ベート・ローガがヘスティアファミリアに入るのは間違っているだろうか (爺さんの心得)
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白兎は弱者であり、凶狼は強者である
凶狼の眷属の物語




 ※ベートきゅんがヘスティアファミリアに入団する作品です。ベートきゅんはロキ・ファミリア一筋の人は今すぐバックしてください。

 ※とにかくベートきゅんが大好きすぎて仕方がない作者が書いたものです。

 ※原作よりめっちゃ性格柔らかいです。




 

 

 

 

 

 ーーー「強く、なりてェ」

 

 ある狼人(ウェアウルフ)は、雨の中唸る。

 泥だらけの服を雨で重くしながらも、傷だらけの彼はギリッと歯を食いしばる。

 誰も通らない、このストリート。雨のせいか、人通りも少なくなっている。ここを通るのは、一仕事終えた冒険者くらいだ。

 

 ーーー「誰よりも、強く……ッ!」

 

 狼人はまた、唸る。

 もう、こんな惨めな醜態は晒したくない。あいつらの元へ帰りたくない。それが彼の中を占めている、邪の心であり、善の心であった。

 だから彼は、純粋に力を求める。

 

 ーーー「俺は、俺を越えるんだ……ッ!」

 

 だが、雨がそれを許さない。重くなった狼人の体は、思うように聞いてくれない。

 これが、弱者の姿。狼人はそう誤認してしまい、また歯を食いしばる。

 何故だ、何故自分はこんなにも弱い。

 何故自分は、こんなにも、何も出来ない。

 

 「ちくしょう……ッ!」

 

 涙を流したら、本当の弱者と化してしまう。

 それだけは嫌だった。それだけは、本当に拒んだ。

 また、自分の足で、自分に見合ったファミリアを探さなくてはならない。

 そうだ、あんなファミリア狙い下げだ。こっちは的確なことを言ったのに、それに激怒して集団で襲ってくるなど言語道断。

 だが彼らは自分とは違い冒険者。恩恵(ファルナ)を貰っていない彼と冒険者との差は歴然。なので彼は、こうやって惨めな醜態を晒している。

 だから、彼は力を求めた。

 誰にも負けない、強い力を。

 

 「負けねェ……越えてやる……ッ!」

 

 手をついて必死に起き上がろうとする彼に、ある影がかかった。

 それに気づいた彼は、ゆっくりと顔を上げる。

 顔を上げた先には、黒髪ツインテールの青色の瞳の少女が、青い傘をこちらに傾けていた。

 彼女の行為によって狼人に降りかかる雫は途絶え、傘に当たる途端弾けていく。

 

 「やぁ、未来ある少年。こんな所で何をしているんだい?」

 

 その少女の言葉は、酷く大人びていた。

 一つ一つの言葉に威厳があり、今の彼では押し潰されそうになる。

 だから彼は、確信することが出来た。

 

 彼女は、神だ。

 

 下界に娯楽を求めてやってきた、神だと、そう確信した。

 少女はその豊かな双丘を揺らしながら、彼を見下ろす。ポタポタと水滴が彼の周りに落ちていき、まるで彼と彼女の空間を作っているかのようだった。

 狼人は神の言葉に、ポツリと零した。

 

 「強く、なりてェ」

 

 その声に強さを感じさせないものの、その信念の強さはビシビシと伝わってくる。

 女神は狼人の言葉にキョトンとしたが、次第にクスクスと笑い始めた。

 

 「そうか、強くなりたいのか。じゃあ何でここにいるんだい?そんな傷だらけで」

 

 「…………俺が弱ェから、こうなった」

 

 「もしかして、リンチかい?全く、一般人をこんな風にするとは、何処のファミリアだ?……いや、何処のファミリアって可能性も低いか」

 

 うーんと唸っていた女神だったが、その後考えることを止め、彼の前に腰を下ろす。さらに彼女の顔を間近で拝めることが出来た狼人は、重くて開けられない目をググッと無理矢理開かせる。

 彼女の深青の瞳には、自分の惨めな姿が映し出されている。それを哀れに見ることもなく、彼女はニッコリと微笑んだ。

 

 「君は、強さを求めているんだな。もう何処のファミリアに入るとかは決めたのかい?」

 

 「………………」

 

 その問いに、狼人はフルフルと首を振る。

 先ほど、入ろうとしたファミリアに門前払いを受けた挙句攻撃されたのだ。もう彼は何処を行けばいいのかわからない。ここで野垂れ死にしようかと一瞬でも考えた程にだ。

 狼人の答えを聞いた女神は、満足そうに頷く。

 

 「そうかそうか、決めていないんだな!……実はな、ボクのファミリアにはまだ誰も眷属(子ども)がいないんだ。君がもしよければだけど、良かったらボクのファミリアに入らないかい?」

 

 「ーーーーー」

 

 それは、女神の慈悲なのかどうか、彼には判別出来なかった。

 だが彼にはその言葉に、とても突き動かされた。

 まだ誰としてもいない、底辺地位から始まる弱小ファミリア。

 今ここで眷属になっても、まだ自分しかいない。こんな女神のところの眷属になって、自分は強くなれるのだろうか?

 ーーーいや、だからこそ強くなれるかもしれない。

 最初から、強いファミリアに入っても駄目だ。いつも上を見上げてはダメだ。それだと、いつかは押し潰されてしまう。それを越えるためにファミリアに入っても、ダメなんだ。

 それに、ここから新しいファミリアが作られることなどーーーとても燃えるじゃないか。

 

 「…………ああ、入る。俺は、テメェの眷属になってやる」

 

 不敵に微笑む狼人に、女神は「そうか!」と顔を輝かせる。

 徐々に雨が晴れていき、雨粒の音が無くなった時、彼らの『冒険』は始まるのだ。

 

 「ボクの名前はヘスティア!ボクは君を絶対に裏切らない。そして、いつでも君の味方だ。ここからボク達のファミリアは始まる。最初は大変かもしれないけど、でもいつか、このオラリオをびっくりさせるようなファミリアになってやろうぜ!」

 

 差し伸べられた女神ーーーヘスティアの手を、狼人は迷うことなくガシリ!と掴む。

 灰色の毛並みが特徴の彼は、ギラギラとした黄金の瞳で、ヘスティアの手を強く握った。

 そして彼は、名を告げる。

 

 「ベート・ローガ。俺は強くなるためにテメェのファミリアに入る。足を引っ張るんなら、俺はテメェが神でも容赦しねェ」

 

 「ーーーハハハ!威勢がいい子どもはボクは好きだよ!」

 

 それじゃあ、恩恵を刻みに行こうか!

 

 握り返された手の暖かさは、彼の心にも強く伝わり、彼はふわりと風に押されるような形で立ち上がる。

 

 

 ここから始まる。

 

 

 

 

 彼の、眷属の物語(ファミリア・ミィス)が。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 「なぁヘスティア。俺はテメェと強くなって、このオラリオをひっくり返せるくらいのファミリアになるって宣言したよな」

 

 「…………うん、そうだね」

 

 ダラダラと汗を流す女神ヘスティアを、容赦なく見下す彼は、ヘスティアを絶対零度のような目で見据える。

 ボロボロの床に正座している彼女にわかりやすく、かつ強めに足音を立てると、あちらもわかりやすくビクリ!と肩を震わせた。

 

 「……ならなぁ。何で『眷属は俺だけ』で、何で『ボロボロの教会の地下が拠点』で、何であの時から『数年も経ってる』?全然復興してねぇよなァ?」

 

 「………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 スススススッ……と目を逸らすヘスティアに、ついにブチリ、と何かが切れるような音が響き渡る。

 ガチガチと機械のように首を傾げる狼人ーーーーベートは、そのギラギラとした瞳をさらに殺意の目に変えて、声を荒らげた。

 

 「何で俺らはまだこんな下にいるんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!?!?」

 

 「ご、ごめんよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!?!?」

 

 ーーーベート・ローガ。

 数年前、心優しいロリっ子女神ヘスティアに勧誘されファミリアに入団した、Lv.5の冒険者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベート・ローガ。その名を知らぬ者は、このオラリオではまずいないと考えていいであろう。

 まだ世界に名を轟かせていない新規のファミリアの眷属、だがその驚異的な速さでLv.を駆け上げた男。その男に、オラリオの神たちの興味は向いていった。

 神会(デナトゥス)でもベートの話題は上がり、神たちの悪ふざけが始まって二つ名が決まっていった。

 数々の神たちが出した二つ名の案。その中でベートの二つ名として決まった名。

 その名は『凶狼(ヴァナルガンド)』。

 敵を食い荒らす獰猛なる狼人という情報その他から、この名がピッタリだと神たちの意見は一致した。

 それから数年。彼は自分一人の力で、ここまで登ってこれたのである。眷属が彼だけの今、ベートはソロでしか潜ることが出来ないが、一人でどんどん下の階層に行っては、何日も潜って帰ってくることもしばしば。

 その度にヘスティアの不安は募っていくばかりであったが、金を稼ぐにはやはり泊まり込みでモンスターを狩った方がいい。と頭が脳筋のベートはそう結論づけてしまった。

 そこからまた数年の時が経ち、ベートはソロで何週間もダンジョンで泊まり込みをすることが多くなり、現在疲れ果てたベートは何週間ぶりの拠点に帰ってきたのである。

 ここで冒頭に戻ろう。

 

 「大体お前は勧誘もせずにただせっせとじゃが丸くんを売ってるだけじゃねえか!それやるんだったら眷属を増やしやがれ!!」

 

 「ボ、ボクだってやってきたお客さんをちゃんと勧誘してるさ!それでやって来たこともあっただろう!?」

 

 「大半はこの拠点を見て止めてるじゃねえか!?」

 

 「ぐぬぬぬぬ……」

 

 歯ぎしりをして何も言い返せなかったヘスティアだが、思い出したかのようにベートを指さす。

 

 「そ、それだったら君もだろう!?せっかく連れてきた子供達が、君の一睨みで逃げていくんだからなぁ!?」

 

 「ぐっ……!」

 

 そのヘスティアの言い分に、ベートの言葉が詰まる。

 実はヘスティア・ファミリアに入団したいと思う子供達はたくさんいたのだ。しかし大半はこのボロボロの拠点を見て帰っていき、そして眷属のベートの睨みや罵倒で帰っていくのである。

 自分にも非があると何も言い返せなくなったが、その後ハッと嘲笑する。

 

 「覚悟がねェ奴なんざ、このファミリアには必要ねェよ」

 

 「たく……もうちょっと仲良くしてくれないかい?君のことを恨んでいる子供達もいるって、神会でも話題が上がったよ」

 

 「それ程貧弱な奴らだったんだろ。噂でコソコソ吠えている奴なんざ。だから強くなれねぇんだよ」

 

 「あああああ……狼人の特徴でもあるんだけど、なんだかなぁ……!」

 

 頭を抱え込むヘスティアを一瞥して、ベートはドカリと寝転がる。

 数年。もう数年経った。ファミリアに入団したおかげでLv.は現在まで上がっている。自分でも、前よりは強くなったと実感している。

 だが、まだ足りない。もっと強さを極めるためには、もっと下の階層へ行かなければならない。

 しかし眷属一人のベートでは、下層に行くのは非常に困難なことであった。遠征に加えられる可能性も、このファミリアの地位を考えてあまり期待しない方がいい。

 もっと、もっと戦いたい。そしてもっと、強くなりたい。

 ベートはピクピクと獣耳を動かして、瞼を閉じる。それだけで、彼はすぐに夢の中へと落ちていく。

 ヘスティアが何かを喋っているような気がしたが、帰ってきて疲労困憊の彼には、その言葉を聞く気力もなかった。

 やがて彼の意識は落ちていき、どっぷりと夢の世界へ落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やったよベート君!新しい子が増えたよ!」

 

 「ウガッ!?」

 

 その数時間後、ヘスティアのタックルで彼が無理矢理目を覚まされるのは別の話。

 

 

 






 ソードオラトリアでベートきゅん好きになりました。今ならリーネちゃん(ロキ・ファミリアの眷属)とベートきゅんのことについていっぱい語れそうです。……(最新刊を読み終えて)えっ?リーネちゃん?

 リーネちゃんのことも気になりますが、ベートきゅん、彼は何なんですか。全てにおいてアイズの前だとあんな風になっちゃうベートきゅんなんですか?しかも間違ってないことを暴言してしまうベートきゅんなんなんですか??天使ですか??天使ですね迷っていた私が馬鹿だった。
 皆様にもベートきゅんの素晴らしさが伝わるよう精一杯頑張っていきたいです。ベートきゅん過去編が来たら私(:3_ヽ)_こうなって100回以上読み返しますよ??作者様待ってます(真顔)
 正確な年齢や何故ロキ・ファミリアに入ったのかわかりませんが、この作品ではこういう形でヘスティアファミリアに入団という形にしました。狼人が恩恵を貰わずにどれくらい強いのかわかりませんが、やっぱ冒険者と一般人とじゃ大差つくかなーという軽い気持ちでやったら……うん、美味しい!!べ、別に書いてて楽しくなったとか、そういうわけじゃないんだからね!!
 そろそろあとがきも終わりましょう。次更新になるのはいつになるのやら……なるべく早めに更新したいです。

 それでは、今日もベートきゅんを讃えてーーー凶狼(ヴァナルガンド)バンザーイ!!


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憧憬する白兎との邂逅


 うぇ、へ、え?評価付いてる!?やっぱベートきゅんは偉大なんや!見ろベートきゅん!こんなにも君を好きな人がいるんだぞ!!
 だから同士のリーネちゃんに救済をください!!!






 

 

 

 どうも、ベル・クラネルです。今僕は、勧誘してくれた神様のホームに来ています。

 数々のファミリアに門番払いを受けてしまった僕ですが、慈悲深い神様のおかげで、僕はやっとファミリアに入ることが出来ました。

 どうやら眷属は僕の他に一人いるみたいです。神様が「怖がらないでくれよ?」と言っていましたが、出来れば仲良くしたいなぁと思っています。

 そう思っていた時期がーーー僕にも、ありました。

 

 「………………………………………………………………………………………………」

 

 神様、僕はもう泣きそうです。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ベル・クラネル。ヘスティアに連れてこられた、貧相な体の男。まるで白兎を連想させるかのような風貌の男だった。

 ヘスティアは不安そうにベルとベートの行方を見守っている。かつてこれで入団を拒否した者達がどれ程いたのか。ベートに至ってはベルをあらん限りに睨み続けるしで、ヘスティアはゴクリと唾を飲む。

 その状態が暫く続いた後、口を開いたのはベートだった。

 

 「おい、何縮こまってやがる」

 

 「…………え?」

 

 「雑魚のように震え上がってんじゃねェよ。虫唾が走る」

 

 ああ、始まった。とヘスティアは項垂れた。

 狼人の特徴とも言えなくもない、罵声の羅列。その火の粉が全てベルに降りかかる。

 

 「てめぇは何の為にこのファミリアに入ろうとする」

 

 「軽い理由でこのファミリアに入るなら、俺が許さねェ」

 

 「この世界は、てめぇみてぇな雑魚が来るところじゃねェんだよ」

 

 「雑魚は雑魚らしく、都市外でのんびり農地で耕してろ」

 

 (…………あれ、意外に優しい)

 

 不意に、ヘスティアはベートの言葉の異変に気づく。いつもは容赦なく罵倒するのに、今回に至ってはベートも優しめの様子だ。だがそれはヘスティアにしかわからず、ベルの心にベートの言葉が突き刺さっていく。

 それに気づいているにも関わらず、ベートはギロリとベルを見下した。

 

 「どうした。何か反論したいならやれよ。雑魚の吠え面を無様に晒したいんならなァ。あ?全部事実だろ?半端な覚悟で夢見てんじゃねェよ雑魚が」

 

 「…………………………が」

 

 「あ?」

 

 このまま泣いて帰るかと思い始めたベートの耳に、か細いベルの声が響いてきた。

 ベートとヘスティアはベルの方を向く。顔を俯いていて表情は伺えないが、僅かに肩が震えていることがわかっていた。

 

 「…………ぼく、は」

 

 ベルの口が紡ぐ。

 だが直後、バッと顔を上げベートと視線を交わらせたベルは、決意の眼差しでこう吠えた。

 

 「僕は!!英雄になりたいんです!!」

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 言ってしまった。

 ついに、言ってしまった。

 僕は顔が徐々に熱くなっていくのを感じながら、やってしまった感を味わった。

 この人が言っていることは全て事実だ。僕はゴブリンも倒せないし、とても弱くてすぐに負けてしまう。

 だけど、僕にはある夢がある。

 それは、英雄になること。それが、僕の夢だ。

 夢と目的は違う。僕は日々英雄に夢をみて、そしていつか、皆を守れる戦士になりたいと思っている。

 その想いを、この人にぶつけるんだ。

 僕はこのファミリアに、神様のファミリアに入りたい!

 たとえ嫌われてもいい。だけど僕を見つけてくれた神様の元で、英雄になりたいんだ!!

 

 

 

 

 

 「……………………ククッ」

 

 ジッとこの人を見ていたら、ふと肩を震わせて笑い始める。

 

 「クハハハッ!ハハハハッ!!」

 

 その瞬間、この人は大きく笑い出した。

 何故笑ったのか、それは僕に安易に予想できた。

 恐らく、僕の夢を笑っている。いや、嘲笑っていると言ってもいいであろう。直後に「お前が英雄?笑わせんじゃねえよ!」という罵声が飛んでくるに違いない。

 ああ、お祖父ちゃん……僕はもう、恥ずかしくて死にそうだよ。それを隠すために、僕は顔を俯かせて、ギュッと目を瞑る。

 いや、恥ずかしくてもいい。僕の夢は変わらないんだ。僕は英雄になって、女の子と出会いを果たすんだ!……い、いや、最後のは違う!?最後のは言葉の綾で!?

 

 「そうかァ……英雄かァ……」

 

 心の中の自分の誤解を解こうとしていたら、あの人が笑うのをやめた。その代わりに、僕のことを射抜くかのように見据えてきた。

 

 「……いいじゃねェか、英雄」

 

 「…………え?」

 

 この人の言葉に、僕は思わず聞き返した。

 依然この人の瞳は変わらないけど、その口角が上がっているところを見るとーーー認めている、と考えていいのだろうか。

 

 「まぁ、覚悟は本気ってとこだな。それに、俺がボロクソ吐いてもテメェは逃げなかった。それだけで充分素質はある」

 

 「……じ、じゃあ……!」

 

 

 「俺の名はベート・ローガ。認めてやるよ、テメェのファミリア入団を」

 

 この人ーーーベートさんに認められた瞬間だった。

 僕は歓喜に震えた。あんなに侮辱してきたベートさんが、認めてくれた瞬間。こんなの、嬉しくないはずがない!

 やりましたよ、神様!という眼差しを神様に送ると、神様はポカーンと口を開いて固まっていた。どうしたんだろう。

 

 「だがな、もしテメェが雑魚に成り下がった時は、その時はテメェを蹴り落としてやる。その覚悟もしとけ」

 

 …………どうやら、まだ認められていないようだ……。

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 ヘスティアに恩恵を刻んでもらったベルは、嬉しそうにギルドへ向かっていった。

 そのことを再確認すると、ヘスティアはグルリ!とベートの方へツインテールを揺らして振り向く。

 

 「ベ、ベート君!?さっきの言葉、嘘じゃないんだね!?」

 

 「あァ?」

 

 「べ、ベベベベベベル君を!!認め!!たんだよね!?」

 

 「……まぁ、そうだな」

 

 「ぃやったあああああああああああああああ!!ベル君ありがとおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ベートへの確認も取れた女神は一心不乱に喜んだ。

 だって、ベートが認めるなど滅多にないのだ。いつもボロクソ言って泣かしてきたのに、今回はベルの覚悟を認めてくれた!!こんなの、嬉しまずして何になる!!

 今なら彼に何でも買ってあげてもいいかもしれない(ベートが集めてくれた資金からだが)。それくらいに、ヘスティアは嬉しいのだ。

 

 「こんなの、飲まなきゃいられないな!よしベート君、ベル君が帰ってきたら歓迎会だ!手伝ってくれ!」

 

 「面倒くせェ、一人でやれ」

 

 「何ィ!?眷属(かぞく)が増えたんだぞ!?」

 

 「俺はさっき帰ってきたばっかなんだよ。休ませろ」

 

 「ぐぬぬぬ……!反論できない……!で、でも何かやってあげてくれ!というか、ベル君を支えてやってくれ!!」

 

 「…………」

 

 この神は何故こうもあの少年に執着しているのだろう、とベートはイライラした様子でヘスティアに背を向け続ける。

 それよりも、彼の脳内ではある言葉が繰り返し反響していた。

 

 ーーー僕は、英雄になりたいんです!!

 

 (英雄、か……)

 

 強者だけが上り詰めることができる、至高の存在。

 その存在を目指す冒険者など、探せばいくらでもいる。そして、どんなに無謀なのかも知っている。

 だが、あの少年は、あの少年の瞳は。

 

 (…………赤い)

 

 燃え盛るような純情の紅玉の瞳。

 真っ直ぐにその背中を憧憬している彼に、ベートは少し期待している。

 

 (……………………)

 

 まだ、かの少年はここから始まったばかりだ。

 なら自分は、彼が自分を追いかけるよう、もっと強くならなければならない。

 もっと強く、もう弱者にならないために。

 未だ騒いでいるヘスティアを一瞥したベートは、今度こそ深い眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ベートくううううううん!!ベル君がダンジョンに一人で行っちゃったよおおおおおおおおおお!!」

 

 「グホアッ!?」

 

 その後、ベルが一人でダンジョンに赴いたことに号泣したヘスティアが、ゆっくりと眠っていたベートに向かって突進するのは別の話。

 

 

 




 皆がベートきゅん好きで良かった……!!こんなにも仲間がいるなんて感激で死にそう!
 ソードオラトリアの漫画を読んだのですが、ロキをおんぶするベートきゅんを見て私は`;:゙`;:゙;`(゚Д゚*)ガハッってなりましたね。垂れている耳でさらに吐血しましたよ、え?何ですか?しかもその後ツンデレ発揮したよね?え?何?ベートきゅん天使の枠じゃ収まりきれないよ、神だよ、うん。
 とりあえずフィルヴィスさん、そこ代わっておくれ……ベートきゅんの壁ドン(*´Д`)ハァハァ

 さぁ次回もーーーー凶狼バンザーイ!!


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逃げた白兎と焦燥する凶狼

うええええええい!!ベートきゅん!!ここから君のツンデレが始まるんだよ!!早く君のツンデレを書きたいよ!!!




 

 

 ベルがヘスティアファミリアに入団して数日。ベートはダンジョンに訪れていた。

 背中に背負ったバックパックに回復薬(ポーション)を詰め込み、万全の準備を整えている。様々な方面から来るモンスターを瞬殺しながら、ベートはさらに下へ下へと降りていく。

 第二十二階層。ベートがソロで潜れる階層のギリギリラインだ。

 ここからはソロでは厳しいところもあるが、ここよりも深いところをベートは潜ったことがある。多少苦戦はするが、死にはしない。ベートはそう確信している。

 だが今日は長居をするつもりはなかった。今日はこの短時間でしっかりと魔石を集め帰る予定である。

 理由は最近潜りすぎとヘスティアに注意されたからだ。今のファミリアはベートが稼いだヴァリスで保っていると言っても過言ではない。だがその代償にベートが無茶をするので、見かねたヘスティアが「深くまで潜るのは禁止!!」とベートに言い放ったようだ。

 もちろん反対したが、ヘスティアの言い分も最もだし、これ以上無茶をして支障が出ても困る、とベートは苦渋の決断に踏み切る。だが二十二階層までは行かせてくれと懇願し、そこまでならとヘスティアの許しも得た。

 貯める時は、貯める。狩る時は、狩る。その意志を持って、向かってくるモンスターの群れへ、自ら突っ込んで行った。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 「こんなもんか」

 

 バックパックに溜まった魔石の重さから、ベートはそう決めつける。疲れきった体に回復薬を流し込み、傷や疲労を癒した。

 周りにはモンスターの死骸がうじゃうじゃといる。もうすぐ、黒い粒子となって消えるであろう。

 モンスターからあるだけの魔石やドロップアイテムを手に入れたし、帰るとしよう。とベートは瞼を返し、上に続く階段へ登り出した。

 リヴィラを通り抜け、階層主がいるはずの広間を抜け、どんどん上へ登る。

 途中、冒険者とすれ違った時に睨まれたが、どうせいつものことだと直ぐに忘れた。

 

 「よっ……と」

 

 持ち前の俊足で軽々と階層を上がる。今の階層は十五階層。この後は、ものの数分で地上へ登れること間違いなしであろう。

 あまり遅くさせるのも、とベートはヘスティア達のことを思い浮かべ、少しペースを早める。いつもはダンジョンに一週間くらい篭もりきるのだが、入団したベルに有らぬ疑いをかけられても迷惑だ。

 ペースを速めたおかげか、一気に五階層分を駆け上がることが出来た。霧がかかる第十階層を、モンスターを殺しながら歩いていく。もちろん、魔石やドロップアイテムを忘れずに。

 

 「………………!」

 

 九階層へ続く階段を登ろうとした時、上の階層から何かの音が轟くのが聞こえた。

 聴覚や臭覚に優れている彼は、その情報から記憶にあるモンスターへと当てはめていく。

 そして、ピッタリと一致するモンスターがいた。自分がLv.2の時、苦戦しながらも勝ったモンスター。

 

 「この足音や臭い……ミノタウロスかっ?」

 

 Lv.2にカテゴリされている、『ミノタウロス』。並の冒険者じゃ全く歯が立たないモンスター。その硬質や強靭な力に一時期ベートが生死を彷徨ったものの、今では軽々と倒すことが出来る。

 そのミノタウロスの足音が、上の階層で響いている。

 何故だ?上層には、ミノタウロスなんて存在しなかったはずだ。なら考えられる可能性はーーー誰かが倒し損ね、ミノタウロスがここまで逃げてきたということ。

 

 「チッ……!」

 

 いつもは放っておくのだが、同じ眷属の少年ーーーベルのことを思い浮かべると、いてもたってもいられなくなった。

 もしこのままベルがいる上層まで登ってしまっては、新米冒険者が次々に虐殺されてしまう。その中に、ベルの姿もあるのかもしれない。

 冒険者に憧れていた彼だ。恐らく今日も潜っているはず。ならここで仕留めておいて損はない。

 持ち前の俊足で階段を駆け上がろうとした時だった。

 

 「待って!」

 

 後ろから、小鳥のさえずりのような美しい声がベートに向かってかけられた。

 あ?と彼が不機嫌そうに振り向くと、霧に紛れているある少女が視界に入る。

 長く繊細な金色の髪。上質な軽装の装備。そして輝くは、彼女の手に持っている不壊属性(デュランダル)の武器。

 ベートは彼女を知っている。いや、このオラリオで彼女を知らない冒険者はいない。

 

 「あの、その、こっちにミノタウロスは来ませんでしたか?」

 

 彼女の名はーーーアイズ・ヴァレンシュタイン。

 二つ名は『剣姫』。そしてーーーベートが越えたいと思っている、人物。

 アイズはしどろもどろになりながらも、要件を伝える。どうやらあのミノタウロスは彼女が取りこぼしたモンスター……いや、遠征の帰りに『ロキ・ファミリア』が取り逃がしたミノタウロスの一体だそうだ。

 はた迷惑な奴らだ、とベートは心の中で悪態をつきながらも答える。

 

 「ミノタウロスの姿は見てねえが、ミノタウロスの音や臭いは上の方でしてる。恐らく、ここから上層に向かったんだろう」

 

 「!……ど、どうしよう……」

 

 わかりやすくアイズが狼狽える。かの剣姫のこんな姿を拝めることが出来たのは正直心地いいが、こちとら団員の命がかかっているのだ。今のベートにとっては、その姿さえも苛立ちに変換されてしまう。

 ベートはあからかさまに重く溜息を吐く。

 

 「ミノタウロスをぶっ殺すんだろ?俺ならミノタウロスの場所は探せる。付いてこい」

 

 「!…………あ、ありがとうございます」

 

 アイズが感謝を述べた後、直ぐに走り出した。

 だが同じLv.5でも、脚では圧倒的にベートの方が速い。どんどん引き離されていく距離を、アイズは必死に食らいついていく。

 途中、向かってくるモンスターを蹴り殺したり斬り殺したりして、彼らは五階層まで駆け上がってきた。まだミノタウロスの臭いは残っており、未だに何処かを動き回っている。

 

 「この階層が強いな……ミノタウロスはまだここにいやがるってわけか」

 

 「ッどこ?」

 

 ベートは臭いと音、アイズは鋭い視覚で探っていく。

 静寂が訪れ、モンスターも生まれてこない空間。息を潜め、ミノタウロスの動向を完璧に察知していく。

 

 ーーーーーうわあああああ!!

 

 「!?」

 

 突如、ミノタウロスが大きく動いた途端、冒険者の悲鳴も響いてきた。

 まだ少年のように高い声の悲鳴が、この迷宮内で響いている。同時に、モンスターの攻撃も轟音と化してベートの耳に入っていた。

 

 「チィッ!雑魚が見つかったのか!」

 

 「どこっ?どこに……!」

 

 「こっちだ、剣姫!こっちにミノタウロスがいる!」

 

 ミノタウロスの居場所を完全に把握したベートは、アイズの返事も待たずに飛び出した。

 ここからそう遠くはない。自分の脚力だったら一瞬で追いつく。ここで、ミノタウロスで、騒ぎを大きくするためにはいかない。

 音と臭いが近くなった。同時に、追いかけられている冒険者の匂いも嗅ぎ分ける。

 

 (…………あ?この匂い……ッ!)

 

 その匂いを嗅いだ瞬間、ベートの動きが疎かになった。

 いや、そうならざる終えなかった。

 この匂いは、つい数日前に覚えた匂い。入団して間もない、あの新米冒険者の匂い。

 

 「ベル……!?あいつ……!」

 

 今、ミノタウロスに追いかけられているのはベルだ。

 だが早過ぎる。何故もうこの五階層にいるのだろうか。まだ彼には経験が足りないというのに。

 

 「うわあああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 『ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 「ベル!!」

 

 疎かになった足を無理矢理動かし、ベートはベルの元へ急いだ。

 そして、追いかけた先には、ベルがミノタウロスに追い詰められている場面だった。

 

 「ベルッ!!」

 

 ベートはすぐ様、ミノタウロスを殺しにかかる。

 

 

 

 ーーーだが、それよりも早く金髪の戦士が斬撃を繰り出した。

 

 

 

 

 ブシャリ!とミノタウロスから血潮が噴き出す。壁にも、地面にも、少年にもかかったどす黒い血液を見て、ミノタウロスは確かに狼狽えた。

 

 「ふっ!!」

 

 その隙を逃さず、アイズは見事な剣捌きでミノタウロスを切り刻んだ。

 絶叫にも異なる異質な咆哮は、無念にも迷宮内に吸い込まれていく。ゴトリ、と落ちた魔石には目もくれず、アイズは呆然とへたりこんでいる白兎に、手を伸ばした。

 

 「……大丈夫、ですか?」

 

 

 ーーーここから、白兎(ベル)の新たなる冒険の一ページが描かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 「あーあ。ベル君もベート君もダンジョンに行っちゃったし、暇だなぁ」

 

 今日は何も予定がないヘスティアは、一人用のベッドを存分に使っていた。

 ここの拠点の備品は、全てベートが買い揃えたものだ。最初の頃の自分は全然稼ぎがなく、懸命に稼いだベートがあれよこれよと色々買い揃えたもの。だが本当に必要なものだけで、他の必要にならないものは一切買っていない。

 ヘスティアはその一つのベッドに顔を埋め、ぷくりと顔を膨らまる。もちろん、対象は眷属達だ。

 

 「男の子っていうのは、本当に冒険が好きなんだなー……」

 

 でももうちょっと休んでもいいだろー……、とポカポカとベッドに愚痴を零していると、扉の方からガタリ!という音が聞こえてきた。

 ヘスティアがバッと顔を上げると、扉の先からなにやら慌てた音が響いている。

 

 「ーーーおい!ベルがこっちに来なかったか!?」

 

 扉を壊す程の勢いで扉を開けたのは、ベートだ。

 若干汗を滲ませている彼に余裕が無いように感じる。その琥珀色の眼の焦点が合わないところを見るに、彼に何かあったのかと察することが出来た。

 ヘスティアはカチカチと固まりながらも、震えながらも伝える。

 

 「い、いや……来てない、けど?」

 

 「じゃあギルドか!」

 

 そう聞いたベートは、扉を壊したまま走り去ってしまった。

 冷たい風が入る中、ヘスティアは枕を抱いたまま意気消沈するしかなかった。

 

 「…………なん、だったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ベエエエエエルウウウウウウウウッッ!!」

 

 「ひえっ、ベートしゃあん!?」

 

 ギルドの扉を蹴ってスライディングして入ってきた狼人の青年に、ベルは顔を青くした。

 同じく、ベルと話していたエイナも彼の方を凝視して、目をぱちくりとさせている。

 事の発端を生み出した狼人……ベートは、船若と言っても過言ではない怒号の表情で、ベルに詰め寄った。

 

 「よォベルゥ、探したぜェ?テメェがきったねェ牛野郎の血を浴びやがるから、探すのに手間かからせやがって……」

 

 「べ、ベートさん……お、落ち着いて……」

 

 「落ち着いてだァ?おいおい、まだ雑魚の段階だっていうのに五階層へ潜ったのは何処のどいつだ?余裕ぶちかまして意気揚々と潜って死にそうになったのは何処の兎だ?挙げ句の果てには惨めに悲鳴上げながら血だらけで街中駆けたダッセェ臆病な白兎は何処のドイツだ!?あァ!?」

 

 「ご、ごめんなさい!!このとおり!!この通りですううううう!!」

 

 凄みのある剣幕でまくし立てられ、ベルは見事なジャパニーズ土下座を繰り出す他なかった。エイナはエイナでベートの意見に賛同していて助け舟を出してくれそうにない。

 今だけ、この場を地獄だと思ったベルは悪くない。

 

 「大体なぁ!テメェは礼を言うことも出来ねえのか腰抜けが!」

 

 グサッ!

 

 「あんな変な奇声上げられたら、同じ団員の俺にまで迷惑が降りかかるだろ!」

 

 グササッ!

 

 「くっせぇミノタウロスの血をばらまきやがって、あの腑抜け共が一体どんな目でテメェを見てやがる!?」

 

 ゴツンッ!

 

 「もっとテメェは最低限の強者としての威厳をーーーー!!」

 

 「あの、ローガ氏、ベル君、もうノックアウトです」

 

 さすがに見兼ねたエイナが、ベートを宥めた。

 ベルはプスプスと音を立ててズゥーン、という効果音がつきそうな程に落ち込んでいる。だがベートは反省する気がないらしく、逆に言い足りないようだ。

 

 「ハッ、自業自得だろ。これで反省しやがれ」

 

 「…………はぃ」

 

 「これに懲りて、もう私のいいつけを破っちゃダメよ。ベル君?」

 

 「承知しました……」

 

 「じゃあ魔石、換金してきてね」

 

 「わかりました……」

 

 フラフラと、魔石の入った袋を換金所へ持っていく。

 ギルドの横へ位置づけられている換金所に魔石を置くと、直ぐに二、三枚のヴァリスが出された。

 

 「二〇〇〇ヴァリスくれぇか……ちんけなもんだな」

 

 「うっ……こ、これから稼ぎます……!」

 

 「取り敢えず今日は帰るぞ。チッ、全く世話の焼かせる……」

 

 「あ、待ってくださいベートさん!」

 

 早々に出ていってしまったベートを、ベルは追いかける。背後でエイナが引き止める声がするが、ベートは振り返らず、唯一ベルだけが満点の笑みで返した。

 

 「さようならー!また明日ー!」

 

 「…………もうっ」

 

 声では怒りが混じっていようと、表情はとても優しそうである。

 ベートとベルがもう完全に見えなくなるまで見送った後、エイナは背伸びをして自分の仕事へ戻るのだった。

 

 

 

 (…………そういえば、今回のローガ氏、なんか変だったなぁ……ベル君に対して優しかったような……)

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 「ハァ……」

 

 「そ、そんなに溜め息を吐かないでください……」

 

 夕方、殆どの冒険者がダンジョンから帰っている時間帯で、ベルとベートは肩を並べて歩いていた。

 先程ベートからお叱りを受けたベルだが、今では少しだけ立ち直っている。そもそも自分が悪いので仕方が無いと理由をつけて。

 一方、ベートはここまでの疲労が出てきたのか、ことある事に溜め息を吐いていた。溜め息を吐くと幸せが逃げると聞いたことがあるが、全くもってその通りかもしれない。

 

 「べ、ベートさああん……!何か言ってくださああああい……!」

 

 「うるせェ黙れ」

 

 「ごめんなさい……」

 

 ベートが小さく怒鳴るだけで、ベルがしゅんと項垂れる。今のベートに逆らったらダメだと、脳が信号を送ったかのように反射的に謝った。

 そんなベルを一瞥して、またベートが「はああ……!」と、溜め息を吐いた。本当の白兎になってしまうのではないのかという少年の頭を、思いっきり叩く。

 

 「イッッッダアアアッッッ!?!?」

 

 Lv.5の半分ほどの力を食らったベルは、その場で蹲った。どうやら相当痛かったらしい。当たり前だ。ベルとベートの間には超えられない壁が存在している。そんな攻撃を地べたで存在するベルがくらったら、堪らない攻撃なのである。

 天と地の差がある攻撃をしたベートは、悪びれることなく歩き出した。

 

 「ま、待ってくださああああい!!」

 

 その後ろを、頭を抑えながら涙ぐむベルが、追いかける。

 一連の情景が一瞬にして起こったメインストリートは、いつも通り活気に溢れ、彼らの姿を覆い隠す。

 誰にも注目されることなく、彼らは主神が待っているであろうボロボロの教会へ、足並みを揃えずに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おい、知ってるか」

 

 「あ?何がだよ」

 

 ふと、メインストリートを住宅の屋根で防寒していた男神達。その内の一人が、隣にいる男神へ何かを問いかける。

 もちろん問いかけられた男神は何が何だかわからず、聞き返す。

 男神……わかりやすく言えば、猫目の男神はニヤニヤと悪い笑みを浮かべて話し始めた。

 

 「あの凶狼(ヴァナルガンド)だよ!見ただろお前も」

 

 「ああ、見たがそれがどうかしたのか?」

 

 「あの凶狼が、嫌がらずに、まるで親のようにあのガキを殴ったのをお前は見なかったのか!?」

 

 その情報(ネタ)に、もう一人の男神……金髪の男神が、雷でも落ちてきそうな勢いで、驚愕した。

 

 「なん……だと……!?あの凶狼が!?」

 

 「一大事だろ……!?あの凶狼がだぜ!?」

 

 こりゃスクープスクープ!!とはしゃぎ始める男神達の背後で、ヌッと数珠を身につけた男神が現れる。

 

 「おおっと!俺も忘れてもらっちゃ困る!」

 

 「誰だ貴様!?」

 

 「俺達は今重大な話を……!」

 

 「ハッハッハ!極上の情報(ネタ)を持ってきたというのに、そんな態度をしていいのかねぇ!?」

 

 「「くれぇ!!いやください!」」

 

 数珠の男神に、二人の男神はジャンピング土下座をしてさらなる情報を求め始めた。

 それに上機嫌になりながら、数珠の男神はニヨニヨと、凶狼が去った道を一瞥する。

 

 「俺は見てしまったのさ……心配してねぇとあの少年に向かってツンツンしていた凶狼だが……」

 

 「「凶狼だが……!?」」

 

 「ーーーその一人の駆け出しの少年を探すために、血相を変えて街中探し回っている姿を俺は見てしまったのさ!!」

 

 「「ツンデレキタコレええええええええええええええええええ!!」」

 

 数珠の更なる情報に、二人の男神はさらにヒートアップする。

 

 「今まで暴言吐いてた男がぁ!?」

 

 「「男がぁ!?」」

 

 「今まであしらって『雑魚は興味ねェ』って格好つけてた男が!?」

 

 「「男がぁ!?」」

 

 「一人の少年の為にあんなに体をクタクタとさせて探し回った!?」

 

 「それって何処のツンデレええええええええええ!!」

 

 「俺、今日程神でよかったと思ったことないよ……!!」

 

 「ここからあの子のツンデレが発揮するんだね……!長かった……!」

 

 「思えばあの時からだな……!「テメェのことなんて一度も考えたことねぇ!」と、めっちゃ美人の子を罵って去っていき、それをネタにして神会で荒れたあの日を思い出す……!」

 

 「そして次の日、ダンジョンで死にそうになったその美人ちゃんを助けたんだろォ!?」

 

 「しかも「助けたわけじゃねェ。狩りたいから狩った」って決め台詞を吐いたっていう噂だ」

 

 「「ツンデレテンプレキタアアアアアアアアアアアッッッ!!」」

 

 男神達が何で盛り上がっているのかわからない下界の者達は、ただ騒いでいる男神達に冷たい目を送るだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 「……!」

 

 「ベートさん?どうしました?」

 

 「うるせぇ……さっさと歩け!」

 

 「は、はぃぃぃいい!?」

 

 

 




抑えきれなくて何が悪い!!!(ダンッ)
ツンデレ……ベートきゅんのツンデレ……!ハァハァ。きっとあの男神の中に同士がいるって信じてる……!
きっとベルきゅんとベートきゅんの会話じゃ「心配しましたか?」「してねぇ黙れ」「ご、ごめんなさい!」っていう会話があると思うんですよ。ええ、書きたかったんですけど書けなかったんですよ。ええ、ちくしょおおおおおおおお!!!
ああベートきゅん……!君のためなら胃腸風邪でも私は書き続ける!!(寝ろ)
ベートきゅんがいてくれるからこそ今の私がいるんやで!凶狼バンザーイ!!( ゚∀゚)o彡゜凶狼!凶狼!

……あっ、そろそろ胃腸風邪やばくなってきたのでお暇しmベートきゅううううううううううううん!!!!!



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羨望する凶狼


皆……仲間……なんだね……!!(号泣)





 

 

 

 「ベルくうううううううん!!大丈夫かい!?け、怪我はないかい!?どこか具合が悪いところとか!?」

 

 「だ、大丈夫ですよ神様ああああああああああああ!!」

 

 ベルとベートがホームに帰って待っていたのは、ヘスティアタックルであった。

 ベルが何でドアが壊れているのだろうという疑問を持った瞬間に、ヘスティアがベルに抱きついて体のあちこちを調べ回る。

 正直、何故こんなに心配されているのかベルにはわからなかったが、ベートの含み笑いで何故か全てを悟ったような気がした。

 

 「ベート君が慌ててベル君の場所を聞いてくるから何事かと……ッ!!」

 

 「言うんじゃねえよこの駄神がああああああああああああッッ!?!?」

 

 「にょわああああああああああああああああああああ!?」

 

 ああ、やっぱり心配してくれてたんだ。

 頬の伸ばし合いっこをしている二人を、ベルは何とも和やかな瞳で見つめることが出来たのであった。

 

 

 若干頬が赤くなっているヘスティアが稼いできてくれたお金で、今回の夕食はじゃが丸くんパーティとなった。

 各自、お好みの塩をかけてじゃが丸くんを吟味し、今回のことに話題を膨らませていく。

 

 「ミノタウロスにあったぁ!?ほ、本当に大丈夫だったのかい?」

 

 「はい、ヴァレンシュタインさんに助けていただいて……」

 

 「そして自分から逃げていったと」

 

 「ぐっ……」

 

 「まぁ、そのヴァレン某君のことは別にいい。問題はーーー君がそのヴァレン某君に恋心を抱いている事だぁ!?」

 

 「絶対、神にかけても無理なことだな」

 

 「神様もベートさんも酷いです!?」

 

 容赦ない言葉に、ベルは涙目になる。だがベートもヘスティアも悪びれることなく、ただ黙々とじゃが丸くんを食べ進める。

 やがてじゃが丸くんパーティが終われば、次は眷属達のステイタス更新である。……最も、今回はベートは更新しないため、ベルだけになってしまうが。

 

 「………………?」

 

 「神様?」

 

 ステイタス更新をし終わり、ヘスティアがベルのステイタスを確認していた時だった。

 突然ヘスティアの動きが止まり、ある一点を凝視し始める。不審に思ったベルが声をかけたが、ヘスティアは「何でもない!」と少しどもって、紙に写し始めた。

 

 「はい、ベル君」

 

 「ありがとうございます……やっぱり、あまり上がっていませんね……」

 

 「そんなことはないさ。ミノタウロスに追いかけ回されたのか、敏捷が結構上がっているよ。もしかしたら、ベート君に追いついてしまうかもね」

 

 「ほざけ。そんな簡単に抜かされてたまるか」

 

 「ぶー。ベート君のいけずー!」

 

 「子供かテメェ!?」

 

 「で、でも!僕頑張りますね!ベートさんに追いつくために!!」

 

 そう言って、ベルはニッコリと笑う。

 ベートはグッと喉を詰まらせ、また溜息を吐いた。

 

 

 

 

 「で、お前なんか隠してるだろ」

 

 「ギクッ」

 

 ベルがぐっすりと眠った後、ベートとヘスティアは教会の中で向き合っていた。

 ヘスティアの手には、先程ベルに渡したものと同じ紙が握られている。

 神聖文字(ヒエログリフ)は、普通なら下界のものは読めない。なので神が共通語(コイネー)に直して下界のものに翻訳したものを見せている。

 その翻訳した紙を、ヘスティアは大切に持っていたが、不審がったベートがそれを追求しようとしていた。

 

 「ぐぬぬぬぬぬ……」

 

 「オラ吐け。楽になるぞ」

 

 「ぬぬぬぬぬ……ベート君なら……まだいいか……」

 

 悩んだ末、ヘスティアは持っていた紙をベートに渡す。

 ーーーそう、何も弄っていない、本当のベルのステイタスを。

 

 「…………憧憬一途(リアリスフレーゼ)?んだこりゃ」

 

 訝しげにその単語を口にしたベートは、何かを知っているであろうヘスティアの方を見る。

 ヘスティアはぷくりとそっぽを向いていたが、やがて悔しそうに、絞り出すように話した。

 

 「…………君なら察せれると思うよ。憧れる人を追いかける気持ち……その憧れる人は少なくともヴァレン某君。……つまり、そのスキルは……」

 

 「ほぼ恋心で出現したといっても過言ではないと」

 

 「ううううう!!ヴァレン某いいいい……!!」

 

 わなわなとこの場にいないアイズに恋敵を覚えるヘスティア。それを冷めた目で見ていたベートは、またステイタスの用紙を見る。

 憧憬一途……誰も発現したことのない、レアスキル。自分のスキルは狼人としてのスキルが多いため、レアスキルはない。

 しかもLv.1からだ。まだまだ未熟な彼の、第一歩となりえるかもしれない。このレアスキルは。

 

 「…………」

 

 不意に、ズキリと胸が痛み始める。

 ベートはその胸の痛みに気づきながらもそのままにし、グシャリ、と羊皮紙を握りしめる手の力を強めた。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 憧れる人を追いかけることによって、彼はーーーベル・クラネルはさらなる進化を遂げる。ベートはそう直感していた。

 もちろん、それで強者となるのなら別にいい。寧ろなってほしいものである。無様で惨めに晒していた彼に、もうならない為なら。

 だがベートはーーーその彼の姿を想像すると、非常に腹が立った。

 

 「がるぅあああああああああああああああああああああ!!」

 

 向かってくるスパルトイの大群を、ベートは蹴り一つで殲滅する。

 攻撃をする暇もなかったスパルトイは、たちまち黒の粒子となって魔石だけが零れ落ちた。

 

 「……ハァ……」

 

 ダンジョン37階層。

 未だに人が訪れない大広間に、ベートは何時間もこの場でモンスターを狩っていた。

 ベルにスキルが発現したその後、彼は直ぐにダンジョンに潜りモンスターと死闘を繰り広げる。

 まだ階層主が現れない時間帯まで篭もり続ける彼の額には、若干汗が滲み出ていた。

 

 「………………」

 

 手元にあるポーションをじっと見つめ、やがてそれをバックパックに仕舞う。何時間も狩り続け疲労が溜まり、傷も出来ているというのに、彼は回復は愚か、休憩することもなかった。

 スパルトイがダンジョンから生まれ、標的をベートに定める。

 ベートはそのスパルトイの大群を鼻で笑い、強化された敏捷と威力と共に、スパルトイの軍勢へ再び突っ込んだ。

 

 「がるぅあ!!」

 

 目の前のスパルトイの頭蓋骨を、膝でぶっ壊す。

 そして向かってくる周りのスパルトイは、地面に手をつけて回し蹴りで潰す。

 バラバラと魔石が散らばっていき、そして敵の数も増えていく。スパルトイだけではなく、ちゃんと肉があるモンスターがゾロゾロと。

 

 「ぐるるるる……!!」

 

 ギラリ、と眼光を凄ませ、ベートはその大群を睨むように見据えた。

 ああ、イライラする。

 とても、収まりきれないくらいにイライラする。

 何体も何体もモンスターを狩っても、全然この苛付きが収まらない。

 奇声をあげたモンスター達が、ベートに向かって突っ込んできている。

 

 「ーーー糞がぁ!!」

 

 対してベートは、吠える。

 獰猛なる野獣と化す彼を止められるものは、今この場にいない。

 ただ彼は、モンスターを狩る『モンスター』でしかない。

 

 (ーーーああ)

 

 俺は今、何でイライラしてるんだっけ。

 モンスターの頭、腕、首、四股を潰しながら、ベートは今更そんなことを考え始めた。

 そうだ、ベルがレアスキルを発現した時からだ。

 そのレアスキルが、ベルに大きな成果を上げるかもしれないと、自分でそう思ったんだ。

 Lv.1で。

 

 (……何だ、考えれば簡単な事じゃねえか)

 

 モンスターはもう、死んだ。

 モンスターがいる証拠になるのは、モンスターの体から出てきた魔石だけ。

 ベートはその一つをガシャ!と踏み潰し、舌打ちを零した。

 

 (大人気ねぇ、俺も)

 

 彼はこの感情を知っている。

 まだ駆け出しの冒険者が出したレアスキル。そうだ、それを見て、予測して、想像して。

 

 

 (ーーー嫉妬、なんてな)

 

 

 

 自分にも、あんなレアスキルがあれば強くなれるかもしれない。

 この先、このまま強さを求めていたら、もしかしたら自分にもレアスキルが出るかもしれない。ベルのような、何かを追いかけるようなスキルが。

 そんな欲すら出てくる程に、ベートはベルが持つスキルに羨望していた。

 それを認めたくなくて、ベートはこんなところまで狩りに来ていた。

 

 「…………ちくしょう」

 

 最後まで惨めで、無様な自分に、ベートはベート自身を呪い始めた。

 

 





ベートきゅん考えすぎィ!!だけどそこがいい!!
さてさて、胃腸風邪ももう完治寸前だよ。それもこれもベートきゅんのために必死に治したんだよ!!ベートきゅんのために!!ベートきゅんの!!ツンデレを書くために!!
もっともっっっっっと君の素晴らしさを広めるために僕は頑張るさ!!さぁツンデレを謳歌しようじゃないか!!
しかも嫉妬するベートきゅん萌ええええええ!!書いててあれだけどめっちゃ良くないっすか!?ねぇ俺だけ!?ねぇ!!嫉妬自覚して申し訳なく思って耳しゅんとなるシーン想像したら鼻血ボーボーじゃないっすか!?俺だけじゃないよね!?誰だって鼻血ブシャアだよね!?
なんかあとがき長くなったら怒られそうだから次回に回しますね!うん!ごめんなさい!!

今日も凶狼を讃えてえええ!!凶狼バンザーイ!!


あ、言い忘れてたけどこれ自分の気分で書き進めるから!更新不定期だから!!もしかしたら何ヶ月か経ってるかも!色々掛け持ちとかプライベートとかあるからそこだけは考慮しといてください!!あと時と場合によって文字数少ない!!


※スキルって制限なかったんすね……くそう、ダンまちファン失格だ……。


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凶狼と白兎の外食



 がるあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!←言葉にならない叫び


 

 

 

 

 

 ほぼ八つ当たりでダンジョンに潜っていたベートが地上に戻ったのは、既に日が落ちている時間帯だった。

 バックパックに詰まっている魔石は、これまでよりも集めていると言っても過言ではないであろう。また貯金に回さねば、とベートは疲れにより出た欠伸を噛み締める。

 ギルドへの道を辿ると、徐々に民間人や冒険者が多くなっていく。まだ商売をしている商人の通りを通りながら、ギルドの木材の両扉を開けた。

 

 「あ、ローガ氏。お疲れ様です」

 

 ベートを迎い入れたのは、ベルのアドバイザーでもあり、ベートの良き理解者でもあるエイナだった。手元にある資料はある冒険者の資料であるところを見るに、まだ業務中なのだろう。

 

 「おう、ベルの調子はどうだ?」

 

 「はい。ベル君は今日もダンジョンに向かっています。でもいつもより凄い励んでいたような……いえ、別に今までサボっていたわけではありませんよ?なんか、今日のベル君は今まで以上に張り切ってたような……」

 

 「いや、いい。理解した」

 

 必死に伝えようとしていたが、それをベートは遮り、止める。ベルが何故突起になっているのか、ベートは既に分かりきっているからだ。

 あの剣姫を越えるために、今ベルは頑張っている。そう思うと、先刻までベルに発現したスキルに嫉妬していた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

 

 「チッ」

 

 それを隠すように舌打ちをかましたベートは、エイナを過ぎ去って換金所まで歩く。

 十八階層以下の魔石は全て迷宮の楽園(アンダーリゾート)で換金してきた。後は道中やってきたモンスターをここで換金するだけである。

 やがて出された魔石はヴァリスとなって帰ってきた。二万三千ヴァリス。それに迷宮の楽園で換金した金額を足せば、いつもの三分の一の稼ぎとなった。

 この稼いだ金額の殆どをファミリアの財産に注ぎ込もう、と換金したヴァリスを袋に入れ、ギルドを後にしようとする。

 

 「あ、ローガ氏」

 

 ふと、エイナに呼び止められ、ベートは振り向いた。

 ハーフエルフでありながらもその美しい相貌は目を引くものだ。夕日の光によって彼女のエメラルド色の双眸は、いつにも増して煌めいている。

 エイナはベートの琥珀色の瞳をジッと見つめて、やがてふんわりと笑った。

 

 「……ベル君のこと、支えてあげてくださいね」

 

 「……馬鹿野郎が。それはテメェの仕事だろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドを出て暫く歩く内に、時間帯は既に宵となってしまった。

 今帰ったら、恐らくヘスティアは「遅い!」とベートに突っかかり、そしてベルは苦笑するであろう。そうなっては後々面倒なので、少しだけホームの帰路を早足で帰る。

 

 「……あ?」

 

 だがその時、ある店で立ち止まっている見慣れた姿に足を止めた。

 いつもの茶色の外套に、雪のような真っ白な肌。彼ーーーベルはある酒場で、右往左往としていた。

 

 (何やってんだあいつ)

 

 そもそも彼は何故ここにいるのだろう。ホームでヘスティアと仲良く晩飯を摂っていたのではないのか。そもそもヘスティアは何処へ行ったのか。

 数々の疑問を抱きながら、取り敢えず聞けばわかるだろうとベルに近づいた。

 

 「おい、ベル」

 

 「っあ……ベートさん!」

 

 ベートが声をかけると、ベルは嬉しそうに顔を輝かせた。その表情にベートも頬を緩める。

 ベルに何をしているのか問う前に、ベートは酒場を見上げた。

 ここは確か……自分が冒険者になった日から通っている、見慣れた酒場「豊穣の女主人」である。何故ベルがこの酒場の前で右往左往していたのか、もしやこの酒場に入るのを戸惑っていたのだろうか。別に戸惑う必要性はないと思うのだが、とベートが心底疑問に思っている時、酒場から一人の少女が顔を出した。

 

 「あ、ベルさん!」

 

 灰色の髪を一つに束ねた、緑のメイド服を着込む少女は、ベルの姿を視界に収めると嬉々として駆け寄ってくる。

 「こんばんわ、シルさん」とベルは恥ずかしそうに彼女ーーーシルに挨拶した。

 シルはニッコリと笑って、ベルがこの酒場に来たことの喜びを告げる。それにさらに真っ赤になったベルと、それにまた頬を緩ませるシルのやりとりを、ベートは黙って観戦していた。

 

 「……所で、そちらのお方はーーーーあ、ベートさん!」

 

 漸くベートの存在に気づいたシルは、ベートに笑顔を向けた。

 

 「チッ、気づくのが遅いっての。……薄々気づいちゃいるが、どうせ、またあのやり方でベルをここに呼び込んだんだろ?」

 

 「えっ」

 

 「シーッ、秘密ですよ」

 

 確信犯的なシルの笑顔に、ベートはまた舌打ちを零した。

 実は昔、ベートは彼女のやり口にハマりかけたのである。冒険者になって数日、そろそろ慣れてきた頃に彼女、シルに「魔石を落としましたよ」と呼びかけられたのだ。

 その時は一瞬落としたのかと思ったが、彼は音にも敏感である。もし落としたのなら即座に気がつくし、そもそも先程全ての魔石を換金してきたので、落ちていることは普通なら有り得ないのだ。

 即座に疑いをかけたベートは彼女に凄みをきかせ、淡々と言葉を紡いでいった。そして驚く程あっさりと白状した彼女に、今度はベートが度肝を抜いた。しかもちゃっかり「宜しくお願いしますね!」と店の宣伝もしていき、そして用が済んだとばかりに店の奥に姿を消したのである。

 こればかりはさすがのベートも「はぁ?」となった。そしてあの女に文句でも言ってやろうと態々酒場に足を運んだのだがーーー料理は美味く、そして酒場の雰囲気も全て気に入ったので、「騙されたとしても金が増えるだけだったしまぁいいか」で、妥協したのである。

 以来時々酒場に来ては飲み明かし、ヘスティアにブーブー言われていたが……そういえば、Lv.が上がるにつれて来れていなかったな、とベートはふと思い出した。

 Lv.5になってからというもの、殆どの時間をダンジョンに費やしていたので、そもそもこういう場所に来るのも久々なのだ。酒場から聞こえる冒険者の汚い笑い声も、ベートにとっては昔のように思えてきた。

 

 「……丁度いいな。俺もここで飯食ってくか」

 

 「本当ですか?ありがとうございます!」

 

 「ええ!?」

 

 「ああ?ンだベル、そんないかにも意外そうな顔しやがって」

 

 「いえ……ベートさんとこうして一緒に食べれるの、初めてだなぁと思うと……つい」

 

 「……そういえば、そうか」

 

 ベルに言われて、ベートも気づいた。

 こうやってベルと一緒に、何処かの店へ入って食事するのは初めてだ。いつもはホームで駄弁って、ヘスティアの猛攻撃を遠目で見て、そしてそのまま時間が過ぎていく。会話も殆どヘスティアが出してくれ、それに相槌をうっているようなものだ。

 ……だからだろうか、こうしてこうやって、ここで食べることを決めたのは。

 

 「……ハッ。おいシル。さっさと席に案内しろ」

 

 「了解しました。お客様二名入りまーす!」

 

 少しだけ胸が向上したベートは、ベルの腕を取って、店の中へ入ったシルの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らに設けられた場所は、人目につきにくいカウンターの角の二席だった。これはシルの配慮なのであろう。

 ベルを隅っこに追いやり、ベートはその隣へ腰を下ろす。するとこの店の主人である彼女ーーーミアがニカリと笑ってこちらに話しかけてきた。

 

 「やぁベート!久しぶりじゃないか。大きくなったもんだねぇ!アンタの隣にいるのが、シルが連れ込んだ冒険者かい?聞けばアンタ、私達料理人を困らせる程の大食漢らしいじゃないか!」

 

 「!?!?!?」

 

 「ベル……我慢してたんなら言えよ……」

 

 「違いますよベートさぁん!?シルさん!?どういうことですかこれ!?」

 

 ミアに驚きの事実にベルは瞠目し、それに乗ったベートは憐れむようにしてベルに一言言い、それをベルは一喝して恐らく全ての元凶であるシルに問いかける。

 シルは数秒間たっぷりと間を開けて、可愛らしく「てへっ」と答えた。その悪気のない笑顔にベルの声が弱くなっていく。

 

 「まぁシルは終始こんな奴だ。気にするな」

 

 「うふふ」

 

 「うふふじゃないですよー!?」

 

 「あ、ミア酒」

 

 「あいよ!」

 

 「そして無視しないで注文しないでくれますかぁ!?」

 

 メニューを見て悲鳴を上げたりお金がなんだで悲鳴を上げたり、本当に忙しいヤツである、とベートはしれっとオススメを頼み、それにまたベルがムンクの叫びのようになるのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「~~~相変わらずここの店は酒がうめえなぁ!!」

 

 顔を赤くさせ、ダンッ!とジョッキを雑に置いたベートは、笑い声を上げながらそう言った。それにミアは「当たり前よ!」と自信満々に胸を張る。

 ベルは仕方なしにベートと同じオススメを頼み、黙々と一口一口食していた。今はパスタに突入しており、口の周りをパスタソースで汚しながら食している。

 

 「あああ……たっぐよぉ、昨日のテメェにはほんっっとうに世話が焼けるぜェ……」

 

 「ええ……またその話、ですか?」

 

 「酔ってますね」

 

 「酔ってねえよォ!」

 

 シルが冗談交じりに言うと、ベートは食ってかかった。そしてまたジョッキを仰ぎ、中の酒を空にさせる。

 頬を赤くさせ、呂律も回っていない。いつもの澄まし顔は何処へやら。今のベートはヘラヘラとだらしなくしているーーーただの酔っ払いである。

 

 (……酔ったベートさんって別人だなぁ)

 

 ベルはムグムグと口の中を動かしながら、隣のベートを見据えた。そしてこれまでのベートとの関わりを思い出す。

 確かに、会話が少ないと言えば少ないと言える。彼はいつも遅くまでダンジョンに潜っているので、顔を合わせるとしたら夕食後くらいなのだ。ヘスティアの話によると、ベルが来る前は一人で泊まり込みでダンジョンにいたという有り得ないことをしでかした男である。

 そんな男が彼とはーーー信じられないだろうな、とベルは複雑な顔をした。

 

 (……そういえば、ベートさんの戦ってる姿、見たことないなぁ)

 

 ベートはソロでダンジョンに潜る。何処かのファミリアとパーティも組まず、かと言って同じファミリアのベルとは……組む気にはなれなかったのであろう。そのせいか、ベルはベートが戦っている姿を、今まで見たことがなかった。

 

 (どんな風に戦うんだろう。神様の話だと、敏捷が速いって言ってたから……撹乱してから倒すやり方なのかな)

 

 モンスターを混乱させ、その隙に攻撃をするーーーベルのベートの戦いの予想はこれだった。敏捷がとても良いのなら、そのような使い道をしても何も咎められないであろう。実際ベートがどのように戦っているのか知らないベルは、こうやって予測するのも実は楽しかったりする。

 

 「……見てみたいなぁ」

 

 「何が」

 

 「ーーーふぇっ!?」

 

 ポツリと声に出していたのを、顔を近づけてきたベートに聞き返された。急にやってきたベートの顔にベルは吃り、思わず椅子から落ちそうになるのを防ぐ。

 そんなベルの行動にベートは首を傾げながらも、いつの間にかおかわりを頼んだのか、新たな酒が入ったジョッキをグイッと一気飲みをし始めた。

 

 (……いつか、見れるだろうな)

 

 その綺麗な横顔に少し見惚れ、そして新たな楽しみを作ったベルの耳に、他の客のざわめきが入る。

 何事か、とベルが目線だけで店の出入口を見るとーーーー途端に、ベルの目が瞠目した。

 

 「おい、ありゃ……」

 

 「ロキ・ファミリア……」

 

 他の客達が、次々とその名を口にする。

 【ロキ・ファミリア】都市最強を誇る【フレイヤ・ファミリア】と同等の強さを持つ、オラリオ屈指の探索系ファミリアである。【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナを初めとした逸材の冒険者が集う、冒険者にとっても憧れの存在のファミリアなのだ。

 どうやら今日、ロキ・ファミリアは遠征の帰りだったらしく、打ち上げの予約をしていたらしい。

 だがベルはそんなの関係なく、ただある一人の少女にしか目がいっていなかった。

 

 

 

 「……な、んで……」

 

 

 

 まるで絹糸のように流れるような金髪。

 ふっくらとした、少女特有のある頬。

 そして引き締まった腰に、少女でありながらもそれ程の大きさを持つ双丘。

 ベートも彼女を見て、目を細めた。その少女は、昨日ベルを救った恩人であり、ベートが超えるべき相手でもあった。

 その美しさと可憐さを持つ、少女の名はーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 「……アイズ・ヴァレンシュタインさん……」

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン。

 二つ名【剣姫】の異名を持つ、オラリオ屈指のLv.5であり、誰からでも愛されている美しき少女の名であった。

 

 

 

 







 みいいいいいいんなああああああああ!!アニメ!!アニメまであと一ヶ月だよ!!一ヶ月!!ベートきゅんが動いて喋ったりするんだよ!!アニメだよ!?つまりロキをおんぶするシーンが流れるんだよ!?壁ドンがあるんだよ!?エルフとの絡みがあるんだよ!?しょんぼりするベートきゅんが観られるんだよ!?!?!?
 楽しみだろう楽しみだろう、大いに分かる。私が何度ベートきゅんの獣耳や尻尾をもふりたいと……!動いて喋ったらもふりたくなって手が変態みたいな手つきになるなんて目に見えているわ!!しかもアニメじゃあ意外にレフィーヤとの絡み多いじゃん!?天使と天使が会話したらどうなる?

 天使×天使=>>天使<<

 つまり君達可愛い撫でさせろってことだね!うん!皆で二人を愛でよう!!そしてベートきゅんに蹴り殺されに行こう!行く人この指とーまれ!!
 ……いない(´・ω・`)

 変態さんは私だけなのね……!ベートきゅんの変態なら大歓迎さ!ただ君の獣耳尻尾をもふりたいだけなの!もふらせてえええええ!!そして鳴いてええええ!!pix●vに行っても君の作品が少ないから何処で補充すれば……。
 ……( ゚д゚)ハッ!私にはまだあの神器があったではないか……!
 皆……当然買ったよな……?よーし買ったな!?なら開け!そしてジーザスしろ!


 ベートきゅんに壁ドンされたいフィルヴィス様そこ代わっt(殴




 あっ。更新遅れてすみません。ここにベートきゅんの照れ顔展示させとくから許して……!



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書き換えられる英雄の軌跡

 

 

 

 

 

 

 「皆遠征ご苦労さん!!さぁ飲めやー!!」

 

 ロキがジョッキを高く突き上げると、ロキ・ファミリアはたちまち熱気に包まれた。皆酒や食事を騒ぎながら堪能し、遠征帰りの疲れを癒す。

 それはかの【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインも、こくこくと小さな口に飲み物を運んで、宴にノっていた。

 

 (はわわわわ……!)

 

 それを影で見つめるのが、へっぽこ白兎である。

 ベルはアイズの姿を見つけた途端、カウンターの下へ滑り込み、身を隠していた。顔を真っ赤にし、頭を抑えてぐわぐわと足掻いている様は、とても滑稽で見苦しいものだった。

 

 「ミアァ!!酒追加ぁ!!」

 

 ーーーそれをスルーしているベートもベートである。今のベートは完全に酔っ払っており、ベルの姿などもう見ていなかった。今ベルを見ているのは、心配そうにベルを覗き込むシルだけである。

 

 「ベルさん、大丈夫ですか……?」

 

 「だっだだだだだだだだだだいじょぶだいじょぶ」

 

 嘘をつけ。

 ベルの目は焦点を合わせておらず、まるでサウナの中にずっといたかのような、とてつもない熱に覆われている。ただ単に恥ずかしいだけなのに、これではここに氷を置いただけで溶けてしまうのではないのかという程に真っ赤で熱かった。

 ここで大体察してしまったシルは、ベートに助けを求めようとしたが……。

 

 「大体よォあのロリッ娘女神もそうだよなんでいつまでたっても底辺ファミリアでさぁしかも仕事量増やしやがってこんなんほかの奴らに舐められるぞゴラァ神としてのぉぉ威厳をもてええええ……!ベルのばかやろぉぉ……」

 

 何個ものジョッキが転がっているのを見て、シルは考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえばよぉ!俺見ちゃったんだよなぁ!」

 

 ロキファミリアの宴が始まって数時間、あるグループの会話がベルの耳に届いた。

 それは、ベルがいる席の後ろの丸テーブルにいる冒険者達の会話だった。

 彼らの顔が真っ赤に染まっているところを見ると、彼らも酒の飲みすぎで酔っているのだろう。しかしベートのように眠くなっている訳ではなさそうだ。人はそれを酔い潰れそうと言う。

 

 「あ?それって、ダンジョンで焦らしてた奴か!?やっと言うのかよ!何を見たんだ?」

 

 「へへへっ、聞いて驚くなよぉ」

 

 「勿体ぶらずにさっさと言えよこの野郎!」

 

 「わ、わかったって!……めっちゃ笑えるから覚悟して聞いとけよ?」

 

 何故だか、ベルは耳を塞ぎたくなった。ここで彼らの会話を聞いて、何かが起こるような気がした。それは決して良いものではなくて、とても悪い何かを。

 三人のうちの一人が、下品な声である話題を口にする。

 

 

 

 「どっかのひよっこ冒険者が、あの剣姫に助けられたのをよぉ!」

 

 

 

 

 時が止まった。

 一人が「はぁ?」と、上げて落とされたような落胆の表情で続ける。

 

 「それがどうしたんだよ。別に全然面白くねえぞ」

 

 「いやいやそれがさぁ!そいつ、剣姫に助けられたんだけど、剣姫に手を差し伸べられたら真っ赤になって逃げてったんだよ!ミノタウロスのくっせー血を浴びてさ!」

 

 「うわっ、ダッセー!それって俺達の横を通り過ぎたやつ?」

 

 「そうそう!防具も何も身につけずに貧相な格好でさ!あれじゃあ無様にミノタウロスから逃げ回ってたって安易に予想はつくぜ!」

 

 「いや、ミノタウロスはまじやべぇから!っていうか何でミノタウロスが上層にいたんだろうな?」

 

 「さぁなぁ?もしかしたら、あのダッセー雑魚を追い払うために来たのかもな!お前にはまだ早いでちゅよーってな!」

 

 「有り得る!」

 

 ギャハハハッ!!と、下品な声が響き渡る。他の冒険者も騒いでいるのに、ベルの耳には彼らの会話しか耳に入ってこなかった。

 彼らの言っている雑魚とはーーー自分のことだ。ミノタウロスの血を被って、そしてアイズの前から逃げ出したのも、自分だ。

 まさか、見られているとは思わなかった。自分のあんな無様な姿を見られていたなんて。

 カウンターの下から一歩も動けず、ベルは頭を抱える。ベートが静かになったのは、酔い潰れたのかということを確認する暇も、今の彼にはなかった。

 ただ、彼らの会話が終わればいいのに。そう願い続けた。

 しかし現実は残酷で、彼らはさらにベルのことを吊るし上げる。

 

 「そもそも防具も何もなしに5階層に来るなっての!」

 

 「良くあれで生き残れたよなー。そこだけは本当に関心するよ……雑魚だけど、な!」

 

 「ていうかそいつ何で真っ赤になってたわけ?それがいまいちよく分かんねえ」

 

 「おっま、わかんねえのか?あれは十中八九、剣姫に惚れてるんだよ」

 

 「ブハハハ!!剣姫にッ、惚れる!?うっわーやっちまったなそいつ!叶わねえ恋だっていうのによぉ!」

 

 「Lv.1とLv.5が釣り合うかっての!テメェはただの引き立て役だっての!それに、剣姫にはあの神がいるから、そもそも求愛なんてしたら俺らがぶっ潰されるだろ!」

 

 「言えてる言えてる!どうせ剣姫は強いやつにしか靡かないしー!」

 

 止めろ。止めてくれ。

 これ以上、自分を惨めにさせないでくれ。

 自分の中に、どす黒い何かが紛れ込んでくる。それは自分の体の隅々まで侵食しようと行動し、余計彼らの会話が耳に入ってきた。

 このどす黒い何かを、自分は知っている。

 

 「まぁ、そうだよなぁ!」

 

 止めてくれ。お願いだ。

 聞きたくない。聞きたくない。

 しかし、運命は、残酷に彼の道を作り上げていく。

 

 

 

 

 「俺達雑魚が、アイズ・ヴァレンシュタインに釣り合うわけが無いよなぁ!!」

 

 

 

 

 

 その瞬間、ベルの中で何かが千切れた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 「ベルさんッ!!」

 

 シルのその呼び声に、ベートの頭は覚醒する。ベルが勘定も払わずに出ていったことは、ベートにも理解出来た。そして、先程からベルの事をネタにしている外道な冒険者の会話も、頭に残っている。

 ベートは確かに酔っている。だが、これくらいで酔い潰れる程ではなかった。だから今何が起こっているのか判断出来るし、自分が今どうするべきかも分かっている。

 

 「…………」

 

 ベートは最後の一滴まで酒を飲み干し、周りにも聞こえるほどにジョッキを力強く、叩きつけるように置く。

 それだけで、周りの人間の会話は止んだ。皆が皆ベートに注目し、そしてざわりと騒めく。

 

 「おい、彼奴……」

 

 「ああ……凶狼(ヴァナルガンド)

 

 「この店にいたのか……」

 

 ベートは、コソコソの話す彼らに一睨みを効かせた。それだけで彼らは黙り込み、目を逸らし、何事もなかったかのように飲み続ける。

 真っ赤に火照った頬は徐々にひいていき、元の白い肌が見せる。酔いも醒めてきたのか、ベートはベルが去った店の出口を見据えた。

 

 「……はぁぁぁ……世話のかかるヤツ……」

 

 重く溜め息を吐いたベートは、席を立つ。懐から数枚のヴァリスをカウンターに置き、彼は歩き出した。

 

 「ちょっと、本来の勘定より多いよ」

 

 「あのへっぽこ兎の分だ。そんでその後ぶんどる」

 

 何故多めに出したのかという質問に応えたベートは、先刻ベルをネタにしていた三人組に近づいた。

 三人組は突然のベートの姿に驚き戸惑い、ベートに目線を合わせない。忙しない目線にベートの目が細くなると、彼らは一様にヒッと、小さな悲鳴を上げた。

 

 「生憎だが」

 

 ベートが、静かに口を開いた。酒場の人間全ての視線が、ベートの背中に突き刺さる。

 ベートの声は重く、低くのしかかっていた。

 

 「俺は今、テメェらに持ち合わす時間はねェ。テメェが散々笑いものにした兎を回収しなくちゃならねェからなぁ」

 

 ーーーだから、一言だけ忠告してやる。

 

 それは、ただの言葉ではない、『忠告』

 Lv.5からの忠告は、Lv.1の冒険者でも少なからず嬉しい気持ちはある。だが、相手はあの凶狼だ。人を見下し、蔑み、暴言を散らす、あの凶狼なのだ。何を言われるのか、溜まったものではない。

 ベートは彼らに向かって、小さく一歩を踏み出す。それだけで彼らはまた小さく悲鳴をあげ、イスをガタリと鳴らした。

 しかし、彼らに逃げ道はない。

 

 ベートは彼らのうちの一人ーーーベルを一番嘲笑していた冒険者に顔を近づけ、告げた。

 

 

 

 

 「ーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 貶される気持ちも、見下される気持ちも、嘲笑される気持ちも、一番味わっているのは俺だという自覚がある。でなければ、俺は今、強者としてここにいないのだから。

 だからベルが店から出ていった時、少なからず同情し、そして「当たり前だ」と、心の中で吐き捨てた。

 ベルはまだそういう立ち位置(・・・・・・・・)だ。言うなれば、彼奴らの言う通りただのひよっこだ。

 確かにベルはドジで間抜けでお人好しで弱い雑魚だ。だが、皆誰しもが「最強」なわけない。強者は弱者から積み重なってきた経験があるからこそ、初めて弱者を見下せる。

 だから俺は、弱者を沸き立たせる。そして這い上がってきた弱者をぶっ潰す。

 それを乗り越えてこそ、初めて「強者」というレッテルを貼られるのだ。

 だから。

 

 「テメェはテメェの力で、這い上がれ」

 

 倒れ伏せているベルに向かって、言った。

 ウォーシャドウの大群により深い傷を負っているベルは、ピクリとも動かない。

 だが俺は、彼奴に言う。

 

 「どうした。そんな程度で、あの剣姫に追いつくとでも思ってんのか」

 

 ピクリ、とベルの指先が動いた。

 やはり、彼奴の原動力は剣姫にあるらしい。

 ならそこを、突くまでだ。

 

 「何でテメェが笑い者にされたか、教えてやろうか?それはテメェがまだ『弱者』だからだ。剣姫が細切りにしたくっせー牛野郎の血を浴びて、野郎のくせにピーピー泣いて逃げ去ったテメェの姿は、さぞ彼奴らには滑稽に見えてたよなァ。テメェと同じ、Lv.1から見ても」

 

 ベルは動かない。

 

 「要は、彼奴らの言ってた事は強ち間違いじゃねェってことだよ。もし俺が他のファミリアーーー剣姫のファミリアにいて、剣姫と一緒にミノタウロスを追って、そしてテメェの無様な姿を拝むーーーそうなったら、俺は彼奴らの様にテメェを嘲笑った。『強者』としてなァ」

 

 ベルの指先が震える。

 

 「だからテメェが怒り狂おうと、こっちは知ったこっちゃねぇ。何故なら、全部自分が撒いた種だからだ。テメェが弱いからこうなった。テメェが甘いからこうなった。テメェの軟弱な考えでああなった。全部自分が起こした事だ。それを他人に指摘されてキレるなんざ、本当の雑魚がすることだ。自分がしたことは、自分で責任を持て」

 

 ジャリ、とベルが手をついた。

 

 「だから、今テメェがそんな姿を晒している事にも、責任を持ちやがれ」

 

 ウォーシャドウが生まれる。ウォーシャドウは、部屋の中央にいたベルに目標を定め、大群で襲いかかる。

 ベルが、しっかりと足で立ち上がる。片手に短剣を逆手に持ち、ポタポタと流れる鮮血にも抗わずに。

 

 ベルは、また剣を奮った。

 

 

 

 「テメェはそんな無様を晒してでも、強くなりてぇか」

 

 聞こえているかもわからないのに、俺はまだ続けた。

 ウォーシャドウの肉が切れる音だけが響き渡る。魔石だけが落ち、ウォーシャドウの音もなくなり、ベルの荒い呼吸と、ベルの咆哮だけが、部屋を支配していた。

 

 「テメェは、何を憧憬に背負ってやがる」

 

 そんなのは分かっている。あの夜、ヘスティアに見せてもらったのだから。

 ベルの拙い動きが、俺の視界に、俺の瞳に映り込む。彼奴の真っ赤な瞳には、既に俺を認識していない。

 

 「ーーーテメェは、強くなって、何がしたい」

 

 途中から、俺の自己満足のような質問ばかり口にする。

 しかし、それをベルが答えることは、恐らくこの先無いであろう。俺が再度この質問をしなければ、の話だが。

 

 ウォーシャドウの呻き声も消え、ベルの呼吸も安定に向かっている。ポタポタと彼奴の血だけが音を鳴らし、この部屋の静けさを異様に引き立たせる。

 

 「……ベート、さん」

 

 ベルが掠れた声で、俺を呼んだ。

 返事をする必要もなかった俺は、無言を貫き通す。

 ベルは顔だけを振り返って、俺を視界に入れた。その真っ赤な瞳に、俺の姿が映る。

 

 「……僕、は」

 

 もう体力も尽きようとしているのに、彼奴は俺に何かを言おうとしている。

 ーーー彼奴は、力無く笑って、俺にこう問いた。

 

 

 

 「ーーーーー強く、なれ、ますか……?」

 

 

 

 

 

 

 その問いに、俺は嘲笑うかのように鼻で笑い、呆れも含めて言葉を返してやった。

 

 

 

 

 

 

 

 「人にンな事聞くのは、雑魚がやる事だ。ーーーー強くなりてェんなら、自分で道を作りやがれ」

 

 

 

 

 

 

 ベルは、満足したかのように、その場に倒れ伏せた。

 

 

 

 







 あの、言っていいっすか。ネタバレになるかもしれないっすけど言っていいっすか。もう、はい、言いますね。






 外伝8巻ベートきゅん頑張るとかまじっすかああああああああああああああああああああああああっっ!?!?え?本当に?ねぇねぇ本当に!?まじで!?ベートきゅん表紙飾ってたってことは期待していいんだよね!?ベートが頑張るかもってTwitterで言ってたもんね!?ね!?
 やったよ!!皆!!待ったかいがあったよ!!ベートきゅんメイン巻だよ!?待ちに待ったベートきゅんが活躍する巻だよ!?!?この巻まで本当に!!どれ程まで待ち望んでいたかぃよっしゃああああああああああああああああああああ!!!もう俺の宝物にする!!もう何回も読む!!他のよりめっちゃ読むからはよ四月になれ!!ベートきゅんをたくっっっさん拝んでベートきゅん視点をたくっっっっさん読むんや!!はよ!!はよ発売日になっとくれ!!
 待ってたら、願いが叶うもんなんですね……!俺待っててよかった。本当によかった。楽しみにしてます。アニメPVも声入ってて岡本さん喋ってた時に「よっしゃああああああああ!!」って心の中で叫びました。え?リアル?頬をにやけながら見てました。エヘヘ
 もうすぐアニメもやるしベートきゅん頑張る外伝8巻も発売するしなんだよ四月最高かよ!!四月にバンザーイ!!!作者様にバンザーイ!!!!!獣耳もふりたい(定期)
 これでベートきゅんファンが増えてくれたらこっちも嬉しいしモチベーションも上がるし本当にベートきゅんは罪な男。もっともふられてもいいのよ?
 因みに情報がわかった時の反応

 私「あ、なんか8巻の情報あるやん。どれどr……嘘やん、え、嘘やん。錯覚じゃない?ベートきゅんめっちゃ写っとるけど。え、本当に?(内容見て)え?ベートきゅん頑張るの?え、じゃあベートきゅんメイン回?まじで?本当に!?え、まじで!?まじで!?まじで!?女の子誰!?求愛!?可愛い!!!」

 本当に後半はまじでしか言ってなかった。
 


 俺、絶対8巻読んだら死んでるな(確信)


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僕は今日、初めて初期位置に立つ



 オリジナルスキルが出ます。




 

 

 

 

 

 今、ベートはヘスティアと対峙していた。

 この一文だけでは何を言っているのか分からないであろう。それもその筈、ベートも何故自分がこんなにも凄まれているのか、心当たりがないのだ。ベルも半裸でベッドに縮こまって、こちらの様子を伺っている。

 しかし大体の予想はつく。ヘスティアが握りしめている紙が、全てを物語っている。

 

 「……ベート君。ボクはね、君にすごーーーーーーく聞きたいことがあるんだけど」

 

 「……ンだよ」

 

 ベートが面倒臭そうに返した直後、ヘスティアは持っていた紙をベートの眼前に叩きつけ、こう迫った。

 

 「この!!ベル君の!!異常なステイタスの伸びは!!一体何なんだい!?」

 

 

 ーーー予想通りすぎて怖ェ。

 

 

 ベートは改めて、自分の察しの良さを恨んだ。

 

 

 

 

 

 全アビリティが異常なまでに上がったベルのステイタスに、さすがのベートも瞠目する。このステイタスの伸びは、ただの努力では計り知れない異質なものであった。

 なら何がこうなったのか。まずヘスティアとベートが目をつけたのは、ベルに最近発現したレアスキル【憧憬一途(リアリスフレーゼ)】だった。いや、十中八九このスキルが原因と見て間違いないであろう。そう、ベルのスキル欄を見るまでは。

 ステイタスで目を見開いていたベートの目に、あるスキルが目に入る。これはベルにも見せるので、憧憬一途の事は消されていたが、それはベートを動揺させるに十分なスキルであった。

 

 「……そのスキルの事についても聞きたいんだよ。そのスキル名、読んでご覧?」

 

 ヘスティアが訝しげに聞いてくる。

 ベートは操り人形のように、そのスキル名を口にした。

 

 

 「ーーー【冀望の凶狼(スペラガンド)】」

 

 

冀望の凶狼(スペラガンド)

・強者を望む限り全アビリティ上昇

・対象が凶狼の場合、比例して成長する

 

 

 

 「……ンだこのぶっ壊れたスキル……!」

 

 「でもそれ、ほぼ君が原因で出たんだろう」

 

 「ぐっ……!?」

 

 ヘスティアの言葉に何も出てこない。しかし、何故こんなスキルが出たのか。原因を探るのならばーーーベルが嘲笑された、昨日の出来事しか思いつかない。

 しかし自分はベルに何もしていない。ただ言葉を投げかけただけである。なのに何故、こんなスキルが生まれたのか。

 

 「……あ、あのー……神様?ベート、さん?」

 

 今まで蚊帳の外にいたベルが、恐る恐る二人に声をかけた。

 

 「その、何かあったんですか……?スキルとか、何か、聞こえたん……です、けど。もしかして、僕にも念願のスキルが出たんですか!?」

 

 「……あー、うん、デタヨデタヨ」

 

 今更ベルを送り出してから聞けばよかったと後悔するヘスティアだが、こればかりはさすがに我慢ならない。只でさえ剣姫によって発現したスキルのこともあるというのに、今度は自分の眷属によって発現したスキルなど、冷静さを欠けてもしょうがないのだ。

 こればかりは、黙ってはいられないであろう。それに自分の眷属だ。憧憬一途のように、他のファミリア関連のものではない。嘘が下手な彼に言うのは本当に、色々な意味で嫌だが……腹を括ろう。

 ヘスティアはベートから紙をひったくり、それをベルに見せた。

 

 「うわぁ……!ついに念願のスキル!一体どん………………ッッ!?!?」

 

 目線をスキル項目に移した時、ベルが石像のように固まってしまった。フルフルと手を震わすことも、パクパクと口を動かすことも、何もせずにただあのスキルを見つめるベルに、ヘスティアは「ベル君?」と顔を覗き込む。

 ベートはあのスキル名を思い出し、ふと気になったことを口にした。

 

 「……冀望、ねェ……。お前、俺に何を望んでんだ?」

 

 「ーーーーうぇっ!?え、あ、え、えええええとですねぇっ!?あ、あの!いや、えっと……!!」

 

 「いや、そんなに顔を真っ赤にしてもな……」

 

 あの昨夜の出来事に、ベルに何か思いが出来上がったのか。それはベートに対しての、強い願い。ならベルは、ベートに一体何を望んでいるのだろう。それが分からなければ、ベートのモヤモヤは晴れなかった。

 しかしベルは用紙を握り締め、真っ赤になって首を横に振っている。それは明確な拒絶ではなくーーーただの、羞恥。

 つまりベルは恥ずかしがっているのだ。そしてこのスキルにも、ベルにも何となく思い当たることがあるのは確定。

 だからこそ、ベートはその真意を聞き出したかったのだが……。

 

 「ぼ、ぼぼぼぼ僕!さ、早速ダンジョンに行ってきますねッッ!?」

 

 「え、ちょ、ベルく」

 

 「で、ではああああああああ!?」

 

 ベルは今までのものとは比べ物にならない程の速さで衣類を掻き込み、そしてまるで変身したかのように素早く衣類を着て部屋を出ていった。用紙を握り締めたまま。

 

 「……ンだよ、彼奴……」

 

 「……そ、そんなに恥ずかしがること、なのかな……?」

 

 ヘスティアとベートは、未だに直されていない開放感のある出入口を眺めながら、そう呆然と零したのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 「馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ……ッッ!」

 

 本当に、自分は大馬鹿者だ。

 

 「うわあああああ……!」

 

 こんな、こんな形で現れるなんて。

 

 ベルはメインストリートを抜けた後、噴水の縁に腰かけた。そして握りしめてグシャグシャになった用紙を、もう一度広げる。

 

 「…………ううううう……」

 

 そして、静かに悶えた。

 これは昨日、無我夢中にモンスターを狩りまくっていたベルに形成された、ベートへの強い思いを具現化したものだろう。そうに違いない。

 そう、このスキルを、ほぼベルは理解している。何故このスキル名なのか、何故今、発現したのか。その全てを、ベルは理解しているのだ。

 

 

 

 自分と同じ冒険者に貶され、今の自分の弱さを思い知らされた昨夜。それはベルにとっても忌み嫌う日であり、同時に英雄に近づく一歩だと実感している。

 だから、モンスターを殺しまくった。ただ夢中に、この悔しい思いを、憤怒を、悲しみを振り払うように。

 ウォーシャドウの大群が一時的に止み、ベルの体力が限界に近かったその時、ベルの背後に言葉を投げかける人がいた。それが、ベートだった。

 ベートの言葉は全てベルに突き刺さった。そしてそれら全てが正論だと、深々とベルの心に突き刺さる。

 正直、ベルはこのベートの声を、あの時は全て幻聴だと思っていたのだ。弱者に興味を持たないベートが、自分に喝を入れるために来るはずがないと思い込んでいたから。

 だからベルは答えなかった。

 そして、この幻聴がベルの原動力となる。倒れ伏せていたベルの体をさらに追い込み、そして奮い立たせることで、ベルはさらなる高みを目指す。

 ウォーシャドウの大群が再度現れた時、ベルはモンスター達に噛み付いた。自分の弱さを、醜さを、全てモンスターにぶつけて。

 その間の記憶はない。ただモンスターの肉を斬る感触と、自身に走る痛み、そして誰かに声を投げかけられている体感だけが、ベルに残っていた。

 我に返ったのは、ウォーシャドウを全て殺した後だった。

 その時、ベルはベートの方を振り返る。それはほぼ無意識の行動で、ベルの意識の元動いていたわけではなかった。

 そしてその時に、ベルは見た。

 

 

 

 ベートの眼の奥底に眠っている、『英雄』の瞳を。

 

 

 

 ああ、そうか。

 ベルはその時に悟った。ベートが何故自分なんかに言葉を投げかけるのか、何故自分に構うのか。

 ベートが自分をーーー『弱者』だと思っているから、ここにいるのだ。

 ベルはベートという狼人を幾分か理解していない所がある。彼の評判も、稼ぎも、性格もスタイルも、全てを理解していない。

 しかし、今の彼の瞳は手に取るようにわかる。弱者を見下し、そして嘲笑う眼だ。それは自分が弱者だから、ベートがそういう目をしているから。

 しかしベルは、そのベートの眼にーーー『憧れ』を、持った。

 

 (ーーー遠い)

 

 ベルとベートの間は、とても遠い。螺旋階段のスタートラインにいるベルは、遥か頂上にいるベートに追いつくなど、今は無理な話だ。

 しかし、だからこそ、ベルは駆け上がらなければならない。ベートという「強者」を越えるために、そして自分という「弱者」を進化させるために。

 だからベルはーーーベートの眼に、『冀望』を持った。

 その見下される眼。弱者を見下ろすその眼は、ベルを奮い立たせるには充分だった。

 そして同時に、ベルは望む。

 ベートがーーーもっと、遥か頂上に行くように。

 

 

 自分の英雄の道が、さらに素晴らしい道程になると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (なーんてこと思ってさああああああああああああ!?)

 

 全てを思い出して、ベルは頭を抱えた。

 ベルは強者のベートに強い憧れを持った。彼が高みに行く度に、自分もそれを追うかのようにさらなる高みに行けるかもという、全てはベルの強い憧憬によって産まれたものだった。

 こんな事をベートに言ってみろ。絶対に「巫山戯んな」と一喝されるに違いない。というか、彼を憧れてもいいのだろうか。彼は迷惑にしないだろうか。その不安がベルを占めているのだ。

 

 「…………で、でも、これって英雄に近づいたっていう、こと……だよね?」

 

 しかしこれも、強くなるために、ベートが望む強者に近づいたということだろう。そう割り切ってしまえばいいのだ。決してこれからベートに追求されるのが怖いとかそういうのは抱いていない。

 

 「……強くなるって、決めただろ」

 

 もう誰にも、見下されない。ベートにも、あんな眼をさせない。

 ベートの琥珀の眼を思い出す。自分よりも、遥かに「弱者」を実感している強い瞳。彼も底辺から這い上がって、今の地位がある。

 その『憧れ』を、ベルはこれからも背負っていく。

 そしていつかーーーベルが望む『冀望』に、届くであろう。

 

 「……ふぅ。よし!」

 

 用紙を丁寧に折り、落とさないようにポケットに入れ、ベルは自分に喝を入れる。

 

 

 

 これは、一種のスタートライン。

 

 

 

 

 

 まだ彼らの冒険は、始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ベート君、すっごい嬉しそうだけど……もしかして、ベル君に憧れを持たれるの実は結構」

 

 「その口縫い合わせてやろうか?」

 

 

 

 






 書いてて思ったこと→ベルきゅんMなの?
 全然違います(真顔)
 デデーン!おめでとう!ベートきゅんはベルきゅんに憧れられた!
 正直すっごい悩んですけどやっぱりやっとこうかなって。ここからベルきゅんの冒険が始まると思うといてもたってもいられずに。後悔はしてないぜ!
 後半はベルきゅん視点だけど蛇足が結構多いような気がして、上手く伝わらないかもしれないです。本当いらない蛇足を入れて、私って本当に、馬鹿……!ベートきゅんに蹴り殺されに行きますね!
 とりあえずこれで第一章は終わりです。次からは怪物祭編ですね。やっほーい!アイズちゃん登場させちゃうよ~!ベートきゅんとアイズちゃんの絡みいれちゃうよ~!お楽しみに!
 あと日刊ランキング2位ありがとうございます!もう変わっちゃったけど思わず見た時「( 'ω')ファッ!?」って五度見くらいしました。表現が分かり辛いかもしれませんが、今後ともベートきゅん共々宜しくお願いします!

 (やべぇ今までで一番まともな後書きだ……)

 ちなみにベルきゅんがベートきゅんを振り返った時も、少なからずベートきゅんのこと幻覚だと思っています。あの子はいつ本物だと気づいたんだって?わかりません!(某駆逐系男子風)
 ベートがもっと遥か頂上に行くように→また遠くなったと実感して、悔しくなってもっと這い上がってくれるかもと思って。
 自分の英雄の道がさらに素晴らしい道程になると信じて→数々の試練を越えれるだろうと。
 何故ベートの瞳に憧れを持ったか→目と目が合うと全てを感じられるだろう?(え、違う?)
 まぁ真面目に言えば、ベートきゅんの全て(前話ベルにやられたことなど)が詰まった、揺るぎない瞳に惚れたから、かな?

 アッハイ。完全に作者の願望です。ごめんなさい。



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※リメイクするかもしれないお知らせ※




前半真面目。後半8巻感想祭り※ネタバレあり。





 

 

 

 

 えー、本編でなくて申し訳ございません。実は外伝8巻を読んで決めたことなんですが……。

 

 

 一話、リメイクしても、いいっすか?(涙目)

 

 

 

 べートきゅんの過去編がやっと明らかになって……本当に彼は凄い男でした。続々と明らかになってくるべートきゅんの過去編を読んで、私は「この過去編も背負って本編を書きたい」と思ったのです。

 どうやってLv.5まで登り詰めたのかという話もずっと考えていたんですが、このまま行くと何処か辻褄が合わないところが出てしまう。そんな時にこの外伝8巻ーーーべートきゅんメイン巻が出ました。

 前のファミリアの存在も、何故彼がオラリオに来たのかという理由も明らかになったので。そして第一章も終わった所です。今ならリメイクーーーそれか、この作品のリメイクも考えているところです。

 今のところリメイクするのは一話だけと考えていますが、もしかしたら大幅にリメイクするかもしれません。もしこの作品自体をリメイクする場合でも、この作品を消す気はありません。

 勝手な事情で申し訳ありませんが、何故彼があんなにも皆を、弱者を罵るのかという理由が明らかになったので、その理由を棒に振ることはしたくないのです。

 本編を読んで読んで、考えて考えて、やっと出た言葉が「リメイクするかしないか」という事。ブックマーク、評価をしてくれた方々には申し訳ありませんが、もし作品自体をリメイクする場合になってしまったら、その時はそのリメイク作品を覗いてくれると私は発狂致します。

 

 もしかしたら皆様の反応でこのまま続けるかも知れません。それか、この作品とは別に原作軸のべートきゅんの作品を出すかも知れません。その時は暖かい目で閲覧していってください。

 今回は取り敢えずの報告ということで投稿させていただきました。本編を待っていてくれた方、申し訳ありません。

 

 

 

 (自分で過去を作るっていうのもありだと思うけど原作の理由と勝てる気がしねぇ……)

 

 

 

 ↓文字稼ぎという名の外伝8巻感想祭り※ネタバレあり↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 べートきゅんメインキタァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!初っ端からべートきゅん罵倒かましてるけど全てを分かってるリーネちゃんが儚すぎてここでもう涙腺が緩んでしまった。もうリーネちゃんヤバイいい子すぎてねぇ!?皆に嫌われちゃうべートきゅんは読んでて悲しかったけどそうするしか無かったんだよねぇ……もうねぇ……ツンデレだよねぇ……!!

 レナちゃん可愛すぎか!?愛らしい仕草で「べート・ローガ!」と何度も呼び続ける彼女に、そしてべートきゅんの蹴りを受けても凄く嬉しそうにグヘヘするレナちゃんに……!

 

 「あ、こいつ俺と同類だ」

 

 って共感意識しちゃったんですよ!!あっ、決してMじゃないっすよ!?決してMじゃないっす!!てかレナちゃんべートきゅんに夜這いや朝這いするなんて何それ羨ま…ゲフンゲフンけしからん!もうけしからん!俺も混ぜろ!!!()

 しかも一日デートするとか何それ俺眺めてたい!アイシャさんちょっとそこ代わって!!べートきゅんとお近づきするチャンスなのよ!レナちゃんと一緒に迫って焦るべートきゅんが見せるかもしれないんだよ!?最高じゃん!!!

 

 

 過去編は本当に読んでて悲しくなった。特にヴィーザルファミリアにいた時のべートきゅんなんて凄い幸せそうで、愛も持ってて、仲間と馬鹿騒ぎして……もう何から何まで涙が込み上げてくる。何なの?彼は私を泣かせたいの?泣かせる魔法でもあるの?

 漫画でもチラッと出てたべートきゅんが倒れ伏せるシーンってあそこだったんだね……そこからべートきゅんは始まってたんだね……。

 

 レナちゃんが死んだって悟ったべートきゅんの顔が嫌でも想像できた。アイシャさんが殴らないのもわかるし、本編見た人ならわかるけどべートきゅんの心の声が涙を誘った。だから彼は強くなろうとしてたんだね。

 

 リーネちゃんはまじで天使、イイネ?

 

 後半はひたすらべートきゅんがかっこよかった。べートきゅんが魔法を持っていたのも驚いた。べートきゅんのメタルブーツって魔法の劣化版……所々に伏線があったんだね……。

 本当にべートきゅんの魔法はべートきゅんそのものだった。魔法は冒険者そのものだってこういうことなのね……。

 

 

 所々フレーズインするアイズちゃんも良かった。最後のイラストのアイズの目も「あっ」て思わず声を出してしまった。ロキィ……お前もスゲェよ……神様ってやっぱすげえんだな。

 

 

 

 そう思っていた時期も俺にはありました!!

 

 

 

 なんたよあの終盤!ロキ何やってんだよ!天然なアイズちゃんが間に受けちゃうだろ!でもグッジョブ!!良くやった!!

 そして皆聞け!!ロキファミリアがついに彼を『ツンデレ』と認めたぞ!!もう一度言うぞ!!ツンデレだぞ!?ツ ン デ レ ! !

 赤面べートきゅんキタ━(´◕ฺω◕ฺ`)✪ฺД✪ฺ)◕ฺ∀◕ฺ)♉ฺA♉ฺ)☼Д☼)❝ฺ_❝ฺ)◉ฺ。◉ฺ)☉∀☉)━!!

 恥ずかしがるべートきゅんキタ━ヽ( ゚∀゚)ノ┌┛)`Д゚)・;'━!!

 ツンデレの本領発揮じゃああああ!!宴だああああああああ!!

 

 

 そしてレナちゃん生きてて良かったよおおおおおおおおおお!!まじで!!本気で泣いた!!リーネちゃんのこともあったからまじで死んだかと思った!!まじで良かった!!編集長まじでグッジョブ!!生かせてくれてありがとう!!そして安定のレナちゃんだったね!!ありがとう!!

 

 

 

 ふぅ……全てを吐き出せた……!匿名でやってるから活動報告やれないからこういう時しか言えなくて……。

 長々とここまでご付き合い有難う御座いました。前半のことも検討して、またお会い出来たら。

 

 それじゃあ最後はレナちゃんのあの最高の言葉で締めましょう。さぁせーの!!

 

 

 

 

 

 べート・ローガ、大好きぃいいいいーーーーー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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