「はぁー…。ダリィ…。上の学年も居なくなったかー…。チッ。辞めどきかネェ…。」
灰崎は授業をサボって屋上で寝転がり、そんなことを呟きながら1日を過ごして居た。黄瀬に負けた日から、ごく稀にしか顔を出していなかったバスケ部には全く行かなくなっていた。
「あれ?バスケ辞めちゃうんですか?それは困ったなー…。」
「ァン?」
誰も居ないはずの屋上で声が聞こえ、灰崎は寝転がったまま目だけを声のする方へ向けた。
(女…?ちげぇな、男用の制服か。身長は175cm無いくらいか。珍しい容姿をしてやがる。髪も肌も真っ白だな。髪の長さは肩口。やっぱり女にしか見えねえ。いや、んなことより…。)
「テメェ、帝光中か?中坊が何でこんなとこにいんだよ。」
灰崎は上体を起こして足を組み、怪訝そうな顔をで、かつて自分も着ていた帝光中の制服を着た相手を見た。
「ちょっと、睨むのは辞めてくださいよ。灰崎さん。今日は学校見学の日ですよ?自分の志望校ぐらい見に行くでしょう?」
「チッ、ならとっとと見学に行けよ。屋上なんかに用はねぇだろうが。」
灰崎は再び寝転がり、もう話は終わった、と言うふうに、目を閉じて寝る体勢に入った。
「屋上に用があって来たんじゃありませんよ。貴方に用があったんです。」
「ハァ?俺に?悪いが男は抱けねえぜ。」
帝光中の少年は一瞬だけキョトンとし、少し頬を緩めた。
「フフフ。そうですか。まぁ、それについては追い追い話すとして、今はその話じゃありません。灰崎さん。バスケ部辞めちゃうんですか?」
「否定しろや…。俺がどうしようとオメェには関係ねぇだろうが。」
灰崎は身体を起こすと、鬱陶しそうに帝光中の男子生徒を見て、その横を通り過ぎようとする。
「いえ、関係ありますよ。僕、来年ここに入学して、バスケ部に入る予定なんですけど、灰崎さんが居ないとキセキの世代を倒せないじゃないですか。まぁ、それも二番煎じですけど。」
「アァ?キセキの世代を倒すだァ?テメェ如きじゃアイツらはやれねぇよ。」
「あれ?見てもないのに随分なこと言ってくれますね。僕も一年の頃からバスケ部で貴方たちのことを見ていたし、高校入ってからの試合も見に行っていたからよく知っているつもりですよ。」
「一年の頃…?俺はお前なんか見たことねぇぞ。」
「そりゃ僕が三軍に居たからじゃないですか?」
「ハァ?ククク…ヒャハハハハハ!!テメェ、そんなんでアイツらを倒すとか言ってんのかよ。」
「僕1人ではキツイですよ。だから貴方も必要だと言っているんじゃないですか。」
「うるせぇんだよ。」
「ん?」
灰崎は立ち上がり、少年の元へ行き、胸倉を掴んだ。
「そんな熱血は他所でやれ。ウゼェんだよ。」
灰崎は少年を壁に向かって押し退けると、そのまま階段を降りていった。
「やれやれ、やっぱり扱い辛いなぁ…。」
少年の言葉は誰の耳にも入らず、そのまま消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「チッ、さっきのガキは何だ?くそったれ。」
灰崎は人のいない場所を探す為に廊下を徘徊していた。
「体育館は空いてるっぽいな。あそこで良いか。」
灰崎は体育館を目指して歩く。しかし、他のクラスは授業中のため、人目につかないよう校舎から外へ出て、遠回りをして体育館に向かった。灰崎が体育館に到着すると、そこには、先ほどの少年が、バスケットボールを持って立っていた
「テメェ…。」
「だからそんなに怒らないでくださいよー。ただ貴方とバスケがしたいだけなんですから。」
少年は持っていたボールを灰崎に向かって投げ、灰崎がそれをキャッチした。
「しましょうよ。1on1。暇でしょう?」
「チッ、テメェみてぇな雑魚が相手になるわけねぇだろう。弁えろよ。」
「それは僕から点を取ってから言ってください。」
「…舐めやがって。」
灰崎は受けたボールを地面に向けてバウンドさせる。
「格の違いを見せてやるよ。」
灰崎は親指をペロリと舐め、ゆっくりと少年に向かって行く。
(やっぱり凄い迫力だなぁ。それに隙がない。)
2mの距離になると、灰崎はボールを左右につき、少年を翻弄する。
「
灰崎は爆発的に加速し、少年の左手側へ抜きにかかる。
(速い…!が…。ついていける!)
少年は灰崎の動きについて行き、2人がゴールに向かって横並びになる。
(へぇ…。このガキ…。確かに口だけじゃねぇな。足を痛めてたとはいえ、完全模倣を使う前のリョータを振り切った時と同じぐらいのスピードを出してるつもりなんだがな。…まぁ、今はアップしてねえしそれほど出てねえだろうが、それはコイツも同じことだ。だが…。)
灰崎はそこから右斜めに向かって進む。
(ゴールから離れた。そこからロールで内側に切り込むつもりですかね?それとも緩急を使って僕を振り切ってからドライブしてくるか…。この人の性格上、1on1で外から打つことはないと思うけど…。)
灰崎はそこから急停止し、ロールを決めながら内へと切り込んだ。
(やはりそうきたか!だけど行かせない!)
少年は灰崎の進行方向へと入る。しかし
「甘えんだよ!」
「っ!レッグスルー!」
灰崎はロールで切り返した後、フェイクを入れてレッグスルーで切り返し、少年のバランスを崩した。
(今の爆発的な加速力、トップスピード、減速力。キセキの世代ほぼ遜色ない。いや、このドリブルなら寧ろ抜けてもおかしくない。)
「ケッ、こんなもんかよ。終わりだ。」
灰崎はダンクをしようと飛び上がる。が、
「まだですよっ!!」
少年もすぐに体勢を立て直し、ブロックをする。
(このガキ、なんて跳躍力だ。そんなに高く飛んでねえとはいえ。つーかこのガキ、この俺と力勝負だと?舐めるな…っ!?何だこの力は!?)
少年は手首を返すと、軽々とボールを弾いた。
「アァ?」
ボールは灰崎の手から離れ、壁に転がっていった。
「テメェ…。どこにそんな力を隠してやがる。」
「どこにって言われても、手首ですけど。」
「チッ、この俺がパワー負けだと?ふざけやがって。」
「仕方ないじゃないですか。赤司さんの天帝の眼対策に必要だったんですから。少し卑怯ですけど、この腕のサポーターもね。」
「どう言う事だ?」
「それを言うには少しお願いがあるんですけど。」
「ハァ?俺が答えろって言ってんだろうが。答えろよ。」
「だから、その代わりにお願いしたいことがあるんですって。」
「…チッ。んだよ?」
「春まで待てないので、できるだけ早く僕をここの部活に参加できるようにしてください。推薦で決まっているし、部活見学も認められているそうなので問題ないはずです。」
「ハァ?だったらテメェが行けよ。何でいちいちテメェ1人で出来ることをこの俺が手伝わなきゃ何ねえんだ?」
「簡単な事ですよ。僕一人で行ったら舐められちゃうでしょう?ほら、僕って女の子に負けないくらい美人だし。だけど、貴方からの紹介なら別です。それなりの地位が初めから手に入る。どっちも結果は同じだとしても、過程が違う。ならより早く確実に出来る方を選んだだけです。それに…実力は見せたでしょう?」
「…ふざけた野郎だ。俺が呆れるなんて相当な奴だぜ。」
「ありがとうございます!では早速今日からお願いしますね。放課後また体育館に来ます。」
少年は灰崎にそう言い残すと、そのまま荷物を持って体育館を去った。
「チッ、気に食わねえ野郎だ。つーか、あいつの名前知らねえや。まぁ、いいか。」
キーンコーンカーンコーン
「昼か。あのハゲが新キャプテンだったな。」
灰崎は2年の教室に向かって歩き出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガラガラ
「おい、あれ。灰崎って奴じゃねえか?」
「うわ、マジだ。何で一年のあいつが2年の教室に来るんだよ?」
「俺が知るわけねえだろ。」
ザワザワ ザワザワ
(チッ、うるせえカスどもだ。あそこか…。)
「おい。」
「な、何だ?灰崎。」
「ちょっと来い。」
灰崎は、福田総合高校バスケ部新キャプテンの望月和宏を呼び出した。二人は教室を出て、階段の踊り場へと向かった。
「それで…何の用なんだ?灰崎。」
「…今日から。推薦でここの入学が決まってる中坊を一人連れてく。練習参加させろ。」
「中学生?誰なんだそいつは?」
「帝光中の奴だ。名前は知らね。今日来るっつーから。それじゃあな。顧問に言っとけよ。」
灰崎はそれだけ言うと、屋上へと戻って行った。
「帝光中…。また帝光中か…。」
望月は胃をさすりながら教室へと戻って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「初めまして、今日から部活に参加させてもらいます。
少年もとい白木 湊が挨拶を済ませると、部員たちが小声でヒソヒソと話す。
「あいつ男?だよな。女みてえだな。」
「おい、あいつ灰崎の知り合いらしいぞ。あんまりそういうこと言わねえ方がいい。」
「マジかよ…。でも肝心の灰崎が居なくねえか?」
「いつものことだろ。いる方が珍しいっての。」
すると、スキンヘッドの男が白木の前に出る。
「あ、あぁ。よろしく頼む。俺はキャプテンの望月 和宏だ。わからないことがあったら気軽に聞いてくれ。」
「はい、よろしくお願いしますね!キャプテン!では、早速お願いがあるんですけど良いですか?」
「ん、なんだ?」
「今日は僕の実力を見て欲しいので、ゲームを沢山しましょう。」
「あぁ、そうだな。じゃあ早速アップをしてゲーム準備をしよう。」
望月がそう言うと、部員たちが返事をして動き始めた。
「あと、キャプテン。灰崎さんはそんなに練習に出てないんですか?」
「あぁ、月に2度くれば良い方だ。それに、来たとしても隅で女とイチャついてるだけだが。」
(うわぁ…前々から思ってたけどクズだなぁあの人…。)
「そうだったんですか。では灰崎さんを呼んで来ます。校内に残っていると思うので。」
「お、おい!」
白木はそのまま体育館を出て行った。
(確かに、西校舎に空き教室が沢山あったはず…。女の子とイチャイチャするなら屋上よりも空き教室だよね。)
白木は西校舎まで行き、一階から順に空き教室を1つ1つ調べて行った。
「あ、いた。」
教室の中を覗くと、灰崎が、一人の女を膝に乗せ、服の中に手を入れていた。
(ヤダなぁ…。こういう空気の中に入るのは。)
白木はうんざりしながらも、教室のドアを開け、中へと入って行った。
「灰崎さん。誰ですかその女。」
「え?」
「アァ?」
「灰崎さん。やっぱり浮気してたんですね。酷いです……うっ…ヒック…。」
白木は両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。
「ちょ、待てテメェ。」
「灰崎君。どういうこと?彼女いないんじゃなかったの?」
「ちょっと待て!あいつは…!」
「さようなら。貴女もごめんなさいね。」
女はそう言うと荷物をさっさとまとめて教室を出て行ってしまった。
「テメェ…。よっぽど殺されたいらしいなぁ。」
灰崎は座っていた椅子から立ち上がり、白木の前に立った。
「後でちゃんと弁解しておきますよ。それよりもなんで部活に来ないんですか?貴方がいないと意味ないって行ってるじゃないですか。」
「ハァ?何でテメェに命令されて行かなきゃなんねえんだよ?」
「別に命令なんてしてないですよ。それに、灰崎さん。バスケ嫌いじゃないんでしょう?」
「……つくづく訳の分からねえ野郎だな。何を勘違いしてるのか知らねえが、中学の頃辞めたのは嫌いになったからだ。高校になって始めたのは俺が辞めてからキセキの世代だの何だのって騒がれ始めたからそれを奪ってやろうと思っただけだ。」
「なら、どうして黄瀬さんとの試合の後、バッシュ捨てるよ辞めたんですか?」
「……テメェ。」
灰崎はここに来て怒りから別の感情が顔に見え始めた。
「怖いから睨まないでください。それにその前。青峰さんに殴られた後、どうしてすぐに起き上がって殴り返さなかったんですか?貴方がパンチ一撃で伸びる程貧弱じゃないのはよく知っていますよ。」
「目障りだ。失せろ。」
灰崎は白木の横を通り抜け、教室から出ようとする。
「やりましょうよバスケ。」
「テメェ…。テツヤみてえだな。いちいちうぜえんだよ。」
「黒子先輩は僕の師ですからね。あっちは別に何かしたとは思ってないと思いますが。黒子先輩とあってから2年間。彼から諦めない姿勢を教わりました。だから、キセキの世代に勝つことも諦めないし、貴方と一緒にバスケをすることも諦めません。」
灰崎と白木は数秒の間見つめ合うと、灰崎が目を逸らして額に手をやった。
「俺を怒らせて過ぎて呆れさした奴はお前が初めてだわ。マジで。」
「じゃあ、行きましょうよ。暇でしょう?」
「…チッ。足引っ張ったら殺すからな。」
「はい♫」
「あと、さっきの女に弁解しとけよ。」
「あぁ。はいはい。」
「それとテメェの名前は何だ?」
「僕はさ白木 湊です。シロちゃんって呼んでね☆」
「黙れカス。」
「酷い!」
二人はそのまま体育館へと向かっていった。
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第2Q
「キャプテーン!灰崎さん連れて来ましたー!」
白木は灰崎と共に体育館へ入った。すると部員たち一瞬シンとなり、そこら中からざわめきが聞こえた。
「お、おう。ご苦労。灰崎。今日は白木の実力を見るためにゲームをするから準備をしてくれ。」
望月が灰崎に声を掛けると、灰崎は馬鹿にした表情で望月を見た。
「ハァ?うるせえんだよハゲ。指図すんな。」
「はぁ……。灰崎さん…先輩は敬いましょうよ。」
白木はキャプテンが蔑ろにされているのを見て、溜息を吐きながら注意した。
「テメェも、ごちゃごちゃうるせえよ。」
「本当に問題児ですね。灰崎さんは。そうだ、アップがてらにもう一回1on1しましょうよ。僕まだ攻めてないですし。」
「テメェ…調子に乗んなよ?」
白木は灰崎にパスを出し、もう一度受けた。
「おい、何か急に始まったぞ。」
「いきなりあの灰崎とやる気かよ。今年の…いや、来年の後輩は勇気あんなぁ…。」
「どうせ負けんだろ。」
部員たちは口々に言葉を吐くが、対面している二人の耳には入っていなかった。
(灰崎さんの身体能力の高さは確かに脅威。だけど、僕だって歯が立たないわけじゃない。)
白木は右へ左へ、前へ後ろへとボールを動かして灰崎を揺さぶる。
(へぇ、ドリブルスキルも中々なもんだァ…。さて、どう来るか…。右か左か。それとも意表をついてシュートか。こいつのスピードがさっき昼前にやった程度なら。この俺が付いていけないわけがねえ。シュートだとしても、俺の方が高い。見せてみろよ…テメェの技。俺が奪ってやるよ。)
(さて、先ずはクロスオーバーからの……。)
「右へ行った!!」
白木は右へ高速で動く。
(アァ?さっきより速えな……が、まだまだだな。)
部員たちも白木の速さに驚き、声をあげる。
「凄え速さだ!でもやっぱり灰崎も付いて行ってるぞ!」
(やっぱり速度の布石は効果なしか。残念。だけど、まだだ!)
「そこからターン!だけど、灰崎は振り切れてない!」
「おいおい、あんまりガッカリさせんなよ。攻めあぐねてんじゃねえぞ!」
「おっと、危ない危ない。」
白木は一度引き、体勢を立て直した。
「確かに速え。が、俺ほどじゃねえ。それに加えて、加速力も減速力もイマイチ。正直、アイツら相手じゃお前は役立たずだな。」
「そういうのはこれ見てから言ってくださいよ!」
「おぉ!白木のやつ仕掛けた!」
白木は灰崎に向かっていき、距離を詰めた。
(アン?今度は何するつもりだ?)
白木は再びボールを左右に動かし揺さぶる。
(さっきよりもボールが速え。手は出せねえな。クロスオーバーから左、そこから右へターン。そして…バックビハインドか!)
白木は右へ行くと見せかけてからボールを背面にやって、左へ切り替えそうとする。
(甘え甘え、甘すぎる。確かにあの高速クロスオーバーからのバックビハインドは少し驚いたが、切り替えしから全くスピードに乗れてねえ。取れる!!)
灰崎はボールの出所にスティールしに行った。しかし
ダン!
(なんだァ!?)
灰崎の予想を裏切り、ボールは白木の左側ではなく、右側へ出て行った。
(アァ?何をした?今間違いなくバックビハインドで右から左へ切り替えして行くはずだった。なのに、何で切り返したはずのはボールが右にある?しかもそれだけじゃねえ…。ボールがコイツの背面から加速して出て来やがっただと!?)
白木は灰崎の逆を取り、そのままゴールに向かってジャンプした。
「おい!あいつ、あの持ち方!」
「嘘だろ!あの身長でダンクする気かよ!」
白木は大きくボールを振りかぶるような体勢でゴールへ向かう。
「行かせるわけ…ねぇだろうが!!!」
「灰崎も速い!バランスを崩してたのに、もう追いついたぞ!」
灰崎はブロックのために白木の前に回り込み高くジャンプした。
「僕が貴方の実力を見誤るわけないでしょう。予想してましたよ。貴方が追いつくことを。」
白木はそう言うと、高く持っていたボールを引き戻した。
「ダブルクラッチ…だとォ!」
白木は体を捻って灰崎をかわし、高くボールを上に放る。
パサッ
ボールは綺麗にリングに触れることなく入って行った。
「スゲェ…。あの灰崎が…。」
「負けたのか……。」
「まさか灰崎と同等…?」
部員たちがザワザワと騒ぎ始める。
「テメェ…。何しやがった。バックビハインドからのインサイドアウトか…だが、それには腕の位置に納得がいかねえ。あそこまで腕を伸ばしてインサイドアウトが出来るわけねえ。それに加速して出てきたボールも変だ。」
「それはですねぇ…。エラシコって知ってますか?サッカーのドリブルスキルなんですけどね。今時じゃ、ネイマールやらクリスティアーノ・ロナウドやら結構な数の選手が使ってますけど、一昔前じゃ物凄いテクニックだったんですよ?ロナウジーニョって選手がよく使ってましたね。」
「エラシコ…だと?」
「結構難しいんですよ、バックビハインド中にやるのは。左に向かって掌から押し出す最中に手の甲にチェンジして右へ押し出す。その為には手首に良い感じでスナップを効かせなきゃならないですし、滑らかにするためにボールから手が離れないようにしないといけないし、そこからさらに加速させるには相当の手首の力が必要ですから。これは体の関節や筋肉の微妙な動きを察知して先を読む赤司さん。見ただけで模倣し、自分の技術にする黄瀬さん。そして、技を奪い、自分の物にする灰崎さんの3人への対策です。3人とも共通してるのは、見ること。それをさせないために考えた技です。まぁ、圧倒的なリーチと反射神経を持つ紫原さんとそれをコピーした完全模倣状態の黄瀬さんには止められるかもしれないですね。それに、灰崎さんに追いつかれたと言うことは。キセキの世代最速の青峰さんとノってきた火神さん相手には効果がない。まぁ、緑間さんには辛うじて使えるかって感じですかね。それで、貴方が僕のしたことを見抜けなかったということは、黄瀬さんにも通じるということが証明出来ました。」
「成る程ねェ…。単なる雑魚じゃねえのは理解したわ。だが…まさかそれだけなんてことは言わねえよなぁ?」
「ええ、これから先はゲームで披露しますよ。」
白木は再びボールを持ってアップに入った。しばらくしてから、皆の準備が済み、チーム分けがされる。
「それじゃあチーム分けをする。Aチームはこの前の練習試合の時の時のスターティングメンバーで。Bチームは、C 及川。SF 赤山。PF 能登。SG 兼山。PG 白木。今読んだチームは赤のビブスを着てくれ。」
Bチームのメンバー達はビブスを着て、お互いにコミュニケーションをとった。
「自己紹介するぜ。俺は赤山聡太。こいつは及川照史だ。こっちが能登康平でこっちが兼山悟。俺たちは2年だ。それで…お前、本当に男?結構疑わしいんだけど?」
(及川さんは身長約189cm。能登さんは185。赤山さんと兼山さんは182。ってとこかな。みんな結構高身長だなぁ…。僕がちいさいみたいじゃないか。)
「ハハ。よく言われます。僕は美人ですから。」
「すごい自信だな。」
「まぁ、それほどでもありますね。それで…どうしましょうか。あっちの人達中々強そうですね。」
「念のために言っとくけど俺たちはベンチメンバー。あっちの5人はレギュラーだ。俺らにもそれぞれ特技がある。まぁ、地力はあっちの方が上だが、勝負にならないほどじゃない。灰崎以外はな。」
「頼りにしてます。ですけど、厄介だなぁ。灰崎さん。同じチームにしてくれても良いのに。」
「おいおい、それじゃあその相手が困っちまうよ。」
赤山は朗らかに笑う。すると及川が白木に話しかけた。
「それにしてもお前。よく灰崎と普通に接しられるな。俺たちの言うことは全く聞かないんだぞ?あいつは。な?能登。」
「及川はあいつに話しかけたことないだろ。俺は一回殴られかけたぞ。それに、あいつのせいで部の雰囲気も変わったしな。それについては少し気にくわない。」
「能登の意見には賛成だ。俺あいつのこと嫌いだし。」
兼山はそう言うと、こちらを見下しているように笑う灰崎をみた。
「まぁまぁ。落ち着いてください。それよりも、デフェンスの時のマークの話なんですけど…。」
「お前が灰崎につくんだろ?わかってるって。俺たちじゃ手も足も出ねえもんな。頼む。」
「はい、お任せを。」
話がまとまったところで、審判役の部員から集合がかかり、早速ジャンプボールを始める。
「じゃあ及川さん。よろしくお願いしますね。」
「あぁ、なんとか取るよ。」
及川と相手のレギュラーが向かい合う。そして、審判からボールが大きく上にあげた。すると、相手は飛ばずに自分のコートへと戻った。
「ん?」
「なんだ?」
及川はボールを白木の元へ出すと、皆がその行動を不思議に思っていると、灰崎が声をかけて来た。
「先手はくれてやるよ。」
灰崎を中心にディフェンスが組まれ、既に守りの体制に入っていた。
「優しいですね。灰崎さん。」
「良いからとっととこいよ。」
「はいはいっ!」
白木はスピードを上げて灰崎に突っ込んでいく。
「おい!待て白木!」
兼山の声を無視し、白木は灰崎に1on1を仕掛けた。
「く、この状態で仕掛けるのは無茶だ。」
能登は白木のフォローのために動き出した。白木は先程とは考えられないほどアッサリ灰崎にボールを取られた。白木はすぐに戻り、灰崎の前に立つ。
「……。」
灰崎は何も言わずに白木と対面していた。
「どうしたんですか?灰崎さん。黙ってるだなんて貴方らしくもない。」
「うるせぇよ。あんまり気ィ抜くんじゃねえぞ。」
灰崎な白木をかわしてドリブルで持っていく。
「おい、さっきと灰崎との1on1はなんだったんだよ!やけに簡単にターンオーバーされたぞ。」
兼山の言葉に、赤山が反応した。
「まだ中学生なんだ。技術で灰崎とやり合えてるだけでも相当だ。俺ら全員一点特化型のロールプレイヤーだろ。足りないところはお互いに助け合えばいいさ。」
赤山がそう言うと、他の3人も頷いた。兼山はダッシュで戻ると、灰崎の前に立つ。
「アァ?そんなカスみてえなディフェンスで止められるわけねぇだろ!オラァ!」
灰崎は兼山をスルリとかわすと、そのままシュートへと持ち込んだ。
「まだだぁ!」
ヘルプに入った及川が灰崎のシュートをブロックするために大きく飛び上がった。
「ハッ。雑魚が。テメェじゃ相手になんねえんだよ!」
「これは、さっきの白木のダブルクラッチ!」
灰崎は先程の白木と同じようにダブルクラッチを決めた。白木はそれを見て苦笑しながら溜息をついた。
「はぁ…。酷いなぁ。もうこの試合じゃあれ使えないよ。」
灰崎はディフェンスに戻る途中で白木に近付く。
「本気で来いよ。んなもんじゃねえだろ。」
「はい。わかっていますよ。」
白木は及川からボールを受け、相手コートまでゆっくりとボールを持っていく。先程の無謀なプレーとは違い、慎重に上がってきた。
「先程とは打って変わって、今度はスローペースできたな。」
望月がそう呟くと、それに灰崎が反応した。
「ありゃ、わざと俺にとられたんだよ。」
「わざと?」
「あのガキが俺と1on1で張り合えるとわかってか何だか知らねえが、他の四人の気が明らかに抜けてた。つまり、白木の野郎は自分頼りのプレーをさせねえためにわざとミスして他の奴らの気を引き締めたんだよ。」
「そんなことが…。」
「やっぱりな。あいつの行動の節々に赤司っぽさを感じるぜ。だから気に食わねえ…。」
「灰崎…。」
「足引っ張んじゃねぇーぞハゲ。」
白木に対面する灰崎。白木は外に向かってドリブルし、灰崎を引きつける。
(チッ、こいつ。俺をサイドに引きつけて他のプレイヤーを活かすつもりか。だがらといって、俺がこいつのマークを外せば、シュートしに来るだけだ…。なら、パス出される前にとってやるよ。)
(く、プレッシャー凄いな…。まぁでも、関係無いし。)
ヒュッ!
「…あぁ?」
「え?」
ボールが突然白木の元から、中にいる及川に渡った。及川は突然ボールが来たことに驚き硬直したが、すぐにシュートに持って行き、ゴールを決めた。そして、硬直していた他の部員達も我に帰った。
「…なんだ?今ボールが突然及川のとこに飛んでいったぞ。」
灰崎も硬直が解け、白木の方を見た。
「テメェの異常な手首の強さはさっきのわけのわかんねえ技の為じゃなく、その為か。」
「当然ハンドエラシコの為だけに手首をそこまで鍛えるはずないじゃ無いですか。僕は元々ノーモーションでパスを出せるのが売りなんですよ。キセキの世代。特に赤司さんの天帝の眼の対策としてこのプレースタイルを確立させました。手首だけを動かしてパスを出す、そして、手首を動かすときに動く筋肉の部分はリストバンドで隠す。これで完璧。」
「セコイなお前。」
「ありがとうございます。それに、これは黄瀬さんも真似できないですから。」
「へぇ…。随分と自信ありげに言うじゃねえか。」
「それは勿論。黄瀬さんは自分の身体能力を超えた技は他の何かによって代わりをしています。青峰さんのチェンジオブペースは最高速度が及ばない分、最低速度を落として緩急をつけた。緑間さんの場合は遠くまでシュートを飛ばすために溜めを長くした。紫原さんの場合は、足りないリーチを予測とジャンプ力でカバー。赤司さんの天帝の眼は今までの経験と、コピーで培った観察眼で補った。だけど僕のパスは文字通り手首だけ、カバーのしようがありません。どうしたって無理ですよ。」
「…チッ。面倒だ。今日はもう帰るわ。」
灰崎はゼッケンを脱いでそこら辺に放り投げると、荷物をまとめ始める。
「お、おい。灰崎。」
望月が灰崎を呼び止めようとする。
「うっせーよハゲ。次回からは真面目に来てやるよ。」
灰崎はそう言い残すと、そのまま体育館を後にした。
「…。キャプテン。仕方ないので、他のメンバーを入れましょう。一応僕の実力テスト中でしょう?」
「あぁ。そうだな。矢部。SFに入ってくれ。」
望月が声をかけ、再びゲームが再開した。
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第3Q
間違ってるところや辺なところがあったら教えてください。
「みんな!聞いてちょうだい!」
誠凛高校のマネージャー兼監督の相田リコは、部活終了後のミーティングでメンバーを集めた。
「どうした?監督。」
キャプテンを務める日向順平が返事をした。
「ウチに練習試合の誘いがあったんだけど。一応みんなの意見を聞いておきたくて。」
「練習試合?なんでそんなこと俺らに聞くんだよ?いつも監督が決めてるじゃん。」
「それが、相手が相手だからねえ…。」
「勿体ぶってねーで、とっとと教えて、ださい。監督。」
火神は慣れない敬語を使いながら質問する。そして、リコは、少し間を開けてから口を開いた。
「……相手は、元キセキの世代、灰崎祥吾君のいる。福田総合高校よ。」
「「「っ!?」」」
「灰崎!?って、あのクズ野郎のいるところかよ!」
誠凛のメンバーは驚きながら、脳内で、WC黄瀬にしたラフプレー。そして、味方の先輩たちにはいた暴言などを思い出していた。
「ええ、そうよ。だけどWCの時の灰崎君と、スクープショットを得意とするスキンヘッドの望月君以外は皆引退している。それに加えて、灰崎君は練習試合には殆ど出たことが無いの。だから、正直実力としては格下になるわ。だけど、今回の練習試合は鉄平が居ない布陣を試す機会にもなる。」
「何か悪いことでもあんの?」
水戸部の影から顔を出した小金井が、リコに質問する。
「ええ、でもそれは灰崎君が居ない場合の話。」
「ん?でも灰崎は殆ど練習試合に顔を出さないんだろう?」
皆が疑問に思っていることを伊月が口にする。
「考えてもみて、わざわざ静岡から東京に来てウチと練習試合をしにくるのよ?私は恐らく、今回灰崎君がこの練習試合に参加してくるとみてるわ。」
「確かに…。ウチにはキセキの世代と渡り合う火神がいる。それを抑える手段がないままウチと練習試合を組もうなんて考えない。か。」
「そういうこと。だから意見を聞きたいの。灰崎君は危険なプレイヤーよ。黄瀬君とやったときにもラフプレーをしていたのはみんなも知ってるわよね?だから怪我をする危険性もある。私としては余り勧めたくはないのだけれど、どうする?」
リコはバスケ部の皆に問いかけた。
「…やるよ。監督。福田総合高校は…灰崎は強い。これから先対戦しないとも限らない。なら、しておくべきだと思う。」
日向がそういうと、部員たちは次々に賛成の声をあげる。
「よし!じゃあ早速承諾の連絡をして来るわ。日程は来週の日曜よ。それじゃあ解散!」
リコの言葉に皆は荷物をまとめて帰路につく。帰り道、火神と黒子はファーストフード店に寄っていた。
「おい、黒子。お前はさっき何も言わなかったけど大丈夫かよ?」
「…はい。別に大したことではありません。ただ、灰崎君もバスケを好きでいてくれたのかな。と思いまして。」
「まだわからねえだろ。黄瀬に仕返しする為かもしれねえしよ。」
「そうですね…。今度会った時直接聞いてみたいと思います。」
「それはそれで大丈夫かよ。お前ら別に仲良いわけじゃねえんだろ?」
「別に良くはありませんでしたけど、特別悪かったわけでもないです。それに…あの時。灰崎君は僕を案じるような事を口にしていましたのできぼうはあるかと。」
「あの時?」
「…いえ、なんでもないです。取り敢えずはいつも通り全力で勝ちましょう。」
「あぁ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし!皆集まったわね。今日は前から言っていた福田総合高校との練習試合よ。それじゃ、みんな準備をお願いね。それが済み次第アップね。」
「「「オス!」」」
練習試合の当日、火神達はリコの指示に従って各々動き始めた。そして、準備が終了し、それぞれがストレッチをしていると、ついに今日の対戦相手である福田総合高校がやってきた。
「おい、黒子。灰崎いなくねえか?」
「はい、でも。彼は帝光中時代、いつもアップはしていませんでしたから。恐らく試合開始直前。もしくは遅れて来ると思います。」
「チッ、ふざけやがって。途中で出てきても速攻でぶっ倒してやる。」
火神は闘志を燃やしながらアップを再開した。そして、アップが終盤に差し掛かったところで、灰崎と白木がやって来た。
「…灰崎。女と来てんのかよ。よし、殺そう。」
「キャプテン。」
「あ?なんた黒子?」
「あの人は女性ではありません。男性です。」
「「「えぇ!?」」」
「マジかよ…女にしか見えねえぜ…。」
皆が驚いていると、灰崎と白木こちらを向き、黒子の存在に気づいた。
「黒子先輩!」
「白木君、灰崎君。お久しぶりです。中学以来ですね。」
黒子の言葉に再臨メンバーが一様に驚く。
「おい黒子。そっちの奴ってまさか…。」
日向が白木を指差し、驚きながらそういうと、白木が答える。
「はい、僕は帝光中バスケ部の白木です。まぁ、二年生の時までは三軍で、その時は試合にも出てませんでしたけどね。」
白木は朗らかに笑いながらそういうと、隣にいた灰崎が口を開く。
「おい、ごちゃごちゃ言ってねえで行くぞ。」
灰崎は特に何もいう事なく、自分達のメンバーの元へ向かって行った。
「何だ?意外と大人しいな。黒子の話を聞く限りだと、絶対突っかかって来ると思ったんだが。それに黒子の一個下って言った?なんでいるの」
「キャプテン。白木君は注意した方がいいです。」
「え?でもあいつ、三軍だったんだろ?いくら帝光って言っても、三軍じゃ、普通の選手なんじゃないのか?」
「わかりません。練習に彼はあまり来ませんでしたし、出て来ても、いつも何かを試していて、本気の彼は見た事ないです。でも、帝光中は僕たちの代が引退した後。その次の代も全中で優勝しています。その時のメンバーに彼が入っていたというのを雑誌で見ました。」
「マジかよ…。今年は忙しくて見てなかったわ。ってことは、全国クラスってことか。」
皆がその言葉を聞き、神妙になっていると、火神が笑った。
「面白え!下の学年にもまだまだ強え奴が沢山いるってことだろ。望むところだぜ!」
「はぁ…。全くこいつは。でも、火神の言う通りだ!俺たちはWCを優勝したんだ。それに慢心するのは確かに良くない。だが、自信は持っていいはずだ。行くぞ!絶対勝つ!!」
「「「おう!!」」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「黒子先輩たち、気合入ってますねえ…。」
「んなことどうだっていいんだよ。テメェ…約束は守れよ?」
「あーはいはい。分かってますって。安心して下さい。本当にクズだなぁー(ボソ)」
「あァ?なんか言ったか?」
「頑張りましょーって言いました。」
実はこの二人の間には今回の練習試合において、ある約束が交わされていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
灰崎は放課後に廊下を歩いていると、白木に呼び止められた。
「はぁ?練習試合だァ?んなもん知るかよ。俺は忙しいんからテメェらだけで行けよ。」
「どうせこの前の女の人のところでしょう?弁明しに言った時ぶっ叩かれたんですけど。」
「自業自得だろうが」
「それはそうなんですけどー…。その言葉、灰崎さんの口からききたくないです。」
「チッ、つーわけだ。俺は練習試合には行かねーよ。」
「灰崎さん…。」
「しつけえなァ。」
「もし来てくれたらこの人紹介します。」
白木はポケットから携帯を取り出し、ある画像を見せる。
「アァ?おい、誰だこいつは。」
「東京にいる人なんですけど。どうですか?美人でしょう?」
「あぁ、こりゃ良いな。けど、この顔どっかで見たことあるような顔だな…。」
白木は携帯を閉じ、ポケットの中へと入れる。
「もし練習試合に来てくれたら…。紹介しますよ?」
「…仕方ねえな。良いぜ。テメェの口車に乗ってやるよ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなこんなで、灰崎は態々東京に来ることを決めた。
「そろそろ始まるかなっと。」
白木はユニフォームを着て、リコの元へと行く。
「ん?どうかしましたか?」
「えっと、貴女が誠凛の監督と聞いたので、挨拶を、と。僕はまだ中学生なんですが、今回の練習試合に参加させていただきます。」
「え?あ、はい。わかりました…。」
「では、よろしくおねがいしますね。」
白木はそれだけ言うと、福田総合高校のメンバーの元へと戻っていった。
「……。」
「どうしたんだよ?固まって。」
小金井がぼーっとしていたリコに声を掛けた。
「…凄い。なんて筋肉なの。服の上だから胴体の部分はあくまで予測でしかないけど。全ての数値があまりにも高い…。キセキの世代に届き掛けてる…。それに、腕の筋肉が凄い密度で引き締まってる。あの腕…緑間くん以上だわ…。」
「な!?緑間以上!?でも監督が言うほどには見えないな。普通に見えるけど…。」
「恐らく意図的に強靭な筋肉の上に脂肪を乗せてるのね。だから筋肉が表に浮き出ないの。プロレスラーの体もだいたいそんな感じよ。筋肉の上に脂肪を乗せて打撃に対しての防御力を強めてるの。でも、彼の場合は違うわね。ほとんどこじつけみたいなものだけど、多分自分の警戒度を下げるためじゃないかしら?」
「まぁ、確かにあの顔でメッチャ筋肉浮き出てたらシュールかも。でも、監督が驚くぐらい筋肉つけてるのに、よくあんなに華奢だよなぁ。」
「恐らく筋力トレーニングをせずに自然な動きだけで筋肉をつけたんだわ。前にパパの言っていた事覚えてる?筋肉は使えるようにしないと意味がないって。彼の場合、その無駄な筋肉の量が本当に少ない。そうするには恐ろしいほどの運動量が必要なはず。とにかく彼には注意が必要かもしれないわね。よし、全員集合!試合前のミーティングを始めるわよ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「スタメンは木吉さんの位置に水戸部さんが入ったみたいですね…。さてさて、灰崎さん。火神さんをマークするのは多分灰崎さんです。その時にお願いがあるんですけど。」
「なんだよ?」
「火神さんには決してダンクさせないで下さい。」
「…何言ってんだ?いくら俺でもジャンプ力に限っちゃあいつには勝てねえぞ。」
「ダンク以外には何させても良いです。とにかくダンクさせないで下さい。」
「…チッ。しゃーねえな。今回の練習試合だけはテメェ言うこと聞いてやる。」
「ありがとうございます!ではこちらも行きましょうか。誠凛さんは準備できてるみたいですし。」
白木と灰崎はチームメイトの元へと向かい、両チームが整列し、互いに礼をすると、所定の位置に着く。ジャンプボールは火神と灰崎の勝負となった。
「テメェが灰崎か。アップ無しなんて、随分と舐めた真似してくれるじゃねえか。」
「ハァ?ギャーギャーうるせえんだよ。良いから黙ってろ。」
「チッ、カンに触る野郎だぜ。」
両チームが準備を終えると、ボールが審判から大きく上に投げられる。その後に火神と灰崎が大きくジャンプをする。そして、
「やった!火神が勝った!」
「まずは一本とるわよ!」
ジャンプボールは誠凛ボールとなる。火神から伊月にボールが渡り、そこから黒子へとパスが渡り、更に黒子から火神へとパスが渡った。
「よっしゃ!まずは一本!」
火神がゴールに向かってダンクをするために飛ぼうとする。
「させねえよ。」
「速い!」
灰崎は火神の前に回り込みブロックの体勢に入った。
(くっ、これじゃあダンクが出来ねえ!が、俺にはもうシュートだけじゃなく、パスの選択肢もあるんだ!)
「キャプテン!」
火神は上に掲げていたボールを引き戻し、日向に向かってパスを出した。
「ナイスだ!火神!」
日向は不可侵のシュートでマークを外し、3Pシュートを決める。
「く、いきなりか!」
「落ち着いて下さい。望月さん。まだ時間はたっぷりありますから。」
「白木。何か考えがあるのか?」
「ええ、これからじわじわ効いてきますよ。」
誠凛は火神のポストプレーからシュートを決めていく、しかし、福田総合も灰崎を中心に攻め、18対15の僅差で第1Qを終えた。
「おかしいわね。」
リコがそう呟いた。
「あぁ、確かにそうだな。」
リコの言葉に日向が同意した。
「灰崎が大人しすぎる。確かに上手いし、火神じゃないと止められない。だけど、黄瀬とやった時はあんなものじゃなかったはずだ。」
「ええ、それに加えて白木君。確かに一部一部身体能力の高さが光るプレーもあったけど、ほとんどパスを配給するだけで、特に何もしていない。彼もこんなものじゃないはずだわ。取り敢えず、これからもう少しアグレシッブに行きましょう。敵が本気を出さないならここで決めるつもりで行きなさい。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よしよし、良い感じですね。」
「どこがだ。火神に好き放題させてんじゃねえか。」
白木の言葉に、灰崎が不満そうに応えた。
「いえ、順調ですよ。火神さんの得点はかなり少ないですから。灰崎さんのおかげで、火神さんはレイアップを一本だけしか決めていません。これは相当ですよ?その代わりに日向さんが今日は調子がいいみたいですけど、まぁその程度は誤差です。結局チームの中心は火神さんと黒子先輩。そしてチームを勢い付かせるのもこの二人。ジワジワと効いてくるはずですよ。さてさて、能登先輩。次のQは僕が黒子先輩を止めますので、相手のPGのマークはお願いしますね。」
「あぁ、わかった。話には聞いてたが、やっぱり止められないな、あの11番は。」
「伊達に全中三連覇してませんよ。黒子先輩だって、キセキの世代と肩を並べる幻の六人目ですから。まぁ、止められないものは止めなければいいだけなんですけどね。」
白木は笑みを浮かべながらコートへと戻って行った。
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第4Q
第2Qの始まりは福田総合からで、白木は灰崎に向かってパスを出し、灰崎が相手ゴールへ向かっていく。すると、その前に火神が立ち塞がった。
「テメェ、本気出せよ!」
「アァ?本気ダァ?練習試合でテメェ相手に出すわけねえだろが。」
「な、テメェ!」
火神が灰崎にプレッシャーをかけようとすると、ハーフライン付近で白木が突然大声をあげた。
「灰崎さん!パース!!パス下さい!パス!」
突然の大声に、灰崎は火神を抜くことをやめ、その場でボールを保持する。
「ア"ァ"?んなとこで貰ってどうすんだ!」
「良いから下さい!」
「チッ、ヘマしたらぶっ殺すぞ。」
白木の要求に灰崎は渋々パスを渡す。白木の手にボールが治ると、白木に少し距離を置いてマッチアップしている伊月が白木に声をかけた。
「君、まだ中学生なんだよね?随分上手いね。流石は帝光中だ。」
「ありがとうございます。WC優勝チームのPGからそんなこと言われると照れますね。…では、是非これも見てから再評価をお願いします。」
にこやかな笑みを浮かべ、白木がそう言うと、あるモーションに入る。そして、それを見たコート内の選手や控えの選手全ての顔色が変わった。
「っ!?待てよおい、一体何してやがる…!?」
日向は驚きの声をあげ、他の誠凛メンバーもみな硬直してしまった。
白木がモーションを終えると、ボールは高々と上昇し、誠凛のゴールへと吸い込まれて行った。
「今のは……緑間の高弾道3Pシュート!なんで中学生のあいつが使えるんだ!?」
火神や黒子、そして他のメンバーたちの顔が青ざめる。
「テメェ…なんだそりゃ。」
そして、灰崎ですら、白木に対して驚きの声をあげた。
「もちろん見ての通りですよ。さてさて、次はディフェンスです。しっかり止めましょう!」
白木の声に福田総合のメンバーたちは我に返り、自陣へと戻っていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「何で?え?キセキの世代の技は模倣を得意とする黄瀬でさえ、満足にできなかったのに…。監督!あれはどう言うこと!?」
小金井がリコに詰め寄った。
「あの腕の筋力を考えたら、決して不可能ではない…。やられたわ。これは痛い失点。3点という数字より、完全に飲まれた。」
リコは悔しそうな顔をしながらコートを見つめる。
(だけど、今のシュート…何か違和感を感じた…。一体何?確かにハーフラインからあの高弾道で放たれたシュートは緑間君のだわ…。ダメ、一度じゃ分からない。せめてもう一度あれば分かると思うけど…。でももう一本あの高弾道を食らったらこのQで流れを取り戻すのはキツイか…。それほどのインパクトがあった。なら、彼を止めるしかない。でも、あの打点の高い高弾道を止められるのは火神だけ、他のメンバーじゃ高さが足りないだろうし、唯一足りるであろう水戸部君だと、恐らく彼のスピードには敵わない。しかし、火神をマークにつけるとすると灰崎君が止められない…!どうするのが最善か……。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(なーんて考えてるでしょうね。)
白木は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるリコを見ると、ニヤリと笑みを浮かべた。
(確かに、鍛え上げたこの腕なら緑間さんのシュートは多少は再現できる。だけど、それは多少であって、完全に再現できるわけではない。緑間さんの凄さは百発百中の正確性。そして、何本打っても乱れない精神力と体力。高々と放るだけのシュートなんて誰でも出来る。それが入るから彼は凄いんだ。僕の高弾道3Pシュートの確率は試合中ではない時、なおかつ調子が最高に良いとき5割ジャストぐらい。これについてはもうこれ以上成功率はあげられなかった。そして勿論、試合中となると練習のようには行かない。今の調子やマークの相手を考えるとせいぜい2割4分くらいだ。それに、緑間さんのようにそう何本もホイホイ打って入れられるほどの体力もないし、もしそんな事をしたら、腕が疲れて僕の強みであるノーモーションパスに欠陥が生じてしまう。ここからはうまく立ち回らなくちゃ。)
「さぁ、皆さん。それぞれのマークをお願いしますね。」
誠凛ボールで始まり、伊月は相手陣地までボールを運ぶ。
(黒子のマークが外れてる…。止められないとわかってマークするのを諦めたのか?今相手の選手でフリーになってるは…あの中学生PGか。あのPGは何か不気味だ。もしかしたら黒子に対して対策をしてるのか?くっ駄目だ。考えてもラチがあかない。ここはやはり、一発頼むぞ!)
伊月は黒子にパスを出す。黒子はそのパスの軌道を変え、火神へとパスを出した。それを見た瞬間に、白木は動き出した。
「やっぱり…。良い仕事です。灰崎さん。」
「なっ!?」
火神がパスを受けると、目の前には灰崎とその後ろに立つ白木の二人が火神のマークについた。
「火神にダブルチーム!」
「馬鹿な!黒子のパスを読んでいたのか!?」
誠凛メンバーが驚きの声をあげる。
「関係ねえよ!二人ブチ抜けば良い話だろうが!!」
火神は灰崎をかわそうと高速でドライブを仕掛けた。
「ハッ!甘えんだよ!」
「テメェがな!」
灰崎はそのスピードについていく。が、火神はそこからロールターンで切り返し、灰崎を振り切ってゴールへ向かおうとする。
「いえいえ、甘いですよ。」
灰崎の影から出てきた白木が火神に対してスティールを決め、ボールを奪いとった。
「そんな!あの火神があんなにあっさりとボールを奪われるなんて!」
「止まるな伊月!すぐに戻れ!!」
日向から指示が飛び、伊月がすぐに戻ろうとする。
「望月さん、お願いしますね!っておっとと!」
白木は望月に向かってパスを出そうとした所、何者かの手が伸び、パスをカットされそうになった。そこですかさず白木はハンドエラシコを使い、望月から他の選手へとターゲットを変更した。
「さすが黒子先輩。相変わらず攻守の切り替えのタイムロスが無い。」
「今のは…。」
黒子が白木のパスを狙っていたが、白木にいとも簡単にかわされてしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そんな!なに!?今のパス。振り被った方向とボールの飛んだ方向がめちゃくちゃだわ…。黒子君のスティールまで通じないなんて…。本当になんてデタラメな…。」
「キセキの世代に食い込んでるでしょあれ!」
「……いいえ、やっぱり、反応速度はともかく、何度見てもスピード、特に敏捷性に関しては今の段階ではキセキの世代に届いていないわ。」
(でも、だとするとおかしいことがある。さっきの火神君のドライブ。いくら灰崎君と白木君が相手だったとしても、あんなにあっさりボールを奪われるなんで変だわ。灰崎君はまるで本気を出していなかったし、白木君がボールを奪いに来るまでに火神君なら体勢を立て直す時間は十分にあったはず…。なのにどうして反応できなかったの?火神君の数値は……っ!?なにこれ…火神君の調子が全然出てない!?絶不調もいいとこだわ…。いったいどうなってるの?アップの時はむしろ調子は上向きだったのに…。)
「…タイムアウトとるしかないわね。」
誠凛は、福田総合がシュートを決められたところでタイムアウトをとった。
「どうしたんだよ監督。確かに押されかけてたけど、まだ序盤だぜ?この程度自力で立て直せるぞ。」
「いえ、確かにあの黒子君封じと緑間君の高弾道3点シュートは対策は必須。それよりも……火神君。調子はどう?」
「え?火神?」
疑問に思う誠凛メンバーは皆不思議そうに火神をみた。
「っ、いや、別に特には。」
「強がりとか要らないから。本調子、全然出てないみたいね。」
「…ウス。でも、よくわかんねえ。こんな感じは初めてだ。」
「やっぱり…。きっと灰崎君の仕業ね。火神のディフェンスをするとき、火神よりも早い段階でブロックに飛んで、執拗なまでにダンクを封じてきてる。今の所試合中の不自然なことはそれぐらいだわ。」
「ってことは、火神はダンク出来てないから本調子が出てないってことか?」
伊月は皆が思っていた疑問をリコに投げかけた。
「今の段階ではあくまで予想でしかないけど、火神君の性格上結構有効な手かもしれないわ。多分入れ知恵は白木君かしらね。全く厄介な中学生だわ…。誠凛のアクセルは火神だわ。エースが乗らなきゃチームは乗れない。頼むわよ。」
「ウス!」
「よし、それじゃああと二つ。まず白木君の3点シュートは火神君が止めて。」
その指示に日向が疑問の声をあげる。
「え?でも、それじゃあ灰崎はどうするんだ?」
「黒子君が灰崎君へのパスを常に狙っておいて。取り敢えず第2Qはそれで凌ぎましょう。でもこれで、火神の攻めは取り戻せるはずよ。今までは灰崎君がピッタリくっついてディフェンスしていたからダンクに行く攻めは全て守られてしまった。だけど白木君が相手ならそれなりに勝機はある筈。二人とも頼むわよ。」
「はい。」
「おう!」
誠凛メンバーは話し合いが終わるとコートへ出て行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい、テメェ…。さっきのシュートは一体なんだ!?」
タイムアウトと同時に灰崎は白木に詰め寄った。
「何って、見たまんまです。緑間さんの高弾道3点シュートです。まぁ、本人ほどの正確性はありませんから、これは僕が絶対に決まると確信したときだけしか使いませんが。ですから、本家みたいに沢山パスを貰って、沢山打つなんてことはできませんからそこの所はよろしくお願いしますね。」
「チッ、つくづく気に食わねえ野郎だ。そんなことより、このタイミングでタイムアウトかよ。まだ開始してから数分だぞ。ったくダリィな。こっちは一分一秒でも早く終わりてえっつーのによ。」
灰崎はグチグチ文句を垂れ流しながら給水する。
「まぁ、誠凛さんもやっと気が付いたってことみたいですね。」
白木がそう呟くと、望月がそれに反応した。
「気が付いたって、なにがだ?」
「火神さんの不調の原因ですよ。」
「不調?だが今の所、火神から良いようにパスを出されているし、僅かとはいえ誠凛がリードしているんだぞ?」
「フフフ、それはパスを出させてるんですよ。まぁ、そこら辺は見ていただければわかりますよ。すみませーん。」
白木は、ベンチの選手からノートを受け取ると、それを望月に渡した。
「これは一体なんだ?」
望月はノートを開いて中身を見た。
「ん?…スコアブックか。」
「はい、それで、誰が決めたか確認して見てください。」
「誰がって、見るまでもなくほとんど灰崎だが。」
「あ、ウチじゃなくて誠凛側です。」
「あぁ……。4番が一番多いな。3点シュート結構決めてたしな。2番目はPGの5番か。この選手のプレーもレベルが高かったな。」
「もう、違いますよ〜。相手の10番の得点はレイアップの一つだけしかないでしょう?」
「確かに…だがこれが一体…っ!?」
「気がついて頂けましたか?それ、ウチで例えるなら灰崎さんがレイアップ一本しか決められてないのと同じですよ。」
「確かに…これは異常だ。一体何をしたんだ?」
「火神さんはどうも感情によってプレーの精度が増していくみたいですから。ダンクを決めさせず、本人の勢いを削いで集中するのを妨げているんです。まさかここまで効果があるとは思いませんでしたけど。まぁ、1番の形はこのまま皆気付かずにそのまま試合終了になってくれれば良かったんですけどね。」
「……まさか、二個下の選手にここまで頼もしさを感じたのは初めてだ。」
「あはは。ありがとうござます。確かに、今日の火神さんの相手は灰崎さん。黄瀬さんにあんなことしてたんだもの。否が応でも盛り上がっちゃいますよね。でも駄目です。このまま、火神さんにはどんどん不調になっていただきましょう。ねえねえ灰崎さん。」
「アァ?んだよ?」
「これから、奪える技は奪って下さいね。」
「んなもんしてるっつーの。ただ、火神ってやつゴール決めてねえだろ。奪うもんなんて何一つねえよ。」
「あるじゃないですか。火神さんがパス出す時に相手をかわすためにやるロールやターンなんかが。」
「…テメェ。俺がテメェらにパスしろって言ってんのか?」
「そうですよ。キセキの世代の緑間さんや紫原さんもパスを出すようになったんですよ?灰崎さんもパス出してもらわないとあの人たちに勝てないじゃないですか。それに、通常状態の火神さんと黒子先輩のペアはキセキの世代の力を上回ることはWCで証明されています。それは、身体能力の面を火神さんの運動神経が、特殊能力の面を黒子先輩の観察眼と経験がそれぞれ対応していたからです。つまり、あの二人は僕と灰崎さんの目指す関係ですよ。だから、僕ら二人の初戦はあの二人を選んだんです。」
「……ケッ。テメェと組むなんて虫唾が走る。寝言は寝て言えよカス。」
「フフフ。まぁ、キセキの世代とやるときだけでも協力していただければいいんです。その他は貴方一人で勝てますからね。でも、今日だけはお願いを聞いてください。さてさて、行きましょうか。面白くなるのはここからですよ。」
白木は笑みを浮かべながらコートへと入っていった。
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