東方短編集 (旭日提督)
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貴女のことが大好きで

あらすじ:
アリス・マーガトロイドは霧雨魔理沙のことが好きだ。しかし、そんなアリスの中に、人間である魔理沙を食らおうとする妖怪の本性が鎌首をもたげる。
そんな中、アリスが取った行動は・・・




自分の頭の中にあった妄想を形にしてみました。後悔はしてない。

マリアリは攻めのイケメン魔理沙に受けの乙女アリスという印象が強いのですが、乙女魔理沙に強気アリスというのも良いと思います(言うほど乙女描写があるかは疑問ですが)
多分夢幻航路の世界線ですが、ストーリーには特に影響はありません。

百合です。アリスが微さでずむです。その点お気をつけ下さい。


 魔法の森―――常人ならば化け茸の胞子で忽ち体調を崩してしまうようなこの森の上空に、箒に跨がり飛行する少女の姿があった。

 

 白黒の衣装に黒い三角帽子と典型的な魔女の姿をした少女――霧雨魔理沙は、森の中にぽつんと建つ青い屋根の白い洋館をその目に捉えると、滑らかな動作で箒を操り、慣れた手付きでその洋館の玄関口に着地した。

 

「おーいアリスうー、来てやったぜー」

 

 彼女は玄関口で洋館の住人に呼び掛けると、程なくして扉が開いた。

 

「・・・あら、また来たの、魔理沙。私は貴方みたいに暇じゃないのよ」

 

「良いじゃないか、私とアリスの仲だろ。それじゃ、上がらせて貰うぜ」

 

 金髪碧眼の洋館の住人―――アリス・マーガトロイドはそんな魔理沙を呆れたような口調で出迎えたが、魔理沙はそれを意に介さずにずけずけと屋内に歩を進める。

 

「はぁ、貴女ったら・・・・せめて上履きぐらいは履きなさいよ。土足で上がってキノコの菌糸なんか持ち込まれたら迷惑だわ」

 

「いちいち言われなくても分かってるぜ。心配すんな」

 

 魔理沙はアリスの忠告を聞き流して、手持ちの上靴に履き替える。

 

 いつもこんな調子で魔理沙はアリスの家に上がり込むのだが、幾ら言っても聞かないことが分かっているアリスはこれ以上ものを言うこともしなかった。彼女は魔理沙の後ろ姿を、呆れながらもどこか暖かみのある視線で眺めると、扉を閉め自らも屋内へと戻る。

 

 

 偽りの月の異変が過ぎた後、魔理沙は何時の間にかこの洋館に入り浸るようになっていた。勝手に来ては勝手に帰っていく魔理沙を当初は適当にあしらっていたアリスだが、彼女もいつしか魔理沙との遣り取りを楽しむようになっていた。内容は魔法の研究から世間話まで様々で、時にはあの夜のように共に異変解決に赴いたこともある。

 

 そんなアリスだが、最近になると悩みの種が出来ていた。

 

 ―――いつも魔理沙に、主導権を握られている。

 

 訪れて帰っていくのも、話を始めるタイミングも全て魔理沙が握っている。それだけなら別に構わないアリスだが、最近になると突然魔理沙がもたれ掛かってきたり、魔理沙の瞳に覗き込まれると動悸を覚えてしまう自分に困惑していた。

 

 ―――この感情の正体には、大体察しがついているのだけれど・・・

 

 魔理沙の仕草に動悸を覚えてしまう自分、その感情が何なのか朧気に理解していたアリスだが、同時に別の感情も込み上げてきた。

 

 魔理沙が無警戒に自分に接するのはそれだけ自分のことを信頼しているのだとアリスは分かっていたが、それがなんだか無性に気に食わない自分がいると感じていた彼女であった。そしてそれは、前者の感情が大きくなればなるほど、後者もまた大きくなっていった。

 

 ―――今夜は荒れる。魔理沙は泊まっていくだろう。仕掛けるなら、そこだ。

 

 いつもは都会派魔法使いとして振る舞ってきた自分だが、今夜ばかりは"妖怪"として振る舞ってやろう。そう決意したアリスだった。

 

 魔理沙の見ない所で、アリスの口角がつり上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、アリス・マーガトロイドは魔理沙が好きだ。

 もうこれは、自分でも隠しようがない。いつから好きだったのかは分からないけど、気が付けば彼女の言葉、仕草に心を奪われていた自分がいた。

 それと同時に妖怪としての本性が鎌首をもたげて、あれを自分のものにしてしまえと囁いている。

 

 そして結局、妖怪である私は妖怪としての本性に従うことにした。

 もうこれで、振り回されてばかりの関係は終わりだ。

 

 ―――今度は私が振り回す番よ、魔理沙・・・

 

 私は内心でほくそ笑む。

 

 

 魔理沙はそんな悪魔にも気付かずに、何時ものようにソファーで寛いでいた。

 

 

 

 取り敢えず私も何時ものように紅茶を用意して、魔理沙をもてなす準備をした。

 

「魔理沙、紅茶を淹れてきたわよ」

 

「おっ、サンキュー。いただくぜ」

 

 魔理沙は紅茶を取って一服すると、綺麗な瞳で「ありがとな。美味しかったぜ、アリス」と言ってくれる。元々自分で楽しむために覚えたものだけれど、人に誉められるのは悪い気がしない。それが魔理沙なら尚更だ。

 

「そういえばアリス、研究の方はどうなんだ?」

 

 唐突に、魔理沙が話題を振ってくる。

 

「そうねぇ、あまり上手くは行ってないかな。式の構成で手間取ってしまってね」

 

「へぇ、お前が式の構成でか。なら、後で私が見てやろうか?」

 

「無駄よ、貴女とは原理が違うもの。それに、どうせまたアイディアを盗もうとか考えていたでしょ」

 

「ちっ、つれない奴だぜ。先人から多くを学ぼうとするのは誉められる姿勢だと思わないか?」

 

「確かにそれは正しい姿勢だけど、貴女の場合は見境が無さすぎ。少しは弁えなさい、泥棒さん」

 

 魔理沙は時々、こうやって私の魔法を盗もうとする。パチュリーみたいに物を持っていかれないだけマシだけど、いくら大好きな魔理沙とはいっても私にだって見せられないものは見せられないのだ。

 

「泥棒だなんて人聞きの悪い。私はただ先人の技術を参考にさせて貰ってるだけだぜ。」

 

「それを世間一般では技を盗むっていうのよ。盗むのだから、泥棒さんには違いないわ」

 

「き、詭弁だぜ」

 

「そこは能弁と言って欲しいわね」

 

 だけど魔理沙も無理に盗もうとはしないみたいで、こうして抵抗してみせると案外簡単に引き下がってくれる。向こうも一線を越えようとは思っていないみたい。

 まぁ、こうやって魔理沙と話すのも中々楽しいのだけれど。

 

「それで、貴女の方はどうなのかしら?」

 

「私か?いやぁ~、実は私も上手くいってなくてな、必要なキノコを探しても全然出てこないんだ。いくら良い魔法を思い付いたって、材料がなけりゃどうにもできないぜ」

 

 どうやら魔理沙の方も上手くいってないらしい。だから私の魔法を盗もうとしたのかもしれない。キノコは年によって当たり外れが大きいとは聞いてるし、その辺りは自然が相手なので仕方ない面もあるだろう。だから私は、供給が不安定なキノコには頼らないのだ。

 

「あ、だけどな、副産物って感じなんだが新しいマツタケのシロを見つけたんだ。いっぱい生えてたもんだから一本霊夢のところに持っていってやったら、あいつったらすごい勢いで飛びついてきたんだぜ」

 

「マツタケねぇ、私はあまり好きじゃないかな。あの匂いとか」

 

「哀れな奴だぜ。マツタケの匂いの良さが分からないなんて」

 

 魔理沙達はマツタケが良い匂いと言うのだけれど、私にはいまいち分からない。どうも、この点に関してだけは私達は分かり合えないらしい。文化の違いというものだ。

 

 

 そんな感じで世間話や研究の話なんかをしているうちに、外はすっかり暗くなっていた。時刻は夕方だろうが、雨雲が空を覆っているのでこの時間帯にしては何時もより暗い。

 それに雨も降りだして、あっという間に土砂降りになってしまった。

 

「ありゃりゃ・・・・これじゃあ帰るのは難しいな」

 

「何なら、今日は泊まっていきなさい」

 

「おっ、悪いなアリス。じゃあ今日も世話になるぜ」

 

 魔理沙は笑顔で礼を告げる。その笑顔が、私には少し眩しい。自分のモノにしたくなる。

 

「ええ。迷惑が掛からない範囲で寛いでいきなさい」

 

 私は自身に渦巻く欲望を覆い隠して、普段と変わらない態度で魔理沙に答える。その裏で、私は人形達に命じて魔理沙を絡めとる罠を着実に張っていく。魔理沙はまだ、そんな私に気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリス~上がったぜ~」

 

 バスルームから魔理沙の声が聞こえてくる。どうやら魔理沙が入浴を終えたみたいだ。もう夕食はとっくに済ませているので、あとは寝るだけ・・・

 

 魔理沙の声を受けて、私は着替えを持ってバスルームに向かった。

 

「いい湯加減だったぜ、アリス」

 

「それはどうも。あと魔理沙、今日は冷えるから早めに着替えておきなさい・・・っ」

 

 風呂から上がった魔理沙は、ほんのりと頬を上気させて、バスタオルを体に巻いていた。すれ違い様に魔理沙の洗いたての髪の匂いがふわりと漂ってきて、思わずくらっとしてしまう。魔理沙を抱き締めてしまいたい気持ちに駆られるが、まだその時ではない。

 

「ああ、気遣いどうも・・・って、どうしたアリス?」

 

「いや、何でもないわ」

 

 どうやら、少し顔に出てしまったらしい。

 私は魔理沙にばれないようにいつもの足取りを心掛けてバスルームに入った。

 

「?、まぁいいか」

 

 魔理沙はそんなアリスの様子を一瞬不審に思ったが、特に気にせず寝間着に着替えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙、寝るときはいつもの部屋を使いなさい」

 

「おう、分かったぜ」

 

 時刻は深夜、もう就寝の時間だ。風呂から上がった後は適当な話なんかをして時間を潰し、魔理沙にはいつも泊まっていくときに貸していた部屋を今日も貸した。ただ、今日の寝室は一味違うけど。

 

「それじゃあお休み、アリス」

 

「ええ」

 

 魔理沙は手を振って、寝室に向かっていく。

 

 時刻は深夜、妖怪の時間だ。

 

 ..................

 

 ............

 

 .........

 

 .....

 

 魔理沙は寝室で横になり、今日一日のことを考えていた。

 

 ―――アリスの奴、今日はちょっと可笑しかったな・・・なんか、いつもより顔を赤くしたりとか・・・やっぱりそうなのかな・・・

 

 魔理沙にとって、アリスは気の合う親友だ。相手がどう思っているかは分からないが、少なくとも魔理沙はそう思っていた。

 

 ―――でも、いつもとは違うアリスも中々いいもんだ。あれはあれで可愛げがあって魅力的だ。

 

 ただ、霊夢とは違う意味で、親友以上の感情が芽生えている。魔理沙はそれを何となく分かっていたが、この先どうするべきか、彼女は悩んでいた。

 

 ―――うん、やっぱり、今のままの方が・・・いや、やっぱ私から行くべきか?

 

 しばらく魔理沙は自問自答を繰り返したが、それもじきに外の雨音に掻き消されていく。

 思考が朧気になって、眠気が差してきたそのときだった。

 

 シュルッと、何か糸のようなものが魔理沙の腕に伸びてきた。

 

「な、何だぁっ・・・」

 

 咄嗟に身を起こそうとした魔理沙だが、それよりも早く糸のようなものが魔理沙の手足に巻き付いて、身体をベッドに固定される。

 

「っぐっ・・・・あれは、人形?」

 

 糸の先を見ると、複数の人形が見えた。それが糸を操作しているのだろうと思った魔理沙だが、その理由が理解できない。

 

「な、何するんだ?」

 

 魔理沙が抵抗できない間に人形達は魔理沙の手足をベッドに結びつけて、入口の方へ向かっていく。

 

 キィ、と、ドアが音を立てて開いた。

 

「ア、アリス!これ、お前の人形だろ?何とかしてくれない、か・・・・?」

 

 開いたドアから、寝間着姿のアリスが寝室に足を踏み入れた。

 魔理沙は人形の主であろうアリスに糸を解すよう頼もうとしたが、アリスの表情を見て言葉を詰まらせた。

 

 一瞬雷の光に照らされたアリスの顔は、何かを決意したかのような表情をしていた。

 

「魔理沙は私の種族、覚えてる?」

 

「お、おう・・・魔法使いだろ?」

 

 何故そんなことを訊くのか理解できない魔理沙だが、アリスの質問に、素直に答える。

 

「そう、私は魔法使い、妖怪で、貴女は人間・・・・。人間は妖怪を恐れると、あのスキマ妖怪も言っていたでしょ」

 

「それが、どうしたんだよ・・・」

 

 アリスは一歩ずつ、静かに魔理沙に歩み寄る。

 

「でも魔理沙、貴女は普段私が妖怪だって、意識しているかしら」

 

「それは・・・でも、私とアリスは友達だろ?」

 

 魔理沙の枕元にまで歩を進めると、アリスはぐっと魔理沙に顔を近付けた。

 

「そう・・・・貴女は妖怪に気を許しすぎよ」

 

 

 

 

 

 

 は?という表情が、魔理沙の顔に浮かぶ。

 

「魔法使いは食事は必要ないから、人食い妖怪みたいに人間を襲う必要はないわ。だけれどね・・・」

 

 私は魔理沙に馬乗りになって、彼女の耳元で囁く。

 

 

「こんなに可愛い子がいたら、思わずお人形さんにしたくなっちゃうわ」

 

 

 ひいっ、と、小さく魔理沙が悲鳴を漏らす。

 今の私は、さぞ悪い笑顔を浮かべていることだろう。

 

「お、おい・・・冗談だろ?」

 

 魔理沙が涙目になって、縋り付くように尋ねてくる。

 

 そんな顔をされたら、もっと苛めたくなってしまう。

 私は人間に翻弄されるのがなんだか癪で、ここぞとばかりに魔理沙を翻弄しようとする。

 

「ふふっ、それはどうかしら?貴女は今、悪い魔女の掌の上なのよ」

 

 私はそこで、意地の悪い笑みを魔理沙に見せる。

 魔理沙の顔から、さぁーっと血の気が引いていくようだ。

 

「う、嘘だろ・・・」

 

「嘘よ」

 

 血の気の引いた魔理沙の問いに、今度はいつもの笑顔で私は答えた。

 

「へ?」

 

 予想外の言葉だったのか、状況を飲み込めない魔理沙が、そんな素っ頓狂な声を出した。

 

「うふふっ。こういうの、ドッキリって言うのかしら」

 

「こんな悪趣味なドッキリはないぜ・・・はぁっ、寿命が縮むかと思った」

 

 ドッキリだと知って魔理沙は安堵したようで、ほっと胸を撫で下ろす。

 だが、そこで安心なんかさせてあげない。

 

「でも、貴女なら本当に、お人形さんにしたいって思っちゃうかも」

 

 そこで私はもう一度意地悪な笑みを見せて、魔理沙に迫る。

 

「えっ、ちょっ・・・・待ってアリす、むぐっ・・・」

 

 私は魔理沙の唇に舌を這わせ、そのまま私の唇と重ねて彼女の口内を弄ぶ。

 

「んっ―――んぐっ・・・っはぁっ・・・・ぁ、アリス・・・?」

 

 私はゆっくりと唇を話して、優しく告げる。

 

「魔理沙―――私、貴女が大好きよ」

 

 それはもう、本当に自分のモノ(お人形さん)にしたいくらいに。

 

 ちょっと意地悪な告白になってしまったけれど、意地悪な私はこんな形でしか想いを伝えられない。

 

「アリス・・・私も、アリスのことが――――大好き」

 

 拘束が解かれた魔理沙の両腕が、私の背中に回されれる。

 あんな意地悪をした後なのに、魔理沙は大好きと言ってくれて、私は思わず抱きついてしまう。

 

「あ、アリス!?」

 

「魔理沙、今夜ばかりは私のお人形さんになりなさい」

 

 こうしていられるのも今のうちだけだから、私は強く、魔理沙を抱き締める。

 

「ああ――――良いぜ、アリス・・・」

 

 魔理沙もそれに応えて、私を抱き返してくれた。

 

 外の雷雨は、何時の間にか止んでいた。

 

 




二人は幸せなキスをして終了。何もやましいことはない。いいね?

~後日談~

魔理沙「ってなことがあってな・・・・あの時のアリスの小悪魔的な表情なんてもう、今思い出せば堪らないんだぜ」

霊夢「はいはい、あんたはいい加減その色ボケを直しなさい」

魔理沙「なんだよもう、人が折角恋バナしてやってるのに・・・・まぁ、お前も早苗と頑張れよ(宇宙で)」

霊夢「はぁ?何なのよもう・・・」(夢幻航路参照)



ちなみにですが、ここでの魔理沙はアリスにべた惚れになりました。アリスみたいな美人さんに意地悪な笑みで迫られたら、速攻で陥落してしまいますね(笑)


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紅い幻想(ゆめ)で見るものは

この話は、「夢幻航路第四一話、猫神様に奉る」の続きになります。そちらの方を読んでいるという想定で書いています。

また、本話には以下の警告ポイントがあります。注意して読んで下さい。

*R-15
*レイサナ
*(濃厚な)百合



 ―――紅い。

 

 天井から床まで、びっしりと覆う赤色。

 

 いつも見慣れた艦内通路の筈なのに、色が変わるだけでここまで印象が違ってくるのか。

 

 ―――紅、紅、紅。

 

 ここは旗艦の通路で間違いない。しかし、この紅は一体何なのだろうか。私がいない間に、なにか変なことが起こったのか。

 

 特に行く宛もなく、私は歩く。

 

 どこまで言っても、通路は紅に覆われていた。これでは、宇宙船の通路というよりむしろ生物の体内だろう。

 この通路は、さしずめ血を運ぶ血管と言ったところか。

 

 

 ふらふらと放浪しているうちに、いつのまにか自然ドームの入口に辿り着く。

 そこに用があるわけではないが、私は吸い込まれるように足を踏み入れた。

 

 ドームの中も、ひたすら紅い。

 

 地面の草花から生い茂る木々に空の色まで、全て血で染めたように紅い。

 ここまでくると、おかしくなったのは周りではなく、むしろ自分の方ではないのだろうか。

 視界一杯に広がる紅が、否応なしに眼球を酷使させる。

 

 ところで、私は何処に向かっているのだろうか。

 

 歩みを進める両足はまるで機械の如く、淡々と動き続けている。私の意思など関係ないと言わんばかりに。

 

 留まることなく、林を抜ける。

 この先は、神社の参道だった筈。

 

 森は物音一つなく静まり返っている。

 普段なら聞こえる生物の気配など全くない。

 やはり、おかしくなったのは私ではなく周りのようだ。

 

 ふと、辺りの気配が変わった気がした。

 

 光景は一瞬前と変わらない。

 だが、ここが何故か、幻想郷のような気がしたのだ。

 

 頭では現状の把握に努めながら、相変わらず両足は歩を止めることはない。

 

 一体私の両足は、誰の意思で動いてるのだろうか。

 

 参道を抜け、階段を潜り、鳥居を抜ける。

 

 私の神社も、周りと同じように紅く染められていた。

 

 

 ―――これは異変だ。

 

 

 朦朧としてきた意識のなか、漸く私の頭が結論を下した。

 

 普段なら、こんな景色を見せられればすぐにその結末に辿り着く。しかし、今はなぜ、さっきまでその可能性が思い浮かばなかったのだろうか。

 

 ―――異変なら、解決しないと。

 

 反射的に、私の脳が切り替わる。

 もう巫女ではない筈だが、もはやこれは癖のようなものなのだろう。癖というのは、そう簡単には抜けてくれない。

 

 ―――紅といえば、やはりあの吸血鬼だ。

 

 前科持ちのあいつなら、また幻想郷を紅くするなんて暴挙に出てもおかしくない。なら、疑うのは当然のことだ。

 

 ところで、ここは何処なのだろう?

 

 ついさっきまでは何と認識していたのだろうか。確かここは、旗艦の艦内だった筈。

 何故、私の思考は幻想郷だと認識したのか。

 

 眼に入る光景こそ私の神社だ。

 しかし、ここが何処なのか、私の頭はうまく認識してくれない。

 

 気配が幻想郷だからなのか?

 それとも、行く道で尖り帽子と烏の羽根を見たからだろうか。

 

 ・・・はて、尖り帽子と烏の羽根なんて、何処で見たのだろうか。

 

 何処かで魔理沙を見たような気がする。だけど、それがどこなのかは靄がかかったように思い出せない。

 こんな事態になってるなら声の一つでもかけるのだが、どうして私は通りすぎたのだろうか。

 

 ―――女の、声?

 

 いつの間にか、私は神社の裏手に回っていた。

 誰かの声が聞こえた気がする。

 

 私の神社に勝手に上がり込むなんて、何処のどいつなのだろうか。

 

 不思議と、それが魔理沙な気がしない。

 

 廊下を進むにつれ、次第に声がはっきりと聞こえるようになる。

 

 私の手は、意識するまでもなく障子の引き手に置かれていた。

 無意識のまま、障子を開く。

 

 

 

 .............

 

 

 

 

 緑と金―――

 

 二人の少女が、抱き合っていた。

 それを締め上げるように、這い上がる白い大蛇を幻視する。

 

 いや、一人の腕はだらんと力なく垂れ下がっている。

 抱きついているのは、緑の方だけだ。

 

「あ、ああ・・・・・っ」

 

 緑の少女が、金の少女の首筋に顔を近付ける。

 蛇が締め上げる勢いのまま、彼女はそこに噛み付いた。

 

「ぐっ・・・」

 

 力なくなされるがままだった金の少女が、一瞬苦痛に顔を歪める。

 それも一瞬のことで、彼女は抵抗するわけでもなく、緑の少女に吸われ続ける。

 

「っ・・・はぁ―――」

 

 情事が終わったのか、緑の少女が唇を話す。

 そのまま大蛇も溶けるように消えていき、中身を奪い尽くされた金の少女は、まるで糸が切れた人形のようにがくんとその場に倒れ伏した。

 

 

「・・・やっと来てくれたんですね―――」

 

 緑の少女が、口を開く。

 その顔は、いつも見慣れたもので―――

 

「―――早苗、貴女何をしているの?」

 

 私はそう問い質す。

 口を開くことさえ、今となってはもどかしい。

 

 早苗はいつか見たような猫耳を生やし、尻尾は二股に別れている。

 緑の少女が早苗なら、金の少女は一体誰だったのか。あれはアリス?でも、もう一人、彼女らしき人がいたような気がするが、靄がかかったように思い出せない。

 

「もう。遅いですよ、霊夢さん。お陰で私、待ちきれなかったじゃないですか。アリスさん、もう食べちゃいましたよ」

 

 その一言で、あれは捕食だったのかと悟る。

 早苗はそれがさも当然というかのように平然としている。

 やはり、あれはアリスだったみたい。でも、何故彼女だったのか。

 

「霊夢さんが遅いから、私の我慢が効かなかったのよ」

 

 私の疑問に答えるように早苗が呟く。

 端から見れば異常な答え。でも、彼女にとってはそれが普通なのだろう。

 この紅の中、平然としていられる奴なんて普通じゃない。なら、彼女が異変の黒幕と見て間違いない。

 

 

 ―――退治しないと・・・・・・

 

 

 相変わらず回転のおかしくなった頭が、漸くそう結論を下す。いつものように、陰陽玉とお祓い棒で妖怪は退治する。そこに慈悲も贔屓もない。

 

 しかし、私の身体は動くことをしなかった。

 

 腕を動かそうにも、まるで蒟蒻の中に囚われたように一寸たりとも動かない。これでは退治しようにも、相手に近付くことすらままならない。

 

 押さえつけられた訳でもないのに、とっくに身体は自由を失っていた。

 

「駄目ですよ、無理に暴れちゃ。此所は私の世界なんですから」

 

 早苗は唇に指を当て、語りかけるように私を諭す。

 

 その仕草は、取り憑かれそうなほど蠱惑的だ。

 

 

「・・・次は、霊夢さんの番ですから」

 

 

 早苗は指を当てたまま、唇をそっと舐めた。

 

 一歩、また一歩と、早苗は私に歩み寄る。

 

 とっくに自由の効かなくなった身体は、逃げることさえ許さない。

 

 ふわりと漂う早苗の甘い匂いが、毒となって私の思考を掻き消していく。

 彼女の細く長い腕が私の背中に回される。右手は押さえ付けるように、私の肩口を固定した。左手は背中を掴むようにして抱き寄せる。抱きつく彼女はまるで蛇のよう。

 私達の周りには、既にあの大蛇が巻き付いていた。

 

 早苗の顔が、私の首筋へと近付けられる。

 

 唇の柔らかい感触に、ざくり、と肌を食い破る音が重なる。

 

「ぐうっ・・・!」

 

 その痛みに、思わず呻き声が口から漏れる。

 声が出たのはその一瞬だけ。早苗に噛み付かれた私の喉はあっという間に砕け散り、呻き声が出ようにも噛まれた位置で塞き止められる。

 私に密着した早苗はさらに圧迫を強めてきて、呼吸すらも許さない。

 甘い肢体に抱かれた私は、溺れるように意識を奪われていく。

 

「はぁ、んっ・・・霊夢さん、美味しいです・・・」

 

 貪るように、私の中身が吸い出されていく。吸われる度に苦痛が走るが、何故かそれが心地いい。

 

 背中の腕に力が入れられ、求めるように早苗は私を引き寄せた。

 

「もっと・・・まだ、欲しい―――」

 

 私の中身はとっくに枯れているというのに、早苗はまだ吸い続ける。

 何もかもを奪い尽くさないと気が収まらないのか、一層締め付ける力が強められた。

 

 だけど、私はなんで受け入れているのだろうか。

 

 早苗に吸われるのは苦しいけれど、不思議と嫌な感じはしない。それどころか、このまま身を任せていたいとすら思えてくる。

 

「れいむ・・・さん、っ!!」

 

 私の全てを奪い尽くすまで、早苗は喉を鳴らして貪欲に中身を吸い続ける。

 いつまで続いたか分からないほど、私は彼女に絞められていた。

 

「っ、はぁっ―――、ご馳走さまでした」

 

 早苗が頭を離すと同時に、辛うじて繋がれていた意識も落ちる。

 最後に見たのは、心底嬉しそうに微笑んでいた早苗の姿だった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ん、夢・・・?

 

 

 次第に意識が明白になり、ぼやけていた視界もはっきりしてくる。そこにあったのは、いつもの見慣れた神社の天井だ。

 

「悪夢・・・なのかな―――」

 

 どうやら、先程までのあの光景は夢だったみたい。それに少しほっとする。

 夢の内容を思い出すと、なんだか恥ずかしさがこみ上げてくる。

 内容は悪夢の筈なのに、どうしてか嫌な感じはしない。それどころか、名残惜しさまで感じてしまうのは一体どうしてなのだろう。

 

「あ・・・そうだ、庭、片付けておかないと」

 

 一旦意識を夢から逸らせて、今日の予定を確認する。

 

 確か、昨日の宴会の片付けはまだやってなかった筈だ。片付けられる部分でもやっておこう。と、その前に色々準備しないとね。

 

 まだ意識は明白ではないが、顔を洗えばこの靄もすぐに取れてくれるだろう。

 

 私はまだ頭に靄がかかったような意識のまま起き上がろうとしたのだが、なにか重いものに押さえつけられているように身体が動かない。

 

「あれ・・・?」

 

 いつもなら少し力を入れればすぐ起き上がれるのに、今日に限ってそれができない。

 そこで、私は本当に身体の上になにか重いものがあることに気づいた。それと、特に胸のあたりが苦しい・・・

 

 加えて、あの夢で感じたように首筋には未だに違和感が残っている。あれ、夢だったのよね?

 

「何なのよ、もう―――」

 

 それを確認しようと視線を落としてみると、視界の下に緑色の物体が見えた気がした。

 

「―――ハァ・・・何やってるのよ、早苗・・・」

 

 そこにいたのは私に覆い被さったまま、すーすーと寝息をたてていた早苗だ。まだ昨日の猫耳もちゃんと残っている。

 

「ふにゃあ~~、れいむさん、おいしいれすぅ~♪」

 

 早苗はそんな寝言を吐きながら、私に抱きついた姿勢のまま首筋をがしがしと甘噛みしている。舌と牙が当たるお陰で少しくすぐったい。

 

 ―――成程、悪夢の原因はこれみたいね。

 

 あんな恥ずかしい夢を見させられたのも、現実でも早苗が甘噛みしてきたからに違いない。妙に赤かったあの景色も、早苗が密着してきて暑苦しかったためだろう。

 

 それより・・・胸、苦しいんだけど―――っ

 

 早苗は私に覆い被さる形になっているので、当然私の身体には早苗の体重全てがかかっている。それに、早苗が腕を回して抱きついているお陰でさらに身体が密着する形になり、重さだけでなく圧迫感も余計に感じられるため、肺が押し潰されるような感覚に襲われる。

 お互いの位置関係上、ちょうど早苗の胸が私の胸のあたりにきているので、そこが余計圧迫されて苦しさを増している。

 

「いい加減、起きなさいよ・・・っ、このねぼすけ・・・っ、ぅわあっ!」

 

「ひゃう!・・・っ」

 

 いい加減そろそろ鬱陶しくなってきたので、私は早苗を無理矢理押し退けて起き上がろうとする。

 だが早苗は抱きついたままなので、そんなことをすれば首に回された腕に引きずられで私の身体までぐるんと一回転してしまう。位置関係が変わった身体を支えようとして早苗の横に手を置いたので、ちょうど私が早苗を押し倒したような格好になってしまった。

 

「―――あ、おはよーございま・・・すぅっ!、れ、霊夢さん!?」

 

 ちょうど早苗も目が覚めたらしく、彼女は猫耳を垂れ下げたまま意識ここにあらずといった感じで眼を開いた。だがそこに私がいたためか、一瞬後に早苗は吃驚したような表情で、素っ頓狂な叫び声を上げた。

 

「れれれ霊夢さん!、朝からいきなりどうしたんですか!!・・・」

 

 動転したように、早苗の舌は滑りながら言葉を紡ぐ。

 早苗は「私、まだ心の準備が・・・」なんて呟いてるけど、何を勘違いしてるのかしら・・・

 

「やっと起きたのね、早苗。貴女が私に抱きついたまま寝ていたから起きようにも起きれなかったのよ。だから悪いけど無理矢理退かさせてもらったわ」

 

「え・・・ああ、そういうことだったんですか・・・」

 

 なんだ、残念・・・とか言ってるあんたは何を期待していたのよ・・・

 

 このままだと早苗も起きられなさそうだし、私は身を退かせて隣に座る。

 

「起きたならさっさと布団から出なさい。私は朝餉作ってくるから、あんたは布団の片付けでも手伝ってくれたら嬉しいんだけど」

 

「はい、分かりました!」

 

 私が早苗に頼んだところ、寝起きにも関わらず彼女は元気な声で返してくる。まったく、切り替えの早い娘なことだ。

 

「ああ、畳んだ布団は部屋の角に置いときなさい。あとは私がやっておくわ」

 

「了解ですっ」

 

 朝食を作ろうと私は起き上がり、そう早苗に言っておく。確か今日は昼まで非番だったから、艦橋に上がるまでに色々済ませてしまおう。

 

 ところで、背中越しに早苗が「霊夢さんがその気ならよかったのに・・・」なんて言ってるのが聞こえるのだけど、やっぱり早苗は感覚がズレてるのかしら。なんのことだかさっぱり見当がつかない。

 

 

 

 そういえば、早苗はどんな夢を見ていたのかしら。寝ているときに私を甘噛みしてたみたいだけど、まさか、ねぇ・・・。




自重せずに書いてしまったシリーズ第2弾はレイサナですw猫又妖怪ねこちや降臨。

レアルタの方のFateにあったとあるイベントに感銘を受けまして、それがベースになっています。レアルタがR-15なので此方もR-15で大丈夫な筈です。

早苗さんが若干キャラ崩壊起こしてますが、夢の中なので問題なしです。本編ではいつも通りの早苗さんなのでご安心を。
夢幻航路本編の方にぶっ込んでも良かったのですが、シチュエーションが人を選びそうなので別にして投稿しました。ちょっと百合成分濃すぎますからね。

この早苗さんに抱かれたい(笑)


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甘い檻

R-17,9ぐらいのマリアリです。百合注意。
一応前回のマリアリの続きです。


「おーい、アリスぅ~、居るのかー?」

 

 魔法の森にひっそりと建つアリス邸、その玄関には、扉を叩いて家主を呼ぶ金髪少女の姿があった。

 

 同じ魔法の森に住む普通の人間魔法使い、霧雨魔理沙である。

 

「ちぇッ、折角珍しい素材が手に入ったもんだからちっとは分けてやろうとも考えてたんだがな・・・とりあえずお邪魔するぜ」

 

 幾ら扉を叩いても反応がないことに痺れを切らせた魔理沙はドアノブに手を掛け、扉を開く。

 魔理沙の予想に反して、あっさりと玄関扉は開いてしまった。

 

「なんだ、鍵もかけてなかったのかよ、あいつ」

 

 無用心な奴だ、と思った魔理沙だが、彼女も彼女で家に鍵を掛けていくことなどあんまりない。そもそも彼女達が住む魔法の森は障気が酷くて常人には近付きがたい場所だ。そんなところに建つ家にわざわざ泥棒に入るような者はいない。それに加えて、アリスも魔理沙も幻想郷ではそれなりの実力者だ。そこらの木っ端妖怪如きでは家の防護結界を越えることは叶わない。なので、基本的に鍵はあまり掛ける必要がなかったりするのだ。

 

「アリスー、入るぞー」

 

 鍵がかかってないと知った魔理沙は、無遠慮にずかずかと家の中へ入る。ここまできても、家主からの返事はなかった。

 

「なんだ、留守なのか・・・?いや、あいつならこの時間は居る筈なんだがなぁ~」

 

 返事がないのを不審に思った魔理沙は家の中を見回してみたが、アリスの姿はない。一瞬留守かと思った彼女だが、直ぐにそれを否定した。基本的にアリスが家を留守にするのが珍しいこともあるが、何よりアリスの気配を感じ取ったからだ。

 

「ん?あれは―――」

 

 奥まで進むと、家のリビングが目に入る。開けられた窓から風が吹き込み、カーテンが揺られていた。

 その先にあるソファーには、そこに身を預けて眠る金髪の少女がいた。

 

「・・・やっぱりここだったか。にしても、他人様が訪ねてきても起きないなんて、随分ぐっすり寝ているみたいだが―――」

 

 眠るアリスを見つけた魔理沙は、起こさないようにそっと彼女に近寄る。

 魔理沙が傍まで近づいても、アリスは目を覚まさない。

 

 そんなアリスの表情を、魔理沙はじっと覗き込んだ。

 

 すーすーと静かに寝息を立てるアリスの寝顔は、人形のように精巧な一方で、どこか暖かみを感じられるような柔らかさがある。魔理沙はその寝顔に惹かれて、暫くそれを見つめていた。

 

 

 ―――こいつ・・・こんなに肌、白かったっけ・・・

 

 

 アリスの寝顔を見つめているうちに、そんな感想を魔理沙は抱く。彼女はアリスとは長い付き合いになるが、こうして寝顔を観賞する機会は希だった。そのためか、魔理沙はじっと、アリスの寝顔を眺め続ける。

 

 風に吹かれて、そっとアリスの髪が舞った。

 

 髪が揺られて、匂いもまた、魔理沙のところへ飛んでいく。ほんのりと漂う香水の香りに、魔理沙は一瞬意識を奪われた。

 

 ―――なに・・・この、甘い匂い―――

 

 アリスって、こんなにいい匂いするんだ・・・

 

 鼻につくほどきつすぎず、自然な感じで漂うアリスの香りに、魔理沙の頭がくらっとする。

 

「あ、アリス・・・」

 

 それをもっと感じていたくて、魔理沙はそっと、アリスの額に顔を近付けた。

 右手でアリスの前髪を掬って、ほんのりと赤面しながらも、魔理沙は優しくその額にキスをしてみせる。顔全体がアリスの髪に触れて、魔理沙を甘い匂いが包み込んだ。

 

「う・・・っ―――」

 

 一層強くなったアリスの香りに、魔理沙は頭がぐらっと揺られたような感触を抱いた。アリスの甘い香りが毒となって、魔理沙の肺を満たしていく。

 

「んッ・・・ま、魔理、沙―――?」

 

「え"っ、あ、アリス・・・!?」

 

 漸く目が覚めたのか、アリスの声が魔理沙の耳元に響いた。

 それに驚いて、魔理沙は慌ててアリスの額から顔を離す。

 

「う・・・んっ―――あら、魔理沙・・・?」

 

「あ、あはは・・・お早う、アリ―――すうッ!」

 

 魔理沙はさっきまでアリスの額に顔を近づけていたため、アリスは目覚めてすぐに、その視界に魔理沙の姿を捉える。魔理沙はアリスを誤魔化すように、笑って挨拶してみせた。

 だがアリスは、そんな魔理沙に手を伸ばし、彼女の胸ぐらを掴んでばっと自分の方へと引き寄せる。

 

「魔理沙・・・今、なんかしてたでしょ?」

 

「ふ、ふぇっ・・・ななな、何でもないんだぜ、っ!」

 

 射抜くようなアリスの瞳が、狼狽する魔理沙を捉える。

 問い質すようなアリスの姿勢に対して、魔理沙はなんとか惚けて誤魔化そうと図ったが、魔理沙の慌てた口調と真っ赤な表情が、アリスにはそれが嘘だと悟らせる。

 

「嘘ね・・・別に怒ってる訳じゃないから、素直に言ってみなさい」

 

「す、済まん―――その、お前の寝顔が気になって、ちょっと観察してたというか・・・」

 

 ―――ば、馬鹿・・・アリスの寝顔が綺麗だからなんて、恥ずかしすぎて言えるわけないぜ・・・

 

 魔理沙はアリスから目線を逸らせて、恥ずかしげに口にする。肝心なところは羞恥心から言えなかったが、それだけでもアリスに伝わったのか、彼女はこれ以上問い質してくるようなことはなかった。

 

「―――そう。もういいわ。どうせなんか用があったんでしょ?今お茶を淹れてくるから、そこで待ってなさい」

 

 そう言うとアリスはすっと立ち上がり、台所に向かう。

 いつもの無機質な表情に戻ったアリスに少しむっとした魔理沙だが、今は大人しく待つことにした。

 

 

 

 

 .................................

 

 

 

 

「魔理沙ったら、私が寝てるのをいいことに・・・」

 

 紅茶を淹れながら、私はそう呟いた。

 

 実は、魔理沙がリビングに入ってきた時点で起きてしまっていたのだが、あの子がどんな反応をするか気になって、つい寝たふりをしてたのだ・・・まさか、あっちの方からされるなんて完全に予想外だったけど。

 額に感じた魔理沙の感触を思い出す度に、嬉しさと気恥ずかしさが込み上げてきてしまう。

 表面上は平静を装ってはいるけど、私の心は今もあの感覚に囚われている。お陰で普段なら人形にやらせる仕事でさえ、それを忘れて自分でやってしまう程には。

 

 ―――あの時は初心ぶっていた癖に、こういうときだけ行動的なんだから・・・

 

 訳もなく、以前の告白を思い出す。

 私が魔理沙を閉じ込めて、好きよと告げたあの夜。そのときの魔理沙は終始顔を真っ赤にしてなすがままにされていたけど、さっきのように、魔理沙からしてくれたことが堪らなく嬉しい。

 

 ―――紅茶は、これでいいかな

 

 そんなことを意識しているうちに、二人分の紅茶を淹れ終える。

 あとは適当なお茶請けを見繕い、それを人形に指示して運ばせた。

 上海達が、お盆に載せられた紅茶とお菓子をせっせと運んでいく。私もそれに続いて、魔理沙の待つリビングへと戻った。

 魔理沙は何をするわけでもなく、ちょこんと猫のように椅子の上で待っていた。

 

「ほら、お茶、淹れてきたわよ」

 

「おっ、サンキューなアリス。そんじゃ頂くぜ」

 

 テーブルに紅茶とお菓子が置かれると、魔理沙は無遠慮にティーカップを手に取った。少し遅れて、席についた私も自分のティーカップに手を掛ける。

 

「うん、いつもながら美味しいな」

 

「それはどうも。それで、今日は何の用かしら?」

 

「ああ、そうだったな。ちょっと珍しい素材があったもんだから、おまえに見せに来たんだよ」

 

 私の問いかけで思い出したのか、魔理沙はティーカップをテーブルに置きエプロンのポケットに手を入れて、掌ぐらいの大きさの鉱石を取り出した。

 

「ほら、どうだ?」

 

 魔理沙は手に取った鉱石を、私の前に差し出して見せつけた。

 それの見た目は宝石の原石のような感じで、緑色に色付いた石といった雰囲気だ。それだけなら珍しい石かただの宝石で終わるだろう。しかし、魔法使いとしてそれを見てみると、その鉱石はただの石ではなく、純度の高い魔力が篭ったものであると分かる。これだけの魔力が自然に篭ったとすれば、確かに魔理沙の言うとおり珍しい素材になるかもしれない。

 

「へぇ、確かに珍しいわね・・・こんな小さな石にこれだけの魔力があるなんて―――それで、何処で採ってきたの、これ。また危ない所に行ったんじゃないでしょうね?」

 

「心配しすぎだせ、アリス。今の私は異変解決のスペシャリスト、霧雨魔理沙様だからな。危ないところなんてちっともないぜ」

 

 私の問いに、魔理沙は笑って答えてみせる。はっきりいって、私にとってはこの石のことより、魔理沙が危ない場所に行ってるのではないかという懸念の方が重大だ。

 魔理沙はいつも元気に振る舞ってるように見えるけど、ああ見えてけっこう危ない目に遭っているのだ。だからこそ、余計に魔理沙を心配してしまう。

 

 ・・・無論、魔法使いとしてこの石が気にならない訳ではないが。

 

「それでさ、良かったらこれおまえにやろうか?」

 

「え―――それは、どういう風の吹き回しかしら?」

 

 魔理沙の申し出を意外に思って、そんなことを口にしてしまう。外野から見れば一見親しいように思えるかもしれない私達だけど、実は"魔法使い"としては私と彼女は割と犬猿だ。魔法理論や素材収集で対立したときなんかはすぐ弾幕勝負に発展するぐらいには。それに加えて蒐集癖のある魔理沙が他人に物を譲るなんて、普段ではとても考えられないことだ。もしかしなくても、これは異変の前兆なのかもしれない。

 そんなことを考えた私だが、思えば最近、時々こんな風に魔理沙が何かを分けてくれる頻度が上がっている気がする。前は食用キノコなんかを分けてくれたし。私の気のせいだろうか。

 

 ともあれその申し出は素直に有難いので、遠慮せず受け取ることにしよう。

 

「なんだ?私に物を贈られるのは不満か?」

 

「いや、有難く頂戴するわ。―――ああ、でも、本当に危ない場所には気を付けるのよ?」

 

「はっ、アリスは心配性だなぁ。だから私は大丈夫だって。それじゃ、これが例の品だ」

 

 魔理沙は私の忠告を軽く受け流すと、ポケットからもう一つ、同じ石を取り出した。その石の大きさは、魔理沙が見せてきたものとあまり変わらない。

 魔理沙から手渡された石は、人形に命じて私の工房まで運ばせた。

 

 ―――ハァ・・・まったく、心配する身にもなってみなさいよ・・・

 

 内心で、そんな不満を吐露する。

 魔理沙の最終目標は、"種族としての"魔法使いに至ること。それにあの娘は霊夢の背中に追い付こうと、必死になって努力を重ねている。魔理沙がわざわざ危険に飛び込んでいくのも、その目標を達成せんがためだ。でも見ている側からすればそれはとんでもなく危なっかしい訳で、加えて彼女はか弱い人間の身、何かの拍子で呆気なく死ぬことだってあるかもしれない。それが私には堪らなく怖い。

 だけどきっと、魔理沙は今後も危険な場所に足を運び続けるだろう。私が幾ら警告しても、それを止めようとはしない。魔理沙の努力は尊いものだとは思うけれど、一方であの娘が危険な目に逢わぬよう、私の側から離したくない。

 

 ―――それを思うと、なんだか無性に魔理沙のことが欲しくなった。

 

 

「ねぇ、魔理沙―――」

 

「ん、なんだ?アリス―――っ」

 

 私が魔理沙に呼び掛けると、魔理沙はそれに応えて身を寄せる。

 そんな魔理沙の腕を、私は強引に掴んで引き寄せた。

 

「あ、アリス・・・!?」

 

 引き寄せられた魔理沙が倒れかかってくるが、それを受け止めて抱き締める。

 魔理沙の温もりを感じて、鼓動が跳び跳ねるように激しくなった。彼女の匂いが、周りを優しく包んでいく。

 

「ねぇ、魔理沙・・・」

 

「アリス?な、なんだ・・・?」

 

 魔理沙の耳元で、そっと優しく囁きかける。

 

「もう一回・・・さっきの続き、してくれる?」

 

「え、えっ・・・」

 

 私はそう囁くと、一旦魔理沙を離す。そして一度、真っ赤になった彼女に向かって微笑みかけてみせた。

 

「・・・今度は、ここでお願いね」

 

 唇に人差し指を置いて、魔女のように魔理沙を誘う。

 

「な、な、・・・馬鹿っ・・・そんなの―――は、恥ずかしいぜ――、っ」

 

 魔理沙は俯いて、必死に私から視線を逸らした。

 だけどそんな魔理沙が可愛いくて、つい苛めたくなってしまう。

 

「あら、さっきはしてくれた癖に。する場所が変わっただけでしょ?」

 

「あ、あれとこれとは別なんだよ!っ・・・うう、分かった、分かったぜ―――そこまで言うなら・・・わ、私からしてやるよ・・・!」

 

 意地になってそう言った魔理沙だけど、やはり彼女は恥ずかしさが勝っているのか、なかなか顔を近づけてくれない。そんな魔理沙を後押しするように、私は背中に回した手に力を入れた。

 

「わ、分かったよ・・・じゃあ、アリス・・・い、いくぜ?」

 

「遅いったら、魔理沙。ほら、早く」

 

 とうとう観念したのか、魔理沙はゆっくりと顔を近づけてくる。私は瞼を閉じて、魔理沙の感触がするのを待った。

 

「んっ・・・」

 

 数秒の後、唇に柔らかい感触が伝う。

 春の陽気のような、優しい温かさ。

 

「あっ、魔理、沙・・・」

 

「こ、これていいだろ!?―――、っ・・・やっぱ恥ずかしいぜ・・・」

 

 だけどそれは直ぐに終わってしまって、魔理沙が唇から離れていく。

 瞼を開けて見上げてみると、頬を紅潮させて俯いている魔理沙がいて――――物足りない私は、そんな魔理沙に止めを刺す。

 

「あ、アリ・・・むぐッ!?」

 

 背中の腕に力を入れて、ぎゅっと魔理沙を抱き締める。

 その勢いのままに、私は倒れ込む魔理沙の唇を強引に奪った。

 頭の後ろにも手を回して、離さない、と魔理沙に示す。

 

 今はただ、ひたすらに魔理沙が愛しい。

 

「まり、さ・・・っ!」

 

 それだけでもまだ物足りなくて、貪るように、舌を魔理沙の口に入れる。

 

 くちゅ・・・ぺちゃっ・・・と、口内を犯す水音がする度に、欲望が炎のように燃え盛る。

 私がさらに舌を絡めていくと、恐る恐る、魔理沙もそれに応えて舌を絡めてきてくれた。それがなんだか嬉しくて、つい私もさらに激しくしてしまう。

 

「んっ、ンンッ・・・あ、アリ、ス・・・!」

 

「っ、はぁ・・・、んっ・・・っぱぁ・・・っ―――、ふふっ、ご馳走さま、魔理沙」

 

 存分に魔理沙を堪能て、舌を引っ込めて唇を離す。互いの間に、唾が糸を引いて離れていく。

 

「アリス・・・は、激しすぎだぜ・・・っ」

 

「あら、強引なのは嫌?」

 

「い、いや・・・悪くない、かな・・・」

 

 顔全体を真っ赤にして、魔理沙はそう答えてくれる。

 

 ―――私が強引になってしまうのも、貴女が可愛いのがいけないのよ・・・

 

 心のなかで、悪い魔女がそう囁く。

 可愛い魔理沙を見ていると、また欲望が込み上げてくる。この初心な恋人を、もっと苛めて乱暴したい・・・

 

「そう・・・なら、もっと激しくしてあげる―――!」

 

 私は魔女が囁くままに、真っ赤な魔理沙にそう告げた。

 最早、自分の欲望を止められる気がしない。

 

 

 もう、貴女を離さないわ、魔理沙―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスが強引なのは嫌?と尋ねてくる。それに悪くないと応えたけど、本当は嬉しさで一杯だ。何よりあいつの温もりに触れられるのが堪らなく嬉しい。求められて、あいつの気持ちを感じられるから―――

 

 ―――多分、アリスだからこそ、私はこの身を委ねてしまうのだろう。

 

 自分はあまり、他者のペースに乗せられるのは好きではない。だけどアリスが相手なら、何をされてもいいとすら思えてくる。

 

 そんなことを考える蕩けきった私の思考に、容赦ない追撃が降り注いだ。

 

 

「そう・・・なら、もっと激しくしてあげる―――!」

 

 

「へっ・・・っ、ぅわあッ!」

 

 アリスの口から、そんな言葉が飛び出した。一瞬なんのことが分からなかったけど、アリスはそんなことはお構いなしに、私の身体をひっくり返す。次の瞬間には位置関係が完全に逆転し、私はソファーの上に押し倒されていた。

 

「あ、アリス―――?」

 

「魔理沙―――まさか、キスで終わる訳がないでしょ?」

 

「え・・・な、何を―――」

 

 いきなりの出来事に、私の思考が置いていかれる。だけど、これからアリスが何をしようとしているのか、ヘタレの私でも何となく分かってしまった。

 

 ―――ちょっと、待って・・・こ、心の準備が・・・

 

 だけどそれに、私の覚悟は追い付かない。キスでさえ恥ずかしすぎてあのザマなんだ、そこから先のことなんて、恥ずかしさのあまり死んでしまうかもしれない・・・

 

 そんな私とは対照的に、アリスは頬を赤らめながらも上着を脱ぎ捨て、その白い肌を露にした。ボタンが外れ、肌の面積が広がるにつれ、私の意識がアリスに奪われていく。

 

 

「覚悟しなさい、魔理沙・・・・・・優しくなんて、してあげないんだから・・・!」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「アリ、ス・・・ぅ、ふぐぅっ・・・」

 

 そう告げると、アリスは私の唇を塞ぎにかかる。同時にまた、あの匂いが漂ってきた。甘いアリスの香りが、猛毒の惚れ薬となって私の思考を溶かしていく。

 

 口内はアリスの舌に犯されて、肺は甘い猛毒に満たされて呼吸すらままならない。私はただ、アリスに求められるがまま溺れていく。気付いたときには、もうすっかり私はアリスに夢中になっていた。

 

「あ・・・っ」

 

 アリスの唇が離されて、小さな吐息が漏れる。

 唇の感触が名残惜しくて、無意識のうちに、私はアリスを求めてしまう。

 

「・・・服、邪魔ね」

 

「え、っ・・・、あ、アリス!? ちょ・・・ちょっと待っ―――」

 

 唇を離したアリスは、そのまま馬乗りの体勢になって、私の服を脱がし始めた。

 他人に脱がされるなんて滅多にないことなのに、その相手がアリスなこともあって、気恥ずかしさが去来する。

 あまりの恥ずかしさからか、つい私は裾を抑えて、アリスに抵抗してしまう。そんな私の様子を見て、アリスはすごく意地の悪そうな笑みを返してきた。

 あの夜のときみたいな、可愛いくて悪い魔女の笑み、危険な甘い罠の気配―――

 

 そんな風に笑われたら、何もかもを委ねてしまいそうになる。

 

「あら―――私はもう脱いだというのに、貴女の方は脱がないなんて、それは不公平ではなくて?」

 

「ば、馬鹿っ・・・まだ昼間なんだぞ・・・!」

 

 本音を言うと、このまま成すがままにされていたい気もする。だけど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。大体、こういうのって夜にやるものだろ!?

 

「・・・そんなこと、関係ないわ。―――今はただ、貴女が欲しいの――」

 

「あ、アリ、ス・・・っ!」

 

 一瞬の隙を突かれて、一気に上着を奪われる。肩とお腹が露になったところで、ぎゅっとアリスに抱き締められる。アリスの鼓動と体温が、肌伝いで直に伝わってきた。私の身体が、一気に火照っていくのを感じる。

 

「なんだ・・・おまえも心臓・・・バックバクいってやがるぜ・・・?」

 

「当たり前でしょ―――、っ!魔理沙と、直に触れているんだから・・・!」

 

 アリスの吐息が、声とともに私の耳にかかる。生温いその感触に、思わずぶるっと身震いしてしまった。

 

「はむ・・・っ、んんっ―――!」

 

「ひゃぁっ!、ッ―――、く、くすぐったいぜ・・・!」

 

「魔理沙の耳、おいし―――んむっ」

 

「いやっ・・・ひやっ―――あ・・・」

 

 抱き締められた体勢のまま、アリスに耳を甘噛みされる。くすぐったさと気持ちよさで、理性が蕩けてしまいそう。

 

「こんの・・・っ、はむッ!」

 

「ひゃうんッ!・・・ま、魔理沙ったら・・・!」

 

「えへへっ・・・仕返しだぜ」

 

 だけど成すがままにされるだけでは物足りなくて、私からもアリスの耳にかぶり付く。あいつには全く予想外の奇襲だったのか、可愛い悲鳴が耳に響いた。

 

 ―――あ、アリスの悲鳴って、意外と可愛い・・・

 

「―――っ、もう、許さないんだからぁ・・・!」

 

「うわっ・・・ッ、ひゃうんッ―――!」

 

 すると、頬を真っ赤にしたアリスが、突然抱き締めていた私を押し倒した。一瞬の優位に浸って油断していた私は、為す術なくアリスに身を委ねる。

 押し倒したままの勢いで、今度は首筋に顔を寄せられた。そこにアリスの唇が押し当てられて、恥ずかしさを掻き消すかのような乱暴なキスをされる。

 その乱暴な感触とアリスの匂いで感じてしまって、ふいに矯声が漏れてしまう。

 アリスの温もりと匂いのなかで、何処までも溺れてしまいそう。

 

「っ―――と、・・・よし、上手くついた」

 

「ついたって―――もしかして、キスマーク?」

 

「フフッ、そうよ―――これで貴女も、私のものね」

 

 私の問いに、アリスは頷いて応えた。なんだか私がアリスのモノにされたみたいで、嬉しさと心地よさが込み上げてくる。

 だけどそれが一回で終わる筈もなく、蕩けた私は追撃に見舞われた。

 

「じゃあ・・・全身くまなく、付けてあげるわ―――」

 

「え"っ、ちょ・・・待って―――ひゃうん、ッ、ああッ―――!」

 

 その感触に浸ることすら許されず、アリスの甘い感覚が抜けきらないうちに、今度は反対の首筋を食べられる。

 

「魔理沙―――もっと、良くしてあげるわね」

 

「あッ・・・そこは・・・ッ―――、っ・・・ひゃ・・・んうッ!!」

 

 そればかりでは飽きたらず、アリスは私のドロワの中へと指を這わせる。太腿に感じたアリスの指先の感覚で、ビクッと私の身体は感じてしまう。

 

「んんっ、はうっ―――、まだよ・・・魔理沙・・・ッ!」

 

「あ、アリ、ス・・・・・っ!」

 

 

 アリスに求められるがままに、私の身体は蚕食される。

 甘い毒に犯されて、魔女の檻に囚われて、貪られるまま溺れていく。だけどアリスの温もりが恋しくて、終いには自ら毒を求めてしまう。

 

 気付いた頃には、甘い甘い猛毒の檻から抜け出せないまま、私はドロドロに蕩けさせられていた・・・

 




マリアリです・・・
多分今ま書いたものの中で一番濃い百合なんじゃないかって思ってます。本編のあとは・・・


魔理沙「もうこんな時間―――きょ・・・今日は楽しかったぜ、アリス」

アリス「待ちなさい、魔理沙・・・こ、今夜は、返さないから・・・」

魔理沙(ちょっ、ここでその台詞とか、反則すぎるだろ~ッ)


的なやりとりがあって第二ラウンドに突入したものと思われます。続きは各自補完でお願いします。

実際のところ、これはR18にするつもりで書いていたのですが、結局このレベルで落ち着いてしまいました。要望があれば、R18版に改訂して出すかもしれません。


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夏の戯れ

なんとか8月中に間に合いました。
レイサナがにゃんにゃんするだけです。


 

「れ~いむさんっ♪どうですか、これ?」

 

「え・・・うん、に、似合ってるんじゃないかな・・・」

 

「そうですかぁ・・・えへへ、真剣に選んだ甲斐がありました♪」

 

早苗は自分の水着を自慢するように見せびらかして、嬉しそうにはしゃいでいる。

 

ところで、いま私達は海とかいう場所に居るんだけど、事の発端は数刻前、レミリアからの誘いを受けたことから始まる。

 

 

なんだかレミリアの奴が突然海に行きたいとか騒ぎ出して、引き篭りの魔法使いを引きずり出して結界内に海を再現させようと試み始めた。それがなんだかんだでアリスや魔理沙、それに私達やそこら辺の人妖を巻き込んだちょっとした慰安旅行的なものに発展したのが私達が海に来ることになったの原因だ。

 

ちなみに私と早苗は、結界を張るときに雑魚妖怪を立ち入らせるなとレミリアの奴にこき使われた。私達は害虫駆除業者じゃないわよ。あいつ、私をこき使ったこと、覚えてなさいよ。

 

お陰で疲れた私は遊ぶ気力もない。さっき話し掛けてきた早苗や魔理沙なんかははしゃぎっぱなしなんだけど、私は日陰で寝転んでいるような有り様だ。

 

 

―――それにしても・・・早苗の、やっぱり大きい・・・

 

「むっ、どうかしましたか霊夢さん。さっきから私ばかり見て」

 

「・・・いや、何でもないわ」

 

早苗に指摘されて、慌てて彼女(の胸)から視線を反らす。

 

むぅ・・・あんなに自慢気に見せびらかされちゃ、気になっちゃうじゃない。私に喧嘩でも売ってるのかしら―――とでも考えてみたけど、あの子はあれで純粋な子だし、普通に水着を見せにきただけだろう。・・・それでも格差に対する怨みは感じるけど。

 

・・・私だって、大人になればあれぐらいには育つもん。

 

「―――ねぇ霊夢さん、ちょっと一緒に散歩でもしませんか?」

 

「はぁ?何よいきなり・・・」

 

早苗は少し考え込んでから、そんな提案を私にしてきた。

正直今は疲れているし、あまり動きたくはないんだけど・・・

 

「だって霊夢さん、あまり楽しそうじゃないですか。魔理沙さんとかはずっと海で遊んでいるのに。なんだか普段の霊夢さんっぽくないです」

 

「あいつらはそうでも私はこれでいいの。大体何でいきなり散歩なのよ。私はそれより休息が欲しいの。なんなら西瓜とか持ってきてくれたら有り難いわねぇ~」

 

まぁ普段の私なら、多少はしゃいだりするかもしれないわね。でも今日は一仕事終えたばかりだし、この海を堪能するのは少し休んでからにしたい。

 

「むぅぅ・・・これは難関の予感ですね・・・ここまで霊夢さんが動こうとしないなんて・・・」

 

早苗はどうしても私を連れ出したいのか、私の横でうんうんと唸っている。その気概には感心するけど、とにかく今は休みたい・・・

 

そう思って横になったまま軽く瞼を閉じると、右腕が掴まれたと思ったら、むにゅむにゅと柔らかい感触がするモノに当てられる。

 

「・・・早苗、何してるね?」

 

「はい?霊夢さん、西瓜が欲しいと仰いましたので、私のそれを堪能させてあげようかと・・・」

 

「―――あんた、酔ってる?」

 

「いえ、私は素面ですよ?」

 

・・・一瞬、その場が凍りついたような空気に包まれる。

 

宴会芸みたいな阿呆らしいネタだと思ったけど、当人は割と本気らしい。

 

しばらくその雰囲気が続くと、流石に早苗も今のネタが転けたのが分かったのか、顔を真っ赤にして私から離れた。

 

「れれれ霊夢さん、今のはちょっとした気の迷いで・・・」

 

「・・・はぁ、いいわよもう。行けばいいんでしょ」

 

「え―――ほ、本当ですか!?」

 

「・・・まぁ、時間には限りがあるんだし、今からこの海を楽しむべきってのも一理あると思ってね」

 

「霊夢さん大好きです!ささ、早く行きましょう!」

 

「ちょ、ちょっと!いきなり引っ張らないで・・・!」

 

早苗をあしらうのも億劫になって、折角だし付き合ってやろうと思って立ち上がった途端に、早苗が私の右腕に抱きついてくる。

さっき感じた柔らかい感触が甦ってくるけど、それを感じる暇もなく、ぐいぐいと私は引っ張られていった・・・・

 

散歩とは言っても、まるで犬の散歩みたい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく経って、私達はちょっとした岩場のような場所に来た。ちょうど岩が陰になって、向こうで遊んでいる魔理沙達からは見えない位置だ。

日陰で涼しいこともあって、波の音が心地よく感じられる。

 

「わぁ、冷たい・・・」

 

私は砂浜の上に突き出した岩に座って、足を波に入れてみた。

水で洗われる感触に、何とも言えぬ心地よさを感じる。

 

「・・・今の霊夢さん、すごく可愛らしいですよ。そういえば霊夢さん、海は初めてなんですよね」

 

「そりゃあね。幻想郷には海がないし。そういえば、あんたは見たことあるんだっけ」

 

「はい。元いた場所もだいぶ内陸でしたから、そんなに機会は無かったんですけど。どうです?一回入ってみますか?」

 

「そうね・・・折角の機会だし、一回入ってみるわ」

 

先に海に浸かっていた早苗は、腰に巻いたパレオを巻き上げて、私に手を差し出した。

その手を取って、私も海の中へ身体を進める。

 

「―――気持ちいいわね・・・」

 

「えへへ、そうですか・・・」

 

早苗の手から離れた私は、水の中を歩いて少し先まで進んでみる。

この辺りは岩場になっていたけど、水の中はだいたい砂に埋もれているので、素足でも歩きやすい。

 

―――広いなぁ・・・

 

結界の中に作られた偽りの海といえど、その出来はなかなかのものだ。湖とは違って、水平線の彼方まで水の面が続いていて、青空を写している。

 

本物は見たことないけど、きっとこんな景色が見れるんだろうなぁ・・・

 

しばらく私は、その場に佇んで海を眺め続けていた。

 

 

ばしゃばしゃと水音を立てながら来る早苗に気づいて、私は視線を彼女に向ける。

 

「霊夢さん、良いものが見れましたか?」

 

「ええ。お陰様でね。あんたはどうなの?」

 

「私ですか?・・・なんだか、懐かしい気分ですね・・・」

 

早苗は私の問いにそう答えると、視線を水平線に向ける。

その瞳は海を映しているようで、どこか遠い場所に向けられているようだった・・・

 

「ふふっ、感傷に浸るのはこの辺りにしておきましょう。折角の海ですから、楽しまないとですね」

 

風に揺れる髪を掻き分けながら、彼女は私に向き直った。

その仕草には、普段の彼女とは違って儚さを感じさせられる。

 

「・・・私は、充分楽しんでいるわ」

 

「もう、霊夢さんったら。普段は欲張りな癖に、こういう時は謙虚なんですから・・・」

 

そこにいたのは、先程までの儚さを感じさせる少女ではなく、普段通りの早苗だった。

早苗は一度振り返って、岸に向かって歩き出す。

 

私も、もう一度視線を水平線に向ける。

 

 

 

「こうなったら・・・えいっ♪」

 

「ひゃうっ・・・ッ!!」

 

ばしゃーんという水飛沫と共に、背中に柔らかいものを感じる。

その直後、私の胸に揉みしだかれる感触が走った。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「きゃッ・・・あ、あんた・・・どこ触って・・ひゃんっ・・・!」

 

「霊夢さん、やっぱり大きくなってません?私もお手伝いしちゃいますよぉ~♪」

 

「ば、馬鹿・・・ッ、そんなこと、頼んでなんか・・・ッぅぅ―――!」

 

ぐにゅぐにゅ、もみもみと私の胸を水着の上から揉みしだきながら、背中にはむぎゅーっと早苗のそれが押し付けられてくる。

 

優しく撫でられたと思ったら、ちょっと力を入れて揉みしだかれての繰り返し。加えて背中に感じる柔らかさと暖かさで、思考が変な方向に飛びそうになってしまう。

 

―――これ、意外とヤバい・・・っ!

 

このままだと、変な方向に目覚めてしまうのではないかとすら感じてしまう。恥ずかしいけど、その中に気持ちよさすら感じてしまいそう――――――。

早苗は純粋に悪戯心でやっているんでしょうけど、これじゃあまるでこっちが・・・

 

「っ、いい加減、離れなさい・・・ッ!」

 

「あっ、ちょっと、霊夢さん危な・・・」

 

「っ、きゃあっ・・・!?」

 

 

ばしゃーん。

 

 

盛大に水飛沫を立てながら、私達二人はそのまま水中へと倒れ伏した。

 

 

むぎゅううううう。

 

 

そろそろヤバくなって早苗を退かそうと思ったら、足元が滑った形だ。それよりも、く、苦し・・・

 

「この、いい加減、離しなさい―――ッ!」

 

「ひゃっ!?れ、霊夢さん!?」

 

「ハァっ、ハァ―――。もう・・・あんたの胸に殺されるところだったじゃない」

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

水中に倒れ伏したときに、びっくりした早苗に抱きつかれてちょうど顔が胸の位置に当たってしまったみたい。お陰でこいつの谷間で死ぬところだったわ。

 

「・・・まぁいいわ。それよりも―――」

 

「あの、霊夢さん・・・?」

 

海底に座っている形になった早苗の太腿の上に、跨がるようになって私も座る。

水面がちょうど、胸の下辺りに来る位置だ。

 

早苗は事態が呑み込めずに困惑しているようで、不安が入り交じった瞳で私を見つめてくる。

 

・・・待ってなさい早苗、今度は私のターンよ。

 

「まさか私が、やられっぱなしでいるとでも思って?」

 

「え"っ、まさか・・・ちょ、ちょっと待っ―――」

 

「覚悟しなさい、この乳妖怪め!」

 

・・・という訳で、反撃とばかりに早苗の乳を揉みしだいてやる。ついでに縮まないかしら、これ。

 

「ひゃうっ・・・ちょ、素は待って下さい!せめて水着の上から・・・!」

 

「どっちも変わらないでしょそんなもの!さぁ早く小さくなりなさいよ!」

 

「ンンぅ、霊夢さんのえっち・・・ひゃう!ちょ、は、激しいです・・・!」

 

「な、何感じてんのよあんた!」

 

「だって、霊夢さんがいきなり激しく・・・ううんッ!、せ、せめて優しく・・・」

 

「優しくしてやったら反撃の意味内でしょ!?さっさと縮みなさい!」

 

「こ、これは大きくなっても縮むことはありません!そんなに大きいのがいいんだったら、私が・・・お手伝い・・・ひゃんっっ!!」

 

「おーい、霊夢ぅ―――どこに行・・・」

 

「ば、馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!持たざる者の怨みを―――――」

 

「そ、そんなのただの八つ当たりじゃ―――って、どうしました?霊夢さ―――」

 

そこまで言い掛けたところで、視界にあるものが入り硬直する。

私の手が止まったことでかえって不審がったのか、早苗も視線を上げるけど、程なくして同様に硬直した。

 

 

「じゃ・・・邪魔したぜ・・・ッ!!」

 

 

まるでイケナイ現場に遭遇してしまったかのように、白黒の金髪魔女はぴゅーっと走り去ってしまった。

 

その場に残された私達は、暫く無言のまま互いの視線を合わせていた。

 

 

「・・・そろそろ、戻りましょうか?」

 

「はい・・・そうしましょう」

 

私達は無言のまま、水から上がって皆の場所まで戻った。

 

それから暫くの間は、気まずい雰囲気が流れていた・・・




魔理ちゃん:ヤバイものを見てしまったぜ...(私もあまり人のことは言えないんだけどなぁ~)

ゆかりん:霊夢が成長しているなんて...感慨深いわぁ

ケロちゃん:早苗にも遂に春が...!?

オンバシラ:ふ、不謹慎だ!(いいぞもっとやれ)

あやや:これは大スクープの予感...!?

以上、親友と保護者(+α)の反応でしたw

仕事であまり書く暇がありませんでしたが、8月中に間に合わせました。最初はまた早苗さんに捕食(物理)してもらおうかとも考えましたが、無難なところに落ち着かせましたw
ところで早苗さんの蛇って絶対生きているよね。


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