とあるIS学園の整備員さん (逸般ピーポー)
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ひねくれものなので

カットして書いた。今も反省はしていない。


二人目の男性操縦者はいませんでした。

 

IS世界の男性操縦者は織斑一夏君ただ一人。

もちろんこれから現れる可能性も無くはない。でもまあ、正直なところいてもいなくてもどっちでも良い、というのが正直なところだ。

 

あ、皆さん初めまして。

鹿波室生です。かなみが名字でむろおが名前ね。

鹿さんとでも呼んでくれ。

 

ちなみに転生者、と言われるあれです。

 

特典を3つ選べるけど行き先の世界が完全ランダムか、行き先の世界をいくつかの候補から選べるけど特典は1つかどっちがいい?と言われたので、特典1つでISの世界へ。

 

いや、特典3つの方はどれも死が隣人な世界ばっかりと聞いたらそりゃね?

 

もらった特典はアンサートーカー。

サンデーのあるマンガの能力だ。

 

いや、正直慢心王の王の財宝とか中身全然知らないから無理だし。

ネウロの777つ道具(だっけ?)もよく知らないからパス。

あと思い付いたのはアクセロリータのベクトル操作だけど、上条さんみたいな無効化じゃなくても木ィ原クウゥゥゥゥゥン!みたいに対応されるんじゃ、かの邪知暴虐のクソ兎(篠ノ之束)には有効でないと判断。

 

その点アンサートーカーなら、ありとあらゆる問に対して答えが浮かぶから、非常に有用かつ汎用性が高い。

危機に対しても、生き残れるか否か、どうすれば生き残れるか、という問に答えが返ってくるし、何より俺はあのクソ兎を思い切り煽るつもりなのでこの能力は最適だ。

 

あ、あとテストに対しても、「この問の答えは?」と考えれば答えが浮かぶので、まったく勉強をしなくなった。

小遣いを稼ぐ方法もアンサートーカーを使えばすぐに分かるが、正直全て分かるとつまらないので自分の使いたい時以外は使わないようにして、なかなかうまくいかない小遣い稼ぎをいかにして稼ぐか、というゲームにして楽しんでいる。

 

 

アンサートーカーを使えばロトは当たるし馬券も競輪も競艇も全戦全勝。株もFXも余裕である。

当然ある程度の備えとして2億程度は稼いであるが、今は小遣い稼ぎをゲーム感覚でやりつつ、ISの整備員として活躍している。

 

俺の勤め先、IS学園は、それこそ全世界から超有能なIS操縦者の卵達を集め、育成する場所である。

 

一応完全に法から独立した治外法権ということになっているが、主要出資国日本を始めとした先進国からは当然干渉を受ける。

 

例えばこの4月からかの有名な織斑一夏君が入学するらしいが、それに合わせて中国、ドイツ、フランスから代表候補生の転入届けがきているらしい。

 

波乱の予感がする、とは轡木さんの談。

 

轡木さんは、IS学園の中では数少ない男性の一人で、実質的なIS学園のドンである。

もちろん、男性職員は全然いない訳ではない。

というかISを移動させたり機材を運搬したりするのだから、男性が一人もいないとか正直あり得ない。

 

だが、女尊男卑が進む現在の日本では、男性職員の雇用を確保するのが難しくなってきているそう。

男性職員の雇用数よりも女性職員の雇用数が圧倒的に多く、年度ごとに雇用している男性職員は今年度で2人という話だ。

 

IS学園ができた当初は男性職員と女性職員が5:5だったそうだが(それでも充分業務は回っていた)、女性権利団体というのが台頭してきてからというもの、女性の権利向上に腐心する馬鹿が増えてきて、今もなお男性職員の排斥と雇用の圧迫を進めているらしい。

 

 

いっそ女性職員だけにして、業務が全然回らないで醜い罵り合いや足の引っ張り合いをさせたらどうです、と轡木さんに言ったこともあるが、それでは生徒達が可哀想だ、と。

 

 

でもその生徒達の中にも女尊男卑の奴がいて、轡木さんを見ると不愉快そうな顔をするんだから、正直轡木さん甘いなー、だだ甘だなーと思うのみである。

 

 

俺はここで働き始めて4年目になる。

かのブリュンヒルデこと織斑千冬教諭と同い年で、彼女はたしか二十歳まで現役、その後一年間ドイツ軍、一年程度の空白期間の後にIS学園の教職についている。つまり彼女は俺の後輩である。

だからといって何かある訳ではないが。

 

 

俺は高専から機械系専門で来ているので、二十歳からここで働いている。主に貸出用のISの保守点検整備が業務内容だが、たまに武器のメンテナンス、ISの内部システムの更新時に呼ばれたりする。

ん?高専での成績?

そりゃあアンサートーカーのおかげで上位ですよ。

 

 

聞けばバグとかエラーの原因と解決法をすぐ教えてくれる整備員だからね俺。

便利屋みたいなもんである。

呼ばれればホイホイついていっちゃうからね、仕方ないね。

 

 

そんなときにアンサートーカーのチートさを思い知るが、実はアンサートーカーの影響か、相当な難問でもない限り地力だけで理解できる。

 

 

元凡人たる身としては正直嬉しいことこの上ないのであるが、前世も今生も「君は変わっているね」と言われることだけは変わりないものである。

 

 

解せぬ。



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織斑君が来た。チャリではない。

作者は兎さんもシャルロットも嫌いじゃないです


織斑君が来た。

 

入学するまではさんざんマスゴミ違ったマスコミに騒がれていた一夏きゅんだが、さすがにIS学園は治外法権。ジャーナリスト達をシャットアウトである。

 

まあ、姉はブリュンヒルデ、弟は世界初の男性操縦者となれば、騒がれるのも無理はない。仕方ないね。

 

 

さて、織斑君がいる校舎の方は例によって例のごとく、織斑教諭が現れたのだろう、騒がしくにぎやかになっていた。

 

もちろん俺の仕事には関係ないので、うら若い生徒らの喧騒をBGMに、今日も今日とて整備である。

 

今日の分は30台。

 

このままのペースでいけば、イレギュラーな事でも起きない限り、午後3時くらいには終わりそうである。

 

一応就業時間は朝9時から18時までで、途中で一時間の昼休憩をはさむ。

 

とはいえ今日は3時間ほど時間が余る予定なので、その時間でISコアの制作の続きをしようと思う。

 

 

ISコアは篠ノ之束ことクソ兎にしか作れず、ブラックボックスであると言われている。

 

 

しかしそんなのは知ったことかと言わんばかりにアンサートーカー(チート)発☆動!

 

どうすればISコアが作れるか、という問に対してもしっかりと答えは返って来た。

 

ただし、作ることは可能であるのだが、その手順がいちいち難しく、今はプログラム部分の作成に取りかかっているが、ハードを作る際は非常に苦労した。

 

クロムやらアレキサンドレーザやら、およそ現行の半導体レベルでは代替できないものばかりであったためだ。

また、超高温高圧状態での変形などは、旋盤程度の機材では当然不可能であったため、IS技術開発所(IS学園に隣接、敷地内)での機材を借りたり、新たな機材の設計開発までしなければ実現することすら不可能だった。

 

 

いやー、アンサートーカーがなければ即死だったね。

設計した機材の開発は俺の知らない所でプロジェクト化され、機械屋達の頭を禿げ上がらせたとかなんとか。

 

ちなみに完成した機材は今でも技術開発所にある。

 

なのでISコアが物理的にぶっ壊れても、ガワだけなら直すことができる。

 

やったねおっぱいラビット!子ども(意味深)が増えるよ!

 

 

で、現在の俺はプログラム部分を進めている。これが終わればあとは組み立て、一部溶接が必要だが、これもただの溶接ではない。

スポットとかならともかく、電子ビームによる溶接である。

 

これは核の融合炉の制作などで用いられる技術であり、まかり間違っても一個人で出来るようなシロモノではない。マジであのクソ兎頭おかしい。

 

まあ、なんだかんだ言って制作を始めて二年間。このペースでいけば、今年度中には新たなISコアが出来上がる。

 

とは言っても、俺にIS適正はないし(アンサートーカーで確認済)正直なところ持っていても意味はない。

 

けどまあ、完全なブラックボックスとされていたISコアの解析に成功したとして、学会にでも発表すれば、きっと大騒ぎになるに違いない。

 

暇潰しにはなるかな、などと考えつつ、まだまだ未完であるうちは、取らぬ狸の皮算用。

 

 

ゆっくり組み立てていくとしよう。



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邂逅

織斑君が入学してしばらく。

 

 

真耶ちゃんこと山田真耶先生から、中国の代表候補生の転入が済んだことを聞いた。

 

 

そっかーリンちゃん転入ってけっこう早いタイミングだったんだなー、なんて思いつつ。

そうすると、セシリアチョロコットさんはチョロインらしくもう織斑君に落とされたんだろうか、なんて空想したり。

 

 

 

まあぶっちゃけアンサートーカーを使えば真実(チョロインなのかチョロくないヒロインなのか)はわかるのだが、正直なところ自分の目で見れた方が面白い。

ネタバレし続ける物語なんてつまらないので、もしどこかで知る機会があれば自分の目で確かめてみようかなー、なんて程度のものである。

 

 

正直、すべての答えがわかると言っても、すべての答えを知ってしまえば、多分この世は全くつまらないものになる気がする。

それに、俺は全知などというものに興味はないのだ。

 

 

さてさて、今日の整備は全て終わっているのだが、今わたくしめは清掃業務の真っ最中です。

普段なら整備員たるわたくしは清掃を業務としてすることはないのでありますが、これには深ーい訳があるのです。

 

 

 

というのも、さっきまで話をしてた真耶ちゃんのクラスに転入してくる代表候補生ズの書類が届き、今そちらに人員を割かなければ通常業務も回らないような修羅場だそうで。

たしかドイツとフランス…?の代表候補生とかなんとか。

 

 

 

 

しかして手伝おうにも、当然機密情報なんかもあったりするから整備員たるワタクシは手伝えない訳でありまして。

急遽轡木さんほか十数名がヘルプにお呼ばれした。

 

で、その轡木さんの分のお仕事が回ってきた、と。

 

まあそういう次第であります。

そこ、別に深くないね、とか言わないの。

 

 

 

まあそろそろその轡木さんの分の清掃仕事も終わるし、午後5時くらいにはISコアのプログラミングに取りかかれそうかな?

 

それでは掃除道具(モップ)を片付けましょう。

 

しまっちゃおうね~。

 

 

「ん?」

 

 

いつもの整備庫に行ったら先客が。

 

 

水色の髪、ツンツンの髪の毛。

 

 

更識楯無か?いや、でもこの時間は生徒会室にいるはず。

楯無め、サボりか。

 

 

とも思ったが、一心不乱にカチャカチャやってる様子を見るに、どうも違うっぽい。

 

 

 

あ、そういえばさんざん自慢された、妹ちゃんの方か?

 

曰く、「私に似てる」「天使みたい」「いや天使よりかわいい」「むしろ簪ちゃんが天使」…うん、たしか簪って名前だったな。

 

 

あいつの妹だし大丈夫だとは思うが、もしこの子が女尊男卑な考え方で、何もしてないのに痴漢だとか言われると面倒だ。アンサートーカーで確認しておくこととしよう。

 

 

この子は女尊男卑な考え方か?

 

 

Noでした。一応一安心。

 

 

こちらからはISに向き合ってプログラミングしている簪らしき人物の背中が見えるが、彼女からすると俺は突然現れたよくわからない男になるんだよな。

 

 

ふむ。

 

 

「こんにちは」

 

 

挨拶は大事、古事記にもそう書いてある。

しかし彼女にはけっこうな驚きだったようで、ビクッと肩をはね上げこちらを見た。

 

 

「こ、こんにちは…」

 

 

うむ。ちゃんと挨拶を返せる子でおじちゃん安心した。

なんでも、見知らぬ人に挨拶したら、

「そんなに気持ちよく挨拶されたら、殺す気も失せるじゃねぇか…」

と言われた、などということすらある世の中だ。

 

 

やはり挨拶は重要なのだ。古事記うそつかない。

 

 

「ええと…?」

 

 

ああ、うん、そうだよね。

女の園に成りつつあるIS学園で見知らぬ男を見たら「誰だコイツ」とか「怪しい人?」って思うよね。

 

 

…いや、いっそその方向でいくか。

 

 

「お嬢ちゃん、運がねえなあ…。まさかこんなに早く見つかるとは思わなかったが…。

 

悪く思うなよぉ!」

 

などと言って、いかにも悪役っぽく、それでいて愉悦を多分に含んだ笑顔を見せると、完全に本物だと思ったのだろう、ヒッ、という息を飲むような悲鳴と共に、後退りしてしまった。

 

 

ちょっとびびらせすぎたか…。

すまない。本当にすまない。

 

 

悪役顔をやめて、顔をむにむに。うむ、よし。

柔らかく微笑んでごめーんね。

 

 

 

「ごめんごめん、そんなに怖がられるとは思わなくてね。僕は鹿波、ここの整備員を担当しているよ。君は?」

 

 

 

 

多分更識簪ちゃんだと思うけど念のため。

 

 

 

 

 

「え、あ、え…?」

 

 

 

 

あら、よくわかっていらっしゃらないご様子。

 

 

 

とりあえず落ち着いてね。

 

 

 

「あ、えっと…。更識簪っていいます。整備員、さん…?」

 

 

 

「うん、僕整備員。簪ちゃんが一生懸命にプログラム作ってたみたいだから、邪魔しちゃあれかなと思ったんだけどね。何も言わずにっていうのもね」

 

 

 

「あ…そう、だったんですか」

 

 

 

あからさまにほっとした顔を見せる簪ちゃん。

さて、ここでフラグを立てに行くならプログラミングのお手伝い、という所なんだけど。

 

あいにくと!

 

僕は!

 

フラグを立てに行くつもりはぁ!

 

 

 

 

ないっ!(迫真)

 

 

そんなわけで簪ちゃんイベントはスルーで。

 

 

「うん、それだけ。

邪魔してごめんねー。」

 

そういって手をヒラヒラさせつつ、俺は奥に歩いていった。

 

適当なところの机まで進み、制作途中のISコアを出す。

 

 

さて、続きといきますか。



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それから

うちの小説はスルメのようになれることを目指しております。
その心は?


かめばかむほど味が出る。



…許して。


真耶ちゃん先生の方の転入生も無事終わったらしい。

 

一人はドイツのIS軍人。もう一人はフランスの男性代表候補生。

1クラスに二人も転入とか、これもうわかんねぇな。

 

 

ん?

 

 

「真耶先生、男性のIS操縦者は一人だけですよね?フランスにも居たなんて話、聞いてませんけど」

 

「はいー…。当然女の子なんですけど、フランス政府から男性操縦者として扱え、という通達が来ましてー…。

教員としてはちょっと困ってますぅ…」

 

ごめん知ってた。

でも話を聞いてもいないのに知ってるなんて怪しすぎるからね、仕方ないね。

 

でもそれってさ。

もしかして、いやもしかしなくてもだけど。

 

「では、織斑君と同じ部屋ということになるんですか?」

 

「そうなりますねー」

 

「ハニートラップ、ではない?」

 

「仮にそうであった場合、IS学園としては今後一切フランスからの入学を認めないという条件がついていますので…。

今のところ、こちらはハニートラップではないと想定して動いています」

 

「ただでさえ女の子に囲まれた寮にぶちこまれているのに、同室の子が女の子ですかぁ…。うわぁ…」

 

「うう、正直織斑君には申し訳なく思ってます…」

 

僕なら絶対飛び出してるね、そんな環境。嫌じゃん。

 

「まあ、山田先生が気にすることではありませんし。その気持ちがあるなら、こまめにガス抜きというか、話を聞いてあげるとかしたらどうでしょうか」

 

「そうですね。でも、やっぱり同性じゃないと話せないことってあると思うんですよー。」

 

「まあまあ、それはそうかもしれませんねえ」

 

「だからどこかで、歳の近い同性の人とお話を…?」

 

ん?

山田先生。なぜ私の顔をじっと見て首を傾げているんですか?

 

嫌な予感しかしないんですがそれは。

 

 

私の勘はよく当たる。

三十六計逃げるに如かず。さらば!

 

「では山田先生、私はこのへんで」

 

そう言い残し、返事も待たずに早足でそそくさと整備庫へ逃げる。

 

後ろから「あっ、鹿波さん、待ってくださーい!待ってくだ…待ってえええ」とか聞こえるけど聞こえなーい。知らなーい。

 

 

そして廊下の突き当たり、T字になっている左から足音がする。整備庫に行くにはここで左だ。

 

誰かとぶつかるかもしれないことを考慮して、やや大回りによける。

 

「おっと」

 

出てきたのは織斑先生でした。

 

 

「お疲れさまです」

 

にっこり笑ってすれ違いざまに挨拶。

挨拶は大事。

 

「ああ」

 

よし!

急いでいることを不信に思われないためには、急いでいても余裕を失わないことだ。

こういう小ネタというか、小手先の処世術ばかり覚えていくなぁ…。

 

 

その日のISコアの作成の前に、僕はわりかし本気で神に祈った。

 

神様!

 

どうか面倒ごとを持ってきませんように!



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相談役

IS自体は作品として嫌いじゃないです。作者?秘密。



面倒ごとに巻き込まれました。

 

 

というか、現在進行形で巻き込まれている。

巻き込んできたのは織斑一夏君、1年生。

 

 

お昼休憩ってことで、ご飯食べてから食後の一服として、中庭に出てきた俺氏。

 

 

わかばとかいうタバコをスパーッ、とやりながらぼへーっ、としてたところ、中庭にあるベンチにふらふらとやってきては、放心状態でベンチにちょこんと座る男子生徒のその様は、まるでリストラされたサラリーマンかのようで。

 

 

そんな様子、というか有り様の彼に、ついつい声を掛けてしまったのは、仕方ないことだと思うんだ。

 

 

そして何があったか尋ねたところ、今日から同じクラスに来たちっこい転校生の一人にビンタされるわ、同じく転校生の男子生徒のお守りで走り回るわ、ゆったりと食事も出来ないほど大変だったそうな。

 

 

ビンタされたんならしかえせばよかったのに、と言ったところ、ちっちゃい子相手にそんなこと出来ませんよ。だって。

いやそこは男が女に手をあげるなんて…っていうところだと思うんだけど。

 

小さくたって軍人だったりIS操縦者だったりするんだから、ちっちゃいかどうかはポイントではない気がする。

ポパイだって、ちっさくたって一人前だしね。

 

 

 

ってことをさらっと伝えると、それもそっかー、なんて言ってベンチに力なくへたりこんだ。

 

 

 

まあなんかあったら相談しなよー、愚痴くらいなら聞くよー、とか適当言いつつ、そういえばお兄さん誰?って聞かれたので、

 

「花のお兄さんと呼んでくれ」

 

真面目に答える気なしです、はい。

 

「じゃあ花のお兄さん、名前は?」

 

「僕かい?僕は鹿波。しがない整備員さ」

 

どんな字書くんですか?なんて聞かれたので答えると、じゃあ鹿さんですね、なんていってくる。

なんだ鹿さんて。かわいい。

 

 

 

彼はもうちょっと話をしたそうにしてたけど、そろそろ授業が始まるよ、と言って彼を見送った。

 

 

 

 

そう、そこまではよかった。

 

そうして織斑君を見送って、新しいタバコに火を着けた。

 

その瞬間、来た。

 

 

後頭部にコツ、と当たる冷たい金属の感覚。一切の音も気配もさせず。その銃口は、僕の頭部に固定されている。

 

 

アンサートーカーで確認する。

 

背後にいるのは篠ノ之束。IS用の大型の狙撃銃を構え、僕の生殺与奪を握っている。

 

僕の反応如何によっては本気で撃つつもりであり、僕の作っているものが目的、か。

 

アンサートーカーで確認する。

 

篠ノ之束を最も効率的に煽るにはどうすればよいか。

 

俺は常にその答えを頭に描き続け、その通りに全力で動く。

まずはーーー

 

 

 

俺は後頭部に当てられた銃口を、特に気にした風でもなく、ゆったりとタバコの煙を吐き出して、こう言った。

 

「何の用だ、暇人」

 

 

 

「…暇じゃない」

 

 

「なんだ、聞こえなかったのか?俺は、何の用だと言ったんだ。用がないなら引きこもってろ」

 

 

 

手応えあり。

不機嫌になった様子が、あからさまなプレッシャーと共にありありと分かる。

 

 

 

「立場がわかってないみたいだね。君、自殺志願者?」

 

 

 

「はっ、ほざけ。命を握った程度でどうこう?馬鹿が。気にくわなければ撃てばいいだろう。何故ブラックボックスが解析されたのか、わからないままにな」

 

より一層怒気が強くなる。だが、はっきり言って俺は、今生にそこまでの未練はない。

前世は何故転生できたのかわからないくらいの大往生だったし、今の人生だって後悔しないことを基本として過ごしてきた。

 

仮に撃たれたとしてもこのクソ兎を嘲笑いながら逝けるし、そうなったら地獄の淵から見ながら笑ってやれる。

 

それに、ここまで煽られてこいつが素直に撃つとも思えない。

ここで撃ったらーーー

 

「論理立てた反論が出来ないという、何よりの証拠になっちまうもんなぁ?」

 

堂々、振り返る。

 

 

そこにはメカっぽいウサ耳、不思議の国のアリスのコスプレのような衣装の、目の下の隈のひどい美人が、ゴツいヘカートのような銃をこちらに向けていた。

 

 

そう、こいつこそが篠ノ之束。青筋が浮かび上がるほどの憤怒の形相をしたこいつこそが、俺のIS世界を選ばせるきっかけだった。




修羅場がログインしますた


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拉致

作者「は」束さん嫌いじゃないです


 

憤怒の形相でこちらを睨み付け、その手の狙撃銃の銃口は正確に俺の心臓に狙いをつけている。

 

先ほどまで俺の頭を狙っていたが、俺が振り向くと同時、バックステップで距離を取りつつ牽制、といったところか。

 

 

正直俺はこのクソ兎を紛れもない天才だと思っているし、実際ISという作品ではこいつは天災なのだが、それゆえにこれだけ静かだと逆に不気味である。

 

今頃こいつの灰色の頭脳はフル回転しているのか、はたまた全ての準備は終わっているのか。

 

まあ、それはーーー

 

「どうでもいい」

 

「…ほう」

間違いなく、嘘だ。こいつのプライドはきっと、今すぐ俺を殺せと叫んでいるし、ISのブラックボックスが解析された理由を欲している。

何せこちらの能力はアンサートーカー。

知りたくない現実も、直視したくない真実すらも。

問うてしまえば答えが出る。

 

 

 

そして俺は知っている。

こいつが何をしに俺の命を握っているのかを。

一体何をしに来たのかを。

 

だが、こいつはどうでもいいと言った。確かにそう言ったのだ。

 

 

「ならば、問おう。一体お前は、何をしにきた」

 

 

タバコを吸って、のんびりしているように待つ。

まるで命など狙われていないかのように。

まるでただの休憩時間であるかのように。

なぜならそれが、一番こいつを効率的に苛立たせることができるから。

 

 

 

本当は俺がどんな綱渡りをしている気分か、などというものは関係ない。

 

 

 

「私は…!」

 

 

 

そう言ったきり、目の前のクソ兎が歯を食い縛ったまま時間が過ぎる。

1分、2分…。

 

タバコが切れたので、新しいのに火をつける。

 

シュボッ、といい音がなり、新たなタバコに焔が灯った時になって、ようやく次の言葉に口を開く。

 

 

 

「おまえは、何を考えてる…」

 

「どういう意味だ」

 

特に何も考えちゃいないが。ああ、見ているだけでクソムカつくこいつをいかにして煽るか、ということは考えているぞ?

 

「イラつくよ、おまえ」

 

「それは重畳。で、意味は」

 

 

せやな。俺煽ってるもんな。仕方ないね。

 

 

 

それから奴は、なかなか言葉を発しなかった。まるで、自分でも理解できないことを他人に説明しようとするかのように。

 

 

 

 

「おまえは…見ていて、理解できない。

ISのブラックボックスが解析されたのは、ISのコアネットワークに新しいコアナンバーが登録された時点で知っていた。

その時点でおまえがISコアの作成方法を発表するような行動を取っていたら、存在ごと消してやるつもりだった。

 

だけどおまえは、もうほとんどISコアが完成しているのにも関わらず、ちまちまとISコアをいじって遊ぶだけだ」

 

「私は、おまえが理解出来ない。気持ち悪いよ、おまえ」

 

 

 

ふむ。ああ、なんだ。そうか。

 

こいつはISを我が子のように思い、これ以上戦争に転用されないためにISコアを作ることをやめた。

 

しかし、コピー不可能と思うくらい難易度の高い作成を、あっさりクリアしていく人物が現れた。

 

それが、俺だ。

 

しかし、あっさりクリアしていく割には、このクソ兎からすれば遊んでいるとしか思えないゆっくりさでISコアをいじっている。

 

 

 

そりゃ、俺に取ってはただの暇潰しだしな。

1日のうち、数時間で進められるプログラムの量なんざたかがしれている。

 

 

そして、そんな俺がISコアを作れるようになったらどうするか、それを確かめに来た。

 

 

 

恐らくは、純真な、親心によって。

 

 

しかし、俺という存在はこのクソ兎に取って、未知の理解不能な生物だったようで。

 

 

それゆえ、こいつはどうすればいいかわからない。

 

 

といったところか。

 

ふむ。

 

ならば人生の先輩として、こいつに教えてやろう。

 

 

「おうクソ兎。お前、まさか神を気取る訳でもあるまい。

そりゃ俺も人間、お前も人間。

人と人とが理解し合えるなんて、数えるくらいしかねえんだよ」

 

 

そんな感じのことをつらつらと言ってたら、クソ兎に拉致られたでござる。

 

 

クソ兎ィィ!



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いざドイツ

この小説は
ほそぼそとやっていこうぜ、というスタンスで
お送りしています


拉致られた。

 

誰に?

篠ノ之束ことクソ兎に。

 

何故?

知らない。

 

 

や、アンサートーカー使えば理由とか全部わかるけど。

ほら、そういうのって、全部わかるとつまんないし。

あと、周りから見ると軽く異常者じゃん?

 

 

 

拉致されたやつが何の説明もなく、何故拉致されたのかを正確に把握してる情景を想像してみ?

異常だろ?

 

 

僕は怪しまれたり、変に注目をされるのは嫌なのです。

ナスは嫌いなのです!

 

 

 

てな訳で、理由は分かりません!

まあ、仮にも相手は天才クソ兎だ。何かしらの思惑があるんだろうとは思う。

 

俺はこいつを原作知識(ただしうろ覚え)で多少なりとも知っているけど、クソ兎は俺のことを全く知らないはずだ。

 

 

だからまあ、初めて自分が理解出来ない存在に対して、理解しようとしてるんじゃないかなー、とか適当に予想してる。

 

 

で。

 

 

「何処へ行くつもりだ」

 

 

俺は今、こいつの作った潜水艦の中にいる。

 

 

潜水艦内部は機械がごちゃごちゃしており、人間はこの篠ノ之束とクロエ・クロニクル(クーちゃんと呼ばれていた)以外にはいないようだ。

 

 

潜水艦の割には中は意外と広く、キッチンスペースにIS関連のものであろう作業用スペース、ソファもあり、生活環境としては十分に整っている。

 

 

 

結局あの後、俺は銃で撃たれた。

 

 

といってもあの銃は捕縛用の特殊弾が詰められていたらしく、ロープ状のワイヤーで左手と胴体を絡めとられただけだが。

 

 

幸いなことにバランスを崩して転倒したり、くわえていたタバコをおとしたりすることはなかった(ここ重要)。

 

 

潜水艦に引きずり込まれようとする直前には、中は禁煙だからと暗にタバコ捨てろ、と言われたが、その時自由なのは右手しかないわけで。

 

 

いつもなら携帯灰皿が胸ポケットにしまってあるが、ロープで左手と共に胴体が縛られているので取り出すことが出来ない。

 

 

ということでふてぶてしくも灰皿を要求したが、これが意外にもすんなり灰皿が出てきて少々驚いた。

 

 

 

一体なにが気に食わなかったのか、当然クソ兎はぶすっとむくれたように不機嫌だったが、まあ用意のいいことで。

 

 

あとずっと睨んでんじゃねえ。

 

 

そんな感じにあれよあれよという間に、俺は潜水艦へ引きずられていった。

 

 

 

 

当然行き先は告げられていない。

 

 

 

そして先の質問へ戻るわけだ。

 

 

「…」

 

クソ兎はこっちをじっとじとっと半目で見るだけで答えない。

 

 

俺は生活エリアらしきスペースのソファに背中を預けており、クソ兎は俺の右手側にある作業用スペースの丸椅子(クルクル回るやつ)の背もたれに腕を組んで乗せている。

 

 

 

あと背もたれの付け根を両足で跨ぐという姿勢のため、はしたない感じになっている。お前なんでスカート履いてんのにそんなズボラなんだよ…。

 

 

さて。

このまま行き先がわからないのはなんだか弄ばれているようで不愉快かつ気持ち悪いので。

しゃあなし。

 

 

てってけてってってーっ、てってー♪(ピョコン)

アンサートーカー!(某ネコ型ロボット風)

 

 

 

困ったときにこれいっこ。

 

 

 

 

ふむ。

 

 

行き先は、ドイツ?

それも恐るべき子供達計画…いや、違った。

 

 

デザイナーベビー達、強化人間の製作工場跡…か。

 

 

俺はこれまでこの人生、自分が後悔しないことを基準として生活してきた。

 

 

それゆえ、今回も、後悔しないための最善な行動を考える。

ここでも登場、アンサートーカー!

 

 

 

ふむ、花束を3つ用意すること、か。

 

 

「おいクソ兎」

 

「聞いてるよ」

 

 

返事は割とすぐに返ってきた。

 

 

ああ、俺が聞こえてないのかと思っているのか。まあどうでもいい。

 

「花屋に寄れ」

 

そう告げると、驚いたのか、いぶかしんでいるのか。

僅かに片眉を上げた後、そっか。とだけ呟いた。

 

 

それにしたってこいつ、コミュニケーション能力ゼロだな。



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水子の霊

お待たせしました。

じわです。


「束様、お茶が入りました」

 

 

そう言って、盆に2セットのカップとソーサーを載せたクロエ・クロニクルが入ってきた。

 

 

俺の前のテーブルに1セット、そしてクソ兎の背中側にある作業机の上に1セット、それぞれ置いてどっか行った。

 

 

てか、俺の分もあるの?

意外。

 

 

淹れたばかりらしいその紅茶は、温かな湯気が立ち上っており、それと同時に微かな香りが俺の鼻腔を刺激する。

 

おー、いい香り。

 

 

俺は今まで、なんとかティーとつく飲み物はひたすら舌に合わず、飲んでは悲しみ、飲んでは悲嘆にくれていた。

 

 

さて、この紅茶らしき飲み物はいかに。

 

 

 

ちなみに毒やら睡眠薬が入っている可能性は当然ある。

が。

 

 

そんなもんは知ったこっちゃない。

 

 

こちとら死のうが死ぬよりツラい目に会おうが、そんなものは気にしないという姿勢で生きているのだ。

 

 

仮に死んだらそれまでよ。

 

 

そんなわけでいただくことに。

 

 

あっち。

 

 

俺は猫舌なので、フーフー冷ましてズズズとちびちび飲むしかないのだ。

隣で静かにカップを傾けて味わっているクソ兎など知ったことではないのだ。

 

 

 

 

 

嘘です。

 

 

やっぱりムカつきます。特にその憐れみの十全に表れてる顔が!このクソ兎…。

ぶっとばすぞこのやろう(粗暴)。

 

 

あ、美味い。

 

 

なんていうか、こう…。

 

 

スッと鼻を抜ける香り。

しつこくないあっさりとした風味に、これは美味いと思わせる舌触り。

 

 

んー、二度に渡る人生で、初めて美味しいと思える紅茶に出逢った。

 

 

 

美味いものは良いよ。

人の心を豊かにしてくれる。

 

 

うん、あのクロエとかいうのには優しくしよう。

 

 

 

しかしこれ、何茶だ?

 

 

 

「クロエークロエークロエちゃーん」

 

「はい」

 

 

呼んだら来た。

素直やなこの子。

 

 

「これ、何茶?」

 

「こちら、紅茶はダージリンティーです」

 

ほほう、この紅茶はダージリンティーというのか。

 

 

「美味い。ありがとう。あと今度、機会があればアッサムとかアールグレイとかも頼みたい」

 

「ありがとうございます。機会があれば」

 

 

そう言ってクロエちゃんは再びどこかへ行った。

 

 

クソ兎にはもったいないほどの良い子である。

 

 

もしクロエちゃんが困るような事があったら、全力で手助けしよう。

 

 

 

そんな一幕がありながら、この移動式ラボはドイツへ。

 

 

そうそう、俺が潜水艦だと思っていたのは移動式ラボであった。

 

 

ちなみに教えてくれたのはクロエちゃん。

その時にクロエちゃんはクロエと呼べばオーケーというお許しももらった。

 

 

途中で適当な花屋で花束を3セット購入し(ちゃんと地上に出た。不法停泊だったが)、ドイツのデザイナーベビー製作工場跡へ。

 

 

工場跡につくまで、クソ兎と俺の間に会話は一度たりとも存在しなかったことを明記しておく。



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水子の霊2

なんでこんな乗りと勢いで書いてる小説が人気なんや…


ドイツ北西沿岸部。

 

 

そこにあった、デザイナーベビー製作工場についた。

 

 

とはいえ、もはや稼働はしておらず、人の居なくなった建物特有の空虚な雰囲気がありながら、どこか薄ら寒い感覚が背筋を凍らせる。

 

 

そんな建物に、俺はクソ兎と共に来ていた。

 

 

クロエは移動式ラボでお留守番。

 

 

そして俺は花束を3つ持ち、その前をずんずんとアリスにメカウサ耳をつけた篠ノ之束が、空虚で廃墟な工場へ向かっていた。

 

 

ていうか、突発的に拉致られたから退社カードのセキュリティチェックやってないし、今はまだ半日もたっていないからいいが、しばらくしても俺が戻らないとIS学園のセキュリティ、問題視されてヤバいんちゃう?

 

 

頭が痛くなるから考えないでおこう。そうしよう。

 

 

「そろそろ教えてくれても良いんじゃないか」

 

 

クソ兎にそう声をかけるも、こちらを振り返ることすらなく、いっそ清々しいくらいにシカトこいてやがる。

 

 

まったく、俺は未だに何処へ行くのか説明されていないというのに。

 

 

サービス精神のかけらも持ち合わせていないな、なんて考えていると、ふと頭が痛くなってきた。

 

 

まったく、俺に頭痛を覚えさせるほどの傍若無人っぷりには呆れてものも言えないーーー

 

 

まて。

 

 

そんなわけあるか。

 

 

他人にそこまで自分の精神が掻き回されることなんて、今生一度もなかった。

絶対にこの頭痛は別の要因がある。

 

 

そう、これはまるで、前世で行った長崎で、ずっと鈍痛が頭に来ていたあの時のような。

まるで、長崎のハウスなテンボスの川の側で窒息しかけた、あの背筋の凍る、不安と恐怖が突然襲ってきた時のような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと見ると、クソ兎が目の前にいた。

半身になって、こちらの顔を、労るような、睨み付けるような、複雑な表情で見上げていた。

 

 

 

「気付いたか」

 

 

 

そう、言われるまで気付かなかった。

 

 

こいつが目の前にいたことも。いつの間にか、建物の入り口にいたことも。

 

 

そしてなにより。

 

 

さっきよりも確実に、空気が冷えこんでいることも。

 

 

 

ここが、このクソ兎が俺に見せたかった場所。

 

 

人工の強化人間製作工場だ。

 

 

 

 

電気が生きていた時には電子ロックで開いたであろう、金属扉を、こいつは思い切り両手で押し開いた。

 

 

多分、こういう自動ドア式のやつを素手で開けられるのはお前や織斑先生とかくらいだろうよ…。

 

 

まだ日が沈むには時間がある時間帯にも関わらず、中は真っ暗で全体どころかすぐ先すら見えない。

 

 

しかしクソ兎は、そんなことはお構い無しに進んでいく。

 

 

と、思ったら、少し進んだら止まり、こちらを振り向いた。

 

 

なるほど、ついてこい、ということらしい。

 

 

アンサートーカーで、いつ俺がこの花束をささげれば良いのか、常に頭のなかに問いを思い浮かべ続ける。

 

 

こうすれば、俺が後悔せずにすむ行動を、即座にとることができる。

 

 

しばらく進んでは新たな金属扉をちからづくでスライドさせ、進んでは開け、といったことを繰り返すうちに、大型の培養ポッドのようなものが林立しているフロアについた。

 

 

「ここは…」

 

 

なるほど、第一段階を突破し、安定して成長しはじめる可能性のある検体の育成場所、ってところか。

 

 

胸くそ悪い。虫酸が走る。おぞましい。そんな気持ちでいっぱいになるが、ふと、クソ兎がこちらを正面から見ていることに気が付いた。

 

 

「説明しろ、って言ってたよね」

 

 

どうやらクソ兎は、ようやく説明してくれるらしい。

返事も待たず、口を開く。

 

 

「ここはドイツ。

生体兵器、遺伝子強化試験体の製作工場跡。

今でこそ稼働していないけど、ここでは数千単位で試験管ベビーを、文字通り作っていた」

 

 

「デザイナーベビーってやつか…」

 

 

「そう。人を人と見ず、モルモットのように、いや、まるで粗悪品と規格合格の工業製品のように、命を作っては使い潰していた場所だ」

 

 

ふと、クソ兎が右を向く。

つられて俺も首を左に回すと、割れた培養ポッドがいくつも視界に入った。

 

 

「あれは培養ポッド。母親の胎内の代用品だ。

…ここにいた子達は、私が全員殺したよ。

勝手な都合で生み出され、実験体になるならいっそ、と思ってね」

 

 

「…その子達の、骨はあるか」

 

 

クソ兎が指差す先には、確かに部屋のすみに丁寧に梱包されたであろう、桐の箱が置いてあった。

 

 

アンサートーカーを使わなくても、嫌というほどわかる。

確かにこれは、花束の一つでも送らないと、一生後悔するだろうことは、想像に難くない。

 

 

俺はその桐の箱の前に跪き、そっと花束を置いた。

合掌。自分勝手な黙祷だが、自己満足だと罵られてでも、どうか安らかに眠ってほしかった。

 

 

わずかに痛む胸元をあえて無視して、また歩き始めたクソ兎に黙ってついていく。

 

 

 

今度のフロアは先ほどよりもポッドが少なく、簡単なパズルやアルファベットのナンバーズ(ナンプレ)が見える。

 

 

もっとも、プラスチックで出来ていたであろうアルファベットのオモチャらしきものは、大半が割れていたり、砕けていたが。

 

 

「ここは赤ん坊として取り上げたデザイナーベビー達が、どれだけの能力を持ち合わせているか、ヴォーダン・オージェーーーつまり、IS適合率上昇用デバイスにどれだけの適性があるか、IQテストの検査等が行われていた場所。

 

お前も知ってるだろ、ドイツの転入生。

 

あいつを越える完成品を生み出すために、ここは使われていた」

 

 

ここも、か。

正直先ほどの部屋よりも寒い。ここに居ることを、本能が拒否しているんじゃないかというくらいに、震えが止まらない。

きっと、今の俺の顔は、笑えるくらいに血の気がないんだろう。

ちくしょう、笑えねえ。真面目に寒い。

 

 

だが、ここで退いたら絶対に後悔する。

 

 

もはや確信をもって言える。

俺はきっと、今日この時に逃げ出したら、死ぬまで後悔し続ける。

ここまできたら、最後まで絶対に弔ってやる。

俺は逃げたりなどしない、軟弱者などではない!

 

 

「…そいつらは」

 

 

どこだ、と言い切る前に手を捕まれた。正直このクソ兎に対して好感など皆無だが、今この瞬間は素直に人の暖かさがありがたい。

 

 

そして連れてこられた先には、小さな鉄の十字架が立っていた。

 

 

さっきのフロアには小さいとはいえ骨壺があったが、そうか、こいつらは、残ることすらなかったか。

 

 

俺はもう一度花束を置き、何も言わず手を合わせた。

悲しいとか、そんな気持ちは出なかった。

 

 

ただ、涙が滲んだ。それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

更に手をひかれて連れられた先のフロアには、レントゲン台のような、平べったい台が、まるで祭壇のように少し高いところに位置していた。

 

 

 

 

さっきからずっとクソ兎が手を握ってくれているが、なぜだ、寒さが止まらない。

なぜだ。

なぜだ。

 

 

うまく頭がはたらかない。

どこだ。ここは。

ここはなんだ。

 

 

視界がボヤける。

なぜだ。

なんだ。

なぜ死んだ。

ああ。

 

 

気がつけば、俺は、ただ立っていた。振り向けば、台の上に花束が置かれている。

 

 

さっきまで俺は台の方を向いていなかったか?

 

 

わからない。

 

 

思い出そうとすると頭に靄がかかるようだ。

 

 

まあ、いいさ。

 

 

思い出せないということは多少気持ち悪いが、思い出せないなら思い出す必要はないんだろう。

 

 

俺たちは、この工場を立ち去った。

 

 

 

俺が感じていた寒さは、もう消えていた。

 

 




シリアスです。


※追記
感想で読み応えがないということだったので、2000字に挑戦。チカレタ…


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【束】束とわが子と水子の霊

評価バーが黄色くなっている。なんでや!
まだちーちゃんにフラグたってへんやろ!

束さん編です


私がそいつを見つけたのは偶然だった。

 

 

きっかけは、ある日ISコアネットワークに、新たな反応があったことだ。

 

 

私がこれまで作ったISコアは467個、ということになっている。

実際には、私が作った無人機とかゴーレムもあったりするから、500近くはあるんだけど。

 

 

しかし私が作った無人機とかは、ISコアネットワークには接続させていない。いわゆるスタンドアローンだ。

 

 

それらにしたって、コアナンバーは割り振ってあるから、新たな反応ではなく、接続されました、という内容のメッセージが表示されるだけのはず。

 

 

つまり、今回の事態は、ISの新たなコアが作られた。

ということだ。

 

 

 

 

 

 

…軽く見積もって、非常事態だ。

 

 

私は急いで愛用のデスクトップパソコンーーー私が小学生の頃に作ったものを、こまめに機能拡張しながら使っている自慢の逸品だーーーを立ち上げ、新たなISコアの反応地点を調べる。キーボードを打つ、この一瞬一瞬すらもどかしい。

 

 

何故だ、どうやってばれた。ISコアの製造方法が流出した?

いや、現代の技術レベルではあと20年はかかる製造方法をとったはずだ。

ならば解析された?

 

 

 

それこそまさかだ。

一応注意している篝火とかいう研究者でも、ISコアについては手も足も出ていなかった。

優秀なブレインでも付いたか?

 

 

いや、そんな様子はついぞなかった。

 

 

なぜーーー。

 

 

私の頭脳がフル回転する。

ありとあらゆる予想、予測、推論、根拠、否定、理由、推定が、私の脳内を駆け巡る。

 

 

何故だ?

 

 

 

ピピピッ。

 

 

新規ISコア反応地点が出た。

 

 

場所は、IS学園?

 

 

たしかにあの場所なら、設備をいくつか作りさえすれば万に一つくらいならあり得る。

そう、設備的には。

 

 

 

 

だからこそ、毎年新たに入ってくる教員、事務員、果ては清掃員に至るまで、勤務と同時に一年間、ずっと監視してきた。

 

 

その中でも、ISコアを作っている人物などいなかったはずだ。

 

 

 

 

それなのにISコアの反応は、既にある。

一体誰がーーー?

 

 

 

 

「…見つけた」

 

 

 

時刻は日本時間の午後5時を回ったところ。

 

 

ハッキングしたIS学園の監視カメラから、ISが格納されている場所でプログラムをしている人物の背中が確認できる。

 

 

ISの格納庫にしては、やけにISの台数が少ない。

整備庫か…?

 

 

 

そしてその、件のプログラムしている人物は、白衣を着たーーー

 

 

 

 

「男…?」

 

 

 

 

IS学園の整備庫でISコアを作る。

 

 

 

外部の人間がIS学園の整備庫に留まって、ISコアを作るなんてことは、セキュリティの観点から不可能だろう。

 

 

 

いや、実際には自分や一部のテロリスト達なら可能だろうが、メリットがない。

何故わざわざセキュリティが厳しい場所でプログラムをしなきゃいけないのか。

 

 

 

それに。

 

 

IS学園の整備庫は、確かに設備こそしっかりとしたものばかりだが、別に揃えようと思えばIS開発企業なら揃えられるものばかりのはずだ。

 

 

 

それなら、自分の所属する企業なり集団で、もしくはもっと機密性の高い場所で作る方が、安全だし確実だ。

 

 

 

ISコアを作る、謎の男。

 

 

 

私は、しばらくの期間、そいつを監視することに決めた。




自分のことを知らんだろうと思っていた主人公、実はめっさ監視されてました(´・ω・`)


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【束】束とわが子と水子の霊2

まだまだ続く束さん編


謎の男こと整備士の調べがついた。

 

 

男の名前は鹿波室生。歳は24。

 

 

小学校、中学校共に公立の出だが、成績は常に学年首席。

 

 

中学校卒業後は高専に進学、機械工学を主に学ぶ。半導体、プログラミングなど電気電子情報にも深く精通し、こちらも首席で卒業。

 

 

その後IS学園に整備士として勤務。

 

 

勤務態度、能力ともに良好で、整備の他にバグやエラーチェック、デバッグにも携わる。

 

 

現在勤務四年目。これからも活躍が期待される。

 

 

 

 

 

「…へえ」

 

 

常に首席で卒業していることから、頭は悪くないのかもしれない。

 

しかし、調べた限りでは数多の有象無象から受ける印象と大差なく、何故この男がISコアを作れたのか、またISコアを使って何をするつもりなのか、まったく予測がつかない。

 

 

調べれば調べるほど、IS関連の企業から依頼を受けているわけではないことが決定的になっていく。

 

 

 

やや特殊だと言える部分は、この男が株式とFXで稼いでおり、海外のメガバンクなどの総資産が2億を下らないこと、IS関連の主要な企業の株を多く保有していることだけど。

 

 

これも、似たような人間は多くはないとは言え、ISコアが作れるほどの特殊性の発現とは考え難い。

 

 

そして何よりもこの男。

 

 

ISコアを完成させる気がないのか、と思うくらい遅々として作業が進んでいない。

 

 

もちろん、ISコアの反応はすでにある。

つまり、ハード側はもう完成している。

 

 

しかし肝心の内側、ISのプログラム部分。それも一番重要な心臓部分、ISの自己進化プログラムだけを完成させていない。

 

 

それも、わからないから進んでいない、というのではなく。

ほんの少しずつ進め、これまでのプログラムを見直し、無駄な部分を省き、簡略化できる部分を簡略化したデータをパソコン側に残している。

 

 

そんな作業を1日に数時間、しかも毎日ではないペースでやっていれば、ISコアはなかなか完成しない。

 

 

ISコアのプログラミングは私が最後に作ったコアの内容を丸々同じように作っていながら、パソコン側にあるデータはそこまで進めた内容を1から最適化している。

パソコン側にあるISコアのプログラム部分は一体どれだけデータ容量を削減されているのか。

 

 

しかも最適化されたデータが不具合が起きないかどうか、いちいちチェックをしながら作業を進めているのだ。

 

 

その様子は、まるで。

 

 

一つのパーツに15時間でも20時間でもかけて、300以上あるパーツを自分の納得いくまで作り上げる、プラモデル製作のような印象で。

 

 

自分にとってはわが子も同然のISコアを、そのように遊び道具にされるのは。

 

 

私には、到底認めることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

他者には基本、興味を示さない自分が。

 

 

 

会ってもいない人間に。

 

 

 

すでにほのかな敵意を抱いている。

 

 

 

これは確認しなければならない。

 

 

この男が、わが子達をどうするつもりなのか。

 

 

新しく生み出した子を、どうするつもりなのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は、自動拳銃のベレッタと、捕縛用の改造した大型狙撃銃ヘカートを携えて、IS学園に乗り込んだ。



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【束】束とわが子と水子の霊3

やっぱり2000字とか無理ィ!


IS学園に乗り込んだ時、目的の男はいっくんと話していた。

 

 

 

あ、いっくんはいっくんで、名前は織斑一夏。

織斑千冬ーーーちーちゃんの弟だ。

 

 

いっくんの魅力を語り出したら止まらないけどーーー。

今は後にしよう。

 

 

 

いっくんを巻き込む訳にはいかないので、陰からそっと様子を伺う。

 

 

なにかほんの少しでも怪しい動きをしたら、即座に頭をぶち抜いてやる。

 

 

そんな思いで、左手のベレッタを意識しながら注意して見ていたが、それは杞憂だった。

 

 

男は特に怪しい動きもなく、いっくんに触れたりなどもしないまま、会話を続けている。

 

 

 

学園内では貴重な同性ということなのか、いっくんは早くもこの男に気を許している様子。

 

 

むむ。いっくん、その男は羊の皮をかぶった悪魔の可能性もあるんだよ。

そんなに簡単に仲良くしようとしちゃいけません!

 

 

まあ、どんな相手とも仲良くしようとできる所はいっくんの素敵なチャームポイントなんだけど。

 

 

でもその男はまだ束さんチェックが済んでないから駄目だよ!

 

 

そんな心の声が通じたのか、いっくんは男に別れを告げて去っていった。

よかったよかった。

 

 

 

 

 

なお、この時束は気づいていないが、一夏少年は別れを渋っており、授業が始まることを口実に早く行くように促しているのは件の男こと鹿波だったりする。閑話休題。

 

 

 

 

 

さて、と気合いを入れ直した束からは静かな、しかし確かな真剣みと凄み、そして敵意が感じられる。

 

 

 

 

そして一息に男の背後から強襲、捕縛用のヘカートの銃口を静かに男の頭に当て、左手ではこっそりと心臓部分に照準を定める。

 

 

 

さて、本番だ。

 

 

ほんの些細な動きも見逃すな。

そう自分に言いきかせ、すぐに応戦されても確実に殺せるよう、左手に力をこめる。

手からじわりと汗がにじむ。

 

 

 

しかし、予想に反して、というべきか。

 

 

男は特に動きも見せず、ゆっくりと、ゆったりと。あるいは見せつけるように、タバコを吹かしている。

 

 

 

まさか気付いていないのか?

いや、だが頭に銃口を当てられて気付かないなんてことがーーー

 

 

そんなことを考えていると、ふいに声をかけられた。

 

 

「何の用だ、暇人」

 

 

 

「…暇じゃない」

 

 

そう、私は暇じゃない。

暇な時間などない。

 

 

つい3ヶ月ほど前にも、ドイツにある醜悪な人間生産工場の一つを潰してきたが、まだまだああいった施設、設備はある。

 

 

クーちゃんのような、被害者をこれ以上出さないためにも。

罪もない人間や、わが子そのものであるISたちが、非人道的な実験に晒されないためにも。

 

 

これ以上、人間の底無しの悪意に、業に。

さらされなくても済むように。

 

 

私には、暇などない。

 

 

それを、言うに事欠いて暇人?暇人だと?

 

 

私のこの男に対する敵意が強くなる。

しかし男はそんなことは知らんとばかりに言葉を紡ぐ。

 

 

「なんだ、聞こえなかったのか?俺は、何の用だと言ったんだ。用がないなら引きこもってろ」

 

 

 

こいつ…!

 

 

はっきりと分かる。

こいつは私を馬鹿にしている。

それも、隠すことなく堂々と。

 

 

自分で自分が不機嫌になるのがわかる。

 

 

それと同時に、左手に力がこもる。

 

いざとなったら、本気で殺すこともいとわない。

 

 

初めは殺す気などなかったが、ここにきて私はそんな気持ちなどとうに消えていた。

 

 

言われっぱなしというのも癪だ。

 

 

私は皮肉を返してやることにした。

 

 

「立場がわかってないみたいだね。君、自殺志願者?」

 

 

「はっ、ほざけ。

 

命を握った程度でどうこう?馬鹿が。

気にくわなければ撃てばいいだろう。

 

何故ブラックボックスが解析されたのか、わからないままにな」

 

 

死ね。

 

 

一瞬本気でそう思ったが、男のいう通り、何故ブラックボックス化したはずのISコアの制作方法が解析されたのか、私はどうにも突き止められなかった。

 

 

私の気分はすでに最悪だ。

この男とは、話せば話すほど機嫌が悪くなる。

 

 

この男は、私の神経を逆撫でするために言葉を発しているのかと錯覚してしまうほどに、私の気分を阻害した。

 

 

 

しかし左手にこれ以上力を込めるつもりはなかった。

 

 

ここでこの男の言う通り、左手のベレッタで撃ってしまったらーーー

 

 

「論理立てた反論が出来ないという、何よりの証拠になっちまうもんなぁ?」

 

 

 

クソが。

 

 

こっちの心でも読んでるのか。

そう吐き捨てたくなるほど憎らしく、その男はふてぶてしい顔で、こちらを振り向いた。

 

 

反射的に距離を取る。

 

 

5メートル。

 

 

男が一足に詰めるには遠く、私が狙いを外さず撃つには最適な距離。

 

 

この距離なら私の射程距離、キルレンジ内だ。

 

 

念のために右手のヘカートを見せつけるように男に向け、左手のベレッタは見えないように半身になって隠れて心臓を狙う。

 

 

 

さあ、初めてのご対面だ。



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【束】束とわが子と水子の霊4

す、進まない…orz

束さんが勝手に暴れてくれるおかげで作者の頭はオーバーヒートしそうです…。


ふてぶてしいツラ。

 

 

人を小馬鹿にしたような表情。

 

 

そして何より、命を握られているというのに動揺一つしないその態度。

 

 

全てが私の気分を阻害した。

 

 

しかし、こいつの狙い通りに撃つ、ということは、私のプライドが許さなかった。

 

 

故に。

 

 

 

「どうでもいい」

 

 

嘘だ。

自分でもわかっている。

 

 

私はこの男を見極めに来ている。

どうやってISコアの作り方を知ったのか、それを確認しに来ている。

 

 

それが気にならないと言うのはありえない。

 

 

しかし、この男の手のひらの上で踊るのは、それ以上に癪だった。

 

 

「…ほう」

 

 

僅かに驚いたように、眉がぴくりと上がる。

 

 

それだけのことで、僅かに溜飲が下がった。

 

 

そして同時に落ち着きを取り戻す。

 

 

そうだ、私は確かにこの男の言う通り、何故ブラックボックスが解析されたのか、確認しにきた。

 

それが第一目的なのは間違いない。

 

 

しかし、私はそれだけのためにここに来たのではない。

 

 

この男が何を考え、どのように行動するのか。

 

この男が、わが子達(IS)をどのように扱うつもりなのか。

 

 

それを見極めに来たのだ。

 

 

焦る必要はない。

 

 

いざとなったら、即座に殺す準備はできている。

 

 

物理的にも、社会的にも。

 

 

ならばここは、まずは落ち着いて、冷静に観察するべきだ。

 

 

この男の言動に、惑わされるな。

 

 

 

「ならば、問おう。一体お前は、何をしにきた」

 

 

 

再びこの男が口を開く。

 

 

 

その態度が、まるで私をイラつかせるために全力を注いでいるのではないかと思わせるくらいに腹立たしい。

 

 

無関心、無感動。

 

 

それでいて見下した眼。

路傍の石ころでもまだマシな見方をされていると思ってしまうほどに、嘲笑的な、その眼。

 

 

気に入らない。

気に入らないぞ…!

 

 

「私は…!」

 

 

 

貴様を殺しに来た。

 

 

心からそう言いたくなるほどに、無性に目の前の男に腹が立つ。

いや、言葉の代わりに鉛弾をこいつにくれてやるのが良いかもしれない。

そんな思考さえ浮かび上がる。

 

 

落ち着け。

冷静になれ。

 

 

歯を食い縛り、歯ぎしりが起こるのではないかと思うくらいに力を込める。

 

 

1分か、10分か。いやそれともか。

 

 

自分の中で、正確だという自負のある、体内時計すら当てにならなくなるほどの怒りを静め、震える喉から振り絞るように声を出す。

 

 

「おまえは、何を考えてる…」

 

 

「どういう意味だ」

 

 

そのままの意味だが、こいつの態度が先ほどよりもイラつかせるものでなくなった。

 

 

さてはこいつ、わざと煽ってきたのか。

 

 

そうと分かると、なおさら腹が立つ。

 

 

しかし先ほどとはちがい、理性的に、腹立たしいなかにも冷静に尋ねることができた。

 

 

「イラつくよ、おまえ」

 

 

「それは重畳。で、意味は」

 

 

やはり、先ほどのような、燃え盛るような苛立ちを今は感じない。

 

 

 

やっぱり先ほどまでの態度はわざとか。

それが確認できたので次に移る。

 

 

感情の波は今にもこいつを目の前から消し去りたいと叫んでいるが、努めて無視する。

 

 

まずは事実の確認からだ。

 

 

一つ目。

 

 

「おまえは…見ていて、理解できない」

 

 

 

二つ目。

「ISのブラックボックスが解析されたのは、ISのコアネットワークに新しいコアナンバーが登録された時点で知っていた」

 

正確には、この男がコアナンバーの登録をしたわけではない。

が、新たなISコアの反応があった時点で自動でコアナンバーは割り振られるのだから同じことだ。

 

 

 

 

三つ目。

「その時点でおまえがISコアの作成方法を発表するような行動を取っていたら、存在ごと消してやるつもりだった」

 

 

 

四つ目。

「だけどおまえは、もうほとんどISコアが完成しているのにも関わらず、ちまちまとISコアをいじって遊ぶだけだ」

 

 

 

結論。

「私は、おまえが理解出来ない。気持ち悪いよ、おまえ」

 

 

そう、今の私はこの男が理解できない。

見極めにきたというのに、だ。

 

 

そんな私に、この男はこう言った。

 

 

「おうクソ兎。お前、まさか神を気取る訳でもあるまい。

そりゃ俺も人間、お前も人間。

人と人とが理解し合えるなんて、数えるくらいしかねえんだよ」

 

 

 

理解しようとすらしないで煽ってくるような、お前が言うな。



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【束】束とわが子と水子の霊5

おかしい…。
話が進まない。

これも全部、ドン・サウザンドってやつのしわざなんだ!


「なんだクソ兎、そんなことも知らねえのか。人と人とが理解しあえることなんざ、そんなに多くねえんだよ」

 

 

その言葉は、先ほどまでの私を煽るような、馬鹿にしたような言葉とは違い、確かな重みと切実さがあった。

 

 

「いいかクソ兎。コミュニケーション能力皆無で人との関わり方がド下手くそなお前に教えてやる。

 

人はな、特に理由もなく、あ、合わないなって思うことや、大して理由はないけどあいつ嫌い、なんてことは普通に生きてりゃあるんだよ。

 

それがてめえみてえな、人の心の機敏を察することの出来なさそうな、コミュニケーションや言葉のやり取りの経験値からっきしのやつが、俺のことを理解できないだ?

 

 

当たり前じゃねえか。馬鹿が」

 

 

そういうその男の顔は、吐き捨てるような文面の言葉とは裏腹に。

どこか切実で、後悔のような、悲しみのような。

複雑な、しかしそれでいて、どこか。

 

 

沈痛な面持ちで、こちらを見ていた。

 

 

この時の私は苛立ちのあまり気付かなかったが、確かにこの時、この男は、そんな表情で私を見ていた。

 

 

どうか、俺のように取り返しのつかない過ちはしてくれるなと。

そう言っているかのような表情で。

 

 

 

 

目の前の男は、相変わらず見下した目で見ている。

 

 

 

この男は、何か後悔でもあったのだろうか。

 

 

 

私はぼんやりとそんなことを考えながら、やはりこの男の人間性を確かめなければ、と思った。

 

 

 

もし、この男が私の思っているよりまともな人間であるならば。

 

 

きっとこの男は、誰よりも私の子どもたちを守ってくれる気がする。

 

 

 

 

 

 

たしかにこいつの言う通り、私はコミュニケーションをとることにかけては壊滅的だ。

 

 

私はそれが間違っているとも思えないし、別に構わないとさえも思っている。

 

 

だが、私がこいつを理解できないのは、私のコミュニケーション能力とやらのせいではなく、むしろ、こいつ自身が分かり合おうとする気がないのだとも思えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余裕ぶって左手を白衣のポケットにつっこみ、すました顔でタバコを吹かしている、眼前のこの男に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捕縛用、束さん特性ワイヤー製ロープ弾を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソむかつく顔面にシュゥゥゥーッ!

超!エキサイティン!

 

 

 

 

「なっ…。何しやがるクソ兎ィ!」

 

 

ハッハッハー、いい気味だ!

誰がクソ兎か!

 

 

そんなことを心の中でだけ思いながら、ワイヤーでがんじがらめになっている目の前の男の情けない姿に心が踊る!

 

 

私は知っているぞ。

 

 

IS学園は入所時にセキュリティチェックがあるから拳銃とかは持ち込めないし、お前は整備用の道具は整備庫にいつも置いていることを。

 

 

それなのに自分の命が握られている状態でも、何一つ気にしていないお前の豪胆さに(ほんのちょっとだけ)敬意を表して!

 

 

 

おまえのその情けないツラを永久保存してやる。

あーっはっはっは!

 

 

あ、ちなみに私のメカウサ耳には、カチューシャ部分に4Kカメラと指向性マイク、ウサ耳部分にはそれぞれサーモグラフィーと赤外線カメラがついている。

 

 

当然、この男と接敵した瞬間から全部起動して、データを私のラボに送っている。

 

 

 

つまり、この瞬間!

 

 

 

私は、このいけすかない男の上をいったのだ!

 

 

眼前の男はなおもじたばたしてるけど、今の私は気分がいい。

 

 

特別に、投げ捨てたりしないで私のラボまで連れていってやる!

 

 

 

ほらほら、情けない声だしてないで、おとなしく引きずられて来ましょうねー♪

 

 

 

 

ずるずると引きずる音と共に。

 

 

 

男の絶叫がこだました。




クソ兎ィィィィ!



なお、この後灰皿を要求されてふてくされた模様。


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【束】束とわが子と水子の霊6

シリアスというか、暗い話はとりあえずここまで


さて、人間嫌いの私がまったくもって珍しいことに、この男ーーーたしか、鹿波と言ったっけ。

そう、鹿波がどんな人間なのか。

それを知ろうと思い、私の誇る移動式ラボ、「吾輩は猫である(名前はまだ無い)」まで連れて来たのはまだ予定の範疇だ。

 

 

それはいい。

 

 

しかし、人間性を見ると言ったところで、一体どこへ連れていけばいいのか。

 

 

ISを使った戦闘の最前線に連れていけばどうだろう。

 

 

うん、「ISが有ろうが無かろうが、戦争なぞどこでもやっているだろうがバカめ」とか、一息に言いきる様が理解できる。

 

 

っていうかなんでこいつ私のことをクソ兎って呼ぶんだろう。

 

 

まあ、いろんな人からの恨みを買ってるからね、私。

少なくともISがなければ…って人は世界中にいるだろうし、こいつもその一人なのかもしれない。

 

 

あ、さっき一瞬見せた後悔した表情はそれ関連かな、なんて気楽に考えながら、行き先を考える。ここで何も感じないあたりが人の心がわからないとか言われる所以なんだろうけど。

私はそんなだからね、別に気にしないんだぜ!

ブイブイ♪

 

 

 

さてと。どうしようか。

見たところ、こいつ(鹿波)には戦闘能力はなさそうだし。

 

 

んー、どこがいっかなー。

 

 

 

「ねークーちゃん」

 

 

「はい?」

 

 

なんて同意を求めて声をかけてみるけど、クーちゃんは首を傾げるだけだった。

 

 

あぁもうクーちゃんはかわいいなぁ!

だっこしちゃうぞ。ギュー。

 

 

思わず抱きしめている時、視界に鹿波の姿が入る。

 

 

おい、見せ物じゃないぞ…ってこいつまったく見てねえ。

私のラボの中を興味津々に見て回ってる。

 

 

お前はソファーの方にでも行ってろ。しっしっ。

 

 

「あの、束様。ちょっと苦しいです」

 

 

はっ!しまった。

クーちゃんを抱きしめたままだった。

慌てて緩めると、緩めた拍子にクーちゃんは、猫のようにスルリと私の腕の中から抜け出してしまった。

あぁ…。

 

 

ってそうじゃなくて。

 

 

「ねぇクーちゃん」

 

 

「はい」

 

 

ちょっとしたニュアンスの違いで、呼びかけてるかどうかが分かる。

やっぱりクーちゃんと私は以心伝心だね!

 

 

はっ、さっきから意識がそれまくり。

全てはさっきまでの鹿波とのやり取りのせいなんだ、ストレスで胃がマッハなんだ。

 

 

いや私の胃はそんなにやわじゃないけど。

 

 

 

「人柄とか人間性を見ようと思ったら、どこに行けば良いと思う?」

 

 

「人柄…ですか。そうですね…。

 

私の経験は偏っているので当てにはなりませんが、私に入れられた知識でいくと、その人の趣味の場とか、でしょうか?」

 

 

んー、趣味の場か。

 

 

休日は家でISコアの制作、仕事の終わった後の自由時間にもISコアの制作。

またはプログラミング。

 

 

仕事が趣味なタイプだろ、鹿波(こいつ)

なし。

 

 

「他はー?」

 

 

「あとは…そうですね。教会や神社、戦争の跡地…でしょうか。

すみません、私ではこれくらいしか…」

 

 

「いやいや、私だとそういうのからっきしだからねー。ありがとークーちゃん!」

 

 

「束様のお役に立てたのなら幸いです。

では、お茶を淹れてきます。紅茶でよろしかったですか?」

 

 

「おっけーい」

 

 

クーちゃんが何か言ってたけど、適当に返事をする。

だいたいのことは、クーちゃんまかせで問題ないからね。

 

 

しかし、教会や神社、戦争の跡地ねー。

墓地とかならいいだろうけど、鹿波の両親や祖父母はまだ生きてるし。

 

 

 

私も鹿波もIS技術者だ、IS関連の墓地、か。

 

 

 

脳裏に浮かぶのは、ちょっと前に潰した、醜悪な人間生産工場。

 

 

技術的には不完全もいいところだったけど、そこで作られ、自由もなく犠牲になったあの子どもたちは、そこにあった凄惨さは本物だ。

 

 

 

私にできる簡単な弔い程度はしたあの場所が、なんだか無性に引っ掛かった。

 

 

 

よし、あそこに行こう。

 

 

正直あまり気乗りしないが、行き先が決まったので座標データを打ち込み、移動式ラボの目的地を決定する。

 

 

 

ドイツに着くまでは観察でもしていよう。

 

 

 

椅子に座ってじっくり見ていると、何処へ行くのかと聞いてきた。

無視。

 

 

「おいクソ兎」

 

「聞いてるよ」

 

 

聞いてるけど無視してるだけだ。聞こえてる。

 

 

そう思ったけど、その後に続く言葉に、私は少し驚いた。

 

 

「花屋に寄れ」

 

 

ああ、そうか。

そっか、という声が私の口から零れ落ちる。

 

 

 

 

こいつは、私が何処に連れていくつもりなのか、だいたい予想してたのか。

 

 

 

ただ、意外に思ったのはそっちじゃなくて。

 

 

 

こいつにも、人を弔う気持ちってあったんだ。

 

 

そんな驚き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツでは花屋に寄った。

 

 

 

しょうがないことに、鹿波はドイツ語が出来なかったので通訳してやる。

 

 

 

 

 

花屋では、鹿波は花束を3束買った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工場に着く。

 

 

 

 

 

工場は、前に来た時よりも寂れていた。

 

 

 

人が居た場所に、誰も来なくなった後特有の空虚さと、一抹の侘しさを感じる。

 

 

 

鹿波を見ると、すでに顔色が悪い。

まだ周りは明るいというのに、寒いのか、僅かに震えながら付いてくる。

 

 

その顔色は青白く、唇は紫色に染まっている。

 

 

大丈夫なのか、と声をかけようか迷うほどに酷い顔ではあったが、その足取りはしっかりとしている。

 

 

その様子を見て、大丈夫だろうと思い、どんどん進む。

 

 

時たま様子を確認するために、ほんの少しだけチラッと後ろを確認するが、こうやって私がチラチラ見ていることにも気づいてないようだ。

 

 

いざとなったら支えてやらないと、いつか倒れそうな危うさがある。

 

 

 

「………………………………………………か」

 

 

 

何か言ったようだが、周りの風の音と、鹿波の声が細すぎて聞き取れない。

 

 

 

空にいくつか見える雲は全く動く気配もなく、穏やかな蒼色の空が私たちを見守っている。

 

 

 

…雲が動いてない?

こんなにも、私の周りには風が吹いているのに?

 

 

 

そんなこともあるか。

そう思い、後ろを振り返ると、顔色が青色を通り越して白くなっている鹿波が、足を止めていた。

 

 

もう建物はすぐそこだが、立ち止まられては仕方ない。

私は鹿波の近くまで戻って、ひょいと顔を覗きこむ。

 

 

僅かに震えながら眉をひそめて立つその姿は、まるで何かに苦しめられているかのようで。

 

 

10分もの間待たされた私は、ほんの少しの苛立ちと、大丈夫かどうかの心配で、微妙に睨み付けるような顔をしていたことだろう。

 

 

鹿波がようやく顔を上げた。

 

 

 

「気付いたか」

 

 

 

もう建物は目の前だ。

 

 

 

こいつがここまでの霊障もちとは。

 

 

いや、それだけここの子たちの怨念が強いのかーーー。

 

 

 

 

以前の襲撃時にぶち破った扉とは違う、電気が来ていたころは電子ロックされていたであろう扉を、力づくでこじ開ける。

 

 

 

 

細胞レベルでオーバースペックな私には、この程度は障子を開けるのと大差ない。

 

 

 

以前来た時の記憶とともに思い出した間取りを頭に描いて進む。

 

 

 

とはいえ、後ろからついてきているこの男には、真っ暗な闇が広がって見えるだけだろう。

 

 

 

仕方がないので、少し進んでは立ち止まり、鹿波がついてきているか気にしながら奥の部屋へ。

 

 

 

仕方がないとはいえ、束さんがこんな、案内人の真似事をすることになるなんてね。

 

 

こいつと出会わなければ、こんな事をするなんてあり得なかっただろうな、なんて考えて。

 

 

さあ、まずはここ。

 

 

 

培養機の立ち並ぶ、水子たちの居た跡。

全員残らず私が殺した。

 

 

まだ自我さえ生まれていない、小さな小さな命たちも。

自らの欲望にまみれ、罪なき子どもたちを弄ぶ科学者たちも。

みな、平等に。

 

 

 

「説明しろ…って、言ってたよね」

 

私は口を開く。私が壊したこの場所が、どんなところだったか説明するために。

 

 

 

 

「ここはドイツ。

生体兵器、遺伝子強化試験体の製作工場跡。

今でこそ稼働していないけど、ここでは数千単位で試験管ベビーを、文字通り作っていた」

 

 

「デザイナーベビーってやつか…」

 

 

今にも倒れそうなふらつき方で、それでも今度ははっきりとした芯のある声が返ってくる。

 

 

 

そうだ。そう。

そうだとも。

ここは。

 

 

 

「そう。

人を人と見ず、モルモットのように、いや、まるで粗悪品と規格合格の工業製品のように、命を作っては使い潰していた場所だ」

 

 

 

 

ふと右を見る。

 

 

かつて私が全て破壊した、培養ポットの残骸が、そこには放置されていた。

 

 

「あれは培養ポット。

母親の胎内の代用品だ。

…ここにいた子達は、私が全員殺したよ。

勝手な都合で生み出され、実験体になるならいっそ、と思ってね」

 

 

 

そうだ。

私が殺した。

 

 

 

私は決して善人などにはなれないけれど。

 

 

 

それでも、目の前にある光景は、到底許せるものだと思えなかった。

 

 

「…その子達の、骨はあるか」

 

 

部屋のすみに指をさす。

 

 

気休めにもならないけれど。

自分勝手な感情だけど。

 

 

 

この子たちを、死んだまま放置するのは嫌だった。

 

 

 

鹿波は持っていた花束の一つを、桐の骨箱の前に供え、手を合わす。

 

 

 

…やっぱりこいつは、私が思っているほど悪い人間ではないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

続く部屋にある、私が即興で作った銀の十字架は、まるで鉄のようにくすんでしまっていた。

それを見て私は悲しくなったが、目の前の男の真剣な眼差しに、いつの間にか手をとって、十字架の前に連れていく。

 

 

 

この部屋の子たちは、抵抗してきた科学者たちの兵器によって、骨すら残らず肉片が飛び散るだけだった。

 

 

だからこの部屋は今でも鉄臭い。

 

 

 

 

 

 

 

最後のフロアにつく。

 

 

 

 

もはや鹿波はまっすぐ歩くことすら出来ない程にフラフラで、顔を見ようにも土気色にでもなっているのか、表情を全く読み取ることができない。

 

 

 

と、思ったら、ふいに真っ直ぐに立ち、私の手を振りほどき、台の上に花束を置いた。

 

 

 

体の状態が戻ったのか?と思ったが、なんだか様子がおかしい。ずっと顔を上にあげ、全く動く素振りがない。

 

 

 

やおらに鹿波は振り向いて、私の顔を見た途端、驚いた表情をした後、まるで、お礼を言うかのように笑った。

満面の笑顔。

そしてその後ろには、蒼緑色の光が、右側に3つ、左側に3つ、そして頭上に1つ、小さな小さな白い点のようにチカッと見えた。

 

 

意味がわからない。

 

 

確認するようにもう一度見ると、光はすでに消えており、鹿波はゆっくりと降りてくる。

 

 

何の光?見間違い?

ありえない。私ははっきりこの眼で見た。

 

 

「お、おい…」

 

 

私の声が聞こえていないのか。

 

 

鹿波は、ただ淡々と、これまで来た道を歩いて戻っていく。

 

 

私の目の前を通り過ぎて行くその顔は、しっかりとした意識が確かにあるように見えた。



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クソ兎から束へと

早く…早く日常編に戻りたい…。
最初はふとした思いつきだったんや、こんなに長くなるとか思ってなかったんや…。


皆も日常編の癒しが欲しいよね


工場を出た俺たちは、海に沈む日を眺めていた。

 

 

祭壇のような台に最後の花束を供えた後、俺はあれだけ感じていた寒気が嘘のようになくなっていることに気付いた。

 

 

それはそれは非常に不気味なことこの上ないんだが、同時に俺は、しっかりとあいつらに花束を贈ることができたことにほっとしている。

 

 

俺たちは海岸の、天然の岩場の崖上にいる。

崖の上にはなだらかな平原が広がり、のどかな牧草地帯となっている。

 

 

 

何も言わずにタバコを吹かし、傍らに座る女を見る。

 

 

女は頭にメカメカしいウサ耳をつけ、青を基調としたワンピースを着ていた。

 

 

そう、篠ノ之束である。

 

 

 

彼女は牧草地帯の端、ややゴツい切り立った崖の上の岩場に腰を下ろし、足をぶらぶらとさせながら、穏やかな顔をして、夕日を眺めていた。

 

 

 

その様は、こいつのことを好きではない俺が見ても、一枚の絵画として切り取って残しても良いと思えるほどに映え、俺は、何とはなしにその横顔を眺めていた。

 

 

 

 

「…なあ」

 

 

 

ふと疑問に思ったことを聞いてみる。

そう、こいつはーー

 

 

 

「結局お前、何がしたかったんだ」

 

 

 

俺をこんなところまで連れてきて、何をしたかったのか。

 

 

それが気になった。

 

 

 

「…うん」

 

 

 

そう言って、こちらを向きながら俺を見る眼は、まるで美しい湖のように澄んでいて。

 

 

俺を見るその表情は、俺に銃を突きつけた人物と、とても同一人物だとは思えないほどに穏やかな顔だった。

 

 

 

「…そうだね」

 

 

 

その人物はそう言って、俺から視線をふいと切り、再び夕日に顔を向ける。

 

 

 

「何から話そうか…」

 

 

 

そう切り出したこいつは、ぽつりぽつりと話し出した。

 

 

 

いわく、自分の子どもたちが新しく増えてることに気付いたこと。

 

 

 

俺がISコアを作っていることを突き止めたこと。

 

 

 

俺が作ったISをどうするのか、知る必要があること。

 

 

 

そして俺が、どんな人間かを探っていたこと。

 

 

 

それらは時々に、ISに対する愛情や親心が見え隠れしていて、ますます俺を苛立たせた。

 

 

 

そして最後に、俺の顔を真っ直ぐに見つめて、こう言った。

 

 

 

 

「確かにお前はむかつくような言動を私にするけどさ。

 

 

 

でも、なんとなくお前は、誰にでもそんなことをする奴じゃないと思うんだ。

 

 

 

だから、別にお前なら良いかな、って」

 

 

 

だいぶ主語が省略されていて分かりにくいが、多分、俺はこいつに認められたんだろう。

 

 

 

俺なら、ISコアを作っても良いと。

 

 

 

悪いようには、しないだろう、と。

 

 

 

バカが。

 

 

 

思わず自分勝手な感情が、俺の口をついて出る。

 

 

「お前は、そんなに簡単に人を信用するのか。

まだ会って数時間の人間を。

 

 

ほとんど会話などしていないような状態で、わが子ほどに大事に思うISコアを作れる人間を、お前は本気で信じるのか!」

 

 

はっとして気付くが、もう遅い。

口をついて出た言葉は戻らない。

 

 

 

このクソ兎は、相変わらず穏やかな表情のままこちらを見つめてくる。

 

 

 

俺は、もういっそ、ずっと思っていた気持ちを吐き出してやろうと思った。

 

 

 

そう思った時には既に、俺の口は全て吐き出していた。

 

 

 

「いいか、はっきり言ってやる。

俺はお前が好きじゃない。鬱陶しい、苛立たしいとさえ思っている。

 

 

俺はお前が嫌いだ。

 

 

お前は学会でISを発表した時に、理論を認められなかっただろう。

 

 

それなのに、お前の理論を認めなかった者たちは、お前の発表した理論の都合の良い部分だけを自分勝手に利用した。

そんな奴らが多くいると言うことを、お前は自分の経験から分かっているはずだ。

知っているはずだ!

 

 

それなのに貴様は、ISが宇宙へ行くマルチフォームスーツとして利用されず、軍事利用されていることを悲しんでいる。

もしくは不機嫌になっている。

 

 

 

そうでなければ貴様は今も、ISを作っているはずだ。

自分の想定した目的のために、自分の作った道具を正しく使われて嫌な思いなどしないからな。

 

 

 

だが、貴様は多数の人間が、自らの都合の良いようにしか道具を使わないことを、よく理解していただろうに。

 

 

 

本当に貴様が、ISを軍事利用されることを嫌うなら、初めから戦闘行動が取れないようにプログラムすれば良かっただろう。

 

 

 

軍事利用される可能性を知っていて、それでも戦闘行動が取れないようにプログラムしなかったくせに、貴様はまるで本当に悲しんでいるかのように不機嫌に振る舞う。

 

 

 

矛盾しているんだよ、お前の行動は。

 

 

 

 

俺は、ずっとISコアのプログラムを見てきた。

貴様の足跡を追ってきた。

貴様のことを、一技術者としては尊敬すらしている。

 

 

 

だが!

俺は、貴様のその行動が!貴様のその言動が!

 

 

 

大っ嫌いなんだよォ!」

 

 

 

ハア、ハアと、肩で息をしながら前を見る。

思わず感情的になっていまったが、これでいい。

 

 

俺はこいつが嫌いだ。

 

 

技術者としては本当に素晴らしく、ISコアの自律進化プログラムなどは本当に感動した。

 

 

 

ISを、本当にわが子のように思っていることは、ハードの丁寧なつくりと、ソフトウェアの端々から知っていた。

 

 

 

だからこそ、宇宙空間での活動用のマルチフォームスーツとして設計されているISに、武器や防具の拡張領域などという無粋なものがあるのか、本当に理解に苦しんだ。

 

 

武器拡張領域やシールドエネルギーなどといった、戦闘行動のためだけに設定されていたそれらは、宇宙空間での活動用に設計されていたプログラムに無理やり後付けされ、その素晴らしい在り方を歪められていた。

 

 

 

ISを認めなかった、その悔しさは容易に想像できるし、実際こいつはそんな想像上の悔しさなどとは比べ物にならないくらいの屈辱を味わったんだろう。

 

 

 

だが、それでも、これほどにまで大切に思っていたISを、こいつは、そいつらに認めさせるための道具として利用した。

 

 

 

罪悪感からか、絶対防御などという、搭乗者保護機能こそ付いているが、これも完全とは言いがたい代物である。

 

 

 

故に俺は、このクソ兎が嫌いだ。

 

 

 

これほど人類にとって素晴らしい発明を、こいつはあろうことか武器などという人の命を奪いかねないモノに落としたのだ。

 

 

 

そのくせ軍事利用されていることに深い悲しみを抱いている?

 

 

ふざけろ。

 

 

 

そう思いながら、クソ兎の方を見る。

 

 

 

俺の見たその表情は、悲しげに眉をひそめたものだった。



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クソ兎から束へと2

一話では難しかったので分割。


おかしい、予定では千冬さん話の前座だったはずなのに。


俺が本人に、クソ兎大っ嫌い!な理由をシャウトした後。

 

 

悲しげに目を伏せながら奴は、話を切り出した。

 

 

「確かに私はあの子たちをーーー、ISを、愚鈍な大衆に認めさせるために、闘えるようにした。

 

 

だけどね、元々ISはただの宇宙空間での活動用マルチフォーム・スーツであって、自己進化プログラムなんてなかったんだ」

 

 

沈みゆく夕日に顔を向ける。

奴の顔を見ているだけで、またしても自らの感情が爆発しそうだったから。

 

 

言い訳など聞きたくない。

しかし、ちゃんとした道理が通っているなら聞かねばならない。

 

 

それゆえ、落ちてゆく夕日を睨み付けるように、夕日に対して目をすがめつつ、話にのみ集中しようとする。

 

 

 

「初めは、私が宇宙に行きたい、っていう夢を叶えたいだけだった。

宇宙に行く方法はいくつかあるけど、私は自分の方法で宇宙に行きたかったんだ。

宇宙には、私のまだ見ぬ夢や未知が、きっとあると思ったから。

 

 

でも、その方法を取るには、まずはその方法の存在を知らしめなきゃいけなかった。

 

 

今となっては周りのことなんて気になんかしないけど、当時はまだ、自分の方法が認められて、自由に宇宙に行けるようになる、そう思ってたからね。

 

 

 

でも現実にはそうはいかなかった。

 

 

 

君の言う通り、私の発表は認められなかった。机上の空論だ、ありえない。

そうやって、笑い者にされるというおまけ付きでね。

 

 

 

だから私は、無理やりにでも奴らに認めさせるため、ISに戦闘能力を持たせた。

 

 

 

そうすれば、さすがに私の言うことを聞くだろう、そう思ってさ。

 

 

 

だけど、実際には私の発表は結局伝わらなかった。

誰もがISを新たな軍事力としてしか見ず、世間は女尊男卑になり、私を良いように利用しようと、国家は圧力を掛けてきた。

 

 

 

ご丁寧に、家族まで人質に使ってね。」

 

 

「…重要人物保護プログラム、か」

 

 

「そ。私は確かに両親とは、特に父親とは合わなかったし、仲良くしたいとか分かり合おうとは思ってなかったけど。

 

 

それでもやっぱり育ててくれた親だし、嫌いって訳じゃなかった。

 

 

それに、箒ちゃんも人質に取られてたから、従わない訳にはいかなかった。

 

 

 

その後は、知ってるでしょ」

 

 

「ISを467機作り、逃亡。か?」

 

 

 

「そう。

でも、途中でIS作ってて思ったんだ。

 

 

これからこいつらの言うことを聞いてISを作り続けても、こいつらは更に私に兵器を作ることを要求してくる。

 

 

ISという名の、私の夢そのものを、兵器として、ね。

 

 

 

そう気付いてからは早かったよ。

 

 

 

逃亡用に原子炉式の移動ラボを隠れて作成し、全てのISコアたちに自己進化プログラムを書き込んだ。

 

 

 

最初は兵器としてしか使われることがないだろうけど、それでもISたちには、大切な何かを見つけて欲しいと願って」

 

 

 

「ふん、下らん。ISを兵器として使われたくなかったら、その時にでも戦闘行動が取れないようにでもプログラムすれば良かったのだ」

 

 

 

「馬鹿言わないで。

こっちは人質に愛しの妹、箒ちゃんを取られてたし。しかも自分が逃げる前なんだから、そんなことしたら当然私の仕業だってバレるでしょ」

 

 

 

「それなら逃亡後にでも遠距離ハックすれば良いだろうが。貴様ならハッキング程度、鼻唄を歌いながらでも余裕だろう」

 

 

 

「それで箒ちゃんたちに危険が及ばないならそうしてる。

正直、今の私の大脱走だってけっこう危ういバランスの上に成り立ってるんだよ」

 

 

 

 

 

「…ふん」

 

 

なるほど。確かにこいつの言う通り、途中から自分の意思ではもう止まらないところまで行き着いてしまっていたらしい。

それは認めよう。

 

 

だが。

 

 

「そもそもの話、貴様が白騎士事件などという形でISを認めさせようとするからいかんのだ。

ISの雛型、白騎士が出来たのならば、戦闘能力を持たせていない、ただのマルチフォームスーツで、自分の好き勝手に宇宙なり深海なり、行けば良かっただろうが」

 

 

 

 

「まあ、そこはねー…。正直、頭に血がのぼって、冷静じゃなかったからね。

 

 

しかもほら、客観的に見ても、束さん天才じゃん?

なまじっか能力があるから、やろうと思えば思いつきを現実に出来ちゃうからさー…」

 

 

 

「ふん、一つ教えてやる。

それは、言い訳と言うんだ」

 

 

 

「うるさいなあ!知ってるよ!」

 

 

 

ぷんぷん、などと言いながら、拗ねたように唇を尖らせる。

その所作がやけにイラッと来たので、俺はタバコを吸った息を、その顔面にフーッ、とくらわせる。

 

 

 

「うわっ、けっむ!

やめい!」

 

 

 

うわぁぁぁ、タバコくっさぁ、などと言いながら手をバタバタと振っている。

 

 

 

その様子を見ながらふん、と鼻で息を一つはく。

さっきから俺、ふんふん言い過ぎじゃない?

なんて。

 

 

 

 

 

タバコをくわえながら、なるほど、確かに自分の大事なものを人質に取られてでもいなければ、こいつが好き勝手に良いように使われたりはしないか、と、半ば納得していた。

 

 

 

そうすると、確かに初めのISの武装化、という部分の失敗を除けば、こいつの主張するところには、そうおかしな部分はない。

 

 

 

それで俺がこいつを嫌いでなくなる訳ではないが、以前ほどこいつを嫌うという感情は薄くなっていた。

 

 

 

あれほどの完成品を武器に落としたことは未だ許せんが、しかしISの自己進化プログラムを組み込んだ理由はよくわかる。

 

 

 

 

技術者としての、ささやかな抵抗、という訳だ。

 

 

 

 

うまくすれば、闘う能力を持ちながら、闘いを望まないISが生まれるかもしれない。

 

 

 

もしISが闘いを自分自身の意思で拒むようになれば、それは、搭乗者の道具ではないISの、平和への一歩になるかもしれない。

 

 

 

「でもさ、ISが自己進化するようになったら、当然闘いを望むISとか、虐殺が楽しみになるISが生まれる可能性もあるよな」

 

 

 

俺がそう言うと、バタバタしていた手を止めて、こちらを微笑みながら、こう言った。

 

 

 

 

 

「それでも、私はあの子たちの、進化の可能性を信じているからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時から、俺はこのクソ兎のことを、束と呼ぶようになった。



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【束】墓場からの祝福

な、長かった…orz

この束さん編が終わったら、ようやくIS学園日常編の予定です。

時系列的には、まだIS学園ではシャルとラウラが転入したあたりなんですよ…。

おっそい。


あれから私たちは、束さん特製の移動式ラボに戻り、IS学園に到着。

 

 

鹿波をIS学園に送ってから、再びいずれとも知れぬ大海をさまよう旅の再開である。

 

 

 

 

 

 

「束様」

 

 

「ありがとークーちゃん」

 

 

私はデータを解析していた手を止め、クーちゃんから紅茶を受け取った。

 

 

 

私が今解析しているデータは、鹿波と共に廃工場に入った、あの時のものだ。

 

 

 

あの時私は確かに様子のおかしい鹿波の後ろに、7つの妙な青緑色の光を見た。

 

 

 

はっきりいって私の身体は異常に能力が高い。IQ、身体能力、毒物への耐性もさることながら、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の能力の高さは、最新式のデジタルカメラよりも信が置けるほどだ。

 

 

まさに細胞レベルでオーバースペック。

 

 

それを地でゆく私の身体が、見間違うなんてことはありえない。

 

 

それゆえ、高感度カメラの映像を解析しているのだが。

 

 

 

 

「出ない…」

 

 

 

 

そう。出ない。いくら探しても、あの光を見た一瞬が出てこない。

 

 

 

鹿波をロープ銃で捕まえた時のアホっぽいまぬけな顔も、工場の最奥のフロアで様子のおかしなところも、ばっちり撮れているのに、だ。

 

 

 

仕方ないので、マイク、サーモグラフィー、赤外線カメラと見ていった時、見つけた。

 

 

 

赤外線カメラには、一瞬だけ、7つの光がチカッと瞬いている瞬間が写っていた。

 

 

 

しかし、他のデータも赤外線カメラのデータも、それ以外には何もおかしなものは写っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そうすると謎なのは、この不思議な7つの光である。

 

 

 

親の七光り、という言葉があるが、あれは現実に7つ光る訳ではない。

 

 

 

というか、あいつの両親は別にごく普通の人間だった。

 

 

 

むしろ鹿波のような、私の技術についてこられるような人間を生み出したことが異常なのではないか、と思えるくらいに普通だった。

 

 

 

鳶が鷹を、などと言うと失礼かもしれないが。

 

 

 

そういえばうちの両親も普通ではあるな、なんて。

どうでもいいような、益体もないようなことをつらつらと考えて、ふと整理されていない綴じた紙の分厚い資料が目にとまる。

 

 

 

 

この資料は40枚ほどの紙がまとめられたもので、私が襲撃して潰してきた各地の非人道的な実験を行う工場の資料だ。

 

 

 

捨てなきゃなー、なんて考えていて鹿波の件のせいですっかり忘れていたが、そこの工場の一つに鹿波を連れて行った工場の情報も載っている。

 

 

 

実験体の総制作数27865。

 

 

 

第一条件突破数、つまり受精卵として安定した数7291。

 

 

 

第二条件突破数733。

これは培養ポットのあるフロアまで行った数。

 

 

つまり、少なくとも733の水子の命を、私は救えなかった。

 

 

出来たことは、骨を拾ってあげることだけだ。

 

 

 

 

第三条件突破数38。

 

 

これは赤子までは安定して成長し、IQテストなどを受けた子たち。

 

 

既に彼女らは、骨すら残らず逝った。

 

 

気休め程度の銀の十字架だったが、何もしないよりはマシだろうな、と思える。

 

 

 

 

 

最終過程到達数8。

 

 

 

これが最終過程突破数でなく到達数なのは、これ以上被害を受ける子たちを増やさないよう、私が工場を潰したからだ。

 

 

 

私が工場を襲撃し、応戦され、血みどろの地獄絵図と化した世界で。

私は、もはや死ぬのに秒読み状態となった子どもたちを介錯してきたし、これまで何人の子どもたちが被害にあったのか、全て情報を抜きとり、実験内容と実験結果は闇に葬り、被害にあった子どもたちの数は、一つたりとも忘れていない。

 

 

 

あの、鹿波と共に入った工場で。

 

 

 

実験体としてしか扱われなかった少女たちは。

 

 

 

 

私の記憶から、消えることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても」

 

 

 

困った。

 

 

 

さっぱり思い浮かぶ気配がない。

 

 

 

うーん。

うん?

 

 

 

まさか。

 

 

 

7じゃなくて、8?

 

 

 

 

おかしな様子の鹿波と、7つの光。

 

 

 

あの時の鹿波の霊障の具合を考えると、一人は鹿波に、他の七人があの場の光だった、と考えられる、のかな。

 

 

 

確かにあの時の鹿波は、これまでとは違って黙祷も何もしていない。

 

 

 

花束を台の上に置いて、上を見上げていただけだ。

 

 

 

じゃああの笑顔は?

 

 

 

鹿波に対するお礼、とかなら鹿波が笑顔になるのはおかしい気がする。

 

 

 

うーん。

 

 

 

笑顔っていうのは、もともとは威嚇するもの、という話はあるけど。

 

 

 

それだと鹿波があの後、寒気を感じなくなった、と言っていたこととつじつまが合わないし。

 

 

 

私が威嚇されてた、とか…。

 

 

 

うわぁぁぁ、そうだったら嫌すぎる。

 

 

 

 

 

きっとそうじゃないと信じたい。

 

 

 

そうじゃないと信じることにすると、堂々巡りで戻ってくる。

 

 

 

うーん、うーん、うーん、うん?

 

 

 

お礼?

 

 

 

ふと、もしかしたら、という可能性を思いつく。

 

 

 

急いでカメラの、様子のおかしくなった鹿波の口元を確認する。

 

 

 

とは言え、4kの高感度カメラでは真っ暗で何も見えないので、確認するのは赤外線カメラのデータだ。

 

 

 

唇の動きから、およその発音を予測する。

 

 

 

 

あ、い、あ、お、う?

 

 

 

あいあおう?愛…、相?

 

 

 

だとしても、あい、の後の、会おう、がどうつながるのか、よくわからない。

 

 

 

うむむ。

 

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

 

あーでもない、こーでもないと、頭を右に左に揺らしていたらクーちゃんに聞かれた。

 

 

 

えーっとねー、ここなんだけど。

 

 

 

なんて言ってるんだと思う?

 

 

 

「これは…、ずいぶんと嬉しそうといいますか。なんだか、喜んでいるみたいですね」

 

 

 

そうかな?いや、私では人の心情を読み取るとか、斟酌する、なんて難しいから、クーちゃんがいうならそうなのかもしれない。

 

 

 

人の表情から感情なら読み取れるんだけどなぁ。

 

 

 

で、なんて言ってるのかな?

 

 

 

「おそらく、ありがとう。ではないかと」

 

 

 

ありがとう。か。

 

 

 

「そういえば、束様はこの工場でも火葬を?」

 

 

 

うん、私が作ったISの、間接的な被害者たちだからね。

 

 

 

ISを作ったことが間違いだとは思わないけど、私の発明のせいで出てきた被害なことは確かだし。

 

 

 

出来る限りのことは、してあげたよ。

 

 

 

「では、そのお礼なのかもしれません。束様に対しての」

 

 

 

 

私のせいで起きた被害者に、私がお礼を言われることなんてないと思うけど。

 

 

 

 

「確かに束様の発明によって、私やラウラ、この子たちは被害者として生まれてきたのかもしれません。

 

 

ですが、束様によって救われた者がいることも、また事実です。

 

 

私のように」

 

 

 

…そっか。

 

 

 

「ですから」

 

 

 

そう言って、クーちゃんは思わず見惚れるような笑顔でこういった。

 

 

 

 

「これからも頑張りましょう。私も、あの世まで御供します」




主人公に一人の守護霊が付きました。
これは人のこない場所で弔ってくれる人が基本的にいないこと、主人公が真摯に黙祷を捧げてくれたためです。


ちなみに束さんは、生身の人間からはけっこうな顰蹙や恨みを買ってますが、弔った子どもたちからは守られています。ものすごく。

束さんがあんなに怨念渦巻く工場跡地で寒さを全く感じなかったのは、実はそういう理由からです。


本編では明かされることのない設定なので、ここに。


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戻ってきたIS学園

日常編、開幕。


IS学園よ。私は帰ってきた!

 

 

ガトーォォォ!

 

 

はい。

帰ってきましたIS学園。

 

 

 

いやー、束との旅は難敵でしたね。

ははは。

 

 

 

今はまた、IS学園の整備員として、ぐうたら過ごす毎日を送っています。

 

 

あの後帰ってきてから一週間、やけにラッキーというか、何かに守られているんじゃないかってくらいに運が良かった。

 

 

まず、帰ってきた後にIS学園内では既に終業時間をとうに過ぎ、俺を待っていたのは轡木十蔵さんと織斑教諭。

 

 

いや、実質的な責任者の轡木さんは分かるとして(俺が整備課の課長的なポジションのため、俺の上には数人しかいない)。

なんで織斑教諭が?

 

 

 

と思っていたら解決した。

IS学園内に不審なレーダー反応をキャッチ、そのため緊急警備態勢になっていたそうだ。

 

 

 

すいません、多分それ、ついさっきまで俺が一緒にいた奴のせいだと思います…。

 

 

 

 

そんなわけでかくかくしかじかまるまるうまうま。

篠ノ之束博士に拉致されてましたー、怪我はありませんでしたー。

終業時間どころか昼からずっといなかったのはそのためです。すんません。いやホント。

 

 

 

こんな説明をしたところ、なんと。

いつもなら始末書ものだが、意外にもここで織斑教諭が助け船を出してくれた。

 

 

 

いわく、あいつに拉致されて、五体満足で帰ってくるだけでも偉業。

その日のうちに帰ってくるなんて賞賛に値する。と。

 

 

 

 

 

え。

なにそれ。

あの兎さん、殺戮兵器かなにかなの?

うわぁ。

 

 

 

 

しかも轡木さんも、織斑君がそう言うなら、今回は不問としようて。

 

 

 

 

 

ええ…。

それでいいのかIS学園…。

 

 

 

 

 

実はそういうのも、正体不明のレーダー反応だったらしく、場所を捕捉する前にレーダー反応が消失、誤作動を疑うも海中ソナーにも同様の感あり。

 

 

 

すわ、敵襲か、といったところで緊急厳戒態勢、つまりは臨戦態勢一歩手前だったらしく。

 

 

 

敵の襲撃でないことが判明したため、無用な騒ぎにならずに済んだこと。

また、織斑教諭いわく「天災だから前もって対処とか無理」であるということから、今回は特別にお咎めなしと相成った。

やったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日から、つまり再びIS学園で整備員として働いて一週間。

 

 

やけに運が良かった。

 

 

 

 

例えば2年の更識楯無からデートのお誘いがあったが、なんだか嫌な予感がしたので

 

 

 

「来週の土曜日は那珂ちゃんのライブがあるんで」

 

 

 

とか適当言ってパスしたら、後日生徒会の布仏虚から、テロの未然予防のための警戒監視、見回りであることが知らされた。

 

 

 

いや、なんだテロの未然予防って。

 

 

 

 

なに?

うちの生徒会は裏家業かなにかなの?

コブラなの?

いやゴルゴか。

 

 

 

まあそれはどっちでもいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

そんな物騒なことに誘って、もし戦闘になって俺が怪我したらどうするの?ねえ?

 

 

 

とりあえずとっちめて楯無を問い詰めたところ。

 

 

 

戦闘になる可能性は低く、俺の頭の回転の早さを見込んで手伝ってほしかった。

仮に戦闘になったとしても、他の暗部が俺を連れて逃げ、更識がISを展開して戦闘を受け持つつもりだった。

 

 

などなど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、とりあえずさ。

暗部って何。

まさかほんまもんのヤクザ?893さんなの?クルルァなの?

おうぁくしろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

893とかこわいなー、とづまりすとこ。

 

いやまあ原作でなんか暗部とかそんな感じだったのは知ってるんですけどね?

 

 

 

 

まあその後楯無は無事、布仏虚さんにお説教されてたからいいけど。

廊下で正座はつらいよな。

うんうん。

いい気味だ。

 

 

 

だからこっちを涙目で助けを求めるように見てきてもダメです。

俺はふははははー、なんて高笑いしながら立ち去った。

 

 

 

ちょっと会長、よそ見しない!聞いているんですか!

 

 

 

とか後ろから聞こえてきたけど、しーらない。

わーっはっはっは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとそれ以外では、轡木さんがやけに若い女の人とショッピングモールにいるのを見かけて、口止め料として諭吉さんを10人もらったりとか(轡木さんは既婚者。轡木さんの奥さんはIS学園の学園長)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、あと山田先生から飲みのお誘いが来ました。

と言っても、また今度学校の業務が落ち着いた時にでも、という話だったが。

真耶ちゃんは教師としても人としても立派だからね。

好感が持てるよね。

 

 

 

 

 

 

 

というか、真耶ちゃんに頼みごとをされたら、IS学園の教員で断る人なんていないんじゃないかな。

マスコットキャラみたいに皆から大事大事にされてるからね、仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、織斑教諭が機嫌悪い時に運よく出くわさなかったこともあったな。

なんでも、ドイツでの元教え子に「こんなところで教師なんて」みたいなことを言われてショックだったらしい。

それって「こんなところ」の方にショック受けたの?

それとも「教師なんて」って言われた方にショック受けたの?

正直俺も、織斑教諭に教師は似合わないと思ってるから、「教師なんて」って方にショック受けてるんだったらちょっと面白い。

 

 

 

 

 

 

その時は本当に一度たりともすれ違うことすらなかったけど、後日他の教員の方から怖かったねー、みたいに話を振られたから、そうなんですか?って聞いた。

 

 

 

そしたら、えー、知らないのー。いいなぁ。

なんて言われたから、よっぽど機嫌が悪かったんだろう。

 

 

 

でも、織斑教諭って、大したことないようなことでもすぐに生徒に体罰するって聞くしね。

なんだっけ。出席簿アタックだっけ?

 

 

 

正直生徒がしでかしたことの程度が酷ければまだ理解出来るけどさ。

 

 

 

注意の前に手を出すような教師、俺は嫌いなんですよ。

 

 

 

まあ、実際に出席簿で叩いてるところを見たことがないので、割とどうでもいいんですけど。

 

 

 

そんな話もあるため、別に織斑教諭のことは好きではない。

特に嫌いでもないけど。

でも噂が本当なら嫌いになるかも。

 

 

 

 

 

織斑教諭がそんな人なんて失望しました。

那珂ちゃんのファンやめます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、あと織斑君(一夏君の方)とはよく話をするようになった。

 

 

一夏君は料理が得意らしく、おやつに作ってきたというマフィンをもらったのも、この一週間での出来事。

 

 

 

どうでもいいけど、ウマー(°Д°)かったです。




ようやくの日常編。やっと入れた…。


ちなみに一週間です。7日です。
一日一人。
分かりますかね?


那珂ちゃんのライブは来週の土曜日:シノさんの曙いじり提督より。9.5。


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幕間 それぞれの日常

皆那珂ちゃん好き過ぎィ!


さて、IS学園では現在、学年別トーナメントの準備に教員、事務員、整備員その他スタッフが奔走している。

 

 

一年生、二年生、三年生の順に学年別でトーナメントは行われる予定で、二年生、三年生と学年が上がるほどその内容はハイレベルなものとなる。

 

 

 

そのため、一年生や二年生はもちろん、三年生でのトーナメントではジャーナリスト達だけでなく、各国の重鎮、政府の軍事・IS関係者。

 

 

果てには英国その他、一部の王政各国からは王室の、まさにやんごとなき身分と言っても差し支えないほどの重要人物が、ここIS学園に集まることになる。

 

 

 

当然、その時の迎えの手筈を整えたり、重要人物の保護のための人員の手配や確保。

 

 

トーナメント出場人物の中でも専用機持ちには企業からの研究者、技術者、スタッフも、整備やパッケージ・武装の受け渡しなどに来る。

 

 

それらの人物たちに用意する整備スペースの割り振りや控え室の用意など、日常業務だけでなくどちらもともに平行して行う必要がある。

 

 

 

IS学園が有能・優秀な人材を確保するのはこのような場合にも、問題なく物事を進める必要があるためである。

 

 

 

例えばもし、IS学園についてから、ある国の控え室がありませんでした、となった場合。

 

 

 

事と次第によっては、日本とその国の関係が悪化する可能性がある。

 

 

 

また、IS学園で待機していて、テロリストに襲撃され、要人が暗殺、または拉致された場合。

 

 

 

IS学園のセキュリティレベルが問題あり、となる可能性がある。

 

 

 

どちらも国家間、ないしは複数国家と日本が対立する要因となる可能性があり、貿易、経済、または軍事の面での対立は、戦争の要因と成りうるのである。

 

 

 

そのため日本政府は、テロリストの未然警戒に暗部の更識家を初めとする、いくつかの裏の家々に警戒体制を要請している。

 

 

 

また、一年生はつい先日、この特殊なパワーバランスの上に成り立つIS学園に、二人もの転入生を迎えたばかりである。

 

 

 

そしてその転入生の一人は、既に問題行動を起こしており、イギリス・中国両国の代表候補生と私闘。

 

 

 

ダメージレベルCを超える損傷を与えており、IS学園にはイギリス・中国両国から抗議が続いている。

 

 

 

そのイギリス・中国の代表候補生二人のISは、既にそれぞれの所属企業に預けられ、修復に入っているという。

 

 

 

 

IS学園の整備員が、国家機密そのものたる専用機の整備に携わることは、基本的に無いのであった。

 

 

 

さて、そんな事情により、現在の教員室では慌ただしく教員が駆け回り、ひたすらパソコンのキーボードから発せられるカタカタカタカタという音が、途切れることなく続いている。

 

 

 

 

特に学年順である関係で、最も先に準備しなければならない一年生担当の教員達は、まさに鬼気迫る様子である。

 

 

 

ただでさえこの時期は忙しくなることに加え、織斑教諭の担当するクラスでは、織斑教諭の元教え子たる、ドイツからの転入生が、同学年のイギリス・中国両国の代表候補生と事を構え、あろうことか出場不可能にしてしまった。

 

 

 

そのため織斑教諭はもちろん、普段ならどんな時でも笑顔と愛嬌たっぷりの山田真耶先生すら、並々ならぬ迫力であり、教員達の中でもトップレベルの爆弾、いや危険地帯であった。

 

 

 

そのため、ほんの僅かでも手伝うことの出来る人員は、一年生担当の中でも特にこの両名を手伝っていた。

 

 

 

修羅場はまだまだ終わらない。

 

 

 

 

さて、そんな中、我らが整備員さんはというと。

 

 

 

こちらも絶賛修羅場中である。

 

 

 

学年別トーナメント開催が発表され、専用機を持っていない生徒が取る行動はなんだろうか。

 

 

 

 

そう。

 

 

 

訓練機を借りに来るのである。

 

 

 

そして学年別トーナメントは、キャノンボール・ファストのようなレース形式ではなく、純然たる戦闘形式である。

 

 

そのため、貸し出した訓練機はボロボロになって返ってきたりするので、整備課は人員を総動員して日夜メンテナンスに励むのである。

 

 

 

訓練用ISは数こそ多くないが、毎日数多の生徒が使うため、傷つき方やスラスターの劣化具合に癖や偏りがなく、しかしバランスよく傷ついている訳ではないという、まさに技術屋泣かせのレンタルのされ方なのである。

 

 

しかも直した直後にまた貸し出され、直している間にも返却され…。といった具合である。

 

 

 

当然、ある程度状態よく返ってくれば最低限のフォーマットと整備点検で貸し出す、といったことはしているが、残業してでも次の日までに全て整備しないと回らないのが現状である。

 

 

 

そのため、ここの整備担当者たちは、毎日朝から晩までひたすらISの相手をし続けるのである。

 

 

 

整備を怠れば当然、人命に関わるため、ミスは許されない。

 

 

そんな修羅場で、鹿波は心の中で叫んだ。

 

 

 

入所時の説明ではそんなに大変じゃないって言っておいて、実際は大変でしたっておかしいだろそれよぉ!

 

 

 

なお、既に四年目であるので、この心の叫びも四回目である。



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飲み会をしよう

スピーディー!!


学年別トーナメントが中止になった。

 

 

 

やったあ、もうこれ以上、朝から晩まで打鉄とラファールの整備のお仕事しなくていいんやね!

ヒャッホー!

 

 

 

 

 

 

なんでも一年生の織斑教諭が担当するクラスの、ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒのISが試合中に暴走。

 

 

 

原因は、ISに隠して入れられていたプログラム、″ヴァルキリー・トレース・システム″。

通称VTシステムである。

 

 

 

どうやら本来ならファーストシフトやセカンドシフトといった、自己進化の際にしか発生しない、IS本体の変形が突如発生。

 

 

 

溶け出したISはやがて、全盛期の織斑教諭とそっくりな姿へと変貌し、対戦相手であった織斑一夏君たちのペアを襲ったらしい。

 

 

 

っていうか、俺はその話を聞くまで、今回の学年別トーナメントがいつの間にかタッグトーナメントになっていることすら知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

何?

今年度のクラス対抗戦の時に謎のISが襲撃してきたことを踏まえて、アクシデントにも対応できるように?

 

 

 

中止になってしまった後に聞かされてもねー。

 

 

 

なんかね。

疎外感がすげーよね(´・ω・`)

 

 

 

 

まあ、今思えば2つ同時に借りられることが多かった気がしなくもない。

余裕無さすぎてあんまり覚えてないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

で。

トーナメントは中止にはなったけど、データ収集のために一回戦は必ずやるそう。

 

 

 

でもそれ、当然専用機持ち以外の生徒もやるんだよね?

 

 

 

お仕事けっこうあるじゃないですかやだー!

 

 

 

え、なに?

 

 

 

トーナメントが終わって一段落ついたら飲みにでもいこう?

だからもう少し頑張ってくれ?

 

 

 

軽く言ってくれますけどね、この二週間、どれだけIS整備してたか知ってます?

 

 

他の整備の人たちが、二人がかりで一台に一時間近くかかるところを、一人で延々やらされてたんですよ?

 

 

 

大体一台に30分、朝の9時から夜の10時まで、日曜日までトーナメント前で緊急解放しやがっ間違えた。緊急解放していただいたおかげで14日間。

 

 

 

しめて364台だよ!

 

 

 

ほぼ一年間の日数分やったんだよ!

 

 

 

それをもう少しだって?

 

 

 

冗談じゃない。

 

 

 

え、なに?

新しくできたバーに、良いボトルをキープしてある?

日本酒もうまい?焼酎もある?

 

 

 

 

…。

 

 

 

 

芋焼酎、ありますか?

 

 

 

ある。

 

 

 

ほう。

 

 

 

 

仕方ないなあ、全く。

 

 

 

 

今回だけですからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…行ったか」

 

 

ふう。

 

 

 

真耶のやつに

「鹿波さんのストレスがかなりたまってきてまずいらしいので、織斑先生、もし見かけたら飲み会の話を振って下さい!

 

 

整備課の雰囲気が今かなりヤバいらしいです!

どれくらいヤバいって、皆さんかなりイライラしてらっしゃるのに、その皆さんが不満を言えないくらい鹿波さんから不機嫌オーラが見えるほどで、轡木さんに直談判するくらいヤバいらしいです!

 

 

 

美味しいお酒のお話すればなんとかなりますから!

飲み会の話は私が責任持ちますからぁ!」

 

 

と言われて、とりあえず了承したはいいが。

 

 

 

そもそも、教員の私と整備課の鹿波では、基本的に接点がない。

真耶はよく話をしているらしいが、一体どこで出会っているのか。

 

 

 

私と鹿波は同い年だが、いわゆる接点のない同僚にあたる。

私は普段なら教員室でスケジュール管理や講義のマスを割り振ったり、ああ、今度は臨海学校での校外実習があったな。

いつもやることと言えば、書類に振り回されたり、様々な国や政府との折衝などだ。

 

 

 

 

向こうはといえば、普段は訓練機の整備や点検、保守管理だから、活動する場所がそもそも違う。

 

 

 

しかも普段の業務はそれほど大変ではないと聞く。

私はいつも終業時間ギリギリまでやらねばならんというのに…。

 

 

それなのに、少しの間大変なだけで不機嫌だと?

そんな甘ったれは、少し灸をすえてやらねばなるまい。

 

 

 

そんな私が飲み会の話を振るだと?

 

 

 

了承した手前、真耶には悪いがもし会ったら一つ二つ、説教してやろう。

 

 

 

 

そう。

 

 

 

 

これは説教なのだ。

 

 

 

断じて私怨などではない。

 

 

 

 

そう意気込んでいた私だったが、鹿波の姿を見て声をかけた瞬間。

声をかけたことを後悔した。

 

 

 

返事が返ってこない訳ではない。

むしろ、話かけたらしっかりと対応してくれるし、言葉遣いは普段通り丁寧だ。

 

 

 

 

 

そう。

 

 

 

 

声に恐ろしいほどの迫力と、血走った目でなければ。

 

 

 

 

 

 

返ってくる返事の全てが重低音で、まるで底冷えするかのような、地獄の底からの呼び声ではないのかと思える。

普通にこちらを見ているであろう目は、眼力だけで人が殺せそうなほどの圧迫感を感じる。

 

 

 

そしてこのプレッシャー。

ISの世界大会でも、ここまでのものを感じたことはない。

少しでも怯めば、たちまちへたりこみたくなるほど。

 

 

 

 

 

なるほど、これはアカン。

 

 

 

ついそんな感想が出るほどまずい。

 

 

 

整備課から轡木さんに直談判が行く訳だ…。

 

 

 

いかん、何か…。

機嫌を損ねない何か、何かないか!

 

 

 

 

そこで私は真耶に言われたことを思い出す。

 

 

 

そうだ、飲み会だ!

 

 

 

飲み会をしよう!

 

 

 

今すぐとは言えないが、落ち着いた時にでも飲みに行こうじゃないか!

 

 

 

 

鹿波の目が、少しだけ興味をひかれたようにこちらをじっと見る。

 

 

真耶、私は、私はここからどうすればいいんだ!

教えてくれ!

真耶は私に、何も教えてはくれない。

 

 

 

 

飲み、飲み…。そうだ!

 

 

 

以前見つけた、少し洒落た感じのバーがある。

そこでどうだ!

 

 

 

なかなか良さそうなボトルをキープしてもらっている。

本当は少しずつ、一人で楽しむつもりだったが、仕方ない。

 

 

背に腹はかえられん…っ!

 

 

 

 

 

 

さっきよりも鹿波のやつの反応がいい。

 

 

もう少しか…?

 

 

 

日本酒も、焼酎もある!

 

 

日本酒は私も飲んだが、なかなかのものだった。

どうだ?

 

 

 

 

そう言うと、芋焼酎があるか聞いてきた。

その時の鹿波の顔は、まっすぐに見ても一応なんとか顔を逸らすことなく耐えられる程度にはなっており、当然私は力強く返事をした。

 

 

 

それじゃあ、楽しみにしてますね。

 

 

そう言って鹿波が背を向けて立ち去ったことを確認してから、私は大きく息を吐いた。

 

 

 

怖かった…。

 

 

 

 

私がここまでの恐怖を感じるとは…。

真耶や整備課の人達が、私や他の教員にまで連絡してきたときは何事かと思ったが。

なるほどこれは怖い。怖すぎる。

 

 

 

大袈裟な、とか、説教してやる!なんて思っていた自分をはっ倒してやりたい。

 

 

 

実際に闘えば負けるなどとは思わないが、私が呑まれるほどの迫力と、あの圧迫感は、心臓が弱い者なら死ぬのではないかとさえ思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、真耶。

仕事は果たした。後は頼む。




教えてくれ!五飛!
誰か気付いたかしらん


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いざ飲まん 酒は飲んでも呑まれるな

今みたら、一話の平均文字数が1919でした。
そこからすぐに連想したのが1145141919810だったあたりに自分の業の深さを感じる。


やぁ。

 

 

学年別トーナメント前の怒涛の14連続勤務とかいう、ストレスで胃がマッハなデスマーチも終わった。

二年生、三年生の学年別トーナメントもタッグマッチになっていたが、こちらは一夏君たち一年生とは違い、特にアクシデントもなく終わった。

 

 

そういえば、学年別トーナメントが一回戦しか行わないって通知がされたとき、なんだかやけに落胆の声がよく聞こえたけど、あれはなんだったんだろう?

原作では何かあったのかもしれないけど、重要じゃないところは思い出せないから、こういうときには

あー、なんかあったねえ、なんだっけー。

みたいな微妙に気になるこの感じ。

あるあるじゃないかな。

え、ない?

 

 

 

そんなに気になるならアンサートーカーで確認すればいいじゃん、って思ったかもしれないが、別にそこまで気にすることじゃないしね。

 

 

それはさておき。

次は確か一年生は臨海学校が行事としてあったんだっけ。

いやー、覚えてますよ、銀の福音事件。

なんかあれだよね。

一夏君が死にかけて、主人公パワーで傷が治ってパワーアップして帰ってくるんだよね。たしか。

 

雪羅だっけ?

イラスト付きで描写されてたから、そこはよく覚えている。

あとはなんか助けた搭乗者からキスされるやつ。

さすがに主人公は格が違った。

 

 

しかし、一夏君が入学してからというもの、本当にアクシデントやら事件がぽんぽん起きるよね。

いつか轡木さんが言っていた、波乱の予感は正しかったんや。

つまり、轡木さんには未来予知の能力がある可能性が微粒子レベルで存在する…?

 

 

なんてバカな考えはさておき。

今の時期は春真っ盛りというあたりである。

たしかうちの敷地内には花見が出来る場所があるらしいので、今度時間があったらのんびり遊びに行こうかなーと思っている。もちろん平日の昼間に。

休日だとけっこうIS学園の女子学生がキャーキャーうるさい違った賑やかだから。

 

 

 

あれから一夏君とはよく話をするようになり、基本的には一夏君が勉強でついていけない部分を教えたり、クラスでの日常の何でもないような話を聞いたりだ。

一夏君に教えていて思ったことは、この子は理解するまでは少し時間がかかるけど、理解し始めると一気に進んでいくなー、ということだ。

なので、最初のうちはほぼ毎回勉強会の様相を呈していたけど、最近はもっぱら雑談である。

 

その話の中で、いつも一夏君がよく一緒にいるメンバーでのんびりお花見でもしよう、という話になったらしい。

ちなみに発案者は一夏君。

彼、たまにすごくおじいちゃんっぽいところがあるから、もうこの歳で枯れてるんじゃないかとたまに心配になる。

 

 

ただ、言った時に周りにいたメンバーが悪かったらしい。なんでも、一夏君の希望する、のんびりお花見してゆったり過ごす、という案は、いつの間にか誰が一番お料理上手か大合戦になってしまっており、一夏君いわく「言わなきゃ良かった」だそうだ。

ん、まあそれもいい経験だよ、なんて適当言いつつ、俺はセシリア女史のメシマズテロを知っているので、ひそかに死ななきゃいいけど、なんて思っていた。

 

 

 

そろそろ臨海学校の準備が本格化するらしい。

織斑先生と真耶ちゃん先生が、今回の臨海学校の下見に、旅館の方々に挨拶に行くことを聞いた。

臨海学校の準備はあれど、最近は業務も平常営業な程度で済んでいるらしく、真耶ちゃんから飲み会のお話が来た。

前に言っていた飲み会の日程の相談らしく、今度の金曜日にどうでしょうか、だって。

 

もちろん俺は普段から仕事に忙殺されることは(この前のような例外を除き)ないので、二つ返事で了承した。

それと、今回は織斑先生も一緒に来るらしく、その話が教員室で広がり、なんと整備課+教員+轡木さんというけっこうな人数での慰労会となってしまったそうだ。

ちなみにIS学園には解析班という、普段からよくわからないことをやっている部門もあるのだが、そちらは以前のクラス対抗戦、つまり鈴ちゃん登場直後のイベントの時に乱入してきた無人機の解析がまだ終わっていないとのことで。

 

まあ、解析班の人達はIS学園の中でも一際キワモノというか物好きな人達が多く、三度の飯より技術!機械!ロマン!みたいな感じなので、この慰労会には参加しないのも納得である。

 

 

俺個人としては、織斑先生の言っていたバーも気になってはいるのだが、どちらかというと美味しいご飯と酒があれば何でも良い。

なので、まあ慰労会の後に飲み足りなかったら連れていってもらうとか、また別の機会でもいいかなー、程度のもんである。

 

 

 

さて、そんな風にちょっとだけ楽しみにしていたら、時間はあっという間に過ぎ去って。

 

「では、なんとか無事にトーナメントを終えたこと、そして、今年度も皆さんによろしくお願いしますねということで…」

 

「「「「「乾杯!」」」」」

 

フォおおおお!酒!飲まずにはいられない!

なんて歓声を聞きながら、音頭をとった轡木さんがあちこちからグラスを掲げられてワイワイやっているのを見ていると、周りの人達もカチャカチャ乾杯していたので自分も混ざって乾杯。

さりげなーく自分のグラスを下から当てる、という、分かる人には分かる遊びをしつつ、周りを見渡した。

 

 

今回の慰労会は、実質的な責任者の轡木さんも参加する、ということで、費用は全てIS学園もちである。さすが轡木さん太っ腹。

それゆえか、周りからは

よっ、御大尽!

さあさあどうぞどうぞ、なんて声が聞こえてくる、ありゃ飲んだら飲んだらお酌されてるね。

 

ちなみにお酒が飲めない人はウーロン茶で乾杯している。

まずは生中、なんて悪しき風習はなかったんや!

 

隣にいる真耶ちゃんやら、普段はあまり話をしない教員の人たちとも普段の大変さや面白い話で、馬鹿みたいに盛り上がる。

酒をちびちび楽しみたい人たちは、また彼らは彼らで集まって、のんびりと刺身をつまみに楽しんでいる。

あ、ちらっと轡木さんが見えた。あの人もそっち派であったか。

あ、あれ真鯛の塩釜焼きだ、美味しそう!

 

貰いに行こうかな、なんて思っていたら、こちらの席にも運ばれてきた。

いやー、こういう、本当に楽しめる飲み会なら悪くないねえ!

前世では、飲み会という名の強制行事には、さしてつまらないのに行かされ、しかも料金まで徴収されるとかいうふざけた話があったものだ。

当時は、これも社会人の務めだ、致し方なし。

なんて思っていたものだから、やはり同調圧力を敷く日本の悪しき風習は滅びなければならんなあ、という思いを、この、みんなが楽しそうにしている宴会を見て、強く感じる。

 

 

ふと気がつくと、上段に上がって宴会芸を勝手に始めている奴らがいた。

あ、あいつうちの整備課のやつだ。あいつもそうだな。

隣にいるのは三人の先生方。

 

普段の活躍の場が全く違い、接点なんてあまりにもない日常を過ごしているのに、こうやって一緒になって笑い合えるこの日常こそが、小さな幸せなんだろう。

 

ちなみに宴会芸はマジックショーだった。

体が切れるマジックはネタばらしがあって、二人が一つの箱に入って、まるで切れたように見せていたらしい。

でも箱の中に体を収めるために体を柔らかく曲げられる人じゃないとダメだったみたいで、だからうちの整備課だけじゃなくて教員の先生たちも参加してたんだな、なんて納得した。

しかし、酒入っているのにあんなに体をぐにゃぐにゃやるとか凄いな。

 

その後もいくつかのマジックを見せ、突然始まった宴会芸は終わりもまた唐突に幕を閉じた。

しかし最後のロープ、どうやってビンの底から抜けたんだろうか…?

 

 

その後は轡木さん自ら歌い始め、皆が好き勝手に熱唱。

そろそろ終わりの時間でーす、という幹事の人たちからの声があるまで、熱気に溢れた宴は続いた。

 

 

店を出ると、さっきまで熱唱していた組はまだ歌い足りないのか、二次会行こう二次会!カラオケね!いいねー!みたいに騒いでいた。

俺はなんとなくそういう気分でなかったので、どうしようかなー、とタバコを吸って一服していたが、ふと横から真耶ちゃん先生に声をかけられた。

 

 

「鹿波さん、この後どうされますか?」

 

 

俺としては特段どうしようか考えていなかったが、特にやりたいこともないので、家に帰って呑み直しかなー、と答えた。

まだなんとなく、もう少し飲んでいたい気分だった。

 

「じゃあ、この間言っていたバーに私たちこれから行く予定なんですけど、ご一緒にどうですか?」

 

 

私たち?

真耶ちゃんの方を確認すると、隣にはほんのりと顔を赤くした織斑先生が。

いつもよりも、僅かとはいえ服装が緩んでおり、頬が桜色に染まっているその様子は、なるほど美しいとか綺麗だとか、そんな言葉ではとうてい言い表せない色っぽさがあった。

 

 

俺としてはそのお誘いは嬉しいよ。でも織斑先生は大丈夫ですか?

 

 

そんな感じのことを聞くと、意外にも織斑先生本人から返答が。

 

 

「ふん、以前私から誘ったのだ。文句など、あるはずがないだろう。

それともあれか?私とは酒は飲めんと言うか」

 

 

あかん。これ完全に酔っぱらっちゃってる。

普段よりもさらに暴君度合いがパワーアップした織斑先生に、真耶ちゃんは俺にすみません…と謝ってきた。

 

 

いやいや、こんな往来もあり、まだ他の先生たちもいる中で、頭をそんなに深々と下げられてこまる。

なので、慌てて頭を上げるように真耶ちゃんに言い、そういうことなら、とお供することにした。

 

 

織斑先生は本当にお酒が好きなようで、バーについたら真っ先にカウンター席に座ってしまった。

仕方ないので俺も後ろに真耶ちゃんがついて来ていることを確認し、織斑先生の右に座る。

真耶ちゃんはその俺の隣に座り、ちょうど二人に挟まれる形になった。

 

 

うは、両隣に美人さんとか、両手に花ですな。

一応隣の真耶ちゃんに、この席順で良かったの?と聞いてみるが、何でも今回の主賓は俺だからこれで大丈夫とのこと。

はて、主賓になるようなこと、やった記憶ないぞ?

(※真耶ちゃんは以前、修羅と化していた鹿波の姿を覚えています)

 

 

そう言ってみたが、真耶ちゃんには、はい、分からなくて大丈夫です。と言われた。

本当に謎である。

(※真耶ちゃんは修羅と化していた鹿波の怖い姿を覚えに覚えています)

 

そんなやり取りをしている間に、織斑先生はもうすでに赤ワインを頼んでいた。おい自重。

あんたどんだけ呑みたいねん。

 

しかもチーズ三種盛りも追加で頼んでいる。おっさんか。

俺はとりあえずソルティドック、あとレーズンバターがあるのでそれを。

真耶ちゃんはウイスキーにカシューナッツをそれぞれ頼み、一息ついた。

 

 

しかし織斑先生が、こんな落ち着いたバーを知っているとは。

一夏君から聞く限りでは、居酒屋みたいにご飯やおかずと共にお酒を楽しむ感じだとばかり思っていたので、正直意外である。

 

本人に向かってそう言うと、

「まあ、私はどちらかというとそういう楽しみ方の方が好きではあるな。

だが、別に落ち着いて飲むのが嫌い、という訳ではない。要は気分次第だ」

 

 

だって。

気分次第かぁ。こんな気分屋に振り回される真耶ちゃんも、さぞかし大変に違いない。

 

本人を目の前にしてそんな失礼極まりないことを考えていると、織斑先生の方からお声がかかった。

 

 

「しかしまあ、こんなところでまで織斑先生はないだろう。

千冬でいい。タメだろう」

 

 

えー。なに?そんなめっちゃ親しみ持ってる訳じゃない女性を下の名前で呼び捨てにすんの?

 

ちーちゃんでええやん。

 

 

俺もけっこう酔ってきたのか、少しずつ呑みながらそんなけっこう失礼なことを言っているが、ちーちゃんはある人物を思い起こして不愉快だからやめろと言われた。

束のことですね分かります。

 

ちなみに真耶ちゃんはウイスキーをぐいぐいいっている。おおー、良い飲みっぷり。

そう言うと、皆さんの前では出来ませんからね、なんてはにかみながら言った。

かわいい。

えへへー、なんて言いながら一人で楽しそうに飲んいる真耶ちゃんは放って、織斑先生の話を聞く。

 

 

何でも織斑先生は、わりと最近まで俺のことをいけ好かない年上の男だと思っていたらしい。

 

 

だが、この間の時の様子を見て、実際のところあんなに不機嫌になって周りに迷惑をかけても許されるほどのことをやっているのか気になって、整備課の奴らに聞きに行ったんだそうだ。

 

そこで、他の整備課の奴らの二倍以上のペースで仕事をこなしていること、他の整備課の奴らが昼休憩に行っている間にも仕事をしていることなどを聞き、整備課の奴らから直接、俺の普段の仕事ぶりを聞いたそうだ。

 

 

何て言ってました?と聞いてみたが、まあ、悪いようには言ってなかったさ。とはぐらかされた。

整備課の責任者としては、ぜひとも部下の本音は聞いておきたかったのだが…。

 

 

そして、普段から午後3時も過ぎるとぶらぶらとしている、仕事サボリーマンのだらしがない奴、という評価から一転、やるときはやる男だと認識を改めたそうだ。

 

 

他にも理由はあって、轡木さんに

「確かに彼は無愛想だが、色眼鏡で見ていては、見えるものも見えんよ。

君にとっては、君の友人を彷彿とさせるかも知れん。

だが、一度先入観抜きにして観察してみると良い」

と言われたらしい。

 

それ以後、一夏君に勉強を教えていたり、相談の相手をしていたりするところを見て、自分の考えに思うところが出てきたんだそうな。

 

 

そんなところに真耶ちゃんから、実は自分と同い年だと知って、自分が穿ったものの見方をしていたことに気付いて愕然としたんだって。

 

 

うーん、自分自身、自分がわりかし嫌な奴というか。

人となるべくうまくやっていこう、という気が皆無だと思っているから、正直いけ好かないっていうのは間違ってない気がする。

他にも、別にやることをちゃんとやるのは当たり前だと思っているし、正直織斑先生ちょろすぎないかなー、と思っていたりする。

 

 

まあ面倒くさいので放置。

 

 

さて、そんなことをしゃべりながらがばがばワインを飲んでいた織斑先生だが。

かなりのハイペースで飲んだからか、首がかくんと落ちている。

あ、潰れた。

べっちゃりとカウンターに頭をのせてしまった織斑先生を見て、一つ鼻から息をつく。

そして隣を見ると、いつの間に頼んでいたのか、ハイボールとウイスキーボンボンがもうすぐに真耶ちゃんに平らげられるところだった。

 

俺が見ていることに気がつくと、俺の隣にいる織斑先生の様子に気付いたのか。

苦笑して、残りのウイスキーボンボンを口に入れた。

 

お口をもぐもぐしている真耶ちゃんが食べ終わるのを待ってから、織斑先生をどうするか尋ねた。

 

 

織斑先生はよくこうやって飲み潰れるらしく、後輩の真耶ちゃんがいつも介抱しているらしい。

 

真耶ちゃん、多分織斑先生よりもキツイのをバンバン飲んでいたはずなのにけろっとしとる…。

 

私が先輩の部屋まで連れていきます、と言うので、先輩?と聞くと、織斑先生と知り合ったのが先輩後輩の関係だったらしく。

今でもオフのときは先輩と呼んでいるらしい。

 

 

じゃあ出る前にトイレだけ大丈夫、と言って確認すると、そうですね、と言ってお手洗いへと向かった。

この隙に会計をすませてもらい、織斑先生の肩を揺する。

しかし、けっこうな額が飛んだ。真耶ちゃん、顔に似合わず酒豪だったんだね…。

まあ自分は割りと既に充分な貯蓄があるので、そう気になるほどじゃない。

なかなか気分良く飲ませてくれるバーを教えてくれた、そのお礼ということで今回は支払っておく。

 

 

さて、織斑先生がうーん…とか唸っている間に、真耶ちゃんが戻ってきた。

既に会計はしてあるから出ようか、と声をかけると、真耶ちゃんは律儀にも、ありがとうございますと言って頭を下げてきた。

この辺りの気遣いが出来るのが、皆から愛される理由だろうなー、とか思いながら、真耶ちゃんがうんしょ、と織斑先生の肩を支える。

 

うーん、正直背の小さい真耶ちゃんが織斑先生を支えているのを見ていると、不安になるな…。

そんなことを思いながらお店のドアを先に開け、織斑先生を支える真耶ちゃんが来るのを待つ。

 

 

IS学園には教員や関係者用の寮があり、学校の北西側に女子寮、北東側に男子寮がある。

寮といっても実際は社宅みたいなもので、さすがはIS学園と言うべきか、実際高級マンションのような感じである。

 

 

その女子寮に向かいつつ、さすがに真耶ちゃんが織斑先生を運ぶのをただ見ているだけというのは罪悪感があったので、階段を上る時などは手伝うことに。

 

 

しかしまあ、織斑先生は多少崩しているとはいえスーツをきっちり着てるし、俺は整備用のツナギに白衣といういつもの出で立ちである。

つまり、分厚い布+分厚い布で、織斑先生を支えた時に「や、柔らかいものが当たってる…!」みたいなドキドキは、全くなかった。

残念、俺はそういうラブコメハーレムものの主人公のような感じにはならなかったのであった。

 

 

そして女子寮に着き、別れ際に真耶ちゃんのメアドと番号をゲット。

まあ正直使うことなんて無いような気もするが、真耶ちゃんの番号をもらえるだけでちょっとは嬉しいものである。

ちなみにこれが織斑先生だったらそんなに嬉しくない。

だって必要なら一夏君にかけて代わってもらうか、IS学園にかけるかすればいいし。

 

 

そんな感じで、その日の喧騒は幕を閉じた。




織斑 千冬 の 好感度 が 10 上がった !
0 / 100 → 10 / 100


という訳で、飲み会イベントでした。
次は本編行こうか節分・恵方巻ネタやろうか考え中。
どうしますかね。


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掲示板回

ここに来て唐突な掲示板回。
思い付いたらやらないではいられなかった


【告知!!】

 

プロキシサーバのメンテナンス終了のお知らせ

 

 

以前からメンテナンスにより閉鎖されていた、生徒会管理下のプロキシサーバのメンテナンスが終わりました。

それに伴い、4月16日 午後5時から、IS学園限定交流掲示板「集え諸君!」が使用可能になります。

また、解放直後は混雑する恐れがありますので、安定した状態で使用したい方は、しばらくお待ちいただけると幸いです。

 

 

文責:生徒会会計 布仏虚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【祝!】某I○学園総合交流板その38【掲示板復活!】

1. 名無しのIS乗り

ここはIS学園関係者、総合交流掲示板です。

まずはテンプレの確認を。

生徒も教員の方もその他の方もいらっしゃいます。

あたたかく受け入れましょう。

 

次スレは>>950あたりでお願いします。

 

過去スレ:

某I○学園総合交流板その1-37

※格納書庫を参照のこと

 

--------------------------------------------------

 

 

38.名無しのIS乗り

 

復活おめー!

結局なんで閉鎖してたの?

 

 

39.名無しのIS乗り

 

復活の祝砲ゃー!

なんか4月に入ってすぐにハッキングにあったらしくて、急いでメンテしなきゃ、ってたっちゃん言ってた

 

 

40.名無しのIS乗り

 

おつおつ

みんな我慢出来なかったのねー

 

まあそういう私もそうですが

 

 

41.名無しのIS乗り

 

ちょっと皆来すぎ

めっちゃ重たいw

でもまあ、世界中が注目する男子生徒の入学だもんね

 

実物見たけど、けっこうかっこよかったよー

 

 

42.名無しのIS乗り

 

>>38

ハッキングされたからプロテクト強化メンテナンス

 

生徒会室に遊びに行ったら生徒会長と知らないお兄さんがなんかいろいろいじってた

 

 

43.名無しのIS乗り

 

>>38

ハッキング対策

 

でもこのIS学園にハッキングできるとか、アメリカのペンタゴンとかロシアの諜報部くらいしか思い浮かばないけど

 

 

44.名無しのIS乗り

 

私も見た!

顔立ちは整ってたよね

 

ところで織斑先生の弟さんってホント?

 

 

45.名無しのIS乗り

 

>>42

それって整備課の?

おっちゃん勢の中に一人だけ若い男の人いるよね

名前知らないけど

 

 

46.名無しのIS乗り

 

>>42,43

 

ありがとー

そのハッキングしてきたの、まさかテロリストとかだったりは…しないかw

 

>>44

詳しく

 

 

47.名無しのIS乗り

 

>>44

詳しく

 

 

48.名無しのIS乗り

 

>>44

>>44

詳細あく

 

 

49.名無しのIS乗り

 

>>33

真耶ちゃん先生おつかれー

やっぱり織斑君絡み?w

 

 

50.名無しのIS乗り

 

>>42,45

 

あ、私その人知ってる

ISめっちゃ詳しい人でしょ

この前担任と話してるの聞いたけど、解析班に手伝い行ったり企業の人にアドバイスしたりってヤバいよね

 

 

51.名無しの教員さん

 

>>49

真耶ちゃん先生はやめて下さい…

この時期はただでさえ忙しそうなですからねー

 

織斑君絡みかどうかは、禁則事項、ということで

 

 

52.名無しのIS乗り

 

>>46,47,48

1組の人は皆知ってるけど、織斑先生の弟で確定みたい

愛しのお姉様に構ってもらえるなんて羨ましい…

 

 

53.名無しのIS乗り

 

>>40

今まで使ってた掲示板が使えなくなったら当たり前ダルルォ?

しかも外部のインターネット掲示板はIS学園の敷地内からだとアクセス出来ないようにブロックされてるし

 

>>48

同類のかほりがしますねぇ…

 

 

54.名無しのIS乗り

 

>>50

そういえば、うちのIS企業の技術者さんが言ってた

IS学園の中でもその人だけやたらISの全てに詳しいって

 

アドバイスできるとかヤバすぎでしょ

今度勉強聞きに行ったら教えてくれないかなー

 

 

55.名無しのIS乗り

 

>>43

でも、うちの学園のセキュリティって世界中でもトップレベルらしいじゃん?

そうそう大丈夫だと思うけどなー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【悲報】トーナメント、優勝者なし【まさかの】

1. 名無しの生徒さん

ここは学年別トーナメントの感想を言い合うためのマターリスレです。

詳細は>>2を参照。

 

次スレは>>950の人が宣言お願いします。

 

過去スレ:

一年生トーナメント実況スレ1-8

【ISが】一年生トーナメントでアクシデント?【溶けた】1-3

※格納書庫を参照のこと

 

 

--------------------------------------------------

 

 

852.名無しの生徒さん

 

>>838

結局うやむやになっちゃったねw

 

 

853.名無しの生徒さん

 

なんていうか、やっぱり専用機ってこわいね

今回の事故みたいなこととか、IS狙われたりするらしいし

 

整備とか武器開発に行きたいなー

 

 

854.名無しの生徒さん

 

>>838

まあ、織斑君と付き合えるー、なんてうまい話がある訳ないだろうしね

 

>>840

知ってるのは当事者達と先生方くらいじゃない?

あとはドイツ軍上層部とか

 

 

855.名無しの生徒さん

 

去年は何も出来ないままだったけど、今年は勝てたからよかったかなー

でも一回戦だけ、しかもタッグで変則的だったからなんだかなー

 

自分の力だけで戦いたかったよぅ(´・ω・`)

 

 

856.名無しの生徒さん

 

>>853

あたしも整備行きたい

整備員さんがあっという間に訓練機直してくれたのを見てからそっちに決まった

 

>>850

一年生の話題ばっかりでうちら二年生は何も騒がれなかったからね…

 

 

857.名無しの生徒さん

 

>>855

私は負けたけど同感

 

で、あの騒ぎはなんだったの?

 

 

858.名無しの生徒さん

 

>>853,856

えー

整備なんて地味じゃん

 

私は大きく代表狙うぜー

 

 

859.名無しの生徒さん

 

>>857

あの騒ぎって?

 

 

860.名無しの生徒さん

 

さすがに落ち着いてきたね

まあ全部トーナメントも終わったし、当然かな

 

>>857

騒ぎ?

 

 

861.名無しの生徒さん

 

>>857

1年1組の騒ぎならただの痴話喧嘩です

 

 

 

(以下続く)

 

 




はい。
という訳で掲示板回でした。


原作では軽く殺人未遂が起きていますが、当事者たちと周りの見えかたはだいぶ違います。
そういう感じが上手く表現できるといいなー


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電話

うんむむむ…。
なんだかしっくりこない。なぜだ。

日付をまたいでたらすまない。
本当にすまない。
(一応今のところは毎日更新してるため)


慰労会と言う名の飲み会の後。

今日は土曜日、のんびりと出来る休日である。

俺は休日は基本的に昼近くまで寝てたりする。

特に最近は暖かく、まさに春眠暁を覚えず、と言わんばかりにぐーすか寝ている。

 

 

さて、そんなぐうたらな生活をしていた俺だが、今は起きてかわいらしい女の子が踊っている動画を視聴していた。

なんでも、かつての軍艦を擬人化したコンテンツで、公式の設定があまり多くなく、個人が自分のイメージした世界がその世界、とかいう、まあ自由度の高い分野である。

 

 

そのコンテンツのうち、個人が作っている動画の、MMDというもので、「ぼのたん」という愛称で呼ばれている女の子が、「愛の3-5-12」という歌を踊っているのである。

この「ぼのたん」は、普段はツンツンした態度を取っているのだが、この動画では、そんな「ぼのたん」の素顔が撮られている、というもので、俺の密かなお気に入りの動画である。

 

 

カーンカーンカカカカーンカカカカカカカンカンカーン♪という効果音をBGMに聞きながら、そんなかわいらしい様子を眺めていた俺だが(2周目)、ふとスマートポンに着信が来ていることに気がついた。

メールのようだ。

 

 

しかし差出人のアドレスを見ても、電話帳に登録されていないアドレスだ。

はて、迷惑メールか?

 

 

そう思って件名のみ先に確認すると、

「束」

の一文字である。

 

 

ある意味迷惑メールで間違っていない訳だが、はてさてどうしたものか。

そう思っていると、まるでその様子を見ているかのようなタイミングでもう一度着信。

 

 

これもやはりメールで、件名は

「はよ」

これである。

 

 

ちょっとせっかちすぎない?

今日は俺が割りと早いところメールに気がついたからいいが、俺がスマポを置いて飯作ってたら早くしようがないじゃん。

それともあれか、実は本当に俺のことを監視してたりするのか。

でもここIS学園男子寮だぞ?さすがに部屋にまでは監視カメラないし、盗聴や盗撮目的で誰かが俺の借りてる部屋にカメラないしマイクをセットしないと、そんなこと(監視)は不可能なはずなんだけど。

 

 

って考えてる途中で思った。

束ならやりかねない気がする。

 

 

目的のために必要なら、きっとあやつはやる。何のためらいもなくやる。

うわぁ…監視されてるのかもしれないと思うとやだなぁ…。俺の趣味もろばれじゃん…。

プラモやフィギュアなどの類いはないのが救いか。

 

 

俺の部屋にはたまに弾くだけのベースがカバーの上に埃をかぶっていたり、観葉植物のジョージとジョータ改め君・雷子念と富馬記念がいたりする他は、パソコンの置いてある机とか、冬場はこたつになるテーブルとかくらいしか、目立つものはない。あ、うちのパソコンはビデオ通話出来るいいやつです。どや。

 

 

ちょっと昔ならベッドの下に特定の本があったりしたのだろうが、今の時代はデジタル媒体である。

128GBのmicroSDにきっちりバックアップしてある。

 

 

余裕の容量だ、値段が違いますよ。

まあ家電量販店で安売りされてたけどね。1000円で。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし困った。絶対に面倒ごとの予感がする。

でも放置し続けるのもマズい気がする。

どうしたものか…。

 

 

まあ、メールの確認くらいなら大丈夫だろう。スパムやウイルスではないことは確定しているようなものなので、ある意味安心ではある。

 

なになに、本文は?

一通目。

「イヤホンをして待ってて」

 

二通目。

「イヤホンないの?」

 

 

 

あるわ!イヤホンくらい!

○ーディオ○クニカの重低音重視のやつがありますー。

 

今までだったら、なんとなく癪だからって理由で無視していただろうな、なんて考えつつ、しかし素直に言うことを聞くのはなんか負けた気がするから、まずはメールでこう返す。

「イヤホンして下さいお願いします、だろ?」

 

 

嫌なやつである。うん、知ってるわ。けど画面の前の 君ら。

そういうひねくれた感じとか、わざと逆張りするのとか好きやろ?ん?(メタ)

 

 

ちょっとしてからメール。

なになに。

「もうそれでいいよ…」

 

 

勝った!第三部完!

満足したのでイヤホンをして待つ。

最初から大人しくそうしろよって?面白くないじゃん。

 

 

これ、手の込んだイタズラとかじゃないよね?

ちゃんとなんか反応くるよね?

来なかったら来なかったでそれはそれで新しいイタズラの方法ゲットだからいいけんど。

 

 

とか思ってたら来た。

着信。今度は通話である。通話に出る。

どちらかと言うと馬鹿にした感じで。

 

「はいもすもす、どちらすぁ~ん?」

 

「…しょっぱなからトバしてるね。

頭大丈夫?鹿波」

 

「そっちこそ日本語大丈夫かクソうさ…、いや、束。

俺はどちらさん、って聞いたんだぞ」

 

「いや、あれは聞いたに入らないでしょ。控えめに言っても人をおちょくってるよね?」

 

「褒めて頂き恐悦至極」

 

「いや褒めてないから」

 

「そうか。で、何の用だ指名手配犯。織斑先生にでもイタズラしに行くのか。もしそうなら全力で手伝うぞ」

 

「指名手配犯言うなし。イタズラもしに行かないから。面白そうだけど」

 

「だろ?絶対面白いって。あの武士然とした織斑先生の間抜けな顔は、100%一見の価値あるって」

 

「魅力的なお誘いだけど、今回はいいや。

そうじゃなくて、ちゃんとイヤホンしたみたいだね」

 

「した。で、結局これはなんのためなんだ?」

 

「んー、一応念のため?ちょっとばかり厄介なんだよね。今回の相手」

 

「今回の相手?なんだそりゃ」

 

「まあ、それはもうこっちも動いてるし、いいの。

それよりも、もうISコアは作ってないの?」

 

「ああ、この前完成した。まあ、俺はIS適性0だから乗れないしな。どうしようか考案中だ」

 

「ん?それはISによく似てるけどISじゃないでしょ?」

 

「は?」

 

「だって、『女の私』が作って、『ある女性』が初めに操縦したのがISだよ?

じゃあ、『男の鹿波』が作った時点で既にISじゃないじゃん」

 

「いや待て。その理屈でいくと、ISコアは初期データたる搭乗者のデータだけじゃなく、作られた時にも何かしら記憶してるってことか?でも、そんなデータは無かったぞ」

 

「うん、これはまだ推論の域を出てないからね。でも、そうじゃないと、今のところ説明つかないんだよ」

 

「説明がつかない?何がだ」

 

「ISに男が乗れない理由だよ。搭乗者のデータだけが必要なら、ISに男の人のデータ入れれば動くはずでしょ?

なんでIS適性なんてのがないと乗れないのさ」

 

「お前がわからんことを俺が分かる訳ないだろ!いい加減にしろ!」

 

「ISに男が乗れない理由が分からないって、それ一番言われてるから」

 

「まさかこのネタが分かるとは…。たまげたなぁ」

 

「元ネタが汚すぎる。訴訟」

 

「ンアッー!(≧д≦)」

 

「いつまでこのネタで引っ張るんだよ、話をさせてよ。

あくしろよ」

 

「自分から引っ張ってるんだよなぁ…」

 

「で、鹿波の作ったISによく似た何かって、もう名前とかあるの?」

 

「ついさっきまでISだと思ってたからなぁ…。ISでいいじゃん」

 

「だからISじゃないって。ポ○モンでいうとニドラン♂とニドラン♀くらい違うから」

 

「大差ねえじゃねえか」

 

「進化先が違うでしょ」

 

「せやな」

 

 

 

しかし名前か。名前ねえ…。

あ。

 

 

「GP01Fbとかどうよ」

 

「何、それ」

 

「知らんのか。メンテが始まる」

 

「日本語でおk」

 

「フルバーニアンだ」

 

「…その心は?」

 

「試作1号機」

 

「やっぱりか、このオタクめ」

 

「やっぱりってことはてめえも知ってるんじゃねえかオタ兎!」

 

「ガノタ乙」

 

「うぜえ…」

 

「もう許せるぞオイ!」

 

「お前のセリフじゃないからそれ」

 

「」

 

 

まったく。にしても。

 

「お前、ガンダム好きだったのか…意外」

 

「う、うるさいな…」

 

「ちなみに好きなのは?」

 

「月光蝶!」

 

「少なくとも2機はあるんですがそれは」

「で?本当に何の用だ。イタズラなら切るぞ」

 

「そうだね。本題に入ろうか」

 

 

前置きが長い。

ふざけまくった俺が言えることじゃないが。

 

 

「長々と前置きしたけど。まずは確認。

鹿波、亡国機業(ファントム・タスク)って名前、聞いたことある?」

 

 

ない。原作読んでたから知ってるけど。

 

 

「いや、ないな」

 

「じゃあまずはそこからだね。亡国機業は、最近急速に成長してるテロリスト集団。それも、ただのテロリストじゃなくてISを保持してる」

 

「ISを?」

 

「そう。少なくとも私が確認してるだけで2機はある。それ以上に持っている可能性もある」

 

「少なくとも2機、か」

 

「今私は電子データとか衛星とかからいろんな場所を観察してるんだけど。そこから分かったのは、テロリスト達は今、亡国機業以外の連中は軒並み大人しくしてるってこと。」

 

「そりゃあ、亡国機業とやらが力をつけて台頭してきてるからだろ?良いんじゃないか」

 

「そうやって思っていると、奴等は油断をついてくるからね。注意しておいた方がいいよ」

 

「へいへい。他は?」

 

「どうも最近、国際IS委員会の動きが怪しいみたい。どうにもキナ臭い。

それと、IS学園が亡国機業に狙われてる可能性がありそう。

 

これは忠告だけど、鹿波も気をつけてね」

 

「わざわざご丁寧にありがとよ。ただ、俺に言われても何も出来んぞ。織斑先生にでも言った方が、効果あるんじゃないか?」

 

「ちーちゃんはこの手の連絡するとうるさいんだよ~。『束!お前今どこにいる!』とか、『今度は何を企んでる』とかさ~」

 

あまりにも織斑先生の方が正論過ぎて草。

 

「馬鹿め、日頃の行いだ」

 

「まあそうなんだけどね。

あ、ISっぽいの、出来たら教えてね!」

 

「うるせえ黙れ」

 

 

ツー、ツー、ツー。切りました。

ISになんか乗らない。コア以外まで自分で作ったりなんかしない。これは決定事項だ。多分。

 

 

しかしまあ、束が忠告、ねえ。

さて。一体何を企んでいるんだか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後メールが来ていた。

件名は「束さん2」

本文は

『それはそれとして、今度お花見行かない?』

 

だった。

返信。件名はなし。

『織斑先生巻き込むなら行く』

 

1秒も経たずに返した。




亡国機業さんがログインしました。
束さんの言っていた今回の相手、とは亡国機業さんのことです。

ちなみに君・雷子念→キミ・ライコネン
富馬記念→トミ・マキネンです。だれか気付いたかな…。
ジョージとジョータは三浦しをん著、風が強く吹いている
から。

あ、あと束さんは盗聴器も盗撮カメラも仕掛けていません。でも鹿波の様子はモニターしてました。はい。
では、どこから見ていたのでしょうか?


答えは活動報告に。








【次回予告】
時事ネタです。明日は2月3日なので節分をやる予定。


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閑話 泣いた赤鬼【節分】

本編時空とは一切関係ありません


ふと食堂に並ぶ恵方巻を見て気付く。

そうか。今日は節分である。

節分と言えば、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。

やはり多くの人は豆まきだろうか。もしくは、恵方巻だと答えるだろうか。

そういえば、あの豆、みんな自分の歳の数だけ食べてる?

俺はそんなの気にしないで食べてます。

喉乾くからね。しゃーなし。

 

 

 

豆まきといえば有名な「鬼は外、福は内」というかけ声がある。だが、俺は「鬼は外」は言わずに「福は内」だけとしている。

意外と同じような人はいるかもしれないね。

 

 

俺が「鬼は外」を言わなくなったのは、前世の小学生の頃だ。当時、幼稚園や保育園の隣には、児童館とか児童センターと呼ばれる遊ぶ場所があった。

その土曜日とかには、絵本の読み聞かせがあったのだ。その時に、『ないたあかおに』という本があった。

 

 

 

あらすじとしては、人間と仲良くなりたい赤鬼がいた。しかし立て札で人間に呼び掛けても、誰も警戒して寄って来てくれない。

そして赤鬼は、その立て札を壊してしまうのだ。

 

赤鬼には、友達の青鬼がいた。その青鬼がある日、赤鬼にこんな提案をしたのだ。

「ぼくが人間を襲う、悪い鬼になる。だから赤鬼、きみは、人間を守るんだ。

そうすれば、きみは人間を守る良い鬼として、人間と仲良くなれるよ」

 

そして計画の通り、青鬼は人間を襲った。そして赤鬼は人間達を守り、人間と仲良く過ごすのだ。

 

 

 

それから人間達と過ごす赤鬼だが、それ以来青鬼は一度も赤鬼の家に来ない。

しかし赤鬼は、青鬼にお礼を言いたかった。

そしてある日、青鬼の家に行くと、戸は閉まり、こんな張り紙がしてあるのだ。

 

「赤鬼くん、人間たちと仲良くして、楽しく暮らしてください。もし、ぼくが、このまま君と付き合っていると、君も悪い鬼だと思われるかもしれません。それで、ぼくは、旅に出るけれども、いつまでも君を忘れません。さようなら、体を大事にしてください。ぼくはどこまでも君の友達です」

 

そして赤鬼はその張り紙を何度も何度も読み返し、涙を流した。

それ以来、赤鬼は、青鬼に再会することはなかった。

 

 

 

 

細かいところは違うかも知れないが、おおよそこんな感じだったはずである。

当時、俺は幼心に青鬼の優しさに涙し、それ以来俺は、いつ青鬼が自分たちと触れあったりしたくなっても良いように、二度と「鬼は外」とは言わなくなったのだ。

 

 

 

え?

赤鬼?

あいつは自分の望みが叶ったんだからいいだろ。かわいそうなのは赤鬼じゃない、青鬼だろ。

正直、あの絵本の本当の主役は青鬼だと思っている。あんな良い奴は、なかなか居ない。

 

 

俺も当時、超ぼろ泣きした覚えがあるからな。相当なショックだったんだろう。

というか、転生しても本当に大事な事は、案外忘れていないもんだ。

 

 

人生と言われるアニメとかな。

あれは泣いた。めっちゃ泣いた。良い歳した大の大人が大号泣した。あれはafter story(2期)が良いんだよ…。親父ィ…。

 

 

今でも勧めてくれた友人には感謝している。まあ、前世でも高校卒業後は会うことは叶わなかったが…。

 

 

 

ともかくそんな理由があり、俺は豆まきをしても絶対に「鬼は外」は言わないのである。

まあでも、最近は豆まきすること自体ないが。

 

 

そんな益体もないことをつらつらと考えながら、とりあえず5本ほど適当に恵方巻を購入。

わりと1本1本が長い上に太いので、食べ応えがありそうだ。

とはいえ俺は、海鮮系なら3人前くらいならぺろっと入るので大丈夫。

ちなみにステーキだと1.5人前くらいで限界。胃もたれすんねん。

 

 

現在時刻は午後4時過ぎ。整備庫でISコアいじって遊んだ後ででも食べよう。

 

そんなことを思いながら食堂から整備庫に戻ってくると、今日もプログラムを組み立てる水色の髪の女子生徒。また髪の話してる…。

 

 

この時間に整備庫にいて、しかもプログラムをやってる子なんて限られている。ゆえに俺は、気軽に声をかけた。

 

「簪ちゃんお疲れー」

 

「あ…。お疲れ様です」

 

こちらを振り向いて軽く頭を下げてくる簪ちゃん。いつも礼儀正しいこの子のことは、割りと嫌いじゃない。

 

 

「今日もプログラムの組み立て?打鉄弐式、だっけ」

 

「はい。鹿波さんのおかげで、だいぶ出来てきたんです。

まだまだ調整とかはありますけど、もう少しで完成しそうなので…」

 

「はは、僕が手伝ったのはほんの少しだけだよ。

打鉄弐式を完成間近までもってきたのは、ひとえに君の頑張りだよ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

そういって、少し照れたように下をむく簪ちゃん。

あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~!

 

ま、それはさておき。

 

「うん、お疲れ様。あ、でもちゃんと休憩は取らなきゃダメだよ?」

 

以前は初めて俺が声をかけるまで、この子は鬼気迫る迫力で、毎日整備庫を閉める時間ギリギリまでこのISを組み立てていた。

さすがにちょっと根を詰めすぎなので注意したのだが、最初は無視していた。

けど、限界が訪れたのか、言い返してきた時がありまして。

 

 

あなたに私の何が分かるんですか…!とか、涙を浮かべながら言われた時は焦った焦った。

下手に他の人に見つかったら、俺が泣かせた奴になっちゃうからね。

正しいか正しくないかじゃなくて、泣かせた奴が悪いって本気で言ってくる奴が俺は心底嫌いです。ざけんな。

 

 

泣いてるやつが悪いのに謝れとか言ってくる奴本当ひで。

前世でも小学生の頃にあったなあ…。

 

親のことをバカにしてきて、二回も三回も同じことをしてくるクソガキ共が居てね。

仏の顔も三度までっていうし、父親も何回かは我慢しろっていうから耐えてきたけど、あんまりにも言ってくるものだから、

 

それ以上言うなら殴るからね、と親切にも注意してやったのだ。

 

まあ、それで止まらなかったので全員の腹に一発ずつかましてやったのだが。

で、泣き出した奴もいたけど、まだこっちは謝ってもらっていないので、訂正と謝罪を要求したのだが。

泣いてるから話になりやしねえ。

 

しかも殴られたやつの一人が先生呼んでくるし、こっちがなんどクソガキ共に謝罪を要求しても結局謝ってこなかった。

他の生徒の奴らも、事情を知らないくせして俺に謝れ謝れ言ってくるし。

あれは本当に腹立った。

 

 

 

その後、俺とクソガキ3人は先生に呼び出され、先生が事情を全員に聞いた。

当然その3人は俺に殴られた、としか言わないから、そもそもの発端からすべて事情を説明。

その後、先生が俺にクソガキ3人に謝ることを要求してきたので、俺氏プッツン。

 

 

というかこれ、あなた(先生)の監督不行き届きですよね?俺は謝りませんよ。こいつらが謝るまでは死んでも謝りません。両親を呼びたければ呼んで下さい。事情を説明しますから。警察呼びたいなら呼んで下さい。自分の行動の責任くらい取ります。

俺の行動は正しくなくても、俺は恥ずべきことはやってない!

 

 

なんて感じのことを教師に全部ぶちまけたら、あんたは先に教室に戻ってて。

なんて言ってきた。

 

その、人をなめた態度を取る先生も、からかってきたくせして自分がやられたら泣くクソガキ3人も、全部が敵だと思った。

 

 

そんな子供時代を過ごしたせいか、俺は前世も今生もひねくれまくりである。

でもお天道様に顔向け出来ないようなことはやってないと自信をもって言えるし、数こそ少ないけど頼りになる友人や親友もいた。

そんな満足した人生で大往生したんだから、転生するなんて夢にも思ってなかったわけだが。

 

 

 

話がそれた。

なんだっけ。

 

そうそう、何が分かるんですか…!って言われたところからだね。オーケーオーケー。

君が頑張ってることとかくらいしか知らないけど、君が頑張りすぎて倒れたとして。

その時に無駄になった時間のこと考えてる?

ちゃんと無理なく計画的に進めて、仮にアクシデントがあってもちゃんと復元できたりするようにバックアップとったりすることとかの方が大事じゃないの?

 

別に君がそれでいいなら良いけどさ。僕が損する訳じゃないし。

でも、もっと人を頼ること覚えなよ。

 

 

こんな感じに突き放した記憶がある。

いやー、さすが俺ってば冷血漢だね。

そこに痺れる憧れるゥ!(憧れない)

 

 

で、その後もギャンギャン言ってきたら関わらないでおこうと思ったんだけど、突然静かになって、ポツリ。

 

「人を頼ったって…、誰も手伝ってくれなかったらどうすれば良いんですか…」

 

 

そういってポロポロ涙を流しだす簪ちゃん。

当時は知らなかったけど、倉持技研の人たちになんとかアポとろうとしたらしい。でも誰も応じてくれなくて、今度はお姉ちゃんを頼ったけど、ここでも「あなたは役立たずでいい」と言われ。

それでも健気に自分の力で…!ってなってたところに、この俺の心ない言葉である。

 

 

そら心折れるわな…。

多分倉持はその時は既に一夏君の白式の方に力を割いていたのだろう。

お姉ちゃん、つまり更識楯無がそのセリフを言ったのは、原作ではそのタイミングじゃなかったと思うんだが…。

俺か?俺が転生したことによる、バタフライエフェクトか?

 

 

まあそんな風に泣き出したので、仕方なく、本当に仕方なくしぶしぶハンドタオルを渡し、しょうがないので話を聞き、関わってしまったからには自分一人で頑張れるようになるまで付き合ってあげることにし、わからないと言うところをぶっきらぼうに教えていたらーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、少しは会話する程度の仲になった。

 

 

 

え?

そこは仲良しとか、ヒロインとして落とすところって?

 

 

残念でした。

そもそも24歳が高校生口説いたらアカンやろ。

しかも俺は一夏君のような主人公体質ではない!

ニコポもなければナデポもない!

 

 

あるのはアンサートーカーという名のチート(ただし戦闘能力は皆無)と、この俺のひねくれ魂くらいなもんだ。

 

 

「ふふ、さすがにもうそんなことしませんよ。また鹿波さんに怒られちゃいますから」

 

そういってこちらにウィンクする簪ちゃん。

お茶目なのは姉妹そろってかー…。

 

「まあそれだけ気をつけてくれたら良いよ。今日もギリギリまでやっていく?」

 

「そうですね…。そのつもりです」

 

「オッケィ」

 

 

そう言って立ち去ろうとしたところで声をかけられる。

 

 

「あの、鹿波さん」

 

「ん?」

 

なんじゃらほい。

 

「今日アリーナで何かイベントをやってるらしいんですけど…知ってますか?」

 

「なにそれ初耳」

 

 

なんだか面白そうな予感。

 

「私も詳しいことは知らないんですけど、何か争奪戦…?をやっているらしいです」

 

「用事が出来た」

 

これはこの目で見に行かねばなるまい。

野次馬根性が騒ぐのう!

 

「更識さん、ありがとう。それじゃ!」

 

 

「あ…」

 

 

そう言って、足早に整備庫を去る。

イベントが俺を呼んでいるぞう!

 

 

 

「…簪でいいのに」

 

 

そんな不満げな呟きは、誰の耳にも届かず消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ところ変わってアリーナでは、いくつもの机の上に、大豆の敷き詰められた皿と空の皿、そして箸がセットになって、いくつも用意されていた。

 

そしてその会場には、一学年の人数は居ようかというほどの女子生徒が。

アリーナ前方の壇上には、ぐるぐる巻きにされて転がされている織斑一夏君と、IS学園生徒会長更識楯無の姿があった。

 

楯無の上にはでかでかとした文字で

「織斑一夏君との一日交際券争奪戦!!」

と書かれており、その会場にいる女子生徒たちは、皆瞳にやる気の炎を燃え上がらせていた。あ、ちらほらと原作ヒロイン達の姿が見られます。

セシリアにラウラ、隣にはシャルロット。

また少し離れたところには箒の姿が。あれ、ちっぱい鈴さんは…?

あ、いました!背も低くて胸も小さいため、少々見つけにくかったようです!

(悪意のあるナレーション)

 

なぜかアリーナ右側、壇上から見て左側には織斑教諭、山田先生の姿もあり、それはあたかもこのイベントが学校公認であるかのような印象をもたらしている。

 

ちなみに織斑先生は赤色無地の半袖のTシャツに、下はいつもの黒ストッキング。ただし珍しくトラ柄のホットパンツを穿いており、いつもよりもラフな印象を与えている。美人。鬼をイメージしたのかな?

 

山田先生は緑色の半袖Tシャツ。下は膝下くらいまでの黄色いカーゴパンツである。

その豊かな双丘は立派に自己主張しており、男子生徒がこの場に居れば間違いなくチラチラと見てしまうに違いない。

しかし憐れ、IS学園唯一の男子生徒は今なお壇上で簀巻きにして転がされている。

 

 

 

 

(※この時空は本編時空とは一切関係ありません)

 

 

 

 

さて、時刻は午後5時になろうというところ。

壇上にいた楯無が、マイクを持って口を開く。

 

「あーあー、テステス。うん、さすが虚、いい仕事ね!

 

さて皆!分かってる人が多いと思うけど、ルールの確認よ!

 

 

ルールは簡単!

片方のお皿の上には30粒の福豆があるわ!30粒の福豆全部を、もう片方の空いてるお皿に移し替え!

ただしお箸を使わないで移し替えたらその時点で失格!

今日は節分にちなんで、織斑先生と山田先生にお仕置きされます!」

 

 

その瞬間、キャー!!という大歓声が沸き起こる。君たち、織斑先生に構ってもらうために来たの?

 

 

「さて、今回のこれはタイムアタック形式!

一番タイムの短かった人にはなんと!じゃんっ!」

 

そう言って何かチケットのようなものを掲げる楯無。

 

「賞品として、織斑君との一日交際券をプレゼントー!」

 

先ほどよりも更に大きな歓声があがる。

原作のヒロインたちは静かに、しかしたしかな闘志を燃やしながら、既に箸を構えている。

 

 

ちなみにこのチケット。

織斑先生からは了承済み。

織斑一夏君本人には無断である。

つまり、織斑一夏君は気付いたらぐるぐる巻きにされて連れ去られ、現在進行形で被害に遭っているのである。憐れ。合掌。

 

 

「!?」

なんてリアクションをとっている織斑一夏君。

彼は犠牲になったのだ…。

 

 

「さて皆、準備はいいかしら!?

午後5時になったら始めるわ!カウントは10秒前からよ!

 

 

…ん、そろそろね、いくわよ!」

 

「10!

9!

8!

7!

6!

5!

4!

3!

2!

1…

 

スタートぉ!」

 

楯無の合図を皮切りに、女子生徒達は次々に豆を移し替えていく。

ちなみに溢したり、運んでいる途中で落としたら失格である。

海外から来ている生徒達、それも特に一年生達はまだ箸を上手く扱えていない者もいて、どんどん差が開いていく。

 

 

さて、そんなデッドヒートを繰り出している生徒達に隠れて、こっそりころころ転がって逃げようとしている者がいる。

織斑一夏君である。

 

彼からしてみれば、突然楯無に拘束されたと思ったら、いつの間にか自分との一日交際の権利が勝手に賞品にされているのである(しかも姉公認)。

逃げる判断をするのは早かった。

 

 

しかし自分はステージの壇上にいて、簀巻きの状態で転がったら落ちる。

だが、今ならステージのふちまで行って、ゆっくり足から落ちることが出来れば、あとは生徒達を見ている楯無、裏切りものの自らの姉たる千冬姉、そして山田先生にされ気付かれなければなんとかなる。

 

幸いにして、教師二人の後ろの扉は全開になっている。

 

どうか気付かれないことを祈りつつ、ステージから足をそっと降ろそうとした、まさにその時!

 

 

「あっ、織斑君危ない!」

 

そういって山田先生がこちらへ走ってくる。それも、ステージに全速力で、スピードを落とす気配もなく。

 

「あっ」

 

 

ビターン!

 

 

気付いたときにはもう遅く、山田先生とぶつかり、頭から床に落ちていた。

 

その床はほのかに暖かく、とても柔らかい何かに包まれているかのような感じで、わずかに上下している。

しかいは緑色一色に染まりーーーーー、

 

 

緑色?

 

 

「あ、あの、織斑君、その、私とあなたは生徒と教師であってですね、その、そういうのは禁断の関係というか、えっとーーー」

 

「すいませんっしたぁ!」

 

山田真耶先生の柔らかく巨大な胸部に顔を埋めたまま全力で謝る一夏少年。簀巻きにされてるからね、仕方ないね。

 

しかし周りはそうは思わなかったのか。

いや、まるでこれこそがいつもの光景であると言わんばかりに、女の子(原作ヒロイン)達がISで狙いをつけーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、悲痛な悲鳴がアリーナじゅうに木霊したのは、いつものことであったとな。

合掌。




ちなみに織斑先生は守ってくれませんでしたとさ。
ファッキューチッフ。


はい、後半は原作を意識した内容にして見ました。
今回の話は五時間もかかることになりましたので、楽しんでいただければ幸いです


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お花見

一応メインヒロイン決まりました。(ただし変更することがないとは言ってない)


さて、元クソ兎、現篠ノ之束から電話された次の日。

日曜日である。

 

俺はいつもの通り、休日の過ごし方として理想的だとすら思っている、昼前までの爆睡をしようとしていた。

しかし、ピンポーン、という玄関の呼び鈴の音にビクッとして目を覚ます。

はて。だれかなんぞ約束なんかあったかな?

寝ぼけた頭で思い返すも、それらしい心当たりはない。

のそのそと玄関まで行き、どちらさん?と聞こうとした直前。

 

 

ドアの鍵がかちゃっ、と開いた。

 

 

「!?」

 

 

とっさにドアノブを握りしめ、ドアを開けさせまいとして、声を張り上げる。

 

「どちらさーん!?」

 

 

「はーい♪」

 

 

そして返ってきたのは、憎らしいほど底抜けた、楽しそうな(クソ兎)の声。

焦る俺は、脳をフル回転させて考える。

 

 

何だ!?また拉致しに来たのか?だけどそれならインターホンを押す意味はないし云々。

 

 

俺の抵抗もむなしく、ドアを強制的に開けられた。パジャマ姿の俺の視界には、むなしくも開けられてしまったドアを手に、満面の(悪魔のような)笑みの束と。

申し訳なさそうな顔をした、クロエ・クロニクルが映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、着替えや歯磨きの終わった俺は、リビングに居る(バカ)とクロエの前にいた。

 

「で、昨日の今日で花見に行くと」

 

「そーゆーこと。じゃ、準備出来たら行こうか」

 

相変わらずの冷静かつ平坦な調子でそういう束に、クロエは俺の方を見てペコペコと頭を下げていた。

 

「すみません、また束様がご迷惑を…」

 

「あー、まあ、クロエが悪い訳じゃないしな。全て悪いのはこのバカ()だから気にするな」

 

「申し訳ありません…」

 

 

しかし、昨日のメールには織斑先生を巻き込んだら、という条件をつけてたはずなんだが。

そう疑問に思いながらも貴重品を持って家の鍵を閉める。

 

寮の駐車場に着くと、見慣れない白い車が鎮座していた。

 

「おい束。これ、もしかしてなんだが、レンジローバーじゃないか」

 

「ん?そだよ」

 

事も無げに言い放つ束だが、レンジローバーって言ったら4WD界のロールスロイスだぞ…?

その値段もさることながら、その顧客リストには、英国王室を始めとした、錚々たる名前が並ぶという。

そんじょそこらじゃ見かけることすらかなわない車だ。

 

俺?前世の行きつけのお医者さんが乗ってたから知ってる。何でもキャンセルが出たとかで安く買えたんだって。

 

その車内は広々としていて、長時間の運転でも非常に疲れにくいのだとか。

 

 

そんなものすごい車、レンジローバーに近づくと、後部座席に人影が。

さらに近づくと、一夏君と織斑先生が見えた。

マジで巻き込んだのかコイツ。

 

戦慄しながら束を見ると、ん?とでもいうようにこちらを見て、早く乗りなよー、なんて言いながら助手席に乗っている。

 

 

え?お前運転しないの?

 

とか思って運転席を見てみると、既にスタンバってるクロエの姿。

え、と思いながら織斑姉弟を見ると、二人とも揃って首を横に振っている。

 

 

そっかー(´・ω・`)

 

 

諦めて後部座席にこんにちは。

 

「鹿波さんこんにちはー」

 

「やあ一夏君。織斑先生も」

 

「ああ。それと、千冬でいい。前にも言ったろ」

 

そうだっけ。あんま覚えてないや。

 

 

車内は本当に広々としていて、後部座席に千冬さん、一夏君、俺の順で座ってもなお、ゆったりとしたスペースであった。

 

「じゃ、行こっか。れっつらごー!」

 

なんてはしゃいでいる束の声に対応して、運転席のクロエがキーを回す。

 

わずかな振動とエンジン音と共に、静かにレンジローバーは走り始めた。

 

 

 

「しかし、千冬さんはまあ(俺が巻き込むように伝えてたから)分かるとして。一夏君はどうしてまた?」

 

「えっと、そもそも束さんから花見のお誘いの電話を受けたのが俺なんですよ。で、束さんが千冬姉と一緒においでよ!っていうんで、集合場所を聞いたら

『いいのいいの!寮で待っててくれれば迎えに行くからー!』

って言われまして。

で、千冬姉に伝えた後は、普通に寮で待ってました」

 

「へえ」

 

 

意外である。てっきり千冬さんを誘って断られて千冬さんを拉致してくるとばかり思っていた。

 

それが一夏君を先に誘ったとな。

一夏君を先に誘い、織斑先生がオッケーを出した、ってことだよな。

なんで織斑先生許可出したん?そこがよくわからん。

 

そう思っていたのが顔に出たのか、織斑先生から補足が入った。

 

「私も始めは断るつもりだったんだがな。まあ、久しぶりに外に出るのも、いい息抜きになるだろうと思ってな」

 

ああ、一夏君のガス抜きですねわかります。

 

「それに、私としてもこいつに聞きたいこともあったしな。ちょうどいいタイミングだと思った訳だ」

 

こいつ、と言いながら束の方を指さす千冬さん。指さされた束はといえば、特になんとも思っていないのか、平然とした顔でこちらを向いていた。

 

 

一つ疑問が浮かぶ。

 

 

「聞きたいこと?って、何です?」

 

「ああ、そうか。お前は知らなかったか。

クラス対抗戦の時に、無人機が乱入してきたことがあってな。私はそれが、こいつの差し金だと思っているんだよ」

 

「俺が鈴と協力して倒したやつだな!って、あれ束さんの仕業だったの!?」

 

ああ、俺は関与してないけど、原作で知ってる。

そうか、原作と変わらない介入があったのね。

 

まあ、無人のISなんて作れるのは、世界中探しても束だけだろう。俺もそう思う。

っていうか一夏君。君さ、もう少し頭使おう?

世界中でも無人のISなんて未だに実現出来てないんだから、そんなの作れる人物なんて相当限られてくるとは思わないのかね。

 

 

話を向けられた束はニコニコしているだけで答える様子はない。

答える気がないのだろう、と思わせる態度である。

 

 

「束様、目的地です」

 

「ありがとークーちゃん!

さてみんな、到着だよー!」

 

 

はりつめた雰囲気になろうとしたところで、あっという間目的地に着く。

花見なので当然桜並木だと思っていたのだが、俺たちの目の前にあるのは、たった一本の巨大な桜の樹だった。

 

 

俺たちが桜を見上げている間に、クロエがてきぱきとレジャーシートを広げていく。

おい束、お前見てるだけかよ。可哀想だとは思わないのか!

 

一夏君もそう思ったのか、クロエの手伝いを申し出るも、あっさり断られる。

一夏君、残念。

 

 

レジャーシートの上によっこらしょ。

聞けば、ここは桜の名所だと言う。じゃあなんで日曜日の昼前なのに、こんなに人影がないんだ?

一夏君も同じことを思っていたのか、首をかしげている。

今度は俺がそれを聞くと、

 

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!じゃーん!」

 

そう言いながら胸元からよくわからん黒い球体を取り出す束。おい今お前どっから出した。谷間から出さなかったか?

ほら、一夏君がお前のでっかい胸を凝視しちゃってるじゃないの。

 

「これは人払いくん!これを人払いしたい場所にいくつか設置しておくだけであら不思議!なんとなく他の場所に行く気になるのだー!」

 

 

なんて得意げに束は言うが、それって俺たちにも効果あるんじゃないの?

 

 

「だからちゃんと効果が切れる時間から逆算して設置したよー?」

 

何言ってるの、みたいな調子で言う束。

なるほど、これがこいつの通常運転か。これならついてこれる奴がめったにいないのも納得である。

 

それくらい、こいつは自分の感覚を当然のこととして周囲に求めてくるのだ。実際には、こいつの感覚は間違いなく一般人のそれのはるか先にあるというのに。

 

ある意味、高校時代(だっけ?)かそこらで束が千冬さんと出会ったのは、非常に運が良かったんだな。

 

 

 

さて、クロエが全員にコップに酒(クロエと一夏君はジュース)をついだところで、束が乾杯の音頭を取る。千冬さん?連れてこられてずっと憮然とした顔してたけど、お酒を渡されたら顔を綻ばせてる。ちょろすぎでしょ…。いや、束が千冬さんの扱い方を理解してるのか。

 

 

「そんなわけで、かんぱーい!」<束

 

「かんぱーい!」<一夏君

「乾杯」<俺

「…ふん」<千冬さん

 

ちなみにクロエは乾杯には加わらず、重箱を開けていた。おおっ、美味しそう!朝ご飯を取る暇も無く連れてこられたので、俺は腹が減っている。

 

うぉおん、俺は人間火力発電所だ。

そんな勢いで美味い飯に旨い酒。

途中で俺には芋焼酎、千冬さんには日本酒、一夏君には和風の特別料理が出てきた。アイラブ芋焼酎。うーん、旨い!

もう許せるぞおい!

 

あ、一夏君用の特別料理の一つ、茶碗蒸しを一口もらった。

めっちゃ美味い。

おかげで酒が進む進む。

 

ふと隣を見ると、顔を真っ赤にした千冬さんが束に絡んでいた。束自身もけっこう顔を赤くしており、まんざらでもない様子。

千冬さん、絡み酒だったのか。

あっ、束の周りに空になった酒がごろごろしてる!

一つを手に取ってみる。

なになにスピリタス。ふむ。なるほど。

 

 

なんかよく覚えてないけどかなりアルコールなやつだよねこれ!

俺もだいぶ酔っぱらってきた。

フラフラと束と千冬の元に向かう。

二人は昔話をしているみたいなので、俺も混ざる。

俺も混ぜろー!

 

 

「…でさー、あの時ちーちゃんったら、『私にこのような服など似合わん!』とか言っちゃってさー、ねー?」

「ふん、あんなひらひらフリフリな服など私には似合わんのだ!私には、もっとこう…!」

「なになに、何の話だ?俺にも聞かせろよ」

 

 

 

「おーカナミン、いいところに!これこれ!」

「ん、なんだこれ…。って、あははははは!」

 

思わず大笑いしてしまった。

 

束が持つ写真の中には、ぶすっとした表情で、膝上のやや短いスカートの、フリフリのフリルのあしらわれたメイド服を着た、若き日の織斑先生が立っていた。

 

その顔は、いかにも『私不機嫌です』と言わんばかりであり、今の織斑先生の凛とした姿からは考えられない可愛らしい姿は、俺のツボをいともあっさりと刺激した。

 

 

「あは、あははははは!こっ、これは可愛い!可愛らしすぎる!あははははは!」

 

「ぬぁっ、貴様まで笑うか!ええい、だから私はもっと落ち着いた服が良かったのだ!こんな服など!」

 

「えー、いーじゃんいーじゃん!ちーちゃん可愛い服だって似合うってー!もったいないよー!」

 

「黙れ!貴様のような、訳のわからんフリフリエプロンドレスなど私には合わん!」

 

「いや、実際これ似合ってますよ!織斑先生美人なんだし!でもこの顔は!

あーっはっはっは!」

 

「鹿波!貴様もいつまで笑っている気だ!

っく、束!その写真をこっちに寄越せ!」

 

「やだよー、っだ!あははははー♪」

 

 

 

 

 

そんな下らないやりとりを、俺たちは酒をがばがば開けながら続けていた。

確かにそこには、普段のしがらみを忘れた饗宴があった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな酔っぱらいたちのどんちゃん騒ぎを見守る二人。

ちびちびとジュースを飲みながら、こちらはしみじみと語り合っていた。

 

「世界最高レベルの天才で美人な束さんと、世界最強レベルで美人なうちの千冬姉に挟まれてるって、鹿波さん相当な贅沢だよね。

気付いてるかは知らないけど」

 

「でも、束様は中身は意外とポンコツですから…」

 

「ああ、そっちもですか。うちの千冬姉も、なかなかズボラでぐうたらで…」

 

 

 

 

 

 

 

「「お互い大変ですねぇ」」

 

 

しみじみしていた。

 

 

もしここに、原作ヒロイン達がいたらこう言うに違いない。

 

 

鈴「まるでどっちが保護者かわからないわね…」

セシリア「あ、あれが織斑先生…?」

箒「恥ずかしい…」




はい。という訳でお花見会でした。
ちなみに束さんは、ただお花見がしたくて誘った、というわけではないです。

まあその辺はまた次回にでも。
できればですが。


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ドイツの子と守護霊の導き

感想ありがとうございます。
感想がモチベーションとなってこの小説は続いています


光と闇が両方そなわり最強に見える。

 

 

ようお前ら。(´・ω・`)

元気か?俺は元気だった。今はしょぼくれてる。

 

というのもだ。全てはウサ耳つけた束とかいう奴の仕業なんだ。

あの花見の後、俺は自室でふと、ポケットの中の違和感に気付いた。

そしてポケットの中をごそごそしてみると、1つのUSBメモリ。

 

これ、俺が気付かないで洗濯してたらどうなったんだろう。防水なんだろうか。

いや、あの束のことだ。

防水だけ?そんなつまらないものを束さんが作るわけないじゃん!

とか言って、防水防塵防熱…と、ともかく超高性能にしている可能性も否定できん。というかやってそう。

 

 

それはさておき。

早速メモリをパソコンに挿し込み、データを拝見。

する前になんかウィンドウが出てきた。

なになに?

 

【Warning】

このデータは、一度開く動作の後、閉じる動作と共に自動的に削除されます。また、コピー切り取りその他類似動作及びスクリーンショットやスニッピングツールの使用が確認された場合、このコンピュータに内在する全てのデータが削除されます

 

 

 

 

 

 

 

ふむふむ。

…うっそん。

いや、このUSBメモリのデータが自動的に削除されるのは別に構わないんだ。必要なら後でアンサートーカーの能力で様々な問いを思い浮かべれば、例えどんな情報であっても入手できる。

 

問題は、コピーとかをすると、このパソコンのデータが全部吹っ飛ぶところ。

え、なにそれ。

一発の閲覧で覚えてね♪ってこと?

 

あ、でも手元の紙とかにでも書き写すのはセーフか。

よし。

これで俺秘蔵のデータ達が消されることはないわけだ。安心安心。

 

 

そう思ってウィンドウを閉じる。すると、次々とデータやウィンドウが開かれ、そして右下に5:00の文字が。

 

え?

 

そんな思いで見ていると、右下の数字は4:59、4:58、4:57…と減っている。

 

ま、まさか。

時間制限つきだとぉ!?

 

俺は急いで開かれたデータを次々に見ていく。

 

データの多くは現在急速に大きな影響力を持つようになったテロリスト、亡国機業(ファントム・タスク)についてだった。

 

恐らく束が調べられるだけ調べたのであろう、構成人数や潜伏場所の候補、主要なメンバーについての情報などだ。

主要なメンバーや幹部達はやはりセキュリティが堅かったのか、あまり多くの情報はない。

しかしオータムの素顔やスコールの存在が確認された画像、所有されているISの、アラクネやゴールデン・ドーンの情報まで載っていた。

 

ていうか、原作知識でアラクネは知ってたけどさ。

ゴールデン・ドーンて。黄金の夜明け団…?

あ、でもスコールのISの名前は知らなかったしな、俺。

これから原作知識ばかりに頼るのは危険か…?

そうすると、これからはちょくちょくアンサートーカーのお世話になるかもしれないな。

 

 

そして次は国際IS委員会の幹部何名かの行方がわからなくなっていること、存在が秘匿されているはずのアメリカの軍用機、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の情報が巧妙に流出させられていること。

あと、亡国機業(ファントム・タスク)らしき人員がアメリカ代表候補生、IS学園の3年生。

ダリル・ケイシーと接触していること。

これらから、現在時点での亡国機業(ファントム・タスク)の狙いはアメリカではないかという予想もあった。

 

 

へえ、原作の銀の福音事件では突然暴走した、みたいな描写だった気がするけど、本当はこうやってちょいちょい干渉されてたりしたんだね。

てことは、ダリル・ケイシー以外にも、アメリカ代表候補生に裏切り者がいたりするんだろうか?

だとすると、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走するように仕組むのは、より難易度が低くなる訳か。

 

また、テロリストの中でも、亡国機業(ファントム・タスク)のみにISが確保されていることから、国際IS委員会と亡国機業(ファントム・タスク)が繋がっている、もしくは乗っ取られている可能性あり、か。

 

 

 

なるほど。

そう考えれば、原作の臨海学校編で、IS学園の生徒とは言え一年生に、軍用機の暴走を止めさせる、なんて無茶苦茶な命令も通る訳か。

 

狙いは各国のISコア、もしくは織斑一夏君の身柄かそれともデータか。

いや、両方ともかもしれないな。

 

 

それ以外にも、優秀な代表候補生を消してISコアを回収する手立てだという可能性も考えられる。

 

あ、そうすると原作で出てきたあの密漁船の正体は、やられる予定だった代表候補生達のIS回収部隊か?

もしくはIS回収部隊のデコイで、実は束みたいに潜水艦でISコアを回収する、とか。

 

 

まあ今はまだ臨海学校の準備中だし、仮に俺がその情報を伝えたところで怪しまれるだけだろう。

織斑先生なら理解してくれるかもしれないが、今の時系列から言えば未来の、しかもまず 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が絶対に暴走するかどうかすらわからないのだ。

それなのにそこに密漁船が来るだろうこと、しかもそれが亡国機業(ファントム・タスク)の手の者かもしれない、なんて。

 

 

そんなこと織斑先生に言ったりすれば、絶対俺が怪しまれるじゃん…。何故そんなことを知っている。とか言われるって。

いや、怪しまれるだけならまだしも、スパイだとか言われたらシャレにならん。俺は平穏無事に過ごしたいだけなんだ。

 

 

ふむ、だいたいこんな感じか。

全てに目を通したところで残り時間は30秒。セーフ。

 

 

ふと、それらのデータの中に、1つだけ短いテキストデータを見つけた。

 

タイトルは、p.s.

追伸、だったか。

 

中身は本当の数行だったが、その内容は、これらのデータの中でも一番俺に影響を与えるものだった。

 

「突然のことで申し訳ありません。しかし、鹿波さんにお願いしたいことがあります。

妹のラウラ・ボーデヴィッヒのことです。妹は、ISに仕組まれていたVTシステムの発動により、精神状態が不安定になっています。ご存じだと思いますが、VTシステム発動後は教員たちにより銃でシールドエネルギーを削り取られ、制圧されました。

その後の様子を見ていましたが、妹は現在非常に生きる気力が失われてしまっているようなのです。

非常に身勝手なお願いですが、私が頼ることの出来る人で妹に関わることが出来るのは、鹿波さん以外に居ません。

どうか、ほんの少しでも構いません。妹の面倒を見てあげて下さい。よろしくお願いします。

 

Chloe CHRONICLE」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…は?

え、ちょいちょい待って待って。

何?なんか今日驚きばっかりなんだけど、その中でも特大の爆弾なんですけど。

待って。

ラウラ・ボーデヴィッヒにVTシステムが積まれているのは原作通りだし、きっと発動したのも原作通りなんだろう。

その後からが俺の知ってる原作とは違う。

 

ラウラは一夏君の白式の零落白夜で斬られて、一夏君に助けられて一夏君に惚れてハッピーエンドのはずじゃないの?

 

そうすると、なんだ。

VTシステム発動→一夏君とシャルロット(この時はシャルル男装?)が挑むも負ける→教員部隊出動→銃で蜂の巣

ってこと?何それ聞いてないんですけど。

 

 

じゃあ、あれか。学年別トーナメントのアクシデントは一夏君たちによって収まる程度のアクシデントじゃなくて、ガチなアクシデントだったってことか。

マジか。

 

 

え、じゃあシャルルは?シャルルがシャルロットとして再入学した件はどうなんだ?ちゃんと原作通りに女として再入学してるのか?

 

 

いてもたってもいられず、俺はアンサートーカーでシャルルの男装が続いているか確認した。

答えはYES。

未だシャルルは男装したシャルルのままで学園に在籍している。ええ。

 

 

そうすると、一夏君がラッキースケベに遭っても無視し続けるとは思えないから、まだシャルルが隠し続けていられてる、ってことになる。

まあ学園側としては、本当は女の子だと知っている訳だが。

 

 

うーん、いつかは来るだろうと予想していたが、まさかもう原作解離を起こしていたとは。

まあ、作中最重要人物の束との関係は悪くない(はずだ)し、織斑先生とも対立していない。むしろ二人とも、酒を飲んだりする程度の仲なので、まあ大丈夫だろう。

 

問題があるとすれば、亡国機業(ファントム・タスク)の存在と、これから原作知識があまり役には立たなくなるだろうこと、か。

 

 

とりあえずアンサートーカーで確認。

1つ目は、ラウラ・ボーデヴィッヒの面倒を見た方が良いのか否か。

2つ目は、シャルロットの男装を続けさせた方が良いのか否か。

 

答えは1つ目はYES。2つ目はNO。ちっきしょ。両方とも関われとな。

 

俺の平穏がぁ…。

 

俺の平穏が笑いながら全力で逃避していく様子を幻視した後、ひとまず落ち着くことに。

 

 

まず1つ目。ラウラ・ボーデヴィッヒにはこれから機会があれば自分から関わることにしよう。

これは、アンサートーカーで放置しない方が良い、と出たこともあるが、やはり大きな要因はクロエからのお願いである。

クロエちゃんのお願いとくれば聞かない訳にはいかないよね!

可愛いは正義。

 

 

問題は2つ目だ。これは俺がアクションを起こそうにも接点がないので、突然俺が行動を起こすのは不自然である。

しかも、前世から変わらぬ平々凡々な凡人の魂をもつこの俺には、平和かつ建設的な解決策など思い浮かばない。

むしろ原作の一夏君と同じ、『とりあえずなるようになる。しばらくは大丈夫!』くらいしか思い浮かべられないまである。

 

 

 

ふむ。

束を頼ってみるか?

貸し1つ、とか言われたら、そっかあ、クロエちゃんの心からのお願いを聞こうとしてる奴に貸し1つとか言っちゃうのかぁ。

そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。(エーミール感)

とでも言えばいいか。

 

 

 

束を頼る以上に穏便かつ平和的に解決できる方法があるかどうかをアンサートーカーで確認しつつ(脅しや脅迫は穏便でなく平和的でないために、他の良い方法は無かった)、以前束からかかってきた番号を呼び出す。

 

 

あ、でもあいつ、国際的に追われてるからな。

番号もメアドもコロコロ変えてるか?

そうしないとIPアドレスとかから追われたら厄介だろうし、他のサーバやパソコン経由して、追跡されないようにしてそう。

 

 

そう懸念した通り、呼び出した番号には繋がらなかった。

残念…。

 

 

そう思っていたら、直ぐさま着信が。

知らない番号だが、束の可能性があるため電話に出る。

 

「はいもしもし」

 

「あ、鹿波?データちゃんと見てくれたんだね。ちゃんとデータが削除されたことをこっちで確認したよー」

 

 

ああ、そっちからだったか。

そうすると、こっちから束に連絡をとるのは無理っぽい、か?

 

 

「ああ、見た。ところでこの情報、織斑先生にも伝えたのか?」

 

「んー、ちーちゃんには亡国機業(ファントム・タスク)とかの情報は同じように伝えたよ。あ、でもクーちゃんからのお願いは鹿波だけだから、誰にも言っちゃダメだよ」

 

「それについてだが、クロエの頼み事は引き受ける。安心してくれ、と伝えておいてくれ」

 

「オッケー、じゃあねー」

 

「待て。その代わり、と言ってはなんだがこちらも1つ、頼みたい事がある」

 

「ほいほい」

 

「フランスの代表候補生、シャルロット・デュノアは知っているか?」

 

「知らなーい。束さんは有象無象には興味ないもん」

 

「ああ。それについては理解出来る(大嘘)。

だが、その有象無象と一夏君が同じ部屋、となれば話は別だ。

お前の可愛い可愛い妹ならともかく、そんな有象無象の一人にいつでも人質にされる可能性があるというのは、少々どうかと思ってな?」

 

「…どういうこと」

 

声色が変わった。チャンスか?

 

「シャルロット・デュノアというフランスの代表候補生が、性別を偽って、男のシャルル・デュノアとして転入している。IS学園はハニートラップ等ではないと判断、泳がしている最中だ。

しかし表向きは男、一夏君と同室になり、また一夏君はシャルルが女だとは気付いていない。

 

今はこんな感じだな」

 

「…へえ。それで、鹿波の頼み事っていうのは?」

 

「ああ。このシャルル・デュノアがシャルロット・デュノアであるという女だということの公表を頼みたい。

 

出来ればその後、女として再入学、IS学園に在籍できればベストだな」

 

「…なんで鹿波はそいつがIS学園に在籍してほしいの?」

 

底冷えするような声。正直冷や汗が出るが、やはりなるべくなら原作沿いにすすんでほしいところだ。特に、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)戦ではなるだけ戦力は多い方が良いだろう。織斑一夏君の生存率を高めるためにも。

 

織斑一夏君が居なくなったIS世界なんて、全く予想がつかないからな。出来る限り、彼には生きていてもらいたい。

 

また、今の一夏君のISのコーチとしては、彼女以上に適任な人材がいない。もうしばらくすれば、更識楯無がコーチになるはずだが、原作知識が当てになるとは限らないことがわかった以上、念には念を入れておきたいところだ。

 

楯無がコーチしてくれるとは限らなくなったときに、箒、セシリア、鈴がコーチなのはさすがに怖い。

 

しかもラウラ・ボーデヴィッヒは消沈中となれば、やはりシャルロット・デュノアはコーチとして確保しておきたい。

 

「そうだな…。今のところの大きな理由としては、彼女が一夏君のコーチとして一番良いから、というところだ。束、お前も一夏君には成長してもらいたいだろ」

 

クラス対抗戦で、鈴ちゃんと一夏君が戦った無人機。花見の時には答えなかったが、あれは十中八九、束の仕業だろう。

 

そう考えれば、一夏君に成長してもらいたいと思っている、というこの予想はそう大きく間違っていないはずだ。

 

 

しばらくの沈黙の後、束からの声が返ってきた。

 

「わかった、そっちに関してはやっておく。

その代わり、クーちゃんのお願いは絶対聞いてよ」

 

「全力を持って対応することを約束しよう。他ならぬ、クロエの頼みだからな」

 

「私のお願いだったら聞いてくれないってことに聞こえるんだけど」

 

はっ、お笑いである。鼻で笑ってやる。

 

「はっ、お前のお願いなんて大抵ろくなことじゃないだろうからな。当たり前だ」

 

「うーわ、ひど。ちーちゃんに言いつけてやる」

 

「言ってろ」

 

 

そう言って、電話を切る。

仮に織斑先生に言ったとしても、多分俺と同じことを言うぞ。




皆さんからビシバシと誤字脱字以外にもおかしいよ、という指摘をいただいてます。
ありがとう!こんな馬鹿な作者だけどよろしくな!


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ドイツの子と守護霊の導き2

この作品は、ほのぼのハッピーエンドを目指しています


まだまだ先生達が臨海学校の準備に奔走している頃。

ラウラ・ボーデヴィッヒと仲良くなる機会はわりとすぐに訪れた。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒを頼みたい?」

 

「ああ」

 

 

場所は俺のホームと言っても過言ではないほど入り浸っている、IS整備庫。いつも人が基本的におらず、非常に閑散としている場所だ。

 

そんなところで、俺は織斑先生と話していた。

 

「VTシステムが暴走し、我々教員でラウラを鎮圧したことは聞いているだろう。あの後、あいつの身体は既に回復している。だが、どうも精神状態が不安定というか、な。

 

まあ、心の問題というやつだ」

 

「それは分かりました。ただ、どうして俺なんです?専門のカウンセラーやメンタリストがいると思いますが」

 

そう言うと、織斑先生は少し考えるように目を閉じた。

そして、言う。

 

「そうだな…。1つ目は、お前の実績を信用してだ」

 

実績?はて、何かしたことなんてあったっけ。

 

「お前と話をするようになってから、妹が明るくなったと楯無から聞いている。

それに、一夏の奴もお前と関わるようになってからは、以前の明るさを取り戻しつつある。…ここだけの話だが、お前に相談をするようになる前までは、だいぶん参っていてな。

 

やはり異性ばかりの環境、支えあったり同じノリで話すことの出来る同性がいないというのは、ストレスがたまるのだろう」

 

それに、勉強のこともあったしな、という織斑先生。

 

織斑先生、僕はそれに加えて貴女のお世話も負担だったと思うんですよ。

一夏君に聞きましたよ?ご飯を作るのも、掃除や洗濯も、シャツとかにアイロンをかけるのも一夏君がやってるらしいじゃない。

一夏君、めちゃくちゃよく出来た弟さんじゃない。

そんな弟にあーた、勉強は教えない?愚痴を聞いてもあげない?果ては自分の世話をさせる?

 

うーんこの。

 

正直喉元まで言葉が出かかったが、まだ本題に入っていないので我慢する。

今度一夏君に、織斑先生に構いすぎないようにやんわり諭してあげようと思いながら。

 

「もう1つはまあ、私の勘だな」

 

勘かよ。

 

「む、今貴様、勘だと思って馬鹿にしただろう。いいか、私の勘はよく当たる。それゆえだ」

 

あー、確かに女性の勘は鋭いって言うしね。

それも世界最強レベルの獣の勘ともなれば、下手な未来予知よりも当たるかもしらんね。

 

「そういうわけで、あいつーーーラウラのことを頼みたい。引き受けてくれないか」

 

ま、言われなくてもやるつもりではあった。そういう意味では渡りに船だな。

 

 

ええで。

 

 

「そうか、恩に着る」

 

 

ところでその、ラウラとやらはどこに?

 

 

「ああ、あいつなら保健室のベッドだ。時間のある時にでも見てやってくれ」

 

ではな、と言って織斑先生は颯爽と去っていった。うーん、所作がいちいち男前である。

あの人婚期大丈夫なんかな。

ま、いっか。

 

 

さて、時間のある時とは言われたものの。どうせ普段から午後3時も過ぎれば時間はあるのだ。

早速お邪魔しよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで保健室に。

窓からは日がさして、部屋を明るく染めている。いくつか空いた窓からはそよそよと心地良い風がふき、サボりでくるなら最高の場所だな、なんて思った。

一番奥から1つ手前、そのベッドにラウラはいた。

ベッドに座っているが、微動だにしないでボーッとしている。

とりあえず隣の椅子に腰かける。よっこいしょ。

 

我ながらおっさんくさい動作だなぁ、なんて苦笑して、目の前のベッドに座る女の子を見る。

サラサラの銀髪は腰まで伸び、柔らかな日の光を受けてわずかに輝いている。

本人の生きる気力のなさとは裏腹に、太陽の光を浴びて髪の輝くその様子は、まるで著名な絵画であるかのようだった。

 

 

とりあえず話しかけてみないことには始まらない。

ので、ひとまず挨拶。

挨拶は大事。古事記にもそう書いてある。

 

「こんにちは」(・∀・)ノ

 

 

…残念ながら返事は返ってこない。期待はしてなかったけど。

まあ、時間はあるし、慌てることはない。

 

また来るよ。そう言い残して、その日は去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

今日もラウラの元へ顔を出す。今日からは本腰を入れて付き添うつもりなので、読書する用に本を持ち込んでいる。

タイトルは『妖怪アパートの優雅な日常』。

面白いんだ、これが。

 

また来たよー、と声をかけ、こちらに対する反応がないことを確認してから、本を読む。

今日は、日が傾く頃までいてからさようなら。またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また翌日。今日も今日とて保健室。

 

やあ(・ω・)ノ

 

と声をかける。今日は挨拶した時にこちらをちらりと見た、気がする。

まあ、ゆっくりやっていこう。

 

 

今日も本を読む。そろそろ物語も盛り上がってきて、非常に面白くなってきた。ついつい本を読むことに没頭してしまい、夕方までいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に翌日。おっすおっす、なんて軽い調子でいつものように挨拶する。すると、今日は僅かにこちらを見たのが分かった。

 

特段気にすることもなく、今日も本を読み耽る。千晶ィ…あんた立派だよ…。

 

今日は昨日のことをふまえて、少し早めに退出した。

じゃあな、と言った際に、僅かにうなずいていたのが印象に残った。顔は相変わらず能面のような無表情だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また翌日。基本的に、ここにいると時間はともかく曜日の感覚が薄れてくる。ただ漠然と毎日を過ごす気持ちはどうなんだろうな、なんて思いながら、俺は今日も本の虫と化していた。

 

ふと視線を上げると、ラウラが透明な眼でこちらを見つめていた。思わず目をぱちくり。

どしたん?と聞いても返事はなし。ま、気にすることはない。また本を読む作業に戻る。

 

その日はその後もずっと視線を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またまた翌日。今日は挨拶をする前からこちらを見ていた。構わず声をかける。

 

よう(・ω・)ノ

 

すると、俺が椅子に腰かけるくらいのタイミングで、かすれるように「…ぁぁ」と言う声が。

かすれるほど小さな声ではあったが、その声は、透き通るようにきれいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に翌日。また今日も挨拶をすると、ゆっくりと頷きを返してくれるようになった。

まだ自分から話かけたりはしてこないが、まあ気にすることではないだろう。

最近は俺が本を読んでいる姿をじっと見つめてくることが多い。

美少女に見つめられて読書するとか…たまんねえな!

 

最近は、風が強く吹いている、という本を読んでいる。三浦しをんの本は、たまに面白いのがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また今日も本を読み、1日が終わる。切りの良いところまで読み進め、栞を挟む。

パタン、と本を閉じて立ち上がろうとした時、ふと声をかけられた。

 

「…なあ」

 

「ん?」

 

その声は掠れていたが、はっきりと、俺に向かってかけられたものだと分かった。

振り向けば、夕日を横に受け、ラウラがこちらをまっすぐに見据えていた。

 

「なぜお前は、私のところへ来る」

 

その瞳は俺をじっと見つめ、真剣な表情がうかがえた。

 

「…難しい質問だ」

 

そう、この質問は少しばかり難しい。初めはクロエや織斑先生からの頼みだから、というばかりであったのだが。

最近は、なぜかこの子(ラウラ)を放っては置けない気持ちになってきていた。

 

ただまあ、共通しているのは。

 

「面倒を見ようと思ったからさ」

 

これに尽きる。

目の前の少女は更に質問を重ねてくる。

 

「どうしてだ」

 

「さあなあ。これも縁ってやつだろ。もしくは、お導きか…」

 

そんなもんだ。

どれだけ大事な人でもいつかは死ぬし、会わないまま連絡がつかなくなることもある。

 

 

「そうか」

 

 

そう言って、ラウラはまた元の姿勢に戻った。じゃあな。そう声をかけて立ち去る。

ああ。という声が聞こえた気がした。




長くなりそうなので分割。

放って置けなくなる、という感情は、サブタイの通り守護霊(ラウラからすると妹。守護霊からするとラウラがお姉ちゃん)から来ています。実は。


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ドイツの子と守護霊の導き3

今日もラウラのいる保健室に足を運ぶ。

最近はここで過ごす、穏やかな日常が気に入っている。

今日もベッドの側に行き、椅子に座りながら声をかける。

 

「よう」

 

「ああ」

 

 

あれ以来、ラウラは俺が声をかけると反応を返すようになった。以前よりも顔に生気も戻り、能面のようだった無表情は、穏やかな顔をすることが多くなった。

今日もまた本を読み、ゆったりとした時間が過ぎる。

それじゃあ、と声をかければ、ああ。というソプラノの澄んだ声が返ってくる。

今日もまた、いい時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も声をかける。いつものようによう。とか、おう。とか。そんな適当な挨拶。

ただ、その日はいつものように読書、とはならなかった。その日は声をかけてからずっと、ラウラがこちらを見ていた。

 

 

「…どうした」

 

思わず声をかける。

だが、返事はない。

 

しかし、その顔は何かを言おうとしているように見えたので、何も言わずにただ待つことに。

1分、2分…。

 

ただ過ぎ行く時間の中で、これ俺じゃなかったら相当失礼だよな、なんて思いながら待っていた。

そうしてしばらく、ラウラが口を開く。

 

 

「お前は、何のために生きている…?」

 

思わず眉が上がる。それは俺が関わり始めてから初めての、明確な疑問を聞かれたからだ。

 

 

しかし、これはまた。

 

「…難しい質問だな」

 

何のために、か。

 

 

はてさて、前世の小学生の頃に悩んで以来、全く考えることのなくなった内容だ。

つまり俺にとってはもはや意味のない問いであり、既に終わった(・・・・)質問である。

だか、目の前にいるこいつにとっては重要で大切なことなんだろう。

それゆえ、答えるのが難しい。あっさりと切り捨てたいが、しかし。

そうだな…。

 

 

「お前は、何のために生きていると思う」

 

 

面倒くさくなったんで丸投げ。オウム返しに質問を返す。

 

何かのために生きているなら、その何かが終わってしまえば残りの人生に意味が無くなってしまうだろう。

だが俺は、そんなわけはないと、幼い子供の時に既に思っていた。あるいは、そんなわけはないと信じたかったのかもしれない。

 

ゆえに、生きる目的などないと。

死んだときにようやく生きた意味があるのだと。

 

俺はそう思って生きてきた。

そしてその想いは、二度目の人生でも変わらない。

 

もしくは、これから先には変わることが、あるのかもしれない。

それならそれでいいと、そう思っている。

 

 

「私は…」

 

そう言ったきり、ラウラはうつむいて黙ってしまった。その小さな両手はシーツを力いっぱい握っており、シーツにシワを作っていた。

 

 

 

「お前は、何のために生きるのか、という目的が欲しいのか」

 

 

 

一つ、言葉を投げ掛ける。その目的が欲しいのならばくれてやろう。そんな気持ちで。

目的のためになど生きてはほしくないと、そう願いながら。

 

 

 

「私、は…」

 

 

待つ。じっと。

なんとなく、そうせねばならない気がした。

 

そよ風が優しくカーテンを揺らす。

窓から入る日の光は、彼女を励ましているようだった。

 

 

 

「ラウラ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 

 

ラウラが顔を上げてこちらを見る。

その顔はまるで、泣き出してしまう寸前に見えて。

 

 

そんな顔をされたら仕方ない。

なので俺は、優しく彼女の頭をそっと撫でた。そのとたん、涙腺の防波堤が決壊したのか。彼女は泣き出してしまった。

 

小さな体躯の彼女を優しく抱き寄せ、ゆっくり背中をなでさする。

俺は、落ち着くまで彼女を抱きしめながら、

 

 

 

『24歳男性職員が女子生徒に性的な行為を働いたため、警察は男性職員を逮捕。男性職員は容疑を認めているということです。』

 

 

 

という、ニュースでながれそうな女性アナウンサーの声を、脳裏に思い描いていた。

ふざけてないとやってられない性格なんです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラが落ち着いた頃を見計らい、スポーツタオルを渡す。

その目もとは腫れぼったくなっていて、ひどくぐちゃぐちゃであったが、どこか一種、吹っ切れたような雰囲気と、美しさがあった。

 

「す、すまない」

 

未だすんすんいいながらそう言う彼女に、気にしなくていいよ、と返しながら、俺は話を聞く体勢を取っていた。

 

すん、と一度だけ鼻をすすって話始めた彼女いわく。

 

これまで軍で必要とされていた間は『兵器』として己を高めていれば良く、織斑一夏と戦っている間もそう思っていた。

しかしVTシステムが発動し、織斑先生含む教員の先生たちに制圧されてからは、一体自分は何のために生きてきたのか分からなくなってしまった。

 

 

 

あー、愛しの…というか、尊敬(崇拝?)していた織斑先生にやられたのがトドメだったのね。

で、ただでさえショックだったのに加えて、これまでやって来たことが意味があったのか、これから先、何のために生きていけばいいのか、分からなくなってしまったんだろう。

そうすると、これまでベッドにいたのは、何をすればいいのか分からなくなっていたから、ってところかな。

 

 

やれやれ。考えすぎだと思うけどね。

特に意味なんてなくったって、ラウラのことを大切に思ってくれている人はいる。クラリッサとかな。

 

 

生きる目的がないと生きられないのなら、ラウラに生きてほしいと思っている人たちや、これまでラウラが生まれるまでに犠牲になった子達の分まで幸せになるために生きろ、とでも言うつもりだったけど。

とんだ杞憂で済みそうだ。

 

 

未だにすんすん言ってるラウラの頭を撫でつつ、もう大丈夫だと確信する。

あとは頃合いを見計らって帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから男が少女の頭を撫でさする光景は、10分ほど続いたという。




ラウラかわいいよラウラ
シャルロット?知らない子ですね…


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ラウラの復活とフランス娘

みんな主人公が主人公してるとかさ言いすぎ(笑)


でもね。まだこれ準備編終わってないんやで?(だってまだIS作ってないし)

待て、しかして希望せよ(エドモン並感)


ラウラたん吹っ切れ事件(今命名)の後。

織斑先生から、お礼と共にラウラが復帰したことを聞いた。

 

「こんなもんで良かったですかね」

 

「ああ、期待していた以上だ。やはり私の勘は、間違っていなかっただろう?」

 

そう笑いながら朗らかに告げる織斑先生。

その笑顔を普段から振りまくだけで、先生の結婚は現実味を帯びるだろうに…。もったいない…。

 

家事は壊滅的、私生活ダメ人間の織斑先生だが、有事の際にはこれほど心強い人はいない。普段から男前だし、気の優しい主夫みたいな人がいれば、婚期婚期言って焦らなくて良さそうなものである。

まあ言わないけどね!

山田先生に愚痴る織斑先生…アリだな!(面白い的な意味で)

 

でも、そんな様子が面白かったので、少しばかりからかってやることにした。

 

「そうですね。でも、そのドヤ顔は少しムカつきます」

 

「」

 

織斑先生、急に真顔にならないで下さいませんこと?そのお顔、少々怖いですわよ?

なんて心中で小馬鹿にしていると、諦めたのか、ため息をつく織斑先生(24)。

おいまて、なんで今ため息ついた。

ダメだコイツ…。みたいな表情すんな。

 

「まあいい。

それと、今度の臨海学校の後だが、世話になった旅館に礼を言いに行く。まだしばらく先の話だが、準備しておけよ」

 

「ん?臨海学校って、今まだ準備してる真っ最中ですよね。もう臨海学校後の予定まで決まってるんですか?」

 

「それについてだが、今年は織斑が入学したから教員が人手不足しててな。

山田君と私で行く予定だったんだが、あいにく山田君は都合がつかない。他の空いている教員もいないし、急遽お前でいいじゃないかという話になってな」

 

「待って。待ってください。なんでそこで私の名前がでるんですかねぇ」

 

「だってお前、多分この学園の中で一番暇だろう?」

 

 

ぐうの音も出ない。

いや、だが俺は面倒ごとは嫌いなんだ。IS学園の敷地から出るというだけでも嫌なのに、おそらく銀の福音戦の起きるであろう旅館に行くだと?しかも同伴者が織斑先生?

 

嫌 な 予 感 し か し な い 。

 

はっ!そうだ!轡木さん!轡木さんなら!助けてくれないだろうか!?

 

「ああ、言い忘れていたが、これは学園長命令だ。拒否権はないぞ」

 

神は死んだ。

学園長命令ってことは実質轡木さんも公認ってことじゃん…。

 

「…ちなみに、他のメンバーは?まさか二人で、なんてことはありませんよね」

 

「旅館の方々の警護に更識家が、私達には楯無がそれぞれ付く。私も武装して行くし、まあ問題はないだろう」

 

アカン。フラグビンビンやないですか。

問題ないって言った時には大体問題が発生するって、それ一番言われてるからぁ!

 

ていうかあれだよね。織斑先生の武装ってISブレード一本でしょ。

それ生身で扱うものじゃないから(白目)

 

 

ではな、と言って、織斑先生は颯爽と去って行った。たなびく髪がふつくしい…。

あれ、なんかデジャブ。前にもこんなことあった気がする。

いつも織斑先生颯爽と去ってんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、学校の授業が終わったであろう頃。ラウラちゃんが学校の制服で整備庫にやって来た。

 

 

 

やあ(・ω・)ノ。

 

「うむ。世話をかけたな。改めて礼を言うぞ!」

 

そう言って、ちっさな体で胸をはるラウラちゃん。うん、それ礼を言う態度じゃないよね。別に気にしないけど。

 

「ああ、それと。鹿波!お前を私の嫁にするぞ!」

 

ああ、やっぱり呼び方は嫁なのね。一夏君じゃなくて俺の方来ちゃったかー。ま、何はともあれ。

 

「嫁言うなし」

 

「む!?だが、日本では自らが気に入った相手のことを『嫁』と呼ぶのだと聞いたぞ!」

 

驚いたように言うラウラちゃん。

ほんとなぁ…この子めっちゃ純粋なんだよなぁ…。

とりあえず、今度クラリッサに関わる機会があったらちゃんと言っておこう。

嫁は女性に言う呼び方だと…。

 

まあ、クラリッサどころかドイツの部隊と関わることがあるかどうかもわからんけどね。いまんとこ。

 

 

「嫁って呼ぶのは女性に対してだから、せめて婿かなぁ」

 

「では嫁よ!またな!」

 

そう言って、ラウラちゃんは走って出て行った。

聞いちゃいねえ。聞けよ。

 

 

そんなラウラと入れ替わるように、織斑君がシャルロット・デュノア君を連れて整備庫に入ってきた。あ、まだ男子の制服着てるからシャルル・デュノア君かな?

 

 

とりあえずシャルル君(仮)を手招きする。え、みたいに躊躇してるけど、そりゃそうだよね。

まだ一度も話をしたことのない人が突然手招きするとか。俺なら逃げる。

 

しかしシャルル君(仮)はそんな俺とは違って純粋なのか素直なのか、一夏君に何か話をしてから俺の方に来た。

 

織斑君には

「ごめんねー。ちょっとばかり大事な話があるから、悪いんだけど待っててくれる?」

と言って、シャルル君(仮)を連れて、秘密の部屋へ。

 

織斑君からは、大丈夫だぜ!という元気な声が聞こえたので、まあ問題ないでしょ。

 

さて、カードキーで部屋を開いて中へ。

ちなみにこの秘密の部屋、別に秘密でも何でもなかったりする。

ただ、セキュリティは万全(束以外)、他の人の監視や盗聴については心配ない。

 

そのことはちゃんとシャルル君(仮)に伝えておく。

 

 

部屋の中に入ってすぐの本棚の並ぶ間を抜けて、作業机の手前にあるソファーとテーブルの応接間に案内する。

 

あ、飲み物はホットミルクでいいかな?

ああ、まあ落ち着いて。

 

 

なんて言いつつ、見ず知らずの男性に良く分からない部屋に連れ込まれたら、そりゃ女の子なら怖いよね。

でも今は男として来てるし、変に断ったら怪しまれるかも…。とか考えているんだろう。

 

全部わかっている上でわざとやるこの意地の悪さと怪しさ満点の行動。

うむ、やはり俺はこうでなくてはな!(愉悦)

 

シャルル君の対面のソファーに腰を下ろしながら、彼女に声をかける。

 

「さて、シャルロット・デュノア君」

 

「はい………、はい?」

 

途中から驚いたようにこちらを見るシャルル君(仮)。うん、ごめんね?お兄さん達IS学園の大人達は、知ってても知らない振りをするのが、とぉっても得意なんだよ(ゲス顔)

 

「うん、IS学園側はキミが女の子だってことは知ってるから安心しなよ。さすがにそこまでガバガバ警備じゃないからね」

 

安心しなよと言いながら相手を追い詰めていくスタイル。しかも相手は齢15かそこらの女の子。いやー、俺ってば、やっぱり外道だねぇ!(歓喜)

 

シャルル君は面白いほど顔面蒼白になり、今にも震えだしそうな様子である。うん、やっぱりホットミルクにして正解だったかな。

 

俺は再び言葉を紡ぐために口を開く。

 

「実はね。今度デュノア社にシャルロット君が女の子だということを突きつける手筈になっている。まあ、ちょっとしたコネを使ってね。

 

で、今のところの予定では再びキミは女の子として再入学してIS学園に在籍できるハズだ」

 

まあ、今のところの予定では、だけどね。

 

そう言って、一度言葉を切る。

シャルロット君はなにがなんだか良く分かってないご様子。

まあそりゃそうだよね。

学園に女だとバレてたと思ったら、突然女の子として再入学することになると思うよ、とか言われている訳ですし。意味わからんよね。わかるよー。

 

ちぇぇぇぇぇぇん!(唐突なネタ)

 

「まあ、男装しての生活なんて窮屈だろうしね…。

ああ、男としてもっと生活したかったなら、そう言ってくれ」

(言われても今さら取り消したりはしないけど)

 

そう思いながら彼女を見ると、フリーズしている様子だった。

構わず話を続けることにする。

 

「勝手なことをされている訳だから、恨む気持ちもあるかもしれない。もしそうなら、思う存分、僕を恨んでくれ」

 

「恨むなんて!そんな……」

 

いけしゃあしゃあと言葉を並べつつニコニコ彼女に話す。

彼女は慌てて首を横に振っていたが、残念。

俺は君の反応なんて知ったこっちゃないと言わんばかりに好き勝手するだけです。

残念だったなぁ!(満面の笑み)

 

 

そうして彼女を見ていると、彼女の方から言葉がかかった。

 

「どうして……?」

 

はて、主語がないので分かりにくいが、どうしてそこまでしてくれるの、ということだろうか。

 

「んー…」

 

正直そっちの方が自分にとって都合が良いからなんだけど。まあそれっぽいことを適当に言ってごまかそう。

 

「僕は、一夏君のことをそれなりに大事に思っていてね(物語の主人公的な意味で)。ハニートラップでないと学園側が判断したとはいえ、年頃の男女が同室というのはちょっとね」

 

実はこの理屈で行くと、前の箒ちゃんが同室なのもダメなのだが。

一応俺の立場から見れば、

一夏君と箒ちゃん(女の子)が同室→アカンやんけ!→一夏君とシャルル君が同室→良かった良かった→実はシャルル君女の子→やっぱりアカンやんけ!→年頃の男女が同室とかアウト→シャルル君、出直してきたまえ

 

となるので、まあおかしくはない。

 

「あと、キミの過去は少しばかり調べさせてもらった(大嘘)。

お金の振り込み元、ならびに社会的立ち位置がデュノア氏に握られている。

まあ学生の身分で親にそこまで拘束されていれば、逃げ出すのは難しかっただろう、と判断した。

まあ、これなら仕方ないと思ったわけだ」

 

つまり同情の余地あり、ってこと。

いや、自分から逃げ出そうとしない奴なら助けたりなんかしないんだけどね。

どうもこの世界のシャルロットちゃん、自由国籍枠を取ろうとした形跡があったらしいんだよね(束談)。

 

 

「しかたない…?」

 

よく分からなさそうに呟くシャルロットちゃんに、にっこり笑って告げてやる。

 

「まあ、とどのつまりは…気まぐれさ」

 

はいここで胡散臭い笑顔!

いかにも怪しいですよ、という風を装う。

 

だってこんな見ず知らずの他人が助けてくれることなんてめったにないからね。

簡単に人を信用して被害に遭わないためにも、ここは俺が怪しい人物だと思ってもらいたい。

 

ん?個人的な趣味嗜好が混じってないかって?

喜んで美少女をいじめているように見える?

 

 

ハッハッハ、なんのことかなー!

 

 

 

 

「さて、あんまり長く話していると、織斑君に心配させちゃうしね。

行こうか」

 

そう言って、一夏君の元へ。

 

 

お待たせ、なんて言って、シャルル君と一夏君に向かい合って、言う。

 

「さて、二人共居ると相談しにくいこともあるかもしれないし…。シャルル君は先に部屋に戻っていてくれ」

 

シャルル君はこくんと頷き、またね一夏と言って去って行った。

 

 

そのシャルル君を見ていた織斑君が言う。

 

「上機嫌ですね…また悩み事を解決してあげたんですか?」

 

たしかにキミの相談には良くのってあげてたけど、俺は一度も悩み事を解決したことはないぞ。またってなんだ、またって。

まるでいつも悩み事解決してる人みたいに言うんじゃありません。

 

「どうだろうね…。他人から見ればどうでもいいようなことを真剣に悩んでいることもあるし、自分がさして気にしていないことを悩んでいると思われることもある…。

まあ、ただのお節介さ」

 

 

そう言うも、織斑君は真剣な顔をして言う。

 

「それでも俺は、鹿波さんに救われましたよ」

 

「ーーーそうかい?それは嬉しいことを言ってくれるねぇ……」

 

 

救うなんておおげさな。俺は、そこまでたいそうな人間じゃないよ。

 

そう言うつもりだったのに、織斑君の真剣な表情を見て、出てきたのは違う言葉だった。




はい。ようやくメインヒロインが揃いました。
あと主人公はツンデレ。

さてさて、しばらくは日常編でほのぼのしたいところですが、どうなることやら…。


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在りし日の日常

なぜかシャルルと応対する時には主人公がペイラーになる。不思議。


「嫁よ!」

 

「お″うっ!」

 

ッパーン!

と、勢いよく近未来的な金属のスライドドアを開いて整備庫に入ってきたのは、ラウラ・ボーデヴィッヒことラウラ。

びっくりした。

某駆逐艦のような声が出るかと思った。

ていうか、そのスライドドアはガンダムとかでよくある片側スライドドアで、プシューとかそんな感じの音をさせながら自動で開くタイプだ。

少なくともお前のように、力いっぱい目一杯勢いよくあけるものではない。

断じてない。

 

 

 

あの後ラウラは学校生活に復帰。

織斑先生にも

 

「弛んでいる」

 

と言われ、放課後に特訓という名のしごきを食らったらしい。

 

 

その後俺のところに来て、爽やかな笑顔で

 

「世話になったな!」

 

と言ってきた。

 

また、その時以来俺のことを嫁と呼ぶ。

呼び方に関しては、本人が

 

「ラウラと呼べ」

 

と言ってきたので仕方なく、

 

「ラウラ」

 

と呼んだのだが、その時のぱああああっ、と花が咲いたような笑顔は今でも印象に残っている。

何このかわいいいきもの、と思いました。

最近の笑顔も、にへーっ、という感じでかわいいのだが。

 

 

「で、今日はどしたん。あと嫁いうな」

 

また何かあったんだろうか。

あれ以来、ラウラは明るくなり、人を見下したりバカにした態度をとることはなくなった。

もともとの好奇心の旺盛さ、素直さも相まって、クラスのみんなとも仲良くしているという。

 

「うむ。今日一夏達と話をしていてな。男は女が料理が出来た方がいいと思う、というのは本当か?」

 

はあ。何のこっちゃ。

とりあえず詳しく話を聞く。

 

なにやら今日の昼休み、いつものように屋上で一夏君達とお昼を食べていた時のこと。(IS学園は屋上が開放されている)

ラウラが一夏君に、

「いつも一夏達は料理の話をしているが、やはり男としては料理が出来る女の方が好きなのか?」

と尋ねた。

すると、一夏君からはこんな回答が返ってきたそうだ。

「あー、まあ別にめちゃくちゃ上手じゃなきゃダメ、って訳じゃないよ。ただ、千冬姉レベルだと嫌かなぁ…。

 

やっぱり疲れた時には代わってほしいし、ある程度出来てはほしいかな」

 

その後はいつものように、箒ちゃん、鈴ちゃん、セシリアさんの3人と一夏君が誰の料理が一番美味しいか、とかいろいろやってたらしい。ちなみに普段、一夏君は箒ちゃん、鈴ちゃん、セシリアさんと。ラウラはシャルルと一緒に過ごすことが多いらしい。

シャルル君と一緒に?と聞いたら、あいつは女だろう?と疑問で返された。

なんでも、立ち姿、骨格、筋肉のつきかたで男かどうかくらいは判別できる、とのこと。

さすがは軍人。

 

 

で、その答えを受けて俺に聞きにきた、と。

 

うーん、まあ俺も一夏君とだいたい同意見かなぁ。

 

ただ、まぁ。

 

「そうだなぁ。まあそれこそ人によると思うぞ。

料理は自分の領域だ!っていってこだわりぬく男からすれば、女の人が料理できようがあんまり気にしないだろうし。

逆に、料理が出来ない男からすれば、相手には出来て欲しいかもしれないしな」

 

ちなみに俺は簡単な自炊程度は出来る。ただ、油ものは後片付けが大変なので、なるべくならやりたくないというのが本音だ。

 

「むしろ、ラウラはどうなんだ。相手にどれだけのものを求める?」

 

ある意味それが一番重要というか、大切な気がするけど。

 

「む、私か。そうだな…。

 

考えたこともなかったな」

 

そう言って、あごに手を当ててむむむ、と考えだすラウラ。

目を閉じて真剣に悩んでいるラウラにそっと告げる。

 

「まあ、時間はたっぷりあるんだ。一つ一つ考えていけばいいさ…。

現実的にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の訪問者は織斑先生だった。

それも結構な勢いでこちらに来る。

どうしたんです?タイトなスカートがギリギリまで伸びてますよ。

しかし綺麗なおみ足ですね。すりすりしたい。ハアハア。

…なんだか変態的だな。だがそれがいい。

 

 

「今日になって突然デュノア社から、シャルル・デュノアがシャルロット・デュノアであるという通知が来た」

 

そう言って、真剣な顔つきでこちらを見つめてくる織斑先生。

しかし、織斑先生のような目力のある美人さんにじっと見つめられると照れますねぇ。

 

「はぁ。そうですか」

 

「ああ。…鹿波。お前、何かしたのか?」

 

そう言って疑うようにこちらを覗きこむ織斑先生。

あ、いい匂いがする。

ていうか、織斑先生顔近いです顔。

お綺麗ですね。

 

織斑先生はこちらの顔を覗きこむように見上げてくる。

しかも、顔と顔の距離が5㎝もない。

まあ、ロマンスのかけらもない圧迫のしかたであるのだが…。

 

一瞬、ここでキスとかしたらどうなるんだろう、というイタズラ心が芽生えるが、織斑先生の場合は本当にファーストキスである可能性があるのでやらない。

そもそも一夏君に絶対にらまれることになるし、白い目で見られるようになるのもお断りである。

 

ただ、もし万が一織斑先生が受け入れてしまった場合。

多分結婚一直線のコースである。

ごめんなさい織斑先生。まだあなたには女子力が足りてません。

頑張って一夏君に修行をつけてもらってください。

多分そうすればいい人と結婚できるから。

 

え?

いざとなったら頑張った織斑先生をもらってあげないのかって?

 

すまんな。俺、多分浮気性だから日本で結婚して一人を愛するってないと思うで。

織斑先生をもらうのはええけど、多分こないな不純なやつならお断りされるやろ(適当)

 

 

しかしさっきから織斑先生近い。

こっちはのけぞっているのに、それでもこちらに顔を近付けてくる。

邪魔。えい。

 

ちゅ。

 

「なっ…!」

 

あ、織斑先生のおでこに唇が当たった。

ごめん織斑先生。今のはわざとじゃないの。

でも謝らない。だって今のは織斑先生が近付き過ぎたのが原因やからね。

 

バッ!と織斑先生が俺から離れて、スーツの袖でおでこをこしこししている。

 

(´・ω・`)

 

「す、すまん。ちょっと私も焦りすぎていた。

失礼する」

 

そう言って、織斑先生は足早に去っていった。

 

結果的にはごまかすことなくやり過ごせたけど、なんだろう。

ものすごい罪悪感ががががが。

 

しかも途中まで、キスしたらどうなるんだろうなー、とか、唇プルプルですなー、とかちょっと変態チックなこと考えてたから余計にね。

 

…嫌われたかもしらん。

や、俺みたいなのは嫌われる方が、むしろその人のためになるかもわからんけども。

 

…しっかし。

 

「織斑先生、顔真っ赤だったなー…」

 

まあ、俺の顔も多分、相当真っ赤なんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…。ふぅ…。」

 

私は鹿波に顔を見られないうちに足早に立ち去り、化粧室に来ていた。

顔が熱い。かぁぁぁぁぁっ、と熱くなったあの瞬間から、ずっと胸がドキドキしているのが分かる。

 

先ほど、鹿波の唇が私の額に当たったのは、鹿波に過失はない。ないのだが…。

 

あーっ!

なんなのだ!

少なくとも鹿波が悪い部分はなく、私が彼に近付き過ぎたのがいけない。それはわかっている。わかっているのだ。

だが、感情としては、全て鹿波が悪い。そう思ってしまう。

いつの間にかそんな距離まで近付いてしまっていたのも、その瞳をじっと見つめてしまっていたのも、そしてーーーーー。

 

 

その唇が私のおでこに当たった時のことを意識して、更に顔が熱くなる。

動悸は激しい。

今すぐ何かを抱きしめてゴロゴロとしたい衝動にかられる。

別に、鹿波のことが好きだとか、そういう訳ではない。

 

ただ、男というものを知らずに育ってしまった私には、先ほどの事だけでも許容量を超えている。

 

 

胸の動悸は思い出すほどに激しくなり、鹿波の顔が頭にフラッシュバックするたびに、その唇を意識してしまう。

彼の唇が、私のおでこにーーー。

 

 

「ぬあああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は、かれこれ10分以上出て行くことが出来なかった。




な、何故か気付いたらちーちゃんがヒロインしとる…。

私、ハーレムエンドは好きじゃないんですけど。
ハーレムエンドでみんながハッピーエンド、とかどうですかね
壁|ω・)チラッ


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在りし日の日常2

昨日の今日でちーちゃん大反響で草

書いた自分が夜に悶えて寝られなかった作者です


山田真耶先生に出会って開口一番聞かれました。

 

「昨日、織斑先生と何かあったんですか?」

 

 

なんだろう。何かあったのか聞いていながら、あったことは既に確定してるみたいなこの聞き方。

 

幸いなのは、俺が織斑先生にひどいことや悪いことをした、と決めつけたりしない、真耶ちゃんに尋ねられた、ということだ。

 

あー、いや、あれは俺が悪いのかな?

とりあえず、誤解のないように真耶ちゃんには伝えておこう。

こんな女尊男卑の世の中だ。あらぬ噂を立てられるだけでも男は社会的に死ぬ。痴漢冤罪とかね。

 

 

そういう訳で、かくかくしかじか。

まあ、俺にも対応に落ち度があったかもしれませんし…。

と、謙虚な姿勢で応対する。

自分の悪いところは直ぐに認めて対応するのは、社会人の必須スキル。

 

真耶ちゃん先生に説明し終えると、納得したように頷いていた。

 

「あー…。織斑先生、男性に免疫とかありませんからね…。

あっ、わ、私が男性に免疫あるとか、そういう訳じゃないんですよ!?」

 

わたわたして説明しちゃう真耶ちゃん。可愛い。

 

「でも、それを聞いて安心しましたー…。あ、鹿波さんは悪くないので、気にしないで大丈夫です。

 

私、実はちょっとだけ、鹿波さんと織斑先生が喧嘩しちゃったんじゃないかと心配で…」

 

そう言って、ほっ…と安堵した表情をこちらに向ける。

 

まあ確かに。

俺も織斑先生も、どちらかと言うと我が強い方だからね。その心配は尤もではある。

 

あ、もしかして教員の方達の間で何か話になってたりしました?

 

「はい。それはもう。

 

普段なら冷静な顔で淡々と仕事をこなす先輩が、昨日はなんでもないところでミスをしたり、突然ぼーっとして自分のおでこに手を当てたり。

 

他の先生達も、風邪?大丈夫?って声はかけてたんですけど、大丈夫、大丈夫だから…。と言って、織斑先生が聞かなくて…。

 

心配してたんですけど、鹿波さんの話を聞いて安心しましたぁ」

 

そう言って、ほにゃっ、と笑う真耶ちゃん。天使かな?人の良さと相まって、まるで聖人に見える。

 

 

日本刀を振り回す聖人はお呼びではない。帰れ。

 

 

「じゃあ私、後で教員の皆さんに説明しておきますね。あ、ちゃんと鹿波さんが悪くないことは伝えておきますから、安心してください!」

 

それではー!

と言って、真耶ちゃんはあっという間に去っていった。

いつもなら見ない速さだったので思わずびっくり。これならクーガーの兄貴も大満足の速さだった。

 

 

あ。

待てよ?

教員の皆さんに説明?

つまり、昨日のあれを、教員の皆さんに知られちゃう訳だよな。

 

 

…織斑先生、大丈夫なんだろうか。

羞恥で。

 

「ええぃ、離せ真耶!」

「ダメです先輩、早まっちゃダメですぅ!」

 

とか…ならんか。

うん、まあ、いいや。しーらね。(無責任)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫁よ!」

 

ッパーン!

 

特に理由のない暴力が金属扉を襲う!

いや、別に暴力じゃないけど。荒々しい開け方されてるだけだけど。

…暴力と大差ない気はする。

 

 

「だから嫁じゃないって」

 

 

あと、そのドアはそうやって力任せに開けるものじゃありません。

 

って、あれ?

 

「ラウラ、置いてかないでよー!」

 

「む?すまんなシャルロット」

 

おや。今日はシャルル君…。いや、女子制服だからシャルロットちゃんか。シャルロットちゃんも一緒なんだね。

 

 

いらっしゃい。

 

 

あとラウラ、眼帯外したの?

 

「む?うむ!

嫁は眼帯を着けてた方が好きか?」

 

なんだろう。

子犬が構って構ってというようなこの感じ。

かわいい。

 

「いや、ない方がいいかな。

俺はラウラの綺麗な眼、好きだよ」

 

「そうか。

ならばお前の前では外していることにしよう」

 

そう言って、ムフーッとドヤ顔をするラウラ。

やだこの子、かわいい…!

 

 

「えと…お、お邪魔します」

 

やあシャルロットちゃん。

この間は突然話かけたのに、ちゃんと聞いてくれてありがとねー。

女子の制服着てるってことは、ちゃんと女の子として再入学出来た?

 

「はい!あの、ありがとうございました!」

 

いいっていいって。

(どうせ自分のためにやったことだから)気にしないでー。

 

 

ていうか、あれ?

俺が動いたこと、シャルロットちゃんに直接言ったりしたっけ?

 

 

織斑先生には何も言わなかったけど。

あれは事故。事故だから。

 

 

「ええと、以前お話を教えて下さった際に、知り合い?に頼んだ、とかおっしゃってましたよ」

 

おう…すっかり忘れてた。

これだからおじいちゃん(24)の記憶力はあかんね。

 

あ、あとそんなにかしこまらなくてもいいよ。

むしろ、ラウラくらいフランクでオケ。

なんだかむず痒いし。

 

「フランク、ですか。わ、わかりました」

 

まだまだ緊張がほぐれない様子のシャルロットちゃん。

あ、なんて呼べば言いかな?シャルロットちゃんでいいの?

 

「あ、出来ればシャルロットでお願いします。シャルロットちゃんは、ちょっと恥ずかしいです…」

 

あはは…といいながらそう言うシャルロットちゃん。いや、シャルロットって呼ぶんだったか。

んじゃあ。

 

 

「わかったよ、シャルロット。

これでいい?」

 

「はい、それでお願いします」

 

 

そうやって、シャルロットとばかり話をしているのが不満だったのか。

ラウラが俺の背中をよじ登ろうとしている。こら。

 

「嫁よ、私にも構うがよい。

いやむしろ構え」

 

そう言いながらもよじよじと背中を登ってくる。

放置してたけど、そう言えばこの子現役軍人だった。人の背中くらい登れるか。

 

 

あっ。

 

 

 

「おー!高いな!」

 

 

とか言いながら、俺の肩に柔らかでいてしなやかなふとももが乗っている。ズボン越しだからセーフ。

これは俗に言う、肩車というやつだな。

 

 

はっはっはー!とかはしゃいでいるラウラに対し、

ダメだよ!失礼だよ!

と言って、腰に両手を当ててラウラを叱るシャルロット。

 

 

ああ、ラウラに振り回される保護者のシャルロットの構図はあんまり原作と変わらないのね。

一夏君ラヴァーズじゃなくなってはいるけど。

 

 

ラウラの制服はズボンタイプだから、スカートの内側が見えたりしないというのが良い。

あれ、外から見ればただの変態さんになっちゃうからね。スカートに顔を突っ込む変態。不名誉すぎ。

本人にはそんなつもりなくてもそうなっちゃうからなぁ…。だからスカートで登るなら、周りに人のいない時にしてね!おにーさんとの約束だ!

 

そういえば、と、気になったことを頭上のラウラに聞いてみる。

 

「そういえばラウラ。やっぱり一夏君達と一緒に過ごすことが多いのか?」

 

「む?いや、そんなことはないな。

一夏達は一夏達でいつも一緒にいるが、私やシャルロットは他のクラスメイトとも過ごすぞ。

何故か良くお昼頃になると、食べ物をもらうのだ」

 

 

皆、とても良い奴らだぞ!

と満足気なラウラ。ムフーッ、と得意げな顔してるんだろうなぁ…。見えないけど。

ちらりとシャルロットを見ると、うん。というように頷いた。

 

そうか。やっぱり餌付けされてるのか。うちの子(ラウラ)

まあ、見た目も小さくて愛くるしい上に、行動まで小動物チックで可愛らしいとくれば、可愛がられるわなぁ…。

 

まあ、ちょっとした楽しめる毎日を送っているようで安心した。

シャルロットも、何かあったら相談してね。

 

 

シャルロットは無言で微笑んでくれた。

あらかわいい。




一部改稿


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在りし日の日常3

ラウラかわいいよラウラ(挨拶)

ラウラは別に鹿波に恋をしている訳ではありません


今度の訪問者は一夏君だった。

 

「やあ一夏君。

最近の調子はどうだい?」

 

「鹿波さんこんにちは。

 

最近ですか?そうですねー…なんか夜な夜な、寮長室からうめき声が聞こえてくるらしいんですけど、鹿波さん何かしら知りませんか?

 

寮長って言ったら千冬姉だから、心配なんですけど…」

 

 

「うーん。

ごめんね。ちょっと分からないかなぁ」

 

 

ごめん一夏君。本当に分からないんだ。

最近は特に、織斑先生を見かけることがめったにないし。

この間見かけた時も、あっという間にどっか行っちゃったし。

やっぱり前の件で嫌われたんかなあ…。

 

(´・ω・`)悲C

 

 

「そういえば、シャルルが実はシャルロットで、男じゃなくて女の子だったのは本当にびっくりしましたよ!

山田先生にシャルルが同室じゃなくなりますって聞いたと思ったら、次の日にはシャルルはシャルロットで男の子じゃなくて女の子でした、なんて言われて!

 

あれは驚きましたね…」

 

本当にびっくりしたんだろう、驚いたという感情がこちらにまで伝わってくるように話す一夏君。

 

そうか。一夏君視点だとそうなるのか。

たしかにそれは驚くよね。

 

 

「最近の特訓の方はどうだい。少しは白式に乗るのも慣れてきたんじゃない?」

 

「いやー、それが全然で…」

 

「へえ?意外だね。

セシリアさんに鳳さん、篠ノ之さんから教えてもらっていたんじゃなかったっけ?」

 

「そうなんですけど…。

シャルロットがシャルルだったころは、シャルルが一番分かりやすく教えてくれてたんですよ。

ただ、最近はシャルルがシャルロットになってから、箒も鈴もセシリアもなんですけど、全然シャルロットに教えてくれないようにしてくるというか…」

 

「なんだい、妨害でもされているのかい?」

 

「いえ、そういうわけじゃないんですよ。

ただ、シャルロットが俺に教えようとすると、なんか突然バトルロワイヤルが始まっちゃって…。

 

そのせいで最近、シャルロットが教えてくれないようになっちゃいまして…」

 

そう言って肩を落とす一夏君。まあ、ドンマイ。

 

て言うかそれ、妨害じゃないの?間違いなく妨害でしょ?

 

織斑一夏争奪戦~恋する乙女は盲目編~

 

みたいな感じがする。

 

あ、でもシャルロットは一夏君のことが好きなんだろうか?どうなんだろう?

もしそうなら、シャルロットが教えてくれないようになる、っていうのは違和感あるかな?

シャルロットが一夏君のことが好きなら、喜んでバトルに参加する気がするし。

 

じゃあシャルロットは一夏君のことが好き、という訳ではないっぽいのかな?

うーん、まあこればっかりは推測じゃあ分からないし。まあ気にしないこととしよう。

 

あ、でも、もしもシャルロットが

 

一夏に私のことを好きになってもらうにはどうすればいいかな?

とか言ってきたら全力で手伝ってあげよう。アドバイスしまくっちゃうよー。

そして一夏君の話は続く。

 

 

「そういえば、今度一緒に水着を買いに行こうって話になったんですよ」

 

「へえ。ああ、そう言えばそろそろ臨海学校だっけ」

 

「はい!正直、今から楽しみでワクワクしてます!」

 

「織斑先生の水着とかね」

 

「そうなんですよ、本当に千冬姉きれいだし…じゃないです!

なにさりげなく千冬姉の水着の話にしようとしてるんですか!怒りますよ!」

 

「あれ、一夏君織斑先生の水着姿が楽しみじゃないの?」

一夏君シスコンなのに。

 

「いや、そりゃ楽しみですけど…。

って、その方向に話題持ってくの、やめてくれません!?

 

俺は普通に、臨海学校が楽しみなんです!」

 

「はいはい、じゃあこれくらいにしようか。仕方ないなぁ。

そう言えば、確か海には入れるんだったよね?

 

周りはかわいい女の子だらけ!そして男と言えば一夏君くらい!そりゃあ楽しみだよね。分かるよー」

そう言ってうんうんと頷く俺氏。

いや、もし自分が一夏君の立場なら絶対楽しみでしょ。目の保養になるし。

 

「その生暖かい視線はやめてくれませんかね…」

 

 

そう言ってジト目で見てくる一夏君。その眼光は野獣のよう…なんてことはなく、織斑先生譲りだなぁと思うほど鋭いものであった。はいはい、わかりましたよ。もう…。

 

 

それにしたって、周りがかわいい女の子で皆水着になるんだろう?それで楽しみじゃないとか言ったら、ちょっと織斑先生に育て方を間違えたんじゃないですか、って言わなきゃいけなくなるじゃない。その…衆道、というやつですね。

 

ホモォ…。

 

「で、水着を今度買いに行くことになったんですけど」

 

「ほほう。織斑先生と?」

 

「さっきから千冬姉のネタ振るのやめません!?」

 

そう怒るな少年。

だって君、少なからずシスコンじゃないか。正直、反応が分かりやすくて面白いんだよね。

 

「はぁ…。今日はやけにからかってきますね…。

まあ良いですけど。

 

 

一緒に行くのは箒となんです」

 

「へぇ。良いんじゃない?

ちょっとしたお買い物デートだね」

 

「ただの買い物ですよ?」

 

即座に首を傾げてそう答えられるキミは重症だと思うんだ。

 

「ただ俺、そういうファッションとかあんまり詳しくなくて…」

 

「ふむ。で、僕のところに相談にきた、と」

 

「はい…。

お願いです鹿波さん!どうすればいいか、教えてください!」

 

 

そう言って頭の上でパンっ!と手を合わせる一夏君。

うーん、そうは言ってもな。

正直箒ちゃんとしては、多分一夏君と一緒に居られるだけで嬉しいだろうしなぁ。ほぼ勝ち確なデートに何をアドバイスしろと。

 

まあ仕方ないので、当たり障りのないことを言っておく。

 

「とりあえず、デート中に他の女の子の名前は出さないこと。これは絶対ね?

 

あとは、そうだね。

相手の女の子の顔や表情、仕草をよく見るんだ。感情を読み取ろうと努力するだけでも、相手は気にしてくれてるんだな、って思うからね」

 

「水着を選ぶ時のアドバイスとかは…」

 

「うーん、それは難しいね。

水着は特に好みとかもあるし。

 

ただ、君がいいなぁと思った方をおすすめしても、そうじゃない方を貶したりしなければ大丈夫」

 

 

よく、女性は既に答えが出ているが、パートナーの男性に選ばせる、っていうのあるよね。

 

あれ、男性が女性が選んでほしかった方を選ばなかったとしてさ。

それで不機嫌になるような地雷な女性とか、僕ならそうそうに縁切るけどね。

 

その女性の方が稼いでるとか、婿に入ってる、とかなら我慢する方がいいと思うけど、普通に付き合っててそんな失礼なことをする女性とか嫌すぎでしょ。そんな嘗めた態度取るような人、さよならするのが一番いい。

一夏君のためにもね。

 

 

「まあ、仮に一夏君がこっちがいい!って選んだ方がハズレだったとしても、別に気にしないでいいよ」

 

「そ、そうですかね…」

 

「もしそれで君がアタリの方を選んでくれなかった、っていって拗ねたりしたら、また僕に相談しに来るといい。

 

その時にまだ君が仲良くしたいと言うのであれば、協力は惜しまないさ」

 

織斑先生けしかけたりね。もしくは織斑先生に相談したり。なんか織斑先生今日出番多いね。別にいいけど。

まあ、一夏君の唯一の家族だしね。そりゃあよく名前もあがるか。

 

 

「うーん、まあわかりました」

 

「なに、ただの助言だからね。結局は自分で判断するのが一番いいよ」

 

「そうですね…。

ありがとうございました!」

 

そして一夏君は駆け出して行った。元気だなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパーン!

 

「嫁よ!」

 

また君か。壊れるなぁ…。

どしたんラウラ。今日はなんだい?

 

「水着を買いに行くぞ!」

 

 

ああ、一夏君が言ってたね。ええで。

でもシャルロットと一緒に行けばいいんじゃないかな?

 

「うむ、シャルロットも一緒だ」

 

え、ちょい待ち。

シャルロットは、俺が一緒に行くのは了承してるの?

 

「うむ」

 

そう言って頷くラウラ。

さすが軍人、腰に手を当てながら話すその姿さえ様になるね。

 

「ラウラとシャルロットの他に、誰か誘ってたりするのん?」

 

「今のところ、私とシャルロットだけだ。

嫁が嫌でなければなんだが…」

 

一緒に行ってほしいの?

 

「うん」

 

そう言って頷くラウラ。素直。かわいい。

さっきからちょっとずつ動くたびにサラサラの銀髪が揺れて、ちょっと触りたい。

 

 

んー…。

ちょっと考えてみよう。

両隣に美少女二人をはべらせる社会人男性(24)。

 

…アウト。

 

 

「ごめんラウラ、それはちょっと社会的に不味いかなぁ…」

 

「そうか…」

 

そう言って肩を落とすラウラ。

しょぼーん、という音さえ聞こえてきそうなその様子は、とてつもなく哀愁が漂っている。

 

うっ。

悪いことはしていないはずなのに胸が痛い。

 

でも、こればっかりはなぁ…。

 

そう思っていると、ラウラが顔を上げた。

 

「嫁よ。どうすれば社会的に不味くないんだ?」

 

「え?」

 

社会的に不味いなら、社会的に不味くないようにすればいいってか?

ていうか君、どれだけ俺と一緒に行きたいの。

 

「うーん、シャルロットと行くのじゃダメなの?」

 

「ダメではないぞ」

 

ならええやん。

そう思った俺だったが、次の言葉に二の句を失った。

 

「ただ、私は出来るだけたくさんお前と共に過ごしたいと、そう思っているだけだ」

 

あんまりない胸を張って、別になんでもないことのように言うラウラ。むしろこっちが恥ずかしい。

やだ…この子純粋すぎ…?

かわいい(確信)

 

 

 

「む、そういえば教官も水着は買いに行くと言っていたな。

教官と一緒なら大丈夫じゃないか?」

 

むむ。たしかに。

織斑先生なら同年代だし、教師として活躍している。

教え子と共に水着を買いにきた、となれば別におかしくはなーーー。

ちょっと待った。

 

それでも結局美少女+美人さんに俺(男)が囲まれてる構図は変わらないよね?

というかむしろひどくなってない?

かわいい女の子(美少女二人)を両隣にはべらせるだけでは飽きたらず、美人教師まで同伴だよ?sneg(それなんてエロゲ)

 

 

あと、織斑先生と真耶ちゃんってよく一緒にいるイメージあるんだよね。

もしそうなれば、ラウラ+シャルロット+織斑先生+真耶ちゃん+俺とかいう、ハーレム状態になるんだけど。

むしろ悪化してるやん…。

 

 

ここはなるべく、織斑先生同伴は阻止すべきかな。

それこそラウラ、シャルロットと共に水着を買いに行くことになってでもなんとか阻止したい。

 

どうせこの辺りで水着を買いに行くとしたら、大型ショッピングモールはレゾナンスくらいしかない。

もし仮に美人教師二人+美少女二人と俺が共に水着売り場にいるところを生徒か教師にでも見られたら…。

間違いなく次の日には学校じゅうに噂が広まってしまうに違いない。平穏無事をこよなく愛する俺としては、それはあまりにも許容できないよね。

 

 

そこまで考えて、ラウラの提案は却下することに。

 

「いや、織斑先生同伴だと更に目立ちすぎちゃうしね。

 

どうしてもシャルロットと二人よりも俺と、ってことならまあ、吝かではないよ」

 

「うむ!では今度の土曜日、共に水着を買いにゆくぞ!

シャルロットも嫁と共に水着を買いに行くことを楽しみにしていたしな!

これでシャルロットも喜ぶだろう!」

 

待って。ステイ。ステイステイステイ。

 

「む?どうした。土曜日ではまずかったか?」

 

違う。そうじゃない。

シャルロットも俺と一緒に行くのを楽しみにしてたの?

本当に?

 

 

「ああ、私がお前を誘うと聞いたとき、それはもうずいぶんと嬉しそうにしていたぞ?

私がそう思うくらいだから、本当に楽しみなんだと思うが」

 

たしかに、ラウラが俺と一緒に居られる!とかならすぐに想像できる。

いつものことだし。

 

でも、シャルロットさんがそんなに?

わりとポンコツなところもあるラウラが気付くくらいに?

そんなに喜んでたの?

 

 

一体どういうことなんだってばよ…。

 

 

そしてその疑問は解消されないまま、またな!と言ってラウラは行ってしまった。

なんでや、いつの間にシャルロットのフラグが立ってたんや…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のお客さんは簪ちゃんだった。

今日も打鉄弐式の製作らしい。

 

 

簪ちゃんは本当にがんばり屋さんである。

そんな簪ちゃんを後ろから見つつ雑談。

 

 

 

 

今度臨海学校あるねー。

 

あはい、ありますねー。

 

楽しみー?

 

あんまりですねー。

 

およ、それまたどうして?

 

本音ちゃん…あ、友達に本音って子がいるんです。

その子が、その…。私より、ちょっぴりスタイルが良くって…。

 

あー、そっかー。水着だもんねー。

 

そうなんですよー。やっぱり気になっちゃって…。

 

まあそうは言っても、男の子なんていないようなものだし…。

 

 

 

 

そう言ってから気付いた。たしか簪ちゃんは一夏君のこと嫌いだったっけ。

しまった、失言だったか。

 

 

 

 

あー、ごめんね。失言だったかな。

 

いえ、もう…。そんなに気にしていないので。

 

あ、そうなの?

 

はい。

 

 

 

 

俺から見えるのは簪ちゃんの後ろ姿だけだから分かりにくいが、そんなに気にしていないというのは本当のようだった。

 

 

 

 

んー、その理由ってさ。聞いてもいいかな。

 

大した理由じゃないですよ?

それでも良ければ。

 

うん、簪ちゃんが嫌じゃなければ教えてほしいかな。

 

本当に大した理由じゃないんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

そう言って、少しだけ笑いながら簪ちゃんは話し始めた。

 

 

 

 

ほら、鹿波さん覚えてますか?

私が初めてこの整備庫に来た時のこと。

 

覚えてるよ。

 

あの頃の私は、本当に周りが全部敵にしか見えていませんでした。

本音ちゃんも、お姉ちゃんも、虚さんも。

今はお姉ちゃんとも話しますけど、本当にあの頃は誰もが敵にしか見えなくて…。

でも、鹿波さんはそんな私にも真っ向から向き合ってくれたじゃないですか。

 

ーーーそうだっけ?

 

そうですよ。

今でも私、覚えてます。

『君が周りを敵だと思うのは構わない。君が僕を敵だと思うのも気にしない。

でもさ。

君は本当に、そのISを大切に思っているのかな?

 

今の僕には、ただ自分の道具として扱っているようしか見えないよ』です。

私、あんなにひどくはっきりズバズバ言われたの、初めてだったんですよ?

 

 

 

 

そんなことを話す簪ちゃんの口調は、その字面とは裏腹に明るくて、楽しげで。

 

 

 

 

あの時、すごいショックでした。

何この人、って思うより先に、初対面の人にそう思われるようなことを、私はこの子(打鉄弐式)にしてるんだ、って。

 

ーーーごめんね。

 

いえ、あの時ああやって強く言ってくれたおかげで、私の目が覚めましたから。

むしろ感謝してるんですよ?

 

はは。それなら今度、僕が危なくなった時にでも守ってもらおうかな。

 

 

 

 

冗談でそう言うと、彼女はくすりと笑ってこう言った。

 

 

 

 

「大丈夫。あなたは私が守るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り向いたその顔は、思わず見惚れるほど優しい笑顔だった。




ちなみに簪ちゃんはアニメ大好きっ子です。
綾波さんリスペクト。


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在りし日の日常4

今のところ、簪ちゃんは親愛、たっちゃんは友愛をイメージしてます




「かーなみさんっ。やっほー♪」

 

そう言って整備庫に入って来たのはたっちゃんこと更識楯無ちゃん。

おや、珍しい。

たしか最後に会ったのは、生徒会室のサーバのメンテナンスの時だったかな?

そうすると4月の頭か。

 

「久しぶりだね。元気だった?」

 

「そうね、まあまあってところかしら」

 

肩をすくめながら笑って言うたっちゃん。

相変わらず、いちいち動作が猫っぽいね。

 

 

それで、今日はどしたん?

そう言うと、たっちゃんはにっこり笑いながら俺の白衣の袖をしっかりと握ってきた。

 

 

 

「うん、ちょーっと生徒会室まで来てもらっていいかしら?」

 

 

なんぞ?

そう思いながらも特に用事とかもないので了承。

そして俺は、二年生の生徒たちの衆目に晒されながら、生徒会室まで(わりかし強引に)連れていかれました、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫁よ!む?」

 

ッパーン!

金属の扉を勢いよく開いて現れたのは、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

彼女は扉を開けてすぐ、しばしキョロキョロとしていたが、お目当ての人物がいなかったのか。

 

 

「いないのか…」

 

 

そう寂しそうに呟いて、しょんぼりとした様子で帰って行った。その背中には哀愁が漂っていて、後ろ姿には垂れた犬のしっぽが幻視されたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっちゃん待ってちょっと待って!」

 

「またなーい♪」

 

楯無に無理やり連れていかれたまま、俺は楯無に抗議していた。

 

「ほんと待ってってほら他の生徒の子たち見てるって俺のこと誰だコイツとかきっと言ってるってというか八方から飛んでくる視線が痛いからせめて無理やり連れていくのはやめてぇぇぇぇぇ!」

 

「大丈夫大丈夫!鹿波さんの気にしすぎだってー」

 

楽しそうに俺の抗議を聞き流し、たっちゃんは俺の白衣を掴んだまま、IS学園の二年生フロアをずんずんと歩いて行く。そんな中、楯無は思っていた。

 

(本当に鹿波さん気にしすぎ。だって鹿波さん、ひそかにファンクラブまであるんだし。絶対あれはアイドルに会ったファンの目をしてる子が大半に決まってる。

ていうか、私が鹿波さんと一年の時に知りあった時点でファンクラブがあるんだから、誰だコイツなんて思う人はごく少数に決まってるじゃない。

 

鹿波さんと仲良くなってすぐにファンクラブに気付いた私ですら会員ナンバー589なんだからね?

今まで卒業した人達の記録すら生徒会室にこっそりバックアップが保存されてるのを見た時は本当に驚いたんだから…)

 

 

だから絶対鹿波さんの気にし過ぎ。

そうぼそっと呟いた声は周りの喧騒に掻き消されていった。

 

一方の鹿波はというと。

 

(うわ絶対これ変な注目集めてるって。

あ、ほら今あの子たちに笑われたし!

あ、でも手を振ってくれる子もいる。わーい。振り返しとこ。

ていうかたまに来る生徒達から聞くけど、俺の普段居る整備庫って密かな憩いの場所扱いされてるらしいからね?

まるで扱いが中庭だからね?

そんな場所に、実は男が常駐してる、とか知られてみろ。

絶対『男なんて!不潔!追い出しましょ!』って主張する女子生徒がいっぱい出てくるに決まってる!

俺はひっそり平穏に過ごしたいんだよー!)

 

 

なお、件の生徒たちの言う憩いの場所とは、

『(相談したら大体のことを解決してくれる、ぶっきらぼうだけど面倒見の良いお兄さんが居る)憩いの場所』である。

また、鹿波の気にする女尊男卑の考え方の女子生徒は確かに少数実在するが、それらの異議や主張は、代々のファンクラブ会員及び現役会員達によって無かったことにされている。

 

しかし残念ながらこの男。

自己評価がポンコツなうえ、自分の存在は限られた人達にしか知られていないと本気で思っている。

女子の情報伝達能力をなめてはいけない(戒め)。

 

 

 

生徒会室に着いた。

 

「たっだいまー!」

 

楯無が笑顔で木製の気品ある扉を開けると、メガネをしたいかにも仕事の出来そうな秘書風の美少女が立っていた。

また、会議用に思われるテーブルには、ぐでーっ、とだらしなく伸びている、のほほんとした雰囲気の少女が座っていた。

布仏虚と布仏本音である。

 

「あら会長、おかえりなさい。でも鹿波さんに迷惑をかけるのはいけませんよ。

鹿波さん、いつもいつもすみません」

 

「いえ、慣れましたから大丈夫ですよ」

 

「ちょっと虚?なんでもう私が鹿波さんに迷惑をかけたことになってるのかしら」

 

「どうせまた用件も言わずに連れ出したのでしょう?

いつもいつも、鹿波さんが怒らないからって甘えすぎです」

 

うぐっ、とか良いながら言葉を詰まらせるたっちゃん。

 

まあまあ、俺は気にしてませんから…。

そう言って虚さんをなだめる。

 

んで、何の用?またサーバ?

 

「んー、それもあるわ。

あとは、臨海学校の期間中に生徒会で教員の先生達のサポートするんだけど、その手伝いをお願いしたいの」

 

 

ん?教員の先生達のサポート?

なんで?

 

 

「やっぱり織斑先生が居なくなる分の対応に人員をさかなきゃいけなくなるのが主な理由ね。

別に、本音ちゃんが臨海学校に行く分の生徒会の穴はあってないようなものなんだけど」

 

そう言うたっちゃんに、えー、とか、ひどい!ぶーぶー!なんて抗議の声をあげる本音ちゃん。

ああ、そういえば本音ちゃんのこういうことにたいする処理能力はあんまり高くなかったような覚えがあるな。

実働部隊向き、ということなんだろうか。

 

 

 

でも機密情報とかあるやん?

それはいいの?

 

 

そう聞くとこんな答えが。

 

「轡木さんから許可もらってるし、大丈夫でしょ。あ、後で轡木さん本人からもお話があると思うわよ?」

 

え、轡木さん来るの?

なんだか今日はちょっと久しぶりに会う人が多い気がするね。

 

まあいいや。

おけ。

で、サポートって言っても具体的には何すんの?

 

 

「基本的にここにこもって書類仕事」

 

ここって、ここ?生徒会室?

 

「そうよ?

いいじゃない、私や虚みたいな美少女と一緒に過ごせるのよ?」

 

虚さんはともかく、たっちゃんはちょっと…。美少女なのは否定しませんが。

目を離すと、すぐにサボりに遊びにどこか行っちゃうし。

ね。

 

そう言って虚さんの方を見ると、彼女は重々しく頷いた。

ほら。

 

「うっ…で、でも私だって、やるときはちゃんとやるもん!」

 

 

ーーーこの間まで簪ちゃんと仲直りしたいのに話しかける勇気の出なかったチキンはどこのどなたでしたっけ。

 

 

「うっ、うるさい!」

 

 

おやおや、橋渡し役になってくれた私や、いつも見守ってくれていた虚さんに、そんな態度を取るのですかな?

うーん、これはちょっとあんまりですなぁ?

ねえ虚さん?

 

 

そう言うと虚さんはええ、と頷きながら

「ギルティ」

とぼそっと呟いた。

 

 

そしてその言葉に、ガーン!と自分で言いながら、たっちゃんは床に座りこんでいじけた。

あ、床にのの字書いてる。わかりやっす。

 

「いいもん…お姉ちゃんには簪ちゃんがいるもん…」

 

虚さんとともに嘆息する。

そんな微妙な雰囲気の中、タイミングがいいのか悪いのか。

轡木さんが入ってきた。

 

「やあ鹿波くん。調子はどうかね?」

 

「おかげさまで」

 

そう告げると、そうかねそうかね。フォッフォッフオッ。

そう笑いながら、なんとも機嫌よさそうにこちらに話しかけてきた。

 

「既に楯無君から話は聞いていると思うが、来週の臨海学校の間、鹿波くんには教員の先生方のサポートに回ってもらいたい。

なに、簡単な書類整理の仕事だ。主に片付けるのは楯無君がやってくれるから、心配することはまあ、楯無君が抜け出したりすることくらいだよ」

 

フォッフォッフォッ、と笑いながら、言う轡木さん。

うん、この人が一応このIS学園の総責任者です。

でも、こうしてるのを見るとただの気の良いおじいちゃんなんだよなぁ…。

 

「でだ、鹿波くん。頼まれついでと言っちゃあなんだが、もう1つ頼まれてくれんかね?」

 

「なんです?」

 

轡木さんが頼み事とは珍しい。

 

「君も知っての通り、整備庫にISコアの抜かれたラファールと打鉄が、それぞれ3台と2台、置かれていただろう。

ラファールの方は引き取り相手が見つかったんだが、いかんせん打鉄を引き取ってくれる相手が見つからなくてね。

鹿波くん、どこかー引き取ってくれるところに心当たりはないかね」

 

うーん。心当たりねぇ。

 

整備庫に置かれているラファールと打鉄は、もうISコアを除く装備が全体的にくたびれ、傷んでしまったものだ。

ボロボロになるたびに直し、整備して使えるようにしてきた身としては、なんとか引き取ってもらってまたISの装備として復活してほしいものだが…。

 

あ。待てよ?

 

 

束いわく、正式にはISとは別物の、俺の自作ISコアにこの打鉄を、ニコイチで装備って出来ないか?

いざとなったら整備パーツは職場のやつとか、取り寄せて。武器はともかく、装備だけならいけそう?

多分武器は別に発注するなり設計するなりしなきゃいけないけど、装備だけならなんとかなるんじゃないかな。

 

ガチな技術者としては、ISを束に頼んで作ってもらうのは甘えだと思う。意地です、はい。

 

よし、引き取ってさしあげましょう。

 

 

「もし大丈夫ならなんですが、私が引き取りましょうか?」

 

「鹿波くんがかね?」

 

轡木さんは驚いたように言う。

まあそりゃ、車のスクラップとは訳が違うしね。

 

「ああ、でも個人でISの装備を引き取ることに問題があるなら無理ですが…」

 

「いや、それに関してはこちらでなんとでも出来るよ。

ただ、やっぱりやめます、と言われてもIS学園は引き取れないからね」

 

「ええ、それは大丈夫です」

 

いざとなったらメカウサ耳を頼るし。

 

「ISコアを抜いた後のものだが、本当にいいのかい?」

 

「轡木さんが都合悪いならやめますよ?」

 

「いや、そう言う訳ではないんだ。こちらとしては、願ったり叶ったりだからね。

 

まあ、私より鹿波くんの方が詳しいだろうし、君がいいなら君におまかせするよ」

 

「ありがとうございます。

期日とかってあります?」

 

「いや、君の都合の良い時でいい。さすがに10年後とかだと困るけどね」

 

はっはっは。それじゃあ私はこれくらいでおいとまするよ。

そう言って、轡木さんは笑いながら生徒会室を出ていった。

今日の轡木さんは終始笑っていた気がするな。なにか良いことでもあったんだろうか。

 

 

轡木さんを見送り、復活したたっちゃんと共に、生徒会室にあるプロキシサーバのメンテナンスをすることに。

 

虚さんはお茶を淹れてくれた後、たっちゃんの代わりに書類仕事へ。

本音ちゃんは…。うん。

机に突っ伏して寝てた。

 

 

たっちゃんいわく、どうにも最近接続が悪いという内容の相談が来ているらしい。

 

という訳でサーバの使用状況を確認。

ああ、ここで一部制限がかかってる。ここの分の使用率が落ちて、サーバの処理能力が少し低下してるのが原因かな。

 

という訳でちょちょいのちょいと。

多分これで15分くらいしたら馴染んでくるから、それまではちょっとアクセスが乱れると思うけど大丈夫。

 

「ん、さすが鹿波さん!頼りになるわ」

 

上機嫌だねたっちゃん。

 

そういえば、もう一夏君に裸エプロンやったの?

 

「ちょちょちょっと!なんで知ってるの!?」

 

あ、やったんだ。

 

「やってない!やってないってば!

やってないけど、なんで鹿波さんが私の考えてること知ってるのよ!?」

 

いや、たっちゃんならやりそうじゃん?

そういう、人をからかう感じのこと。

 

最初に僕にくすぐりの刑を仕掛けて来たことを未だに僕は覚えているぞ?

 

 

「あ、あれは…その…」

 

その?

 

「ごめんなさい」

 

 

よろしい。

大儀!

と書かれた扇をたっちゃんに見えるように、自分の口元を隠すように開く。

 

実はこのネタをたっちゃんに仕込んだのは俺です。

 

いや、仕込んだというよりは真似されたんだけど。

 

「ちょっと!それ私のネタ!」

 

たっちゃんを爽やかにスルー。

 

いやね、この世界に転生してさ。IS学園で働くやん?

一年生のかわいいたっちゃんと仲良くなるやん?

 

やっぱり原作の扇ネタはやってほしくってね?

ある時に、見事!って書かれた扇をたっちゃんの目の前でバッ!と広げたら、もうドハマり。

ちゃんとたっちゃんは原作のように、扇で格好をつけてくれるようになりました。

 

 

いやー、何がかわいいってね。

たっちゃんはこれ、カッコいい…!私決まってる…!

って本気で思ってるとこだよね。

 

生徒会一同と共に、たっちゃんを生暖かく見守っていますよー(笑)

 

 

 

「ところで」

 

そう言ってたっちゃんはこちらの顔をじっと見ている。

なんぞ。

 

 

「最近噂で聞いたんだけどー。

鹿波さんが織斑先生とキスしたってほんとー?」

 

 

ニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる楯無に、思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになってしまった。

ど、どこでそれを!

 

 

「いや、してないよ」

 

 

平静を装って答える。

あれは事故だ。事故だからセーフ。ノーカン。

 

 

「ほんとにぃ~?」

 

 

クッソいい笑顔で聞いてきやがって。

お、俺は悪くねえ!

 

 

「ホントホント」

 

 

一体どこから漏れたんだ…?真耶ちゃんか?

しかも噂になってるってことは、既に不特定多数に知られてるんだよな…。クソッ…!

 

 

なんとかごまかしていたら楯無はそこで追及をやめた。

ふうー…。危ない危ない。

しかし、一体噂にした奴はどいつだ?

少なくとも俺のことを知ってないと、『俺と織斑先生』という組み合わせは出来ないはず…。

 

ちぃ、調べる必要があるかもしれないな。これは。

 

 

 

椅子に座ってそんなことを考えている俺の背中にしなだれかかりながら、楯無が耳許で甘くささやくように聞いてきた。

 

 

「じゃあもう1つ質問ね?

最近頻繁に鹿波さん成分を補給しにくる()が鹿波さんの周りにいる、ってホ・ン・ト?」

 

なんか今、子ってところの発音がやけに不穏だったぞ…。

ていうか。

 

「鹿波さん成分ってなにさ」

 

「鹿波さん成分は鹿波さん成分よ。私が今補充してるやつ」

 

そう言って、ふにゃあ~…。とか抜かしつつ俺の首に腕を絡めてくるたっちゃん。

ちょっと。首絞まってる。絞まってますよ!いい匂いするけどさ!

 

「で、どうなの?」

 

知らん、それは俺の管轄外だ。

そう言いたいが、本当にじわじわと首を絞めつつあるので素直に白状することに。さすがに本気で絞めるつもりでないのは分かるが。

 

「多分ラウラのことだと思うが、それくらい自分で確かめろ!あといい加減首絞まってるからぁ!」

 

 

そう言うと楯無は首を圧迫していた腕を緩め、だらーんと伸ばしてきた。ふう。

 

っておい。お前の手の数センチ側には俺の将軍様がいるんですが。ちょっと?

 

しかし楯無はそんなことも気にせず、俺の左肩から顔を覗かせている。あ、いい匂いするね。

 

 

「シャンプー変えた?」

 

「なにその適当な話題。変えてないよ」

 

フフッ、と笑いながら話す楯無。

あのさ、さっきからたっちゃんがしゃべるたびに耳許に息がかかってぞくぞくするの。

ね?やめよう?

ちょっとだけ離れてもらえませんかね?

俺の将軍様が元気になっちゃう前に。

可及的速やかに。

早く。

早く!

 

 

そんな願いが通じたのか、ひょいっ、と俺から離れてお茶を飲みに自分の席まで歩いて行く楯無。

あ、危なかった…。

年下、しかも生徒に欲情した、なんてことになったら俺は職場を離れなければならないところだった。

まったく、なんて危険なことをしてくれる…!

ただの生理的反応すら危険になる。

やはりIS学園はトップレベルの危険地帯ですね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちなみに楯無ちゃんは左肩から覗いていたので、将軍様がご立派になる様子をつぶさに観察しようとしてました。たっちゃんむっつり疑惑)

 

 

その後は普通にこれまで会えなかった分を埋める勢いでたっちゃんと雑談した。

ていうかたっちゃん、一夏君に裸エプロンやるの?

やるのね。はいはい。

 

あ、あとさりげなく占いで俺の運命の相手の特徴をたっちゃんに寄せるのやめようか。

そんなことをしても俺は君を生徒としてしか見てません。

 

え?

仮に?

卒業した後の人達となら良いのかって?

 

いや、良いんじゃないの?

卒業後も俺のことを好きな物好きなんて、そうそうおらんやろ。普通。

 

そのガッツポーズは何かね?

何でもないから気にしないで?

お、おう。そうか。

まあいいや。

 

まあ、裸エプロンやるなら、ちゃんと水着は着ておきなよ。ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに一夏君には、自分の部屋に知らない人がいたら即座に織斑先生に電話をするよう言ってある。

いやー、たっちゃんが一夏君の部屋に水着エプロンで登場したらどうなるのかな。

楽しみやなぁ!(トウジ感)




今日のはすごい難産でした…。
うまく書けてるか不安。


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在りし日の日常5

またせたな!


最悪だ。ISが壊れた。

 

 

やあみんな。仕事でミスをしたときとか、難しい仕事を担当するときとかって好きかい?俺はまだ好きな方だよ。

 

難しい仕事自体はそれだけでいい経験になるし、成功すれば儲けもの。失敗したらまあ、ほうぼうに頭を下げなきゃならんけど、言ってしまえばそれだけだ。

仕事でミスをしたときはツラいよな。何を言っても言い訳としか取ってもらえないことも多い。例え自分の直接的なミスじゃなくても、プロジェクトのリーダーだったりすれば責任というのがついて回る。

勘のいい方はもうお気付きだろう。そう、今回の俺のお仕事は、原因不明のISの故障である。

 

 

やあみんな。鹿波さん、今とっても気分がダウナー。貸し出した訓練機が原因不明の故障中。そして他の整備課の皆も、これは難しいですね…。とか言って俺に丸投げである。ちっきしょう。まあ、一応俺が整備課の責任者だから仕方ないんだけどさ。

 

さて、そんなわけで普段の業務は整備課の皆に任せて、俺は俺でISの故障の原因を探っている。プログラムの基本部分はオールグリーン。異常なし。これはこちらでも確認した。次。

プログラムのデータ計測値。これは、ハード側のセンサ類の値。ISにはハイパーセンサを除く様々なところにも、内部圧力や排熱量、エネルギー消費量やエネルギー消費率。外部圧力や他ISの武装反応などを調べるセンサが数多く存在する。しかし、これらの数値全ても、プログラム上は異常なし。

正直言って、既にこの時点で動かないというのはおかしい。普通に使っていて、これらのデータ以外の部分が変動するというのはよっぽどである。

例えば機体の損傷状態、通称ダメージレベルと呼ばれるものが、レベルCを超えた時なんかでも、数値にしっかりと異常が現れる。

 

つまり今回の異常は、動かないという明らかな異常が検出されないという異常なのだ。

 

とりあえず、こうなれば逐一調べていくしか方法はないわけだが、ISという超☆精密機器には14万を越える部品から成り立っている。それらを全て調べていたら、一年あっても足りはしない。

そこで、とりあえずの対応として、プログラム及び計測値は異常がないと仮定する。そうすると、内部コンソールを開いて全ての計測値データのエラーチェックが出来る。これで計測値データに異常がなければ、壊れやすいところや計測センサ類は異常なしだと考えられる。

てなわけで早速コンソールを開いて全ての計測値データをだーっと出す。同時にその計測値データの異常がないかのチェックプログラムも起動。これで異常が見つかれば、その部分を直して終わりである。

 

どうか異常が見つかりますように。そんな願いもむなしく、データは全て異常なし。ああ…。

 

そうすると、これまで以上に深い場所にある部品の異常ということになるのだが。はっきり言って、そのレベルの部品なんて、基本的な使い方をしていればまず壊れない。それくらい丈夫かつしなやかな部品を、かなりの精密さで組み上げてあるのだ。

その部品数は軽く4桁はある。これまた全てを調べるのは面倒くさい。なので俺は、自分の秘密の部屋と化している、IS整備課書庫に向かった。

 

ここにはIS整備に必要なソフトやISの内部データ、計測値やセンサだけでなく、原理やセンサの型番など、超細かいデータまで揃っている。雑誌や書籍、論文が本棚にはところ狭しと並んでいるが、これらは全て画像化してパソコンから確認出来るようにしてある。最も新しい情報は重要なので、今でも月に一度、整備課でデータ化する作業を分担して行っている。

 

いやー、俺がここで働き始めた頃は、全てアナログ形式でしかも雑誌も論文もぐっちゃぐちゃだったからね。全体を整理して、系統立ててファイル化して、パソコンの共有部分でデータ管理して、原本データと逐一メモを書き込める共有データを分けて…。

今の状態にするまで、本当に大変だったなぁ…。

 

ちなみにその苦労を轡木さんは知っている。ていうか最初の一年はずっと手伝ってもらった。そのため現在では整備課の責任者は俺だし、このIS整備課書庫の管理は俺がしている。他の整備課の人がここに入りたければ、俺か轡木さんに相談か連絡し、充分な理由があればどちらかと共に入ることが出来る。

一度だけ、轡木さんが俺以外の奴らに任せたところ、ぐっちゃぐちゃに荒らされたり、生活する自室のようになってしまった。そりゃそうだ。だってこいつら基本的に脳筋だもの。

轡木さんはその後に、そいつらと共に荒らされたところの掃除と、自室となっていた物を全て一掃。

そして管理は自分(轡木さん自身)と俺がカードキーで行うようになりました、と。

ちなみに作業机は最初の頃からある備え付けのものだが、ソファーとテーブルはその時のものだ。正直言って、私物をIS学園が奪い取った形になるんじゃね?と思ったが、轡木さんは自由に持っていきなさい。と言っていたのでありがたく使わせてもらっている。

いわく、『懲戒免職もののことをしておいてこれくらいで許してやるんだから残当』だそう。…残当ってなんぞ?

まあそんな感じでなかなかにおこだった轡木さんから任されて以来、もはや半分くらい自分の自由な部屋と化していたIS整備課書庫に来ている。

そういえば、シャルロットに話をしたのもここだった。まあ、あの時はまだ女の子シャルロットじゃなくて男装シャルルだったっけ。

 

とりあえずはパソコンを立ち上げて、ISの運動機能系の内部部品のみをピックアップ。心臓たるISコア周辺はいじったら起動すらしなくなるので、まあないとは思うが念のため。

部品数80か。うん、これくらいならなんとか今日中に調べられそうである。

80個の部品と使われている部分の設計図を一通り印刷し、IS整備庫に戻る。さて、現在時刻は3時半過ぎ。…6時までに終わるかなぁ…。そう思いながら、ISをバラして、一つ一つの部品を確認していく。全ての部品がISの奥深くにある。そのため、確認、状態チェック、確認済み部品のチェックは時間がかかる。これは大仕事になりそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい。見つけました。

小さな歯車の部品が、ほんの僅かに径と歯の数が違う部品に変えられていた。径の違いは0.005nm。歯の数は本来の部品プラス1。そりゃ動かない訳だ。しかもやたら良く似た部品だから、起動もするしプログラムにも異常なしと出る。そもそもこんな所の部品を変えたら動かなくなるに決まってる。誰だよこんなことしたやつ。車のガソリンタンクに砂糖を入れるよりも気付きにくいレベルのイタズラだぞ、これ…。専門職泣かせとはまさにこのことだ。

 

さて、現在は正規の部品と入れ替えて、起動チェック中である。たまたま正規部品があったから良かったものの、こんだけ内部のパーツなんて普通は揃えてないぞ。…これは轡木さんに相談だなあ。あと、誰が最後にこの(IS)を借りたのか、それも織斑先生に聞きに行こう。

現在時刻は夜の8時半。うわ、先生達まだ居るかなぁ…?もう皆さん帰っているかもしらんね。今日金曜日だし。早く帰って酒飲んでる人も多いだろう。いいなぁ…。

 

とりあえず、一通りの起動を確認。動作チェックは誰かに乗ってもらわないと出来ないので、教員室(通称職員室)に向かう。誰も居なかったら帰ろうと思っていたのだが、まだ明かりはついていた。良かった、と安堵しつつ入室。ノックしてもしもーし!

 

教員室に入ると、何人かの先生方がいるだけだった。しかもその先生達も帰る準備をしている人がちらほら。あ、まだ織斑先生はお仕事中。真耶ちゃんは居なかった。残念。動作チェック頼みたかったんになぁ…。まあいいや。

 

織斑先生、すいませーん。

 

「ん?ああ、鹿波か。お前がこの時間までいるとは珍しい。どうした?」

 

あー、2つほど。

一つはISの修理が終わりました。どなたかに動作チェックをお願いしたいと思います。

 

「わかった。今日はもう遅いし、また来週のなるだけ早いうちに誰かにやらせよう」

 

ありがとうございます。先生も来週には臨海学校があるのに、助かります。

 

「なに、構わんさ。それで、もう一つは何だ」

 

ーーー今回の異常は、明らかに作為的、もしくは人為的なものでした。最後にあのISを借りたのが誰か、知る必要があると考えています。

 

「ーーーなんだと?」

 

 

そう言って織斑先生は、険しい表情で貸し出し届けをパラパラとめくりだした。

 

 

「ーーーあったぞ。最後に借りたのは、三年のダリル・ケイシー。貸し出し理由は後輩の指導、となっている」

 

 

ーーービンゴ。ダリル・ケイシーといえば、束から送られたUSBメモリの中にあった、亡国機業が接触した生徒だったはずだ。

そのことを伝えると、轡木さんと楯無には伝えておくことを約束してくれた。助かります。

 

楯無はこのIS学園の一生徒であると同時に、裏の家の一つ、更識家の現当主でもある。そのため、テロの未然予防や、こういった表に出来ないことではしばしば動いてもらうことがある。すまん楯無。あとはよろしく。

 

 

「他には何かあるか?」

 

 

うーん、もうなかったかな。ないはず。よし。そう思って、

もうないです。

と答えたところ、こんなお誘いが。

 

「ふむ。私も今から終わるところでな。山田君も今日は用事があるというし、誰か都合の良い奴を探していたところだ。

どうだ。良ければ一杯」

 

そう言って手で何かをくい、と持ち上げる…傾ける?仕草をする織斑先生。あれか。飲みに行くから付き合えと。

 

良いけど今何時よ?

 

「なに、心配するな。夜遅くまでやっているところを知っている。どうだ?」

 

良いよ。行こか。

 

そう言うと織斑先生はフッ、と笑った。本当にいちいち動作が男前ですね。

 

「さすが、お前は話が分かる。他の奴らはどうにもな…」

 

周りに先生が居ないからと言って、こやつ言いたい放題である。二人で教員室から出ながら会話する。

 

何よ、ちーちゃんが誘っても誰も応じてくれなかったの?

 

「ああ。しかも山田君はそうそうに帰ってしまうし、今日は帰って家飲みでもやむ無しかと思っていた」

 

家でも飲むのか…。いや、確かに毎日こんな時間まで働いていれば、週の終わりにでも飲まなきゃやってられないか。

 

そう言えば、山田先生は何を?

 

「山田君か?山田君は今日はまちこん、と言っていたな」

 

まちこん?ああ、街コンね。大変だな。…あれ。でも確か、山田先生ってちーちゃんより年下じゃなかった?

 

「ちーちゃん言うな。まあ今はオフだから良いが…。

そうだぞ?」

 

ちーちゃん、後輩が街コンに行ってるのに、あなた居酒屋行ってて大丈夫?婚期。

 

「うっ、うるさい…!私だって気にしてるんだぞ。気軽に婚期婚期言うな。焦っているんだから」

 

あー…(哀れみの目)。

焦ってるのね…。結婚相談所行きなよ、あなたのスペックなら間違いなくお相手は見つかるから。むしろ選り取り見取りじゃない?ブリュンヒルデでIS学園勤務の高給取り。

 

「ブリュンヒルデはやめろ。あれは恋愛においては呪われた名前だと言えるんだぞ…!」

 

そ、そんな嫌だったの。ごめんて…?もうブリュンヒルデとは言わないよ。

で、結婚相談所行ったの?

 

「…行ってない」

 

さよか。

 

「…?理由を聞かないのか」

 

どうせ素面じゃ言いにくいでしょ。それに、そんなしょぼくれた顔をしたちーちゃんをいじめる趣味はありませんー。

 

「…フッ。やはりお前を誘って正解だったよ。良い酒が飲めそうだ」

 

さいで。で、どこよ?

 

「うむ、そう遠くない。…しかし、まさかお前とサシで飲みに行く事になるなんてな。思いもしなかった」

 

そんな優しい顔で言われても何も出ませんよ?

 

「敬語はいい、なんだかお前に敬語を使われるとむず痒くなるからな。…オフの時は、普通で頼む」

 

普通と言われましても。じゃあちっふーとかちーちゃん呼びはいいの?

 

「ちっふーもちーちゃんもやめろ。束を思い出す」

 

え。なにそれショック。俺のセンスって、あのクソ兎と同等…?

 

「ついたぞ。ここだ」

 

そう言って平然と店内に足を運ぶ織斑先生。いや、オフだからちーちゃんでいっか。ダメならまた別の呼び名を考えよう。

 

「…貴様、またろくでもないこと考えてるだろ」

 

席についたとたん、こちらを睨み付けながら言う織斑先生(ちーちゃん)。いや、ちーちゃんの新しい呼び名を…。

 

「だから、前から千冬と呼べと言っているだろう。なんだ。お前はそんなに私を名前で呼びたくないのか」

 

大正解。

 

いや、同い年とはいえ、織斑先生みたいな凛とした美人さんを呼び捨てというのはなかなかに抵抗がありまして…。

 

そう言うと、織斑先生はテーブルに肘を置きながら、難儀なやつだな。と朗らかに笑った。その笑顔を普段からしてればもっとあなたモテるでしょうに。もったいない。そう思ったのだが、なんでも、

 

「ふん。面白くもないのに笑えるか」

 

だって。あのさあ…(呆れ)。

 

「大体、貴様の方こそどうなんだ。浮いた話の一つすら聞かんぞ?」

 

うぐ。それを言われるとツラい。今生の親には無理して結婚しなくて良いよ、とは言われている。ただ、両親、それも特に親父殿の方は孫を心底楽しみにしていることも知っている。

 

良い人が居れば考える、くらいのものですかねえ…。男は三十路くらいまでは猶予があるので。

 

そう笑いながら告げる。すると、卑怯だぞ…。とか拗ねた様子で呟くものだから、思わず笑ってしまった。

 

「…何がおかしい」

 

相変わらず拗ねた表情で言う織斑先生。なるほど、これは破壊力抜群だ。今なら千冬呼びしてもいいかな、と思えるほどに。

そう思ったので、ふと尋ねてみた。

 

ねえちーちゃん。

 

「ちーちゃん言うな。…なんだ」

 

ちーちゃんって、千冬呼びされたいの?

 

「ふむ。そうだな。されたい、と言うか…。なんだ。

こう、どいつもこいつも私のことをブリュンヒルデとか『織斑千冬』としてしか見ないからな。私だってただの人間だし、もっと言うなら一人の女だ。私をただの『千冬』として見てくれる人間が、理解者が欲しいと思うのは、そんなにおかしなことか?」

 

そう言って不安げで不満げな表情をする。不覚にも、ちょっとかわいいとか思ってしまった。さて。とりあえず、織斑先生がただの人間というのは、逆立ちしてもあり得ないとして。でもまあ、織斑先生にもこんな人間らしいというか、人間くさいところを見ることになるとは思わなかった。

なるほど、一夏君が織斑先生大好きな訳だ…。

 

そう思ったので、こう返してやることにした。

 

「別に。むしろ俺としては、織斑先生にこんなに人として親近感がわくとは思ってなかったかな」

 

そう言うと、恥ずかしかったのかそっぽ向かれたでござる。その頬は真っ赤であった。ここだ!俺のSな部分が、Sな魂が!今ここで千冬呼びをしろと叫んでいる!

そして俺は満面の(邪悪な)笑みでこう呼んだ。

 

「分かったよ。…千冬」

 

そう呼ぶと、赤い顔でそっぽを向いたままの千冬はこちらをちら、と一瞥し。

ブフッ!と勢いよく吹き出した。なんやねん。

 

「だってお前、顔真っ赤だぞ」

 

え。うそん。そう思って顔に両手を当てる。うーん、わからん。

ちょうどそのタイミングで注文がやって来たので、店員さんに聞いてみることに。

 

すいません、俺の顔赤くなってます?

 

そう聞くと、ニッコリ笑顔でええ、なってますよと返された。対面では千冬がニヤニヤしている。貴様…!絶対に酔い潰してやるからな。覚悟しろよ。

そんな逆恨みにも近い復讐の決意をしていると、酒が来た。ええい、今に見ておれよおのれぇ…。

まあいい。旨い酒が先ずは先。これはお互いに共通認識であったのか、お互い気付いた時にはすでにグラスをかかげており。そのままぶつけて乾杯。

ちなみに千冬は生。俺は青リンゴサワーである。逆だろ普通…。

 

ちなみに生よりも青リンゴとか梅酒とか、俺はそっちが好き。カルーアとかもたまに飲む。でもやっぱり最強は芋焼酎である。

よっ、ちーちゃん良いのみっぷり!そう言うと、実に嬉しそうな顔でやはりこれだな!とか言ってる。おっさんか。

 

その後も酒は進み、千冬の顔も赤くなってきた。いや最初から違う理由で赤かったが。

大体食べ物もなくなり、あとはひたすらお酒タイム。だいぶん飲んだな…。暑い。千冬もそう思ったのか、俺が服装を緩めるのと同じようなタイミングで千冬も服装を緩める。

おー、いつにもまして美人さん。よっ、日本一!

そう言うと、

「はっ、日本一だと?違うな。私は世界一だ!」

とか言ってご機嫌である。たしかに世界一だわ。化け物のような強さって意味で。

で、その世界一さん?いつになったら良い男見つけるの?来年私達アラサーよ?

からから笑ってそう言えば、突然千冬は神妙な顔つきになり。

「私だって…私だってなぁ!恋愛とかしたいんだよ!」

 

千冬、魂の叫びである。

そっかーちーちゃんは恋愛したいのかー。

 

「そうだ…。中学ではあのバカ()の世話を焼き…、高校でもあいつに振り回され…。そして世界で戦っていたと思えば教師生活だ。

私だって青春とかなぁ!普通の恋愛したいんだよぉ!」

 

ちーちゃんちーちゃん。その猛々しい咆哮だけで既に普通とはかけ離れてる。縁遠いで。ちーちゃんに普通って。

ああ、ほら周りのおっちゃんたちも引いてるじゃん。何々?痴話喧嘩かって?ちげーよ(半ギレ)

こんな美人さんを泣かして…。だって?

ひでー彼氏だな?だからちげーよ(マジギレ)

 

とりあえず注目を集めて仕方ないので、千冬ちゃんの頭をテーブル越しにぽんぽんしておいた。そしたらガバッと顔を上げて充血した目を半開きにしてこちらを睨み付けてきた。なん。嫌だったのん?

 

それから千冬は

「ええい!やってられるか!おかわり!」

と叫び、次々とジョッキを空にしていく。あっ、これ酔い潰れるパターンや。読めた。

そして今度はガタッと立ち上がり(廊下側に椅子が倒れるところだった。危ないからやめなさい)、突然こちらに来たかと思うと、俺の隣にドカリと座った。うわ酒くさ。

それからというもの、もうひたすらに絡み酒。しかも俺にも酒をぐいぐい飲ませる上、肩を抱いて顔を近付けて絡んでくる。

美人が隣にいて、めちゃくちゃ顔も近いのに、なんだろう。あんまり嬉しくない。やっぱり酒は飲んでも飲まれるな、やね。現在進行形で酒に飲まれてる千冬を見て、そう思いました。まる。

 

そして絡み疲れたのか、俺の肩に頭を預けながらすーすー言ってるちーちゃん。今なら言える。千冬?俺の隣で(酒で潰れて)寝てるよ。うん、嬉しくないな。悲c。

 

仕方ないのでお店の人にタクシーを呼んでもらい、一夏君に寮の出入口で待っててもらうように告げる。ごめんね一夏君。君のお姉ちゃん、仕事と私生活のストレスではっちゃけすぎちゃった…。なお、共に飲みに行く男性とはお互いに恋愛感情はないもよう。あるあるやね。

 

タクシーが来たので、お会計してと。

ちーちゃーん。起きてー。

ゆさゆさと起こしてみるも、返ってくるのはかわいらしい

「ぅーん…」

という声だけ。アカン。

 

仕方ない。千冬の荷物を持ち、千冬のやわっこい腕を自分の首にかけ。千冬の細い華奢な腰を支えてタクシーへ。ふう。

 

「お客さん、どちらまで」

 

あ、IS学園女子寮までお願いします。

 

「入り口までになるけど、いいかい」

 

ええ、よろしくお願いします。あ、もし寝てたら起こしてもらっていいですか?

 

「はいよ」

 

そう言って、タクシーは走りだし。俺の意識も走りだしてどっか行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちら、とミラーを見る。今回乗せた二人の客は、それぞれ互いに顔を寄せながら、穏やかな寝息をたてていた。片方の美人な方の女の客は、タイトなスーツをわずかに着崩し、男の左手を握っている。

もう片方の男の客は、左肩に女性の頭をのせながら、その頭に寄りかかるように目を閉じていた。

 

運転手は一つ嘆息し、告げられた目的地へ向かう。

 

 

 

ーーーその小さな幸せを大事にしろよ、坊主。

 

 

 

この女尊男卑のお互い生きにくい世の中の、小さな幸せにこころもち穏やかな微笑みをうかべながら。




(*´∀`*)ほっこり


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ラウラとシャルロット、そして水着

水着回(大嘘)


さて、ちっふー先生を寮の入口で待ってくれていた一夏君に任せた次の日。そう。今日は土曜日である。皆さんは覚えているだろうか?

ラウラとシャルロットのお買い物に付き合う日が今日である。え?買い物デートの前にべろべろになるまで酒飲んでていいのかって?いや、べろべろになるまで飲んだのは千冬だけだし。俺はセーフ。

ついでに言うと、買い物デートというよりはラウラの保護者兼付き添い、というのが正しい。シャルロット?ああ、シャルロットもラウラの保護者やね。それで?何か問題?(主任感)

 

あ、どうでも良いけど今度作るISっぽい何かに主任砲積むのも面白そう。有澤重工はあったし。グレネード!!

 

 

そんな馬鹿なことを思いながら待ち合わせ場所に車で向かう。え?原作一夏君はモノレールかなにか使ってただろって?ああ、俺電車あんまり好きじゃないんだよね。通勤や通学で使ってて何度も気分悪くなったりはきそうになったから。そんな経験、あると思います。

 

愛車のWRX STI type Sのハンドルを握りながら待ち合わせ場所へ。ちなみに集合時間は午前10時なので、余裕をもってちょっと早めに出発。さて、まだちょっと時間には早いかな?どこか車停めるところ探しておくか。

車は便利なんだけど、駐車場がないと一気に不便になるよね。特に都市部では。

 

ちょうど近くに駐車場があったのでそこに入れて、集合場所に向かう。集合場所は今日のメインたるショッピングモール、レゾナンスから程近い、駅周辺の噴水のある広場だ。休日ということもあってか、あちこちに家族連れやカップル、学生達の姿が見える。あれ、ここ一夏君とか箒ちゃんの待ち合わせ場所じゃないよね?ちょっと不安なんだけど。なに?どうせ同じ日ならレゾナンスで出会うから無用な心配?気まずいじゃん。気まずくない?一夏君と箒ちゃん、特に箒ちゃんからすればデートだよ。デート中に共通の友人に出会うことほど気まずいこともないと思うの。

 

さて、集合時間まで15分ほどある。暇だ。という訳で喫煙所に向かい、わかばを吸って小休止しようかな。そこまで考えてからふと気付いた。

ラウラとシャルロットにタバコの臭いがつくのはあんまりよろしくないかな。ふむ。

仕方ない。我慢しよう。

 

俺はラウラに送る直前だったメールを削除し、噴水前でぼけーっと空を眺めて待つ。ああ、空が青いなあ…。

ちなみにラウラはメールと通話くらいにしか携帯電話を使わないらしい。シャルロットはラインを使っているから、シャルロットがラウラに使い方を教えてくれると楽だなー。どうだろなー。でも携帯電話に不慣れであうあうやってるラウラもかわいいから良し。思考が完全に父親のそれだな。是非もないね。ラウラはかわいい。

 

さて、集合場所にラウラとシャルロットは揃って来た。あれ?二人って同室だったっけ?

 

「おはようだ、嫁よ。待たせたか?」

「鹿波さん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 

そう言ってくるラウラとシャルロット。

 

「いや、ついさっき着いたとこ。二人ともよろしくね。私服もいいね、似合ってるよ」

 

そう返して二人を見る。

 

ラウラはすっきりとした膝あたりまでのダメージジーンズに紺色の無地の半袖Tシャツ。その上に白のカーディガンを羽織っている。個人的には黒のスニーカーがキュート。

ちなみに眼帯はしていない。その事を尋ねるも

「今までは無理やり入れられたこの眼に思うところもあったが。まあ、そう気にしなくてよいのだろう?」

と言って不敵に笑った。きゃわわ。

 

シャルロットは淡いクリーム色のワンピース…いや、短いからチュニック?の上に青色のニットシャツ。あ、なんかカードでこんな格好見たことある。前世で。

下はホットパンツからすらりとした生足がまぶしい。ブーツは暑くないかと思ったけど似合ってるので別に気にしなくていいか。女性は冷え性が多いからね。

 

ちなみに俺はストレッチジーンズに黒の長袖インナー、その上に白のシャツを着ている。あんまりおしゃれじゃなくてすまんな。ファッションにはうといんや。許してクレメンス。

 

で、これからの予定は?

 

「うむ。レゾナンスへ行くぞ!」

 

元気よくそう言うラウラだが、まさか歩きでいくの?ねえ?俺車で行きたいねんけど(協調性ゼロ)。

 

「む?嫁は車で来ていたのか?」

 

ほうよ。ねえ君ら二人とも、出来れば俺の車で行かない?アカンの?歩きとか疲れるやん…。

 

ラウラが良いなら僕はいいよ、とシャルロット。やっぱりまだ男装していた頃のくせなのか、たまに僕って言っちゃうみたい。個人的には僕っ娘大好きです。

 

ラウラはうむむ…。とか計画が…。とか言ってる。あれ?そこまで悩むこと?

そう思って聞いてみたところ、どうやら今日の計画をラウラは全部決めており、その計画が最初から頓挫してしまうことが悩みどころなようだ。

 

「まあ、ラウラがしたいようにすればいいよ」

 

そう言ってラウラの頭をなでりこなでりこ。髪がサラッサラで素晴らしい…!そんなことを思っていると、ふとラウラがこちらを見上げていた。

 

「うむ、決めたぞ!嫁よ、頼んだ!」

 

「はいはい」

 

じゃあこっちねー、と言って先ほど車を停めた駐車場へ。

さて、レゾナンスへ行くとしましょうか。




分割。きっと続きます

追記
ISの原作を買おうと思って書店を見に行ったら売ってませんでした。訴訟


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ラウラとシャルロット、そして水着2

もはや原作の水着話は記憶にほとんどないので適当です。すまない。


という訳で、レゾナンスへ来た。傍らにはあちこちに興味津々なラウラと、そんなラウラを見ながら楽しげなシャルロット。

で、ラウラたん。あなたの計画では次どうするの?

 

「はっ!そうだった!ええと、まずは水着だ!」

 

ゆくぞー!と言って右手を天に突き上げ、そのまま走ってどっか行っちゃうラウラ。待ちなさい。ラウラの手首を軽く掴んで引き止める。

 

「む?どうした嫁よ」

 

こちらを振り向いて、心底不思議そうな表情をするラウラ。

あのね、まずは周りをよく見ようか。

 

「うむ、家族連れや人でいっぱいだな」

 

うん、良くできました。じゃあ、そんなところで走ると何が危ないかな?

 

「…む、小さい子どもにぶつかるかもしれんな」

 

うん。そうだね。それ以外にはないかな?

 

「ふむ。わかったぞ嫁よ。落ち着いて行動しろ、ということだな!」

 

大正解。あと、ラウラ一人で行動している訳じゃないから、シャルロットのことも気にかけてあげてね。

 

「了解した。よし、では改めてゆくぞ!」

 

そう言って、今度は普通に歩き出した。時々振り返った、俺とシャルロットがついてきているか確認している。うん、よろしい。

 

「シャルロット、ラウラっていつもこんな感じなの?」

 

「あはは…。いつもはもう少しおとなしいんですけどね。今日は鹿波さんと一緒だから余計にはしゃいじゃっているんだと思いますよ」

 

そう言って、シャルロットは苦笑を返してくれた。

 

「じゃあ、私たちも行きましょうか」

 

「そうだね」

 

そう言って、シャルロットは俺の右手を握ってきた。ん?どしたん?

 

「は、はぐれるといけませんから…。ダメですか?」

 

「いや、そうだね。後でラウラとも繋ごうか」

 

不安そうな顔で聞いてきたシャルロットだったが、了承を返すとふんわりとした笑顔が広がった。

やだ、この子ヒロイン力高すぎ…?時々、俺の手をにぎにぎしてえへへ、と照れる様子はまさに天使。理想郷はここにあったのか…!

 

さて、途中でラウラを捕まえ(喜んで俺の腕に抱きついてきた)、水着売り場へ向かう。だんだんと夏の足音を感じている今、水着売り場はけっこうな人で賑わっていた。

 

「こっちだな」

 

そう言ってラウラは俺の腕をぐいぐい引っ張ってくる。うん、もう少し力をゆるめてもらっていい?ちょっと引っ張りすぎ、痛いお。

それにしても、水着売り場のおよそ8割が女性用で占められている。うん、まあ元々男性用の水着とか服って少ないけどさ。それにしたってかなりの差別だね。これはひどいなあ…。

まあ今日は別に水着買わないけど、これでまだ女尊男卑は進行中だと言うんだから、これから先はどうなることやら。下手すると、男性に人権がなくなるんじゃないだろうか。いや、さすがにそれは心配しすぎかな?大丈夫だと思いたい。

 

さて、他にも水着を売っているお店はあるみたいだけど、一番広い水着売り場はここみたい。じゃあ、水着選びだね。いってらっしゃい。俺はそこらへんで座ってるからーーー

 

「む?嫁よ、何を言っている。当然来るだろう?」

 

「ラウラ、とりあえずいくつか見繕ってから鹿波さんに選んでもらえばいいと思うよ?ラウラが選んでいる間、ずっと鹿波さんに付き合ってもらうのは鹿波さんが大変じゃないかな?」

 

「むう。とはいえ、私はどの水着が良いかなど分からんぞ…」

 

「シャルロット、気遣いありがとう。でもまあ、そういうことならラウラについて行くよ。ただ、出来ればシャルロットにも意見を言ってもらえると助かるかな」

 

「わかった。じゃあ、皆で見ようか」

 

「ふふふ…。嫁よ、楽しみにしていろ!」

 

そうします。確かに最初は一人で待ってるつもりだったけど、ラウラが一人で水着を選ぶのが難しいなら付き合うことにしましょうか。

 

それに、さっきちらりとだけど、普通の男性客らしき人物が全く無関係そうなおばさんに水着を戻してくるように命令されてるのが見えた。

一人でいると、そこらへんの一般の女性客の小間使いにされかねない…!もはや自分一人では出歩くことすら危険となったこの世紀末な日本に、俺は戦慄を禁じ得ない。絶対これから外出するときは誰か女性同伴じゃないと無理だな、これ。うん。

 

そう言えば一夏君と箒ちゃんも水着を買いに行くって言ってたけど、全く姿を見かけない。日にちが違うのかな?まあなんにせよ、気まずい思いをしなくてなによりだ。

 

そう思っていると、ふいにシャルロットが引っ張ってきた。ん、水着決まった?

 

「ええと、一応3つほど…」

 

ほんほん。一つはオレンジと黒の紐のタイプか。あ、これ上の胸の方から紐を背中で結び、その紐がスカートとつながっているのね。へえ。おしゃれやね。

 

二つ目はシンプルな淡い水色のビキニタイプ。あ、左脚の付け根のあたりに紺色のイルカさんがいる。ちゃんとDolphinって書いてある。ええね。

 

んで最後は…!こ、これはバカテスの秀吉水着!色こそ黄色でシャルロットの髪色に似合うようになっているが、このトランクスタイプは、俺が見たい女性の水着の中ではピンポイントに大好きなやつ!シャルロットナイス!良いセンスだ!

アッキーオも大満足の一品だね!

 

「ど、どれがいいかな…?」

 

「俺としては、3つ目のが一番好み(キリッ)」

 

即答。それが候補にあるとかシャルロットは分かってる。素晴らしい。マーベラス。ハアハアしたい。最後のは違うか。

 

「じゃあ着替えてみるね」

 

そう言って、シャルロットは更衣ボックスへ。…あの、シャルロットさん?俺は更衣ボックスの前で待たないとダメでせうか。そうですか。

仕方ないので待つかー。そう思って振り向いたら、なんだかニヤニヤとしたおばさんがこちらへ向かってきている。嫌な予感しかしない。ていうかこのおばさん、さっき一般の男性客らしき人に命令してた人じゃない?あかん。

 

「あらあなた、そんなところで立って、何をされてたのかしら?まさか覗き?あらやだ、最低ね!言い触らされたら困りますわよね?」

 

突然何を言ってんだこのババア。…正直そう言いたいところだが、騒ぎになったとたんに不利になるのはこちらである。幸いなのは、シャルロットがいる更衣ボックスはすぐそばであり、いざとなった時には助けてもらえる状況であることだ。これなら別に大して怖くない。が、非常に鬱陶しい。

 

「別になにもしてやいませんし、後ろのボックスにいるのは私の連れです。困ることなんてーーー」

 

そこまで言って、目の前のおばさんの後ろに般若…いや、ラウラが立っているのが目に入る。おばさんは後ろのラウラに気付いておらず、相変わらず厭らしいニヤついた笑みを張り付けていた。

うん。これはラウラにやってもらおう。そうしよう。

そう思った俺は、ラウラに向かって言い放った。

 

「Go!」

 

そう言ったが早いか、ラウラは一瞬で背後からおばさんの腕を取り、その腕を捻りあげながら地面に押し倒した。まさに一瞬の早業…。

こ、これからラウラを怒らせないようにせねば。これは勝てない。

 

ラウラはおばさんの耳もとで何かしらを呟いているようだが、今のラウラに近寄るのは腹ペコのライオンに近付くよりも危険なかほりがするので近寄れない。

ただ、ラウラが何かを呟くたびにおばさんの顔色が青くなり、ガタガタと震えているのであれは多分何か脅してるんだと思う。思います。

ラウラさん怖い。見ているこっちが寒気がする。

 

誰か収拾をつけてくれ…。その願いが通じたのか、着替え終わったシャルロットが更衣ボックスを開ける、シャッと言う音が後ろから。

頼むシャルロット!なんとかして!

 

「鹿波さん大丈夫!?って、あれ?ラウラ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

振り返ると、秀吉水着(黄色)を着たシャルロットが。良いね!最っ高にキュートだぜ!でも今それどころじゃなくなっちゃったの。お願いだからラウラを止めたげて。

 

「ラウラ、ストップ!」

 

「む?シャルロットか。水着は決まったか?」

 

おばさんの腕を捻り上げたまま、シャルロットの方を見て平然と話すラウラ。アカン、ガチモンの軍仕込みはメンタルが半端じゃないですね…。

 

「うん、決まったよ。あと、一度その人解放しようか」

 

「…む」

 

そう言ってラウラはこちらを見た。うん、一度その人解放してあげようか…。なんか死にそうな顔してるし。

そんな思いをこめて黙って頷く。さっきまでのラウラが怖くって声なんてでません。

 

「はぁ、はぁ…。覚えてなさいよアナタ。絶対に許さフギャア!?」

 

途中までこっちを睨み付けて捨て台詞を言おうとしてきたおばさん、二度目のラウラチャレンジ。今度は先程とは逆の腕だが、今回はさすがに俺もシャルロットも止めない。こういうバカには痛い目を見させないとダメだと僕は思います。悲しいのは、それが他力本願というか、他の女の子に頼らないといけないことですね…。

 

とりあえずシャルロット。着替えておいで。あとラウラ、警備員さんかお店の人…ああ、もう騒ぎになってるから来てらっしゃる。はい。

じゃあラウラ、その人頼んでいい?ああ、ラウラに全部おまかせするよ。え?容赦しないでいいかって?容赦なんていらんいらん。全力でやりなさい。

 

うむ。と実に頼もしく頷くラウラと共に警備員控え室みたいなところへ。警備員さん何人かに事情を説明し(おばさんがうるさいせいで時間がかかった)、警備員さん達から

「必ず、か・な・ら・ず・こいつは警察に引き渡します。充分な営業妨害ですからね。ああ、良ければ被害届も出しますか?そうすると、警察が来るまで待ってもらうことになりますが」

 

という言葉を頂いた。正直被害届も出して起きたいが、シャルロットとラウラを待たせる訳には…。

そう思って辞退しようとしたところ、シャルロットが到着。被害届を書くのはそんなに時間もかからないし、絶対に書いておいた方がいいから。ということで警察に被害届を出した。

 

そして出てきた時点でお昼の時間帯はやや過ぎていた。しかし三人ともご飯にしよう!という意見で一致したので、適当なレストランで食事。

いやー、ラウラ(軍人。高給)、シャルロット(代表候補生。高給)、俺(IS学園勤務。高給)の三人だと、ぶっちゃけお店はどこでも良くなるよね。

でも、さすがにさっきのようなことがあるとたまらないので、ちょいとばかり高級なところに。高級なお店だと、従業員もお客さんのマナーも比較的いいからね。

 

 

さて、午後からはラウラの水着かな?

実に濃厚な半日である。




まだ続く

ところで誰か秀吉水着のシャルロットとか書いてくださいませんかね…?

-追記-
Altene(あるてね)さんが秀吉水着のシャルロットのイラストを描いて下さったので、挿絵表示しておきます。
Altene(あるてね)さん、ありがとうございます!
気になった方はどうぞ
皆どんどん水着姿を描いてくれていいのよ?壁・ω・)


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ラウラとシャルロット、そして水着3

ちーちゃんが勝手に出てきてラウちー師弟組が暴れまくってます

ちーちゃん無双は臨海学校が始まるまでです

楯無「ウォーミングアップは済んでるわ!」
ラウラ「出番は次話からだそうだ」
楯無「えっ」


遅めのお昼を食べ終わった俺達は、ラウラの水着を決めに再び水着売り場に来ていた。そしてそこで見慣れた後ろ姿の二人組を見つけてしまった。

 

「あっ」

 

「ん?」

 

そう言って振り返ったその二人は、皆大好き真耶ちゃんと、独身教師24歳織斑千冬その人であった。

 

真耶ちゃんはふんわりとした白を基調としたワンピースの上にパーカーを着ていて、肩から掛けて腰に小さなポーチ。足元はマリンブルーのパンプスがよく似合っている。

一方織斑先生は黒の無地のTシャツにホットパンツ。ホットパンツからはすらりとした脚線美が、黒のストッキングに包まれている。素晴らしいおみ足である。触りたい。モデルさん並みのプロポーションである。しかも上には何も羽織ったりしないという男前ぶり。かっけえ。

そして足元は飾らないスニーカー。織斑先生、今のあなたは最高に輝いてます。中身が織斑先生ほど残念じゃなかったら今すぐ結婚を申し込むレベル。なんか最近織斑先生俺を狙い撃ちしてない?なんなの?神様の意思か何かなの?(※作者の好みです)

でも年齢的に考えると24なんだよな。24歳独身女性のホットパンツ。…ギリギリセーフ?

 

「…貴様、今何か失礼なこと考えてただろ」

 

「滅相もございません」

 

「いーや考えてた。最近少しずつ貴様のことが分かってきたからな。分かるぞ。

お前は本当に考えていないときにはな、はっきりと否定するんだ。『そんなことないですけど』とかな。

だが、考えていたのをごまかす時には今のように『滅相もございません』とか『さあどうでしょう』と言うんだ」

 

ぐっ、ばれてる。うわ。まじか。

そう、俺は嘘が嫌いである。基本的に嘘はつくのもつかれるのも嫌なので、ごまかす時にはだいたい『さあどうでしょう』が多いのだ。

まさかそこまで気付いているとは…。

 

話題を変えよう。そう言えば、織斑先生はたしか二日酔いだったはず。何故ここに?聞いてみよう。

 

「あれ、織斑先生二日酔いじゃなかったですっけ?大丈夫なんですか?」

 

「オフで織斑先生はやめてくれ…。ああ、二日酔いで朝方は酷かった。だから山田君に無理を言って、今日は午後からだ」

 

「ああ…なるほど。分かったよ。千冬。…これでいいか」

 

「構わん」

 

そう言って満足げな顔をする千冬。…やっぱりちょっと気恥ずかしい。いつか千冬呼びに慣れるんだろうか…。

 

真耶ちゃんはさっきからこちらをちらちら見ながらラウラやシャルロットと話をしている。何を話してるんだろ。

 

ていうか今思い出したけど、原作では千冬が一夏君に水着を選ばせてた気がする。そうすると、今日の午前中に実は一夏君と箒ちゃんが居たのか?出会わなかったから完全に居ないと思ってた。後で千冬に聞いてみようか。

ああ、そういえば鈴ちゃんやセッシーは二人のデートをつけていたんだろうか。うわ、すっごい気になる。

 

「千冬達も、水着を買いに?」

 

「ああ。と言っても、既に山田君は買っている。後は私の分だ」

 

「そうか。こっちはあとラウラの分だな。良ければラウラの水着も選ぶ手伝いをしてほしいんだ」

 

「ふっ、あいつが望むのなら、な」

 

そう意味深に千冬は言う。どういうことだろうか。

 

「ふん、普段のあいつ(ラウラ)を見ていれば分かる。あいつの着たい水着は、お前が好きだと思う水着だろうよ」

 

「そうかなあ」

 

そんなことないと思うけど。しかし千冬は自信満々に腕を組んで動じることなく得意げな顔をしている。…腕を組むと、その豊かなものが強調されますね。しかも黒のTシャツだから輪郭がはっきりしない分、より破壊力が凄まじい。やっべえ。真っ昼間から同年代の美人の同僚に欲情とかさすがにまずい。鼻血でそう…。

 

悩むふりをしつつ鼻をこっそり隠す。よし、血は出てない。セフセフ。しかし千冬、本当にヤバい。容姿の魅力が俺のストライクゾーンど真ん中である。これで料理とか家事と気遣いと少しの優しさが増量されたら、呆気なく俺のブレーキが壊れてプロポーズしかねない。なんなん?なんなん?(言語能力に支障をきたした)

 

 

「そう言えば、一夏君とかと会ったりした?」

 

鼻を押さえながら尋ねる。よし、そろそろ落ち着きはしないけど慣れてきた。よしよし。

 

「ん?一夏か。いや、会ってないな。というか私達は、つい先ほど来たばかりだからな」

 

共に行動するのも良いが、あいつら(ラウラとシャルロット)はそれを望まんだろうーーー。

そういう千冬の横顔は、それはもう凛々しかった。

 

あ、真耶ちゃん達も話が終わったのかな?真耶ちゃんとシャルロット、ラウラがこちらにやって来た。

 

「えっと、今お二人とお話してたんですけど、鹿波さんが良ければご一緒しませんか?」

 

そう言って、ニコニコ顔で尋ねてきたのは真耶ちゃん。んー、シャルロットとラウラはそれでいいの?

 

「うん。またさっきみたいなことがあっても、山田先生と織斑先生がいれば、鹿波さんも安心だし」

 

「私は教官と鹿波がいるならそれでいいぞ!」

 

優しく笑いながら俺の方を見てそう言うシャルロット。健気や…。ああ、年をとると涙腺がゆるくなってあかんね…。

シャルロットとは反対に元気いっぱいに答えたのはラウラ。やっぱりラウラにとって、千冬は特別なんだね。うんうん。

 

(「あの、山田君。私の意見は…?」)

 

(「何か言いましたか?」)

 

(「い、いや。…何でもない」)

 

なんか真耶ちゃんと千冬がやり取りしてたけど聞こえなかった。なんだろう。千冬が無理言って真耶ちゃんに迷惑をかけたから、千冬が真耶ちゃんに口答え出来ない的な感じだったような…?

 

まあいいや。真耶ちゃん、俺の答えは決まった!

 

「真耶ちゃんが良ければ」

 

「じゃあ、決まりですね!」

 

パンッ、と手を合わせて嬉しそうに笑う真耶ちゃん。うん、真耶ちゃんが嬉しそうだと俺も嬉しいよ。

で、千冬の水着から?それともラウラ?

 

「いえ、ここはどちらも鹿波さんに選んでもらいましょう!」

 

「えっ」

 

「おお!」

 

テンション高めに言う真耶ちゃん。千冬とラウラの反応は対照的で、千冬はちょっとマジトーンで驚いているのに対してラウラは普通に嬉しそうだ。

 

「真耶ちゃん真耶ちゃん、俺女性の水着なんてわからんよ?」

 

不安になったので、傍らにシャルロットをそっと引き寄せつつ真耶ちゃんに聞く。これで俺が二人の水着を選んで試着してもらう、とかだったらさすがにやめてほしい。そうなりそうならシャルロットに援護射撃してもらおう。

 

「はい!鹿波さんは心配しないで大丈夫です!先輩とラウラさんに、水着を3着~5着くらい選んでもらって、鹿波さんにはその中からお好きなのを選んでほしいんです!」

 

すっごいニッコニコしながら言う真耶ちゃん。うん、それぐらいないいかな。ところでさっきから真耶ちゃんの後ろで千冬の顔が青くなったり赤くなったりしてるけど、大丈夫なんだろうか。あとは黄色くなれば信号機。

 

さて、ラウラと千冬が水着を選びに行ったので、シャルロットと真耶ちゃんと共に待つことに。

 

「ところで真耶ちゃん、さっきからけっこうやけに楽しそうだけどどうしたの?」

 

「ええ、いつも先輩にはよく振り回されてますから。たまにはこうやって、先輩にも振り回されてほしいかなって♪」

 

「そ、そう…」

 

(それに、鹿波さんのことを明らかに意識している先輩とか、すごく面白いですし。しかも先輩、あの様子だとまだ自分の気持ちに気付いてないみたいですし…。あんなに分かりやすく鹿波さん好き好きオーラだしてるのに。ふふふ、こんなに楽しめそうなのは見逃せません!)

 

ラウラも千冬も、お互いに相談しながら3着ずつ決めたようだ。

 

まずは一着目の水着をラウラと千冬が試着している間待つ。

 

すると、真耶ちゃんがこちらに寄ってきてお互いに顔を寄せてひそひそ話をすることに。

「ところで鹿波さん、いつの間に先輩のことを名前で呼ぶようになったんですか?」

「…昨日」

「…何かあったんですか?」

「…サシで飲みにいったの」

「…何か言ってました?」

「…恋愛、したいんだって」

「…あー。鹿波さん、先輩の初めての異性の友人ですからね…」

「…マジで?」

「はい…」

「マジかー…」

 

千冬の青春、残念すぎでしょ…。

 

そして真耶ちゃんとのひそひそ話が終わったところで、ラウラと千冬が水着姿を披露してきた。

 

「どうだ嫁よ!」

 

そう言ってラウラが見せてきたのは、黒の攻めてるビキニ。…うん、アニメの水着姿を見た時も思ったけどさ。

 

「ちょっと…」

 

なんかね。うん。なんか違う。かわいいけど。

 

「シャルロットはどう思う?」

 

「うーん、似合ってると思うよ?ただ、他の水着を見てからでもいいと思うな」

 

サンキューシャルロット。ナイスフォロー。

 

「む、そうか。ならば次だな!」

 

そう言ってラウラはカーテンを締め切り、ごそごそ着替え始めた。

 

「わ、私はどうだ」

 

そう言って千冬が着ていたのは、白のスポーツビキニ。…うん、普通に白のビキニの方が似合うと思います。言えないけど。

 

「…。」

 

「な、何か言ってくれ…」

 

そう言ってちょっと涙目になる千冬。んー、でもストレートに言うのも憚られる。ていうか、こういう時に俺がストレートに言うと大抵ろくでもないことになる。

こんな時には真耶えもんを頼ろう。

 

「真耶ちゃん、率直な意見をどうぞ」

 

「んー…。先輩、ちょっとその水着は厳しいです♪」

 

真耶ちゃんがイイ笑顔で言うと、千冬は何も言わずにゆっくりとカーテンを締めた。後輩にダメ出しされたのがよっぽどツラかったんだな…。

 

 

「次はこれだ!」

 

そう言って元気よくカーテンを開けたラウラが着ていたのは、まさかの競泳用水着。なるほど、そのスラッとしたスタイルには確かによく似合っており、膝上までのスパッツからは躍動感が滲み出ている。うん。でも競泳用である。

 

「ダメかな」

 

シャルロットさん、まさかの俺より先にダメ出しである。や、似合ってるは似合ってるよね。

 

「うん、確かによく似合ってる。でもねラウラ。それはスクール水着を着て″オシャレ″って主張するくらいダメなんだよ」

 

そう言ってニッコリ笑うシャルロット。でもその笑顔からは確かな迫力があった。ラウラもそれに気付いたのか。

 

「な、ならばこれだ!これは自信があるぞ!」

 

そう言って早々にカーテンを締めた。早い。でもお着替えにはしばらく時間がかかりそう。

 

「こ、これはどうだ…」

 

そう言って恥ずかしそうに出てきた千冬が着ていたのは、黒のビキニ。腰にはミニスカートくらいの厚めのパレオを巻いており、これにサングラスを額にかければクールビューティーちっふーの完成である。

 

「良いですね。すごく似合っていてお綺麗ですよ。…何でそんなに恥ずかしがってるんです?」

 

「こ、これはだな…。一夏の奴が、『千冬姉には黒だって!しかも飾り付けとかのないシンプルなビキニ!これだけでもう最高だから!』と言っていたのを参考にしたんだ…」

 

「あ、じゃあそのパレオは自分で?」

 

「ビキニというのは、存外恥ずかしいものなんだぞ…」

 

そう言ってうー…とこちらをにらむ千冬。しかしその目はいつもと違い、いぢめられた小動物がにらみつけてくるような可愛らしさがあった。

 

「似合ってますよ。一つ候補にしましょう」

 

俺がそう言うと、さっさとカーテンを締めてしまった。なるほど。真耶ちゃんが言ってた、千冬を振り回す楽しさがわかってきた。これは楽しい。

思わず真耶ちゃんを見ると、すっごいやんやん悶えていた。わかる。すごくほっこりするよね。

ちなみにシャルロットは無言だったが、いつもとは違う千冬を見て頬を赤く染めていた。シャルロットもあてられちゃったかな。

 

 

「さあ嫁よ!刮目するといい!とぅっ!」

 

そう言って三度、カーテンを思い切りあけるラウラ。

ふむ。上はライトブルーのハイネックにピンクのパーカ。下はデニム調のホットパンツ風のサーフパンツかな?素直に可愛らしさとスポーティーな感じが調和していて、思わず可愛いなあと思った。

 

「うん、よく似合ってる。可愛らしさとキュートさがあって、いいんじゃないかな」

 

「そうか!」

 

パアアアッと花が咲いたように笑ったと思ったら、にへら、と思わず相好が崩れたように笑うラウラ。どうした。

 

「嫁よ、これを私は買うぞ!」

 

あ、はい。どうぞ。シャルロットさん、翻訳お願い。

 

「えっと、ラウラって基本的に『自分のもの』をあんまり持ってないんだ。だから、自分が買うっていうのは、これを私の宝物にする、ってことだと思うよ」

 

「おk把握」

 

なんやラウラちゃんかわいいやん。…当たり前でしたね。ラウラは可愛い。いいね?

 

 

さて、最後はちっふーの水着。しかし良かった、途中まではこのポンコツ師弟大丈夫かとか思ってたわ。いやー、だいたいなんとか無事終わりそうでホントに良かった。

 

あれ、けっこうかかるな。ちーちゃん大丈夫ー?

 

 

「ど…どう…だ…?」

 

そう言って顔を真っ赤にして出てきた千冬は、それはもう写真に納めたいほど可愛かったが、水着の審査なので網膜に焼きつけるに留める。全然留めれてない定期。

 

色はライムグリーンのビキニ。ただし上がチューブトップ?ていうのかな。胸周りだけで首に紐をかけたりしないやつ。あれの右のお胸と左のお胸の間でねじってあるやつ。あの…正直言って、破壊力が半端じゃない。

元々整ってるプロポーションなのに、豊かな胸元がこれでもかと言わんばかりに主張し、それでいて下品ではない。それどころか、ライムグリーンという明るい色が爽やかさすら醸し出し、つまるところが最強だった。

 

俺が何も言葉を発することなくぽけーっと見惚れているのが恥ずかしくなったのか。千冬はさっとカーテンをしめて

 

「もういい!さっきの奴にする!」

 

と言ってさっさと着替えだしてしまった。

そんな俺の方を見て、真耶ちゃんが天使の(悪魔の)ような笑顔を向けてきた。

 

「鹿波さん、…どうします?」

 

「…」

 

俺は何も言わずに諭吉を五枚出し、真耶ちゃんに買ってもらって千冬の荷物に紛れ込ませてもらうように頼むのだった。

 

 

そしてその日はその後、千冬は一言も口をきいてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに真耶ちゃんもあの千冬を見れて満足したらしく、千冬にプレゼントした最後の水着は真耶ちゃんと折半になりました。諭吉が三枚と樋口さん、野口が二枚返ってきた。

そんなことよりまたあの水着の千冬が見たいです。




イエイ。残念ながら鹿波さん、せっかく織斑先生同伴を回避しようとしたのに意味なかった模様

追記

可愛らしさとキュートさは同じような意味です。鹿波の言語能力がおかしくなるほどラウラちゃんが可愛かったんだと思ってください


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追憶の刀

たっちゃん編

一応この時はまだレベルスティーラーは禁止前、ということで


「冷たい炎が、世界の全てを包み込む…。漆黒の華よ、開け!

ブラックローズドラゴン!」

 

「はい奈落」

 

「ああああ!」

 

勢いよく場に出した棘のある茨の竜をかたどったモンスターが、活躍する間もなく除外される。

それを見て、刀奈は頭をかきむしりながら勢いよく立ち上がった。

 

「ちょっと鹿波さん!なんてことするのよ!」

 

「いやいや、これ対戦だし」

 

そう言う鹿波さんは涼しい顔をしている。くう、私の場には今のシンクロ召喚のために素材にしたからモンスターはいない。

そして私の伏せカードにはミラフォのみ。

うぅ、心配だけどもうこれ以上出来ることはないし…。仕方ない。

 

「ターンエンドよ!」

 

「じゃあ、そのエンド時にリバースしてサイクロン。当然対象はかっちゃんの伏せカード」

 

「ちょっとお!」

 

ああ、なんて無情な。そんな思いと共に、私はミラフォを墓地に置く。…次のターンで私、死んだかしら。これ。

 

「じゃあ俺のターン。ドロー。

手札からレベル・スティーラーを墓地に捨ててクイック・シンクロンを特殊召喚。

クイック・シンクロンのレベルを1下げることでレベル・スティーラーを墓地から特殊召喚。

クイック・シンクロンとレベル・スティーラーでジェット・ウォリアーをシンクロ召喚。

ジェット・ウォリアーのレベルを1下げてレベル・スティーラーを墓地から特殊召喚。

(この時ジェット・ウォリアーのレベルは4に)

シンクロン・エクスプローラーを召喚、効果により墓地からクイック・シンクロンを特殊召喚。

(この時クイック・シンクロンは効果無効状態のレベル5)

クイック・シンクロン、レベル・スティーラー、シンクロン・エクスプローラーでロード・ウォリアーをシンクロ召喚。

ここで、ロード・ウォリアーの効果を発動。デッキから、ジェット・シンクロンを特殊召喚。

ロード・ウォリアーのレベルを1下げて、レベル・スティーラーを墓地から特殊召喚。

(この時ロード・ウォリアーはレベル7に)

ジェット・シンクロンとレベル・スティーラーで、フォーミュラ・シンクロンをシンクロ召喚、そしてフォーミュラ・シンクロンの効果で一枚ドロー。

ジェット・シンクロンがシンクロ素材として墓地に送られたので、ジェット・シンクロンの効果でジャンク・シンクロンをサーチし、手札に加える。

ロード・ウォリアーのレベルを1下げてレベル・スティーラーを墓地から特殊召喚。

(この時ロード・ウォリアーはレベル6に)

ジェット・ウォリアー、ロード・ウォリアー、フォーミュラ・シンクロンでシューティング・クェーサー・ドラゴンをシンクロ召喚。

 

…あれ、かっちゃん生きてる?」

 

なぁにこれぇ。ふええ、この人一人でソリティアしてるぅ…。

そしてこの後さらにハイパーライブラリアン(鬼畜司書)を出そうとしていたが、普通に私を2回攻撃して終わりにしてくれた。終わった…。

 

「…かっちゃん、これだいぶ前の環境のデッキなんだけど。もしかしてかっちゃん、現環境の情報知らない?それで簪ちゃんに挑むとか本気?その子、十二獣とか使うみたいじゃない」

 

「そんなの知らないもん…」

 

 

そもそものことの発端は、私が妹の簪ちゃんと仲直りしたくて、簪ちゃんの好きなカードゲームでなら交流がはかれるかな。というものだ。

もちろんカードゲームなので、まずはルールを覚えないといけない。

でも、私も虚も本音も全く詳しくないしーーー。

そう思っていたところで、意外にも知ってたのが鹿波さん。

鹿波さんいわく、

「昔ちょっとやってただけ」

らしいけど、そんなことは関係ない。

本当に少しでいいの、ちょっとでいいから教えて!必要なものとかあったら全部揃えるから!

とお願いして、ようやく最近私は自分のデッキが作れるようになった。

 

最初のうちは鹿波さんが個人的に好き、ということで、私用にBFデッキ、鹿波さん自身は王さま?デッキとか、十代・二十代デッキとかいうのを使ってた。

最初はルールも覚束ない私が嫌な思いばかりしないように、とだいぶ手加減してくれたりして、私の勝率が50%くらいになるようにしてくれたり。

で、少しずつ慣れてくると全部分かったような気分になるもので。

同じデッキで勝負よ!と言って、私も鹿波さんも同じ内容のBFで勝負した。

結果、勝率2割。泣いた。いじけた。

鹿波さんはそんな私に辛抱強く付き合ってくれて、最近は私が自分一人で作ったデッキと、鹿波さんいわく全盛期の6割デッキ、じゃんど?とか言うので相手してもらっている。今日も惨敗したけど。

 

鹿波さんいわく、私のデッキは基本的に回る速度が遅くて、メタや妨害も足りない、だって。この子(ブラックローズ)かわいいじゃない…。

そう言ってぶーたれる私に

「うん、カードを大切に思う気持ちはいいね。その気持ちは大事にしよう。

ただ、自分の好きなカードで勝つ、というのは、勝つために組んだデッキで勝つよりも難しいんだ。いわゆるファンデッキとかもそうだけどね。

かっちゃんが好きなカードで勝ちたい、っていうのは、多分簪ちゃんといい勝負をした後に仲直りするよりも難しいと思うよ」

だって。でも、私だってこの子で勝ちたいもん…。

 

私のわがままだとは分かってる。でも、そんな私に鹿波さんはずっと付き合ってくれた。



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追憶の刀2

まだまだかっちゃんのターン!


それからも鹿波さんは時間があれば私とのデュエルに付き合ってくれた。

本人は

「欲しいカードや必要なカードを望めば買ってもらえるとか、ガチ勢にはたまらない環境だろうけどさ。僕もうついていけてないんだよね…。ペンデュラムって何さ」

とか言ってた。

そういうのもあって、私も鹿波さんもえくしーずまでしか理解が出来てない。

あと、私からはそうは見えないけど、鹿波さんはえくしーずをシンクロほど上手く使いこなせないんだそう。

ラギアとかホープをぽんぽん出してくるくせに…。

だから、えくしーずやぺんでゅらむは簪ちゃんに教えてもらってね、と言っていた。

 

「簪ちゃんはえくしーずやぺんでゅらむが使えるの?」

 

そう聞いたら、僕が知る訳ないじゃん。そう言って笑った。う、そう言えば、今私が一年生なんだから、簪ちゃんと鹿波さんに接点がある訳ないよね…。

でも、と鹿波さんは続けて言った。

 

「かっちゃんの話を聞く限り、簪ちゃんって遊戯王大好きなんでしょ?しかも大会で優勝する程度には強い。なら、普通に現環境に対応する能力はあるだろうし、多分エクシーズはかなり使えるんじゃないかな」

 

だから頑張って強くなって、簪ちゃんと仲直り出来るといいねーーー。

そう言って、鹿波さんが優しく私を励ましてくれるから。

だから私は、鹿波さんの元に通い続けた。

 

 

そんな私でも、何ヵ月もやっていれば上達はするもので。

私の鹿波さんに対する勝率は、いつしか80%をこえるくらいになっていた。

 

「うん、これだけ出来ればそうそうワンキルされることはないんじゃないかな。もう僕じゃあ相手にならなくなっちゃったね」

 

そう言って笑いながら鹿波さんは言う。

でも私は、鹿波さんに勝てるようになってから、だんだん怖いと思う気持ちが大きくなっていた。

鹿波さんが言う通り、私はそれなりに詳しくなったし、恐らく簪ちゃんともいい勝負が出来ると思う。

でも、もしも簪ちゃんと仲直り出来なかったら?

ボロボロに負けて、「つまんない」とか言われたら?

それとも逆に、私が圧勝しちゃって「お姉ちゃんなんか大っ嫌い!」って言われたら?

そう思うと、怖くて私は簪ちゃんに話かけられなかった。

 

その後も私は

「不安だから」

「もう少し練習しないと心配で」

「まだ簪ちゃんに話かける勇気が出ないから」

 

そう言って、何度も何度も鹿波さんの元を訪れた。その度に鹿波さんは

「いいよ」

「相手しようか」

「頑張れ!」

 

そう言って、何度も慰めてくれたし、私の背中を押してくれた。

この時の私は、本当に簪ちゃんに嫌われるのが怖くて、でも仲直りしたくて、どうしようもなく臆病なままだった。

 

それでも無情に時間は過ぎる。そして、12月。

 

私の家は少し特別な家系で、政府の裏で暗躍する、対暗部用暗部を担っている、そんな家。

当然危険なことにも関わるし、命のやり取りをすることもある。

だから、そうなることは予想出来たし、いつかはこうなるとも思っていた。

だけど、まだそれはしばらく先のことだと思っていたし、全然心の準備も出来ていなかった。

 

心まで冷えるような寒さを感じながら、更識家当主たる父が重傷を負って帰ってきた。

政府からの要望で、あるテロリスト集団の機密を手に入れてほしい、という仕事だった。

父はそこで蜘蛛のようなISと交戦。

重傷を負いながらも情報を手に入れ、なんとか撒いて戻ってきたらしかった。

 

見るからに息も絶え絶えな父に、不安と悲しみに押し潰されそうになりながら走り寄ったのを覚えている。

 

家の特殊性からか、父は身体中に痛々しい包帯をされた姿で私にこう告げた。

 

「刀奈…。私はもう、これまでのように動くことは出来ん…。自分のことすら満足に出来ん状態だ…。

しかし、私達の家はまだこれからも必要とされるだろう…。それには、私達にしか出来ないこともある…。

そして、私達が動かなければ、多くの人々が…っく、ゴホッ!」

 

そう言ってつらそうに咳き込む父を見て、私は悲しみと胸の痛みに沈みながらも聞いた。

 

「なんで…どうしてそこまでしないといけないの!父さんがそんなになるまでしなきゃいけないことなの!?

もういいじゃない!私達がやらなくたっていいじゃない!私達が傷ついたって!お父さんの身体が不自由になったって!誰も助けてくれない!誰も感謝もしてくれない!それなのに…なのに…」

 

涙がでる。視界が滲む。次の言葉は出てこず、私は溢れ出す感情をせき止められなかった。

ヒック、ヒックとしゃくりあげながらうつむいた私に、父は優しくこう言った。

 

「刀奈。私の大切な娘よ。お前の気持ちはよく分かる。私も、当主を継ぐよう言われた時は、同じ事を思ったものだ…。

だがな、刀奈よ。お前に、大切な者はいるか?守りたい者は居るか?その者たちの顔を思い描くのだ…。

 

お前は、その者たちが、突然電車の爆発に巻き込まれたらどう思う。その者たちが、無差別なテロに巻き込まれたらどう思う。

 

私達は、無関係な多くの人々を守るだけでなく、守るべき者を守るために動いている。そして、私達はそのために必要なのだ…」

 

私の脳裏には、何人もの顔が浮かんでいる。いつも厳しい父さん。暖かい食事を作ってくれる母さん。厳しくも優しく私達を見守ってくれる幹部の人たち。いつも私を支えてくれる虚。簪ちゃんのことを守ってくれる、いつも笑顔の本音。私を励ましてくれる鹿波さん。

そして、世界中で誰よりも。一番大切な私のたった一人の妹。簪ちゃん。

 

彼らが突然不幸に見舞われたら、私はすごく嫌。しかも、それがもし防げるものだったとしたら、私は防ぐために動かなければ、きっと後悔するだろう。

そう思った私は、服の袖でぐしぐしと涙をふき、きっ、と真っ直ぐに父の方を見た。

父は包帯を全身に巻き、座っているのもやっとの状態で、私の顔を優しく見つめていた。

今こうして座って話をしているだけでも、死ぬほどつらいはずなのに。そんなことを微塵も感じさせない、毅然とした態度だった。

 

「なに、身体は不自由になったとは言え、私も最大限サポートはする…。

刀奈。お前を第一七代当主に任命する。

…異論はないな」

 

私は恭しく頭を下げる。

 

「第一七代、更識家当主更識楯無。…拝命します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、私は刀奈ではなく楯無として活動するようになった。




まだまだぁ!


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追憶の刀3

一度主人公は死ぬほどつらい目に遭えば良いのだ(意訳:羨ましい)


私が楯無を襲名した日。

その日からは一気に忙しくなった。

当主としては新米もいいところの私の元へ、次々とやってくる厄介な案件。

隠居した父や父の幹部達に助けてもらいながら、私は次々とやってくる仕事をなんとかして解決していく。

あまりにも大変だったから、日本の代表を辞めた。

宝の持ち腐れとなっていた自由国籍権を使い、もっとも束縛の緩いロシア代表になった。それと共に、私の持っていたISの装備はロシアの

густой(グストーイ、グストヴィ:深い)

туман(トゥマーン:霧)

Москва(モスクヴァ、モスクヴェ:モスクワ)

 

になった。

とは言え、このISは正直頑丈だけど使いにくい。

なのでいずれは自分でISを作りあげようと密かに決心していたりする。

 

そんな忙しい中、虚も献身的に私を支えてくれている。

それでも、人間の闇、と言うのか。薄汚い、なんてレベルはとうに過ぎた人間の業に私は向き合わねばならず、簪ちゃんに話かけられても、ともかく黙って守られていて欲しかった。

だから、簪ちゃんが私に話かけてきても私はろくに取り合わなかったし、例え役立たずでもいいから、大人しくしていて欲しかった。

 

そう、この時の私はひどく疲れ、人間というものが嫌になってきていた。

愛する妹に、ひどく冷たい言葉を吐き捨ててしまうほどに。

いや、この時は私の言葉が冷たいと感じる心すら失っていた。

私の言った言葉が冷たいとか、そんなことを感じる暇はなく。私のした行動がひどく簪ちゃんを傷つけるものだとか、そんなことを理解できるほどの余裕はない。

ただひたすらに、淡々と。機械のように、仕事をする。ひたすら任務に集中し、案件を片付けてゆく。

感じる心があれば頭が鈍る。相手を思いやる優しさがあれば足は止まる。

ただ刻々と、真っ暗な暗黒の世界の中を突き進む。

例え人を切り裂いても。例え人の命を奪っても。

なるほど、暗部とはよく言ったものだ。

こんなこと、とてもではないがまともなままでは出来やしない。

心を裂き、感情を殺し。

日の当たる場所にいる人を守るために、日陰から闇の中の怪物や強欲な化け物達と向き合い、互いの腹を探り合い、そして時には牙を剥き。

信じられるのは己と家族。

私が怯めば誰かが傷つき、私が臆せば誰かが倒れた。

 

もうたくさんだ。やっていられない。

何度もそう思った。だけど、戦って、闘って、しかしそれでも全部は守れやしないんだ。

隣にいる虚の暖かさを感じる度に、この暖かさを守るため、私は修羅にもなろうと決めた。

人を殺め、人を葬り、そして人を傷付ける。

大切な人を守るために。

 

 

そんな生活は異常なまでな濃密さをもって私を侵食していたが、父の容態が落ち着き、宣言の通り私のサポートをしてくれるようになってからはいくばくか落ち着いた。

たった一ヶ月のことだったが、まあ随分と長い間戦っていたように思う。

この長かった短い期間で、随分と私も穢れてしまったものだ。

 

その後は学校にも普通に出れるようになったし、これから動きが取りやすいようにと、生徒会長の地位も轡木さんに確約してもらった。有事には、更識家当主更識楯無として動いていいらしい。

正直、来年度からは織斑君が入学するのもあって、非常に助かる。

 

また、1月の終わりあたりからは鹿波さんに助けてもらいながら自分のIS-ミステリアス・レイディ-の制作をした。

私が楯無を襲名してから学校に来なくなり、心配してくれていたことは虚から聞いて知っていた。

なのでそのお礼と、IS制作の手伝いをお願いしに行った。

 

鹿波さんは私を一目見て、一瞬だけ僅かに眉をピクリと上げたあと。

いつもの笑顔でこう言った。

 

「ーーー久しぶり。それと、お疲れ様」

 

ああ、そうだ。

鹿波さんはこういう人だった。

決して根掘り葉掘り聞かず、それでも頑張る人に寄り添って。

その人が立ち上がれるまで、静かに応援してくれるのだ。

 

そうだ。私が守りたいと思っていたのは、こういう人達。

決して更識家の報告に上がったりせず、それでも確かに地に足つけて地道に生きている、そんな人たち。

 

だけど私の凍てついた心は鹿波さんの笑顔にも何も思わず。

私がそれから偽りでない笑顔ができるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。




実はこの時点でまだかっちゃん高校一年生。ハードすぎやね


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追憶の刀4

たっちゃんヒロイン回。


2月。

 

私は楯無として、暗部の仕事をこなしつつ自分のISの制作をしていた。

暗部としての仕事で政府の重鎮やら大層な名前の委員会の幹部達が腐敗し、その結果として事故として(・・・・・)片付けられた人々の結末の書かれた報告書を読みながら、私は溜め息をついた。

仕事をすればするほど心が擦りきれていく気がする。

そう思って、夜はたまに月をぼーっと一人で眺める時がある。

月を眺めては溜め息をつき、また月をのぞんでは溜め息が出る。

 

更識家の当主としてはまったく良くない話だが、自分の家族とごく一部の例外(鹿波さん)以外の人間が、全て腐った生き物のような気がしてくる。

更識家を支えるあいつも、私達の家を守っているあいつも、実は全員面従腹背で、本当はスパイだったりするんだ、なんて。

見える限りの人間が、全て人の皮を被った悪魔のようで。

私はぶるりと肌を震わせた。

 

再び通うようになってしばらく。いまだに違和感を覚えることのある日常。そんな偽りの平和の中にある学園の、慣れ親しんだ二年生の廊下をつかつかと歩く。大股になっているのは少々はしたないけど、そんなことを私が気にする相手はどうせ鹿波さんだけしかいない。彼はいつもISの整備庫にいるし、私が気にすることはなかった。

 

金属で出来た最新のドアをくぐり抜け、冷たい金属で囲まれた部屋に入る。

金属に囲まれたここ、IS整備庫は私に冷たい印象を与えてくる。事実、一人でここでISの整備をした時はあまりにも心細くてすぐに帰ってしまった。鹿波さんがいたら鹿波さんに一緒にいて、とお願いしたのだけど。

その時は、もう鹿波さんは帰ってしまっていたんだっけ。

 

今は鹿波さんの姿はないが、まあ食堂か購買で何か食べ物を買っているんだろう。ああ見えて彼は甘いもの好きだ。

もしくは外で煙草を吸っているのかもしれない。煙草を吸うその姿も渋くて素敵なんだけど、煙草の臭いが移らないようにいつも白衣にファブリーズをしていることを知った時には思わず笑ってしまった。鹿波さん可愛すぎでしょう。

 

かつて仲良くなった時に、イタズラ心というか。好奇心に近いそれで入った鹿波さんファンクラブの会員証は、最近では私の誇りになりつつある。

他のファンクラブの会員が知らない鹿波さんの姿を自分は知っていたり。正真正銘私は彼のファンなんだぞ。という自負は、灰色な私の生活を僅かに彩ってくれる毎日の生きる希望なのだ。

 

彼がいつも座っている整備机に備え付けられた椅子。そこに座ると、まるで彼が包み込んでくれるかのようで。

この、冷たい金属の壁に囲まれた空間の、特にここの場所は私のお気に入りの場所だった。

ほう、と息を吐く。私の熱がこもったその息は、仕事の後の冷たい溜め息と違う意味を持っていた。

 

いつもの仕事の冷たさを思い出し、心が冷えていくのを感じる。

はあ。なんで私、こんなに大変な思いをしなきゃならないんだろう。鹿波さんにまた会えるようになるまでは、命懸けで醜い人間達のために戦ってきた。だけどそれも繰り返せば、本当に守るべき人間なんて数えられるほどしかいないと気付く。

ある時に守った政府の官僚が、実は横領してましたーーーなんてよくある話。

胸の底から、冷たい思いと共に、どす黒い感情が湧き出すのを押さえるように深呼吸する。

 

すぅーっ。はぁーっ。

 

…駄目だ。やっぱりこの程度では私は到底満たされない。

ちらり。腕時計を見ると3時半。…この時間に整備庫に居ない時は、彼は4時まで戻ってこない。よし。

私は懐からカードキーを取りだし、彼が占有していると思いこんでいる整備書庫に足を踏み入れる。

 

そして作業机を見る。ビンゴ。彼の白衣が椅子の背に掛けられている。

それを手に取り、ソファーにダイブ。彼の匂いが染み着いた白衣を思い切り抱きしめて深呼吸する。

 

すぅーっ。はぁーっ。

すぅーっ。はぁーっ。

 

 

じゅん。

 

 

あ、濡れてきちゃった。でも気にしない。今は私の気持ちを落ち着かせる方が大事。そう、これは仕方のないことなの。

そんな誰に向けたものかもわからない言い訳をしつつ、私はたっぷり10分はそうしていた。正直、しとどに濡れてしまったあそこに手を伸ばして思う存分白衣を擦りつけたらどれだけ幸せだろうーーー。そう思ったし、自分のアレでマーキングした白衣を彼が着ることを想像するだけで絶頂ものの幸福感に包まれるが、彼のことが大切だからこそそんなことはしない。

彼に嫌われるのは一向に構わないし、私が一方的に守りたいだけなので良いのだが、そんなことをしても彼は喜ばないだろう。もし喜んでくれるのなら、私はいつだって彼のために出来るけれど。

 

そんなことをしてごろんごろんしたいなー、とか思いながら思う存分はあはあする。ああ、こうしているだけで私の心が浄化され、清められていく気がする。気のせいだけど。

誰にも邪魔されない貴重な時間。しかも思う存分はあはあ出来る彼の白衣付き。最高。

 

最初に彼の椅子に座った時はこんなにではなかった。

その時も心のモヤモヤが燻っていたり、泣き出したかったり、何かに当たり散らしたい気持ちでいっぱいだったが。

 

そう、初めて彼の椅子に座った時は、息抜きのつもりだった。それからもいつも彼の椅子に座り、時に椅子の背を抱きしめて、なんとかやり場のない感情の発露を自分で発散して、解決してきたのだ。

しばらくしたら椅子に自分の匂いを擦りつけたり、彼に包まれている気分になって一人で気持ちよくなるようなことを始めるようになってしまったが。

どれもこれも、全部彼が悪い。

そんな無責任な責任転嫁をしながらも、なんとか壊れないでやってきた。

 

さて、そろそろ彼が戻って来る時間だ。

椅子の背に使い終わった白衣を元のように戻し、整備庫のいつも彼の座る椅子に座った。あ、濡れてたからついちゃった。ちゃんと厚手のストッキング履いてきたのに…。

 

「おやたっちゃん。来てたの」

 

「お邪魔してるわ」

 

にっこり笑って彼の方を見る。彼と居る時間だけは素直に笑顔になることが出来た。普段の張り付けたような作りものの笑みではない、本当の笑顔。

彼は、両方の手に包みを持っていた。なにそれ?

 

「あ、おだんご買ってきたけど食べる?」

 

「ちょうだい」

 

「どーぞ」

 

ほい、と言いながら彼は包みを開けた。あ、今日は購買行ってきたんだ。

包みの中には、みたらし団子と三色団子がそれぞれ3本ずつ入っていた。

 

こういう時、私達はどうするかが決まっている。彼が2本ずつ、私が1本ずつ、だ。

なんでも彼いわく、

「買ってきたのは僕なんだから僕より多く食べられると嫌だけど、一緒に食べる楽しみが分かる子には分けてあげたいとも思う」

だ。

彼はひねくれているくせに正直で、本当に優しいところがある。だからこそ私達ファンクラブの間には不文律がある。

彼を困らせない、彼に悪い虫を寄せ付けない、彼に気付かれないように行動する、という暗黙の了解だ。

これがあるので、彼にアプローチするのはいいが、彼がほんのちょびっとでも困ったことをする女はあっという間に排除される。

ちなみに私のはギリギリセーフである。だからたまに、ここの整備庫での彼の椅子がほんのりと湿っていることがある。

まあ、ちゃんと終わりにウェットティッシュで拭かれていないとそいつは排除されるので、清潔ではあるのだが。

 

…最初に彼の椅子でした後、ティッシュで拭いたから他のファンクラブ会員に注意されたくらいですんだけど、今思うとファンクラブ会員資格を剥奪されかねない、危険なことをしていたものだ。それ以来、不文律や暗黙の了解はしっかりと会長や副会長に相談してから動くようにしているし、ちゃんとする時にはウェットティッシュを持参している。

彼のファンクラブ会員の情報は高度に秘匿され、会長や副会長も割りと分かる人には分かる程度に秘匿されている。

私は生徒会室のバックアップから、彼のファンクラブ会員が世界中の要所に居ることを知っているけど、女性権利団体の幹部にまで潜りこんでいたのには驚いた。

絶対に彼を守るために潜りこんだのだと私は予想している。きっとそう。

 

「んー…。なんかたっちゃんお疲れだね」

 

「そう?」

 

最後の三色団子を食べ終わり、彼はこちらを見ながら首をかしげて言った。

本当、なんで気付くんだろう?虚だってたまにしか私が疲れていることに気が付かないのに。

彼は本当、いつも自分のことを気にかけてくれる。

思わず顔が熱くなっちゃうじゃない。

 

「…頑張りすぎは良くないよ」

 

心配そうに言う。うん、でも今はあなたが隣にいるから大丈夫よ。

 

「良ければ、書庫で休んでいくと良い。僕はゴミを捨ててくるよ」

 

そう言って立ち上がり、彼は整備書庫をカードキーで開けた。

ごめんなさい。さっきまでそこではあはあしてました。

 

なんて言えるはずもなく。

私は彼に連れられるままに、整備書庫に向かっていた。

 

じゃあ僕ゴミ捨ててくるからー。

そう言う声が遠くなり、足音が遠ざかっていく。

うん。今日は彼の好意に甘えてしまいましょ。

 

そう思った私は、さっきまで幸福感を感じていたソファーに横になり、目をつぶった。




なんでや…たっちゃんが弾けた


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追憶の刀5

マダガスカル


「…ん」

 

頭が動かされた感覚。それと共にやんわりと目を開き、天井を見て気付く。

ああ…そう言えば、整備書庫で寝てたんだっけ…。

 

自分で思っていた以上に疲れていたのか。少し目を閉じるだけのつもりが、軽く寝てしまっていたらしい。ふと顔を上に向けると、自分の頭を優しく支えてくれている彼の顔が目に入った。

 

「あ、ごめん。おこしちゃったね」

 

そう言って彼は私の頭から手を離した。ああ…。天使のぬくもりが…。

そう思って体を起こす。すると、見慣れないものが視界に映る。

 

「なんでベッドがあるの?」

 

「うん?いや、ISの整備って大変じゃん?」

 

「いや、答えになってないけど」

 

そう言うとははは…。と誤魔化すように彼は笑った。

まったく。どうせ彼のことだ。私が疲れているようだから、ベッドを用意してあげよう。

そんなノリで轡木さんに会いに行って、

「IS整備で疲れた子が一休み出来るように、整備書庫にベッドを入れたいんです。私が責任をもって管理しますので」

とかなんとか言ったに違いない。

本当、彼は優しすぎる。やっぱり私達が守らなきゃ(使命感)

 

そして彼はベッドに軽く腰掛けて、ベッドをポンポンと叩いた。ああ、寝るならここで寝なさい、ってことかしら。

靴を脱いでベッドに上がる。彼の匂い。彼の体温。それらが伝わるほどの距離。そこまで彼の近くに寄りそった。

 

「まったく。頑張りすぎは良くないよって、いつも言ってるでしょ」

 

「はぁい♪」

 

彼が心配してくれるのが嬉しい。でもね鹿波さん。私は、あなたがそうやって私の心を大切に包んでくれるから頑張るのよ?

 

「いつも頑張っているたっちゃんに、ごほうびをあげよう。…いる?」

 

「いる」

 

ごほうびをあげようと言いつつ、嫌だったら良いよ、と言う意味のいる?である。本当、この人は素直じゃない。しかも不器用。でもそれがいい。それが彼の魅力だから。わからない?わからない人は帰っていいわよ?ライバルが減って嬉しいから。

 

「で、ごほうびって?」

 

「んー…。目を閉じて?」

 

はい。

すると、目を閉じた私の肩に彼の手がかかる。えっ、まさか…。そう思ってドキドキワクワク期待していると、私の肩を支えたまま、私の体を横に倒してきた。あ、頭の後ろが柔らかい…暖かい。うん?

そう思って目を開ける。彼の顔が下から見えた。あら?これってもしかして。

 

膝枕?

 

そう気付いたとたん、私の顔があっという間に火照る。や、だめ!これはごほうび!

彼が私の顔を見ていないことが救いだ。今の私はきっと、緩みきっただらしなく幸せそうな女の顔をしていることだろう。思わずほおを押さえながら彼の魅力的な顔をぽーっと見ていると、ふと彼が私の方を見る。

やっ、見ないで、見ないでぇぇぇ!

 

「うん?ずいぶん顔が赤いな。熱でもあるのか?」

 

そう言って、すっと私のおでこに手を当てる。ああ、手が!手が!

彼の力強そうで無骨な手が、柔らかく私の額に添えられている。ああ、幸せで蕩けそう。今の私は鏡を見なくても分かる。絶対緩みきった顔してる!

ああ、彼の手が当たっているところが熱い。顔が沸騰してしまうんじゃないかというくらいに熱い。

今の私が理性を手放せば、すぐに彼に襲いかかってしまいそうだ。

さすがにそれはまずい。粛清されてしまう。そうなれば、もう二度と彼と関わることは叶わないだろう。それは嫌だ。

なので私は今の幸せを最大限に享受しつつ、甘い誘惑に抗わなければいけなかった。まさに甘い蜜が甘露な誘いをしてくるかの如く、私のお腹はキュンキュンとときめき、お腹の底から熱い蜜が溢れてくるような気すらする。

ああ、ああ、なんという幸せ!なんという生殺し!

 

そう思っていると、彼は私の頬に手を添えて、ゆっくりと撫でながら言った。

 

「寝てていいよ」

 

寝れません!主にあなたのせいで!むしろ今寝たらそんな自分を許せません!

私は心中で叫んだ。これはひどい。何がひどいって、彼は本当にごく普通にこういう態度をしてくるのだ。

 

疲れた子がいれば甘いものを共に。頑張っている子がいれば陰から応援し。わからないから教えてと頼めば、ぶっきらぼうに答えるくせに最後まで面倒を見てくれる。

彼はそんな事を普通にするのだ。これで骨抜きにされない訳がない。

 

でも彼は

「いや、昔からこんな性格だからモテなくてねえ」

なんて言う。

鹿波さん、それは間違いなくあなたの周りの女の子の見る目がないだけよ。

 

 

あああああ…。

私の心は歓喜にうち震えていた。

気持ち良い…ああ、この気持ち良さ、この快楽よ。

温かいお風呂に入っているような気持ち良さ。実家のような安心感。全てが許されるような暖かさ。

 

あぁ…ずっとこうしていたい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、寝てる。やっぱり疲れてたのね」

 

ふとたっちゃんの顔を見ると、うへへ…鹿波さぁん…。とか呟きながら幸せそうな顔をして寝ていた。

さて、まだ仕事ちょっと残ってるし、片付けてきましょうか。

お膝の上のたっちゃんのさらさらな髪の下に手を入れて、たっちゃんの頭を支えながら軽く上半身を起こす。

それにしても抜群のプロポーションしてるねたっちゃん。立派なもの()をお持ちで。

そんなゲスいことを考えながらたっちゃんの膝の裏に腕を差し込む。よいしょ。

 

たっちゃんを枕に寝かし、上に体が冷えないようにタオルケットをかけておく。にへら、と幸せそうなたっちゃんを置いてきぼりに、俺は整備(仕事)をしに、整備書庫を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

整備書庫から出るのにはカードキー要らんし、放置でええやろ。




なお、主人公の言う『昔』は主人公の前世だったり


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追憶の刀6

初期プロットではこんなにトロトロに蕩けたたっちゃんは居なかったのにどうしてこうなった


今でこそ鹿波さん好き好き大好き愛してる状態の私だけど、私も初めからこんなだった訳ではない。なるほど、確かに私は今や彼にメロメロだ。少なからず彼に骨抜きにされてしまっている。彼が突然私の胸を後ろから揉みしだいてきても、きっと私の身体は「あん♪」とか言って悦んでしまうだろう。彼がスカートめくりを仕掛けてきたとしたら、「言ってくれればいつでも見ていいのに」なんて。きっと語尾にはハートマークが付きそうなほどの甘えた声で言ってしまうだろう。まあ、実際に見せるのは彼以外の人の目の無い場所限定だけどね。彼が私を襲ってきたとしても、私はきっと喜んで受け入れるだろう。私の身体で彼が幸せな気持ちになれるのなら本望だ。いや、望外の歓びかもしれない。

仮にそれで赤ちゃんが出来たとしても、きっと私は彼に何も言わずに一人で育てきって見せる。絶対に彼に迷惑をかけるつもりはないのだから。まあ、こんなにも望んでいても、彼が私を襲ってくれることはないだろうけれど。

それに、私は裏の人間。裏の世界にずっぷりと、頭の先から指先まで浸かってしまっている。鹿波さんは完全な表の人間。彼には暖かい日だまりの、小さな日常の中の幸せがよく似合う。簪ちゃんならまだ彼に付き合うことも、恋仲になることも、結婚することも出来るだろう。

でも私は違う。正直鹿波さんとこうやって一緒にいられることがもう奇跡のようなものだ。まだ明るい表に居た、更識刀奈だった頃に知り合って。そこから簪ちゃんに仲直りを申し込もうとして。その練習に付き合ってくれて。それでも言い出せない私を何度だって励ましてくれた。

私が楯無を襲名してからも、学園に戻ってきてからも、今までと変わらない態度で、唯一私を応援し、支え続けてくれた赤の他人(家族以外の誰か)

 

そんな彼だから。彼を心配させたくないから。だから私は未だに彼と交流することが出来るし、彼の隣にいることが出来る。運が良ければ、彼のぬくもりすら感じることも出来る。

でも、それだけ。

私が彼を好きになることも、彼に恋するのも。彼を愛していることも。

全部全部、遠慮も容赦もなく出来るけれど。

でも、私は彼と結ばれることはないし、結ばれてはいけない。それを望んではだめ。

 

彼に迷惑をかけないために。

私が彼を愛してやまないことは万に一つも知られてはいけないし、もし私の気持ちを知られたり、鹿波さんが私の事を好きになる、なんてことがあってもいけない。鹿波さんが私と結ばれるなんてことはもっての他だ。そんなことは、あってはならない。

 

私の鹿波さんへの気持ちが強くなればなるほどに。私の気持ちが大きくなればなるほどに。私の胸には鋭く刺さる楔の痛みが自己主張を強くする。私の気持ちをがんじがらめに縛り付ける、そんな鎖が重々しく私の気持ちを押さえつける。溢れ出すこの気持ちに、無理やり蓋をするように。

 

私は更識家当主、更識楯無。いつかは私が身籠っても私の代わりに戦える誰かが私の婿になるのだろう。更識の家が必要とするのは、日だまりで小さな幸せを過ごすことの出来る、ささやかな人間じゃない。血で血を洗う闘争に対応し、生きて帰ることの出来る人間だ。いつか私は、そんな相手と共に過ごし、そんな相手の子どもを生むのだろう。私は、楯無だから。

でも。せめてそれまでは。私の身体も心も、私が好きな人のもの。私の全てを捧げること叶わずとも、せめてそれくらいは反抗してやる。

ねえ、神様。あなたはとっても素敵ね。生きているなら、殺して差し上げたいくらいに残酷ね。ねえ、神様?

 

 

鹿波さん。ねえ、鹿波さん。あなたの隣に居られるこの喜びに。あなたからいつかは離れなければならないこの悲しみに。

私は、どんな顔をすればいいのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の凍てついた心を解きほぐしてくれたのは鹿波さんだった。きっかけは、そう大したことではなかったように思う。

私の呼ばれ方がかっちゃんからたっちゃんになり、表面上は今まで通りに鹿波さんに対応していた。

私はIS、ミステリアス・レイディを4月までには完成させたいと思っていた。4月からは世界初の男性操縦者、織斑一夏君が入学する。そうなれば、私達に送られてくる仕事がこれまで以上に多くなるのは想像に難くない。

あと2ヶ月。そんな短期間で、ISを1から作り上げる。

誰に聞いたってそんなことは無理だと言うだろう。でも、私はやりとげなければいけなかった。

 

虚以外の誰もが私を笑いながら、そんなことは不可能だと馬鹿にする。ああ、生きている価値があるかどうかもわからないそんな有象無象は、こんな時だけ邪魔をする。人が慌てていて、それでも凄く大切な時期に。生徒も教師も、名前も知らない愚鈍で凡愚な民衆も。

 

そんな中、私は時間を見つけてはIS整備庫に足繁く通った。そこにはいつも、世界でたった一人、家族以外で信じられるかもしれない人がいた。いつもと変わらぬ笑顔で、そこに。

 

でもその日は違った。彼は非常に真剣な顔をしている。どうしたんだろう。

 

「たっちゃん。…いや、楯無。虚さんから聞いた。ISを自力で作っているというのは本当か?」

 

「ええ」

 

そうよ。私は今、時間の許す限りフルスクラッチのISの自作をしてる。だから邪魔しないでね。

 

「いや、邪魔をするつもりはない。ただ、あと2ヶ月で自分一人でというと厳しいぞ」

 

「知ってるわ。でも、私はやらなきゃいけないの」

 

あなたや簪ちゃんを守る、そのために。守るための力が、今の私には必要だった。

 

「…楯無。お前一人でやらないといけない理由でもあるのか?」

 

「そんなことはないけど、誰も彼も無理だと言って手伝ってはくれなかったわ。虚には仕事を任せるから頼めないし」

 

そう言うと彼は少し考える仕草をした。…だが、とか…ふん、とか呟いている。どうしたのかしら。

 

「なるほどな。確かにお前の周りの奴らではなんとかならん、か…。楯無。お前、俺が手伝う、と言ったら聞くか」

 

「どういうこと?」

 

彼はただの整備員のはずだ。いや、確かに二十代前半で責任者をやっているほど優秀だということは知っているが、それでもISの製作が出来るとは思わない。

そう、私はまだこの時は知らなかった。彼の規格外さも、彼の優しさも、彼の面倒見の良さも。

 

「一応これでもIS製作には多少の、多少の(・・・)造詣があってな。俺が手伝えば、おそらく3月21日に完成させられる。どうだ、やるか」

 

この時彼はやけに多少を強調し、やたら具体的な日付を私に提示してきた。この時の私は半信半疑だったけど、この時に彼の手をとったのは我ながら英断だったと思う。

それからは彼と共に過ごし、ISを作る時間がほとんどだった。初めは寝る時間も惜しいと言って鹿波さんに駄々をこねていたが、彼は

「いいか、俺が手伝うんだから俺が思う通りに進めば絶対に3月21日に終わる。だがな、お前が俺の言うことを聞かずに無理をして風邪か何かで倒れてみろ。どうなるかわからんぞ」

と真剣な顔をして私に言ってきた。

最初はなによ、と思っていたが、彼は本当に優秀で有能だった。ISに二番目に詳しいのは誰か、と言われたら迷わず彼だと言えるほどに。

私のIS、ミステリアス・レイディはモスクヴェとは違う、トリッキーなものにしたかった。

モスクヴェは頑強な装甲に標準的なアサルトライフル、そして実体剣が二振り。これ以外は拡張領域にいくらかのグレネードが積める程度の性能。いくらなんでもさすがにつらい。

そう言えば彼は

「…こんな感じでどうだ」

と言ってあっという間に設計図を書き上げた。

そこに書かれていたのはパーツ数が少なく、装甲もモスクヴェより少ないISだった。

だけど武装は目を惹かれた。ナノマシン?水?蛇腹剣?

 

「パーツ数を少なくした。フルスクラッチならこれくらいがおそらくギリギリだ。そのため装甲は少ない。浮遊盾を上手く扱えるかどうかが重要にはなる。まあお前なら心配いらんだろ。

あとはお前がいうトリッキー、だな。

水状のヴェールを攻撃、防御に転用出来るようなナノマシンが現在開発されて、研究されている。たしかアメリカだったか。武装として使うことの出来るスペックは確認済みだが、まあ気になるならまた後で調べておけ。

これは爆発を起こすことの出来るナノマシンだ。普段は水の質量を生かした攻撃、水の流動性を生かした防御に使い、広範囲に散布して爆撃してもいいし狭い密室であれば外部から攻撃も出来る…。

最後に緊急用のブースターを付ける。このブースターユニットが接続されたら高出力モードに出来る。まあ一定時間という制限はあるがな」

 

どうだ。そう言って私に声をかけるが、私はてんで聞いていなかった。これだ。私はこんなISを求めていた。このISは、まるで私のために誂えられたかのように、私の琴線を刺激した。

今思うと彼が私のために設計してくれたISだ。まさに私のために誂えられたISそのもの。しかも製作は彼と共同。ずいぶんとまあ、幸せを気にせず投げ捨てていたものだ。この頃の私をぶん殴ってやりたい。

 

「これ!これにする!」

 

「よしきた」

 

それからは早かった。彼は彼で私のISを組み立て、プログラムを組み上げながら私のサポートをしてくれた。それだけのサポートをしながらも、決して自分の仕事(ISの整備)を疎かにしない。今だとその凄さがよく分かる。

私は私で、慣れないIS製作という大仕事に精一杯だった。虚ちゃんやお父様、更識の家の皆にはかなり迷惑をかけてたと思う。そんなことに頭が回らないくらい、ISの製作で頭が一杯だったけど。

 

それからは少しずつ鹿波さんとの心の距離が近づいていった。

ある時は少し休憩しようか、と言って白玉ぜんざいを食べに一緒に食堂に行った。二人で食べている時にふとイタズラ心が湧いたので、鹿波さんにあーんをした。鹿波さんは全く気にすることなく平気でぱくっと食べた。しかもお返し、とか言って私にあーんしてくる。

えっ、ちょっと待って。そう言って私はキョロキョロと周りを見渡した。普段周りの人の目なんか気にしないくせに、この時は無意識に周りを気にしていた。いやー、あれは恥ずかしかったねー。あはは。

その時の白玉ぜんざいの味は、正直覚えていない。

 

ああ、そう言えばISを組み上げている時に白衣を着せてもらったこともあったっけ。

2月だからまだまだ寒くて、整備庫は空調が効いているけど、壁も床も一面金属だから、底冷えするんだ。それで「くちゅん!」みたいなくしゃみをした時に、彼が着ていた白衣を私に着せてくれた。は、恥ずかしい…。

そして白衣を着て、彼の温かさと匂いに包まれて、思わず顔がほころんだ。それからだっけ、彼の匂いが好きになったのは。彼の匂いに目覚めた私は、彼のそばに寄り添うことが多くなった。匂いフェチだったことが発覚し、彼の匂いに目覚めた私が彼に甘えるようになったのは、当然の帰結だったのかもしれない。

 

そうそう、彼に暗部の仕事を手伝ってもらうことがあったのもこの頃だ。とは言っても、直接彼に暗部の仕事であることは伝えていない。

私達がわからないことや案件を、ミステリー風にして相談したことがある。そしたら彼は全てことごとく、一発で当ててくるのだ。

それからも何度か同じようなことをしたけど、超能力でも持っているんじゃないかと思うくらい。もしくは彼の前世はホームズだったのかもしれない。それくらい、彼は頭の回転が早く、ごくわずかな情報だけで当ててくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は変わるけど、彼は実は凄くひっそりと人気者だ。いや、人気者というと語弊があるかしら。慕われている、うん、こっちの方がしっくりくる。

彼のファンクラブは実に分かりにくいように、しかしはっきりとした線引きがある。

私や会長たち、あとは『桜』と呼ばれるウォッチ部隊。桜はこのIS学園の一学年に一人は必ずいて、会長や副会長たちとの連絡口を担当している。それと、彼の回りに危険分子が発生した場合の速やかな対処も。

 

この、『桜』が何故桜なのか、ということを知っているかどうかで、およそ彼の親衛隊度合いが分かる。

私も初めは分からなかったが、これは、彼が桜や花見が好きなことから来ている。彼の好きなことの一つすら分からない人たちは、『ブタ』と呼ばれるバンピーだ。このブタは豚ではなく、ポーカーのノーペア。つまり、『役立たず』に由来する。ひどい話だと最初に知った時は思ったが、今となってはただのミーハーなファン程度は確かにブタで十分だと思う。

ブタ以外の人たちはいわゆる″ホンモノ″の類いで、会長や副会長に至っては、私ですらかわいいものだと思えるくらいに彼のために行動している。いや、彼のために生きている、と言った方が正しいかもしれない。

 

彼のファンクラブは当然、このIS学園が本拠地だ。そして、彼の勤め先がここ、IS学園である以上、この近辺にいれば彼の身を守ることが出来る。

これは噂話だけど、彼のファンクラブの会長は、彼が働き始めた時はただの二年生だったらしい。それが彼のファンクラブを作りあげ、当時先輩だった三年の先輩に副会長を任せ、瞬く間に学年主席になり、そのまま卒業。誰もが国家代表になると思われたが、予想に反してIS学園近くの大企業に就職。そこでも敏腕に働いているという。

ただ、凄いのはここからの憶測混じりの、限りなく真実のような気がする噂。真実のような気がするのは私の勘。

なんでも、彼女は彼の身をいつでも守れるように健康に気を配り、彼をいつでも守れるように、日常生活が不安定にならないように企業の業績をあげ、彼の身をいつでも守れるように、国家代表の席を蹴った、という話である。もはやここまでいくと病気か信者にしか思えないけど、彼に心底心酔してしまえばそうなるのも無理はない気がする。

しかも表面上は凄く良くできた人に見えるわけだし、鹿波さんが入った二十歳の時に二年生なら十七歳。今の鹿波さんが二十四歳になるはずなので、今年で会長は二十一、副会長でも二十二歳だ。

…あり得る。

 

ちなみによく学園生に利用されるショッピングモール、レゾナンスにも、彼のファンクラブ会員がいたはず。栄えある二桁前半ナンバー。

この近辺にいくつかある複合ショッピングモールを任されているらしい。3店舗の責任者かなにかだったはず。

私が更識家の能力を総動員しても個人の特定には至らなかったあたり、彼のファンクラブのセキュリティ性の高さが伺える。

ただ、彼のファンクラブは組織的に動くことが基本的にない。そのため、突発的な事態には対応が遅れる可能性がある。

そのことを桜を通して会長さんにも伝えているのだが、どうにも反応は芳しくない。…これで鹿波さんが突然拉致でもされたら絶対に許さないと決めている。私が家族以外で一番大事なのは鹿波さんなのだ。

 

本当に大切で大事な、たった一人の信頼できる『他人の友人』。虚ちゃんや簪ちゃん、本音ちゃん達は家族だし、更識家の皆は運命共同体。

鹿波さん。私はあなたを『友人として』、愛しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ISは、3月21日に完成した。

春の陽気が訪れる。




という訳でたっちゃんは友人ゆえの友愛です。純愛です。きゃわわ。


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簪の記憶

私は、小さな頃から姉のことが嫌いだった。

 

姉は何でも出来た。勉強も。料理も。人と打ち解けて仲良くなるのも、私よりも早かった。スタイルもすごいし、運動だって出来た。

そんな姉と常に比べられて、私は生きてきた。

常に私は『更識刀奈の妹』として、比較されながら過ごしてきた。

いつも私には、お姉ちゃんの妹として期待がかかる。『あの』更識刀奈の妹だ、と。

私にはお姉ちゃんほどの能力も才能もないのに。

 

そしてそんな身勝手な期待をされて、私がそこそこだと分かると勝手に失望して離れていく。

元々私は人見知りする方だし、友達付き合いだってお姉ちゃんのようにはいかなかった。何度も何度もお姉ちゃんのように頑張ったけど、そのたびにお姉ちゃんのようには出来ない現実が、そこにはあるだけだと思い知らされるだけだった。

そうやって頑張って、それでも出来なくて悔しい思いをしていると、いつもお姉ちゃんは私のそばに居て、私を慰めた。

頑張ったね、大変だったね。

そう言って私の頭を撫でてくれたり、私を抱きしめてくれた。だけど、そうやって頑張って、そのたびにお姉ちゃんが慰めてくれるほど。

私は『何でも出来る優秀な姉』と『ごく普通の惨めな自分』の差を思い知らされるような気持ちになった。まるで私がどれだけ頑張っても、お姉ちゃんのようにはなれないのだと、そう告げられているような、そんな気持ち。

 

それからいつしか、私はお姉ちゃんを避けるようになった。お姉ちゃんがいつも私のことを気にかけてくれてたのは気付いてたけど、私は一人になりたかった。放って置いて欲しかった。

私が一人でいる間はつらい思いをしなくて済むし、そもそも人付き合いが苦手な私は、一人でいるのが性に合った。

ある時、ヒーローもののアニメにはまった。

何の力もない非力な一般人がピンチになると必ず駆けつけて、その正義感と共に皆を守る、正義のヒーロー。

悪い奴らがやっつけられるのは見ていて気持ちがすっきりしたし、何よりも皆の笑顔に囲まれるヒーローが好きだった。

私にも、こんな力があればな…。

そう思わないではいられない、凄く強い力を持ち。

それでも誰もが笑顔で迎えてくれる。

そんなヒーローに、私は夢を見ていた。

 

中学に上がると、ますます私は孤立していった。

本音ちゃんはいつも私のそばに居ようとしてたけど、お姉ちゃんに言われて私のそばに居ようとしていると思っていた。だからなるべく本音ちゃんを近付けないよう遠ざけた。

中学生になると、一気に世界が広がった。

そうすると、今まで自分が気にならなかったことにも気が付くようになった。

例えば、いつも甘えたことばかり言って他の人を頼り、自分は何もしないような人。そんな人を見ていると、とても不愉快な気持ちになった。なぜそんな気持ちになったのかは分からないけど、他の人に自分から近付いていくのは甘えだと思った。自分一人で頑張るつもりのない所が、ひどく癇に障った(かんにさわった:腹が立った)のかもしれない。

 

そして今まで自分が気にならなかったことに気が付くと、世界はたいそうつまらないものに見えた。ずるいことばかりしていても、声の大きな人が笑う。ひどく真面目な人だって、いついじめられるか分からない。教師は生徒を守ってはくれないし、差別なんて当然のようにあった。

家。収入。地位。権力。親。顔。性格。人柄。数え始めたらキリがない。

そんな中でも私がいじめられることがなかったのは運が良かったと思う。だけど、そうやってつまらない世界を見ているたびに私は自分の世界に閉じこもるようになっていく。

学校では一人で本を読み、家では好きなヒーローに憧れて。テレビの前から離れるのは、ご飯かお風呂か寝る時くらいのものだった。

 

 

ある時、姉が日本の代表候補生になった。このときはまだ私にも意地が残っていて、姉がISに乗るのなら、私も負けていられない、そう思った。

そして姉はIS学園に入学した。

姉がIS学園の寮に行き、実家から居なくなったことで、私は一時の安寧を得ていた。たまに家に帰っては来たけど、それでも私のコンプレックスを刺激する姉が居なくなったことは、とても大きなことだった。

この頃私は中三になり、日本の代表候補生になれるかどうか、という頃だった。

代表候補生になれれば、筆記試験を落とさなければほぼ間違いなくIS学園に入ることができる。

ようやくお姉ちゃんと並ぶことが出来る。そう思っていたからか、姉がIS学園に行ったからか。

その頃の私は、ほんのちょっぴり心の余裕があった。

 

そんなある日、虚さんからお姉ちゃんがカードゲームを始めたことを聞いた。なんでも私と勝負して仲直りがしたいらしい。

今までの私だったら、絶対に嫌がっていたと思う。でも、その頃の私は比較的落ち着いていた。だから、お姉ちゃんから言い出してきたら仲直りするつもりで、お姉ちゃんが私に話かけてくるのを待っていた。

 

春が過ぎ、夏も終わり、秋の季節も冬に移り変わろうとしている。それだけ待っていても、姉は私に言い出してはこなかった。

まあ、お姉ちゃんはああ見えて臆病なところがある。そう思って、私は勉強にカードの大会にと精を出していた。きっとまだまだ待つんだろうな。でも、きっと仲直り出来るだろう。

そう、思っていた。

 

冬のある日のこと。お父さんが半身不随になったという知らせを聞いた。急いでお父さんの元へ行こうとしたら、お母さんに止められた。

今はお父さんとお姉ちゃんが大事な話をしているから行ってはいけません。と。

またお姉ちゃんばかり。いつもそうだ。お姉ちゃんは私をのけ者にしたりはしないけど、お姉ちゃんの凄さはいつも私をのけ者にする。

涙が止まらなかった。お母さんの腕を振り払って、私は自分の部屋に閉じこもった。

いつもそうだ。いつもいつも、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが。そうやって、お姉ちゃんばかりが話の話題になる。

どうせ私はいらない子だよ。何をやってもお姉ちゃんみたいには出来なく、てんでダメな子だよ。そう思って、ずっとお布団の中で声を押し殺して泣いていた。

 

 

それからお姉ちゃんが実家に戻ってきた。またお姉ちゃんと一緒に過ごすのか…。そう思うと気分が滅入る。だけど予想に反して、お姉ちゃんは私に構うことはなくなった。

動けなくなったお父さんの代わりに、お姉ちゃんがお仕事をしているのだと言う。またお姉ちゃんばかり…。そう思った。

だけど、お父さんが動けなくなったというのは、自分が思っていたよりも大変なことだった。いつもは優しい笑顔でご飯を作ってくれるお母さんも。いつも笑顔で私に話かけてくれる、お父さんの部下の人も。皆が忙しそうに走り回っていた。

そんな中で、自分一人だけがいつも通り、のんきに学校に行き、カードをいじり、ヒーローアニメを見る。さすがに罪悪感がのしかかった。

そこで、ふと廊下にいたお姉ちゃんに話かけた。

私にも、何か出来ることはないの。

 

そこで振り向いた姉の目は、何の色も映していないように冷たくて。何の感情も乗らない声で、お姉ちゃんはこう言った。

 

「いいの。簪ちゃんは何もしなくても。お姉ちゃんに任せなさい。簪ちゃんは役立たずのままでいいから、大人しくしてて」

 

怖かった。

お姉ちゃんが、まるでお姉ちゃんの姿をした別人なんじゃないかと思うほどに。

能面のような無表情で、淡々と言葉を発するその姿が。

私の方を見ているはずなのに、私のことを見ていないんじゃないかと思うほどに無機質なその瞳が。

私の知ってるお姉ちゃんの声で、私の知らない、感情の感じられないその声が。

全部全部、怖かった。

 

「あ…」

 

私が何も意味のある言葉を言えないでいると、お姉ちゃんは何の興味もなくなったかのように私に背中を向けて、どこかへ行ってしまった。



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簪の記憶2

何か面白い小説がないかと思ってランキング見てたらさっき日間ランキング5位に載っていた。意味がわからない。嬉しい。ありがとう。
でも私は細々とひっそりと、コアでマニアックな人達とちまちまやっていきたいので、このままユニークアクセスとかいうのが全然伸びないままでお願いします。切に!


お父さんが復帰した。とは言っても相変わらず身体は不自由なままだから、前のように動くことは出来ないけど。

それに伴って、お姉ちゃんがIS学園に戻って行った。正直自分でも意外なほどにほっとしてる。

今までのお姉ちゃんが、実は凄く私を大切に思ってくれてたんだと思った。はっきりいって、今のお姉ちゃんは怖い。なんか不自然な笑顔を張りつけて他の人に対応している所を見たときに、すごくそう思った。私や本音ちゃん、お父さんやお母さんくらいしか気付けないくらいそれっぽい笑顔だったけど。あの時のお姉ちゃんは、無表情だった頃よりも怖かった。

 

私は私で、日本の代表候補生になったため忙しくなっていた。倉持技術研究所、という所が私の専用機を用意することになったらしい。らしい、というのはまだ計画(プロジェクト)が発足したばかりで、作りはじめたばかりだということだ。一応基本的には打鉄をベースとした、重装甲かつ扱いやすい機体を設計しているらしい。ほんのちょっぴりとはいえ、お姉ちゃんに近付けたみたいで嬉しくなった。今のお姉ちゃんは怖いけど。

 

お姉ちゃんがIS学園に戻ってしばらく。たまに家に帰ってくるお姉ちゃんが、前の明るさを取り戻しはじめた。前は完全に無表情が基本で、他の人に応対するときは張りつけた笑みをたたえていたけど、最近はちょっとずつ前の表情豊かなお姉ちゃんに戻ってきたみたい。まだ他の人に対して警戒心はあるみたいだけど、一体お姉ちゃんが仕事をしていた時期に何があったんだろう。まあ、お姉ちゃんが前みたいに明るくなってくれるのは良いことだ。

そう言えば、お姉ちゃんがロシア代表になっていたこと、自力でISを作っているらしいことを虚さんから聞いた。ああ、またお姉ちゃんに差を付けられた。せっかく代表候補生になって、少しは追い付けたと思ったのに。

 

 

ある日、家に帰ってきたお姉ちゃんが遊びに行った。お姉ちゃんが珍しく上機嫌だったのを覚えている。お姉ちゃんは

「デートよ!」

と言っていたけど、誰と行くのかは教えてくれなかった。IS学園に同年代の男の子なんていないはずなんだけど、どうやって知り合ったんだろう。

そう思っていたら、虚さんが教えてくれた。なんでも相手は鹿波さん、と言うらしい。

どんな人なのか聞くと、とてもお世話になっている人だそう。うーん、そういうことが聞きたいんじゃないんだけどな。

 

 

4月。私はIS学園に入学した。入学式で見たお姉ちゃんは、また昔みたいに茶目っ気たっぷりに戻っていた。壇上での挨拶の終わりに、私を見てウインクしてきた。無視した。涙目になっていた。無視した。

お姉ちゃんはとぼとぼと戻っていった。

私の後ろがざわざわしてる。私は目立ちたくないんだからやめて欲しい。

入学してしばらく。倉持技研から連絡がきた。なんでも織斑一夏君のISを作らないといけなくなったらしい。うん、それはいい。でも、そのせいで私の専用機を無期限凍結するのはやめてほしい。せめて他の企業に外注すればいいじゃん。

担当の人は本当にすまなさそうにペコペコしてきたけど、それで何が出来る訳でもない。どうして他の企業に依託しないのか聞いたら、上層部が聞かないんだそう。開発する利権が手放せないんだろう、ということをこっそりと教えてくれた。それと、計画は無期限凍結されたけど、作りかけのISとISコアを確保してくれた。手伝ってあげることは出来ないけど、自分で開発することと、それにかかった部品代とかは持ってくれるらしい。上層部はそこまですることはない、と突っぱねようとしたらしいけど、開発の人達が無理やり話をつけてきたらしい。そんな不義理なことはできない、と。この話が通らなかったら開発チームが全員辞める、という所まで来ていたらしい。上層部には腹が立つけど、開発の人達には助けられたんだ。そう思って、開発の人達にお礼を言い、連絡先を交換した。なかなか時間がとれないけど、わからないことがあれば何でも聞いてくれ。とか、友達と一緒に、頑張って作ってね!何もしてあげられなくてごめんね。という、温かい言葉をもらった。

 

それ以来、私は一人でISを組み立て始めた。うん。IS学園に入学しても、私には友達作りは無理だったよ…。

本音ちゃんとも別々のクラスになっちゃったし、相も変わらずクラスでは孤立。

でも、お姉ちゃんも一人でISを作ったって聞くし、私も負けていられない。たまにISを組み立てている時に、お姉ちゃんらしき視線を感じるけど、やっぱり話かけられることはなかった。もう。本当にお姉ちゃん臆病すぎ。

他の人とはすぐに仲良くなれるのに、なんで私にはこんなにもなかなか来ないんだろう。

 

はっ。まさか。

 

私、お姉ちゃんに避けられてる…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時鹿波さんに会った。鹿波さんはIS整備庫の責任者らしく、私がISを組み立てる時にはよく姿を見かける。今までは大体3時過ぎから何事かしていたらしく、最近はそれが終わったから普通に仕事場たるここにいるらしい。最初は挨拶をするだけの間柄だった。

でも、私がプログラム部分でうんうん言って、どうしても詰まってしまった時。もしかして分かるかなー、と思って聞いてみたら、とても分かりやすく説明してくれた。

それからは、ポツリポツリと話をするようになり、ある時鹿波さんに叱られた。

叱られたと言っても怒られた訳じゃなくて、どちらかと言うと諭されるような感じだった。

いわく、私がISを道具としてしか見ていない、と。

確かにそれまでの私は、組み立てているISに関心を向けてこなかった。お姉ちゃんを見返すための、悪い言い方をすれば道具だとしか見てこなかった。でもISにはISの、意識とも呼べるものがあるんだから、大切にしてあげてほしい。そんなことを言われた。

 

そうだ。私はこれから、このISと共に空を飛んだり、銃を撃ったりすることになるんだろう。それはつまり、私の相棒になるということだ。

それなのに、私はあくまでもただの道具としてしか見てこなかった。さすがにそれはあんまりだ。

そう思った。

 

それ以来、鹿波さんとはちょくちょく話をするようになった。

 

 

ある時、鹿波さんに言われた。

相変わらず、お姉ちゃんとは仲直りできてないの?

 

ドキッとした。どうして鹿波さんがお姉ちゃんとのことを?

そう言うと、鹿波さんは教えてくれた。

 

いわく、たっちゃんーーーお姉ちゃんのことだーーーが一年生の頃から簪ちゃんと仲直りしたいという話を聞いていてね。カードゲームにも付き合ったし、今も簪ちゃんと仲直りしたそうにしてるのは知ってるんだけどさ。

ほら、たっちゃんって、実は凄く臆病なところあるでしょ?

 

そう言われて思わず深く頷いた。お姉ちゃんは私に対してだけ、もの凄く臆病なのだ。

 

で、多分このまま待っててもたっちゃんずーっと、ずぅぅぅぅーーーーーっと言い出せないと思うんだ。

 

そう言われたところで首をかしげる。さすがにそこまでひどくないんじゃないかな?

 

よし、じゃあ今までたっちゃんが仲直りしようとして出来なかったのはいつからか思い出してみて?

 

そう言われて思い出してみる。たしか私がお姉ちゃんを避け始めたのは小学校の頃で、それからずーっとお姉ちゃんは柱の影からひょっこり顔を出してこっちを見つめてくるだけだったからーーー。

5、5年か6年くらい…。うわぁ。

 

…たっちゃんが勇気を出して、簪ちゃんに話かけてくると思う?

 

ないな。うん。ない。ないです。だって5年も6年も待っているのに、一度も私にまっすぐ仲直りの話をしに来たことないもん。

 

うん。でもさ、元々たっちゃんは簪ちゃんに、何かしたのかな?

 

それは…。

 

うん、でしょ?多分たっちゃんは簪ちゃんが大好きで大好きで大好き過ぎて、簪ちゃんにこれ以上に嫌われることを過剰に恐れているんだと思う。だって、こんなに好きなのにいつの間にか避けられてるんだから。

だから、簪ちゃんから歩み寄ってあげたらどうかな?

 

私、から…?

 

まあ無理にとは言わないよ。だけど、たっちゃんがどんな思いで頑張ってきたのか、わかってあげてほしいんだ。

 

 

そう言われてから、お姉ちゃんの気持ちを考えてみた。

小さい頃はいつも私のそばにいて、いつも助けてくれた。

私が頑張っていて、周りの皆が私に失望して離れて行っても、お姉ちゃんはいつも私を応援してくれた。

私がお姉ちゃんを避けだしても、私のことをいつも気にかけてくれた。

 

そう考えていくと、私がひどくちっぽけなことで意固地になっていたんだと気付いた。

お姉ちゃんがいつも私を気にしてくれるのが当たり前で、自分からお姉ちゃんに歩み寄るなんて考えもしなかった。

お姉ちゃんがカードゲームで私と仲直りしようとしてた時だって、お姉ちゃんから話かけてきたら仲直りしようかな、なんて。なんてひどく傲慢だったんだろう。仲直りも何も、私が勝手にお姉ちゃんを避けて、意地になって張り合って。それで私が自分の結果に勝手にすねて、ますますお姉ちゃんのことを嫌いになる、なんてーーー。

 

 

 

 

私は思った。お姉ちゃんごめん。妹は謝りに行きます。

 

そして気付いた時には、お姉ちゃんを探して校内を駆け回っていた。よく知らない二年生の先輩に話かけ、お姉ちゃんがいるらしき生徒会室に急いで駆ける。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!」

 

勢いよく木製の扉を開けて、生徒会室に駆け込んだ私が見た姉の顔は。ひどく驚いて、真顔のまま固まっていた。

 

「お姉ちゃんごめん!」

 

そう言って私はお姉ちゃんに、思いっきり抱き付いた。

私はお姉ちゃんの温かさを感じながら、これまでひどいことをしてきたこと。私が勝手にお姉ちゃんを避けていたこと。全部全部、涙ながらに謝った。ごめんねと。私はひどい妹だったねと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんは、私の背中を優しくさすりながら、いつまでも抱き締めてくれた。




たっちゃんとのデート回を入れるかどうか、それが問題だ


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【閑話】たっちゃんとデート

ボルダリングデートとかいう謎の単語が脳裏に浮かんだので書いた。反省も後悔もしていないが、たっちゃんが可愛く描けているかどうかだけが心配だ


たっちゃんのISが完成した後、たっちゃんからデートのお誘いがあった。

 

「鹿波さん、明後日私とデートしない?私に付いてきてくれるだけでいいから♪」

 

後ろで手を組みながらたっちゃんは笑顔で聞いてきた。にぱー♪という音が聞こえてきそうな、満面の笑み。

ふむ。どうするか。

ここで俺が教師であれば、不純異性交遊云々以前にアウトだろうが、あいにく俺は教師じゃないので大丈夫、なのだが。

うーん、どうしよう?

よし、困った時にはアンサートーカーで確認だ!

 

問:このお誘いには乗った方が良い?

答:(話の盛り上がり的に)YES

 

ふむ。答はYESか。なんか珍しく答が出るまでに若干の時間があった気がするが、まあ気のせいだろう。

では。

 

「いいよ。デートコースは任せていいのか?」

 

「うん!私に任せて!」

 

やったー!なんて言いながらぴょんと飛び上がるたっちゃん。>▽<←こんな顔をしながら両手をグーにして突き上げながら、空中で女の子座りみたいに足を曲げている。器用やね。

 

じゃあ明後日迎えに行くからー!と言って、たっちゃんは嵐のように去っていった。うむ。あんなかわいい美少女とデート…。ドキがムネムネするね!ちゃうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デートの日の朝。待ち合わせした場所に行くとたっちゃんはすでに待っていた。まだ時間まで15分以上あるんだけど。早くない?いやマジで。

そんな俺に気付いたのか、たっちゃんがやっほー!と言いながら手をぶんぶんと大きく振って、こちらを呼んでいる。はいはい、今行きますよー。

今日のたっちゃんはカジュアルな私服姿だった。大きな襟がパリッと立った黒の長袖カッターシャツの胸元のボタンを一つ外し、オレンジのベストっぽいのをその上に着ている。なぜベストっぽいのなのかと言うと、真ん中はボタンで止められているベストの形なのだが。両手を突っ込むことのできるポケットが、こう…八の字についているのだ。あ、とあるの絹旗最愛のパーカーからフード抜いたらこんな感じやな。たしか。

下は濃紺のスキニージーンズ。足元は黒の○ンバースのスニーカー。うーんたっちゃん俺の好みわかってるね!

元々のたっちゃんのスタイルの良さも相まって、一見アイドルのような可愛さである。この子お持ち帰りしたい。だめ?だめか。

 

ちなみに俺はクリーム色のチノパンに灰色の長袖インナー。その上に淡い青の襟つきシャツです。なに?分かりにくい?シュタゲのオカリンから白衣をとってクラ○ドの大人ともや君のシャツを着せれば分かる。逆に分かりにくいか。

 

「おっそーい!」

 

笑って冗談みたいに言うたっちゃん。おう、某駆逐艦みたいなこと言うな。まだ時間に余裕あるやろ。許してや。

 

「で、どこ行くの」

 

「その前に!運動の出来る服とタオル、シューズはちゃんと持ってきてくれた?」

 

「おう」

 

そう。俺は今日、運動セットを一通り持ってきていた。これは楯無からあらかじめ言われていたものだ。ちなみに俺はちょくちょく温水プールのトレーニング室で軽い筋トレをしてから泳いでいたりする。たまにだけど。

そんな理由で運動用のTシャツやジャージ、シューズは普通にある。てかこの子、俺が持ってなかったらどうするつもりだったんだろ。レンタル?

 

「じゃ、いこっか!」

 

そう言ってニッコリ笑ったまま歩き出す楯無に付いて行く。うん、良い笑顔だ。

最近はだいぶ以前のように明るさを取り戻してきたが、以前はけっこうひどい有り様だった。なんというか、自分の表情を上手く表現出来ないような、そんな顔をよくしてた。今はだいぶ落ち着いてきたから、まあこれからしばらくすればまた元々のたっちゃんのように、明るく表情豊かなたっちゃんに戻るだろう。

 

さて、歩いておよそ15分。とりとめもない話をしながらやって来たのは、会員制のスポーツクラブ。なになに…。男性一時間10,000円、女性一時間8,000円…。うへ、俺には普段縁のない高級スポーツクラブじゃないの。でもこの女尊男卑が加速している世の中でこの程度の値段差となると、相当頑張ってるな。普通に男性は女性の5倍の値段のカラオケとかあるからね。たしかね。

ちなみにレディースデイとか言うのになると、女性は一時間無料とかザラで男性は普通料金である。その普通料金が高いんだから話にならんっつーの。そして経営破綻するんですね、分かりますん。

 

楯無はその高級スポーツクラブになんのためらいもなく入って行く。うん、こいつ多分常連さんだわ。俺も続いて中に入る。お邪魔しまーす。

 

店内に入ると右隣に受付が。そして受付の端からは土足厳禁なようで、床が一段高くなっている。床は緑色のなんかざらざらしたやつ。正面左手には靴箱が。キーロックできるタイプのが30くらいかな?ちなみに今、キーロックがローキックに見えた人。あなた憑かれてるのよ。俺です。

たっちゃんが受付の人に名前を告げると、受付の人は受付奥のスタッフルームみたいなところへダッシュして行った。とりあえずたっちゃんにこっそりと話かける。

 

「ここ、後払いでいいの?」

 

「ん?今日は私のワガママに付き合ってもらうんだし、私が出すわよ?」

 

「いや、男としても年上としてもそれはさすがにな?」

 

「んー、でもさすがに今日は困るというか…。うん、じゃあ次のデートの時にお願いするわ!」

 

「いや、次にデートする時があるかどうかがまずわかんないじゃん」

 

「いいの!て言うか今日は私に払わせてもらわないと困るの!だから今回はお願い!」

 

「…まあ、そこまで言うなら」

 

本当に本当にこういうのは俺は凄く物凄く嫌なのだが(自分の分は自分で払いたい)。楯無がどーしても、と言ってこちらに手を合わせてお願いしてきたので、今回は諦めることにする。…後でこっそりとこいつの財布に自分の分の料金を入れておいてやろうかしらん。一瞬そう思った。

 

さて、スタッフルームからなんかトレーナーのリーダーみたいな人が出てきて俺達は店の奥へ案内された。あ、ちゃんと靴は脱ぎました。脱ぎ脱ぎ。

そして案内されるままに付いていくと、そこにはちょっと奥まった場所にある、さっきまでの一般向けのスペースよりも明らかにしっかりとした設備があった。これっていわゆるVIP用じゃないのかな楯無さん。ねえ。

 

更衣室はこちらに、またシャワーは更衣室の奥にございますので、と言う説明をした後、リーダーらしきお兄さんはVIPな方のトレーニングルームに戻っていった。

たっちゃん、ぼくまだ何するのか聞いてないねんけど。ねえ。

 

「じゃあ着替えてまたここで落ち合いましょ。鹿波さんはあっちね。あ、覗いちゃダ・メ・よ?」

 

そう言ってパチン、とウインクしてたっちゃんは女性用更衣室に入っていった。うむ。俺も着替えてくるとしよう。

え?なに?覗かないのかって?

だってダメって言われたやん。て言うか普通に他の人の目があるところで覗きとかアカンやろ。現実は二次元ほど甘くないんや。たっちゃんを覗きに行ったら捕まるに決まってるやろ。当たり前です。誘い受け?知らんな。

 

あ、コインロッカーじゃない。普通にただのロッカーだ。ちゃんと鍵かかるやつ。あ、これディンプルキーやん!しかも使いやすい上に大きめ。さすがVIP。ネットのVIPではない。俺達VIPPER!嘘です。

ぱぱっと着替えてシューズの紐をしっかり結び、更衣室前でたっちゃんを待つ。

 

「お待たせー♪」

 

そう言って出てきたたっちゃん。上は赤紫がかった茶色の、つまり普段履いているパンティーストッキングと同じ色のスポーツウェア?かな?ほら、ヨガとかフィットネスで使われるやつ。一瞬スポーツブラかと思ったとは言えない…!

それにしても、おっぱいでかいね(直球)

うん、すごく…大きいです…。しかもきれいな形してる。まあ俺としてはおっぱいよりも、その健康的な色気というか色香にもうやられてます。すべすべの瑞々しさを感じさせる健康的な肌。うむ。たまらん。

下は黒のハーフスパッツ。あ、両横に腰から真下に蛍光緑のラインが入ってる。白地に青いミ○ノマークのシューズ。決まってますね。しかしカモシカのようなしなやかさを感じさせるかわいらしい脚である。触りたいはあはあ。嘘です。いや嘘じゃないけど。さすがにそんなに興奮してません。触りたいけど。重要なことなので(ry

 

俺?下は黒の無地のジャージ。上は白地に胸元にダンロップのロゴが入った半袖。運動用のやつ。以上。靴?普遍的なただの体育館シューズやで。黄色いやつ。

 

さて、さっきのお兄さんの元へ。今日は何をするんですかー!

 

「こちらです」

 

そう言ってお兄さんが手で示す先には、3つほど並んだボルダリングのあれが。何?ボルダリングがわからん?

いくつもある突起に足をかけたり手で握ったりして、ぐいぐい上に登ってくやつ。詳しくはググれ。

一番左は突起がいくつもあり、こちら側への勾配も一番緩い。ほとんど真上に登るようなもんである。あれなら行けそう。初心者用だろうか。

真ん中は少し突起が減り、形も握りにくくなっているみたいだ。また、こちら側への勾配は割ときつくなっており、ちょっと大変そう。俺は多分あれくらいがちょうど良さげかな。中級者用?

一番右のは明らかに上級者用だ。勾配はきつい!突起は少ない!しかも突起は小さい!あんなん出来るの?ってなもんである。はっ!まさかたっちゃん、あれやるのか…?

 

とりあえずお兄さんの説明を聞く。基本は普通にボルダリングである。ただ、安全のため腰から股を通して両腿を器具に固定。それが天井のやつにつながっているらしい。ふむ。つまり一番上まで登ったら飛び降りればゆっくり地上に降りられるようになってるんやね。納得。なんかテレビのアトラクションものでありそう。嵐?何かなそれは(すっとぼけ)

さて、固定具をまずは腰に回す。お相撲さんのふんどしのようなやつだったらあれが痛くなるので嫌だったが、右腿、左腿を固定し、最後に腰の部分をカチン!とはめる。あ、この黒いプラスチックの固定具ってあれよね。ウエストポーチによくあるやつ。

 

さて、たっちゃんは中級者用。俺は初めてのボルダリングということで初心者用だ。ただ、毎日のように重い機械(IS)の整備をし、基本的に毎日自重トレをしている俺である。いけるやろ(慢心)。

なお、自重トレーニングの内容は毎日腕立て伏せ10回、腹筋10回、スクワット10回です。しょっぼ。

 

さて、トレーナーのお兄さんに重心の移動やらコツを聞いてからスタート。あら、案外楽勝?いやいや、油断は禁物。そんなことを思いながら念のためゆっくりやるも、あっという間に終わってしまった。接待用かな?

 

一番上まで来たので、蹴ってゆっくりと地上に降りる。あ、これ最後の降りるやつ楽しい。

地上に降りてきたらお兄さんに褒められた。

 

「身軽ですね!何か運動されてます?」

 

「ええ、軽くですが一応」

 

「そうでしたか!それなら隣に移っても良さそうですね!どうされます?」

 

そう聞かれたのでやることに。や、俺負けず嫌いやし。たっちゃん、つまり年下の女の子が中級者用なのに俺が初心者用で終わるとか認められない。あと待ってる間が

暇。

 

なのでたっちゃんがやっている少し隣から登ってみることに。

む、さっきよりも傾斜のキツさがこれは腕に来そうですね。

多分上を見上げればたっちゃんの可愛らしお尻とおみ足が素晴らしい角度から見えるんだろうが、俺の分身が大きくなってしまいかねないので見ない。こういう場にエロを持ち込むのは俺のポリシーに反する…!ちなみに写真を撮って後で興奮するのはセーフだと思っている。ま、多少はね?

 

そんなわけで、さっきよりもキツさが段違いな所を登っていく。あ、たっちゃん終わった。たっちゃんが降りながら俺に手を振ってくれている。ちょっと舌をペロッとしてるの可愛い。

それにしてもたっちゃん早いな。やっぱり慣れか?とりあえず、足を踏み外さないこと、壁にぴったり体を張り付けること、重心の移動を意識しながら登っていく。ああ、たっちゃんを待たせてしまっている。ちっきしょ。

 

ようやくの思いで登りきり、壁を蹴ってゆっくりと降下。お待たせー。

 

「初めてでこっち(中級者コース)登れるなんて!鹿波さんすごい!」

 

そう言いながらわー!と手を軽くパチパチしてるたっちゃん。や、待たせちゃってゴメンね。

 

隣にいるトレーナーのお兄さんも褒めてくれた。いわく、初めてで中級者コースを最後まで登りきれるのは凄いですよ、と。いやあ、照れるぜ。

 

さて、良い汗をかいたのでこれにて終了。元々たっちゃんは月に一回くらいここにきてボルダリングをしてるらしい。今日は元々来る予定だったらしい。それってデートっていうか?まあ見方によれば体育会系デートだが。

ボウリングも卓球もバスケもバッティングセンターも大好きです。ぜひ次があれば呼んでね。

 

さて、更衣室にお互い戻り、シャワーを浴びてさっぱり。あ、シャワーは温水シャワーでした。やっぱりシャワーは温水に限る。冷水シャワーとか苦行すぎる。なるほど、大きいタオルはこのために必要だったのね。バスタオルでも良いくらいですな。これ。

 

さて、たっちゃんがカードで支払いを済ませ外へ。お次は?て言うかそろそろご飯に良い時間やね。

 

と言うわけでたっちゃんとお昼を共にする。うむ、満足。え?描写?うーん。

パスタを美味しそうに食べるたっちゃんは可愛かったです。まる。

 

 

そしてその後、どこへ行くのか聞いた。

 

「うん、あと一ヶ所だけ付いてきてほしい所があるの。一緒に来てくれる?」

 

そう言ってこちらをのぞきこみながら上目遣いで尋ねてくるたっちゃん。

 

そう、この時の俺は油断していた。体を使って心地よい疲労感。そして美味しいご飯による満腹感。いつもならオーケーを出す前に行き先をちゃんと確認するのに、この時は先にオーケーを出してしまったのだ。

 

「いいよ。どこ行くの?」

 

「じゃ、私の家行きましょうか!」

 

そう言って、良かったー!なんて笑顔で両手を合わせているたっちゃん。えっ?

 

「じゃ、行きましょ♪」

 

待って。ねえ。ちょっと待って。たっちゃんのお家?それって対暗部用暗部とかいう物騒なお家よね?マジで言ってんの?ねえ?

 

「さっきいいよって言ってくれたじゃない。ダメなの?」

 

ぐっ。それを言われるとつらい。俺も男だ。武士に二言はない!くそっ、腹くくるか…。

そして俺はご機嫌なたっちゃんに連れられて、更識家にお邪魔することになった。

あ、たっちゃんのお手てはあったかくてやーらかかったです。いえい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって更識家。つまりたっちゃん家。今俺は、お座敷の大広間みたいなところでたっちゃんのお父さんらしき人物と正座で向かい合っていた。どうしてこうなった。

 

たっちゃんに連れられて、更識家にお邪魔した俺。たっちゃんにとっては実家だが。

そして俺はたっちゃんに手を握られたまま、この大広間みたいなところに連れていかれた。

 

更識家は純和風のお屋敷で、二階のある大きな一軒家のような感じである。ただ敷地が広くて、塀が敷地をずっと囲っており、日本庭園もあった。なんだか忍者屋敷みたいだな。暗部だから間違ってないか。

 

家に入ってからもたっちゃんは俺の手を握り、襖をどんどん開けて奥へ進んでいく。あ、今なんか台所みたいなのが見えた。あれはたっちゃんのお母さんかな?顔が良く似てたし。

挨拶もろくにさせてもらえないまま俺は大広間に連れていかれ、あれよあれよという間にこのたっちゃんのお父さんらしき男性の目の前に。そして挨拶をしたのに無視された。ずっと目をつぶってるし。ダンゾウかよ。

たっちゃんはお母さんらしき人の手伝いに行った。誰かたすてけ。いやふざけないとやってられないんだよ、ほんとに。

 

「…」

 

「…」

 

お互い無言で時がすぎる。…空気が、重いっ…!

この静寂を破ったのは目の前の男性だった。もう面倒くさいんでおっさんでいいか。

 

「…娘とは、どういう関係で?」

 

重々しく尋ねてくるおっさん。ちなみにこのおっさん、左足は膝くらいまでしかなく、左腕に至っては肩のちょっと先くらいから先が無い。しかしそんなん関係ねえと言わんばかりの重圧(プレッシャー)

どういう関係も何も、整備員なんですが。

 

「…ただの整備員です」

 

そう答えると、おっさんはわずかにピクリと片眉が動いた。しかし何も言わない。しばらくの静寂。

 

「…娘とは、どういう関係で?」

 

再び同じ質問をしてくるおっさん。聞いてなかったんか?ん?それともボケてるの?わざとのボケならともかく、マジもんのボケなら病院に行くことをおすすめするぞ。

 

「…整備員です。まあ、彼女のIS作りを手伝いはしましたが」

 

そう言うと、今度は両目をゆっくりと開いてこちらをじっと見つめてきた。おうなんやねん。

 

「…虚からは、基本的に一人で作ったと聞いている。

今の言葉、間違いはないな?」

 

そう言ってこちらをねめつけてくるおっさん。いや、わし嘘ついとらんし。

そう思いながら頷いて返す。

 

「ええ」

 

そう言うと、おっさんは大きな声でたっちゃんを呼んだ。

 

「楯無!ちょっと来なさい!」

 

「はーい」

 

そんなのんびりとした返事が聞こえてからしばらく。たっちゃんが戻ってきた。その手には何かが載っているお盆が。

たっちゃんは俺とおっさんの間、俺から見て右側にお盆を置いておっさんに尋ねる。あ、梨だ。もーらお。

 

「どうしたの?」

 

「楯無。お前、自分のISは自分一人で作ったんだったな?」

 

「そうよ?鹿波さんにはだいぶ手伝ってもらったけど。…あ。お父さん、鹿波さんに迷惑かけちゃ駄目よ?」

 

そう言ってたっちゃんは戻っていった。残されたおっさんと俺の間に微妙な空気が流れる。俺はそんな事は関係ないとばかりに梨をしゃりしゃり食べる。うまい。けっこう大きなお皿の上に、これでもか!と乗っていたので更におひとつ頂いた。これうまいね。みずみずしい。

 

「…非礼を詫びよう」

 

そう言うおっさん。しかし頭を下げる気配はない。なので俺も何も言わない。そもそも俺が下手に出る必要はないし。元々俺はたっちゃんーーー現当主に連れられて来たお客人なのだ。挨拶したのに無視されたことを、俺はまだ根に持っている。挨拶がまともに出来ない人間にまともなやつはいないと俺は思っている。だから何も言わないし頭も下げないし下手にも出ない。ふざけろである。

 

「…それと、先程は挨拶を返さず、失礼した。

よくぞ、いらっしゃった」

 

そう言って握った手を畳につき、ゆっくりと、しかし深々と頭を下げるおっさん。ほう。既に隠居したらしい先代とは言え、歴代当主が一般人に頭を下げるか。仕方があるまい。許す。

俺も膝に手をつき一礼。俺が床に手をつく必要はない。そして顔を上げ、返す。

 

「お邪魔しています」

 

そう言うと、目の前のおっさんはうむ。と言ってゆっくりと頷き、目を閉じた。おねむかな。

 

「…さて。名前を伺っても」

 

「鹿波、と申します」

 

名前を尋ねられたので普通に答える。おっさんの名前?知らんな。聞くつもりも別にない。おっさんでええやろ(適当)。

 

「ふむ。では鹿波殿。貴殿にお聞きしたい。」

 

「はて。なんでしょう」

 

「娘ーーー刀奈のことだ」

 

たっちゃんのこと?俺よりよほどおっさんの方が詳しいやろ。今娘っていったし。このおっさんがたっちゃんのお父さんだと確定した。いやさっきたっちゃんが言ってたか。うっかり。てへぺろ。

 

「私はな。娘が二人生まれた時点で、私が更識家最後の当主になる覚悟でいた」

 

とりあえず黙って聞く。梨も我慢。ちっ。

 

「だが、私が隠居すると言ったら、刀奈の奴は私が継ぐと言って聞かなくてな。

…鹿波殿。貴殿なら、どうする」

 

「はっ倒しますね」

 

間髪入れずにそう言うと、おっさんは驚いたように目をぱちくりしていた。

 

「はっ倒す」

 

「はっ倒します」

 

そんなとんきょうな声で聞かれても、俺の答えは変わりません。

 

「…なぜ、と聞いても?」

 

身を乗り出して聞いてきたので、素直に答えることにする。

 

「だって、暗部としての暗い部分ーーーまあ闇の部分ですが。これを知らない時に継ぐ、と言い出したわけでしょう?継ぐことの大変さも、つらさも、そして覚悟も。全然知らないままでそんな事言い出したらはっ倒してでも止めますよ。

例えば継がざるを得なかったなら分かります。もしくは、仕事の様を見てきて、それでもなお継ぐと言うなら分かります。ですが、そう言った事を知らないままに継ぐ、なんて。私ならはっ倒してでも止めますよ。

なにも自分から家に縛られ、家に苦しむ必要はありますまい…。

親なら、我が子が悪い方に進もうとするのを止めようとする、その気持ちは私以上にお分かりでしょう」

 

そう言うとおっさんは黙って目を瞑り、まっすぐに座り直した。

 

「…ふーむ。はっ倒してでも止める。か」

 

「ええ」

 

とは言うものの、俺は現場を見てきたわけじゃない。実際にできるかどうかは別としてーーー。俺は、暗部としての更識家を、女の娘さん達の幸せを犠牲にしてまで守るべきだとは、とうてい思わない。あ、そう言えば紅にこんな話あったな。真九郎君かっこよかった。

 

「…家に縛られる、と言うのは」

 

「はい。あくまでこれは私見ですが」

 

そう前置きして、言う。

 

「この家にはおそらくかなりの歴史があると思います。しかし、その重みを背負う必要はないかと。

また、この家の当主になるのであれば、恐らく自由な恋愛も結婚も。難しいのではないですか」

 

「…そうだな」

 

「それが、私の言う『家に縛られる』と言うことです」

 

「…ふむ。そうか。いや、そうか…」

 

 

それからしばらくは学校でのたっちゃんの様子などを軽く話した。そしておっさんは黙ってしまった。

…帰っていいかな。

そう思ったタイミングで再びたっちゃんを呼んだおっさん。そして俺の方をちらりと見る。オーケー、頑張れよおっさん。うむ。

 

俺はひとつ頷いて席を外し、アンサートーカーで帰っていいかを確認した。

そして俺は、たっちゃんのお母さんらしき人に礼を言い家に帰った。

 

 

さて、幸せになれよたっちゃん。多分更識の家を、その呪縛を。あのおっさんは幕にするつもりだろうから。




ちなみにこのおっさん、たっちゃんがかなみんのことを好きなことを見抜いてます。そのお話もまたどこかでやりたいけどなー。できるかなー。


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始まりの前

多分これで過去編はいったんおしまい


3月24日。来週にはもう入学式である。来週から織斑君が入学し、ISの原作が始まる。

そんな日に、俺はたっちゃんに呼ばれたので生徒会室に来ていた。

 

「で、俺を呼んだ要件は?」

 

「ええと、たしか鹿波さんってプログラムとか、出来たわよね?」

 

生徒会室には俺とたっちゃん、あと虚さんしかいなかった。と言うか、この生徒会メンバーが生徒会として活動を始めるのは本当は明日かららしい。まあ、片付けとか掃除するなら今日がある意味ちょうどいいのかもね。

そう思っていたので掃除か雑用かと思っていたのだが、どうやら違うらしい。はて。プログラムとな?

たっちゃんは扇子を閉じたまま持ち、制服姿である。うん、やっぱり私服もいいけど制服もいいね。昨日の私服は可愛かったデース!可愛い子は何着ても映えるよなあ。ただ、かっちゃんだった頃は無邪気な可愛さが多分に出ていたのに対して最近のたっちゃんはやけに色っぽい感じに魅力的だ。うむ。ぜひ良い男を見つけろよ。あとナイスおっぱい。

 

「プログラムは出来ないことはないが…専門外だぞ?何をしろと」

 

「うん、ここ(IS学園)のサーバなんだけど。この間ハッキングを仕掛けられたらしいの」

 

「おいおい。大丈夫なのか、それ」

 

「幸い軽く仕掛けてきただけみたいですぐに逃げていったらしいわよ?多分狙いは明日から実装される生徒のデータ、それも織斑君のものが目的だと思うの」

 

「だろうなあ」

 

「それで、IS学園のサーバのプロテクトを緊急で強化したいんだけど、あいにく専門の人が今フランスに居るの。それで、鹿波さんにお手伝いをお願いしたいんだけど…」

 

「ふむ。ちょっと待ってね」

 

状況を整理してみよう。まず、こ↑こ↓、IS学園のセキュリティレベルは世界的に見てもトップレベルだ。

そんなIS学園のサーバにハッキングを仕掛けて追跡出来ていないとなれば、恐らくは亡国機業かクソ兎の仕業と見ていい。超凄腕のハッカーって線もあるけど。

ん?そう言えば追跡とかって出来てないのかな。そこんとこどうなん?

 

「追跡は出来なかったらしいわ。なんでもこちらの追跡を嘲笑うかのような鮮やかな逃げっぷりだったって」

 

「そうか」

 

そのレベルとなると、対クソ兎レベルのセキュリティやらプロテクト、ファイヤーウォールが要るな。…ふむ。クソ兎の好きなようにハッキングされかねない状況か。

クソ兎がうざったい高笑いでこちらを嘲笑している様子が簡単にまぶたに浮かぶ。許せんな。ああ、許せん。

 

ふむ。よし。受けよう。

あ、けどちょっと待って。期日とかどうなん。あったりするの?

 

「期日?」

 

「そう期日。あるのん?」

 

「はっきりとした期限はないけど、一週間かしら?それくらいよ?」

 

「ほーん」

 

んー、そうだねえ。どうするか。

とりあえずセキュリティをキッツいのにすればええんやな。よし。

アンサートーカー先生お願いします!

クソ兎(篠ノ之束)でも破れないようなセキュリティプログラムってどんなやつ?

 

そう思った瞬間、勢いよく脳内でアルファベットがダーッと流れていく。そう、それは新しいプログラムをダウンロードした時に、黒い背景のウィンドウにものすごい勢いで文字が流れていくように。

 

ストップ!ストーップ!

総行数は?

げぇ、24万8562行!?アカン。

最高まで合理化して最低限の行数で!

うむ、それでも22万1583行…。えーと、ざっくり22万行だとして。ブラインドタッチは出来るからおよそ1秒で一行タイピングすると仮定して。一時間では60秒×60分の3600行。1日八時間働く時間を全てセキュリティシステムの構築に費やすとしたら、3600行×8時間だから…えーっと。

28800行か。22万行を1日あたりの28800行で割れば、かかる日数になる…よな。うーん…7.64。1週間と半日かぁ…。まあ当然タイプミスや疲れも考慮しても、多分ギリギリ一週間では間に合わんなあ…。

 

「たっちゃんたっちゃん。多分無理じゃないけど、余裕を見ると一週間じゃあ終わんない」

 

「あら、別に1日くらいなら大丈夫だと思うわよ?ていうか、鹿波さん専門外なんじゃないの?大丈夫?」

 

「多分いける。ただ、いくつか条件があるけど」

 

「何かしら。というか、無理はしなくていいのよ?」

 

たっちゃんが心配気に俺の顔を覗きこんでくるが、知らんな。仮想敵があのクソ兎になった瞬間から、俺は止まるということを知らない。

君が!泣くまで!殴るのを!やめないっ!

うおぉん、俺は暴走火力発電所だ。なにそれ。

 

「いーや、やる。ただし、俺の本来の業務の代わりに二週間はプログラムの構築を業務にすることが一つ」

 

「それは大丈夫ね」

 

「二つ。多分プログラム中は手を止めるような余裕はないから、俺がプログラムをタイピングしながらでも水とか飲み物を飲ませてくれる誰かが常に居ること」

 

「私と虚が交代でどうかしら」

 

「それなら文句はない。けどそれ君らは大丈夫なん?」

 

「別に、去年の12月のことを考えれば平気よ?期間も決まっている訳だし」

 

 

去年の12月?ああ、たっちゃんが当主になったばかりの頃か。そんなに大変だったのか。お疲れ。

 

「そうか。じゃあ、残業は?」

 

「さすがに閉める時間を過ぎるのはダメ」

 

「よし。多少はオッケーってことだな。

あとは…そうだな。ああ、場所に指定はあるか?ここ(生徒会室)?」

 

「ここのサーバに接続しながらだから、多分物理的にここしかないんじゃないかしら」

 

「なら、休憩時間用に寝転がる事の出来るようにしてくれ」

 

「それ、必要なの?」

 

「当たり前DA!」

 

若干疑わしそうにたっちゃんがジト目…というか半目で見てくるが、こういうのは勢いが大事なのだ。あたかも当然のように言えば、無茶苦茶な要望が通ることもある!もちろん通らないことも多いが。

 

「うーん…。まあ、それは相談しておくわ。他には何かあるかしら」

 

「いや、ないな。ああ、あるとすれば、俺がプログラム書いてる間、たっちゃんが俺を抱きしめてくれればいいなー、というくらいか」

 

さりげなくセクハラをする人間の屑。うーんこの。

まあ断られるだろうし、冗談だけどね。さすがにそれは本気ではやらんよ。ほら、俺ってば良識ある大人だし?

そんなことを考えていたが、返ってきたのは予想外な答えだった。

 

「いいわよ?」

 

「え?」

 

あれ。聞き間違いかな。今なんか、オッケーみたいな意味の言葉が聞こえた気がしたけど。

 

「だから、それくらいならいいわよ?私でしょ?」

 

「あ、ああ」

 

あれれー?おかしいぞー?

きょとんとして事も無げに言うたっちゃんだが、きょとんとしているのはむしろ俺の方である。いや、普通ここは断るところだよね?え?俺がおかしいの?

ポカーンとする俺をよそに、じゃあ轡木さんに聞いてくるからー、と言ってたっちゃんはどっか行ってしまった。

しばらくしてはっ!と再起動した俺は納得した。

ああ、いつもの冗談か。ついつい真に受けてしまったが、そういえばたっちゃんは原作でも人をからかうのが得意だったね。

気にするだけ無駄無駄。さ、今からちょっとでも進めておきますかね。

 

俺は既に立ち上げてあったパソコンに向かって座り、頭の中にある文字列をキーボードに打ち込んでいく。結局その日は午後3時くらいから5時間ほど書き込み、終了。誰か脳内のイメージを具現化する機械作ってくんねえかな…。脳内の妄想映像を現実に映像化したり。脳内のメロディを楽譜にしたり。…脳内の文字列を現実の文字にしたりさ…。

 

なお、その後たっちゃんは8時になっても生徒会室に戻って来なかったので、俺はとっとと帰った。明日からは強行軍だからな…。

 

 

次の日。俺がいつも通り朝行くと、連絡が来ていた。

なになに…。お、俺の要望全部通った。よっしゃ。生徒会室で寝転んで休憩出来る。ああ、栄養ドリンクとか小腹が空いた時用にカップ麺も準備してもらおう。たしかポットはあったし。お箸もいるなあ…。

あれ、だんだんと生徒会室が泊まり込みの部屋になってないか?気のせい?いや、気のせいだな。うん。気のせいということにしておきましょう。

 

もう既に整備課のやつらにも連絡が来ていたらしく、頑張ってー。と雑な感じに送り出された。いてきまーす!

ならぬ、逝ってきまーす!

なお自業自得な模様。あほす。

 

さて、生徒会室に行くと既に虚さんが控えていた。これから一週間よろしくね?

 

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。何かご要望があれば、私達がお伺いいたします」

 

「あ、じゃあ栄養ドリンクは一箱とカップ麺を適当に3つほどお願い」

 

「かしこまりました」

 

すげえ。俺の超適当な指示に、何の疑問も質問も無く対応してくれるとか。うは、こんな美少女に言うこと聞いてもらえるとか役得!ひゃっほい!

 

最初はそう思ってました。はい。

 

虚さんはすぐに栄養ドリンクとカップ麺、そして気を利かせてミネラルウォーターを買ってきてくれた。そして俺はパソコンにひたすら脳内に浮かんだ文字をタイピング。

アンサートーカー先生…もっと…効率的で楽な方法はないんですか…。

答:ありません

マジかあ…。あ、楽な方法は?

答:音声入力。またはイメージインターフェースを介した視覚認識言語パッド

お、音声入力ええやん!ちなみに残り全部音声入力にするとかかる時間は?

答:10日と3時間24分52秒

 

おっせえ!え!なんで!?

答:音声による誤入力の多発

まじかよ。イメージインターフェースを使うとどれだけかかるの?

答:最短で24日と18時間2分31秒

なんで?なんでなん?なしてそんなに遅いんや…。

答:視覚認識の仕様としてカーソルの移動及び文字の決定に時間がかかるため

神は死んだ!

答:NO

すいません先生。最後のは質問じゃないです。そうだよね。俺がアンサートーカー先生もらったのって、神様からの贈り物だもんね。神に対して生きてるって表現が正しいのかは知らないけど。

 

あ、じゃあもっと効率的な方法は?

答:人体を改造しIS適性を微弱に保持、意識をコアネットワークに接続し…

すいません先生。もういいです。人体改造とかいやです。ショッカーもライダーも一度として憧れたことはありません。僕は戦隊派でした。

 

そんなバカな事を考えながら三時間。昼休憩の時間です。

そんなお昼ご飯の時間には、俺の腕はもはやプルプルしていた。アカン…。三時間ずっとタイピングとかアカン…。これからはちゃんと一時間に一回、10分くらいの休憩をとろう…。

 

「あの、大丈夫ですか…?」

 

虚さんにも心配されてるが、正直大丈夫じゃないです。腕を動かす気にならないの…。

 

「お嬢様からは最大限の協力をするように言われています。よろしければ、私が鹿波さんにご飯をお持ちしますが…」

 

ん?どゆこと?あーん?あーんイベントなの?

 

「一般的にはそのように言われる行為ですね」

 

虚さんが嫌なら別にいいよ。後で食べればいいし。

 

「私は鹿波さんが構わないのであれば気にしません」

 

俺は気にするよ。だって俺虚さんに何かしてあげたりとかしてないじゃん?ねえ。

 

そう言うと虚さんはフフッ、と上品に笑った。え、何よ。

 

「いえ、私は既に明るいお嬢様を取り戻してくれたことで十分鹿波さんのお世話になっておりますので」

 

いやー、あれね。うん。特に俺が何かした訳じゃないからね。うん。

 

そう言うも、虚さんは優しく微笑むばかりだった。

 

結局、ご飯はあーんされました。

味?わかるわけないじゃん!

 

 

午後から来たのはたっちゃん。良かった。これ以上虚さんと一緒にいたら、恥ずかしさで持たなかった。ナイスたっちゃん。

 

「ん?虚と何かあったの?」

 

いや、虚さんは悪くないんや…。ただ単に俺が意識し過ぎてるだけなんや…。

 

「?」

 

笑顔のまま首をかしげるたっちゃん。可愛い。

さて、午後からもタイピングじゃーい!

 

「おーぅ!」

 

たっちゃんも一緒に声を出して手を突き上げてくれたところで作業再開。すると、後ろからたっちゃんが俺の頭に顔を置いてきた。そして後頭部には柔らかな感触。そして俺の胸元にはたっちゃんの両腕。

え。まさか。

 

「ん?」

 

まさかマジでたっちゃんが俺を抱きしめながら作業することになるとは。あ、たっちゃんがちょっと頭を動かしたのが分かる。首をかしげたのかな?

でもたっちゃん。悪いけどタイピング中にはなるだけ動かないでね。

そう言うと、

 

「んー♪」

 

とだけ返ってきた。ああ、頷いたり声を出すと動いちゃうもんね。しかし柔らかい…。あと温かい。首が柔らかに挟まれている…。

俺は(どことは言わないが)ある一部と共に元気になり、その後は一時間ごとに休憩を入れながらタイピングして過ごした。タイピング中はずっとたっちゃんがくっついて来てて、結構恥ずかしかったです。はい。

あと栄養ドリンクにストローを差した状態でストローを口元に持ってきてもらったりした。こうすると画面を見てタイピングしながら飲み物が飲めるので非常に楽。これは虚さんにもやってもらおう。抱きつきはなしで。

 

 

 

二日目。今日の午前はたっちゃんから。今日もよろ。

ではさっそくやっていこー。

昨日の半日でもはや定番になってしまった体勢で今日もタイピング。カチャカチャ。柔らかい。ふにゅふにゅしてるう…。俺の首は昨日から感覚が鋭敏になってる気がする。俺気にしすぎぃ!

そういえば、と、あることが気になったので休憩時間にも基本的に引っ付いてくるたっちゃんに聞いてみた。休憩時間くらいは離れてもええんやで?

 

「んー…鹿波さんは、私じゃイヤ?」

 

全然。むしろバッチコイ。

 

「じゃ、何も問題ないわね!」

 

そう言って嬉しそうにするたっちゃん。うーんかわいい。

そういえばたっちゃん。暇じゃない?

 

「別に?だって、鹿波さんに飲み物飲ませてあげたりしてるし」

 

けど、大半俺がずっと打ち込んでるだけやで?

 

「鹿波さんにくっついていられるから大丈夫」

 

さよけ。けどたっちゃん。俺は知ってるんや。君、俺の髪の毛たまに口に入れてるやろ。やめなさい。

 

「はぁーい♪」

 

まったく。くんかくんかはすはすまではいいけど、お口に入れるのはアカンよ。主に危険度的に。

…なんか最近たっちゃんが変態性を帯びてきてる気がする。年頃の女の子として男に興味をもつのは別にいいけど、髪の毛はむはむはやめましょうねー。

 

ちなみに昼食は普通に食べた。別にくっついたりとかなし。うん、これくらいの距離感でいいのよ。

あーん?

なかったよ。

 

 

さて、午後から来た虚さんにたっちゃんが引きずられて行ったのを確認し、作業再開。なんかずっとたっちゃんがくっついてたから首周りが寒く感じる。が、一人でずっとタイピングしているとそれも気にならなくなった。

今日はちょっと遅めの7時まで作業。これならなんとか31日に終わりそうかな?

 

 

 

さて三日目。今日の朝は虚さんかなー、と思って生徒会室に行くと、そこにはたっちゃんの姿が。あれ?今日は虚さんお休み?

 

「今日から私がやるわ!」

 

バーン!とかいう効果音を背景に、なにやら腕組みまでして自信満々に言うたっちゃん。どうしたんや。

 

「ふっふっふ、ようやく一週間分のお仕事を終わらせて来たからね…。これで、31日までずっと!1日じゅう!鹿波さんと!イチャイチャ出来るわ!」

 

グッ!と拳を力強く握りながら叫ぶたっちゃん。はあ。さいで。イチャイチャはせんぞ。

 

「いいの。鹿波さんはそのままで。あ、今日終わった後にでも、膝枕してあげよっか?」

 

ほほう!たっちゃんの膝枕!するする、超する。

 

「じゃあ、決定ね!」

 

そんな感じでゆるーく今日も始まった。

 

ひたすら脳内の文字をタイピングする俺。その後ろで俺の頭を胸にかかえ、時々俺が水、と言えば水を飲めるようにしてくれるたっちゃん。その日はひたすら脳内ドーパミンが溢れだし、午前中はずっとたっちゃんとくっついたままタイピングをした。たまに腕を休めながら。…そろそろ腱鞘炎になりそう。ちゅらい。

 

そして生徒会室で仲良くお昼。たっちゃんが突然、

 

「あーん♪」

 

とか言ってきたけど無視。ちなみにいつもは食堂で買ってきてもらったやつを食べるか購買の弁当なのだが、今日はたっちゃんが作ってきてくれた手作りのお弁当(二人前)だった。つまりたっちゃんの方の具と俺の方の具は同じ。なので無視。しかし最近、ほんとにたっちゃんの距離感が近い気がする。何が問題って、最近たっちゃんと一体化(意味浅)してる時間が長いからか、あんまり気にならないのが最大の問題である。これ、訴えられたら一発で俺負けるぞ…。女尊男卑な世情的に。

 

 

 

さて、午後である。それにしても、今日は暖かい。春が近づいてるなあ、と思うと同時に、たっちゃんの身体が当たってる部分がそろそろ暑い。なので離れてもらうことにした。

 

「たっちゃんたっちゃん。ちょっと暑くなってきたからさ。ちょっと離れるか、制服一枚脱いでくれない?」

 

そして当然のようにセクハラ。流れるようにセクハラ。最低である。俺が。

ただ、実際たっちゃんの改造制服のベストはわりと地が厚く、ずっと頭が当たっていると暑くなってくるのだ。なので脱いでもらうのも一応解決法としては間違っていない。下心を多分に含んでいるので、そう言う意味では多いに間違っているが。げっすぅ!俺が。最低やな。知ってた。

 

しかし、やはりというべきか。最近のたっちゃんはどこかで頭を打ったようだ。もしくは暖かくなってきたので頭のネジがゆるんだか。

 

「ん。制服を脱げばいいのね?」

 

そう言って離れるたっちゃん。いや、離れるだけで十分です。だからその布擦れの音はなくていいです。そう思うも言い出しっぺだから言えない俺。ならどうしてセクハラするんですかねぇ…。頭のネジが緩んでるのは俺かもしれない。

 

そして再び頭に当たる、柔らかい2つの膨らみ。あ、なんかさっきよりも後頭部も柔らかいぞ。なんだろう。

先ほどよりも、よりはっきりと柔らかさを首筋に感じつつタイピング。もはや腕だけ別の生き物なんじゃないかというくらいずっと動いてる。いや俺が動かしてるんですけどね?腕重い。絶対後でたっちゃんに膝枕してもらおう。美少女はいつでも男の癒し。8つも下だから事案だな。訴訟。敗訴。…膝枕してもらうの、やめておいてもらった方がいいかもしれん。

なんて馬鹿なことを考えてて気付いた。後頭部の柔らかさは、これたっちゃんのお腹だわ。さっきまで厚手のベスト着てたから感じなかったけど。今カッターシャツにネクタイだけだもんな。そりゃ柔らかお腹の感触がほぼ直に当たってるから分かる訳だ。後頭部って意外と感度いいんやね。なんて考えてふと気づく。

あれ?たっちゃんネクタイしてる?そんな感じしないけど。

若干の焦りとともにたっちゃんに聞いてみた。

たっちゃんネクタイ着けてる…よね?

 

「ネクタイ?しよっか?」

 

してないのか…。どうりで後頭部にボタンと柔らかお腹、頭頂部におっきな柔らかおふたつを感じる訳だ…。

そんなことばかり考えていたら、外はもう夕方。もう少しやったら今日は終わろう…。

そう思っていると、今までずっと俺の胸元にあったたっちゃんの両腕がだらんと下に。ちょうど俺の両膝の上くらいに降りてきた。どったん?

 

「あ、気になった?ごめんね」

 

や、それはいいけんど。疲れたかね?

 

「うーん、まあそんなとこ」

 

さよか。疲れたんなら仕方ないな。うんうん。

でもねたっちゃん。さっきよりも強くお腹が当たってるんだけど。一瞬あれ?俺の後頭部に当たってるのっておっぱいじゃないよね?って素で思っちゃうくらい押し付けてきてるよね?大丈夫かたっちゃん。ていうか首筋におっぱい当てるよりも俺こっちの方が楽やねんけど。頭上におっぱい。うん、俺壊れてきてる。疲れちゃったからね、仕方ないね。さっきからおっぱいおっぱい言い過ぎィ!

 

 

7時。

「終わったー!」

 

今日の分は終了!あとはちょっとだけ寝っ転がって、う~んと伸びーをしたら終了です。お疲れ様でしたー。

 

「ん」

 

そう言ってたっちゃんがマットスペースに女の子座りして自分の膝をぽんぽんしてる。あれかな?無言の催促かな?

でもたっちゃん。その向きだと、おいちゃん真っ直ぐ寝るとちょうどたっちゃんの膝に真っ直ぐになるんや。なに?真っ直ぐ寝ろと。

 

しばらくして、またぽんぽん。ぽんぽん。ぽんぽん。…負けました。

諦めてたっちゃんのお膝に。

おっ…ふぉぉお…おおおぉぉお…。

やーらか。あったか。これはいいですねえ。今ならたっちゃんに堂々とセクハラ出来る気がする。あ、仲良くなってからはいつもしてるわ。今さらか。最低やな。

まあどうせ俺の腕も動かないし、今俺の頭の下にスカートの布地がある。大丈夫やろ。

 

「今ならたっちゃんのスカートの裏地が見える気がする…!」

 

「見たいの?」

 

おっ、ストレートに返ってきた。ぶっちゃけ本当に見たい訳じゃないしね。別に?…すいません嘘つきました。ちょっとだけ興味津々です。ちょっとだけ興味津々て何。

 

「もー、仕方ないなぁ♪」

 

そう言いながら、たっちゃんは俺の頭を支えてスカートの布地を抜きとった。え、ちょっと待ってまだ俺何も言ってないであああああ目の前にたっちゃんのスカートがあるうううう…!

たっちゃんのスカートを裏から見るという、超絶変態的行為をしているという現状が、そしてスカートを裏から見ているこの視界が、ひどく疲れた俺をダイレクトに刺激する。あ、整備服でよかった。だぼだぼだからバレない。バレないはず…。なんかじーっと視線をあそこに感じる気がするけど気のせいぃぃぃぃぃ…!

 

ちなみに裏から見るたっちゃんのスカートは、真っ正面は上辺の長い台形の白色の生地。そしてその両端にプリーツ部分があり、俺の方に飛び出ている。そこから両端に広がっており、両サイドの生地は足側に黒のラインが…って何を俺は真面目に分析してるのか。変態か。変態だった。仕方ないね。

うん?待てよ?…今俺の顔の目の前にスカートがある。つまり、俺の頭頂部側にはたっちゃんのあそこが…!?

 

「あ、今えっちなこと考えたでしょ。ダメよー?」

 

そんなことを笑いながら言ってくるたっちゃん。ばれてーら。でもたっちゃん、ちょっと上を見ればパンツが見えるとなれば、見ようとしないのは男じゃないと思うんだ。

そんなわけで、若干身体がずり落ちた感じにしつつ、ちょっとあごを上げーーーようとしたら顔をスカートの布越しに押さえられた。こっ、これはまた…!

 

「だからダーメ。今日は見せられるやつじゃないの」

 

「ちなみに何色」

 

「ん?ベージュのシンプルなやつ。だから今日はダメよ」

 

なにやらたっちゃんの中には基準があるらしい。しかし、当然のようにセクハラし、それに堂々と答えるとか、なかなかこの空間はカオスってますね。主にピンク色に。脳内ピンク。淫乱。

アウトだって?むしろチェンジだろ。アウト3つ。

 

しかしたっちゃんのスカートの裏地に顔が押し付けられているせいで、俺は息をするたびにたっちゃんのスカートの匂いを嗅いでることになってる。わーいたっちゃんの匂いがするー!さっきまでずっとべったりだったせいで、あんまりたっちゃんの匂いがしないように感じる定期。こんな定期あってたまるか。買います。

 

それから何事もなかったかのように俺は立ち上がり、たっちゃんと一緒に生徒会室を出る。くそう、なんでまだたっちゃんは未成年なんや…。だがそれがいい。

 

 

 

 

四日目。昨日言っていた私がずっと宣言はマジらしく、今日も午前中からたっちゃんだった。ちなみに俺は顔を会わせるのに恥ずかしさから少しためらいがあったのだが、たっちゃんは別に平気そうな顔をしていた。これが男女差か…。いや、ただ単に俺がシャイなだけかもしれん。

今日も午前中からたっちゃんべったり。しかも今日は最初からベストを脱いでいる。ふおお…これは麻薬だぜぇ…。もしくは病気。病名は、たっちゃんおっぱい病。ひでぇ名前だな。いやひどいのは俺の頭か…。もしくはスケベ心。

 

あ、でも今日は午後から虚さんが来た。そしてたっちゃんは相変わらず俺の頭上におっぱいぺったり。意外とおっぱいって重たいんやね。慣れてきてそう思った。頭が(おっぱいで)重い。これは全国の非モテな男達に呪い殺されますねぇ…。

あ、でも待てよ?世の中には貧乳はステータスという言葉があってな…。

やはりたっちゃんのが大きいだけか。そりゃ肩こるよなあ…。ちなみにたっちゃん的にはおっぱいは俺の頭の上でも肩の上でも楽だからどっちでもいいらしい。

でもねたっちゃん。他の生徒の子が来てもガン無視はどうかと思うの。急いで虚さんがその子からプリント受け取ってたけど、えっ…。って声が聞こえた後に物音一つしなかったから、多分あの子固まってたで。何?虚さんが対応したから万事問題ない?そうだな(便乗)

 

ちなみに今日は一時間ほど延長した。またしても昨日と同じ体勢で膝枕された。でも普通の膝枕だったんで良かった。さすがに昨日みたいなのを連発されるとおいちゃん狼さんになっちゃいかねないからね。いやそれはないか…。さすがに生徒、それも女の子を襲うほど落ちてない。いや十分すでに屑かもやけど。仕方ないやん?たっちゃんかわいいもの。

 

で、昨日よりは少し早めに終了。たっちゃんが若干虚ろな目で

 

「鹿波さん成分か…鹿波さん成分が…」

 

とか言ってたけど無視。なんや鹿波さん成分て。

壊れた?

 

 

五日目。今日は29日。さあ、31日には仕上げないと入学式の日からこんなデスマーチ染みたことをやる羽目になる。頑張ろう。まあ身から出た錆びなんだが。

今日もたっちゃんと一緒に…かと思ったが、居たのは虚さんだけだった。なんでも更識家の方で急遽仕事が出来ちゃったんだって。思わず笑った。絶対たっちゃん涙目か恨み節だったでしょ。そう聞くと、

「そうですね。どちらもです。泣きながら恨み事を言っていましたよ」

そう返ってきた。やっぱり。残念だったなたっちゃん。

( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \なんて

思わず高笑いしてしまった。さて、今日も頑張ろう。

 

 

六日目。なんとか今日中には終わりそう。ちなみに今日も虚さんだけだった。まだ終わらなかったのかな?御愁傷様である。

 

 

そしてその日の夕方に終わった。明日は普通に休むとしよう。

そして明後日からは入学式。織斑君が来るはずだ。

さて、俺以外に転生者はいるのかな?楽しみだ。




初めて10000字を超えました。マジか


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【時事ネタ】千冬のバレンタイン【バレンタイン】

思い付いたらやらずにはいられなかった
注意
このお話は本編時空とは全く一切本当に微塵も関係ございません


「鹿波!」

 

ふと、俺の名を呼ぶ聞き慣れた声に目を向ける。そこに立っていたのは織斑千冬教諭。IS学園の女子生徒たちから『お姉様』として親しまれている、まさに姉御肌。そんな織斑教諭が、俺の方を見てひどく落ち着かない様子で立っていた。

そのそわそわしている素振りは、いつもの堂々と落ち着いた物腰の織斑先生からはとても考えられないほどで。

俺は、織斑先生が話を切り出すのを待っていた。

 

「その…今日は、私が仕事を終えるまで待っていてくれないか」

 

そう、わずかに頬を紅潮させながら言う織斑先生は常の凛とした美しさとは違う、しかし確かな可愛らしさを示していた。

一方で俺は、普段なら見ない織斑先生のその様子に半ば納得していた。

俺と織斑先生は今年の花見から急速に仲良くなり、よく華の金曜日には居酒屋を梯子する仲だ。そして織斑先生はたまに、ふとお洒落なバーで夜景を見ながら飲みたい、と言うロマンチックな事を言うのだ。今日の恥ずかしがり方から見て、おそらく今日のお店は一人では入りにくく、しかも山田先生を誘うのも難しい店。

もしくは一人では行きにくいけど行ってみたい。しかし山田先生は連れ出せなかった。

おそらくこのどちらかだろう。個人的には後者と見た。だいたいのお店なら山田先生を連れていくはずだし、居酒屋の後のラーメン屋が屋台であっても付き合う度量のある山田先生だ。山田先生を誘うのも難しい店というのはなかなかない。

逆に後者ならわりと普通にあり得るのだ。

 

さてさて、今日は2月14日。聖バレンティヌス司祭が撲殺された、記念すべきハッピーデイである。え?ハッピーデイじゃないって?はは、何を言っているんだ。神話関係の人物なんて、全部くそ食らえに決まってるだろ!いい加減にしろ!

 

そんな中、ここIS学園では血を血で洗う、まさにバレンタインにふさわしい殺戮祭が行われていた。

事の発端は織斑先生の弟、織斑一夏君。彼はこの学園の人気者で、彼の周りには常にワンサマーハーレムが形成されている。

ハーレム要員は、モッピーこと箒さん(以前箒ちゃんと呼んだら真剣で斬られそうになった。織斑先生が助けてくれなかったら死んでた)。

セカンド酢豚こと鈴さん(以前鈴ちゃんと呼ぼうとしたら無言で双天牙月という青龍刀を首筋に当てられた。織斑先生が助けてくれなかったら死んでた)。

飯マズことセシリアさん(セシリアさんはセシリアさんと呼ぼうとしたが、声をかけようとしただけでブルー・ティアーズというファンネルが僕の急所を狙っていた。織斑先生がセシリアさんを出席簿で叩いてくれなかったら死んでた)。

花盛りの君たちへことシャルロット・デュノアさん(シャルロット・デュノアさんは僕とすれ違っただけで僕の後頭部に盾殺し(シールド・ピアース)を押し当ててきた。織斑先生が殴り飛ばしてくれなかったら死んでた)。

銀髪オッドアイことラウラ・ボーデヴィッヒさん(ラウラさんは俺が織斑先生の胸を事故で触ってしまった時に、ゴミを見るような目で見てきた。そしてワイヤーブレードで斬ろうとしてきた。織斑先生が庇ってくれなかったら死んでたが、正直これは俺が悪いので、多分ハーレムの中ではまともな方になると思う)。

内気メガネこと更識簪さん(極度の引きこもりらしく、いつも裸で一夏君のベッドにいるらしい)。

自称日本一の美少女こと更識楯無さん(僕に見えないところからナノマシンで僕を爆☆殺しようとしていたらしいが、織斑先生に脚を吊り上げられてパンツを披露してた。黒のレースだった)。

 

少なくとも上記の美少女達に日々囲まれ、酒池肉林を地で行く男。それが織斑一夏君だ。

ただ、そんな一夏君も織斑先生には頭が上がらないらしい。なので、僕の顔を見てもいつも舌打ちするだけで直接的なことはしてこない。しかしいつもそこらじゅうで僕の悪口を無いこと無いこと言い触らしているらしく、織斑先生や山田先生にバレては良くお尻ペンペンされている。本当にお尻を丸出しにされて。

そしてIS学園の女子生徒達はそんな涙目一夏君の様子を動画で取り、『今日の織斑一夏スレ』で笑い者にしているらしい。さすが一夏君、人気者である(笑)

 

今日はそんな一夏君を争う争奪戦をしている。題して

『織斑一夏君にチョコを渡す権利選手権』。はは、意味不明。普通に渡せばいいじゃん。

そう整備課のおっちゃんたちに言ったのだが、おっちゃん達は口を揃えて、

「女には女の戦いがあるんだよ…」

と言うだけだった。やはり意味はわからなかった。

 

さて、血で血を洗う(マジで。今日は重傷者が300人で済んだらしい。いつもよりはおとなしい感じ)醜い争奪戦を、更識楯無さんが優勝者をアンブッシュ(つまり不意討ち)するという汚い勝ち方でさらっていった後。

夕方のそろそろ日も暮れようか、と言う時間に僕は織斑先生に手を引かれて中庭の大きな樹の下に来ていた。織斑先生の手は柔らかくて暖かで、その横顔は凛々しさと儚さが、どこか夕陽に彩られて美しい。

そんな織斑先生が、僕の右手を握ったまま振り向いた。その顔は夕陽のせいか、それとも恥ずかしさからか。真っ赤に染まって見えた。そのあまりにも幻想的な美しさに思わず息が出る。

織斑先生はそんな僕の様子を知ってか知らずか。後ろ手に隠した箱を持って、うー…とうなったまま。

あれ。なんだろう。これは、今日は居酒屋の誘いじゃないのかな。いくらニブチンと言われる僕だって、さすがにそれくらいは気付く。そして十分、二十分。

織斑先生の喉から震えた、しかし確かに聞こえた美しい声。

 

「鹿波!好きだ!」

 

そう言って、織斑先生の手は不器用にラッピングされた箱を僕に差し出している。

ああ、そうか。今日はバレンタインだったっけ。

僕は織斑先生の手をそっと包みこみ、驚いて顔を上げた織斑先生にキスをした。

 

 

最初は驚きに目を見開いていた織斑先生だったが、そのうち目を閉じて、そっ…と僕の体を抱きしめた。

僕は左手で織斑先生の不器用な気持ちのこもったチョコレートの箱を持ったまま、織斑先生の背中に腕を回す。

 

しばらくずっとそうしていて、僕らの唇の間にきらりと妖しく煌めく透明な橋がかかり、露となって消えてゆく。そうするとまた織斑先生は僕に、唇を求めてくるのだ。

二回、三回。何度か口づけを交わしたところで、織斑先生が僕の手を取る。

 

 

「行こう。最高の場所を用意してある」

 

そう言って不敵に笑う織斑先生は、ひどく大人びていて。見惚れてしまいそうだった。

 

 

 

織斑先生が用意したという場所は、確かに最高の場所だった。

プライベートな個室。

気品のある店内。

落ち着いた雰囲気の照明。

そして美味な酒。

そこで僕は織斑先生と何度も口づけを交わし、一夜を共にした。

 

まあ、ひどく恥ずかしがるその顔も。可愛く乱れるその姿も。全て、最高だったと言っておこう。




二人は幸せなキスをして終了
注意
だからこの時空は本編とは全く関係ありませんってば


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臨海学校(裏)

バレンタインがちらほら不評で草
原作をベースに一匙の悪意を混ぜただけなんだけどねぇ…
みんなこの作品に毒されすぎやない?もしくはほのぼの好きか
まあ最後はきっと鹿波さんが成長してみんな幸せハッピーエンドになる予定。ただしやまやと簪ちゃんは未確定
さあ、本編時空始まるよー


さて、織斑先生や山田先生らが一年生の担当として臨海学校に行った。たしかついた初日は何事もなく、一夏君がいつも通りハーレムしてたよね。原作では。既にラウラとシャルロットがちらほら原作ブレイクしてたっぽいからどこまで原作通りに行くかわからないけど。ラウラとシャルロットが交友関係を広げるのは良いことなんだけど、一夏ラヴァーズじゃなくなってることがどう影響するのか。おにーさんは心配です。

 

 

やあみんな。鹿波だよ。

今俺は以前織斑先生に頼まれた通り、書類仕事を手伝いに生徒会室にいます。え?たっちゃん?いるよ。普通に座って書類の決裁してる。虚さんはたっちゃんのサポート。

ん?俺の背中にたっちゃんがいないのかって?

それ、たっちゃんの精神がまだちょっと不安定だった、たっちゃんが一年生の頃の話だね。既に二ヶ月以上前だよ。だいぶ昔だね。時間が過ぎるのは早いなぁ…。

あのデスマーチはやらかしたね。やはり無理はすべきじゃないよ、うん。

さて、さっきからちょいちょい書類の整理を手伝っているが、そろそろ整理するほどの量じゃなくなってきた。

そろそろ休憩かな。

 

 

臨海学校。

原作ではたしか、一日目に水着でラウラやシャルロットのかわいい姿を眺めたり、鈴ちゃんが溺れかけたり、織斑先生の水着姿に一夏君がぽーっとしてたね。あと、シャルロットが本わさを食べて涙目になるのもそうだっけ。箒ちゃんと夜会うとかいうのもあった気がする。あれって一日目か?うーん、そうだったようなそうでないような。まあ、そんな些事は割りとどうでもいい。

問題は二日目。つまり明日な訳だけど。

たしか二日目には銀の福音事件が起きたはず。で、束からの情報で銀の福音が既に暴走するだろうという気配が濃厚なことは既に把握している。そしておそらく、このままいけば原作通り暴走するだろう。

問題はその時だ。専用機持ちが集められ、おそらく一夏君も原作通り戦うだろう。で、一夏君大ピンチ!死にかけてからのパワーアップして復活…すると思う。ただ、正直ラウラとシャルロットが一夏ラヴァーズじゃないのが不確定要素だから、若干心配ではある。

それに、原作では明かされてなかった気がするけど、少なくともこの世界では銀の福音の暴走事件は束による一夏君強化イベントではない。亡国機業によるものだ。

以前のダリル・ケイシーが打鉄のパーツを交換していたことといい、今回の銀の福音の暴走といい。一体何が目的なのか…。それが引っかかる。しかも束のデータでは

『亡国機業は一枚岩ではない』

らしいので、アンサートーカー先生でも正確な目的は…。

いや。待てよ。

一枚岩ではないだけで、多分組織としての目的はあるはず。あまりアバウトな質問だとアンサートーカー先生は答えてくれないけど、組織としての目的くらいなら教えてくれませんかね?

答:裏社会の統合。または世界への武力制圧

 

わーお、テンプレな目的ですこと。でもアメリカの軍用機に干渉できるんだから、実際表社会にもかなり大きな影響力が既にあるんだよな。うーむ。

亡国機業に限らず、テロリストだとか悪意のある組織なんてものは無数にある。だから亡国機業を倒してやるぜ!倒したからハッピーエンドだ!なんてことはない。

そもそも似たり寄ったりの他のテロリストが台頭してくるに決まってる。

そうすると俺の目指す所は、悪意のある奴らに干渉されても自らの意志を押し通すことの出来る自衛力を持つとか、そんな感じかな。今は自分一人を守れば良いけど、結婚とかしたら目立たないように生きるのが一番やな。うむ。わざわざ対立する意味も意義もない。無駄。あいにく僕は物語の主人公のように、物事を切り開くタイプではないのです。残念。

え?でもお前主人公だろって?そんなメタな。

 

 

「あ、そう言えばたっちゃん。前に言ったダリル・ケイシーさん調べた?」

 

気になったので聞いてみる。まあ黒なのは既にアンサートーカー先生で確認済みなんだけどな!どうせ亡国機業と繋がりがあるのは知ってる。問題は、『更識家』がどこまで把握しているのか、ってことと亡国機業の目的の特定がされてるのか、ってところだな。うん。

 

「既に調査したわ。あんまり詳しいことは話せないけど、限りなく黒に近いグレーってところ。鹿波さんも気を付けてね?」

 

ふむ。確かダリル・ケイシーはアメリカの代表候補生だったな。まあ間違いなく国際機密が関わってくる。そりゃあ詳しいことは一般人たる俺にはあまり話できないよね。

それでも俺に調査結果を教えてくれるあたり、たっちゃんは甘いと言うか。まあ、優しさとして受け取っておこうか。

 

「じゃあ、目的は何だと思う?」

 

やはりこういうのは専門家の意見が聞きたい。一応主要な人物は束のデータでも知っているが、それも原作で出てきた人物ばかり。誰がトップで、組織としての目的以外にも何が狙いかわからん。アンサートーカー先生に聞けば名前も目的も分かるが、全く情報源不明な情報を一般人(俺)が知っていることが万が一相手にバレれば、おそらく拉致からの拷問もしくは自白剤コース一直線である。知らない方がいい情報は、必要になった時に知るのが一番だろう。用心のし過ぎ?いや、この世界は割りと簡単に人生詰むから。ホントに。…痴漢冤罪とかね。

 

「…これはまだおそらく、という程度だし。過信しないでね?あと他言無用」

 

そう言ってこちらをじっと見てきたので、神妙な顔をして頷く。で?

 

「…現時点では正確に目的は把握出来てないわ。ただ、おそらく彼女は亡国機業に与しているし、その依頼か命令を受けて動いている。

目的として考えられることの一つは、IS学園の危機管理能力の測定。あれを原因不明の故障、程度で終わらせていたら彼女が亡国機業と繋がっていることに気付くことが出来なかったし、迅速な対応だったと思う。ただ、鹿波さんがやらなかったら他の整備課の人じゃ分からなかった、という現状は非常に不味いわね。多分轡木さんからも何か連絡があると思うわよ?」

 

あれ、というのはわざと内部パーツを取り替えられてたことだな。

まじか。アカンやんうちの整備課。え、轡木さんから連絡って、俺何かしなきゃダメなやつ?

 

「ううん、多分整備課の一人一人のスキルアップと危機管理の徹底だと思う。ただでさえ織斑一夏君が入ってきてから事件ばっかりなんだから、私としても気になってるところね」

 

なんかすんません…。うちの整備課が不甲斐なくて…。

部下の責任は上司の責任。つまりは俺の責任である。ちょいとこれからは意識をするべき、いやしないと駄目だな。うん。

 

「他に考えられる目的としては、打鉄やラファールのデータ収集や解析かしら。もう打鉄とラファールのハード、ソフト、内部等のウィークポイントは全部丸裸になっていると考えておいた方がいいわね」

 

ふむ。つまりは外部からの攻撃で、物理攻撃やエネルギー攻撃に弱い部分のデータ収集してたってことか?いや、下手すると耐熱性や爆発系の攻撃に対するデータもあるかも。あれ?じゃあそうすると、教員が教員用のラファールや打鉄に乗っても、上手いIS乗り相手なら瞬殺されかねない?

 

「そうね。だからあらかじめ教員用のISは特別に強化されている場合が多いわよ?」

 

ああ、なんだっけ。真耶ちゃんのラファールもそうだよな。ラファール・リヴァイブをなんかちょいちょい強化したやつ。もはや実質的な専用機だよね。待機形態がISのままだから、当然他の先生でも扱えるけども。たしか原作では真耶ちゃん専用機持ちになるんやっけ?多分それの原形がこいつ。

 

「少なくとも現時点で判明しているのはこれくらいかしら。ダリル・ケイシー本人の目的は不明だし。

ただ、亡国機業のおよその目的は何となく見えてきてるわね」

 

ほほう。何だね?

 

「おそらくは世界中のISの大半の掌握。もちろんそれが意味するところは、世界一の軍事力ね」

 

ーーーつまり、圧倒的な武力を持つことが目的だ、と。

 

「もちろんそれだけなはずは無いと思うけど、仮にそうなったら出来ないことの方が少ないわよ。

だからこそ、反乱の旗印に成りかねないIS学園にスパイが欲しいし、内部事情も知りたい。そんな所でしょ」

 

なるほどなぁ。やっぱり専門家の意見は具体的で分かりやすいね。ただ、今の話で一つ懸案事項が。

束の奴、絶対追われまくってるよね。

だってISを生み出せるほどの技術力、そして頭脳だろ。ISコアのブラックボックスの解析や、ISコアの量産もそりゃ重要だろうけどさ。束を取っ捕まえてもっと高性能な武器とか作らせたり、IS無効化装置作らせればええやん。うわぁ…。あいつ、表の国々からも裏の組織からも追われてるのか。やばいな。

 

 

ただ、その束は多分明日、のんきに妹の箒ちゃんに紅椿を渡すんだろうなあ…。あいつのことは心配するだけ無駄かな。そんな気がする。うん、あいつのことは気にしないでおこう。

そこまで考えて得心する。なるほど、織斑先生はこんな心境にたどり着いてしまったのか。同情。そして親近感。今頃は旅館についているんだろうか。

 

そんなことを考えていたら、虚さんがあわててたっちゃんと何やらやりとりしている。そうか、アメリカの軍用機、銀の福音が暴走したか。タイミング的には確かに今日で理解できる。あれ、そうすると織斑先生達に情報をまとめて伝える役割ってたっちゃん達がやるんだよね。だって教員の数が足りないから俺達にお仕事が回ってきてるんだから、他の先生にそんな余裕なんてない訳で。

けどあれ、たしか国際的なバランスもあるから軽く機密情報だよな?あ、でも暴走したことくらいは別にすぐにばれることだからいいのか。領空侵犯とか、日本にだってミサイル飛んできたら関係者はすぐに知ることになるやん?そういうこと。となると箝口令が敷かれるのは機体の情報か。ラウラが衛星をハッキングして銀の福音第二形態を見つけた描写があったはずだけど、ラウラだけで衛星にハッキング出来るとは思えないし、多分シュバルツェア・ハーゼ隊(だっけ?)のクラリッサあたりに手伝ってもらったと考える方が自然な気がするな。

 

 

あ。今思い出したけどさ。銀の福音暴走事件が終わった後に、織斑先生が束に

「お前の仕業だろ?」

みたいなこと言ってなかったっけ。原作読んでた時は完全に束の仕業だと思ってたけど、実際は亡国機業の仕業だったんか。なんというミスリード。今になって知る、原作の真実ゥ!どうでもいいね。

 

さて、俺はどう動くべきかね。

ねえアンサートーカー先生。今までで何かおかしな部分あった?

答:シュヴァルツェ・ハーゼです

まさかのそこ。くそ、素直に黒ウサギ隊と言っておけば良かったか。黒ウサギ…バニー…うっ。頭が。

 

 

たっちゃんがこちらを見る。おっ、これは俺も関わっていくパターン?

 

「今連絡が来たわ。鹿波さん、機密情報だけど守れる?」

 

「銀の福音が暴走したか」

 

そう言うと、たっちゃんは普段の軽い状態から暗部楯無の顔つきになった。いいね、その顔。

 

「…どこからその情報を?」

 

ビンゴか。ま、原作通りと考えれば悪いことばかりでもないか。この先の展開が予想出来るからな。問題としては、あくまでも予想でしかないことだけど。

だが、この情報は既に束のデータを見た時に可能性として考えていた。問題は情報源が束であることを言うかどうか。まあ、十中八九言ったとしても楯無が口を割ることはないだろうし、楯無が俺を裏切るとも思えない。言ったとしてもデメリットはほぼないはず。

逆に言わないと不信感を与えることになる。正直これは言った方がいい案件だと思うんだ。

アンサートーカー先生、どうかな。

答:YES

やっぱり言った方がいいのね。よし。

 

「何、束のデータに銀の福音に対して亡国機業の接触があったことが示されていたからな。可能性としては考えていた。

銀の福音の爆破か、奪取か、凍結か、暴走か。そのあたりだろ?」

 

まだ暴走だということは知らないので、多分そこら辺でしょ?ってことにしておく。実際は暴走だろうと半分くらいは確信しているのだが。まだ確実じゃないし。

 

「今一気に聞きたいことが増えたんだけど…。まあいいわ。

そうね、鹿波さんの言う通り、銀の福音が暴走。他のISを全て敵と見なしているみたいね」

 

そう言ってジトーッとこちらを見てくる楯無。

や、すまんな。けど、相手は束だからね。100%信用するのは危険だからな。クラス対抗戦で無人機をけしかけてくるようなぶっとんだ奴だし。むやみに言って対応出来なくなるほうが危ない。

 

そんな感じの内容を後で伝えておこう。俺に後ろ暗いところはねえ!

 

「で、鹿波さんは何を知ってるのかしら。教えてくれるわよね?」

 

そう言ってにっこり笑いながら、ずいっ、ずずいっ、と近づいてくる楯無。ちょっと顔を動かせばキス出来る距離。しかし残念、楯無の目が笑ってない。なので、楯無の唇を人差し指で押さえながらこう言った。

 

「待て。それについての質問も後で受け付ける。だが、その前にまずは分かっている情報を洗いざらい教えて貰おうか」

 

別に情報開示は問題ないが、事態の解決には最新の情報がものを言う。まずは現状の把握。話はそれからだ。

 

「むう…。まあいいわ。今分かっているのは、銀の福音がアメリカ・イスラエルの共同開発された軍用機であり、遠距離広域殲滅型の機体であること。射撃特化型ね。ハワイ沖で試験運用していたところ、外部からの不正アクセスによってコア・ネットワークから切断され、暴走。今はハワイ沖から西北西方向に時速100㎞で飛行中らしいわ」

 

「国際IS委員会からの通達は?」

 

「まだ来てないわ。それよりも、アメリカ軍関係者の記者会見が先でしょうね」

 

ふむ。まだ国際IS委員会からIS学園に対する通達という名の命令はまだか。なら先手を打てるか?

 

「楯無。束からのデータから、国際IS委員会に亡国機業のスパイが何人か居る可能性がある。そして、亡国機業からすれば軍用機か織斑一夏君の戦闘データは必ず欲しいところだろう。そう考えると、軍用機は一夏君の機体に向かって進んでくる可能性がある。また、国際IS委員会としても何かしらの理由をつけて専用機持ち達に銀の福音の相手をさせるかもしれん。

いざとなったら専用機持ちの救出と、一般人の避難のために、一年生の居る旅館辺りの海域の封鎖は出来るか?」

 

「明日の午前9時頃には出来ると思う」

 

「よし。あと、もしも海域封鎖後に船があった場合、亡国機業の一員の可能性がある。出来れば捕らえることが出来る方がいいが、いざとなったら…」

 

「…なるほどね」

 

そう言って頷く楯無。とりあえずはこんな感じか。

 

「…で、篠ノ之博士からのデータにあった他の情報は?」

 

「んー…。あとは今回の銀の福音関連はないな。亡国機業の幹部何人かのコードネームくらいか」

 

「誰かしら」

 

「多分既にお前も知ってると思うが…。少なくともスコール、オータムの名は確認した」

 

「他には?」

 

「それくらいだな」

 

「本当に?」

 

そう言ってこちらをじっと見つめる楯無だが、本当にこのくらいである。たしか。もはやうろ覚えなところもあるし。

 

「本当だ」

 

「…そう。でも鹿波さん、そういうのは早く教えてね」

 

「そうもいかん。あいつ()は一夏君の成長のために無人機をぶちこんでくるようなイカレポンチだ。情報が罠の可能性もあるし、信用しきることが出来る訳じゃない」

 

「それならなおさら、よ。鹿波さんが一人で判断するより私も一緒に考えたほうが色々な考えが出来る。何よりも、私は楯無よ?」

 

そう言ってにやっと笑うたっちゃん。

そうか。そうだな。確かに俺一人で判断する必要はないか。アンサートーカー先生で確認したことをポロリと言ったりしなければセーフか。あれ、難易度上がってない?

 

そんなやりとりをしつつ、あとはたっちゃんにお任せした。いや、一般人がこんな事件の対応なんて出来る訳ないじゃん。出来るのはせいぜい、織斑先生の水着姿を思い出す程度のもんである。…織斑先生、買った水着着たんかな?




更新できないかもしれないと言ったな。できた


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ある日ある時その場所で

新ヒロイン…になるのかな?とりあえず彼女のエントリー
さて、鹿波さん争奪戦に参加させるかどうか…


織斑先生達は臨海学校から無事帰って来た。結局銀の福音は一年生の専用機持ち達に沈められたらしい。一夏君ら当事者たちからは詳しいことは機密情報として教えてもらえなかった。なのでたっちゃんと織斑先生に聞いた。たっちゃんとちっふーは、今回の事件に俺も関わってること知ってるからね。

別に一夏君達に俺も地味に関わっていたことを言ってもいいんだけど、なんか一夏君達に近付きすぎると危ない気がするんだよね。平穏を大切にしたい。アンサートーカー先生も、平和に暮らしたいなら一夏君に積極的に関わらない方がいいかどうかという質問にYESを返してきたし。まあ、関わっちゃった以上あまり疎遠にし過ぎるのもあれだし。原作のどの時点か知りたいし。ね?

 

「で、一夏君は一度生死の間をさ迷ったりなんかは…」

 

「いや、確かに大怪我はした。しかしセカンド・シフトした際に傷が治ったとか言っていたな。二度目の戦闘で何とか無力化出来たようだ。

まあ、銀の福音がセカンド・シフトした時にはどうなることかと思ったが…」

 

まあ、なんとかなったよ。

そう言ってふっ、と柔らかく笑う織斑先生。だいぶ優しい顔をするようになったよね。普段からそんな感じなら絶対今ほど恐れられないと思いますよ。

 

「ふん、別に誰にでも好かれたい訳ではないからな。私は今のままで十分だ」

 

さいですか。もったいないなあ。

(※鹿波の前では柔らかく笑う+『誰にでも』好かれたいわけではない。つまりちっふーは鹿波から好かれたくないわけではない)

とりあえず織斑先生から聞いた話をまとめるとこうなる。

銀の福音が暴走したことが発覚した後、原作通りに織斑先生達のいる旅館に銀の福音が飛んでいく。

銀の福音の暴走、銀の福音のスペックなどをまとめて一日目の終わりに織斑先生達に連絡。

臨海学校二日目の装備試験の最中に原作通り束が来て、箒ちゃんに紅椿を譲渡。その後国際IS委員会からの通達が来る。

そして銀の福音と交戦することが決定する。…ここまでは原作通りだった。

原作と違ったのはこの後で、一夏君と箒ちゃんによる強襲失敗時に専用機持ち達による波状攻撃が成功。銀の福音を無力化したかに見えた。

しかしここで銀の福音がセカンド・シフト。この時の攻撃で一夏君が負傷。箒ちゃんに支援されながら戦闘から離脱。そのまま残りのセシリア、鈴、ラウラ、シャルロットによる抵抗も虚しく、銀の福音第二形態に逃げられてしまう。そのため専用機持ちは一度帰還し、一夏君の容態を聞く。

そして銀の福音第二形態の位置の特定をしている間に、一夏君の白式がセカンド・シフト。おそらく理由は戦闘経験の蓄積かと思われる。

そして銀の福音第二形態の居場所が判明。十分な休息を取った専用機持ち達が再びの出撃。その後膠着し、長期戦になろうかというタイミングで箒ちゃんによる絢爛舞踏が発動。そこから一気呵成に畳み掛け、完全に銀の福音を無力化し、搭乗者のナターシャ・ファイルスを救出。

また、織斑先生は専用機持ち達にインカムを持たせて、常に音声等で状況把握に努めていたらしい。

 

あ、ナターシャ・ファイルスはやっぱり原作の通り一夏君の頬にキスをしたらしい。そして一夏ラヴァーズこと箒ちゃんとセシリアさんに一夏君が中身の入ったペットボトルを投げつけられーーーたけどラウラとシャルロットの後ろに一夏君が隠れていたのでラウラが両方とも二人の顔面に投げ返したらしい。

ラウラは投げつけられたのと同じような速さで投げ返したらしく、ペットボトルは箒ちゃんとセシリアさんの鼻っ面に直撃。そこでラウラと口論になりかけたとか。口論にならなかった理由は、保護者シャルロットによる

 

『…正座』

 

の一言だったらしい。さすがシャルロット。良い仕事するよね。グッジョブ。うちの娘たち(ラウラとシャルロット)に(わざとじゃないとはいえ)危害を加えるとか許せん。まあシャルロットがその分きっちり叱ってくれたらしいので良いけど。大和撫子(笑)とイギリスの誇り高き貴族(笑)に好かれてしまった一夏君は大変ですね。

 

 

「しかし、箒ちゃんの後ろ楯はどうするんです?」

 

「目下の所、検討中だ…。全く、頭が痛い」

 

そう言って目を閉じて頭に軽く右手を当てたまま、眉にしわをよせて首を横に振るちっふー。お疲れ様やね。あ、コーヒー飲む?ほい。

 

「む、すまんな」

 

俺から缶コーヒーを受け取りながら礼を言ってくるちっふー。いや、さっき買ったんだけどジョージアだったからいらないんだよね。俺はダイドー派です。

 

ではな、と言って片手を軽く挙げて去るちっふーの背中を見守る。いやー、大変ですね。お疲れ様です。そんな時でも凛々しいちっふーマジ男前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、その後のあるお休みの日のこと。今日の俺は、IS専門パーツショップ『ファントム』に来ていた。ISのパーツはまだまだ専門の企業が取り扱っているものが大半だが、こうやってIS専門のお店もごくわずかにある。まあ、ISの数が有限かつ少数な間はこういうお店も増えるとは思えないけど。ていうか、こういうお店って経営していいのか…?武器屋みたいなもんだぞ…。

 

俺が今日一人でパーツショップに来た理由は単純。ダリル・ケイシーによって取り替えられていたパーツ。これが何のISのどのパーツか、暇潰しがてら調べに来たからである。

 

さすがにIS本体は売ってないが、店頭にはでかでかとISブレードが売っていた。…織斑先生なら買うんだろうか。

とりあえず、細かなパーツが小さいビニールに包まれているエリアを見る。うーん、打鉄のパーツではない…ようだ。

そうしてパーツを下から上までひとつひとつ見ていると、ふいに声をかけられた。

 

「おい」

 

振り返ると、俺より頭ひとつ分背の低い女の子が立っていた。黒地に小さな白い星がちりばめられている帽子をかぶっているため、その顔はよく見えない。ただ、帽子から出ている髪の毛が織斑先生を連想させた。

ああ、俺が邪魔になっていたようだ。そう思い、左によける。そうするとその女の子は、女の子の正面一番上のパーツを見て、手を伸ばした。…届いてない。あ、背伸びして手を伸ばしたままぷるぷるしてる。

…はあ。しゃーない。

 

「…取りたいのは、これかい?」

 

そう言ってひょい、とパーツをひとつ取り、女の子に渡す。そしてパーツを確認した後、帽子を軽く抑えながら

「…ふん」

と言って顔を隠してしまった。

ていうかこの子の服黒ばっかりだな。上は黒のTシャツに黒のパーカー。下は黒の…綿パン?かな?それに黒のショートブーツ。…帽子以外白成分なしかよ。いっそ清々しい。

そして俺が再びパーツ探しに戻ると、少し離れた所から

「…っく、ふっ…!」

みたいな小さな声が。ちら。

こっそりそちらを確認すると、やっぱりさっきの子が手を伸ばしてぷるぷるしている。…はあ。やれやれ。

なんだかあの子は放っておけない気配がある。なんていうか、こう…。ラウラみたいな感じがする。ポンコツな時の。

仕方ない。

そう思い、また俺は女の子にパーツを渡す。すると今度は俺の方を見上げてきた。ん?

 

「…貴様、ロリコンか?」

 

「ちゃうわい」

 

あほう。その前に言うことあるだろ。いや、ある意味安全確認的には間違ってないけどさぁ…。

俺が答えると、そうか。と一つ。そしてこちらを見て

 

「すまんな」

 

と言って不敵に笑った。あ、この子織斑マドカちゃんや。笑った顔が織斑先生そっくり。

そんな俺に構わず、マドカちゃんは話かけてきた。

 

「先ほどは助かったぞ。礼を言う」

 

そう言ってにやりと笑うマドカちゃん。そこだけ見ると凄く決まっている。でも、さっきまでのぷるぷるしていた時とのギャップで、思わず俺は吹き出した。

 

「ブフッ!」

 

口を抑えながら笑っていたのだが、マドカちゃんはジト目で俺を見ていた。でも、凛々しい姿を見れば見るほどさっきまでの背伸びしてぷるぷるしていた姿とのギャップが更に際立ち、俺の腹筋はしばらく収まることはなかった。

 

しばらく。俺が落ち着いて来たのを見計らい、マドカちゃんが言った。

 

「しかし、貴様のような男がなぜこんなところにいる。男はISには乗らんだろ」

 

「ああ、このパーツが何のパーツか調べに来たんだよ」

 

そう言って俺はマドカちゃんに持っていたパーツを手渡す。あ、手ちっちゃい。マドカちゃん何歳なん。見た目的には十五か十六歳くらいに見えるけど。

俺からパーツを受け取ったマドカちゃんは、左手の上にパーツを乗せてコロコロした後、歯の数を数え始めた。パッと見はコマみたいな、一センチくらいの小さなパーツやからね。数えにくいよね。いちにーさんしー…。と数えるマドカちゃんは可愛かったです。どうでもいいね。

 

「…ふむ。貴様、このパーツをどこで手に入れた?」

 

「ん?職場の秘密かな」

 

ダリル・ケイシーが替えていきやがったせいなんだ!なんて口外出来ないし。相手マドカちゃんやし。や、マドカちゃんが今すでに亡国機業に入ってるのか知らんけど。

 

そう言うと、マドカちゃんはこのパーツが何のパーツか教えてくれた。

 

「ふん、まあいい。これはラファールの内部パーツだ。おそらくはスラスターユニットとコアユニットを繋ぐ動力系の部品だろう。まあ、私は専門ではないから詳しくないがな」

 

いや、すらすらとそんなことが分かる時点で俺より詳しいです。整備では普段そんな所弄らないからね。

 

「そうか。ありがとう」

 

そう言うと、マドカちゃんはふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。まあ、ちょっとだけ見えるほっぺたが赤いから照れているだけだろう。…うーん、こうやって見るとただの女の子なんだよなぁ。本当にこの子マドカちゃん?もしそうなら、この子が一夏君に銃向けたりするんでしょ。織斑家の闇深スギィ!

 

さて、パーツが分かった所で帰ろう。そう思い、くるっと振り返った所で俺の服を、と言うかズボンのベルトごとぐわしっ!と握られた。うん、ちょっとそこはやめて。ねえ。

 

「待て」

 

そう言って手を握ったままのマドカちゃん。ねえ、分かったからちょっとそのおてて離そう?ね?

マドカちゃんの女の子らしい手が離れる。よろしい。

一瞬ここで走って逃げようかとも思ったけど、織斑先生と同じレベルの運動能力があれば無意味だと気付いて思い直す。うん、人生は諦めが肝心だよね。諦めたら試合終了ですよ。どっちや。

 

「お前、この後時間はあるか」

 

そう言って、時間がないって答えても逃がさないんでしょう?

 

「む、よく分かったな」

 

ああ、やっぱり…。君によく似た人を知ってるよ。ひっじょーによく似た人をね。

 

「ふん。私によく似た奴など数える程しかおらん。それより貴様、少し付き合え」

 

…。どうせ、君が届かない所のパーツを取れって言うんだろ。店員さんに脚立を持ってきてもらえばいいじゃない。ねえ?

 

「貴様がいれば事足りる。それならわざわざ脚立はいらんだろう?」

 

そう言って不敵にハッ、と笑うマドカちゃん。うーん、あの背伸びしてぷるぷるがなければ決まってたのに…。

そう思ったので言ってやる。さすがに今の見下した笑いはいただけませんなぁ。

 

「ふっ、さっきまで背伸びしてぷるぷるしていたお子様が何を言っているのやら…。取ってくださいお願いします、だろう?」

 

余裕の表情で見下ろしながら笑ってやる。ふふ、どうだ言い返せまい!大人に上からものを言うからだばかめ!

フゥーハハハ!

 

悔しそうな顔をするマドカちゃん。ん?どうしたの?店員さんに脚立持ってきてもらおうか?うん?

そんな感じで内心煽りながら笑いつつ、マドカちゃんの言葉を待つ。正直、次同じようなことを言ったら帰る。

身の程をわきまえない奴は嫌いなのです。

 

「くっ…」

 

そう言って悔しげに歯をくいしばるマドカちゃん。ねえねえ今どんな気持ち?ndk?ndk?

 

「た、頼…む」

 

「聞こえないなぁ!」

 

ゲス精神、全☆開!

あーっはっはっは!やはり俺はこうでなくては!

わざといやらしくはっきり言ってやる。あ、涙を浮かべてぷるぷるしてる。もう一息か!?

 

「お、お願い…します…」

 

「仕方ないなあもー」

 

やれやれー、みたいな雰囲気を出して言ってやる。あ、物凄い睨み付けてきてる。でも涙目なので怖さ半減。

だが!

しかし!

まるで全然!

 

この俺を倒すには、程遠いんだよねぇ!(ゲス顔)

 

小さく

「覚えてろよ貴様…!」

とか呟いてるけど知りませーん。聞こえませーん。

 

 

 

そしてその後はマドカちゃんの後を付いて回り、パーツをカゴ(バスケット)に入れていく。

一度店内の他の女性に

「あ、そこの君。これそっちに戻しといて」

と言われた時には

「今は私が使用中だ。後にしろ」

と言っていた。多分普通に言ってるなーってのが分かったのであんまり嬉しくなかった。

そして精算。マドカちゃんは俺にたかるということもなく、普通に自分で支払いをしてた。やっぱりこの子、根はすごい良い子な気がする。見知らぬ女性がそこら辺の男を財布にしようとする時代だからね、今は。まあ極例だが。

ところでその黒いカードってどこのよ?はっ、まさか。これが本物のゴールドの上、ブラックカード…?

 

「ん?これか。まあ、会員証のようなものだ。

…というかそもそも、このカードが無いとここで買い物は出来ん」

 

え。そうなの。まあ俺買い物しに来た訳じゃないからいいけど。…もしかしてこの店、ちょっと危ない感じお店だったりすんの?ねえ。これは早いところ逃げた方がいいかもしれん。

 

そして一緒に店を出て、じゃあバイバイって言おうとした瞬間、再び服を掴まれた。あ、今度はちゃんと上の服にしてくれてる。うん、でも君握力強すぎな。

服が伸びちゃうだろが!まったく、服が破けたらどうしてくれる。その時は服が破けちゃうだろうが!って言おう。エレン!

 

「待て。さっき言っただろう。時間はあるか、とな。しばらく付き合え」

 

えっ。聞いてないです。

ちなみに拒否権は?

 

「ないな」

 

言い切りおったこの子…。まあ休日だからいいけどね。まさか休日の人が多い中でわざわざ一般人を拉致したりはしまい。…しないよね?大丈夫だよね?不安になってきた。

アンサートーカー先生!

この子に付いて行っても大丈夫ですか!?

答:(生命的には)YES

よし。じゃあ、この子に今付いて行った方が良いですか!?

答:基準によるため回答不可

え。どういうことなの…?

答:付いて行くことによる生命の危機は発生しない。しかし付いて行く事が将来的に問題ないかどうかは現時点では判別不能

 

うむ?付いて行っても大丈夫だけど、これから亡国機業に入ってしまえば俺に不都合なことが起きるかもしれないって感じか。

じゃあ付いて行かない事によるデメリットは?

答:一定期間の療養が必要となる怪我の発生する可能性高。

アカンやん!え、付いて行かないだけで俺怪我するの確定ですか!うわ。それは嫌だな。

あ、待てよ?まず何に付き合えばいいのか、それを聞いてからでも遅くないんじゃないか?

 

「…さっきから何をうんうん唸っている。行くぞ」

 

「ちょっと待った。何しに行くかを聞いてからじゃないと答えられない」

 

「ああ、なんだ。そんなことか。

何、簡単だ。3時頃になったら連絡が来ることになっているが、あいにくとこの辺りは詳しくなくてな。あと一時間足らず、時間を潰すのに付き合え」

 

お、それくらいなら大丈夫じゃないか?

アンサートーカー先生、付いて行くのと付いて行かないの、どちらが俺にとってデメリット大きいかな?

答:付いて行かない事

確定。行こう。アンサートーカー先生がそう言うなら行こう。決まりである。

 

「良いけど、何するんだ」

 

「それは貴様に任せる。言っただろう、この辺りに何があるのか知らんのだ」

 

「じゃあコーヒー飲みに行くか」

 

「好きにしろ」

 

そう言って俺はマドカちゃんと共に適当な喫茶店へ。喫茶店というかカフェだな。いくらかケーキもあるし。

マドカちゃんはあまりこういう所に慣れていないのか、俺の後ろをちょこちょこと付いて来る。カルガモのひなみたいだな、とか思ったのは内緒。リトルちっふーみたいなもんやし。

 

さて、何頼もう。あ、ブルーマウンテンがおすすめとな。ケーキも付くセットにしよう。マドカちゃんはどうするよ。

 

「何頼むか決めた?」

 

「い、いや、そのだな。何を頼めばいいんだ」

 

そう言ってこちらに助けを求めるように見るマドカちゃん。そうだなあ。

 

「コーヒーはブラックいける?」

 

「出来ればブラック以外で頼む」

 

ふむ。そうするとメランジュあたりかな。もしくはブラウナー…は、ちょっと濃いか。フェアレンガーターかカプチーノだな。そこら辺言ってみ。

 

「カプチーノは聞いたことがあるな。では、それにしよう」

 

という訳で本日のおすすめ、ブルーマウンテンのセットとカプチーノ。ケーキはチーズケーキにしたようだ。

 

注文が来るまでしばし雑談。テーブル席で向かい合って話す。

 

「とりあえず、あそこにいたってことは、君はISに乗るの?」

 

「む?ああ、そうだが。ISを作る側だとは思わないのか?」

 

「いや、さっき自分で専門じゃないって言ってたじゃん」

 

「ああ、なるほどな。そう言うお前もIS関係者だろう?」

 

「そうよ。たださぁ…IS関係って、やたら禁止事項多いじゃん?機密だー、とか言って。あれが堅苦しくてしょうがないんだよ」

 

「ふっ、それはこちらだってそうだ。どこもそうだろうよ」

 

「や、でも結構気ぃ遣わない?」

 

「遣う」

 

だよねぇ。なんて感じでお互いゆるーく、しかし警戒しながら話を続けていると、俺の元にブルマンが。マドカちゃんの元にカプチーノが、それぞれケーキと共に来た。しばし無言。

あ、ブルーマウンテンのかおりがいい感じ。あれだよね。ブルーマウンテンは日本くらいとか言われてるけど、日本人に多分合うんだよ。個人的には好き。ちょっと高い気はするけど。ちなみにめちゃくちゃ高いブルーマウンテンはだいたい美味しくない。あれなんでなんだろうね。

向かいを見ると、カプチーノを両手で抱えてほっこりしながらちびちび飲んでるマドカちゃんが。なにこの小動物。かわいい。多分亡国機業所属だから敵だけど。

 

ケーキも食べ終わり、少しリラックスしたところで再び雑談。と言っても、お互い仕事関係のことは話せないので話題はあっちゃこっちゃする。

 

「…で、職場に君によく似た人がいる訳よ」

 

「さっきも言っていたな。どんな奴だ」

 

(ここで織斑千冬の名前が出てきたらこいつは要注意、だな。姉さん…)

 

「いや、それがね?お酒が好きなんだけどさ。この前飲みに行ったんだよ」

 

(酒好きか。…姉さんも酒好きだったはず)

 

「それで出てきたのが『私だって恋愛したいんだよ!』だよ?思わず笑っちゃってさあ」

 

(姉さ…ん?姉さんじゃないのか?凛々しい、とか家事がだらしない、なら姉さんの可能性があるんだが…。まさか恋愛したいなんて言うとは思えない)

 

(ふっ、マドカちゃんは間違いなく織斑先生のことを意識するはず。ならばここでは、織斑先生を連想しやすいことを言うのは悪手!そうですよね、アンサートーカー先生!)

答:YES

 

「ああ、それとも花見した時にはメイド服の写真も(束に)見せてもらったよ!あれは可愛いかったね!」

 

「…メイド服?」

 

(おかしい、私によく似た人物がメイド服だと?姉さん…じゃないのか?いや、まさかな。しかし、姉さんがメイド服…。イメージ出来ん。やはり姉さんではないのか。私が気にし過ぎか)

 

(ふっふっふ、ちっふーがひたすらデータに残さないようにしていた黒歴史そのものだからな!まさか件の人物が織斑千冬その人とは思うまい!)

 

「おや、メイド服に興味あるの?」

 

「ば、馬鹿者!メイド服になぞ…」

 

(いや、待てよ。メイド服、メイド服か。…どうだろう)

 

(およ?これはマジに興味あるパターン?どれ…)

 

「またまたー、そう言って実はメイド服とか、かわいい服装に興味あるんでしょー?」

 

ニヤニヤ。

 

「べ、別に…」

 

そう言って口をへの字に曲げながら俯いて顔を隠すマドカちゃん。ふむ、まあ潮時か。これくらいだな。

時計を見ると、2時55分。あ、ちょうどいい時間。

さてお会計お会計。そう思っていると、マドカちゃんが手を突き出している。なんぞ?

 

「ペンを貸せ」

 

そう言われたので、胸元にさしてあるペンを貸す。…今日この後学園から借りてきたパーツを返しに行くからあるけどさ。普通ペン持ち歩かないよマドカちゃん…。

マドカちゃんは自分の出したメモ帳になにやらサラサラと書き込んで、こちらへ渡して来た。何この数字。

 

「お前のようなヤツは嫌いじゃない。いつでも連絡しろ」

 

「あ、これ電話番号?」

 

「そのようなものだ。ああ、深夜は基本的に出れんぞ」

 

今いつでも連絡しろ言うたやん…。じゃあいつならええねん。

 

「そうだな…。昼頃なら大丈夫だ」

 

1時とか?

 

「それより少し早いくらいだな。1時だとギリギリ過ぎる。

…ああ、そうだ。貴様、名は」

 

「名前を聞く時は?」

 

「…ふっ、そうだな。マドカ、と呼べ」

 

「マドカちゃんね」

 

「ちゃんはやめろ。マドカでいい」

 

「わかったよ。マドカ。俺は鹿波。まあ、また機会があればまたどこかで」

 

(多分これからめっちゃ関わることになりそうな気がするけど)

 

「鹿波、鹿波か。よし。覚えたぞ。

では鹿波よ。またな」

 

そう言ってマドカちゃん改めマドカは出て行った。

あ、お会計…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにテーブルにマドカの分ちょい多めなお金は置かれていたので、俺は自分の分を支払ってカフェを出た。

やっぱりマドカいい子じゃない?




おかしい、私の初期プロットにはマドカちゃんがヒロインになるなんて全く想定してないぞ。どうしてこうなった


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その日その時あの場所で

作者も予想していなかったタイミングでマドカちゃんが登場してしまったので、急いで後付け
それゆえおかしな部分があるかもですが平にご容赦を。
おかしな部分があったらご指摘いただけたら幸いです


「なにっ」

 

「お、勝った」

 

「じゃあM、これお願いね。ああ、1500(ヒトゴーマルマル)になったら連絡があるから、そこからは次のミッションよ」

 

そう言ってスコールが私に指で挟んだメモを差し出してくる。ちっ。

私は荒々しくメモを受け取り、書かれたリストを見る。

リストには18種24個のISパーツが書き出されており、今回は少ないほうだと安堵する。

先ほどまで私、クソレズ(オータム)胡散臭BBA(スコール)でじゃんけんをしていた。月に一度の必要なパーツの調達である。初めて負けた…。クソ。

いつも通りオータムが行けばいいのだ。クソ。

これまでは当然こんな雑用はそこらへんの部下にやらせていたのだが、最近では国際IS委員会の乗っ取り、それに伴う各方面からの諜報戦やスパイの取り締まりなどで人員が不足。そのためIS学園からやや離れた場所に作る予定だった補給線兼非常時の前線基地を急遽計画を凍結。なんでも警備体制が確立できない、IS周辺の機材やら材料パーツ等の管理に充てられる人員がいないという。馬鹿どもめ。無能か。全く、使えない。

そして人材不足の煽りを受け、元々の予定地とは違うIS学園からやや離れた場所に資材庫を確保。警備の人員が取れない→じゃあ人が多い場所にして警備の代わりにしよう

とかいう意味のわからない理由で店の立ち並ぶ敷地に。

そして周りが店ばかりの中でものものしい資材庫は怪しい→じゃあ店舗形式にしよう。そうすればそこの人員不足は一般人を雇うことで解決できる!

というこれまた頭のおかしな理論が。そしてタイミングが良いのか悪いのか、そんな訳のわからない店舗でもIS関連の内容にさえしてしまえば国際IS委員会からの日本国への圧力で成立させられた。うち(亡国機業)の上層部は頭がおかしいに違いない。クソ、私の身体に入れられている監視用ナノマシンさえ無効に出来れば今すぐにでも潰してやるというのに…。

そして当然、店舗形式とはいえ実態は亡国機業の倉庫である。なので会員制ということにされ、一般人はここで物を買うことは出来ない。さらにパッと見では何の店かわからないようにし、人の出入りを制限。一般人は基本的に入ってこないようにされている。

…何故地下に店を構えるとか、入口で暗証番号が必要な形態にしなかったのか。どう考えてもその方が合理的だろう。しかしオータムもスコールすらも上層部の決定は覆すことが出来なかったらしい。クソ、上層部は本物の馬鹿か守銭奴しかおらんのか!

 

愚痴っていても仕方ない。私は黒一色の私服に着替え、最後に帽子をかぶって外に出る。私は見た目があの織斑千冬そっくりだからな。外出する時は自分の身をなるだけ隠す必要がある。まあ、この帽子のデザインは気に入っている。黒地にちりばめられた白い星(ホワイトスター)。まるで黒が星々の輝きを飲み込まんとするようで、なかなか悪くない。

 

 

そして私は目的地、『ISショップ ファントム』の店内に足を踏み入れる。…店舗名、安直すぎだろう。全く、こんな名前にしたのはどこのどいつだ?…ああ、上層部だったか。全く本当に下らない。さっさとこんなところ逃げ出したいものだ。

 

店に入り、メモに書かれたパーツリストのものをカゴの中にひょいひょいと入れていく。精算時には亡国機業のIDカードをかざすだけで精算されたことになる。まあ実際には金は動いておらず、誰が何のパーツを持ち出したかが記録されるだけだ。だからこの店に現金もキャッシュもクレジットも意味はない。そしてこの店に売上もない。この店を維持するだけで金は入ることなく飛んでいく。…まあそれでも秘密裏に資材庫を作り、警備体制を確立し、保守管理させるよりは安上がりらしいから、あながち悪い手ではないのかもしれない。上層部は馬鹿だが。

 

そして私が気付くと、私が取りたいパーツの棚の前には身長170㎝くらいの男が。邪魔だ。

 

「おい」

 

私がそう声をかけると男は振り向きこちらの方を向いた。…何故男がここに?したっぱがパーツの調達に来た可能性もあるか。いや、それにしてはやけにのんびりしている。亡国機業のしたっぱにはそんな余裕はない。

そうすると一般人か?一般人がこの店にいることは少ないが、いないという訳でもない。主に本気でガ○ダムやらロボットを制作しようとしている奴らだ。

そしてこの店では会員証扱いのカードがないと買えないことがわかると、およそ肩を落として出ていく。残念だったな。

目の前の男を見る。節くれだった手は大きく、ゴツゴツしている。普段から機械をいじっている者の手だ。そして佇まいは隙だらけだ。…やはり一般人か。

 

男は無言で脇に一歩どく。うむ、当然だ。わきまえているじゃないか。

そしてリストにあるパーツをちらりと確認し、探してみると、一番上のあたりにある。

…ぐっ。

…ぐぐーっ。

 

だ、駄目だ。手が届かん。初めてここへパーツを取りに来たが、後で文句を言っておこう。ちゃんと私が手の届く高さにしろと。ふざけるなよと。ふん。

 

 

「…取りたいのは、これかい」

 

そう言って突然横合いから手が伸びる。あ。

そう思っているうちに、先ほどの男がパーツを私に渡してきた。…うむ。これだな。

しかし先ほど強気で声をかけた手前、素直に礼を言うのも癪だ。

「…ふん」

つい帽子で顔を隠す。いや、隠す必要はないのだが。ちっ、やりにくい。こういうお人好しは、接し方がわからない。無視することに決めた。

 

そして次のパーツ。…またしても一番上、だと…。クソっ!ええい面倒な!

 

思いっ切り手を伸ばす。が。届きそうで届かん…っ!

むむぅ。ふぬーっ。

「…っく、ふっ…!」

思わず声が漏れる。く、もう少し…!

 

そうするとまた横合いから手が。…またこいつか。さっきからこの男、さりげなく私に手助けしてくるな。

今や男は一人で歩けばいつ冤罪をふっかけられて罪人にされるかわからんというに。それがわからん大馬鹿者か、それともそうはならない権力者か。もしくは絶対に切り抜けられる自信か能力があるのか。…ああ、弁護士資格を持っている、という可能性があるか。あれは社会的信用のある象徴みたいなものだからな。逆にやり込める。

それにしても、私を二度も手伝うとは。…はっ!まさかこいつ…!

 

「貴様、ロリコンか?」

 

だとしたら一刻も早くこの身を守らねば。まあISを使えば一瞬で制圧できるので、完全に冗談ではあるのだが。

 

「ちゃうわい」

 

なんだ、違ったか。残ね…いや、安心した。もしロリコンだったらこき使ってやろ…どうしようかと思ったが。

 

しかし、そうか。ならばまあ礼は言わねばなるまい。

そうは思うが、素直に礼を言うのも癪だし。まだこいつが本当にロリコンではないと確信していないし、などと心中言い訳しつつ、私の口から先に出た言葉は謝罪だった。

 

「すまんな」

 

そう胸を張る。…ま、まだ私の身体は成長中なんだ。怪しさ満点クソBBA(スコール)そろそろクレイジーサイコレズ(オータム)ほどの大きさではないが、決して私の限界はここではない!

(周りが大きいだけでマドカさんは決して小さくないです。具体的には楯無と同じくらいある)

 

あっ、こいつ私の胸をちらりとも見てない。ある意味逆にムカつくぞ、おい。

まあ、ロリコンではないというのも嘘ではなさそうだ。実際、そういう輩は視線や気配で分かる。まあ、礼くらいなら言っておくか。

 

「先ほどは助かったぞ。礼を言う」

 

そう言ってニヤリと笑う。フッ、決まったな。

そう思っていると目の前の男が吹き出した。

 

「ブフッ!」

 

…おいなんだその目。貴様ぶっ飛ばすぞ?

思わず半目で男を見る。こやつ、まだ笑ってやがる。口元隠してても目が笑ってんだよ、目が。…おい、いつまで笑っている。

結局しばらく男が落ち着くまで待つことになった。全く、すぐにでも私が使ってやろうと思っているのに、面倒なやつ。

 

「しかし、貴様のような男がなぜこんなところにいる。男はISには乗らんだろ」

 

どうせ一般人だろうが。あと、早く私の代わりに高いところにあるパーツを取る係になれ。もしくは踏み台でもいいぞ。

 

「ああ、このパーツが何のパーツか調べに来たんだよ」

 

そう言って、男はポケットから小さめのジップロ○クに入っているパーツを取り出した。どれ、見せてみろ。

…ふむ。打鉄かラファールの内部パーツだな。歯車の歯の数でどちらか分かる。

いちにーさん…ああ、これはラファールの方だな。だが、こんな内部パーツをどこで手に入れたんだコイツ。

 

「…ふむ。貴様、このパーツをどこで手に入れた?」

 

ストレートに聞いてみることにした。やはりまどろっこしいのは好かん。スコールあたりは大好きだが。面倒だ。

 

「ん?職場の秘密かな」

 

そう言って飄々とした態度の男。…何故職場のパーツを休日に私服姿でコイツは持っているんだ…。仮にこの男が勤めている企業が分かったら、私は絶対に買わんぞ。適当すぎだろう。危機管理が。

まあいい。

 

「ふん、まあいい。これはラファールの内部パーツだ。おそらくはスラスターユニットとコアユニットを繋ぐ動力系の部品だろう。まあ、私は専門ではないから詳しくないがな」

 

本当に詳しくなどない。私が詳しいのは私の使っているIS、サイレントゼフィルスのパーツが他の何のパーツで代替できるか、という程度だ。運が悪いとミッションの後で自分である程度整備しなければならん。そしてすぐにまたミッションに駆り出されるんだ。逃げ出したら絶対に許さん。私をこれほどまでこき使いおって…!

 

「そうか。ありがとう」

 

そう言って男はまっすぐこちらに笑顔を向けてきた。思わず顔が熱くなる。初めてまっすぐお礼なんて言われたぞ。こ、こういう時はどうすればいいんだ…。クソ、経験したことがないからわからん。クソ、ああ!顔が熱い!

結局私はふん、とそっぽを向いた。なぜかはわからないが、こいつは私のペースを掻き乱してくる。ああクソやりにくい!

 

そしたら男はくるっと背を向けて歩きだした。待てぃ。

そう思うより早く、私の手はなぜか奴のズボンを反射的に掴んでいた。何故かはわからんが、ナイスだ。まだこいつには高いところにあるパーツを取ってもらうことになるかもしれんのだ。逃さん。

 

「待て」

 

そう言うと、分かったから手を離そう?と言ってくる男。手を離す。…逃げるなよ?

一瞬男が逃げるかとも思ったが、別にそんな事はなかった。本当にこいつお人好しだな。見ず知らずの他人を手助けするだけでなく、呼び止められて待つとか。聖人か。嫌いじゃない。

 

「お前、この後時間はあるか」

 

例え無くても構わんから助…いや、手伝え。決して、けっして助けが欲しい訳ではない。勘違いするな。手伝わせてやろうと言っているんだ。

 

「そう言って、時間がないって答えても逃がさないんでしょ」

 

「む、よく分かったな」

 

なんでバレた。

私の答えに男はため息をつきながら答えた。

 

「君によく似た人を知ってるよ。…非っ常によく似た人をね」

 

私によく似た奴だと?馬鹿を言う。そんなのそうそうおらん。いるとして、姉さんくらいのものだ。まあ、それよりも、だ。

 

「ふん。私によく似た奴など数える程しかおらん。それより貴様、少し付き合え」

 

私がそう言うと、男はしばらく考えるように黙った後言った。

 

「どうせ、君が届かない所のパーツを取れって言うんだろ。店員さんに脚立を持ってきてもらえばいいじゃない。ねえ?」

 

はっ、馬鹿め。脚立?脚立だと?そんな、私が高いところにあるものを大々的に公表するようなことをしろと?ははっ、ふざけろ。絶対にお断りだ!それに、

 

「貴様がいれば事足りる。それならわざわざ脚立はいらんだろう?」

 

そう言ってハッ、と鼻で笑う。貴様は私の言うことを聞いていればいいんだ。そう思っていた。次の一言を聞くまでは。

 

「ふっ、さっきまで背伸びしてぷるぷるしていたお子様が何を言っているのやら…。取ってくださいお願いします、だろう?」

 

そう言ってイイ笑顔でこちらを見下ろしながら言う目の前の男。こ、こいつ…!性格ひん曲がっているな貴様!

思わず手に力が入る。クッソ…!

 

「くっ…」

 

言いたくない。なぜこんな奴にわざわざお願いしなければならんのだ。だが脚立はない。絶対ない。ぐうっ…。

 

 

「た、頼…む」

 

そう言うも、返ってきた声は無情だった。

 

「聞こえないなぁ!」

 

すごくイイ笑顔ではっきりと大きく言う目の前の男。

クソ、この野郎…!久しぶりに殺意を覚えるクソな性格。誰だ!こいつを聖人なんて言ったのは!最悪な一般人じゃないか!

 

くっ…!だが、脚立は嫌だ。絶対に後でスコールに馬鹿にされるに決まってる。こいつに頼むのも嫌だ、嫌だが…!くそおぉぉぉぉ!

 

「お、お願い…します…」

 

「仕方ないなあもー」

 

そう言ってやれやれー、なんて肩をすくめている。私がここまで殺意を抱く一般人は初めてだ…!

目の前の男を射殺さんばかりに睨み付ける。あ、あまりの悔しさに涙が…。

 

「覚えてろよ貴様…!」

 

まごうことなき本心である。絶対にいつかやり返してやる…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後はたまに男にパーツを取らせつつ、リストを消化していく。しかし店員かアルバイトかしらんが、ババア。今こいつは私が使用中だ。私のものだ!邪魔をするな。殺すぞ。

 

そしてこいつは精算まで私について来た。ふむ。まだ3時までは時間があるな。よし。

 

にんまりと心の中でほくそ笑みつつ店(に見せかけた倉庫)を出る。

ーーーだから待て。

無言で今度は奴の服を掴む。そして言う。

 

「待て。さっき言っただろう。時間はあるか、とな。しばらく付き合え」

 

そしたら服を捕まれたままこちらに顔だけ向けてくる。いかにもその顔は「えー」とでも言いたげな表情であったが、知らんな。付き合え。

 

何?拒否権?

あるわけないだろう。馬鹿め。

ちなみにここでイエスかはいと言わなかったら軽く鎖骨あたりを折ろうかと考えていた。

というか、何をさっきからうんうん唸っているんだ。ほら行くぞ。

 

そしたら男がこちらを向く。なんだ。

 

「ちょっと待った。何しに行くかを聞いてからじゃないと答えられない」

 

「ああ、なんだ。そんなことか。

何、簡単だ。3時頃になったら連絡が来ることになっているが、あいにくとこの辺りは詳しくなくてな。あと一時間足らず、時間を潰すのに付き合え」

 

それくらい構わんだろう。暇みたいだし。だから付き合え。

今の私は気分がいいからな。多少の支払いは気にせんぞ。貴様の分まで払うことはないが。

 

「良いけど、何するんだ」

 

なんだ、やはり問題はないな。よし。

 

「それは貴様に任せる。言っただろう、この辺りに何があるのか知らんのだ」

 

「じゃあコーヒー飲みに行くか」

 

コーヒーか。まあいい。

 

「好きにしろ」

 

 

そして私はこの男に連れられて適当なカフェへ。…意外にも、ちゃんと落ち着いた感じの店だった。こいつ、センスいいな。

(身の回りの比較対象がスコールとオータムなため、周りがひどすぎるだけです)

 

…こういう落ち着いた店は初めてで、ついキョロキョロしてしまった。む、こっちを見るな貴様。なぜ微笑ましい顔をする?

 

そして男が座ったテーブルの向かい側に座る。隣に座るなどありえん。あ、こいつもうメニュー見てやがる。私は無視か。おい。

 

「何頼むか決めた?」

 

そんな当たり前のように聞かれても困る。私はこういうところは初めてなんだぞ!

 

「い、いや、そのだな。何を頼めばいいんだ」

 

「コーヒーはブラックいける?」

 

「出来ればブラック以外で頼む」

 

あ、素で答えてしまった。まあいいか。

しかし姉さんはなぜあんな苦いものを飲めるんだ。…いや、きっと砂糖やミルクをどばどば淹れているにちがいない。きっとそうだ。うん。

 

そう思っていると男がいくつか候補を挙げた。む、カプチーノ、というのは聞いたことがあるぞ。それにしよう。ケーキはチーズケーキで。私は甘すぎず、くどくないケーキが好きなのだ。

 

注文が来るまでしばし雑談。しかしこいつ、こちらが触れてほしくない話題は全く振ってこない。…なぜそういう気遣いが出来るくせにあんなに性格がひどいんだ…。

そう思う。切に。まったく、私より性格ひどいんじゃないか。こいつに惚れるお人好しなぞ、この地球上には存在するまい。

 

注文したのが運ばれてきた。ふむ。カプチーノを一言。

おお。おおぉぉぉお。ちょっと熱いが、これはいい!

ふー、ふーと冷ましながら少しずつ飲む。うむ、これは悪くないな!コイツのセンスはなかなかだ。センスは。

 

そしてまだ3時まで時間があるので、飲みながらのんびり過ごす。さっきから思っていたが、こいつとこうやって過ごすのは意外と悪くない。けっして、決してこいつのことが気に入ったとかではないが。

 

そして話は私によく似た人物とやらのことに。しかし聞けば聞くほど似ているとは思えなくなってきた。

 

(恋愛…?メイド服…?)

 

しかしメイド服。メイド服か。

着てみたいとは思わないが、ああいうフリフリしたデザインの服にはほんの少しだけ興味がある。

目の前のコイツがニヤニヤとそのことでいじってきそうになったので言わないが。くそ、ほんとイイ性格してるなコイツ。ムカつく。死ね。

 

あっという間にコイツと過ごす時間は過ぎ去り、気付いた時には3時まであと5分。

ふむ。まだこいつがロリコンでないとは確認出来ていないし、もしISの関係者で亡国機業と敵対しているなら私のISにcallできる番号から逆探知を仕掛けてくるはず。

そう、これは罠だ。私がこいつと過ごしたいとかそう言うものでは断じてない。

そう思ってメモ帳を出す。あ、ペンがない。貸せ。

そして私はメモ帳の一番上に、私のサイレントゼフィルスに繋がる秘匿回線のナンバーを書き、メモ帳からちぎって手渡した。

ふん、なんだその呆けたツラは。もっとありがたそうにしろ。もしくはよろこべ。

その言葉は、私の思っていたよりもすんなりと出てきた。

 

 

「お前のようなヤツは嫌いじゃない。いつでも連絡しろ」

 

「あ、これ電話番号?」

 

「そのようなものだ。ああ、深夜は基本的に出れんぞ」

 

ミッションに出ているか寝ているからな。いつでもと言ったな、あれは嘘だ。

来いよ凡人!銃なんて捨ててかかってこい!

野郎オブクラッシャー!

コマンドーはなかなか良かった。

 

なに?いつならいいのかだと?ふむ。

朝は妖怪BBAとクソレズからの連絡があるし、午後からはだいたいミッションで世界中に出撃させられている。深夜は寝ている。…昼しかないな。私の自由時間無さすぎないか?

 

「そうだな…。昼頃なら大丈夫だ」

 

1時くらい?残念その時間からミッションに出撃だ。…ああ、そう言えば。

 

「それより少し早いくらいだな。1時だとギリギリ過ぎる。

…ああ、そうだ。貴様、名は」

 

「名前を聞く時は?」

 

…なるほど、私としたことが。そうだな。まずは名乗ろうか。私が私であるために。

 

「…ふっ、そうだな。マドカ、と呼べ」

 

「マドカちゃんね」

 

やめろ。ちゃん付けなぞ怖気が走る。

 

 

「ちゃんはやめろ。マドカでいい」

 

「わかったよ。マドカ。俺は鹿波。まあ、また機会があればまたどこかで」

 

うむ、それでいい。

 

「鹿波、鹿波か。よし。覚えたぞ。

では鹿波よ。またな」

 

そして私は店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次のミッションは」

 

「既にデータは送ったわ。…何か良いことでもあったかしら?」

 

「何を言っている」

 

「…いえ、何でもないわ。失敗だけはしないでね」

 

「ふん、戯け。誰に言っている。…これで全てか」

 

「ええ。さっさと向かって」

 

「ほざいていろ」

 

そう言って飛び立つMの背中を見送るスコール。

 

(あんなニヤニヤしてて何もないってことはないと思うけど。まあ、どうでもいいわね)



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【祝】50話突破してた記念のプール回・前編【50話】

こっそり活動報告で告知したら要望をいただいたので特別編
当然の如く特別編時空です
簪「…」


「あっ、鹿波さーん!こっちこっちー!」

 

そう言って手を振ってくる女の子の方向を見る。一番前には水色の髪をした更識楯無ことたっちゃん。今日は白いワンピースに麦わら帽子。サンダルは足首で一回り、指の付け根部分に一本、そしてそこから足首までを二本の幅広の…ひも?で固定されるやつ。ええい、説明しにくいな。誰かこのサンダルの名前を教えてくれ。楯無水着でググれば多分でるから。

その後ろにはいつも通りスーツ姿の織斑先生(ちっふー)、B☆RSそっくりの服装のマドカ。え、マドカそれコスプレじゃないよね?

たっちゃんの右にはラウラとシャルロット。ラウラは全体は水色、肩の辺りが紺の半袖Tシャツに黒のショートパンツ。サッカー少女みたいになってんぞ。かわいい。

シャルロットはオレンジのキャミソールに白の薄いニットかな?下はホットデニム。…あ、これ違う方のシャルロットの私服姿だ。シャルロット・デュノアがシャルロット・フェリルの私服を着てる。…いい。

 

あ、束は後で一夏君達と一緒に合流するらしい。真耶ちゃん?IS学園でお留守番してるよ。オータムやスコールと一緒に。ああ、轡木さんもいるか。

 

「やーみんな。待った?」

 

「嫁が最後だな」

 

「おう、すまんね。じゃあ行こうか」

 

「レッツゴー♪」

 

俺が皆に声をかけるとラウラが答えてくれた。あとたっちゃんのテンションが既にMAXになってる。待ってる間どんな感じの会話があったのか凄く気になる。

たっちゃんに左腕を、ラウラに右腕をそれぞれ取られながらプールへ。

ちなみにプールはあるリゾートホテルの屋上を貸し切り。束がどうしても赤の他人と一緒はあり得ないと駄々をこねるので、俺が手配した。まあ、最近は死蔵してた株がごりごり高くなり、配当金だけでも年間1200万近くになっているので平気。お金は(アンサートーカー先生さえいれば)勝手に増えるもの。うむ。

 

 

さて。とりあえずホテルに入ろうか。

ホテルの屋上にあるプール、そしてそのまま疲れても寝られるように最上階のスイートを貸し切ったのでチェックインしてエレベーターで向かう。ちなみに背中にはずっとシャルロットがぴったり張りついていた。シャルロットさん、そんなに俺の背中に顔を押しつけても何も起きないぞ。ちっふーはそんな俺達に呆れた視線を送ってくる。しゃあないやん。ちっふーたすてけ。あ、そっぽ向かれた。残念。

そのままマドカを見る。片眉をあげてこちらを…ああ、どうかしたのか?って感じだねあれは。別にどうもしてないです。ただ左腕がやーらかな2つの双丘に包まれているだけです。右腕?ああ、ラウラって体温高いからなのかあたたかいよ。胸?お察し。

 

さて、ホテルのボーイに案内されてやって来ました屋上の温水プール。サイドにはあの白いプールサイドチェアがいくつもあり、屋上と言いつつエリアの半分くらいはちゃんと屋根がある。急な雨も大丈夫である。

 

…ところでボーイさん。さっきのエントランスに富山の帝王居なかった?え?見間違い?おかしいな…。

 

まあいいや。とりあえず更衣室でお着替えしましょう。海パンやけどええやろ。多分。さてさて、一体女性陣はどんな水着でくるのかな。楽しみやね!

 

「は~い、お待たせ!」

 

真っ先に出てきたのはたっちゃん。

水色と青が交互に横ラインで入っているビキニ。胸元のリボンがキュート。あとはシースルーのパレオ。やりますねぇ!

 

「ね、どうかな?」

 

「似合ってるね!」

 

いや本当に。たっちゃんの場合、そこらのグラビアとでも勝負出来るプロポーションだからね。うん。だから俺の背中にしなだれかかるのはちょっとやめよう?ね?背中にほぼダイレクトに柔らかなのががががが。少しばかり刺激が強いよってなんか2つのポッチがあるうううう!ちょっとたっちゃん!何をトリップしてんの!耳元ではあはあするんじゃない!

ってことでちょっと強引にたっちゃんを振りほどく。全く、前屈みにならないといけなくなるところだったよ。たっちゃんは今日のプールでははあはあするの禁止ね。桃色空間になっちゃうから。

 

次に出てきたのはちっふー。お、チューブトップのやつ。胸元で半捻りしているのが扇情的でありながら黒の単色が大人っぽさを演出してるね。これは大人の色気ですわぁ…。ところでその手に持ってる水色パーカーは誰の?

 

「ああ、これか?お前の後ろで嘘泣きしてる奴のだ」

 

ああ、たっちゃんか。

それにしてもちっふー黒似合うね。綺麗だのう。

 

「貴様は枯れたじじいか?全く。…まあ、悪い気分ではないが」

 

ひゃっふう!ちっふーの照れ顔いただきましたー!いやー、一夏君がお姉ちゃん大好きっ子になるのもわかるわ。たまに見せる可愛さと普段の凛々しさのギャップがね。これもう凄い破壊力な訳ですよ。良いねえ。

 

そして今度は勢いよく誰かが飛び出してきた。ラウラかな?あ、違った。

 

「鹿波!やっほー!」

 

あらお久しぶりだね束。最近はめっきり見ないから、もう死んだかと思ってたよ。

 

「ひどくない!?」

 

あ、一夏君達はもうすぐ来るの?

 

「ああうん。荷物置いたらくるって。

…ところで私の水着の感想とかないの?」

 

んー?その…全身タイツ?みたいな何かをお前は水着と言い張る気か?まともな水着着ないの?

 

「これ?」

 

そうそう。その…夜空さんの水着みたいな露出ほぼゼロのそれ。感想もくそもねえよ。ねえちっふー。

 

「…」

 

あ、なんか

(頭が痛いな…。まったくこいつは…)

みたいな感じのこと思ってそう。そうだね。こんな奴に振り回されるとか本当にね。頭痛いよね。お疲れちっふー。

ぶーぶー言ってる束をプールに(ちっふーが)突き落とし、次の水着…じゃなくて次の子を待つ。ところでちっふー、さりげなく俺の隣にぴったり座ってどうしたの。あなた普段そんなことしないでしょうに。

 

「気にするな」

 

そう言われましても。あ、はい。分かりました。分かったから脇をつねらないで。痛い。痛いから。

 

「ふん」

 

原作ヒロインズほどの暴力じゃないとはいえ、痛いのは嫌いなんだよねえ…。あ、たっちゃんなでなでしてくれるのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいの。

 

そうして次に出てきたのはマドカ。ちっふーと同じく黒。これはホルターネックのビキニかな。胸元に大きめのリボン。下はショートパンツ。活動的な感じと躍動感がグッド!並ぶと多分ちっふーそっくり。でもちっふーのような大人の色気というよりは、落ち着いた感じの女子高生って感じだね。ええやん。

 

「ふん」

 

そう鼻を鳴らしてちっふーの隣へ。あら。やっぱりお姉ちゃん大好きなんかね。そう思っていたら背後から声がかかった。およ?

 

「鹿波さん、お待たせしました」

 

そう言って声をかけてきたのは一夏君。その後ろには箒ちゃんと鈴ちゃん、セシリアさんが。やあいらっしゃい。

 

「今日は私たちにも声をかけてくださったこと、感謝する」

 

箒ちゃんがそう言って頭を下げる。それにつられてか一夏君達も頭を下げてくる。別に気にせんでええよー。どうせなら皆で楽しくワイワイやろまい。のう?

 

「そういうわけにもいかないでしょ。そう思って、私達でお弁当作ってきたわよー」

 

そう言って(あんまり無い)胸を張る鈴ちゃん。あ、良ければ誰が作ってきたのか教えてもらっていい?セッシーのヤツは姫路さんのような殺人料理じゃないはずだけど、やっぱりその…ね?

 

「安心しろ、私と一夏と鈴で作ったものだ。味については保証するぞ」

 

ほっ。良かった。尊い犠牲は出なくて済むんだね。ていうか、一夏君達が遅くなったのはそれが理由?

 

「まあ、そうですね。あと、セシリアがちょっと寝坊したってのもありますけど」

 

「い、言わないで下さい…」

 

そう言って一夏君の服を引っ張っているセシリアだが、もう聞いちゃったんだけど。お寝坊しちゃったのかー、そうかー。

 

「うぅ…。その、すみません…」

 

あぁいや、別に特に気にしてないからいいよいいよ。あ、君らも着替えてくるといい。

 

「じゃ、失礼するわねー」

 

「あ、おい待てって鈴!」

 

そう言って駆け出した鈴ちゃんを追いかける一夏君。箒ちゃん、悪いけどよろしくねー?

 

「はい、では私たちも失礼します。セシリア、行くぞ」

 

先に走っていった二人の後を追いかける箒ちゃんとセッシー。お疲れ。ちなみにお弁当は屋内のテーブルにいくつかのバスケットと重箱で置かれていた。あれなら軽く十人前以上ありそう。まあ、お昼のお楽しみだね。

 

「嫁よ!待たせたな!」

 

ああ、ラウラかな。あんまり待ってた感じはないけど。

そして振り返ると左目に眼帯、そしてこの決めポーズ。ならばここはこう返すしかないな!

 

「遅かったじゃないか」

 

「嫁よ。それはジャックの方か?」

 

まさかそっちまで網羅してるのか…。俺が密かに戦慄していると、ラウラがこちらへ走り寄って来た。プールサイドは走っちゃいけません。

そして俺の目の前まで来ると、仁王立ちして俺の顔を見上げてきた。その顔には

(さあ嫁よ!褒めるが良い!)

と書いてあるかのようだ。ふむ。

ラウラはその銀髪をツインテールにしており、非常に可愛らしくまた愛くるしい感じになっている。水着は白のタンキニタイプで、余計な飾りなど不要と言わんばかりのシンプルなもの。うむ。良い。とても良い。可愛らしい足元の水色のビーサンが小さくてそそる。…はっ、俺は何を。

 

「可愛いよ」

 

そうとしか言えない。それも水着が、ではなく水着を来てはしゃいじゃうラウラが、であるが。

とりあえず頭をぽんぽんなでなでしておく。むふーっとするのも可愛い。あぁ^~。

ラウラをあやしつつ、シャルロットが出てくるのを待つ。あれ、あとシャルロットだけだよね?

 

「お、おまたせ」

 

そう言って可愛い出てきたシャルロットは可愛い顔を真っ赤にしていた可愛い。白無地のチューブトップに白のパーカー可愛い、下は白のトランクス可愛い。ちょっとパーカーが袖あまりになっているのもポイント高い可愛い。あかんこの子本気出してきてる。可愛い。そうとしか言えぬ。あかん。あかん。誰か俺に語彙を下さい。

 

「ど、どう…かな」

 

そう言って両手の指を合わせこちらをちらちらと頬を赤く染めたまま見てくるシャルロット。すごく…可愛いです…!我が人生に一片の悔いなし…!

そう思ってぐっ、と親指を立てる。ビューティホー…。

あ、足元は3㎝くらいの厚底のサンダル。つま先だけ固定するタイプで、ヒモの部分がバッテンマークみたいなやつ。今のシャルロットの姿は全てが俺にストライク。この子は俺をどうしたいんだ…!くっそう可愛すぎる。お持ち帰りしたい。

そう思って心の中でシャルロットに悶えていると、ラウラが俺の海パンを引っ張りながら俺を見上げてきた。こら、海パンを引っ張るのはやめなさい。

 

「嫁よ、泳ぐぞ!競争だ!」

 

そう言ってラウラは俺をプールに引っ張っていく。ああ、もう少しシャルロットの姿を見ていたいのに…。あ、シャルロットが笑いながら小さくこっちに手を振ってる、きゃわわ。

さて、ラウラと共に飛び込み台の上に立つ。勝負は三本先取の25メートル自由型。しかしラウラは軍人だからな。これ俺勝てるか?まあ、やるからには全力で行く。

審判はシャルロット。スタートの合図はちっふーにお願いした。何故かちっふーの後ろにマドカが付いて回ってるけど、まあ大したことじゃないので割愛。

 

「では準備は良いな?よし。

 

…開始!」

 

ちっふーの合図と共に水中へ。最初にやるべきことは力まないこと。クロールは腕をのびのびとしなやかに、そして腕を置いた位置に体を持っていくイメージで…!

壁にタッチ!ぷはぁ。どうだ?

隣を見ると、既にラウラの姿が。勝ったとしても負けたにしても僅差だが、ギリギリ勝ったんじゃないか?シャルロットさーん?

 

「鹿波さん、一本先取ー♪」

 

ぃよっしゃ!よしよし、幸先良いぞー。ラウラはあまり悔しげな感じはしていない。おそらく体力に自信があるのだろう、この後取り返してやろうという気配が見てとれる。はっ、見てろよ?俺は負けるのが死ぬほど嫌いなのだ。ストレートとまではいかずとも、絶対に勝ってやるからな。

一旦プールサイドに上がり、息を整えながら飛び込み台に歩いて戻る。視界の端に水着姿の一夏君達が見えたけど無視。勝負が全て。一夏君が相変わらずぼこぼこにされていようが知ったことではない…!

 

さあ、二本目だ。ここは重要。やはり息を整えて飛び込み台の上に立つ。さあ、ここが勝負。力みすぎずしかし集中力を研ぎ澄ませて…。

 

「…開始っ!」

 

か、が聞こえたあたりから身体は宙へ。そして一瞬の浮遊感。すぐさま水の重さが身体を包み込む。さあ、ここが正念場!しなやかに、力強く腕を伸ばせ!クロールの大半は腕のかきが勝利への鍵だ!っしゃあああ!

 

タッチ!ぷはぁっ!さっきよりも息がキツい。しかし負けるのだけは死んでも嫌だ。俺は負けず嫌いなのだ。息を整えていると、シャルロットが俺たちの前に。どっちだ?またしてもほぼ同時だったのか、気がついた時にはラウラは隣で俺と同じように息を整えていたからな。どっちだ?どっちなんだ?

 

「今のも鹿波さんの勝ちかな」

 

よおおおおおっし!リーチやぁ!あと一本!

さすがにラウラが悔しそうにしている。おそらく次は本気で全身全霊をかけてくるだろう。そして三本以上にもつれこんでしまえば、体力の基礎が違う分だけおそらく俺が不利。つまり、事実上の決戦だ。次を俺がとれば俺の勝ち。次をラウラがとれば、おそらくじり貧で俺が負ける。絶対に負けられん…!

ラウラと共にプールを上がり、息を整えて再び飛び込み台へ戻る。一夏君達がはしゃいでいる中、俺とラウラの周りには大会の決勝のようなはりつめた雰囲気がある。負けられん、負けられんぞ…!大人として…男として!断じて負けられん!くっそうちっふーが相手なら素直に諦められるのになぁ…。

 

さあ、ここが勝負。大きく息を吐く。そして飛び込み台へ。セット。

 

「では、三本目。用意。

…開始!」

 

いざ水中へ。まずい、出遅れたか!?飛び込んで水中で少しずつ焦る。くっ、ここで負ければ死ぬぞ!急げ!急ぐんだ!うおおおお!

タッチ!どうだ!?

はあはあ言いながら俺たちの前に来るシャルロットを二人して見上げる。くそ、海パンじゃなくてスパッツにするべきだったか。だぼだぼ感が勝利への邪魔に感じる。

結果は?

 

「うーん、今のはラウラの勝ちだね」

 

「…ふん」

 

そう言って嬉しそうに鼻を鳴らすラウラ。くっ…!これはまずい、非常にまずいぞ。これ、勝てるか?怪しくなってきたな、くそ…。

落ち着きを取り戻すため、プールサイドに上がり一つ深呼吸。…よし。まだだ。まだあと一本はいける。ただひたすらに、おだやかに、のびやかに。しなやかかつ繊細に、そして大胆に。さあ、ゆくぞ!

 

心臓がばくばくとうるさいのを感じながら、ただ水の中の重さを思う。ただひたすらに、水中にあるイメージ。

そして飛び込み台へ。周りの音は聞こえない。一夏君達もこちらを観戦しているんだろうか。耳をすます。ちっふー早く合図くれ。はよ。

 

「…開始っ!」

 

はじかれたように水中へ。よし、イメージ通り。あとは腕を!伸ばして!力強く!かく!うおおおお!いけええええ!

足が重い。身体が沈むかのような錯覚。大丈夫だ、大丈夫。だから力一杯突き進めぇぇぇぇぇ!あと5メートル!この距離が長い!ああああ!

 

タッチ!すぐ横を見るとラウラがいた。あっ…!

くそう。これだけやっても勝てんのか。くそう。くそう。悔しい…!あ、ちょっと目頭が熱い。泣きそう。く、悔しくなんかないもん!

ゴーグルを外し、涙をごまかすため顔をばしゃばしゃ。そしてシャルロットが近づいてくる。へっ、どうせ負けましたよ…。

 

「鹿波さん、おめでとう!」

 

そう思っていたところにかけられる、シャルロットの言葉。は?

最初は意味がわからなかった。え、だってさっきラウラ俺よりも先に居たじゃん。そう思ってラウラの方を見ると、ふてくされた顔でぷいっと顔をそらされた。え?マジで。間違いとかじゃないの?

そう思ったのでシャルロットに聞く。

 

「え、本当に俺?」

 

「うん、お疲れ様。ラウラもお疲れ」

 

そう言ってシャルロットがにっこりと笑い、ラウラにも労いの言葉をかけたところでようやく実感がわく。…そうか、勝ったのか…!勝ったんだ。

 

「っしゃあ!」

 

つい声に出る。ラウラには悪いが、これは嬉しい。いやー、もうやらねえ。こんな疲れること絶対にやらねえ。

あ、足元がふらつく…。プールサイドに上がったとたん、ふらっとよろけそうになった。すかさず支えてくれるシャル。す、すまん。

 

「鹿波さん、お疲れ様」

 

そう言ってふんわりと笑いながら支えてくれるシャルロットと共に、プールサイドチェアにかくんと腰を落とす。はあ、疲れたー…そして勝ったぁ…!っしゃあああ…!あー、これは心地よい疲労感。あ、ラウラが一夏君に勝負を仕掛けに行ってる。よっぽど悔しかったんやね。わかるよー。

 

「はいこれ」

 

お、ポカリ。ありがとー。

 

「どういたしまして」

 

そう言ってにっこりと優しく笑うシャルロット。ああ、今の疲れた状態ですぐ横には優しくて最高に可愛い美少女(シャルロット)。最っ高だねえ!(ただの嫁自慢)

そう思っていたら、ちっふーがマドカを連れてやって来た。どしたん?

 

「ああ、お前ではない。なに、マドカのやつが『姉さんには若さの力というものを教えてあげましょう』などとほざくものだからな。私もお前と同い年の意地と、年上の魅力というものを教えてやろうと思ってな。

そういうわけでシャルロットは借りるぞ」

 

さいですか。シャルロットが俺の方を見る。ああ、うん。行っておいで。

そう思って頷くと、シャルロットもこくんと頷いてゴール側へ。…ふう、勝者の余裕をぶちかまし、勝利の余韻にひたりつつプールでの熾烈な争いを眺める。ああ、いい…!

あら、一夏君ラウラにストレート負けだ。おいおい、俺よりも若いんだから頑張れよ。と思ってたけど、ゴールで判定をしてた鈴ちゃんに蹴られる一夏君を見てたらそんな思いは霧消した。憐れ。てか、俺とのガチバトル後なのにラウラ強えな。本当に体力お化けか。最初に二本先取出来てなかったら負けてたな、俺。マジで薄氷の上の勝利だったのか。セーフ。俺の意地とわずかなプライドは守られた。いやー危なかった。

お、ちっふーとマドカが一進一退の攻防してる。さっきはちっふーがとってたけど、今のはマドカの勝ちだな。これで一勝一敗ずつか。ていうか二人ともなんかめっちゃ早くない?これ25メートルプールでしょ?なんで二人とも10秒かからず向こう岸までたどり着けるんですかね…。世界でも狙えそうな気がする。や、世界記録とか知らないけどさ。あ、合図はたっちゃんがやってたのか。いつの間に。

お、一夏君達の方は合図に一夏君、ゴールにラウラで箒ちゃん、鈴ちゃん、セッシーが並んでる。ああ、また一夏君を賭けて何かやってるのね。うーん、いつでもこうやって一夏君にひどいことしないで争ってればいいのにね。乙女心はわかりませんなぁ。俺だけかもしれんが。

 

あ、ちなみに束は俺から見てプールの向こう側、屋根のある屋内側のプールサイドチェアでぐーたらしてる。いつものメカミミカチューシャにグラサンをかけて腕を頭の下に組んでやがる。あ、いつの間にか水着がアメリカ模様の三角ビキニになってる。優雅に脚を組みながら、グラスに入ったジュースをストローからずるずるやってるその様は、まごうことなきヤンキースタイル。ああ、あいつが俺の連れとか信じたくないな…。今だけでいいから他人のふりしたい。だからこっちむいて手を振るんじゃねえクソ兎。ハァーイじゃねえよ。うぜえ。

 

あ、ちっふーとマドカが終わったっぽい。え、ちっふーが3対1で勝ち?強え。さすがちっふー、略してさすちふ。お姉ちゃんの貫禄…。いや威厳か?何にせよ、大人の意地とプライドは守られましたか。さすが。

と思っていたらちっふーが俺の隣に。いや、そこにもう一つチェアあるやん。なして俺の座ってるチェアに尻のせてんの。ナイスヒップ。眼福。まあここのチェアでかいからいいけどさ。

とりあえずお疲れ。どうだった。

 

「うむ、ストレートで負かしてやるつもりだったんだがな。予想以上に抵抗してきた。まあ、勝ったからよしとしよう」

 

お、おう。ストレートで負かしてやるつもりだったのか…。これは、マドカを持ってしても言った言葉に近い結果を出すちっふーが凄いのか、世界最強さんから一度でも勝つマドカが凄いのか…。まあどっちもかな。て、おい。いきなりこっちに倒れこんでどしたし。

 

「ふっ、勝者には褒美くらいないとダメだろう?」

 

そう言って俺の膝に頭をのせてくるちっふー。あ、胸元に光る水滴がまたふつくしい…。てか、その理屈だと俺にもご褒美もらえなきゃダメなんですがそれは。あ、ちっふーのおっぱい触っていいとか?

 

「たわけ。私に膝枕出来るんだ、褒美としては充分だろう?」

 

やーいちっふー顔赤くなってやんのー。恥ずかしがるなら言わなきゃいいのに。いや、これは膝枕してもらうという、ちっふー的に大胆な行動をしたから顔を赤くしていると見た。ふむ。えい。

 

「…なんだこの手は」

 

ちっふーのおでこに肘をつく。うーん、何か違う。ちっふーの頬をなでる。疲れた。あ、ちっふーの首もとに手をてきとーに投げ出す感じになった。放置。

 

そのままぼーっとしていると、ふいにちっふーが首もとの俺の手を握ってきた。あ、冷たい。身体冷やすなよ。

 

「ふん、お前の手があたたかいんだ。心配には及ばんさ」

 

みんなそれ言うよね。俺の手とか身体があったかいって。普通だと思うんだけど。謎である。

 

しばらくして、一夏ラヴァーズの勝負も終わり、皆でお昼ご飯を食べることにした。ちなみに勝ったのはセッシー。ご飯を一夏君にあーんしてもらってた。ひゅーひゅー、お熱いねえ。




まさかの前後半になりそうなので分割。


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【祝】50話突破してた記念の特別回・後編【50話】

地味にサブタイ変わってるけど誰も気にせーへんからへーきへーき


皆で仲良くお昼ご飯を食べた後。セッシーことセシリアたんが

「『カラオケ』とはなんですの?」

と言っていたので、ホテルの機材を借りてカラオケ大会に。

と言っても俺はもう既に半分くらいお疲れでおねむだったので、一曲だけだ。曲はブルーハーツの『人にやさしく』。ブルハはいいよ、うん。ちっふーもブルハ好きということが判明してちょっと嬉しかった。

でもねちっふー。君の美貌と凛々しさで『皆殺しのメロディ』はちょっと破壊力ありすぎかな。うん。

そのちっふーは他に『夢見る少女じゃいられない』、シャルロットは『心拍数0822』と『time after time』。シャルロット、ボーカロイド聞くんだ…。意外である。シンディはいいよなぁ…。シャルロットの優しげな声色と相まって、つい寝てしまいそうになった。子守歌かな?破壊力ばつ牛ン。ふ、ふつくしい…。

束?あいつは不特定多数と行動をともにするとか無理なタイプだからね。多分ダーツでもやりに行ってるんじゃないかな。知らないけど。

件のセッシーはビートルズの『lady Madonna』を熱唱してた。セッシーの美声で歌われるレディマドンナも悪くない。ただ、やはり本家は偉大だなあと思ったのみである。個人的にはオブラディオブラダとかtwist and shoutなんかも好きなんだ。

ちなみにラウラははしゃぎ疲れたのか、お昼寝ちうである。それはもう、くかーっと広いベッドを独り占めして大の字で。

あの子はこう、ちっちゃいカラダと相まって本当にちみっこの相手してる気分になる時がある。きゃわいいよね。しつけのなってないクソガキは嫌いだが。周りのことを考えられる優しいちみっことか可愛くない?保護したくなるというか。はっ、これが母性本能…。いや俺男だし。じゃあ父性本能?父性本能ってあるのか…?まあいいや。

たっちゃんはホイットニーヒューストンの『I always love you』。しかし俺に熱視線を送られてもどうしろと。

マドカはビリヤードしに行った。束といいマドカといい、自由な奴が多いよね。俺の周りって。いや俺としてはあまり大人数すぎてもうざったいので助かるけど。一人ないし少人数が一番楽。本当に。ただし気の合う奴かお互いを思いやることが出来る奴に限る。脚を引っ張ってくる奴は正直敵だと思っている。

鈴ちゃんは日本に居た時期が長かった故か、俺も聞いたことのあるJ-POP中心にいろいろ歌っていた。でも鈴ちゃん、中島みゆきさんの『時代』とか君いつ生まれよ。マジで。俺それ原曲すら聞いたことないよ?

一夏君は俺好みのアニソンメドレーしてた。ハルヒとか懐かしいな。けど君、今のアニソンよりも古めのやつ多いね?イニシャルDとか俺リアルタイムで見てないよ?

でも時を刻む唄は良い。素晴らしい選曲だ。あと癒月さんのyou。最高である。ボーカルが一夏君じゃなければ。

モッピーは徹頭徹尾演歌でした。ごめん、演歌は詳しくないんや。全然わからんかった。でも最後に回レ!雪月花をアンコールしたら歌ってくれた。演歌以外もいけたのね。

 

そして最後に何故か俺と一夏君で『前前前世』をデュエットすることに。皆めっちゃ静かにしてたからすっごい緊張したんですけど!?何故だ。

しかし俺以外皆美声というね。なんや、君らの中には声優さんでも入ってんのか。俺だけ普通の声でなんか疎外感。どうせなら低い声でも大塚さんみたいな渋い声なら良かったのになぁ…。アッキーオ。スネークもガトーも渋いよねぇ。格好いいと思います(小並感)。

 

さて、セッシーが満足したところで。俺さ、疲れたんだ。こんなんじゃ俺、昼寝したくなっちまうよ…。

てことで一足先にベッドでお昼寝。ラウラ?男女で別の部屋取ってますから。違う部屋の違うベッドでお互いにぐーすかですよ。寝た。

で、夕飯前になったらしいから起きる。起こしに来てくれたのは一夏君。ところで一夏君、俺にかかってたタオルケット誰がやってくれたか知らない?知らないか。そうだよね。

IS学園ならこういう時はだいたいたっちゃんなんだよね。今回もたっちゃんかな?

教えてアンサートーカー先生!

答:NO

ありゃ。じゃあ誰ですか先生!

答:シャルロット・デュノア

あら、シャルロットだったか。あれかな、ラウラの様子を見に来た時にでもついでに来てくれたんだろうか。多分そうだな。うん。

 

で、一夏君。結局俺が昼寝してた間何してたの?

ふむふむ。卓球大会にボウリングとな。面白そうだな。疲れてなければ参加したのに…。残念。

え?参加しない方が良かった?どうしてさ。

あー、一夏君は箒ちゃん、鈴ちゃん、セッシーとでリーグ戦したのな。ほーん。お疲れ。

で、リーグ内で一位を取ったら誰かに何かひとつ、言うことを聞いてもらえる?まあ簡単な王様ゲームみたいなもんやね。それで?どうなったの?

 

ほほう、卓球大会が一夏君の優勝。で、保留か。まあ君の場合そうよね。

ボウリングでは箒ちゃんと鈴ちゃんが接戦?ほうほう、で一位は?鈴ちゃん?じゃあまあまだ大丈夫そうな感じじゃん。何が嫌だったのさ。

え?

箒ちゃんとセッシーがメンチ切り出した?しかも最終的にはホテルの上空でISバトルしそうなところまで行った?え。あかんやん。やめてよ。

ああ、ちっふーがちゃんと止めてくれたのね。良かったー、本当に。マジで良かった。俺このホテルに出禁とか嫌だしね。あ、そして一夏君まで何故か怒られた、と。御愁傷様というか、乙。そら嫌な思いしたな。よしよし。まあうまいもん食べて元気出しなよ。次夕食でしょ?

 

そういえばちっふーとかシャルロット、マドカと束は何してたんだろう。一夏君知ってるー?

あ、そっちも卓球大会?それもひたすら?球が見えなくなるレベルで束とちっふーがバトってた?へえ。

…一体何がそこまで彼女らを駆り立てたんだろう…。こんで俺に何かひとつお願いを聞いてもらう権利をかけてバトルしてた、とかだったら嫌だなぁ…。どうせ変なお願いなら聞かないけどさ。

 

さてさて夕食である。ディナーともいう。今回はコース料理らしいです。いやー、美味しそうな香りがしてますねぇ!楽しみやでぇ!

 

一夏君と共に食事のフロアへ。そこにある2つの円テーブルには、それぞれ箒ちゃん、鈴ちゃん、セッシー。もう片方の円テーブルにはちっふー、ラウラ、束、たっちゃん、シャルロット、マドカの順に既に座っていた。俺はちっふーとマドカの間の席に誘導された。ん?どしたのちっふー。

 

「やっと来たか。なに、先の卓球大会では私が優勝したからな。お前は私の隣だ」

 

あ、夕食の席を賭けて勝負してたのね。まあ、それくらいならいいんじゃない?

で、二位は?マドカ?

 

「ふっふっふ、束さんがちーちゃん以外に負けると思っているのかな?当然二位は私だぜー!」

 

ブイブイ!とか言いながら、テンション高くはしゃぐのは正面の束。わざわざ正面を希望したのか?でも人数的に完全な正面じゃないというね。まあどうでもいいけど。

そういえば、テンションって本来は高い低いじゃないんだよね。張りの強さか何かだから。強い弱いだっけ?テニスのラケットとかの。

あと束。うるさい。

少し、頭冷やそうか。

 

「ふん、私が進んで貴様の横なぞ取るものか。本当なら私が姉さんの隣だったんだ」

 

あ、マドカがなんかぷぅ、と頬をふくらませてる。こいつ本当にお姉ちゃん好きな。むにむに。おお、素晴らしく手触りのよい。むにむにと柔らかなほっぺをお持ちで。うりうり。

 

「あ!嫁よ!何故そやつなのだ!やるなら私にやってくれ!」

 

そう言って身をテーブルに乗り出してきたのはラウラ。はいはいおとなしく座っててねー。あ、ちっふーナイス。おかんやな。

 

「おかん言うな」

 

すいません。睨まないでくだしあ。ねえ、本当にあなた俺の隣希望したの?うせやろ?

 

あ、シャルロットー。タオルケットありがとねー。

 

「ううん、気にしなくていいよ」

 

そう言って儚げに優しくふんわりと笑うシャルロットさん。ああ…。多分このメンバーの中で最大の常識人…。心が浄化されるようだぁ…。ちなみに次点はおそらくたっちゃん。さっきから静かにこっちに手を振ってるだけですませてくれるこの優しさよ…。

てか、なんで起きてそうそうこんな濃いメンツに囲まれねばならんのか。ねえ。マジで。俺が影うっすい感じじゃん。や、目立ちたい訳じゃないからいいけども。

 

さて、大人は高い酒をがばがばやりつつ(特に束がジュースみたいな勢いでウォッカを消費してた)。コース料理なので次々に美味しそうなのが出てくる。いいね。

しかし食べてる途中に思ってしまった。和食食いてえ。普段こういう洋食のコース料理とか頼まないからかな?旅館とかで懐石料理やら鍋つついてる方がなんか性に合う気がする。いや、うん。全部食べ終わってデザート楽しんでる奴が言うセリフじゃないね。旨かったです。はい。

 

さて、美味しい料理でお腹がふくれた後は大浴場へ。やたら一夏君が

「裸のつきあいしましょう!裸のつきあい!」

とか言ってきたけど、付き合いだよね?決して、まかり間違っても裸の突き合いじゃないよね?

…おにーさん、一夏君のこと信じてるからね。ホントだよ?

こそこそケツを隠しつつ大浴場へ。うむ。やはり風呂はいい…!ああー生き返るぅー…。

隣を見ると、いつの間にか一夏君が来ていた。…お、おかしいな。お風呂に入っているのに、体の震えが止まらない…!アッー!冗談です。

 

「鹿波さん、気持ちいいですね!」

 

「そーだねー」

 

あぁ^~こころがぴょんぴょんするんじゃ~^なんて。

ところで一夏君、やけにテンション高いね?(尻を隠しつつ)

 

「ええ、こうやって年上の男の人と風呂入るなんて初めてで…」

 

そう言って照れくさそうにする一夏君。疑ってごめんよ…。おにーさん、既に俗世にまみれちゃってるから…。

 

「夕飯はどうだったかな。お口に合った?」

 

「はい!あんな美味しい料理、なんていったら良いか…。本当に鹿波さん、ありがとうございます」

 

そう言って浴槽で頭を下げてくる一夏君。よせやい、別にそんなたいしたことじゃないさ。大した値段ではあったけど。楽しんでもらえれば、それが何よりだよ。そうは言ってもはにかんでこっちを見る一夏君。なんか照れるというか、調子狂うな。

 

あ、あっちにサウナある。

俺はそそくさとサウナに逃げ込んだ。ふう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、風呂も上がり、後は寝るだけなのだが。

こういう泊まりの時、寝る前にやることと言えば!そう!

猥談である!(違

とはいえ相手は超絶鈍感を地で行く一夏君。おそらく猥談をしようにも、ちっふー似の黒髪美人で気の強そうな女性が大好きみたいな話になるに決まっている。

なので、昨今の違った。最近のクラスでの様子を聞くことにした。普段どんな感じなのか知らないし。

 

「という訳で第一回!チキチキ大暴露大会ー!」

 

「鹿波さん、酔っぱらってますね?」

 

まあまあよいではないか。

 

「で、一夏君。最近の調子はどうだい。可愛い多数の女の子に囲まれて、もうここが俺のハーレムだぜーみたいな心になって来た?」

 

「何言ってるんですか…。まあ、可愛い女の子に囲まれて悪い気はしませんよ」

 

「お、やっぱりそうだよね!まあ、唯一の男故に大変なこともあるだろうけど、やっぱり楽園にいるようなものだからね!」

 

「いや、それが本当に大変なんですって!トイレは遠いし、周りからはいい匂いがするんですよ?それなのに生理的な反応が起きないように努めなきゃいけないんですからね?このつらさがわかりますか!」

 

「いやーわからんなぁー」

 

はっはっはー。とりあえず君の周りには箒ちゃんや鈴ちゃん、セッシーおるやろ。彼女達に相談し…無理やな。うん。

 

「で、一夏君。君は箒ちゃん、鈴ちゃん、セッシーの誰がいいのかね?」

 

「誰がって何ですか、まったく」

 

「じゃああれだ。箒ちゃんについてはどう思ってるの?」

 

「箒ですか。うーん…。やっぱり幼なじみですからね。わりと気安い感じはありますよ。ただ、ことあるごとに斬られそうになったり竹刀を振り回されるのが…」

 

「あらら。やっぱり今でも木刀やら竹刀で叩かれたりするの?」

 

「ええ、それはもう。本当に痛いんですよねー」

 

「あー…。一夏君は、やめてほしいことは箒ちゃんに言ってるんだよね?」

 

「当たり前ですよ。誰も叩かれて嬉しいわけないじゃないですか」

 

いや、ドMな人ならあるいは…。まあ、一夏君はMじゃないんだね。次。

 

「じゃあ鈴ちゃんは?」

 

「あー、鈴ですか。鈴はまあ、そうですね…」

 

お、これは脈アリか?鈴ちゃん頑張れ!応援してるぞ鈴ちゃん!鈴ちゃんなう!違った。

 

「ほら、差し入れしてくれるのは嬉しいんですよ。ただ、いつもいつも酢豚ばっかりだと飽きるというか…」

 

「え、毎回酢豚なの?」

 

うそやろ?マジで?それある意味拷問じゃね?酢豚地獄みたいな。

 

「はい、全部酢豚です。いや、美味しいんですよ?美味しいんですけど、毎回酢豚はちょっと…」

 

お、おう。ちょっとそれはヘヴィーですな。あ、それ以外はどうなのよ?

 

「それ以外ですか。そうですね、やっぱりあれですね。すぐに龍砲を撃ってくるのはやめてほしいですね」

 

え。

 

「それってISの武装じゃなかった?」

 

「そうですよ?」

 

そうですよ?じゃないって。それ下手したら死ぬやつだって。さすがは原作ヒロインズ。主人公を殺しにかかっているとしか思えないような殺意の高さである。正直俺が一夏君の立場だったら絶対既に何回も死んでると思います。本当に。しかしさっきから殺人未遂多いな…。

 

「ならセッシーは?」

 

「セシリアですか?」

 

うーん、としばらく悩むように中空を眺めて顎に手をやりながら考える一夏君。お、案外一番まともなのか?

 

「そうですね…。今のところ、ご飯がその…あれなこと以外は特には」

 

「ブルーティアーズで撃ってきたりは…」

 

「は、ないですね」

 

おお!まさかの一番まともそうなヒロインがセッシーとな!じゃああとは一夏君が料理教えてあげれば完璧じゃね!?

 

「じゃあ一夏君、セシリアのご飯がおいしくないことは言ってあげた?」

 

「それは、その…まだです」

 

そう言って決まり悪そうに視線を逸らす。けどね、それって言ってあげるのも優しさだと思う。

 

「それは言ってあげる方がいいんじゃないかな?セシリア女史だって、自分がよかれと思って渡した料理を実は相手に嫌がられてたとなれば、ねえ?」

 

「そうですね…。でも、そのなんていうか…」

 

どうせ『よかれと思って渡してくれてるからこそ、その笑顔を曇らせたくない』とか言うんだろ!それならずっと不味い飯食ってろ!

とは思うけど言わない。さすがに。いくら酔っぱらってても言っていいこと悪いことはあるだろうし。

 

「まあ、一夏君がそのまま現状を維持したいなら無理には言わないよ。ただ、自分が言わないという選択をしたなら文句言っちゃ駄目。セッシーに失礼だからね」

 

本当にな。

 

「わ、分かりました」

 

そう言って神妙に頷く一夏君。…こいつの場合、本当に分かってるのか怪しい時があるんだよなぁ…。ま、いっか。

そしてその後はラウラやシャルロットの普段の様子を聞いたり、他愛もない雑談に話は移っていった。ちっふーが恋愛したいらしい、と言った時の一夏君の顔は面白かった。凄い顔してたからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一回!チキチキ!」

 

「大暴露大会ー!」

 

「イエーイ!」

 

そんな声が女子部屋に響きわたる。はしゃいでいるのはそれぞれ、顔を赤くした千冬、同じく顔を赤くした束。そして合いの手を入れるのは更識楯無である。おいシリアスどこ行った。

シリアス?ああ、やつは死んだよ。ここにいるのはシリアルだ。さあ、スーパー爆裂タイム始まるよー!

 

「さて、まずは小娘ども!」

 

「「「は、はいっ!」」」

 

千冬が箒、鈴、セシリアを睨み付ける。その眼光はまさに野獣。野獣の眼光。野獣の眼光である!

 

「貴様ら、一夏のやつとどこまで行った。ん?さあ、洗いざらい全て話してもらおうか!」

 

「そうだそうだー!箒ちゃんがいっくんとキスとかしたのか、全部はけー!」

 

この酔っぱらい共やりたい放題である。しかしそこに新たな乱入者がまた一人。

 

「なにっ!?あの愚兄が好きだと!?正気か貴様ら!」

 

リトルちっふーことマドカのエントリー!相手は死ぬ!

 

「おや?マドカちゃんは、いっくんの事が嫌い?」

 

「当たり前DA!何故あんな、いいとこなしで鈍感なくせして女を手当たり次第にころころするやつなたど!」

 

言いたい放題のくせしてやけにリアルに的確にえぐってくるマドカ。すぐにでも反論しようとしていた箒、鈴、セシリアの開かれた口が閉じられる。そして気まずそうに逸らされる視線。心当たりがあったようだ。

 

 

「だいたいそもそもだなーーー」

 

「はーいマドカちゃんは束さんとあっちでお話しようねー♪」

 

「なっ!?HA☆NA☆SE!」

 

そしてマドカは束に引きずられて部屋の隅へ。ドナドナ。ドナドナである。

 

「で、だ。一夏のやつとデートくらいは行ったのか?

ん?」

 

そう言って缶ビール片手に脚を組んでいる様はまさに女王のごとし。なまめかしいおみ足がスカートから覗くが、ここには女ばかりである。無念。

 

「そ、その…」

 

赤面したまま口ごもるヒロインズ。ちなみに箒は一夏と共に水着を買いに行っている。ひそかにリード。

 

「ふん、なんだ。つまらん。

では、今から私は独り言を言うがーーー」

 

そう言って箒の顔を見る千冬(野獣)。箒の顔はまだ疑問符がいっぱいである。しかし、箒の顔が驚きに彩られることになる。

 

「ふん。鹿波のやつから聞いた話だ。

ーーーこの間の臨海学校。水着を新調したいという理由で私の弟(一夏)を買い物に誘ったやつがいたらしくてな。女ものの水着を選ぶセンスが分からない、という相談だったらしい。

なあ、ところでうちの弟のセンスはどうだったんだろうな?

ーーー篠ノ之?」

 

ニヤリ。その音が最もしっくりくるような、とてつもなくやらしい笑みを箒に向ける千冬。えぐい。最低の教師である。

そんな声をかけられた箒はと言えば、口をパクパクさせていた。バカな。何故その事を目の前の千冬さん(想い人の姉)が知っている。そんな顔である。

そしてその隣から肩をがっしり掴む手が。言わずもがな、鈴とセシリアである。

 

「その話。ちょぉぉぉっと詳しく聞かせてもらっていいかしら」

 

「ま・さ・か、拒んだりなんかしませんわよね…箒さん?」

 

「あ、あわわわわ…」

 

がっしりと体を捕まれ、箒は両隣の修羅(鈴とセシリア)に連行されて行った。哀れ。

 

「ふふ…」

 

そして悦に浸る千冬の後ろから、束の声が。

 

「で、そんなちーちゃんは鹿波とどこまで行ったのかな?かな?」

 

千冬が慌てて振り返ると、にっこり笑った束が両肩を掴んでいる。マドカ()は!?囮のやつはどうした!?

そして見えた。口から泡を吹いているマドカの姿を。一体何があったのか、白目を剥いてピクピクしている。あれではしばらく、現世に戻ってくることは叶うまい。そして目の前には、先の自分に勝るとも劣らぬほどニヤリと笑っている束が、捕食者の目で千冬を見ていた。これはやられる。

 

なんとかこの流れから逃れなければ。そう思うが既に時遅し。千冬の周りにはラウラ、シャルロット、楯無がじりじりとにじり寄って来ている。逃げられない!

 

「な、なんの…ことだ」

 

かろうじて声を振り絞る。しかし、その震える声はごまかすには到底冷静さが足りなかった。

 

「君らも気になるよねー?ちーちゃんと鹿波の関係?」

 

なんと、凡人が嫌いな束が凡人を相手してでも千冬を追い詰めに来ている。これは逃れられない。冷や汗をかきつつ、千冬はどうすれば一番傷が浅くできるか考えていた。浅ましい。

 

「嫁と教官の話とくれば、聞かないという訳には」

 

「鹿波さんに織斑先生が何かしたのかは確かめないと…」

 

「更識楯無の名において、鹿波さんに関わる物事はちゃんと把握しなきゃだし…ね♪」

 

そう言って千冬の体をがっしり固定する鹿波ヒロインズ(ラウラ、シャルロット、楯無)。千冬は先ほどから冷や汗が止まらない。ラウラはともかく、シャルロットと楯無はまずい。楯無はもはや好感度のメーターが振り切っているほどの鹿波LOVEだし、シャルロットに至っては忠誠心、親愛度ともにMAXである。どちらかというとシャルロットがまずい。鹿波に迷惑がかかりそうとなれば排除に動く、そんな危険さがある。まずい。逃げたい。

 

しかし現状は不利。目の前には厄介な(クソウサギ)。四肢はラウラ、シャルロット、楯無に封じられている。万事休す。

 

「さあさあちーちゃん、ぜーんぶ教えてほしいな?教えてくれないと、このーーー」

 

そう言って束が白衣のポケットからちらりと覗かせたのは、あられもない格好で自分を慰めている姿の自分(千冬)の写真。しかもあれは、鹿波と居酒屋に行ってぐだぐだに酔った後のやつでーーー!

 

「あああああああ!束!貴様!いつだ!いや、なんというものを貴様!ああああ!」

 

「うーん、ちーちゃんが自分から教えてくれないなら、束さんちょぉぉぉっとだけ手が滑っちゃうかもなー」

 

「くっ、くそぉぉぉぉぉ!言う!言うからその写真を寄越せぇぇぇぇぇ!」

 

「んー仕方ないなー」

 

そう言って、はい。と素直に写真を渡してくる束。ふと気付けば拘束されていたのはなくなっている。しかし、こいつがこんなすぐに渡すか?

写真を回りますには見えないように奪ってそう訝しんでいると、ふと束がこちらにイヤホンを差し出している。嫌な予感しかしない。

しかし確認しない訳にもいかぬとイヤホンを耳にさす。

そのとたん、いやらしい水音とともに、昂っている女の嬌声が聞こえてきた。

 

「あぁっ、鹿波、鹿波…!…っぅ、あぁっ、ぁぁぁ…!」

 

ガバッ!と束の方を見る。束は相変わらずニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべながらこちらを見ている。

こっ、これは写真よりも破壊力がまずい。むしろ、こんな自分の恥態を撮られているとは思ってもみなかった。

 

「束ぇぇぇぇぇぇ!」

 

「さーちーちゃんはどうするのかなー♪」

 

「言う!言います!言うからこのデータだけは消してくれぇぇぇぇぇ!」

 

そう言って束の襟首を握りながら頭が項垂れている千冬。ちなみにこの瞬間にも千冬と束のイヤホンからはいやらしい千冬の恥態がどんどん流れている。自殺ものである。何が恥ずかしくて自分の喘ぎ声を聞かなければならないのか。こんなものを流されるくらいならば鹿波への素直な気持ちを白状した方が一万倍楽である。千冬は諦めた。そして膝から崩れ落ちた。

 

しばらくして。

 

「…それで、お前たちが聞きたいこととは何だ」

 

千冬が落ち着いた辺りで、話を切り出した。千冬の周りには全員が集まっていた。皆興味津々である。千冬は人気者であった。

 

「じゃあまず私からー!ちーちゃんは、鹿波のことどう思ってるの?」

 

トップバッターは束。ストレートに千冬の鹿波に対する想いを聞いてきた。

 

「嫌いではない。以上だ」

 

それ以上話すことなどないと言わんばかりの態度である。しかし意外なことに、束はそれ以上何も言って来なかった。千冬としては不気味なことこの上ないが、束が思っていたのは以下の通りである。

 

(へーえ、ふーん、ほーお?あれだけ酒の後に鹿波の事を意識しながら自分を慰めておいて、『嫌いではない』?これ絶対ちーちゃん自分の気持ちに気付いてないやつだね!ってことは、いつかどこかのタイミングで自分の鹿波に対する感情を絶対自覚することになるわけで。うひょー!鹿波の事が好きだと自覚して顔を真っ赤にするちーちゃん萌えー!しかもちーちゃん自分の感情を表現するのホント不器用だからね!鹿波に好意を伝えたくて、伝わってほしいんだけど上手く表現できなくてやきもきするんだよ!手に取るように容易に想像できる…ハアハア、ジュルリ。おっとよだれが…)

 

束は今日も通常運転であった。

 

「はいはーい!次私!織斑先生はー、鹿波さんとどこまで行ったんですかー!」

 

二番、楯無。

これまたストレートに鹿波との進展具合を聞いてきた。しかし残念、未だ自分の気持ちに気付いていない千冬には効果は今一つであった。

 

「どこまでも何も、鹿波の奴とはそういう関係ではない」

 

そう言ってふてくされたような顔の千冬。そこにすかさずシャルロットからの追撃が入った。

 

「じゃあ、私達が鹿波さんと結ばれても織斑先生は邪魔しないってことですね」

 

シャルロットさん、ニコニコ笑顔で悪魔のようなことを言ってきますね。おや、千冬さんの顔色が悪いです。実際にそうなった時の様子を想像したのでしょうか?

それにしたってシャルロットさん、鹿波を攻略するつもり満々である。むしろ愛人でもいいから側に置いてほしいとか言いそうなまである。ぐいぐい行きますね。

 

「そ、それは…」

 

「む、教官に二言があるはず無いだろう。心配せずとも大丈夫だぞ、シャルロット」

 

そしてここでラウラからの(無意識下の)キラーパス。千冬は先ほどから黙っている。どうする千冬。どうなる千冬!

 

と、ここで再びの乱入者。マドカである。

 

「ふん、残念だがこれから貴様らに出番はない!次のメインヒロインはこの私!マドカだ!」

 

そう宣言した瞬間、マドカに突き刺さる10の瞳からの射殺さんばかりの視線。

 

「…ヒッ」

 

思わずひきつるマドカ。しかし残念、五人は既に動いていた。ちなみに箒、鈴、セシリアは既に部屋の隅に避難済みである。

 

その夜、一晩中とある女の笑い声が絶えなかったという。

くすぐりは中世から存在する拷問の一種であるが、今回のこととはきっと関係はないのであった。




滑り込みセーフ!

-追記-
たっちゃんの歌が抜けてたので修正しました


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臨海学校お礼編

本編


「スーパージャイアントスコーンッ!」

 

「いきなりどうしたの鹿波さん」

 

うん、特に意味はないんだたっちゃん。

さて、今俺は臨海学校でお世話になった旅館に織斑先生共々お礼をしに来ている。決してお礼参りではない。

俺の隣にいるのはたっちゃん。というか、今回の俺とちっふーのお仕事は臨海学校で不慮のアクシデントがあったことで迷惑をかけたことのお詫び。それとお世話になった礼、そして出来れば来年もよろしくお願いしたい、という交渉らしい。今ちっふーが旅館で多分女将さんとお話をしてる。

俺?原作の浜辺に来たならそりゃもう当然見に行くしかないよね!ってことで海へ。

そして海を見たら叫ばずにはいられなかった。スーパージャイアントスコーン!特に意味はありません。

今回のお仕事の護衛は更識家。旅館の周りでは更識家の人々が警護しているらしい。まったくわかんないけど。気配とか音とかしないし。さすがプロ。

千冬が女将さんから来年もオッケーだと行く返事がもらえたら、この後俺とちっふー、あとたっちゃんでオリエンテーリングのために雑木林を下見することになっている。

…たっちゃんもいつもの制服だし、ちっふーも普段通りスーツなんだけど、ちょっと君らアクティブすぎない?俺みたいに整備ツナギに白衣という、いつ汚れてもいい服装じゃない。うーん、やはりIS乗りで強い人々というのは、もう身のこなしから違うんだろうか。わからん。

 

あ、ちっふーが旅館から出てきた。

 

「お疲れ。どうだった」

 

「ああ、なんとか来年も許可をもらってこれた。まあ、来年も同じようなことがあれば考えさせてもらうと言われたがな」

 

はっはっは、と鷹揚に笑うちっふー。その考えさせてもらうって、絶対遠回しなお断りだよね。大丈夫なんか。

 

「ん?まあよほど心配いらんだろう。来年は一夏の奴がここに来る訳でもない」

 

あいつがいる場所ではトラブルばかりおきるからなーーー。

と、冗談なのか本気なのかよく分からないことを言う。まあなんでもいいよ。それよりはよ帰ろう。なんか嫌な予感するんだよね。特にちっふーがたっちゃんからISブレードを受け取ってぶんぶん振り回し始めたあたりから。

 

「ふん。お前がそう言うなら楯無に預けておくとしようか?」

 

そう言ってちっふーはたっちゃんにISブレードを返した。そもそもオリエンテーリングの下見にISブレードもったままとか絶対おかしくない?そんなに今回のお仕事危ないの?

そう思ってたっちゃんを見るが、たっちゃんは笑顔のままでこちらに首を傾げるだけである。まあ、何も言わずに以心伝心とか無理だよね。知ってた。

うーん、こういうときにはアンサートーカー先生探知型使用法だな。

 

説明しよう!

 

アンサートーカー先生探知型使用法とは、アンサートーカー先生に

『自分が生き延びるために最適な行動を示せ』

という質問を、頭の中に描き続けることである!

これにより、自らの生存率を高めるありとあらゆる行動が示される!

ただし問題点がいくつか。

一つは、現在時点で特に出来る事がない場合には、何の回答も示されない点。

そしてもう一つは、単純に、ずっと思い描いている必要があるため疲れる点である。

 

それらの欠点を除けば、『自らの生存率を高めるために』味方の気付いていない攻撃に対して、味方に回避命令が出せたり、また、視認出来ない、もしくは本来感知出来ないような攻撃(空気砲、衝撃砲、超超遠距離からの狙撃など)に対してすら回避行動や回避命令が出せる。非常に有用な使用法なのである。

ただし周りの人からは『なんでわかるんだコイツ』となってしまい、下手すると超能力研究所などにつれていかれて人体実験されかねないのがネックである。

それゆえ、なるべくなら使わないに越したことはない。更に言うなら、使っても何事もないのが最上である。

 

さて、アンサートーカー先生探知型使用法(以下先生探知)を頭の中に思い描いている間にちっふーはさっさと雑木林へ入ってしまった。たっちゃんが隣にいるのは、おそらく俺の方が護衛が必要だと判断したからだろう。

ぼやぼやしないでちっふーを追うとしましょうか。

 

千冬、いや織斑先生は鬱蒼としげる林の中を、ずんずん歩いていく。木と木の間はわりと余裕があり、三人くらいなら並んで通れそうな幅がある。歩きやすく、見通しが悪いというほどでもない。そして木と木の間に余裕があるからか、林の中は太陽の光がけっこう入ってくる。

そのため明るく、オリエンテーリングにはいいかもしれない。なるほど、これなら充分条件としてはよさそうだ。

あと、さっきから20分ほど歩き回っているのに景色がほとんど変わらない。多少の高低さはあるのだろうが、それも気にならない程度である。この林、けっこう、いやかなり広いな。

 

しばらくすると、広く拓けた場所に出た。うん、ここなら100人くらいは余裕で座れそうだ。お昼ご飯に良いね。広さはIS学園のアリーナくらいか?つまりここならIS同士の戦いも出来る。それくらい広い。

 

広場を一回り見終わったのか、ちっふーが戻ってきた。どしたん。…先生探知に感はなし。よし。

 

「ふむ…。楯無。どうだ」

 

「そうですね…。少し雑木林全体の規模が広いように感じます。とは言っても、生徒もみんな優秀ですし、引率者の先生が何人か居れば問題無いんじゃないでしょうか」

 

「そうだな。有事の対応については」

 

「この広場を避難場所として、教師の増員と専用機持ちを分散させることで何とかなると思います」

 

「よし。では、来年はここで…ん?」

 

なにやら二人が話しているうちに先生探知が来た。なになに、前方から8人。その後方から3機の敵性反応。…3機ってことはISですか?ISですか。あぁ…。来ちゃったか…。

敵は?8人が亡国機業の構成員。3機はそれぞれ、アラクネにゴールデンドーン、そしてテンペスタ。

アラクネはオータム、ゴールデンドーンはスコールだな。テンペスタは?アリーシャ・ジョセスターフ…?誰だ。とりあえずテンペスタは純格闘機だというのは分かった。あと先生、アリーシャのこれまでの詳細を表示されても確認する余裕はないです。

ん?オータムとスコールは林の前で停止したな。アリーシャはぐいぐいこっちに…?いや、林の中に入っているはずなのに速度が落ちていない?これは、林の上空か!

 

「楯無、ブレードを寄越せ」

 

そう言ってたっちゃんからISブレードを受けとる千冬。その目は俺達の前方、林の奥を睨んでいる。たっちゃんも既に自身のIS、ミステリアス・レイディを纏って臨戦体制である。

 

あ、何ですか先生。ふむ。上空注意告知。了解。

 

「千冬、楯無。敵は8人プラスIS3機。そのうち1機は上空だ。注意してくれ」

 

俺がそう言うと、千冬から言葉が返ってきた。

 

「何故貴様がそれがわかるのか、今は聞かん。が、後できっちり吐いてもらうぞ?」

 

「それは勘弁」

 

そう言うが早いか、千冬は前方から来た8人の構成員たちに向かっていった。黒い服に黒いマスク。…特撮かな?

今ちっふーが既に5人を無力化した。俺はISを纏った楯無越しにその様子を確認しつつ、アンサートーカー先生で敵の居場所、そして先生探知で自分のしなければいけないことに集中していた。

!!

上空から狙撃。回避。

 

「楯無上だ!」

 

エリック上田。それは死亡フラグなのでアウト。

楯無に回避するようそう言って、俺は攻撃範囲外へ勢いよく体を飛び込ませる。そして楯無が俺に一瞬遅れてその場を飛び退いた。

瞬間、一条の白い光の束が俺達の居た場所を吹き飛ばす。

おいおい、アリーシャってやつは近接特化のはずだろ!?なんでこんなゲロビみたいなやつを撃ってくるんだ!

答:一度限りの使い捨て型レーザを携帯

先に言ってよ先生!あと何本あるの!?

答:残り本数無し

あ、オータムとかスコールも同じようなやつ持ってたりしないよね!?

答:オータムは同型レーザを一本所持。スコールは広範囲殲滅型爆弾を複数所持

広範囲殲滅型爆弾って、つまりグレネードじゃん!何個!?

答:3個

はいありがとう先生!このへんの融通の聞かなさがほんと面倒ってああ、また回避か!

今度は真っ正直から俺と千冬を同一射線上に、先ほども見た白い光の束が飛んで来た。千冬は既に構成員たちを既に全員なぎ倒しており、広場の向こうに構成員たちを吹き飛ばしていた。今のがオータムの一本か。あとはスコールのグレネードがいつくるか、だな。

 

「楯無」

 

「何?」

 

「敵の中に高威力のグレネードを持っているやつがいる、注意して」

 

「了解」

 

短いやり取り。そして千冬の元にはアリーシャらしきISが、上空から勢いよく飛んで来た。

 

「ひっさしぶりだなァ、オイ!」

 

「貴様…アリーシャ・ジョセスターフか!」

 

勢いよく飛んで来たアリーシャのIS、テンペスタと千冬が打ち合う。アリーシャの姿は両手、両足に標準的な装甲。手には赤と緑のガントレット、両足はいかにも格闘用な短めの黒の装甲。一番近いのはシャルロットのラファールか?それを一回り格闘用に分厚くしてあるような攻撃的なカタチ。そして両肩近くに一対の浮遊ユニット。スラスター、もしくはブースターか?

 

しかし俺がゆっくりと攻めるアリーシャと生身で凌ぐ千冬の戦闘を見ていられたのはそこまでだった。

先生探知来た!

 

「楯無!来るぞ、左だ!」

 

真横から楯無に強襲してきたのはオータム。くそ、右からはスコールが来ている。俺は戦力にならないし、3対2か。不味いな!

 

「楯無、救援は!?」

 

「既に呼んだわ!」

 

ちっ、楯無がオータムとスコールの相手をしている。それゆえ、具体的に何分後に援護が来るかは言えないって感じか!

先生!何分?

答:5分

くそ、戦場の5分は長い!

お!先生探知!

 

「楯無!左下上!」

 

「っ!」

 

オータムの姿に隠れて左からスコールの狙撃。俺が伝えたことで楯無はギリギリそれに気付き、なんとか耐え凌ぐ。くそ、まだ一分も経ってない!早く!

 

「…へえ、さっきから目障りなのがいるわねっ!」

 

やばっ、スコールの奴こっちに狙いをつけて来やがった!ゴツい銃口がこちらを射抜く。

先生!ヘルプ!

くっ、うおおっ!危ねえ!避けるだけで精一杯だっつーの!

スコールはオータムが楯無を引き付けているからか、余裕の態度でこちらをちょくちょく狙ってくる。千冬の方にもたまに視線をやるが、千冬に撃つことはなかった。…?何でだ?

まあ、今はともかく回避に専念。なるべく的にならないように、先生探知の指示通りにちょこまかと位置取りを変えて楯無の気づけていない攻撃を予告する。あと2分…っ!

 

すると、突然スコールが攻撃の手を緩め、耳に手を当てた。…どこかと通信してるのか?なんにせよ、

 

「楯無今だ!」

 

「オッケー、行くわよ!」

 

楯無のISの武装は俺も全て知っている。共に作ったのだから当然だ。そして、ナノマシンを薄く散布させていたことは(先生のおかげで)知っていた。やるなら今!

 

清き熱情(クリア・パッション)!」

 

「!?…ちぃっ!」

 

莫大な熱量と衝撃がオータムとスコールを包みこむ。

しかしそれは決定打にはならなかったようで、爆煙の中からそれぞれ飛び出して来た。くっ、まだか、まだなのか!

しかしオータムとスコールはこちらの様子を伺うばかりで攻撃してこない。…何だ?

楯無は俺を守るようにこちらに背を向けてスコールを睨み付けている。その手に握るランスはピタリとスコールに向けられており、いつでも動き出せる臨戦体制のままだ。

向こうでは相変わらず、テンペスタの猛攻を凌ぐ千冬。しかしどうも旗色が悪い。あと一分、耐えてくれ…!

 

そしたらオータムが背を向けて飛んで行った。そして先生探知!スコールの手から3つのグレネードが。

そしてそのグレネードは真っ直ぐ俺の足元へ転がり、そしてーーーーー。

 

「鹿波さん!」

 

楯無の必死に焦ったような声が聞こえたとき、俺はとっさに頭を出来るだけ守ったまま。

意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここは」

 

知らない天井だ。いや知ってるけど。IS学園の保健室のベッドだろう。ここ、下手な病院よりも最新の設備揃ってるからな。本当に。

俺の全身には至るところに包帯がされていた。頭以外ほぼ全身。あー、グレネードってことは爆炎か。そうするとやけどかな。しばらく安静だねこりゃ。

そんな感じのことを考えていると、誰かが保健室のドアから入ってきた。

織斑先生だ。

 

「起きたか」

 

ええ、おかげさまで。あの後どうなったんです?

 

「あの後か。楯無が応戦していた両名ともに逃げられた。また、私が相手していたアリーシャ・ジョセスターフだが、しばらく追跡していたが途中から反応をロスト。おそらくは妨害電波かなにかによる細工だろう」

 

…逃げられましたか。

 

「ああ。また、捕らえた構成員から情報を聞き出しているが、何も重要な情報を知っている奴はいないようだ。おそらくは、使い捨ての人員だろう」

 

まったく頭が痛いことだ。

そう言って、俺のベッドの隣にある椅子に腰掛け、こちらを向く。あっはい。何でしょう。

 

「さて、お前には聞きたいことがある。

ーーー何故あの時、敵の人数とISの数が分かった?」

 

そう言って、嘘は許さんと言わんばかりの視線でこちらを睨み付けてくる織斑先生。うーん、どうしよう。

困った時の、アンサートーカー先生!

ここは正直に話すべきですか?最善の対処を教えてください!

答:NO

マジか。嘘つけと。誤魔化せと。…まあ、俺はアンサートーカー先生に全幅の信頼を置いている。やれと言われればやるまでよ!

と言う訳でアンサートーカー先生の指示する通りに対応することに。

 

「…そう、ですね。ちょっとばかし、荒唐無稽な話になるんですが。構いませんか?」

 

「構わん、話せ」

 

「では。…織斑先生。超能力、と言うのはご存知ですか。念動力とか、ああいうものです」

 

織斑先生が無言なので続ける。誤魔化しまくっているこっちは、心中冷や汗もんである。

 

「…僕のはあれの不完全な感じのものでしてね。自分の命に危機が発生した時のみ、自分の最善の対応が分かる時がある。と言うものです」

 

織斑先生が疑わしそうにこちらを見ている。うう、絶対疑ってるよ、これ…。

 

「…で、あの時は相手のうち、僕の命を脅かす可能性のある敵の数が十一。そしてそのうち、遠距離からの大型兵器の、つまり死にそうになる可能性の高い存在が3機でした。そのことから、敵の存在が分かったと言うことです」

 

そこまで言って、織斑先生を見る。織斑先生は目を閉じて、しばらくじっと考えていた。

そしてこちらを見て口を開く。

 

「…鹿波。本当のことを言え」

 

そして来るプレッシャー。だがしかし、先生の存在は更に上を行く。甘いぜ。

 

「…はあ。まったく…カマかけようったって無駄ですよ」

 

ちゃんと先生の指示通りに対処。わざとらしく呆れた物言いになったが、これが先生の指示なんだから多分大丈夫。

しばらくじっとこちらを疑わしそうに見ていたが、一つため息をついて織斑先生は立ち上がった。

 

「…ふん。まあいい。そういうことにしておいてやる。

…それと、お前の隣に置いてあるのは差し入れだ。後で礼を言っておけよ」

 

そう言って立ち去ろうとする織斑先生(千冬)。しかしアンサートーカー先生によって、差し入れの中に千冬がくれたものがあることは丸わかりというかバレバレである。それゆえ、俺は立ち去ろうとする千冬の背中に礼を言う。

 

「じゃ、ありがとうございます」

 

「…ふん」

 

そう一つ返し、千冬は振り向くことなく保健室から出ていった。…相変わらず、男前ですなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだったかね」

 

「ええ、見事にすっとぼけられましたよ」

 

所変わって学園長室。そこの学園長が座るはずの豪奢な席には、初老の男性が顔の前で手を組んで座っていた。いわゆるゲンドウのポーズである。決してマダオではない。

正面に立つ千冬の顔を見る表情は穏やかで、安心感を感じさせる。

それとは対照的に、千冬の顔は険しい表情であった。

 

「しかし、今回の聞き取り調査の結果は…」

 

「ええ。国際IS委員会に提出します」

 

そう。今回の襲撃事件の結果は、国際IS委員会に提出することが求められていた。亡国機業と繋がっている可能性の高い、国際IS委員会に、である。

 

「…君の教えてくれた情報によれば、国際IS委員会は亡国機業と繋がっている、だったか」

 

「はい。情報源がアイツなので信頼は出来ませんが、情報の正確さは信用出来るかと」

 

「ふむ…」

 

轡木十蔵は知っている。世紀の天才、篠ノ之束。彼女の聡明さを。

そしてその彼女が自らの親友に嘘のデータを渡すーーーそうは考えられなかった。つまり、十中八九国際IS委員会と亡国機業は繋がっている。

そしてそのことを知っているからこそ、目の前の彼女ーーー織斑千冬は、彼ーーー鹿波室生の嘘を許容したのだろう。なにも、わざわざ敵に情報を与えることはない、と。

 

「しかし、彼が本当のことを言っているという可能性は…」

 

「ないですね」

 

きっぱり千冬は言い切った。全否定である。

 

「そんなに彼は分かりやすかったかい?」

 

「ええ。それなりに取り繕ってはいましたが、そもそもアイツは嘘をつくのが苦手です。そして普段からよく知っている私からすれば、まあ正直に言っている訳でないことくらいは分かります」

 

さすがに挙動不審になったり、視線があちこちさ迷うようなことはなかったが。少なくとも、彼をよく知る者からすればバレバレな程度の誤魔化しである。

まあ、それだけでなく世界最高レベルの勘の持ち主たる千冬からすれば、大概の誤魔化しは筒抜けになってしまうのだが。

 

「ふーむ…。いつか、君に彼が素直に明かしてくれる日が来れば良いねえ…」

 

そう言った轡木に対し、千冬はふっ、と軽く笑ってこう言った。

 

「さあ、どうですかね」

 

その表情は、いつもと変わらぬ不敵さに溢れていた。




鹿波さんは隠し事が出来ないタイプ


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陽の当たる場所で

全治二週間。

それが俺の今回の負傷の治癒にかかる時間であるらしい。というか、対IS用グレネードをくらっても、広範囲とはいえ深度Ⅲ以上のやけどがなかったのは奇跡的らしい。これならやけどの痕も基本的には残ることなくすみそう、とは医師の弁。いやーよかった。下手すると本当に簡単に人は死ぬなー、なんてことになるところだった訳だが、無事ならなによりである。良かった良かった。

俺が意識を取り戻すまでは1日くらいだったらしい。ちっふーもあの後普通に接してくれるようになったし。

ちなみに早ければ10日前後で退院予定。まあIS学園内の医療施設から寮での生活に戻るだけだが、やはり自由に動けるようにはなりたいところ。

そう言えば、今回のこれって労災下りるんだろうか。今度轡木さんに聞かなきゃだな。うむ。

あと、今回の件でよく分かった。ISの世界で自分の身を守るくらいの自衛力はないと、下手すると死ぬな。

という訳で、以前譲って貰えることになった打鉄パーツとISっぽいけどISじゃないISコア…面倒くさいので、仮にIZ(アイゼロ)と命名。IZコアと打鉄から、ロマンあふるる機体を作ることにしよう。メイン長距離武器は主任砲、メイン近接武器はクラウドみたいにいくつかの剣になる感じのやつで。あ、出来れば八刀がいいな。八って末広がりで良い感じだし。セブンソードとか七刀は多分既にいろんなところでありそうだし。

近距離エネルギー系武装(以下EN武装)は多分ビームサーベルみたいなやつでいける。あと中距離EN武装として腰にEx-sガンダムのビームみたいなやつが二門ほしいな。退院したら作ろうか。あ、武器はライセンスが必要だから他の企業に頼む形になるのかな?これは篝火ヒカルノさんにアポ取ることになりそうですねぇ…。

ああ、本当なら学園祭までは空気砲とか真空砲作ったり、コイルガン作ったり、レールガン作ったり、鷲巣マージャンのセットを作って遊ぶつもりだったのに…。

多分IZの組み立てかなぁ…。ま、それもそれで面白そうだからいっか。誰かに手伝ってもらおうかな?あ、待てよ。まだ俺誰にもISコア作れるようになったこと言ってないじゃん。よし、誰かに相談するかどうかは退院してから考えよう!必殺後回しの術。ダメじゃん。

 

あ、武器の話だっけ。うーん、近接武器は実体が八刀、ENがビームサーベル。中距離はENのみでも多分大丈夫だとして、遠距離がENは主任砲。実体どうするかな…。

遠距離実体武装の何が嫌ってさ。消耗品だから馬鹿みたいに弾でお金かかるんだよね。ミサイルとかだと。もうちょいなんとかならんかな。安くて威力のあるやつ。

…。

あ、グレネード?

いや、グレネードだとあんまり遠距離までは届かないか。うーん。

グレネードが弾になればいいんだよなぁ…。

あ。

カンプピストル?

そう言えば、たしかこの世界には有澤重工があったはず。さすがに社長砲ことOIGAMIは主任砲とダブることになるから今回はお見送り。

まあどちらもロマンの塊であることには違いないけどね!

 

え?何?

自衛力を高めるだけならアンサートーカー先生に絶対負けない機体の設計図を教えてもらえばいいだろって?

うん、それやると徹底的に相手を自分の味方になるようにする、催眠術の機体になるよ?だって人材をこっちに引きずりこむのが一番効率的に相手の戦力を減らしてこちらの戦力増強になるからね。だからやらない。

ま、必要になったらやるさ。多分ね。

 

よし、とりあえずこんなところか。遠距離実体はカンプピストルかアンチマテリアルライフルを炸裂弾で。遠距離ENは主任砲。あ、着弾地点から白い半球状のエネルギー拡散という名の爆発があるとカッコいいよね!追加しとこ。

中距離は腰にex-sガンダムのビーム武装で。二門ほしい。

そして近接武器は実体が八刀。一本の大剣にできる、かつ八振りの刀になるというギミックをつける。

近接EN武器はビームサーベル。一本だと心細いし、二本かな。

うむ。いいね。とりあえず今度設計図作ろう。何でもかんでも束に作って貰おうとするやつは甘え(戒め)。機械とか工学系なら自分で作れ。作れなきゃ設計図持って武器開発してる企業に持ち込め。これを地で行く、それが俺である。ちょっとした意地とプライドやね。

 

さて、あとはあれだ。

マドカに対してどう関わっていくか、だな。

うむ。どうしよかね。

つか、まずはこれからマドカと積極的に関わるべきかどうかなんだよな。どうしよう。

まず、原作でのマドカは理由はわからないけど一夏君に対してこう、大きな敵意や殺意を持っていたはずだ。その理由が分かれば、一夏君への殺意をなんとか出来るはずなんだが…。そうすれば、こちら側へ引き込んだとしても問題はあまりなくなる。今のままだと一夏君コロコロされかねないからね。うむむ。

マドカが何故一夏君を恨んだり憎んだりしているか、という理由については何故か先生教えてくれないんだよね。

考えられる理由としては、

①マドカ自身がはっきりとした理由を持っていないままに一夏君に憎しみを抱いている

これはマドカが『織斑マドカ』として、クローンとして造られた際に、とあるの学習装置(テスタメント)のように、憎しみという感情を抱くようにインストールされている場合はこれに当てはまると思う。

 

②マドカは実は一夏君を憎んでなどおらず、ただ単に気にくわないだけ

これはマドカが一夏君と生き別れの双子だったと仮定して。実の兄だから心底憎んでいる訳じゃないけど、のほほんと過ごしてきた兄に対して嫌悪感を抱いている場合かな。まあ、兄じゃなくて弟って可能性もあるけど。

あと、仮にマドカがクローンであっても、実は憎むほどじゃないけど嫌い。っていうのは無くはない気がする。

 

その他の理由。仮に③としよう。

③実は憎んでいるというのはただのポーズ。一夏君好きだけど素直になれないツンデレさん

…ブラコンなちっふーのクローンだとして。遺伝子レベルで弟大好きならあり得る…か?

素直になれないツンデレ、じゃなくて。亡国機業の管理下では嫌いである、とか、憎んでいる、というポーズが必要な可能性もあるな。

 

まあこんなところか。

ただ、たしかマドカ自身は亡国機業に忠誠心皆無だったはずなので。いずれにせよ、マドカの体内のナノマシンを無効化出来れば交渉のカードにはなるはず。

問題はマドカのナノマシンがどんなタイプなのか、だ。

いつでもマドカを壊す、または無力化するタイプであるとは思うんだよな。爆発するやつだと、亡国機業の本部で暴れた時に本部巻き込んじゃうから使えないし。

ただ問題は、ナノマシンによるマドカの無力化の条件がわからないこと、だ。十中八九、誰かが管理キーをもっているか、スイッチを持っているはず。

機械的な条件付けだと、ありとあらゆる場所に行かせて働かせる、ということが出来ない。また、スイッチ系だと電磁波遮断されたら従来のナノマシンでは反応しなくなるはずだ。個人が携帯できるようなスイッチだと電磁波、つまり電気信号を特定の周波数で送るタイプになるし。

そうすると、『いざという時にマドカを抑えることが出来て』かつ『確実にナノマシンを起動させることの出来る』『上層部から信頼があり』『マドカの様子を普段から確実に確認できる』奴がキーだな。

マドカが少しでも怪しい素振りを見せる度に毎回無力化なんてやってられないけど、本当に裏切った時には抑えることが出来る実力が必要だ。しかも確実にナノマシンを起動させることの出来るようにしてあると仮定すれば、恐らく最も確実性が高いのはISのコア・ネットワーク。

上層部から信頼されている、となれば幹部レベル。

幹部レベルでマドカを抑えることが出来るとなれば、IS乗りに限定されるんじゃないだろうか。

そうすると、候補としては俺達を襲ってきた三人が浮かび上がるな。

オータム、スコール、アリーシャか。

うーん。スコールでしょ。普通に考えて。

オータムだと血気盛んすぎて、すぐにマドカと抗争勃発しそうだし。アリーシャはちっふーと戦うためだけに亡国機業に入ったらしいので、やはり向かない。うん。

スコールがキーを持っている、と目星をつけておこう。

ただ、このスコールのキーを無効化するのは、多分かなり難しい。束なら違うかもしれんが、俺がISコアのネットワークにハッキングしかけてゴールデン・ドーンのコアにハッキング、そして狙いのナノマシン管理キーのみを確実に掌握する…。それはちょっと難しすぎるかな。うん。アンサートーカー先生にお力添えしてもらえればいけるかもだが、多分それをやると一気に俺への危険度の評価がはねあがる。今ですら亡国機業に目を付けられた可能性がある以上、慎重に行きたいところだな。

 

そうすると、マドカのナノマシンを無効化する方法を確保しておくこと、ナノマシンが無効化されたことをスコールに把握されない方法を確保しておくこと。

このあたりがポイントかな?

まあ、まずは自衛用にIZ作って。ナノマシン無効化装置はそれからかなあ…。

ああ、せっかく真空砲作って遊ぶためにガレージ買ったのに。IZ製作とナノマシン無効化装置作らなきゃじゃん…。面倒なことになりそうだ。ふう。



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療養、そして準備期間

スティンガーさんみたいだなーとか思って書いてた部分に気付いた人がいてびっくりした。フロム脳め…!


療養一日目。

うむ。暇だ。やること…というか、出来ることがねえ。暇だ。こうも暇だと本当につまらん。誰かそばにいれば話くらい出来るのだが。まあ仕方ない。今午前中だし。

うーん、せめて紙とペン、あと定規があればIZ(アイゼロ)の設計図が書けるんだけどなぁ…。

こういう時、束なら頭の中で完璧な設計図を作り上げられるであろうことを考えると、いかに頭が良くなってもこの身は凡人であることを実感する。ちょっとだけ羨ましい。

そうは思うけどなぁ…。天才は天才で苦労しそうなんだよなぁ…。

なんだっけ。1+1が2になることが当たり前なことを、周りは理解出来ないような感覚だっけ。そんな感じの喩えを聞いたことある気がする。やべーよね。俺ならきっと発狂しちゃうわ。多分。いや知らんけど。

それにしても暇だ。やることない。暇である。

あー…。退屈だぁ…。キミ、パソコンかスマホを寄越したまへ。情報収集したひ。ああ、電話でもいいかも。マドカちゃんに電話するとか、暇潰しには最適やん?

まあ、亡国機業に俺の存在が知られてたらマドカちゃんどんな対応するかわからんけど。だがそれがいい。

アンサートーカー先生に聞けば多分わかっちゃうからね。壮大なネタバレ感。あれだよ、犯人はヤスを知ってるままでゲームスタートする感じ。もしくは、FF7を初めてやってる時にエアリスが死ぬことをバラされたような。あれは許さないわ。マジで。

ていうか、本当に全ての答えが分かるってつまらないぞ?俺の場合は自分で知りたくない情報は知らないで済むけど、強制的に全知とかになってみ?もしそうなったとしたら、未知への探求とかロマンというものが全くないんだぜ?

絶対超退屈になる。でも人というものは面白いもので、知らない!とか分からない!という状態になると、今度は知りたい理解したいとやっきになるんだ。ままならんなあ。本当に。

ままならんといれば。結婚相手とかもそうだよね。でも俺の前世とか知っても、特に面白いこともないしね。まあどうでもいいよね。うん。話題終了。

 

あ、そういえば差し入れというかお見舞いあったな。い、今思い出した訳じゃないよ?本当だよ?

ただ単に、ふと辺りを見回したら視界に入っただけです。だめじゃねーか。

 

さて、見舞品には何があるかな、何があるかなっと。えーと、バナナ。梨。りんご。みかん。ふむ、フルーツはええね。特に梨とみかん。好き。いや、フルーツは基本的に好きですけどね?ああ、昔はいちじく食べられなかったなあ…。前世のばあちゃんが大好きでね。よくすすめられたけど、小学生まで無理だった。高校の時にえいやっ!と食べてみたら、あ!いけるやん!となったんだよなぁ。懐かしいね。かにみそもそうだな。ちっさい頃は無理だった。あー、前世のばあちゃんに会いたい。前世の終わりというか、死に際には当然のように父親やらばあちゃんに会いに行くことになるとばかり思っていたもんだが。まあ、事実は小説より奇なりって言うしねえ。俺の人生も小説化しようぜ!まあ与太話扱いされるのが落ちやね。簡単に想像つくわ。間違いない。

お、これは…。ビジネス書のマンガ版。マンガで身につくかもしれないPDCAじゃん。誰だか知らんがナイス。あとは、あ!よしたにさん!お久しぶりです!あなたこの世界でもマンガ描いてるんですね!理系の人々もぼくオタオタリーマンも大好きです!よっしゃ。読も。

 

~鹿波読書中~

 

いやー、やっぱり本は良いよね。うん。マンガだけど。活字もマンガも、どちらにも長所があるからな。どちらが偉いとか、そんな馬鹿なこと考える暇があるなら一つでもいいから何か自分の糧にしてろよって話。いや、うん、ぶっちゃけ僕の迷惑にさえならないなら好きにしてくれればそれで良いんですけどね?マジで。一体俺は何を言ってるんだ。

まあ、それはともかく。他人なんてどうでも良いとか嘯いてる俺だけど、頑張っている人の邪魔ばっかりする人にはムカついたりするな。一生懸命頑張ってる人には感情移入しちゃうタイプ。がんばれー、とかこっそり思ってたりする。思うだけですけど。人の善意を食い物にするクズも世の中にはいるからね。なるだけ手助けはしない。親切にしようとしたら駅でセクハラとか訴えられたりするらしいからね今世。仕方ないね。

 

うん?誰か来たようだ。ドアがノックされてる。誰だろ。

 

「どーぞー」

 

「邪魔するわね」

 

そう言って入って来たのは鈴ちゃん。あれっ!?俺この子と接点ないねんけど。どしたの。

 

「…えーっと。(ファン)さん…で、良かったかな」

 

「鈴でいいわ、面倒だし」

 

「じゃあ鈴ちゃん」

 

「だから鈴で良いってば」

 

うわ、なんだこの子。ぐいぐい来るな。んで、鈴ちゃん何用?

 

「…別に。ただ、一夏の奴がやたら心配してたから、ちょっと見に来ただけよ。気にしないで」

 

さいで。て言うかさ。正直「ご無礼」って言いたい。いや、はっきり言おうか。

 

うぜぇ…。

 

「そうか」

 

はよ帰れ。そんな思いで視線を外す。でも帰らない鈴ちゃん。だから何やねん。

 

「…一夏の奴、相当あんたのこと心配してたのよ?後で一言謝っておきなさいよ」

 

「断る」

 

だって俺謝らなきゃいけないようなことしてないし。

 

そう思ってたら鈴ちゃんにギヌロと睨み付けられた。おうっ、怖いな。肩がビクッとしちゃったよ。でも視線は逸らさない。だって俺何も悪くないし。

ちなみに後でお礼はみんなに言います。お礼と謝罪は別物。

 

「…あんた、人に心配かけといて謝らない気?」

 

「少なくとも、それを部外者の君に何か言われる筋合いはない。帰れ」

 

正直不愉快である。せっかくのんびりしてたのに、一気に気分は急降下。はあ。憂鬱也。帰れ。

 

「…あんた、友達無くすわよ」

 

「帰れ、と言ったはずだが。聞こえなかったのか、それとも理解出来ない程度の頭しかないのかね?」

 

「なっ…!ふん!言われなくても出てってやるわよ!」

 

そう言ってドアを力いっぱいバン!と閉めて鈴ちゃんは出て行った。べーだ。

…ふん。分かるまい。前世で中学から、ずっと仲良くしていた親友と死に別れた時の辛さも、心の底から信頼し、共に歩んできたビジネスパートナーが事故にあった時の心の冷え込みも。それらを全てなんとか乗り越えて終わった前世が、実は未だ終わらぬ人生の区切りでしかなかった絶望も、何もかも。

友達のいる心強さも。友達を失う悲しみも。もうとっくに味わってきたというのに。

 

…なんだかやっていられないな。今日はなんか、もういいや。

俺はベッドにゆっくりと背を預け、目を閉じた。



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シャルロットのおはなし

感想が100件超えてました。いつも励みになっております。毒にも薬にもならないほのぼのな感じを目指して行きますので、どうぞ良しなに


私が小さい子どもの頃は幸せだった。

お母さんは私に優しくしてくれたし、お父さんは普段会うことはなかったけど、お母さんがそれはもう幸せそうにお父さんとの話をするものだから、きっと素敵なお父さんなんだって信じて疑わなかった。

その幸せがあっけなく消えたのはお母さんが死んで、お父さんに引きとられた時から。

「この、泥棒猫の娘が!穢らわしい!」

その言葉と共に、強烈な衝撃が私の頬を襲った。あの時の痛みと、継母の恐ろしい形相の恐怖は今でも覚えている。

その後、父に引きとられた私には居場所などなかった。

味のないごはんを食べ、義理の母からはいつも疎まれ、父は私をいないものとして扱う、そんな生活。

お母さん。お母さんの言っていた、大切なものなんて見つからないよ。

お母さん。本当に大切なものは失う前からわかっているものだから、絶対に離しちゃいけないと言っていたお母さん。

私には、失いたくないものなんてありません。むしろ、今すぐ全てを失ってしまえたら、どれだけ楽でしょう。

お母さん。頭でも、感情でもなく、心で感じるのよ。そう教えてくれたお母さん。

私の心は、今にも壊れてしまいそうです。

ねえ、お母さん。私って、何のために生まれてきたのかな。

 

その後、私に偶然IS適性があることがわかってからは、ますます私は自分の居場所が分からなくなっていった。

父からはただの道具として。義母からはもはや顔を見ることさえ避けられて。

そして父の会社が経営難に陥ってからは、私は自分の性別と名前さえなくなった。

私は僕に。シャルロットはシャルルに。言葉使いから立ち振舞い、常にコルセット入りのISスーツを着用している習慣付けまで。

私が私じゃなく感じるようになるまで、そう時間は長くかからなかった。

デュノア社のテストパイロットになってからというもの、なんとか父の元から逃げ出したい一心で自由国籍権を取ろうとしたこともあった。当然父が握り潰していた。嫌になる。

私の立場も、私の生活も、私の性別さえも。

私というちっぽけな人間の全てが父に握られている日々は。

私から、感情をじくじくと削ぎ落としていった。

 

IS学園に男として転入した。

同室になったのはターゲットの織斑一夏。世界初の、そして唯一の男性操縦者。()は彼に、自分が彼のISのデータを盗むために来たことを打ち明ける勇気もなく。しかし彼のデータを盗むことも出来ないままに、時間はただ淡々と過ぎていった。

 

そんなある日のことだった。今日もデータを盗む勇気も出ず、しかし彼に自身の秘密を打ち明けることもないまま、私は(一夏)に連れられて何故かISの整備庫に来ていた。一夏は僕の顔色がよくないから、と言っていたけど、そういうことに気がつくくせしてどうして女の子の恋心には鈍感なんだろう。理解に苦しむ。

 

そしてそこで出会った人は、とても怪しかった。胡散臭いと言ってもいい。彼は僕の姿を認めると、無言で僕を手招きした。

正直付いて行くのを躊躇ったけど、一夏もよく相談に乗ってもらっているらしいし、悪い人ではない…はず。

そう思って彼に付いて行った。

 

 

そこからはあっという間だった。

気付いたら父からは謝罪の言葉と共に、これまで酷いことをしてしまったと。どうか、やり直したいと頭を下げられた。びっくりして固まってしまったけど、この人とやり直すのは絶対に嫌だったから断った。

そしていつの間にか僕は私として、シャルルじゃなくてシャルロットとして、IS学園に再入学することになっていた。

そしてラウラが同室になってから、私は彼の言っていたことが全て現実になったのだと気付いた。まだ彼にはお礼も言えていない。彼に会うことが、ちょっぴり楽しみになった。

 

それからラウラと一緒に彼のもとを訪れた。相変わらず、私にはしばらく胡散臭い笑顔で対応してきたけど、ある程度一緒に過ごすとそれも消えていた。後で聞いた話だけど、見ず知らずの他人を簡単に信用しないように、ってことで、わざとそういう態度を取っていたみたい。もう。私はもうこれまで散々嫌な大人にも、自分のことしか考えていない大人達にも触れて生きてきたのだから、もう少しくらい優しくしてくれてもいいのに。

そう思っていた。そしたらラウラにこう言われた。

 

「む?嫁はいつも言っているではないか。何かあったら相談しろ、と。そう思っているなら嫁に直接言えば良いんだ。言わないのに文句ばかり言うのは筋違いだぞ?」

 

確かに。思い返してみると、確かに彼はいつも私に言っていた。何かあったら相談してね、と。ふふ、彼の優しさは不器用だね。そう返した。ラウラもふっ、私の嫁だからな!と笑っていた。ラウラ、それはちょっと違うと思うよ。

 

 

最近一夏が鹿波さんにいろいろ相談してるらしい。その影響か、一夏はたまに篠ノ之さんやオルコットさん、凰さんに良く言っている。

あんまり暴力ばかり振るってくるなら、お前らと距離を取る、と。

正直一夏があの三人から距離を取るのは賛成だけど、あの三人が鹿波さんに何かしないか心配だ。それとなく、探りを入れておいた方が良いかも知れない。

 

 

ラウラが鹿波さんに、水着を買いに行くのを誘うらしい。私も一緒に。

 

「ね、ね、ラウラ、本当に?私も鹿波さんと一緒に行って良いの?」

 

どうしよう。まだ鹿波さんとの関わり方が良くわかってないのに。恩人?それもある。けどそれ以上に、私の中では鹿波さんの存在は大きなものになってきていた。

そんな中で、ラウラが私も一緒に鹿波さんを誘うと言う。

 

「うむ。というか、私だけではどれが良いのかなど分からんし、嫁も女物に詳しいか分からんしな」

 

当然だ!行くぞー!と気炎を上げてラウラは走って行ってしまった。あっ、待ってよ!

 

 

ラウラは無事に鹿波さんと水着を買いに行く約束をしてきたらしい。やったあ!日にちは?今度の土曜日だね!分かった!うーん、嬉しいなあ!

 

ただ、なんだか篠ノ之さんとオルコットさん、凰さんが最近よく集まってひそひそ話をしている。…なーんかやな感じ。まあ、いざという時には…

そう思って無意識にこぶしを握りこんでいた。

 

「シャルロット」

 

はっとしてラウラを見る。ラウラが僕を見る表情は真剣で、軍人としての顔つきをしていた。

 

「早まるなよ」

 

「うん」

 

危ない危ない。つい鹿波さんが絡むと物騒な思考になり勝ちなことがある。こういう時のラウラは本当に頼もしい。手を出す、出さないの境界線がちゃんとしっかりあって、感情では絶対に動かない。僕も見習わなきゃなあ…。

 

 

そして土曜日。僕とラウラは鹿波さんの車に乗せてもらった。ゆっくり座れる車で、鹿波さんの匂いがした。

レゾナンスについたラウラはいつもよりもさらにはしゃいでいて、鹿波さんに注意されていた。本当、ラウラと鹿波さんが親子みたいでくすっとした。その後鹿波さんに手を繋いでもらった。えへへ。

 

 

水着売り場ではなんだかやけに視線を感じた。僕とラウラは専用機持ちだからまだわかるんだけど、店員の人がやけにチラチラと鹿波さんに注意を払っているのはなんでだろう。この店員のお姉さんからは敵意を感じないし、どちらかというと心配してるような気配だから良いんだけど。鹿波さん、有名人なんだろうか?

 

そして僕が水着を試着している間に、鹿波さんは鬱陶しいおばさんに絡まれていた。ああっ、鹿波さん大丈夫!?

そう思ったけどラウラがやっつけてくれた。軍人なのに一般人に手を出していいの?と思ったけど、今回絡まれたのは鹿波さん(一般人)だから問題ない、らしい。

あ、さっきの店員の人がすぐそこにいる。やっぱり鹿波さんの知り合いか何かかな?やたら来るの早いし、いつトラブルがあっても対処できるようにしてたみたいだし。

 

午後からは山田先生と織斑先生に会った。そのときに山田先生から鹿波さんのファンクラブがあることを聞いた。IS学園の卒業生の中には、鹿波さんのファンクラブの人もいるらしい。ちなみに鹿波さんのファンクラブかどうかは知らないけど、IS学園の卒業生の一人がここで働いているらしい。さっき山田先生と会って話をしてきたんだって。なんでも、被害届を出すために先ほどまで付き添いをしていたのだとか。…あれ。すごく思い当たる節が。

そしてこれからどうするのか聞かれた。はい、今からラウラの水着を選ぼうかと思ってます。そう答えたら山田先生は嬉しそうに

「じゃあ良ければ一緒に行動しましょうか!」

と言ってきた。午前中の件で鹿波さんに保護がもっと必要なことがわかったので、この申し出はとても助かるね。

その後は織斑先生とラウラの水着選び。と言っても試着して鹿波さんに見てもらうだけだけど。…やっぱり織斑先生くらいのスタイルじゃないとだめなのかな。ちっさくはないはずなんだけど。思わず自分の胸に手を当てる。…いや!でも鹿波さん私の水着に顔赤くしてたし!多分大丈夫!がんばれシャル!がんばれ私!いけるよ!

 

 

 

そして臨海学校から無事に帰ってきた後、生徒会長の更識楯無さんに話かけられた。なんだろう?

 

「シャルロットちゃん。…鹿波さんファンクラブ、って知ってる?」

 

「あ、はい。聞いたことはあります」

 

「そう。なら、これに入会してもらえないかしら。今ちょっと人手不足で、猫の手も借りたいところなのよ~」

 

「えっと…。ファンクラブだと何かするんですか?」

 

「んーん♪ただ、鹿波さんの身の周りに危険が来ないように見守るだけ。…ただね」

 

そう言って、()の耳もとにひそひそ話をする会長。なんだろう。

 

「…今回の銀の福音の暴走。鹿波さんは独自の情報源から可能性は知ってたみたいなの。それに、最近一夏君の周りの女の子達にも不穏な動きがあるでしょ?そっちの警戒をお願いしたいんだけど」

 

そこまで言った後、普通にパッと離れて笑顔で聞かれた。

 

「お願い、できるかしら~!」

 

…うん、とりあえず現状では特にデメリットもないし、この話は受けて損はないはず。鹿波さんはどこか、死に急いでいる節があるし。

ただし。

 

「…会長からも、情報がわかり次第連絡してくれるのなら」

 

「うん!じゃ、決まりね!」

 

そう言って、会長は僕の手を握ってぐいぐい引っ張っていった。

その後鹿波さんファンクラブのカードをもらい(No.602だった)、お互いにIS同士で連絡先を交換。これでいざという時も秘匿回線からやり取り出来る。あと、会長ではなく楯無さんと呼ぶように言われた。…多分あの人、普段の私達の様子を観察してたからこのタイミングで接触してきたんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、鹿波さんが意識不明の重態で緊急搬送されてきた。

日常の壊れる、音がした。

 

鹿波さんの様子を見に行こうとしたけど、織斑先生に止められた。意識が戻るまでは面会は禁止だって。そんな…。織斑先生もしかめっ面してた。やっぱり鹿波さんを守りきれなかったことに何か思うところがあるんだろうか。でも私にはそんなことはどうでもよくて。

ただ、もう一度。鹿波さんと会ってお話がしたかった。今日もこんなことがあったんだよ。ねえ鹿波さん。明日はどんなことがあるんだろうね。

明日にはまた明日の風が吹くさ。そう言って笑うあなたに、私はどれだけ救われてきたのだろう。

 

「鹿波さん…」

 

ねえ。神様。鹿波さんを、私の大切な人を。やっと見つけた、本当に大切だと思える人を。私から奪わないで。

やっと見つけた私の希望を。私から奪わないで。やっと見つけたんです。やっと側に居られるようになったんです。あの笑顔を。あの優しさを。あのぬくもりを。あの楽しみを。冷たくなった日々にあたたかさと面白さと楽しさをくれた、私の大切なあの人を。色褪せた日々に華やかさと美しい色彩を教えてくれた、私の大好きな人を。どうか私から離さないで。

お願いします。

お願いします。

お願いします…。

どうか…。

私から鹿波さんを、奪わないでください…!

 

 

 

 

 

 

 

次の日、織斑先生から鹿波さんが意識を取り戻したことを聞いた。意識ははっきりしていて、身体に欠損などもなし。明日から面会もして良いらしい。

 

「よっ、良かった…!本当に…!」

 

胸の奥から溢れる安心と安堵。良かった…!ああ、力が抜けて立っていられない。目頭が熱い。本当に、本当に良かった…!

 

「ほら」

 

そう言ってラウラが僕を支えてくれた。本当はあまりよくないけど、あまりの嬉しさで気にせず袖でぐしぐしと涙をぬぐう。はああああ…!良かっだよおお…!

 

その日は1日勉強も何もかもが手に付かなかった。明日は鹿波さんに会える。また鹿波さんとお話が出来る。たったそれだけのことなのに、私にとっては本当に大変なことなんだ。ああ、明日は何を話そうかな!楽しみだよ。

 

 

そして次の日。私が鹿波さんの顔を見に行くと、そこにはリクライニングベッドにゆったりと座って寝ている鹿波さんと、楯無さんがいた。楯無さんは鹿波さんの正面にじっと立ち、何か考えているみたいだった。

 

「楯無さん」

 

近づいて僕が呼びかけると、楯無さんは僕の顔を見て、鹿波さんの方を向き目を閉じた。…どうしたんだろう。

 

「…さっきね。鹿波さんに面会しに来た中国の代表候補生がいたのよ」

 

…凰さん、だろうか。それ以外の中国の代表候補生で鹿波さんと接点がある人を僕は知らない。でも、鹿波さんと凰さんに面会しに来るような接点なんてなかったはずだけど…?

楯無さんは続けた。

 

「…鹿波さんは今もまだ安静にしてなきゃいけないような状態だし、本当なら余計なストレスなんて与えたくなかったの。だから部屋から強制的に排除した方が良かったかも知れなかったんだけどね」

 

…?なんだろう。話が見えてこない。

そうは思うも、最後まで話を聞くことにした。目の前の楯無さんからは、確かな怒気と冷徹な雰囲気を感じたから。

 

「やっと意識を取り戻したばかりの重傷人に、見舞いというでもなくずかずか入って来ては『ちょっと見に来ただけ』?『気にしないで』?何様よ。

その上織斑君に謝りなさい、ですって。…鹿波さんはただ付き添いを頼まれただけなのによ?

違うでしょうが。織斑君に心配をかけることになったから謝りなさいと言うなら、鹿波さんを守りきれなかった私や織斑先生に言いに来るべきでしょうが…!」

 

そう言う楯無さんの扇を握る手はかすかに震えていた。ああ、そうか。凰鈴音。君は僕の、いや。僕達の敵だったんだね。そう。そうか。そうか。

 

「…それが私や織斑先生には何も言わず、何の力も無い鹿波さんには大上段から偉そうに高説垂れるのよ…?うち(更識家)の護衛から聞いた時はふん縛ってやろうかと思ったわ」

 

「…それで、その後は?」

 

気になってつい聞いてしまった。しまった。

幸い楯無さんは激昂することもなく話を続けてくれた。良かった。

 

「…鹿波さんに友達無くす、なんてとっても素敵な捨て台詞を吐いて出ていったらしいわ。

ま、友達を無くすと言った相手に想い人が相談してて、友達を無くすと言った自分からは想い人が離れていってるんだからーーーーー。

まあ、滑稽と思うことにしましょ」

 

そう言って楯無さんは振り返ることもなく出ていった。

…やっぱりあの三人には警戒しておいた方がいいみたいだね。鹿波さんは優しいから気にしないだろうけど、あまりに鹿波さんに肉体的や精神的に危害を加えるつもりなら、その時は。

僕の胸元で、ネックレスになっている相棒(ラファール)がちゃりっ、と鳴った気がした。

 

 

鹿波さんのベッドの隣に丸椅子を引っ張り出して座った。鹿波さんの無事な右手をそっと包む。鹿波さんは眉間に皺を寄せて、不機嫌そうな表情で寝ていた。

ねえ。鹿波さん。私はあなたが助けてくれた。

ラウラもあなたが助けてくれた。

織斑君もあなたに助けられていて。

じゃあ、鹿波さん。

あなたは一体、誰が助けてくれるんだろう?

いつも自分で抱え込んで。なまじ能力があるから解決できて。そして周囲はそんな優秀なあなたが当たり前で。

私一人を助けるだけでも、デュノア社社長の父やフランス政府、IS学園に干渉しないといけない。私みたいにISが使える訳でもなく、織斑先生みたいに何か肩書きがある訳でもなく。

ねえ。鹿波さん。あなたは私一人を救うために、どれだけのものを犠牲にしたの。

ねえ。鹿波さん。あなたはラウラを助けるために、どれだけ頑張ったの。

ねえ。鹿波さん。あなたは織斑君のために、どれだけ心を砕いたの。

鹿波さん。いつも頑張っている人を応援して。さりげなく手を差しのべて。

そんなあなたを、一体誰が助けてくれるの?

そんなに頑張ってたらさ。きっといつか。

 

「壊れちゃうよ…」

 

そんなに頑張らないでと言いたい。もっとわがままになってと伝えたい。自分を大事にしてと叫びたい。でもきっと、あなたは優しく笑って首を横に振るんでしょ?

今までそうしてきたように。これからも他の人のために。

 

ねえ。鹿波さん。

私はあなたの事が好きだよ。とってもとっても、大切な人。だからね、鹿波さん。私、きっといつもあなたの隣に居るから。いつも何度でも、あなたの隣で支えてあげるから。

だからね、鹿波さん。いつか、私の気持ちを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無は無表情を顔に張り付けながら、生徒会室までの廊下を歩いていた。普段表情豊かな楯無が無表情になるときは二つある。一つは交渉の場でのポーカーフェイス。

そしてもう一つは、怒りのあまり無表情になる場合。

 

楯無は生徒会室の扉を開けた。

 

「おかえりなさい」

 

そう言って虚が私に声をかけるがそれには反応しない。ただ言った。

 

「虚ちゃん。凰についての情報、調べてもらえる?」

 

「ここに」

 

そう言って虚から手渡された資料の分厚さに目を瞬かせる。あれっ?

 

「虚ちゃん。私、もう調べてもらうように言ってたっけ?」

 

「いえ。でも、鹿波さんの敵はお嬢様の敵。そして」

 

そこで虚は言葉を区切り、底冷えするような笑顔でこう言った。ニッコリと。

 

「鹿波さんの敵は、我々(更識家)の敵ですから」

 

「…本当、頼もしいわね」

 

全く、本当に。

さて、最近は亡国機業も鹿波さんのことを探ろうとしてるみたいだし、色々とやらなきゃね。内憂外患とはまさにこのことねぇ…。ふう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ア。……ノア。おい、シャルロット・デュノア!」

 

「はいっ!」

 

呼び掛けられてビクッとする。あれ?織斑先生?

 

「おいデュノア。既に寮の門限は過ぎている。…今回は不問としてやる。だからさっさと戻れ」

 

織斑先生の視線は私が握っている鹿波さんの右手に向いていた。でも、何で不問?…ああ、そっか。織斑先生も気にしてたのかな。鹿波さんを守れなかったこと。

 

「全く…。本来なら懲罰ものだぞ。いいなデュノア。次はないからな」

 

「はい」

 

そう言って椅子から立ち上がる。最後に鹿波さんの顔をちらりと見る。眉間の皺は消えていた。…また、明日。




シャルロットちゃんの魅力よ伝われ


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凰鈴音の場合

鈴ちゃんファンの人はごめんなさい
原作ヒロインを原作そのままに描こうとしたらこうなりました
気分を害される人もいるかもしれませんが仕様です
ご了承ください


なんだか最近一夏が冷たい。

以前からちょくちょくあたしや箒、セシリアに文句を言うことが増えてきたけど、あたしは全然気にしていなかった。そしたら最近、一夏があたし達を遠ざけるようになった。最初は気のせいかと思っていたけど、箒に聞くと箒やセシリアに対してもそうみたい。

今まであたし達が相手してきた放課後の特訓だって、ラウラとか言うドイツのチビッ子やシャルロットとか言うフランスの男女(おとこおんな)に最近はよく頼んでいる。ちょっと、邪魔しないでくれる?あたしの方が上手く一夏に教えられるんだから。ホント、何考えてんのかしら。意味わかんないんだけど?

 

一夏があたし達に対して、明らかに拒否してくるようになった。声をかけても無視するし、近づいていくとすぐに逃げて行くようになった。

箒とセシリアも似たようなものらしい。ただ箒とセシリアの場合は同じクラスだからもっとはっきりしてて、休み時間のたびに他のクラスメイトと話をしに席を離れるみたい。それに、他のクラスメイトも一夏と話をさせないように一夏の奴を囲っていたりするって。あいかわ、とか、たかつき?とかってのからは、嫌がっているんだからやめてあげなよ。とまで言われたらしい。

箒が顔を真っ赤にしながら

「何様のつもりだ!あたしと一夏の間に関係ないくせに…!」

とか言ってたけど、ホントよね。全く。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねばいいのよ。

ただ、その箒が気になることを言っていた。どうも、あれは一夏が考えて行動したんじゃなくて、誰かが入れ知恵してるような感じがするって。幼なじみの勘?ってやつかしら。

…誰だか知らないけど、人の恋路を邪魔する奴ってことよね、そいつ。今度一回、是非ともその顔を見てみたいものだわ。ただじゃおかないんだから。

 

 

そいつの名前が分かった。一夏が男女(シャルロット)と話をしているのを聞き耳を立てていたら、カナミ、と言う名前が出てきた。また相談したら?とシャルロットが言っていたから、多分そうだろう。余計なことばっかりしてくれて。絶対今度そいつとっちめてやる。

こっちは一夏が全然話どころか会うことすら嫌がってるのか、一夏と一週間すれ違うことすらないようになってきたっていうのに。本当に余計なことばっかり。また一夏が相談してあたし達を遠ざけるようなことを言われたらたまらない。

あれからあたしは箒やセシリアと結託して、一夏の目を覚まさせようと動いている。お昼のお弁当を作って昼休みに一夏に渡しに行ったり、放課後教室を見に行ったり。

でも一夏は自分でお弁当を作って他のクラスメイトと一緒に食べたり、授業が終わったらすぐに食堂に行って隅の席で他の女子生徒と一緒に食べていたりするみたい。

放課後教室を見に行っても、一番収容人数の少ない、一番遠く離れたアリーナに行っていたり、ほぼ他の女子生徒で埋まっているトレーニングルームで生徒会長とトレーニングしていたり。ちょっと、あたし入れないじゃない。

ほんとなんなの!?嫌がらせ?

どれもこれも、情報を集めれば集めるほど、カナミとかいう奴に相談した結果みたい。そいつ、絶対許さないわ。

 

 

そう思っていたらある日、そのカナミとかいう奴が大怪我して運ばれてきたらしい。ざまあないわ!きっと天罰が下ったのよ。いい気味。

一夏や男女(シャルロット)は騒いでたみたいだけど、正直あたしからすると大喜びなのよねぇ。ま、一夏がたいそうお世話になってるみたいだし、いずれ挨拶にでも行ってやりましょ。ホント、このままずっと、あたしの邪魔をしないでくれればいいのに。

 

 

昼休み。今日もあたしと箒、セシリアで作戦会議をしてた。そんな中、セシリアから例のカナミとかいうやつが意識を取り戻したらしいことを聞いた。セシリアからだから又聞きになるけど、どうも確かみたい。ふん、正直一夏以外の奴なんてどうでもいいんだけどーーー。でも、その一夏をあたしから引き離した張本人ともなれば、顔くらい拝んでやらなきゃね。

幸いあたしのクラスは今日は早く終わるから、一夏達1組より早めにそいつのところを見に行ける。一夏もそいつのことはやけに気にしてるみたいだし、まあ手を出すつもりはないけどね。でも、ま。文句の一つくらいなら言ってもいいでしょ。どうせ大したことないやつなんだろうし。

 

 

というわけで。授業が終わればさっさとIS学園の医療棟へ向かう。へえ、こんなところあったのね。あたしは優秀だから怪我とかしないし、使ったことないけど。さて、カナミカナミ…っと。

 

あった。ここね。ふふん、どんな奴がたいそうな間抜け面をさらしてくれるのかしら?

一応念のためノック。コンコンコン。

そしたら気のぬけた

 

「どーぞー」

 

という応えが返ってきた。早速室内に入る。

 

「邪魔するわね」

 

中に入ると広々とした個室だった。部屋の奥にあるベッドに、男が全身の所々に包帯を巻いた姿で座っていた。

ベッドの隣に備え付けられた机には見舞いの品らしいものがいくつか置かれていた。

その男はわずかに驚いたような表情で、生意気にもあたしに声をかけてきた。今はまだ我慢。こいつがどんな奴かわかんないし。ま、こいつは根性なしの優男のような感じがするけど♪

 

「…えーっと。(ファン)さん…で、良かったかな」

 

「鈴でいいわ、面倒だし」

 

何こいつ。年下の小娘相手に下手に出るとか、ホント意気地無しね。やっぱり優男じゃないかしら。

 

「じゃあ鈴ちゃん」

 

「だから鈴で良いってば」

 

あたしが言ったの聞いてなかったのかしら。それとも言葉が理解出来ない馬鹿とか。て言うかさして親しくもないのにちゃん付けとかあり得なくない?気持ち悪いわね、ホント。頭おかしいんじゃないの?

 

そんなことを考えていたら何の用か聞かれた。

何の用…ねぇ。特にないけどね。そんなの。

まあ、強いて言うならーーー

 

「…別に。ただ、一夏の奴がやたら心配してたから、ちょっと見に来ただけよ。気にしないで」

 

その程度のもの。あ、そう言えばこいつ。一夏に心配かけてたわよね。まったく、学園最強(生徒会長)世界最強(織斑先生)に守られていたくせに怪我するとかあり得ないわ。あたしなら絶対そんなことにはならない。一夏に心配もかけないし、目の前のこいつみたいなヘマもしない。ほんと、なんでこんな奴のことを一夏は心配してるのよ。

 

「そうか」

 

そう考えていたらこいつ、そう言ったっきりこっちの方を見ようとすらしない。は?意味わかんないんだけど。

 

「…一夏の奴、相当あんたのこと心配してたのよ?後で一言謝っておきなさいよ」

 

まったくこいつあり得ないわね。そう思って言った言葉だったけど、答えは簡潔に返ってきた。

 

「断る」

 

…へえ。あたしの言う事が聞けないってわけ。優男のくせに。

そう思って睨み付けたら案の定、肩をビクッとさせてからあたしの方を見つめてきた。ふん、意気地無しのくせに生意気。

 

「…あんた、人に心配かけといて謝らない気?」

 

あたしなんて、一夏と会うことすら出来ないってのに、何様よこいつ。あー、ほんとなんで一夏もこんな奴のことを気にしてるのよ。全く理解出来ないわ。

 

「少なくとも、それを部外者の君に何か言われる筋合いはない。帰れ」

 

なっ…!人が親切に言ってあげてるのに帰れですって!?何こいつ!本当に失礼ね!しかも部外者ですって!?

あたしはここ(IS学園)の生徒であんたはここで働いてるんでしょ!?じゃあ部外者な訳ないじゃないの。

ふん。まあ良いわ。どうせこんな奴、誰からも嫌われておしまいよ。くたばればいいのに。

 

「…あんた、友達無くすわよ」

 

「帰れ、と言ったはずだが。聞こえなかったのか、それとも理解出来ない程度の頭しかないのかね?」

 

「なっ…!ふん!言われなくても出てってやるわよ!」

 

あたしは目の前の優男(ムカつく奴)にそう言って、ドアを力いっぱいバン!と閉めて出て行った。ほんと時間をムダにしたわ。損した!

まったく、こんな奴に一夏は相談してるとか信じらんない!絶対一夏はあいつに騙されてるのよ。

そうよ。きっとそう。一夏はあいつに相談するたびに騙されてるんだわ!やっぱりあたしが一夏を助けてあげないとダメね!待ってて一夏!

 

 

 

次の日、意気込んで一夏に会いに行こうとしたのはいいものの、結局一夏には会えなかった。うーん、一夏を助けに行こうと思ったけど、一夏があたしを避けてるんじゃダメね。何か良い案ないかしら?

 

そう思っていたら、閃きが走った。

そうよ、昨日のあいつをどうにかして言う事聞かせればいいのよ!今は怪我してるから下手に反抗出来ないし、それでも抵抗するくらいなら龍砲ちらつかせてやればいいし。ここ(IS学園)に来る時もやった手段だから、多分効果はあるでしょ。さて、そうと決まれば善は急げね!レッツゴー!

 

そして昨日と同じように医療棟へ向かった。

ただ、今日は昨日とは違ってあいつの病室に行く途中には男女(シャルロット)が、立ちふさがるように立っていた。

 

「何してんのよアンタ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してんのよアンタ」

 

そう言ってこちらを睨み付けてきたのは凰鈴音。うん、でも僕はここで鹿波さんを守るように、楯無さんにもお願いされてるしね。まずは僕の質問に答えて貰おうか。

 

「ちょっとね。それよりも凰さん。

何処へ行くのかな」

 

僕が笑顔で言うと、凰さんはこっちを見てため息をついた。

 

「はあ。あたしが何処へ行こうと勝手でしょ。退きなさいよ」

 

「うん、でも僕は生徒会長に頼まれてるからね。

で、何処へ行くのかな」

 

再度尋ねるも、今度は無視してこちらへ歩いてきた。うん、でもダメ。

僕は凰さんの肩をガッと掴んで無理やりに歩みを止める。行かせないよ?

 

「ねえ凰さん。質問してるのはこっちだよ。

何処へ行くのかな(・・・・・・・・)

 

そう言って、ドンッと軽く凰さんを突き飛ばす。悪いけど、君は要注意人物なんだよ。凰さん。君がISを起動した瞬間、如何なる手段を持ってでも君を止めるように言われているくらいには、ね。

 

先ほどよりもさらにこちらをきつく睨み付けてくる凰さん。でもね。正直言って今君に対して僕が感じている怒りは、そんなものじゃないんだよ。

こちらを睨み付けてくる凰さんを冷めた目で見つめる。すると、こちらが本気だと分かったのか凰さんは喚き始めた。

 

「はっ。何よ、騎士(ナイト)でも気取ってるの?

知ってるわよ。アンタ、あの意気地無しのこと好きなんでしょ。どうせ生徒会長に頼まれた、なんて嘘に決まってるじゃない!なんでわざわざ生徒会長が無様に怪我した一般人を庇うのよ。ふふん、言い返せる訳ないわよね?だって嘘っぱちなんだもの。ねぇ!あははっ!

いいから退いてもらえる?あたしは今からそいつの所に行って、一夏を騙すのをやめて貰わないといけないのよ。意気地無しで優男な、卑怯者のグズに、ねーーーガッ」

 

うるさいなぁ。なんだかイライラすることをわめいていたけど、途中から背後から寄って来た虚さんに首筋を勢いよく叩かれて崩れ落ちた。いっそのこと死んでくれたらいいのにね。ふう。それも出来ないけどさ。

だって楯無さんいわく、

 

「あんなのでも一応中国の代表候補生だからね…。後ろ楯が無ければ、行方不明くらいには出来るんだけど」

 

らしい。まあ、その行方不明になった人は永遠に行方不明らしいけど。ああ、目の前の崩れ落ちてるこの人(凰さん)、面倒くさいなあ。ホント。

 

そう思っていると、虚さんに声をかけられた。

 

「この無礼者は私達で寮の部屋に戻しておきます。

シャルロットさんは引き続き、見張りをお願いしますね」

 

「はい」

 

そう言って虚さんは凰さん(ゴミ)を肩に担いで来た道を戻っていった。

はあ。面倒くさいなあ。まったく。一応念のため見張りをしてはいるけど、最重要人物はあと篠ノ之さんとオルコットさんだ。

なんであの人達は自分が悪いところがあるかも知れないと考えないんだろう。頭おかしいんだろうか。

 

 

ねえ鹿波さん。

この世界は、優しい人は生きにくいね。

自分のことばかり考えてる、声の大きな人が得をして。ささやかに生きている人達は、いつもいつも大変な思いをしたり、苦労したり、損をする。

 

ねえ、鹿波さん。

良い人ほど早く死ぬって聞いたけど。

鹿波さんは、長生きしてね。




うーん、原作ヒロイン達を原作ヒロインそのままに描写しようとしたらこうなった。何故だ


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だが!しかし!まるで全然!

サブタイに特に意味はないですが、分かった人は多分デュエリスト


鈴ちゃんご無礼事件(今命名)の次の日。

いつの間にかベッドの隣の机に置かれていた俺のスマホがブルブルと震えだした。ああ、バイブレーションにしてたっけか…。

番号を見る。知らない番号だ。普段なら出ない。てか普通なら出ない。

しかぁし!

俺には天下のアンサートーカー先生がついている!

それにより、この電話が束からのものだということが判明!よし出よう。

 

「もすもす?ひねもす?」

 

「ちょっとそれ束さんのネタなんだけどパクらないでくれるかな!ねえ!」

 

「で、どちら様でしょうか」

 

「ちょっと、分かってて言ってるでしょ!」

 

くっくっくっ。やはりこいつ()は面白い。うむ。

 

「はいはい、それで?何の用だ」

 

「そう言えば鹿波、無事だった?」

 

「お前絶対わざと言ってるだろ」

 

「何のことかな?」

 

「元気だった?じゃなくて無事だった?って聞いてる時点で確信犯じゃねえか」

 

「ありゃ。バレたか」

 

「当たり前だぼけー。あほー」

 

意味はあんまりないが、こいつとのどうでもいいようなやり取りはやはり面白い。ウマが合う、て感じか。やっぱり俺もこいつも技術屋なところがあるからだろうか?

 

「んで?本当に何の用だ。つまらん用事なら切るぞ」

 

「鹿波もちーちゃんみたいなこと言うようになったねえ…。束さんさみしー」

 

「切るぞ」

 

「わーっ!待って待って!どうせ暇なんでしょ?ちょっとくらいいーじゃんさー」

 

「あいにくと、PDCAサイクルの本がまだ俺を待っていてな」

 

「そんなの後でいいじゃん。で、鹿波。鹿波のISって出来たー?」

 

「あー、IZ(アイゼロ)か。うんにゃ、まだ」

 

「アイゼロ?」

 

「ISっぽいけどISじゃないISのこと。面倒だから仮にIZ(アイゼロ)って呼んでる」

 

IZ(アイゼロ)ねえ。ま、好きに呼べばいいんじゃない?」

 

「完成したら、お前に名付け親になってもらうのも良いかも知れんな」

 

「私でいいの?」

 

「ふん、ISの名付け親のお前が名前を付けるなら、IZのコアも満足だろうよ」

 

「まあ、鹿波が良いなら良いよ」

 

「そうだな。なら、きっと頼もうか。

IZの完成はまだだ。それがどうした」

 

「んー、鹿波が良ければ私がIS作ったげよっか?」

 

「技術者が自分の専門分野で他人任せなのは甘え」

 

「…ふふっ、やっぱり鹿波って意地っ張りだよね」

 

「はっ、言ってろ天災。技術屋ってのはそんなもんだろ」

 

「まあね。どいつもこいつもブラックボックスの解明なんかろくに挑戦しないで束さんに頼ってくるからね。束さんは便利屋じゃないっつーの」

 

「はは」

 

前世の二次創作では束はだいたいオリ主にIS作る係だったからな。それを考えるとちょっと面白い。束のやつが言ってるのはそういうことじゃないんだろうけどな。

ああ、そう言えば一夏君アンチとか一夏君がホモとか、いろいろあったなぁ…。懐かしい。こっちの一夏君は良い子です。マジで。その代わりにちっふーの女子力の低さは予想以上にひどいことが判明した。

 

「ああ、でも完成したら作ったIZをお前に評価してもらうとかは面白いかもな。ロマン満載のやつ」

 

「ロマンはいいぞう!

まあ、効率ばっかり追い求めるのもそれはそれで面白いけどね。だいたい行き着く先って同じだから少しつまらないけど」

 

「そりゃ万能性特化とか、効率を求めるなら相手をリクルートすることに特化することになるし。

目的が同じなら、必要な機能だって似てくるわな。あ、そう言えばお前箒ちゃんに専用機やってたろ」

 

「あー、うん。紅椿だね!あれは凄いよ!なんと言っても初めから単一仕様能力も使えて即時対応の万能機!しかもエネルギーの回復まで出来て、私オリジナルの無段階移行システムにより自己開発がーーー」

 

「分かった、分かったから。もういい。お前の自慢はいい。それよりも、だ。箒ちゃんにあれだけの力を持たせて良かったのか?絶対アレ、新たな火種になるだろ」

 

「なるだろうね」

 

「…箒ちゃんもこんな奴が姉だなんて、可哀想に…」

 

「ちょっと鹿波、どういう意味かな?」

 

いや、どういう意味も何も…ねえ?そのままの意味だけど。だってこいつ、自分のかわいい妹を争いの渦中に叩き込んでも平気なんだぜ?今の返答ってそういうことでしょ?

さすがに箒ちゃんに同情するわ…。

 

「まったく失礼しちゃうなー…。あ、そういえば」

 

「そういえば?」

 

「マドカちゃんに会ったよ!」

 

ドキッとした。でもドキッとしたことは最大限バレないようにする。バレたらこいつ、絶対からかってくるから。

 

「…ふーん。あっそう」

 

「あれ。興味ない?」

 

「いや、お前の言ってるマドカちゃんが俺の知ってるマドカかどうかわからんし」

 

まあ十中八九同一人物だと思うけど。

 

「まあいいや!それでね!あの子身体に不っ細工な代物入れられてるからさ!なんとなんと!束さん特製!ナノマシン無力化装置作ったよー」

 

「おま、マジか」

 

よくやったクソ兎ィ!おっしゃ!俺の面倒が減る!ナイスぅ!

 

「マジマジ。へへーん、褒めていーよ!」

 

「やるじゃないか(蛇風)」

 

「でしょでしょ」

 

いや本当に。よくやった。主に俺の負担を減らしたことについて。

褒めてやるから、携帯出来るようにしな。

 

「もちろん持ち運べるんだろ?」

 

「えっ?」

 

「…え、まさかお前さ。持ち運べないもので満足?満足しちゃったの?マジで?」

 

「…まあ今回はこれくらいかな?じゃあね!」

 

こいつ、誤魔化しやがった。まあいいや。多分こう言っとけば持ち運べるやつ作ってくるやろ。知らんけど。

 

「じゃあな」

 

嵐のように来て嵐のように去っていく。まさに天災。ま、その方が束らしいのかも知れないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、話題に出たマドカに連絡してみよう。

亡国機業に襲われた時の傷が治らりきらないうちに亡国機業のマドカと連絡を取る…!ふっ、なんて俺は馬鹿なんだ。だが、それがいい!…一応問題ないかどうかだけアンサートーカー先生に確認しとこ。うん、大丈夫。よし。

 

しばらくのcall音。あ、午前11時はちょっと早かったかな。

そう思ってたら出た。

 

「ようマドカ」

 

「…」

 

「…あれ。マドカだよな?」

 

「…そうだ」

 

「…どしたん?」

 

「ふん。あの後私は連絡が来ることをしばらく待っていたんだぞ?それなのにどこかの馬鹿はまったく!全然!これっぽっちも!連絡を寄越さなくってなあ?」

 

「…すまん」

 

あれ、マドカ俺からの連絡待ってたのか。それはちょっと悪いことしたかな。涙を目に浮かべてプルプルしているマドカの姿が幻視できる。ごめんね。

 

「ふん、まあいい。ところで貴様、だいぶ面白いことになっているじゃないか。ん?」

 

「あ、そうなん?まあ割とそれはどうでも良くて」

 

「それで良いのかお前…」

 

呆れたような声が聞こえるけど、別にいいよ?

 

「ところでお前さん、メカウサ耳着けた頭のおかしい狂人に会ったりした?」

 

「…大きく心当たりがあるな。知り合いか?」

 

「まあそんなとこ」

 

「あいつ、私が思いっきり全力でローキックしてやったのに全く堪えてなかったぞ。なんだあの変態は」

 

「次からはアイアンクローしてみろ」

 

「…効くのか?」

 

「多分な」

 

ちっふーはアイアンクローでいつも止めてたし、多分効くやろ(適当)

 

「そうか。有力な情報、感謝する」

 

「ああ、そうそう。マドカ」

 

「何だ」

 

「亡国機業から逃げ出した後の生活、考えとけよー」

 

「は?」

 

「じゃあな」

 

「ちょ、待」ブツッ

 

切った。マドカの本当に焦ったような声が面白い。

ふへへ。俺も大概、人のこと振り回すの好きだな。うーん、束のことを言えんかもしれん。まあいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、午後である。

授業が終わったのか、ラウラが病室に入ってきた。どしたん。

 

「む?まあ念のため、だ」

 

はて。念のため?

 

「嫁は気にしなくとも良い」

 

(シャルロットが見張りをすると言っているし、私が病室に居ることまでは正直必要ないとは思うのだが…。シャルロットのやつ、少し過保護なところがあるからな。まったく、仕方のない奴だ。

…ただ、嫁が運び込まれて以来ずっと教官もどこか覇気がない。悪いことは重なるものだし、今は私達で出来うるだけ用心しておくに越したことはないか…)

 

 

「お、おう」

 

よくわからんが、まあ気にしないでおこう。

 

「ところで嫁よ。何か必要なものはあるか」

 

必要なもの、ね。うん。あるな。

 

「紙とペンと直定規。それと便座カバー!」

 

「よし来た」

 

「あ、ごめん便座カバーはいらない」

 

「む?そうか。では少し外すぞ」

 

「いってらっさい」

 

まさか便座カバーネタが通じないとは…。ええい、クラリッサは何をしておるか!ちゃんと布教せい、布教を!それと、便座カバー!

 

そう思ってたら一夏君が来た。やあ。

 

「あ、鹿波さん。大丈夫でしたか?」

 

「あー、うん。包帯まみれだけど傷自体は見た目ほどひどくはないよ。しばらくしたら退院出来るみたいだし。お見舞いありがとうね」

 

「いえ、いつもお世話になってますし」

 

そう言って一夏君は椅子に腰を下ろした。あ、一夏君梨剥ける?

 

「ああ、やりますよ」

 

すまぬ。梨は俺食べたいの。悪いけどよろしくね!梨!ナッシィィィィ!そいつは違うか。

そして一夏君がきれいに剥いてくれた梨を食べながら雑談。最近は一夏君が何度言っても手を出してくる箒ちゃんや鈴ちゃん、セッシーとは距離をおいているらしい。

 

「距離を置くったって、クラス一緒でしょ?どうしてるのさ」

 

「そうですね。なので休み時間の度に相川さんとかシャル達と一緒に過ごすようにしてます」

 

「お昼休みは?」

 

「だいたいのほほんさんーーーあ、布仏さんっていうんですけど、その子とか相川さん、あとは鷹月さんっていうクラスメイトと一緒に食べてますね。食堂行った時は楯無さんとご一緒したりとか」

 

「ほほう」

 

シャルロットをシャル、ね。そして食堂ではたっちゃんと一緒か。原作からヒロイン変わったのかと思ってたけど、ちゃんと一夏君とも仲良くなってるんやね。そうすると、ラウラが一夏君に惚れる日も来るんだろうか。うわー、凄いワクワクする。

あ、でも一夏君に惚れると今までみたいにじゃれてくれなくなるのか…。うん…。一夏君が良い子だからあれだけど、そうなるとちょっと寂しいなぁ…

 

(´・ω・`)

 

寂しいなぁ…。

まあそれはいいや。で、その箒ちゃん達がどうしたんだっけ?

 

「ええ。その、最近は話しかけてはくるんですけど、こっちが反応しないとこう…なんて言うんですかね。

あ…。みたいな感じで…」

 

そう言って、手を僅かに出して引っ込めた後、俯く仕草をする一夏君。あー、それはこう…あれだね。罪悪感が半端ないね。

 

「そうなんですよ…。どうしたものかと思いまして」

 

「んー、そうだねえ…。一夏君はどうしたいのさ」

 

「俺ですか?」

 

「うん。一夏君はこのまま無視し続けて関係を切りたいの?それともまた仲直りしたいの?」

 

「俺は…」

 

そう言ったきり、一夏君は黙りこんでしまった。ま、気長に待とうか。

ただ、一夏君が気にして相談しに来るってことは、多分まだ仲良くしたいんだろうなぁ。本当に心がすっと冷めたときって、自然に距離とってるからね。意識とかする前に。

だから多分、本当は一夏君は彼女達と仲良くしたいんだと思う。でも、以前と同じように暴力を振るわれるのは嫌、と。つまりは、彼女達に変わってほしいんだろうねぇ。でもなぁ…。彼女達にチャンスはあげてもいいと思うけど、彼女達に変わる気がないことが分かったらその瞬間から切った方が気が楽だと思うんだよなぁ…。

ま、そのへんは一夏君が決めることなんだから、あまり口を出しすぎるのも無粋というものだろう。

 

「俺は…。きっと、仲良くしたい…んだと思います」

 

ふむ。

 

「仲良くしたい」

 

「はい」

 

「ふむ…」

 

「ただ…」

 

おう、全部ぶっちゃけちまいなよゲヘヘ。さあ、お兄さんにうち明かしてごらん?(ゲス顔)

 

「ただ、今まで通りには戻りたくないです」

 

「今まで通りには戻りたくない、か」

 

「はい」

 

ふーむ。やっぱり暴力は嫌なのだろうか。原作では割と平気だったように見えたけど。一夏君がまともな感性になっている、のかな…?

うん。それは良いことだと思う。間違いなく。

ただ、多分それ俺のせいというか、俺の影響な気がしなくもないというか。うーん、ちょいちょい原作からやっぱりズレてんな。まあ当たり前なんだけどさ。俺がいる訳だし。つまり俺のせい。

 

「なら、一夏君。君はどうしたいんだい」

 

「どうしたい、ですか」

 

「そう」

 

「うーん…」

 

またしても黙ってしまったので待つ。だいたいのことは本人は既に答えはもってるからね。ただ、頭で考えるのと、感情に任せるのと、心の赴くままに進むことは、どれもちょっとずつ違うことだと思うんだよね。俺も昔は頭、つまり理性と、感情の2つだけだと思ってました。ちなみに心の赴くままに行動すると、だいたいのことがうまくいく。まあどうでもいいね。

 

「鹿波さん」

 

「うん?」

 

「ちょっとよくわかんないです」

 

「そうかい」

 

ここで詰まったか。なら、ちょっとだけヒントを出そうか。ホントはキャラじゃないんだ、こういうの。

ま、やるなら本気でやろうか?そっちの方が楽しいだろ!ハハハハ!ひろし乙。

 

「ふむ。じゃあ一夏君。君は彼女達の何かが嫌だったんだよね」

 

「はい」

 

「何が嫌だったんだい?」

 

「それは…。あれです。何度も何度も暴力を振るってくるので、やめてくれって言ってるのにも関わらずやめてくれないから」

 

「OK。じゃあ具体的にはどんなことがあったか、教えてもらっていいかな」

 

「え、そりゃあ真剣を持ち出して来たり、ISで追いかけられたり…」

 

「ふむ。それはまあ軽く殺人未遂だと僕は思うけど、まあ君が日常的に命の危機に立っていたことは良く分かった。じゃあ、それらを止めてくれて、もうしないことを約束したらそれだけで仲直りしてもいいのかな?」

 

「そうですね…」

 

そう言って、また一夏君は黙った。少なくとも僕なら自分から何が悪かったか理解した上で謝ってきたらようやく仲直りするかどうかを考える、くらいなものだろう。

まあ、いざこざを起こしてるのは僕じゃないし、一夏君のことは一夏君が決めるべきだろう。それに、俺の考え方が必ず絶対正しい、というものでもない。僕は僕の考え方が正しいと信じている、というだけだ。時には間違うこともあるし、間違うことは悪いことではなかろうよ。ただ、間違えた後に反省することも、直すこともしないことは悪いことだと思うんだ。

 

「嫌、ですね」

 

「嫌?」

 

「嫌です」

 

ほほう。いいね。実に俺好みだ。俺も実際にやられたら、それだけで許すなんて絶対に嫌だ。それで許したら他のことで似たような迷惑をかけてくる気がするし。それもかなりの確率で。

まあでも、一応一夏君に聞いておこうか。念のため。

 

「…何が嫌なんだい?」

 

「俺、もうこれ以上我慢できないです」

 

「うん」

 

「これ以上我慢なんかしたくないです」

 

「うんうん」

 

「俺、何も間違ったことをしてるつもりないです」

 

「そう」

 

「鹿波さん」

 

「ん?」

 

「俺が嫌な思いした分、まだ謝ってもらってないんです」

 

「ああ」

 

「…謝ってきたら、多分その時に考えると思います」

 

…そうか。

そういう一夏君はぐっ、と唇を噛みしめていて、結んだ手は強く自分の制服を握りしめていた。涙を流すまいと、ぐっと。

…我慢したんだね。

偉いよ。君は。

 

「…そうか。なら、僕はそんな君の判断を最大限支持しよう」

 

そう言ったとたん、一夏君が顔を上げてこちらを見てきた。あーあー、ほら泣かないの。はい、タオル。

 

「な、泣いてないです…」

 

鼻声で言ったのは聞かなかったことにしてあげるから、とりあえず落ち着きなよ。

 

~しばらくお待ち下さい~

 

 

「ず、ずびばぜん…」

 

「はて、何のことかな」

 

ちょっぴり鼻とおめめを赤くした一夏君が落ち着いたところで、要点を整理しようか。

 

「まず始めに。一夏君は、箒ちゃん達と今の関係のままなのは嫌なんだね?」

 

「まあ…。鈴以外はそうですね」

 

およ?鈴ちゃん除外?どしたし。や、僕も昨日のことがあるから賛成やけど。

 

「いや、鈴の奴はクラスも違いますし、昔からよく喧嘩してたんですよ。だからか知らないですけど、まだ鈴の奴は俺がただわがまま言ってるようにしか思ってないみたいで…」

 

「へー」

 

なるほど。同じクラスの箒ちゃんとセッシーはさすがに好きな人にずっと無視され続けるのは堪えたか。でも、普段から接点がちょい少ない鈴ちゃんはまだ謝ってくる気配なし、と。つまりは、鈴ちゃんだけ危機感が足らない訳だ。

うーん…。原作の鈴ちゃん、そんなにひどい子じゃなかったように思うんだけどな。五反田弾君だっけ?彼に対しても、そんな差別的なこと言ったりしたりという描写はなかった気がするし。まあ、この世界では違うという可能性もあるけども。

ただなぁ…。たぶん悪いというか、ひどい子じゃないとは思うんだけど。一夏君ラヴァーズは総じて思い込みが激しいというか。人間的にこう、未熟な感じが強いんだよね。自分が嫌な思いしたら謝らせようとするくせに、他の人に嫌な思いをさせてもなかなか謝らないというか、非を認めないというか。原作の鈴ちゃん初登場のあたりとかね。自分の伝えかたが悪かったかなーとか反省する気配が最初から全然ないという部分はあったかな。

 

まあ、なんだかんだ考えたけど。昨日失礼な態度取られたしまだ謝ってもらってないし、鈴ちゃんはまあ別にいいや!ぽーい!

相談された子に私怨を交える人間の鑑。ま、多少はね?

 

「じゃあ鈴ちゃんはいいや。箒ちゃんとセシリアさんとは、仲直りしてもいいかもしれない訳だね?」

 

「そうですね。謝ってきたら考える、くらいですが」

 

「うんうん、OKOK。それで良いよ。

じゃあ、一夏君が次にすることは何かな?」

 

「えっ?うーん…。箒とセシリアの話を聞くこと…ですかね」

 

「うん、そうだね。あとは、謝ってこなかった時の対応を考えておくとベストかな?まあ、ないと信じたいけど…」

 

「そうですね。謝ってこなかったら、さすがにもううんざりです」

 

「悲しいけど、仕方ないね」

 

「すいません鹿波さん。結局相談に乗ってもらっちゃって」

 

そう言って申し訳なさそうにする一夏君だが、気にすることはない。どうせ今暇だし。原作からどう変化してるのかが分かるから、むしろどんどん相談したまえ。はっはっは。なんじゃこいつ。

 

「うまくいくことを、願ってるよー」

 

そう言って手を振る。ばいばーい。

 

 

一夏君が出ていったタイミングでラウラが入ってきた。あ、ペンと紙来たー。これで設計図が書けるー。サンキューラウラ。

 

「うむ」

 

ところでラウラ、入るタイミング伺ってた?

 

「む?いや、何やら相談していたみたいだったからな。人には聞かれたくないこともあるだろう。

私はシャルロットと共に外に居たぞ?」

 

え、シャルロット居たの。ま、何にしても。お気遣い、ありがとうございました。

 

「ふっ、嫁を支えるのも伴侶の務め。どーんと任せるがいい」

 

むっふー。と腕を組んで得意気にするラウラ。はっはっは、こやつめ。かわいい。

 

 

 

その後、一夏君から再び箒ちゃんとセシリアとは仲直りしていることを聞いた。まだギクシャクしているらしいけど、いつかきっと、笑い話に出来る日が来ると思うよ。お疲れさま。




ラウラかわいいよラウラ


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全速前進DA!

祝!退院!

そして悲報。ラウラにタバコを没収されました。なんでも、

「タバコは良くないぞ、嫁よ。吸っても何の意味もないし、肺活量も血行も悪くなる。また、肺ガンの発生率も大きく上昇する。これ(タバコ)は私が預かろう」

 

だそうな。うう、これが親に言われるとかなら個人の自由だ!って突っぱねられるんだけど、ラウラに真っ直ぐ目を見て言われるとね…。

何が断りにくいって、ラウラたん間違いなく良心から言ってくれてるわけじゃん?つまりは俺のためを思って言ってくれてるわけじゃん?つまりそういうことです。

どういうことかって?

おとなしく没収されました。禁煙生活スタート。ちなみにどうせ口寂しくなるから、ということで。リ○ルデントをもらった。1ダース。うん…。うん…。ちょっとだけ涙出そう。うう…。

 

そんなわけで、なんともやるせなーい感じで職場に復帰。とはいえ轡木さんからも無理はしなくていいって言われてるし、しばらくは体の調子を見ながらのお仕事。つまりあっという間に終わる。

いやね?普段のペースでもだいたい午後3時くらいになると暇になることが多いわけですよ。それが軽めになるじゃろ?さらに早く終わってしまうんじゃ。

しかも仕事ないかなーと思って他の整備庫行くと、

「あっ、お疲れ様です。お体大丈夫ですか?」

とか言われて誰も仕事させてくれないの。くすん。

 

仕方ないので、IZ(アイゼロ)の設計を考えることに。

基本的には打鉄のニコイチなので、打鉄ベースになる。

当然弱点というか、アンサートーカー先生によりわかっているウィークポイントは全て強化しておくとして。基本的には、なるべく俺の性別はばらさない方向にしよう。そうすると、マドカのサイレント・ゼフィルスみたいに顔を隠す感じにしようか。ああ、あと打鉄の場合は股間部分があっぱっぱーでISスーツ丸出しだったはず。よし、そこは前垂れを追加して、剣道の垂れみたいにしてしまおう。あとは胸元だな。俺は当然男なので、おっぱいなどない。そこにも適当に装甲作って追加しよ。なんであんなに胸元を強調するデザインなんだろうね、打鉄。誰だよ作ったやつ。もしくはデザイナー。出てこい!まったくけしからん。よくやった。褒めて遣わす。うむ。

 

あとは、そうだなあ。なんか腕部が長くなりすぎてて気持ち悪いので。ドリフターズの妖怪首置いてけを基準にして、コンパクトに纏めるようにしよう。あのフレアスカートみたいなのも縮小して。両肩の浮遊ユニットも縮小して。更に複数層構造による対物理衝撃の耐久性を上げて、と。あとはENシールドも出せる感じにしよう。あー、そうするとENシールド放出機構も付けなきゃ。これは自作するかそれとも企業に頼むか。うーん悩ましい。たっちゃんみたいに自力で作るのもアリではあるんだが。どーしよっかなー。

 

ま、いいや!作ってしまおう!なーに、設計図と仕様書があれば企業に頼むのはいつでも出来るんだ。もはや1/1のプラモを作って遊ぶような感じになっているな。だがそれが良い!やっぱり面白さってのは大事やね。うんうん。

とりあえずはこんな感じか。

基本的にはドリフターズの妖怪首置いてけの日本鎧、つまり日本の鎧みたいにともかくコンパクトなISに。

サイドのスカート部分はあんな広がる感じじゃなくてこう…ジャスティスガンダムのサイドみたいな感じで。腰のところから膝元くらいまで、シュッ!と延長した感じが多分一番バランス良いかな。

腕部もただの腕当てくらいに。あんな長いとかちょっと気持ち悪い。無理だ。腕の長さが二倍くらいとかちょっとバランス悪いと思うの。

ていうか、少なくとも被弾範囲を大きくすることによるメリットが考えられない。F91みたいにどんどん小型化するメリットの方が多いと思うんだよなぁ…。

まぁいい。次!

両肩の浮遊ユニット!

ただの浮遊シールドにしてやる。形状はクリスタルみたいに、縦長の六角形にして。中身も対物、対EN両方行ける盾に魔改造してやる。

 

あ、そうすると背部スラスタが別途必要になるのかな?ふむ。背部スラスタは…。ふむう。どうしようか。

出来るだけスラスタが剥き出しなのは避けたい。でもスラスタなんだから噴射面は絶対に必要。そして出来れば、スラスタ自体に強度と耐久性が欲しい。さらに言えば整備性も良くしたい。

 

…。

 

くっ、打鉄の浮遊ユニットは存外完成度が高いってことか…。

上面、及び前方からの射撃等に対しても、湾曲した表面の装甲が強く保護してるしね、あれ。

でもなあ…。あのスラスタ噴出口の向きだと、自分に向かってスラスタ噴出口からエネルギー発射される気がするんだよなぁ…。深く考えるだけ無駄なんだろうか。ちぇっ。

 

今のところ、課題は浮遊ユニットつーかスラスタだな。浮遊ユニットの浮遊シールド化は確定として。スラスタだけどうすっかね。どうせくたびれた打鉄2機あるんだから、自作浮遊シールド2基+元々の浮遊ユニット2基の合計4基でもいけるっちゃいける。ロマンがないだけで。

 

…やめよ。

 

やっぱりスラスタだけなんとかしよう。なんとかしたい。ロマンのために。ロマンのために!(大事なことなのでry

個人的には、シャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの背部ユニット4基みたいな感じがかっこいいと思う。なんていうかこう…。OO(ダブルオー)のキュリオスとかアリオスみたいな感じ。あれあれ。良くない?先の尖った三角形の板状。

ただなぁ。問題は打鉄の色がなぁ。

あんなふつくしいオレンジじゃないからね。灰色だからね。もらった打鉄は練習機だし。

カラーリングは塗装でいけるけど、正直面倒だし性能上がる訳じゃないしお金かかるし。却下で。

 

じゃああれだ。v2にしよう。光の翼的な。肩甲骨、つまり肩の背中側から後方上部に伸びる二本のスラスタ。

 

あれならコンパクトだし、背中に付けても他の装甲には干渉しないし。さらに言えば、スラスタ噴出口以外はほぼフルで頑丈な装甲に包まれてるから、耐久性もばっちり。パーツ自体は人間の背中に付けるくらいだから、多分俺の腕くらいの大きさかな?これくらいのパーツなら整備性もばっちりだし。お!意外と妙案だったんじゃないか!?ええやんええやん。

 

あとはアンサートーカー先生に脳内で設計図を教えてもらいつつ、現実の紙に書き込んでゆく。ふへへ。やっぱりこうやってる時間がすごく楽しい。モノ作りの面白さとか醍醐味の一つだよね。

 

そして気付いたら既に5時を回っていた。

うーん、ISというかIZに乗るなら多分俺、身体ももうちょい鍛えておいた方が良いよね。対人戦の経験とか俺絶無だし。ふむ。たっちゃんあたりに相談しようかな。

なんかちっふーだと轡木さんあたりに言いそうだし。

たしかそろそろキャノンボール・ファストのはずだから、一夏君がたっちゃんに鍛えられてるはず。少なくとも原作ではそうだったし。まあ、もはや原作からどれだけずれてるかわかんないから原作知識もあんまり役に立たないけどね。

出来れば初心者同士、一夏君と切磋琢磨するのがベストだとは思うんだけどなー。

 

まあ、身体が本調子に戻ったらそれとなくたっちゃんに参加させてくれるか聞こう。

…良く良く考えたら、ちっふーに俺みたいな初心者がしごかれるとかさ。軽く地獄でしょ、多分。

たっちゃんからお墨付きが貰えるくらいに対人戦やらの基礎が出来るまでは、ちっふーに特訓のお願いするのはやめておこう。そうしよう。



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【特別編】寒い春のある親子の会話

いつかやろうかなーと思っていたらリクエストが来てました。すっかり忘れてかけてたので思いつきをじゃんじゃんと適当に料理。多分読まなくても本編にはあんまり影響しないです


3月23日。未だ世界唯一の男性IS操縦者、織斑一夏がIS学園に入学していない時期。ある日本の屋敷の大広間での一組の親子の会話。

 

「…楯無。いや、刀奈」

 

「改まってどうしたの?お父さん」

 

一組の男女が、厳粛な雰囲気の中で向かい合って座っている。

上座に座るのは隻腕隻脚の落ち着いた態度の壮年の男。黒い和服に身を包み、その鋭い双眸は今は閉じられている。彼は無事な右腕をひじ掛けに置き、ゆったりと座っていた。

下座に座るのは楯無と呼ばれた年若い女性。いや、女性と言うより女子と言う方がより正確だろうか。黒いカッターシャツの上にオレンジ色のベストを羽織り、ぴったりとしたジーンズに置き包まれた脚をたたんで正座している。その明るい水色の髪をわずかにたなびかせ、姿勢よく座るその姿は実に美しいものであった。

 

壮年の男性が口を開く。

 

「刀奈。刀奈よ。お前、あの男の事を好いておるだろう」

 

ド直球だった。先ほどまでいたお客人に対してしたような前口上ややり取りなど一切合切知らんと言わんばかりの直球であった。ストライーク。

 

「…いきなり何の話かしら」

 

そう答える女の声は硬い。わずかに震えてさえいる。だがそれは、緊張や自らの気持ちを言い当てられたが故のものではなかった。怒ってますねこれは。

 

「普通いきなり娘に『お前、あの男を好いておるだろう…(イケボ)』とか言う!?ホント信じらんない!お父さんデリカシー無さすぎ!」

 

「なっ…!?じ、事実を言ったまでだろう!?」

 

「事実だったら何言ったって良い訳じゃないでしょ!ホントあり得ないわよ!」

 

先ほどまでの厳粛な空気はどこへやら。慌てる男性の姿には、先ほどまで確かにあった威厳が消失していた。これではただの親子の醜い言い争いである。ちなみに娘優勢。頑張れお父さん。全国のお父さんたちが応援しているぞ!

 

「そ、それはそうだがな。しかし、お前の気持ちを確認してからでないと話が進まんのだ!」

 

「絶対ウソ!そんなわけないじゃん!だいたいお父さんがそうやって話が進まないー、って言った時って基本的に話進むことばっかりだったじゃん!」

 

「こ、今回は本当だ!」

 

「じゃあ何の話よ」

 

ここでようやく落ち着いて話を聞く様子を見せる娘。しかしその顔は、いかにも私信用してません。ふん!と言わんばかりのものであった。事実、この娘は父親の話に本当に自分の好きな人を明かす必要があるのか疑っていた。いや、自分の好きな人を明かす必要などあるはずがないとさえ思っている。きっと、自分の好きな人を明かす必要がないと判断した瞬間、烈火の如く先ほどの勢いを取り戻すに違いない。

ただでさえ私は年頃の乙女なのに、そんなデリケートな部分にずかずかと土足であがられるのは、いくら肉親であっても絶対に許されない。そう顔に書いてあるようであった。

頑張れお父さん!ファイトだお父さん!勝ち目は薄いぞ!そして頭頂部も薄いぞ!

その父の頭頂部は平坦であった。てっぺんハ○…。哀れ也。

また髪の話してる…(´・ω・`)

 

ハ○がこほん、と一つわざとらしく咳払いをして言う。娘はジットリとした視線で見ている。ハ○から一筋の冷や汗が流れた。これは形勢はハ○に非常に不利である。頑張れハゲ。あっ。

 

…ハゲの話は続く。

 

「…刀奈。お前にはまだ将来がある。だが、うち(更識家)の当主を続ける限り、お前はなかなか自由にはなれんだろう。

…お前があの男の事を好いておるのは分かっておる…ええいそう睨むな!話が出来んだろう!まったく…。

ごほん。いいか刀奈。

そもそも私は、お前たちが生まれた時点で更識家最後の当主になるつもりだったのだ。

…これがどういうことか。わかるか?」

 

そう言って、鋭く娘の顔を見る男性。そこには先ほどまであった優しさや柔らかさは微塵もなく、ただ触れれば斬れる刃物のような鋭さのみがあった。その双眸が正面に座る娘を射抜く。ハゲよ、今お前は凄く輝いているぞ…!(頭頂部が)

 

「…私はな。お前たち二人には、幸せになって欲しいと思っている。

当たり前に遊び、当たり前に笑い、当たり前に友人を作り、当たり前のように恋をし、当たり前のように思い出を作って、日の当たる場所でゆったりとな…」

 

そう言って、薄く笑う男性。その笑みには、ただ娘を想う暖かな情が見てとれた。

男は言う。

 

「だがなぁ刀奈よ。お前、私が傷付いて戻った時に、私の代わりに当主を務めたろう。今も続けているが、どうだ。その場所は、その地位は。ひどく重苦しいものだろう?」

 

男は娘の様子も見ずにくっくと笑っている。その対面では、娘がぷーっと頬をふくらませていることにも気付かずに。

おいハゲ、気付け。お前の娘、絶対怒ってんぞ。具体的には「ほらやっぱり私の好きな(鹿波さん)のくだりは要らなかったじゃない…!」みたいな感じに。気付け。

男は続ける。正面を見ることなく薄く笑ったまま。正面にぷーすか怒る娘の顔に気付かぬまま。

 

「だからなあ、刀奈よ。私はここいらで、更識の家を終わりにしようかと思っておる。なあ、刀奈よ。お前はどーーーーーぅぇ」

 

気付いた。きっと本当はお前はどう思う、とでも続くはずだった言葉はしかし、目前の不機嫌オーラMAXの娘の様子を見て引っ込んだ。あっ…。とでも言わんばかりの顔をしている。ハゲは固まった。

 

「うん、ねえ、お父さん?」

 

「…はい」

 

「私、言ったよね」

 

「…」

 

「ねえ、聞いてるの?」

 

「はい」

 

「どこに私の気持ちが必要だったのかしら」

 

「…はい」

 

「下向かない」

 

「はい」

 

「はいじゃない」

 

「はい」

 

「ねえ、今私が聞いてるんだけど。ど・こ・に・私の気持ちが必要だったのかしら?」

 

「…」

 

「ほら下向かない」

 

「はい…」

 

この親父、残念ながらダメダメである。目の前で正座したまま腕を組む娘に対してたじたじである。頑張れハゲ。

だんだん母さんに似てきたなぁ…と思っていた(現実逃避していた)ハゲ、つい下を向き娘に叱られるの図。

 

「…まあ、お父さんの気持ちは分かったし、私の好きなようにやりなさい、ってことでしょ。その気持ちはありがたいわ。ありがたいけど…」

 

「…けど…?」

 

「すでに鹿波さんに同じように励ましてもらってるもの。『君の好きなように生きなさい。君の信じるところを行きなさい。僕は君が頑張ってる間中、ずっと応援してるから』って」

 

残念。親父(ハゲ)の想い、届かず。一応フォローしておくと、この親父(ハゲ)は娘が生まれた時からずっと覚悟をしてきたのだ。ずっと前から歯をくいしばってでも頑張って来たのだ。しかし娘の想い人の言葉の後では、娘の心にはその愛情は届かなかった模様。無念。

 

「だからまあ、私は私の好きなようにするわよ?私のこと、信じて見守ってくれてる()もいることだしね」

 

「信じて見守ってくれている(あの青年)…か」

 

残念ながら両者共に微妙にすれ違っている。すれ違っているのだが、それに気付くことは未来永劫、ないのであった。

 

「て言うか、お話がそれだけなら私、もう戻るわよ?」

 

「あ、ああ…」

 

一世一代の決断を『それだけ』で済まされた親父(ハゲ)。ショックだったのか、わずかに答える程度にしか反応がない。憔悴しているかのようだが、原因はただの親子のやり取りである。娘から嫌われてないだけ、あんたは恵まれてるんやで…?

そう声をかけるものはここにはいない。

父親はしばらく憔悴状態であった。

娘は気にすることなく母の手伝いに戻った。

哀れ。

 

 

そうやってどれだけの時間がたっただろう。気付けば男の元へ、茶を持った妻が来ていた。男の前に湯気の立つ湯飲みが音も立てずに置かれている。

 

「…なあ、母さん」

 

「なんですか、あなた」

 

「…いつの間に、あんな風に育ってしまったんだろうな」

 

そう言う男に対して呆れたように頬に手をつく妻。はあ。というため息と共に返ってきたのは、こんな言葉であった。

 

「何言っているんですか。あの頑固で意地っ張りな所は、あなたそっくりじゃないですか」




ハゲの苦労は続く


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今じゃ!パワーをメテオに!

やあ。どうもこんにちは。皆大好き鹿波さんだよー。嘘です。

とりあえず一通り、全ての設計図を書き終わりました!わーパチパチパチ。やったぜ。

 

さて。俺は設計図を書き終えてから少々考えていた。

というのも、今の世界情勢は女性めっちゃ強いじゃん?

もしね?もし万が一俺がISーーーまあ実際はISじゃないんだが、IZ(アイゼロ)とISなんてほぼ同じようなものだーーーに乗ってることがバレるとするとさ。

一気に世界各国が大混乱すると思うんです。

ね。

それでまあ、一体どこまでだったらそう問題ないのかなー、なんて考えている訳ですが。

全くわからん。

今の時点で既にIZのコアはある訳だけど、仮にIZのコアを奪われたところであと数年は解析なんて無理だろうからセーフ。

ただ、これがIZを完成させて持ち歩いているだけでも、何かあった時にIZの存在がバレないとは言い切れないんだよね。

だって生身に見えるのにシールドバリアで自分の身を守る男とかさ。アウトでしょ。

その情報を亡国機業が掴んだ時点であいつら間違いなく俺も標的にするって。少なくとも俺ならそうする。

だって、世界中を放浪してるなかなかしっぽを掴めない(天災)よりも、IS学園にいる俺の方が拐う(さらう)のは簡単だしね。

しかし、だよ。

もしIZを完成させて、普段から持ち歩いていたとしても、誰にも気付かれない可能性も当然ある。そうすると、今からIZを作ったところで何も問題ない訳だ。

 

くあーーーー!わからん!駄目だ!

どれだけ考えていたって、しょせんは可能性の域を出ない!あーっ!

 

はあ。

こうやって考えていたって何も進みそうにないな。

しばらく机に腕を投げ出してぐだーっとしていたが、まあこのことをこれ以上考えてたってしゃーなし。か。

 

あ。

そうだ、たっちゃんに特訓してもらう話だけしておこう。この間亡国機業と戦った時だって、アンサートーカー先生が居なかったら俺死んでたかもしれんし。いざというときに自分の身を守れる程度にはしておきたい。…まあIZがないうちは気休め程度のもんだろうが。普通は生身でISと渡り合うとか無理だからね。

え?

ちっふー?

ちっふーは人外枠だから。同じ人間というカテゴリに当てはめたら駄目だよ。まずその時点で間違ってるね。

 

さてさて。それではたっちゃんに会いに行くとしましょうか。生徒会室にいるかなー?とりあえずは生徒会室に向かおう。たっちゃんが居なくても、虚さんくらいなら居るかもしれないし。その時には伝言だけ頼めばよかろ。

 

やっほー。

 

「あら、こんにちは鹿波さん。どうされました?」

 

あら。生徒会室に居たのは虚さんのみ。うーん、じゃあ伝言だけ頼んでおきましょうか。

 

「うん、大したことじゃないんだけどね。たっちゃんに伝言だけ頼めるかな?」

 

「…少々お待ちください」

 

(…ここで鹿波さんから伝言を預かったとしましょう。それを後からお嬢様に伝えたら、きっとお嬢様のことですから、『鹿波さんが来てたのにどうして呼ばなかったの!?ねえ虚ちゃん!!』とか言うに決まっています。

…確か今日は織斑君の指導をしていたはず。よほど外せない用事、という訳でもありません。そうすると、お嬢様が今から来られるかどうかだけでも聞いておいたほうが無難、ですね)

 

あれ、本当に大したことじゃないから、伝言だけ頼めれば良かったんだけど。虚さん給湯室に引っ込んでしまったぞい?

虚さんが給湯室から出てきた。何やってたの?

 

「先ほどお嬢様から、『すぐに戻るから!』という言付けがありました。お待たせして申し訳ありませんが、しばらくお待ちください」

 

はあ。まあ良いですけど。別にいいのよ?そんなに大事な用件って訳じゃないし。

とは思ったが言わない。言ったところでたっちゃんが来ることには違いないんだし。

椅子に座ってぼけーっとしていると、虚さんが紅茶を淹れてくれた。どうもありがとうございます。

 

紅茶を飲みながらたっちゃんを待つ。あ、美味しい。紅茶は相変わらず苦手なのだが苦もなく飲めるあたりに、虚さんのお茶淹れの能力の高さが伺えるね。

そう思っていたらタタタタッと足音が。さては廊下を全力疾走してるな?誰だ。

 

バターン!

 

「鹿波さんおまたせ!」

 

お前かたっちゃん。

廊下は走っちゃいけません。

 

そう注意するも、返ってきたのは

「はぁーい♪」

という明るい声。駄目だこいつ。聞く気ねえや。

たっちゃんはふぅ。と一つ息を整えて、俺の隣に座った。普通こういうのって対面やないの?

たっちゃんがこちらの方に顔を近付けながら尋ねてきた。

 

「それで、今日はどうしたの?私への告白?」

 

そう自分で言って自分の発言にやんやん♪とか言いながら両手を頬にあて、照れた様子で身体をくねらせている。何しとんねんコイツ。残念美人ならぬ残念美少女である。

ちなみに虚さんはそんなたっちゃんの前にそっと紅茶を置いて、一礼して生徒会室を出ていく。

ーーー大変だね。

ーーーいえ。いつものことですので。

目と目で話す俺たち。お互いうん、と一つ頷いて虚さんは生徒会室を後にした。

 

さて、隣に視線を移すと落ち着いたたっちゃんがこちらを見ていた。ああ、そうそう。たっちゃんに頼みたいことがあったんだっけ。

 

「頼みたいこと?」

 

首をかしげて聞き返すたっちゃん。ヘイユー、今日も可愛いね!言わないけど。ちゃらい。

 

「そう。たっちゃんが良ければなんだけど、こないだみたいに戦闘になった時に自分の身くらい自分で守れたらなー…って…」

 

そう言うとたっちゃんがこちらをジト目でじーっと見てきた。え、あれ?俺なんかおかしいこと言った?

 

「…鹿波さん、何か隠し事してない?」

 

してます。

とは言えない。隠し事はしてるけど。なんで分かったんや。

でもさあ。だってさあ!

まさかISコア作れたぜ!なんて言う訳にはいかないじゃん!ここでたっちゃんに言って、どこかでポロッとバレる可能性だってある訳じゃん!

ねえアンサートーカー先生。

答:NO

…うん?

あれ、おかしいな。アンサートーカー先生は、1か0じゃない限りはYESかNOでは答えないはずなんだが。

たっちゃんが何かの拍子で言ったりバレたりする可能性だってありますよね!

答:NO

…おかしい。俺の聞き間違いではない。え、何?たっちゃん絶対誰にも言わないし、たっちゃんの態度とかからは絶対バレないってこと?

答:YES

オウフ…。じゃ、じゃあここでたっちゃんに全部ばらして相談した方が良いってことですか先生!

答:部分的にYES

言わない方が良いこともあるのか。

じゃあ、ISコアというか、IZのことについてはたっちゃんに全部ばらして相談した方が良い?

答:YES

…マジかあ。たっちゃんはついにアンサートーカー先生をも味方につけたかぁ…。

答:NO

あ、すいません。そう言う訳じゃないんですね。

つまり、たっちゃんは今回の特訓しようと思ったきっかけからすべてばらしても大丈夫?

答:YES

じゃあばらさない方が良いことは何ですか!

 

…無回答。くっ、質問が悪かったか。

じゃあ、アンサートーカー先生のことはばらした方が良い!!

答:NO

…ふむ。つまり、さっきの部分的に言わない方が良いこと、っていうのは、アンサートーカー先生のことだ!

答:YES

 

おーけー。ふうーう。アンサートーカー先生は超絶心強いし万能に近いんだけど、質問が悪いと答が返ってこないんだよね。あと、IZの製作をどこまで進めて大丈夫か?といった感じの曖昧な問にも答が返ってこないことがある。

ま、つまり先生はわりと万能だけど質問する側の俺は万能じゃないってこと。悲C。

 

さて、じゃあさっきからこっちを見てるたっちゃんに答えるか。

そう思って口を開こうとしたら、先を越された。

 

「まあ鹿波さんが言いたくないなら別にいいけど…。でも、鹿波さんが隠してて大事になってから発覚したら、私怒るからね」

 

そう言ってまっすぐこちらを見てくるたっちゃん。その表情は真剣で、その瞳には強い輝きと意志が見てとれた。

うむ、すまんな。俺ってば、基本的に人間を心底信用信頼しない(たち)なんや。今でも前世の親友以外に命を預けられる人間はいないと思ってます。

ま、これからいろんな人と関わってけばわからんけどね。信用やら信頼なんてものは、長い間にちょっとずつ深まるものだし。

ちなみにアンサートーカー先生には命預けられるよ!先生は人間じゃないけどな!

 

さて、先生のお墨付きもあることだし。

たっちゃんにIZコアのことから全部、ばらしてみますか。

 

 




-追記-
自分でも違和感ある部分を大幅にカット


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【閑話】ある夏の日【前編】

思い付いたら書かずにはいられない病+いちゃラブ成分不足による自給自足
多分原作でもセーフだったからこれもセーフのはずとか思ってたらなぜかそこまで行かなかったので2つに分けます
一応本編時空ですが、まあ気にしなくてもおっけいです


ある夏の日。

 

「嫁よ!聞いてくれ!」

 

そう言って、いつものように勢いよく駆け込んできたのは銀髪を揺らしたラウラ。最近は金属製の自動ドアも理不尽に勢いよく叩きつけられることもなくなり、金属製のドアも安心していることだろう。何回もやめなさいとラウラに言ってきた成果だな。うん。

 

「やあラウラ。いらっしゃい」

 

そして俺は今日も今日とて、ラウラの話を聞くのである。ただ、最近はどうも夏の暑さにやられたのか。はたまた整備の仕事がダルいのか。なんだか最近は疲れがとれないというか、どことなくダルい。やるせないというか。仕事がいつも同じような内容で、退屈だという面もある。

俺がそんな感じであることに気付いたのか。ラウラに聞かれた。

 

「…嫁よ。何かあったか?」

 

「…いや、別に何もないよ」

 

何も無さすぎて毎日が退屈なまである。まあ、学校に通うでもなくただ毎日仕事をして、土日には休むか寝るか、趣味に費やすか。そんな日々だからね。

 

「ふむ。よし、嫁よ。今度直近の休みで二日間以上休める日はいつだ」

 

「直近?」

 

「うむ」

 

直近の二日間以上の休みか。そうだなぁ。今度の土日あたりかなあ。

 

「今度の金曜日の仕事終わりから、金土日かな」

 

「…ふむ。ならば嫁よ、今度の土曜日に出かけるぞ。土曜日の午前9時頃に学園入口に来てくれ。ああ、一泊するから着替えは用意しておいてくれ」

 

「んー。わかった」

 

「うむ。ではな」

 

そう言ってラウラはさっさと出て行ってしまった。あら。本当にこんな、ほとんど話もせずに帰るのは珍しい。普段なら甘えたがりの子犬の如く構ってくるのに。

ともかくその日はそれで終わった。

そして後日気付く。あれ!?あの子(ラウラ)一泊って言ってた!?あっれえ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ラウラに言われて朝から起き、9時ちょっと前にIS学園入口にやって来た。そしたらそこには一台の見覚えのないオープンカー。そしてその運転席には見慣れた銀髪。そう。ラウラである。ラウラさんちっちゃいね。かわいいが、ちょっと不安になる絵だ。運転席にちょんと座ってステアリングを握るラウラ。…うん。

…これに乗れと。そういうことだろうか。あ、ラウラがこっちに気付いた。そしたら俺のいるところにピタリと助手席のドアをつけてきた。やあ。

 

「おはようだ、嫁よ。さあ乗るがいい」

 

じゃあお邪魔して。よいせっと。

ラウラの運転するこの車はvw。ツードアのオープンカーだが、これゴルフかな?多分ゴルフカブリオレだと思う。

それにしたって、隣に座るラウラの違和感がすごい。ちびっこが車を運転してる感じ。まあラウラは今年で16歳のはずなので、ちびっこが運転してる感じで間違ってないな。うん。

 

「おはようラウラ。ところでこれ、ゴルフか?」

 

「うむ。ああ、荷物は後ろにでも置いておけばいい。ベルトは締めたか?」

 

「よっ…と。よし。いいぞ」

 

「ふむ。では、出かけるぞ」

 

そう言ってアクセルを踏む。ゆっくりと、しかし力強く加速して走り出す。普段いる場所から離れ、どこか遠くへ行くというただそれだけで、退屈さと塞いでいた気持ちが少し軽くなる。楽しみだ。

車で走って市街を進むラウラに聞いた。

 

「ところで今日は何処へ行くんだ?」

 

「うむ。どうにも元気がないようだからな。気晴らしがてら、草津温泉にゆくぞ」

 

「草津温泉?」

 

「群馬だ」

 

「グンマーか…」

 

未開の地、グンマー。断ったら不思議な力で死ぬ事になるという、謎多き場所である。陸路での進入が困難なため、群馬国際空港があったり、車と飛行機を乗り継いで埼玉から28時間かかるところに県庁があったり。

え?そっちじゃないって?知ってた。

 

「草津温泉行って何するんだ?」

 

「ふっ。言ったろう?気晴らしだ、と。まあ楽しみにしていろ。きっと後悔はさせんさ」

 

そう言うラウラの横顔は、いつにもましてイケメンだった。なるほど、これがおっぱいのついたイケメンというやつか…。まあラウラの場合、おっぱいというよりちっぱいだけど。おぱーいおぱーいちっさくたっていーちにんまえー。それコパン。

しっかしラウラさん、織斑教諭にますます似てきたね。今の不敵な笑い方とかそっくりよ?

 

「む?私が教官に、か。ふふん。それも悪くないな」

 

そう言うラウラたんたらご機嫌かわいい。さて、車は高速に乗ってひた走る。方角としては北西へ。つまり北だな!愛北者ですねわかりますん。儀式の人は素直に尊敬してる。あの人センスすげーよね。まさにBIG SARU。

さて、車で草津か。結構本気で距離あるよね。どれくらいだろうか。

 

「ラウラー。草津までってどれくらい?」

 

「そうだな。時間にして四時間程の予定だ。途中、サービスエリアで昼食をとろう」

 

「四時間かー。結構遠くまで行くんだな」

 

「ふふっ、嫁がどこか退屈そうだったしな。何か悩み事でもあるのかもしれんが、そういう時は少し気分転換するといい。なに、お前が教えてくれた通り、時間はたっぷりあるんだ。愛の逃避行と行こうじゃないか」

 

茶目っ気たっぷりに言うラウラさん。

やだ…。ラウラさんイケメン…!抱いて!

なるほど、ちっふーが女の子達からモテる理由の一端が垣間見えた気がする。今のラウラといい、普段のちっふーといい、こんなにもカリスマ溢れてたらそらモテるわな…。納得である。

それにしても、眼帯を外して両目が前を向くラウラの横顔が凛々しくてヤバい。多分あと二年遅かったら惚れてたレベルでカコイイ。ヤバい。ホントに。あ、まつげ長いね。銀色できらきらしててきれい。

 

そう言えばラウラさん。免許は?

 

「免許か。これでも私は軍属だからな。常にISが使える訳ではないし、他国での軍事行動をする時もある。それ故、国際ライセンスを所持しているから心配は不要だ」

 

ほへー。国際ライセンスか。たしか、日本はドイツとは個別に条約結んでたか何かで、日本はジュネーヴ、ドイツはウィーン条約だけど日本ードイツ間は大丈夫なんだよね。違うっけ?

 

「そうだ。しかし嫁よ、よく知っていたな」

 

「あー、国際ライセンスがあればどんな国や地域でも運転出来るじゃん!取らなきゃ!って一時期勘違いしてた時期があってね。その時調べて驚いた記憶があるんだ」

 

そうなのだ。小さな頃、日本の中だけの免許よりも国際運転免許証の方が便利じゃん!取ろう!って思ってました。そして中学高校と上がり、大学生になってから調べてびっくりした思ひ出。ああ、前世の話ね?今生は高専からIS学園に勤務してるから。

 

さて、車は高速に乗り、景色がけっこうな速さでびゅんびゅんと過ぎ去ってゆく。うーん、やはりこの風をきって走るってのは良いよなあ。本当に。

ラウラー、今何キロ出てる?

 

「140で流しているぞ」

 

ヒュウ!良いね!最高だね!やっぱりそれくらいは出したいよなあ。ま、オービスだけは注意な。

 

「む?何だそれは」

 

「オービスは要は自動速度違反取締機、かな。ああ、今あそこに標識があったろ。あれがもう1つ同じ標識がある。その後にオービスがあるから、その前には100くらいまでは落としてくれ」

 

「ふむ。よし、嫁よ。2つ目があったら教えてくれ」

 

「よかろう」

 

そんな話をしつつ、道中男女二人旅。うむ。ロマンのある響きだな。素晴らしい。やはり、常に同じ場所で同じようなことをして…というのは、人間を腐らせるな。少なくとも俺は駄目だ。やはり人生には刺激が欲しいのだ。俗に言うマンネリはごめんである。家庭とか持ったら死にそう。

 

「ほい二個目」

 

「わかった」

 

さて、しばらくすると多分皆が速度を落とし始めるはず…。ああ、やっぱり。皆よくわかってるね。うんうん。

 

「ラウラー」

 

「今100だ」

 

「おk」

 

うん。うむ。おっせえ。まあ実際は100キロ出てる訳だから遅いはずはないんだが、相対的に遅く感じるな。さっきよりも40キロ遅い訳だしね。

ま、こればっかりは感覚がマヒしてるから仕方ない。

 

「ふむ。嫁よ、次のパーキングエリアかサービスエリアで一度休憩にしよう」

 

「およ、もうそんなに時間経ってた?今何時よ?」

 

「今が10時26分だ。走り始めてからそろそろ一時間半だ。二時間に一度くらいは休憩を挟むつもりだから、そろそろ休憩だな」

 

「ええよー。ていうか、時間がすぎるの早いな…」

 

本当に。楽しい時間はあっという間に過ぎるっていうけどホントだよね。やはり俺は速さの中に生きているのか…。まあ常日頃からグループBの映像を視聴するくらいだし、車も速いのも好きだからね。うん。

俺もISに乗って、風をきって飛んでみたりしてみたいもんだよ。きっと、車でかっ飛ばすのとは違う楽しさがあるんだぜ。あー、空を自由に飛んでみたいよ。広々と大きく広がる、この蒼穹をさー。いいよなーIS持ち。

 

お、サービスエリア。ではでは一旦休憩ですな。

ラウラ、出発予定時刻は何時?

 

「そうだな…今が10時42分だ。1055(ヒトマルゴーゴー)でどうだ」

 

「良いよ。あ、ラウラ!たこ焼きあるよたこ焼き!一緒に食べない?」

 

「ふむ?後で時間があれば買ってもいいな」

 

「よっしゃあ!」

 

とりあえず二人ともトイレ休憩。ああ、意外にもけっこうな人がいるねえ?そうか、今夏休みの時期か。そりゃ親子連れとかもいるわな。

俺はラウラと二人きりでお出かけですけど。へへーん、美少女と二人きりやで!ええやろ!なお扱いは妹とか娘みたいな感じな模様。

でも今日はなんかこう、あれだ。イケメンな感じのラウラさんである。なんて言うんだろうね。自立した女性らしさ?みたいなものが溢れてるね。正直いつもの子犬ワンコなラウラも好きだけど、こんなイケメンなラウラも好き。いつものラウラはかわいい感じなんだが、今日のラウラは惚れ惚れするような格好よさがある。格好いい女の子の凛々しい感じって、正直きゅんきゅんこない?俺のハートにストレート過ぎてヤバい。悶え死ぬ。

これでラウラがもうちょこっとだけ背が伸びて、18歳くらいの凛々しさだったら真面目に惚れてた可能性があるね。それくらいばっちりキマってる。

さて、ラウラさんはまだ戻ってき…ああ、来た来た。

 

「ラウラ。たこ焼きどうする?」

 

「…ふむ、時間はあるし、慌てている訳でもない。…買いたいのだろう?」

 

ふふっ、とそう言ってニヤリと、それでいて優しく笑うラウラはやっぱり格好よくて。俺はラウラの差し出した手を握って、一緒にたこ焼きを買う列に並んだ。

 

「しかしこうやっていると、まさに夫婦だな」

 

「…ああ、若すぎる…というかラウラが幼い感じを残していることを除けばな」

 

ふふふっ、と嬉しそうに笑うラウラの顔を見ていると、いつものように否定する気すら起こらなかった。だって…だって…!

この子めっちゃかわいいんだもん…!多分両手が空いてたら顔を隠したくなるくらい、今のラウラはかわいい。めっちゃかわいい。すごくかわいい。ああああ…!

ぽわぽわ幸せそうに俺の手を握るラウラに、もう俺の平常心は崩壊寸前です…!

 

「らっしゃい!おや、かわいいお連れさんで。デートですか?」

 

「いえ、ちが「そんなところだ」…ラウラー…」

 

「何だ嫁よ」

 

「お、お熱いねぇ!ご注文は」

 

「たこ焼き1つ下さい」

 

「はいよっ!あい、毎度あり!」

 

「ありがとうございます」

 

たこ焼き屋のおっちゃんに冷やかされつつたこ焼きを購入。8個入り600円。いやー、こういうところで食べるのって、なんだか美味しく感じるよね。ね!あれ何でなんだろうね。やっぱり特別感かしら。

喉が渇いたので、二人ともサービスエリア内で飲み物を購入。夏なのでやはり汗をかくからね。水分補給は大事大事。ちなみに俺は爽健美茶。ラウラはブラックコーヒー。渋い。

ちなみに今日のラウラは私服である。

上は黒のキャミソールに黄色地の半袖パーカー。パーカーはポケットや袖口、フード部分や腰回りの部分がオレンジ色になっていて、非常に可愛らしくてグッド!

下はデニムのホットパンツで、左脚の太ももに巻かれた待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンの黒と太ももの健康的な肌の色が目に眩しい。靴は動きやすさを重視してか、黒のハイネックスニーカー。靴下も黒で、クルーソックスと言われるくらいの長さ。つまりスニーカーからちょっとだけ見えるくらい。

普段している眼帯は今日はしていない。持ってきてはいるらしいよ?

ちなみに帽子とかはしていない。ただ、後ろで髪を1つにまとめているので、普段とは違う赴きがある。うーん、クールな感じ。クール可愛い?そうね。そんなん。ナイス。

 

日陰になっていて、エアコンの風が当たるベンチテーブルの1つにラウラと一緒に並んで座る。いやー、今日も暑い。夏真っ盛りって感じである。それでも北に来ている分だけ少し暑さもマシなんだけどね。

…アイスクリームにすれば良かったかな。いや、アイスクリームだとお腹壊すな。俺が。

とりあえず食ーべよ。いただきます。ぷす。あ、つまようじ二本ある。ラウラ、はい。

 

あふっ、あふい!あっふ、おっふ。ふう、ふうう。あふあふ、あっ…ふむ、むぐ、もぐもぐ。うん、美味い。ちょっと熱いけど、こういうのって熱いうちに食べるのが一番美味しいよね。あっふ、うんめえ!むぐむぐ。ん?

ふと隣を見ると、つまようじに刺したたこ焼きをふーふーしてこちらに差し出そうとしているラウラが。あ、これはあーんするやつか。

え。マジで?

周りにけっこう人がいて恥ずかしいんだけど。

やるの?

 

「ほら。あーん」

 

「あっ、あーん…むぐ」

 

しました。はい。良いんや、どうせ周りに知り合いはいないし。うん。これくらいならセーフよセーフ。何がセーフなのかは知らんけど。あふあふ。ふまい。

ふふふ、だがしかし。やられっぱなしの鹿波さんと思うなよ?まだこちらには1つたこ焼きが残っている。これをあーん仕返してやーーーラウラさん、ちょっと待っあふあふ、あっふい、ふおっ、ほふほふ。むぐむぐ。んむ。んまい。

しかしこれでラウラは2つ食べて2つあーんしてきたから残弾は0。さあ、こっちのターンだ!

 

「ラウラ」

 

「ん?…んなっ…!」

 

「はい、あーん♪」

 

「えっ、あっ、あ、あーん………あふっ、」

 

ラウラのちっちゃなおくちにたこ焼きを押し込む。あらやだ、なんかちょっとイケないことしてるみたいで嗜虐心をそそる。…ドSへの目覚めだったりはしないよね?

頑張ってちっちゃなおくちでもぐもぐしてるラウラを目で見て愛でる。ああ、可愛いなぁ。お持ち帰りしたい。今から一泊二日のお泊まり旅行ですけどね!これはお持ち帰りというんだろうか。謎。

 

ラウラが最後のたこ焼きを食べ終わり、二人とも行く準備が整ったところで再び出発。時刻は11時。うーん、何時くらいに着きそうですかね。風を切って進む、オープンならではのこの感じが心地良い。

 

「ラウラー。昼飯どうするー?」

 

「そうだな。サービスエリアで取ろうと思っていたが、少々遅くなっても良いか?」

 

「良いよ?ていうか、たこ焼きはやっぱり粉ものだからか腹ふくれるよね。俺としては、お昼はちょっと遅いくらいの方が良いかなぁ」

 

「良し。ならば湯畑あたりでの昼を予定としておこう」

 

そして再びぐいぐい風を切ってゴルフは走る。うーん、良い風だ。

 

「そういえばラウラ。さっき一回下道降りなかった?」

 

「うむ。今回私たちがゆく草津は少々交通網が面倒でな。下道高速下道高速下道だ。今は既に二回目の高速だが、この後の下道もけっこうな距離がある」

 

「結局何キロくらいあるんだ?距離的には」

 

「およそ200キロだな」

 

「じゃあ往復400か。ホントに結構な距離だな」

 

「たまには良かろう?」

 

「ま、悪くないさ」

 

本当、悪くない。ただでさえ旅行というのは気分がうきうきするものだし、同行者は頼りになるラウラさん。しかも普段は煩わしいと感じる周囲の人も居ないし、誰かの面倒を見なきゃいけないってこともない。……アカン、本当にラウラとだと結婚後の様子が想像出来る。まあラウラはドイツの軍人だし俺は日本のしがない整備員である。結婚、なんてことはないだろう。歳も8つも違うしな。ただまあ、今この瞬間だけは役得として楽しむこととしよう。いえーい。うへへ。

 

「ところで嫁よ」

 

「ん?」

 

なんじゃらほい。

 

「その…来年も、こうして旅行したい…と言ったら、迷惑か?」

 

「うんにゃ?むしろ個人的には大歓迎だなー。ラウラが嫌じゃなければだけども」

 

「そうか。なら、来年も二人きりでどこかへ行けると良いな」

 

「そうだねえ。ラウラが軍の方に呼び戻されなければ、だけどさ」

 

「まあ、な。ただ、それに関してはクラリッサの奴がーーー。ああ、クラリッサというのは私の隊の副隊長でな。信頼出来る、隊のまとめ役だ。

そのクラリッサが言っていたぞ。何でも、『隊長は絶対にそちらで頑張ってください!上層部は私たちが黙らせますから!』とな。

だからまあ、私はおそらく三年間は軍に呼び戻されはしないだろう」

 

「…ずいぶん信頼してるんだな」

 

俺がそう言えば、打てば響くように答えてくれた。

 

「ふふ、私の隊の副隊長だぞ?当然信頼している。それにーーー」

 

そこまで言ってラウラが突然黙った。ははーん?

さては、何かしらいろいろ相談してるんだな?そうすると、続く言葉は『相談にも乗ってもらっているしな』、かな?

そして、誤った日本の文化を吹き込まれてるんだろう。多分。原作的に考えて。

 

「…まあ、いろいろと助けてもらってもいるしな」

 

そう続けたラウラだったが、誤魔化しました感でいっぱいである。ラウラって本当、うそついたり出来ないタイプだよな。俺としては、むしろそれがいい…!

まあ深くは突っ込まないでおこうか。かわいそうだし。

ーーーなんて考えていたら下道へ。ラウラ、ここどこ?

 

「ここらは渋川になるな」

 

渋川…。知らない名前だ。当たり前か、普段来たりしないし。初めて来た場所だし。しかしのどかだねえ。こういうの、ちょっといいな。

 

「ここから草津までは下道だっけ?」

 

「そうだな。そして昼は湯畑あたりで、だな。その後は先に旅館へ向かうぞ。湯畑からとなればすぐそばだ」

 

「予約は?」

 

「当然済んでいる。何、今回は私に任せておけ」

 

ふふんとドヤ顔してるとこ悪いんですがラウラさん。下道で80はちょっと出しすぎやないかな?

 

「なに?あっ」

 

気付いた。高速降りてすぐは速度感覚麻痺してるからね。気をつけてね?

 

「うむ。そうだな」

 

そして道ゆくことしばらく。

 

「…ねえラウラ」

 

「うむ。後ろにいるな」

 

ーーー警察が。あ、信号が赤になって停まっていたら後ろから警察が出てきた。あれ、普通最初に呼び掛けとかしないの?

 

「はい、すいませんね。運転免許証を見せてもらえますか」

 

「これだ」

 

そう言って懐から免許と日本の翻訳証明…か?それらを取り出して見せるラウラ。うん、見せるだけで渡さないあたりはさすが。見せるだけでいいもんね。

一方の警察官は固まっている。そらそうよな。えっ?なにこれ。本物?みたいな顔してるけど。多分それ本物よ。

 

「…すいません、これは…ええと」

 

そう言って言葉を詰まらせる警察官。あ、信号青になったよラウラ。

 

「む?そうだな。もういいか?信号も青に変わったし、私は免許証を見せた。後ろに車も来ている。行かせてもらうぞ」

 

「あっ、はい」

 

返事を聞くか聞かないかのタイミングでアクセルを踏み込み、車は加速して行く。対応雑だねえ。

 

「ふん、実際問題無視したところで問題になどならんのだ。むしろ誠意ある対応だろう」

 

「まーね」

 

だってこの子、ドイツの軍人でIS操縦者だからね。多分何も違反していない訳だから問題になんてならんでしょ。…年齢以外は。ドイツの免許なんて詳しく知らん。

ただ、年齢については最低でも17歳、しかもある程度条件つきで同乗者が必要だったと記憶しているんだけど。違ったっけ?

 

「まあ、そこは軍属の特権、というやつだ。むしろ、軍の部隊長が車の1つも運転出来んという方が本国が困るらしいからな。一般の話であれば嫁の言う通り17歳からだ」

 

「へえ」

 

特例、という訳だな。

あ、そろそろいくつか温泉見えてきたね。もうだいぶ近いんやないの?

 

「距離としてはあと少しだが、まだしばらくかかるぞ?このあたりには温泉は多いみたいだしな」

 

そうなん?あ、川中温泉だって。松の湯ってところもある!

 

「ふふ、温泉はまた後でのお楽しみだ。それにしても嫁よ、ずいぶんと楽しそうだな?」

 

いやー、そりゃ普段来ないところ来てるんだぜ?テンション上がるってもんでしょ!あ、川原湯だって!

 

「ふむ?そうすると、そろそろ昇龍岩があるぞ。川原湯は駅名にもなっていたな」

 

…なんかラウラ、詳しいね?調べたん?

 

「ふっ、嫁を旅行に誘ったのは私だぞ?当然、必要な知識は調べてあるとも」

 

ーーーラウラ一人で?

 

「…いや、シャルロットにも少しだけ手伝ってもらった」

 

あー…。なるほどね。

うん?

それ、シャルロットは今回の旅行のこと知ってるの?

 

「ああ。…あの笑顔には逆らえなかった」

 

一体何があったんだ。軍人のラウラが逆らえなかっただと…!シャルロットさん強すぎない?どういうことかな?とか聞かれたんだろうか。

 

「初めはどこか良い旅行先を聞いただけなんだ。そしたら何故旅行に行くのかと聞かれてな…。その、なんだ。…すまない」

 

あー、うん、まあシャルロットなら悪いようにはせんやろうし。ええよええよ。かまへんかまへん。

それにしたって道がくねくねしてきたね。そろそろ?

 

「ああ、もうしばらくすると、だ。今一時か。なら、あと三十分もしないうちに着くだろう」

 

おk。いやー、それにしてもけっこう遠くまで来ましたねー。

 

「来たなー」

 

なんかラウラが語尾伸ばすと、変。

 

「さりげなく失礼なことを言ってないか、嫁よ」

 

「ごめん」

 

「あとであーんの刑だな」

 

「へいへい」

 

なんてぐだぐだ感。あー、でもこういうのええなぁ。ていうかうどんとかだったらあーんも何もないような気はする。

お、あれがラウラの言ってた草津の入り口。多分。道の駅なんとか運動公園。

 

「さて、そろそろだ。まずは食事といこう」

 

「はいよ」

 

たしかにそろそろお腹は空いてきたな。時刻は一時半過ぎ。で、どこ行くん?

 

「嫁よ。和洋中。どれが良い?」

 

「とりあえず肉」

 

「よし」

 

そう言うとラウラは目的地が決まったのか、国道292号線を北上。駐車場に車を停める。あ、着いた?

ふーん、ここですか。お、食事処か。ええねえ。

ラウラがルーフをかけて車から出るのに合わせて俺も外へ。うーん。IS学園とはまた違う空気!この遠出しました感。素晴らしい!

既に一時四十分を過ぎたというのに店内はまだまだ賑わっており、少し待つ必要がありそうかな?

と思ってたら運よくすんなり空いた。やったね。

ちなみにここは一階だけでなく二階もあるみたい。でも二階はなんかけっこう狭そうな感じかな?一階の座敷席の端に通されたが、この長机を使っていた隣の団体さんはちょうど出ていくタイミングだった。そろそろ空きはじめる頃合いなんかな。

 

さてさてなーににしようっかな。お!しょうが焼きとな!俺これで。ラウラは?

 

「私は…そうだな。天ぷらうどんで」

 

おけ。決まり。…きっとラウラはあーんのことなんて忘れてるはず。だから言わない。にっしっし。

 

おー来たね…ってでっけえ。なにこれ。トンカツ?いや、しょうが焼きですか。そうですか。

もぐもぐうん美味い。柔らかいし肉厚。しかしてくどいということもなく優しい味付け。これはなかなか…。ご飯が進む!ラウラがいるから孤独じゃないグルメだな。うめえ。もぐもぐ。

ラウラはラウラで天ぷらうどんを一心不乱に食べ進めている。しかしけっこうなボリュームのしょうが焼き。うんまい。腹が減ってるとばくばく入るね。もぐもぐ。

 

ふう。ごちそうさまでした。お味噌汁で口の中がベタつく、ということもなくなったし、いやはや満足である。ラウラはまだふうふうしながらつゆを飲んでた。…先にお会計しとこ。あとトイレ。さてさて、いやー美味しかったね。余は満足じゃ!

 

伝票を持ってお会計。そしてトイレに行って戻って来たらラウラにジト目でにらまれたでござる。何故に。

 

「嫁よ。気持ちは嬉しいが、私が出すつもりだったぞ」

 

「いやまあほら、こっちとしては全部ラウラ任せで支払いまで頼むとなると心苦しい訳よ。人助けと思って、ここは支払わせてくれよ」

 

「まったく…。今回はまあ、既に過ぎたことだし嫁の言うこともわからない訳ではない。

だか!しかし!これ以後に関しては先に言ってくれ。いいな」

 

「はいよ」

 

だか!しかし!と来たので、まるで全然!かと思ったのに違った。悔しいでしょうねぇ…!ってか。悔しい。

という訳で、多分これ以後俺のお財布からお金が出ていくタイミングは無さそうです。なんかこうね?ラウラたん俺にお金出させるつもり微塵もないみたいなんだよね。全部自分が出す気満々というか。一体どうしたというのか…。

 

さて、車に戻りいざ宿へ。ここからすぐだっけ?

 

「うむ。ではゆくぞ」

 

「はいなー」

 

という訳でゴルフをコロコロ転がして10分。駐車場に車を止め、持ってきた荷物を持って旅館の中へ。

旅館はいかにも和風な老舗という雰囲気を漂わせており、なかなかに落ち着いた佇まいである。ほー、いいっすねえ。

中へ入ったラウラが何やら確認している。ああ、予約してたんだっけ?そう言えば言ってたね。

 

「うむ、嫁よ。確認が取れたぞ。先に荷物だけ預けてしまおう」

 

「ほいさー」

 

ということでフロントというか帳場ていう方がしっくりくるところに荷物を預けて再び車へ。

さあ、観光じゃー!ところでラウラさん?

 

「ん?」

 

さっき、湯畑へは徒歩でどうぞ。とか書いてあったけど。湯畑へ行くんじゃないの?

 

「それは後からでも充分だ。明日帰る前に寄ってもいいしな。それよりも、今から嫗仙(おうせん)の滝へ行こう」

 

おうせんの滝?なんじゃそら。

 

「なに、行けばわかるさ。私自身、楽しみゆえに少々浮かれている」

 

そう言うラウラはたしかにちょっと落ち着きがない。どこかそわそわしているというか。まあ、とりあえずは行ってみましょう!レッツゴー!

 

ということで車でしばらく。駐車場に車を停め、嫗仙の滝へ。おお、緑に溢れた遊歩道。山の自然や明るい森のような雰囲気が非常にゆったりと落ち着いた感じを醸し出している。ああ、こういうの良いねえ…。ね、ラウラ。

 

「ふっ。嫁よ、何だか子どものようになっているぞ?」

 

うるせいやい。にやにやしながら言うな。最近こういうゆったりした自然の中でってことが無かったんだい。ええやんけ。

て言うか人いなくね?

 

「まあ、ここはどちらかというと温泉街からは少し離れているからな。戻る時には他の観光客にも会うと思うぞ」

 

なるほど。隠れた名所的な?

 

「隠れた名所的な」

 

頷きを返された。

良いねえ良いねえ!期待が高まるねえ!

あ、見えてきたね。あら、これは…。

 

「ほう…」

 

嫗仙の滝は、どちらかというと迫力のある滝では無かった。ただ、木々の緑の中に赤い岩がこちらに向かって広がってきており、その赤く見える岩にいくつもの水流の白い線を書き起こしたかのような、幻想的で面妖な雰囲気の滝だった。

何というか…これ、写真で見たらきっと不気味な絵になるんだろうな。ただ、目の前のひんやりとした空気を運ぶ静かな滝は、ただひたすらに異世界に迷い混んだような、そんな不可思議な魅力があった。

 

俺もラウラもしばらく無言でじっと嫗仙の滝を見つめていた。ふとラウラと手が触れる。ラウラを見ると、同じようなタイミングでラウラも俺の顔を見ていた。…あれ、ラウラ。なんか顔赤い…よ?

あの、ラウラさん。なんで目を閉じてるんですかね。

あとちょっとだけ唇つきだして、んっ!とかちょっとどういうことですかってちょっと待ってホントあかんってあああ手をそんな風にいわゆる恋人繋ぎとかされると本当にーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕方ない。覚悟を決めよう。そう思ってラウラと右手を繋いだまま、左手をそっとラウラの頬に寄せる。

ラウラは俺の左手が触れたことにぴくっと反応し、しかし目を閉じたまま。

カラカラに喉が渇く。心臓がドクンドクンと暴れるほどうるさく感じる。俺のすぐ前には、いつもは純真に話かけてくれる銀髪の美少女(ラウラ)の緊張した顔がある。

そして俺は、そのままラウラの桃色の唇にゆっくりと顔を近付けて。

そのままそっと、その唇にキスをした。




壁|ω・)…
壁|・ω・)ピョコ
壁|・ω・)ラウラさん描いてみたので置いておきますね?


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【閑話】ある夏の日【中編】

閑話だから読まなくたって本編には問題ありません
おかしいな、思い付いた時はラウラとのキスなんて予定に無かったのに…


十秒。二十秒。永遠にも思えるほど長く感じた、ラウラと唇を合わせていた時間は、実際その程度であったと思う。驚くほど柔らかな唇の感触。粘膜と粘膜の絡みつくようなねっとりとした熱い感触。それでいて初々しい恋人同士のように、ぎこちなく合わされる唇。ただの触れあうだけのキスでありながら、二度と離さないというように押しつけられるラウラの感触。むさぼるような接吻。ラウラの左手を握っている右手が、熔けてしまうんじゃないかと感じるほどの熱い。

そうして俺とラウラがたっぷり押しつけ合っていた唇と唇を、ゆっくりと離す。舌を入れたりなどしていないというのに、俺の口からはラウラの口元の艶かしい唇に、粘性の糸が引いていた。顔から火が出そうなほど熱い。ラウラも顔を真っ赤にしている。そのままお互いに気まずそうに目を逸らす。でも不思議と気まずいだけじゃなくってーーー。

 

不意に、自分たちがやってきた方向から声がする。はっとして顔を赤くしたままのラウラを見ると、同じように考えたのか、はっきりとした頷きを返して来た。ラウラの右手を俺は握り、これまで来た遊歩道を戻りだした。

 

俺は左手にラウラの熱を感じながら、頭がどうにかなりそうだった。ラウラは頭から湯気が出るほど顔を真っ赤にして俯いており、俺が引いている手を離したらそのとたんにでも立ち止まりそうなほどだ。俺も正直、感情に理解が追いついていないが故の頭の混乱と、自身から溢れる顔から火が出そうなほどの熱量で頭がいっぱいである。それでも歩いて進めているのは、他の観光客が来たことで頭のどこか片隅のほんのわずかな冷静な部分が指示を出してくれているからだろう。そうでなければきっと俺もラウラと同じように、脳髄をとろけさせたように幸せな表情で、顔を真っ赤にしていたに違いない。あふう。

 

なんとか巡回路の、人があまりこないところまで歩いてきた。手頃なベンチがあるのでラウラを座らせようとしてーーー、ふとラウラの右手を握ったままだったことに気づく。

ふぅ。ひとつ鼻から息を吐く。

ラウラと同じ方角を体で向きながら、ラウラをベンチに座らせる。ラウラも少しずつ先ほどよりは落ち着いてきており、意識がぽーっとしていた状態からこちらの意図を理解出来るくらいには戻ってきていた。まだ顔は真っ赤なままだが。多分、俺も顔はいちごみたいに真っ赤なんだろう。そして手は恋人繋ぎのまま。初々しいカップルかよ…ああ洒落にならない!思い出すだけで悶え死にそう!さっきまで、すぐ隣にいるラウラの柔らかな唇と、ぷるりとした確かな弾力に溢れる唇と、キ…ス…を…。ぁぁぁぁぁ…。頭から湯気出そう!なに!なんなの!ラウラさんは俺をどうしたいんだぁぁぁ…!

 

そんな風に脳内大出血に悶えていると、ふと左手がにぎにぎされていることに気付く。ん?

ラウラの方を見ると、ラウラは未だ赤い顔をこちらに向けていた。はい、なんでしょう…。あああ、真っ直ぐラウラの顔を見ていると、ついついその唇に視線がいってしまう。さっきまで、この唇にキスを…!

また顔が熱くなるのを感じる。ラウラも俺の顔を見ていて同じことを考えたのか、収まりかけていたのに再び顔を真っ赤に染めている。

しかし、顔を真っ赤にしたままラウラは俺の顔を真っ直ぐに見つめて来た。

 

 

「嫁よ」

 

「はい」

 

「その…だな。順番が逆になってしまったが、あの…」

 

ああ、いや。これは俺が先に言わなきゃいけないことだろう。ラウラの声なき告白に、キスを以て応じたのは他の誰でもない。俺自身なのだから。

 

「ラウラ」

 

「ひゃいっ!?」

 

ビックウ!と肩を跳ねさせたラウラの両肩に手を軽く置き、俺はラウラの顔をじっくりと見て言った。

 

「…好きだ」

 

「よ、嫁よ…私も…私も好きだ。お前が好きだ。好きなんだ」

 

そう言ったとたんに思い切り俺を抱きしめてきた。俺は突然抱きしめられたことに驚きながらも、ラウラの背中に手を伸ばす。

優しくそっと抱きしめたラウラの体は小さくて、華奢な肩は強く抱き締めたら壊れてしまいそうなほどで。それでも、確かな芯の強さを感じさせる、そんな柔らかさ。

しばらく抱きあっていた俺達だが、どちらからともなくふふっと笑い、ゆっくりと離れた。いつまでもここに居るという訳にもいかないし、他の観光客も来る。俺はラウラの手を取って、車まで一緒に歩き始めた。ラウラが指を絡めてくるのを手に感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫗仙の滝を出た俺達は、再び車で移動していた。さすがに先ほどまでの昂りは少しずつ落ち着いてきて、一応俺もラウラも話が出来るくらいにはなっていた。まだ顔を真っ直ぐ見ると、恥ずかしさで一秒ももたずに顔を逸らしてしまうが。だって仕方ないじゃん、恥ずかしいんだもの。

顔を真っ赤にしながらも、ラウラが

「つ、次の場所に行くぞ!」

と言ったので俺達は車で移動している。それにしても、今回の旅行は1から10までラウラの計画に任せっきりである。

…はっ!

まさか、さっきのキスも、実はラウラの計画通り…!?

そうだとしたら、もはや俺は御釈迦様ならぬラウラの手のひらの上である。既に遅い気がしないでもない。半分くらいはラウラにやられてる気がする。だってあんなの卑怯だよ…。

頼りになるラウラの凛々しさから一変。…んっ、とかされて目を閉じて唇をきゅっ、と結んだままぎこちなくつきだして来るんだぜ。あんなの無理だよ…。可愛いよ…。ラウラには勝てなかったよ…。それマジなやつ。

 

さすがにだいぶ落ち着いたので、心地よい静寂に身を預ける。未だに心臓は爆発しそうな音をたてているが、それ以外は車の駆動音が響くのみである。

 

「…嫁よ」

 

「…なにかな」

 

「…私のファーストキス、だ」

 

ぶふぉっ!あなたいきなり攻めてきますね!何!?感想でも言えと!?

ちょっとラウラさん今日アグレッシブ過ぎるよ…。俺の心臓がもたない。死んじゃう。もう少し加減して。

 

「その…。迷惑、だったか?」

 

「…いいや」

 

そんなことはない。ただ、なんていうか。こう、いきなりだったから驚いただけで。

…いや、いきなりか?

・いつもスキンシップしてくる(ラウラ)からの誘い

・ラウラが全部計画してた

・二人っきりで遠くまで一泊二日のお泊まりデート

・あーんしたり恋人繋ぎする

・幻想的で神秘的な場所に二人きり

この時点で既に役満じゃねえか!何がいきなりやねん!俺のアホ!

あれ?けど待てよ?この後ってさ。

・ラウラと二人きりで旅館にお泊まり

・お風呂は貸し切り露天風呂を予約済み

・一部屋で寝泊まり

・布団もおそらく大きめのやつに2つの枕

 

とかだよね…?多分。いや、俺が妄想し過ぎかもしれないんだけど。

あれ。これ、ラウラさんちょっと。本気で攻略してきてない?トリプル役満かな?

 

(神は言っている…。羨ま死ねと…)

 

ふん、やられっぱなしは性に合わぬ。ならばこちらから攻め入るまでよ!

 

「ラウラ」

 

「ん?」

 

「…俺の初めての味は、どうだった…?」

 

「ぶふぉっ!」

 

けほけほっ!とむせるラウラさん。へっ、いい気味だ!なお自分にもダメージがある模様。私のお顔は真っ赤でござる。馬鹿です。

 

「その…しょうが焼きの味がした」

 

ししし仕方ないやろ!お昼ごはんの後やってんぞ!許して!

まさか正直に答えられるとか思ってもみなかった。これは堪える。あああ恥ずかしいぃ…。穴があったら入りたいぃ…。

正直すまんかった。ファーストキスがレモンの味じゃなくてしょうが焼きの味になってしまった。

すまない。本当にすまない。それどこのすまないさん?

 

さて、旅館の駐車場に再び車を停めて。ここからは歩くっぽい。いやー、それにしても暑い。夏だからね。3時頃ってまだまだ暑い。

そして熱い。顔が。頭が。いや全身も。血液が沸騰していた感じ。熱い。はふう。

そんな感じで、ラウラとは手が触れるか触れないかという微妙な距離で歩いていく。で、ラウラさん。お次の目的地はどーこでーすかー。

 

「あ、ああ。次は白根神社だ」

 

「ん、神社行くの?」

 

「ああ。草津温泉を最初に発見したと言われる日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀る神社だ。ご挨拶、というやつだな」

 

「ほう」

 

日本武尊さんか。日本神話の登場人物だっけ?草薙の剣でヤマタノオロチをぶったぎったとかなんとか。あれ?火打石で草原を燃やしたんだったかな?まあどうでもいいや。興味ないし。たしかそんな感じの人やね。

そんな人を祀る神社があることは別に驚きでも何でもないけど、そんな人が草津温泉を発見したとか驚きでしかない。日本人は昔っから温泉好きなんやねえ…。

 

「ここだ」

 

「これはまた…。なんかちょっとこう、空気が違うねえ…」

 

なんていうか。温泉街の人と湯の熱気の暖かさから少し離れた場所に来ただけでこうも違うのか、というくらい静謐な場所だった。はー、なんだか神聖な感じすらする。いい場所だねえ…。

ちら、と隣にいるラウラの方を見る。さすがにもう落ち着いたのか、顔色は普段通りに戻っている。

 

「…ん?どうかしたか?嫁よ」

 

「…うんにゃ」

 

何でもない。言えません、ちょっとぽーっとしてたとか。違います。見惚れてたとかじゃないんです。本当に。ただちょっとラウラの顔に目がいっただけなんです。視線が吸い寄せられただけなんです。

決して見惚れてた訳ではない。断じて!いいね!

イイネ?アッハイ。スッゾコラー!

 

ラウラと二人、ぱらぱらとまばらに人が居る境内をのんびりと歩いていく。未だにちょっとどきどきはしてるけど、こういう落ち着いた感じっていいよなあ。ほっとするよね。安息の地。

 

さて、二礼二拍手一礼。内心で呟く。

 

(わたくしは鹿波室生と申す者にございます。やまとたけるのみこと公にはご挨拶に参りました。どうかこの二日、何事も無きことを願いましては、お見守り下さいますよう宜しくお願い申し上げるところに御座いまして、ご挨拶申し上げます)

 

(嫁がこの二日間、楽しく幸せに過ごせますように)

 

二人で柏手をうち、願い事を考える。とは言っても俺の願いはただひたすらに平穏無事で過ごせますように、というものだ。やたらめったらおふざけはいれだが。ま、失礼な言い回しではないからいいでしょ。態度?めっちゃキリッとした真剣な表情でお願いしましたが何か?(すっとぼけ)

 

「さて。こっからは?」

 

「うむ。足湯で少し休憩しつつ、温泉街に足を運んでお土産でも見ておくのはどうだ」

 

「いいね。けど、今から買い食いすると夕飯入らなくなるよな、絶対」

 

「うむ。夕食は宿の方で手配してもらってあるからな。今日は買い食いは無しだ。

明日、出ていく前にでもお土産を買うついでに楽しめば良いだろう」

 

「マーベラス」

 

素晴らしい。いや、俺自分が女の子誘ってデートするだけでもここまで完璧な用意出来る気しないんだけど。ちょっとラウラさんハイスペック過ぎない?これがラウラの本気か。戦慄を禁じ得ない。やべえ。惚れる。いや、既に遅いわ。うん。少なからずこの子(ラウラ)に気持ちを持ってかれてるね。

ヤツは大変なモノを盗んでいきました。あなたの心です。

カリオストロ懐かしいなぁ。また今度見ようかしらん。

…いや、本当にこんなことでも考えて気を紛らわしてないと持たない。羞恥で。いやそれ以外の気持ちもあるかもしれないけど決してそれはなんというかほら気の迷いというか8つも下の娘みたいに感じてた女の子に惚れるとかあり得ないからJk(常識的に考えて)

どういうことかって?そういうことだよ。言わせんな。頼むから。お願いします黙ってて下さい。惚れてんじゃんとかそんな声は聞こえません。全て幻聴。幻聴である!幻聴なのだっ!

 

という訳でまずは足湯へ。お、人だかりがけっこう。あらら、これはしばらく待つかな?

と思っていたがしばらくするととっとこ退散する人たちが。あれは?

 

「まあ、湯畑からこの独特の温泉の臭いがするからな。合わぬ者もいるんだろう」

 

「なる」

 

とりあえず二人仲良く足湯へ。あ、なんか足先がぴりぴりするね。電気風呂かよ。

 

「うむ、強酸性だから刺激が強いんだろう。あまり合わなければ早めに出るか?」

 

「いや、意外とこれ慣れると気持ち良いよ。クセになりそうだ」

 

「ふっ、そうか」

 

そう言って嬉しいそうにする隣のラウラたん。か、かわええ!

 

(クセになったらなったで、また来年に来るのも良いだろう。…っふ、夢が広がるな。

…嫁よ、この楽しさを教えてくれたのは他ならぬお前なのだぞ?まあ、気付いてはおらんのだろうが…。

ふふ。…まったく仕方のない奴だ…)

 

さっきからによによ笑うラウラたんが可愛い。なでなで。あ、しまった。つい。やめよ。

 

「む、嫁よ。何故途中で止めるのだ。もっと頭を撫でよ!」

 

「はいはい」

 

そう言ってラウラさんの頭をしばしなでなで。くそっ、周りの人たちから生暖かい目で見られてんじゃねえか!クスクス笑われてるって!ラウラー!

 

そう思ってラウラを見るも、頭を思う存分撫でられてご満悦な様子。喉をゴロゴロされてる猫みたいな表情しやがって…。くそっ、かわええ!かわええよお!

 

むふー。としていたラウラがふんすと息をはいたタイミングでなでなで終了。さて、そろそろ行きますか。

 

「む、そうだな」

 

とりあえずほいタオル。

 

「すまん」

 

「ええよ」

 

ラウラにタオルを貸し、自分の足も自分用のタオルでふきふき。ちなみにハンドタオルはまた別に持っている。この時点で既に三枚のタオルを持ってきている俺だが、いつも旅行にはタオルを多めに持ってきている。タオルいっぱいあると本当に便利よ?おすすめ。

 

さて、二人とも靴をはいて温泉街探索へ。ほー、温泉まんじうに焼鳥。あー、焼鳥にビールとか美味しいだろうなあ…。ここで一献やりたいところだね。あ、そう言えばラウラってビール飲めるの?

 

「飲めるぞ」

 

「あれ、年齢的にはアウトじゃない?」

 

「日本の基準ならアウトだな」

 

「いやドイツでも駄目じゃね?」

 

本国(ドイツ)は16歳から飲めるぞ」

 

「えっ。マジで?」

 

「マジ、だ」

 

マジか。知らなかった。あれ?けどここは日本だから国籍関係なく日本の法律が基準だよな?

 

「つまり?」

 

「日本では法律上飲むことは禁止されているから飲めない。が、私はビールを飲んだこともあるし飲めることも知っている」

 

「なーる」

 

へえー。この辺はよく知らなかったな。てことは、16歳の日本人がドイツ言ったら酒飲めるの?

 

「む?国外犯の規定に飲酒の項目が無ければ飲めるはずだぞ。まあ、度数にもよるだろうが」

 

「度数で違うのか」

 

「違ったりするな」

 

「へえぇ…」

 

マジか。つまり高校の時点でドイツに留学すればちょっと早めに酒飲めたのか。まあやらんかっただろうと思うけどさ。なんとなく。

 

うむ。とりあえず全部美味しそうだし、適当に買っておけば良さそうやな!ちなみにラウラはお土産誰に渡すの?

 

「そうだな…。まあシャルロットと、あとは普段から世話人なっているクラスメイト達あたりか。ああ、一夏の奴にも持っていってやるか」

 

「ああ、じゃあ一夏君の分はラウラよろしく。んー、千冬の分は俺から渡しておこうか?ラウラ渡したい?」

 

「うん?いや、一夏の奴に教官の分も一緒に渡すつもりだぞ?」

 

「ああ、そういうことか。んー、じゃあおれは整備課の奴らと真耶ちゃん…くらいかな?」

 

「生徒会長の分はいいのか?」

 

「あっ」

 

ごめんたっちゃん。すっかり忘れてたよ。許してヒヤシンス。

じゃあたっちゃんと簪ちゃん、後はよくお世話になってるから虚さんとー…。もう面倒だから家族用のセットでいいか。たっちゃん関係者で一括りで。あとは轡木さん?賄賂だ賄賂。はは、冗談だけどちょっと想像したら笑った。轡木さんが『お主も悪よのう』とか言ってるのが簡単に想像できた。俺は俺で『ははー!お納め下さい』とか馬鹿なことやりそうだしな。あほす。

 

「じゃああれだ。たっちゃん達の分、轡木さん、真耶ちゃん、整備課の奴ら。うん、これくらいかな?甘納豆はともかく、温泉まんじうは日持ちしないでしょ」

 

「そうだな。それくらいで良かろう」

 

「あ、俺ついでに自分用にビール買ってこ」

 

「明日買うなら私の分も頼む」

 

「…ラウラお前、寮で飲む気か…?」

 

「IS学園は日本ではないからな。飲酒しても良かろう」

 

「…確か規則で禁止されてたろ」

 

「嫁よ」

 

そう言ってラウラは真剣な表情でこちらをクルリと振り向いた。なんぞ。

 

「この世には、バレなければ問題ないという言葉があってな?」

 

「問題だらけだぼけぇ!」

 

アカン!こいつ本気で飲む気でいやがる!駄目なやつだよこれ!

 

「なっ…!し、しかしだな!本国では問題ないのだ!久しぶりに私だって飲みたいぞ!少しくらいなら良いだろ?な!?」

 

「な?じゃありません。だめでしょ」

 

「ええい、何も問題ないのに強制的に禁酒させられているのだぞ!?少しくらい良いではないかぁ!」

 

「だめです」

 

ていうか、絶対シャルロットが許さない気がする。さすがに。

ただまあ、今までオッケーだったのがダメと言われて嫌な気持ちはまあ、分からんでもない。俺自身はちゃんと二十歳になるまで酒は飲まなかったが、別に他の人に迷惑かけない範囲で楽しむ分には問題ないと思ってる派だし。うーん。

 

「よし、じゃあこれでどうだ。今日の夕飯時にビールを頼んで飲む分には大目に見よう。ただし、土産の酒は無しだ」

 

「何っ!良いのか!?」

 

「だってラウラ、飲みたいんだろ?」

 

「飲みたいぞ!!」

 

「だからまあ、俺が見てる分には許す。ただし今日だけな」

 

「うむ…!うむ!」

 

ラウラが目をキラキラさせてこっちを見ている。はは、本当にドイツでは水の代わりにビールを飲むっていうのが信憑性高くなったな。それくらいの喜びようである。どれだけ嬉しいんだ。

 

あらかた温泉街のお土産屋を見て回り、お土産に目星をつけたので旅館に戻ることに。ちょっとはやない?

 

「夕食は6時半からだが、それまでに風呂に入っておいた方が楽だろう?」

 

「ああそっか。飯と酒にしてからの風呂はちょっとキツいか」

 

「それに、お腹がふくれたらあとは寝るだけの方が何かと気持ちが楽だ。それゆえ、少しくらい早いくらいでちょうどいい」

 

「あー、まあ慣れない長旅で身体中疲労は確かにあるしね。その通りっちゃその通りだな」

 

「うむ。今回は貸し切りの露天風呂を一時間以上借りたからな。楽しみにしていろ!」

 

「そうするよ」

 

そんな話をしながら歩き、気付けば旅館の目の前。さー、お部屋の御披露目ですよー?

フロントで預けた荷物を受け取ろうと思ったら、もう既に部屋に運ばれたという。いい仕事してるぅ!ナイス。

正直足がけっこうズーンと重いから、荷物運ぶの面倒だったんだよね。さすが老舗っぽい旅館。素晴らしい。

老舗のような店構えは伊達ではなかったということか。

 

「こちらのお部屋がお客様のお部屋となります。

また、何かございましたらフロントまでお申し付け下さい」

 

そう言って案内してくれた仲居さんに一言礼を言い、中を見る。

どうやら和室と寝室、そしてテーブルと椅子のあるリビングに別れている。三間続き…って言うのかな。

和室は十畳ほどの畳のスペースに背の低い四角机と座椅子が配置されている。俺がごろごろ寝転がっても大丈夫なほど広い。

寝室はローベッドが2つと広々としたベッドルーム。これまた十畳くらいありそう?荷物はここの隅に片付けられていた。助かります。

リビングは六畳ほど。窓からは草津のシンボル、湯畑が見える。椅子とテーブルもどこか和風で、背の低い感じ。おじいちゃんやおばあちゃんでも使いやすそうだ。

 

さて、ところでラウラさん?

 

「ん?」

 

あなたいそいそとお風呂の準備してますけど。貸し切りの露天風呂って、もしかして混よk…

「さあ嫁よ!行くぞ!」

 

待ちなさい。誤魔化そうったってそうはいきませんよ?白状しなさい。混浴?

 

「…うむ」

 

頬を赤く染めてつい、と視線を逸らすラウラさん。

さあ、一体何を企んでいるんですか!白状しなさい!

 

「よ、嫁に元気になって貰おうと…だな…」

 

うんうん。それで?

 

「その…」

 

ラウラはそう言って、しょんぼりと俯いてしまった。やや、これはちょっと言いすぎたか。

いや、でも年頃の女の子と良い歳した成人男性が裸で入る風呂に貸し切りとかいかんでしょ。ええんやで。

誰だええんやでって言った奴。俺。違います。駄目です。

 

「…はあ。つまり、俺に元気になって貰いたかっただけで、他意はないんだな?」

 

「う、うむ!」

 

(嫁がこの様子では、実はあわよくばを考えていない訳ではないとか言えんな…)

 

ふう。ここはラウラの言を信じることにしよう。実際、これまでのコースも俺のために頑張って考えてくれたものだろうし、これ以上とやかく言うのは無粋かな。

しゃーなし。

 

「…信じるよ?」

 

「うむ、任せろ!では行くぞー!」

 

そう言ってラウラは俺の手を引っ張ってフロントにぐいぐい進んで行く。まあ聞かないと露天風呂の場所わかんないしね。

そこの仲居さんに案内してもらったのは、露天風呂とは言いつつ半分屋内のような感じだった。屋根が露天風呂のほとんどまで出ていて、隣にはお座敷が。いつでも休憩出来るようになっていた。

それにしても、露天風呂の隣に畳のお座敷か。い草がいたむの早そうだな。いや、でも普通にガラス戸で仕切られてるし大丈夫なんだろうか。ちなみに着替えはちゃんと男女別。良かった…。ちょっと安心した。

さて、服を脱いでタオルを腰に巻き。いざ露天風呂へ!

実際に露天風呂に足を踏み入れると、足元の滑りやすさがあまりないことに気付いた。うむ。安心。

気付けばもうラウラさんは湯船に浸かっており、岩に囲まれた浴槽を満喫しているようだ。白くてきれいな背中がちょっぴり見えて、俺は心臓が跳ね上がるようにどぎまぎした。

ラウラは普段無造作に後ろに流している銀色に儚くきらめく髪をおだんごにしており、いつものラウラよりもより幼い感じに見えた。そのくせ髪をアップにしたことで見えるうなじは確かに16歳という多感な時期の若々しく瑞々しい肌の美しさを主張している。空が青から紅く染め上がるグラデーションの美しさをちらりと屋根の端から見せるが、その美しさよりも圧倒的に俺の目を吸い寄せて離さない美しさと儚さがそこにあった。

 

くるりと前屈みになってラウラに背中を向ける。鎮まれ俺の煩悩…ッ!鎮まれマイサン(息子)…ッ!

そ、素数だ。素数を数えるんだ。2、3、5、7、11、13、17…

 

…ふう。よし。大丈夫。あれはラウラだ。大丈夫。ラウラだから。ラウ…ラ…。

 

(キスした時の柔らかな感触を思い出した)

 

…ああああ!ダメじゃん!ラウラだから大丈夫だったのが、キッキキキ…キスしたからこそのギャップでさらにその破壊力があぁぁぁあ…!

ええい。もういい。無理に生理現象に立ち向かうのは諦めた。不可能なことに拘るのは愚かなり。天を衝かんばかりに屹立してしまっている部分はもういい。諦めた。その上にタオルを巻いて、いざゆかん!ええい、ドン引きされても知るものか!

 

カララララッ。

 

「む、来た…か…」

 

ラウラは嬉しそうにこちらを振り向きーーー、そして固まった。すまない。許せラウラ。鎮まらなかったんだ。

歩くたびに左右に揺れるそれにラウラの視線がぴったりとついて来ているのを感じる。やめろ、保健体育じゃないんだぞ!

ラウラからの視線を努めて気にしないようにしつつ、かけ湯場に行き身体にお湯をかける。…うむ。先に身体と頭を洗おう。そうしよう。ラウラさん、そんなに無遠慮に横からあれを見つめられるとその…ね…?銀髪の艶やかさのある小柄な16歳美少女にピーーを見つめられるなんて特殊すぎるシチュエーションに、俺のハートは耐えられなかった。三十六計逃げるに如かず。うむ。

という訳でシャワーと水・お湯の出る蛇口の前に椅子と風呂桶を持っていき、椅子に腰掛けて一息つく。ふぅ。

…未だに背中から視線を感じる。なんだ。なんなんだ。この肉食獣に狙われているかのようなプレッシャーは…!

頭からお湯をかぶり、髪を濡らしてからよく洗う。身体もごしごし。あぁぁぁ、さっぱりするうぅぅぅ…!はふぅ…。

それにしても、どうして一夏君はシャルロットと一緒にお風呂に入って平気だったんだ。あり得んぞ!どうなってんだあいつ…。

さて、未だに動悸は収まってないが息子は大人しくなったところで、湯船へ。だからラウラさんガン見してるんじゃありません。こら!

 

「はあぁぁぁぁ…!」

 

あぁ…!風呂は心の洗濯とは誰が言ったか…。まさに心も身体も洗われるような気持ち…!

じんわりとしたあたたかさが疲れた身体に染み渡る…!今なら俺の方にすーっと寄って来ているラウラの事だって気になーーー待て。なぜ俺の正面にいる。待て。待て。待つんだ。浴槽に半分横になっているような体勢の俺の太ももの上に座るな。胸を隠しなさい胸を。 ちょっ…!こらラウラァ!

 

「胸を隠せばいいのだな?ほら」

 

そう言って左手で胸を隠し、右手で俺の肩を掴んだまま俺の太ももの上に座るラウラ。先ほどちらりと見えてしまったラウラのデリケートなゾーンの銀色なんて俺は知りません。きっとそれは水の反射具合が光って見えただけ。きっとそう。銀色に揺らぐふさふさなんて、俺には見えていなかったはずなんだ…!

こちらに来るまでに隠す気のさらさら無かった桜色の2つのポッチなんて見てません。きっと俺が疲れた故の幻覚だ。そうに違いない。死にそう。

俺は今はまっすぐラウラの顔を見上げている。左手で一応胸元を隠しているラウラだが!さっきから俺の太ももの上で座ってるくせにふらつくせいで!チラチラと!視界の端にピンク色の頂きが見えてんだよぉ!

 

「ラウラ」

 

「なん…っとぉ!」

 

なんだ、と聞こうとした時にはもはや俺の方が限界。ラウラの肩をひっつかみ、くるんと半回転させる。相変わらず俺の太ももの上に座る状態だが、こうすれば俺から見えるのはラウラの背中だけ。もはや俺の理性が持たないからね。視界に入れないようにします。離したとたん再び襲うように誘い受けされる危険性があるので、息子が当たらない程度の距離でくっつく。はあ。まったく、SAN値がゴリゴリやられてますわあ…。

それにしてもきれいな背中である。うわーすごいきめ細かい肌。女の子やねぇ…。俺おっさんみたいやね。あ、24はおっさんか。そーかそーか。

 

「その…嫁よ」

 

「ん」

 

「迷惑…だったか?」

 

「少なくとも、身体を全く隠すことなくこっちに来たのは」

 

「私は嫁に隠さねばならぬような場所などないぞ!」

 

「大事なところは隠せぇ!」

 

このおばか。ダメだ、なんでこうもポンコツになっているんだ!計算か!?計算してやってるのか!?

 

「しかしクラリッサから聞いたぞ!真に仲の良い男女は、何も隠し事などしないと!」

 

「身体を隠すことと隠し事をしないのは別の話な!

身体を隠す恥じらいくらい持つもんなんだよぉ!」

 

もうやだこのポンコツっ娘…!なんなの。

私のSAN値はもうゼロよ!SAN値直葬は過ぎたのよ!

HA☆NA☆SE!

 

ていうかラウラさん?俺の手を取って何してるの?

 

「む?いやな、こう…嫁の腕が私のお腹を抱きしめるようにしている」

 

「どしてよ」

 

「ふふ…。こうすると、私が大切にされている気分になれてな…」

 

あー、はいはい。分かりましたよ。ぎゅっとすればいいんでしょ。ぎゅっと。

 

「うむ。…ところで嫁よ。なぜもっと密着させない」

 

「あたるじゃん」

 

「私は気にしないぞ!」

 

「俺が気にするの。バカなことばかり言ってるなら抱きしめるのもやめるけど」

 

「むう…。仕方あるまい」

 

はあ。まったく、精神が持たん。これ、新手のハニートラップとかじゃないよね?

死にそう。まさかこんな風に死にそうになる日が来るとか思ってなかった。死因は理性との戦い。理性と戦ったらダメじゃねえか。

いかんな、のぼせてきたか?あとそろそろラウラのお腹周りに腕をまわすの疲れた。ふう。よし、ラウラの太ももの上に腕をポイ。

…ラウラ。何してるの?おまたごそごそして。

 

「…うむ、少し待て」

 

「いや良いけど」

 

本当に何してるんだ?あ、アカン俺もう頭がぼーっとしてきた。ちゅらい。ラウラの太ももすべすべー。これはもう駄目かも知れませんね…。

 

「よし。抜けたぞ!嫁よ、これをやろう!お守りだ!」

 

そう言ってこちらに顔だけ向けながら差し出されたラウラの手には銀色の細い毛。…毛?

 

「待って。待ってラウラ。それ、どこのバカから聞いたの」

 

「クラリッサの奴が教えてくれたぞ!」

 

小説版ガンダムじゃないんだから…。いや、クラリッサは多分悪意はないんだろう。ないんだろうけど。ちょっとさあ…。それあそこの毛でしょう?アソコの。

あのさあ…。

 

「ラウラ。別に無くて良い。大丈夫だから」

 

「む?しかしだな」

 

「良いの。大丈夫だから」

 

「そうか…」

 

そもそも兵士でもない俺が戦闘することになるなんてよっぽどないのだ。だからラウラさん、しょんぼりしても駄目です。熱い。頭がぼーっとする。完全にのぼせてますわぁ…。

 

「ならば、今度戦闘に巻き込まれるような事があればお守りとして渡すぞ」

 

「いいよ」

 

どうせそんなことあるはずがないし。へーきへーき。それよりはよ出たいねん。ラウラちゃんそろそろお膝の上からどいて?

 

「いいか、絶対だぞ?お守りというのは馬鹿にならんのだからな?絶対だぞ?」

 

「はいはい」

 

そんなおざなりな返事をする。ラウラが退いてくれたので、タオルを腰に巻いてとっととお風呂から出る。あーあっつー…。なんかどっと疲れた。身体の疲れはとれたけど。

疲れを取るためのお風呂で疲れるとかもうね。自分で自分のことがなんかちょっとあほっぽい気がするね。うんうん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにこの時の俺は知るよしも無かったが、夏休みがあけてそうそうに亡国機業にやられました。それ以来お守りを持たされた。ああ…。

ちょっとだけ、中を開けて見てみたいとか思ったのは内緒。




前後編に分けるつもりが前中後編とかいうボリュームに。何故だ


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【閑話】ある夏の日【後編】

たっちゃん好きでたっちゃんの出番が見たい人はそろそろアップを始めてくださーい
本編が今良いところなのにラウラさんが…ラウラさんが…!
あとまたしても日間6位に載ってましたね
ありがとうございます

ところでだれか、前話の途中から鹿波がラウラとイチャイチャラブラブ○○○する話描いたりしてくださらない?物語でも漫画でもイラストでもいいのよ?


やあ皆。さっきまでのぼせてた鹿波さんだよ。今はラウラともども浴衣に着替えて和室で横になっています。いやー、浴衣いいね。涼やかです。楽ちん。

ちなみに横になっているのはなんと!ラウラさんの膝の上!いわゆる膝枕。ええやろ?でもね。俺がのぼせた原因もラウラなんだぜ。ラウラが原因でのぼせて、その介護をラウラがする。…マッチポンプかな?自作自演?こういうのって何て言うんだろうね。

 

さて、あと10分くらいしたら仲居さんが来て、お料理の用意が出来ましたー♪とか呼びに来てくれるらしい。なのでそれまでぼーっとラウラの膝枕を堪能することに。

あー、女の子特有の柔らかい感触。そしてしなやかな筋肉の厚み。ちょっと薄いけどね。うはー。

ちなみに見上げればラウラの顔がまるっと見える。胸で顔の一部が隠れたりということはない。ふへへ。思考が完全にセクハラ親父のそれである。あれ、俺どこで間違えたかな。前世か。

前世では自分の浮気性を屑のろくでなしの証左だと思ってたんだよね。そしてまあいろいろあって、まあ俺は浮気性な奴だしなーと自覚して開き直るに至る。そしてセクハラは駄目だ!とかくそ真面目に思ってたけど、世の中にはこっちに非が無くても、自分が嫌な気持ちになったからセクハラ!とか言う理不尽に遭ってからは吹っ切れた。思う存分セクハラする屑になってやるぜーと。

まあ相手が本気で嫌がってたらやらないようには気をつけてるけどね。あくまでも基準は相手じゃなくて自分。相手が嫌がっていることに気付いたらやめる。相手が嫌がってないようならやる。ゲッスゥ!

 

「ラウラー」

 

「む?」

 

「おっぱい触っていい?」

 

流れるような唐突なセクハラ。うーんこの。

 

「いいぞ」

 

「やっぱり嫌だよな…ん?」

 

「いいぞ」

 

「いいのか」

 

「いいぞ」

 

(むしろ来てくれ!ばっちこい!)

 

…なんだかラウラさん、ニコニコして嬉しそうなのでやらない。この天の邪鬼め。俺です。

 

「ラウラ様ー、鹿波様ー。お食事のご用意が整いましたので、和の酉へお越しくださーい」

 

お、ご飯出来たってさ。さ、いこかー。

 

「嫁よ。私のおっ」

 

いこかー。(無視)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、和の酉と呼ばれるお食事のお部屋は個室でした。壁にくっついているテーブルに、一対の椅子が向かい合って置かれていた。すぐさまラウラさんが椅子2つを同じ向きに並び替えた。何?何かこだわりがあるの?

 

「うむ。良いか嫁よ。向かい合って食べるより、同じ方を向いて食べる方が親近感が増すのだ!」

 

ふーん。既に俺の場合、ラウラにメロメロ(死語)というか骨抜きにされてるところあるからね。あんまり効果ないんとちゃう?

 

「何!?嫁は既に私のことが好きだったのか!?」

 

いや、嫌いだったら一緒に旅行とかこないし。ていうか、滝のところでキスしてあげたでしょ。その時にも言ったでしょ。まさかもうお忘れ?

 

「い、いや。そうか。そうだな。ふふふふふふ…」

 

なんだかにやにやしてトリップし始めたラウラさんは放っておいて椅子に座る。奥から。

今の感じだと入り口を向くように俺とラウラさんが並び、俺の前にはテーブル。右には窓。左にラウラさんである。うむ。この距離ならちょっと手を伸ばせばラウラさんの肩を抱けるね。つまり…!

ラウラさん?ああ、俺の隣で悶えてるよ。よだれたらしてうへへとかいいながら頬を赤く染めてる。やべーよこいつ。

ってことです。あ、仲居さん来た。ラウラにちょっとひいてる。仲居さんごめんなさい。ちょっとこの子今日いろいろあって壊れてるの。

 

先付が来た。仲居さん、ビールある?サッポロの瓶のやつ。うん、2本お願いします。あ、コップも2つ。あ、大丈夫ですか。よろしくお願いします。

ほらラウラさん。ラウラさん。ビールちゃんと頼んでおいたから、そろそろこっちに戻って来なさい。

…。駄目だこりゃ。完全にぽやぽやしてる。ふむ。

何か面白い気付けはないかな…。あ、劇薬でいいか。

 

ラウラー。…ふむ。トリップ中。

ほっぺたに両手を添えてみる。…ふむ。まだトリップ中。

仲居さんはまだ来ない。よし。

 

ずいっ。

ずずずいっ。

ラウラさん、俺が顔を至近距離に近付けてもぽわんとしておる。

 

…。

えい。

ちむ。

 

本日二度目のキス。接吻とも言う。

 

「…んむぅっ!」

 

ラウラが目を見開く。

ラウラさんおかえり。だがもう遅い。

じっくりねっとりとラウラの咥内を舌で凌辱する。

粘液を念入りに交換し、この咥内が俺のモノであることをマーキングするかのようにディープに、そして丁寧に丹念に。心のこもった、しかしそれでいて性交をするかのようないやらしいキス。ぷるぷるとして驚くほど柔らかい唇の感触。びくっと、そしておずおずと差し出されるラウラの舌。甘く感じるラウラの唾液を味わい、念入りにラウラの口内に俺の唾液を舌で押し付けるように塗り込む。

たっぷり10秒。長いようで短い間に、舌と舌をからめあい、まるで媚薬でも飲んだようにラウラの顔がとろけたあたりで、俺はラウラから唇を離した。一瞬だけお互いの間に煌めく銀色の橋。しかしそれも一瞬だけで消え、残ったのはぽーっと顔を赤くしたラウラと当然のようにご飯待ちの俺。特に何もありませんでしたよ?(すっとぼけ)

そして仲居さんが前菜と共にビールを持ってきてくれた。や、どうもありがとうございます。あ、ラウラさんは気にしないでください。仲居さん、顔を赤くして行っちゃった。あらら。

ほいラウラさん。ご飯ですよ。…まだぽーっとしてる。

先食べるよ?

 

じゃ。いただきます。

まずはコップにビールを注いでー、ふんふーん。あ、ラウラさんおかえり。今ビールの用意してる。うし。ほれ。

 

さてと。じゃ、乾杯。

 

「かんぱい…」

 

まだラウラさんぽーっとしてますね。ま、ビール飲めるんなら大丈夫でしょ。あ、この煮こごり旨い。サーモンも良い。うーまーいーぞー!味皇さま。

この南蛮漬けもいい。いやー、酒が進む進む!

袖がくいくい引っ張られる感覚。ん?

左を見たら、ラウラさんが俺の浴衣の袖を引っ張っていた。なになにどしたん?

 

「…ん」

 

そう言って目を閉じて、ちょんと唇をつきだすラウラさん。ああもうかわいいなあ!

ほら。ん。ーーーーちゅ。

触れるだけの簡単なキス。だがそれでラウラさん的には充分だったようで、えへへ…とかいいながら俺の肩に頭を預けてきた。ほら、この南蛮漬け旨いぜ。ほい、あーん。

 

「あー…」

 

もぐもぐしてるラウラさんを適当に餌付けしつつ、俺は俺でがばがばビールを飲んでは目前の料理の数々に手をつける。うんまい。舌鼓をうちまくりである。あ、ラウラさんビールおかわりほれ。飲め呑め。

 

そして更に運ばれてくる御碗と造里。おほーっ!美味しそうな鮪!海老!そして蟹!

あ、仲居さんが食べ終わったお皿を下げてくれた。ほんのり頬を赤くしながらちらりと俺にしなだれかかるラウラさんを見るものの、気にした素振りもなく仕事をする様はまさに仲居さんの鑑。…ごめんなさい。うちの子、今もうとろとろに蕩けてるの。俺がばっちりディープなキスしたりしたから。俺が悪いですね。はい。諸悪の根源か…。

これも全部、鹿波って奴の仕業なんだ!せやね。

 

いやー、いいじゃろ。こんなにかわいい女の子(ラウラ)とキスもしてピーー(放送禁止用語)もしようと思えば出来て(しないけど)、旨い肴に旨い酒。これで諸悪の根源扱いされるくらいなら本望じゃない?人間的には屑なことこの上ないけど。

 

あ、良いこと思いついた。

 

まずはビールを口に少し含みます!

ラウラの顔にそっと手を当てて、後ろから頭を抱き寄せるようにキス。

そして!

口に含んだビールを!

ラウラの口の中にぃぃぃぃ!

インっ!

ついでに舌を入れて口内中を暴れまわる。ラウラの頬の内側のねっとりとした熱を感じ、上顎のざらつきを舌で感じ、ラウラの舌の柔らかさを俺が舌でなめまわし、ラウラの口の中という口の中すべてを蹂躙する。

…。ん、ラウラさんお口の端から少しビールらしき粘性のある液体が垂れちゃったね。ほら、ふきふき。

…あらー、ラウラさん目を開けたままトリップした。よし、暫くほっとこ。さすがにやり過ぎたかもしれん。

…これでラウラさんがキス魔になったらどうしよう。アカン。何がとは言わないけどすごいアカン。アカン。

授業が終わる度に俺の元へ来て話をする前に頬を赤く染めて牝の顔で俺にキスをねだるラウラさんが容易に想像出来る。しかも有事にはキリッと凛々しいラウラさんとのギャップ付き。これは俺死んだな。

ま、ラウラがキス魔になると決まった訳じゃないし。なるようになるさ。へーきへーき。気にしないで大丈夫でしょ。ビールビール。あ、無くなった。2本目ぇ!

 

お、仲居さんが鍋を持ってきてくれた!牛肉のしゃぶしゃぶ!ひゃっほー!いいですねぇ!

あ、ビールもう一本追加で。さっきから地味にラウラさんもビールはぐいぐいいってるし。復活早くなってきたな…。慣れてきたか?

そして仲居さんがまた姿を消し、ラウラがビールをぐびぐびと口に入れてーーーー。待て。何故立った。や、なんとなく予想出来るけど。あ、顔をがっちり固定されてる。あ、口にビールを含んだままのラウラさんの顔が近づいてくる。あ、あ、あ、あーーーーーっ!

んぐっ、んむっ…!っぷはあ。あ″ー、ビールだ。しかも何かラウラさんの唾液混じりの。なんかちょっとねっとりしててえろい。ビールなのに。ビールがえろいとかこれいかに。あ、口にラウラさんの味がする。ちょっとねっとりしたのが残る。あー、これはラウラさんもぽーっとしますわ。破壊力がヤバい。ラウラがあと2年ほど育ってたら、間違いなく夜の大運動会が開催されるところだ。

え?今日?

やらないよ?ゴムねえし。

生でやって子供出来たらどうすんだよ!そこまで無責任なことするほど堕ちてねえよ!俺は屑だけどな!はっはー!

うん、完全にこれ俺酔っぱらってますね。今ならラウラさんを襲えるまであーーーいやそれはねえな。ないわ。うん。さすがに酔っぱらっててもそんな外道にはなりたくない。それくらいまで堕ちるくらいなら死ぬ。誇りという誇りは埃だったと分かった前世に捨ててきたけど、屑には屑なりのけじめがあんねん。あ、ラウラ豆腐食べなおとーふ。体にいいから。イソフラボン。大豆。

お、またしても仲居さん。食事時は大変ね。って、およ?

さっきより来るの早くない?まだ鍋残ってるよ?

…って思ってたら肴の追加でした。あ、ビール更にもう一本追加で。オナシャスセンセンシャル!

すでに俺とラウラさんで3本空けてるんだけどね。ラウラさんビール本当にぐびぐびといくのよ。勢いよく。それもまー、本当に嬉しそうというか美味しそうに。良いねえ良いねえ、良い飲みっぷりだねぇ!ぃよっ、日本一!あーっはっはっはー!

とりあえず追加で来た肴の三品のうち一つに手をつける。うーん、んまい!しかし名前がわからんね。ま、うまけりゃ何でも良いか!な!

お、鍋空になりましたーっとぉ。うぇーい。だいぶん壊れてきてまーっす。うへへへへ。姉ちゃんええケツしてんのお!ラウラだけど。なにが姉ちゃんやねん。お前今日ディープなキスまでしたやん。

 

あら仲居さんこんにちは。いやこんばんはか。既に俺氏完全に出来上がり。これ、仲居さんに迷惑かけかねないからなるだけ話かけないようにしよ。うん。

お、ご飯だ。若菜ご飯にアサリ汁、香の物。ざ、わしょく。うむ、アサリ汁、うまし。

茶碗蒸し食べたいな。仲居さん、茶碗蒸し食べたい。あります?ある?いよっしゃ。あ、ラウラさん茶碗蒸し食べたい?じゃあ仲居さん、茶碗蒸しを2つお願いします。お忙しいところ、すんませんね。

 

やー、酒でお腹がバカになってる。満腹かどうかすらわからん。が、多分食べた量的には夜お腹が空くってことはないでしょ。多分。あー、これは宴の終わり感ありますねえ。ふー。あ、ラウラさんビール全部飲んだ?ん。おけ。ビールは四本空!っしゃー!美味しかったです。

 

あとは茶碗蒸しとデザートくらい。茶碗蒸しまだ?ラウラちゃん俺にしなだれかかるっていうかもうべったり倒れかかって来てますけど。ラウラ、ラウラ、ラウラさん。あなたの頭は大丈夫?失礼な奴が居るな。俺です。

…あ、ラウラさん寝そう。ちょっと一気に飲み過ぎな。ペースを考えて…って言いたいけど、久しぶりのビールなら正直気持ちは分かる。ちょっとはっちゃけちゃうよね。

ラウラ大丈夫?横にならなくていい?起きてられる?

ん、それじゃあもうちょっとだけ頑張って。

あ、仲居さん茶碗蒸しとデザートありがとうございます。これで全部ですよー。はい、ありがとうございましたー。

 

あー、あったかい茶碗蒸しが、風呂上がりにビールとエアコンで冷えた体に美味い!ラウラさん、あーん♪うっわかわいいこの子。雛鳥みたい。はい、あーん。雛鳥ラウラちゃんがむぐむぐごっくんしてる間に自分も食べる。ラウラ用の木のスプーン、全く使ってねえな。全部俺のスプーンだけ。いいけど。

ん、はいあーん。ん、俺はあとデザートだけ。ラウラ、自分で茶碗蒸し食べれる?あ、あーんしろと。お口を軽く開けたまま待ってるのは、あーんしろと。ほい、あーん。ん、あと二口…もうちょっとあるか。ほい、あーん。…。ん、あーん。…デザート食べたい。はい、あーん。はーい良くできましたー!あ、デザートはそれね。

桃のムースと苺。

 

んー、甘くて美味しい。あっという間に完食。あー、美味しかった。はふぅ…。けふっ。あ、酒くせぇ。ごちそうさまでしたー。ラウラも食べ終わりそう?うん、もうラウラちゃんお目目とろん…としてるね。はい、ごちそうさまでした。

さ、部屋戻るぞ。ラウラ、立てる?あ、くたくたのくにゃくにゃですな。しゃーないなーもー。よいせ。軽っ。

ラウラちゃんお姫様だっこして部屋に戻りますよー。近くで良かった、部屋。ラウラちゃんベッドに置いてっと。

あとなんかあったかな。特にやらないとダメなこと…。あ、スマホだけ電源切って充電か。なんかメール来てるけど明日でいいや。ぷちっとな。

よし。あとはケーブル繋いでー、っと。あら?コンセントどこよ。コンセントコンセント…あ、あったあった。

さー、今日の業務終了!あ、ラウラに一応掛け布団だけ掛けたげてーっと。部屋の照明は…あ、このリモコンだな。リモートコントローラー!海馬社長!それエネコン。イモートコントローラー!それ友人。

さて、ラウラさんもはや夢うつつ。俺も寝るとしようか。今なんじー!しーちーじー!はっや。

それでは皆さん、よい夢をー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはようございます。鹿波です。知らない天井だ…。あ、そういえばここ旅館やん。知らない天井な訳だよ…。

とかついさっきまでやってました。今ベッドから身を起こしたとこ。

隣にはラウラさんがすやすや寝てる。これこそ本当の

「ラウラ?ああ、俺の隣(のベッド)で寝てるよ」

ってやつやね。お楽しみはなかった。二人ともぐーすか寝てた。今ね、朝の6時。朝ごはん何時からだっけ…。7時か7時半だったと思うけど。あー、頭がちょっと重い。

隣のラウラを見る。昨日ラウラと滝のところでキス…したんだよなあ…。あ、ちょっと恥ずかしくなってきた。やだ、俺の精神純情すぎ…!?

あ、大浴場がこの時間は既に空いてるのね。10時半まで使えるのか。

まだラウラはもぞもぞしてるし、書き置きだけして大浴場も行ってみよう。昨日は貸し切り風呂だったし。あ、そういえばセイラさんのお守りならぬラウラさんのお守り事件とかあったなあ…。ただ、ちょっと食事中の記憶がない。そんなにがばがば飲んだのか…?ストレスたまってたのかもしれないな。改めてラウラには感謝だなー。ガス抜きって大事ー。

 

さて、フロントで大浴場の場所を聞いていざ大浴場へ。

けっこうどころかかなり広い。しかも人もまばらにしかおらず…って、朝の6時から風呂来てるおっさんが他に三人もいることに驚き。あんたら朝早いな。

あー、朝風呂…いいっすね~。うーん、目も覚めるし。

あ、サウナある。どれ、ちょいと入っておこう。

 

サウナで汗をかき、さっぱりしたところでコーヒー牛乳の昔ながらのビンのやつを一本購入。やはりこれに限る。タオルを腰に巻き、腰に手を当てぐいーっと。ぷはー、うまい。あー、温泉宿来たって感じするな。これだよこれ。

 

さて、部屋に戻ると既にラウラは起きていた。おはようラウラ。

 

「うむ。おはようだ、嫁よ」

 

あ、ラウラ寝癖ついてるー。櫛ある?

 

「む?寝癖がついているか。櫛なら…ほら」

 

バックからごそごそやって取り出した櫛を、俺の方に渡してくる。

ん、じゃあラウラ。その椅子に座って。

 

「うむ」

 

朝からラウラのきらきらと朝日を反射して輝く艶やかな銀髪に櫛を入れる。あー、こういうのなんかいいな。うん。

ラウラのサラサラの髪を整えながら、気になったので確認。

 

「ラウラ、朝ごはんって何時からだっけ」

 

「7時30分からだ」

 

「今は?」

 

「あと10分ほどだな」

 

「ん」

 

なんだろう。こう、朝を共にすると心の距離が縮まった感じがするよね。こういうの好きだな。

 

「昨日と場所は同じだから、まあ迷うこともあるまい」

 

…んー、なんだろう。こう、あんまり覚えてないんだけど、それを言い出せないこの感じ。まあいっか。

 

「ん、よし。こんな感じかな」

 

「感謝するぞ、嫁よ」

 

さて、スマホの電源を入れて暗号化解除。ラウラー。そろそろ行くー?

 

「それよりも先に、荷物だけ整理しておこう」

 

「おっけ」

 

何気にちょっと散らかってるんだよな。普段から整理整頓する派の俺が散らかすっていうのはそうそうないんだけど。昨日そんなに飲んだのか…。

 

ラウラと一緒に荷物を片付けたり使ったところを掃除したり。そんなことをしていたらいつの間にか時間は8時近くになっていた。

 

「そろそろ行こっか」

 

「うむ」

 

てことで浴衣から私服に着替えてご飯を食べに。ちなみに俺はカーキ色のカーゴパンツに赤のTシャツ、その上に白の半袖カジュアルシャツ(襟つき)です。ラウラは膝上のデニムのショートパンツに上は黒いTシャツ。そこに白の半袖カジュアルシャツ(襟つき)。上だけ見ると若干ペアルックみたいになった。二人とも楽な格好だとこんな感じになったんだよ。

 

さて、朝ごはんも食べたし、荷物も片した。あとはおみやげ買って帰るくらいか?それともラウラさんどっか寄る?

 

「んー…。嫁がよければ寄ってみたい場所はある」

 

「いいよ?どこ?」

 

「うむ。西の河原公園という所だ」

 

という訳で。ラウラのゴルフカブリオレです荷物を乗っけてしゅっぱーつ。旅館の女将さんや仲居さんにはお礼をちゃんと言って、いざ出発。

 

 

西の河原公園はすぐについた。まだ9時前だというのに、露天風呂に足だけつけて足湯みたいに使っている観光客らしき姿がちらほら見えた。

駐車場に車を停めて、軽く散策。へえ…。

 

「緑に囲まれた、いい場所だね」

 

「そうだな」

 

砂利道にいくつものバスケットボール大の岩がごろごろしていて、まさに河原のような雰囲気だった。

…うん。ここはいい。とても落ち着く。ラウラの隣に立って、しばらく蒼い空を流れる白い雲、周囲を囲む木々の緑が風に揺れる様、そして明るい茶色や白の砂利道を駆け回る子どもたちや観光客の姿を見ていた。

 

「…()こうか」

 

「そうだね」

 

ラウラがくるっと振り向いて車に戻るのに付いていく。さて、じゃあお待ちかねのお土産タイムといきますか!

 

ところでラウラ。なまものって大丈夫?この車オープンだし、今日も真夏日になるらしいけど。

 

「ふむ…。嫁よ、幌を出してエアコンでもいいか?」

 

大丈夫だけど、まあちょっと残念な感じはするね。せっかくのオープンなのに。

あ、お土産の配送をやってる所もあるみたいだよ。

 

「ほう。まあ、まずは煎餅やビールといったものは確定だな」

 

「…ラウラ。ビールはダメって言ったでしょ」

 

「む?ああ、教官の分のお土産だから問題ない。さすがに愛する嫁との約束を反古にしたりはしないぞ」

 

なんだ愛する嫁って。なにグレードアップしてんの。

 

「あとは、一夏の奴には漬物で良いだろう。甘納豆も悪くないな」

 

あ、じゃあ俺たっちゃんたちに甘納豆にしよ。

 

「嫁よ、あの湯けむりサイダーとやらが気になる」

 

じゃあ買おっか。すいません、サイダー一本くださいな。あ、ここで飲むやつです。

 

はい、ラウラ。

 

「む、ああ」

 

美味しい?

 

「なかなかだ。嫁も飲むといい」

 

え、俺そんなに炭酸好きじゃないねんけど。まあ、ラウラが俺に手渡してくれたので飲むけど。

あ、美味しい。すっきりしてるね。これ。

 

「ふっ。そうだろう?」

 

うん。なかなかですな。

ああ、もはや間接キスでどぎまぎするような感じはなくなったけど、こういう落ち着いてお互いをちょっとずつ理解してく感じっていいなぁ。

 

さ、あとはちちやさんで温泉まんじゅうだね。茶まんじゅうと二色あんまんじゅう、か。ラウラー。

 

「ふむ。シャルロットにはミックスだな。ああ、他のクラスメイトたちもこれでいいか」

 

じゃあ2つだね。あ、二色あんまんじゅうをここで食べたいんだけど、ラウラどうする?

 

「そうだな…。両方とも食べたいが、まだ焼き鳥もあるしな…」

 

あ、じゃあ両方とも1つずつ買おう。半分ずつくれ。

 

「む。そうか、そうだな。

店主!ミックスのセットを2つ、ここで食べる茶まんじゅうと二色あんまんじゅうをそれぞれ1つずつ頼む」

 

あーい、毎度ありー。

そんな感じのゆるーい返事を聞き流しつつ、のんびりまったり。あー、そうか。焼き鳥もあるんだよな。あと温泉玉子。いやー、こういうのは飽きないねえ。

あ!草津もちだって!買おう。これは整備課の奴らと轡木さん、あと真耶ちゃん用で。あ、自分の分も買っとこ。

お!串ぬれおかきだって。美味しそう。

1つくださーい。あ、ラウラも食べる?ん。

 

なんて感じで時間はあっという間に10時。さて、お土産はこんな感じかな。トランクにお土産を突っ込み、さあ帰ろうか。

 

帰りも高速に乗るまでは下道ののどかな街並みを軽快に走らせる。いやー、なんだか激動の一泊二日だったな。なんかちょっと、一抹の寂しさがあるなぁ…。

 

「ふっ。何、また来年もこれば良い。時間はまだまだあるんだ。…そうだろう?嫁よ」

 

「…うん」

 

そうだね。

 

俺とラウラを乗せたゴルフは、青空の夏を勢いよく駆け抜けて行った。




ちなみに後日談として、ちっふーに鹿波と二人きりで行ったことがバレて不純異性交遊としてIS学園の規則に接触しかねないということで正座でラウラが叱られたり、ちっふーが来年からは監督役で付いて行こうとして鹿波ラヴァーズで来年の夏にもナガシマとか草津温泉とかに一泊二日で遊びに出かける話とか考えてました。さすがに文字数が多くなりすぎるので今回はやりませんが、いつか出来るといいなぁ。


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たっちゃん相談会

ラウラかわいいにやられてたっちゃん描くのがすっごい難しくなってました。おのれラウラかわいいめ…


あれからたっちゃんにいろいろ相談というか、いくつか打ち明けた。

ISコアの解析をしたこと。

ISコアを作ったこと。

ISっぽいけどISじゃないこと。

IZ(アイゼロ)ととりあえず呼んでいること。

ISコアを抜かれた後、放置されて埃を被っていた打鉄2機を譲り受けたこと。

亡国機業(ファントム・タスク)に襲われてから、IZによる自衛くらいは出来るようにしたいと思ったこと。

IZの設計図は出来たこと。

武装を作るか企業に開発を頼もうか悩んでいたこと。

とりあえず武装は自分で作るつもりでいること。

IZが出来ても、戦闘に対する経験がなければ自衛出来るとは思わないこと。

たっちゃんに特訓を頼みたいことなど。

 

一通り俺はたっちゃんにIZ関連のことは話した。マドカとのホットラインについては伏せておいた。アンサートーカー先生が今はまだその時ではない(意訳)と言ったからだ。雌伏の時なんですね先生!雌伏とか違う気がするな。時期尚早かな?うん。多分そんな感じ。

 

たっちゃんは黙って最後まで俺の話を聞いていた。俺の話した内容についての考えをまとめているのか、話し終えてからしばらくの間、無言で目を閉じていた。

たっちゃんが閉じていた目を開く。こちらをじっと見つめて言ってきた。

 

「うん…。とりあえず、今鹿波さんがどういう状況かは分かったわ。あと、亡国機業はまだ鹿波さんがISコア…IZだったかしら?

それを作ったことには気付いていなかったことも分かった。うん。とりあえずいくつか言いたいことはあるけど。その前に!」

 

そう言ってこちらにずいっと顔を近付けてくるたっちゃん。はいなんでしょう。

 

「鹿波さん、そんな大事なことをどうして教えてくれなかったの」

 

じっ…と真剣な顔で見つめて言うたっちゃんだが、俺の感じとしてはむしろ逆。そんな大事なことだからこそ(・・・・・)、誰にも打ち明けるつもりはなかった。事実、今回のことだってアンサートーカー先生がGOサインを出さなかったら言うつもりはなかった。ただ単にたっちゃんに特訓のお願いをするだけのつもりだった。

 

…そう言えば今さらだけど、このこの部屋(生徒会室)防諜とか大丈夫だよね?聞こう。

 

「…その前に、この部屋の防諜とかは…?」

 

「監視も盗聴も無いわ。パソコンとかの電源も切ってあるから、インターネット経由でパソコンからの映像や音声がハッキングされることも無い。そこは大丈夫よ」

 

「…そうか。

どうして教えてくれなかったのか、か。たっちゃん。逆に聞くけど、こんなことおいそれと他の人に言えると思うか」

 

「…思わないわね」

 

「そういうことだ。俺がたっちゃんを信用してるとか信用してないって話じゃなくて、ISコアをーーーまあ厳密にはISコアではないんだが、まあ同じようなもんだ。それを解析、自作したなんてことをそうそう相談も出来ないだろ」

 

「まあ、そうねえ…」

 

そう言ったきり、たっちゃんはまた黙ってしまった。腕を胸の前で組んでいた状態から、あごに手をつけて考えているようだ。

 

「うーん、でも轡木さんにも鹿波さんは言ってないのよね?」

 

「まあな」

 

正直轡木さんには別に言ってもいいかなあとは何度か思ったことがある。正直な話、けっこう悩んだ。

ただ、人の口に戸は立てられないし、それになにより出来るだけ俺がISコアを作れることを知っている人は少ない方が良い。情報が漏洩する可能性を最小限に押さえられる。結局、俺がISコアを作れることが誰にもバレないに越したことはないのだ。俺が求めているのは平穏な暮らしだからね。

 

「轡木さんなら信頼出来ると思うんだけど。どうして?」

 

「まあ、俺も轡木さんなら信頼出来ると思うよ。ただ、そもそも俺がISコアを作れることを誰にも知られないのが一番だと思ってるからね。一生誰にも打ち明けないつもりでいたし」

 

「うーん、じゃあどうして私には教えてくれたの?」

 

来た。正直な話、この質問をされるのが一番困るのだ。ばか正直に、

アンサートーカー先生に大丈夫だって教えてもらったんだ!

なんて言う訳にもいかないし。かと言って、何故たっちゃんには教えるつもりになったのかなんて、他に理由はないし。うーん。

まあ強いて言うなら、たっちゃんなら信用出来ると思ったから…になる、の、か、な?うん。根拠の元であるアンサートーカー先生のことだけ言わないなら、多分それが一番ぴったりくる。嘘ついてるわけじゃないし。嘘つくのは嫌いだからね。適当にでっち上げるとか、俺苦手だし嫌いだし。あんまりやりたくない。まあ必要なら嘘もつくけどね。必要ないところで嘘はつきたくないのだ。信用とか失うし。まあ俺は信用されるほど良く出来た人間じゃないですけどね!(ゲス顔)

 

「…たっちゃんなら、大丈夫だと思ったから」

 

「どうして?」

 

間髪入れずに聞いてくるたっちゃん。そうだよね。聞いてくるよね。俺もたっちゃんの立場ならそうする。

 

「…えっと」

 

「うん」

 

「…なんとなく」

 

うわあ。自分でもダメだと分かるわ。ついさっきまで『一生誰にも打ち明けないつもりでいたし(キリッ)』とか言ってたやんお前。ほら、たっちゃんが疑惑の目でこっちを見てるじゃん。疑いの視線100%だよ。めっちゃ疑われてますよ。

そりゃあ普段からちゃんとした根拠を持って合理的に動く人が、突然『なんとなく』で動くとか怪しいよね。俺。

 

しばらくじっと。じぃぃぃぃっ、と俺の顔を穴があくほど見つめていたたっちゃんだが、まあ一応は信じてくれたらしい。顔にはありありと『まあそういうことにしましょうか』と書いてあるけど。すまぬ。

 

「…はあ。まあ、鹿波さんにも明かせない理由があるんでしょうし、そういうことにしておきましょ」

 

ーーー実際、相談してくれたしねーーー。

そう言って、たっちゃんは一つため息をついてこちらを向いた。その顔は先ほどまでの呆れたような表情から、真剣にこちらの話について応対してくれるような感じになった。

 

「まず、鹿波さんがISコアを作れることは絶対にまだ発表したりはダメ。だけど鹿波さんがISコアを作れることを発表するとしたら、鹿波さんがその…IZ(アイゼロ)?だっけ?それを使いこなせるようになってからじゃないとね」

 

「俺が自衛出来るくらいにはならなきゃダメってことか」

 

「そうね。そういうこと。欲を言えば、何かしら世界で大きな動きがあった時にでもどさくさに紛れてさらっと発表出来るならそれが一番いいけど…。まあ、少なくとも鹿波さんがISコアを作れることがバレれば鹿波さんは必ず狙われることになる」

 

「まあ、そうだろうな」

 

だからこそ、誰にも言わない知られないようにしてきた訳だし。

 

「ちなみに、今その鹿波さんが作ったコアはどこにあるの?」

 

「ん?整備庫書庫の机の引き出しに適当に」

 

「…鹿波さん、さすがにそれは杜撰すぎないかしら?」

 

「いや、木を隠すなら森の中。IS学園ならIS関連のものがあっても変じゃないし、ISコアだけ見てISコアだと分かる奴なんてそうそう居ないだろ?

それに、IS学園のセキュリティは世界中でもトップクラスなんだから、寮の部屋に無造作に置いたりするよりはよっぽどマシだろ」

 

「…なるほどね。確かにそうね。いろいろ考えているのね」

 

当たり前である。俺は平穏に暮らすことに命を懸けていると言っても過言ではないからな。自らの平和な暮らしを守るためには全力で挑む所存である。アンサートーカー先生というジョーカーというかチートを使ったりしてきたし。いわゆるガチ勢。

 

「当然だ」

 

「けど、整備庫書庫にさえ入れれば取り出すのは簡単になるわよね?」

 

「まあな」

 

ただの作業机だし。一応鍵はかけてあるけど、力づくでこじ開けようと思えば開けられる。てことかバールのようなものを使えばいいわけだし。

バールのようなもの…。エクスカリバール!

 

「うーん…。IZが完成するまでは、私がコアを預かってようか?」

 

「あー。そっちの方が安全か。ISなら拡張領域に格納出来るもんな」

 

「そうね。じゃあ、後で整備庫書庫に一緒に行きましょ?

あとは、鹿波さん自身が戦えるように体を鍛えたり対人戦の経験を積むことも必要ね。それと平行して、IZの制作と武装の制作かしら」

 

「だな」

 

「うーん、鹿波さん。武装は企業に作ってもらったらどうかしら」

 

「なんで?」

 

「IZが完成しても、武装が無いとIS同士の戦闘が出来ないでしょ?」

 

「いや、そもそも俺はIZに乗って戦闘とか出来る場所がないだろ」

 

俺が作ったISがIZだし、俺にIS適性は無かったがIZなら動かせるのはアンサートーカー先生によって確認済みなので良いとして。ああ、でもたっちゃんからすれば俺がIZに乗れる前提で話をしてるのはおかしいのか。

あれ?ならなんでたっちゃんその事聞いてこないんだ?IZに俺が乗れる前提で話してるけど、普通そこ大事だから聞くよな。んん?

 

「…そもそもたっちゃん。俺がIZに乗れるとも限らないんだよ?」

 

「あら、そうなの?鹿波さんが何も言わないから、てっきり乗れるものだとばかり思ってたんだけど」

 

(前の戦闘の時と言い、今回のことと言い、鹿波さんは絶対にまだ何かしら私に隠していることはあるはず。でも、今回ISコアを作れることを教えてくれたことから考えると、その隠し事っていうのはISコアを作れるなんていう、世界的に衝撃が走る程の事よりも言えない何か。鹿波さんが隠している、その隠し事が何かはわからないけど、恐らく鹿波さんは普通の人がわからない何かが分かるのよ。

今のところ、未来予知が一番可能性が高いんだけどーーー、まあまだ今は他の可能性を切り捨てるのは早計ね。でも、未来予知だと仮定すれば辻褄は合う。

前回の時に敵の攻撃がどこから来るのかが分かるし、今回は多分、敵から攻撃を受ける未来を予知したんじゃないかしら?そうすると、私に特訓をお願いしに来たことに繋がるし。

あら?でもそれならISコアを作ったのは最近じゃないとおかしいかしら。話を聞いた限りだと、ISコアを完成させたのはもっと前らしいし…。

やっぱりまだ未来予知と決めつけるべきじゃないわね。ただ、鹿波さんは何か不思議な能力か、そういうものがあるはず。

…うーん、鹿波さんが教えてくれるまで気長に待つべきかしらねえ…。あとちょっとで分かりそうなんだけど。

まあ、わかっても鹿波さん自身の口から聞くまでは知らない振りをして、鹿波さん自身の身を守るための材料程度に考えておきましょう)

 

…うーん。なんかたっちゃん、ちょっとアンサートーカー先生に気付いてるような感じがあるな。やっぱりもう少し言動には注意しよう。IS学園勤務も四年目になってきて、少し油断してるのかもしれん。気を付けて行動しよう。

ただまあ、これでたっちゃんにIZのことを相談出来るようにはなった。これからのことを先に考えるか。

 

「じゃあ、鹿波さんがIZに乗れると仮定して話をすすめましょ。とりあえず、鹿波さんがIZに乗って戦闘訓練が出来る場所はどうにか確保するとして。もし確保出来なかったとしても、IZの初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)はするでしょ?その時にもう武装が無いと、そのタイミングで襲撃されたら戦うことすら出来ないわよ?」

 

「む…そうか。そうだな」

 

言われてみれば確かに。自分の身を守るための手段の一つがIZの制作だとすると、早いうちから武装は無いとダメか。うむ。

自衛する手段が無いうちから武装を手作りして遊ぶのは確かに合理的じゃないな。自分の身を守れるように訓練して、IZで戦う武装も自身の経験も積んでから武装制作で遊ぶならまだしも。ふむ。やっぱたっちゃんに相談して正解やね。目的と手段が入れ替わっちゃうとこだった。反省。

 

「だからまとめるとー、」

 

そう言って、たっちゃんは鼻歌をふんふーん♪と歌いながら紙を取りだし、サラサラと書き込んでいく。ふむふむ。

 

「まず、鹿波さん自身の護身術というか、戦う技能やスキルを伸ばすことが一つ。

それと並んで、IZを作るのが一つ。まあこれは自分達で作る方が企業にお願いするよりもきっと早いわね」

 

「ん?ああ、そうか。今はどこの企業も最先端のISの開発に力を入れてるから」

 

「うん、今さら打鉄の外身だけをニコイチ、しかも改造なんてお願いしたところで、制作するのを後回しにされる公算が高いわ」

 

「なるほどなぁ…」

 

「だから企業には武装の制作の依頼するくらいかしら」

 

「なあたっちゃん。ISの武装の開発の依頼なんて、けっこうな額になるのでは…」

 

資産2億で足りるかな。足りなかったらどうしよう。またアンサートーカー先生頼りで増やすか…?

 

「そうねぇ…。うーん…。

たしか、この間有澤重工ってところから新しい武装のオファーが来てたから、そこならいくつかお願い出来るかも知れないわ」

 

「有澤重工っていうと、爆発大好き企業だっけ?」

 

「そうね。爆発系の武装を主に開発してるわ」

 

…うーん。そうだな。どうしようか。たっちゃんにIZの設計図を見せた方が早いかな?

うん、そんな気がする。よし。

 

「たっちゃん」

 

「?」

 

「IZの設計図、整備庫書庫に今あるから、それを見て話をしない?」

 

「んー…。ちょっと待っててね?」

 

「おん」

 

たっちゃんは何事か考えた後、生徒会室から出ていった。はて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は生徒会室から出て、一夏君に電話した。しばらくのコール音。

 

「…もしもし?会長?」

 

「あ、一夏君?さっきは急に出ていっちゃってゴメンね?」

 

「ああ、いえ。何があったんです?」

 

「うん、緊急事態じゃなかったから大丈夫。ただ、ちょっと今日はこの後の特訓には付き合えなくなっちゃったから、今日は自主練習にするわ」

 

「わかりました」

 

「うん、お願いね?」

 

「はい。じゃあ、失礼します」

 

「はーい♪」

 

ふう。キャノンボール・ファストは基本的に安全性が認められてるとはいえ、一夏君が入学してからまともに無事に終わったことないし…。キャノンボール・ファストでも何か起きても対応出来るようにしないとね。

それに、亡国機業を始めとしたテロリスト達も最近おとなしいし…。嵐の前の静けさのように、不気味な感じがするのよねぇ…。

はあ。本当、嫌になるわねぇ。一夏君が自衛出来るようになってもらわないといけないし。前回の戦闘で、鹿波さんが何か超能力を持っていると思ってそうな亡国機業が何かしてきてもおかしくない。その上キャノンボールの後は学園祭だし、その時にはどうしても警備も緩くなるし。

 

「学園祭までに、一夏君の方だけでもなんとかしたいわねぇ…」

 

ふう。さて、鹿波さんをあんまり待たせる訳にもいかない。行きましょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿波さんお待たせー」

 

「ん」

 

たっちゃんが戻って来た。んじゃ、整備庫書庫に行こうか。

 

 

シャッ。カードキーを通す。ほいよー。

とはいえ、たしかたっちゃんも轡木さんからここのカードキーを預かってるはず。たまに俺の白衣がアイロンかけたみたいにピシッとなってるのは、多分たっちゃんがやってくれてるんだろう。ソファーもいつもきれいだし、本当たっちゃんにはお世話になりまくりである。

 

じゃ、まずこれね。ほいIZコア。

 

「うん、確かに預かったわ!」

 

「しばらくよろしく。あ、これがIZの設計図でこっちが武装の設計図。まあロマン満載とはいえ、一応バランスも考えた感じにしてある」

 

「ん。どれどれー」

 

そう言って設計図を見て考えてるたっちゃん。

まあIZは打鉄ベースだしそうおかしくはないはず。問題があるとすれば…武装かな?

 

「うーん…。鹿波さん、この主任砲?って言うの?現行の技術力だと多分、難しいと思うわよ?」

 

「なにっ!?」

 

マジで?

 

「IZは打鉄ベースで無理のない範囲で性別がわからないような感じになってると思うし、これで良いと思うの。

ただ、武装はちょっと難しいのが今言った主任砲と、八刀?ね。八つの大小ある刀を一つの大剣にするなんて、難しいでしょうね」

 

「えー…」

 

その2つこそが最大のロマンだと言うのに。

ビームサーベルは箒ちゃんの紅椿の空裂(からわれ)か何かみたいなもんだからそう実現は難しくないし、カンプピストルに至っては仕組みは爆裂弾の拳銃そのものである。

まあ、IZに搭載するのはグレネードをぶっぱなすライフルそのもので、ピストルなんてかわいらしいもんじゃないけどな!実に良いだろ?

 

「じゃあ他は?」

 

「うん、このライフルは有澤重工に持って行くだけで多分試作して貰えると思う。私が窓口になった方が良いでしょ?」

 

「そうだな。頼める?」

 

「任せておいて!」

 

えっへん!と胸をこぶしでとん、と軽く叩くたっちゃん。うわ、こぶしが胸に埋まるたてかたっちゃんはさすがの逸材だな…。マジで何を食べたらそんなにおっきくなるのん?

 

「あとは?」

 

「うーん、そうねえ…。この設計図を貸してもらっても良いかしら」

 

「良いよ。何に使うの?」

 

「ええ、設計図があればどこの企業がぴったりか考えることも出来るしね。ああ、この主任砲と八刀の特許、鹿波さん取る?」

 

「んー…。ちょっと待ってね」

 

どうなんだろう。特許を取るメリットは?

国内で似たようなものを作られた時に特許料を請求出来る。出来るが、特許を取るということはその情報を開示する訳だから、他の企業が似たような代用品を作る参考にもなる。

つまり?

俺の名義で特許出願するメリットってあんまり無くないかな。

特許を取るデメリットは?

俺の名前が目立つ。とか?

ああ、そもそも特許取れるのかどうかもわからんか。ふむ。うーん…。どうしよう。

先生!特許を取らない方が良いですか!

…。あれ。先生?

…だめだ、反応なし。つまり、特許を取るとか取らないでは良くも悪くもならないのかな。うーん?

 

「たっちゃんはどうするのがベストだと思う?」

 

わからないので聞いてみる。

 

「うーん、そうねえ…。私なら、企業に任せるかしら」

 

「企業に任せる?」

 

「ええ。企業が特許を取るなら、多分類似品についても押さえるはずよ。それならアイデア料として、特許料から一定の割合でこちらに入るようにするのが一番楽だしね。

企業が特許を取らないなら、主任砲でも八刀でも、売上から何割かはこっちに振り込むような形にすれば良いし」

 

「なるほど」

 

もしかして。

先生!この事についてはたっちゃんに任せる方が良いですか!

答:YES

キタ!先生の答えキタ!これでかつる!

なんておふざけはほどほどにして。ふむ。やっぱりそうか。

 

「じゃあたっちゃん、大変だけどたっちゃんに一任するよ」

 

「わかったわ。それじゃあ早速動くから、今日はここで失礼するわね!」

 

「ああ。ありがとね。

あ、特訓を始められるようになったら教えてね」

 

「虚に連絡してもらうようにするから、心配しないで!

それじゃね!」

 

そう言ってたっちゃんはたーっと出ていった。さてさて、これからどうなるのかねえ…。



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キャノンボール・ファスト

※注意※
この話あたりからけっこうストレスゴリゴリ来ます。具体的には作者の私が描きたくないと思うくらい。詳しく知りたい人は活動報告『描きたくない』を参照
知りたくない人は見なくていいです


やあみんな。みんな大好き鹿波さんだよ。ごめんなさい調子に乗りましたすいません。

さて、あれからたっちゃんはキャノンボール・ファストの後からなら稽古をつけてくれることになった。なんでもそれくらいからなら一夏君の方も一段落つくらしい。いずれは一夏君と組み手をやったりするんだろうか。楽しみである。

 

さて、そう言えば。簪ちゃんのIS、打鉄弐式が完成した。キャノンボール・ファストに出るのか尋ねたところ、完成した打鉄弐式のお披露目もかねて出場するらしい。頑張ってね!とエールをおくっておいた。多分束がまたゴーレムとかいう無人機を送ってくるだろうから、割と本気で心の底からエールを贈った。お願いだからケガとかしませんように。

 

ああ、そう言えばあの亡国機業に襲われて以降、織斑先生ことちっふーと一度も会っていなかったりする。まあなぁ…。事故とはいえ、ちっふーのひたいというかおでこにチュウをかましちゃったからね。そしてその後はお仕事で旅館に礼を言いに行って亡国機業の襲撃に遭う。

その後は聞き取り調査の時に会っただけ。…うん。だめだ。

絶対これ俺ちっふーに嫌われたやつだってぇ…。ああああぁ…。やってもうた…。うん…。

いや。悲しくなんてない。悲しくなんてないもん!嘘です。ごめんなさい。嘘つきました。めっちゃ悲しいです。

あんなに仲良く酒飲みに行ったりしたのにぃ…。ああぁ…。また1人…良き飲み友を失ってしまった…。

だぁからお前はアホなのだぁ!

 

流派!東方不敗は!

王者の風よ!

全新!

系裂!

天破侠乱!

見よ!東方はぁ!紅く!燃えているぅ!!!!

 

ふーっ。久しぶりにやったぜ。東方不敗ごっこ。

もはやこのネタわかる人、あんまり周りにいないからな。速さが足りない!とかも伝わらないこと多いし。くそ、これがジェネレーションギャップというやつか…。

俺二十代なのにな。いや、二十代は学生からすればもうおっさんか。仕方ないね。許容の心。妖精三大哲学かな?

 

さて、今日も今日とて俺はIZ(アイゼロ)の製作に取りかかる。もう原料に戻るだけだった打鉄達に、新たな命を吹き込むこの作業。ああ堪らない。これこそがレストア。まさにこれこそが技術屋の真髄よお…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。今日もIZの製作。なのだが。

なんだか今日はアリーナの方がやけに騒がしい。

そう考えていてふと気付いた。

ああ、そっか。もう今日か。キャノンボール・ファストが行われるのは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青い空が目一杯に広がるIS学園の上空に、幾筋もの煌めきが走る。紅。白。黒。青。赤みがかった黒。橙。そして水色。それぞれが同じような軌跡を大空に描く。

すでにキャノンボール・ファストも三周目に入り、ある程度の差が付きつつあった。

 

「くっそ…!速いな!箒!」

 

「ははっ、行ける、行けるぞ!この紅椿なら!」

 

「ふん…さすがに篠ノ乃博士お手製には及ばんか…!だが、一夏。貴様は越えさせてもらうぞ!」

 

先頭をトップスピードのまま飛び、大気を突き抜けて進む三人。先頭から箒、一夏、ラウラの順である。箒、一夏は追加パッケージ無しでこの順位。性能の差であった。ラウラは追加パッケージを装備し、軍で培った技能をありったけ使って追い縋っていた。それでも追い付くことが出来ない。なんとか追い付くことが出来そうな、まだまだ操縦技術の甘さが目立つ織斑一夏を目標に、ラウラはこの大空を飛びまわる。

 

「くっ…!ストライク・ガンナーを装備していても、やはり差が徐々に…!」

 

「あーもう!待ちなさいよアンタたち!」

 

「うーん…。さすがに第2世代じゃキツいかぁ…」

 

それに遅れることしばし。第2集団にはセシリア、鈴、シャルロットの順である。彼女達は全員追加パッケージを装備し、目一杯速度寄りにスラスターを調整しているにも関わらず、先頭のラウラにも追い付けない様相だった。

セシリアは強襲用高機動パッケージ「ストライク・ガンナー」を、鈴は高速機動パッケージ「風(フェン)」を、シャルロットは防御パッケージ「ガーデン・カーテン」のキャノンボール・ファスト仕様として、左右の肩と背部に1基ずつ増設スラスターを装備している。

しかしやはり差が縮まることはなく、前を行く三人には離される一方である。ここでは苛烈な4位争いがセシリアと鈴によって繰り広げられていた。シャルロットは半分諦めムードである。シャルロットのみ第2世代であるため、仕方ないと言えよう。

 

「…しまったなあ…。追加パッケージなんてないよう…。出なきゃ良かったかなぁ…」

 

そう呟きながら最後尾を飛ぶのは簪の打鉄弐式。当然キャノンボール・ファストの直前に完成した機体なので、追加パッケージなど存在しない。1人だけ遊覧飛行状態であった。それでも周回遅れにならないのは、やはり第3世代の基本スペックの高さ故か。

さて、あと二周。二位と四位を除いて、およそ今回の結果の予想が付きそうになったところで。

 

 

全員のハイパーセンサーにアラートが鳴り響く。

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

アラートは全員の前方から。しかし敵影はハイパーセンサーで強化された視界を持ってしても見えず。

真っ先に先頭の箒、一夏、ラウラが止まり、それに続くようにやってきた鈴、セシリア、シャルロットも警戒した様子で集まる。そして最後にやや遅れ、簪の打鉄弐式がやって来たところで、前方から黒い粒がだんだんと大きくなってこちらへ向かって来た。その数およそ30。

 

「っ敵だ!全員戦闘態勢に移れ!」

 

全員に(ラウラ)が号令をかける。それと同時に、専用機持ち全員の耳に聞きなれた、それでいて頼もしい声が聞こえてきた。

 

『全員。聞こえるか。先ほど不審な敵性反応を確認した。所属不明のISが30機だ。全員前方のあいつらを視認出来ているな?』

 

それぞれ専用機持ち達が無言で頷く。

 

『ISコアの反応、そして動きから奴らは無人機の可能性が高い。全員生還することを第一とし、無人機であることが分かり次第容赦せず各機撃破。指揮官はラウラ・ボーデヴィッヒだ。

現在こちらには強力なプロテクトがかけられている。そのため救出に向かうのは難しい。救援は期待するな。

そして全員必ず生きて帰れ。これは命令だ。いいな』

 

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

 

そして全員が気持ちを引き締めたところで、敵ISが動き出す。

 

「くっ…!嘗めるな!」

 

「せいっ!」

 

「はあっ!」

 

それぞれが対応し迎え撃つも、敵ISは数に任せて弾幕を撃ち込んでくる。

 

「くそっ!」

 

各機散開するが、このままだとまずい。

戦力の分散は下策…。ちいっ!

 

『全員、絶対に1人になるな!必ず複数人で対応しろ!』

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

緊急用にチャネルを開き、全員に警告する。そして私の周りには一夏と鈴。周りは敵ISが12機。…囲まれている…か。

 

「ふん…。1人2機、か。一夏。鈴。回避行動を最優先に立ち回れ。いいな」

 

「おう」

 

「はっ、いちいち指図しないでくれる?」

 

「おい鈴!さっき指揮官はラウラだって言われただろ!?」

 

「何よ一夏!普段から私を無視してくるくせして、こんな時だけ上から言わないでくれる!?」

 

「貴様ら…!くっ、こんな時に争うな!」

 

四方八方からの銃撃をなんとか回避しながらもワイヤーブレードで周囲を凪ぎ払い、レールカノンを手近にいた一体に照準。

 

「フォイア」

 

放つ。しかし敵はハイパーセンサーで高エネルギー反応を感知した瞬間から回避に動いており、未だ敵機は撃墜出来ていない。そんな中、敵機の攻撃の最中にあって言い争っている一夏と鈴(バカ二人)。そんな二人の背後から、2機の敵機が向かって来ている。二人は気付いていない。ちっ!

 

「くそっ!」

 

充分にチャージされていないレールカノンが、一夏と鈴の言い争っている顔の間に一条の青い光となって突き抜ける。命中。一機撃墜。残り11機。

 

「貴様ら!今は言い争っている場合ではない!死にたいのか!」

 

「すまん!」

 

「…っちぇ」

 

慌てて謝る一夏とつまらなさそうな鈴。しかしいつまでも味方を気にしている余裕はない。ハイパーセンサーがエネルギー反応を捉えた。っ上!

 

「はぁっ!」

 

直後、真上から降り注ぐレーザー。反射的に上方に飛び出し、敵を視認する。そこだ!

 

「遅いっ!」

 

ブラズマ手刀で敵機の細い腰を肩から一瞬で斬り刻む。2機撃墜。先ほどよりも敵機の動きがより滑らかに、より鋭くなってきている。こいつら、学習しているのか…?

先ほどよりも苛烈になって来ているエネルギーの弾幕に、ミサイルが混じり始めた。くっ、追尾式か!鬱陶しい!

縦横無尽に飛び回りながら、一瞬で反転。その瞬間にワイヤーブレードでミサイルを斬る。爆風。

その瞬間、一夏と鈴が背中合わせで迎撃しているのがちらりと見えた。くそっ、死ぬなよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、まずいですわね…」

 

「…こいつら、強い…!」

 

()は今、セシリアと共に背中合わせのまま動けないでいた。私達の周りには敵ISが残り6機。なんとか2機は撃破したけど、さっきからどんどん敵ISの動きが良くなってきてる。そしてさっき、セシリアさんのスカート部分のブルー・ティアーズが1基損傷した。セシリアさんは高機動パッケージで普段のブルー・ティアーズが使えない。そのせいでロングライフルで対応していた。あとセシリアさんの使える武器は、近接用のショートブレード、インターセプターだけ…!

そして私は今は背中に2門ある荷電粒子砲の春雷、近接武器である対複合装甲用の超振動薙刀の夢現で迎撃していた。山嵐はマルチ・ロックオン・システムが鹿波さんのおかげで完成した。それもあって、1機は撃墜、2機を損傷にまで追い込んだけど、ミサイルを48発打ち切ってしまった。そのため、今は山嵐は格納している。重くなるし、被弾範囲が増える意味はない。

 

「…?」

 

こいつら、私達が動かないと動かない…?どうして?

 

「…セシリアさん」

 

「貴女も気付きましたか。しかし、時間をかければかけるほど成長しているということは、私達は攻めるしかありません。

…一気に攻めましょう。タイミングを合わせて下さいませんこと?」

 

「分かった」

 

『では行きますわよ…。

3。2。1。…Go!』

 

合図と同時に飛び出す。前方に2機!傷を負っている右の奴から先に狙う!

敵機から弾幕の嵐。仕方ない!下に避けてっ…!

 

「はああっ!」

 

春雷!両門発射!一瞬だけ私の肩から光の筋が2つ放たれる。…よし!命中!2機共に撃破!

すぐさまその場から左に回避行動をとる。その瞬間、さっきまでいた場所にいくつもの光と、その影に実弾が飛び交う。くっ、どんどん狡猾になるーーー!後ろ!

 

「やあぁぁっ!」

 

薙刀をくるりと反転させ、右肩越しに後ろを見てーーー突く!

夢現は敵頭部を貫いた。手に硬い衝撃。そのまま降り下ろす!

 

「…3機撃墜」

 

セシリアさんの方を見ると、3機を相手に裏を取られないように立ち回っていた。でもさすがにライフルのみでは有効打を打ち出せないみたい。行くよっ!

敵機の1機に背後から強襲ーーーしようとして、気付かれた!もうっ、さっきからばらまかれる弾が鬱陶しい!

しかも私だけを狙うんじゃなく、私の逃げ道をふさぐように撃ってくる!く、あぁっ!

 

左肩に被弾。でも勢いは止めない!どんどんシールドエネルギーは減っていくーーーけど!

 

「春雷っ!」

 

私の方を向いていたISに撃つ!くっ、避けられたーーーけどね。

 

「甘い、ですわ!」

 

セシリアさんが背後から突っ込んで来ており、その手にはショートブレードが。そしてそのセシリアさんの背後から来ている敵機2機が一直線に並んだ瞬間、私は春雷を連発していた。

くっ、1機は墜ちたけどまだあと1機!

 

「セシリアさん!」

 

「ええ!」

 

二手に分かれて一気に接近。私が薙刀で対応すればセシリアさんがライフルで。セシリアさんがショートブレードで斬りかかれば私は春雷で。少しずつ、確実に。

 

「えいっ!」

 

春雷が当たった!その瞬間、爆発。

よし!

 

「…全機撃破」

 

「ふう…。さすがに少し疲れました。さ、簪さん。他の方の援護に行きましょう」

 

「…うん」

 

そう答えた瞬間、視界の左端に煙をあげて落ちていくオレンジ色の機体が見えた。




戦闘描写難しすぎィ!


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キャノンボール・アフター

シャルロットさんに感情移入し過ぎで寝れなくなったので描いた


ラウラ達が敵ISに囲まれたのと同時刻。

 

「ふん…。脆い!」

 

「篠ノ之さん、突っ込み過ぎだってば!」

 

僕は篠ノ之さんと一緒に、敵IS10機を相手にしていた。

散開した後すぐに篠ノ之さんと合流出来たまでは良かった。だけど、篠ノ之さんは敵と見れば突っ込んで行くし、後ろに注意も払わない。もう僕が何度篠ノ之さんの援護に回ったかわからないのに、篠ノ之さんは何度僕が注意を呼び掛けても聞いてはくれなかった。

 

「ふふ…!こいつら、大したことはないな。行けるぞ!」

 

「だから後ろ見てってば!もう!」

 

ずっとこんな感じだ。確かに篠ノ之さんの武装は強力だ。太いレーザーや、斬り払いの時に振るわれるエネルギーの刃は敵機を退けている。でも順調に倒せたのは初めの1機だけで、今は全て避けられている。だと言うのに、篠ノ之さんは相手の反撃を展開装甲がある程度守ってくれるのを良いことに、敵機にどんどん突き進んでいく。必然的に僕もサポートで敵陣に突っ込むことになる。ああもう、また囲まれてる!

 

「はぁっ!そら、どうした!」

 

「だから!後ろも!確認してってば!」

 

篠ノ之さんがどんどん進むのについて行きながら後ろから来ている敵機に対応する。敵には実弾よりもエネルギー攻撃の方が効き目があるのか、僕のアサルトカノンも連装ショットガンも無視して突っ込んでくる。そのくせ、篠ノ之さんのエネルギー攻撃は全部簡単に避けてくる。そしてその様子を見て、再び篠ノ之さんがどんどん突っ込んで行く。その繰り返し。

 

「くっ…そおっ!」

 

まだ残りは9機。こいつら、どんどん流れるように連携が上手くなってきてる…!早く倒さないとまずいのに、有効な攻撃の手立てを持っている篠ノ之さんはあの調子。

 

「篠ノ之さん!遊びじゃないんだよ!」

 

「遊び?遊びだと!?ちゃんとやっているではないか!」

 

ああもう!

 

「君のちゃんとっていうのは、ブンブン振り回して相手に一発も当たらないことを言うのかな!」

 

くそっ、さっきからちょこまかと動き回るせいでなかなか当たらなくなってきた…!ただでさえ数で負けていて、こっちは僕の武装はほとんど効いてないっていうのに!

 

「ふん、直ぐに当たるようになる…!見ていろ!」

 

そう言ってさらに速く、どんどん敵陣に突き進んでいく。危ない!後ろ!

 

「ええぃ…届いて!」

 

篠ノ之さんの後ろからミサイルが8発ほど飛んできているのに、篠ノ之さんは気付いてない!お願い…!間に合って!

 

「ガッ!…シャルロット!貴様、何をする!」

 

「ふざけないで!」

 

篠ノ之さんを蹴り飛ばして、なんとかミサイルの回避には間に合った。だけど今度は篠ノ之さんがこっちを向いて止まってしまった。この馬鹿!

目前に迫る5機の敵に、篠ノ之さんは背中を向けたまま。なるべくなら取って起きたかったけど…!仕方ない!

僕は重機関銃のデザート・フォックスで牽制しながら、敵機をギリギリまで引き付ける。

…くっ!

シールドエネルギーが残り300を切ったけど、今しかない!

シールドオープン!そこから出てきたのは、シールドの裏に装備されている69口径のパイルバンカー。通称盾殺し(シールド・ピアース)。

 

「いっけえぇぇぇ!」

 

ガオンッ!

一発。物凄い衝撃と、そして爆音。

続いてシールドの向こうで爆発する音。やった!

これで残り8機…!

僕はシールド・ピアースをしまって、連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」とアサルトカノン「ガルム」で牽制。もう武装の隠し弾は無い。まずい…!だいぶ追い詰められてる…。

 

「おい貴様!どういうつ…ブッ!」

 

僕の肩をガッと掴んで来た篠ノ之さんの頬を全力でパンッ!と叩く。そしてその背後から来ている敵の弾幕を、篠ノ之さんを乱暴に掴んで下に一気に加速することで回避。

下から見ると良くわかる。さっきまで僕達は周囲360°を囲まれていた。まだ上下に避けられたから良いけど、おそらくそれも学習されてる。そろそろ本当にまずい…!

しかも有効な攻撃手段を持っている篠ノ之さんはこの有り様。くそっ、また弾幕…!くっ、ああっ!被弾した!?

 

まずいまずいまずい…!シールドエネルギーがもう残り180しかない!さっきから篠ノ之さんを連れたまま縦横無尽に飛び回ってるけど、追尾ミサイルが全弾落とせない…!振り切るのも難しい!ああっ、もう!痛いなぁ!

 

シールドエネルギー残り10…!これ以上くらうと本当に僕が墜ちる!仕方なく篠ノ之さんを離し、回避と防御に専念する。く…!

 

飛び交う弾によって、防御パッケージ「ガーデン・カーテン」のシールドもかなり死んでる。あとはボロボロの実体盾が1枚。そして破壊力はある代わりに、至近距離でしか当たらない盾殺し。実体弾ももうほとんど弾数が無い。篠ノ之さんを守るためとは言え、ショットガンもガトリングも、ハンドガンも撃ちすぎた…!

 

エネルギー弾に隠れた実弾を交わしながら、いくつも飛んで来るミサイルを撃ち落とす。ああもう何発あるのさ!いい加減、残弾無くなってくれないかな!

ちらっと篠ノ之さんを見ると、相変わらずエネルギー刃をブンブン振り回すだけで当たっていない。そしてその背後には重そうな実体剣を構えて、大きく振りかぶった敵機。

 

「危ない!」

 

ああ、もうっ!

私は篠ノ之さんの背中に向かって瞬時加速(イグニッション・ブースト)。背中にある追加パッケージの増設ブラスターも限界まで使って、どんどん加速される世界の中で篠ノ之さんの背中に向かって飛ぶ。…!間に合っ…!

 

その瞬間、視界が揺れる。頭に衝撃が走る。あ、まず…!

 

そして()は、全身を包み込む爆発と閃光を最後に、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは…!」

 

私の視界にオレンジ色の機体が煙を上げて落ちていくのが映る。その瞬間、私は一気に飛び出していた。

下は運動場。この高さから墜ちるのは危ない…!お願い!届いて!

 

そう思ってぐんぐん落ちるシャルロットさんに向かって全力で飛ぶ。…ダメ、このままじゃ間に合わない…!

お願い弐式!私に力を貸して!

そう強く願った瞬間、一瞬背中のブースターがフッ…と切れる。

ウソ!エネルギー切れ!?

そう思った次の瞬間、私の体は強い加速感の中で押し付けられるような感覚に包まれていた。これは…!瞬時加速(イグニッション・ブースト)

…ありがとう弐式。私はそう思いながらガシッと落ちてきたシャルロットさんを抱き止める。頭から血が出てる…!

良く見ると、全身に爆発の痕と煤が。血も止めどなく流れ出ている。これは…!

 

『ラウラさん!シャルロットさんが撃墜、重傷です!退避します!』

 

『…!そうか、なるべく早く戻れよ!』

 

『はい!』

 

緊急コールで指揮官のラウラさんに連絡する。待っててください、すぐに戻ります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア!鈴のバックアップを頼む!」

 

「おまかせを!」

 

時は簪がシャルロットを抱き止めた少し後。セシリアは簪がシャルロットを抱き止めるのを念のためしっかりと確認した後、未だ激しい戦闘が続いているラウラ達のサポートに来ていた。

 

一夏、鈴、ラウラ達は残り2機となった敵機を果敢に攻め立てているが、異様なまでにしぶとく立ち回る敵機にあと一歩が届かない。

 

 

 

まだ箒の方に敵機が残っている。箒に対してはやけに(・・・)敵が反撃がぬるい。あれならしばらく大丈夫だろうと見て、目前の2機を優先する。

そしてこのタイミングで援護に来たセシリア。ここしかない!

 

「一夏!分断するぞ、出来るな!」

 

「おう!」

 

私は一夏と、セシリアは鈴と組ませて2機を分断。そのために、一夏が2機の真ん中に突っ込んで行く。それに合わせて片方の敵をAICで停止させる。くらえ!

 

「うおぉおぉぉ!」

 

一夏が私の止めた敵機を両断。その瞬間、鈴がもう1機に斬りかかり、セシリアが背後からライフルで挟み撃ちにしている。しかしライフルでは効果が薄い…!一夏!やれ!

 

「俺がっ、決める!決めてやる!」

 

そう言って手の雪片弐型が幾筋もの剣線を残し、敵機を斬る。敵機は最後に小さな爆発を残して地上に墜ちていった。

 

「よし。私は箒の援護に向かう。戦闘を行えないものは現在をもって退避しろ」

 

そう言って箒の元へ向かう。…残っているのは6機。しかし、篠ノ之の様子を見る限りでは敵は適度にあしらっているようにしか見えない。…シャルロットが墜とされた恨み、ここで返させて貰おうか!

 

「篠ノ之!下がれ!」

 

「何!?」

 

「聞こえなかったか!下がれと言っている!」

 

「何故だ!私は戦える!私は戦えている!」

 

「ふざけるな!」

 

仲間一人守れずして何が『戦えている』だ!

どうせ先ほどまで私達が戦っていたレベルまで敵機が強化されている。なぜ篠ノ之相手だとこのように手を抜いて相手するのかは分からんがーーー。

 

「全力を持って叩きつぶす…!!

各員!回避することを最優先に!決して墜ちるなよ!

それと篠ノ之!邪魔する気なら下がれ!」

 

「了解ですわ」

 

「おう!」

 

「ふん!言われなくても!」

 

「誰が邪魔をしているというのだ!」

 

ダメだ、今の箒の奴は聞く耳を持っていない。しかし、先ほどのレベルの敵機を6体相手するとなると、こんな危険分子を抱えたままでは…!

そう思っていると、背後から声。

 

「ラウラさん!簪、戻りました!連絡します!

2分後には救援が来るそうです!」

 

「よし!聞いたなお前たち!

2分後まで決して墜ちるなよ!」

 

私がそう言った直後、この場の専用機持ち全員に頼もしい声が聞こえてきた。

 

『…ザー…ザザッ……ブッ。

…ー、あー、聞こえるか。現在ジャミングが解除された。状況はモニターで確認している。篠ノ之は下がれ。

その他各員はあと2分、何があっても耐えて帰ってこい。いいな』

 

「「「「「はい!」」」」」

 

『織斑先生!しかし!』

 

『篠ノ之!』

 

箒がビクッ!としているが、今この瞬間にも最後の猛攻と言わんばかりに私達はミサイルやエネルギー弾、実弾の雨に晒されている。くっ、さすがにそろそろシールドエネルギーが…っ!ちぃ、かすったか!残り380…。頼む…もってくれレーゲン!

 

ワイヤーブレードを牽制に、肩のレールカノンを目眩ましに。そしてその影からプラズマ手刀で斬りかかる。しかしやはりと言うべきか、読んでいたかのようにプラズマ手刀を撃ち落とされる。やはりこいつら、戦闘経験を共有し、学習している!くそっ!

 

「救援、来ました!」

 

簪の声が遠くから、銃弾と飛行で入り乱れる戦場に響くように聞こえる。ハイパーセンサーで確認。20機。それが全て援軍として来ていた。その中には山田先生の姿もある。

…ここまでか。

 

『専用機持ち全員に告ぐ。即刻退避、帰投しろ。

繰り返す。専用機持ちは全員、即刻退避。帰投しろ』

 

銃弾の飛び交う中を抜け、IS学園の校舎に向かって回避行動を取りながら撤退する。…すまない、シャルロット。5機、残してしまった…。




ああああ…ここから先書きたくないんだよう…。書くけどさ


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ほの暗い病室で

私達は全員身体検査を終え、重傷者が居ないことを確認されてから教官…いや、織斑先生に呼び出されていた。

場所はモニター管制室。当然シャルロットの姿はここにはない。

 

「さて、まずは今回。突発的な戦闘だったが、全員死ぬことなく帰ってきたことは大変喜ばしいことだ。…ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「はっ」

 

一歩前に出て敬礼する。…ああ、敬礼は不要だったか。まあいい。

 

「指揮官の役目を十分に果たし、被害は最低限に抑えられた。…良くやった」

 

「はっ」

 

確かに私は出来ることは全て果たした。…しかし、素直には喜べない。教官もそれが分かっているのだろう、常よりも僅かに眉間の皺が濃い。本当に僅かだが。私でもなければ気付かんだろう。

 

「…さて。戦闘行動中に問題行動を起こした(馬鹿)が、悲しいことにここには三人も居るな。

…織斑一夏!」

 

「はいっ!」

 

「凰鈴音!」

 

「はぁい…」

 

「篠ノ之箒!」

 

「…はい」

 

態度はまさに三者三様。真剣な表情のもの。気まずそうなもの。不貞腐れた態度のもの、だ。…篠ノ之、さすがにその態度はどうかと思うぞ。

そう思っていると、教官のこめかみに青筋が立っていた。そしてその手には出席簿。あ。

パァン!

 

「~~~っ!」

 

「篠ノ之。貴様、級友を命の危機に追いやったんだぞ?なんだその態度は?」

 

「す、すいません…」

 

「…ふん。まあいい。貴様ら三名には、反省文五十枚を書いてもらう。期限は来週だ。いいな!」

 

「「「はい!」」」

 

「ふん…。よし、では各自…解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い病室。窓もカーテンも閉め切ってもらった。そんな中に少しだけ入る光が、僅かに病室の中をうすぼんやりと照らしている。

そんな薄暗い中で、僕はベッドの背もたれに身体を預けて、どこを見るでもなく宙空をぼんやりと見つめていた。

今日で僕が目を覚ましてから三日。後四日間はベッドの上で安静にしていないといけないらしい。はあ…。気分が重い。

僕はベッドに背を預けたままゆっくりと目を閉じて、ドクターとIS専門技師に言われたことを思い出していた。

 

『…ですから、やけどの類いはありません。しかしやはり、頭部への衝撃により脳にダメージがあることが考えられます。ですので、身体には大きなダメージは見られませんが、一週間は必ず安静にしていて下さいね。良いですか。それと…』

 

『えー、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの現在の状況についての報告です。現在、ダメージレベルDを記録していることが確認されました。そのため、少なくとも一ヶ月。長ければ三ヶ月程は使用禁止の措置と言うことです。自己回復機能が十全に働くまではパッケージの解除も禁止されます。また、内部コアの回復状況次第では、損傷した装備品を新しく交換することで、完全回復までの期間を縮められる可能性がある、とのことです。また、そのことについては…』

 

 

「はあ…」

 

思わずため息が出る。何のため息かも分からないけど。

チャリ…。

胸元のネックレス・トップを軽く手でつまむ。私を守ってくれた、リヴァイヴ。ごめんね…。

 

「はあ…」

 

何度目かも分からないため息。なんだか呼吸をするたびにため息をついている気がする。…ああ、なんかこう…嫌だなぁ…。この感じ。参ってしまう。

 

「はあ…」

 

何が嫌なのかも分からないまま、それでもため息が出る。もう、何だかさ。何もかもがどうでもいいんだ…。

全てを投げ出してしまいたい。まあ、投げ出すも何もないけれど。今私が出来ることなんて何もないんだし…。出来る事といえばせいぜい、ベッドの上で横になることか、こうやってため息をつくくらいのものだ。本当、嫌になる。

 

 

もたれているベッドから、僅かに首を傾けて病室のドアを見る。今日は誰か、来るのだろうか。

 

私が目を覚ましてドクターと技師の話を聞いた後。

その日は夕方になるまで誰も来なかった。ああ、あの時には、まだカーテンは開けてたっけ…。

だから夕方になって、紅くなった光が斜めに背中から当たっている中で入ってきたあの白衣は、はっきりと私の記憶に残った。鹿波さんだった。

病室に入ってきてからしばらく僕の方に視線を感じていた。その手には何か飲み物を持ってたような記憶がある。たしかポカリスエットか何かだったっけ…?その時に僕はぼーっとしてたから…もうあんまり、はっきりと覚えてはいないけど。

彼はゆっくりと僕の右側にある椅子に腰掛けて、手に持っていたペットボトルを見舞い台の上に置いてた、ような気がする。

その時私はぼんやり前を見ていたから、彼がどんな表情だったかはわからない。ただ、あのときの私はきっと、何を言われても嫌な思いしかしなかったと思う。だから、鹿波さんが何も言わずにそこに居てくれたのはとてもありがたかった。

外でサァッ…と風が吹く。それ以外には音のない、静寂な空間。そんな中で鹿波さんは、ずっとずっと、何も言わずに横に居てくれた。少しだけ鬱陶しいと感じたけど、きっとあのままずっと一人でいたら、私はどこかおかしくなってたと思う。だから正直、鹿波さんが居てくれて良かったんだと思う。

彼が立ち去った後には、一抹の寂しさを感じた。

彼は立ち去る前に、優しくゆっくりと言った。

 

「…ラウラから、伝言だ。

『明日、着替えやその他必要なものを持っていくつもりだ。欲しいものや必要なものがあれば考えておけ。』

…だそうだ」

 

彼がそう言った時に、何かしらの反応を返さなきゃ。心ではそう思っていても、私の喉は何の音も発してはくれなかった。だから正直、鹿波さんが返事も待たずに帰ってくれてほっとした。だって、私が何も返さなくても、私が悪い訳じゃない。そう、自分に言い訳できるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日目に来てくれたのはラウラだった。いつもの様に力強い、堂々としたしぐさで病室のドアを開け、胸を張ったまま入ってきた。左手には大きな紙袋。…その堂々とした姿が、ちょっと羨ましい。

そのままラウラは私の右にある見舞い台の下に紙袋をドサッと置いた。そしてラウラの赤と金の瞳が、私の目を覗きこむようにじっ…と見つめてきた。

 

「…ふむ。だいぶ酷い顔をしているな。何か入る腹はあるか」

 

そう言って、いつもの真剣な顔つきで僕を見るラウラ。でも、僕は何か食べる気力も、そんな気も起きなかった。だから、首を小さく横に振った。

 

「…看護師から聞いたぞ。お前が目を覚ましてから何も食べていないとな。食わねば治るものも治らん。お前を守ったラファールのことを思うのならば、何か腹に入れておけ」

 

そう言いながら、僕の横で紙袋からリンゴを取り出したラウラは、器用な手つきでリンゴの皮をナイフで一度も切ることなくむいていく。

…すごいね。

ラウラの立つ姿はいつも通りに真っ直ぐで、僕はそんなラウラのことを、少しだけ疎ましく思った。そしてすぐ、そんな自分に自己嫌悪。怖気が走る。ああ、まったく嫌になる。

ラウラはリンゴをそのまま八等分して、一口でも食べやすいサイズに切ったリンゴを紙の皿の上に置き、僕の座っている隣に置いた。

 

「ほら」

 

そのうちのひとつをフォークで刺し、僕の口元にもってくる。

 

「あーん」

 

「あ、あーん…」

 

ちょっとだけ横を向いて、少しだけ口を開く。

いくらなんでも、さすがにこれはちょっと、恥ずかしい。どうせ僕の顔は、無表情なままだけど。

でも、僕の顔を屈んでじっ…と覗きこむラウラの顔は、とても真剣で。仕方なく、差し出されたリンゴに口を開ける。ぐっと押し込まれるリンゴの感触。

僕がリンゴを口に入れた瞬間に、口いっぱいに瑞々しさがに広がった。気づけば僕はゆっくりと無気力なまま、でも確かにしっかりと、リンゴを咀嚼していた。

…自分でも気付かなかったけど、僕はずいぶんと喉が渇いていたみたいだ。そんな僕の様子を見ていたラウラが、苦笑するように言った。

 

「ふ…。そんなに慌てなくともリンゴは逃げんぞ。ゆっくり落ち着いて食べれば良い」

 

そんな言われるほどがっついてないもん。そう言おうかと思ったけど、今の僕には口を開いて文句を言うだけの気力は無かった。ただひたすらに面倒くさい。

でも確かに、気が急いていた部分もある、かもしれない。なので、少しだけゆっくり食べることを意識した。別にそんなに慌ててなんか、いないけど。

ああ、うん、そうだっけ。食べ始めてから気付く。そう言えば昨日僕、何も食べてないや…。夕食が出たような気はするんだけど、ただずっとぼんやりとしていたから、あんまり覚えていない。食べ始めてからお腹が空く、なんて。ちょっと変な感じ。

 

「…ふむ。だいぶましにはなったか。

シャルロット。下着や着替え、タオルはとりあえず三日分程度持ってきた。この紙袋の中に入れてある。

…何か他に欲しいものはあるか」

 

…欲しいもの、か。…なんだろう。特にないかな。

 

「…そうか。ではな。また来るぞ」

 

そう言ってラウラはスタスタと病室を出て行った。…あれ。そういえば、今は授業の時間帯じゃなかったかな。…まあ、いいか。どうでも。僕の知ったことじゃない…。

 

その日はその後、誰も来なかった。…僕はこの時、篠ノ之さんに来て欲しかったのかもしれない。なんとなく、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日は、僕が意識を取り戻してから三日目。…朝の光が目に刺さる。鬱陶しい。苛ついて、僕は思わず顔をしかめた。

…とは言うものの、実際の僕の表情はきっと、全く変わらないまま、死んだような顔つきだったと思うけど。

鏡を見たら、やっぱりほら。ひどく目の下にクマを作っている僕がいた。うわ、本当に死んだような目をしてる。顔は無表情だし目の光はないし。まあ、それでもいいや。もういい。

日の光がチクチクと僕のささくれだった気持ちを刺激する。すぐに看護師さんに頼んでカーテンを閉めてもらった。

…うん。暗い中でじっとしていると、なんだか心が落ち着く気がする。ちょっとだけ、心が安らぐ。僕は目を閉じて、布団に小さくくるまった。ああ、これはいいや。

…こう、何も動くことも出来ないと気が滅入る。気分が沈んでいくのが分かる。ずぶずぶと、どろどろと。底なし沼に溺れるように。暗闇の中に引きずりこまれるように。ああ、まるで死人みたい。

 

「はあ…」

 

思い返すのはあの時の事。篠ノ之さんの背中を守り続けた。自分に出来る限りの事をやった。最後まで頑張り続けた。弾とミサイルの雨の中、必死に最後まで駆け抜けた。何度篠ノ之さんを守り、何度ミサイルを撃ち落としたことだろう。何度上下がひっくり返ったことだろう。ああ、パイルバンカーも撃ったっけ…。ねえシャルロット。あなた()は出来る限りのことをやったよね。

でも。それでも。やることを最後まで一生懸命やった。それでも。それでも…。

 

「はあ…」

 

ケガをして、動けなくなったのは僕なんだ。ただがむしゃらに敵に向かって行った篠ノ之さんではなくて僕なんだ。篠ノ之箒さんではなくて、僕なんだ。今、動けないのは僕なんだ。一人で突っ走って、まともに戦わないで、ふざけたことばっかり言っていた、篠ノ之さんじゃない。僕なんだ。なんでなのさ…。

 

「はあ…」

 

なんでさ。なんで。なんで。なんで。どうしてどうしてどうしてどうして僕なんだ。最後まで駆け抜けた。最後まで頑張った。最後までやりきったじゃないか!どれだけの弾を躱したと思ってるんだ。どれだけのミサイルを落としたと思ってるんだ。何回篠ノ之さんを盾で守ったと思ってるのさ。何回篠ノ之さんを庇ったと思ってるのさ!

でも。それでも。結局は。ケガをして、動けなくなったのは僕なんだ。篠ノ之さんではなくて。本当にまったく嫌になる。

 

「はあ…」

 

嫌になる。ああ、ああ、全部嫌だ。何もかも。どれもこれも。全て!全部!ああ嫌だ!嫌なんだ!

どうして僕なのさ!どうして僕なのさ!どうして!なんで!どうして!?どうしてなんだよ!

 

「はあ…」

 

これだけ感情が荒れ狂っているのに。こんなにも今、私は悲しいはずなのに。それでも僕の口から出てくるのはため息だけ。ため息しか出てこない。涙なんて出やしない。涙なんて枯れてしまったみたい。ああ、もう。嫌になる。嫌だ。本当に嫌なんだ。間違いなくそう思っているのに。本当にそう思っているのに。それでも涙は出ないんだ。まるで感情が死んでしまったように。まるで心が死んでしまったみたいだね。なんて。

いっそのこと、そのまま死んでしまえれば良かったのにね。ね?

 

 

 

 

 

 

コンコン。ノックの音がする。

でも知らない。無視した。お願いだから放っておいて。帰って。帰って。帰ってよ。

でもその思いは裏切られて。

 

カララッ…。ドアが開く。

せっかくの暗かった室内に光が入る。ねえ、やめて。やめてよ。放っておいて。永遠に。

ドアが閉まる。病室が暗闇に包まれた。本当にほんの少しだけだけ、私の心はほっとした。ああ、この安心感。冷たくって、素敵だね。

 

「し…失礼しまーす…」

 

「…」

 

緊張したような、驚いたような。そんなか細い男の子の声と、誰かもう一人の息遣い。ごめん、放っておいてくれるかな。君たちには悪いけど。誰の顔も見たくない。誰も。何も。何も。関わらないで。誰ひとり。

 

「ほら。箒…!」

 

「ぇ…。ぁ…。ぁ…」

 

なにか押し合いでもしてるような気配がする。けどそれもどうでもいい。本当にどうでもいいんだ。

だからさ。ならさ。今すぐさ。さっさと今すぐ出ていって。声からわかる。篠ノ之さんと、一夏でしょ。今すぐ早く、出ていって。私にまったく関わらないで。

篠ノ之さん、一夏に押されても抗っているみたいじゃない。見なくても分かるよ。そんなこと。そんなことしてる暇があるのなら、今すぐ早く、出ていって。とってもとっても邪魔なんだ。

 

「その…ごめんシャル」

 

はぁ…。一夏…。その気持ちはありがたいけどさ…。

正直やめてほしい。いちいち対応したくない。ほんと鬱陶しい。そう思う。黙って今すぐ出ていって。

首を上げて、前を見る。

やはりというか。そこには申し訳なさそうな顔をしてこっちを見ている一夏と、腕を組んでそっぽをむいている篠ノ之さんが並んで立っていた。

 

正直な話、僕が一夏に謝られても困る。別に一夏には僕は何もされていないんだし。

篠ノ之さん、謝るつもりがないなら来なくていいよ。ううん、そんなことなら、いっそ来ないでほしかった。どうしてあの時は私のことを気にもしなかったくせに、こういう時だけ気にするの。やめてよ。僕は本当に嫌なんだ。

 

胸の奥で、感情の渦が暴れてる。でもそれも、どこか遠くのことみたいで。ああ、目の奥はこんなに熱いのに。涙はまったく出て来ない。ああ、ああ、そうなのか。なんだ、そうだったんだ。もう僕は、そこまでいっていたんだね。簡単なことだった。あは。

 

「…一夏」

 

「あっ、ああ!」

 

仕方ないので一夏には震える声で呼びかける。一夏は緊張した様子でこっちの顔を見てるけど。あのね。泣きたいのは僕なんだ。お願いだから、帰ってよ。

 

「…一夏の気持ちは分かるけど…」

 

うん。一夏の気持ちは分かるよ。その気持ちは、きっと間違ってないことも。でもね、一夏。今僕は、それがすっごく嫌なんだ。ねえ一夏。

ありがた迷惑って知ってるかな。いらないお節介って分かるかな。ねえ一夏?

 

「やめて…」

 

そう私が言うと、顔を強ばらせた。ああ、ほら。また私が悪者みたいじゃないか。だから嫌だったのに。だから嫌だったのに。目を伏せた。涙が滲む。鹿波さんやラウラみたいに、何もしないで放っておいてくれれば良いのに。まったく嫌だよ、本当に。

ねえ、やめてよ。私に関わらないで。お願いだから、そっとしておいて。どうして聞いてくれないの?

 

「ごめん…」

 

ああ、ほら。そうやって。私が悪いみたいなこの感じ。

別に私は一夏に謝ってほしい訳じゃないんだよ?一夏に謝ってほしいなんて思ってない。お願いだから、一人にさせて。たったそれだけのことなのに。

 

「…箒さんを連れてくるのは、もう…やめて」

 

「ごめん…」

 

そう言って一夏は何度も

 

「ごめん…ごめんな…。ごめん…」

 

そう繰り返しながら出て行った。はあ。

本当にもう、どうでもいいのに。なんでさ。なんで。どうしてなの?どうして皆、私が一人になることすら邪魔するの。やめてよ。やめて。放っておいて。

 

「…一人にさせてくれないかな」

 

私がそう言うと、篠ノ之さんは何も言わずに帰っていった。真っ暗な部屋。戻ってきた静寂。おかえり。

 

「ハァ…」

 

私はベッドにドサッと体を預け、目を腕で覆った。やっぱり涙は出なかった。いっそこのまま、消えてしまえたらいいのにね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日から、篠ノ之さんは毎日昼と夕方に私の病室に来るようになった。…嫌がらせ、だろうか。

そう思うくらいに篠ノ之さんは、私の病室に来るくせに何も言わずにただ立っているだけ。

まあ、分かるよ。分かるんだ。謝るつもりで来ていても、謝れてないだけだって。でもさ。それさ。一体さ。私の気持ちはどこにあるの。私の気持ちはどこにあるの?私の気持ち、考えてはくれないの?

 

鹿波さんみたいに。鹿波さんみたいに。何も言わずにしばらく居て、さっさと帰れば良いじゃないか。ラウラみたいに、ラウラみたいに。必要なことをやってから、さっさと帰れば良いじゃない。なんでさ。なんで。なんでなのさ。

お願いだ。お願いだよ。僕を一人で居させてよ。

 

篠ノ之さんは謝りに来たんじゃないの?私にごめんねって、そう言いに来たんじゃないの?なのにさ、ならさ。それならさ。なんで、どうして、私の気持ちを無視するの?私に対して申し訳ないと思ってるんじゃないの?何がしたいの?教えてよ。

 

私に謝るのなら私の気持ちを考えてよ。何度も何度も貴女が何も言わずに来るだけでも、私はすっごく嫌なんだ。ほんとにほんとに嫌なんだ。私の気持ちを無視しないで。あなたの自己満足の謝罪なんていらない。そんな謝罪なんてなくていい。

謝るなら謝って。そうじゃないなら関わらないで。ただそれだけのことでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も。また今日も。そう思っていたけど、今日は違った。

いつものように病室に来た篠ノ之さんを、私はもう見ることすらしなかった。気にするだけ馬鹿らしい。私が疲れるだけだから。私が怪我人で、私が休みが必要なのに、健康で元凶の篠ノ之さんが私の休みの邪魔をする。ふざけないでくれるかな。

そう思っていたけど、今日はいつものようにのそのそと来るのではなかった。スタスタと私の正面に来て、気づけばその頭は床に付けられていた。

 

「シャルロット…。すまない。謝って許されることではないことは重々承知している。

しかし、私の行動は謝罪しなければならないものだった。すまない…!」

 

そう言って、じっと。ずっと頭を下げる篠ノ之さん。彼女を見ても、僕はもう何も思わなかった。死ねばいいとも、このくず女とも。なにも。

ずっと頭を下げ続ける彼女を見て、何分たっただろうか。このまま私が何も言わなかったら、一日じゅうずっと頭を下げてそう。

正直、面倒なんだけどな。

…ただ、やっぱり心のどこかでは、僕は篠ノ之さんに謝ってほしかったのかもしれない。本当に、気のせいくらいのごく僅かだけど。

ちらりと篠ノ之さんを見た。…まだ居るよ。このままだと本当に一日じゅう頭を下げ続けそう。ああ、もう、面倒だ。

 

「…顔、あげてよ」

 

そう言った僕の声は掠れていた。あれ?ああ、そっか。僕、これで一週間、ずっと声を出していないっけ。

篠ノ之さんがばっ、と顔を上げて僕の顔を見ている。その眼は確かな芯を感じさせる、強い意志を宿していた。

 

「…もう、いいよ。これで今回の話は終わり。わかった」

 

「ああ」

 

僕がそう言うと、神妙な顔で頷いた。

 

「では、失礼する」

 

そう言って篠ノ之さんは最後、病室を出て行く時に深々とお辞儀をして出て行った。

 

「…はあ」

 

…。終わった。終わったんだ。ようやくその実感がわく。ああ、ああ、全部。これで。

僕、もう、疲れたよ…。

そんな思いでベッドに体を預ける。腕で目頭を軽くおさえる。

やっと終わった。やっと。もうたくさんだ。こりごりだ。

鹿波さんが自分から人のお節介を焼かない理由がわかった気がする。自分で相手のために世話をして、自分が嫌な思いしてれば世話ないよ。絶対に僕、これからは、助けを求められてからしか助けないようにしよう。もうこんなの、本当にやっていられない。いや、助けを求められても、本当に助けてあげるべきかどうか考えてからにしよう。そうしよう。そうじゃなければバカを見る。

ああ、そう言えば今日で何日経ったっけ。ずっと同じように過ごしているから、時間の経過が分からない。もう一週間経ったかな?いや、でも僕が退院してないんだから五日か六日?よく分からない。頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 

「イヤになっちゃうなぁ…もう…」

 

なんだか全部終わったんだと思うとまるで脱け殻みたいだ。生きる気力も何もない。でも僕の感情の渦は相変わらずぐるぐると渦巻いている。

あんなに嫌な思いをしたのに。もう関わらないでほしかったのに。私はもう、篠ノ之さんのことを許してしまった。ああ。ああ。もう嫌だ。何もかもが嫌なんだ。

僕はもう、疲れたよ…。

 

そうしてぼんやりしていたら、いつの間にか空は暗くなっていた。

日中もカーテンを閉めて薄暗かった病室は、もう夜だと思うくらいに暗くなっていた。ほんの僅かに赤い光が入ってきている。時刻は夕方くらいだろうか。

 

ガラッ。ドアが開けられる。そしてそこに浮かんだシルエットは大好きな人(鹿波さん)のもので。ぼんやりとした視界の中に、白衣が優しく自己主張するかのように目に入る。

 

「失礼するよ。…外そうか?」

 

そう言ってきたのはきっと、私が腕で自分の顔を覆っていたからだろう。

 

「うん…。いや…うん…。そうだね…。

少し、一人にしてくれるかな…」

 

「イヤなら外そう。だが…まあ、なんだ。一人で泣くのは辛かろう。お前が良ければ共に居る」

 

「…ずるいよ…」

 

僕がそう言うと、鹿波さんは黙って僕のすぐ横に、ベッドの上に腰掛けた。五センチとない距離。手を伸ばせば触れる距離。

本当に鹿波さんは、こういう時卑怯だと思う。普段は黙ってたりふざけてたりするくせに、こうやって慰めて欲しいときだけは絶対に側に居てくれるんだ。絶対に。

 

「鹿波さん…」

 

「ああ」

 

「ぼく…頑張ったよ」

 

「ああ」

 

「出来るだけ、頑張ったよ」

 

「ああ」

 

「やれることは全部やったんだ…!」

 

「ああ」

 

「なのになんでさ…!」

 

ああ、駄目だもう。言葉の奔流が止まらない。今の今まで我慢してきた言葉が、感情が溢れてくる。

 

「どうして私が怪我しなきゃいけないのさ…!!」

 

「…頑張ったな」

 

「うん…」

 

「大変だったな」

 

「うん…っ」

 

「辛かったな」

 

「うんっ…!」

 

「…お疲れ。シャルロット」

 

限界だった。涙が溢れて止まらない。目頭が熱い。視界が滲む。それでも、目の前の鹿波さんが優しく笑って腕を広げているのが分かった。

 

「…っあ、…あ…ああ…うああぁぁっ……!」

 

くいしばった歯の隙間から、我慢しきれず声が漏れる。最初の涙がこぼれると、後はもう止めようがなかった。ぽろぽろと涙がひとりでにこぼれ落ちる。

堪らず私は鹿波さんの胸にしがみついてわあわあと泣きじゃくった。思い切り鹿波さんの服を握る。目から涙が溢れてくる。感情が堰を切って溢れ出す。拭いても拭いても涙が止まらない。瞼を焼くように熱い涙が、鹿波さんの着ている服を次から次へと濡らしていく。じーんと鼻の奥が熱い。はらはらと両目から涙が流れる。もう私の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。

私は子どもみたいに顔を歪めて泣いていた。駄々っ子のように。親にすがる赤ん坊のように。

だけど、私の胸は暖かい気持ちでいっぱいだった。目の前に、私を思い切り抱き止めてくれる人がいるから。私を抱き締めて、慰めてくれる人がいるから。

しばらくずっと、私は泣いていた。生まれて初めて、我慢しきれずに流れた涙だった。

 

頬と目の縁にさっき泣いた痕跡がまだ残っている。きつく目を閉じると、湛えていた涙が頬を伝った。しばらく私はそうしていて。そのまま私は泣き疲れて、いつの間にか寝てしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼するぞ…む?」

 

「しーっ」

 

シャルロットの見舞いに行くと、薄暗い室内でシャルロットがすやすやと寝ていた。そして隣には、シャルロットの右手を握っている(鹿波)の姿が。ふむ。

嫁がこちらを向いて、シャルロットの右手を握っていない方の手で人差し指を口に当ててきた。…静かにしろ、ということか。

 

「今ちょうど寝たとこだ。…シャルロットのこと、しばらく頼めるか?」

 

そう小声で話しかけてくる嫁。そしてシャルロットにシーツをかけ、立ち上がって出て行こうとする。別に構わんが…。

 

「どこか行くのか?」

 

「泣いた後は、水分補給だろ?」

 

そう言って嫁はこちらにニヤッと不敵な表情を向ける。まったく…。

 

「ああ、ラウラは何が飲みたい?」

 

「ミルクコーヒー」

 

「あー…カフェオレでいいか?」

 

「うむ」

 

「あいよ」

 

そう言ってそーっとドアを開けて、嫁は飲み物を買いに出て行った。…それにしても、大の大人が音をたてないようにこそこそとドアを開けて出て行く姿は微妙だな。まあ、それだけシャルロットの事が大切なのだろうが。

 

傍らで顔を泣き腫らしたシャルロットを見る。…一夏の奴からは、篠ノ之が許して貰えたとしか話を聞かなかったが…。加害者が被害者を泣かせた上に許して貰った、か…。しばらく、篠ノ之には注意して見ておくか。また私の親友(シャルロット)を泣かせたり、傷つけるようなら容赦はしない。篠ノ之箒…覚えておけよ。

 

カラッ…とわずかにドアが開く音。ゆっくり振り向くと、右手にペットボトルを2本、左手に缶を持った嫁がこちらに缶を差し出していた。…ふむ。もらおうか。

 

「すまんな」

 

「なに、構わんよ」

 

そう言ってプルタブをカシュッ、と開けて、カフェオレをごくごくと飲む。

…ふう。甘い。夏場は喉が渇くからな。助かったぞ、嫁よ。礼を言う。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして、と」

 

そして嫁はそのまま机の上にペットボトルを一本置き、もう一本のふたを開けてそのままがばがばと飲み干した。…腎臓やら肝臓に悪いぞ、嫁よ。

 

「ラウラ」

 

ふと呼び掛けられたので嫁の方に視線を向ける。嫁はどうにも困ったような表情で話はじめた。

 

「今回の件な。シャルロットのこと、しばらくは見守ってあげて欲しいんだ」

 

「当然だ」

 

「サンキュ。あと、箒ちゃんなんだけどな…」

 

そう言って言い淀む。何だというんだ。

 

「…あんまりこういう言い方するのは好きじゃないんだけどな。あの子、どうも昔っから力に流されやすいといいうか…。中学の時の剣道の大会とかでも、憂さ晴らしというか、力に溺れたり暴力に走るみたいなんだ。それゆえに、自分を見失いやすい、そういうタイプの人間なんだということは、知っておいてほしい」

 

「…だから、シャルロットが嫌な思いをしても仕方ない。そう言いたいのか?」

 

もしそうなら、悪いが私はそれは聞けんぞ…?

 

「逆だ。ラウラ。お前も似たような経験があるだろう。VTシステムのな」

 

「…ああ」

 

確かにある。あれは私の中でも苦い記憶だ。力が欲しいと願った記憶。今も良く覚えている。

だが、逆とは一体どういうことだ?

 

「箒ちゃんは力を欲し、今や専用機という力を手にした。そしてその力に溺れて過ちを犯し、そして今、だ。ラウラには、シャルロットをこれ以上苦しめないためにも、箒ちゃんを見極めてほしいんだ。箒ちゃんが今回のことで、本当に自分の欠点を乗り越えて、成長しようとしてるのか。それとも今回のはその場しのぎの嘘で、また次も同じように力にながされたり力に溺れてしまうのか…。

 

あと、シャルロットは自分の感情を溜め込み過ぎるところがあるからな。シャルロットもシャルロットでこれからゆっくりとでも成長出来るといいんだが…今回はただ、頑張ったのにツラい目にあっただけだ。シャルロットに責はない。ゆっくりと、心の傷が癒えると良いんだが、な…」

 

「…そうだな」

 

なるほどな。嫁としては、私がシャルロットを隣で支えるだけでなく、篠ノ之箒を見極めてほしい、と。

そして篠ノ之がシャルロットを苦しめないように、だが篠ノ之が本当に自らの弱さを乗り越えようとしているなら、邪魔はしないように、という事か。

そしてシャルロットはシャルロットで、今回の心の傷を癒しつつ、シャルロットにも成長をしてほしい、と…。

ふん、嫁よ。まったくお前は優しすぎるぞ?

そう思ったので、ニヤリと笑って言ってやった。

 

「これほど甘やかしてくる()が居ると、ついつい甘え過ぎてしまうかもしれんな?」

 

そう言うと、嫁はきょとんとした顔でこう言った。

 

「…何の話だ?」

 

ふん、まったく。嫁は本当に、鈍感に過ぎる…。

 

「さてな」

 

そう言って、私はにやりと笑いながら、気分良く病室から出て行った。後ろから慌てて追ってくる、嫁の

 

「おい、本当にどういうことだよ!?」

 

と言う声は聞かなかったことにした。いい加減気付け、嫁よ。



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灰色の裏側で

箒ちゃん大人気で草
おかしいなー…原作の銀の福音事件の時そのままの感じで描いたのになー…
あ、だからか


シャルロットが目を覚まし、私がシャルロットに着替えを持って行った次の日。良く晴れた昼休み。うむ、今日も良い天気だな。

私は一夏達と共に、屋上で昼御飯を食べていた。私の他には一夏、箒、セシリアのメンバーだ。

隣のクラスの鈴は、あの後一夏に謝ったらしい。が、当の一夏は未だ返事を保留にしているそうだ。なんでも、釈然としないから、というのが理由なんだそうだ。

 

 

「ところで箒。シャルには謝ったのか?」

 

一夏が箒に尋ねるも、気まずそうに目を逸らす。…おい。貴様、まさか。

一夏も同じように思ったのか、箒の顔をえ、嘘やろ?といった表情で見つめている。

 

「…箒?」

 

「ま、まだだ…」

 

再度一夏が尋ねるも、返ってきたのは蚊が鳴くような細い否定の声。それを聞いた途端、一夏は食べていた弁当をその場に置いて箒に手を伸ばして言った。

 

「箒、俺も一緒に行くから、謝りに行こう」

 

「し、しかしだな…」

 

「箒!!!」

 

ビクッ、と肩の跳ねた箒に手を伸ばしたまま一夏は強い意思を感じさせる声で呼んだ。そしてそのまま箒の手を取り、箒の体をぐいっと引き上げた。

 

「行くぞ」

 

そう言って箒の手を掴んだまま、ぐいぐいと手を引っ張って行く一夏。

 

「…ふん」

 

今の状態の箒を連れて行っても、何も物事は好転しないだろうに。…シャルロットが嫌な思いをしなければいいが。心配のし過ぎだろうか。

 

「…ところでセシリア。この間、教か…織斑先生に呼ばれていた時があっただろう。あれは何だったんだ?」

 

「ええ。織斑先生と共に、先日の戦闘の映像を簪さんとともに確認しておりました。光栄にも、お褒めの言葉を戴きましたわ」

 

「ほう」

 

「その機会に簪さんともお話して、仲良くなることが出来ました」

 

「良かったではないか」

 

「ええ。それと、ラウラさん」

 

「む?」

 

そう言ってセシリアは姿勢を正し、こちらに向かって深くお辞儀をした。どうした?

 

「あの時は見事な指揮、ありがとうございます。助かりましたわ」

 

なんだ、そんなことか。

 

「ふん。任せられた以上、最後まで責任を持って全うするのが軍人の役目だ。礼を言われることではない」

 

「それでも、です」

 

「…まあ、その気持ちは受け取っておこう」

 

「ええ、そうして下さい。…ただ、(わたくし)としては少し箒さんのことが心配です。今の箒さんは、なんだかこう…あまり、良くない感じがいたしますわ」

 

「…そうだな」

 

とはいえ、私やセシリアが踏み込むものではない。これは当人たちの問題だからな…。しばらくはシャルロットの様子を見るか。

 

「…そういえばセシリア。最近、一夏とはどうなんだ」

 

「ええ、まだ少しぎこちない時もありますが、以前と変わらないお付き合いをさせていただいています」

 

「そうか」

 

「本当に、皆さんにはお見苦しいところをお見せしてしまいました…」

 

そう言って苦笑するセシリア。まあ、一夏に対してことあるごとにISの武器を向けるのは、正直見ていて不愉快ではあった。

 

「…たしかに、見ていて気持ちの良いものではなかったな」

 

そう言うと、すまなそうな顔をして言った。

 

「お恥ずかしい限りですわ…」

 

…たしかに今までの態度は目に余ることが多かった。だが…

 

「…変わったな、セシリア」

 

本当に変わったと思う。以前のセシリアは、自らの間違いを指摘されても逆上したり、他人を見下していた。今では自らの研鑽に励み、共に成長しようとする気概が見えるような感すらある。まあ、それもこれから分かること、か。

 

「そうでしょうか?」

 

「ああ、変わったよ。間違いなくな」

 

私がそう言うと、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。笑顔のまわりに花が見えるような、そんな顔だった。

 

「ふふ、ありがとうございます。これ以上、想い人に情けないところを見せるわけにはいきませんもの」

 

「…ふん、あいつら(一夏の幼なじみズ)に聞かせてやりたいな。日本では、『爪の垢を煎じて飲ませる』…というんだったか」

 

「そうですねぇ…。なんだかお二人とも、何かに焦っているような感じがいたしますわね」

 

「焦る、か。一体何に焦っているというんだろうな」

 

「それは、まあ…その…一夏さんと…」

 

最後の方はなんだかごにょごにょ小さく呟いていて聞き取れなかったが…。まあ、どうせ一夏と仲良くなりたいとか、そんなことだろう。セシリアのように自らを磨き、アプローチすれば良いだけだと思うのだが…。

 

「…まあ、あいつらの考えていることなど私にはわからん。…ああ、セシリア」

 

「はい?」

 

「悪いが、シャルロットの見舞いには行かないでやってくれないか」

 

「…何故、とお聞きしても?」

 

何故、か。そうだな。

 

「…今、あいつは一人で居た方が落ち着くだろう。そこにあまり押し掛けても、あいつは笑顔で対応してくれるだろうが…。まあ、なんだ。それでは意味がないと思うんだ」

 

「…つまり、今はそっとしておいた方がシャルロットさんのためになる…。そう言うことですのね?」

 

「ああ」

 

「…そうですね。ラウラさんがそうおっしゃるなら、そう致しますわ。わたくしよりもラウラさんの方が、シャルロットさんについてはよくお分かりでしょうし」

 

「ふっ、当然だ」

 

何せシャルロットは私の親友だからな。伊達に同じ部屋で毎日を過ごしているわけではない。

まあ、だからこそというか。最近のシャルロットの憔悴具合は心配ではある。…いざとなれば、嫁にも相談してみるか…。

 

「セシリア」

 

「なんでしょう」

 

「…お前から見て、今回の箒はどう思う」

 

「そうですねえ…」

 

そう言って、うーんと唇の下に人差し指を当てて考えるセシリア。どうでもいいがお前、あざといぞ。

 

「さすがにあれはない、ですかねぇ…」

 

「ほう?意外だな」

 

正直援護するかと思っていたのだが。それはまた何故だ?

 

「いえ、私もそうでしたけれど…。自分の気持ちを気付いて下さらなくてやきもきする、というのはとても共感できますの」

 

「いくらやきもきしたからと言って、アプローチの方法が悪いかもしれないと考えずに武器を乱発するのはどうかと思うぞ?」

 

まああれは一夏があまりにも鈍感すぎる部分もあるとは思うがな?

 

「もう!からかわないでください!それはこれから信頼を取り戻して見せます!」

 

「ははは、すまんな」

 

「もう…。ラウラさんって、意外とお茶目さんですのね?」

 

嫁のせいであって私のせいではない。きっとそのはずだ。うむ。

 

「で、話を戻しますわよ?こほん。

…今回さすがにひどいと思ったのは、平和な日常ではなく、命を失いかねない戦場だったからです。いくら普段いがみ合っている相手とだって、命の懸かった戦場では協力するものですわ。よっぽど敵対しているとかなら別ですけれど」

 

「ふむ」

 

「それが今回は箒さんがシャルロットさんの足を引っ張るだけでなく、シャルロットさんに大怪我をさせています。映像で見ましたが、その後もずっと一人で暴走しているだけでしたし…。さすがに今回のは、シャルロットさんが可哀想過ぎます」

 

そう言ってこちらを見るセシリアの表情はキリッとして、まさに貴族らしい真剣な顔つきをしていた。

 

「…だが、シャルロットは篠ノ之のことを許すだろう」

 

「あれだけのことをされてですか!?」

 

セシリアが心底驚いた顔で、目を見開き気味にこちらに寄ってきた。ちょっと怖いぞ。

 

「こほん。…失礼しました。でも、さすがにあそこまでされてというのは…」

 

「あいつは許すよ。そういう奴だ。

…まあ、シャルロットが許しても私は許さん。私が許さん」

 

あ、思い出したら腹が立ってきた。ズゴゴゴゴゴッ、とコーヒーミルクを吸う。…しまった。もう残ってない…。もう少しゆっくり飲むつもりだったのに。すべてこれも篠ノ之箒が悪いのだ。うむ。

あらー…。という困ったような笑顔でセシリアがこちらを見ている。なんだ!何か文句があるのか!

 

「いえ、別に?」

 

そう言って澄ました表情で、ひょいっと素知らぬ顔をしてどこかを向くセシリア。ぐぬぬ…。言いたいことがあれば言えば良かろう!まったく。

 

ふう…。いかんな。取り乱してしまった。これも夏の暑さが悪いのだ。さて。

 

「しかし、何故箒は突っ走って行ったのだろうな?」

 

「あくまでも予想ですけれど…。箒さんは、ご自身が初心者です。私達代表候補生のように、必死にISの訓練をし続けてきたわけではありません。

ですが箒さんのISは篠ノ之博士製作の最新機です。多少技術が拙くとも攻撃を浮遊盾が自動で防いでくれますし、絢爛舞踏でシールドエネルギーを回復させることも出来ます。

そして、自分のような初心者がまだまだ大丈夫なのだから、代表候補生の私達ならばもう少し大丈夫だろう…。そう考えていたのではないかと」

 

「ふむ…」

 

なるほど。確かに篠ノ之はIS操縦に関しては素人の域をまだ出ない。以前の銀の福音戦、そして普段の訓練で基礎技術は伸びているが、それもまだ初心者の中では、というくらいだ。

今のセシリアの説明だと、シャルロットが墜ちるまでは理解出来る。だが、シャルロットが墜ちてからも暴走した理由は何だ?

一つは一夏に良いところを見せるため。と考えられるが…。ああ、篠ノ之は絶対防御が操縦者を完全に守るものだと思っている可能性もあるか。

銀の福音戦で一夏が怪我をした事は知っているはずだが…。シャルロットが墜ちてからも、自分が大丈夫なのだから、と感覚的に考えていた…?

いや、まさか。銀の福音戦で一夏が怪我をしたのにも関わらず、自分が大丈夫なのだから大丈夫だろう、なんて考えるとは…。ない、よな?…否定しきれん。篠ノ之は馬鹿だからな…。シャルロットも一夏のように、謎現象によって怪我が治ると思っていてもおかしくない。

あとは、篠ノ之箒という人間の人間性、か?自分が力を持っていると自信過剰な人間特有の考え方。

…VTシステムが発動する前の私、か。力が全て。力を持っていない者に存在する意義はない。…あの時の私ほどひどくはなくとも、力を手に入れて調子に乗っている、というのは有り得そうだ。篠ノ之が力に溺れやすい人間ならなおさらな…。つまりこんな感じか。

 

私は力を持っている…。私は力を手に入れた!私の力があればすぐに状況は切り開ける!だからお前たちは、私の邪魔をするな!

 

…こんな感じか。

 

あ、多分これだ。てぃんと来た。

あの大馬鹿者のことだ、絶対この程度にしか考えていないに違いない。間違いない。

 

「…あの、ラウラさん?」

 

「む?」

 

ああ、考えに没頭していた。なんだ?

 

「その…。もう、その容器には飲み物は残っておりませんわよ?」

 

「…」

 

手にはコーヒーミルクの容器。中身は空。

私の口元にはストロー。…無意識にまたズゴゴゴやっていたようだ。うむ。

 

「…気にするな」

 

「あの」

 

「気にするな」

 

「ええと」

 

「気にするな」

 

「…はい」

 

ええい、あきれたような目でこちらを見るな!見るなぁぁぁぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、篠ノ之。お前、これを見てどう思った」

 

言葉が出なかった。シャルロットの病室に何度となく向かっては、ずっと謝ることの出来ていないまま。

そんなある日、私は千冬さんに呼び出されてモニタールームに来ていた。千冬さんが脚を組んで椅子に座ったまま私に問いかけてくるが、そんなことよりも頭が真っ白だった。

 

私が先ほどまで見ていたのは、先日の戦闘の記録。IS学園のカメラから撮影されていたその記録は、私を呆然とさせる破壊力に溢れていた。

 

「…篠ノ之。篠ノ之箒」

 

「わ、私はなんてことを…!」

 

調子に乗っていた。大丈夫だと思っていた。

私よりも普段の特訓から強いシャルロットやラウラ、セシリアといった代表候補生達なのだから、というだけの理由で。

それだけの理由で、私が少しくらい突入しても大丈夫だと思っていた。

私の武器は近接戦闘でこそ真価を発揮するし、私だって弱いままではないのだと。私だって戦えるのだと。そう証明したかった。

事実、戦っている間も、今の今まで私は確かにそう思っていた。

…醜い、あまりにも醜い我執によって、友人が墜ちていくのを見るまでは。

確かにそこには、張り切って戦う私の姿があった。

しかしそれ以上に、私はシャルロットの援護を無視し、シャルロットの注意を袖にし、シャルロットの警告に耳を貸さず、シャルロットに頬を張られてもなお、シャルロットの主張に取り合っていない、醜い私の姿があった。

なんだこれは。これが私?

はは、道化だとか。滑稽だとか。そんなレベルのものじゃない。いや、いっそそうであってくれればどれだけよかったか。

確かにそこには、シャルロットが私を何度も何度も救ってくれている姿があって。

そして、私の姿をした誰かが、そんなシャルロットに食って掛かるのだ。

戦闘中だというのに。戦場だというのに。

そして私は見た。見てしまった。

最後までシャルロットが私を守り、自らの体で私を護ってくれた、その瞬間を。

シャルロットの頭に、分厚い剣が勢いよく降り下ろされた瞬間を。

そして。

シャルロットが墜ちていく間にも、私に手を伸ばしてくれていたことを。

 

ああ。ああ。私はなんということをしてしまったのか。私自身が慢心し、暴走するだけでは飽き足らず。私はシャルロットのおかげで傷一つなく、シャルロットは私を守ったせいで1週間は安静の身だ。そしてシャルロットを守ったシャルロットのISは、ダメージレベルがCを越えたD。

なんという無様。なんという失態だ。

これは死んでも詫びねばならぬ。腹を切ってでも謝らなければ。

そう思った私は、織斑先生の制止の声も聞かずに飛び出した。



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もののふの矜持

誰だこの小説を日刊3位にまで押し上げたの
おかげで私が電車内でつい素では?とか言っちゃったじゃないか!視線を集めるはめになったぞどうしてくれる


早く。速く。疾風怒涛の如く、一刻も早く。私は急いでいた。一刻も早く、シャルロットに詫びねばならぬ。私のしたことは到底許されるものではないだろう。戦場で守ってくれた友に対して、呼び掛けも注意も警告も。その全てを突っぱねた。その上自分は守ってもらうという体たらく。なんと浅ましい。

そしてそのくせ、シャルロットに謝りもしなければ礼の一つも言っていない。ああ、全く自分に腹が立つ。このような輩は死なねばならぬ。しかし今の私には腹を切るよりも先にやらなければいけないことがある。

謝罪だ。謝罪するのだ。

例えシャルロットが私を許さなくとも、例えシャルロットが私の顔を見たくなくとも、謝罪だけはしなければ。

腹を切るのはその後で良い。それよりもまず、私が傷つけてしまった彼女に、謝らなければならんのだ。

それが人として成さねばならぬ道理というもの。もはやこの身は死んだ方が良いくらいの外道だが、それでも筋は通さねばならん。

死ねと言われれば腹を切ろう。身体を売って、惨めになれと言われればそうしよう。三日三晩悶え苦しんでのたうちまわって死ねと言われればそうしよう。何はともあれまずは謝罪だ。私は、私のしたことにけじめをつけねばならんのだ。

人に悪いことをしたら謝る。当たり前のことだ。その当たり前のことすら出来んとは、この…。

 

「愚か者が…!」

 

走る。走る。ただ走る。ああ、とかくもどかしい。早く。早く!

 

「はあ…はあ…」

 

ここだ。一つ深呼吸。さあ、行こう。シャルロットに謝りに。

 

ガラッ

 

「失礼する」

 

今までであれば入り口のそばで何をするでもなく突っ立っているだけだった。今日は違う。今日は謝る。ただ謝るのだ。

シャルロットの座るベッドの正面に行き、膝をついて頭を垂れる。私の自慢の黒髪が床に垂れるが、そんなことよりもシャルロットに謝罪するのだ。私の黒髪なぞどうでも良い。

額を床にびたっとつけたまま、シャルロットに謝った。精一杯の謝意を込めて。

 

「シャルロット…。すまない。謝って許されることではないことは重々承知している。

しかし、私の行動は謝罪しなければならないものだった。すまない…!」

 

返事はなかった。当然だ。誰が好き好んで、このような醜悪な愚か者に関わりたいと思うのか。我がことながら反吐が出る。昨日までの自分をぶん殴ってやりたい。だが、しかし、今の私は、それほどまでに屑なのだ。人として、してはならないことをやったのだ。

十分か、二十分か。はたまたそれ以上か。時計など見えないのでわからない。ただ、シャルロットはこんな私に声をかけた。

 

「…顔、あげてよ」

 

私はその掠れた声を聞いて愕然とした。こんなにも彼女は掠れた声ではなかった。こんなにも、彼女は弱々しい声ではなかった。これまでの彼女は、もっと躍動感と明るさに溢れる美声だった。

そして、彼女をそこまで追い込んでしまったのが自分であるというのがまた心苦しくて仕方ない。だが、ああ。彼女はもっと苦しんだんだろう。彼女は私の万倍つらかっただろう。

もはやこの身で出来るのは、誠心誠意謝るより他にないのだ。

そんな思いで顔を上げ、見上げたシャルロットの顔は、ひどく冷たいものだった。

まるで路傍の石ころを見るような目。いや、こちらを見ているはずなのに、まるで焦点があっていないかのような、異常な目。その目の奥には光はなく、普段の輝きに溢れた目で見ていた時と比べてしまう。

なんて様なんだ。なんという目だ。

恐ろしい。ただただ恐ろしい。人がここまで人らしさを失うのかと。そしてなにより、そんなにしたのはこの私なのだと。

ああ、寒い。寒すぎる。体の震えが止まらない。喉もカラカラにはりついて、視線が彼女(シャルロット)から離れない。ああ、ああ、なんという。

まったくなんて、様なんだ。

 

「…もう、いいよ。これで今回の話は終わり。わかった」

 

シャルロットがそう言った時も、私は喉から声にもならないただの声を絞り出すのが精一杯だった。それでもなんとか頷いて、私は最後までシャルロットの顔を見続けた。顔を逸らしてはいけないと。私がしたことから、私の行動の結果から。目を逸らしてはいけないと、そう思って。

 

「では、失礼する」

 

震える声で、なんとかそう口にすることが出来た。そして深々と一礼。扉を閉めた私は、真っ直ぐに自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻ると、ルームメイトの鷹月静寐は帰ってきて居なかった。…ふむ。今からすることを思えばむしろ好都合。

シャルロットには許してもらった。だが、このままでは私が私を許せん。このような輩はただ消えるが良いのだ。

長いようで短かった、十六年の我が人生。ああ、父さん。母さん。申し訳ありません。私は姉とは違い、人様の人生を狂わせるようなおおうつけではないなどと、勘違いしておりました。

真っ直ぐに人に何かを教えられる父さん。いつも暖かく、私や一夏、千冬さんや姉さんを迎えてくれた母さん。そんな素晴らしい人たちから、何故私や姉さんのような愚か者が生まれてしまったのか。私にはとんと分かりません。

ですがそんな私にも、たった一つだけ分かることがあります。それは、これほど人様に迷惑をかけ、人様の人生を狂わせるような私は、生きていてはいけないやつなのだと言うことです。

父さん。母さん。そして一夏。さようなら。

今から私は、腹を切りますーーーーー

 

 

ガチャ

 

そう決意して私が白刃を鞘から抜こうとした瞬間。一夏がこちらを見ていた。…ええい、構うものか!

 

「待てえぇぇぇぇ!」

 

「ええい、離せ一夏!私は腹を切って詫びねばならんのだ!こんなおおうつけ者がこれ以上、生き永らえるなど!」

 

「ふざけんな!それこそシャルロットがしたことが無駄になるだろうが!」

 

「あっ!」

 

勢いよく飛び掛かって来た一夏を傷付けまいと、抜いた切っ先を一夏から遠ざけたのがいけなかった。思い切り一夏の体が覆い被さり、右手に握っていた私の依光は一夏に奪われてしまった。ええい、返せ!離せ!それかどけえ!

 

「ふざけんな!今返したらお前、絶対同じことするだろ!」

 

「当然だ!もはや私は、これ以上生きていてはいけないやつなのだ!腹を切って詫びる!それが今の私に出来る、精一杯の贖罪だ!」

 

「くそっ、このわからず屋!」

 

ガンッ!

 

ーーーーー!!!!

 

「おー痛え…。この石頭め…」

 

突然頭突きをしてくるとは何事か!

 

「あ?」

 

ひぇっ…。い、一夏がこれまでに見たことの無いような、凶悪な眼差しをしている…!

 

「箒…」

 

そして右手に私の依光を持ったまま、真っ直ぐに、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。こ、怖い…!

 

「正座」

 

「はい…」

 

怖い。一夏が怖い。一夏がこんなに怒っているところを初めて見た。顔がまっすぐに見れない。なんだかものすごい威圧を感じる。ひぃぃ…!

 

「…これ()は預かる。で、シャルロットには許してもらえたのか」

 

「は、はい」

 

「で。何やってんのお前」

 

怖い。本気で怒ってる。私に暴力はやめてくれと言った時も、私が謝った時に本当に約束できる?ねえ?と言った時も、まだまだ本気じゃなかったんだと思い知る。怖い。怖すぎる。情けないが失禁しそうだ…!怖い…!

 

「何やってんのかって聞いてんだけど」

 

「はい!責任取って腹を切ろうとしていました!」

 

依光の鎬で私の頬をぺちぺちしながら脅…聞いてくる一夏。あ、あの。一夏さん。

 

「今こっちが質問してんだよ。誰が勝手に話していいっつった」

 

「ごめんなさい!」

 

やだもう!なにこれ!一夏の人格が変わってる!いやぁぁぁぁ!

 

はぁ、とため息をつきながら私の依光を床に突き刺す一夏さん。あ、あの…。さすがにそれはまずくないですかね…。

 

そう思っていたらギロッと睨まれた。ひぇっ…。な、何でもないです…。

 

「箒ぃ…」

 

地底から響くような声で呼ばれた。は、はいぃ…。

 

「IS学園の寮で流血沙汰。それも腹切って自殺。それと、床に突き刺された刀。どっちが問題だろうな…?」

 

はい!私が悪う御座いました!二度と浅慮なことは致しません!

 

「ふん、当たり前だ。自殺なんてされたら、寮長の千冬姉に迷惑かかるだろ。いいか、二度と自殺なんて馬鹿なこと、考えるなよ」

 

「あ、ああ…」

 

そうか。確かに私が死んだら千冬さんに迷惑がかかるのか。くっ、ならば私はどうやってシャルロットに償えば良いんだ!

 

「はあ…。仕方ねえな。

俺が今からラウラの所に行って聞いてきてやるから、黙ってここで座って待ってろ。

…早まった真似はするなよ。いいな」

 

「はい」

 

「ふん」

 

そう言って不機嫌そうに鼻を鳴らした一夏は、私の依光を持ったまま部屋を出ていった。…あの、鞘…私の左手にあるんだが…。

 

一夏はすぐに戻って来て私から鞘を受け取って出ていった。…あれこそ後で千冬さんに叱られるのでは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒から日本刀を奪い取り、鞘にしっかりと挿した俺はラウラの部屋を訪ねた。

 

コンコンコン。もしもーし。

 

「ん?誰だ」

 

「俺だ。一夏だ」

 

「ふむ。しばし待て。…よし、良いぞ」

 

「失礼しまーす」

 

部屋に入ると、きれいに整理された部屋だった。ラウラは手前のベッドに座って腕を組んだままこちらを見た。そして俺の右手の日本刀を見た瞬間、こちらに臨戦体勢を取っていた。

 

「…果たし合いにでも来たか」

 

「違う違う」

 

そう言って日本刀をラウラの手前に投げる。…ラウラは臨戦体勢を解いてくれた。軍仕込みの格闘術とか勝てないって。

 

「で、何の用だ。私はこのあと見舞いに行かねばならんから、そんなに時間は取れんぞ」

 

「あー、そのことなんだけどさ…」

 

そして俺はラウラに、箒がシャルロットに許してもらったらしいこと、箒がシャルロットにどう詫びればいいかわからないということを伝えた。…さすがに自殺云々を伝えるのは憚られたので言わなかったけど。

 

「…なるほど、大体は理解した。それで篠ノ之がどうすれば良いのか、というのを私に聞きに来た、と」

 

「そうなんだ」

 

「ふむ…」

 

ラウラはそう言って少し考えた後、教えてくれた?

 

「まず一つ。シャルロットが篠ノ之に何か言ったら、極力丁寧に対応しろ」

 

「ふんふん」

 

「二つ目。シャルロットに迷惑をかけるな」

 

「まあ当たり前だな」

 

「最後は、シャルロットが話かけてきたら、なるべく普通に対応しろ」

 

「分かった」

 

そう言うと、ラウラはちょっと横を向いて鼻から息を吐いた。どうしたんだ?

 

「お前が分かっても篠ノ之が分かっていないと、意味がないんだがな」

 

「まあ、ねえ…」

 

それにしても。箒に謝らせようとして、結局俺は役に立たずにシャルロットに迷惑をかけるだけになっちまった。本当、上手くいかねえなぁ…。

 

「ふん、貴様は私の嫁とは違うんだ。当たり前だろう」

 

「ホント、鹿波さんみたいにいかねえよ…」

 

そう言うと、ラウラはふふんと口角をあげながら言った。

 

「貴様が嫁と同列になろうなど、100年早いぞ」

 

「へいへい」

 

さて、それじゃあ俺はこれで邪魔するよ。見舞いの前に悪かったな。

 

「なに、構わん。ああ、これ(日本刀)を忘れるなよ」

 

おう、サンキュー。

邪魔したな。

 

「お前も大概、甘いものだな」

 

うるせえ。あれでも一応大事な幼なじみなんだよ。一応な。




とっぽい


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千冬の苦悩

「待て篠ノ之!」

 

そう呼び止めるも、篠ノ之は私の制止も聞かずにモニタールームを飛び出してしまった。

 

「まったく…」

 

ああ、まったく。ここのところ、何もかも問題ばかり起きる。(一夏)が入学してからというもの、無事に行事が終わったためしがない。何かに呪われているんじゃないかとすら思う。…ああ、束のヤツに呪われていると考えるとそう間違っていないな…。

今回の戦闘の、篠ノ之の行動は許容されるレベルを大きく逸脱している。到底認められるものではなかった。

戦闘の様子をモニターしている途中で、こちらから専用機持ち達への通信回線を妨害された時には一瞬どうなる事かと思ったが…。戦闘が開始されてすぐに鹿波の奴を呼んでおいて正解だった。

 

「うん?あ、なんかこれ妨害されてますね。チャフじゃないなあ。…ただのジャミング?いや、通信回線に侵入してアクセス権を奪ってるだけか…。

織斑先生、どうします」

 

「なんだかよくわからんが、やれ!」

 

「はいよ」

 

そんな適当な感じで山田君から場所を替わった後、凄い勢いでダダダダダダッ!と、それはもうキーボードを壊すんじゃないかという音をさせながら10分。

 

「取り返しました」

 

「よし」

 

というやり取りの後、専用機持ち達への通信回線が復帰。援護部隊も出撃し、なんとか事態は収拾がついた。

だが…。

 

 

「ふう…」

 

さすがに篠ノ之のあの行動はまずいということで、何とかしましょうという言葉が轡木さんから出た。そして責任希求の矛先は当然私に来る。

そして、私が提案したのは今回の戦闘映像の当事者達への開示だった。

はっきり言って、今回の問題点は篠ノ之の行動それ一つだ。だが、専用機持ち各々の問題点や改善点を見つけるため、また、今回の篠ノ之の行動を反面教師として試聴する、というのを目的とした方が、より望ましい成長に繋がるのではないか、というものだ。専用機持ち各自のために、何か私が出来る事…。そう考えての提案だった。

 

そしてその問題点こと篠ノ之箒(問題児)に映像を見せた訳だが。

まさか飛び出してしまうとは…。まったくどうしたものか。

 

銀の福音戦では凰が、そして今回は篠ノ之が、それぞれ足を引っ張っている。いや、もはやあれは妨害と言ってもいいくらいだ。

それぞれ一夏とデュノアが大怪我をした。全く頭が痛い。あの二人を一夏から隔離するべきか、本気で考えねばならんかもしれんな…。

それにしても、やはり私には教師としての素質はないんじゃないか。本気でそう思う。

轡木さんに、この学園に来るように誘われた時の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、あれはここの学園長室に呼ばれた時の話だ。

 

『織斑千冬君。私はキミに、この学園で教師をしてもらいたいと思っています』

 

『私が教師、ですか?』

 

『ええ。貴女には、他の人には無い輝きがある。

授業を行うだけなら他にも教師が居ます。

生徒の態度を更正させるなら、生活指導員が居ます。

 

ですが、貴女のように強烈に人を惹き付ける魅力というのは、そうそうあるものではありません。

貴女には、貴女だけの強いカリスマがある。

貴女にはどうか、この学園の生徒達の憧れとなって頂きたい。

貴女には、貴女しか出来ない事がきっとある…。

それを、この学園で見つけて欲しいのです』

 

 

 

轡木さん。あなたが私をこの学園に誘った時に言っていた、『私にしか出来ない事』。

それが何なのか、未だに私には分かりません…。

私は一体、何をどうすればいいんですか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はそれから、夕方に中庭のベンチで一人でいる事が増えた。だんだんと、落ちてゆくのが早くなる夕陽を見て、秋が近付いてきていることを知覚する。もうそろそろ、学園祭か…。

目の前の幻想的な情景とは裏腹に、私の胸の内はどんよりと重たくのしかかっていた。

各国政府との折衝。圧力。篠ノ之への扱い。篠ノ之の行動を厳格に処罰することも出来ず。かといって当然処罰なしなど出来ず。最大限私に出来る事といえば、普段から生徒に行っている注意、と言い訳の利く出席簿アタックと、教師が生徒に課すことの認められている反省文。それくらいのものだった。

 

「だーれだ?」

 

「ひあっ!?」

 

ピトッ。私の左頬に冷たい感触。思わず私とは思えないような声が出た。誰だ!

バッ!と後ろを振り向くと、鹿波の奴が左手に缶コーヒーを私の方に押し出した状態で笑っていた。こいつめ。

 

「『ひあっ!?』って。織斑先生にも、可愛らしいところがあるんですね」

 

そう言ってぷぷぷ…と笑いを堪えている。貴様、覚えておけよ…!

そう思っていると、缶コーヒーを私に差し出しながら、鹿波は私の隣によっこいしょ、と腰かけた。おじいちゃんかお前は。

 

「…それで、どうしたんです。後ろからの気配にすら気付かないほど落ち込んで」

 

「…」

 

こいつは私をゴルゴか何かだと思っているのか。私だって一人の女だ。落ち込むことくらいある。

そう思って視線を向けるも、鹿波は真剣な表情でこちらを見つめていた。夕陽に照らされたその顔は、普段のふざけた様子からは想像もつかないほどに凛々しくて。

私は少しの間、言葉を失っていた。…少しだけ、本当にほんの少しだけ、顔が熱くなった。

 

鹿波は一つため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。

 

「…まあ、織斑先生が言いたくないというのなら聞きません。ですが、何を悩んでいるのかは分かりませんけど、口に出すだけでも気持ちは楽になるようなもんです。

安心しなさい。こう見えて、俺の口はなかなか固い」

 

そう言って不敵な表情でこちらを見る。…何故かさっきから顔が熱い。ええい、なんなんだこれは。

ふん、と。思わず顔を背けた。なんとなく、今の私の顔を見られたくなかったから。

 

「お、お前には関係ない…!」

 

だからだろうか。素直に相談することも、打ち明けることも出来なかったのは。

でも鹿波は、そんな私の隣で黙ってゆったりと居るだけで。何か言葉を発することもしなかった。

少しずつ、少しずつ。陽が落ちる。

 

「…何も、聞かないのか」

 

地平線に飲み込まれてゆく夕陽を眺めながら、耐えきれなくなった私は口を開いた。すると、やつは低く落ち着いた声で、こう言った。

 

「ふふ。言ったじゃないですか。

言いたくないのなら、聞きませんよ、と」

 

「…」

 

それからしばらくの間、口を開いては閉じ。開いては閉じ。私は逡巡した。言おうか。やめようか。

何度か逡巡を繰り返した。そして。

私は意を決して打ち明けることにした。

 

「…その、な」

 

「ええ」

 

「私はその…学年主任をしているだろう」

 

「しているな」

 

「それで、その…」

 

言葉につまる。何を言えばいい?頭が混乱してきた。

 

「ひとまず落ち着きなさい。ほら」

 

そう言って、私の背中を優しくさする。しばらくそうしていた。じっと下を向いたまま。

…ふう。少し、落ち着いてきた。というか、私は鹿波に背中をさすられるくらいに落ち込んでいたのか。

 

「…すまん」

 

「いえ」

 

そう言って鹿波は言葉を切る。私が話し出すのを待っているように。

 

「…その、な。私は、教師だろう?」

 

「そうですね」

 

「だが、最近な。私は自分のやっていることに自信がない」

 

「…」

 

鹿波は黙って聞いている。

 

「…最近、一夏の奴の周りでいさかいが起きているらしくてな。篠ノ之やオルコット、凰のやつと揉めているみたいなんだ」

 

「ええ」

 

「…本来であれば、私は一夏の味方をするべきなんだろう。だが、私自身がどう思っていようが、私は学年主任だ。一方に肩入れすべきではない」

 

「そうですね」

 

「…なあ鹿波。私はどうすればいいんだろうな。

凰も篠ノ之も、一夏の奴にも。一体私は、どうすればいいんだ…」

 

はあ。ため息とともに肩が落ちる。なんだか最近問題続きで、何を言いたいのかもわからなくなってしまった。こんな相談では、鹿波の奴も答えられんだろう。

そう思って、すまん、何でもない。そう口を開こうとした時、落ち着いた低い声が私の耳に入った。

 

「…そうですね。確かに織斑先生は教師で、教員です。ですが、それ以前に一夏君の姉ーーー家族でもあります。

一夏君が悩んでいれば見守り、相談してきたら相談に乗り、あとは普通に家族として接すれば良いかと思いますよ。

箒ちゃんや鈴ちゃんに関しては…。そうですね。まあ、織斑先生が出来る事を無理のない範囲で最大限、やれば良いんじゃないですか。やれるだけやったら、あとは胸を張ってれば良いんです。きっと、織斑先生にしか出来ない事がありますから」

 

「…しかしな。その、私にしか出来ない事というのが、私にはわからないんだ。

篠ノ之も、凰も。私は教師として、出来る限りのことをして、力を尽くしてきたつもりだ。

だが、あいつらは…」

 

そう言って、言葉につまる。私は何と言おうとしていたんだろう。何が言いたいのだろう。

あいつらもあいつらなりに頑張っている。それは知っている。だが…。

 

「…ふむ。なるほど。

織斑先生は教師として手を尽くしてきた。だけど、箒ちゃんや鈴ちゃんはそんな自分のことなど気にせず問題行動を起こしているように感じる。だから自分がこれ以上、どうすればいいのかわからない…。そんな感じですか」

 

「…ああ」

 

そう、なのだろうか。いや、そうなのかもしれない。

篠ノ之はあの後、寮で自決しようとしていたらしい。凰は一夏に何度謝っても許してくれないと私に泣きついてきた。

そう考えていると、鹿波は再び喋りだした。

 

「うーん、なんていうか。ちっふー背負い込みすぎかな」

 

「?」

 

背負い込みすぎ。どういうことだ?

 

「とりあえずちっふー。全部自分がなんとかしなきゃ、って思ってない?」

 

「…私は教師だ。教師は生徒を正しい方向に導くものだろう」

 

「それ」

 

そう言って、ぴっと私に指を向ける鹿波。やめろ。指をさすな。

鹿波はごめんごめんと言いながら指をおろした。

 

「ちっふーは教師が生徒を正しい方向に導くものだと思ってるじゃん?」

 

「ああ」

 

「でも現実、導けてないじゃん?」

 

「ぐっ…!」

 

たしかにそうだが、そこまで直球で私に言うか。

 

「だからさ。教師は生徒を正しい方向に導こうとするは良いと思うよ。

ただ、必ず全員を正しい方向に導ける訳じゃないのよ」

 

「だが…」

 

「だが?」

 

聞き返されて言葉が浮かばない。だが。…何なんだろうな。

むぅ…。そう唸っていると、鹿波はまた勝手に言葉を続ける。

 

「で、教員として接するべきだと思ってるけど、一夏君が絡むとどうしたってお姉ちゃんとしての感情が混じる訳だ」

 

「一夏は私の家族だからな」

 

「うん。その気持ちは大事だと思うよ。だからこそ、無理にその気持ちを押さえつけるんじゃなくて、一夏君になにかあった時とかは真っ先に一夏君を優先すれば良いんじゃないかな」

 

「だが、私は教員で…!」

 

「だから。そこでわざわざ自分から板挟みになりにいってるからそうやって悩んでいるんでしょーが」

 

「ぐっ…!」

 

ならどうしろと言うんだ。

 

「いや、だから。普段はなるべく生徒と教師。で、休みの時とか一夏君の一大事とかにはお姉ちゃん。

後はまあ、一夏君が悩んでたり人間関係で拗れてる時には、お姉ちゃんとして見守る…。って感じで良いんじゃない?しゃしゃり出ないことが前提になるけど」

 

「なら、篠ノ之や凰に対しては」

 

「普通に教師として接すればいいんじゃないの。一夏君絡みなら、自分の感情が混じっちゃうと思ったら潔くそれを伝えて断るとかさ。

『すまんが、こればかりは当人達の問題だしな。それに、私自身、一夏の事になると冷静ではいられんかもしれん。他を当たれ』

とか」

 

「むぅ…」

 

なるほど。確かにそれが一番良いのだろう。ただ…。

問題が一つある。

それは、既に私が凰からの相談に、

『任せておけ』

と答えてしまったことだ。さて、どうするか。

 

「…その、仮にだ。仮に、私が凰に泣きつかれて相談されたとして。お前にどうするべきか聞いたとしよう。…お前ならどうする?」

 

そう、これは仮定の話。仮定の話なんだ。

しかし返って来たのは私を絶望させるに充分な返答だった。

 

「うーん…。俺、鈴ちゃんに失礼な態度取られた後に、まだ一度も謝ってもらってないんだよね。鈴ちゃん絡みの相談ならパスかなぁ…」

 

なん…だと…!?

おい凰鈴音!この学園の相談役に貴様なんてことを!だいたいの面倒ごとはこいつに投げられるんだぞ!その鹿波が相談拒否とか貴様何をしたんだ。そんなんだから貴様は一夏に避けられるんだ!

…とはいえ、あの意地っ張りの凰が私に泣きついて来るくらいだ。本当にこれ以上、一夏に避けられるのはツラいんだろう。

…個人的にはもうしばらくそのままツラい思いをしていろと思わなくもない。が…。

篠ノ之といい凰といい。思い詰めたら何をしでかすかわからない危険性があるからな…。

誰が寮でポン刀を持ち出して切腹しようとするなどと考えるものか。齢十六の小娘がだぞ。

あの後結局部屋の修繕に刀の没収と、私に負担も増やされたし…!あ、なんだか今さらながら腹が立ってきた。

しかしあれからの篠ノ之は、気持ち悪いくらい素直でおとなしくなったしな…。この苛立ちを私は一体どこにぶつければいいんだ…!

 

「後はまあ、そうですねぇ…。何について泣きつかれたかによるんじゃないですか?」

 

「まあ、そうだよな…」

 

ふーむ。どうするべきか…。

 

「自分で良い案が思い浮かばなかったら、他の人に聞いてみるのが良いと思いますよ。たまに鋭い助言が貰えることもありますし」

 

「そうか…そうだな。うむ」

 

よし、まず山田君に聞いてみよう。何かしら、良いアイデアが貰えるかもしれん。

 

 

「すまんな鹿波。助かった」

 

「いえ。ま、今度一緒に酒でも飲みに行きましょうよ」

 

「ふっ。そうだな。次に行くときは奢ってやろう」

 

「はは。楽しみにしておきますよ」

 

そう言って、鹿波は立ち上がって去って行った。

その背中は、とても大きく見えた。

 

 

さて、私も行くか…。まだまだ仕事は山積みだ。

私は足取りも軽く歩き出した。




人物の描き分けが難しい
あ、3月からは今までよりも更新出来ないからよろすく


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ちっふー、奔走する

頑張れちっふー!ご褒美は鹿波との飲み会デートだぞ!…飲み会デートってデートなんかしらん?
あとこれから更新ペース落ちるから皆ゆっくりしていってね


『カン!カン!もいっこカン!ツモ、チンイツトイトイサンアンコーサンカンツアカイチ、リンシャンカイホー。32000。麻雀って楽しいよね!』

 

「凰さん…ですか?」

 

「ああ」

 

鹿波に相談した翌日。さっそく真耶に尋ねてみた。凰について、最近何か知らないか?と。まずは情報収集だ。だいたいこういうものは、原因が分かればなんとかなる。そも、私はなぜ凰と一夏が不仲になっているのかすら知らないからな。まずはそれからだ。

…ところで真耶。何故職場で堂々とアニメを観ている?

あと、三暗刻まではともかく三槓子にリンシャンとか普通はあり得んぞ…。まるで意味が分からん。まるで意味が分からんぞ!

 

「うーん…申し訳ないですけど、ちょっとわからないですー」

 

「そうか…」

 

わからないのはお前が観ているアニメだ。そう言おうかと思ったがやめておく。こう見えて真耶は実はかなりの麻雀狂だ。絶対に触れてはいけない。触れたら最後、雀荘に連行されるのは間違いない。

そして雀荘に行けば必ず夜が明けるまでやる。実際に一度、私と真耶と鹿波と轡木さんで面子を集めてやったことがあるが、三人とも頭おかしいとしか思えないほど強かった。あと負けず嫌い。そのせいで、翌日の4時まで延々打たされた。ちなみに私以外は三人共点棒に万単位で賭けていた。おい真耶お前は教師だろ。教師が堂々賭け事をするな。そう思ったが、鹿波の奴が真耶から高笑いしながらむしりにむしっていたのでやめておいた。ほどほどにしておけとは言ったが。まあ、仲間内だから目を瞑ることにした。私は見ていない。私自身は賭けてないし。

あの時鹿波の言っていた、

 

「むしれるだけむしる…!」

 

とか、

 

「勝負の後は骨も残さない…。限界まで行く」

 

というのは絶対に本気だった。間違いない。あと何故かあごと鼻が尖った。

真耶も真耶で、

 

「倍プッシュです…!」

 

とか、

 

「狂気の沙汰ほど面白い…!」

 

とか言っていたし。真耶も鼻とあごが鋭くなっていた。

とあるマンガのネタらしいが…。ネタとは言っていたが、当人達の目は本気だった。そして実際、その後額が一度二倍になった。さすがにその次には戻していたが。その場では点棒のやりとりしかしていなかったが、私の目の前で何万とか諭吉何十人飛んだとか言うな教職員共。ちなみに轡木さんはずっとニコニコしたままの、超ポーカーフェイスだった。そして真耶には一度も振り込まなかった。私にはたまに放銃していたが、多分あれはサービスだろう。実際、私よりも真耶の方が強い。にも関わらず、真耶に振り込まず私に振り込むあたりがサービスだと思う。轡木さん二位だったし。一位は鹿波。国士無双やら緑一色やら大三元やら四暗刻やら、ぽんぽん上がっていた。ただまあ、確率的には役満御三家は上がりやすいのでおかしくはない。が、上がる頻度はおかしい。大体三回に一回は鹿波が上がる。あいつは卓の牌が分かるんじゃないかってくらいに上がる。

真耶曰く、サマはやってないのは間違いないらしいが…。

もうあの面子で麻雀は絶対にやらんぞ。怖い。あの場は負のオーラで満ち溢れていた…。

 

しかし真耶からは情報なし、か。他の教員にも当たってみたが、これといった情報は出てこなかったし…。

ふむ。教師より生徒から聞くほうがいい、か…!

いや、一夏に直接聞けば良いんじゃないか?うむ。そうだな。そうしよう。

今度の土曜日に一夏が掃除しに来てくれるから、その時に聞くとしよう。

それまでは、他の生徒に当たってみるか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴さんと一夏さんの仲違いの原因を教えてほしい、ですか?」

 

「ああ。お前なら、何か知っているんじゃないかと思ってな」

 

「まあ、存じ上げてはいますけれど…」

 

ちょうどばったりと廊下で会ったオルコットに聞いてみた。何か知っていることはないか、と。

しかし知っているなら話は早い。吐け。さあ。キリキリ吐け。私は面倒は嫌いなんだ。

 

「構いませんが、どこか落ち着ける場所はありませんか?さすがに立ち話だと、少々長くなりますし…」

 

「む、そうか」

 

ふむ。ならばどこか適当な空き教室に入るとするか。

ちょうど手頃な大きさの小さめの教室が空いていた。ふむ。

 

「ここでどうだ」

 

「構いません」

 

中に入り、適当に腰掛ける。

 

「それで?凰のやつは、一夏の奴と何があったんだ」

 

「ええと、まず織斑先生はクラス対抗戦の前に一夏さんと鈴さんが喧嘩していたことはご存じですか?」

 

「知らん」

 

「はい。ではそのあたりからお話します。

まず、一夏さんと鈴さんはクラス対抗戦の前に喧嘩をしている状態でした。

しかしクラス対抗戦に突然現れた無人機を協力した後に仲直りしました」

 

「ふむ」

 

「ですが、その後に、その…。わたくし達もそうでしたけれど、一夏さんへの好意から行き過ぎた行動を何度もしてしまいました。その、ISの武装で追いかけ回したりとか…」

 

「…続けろ」

 

「分かりました。それで、その様な行動をわたくし達がする度に、初めのうちは一夏さんも止めてほしいと言ってきていたのですが…。だんだんと、一夏さんがわたくし達を避けるようになり始めたのです」

 

「…それで」

 

「休み時間の度に一夏さんはわたくし達から距離を置き、徐々にわたくし達は一夏さんと話をすることも出来なくなりました。そして、一夏さんは良くも悪くもクラスの中心に居ますから、わたくし達はどんどん孤立していきました」

 

思えばあの頃が一番辛かったですわ。

そう言うオルコットはもう気にしていないような表情をしていた。もう終わったことなのだろう。

 

「それでクラスの皆さんからも遠巻きにされるようになりました。あまりにも辛くて、悲しくて、寂しく思いました。しかし悪いのはわたくし達ですので、箒さんと相談して一夏さんに謝ることにしたのです。

その後もしばらくは一夏さんとの間に距離はありましたが、なんとか許してくれました。

それでわたくし達は一夏さんと仲直りすることが出来たのですが…」

 

凰の奴は、同じようなことを一夏の奴にしていたが一夏とは別のクラスだから気まずい思いもしなかったし、そこまで深刻に考えていなかった。それゆえ謝ったりしなかった…とかか?

 

「はい。特に鈴さんは、自分の非よりも相手に責任があると考えやすい方ですし、自分が悪くないと思うと謝ったりはしないタイプですから、なおさらそうだったのだと思います。

でも、鈴さんはキャノンボール・ファストの後に一夏さんに謝っていましたわ」

 

「む?そうなのか?」

 

てっきり凰の奴が意地を張って、一夏に謝っていないからこじれているのかと思ったが…。ならなぜ一夏は許してやらないんだ?わからん…。

 

「ええ。この間、一夏さんに教えて頂きました。なんでも、鈴さんは自分が悪いと思わないままにただ謝ってきただけで、行動を直す気がないような気がするから、だそうです」

 

「うーむ…」

 

それは…。なんとも主観的な話だな。だが、それなら凰の謝った態度は心を入れ換える、というような態度ではなかったということか?もしくはその場しのぎの謝り方で、自分のどんな行動を直すつもりなのかがわからないような感じだった、とか…か?

 

「わたくしが知っているのはこれくらいです。何かお役に立てていただければ…」

 

「いや、助かった。礼を言う。すまんな」

 

「いえ。それではわたくしは失礼しますね」

 

「ああ」

 

そう言ってオルコットは出て行った。オルコットのおかげで、だいぶ見えてきたな。

今回の話は、凰の奴が謝って一夏が許せば解決、ということではないらしい。少なくとも、一夏は凰の態度から許すことを躊躇っている感じなのだろう。許すことを嫌がっているなら、篠ノ之やオルコットに対してもまだ許してないはずだ。

 

そうすると、今回の話は凰自身が自らの行動の何かを反省し、自分の行動や態度を変えていく気がないと話にならない、ということか。態度か、それとも考え方か。そのあたりだろうな。

…だがそうすると、一夏の奴に直接聞くのは少しまずいかも知れんな。

ああ、そう言えば凰の奴に連絡すると言っておいてまだだったか。

急いで連絡しなければな…。

 

そう思って教室を出たところで凰と出くわした。連絡が遅くなった。すまんな。

 

「あ、いえ…。忘れてたんじゃなければ、別に…」

 

そう言って気まずそうに凰は視線を逸らした。…ああ、そう言えばこいつは私のことが苦手だったか。苦手な私に頼ってまでなんとかしたいんだろう。

まあ、その行動力だけは認めてやらんこともない。

 

「とりあえず、現状分かっていることについてだ。一夏の奴はお前を許す気がないという訳ではないらしい。ただ、少なくともお前の行動の何かがまだ許すことを躊躇わせている。…何か心当たりはないか?」

 

「それは…」

 

そう言ったきり、凰は俯いて黙ってしまった。

 

「まあ、私としてはその心当たりが何なのかを聞くつもりはない。が、まあそこを直すこと、つまりその行動を止めることが一夏の望んでいることではないか?」

 

「…じゃあ、あたしはどうすればいいんですか…!」

 

俯いたまま、なんとか絞り出すように言う凰。だが…

 

「…さて、な。それは一夏の奴に聞け。ではな」

 

そう言って私は俯いたままの凰に背を向けた。

…一夏の奴を、武装したISで追いかけ回したこと。それを知った今となっては、あまりこいつに関わりたいとは思わなかった。大切な家族を傷付けられそうになっていると知ったのだ。誰だってそうだろう?




日間二位とか嘘やろ…?


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凰鈴音の日記

ゆっくりと言って二話更新するあほの極み
ちがうんよ、話の都合上二話繋がってるからこうならざるを得なかったんよ…。許してクレメンス


○月*日

 

昨日はひどい目にあった。フランスの代表候補生が居たと思ったら、なんか目覚めたら自分の部屋に居たし。やっぱりあの、カナミって奴はあたしにとって疫病神か何かよ。きっと。

そのことを相部屋のティナに話したらため息をつかれた。そんな考え方してるから一夏から避けられるのよ、だって。意味わかんない。

 

 

 

 

○月×日

 

今日も一夏に無視された。今日は食堂であたしの少し後ろに居て、あたしがお昼を受け取った時に見つけた。なのに一夏ったら、あたしが一夏を見つけたとたんに購買でパン買ってどっか行っちゃった。さっきまで食堂の列に並んでたのに。なんなの!?そこまでしてあたしのことを避けたい訳?ほんと、だらしないったら。

 

 

 

 

○月▽日

 

今日カナミって奴が退院したらしい。ま、どうでもいいけど。一夏だって、いつまでもあたしのことを避け続けたりはしないでしょ。なんだかんだ言っても幼なじみだし。あたしの予想だと、多分反抗期か何かでしょ。まったく面倒ねえ。お子さまなんだから。

 

 

 

 

○月□日

 

一夏が最近セシリアとか箒とは話をしてる。前見た時はあたしと同じように避けられてたくせに。なんで?ねえなんでなの?

ついこの間まであんた達、あたしと同じように一夏に避けられてたじゃない。なんで一夏と楽しそうに話してるの?なんで?どうして?意味わかんないんだけど。一夏のわがままでしょ?アンタ達だってそうやって言ってたじゃない。訳わかんないわよ…。

 

 

 

 

○月☆日

 

ティナに聞いてみた。そしたら、セシリア達は一夏に謝っていた。で、一夏も一応は和解したみたい。どういうわけなのかさっぱりわかんない。一夏のわがままだったんじゃないの?どうして?

そう聞いてみたけど、当然ティナが知ってる訳もないし。ただ、ティナが言った

「今のアンタだと、謝っても意味ないと思うけどね」

って言葉が妙に頭に残った。

 

 

 

 

○月§日

 

一夏が最近生徒会長と放課後に特訓してるみたい。さすがにそろそろ一夏がずーっと無視して来るのがちょっとつらい。でも、元々はあたしがこんなにアプローチしてるのに、それを避けようとする一夏が悪い訳じゃない。あんなにこっちからアプローチしてるのに、全然気付かないし。ほんと鈍感。しかも一夏ったら、あたしのアプローチを

「やめてくれ」

って言ってきたんじゃない。やっぱり一夏が悪いじゃない。そうよ、そう。あたしは悪くないもん。だから謝ったりなんかしない。

 

 

 

 

○月Ω日

 

今日はキャノンボール・ファストの途中で襲撃があった。あたしは一夏と協力してなんとかなったけど、フランスのシャルロット・デュノアは怪我をした。なんでも箒が暴走した結果、ってことみたい。あは、カナミって奴といいシャルロットといい、怪我ばっかり。やっぱり天罰ってやつじゃないの?

けどまあ、正直ちょっとだけ同情する。さすがのあたしでも戦場では真面目にやる。命が懸かってるのに敵対なんかしてたら生き残れるのも生き残れないし。足を引っ張る無能な味方って、ある意味敵よりも厄介な敵だし。

そういう意味では、今回は天罰というよりは被害者ね。ここで怖いのは、一歩間違えばあたしがそうなってた可能性があったことね。

さすがにあたしも今回みたいな襲撃にあって、一夏と喧嘩したまま二度と会えなくなる可能性があると思って、一夏に謝った。

でも一夏の奴、

「なんかしっくり来ないから保留な。悪いけど」

とか、どういうことよ!

あたし謝ったじゃない!謝ったのに、何よ保留って!信じらんない!

ティナにそれを伝えたら、

「いや、あんたがそんなんだから保留したんでしょ」

とか言われた。ちょっと、どういうことか説明してくれる?

そう言ってもティナは、

「あんたが何も口答えしないで最後まで暴れたり文句言ったりIS使わないなら説明したげる」

だって。何様なの?ふん、じゃあ別にいいわよ。

 

 

 

 

○月※日

 

まだ一夏はあたしを避けてくる。謝ったのに。意味わかんない。

 

 

 

 

○月∀日

 

まだ。

 

 

 

 

○月∬日

 

まだ。

 

 

 

 

○月∴日

 

まだ。さすがにちょっとツラい。

 

 

 

 

○月◆日

 

まだ。

 

 

 

 

○月∋日

 

まだ。さすがにそろそろあたしも泣きそう。明日あたり、千冬さんにお願いしてみよう。

 

 

 

 

○月∇日

 

千冬さんにお願いしてみた。とりあえず動いてみてくれるらしい。3日以内には一度連絡してくれると言っていた。千冬さんは苦手だけど、それでも一夏にずっと避けられているよりはいい。

ティナが何か言ってた気がするけど、多分大したことじゃないし大丈夫。さて、3日後が楽しみ。

 

 

 

 

○月∝日

 

今日は千冬さんから連絡は来なかった。明日か明後日かな?

 

 

 

 

○月∃日

 

今日も何も連絡は無かった。まあ、千冬さんは最近忙しいのか、なんだか思い詰めてる様子だったし、慌てない方が良さそう?きっと明日には来るはず。

 

 

 

 

○月∞日

 

今日も連絡は来なかった。今日までに連絡するって言ってたのに…。千冬さん、忘れてるのかしら?それともまだ一夏が拗ねてるとか?やっぱり反抗期なんじゃない?

 

 

 

 

○月Å日

 

さすがにちょっとだけ不安。ティナは何か知ってるみたいだけど、あたしが文句を言うなら何も言わないって言ってくるし。ふん、別にいいわよ。

 

 

 

 

○月‰日

 

…千冬さん、あたしのこと忘れてるのかしら。今度聞きに行こう。

 

 

 

 

○月⇔日

 

廊下でばったり千冬さんに会った。どうやらあたしに連絡することを忘れてた訳じゃなかったみたい。ちょっと気まずくなって、あたしはそっと目を逸らした。

その後に、千冬さんから一夏がなんであたしの事を許してくれないのか聞いた。

一夏があたしを許すつもりはありそうなこと。

でも、許すことを躊躇う理由がありそうなこと。

千冬さんに心当たりがないか聞かれて、あたしは最悪の可能性に思い至った。

…それってもしかして、あたしが一夏にアプローチすることなんじゃ…。

 

あたしは一夏が好き。

中学生になる前、小学五年生という微妙な時期にあたしが両親の都合で引っ越して。その時に腫れ物を扱うような態度だったクラスの子たちから守ってくれて。あたしはあの背中が、とても頼もしくて。そのあたたかさが好きだった。まだあの時は、その気持ちが何なのかまでは分からなかったけど。

中学に入って、弾とも一緒に遊ぶようになって。それでもあたしはいつも目で一夏を追っていて。ずっとずっと好きだった。

だから両親が離婚して中国に帰国してからも、一夏に胸を張って再会できるように、中学三年生の一年間で猛勉強した。ISの専用機持ちになれるくらいまで。

軍部があたしをIS学園に入学させようとしてきた時は鬱陶しいとしか思わなかった。あたしはあたしの道を行くんだから、邪魔だと思ってた。

でも一夏の奴ったら、よりにもよってISを動かしちゃうんだもん。男なのに。

だからあたしは軍部にさっさとあたしをIS学園に入学させるように持ちかけた。あたしの急な話に上司はなかなか首を縦に振らなかったけど、あたしは一夏に会いに行くことで頭がいっぱいだった。だから脅す形で交渉することになったけど、そんなことよりも一夏に会いに行くことの方が大切だった。だから反省はしていない。

…まあ、その後であたしの方にペナルティとして、しばらくの期間中国で他の代表候補生達と強化合宿させられる羽目になったけど。

クラス対抗戦ではバカ一夏があたしの約束を覚えてなかったからケンカになったけど、あたしの伝え方にも分かりにくいところはあったし。何よりバカ一夏にそんな察しの良さを期待したのが間違ってたとも思ったから、仲直り出来た。でも、一夏だって少しくらい気付いてほしい。何よ毎日酢豚を奢るって!あり得ないでしょ!?

 

でも一夏はその後あたしが一夏にアプローチする度にあたしから距離を置くようになって。もう今じゃあたしとすれ違うこともない。

 

それでもキャノンボールの時に、一夏とケンカしたままもうずっと会えなくなる可能性もあることに気付いて、あたしは一夏に謝った。なのになんでか一夏は許してくれなくて。その理由があたしが一夏のことを好きだからで。あたしが一夏にアプローチするのが嫌で。

あたしが一夏と仲直りするのには、あたしは一夏に好きだって気持ちを伝えちゃいけないの?

あたしが一夏のことが好きだから、一夏はあたしの事を拒否するの?

じゃああたしは、一体どうすればいいのよ…!

 

 

千冬さんから話を聞いた後、気付いたらあたしは部屋のベッドに丸くなって泣いた。あたし、これからどうすればいいの…?

 

 

 

 

○月∽日

 

今日は学校を休んだ。ずっと1日中おふとんにくるまっていた。ティナが夕御飯を持ってきてくれた。しょっぱい味がした。

 

 

 

 

○月〓日

 

ティナが珍しく心配して、あたしに何があったのかきいてきた。あたしは一夏に関して思い付く限りのことを、あらいざらいぶちまけた。

一夏が好きなこと。一夏があたしを見てくれないこと。一夏に振り向いてほしいこと。一夏があたしから距離を取って避けられていること。謝ったこと。それなのに許してくれないこと。全部全部。

話した順番はめちゃくちゃで。支離滅裂で、全然意味がわかんなかったと思う。それでもティナは最後までちゃんと話を聞いてくれた。そして、あたしがひっくひっく言ってるのが落ち着いた頃を見計らって言った。

 

「うん、まああんたの話はよく分かった。あんたが悪いわそれ」

 

どうして…?

 

「え、だって私が話を聞く限りでは、織斑君の評価って悪くないわよ?ちゃんと話せば聞いてくれるし、礼儀正しくてかっこいいよね?って感じ。

で、そんな織斑君が突然あんたと距離を置くとは思えない。一回仲直りした後なんだから、絶対仲直りする前のこと以外で。あんたと距離を置く前にあんたに何か絶対言ってたと思うわよ?ま、あんたがそれを今言わなかったってことは、あんたが意識してないことで何かがあったはずなのよ」

 

わかる?そうティナは聞いてきた。

…あたしが一夏に言われても気にしてなかったこと…?駄目、出てこない。わかんない。

仕方ないので、あたしは自分の日記をパラパラとめくって、探してみた。びっくりした。

 

…なんであたし、こんな嫌な奴になってるんだろう…。

 

一夏を取られたと思いこんでる時には、カナミって人に凄い失礼なことしてるし。一夏に距離を取られはじめた頃は、ただ一夏がわがまま言ってるだけだと思ってる。

…そりゃあこんな嫌な奴に関わりたいとなんて思わないわよね…。ティナがあたしに忠告してくれてたのも聞き流してたみたいだし。

 

「分かった?あったでしょ、ちゃんと」

 

うん。あたし、一夏とカナミって人に謝ってくる。

 

「織斑君が許してくれるとは限らないわよ?」

 

ーーーそれでも。あたしがやったことだから。

 

そう言うと、ティナは珍しく、本当に珍しく、優しくあたしの頭を撫でてくれた。いつもは太る太る言ってるか、ものぐさな態度しかしないのに。

 

「…行ってきな」

 

うん。行ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はあ」

 

世話の焼ける。頭に浮かんだ思いはそれだった。ただ、やっと目が戻っていた。私に始めて体当たりでぶつかってきた、生きる怠惰だった私にはっきり物を言ってきた、あの頃の鈴に。

 

今でも昨日のことのように思い出せる。

 

『あたし鈴!凰鈴音!あんたがあたしのルームメイト?よろしくね!』

 

『ちょっとティナ!また今日も休んでたの!?しっかりしなきゃダメよ!』

 

『ティナ、見て見て!これ!次のテスト対策のプリント!あんたのために作ったんだから、ちゃんとやるのよ!』

 

『ティナ、あんたはあたしのルームメイトなのよ。あたしが一緒に居ても恥ずかしくないくらいになってよね!』

 

『ティナ、あんたやっぱりやればできるじゃない!さすがあたしの友達ね!鼻が高いわ!』

 

『もう、また夜にケーキなんて食べて。太るわよ?』

 

 

 

 

最近は私が声をかけても無視してきたり、目がどんよりと濁っていたりした。それでも私にはある程度ちゃんと対応してたから、まだ大丈夫だろうと思ってたけど…。

けど、ま。

 

「あんたなら大丈夫でしょ」

 

駄目だったらまあ、私が慰めてやるかぁ…。太るなぁ。



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やがて桜は舞い狂う

待たせたな!(蛇感)
めっちゃ短いけど勘弁な!


やあみんな。みんな大好き鹿波さんだよー。え?別に好きじゃないって?

そんなー(´・ω・`)

出荷か。出荷されるのか。らんらんらん豚。俺、らん豚ちゃうけど。

 

さて、あの後しばらくしてから。

あれは今から三十六万…いや、二万四千年程前だったか。俺にとっては昨日の事だが、君たちにとっては多分…明日の出来事だ。それなんてシャダイ。

まあ冗談はさておき。ちょっと前に鈴ちゃんが謝ってきました。3時過ぎくらいだったかな?仕事場で。他にも整備のおっちゃんらがいる目の前で。

いやー、うん。あのときは冷や汗がどばどば出たね。だって目の前には可愛いツインテールが床に付きそうなくらいに頭を下げた鈴ちゃん。そして右側からは鈴ちゃんくらいの娘さんもいる整備のおっちゃん達。強くなる視線。あふん。

 

「ごめんなさいっ!」

 

っていうよく通る鈴ちゃんの声がこっちに注目を集めたのもあれだね。いや謝る姿勢としては凄く良いんだけどね?俺の居る場所とタイミングがあれなだけです。はい。間が悪い、というやつだ。そしてしっかりと背筋を伸ばしてピシッと90度に腰を曲げる鈴ちゃん。

もうやめて!俺のライフはもうとっくにゼロよ!

 

ええ、もちろん鈴ちゃんを許したましたよ。そりゃね。だっておっちゃん達凄い睨んで来てるし…。

まさかお前、こんなちっちゃい娘っこに頭下げさせて許さないなんてこたぁねえよなぁ?あぁん?みたいな視線バリバリ来てたし。

まあそんなの無くても許したけどね。前よりも綺麗な目の輝きしてたし。うむ。

 

ただまあ、いきなりどしたん?ってのと、一夏君には謝ったのん?ってのが気になる。

という訳で。

秘密の部屋こと整備庫書庫にれっつらごー。

 

 

「さて。で、鈴ちゃん」

 

「何よ…ですか」

 

「あ、いつも通りで良いよ。話しにくいでしょ」

 

「分かりました…分かった」

 

こっちの顔色を見て、いつも通りの話し方にしてくれた鈴ちゃん。うむ、やっぱりこっちの方が話しやすくて良いよね。

あ、そのままソファーに座ってて。ほい牛乳。

さて、何から話そうか。

 

「鈴ちゃん」

 

「は、はい」

 

「何も取って食べたりしないから落ち着いて。

とりあえず、突然どしたの」

 

気になるの一つ目。何かあったの?

 

「えと、その…。友達に諭されました」

 

「友達」

 

「はい」

 

良い友達持ったね。てか、原作鈴ちゃん的に考えると普通なのかな。原作鈴ちゃんは割とカラッとした性格のええ子だったような気がするし。あ、一夏君の事で暴走する子でもあったか。ふむ。

やっぱり良い友達を持ったんやろなぁ。人徳かね。

 

「良い友達を持ったね」

 

「はい!」

 

あらまあ。この子ったら本当に嬉しそう。それだけその友達が大切なのかね。

 

「なら、その友達に恥ずかしくない行動をしないとね」

 

「はい!

その、本当にごめんなさい!」

 

「まあ、もう過ぎたことだしね。気にしないで」

 

ま、そうは言っても難しいか。鈴ちゃんも気にしてるみたいだし。口調とか。

これからゆっくりと友達になれればいいか。

 

「で、鈴ちゃん。一夏君とはどうなん」

 

「う」

 

言葉に詰まる鈴ちゃん。一夏君、まだ許してないのかしらん?

 

「その…」

 

「その?」

 

「謝ったんですけど…」

 

「うん」

 

「保留にされました…」

 

保留?留守番電話かな(すっとぼけ)

…まあ、一夏君の気持ちはなんとなく想像できる。多分だけど、信じたい気持ち半分。すぐに許すのはなんだか釈然としないのが半分。

こんな感じじゃないですかねぇ。

 

「保留されたかー」

 

「されましたー」

 

はっはっは。

ま、良いんじゃない?

 

「良くないっ!」

 

ええ~?本当にござるかぁ?

だって絶交された訳でもないんだし。むしろ好きな人に距離を置かれる経験とか貴重でしょ。

一夏君にはどんな対応をすると、どんな態度が返ってくるのか分かる訳だし。

絶対良い経験だと思うけどなぁ。

あ、別に鈴ちゃんが一夏君と仲良くするのが嫌な訳じゃないからね?

ただちょっとだけ根に持ってるだけです。

 

「ま、ちゃんとした態度で居れば一夏君も許してくれると思うよ」

 

「そうですかね…」

 

多分。俺は一夏君じゃないからそうとしか言えないけど。

ただまあ、一夏君も頑固なところあるからねぇ。時間はかかるかもね。姉弟で本当にそっくり。頑固者。

 

「さて、時間を取らせて悪かったね」

 

「いえ、その、こちらこそ本当にご迷惑を…」

 

「過ぎたことだから良いの良いの。僕もまだ仕事が残っているから、失礼するよ」

 

さらばだ鈴ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちゅう の ほうそく が みだれる !

間違えた。いや間違いじゃないけど。

鈴ちゃんが俺に謝罪した次の日。

朝から仕事場のIS整備庫に向かう。するとそこにはシャルロットが居た。どういうことだってばよ。

 

「あのー、シャルロットさん?」

 

「?」

 

喋らない。どしたのシャルロット。

しかしどれだけ話しかけてもシャルロットさんは言葉を発しない。何故だ。

あれか。余りにもストレスがひどくて幼児退行したのか。かわいいけど。

て言うか、今9時やで?シャルロットさん、授業は?

 

「?」

 

首をかしげるシャルロットさん。かわいい。いやかわいいんだけどね?いつもの制服のまま喋らないシャルロットとか、普段とは別人みたいな感じである。この状態のシャルロットをシャルロットちゃん状態と名付けよう。

そんなシャルロットちゃん状態のシャルロット、つまりはシャルロットちゃんは黙って俺にぴったり引っ付いてくる。なでりこなでりこ。かわいい。

 

じゃなくて。

 

「どしたのシャルロット」

 

「…♪」

 

無言でぎゅーっと抱きついてくるシャルロットちゃん。あ、これあかんやつや。とりあえずちっふーに連絡しておこう。



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我が家に癒しがやってきた

久しぶりすぎてテイストが変わっていたら勘弁な!


あの後ちっふーこと織斑ちーちゃん、違った織斑千冬教諭を呼び、医療棟へ向かった。

 

「ストレス性の幼児退行?」

 

「それに近いものかと考えられます」

 

ギッ、と椅子に軽く背を預けながら先生が答えてくれた。ちなみにシャルロットちゃんは先生と向かい合って丸椅子にお行儀良く座っている。

しかし先生、メガネデカイっすね。あと性別がわからない。先生は年齢不詳性別不明だった。

…先生、ブラックジャックとかの世界にいそうだな。如月恵って名前で。

 

「…それで、どれくらいで治るんですか?」

 

「分かりません」

 

ちっふー、残念。

しかし、そうすると期間はわからないけどしばらくはシャルロットちゃんお休みかな?

 

「ですが、彼女がストレスなく過ごせる環境を整えることが、早期の解決に繋がることは間違いありません。

幸い、シャルロットさんはこちらの言う事に理解を示してくれるようです。なので、お互いの譲歩が重要なポイントでしょう」

 

だってお。

てか、出席日数とか大丈夫なんだろうか。…いや、別にIS学園は日本じゃないから何とでもなるか。各国の代表候補生とかなら、むしろ留年とかさせられない気もするし。

そうすると、期間がどれだけ長引いても実際のところは問題にならなかったりするのかね。

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「ええ」

 

「よし。鹿波、デュノア。行くぞ」

 

「失礼しましたー」

 

「…」

 

シャルロットちゃんは無言でペコリと先生に頭を下げる。

さて。で、どうすんのちっふー?

 

「うむ。とりあえずは、しばらくデュノアを頼むぞ」

 

「待って。ちょっと待って。いやホントに」

 

俺にシャルロットちゃんの面倒を見ろと?

この、今もう既にぎゅーっと俺に抱き付いてきてるシャルロットちゃんを?俺には仕事もあるねんけど。

 

「ああ、他の先生方や轡木さんには私の方から説明しておくから心配するな」

 

「待てやこら」

 

こんにゃろう、さては面倒なことは全部俺に押し付けるつもりか。そうは問屋が卸さんぞ。

 

「その日の授業の内容はちゃんとサポートするんだよな?」

 

「む…」

 

考える素振りをするちっふー。シャルロットはちっふーのクラスだし、それくらいはやって貰わないとね?

 

「ふん、良いだろう。

デュノア。私と山田先生が授業の内容は一週間ごとにまとめて出す。次の週までにレポートの形で提出しろ。良いな」

 

「…(コクン)」

 

シャルロットがやる気っぽい感じでちっふーに対応しているので、まあこれでとりあえずはオッケーかな。

あとはーーーーー。

 

「?」

 

可愛い顔して首を傾げてるシャルロットちゃんの相手をこれからするくらいか。




超短いけど、是非も無いネ!


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追い詰められた狐は、ジャッカルよりも凶暴だ

なんだか描きたいものや気持ちが定まらないの。描きたい意識は溢れんばかりなんだけどね


やあみんな。元気かな?

え、俺?俺はですね。

現在進行形で体が重いです。理由はぺったり引っ付いてくるシャルロットちゃん。動きにくいんじゃー。たすてけちふえもん。今のを普通にたすけてって読んだそこの君。助けてやない、たすてけになってるんやで。つまりはそれくらいには絶賛混乱中。

や、そりゃシャルロットちゃんがここまでべったり甘えてくるとか予想外ですわ。ラウラさんに丸投げしたい。

 

「…♪」

 

しかもシャルロットちゃん自身はこの甘えっぷり。超絶ご機嫌やね。俺の心にはわりかし暗雲立ちこめてたりするんやけども。ま、多分なんとかなるんでないかな(適当)。

 

「あ、シャルロットちゃんちょっと離れて」

 

「?」

 

「や、ちょっと危ない作業するから」

 

ちょっとばかり本格的にこれはバラして組み換えないとアカンやつ。あ、今は作業場に戻っていつも通りお仕事してるよ。んで、こうやってたまに難易度高めの面倒な修繕案件とかもある。簡単なのばっかりならシャルロットちゃん引っ付けたままでも大丈夫なんだけどね。ま、しゃーなしだな。

という訳でシャルロットちゃんが離れて椅子におとなしく座ったことを確認したら作業再開。ふんふんふふん。あ、こいつは派手にやりましたね…。アリーナの壁にぶつかったかな?このレベルとなると、多分使ったのはまだまだ不馴れな一年生の子だろう。

だいたい二年生になるとぶつけた故障よりは模擬戦闘の修繕案件が多い。三年になると大きな直しはあまりなくなる。ちなみに学年を問わず各国の代表候補生や代表たちは総じて操縦が上手い。まあ貸し出し機に乗らない人が多いけど、全員が全員専用機持ってる訳じゃないからね。使用後の状態を確認させてもらったことがあるけど、ほとんど使用前と変わらない感じだった。びっくりしたね。ほんと。

まあ車とかでもそうだけど、本当に上手い人は何に乗せても何をさせても上手に操るもんだよね。俺にもその操縦技術分けてくだ…いややっぱいいや。こういうのは自力で身に着けないと。そうじゃないとありがたみゼロやしな。うむ。違いない。あとぶっちゃけ自力で出来ないとかホンマ悔しいやん?ね?

 

しかしまだまだ暑い日が続くな。あっちい。後でアイスでも買うか。アイス…バカイト…ミスター便座カバー…。うっ、頭が。どうでもいいけどココシガPのyouとCLANNADライブはお気に入り。あれはいいものだ…。それマ・クベ。壺かな?

 

ふーっ。よし、修理完了。しかしこの打鉄もけっこうボロい感じになってきてるね。そろそろ訓練機の更新されるかな。あ、そういえばうちの子ことIZ(アイゼロ)の武装の話はどうなってんだろう。放課後にたっちゃんと一夏君との特訓するし、その時にでも聞いてみよう。武装無いから未完の状態だし、待機形態はどんなになるのか楽しみっちゃ楽しみ。スパナとかにならなければ良いが…。

ネックレスもちゃらちゃらしてて個人的には嫌だし。俺は男の自分がネックレスとか(合わない気がして)嫌です。女性なら別に気にならないんだけどなぁ。

ブレスレットとかバンダナならまあ許容範囲内かな。ていうか正直な話、動きにくくなくて隠しやすい、もしくは目立たないか違和感がない小物ならなんでも良かったりするんだよね。…やべえボールペンとか万年筆くらいしか思い浮かばないわ。リストバンドって歳でもないしなぁ。嘘ですすいません。歳とか関係なしにそんな爽やかなアイテムは僕には似合わない気がするだけです。なおたっちゃんに似合ってると言われたら気にならなくなる模様。俺適当杉内。

人名かな?適当すぎうち。本当は適当すぎない、ね。分かりにくすぎィ!仕方ないね。

 

「あ、シャルロットもアイス食べる?」

 

「…!」

 

目をキラッキラさせてコクコク頷くシャルロットちゃん。じゃあ後でアイス買いに購買行こうか。まだ夏休み過ぎて学園祭前の時期だから売ってるでしょ。うちの購買は安くなってたりしないけど。そのかわりに世界各国のアイスがけっこうそろってたりする。俺のお気に入りはトルコアイス。うまいよね。

 

ふう。とりあえず今たまってる案件はこいつでラスト。正式にシャルロットちゃんの面倒を見るのがお仕事に加わるのは多分明日からだろうけど、まあこの時間なら既にちっふーが轡木さんに連絡はしてあるだろう。じゃあシャルロットちゃん、アイス買いに行きますよー。

 

「…♪」

 

俺の手に引っ付きながらふんふん鼻歌を歌ってご機嫌そうなシャルロットちゃん。いやー、まるで小学生くらいまで退行した印象を受けますねぇ…。あ、そういえばシャルロットが父親に引き取られたのってもしかしてそのくらいか?いや、別にそうでもなかった気がする。

確かシャルロットが父親に引き取られたのって、二年くらい前だよね?

おせーてアンサートーカーせんせー!

 

答:YES

 

あ、やっぱり。これって原作の時系列と一緒?

 

答:YES

 

ほんほん、つまりはシャルロットちゃんが退行してるのは、まだ幸せな頃の小学生くらいまでか。その頃はお母さんに素直に甘えられる環境だったからかな?

父親に引き取られたのが二年前くらいなら、シャルロットは中学二年生。実際には多少前後するだろうし、多感な中学生時代から機能不全な家庭内環境だった訳で。

そこに来てこの間のトラブルことモッピー大暴走事件だからな。ストレスが限界突破したんやろうね。

ま、ストレス溜まりすぎると大人でも自殺したりするからなぁ…。むしろ甘えられる相手(俺)がいる分だけ良かったのか。思い詰めて自殺、とかになったらほんと笑えない。

うん、やっぱりあの事件は箒ちゃんの株を大暴落させたね。一夏君が距離を置いてた訳だよ…。

 

 

あ、ちなみにシャルロットちゃんはフランボワーズ(木苺)のソルベ(シャーベット)を、俺はバニラのトルコアイスを頼んだ。ニッコニコしながらアイスを食べるシャルロットちゃんはとても可愛かったです。




リハビリがてら、就活の合間合間にポチポチ書いてくよー。
またぼそぼそとやっていくからよろしくねー


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鼻☆塩☆塩

駄文注意


暖かい手。優しい顔。低くて落ち着いた声。

その手が僕に触れるたび、僕はちょっとだけ笑うんだ。

その声が私を守るたび、私は声無き声で言うんだよ。

ありがとう、って。

たとえ聞こえていなくても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局鈴ちゃんには保留と」

 

「はい」

 

「ほーん」

 

放課後。一夏君と組み手をした後の休憩中。たっちゃんいわく、とりあえず今のところ、俺は組み手とかくらいしか出来る事がないらしい。で、一夏君相手ならちょうど体格も合うし一夏君も(俺に)怪我させない程度には組み手に慣れてきたからやってみて、とのことだった。

ま、俺はIS持ってないしね。まだIZ(アイゼロ)も完成してないしね。しゃあなしだな。

あ、ちなみにたっちゃんに聞いたらそろそろ武装についてはなんとかなりそうだって。有澤を除いて。

芸術は、爆発だ!を地で行く有澤は、企業体質からもういろいろとアレな感じらしく。汎用グレネードやら専用の武装やらは、じっくりと擦り合わせをしないと難しいんだとか。まあ慌てる訳でもないし、引き続きよろしく頼むよって感じですな。

しかし組み手とか、中学時代の柔道以来ですな。楽しい。けどけっこう痛いし疲れる。くそ、普段の健康的な筋トレ程度ではやはり運動には筋力が足りない。一夏君はまだ余裕そうなのに対してこっちは既に身体が重くなりつつある。まあちっぽけなプライドで、そんな素振りは全く見せないんだけどね!

 

「やっぱりまだ、鈴ちゃんの事が信じられない?」

 

「…信じられない、というか。なんて言うんですかね…」

 

そう言って、一夏君は考えこんだ。うんうん、是非とも悩むぬきたまえ若人よ。ゆうてまだ俺も二十代なんだけどね。何故かよくおじいちゃん扱いされる不思議。どういうことなの…。

 

「…多分、あいつとの付き合い方が、よく分からないんだと思います」

 

「ほう」

 

どういうこっちゃ。

 

「…ていうか、鹿波さん」

 

「ん?」

 

なんだね。

 

「女の子と上手く付き合う方法とか無いですかねー…」

 

「あるよ?」

 

普通に。

 

「え、あるんですか!?」

 

「そりゃあるよ」

 

君は何を言ってるんだ。まあ、一夏君が望む分かりやすい方法論とは限らないけどね。

 

「じゃあ、どうやって鈴と向き合えば良いですか?」

 

「一夏君が後悔しないようにすれば良いと思う」

 

ぶっちゃけね。何が正解かなんて、人によって千差万別だし。ただひとつ言えるのは、後悔しないようにしてればだいたいそれが正解だったりする。とりあえずやるだけやっておけば、あんまり後悔しないで済むよ。

 

「えー…」

 

「逆に聞くけど、万人に共通する方法なんてあると思う?」

 

「ある、と良いなぁ…とは思いますね」

 

「そうだね。あったら僕も知りたいかな」

 

それを本にまとめて発行したい。少なくともそれで何人かの役には立つでしょ。いやー、俺って超いい人だね!自分で言うと価値が下がるから心の中で思うだけ。考えるだけならセーフやからね。どうせ考えてることなんてばれへんばれへん。だからちっふーのおっぱいおっきかったなーとか考えてもセーフ。

ところで一夏君、何故君はじっとりとした目で僕を見ているかね?

 

「…はぁ。まあ良いですけど」

 

「何故僕は今ため息をつかれたんだ…」

 

「鹿波さん、しょうもないこと考えてたじゃないですか」

 

「何のことかな」

 

ばれてーら。なんでや!アウトみたいですね…。

 

「で、一夏君は周りの女の子達との関係は良好かい?」

 

イケメンでフラグをポンポン立てる一夏君の事だし、そう心配ないとは思うけど。

 

「良好っていうか、まあ普通ですね」

 

「普通」

 

絶対ウソだゾ。どうせ何もしなくても周りの女の子達から話かけられたりしてるんだ。間違いない。

実際に何もしなくても男が声かけられるとか、相当なイケメンでもない限りあり得ないんだよなぁ…。ソースは俺。

ええ、前世の高校の頃はマジで向こうから声かけられるとかなかった。まあ、ある程度人との付き合い方を学習してからはなんとかなるようになったけど。

 

さて、ここで始まる鹿波さんの特別講座ー。わーぱちぱち。

ちなみに今既にモテモテ、もしくは女の子に不自由してないぜ!っていうそこのキミ!しばらく読み飛ばしてええで。

逆に、「どうすれば女の子と仲良くなれるんだよ!」って感じのそこのキミ。

本当になんとかしたいなら、僕の講座を学んだその日から実践してみ。ちゃんとやれば、必ずキミは人と仲良くなれるで。ちなみに対象は基本的に高校生くらい。まあ別に大学生でも社会人でも役には立つと思うよ?

良いかい、本当に割とどうでもいい事だから別に興味なかったら読み飛ばすんやで。おにーさんとの約束だ!それと便座カバー。

 

 

 

さて、まずは一つ!

その人の鼻を見て挨拶をしよう。実際のところ、自分の両腕の長さくらいが君のテリトリーで、その中にちょっとでも入った人には名前を呼んで挨拶だ。

名前が照れくさかったらあだ名でも可。名前が分からないときは、ちゃんと挨拶する相手の顔を見て声をかければオッケー。

おはよう!とかいうのが恥ずかしいときには

「うーっす」とか

「よう」くらいでも全然問題ない。

ただし注意。挨拶は基本的に毎朝しよう。もしくはどこかで会った時。ちなみに廊下ですれ違う時とかはどっちでも可。基本、道で会った時とかは挨拶しなくても大丈夫。だって気付かなかっただけと思うのが普通だからね。ただ、普段自分から挨拶しないと無視したように思われることもある。まあそれも含めて挨拶しておくと良いんだ。

ちなみに相手が男でも女でも挨拶はすると良い。嫌いな相手には挨拶しなくて良いけど、どうでも良い相手には挨拶しておくと良いよ。

将来働くようになると、自分が嫌いな相手にも礼儀正しく接しなきゃいけない時が来るかもしれないからね。その練習だと思うと良い。

 

ああ、あとあれだ。挨拶したら変に思われないかな…。とか思う人。

大丈夫。だいたいの人は、君のことなんか気にしてないから。むしろみんな一番気になるのは自分の事だから。だから自分から挨拶したくらいじゃあ誰も変に思ったりなんかはしないよ。ただ、自分の事はすごく気になるのが人間だから、自分の存在を意識してくれる誰かっていうのは凄く好意的に感じるもの。

まあ一つ目は挨拶。

まあどうでもいいね!

 

 

 

「なんて言うんですかね…。こう、女の子の会話って、結論がないんですよ」

 

「そりゃそうだよ」

 

だって女の子達は話をするのはただのストレス解消程度のものだもの。問題を解決するつもりなんて基本的にないもの(全員が全員いつでもそう、と言う訳じゃないけど)。

 

「…聞いててイライラしません?」

 

「別に?」

 

それは自分が基準になっているからそうなるだけだよ?

 

 

 

あ、二つ目!

あなたの辞書から次の言葉を意識して使わないようにしてみましょう。

【私】

あなたの辞書から次の言葉を意識して使うようにしましょう。

【あなた】

 

自分の満足を得るための会話は、ストレスは解消されるけど人間関係は悪くなりやすい。

イメージしてみよう。

あなたはひたすら相手の話を聞かされる。その話は正直興味がない。

これは、あなたが自分の事を中心に考えているからなんだ。別に悪いと言う訳じゃない。ただ、これつまらないでしょ?

じゃあ、これを相手がされたら?その相手はあなたと一緒に居たいと思うだろうか?

ね。そういうことです。

自分が話すのと相手の話を聞くのは、2:8くらいで良い。もちろん、自分の事を話したいという思いはたくさんあって良い。ただその話は、家族とするようにしてみよう。それだけでもだいぶ、君の周りの環境は変わる。

が、これもやっぱりどうでもいい。

 

 

 

「あと、相づちを打ってても『ねえ聞いてますの?』とか言われたりするんですよ?」

 

「そうかい?」

 

「ちゃんと聞いてて、自分の意見を言うとぶーすか言う人も居ますしね」

 

「ほうほう」

 

 

 

ここで三つ目。

相づちはわりとどうでも良いけど、相手が言ったことは自分なりに整理して、別の言葉で言い換えると良いよ。

あとなるべく否定や反対はしないこと。

人間誰しも同意してくれる人や自分の考えを認めてくれる人を好きになるからね。そりゃ、あんまりにも自分を否定してきたりされれば反対しなきゃだけど。まあ、存外そういうことはめったにないもんだよ。あったらそれはそれで良い経験が出来てラッキー、くらいなもので良いしね。

 

例えば、

「昨日は突然雨が降ってきて大変だったよ」

「大変だったね」

「本当にもうずぶ濡れで、靴までぐっしょりでさー」

「全身濡れたんだね」

「やってらんねえよな」

「大変だったね。風邪とかひかなかった?」

「それは大丈夫だったんだけどさー、本当にもうやんなるよなー」

 

こんな感じ。ちなみに相手の話に興味がない場合どうすればいいの?って人。興味を持ちましょう。

といっても難しいので、こうすると簡単。

『もし相手が自分だったら…?』

と考える。

上の例なら、

自分なら折り畳み式の傘を常備するな…。

とか

親呼んで迎えに来てもらえば良くないか?

とか

バスがあったな、確か。帰るルートそういえば知らないな。調べてみよう。

とかね。

ほら、相手の話にすぐに馴染めるでしょ。

え?

全然興味わかないんだけどって?知らん。アキラメロン。

 

 

 

「結局『うんうん、そうだね』って言ってくれる人が欲しいだけなんですよ」

 

「あー、まあそれは確かにそうだね」

 

 

 

あ、四つ目。

自分が相手に同意していることが分かるように伝えよう。

バリエーションとしては

「確かに!」

とか

「あー、間違いないね」

とか

「全くその通りですね」

とか

「本当におっしゃる通りです」

とか。

まだまだあるけど、だいたいこれくらい言えれば日常生活では困らないかな?

言えなくても困らないから、全く気にする必要はないけどね。今の君のままで充分なんや…。知らんけど。すいません適当言いました。仕方ないね!

 

 

 

「でしょう?それなら俺じゃなくたっていいじゃん。って思う訳ですよ」

 

「そうだねぇ…。ただ、その子達はもしかしたら、一夏君だからこそ聞いて欲しいのかも知れないよ?」

 

 

 

あ、五つ目。

その人の名前をなるだけ言おう。

それだけで相手は

「あ、この人は自分の事を認めてくれてる」

って思う(らしい)。

まあ、心理学的なことは分からないけど実際に使ってて間違いないと思う。

これで僕に彼女が居たことがなかったら信憑性皆無だけど、僕普通に彼女居たしね。まあ今はフリーだけど。

ぶっちゃけますと、たっちゃんやちっふー、ラウラにシャルロットちゃんと、可愛い綺麗所があふれてるからね。俺の周辺。あんまり彼女欲しい!ってならないんよなぁ…。自慢かって?せやで。うわなにこいつうっぜぇ。

 

 

 

「そんなものですかね…」

 

「そんなもんよー」

 

ま、一夏君は一夏君のままでもニコポもナデポもありそうだし。ていうか、下手したら一夏君は実の姉すら攻略対象に出来そうなくらいに主人公してるからなぁ。

あんまりこういう事、教える必要なさそうなんよね。

意地悪してるつもりじゃないんだけどさー。

がんばれ少年。




最近は精神状態がぶっ壊れなんで読みにくいかも
読みにくいというか駄文やね


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デポトワール

お久しぶりです


冷たく深い、夜の底。

まっとうに生きている表の人間なら、まず近寄らない重く絶望の蔓延するスラム街。

その中でも最奥の、掃き溜めの中の掃き溜めで。

私は生臭いゴミで寒さを凌ぎながら震えていた。

 

気付いた時には親はなく。

物心ついた頃には、このクソのようなスラム街で生き延びるために必死で。

ゴミの中から売れそうなものを、朝早くから探し。

あまりにも飢餓に耐えられなければ、少し離れた街のパン屋から食糧をかっぱらう。

食糧を盗むのはリスクが伴う。しかもその店では食べ物を買うことが出来なくなるから、あまり頻繁には出来ない。盗んだ店になに食わぬ顔で行こうものなら、あっという間に袋叩きにされる。

警察に連れて行かれる方がまだマシなくらいに、身体じゅうを殴られ蹴られ、叩かれた奴がいた。

折れていない骨がないんじゃないかと思うくらいぼこぼこにされ、車道に投げ捨てられていた、名前もしらない同類。

口から血を出しながら、道端でゴミのように死んでいった。

ああなるのは、私はゴメンだ。

 

たしかに意味もなく罵倒され、殴られることもある。蹴られることもある。髪はドロドロでぐちゃぐちゃだし、身体を洗うことなんて出来ないから、常にゴミの臭いがする。まさに生きる生ゴミだ、と言われたことすらある。

しかし生きる生ゴミとは上手いことを言う、なんて思ったものだ。

 

そんなごみ溜めのごときスラム街で、いつものようにゴミに埋もれて寝ていたある日の夜。

その夜はなんだかやけに騒がしくて、あちこちから悲鳴らしき声が聞こえていた。

人が倒れる音。物が壊れる音。誰かの叫び声。

人々が必死で逃げ出す姿を視界の端に捉えながら、何者かが私の方向へ来るということを理解する。

私がいるのはスラム街の最奥のゴミ捨て場。周りには何もないし、逃げようにも袋小路。もし逃げるとしたら、こちらに来ている何者かに向かっていくしかない。

ああ、この音は。これはどこかで火の元があがったな。いや、この感じだとどこもかしこも火事か。

…火事?

ガスも電気もろくに通ってない、このスラム街で?しかもいっせいに多発だと?

 

何が起こっている…。

私は、今もなおこのスラム街を地獄の如き業火で焼き尽くしている何者かが気になった。

そもそも逃げる場所はない。

どうせ逃げようにも逃げられず、仮に逃げたとして居場所もない。そこらで野垂れ死ぬのがオチだろう。

ならばいっそ、どうせ死ぬなら何者かの顔くらい拝んでやろう。

そんなことを思いながら、だんだんと近づいてくる集団に意識を向ける。

 

「ーーー様!無ー、こーらのーーがー了ーーまーた!」

 

「ーーー。他部ーー状況ーー告しー」

 

「現ーほぼーてー場所ーー圧ーーーしてーまー」

 

「ーー。ーー、残ーー全て蹴ーーーにーーぞ」

 

「ーー!」

 

火の燃え盛る音と、あちこちから聞こえる喧騒で聞き取れない。だが、恐らくこのスラム街のほとんどを制圧ないしは支配したのだろう。

何者か、というよりは団体か。

しかし、こんな今の今まで放置されてきたスラム街を、政府が粛清するとも思えない。

やはり気になった。

一体誰が、なんのためにーー?

 

「ーーおい」

 

そう思っていたら声をかけられた。

ああ、誰かに声をかけられるなんて初めてではないだろうか。そんなどうでもいいことが頭をよぎる。なんだ、存外私は余裕だな。

 

声の方を見る。背中に炎を背負っているかのような男は、後ろの炎の明るさによって顔はよく見えない。

しかしブラックスーツに身を包み、妖しく艶めく革靴を履いた服装は、このごみ溜めのようなスラム街にはまるで浮いた存在だった。

 

「…なに」

 

なるほど、どうやらこの男がこいつらのボスらしい。周りにいる部下らしき男たちが、いっせいにこちらに武器を構えているのが見える。

は、何をしている貴様ら。この男の身が大事なら今すぐに私を撃つべきだろう。

…いや、この男が私に声をかけているから手出しするのが無礼になるから撃たないのか。なるほど、どうやらこのオールバックの顔が見えない男と話をしている間は、地獄への直行便は待っていてくれるらしい。

 

「ーー貴様が最後だ」

 

「そう」

 

そうか。他のスラムの住人たちは既にあの猛々しい炎に包まれて逝ったか。まあ、運良く逃げ出せた奴もいるかもしれないが。他のスラムに着くまで、生きていられるかどうか。

 

しかしこのオールバックの男。声からして50代ほどか?少なくとも若くはない。そのくせ、その声には重厚感が漂っている。なるほど、どうやらこの男はただの取り纏め役という訳ではないらしい。幹部か何かだろうか。

 

「ーーー最後に言い残すことはあるか」

 

「ふむ…」

 

ないな。別に。ああ、だが。

 

 

「…冥土の土産に。

貴様らが誰で、何のためにこんな腐ったごみ溜めを掃除したのかだけは、気になるな」

 

もっとも、馬鹿正直に教えてくれるとは思わない。男は顎に手を当てたまま、何かを考えているようだ。

さて、この男の背後の男たちの持つ武器がいつ火を吹くのか。最後まで視線を逸らすことはしない。さあ。いつでも来い。死ぬ準備は出来ている。

 

 

…?

 

 

いつまでたっても撃たれない。おい、焦らすくらいなら早くしろ。そう思っていたが、男の背後から一人の部下らしき男が男に話しかけていた。

…私は肩透かしを食らったような、そんな気持ちで待ちぼうけな訳だが。

おい、お前の後ろの部下がチラチラお前を見ているぞ。早くしろ。

 

そう思って待っていると、男は何事か部下たちに告げ。部下たちは一斉に後ろを向いて去っていった。いや、さっき報告に来たらしき男だけ背後に立っている。そして私に銃口を迷いなく向けている。

 

 

「ーーー私達が何者か、だったか。良いだろう。教えやる。

私達は亡国機業。悪をはたらく、テロリストだよ」

 

知らない名前だな。まあ、私が知っている名前なぞ無いに等しいが。

亡国機業とやらが何のためにここを火祭りに挙げたのかは分からなかったが、まあ十分だ。私を地獄へ送る相手の名が分かったのだから。

さあ、さよならだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、私達の存在を知ったんだ。貴様はここで消えねば(・・・・)ならん」

 

「!?」

 

そして私は黒いゴミ袋に突っ込れた。




ちなみに謎の男はサカキさんをイメージしてます。亡国機業のボス。ニドキングは持ってません。



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学園祭前の休日

久しぶり過ぎて忘れている方も多いだろうし、現状把握の確認回


やぁ皆。元気かな。俺は元気じゃない。今週はちょっと疲れた。

具体的には、放課後にたっちゃんこと更識楯無ちゃんとの特訓が始まりました。まあ、これは俺から頼んだことだしね。疲れるのも良しとしよう。一夏君と特訓の休憩中に話をすることも出来るし、俺自身のためにもなっている。元々腕っぷしは弱い訳ではなかったけど、しっかりとした護身術というのはやはり重要である。もっとも、今はまだ、たっちゃんと受け身の取り方や投げられる訓練を中心に稽古しているが。組手をすると流石にたっちゃん相手には手も足も出ないので、時間が合えば一夏君とも組手の相手になってもらっている。しかし彼、既に割りと強いぞ…?今はまだ体格差を生かして戦績を五分五分にまで持っていけているが、俺より一ヶ月くらい早くから稽古しているだけでだいぶん強い。

俺は前世で少しばかり荒事を経験してる分のアドバンテージがあるけど、一夏君は普段から機械弄ってる成人男性相手にここまで戦えるとかちょっとおかしい。

これが主人公の力か…。って思ったけど、ちっふーのことを考えると多分血だな。うん。織斑家は魔窟だったのか…。

 

でもそう考えると、マドカが強いのにも納得。や、彼女が闘っているところ見たことないけど。弱いってことはないだろう。多分。

個人的には亡国機業に進んで関わる予定はないけど、マドカと敵対するとか考えたくないな。マドカの戦闘力が脅威というよりは、知ってる年下の女の子と戦うという状況になりたくない。一夏君が戦うのはまったく気にならないんだけどね。うーんこの。

とは言え、だ。多分そのあたりは全部天災ことおっぱいラビットがなんとかしてくれるだろう。まあ、またいずれあやつとはどうにかして連絡を取りたいところ。

マドカと束についてはまあいずれ、おいおいやっていくとして。

 

現状、最もどうにかなってほしいのはフランスの代表候補生、シャルロット・デュノアちゃんである。

先週突然俺の仕事場に居たと思ったら、喋らなくなってたでござる(比喩誇張無し)だからな。あれはびっくりした。

しかも医師に見てもらっても、

「しばらく面倒見ろよ(意訳)」

とかちょっと待って。

や、否はないんや。ただちょっと心の準備がですね。

だってあれだよ?IS学園で戦闘が起きたと思ったら、シャルロットは怪我で入院。モッピーは切腹しかけて鈴ちゃんはほうぼうに喧嘩売るしで、本当にてんやわんやだからね?

しかもシャルロットの怪我が治ったと思ったら、シャルロットは喋らないシャルロットちゃんにジョブチェンジ☆ミ

そして医師からは無情にも

「今はストレスのない環境が一番(だから面倒見ろ)」

という非常に非情な宣告が。

 

いや、まあここまでだったら良かった。まだ喋らなくなったシャルロットちゃんの相手するだけなら良かった。

この後フランスからラファールのデータ分析にデュノア社の技術者さん達とメンタルカウンセラーが来ます。

ちっふーがフランスの政府の官僚の相手をしている間に、当然シャルロットちゃんと化したシャルロットの様子を彼らは見に来る訳で。

仮にも代表候補生が言語障害みたいな状態になったんだから、フランスから説明を求めに(という建前で情報を何としても抜き取りたい様子で)官僚が来るのはまあ分かる。そしてその相手をちっふーがするのも分かる。

けど俺は何もしてないのに、デュノア社の技術者さん達に

「うちの子に何してんだお前、あ?」

みたいな感じで詰め寄られたのは疲れた。まさにあれは針のむしろという感じであった。

まあ、そのシャルロットが俺の肩にぐでーっとのしかかって来たりしてたので、俺が何かした訳じゃないことは分かってもらえたみたいだから良しとしよう。

フランス語わからないから言語も通じなかったし。むしろ通訳できるシャルロットが喋らないシャルロットちゃん状態でしたからね…。あらためて言語の壁というものを実感したというか、思い知ったというか。

 

ただ、まあ。

シャルロットがデュノア社の、特にシャルロットの専用機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの整備班の人達からは大事にされてるのは分かった。シャルロットが愛されてるなあ…という微笑ましいのが分かったのは、俺が精神的にゴリゴリ削られたかいはあったと思う。うん。

 

 

とはいえ俺が疲れたのは確かなので、久しぶりに休日に一人でお出かけである。ここのところ、仕事の最中でも危ない作業以外はシャルロットがべったり(物理的に)なので、完全に一人というのはやや新鮮である。開放的な感じさえある。

最初はシャルロットがずっとべったりだったので、危険な作業をする時にはちょいと離してちょこんと椅子に座らせてたんだが、今では自分からすっと離れてくれるので、楽なものである。ただまあ、シャルロットの扱いに困り果てたちっふーが憔悴するとか。喋らなくなったシャルロットのお世話をするラウラがちょっと大変そうとか。

そんなことは(知ってるけど)知らんなぁ!(ゲス顔)

…でもちっふーには今度ガス抜きとして、居酒屋に連れて行ってあげようかと思う。かなり憔悴してたし。…いずれマドカ関連でさらにちっふーに迷惑かけると思うし…。

ごめんよちっふー、君の犠牲は無駄にしない。

え?

ちっふーに迷惑をかけない選択肢は無いのかって?

(あるけど俺がそうするつもりは)ないです。

 

 

さて、そんなわけで今日はパソコンショップへ。

そして面白そうな何かを探して物色していると、通電確認済み、BIOS確認済みのジャンクパソコンを発見。電圧と電流、極性を確認して、それに合うACアダプタを探す。

すると15分余り探したところで発見。まあ、0.01アンペア足りないけど、これくらいは誤差の範囲である。

ぶっちゃけ、極性と電圧が合っていれば、電流は同じか大きいなら問題ない。今回のは僅かに足りないけど、多分大丈夫。

 

一応店員さんに、パソコンの確認をしていいか尋ねてみたところ、快諾してもらえた。

電源繋いでポチっとな。そしてF2連打ぁ!あたたたたたたた!

 

ふむ。良し。これなら多分OSぶちこめば行けそう。買いだな。

という訳でACアダプタとジャンクパソコンを購入。

いやー、良い買い物だった。

後は好きに弄り倒すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむ!これは何やら束さんの出番の気配が!」

 

「束様寝ましょう」




リハビリがてら
ボチボチやっていきますー


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ご飯にします?お風呂にします?それとも…

タ・ワ・シ?

お久しぶりです
さあ、影で細々とやっていきます


「ふう…」

 

最近はIS学園の学園祭が近づいてきたせいか、訓練機の貸し出しが多い。やっぱりこういう学校行事は皆楽しみなのか、普段よりもISの操縦練習にも熱が入る。そしてその結果、訓練機の整備もいつもより忙しくなる。

今日は特に忙しく、お昼も食べる余裕がなかった。整備班のおっちゃんらからパンやらジュースやらをもらったから、それでしのいだ感じの忙しさである。

 

時刻は既に6時を回っており、7時になろうかというところ。もはやお昼どころか夕飯の時間帯である。しかしまあ、学生の彼女達は全く元気なことだ。俺はもう今から帰宅するのみだというのに疲労困憊、彼女達はまだこれから部活動やクラスでの学園祭の準備があるのにも関わらず、あちこちではしゃいでいる声がする。

ちなみにシャルロットは今日も良く俺のお手伝いをしてくれました。未だに俺には話をしてはくれない(その代わりにめちゃくちゃ甘えてくる。かわいい)が、同室のラウラいわく、

 

「兄らしさというか父性というか…。まあ、シャルロットはこれまでそういうものに触れて来なかったからな。

ただ嫁の包容力に甘えているだけだ。

心配することはない」

 

って。

でも俺、普通に話してくれる方が良いんだけどなぁ…。まあこればっかりはシャルロットじゃないとその胸の内はわからないから仕方がないんだけどね。

 

さて、いつもならたっちゃんや一夏君と特訓している頃あい(しかも組手で一番熱の入る時間帯)だけど、今日はもう疲れたし。うん、帰ろう。どうせあとちょっとしたら終わるくらいの時間だしな。

そう言えばたっちゃんが、俺の設計した俺のISというかIZの目処がついたって言ってたな。武装についてはFF7の金髪の剣みたいなのは無理かもしれないらしいが、まあしゃーないな。うん。

 

原作知識で学園祭は襲撃があったから俺もたっちゃんと特訓をしているが、元々襲われてたのは一夏君だったはず。俺が特訓しているのは念のため+いざというときに護身程度に戦えるようにするためだから、まあ、今日くらいは許してもらおう。

 

しかし一夏君やたっちゃんも学園祭の準備があると思うんだけど、そっちは大丈夫なんだろうか。

 

そんなことを思いながら自室の玄関の鍵をあけるとなんだか違和感が。

んん?

俺鍵閉めずに出たっけ…?

その答えは、キッチンから聞こえて来た声で分かった。

 

「おかえりなさい鹿波さん♪

ご飯にします?お風呂にします?それともワ・タ・シ?」

 

ご飯にしてからお風呂、最後にたっちゃんで。

なんて馬鹿なことを考えている間にキッチンからひょっこり顔を出したのは、制服の上からエプロンをしたたっちゃんであった。

うん、なんでいるのん?

 

「今日は一夏君がクラスのお手伝いに行ってるし、鹿波さんも忙しかったみたいだから特訓はお休みにしたの。あ、ちゃんと鹿波さんの机に連絡の紙は置いてあったでしょ?」

 

ニコニコしながらそう言うたっちゃんだが、すまんな。そんなところまで気が回ってなかったんや。明日の朝、きっとその紙は俺を出迎えてくれるだろう。無念。

ところでたっちゃん、生徒会の仕事は?

 

「だいたい片付けて来たから大丈夫よ?虚も居るし」

 

なるほど。つまり虚さんに仕事を押し付けてきた、と。

…ところでいい匂いがするね?

 

「もうすぐ出来る青椒肉絲で全部だから、先に机にあるものから食べててもらえるかしら」

 

ジュウジュウと肉とピーマンをフライパンで調理するたっちゃんの声を背中に手を洗いに行く。うむ、苦しゅうない。さすれば。訳ワカメ。うん、お腹減ってるとダメだね。美味しそう。

 

「デザートはマンゴープリンを作ってみましたー♪」

 

ふむ。

机の上にはご飯と味噌汁、大皿には青椒肉絲。魚の煮付けと小鉢にはゴボウのきんぴらかな?サラダもあるな。そして今たっちゃんが持って来たのがデザートのマンゴープリンか。

あ、マンゴープリンはまだ冷やしておいて。

 

「はーい」

 

さて。

いただきます。いやあ、非常に美味しそうである。たっちゃんは良いお嫁さんになるね。多分。

あつあつのごはん!日本人にはやはり米!そして美味しそうな匂いをさせている青椒肉絲!

うーん、美味い!

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末様でした」

 

ふう。いやあ美味かった。たっちゃんは料理も出来るのか。まさにハイスペック美少女である。

…で、なんで居るのん?

と思ったところでたっちゃんは原作で一夏君に裸エプロンならぬ水着エプロンをしていたことを思い出す。うん、あれだな。またたっちゃんが人をからかいに来たんだろう。要はいつもの冗談である。まったく。

 

(お父さんとお母さんには既に紹介したし、逃げ場は無くしてあるし。うん、後は既成事実を作るだけね!

見てなさい虚。

「まあ、頑張って下さい。無理だと思いますが」なんて冷めた目で見てたあなたを見返してあげるわ…!)

 

ところでたっちゃん、お風呂は沸いてる?

 

「もちろん!準備万端よ?」

 

その後に呟いた、…お布団も、というのは聞かなかったことにする。まさか本気ではないとは思うし。

 

さて、それじゃあ食後の一服もしたし、お風呂に入るとしよう。たっちゃんが顔を赤らめていたのも努めて気にせず、スマホを持ってお風呂の中へ。

 

そして電話帳から目的の番号にプッシュ!

 

プルルルル…

 

「あ、もしもし織斑先生?」

 

不法侵入だ。




この後たっちゃんはちっふーにこってりしぼられました


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モノノミカタトラエカタ(スミス)

どうにも説明不足だったので追記

思い付いたので書いた
サカキ様(仮)側のお話です
ちなみにこの人物がこの後も出てくるかどうかは未定


私は生まれてから、ずっとひとつの違和感を抱いていた。そう、違和感だ。

 

物心ついてから、ずっと感じていた。

友人とはしゃいで遊ぶ時も。

下らない、退屈な授業を寝て過ごしている時も。

父や母とその日の出来事で話をしている時も。

意味があるとも思えない、学校の宿題をする時も。

 

およそ私は恵まれている環境だったと思う。

父や母、祖父母は私に優しくしてくれたし、私が間違った事をした日にはこんこんと説教もされた。

人に優しくすることの大切さや、人と助け合って生きることの大変さを、共に学ぶ姿勢を忘れない両親だった。

口喧嘩をしたこともあったし、私が意味も無く両親に対して反抗した時もあったが、ふたりは私に真剣に向き合ってくれた。

それがこそばゆかったり気恥ずかしかったことこそあったものの、やはり私はこの両親のもとに生まれて良かったと思う程には幸せだった。

 

しかしながら、私が私という個人として成長していく日々の中に、私の胸の内には常に違和感があった。

なんとなくしっくりこない。なんだか違和感がある。

だけどその違和感の正体がわからなかった。

 

学校で友人と仲良く談笑しながらご飯を食べることの何がおかしいのかわからなかった。

学校の先生や教師といった職業の人々が、口うるさく私たち生徒に対して注意することの何がおかしいのかわからなかった。

気の置けない友人たちと、小さな公園でサッカーボールを追いかけ回すことの何がおかしいのかわからなかった。

 

私が違和感の正体に気が付いたのは、ちょうど町の小さなプライマリースクールを卒業した頃だった。

その頃の私たちは動物の飼育を何年間かしていた。

敷地の中には大きな動物の飼育小屋があり、私たちは鶏の飼育をしていた。

そして私たちが卒業する直前あたりに鶏の卵が産まれ、私たちが卒業した後、すぐにひよこたちが産まれたというので、私たちは卒業した後にも変わらずスクールに来ていたりした。

 

そこで卵から孵ったひよこたちがふわふわと温かそうな愛くるしい見た目で、よちよちと歩く姿に私たちは癒されていた。

しかし私が見ていたのは、一匹のはぐれたところにいたひなだった。

そのひなは他のひよこたちよりも一回り体が小さく、また、足取りもおぼつかない様子だった。

私はそのはぐれのひなが、なぜだか強く印象に残った。

 

 

それからしばらくして、私たちがセカンダリースクールの準備を始めた時期に、再び私たちは卒業した学校に集まった。最後に飼育してきた鶏達に別れを告げに。

 

そして私たちは飼育小屋で見た。

以前よりも一回り体が大きくなったひよこたちと、そこから外れたところにある、一匹のひなの亡骸を。

私以外の級友たちは、そのひなの亡骸を見て悲しげに眉を垂らしていたり、感受性豊かな子では泣いている者もあった。

そんな中、ただ私は納得していた。

ああ、これなのだ。これだったのか。

 

私は胸の中にこれまで常に燻っていた違和感が、とんときれいに腑に落ちたことを理解した。

人は、死んでから完成する。

そんな言葉を聞いたことがあるが、今の私に一番近い納得の言葉だ。ただ、私の言葉だと少しだけ違う。

 

死んでいることこそ自然なのだ。

 

だからこそ、これまで生きてきたことに対して常に違和感を抱いていた。当たり前だ。生きていることは、不自然なのだから。

 

もちろんこれは人の暖かさや優しさを否定するものではないし、人の営みがおかしいというものでもない。

ただ、死んでいることが最も私にとっては自然なことなのだ。しっくりくると言ってもいい。

 

あのひなは、生まれて、生きて、死んだのだ。一切の誇張なく、あのひなは、生まれて、懸命に生きて、そして死んだ。私たちが卒業して、次の学校に通い始める前というこの短い、とても短い間に。

何のために生まれてきたのかも分からないくらい、すぐに。

もちろんこのひなはただの一例だ。当然他のひよこたちはこれからすくすくと成長し、大きくなり、やがて子孫を残すのだろう。それを当然のように。当然のこととして。

 

そして私たちも同じように成長していくのだ。生きる意味や目的をさも素晴らしいものとして。当たり前にあるかのように。

 

 

反吐がでる。

 

 

生きることは素晴らしい。それを私は否定しない。

生きることに意味などない。それも私は否定しない。

生きることは苦痛である。それは私もそう思う。

生きることは冒険だ。私も夢やロマンは理解出来る。

 

だが、違うのだ。根本からして違うのだ。

 

ある少女は言った。

どうして私は生きているの?

 

違う、そうじゃない。

どうして私は死んでいないの?

まるで生きていることがおかしいみたいじゃないか。

おかしいのさ、私から言わせれば。

 

とは言え別に、生きていることを否定するつもりはない。現に、私は生きている。

死んでくれ、と遠回しに言っている訳でもない。

どうせ生き物はみんな死ぬ。

早いか遅いかの違いでしかない。

ならば私が早く死んでくれと願うことの、どこに意味があるのだろう。

 

ゆえに私は言うのだ。

ゆえに私は思うのだ。

 

人生なんて、誰しもつまりは生まれて、生きて、死ぬんだろ。

 

そこに意味や目的を求めることも、意味や目的があると思うことも信じることも、私は否定はしないけど。

 

ただ、私にとっては死んでないというのは、ひどく摩訶不思議なことだというだけだ。

不思議、不自然、おかしい、変。

生きるというのは、そういうことだ。

 

思うに、生きることが当たり前だと思うから、死ぬことが怖いのではなかろうか。

むしろ、死ぬことが当たり前ならば、生きていることは不思議なことで。

死ぬことが当たり前ならば、生きているのは奇跡とかそんな表現をされるのも頷ける。

 

そして、生き物はみな、死ぬことが当たり前なのだ。

 

 

つまり、不自然に生きている私は、これから死ぬまでこんな変な感じを常に胸の中に抱きながら、不自然に生きていくのだろう。

なんで生きているんだろう、なんて。

そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が不思議な感じを受けながら歩いていたある日。

真っ黒な、深い闇を思わせるようなスーツを着た男性が私に声をかけてきた。

すまない、ナンパならもうお腹いっぱいなんだ。来世でお願いしたい。

 

そう思っていたが、その男性は私のような人間を探していたという。

 

『キミなら他人の人生を終わらせることに、違和感など覚えないだろう?』

 

正直言って驚いた。

私は既に一般人として一般人の中で、ごくごく普通の銀行員として働いているし、この私の感性については親にだって話していない。

親や友人に話したところで、病院に連れていかれるのが落ちだと分かっているからだ。

私は私の感性が飛び抜けておかしいとは思わない。ただ、私の他の人間からすれば、ひどく異様なのだと思われるだろうことも理解している。

理解した上で、私は自らの感覚を変えようとも思わないし、その必要性も感じない。

ただ、死んでいることが最も自然だと思うだけだ。

それを理解しながら普通の人間として過ごしてきた。

 

 

 

ああ、そういえば。

祖母の亡くなった時、ひどく冷たくなった祖母を見て、私以外の親族たちは息を呑んでいたが、私だけが、

ああ、自然に還ったんだな、と思ってのんびりしていたことを思い出す。

 

良き祖母だった。

私にいつも頑張りなさいと言い、いつも私や父たちを応援してくれる、太陽のような人だった。

私の記憶には、いつも暖かかった祖母の優しさがあったけれど。

自然な状態になった祖母というのも、また良いと思ったものだ。

 

 

 

男の探している人間というのがどんな人間なのか気になって、私は男の話を聞くことにした。

 

適当なカフェの隅の席で、男の話を詳しく聞いた。

男は壮年の熱意と落ち着きが同居するような、そんな人間だった。

顔は中東系かアジア系で、背は高くない。

だというのに、とてもそうとは思えない覇気と重厚感を纏う人間だった。

 

はっきりいって、私の背は低くない。180cmまではいかないものの、178cmあるから、高いヒールを履くと男性とあまり背丈が変わらなくなる。

だけど、目の前にいる男性は違った。

お互い座っているのに、自然と怖じ気ついてしまう程の何か。

そんな何かを持っている。

 

ただの野心家ではない。

かといって、やり手の社長とも違う。

彼らは彼らで皆違う凄みがあるけれど、私がこれまで銀行員として働いてきた中でも、出会ったことのない輝きを秘めている。いや、輝きというよりは全てを焼き尽くす程の業火と、ありとあらゆるものを飲み込まんとするブラックホールという方が近いかもしれない。

 

男は自分のことを、『サカキ』とでも呼んでくれれば良いと言った。偽名だろうか。

サカキ…聞いたことがない。これほどの人物だ、間違いなくどこかの界隈で有名なはずなのだが…。

銀行で働いていれば、嫌でも世間の有名なものの名前は頭に入る。私が関わっていた人々は、特に情報の速さには間違いがない人たちばかりだったから、私がこれほどの人物の名前に全く心当たりがないというのは不思議なのだ。

…やっぱり偽名だろうか。

 

男は私に声をかけた理由を話し始めた。

 

『ISを知っているか?』

 

当然知っている。いくら極東での出来事とはいえ、私の職業柄知っていないとおかしい。

ついこの間、ミサイルや戦闘機をことごとく撃墜したパワードスーツ。それがISだ。

開発者は篠ノ之束。私が開発したんだから日本語を勉強してこい、という発言に憤慨している事業主も何人かいたと記憶している。

私個人としては、別におかしなことを言っているとは思わない。

ただ、私の仕事に私の感想は必要ない。その人に合わせた対応をするだけだ。

 

だが、まだこちらのメディアではそこまでの話にはなっていなかったはずだ。

もちろん情報が速い一部の人間たちには根底から衝撃が走る出来事であるため、何よりも重要な課題だが…。

しかし、そのことを既に把握しているあたり、やはりこの男性はただ者ではないはずだ。

 

『今私はある企業の代表取締役に近いことをしている。研究者、人員はある程度揃ったが、実働部隊が足りない』

 

少し待って欲しい。私は見ての通り、ただのしがない銀行員だ。運動だって得意じゃない。そもそも、そのISについてだって詳しく知っている訳じゃない。本当に私用の仕事かい?

 

そう尋ねると、サカキと名乗った男性は頷いた。

(私はまだ偽名ではないかと疑っている)

 

『もちろんだ。

実働部隊と言っても、既に戦闘力のある人員は揃いつつある。私が求めているのは、脅威の排除が終わった後の掃除屋だ。後片付けのポスト、と言ってもいい』

 

…やはりこの人物、ただ者ではない。良くも悪くも。

既に話している内容は、カフェでコーヒー片手に気楽に会話するそれではない。

目の前にいるこの男は、間違いなく武力を保持している。それも、おそらくISに匹敵するような、もしくはISにすら対抗できる程の、武力。

 

…あなたは戦争を求めているのか。

 

『…ふむ。

やはり私はキミが欲しい。私のしたいことが、多少なりとも理解できるほどの観察力を持つ、キミにね…』

 

…私が求められるものは、何だ。

 

『簡単なことだ。抵抗するだけの強さも持たず、私と同じく人の道を外れた研究、その成果。

それらと研究者達の骸を片付ける。

まあ、葬儀屋の真似事だとでも思ってくれたまえ』

 

 

なんだろう。

非常に非国家的な事を言ってる気がする。テロ的な。

この男性の言い回しは分かりにくいが、おそらくはこういうことだろう。

 

これからISが台頭するにつれ、間違いなくISという武力を用いた冷戦の時代がやってくる(ISが台頭するのはもはや議論の余地はない、と考える)。

そうすると、ISというのは個人が操縦するものだから、間違いなくISに乗るためだけの個体が発生する、もしくは造られる。

その研究の成果…つまり、おそらくはデザイナーベビーとか、そのあたり。

抵抗するだけの強さがないというのは、研究者か、造られた子供たちか、それとも他の何か。

当然研究機関は秘密裏に稼働するだろう。その襲撃後の片付けが私の仕事…ということだろうか。

 

言っていることは分かった。

だが、やはり腑に落ちない点がある。

何故私なのか、ということだ。

私はごくごく普通の人間として過ごしてきたし、傍目にはただの働き者の銀行員だ。

 

何故私に?

もしかしたら、あなたのことを言いふらすかもしれないぞ?

 

そう言ったところで、さもおかしなものを見た、とでも言いたげな、面白いという表情をされた。失礼な。

 

『ッフ…。

眼だ。私が見たのはキミの眼だよ。

人を人として、これ以上ないほどにキミの眼はまっすぐに捕らえている。

 

この私がゾッとするほどに、ね…』

 

どういう意味だ。

 

『キミは、間違いなく異常だよ。異常者だ。

しかも自身が異常であることを理解しながらも、何一つおかしいと感じることなく一般人と共に過ごすことも出来る…。

だが、キミのような、生粋の化け物を私は欲している。

キミならば、人をまさにゴミのように片付けることが出来るだろう?それも、平然と』

 

人の尊厳は、汚されるべきではない。

 

『そうだ。だが、キミは人が死ぬことに悲しみを覚えるか?それこそがあるべき姿だと、感じないと言いきれるか?』

 

…私とて、友人の死には悲しみを抱く。人が死ぬべきだとも思わない。

 

ただ、それはそれとして。

死んでいることこそが、最も自然な状態だと感じない訳でもないだけだ。

 

『そうだ。それだよ。

キミは、人の尊厳を犯すことなく、丁重に弔ってやることが出来る。

そこがどれほど血にまみれ、凄惨な現場であっても。

私が求めているのは、キミのような人物だ…』

 

…話はそれだけかしら?

 

『…そうだ。

キミが私の元に来ることを考えたなら、ここに連絡したまえ。

私は、いつでもキミを待っている』

 

そう言って男は私に名刺を差し出してきた。

…黒地に金字は読みにくいと思うの。

 

私が名刺に気をとられている間に、男は背を翻し店を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、すいません店員さん。モカを追加で。

ちなみにお代は…。あ、お連れ様から100ポンド頂いています?ラッキー。じゃあケーキも追加で。




サカキ様(仮)側に集まる人たちはこんな感じというお話

そろそろちっふーの回にしようか検討ちぅ
すねたちっふーとか良いよね!


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オレァクサムヲ!

ムッコロス!(あの顔)


♪大変だー 真実がー イカサマーとー手を組んだー ピッ

 

電話だ。誰だ?

 

「はいもすもす」

 

『やっほー!やあやあ久しぶりだねー!元気ー?』

 

「だまれクソ兎」

 

うるせえ。今何時だと思ってんだ。

既に夜の11時だぞ。もう今から寝るところだっつうの。今日はいつもより遅い時間だから早く寝たいんだよ。

 

『あはっ、ごめんごめん。

けどこっちでは時間なんてわかんないからね!許してね!許すっきゃないね!』

 

「死ぬがよい」

 

『うわ、いつになく辛辣』

 

「こっちは眠いんだ、さっさと用件だけ話せ」

 

マジで。

 

『もー、つれないなぁ…。束さんつまんない』

 

「切るぞ」

 

そう言ってスマホを離す。そして通話終了のボタンを押そうとした。

 

『わーっ、待って待って!ちゃんと話す!話すからぁ!』

 

「早くしろ」

 

あくしろよ。

 

『うう、鹿波までちーちゃんみたいな事言うようになったね…』

 

「お前が悪い」

 

『でも私は諦めないぜ!…ぬるぽ』

 

「ガッ」

 

…ハッ!しまった。つい。

 

『わあ、ねらーだぁ!

やっぱりこういうところはちーちゃんと違うね』

 

だまれ。腹筋スレくらい良いだろ。

 

「で、何の用だ。こっちはもう良い子はぐっすりの時間なんだが」

 

『鹿波は良い子じゃないじゃん。まあいいけどさ。

とりあえず、今度学園祭あるでしょ?』

 

「ああ」

 

まさかまたゴーレム作って来るとかじゃないよね。さすがにそれは阻止したいところだが。

 

『IS学園、襲撃されるってー』

 

「ふーん」

 

知ってる。

あれでしょ、巻紙礼子とかなんとか言って一夏君を拐おうとするんでしょ。モッピー知ってるよ?

 

『あれ、あんまり驚かないね?』

 

「まあ、それくらいはあるだろうと思ってたしな」

 

嘘だ。原作で知ってただけだ。ただ、いかんせんその原作知識もおぼろげになりつつある。

何故かアンサートーカー先生も原作については反応しないし。…ズルはするなってことかな?

 

アンサートーカー先生は割りと万能だけど俺が万能な訳じゃないからなぁ。この間もシャルロットのラファール整備班の人たちのフランス語がわからなかったけどさ。あれ、いきなりのことで頭が真っ白状態だったから半ばパニックになってたけど、多分アンサートーカー先生で通訳出来たはずなんだよな。

馬鹿め!と言ってさしあげますわ!馬鹿は俺です。

 

さて、しかし襲撃か。原作でもあったし、これからは原作知識が頼れなくなるとなると…。

そろそろ本気で命の危険に備える必要があるかも。

 

まあ、あまりにも俺の生活が脅かされるなら、アンサートーカー先生におんぶにだっこでも構わないから、亡国機業を潰すこともやぶさかではない。

 

 

そうそうそんなことはないと思うが…。

 

『なんだ。じゃあ、年末に一斉襲撃があることも知ってるのかー。残念』

 

「…待て」

 

なんだって?



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お前に、レインボー

お久しぶりです


「では、作戦会議だ」

 

「以上だ」

 

「早っ!」

 

「鹿波、黙れ」

 

さーせん。

しかし、せっかくたっちゃんはノッてくれたというのに。ちっふーってばノリ悪いなぁ…。

まあ、作戦会議だって言ってるからね。仕方ないね。

 

今俺はちっふー、たっちゃんと共に生徒会室に来ている。上座の席にはちっふー。ちっふーから見て右側の席には俺。ちっふーから見て左側にはたっちゃんがそれぞれ座っている。

机が長方形の口の字形に配置されているので、ちっふーだけ正面に誰もいないことになる。

 

内容は当然俺がこの前クソウサギこと束に聞いた、IS学園襲撃されるってよ。について。

ちなみに生徒会室な理由は、防諜に関してのセキュリティ面で一番用心してあるから、らしい。

 

しっかしなー。

クソウサギがわざわざ俺に学園祭、年末の襲撃について教えてきたことも謎だし、亡国機業が二度襲撃する理由も謎だ。

一応考えられるのは、クソウサギは面白半分とか…か?

あいつならありそうなんだよなぁ…。ホント迷惑な天災である。今度ちっふーにシメてもらおう。そうしよう。うん。

 

問題は、亡国機業の襲撃。

一応原作でも学園祭の襲撃はあったし、あれは確か一夏君の拉致か何かが目的だったはず。多分。

…既に原作知識があやふやだから自信はないけど。

一夏君の細胞とかから男でもISに乗れるようになれば、軍人とかがISに乗ることも出来るようになる。それゆえに、一夏君の存在は非常に魅力的なんだよなぁ…。って感じだったはず。

ただ、俺は知らないけど、男が乗れるようになってもさ。ISの適性が無ければ女でも乗れないなら、男でも適性が必要になるんじゃないの?って思ったりする。

むしろ適性を上げるとか付与する研究した方が良いのでは…。とか思ったり。リンクスとかレイヴンの世界ですねぇ…。アクアビットマン…コジマ汚染…うっ、頭が。

 

 

さて、まあ真面目に作戦会議をするとしましょうか。

…なんかさっきからちっふーがこっちを睨んできてますし…。

ちっふー、そんなに見つめられても…恥ずかしいよ。ポッ。うそです。めっちゃ怖い。人を殺しそうな目でギヌロと睨まれてます。あ、冷や汗出てきた…。あ、暑いっすね!(現実逃避)

 

 

 

「ハァ…。まったく、貴様を見ていると亡国機業の襲撃が大したことがないような気がしてくるな…」

 

「まあなんとかなるよ」

 

多分ね。アンサートーカー先生、なんとかなるよね?

…。

 

…。あれ。反応がない。

先生の霊圧が…消えた…?

 

答:霊圧は初めからありません。故に、『消えた』という表現は不適。

 

すんません。で、先生。今回の亡国機業の襲撃って、対策すれば死亡者を出さずに切り抜けられますか?

 

答:YES

 

さすが先生だぜ。先生に不可能はないっ!

 

答:NO

 

あ、先生にも不可能なことってあるんだ。

例えば?

 

答:能力の譲渡

 

ああ、アンサートーカー先生を誰かに譲り渡すのは無理なのか。へえ。

 

じゃあ先生質問!次の次、年末は?死亡者出さずに切り抜けられますか?

 

答:YES

 

うい。勝ったな(慢心)。

慢心せずして、何が王か!

いや、俺慢心王じゃないけど。ついでに言うと、一航戦でもない。それ赤城さん。

 

次。

次の襲撃、学園祭に来る敵と成りうる人物、もしくは敵は?

 

答:亡国機業勢力からはオータム・織斑マドカ

 

…それだけ?

 

答:肯定

 

…なんだろう。何か引っかかるが。…まあいいか。

他の勢力からは?

 

答:現在未確定

 

うーむ。現時点ではオータムとマドカしか来ないのか。

じゃあ、年末の襲撃では?

 

答:現在未確定

 

…アンサートーカー先生、それはこれからの行動や世界情勢の変化で変わるってこと?

 

答:肯定であり否定

 

アンサートーカー先生が冷たい…。

まあ、これで学園祭の時にオータムとマドカが来ることは分かった。オータムは一夏君の襲撃だろうからたっちゃんに見守ってもらうとして…。ああ、たしかなんか生徒会主体のシンデレラだっけ。出し物。原作では。

そうか。そうすると、一夏君はやっぱり部活に引っ張りだこだったりするのかな。

 

「…波。おい鹿波。聞いているのか」

 

「ああ、ごめん。聞いてなかった」

 

「まったく…。いいか。そもそも私を呼んだのはお前だろう。そのくせ私に作戦会議の進行をやらせるとは、一体どういう了見だ?ん?」

 

「まあまあ織斑センセ、落ち着いて…」

 

「貴様もだ、楯無。あまりこいつを甘やかすな」

 

さーせん。でもたっちゃんはどっちかっていうとスパルタ式よ?一時間も連続で組み手やらされるとか思わなかったもの。特訓。

しかも特訓が一時間な訳じゃないし。何度床に叩きつけられたことか。…この話はやめよう。

 

「で、鹿波。またあの馬鹿から何か言われたんだろう。話せ」

 

「あー、まあね…」

 

さて、どこまで話したもんかな…。




オリジナル展開を考えだすと、ストーリーが進まないですね…


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そんな装備で大丈夫か?

大丈夫じゃない、問題だ

更新が遅くなってすまない。本当にすまない。


情報というのは、『何を』言ったかということよりも、『誰が』言ったか、ということの方がはるかに重要だ。

例えばお金持ちの人望溢れる御大尽が『お金は大切だが、お金が全てではない』と言うのと、そこらへんのホームレスが『お金は大切だが、お金が全てではない』というのは、全く説得力が違う。

そう、つまりーーーーー

 

 

「…では、今度の文化祭と年末に、二度の襲撃が考えられる、と?」

 

「少なくとも、俺が(クソウサギ)から聞いたのはそうだな」

 

「そうか…」

 

はい、ちっふーには束から聞いた内容だけ伝えることにしました。だってほら、俺はアンサートーカー先生に聞いて裏取れるけどさ。ちっふーは束からの話を俺から聞く、又聞きになる訳じゃん?

だから絶対じゃなくて当然可能性の一つにしかならないのは仕方ないね。

原作的にはマドカも来るっぽいけど、これも当然直接ちっふーには言わない。後でたっちゃんとどうせ密談するし、たっちゃんからちっふーに伝えてもらう形になる。

少なくとも、ちっふーからすれば俺が亡国機業の動向知ってるよりたっちゃんが亡国機業の動向知ってる方が納得しやすいだろうしね。

まあ、全部言っても良いんだけどさ。まだ俺に対する亡国機業側のアクションが読めない間は、大人しくIZ(アイゼロ)の魔改造でもしてることにしようと思う。

ちょっと面白そうなことも考えたし。

 

というのもですね。

ほら、俺ってばIZのプログラムの添削してたじゃない。で、空いた容量を使ってオペレーター代わりにオペレーションプログラムのAIでも作ってやろうかと思って。いわゆるオペ子ちゃん。

モデルはとりあえず三種類。

ヒバリちゃんタイプ、レインさんタイプ、キャロりんタイプの3つ。

ヒバリちゃんだけ神喰いなんで世界観があれだけど、まあ細けぇこたぁ良いんだよ!

あと、以前簪ちゃんのプログラムをチラッと覗いた時に気付いたんだけどさ。

この世界のISって、FCSがそこまでまだ完成度が高くないみたいなんだよね。

相手をロックしたらずっと相手を視界に入れられる訳じゃなくて、相手を視界に入れられたらしばらくしてロックオン出来る感じ。

つまり、ガ○ダムvsガン○ム方式じゃなくてアーマード○アとかエ○スコンバットみたいな。

でも相手からのロックは探知出来るとかいうね。

まあこれは相手を攻撃することはそもそも設計の段階で考えられていなかった故にこうなったのだと思うけど。

元々は宇宙での活動用だしね、ISって。攻撃されても対応出来るようにしてるけど、攻撃することは想定してないですよ的な。まあ、ぶっちゃけ既存の兵器にロックされたところであんまりISには意味ないんだけどね。ミサイルでもISって落ちないし。プライマルアーマーなのか、フェイズシフト装甲なのか。前者ならマズイ…!分かるだろう?リンクスの諸君。分からないレイヴンやノーマル諸君にはすまない。僕はフロム脳なんだ…(錯乱)

 

 

何の話だったか。

そう、FCSだ。

 

ロックオンシステムとレーダーを何とかしたい。

まずこれはハード面の問題も絡むので、どこかの企業にでも打診することを予定している。

あくまでも技術開発の提携だし、副業的な問題は多分ないはず。

ちなみに手土産には『プロジェクト.Nineball』という、全自動防衛装置の草案の一部を持っていく予定だ。

ふふふ。ISほどではないにしろ、少なくとも有人でバッテリーで動くエールストラ○クよりは高性能な代物の設計図である。俺は技術者だからね。同じ技術者ならこの価値が分かるだろうし、むしろこの価値が分からないような企業ならこちらから願い下げである。

有澤工業やキサラギといった、名だたるIS関連企業にはせめて理解者がいてほしいところ。

キサラギは生体兵器の開発に余念がないとも聞いている変態企業だから、若干の不安はあるけど…。

いや、有澤工業も大概だったね。そうだね。

OIGAMIとかいう名前の、物理装甲と破壊力にステータスを極振りしたような有人機作ってましたね。ISじゃない何かを。世界観を守ってください社長。ガチタンは強い(確信)

 

 

…はっ!俺は何を(ry

 

さて、そんな訳で。

今後の方針。

 

たっちゃんと密談。

たっちゃんに付き添ってもらって、IS企業(?)に武器を開発してもらう。

まあ、俺は前線に立って戦う予定はないし、アンサートーカー先生も『大丈夫大丈夫、なんとかなるって(意訳)』と言っていたので本当に念のために、といったところ。

あとはオペレーションプログラムの開発と。

あ、マドカちゃんに連絡もしたいね。敵戦力をこちら側に引き込むのは向こうの戦力も削れてこちらの戦力も増えて一石二鳥。まあ、問題はマドカちゃんがこっちに来てくれるかどうかだなぁ…。クソウサギは絶対に楽しそうな方に付く。だからまあ、多分マドカちゃんのナノマシン無効化は問題ない。

 

とりあえずこんなところか。

さあ、盛り上がってきたよぉ!




久しぶりの更新故、これまでの設定と食い違う点があるかもです。
そういう事があれば適宜確認次第直していく予定です。

あと、長らく更新出来てなかったにも関わらず感想を書いて下さった方々に深く御礼申し上げます


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レッツゴー整備員

直ぐに呼びましょ


さて、ちっふーが去った後の生徒会室。

これからの行動方針をたっちゃんと共に考える予定なんだが…。

 

今俺は、IZ(アイゼロ)の魔改造計画について考えていた。

そもそもIZにはまだ武装もないし、まだ未完成な訳だが。

元々が古くなった打鉄のニコイチということもあり、ぶっちゃけ装甲も劣化している。あと、IZはガワは古い打鉄、中身もISコアじゃないISコアというだけで、性能が特に良かったりはしない。むしろ悪いまである。

 

ISには自動修復機能があるが、これはラウラみたいに機体がもはや原形を留めていないくらいになれば当然修復出来ない。それに、何度も同じ部位が破損と修復を繰り返すと、当然金属疲労などで耐久性は低下する。

つまり、エネルギーを余計に使うことになったり、攻撃に対する防御性能が問題になる訳だね。

なので、まずは装甲の取っ替え。基本的に古い機体なので、金属部分のだいたいは鋼で出来ている。他にレアメタルを使った超々硬度部品はともかく、鋼の部分は全て炭素鋼に変えてやろうと思う。基本的に炭素鋼(カーボンスチール)にすると、硬度が増す。つまり衝撃にも脆くなる訳だ。

しかし当然、その程度のことは想定済みSA☆

 

ここで登場するのが、カーボンナノチューブ。

こいつの性質を持たせた特殊鋼の炭素鋼にする予定である。こればかりは現代の科学力に感謝だな。ていうか、ルナチタニウム合金とかなくても現代技術って相当なものだよね。人類は皆変態だった…?

 

 

いや、少なくとも俺は変態じゃないからセーフ。多分。

全て篠ノ之束って奴の仕業なんだ!

クッソォ、許せねぇ!

 

武装についてはまあ、以前の主任砲とかビーム砲でいいんじゃない?(適当)

不明なユニットが接続されました。

 

それはさておき。

 

 

「鹿波さん、聞いてるー?」

 

どこかのダメ提督製造機のような口調で口を尖らせたたっちゃんが、あすなろ抱きで甘えてくるので相手することにする。

うーん、それにしても背中が幸せである。

そのバストは豊満であった。タッチャンカワイイヤッター!

これはたっちゃんルート来てますわ…。

俺とお前でオーバーレイ!

 

「ふてくされるぞー…」

 

どこのズイズイかね、君は。

 

しかしまあ、おそらく今度の文化祭ではちっふーに一夏君、マドカちゃんと織斑ブラザーズが集結するんだろうなー。織斑が三体…?ハッ!来るぞ遊馬!

 

「とは言ってもねえ」

 

俺が出来ることってあんまりなくない?俺ってば、ちょっとお金持ってて主要なIS企業の株を持っててアンサートーカー先生に助けて貰ってるだけの、ただのIS学園の整備員よ?

 

「どうせ何か知ってたりするんでしょー?」

 

「知っていることしか知らんよ」

 

マジで。基本的にアンサートーカー先生に何でもかんでも助けて貰うのは俺のポリシーに反するので。でもちょいちょい変な使い方するけど。

 

「個人的には、むしろ現状ではたっちゃんの情報が割と生命線な気がするんだけど」

 

「んー…。そうねぇ…」

 

そう言ってあすなろ抱きからゆるゆると離したたっちゃんは、目をぱちぱちと開けたまま何事か考えているようだった。

 

「たっちゃん今度の襲撃について何か知ってたりしない?」

 

「うーん…」

 

アカン、なにやら長考モードに入っているでござる。あ、虚さん紅茶おかわり。

 

「まぁ、ね…。何も知らない訳じゃないんだけど…」

 

「けど?」

 

「なーんか変な感じがするのよねぇ…」

 

「ほほう。女の勘的な?」

 

「うん」

 

なるほど。じゃあ何かあるな、今度の襲撃。

女の勘は洒落にならないくらい当たるし。まあ、クソウサギこと束が未だにちっふーにISに乗って欲しいと思っているなら、学園最深部にある暮桜(だっけ?)を弄りに学園祭の騒動に紛れて来る、とかやりそう。

マドカちゃんなら…。なんだろう。一夏君を拉致るとか…?でもそれ二回目だぞ?天丼はさすがに…。

あとは…。ううむ、思い付かん。何が出るかな、何が出るかな。ってか。

 

 

「一応私の方でもいろいろ探ってはいるんだけど。あんまり情報が入ってこないのよ」

 

それって普通じゃないの?

 

「だいたいいつもなら、もう少し何かしらあるのよ。襲撃するなら武器や移動手段、移動経路なんかは絶対に必要になるから」

 

ほほうほう。

 

「でも、そういうことが全く出てこないの。これは明らかにおかしいわ」

 

「情報機密度が高いとか?」

 

「うーん、それも可能性としては考えられるけど…。私としては、わざわざ襲撃を二回に分けることが気になるわ」

 

「うん?」

 

どういうこっちゃ。

 

「普通、襲撃するなら一回で目標を達成しようとするでしょ?それが現時点で二回襲撃することが決まっている…。これは明らかに変なのよ」

 

確かに。普通なら一回でいいもんな。

つまり、一回目は囮で、二回目が本命?

 

「もしくは、二回に分けざるを得ない理由があるか、ね」

 

うんむむむ。



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それぞれの思惑

いろいろな視点が入ります


「二連続襲撃計画…か」

 

ぽつり。

他に誰も居ない自分の部屋で独り、今回の襲撃計画について聞いたことを思い出す。

IS学園を二度襲撃し、一度目では織斑一夏の捕獲及びISコアの奪取という二正面作戦。

二度目は各国官邸への襲撃の際の時間稼ぎ。

 

一度目の襲撃では、私は織斑一夏の捕獲のサポートメンバーとして、二度目の襲撃では恐らく出てくるであろう山田真耶及び更識楯無の相手をすることになっている。

作戦目標として、織斑一夏の捕獲よりもISコアを剥離剤(リムーバー)で10個確保する方が優先される。そのため、織斑一夏の捕獲が困難かつISコアの確保が手こずっているようなら、私はそちらへ向かうことになる。

正直、織斑一夏の捕獲よりもそちらの方が気が楽だ。織斑一夏の顔を前にして、殺さずにいられるとは思えない。奴の顔を見ていると、ふつふつと煮えたぎるような殺意が湧き出てくるからだ。スコールとオータムが強襲する手筈になっているらしいが、オータムの奴は脳ミソお花畑(頭がハッピーセット)だからな…。失敗するかもしれん。

 

「とはいえ…」

 

IS学園にはあの妙ちくりんな奴も、世界最強もいる。正直、ボスとやらが考えているように、そううまく事が運ぶとは思えないが…。

まあいい。私は私の考えで動くだけだ。

待っていろよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某食堂。

今日も普段通りになかなかの賑わいを見せているらしく、部屋の外から漏れ聞こえる喧騒を背景に、俺は机の上にある二枚の招待状をにやにやしながら見つめていた。

我らが親友、心の友。一夏の奴が俺と蘭に、学園祭の招待状を出してくれた。

招待状にあるその場所の名前は、かのIS学園。

 

IS学園。

それは美少女達ばかりの桃源郷…。

普段とは違った雰囲気、浮わついた、もとい楽しみな気持ちで積極的になるはずのこの機会…!逃してなるものか!

そう!

俺は!

絶対に!

 

ここで彼女を作るッッッッッ!

 

 

「お兄うるさい!」

 

ドンッ!

 

「おぅっ!?」

 

隣の部屋から飛んでくる妹の声。いつもならここで反射的に謝ってしまうところだが、今日の俺は一味違うぜ?

 

「そんなこと言ってたら、招待状やらないぞ?っと…」

 

言った途端ドタドタドタッ!と足音がしたと思ったらバンッ!と勢いよく俺の部屋のドアが開けられた。

おいおい、もう少し手加減してくれないと壊れるんだけど。壊れたら直すの俺だぞ?しかも叱られるのも俺。理不尽。これが我が家のヒエラルキー。泣ける。

 

「ちょっとお兄、招待状来てたんなら早く言ってよ!」

 

そう言ってツカツカと俺の机に寄って来たと思ったら、むんずと招待状を手に取ってさっさと出ていってしまった。

…うん、こんなことだろうと思ったよ。

でもさぁ、でもさぁ…。

 

もうちょっとくらい、優しくしてくれてもいいんだぜ?(泣)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!見つけたわよ、一夏!」

 

「おう、鈴か」

 

放課後。学園祭の各クラスの出し物が決まって、クラスごとに準備が進められつつある頃。

 

「あんたのところは何やるのよ?」

 

「…喫茶」

 

「へえ、あんたのところも喫茶店なら、ちょうど良いわ。アタシのクラスとあんたのクラス、どっちが売り上げられるか勝負よ!」

 

「…」

 

あれ?なんだか変ね。いつもならここで、

『おう、望むところだ!負けた方が昼飯おごりな!』

とか言ってくるんだけど。なんだか苦虫を噛み潰したような表情してるし。嫌なのかしら?

 

「嫌だったら別にまあ、その、いいケド…」

 

ちょっと前なら、

『はっ、あんたまさか負けるのがこわいの?プークスクス、男のくせにみっともないったらありゃしないわね!』

とか言ってたかもしれないから自重自重。アタシはもう、あんな嫌な奴にはならないって決めたからね。

 

そう思っていると、一夏はハッとした顔で、

「ああ、嫌って訳じゃないんだ。ただ、ちょっとな…」

 

って言ったきりまた黙ってしまった。

もしかして…。

 

「あんた、また何か面倒ごとに巻き込まれてる訳?」

 

「面倒ごとっつうか、何て言うか…」

 

歯切れが悪い。言いたいけど、あんまり言えないような、もどかしいような感じ。

正直気にはなるけど…。

 

「ま、あんたが言えないようなら無理には聞かないわ。その代わり、大変になったら遠慮しないで言うこと。いい?」

 

どうせまた、何か厄介ごとに手を出したりしてるんだろう。だから、アタシはアタシに出来る形で手伝おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サボ島に動き?」

 

『はい。これまでなかなか掴めなかった亡国機業の痕跡ですが、今回ようやく確かな足取りを確認しました』

 

「よくやった、クラリッサ。それで、奴らの動向は」

 

『はい。これまでの調査では、現在は使用されていない廃棄されたアメリカの生物兵器開発基地にて、武器の運び込みが確認されました。特にISの整備環境を整えており、近々襲撃があるのではないかとのことです』

 

「ふむ…」

 

最近はシャルロットの相手をしていたり学園祭の準備で忙しくなってきたこともあり、外の様子がなかなか掴めなかったが…。このタイミングでの報告、さすがはクラリッサというところか。

しかし、シャルロットの奴も遠回りな主張をするものだ。

心配はしてほしい、構ってほしい、でも自分から甘えに行くのは恥ずかしい。

これはあれだな。思春期と呼ばれるものだろう。

普段私達とは普通に会話するくせして、嫁の前だと喋ろうとしなかったり。最近は嫁の元には行かずに、そのくせ私や一夏に嫁の様子を聞いてきたり…。

そんな回りくどいことをせずとも、さっさと嫁の元へ行って構ってほしいと言えば良いのに、と思わずにはいられない。まあ、シャルロットの奴にもいろいろあるのだろうが…。

 

っと、そうだった。今は亡国機業についての対応を考えなければ。

とは言え、現状私が調べられることは圧倒的に少ない。となれば。

 

「わかった。こちらでも、生徒会長や嫁に当たってみよう」

 

『IS学園の生徒会長というと、あの更識楯無ですか』

 

「そうだ。ロシア代表の更識楯無だ」

 

『わかりました』

 

教官…いや、織斑先生は恐らく私が聞いても何も答えてはくれないだろう。私に教えるということは、ドイツ軍に情報をリークすることと同義だからだ。

しかし、何もしない訳にもいかん。なんとなく、胸騒ぎがする。

…何だかんだで嫁が一番現状をよく知っていそうな気がするのは何故だ?



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働ケ!整備員

前回までのあらすじ

学園祭が近づいてきたよ!
マドカ「出番か?」
一夏「そろそろアップしておくか」
弾「彼女ほしい」
鈴「弾は黙ってて」


「嫁よ!」

 

ッパァーン!

と、勢いよく整備庫に飛び込んできたのはご存知ラウラさん。また君か、壊れるなぁ…(扉が)。

しかし今日はいつもと違い、メイド服姿であった。

ああ、そうか。もうそんなところまで進んでたのか。IS学園の学園祭では、たしか一夏君のクラスはご奉仕喫茶か何かを原作でやっていた。シャルロットのメイド姿に前世ではときめいてたなぁ。かわいいよね。

ただ、ラウラがメイド服を着てたのは強盗が入ってきた時くらいしか記憶にないため、こうしてラウラのメイド服姿を見るとなにやら新鮮な感じがするね。

 

「どうしたの」

 

そう声をかけると、うむ、とか頷きながら腕を組むラウラさん。ああ、こうして見ると中身はいつものラウラだなぁと実感するね。主にアホの子的な意味で。

 

「私達のクラスの出し物の試着だ。どうだ嫁よ」

 

「似合ってるよ」

 

そもそも異様なまでに美少女やら美女が集まっているIS学園だ。だいたいの服装は似合うだろうし、ぶっちゃけボロ布被せたところで多分可愛い子ばっかりだしね。

まあそれはそれとして、ラウラの綺麗な銀の髪に落ち着いたメイド服は確かに似合っている。膝あたりまでのスカートではしゃいで回ると見えそうになるだろうと思われるのがちょっとあれだけど。…学園祭当日にローアングルから写真撮ろうとする奴が出てきそうだな。そこらへん、大丈夫なんだろうか。

 

ちなみにちょっと褒めただけでふふんとあんまりない胸を張って得意げになるのを見ると、ちっちゃい子を見ているようでなんだかほっこりする。ああ^~。

 

ラウラの微笑ましい姿を見ているほっこりしていると、不意に真剣な顔つきで近付いてきた。なんぞい。

 

「…学園祭当日には、じっくりと学園祭を楽しむだけの余裕があると良いのだがな」

 

「あー…。まあ、ねえ」

 

そう。学園祭当日には、おそらく襲撃がある。それも、オータムとマドカが来る。…ただ、原作では狙いは一夏君だったけど、実際に関係のある立場になるとちょっち不安ではある。本当に一夏君だけが狙いなのかね?

IS学園はおそらく世界中で最も軍事力の集まっている場所だ。そんな場所に襲撃をかけるだけでもにわかには信じ難いけど、実際にやるならISの一機でも奪いに来そうなものだが。

相手の軍事力を低下させ、こちらの戦力を補充するーーーーー。昔から、敵を仲間にするというのは、ある種最も効果的な侵略方法だ。剥離材(リムーバー)も既に相手方にあることは分かっているし、ISコアを奪いに整備庫に来たりとかしないのかね?

…って考えてから気付いた。

それを政府も警戒して、日本政府からも防衛戦力としてIS部隊から何人かと、自衛隊が派遣されるんだっけか。千冬さんがそんなことを言ってたような気がする。うん。

まあそりゃそうだよね!亡国機業の他にもテロリストとかはいるもんね!

 

 

まあ何にせよ、既にIZ(アイゼロ)の修理(という名の魔改造)は終わった。あとは学園祭までに依頼したIZ用の武装が出来れば良いが…。まあ、いざとなったら汎用武装のロケランとブレード、ハンドガンとショットガン、あとはアサルトライフルくらいを装備しておくくらいか。

いやね。実はですね。

どうにもこうにも、アンサートーカー先生によるとですね。

…バトル展開、来るかもしれないんですなぁ。




お久しぶりです。
なかなか構想がうまくいかず、だいぶん更新に間が空いてしまいました。

…パソコンが深刻なエラーを吐き出したり、(エラーコード80070490)、なんとか自力で直すまでにっちもさっちもいかなくなったりしたことは、まあ、その…ね?
原因のひとつではあるんだけどね?

…おのれウィンドウズ


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片翼のペテン師

お久しぶりです
超絶久しぶり過ぎて忘れ去られているかもですが、思い付いてしまったからには描きます
前回のあらすじ
世界の危機は来月からなので、学園祭前にラウラたんのメイド服に大喜びした鹿波さん。
徹底的にチューンアップしたオリジナルのISみたいなものであるIZと共に、アンサートーカー先生の示すバトル展開に備えよう
鹿波「大喜びした訳じゃないって」


追記
IZに名前を付けるあたりの部分は修正するかもです


やあ皆。おはこんばんにちは。まあ今は休日の午後なんですけどね。つまりんこにちはピー。このネタ分かる人居るのか…?わかったら神。紙でも髪でもない。また髪の話してる…(´・ω・`)

学園祭まで残すところごくわずか。これはつまり、IS学園が襲撃されるまでの時間がほとんどないということでもある。

そしてアンサートーカー先生曰く、バトル展開が来るかもしれないんですなぁ。

…あれ、ヤバくね?

ってことで、マイガレージには今、我が愛機(になる予定)のIZ(アイゼロ)がででんと鎮座している。

見た目はほぼ完全に打鉄そのもの。ちょっと黒っぽいしくすんだ銀色というか、鉄の色してるけど。

しかしてその中身は!

俺が趣味と興味の赴くがままに、カーボン複合材やら特殊な合金やらをやりたい放題に弄りまくった特別機。フルチューンアップした怪物のようなマシンである。ちなみにそれもあって、元々のISにはないオペレーティングシステム(またはオペレーションシステム。つまりOS)を付けてある。これにより、初期状態からでもIZと対話みたいなことが出来る!

…とはいっても、まだIZの自我が育ってないから、答えられるのは感情ではなくジェネレータやらブースターの損傷状況とかになるはずだけど。多分。

ちなみに現時点では武装はゼロ、つまり丸腰。まるごしシンジくん。違う。

とりあえず、学園祭までに近接武器やらなんとかしたいとは思うけど、はてさてどうなることやら。まあ最悪、学園の奴を勝手に使いますけどね!有事であれば仕方ないね。

 

さて、IZに接続したマイパソコンの準備が整うまでしばらく待つ。

というのも、本来であれば初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)には整備士かマニュアルを持った人が必要だったりするのです。一夏君ならちっふーこと千冬ネキ、箒ちゃんならクソウサギこと束である。それを今回は自分一人でIZに初試乗するので、オートで進行させるようなプログラムを組んだ。こういう時、アンサートーカー先生にお世話になってます。だって楽なんだもの…。

 

まだ時間がかかるみたいなので、俺自慢のマイガレージについてさらっと説明をば。

このガレージは、アンサートーカー先生によってお金を荒稼ぎした時に購入した。ちょうどその時は車やバイクのレストア動画にハマっていて(今も好きだが)、いつか俺も初代インプレッサをきっと多分恐らくメイビーするんだ…!って心づもりで買いました。世の中には競売で駐輪場を買う素人さんも居るんだし、多少はね?

っていうか、メイビーするって意味分からんな…。レストアね。レストア。ロマンだよね。ほにゃっとしたポニーテールおじさんではない。ドクターロマンは消えたんや…。

 

で。

このガレージ、田んぼの田みたいに四角い感じで、四つにざっくり分けて広さを考えるとですね。一つの四角に普通乗用車が2台入るか入らないかって程度には広い。

サイコロの一の目みたいに真ん中にでんっと鉄柱があって、高さは二階建ての住宅くらいある。つまりかなりのスペースがある。

久しぶりに来て、俺は思った。

俺は何故ここまでの広さのマイガレージを買ったのか、と…。

そして思い出したんだ。アンサートーカー先生のお墨付きだから買ってしまえ!と、何百人もの諭吉さんとさようならしたことを…。つまりアンサートーカー先生はまさかこうなることを知っていた可能性が微粒子レベルで存在する…!?

 

なんてことをつらつらと考えている間に準備は終了。

さあ、あとはこの鎮座している相棒に座るのみ…!

改めてIZ(この子)を起動させるに当たって、名前を考えてみた。いつまでもIZではさすがにアレかと思って。

で、この子元々は打鉄のニコイチじゃん?つまり古い打鉄。そこで閃いたのが、この名前。

 

古鉄(こてつ)

 

刀にもたしか同じ音の虎徹っていうのがあったはずだし、響きがカッコいい。ちょっとした気がかりとしては、もしIZに性別があったとして女の子だった場合、やや厳つい感じがするかもしれないことかな。

ま、その時はそれはそれ。気にしない方向で行きましょう。

 

さて。

ゆくぞ古鉄。電力の貯蔵は充分か?(確認済)

俺はゆっくりと古鉄に歩み寄り、背中を預けた。

 

…。

 

……。

 

………。

 

あれ?

そう思った瞬間、来た。

 

「ぐっ…!」

 

自分の知らない知識が強制的に脳内にインストールされる感覚。脳に情報が溢れて思わず目眩がする。あれ、俺こうなることを予想してたから脳に情報が流れ込む速度を既定値の半分くらいにしたはずなんですけど!?

 

「のおぉぉぉぉぉ…」

 

それでも二分か、三分か。それくらい経ったころにはもう気分は落ち着き始め、五分もしないうちに気持ちは落ち着いた。やれやれ、ひどい思いをした…。

しっかし、IZのコア作った訳だし、たっちゃんのISの制作も手伝ったしで、結構理解している知識もちらほらあった。その分多少早めに終わったのかね?

 

これで初期化(フォーマット)は終了。

もうこの時点で簡単な移動やオープンチャネル、プライベートチャネルといった通信が出来るはず。といっても、この時点ではたっちゃんとかラウラとかとチャネルを利用したIS同士の(?)通信は出来ないんだけど。

空中に写し出されたディスプレイの画面を見ると、OSのダウンロードが進んでいる。バーの表示は現在34%。…もうしばらくオペレーティングシステムが起動出来るまでかかりそう。

 

そんな訳で、とりあえず動いてみることに。前に軽く飛翔。後ろにバックステッポゥ。右にー、左にー。

…なんか、ガン○ムvsガ○ダムのステップ移動を思い出す。カックンカックン動く。もうちょい慣れれば滑らかな動きも出来そうではあるけど…。これ、歩こうとすると普段と歩幅が違うからむしろ歩きにくいな。30センチくらい宙に浮いたままとかでスィーっと進む方が楽だわ。

 

ちょっと慣れてきたので、軽くジャンプ。ほいよっと。

…着地時にドスン!って音がしてから気付きました。ISつけてるようなもんなんだから、そりゃ重いに決まってるわ…。

幸いにして、ガレージの床にひびが入ったりはしていないみたいだし。もうちょっと気をつけよう。あくまでもここはレストア用のガレージなのです。

…OSは56%。まだかなーまだかなーっと。

暇なので真ん中の鉄柱の周りをくるくると回ってみる。前を見たまま鉄柱の周りを回ると、鉄柱が視界から消えた時にも鉄柱が見えるという変な感覚を覚えた。

あ、これがハイパーセンサーか。なるほど、これは便利。背後すら見えるとは…。

これであなたも気分はゴルゴ。背後に立たれたらパンチ出来る!

え?それでゴルゴは警察のお世話になったことがあるだろうって?細けえこたあいいんだよ!

 

OSの進行具合は82%。おっ、あとちょっとまで来ましたね。

ちなみにオペレーターのボイスには、霞スミカ(CV伊藤美紀)さんのボイスをサンプリングした。選んだ理由は完全に趣味です。

 

まだかなーまだかなー、と一人で鉄柱相手にくるくる周りながら、宙にふよふよ浮いてみたり身体を傾けてみたりしていたら、プライベートチャネルが開いた?うん?

 

『やっほー鹿波ー』

 

「…束か」

 

クソウサギであった。まあ、古鉄を起動させたんだからISコアネットワークには自動で繋がるわな。そしてその生みの親の束が介入出来ない訳はないし。

しっかし、何の用だ?正直、学園祭襲撃までこいつから連絡が来るとは思ってなかったんだが…。

 

『皆のぷりちーアイドル束さんだぜー、ブイッ!

その子、ようやく起動(起こ)したんだ?』

 

「あー、まあな」

 

だって襲われた時に怪我したくないし。

 

『その子を生で見たいなー、って束さんは思う訳だけど?』

 

「断る」

 

絶対弄ることは目に見えてるからな。こいつの場合、何をするか半分読めない部分があるから特に嫌なんだ。

 

『ま、そう言うだろうと思ってー、鹿波が束さんの元に来ざるを得ない状況を作ってあげよう』

 

「…は?」

 

何いってだこいつ。あ、誤字じゃないよ。

…なーんか、嫌な予感がしますぬぇ…!

 

『とりあえずー、良い知らせと悪い知らせ。どっちから聞きたい?』

 

「悪い知らせから」

 

ぶっちゃけこいつの言う『良い知らせ』が、俺にとっての良い知らせだとは思えないんだよなぁ。

つまり、今の質問はこうなる。

悪い知らせともっと悪い知らせ、どっちから聞きたい?

だ。それなら正直どちらから聞いても大差はないから、割とどっちからでも良い、となる訳だな。…けっ。

 

『むむ。悪い知らせからかー…。

じゃ、言うよ?亡国機業(ファントムタスク)と敵対しているいくつかのテロ組織が結託して、亡国機業のボスだと思われる人物を抹殺する計画を立てた。その内容は、亡国機業のトップが乗る旅客機で爆破テロを起こす、と言うものだね』

 

「…!」

 

言葉が出ない。は?

今こいつ、なんて言った?

 

『ちなみに良いニュースは亡国機業のボスの居場所。この航空機に乗っていることは間違いないみたいだね。つまり、ボスらしき人物を消すつもりのテロはちゃんとボスを殺すことが出来る、ってこと。

…さて、鹿波?』

 

「…なんだ」

 

俺は自分の声が震えているのを自覚した。

今聞いたことも割とショックなことだったが。多分。

こいつ()はこれから、もっと重大なことを俺に言う。そんな予感とも知れない確信が、俺の中にはあった。

 

『今からならまだ間に合う。テロ自体は防げないだろうけど、標的を直接的に殺害するんじゃなくて、エンジンや機体の制御システムを破壊し、航空機を墜落させることで標的を消す計画だ。

…もう、分かるかな?』

 

なんでこいつは、そんなことをこんなに楽しそうに言えるんだ。今のはつまり、旅客機の乗客を生かすも殺すも俺次第ーーーーーそう言っているようなものなんだぞ…!

 

「…それで、俺が行かないと言うなんて、これっぽっちも思っていないんだろうが…!」

 

こいつは最初に言った。『束さんの元に来ざるを得ない状況を作ってあげよう』と。

つまり、束はこの事態をなんとかする方法が既にあり、かつ、俺個人の力ではどうすることも出来ないと。そう思っている訳だ。

 

ふふ…。馬鹿め!俺にはこんな時にもバッチリ対応、アンサートーカー先生がいるのだ!

先生!乗客を助けて、かつ、束の思惑通りにいかないためにはどうすればいいですか!

 

答:不可能

 

なんですとー!?




クリスマスプレゼントデース!


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NSL123便

「くそっ…!」

 

とりあえず、アンサートーカー先生に最善の策を聞いたところ、以下のことが分かった。

 

1、たっちゃん、ラウラ、シャルロットと連絡する

2、バイザーを付けて顔を隠し、ローブをIZの上から羽織ることで情報を出来る限り隠す

3、旅客機を支えて日本近海になるべく近付け、救助部隊がすぐに乗客を救助しに来られる位置に不時着水させること

4、不時着水した時に海に潜り、ステルスモードを起動。束の潜水艦に突入すること

 

大体にしてこんな感じである。

束に詳しい話を聞くと、今回の航空機はNSL123便。乗客の数は500名を超える。

日本へ向かう国際線で、ヨーロッパから中国を経由し、日本海側から東京の成田空港へ。到着予定時刻は14時42分。テロの計画では、垂直尾翼を外部から破壊し、補助動力装置、及び油圧操縦システムを喪失させることで航空機を高度10000メートルから不時着させる、ということになっている。

当然、パイロットはどうにか立て直そうとするはずだが、操縦システムがやられるとエンジンコントロールのみでどうにかするしかなくなる。しかし垂直尾翼を破壊する際に圧力隔壁も同時に破壊するように計画しており、圧力隔壁が破壊されれば突然機内が減圧される。

…洒落にならんぞ。

いくら亡国機業のボスを殺すためとはいえ、無実の人々を巻き込んで良い理由にはならない。

で、これをどうにか出来るってんなら、やらない訳にはいかんでしょ。しゃあない。

例え悪党を見逃すことになろうとも、無実の人々を助けよーーーーーってな。

 

という訳で。

携帯電話を手に取ります。

ローブの代わりになるものとバイザーを探しつつ、電話をかけます。

 

数回のコールの後、たっちゃんが電話に出た。

 

『もしもーし?』

 

「楯無、俺だ。悪いが力を貸して欲しい」

 

何せ時間が惜しい。急げ俺…!

 

『…緊急ってことね。オッケー、今どこ?』

 

「俺のガレージだ。場所は××の…」

 

住所を口頭で説明する。若干うろ覚えだが、このガレージの見た目を説明したから多分大丈夫だろう。

 

『…ん、そこならあと10分くらいで行けそうね。すぐに向かうわ』

 

「あ、今どこに居る?」

 

もしも学生寮なら、シャルロットとラウラも連れて来てほしいところだが…!

 

『自宅よ』

 

そううまいことはいかない、か。仕方ない、ラウラとシャルロットが学生寮に居てくれることを祈ろう。今さらながら、ラウラやシャルロットが学生寮に居るとは限らないことに気付いてしまったからな。今日は休日なんだった…!

 

「…そうか、分かった。出来るだけ急いでくれ。人命が懸かってるみたいだからな」

 

そう言うと、たっちゃんからは元気な声が返ってきた。

 

『後でちゃんと詳しく教えてよね!』

 

「無論だ」

 

嫌でも伝えるさ。

通話を切り、ラウラに電話をかける。頼む、繋がってくれよ…!アンサートーカー先生の策だから多分大丈夫だとは思うんだが、こればっかりは感情の問題だ。

 

ラウラはツーコール程度で出た。

 

『嫁か!なんだ、ついに私とーーー』

 

「ラウラ、緊急事態だ。力を貸して欲しい。

今詳しい説明している余裕はない。今すぐに俺のガレージに来てほしい」

 

ラウラが何か言っていたが、まくし立てるように言う。どれだけの時間があるかわからない以上、急げるだけ急ぎたい。

 

『ふむ…、そうか。分かった。

ところでガレージとはどこだ』

 

「場所は…」

 

先ほどと同じやり取りを繰り返す。あとは…そうそう。

 

「ラウラ、今どこに居る」

 

『私か?寮の部屋に居るが』

 

よし。確かラウラとシャルロットは同室だったはず。シャルロットが居てくれれば…!

 

「そこにシャルロットはいるか!?」

 

『…いや、今は居ないが…すぐに戻ってくるはずだ。

シャルロットも連れて行くか?』

 

こういう時、ラウラの軍に居た経験はありがたい。こちらの言いたいことが言葉にしないでも伝わる。

 

「出来れば頼みたい」

 

『良いだろう。詳しい説明は現地で聞くとして、服装、及び必要なものは?』

 

服装?制服でええんやないの?

必要なもの…。やべ、考えてなかった。先生!

 

答:必要に応じて身分を証明するもの

 

「服装は制服でいいはずだ。必要なものは何か身分証明書のようなもの」

 

『了解した。シャルロットと合流次第、すぐにそちらに向かう』

 

そこまで言うと、プッと通話は切られた。

さて、ここからが本番だ…!

日本男児、なめんなよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NSL123便。日本海上空、高度10000メートル。

旅客機のコックピットでは、機長が後部から聞こえた爆発音に眉をひそめていた。

 

「おい、今何か爆発したぞ」

 

「計器確認します」

 

すぐさま副操縦士がオートパイロット(自動操縦)を解除、4つのエンジン、及びランディング・ギアの確認を行った。

 

「エンジン異常なし。ランディング・ギア異常なし」

 

「…他」

 

眉をひそめたまま機長が促すも、他の計器類にも異常は見られない。

 

「…ハイドロプレッシャー(油圧機器の圧力)はどうです」

 

航空機関士がそう声を挙げた。有事の際、問題の特定は生死の明暗を分ける。お互いが自らに落ち着くよう言い聞かせ、重厚な緊張感が張り詰めていた。

 

「…スコーク77(緊急救難信号)」

 

機長が緊急救難信号の無線信号を発する。

しばしの間。

 

『…こちらは福岡ACC』

 

ややノイズ混じりだが、確かな応答。無線は異常なし。

 

「緊急事態発生。着陸許可を」

 

確かな芯を感じさる声で機長が言う。しかし返ってきた答は否。

 

『福岡ACC、NSL123便緊急事態了解。着陸は許可出来ない』

 

「くそ…っ」

 

航空機関士が声にならない声を上げる。

そして悪いことは続く。

 

「おい、マニュアルだ。バンク(傾き)そんなに取るな」

 

機長が副操縦士に声をかけるも、副操縦士は汗で髪を頬に張りつけて厳しい表情で計器を睨んでいる。

 

「おいバンク戻せ」

 

再び声をかける機長。しかし。

 

「戻らない…!」

 

副操縦士の答えは、不可能を告げるものだった。

 

「なに…!」

 

機長の驚きをよそに、航空機関士があることに気付いた。そして、目を見張る。

 

「ハイドロプレッシャーが…!」

 

油圧機器の圧力が異様に低い。これでは操縦システムが…。

そう思った航空機関士がコックピットを振り返ると、機長が副操縦士に何度も繰り返していた。

 

「ディセンド(降下)!ディセンド!

…なぜ降下しないんだ」

 

航空機関士が再びハイドロを見る。

 

「ハイドロプレッシャー、オールロス…!」

 

油圧操縦システムの機能停止を知らせる航空機関士の乾いた声が、コックピットに虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい束!目標は!?」

 

『あと数分もすれば見えるよ。…頑張れば、もう見えるんじゃない?』

 

相変わらずいつもの調子の束をオペレーターに、俺たちは高速飛行していた。

シャルロットはこの休日に高速移動用パッケージの回収が行われるところだったため、今回はそのまま使用している。

 

「…見えてきたぞ」

 

そう言うラウラの言葉に前方を見ると、黒い点が中空に浮いている。あれか…?

 

「…あれ、みたいだね」

 

シャルロットが険しい顔で言う。

さて、見えてきたということは、だ。

 

「よし。ではここからは説明した通りだ。

俺とラウラが胴体。楯無は右翼、シャルロットは左翼を支える。全員プライベートチャネルを繋いだまま、作戦行動に移る。

目的通りに着水まで持っていければ、後は楯無に頼む」

 

俺がそう言うと、三人共頷きを返してくれた。

悪いが頼むぞ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頭(機首)上がってるぞ、頭下げろ!」

 

「今舵いっぱいです!」

 

高度6000メートル付近をフゴイド運動やダッチロールを繰り返しながら、NSL123便は飛行していた。

既に操縦悍からの操作は意味を成さず、ピッチングやヨーイング、ローリングを不安定に繰り返していた。

 

客室では機内の気圧低下を示す警報が絶えず鳴り響き、乗客の不安は増していく。

 

そんな時。

 

「客室の収納スペースが破損しました!」

 

客室乗務員からの知らせがコックピットに響く。このままだと墜ちる…!

そう感じた航空機関士が緊急降下(エマージェンシー・ディセンド)と酸素マスクの着用を提案しようとした。

その時。

 

『あー、あー、てすてす。

こちらは篠ノ之束。こちらは篠ノ之束。

聞こえるかなー?』

 

のほほんとした緊張感の欠片もない声が、無線から響いた。

航空機関士は思った。終わった…。と。

機体は操縦不能、機内の圧力は低下。そしてここにきて無事だと思っていた無線に混線である。そう思うのも無理はない。

これには副操縦士も同じく。

 

しかし、機長は違った。

 

「こちらNSL123便。世界の篠ノ之博士、我々に何か?」

 

はっきりと返す機長のその言葉からは、誠実な冷静さと機長の意地が見てとれた。

 

『もちろん。君たちはこの幸運に感謝したまえ。

…現時点をもって、私とIS操縦者4名がこの機体を不時着させる。

目標地点は東京湾、もしくは相模湾。燃料、及びエンジンに異常は』

 

そんな機長の毅然とした対応になんて興味ないと言わんばかりにつまらなさそうな声が続く。しかしその声とは裏腹に、言葉の内容は機長達に希望を持たせ得るものであった。

 

「燃料、及びエンジンに異常なし。…篠ノ之博士、こんな時に冗談はやめて頂きたい」

 

副操縦士がそう答えるも、航空機関士は気付くーーー。

先ほどまで、あれほど不安定だった機体が安定している…?

機長は既に気づいていたらしく、機長の声はやや明るさを含むものになっていた。

 

「篠ノ之博士に助けて貰うとは…、くく、私達はずいぶんと幸運なパイロットのようですな」

 

『まだこれからだけど…ま、この天才束さんが来たからには安心していーよ。

それより異常箇所をさっさと言って』

 

つん、とした態度かと思えば悪戯する子ども。そうかと思えば興味なさげな冷淡さ。

不安定な人だな、と航空機関士は思った。

なお、副操縦士は操縦悍を握ったまま計器をじっと睨んでいる。どことなくふてくされているようだ。

 

「フッ、これは失礼…。

ハイドロプレッシャーオールロス。アンコントローラブル」

 

『ん、操縦不能ね。後は?』

 

「機内の圧力が下がっている」

 

『オーケ、んじゃ高度を6000から下げながら行こうか』

 

機長と束がやり取りしている間に、再び機内乗務員が来た。

 

「R-3のドアがブロークン(破損)しました!」

 

機体右側中央部のドア、破損。

しかしその知らせを聞いた航空機関士の表情が、先程よりも明らかに落ち着いていることに機内乗務員は気付いた。

 

「R3ブロークン了解」

 

そう返す航空機関士は、落ち着いて機長の背中に言葉を繋ぐ。

 

「R3のドアブロークン、R3のドアブロークン」

 

「R3のドアブロークン了解…。

だ、そうだよ。博士」

 

『ん、じゃあやっぱり高度下げよっか。現在高度知らせ』

 

「現在高度は?」

 

「15000です」

 

不満そうな副操縦士から返ってきた答えは15000フィート。

 

「15000ft」

 

機長が言葉を紡ぐ。

 

『4500メートルか。…3000メートルまで行こう』

 

間髪入れずに返ってきたのは、換算した後のメートル法での高度だった。

機長は気付いた。博士は、私達で遊んでいる…。

 

「…篠ノ之博士は航空機の知識がおありで?」

 

自分の考えと同じ考えを示すノイズ混じりの音声に、機長はふと疑問に思った。

まずは9000フィート。つまり3000メートルまで下げる。

理由は3000メートル程度なら、気圧が下がっても高山病になるかどうかという高さだからである。

そしてIS4機によるサポートがあるのであれば、そこから徐々に低く飛ぶことも難しくはない。

 

そこに副操縦士の声が響く。

 

「…篠ノ之博士、管制局との通信は」

 

そう、今の機体はどこかに必ず着地、または着水する。それだけでなく、その場所に救助部隊が来てもらう必要もある。空港との通信は必須なのだ。

しかし、こと篠ノ之束にそんな常識は通用しない。

 

『こっちから指定の場所に着水させるから救助部隊を手配するように言っておいた。

…ま、君たちのお仕事は、あとは不時着の時に備えて対ショックの姿勢にさせることくらいかな?』

 

 

 

 

 

 

その日、NSL123便は一人の死者を出すこともなく着水した。

その後、勇敢なる4人のIS操縦者達はISの無断使用についての罰が与えられることが決まったが、今回の功罰として実際には打ち消されるようであった。

ちなみに一人は未だに見つかっていない。



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【番外編】鹿波さんと束さんのなぜなにIS講座

※この話は本編とは関係ありません


束「鹿波さんと束さんの!『なぜなにIS講座』~!」

 

鹿波「…なにこれ?」

 

束「はいそれではやってきました『なぜなにIS講座』!

司会進行は皆のアイドル!らぶりー束さん☆と!」

 

鹿波「いやだからなにこれ」

 

束「空気の読めないば鹿波でお送りするよーっ!」

 

ワーッ!

 

束「ふふん、クロちゃんに頼んでおいたオウディエンス(本気の発音)の準備もバッチリ!それでは張り切っていってみよー!」

 

鹿波「…(´・ω・`)」

 

束「このコーナーは、適当に書き始めたこの作品が思いの外反響が来ててびっくりした作者さんが設定を見直しつつ矛盾点の解消のために時間稼ぎをするためのコーナーだよっ!」

 

鹿波「せめて読者の皆さんに少しでも楽しんでもらうための努力と言ってやれ…」

 

束「えー。だってせいぜい暇潰し程度にしかならないに決まってるじゃん。

作者さんは自称豆腐メンタルとか言いながら、やるだけやってもダメならまあ仕方ないよね!とか言って、今日も元気に妄想に励んでいるんでしょ?」

 

鹿波「そりゃまあ突然エルシャダイのあのネタで

『パチィン(指パッチンのあの音)

話をしよう。あれは今から36万…。いや、2万4千年程前だったか。まあいい。

私にとってはつい昨日の出来事だが、君たちにとっても多分…。昨日の出来事だ』

とか考えて10分くらいにやにやしていたらしいしな」

 

束「ね。いい歳して何やってるんだろって話だよね」

 

鹿波「お前その発言はこの世の作家さんを敵に回しかねないから気を付けろ」

 

束「さて、それでは恒例のお便りのコーナー!」

 

鹿波「」

 

束「えー、と。一枚目はこちら!名無しの眼鏡っこさんから!

『以前はちょっとずつ接点があったある男の人が、最近めっきり会えなくなりました。

しかもどうやら、私が昔から劣等感を抱いてきたお姉ちゃんとは仲が良いみたいなんです…。

どうやったら、男の人に眼鏡属性を開眼させることが出来ますか?』

 

うーん…。なかなかハードなのが来ましたね。

でも大丈夫!天才束さんにお任せ!

 

とりあえず、眼鏡属性うんぬんの前に、その男の人にアタックしましょう!

部屋に盗聴器を仕掛けたり、監視カメラやGPSで居場所を特定したりして、その人の生活リズムを一ヶ月分は把握します!そしたら後は夜に忍びこんで既成事実を作るも良し、押し倒すも良ーーーあいたぁっ!」

 

鹿波「なんつーことを言っている、バカウサギ」

 

束「なにおう!これ以上ない正解を言っただけーーーー痛いっ!

に、二度もぶったなぁ!ちーちゃんにもぶたれたのに!」

 

鹿波「当たり前だ阿呆。さっさと次に行け」

 

束「ぶーぶー。(頭ゴシゴシ)

まあいいや!次行くよ。

えー、とある名無しの軍人っ子さんから!

 

『つい先日、気になる男性が出来た。その男性を誘ってお泊まりデートに行き、キスまでしてもらえた。

しかし、そこまでいった関係だというのに、その男性が私を見つめる眼差しがまるで娘を見るような生暖かいものなのだ。

一体これはどうすれば良い?クラリッサは私に何も言ってはくれない。教えてくれ、博士。私達はあと何回デートすれば良い。何回キスすればいい!』

 

えー…。もうこれ半分のろけじゃん…。

恥を知れ、俗物!」

 

鹿波「そこまで言うかお前…。

っていうか、なんかさっきからお便りの内容がピンポイント過ぎない…?」

 

束「束さんを遮るものは何もない!しかも脳波コントロール出来る!」

 

鹿波「バカと天才は紙一重と言うが、ついにイカれたか…。なむなむ」

 

束「ちっがーう!そうじゃないの!

そこは『束さん、ガン○ムにはまったんですか?』って聞くところでしょ!?」

 

鹿波「(笑)」

 

束「馬鹿にしてるでしょ…。ハァ。

ま、いいや。とりあえず、そのちんちくりんな体型をちーちゃんくらいのナイスバディに育ててからね。はい次」

 

鹿波「まだあるのか」

 

束「えーと、とある名無しの世界最強さんか…ら…」

 

鹿波「…ん?」

 

束「『最近、同僚に気になる異性が出来た。これまでは特にこれと言って関わることもなかったのに、気が付けば花見に行ったり呑みに行ったりしている。

ふと気付けば自然と目で追っていたりする。

この気持ちは何なのだろう』

 

…気のせいだから、きっと気にする必要はないね。うん。

それよりも、頼りがいがあって世界一可愛くて天才で細胞レベルでおーばーすぺっくな友人のためにもう一度世界最強に返り咲く準備をしていてくれれば良いかなって」

 

鹿波「本音が駄々漏れだぞ束」

 

束「…うん、これ以上は私が考えたくないから次いこ。次。」

 

束「えーと?とある巨乳の眼鏡教師さんからだね」

 

鹿波「え」

 

束「なになに…。

『最近職場の先輩がある男の人をよく見ています。どことなく上の空でぼーっとしたり、幸せそうに笑ったかと思えば突然焦ったようにわたわたし出したり。そしてまたその男性を目で追って、色っぽい表情をしていたり…。

間違いなく、その男性のことを異性として意識しているのだと思うんですが、憧れの先輩なので応援したいような複雑な気持ちで…。

私はどうすれば良いのでしょう?』

 

知らないから勝手にすれば?」

 

鹿波「いつになく辛辣だな。どうした」

 

束「この先輩(ちーちゃん)に付く悪い虫は全て敵」

 

鹿波「それってこの男性敵にならないか?」

 

束「…(鹿波だから別に良いんだけど、素直にそう言うのも嫌な感じの表情をしている)」

 

鹿波「とりあえず、お前なりになんか考えているのは分かった」

 

束「…じゃ、次行くよ。

とある名無しの学園最強さんから。

『以前私を助けてくれた男性が好きです。その男性とは今も仲が良いと思うし、少なくとも近い距離感だと思うんですが、なかなか手を出してきてくれません。

やっぱりこの女尊男卑の情勢の今、私からアプローチするべきなのでしょうか…。』

 

…。」

 

鹿波「…束?」

 

束「…つも…つも…!」

 

鹿波「(耳を塞ぐ)」

 

束「どいつもこいつも…恋愛相談ばっかりじゃんかーっ!」

 

鹿波「(…そう言えばこいつ、恋愛経験なさそうだよな)」

 

束「何なの君ら!?脳ミソお花畑なの!?揃いも揃って…(ちーちゃん以外)頭がハッピーセットかよぉ!」

 

鹿波「…ん?

束、お前の背中にもハガキくっついてんぞ」

 

束「え、取ってよ」

 

鹿波「ん」ペリッ

 

束「なんて?」

 

鹿波「えー、っと…。

『とある名無しの天災兎』?

『実は私には少し気になる男性が…』」

 

束「わーっ!わーっ!?

鹿波、そのハガキをこっちに渡して!読むなぁ!」

 

鹿波「え、ちょっとお前待て、何だそのドリルみたいな見るからにヤバそうな器具!?

待て、こっち来るな!」

 

束「読んだな、読んだな!?

その記憶を消してやるぅぅぅぅっ!」

 

鹿波「こっち来んなクソウサギィィィッ!」

 

ダダダダダ…

 

 

 

 

 

 

 

 

クロエ「…」ピョコッ

 

クロエ「…」キョロキョロ

 

クロエ「…コホン。

さて皆様、お二人が居なくなってしまったので、これにてなぜなにIS講座、終了です。ほんのりとしたお時間をお届け出来れば幸いです。

束様の背中には、誰がおハガキをくっつけたのでしょうか。ふふっ。

 

それでは皆様、ごきげんよう」



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潜水

もうなんかこれまでの伏線全部回収できるか分からない( ᐢ. ̫ .ᐢ )
ので、矛盾とかあってもとりあえず書く!


「おい、何をぼーっとしている」

 

そう声をかけてきたのは、目の前に座る目付きの悪い、小さなちっふーこと織斑マドカ。魔法少女ではない。マドマギ?知らんな。

周りを見れば、明るく日差しが降り注ぐなか、真昼間からエールや黒ビールを飲むおっさんおば様方が、俺たちと同じようにテラス席のパラソルの下で、俺たちとは違い飲んだくれている。いいなあ。

 

そう、何を隠そう。今俺は、ヴォルフスブルクはドイツに来ている。そこ、またドイツかとか言わない。こっちも来たくて来ている訳ではないのです…。

 

 

 

 

思い返すこと数時間前。

 

NSL123便を救助したは良いものの、IS操縦者として顔を出せる訳ではない俺は、海への逃走を敢行。クソウサギこと束が近くまで来ていたことはアンサートーカー先生で確認していたので、後は束の奴が格納してくれるかどうかが問題だったが、運良くというか束の奴が入れてくれたおかげで難を逃れることが出来た。…まあ、その素直な姿勢に裏がありそうでなんとも不気味ではあるのだが。

そんなこんなで束の潜水艦、というか万能移動式ラボラトリーに入った俺は、IZこと古鉄を解除。通常形態にした。ちなみに古鉄の通常形態は襟章でした。縦長の平行四辺形のなかにダイヤみたいな平行四辺形が入るという、なかなか伝えにくい感じ。でも格好いいから良し。赤地に黒って良くない?

 

そんなとりとめもないことを考えていると、アナウンスが聞こえてきた。

 

『やあ鹿波。いらっしゃい!』

 

「黙れクソウサギ」

 

いらっしゃいも何も、自分から来るように仕向けたのはこいつだ。けっ。…あれ、じゃあ束の奴は何も言わなかったところで中に入れてくれたのでは。心配するだけ無駄だった…?

 

い、いや違うし。べべべべ別にちょっと気にしてただけだし。大丈夫だって分かってましたよええ。…すいません見栄はりました。ちょっと大丈夫か心配してました。

だってこいつ天災じゃん…。絶対何か裏あるよ。

裏なんて無いアルよ?あるんじゃん。

 

『さてさて、とりあえず入っておいでよ』

 

そう言うが早いか、目の前の壁が上下に開き、中に進めるようになった。やれやれ、あんまりこいつの手のひらの上っていうのは好きじゃないんだけどな…。やれやれだぜ。ふー、やれやれ。

やれやれ系主人公は最近どうしているのだろうか。死んだの?

 

「おーす鹿波ー。ひっさしぶりー♪」

 

「死に腐れ」

 

満面の、本当にまさに得意満面と言わんばかりの笑顔があまりにうざったくてつい本音が出てしまった。本当にこいつは人を苛立せる天才かもしれん。爆ぜろ。それか、ここから消えていなくなれ!(カミーユ感)

 

「えー、ひっどいなー。せっかく束さんがいろいろ教えてあげたっていうのにさー」

 

ぶーぶー、なんて口を尖らせる(クソウサギ)だが、お前がそんなことしたところでまったく可愛くないからな。

あ、クロエもいる。久しぶり。

 

「お久しぶりです」

 

そう言って優雅に従者の礼を取るクロエ・クロニクル。うーむ、まさにこいつにはもったいないほどに出来た付き人である。

気が付いたらテーブルに紅茶が2セット置かれているあたり、こいつ、出来る…!な感じである。いい香り。

 

「ちょっと束さんを無視しないでくれないかなー」

 

「息災か?」

 

何か物音がするが意図的に意識しないことにする。

 

「おかげさまで。…そちらもご壮健そうで何よりです」

 

「おう」

 

おしとやかにスカートの両端を軽くつまんで礼をする姿は、どこかの誰かさんに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいに様になっていた。

美少女っていうのはこういうのを言うんだよ。

 

「こらー!無視するなー!」

 

ち。

バカがうるさくなってきたので仕方なく、ほんとーに仕方なく、相手をしてやることにする。

 

「どうした束。カルシウム不足か」

 

こんな((>Д<*))顔しやがって。

 

「いつも紅茶にはミルクをお付けしています」

 

じゃあ違うな。更年期?

 

「二人して私で遊ばないでくれるかなぁ!?」

 

わりとぷんすこ具合がけっこうな感じになってきたので、このあたりでいじるのはやめることにする。残念。

じゃあ、そろそろ本題に入りますか。

 

ため息を一つ。

 

「で。

実際、俺を呼び出した用件は何だ。あんな七面倒な真似までして」

 

「あー、うん。用件は二つ…いや三つかな?

一つ目はマドカちゃんね。あの子のナノマシンは束さんが無効化しておいたよってこと。

二つ目は亡国機業の襲撃計画とその対応のお願い。

三つめは内緒」

 

そういってパッチン☆とウインクしてくる変態科学者うさたん。

...ウサギに失礼なので普通に束と呼ぼう。うん。

 

「さすがに仕事早いな...。で、内緒ってなんだ」

 

「内緒は内緒だぜ」

 

そのニヤケ顔を今すぐにでも崩れさせたい。

 

ところでアンサートーカー先生、こいつの三つめって?

 

『あなたがIS学園を離れること及びある計画の詳細調査』

 

...またぞろいらんこと考えてるのかね。

まあいい。

それに、ある計画…ね。

 

「ちなみにIZ完成したぞ。名前は古鉄」

 

「鹿波が私に名前を付けさせてくれるって言ってたのをガン無視してもうその子に名前を付けてるとかふざけんなおらー!」

 

開口一番叱られた。

 

「だが謝らない!それが俺だ」

 

「性欲をもて余す?」

 

どこかの蛇さんじゃあるまいし。

ただまあ。

 

「あんな風にやりたい放題された意趣返しと思いねえ」

 

そう言うと、うぐ、と言わんばかりに表情をひきつらせた。わざとらしい。

 

「…だってしょうがないじゃん」

 

知らんがな。

 

「俺はあんな風にステルスも無しで飛び出したくなかったんだけどなー、否応なしに有名になって辛い思いをしたことある奴が俺の目の前に居ると思ってたのになー」

 

「だが謝らないっ!」

 

うぜえ。こいつ…!

 

と思っていると、とはいえ、と呟いてあごに人差し指を当てながらうーん、と唸りだした。あざとい。

 

「…んー、じゃあお詫びというのも何だけど。何か一つだけ欲しいものを準備したげる」

 

「ほう?」

 

一つとはいえ、こいつが準備出来るものと言えば相当色々ある。どうするか…。あ。

 

「あ、でも無理なものは無理だからね?」

 

「例えば何だ?」

 

こいつに無理なこととかあるのか。

 

「人を生き返らせる道具とか」

 

「…まあ、頼みゃしねえよ。そんなん」

 

やけに真摯な表情をして言われると、茶化して返すことも出来ない。ま、そんなもの、仮に出来ても要らないけどな。

 

「イメージインターフェース。出来るか」

 

「どんなやつ?」

 

どんな、か。そうだな。

 

「人間の脳の一部思考領域を機器に接続するようなやつだな」

 

「うーん、出来るかと言われれば出来るけど。何に使うのそれ?」

 

まあ、気になるわな。

俺の予定では、恐らくアンサートーカー先生という"異能"は、脳の思考領域のどこかに格納されている。で、それとIS…まあ、古鉄はIZだが、繋げることが出来れば、戦闘に関してはほぼ安心だろう。

それ以外でも、頭の中でイメージした音楽をアウトプットしたり、脳内のイメージを画像や動画でアウトプット出来れば、非常に面白い。

音楽作りが簡単になるし、何よりも専門知識や機材が不要というのはやはり大きい。

…売り物にしたらめっちゃ儲かりそう。

 

「ま、とりあえずくれ」

 

「…まあ良いけどさー。あ、後で古鉄ちゃん見せてね」

 

「はいはい」

 

そんなことを話ながら、俺たちは束の作業場に歩いて向かった。

 




長くなったので分割


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