慟哭の空 (仙儒)
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プロローグ

 

__助けて!

 

 

 概念になり下がった男の元に声が響く。

 最も、ある事情のせいで概念にすらなりきれずに、居る思念体、と言った方が正しいのか。

 

 おかしなこともあるものだ。それとも、余りにも人のいない(熱のない)世界に漂い過ぎていた結果なのかはわからない。

 だが、はっきりと聞こえてしまった。

 

 苦痛に歪む少女の声を。

 

 その少女が誰なのかは知らない。

 しかし、ますますおかしい。

 

 俺はそんな少女達を助けるために概念もどきにまで身を落とし、表舞台から消え、救済する装置のまねごとをやっているのに。

 

 故にこれ程に苦痛な叫びを放つ前に少女は救済される仕組みになっているはずだった。

 

__お願い!誰か私たちの世界を助けて!!

 

 

 まただ。

 

 どうやら聞き間違いではないらしい。

 

 そうして強い引力に引っ張られるのがわかった。

 久方ぶりの感覚だ。

 

 

 

 重い瞼を開けると草原の中に立って居た。

 

 嫌な予感がする。

 戦士の直感がささやく。地獄ができると。

 

 そこで理解した。してしまった。

 

 握りしめている右手を開くと、前の世界で散々世話になった相棒の姿があった。

 

「お前も俺はただ戦士でしかないと言いたいのか?」

 

 問いかけに答える者はいない。代わりに右手の宝石が点滅した。

 ああ、自分は何処まで行ってもアスラン・ザラなのだな。

 

 世界は何時でもアスランに対して冷たい態度を取り続けて来た。

 その度に、迷い、惑い、苦しみ、しかし、立ち上がり、前へと進んで来た。

 

 アスランの相棒はそれを強いたわけでも、ましては、主であるアスランの言葉を賛提したわけでは断じてない。ただ、アスランの在り方に沿うように答えを導き出しただけなのだ。

 

 

 はぁ、と深くため息をつく。

 

「ジャスティス、セットアップ!」

 

 深紅の光が少年を包み、光が引くとそこには先程のような服装ではない、何処か騎士甲冑を思わせる格好だった。

 

「って、セイバーじゃないか。まあいい、悩んでいるのは後だ」

 

 遠くで砲撃音らしきものが聞こえたため、今は深く考えないことにした。

 

 前の世界で散々練習したため、直ぐに飛翔することに成功した。

 

 変形して戦場エリアへと入り込む。

 

 

 

 地獄だった。

 

 ここはどこの世界だ? ファフナーの世界か?しかし、ファフナーの世界にこんな赤い敵っていたっけ。

 

 砲撃が当たって消し飛んだ筈の胴体が再生していく。

 

(敵内部にコアらしきもの発見。転送します)

 

 流石は相棒。すぐに見抜いたのか解析結果を現在進行形で更新しながら網膜にコアの場所を映してくれる。

 

 そしてアスランの腕前さえあれば、動き回って居ようとコアを射抜くことは造作もない。

 前の世界では動き回る上に手の獲物だけしか狙えない中を戦い抜いて来た。

 C.E.の世界でもコクピット避けて当ててたしな。

 

 第一射と共に複数の敵のコアが消し飛ぶ。

 それと同時に此方の方を危険因子として捉えたのか、深紅のビームが此方に殺到するが、常に音速下での戦闘をして来たアスランの経験から言えば、取り敢えず数うちゃ当たると言った感じ。ビームの速度が妙に遅く、ぬるゲーの弾幕避けてる気分だった。

 

 この世界でも火力はチート級のようだ。

 

 変形してくるくる回転して攻撃を避けながらビームを撃ちまくる。敵前線はこれで一気に押し上げられる。

 

 しかし、ちらりと兵士達の方を見たが、どうにもおかしい。

 

 兵士達は全員女であった。男の姿が見当たらない。むしろ、こういった場所ではむさ苦しい男たちの仕事ではないだろうか?

 

 

 まぁ、そこら辺も後で調べよう。この世界はまだまだ俺にとって未知なる物だ。前情報もない。

 敵の事すらわからない。

 

 そうこう考えているうちに、地上を蹂躙していた異形の物は居なくなった。

 

 後は空の飛行機タイプを叩けば終わりだ。

 

 未だに変形を解かずに戦闘機形態のままなのには理由がある。

 純粋に顔を見られたくないから、と言うのもあるが、都市がこれ程壊滅的打撃を受けているにも関わらず、防衛機能が全く歯が立たない状況下、それを一人で叩いたとなると、最悪世界を敵に回しかねない。否、もう半分以上は敵に回っているとみて間違いない。

 人間を信用していないわけでは無いが、人間が一番信用ならないのが世界の常だ。

 その場合、本体である俺の身元がバレないのが一番大切なのだ。それにこの世界にアスラン・ザラと言う人物が居るとは思えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的だった。

 赤い翼の戦闘機が現れた瞬間押されていたネウロイ達を一方的に屠っていく。

 新型のネウロイかとも思ったがネウロイがネウロイを襲うなんて事例聞いたことない。

 少なくとも私達が知る限りでは無い事だ。しかし、戦闘機にしてはいささか小さすぎる。

 どこかの軍の新兵器だという事も聞いていない。

 取り敢えず、そのあたりの事は基地に戻ってから調べたほうがよさそうだ。

 

 戦闘機と思わしき物はネウロイを殲滅すると、凄まじいスピードで戦場跡を離脱していった。

 

 しばらく呆気に取られていた兵士たちが、ようやく状況を把握したのか勝利の歓声が木霊する。

 

 人類はネウロイに常に後手後手回されていたせいか、突如として現れたアンノウンに人類の反攻らしい反攻行動が起こったせいか、都市は壊滅状態だが、地上の人々の歓声は凄まじく、ネウロイの攻防に頭を抱えていた軍のお偉いさん方も新たな敵の可能性を視差するよりも、勝利の美酒に酔いしれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから2日たった。現在は日本改め、扶桑皇国にある帝国ホテルにて過ごしている。

 この世界に来た日にこの世界の事をあらかたジャスティス改め、セイバーが情報を集めて教えてくれた。

 

 どうもこの世界、俺たちが住んでた世界よりもだいぶ時代が古い事。そのことに関しては新聞でも確認した。

 俺たちの世界で言う所の第二次世界大戦が始まる前後なんだけど、その気配はなく、代わりに、未知の生物、「ネウロイ」が人類を脅かし、それを打倒するために世界は一応手を取り合っているらしい。

 そして、この世界では古来よりウィッチと言われる者たちに導かれて来たらしい。

 この世界にはこの世界で固有の魔法体系が存在しているのだ。しかし、それは女性に限った話であり、20歳前後がピークとされている。中には例外も何人かいるらしいが……、おおむね理解できた。

 

 しかし、理解できない部分も出て来た。

 この世界ではウィッチと呼ばれる者たちに導かれてきたと言ったが、そのせいなのか男性と女性の在り方が逆転している。加えてウィッチ達は古来より魔力に守られて生きてきたが、魔力を持たない男性は多くは病気で命を落としている。体が弱いわけでは無いのだが、ウィッチに比べると遥かに多い。

 そして、女性には少なからず魔力を帯びた血が流れているらしいので男性よりもパラメーター全てが勝っているらしい。そんな時代的背景があるせいか、男性の絶対数が少ないのだ。それが古代より続いていると言えば理解できるだろう。

 普通女性の遺伝子の方が強い場合男が生まれるんだけど、この世界では女が生まれるらしい。で、男性の人口は世界的に見ても右肩下がり。それはもう、国が動くレベルで。

 一夫多妻制が取り付けられるほどだ。ただ、強制しても子供ができなければ意味がないので強制ではない。ただ、子供ができると国からの補助がでるので子供だけ作ると言う家庭が多いみたいだ。そこで男の子が生まれれば国が希望があれば大学まで学費やなんかを援助してくれるので、研究員になる根暗な奴が多い。

 ただ、それが功を成しているのか、研究、開発においては男の右に出る者はいない。とは言え、この時代背景にあった物に限るが。

 有名どころは藤宮博士と言う人物。何でもウィッチの力を数倍にし、それを効率化することで、対ネウロイ戦闘が有利になったとかなんとか…、そんな感じ。

 有利にならなくても、希望を持つだけには十分な時間を稼げた、と言うべきか。

 

 話は戻るが、そんなわけで、男は公的にエリートヒキニート、女は男を求めて大暴走。性的に。

 それを男性が嫌悪して余計に未婚の女性を増やしていた。

 これ元の世界に置き換えるなら、思春期の男子嫌悪してる女子の図やん。

 



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一時の平和

流石にずーっと帝国ホテルにいるのはまずいと思って思い切って家を建てて見た。

 舞鶴の端の方に。

 金はどうしたってか?

 セイバーが用意した。大元は世界銀行とかその辺じゃない?

 多分こっそりと転移魔法で持って来たんだと思うよ?

 

 え? 犯罪? ねぇ、知ってる? 犯罪ってバレなければ犯罪じゃないんだよ。って誰かから聞いた気がする。

 

 セイバーの事だから足が付くような事は絶対に無いしね。

 

 そう言えばこの世界、貨幣が統一されてんだよね。MPCっていう100円札みたいの。

 

 これ玩具じゃね? とか最初疑ってごめん。

 

 流石にこの時代の日本…扶桑国には俺が前の世界で杏子と住んでた屋敷は作れないと判断したので、記憶に残る衛宮亭をちょいと手を加えて、面積倍にして作った。

 我ながら何故こんな一等地にこんな豪邸建てちまったのか分かんねぇ。

 もっと田舎とかでも良かったやん、そう思うと同時に海軍基地があり、近代化した街によくこれだけの土地が確保できたなと呆れ半分、関心半分な気持ち。

 

「隙あり!」

 

「無い!」

 

 いきなり竹刀で斬りかかって来た北郷章香に竹刀でカウンターを入れる。

 

「ハハハハハ、流石は私の旦那だな!」

 

「お前と結婚した覚えはない」

 

 こいつは家ができた時に、半ば体育館みたいに大きくなった道場があるので道場やってます、的な看板出したら凄まじい勢いで道場に入ってくる入ってくる。

 そこの中の一人で、道場破りで訪ねて来た人物だ。

 

 本当は軍学校で噂になって、生徒が訓練そっちのけでこっちに来てしまい、退去無いし、立ち去りをさせに来たらしいのだが、そこでひと悶着あり、アスランに言ってはいけない一言が発されて、アスランの中に潜む野生を出してしまい、勝負して負ければ、看板を降ろせとのことで、それでも良いかとか思って居たら勝ってしまい、腕を見込まれて海軍兵学校の訓練の一部をこの新ザラ亭にて扱うようになった。

 

 それでいいのか、軍学校ぇ……。

 

 因みに、軍のお偉いさんからもお願いと言う名の圧力をかけられた。まぁ、駄目なら駄目で別に他に移るだけだから屈しなかったけど。

 代わりに交渉に来たお偉いさん、北郷章香の親族らしくってさ、事あるごとに北郷章香との見合い話を持ち出してくる。

 困った物だ。特にこの世界の女性の若い女性は全員水着でスカートなりなんなりをはいていない。目のやり場に困るんだが……。

 

「美緒は……いるな。ちょっと待ってろ」

 

 そういうと、立ち上がり、例の物を取りに行く。

 美緒はウィッチの中でも特殊な魔眼持ちで、その力を持て余していた。それに本人も苦労していた。

 しかも、その苦労や魔眼の使い手が居ないせいで、苦労を分かち合えない。

 これ程辛い事は無いだろうと思い、作っていたのだ。

 

 戻ってくる途中、美緒の事を考える。章香の事を師匠と言い、俺の事を大師匠と呼ぶ、内気で泣き虫な女の子だ。

 

 

 

 魔眼殺しの眼鏡をかけてやる。

 

「どうだ、美緒。これで大丈夫な筈だ」

 

 魔眼殺しの眼鏡のおかげで、散々悩まされて来た魔眼とは取り敢えずのお別れを告げた。そのことが余程嬉しかったのか涙を流し始めた。本当に泣き虫だな。キラに似ているよ、内気で、泣き虫で、それでも真っ直ぐな眼差しとか。

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが続いている。

 

 人類も疲弊しきっていた。

 

 そこに頭を悩ませていた連合軍総司令部は各地で大活躍しているアンノウン戦闘機に何とか接触、対話を実現させようと焦っていた。

 何故対話なのかと言うと、ネウロイよりも高位の力を持ちながら人類側に攻撃を一度として行わなかったからだ。少なくともアンノウン戦闘機に攻撃を仕掛けた者は例外とする。

 それでも軍上層部が対話実現を強く推し進めている背景にはアンノウン戦闘機を狙った攻撃を行った人物たちが全員生還していることが大きな理由である。生還者全員の証言によると武器のみを破壊されたとの事だ。

 つまり、ネウロイよりも人類に対して友好的でいるのだ。そして、武器のみを破壊するという高等テクニックを持ち、人類とネウロイに対する態度の違いから少なからず、此方の安否を気遣うだけの知能は持ち合わせている。そう判断したからである。

 

 しかし、肝心な足取りがつかめないでいた。神出鬼没であり、ネウロイがいなければ出て来ない。

 そんな中、扶桑国近海にネウロイと共に頻繁に出現している事がわかった。

 無論、アンノウン戦闘機は出現したネウロイを叩く側だが。この頻度だともしかしたら扶桑国にアンノウン戦闘機が潜伏してる可能性は十分にある。

 

 その考えから今回の扶桑へのウィッチ派遣計画が立案された。

 




アスランは軍の圧力には屈していないが、別に断る理由もなかったので条件付きで了承しました。


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軍神

 セイバーから緊急伝が入った。

 何でも戦場を渡り歩いていたせいか、人類連合軍が人類側に味方してくれないかと、交渉するために扶桑国にウィッチ達が集う事が決定した。

 

 俺の居場所がバレたわけでは無いが、目の付け所は良い。

 だが、交渉については余り思わしくない。

 此方にどんな利があり、どのような不利益があるかわからない。

 

 それに利益についてはどうせ階級だろう。この場合ネウロイに対抗できる武器を提供したところで、或はネウロイとの戦争が終わった後に暗殺、悲劇の英雄にでもする可能性が高い。特にネウロイと言う脅威が去った後は人類の脅威になりかねない。人類VS俺と言う構造しか思いつかない。

 まぁ、毒殺、暗殺共に叶わない身だが。この身は既に時間と言う概念からの干渉がなされていない。死ぬ、と言う一種の時間停止行為が許されないのだ。

 

 ネウロイとの戦闘がすべて終了すれば、この世界からはじき出される可能性が高いから人類VS俺までには発展しないか。

 

 となると、やっぱり技術協力が問題だ。俺の知る粒子理論、魔法体系の違い、単純なる技術の基礎の土台的な壁。

 此方は既に宇宙に進出しているだけの技術があるが、此方は人工衛星すらない状態。

 ネット環境すらないし、レーダーの類も無い。どちらにしろ理解されるのも、実行されるのも時間がかかりすぎる。

 それに、そんな予算を此方に回すよりも、一つでも兵器を作る方が建設的だ。

 

 それらを総合的に考えると、やっぱり対話に応じずに孤高で戦った方が気楽なんだが。

 最大の理由は自分が男であることが理由だが。この世界、男は魔法使えないんだよな~。

 

 だが、いずれにせよ此方が知能を持っているという事は理解されているし、戦闘機型モビルアーマーから人型になれるのは見せたほうが良いかも知れない。

 ある程度人類側に理解されて、かつ、自由にできるご都合主義的な事になんないかね?

 まぁ、今までの戦闘で悪意には悪意で返すことは示したつもりだし、後はなるようにしかならないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北郷章香は連合からウィッチ達が派遣されるという破格の条件の記された電報を読み、可笑しく思い、調べてみれば、協力とは名ばかりの内容に少々、否、かなり内心良い心地では無かった。

 

「師匠でもそんな顔するんですね」

 

 眼鏡をかけた坂本美緒が心配そうな顔でそう口にする。

 

「ハハハ、私とて人間だからな、思う所があればこうもなるさ」

 

 何時ものようにからからと笑いかけて安心させようとするが、美緒の顔は晴れない。

 いかんな、そう思いながら、どうしたものかと考えるが、答えはすでに出ていた。

 

 アスランの所に行こうと。

 章香の中では、短い付き合いだが、それ程にアスランの存在と言うのは大きくなっていた。

 はっきり言おう、一目惚れだ。

 

 この世界では男と言うのは傲慢で我儘で理屈バカばかりだ。

 女に対して険悪感を隠そうともしない。

 

 だが、アスランは違った。女だからと言って邪険にしない。視野も広く軍学校の生徒たちの事も真剣に考えて、相談に乗ったりもしている。

 

 男は国に守られているが、それに胡坐をかかずに居る。

 

 何よりもあの剣術。どの剣術にも該当しない我流の剣術だが免許皆伝で二刀流になった私を止めうる人物などいなかった。

 だが、アスランはそんな私の全力を軽くいなして見せた。手は抜いていないが、本気では無かった。

 それが悔しくなかった、と言ったら噓になる。だが、それについて見下すわけでも引くわけでも驕ることもなく、真っ直ぐに此方を見ていた瞳に惹かれた。

 

 とにかく、接していて清々しさすら感じる男、否、漢だ。

 

 そんな女の理想が形になったような男は世界広しと言えど二人と存在しないだろう。

 

 アスランの事を考えるとどうも私の中の女がうずいてしまう。

 今までのアスランへの不意打ちは実のところ照れ隠しが理由だったりする。

 

 それでも、呆れながらも付き合ってくれるアスランが好きだ。

 

 



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策士の核心

 セイバーからの報告後、数日後には連合国軍と思われる艦船が次々に舞鶴港へと集結しつつある。

 これから飛行して行くのは慎重にならざる終えないか…。

 

 一度ここを留守にするか? 連中もまさかアンノウン戦闘機が男だとは思うまい。

 多少強引だが、この世界には魔法を使える男と言うのが存在しないので、怪しまれることはあるかもしれないが、重要参考人になる可能性は低い。

 

 後はどう言い訳をしてここを留守にするかだ。章香も美緒も感が良いので、下手な事を言うと嘘だとばれる可能性が高い。

 特に章香には俺が介入した戦闘場とネウロイの扶桑進行ルートの予想が記された世界地図を見られているからな。下手に言い訳をしたり焦ったりすれば感づかれるので、それ以来見られた地図は燃やして処分した。

 

 幸いなことに、扶桑国に連合の情報が入っていなかったからなのか、それとも別の理由だかは知らないが、章香から強く追及されることは無かった。

 

 

 

 

 

 で、だ。

 

 何で外国の士官やウィッチ達が俺の家に集合しているのかね?

 確かに軍学校としての敷地使用に対する許可は出したよ?

 でもさ、限度ってものがあるじゃん。

 

 あまつさえ、軍の会議を俺の家でやるとか頭が可笑しすぎる。

 しかも、「内容漏れたら貴方のせいね、処罰しなければならないわ」と舌なめずりしながら股間辺りをじろじろ見て「フフフ」とか言われた時はマジで冷や汗が止まらなかった。

 

 他にも俺自身扶桑国人では無いために、「我が軍にどうだね? 階級と報酬は要相談だ、何、悪いようにはしないさ」と勧誘されたのも一度や二度ではない。

 

 その原因が俺が承知したわけでも無いのに、軍の育成官として勝手に軍属の扱いになっていたのだ。しかも、階級少尉とか頭が可笑しいとかそんなの吹っ飛ばしてる。

 精々あって軍曹辺りだろう、そう思ったが、そもそも根本が可笑しい。

 何でそんなんなってんだ! と問い詰めたところ、ちゃんとサインと了承を得ているとか抜かしたから、どこにそんな物があるんだよと言ったら家を使わせる時の許可証の紙を出された。

 確かにそんなのあってサインしたっけ? と思ったらピラリと裏面に軍属となる事、それに伴い、階級を授与することが書かれていた。

 

 

 しまった。章香の親族に嵌められた。これでは流石に撤回はできない。

 俺の不注意によるもの扱いだし、これ書いてからだいぶ時間たっちゃってるし!

 

 何でこんなことになったのかと言うと想像がつく。宣伝とうだ。

 

 常に人手不足な軍が人材を集めたくて軍に男が居る事で、憧れを誘導し、志願者を集っていたのだ。ぶん殴って豚箱に入るのならいいが、殴った場合、俺の貞操が危うい。

 想像してほしい。若いかわいい子達ならウェルカムだが、軍のお偉いさんとなるとオバサンばっかだ。しかも、元ウィッチで最前線でネウロイと戦っていた猛者ばかり。

 危険な場所に居た分性欲は、子孫を残そうという欲は何倍にも膨れ上がっている者ばかり。しかも、婚期と引き換えに第一次ネウロイ対戦を生き抜いた人達だ。

 

 おれ、虎やライオンの檻の中に居たんだな。

 

 一応世界共通で男を保護する対象で軍人であれ男に勝手に手を出したら軍法会議という事が無ければどうなっていた事か。

 それでも破るウィッチや軍上層部の連中(未婚者)が後を絶たないのだとか。

 

 今セクハラを受けていないだけ幸運と呼ぶべきなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼は立派な扶桑国軍人なのだから他国に易々と渡す訳にはいかないわ」

 

「しかし、彼は扶桑国人ではないではないか。それにさっきのやり取りを見ると騙したとも取れるではないか。それに我々の方が良い席と金を支払えるぞ?」

 

 今回わざわざ、扶桑国まで出向いた本題を忘れてアスラン・ザラの取り合いへと話がすり替わっている。

 とは言え、それで良かったと内心胸を撫で下ろしている。

 本来彼を軍に入れたのは彼の監視のためだ。

 彼が用意した経歴書を確認したがおかしな点は無かった。そう、不自然すぎる程に無かったのだ。

 それにウィッチ派遣計画の元凶となったアンノウン戦闘機の出現と彼の扶桑の地に出現しているのが一致している。

 理由としては二つある。娘の章香との剣術勝負と娘の証言だ。

 立ち会ったからわかる。あれは最前線と言う鉄火場を踏んだ者が出す雰囲気だった。二つ目に、軍のトップシークレットであるアンノウン戦闘機とネウロイとの戦闘を示した地図と同じ物を章香が彼の家、つまり此処で見たと言うのだ。

 更に、その地図には今回の扶桑国の危機と言える物のネウロイが出てきている大元と思われる場所の大まかな予想位置まで書き込まれていたのだと言う。

 

 間違いなく彼はアンノウン戦闘機と接点があると見て、首輪を付けさせて貰ったのだ。そうじゃなくても宣伝塔としての効果は大きいし、教官としての腕前は上場だと聞いているし、作戦指揮官としての能力も大だ。

 それは章香との手合わせの時に章香にアドバイスしながら戦った事にある。

 

 最も、殆ど歌を歌って戦っていただけだが、悪い意味でも、良い意味でも、戦意を掻き立てるような歌。おかげで最後の方なんか章香純粋に剣戟の応酬を楽しんでいたし。

 

 取り敢えず、どちらにしろ手強いカードになる。

 

 もしかすると、もしかするかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……、やべぇよ・・・やべぇよ・・・。

 

 ほぼ確信に近い考えが読めたよ。

 

 会議の中、部屋から出て透明になる魔法使って章香の母親の頭の中をちょいと査察させてもらって、びっくりだよ。

 

 余り女性に使うのは気が引けたが、使って正解だった。

 まさか、この世界の常識が覆るような事があり得ると、しかも、半ば確信してるし。

 

 あの階級は首輪でもあったのか。ならば、納得。

 

 いや、いきなりこんな高い階級なのはおかしいと思ったんだよ。

 

 それがきっかけで査察する決心がついたんだけど、何度も言うがやってよかった。

 

 俺の存在を半ば確信しているからこその扶桑国海軍軍人。これでしっぽがつかめれば海軍がでかい顔をできる上に、俺の所属する国と言う事で、人類連合軍並びに政治的発言力がかなり大きくなるからな。

 

 それに対してある程度高い階級を与え、俺の正体がわかったら、更に上の階級をよこして俺をキープする。

 

 その功績により章香の母親の階級も昇進するだろう。

 

 それにより自身がより強い発言力と権力を得る。

 別に章香の母親は昇進による権力と発言力を得る欲のためにそうしたわけでは無い事は査察中に読み取れたし、性格上からもない。

 

 ただ、昇進してやりたいことは、娘の婿になる俺をある程度自由にさせるためだ。

 章香の婿にまだしようとしてたのね…、まぁ、なる気は無いけど。

 

 彼女に対して、否、他の女性に対してもだが、俺以外の男と言うのを知らないだけだ。それを恋心と思い違いをしているだけ。

 世間を知らないだけだ。

 

 まだまだ、恋愛結婚よりも、お見合い結婚が主流の時代だ。親が言ったから彼女も俺の事を旦那と言っているだけだろうしな。

 そこには彼女の思いは無い。他意もない。

 

 あるのはこの人と結婚すると言う決意と使命感だけだ。

 

 さて、話を戻そう。家を留守にするのは最早自分が世界で暴れまわっているアンノウン戦闘機だと言っているような物だ。

 

 今後、上手く立ち回るにはどうしたら良いか…、今一度考える必要がありそうだ。




章香の母親が内心で胸を撫で下ろしたのは、話の主導権を握りたかったのと、アスランが連合軍が血眼になって探しているアンノウン戦闘機と彼が関係ある可能性が漏れていない事に安堵したから。


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紅き英雄

「此方ウィッチ隊、本部応答願います! 残弾なし、負傷者増加中、これ以上戦線を維持できません! 撤退命令を!」

 

「撤退許可はできない。まだ市民の非難が完了していない。前線維持に努めろ」

 

 

 何処の国も終わりの見えない戦いで疲弊しきっていた。

 

 カールスラントもネウロイと言う人類の理解を超えた未知の力で次々に蹂躙されている。

 

 国土は破壊され、その四分の三をネウロイに奪われていた。

 

 今ウィッチ隊が戦っているのが最終防衛ラインだ。

 

 軍司令部にはさっきから同じ内容の通信による前線のウィッチ隊の悲鳴混じりの声と司令部内での怒号のやり取りが続いている。

 

「第三ウィッチ中隊壊滅、ネウロイ、絶対防衛戦を突破!」

 

「っくぅ!」

 

 最高司令官が唇を強く噛む。

 

 そこからは血が流れている。

 

「!!!緊急伝受信。読み上げます。此方セイバー、我、戦闘ニ参加ス! 繰り返します! 此方セイバー、我、戦闘ニ参加ス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空に幾つもの閃光が走り、その全てが複数のネウロイを捕えて撃破する。

 

「何事だ!」

 

「わかりません!」

 

 そうすると先程まで前線に居たウィッチ隊に向けられていた攻撃が一斉に閃光が来た場所に集中する。

 

「なんだ! ネウロイ(奴ら)でも恐れる何かが来たのか!」

 

 ふと、思い出した戦場伝説。ガリアの戦場を絶望から救った赤羽のアンノウン戦闘機の噂。

 

「ま、まさか……」

 

 そこには噂と変わらない、アンノウン戦闘機が凄まじい速度接近し、でネウロイの第一陣を吹き飛ばした。

 

 そこで信じられない光景を目撃する。

 

 アンノウン戦闘機が変形したのだ。人型に。

 

 唖然としている中、その人型が接近してくる。もう弾の入っていない銃を構える。

 

 それにも動じずに居る人型、否顔は黒い仮面のような物で隠れているが、間違いなく人間であった。

 

 銃を持っている手が震える。ニンゲンを撃てない。でもアンノウンだ。

 

 距離があっという間に縮まっていた。

 

 相手は持っていた銃らしきものを腰にマウントした状態だ。

 

 此方に向いた手が光ると緑色の風が私に向かって吹いてくる。

 

 避ける暇すらなく緑色の風に当たると、まるで母親に優しく包まれたかのような感覚と共に魔法力が戻る。

 体が軽くなり怪我も治っている。

 

「君が、君達が願った物がなくなるって思った。だから護るよ…それが俺達の戦いだから」

 

 優しく、小さい子に言い聞かすような声音でそう言うと、また戦闘機に変形し凄まじい速度で移動しながら前線を立て直していく。

 

「バルクホルン、大丈夫か!」

 

「はい、私は。それよりも今はウィッチ隊の体制を立て直してください。私は本部に連絡を」

 

「わかった、任せるわ」

 

 そう言って飛んで行く上官のウィッチ。

 

 そう言いながらさっきの人物が飛んで行った所を確認する。恐ろしいスピードでネウロイを片っ端から片付けていく。

 

 

「本部応答を願います、本部応答を。赤羽のアンノウン戦闘機介入、現在ネウロイと交戦、前線を押し上げてます」

 

「何!ではやはり……、動けるウィッチは皆アンノウン戦闘機に接触を試みよ。間違っても攻撃はするな! 全軍に徹底し…い…い」

 

「本部!応答を!……、これは歌?」

 

 ノイズが酷く、本部との通信が切れたと思ったら聞こえて来たのは、確かに歌だった。

 あれは幻では無く、あのアンノウン戦闘機は間違いなく人間であったことを証明していた。

 

 その歌は戦意を高昇させる。なくしていた戦意を呼び戻す。ウィッチ達に訴えかけている。

 飛べと、声を高らかに進めと。限りない戦いに、俺が(希望)に成ると。

 

 戦場を離れていた者たちが立ち上がる。

 

 そして空を目指す。

 

 何時かなんてない、今を生きているのだろう?そう問いかけて来る。

 

 そうだ、まだ、生きている。ネウロイなんぞにこの国は、家族が居、家族が、自分が愛したこの(場所)をくれてなんぞやるものか!

 

 そうだ!、それが私の生きる意味であり、役割だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドイツでネウロイ戦か」

 

 この世界には転移魔法が存在しない。

 

 そのため、ちょっと出かけて来ると言って家を後にした。

 

 これで2,3時間で戻れば少し長いがドイツから扶桑国に往復で現れるのは事実上不可能なのでアンノウン戦闘機と俺との関係は皆無だと証明できる。

 

 転移魔法様々だな。

 

(訂正を、この世界ではドイツでは無くカールスラントです)

 

 成る程。カール叔父さんのふるさとか。首都はおらが村で決定だな。

 

 何て馬鹿な事を考えるのはお終いだ。

 

 無線を傍受して、流石におふざけをしている場合ではないと分かった。

 

「セイバー、現場はどうなっている? ウィッチ隊や地上防衛隊は?」

 

(7割が壊滅、絶対防衛線突破されました)

 

 7割壊滅とか、大敗北とかレベルじゃない。

 最早軍としての組織立った行動は不可能だ。

 

 前線のウィッチ隊にも撤退許さずとか、死ねと言っているのと同じだぞ。

 

 しかも、前線に補給物資が届いてないとか…、ああ、くそ、この世界の今の戦線を支えているのは若き平均20歳に満たない少女達だ。

 

 ああ、前の世界の魔女の事とインキュベーターの事を思い出した。胸糞目覚め悪いじゃないか!

 

「セイバー! 今回の軍の指揮してる場所は?」

 

(既に把握しています。…、よろしいのですか?こんなことしては…、)

 

「既に人間の意志を理解してることはばれている。だったら明確にネウロイでは無く、ネウロイに敵対する”人間”だと分からせた方が後々厄介が少ない。少なくとも無暗に攻撃されることは減るだろう」

 

 それに、男だとばらすわけでは無い。

 

(わかりました。送信します)

 

「すまないな、セイバー」

 

 さて介入しますか。まずは前線を押し上げ、ウィッチ隊の安全を図る。

 

 敵と接触する前に先制攻撃で数を減らし、絶対防衛線を回復させる。

 

 さて、始めようか!

 

 MA-BAR70 高エネルギービームライフルにM106 アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲、MA-7B スーパーフォルティスビーム砲と連射性能を重視している全ての砲門が火を噴く。

 

 フリーダムみたいにできないのがちょっと難関だが、アスランの技量はそれをカバーして有り余る。

 

 特にMA-7B スーパーフォルティスビーム砲は連射性能を重視しているため、ターゲットに当てると言うよりは、それを避けさせて主砲であるMA-BAR70 高エネルギービームライフルにM106 アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲で止めを刺すと言うえげつない方法を戦法とするが、アスランはそれすら別々の的のど真ん中に命中させる。

 

 アニメでもそうだったしね。

 

 コアを破壊されて消え去る時だけやけに綺麗な演出なんだよな。

 

 っと、あの前線に居る子供、ボロボロじゃないか。

 

 幸い先制攻撃の連射攻撃でここいらの敵は粗方片付いた。

 

 戦闘機から人型のMSモードになる。

 

 戦場であえて変形することで人間アピールをする。

 

 無論、顔は真黒なバイザーで隠しているが手やなんかは出てる。

 

 こっちの姿は相手には騎士甲冑のように映るだろう。

 

 敵意を見せずに人としてコミュニケーションを取ることができることを示すために誰かウィッチ隊の誰かと接触する予定だったが、丁度いい。

 

 セイバーに治療魔法をかけるように頼むが、相手が震えながら、銃口を此方に向けているのが気に食わなかったのか、最初は拒否して来た。

 

 弾は入っていないのをセイバーが解析していないはずがない。

 

 もし入っていたとしてもVPS事、ヴァリアブルフェイズシフト装甲を抜くことは叶わない。

 この世界にはこの装甲を抜き得る物は存在しない。まぁ、それに胡坐書いて慢心はしないけど。

 

 最終的に俺の頼むの真剣なお願いにセイバーが折れて回復魔法をかけてくれた。

 

 ついでに魔力も分け与える。魔法体系こそ違うが使うのは同じ魔力なのだ。

 その辺の解析もセイバーが章香くを通して確認してくれていた。理論的には何の問題もない。

 

 此処で俺の戦う理由を話しておく。どんな事があってもまた平和を取り戻す。それこそが俺がこの世界に呼ばれた理由だと思うから。

 

 そう言えばファフナーでも似たようなシーンあったな。再びマークザインに乗った一騎が真矢に祝福を告げるシーン。

 

 流石にこれが俺の祝福だ(キラーン☆ 何て言わないけど。

 

 不謹慎なのは重々承知だが思い出したからにはあれを歌わないといけないだろう。

 

 と言うか、歌いたい。こっちにはカラオケないし、前の世界にはあったけど、俺の好きな歌の殆どが存在しなかったからな。

 

 それに、歌ってても最前線を一人で片付けるわけだから、誰にも聞かれないだろう。

 

 

 

 思いっきり歌って居る歌がセイバーによりオープンチャンネルで軍司令部やウィッチ隊、果てにはラジオもジャックして流されてるとも知らないで……、



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戦士の帰還

 ドイ…、カールスラントの軍令部、俺をどうしてもカールスラント軍人にしたかったらしく、しつこかった。

 

 結局、話としては准将の椅子を用意するから我が軍に入って、お願い! と泣きつかれた。階級もそうだけど、俺を軍に入れたいのならワンマンアーミーのライセンス用意しろと言って突っぱねた。

 

 この時代に置いて、ワンマンアーミーと言うのがどれだけ異例で破格な願いかはわかっているつもりだ。

 

 ワンマンアーミー…、詰まりたった一人の軍隊。軍に所属しているが、判断、行動は此方の好きな方向で勝手にできる。それが命令無視だとしても。大まかな命令方針にさえ逆らわなければ、許される。

 

 俺の場合、ネウロイ殲滅と言う大義名分に沿って居ればこちらの勝手で作戦の拒否、或は一人で作戦実行ができるのだ。

 

 一応カールスラント軍所属と言う肩書だけの自由人。幾ら現最高司令官でも、この申し出を今すぐに、はい良いですよとは言えない。それを見越しての俺の返事に言葉を詰まらせていた。

 

 それでも、そのライセンスさえよこせば、一応、表向きはカールスラント軍人となり、政治的、人類連合軍での発言権は強くなるし、世論を味方にできる。

 

 まぁ、プライドを選ぶか、それともプライドを捨ててチャンスを無駄にしないか…、答えはわかりきっている。

 

 カールスラントはプライドを取ると。元々階級さえ与えれば言う事を聞くと思うこと自体俺にとって不利益なのだ。

 

 金と名誉が欲しくてネウロイと戦っているわけでは無いのだ。俺は。

 

 この世界に呼ばれた意味を忘れてはいない。

 

 助けに来たのだ。

 

 それがどれほど孤独な戦いになろうと。

 どれ程人々に憎まれ、嫌われても、それでも戦うと、戦わなくちゃならない状況なのはわかっている。

 幸い、この世界は人間を撃つわけでも無く、撃つのはネウロイと言う未知の存在だ。

 ネウロイがどこから来て、どういう意思を持っているのか。

 ネウロイの殲滅か、或はネウロイとの和解か。

 

 そのどちらかが終わるまで俺はこの世界で戦い続けるだろう。例え数えきれない年月が過ぎようとも。俺の事を先生と呼んでいた少女が何百年と戦い続けていたように。

 

 俺の体は不老不死、戦いにおいて負けると言う事は存在しない。正に究極の戦士。

 

 どの世界も俺に求めるのは戦士なのだなと大きなため息を吐く。

 

 不老不死は肉体に限った話であって、精神までは護ってはくれない。

 何て残酷なのだろうか。

 

 しかも、使えるだけ使って事が済んだのならポイッ、だもんな。恐らくは。

 

(マスター、私だけはいついかなる状況下でもマスターの味方です。どんな手段を使ってでもマスターを御守りいたします)

 

 沈んだ顔をしていたのか、セイバーから声がかけられる。

 

 励ましてくれているのだろう。その言葉がありがたくもあり、痛かった。

 

 だが、これ以上悩んでいても出る答えではない。

 

 それよりも早く家に帰ろう。これ以上はまた怪しまれる。

 

 そう思いながら舞鶴の甘味処を後にする。

 どうでもいいが、貞操が本当に逆転してるんだな。

 街を歩いていると殆ど女性しかいなくて、一人で歩いている俺に周りの視線がもし、質量を持っていたら、間違いなく体中風穴だらけだなと思う程見られている。

 

 動物園のパンダとかこんな気持ちなのだろうか?

 

 家に帰ったらお手伝いさんが出迎えてくれた。

 甘味処から買って帰ってきた土産を差し出して、「休憩時間にでも他のお手伝いさんと食べてくれと」渡した。

 

 幾らお手伝いさんでも一日中働きづくめと言うのはよくないと思い、交代制で休憩や休みを取れるようにと徹底している。

 子供の居る者は剣道場に入ると言う名ばかり条件で、実質無償の託児所をやっている。そのためのお手伝いさんも雇っている。

 

 そんなこの時代にしては破格な条件でお手伝いさんを募集したため、男の主と言うのもあって、競争率が高く、お手伝い長さんが頭を抱えていたりするのはまた別の話だ。

 

「海軍の北郷様が来ております、他にも軍関係者が何人か」

 

「そうか、人数分の夕食の用意をお願いします」

 

 そう言うと苦笑いしながらもうできています。そう返って来て申し訳ないと頭を下げる。

 

「頭をお上げくださいご主人様。此方こそこんな形でしか恩返しができないですから」

 

 恩返し? 何の事だ? と思いながら首を傾げる。

 

「あ、お兄ちゃん帰って来たんだ! 何処に行ってたの?」

 

 ぞろぞろと小さな女の子たちがまとわりついてくる。

 

「ちょっと街までな」

 

 そうすると「ずるい」とか、「お土産は?」 何て言ってくる子供たちの期待の目に苦笑いしながら「すまない」と言うと「えーっ」とブーイングの声が返って来る。

 

 それどころじゃなかったんで、勘弁してくれないかな? 何て思ってるとお手伝いさんが優しく声をかける。

 

「こら、ご主人様を困らせないの」

 

 そうすると、目に見えて落ち込んでしまう子供達。この顔に弱いな~。

 

「そうだ、おやつの時間に外国の美味しいお菓子が手に入ったんだ。それで勘弁してくれないか?」

 

 そうすると、一瞬で女の子たちが笑顔になる。

 

「もう、ご主人様は子供達に甘いんですから」

 

 甘い分、厳しくもあるつもりなんだけどななんて思いながら「じゃあ、お兄さん仕事があるから」と言って章香達の居るであろう居間に向かう。

 

「失礼します。本郷少佐、わざわざ家に何の様でしょうか?」

 

 そう居間に入り敬礼しながら問う。

 

「別にアスランの家なんだから気を使うことないぞ、それに少佐殿はやめてくれ、いつも通り、章香と呼んでくれ」

 

「そう言われましても軍紀であります北郷少佐」

 

 敬礼をしたまま、そう告げる。一応扶桑国海軍少尉の肩書を持っている以上、章香は上官に当たるため、失礼な態度は取れない。

 

「じゃあ命令だ、普段通り接しろ」

 

 ……、そうきたか。ハイネの事を思い出す。あいつも階級による縛りが嫌いな人物だったな、と。

 

「……、だったら、勝手に、しかも騙すように軍に入れるのやめて貰えないか」

 

 そう呆れながら言うと

 

「母様が勝手にやったことだ、私だって知らなかったんだ!」

 

 そう必死に弁明している姿に、本当に知らなかったのだなと思いながら他に海軍の軍服を着た人物がいるが、章香の母親でも親族でも無ければ、階級は俺よりも下の子だ。

 立ち上がり、直立不動で敬礼している姿に流石にいたたまれなさを感じた。

 

「敬礼をやめてくれ、俺は宣伝塔として担がれた身だ。君が気を遣う程優れた人間ではないよ」

 

 その後章香と同じ流れの会話をし、命令で普通に接するように言った所、

 

「ハハハ、流石は私の旦那だな」

 

 そう言いだした章香に再び、

 

「結婚した覚えはない」

 

 そう返すのであった。



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策士策に乗る

 美緒が茶碗持ったまま寝てる。

 

 無論、反対の手には箸が握られている。良くその状態で眠れるよな。呆れて良いやら感心して良いやら。

 行儀的には褒められたものでは無いが、それだけ疲れていると言う事だろう。

 

 訓練するのは良い事だが、ここまですると、緊急時に使い物にならない、何て落ちにならないかね?

 俺としてはそこが心配なんだが。

 

 他のえ~と、陸軍の子達も美緒同様の姿でテーブルに突っ伏してるけど、皆、食おうと言う執念だけは立派と言うべきか、恐ろしいと言うべきか…。食べ物の恨みは怖いとは言った物だ。

 

 テーブルに突っ伏している連中に毛布をかけてやる。

 

 

 後で、目を覚ました時のために、握り飯でも作っといてやるか?

 どうせ腹減って目を覚ますだろうし。

 

 でも、どうせ、食うこと以外に楽しみが無いのだから、ご飯も温かいの作ってやった方が良いよな~。

 冷めたご飯食う時ほど孤独を感じることは無いだろう。

 こいつらの志気にも関わる。

 

 ……、電子レンジ作るか。そうすれば冷えた物を温めなおす事ができるし。

 

 この時代の物でも電子レンジ位なら作れそうだしな。

 

 幸い物作りはアスランの得意分野だ。

 

 

 

 

 

 で、だ。

 

 それにしても、何でこうなった?

 

 数日前ネウロイが扶桑国近海で出現して以降、扶桑国も対ネウロイ戦特化の部隊を創ろう何て事になって、陸軍、海軍共に優秀なウィッチ達が数名集められたのだが、流石に訓練場所は違えど、合宿場として家を勝手に使わないでくれるかな?

 

 確かに部屋は有り余っているけどさ。風呂場も広いけどさ。

 

 それが理由で勝手に決めるのやめてくんない?

 

 家、託児所もやってるし、海軍学校の士官生の面倒も見てやってるねんで?

 

 いい加減、怒っても良い頃だと思うんだが……、おい、そこ! 金積めば良いってことじゃないから。

 

 おかげで、舞鶴に集まっている連合軍のウィッチ達や上官の人達が家に押しかけて来そうになっているんだぞ。

 

 しかも、連合軍側から見れば協力してやってんだからその位いいじゃないか、とか、わけのわからん言い分に弱腰でいる。お国柄と言うのもあるだろうが、戦場になっていない扶桑国はやはり発言力が弱い。

 

 目的はアンノウン戦闘機を自軍に入れたいと言う物だけど、名目上は一応扶桑国に迫るネウロイの討伐協力のウィッチ隊派遣だ。

 

 まぁ、その事を防いでくれただけでも良しとするか。

 

 ……、元々軍に入れられなければこんな目に合わなくてもよかった気がする。

 

 ますます、ネウロイ殲滅に介入しずらくなった。

 

 前々回のカールスラント防衛戦をして、少し、見張りが薄くなると思って居たんだが、段々と俺への監視が強くなっているような気がする。

 章香の母親の北郷少将(あのタヌキ)まだ俺の事疑ってるよ。

 

 次からネウロイと戦う時には幻術(フェイク・シルエット)残して行った方がよさそうだな。

 これで、完全なアリバイができる。

 

 本当は軍をやめてしまった方が楽なんだが、今やめると余計に監視の目が付けられそうだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扶桑国を含めた連合軍が慌てていた。

 

 カールスラント軍がアンノウン戦闘機に接触成功したと言う電報を受けたからだ。

 

「カールスラント上層部によるとアンノウン戦闘機は人間で間違いないそうです」

 

「無論、我がカールスラント軍に入ってくれたんだよね?」

 

 准将の椅子を用意させたんだし、と自慢げに胸を張るカールスラント軍最高司令官が言うが、報告に来た士官は言葉を濁した。

 

「…、交渉は決裂に終わっています。階級では無くワンマンアーミーのライセンスを要求しています」

 

「な、何!!准将がだめなら少将までなら私の権限で用意できる。それにワンマンアーミーとは何だ!!」

 

 腕を組んで自慢げな態度でいたのが一転、愕然とした顔をして声を荒げて、席を立つ。

 

「言葉の通りです。たった一人の軍隊。階級は要らないから我を軍に入れたければライセンスをよこせと。アンノウン戦闘機の言うワンマンアーミーのライセンス権限は此方になっております」

 

 そう言って報告書が連合軍上層部、並びに扶桑国軍上層部に配られ、それに食い入るように目を通す双方。

 その中には北郷少将の姿も混じっていた。

 やがて、上層部連中は顔を怒りで真っ赤に染め、

 

「こんなふざけた内容が通ると思って居るのか!」

 

 話にならん、と息を切らして報告書を机に叩きつける。

 

 そんな中に更に

 

「通らないのは承知で出している。だが、此方の言い分を飲んでくれる軍があれば、ネウロイ殲滅の名のもとに協力を惜しまないつもりである。ライセンスを許可して貰えるならば貴官らに優先しネウロイの排除を行うものとする、だそうです」

 

 ぐうの音も出ない。

 

 アンノウン戦闘機は政治的、世論的観点からも揺さぶりをかけて来ている。

 

 かつて、ネウロイと戦い続けて来たが、後手後手に周り、勝利と呼べる勝利を収められず、局地的勝利により、何とかここまでつないできたが、侵略される速度を緩やかにすることしかできていない。

 

 そこにアンノウン戦闘機は颯爽と現れて、連合軍が何とか維持していた戦況をたった一人で覆して見せたのだ。

 正直、喉から手が出る程欲しい存在である。

 

 が、軍としてこの了承はしかねる物である。今の軍としての在り方を覆してしまうことになるのだから。

 

 幸い、アンノウン戦闘機はネウロイ殲滅と言う大義名分を掲げ、それを態度で示しているため、放置しておいても、ネウロイが現れれば勝手に介入し、殲滅してくれるだろう。

 

 そんな奴にわざわざ高い階級と報酬を出すこともない。精々良い様に利用してやると言うのが落としどころだろう。

 

 他の国も同意見なのか、無理を飲む必要はない。

 

「くくくっ、ハハハ、全く無茶な内容をよこしたものね、しかも階級は要らないと来た。強欲なのか、無欲だかわかりゃしない」

 

 からからした笑い声が会議室に響く。

 

 北郷少将だ。

 

 何事だといぶかしむ視線が集まると北郷少将はいや、失礼と言うと今度は声を殺して笑い出した。

 

「まさかとは思うが条件を飲むつもりかね?」

 

「まさか、そんなつもりではない。ただ、華が無いと思っただけのこと」

 

 その言葉に連合軍上層部が頭に?を浮かべる。

 

 そう華が無いのだ。

 

「報告は以上かね? だったら、精々利用しようじゃありませんか、皆さん」

 

 言葉の真意を読めない連合軍上層部はこれ以上いても意味もないと思い、それぞれが解散していく。

 

 北郷少将は会議室に最後まで残り、誰も居なくなったところで、出されていたお茶を一気に飲み干す。

 

「軍令部に通達、アンノウン戦闘機は我が軍が貰い受けるわ、ライセンスの用意もお願い。責任一切を私が取ります。どれだけ速くできるかが勝負よ。通らない場合は軍をやめてやろうじゃない」

 

「しょ、北郷少将!」

 

 慌てる部下を見て再びハハハ、と高笑いしだす。

 

「言ったでしょ今回は速さが勝負だと」

 

「しかし、相手との接触が無いと」

 

「大丈夫よ言ったでしょ? 女ばかりで華が無いと」

 

「は、はぁ」

 

 さぁ、行きましょう。

 

 北郷の女は噛みついたら離さないのよ?

 

 婿(義理の息子)君。




北郷少将は既婚者(勝ち組)です。

婿と言うのは娘の章香の婿と言う意味です。

娘の章香がアスランに恋心を持っているのに気が付かないわけでは無いのです。

意地でも娘のためにアスランと章香をくっつけるつもりです。


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戦士の覚悟

「これは何ですか? 北郷少将」

 

 アスランは目の前の人物を睨みつける。

 

「君が用意しろと言ったワンマンアーミーのライセンスだ」

 

「……、成る程。貴方もただ、私は戦士でしかないと。そう言いたいんですか?」

 

 殺気を放ちながらそう問いかける。

 

 わかっていた事だ、今更聞くまでもない。

 

 その殺気に冷や汗を流しつつ、北郷少将は口を開く。

 

「そのために銃とワンマンアーミーのライセンス、何てふざけた物を要求したんじゃないの?」

 

 北郷少将としても、此処で引き下がるわけにはいかない。

 もう軍に無理を通して、もぎ取って来たのだから。

 男の出した無理難題を。

 

 そして目の前の人物がむやみやたらにこのような態度を取らない事も知っている。

 

 試されているのだ。器を。その意義を。その真意を。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が続く。

 

 周りの軍人たちはアスランの放つ殺気に腰を抜かしている。

 一応銃を構えているが、手は震え、狙いが定まっていない。

 

 一緒に居会わせ、初陣を華々しく飾った北郷章香でさえ、顔は蒼白になり、手は震え、持っている刀は振るえ、カチャカチャと音を立てている。

 

 

「はぁ…、わかりました。で、何をすればいいんです?」

 

 アスランは降参だ、そう言うように両手を軽く上げた後、殺気を消して何時もの物静かな雰囲気に戻った。

 

「死ぬかと思ったわ」

 

「何か言いましたか?」

 

「いや、何でも」

 

 聞こえていたがあえて、聞き返したアスラン。

 これはアスランなりの気遣いでもあったが、それに気が付くほど余裕がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、否定はしないのね」

 

 北郷少将からそう口にした。

 

 タヌキが、

 

 そう思いながら俺は口を開く。

 

「もうばれているのに今更言い訳を並べても時間稼ぎにすらならない」

 

 そう言うと

 

「殊勝な心がけね、うちの旦那にもそう言う心意気を持って欲しい物だわ」

 

 そんなん知らんがな。

 

(良かったんですか?ばらしてしまって)

 

 そう念話で問いかけて来るセイバーに頷く。

 

 絶対に飲めない条件を出したつもりなんだけど、それを持って来られちゃ、しょうがない。今回は俺の完敗だ。

 

「では、アスラン・ザラ少尉は本日付で中佐へ昇進。新設第十二航空飛行隊隊長をして貰う。異論は認めないわ」

 

 いやいや、だから相変わらずおかし…くもないのか?

 カールスラント上層部の連中は准将の席用意してたことに比べれば大したことないな。

 

「な、かあs、北郷少将! 流石にそれは」

 

 理由を知らない章香からすれば、異例過ぎる対応に幾ら世界初の男軍人だと言うだけでその昇進はあり得ない。そう言おうとしているのだろう。

 俺が同じ立場だったら意を唱える所だ。

 

 それに、空も飛べもしない男が航空隊の隊長が勤まるわけがない。普通ならばな。

 

 その点、俺は普通ではない。

 

 理由を説明するよりも見せたほうが早いだろう。

 

 セイバーにセットアップを頼んでMSモードになる。

 

「なっ」

 

 真っ赤に光った後、現れたのは騎士甲冑っぽい格好に変わる。

 

「資料に乗っていた写真と同じ物ね」

 

 北郷少将が口にする。

 今はバイザーをしてないけど。

 

 あのカールスラント防衛戦から何日か後、転移魔法でカールスラント行き来して、新聞の一面に白黒ではあるが、確かにアンノウン戦闘機は人だった!と証拠写真と共にでかでかと乗っていた。

 

「え、なっ!」

 

 流石の章香もびっくりしたのか言葉にだせていない。

 

「まさか、男のウィッチが存在するなんてね。核心はしていたけど今でも信じられない。夢を見ている気分だわ」

 

 あ、そうだ。

 

 これは言っとかなきゃ。

 

「ユニットに対する研究には協力しますが、今のこの格好の技術は渡せません。それも承知して下さるなら、こちらからはもう何もありません。そちらの指示に従います」

 

「わかったわ、どうせ、技術提供をしろと言っても、あのネウロイを一掃する力の説明を受けたところで、理解できずにお手上げで終わるでしょうしね」

 

 察しが良い。流石はタヌキなだけある。

 

「そうそう、早速で悪いんだけど、明日舞鶴港で貴方に対する感謝状を贈りたいの。その姿で来て頂戴」

 

「顔は隠しても?」

 

「駄目よ。世界が欲した救世主のが男で、しかも男性初のウィッチと言う事に意味があるのよ」

 

 政治的、世論的に果たしてどれ程の影響を与えるだろうか?

 

 少なくとも扶桑皇国はこれから連合軍に対して大きな発言権を得られるだろう。

 

 ただ、相手の言う事を聞くのも癪なので何かサプライズをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連合軍、並びに扶桑国海軍上層部と新聞記者達が集まっていた。

 

 一応名目上は完成した新型ユニットの発表会となっているが、扶桑国海軍としてはここで連合軍が欲してやまなかったアンノウン戦闘機を味方にできた事をアピールする絶好の機会でもあった。

 

「北郷少将、わかってるね」

 

 扶桑軍上層部の一人が口を開く。

 

「わかってる。大丈夫だ」

 

 そして度肝を抜いてやる、そう心の中で呟き、今から皆の反応が楽しみで仕方なかった。

 

 進行は予定通り。

 

 これで終わりと言う時に、「感謝状、並びに階級授与を行います」と言う言葉が響き、扶桑国軍上層部以外は皆頭に?を浮かべた。

 

 その時、無線機やラジオから音楽が流れ始めた。

 

 その音楽に反応したのはカールスラント軍だった。

 

「これは、この歌は…、まさか…、まさか!」

 

 カールスラント軍上層部にはこの歌の録音したものが届いていた。

 

 アンノウン戦闘機が出現した時に国中で流れた歌だ。

 

 カールスラントの国民はこれを救世主の歌と言い、カールスラントの軍人は英雄の歌と言い、人々の心を掴んだ歌だ。 

 

 

 因みに民間のラジオの者がその歌を録音していて、四六時中流しており、その民間のラジオの人気はうなぎ登り。

 レコードが発売されることもこの短い期間に決定された。

 

 そんな歌が流れだしたカールスラント軍の上層部は慌てだす。

 

 他の人々も最初は何だと思って居たら、胸を強く突き動かされる歌に、息高昇していた。

 

 特に軍上層部の者は一部を除いて元ウィッチであった者たちの集まり。

 

 そうでない者達の心を高昇させたのだ。胸に響かない訳がない。

 

 そんな中、紅き救世主は現れる。

 

 アンノウン戦闘機が現れた事による連合軍側に混乱が起こる。

 

 そして、それが人型へと変形する。

 

 まずは、その圧倒的な存在感に言葉を失う。

 

 次にその顔の美貌に心奪われる。

 

 そこには、まるで物語から出て来たと言っても過言でない完成された美が存在した。

 

 その何時もと違った凛々しさに北郷少将は後20年若ければと言う気持ちが沸々と湧き上がって来ていた。

 

 左肩には扶桑国の国旗を模した刻印が、右肩には翼をモチーフにした造りの刻印が刻まれている。

 

 銃は腰にマウントされており、一度地面に足を付け、周りを少し見回した後、ゆっくりと北郷少将に向かって歩み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局サプライズらしいサプライズ思いつかなかったから、所属する国を現す国旗を左肩に、右肩にはフェイスバッジを模した物を。

 

 フェイスマークは、本来議長に認められた者が身に着けられる議長直属の部隊所属の証なんだが、確か他にも「忠義」「忠誠」「信頼」とかそんな意味があったような気がする。

 

 最も、この世界においてこの意味を知るものは居ないが、自分への戒めとして、扶桑国軍に対する「敬意」として、北郷少将に対する無茶を通してくれた「関心」を現すものであった。

 

 後は何をサプライズとすれば良いか悩んだところ、セイバーが私に任せろとか言うから任せたら、俺がカールスラント防衛戦で歌った歌が流れているよ。

 

 しかも、俺の声で。

 

 めっちゃ恥ずかしいやん。

 ラクスとかこの何倍以上の人達の前で歌ってたんだよな。

 

 尊敬するわ~。流石はプロだなと思いながら周りを見ながら北郷少将を探す。

 

 あ、いたいた。

 

 あの、その熱のこもった熱い視線はなんでせうか?

 

 時々章香や美緒、第十二航空飛行隊の皆がそんな目で見て来ていたな。

 

 その後の獲物を狙うような目とか。

 

 

 北郷少将の目の前に来た。

 

 そうするとハッとした表情になった後、敬礼をして

 

「此度の貴官の働きに、扶桑並びに”連合国軍”を代表して最大限の敬意を示すものである」

 

 そう言って勲章の授与が行われた。

 

 これは、連合軍に対し、扶桑軍が、軍事作戦的発言権と、政治的発言権を手に入れた歴史的瞬間とも言えよう。

 おまけに世論も此方につく、更に言うと男と言うレア中のレアが救世主(自分で言うのも何だが)だったのだ。軍の人気取りとしても十分だろう。

 

「更にこのたび、扶桑皇国は貴官の受け入れ条件を飲み、貴官を扶桑皇国海軍中佐としての階級を授与する。貴官の働きにはこれからも期待している」

 

 何か後ろの方で「北郷少将でかした!」と言って帽子ぶん投げたり、抱き合ったりして叫んでいる扶桑海軍が居る。

 無理もないか。

 

 その後、我に返った記者達の前で握手する写真を取った後、うるさくなり始めた連合国軍を置いて、飛行してその場を去った。

 面倒事は御免だ。



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嵐の前の出来事?

「すいません、留守お願いします」

 

 そう言ってお手伝いさんに頭を下げる。

 

「はい、お帰りをお待ちしてます」

 

 そう言って外に出ようとした所、子供達に囲まれてしまう。

 

「お兄ちゃんおでかけ?」

 

「いいなぁ~、いいなぁ~」

 

「お土産を買ってきてね!」

 

 皆朝っぱらから元気だな。

 そう思うと何人かがよじ登って来る。

 

 その子達を引っぺがす。

 

「すまない、登るのは勘弁してくれ。軍服が破れちゃうから」

 

 真新しい白い参謀服が傷んだら、俺じゃ治せないから。

 裁縫とか得意じゃないしね。

 

 お転婆な子ばかりだ。そう言えばこの世界では女性の方が強いんだったか?

 そう言えば、女の子以外の子供を見ない気がする。

 やはり、男は貴重だから、家で大切に育てられるのだろう。

 急に決まったからと言って、皆をもう用済みだからと追い出すのはちょっとかわいそうだったので、託児所も家政婦さんも俺のいない間も機能するようにしておいた。

 

「こーら、ご主人様は大切なお仕事なのよ。邪魔しちゃだめよ」

 

 はぁいと沈んだ顔で道を開ける子供達。

 

「……、おやつはちゃんと用意してあるから安心してくれ。お姉ちゃん達の邪魔はするんじゃないぞ」

 

 そう言って、今度こそ玄関を抜け、門前に止めてある車に乗り込む。

 

「わざわざすまない」

 

 そう言うと海軍のセーラー服を身に着けた少女が車を出す。

 

「いえ、此方こそ、伝説の英雄を乗せることができて光栄です。ザラ中佐」

 

 その言葉を聞いて、複雑な気持ちになる。

 

 中佐と言う階級はコネだけでは到達できない。

 少なくともそれに見合うだけの武功を上げたと言う事だ。

 

 俺自身はオーブ軍では二佐だったので、これで同じ階級か…、程度なんだけど、アスランとしては、それだけ血を敵にも味方にも流させたと言う事で、あんまり、良い思いではない。

 まぁ、レクイエムの破壊、及びZ.A.F.T軍との和解に貢献してオーブ軍准将の地位までになったが。

 

 どちらにせよ、動乱の時代の中を生き抜いたアスランはC.E.での世界でも英雄と呼ばれていた。

 アスランは英雄や正義と言う言葉が余り好きではない。

 

 アスランは戦場の英雄であった。すなわち、大量殺戮者、或は破壊者と自分自身を低く見ている。

 色々な葛藤があったのだ。

 心優しき大量殺戮者。平和を願い、それを叫びながらその手に銃を持つ矛盾に一番悩み、憎み、あがいてきた。故にアスランは英雄なのだ。

 それ故に

 

「英雄はやめてくれ、俺は君が思う程そんな大した人物では無い」

 

 そう言うと彼女は謙遜と捉えたのか口を開く。

 

「そんなことないです! 初戦闘でロマーニャを救い、カールスラントでは壊滅的な打撃を受けた絶対防衛戦をたった一人で死守し、この扶桑近海での戦闘も幾度となくネウロイを撃退。この短期間でネウロイ撃墜スコアは既に200体を突破で勲章授与! これを伝説と言わないで、何を伝説と言うのですか!!」

 

 わーお、凄い興奮しながらマシンガントークが来る。って言うか、それ軍事機密だよね? あれ? でも勲章授与され、新聞にもでかでかと載ったのだからもうばらしてしまったのだろうか?

 

 ならば納得だ。世論と人気取りの効果は大だ。

 

「わかったから、ちゃんと前を見て運転してくれ。さっきからチラチラと俺を見ているが、それで事故でも起こしてみろ。市民を護るのが軍隊の役目なのに市民を傷つけたとあっちゃ、話にならないぞ」

 

「す、すいません」

 

「わかってくれればいい」

 

 そう言って、空を見上げる。

 

 何の変哲もない、綺麗な青空だ。

 

 

 

 

「…」 

 

 車に乗り込んで半日。

 

 ようやく訓練所だと思われる場所についた。

 

 此処が訓練所ね、コンビニは時代的に考えて無いし、漫画やゲームと言った娯楽もない。唯一の娯楽はラジオだけか…、後飯ね。

 

 俺ん家に居た方がまだ街が近い分だけ心に余裕は…、ないか。

 

 あの頃からあいつらは飯しか楽しみが無かったわけだし。心の余裕なんてもの存在しないだろう。

 

 訓練、訓練、また訓練と言っていたのは鬼の水雷戦隊だったか?

 

 まぁ、良い。取り敢えず、

 

「章香、訓練をやめさせろ。二人過労で死にそうなのが居る」

 

 そう言うと、「む、そうか」と言って飛んで訓練をしていた連中を呼び戻す。

 

 戻って来た全員と顔見知りではあるが、一応挨拶をしておく。見知らぬ顔も何人か居たが。

 

「ああ、敬礼とか構わないから楽にしてくれ」

 

 そう言いながらヒーリングサークルを展開する。

 

 足元に真紅の魔法陣が展開される。

 

 驚いているメンツに魔力供給もしてやる。

 

「これで少しは楽になる筈だ。しばらく休むと良い」

 

 あの章香の弟子の美緒でさえ顔には疲れの色が見て取れる。

 

 死にそうなのが出てもおかしくはないか。

 

「これは…、治癒魔法? しかし、見たことが無い。固有魔法か?」

 

 顔を知らないウィッチ達の一人がそう口にした。

 

 何? その固有魔法って? レアスキルの事かな。

 

 と言うか貴方扶桑の人間じゃありませんよね?

 

 え? 観戦武官? さいですか。まんまと扶桑軍にしてやられた連合軍の最後の悪あがきとしてか、観戦武官がこんな異常な人数投入してきたのね。

 あわよくば、自軍に引き抜きをさせるこんたんなのだろう。

 

 どうせ、階級と今更なライセンスを用意して。最初からそうすれば良かったのに。

 

 今頃になって遅いっつーの。

 

 ブレブレの信念と言われて来たが、あれはキラとカガリ、ラクスを護るためにZ.A.F.T軍に戻ったのだ。

 それが、返ってキラ達を苦しめる選択肢となると知らずに。

 だからこそアスランはZ.A.F.T軍を裏切った…、否、Z.A.F.T軍”が”アスランを裏切ったのだ。

 

 だから俺も誓った。軍が裏切らない限り、俺もこの軍を裏切らないと。その為の右肩のフェイスシルエットなのだから。

 

 さて、この後は、書類との戦いになるかな?

 

 この時代、書類整理は文字通り手書きしかない。

 

 一々書くの面倒だな。

 

 

 そう思いながら章香の後ろを付いていく。

 

「甘過ぎじゃないか? この後自由時間などと」

 

 いや、そうは言いますがね。全てが根性で動いているわけでは無いのですよ。

 

「死にかけが二人も居たんだから、しょうがないだろう。いざと言う時の出撃で使い物にならないとか話にならないぞ」

 

 士気向上にも繋がるしな。そう言うと章香は黙った。

 

「まぁ、要は飴と鞭という奴だ。これを上手く使いこなした方が効率がいい」

 

「飴と鞭か…、ふむ」

 

 そう言って黙り込む章香。彼女も何を考えて居るかわからない。

 

 あの親にしてこの子あり、と言った所か。おおう、怖い怖い。

 何て考えて居たら「ここだ」と言われて立ち止まる。

 そうすると、鍵を取り出し扉を開けた。

 

 中にはベッドが一つに机が一つあるだけの部屋。

 

 まぁ、俺だけが過ごすには少し広い気がするが、隊長室待遇たのだろう。

 

 持って来た荷物を置いて、部屋を出ようとしたら章香に止められた。

 

 何かあったのだろうか?

 

 そう思い、何だと聞いたら鍵を渡された。

 

「閉め忘れているぞ」

 

「扉なら閉めたぞ?」

 

 そう言うと顔を真っ赤にしながら「鍵だ、鍵!」なんて言われた。

 鍵何ぞしめんでも盗まれるようなものは無い。そう言ったら、ますます顔を赤くして

 

「お前は男としての自覚が足りない!」

 

 そう言われた。

 そこからはダムが堰を切ったようにマシンガントークで、やれ男なのに無防備だの、他の女に甘いだの、鈍いだの、朴念仁だの好き勝手に言いやがって。

 それと、俺は構わないが、上官をお前呼ばわりするのはやめなさい。

 



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歌王

 第十二航空飛行隊(ザラ隊)が発足してから一年が経過した。

 

 このころには、世界中がアスランの存在を認識していた。

 

 因みに、扶桑の紅き翼、深紅の鬼神、他にも色々と呼ばれているが中二病溢れるな名前なのでそこは割愛しよう。

 

 撃墜スコア数はかなりの数。

 

 また、戦場で歌を歌う事が多いからか、ラジオに雑誌にと引っ張りだこだったりする。

 アスラン自身はやりたくないが、軍の人気取りとして、宣伝塔としての役割をわかっているため、渋々了承している。

 

 ラジオでは歌声を、雑誌ではその完成された美を惜しむ事無く発揮し、世の女性、子供から老人まで幅広い人々の心を掴み、世界各国でザラ派と言う一種の宗教じみた人々が存在するほどだ。

 

 世論も彼がやる事成す事全てに対して追い風となっている。

 

 幸い、アスラン・ザラは政治的な関与をしないために暴動がおこることはないが。

 

 扶桑国はアスランの思惑通り世論を味方につけ、政治的、軍事的発言権を強めている。

 

 まぁ、アスランに見限りを付けられないように軍部はアスランは一階級昇進したりと色々手を焼いているようだが……、

 

 私が思うに特にアスランは階級に対してこだわりを持っていない。

 

 故のワンマンアーミーのライセンスなのだろうけど。

 

 で、

 

「今度は何ですか? 北郷中将」

 

 呆れた顔で此方を見て来るアスラン・ザラ大佐。

 

「ごめんなさい。軍部もあなたに抜けて欲しくないのよ、そこのところをわかって頂戴」

 

 その手には、本来二階級分昇進する筈だった命令書があった。

 

 本人曰く、二階級昇進は縁起が悪いのと、この短期間での昇進に続く昇進何て聞いたことないぞ。との事。

 私はそうは思わないけどね。むしろ今の階級のままにしておくと、連合国側からの世論や圧力が怖い。

 人類はネウロイに、今まで散々煮え湯を飲まされてきた。それを一人で覆す武功を幾つも重ねて居れば、階級の方からアスランを迎えに来る。

 

 加えて、新型魔道徹甲弾の開発や、最新鋭のストライカーユニットの欠点を上げ、それを克服するための技術提供。

 更なる発展型の定理等上げればキリがない位軍部に貢献している。

 

 私の判断は正しかった。無理を通したかいがあると言う物。

 

 ああ、私が後20歳若ければ私の物にしたかったのだが…、こればかりはしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺、軍人(アイドル)やってます。

 

 え? ルビが違う? 知らんがな。

 

 ええい、メタイとかそんなん知らんがな。俺だってやるつもりは無かったんだよ。

 

 ただ、いつもあんまり喋らないセイバーが戦闘になる度に「今日は何歌いますか?」ってBGM流してくれるから歌ってを繰り返していたら幾つかは軍歌として流れる始末。

 セイバーに問い詰めたら、ウィッチ達や兵士たちの士気向上に繋がれば俺への負担が少しでも減ると思ってやっていた。何て言われたら流石に何も言い返せない。

 

 俺の姿がバレて、介入するごとに歌って居たら、歌王なんて呼ばれるようになった。

 

 歌姫だったらわかるけど、歌王って何さ。ごろ悪いことこの上ない。

 

 …、成る程。歌を歌おうと、歌王がかかっているのか。傑作、傑作、面白いね。

 

 

 何てなると思います? どう考えても面白くないし。

 

 滑った感がパナイ。

 

 つーかポジション的に違うだろ。何、俺ラクスのポジションなの?

 

 まぁ、いいや。

 そんなこんなで軍人としての仕事よりもラジオで歌歌ったり士気向上の為に歌ったりと忙しい。

 

 何かレコードの売れ行きもかなりの物だとか。

 

 無論、その間にネウロイが出たら、ネウロイ退治の方を優先している。そこは間違っちゃいけない。

 

 そう考えているうちに北郷中将から昇進命令書が来ていた。

 

 一度蹴った覚えがあるんだが、どうしてだろう?

 

 そもそも二階級昇進は縁起悪くね? もしかして殺す気満々だったりします? 扶桑軍。

 俺なりに尽くしてはいるつもりなんだけどな。やはりライセンスのせいか?

 

 まぁ、こんな死亡フラグをへし折るために昇進命令蹴っ飛ばしたら人事部や軍上層部から泣きつかれたので、嫌々一階級昇進ならと落としどころを付けたんだが、この前のアフリカ戦線で活躍したのがだめだったのか、もう一度昇進命令が来た。

 

 扶桑軍も世論に対して敏感になっている。それが世界初の男性軍人であり、男性初のウィッチでもあるのだ。

 そして、扶桑軍とて体面と言う物がある。

 

 組織って面倒くさいな。いや、組織に関しての面倒事と言うのはアスランの中でもかなりあったみたいだが。

 特に人付き合いが得意ではないアスランは人一倍苦労していたようだ。

 最も、最初の方はキラの事で頭が一杯で突っ走っていただけだが。故に孤立していたんだよな。

 

 そう言えば扶桑軍には准将と言う階級が無かったから、少将になるのか?

 

 どちらにせよ蹴るつもりでいるんだが…、

 

 それを告げると、やっぱりだめ? 何て返ってくる。

 

 当たり前だ、将官クラスになれば、そうやすやすと前線に出れなくなる。

 嫌、一人総司令官なのに最前線で戦っていたバカがいたな。

 

 誰とはあえて言わないが。

 

「で、本題なんだけど貴方幾つかしら?」

 

 何だ? 藪から棒に。

 前の世界では15歳だったが、概念もどきになってからは何年たったかわからない。

 身長から考えると18歳だと思うんだが。あれから1年経ったわけだから、19か?

 

「一応19です」

 

 どうでもいいが、コーディネーターは15歳で成人だ。

 

「なら、そろそろ身を固めても良い頃だと思うのよ。どう? 家の章香何て」

 

 そう言いながら、何時取ったんだよとツッコミを入れたくなるお見合い写真を出される。写真からどこか気合が入っているような顔してるが、柄にもなく緊張したのだろうか?

 

「そう言うのは章香が決める事でしょう。失礼ですが親がどうこう口出しするものでもないでしょう」

 

 まだ、恋愛結婚と言うのは稀な時代だ。お見合い結婚が主流なのはわかっている。

 

 だから、せめて、結婚するならば親の意見ではなく、お互いの納得、同意のもとでしたい。

 そう言ってんのにこのタヌキはことあるごとに、章香と俺をくっつけたがる。

 

「どうかしらね? 一応言っとくけど北郷の女は一度食いついたら離さないのよ」

 

「?」

 

「わからないならいいわ、まぁ、決めかねているんなら取り敢えず、章香と結婚したら? どこの国でも男は貴重だから重婚が許されているわけだし」

 

 いや、そう言うがな。ちょっと付き合う位の軽さで結婚とかできないだろ。

 

 そこ! ヘタレとか言うな。



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扶桑海事変1

 ザラ隊が発足して早2年近く。

 

 最初は危なっかしかった隊員達も場数踏み、著しい成長を遂げた。

 とは言えもうひよっこでは無くなっただけで、実戦ではまだ危なっかしい部分も目にするが、それも時間が解決してくれるだろう。

 伸びしろはまだまだある。

 

 最近は出撃回数が増え、いよいよ総力戦になりつつあるなと頭に入る。

 

 俺に召喚命令が来たのはそんな時だった。

 

 何か都合が悪ければライセンスがあると言えば良いんだが、話は聞いてからでも遅くないと思い大本営へと赴いたらお偉いさんたちが集結していた。

 

 内容は扶桑に攻めて来るネウロイの予測位置とそれを撃退するための作戦方針だった。

 普通そう言うのはあんたらの仕事だろうと思いながらウラル山脈から来ている事、ネウロイの今までの行動パターンから導き出したネウロイの通るであろう予測ルートを説明する。

 

 そうして、連合艦隊を持って、扶桑を狙うネウロイの殲滅すると命令が下った。

 

 待て待て、まさか鵜呑みにしたんじゃないだろうな?

 

 作戦にあたり、ザラ隊の隊員全員。特に隊長たるアスラン・ザラ大佐は必ず参加されたし、と軍令部から名指しで呼ばれた。

 

 作戦内容を見て一瞬見間違いじゃないかと2度見をしてしまった。

 

 あのさぁ、戦いは数なんだよ。戦艦の性能何てわからないけど、どう考えても戦艦1隻なのはおかしい。

 

 反攻作戦ならもっと数を用意しろよ。まぁ、連合軍側からのウィッチ達に連合軍からも戦艦も作戦に入ってくれるらしいけど、慢心しすぎだ。

 

 俺とて万能ではないのだ。

 

 敵の総戦力も未知数。

 

 思わず頭を一回机に叩きつけた位だ。

 痛い。

 

「何をしてんだ? アスラン」

 

 いつの間にか部屋に入ってきていた章香に作戦内容が記されている命令書を渡す。

 首を傾げながら命令書に目を通して段々と震え始めた。

 

「なんなんだ! このふざけた内容は!」

 

 ほんとだよね~。俺の思った事は間違いではなかった。

 

 反攻作戦成功させる気ないのかと思っちゃうよね。

 

 幾ら新型ストライカーユニットがこの短期間でできたり、魔道徹甲弾でネウロイに対抗する力がアップしたとて、この数は少ない。

 

 俺一人で偵察しながら敵戦力削るのが良いか。

 

 この戦力を見てそう思う。

 

 恐らく今更泣きついたところでこの作戦内容が覆るとは思えない。できるのであれば北郷中将がもう少しましな案をだしているだろう。

 

 しかも、この作戦最高責任者、北郷中将だし。

 

「かあs、北郷中将と話をしてくる、これじゃ死んで来いと言ってるのと変わらない」

 

 そう言い残し、隊長室を出ていく章香。

 

 そもそも、章香自身は反攻作戦には反対派である。理由は敵の戦力が未知数だからだ。

 

 まぁ、作戦開始日程は決まったわけでは無い。

 

 そう言えば雑誌の取材が舞鶴であったな。

 

 久々に家に顔を出してみるのもいいかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遂に人類で初となる大規模な反攻作戦が開始されようとしていた。

 

 散々煮え湯を飲まされてきたのも、この時を思えばこそ耐えてこれた。

 

 そして、その足掛けとして扶桑に迫るネウロイ殲滅を立ち上げた。

 

 そんな、華々しい第一歩を飾るのにはそれ相応に相応しい舞台を整える必要がある。

 

 にもかかわらず、何だこれは。

 

 戦艦1隻に空母が2隻。それらを護衛する艦隊は重巡が2隻だけだ。

 

 敵の数は未知数。

 

「これではまるで、第十二航空飛行隊に死ねと言っているような物です!」

 

 北郷中将の声が響く。

 

「そんなことは無い、連合軍からも戦艦やウィッチ達が協力してくれる。それに何よりも伝説の英雄が居るではないか」

 

 軍令部が偉そうにふんぞり返りながら言う。

 

「彼とて人間です。それに普通ならもう現役引退してもおかしくない年齢です。もう何時限界が来るのかわからない!」

 

 前回顔を合わせた時に年齢を聞いたのは、勿論章香の事も考えてだが、それは建前で彼があとどのくらい戦場に出れるかを確認したかったのだ。

 

 

 最も、それはこの世界のウィッチ達に当てはめての話であり、アスランはリンカーコアが魔力の元となっているので、この世界のウィッチ達とは違い、原則としてリンカーコアにダメージを受けない限り半永久的に魔法を行使できることを北郷中将は知らない。

 

 

「それに、彼に何かあれば北郷中将。君の落ち度だからね。ああ、新たな伝説が生まれるか、悲劇の英雄になるのか楽しみだよ。本当に」

 

 最早何を言っても無駄なのを悟った。

 

「っく」

 

 唇を強く噛む北郷中将を見て軍令部は笑みを深める。

 

 北郷中将は軍令部の無責任な態度と嫉妬に嫌気が刺していた。

 

 そう、軍令部は世界初の貴重な男軍人、それも空想の中から出て来たんじゃないかと思える様な人物が、北郷中将に実質独り占めしているのが気に食わないのだ。

 

 見苦しい嫉妬と公私混同はやめて欲しい。

 

 アスランの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。

 

「そうそう、もし悲劇の英雄になったとしたら今度は北郷中将に変わって我々軍令部が責任をもって面倒を見るから安心したまえ」

 

 強く睨みつけるが、相手の頭の中では既に彼が軍令部に入ったことを想像して居るのかニヤニヤしながら舌なめずりをしていた。

 

 北郷中将は彼と彼の部隊員に対して心の中でごめんなさい、そう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに帰って来たらなんかすごい事に成っている。

 

 ラジオ放送に雑誌の取材で近くを通ったから帰ってみるかと寄ってみたんだが、遠目で見ても凄い人数の人が俺の家の門前に居る。雑誌のような物を持っている者から子連れの人まで。全員女だ。

 

 このまま見つかると厄介な事に成ると勘が告げている。

 

 しょうがないので、透明になる魔法を使い、空を飛んで庭に降りる。

 

 中は流石に人であふれてはいなかった。

 

 取り敢えず、状況の把握に努めたい。そう思い、透明化魔法を解いて、庭から上がり込む。

 

 何か中も慌ただしく行きかう足音に話し声が聞こえる。

 

「ご主人様お帰りでしたか、お出迎えもせずに申し訳ございません」

 

「いや、それは構いません。それよりも外の騒ぎは何です?」

 

 そう言うと家政婦さんから事のてんまつが語られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ご主人様がお帰りになっていた。

 

 ご多忙の身故随分と家を留守にしていたが、その間もこの家の機能を損なうことは無かった。

 これはご主人様がこの家を出ていかれる時に暇を出されることを覚悟で居た私達家政婦に言った言葉だ。

 

「私の留守を頼みたい、無論給金もこれまでと変わらないように出す。自主的に辞めたいと言わない限り余程大きな問題を起こさなければ、此方から暇を出すと言う事は無い」

 

 そう口にして、一月後、働いている家政婦一人一人にちゃんと給金の入った茶封筒が届いた。

 

 まずはそれに感謝した。

 

 それから、ご主人様はラジオに雑誌に新聞に、軍人としても古今の歴史に試しのない大戦功を納めている。

 

 それでいて、完成された美に他の男と違って、女だからと言って嫌悪感をあらわにしないし、距離を取ろうとしない。

 正に女が求めた理想が形になったような人物だ。

 

 それ故に、女性に対する警戒心のなさは異常ではあった。

 

 女は狼なのだ。それを理解しているのだろうか?

 

 家政婦長の私ですらくらっと来る物がしばしあった。

 

 ……、それは置いておいて、働く子持ちの家政婦でも心配ない様に託児所を無料で設けている。

 その子供達の面倒を見るための家政婦と言うのも雇って居る位だ。

 時間もこういう仕事にしては徹底していて、休憩時間を交代制で取り、お菓子も出て、三食ただ飯と来ている。

 全員定時で帰れるように徹底している。その上給金も下手な所で働くよりはよっぽど良い額が出ている。

 

 そうすると、中にはご主人様に一目会おうと言う邪な考え、よしんば、会えなくても良い給料が入るので家政婦になりたいと言う者も出て来る。

 

 家政婦になれなくても、子供だけは託児所に入れたいと言う者もいる。

 そう言った者たちが、ご主人様が有名になればなるほど、一目見たい。接点を持ちたいと言う者が出て来るのだ。

 

 現にご主人様の歌声がラジオから響く度、ご主人様が雑誌に載るのに比例して門の前の女の数が増えるのだ。

 

 暴動にならないのは軍の士官学校生とその教官が居るためだ。

 

 まぁ、元々は軍関係者もご主人様目当てであったから、何とも言えないのだが…。



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扶桑海事変2

「アスラン・ザラ、セイバーでる!」

 

 空母から飛び立ち戦闘機型モビルアーマーに変形して一人加速する。

 

 作戦海域までの距離はまだまだあるが、ライセンスがあると言って命令無視して出てきてしまったが、こればかりはしょうがない。

 

 慢心し過ぎ。敵の規模すらつかめてない中の反攻する気のあるのかわからない、ずさんな反攻作戦。

 

 その慢心しきったでっぱなへし折る事も考えたけど、それでどれだけの血が流れるかを想像したらへし折れないよね~。

 

 そもそも、この作戦に参加しなければ良かったんだけど、俺抜きにしても作戦やるよと言われてしまえばぐうの音も出ない。

 それに、北郷中将が土下座して作戦参加の願い出と、作戦変更できなかったことを謝罪されちゃえばね。断ることはできないかな。

 

 どちらにしろこうなったわけか。

 

 まぁ、今更か。

 

 ネウロイを殲滅、或は人類に対して無害になるまでは、この世界で戦い続ける訳だし。

 

 美緒達、怒っているだろうな~。

 

 内緒で発艦しようとしたら、格納庫で全員待機してついてくる気満々だった皆をチェーンバインドでぐるぐる巻きにして出て来たからな。

 あいつら待機命令出しても、命令無視して来てちゃうだろうし。

 

 作戦が終わった後の事を考えると怖いな。

 

 

 

 

 

 でも、一人で出てきて正解だったな。

 

 今までのネウロイの中でも超巨大な敵が待ち構えていた。

 

 何だ、あのデカさ。

 

 そう感想を持っていたら、超巨大なネウロイから小型のネウロイが続々と出て来る。

 

 成る程、大きいのが母機なのか。

 

 なら母機を叩けばっ! 小型ネウロイが一斉に紅いレーザーをこれでもか、と言う程に撃って来る。

 

 っち、そう簡単にやらせてはくれないか。

 

 アスランの記憶の中では対レイの戦闘としてドラグーンの特性、そして、それらに対する対処の仕方をシュミレーションした経験がある。キラからの助言も貰った。

 

 セイバーだと純粋なスペックの差がある為、レイの操るレジェンドには叶わないが、相手はネウロイだ。

 動きも遅いし、レーザーの速度もビームライフの速度に比べれば全然遅い。

 

 避ける事は簡単だが、ウィッチ隊と速度の遅い戦艦、空母等が居れば守りながら戦わねばならない。小型ネウロイの排除ならばウィッチ隊だけで事足りるが、泥沼の消耗戦になることは間違いない。

 

 これは一人偵察に来て正解だったな。

 

 そう思いながらM106 アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を薙ぎ払うようにして撃つ。

 小型ネウロイの大量消滅を確認した。

 

 だが、無駄だと言うようにまた大量の小型ネウロイが母機である超大型ネウロイが出て来る。

 

 くそ、フリーダムみたいに一気に殲滅させることができればいいんだが、生憎とそういうシステムは積んでいない。

 MA-BAR70 高エネルギービームライフルを連続で撃ち続ける。

 その一発、一発が小型ネウロイのコアを撃ち抜いてネウロイを消滅させていく。

 

 これじゃあきりがない。

 

(マスター! 新たなネウロイの群れが出現、艦隊に向かって進行しています)

 

 セイバーから珍しく大きな声があげられる。

 

「まさか、こっちは陽動! 仕掛けに乗せられたか」

 

 すぐにこの戦闘海域を抜けようとするが、小型ネウロイの群れが邪魔して艦隊の方へと行けない。

 

「っち、これでは此方も動けない!」

 

 片っ端から撃って撃って薙ぎ払ってを繰り返している。

 アスランの撃墜スコアは今、100を超えたところだ。

 

「あっちに向かったネウロイの数は?」

 

(此方ほどではないにしろ、かなりの数です。あちらにも母機と思わしき大型ネウロイが存在します)

 

 どうしますか? マスター。そう言ってくるセイバー。

 

 今この戦闘海域から抜け出せたとしても、後を追ってきたネウロイに挟み撃ちにされる。

 ……、どの道、このネウロイは此処で全て叩かなければならないか。幸いセイバーはオールレンジ攻撃に対処できる優れた機体性能を持つ。

 

「セイバー、通信回線を開いてくれ」

 

(わかりました。通信回線、開きます)

 

 本当はこういうのラクスがやるんだけどな。

 説得、政治、交渉ごとにおいては、彼女の方が上手い。

 顔も広いし。まぁ、ない物ねだりしてもしょうがない。

 

「此方扶桑軍所属、ザラ隊隊長のアスラン・ザラ。連合軍に通達。其方に大型ネウロイが出現した。ザラ隊並びに連合軍ウィッチ達は速やかに発艦せよ、艦隊は砲戦準備に移られたし」

 

 その言葉を繰り返す。

 

 その間にもネウロイは空気を読んでくれはしない。

 

 集中砲火を受けながら通信している。

 

 小型のネウロイは撃っても撃っても減ることは無い。

 やはり母機を叩かなくては駄目か。しかし、数が多すぎて近づくこともできない。

 

 どうする? 方法はあるができればいざと言う時のカードとして取っておきたいが、このままでは泥沼の消耗戦へもつれこんで、壊滅。壊滅しなくても死人が何人出るかわからない。

 戦艦にも魔道徹甲弾や魔道三式弾は積んであれど、アンチビーム爆雷やPS装甲を使用しているわけでもない。

 

 アンチビーム爆雷とPS装甲は科学技術的な面でも開発費的な面からも無理だった。

 

「っち!!」

 

 大きくワザとのけぞり気味に回避してそのまま急降下、そのまま海面すれすれを飛んで敵の集中砲火を避ける。

 

 深紅の魔法陣が展開される。アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を真下から撃ち込めば恐らくコアごと抜けると考えたのだ。

 

 魔力が収束され、赤、否、紅の光が強くなる。

 

 

 次の瞬間、

 

 ネウロイの攻撃よりも紅い色の純粋な高魔力収束砲が小型ネウロイの群れを突き破り、超大型ネウロイに直撃する。

 

 コアの周りの装甲はかなり厚くなっているが、セイバーがそれを見落としているはずがない。

 その後、高純度の魔力による大爆発が起こる。爆発は小型ネウロイの群れを呑み込み、爆風は海に大きな波紋を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大師匠が私達の静止を聞きもせずに出て行ってから2時間。

 

 私や師匠が発艦してから30分。

 

 何とか持ちこたえているが、このままでは魔法力が切れて終わる。

 

 艦隊司令部は大混乱に陥り、使い物にならない。

 

 頼れるのは連合軍ウィッチ達だけ。

 

「きりがない!」

 

 連合軍ウィッチ達の誰かが呟いた。

 

 師匠も口には出さないが、疲れの色が顔に出ている。

 

 今ならわかる。軍令部に対する師匠の怒りの意味が。現場を知りもしないのに偉そうにふんぞり返っているだけで、いざと言う時に使い物にならない。

 それなのにプライドが高い。

 

 それをわかっていたからこそ、大師匠は作戦海域よりも前に発艦したのだろう。

 

 だが、それが悪手となった。

 

 まさか、ネウロイが陽動作戦を仕掛けて来るなんて思いもしなかった。

 

 長引く防衛戦はウィッチ達の士気を根こそぎ奪っていく。

 

 魔法力も残りわずかだ。どうすればいい? どうもできない。

 己が未熟さを恥じるばかりだ。

 

 そんな絶望が支配する中、考え事を戦場でしていた時、それは起こった。

 

 ネウロイの一匹が私の目の前に現れた。刀を抜くにも銃を撃つにも、シールドを展開するのも間に合わない。

 

 ああ、死んだ。そう思った。考え事をしていた付けが来た。でも…、死にたくない!

 そんな考えとは裏腹にゆっくりと動く世界。

 せめてもの抵抗で目をかたく瞑り、私を終わらせる絶望の襲来を待った。

 

「えっ」

 

 しかし、中々来ない衝撃に目を開く。

 

 そこには、紛れもない良く見知った大きな背中があった。

 

「相変わらず泣き虫だな、美緒」

 

 紅き羽の英雄。私の大好きな大師匠、アスラン・ザラ。

 

 次に歌が聞こえて来た。

 

 音に聞こえた戦場に響く勝利の歌。

 

 紅き英雄が戦場に居て、歌声が響くとき、どんなに絶望的な状況下でも勝利をもたらすことから、戦場伝説として各地で噂されている物だ。

 

 そして、それは大師匠が紅き英雄たる所以を知った。

 

 それは、確かなる決意。

 

 それは、ゆるぎない信念。

 

 それは、自らの血潮の色に誓った物だった。

 

 だから、大師匠は紅い色なのですね。

 

 その意味を知ったから、ウィッチ隊も私達も立ち上がる。

 まだまだ私達も戦える。護れる。

 

 護らせて欲しい。

 

 その思いが胸に灯として燈り、確かな熱となり、体全体に広がる。

 

 それは理屈では測れない力だった。

 ネウロイよ、これが”人間の力”だ。

 

 先ほどまで絶望が漂っていたとは思えないほど、この場は今、希望に満ちている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近人前で歌を歌っても恥ずかしさを感じなくなった今日この頃。

 人間なれとは恐ろしい物だ。

 今回もセイバーからのどの歌、歌いますか? と言うオーダーが入った。

 

 不謹慎だ! とか言われて、後で怒られないよね?

 

 今までの経験から考えると怒られない。多分、きっと、maybe…、

 

 さて置き、俺が帰って来る前よりも各国ウィッチ隊の動きが良いような気がするが、はて?

 

 それはさて置き、まずは本命の動きを止める。

 

 そこから戦艦による砲撃にてコアの露出、これをウィッチ達の集中砲火で叩く。

 これにより、魔道徹甲弾や魔道三式弾の試験にもなる。

 ぶっつけ本番だけど、威力シュミレートはセイバーの折り紙付きだ。

 

 まぁ、ぶっちゃけ、ウィッチ達の助けになる程度の性能だけど。ウィッチなど不要だよと言われないように考えた結果だ。

 

 幸い露払いはウィッチ達がやってくれる。

 

「ケージング・サークル」

 

 魔法を発動させると、超大型ネウロイを囲むように深紅の輪っかが出現する。

 

 これで、的は完成した。

 

「艦隊は超大型ネウロイに対して砲撃を開始! 速く!」

 

 そう言うと主砲が超大型ネウロイを捕える。

 それから連合軍と扶桑軍艦隊から集中砲火が始まる。

 

 何発か撃ち込まれた砲弾が装甲を削りコアが露出した。

 

「砲撃やめ、ウィッチ達はコアに集中攻撃、この戦いを終わらせる」

 

 そう言うと全員が一丸となって、コアに集中攻撃を与える。

 

 今度の露払いは俺が務める。

 

 そして、コアを無事に破壊することに成功する。

 

 喜びの声が木霊する。

 

 

 

 これにて、人類初のネウロイに対する反攻作戦。後に 扶桑海事変と呼ばれる無謀な作戦は大成功に幕を閉じた。

 

 

 

 

 一応、今後今回みたいなふざけたことしでかしたら、扶桑軍をやめると釘は刺しておいた。



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平穏

 上官になればなるほど、戦域から離れて書類と格闘、何て事になる。

 

 それは重々承知なのだが、どうも、10代の少女たちが戦闘に出ているのが納得いかないと言うか、何と言うか。

 この世界では当たり前なのだ。だが、俺の中ではまだまだ護るべき子供達に他ならない。

 しかも、ウィッチ達のピークは20代前後。一部例外があるが、それは戦闘をしない前提の話だ。この世界の魔法体系は俺のようにリンカーコアが元になっているわけでは無い。

 最初から総量が決まっていて、それを少しずつ消費していく。

 リンカーコアの場合は時間と共に上限まで回復するが、ウィッチ達はそうではない。

 魔法を使うことにより生じる体力の著しい消費による一時的な魔法使用不能状態を魔力の枯渇状態だと勘違いしている。

 そして、再び魔法を使える状態まで戻ることを魔力の回復と彼女達ウィッチは思い込んでいる。周りもそうだ。

 

 結局、回復しているのは集中力と体力だけ。魔力総量は減ったままだ。

 

 そして、この世界には自身の持つ魔力を他者に分け与える術がないのだ。

 

 この部隊に居る限り、俺が魔力供給をしているので大丈夫だが、何時かはこの部隊も解散が来るし、教え子たちも未だネウロイの色濃く残るガリアやカールスラント、アフリカ等に派遣されるだろう。

 

 その後の事は自分ではどうしようもない。

 できることはただ一つ。俺があの子たちが少しでも戦闘にかかわらないように戦うだけだ。長い戦いになりそうだな。

 

 そう考えて居るうちに書類の山は片付いていた。

 

 アスランスペックパネー。確認したけど考え事しながらやってたにも関わらず、ミスは一つもない。

 

 

 

 それにしても、である。

 

 机の端に置かれた数枚の書類を見る。

 そこには軍事機密以外の書類だったりする。

 

 内容は…、婚姻届けの書類だ。

 

 名前もしっかり記入されていて、俺が後はハンコを押すだけとなっている。

 

 最初は少なかったが、最近は目に見えて多くなっている。

 

 ほとんどは、観戦武官の人達だが、我が部隊からも何人か出ている。

 

 さて、今までは悪戯程度だと思って目を瞑っていたが、そろそろ注意した方が良いかな? いや、此処で下手に大事にして、他の人達が真似事をして来たら意味がない。

 注意はなしか。

「ん? ああ、空いてる、入ってくれ」

 

 ノックの音が聞こえたので返事をする。

 

 そう言えばノックの回数で話の内容を伝えるのがあったような気がする。

 今回は四回だったから…、交渉ごとか?

 

 因みにザラ隊のメンバーは皆ノックと共に声をかけて来るのでこのように四回ノックと言う事はしない。

 章香に至っては、ノックもしないでいきなり開けて入ってくる。

 なので、必然的にこういった行為をするのは、本場である観戦武官の人達だけだ。

 

「やぁ、隊長さん。暇してるんじゃないかな? どうだい? 久々に紅茶何て。丁度良い茶葉が手に入ったんだ」

 

 そう言うと持って来たティーセットを仕事用にある机とは別にもう一つあるテーブルの上に置く。

 

 手慣れた様子で紅茶を淹れ、テーブルに置く。

 

「すまない、気を使わせてしまったな」

 

 そう言いながら椅子から立ち、テーブルに向かい合うようにして置かれているソファーに腰を降ろす。

 

「なに、私もこうしていい男と時間を共にできるんだ。気にすることじゃないさ」

 

 そう言って笑いながら向かい側のソファーに座る。

 

 あ、紅茶の良い香り。

 

 でも、交渉事をするのにこんな感じで良いのか? 相手に主導権握られているんだけど。

 

「で、何の用だ? ガランド大尉」

 

「君と私の仲だ。アドルフィーネと呼んでくれと言っているだろう? 扶桑が誇る生きる伝説の英雄君。いや、歌王君と呼んだ方が良いかな」

 

 悪戯成功のように笑いながら言ってくるガランド大尉に溜息を吐きつつ

 

「わかったアドルフィーネ、だからその呼び方をやめてくれ」

 

 実際には同じ魔眼使いとして、美緒に魔眼の使い方を教えてやってくれと頼んだだけの仲なのだが…、そう言えばこうやって時々紅茶持ってきてくれたっけ?

 まぁ、悪い仲ではないのは確かだろう。

 

「そうそう、それで良いんだ」

 

 満足げに笑みを見せる。

 

「それで、交渉何だが…、残念ながら、失敗だったみたいだ」

 

「?」

 

 何の事だ?

 まぁ、彼女が失敗と言うからには失敗だったのだろう。

 

「時に聞きたいことがあるんだが、君の好みの女性のタイプを聞きたいんだ」

 

「それなら飽きる程聞かれたからそれを見ればいいんじゃないか?」

 

 そう言って章香が持っている雑誌を指す。雑誌や新聞に載る度にきかれるもんな~。

 

「それは、表向きな物だ。君の本心が丸々載っているわけではないだろう?」

 

 確かに当たり障りのない事ばかり言ってきたわけだししょうがないか。

 というか、アドルフィーネ大尉からは北郷大将(あのタヌキ)と似たような雰囲気があるんだよな~。

 

 あ、因みに前回の作戦の大成功で中将から大将へと昇進した章香の母親。こうもとんとん拍子で出世できる物なのかね? しかも、将官クラスが。まぁ、それはいい。昇進したんだからそう言うことなのだろう。

 

「載っている通りだよ。誰でもいいわけでは無いが、俺なんかを受け入れてくれる心の広い人ならば、ね」

 

「それでは、この世の中の全ての人に当てはまる事に成る」

 

「まさか」

 

 子供っぽいし、負けず嫌いで、折れない曲がらない、融通が利かない、諦めが悪い。口下手で言葉たらず。

 これを受け入れるのは大変な物だと思うんだけど。

 

「…これは難攻不落だね。でも落として見せるさ」

 

 何を落とすんだか知らないけど、故郷であるドイ…カールスラントを占領しているネウロイを叩きたいという事かね?

 カールスラント軍上層部からのお願いかな? 確かにそれならば交渉事だが、この人物が軍上層部の圧力に屈するとは思えないけど…、それに、もう失敗してると来た。

 

 

 結局、当たり障りのない世間話になってしまった。

 

 あ、紅茶の茶葉どこで手に入れたのか聞くの忘れた! …、今度聞こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、」

 

 扉を閉めて、溜息を吐く。

 今日も駄目だったか。そう思いながら次のプランで攻めた方が良いかな?

 割と本気で出している婚姻届けを悪戯程度に思われているのに、幾らこの私とて流石に気落ちするぞ。

 

 しかし、だ。諦める気もない。

 

 女だというだけで、特にウィッチなら尚更に嫌悪されるのに彼にはそれが全くと言っていいほどない。

 仕事だから、仕方なくではない。その人物に面と向かって対処している。

 軍人としてもとても優秀で、科学者としても腕が立つ。

 それなのにその功績を誇りもしない。本当に女が思う理想が具現化した男だ。

 

 それゆえなのか、特に色恋沙汰に鈍い。だが、そこが女心をそそる。

 

 こんな良い男とは、世界広しと言えど、今後二度とは存在しないだろう。

 

 だから、諦めるつもりは無い。



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写真

 

 軍上層部では激しい口論になっていた。

 ここ最近はこんなピリピリしてばかりだ。

 

 理由はシンプル。

 ザラ隊解散後の彼を誰の管轄下に置くかだ。

 

 最も、最近は扶桑近海でのネウロイ討伐初の反攻作戦に加え、第二弾作戦であるウラル山脈攻略作戦での武功で彼は少将に階級が上がるので、誰かの管轄下に入ることは無いだろうが。

 それにそのためのワンマンアーミーのライセンスだし。

 

 彼を軍部へと入れたのは私なので、私預りだと思われがちだが、彼はワンマンアーミーのライセンスを持っているので、作戦も彼が気に食わないならば、彼は作戦に参加しないだろう。

 

 私は彼のたてた作戦を決行していたからこそ、彼は私の作戦に参加していてくれたのだ。

 

 正直、扶桑近海の作戦は拒否されても文句は言えなかったのだが、彼の義理堅さに救われた。

 

 だが、流石の彼も二度目は無いと告げた。

 

 まぁ、彼の話はこれくらいにしておこう。

 現状を把握する。

 

 扶桑海軍と扶桑陸軍の激しいぶつかり合いだ。

 

 陸軍と海軍の仲の悪さは今に始まった話ではない。

 

 何かと陸軍は裏方に回されて海軍より評価されにくいのが現状だ。

 

 それに、軍の宣伝塔である彼は男と言うだけで注目を集めるのに、世界的に有名な英雄でもある。

 

 そのため、彼に憧れて海軍に入る者が続出しているのだ。その結果、ただでさえ入る人員が少ないのに、その少数すら海軍に取られて、陸軍も堪忍袋の緒が切れたという所だろう。

 ただ単に羨ましいと言うのが本音だろうが、確かに志願者が少なすぎることは陸軍にとって死活問題なのは確かだ。

 だが、だからと言って男と言うオアシスを譲る気はさらさらない。

 

 彼はもう扶桑海軍に無くてはならない柱なのだ。

 

 入りたての連合軍で扶桑軍が強い発言権を持てているのも彼が居るから。

 

 一部では護るべき男を戦場に出すなんて、恥知らずもその辺にしなさいと言う声も存在するが、所詮、負け犬の遠吠えという奴だ。

 

 

 …、本音を言うと、彼には戦場に立ってほしくない。

 女にとって男性とは護るべきものなのだ。此方にも女としてのプライドもある。

 

 だが、

 プライドでネウロイを倒すことはできない。戦場では勇敢な者から先に死んで逝き、無能ばかりが残り、踏ん反り返る。

 それは、軍の上層部を見れば明らかであった。

 頭にあるのは、自身の保身と男の事だけ。正直嫌になる。

 これでも、人々を護ると軍服をまとった誇りがこの身にはあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、写真ブームがこのザラ隊ではおこっていた。

 

 暇つぶしにカラーの使い捨てカメラを造って、部隊員全員で写真を撮り、できた写真を皆に配ったのが事の始まり。

 

 初めて見るカラー写真に皆が大はしゃぎ、今に至る。

 ザラ隊の解散が近いからか、やたらとカラー写真でのツーショットをねだられた。

 別に断る理由が無いので隊員全員と、観戦武官の人達全員とツーショット写真を撮った。なんだか学校の卒業式思い出すな。

 

 そんなこんなで、各々が使い捨てのカメラを持っている。

 

 部隊の思い出になればと思って色々な写真を撮った。

 

 章香の訓練でグロッキーになってる皆の写真とか、はしと茶碗持ちながら寝ているシュールな写真とか。

 

 因みに各々が撮って、それを俺にわざわざ現像しに来なくていいように、現像するための機械は廊下に置いてあり、使い方も教えた.

 

 

 初日なんか、列ができて大変だったな。インク切れ起こしたりして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部隊員全員に大師匠から集合命令があって、行ってみれば、写真撮影だった。

 大師匠が記念に撮っておきたかったのだそうだ。

 

 そうしてみたのは、雑誌や新聞記者が持っているのとは比にならないくらい小さな物だった。

 一枚とった後、直ぐに隊長室に戻り、10分と経たないうちに戻って来た大師匠が配った物にその場にいた者も皆が驚いた。

 

 私達の知っている白黒写真じゃなく、服の色もついている一枚の絵のような感じだけど、そこに映り込んでいるのは、紛れもない自分達の写真だった。

 上手く言葉にできないけど、それだけこのカラー写真は私達にとって、衝撃的だった。

 その写真機を部隊員全員分と、観戦武官の人全員に渡していた。

 

 最初は何を撮るかで悩んだものだ。

 

 そんなある日。

 

 観戦武官の一人、魔眼の師匠から面白半分で渡された写真に一度目は鼻血を出して昇天し、二度目は鼻血を出しながらトイレにかけて行った。

 

 その写真には風呂上がりの大師匠の上半身だけだが、映っていて、鍛え上げられたその肉体美に目がどうしても行ってしまう。

 

 この世界の男子と言うのは余り外に出て歩いたりしないため、いわゆる、もやしと言われるひょろりとした体つきが一般的だ。

 そのために、アスランの無駄のない鍛え上げられた体付きは女に衝撃と、刺激を与えた。

 

 

 



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独立の兆し

 レコードが馬鹿みたいに売れているらしい。

 出す曲、出す曲レコード大賞にノミネートされて、賞を受賞している。こうも売れるとお兄さん少し怖いです。

 いつの間にか映画も上映されているし。

 

 映画見たけど、orzってなった。この時代にしては頑張った方だと分かっているんだけど、どうもこの時代からしたら70年以上前の物と比べるとどうしても、クオリティーの低さを感じてしまう。CGとか無いからね。

 

 取材取材ラジオ取材ラジオ仕事…、なんか歌にできそうだな。

 

 軍の仕事の殆どは、章香に押し付けている形になっているけど、後で腹いせで常備している日本と…、扶桑刀で切られないかね? 怖いわ。

 

 そう言えば取材の中で、やたら海軍を盛り上げる風潮があったから、それとなく陸軍もよろしくしてやってくれと言っといた。俺の部隊、半分は海軍だけど、もう半分は陸軍だったというのもある。

 それに俺、陸軍の開発チームとも面識があって、仲良くさせてもらっている。

 この前のふざけた反抗戦に頭にきて新型ストライカーユニットの定理と設計図をそっと陸軍に手渡した。それぐらい頭に来た作戦だったのだ。

 だから、ある程度陸軍とは仲が良い方かな? と思って居たら大本営に呼び出された。

 あれ? 気が付かないうちにやっちまったかと思って居たら、陸軍のお偉いさんが涙流しながらお礼言ってきた。

 何があったし。

 不思議に思いながらいたら、北郷大将が出てきてなんか話し始めた。

 その話の途中に、部屋を追い出されて、違う部屋に呼ばれて何事だと思ったら、ウラル山脈攻略作戦の功で少将になれとの事だった。

 断ろうと思ったんだけど、少将と言えば多少の無茶でも通るだろう。そう考えて、本来断るところだが、素直に受け取った。っというのも、俺の目的はネウロイの殲滅、或は和解にあった。そのためには扶桑海軍として各地を転々としているよりは、扶桑、連合の優秀なのを集め、どこにも属さない特殊遊撃部隊ないし、独立部隊と言うのを持つべきだと考えたからだ。

 本音を言うとそう言う部隊を持ってみたかったからである。

 

 その思想の元、赤枝ウィッチ…、後の統合戦闘航空団、通称500部隊が設立された。

 

 しかし、各国でネウロイとの戦闘が激化する中、優秀なウィッチを確保することは至難の業であった。

 

 軍が、政治が認めなかったからである。

 

 設立した500統合戦闘航空団はその存在を隠されてしまったのだ。

 

 世界にとどろく大英雄アスラン・ザラ。彼の存在が動けば世界が動く。扶桑国、連合国はそれを恐れたのである。

 

 だが、時の流れは、彼を味方した。各地で有能なウィッチ達の小隊、ないし、中隊がネウロイ相手に頭角を現し始めていたのである。これを好機ととらえた連合軍はこれらを独立特殊部隊と定め、人類の行く末を若きウィッチ達に託したのである。

 

 時を経て幻の部隊があると嗅ぎつけた人物がいた。カールスラント軍所属のアドルフィーネ・ガランド少将である。

それは第四次カールスラント防衛戦の折、アスラン・ザラの口から出た言葉であった。

 

 くしくも、時を同じくして、同じことを考えて居た人物がいた。ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケであった。

 これをアドルフィーネ・ガランド少将は互いに利用。此処に新たに独立部隊が生まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五次カールスラント防衛戦。

 

 燃え盛る炎の仲、逃げ回っている少女が居た。

 

 その者の近くにはミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの姿があった。

 

 この戦いでミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは運命的な出会いをする。

 

 紅羽の英雄。アスラン・ザラと。

 

 

「クリスちゃんダメよ! 危ないわ!」

 

 逃げ回る二人の近くの建物にネウロイの攻撃が直撃する。

 

「クリス! ミーナ!」

 

 建物が傾き、その、圧倒的質量が二人を襲う。

 

「クリスちゃん!」

 

 強くクリスを抱きしめ、自身が展開できる最大のシールドを展開した。

 しかし、そのシールドでもあの圧倒的な質量は耐え切れない。

 せめてと、クリスを強く抱きしめる。

 

 

 だが、衝撃は何時までも来ることは無かった。

 恐る恐る上を見上げると紅い輪っかが建物を囲んでいた。

 それがどういった物なのか理解できないミーナは小さく

 

「助かった…、の?」

 

 そう呟いた。

 

「良かった。まだ居たのか」

 

 その声に反応する。

 紅い羽根、騎士のような甲冑。

 ゆっくり降りて来ると泣いているクリスちゃんの頭を優しく撫でて口を開く。

 

「よく頑張ったな、偉いぞ、後は安全な場所まで一直線だから」

 

 そう言うと紅い魔法陣が足元に展開され、膜のような物が展開される。

 

 そこにネウロイの攻撃が直撃するが、びくともしない。

 

 今度こそ助かった。その事から腰が抜けてしまう。

 

「君も」

 

 そう言って撫でられたのは何年ぶりだろうか? 何て場違いな事を思ってしまう。

 戦場に在りながら、これだけの安心感を抱いた事なんて無かった。

 

 そして、歌が響く。戦場に響く勝利の歌。もう大丈夫。カールスラントは大丈夫…。

 

 一方的にかつ、街を壊さないように、一撃で的確に敵コアを撃ち抜いて行く紅い英雄。

 

「流石は、紅羽の英雄だな、ミーナも聞いたことくらいあるんじゃないのか?」

 

「ええ、確か扶桑の鬼神とか言われているわね…、世界初の男軍人にして男ウィッチ…、本当だったのね」

 

 別にミーナとて、疑っていたわけでは無い。だが、噂とは尾ひれがつくものだ。

 ましては男のウィッチ何て。

 そこで、思考が止まる。まて、男だと! 確かに体つきは私達とは違っていた。

 男性には一度あったことがあるが、余りにも印象が違い過ぎた。

 

「どうした、ミーナ、顔が真っ赤だぞ」

 

「もう、トゥルーデ! 貴方だってそうじゃない」

 

「な、私は赤くなんかなってない、あかくなんか…、」

 

「お姉ちゃんも私もあのお兄ちゃんのこと大好きなんだ!」

 

「クリス!」

 

 勝利の歌が流れているからこその余裕。

 そして、居なくなっていた紅き英雄が戻って来る。

 

「すまない、少してこずった。怪我は無いか?」

 

 そう言うが緊張から言葉を発せない三人。

 だが、尊敬と、女全開の目でアスランを見てしまい、空気が気まずくなる中、通信が入る

 

『おい、バルクホルン、応答しろ。近くにアスランが居るだろう。死んでも連れてこい。後、変な目で見るんじゃないぞ』

 

 それは現場に自分の物に手を出したら…、わかってるよなと釘を刺す言葉だったが、アスランは気が付くことは無かった。



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交錯する思惑

「アスランさん!」

 

「おっと」

 

 飛びついて来た女の子をそのまま抱き抱える。

 この世界の傾向だからか、ただ単に子供だからパワフルなのか。

 

「いい子にしていたか?」

 

 その問いかけに少女は嬉しそうに頷く。

 

「噓つきなさい、良い子は勉強の途中で抜け出すようなことはしないんだよ」

 

 奥から飛びついて来た子供の母親が言う。

 

「すいませんね」

 

「いえ、芳佳、また大きくなりましたね」

 

 そうアスランは返す。

 実際の所、アスランが此処を訪れるのは三回目だ。

 なので、少女が実際に大きくなっているのかは確信を持てなかったが、前にあった時よりも何となく、そう、何となく一回り大きくなったような気がすると言うだけで口にしたものだった。

 

「おや、芳佳がいきよいよくかけて出て行ったと思ったらアスラン君だったか。いらっしゃい」

 

「お久しぶりです。宮藤博士」

 

「ははは、そうかしこまらなくてもいいよ。僕と君との仲じゃないか」

 

 ニコニコ笑いながら答える。

 この親子、笑った所が良く似ているな~、何て思いながら芳佳をはがそうとするが、はがれない。

 力尽くで引きはがしてもいいのだが、海軍服が生贄になる。

 

 この家族との関係は第五次カールスラント防衛戦後、すぐにガリアでのネウロイ進行戦があった。

 そのガリアでの戦いの折、偶々助けて以来の仲だ。

 扶桑人だというのは見てわかったので、そのまま扶桑まで転移魔法を使い、連れ帰ってきてしまった。

 危機的状況から逃げられて、愛する家族に会えて、宮藤博士は大喜びだった。

 

 アスランは常に戦場で失うばかりの戦いを強いられてきた。

 故にだろうか? これまで激戦で多くの人を助けて来たことはあれど、今回のように助けられて本当に良かったと思いに浸るシーンは中々なかった。

 

 それから宮藤博士の願いでしばらく家に居たいとの事だったので、赤枝ウィッチの専属技師として所属して貰う形をとっている。

 まぁ、研究の話とかアスランと馬が合うおかげか、それとも、宮藤博士の人柄故か親密な関係を築いている。

 それで、宮藤博士の一人娘である芳佳が俺のファンであったらしく俺にべったりだ。おまけに父親を救っているしな。これを見てた宮藤博士は嫁にどうだい? 何てことを口にするものだから芳佳が本気にして困っている。

 

「新しいストライカーユニットの理論と今までの博士の定理した物に少し手を加えさせて貰った物です。従来の物よりも燃費、安定性が向上しています」

 

 少しだけですがと、付け足しておく。

 宮藤博士は嬉しそうにそれを受け取り、興奮気味に目を通していく。

 

「やっぱり凄いね! 天才いや、鬼才かな?」

 

「博士の理論が無ければできませんでしたよ」

 

「またまた、謙遜もそこまでくれば嫌味に聞こえるぞ」

 

 その言葉に少し慌ててしまう。

 

「冗談だよ、君がそう言う人間でないのは重々承知しているさ」

 

 やはり人付き合いは苦手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 扶桑軍が頭を抱えていた。

 これまでにひた隠しにして来た特殊独立部隊500…、通称赤枝ウィッチをカールスラントから指摘されたのだ。どこで漏れたのかは定かではないが、アスランを手元に置いておきたいがための選択であった。

 カールスラント軍はこれを認め、支持する方向性で決まったと言うのだ。

 

 早い話が、アスランの居やすい理想の環境を用意するからアスランおいで~と言う勧誘だった。

 それにつれて、世界にこのことを公表する準備もあるとも言っているのだ。

 今まで連合や世論でのメリットを逆手に取られた交渉と言う名の脅し。

 男と言う極めてレアな存在でかつ、ネウロイ退治では右に出る者がいないスーパーエース。それだけでも政治的にはかなり強い影響力を持つのに、今ではザラ派と言う一種の宗教じみた集団が民間だけには留まらずに、政界、財界、軍に強い影響力を持ち、更には世界規模でその信者がいるのだ。

 このことがばらされれば、暴動が起きかねない。そして、扶桑の偉功は地に落ちる。

 

 それだけは避けねばならなかった。

 

 そこで苦肉の策として、アスランを一時的に総監督としてなら貸してやらない事もない、とカールスラントに電文をうった。

 

 

 

 

 

 

 カールスラント軍少将アドルフィーネ・ガランドは電報を読み笑みを深めた。

 それと同時に扶桑軍も馬鹿では無いのだな、そう思った。いや、もしかしたらアスランが無意識に入れ知恵したのかもしれないが…、アスランが此方に来ることが今は重要だ。

 引き抜きの事はゆっくりやっていこう。

 そう、ゆっくりとな。

 カールスラント軍は彼にワンマンアーミーのライセンスと中将の椅子を用意している。彼の反応次第では大将の位も視野に入れている。

 これは5度に渡る国家総力を挙げての防衛戦での勝利への多大な貢献を考えれば当然の待遇だ。

 それに、そう思いながら虚空を見上げて思う。唯一ネウロイに対抗できる力を持ち、完璧な美貌を兼ね備えている人物を世界が放っておくことなどあり得ない。二重の意味で。

 

 それに、これ以上ライバルを増やすのは好ましくないしな。

 最後のは完全に私情だが、彼女にとっては一番重要な事だ。幸いこの前アスランと話した時には扶桑のあの女はまだ手を出していないようだしな。



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旅立ちの日

 

 

 

 

 招集命令がかかったので、大本営へと顔を出していた。

 内容は聞かされていない。

 そんな中で軍議が始まる。

 何時もよりも重苦しい雰囲気の中始まったのでただ事ではないと思って気を引き締めた。

 その重苦しい沈黙を破ったのは北郷大将だった。

 

「急に招集かけてごめんなさい。早速で悪いんだけどカールスラントに行ってくれないかしら?」

 

「カールスラント…、でありますか?」

 

 命令内容に怪訝に思いながら言葉を発するアスラン。

 そう言えばアドルフィーネのことほっぽって来たな、とどうでもいいことを思い出した。

 

「ええ、カールスラント上層部が泣きついてきてね。それでどうしてもと言うのでザラ少将を一時的に派遣することに決定したのよ」

 

 実際は逆で、カールスラント軍に脅されて、苦肉の策としてアスランを派遣と言う形で事を納めたのだ。

 

 そんなことを知らないアスランは世論の為かと、半ば当たっているような当たっていないような結論付けをしていた。

 アスランは政界を齧ることはあったが、エキスパートではなかった。

 なので、世論の大まかな流れがわかっても、その詳細まではわかりはしていない。

 加えて、アスラン自身の性格上、自分を過小評価する癖があり、今や彼を手に入れることが何を意味するのか理解していないのだ。

 

「…、了解」

 

 扶桑近海のネウロイを撃滅したことで、比較的安全な扶桑に居るよりは、ネウロイの巣があるアフリカ戦線や、ガリア、カールスラント、オラーシャ、オムライ…、オムス等のネウロイの兆しが色濃く残っている所の方がアスランからしてみれば楽ではある。

 まぁ、転移魔法を使えるアスランにとっては隣の家に引っ越したような感覚であるが。

 敬礼をして、踵を返して部屋を出ていくアスラン。

 

 部屋を出てすぐに章香が壁に背を預けて待っていた。

 

「お前も呼び出されてたのか」

 

「ああ、アスランと一緒に転属になった」

 

 章香もセットか。一応俺の護衛兼見張り役兼観戦武官なんだろうが、俺、そんなに信用無いかね?

 因みに章香には俺が魔力供給をおこなっているため、現役のウィッチを続けている。階級は中佐。 

 ザラ隊で教導官としての才を見出し、教官として横浜だか佐世保で士官学校の校長をしないかと話があったらしいが、断り、魔法力尽きぬ限り前線を離れないと武士みたいな事を言っていた。

 

「お前みたいな優秀なウィッチが抜けて大丈夫なのか?」

 

「ははは、問題ない。後続の奴をみっちり育てたところだ」

 

 そう言ってカラカラと笑う章香を見ながら、その育てられた人物とやらに合掌した。

 

 改めて命令書を見る。

 そこには出立日時と第500試験統合戦闘航空団と書かれていた。

 何処の国の部隊だ? と思えたがその後ろには長年隠され続けた部隊名、赤枝ウィッチと記されていた。

 流石にアスランとて軍が意図して赤枝ウィッチを隠しているのに気が付かないほど馬鹿ではない。それにしても、今まで隠しておいて、何故今なのだ? 

 …、深く考えてもしょうがないか。

 そう考えると、宮藤博士は赤枝ウィッチに所属しているため連れて行かなくちゃいけない。それを無しにしても、そろそろ宮藤博士を研究施設のあるガリアに返さねばならない。それだけ世界を代表する科学者なのだ。

 この話したら芳佳、口きいてくれなくなんだろうなー。鬱だ。

 幸い、場所はガリアにあるらしいので、宮藤博士はどんなことがあっても護ろう。

 

 大本営を出て、章香と分かれた後に転移魔法で宮藤亭へと移動する。

 

 宮藤博士に命令書を見せたら、察してくれたのか、内容を確認しなかった。

 芳佳は泣きながら自分も連れてけと駄々をこねた。

 

 

 

 

 ……、俺に抱き付いて。

 

 普通そこはお父さんに抱き付くところじゃないかな?

 そのまま、芳佳が泣きつかれて眠るまでずっと撫でていた。

 

「すいませんね、芳佳が」

 

 芳佳の母親が申し訳なさそうに言って、寝ている芳佳を抱っこする。

 

「いえ、私こそ宮藤博士を…、」

 

 そう言いかけたらポンポンと腰を叩かれた。

 

「覚悟はできてます。それに、アスランさんは夫を連れて帰って来てくれたじゃないですか。もう会えないと覚悟して居た身。感謝こそすれ、恨むことはありません」

 

 アスランは何と返せばいいのかわからなかった。ただ、気を使われたことに情けなくなった。

 いっその事、罵声を浴びた方が楽だったかもしれない。

 C.E.では「コーディネーターなんか滅ぼしてやる!」何て言われて子供に思いっきり蹴られた。

 まぁ、C.E.の経験と記憶があるだけで、そのアスランと今のアスラン()とは関係ないわけだが、俺としては恨まれた方が何倍も楽だった。

 良心とは時として最大の攻撃になるのだ。この人がそんなつもりで言った言葉ではないと百も承知してても、心の奥底、深い所まで突き刺さり、心を重くする。

 

 それで覚悟が決まった。本当に護らなければならないものを再確認した。

 

 

 

 一週間後、横須賀基地から空母に乗り込み、出発する。

 護衛ウィッチ隊に見送りの士官生たち。どこを見ても女しかいない。

 試しに帽子を振ってやると、黄色い声が響いた。

 

「それにしてもこんなに人が集まるものなのか?」

 

 近くにいる章香に聞いてみると、

 

「いや、扶桑の鬼神を一目見ようと集まっただけだろうさ」

 

 訓練用のユニットをはいて飛んでいる子も居るぞ。それも一人二人ではない。

 

 それはさながら観艦式のようであった。

 

 その中、必死に泣きながら此方に手を振っていた芳佳を思い出す。

 

 転んで怪我でもしてないだろうか? 今はもう見えない港の事を心配したが、考えてみれば芳佳は治癒魔法使いだったな。

 

 不安材料が一つ消えたところでもう一つ問題が発生する。俺と宮藤博士以外全員乗組員は女性なのだ。しばらくは肩身の狭い生活を強いられるだろう。

 何か頭痛くなってきた。



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乙女の苦悩とザラ派

 私、北郷章香はイライラしていた。

 それと言うのも全部アスランの態度にある。

 

 言葉足らずで時々誤解をされるが、基本部下思いのいい上司だ。少将と言う階級に威張りもしない。他のプライドの塊だけの奴にアスランの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。

 と、そこまでは良い。問題はアスランが男である事だ。

 男と言うのは極めて貴重な存在だ。それは世界中で一夫多妻制を取っていることからも明らかで、古くは男をどれだけ身近におけるかで自身の権力が如何に強大であるかを示した時代もあった位だ。

 それに、男は女を避ける傾向があり、ウィッチともなればなおさらである。

 

 そんな中、アスランは違う。女を避けることはしないし、ウィッチであっても同様だ。

 更には人類の希望と言っても過言ではない存在。階級も高い。容姿も良い。これだけの条件が整えば女が放っておかない。

 少しでもお近づきになろうと、あまつさえお零れに与ろうと女が言い寄って来る。現にアスランの部屋には何人も女が毎日押しかけてきている。

 それを毎回私が追い払っているのだ。

 それに、向かっている先の国で待ち受ける女とは因縁がある。

 ザラ隊の頃に観戦武官として居た人物で、何回もアスランに夜這いを仕掛けようとしたその人であった。その都度撃退はしているも、懲りることなくやって来ていた。

 そんな女が背後に居る事も私のイライラを加速させた。

 こちらの気も知らないで歌を歌うアスラン。

 

 歌うなとは言わないし、私自身楽しみにしているので言えないが、そのせいで余計に女が寄って来るのだ。

 どうにかならんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスラン様がついに此方に向かっているとの情報が入ったわ」

 

 大きな教会の中は一枚のステンドグラスを除いて、全ての窓が布によって閉ざされていた。

 その教会の中には大勢の女性が黒いローブを被り、所狭しとひしめき合っている。

 教会の一番高い像の前に立つ女性が声高々に宣言する。

 すると、薄暗い教会の中は一気に色めき立つ。

 「静粛に!」その声により再び静まり返る教会。

 

「ついに救われる時が来た! 思えばネウロイがこの世界に現れて数十年。我々は苦渋を強いられ続けて来た。それも今日を思えばこそだ!

今こそ我らも立ち上がる時が来たのだ!!」

 

 そうだそうだ、とそこに居た誰もがその意見に賛同した。

 違う意見の者は最早ここには存在しなかった。

 

 此処に集う誰もがアスランを誰よりも敬い、

 

 誰もがアスランを信仰し、

 

 誰もがアスランを信頼し、

 

 誰もがアスランを思って居る。

 

 彼女たちの心は一つ。

 

「すべてはアスラン・ザラ様のために!!」

 

 ザラ派が集う教会の唯一明かりを通すステンドグラス、神の降臨が神々しく光っていた。



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問答

 船に揺られて何日が経過しただろうか?

 

 転移魔法を使えば一瞬。

 

 扶桑からセイバーで移動すれば2時間から3時間半の旅路をこれだけの日数かけて旅してる。

 暇を持て余している。

 

 暇だから甲板で釣りしてたら章香に怒られた。

 確かに、甲板を掃除したりしている人が居たりしたので、不謹慎だったかもしれない。周りも注意しようにも俺の方が階級上だから注意できない。

 こういう所も気を付けなければならない。

 だからと言って何か手伝おうとすると、それもそれで、遠回しにその行動を周りに強要してるようなものだから手伝いもできないしね。

 

 この世界の書物は俺の肌には合わなかったので、シュート・イベイションや仮想空間で魔法の練習していたが、セイバーが少しは休めと強制終了させられた。

 

 歌うにも日がな一日歌うのは流石にできない。これが1日、2日だったら一人カラオケ気分で歌えるけど、旅立ってから早2週間。もうそんなテンションは残っていない。後、何日で目的地にたどり着くんだっけ?

 

 安全ルートで近道を迂回して回っているから余計に時間かかるんだよね。

 

 一人だけ先に飛んで行くわけにもいかないし…、アフリカ戦線に参加でもするか?

 何か砂漠の風作戦だっけ? 違う、それはガンダム。

 

 暇でごちゃごちゃになる思考を整える。

 

 よくよく考えてみれば、アフリカ戦線とて、常にドンパチやっているわけでは無い。

 セイバーが俺に伝えてこないという事は、今はネウロイは出ていないということだ。

 

 まぁ、軍人が暇なのが一番だ。それだけ平和と言う事だし。

 これから戦地へ赴くわけだし、この暇は差し詰め、戦場に入る前の羽休めと言った所か?

 

 体を休めるのも軍人の務めだな。

 

 …、昼寝でもしよう。

 

 

 

 

 

 これは夢か、これが夢か…、

 

 ウィッチ達が血を流して戦っている。

 それが、前の世界での魔法少女達の戦いみたいで見てて非常に腹が立つ。

 それが、インキュベーターの仕業でないことを思うと少しは気が紛れるが、丁度前線に居るウィッチ達が魔法少女と重なって見える。どちらもそう歳の変わるものでは無い。

 胸くそ悪いな、そう思った。

 

 少女達は戦っていた。

 

 俺も銃を手にしt…、

 

「待て」

 

 良く知った声が耳に届く。

 

 アスランの声だ。

 

「もう何もしなくてもいい、彼女達なら自分で戦っていける。それとも自分だったらあの悲劇を無くせるとでも言いたいのか!?」

 

 少し怒気を孕んだ声が腹の底に響く。

 

 確かにアスランの言う通りだ。

 でもこの光景を見て遠い昔、前、前世で夢見た輝き。

 

 手が届かなかったからこそ、輝きが増して見えた。

 誰かを理不尽なことから救ってみたい。

 

 勿論、そこに邪な思いが全くなかったかと言うと嘘になるが、根底にあった物だ。

 

 何時だって俺は非力だったから。

 

 だから、俺は力を持ちながらも優しくあり続けようと足掻き、もがき、苦しむアスランになった。

 他人から何を言われても、その根底だけは失わなかったアスランに憧れて。

 

 神様はそんなことで良いのかと驚かれたが、これが良かった。

 

 だけど、アスランになったからって、力を神様から貰ったからって、世界の理不尽は無くなることは無くて、

 

 転生して伸びきっていた鼻を思いっきりへし折られた。

 

 だから、

 

「思ってないさ。確かに最初は救えると思ってたけど、それは、傲慢だ。実際に被害は減らせても、零には出来なかった。それが現実だって、痛いほど思い知らされた」

 

「だったら!」

 

「ありがとう、優しいんだな、知っていたけど」

 

 口下手で、不器用なりに俺に声をかけてくれたアスラン。

 

 戦い傷ついた俺を心配してくれているのであろう。

 

 確かにこの先、幾度挫折するかわからない。

 後悔だって山のようにするであろう。

 

 そんなの、突き当たった時に考えるさ。

 

 良くも悪くもそれがアスランだから……、

 

「俺は戦うよ。何もしないで後悔するよりも、何かして後悔したい」

 

 それに、どんな道を選んでも後悔の二つや三つ必ず出て来る。

 

「それが罪を濁すためのものだとしてもか」

 

 アスランになったからわかった、アスランが背負っていた罪の重み。

 それでも、

 

「戦ってでも護らなきゃならない物がある」

 

 オーブ防衛戦でディアッカと出した一つの答え。

 

「…、良いんだな?」

 

「ああ、罪の意識からじゃなく、俺個人の意思で背負っていく」

 

 そう言って今も戦い続けているウィッチ達の元へと駆け出す。

 

「まて、選別だ、持って行け」

 

 そう言われると銃を持っている手とは逆の手に何か握っているのに気が付く。

 自然と口がニヤリと歪むのがわかった。

 

「ありがとう、セイバー。行こう!」

 

 そう言うといつの間にかセットアップ状態になっていた。

 

 しかし、何時ものセイバーと違い、本格的な騎士の姿になっている。

 

 呼び名を改めねばならないな。そう思うと意識が浮上する。

 

 

 

 

 

「知らない天井…、ではないな」

 

 目覚めて第一声がそれだった。

 なんだか大事な夢を見た気がする。

 思い出そうにも霞がかって思い出せない。

 

 体を起こし、時計を見る。

 もうこんな時間か、ずいぶん長く寝てしまっていたようだ。

 

 今までの疲れでも出たのだろうか?

 本当は栄養ドリンクでもあればいいのだが、無いのでラムネでも飲んでおこう。



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リバウ撤退戦

 そこは地獄だった。

 

 かつてないほどのネウロイの軍勢との超大規模な総力戦となっていた。

 

「第一、第二防衛ライン突破されました! 司令!」

 

「わかっている! 扶桑の鬼神はまだか!」

 

「現在空母でアフリカ中部を北上中との事! 間に合いません!」

 

「くそっ、民間人の避難を優先させろ、リバウは放棄する!」

 

 その言葉に誰もが息をのむ。

 

「っ! 駄目です!敵の進行が予想以上に速く、民間人の避難がに追いつきません!」

 

 怒号のやり取りは続く。

 

「陸軍ウィッチを避難に回せ、空だけで持たせろ!」

 

「それでは戦線が維持できません!」

 

「クッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランは焦っていた。

 

 普段ならば転移魔法で移動しているが、扶桑事変のように此方にも大量のネウロイが襲撃をかけて来たのだ。

 このことから、ネウロイが少なからず個々での連携は取れずとも、大まかな意志を持っていることは確かだった。

 

 セイバーの調整が進み、新たな力、インフィニットジャスティスが使えるようになった今、パワーで押し負けることは無いが、接近にある程度特化したジャスティスでは、数で来られると迎撃に時間がかかる。

 

 ある程度、数を減らした時点で、章香達に押し付k…、任せて来たが、それでも、リバウでネウロイが現れてからそこそこの時間が経ってしまった。

 

 セイバー改めジャスティスから現場の状況をサーチャーで見ていたため、リバウの壊滅を目の当たりにするしかできなかったことに舌打ちをする。

 

 

 そして、リバウへ。

 

 上空へ転移してから、改めて戦況を確認する。

 

 この戦闘、俺が参戦したところで立て直しは不可能だ。そう、頭の冷静な部分が判断する。できるのは、どれだけ被害を減らせるか。

 

「こちら、扶桑海軍所属のアスラン・ザラだ。司令部応答を願う」

 

 繰り返す、そう言って居たら相手からのコンタクトが取れた。

 どうも、此処から巻き返しができると思って喜んでいる所水を差すようで悪いんだが、それは不可能だ。それを伝える。

 

「戦線を援護する、今のうちに撤退を!」

 

 そう言いながらビームライフルを撃って小型ネウロイを撃破していく。

 

 クソッ! きりが無い。

 

 各々バラバラに街に進行していたネウロイ達が此方に向かって一斉攻撃をして来る。

 

 瞬時に一番近くに居る大型ネウロイに、楯に内蔵されているワイヤーアンカーで捕まえ、引っ張ってそれを盾にする。

 

 盾になった大型ネウロイは容赦ないネウロイ達のレーザーの雨により、なすすべなく消滅していった。

 

 ビームサーベルを抜き、コアのみを的確に切り裂く。

 

 フリーダムのように接近して、一気に抜刀術で倒す。

 

 ファトゥム-01を射出して遠隔操作で強引に道を作る。

 

 最前線で孤立しているウィッチ(少女)達が居る。今は彼女たちの救出が第一だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処を持ちこたえれば何とかなる!」

 

「無理よ美緒! 囲まれたわ!」

 

「そうだよ、美緒ちゃん!」

 

「しかし、何とかしなければ基地が、民間人が巻き込まれる!」

 

 そうして少し目を離した。その一瞬のスキが戦場では命取りになる。

 坂本美緒の目の前にネウロイが突っ込んで来た。

 

「なっ」

 

「美緒!」

 

「美緒ちゃん!!」

 

 今からシールドを出しても間に合わない。

 此処までか…、そう思いながらも、せめて、己を殺す敵の姿を見続けようと睨みつける。

 意味など無い事を知っていてもやらずには居られない。

 

 次の瞬間、緑色の光線が突撃して来たネウロイを貫き、ネウロイが消滅する。

 

 頬けていると何かが目の前を通り過ぎて、囲んでいたネウロイが消滅する。

 

「久しぶりだな、美緒、醇子」

 

「大師匠…、」

 

「先生!」

 

 安堵感から久しぶりに涙が出て来た。

 

「…、悪いが泣くのは、この戦いが終わってからだ」

 

「はい」

 

 言われたが涙が止まらなかった。ミーナは驚いた顔をしていて、醇子は苦笑いをしていた。

 

 大師匠が気を使って頭を撫でてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久々に会った孫弟子の美緒は、たくましくなったと思って居たが、最後の最後で泣いてしまう辺り、中身は変わってないらしい。泣き虫な後ろ姿とか。それがキラに重なって見えたからか、頭を撫でてあやそうとする。

 これだからアスランは腐女子に人気なんだろうな、そう考えてしまう。

 

 ともあれ、今はこの状態をどうにかしないとな。

 

「…、このまま戦線を維持する」

 

「そんな、幾ら先生でもこの数のネウロイを相手にするのは無理ですよ!」

 

「そうよ、無茶だわ!」

 

 無茶なのは百も承知の上である。あと、全然関係ないけど最後の子、ラクスと似た声だったな。まぁ、ミーヤと言う前例があるし。まぁ、ミーヤは中の人は一緒だけど。

 そのうち、歌姫とかになるんじゃないかね?

 

 っと、話を戻そう。

 

 何か右手で不幸な男を思い出した。

 

「なら協力してくれないか? 皆で笑って帰るって言うのが俺の夢だ…、だから」

 

 勿論、俺が全力でフォローするからと付け加える。

 

 そう言うと少し考える美緒と醇子以外の残りの一人は少し考える仕草をした後、渋々と頷いてくれた。

 

 そうと決まれば、そう口にして、ジャスティスに無事な武器庫の中から使えるだけの武器を近くに大量転移する。

 前の世界のマミの魔法のパクリ。まぁ、マミみたいに勝手に連射とかできないんだけど…。

 

 念話で皆の銃の残弾をジャスティスに確認して貰って、無くなり次第マガジンを転移魔法で補充、または、すぐそばに銃を転移することは可能かどうか聞いてみる。

 

(可能です、マスターは私を何だと思って居るのですか? マスターの、貴方だけの、唯一の相棒にしてデバイスですよ! 貴方が望むのを叶えるのが私の務めです)

 

 忠義心が強いというか、若干怖い発言してるよ。頼もしくはあるけど……、こじらせないでくれよ。

 

(それよりも、何を歌いますか?)

 

 いや、流石にこの状況では歌う余裕がないだろう。

 考えを察したのかジャスティスは

 

(良いから歌ってください。それが士気向上に繋がります!)

 

 確かに俺の歌う歌はバカ売れしていたけど、それ程の物なのかね?

 どうしてもそうは思えない。

 

 ……、思えないけど、相棒が、何時でも俺の事を第一に考えてくれる俺の剣が無駄な事を言うはずがない。俺も信じてみよう。どうせ、この状況で勝利はできないんだ。歌ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、私の歌だった。醇子でもミーナでもない。師匠でもない。

 

 強さの真の意味を解らないで居た頃の私。

 迷い、惑い苦しみ抜いた事があった。

 

 だが、仲間ができたから乗り越えられた。

 

 そして、告げている。常に強くあろうとしていた私に、弱さをさらけ出してもいいのだと。

 

 だが、心だけは夢だけは決して汚してはいけない、と。もとより、自分が天才であるとかうぬぼれた事は一度として無い。誰にでもついている普通の平凡な手だ。

 その平凡な手でも絶対に突き出す事、それを忘れないのならば。

 

 惨めでも、無様でも立ち上がることができるならば、天は私達に味方する。

 

 だから、自分自身の勇気を問え、決意を持て。それが私の剣だと。

 

 

 前を見る。

 ネウロイの群れが大師匠に集中している。

 これだけのネウロイ相手に勝てるはずがないと、此処にいる誰よりも一番わかっている人が、一番最前線で戦っているのだ。これ程頼もしいものは無い。

 

 心に強い火が燈る。

 

 大師匠に貰った大事な魔眼殺しの眼鏡をはずし、大事にしまう。

 

 無線で歌が聞こえているらしく、ウィッチ達が立ち上がり始める。

 

 

 

 

 

 

 その後、リバウ撤退戦は被害も少なく大成功を収める。特に殿で大活躍した美緒、醇子、ミーナ、アスランは軍から大手を振るっての感謝状と、勲章授与式が開かれたが、アスランはこれをすっぽかしてしまう。



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それぞれの思い

 勲章授与と感謝状の式典に、遂にアスランは現れなかった。

 

 記者達と軍上層部は肩を落とし、醇子は不貞腐れたような顔をし、美緒はがっかりしつつも、どこか嬉しそうであった。

 

 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは心ここにあらずと言った所だった。

 

 本来なら護るべき存在である男。

 

 ミーナはアスランに合うのはこれで二回目だ。

 

 一回目は第五次カールスラント防衛戦でクリスちゃんと一緒に助けられた。

 二回目はリバウ撤退戦で協力を求められて、最終的に助けられた。

 

 完成された美が目の前に騎士甲冑をまとって飛んでいた。

 

 思い出すのは協力を求められた時のこと。

 

 自分はあの場から撤退することを考えて居た。それが、戦術的に最も最適な判断だったと自負している。だが、男はこの場に留まることをお願いして来た。

 

「なら協力してくれないか? 皆で笑って帰るって言うのが俺の夢だ…、だから」

 

 そう言いつつ穏やかな顔付きで言ってきた。

 とてもではないが、これから戦場に向かう人の顔では無かった。

 

 一回目は男だからと自分の気持ちに蓋をしてごまかした。

 

 だが、二回目はそうはいかなかった。自分にとって大切な人とわかった。とてもごまかしようが無かった。

 

 そこからは護られてばかりの戦いだった。

 

 自分たちに向けられた攻撃は全て騎士の持つ楯に弾かれ、即席の連帯とは思えないほどに戦いやすかった。

 

 これが護られながら戦うという事。

 

 普通なら味わえない感覚に酔いしれていた。

 

 どんな手品かは知らないが、銃弾が尽きれば手元に新たな銃が現れる、それに、あれだけの大規模戦闘にも関わらず魔法力が尽きることも無かった。

 

 何と言うか、常に満たされているような不思議な感覚であった。

 

 このまま、戦線を巻き返せると本気で思った位だ。

 

 あんなに安心して戦えたのは初めてだった。

 戦場に響く勝利の歌も聞いた。

 

 最初に安心して戦えると言ったのはバルクホルンとマルセイユだっただろうか?

 

 今ならその気持ちが痛いほどにわかる。

 

 クリスちゃんと一緒に居た時の比ではない安心感と高揚感。

 

 それが、まだ胸に残り、その火は時を置くごとに強く激しく燃え上がる。

 

 ああ、できれば、もっと話をしてみたかった。頑張ったなと、美緒みたいに頭を撫でて欲しかった。

 頭の中はその思考でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 醇子は拗ねていた。

 あの場で歌われた歌は美緒ちゃんの物だった。

 それは、あの場で美緒ちゃんが泣きじゃくってしまったから、あやすために歌って居るのはわかりきったことだったが、羨ましいものは羨ましいのだ。

 

 私も刀を使ってみようかな? と思うが、美緒ちゃんに敵うとは思えない。

 

 結局のところ、親友である坂本美緒が羨ましかった。先生にあんな風に歌ってもらえたことが。

 

 だから、せめて、一緒に戦ったことを褒めて欲しかった。それは、式典の時に叶うものだと思って居た。

 でも、先生は式典には出てこなかった。

 

 わかっている。わかっているさ。今回式典に出なかったのは私達を目立たせるためだと。自分では無く私達が挙げた戦果にするために。先生はそう言う人だから。

 だからこそ、4人そろって式典に臨みたかった。

 先生と一緒に戦えた事が誇らしくて、たまらなかった。そこで美緒ちゃんみたいに優しく頭を撫でて欲しかった。ザラ隊の時のように不器用ながらも「良くやったな」って言って欲しかった。

 

 

 このまま戦い続ければ私の事も歌ってくれるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったのか? すっぽかして…、後でどうなっても知らんぞ」

 

「俺はオラーシャ軍でも、カールスラント軍でもない。扶桑海軍少将、アスラン・ザラだ。ライセンスだってある。それに、今回頑張ったのは美緒達だしな」

 

「ハハハ、お前の謙虚な所、嫌いではない」

 

 そう言うと章香は俺の隣に座る。

 

 俺はと言うと、次の日の新聞に目を通していた。

 

 何と言うか、どこで撮られたのかわからないジャスティスをセットアップした俺の姿が一面の九割、美緒達の活躍が一割程度だった。

 こうなるのが嫌で式典すっぽかしたのに意味がない。

 

 はぁ、と溜息が出る。

 

「溜息をはくと幸せが逃げるぞ?」

 

 …、俺思うんだけどよ。その理論、反対なんじゃないかって。幸せが逃げたから溜息をはくわけだし。口には出さないが。

 

 章香は美緒と醇子の所を見てどこか満足そうであった。

 俺なんかと違い、自ら鍛えた弟子だから、今回の活躍、内心喜んでいるに違いない。

 

 まぁ、口にしたところで「私の弟子なんだからこの位当然だ」とか言いそうだが。

 

 ところで章香、近い。めっちゃ近い。

 

 あ、良い香り…、ごめん、豆腐の角に頭ぶつけて死んでくるわ。

 

 ただでさえ、灰色の青春のトップをアクセルべた踏みでかっ飛ばして来た俺には、毒以外の何物でもない。

 そのたわわに実った二つの果実をもみしだく…、ごめんなさい。俺にそんな度胸無いわ。

 そこ! チキンとかヘタレとか言わない。

 

 しょうがないじゃん、前の世界では恋愛何てしている余裕がなかったんだから。それは、アスランになる前もそうだった。

 

 

 俺は章香に新聞を渡すと立ち上がる。

 

 ネウロイに襲われたとは言え、後、数日で船生活ともおさらばだ。

 本当は俺一人で先にカールスラントに行こうとしたんだけど、後で章香に何言われるかわからないので戻って来た。

 

 さて、何して時間を潰そうかね?



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近況

 扶桑を出発してから約50日。

 ようやく目的地に到着。

 

 降りて来た船員の女の子や女性は「丘だ~!」とはしゃいでいる。

 

 どうでもいいが、女の人が丘だと喜んでいるのを見るのは新鮮なものだな。

 

 そう言えば俺、何にも考えずに最初に降りちゃったけど、降りるのって順番が決まってなかったっけか?

 

 後で怒られたりしないよね…、

 

 

 

 

 さて、現実逃避はやめよう。

 

 降りた先の港には観艦式並みの人が存在しており、軍人が直立不動二列横隊敬礼しながらずらーりと並び、歓迎の演奏も流れている。

 

 中央にはこれまた敬礼をしたカールスラント軍上層部だと思われる人物たちが居た。

 

 その中を俺に向かって歩いてくる人物が居た。

 

 アドルフィーネ・ガランド少将だ。

 

 俺の前で止まり、敬礼をすると口を開く。

 

「遠路はるばるようこそカールスラントへ。アスラン・ザラ少将。貴官の到着を心より歓迎するものである」

 

「貴官らの歓迎に我々扶桑海軍一同を代表して最大の感謝を」

 

 そう言って敬礼をした後、手を降ろし、握手を求める。

 

「すまない、よろしく頼む」

 

 そうすると、ガランド少将は笑いながら握手に答えた。

 

「此方こそ、よろしく頼むぞ、アスラン」

 

 そうすると周りが一斉に沸いた。

 シャッター音は絶えず鳴り響き、演奏はより一層凄くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掴みは上場と言えた。

 

 アスランは両国の仲を保つために握手を求めたが、カールスラント軍は違った。

 

 カールスラント軍から見れば、そこの場面では返礼をするだけで良かったのだが、アスランが自分から握手を求めたという事は、カールスラント軍に大きな信頼を置いている、或は期待を示しているという事だ。扶桑海軍に付け入るスキは十分にあると判断したのだ。

 

 また、今回の握手は政治的にも大きな意味を持つ。

 

 今まで独占されていた世論を此方も受けることができる。

 

 何せ、”アスランから握手を求めた”からだ。

 

 このままうまくいけば、引き抜きも絵空事ではないと思ってしまうのも無理ないだろう。

 それを抜きにしても、人類史始まって以来の未知の敵であるネウロイに対抗できる男の生きる大英雄だ。

 そんな人物が自軍に借り所属とは言え、所属することで士気はうなぎ登りだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてここに第500試験統合戦闘航空団、通称赤枝ウィッチーズが誕生した。

 

 正確には独立統合航空団の試験運用チームであるが、もう幾つかの統合航空団が名乗りを挙げており、それらの総監督も務める。

 

 

 第500試験統合戦闘航空団の戦果はめざましい物だった。

 

 一年後、第500試験統合戦闘航空団は、正式に500統合航空団に認定される。

 

 それと同時に501統合航空団、通称ストライクウィッチーズが結成。

 

 500統合航空団は結成された501の後ろ盾になる。

 

 当初の予定通りアスランは名乗りを挙げた501統合航空団、後に続く502統合航空団の総監督に就任、アドルフィーネ・ガランドは副監督に就任する。

 

 召喚命令にて一時帰国し、北郷章香は大佐に昇進。

 

 アスランも昇進の話がでていたが、昇進を蹴ってカールスラントへ。

 

 扶桑海軍はアスランがカールスラントに引き抜かれるのを恐れ、再び北郷章香にアスラン・ザラの監視兼観戦武官としてアスランと共にカールスラントに戻る事となる。

 

 北郷章香がアスランと共に戻ってきたことにアドルフィーネ・ガランドは北郷章香を挑発、喧嘩になりかけたが、アスランからの拳骨制裁で終わる。

 

 二人の仲はそんなに良くないが、戦闘では良いコンビネーションを見せる。

 

 最も最近は戦線に出るよりも書類との格闘と、軍上層部との喧嘩が多くなっている。

 とは言え、重大な事はアスランの鶴の一声で通っているが。

 

 アスランも中規模戦闘以下の戦闘には参加しなくなった。次世代を担うウィッチの実戦経験を積ませるためだ。

 

 歌は相変わらず歌い続けている。何処の国でもアスランの歌は愛され、ラジオに雑誌に引っ張りだこだ。

 

 戦場で歌う闘志を掻き立てたり勇気をくれる歌と、平時に歌う恋の歌、郷愁の溢れる歌、そのギャップはますます人々を引き付けた。



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模擬戦

 501部隊は見学をしていた。

 

 500部隊、その隊長たる扶桑の紅き鬼神と扶桑の軍神の模擬戦を。

 

 ゴクリッ、

 

 誰かが生唾を飲む音が聞こえた。

 

 二人して向かい合っていて、まだ始まっても居ないのに空気は重く、殺気がピリピリと伝わって来る。

 

 坂本美緒は何時もと変わらない姿を見せているつもりだが、持っている扶桑刀が振るえ、カチカチと音を鳴らしていた。

 

 これでも氷山の一角でしかないと思うと自分はまだまだなのだなと思う反面、流石は私の師匠たちだと誇らしく思う。

 

 そんな師匠たちの模擬戦で習う事がない筈がない。だから、一時も目を背けないように自身を奮い立たせる。

 

 

 

 

 

 先に仕掛けたのは章香だった。

 

 模擬戦と言えど手を抜くつもりはない。

 

 手加減何てできる相手ではないし、そもそも章香に取っては、初めて試合をした時よりも、自身がどれだけ強くなったかを知るための物だった。

 

 一刀目は首を跳ね飛ばすつもりで刀を振るった。

 

 二刀目は心臓を貫くつもりで突きを放った。

 

 三刀目は足を斬り裂くつもりで薙ぎ払った。

 

 扶桑に伝わる伝説の天才剣豪。その人物が地に着いた状態で空を自由に飛び回る燕を斬り落とそうと編み出した一つの剣の境地。

 

 名だたる剣豪の中でも高みに、頂に辿り着けた者のみが使うことを許される秘剣。

 

 一瞬遅れて金属同士の交わる音が響き、火花が散る。

 

 金属同士の交わる音は加速する。

 

 そこで音楽が鳴り始める。

 

 歌が始まる。

 

 あの時の歌だ。

 

 まだ、歌う余裕なんかあるのかと思うと同時に、そう来なければな! と闘志を燃やす。

 

 剣戟で汗と言う名の飛沫が上がる。火花が駈ける。

 

 舞う舞う、剣の舞。それは舞姫のようで玉響に。影だけが思い思いに動き、最後に背中を合わせになる。腰の所で刀同士がぶつかり合い、火花を散らしながら鍔迫り合いをしている。

 

 どちらからともなく、同時に走りだし、距離を取る。

 

 再び向かい合う。刀は弧を描く。影は伸びたような錯覚すら見せる。

 

 最後は抜刀術での勝負。二人の距離は吸い寄せられるように縮まり重なり合う。

 

 刹那、

 

 ひときわ大きい音が響き、火花が散る。

 

 歌が終わる。幕引きだ。

 

 章香は大きく息を吐きながら両手を見る。

 

 痺れる両手には、半ばから綺麗に折れた刀身が握られている。

 

「また、負けか…、」

 

 笑いが込み上げて来る。

 

 自身が目指した存在はまだまだ遠い。だが、それでいい。すぐに追いつけてはつまらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アフリカ戦線でひと暴れしてから、帰ると章香から模擬戦やるぞと連行された。

 

 模擬戦だから竹刀でやるのかと思ったら真剣を渡された時に俺を殺す気かと口に出しそうになる。

 書類仕事回されて堪忍袋の緒が切れちゃったのかね? しゃあないやん、軍の人気取りしなきゃいけないんだし、俺のやらねばならない書類はちゃんと処理しているんだから。

 

 それじゃあ、気が済まないの? 何か501部隊のメンツもなぜかそろってしまったので、今更やっぱりやーめたって言えない状況に。

 図ったな章香!

 

 

 っと、おふざけはここまでにしよう。

 じゃないと本当に死ぬ。

 

 刀を抜き、構える。

 

 章香から殺気が放たれる。

 

 前回やった時からだいぶ成長したらしい。

 

 そう思って居たら合図もなく章香が斬りかかって来る。

 

 ちょっ、あぶな!

 

 章香から放たれる高速の三連撃を構えた刀で、

 

 弾き、

 

 いなし、

 

 そらす。

 

 いきなり燕返しかよ。

 

 章香がFateの方の燕返し使えてたら間違いなくここで命を落としていただろう。

 まぁ、此方にはジャスティスと言うこの世界ではチートと呼べるデバイスがあるから、弾けなかったり、危なくなったらプロテクションなり、シールドなり張ってくれるだろうけど。インテリジェットデバイス様さまである。

 

 それからしばらく剣戟の応酬が続いた後、ジャスティスからどの歌を歌うかを念話で聞いてきた。気のせいかも知れないが、念話に若干の棘があるような気がする。

 

 歌う歌はもう決めている。初めて章香と勝負した時の歌。剣戟の応酬にはこれが一番合うと思う。

 

(見事なクロッシングです)

 

 そう、ジャスティスは念話で伝えて来る。

 

 だろう?

 

 舐めプとか後で怒られないかな? 何か前にも同じこと考えたような気がする。

 

 最後は抜刀術で決着が付いた。恐らく、ジャスティスは大人げないほどに剣を強化してくれたのであろう。此方が抜刀術で負けることは無かった。

 

 折れた刃が回転して章香の前に刺さる。

 

ーの心。

 

 歌もきり良く終わる。

 

 これで気が晴れてくれれば良いんだが…、刀を鞘に戻しつつ章香に近づくと、何か「うふふ、ははは!」と笑い出したかと思うと大の字に倒れて、また笑い出した。

 

 まぁ、泣かれるよりは良いか。

 

 そう思い、空を見上げた。

 

 

 夕日で世界が優しいオレンジ色に染まっていく。昼間と夜の境界線。

 

 さぁ、今日も終わりだ。



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受け継がれた意志

 つかの間の平穏の中、アスランはガリアのとある研究所を訪れていた。

 

 通された部屋で待っていると、研究服を身に着けた少女が入って来た。何か501に同じ顔が居たような気がする。流石に同一人物だとは思えないため、その子の姉妹だろうと推測する。

 

「あの、これをどうぞ」

 

 そう言って紅茶の入ったカップを差し出してくる。

 心なしか差し出されたカップがカチャカチャと震えている。男慣れしていなくて緊張しているのか? しかし、研究所の研究員であるならば、男と接する機会は幾らでもあるし、今着てる研究服に下げられているプレートに書かれているのは間違いなく、宮藤博士直属の研究員だ。少なくとも宮藤博士には接している筈なんだが…、

 

 

 

 アスランは自分が世間でどう言われているかを知らないが故に仕方が無いが、世界的な英雄であり、特にカールスラントでは5度も国を救った生きる伝説である。そんな人物が目の前に居て緊張するなと言う方が無理な話だ。

 

 

 

「いや~、待たせてすまないね」

 

 そう言って入って来る藤宮博士。

 向かい側の席に座ると「そうそう、」と言いながら、

 

「彼女は私の助手でね、ウルスラ君、挨拶を」

 

 そう言う。

 

「あ、挨拶が遅れました、助手をしながら色々と学ばせて貰ってます。ウルスラ・ハルトマンと申します。姉がお世話になっています」

 

 そう言って頭を下げる。

 やはり、501のハルトマン少尉の親族だったか。確か最年少での少尉だったか? すげーな。にしても、501は基本的にアドルフィーネの管轄で彼女に一任してる。知ってるのは隊員の顔と名前と経歴だけだ。

 

 

 そう言えば、前にラクスと声が似てる隊長であるヴィルケ中佐は音楽学校志望だったんだって。やっぱり歌姫になるって、絶対。世界的な。俺が保証してやるよ。

 ってわけで、この世界の有名な音楽学校ジャスティスに探させよう。

 

 

 話がそれた。だから全然世話してねーんだわ。

 流石にそれを口に出すわけにもいかずに、

 

「いや、彼女には此方が世話になってる、気にしないでくれ」

 

 そう言って紅茶を一口口にする。

 確かハルトマン少尉は医者志望だったな。今度医学書でも送るか? 同じ医者志望芳佳にはの扶桑語に訳した奴渡してるし。

 

「優秀な子でね、武器なんかはこの子が手掛けた物が幾つか出回っているんだよ。今はストライカーユニットの事を学びに来てるけど、もうじき教えられることは無くなるから、これを期に君に会わせようと思ってね~。私よりも君の方が彼女も学べるものが多いだろう」

 

「み、宮藤博士!」

 

 あらかじめそのことを聞いていなかったのか、ウルスラは驚きを隠しきれずに声をあげてしまう。

 その事にはアスランも驚いている。

 

「君なら私よりも凄まじい知恵と知識を持っている。能ある鷹は爪を隠すとは言った物だ」

 

 全てを見透かしたような目でアスランを見る宮藤博士。その発言でアスランは心臓を握られたような感覚に陥る。

 

「ああ、他言はしないから安心してくれていいよ」

 

 この眼鏡やっぱり天才だわ。人を見る目も勘も。あ、眼鏡は二人いるわ。

 ややこしいんでウルスラと呼ばれた子に近くに来るように手招きする。

 

 手招きに動揺しつつも此方に近づいて来た。

 アスランは眼鏡を取るように言うと困惑しながらも眼鏡を取った。目の前に手を出すとアスランは回復魔法をかけた。

 両目とアスランの手が淡く光り数秒で光が消えた。

 

「あれ?、え!? 眼鏡をかけていないのにはっきり見える」

 

「今のは?」

 

 驚き、周りを見渡しているウルスラを置いて宮藤博士が問いかけて来る。

 

「ただの回復魔法ですよ、視力を回復させたんです。これから色々するのに目が良くて悪いことはありませんから」

 

 そう説明したら、「私にも頼めるかい?」と言ってきたので回復魔法を使った。そして眼鏡は居なくなる…。

 

「ああ、そうそう、忘れる所だった。本題に入る前に芳佳から預かり物があるんだった」

 

 そう言ってポケットを探った後に、手を差し出してくる宮藤博士。

 

「これを君にって」

 

 それを受け取る。

 

「お守り…、ですか?」

 

「ああ、もしかして扶桑のお守りを見るのは初めてかな?」

 

 その問いかけにアスランは「いいえ」と首を振った。

 

 アスランは芳佳に恨まれていると思って居た。そのため、こんな物を貰えるとは思っても見なかったのだ。

 お守りは手作りなのかやや不格好な物で、赤い刺繍で必勝と書いてある。

 

「愛されてるね~」

 

 そう茶化してくる宮藤博士に、アスランは心の中でそれは無いと断言していた。

 

 そもそも、芳佳から父親を奪ったのは紛れもないこの俺だ。

 

 そんな俺がこれを受け取る資格はあるのだろうか?

 

「確かに渡したよ」

 

 そう言う藤宮博士は、闇に返却は受け付けないと言っているようだった。

 

 アスランの脳裏には敵であるアスランにハウメアの護り石を渡してたカガリの事を思い出していた。

 

 もう誰にも死んでほしくない…、だったか? 優しい芳佳なら同じことを考えてそうだな。

 

「…、確かに受け取りました。芳佳にありがとうと手紙を書きますよ」

 

 そう言うと藤宮博士は何時ものような笑顔に戻り、「そうしてくれ」と返してくる。

 

「さて、本題に入ろうか。君も暇では無いだろう?」

 

 そう言って此処に呼ばれた経緯を話して一枚の設計図を広げられる。

 どうやら、ユニット開発に行き詰まり、俺に助言を求めて来たらしい。

 ユニット名は…、震電か。

 

 第二次世界大戦の兵器はあまり詳しくはないからな。

 

 そう思いながら欠点である燃費の悪さとコストパフォーマンスを考えて定理に書き加えていく。

 

 それを横からキラキラした目で見ながらメモを取っているウルスラ女史?

 

 俺が設計図に書き込めば書き込む度に、ウルスラの目がキラキラ輝いて若干やりずらいのですが…。

 

「こことここはこうして、ここは今までの量産型のパーツで代用できます。そうすればコストも今のからだいぶ安くなります。…、ただ」

 

 ジャスティスの助言もあり、サクサクと進んでいくが、どうしても乗り越えられない壁が存在した。

 

「ただ…、なんだい?」

 

「乗り手を選ぶ機体になるかと」

 

 そうなのだ。幾ら燃費を良くしたところで、持って行かれる魔力の絶対数は減らせない。

 

 そう言うと困った顔をして

 

「やっぱり君でもそこに行きつくか」

 

 という。

 もういっその事、カートリッジシステム導入するか?

 検討しておこう。将来性を考えると実装した方がウィッチ達の負担をだいぶ軽減できる。

 原理は魔道徹甲弾や、魔道三式弾とそんなに変わらないし。後は、どの位威力が上がるかの実験だな。俺、使った事無いからここら辺の事理解できないし。

 それと、機体がカートリッジ使用時に起こる瞬間的な魔力エネルギーに耐えられるかも試して安全確認しないとな。必要ならフレーム事取り換える必要あるし。後で宮藤博士に定理とカートリッジ渡しとこう。

 

 今後の方針を考えて、一息つくために冷たくなった紅茶を口にする。

 その時、ジャスティスから緊急回線で念話が入る。

 

(空母赤城がネウロイに襲われて戦闘に入りました。…、宮藤芳佳と見られる人物が交戦中です)

 

 は? 今なんて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坂本さんに誘われてブリタニアに行くことにした。

 軍は嫌いだ。

 私の大好きな物を何時も奪っていく。

 一時的に帰って来ていたけど、再び軍に連れて行かれた研究大好きで、ちょっと困った人だけど大好きなお父さん。

 軍人だけど偉ぶっていない、歌が上手で不器用だったけど、優しかったアスランさん。

 二人ともとても悲しい顔をしていたのを今でも忘れることができない。

 直ぐに帰って来ると言い残して遂に今に至るまで帰って来ることは無かった。

 だから、今度は此方から会いに行くことを決めたのだ。

 

 だが、甘かった。

 

 ネウロイとの戦闘に入った。

 初めて私から全てを奪っていく元凶を見て、何もできない自分がとてももどかしかった。

 自室で恐怖に震えていた時に思い出したのはお父さんとの約束だった。

 

 ――”その力で皆を護るような、立派な人になりなさい”

 

 それから、私は自室を飛び出て、甲板上に集められた人達を治療し続けたが、キリが無かった。

 魔法は元々得意では無かったけど、アスランさんに出会ってから、少しできるようになった。

 お母さんやおばあちゃんからもある日を境に、上達が凄いと褒められた。

 幼いながらに、これならば、お父さんやアスランさんが怪我しても私が治せる何て考えて居た物だ。

 

 だが、現実はどうだ?

 目の前には次々に運ばれてくる怪我人に追いつけていない自分の治癒魔法。

 

 大元をどうにかしないといけないと思った。

 

 唐突に思い出したのは坂本さんが使っていた空を飛ぶための”物”。

 

 あれを自分が扱うことができれば……、

 

 そう思い、包帯を取って来ると嘘を付いて格納庫に走った。

 

 

 

「嘘、そんな…」

 

 思わず膝をついてしまう。

 格納庫には甲板で次々に飛び立った人を乗せて空を飛ぶ機械はあったけど、坂本さんが使っていたようなものが見当たらなかった。

 私は誰も護れないのか…そう思うと涙が止まらなかった。

 

 お父さん、私何もできない――

 

 そう思った時だった。

 

 ウゥィーン!

 

 何かが動いている音が聞こえた。

 

 それは中央エレベーターが稼働している音だった。

 

 降りて来たエレベーターの上には坂本さんが使っていたのと同じ機械があった。

 自分の中で今一度聞こえて来る父の言葉。

 

 ”その力で皆を護るような、立派な人になりなさい”

 

 ――うん、皆を護るよ  お父さん

 

 靴を脱ぎ棄て機械に足を入れる。

 不思議な感覚が体にはしる。

 

 それと同時に再び甲板に向けてエレベーターが動き出す。

 

 

 

 

「宮藤芳佳! 行きます!!」

 

 そう口にして甲板を滑り大空へと飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外と平気そうだな。

 サーチャーを通して芳佳の行動を見て、そんなことを思ってしまう。

 

 なんか美緒も付いてるし。あいつ、扶桑に戻ってたんだ、そうならそうと言って欲しかったんだけど。

 

 それに501も出撃してるみたいだし。

 

 501には空母赤城を守るように言っとこう。

 

「此方500所属、扶桑のアスラン・ザラだ。空母赤城、応答願う」

 

 二回続けて呼びかけたところで、ジャスティスが通信を拾う。

 そのまま、艦隊には南に舵を取るように指示出して、俺は芳佳と美緒回収ついでに敵を屠ることにしよう。

 

 扶桑に戻ったら提督デビューしようかな?

 海軍所属になったのに艦隊の指揮やったことないし。

 

 そのためには、勉強しなきゃダメなんだけどさ…。

 

 最初はやっぱり、見張り員とかから下済みしつつ勉強かな。

 参謀服着てるけど見張り員やってて大丈夫かな? でも、階級を盾にして艦隊の指揮を執ったって付いてきてくれる人いないだろうし。

 

 あれ?

 今、艦隊に対して指示出してね? 俺。

 

 …緊急時だから仕方ない。艦隊の皆さん指示聞いてるかしら?

 

 そう思い、サーチャーで確認するとちゃんと南に艦隊を移動させている。

 

 それに安心してビームライフルの引き金を引く。

 

 長距離射撃になるけど、ジャスティスからここからなら届くって念話があったからさ。

 

 美緒達の援護になれば、当たんなくてもいいやと言う軽い気持ちで二回目の引き金を引くと、現場で一体ネウロイの消滅が確認できた。

 なんだ、俺出ること無かったじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネウロイとの戦いは一進一退を繰り返していた。

 

 やはり、守りながら戦うのは難しい。

 

 守りながらの戦いはこれが初めてというわけでは無いが、どうしても慣れない。

 

 今までは困難に撃ち当たる度に大師匠が駈けつけてくれた。

 

 だが、今回は一人で守りも攻めもやらなければならない。

 それを、大師匠は何時も一人でやっていた。

 

 改めて思い知る、大師匠の偉大さ。

 

 救援の合流まで20分。

 それまでは何としても持ちこたえなくては…、

 

 それでも自身を守ることで手一杯に陥る。

 

 ネウロイは相も変わらず、こちらをもてあそんでいるかのような行動をとり、更に一体増えた。

 

 万事休す、か。

 

 赤城も総員離艦命令が下りる所だった。

 

 インカムから聞こえたのは悲鳴や苦しむ者達の絶望の声が聞こえて来る。

 

「宮藤芳佳! 行きます!!」

 

 そんな時だった、声が聞こえたのは。

 

 赤城を見下ろす。

 

 甲板には大きな魔法陣が浮き上がっている。

 無茶だ、そう口にしようとしたら宮藤は見事な弧を描き此方に飛んでくる。

 

「ば、馬鹿な。訓練無しで飛ぶだと!」

 

 思わずに口から言葉がもれる。

 

 その一瞬の隙にネウロイが艦隊に攻撃を仕掛ける。

 

「しまっ!」

 

 た…、そう口にした時、宮藤が攻撃の間に入り込みシールドを展開する。

 

 とてつもなく大きなシールドだ。

 

 あれが宮藤の潜在能力…、面白い!

 

「宮藤! 私の後に続け! あれはコアを破壊しなければ倒せない。私が敵を引き付ける。お前はその間にコアを破壊しろ!」

 

 そう言いながらコアのある大まかな位置を刀で指し示す。

 

 そのまま刀を構えて突撃する。

 

 ネウロイは二体いる。早々に一体を片付ける必要がある。

 そうしなくては此方が持たない。

 

 刀を振り払うと同時にもう一方のネウロイに攻撃され、真っ二つにするはずだった敵ネウロイの片翼を斬り落とす。

 

 っち、後ろのネウロイが攻撃して来て、刀では狙いが定まらない。

 しょうがないので、銃を構えて撃つ。こっちは余り得意では無いのだがな、贅沢は言ってられない。

 

 眼鏡を外して常時コアが見えるようにする。

 

 コアは……、あそこか!

 

 しかし、ネウロイたちの攻撃が激しくなる。

 

 本番はここからと言うわけか。

 

 そこからネウロイ二体による集中砲火を受ける。

 

 クソッ、これでは此方も動けない。

 

 宮藤も初戦闘という事もあってか、疲れが見え始めている。無理もない、か。訓練も鍛錬もせずに初飛行でこれだけ戦って見せたのだ。才能は底が知れない。

 

 そろそろストライクウィッチーズが到着する頃合いだ。本当に凄い奴だよ。

 

 

 

「此方500所属、扶桑のアスラン・ザラだ。空母赤城、応答願う」

 

 大師匠からの通信だ。

 インカムを通して聞こえて来る。

 

「空母、艦隊並びに501は南進して合流、501は艦隊の警備に当たれ。美緒は芳佳を回収しろ」

 

「待ってください、大師匠。このままではネウロイを振り切れません!」

 

 そう、大型ネウロイ二体を振り切ることはできない。

 私と宮藤だけなら可能だが、その場合、南に舵を取り、海域を離脱しつつある艦隊を見捨てなければならない。

 

 大師匠が見捨てるなんてことをすることは無い。そもそも見捨てるならば501と艦隊に南進して合流するように命令するなどありえない。

 

 ならば、どういう意味だ?

 

 そう考えていると、敵一体のコアが消し飛んだ。

 

 一瞬見えた緑色の閃光に大師匠の攻撃だとすぐにわかった。

 

 振り返ると、もう一体のネウロイも消失した。

 

 それを見た宮藤は緊張の糸が途切れたのか、意識を失い落ちていくところだった。

 

 全く、お前には驚かされっぱなしだよ、宮藤。

 

 そして、辺りを見渡す。

 

 大師匠の姿は確認できない。しかし、あの攻撃は、自分の知る限り大師匠しかできない攻撃方法だ。

 自然に浮かんだのは、長距離からの狙撃。

 大師匠は狙撃攻撃は得意ではないと言っていたのだが…、得意でなくてこれか…。

 師匠もそうだが、大師匠の背中はまだまだ遠いらしい。

 

 言われた通りに宮藤を回収して南進離脱した艦隊に合流するために移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コア破壊かっくにーん」

 

 ルッキーニが威勢よく言う。

 

「こちらも確認した。ネウロイ撃墜、戦闘を終了する。引き続き艦隊を護衛する」

 

 皆に指示を出すバルクホルン。

 

 そんな中話題は未だに姿を現さない。500部隊隊長、扶桑の紅き鬼神の話になる。

 全然視認できない位置からの攻撃。必然的に超長距離からの狙撃だと判断された。

 

「…」

 

 リネット・ビショップは未だに姿が見えない500部隊の隊長であるアスラン・ザラの事を考えて居た。

 

 男の人で、しかも隊長さんで世間では英雄と言われていて、英雄の名に恥じない戦いをした。一瞬にして敵大型ネウロイ二体を倒してしまったのだ。自分と同じ狙撃をして、だ。

 やはり、自分がこの部隊に居るのが場違いに思えてならない。




あれ? ペリーヌが一言も喋ってない…だと。

一応バルクホルン達と一緒に居ます。

少佐が宮藤抱えてて叫んでんじゃないかな?


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501部隊―ストライクウィッチーズ―

 戦闘が終わり、美緒と芳佳は501部隊と合流した。

 

 戦場となった海域には空母を護衛していたであろう駆逐艦2隻が大破炎上している。

 

 それを複雑な思いで見つめるアスラン。

 

 乗組員は脱出したのか生命反応は無かった。

 

 そう、生命反応は…

 

 アスランの良い目は艦に取り残された無数の人影を捉えていた。

 もうみんな生きてはいない。

 

 なんだかなぁ。

 

 普通なら敬礼して沈むのを見届けるんだろうけど、そんなことはできなかった。

 

 サーチャーを飛ばし、艦内部をくまなくサーチする。

 生きている人はもういないけど、せめて、遺体だけでも収容できればと思っての行動だ。

 

 不幸中の幸いとでも言えば良いのか、2隻とも弾薬庫には火の手は回っていない。

 

 誘爆しないうちに、弾薬、魚雷を全て転移魔法で海に捨てる。

 

 

 一人で行う消火作業。

 

 もう、生きている人間がいないためか虚無感が体を支配している。

 

 

 消火活動は30分位で終了した。

 

 

 一隻は主砲に楯から伸ばしたワイヤーアンカーを引っかけて、二隻目はチェーンバインドで縛って牽引する。

 

 どうでもいいけど、サイズが変わってもモビルスーツと同じ馬力が出せて助かった。

 転移魔法で遺体だけ持ち帰るのも考えたけど、身元確認もあるし、芳佳に遺体だけ見せて発狂されても困るからな。

 

 ああ、芳佳たちを先に飛んで行かせればいいのに今更気が付いたわ。

 

「501は帰投しろ、艦隊の護衛は俺が引き継ぐ」

 

 美緒と、何故か芳佳がごねたが、命令だと言ったら大人しくなった。

 

 

 

 ……で、

 

「何でここにいるんだ、美緒」

 

 艦隊に合流した時に、何故か艦隊の直上警備してる美緒。

 

「命令違反です」

 

 開き直り胸を張る美緒。

 こうも堂々と開き直られると清々しさすら感じるな。

 

「芳佳たちは?」

 

「バルクホルンに任せて帰らせました」

 

 あれ? 少し機嫌悪いか? いや、不機嫌なのは俺もだけどさ。

 

 もー、なんなのさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の大師匠はやたらと宮藤のことばかり口にしている。

 どうして、宮藤が居ることがわかったのかは知らないが、今はそんなことどうでもいい。

 確かめたいことは大師匠と宮藤の仲だ。

 宮藤は大師匠のお嫁さんを自称していたが、まさか本当なのだろうか?

 大師匠は大師匠でやたらと宮藤の事を気にかけていたし。

 大師匠はああいう娘が好みなのだろうか。それを勇気を出して聞いてみる。

 

「芳佳との仲? 宮藤博士経由で何回か会って面倒を見ただけだが?」

 

 その割には随分と親しい様に聞こえる。下の名前で呼んでるし。

 

「…民間人が艦隊に居るのに気にしないのは無理だろう。それに、あれを芳佳に見せることはできない」

 

 厳密には宮藤は民間人ではない。それを大師匠が知るはずもなく…、

 そう言って指さされた方を見てみると、遺体を前に泣いている艦隊の乗組員の姿が見えた。

 

 その光景に私は何も言えなくなってしまう。

 

 確かに軍に入った以上、この光景を目の当たりにするのは時間の問題だが、宮藤に見せるのは速い気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は501と言われた人たちと一緒にブリタニアに飛んでいる。

 

 アスランさんに久しぶりに会えると思って、駄々をこねていたが「命令だ」と言われてしまうと、一方的に通信を切られてしまう。

 何度か呼びかけるが反応は無かった。

 

 アスランさんのあんな冷たい言葉、初めて聞いたな。

 

 何時もあんなに優しかったのに。

 

 坂本さんは「ここは任せてお前は501部隊……、ストライクウィッチーズに行け。バルクホルン、宮藤の事は頼んだぞ」と言ってバルクホルンさん? に引っ張られて、お城みたいな所に着いた。

 

 そのお城の中を案内され、ある部屋に通された。

 

「お疲れ様、大変だったみたいね」

 

 赤毛の女の人が入ってきてそう言うと持っていた紅茶を差し出してくる。

 

 誰だろう? 凄い綺麗な人。

 

 見とれていたら、「どうかした?」と首を傾げられてしまい、それを誤魔化すように紅茶を口にする。

 

「…、美味しい」

 

「そう? それは良かったわ」

 

 芳佳は紅茶と言うのは知っていたが、口にするのは初めてだ。

 飲んだと同時に鼻を抜ける香。緑茶のように苦くない。

 

 それにしても、坂本さん、アスランさんのこと大師匠って言っていたけど、何のお師匠様なんだろう?

 坂本さんのあの時の顔を見ると、何となくだけど、ただの師弟関係ではないような気がするし。

 坂本さんもアスランさんの事が好きなのかな?

 

「後で自己紹介すると思うけど、先に名乗っとくわね。私はミーナ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。この501部隊、通称ストライクウィッチーズの隊長をやっているわ。よろしくね、宮藤さん」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 つい、返事を返してしまったが、これでよかったのだろうか?

 これではまるで…、

 

 私はあくまで、お父さんとアスランさんに会いに来たのだ。軍隊に入るつもりは無い。

 

 ないつもりなのだ。

 

 なのに―――

 

 脳裏によぎるのは、あの時のアスランさんの悲しそうな顔…、目を離すと居なくなってしまいそうで怖いのだ。

 

 みんなを護らないと。

 お父さんとの約束もそうだが、それだけではない。

 

 アスランさんの受け売りでもあるのだ。

 

 戦争は嫌いだ。軍も嫌いだ。でも―――

 

 戦わなければ護れないものがある。それは人としての形だったり、誇り、穏やかな暮らし…、それらを奪われるから。できるだけ多くを敵から奪い続けるしかない。

 

 幼いころに聞かされたアスランの本音。

 今なら少しはわかる気がするから。

 

 何だ、答えは出ているではないか。

 

 お父さんもアスランさんも私が護る。坂本さんの誘いを断ったけど、もう一度話してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えに考えた末、結局美緒に対するおとがめは無し。

 

 戦術的なめんから見てもそれ程間違った判断をしたというわけでもないし。

 

 ただ、疲労もあるだろうから、今は赤城にて休んでいる…、というわけでも無く、包帯やなんかを集めさせている。

 俺は休むのも仕事の内だと言ったのだが、「大師匠が働いているのに自分だけ休めません!」の一点張りなので、しょうがなく、美緒でもできる応急処置と、包帯集めをしろと言ったのだ。

 因みに俺は言わなくても分かるだろうが、回復魔法を使って怪我人の治療をしている。

 

 もう少しでブリタニアに着くので、衛生兵の待機とドックを開けておくように通信で言っておいた。

 

 それにしても居心地が悪い。

 衛生兵と最低限の士官を除いて、艦長まで降りて来て、直立不動で敬礼を続けている。

 

 俺ってそんなに上下関係に厳しいと思われているのか? 

 

 基本的に下士官に「お前」呼ばわりされない限り何か言ったりすることはしないんだけどな。

 

 まぁ、上官にお前呼ばわりする程の大物下士官何て居ないとおもうけど。

 

 治療が終わって、立てる者はそちらに加わり、敬礼してるし。

 敬礼何てしなくていいから、安静にしてろ。

 

 立ち上がれない人も、意識があれば寝たまま敬礼しているし。

 

 頼むから普段通りにしてくれって。マジで。

 

 

 

 

 その願いが届いたのか、ブリタニアに艦隊が着いた。

 

 そのまま、後の事は任せて美緒を連れてトン面した。

 

 美緒は芳佳の事があるので、早々に分かれたが。

 

 

 

 

 帰りながら、改めてこの世界の事を考えてみた。

 この世界、空母はウィッチを運ぶための艦としての意味合いが大きい。

 ネウロイに対しては、やはり、戦艦級の砲撃が効果的だ。

 一昔前とは違い、魔道徹甲弾や、魔道三式弾もあるし。

 

 っというか、軍縮条約が無いのにどうして、赤城は戦艦では無く空母になっているのだろうか? 不思議である。

 

「ああ、帰って来たのか。随分と遅かったじゃないか」

 

 章香が話しかけて来る。

 近い近い。

 

 そう言えば、章香には今後の事を聞いていなかったな。

 

「お前は500部隊が解散して扶桑に戻ったら、どうするつもりだ?」

 

「何だ? 藪から棒に…、そうだな、前線から離れるのもいいかも知れない」

 

 意外な答えを聞いた気がした。

 章香のことだから、てっきり前線で戦い続ける物だとばかり思って居たよ。

 

「アスランはどうなんだ?」

 

「ネウロイ達の出方にもよるが、提督でもやろうと思って居る」

 

 イザークもやっていたし、俺にもできんじゃなかろうか? その為には勉強しなきゃならないんだけど。

 

「ほう、これまた意外だな」

 

 章香程意外ではないと思うんだけど。

 

「まぁ、せっかく海軍に入ったわけだしな」

 

 それを陰から聞き耳を立ててる人物が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランは提督になりたいらしい。

 珍しいというか、物好きと言うか。

 今に始まった話ではないか。

 しかし、良い事を聞いた。

 500部隊解散後、扶桑に戻るつもりらしい。

 本国に対する召喚命令を何度か蹴っているアスランの態度からして、アスランは扶桑をやめてカールスラント軍に入るのではないかと、本国は気が気では無かったわけだし。

 

 その事を扶桑に打電しておこう。

 指揮能力も申し分ないし、アスランの願いは通るだろう。

 

 

 

 

 後日、北郷章香大佐の電報を受けた本国はアスラン・ザラ少将に長門を中心とする幾つかの艦隊を預けることを決定した。

 

 幾ら歴史に疎いアスランでも長門が扶桑皇国海軍の象徴であることぐらいは知っているので、本国に対して頭可笑しいんじゃないか? と辞退したが、扶桑皇国はアスランも扶桑国を象徴する人物であることをイメージ付けたかったために、これを無理やり通し、最後にはアスランが折れる形で了承した。

 

 また、新編ザラ艦隊結成に伴い、志願者が続出したため人事部が頭を抱え、訓練でついてこれた者だけが配属されることとなり、鬼の長門と呼ばれるのはまた別の話。

 

 因みにカールスラントからもビスマルクを中心とした軍艦を何隻か、ロマーニャからはイタリア、ザラを渡したいと申し出があったが、アスランは丁重に断った。



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鬼の長門

 北郷長官自らの電報で召喚命令がきたので、ただごとではないと思い、召喚命令に従い本国に出頭していた。

 

 大本営からは艦隊を預けたいという事で、しばらく内海待機命令を受けた。

 

 俺、カールスラントで500部隊の隊長やんなきゃいけないんだけど。

 

 章香に後で殺されそう。

 

 瀬戸内海を長門の艦橋から眺める。

 

 長門は仮想敵に向かって砲撃訓練を行っている。

 

 訓練訓練、また訓練とは、鬼の水雷戦隊だっただろうか?

 

 何か若い娘が多い気がする。

 その為か砲撃が中々的に当たらない。

 

 的のど真ん中に当たらねば休憩なしという鬼教官からのお達しで、既に3時間ぶっ通しで砲撃訓練が続いている。

 そろそろ限界の者も出始めている。

 

 見るに見かねて、角度修正の指示を出す。

 

 的のど真ん中に命中するとハイタッチをした後にその場に全員がへたり込む。

 

「よろしいのですか?」

 

 鬼教官が話しかけて来る。

 

 章香にも言った事だが、全てが気合でどうにかなるわけではない。

 重要な時に仕えないでは話にならないのだ。

 

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かず。

 話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば人は育たず。

 やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず」

 

 そう言う。

 なんだか海軍の偉い人がそんなことを言っていた気がする。要は飴と鞭大事ということだ。どちらもこの世界にある言葉かは知らないけど。

 だから、スパルタや気合論だけじゃ無理なのだ。

 

「?」

 

 鬼教官は少し考える素振りをした後、 

 

「まぁ、司令がそうおしゃるのなら」と引き下がってくれた。

 

 長門の他にも姉妹艦である陸奥も近くに居る。

 

 今でも思うけど、この二隻を俺によこすのは間違っている。

 

 仮にもこの国の象徴だぞ? それを二隻よこすとか頭が可笑しい。

 

 可笑しいついでに、何も長門で砲撃練習せんでも比叡で練習できるよね? まだ戦艦復帰しないで練習巡洋艦のままだし。

 

 

 

……しかし、なんだな。俺以外若い女の子しかいないせいか、ハイスクールなんちゃらを思い出した。

 何の因果か知らないけど駆逐艦晴風もザラ艦隊に編成されてるし。

 

 違いがあるとすれば、あっちは戦争しないために女の子中心で船乗りやってるくらいか。

 

 こっちは戦争のためだもんな~。

 なんかやるせない気持ちになって来るよ。

 

 この世界、軍の需要が凄いからな。一部を除き、取り敢えず、軍に入れば食いっぱぐれることは無い。

 

 嫌な時代だと思わないか?

 

 恐らくだが、ネウロイを全て倒すなり、和解するなりできたとして、新たな怪異がまた立ちふさがるだろう。

 その時に俺がこの世界に居るのかは別として。

 

 よし、暗い話はここまで。

 明日は加賀にザラ艦隊の皆を集めてバーベキューでもしよう。艦種にもよるが、基本下っ端は缶詰にご飯と食事が味気ない。

 偶には皆を労ってやるのも上官の務めだしな。バーベキューならばアスランの経験でやったことがあるので安心だ。

 

 因みに何故加賀でバーベキューするかって?

 

 それは…、

 

 

 

 

 

 

 ザラ艦隊に加賀も編成されてるからさっ!!

 

 もう何も言わねーし、ツッコまねーよ。一航戦のやべー方が艦隊に加わっています。何がやべーのかわかんねーけど。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリタニアについて、坂本さんにお父さんに会わせて貰って、そこで私は自分の覚悟を、軍に入ることを打ち明けた。

 お父さんは複雑そうな顔をしていたけれど、「芳佳が決めたことならば」そう言って応援してくれた。

 

 本当はアスランさんにも言いたかったけど、アスランさんは扶桑へと戻っているらしい。

 

 入隊時にストライクウィッチーズの皆の前で拳銃を渡されたが、どうしてもそれだけは受け取ることができずに返してしまった。

 坂本さんが大声で笑って「変な奴だな」と言われたが、そんなに変なことだったのだろうか?

 

 後で聞いた話だと、坂本さんも拳銃は持っていないらしい。

 なんでも、その代わりに刀を持ち歩いているのだとか。

 

 その日から朝練として腕立て伏せ100回、腹筋100回、素振り1000回のメニューで訓練が始まった。

 

 しんどくてしょうがなかったが、アスランさんはこれの数倍の数を軽くこなしていたと聞いたので頑張った。

 

 他にも、ストライクウィッチーズ内では交代で誰かがご飯を作っていたが、外国の食事は余り私の口には合わなかった。人によっては、あからさまに食べ物ではない何かを作って出す人も居たので、自分が一番下っ端なのと何かの役に立ちたいという思いから料理を引き受けた。

 扶桑料理はおいしくて健康にも良いとアスランさんが言っていたがその通りだったらしい。料理は皆に絶賛された。

 料理当番が私の中に組み込まれた。

 

「宮藤、お前は料理している時は何時も楽しそうというか、生き生きしてるな」

 

 いきなり声をかけられて、ビクッ、となってしまう。

 そうするとそのことを察したのか「すまない」と謝って来る坂本さん。

 

「しかし、さっきまで訓練でグロッキーだったお前も料理となるとすぐに切り替えができるんだな…もう少し訓練メニューを増やしてもいいか?」

 

 最後の方にぼそりと恐ろしい言葉が聞こえた気がするが、

 言いたいことは何となくわかった。

 

「どんなに大変でもしんどくても、お母さんは毎日ご飯を作ってくれましたから」

 

 そんな母親を尊敬していた。

 

「母親思いなんだな」

 

 そう言葉を返して、笑う坂本さん。

 

「それだけじゃないんです。アスランさんが食べて、美味しいって褒めてくれて、良いお嫁さんになるって言ってくれたから」

 

 そうなのだ。

 きっかけはそうだった。

 憧れの人がお父さんを連れて帰って来てくれた時。自分も何かアピールできないかとお母さんと一緒に料理を作って出した。

 不格好だったそれを迷わずに箸で掴んで食べてくれたアスランさん。不安で一杯だった私に「芳佳は将来、良いお嫁さんになるな」と褒めて撫でてくれた。以来、毎日お母さんから料理を教わり、腕を磨いて来た。

 

「ちょっと待て、大師匠がそう言ったんだな」

 

 あの頃から腕はかなり上達した。

 また、あの時のように褒めてくれるかな? などと考えて居たら、坂本さんが凄い顔で睨みながら肩を掴んで来た。

 い、痛い、痛いです。指が肩に食い込んでいる。

 ついでに言うと顔も近いし怖いです。

 

「どうなんだ、宮藤」

 

 嘘は許さんと坂本さんの目が訴えかけている。

 

「は、はい! そうです!」

 

 迫力に負けて大声でそう答える。

 

 すると、掴まれていた両肩をはなして、何かを考える素振りを見せる。

 少しして

 

「宮藤!」

 

「はい!」

 

 大声で呼ばれて大声で返事をしてしまう。

 

「恥を忍んでお前に頼みがある」

 

 今度は真剣な顔で此方を見つめて来た。

 

「私に料理を教えてくれ、頼む!」

 

 その日から坂本さんへの料理の師事も私の予定に組み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にっしっし、良いこと聞いちゃった~」

 

「トゥルーデに教えてやろうっと」

 

 厨房の入口に二人の少女の影があったことに誰も気が付かない。

 

 その日から空いた時間があれば誰かしらが厨房に入って料理の腕を磨きはじめ、食糧庫が枯渇寸前まで行って、料理をする時は隊長であるミーナに申し出なくてはいけなくなったのに芳佳は苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランは扶桑に戻っている。

 

 あの女狐の話だと内海待機でしばらく戻ってこれないらしい。

 ドヤ顔がうざかったので、思わずに銃を向けて撃った私は悪くない。

 

 まぁ、容易く刀で弾かれたが。

 

 此方も此方で上層部から艦隊を分捕って来たのだが…、ふられてしまった。

 

 本当に難攻不落だな。今に始まった話ではないが。

 

 頻繁にアスランの好みの紅茶を差し入れたり、その紅茶に合う洋菓子を選んで距離を少しずつ詰めて来たと思ったのだが…、本当に罪づくりな男だ。

 

「いい加減、諦めたらどうだ? 今回の事でわかっただろう、あいつは扶桑の軍人だ」

 

「いいや、諦めないね。アスランは律儀な性格だから扶桑にいるだけさ。それにお前の男になった訳でもないだろう?」

 

 そう言うと、さっきまでのドヤ顔はどこえいったのやら、凄い形相で睨んでくる。

 おう、怖い怖い。

 

「知ってるんだぞ、アスランはお前との縁談を何度も断っているらしいじゃないか。もう脈無しだ、そっちこそ早々に諦めたらどうだい?」

 

「あれはあいつが母様が無理やり私とくっつけようとしてると勘違いして、私のために断ってくれているんだ。貴様とは違う!」

 

 そう吠える北郷章香。

 

 そこに通信が入る。

 

 此処に居るアドルフィーネと章香、二人しか持っていない、未知のテクノロジーで作られた端末だ。アスランにこれを渡されたのが自分達しかいないと言われたのが二人の自慢だったりする。

 

 アドルフィーネと章香は通信端末を開く。

 

 空中に映し出されるアスランの顔。

 

「ちょうど良かった、二人ともそろっているな?」

 

 通信越しにアスランが言う。

 

「なんだい? 私とアスランの仲だ。もっと頻繁に連絡をくれても良いんだが…」

 

「こいつの戯言に付き合う必要はないぞ。何かようがあるんだろう?」

 

 

 私の言葉をスルーして内容を話し始めるアスラン。

 ようやくすると内海待機を命じられて、しばらく此方に帰れないと報告のために態々連絡してくれたらしい。

 その事に女狐は知っていると素っ気なく返した。

 

「…そうか、私は知らなかったよ。態々ありがとう。アスランのそう言う所、好きだよ」

 

 あえて知らないふりをする。

 

 女狐が刀に手を伸ばしているが気にしない。

 

 アスランは「そうか」と短く答えると

 

「二人とも何か欲しい物は無いか? 土産に買ってくが?」

 

 その言葉に私と女狐が反応する。

 これは、出張する夫から家で待つ妻へ手見上げは何が欲しいかと聞かれる、女が一度は憧れるシチュエーションなのではないだろうか? そう思うと心が躍った。

 

「私はそうだな…、扶桑にある着物、ジュウニヒトエ…、とか言ったか? それを着させてくれれば何もないな。いや、ウエディングドレスでも良いんだぞ?」

 

 そう言った瞬間に私は頭を横にずらす。

 

 先程まで私の頭があった場所には刀がある。

 

「貴様!! さっきから黙っていれば良くものけのけと!」

 

 女狐が刀で突きをして来たのだ。

 それを特に気にした様子もなく、アスランは

 

「…、着物が欲しいんだな? 章香は何が良いんだ?」

 

 そう返してくる。

 

 

 

 因みにアスランはアドルフィーネが扶桑の着物のことを全て十二単だと思って居ると判断をした。その為、真意には気が付いていない。

 

 

「私も、その、なんだ…、じゅ、十二単が良い」

 

「お前も着物が欲しいのか…、珍しいな」

 

 女狐が顔を真っ赤にして「ち、違う」と言いかけたところで通信は切れた。

 

 この時ばかりは、流石の私も女狐に同情して肩に手をそっと置いた。



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BBQ

 加賀の甲板にBBQセットを展開している。

 

 炭に火がまわった。

 後は焼くだけの簡単な作業だ。

 

 肉の調達とたれを作るのに苦労した。

 

 BBQセットを展開した時点でそこそこ野次馬が集まっていたが、更に増えて居る。

 

 無理もないか…、BBQ皆大好きだもんな。この時代、扶桑にはBBQ何て無いのだけれど。

 

 ザラ艦隊の乗組員総員に一八○○に加賀の甲板に集合、時間厳守な! と告げてある。

 

 肉を焼き始める。

 

 現在時間一七○○。肉の焼ける良い匂いで更に人が集まる。

 

 あ、よだれたらしてる娘がいるよ。もう少し待っててね。すぐに焼けると思うから。

 

 それにしても、これ思いついて実行しようとしたやつ、本当にバカだな。下士官達総員で軽く6000人超えてんだから…、もう少し頭使おうぜ?

 

 …俺じゃんOTZ

 

 そんなコントを内心で披露しつつ、表ではただひたすらに焼く。

 

 今日に限り、炭火の前が俺の居場所なのだ。今の心境はアメリカンなパパさん、間違えた。リベリオンなパパさんなのだ。たぶん。

 

 

 

 

 そして、時間が流れて甲板は全員が集まり、BBQセットの前に綺麗に並んで敬礼している。

 

「全員集まったな。ザラ艦隊にようこそ、お前たちの着任を歓迎する。かたっ苦しい挨拶は無しだ。今日は無礼講だ。階級を気にせずに、思う存分食ってくれ」

 

 そう言葉を発すると下士官から肉を取りに来るように言う。

 

 皆戸惑いながらも下士官から肉を取りに来る。

 

 その間も手を休めることなく次々に肉を焼く。

 

 肉を受け取っても口にせずにいる下士官達に食って良いぞと言うが、口にしない。

 

 見かねた鬼教官が口を開く。

 

「司令が食べていないのに、我々が食べる訳にいきません。私達が代わるので司令も食べて下さい!」

 

 くそ真面目か!!

 

 いや、考えてみれば扶桑人の性質として当然か。俺も上司が何かしてたら、遠慮して食べれないよな。

 それが軍隊ともなれば上下関係が厳しいのもあって食うに食えないか。下手したら自身の出世の道が閉ざされてしまう可能性が高い。

 

「……、司令官として命令だ。受け取った者から食べろ。今日は無礼講だと言った筈だ」

 

 とは言った物の、やっぱり食いずらいよな~。

 

「まぁ、偶には上官としての俺を立ててくれ。その代わり、命令も聞いてもらうが」

 

 そう言うと鬼教官が涙を流しそうな目で此方を見ていた。

 

 ど、どうした? 目に埃でも入ったのか?

 あ、帽子で顔を隠した。

 

「貴様ら聞いたな? これ以上司令に恥をかかせるな! 受け取った者からありがたく食え!!」

 

 そうすると皆、泣きながら食べ始めた。

 

 何か俺の想像してたBBQとは違う。

 

「肉が無くなったら、遠慮なく取りに来い」

 

 無くなる心配はないから遠慮するなとも付け足す。

 

 何か受け取った者達も泣きながら食べ始めた。やめてくんないかな? 俺が泣かしたみたいじゃん。俺そんなに厳しい命令したか? 

 

 年齢的にも見た目的にも中学生から高校生位の女の子が泣きながら食べてるのを見るのは、俺の心に来る。

 

 こんな時にアスランの人付き合い苦手が前面に出てきて困る。

 

 それだけでは無く、鬼教官を始めとした高級将校達も何か泣いてたり、泣きそうな目で、此方に向かって敬礼してる。

 

 無礼講だと言ったじゃん。泣くなよ。女に泣かれること程男は困ることは無い。

 

 仕方ないので無心で肉を焼くことにする。

 

 あ、忘れてた。

 

 近くに居た鬼教官にザラ艦隊所属じゃない者にも良かったら参加しても良いよと告げて来てくれとお願いする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リバウ撤退戦で傷を負い、入院生活からようやく解放されて扶桑皇国に戻って来て傷を癒やしつつ呉で兵学校の教官をして後進を教育していた。

 

 そんな中で艦隊再編成による空母加賀のウィッチとして優秀な人材を訓練学校からも出して欲しいとの事で管野直枝と一緒に艦隊が集結してる鎮守府に出向いて、訓練を受けていた。

 

 何のための艦隊なのか明かされないまま、厳しい訓練が続くので管野直枝さんが愚痴って居るのを良く耳にする。

 

 管野さんの言い分もわかる。向上心が人一倍高い彼女は、早く自分を実戦に出して欲しい気持ちが先走ってしまうのだ。その為、上官にたてつくこともしょっちゅうあった。

 彼女、管野さんの夢は第500統合航空戦闘団、赤枝ウィッチーズに入隊し、扶桑の紅き鬼神と肩を並べることだ。

 

 こんな所で意図のわからない訓練をするくらいなら、一戦でも多く実戦経験を積みたいのだ。

 私も立場上管野さんをなだめてはいるが、彼女と同じ気持ちだった。私だけではない、他の集められたパイロットやウィッチたちも同様の気持ちを持っていた。

 

 そんな矢先、艦隊名が明かされる。

 

 ”ザラ艦隊”と。

 

 まさかと思った。

 扶桑の艦隊なのにどう考えても扶桑の名前ではない艦隊名。

 

 司令官はザラ派の上層部の者なのか、ただ単にその知名度だけで名付けたのか。

 

 ロマーニャでは、アスラン・ザラ少将にあやかって、重巡洋艦にザラと名付けた事が有名であった。

 

 そして、その重巡洋艦がロマーニャを代表する旗艦に成る程、性能面でも技術面でも人材面でも優秀であることも。

 

 加賀の甲板に集合せよと命令が下り、集合して見て、司令官の顔を見て全員が言葉を失ったのを今でも覚えている。

 

 

 

 

 

「貴様らに司令から挨拶がある。心して聞け」

 

 どうぞ、司令と横にずれて敬礼する長門所属の主計長。

 艦隊の司令官がゆっくりと歩いて来る。

 その姿に目を疑った。

 

「この艦隊を預かるアスラン・ザラだ、今まで厳しい訓練に良く耐えてくれた。いきなりで悪いが遺書を書くことを禁止する。貴官らは選りすぐりの精鋭部隊だ、簡単に死ぬことは許さない。許されない。死ぬ覚悟がある奴は速やかにザラ艦隊を降りろ。この艦隊に必要なのは生きて明日の朝日を拝む決心を持った勇者たちだけだ。自分もろくに護れない連中に他人は護れない。もう一度言うぞ、明日を生きる決心を持った者だけ、ついてこい」

 

 啞然とする。

 それは、軍隊で一番初めに教え込まれる自己犠牲の魂を否定するものだった。

 

「貴様らわかったのか、わかったのなら返事をしろ!」

 

 主計長の怒号に我に返り、敬礼をしながら大声で「はい!」と返事をする。

 

「貴官らの今後の活躍と武運長久を祈っている」

 

 そう言うと敬礼をしてその場を去っていく。

 その後を主計長がついて行く。

 

 解散後、誰一人としてその場を動こうとはしなかった。

 

 次の瞬間、誰からともなく、声が上がった。

 男性から言葉をかけられたからもあるのだろうが、あの扶桑を代表する英雄が、言葉は悪かったが「私には貴官らが必要だ」と言われたも同然なのだ。

 

 気が付けば私も管野さんと抱き合いながら叫んでいた。

 

 余りにも五月蠅かったのか、他の上官が来て「そんなに元気が有り余っているならそのまま甲板から飛び降りて遠泳でもしろ!」と命令が下ったが、今までのように反抗するものは居なかった。

 500部隊ではないにしろ、英雄の指揮する艦隊に所属できたことが、皆誇らしかったのだ。

 

 それから訓練は厳しさを増したが、誰一人として文句を言う者は居ない。

 むしろ、厳しさが増した分、待遇は良くなっている。

 

 各艦には目安箱が設置された。

 流石に全てが反映されたり、解消されたりするわけでは無いが、名前を書かずに気軽に入れられる為、上官に異議申し立てや、不満を書きいれる者も多い。

 

 私も何度か不満を書き入れた事がある。

 

 また、ザラ司令の方針で、強制ではないがこまめに手紙を家族に書くよう促されたりした。

 流石に軍規に触れるのではと上官から進言があったが、士気向上に繋がると進言を蹴った。

 

 戦争という現実さえなければ、軍であるのにもかかわらず、理想の職場と言えた。

 

 妹のひかりにお姉ちゃんは元気ですと書いた手紙を出した後、加賀の中を歩いていた。

 

 本当はザラ司令官の部下になったことを自慢したかったが、流石にそれは控えた。

 

 うわの空で歩いていたら誰かにぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい。よそ見してて…、って、ザラ司令! 失礼しまし、痛っ」

 

 ぶつかった相手を見て驚き、敬礼をして詫びようとしたら、傷が痛んだ。

 

「こちらこそすまない、怪我は…って大丈夫か?」

 

 一瞬怪我を庇った動きをしてしまったら心配された。

 

 普通上官にぶつかってしまったら、厳重注意ではすまない。大抵体罰や嫌がらせの追加訓練と嫌味や罵声を受ける。相手が男ならば尚更だ。

 

「…背筋を伸ばせ」

 

 張り手でも受けるのだろうかと言われた通りに背筋を伸ばして、歯を食いしばり、目を瞑った。

 

 コツン

 

「ふぇ?」

 

 思わずに変な声を出してしまった。

 額には人差し指と中指で軽く突かれ、その手がうっすらと緑色に光っていた。

 体が軽くなるのを感じた。

 この感覚は治癒魔法を受けた時の感覚に似ていた。

 

「傷の手当はした。大丈夫だと思うが後で医務室に行ってくれ。この後に訓練があるならば、大事を取って休んでいろ。担当の教官には俺から話を付けておくから」

 

 明日からは頑張るんだぞと言葉を残してその場を去っていったザラ司令。

 

 ハッと我に返り、ザラ司令を追いかけて声をかける。

 

「あれ? まだどこか痛むのか?」と心配してくれるザラ司令に「ぶつかってすみませんでした」と頭を下げる。

 

 すると、驚いた顔をした後に少し微笑みながら「気にするな」と返して来た。「それでは私の気がすみません!」というと「おかしな奴だな」と言った後、速やかに医務室に行った後、自室待機1日とさっきと似たような命令を受けた。

 

 納得いかないが取り敢えず命令通りに医務室に向かった。

 

 衛生兵に傷を見て欲しいと頼んで服を脱ぐと、衛生兵から、傷なんてありませんよと怪訝そうな顔で見られる。

 

 そんなバカな。此処に傷があるだろうと、指を指して指摘するが衛生兵は何を言っているんだと呆れた目で見ながらありませんよと言わる。

 最近大きくなってきた胸を手で押さえて傷跡を見やると、傷跡何て最初から無かったように消えていた。

 

 自分は夢でも見てるのかもしれないと自室に戻り、鏡で確認してみたが傷跡は綺麗に消えていた。

 思わずに自分で自分の頬をビンタしたくらいだ。

 

 じわじわと伝わる痛みからこれが現実であることが分かった。

 

 次の日、別に何事もなく訓練が始まったのに参加する。

 

 未だに夢見心地だ。憧れと尊敬、それ以外の熱く込み上げて来る感情に理解が追い付かない。

 そんな私に気が付いた管野さんが声をかけてくる。

 

「おい、大丈夫かよ。お前らしくない、体調が悪いなら今日も休んだ方がいいんじゃないか?」

 

 それに対して私は大丈夫よと返す。

 

「まぁ、お前がそう言うなら良いけどよ…。俺としてはチャンスだからお前が降りてくれるなら、それはそれでありがたいけどな」

 

 そうやって目をそらして頬をかく管野さん。

 彼女なりの気遣いが伺える。

 

「大丈夫よ、私も降りる気は無いわ」

 

 憧れに触れて、確かめた。

 やはり、アスラン・ザラはアスラン・ザラだった。

 皆の憧れであり、扶桑の誉れ高き武人。

 男でありながら泥臭い事を良しとし、部下を思いやる心を忘れず。

 

 そんな人だからこそ、もっと私を知って欲しいと思ってしまう。

 もっとザラ司令を知りたい、理解したい、理解してほしい。

 

 どうした事だろう、ザラ司令のことを考えただけで体が火照ってしまう。

 

 

 

 

「無礼講だ、遠慮なく食ってくれ」

 

 突然艦隊の乗組員総員が加賀の甲板に集められたと思ったら突拍子のない言葉がかけられる。

 言葉だけでは無く、格好も二種軍装にエプロン姿で肉を焼いている。

 誰もが目の前の行動に理解が追い付かずに呆けていた。

 

 流石に怪訝に思ったのか少し考える素振りを見せた後、階級の低い者から肉を取りに来るようにと声をかけてくる。

 

 どうも、歓迎会のつもりらしい。

 

 今まで軍ではこう言った行事がなかった為、どういう行動をすればいいのか皆が戸惑っている。

 

 見かねた主計長が口を開き、皆の思って居ることを代弁してくれる。

 

 それを聞いたザラ司令は「上官としての自分を立ててくれ」と言う。

 

 その言葉にその場に居た全員が感動していた。

 

 この人は本気で私達を歓迎し、労ってくれているのだと。

 

 それに、食材として選ばれた肉からも心遣いが伺えた。

 

 肉は高級品だ。手の届かない品ではないが、階級や艦種によるが、階級が低い者は缶詰食と肉など滅多に口にできない。

 それを階級の低い者から配っているのだ。

 

 ザラ司令の器の広さと、こんなにも良い人を上官に持てた事の幸福をかみしめた。



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遥かなるスエズ

 艦隊司令部から入電。

 

 記念すべきザラ艦隊の出撃地はスエズ運河に決定。

 

 スエズ運河は大陸への輸送の要。

 

 大方、リベリオン辺りが泣きついてきたのだろうことは想像できた。

 

 今回の出撃には新型魔道徹甲弾や、魔道三式弾の威力実験も兼ねている。成功すればそれは扶桑の発言権強化にも産業特許にも繋がる。

 

 自分で考えた兵器を、自分で使うのは変な気持ちだった。

 

 人を討ち取る為の兵器では無い、それは不幸中の幸いなのかもしれない。

 

 深く考えても仕方が無いか…、

 

「ザラ艦隊に通達、この戦艦長門に続け。主計、抜錨だ」

 

 艦橋に抜錨の声が響く。

 

 士気は高い。

 

 呉鎮守府から複数の艦船が出発する。

 

 杏子が知ったら怒るだろうか? それとも、あたしも戦わせろと駄々をこねるだろうか?

 

 どちらも容易に想像できてしまうから何とも言えない。

 

 これが初陣、と言うわけでは無いが司令官としての初めての責務。

 

 6000人以上の人の命を預かると言う事か…。

 

 まぁ、やれることはやったと思う。

 

 特に加賀では零戦乗って馬鹿みたいに発着艦訓練ばかりさせたからな。無論、俺が先導してやった。これには理由がある。パイロットの育成にはかなりの時間がかかる。空母パイロットになるには更に特殊な訓練が必要だ。それを、事故で亡くならせたとなれば、死んでも死に切れる物では無いだろう。

 

 訓練内容は多種多様に渡った。飛行訓練、模擬戦、目標の爆撃訓練。発着艦訓練。

 

 特に、目標の爆撃訓練は難色を示したエースパイロット達。

 

 基本的に地上の爆撃等は陸軍の担当と言う固定観念が強くある。だが、今回の作戦上、スエズ運河の安全を盤石な物とするには、近くまで行って空母からよりピンポイントでネウロイ達に攻撃する必要があった。

 空母はいわば、動く要塞であるのだ。

 まだ、大艦巨砲主義の思想が根強く残っているため、説得するには少々の手間がかかった。

 

 後は夜間の発着艦訓練。誘導員にはサイリウム持たせて振らせて位置案内や誘導をさせといた。

 因みに、空母の甲板に誘導灯仕込んで艦隊司令部から怒られた。むかついたので、偵察の重要性を説いた後、その偵察員の安全確保のためだと言っておいた。事実、誘導灯を仕込んでから前代未聞の夜間発着艦訓練に事故は無し。

 仕込んだ誘導灯はアスラン自費(ジャスティスがかってにやった)と言う事でそれ以上深くは言われなかった。

 

 因みに北郷長官は終始腹抱えて大爆笑していた。

 

 そんなわけで、零戦(ザラ隊)が発足。加賀に所属するエースパイロットの中でも更に選び抜かれた12人の精鋭。隊長は俺。前に誰かに「司令自らやるとか頭可笑しいんじゃない」と言われたが、気にしないことにする。第一俺現場主義ですし、おすし。

 出撃命令と同時に文字通り飛んで行くのが俺だし。

 俺専用に塗装された零戦(隊長機仕様)がいつの間にか用意された。多分乗らないと思うけど…。

 

 真っ赤に塗装された零戦を見てどうしてこうなった、と頭を抱えたのは言うまでもない。

 整備兵はどや顔で「司令をイメージしてカラーリングしました」と言われたら文句言えないよね。悪意無いのはわかりきっているし。

 俺のイメージって赤なんだ…、わかってたけど。

 

 それにしても、今回の作戦ではアフリカ戦線の面子との協力が必要不可欠である。

 軍の人気取り的にも、実力的にも彼女こと、アフリカの星が出張って来るだろう。

 

 嫌いなわけでは無いが、苦手なのだ。

 

 なにかにつけて勝負を挑んでくるし、手を抜けば怒るし、そうじゃなくても怒る。

 

 俺、彼女に何か嫌われるような事したっけか?

 

 まぁ、しょうがない。

 

 アスランと行くスエズ運河艦砲射撃の旅が始まったばかりだ。

 

 それにしても、元気だね、名も知らぬ士官君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加賀格納庫でウィッチ達とパイロット達が集まっていた。

 

 別に命令があったからと言うわけでは無い。

 

 全員、自然に集まったのだ。

 

 真っ赤に塗装された零戦のザラ隊長専用機の周りに。その機体の後ろの方には、星と思われるものが無数に黄色いペンキで書き加えられている。

 この星は加賀のパイロット達と、ウィッチの数を表すのだと言う。

 整備員が語った言葉を思い出す。

 

『これは最前線で戦う勇者たちの命の輝きだそうです。誰一人、欠けさせない自分への戒めだとおっしゃっていました』

 

 戦場で誰も死なないことなんてない。

 

 それでも、ザラ司令はせめて、自分の指揮下では死人を出さないという並々ならぬ覚悟が伺える。

 

 この前のバーベキューもそうだった。

 

 口数もそう多い方では無く、勘違いしてしまうこともあるが、芯があり、とても優しい上官だ。

 

 現場によっては、人材不足による上層部の暴走で、兵士としてでは無く、捨て駒として扱われることも一度や二度ではない。それに嫌気がさしたことも反吐が出る思いもしたことが私にはある。

 

 だが、ここはどうだ?

 

 命の軽視を良しとせず、非難する風潮がある。

 

 あるウィッチが訓練中に無茶をして、その結果怪我を負った。幸い怪我自体は軽く済んだ。

 その娘は、ザラ司令の下で働けるのが誇らしくて、努力を重ねていたウィッチでもあった。

 

 翌日、全員が加賀の甲板に集められた。訓練で怪我をするとはたるんでいる! そう叱られると全員が思って居た。

 姿を現したザラ司令が口を開く。

 

『全員いるな? お前らには言っておかなければならないことができた。心して聞け。お前らは替えの効く部品ではない。未来を切り開く大切な命だ』

 

 どうにも、そこの所の自覚が足りないと小言がもれる。

 

『命は何にだって一つだ、まずは自分を守れるだけで良い。それがひいては皆を護ることに繋がる。無理をするなとは言わない。戦場に出れば嫌でも無理、無茶をしなければならない場面に直面することもある。だから、戦場でない所で無理をするな』

 

 良いな? そう言って去ろうとして立ち止まるザラ司令。

 

『命令と言うかお願いなんだが…、皆で笑って帰るって言うのが俺の理想(ユメ)だ。だから…、』

 

『それが叶うように、協力してくれないか?』

 

 振り向き、とても綺麗な笑顔で言ってきた。

 

 その時の事を忘れない。何と言えば良いのか…、言葉にできない物があった。

 

 ザラ艦隊に所属になってから不思議なことだらけだ。

 

 これがザラ司令以外の人物の言葉であったならば、現場も知らないくせに綺麗ごとばかり言うな! と文句の一つでも出て来たのだろうが、相手は武功では右に出る者はいない、扶桑が誇る紅き鬼神だ。

 言葉に込められた重みが違う。

 

 誰よりも現実を戦い続けている人が、誰よりも甘い幻想を抱いている。

 

 だが、それで良いのかもしれない。

 

 上手く言葉にできないが、あの人はああでなくてはいけないと、そう心のどこかで思った。あんな上官が居ても良いんだ、と…。

 

「孝美、ザラ司令って変わってるよな」

 

 直枝さんが私に話しかけて来る。

 それは私も思う。

 こんな司令官世界広しと言えど一人しかいないだろう。

 

「ええ、そうね」

 

 因みにそのウィッチだが、ザラ艦隊から外されるのではないかと心配していたが、3日後に訓練に復帰。杞憂に終わり、普段通りに過ごしていた。

 

 返事をした後、私は決して落とされないと決意を胸に自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦海域にもう少しで入ろうとしていた。

 

 機関科と外の見張り員以外休んでいる時間だ。

 

 機関科のボイラーについては、呉を出発する前日の夜に強化の魔法をかけておいた。これで第一戦速出し続けても、暴走して爆発何て事にはならないだろう。

 最も、敵の砲撃なりレーザーなりの直撃を受ければわからないが…。

 

 まぁ、その辺の対策も一応は施してある。

 

 俺は第一、第二砲塔を強化をかけて回っていた。

 

 因みにむっちゃんや他の駆逐艦には既に強化を施し終えている。

 

 この強化により、砲塔の強度だけでは無く、飛距離も少し伸びる結果が得られている。

 

 今回は艦砲射撃がメイン。砲撃距離が伸びるのは願っても居ないことだ。後は、弾丸に込められているブースト魔法でどこまで距離が伸びてくれるかに期待だな。

 それでも、アフリカ戦線に協力して貰って、一匹でも多くスエズ運河周辺まで引っ張って来て貰わないと話にならないんだけどさ……、この作戦にプライドが人一倍高いアフリカの星こと、丸醤油(マルセイユ)中尉(あれ? 今は昇進して大尉なったんだっけか?)が協力してくれるかどうか。

 

 それに弾着観測射撃のために俺自身も戦線に飛び込まなきゃ行けないし。

 

 また、「指揮官が戦闘に行く? 頭可笑しいんじゃないの?」 って言われそう。

 

「誰だ貴様!」

 

 黄昏て居たら頭に銃を突きつけられる。

 

 こんな時間にこんな所に居たら不審者だもんね。

 

「主計、俺だ」

 

 そう言うと立ち上がり、振り返る。

 

 顔を確認して主計は敬礼しながら「すいませんでした!」と声をあげる。

 

 気にするな、そう言ってその場に座り込む。

 

「月を肴に一杯やらないか?」

 

 ジャスティスから念話で酒盛りでもしてはどうかという提案がなされたので、それを実行する。

 酒はジャスティスが転移魔法で出してくれた。

 

 何か、この艦隊預かることになった時の祝いか何かで貰った高そうなお酒。

 

 結局飲む機会が無くて今に至る。

 

 隣をポンポン叩くとそこに座り「では、いただきます」と言ってどこから出したのかわからないお猪口を此方に差し出す。

 お前実は四次元ポケット持ってない? 何て馬鹿なこと考えながら俺もジャスティスにお猪口出して貰う。

 お猪口では無く升が出て来たんだけど…まぁ、気にしないことにしよう。

 

 主計のお猪口に酒を注いでやる。

 

 自分の升にも酒を注いで呑み込む。前の世界では酒は終ぞ飲むことは叶わなかったからな。アスランの経験上飲んだことはあるらしいが、ワインやシャンパンばかりだ。日本酒と言うのは初めて飲んだ。

 これはこれでいけるかもしれない。

 

 隣をちらりと見てみると、主計がチビチビと飲んでいる。こういう所を見ると、昼間の鬼教官ぶりが嘘のようで、ただの若い女性であることが伺える。

 心の中でだけど、鬼教官、鬼教官連呼してごめん。

 

 そんなことを思いつつ、升に映り込む月を見て、一気に飲み干す。

 

 扶桑ではこのことを、月飲み、と言い、非常に雅なんだそうだ。詳しくは知らないけど。

 

 しばらくはお酌されたり、お酌したりを繰り返していた。

 

 酒瓶が半分を切ったころ、急に主計がもたれかかって来る。

 

 その事に驚いたが、そこからは愚痴のマシンガントークにも驚いた。

 

 何でも主計長としては優秀なのだが、今までの艦長たちとは馬が合わず、艦をたらいまわしにされて、その事でキレて問題児扱いされていたらしい。

 そう言う事が続き、腐っている所でこの艦隊に配属されたらしい。

 確かに彼女自身、命令には従順であるが、いい案があれば、上官相手であろうと、意見具申も臆せずにする。

 俺的には結構的を射ている物も多いし、船乗り歴的には先輩に当たるので、貴重な意見として参考にさせて貰っている。他の高級将校とか何も言ってこないしね。

 だが、今までの上官はこれが気に食わなかったのだろう。

 出る釘は打たれると言うが、正にそれだった。あれ? 出る杭は打たれるだっけ? まぁ、どっちでもいいや。



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スエズ運河攻略戦

 501部隊から芳佳とリネット・ビショップ曹長が合流。

 

 作戦会議に参加している。

 

 最も今回この二人は本格的な作戦には初参加。特にビショップの方は訓練では非常に優秀な成績を残していると美緒から聞いている。

 だが、実戦では本来の力を発揮できずに、戦闘では役立たず。

 

 そこで、俺は考えた。本番と訓練で何が違うのかを。美緒の話では実戦の空気そのものに気圧されている様子はないと言っていた。

 

 彼女は今も暗い顔をしている。

 

 可哀想に。

 

 だが、問題の解決策は見つけている。

 

「芳佳、お前はビショップ曹長の土台になれ。ビショップは芳佳に指示出しだけをしろ、後は射撃に集中。危なくなってら芳佳がシールドで護るから気にするな」

 

 その言葉にビショップは驚きの声を上げ、芳佳には出来るか? っと問いかけたところ、「守る為なら撃てます」と力強い返事が返って来た。

 頼もしい限りだ。だが、今回は芳佳は撃つ必要はない。土台として動き、文字通り護ればいいだけだ。

 

 動きながら撃てないビショップと、動けるが撃て(撃つ覚悟が)無い芳佳。良いコンビかも知れない。

 

 最初、芳佳とビショップをよこせと言った時、501から当然のことだが、ブーイングが来た。新人二人よりも私達を使えとバルクホルンと美緒が最後まで駄々をこねていた。

 

 あんまりにも五月蠅いんで、マルセイユと陽動をかけるアフリカ方面軍に協力させることにした。

 今頃、仲良くやっていることだろう。

 

 さて、始まりの合図を出しますかね…、

 

「これより本艦は作戦行動に入る。今作戦は全員の生還を持って作戦の成功とする!」

 

 通信の向こうからウオー! と言う雄たけびが響く。

 

 それと同時に旗艦長門にZ旗と旭日旗が掲げられる。

 

 扶桑の国旗は旭日旗に似ているがデザインが違うから態々特注で作らせたものだ。

 

 アレンジも加えて日の丸部分に「天照」と書いてある。

 

「世界のビッグセブンの力を見せつけるぞ! 砲撃、撃ちー方始め!!」

 

 

 余談ではあるが、この時点では長門には世界のビッグセブンと言う異名は付いていない。このスエズ運河攻略戦を期に、「夜明けの艦隊」「無敵艦隊」「世界のビッグセブン」と広く世界に名を轟かせることになるのだが、アスランは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦開始時間が押している時点で現場が慌てている。

 

 そこに、地響きがする。

 

 的確にネウロイがはびこっている部分だけが消し飛んでいく。

 

「どこからの攻撃だ!」

 

「あれは……、バトルシップ! 旗は…、扶桑皇国です!」

 魔眼使いのウィッチが声をあげる。

 この作戦に参加する扶桑の艦隊は一つしかない。紅き鬼神の艦隊、ザラ艦隊だ。

 

 あの距離からの正確な艦砲射撃…、いや、これは最早艦砲狙撃だ。紅き鬼神の艦隊はでたらめだ! そう、心の中で叫ぶ。

 

 艦砲狙撃を目の当たりにした、作戦指揮官は艦砲射撃とは何だったのかについて考えるのをやめて、戦車隊、ウィッチ隊に指示を出す。

 ネウロイをあらかた消し飛ばすと砲撃が止んだ。

 

 海岸沿いを占拠していたネウロイは作戦開始前にその全てが砲撃の雨と轟音の中に姿を消した。

 

「司令、ザラ艦隊から入電です。我、戦闘ニ参加ス。各部隊ハ作戦行動ニ従順サレタシ…、だそうです。」

 

 さっきまでの光景に冷や汗を流しつつ、司令官の女は口元を吊り上げる。

 

 この作戦、私達の勝利だ、ネウロイ!

 

 確証のない自信が湧いてくる。

 

「全軍に通達、作戦を開始する!! 今作戦では扶桑の紅き鬼神が全力でバックアップしてくれる、安心して作戦行動に励め!!」

 

 通信機越しに「了解!」と声が返ってくる。

 

 紅き鬼神が参加する作戦は戦死者が異様に少ないことで有名で、負傷兵の一部では「奇妙な休暇」…、何て呼ばれている。

 

「一体でも多くスエズ運河におびき出し、艦砲射撃の的にしろ!」

 

 

 ウィッチ隊が次々と飛んで行く。

 

 艦砲狙撃のおかげで、一時的にとは言え、前線は押し上げられている。

 

 今は止まっている砲撃にミーナ達501部隊は息を呑む。

 

 実力は知っているが、艦からの砲撃による狙撃など聞いたことない。

 500部隊隊長は伊達ではない。

 そう言って、自分の事のように胸を張る美緒をしり目に、掃討戦へと移行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の砲撃命令。

 

 此処からの砲撃は無意味だと考えて居た。

 

 なおも、続く指示に砲撃。

 

 皆、疑問に思いながらの作業の中、通信兵が電報を持って走って来る。

 

「ザラ司令、海岸沿いのネウロイ殲滅を確認。これより掃討作戦に移行するとのことです!」

 

 砲撃の爆音が響く中、敬礼しながら大声で報告が届く。

 

 それにより、ザラ司令は砲撃を中止させる。

 

 報告を聞いて驚き、一気に湧き上がる現場の空気。

 

「加賀、聞こえるな? 第一次攻撃隊、ウィッチ隊発艦始め!」

 

 通信兵からインカムを受け取ったザラ司令は次の命令を下す。

 

 教科書のお手本のように攻撃隊が発艦していく。流石は、ザラ司令直々に発着艦訓練をしていただけはある。

 

 零戦の進む姿に乱れは一切なく、まるで、芸術のような飛行と言えた。

 先頭を優雅に飛んで行くのは、一航戦加賀の中でも、選りすぐりの12人からなる精鋭中の精鋭、ザラ隊。

 …、私もウィッチとしての素質は皆無だったが、パイロットならば、今からでも可能だろうか? そう思ってしまう程に美しい物だった。

 

「主計、ボーっとするな。ここは戦場だぞ!」

 

「は、はい! すいません!」

 

 私としたことが、迂闊だった。

 

 戦場でボーっとするなど、素人もいいところだ。

 

 気を引き締め直す。

 

「艦長、参謀、ここを頼む。俺は前線に出て援護をする。命令はその都度出すからそのつもりでいてくれ!」

 

 そう言い残すと、艦橋を後にするザラ司令。

 型破りな方だとは思って居たが、司令官が直接前線に出るのはどうかと思う所はある。

 

 そこらへんは、艦隊編成時に上官たちを集めて、会議と言う名の説得を何回もしていた。

 

 滅多なことが無い限り、飛び出していくことは無いと言っていたが、それがいきなり破られるとは思わなかった。

 まぁ、今艦隊は最も安全な場所だとも言えるので、ザラ司令が態々指揮を執る必要は無いのだが。

 

 インカム越しにザラ司令の命令が飛び交う。

 

 これでは、動く司令部だな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出撃してすぐに、此方に向かって来る大型ネウロイをジャスティスが感知した。

 

 それだけならば、他の奴らに任せようと思ったのだが、数が多い。

 

 流石に大規模な反攻作戦をネウロイが嗅ぎつけたらしい。

 

 そう考えているうちに、出撃した零戦隊やウィッチ隊を追い越してしまったらしい。

 

 まぁ、深く考えるのはよそう。

 

 それよりも一体でも多くネウロイを倒そう。そうすれば、必然的に死人が少なくなる。

 

 前線に出張って来た意味はそこにある。

 

 ビームブーメランをシールドから抜き、大きく振りかぶって投げる。

 

 大型ネウロイが二体ほど真っ二つになり、消失する。後は任せてしまっても大丈夫か。

 今更ながら思う。魔道徹甲弾や、魔道三式弾の開発。この開発、運用はウィッチ達にとって悪だ。

 

 歴史を紐解けば、必ず引き離せないものがある。

 魔法力だ。それを行使できるものは大きな権力を持つことができる。では、持てなかった者は? 常に付きまとう確執の差…、と言うべきなのだろうか。

 コーディネーターとナチュラル程ではないが、その差を決定的にしてしまった事件があった。

 

 ネウロイの出現だ。

 

 ネウロイと言う怪異は人類史に名を強く残すほどの存在となった。地上の多くの都市が、大陸が蹂躙され、ネウロイを倒すために、弱点を探すために数え切れない多くの血が流れた。

 その結果、得られたのは、ストライカーユニットと魔法力を持つ者の攻撃が極めて有効だという事だ。

 地球規模で襲い掛かったこの事件に、軍部も民もウィッチ達に全てを託すしかなかった。

 その結果、ウィッチ達に急激に権力が集中してしまう。

 

 女社会の中で、生まれた魔力を持つ者と持たない者。同じ女なのに何故自分は魔力を持たないのか…、そんな連中がブルーコスモスのロゴスのように徒党を組んでいるのだ。

 勿論、全員と言うわけでは無い。ごく一部の軍人と政治家のみだ。そんな中に、ウィッチ達と同等の力が得られるとしたらどうなるか?

 ある意味、世界が注目している点ではある。現場のウィッチ達の負担は減るが、反ウィッチ派の声を大きくさせるのも事実だ。それをわかったうえで尚、その兵器の開発をしたのは、現場で散る命を天秤にかけた結果である。アスラン・ザラは戦士ではあるが、現実主義者でもあり、また、理想主義者でもある。そのせいで板挟みになり、やりきれない思いと、理想と現実の違いに一番頭を悩ませていた。

 そのアスラン・ザラが出した答えは犠牲は少ないに越したことは無い、と言う考えに負けたのだ。

 辛い決断だった。新兵器が増えることは、新たな火種が増えることと同義なのだ。楽観視して生み出した兵器の重みに途中で気付き、何度破棄しようと考えた事か…、だが、何度考えても新兵器が必要であった。そこまで、戦況は逼迫していたのだ。核ミサイルを造らなかっただけマシだと自分に言い聞かせて。そうでもしなければやっていられなかった。

 アスランが如何に強大な力を持っていようと所詮は人なのだ。できることにも制限がある。

 それに、アスラン自身、自分の最後は既に定めてある。

 

 最後のネウロイの巣に突っ込んで自爆……

 

 これ以上ない位に自分に似合った幕引きだろうとアスランは思って居た。それが、この世界にとって一番ベストと自負している。それは、新たな争いの火種となり得る自分が生き残るよりも、最後の戦いで勝利と引き換えに命を落とした悲劇の英雄の方が世界のためだと思ったからだ。

 政治的にも軍事的にも大きなプロパガンダとして役立つだろう。

 

 まぁ、それは、まだまだ先の話になりそうだが…。

 

 ジャスティスのコアが点滅していることに気が付かないまま、大型のネウロイを葬り去り、制空権を確保する。

 

 本当はミーティアで一掃したかったのだが、ジャスティスから調整中と告げられてはしょうがない。

 

 久々にマルチロックオンシステム使いたかったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。

 

 戦況の悪さに溜息をはいた。



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スエズ運河攻略戦

 誰もが寝静まった真夜中。

 

 いるのはナイト・ウィッチと呼ばれる哨戒部隊、偵察員だけだ。

 

 異常なし。帰ろうとした所、それは起こった。

 

 黄金の流星がアフリカの大地を駆け抜けたのだ。

 

 それは、幻想的な光景で、言葉を失ってただただ見とれてしまう。

 

 その流星を見届けた後、彼女は我に返り、流星が駆け抜けた方角へと飛んで行く。

 

 

 

 現場は夜だというのに、昼間の灼熱の太陽が遠慮なく照り付ける熱よりも更に高い温度であった。

 常人ならば、その場に居るだけでじりじりと焼き殺されそうになる位には。

 運動をしているわけでも無いのに息が上がる。ツーっと頬を汗が伝う。

 

 それを無視して、彼女は頭を働かせる。

 

 黄金の流星が駆け抜けた先を、その先にあるのはネウロイ達の一大拠点とでも呼べる場所を一直線に目指していた。

 自身の持つ探知能力をフル稼働させて、辺りを警戒しながら飛んで行く。

 

 そこには、ネウロイのネの字も残っていなかった。

 

 ネウロイ達は一体も残らず黄金の流星に呑み込まれてしまったらしい。

 

 そんな御伽噺みたいな事を考えて居たら、探知魔法に何かが引っかかった。

 

 夜目に慣れた彼女の目には一人の人物が映った。

 

 持っていた拳銃に手をかけて、気付かれないように近づく。

 

「あー、俺ってそんなに不審人物に見えるのか? 取り敢えずその物騒な物を閉まってくれ」

 

 聞きなれた声だった。

 正確には一方的にラジオやレコードで聞いていた声で、実際に声を生で聞いたことは数度しかない。

 

 500部隊隊長、扶桑の紅き鬼神。アスラン・ザラ。

 

 戦場で敵に出くわした時の比では無い緊張感が私を支配する。

 

 心臓がバクバクと高鳴り、声は出ない。

 

「銃は…、下ろしてはくれないんだな。まぁ、当然か」

 

 そう言って振り返り、両手を挙げて降伏のポーズを取りながら此方にゆっくりと歩いて来る。

 月明かりで照らされて、ハッキリと顔が見える。

 

 間違いない。アスラン・ザラだ。

 

 急いで銃を下して謝罪しながら敬礼をする。本人は意地の悪い顔をして、「もういいのか?」と言ってくる。

 

 上官に拳銃を向けてしまった事や、その人物が予想の斜め上の人物であったことからあたふたとしてしまう。

 

 その事が面白かったのか、少し笑みを浮かべて「すまない、意地悪な質問だったな」と言うと、何処から取り出したのかわからないが、カップを渡してくる。

 それを反射的に受け取ってしまう。

 

「それじゃあ、それを飲んで、偵察は終わりだな。頑張れよ、リトヴャク中尉」

 

 そう言うと、飛んで行ってしまった。

 

 余りの出来事に頭が混乱しているが、取り敢えず、貰ったカップに口を付ける。

 

 丁度いい甘さと、冷たさで、一気に飲み干してしまう。それほどまでに喉が乾いていた。

 

 それにしても…、彼は此処で何をやっていたのだろうか?

 

 見たところ、何か工作を施していた感じはないし、一応、探知魔法を使ってみるが、異常はなかった。

 

 階級が高い彼が直々に偵察に来るとは思えない。

 もしそうだったとしたら、護衛の一人や二人連れて来るはずだ。

 再度考え込む。何故、一人でこんな所に?

 

 そんな中、通信越しに呼びかけられる。

 どうやら帰りが遅いので心配されたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リトヴャク中尉が居なくなったのを見て、大きくため息を吐く。

 

 飛んで行くのはフェイクシルエットで見せた幻影だ。

 

 彼女、ジャスティスから探知能力持ってるとか言われて、ばれるんじゃないかと冷や冷やしていた。

 

 隠ぺい魔法とか使いまくって正解だったかもしれない。どのレベルからばれるかわからないし。

 

 初めて転生するときに向かう世界は魔法少女リリカルなのはの世界だと聞いていて、ジャスティスと言うハイスペックチートデバイス送られてきて、頑張りますかと意気込んでいたら別のまどマギとか言う世界だった。

 あの女神またドジったな? 何て思いながら原作知らずに四苦八苦して駆け抜けた10年間だった。

 本当は何百年と戦い続けていた、俺の事を先生と呼ぶ黒髪の少女の暁美ほむらが居たので、それを換算したらきっと数百歳は軽く超えているだろう。

 それが、実はほむらの勘違いで俺が死んだと勘違いして繰り返していただけなんだよな~。

 

 女神は俺が死なないように、保険をかけていたのだ。二つも。ワルプルギスの夜とか言うラスボス倒すために死にかけてようやくこの保険に気が付いたんだよな。

 ジャスティスの奴、知っていて発動するまで知らせなかった節があるし。発動権限も恐らくはジャスティスにあったのだろう。

 

 そんでQべえだかせんべえだか言うインキュベーター? 使って願いを叶えた結果、概念に成り果てたんだけど、女神が用意した保険がビンビンに反応して概念モドキとして何か変な空間に隔離されたんだよな。

 

 そして、この世界に来てから約20年。ネウロイとの戦いに費やしてきた。

 

 数百三十歳…。百の位は切り捨てでいいや。それでも、三十路か…魔法使いになれるね! …三十路になる前から魔法使いだったのでネタにもならない。

 

 長々と思い出した所で、改めて思う。ジャスティスにはなのはの世界で言うレアスキルも魔法として使う事ができる。だからあのタヌキ相手にロッサのレアスキル使って、頭の中を査察していたりもしていたのだが…、此処で役に立つとはな。

 

 

 戦線で囮部隊がネウロイ釣りだしては、艦隊から艦砲射撃を叩き込むだけの簡単なお仕事。

 

 そんでもって、囮部隊も疲弊し始め、釣れるネウロイも少なくなってきて、そろそろ潮時かな? などと思って居たら奴ら、夜襲を仕掛けて来やがった。しかも、囮部隊の近くで。

 流石に慌てて艦砲射撃で残らず殲滅したけど、囮部隊の子達が「殺す気か! こんなんじゃ夜もおちおち眠ってらんねーよ」と言ってきて、流石にこれには同意したわ。何かゴメン。

 

 家の艦隊の中に何か反ウィッチ派の奴らが何人か潜んでいて、魔道徹甲弾で囮部隊ごと吹き飛ばそうとしているのが居て、チェーンバインドで拘束して居なかったら実際に死んでいたからワロエナイ。

 ザラ艦隊の連中では無く、途中で合流した他国籍の艦からの刺客だった。

 

 この事も考えて、艦砲射撃止めて、陸で一気にネウロイを殲滅する事にした。

 

 俺の中で眠る宝剣の威力確かめて見たかったのもある。

 

 それをぶっ放して、改めて決戦兵器だと心で呟く。正直、余りの威力にビビった。

 

 そうしたらまた、反ウィッチ派の連中が近場の囮部隊のテントに爆弾仕掛けていたから捕まえて、爆弾はジャスティスが転移魔法でどこかに飛ばしていた。

 

 捕まえた奴から頭の中を査察しようとしたらリトヴャク中尉が来てしまったのだ。

 

 流石に現場のウィッチ達に反ウィッチ派が暗躍してると言うわけにもいかず、急いで隠したのだ。

 

 もう一度溜息を吐き、頭の中を査察する。もがもが言っているが気にしない。

 

「…、トレヴァー・マロニー…ね」

 

 確か、ブリタニアの大将にそんな名前のおばはんが居た気がするわ。そんなことを考えて居たら声に出ていたのか刺客の女性は顔を真っ青にしている。

 人間、何故と思うと芋づる式に関連のあることを思い浮かべてしまうもので、誘導尋問の手間が省けて助かるわ。

 様々な情報を得た後、転移魔法で捕まえていた女性を独房へと叩き込む。

 

 こうも早く、しかも連続して動くとは…事態は思ったよりも逼迫しているのかもしれない。

 

 取り敢えず、ウィッチ達にこのことを知られるわけにはいかないのだ。

 

 彼女たちの敵はネウロイだけで良い。

 

 電子社会では無いから証拠は足で探さないといけないんだよな。実に面倒である。

 

 今回の件に関して、北郷長官に話した方がよさそうだな。扶桑でも権力欲しさに結託しているゴミを掃除しないと、ウィッチ達が危ない。

 多分、俺も狙われているんだろうな…。下手に権力持っちゃってるし、一応ウィッチに部類されてるらしいから。今回ザラ艦隊に反ウィッチ派が乗り込んで囮部隊へ攻撃させようとしたのも、恐らく、俺の弱みを握る為か、失脚させるネタ作りの為だろうし。

 ネウロイと言う人類共通の敵が居るのに、やはり人間の敵は人間なのかよ。嫌になる。政治の話にはあまり詳しくないのが裏目に出たな。知り合いもいないのでパイプもない。やはり、どこかに属するというのがそもそもの間違いであったか。

 今更辞表出しても受け取って貰えないだろうし、それだと根本的な解決にはならない。

 

 どうしよう、この状況…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大規模な反攻作戦に参加していた。

 

 一度戦った事はあるが、それとは比べ物にならない空気に押しつぶされそうだった。

 

 作戦時間が終わると私はリネットさんと離れて、負傷者の治療にあたる。少しでも役に立ちたいためだ。

 

 けが人は絶えなく入って来るけど、自分が見ている限り、死者は居なかったのは救いかも知れない。

 

 そんなことをして5日が経った。

 リネッ…、リーネちゃんが手伝いをしてくれるようになった。戦果を着実に上げていくリーネちゃんのことを聞きつけたバルクホルンさんが来て、私とリーネちゃんに頭を下げて来た。

 どうも、此処に来る前に私たち二人に「帰れ」と言った事を気にしていたみたい。私もリーネちゃんも気にしてないと頭をあげて貰うのに大変だった。

 

 次の日、戦場には出されずに、負傷者の治療に当たれと、作戦から降ろされてしまう。

 

 作戦が始まってから、アスランさんに会えていないのが寂しい。私がちゃんと役に立っているのかが心配だったが、適材適所、まだ戦い慣れていない私を案じてくれているのかもしれない。幸いリーネちゃんも一緒に外されたので一緒に手伝ってくれている。

 

 501に入って初めてできたお友達が近くに居るのはとても心強かった。

 

「包帯此処に置いておくね、芳佳ちゃん」

 

「うん、ありがとう。リーネちゃん」

 

 そう言いながら、リーネちゃんも他の負傷者に包帯を巻いている。ちょっと前まで包帯も碌に巻けなかったのを思いだすと、私も負けてられないな。そう言う気持ちになるのだ。

 不謹慎かもしれないが、とても楽しいし、やりがいがある。負傷者のうめき声は好きにはなれないけど…、

 

 

 そして、一月が過ぎようとしていた。

 

 負傷者が増えている。

 覚悟はしていたけど、これが戦争…、不幸中の幸いは、死者は私の見ている範囲では未だに出ていない。

 

 眠れなく成っていた。

 

 誰も居ない甲板を歩く。月だけは優しく照らしてくれる。

 

「芳佳…か、どうした? 眠れないのか?」

 

 久しぶりに聞きたい声を聞けた。ずーっと探していた声だ。

 振り返ると、大好きなアスランさんの姿があった。私はそのままアスランさんに飛び掛かる。

 小さい頃のように、アスランさんはそれを受け止めてくれる。そのまま、優しく頭を撫でてくれる。その温もりに安心感が溢れる。しばらくそのまま、温もりを感じていた。

 何も聞かずに撫で続けてくれるアスランさんの優しさに感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は落ちこんでいた。

 

 何で500部隊隊長さんは私なんかみたいな落ちこぼれをこんな重大な作戦に参加させたのかわからなかった。

 

 作戦内容の説明が続いていく。その中で、急に宮藤さんと一緒に呼ばれた。

 

 聞かされた内容に驚いた。

 

 作戦開始後、発艦命令が出た際、一応ストライカーユニットを履いた私を宮藤さんが肩車をして飛び立つのを見てもザラ隊のウィッチ達は何も言ってこなかった。それを不思議に思いながら飛び立つ。

 

 大型ネウロイが来た。

 小型ネウロイもうじゃうじゃいる。ライフルを持つ手が震える。脳裏にはいつも失敗していた光景ばかりが浮かぶ。やっぱり、私には…、そう考えて居た時に話しかけられる。

 

「恐れないで、貴方が失敗しても私達がフォローします。仮とは言え、貴方たちはザラ隊の一員ですので」

 

 私の緊張を見抜いてか、そう言ってくる。宮藤さんが「ええと、貴方は?」と聞き返している。

 

「私ですか? 雁淵孝美って言います。実は私も護られる側ですから、気持ちはわかります」

 

 そうして、話してくれた。

 ザラ隊の事を、一人一人の得意分野を最大限に生かすためにザラ司令が一番最初にやった改革の事を。連帯の大切さを。

 

「ザラ司令が二人をどうしてその形で戦いに出したか、きっと理由がある筈です。コアの場所は私が教えます」

 

 皆さんフォローお願いしますと言う声に何人かのウィッチ達が私達を護るように展開する。

 

 そうすると雁淵さんの髪の毛が真っ赤に変わっていく。

 

 次々にネウロイのコアの位置を指示出しして、他の人達は一糸乱れぬ行動でネウロイのコアを確実に破壊していく。

 す、凄い。思わずに息を呑む。私も撃たなくちゃ…、ライフルを構える。訓練と変わらない…、外しても仲間がいる。不思議と先程までの焦りはなくなっていた。

 示された場所にライフルを撃つ。ライフルから発された弾丸は、ネウロイに吸い込まれるように消えていき、硝子の割れるような音と共にネウロイが消失した。

 

 その光景を見ていた雁淵さんは、「成る程」と一言呟き、次々にネウロイのコアの場所を教えて来る。

 

 私の撃った弾丸は寸分たがわずネウロイを倒していく。初めて感じる手ごたえ。

 

 もしかして、500部隊隊長さんはこのことをわかっていて?

 

 今まで訓練でしか上手くいかなかったのに、実戦で自分が驚くほどの戦果を挙げている。そんなことに酔いしれて居たら敵の攻撃が来た。

 今からシールドを張っても間に合わない。そう思って居ると、とてつもなく大きなシールドが目の前に展開され、攻撃を受け止める。

 

「みや…、ふじ…さん?」

 

 私を肩車しながら飛んでいる人物の名を呟く。

 

「リネットさん、アスランさんに言われたでしょ? 私が動いて護ります」

 

 その言葉に、これまで冷たい態度で接して来た自分を恥じた。

 

「リーネ、リーネでいいよ。皆そう呼ぶから」

 

 そう言うとこの位置からは顔は見えないけど、嬉しそうな声音で、

 

「うん、うん! リーネちゃん! 私も芳佳で良いよ」

 

 そう言ってくる。

 

「うん! 芳佳ちゃん!」

 

「リーネちゃん!」

 

 嬉しくて互いに名前で呼び合っていると雁淵さんが咳ばらいをした。

 此処が戦場であるのを忘れていた。




 芳佳たちを戦線から降ろしたのはアスランでは無く、反ウィッチ派の仕業…、新人ウィッチ達にこれ以上戦果を挙げさせないため。

 しかし、アスランは余り最前線に出したくなかったので、何か会った時の護り手として、あえて何も言わないでいた。


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戦果の爪痕

 芳佳が限界に近づいていた。

 

 その事が良く分かる。恐らく何日も寝ていないのであろう。寝不足からくる目の下のクマ。PTSD発症しないだろうな?

 ウィッチも軍人も関係なく、戦場に居る者の何人かが既に発症している。

 

 その中でもウィッチ達は最前線に送られることが多い。必然的にPTSDを発症する者が多くなるのは必然だった。

 サバイバーズギルトと思わしき患者にも出くわした。ザラ隊のウィッチ達でも初陣や、大きな作戦に参加していなかった者達の中にちらほらと見受けられた。

 

 この世界、鬱病やPTSD、サバイバーズギルトを含む精神病に関する知識が少ない。リベリオン辺りの学者がそんなことを唱えていたりはするのだが、時代が時代なので、気合でどうにかしろと言う風潮が圧倒的に強い。

 

 しょうがないので、空いた時間を使ってウィッチ達のメンタルケアの真似事もやっていたりする。

 501部隊のハルトマン少尉が手伝ってくれていた。美緒や他のメンバーも手伝ってくれるのだが、やはり、気合論や、どう対応したらいいかわからないでオロオロしていた。

 ハルトマン少尉は医者を志していただけあり、わりかし理解があり、カウンセリングや、カルテの整理を手伝ってくれた。バルクホルン大尉が口を大きく開けてハルトマン少尉を指さしていたが、何だったのだろうか?

 聞こうとしたら、ハルトマン少尉に邪魔された。余り知られたくない事なのだろう。それ以上深くは詮索しないでおいた。

 

 それにしても…、

 

 臨床実験で人肌に触れていると心が安らぐと言うデータが出ていたが、どうやら真実らしい。だいしゅきホールをされたままそう思う。

 余りに酷い状態だったら、鎮静剤打ち込むつもりでいたんだが、大丈夫そうだ。

 

 穏やかな寝息をたてている芳佳を見て、一安心かと息をつく。

 

 さて、これからどうしようか? 眠りながらも抱き付く力は衰えず、それどころか、絶対に離すまいと力が強くなる。これ、実は起きてない?

 

 さて、

 

「芳佳なら大丈夫だ。出ておいで」

 

 そう声をかける。

 

 そうすると、物陰から一人出て来た。

 

「ビショップ曹長だったか、…、君は大丈夫なのか?」

 

 質問の意味はわかったのか、オロオロしながらも首を縦に振る。

 おじさん、そんなに怖いかね? 流石に傷つきそうです。

 

「あの! その…、芳佳ちゃん口では大丈夫だって言うんですけど、無理していたみたいで…ええと、その」

 

 言いたいことがまとまらないのか、それとも…、まぁ、いい。

 

「無理して喋らなくてもいい。それにしても、芳佳の心配をしてくれたのか。芳佳はいい友に恵まれたな。芳佳(姪っ子ぶん)のこと、よろしく頼む」

 

 そう言って軽く頭を下げる。

 苦楽を分かち合うことのできる存在は戦場でなくても貴重な存在だ。それだけで、励みにもなるし、メンタル的にも良い。

 アスランにはそう言った存在は居なかった。C.E.の世界では、部隊仲は悪く、誰も歩み寄ろうとはしなかった。唯一の良心だったニコル・アマルフィーは、自身の甘さのせいでキラに殺されてしまった。そこから、ますます孤立が加速した。

 

 そんな自分の二の舞になるのではないかと、心配していたのだ。

 

 …、最も気鬱で終わったようだが。

 

「は、はい!」

 

 元気なお返事で結構。でも時間帯を考えような? ほら、芳佳が「うう~ん」って唸っているから。

 

 ここ最近、メンタル的にも訓練的にも余裕がなくって、歌って居なかったな。何か歌ってみるのもいいかもしれない。芳佳への子守唄と言った所だろう。

 

 歌うのはラクスが歌って居た歌。孤児院でもよく子供たちに歌って寝かしつけていたっけと思い出す。まぁ、俺自身の記憶では無く、アスランの経験なんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紡がれる歌。

 私、リネット・ビショップが特等席で聞く優しく、物悲しい歌。

 あ、本当の意味で特等席なのは芳佳ちゃんか。

 

 最近、怪我人ばかり見て、唸り声が木霊する部屋で治療する日々を送っていた。私は重傷者を見ただけで気絶しそうになっていたのに、芳佳ちゃんは的確に処置をしながら治癒魔法を使って治療していく。私なんかとは大違い。

 すごいなぁ。そう思って居た。私にできないことを次々にやっていく芳佳ちゃん。

 

 でも、それが毎日のように続くうちに、顔に陰りが見えるようになってきた。

 口では「大丈夫だよ」と言うが、しだいに顔から表情が段々と抜け落ちて行っているような感じだった。

 

 501部隊に配属されてから初めてできた友達。ペリーヌさんは良い人ではあるんだけど、私が距離を置いて接していたため、仲は悪くはないが、特別良いと言うわけでも無い。

 ここまで仲が良くなったのは芳佳ちゃんが初めてだ。だから、私にできる範囲で手伝おうと思った。相変わらず重傷者を見るのは苦手だけど、そんなことでめげてはいられない。

 休憩時間や、夜間は私が持ち込んだ、リラックス効果のある紅茶を一緒に飲むようにした。日に日に危なさが増している気がして、それに比例するように目の下にクマができていた。このままいけば、芳佳ちゃんが壊れるのがそう遠くない日にやって来てしまう。けど、私にはどうすれば良いのかわからなかった。

 

 芳佳ちゃんは、良くアスランと言う言葉や、それらを連想させる物言いに反応する傾向があった。流石に500部隊隊長と言うのは知らないのか反応はしなかったが。

 だから、500部隊隊長さんに会えればいいんだけど、階級も高いし、男の人だ。こちらが出向いても会って貰えない可能性が高かった。

 

 でも、緊張で上手く話せないけど、私が知る男の人像とは大夫印象が違った。

 男は女を、特にウィッチを毛嫌いする傾向がある。度合いは人によるけれど、やっぱり余りなれ合いをしようと歩み寄ろうとはしない。少なくとも私はそう記憶している。

 

 そう言う意味では、何と言うか、女よりも女らしい男の人だ。そんなの小説の中や御伽噺の中だけだと思って居たのだが、現実に実在したとは…。

 

 とにかく、幸せそうな寝顔を見て、ほっ、と胸を撫で下ろす。それと同時に少しだけ羨ましいと思ってしまう。

 

 あっ、芳佳ちゃんがマーキングするみたいに顔を擦りつけてる。

 

 それに気が付いてか、苦笑いを浮かべ、撫で続けながらも歌を歌い続けている。もしかしなくても、子守唄のつもりなのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管野直枝は自室で不機嫌そうに腕を組んでいる。

 

 先ほど、ザラ司令にぽっと出のウィッチが抱き付いているのを雁淵孝美と目撃していたのだ。雁淵孝美も笑顔ではいるが、目が笑って居なかった。

 

 自分でも何でこんなにもモヤモヤしてむかつくのかわからない。これでは小説の中に出て来る恋する人物そのものではないか…、待て、恋だと?

 

 そこまで思考が至ったのを自覚した瞬間、顔から火が出る程熱くなる。

 

 最初は憧れだった。

 

 戦場に現れる赤羽の英雄。ネウロイの撃墜スコアでは右に出る者はいない凄腕の、男性初のウィッチ。

 

 そんな彼と同じように空を肩を並べて飛べたら、どんなに素晴らしいだろう。そう思い軍に入った。

 

 そして、意図しない形で彼の部下になった。

 そこから行われたのは徹底的な改革だった。周りと比べて快適すぎる程待遇は良くなった。変わった司令官だなと思って居た。軍に入って一番に教え込まれた自己犠牲を真っ向から否定し、わかり合えなければ、少なくとも、納得するまで階級関係なく、腹を割って話しあった。

 

 作戦が始まってから、恐慌状態に陥っていた自分や、他のウィッチ達、果てには兵士達の話し相手(安定剤)としてあちこち行ったり来たりしていた。実は戦ってるよりも戦っていない時の方が忙しいんじゃないかと思う程度には。

 話した内容も戦果自慢からただの世間話まで色々だ。しかも、話した内容は他言しないという誓約書までたた作って、だ。

 

 実は自分は文学少女であることも、がさつな態度とは裏腹に、可愛い物に興味があったりするのを話しても笑わずに「良いんじゃないか? 可愛い女の子なんだし」と真剣に返された。

 

 思い出せば、思い出すほど惚れていない要素がなくなっていく。

 

 恥ずかしさの余り、頭を壁に思いっきりぶつけてから、考えを振り払うためにシャドーボクシングを思いっきりして、気を紛らわす。

 

「ねぇ、直枝さん」

 

 急に話しかけられて、何だ? と思いながら声のした方を向くと、ハイライトが消えて恍惚な顔をした孝美が一言。

 

「私、ザラ司令のこと…、好きよ」

 

 そう宣言して来た。

 自分の中で急に熱が冷めていくのがわかる。思ったのはただひとつ…、

 

 気に食わない、と。

 

「そうかよ…」

 

 直枝はぶっきらぼうにそう言うと、布団の中に潜る。

 

 

 ああ、気に食わないと再度思いながら…。




 文才が欲しい。


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事後処理

 スエズ運河攻略戦、或は、奪還戦は異例のスピードで進み、四、五ヶ月かかると思われていた作戦だが、一ヶ月とちょっとと言う異例の速さでスエズ運河の制海権と制空権が、完全に確保された。

 

 その中には501部隊を含めたウィッチ達の功績もさることながら、ある艦隊もその功績を新兵器と一緒に世界へとその名を轟かせた。

 艦隊は扶桑が誇る紅き鬼神、ザラ少将率いるザラ艦隊であった。

 

 その新型魔道徹甲弾と、魔道三式弾の効き目は抜群。

 

 世界は新型兵器の効き目に目を奪われた。

 

 そして、

 

 アスランの懸念していた反ウィッチ派が大きく勢いづく結果に落ち着いてしまう。

 不幸中の幸いは、前線のウィッチ達にこのことが公になっていないことだ。

 

 取り敢えず、特許は扶桑に在り、その製造法は北郷長官の手にある。いずれ、世界にばれようとも、それなりの打つ手を設ける時間は稼げるだろう。

 

 反ウィッチ派も馬鹿ではない。いきなり行動に移すのではなく、真綿で首を締めるように、少しづつ、戦場からウィッチ達を減らしていく方向で、ウィッチ達に集中しつつある権力をそぎ落としていくだろう。

 

 そんな中、アスランはトレヴァー・マロニーの足跡を追っていた。

 

 腐ってもブリタニア空軍大将。打つ手なく行動するとは思えなかったからだ。そんな人物が艦隊に忍び込んでウィッチ達で構成された囮部隊を狙ったり、直接爆弾で吹き飛ばそうとしたりするとは思えない。

 つまり、ネウロイに対する抵抗手段を手にしている、或はそれを、そう遠くないうちに手にする算段があることを示していた。

 

 アスランからの報告書に目を通していた北郷長官は深い溜息をはく。一体一度の戦闘で武功だけでなく、これほどまでの情報を持って来れるんだと。

 書類の中には、扶桑海軍の反ウィッチ派の暗躍リストと証拠がずらりと並んでいる。到底言い逃れできる物では無い。失脚させるには十分すぎる物だった。

 

 扶桑事変の時もハプニングこそあって、おじゃんになったウィッチごと砲撃によりネウロイを倒すという計画があったと、娘の章香から聞いている。その計画もアスランにより阻まれていることも。

 その事に対しては感謝してもし足りない。速く章香とくっつかないかしら? 章香も章香で何をやっているんだか…普段は豪快な性格の癖に奥手と言うか、初心というか。あれは誰に似たのかしら?

 

 頭が良く、性格も極めて良好。誰にでも分け隔てなく接する、女が思う理想が具現化して歩いているような存在。私が後30年若かったら、絶対に離しはしないと言うのに。

 

 しかし、アスランも人の子、っというわけだ。頭は良いが専門家ではない。特に、政治面に関して、と言うよりも自分自身に対する評価がとても低い。もう少し、自分がどれだけの価値を持っているのかを理解してほしいところなのだが…、無理だろうな。変な所で頭が固いし。

 まぁ、それが彼の魅力の一つなのも承知しているが。

 

 そんなわけで、政治面に関しては私を通して行動するように彼はしている。

 

 それと、毎度のことだが、昇進命令蹴っ飛ばして帰っていった。そんなに、カールスラントは居心地が良いのかね? 彼から裏切ることは無いと頭では理解していてもやはり、心配は心配だ。他国もあの手この手を使って彼を手に入れようと必死だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰って来て早々に大本営からラヴコール。今回の出来事を北郷長官に報告するために報告書とは別に資料を作成した。反ウィッチ派が勢いづいてひと悶着あるかと思ったが、目につく限り、そう言ったもめごとはないらしい。

 予想はしていたけど、今回の武功で昇進命令が下りて来た。これで何回目だろうか? 10回を超えてから数えるのを止めたから正確な数字はわからない。こちとら万年少将だよ。って言うか、まだ俺を縛り付けたいかね?

 反ウィッチ派の勢いづいた中では、俺を昇進させることは、そろそろリスクの方がでかい気がする。

 それはそうと、作戦が終わり、乗組員総員の休暇を勝ち取って、俺も京都によって、ガランドと章香の着物買ってから我が家へと本当に久々に帰って来た。

 玄関からチャイムをならし、家へ入る。久々の家の中は埃一つ落ちてなく、こまめに手入れされているのが伺えた。

 

「はいはい、どちらさ…、旦那様!」

 

 驚きの声をあげる家政婦長さん。

 その驚きの声に釣られてちびっ子たちがわらわらと寄って来る。あっと言う間に人間アスレチックの出来上がり。流石に知っている子はもういないけど…、俺が長期間放置している間もちゃんと機能しているのが伺えた。

 

「お帰りになられるなら、そうと連絡してくださればお出迎えいたしましたのに」

 

「急に決まったことですから…」

 

 連絡入れるって言っても、この世界まだ、電話が普及してないから必然的に手紙でのやり取りだけに限定される。そうすると、必然的にニ、三日のタイムラグがしょうじる。転移魔法か、空を飛ぶ移動法を使った方が速いのだ。電話があるのは学校か、軍か、交番か、郵便局か、富裕層のごく一部だけだからな。

 家にも電話つけるか。

 そう考えているうちにもちびっ子たちは俺にまとわりつきながら「このおにいちゃんだれ?」とか、「おとこのひとだ~」とか言っている。うん、予想はできてたけど、男の子は一人もいない。全員女の子だ。

 やっぱり、男の子は家で大事に育てられるのかね。それにしても、パワフルである。少し…、いや、かなり痛い。無理やり登らないで、軍服破けちゃうから。

 

「こ~ら、旦那様から離れなさい。旦那様が困っているでしょ」

 

 このやり取りも久しぶりだ。この後、しょんぼりしちゃうんだよな、子供達。しかし、そこまでは読めていた俺は美味いと評判の店で甘味を大量購入して来た。今回は洋菓子では無く、和菓子だが。

 

 案の定予想通りにしょんぼりして俺から離れる子供達。

 

「…、お土産があるんだ。美味しいお菓子が手に入った。みんなで食べなさい」

 

 そう言うとわ~! とさっきの空気が嘘のようにまた、騒がしくなる。

 

「相変わらず、子供達に甘いんですから、旦那様は」

 

 ふ、そうかもしれない。

 だが、

 

「俺は世間では英雄と呼ばれているらしい。俺はそうは思っていないんだが…、だが、英雄と言われるからには、未来に生きる子供達は誰であれ、英雄にとっては宝だ。少なくとも、俺はこの子達と言う未来のために戦ってきた」

 

 そして、その戦いはこれからも…。まぁ、正確にはこの世界のためなのだが、未来を担う者無くして未来は来ない。ならばそれもまたこの世界のためだろう。

 施しの英雄の言葉が自然と出た。辿り着いた答えが同じだったことに少し驚いたが、彼となら馬が合うのかも知れない。

 

「そうですか。そうだったんですね。旦那様の志は立派だと思います」

 

 家政婦長さんが若干涙目でいるが、目に埃でも入ったのだろうか?

 

 今思った。流石にクサイセリフ過ぎただろうか? 恥ずかしさから俺はどんどんと家の中へ入って行く。

 家政婦長さんが何か言っているが元々俺の家なので気にしなくていいだろう。

 

 俺の部屋に入り、人払いの結界を部屋に張ると、空中にウィンドが開く。

 

 映り出すのはブリタニアのとある研究所の光景。エリアサーチでトレヴァー・マロニーをずーっとつけていたのだ。このおばさん、中々尻尾を出さなかったので苦労した。部下にも場所を教えてないとか用意周到すぎだろ。いや、まぁ、これくらいしなきゃいけないんだろうけどさ。ばれないために。

 

 そこには、ネウロイのあらゆるデータが収集されていた。コアの事とか、ネウロイの仕組みとか。どれもこれも、ジャスティスが知っているものなので、余り新しい発見は無かったが、ジャスティス(チートデバイス)なしでここまで辿り着けたことに関心、反面、どれだけのウィッチがデータのために消費されたのかが気がかりだった。こいつら反ウィッチ派のくせに、データなどはウィッチのを普通に使うからな。

 

 しかし、こいつらが必死こいて集めたデータを約20年前には全て持ってるジャスティスは一体何者なんだ? 少なくともこの世界に一緒に来たはずだよね? なぞは深まるばかりである。



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カールスラント退却戦

 カールスラントは5度の防衛戦に辛くも勝利したが、その国土は四分の三を奪われ、微かに残る国土を維持するので手いっぱいだった。

 度重なる、ネウロイの進行。カールスラント軍はこの地を破棄する苦渋の決断を強いられた。

 

 その知らせを扶桑の地でアスランは耳にする。

 

 作戦司令官はアドルフィーネ・ガランド"中将"。

 

 アドルフィーネに階級を与えて、全てを押し付けたカールスラント政府に憤りを感じた。俺が居ないタイミングでの作戦決行、世界の悪意を感じた。

 

 まぁ、おおよそ検討は付いている。アドルフィーネの活躍を快く思わない反ウィッチ派の一部がこの作戦を強行したのだろう。出る杭は打たれるという奴だ。

 頭にくるのはカールスラントを破棄せざる終えない状況にあるのを、頭が理解しているのが余計に怒りを加速させる。どさくさに紛れて、奴らウィッチ排除をはじめないだろうな? それが心配だ。

 俺なんかよりも政界にも詳しいアドルフィーネの映像端末越しでの態度こそいつも通りだが、焦りと不安が入り混じっていた。そもそも、俺に通信をよこすこと自体に余裕のなさが滲み出ている。誰かに縋り付きたいのだろう。逃げ出したいのだろう。それでも、なお、弱音だけは吐かなかったアドルフィーネ。

 

「なぁ、フィーネ。作戦決行日を遅らせることはできないのか?」

 

『それはできないね、もう決まったことなんだ。そんなことよりも、今なんて言った?』

 

「? 作戦を遅らせることはできないのか?」

 

『その前だ、前!』

 

 映像越しにギラギラと目を輝かせてすごい剣幕で言ってくる。それを見て、もしかしてこの呼び方は不味かったかと思い、言いなおす。確かフィーネってイタリア(ロマーニャ)の音楽用語で終わりを意味するんだったっけか? そりゃ嫌ですよね、終わり呼ばわりとか。大きな作戦前に不謹慎だったかもしれない。

 

『いや、良い! いい! 実にいい! その名の通りにとっとと終わらせないとな』

 

 所で、ハネムーンは何処が良い? 何てジョークを言ってくるくらいには機嫌が良くなった。何のジョークかはわからないが、本人が良いと言っているんだからそれで良いか。

 

 さてと、準備を始めるか。マルセイユ辺りにいちゃもん付けられそうだな~。この前のスエズ運河攻略戦で顔を合せなかったから拗ねてそうでめんどくさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私にしては何時になく弱気だった。何時もいがみ合っている女狐に心配され、席を外されるほどに、だ。

 こんな時にどうしても、頼もしい彼の姿を幻視してしまう。

 男なのに女よりも女らしく、いざと言う時に頼りになる男を。こんな状況すら覆してくれるのではないかと。

 しかし、現実は残酷だ。態々彼が居ない時に作戦を実行する軍上層部、見え隠れする反ウィッチ派の連中共。

 今回の作戦で彼は参加できない。振り分けられた戦力では撤退中の前線を維持する気があるのかわからない物だった。何度も問い直したが、それ以上の戦力は割けないの一点張り。

 奇跡を信じるしかなかった状況。場合によっては私も前線で戦わねばならない。否、最初から戦わねばいけないだろう。それに、敵はネウロイだけではない。この板挟みの状況で、私は彼の姿を求めて、端末のスイッチを入れる。どんな未知の技術で作られているのかわからないが、相手の姿をリアルタイムで確認できるアイテム。

 

 数秒後に空中に映し出される彼の姿。

 それを見れただけで、心が自然と和らいだ気がする。

 

 彼は少し驚いた顔をして、どうした? と尋ねて来る。

 

 気が付いたら、虚勢を張っている自分が居た。そんな私の態度にも何も言わずに全てを見透かしているかのような緑眼の瞳に吸い込まれるような感覚を覚えた。不思議と心地よかった。

 

 映像越しに彼は下唇を噛み、血がツーっと流れた。そんなこと気にも留めないで、「どうしようもないのか?」と聞いてくる。

 …、どうしようもない。そう返すと彼は黙った。この会話に意味なんてない。

 

 自分自身を納得させるための会話。恐らく最後になるだろう、愛しい彼への最後の挨拶。

 

 そんな、彼からの突然の不意打ち。普段絶対に言わない愛称での呼び方。フィーネ、と。

 

 こんな愛称は初めてだが、胸にすとんと落ちて来て落ち着いた。それと同時に頭には彼に愛称で呼ばれる未来のことが浮かぶ。その瞬間に今まで考えていた事が吹き飛んだ。こんな所で死んでなどいれない。この作戦をとっとと終えて、頭の中の事を現実にする。

 

 アスランに連絡が取れて良かった。今の私ならネウロイなんて敵ではない。

 嬉しさの余り、ハネムーンはどこが良いかを話したが、あの顔では気が付いていないだろう。こうもストレートに言っても駄目か。やれやれ、と思ったが、元気が出た。

 

 

 …、

 

「助けは必要か? お姫様」

 

 死ぬのを覚悟した時、愛しい声が聞こえた。その声に思わず、

 

「遅いわ、全く!」

 

 そう言って出て来る涙を拭った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物資は不足、後ろからは反ウィッチ派の連中がたむろして、今か今かとウィッチを排除する機会を伺っている、戦況は最悪と言わざるを得ない。この兵力と物資でよくフィーネは戦線を維持しているなと感心した。

 裏方仕事は余り得意じゃないんだけど、まずは取り急ぎ反ウィッチ派の連中を始末することにする。指令室の扉を蹴破って入り、フィーネの居ない間に指令塔乗っ取ろうとしてる馬鹿をバインドで縛って頭の中を査察、内通者まとめて転移魔法で指令室に転移させ、全員をバインドで縛って置く。

 

 いきなり俺が入ってきたことに驚き、人が次々に現れることに驚きの声が上がり、そいつらが縛られたことで、軽いパニックになるが、これを現場で戦っている兵士たちに伝わるのは避けたかった。

 不幸中の幸いなのは、戦況はリアルタイムで確認できる心強い相棒(チートデバイス)があることと、現場の指揮はフィーネが現場で執っているために此方の情報が広がらないでくれた事だ。こっちは片が付いた。後は現場に行くだけだなと、窓ガラスを突き破ってそのまま、戦場へと飛び立つ。こいつらの処分はフィーネたちが後で下すだろう。上層部を脅すネタも掴んで来た。もう、どうしようもない奴らの失脚させるネタを証拠付きで新聞社に叩きつけてやった。準備は万端と言える。特に最後の新聞社は今頃、嬉々として新聞づくりに勤しんでいるだろう。

 

 

 現場に飛んで行ったら、フィーネが他のウィッチを庇ってネウロイの攻撃を受ける所だった。

 

 フィーネがシールドを展開するには間に合わない。

 

 ソニックムーブでフィーネとネウロイの攻撃の間に入り込み、ビームシールドで防ぐ。

 

「助けは必要か? お姫様」

 

 そう言うと、安堵したのか涙を流しそうなフィーネの顔が映る。遅いと文句を言いつつ涙を拭うフィーネに、もう大丈夫だろうと思い、通信回線を開く。

 

「此方は500、隊長のアスラン・ザラだ。これより援護する。各部隊は戦線を維持しつつ後退せよ、繰り返す」

 

 同じことを三度繰り返したところで、戦線から歓喜の声が上がる。その間も、ヘイトが此方に集まっているのか、ネウロイから熱烈な歓迎を受ける。

 

「ミーティア、シフトオフ!」

 

 今回、初めてジャスティスからミーティアの使用許可がでた。後方に巨大な魔法陣が現れ、そこからミーティアがゆっくりと出て来る。そんな隙をネウロイ達が逃すはずなく、攻撃が来るが俺は楯で防いでいるし、バリアブル・フェイズシフト装甲を抜く火力をネウロイは持っていない。ミーティアにも攻撃が当たるが、問題は無さそうだ。無傷だし。

 そのまま、ドッキングし、ミーティアにもエネルギー供給がされる。

 各システムオールグリーン。行ける!

 そう思った所でフィーネから声がかけられる。

 

「アスラン、何だそれは」

 

 何だと言われましても見たまんまだと思うんだけど。

 

「決戦兵器だ」

 

 そう言うとマルチロックオンシステムを起動する。それと同時に音楽が流れ始める。歌えと言う事だろう。

 

 目に見えているネウロイを全てロックオンしたところでミーティアのトリガーを引く。

 

 魔力供給を受けて、初めての産声を上げるミーティア。全砲門から火を噴き、内蔵されたミサイルも一斉に発射する。その攻撃は寸分たがわず、敵ネウロイのコアを破壊する。

 

「カールスラントよ! 俺は帰って来た!!」

 

 一度言ってみたかったセリフ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景は、圧巻の一言に尽きた。

 

 そして、通信機器全てから歌が流れる。戦場に響く勝利の歌が。

 

 今回の作戦には参加できないと聞いていただけに、現場で意気消沈していたウィッチ達、兵士たちが活気づく。

 

 この戦い、勝てると。

 

「ほぅ、噂は聞いたことがあるが、まさかこれ程とは。それに、あの爆撃…、中々の物だ。仲良くなれそうだな。なぁ、アーデルハイド」

 

「…、噂とは尾ひれがつく物ですが、これは噂以上です」

 

「これで、また世界平和に一歩近づいたな」

 

 そう言って笑う。

 

 敵地のど真ん中で軽口を叩く余裕が出ていた。

 

「忘れましたか? これは退却戦なんですよ」

 

「それでもだ」

 

 そう、自分と同じレベル、否、悔しいが見た限り、あいつの方が上だ。何時か、背中を合わせて競い合ってみたいものだな。確か、500と言ったか? ふむ、ガランド少将(いや、今は中将だったか?)に頼んで見るか。



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来訪者

 最高にハイってやつだぜ! そのテンションでネウロイの巣一つをミーティアのビームソードで真っ二つにしてやった。後悔している。確か、種運命で廃墟コロニー真っ二つにしていたけど、威力どの位出るかな? その確認でやったらあっさりと斬れてしまった物だからこれからは使わないように心がけようと思いました。

 

 おかげで、カールスラント政府から勲章と言う名の勧誘が五月蠅いし、扶桑からも階級いい加減上がれと中将の階級章が送られて来た。送り返そうとしたんだけど、北郷長官から頼むと言われて渋々受け取った。あの人には色々世話になってるし、仕方が無いか。

 因みにスエズ運河攻略戦の武功で新たな艦が何隻かザラ艦隊に加わった…、らしい。何でもご褒美貰う前に俺が此方に来てしまったのだとかなんとか。

 軍艦貰えるのは嬉しいんだけど、常に付きっ切りと言うわけにはいかないので、俺としては今ある戦力を強化しておきたいところ。長門とか運用していてわかったんだけど、やはり、艦砲射撃するにはもっと大きな主砲が欲しい。余り大艦巨砲主義をこじらせてもいけないけど、飛距離があるに越したことは無い。それでバランス取れないとか言うおバカなのは無しで。せめて手数は欲しいところ。41cm連装砲を41cm三連装砲にできないかね? 今の技術であれば出来ると思うんだよね。大和作ってる位だし。

 後、空母も欲しいけど、パイロットとウィッチ達をどこから引っ張って来るかと言う所で引っかかって保留。パイロット育てるのに4,5年かかるし、ウィッチ達は慢性的に人手不足だ。未熟なまま戦場に出して死なせるわけにはいかない。

 

 そう考えると、加賀に集められた人材は本当に凄かったんだな。流石は一航戦のやべぇ方。何がやべぇかって、練度がやべぇ。よくかき集めて来たな。これだけの数を。

 

 

 

 ふと思ったんだけど、一つの部隊に中将が2人も居て良いのかね?

 

 まぁ、少将が2人の時点で可笑しかったんだけどさ。

 

 章香に関して言えば扶桑に戻れば少将の位貰えるみたいだし。

 そう思いながらアドルフィーネこと、フィーネと章香に買って来た着物を渡しながら思う。

 

 ノックの音が聞こえた。

 此処に人が来るなんて珍しいな。そう思いながら「入ってくれ」と声を返す。

 

 そうすると、二人の人物が入って来る。

 一人は顔に大きな傷がある女性。もう一人は銀髪の女性だ。

 

「ルーデル大尉であります」

 

「同じく副官のアーデルハイド少尉です」

 

 そう言って敬礼する二人。

 

 何の用だろうか? ジャスティスの念話によると、二人ともカールスラントの軍人みたいだけど、フィーネに用があるのかね?

 もしそうなら、今、着物の着付け中でしばらくこれそうにない。

 その前に、

 

「ルーデル大尉、こっちに来てくれ」

 

 ルーデル大尉が首を傾げながら此方に歩いて来る。

 

 近くに来たルーデル大尉の顔に右手を向ける。緑色に光っているその手に警戒して、「何を!」と声をあげるルーデル大尉。

 

「傷の治療だ。女の子の顔に傷があるのは良くないだろう。ましてや、美人なんだから…、ほら、綺麗に治った」

 

 そう言って顔を副官のアーデルハイド少尉に向ける。

 アーデルハイド少尉は信じられない物を見たと言う顔をしている。

 

 本人は相変わらず首を傾げているので、手鏡を渡してあげると驚いていた。

 

 さて、やることはやったし、後はフィーネが来るのを待って貰うだけだ。

 

 そう思ってソファーに座るように促そうとしたら相手から話しかけて来た。

 

 何でも今日500に来たのは、500に入隊希望だからだそうだ。一応面接まがいな質問をしてみたら、この部隊に入れば、ネウロイを大量に屠れるからだと答えた。

 

 あ、こいつやべぇ奴だ。

 

 で、そこまでして、何がしたいんだと尋ねてみたら世界平和のためなんだと。

 まぁ、二人ともかなりの実力者なのは階級から察していたし、一応ジャスティスが質問の間に情報を集めてくれた。カールスラントの中でも上位に入る実力の持ち主だけど、その力ゆえに反ウィッチ派の上層部に睨まれて、出撃停止命令が出ていたんだと。流石に、カールスラント退却戦と言う重大作戦だったために参加できたみたいだけど。

 

 確かに前線で戦いたいなら俺達ファントム・スイープ隊…、じゃなかった、500部隊、通称赤枝ウィッチーズが一番だ。元々自由に動ける特殊遊撃部隊(独立統合戦闘航空団)として設立された訳だから、まともな奴ならブルって逃げ出す最前線で戦ってるわけだし。

 

 ただ、その最前線を駆け回ってるのって俺だけなんだよね。章香もフィーネも滅多に前線には出ないし。

 

 戦力が増えるのは良いんだけど、この部隊に入ったら、多分、戦場に連れてけ連れてけと五月蠅いんだろうな。

 何でだろう、苦労する未来しか見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦の後、また出撃停止命令が下り、仕方が無いので牛乳を飲みながら待機していた。

 思い出すのは赤羽の英雄、アスラン・ザラのこと。最早芸術と言っても過言ではない見事な爆撃。ネウロイ相手に引くどころか、一人で突っ込んでいく度胸。どれをとっても完璧と言えた。あれで男と言うのだから世の中わからない物だ。

 

「アーデルハイド、やはり500に出向くぞ、準備しろ」

 

「そう言いだすと思いました」

 

 そう言うと、残っていた牛乳を一気に飲み干す。

 

 

 

 

 

 500部隊の所属する基地に着き、指令室の前で一旦息を付き、ノックをする。

 すると、通信機越しに聞いたことがある声が返って来た。その声に私は思わずに唇を吊り上げる。

 

 入って一応の上官への礼儀は通しとく。挑発して実力を試しても良いのだが、実力は戦場で確認済み。何よりも隙がありそうで無い。

 

 その後、顔の傷を治して貰ったりした。まさか、これほどの治癒魔法の使い手でもあったのかと驚きもしたが、本命はそれでは無い。

 500に入れて欲しい。此処でならば前線で戦える。そうすることが、世界平和への一番の近道なのだ。何が何でも入れて貰う。

 そう思い話しているとあっさりと「わかった」と答えが返って来たことに拍子抜けする。

 

「今、カールスラント国境付近でネウロイが暴れ出したと情報が入った。君たちの実力が見たい。悪いが、5分で戦闘準備をしてくれ」

 

 そう言われる。

 何時、そんな情報を手に入れたのか、本当にネウロイが出たのか疑問だったが、とにかく言われた通りに準備した。もしもの時のためにストライカーユニットを持ってきておいて正解だったな。

 

 現場についてみると、地上をネウロイが闊歩していた。空には大型のネウロイも何体か見えた。

 

 ネウロイからの攻撃が来る。

 

 この位の攻撃、大したことは無いがいかんせん数が多い。

 

 大型ネウロイから小型のネウロイが無尽蔵に生み出されていた。

 

 地上からの砲撃も鬱陶しい。倒しても倒してもきりが無い。そんな時、鷹を思わせる飛行物体が小型ネウロイを撃破しつつ、大型ネウロイを真っ二つにしていく。

 

「最初の威勢はどうした? もう降参か?」

 

 そう声が聞こえた時、安心感が私を支配する。

 

「黙れ。今日は一番搾りの牛乳を飲んでいないのだ。飲んでいたら後10…、いや、20は落としているぞ」

 

 そう言ってはっとなる。一応上官でこれから部隊に入れて貰おうとしている人物に素で答えてしまった。

 しかし、相手は気にした様子はなく、「そうか、そいつは頼もしいな」と返してくる。

 

「アスランだ。"これから"よろしく頼む」

 

 その答えに満足して敵に集中する。

 その後はとても戦いやすかった。即席の連帯とは思えないほどに。

 

 これだ。これ。

 

 私はこれを求めていたんだ。

 

 自分と同格かそれ以上の者を。

 

 その興奮と高揚感。

 

 指示出しも完璧。そんなことを考えて居たら少し濡れた。

 

 やはり、世界平和には彼が必要だ。

 

 ピンク色の剣で次々に敵を斬り捨て、ストライカーユニットでは考えられないくらい早く動く彼の背中に手を伸ばす。

 

 何時か、何時の日かその背中に追いつき、肩を並べる。その日が来たら…、

 

 

 お前の全てを貰うぞ、アスラン。




アスラン「何か知らないが、寒気が…」


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女の戦い

 孝美は考えて居た。

 

 ザラ司令に抱き付いていたウィッチのことを。

 

 もしかして、ああいう娘がザラ司令の好みなのだろうか?

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃんったら!」

 

 思考の海から現実に引き戻される。

 

「もぉ、どうしたのお姉ちゃん。何か暗いよ?」

 

 もしかして、どこか具合が悪いの? と妹に聞かれて、慌てて笑顔を作り、何でもないのと答える。

 

「そう? それならいいんだけど…、そうだ! あの傷見せてよ」

 

「また見たいの?」

 

 全く、しょうがない娘だと思う。負傷した部分を妹のひかりはかっこいいと言う。私としては負傷なんて、自分の未熟さを披露しているみたいで恥ずかしいのだけれど。

 

「あれ? 傷、無いよ? どうしたの?」

 

 疑問に思ったことを口にするひかり。

 

 ―――傷なら治しといた。

 

 ふと、加賀での出来事を思い出した。

 

 そう言えばザラ司令に治療して貰ったのだった。その事を思い出しただけで心がポカポカして来て顔がにやけてしまう。

 

「? お姉ちゃん、何かいいことあったでしょ」

 

「な、何でもないのよ、本当よ」

 

 ザラ司令の部下になったことを言うべきか、言わざるべきか悩んだ。ひかりもアスラン・ザラの大ファンだ。羨ましがるのは目に見えていたし、態々恋敵を増やす可能性を作るのは避けたかった。

 

 以前ならこんな黒い感情を持つことは無かった。それが最愛の妹なら尚更だ。それなのに、最愛の妹にすら可能性があると話を伏せているのだ。否、女の直感でこの娘もザラ司令の事を好きなのを確信している、だから話さないのだ。

 

 ――故に、あのザラ司令に抱き付いていたウィッチが許せなかった。

 

「やっぱりお姉ちゃん私に何か隠しているでしょう」

 

 そう言って頬を膨らませるひかり。

 深く追求してこない辺り、軍規の事を意識しているのかもしれない。とりあえず、今はへそを曲げたひかりの機嫌取りはどうしようかと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん、ただいま!」

 

 久しぶりの家だ。美千子ちゃんは元気かな?

 

「芳佳、芳佳なの!」

 

 診療所から駆け出して、私に抱き付いてくるお母さん。お祖母ちゃんも一緒に出て来る。

 

「どうしたの芳佳。急に帰って来て」

 

「うん、アスランさんがお休みくれたんだ…、ああ、そうそう、お父さんも元気だったよ」

 

 そうかい、そうかいと満足そうに頷くお祖母ちゃん。

 

「本当にあの人に任せて良かったよ」

 

 そう言うお母さん。

 

 私は予め、手紙で軍に入ったことをお母さん達に伝えていた。

 そのことについて問い詰められるかと思ったが、どうやらアスランさんが何かしてくれたようだ。

 

 アスランさんは休暇を言い渡すと私には「軍をやめろとは言わない、だが、考え方を改めないか?」と医学の最先端の軍医学校への入学を進めて来た。

 アスランさんが言うには、直接武器を持って戦うだけが戦争では無いと言われた。その事をこの前の戦争で嫌と言う程思い知らされた。

 勿論、それも最終的な道の一つとして選択肢には入れている。

 

 でも、―――”その力で皆を護るような、立派な人になりなさい”

 

 お父さんとの約束。

 

 ―――俺にできること。それができてしまうのなら、きっとそう言うことなんだろう。

 

 そう言って悲しそうな顔をしていた大好きなアスランさん。

 

 ―――この体は、名前も知らない誰かのために!

 

 そう言って自身を奮い立たせて飛び立った愛しい人。ああ、何て、何て生き方がああも歪んでしまっているのだろうか? 私の愛した人は戦いは上手だが、生き方が酷く不器用だった。それが、今回の戦争でよーくわかってしまった。

 

 そんな人を一人で戦場に立たせては駄目だと思った。

 

 それに、彼の言葉を借りるならば、私にもできることがあり、それができてしまったのだ。だから、少なくとも彼が弱音を吐き、軍をやめるその日までは私も、私の限界が来ない限り同じ空に飛び続けようと思う。

 

 

 それはそれとして、アスランさんの周りには、何故ああも美人さんが集まっているのだろうか? 501部隊の全員が好意を向けている事は態度でわかる。軍艦に載っていたウィッチ達も気になる。それに彼が気が付いていないのが唯一の救いか。

 

 そう考えると少し溜息が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも通りに彼の執務室に紅茶を持って入る。

 

 そこには、いつも通りに執務をする彼がいるはずだった。

 

「ああ、フィーネ。何時も何時もすまないな」

 

 そう言う彼になぜか入隊してから彼の部屋に毎回いる雌猫共。

 私が入って来たのに構わずに牛乳を飲んでいる。

 それを見ただけでウキウキしていた心が一気に沈む。

 

「何で雌ね…、君達が居るんだい?」

 

 そう問いかけると、何時ものように何食わぬ顔で口を開く雌猫。

 

「隊長室に報告があって、寄るのは当たり前ではありませんか。副隊長殿」

 

 確かに一回や二回ならそれもあり得る話だ。だが、毎回、しかも牛乳の入ったコップを片手に彼の執務室に居るのはそれこそあり得ない。毎回毎回、出撃願いと牛乳を飲むことをだしにして此処に居座っているのだ。

 

「牛乳を飲むことなら他でもできるだろう? 冷蔵庫だってこの部屋以外にもあるんだし」

 

 そう、冷蔵庫を彼が作り基地に幾つか設置している。

 何も、隊長室の冷蔵庫を使わなくても良いのだ。加えて言うならば、牛乳は新鮮なのがどこの冷蔵庫にも入っている。彼はまめな性格をしているので、切らしているという事はまずない。

 

「それならば、紅茶とてどこでも飲めるではありませんか、態々此処で飲む必要ないのでは? 副隊長殿」

 

 笑顔で挑発が返って来る。目が笑ってないが。

 

 そんな光景を見ていたアスランさんが小さくため息をつき、呟く。

 

「仲悪いな~、こいつら」

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルトマンがいそいそと部屋を片付けている。

 同室であるバルクホルンから見たら異様な光景であった。

 

 あのずぼらなハルトマンが、である。真っ先に熱があるんじゃないかと疑った。

 

「いや~、流石に散らかりすぎかなっと今更ながらに思ってさ」

 

 流石に一気にこのゴミ山を処理するのは無理だと思ったのか、少しずつではあるが。

 

 そして、片付けをひと段落させると医学書片手に色々と勉強している。

 

 スフィンクス作戦(スエズ運河奪還戦)以降こんな感じが続いていた。思い当たる節はある。奪還戦において、作戦時間外に行っていた心のケア、という奴だろう。ハルトマンはそれを自発的に手伝っていた。

 

 医者志望だったからか、それとも…、後者の可能性が一番高い。

 

 恐慌状態の兵士にしっかりしろと活を入れようとした時に止められた。そうでは無いのだと。それでは駄目なのだと。

 

 ―――凄かったよ。偉いよお前、皆のために戦ったんだもんな。…、なぁ、本当のお前は今、どこに居る?

 

 とても優しい声音で諭すように言う。戦場での勇猛果敢な戦士とはまた違った顔だった。

 

 その後に私もメンタルケアとやらを受けた。最初はこんなことに意味があるのか理解できなかったが、回数を重ね、気が付いたら心のどこかで感じていた重みを打ち明けてしまっていた。

 

 妹が心配なこと。

 

 仲間を心配するあまりに、新人二人を遠ざけていた事。

 

 決して、他の誰かに見せない弱さをさらけ出した。そんな弱い私に笑うでもなく、幻滅するわけでも無く、酷く穏やかな声で

 

 ―――笑ったりする物か。それよりもよく頑張ったな、偉いぞ。

 

 そう言って優しく撫でてくれた。あの優しい手を忘れない。

 

 そんな私でも弱さをさらしてしまう、酷く心地の良い空間に居れば否が応でも惹かれてしまうだろう。

 

 

 掃除で部屋が埃っぽくなるから散歩して来てよと、半ば強引に部屋を追い出された。

 廊下に出て一言。

 

「お前もそうなんだな、フラウ」

 

 かの泣くような声で、何時もは余り呼ばない愛称でハルトマンの事を言う。




アスラン「何でこうもうちの部隊って仲悪いのばかり集まるんだ?」



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アスラン・ザラの憂鬱

 新人二人が入ってから、部隊の仲が更に悪くなった気がする。

 

 人間なので、どうしても相容れない存在と言うのは理屈抜きで出て来る。

 

 それに新人はエースで気難しい性格をしているのもある。幸い、連帯を取ることが無いので放置しているが、これ以上は俺の胃が持ちそうにない。

 

 それだけなら、まだいい。いや、良くないけど。

 

 カールスラント皇帝陛下から直々に勲章渡したいとか抜かしやがった。あれ、引き抜きする気だよ、絶対に。断ろうにも皇帝陛下直々にと言うので断れなかった。

 

 

 仕方が無いので腹をくくり、式典に挑む。

 

 何か有っても良い様に一応、ジャスティスセットアップしていった。ちゃんと武双は解除してある。

 

 祭典の場で片膝をつき待機する。一応、フィーネ相手に一度練習して来たんだけど、フィーネは恍惚とした顔で見つめて来るだけで練習になったとは言い難い。

 

 この時、何故かルーデルが持っていたコップを握りつぶして手を怪我し、それを治療した覚えがある。章香も扶桑刀を磨いていて怖かったし、アーデルハイドも無言で怖かった。

 

「表を上げなさい」

 

「はっ」

 

 皇帝陛下が来たのか。

 そう思いながら顔を上げると女性と少女が目の前に立って居た。

 

 多くの将校に囲まれているのに緊張感すらしていないとは流石だな。

 ただ、なんだか少女が此方を見る目が熱っぽいんだが何だろうか。

 

「貴方様が”あの”アスラン・ザラなんですね」

 

 少女が、否、皇太子殿下がはしゃぎながらそう訊ねて来る。

 「あの」ってどのだろう?

 そう思っていると皇帝陛下からはしゃがない様に注意を受ける皇太子殿下。

 

「ゴホン、金柏葉剣ダイヤモンド付き騎士鉄十字章…、貴方の絶大なる戦功を讃え特別に作らせたものです」

 

 そう言うと一度言葉を区切る。

 

「貴方はもう十分飛んだでしょう。それに扶桑では肩身が狭いでしょう。カールスラントに来ると言うのはどうかしら? 貴方には名誉元帥の席を用意しています。これを機に後方で指揮を執ると言うのはどうかしら?」

 

 指揮官としても優秀みたいですし。そう言う皇帝陛下。

 

 元帥と来たか…、しかも安全な後方任務。

 

 

 

 ―――だが、それでは意味が無いのだよ。

 

 この世界には助けを乞われてやって来た。誰よりも、この星の誰よりも戦い抜かなくてはならない。

 そして、護れなかった命のためにも誰よりも惨め(みじめ)で、惨い(むごい)終わり方、最後を迎えなくてはならない。死ぬのは無能な指揮官(戦士)一人だけで十分なのだ。

 

 その裁定が下るまでは、最前線で戦わねばならない。

 

 だから…、だから、

 

「辞退いたします」

 

 そう口にした瞬間に周りがざわつきだす。

 

「…、理由を聞いても?」

 

 流石に本当の事を言うわけにもいかないので、適当に誤魔化す。

 

「私のようなカールスラントを護ることができなかった無能がそれを受け取るわけにはいかないのです。それよりも、祖国のためにと、若き命を燃やし続けている忠義に熱きものにお与えください」

 

 きっと、励みになるでしょう。

 そう続ける。

 このことを引き合いに出せば、少なくとも深く追求しては来ない筈。

 

「それは違います!」

 

 少女特有の甲高い声が式典に響く。

 

「アスラン様は6度に渡る化け物(ネウロイ)の進行からカールスラントをお護り下さいました! その勲章を受け取るのは貴方様にしかありません!」

 

 そうでしょう、皆様。と今にも泣きそうな顔で言う。

 

 非常にまずい。此処で泣かれては、俺が泣かせたことでカールスラント政府から反感を買いかねん。

 

「皇太子殿下、良いのですよ」

 

「良いことありません! 良いことなんか何も…」

 

「駄々っ子はご友人に嫌われます。お聞きわけを、皇太子殿下」

 

 アスラン様…、と消え入りそうな声で言うと遂に堰を切ったように涙がこぼれ始めた。

 

 はぁ、結局泣かれてしまったか。でも、皇太子殿下が言ったように6度も救ったんだから今回の事チャラにしてくれないかな? 何なら、御贔屓するからさ。

 

「わかりました。でも、勲章は持って行きなさい」

 

 それは、命令だった。

 心の祈りが天に届いたのか、泣かせたことに対する追及は無いようだ。

 でも、勲章貰うと面倒なんだよな。今の話の感じだと取り敢えずは引き抜きのことは諦めたみたいだし。

 

 そして、皇太子殿下が勲章を持って近づいてくる。

 

 観念して受け取るか…、

 

「ありがたく、頂戴いたします」

 

 勲章を受け取り、退室しようとした時に皇太子殿下から声がかけられた。

 

「アスラン様は何のために戦われるのですか!?」

 

 何のため…、何のためと来たか。この世界のためだけど、どうせだったらかっこつけたいよな。

 

「名も知らぬ誰かのために」

 

 今度こそ、式典を後にする。

 

 その時、気付くべきだったのかもしれない。ジャスティスのコアが微かに点滅していることに。

 

 

 式典から出たとたん、マスコミたちに囲まれて質問攻めにあった。適当に答えてはぐらかしたけど、無い事、無い事書かれないだろうな?

 そこら辺、マスコミと言うのは今一信用できないというか何と言うか。

 何時の時代でもマスコミはスクープを狙ってるからな。油断ならん。

 

 そう思っている時、マスコミの中で倒れて、皆に踏まれている少女を見つけた。大丈夫なのか? あれ。ボロボロだぞ。

 はぁ、と溜息をはくと、記者達に向かってちょっとどいてもらうように言い、倒れて居た少女の手を持って立ち上がらせる。

 

「大丈夫か?」

 

 一応、回復魔法をかけておく。

 

「うう、助かりました。ありがとうございます…、じゃなかった! 私、魔女の世界紙の記者。エルネスタ・ニールマンと申します!」

 

 結構タフだね、さっきまで踏みつけられてボロボロだったのに。それにしても魔女の世界紙、か…、どっかで聞き覚えがあるような、無いような。

 

「で、その魔女の世界紙の方が何の用だ? 質問なら他の記者達に答えて、もう無いのだが」

 

 それじゃ、そう言って転移魔法を起動しようとすると「待ってください!」と大声で止められた。

 そもそも、マスコミたちが知りたいのは英雄であるアスラン・ザラと言う偶像だ。俺の事ではない。それならば取材しないで噂話や都合のいい話をでっちあげれば終わりなんだがな。

 

 事実、俺はなのはの世界の魔法使えなければ、ただの魔力タンクで、精々新人ウィッチ一人と同等ぐらいだと思うし。

 

 面倒なので後日、許可を取ったうえで取材に来てくれと言って、今度こそ転移魔法で転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下、よろしかったんですか?」

 

 式典場で皇帝陛下と皇太子陛下、そして軍トップの高官に政治家たちが言う。

 

「彼には娘が言ったように、カールスラントを6度も救ってもらった恩がある。それに、無理強いして、今後此方に非協力的になられても困る」

 

 そこで一言区切り、眉間に皺を寄せる。

 

「既にカールスラント退却戦で家の反ウィッチ派の連中がやらかしてくれたおかげで、彼も相当怒ってたと聞きく。それにザラ派の動きも気になる。引き抜きはまた今度すればいいさ」

 

 式典が終わり、だいぶ砕けた話し方をする陛下。

 それに、

 

「我儘娘を諭してくれたのは彼が初めてだ」

 

 だから今回はこれで良い。

 

「それにしても美しかったわね、彼」

 

 陛下のその言葉に周りの者達も頷く。

 

「全くです」

 

 作り物のように整った顔。少し幼さを残した顔は式典に居た皆を魅了した。騎士甲冑も相まって、物語から抜け出したと言われても信じてしまう程だ。

 それでいて貴重な男でもある。その武勇はさながら現代に蘇った聖人ジャック・ダルクと言った所か。彼は裏切りで死んだが、私達は裏切らない。それは、無論、何度も助けてもらった恩もあるが、世論的にも、一人の男としてもとても魅力的だから。

 

 今や、世界中がいかにして彼を手に入れるかで睨み合っている。彼を手に入れることは、世界を取るのと同義と言う所まで来ている。このまま扶桑にだけ甘い蜜を吸わせるのは個人的にもカールスラント皇帝としても面白くない。

 いっその事、娘の婿として嫁いで貰うのも悪くない。娘もまんざらではないようだし、彼なら他の者達からも反対の意見は出ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで、やって来ました。魔女の世界紙の記者。エルネスタ・ニールマンです! 宜しくお願いします」

 

 チェンジで。

 

 そう言いかけそうになって思いとどまる。

 取り敢えず、ソファーに座らせてココアを入れて出す。

 

「しかし、良く許可がおりたな」

 

 章香もフィーネも何にも言ってなかったと思うんだけどな。

 

「アスラン・ザラ直々に許可を貰っていると言ったらすんなり来れましたよ」

 

 よし、追い出すか。

 俺は許可なんか出してないし。

 

「そうか、あ、帰り道そっちだぞ」

 

 そう言ってさっき彼女が入って来た扉を指さす。

 

「え! まだ何もしていないのに帰れと!」

 

 当たり前だろう。それにしてもこの記者、ノリが良いな。打てば響く的な奴だ。

 

 はぁ、と溜息をついて口を開く。

 

「で、本当に何なんだ? 答えるべきことは前回の取材で他の記者達に言ったんだが」

 

 そう言うと、無い胸を張って答える。

 

「それは上辺だけの話です。私が欲しいのはザラさんの本当の姿です。それと今、失礼なこと考えませんでしたか?」

 

 何処の世界でも女は鋭いな。例えそれが貞操概念が反対の世界でも。

 

 それにしても、本当の俺って何なんだろうな。

 

「…、君は勘違いしてるようだが、俺は世間で言われているような英雄では無い。ただ平凡で、どこも誰と変わらない、ただの人間だよ」

 

 そう言うと思い返す。

 

「確かに戦場で戦い、幾らかの戦果は挙げたさ。だが、それだけだ。それを軍が宣伝塔として担いだだけ…、他のウィッチ達が血を流して勝ち取った物を横取りしている、卑怯者のろくでなしだ」

 

 貞操観念が反対の世界だからこそここまで出世できた。全ては”男”である。ただそれだけの理由でだ。

 

 だから、その流れた血に見合うだけの事をしなくてはならない。

 

「それは違います!!」

 

 悲鳴にも似た声が響く。

 

「此処に来る前に多くのウィッチ達に取材してきました! 皆、貴方に助けられたと言ってます! 絶望しかない戦線をたった一人で見方を護りながら殿を続ける貴方に」

 

 涙目になり、此方を睨みつけながら口早に言う彼女。

 

 君までそんな勘違いを、そう口を開こうとしたところで、ジャスティスから念話が入る。

 

 ネウロイが出たと。

 

「すまない、取材はまた今度にしてくれ」

 

 そう言って隊長室を飛び出す。

 

 何か呼び止める声が聞こえた気がするが、今は構っている暇はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か勘に触るような事を言ってしまっただろうか?

 

 それにしても何か、焦っているような印象も受けた。

 

 すぐに誰かが入って来る。その人物は写真で見たことがあった。

 

 確か…、

 

「ルーデル大尉」

 

「今は少佐だ」

 

 そう言うとついて来いと言われる。

 

 何処へ行くかを聞いてみると上を指さしながら一言「空だ」とだけ答えて。

 

 

 

 ついて行くと、そこは地獄(戦場)だった。

 

 数えるのが馬鹿らしく思える程、ネウロイが地上を闊歩している。大型飛行ネウロイも何体か飛んでいる。

 

 その大型ネウロイが次々に真っ二つになり消滅していく。

 

 それを見てルーデルさんが口笛を吹く。

 

 私は震えていた。あ、圧倒的だ。あれがカールスラントを6度も救った赤羽の英雄…、アスラン・ザラ!。

 

「今一度問おう。あれが、戦果の横取りの卑怯者のろくでなしに見えるか?」

 

 ルーデルさんの言葉に今一度首を振って否定する。

 

「そうか、先程否定していた貴様なら大丈夫だとは思っていたが、一応な」

 

 アーデルハイドさんが「もし、変なことを書くようでしたら此処で死んでましたよ」と呟かれたのにぞっとした。




やはり、文才ががががが…、


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強がり

 ―――助けて欲しいのです。

 

 女性の澄んだ声だった。

 最初は疲れているのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

 彼から渡された端末を開くように言われ、何故、彼と私達しか知らない秘密を知っているのか問い詰めようと思い、端末を開く。

 

 普段、映像が映るところには暗闇で何も映らないと思ったら、アスランが勲章を授与される所が映し出された。

 

 ―――助けて欲しいのです。

 

 また聞こえる声に、変な感覚が襲い掛かる。まるで、頭に直接語りかけられているような感覚。

 

 次に聞こえたのは、女性の声では無く、何時も聞きなれたアスランの声だった。ただ、何時も話している声よりも低く、重苦しい感じだ。

 

 それは、呪いだった。

 

 ―――誰よりも、この星の誰よりも戦い抜かなくてはならない。

 

 ―――護れなかった命のためにも誰よりも惨めで、惨い終わり方、最後を迎えなくてはならない。死ぬのは俺一人で十分なのだ。

 

 一体、何が彼を此処まで追い立てているのか、何がそこまで彼を駆り立てているのか。まるで見当がつかなかった。

 

 なぞの声の主は何なのか、これを聞かせてどうさせたいのか…、わからない。

 

 ただ一つ、アスランがこのままでは壊れてしまう、否、もう十分に壊れている事だけが理解できてしまった。

 

 思い返せば可笑しい事ばかりだった。

 

 常に最前線で戦い続ける彼。目を離せばすぐに戦線へと行ってしまう彼。

 

 今までその背中を見て頼もしいと思っていた自分を引っ叩きたい気分だ。

 

 もう彼はとっくに限界を迎えて、助けを求めていたんだ。

 

 そのサインにどうして気が付くことができなかった!

 

 あの死に急ぐ背中を! 生き残り、救えなかった者達に一番心砕き、少しずつ壊れていく愛しい人に!

 

 彼は”物語”に出て来るような”英雄”でも無ければ、”勇者”でもない。ただの”普通の男の子”だという事に。

 

 言葉にならない激情が体を駆け巡る。

 

 私は…、私はどうすれば良いのだ。どうすれば彼を救える? 壊れた心を癒せる?

 

 

 式典から帰って来た彼はいつも通りだった。

 それが返って不安を加速させていく。

 私よりも大きい背が今は小さく、強がっているようにしか見えなくなった。

 

 彼の背中に手が伸びかけて、止まってしまう。それは、同じく端末を渡されている女と同じ行動を、同じタイミングでしてしまったからではない。

 ただ、なんと声をかければ良いのかわからず、二人してたたらを踏んでしまったのだ。

 

 それに、今、手を伸ばしたらこの押し殺している感情を抑えられなくなってしまう。彼を救いたいのに、彼にすがってしまう。

 それだけはしてはならないとなけなしの理性が働いたのだ。

 

 そして、日数は過ぎ、今日も危ない背中を黙って見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扶桑では急ピッチで軍艦の改修が行われていた。

 

 元を辿れば、一人の男が出した報告書が原因だったりする。

 

 連装砲じゃなく、三連装砲になったら良いなと思いました。っと何時も必要無比のお手本のような報告書を書いて出す男が書いた頭の悪そうな一文を扶桑海軍上層部で話し合った結果だ。

 

 男の活躍もそうだが、新型魔道兵器の円滑な運用に適していると上が判断を下した。

 

 他にも、新たに加わった艦を再編成し、人員をどうするかで上も下も大忙し。

 

 そして、その男がカールスラント皇帝陛下から直々に勲章を貰って、引き抜きされたのかどうかが、一番気がかりな所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、記者のニールマンが当たり前のようにこの500統合戦闘航空団の基地に居ついている。

 

 一体いつの間に500に所属になったんだよ。このことについて小一時間問い詰めたい。

 

 はぁ、と溜息を付いて珈琲を飲む。

 

 そう言えば、章香もフィーネも様子がおかしい。

 

 俺から距離を取っているように感じる。嫌われるような事をした覚えは無いんだけどな。何やら、焦りのような、そんな感じが伺える。何に対して焦っているのかわからないが、後でメンタルケアの真似事でもした方が良いだろうか。

 

 そう考えて居たら電話が鳴る。

 そう言えば、此処の電話が鳴るのは珍しい気がする。

 

『お久しぶりです。グンドュラ・ラルです』

 

「ああ、ラルか。どうした?」

 

 グンドュラ・ラル。彼女がまだ駆け出しのウィッチだったころに出会った仲で、ネウロイの攻撃で大怪我して、それを治療した覚えがある。

 

『例の件です。一応書類を送りましたが』

 

 ああ、そんな書類合った気がする。

 

「確か502統合戦闘航空団設立だったか」

 

 その件に関しては既に了任の印を押したんだが、はて?

 

『そうです。それで人材を集めてまして、総監督が「アスランで構わない」…、アスランの艦隊から菅野直枝少尉と雁淵孝美中尉をお借りしたく』

 

 成る程、引き抜きか。確かにウィッチには羽振りがいいが、統合戦闘航空団の方が好待遇な上、戦闘経験も積めるし、彼女たちの事を考えると良い経験になるだろう。

 

「わかった、話は通して置く」

 

『助かります。アスラン』

 

「敬語は要らないって言っただろう。それにしてもお前が隊長か…、もう、ひよっことは呼べないな」

 

『もうとっくにひよっこは卒業しました。アスラン位ですよ、未だに私をひよっこと言うのは…、戦果を期待ください』

 

 ……、

 

「戦果なんてどうでもいい。全員で生きて帰る事だけを考えろ」

 

『…、そうでしたね、貴方は何時もそうだった』

 

「? ラル? すまないがもう一度言ってくれ、声が小さい」

 

『なんでもありません。失礼します』

 

 少し呆れた声音で電話切られたが、何だったのだろうか?

 

 

 …で、一応、配備される新型ユニットのパーツを確認して、食料と一緒に、かき集められるだけかき集めて、502の所へ出向いた。

 別に俺じゃなくても良いんだが、陸路も海路もネウロイに出会えば破棄なので、確実に持って行ける方法でと考えた。転移魔法様々だな。

 

「言ってくれれば、迎え位出しましたのに」

 

「新設の部隊で忙しいと思っていたんだが…」

 

 どこの部隊でも人手不足は否めない。新設の部隊なら尚更だ。

 

 取り敢えず、

 

「隊長就任祝いだ」

 

 そう言って書類を渡す。

 

「本当は電話一本で何とかしてやりたいが、そこは組織だから、と諦めてくれ」

 

 後で確認しといてくれとも言って置く。

 

 一通り、書類に目を通した後、少し驚いた顔をして問いかけて来るラル。

 

「これだけの量、大変だったんじゃないですか?」

 

「お前たちの所程じゃない」

 

 ラルたち502は陸路はネウロイに塞がれていて、物資の運搬の殆どを海上輸送船団に頼っている。

 

 その輸送船団の半数もネウロイにより静められることが殆どだ。実質、入って来るのは頼んだ物資の半分あればいい方なんじゃないか?

 それに比べて、俺達500の基地は比較的安全地帯にあり、物資も滞りなく補給される。ストライカーユニットもルーデルが壊したりする以外は特に問題ないので、部品に困ることもない。

 そして、俺は軍内部では顔が利く。俺に借りを作りたい奴はわんさかいるので、パーツも食料の調達もそれ程てはかからない。

 

「他にも希望があれば今の内に言ってくれ、できる限り叶えるさ」

 

 流石に502に付きっ切りと言うわけにもいかないし、脱落者が出ないとも限らない。だから、今の内に叶えられるものがあれば叶えてやりたい。

 

「…、アスラン」

 

 おっといけない。顔に出ていたか。

 

「それよりも、新人の迎えまだだろう。俺が行ってくるよ」

 

「いえ、流石にそこまでして貰うわけには。迎えにはポクルイーシキン大尉を向かわせます」

 

「仕事をさぼるための建前だ。察してくれ」

 

「…、ではお願いします」

 

 敬語は要らないって言ってるんだけどなぁ。

 

「場所は?」

 

「スオムスキー駅です」

 

 場所を聞いて出てこうとすると、袖を引っ張られる。

 

「ん? どうした?」

 

「道はわかりますか?」

 

「わかるけど?」

 

 そう言うと脛を蹴られた。理不尽だ。

 

 本当は嘘で、わからないので、ジャスティスが道案内してくれる。

 

「道はわかりますか?」

 

 どうやら、さっきのやり取りは無かったことにするらしい。

 

「…、はぁ、わからない」

 

 どこまで行っても平行線なのは今までの経験上わかっている事なので、早めに折れる。

 

「では、私が案内します」

 

 そう言う。

 

「気持ちは嬉しいが、忙しいだろ。それに、ポクルイーシキン大尉に任せると言ってなかったか?」

 

「仕事をさぼるための建前です。察してください」

 

 …そう言われては、此方としては断れないな。誰だよ最初にそんなこと言った奴。…、俺だよorz

 

 

 

 

 そう言うことで、格納庫まで行ったら、丁度迎えが出る所だった。

 

「待て、サーシャ。予定変更だ。私が迎えに行ってくる」

 

「え? 隊長自らですか?」

 

 そうそう、普通そこに突っ込むよね。

 俺も、サーチャーでネウロイに動きが無いのを確認しなかったら駄目だと言ってたところだし。

 

「それに…そちら…、え、嘘」

 

 驚いた顔で何度か見た後、凄い勢いで敬礼して来た。

 

「わ、私はアレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン大尉であります。お会いできて光栄です! アスラン・ザラ中将!!」

 

 この間階級上がったばかりなのに良く知ってたね。

 新聞にでも載ってたか?

 でもね、大声出すのはちょっと控えて欲しかったな。格納庫内に居た整備兵とかが一斉に此方向いたからね?

 認識妨害魔法使っとくべきだったかな。

 囲まれる前に、二人を軍用車に押し込み、エンジンをかけて一気に基地から発車する。

 

 ペテルブルグの街は人が居なく、静かで、乗っている車のエンジン音だけが淋しく木霊する。

 

「そうだ、二人ともこれをつけておけ」

 

 そう言って使い捨てカイロを渡す。

 

「これは?」

 

 ラルから疑問の声が上がるが、着ければわかるとだけ言っておく。

 

 それと、さっきから顔を真っ赤にしてだんまりを決め込んでいるポクルイーシキン大尉。成り行きとは言え押し倒すまがいの事やってごめん。だから、憲兵隊に突き出すのは勘弁してね。

 

 少しして、カイロを体に着けたラルがほう、と声をもらす。

 

「寒ければまだあるぞ?」

 

 そう言うが二人は要らないと答える。遠慮することは無いんだが…、

 

 また、エンジンの音だけが木霊する。

 

 元々ラルは余り話す方じゃないのし、顔見知りで、気心がしれているが、後ろの席に座っているポクルイーシキン大尉は違う。

 

 もしかしたら、俺みたいな上官が居るせいで気を使いまくって気まずいかも知れない。

 こんな時はラジオがあればいいんだが、この時代の、しかも軍用車にそんなものが付いているはずもなく、かと言って、気の利いた話もできない。

 

「待ち合わせ時間に余裕はあるのか?」

 

 段々と、人の通りが多くなり、街へ入ったことが伺えると俺は問いかける。

 

「一応時間には余裕はあります」

 

 ラルがそう答える。それなら、ちょっとくらい寄り道しても大丈夫だろう。

 ジャスティスにこの辺りで有名なお茶できる所ないか聞いてみる。あ、茶菓子が美味い場所で宜しく。

 

 車を止めて、ジャスティスのナビゲート通りに進んでいくと、割と洒落た店に出た。

 

 その店に二人を引っ張って入る。

 

 席に案内されて戸惑っている二人をよそに注文をする。

 

 「かしこまりました」と言う声を残して店員の女性は去っていく。

 

 やはり、と言うか、何と言うか。男は見かけないな。

 

「……、”誰か”と来たことがあるんですか?」

 

 誰かの部分が強調されているような気がするけど気のせいか?

 

「いや、初めて来たが?」

 

「それにしては随分と詳しいみたいですが」

 

 そう言いながらメニューを指さして言う。

 

「? もしかして、頼みたいのがあったか?」

 

 そう言うとラルは、はぁ、と溜息を付いて「何でもないです」と言う。

 もう一人は相変わらずガチガチに緊張している。

 

 甘いものは女の子の大好物だと思ったんだが、やはり、金だけ握らせて店に放り込んだ方が良かったか?

 

 

 注文の品が来て、食べ始めてもポクルイーシキン大尉の緊張の糸は緩まずに居る。

 

 俺が居ない方が良いな、こりゃ。

 そう思いラルには小声でこのことを伝えて、店を出る。

 

 結局、ポクルイーシキン大尉には罰ゲーム以外の何物でもない状態になっちまったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーシャ、気持ちはわからなくも無いがもう少しどうにかならないか?」

 

 アスランに悪気は無い。むしろ私達に気を使ったのだろう。

 

 メニューを見ながら言う。

 

 アスランは金を私に渡すと、会計をしてから外に出て行った。全く、そう言うことをするのは女の役割だろうに。

 まぁ、悪い気はしないが。

 

「無理言わないでください、あの赤羽の英雄ですよ」

 

 そう言って紅茶を口にする彼女。

 

「と言うか、隊長はお知り合いだったんですか? ずいぶん親しそうでしたけど」

 

 親しい、か。

 なんだか優越感を感じるな。

 悪くない。

 

「ああ、私が軍に入った時に世話になった」

 

 今回この第502統合戦闘航空団の設立にも世話になっているしな。




敬語なグンドュラ・ラル。

何か新鮮だな~。

壊れそうで壊れない壊れかけのアスラン(偽)


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