オタクな専門学生のとんでもな青春 (柚野鈴)
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彼と彼女の出会いは唐突に
第1話 すぐに終わった日常生活


全くのド素人の初作品になります。
今回人名はほぼ出していませんが追々追加して行きます。更に駄文、薄めの内容等がダメな方はブラウザバックを推奨します。
誤字報告等よろしくお願いします。
それではどうぞ。


「次なんだっけ?」

昼休みが終わるまでに10分も無い中でのんびりと動く影が二つ。

『あのやたらと分かりにくい電気工学だったはず。授業料が勿体無いぜ』

こんな危なげな話をいつ講師が来ても可笑しくないどころか何人も通過する廊下のロッカーを開けながら平気でする。

『噂をすれば何とやら......ご本人のお出ましだぞ』

 

そう言いながら視線を向ける。それにつられて俺も顔を横に向けるとその人はキョロキョロと辺りを見回している。どうやら誰かを探しているらしい様子が見て取れた。

するとこちらを見つけた途端に真っ直ぐに歩いてくる。何事かと思うとぴたりと目の前に止まり声をかけてきた。

 

『君が平川君だったね。少しばかり話がある。付いて来たまえ』

何の要件も言わずに唐突に付いて来いと言われても戸惑うのが人の常だが素直に従って付いて行くしかない。何せこの人は現学生主任補で学科長、学年主任を歴任してきたこの学校の言わば人事部長のようなものである。

一応教科書だけは取り出しておいた為、つい先程まで隣にいた友人に荷物を預かってもらい慌てて追いかける。

後ろの方でガヤガヤと何かを盛んに話しているのが聞こえたが耳を傾ける間もなくその講師は廊下をコツコツと歩いてゆく。

「それで、俺に何のようですか」

やっと追いついて理由を聞いていないのを思い出してこう尋ねる。

『まぁちょいと頼みたい事が有ってな。着いてから説明しよう』

そういってはぐらかすとまた無言になり黙々と歩いて行く。

 

 

大して広くもない校舎のためすぐに教員棟と呼ばれている中にある一つの研究室に着いた。

最早嫌な予感しかしないが仕方なしに講師に後から部屋へと歩を進める。部屋の両脇に所狭しと並べられた書籍や機械の更に奥。

『ちょっと待っていてくれ。確かこの辺に......お、あったあった』

 

そう言いながらパーティションで仕切られた机の上のパソコンやプリンター、書架にファイル棚。それらに囲まれるようにして、堆く積み上げられている書類の山から1つの資料とおぼしき物を取り出してきた。

「......何ですか?このヤバそうな資料は」

『見て分からないかね。表紙のままの意味なんだが。君がそんなに頭が弱かったとは思わなかったよ』

 

何とも嫌味ったらしい言い方だがそこには突っ込まない。何より問題なのはその表紙。“3AD01の現状及び関連事項”と、こう書かれていた。流石にこんな物が一学生でしかない自分の前に出されても困惑する以外に無い。

 

「教員会議で出て来た議題の一つだ。しっかし、いくら学生担当補の上に、寮の総監督までやらされてるせいで問題児の案件も回ってくるんだ。まったく......人を何だと思ってやがる」ぼそりと何やら聞いてはいけないような不穏発言が飛び出した。

 

 数瞬の無言を挟み口を開く。

「いや......その先生の愚痴は置いとくとして、何で俺なんですかね?俺は特に変な事した覚えないんですけども」

実際自分は何の校則違反もしていないし問題行動も起こしていない。

『そんな事はこの中身を見れば分かるはずだ。後、君にはこの件に関しては一切の拒否権が無いという事だけは伝えておこう』

それはもう凄い嫌な感じの顔をしていた。それこそ何処かの時代劇に出てくる悪代官様みたいな顔をしていた。

それなら尚更関わりたくない事柄だと察しいち早くこの空間を抜け出そうと拒否の構えをとる。

「いやいやもう突っ込み所多すぎてどうすれば良いんですかね?というより俺はこんなヤバい資料の中身なんて見たくないんですが......」面倒事に巻き込まれたくはないし、訳の分からない事柄に入るとか絶対に嫌なので断固拒絶の姿勢をとる。

『ふむ。それでは私は君のお父さんを知っているということ位は教えておこう』

それはもう清々しいほどに飄々とした表情のままカップに手をつけながらさも当然かのようにそう言った。

 

人間には身が凍る瞬間が有ると聞いていたがまさか自分の身がそんな事になるとは思いもよらなかった。背筋がガチっと凍るような気がしたのを感じた。そして得も言われぬ感情に襲われた。

 

「......ぇ......」わずかに口を開きそう呟くので精一杯だった。

なんとそれは驚愕の事実だった。本来ならば大した事ではないが、とある事情のせいで滅多な事ではないのだった。

更に全くの赤の他人が自らの事を知っているという事になる。それは間違いなく何か切り札になるような物が出てくる可能性すら有るのだ。

最早次にどんな爆弾が有るか分からない為にとりあえず抵抗するのを半ば諦め、中を見てみる。すると教師が毒づくのも頷けるほどの内容だった。

 

 

なんとそこには今から3ヶ月も前、去年の期末試験終了後、正確には今年の教材の受け取りおよび始業式以外この学校に来ていないと描いてあった。それ以外にも最早見るも無惨な事柄がほぼA4半ページ分にわたり書き連ねられていた。

ここまで来ると真偽を確かめたくなるのが人間の本能と言うものらしく、自分は明らかに疑う顔をしているらしい。目の前に全てを知っていると思しき人物へと目を向けるとほぼ同時で言葉が返ってくる。

 

『勿論そこに書いてあるのは全て事実だ。では何か質問は有るかね。ただし私も忙しい身だから一つだけにしてもらいたい』

 

何か質問が有るか何処路の騒ぎではない。こんな絶対厄介極まりない上に史上最高にめんどくさそうなのやりたくない。

罵詈雑言に始まる文句を必死に喉を通らないように仕舞い込み、大して賢くもない頭をフル稼働させて1つの質問に辿り着く。

「この件に関しての横槍の心配と最終目標をお願いします。」

正直自分でも何故こんな事を聞いたのかは未だに分からない。だがその問いに救われた部分も確かに一部だけ存在した。

 

するとなにやら満足したのかそれとも計画通りなのを喜んだのかは分からないが一瞬薄気味の悪い笑顔を浮かべた。

『ふむ。一つ目は君に丸投げしてはいるが表向きは私が担当しているからその心配は無い筈だ。何かあれば私に言ってくれればある程度はどうにかしよう。二つ目の答えは単純明快、この学校への正常な復帰。それの一点に有る。それでは健闘を祈るよ。』

 

この自分達の指導者である男性教員は平然と何も知らなかった者を振り回し、途方もない爆弾を置いて嵐は去っていった。




最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。
どんなに些細な事でも感想にください!作者の励みになりますので。
重ね重ねこの作品を読んでくださって本当にありがとうございました。
それではまた次回お会いしましょう。


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第2話 御宅訪問

だいぶ投稿間隔が開いてしまい申し訳ないです。
ようやく第二話が書き上がりました!何とも言えない感覚を覚えます。
いつも通り誤字報告等よろしくお願いいたします。
それではお楽しみ下さい!!


時は進んで呼び出しと言う名の強制労働が言い渡された翌日の午後5時少し前。

もうこの年齢から社畜の仲間入りとか辛すぎる。ちなみに無視を決め込んでスルーをしようとか思っていたらなんと昨日のうちにメールが来てしっかりと釘を刺されたので逃げられない。

 

何で俺の考えを読んだ上に脅迫まがいのメールまで送ってくるんだ。そんなエスパーみたいな事されたら焦る。

ちなみにそのメールによるとどうやら今日の放課後5時にその問題児の関係者がわざわざ迎えにくるらしい。

そりゃ資料で名前は知っているが逆に言うとそれ以外に何も、例えば正確な住所は勿論の事、趣味や生活状況、家庭の事情などなど知らない。むしろそんなの知ってたら間違いなく問題でしかない。

 

時計代わりにもなっているスマートフォンの電源を入れると16時56分を示していた。

「もうそろそろか......」車寄せの邪魔にならぬように配慮されて設置された門に体を寄り掛からせながら呟く。

 

 

するとまるでタイミングを見計らったかのようにタイヤのグリップ音とともに静かながらやや甲高いブレーキ音が鳴り響き黒色の乗用車が到着した。

音につられて顔を上げると運転席からきっちりとスーツを着ていても硬い雰囲気を一切与えないほど柔らかな表情の女性が降りて来てこちらに会釈をする。

「平川様でいらっしゃいますでしょうか」

 

まさかこの歳で様付けをされるという驚きと、何故このような人が自分の名前を、という疑問で一瞬固まる。

しかし直に思考を立ち直し、慌てて会釈を仕返す。

「はい。平川です。失礼ながらあなたは」

自分の知り合いに連絡はしてないし、顔見知りでもない。

「これは失礼いたしました。私は天宮家にお使えしている執事の鶴崎でございます。」

そう言って革製と思しきいかにも高級そうな名刺入れから器用な手付きで名刺を差し出してくる。

 

思わず受け取ってしまったが、親御さんのどちらかが来ると思っていたが予想外の展開。まさかのご令嬢だった。そんな風に驚きを隠せないでいると再び口を開いた。

 

「旦那様と奥様より平川様をお嬢様の所へお連れするようにとの事でしたので私がお迎えに上がった次第です。」

家柄が良いと自然とこういう対応になるのかと自分でも妙な納得の仕方をしていると

「どうぞお乗り下さい。ご案内いたします」

と言って手慣れた手付きでドアを開けた。

車に乗り込むとこれまた丁寧にドアを閉めて運転席につくと滑らかに車寄せから出て車を走らせて行く。

 

 

すると前をきちんと見たままいくらか柔らかになった口調で話始めた。

「執事としては誠にお恥ずかしい限りなのですがあまりお嬢様の最近を把握していないのです。」

まさかの執事さんですらまともに知らないってどういう事なんだろう。疑問しか出て来ない。

「そもそも私がこちらに居るのも訳があるのです。」

「と言うと何か事情が?」どうやらこの執事さんがここに居るのは珍しいとでもいうような口ぶり。それだけこの出来事に気を配っているのだろう。

「えぇ。実は旦那様と奥様に付いて海外に渡航していたところ由佳お嬢様と最近から音信不通になりまして……」

音信不通になった上に学校にまで出ていないとなるとそれは心配にもなるだろう。

「それで日本に戻って来たと?」

「厳密に言えば私だけ様子を確認しに戻って来ているのが正確ですが概ねその通りです。」

随分と冷淡なのか手が離せない程忙しいのか。なんとも形容しがたい物がある。

「そのような状況下ですので知っている限りの近況ですがお教えします」

これは非常にありがたい申し入れ。例の書類には当然の事ながら登校しなくなったのは何時からか。それまでは至って特筆すべき所が無いと言った極々当然の事が書いてあったにすぎない。対話をしに行くのだから情報量は多い方が当然良い。

「わざわざありがとうございます」

素直にこの人には感謝を禁じ得ない。

 

「まず由佳お嬢様と音信不通になって以降、旦那様以下我々からの連絡にも応じるどころか着信拒否の状態です」

「それはまぁ……そうでしょうね」

わざわざ音信不通にするのだから電話やメールに出るとも思えない。と言うか

そうじゃないと音信不通とは言わないだろう。

「私がこちらに戻って来てインターホン越しにお嬢様の様子を確認したのですが大丈夫、平気、問題無いと一点張りだったのですが何とかドアの隙間から話す事はできたのですが……」そう言って若干黙り込んだ。

随分とこの執事さんも苦労したのだろう。それほどに大変だとすると自分に降り掛かって来た苦難を呪いたくもなる。

 

「と言う事は顔を見れたと言う事ですか?」

「見れたと言うよりは覗けたと言った方が正しいかもしれませんね」

覗けたとはどういう意味なのだろう。顔を合わせたのなら見れたと言うはずなんだが……

「と言うのもですね、ドアの向こうから顔が少し出て来て覗き込まれるような感じでしたし、数分で話を切られてしまいまして」

何やら小動物的な物を感じる。それに無口なのか。それとも単に面倒くさかっただけだろうか。

 

「と言う事はほとんど部屋の中を見れてないってことですか?」

「いえ。一応見れては居るのです。ですが当然ながらドアの隙間から廊下が少し見えただけのです。」何とも歯切れが悪いと言うか、随分と遠回しな言い方。

「見えたのは良いんですが靴箱が何となくホコリっぽかったのと部屋のドア先に段ボールがいくつか見えまして……」

随分と部屋が荒れているようだ。それにどうやら典型的な引き籠もりのようで掃除もせずに通販とかを多用しているのだろう。

「他に何か分かった事はありませんか?」

「流石に隙間から見えただけですのでこの程度しか……」

「そうですか……」正直大した事は得られなかったと言うのが偽らざる答えだろう。比較的予想できる事しか出て来ていないのだから仕方が無いと言えば仕方ないのだろう。

 

 

ふと外を見ると幹線道路から車は一つ入り閑静なマンション群を走っていた。

するとミラー越しに見えたのだろうか横目でこちらを見ながら

「もうすぐ着きますから支度をしておいて下さい」と声をかけて来た。

そして車はゆっくりと速度を落としあるマンションの駐車場へと入って行った。

 




読んで下さった方々ありがとうございます!!
感想、批評等々ぜひぜひよろしくお願いします。
次の第三話は既に最初の少しだけ出来ていたりそうでなかったり......
ちなみに実は既に完成までの大筋は決定してたりしています!
なお、途中の細かいシチュエーションはまでなのでこういったシチュエーションが欲しい!とかこういうのはどうだろうと言った提案をお待ちしております!!
それではまた次回まで!アデュー!!


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第3話 ご対面

かれこれもう前回から一ヶ月も経ってたんですね〜。
と言う訳でお久しぶりです!!
今回も今回とて駄文と誤字が含まれる可能性がありますのでご容赦下さい。
そしてなんとなんと今回は最後に告知がございますので最後までお読み下さればと思います。
それでは第三話、お楽しみ下さい!!


車を降りて正面玄関に回って行くと見た目通りきちんとしたマンションの様でインターホンにカメラも付いている。

エントランスの奥にはソファにテーブルまで置かれている豪華仕様。

ちょっと気後れするレベルのマンションだ。

「キーはスペアを持っているので入れますから開けますよ?」

直接部屋に乗り込むのか……多少強引な気がしないではないがチャイムを押して警戒された上にチェーンロックまでかけられては対話すらできないだろう。

 

「じゃあお願いします」

ここは部屋まで案内して貰って執事さんを間に挟んで対話に持ち込むのがベストだろう。上手くすれば執事さんの援護にも期待出来るかもしれない。

 

そう言うと執事さんが鍵を何処からか取り出してオートロックを解除すると綺麗に掃除されたガラス張りの自動ドアが音も無くスーッと開く。

鍵をパネルに付いた鍵穴から抜き取って丁寧にしまう。そして確認するように一瞬だけこちらを向いて無言のまま中へと歩を進めて行く。

薄暗く落ち着いた色合いの大量のポストと宅配ボックスの並ぶ通路を横目に、陽の柔らかな光と照明に包まれたエレベーターホールへと静かな足音が響いて行く。

静かなモーター音と共に二つあるドアの片方がスルスルと開いてゆく。

人間二人分の重さが掛かかってもピクリともしなかったエレベーターは静かなまま確かな速さで上へ上へと昇って行く。最上階一つ手前でピタリと停まって再びドアが開くと、ビル風一つ感じさせずシーンとした静寂がエレベーターホールを包み込む。宛ら嵐の前の静けさである。

 

そして無言のまま長い通路を歩いて行き、突き当たりまで漸く半歩前に居た執事が止まる。ほぼ同時に自分も止まり横へ並ぶ。そして再びキーを手にしてこちらに目線を向けてくる。そしてそれに答えるように頷くとガチャリとやや重い音を立てて上下二つの鍵を開けた。

 

 

するとそこには聞いた通りどころかその二倍も三倍も酷い状態に見える。

まず玄関のドアを開けるとそこには某通販サイトの段ボールがずらっと部屋の前に万里の長城が如く並んでいた。

そして靴棚には鍵置と綺麗な編み込みがされた小さなオリーブ色のバスケットも置かれていて調和のとれた空間が出来上がっているのに明らかに掃除していないせいで薄灰色のホコリがうっすらと被っている。

「これは……随分と典型的な引き籠もりですね」

「えぇ。正直ここまで酷くなるとは思っていませんでしたね」

この先廊下やリビングに踏み込んだら一体どうなるのかまるで想像もつかない。と言うか想像すらしたくないレベルの光景が広がっていないことを願うばかりだ。

「とにかく入ってみましょう。話はそれからです」きっぱりとした口調で隣に居る執事さんが段ボールの壁を避けつつ奥へと進んで行く。

正直若干抵抗はあるが流石に玄関先に立っている訳にはいかないので二、三歩後ろを付いて行く。

 

リビングへと通ずる磨りガラスが大きく填められたドアを押し開けるとそこにはカップうどんやカップ焼きそばの東京ドームに段ボールのピサの斜塔が2本もそびえ立っていた。さらにはバスタオルがミルフィーユ状態になって机の上に重なっている横にはカラープリントされた色とりどりの印刷用紙に、資料集、雑誌、画集、ファイルと色々な物が散らばった上に積み重ねられビッグベンが出来上がっていた。

「これはまた随分と凄いですね」

見方によっては空き巣にでも入られたのかと思うレベルだ。

「確かに……これは酷いですね。ですが皆様と過ごされていた際は規則正しかったですし、お部屋も散らかってはいませんでしたが……」

どうやらきちんとした生活を少し前まではしていたようだ。この様子を見た後ではこの執事と両親のおかげなのではと勘ぐらざるを得ない。

「そう言えば本人が見当たりませんね。出かけてるとは思えないんですが」

「多分ご自分のお部屋だと思います。食事の時はこちらで召し上がっていたようですが」

そう言われたら確かにこの机の惨状を見るにここで食べていたのが分かる。

けれど幾らなんでも流石に部屋まで押し入るのは良くないだろうし、この有様を見たらここより酷いと思われる部屋なんて見たくない。

「ではとりあえずリビングまでお連れしましょうか?お部屋には上げては頂けないでしょうし」

「まぁそれしか対話する方法が無いと思いますし……」

「それでは可能な限り早くお連れします」

そう言いながら手早く机の上を使える状態に戻しながら早くも部屋へと目線を向けている。

「いえ、部屋から出て来なくてもとにかく話が出来れば良いので、最悪電話とかパソコン越しでも良いです」

「はぁ、そうですか。では少なくとも電話越しにします」

どうやら納得はしてないみたいだが一応了承してくれた。何より引き籠もりが部屋から出てくるとは思えない。

そして執事さんがリビング横の部屋に入るまでに一悶着有り、入ってからも既に五分以上経っている。

しかしその間中、終始無音なのが気になる所だ。何かしらの話し声や物音などが聞こえるはずなのだがそれすらも聞こえてこない。

そう思っていると無音のまま苦い顔をした執事さんとその後ろにぼやっとした表情の少女が出て来た。

 

 

そして出て来たのは何とも言えない程眠そうでちょっと半眼なセミロングでピョンピョンと跳ねた毛がアクセントになっている少し小柄なふわふわした幽霊が出て来た。

 

「あなた……だれ……?」

そしてお目にかかって第一声がこれである。しかも随分とフラットで平坦な声が飛んで来たから、それはそれはクール系なキャラクターか物凄く警戒心の高い子犬のような印象が大きい。

「えぇと……俺は平川直翔です。一応あなたと対話しに来ました。」

「そう……それで……何の用?」

まさかの何の用だと言われてしまった。てっきり執事さんが説明してくれていたのかと思っていたがそうではなかったらしい。

「まずは話が少しばかり長くなるので二人とも座りませんか?」

正直に言って執事さんの微妙に後ろからこちらを伺いながら見てくるのは何とも話しづらいこと極まりない。

そして執事さんも何も事情説明してない上に無言のまま棒立ちなのは流石に若干の恐怖を覚えるのでぜひとも一緒に座って話をまとめて頂きたい。

「では座って話しましょうかお嬢様。私も少しお話しておきたい事がございますし……」

そう言って二人分の椅子を引いて執事さんも後から綺麗な姿勢で座った。

 

「それじゃあまず俺がここに来たのは学校からの差し金と言うのを明言しておきます」

そう言った直後目の前に居る小柄な少女はピクッと反応し、一瞬にしてこちらを凄まじい勢いで顔を上げてこちらを見て来た。

「何故あなたが学校からの事で来たの……?」

予想はしていたが全く同じ事を同じタイミングで聞いてくるとは思ってなかったが当然の反応が返ってくる。

「残念ながら俺にもその理由は分からない」

そんな事一番自分が知りたいに決まっている。

「少なくとも学校側は天宮さんの学校への復帰を望んでいる事だけは確かだと思います」

実際、職員会議で話題に上がる位には重要なのだから間違いは無いだろう。

「そう……でも私は学校に行きたくないからこうして家に居る。そして当然学校に行く気は無い」

あっさりとそう言われてしまい話は早々に暗礁に乗り上げてしまった。

ここまでキッパリと言われてしまっては取り付く島もない。

 

「まぁ……当然そうでしょうね。予想通りの回答です。それでも何とか出てもらわないとちょっと困るんですよね……」

何とか学校に出てもらわないと一体あの暗黒教師に何をされるか分からない。

「何であろうと無かろうと無理な事に変わりは無い……です」

このままでは平行線のまま進みそうな様相を呈して来ている。徐々にだが雲行きが怪しくなって来ているのが分かる。

しかしここで引いてしまっては本気で悪い予感するから引く訳には行けない。

「学校に行かない理由とか行かなくなった理由とか教えてくれませんか」

だから無理押しせずに有益な情報になりそうな事を取りに行く。

 

「……いやだ。答える訳には行かない……」

そして暗礁に乗り上げたまま一切動かなかった。もはや取り付く島が無いどころの話ではなくなっている。

「どうしても?」

「どうしても無理。それに……何で私に構うの?」

 

何故……か。

何故か分からない。

だからこう答える。

 

「少なくともほぼ強制的に働かされてるのは理由の一つだと思うけど正直なところ分かってない」

「そう……そんな理由……あたしだって……」

あたしだっての後が聞き取れない。だから何て言ったのか分からない。

そしてその一瞬の沈黙がリビングを覆い空気が重くどっしりと沈み込む。

「……とにかく、早く帰って!!」

 

そして大きく膨れ上がった沈黙が半オクターブ上がった弱々しくも頑に拒絶の意思のにじみ出た声によって打ち破られる。

しかし、それすらも許さぬ追撃の一言が彼女を追い立てて行く。

 

「けど今帰ったらもう入れてくれなさそうだからさすがに帰れない」

「何があっても、絶対、何も言わない!鶴崎さんもこの人に何か言って早く帰らせて!!」

 

そして今まで一度も声を発さずに会話を聞いていただけのある種第三者に近い人にようやく声がかかる。

「執事さんからも何か言って貰えますか?」

このままの平行線状態では何も進まないどころか溝がドンドンと深まって行くのは明らか。それが打開出来そうであるならそれに乗るしかない。

「そう言う事ならば一つだけ言わせて頂いても?」

「もちろんです」

何処までいってもきちんと丁寧な言動が出来ている執事さんがようやく口を開く。

「では本当に一つだけ。はっきり申し上げますと数日以内にお二人には同居して頂く事になっています」

 

「ぇ、え、え……どういう事!!」

「は?……えっ……はい?」

 

 

 

そして、その口から発せられたのはとんでもない衝撃の事実だった。




読了して下さった方々ありがとうございました!!
実は四月の半ばに上げるつもりだったのがこんなにずれ込んでしまった...
まだまだ精進せねばなりませんな。

そして前書きでも言っていた告知をば、
実は5月6日に東京国際展示場で開催されるコミティア120にサークル『ゆるゆるオムライス』として参加する事になりました。
作品としては短いゲーム一本と作画・イラスト本の両方を予定しております。
ぜひぜひお暇な方や当日自分も行く予定だ!と言う方はお立ち寄り下さい。

重ね重ねお読み下さりありがとうございました。
アリベデールチー!!


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第4話 引っ越し

やっと4話の投稿でございます!!
皆様お待たせしました〜!!
いや〜結局投稿間隔が縮まらないのがなんとも言えない感じが・・・
今回はこれくらいにして第四話"引っ越し"をどうぞ!!


「ぇ、え、え……どういう事!!」

「は?……えっ……はい?」

その事実は当事者二人を置き去りにした衝撃の事実だった。

本当に思いもよらない発言が飛び出した。

 

正直言ってまるで意味が分からない。

全く持って

何がしたいのかも、

何を意図したかも、

全く分からない。

 

「引っ越しの段取りも済ませてありますからどうぞご確認下さい」

そう言って取り出して来た大判の封筒には引っ越し業者のマークが大きく入っている。

 

「待って下さい。何でそんな事が勝手に進んでいるんですか?しかもこの日付明後日じゃないですか……何でまた……」

 

「同居……あと二日……二人……」

前に居る方は前に居る方で完全に思考が追いつかずに宛らオーバーヒートしたエンジンのよう。

正直このあとすぐに話に復帰出来るとは思えない。

 

「でもまた何で同居何てどういう事ですか?普通なら親御さんが許可出さないですよね」

普通の親なら年頃の娘を他人と同居させるなんて言う暴挙に普通では出ないだろう。本当に何がしたいのか分からない。

「それは私たちの都合上こうなりましたので私は何も言えませんが多少のお手伝い位は出来るとは思います」

何やら複雑な事情がある様で明かす訳にはいかないらしい。しかもこの調子では前でテーブルに突っ伏している少女にも知らせれてない様で……

随分と相手のペースで悪い意味でトントン拍子に話が進んで行っている気がする。

「段ボールその他パッケージに必要な物はこちらで用意してありますのでこの後お届けいたします」

随分と用意周到に準備されて居る様で驚きどころか感心すら覚える。

 

 

「いや、待って、話が急すぎる。きちんと分かるように話して」

おっ。ようやくシンキングタイムから開放されたらしい。なんとも考えるのを止めた。とか出て来そうな程微妙な表情だけど戻って来たらしい。

 

「これはお嬢様大変失礼いたしました。てっきり聞いていた物だとばかり……申し訳ございません」

「ではまず繰り返しになりますが明後日にはここで、お二人で、同居して頂きます。」

随分と執事さん強調してる気がする。それに余りに丁寧すぎるせいで言葉の端々が嫌みに聞こえるのは気のせいだと信じたい。

 

そこからはもうただ淡々と執事さんが喋るだけの不思議な空間が出来上がった。

「全く持って理解不能……何をどうやったらこんな事に……けどお父さんとお母様が……」

「ご主人様と奥様に関しましては少しばかり私からお話がございますのでご容赦下さい」

 

 

ボソボソとテーブルの反対側から小声で話し合いが始まっている様で……

だんだん雲行きが怪しくなってきてどうやら人様には安易に聞かせられないらしい。

 

「まぁそうなって当然……でもそれだったら何でここに?」

「それがどうやらご主人様が……」

「お父さんが?何でこんな事を……どうにかならない?」

なんか随分と諦めたような声が聞こえるんですけど?何がどうなってるのか分からないのは俺も一緒なんですけど…….

「残念ながらそれは難しいかと存じます」

「だよね……本当に不思議でしょうがない」

「申し訳ございません」

おやおや。何か向こうでは話が纏まったらしい。

 

「それでは直翔様。お宅までお送りいたします。その後梱包材が届くように手配を整えておりますので明日の午後からは私もお手伝いに行きますのでよろしくお願い致します」

「ただ兄と住んでますから兄が何と言うか……」

どうせ兄貴の事だからいつも通りほったらかしてくるだろうが少しばかり抵抗してみる。

「お兄様でしたらむしろよろしく頼むと仰られていました」

まさかの兄貴にも手を回すどころか早く出ていけときた。

「そうでしたか……ではお言葉に甘えて送って頂いても?」

「私は最初からそのつもりですからお構いなく」

なんか予想以上に不思議な展開になった上に週末の予定がつぶされてしまった。

 

 そしてあっという間に引っ越しは終わり、せっせと段ボールを開封する作業を続ける事はや数時間。準備から手伝ってくれた執事さんがふと段ボールの小山の端で手を止めて手元を覗き込んでいた。

「おや、もう4時になっていましたか」

「何か予定でも?」

「いえ。途中で休憩でもと思ってたんですが……遅くなってしまいましたね」

如何にも気が回る執事さんらしい理由だった。

「今からでも良いんじゃないですか?丁度休憩したかったところですし」

「ではお嬢様もお呼びしますのでテーブルでお待ち下さい」

そう言って早くも遅めのおやつタイムの準備へと行動を移す姿は流石と言うべきか、板に付いておりしっかりとした印象を受ける。

 

 

ふとリビングの周りを見回してみると段ボールの壁も資料の山も無くなっていた。それに加え多量に重ねられていたカップ麺等の棟も綺麗さっぱりとして本来あったであろう姿に戻っていた。

「この前よりだいぶ綺麗になっていますけど片付けたんですか?」

「えぇ。昨日お嬢様もわざわざ手伝って下さいまして……」

 

いつの間にかダイニングに立って作業をしながら何とも微妙な表情をしている。

何故微妙な表情になっているのか不思議ではある。ちゃんと自分で片付けが出来るんだったら最初からして欲しい所ではあるが残念がる事は無いだろうと思う。

 

「本当はお手を煩わせたくは無かったのですが……」

そしてその答えがこれである。執事としてはある意味良い心構えなのかもしれないが、もはや過保護とかのレベルを超えている気がする。

一昨日の悲惨な惨状の一端が見えた気がする。

 

「勝手にやっただけ。気にしないで」

そしていつの間にか部屋から出て来て、休憩を待っていたのか心なしか前回よりもうっすらとだが明るい表情でソファーに座っていた。

「まぁ私としてはそう言われるのであれば、この調子で片付けて頂けると有り難いと言えば有り難いですね……」

「ん〜。気が向いたらやる……かも……」

いや、ちゃんとやってくれよと言うツッコミは言わずもがなであろう。

「無理をなさらない程度にお願いします」

「ん。」

この執事さんも執事さんで相変わらず過保護に近いものを感じる。

そんな一般家庭では聞かれそうで聞かれなさそうな会話の最中に香り高い紅茶と丁寧に並べられたお茶菓子が出て来て、のんびりとした空気が流れている。

 

 

そしてその後も口数が多いとは言えないものの雑談を交えながらのおやつタイムが続いていた。

「そろそろ残りの荷物を片付けますかね。改めてお手伝いありがとうございます」

そう言いながらほとんど残ってないカップの中身を飲み干す。

「こちらが無理なご予定を強いてしまったのが原因ですのでこれくらいはさせて頂けないと申し訳が立ちませんので……」

そう言いながら空になった皿やカップを手早く片付けて行く。

「むしろ後2、3箱ですからこのくらいで十分ですよ。それにそろそろ夕飯の支度もあるでしょうから」

早くも4時半を少し回ったくらいになっており徐々にではあるが日が傾いて来ている。

 

「ではお言葉に甘えて。折角ですので今日はいつもより腕に縒をかけてお作りしましょう。お夕飯は何時頃が宜しいでしょうか」

そう言うが否や片付けを始めている。

「遅くなければ何時でも構いませんよ」

「お嬢様は如何ですか」

「……私もいつでも」

 

普段の食事なんて時間も栄養もまちまちで酷い時には10時を過ぎる事もあったから食事の時間なんてほとんど気にする事がなかった。

「では少しばかりお時間を頂いて7時からでも宜しいでしょうか」

「勿論です」

「ん。分かった」

そう言って夕飯までに作業を終わらせるべく作業へと戻る。

 

きっかり7時を回ったところで夕飯が出来たとの知らせを受け、リビングに再び足を運ぶとご丁寧にランチョンマットが引かれた上にシンプルだが綺麗な食器が並べられていた。

 

そして早くも食事なのを聞きつけたのか既に知らされていたのか、ダイニングからキッチンを覗き込んでいた。そして余程好きなのかここ数日中見た中で妙にテンションが高かった。

「やった。ラザニアだ」

そして出て来たのは聞いた通りラザニア。この2時間半でこの料理を一から作り上げたのは流石お抱えの執事さんである。

 

それからはあっという間に食事も終わり順番でお風呂に入り一日が終わった。

それでも執事さんが居たから比較的スムーズに進んだのは間違い無さそうで、これから先が思いやられる。

 

正直今までと変わった所が多かったのと、引っ越しも有ったせいかだいぶ疲労が来ていて何時もより随分と早く寝てしまった。

 




お読みいただきありがとうございました!!
今回はちょっとコミカルっぽくするのを気にしつつ描いてみたんですけども・・・
果たして上手くいったのかそうでないのかイマイチ自分では判断がつかないと言う微妙なやつですよ(苦笑)
そう言えばつい先日UAが100超えてました!!やった〜!まさかこんなに見て頂いてくれる方が居たとはなんとも感無量でございます。
本シリーズはまだまだ序章ですからこれからも続きますからどうぞ長い目で見て頂けると幸いです。
こんどの投稿はもしかすると2週間後に早まるかも!?しれませんねぇ。
それでは今回はこの辺で、ダスヴィダーニャ


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わたしとあなたの距離
第5話 始まった同居


とってもお久しぶりでございます。
果たして私のことを覚えている方はいらっしゃるのだろうか...
既に前回から半年以上、長らくお待たせしてしまい何だかちょっぴり申し訳ない気分です。

それはひとまず置いといて、第五話“始まった同居”をお楽しみください!!


ピリリリ、ピリリリリリ。

日毎に学校へ行く時間が区々なため曜日設定を施した目覚ましの音がスマホから鳴り響く。

それとほぼ同時に意識が覚醒し、二度寝対策に机の上に置いたスマホを搔っ攫う。

未だに眠さが残る中、何とか起きて何時ものように廊下に出ようとする。

しかし、寝た事で暫く意識していなかった感覚が蘇ってくる。

「そういや今日から別の家だったんだな……」

静まり返った部屋に一人呟いた声が吸い込まれる。

とりあえず大して多くもない服から今日の分を抜き出して片手にリビングへと向かう。

当然の事ながらリビングはカーテンがきっちり閉じられ、真っ暗なまま。更には物音一つしない。きっと夜遅くまで起きていたせいで今も寝ているのだろう。

「本当に引き籠もりなんだなぁ〜」

正直言ってこんな当たり前な感想くらいしか出て来ない。

 

 カーテンを開けて、朝のテレビを付けてトースターでパンを焼きながら眺める。学校までの距離が近くなり、起きる時間が変わったせいもあってか、普段と見ているニュースの構成が違って新しい生活になったんだというのを強く意識させられる。

 それにしても他人の家で以外にも寛げている自分に驚きを覚える。案外、人が居ないに等しいのも理由になのかもしれない、と勝手に結論づけて早目に朝食を終え支度を進める。

 朝昼晩三食もカップ麺を食べていたら健康に言い訳が無いのでパンの上にピザソース、チーズ、ハムをのせてラップを掛ける。後はスティックのコーンスープをコップと一緒に並べておく。この程度では栄養不足だろうが少なくともカップうどんやカップラーメンといった即席食料よりはましだろう。

 やはり移動時間が短いと余裕ができて慌てなくてすむから良い。何より長めに睡眠時間を取れるのは大きい。まぁリビングの壁を挟んだ自室に引き蘢ってる同居人には関係無さそうではあるが……

 

そうこうしている間に出発の時間になる。

 

学校へ行く時間が何時もより遅い上に必要時間も圧倒的に短くなったためか、はたまた歩く道のせいなのか、随分と歩いている間の空気とかに違和感を覚える。

あれよあれよと言う間に引っ越して済む家が変わって、いきなり同居状態になったのだから変わるのも当然と言えば当然だろう。

 

学校に着けば先週と同様にちらほらと人が見えゆったりと人が行き交う廊下、ガヤガヤとした喧噪が漏れ出ている教室。

その一つに足を踏み入れ、教室端の所定の席へと向かう。

後は本を読みながらのんびりと過ごして担任が来るのを待つ。

そうすればあっという間に授業が始まる時間になる。

 

 

普段よりも寝れたのが良かったのか、授業での眠気も特になく一コマ目を終える。

「やっぱ遅い始まりだとすぐ昼飯で楽だなぁ」

「しかも午後も一コマしか取ってないからな。講義少ないの最高」

もはや自堕落にも程がある俺らの会話。だがしかし大抵の学生は似たような事を考えたことがあるだろう。まぁそれを口に出すかは別として。

 

「授業早めに終わったおかげで購買も学食も空いてんな〜」

「全く持って有り難い限りだな。感謝感謝だ」

学食の扉を開れば人もまばら。普段より幾分早く終わったおかげで券売機の列に並ぶ事なく昼飯を手に入れる。

多少安いのが取り柄だけの大して美味しくもない学食を食べていると昼の定期放送が始まる。

「おいおい、またお呼ばれしてんぞ。今度は何やらかしたんだよ」

「さぁな。あと俺が事案を起こしたみたいに言ってんじゃねぇよ」どうせ同居人になった引き籠もりについてだろう。報告を求めてくるのが随分と早い気はするが、それだけ学校側も困っているのだろう。

そんな風に呼び出しの事を考えながら放送で指示された通り、この前も訪れた研究室へ向かう。

 

 

「失礼します。平川です。放送の件で来ました」

ノックをしてドアを開きながら用件と名前を告げる。

すると棚の後ろからまたしてもカップを片手に、厄介事へと巻き込んだ張本人が現れる。

「さて、とりあえず座りながら話を聞こうじゃないか。君も何故呼ばれたのか良く分かっている様だしな」何とも鷹揚な態度で、少し位焦りがあるのではという思惑と違った態度に若干の違和感を覚える。

「あの後は車で家に連れてかれて、一応本人にも会いましたよ。とりあえず頑として学校に行く気が無いのは本人から確認とれました」

「分かっていたとはいえ、そこまで酷かったか......」

「全く以て取りつく島も無かったですよ。早く帰れとまで言われましたから」

すると一旦動きを止め、コーヒーカップへと手をつけてから数瞬の間が開く。

「他には何か分かったかね?多少なりとも何かあったと思うのだが」

何かを探りながら確かめるように聞いてくる。進歩と言うかなんと言うかはあったがあれは簡単に人に話せる内容では無い。そこでそれっぽくでっち上げるべく口を開く。

 

「......とりあえずは様子見、と言う事くらいですかね」

多少事実を省いたりしてはいるが、実際様子見である事は確かだし間違った事を言っている訳ではないので納得してもらえるだろう。

正直深く考えて言った訳ではないが、上手い言葉が出て来たものだと自分でも思う。

「何とかなると良いが……まぁ、向こうと何やらあるようだしまた今度聞こうじゃないか」そう言って含みのありそうな悪い笑顔を浮かべていた。

「随分悪そうな顔してますけど、これ以上巻き込まないでくださいね。面倒事は遠慮したいですから」そう言って釘を刺しておく。

「ハッハッハ。まぁ大丈夫だとは思うよ。いずれにせよ、君の腕に掛かっているのだから頑張ってくれたまえ」

驚く程模範的な悪役じみた返答にこちらとしては微妙な表情を浮かべる他無い。そろそろ授業だと言う声に考え事を中断。時計を見れば残り数分で授業開始にまでなっていた。遅刻を回避すべく挨拶もそこそこに部屋を抜け出して教室へと戻る。

 

 

 この日最後の講義を終えてさっさと帰り支度を整え、教室を後にする。夕方までは鶴崎さんが日本に居るそうで、レポートに再レポートに本呼んでゴロゴロするというプランをたて、マンションの近くに見つけてあった大型の本屋に寄り道してから帰る。

何時になっても慣れそうにない高級そうなエントランスを抜けてエレベーターに乗る。

 

「ただいまです」

何とも他人の家である意識が抜けないため、何とも違和感が拭えないがきっとそのうち慣れるんだろう。

「お帰りなさいませ。お迎えにもあがらず申し訳ありません」

「いえいえ。そもそも送迎とか必要な距離じゃないですし」

「それならば良いのですが……」

どうにも腑に落ちていないような表情のまま作業に戻っていく。そんな鶴崎さんを横目に部屋へと戻り、バッグを降ろしてパソコンを立ち上げてから手を洗いに洗面所へと向かう。

「もう10分程で出来上がりますのでしばしお待ち下さい」

「タイミングいいですね。もしかして帰る時間分かってましたか」

「そんなまさか。たまたまですよ」

そう言いながらどんどんと慣れた手付きで料理を進めて行く。

某民営化された放送局のニュースを眺めながら出来上がりを待つ。

 

「お嬢様、夕飯が出来ましたのでお越し下さい」

そんな声が聞こえたので横を見るともう既に食事の準備が整っていた。

この人一体どんなスペックしてるんだろうか。不思議すぎる。

「ん。今日も美味しそう。流石」

そしてご飯と聞いてするすると部屋から抜けるように出て来た引き籠もり少女。

「恐縮です。それでは食べるとしましょうか」

 

 

「そう言えば」

「何でしょうか、お嬢様」

「今日......向こうに行くんだよね」

「はい。この後空港に出発いたします」

「そう……」

「お二人ともお気をつけてお過ごし下さい」

 

 

 

 

 

こうして普通じゃない生活が始まった。




ここまで読んでくださりありがとうございます。
少し文量が足りないかな?何か物足りないな、と思いましたが一旦ここで区切ります。次回は新章の予定。

ほとんどの方が私のことを忘れているとは思いますが...
もし、私のことを忘れてないぞ!続き待ってたぞ!と言う方がいらっしゃいましたら是非ともご一報ください!!
あと、観想ください!!


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第6話 近くて遠い距離

どうも超絶お久しぶりです。ゆずりん改め柚野鈴です。

果たして覚えている方はいらっしゃるかどうかは分かりませんが、この作品はまだ生きています。

覚えてない方は1話毎はさして長くないので読み返しましょう!
そして覚えてるぞ!と言う方は大変お待たせしました。

てなわけで第6話、近くて遠い距離をどうぞ!


「まじむりぃ。レポートまじむりぃ、もうやだお家帰る~」

「分かる。考察8個は舐め腐っとる」

「は?8個もあんの?マジ?レポート通ったらよこせ下さい」

「丸ぱくすんなよ……」

「当たり前なんだよなぁ~……」

「おっけ、取り敢えず手順まで書いたから俺は帰るぞ」

「う~っす……お疲れ~」

「うい……」

 

 50人は軽く入れるPCルームを後にしてそそくさと帰途に着く。誰かと帰れば普段と違う道のせいで面倒なことになると思うのは思い過ごしじゃないだろう。

 高3相当と言えば、まだまだガキが多少マシになった程度のやつだってゴロゴロ居る。そんなのに騒がれたら面倒どころか超絶うざったいこと請け合いだ。

 まぁ、そういうやつは芯がないと相場が決まっている。残念ながら思いっきりブーメランなせいでこっちもうんざりするが。

 ちょうどホームの反対側でバカ騒ぎしてる3人組のように。しかし、そんな彼らも大きな走行音をたてながら滑り込んできた列車に乗れば一瞬で視界の外だった。

 

 

 

 いつも行動パターンが同じあいつはなあなあな態度と、のらりくらりとした行動で3年半ちょっとを過ごせているだけに何とも言い難い。正直白黒はっきりしたり無意味な自己顕示やらをするような歳はとっくに過ぎてるだけに何とも言い難いのだ。

 その点同居人となった彼女はどうなのだろうと考えてしまう。留年もせず、成績も悪くないどころか上位3割近くを維持しているのだから不思議なものだ。授業をロクに聞かなくてもある程度点数が取れているのだからそれすなわち天性の才なのだろう。こんな風にいつになく真面目でお堅い事を考えていたらあっという間に最寄り駅まで着いてしまった。

 

 今朝と一転して夕暮れに染まる道をなぞるようにして歩を進める。コンビニのある大通りを曲がって路地へと入り新居へと近づいていく。

 シンとして柔らかな絨毯のしかれたエントランスにまだ慣れそうにないなとか思ってしまう。静かなまま上へ上へと昇るエレベーターですら引っ掛かりを覚えてしまう。

 やや重厚な扉を開ければ奥から明かりが漏れ入る玄関。どうやら部屋から出てリビングで何やら作業しているようだった。

 

 煌々と灯るスタンドライトに照らされながらキャンバスを前にしている小さな背中。奥を覗いてみれば灰色をした茶碗と籠のような花瓶に活けられた数本の草花。

 作業着を着て黙々と筆を走らせる彼女の後ろ姿は煌々と灯る照明のせいか眩しく見えた。

 

 作業の邪魔をする趣味は無いので極力音をたてないように自室へかばんを放り込み、汗を流そうと風呂を入れる。夏真っ盛りなせいで日が落ちても蒸し暑くて応える。少しばかり部屋の整理をして風呂を済ませ、適当なTシャツと短パンを着て脱衣所を出る。

 

 こちらに気づいているのか分からない彼女は作業の手を止めてはいなかった。

「今から飯作るから」

「ん……お風呂入ってくる」

 

 たった一言で人間的な活動を始めた彼女。腕まくりをした袖口や結わえられた後ろ髪の隙間から覗く、白くて細くて滑らかな肌が目に映る。ほのかに紅潮して若干の湿り気が分かるほど近くをすれ違う。少しほっそりとした眼もとは狐のようで、女子としては平均くらい、それでもやはり自分より小柄な彼女は何処か子犬を思わせた。

 そして何より、健康的な男子には少々目の毒だった。

 カラカラと脱衣所の戸を開けて姿が消える。その後ろ姿は浮世離れした可憐な天使のようでいて、不思議と甘く感じる何かを漂わせていた。

 

 冷蔵庫のチルド室やら野菜室何かを覗いて適当な食材を見繕う。さして料理が上手なわけでは無いが、殆ど一人暮らしに近かったせいで一応作れる程度。そもそも男の一人料理なんて炒め物ばかりでレパートリーなんぞ無いに等しい。

 ガスではなくIH調理器に大変な有難みを感じつつ炒め物をしながら味噌汁を作り上げていく。調味料も驚くほど豊富で、棚を開ければ塩コショウは勿論香辛料の類いまで置いてあり、かなり食に拘っていたのがうかがえる。

 しかし何故カサゴが捌かれて丸々入っていたのか不思議でしょうがない。釣りが趣味だったりするんだろうか。しかもそれを綺麗な三枚おろしにした上で、日付までメモされている事には驚かされる。あの人は一体何者なのか……。

 閑話休題。カサゴはぶつ切りにして味噌汁と煮つけへ。適当な野菜たちは炒め物と煮つけのお供にする。まさに圧力鍋と火力の高いIH調理器様様である。

 

 

 30分程経った頃か。最後の仕上げをチマチマとしながらテーブルを拭いたりなんだりしているとカラカラと音がする。パタパタと小さく音を響かせながら出てきた彼女はワンサイズ大きな紺のTシャツとウエスト調節用の紐と膝頭が見え隠れする麻の短パン。

 正直こっちの事などアウトオブ眼中なレベル。良いのか悪いのか……湯冷めして風邪をひかないことを祈るほかない。

 フラフラとテレビの前までやってきてニュースをつけたようで、料理の音で不鮮明ながらアナウンサーの声が聞こえてくる。準備のペースを上げながら盛り付けをしたり、一応形だけでも片付けを進めておく。

 

 出来上がった料理を二人分ざっと盛り付けて並べていくと、硬かった表情が僅かに緩んだように見えたがそれも一瞬の出来事。一点を見つめたまま小さく手を合わせて箸を取って食べ始めた。

 つられるようにして手を合わせ、食べ始めた。

 

 そこからは終始無言。淡々としたアナウンサーの声が流れ続け、時折食器が音をたてるそこは椅子の座りが悪く、さして大きくないテーブルが妙に広く感じた。

 

 

 




読了ありがとうございました!!

ん~今回も何だか短い気がしないでもないですが…。まぁ、良いでしょう。
この次はいつ出るか相変わらず未定も未定ですが、少し時系列が飛ぶ予定です。何より無言の二人を書き続けても何だか面白みに欠けますからね(苦笑)
これからは数話分も沈黙を続けている彼女が遂に!?

それでは次回作をお楽しみに!!


…とまぁ次回予告はこれくらいにして、本当にこの作品をお読みいただき、ありがとうございます!!


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