている。多分、私の顔も確認することはできないけど、みんなと同じ顔していると思う。けど、無理もない。一人欠けたのだから。私の友達であり、私の相談にも乗ってくれた橘君がいない。

 

「ごめん、なのは……」

 

 フェイトちゃんが謝ってくる。橘君がいないと気づいたのは、時の庭園を脱出したあとだった。橘君をさがしているうちにフェイトちゃんが浮かない顔をしていたので、理由を訪ねたら、フェイトちゃんはこう言ってきた。

 

「あの子は……」

 

 フェイトちゃんは頭を下げ、浮かない顔が一層濃くなった。それだけで理解できた。そのあと、どういう経緯でそうなったかはクロノ君が必死に聞き出した。

 

「…………」

 

 フェイトちゃんに「大丈夫、フェイトちゃんのせいじゃないよ」と言いたいのに口からその言葉は出ない。それほど、今は自分のからだをコントロール出来なかった。小学生で友達を無くしたのだ。ショックはとてつもなく大きい。

 

「橘君……」

 

 鉄でグレーに染まった空を見上げながらその言葉だけが出てきた。両目から一筋の涙と共に。




長らくお待たせしてすいません。何せ受験勉強で執筆時間があまり取れないものですから……。
志望校に合格したら執筆のスピードを上げるつもりですので、もうしばらくお待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話「別世界」

「――速く速く! カズヤの出番だよ!!」

「分かってるって……はぁ」

「何で溜め息なんてついてるの?」

「なんでもないよ。じゃあ行ってくるよ、アリシア」

 

 準備運動を少ししたあと、薄暗い通路を抜けて大きな広間へと出る。ドーム状になっているこの広間はコロシアムとしてよく使われそうな場所だった。人が何千人も入りそうなほどの規模の平地。そして平地の端っこから人が何万人も入りそうなほどの観客席が天空に向けて伸びている。

 辺りを確認したあと前を見据える。前には俺と同じように俺とは逆の通路から出てきた奴が居た。

 

「小さいな……」

 

 現れた奴は俺の身長の二倍はある巨漢だった。その背には巨大な斧がある。

 

「見た目で人を判断しないほうがいいぜ」

『セットアップ』

 

 灰色のスラックスに黒いインナーシャツと純白のロングコート、さらにいつもは顔隠しに使っていた黒い布が、使う必要がないので頭から落ち、肩へと掛かり、前と後ろに一つずつ出したロングマフラーへと変化している。そんなバリアジャケットが俺の身を包む。

 相手はそのまま斧を、手に掴み背中から抜く。

 

『お集まりの皆様、本日のカードはこちら!!」

 

 コロシアム会場中にマイクで大きくなっている声が響き渡る。

 

『いつもこの大会の上位者に入り込む、巨人タイラー選手vs本大会初参加ですが実力は未知数、ダークホースタチバナ・カズヤ選手です!!』

 

 マイクの声に反応して歓声が辺りから巻き起こる。

 

『では、試合開始!!』

 

 

◇◆◇

 

 

 俺が時の庭園から落下してどの位時間が経ったのだろうか。点ぐらいに見えていた時の庭園はすでに全く見えない。それどころか辺りは真っ暗で何も見えない。俺が思うにここが重力の底だろう。

 俺は静かに瞳を閉じる。今はもう体の痛みは引いてきたが、体中ズタボロでもう疲れた。このまま安らかに死にたい気分だ。

 頭の中で今までの出来事が走馬灯のように蘇る。転生してからの充実していた毎日。その終わりを告げるように現れたジュエルシード。最初に見つけたジュエルシードを巡っていきなりテスタロッサ

とバトルもしたりした。勝ったのかどうか分からないくらい曖昧な勝利だったのを憶えている。

 ちょっと待て……?何かが引っかかる。

「あっ!!」

『どうかしましたか?』

「お前、まだあれ持ってるか?」

『あれとは?』

「初めてテスタロッサの奴と戦った時に落ちてた奴だ。ジュエルシードだよ!!」

『あっ、それならありますよ』

 

 リゼットのコアから青色の宝石が出てくる。

 

「これでいけるかな…」

 

 ジュエルシードの性質。それは願いを叶えること。もしかしたらこれでここから抜け出せるかもしれない。これにかけてみるに他はない。

 

「頼む、ジュエルシードッ! 一度でいい、願いを叶えてくれ!! ここから……ここから抜け出す力を貸してくれッ!!」

 

 俺の手の中にあるジュエルシードが青く発行し始めた。俺の悲痛な叫びが届いたのか、どうかは分からない。だがジュエルシードは覚醒を果たし、暗闇から一筋の光を出す。その光は次第に俺を包んでいき、暗闇から一転眩い光に包まれながら意識が真っ白になっていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「いてッ!」

 

 浮遊感が体を襲ってすぐに、落下感が訪れた。辺りは花だらけ。だが、その花があまりに異常だ。 

 

「何だコレ……? 花の葉脈が光ってる……」

『本当ですね……。不思議です』

 

 疑問は浮かぶが見ていてもどうしようもないので花を見た後、立ち上がって辺りを確認する。どこまでも花が広がっていたが遠くに民家が見えた。だが民家と言っても壁は銀色で、所々に線が走っており、そこから怪しく光が出ている。

 

「取り敢えず……あそこに行ってみるか」

『そうですね』

 

 近くに落ちていたジュエルシードを回収し、生えている花を避けながら民家を目指す。

 

「ぶッ!!」

 

 ふと何かにつまずき壮大にコケる。ぎゃあああああああ、傷に染みるぅぅぅぅぅぅぅ!!せっかく痛みが引いてきたのに!!

 

「ったく、なんだよ!! ……っておいおい」

『これは……』

 

 俺がつまずいたのはカプセル。アリシアのカプセルと形が同じ。中から液体が漏れでしていて、既に中身がなくなっていることを語っていた。アリシアが居ないのには気になるが辺りを見回しても、誰もいない。仕方がないので再び民家を目指す。

 そして家の前に辿り着く。

 

「すいませーん、どちらかいらっしゃいませんかー?」

 

 しばらくすると、中から人が出てきた。顔はシワだらけで、相当歳を食ってそうな老人だった。

 

「どちらさんですかの?」

「あっ、ども。橘和也と言います」

「まぁ立ち話も何ですから中に入ってください」

「あっ、はい」

 

 中に招待されたので大人しく家に入る。この家は外壁はかなり無骨だったのに対して、中はとても民家らしい雰囲気だった。クリーム色の外壁に茶色のフローリング。盆栽や観賞用の草があり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 待っていると、目の前に椅子を運ばれたので、それに座らせてもらう。

 

「さて、お話を聞かせてもらおうかの」

 

 老人も俺の前に椅子を持ってきてそれに腰掛ける。とは行っても話か……。どう説明したらいいのだろう。

 

「まず話す前に聞いていいですか?」

「どうぞ」

「ここは、どこですか?」

 

 まずは状況の把握だ。それがないと話そうにも話せない。

 

「ここですかな? ここはアルハザードの外れにあるダイダナというところです」

「あ、そうですか……」

 

 そうかなるほど、ここはアルハザ……えっ!?

 

「す、すいません! もう一回お願いします」

「ですから、ここはアルハザードの外れにあるダイダナというところです」

 

 うん、聞き間違いじゃない。このじいさんははっきり言った。アルハザードと。最初は入れ歯してそうな歯なので滑舌が悪いのかと思ったがどうやら違うようだ。

 

《どうやらジュエルシードさんはとんでもないところに飛ばしてくれたようだな》

《そうみたいですね。プレシアは何個も使ってアルハザードに飛ぼうとしたのに、私たちは一個で飛べるなんてなんか皮肉ですね》

《そうだな》

「……でしたか?」

「えっ?」

 

 しまった。俺っていつも念話している時は周りのことがおろそかになるんだよな。まぁ、俺はマルチタスク使えないからか。

 

「そちらのペンダントはデバイスですかな?」

「あ、はい。リゼットって言います」

『よろしくお願いします』

「おおっ、こちらこそよろしく。今時、デバイスとは珍しい」

『いえいえ、それにしてもアルハザードの外れというのはどう言う意味ですか?』

「ここから10kmぐらい離れた所にアルハザードの首都、グリガーというところがあるんです。そこ以外の町や市は全て外れと言われてるんです。首都は技術が発達していますが外れは首都の100年前ぐらいの技術と言われています」

『そうなんですね』

「…………」

 

 俺は唖然としていた。これで100年前だ? 説明してなかったがついさっき俺の怪我は完治した。目の前のおっさんが直したのだ。

 この老人の家に入った時にある薬を傷口や痛むところに塗ってもらっていたのだ。「この薬は効果が出るのに時間がかかるのでな」と言って。

 今、実感したが体中の痛みが引いている。痛むところを指で押したりしても何も痛くない。

 これから察するに首都はとんでもないところらしい。

 

「さて、話を戻しましょう。俺たちの話を聞いてください」

 

 一旦、区切りが付いたところで話を元に戻す。

 

「俺たちはあるアクシデントに見舞われ、ここに飛んできました。俺たちは元の世界に戻りたいんです。何か知りませんか?」

 

 正直の事を述べる。最初は嘘を言い、面倒くさくなさそうな手段を選ぼうとしていたが、俺が見る限りこの人は人が良さそうだ。

 

「さぁ、そういうことは専門外ですからな。ですが、首都の方に行けば解決策が見つかるかもしれません」

「そうですか……」

「おお、そういえばそろそろかの」

「何がです?」

「ついさっき、あなたがここに来る前にどでかい音がしたんで、外を確認したら少女が入ったカプセルが落ちてきたんじゃ。こちらで保護させて治療させてもらってたんじゃよ」

 

 さっきのカプセルが脳裏に浮かぶ。なるほど、だからカプセルが空いていたのか……ってちょっと待て。

 

「その子、もしかして金髪の少女でしたか?」

「おお、そのとおりじゃ。よく知っておるの」

 

 やっぱりアリシアだ。でもおかしいことが一つある。死んでるのに手当てしただって? おかしくないか?

 考えながら老人に付いて行き、二階のある部屋に辿り着く。

 

「どうやらちょうど良かったようじゃの」

「ふぁぁぁああ……おじさん誰? ここ何処?」

 

 俺は目を疑った。時の庭園で初めて見て以来、人形のように何も語らずただただそこに存在していただけの死体が俺の前で、視線の先にある小さなベットの上で起きていた。生者としてだ。

 

「お、おじさん。これは一体……?」

「ん? おお、そうじゃった。あなたは死者蘇生を見るのは初めてですかな?」

「あ……ああ」

 

 衝撃のあまり、敬語を忘れてしまう。

 

「表に花があったでしょう? あれは蘇生花というもので、死んだ人に葉をすりつぶしたそれを口に飲ませると死んだ人が生き返るのじゃ」

 

 表の花とは、俺が落ちた時に見たあの葉脈が光っていた花のことだろう。

 

『どうやって生き返るんですか!?』

 

 リゼットが急に声を上げた。リゼットは自分の知らないこととなると目の色が変わるからな。デバイスは普通の辞書と同じく全ての事を知っている。地球に関してだけだが。

 

「蘇生花には死滅した細胞を刺激して再構成させる働きがあり、それが人体の……」

「あー、そこらへんは説明しなくて大丈夫です」

 

 俺が無理やり話を切らせる。絶対にこのあと、ややこしくて難しい単語ばっか出てきそうな感じだからだったからな。

 

《なんで、止めるんですか!?》

「取り敢えず、彼女に状況を説明してあげた方がいいですよ」

《無視ですか、マスターッ!!》

 

 念話でギャーギャー言ってくるリゼットを無視しながら老人がアリシアに状況を伝えている姿を見守る。

 頭に響く声が聞こえなくなったのとちょうどで老人の説明が終了した。

 

「君は一体誰?」

 

 ベットの上にいるアリシアは俺の方を向いて首をかしげながら訊いてきた。

 

「君の妹さんとお母さんの知り合いさ」

「あれ? 私、妹なんていたかな? 母さんは……?」

 

 アリシアはベットの上で首を傾げるのを繰り返す。まさかこいつ、記憶喪失か?

「……いや、なんでもない。ところで君の名前は?」

 

 逆に訊き返す。なぜならアリシアは一体どこまで記憶を持っているのか気になったからだ。ちょっとカマを掛けてみたが、流石にフェイトの事は知らないようだ。

 

「私はアリシア! アリシア・テスタロッサ! ……君は?」

「……おおっ、悪い。俺は橘。橘和也だ」

「カ……ズヤ?」

「ああ」

「うん、覚えた! カズヤ! カズヤ!」

「ほほっ、早速懐かれたようですな」

「……」

 

 目の前でアリシアはベットの上で俺の名前を言いながら跳ねている。フェイトの瓜二つの顔。クールで物静かな印象をあいつから受けた俺にとってフェイトが目の前ではしゃいでいる様に見えて少し笑みがこぼれてしまう。

 

「カズヤ、何で泣いているの?」

「は……?」

 

 目を手でこすって確認する。アリシアの言うとおり俺は涙を流していたようでこすった手は濡れていた。

 

「いや、なんでもないさ。ついさっきあくびしたからそのせいだろう」

 

 今頃、あいつもこんな風に笑えるようになってるといいな……。

 

 

◇◆◇

 

 

「……で、これからどうしよう?」

『さぁ?』

 

 その後、数時間が経っていた。目の前ではアリシアが部屋をドタドタと走り回っている。お前、本当にさっきまで死んでたのかって思えるくらい。

老人は俺たちが元の世界に戻れる方法を調べるため一階に行ってしまった。故に部屋には俺とアリシアしか……おっと、リゼット忘れてた。

 そしてもうしばらくすると、一階からドアの開いて閉まる音が聞こえ、別の人の声も聞こえた。それからすぐ老人に呼ばれ、俺は落ち着きのないアリシアを捕まえてから一階に降りた。

 

「やぁ」

「……ども」

 

 下に降りると、高校生くらいの若い印象を受ける青年が居た。背丈は170cmくらいで、髪は男には珍しく、肩より少し長いくらいのストレートのロングヘアーだ。だが、そのロングヘアーが似合うほど顔が美形だった。シャープな小顔に目つきが鋭い目。その鋭さにすこし不気味な印象を覚えた。

 

「初めまして、僕の名はジェイク。ここの主人、ジェスパーの孫だ」

「はぁ~……」

 

 横目で老人……ジェスパーさんの顔を見やる。孫を見て、悲しい目をしていた。その瞬間、俺にはこの二人は前に何かあったように思えた。

 

「ところで、爺ちゃん。この人たちは? 爺ちゃんってショタコンだったっけ?」

「そんなことはないぞ。この子達は別の世界から来た人らしくてな、帰る方法を考えていたのじゃ」

「へぇ~、道理で子供なんて珍しいのがここにいたのか……」

 

 ジェイクという人は俺と、俺の後ろで俺の服を握り締めているアリシアを下から上に向けてジロジロと見てくる。

 

「家に着く途中、蘇生花がある一帯、無くなってたけどどうしたの? ここの警備は頑丈だし、誰かが侵入した形跡は無いけど」

 

 ジェイクさんは玄関の扉を見やる。正確には扉の奥の外だが。

 

「ああ、あれはこの子を蘇生するために使ったのじゃ」

 

 老人……ジェスパーさんは俺の後ろに隠れているアリシアを見た後、ジェイクさんの方へと向き直る。その時のジェイクさんの顔は目が大きく見開かれており、とは言っても目が細いので他の人と平均ぐらいになっただけだが。その表情は驚愕に包まれて居た。

 

「おいおい、爺ちゃん。それは人が良すぎるってもんだぜ。爺ちゃんの唯一の収入源であり、アルハザードでも数える程しか栽培出来るところがないから稀少とされて、一回の蘇生分で国は買えるかもしれないって言われている奴を……そんな……」

 

 えっ!? そんなヤバイ奴なの!? こっちに飛んだ時、何本か潰してるんだけど……。まずい事したかな~……?

 

「まぁ、少々減ったくらいはどうでも無いわ。気にしなさんな」

 

 ジェスパーさんは俺とアリシアの心配を消すために優しい言葉をかけてくる。

 

「そういえば、さっきの話だけど、帰るって爺ちゃん、あの大会があるじゃないか」

 

 ジェイクさんが『あの大会』と言った途端、ジェスパーさんの顔色が急変する。

 

「あの大会って、もしかして『トップ・オブ・ジ・アルハザード』の事を言っておるのか!? いかん! こんな子供に受けさせるわけにはいかん!!」

「落ち着けよ。あれは誰でも出ていいんだ。子供も別に構わないだろう?」

「そう言う意味ではないわ!」

 

 お、おう……目の前で俺の知らない話で喧嘩になってる……。

 

「君は魔導師かい?」

 

 いきなりジェイクさんは俺の方を向き、尋ねてきた。

 

「まぁ、そうですけど……」

「そうだろうね、胸のデバイスが何よりの証拠だ」

「ジェイク! ならんぞ!!」

「僕がこの子を大会に行くまでに鍛えるからさ。大丈夫だって。しかも爺ちゃんがそう言っても彼らの気持ちの方が優先されるべきだろう」

 

 二人は俺たちを見てくる。

 

「俺は元の世界に帰りたいです」

「私も」

 

 俺とアリシアは二人で顔を見合い共に頷く。どのみちここで老人の世話になってもどうしようもない。それならば、この誘い、乗った方がいいだろう。

 

「良し、決まりだ。じゃあ鍛えると言ったからには実力がどれくらいか確かめないとね」

「じゃあ、表に出ますか?」

「いやここでいい」

「えっ……」

 

 どう言う意味だ? ここでいいって言ってもこんな所で何をするんだ? 俺が疑問に思っていた所、景色が急に緑色の光が球状に辺りを侵食し始め、最終的には上で半円状態で結合した。

 

「どうなってるんだ……?」

 

 地面はふかふか、これは明らかな土だ。そして俺の後ろでじっとしていたアリシアもいつの間にか居なくなっている。このばあい、アルハザードだけが持っている魔導技術という可能性が一番高そうだ。

 

「な? ここでいいって言ったろ? それじゃあ、始めようか?」

「あ、よろしくお願いします……」

『セットアップ』

 

 バリアジャケットを身にまとい戦闘態勢に入る。ところがジェイクさんはセットアップもせず、ただ棒立ちしている。

 

「あの……」

「ん? なんだい?」

「セットアップしなくていいんですか?」

 

 ジェイクさんは俺の質問を聞き終わると、おもむろに笑い出した。

 

「あー、そうだったね。君は別の世界から来たんだった」

「……?」

「まずはざっとこの世界の説明をしておくよ」

 

 人差し指を自分に向けてくる。

 

「この世界は医療技術や魔導技術が発展しすぎて、人が不死当然になってしまったんだ。だから人をたくさん産む必要が無くなった。すると、この世界は老人が増え、子供が極端に減ってしまった。僕が子供が珍しいと言ったのはその為さ」

 

 なるほど、つまり日本の少子高齢化が進んだ感じということか。

 

「けど、今は体を弄るとなんでもできるようになる。意識の移動、体のサイボーグ化、魔力の増幅、その他色々とね。この世界で、肉体の定義なんてものは存在しない。僕も同様、既に肉体がデバイスで、ハードウェアのデバイスなど必要ないのさ」

 

 俺はジェスパーさんが言ってた事を思い出す。「今時、デバイスとは珍しい」あれはこういう意味だったのか。

 

「では、説明も済んだところだし、君の実力を見せてくれ。後、言っておくが殺すつもりでかかってこい。それぐらいで僕と君の実力が釣り合うから」

 

 遂にジェイクさんも戦闘態勢に入る。目つきが線のように鋭くなり、プレッシャーが倍増する。そのプレッシャーに押され、手に汗が出始めた。とは言っても、ジェイクさんはあまり本気を出しているようには見えない。俺とじゃ話にならないということか……。

 今だからこそ思えるのだが、本当に強い人はスイッチの切り替えがものすごく速く、そして恐るべきほど豹変する。恭也さん、士郎さんと一流の人を見てきたが、この人もなかなかだ。俺はまだこのように素早く切り替えることはできないだろう。

 意識を集中させ、じめじめと湿った手で剣を落とさぬよう、柄を握り締める。

 

(俺は恭也さんとの戦いで学んだ……。こういう時は恐れちゃいけない。臆するな、迷いは捨てるんだ……俺は戻らなくちゃいけないんだ。天満や佑樹達が待ってる。そのためにもここでこの人に勝っておきたい。この人はここでもトップクラスの実力だと思う)

 

「ふっ!」

 

 走って対象との距離をある程度縮めた後、風で一瞬だけスピードを上げ、反応をずらす。俺はすかさずそこに渾身の突きを放つ。

 

「なっ……?」

 

 気づくと俺の剣は、ジェイクさんではなくそのとなりの地面に突き刺さっていた。ジェイクさんは俺の突きを見切り、横から俺の剣を弾いたのだ。

 すかさず、剣を軸に体を回転させ、左足で後ろ回し蹴りを相手の脇腹を狙う。

 だがそれも、軽く見切られており、既に足が当たらない程度に後退していた。おそらく俺が後ろ回し蹴りで体が後ろに向いた刹那の間を狙ったのだろう。

 回し蹴りが空を斬る。止めるものが無いため、俺の体は回し蹴りと共に左にズレ、体勢が大きくフラつく。

 そこを見逃すバカはいない。ジェイクさんは体勢が整っていない内に胸へと掌底を撃ち込んでくる。

 

「風よ!」

 

 強引に手を掌底の軌道上へと移動させ、風のバリアーを展開する。一瞬でその後の行動を考え抜く。これを凌いだ後に風のバリアーをそのまま押し出しあんたを吹き飛ばす考えが頭に浮かんだ。

 しかし、その策はいとも簡単に打ち破られる。――バリアが破れたのだ。まるで水面を叩くように波紋が風のバリアを伝わった後、そのまま掌底は普通にバリアを通過して来た。相手が特別な魔法を使ったのではない。単にバリアが脆かったのでもない。むしろ攻撃用として後に転用するために少々強く作ったつもりだった。だが、簡単に突き抜けた。その事が意味しているのは最悪の事実。

 

「がはッ!」

 

 掌底が俺の胸に直撃する。次に、俺の体は宙を舞う。弾丸の如く飛ぶ。バリアーなど、何の意味も無かったかのように飛ぶ。

 しばらくして、風を操り、地面を滑りながらも着地する。

 

「はぁ……はぁ……ふー……」

 

 掌底で肺から抜け出た酸素を再び、取り入れた後、大きく深呼吸する。

 さてこれからどうする。俺の動きは全て読まれていて、なおかつこっちは攻撃を防ごうにも防げない。スピード、パワー、経験、全てにおいてあちらが上だ。

 

「ん~、剣だけに頼らず体術や魔法を織り交ぜながら戦う点や流れるように攻撃をする点は褒めてやろう」

 

 ジェイクさんはスイッチを切り替え、呑気な口調でそう言ってきた。

 

「だが、そのどれもどれもが未熟過ぎる。パワーも無ければスピードもなくキレもない。君の実力はこんなものか? 君の全てを見せてみろ」

 

 しかし、すぐに戦闘モードに戻り、厳しい口調に変化する。

 

《リゼット、仕方がない。あれやるぞ》

《そのようですね》

 

 くよくよ悩んでいたってらちがあかない。弱者が強者に勝とうとする方法はただ一つ。諦めないことだ。強く願うんだ。俺は勝つと。

 

「システムリライト――リ:コード、ブレイカー……」

『承認、リライト――Burst(バースト) Drive(ドライヴ)!!!』

 

 俺を赤い光が覆う。そしてそのベールが消えた時には、地面を蹴っていた。

 風を使っての移動よりも速い足での移動で接近し、両腕の剣でX字に斬り下ろす。

 さすがのジェイクさんでも驚いたようで、ギリギリで二刀の刃から離れる。空振りした剣は地面に直撃。凄まじい地割れがその二刀を中心に発生する。そして少し、重心が後ろにズレて、ジェイクさんの体勢が本の一瞬だが崩れる。しかし、ブレイカー状態の俺にとってその一瞬はすごく長い隙になった。

 振り下ろした剣を、持ち上げる余裕は無い。両手から剣を離して、素手で攻撃しかない。

 

「お返ししますよ!!」

 

 限界まで接近し、右手で掌底を打ち込む。腕を回転させ、えぐるように工夫した掌底がジェイクさんの胸板と衝突。そのままねじ込み、押し飛ばす。

 

「システムリライト!」

Wisdom(ウィズダム) Drive(ドライヴ)!!!』

「テンペストブレイク!」

 

 ここぞとばかりに攻め込む。エアロブレイクの上位互換技、威力が激増した風の奔流が吹き飛んでいるジェイクさんを襲う。

ジェイクさんとテンペストブレイクが衝突。凄まじい爆発音と共に砂ぼこりが舞い上がる。当たった手応えは確かにあった。これで終わりだろう。なにせ全力で放ったからな。いくらジェイクさんでも無傷ではないだろう。

 

「システムリライト」

Normal(ノーマル) Drive(ドライヴ)

 

 元の標準的な状態に戻る。……それにしても砂ぼこりがひどいな。ここまで、砂ボコりは普通立たない。一瞬、イヤな予感を体が襲う。

 

『急速接近中の物体あり!!』

 

リゼットが悲鳴に似たような声を上げる。次の瞬間、目の前に手が出現した。その手に顔を掴まれる。

 

「ダメだな~。油断するんじゃない」

 

 手の隙間からジェイクさんの呆れた顔が見える。顔に砂が付いていたが体に外傷が見られない限り俺が撃ったハズの技は当たってないようだった。

 おかしい。確かに感触があった。この人は恐らく、なにか特殊な物を持っているのかもしれないと思案する。

 

「……終了だ。大体君の力は分かった」

 

 俺が反撃しようとした瞬間、ジェイクさんは手を放し、持ち上げられていた俺は拍子抜けして受身を取れず落ちて尻餅をつく。

 

「はっきり言わせてもらうよ」

「……」

「弱すぎる。一回戦を勝ち抜けるかどうかってぐらいだ」

「……ッ!」

 

 ジェイクさんが指を鳴らすと、緑色のドームが消え去り、家の中へと戻って来た。そのまま、ジェイクさんは、二階へと上がっていく。

 

「……どうしたの?」

「……」

 

 アリシアが座り込んでいる俺を心配して来る。だが、俺は返事出来なかった。自惚れかもしれないが、俺は強いほうだと思っていた。システムリライトの力を手に入れて。何せあの大魔道士、プレシアに勝てたのだから。

 しかし、それは俺の思い込みだった。手も足も出なかった。

 俺は、しばらくそこから動けなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話「転生者!?」

失踪したかと思った? 残念。入院中でした。


「用意は出来たかい?」

 

 俺が動けるようになったと同じくらいのタイミングで、旅支度を終えたジェイクさんが降りてきた。とは言っても、ここに来たとき、既に旅をしていたらしく、支度というより補給と言った方がいいだろう。

 

「俺は……もともと手ブラですから」

「私も」

 

 覇気のない声で返事する。当たり前だ。固まりかけていた俺の強さのイメージが、粉々に砕かれたのだから。打たれ弱くはないはずだが、これからバトル続きになりそうなこのタイミングでなら別だ。

 

「じゃあ行こうか」

 

 ジェイクさんは俺とアリシアを置いて、家の玄関を開けて外に出ていった。俺たちもそれに続こうとすると、ジェスパーさんに引き止められた。

 

「これを持って行きなさい」

 

 ジェスパーさんから二つのショルダーバッグを渡される。中身を見ると、食料が入っていた。トマトらしきものに、りんごらしきもの、何かの肉とかが入っている。地球とは世界が違うが、こういう系はあまり変わらないようだ。日本語だって通じるしな。

 すぐさま、お礼を行った後、ジェイクさんを追う。ジェイクさんの荷物は俺らとは大違いで、大きなリュックがパンパンになる程荷物を詰め込み、折りたたみテントがリュックの中からはみ出ている。見るからに重そうな感じだ。だが、ジェイクさんはそれを重たそうにしている素振りは見せない。いつも、そんな重さを経験していたのだろうか?

 それから、ジェイクさんの家を出たあとしばらくの間、森が続いた。歩いても歩いても、木ばかりで景色が全く変わらない。進んでいないのではないかと思える程だった。

 しかし、しばらく歩いているうちに、景色に変化が訪れた。うっすらとだが、人工物が空の中に見え始めたのだ。だが、この状態から察するに、そこまではまだまだ遠いようだ。

 

「へぇ…そうなんだ」

「うん!」

「……」

 

 二人は道中、会話を盛り上げていたが、俺はその会話に一回も参加していない。ずっと、頭から離れないのだ。

 

「弱すぎる」

 

 情けない話だと自分でもそう思う。くよくよしていたって何も始まらないのも分かってる。しかし、なかなか立ち直れない。挫折を味わうのは初めてだった。

 二人共、会話の時折自分の様子を確認して来た。アリシアは心配そうな目で、ジェイクさんは申し訳なさそうな目で見てくる。

 悪いのは二人ではない。弱くて、立ち直らない俺が悪いのだ。だから二人のそんな目を見ると余計、落ち込んでしまう。

 

「カズヤく……」

『マスター!!』

 

 ジェイクさんが俺の姿に見かねたのか声をかけて来た。だが、それと同時に森の影から何かが複数出てきた。

 出てきた奴らは茶色のローブを着た人達だった。しかし、俺とジェイクさんは身構える。アリシアは不安そうな顔で、俺の背中に張り付く。何故なら彼らは全員武器を持っていた。恐らくの所、盗賊だろう。

 武器は皆不揃いだ。斧を持っている奴もいれば、剣を持っている奴もいる。

 

(数は……、いち、に、さん、し、ご、ろく……)

「リゼット」

『セットアップ』

「カズヤ君……」

 

 数を数え、バリアジャケットへの換装と剣を出現させると、ジェイクさんはまた、俺に声をかけて来た。

 

「この戦いは攻撃・防御魔法を使ってはいけないからね」

「えっ……なんで?」

「なんででもさ。言ったろう? 鍛えてやるって」

「ちょ……」

「何、こそこそ話してんだ!」

「ちょっとうるさい」

 

 ローブの奴らの一人が、俺たちの会話を遮るように突っ込んできた。ジェイクさんはそれを掌底で一蹴する。掌底を打たれた奴は木に激突し、気絶した。

 

「アドバイスを一つ。植物は間引きが重要」

「ジェイクさ……ッ!」

「さぁ、行くんだ!」

 

 ジェイクさんから背中を押されて、敵達の中央に放り出される。敵達が手に持っている普通の武器がバリアジャケットの強度を超えるなんてありえないと思うが、何が起こるか分からない。一瞬で戦闘へと意識を切り替える。

 敵数は五人。狙うのは一番近い奴で良いだろう。

 

「はぁぁああ!!」

 

 声を張り上げ、標的に駆け込む。相手は気が弱いのかおどおどしていた。

 走る勢いを乗せて、剣で下から上に切り上げる。狙った敵はビクビクしながらも盾を持っていた。 剣が盾を滑る。敵は俺の攻撃を流しきれなかったようで、体勢が崩れる。そんなへっぴり腰じゃ当たり前だ。すぐに、追撃しようとするが……。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 狙った敵の近くに居たもう一体が俺の背後から斬りかかってきた。ギリギリのところで、剣を後ろに回してガードに成功する。横目でさっきの敵を見ると、盾を取りに俺と距離を取っていた。

 

「エア……!」

 

 目の前の敵を押しのけ、左手に風を集中させようとしたが、ジェイクさんの言葉を思い出し、踏み止まる。その間に敵は盾を取り終えていた。

 無防備だった絶好のチャンスを逃してしまった。ジェイクさんは何故、俺に魔法を使っていけないと言ったんだろう?

 

「よそ見とはよゆうだなぁぁ!」

「ああ!」

「……!!」

 

 右、左、前、後ろ。その四方から盾持ちを抜く四人が同時に斬りかかってくる。

 

《マスター、これは逃げ切れません!》

「っ……、風よ!!」

 

 ジェイクさんには悪いが、風のバリアーを360度に展開する。四人の攻撃がバリアーに弾かれる。

 

「ふっ!」

 

 バリアーを爆発させ、四人を吹き飛ばす。三人立ち上がり、俺から距離を取ってきた。だが、一人立ち上がらない。どうやら仕留めたみたいだ。

 次の行動に移ろうとした瞬間、ジェイクさんの怒声が飛んできた。

 

「攻撃・防御魔法は使うなと言っただろう!アドバイスをよく思い出せ!!」

「アド……バイス…………」

 

――植物は間引きが重要―― 頭の中に再度ジェイクさんの声がリプレイされる。あれはどう言う意味だ? 残念な事にこういうなぞなぞ系は正直苦手だ。自分で気づけってことなんだろうけど、はっきりと言って欲しい。

 キンッ! キンッ!

 考えながらも敵の攻撃を受け流す。

 

(植物……間引き……)

 

 確か、間引きってのは、植物を栽培する際、苗を密植した状態から、少しの苗を残して残りを抜いてしまう作業……だったはずだ。

 

(頭を捻れ……間引きをする理由は栽培する植物が成長しにくいから……。その植物だけでなく、周りも見る事……)

 

 もう少しで何か閃きそうだ……。

 

「ヒャッハー!」

 

 血の気が高い奇声を上げながらローブの一人が突っ込んでくる。思いきり手に持っている斧を後ろに引いている。あれじゃ、上から下に斬る以外はないじゃないか。

 ローブの一人の攻撃をタイミングを合わせて避ける。

 そのあとも分かりやすく単調な攻撃が続く。だが、動きが丸見えで、一回も当たらない。

 

「クソッ! 何で当たらねーんだよッ!!」

「……」

 

 大きな縦振りをまた避ける。その縦振りの勢いは止まらず俺の後ろにあった木に突き刺さる。

 

(俺なら、もしこうなったら後ろ蹴りを食らわすかな……)

「このッ!!」

 

 案の定、俺が思った通り、ローブの一人は木に突き刺さった斧を持ったまま後ろ蹴りが来た。わかっていたことなので、すぐに反応できた。

 コイツは敵が人形と思っているのだろうか。自分のことばかりで相手の思考や動きも考えずに。

 

(待て……!? 自分のことばかり? 相手……?)

 

 刹那、頭に電流が流れたようだった。

 

「そうか!!」

 

 つい、声を張り上げてしまった。ローブの一人はその隙に斧を抜き取った。

 

「そのまま、横に切り裂く……」

 

 俺の言葉通り、そいつは抜きざまに横に斧を薙いだ。

 

「あれ?」

 

 そいつの間抜けな声を下から聞く。次の行動が読めていた俺は上に跳んでいたのだった。人間の跳躍力では回避しきれないから、上昇気流を生み出し、距離を稼いだ。攻撃・防御はダメでも補助はダメと言っていない。屁理屈かもしれないが、ジェイクさんは何も言ってこないので、良いとしよう。

 

「はぁぁぁぁああ!」

 

 落下と共に上から剣を振り下ろす。ローブの一人は反応しきれず、剣のスタンで倒れる。

 

「ありがとう。アンタのおかげで気づけたよ。……残り三人」

「「このおおおおお!!」」

 

 仲間がやられた事にイラついたのか、二人は俺を挟むように迫ってくる。二手に別れる際に相手の武器が見えた。前から来ている奴が持っているのは曲剣。ということは後ろから来ているのは槍持ちということになる。

 

(後ろの攻撃の方が速い……つまり、狙うは槍!)

 

 後ろも見ずに、槍使いの方へバック転をする。

 下を見る。ついさっきまで俺が居た場所に槍が伸びていた。上に切り上げてくるなんて心配をしなかったのは、相手の槍の形状は先端だけしか尖っていない。つまり、突きしかできないと分かっていたからだった。

 跳躍の先は、周りに生えている木。その幹に垂直に着地。すぐに膝を、目一杯曲げる。

 

「んああぁぁ!!」

 

 膝のバネと風のブーストで木を蹴り、下に三角飛び。跳んだ衝撃に幹は耐えられず、跳んだ部分から木が折れる音がする。飛んだ先は槍使いの背後。さっきの斧使いと一緒で俺の姿を見失っている。前から接近してきていた剣使いは、俺の姿を辛うじて見つけていたみたいだった。

 

「はっ!」

 

 気合一閃、渾身の力を込めて槍使いに剣を振り抜く。そのまま着地。足にビリビリとした感触が伝わる。勢いを殺しきれず足が地面を滑る。砂ぼこりが舞い上がった。

そのまま、滑りながら剣使いにも一太刀浴びせる。

 

「ふんっ!」

 

 後ろで、ドサドサと二人倒れる音がした。

 

「さて…残るはあんただけだ」

 

 最初に攻撃した盾持ちに向かって剣を向ける。相手の表情を伺うと明らかに怯えの色が滲み出ていた。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ‼」

「あ、待て!」

 

怯えに耐え切れないように敵は俺に背を向けて森の中に逃げ出した。俺も追おうとすると、嫌な予感がしたので一歩踏みとどまる。

ヒュン…。

微かに音が聞こえた。鋭利な物が高速で空気を切った時に出そうな音だ。

 

「お、親分……どうして……」

 

突如、そう言いながら首元を押さえ出した。その首がズレる。

 

「うっ……」

 

 反射で目を閉じて逸らした。

 

「手ぶらで尻尾まいて逃げ出すような奴は要らない」

 

 落ち着いた声が耳に入る。声と親分と、さっき言われていたので人相を想像すると、ヒゲを生やしたおっさんが浮かび上がった。

 うっすらと目を開ける。目の前には、首……言わないでおこう。しかし、声の主が居なかった。おかしい。声は近くから聞こえたはずなんだが…。

 

「!?」

「カズヤ君‼ 上だっ‼」

(言われなくても…‼)

 

 今は昼だ。つまり、万物に影が出来る。

 自分では動いてないのに日陰に入るという事は上に何かが移動したという事と同じだ。

 剣を上に向け、そして見た。親分を、その正体を。

 

「くはははははは‼」

「子供…!?」

 

 背は小さく、体つきも幼い。俺よりも、幼いのではないだろうか。顔は逆光で計り知れない。

 

「みんな、君が、やったのか……素晴らしいじゃないか」

 

 子供とは思えない程、落ち着いた声が耳元へ届く。そう、真横から。

 

「いつの間に!?」

「おっと」

 

 上から来ていたはずなのに、どうして。

 上に構えていた剣を反射的に振る。が、相手は軽やかにバックステップで避けてしまった。

 顔を見る。髪は肩にかかる位で金髪。顔立ちは女のように線が細いが男だろう。また、あからさまな童顔だ。笑顔だから、尚更そう見える。アレが無かったら、普通の人は可愛いと言うのではないだろうか。

 

『なんて、大きい剣を持っているんでしょうか…』

 

 リゼットの震え声が聞こえる。確かに言う通り、その少年の右手にはその少年の四倍はあるかぐらいの大剣が握られている。血が付着しているのは、恐らくあの武器で部下を殺ったからだろう。

 

「気を付けろ‼ そいつは転生者だ‼」

「転生者だって…!?」

 

 俺と同じ? こいつも神じいさんに会って、新たな生を受けてるのか? いや、そんな事はあり得ない。なにせあの神じいさんは、転生者はこの世界には二人居ると言っていた。もう一人はあのおバカな黒鐘だ。となると考えられるのはアルハザードの技術しかない。後でジェイクさんに訊くとしよう。

 

(取り敢えず、今は…!)

 

 目の前の敵だ。笑顔でこちらを見てニコニコしているが、そのなんて言うかあれだ。凍てついた笑みって言う奴か。仮面を付けてるイメージだ。

 

「僕も今からそっちに…!」

「させないよ」

 

 少年は手を頭上へと掲げた。次第にその手が光を放ち、眩しくなって来る。

 あまりの眩しさに目を閉じた。

 うっすらと目を開ける。森の中に居たのに、木が一本も立っていない。何が起こったかは空が黒く覆われている事から、結界を張られたんだとすぐに分かった。推測するに、ジェイクさんと同じ術式だろう。

「さぁ、邪魔者は居なくなった…。一つ訊いていいかい?」

「なんだ…?」

「仲間に成る気は無いかいっ?」

「……お断りだ」

 

 喜々とした顔で、仲間のお誘いが来た。答えはもちろんNOだ。こんな奴と居たら何時、何をされるか分かったもんじゃない。

  しかし、目の前の敵は俺より数段格上だ。圧倒的な存在感。隠し切れないほどの滲み出る殺気。そういったモノが俺の本能に逃げろとさっきからずっと叫んでいる。逃げる場所なんて何処にもないがな、と自分で自分の本能にツッコミを入れた。それが、あまりにしょうもなく、思わず口が釣り上がる。

「そりゃ、そうだよね、それなら……」

 

 まるで、そう答えるとわかっていたかのようにあっさりと退いた。少年は手で顔を覆い、薄ら笑いを浮かべる。そして途中でその笑いがピタリと止まった。

 辺りの空気が急に凍てつく。それとは逆に俺の身体にはどっと汗が吹き出してきた。

 

(来る…‼)

「殺さない程度に生け捕りと行こうかっ‼」

 

 少年との距離はわずか5m程しか無かった。なのにも関わらず、少年……敵は、俺を遥かに通り越すようなスピードで接近して来た。右手に握られている大剣が上へと構えられる。

 俺はそれを受け止めようとはしなかった。なにせ、圧倒的なまでに重量感が溢れるあの武器だ。まともに受けたらどうなるかは軽く予想出来る。また、敵の実力が知れないのだ。尚更、安易に突っ込むべきではない。さっき学んだ事ではないか。

 まずは距離をとって、様子見をすべきだろう。

 剣をギリギリまで引きつけた後に右に向かって、ドッジロール。回転直後、足をクロスさせ着地後に解き、後ろを向く。

 敵を見ながら、薄いバリアを展開してバックステップ。あの武器なら地面に当たった場合、地面が砕け、破片が飛んで来る可能性が有るからだ。

 敵の剣が、振り降ろされ、地面と接触。

ドォォォォォン‼

爆音と共に、予想通りに地面が爆ぜた。バリアが爆ぜた破片を受け止める。それに伴い、砂煙が発生。バリアのお陰で、目をやられることは無かったが、辺りがまるで見えなくなる。

 

『危険です。上空に退避するか、さらに後ろに下がるか、どちらかを勧めます』

「魔力の無駄使いは避けたいな…。もっと、下がるか」

 

 さらに、バックステップし続ける。四、五回続ける内に、砂煙の中から脱出する事に成功する。ひとまず安心…と言うわけにはいかない。さっき見たあの、脚力なら一瞬で間合いを詰めることが可能なはずだ。

 

「…………」

 

 剣を構え直し、意識を砂煙の中へと、集中させる。砂は空へと向かってもうもうと巻き上がって行く。その光景を視界の端に捉えておくと、異変を感じた。

 

「なんだ…? この音」

 

 何かが空気を切り裂く音が聞こえる。前に聞いたことがあるような…?

 

「って、俺の烈衝牙と同じだ!!」

 

 取り敢えず、今立っている場所から離れる。次の瞬間にさっきまでいた場所の地面が二つに割れた。

 明らかな敵の攻撃。しかも、俺を狙った攻撃。つまりは俺の位置があの砂煙の中からでも分かっているという事だ。

 姿が見えないのは俺だけという事になる。不利なのはこちらの方だ。流れを変えないと。

 

「風よ!」

 

 風で、砂煙を吹き飛ばす。煙が吹き飛んでいく中、あるところだけ不自然に煙が飛んでいっている。

 

(そこか……)

 

 全力で、そこに駆け込む。ある程度近づいてから、ジャンプで一気に間合いを詰める。

 

「はぁぁぁああっ!」

 

横に一閃。だが、敵はそこにはいなかった。剣が空を切る。

 

「甘いよ」

 

 上からの声。敵は、俺の切るタイミングにあわせて、上に跳んでいたのだ。

 

「さぁ、空中では身動き取れないね?」

「しまっ……」

 

 上を向くと敵は笑みを浮かべて既に大剣を振りかぶっていた。風で飛翔しても、この距離なら直撃は免れない。

 ––––回避不能。

 脳裏にそれが思い浮かぶ。

 

『風よ!』

「くっ…!」

「くははっ!」

 

 リゼットは機転をきかして、俺の魔力を使い風のバリアを張る。

 俺は剣でガードの構えを取る。

 敵はその大剣を振り抜く。

 

「っ!」

 

 だが、馬鹿正直に受け止める気はこっちには毛頭ない。『止める』のではなく『逸らす』のだ。

敵の斬撃に剣を斜めに合わせてその軌道をずらそうと試みる……が剣と剣がぶつかり合った瞬間にそれは無理な事だと気づいた。

 

「…ぁ…」

 

 剣が接触した瞬間、チーズのように簡単に俺の剣がスライスされた。

 考える間もなく、次はリゼットが展開したバリアに当たる。しかし、これもまた剣と同じような事の繰り返しだった。

 圧倒的なまでに重量感あふれる武器が俺の視界を覆って行く。しかし、その覆うスピードは限りなく遅い。だからと言って、身体は動かなかった。

 人間は死ぬ直前、知覚が何倍にも膨れ上がり世界がスローになると聞いた事がある。正しく今がその時だろう。

 走馬灯––––転生前から今現在までの出来事が次々と出てきては消えて行く。転生前のろくでもなかった人生。こっちに来てからは幾分はマシになってきた新たな人生。今、その幕は閉じる寸前たが。

 どうやったって、あの大剣ではバリアジャケットも意味を成さないだろう。

 目を閉じる。

 

「––––お前は、俺の……」

「…!!」

 

何故か脳裏にあいつの言葉が、あの光景が映し出された。憧れて、追い続けているあいつの姿が瞳の裏に出て来た。

 

(そうだ……!)

 

 俺はあいつに……。

 

(俺はこんなところで……)

 

 誓ったんじゃないか……。

 

「死ねるかぁぁぁぁあああっ!!」

Burst(バースト) Drive(ドライヴ)!!!』

 

 敵の攻撃が届くよりも速く赤い球体が俺を包む。瞬く間にバリアジャケットの形状が紅と黒のツートンカラーに変化して行った。

 

「……」

「うーん。決まったと思ったんだけどな〜。さっきの赤いのはなんなのさ? 触れた瞬間弾かれたんだけど」

 

 システムの書き換えが完了すると、赤い球体は役目を終えて欠片を作りながら消滅していった。

 そして何故か息づかいが聞こえる程までに接近していたのに、敵は数m先に倒れていた。頭を打ったようで、後頭部をさすっている。

 今起きたことから推定する限り、あの赤い球体は敵からの攻撃を受け止めてノックバックさせる効果があるようだ。確かに書き換え中は無防備だ。もしかしたら、それを防ぐ為だけの物かもしれない。となるとウィザードフォームに出てくる青い球体も同様なのか? それとも別の効果があるのか?

 新たな疑問が何個も浮かぶが、今は戦闘中。今度、ちゃんとこの力を把握しておくべきだな。一応、今の所は切り札的な存在だから。

 まぁ……

 

「すべてはこいつを倒してからだな」

 

 正面から相手を見据えて一言。敵も、俺の視線に気づいて後頭部をさするのを止める。

 

「影剣」

 

 魔力を使って剣を修復した後に影剣を左手に掴む。正直二刀流はまだ慣れない。だが、こいつを倒すには一切攻撃をさせないように絶え間無く攻撃しなくてはいけない。相手の攻撃は一発一発が凄まじく強烈だ。向こうが一撃ならこっちは数だ。

 そう思うと、身体は自然に前へと走り出した。接近して右の剣を横に振る。

 敵は軽い身のこなしでそれをジャンプでよけた。

 

(やっぱり……)

 

 俺の読み通りだ。こいつは敵の攻撃を受け止めようとは決してしない。自分の回避能力に余程の自信があるんだろう。だが、そこにつけ込む隙があるはず…!

 

「はぁぁぁっ!」

 

 すぐに左を真下から切り上げて、敵を追撃する。

 

「甘いね!」

 

 敵はそれを身体を捻るだけで避けて来た。

 間髪いれずに二刀を引き寄せ脇を絞って突きを同時に繰り出す。もちろん、回避出来ない位置を狙って。

 

「…っ!?」

(捉えた…!!)

 

 ついに敵は大剣でガードして来た。身体が小さい分、大剣を前にかざすだけですべてをその大剣でカバーしてしまう。

 剣同士が接触した瞬間、甲高い金属音と共に両腕に痺れが来る。俺は地面に足がついているので踏ん張ったが、敵は空中に居たので俺の突きにより飛ばされる。

 俺は腕の痺れに構わず、吹き飛んでいく敵を裂衝牙で相手に体制を立て直させないようにそれを無数に放ちながら追いかける。

 

「これで、終わりだ……!」

 

 追いついた後に背後に回り込む。後は剣をかざして、敵が勝手に刺さるのを待つだけだ。

 敵との距離は後少し。前からは烈衝牙が幾重にも飛んで来ている。後ろは俺。勝利は確実だ。

 しかし。

 

「なっ!?」

 

 敵が突如として振り返り、俺の剣を右手(・・)で掴んで来た。

 狼狽している隙に敵は左手で大剣を振りかざす。ギリギリの所で、よける事に成功したが、地面に打ち付けた時の衝撃波に吹き飛ばされる。

 

「くっ!!」

 

 俺が体勢を立て直した瞬間には次の攻撃が既に目の前に迫っていた。

 それを躱して、大剣が地面にぶつかる前に敵本体を掌底で上空へと押し上げる。

 追撃しようと足に力を入れたその時、敵は届きもしないのに吹き飛びながら本人の背丈の倍はある大剣を斜めに振り抜いた。

 それに構わず、跳ぼうとした。

 

「痛っ!?」

 

 胸辺りからの痛みで力が抜ける。

 触らなくても、見なくても分かる。これは斬られた感触だ。

 

「さっきの奴か……」

 

 さほど大した傷ではない。しかし、衝撃波だけでブレイカーフォームのバリアジャケット硬度を破ったことは刃では大怪我。ブレイカーフォームではない場合は衝撃波すらも受け止めきれないということだ。

 

「へぇ、直撃した筈なのにね。これを耐えたのは君が初めてだよ、興奮するねぇ。もっと君が欲しくなったよ」

「うっさい、ホモ」

 

 ホモは上空に浮かんでは俺を見下ろしている。というか、あの目は上に来いと誘っている。今度は空戦ということか。ブレイカーフォームは空戦には向かない。出来ないというわけではないが、動きが直線的になってしまう。それでは流石にあの敵には厳しい。

 

「システムリライト」

Normal (ノーマル) Drive(ドライヴ)

「風よっ!」

 

 敵と同じ高さまで飛翔。敵はポーカーフェイスをきどっている。だが……。

 

(右手が震えているぜ?)

 

 さっき、敵は右手で俺の剣を受け止めた。もちろんスタンがきいているんだろう。敵はもう片手しか使えない。だから、軽口もそれを隠すために言ったように聞こえた。

 

「だったら…!」

 

 俺は正面から高速で近づく。

 敵は左手だけで、剣を横に振ってきた。やはり考えた通り、右手は麻痺してるようだ。

 すぐさま、敵の攻撃範囲から離れる。案外、防御も出来ないっていうのはキツイ。そのまま背後に回り込み後ろから突っ込む。

 

「ふんっ!」

 

 敵は体勢を立て直さずにそのまま回転して大剣を俺に持ってきた。だが、そんな事は予想していた。いや、むしろそう動いてくれるのを待っていた。

パシッ!

 

「な、なに!?」

「ぐっ!!」

 

 攻撃の防御は出来ない。それは敵も俺も周知のこと。だが、敵の攻撃が起きる前にそれを防御すると? 攻撃を作り出す、腕の振りを止めることは可能かもしれない。その可能性にかける。

 俺は右手で敵の肘を止めた。大剣をぶんぶん振り回すほどの力だから、右腕が悲鳴を上げた。

 敵の懐へそのまま潜り込む。敵は今無防備だ。多少食い違ってでもかなりのダメージが狙える…!

 

「はぁっ!!」

 

 左手に持ち替えた剣で渾身の突きを放った。そのまま届くかと思いきや敵が即席で作った薄い魔力バリアに阻まれてしまう。貫通はしたものの入りが浅かった。

 その隙に敵の膝蹴りが俺の腹部に直撃。あまりの痛みに体がくの字になった。それと同時に両手も離れてしまった。

 

「くははっ! チェックメイトだ」

 

 敵が頭上に大剣を持っていくのが分かる。このままじゃ、真っ二つだ。くそ、あともう少しだったのに…! 俺はいつもあと一歩のところで…! あとはあの剣がもっと奥に刺さるだけなのに!

 

「届け……」

 

 心の中で切に願う。……またあいつの姿が浮かんだ。

––––願うだけでは駄目だ。

 

「……それを叶えるために行動するんだ」

 

 痛みを振り払って願いを叶えるために行動を始める。前をはっきりと見据えて集中した。

 見据えた世界はスローモーションだった。敵の大剣からの斬撃も近いがゆっくりと迫ってくる。走馬灯では決してない。さっきとは違う気がする。まぁ、死ぬつもりも毛頭ないがな。

  声も出せない。リゼットに念話を送っても返事が来ない。一瞬でそれを行動した。

 

(今しなくちゃいけないことはただひとつだ)

 

 未だ大剣の攻撃は続いている。木々の揺れや服のたなびきは動いていないくらいにゆっくりだが、大剣だけは目に見えて他より速く動いている。

 まずは攻撃範囲から右足を軸に身体を回転させて最短で逃れる。敵は俺の動きに反応出来ていない。間髪入れずに足を振り上げてそのつまさきで剣の柄を蹴った。

 剣が完全に敵を貫く。それを確認した瞬間、頭に稲妻のような衝撃が走った。

 

「くっ…!」

 

 頭を抱えて、目を閉じてしまった。敵の目の前だからすぐに開こうとするが中々開けられない。リゼットに念話で状況を聞いてみる。

 

《リゼット!! 敵はどうなった!!》

『マ、マスターは一体なにをしたんですか…?』

《後で話すから敵はどうなったって聞いてるんだ!!》

 

 頭がズキズキと痛む。耳がキンキンと鳴り響く。

 

「くははっ…今の反応……僕でも見えないなんてね……ホントに欲し……」

 

 リゼットの返事を待つこともなかった。敵の声が下に落ちて行く。恐らく敵の身体も一緒に。

 

『敵の気絶を確認。戦闘終了です。結界の崩壊が始まります!』

 

 戦闘終了、その言葉で充分だよリゼット。

 俺はそこで痛みに耐えれずに意識が途切れた……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。