比企谷八幡 in SAO (アカツキ8)
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設定・諸注意

最近俺ガイルとSAOにはまってて思い付いたものです。

初めて書くので上手いことできるか分かりませんが、とりあえず、SAO編の最後まではやりたいと思います。保証はできませんが...。

あと作者はアニメは見ましたが、原作を読んでおりません。まともに読んだのはアリシゼーションだけです。なので余り深い部分までは理解していない点があると思いますがそこは大目に見ていただけるとありがたいです(笑)

 

 

それでは先に登場キャラを紹介します。

SAOのキャラは全員出すつもりです。

 

・比企谷八幡

・比企谷小町

・雪ノ下雪乃

・由比ヶ浜結衣(SAO編では出さないです)

・一色いろは

・材木座義輝

・平塚静

 

ちょっと出しすぎな気もしますが、ひとまずこれで進めようと思います。途中からほとんど出さないキャラもいるかも(笑)

 

次に読む前に知っておいて欲しいことを書きます。

 

 

 

・奉仕部の問題は既に解決した後という設定にします。

 

・まず最初はナーヴギアとソードアートオンラインを手に入れる所から始めます。いきなりSAOの中からは始まらないです。早い展開で進むのがいい人はあまり読むことをおすすめしません。

 

・俺ガイル勢は全員のアバターネームをリアルの名前と一緒にします。その方が楽なんで。

 

・由比ヶ浜についてですが、上に書いてある通りSAO編には出しません。もし続いたらALO編の時に出そうと思います。

 

・八幡を誰とくっつけるかは決めてません。でも先に言っておきます。平塚先生と由比ヶ浜はないです。特に平塚先生を誰とくっつけるかは、もう作者の頭の中で決まっております。SAOのとあるキャラとくっつけようと思っています。多分想像できると思いますが(笑)

由比ヶ浜については...ご想像にお任せします。

 

・ハチアスはございません!絡みはあると思いますがキリアスは崩しません!

 

・八幡たちは中学生という設定にします。なのでキリトとアスナと同年代です。そして小町は小六です。

 

・もしALO編まで行ったらそのあとはちょっとオリジナルで話をやりたいと思います。例えばキリトたちと同じ学校での学園祭とか...。バトル大会とかもやらせてみたいですね。

 

・サチ生存ルートにするかどうかは後で決めます。

 

・一応原作沿いに進めますが、プログレッシブの内容も混ぜてみたいので更新が止まるかもしれないです。

 

 

不定期更新です。月に2~3本投稿しようと思っています。

 

 

最後にもう1つだけもう一度言っておきます。

作者は小説初チャレンジです。なので文章力には自信がありません。読んでいて不審な点があったら教えてください。可能な限り改善していきます。

 

では次から本編を投稿したいと思います。それでは。

 

 



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SAO編
プロローグ


お待たせしました。
ではさっそく本編を投稿していこうと思います。
まだ今回ではSAOの中には入りません。
多分次からになると思います。
今回はちょっと会話文が多めです。

ではさっそく本編を始めようと思います。どうぞ


八幡「マジか.....」

 

陽乃「うん。マジだよ」

 

今俺は部室で衝撃的な光景を目にしている。

普段何も置いていない長机の上に、なんとあのナーヴギアとソードアートオンラインがセットで五台もあるのだ。

 

この光景を見た雪ノ下が思わず疑問を口にする。

 

雪乃「姉さん...一体どうやって...」

 

雪ノ下の疑問に陽乃さんは事も無げに答える。

 

陽乃「雪乃ちゃん。世の中には聞かない方がいいこともあるんだよ」

 

あぁ、金とコネと権力ですか。結局、世の中金だよな。

 

八幡「それにしても、よく五つも手に入りましたね」

 

俺が感嘆しながらそう言うと陽乃さんが笑いながら答える。

 

陽乃「うん。大変だったよぉー。一万台しかないからね、何日も前から並ばせてたよ(笑)」

 

うわぁ、待ってた人かわいそう。てか思ったより全然普通の入手方じゃん!いや、ゲームのためだけに人材を使える時点で普通じゃないけど!

 

するとずっと黙っていた由比ヶ浜が不思議そうに訪ねてきた。

 

結衣「ねぇヒッキー、これってすごいの?」

 

そう言って机の上にあるダンボール箱を指差す。

 

は?こいつもしかして知らないのか?

 

八幡「ばっか、フルダイブ技術を使ったVRMMOだぞ。ゲーム好きにとっても、そうでない人にとっても、まさに夢のゲームだ。てかニュース見てねぇのかよ。」

 

雪乃「そうね、私もゲームには興味はなかったけれど、このゲームには興味があるわ。由比ヶ浜さん、あなた少しはニュースを見なさい。最近のニュースでもかなり騒がれているわよ」

 

俺と雪ノ下がそう言うと由比ヶ浜が答える。

 

由比ヶ浜「なっ...ニュースくらい私も見るしっ!何が凄いのか分からなかっただけだし!」

 

由比ヶ浜がそう言うと雪ノ下が答えた。

 

雪乃「それもニュースを見れば分かると思うのだけれど...ところで姉さん、本当にもらってもいいのかしら?転売すればかなりの額になると思うのだけど」

 

結衣「あ!?ゆきのん話そらした!」

 

由比ヶ浜が不満そうにしていたが結局口を閉じた。

 

陽乃「別にいいよー。もともと奉仕部の三人のために買ったんだし、残りの二つも誰かにあげちゃってもいいよー。あ、お金は要らないよ」

え?タダでくれんの?マジかよ、あのナーヴギアとソードアートオンラインがタダで手にはいるとは...でもなぁ、俺もう持ってるんだよなぁ。ベータテストの時にもらった優先購入券で買っちゃったし...そうだ!小町にあげよう。あいつ俺がベータテストに当たったとき凄く羨ましがってたしな。

 

八幡「陽乃さん、ありがとうございます。でもすいません、俺もう買っちゃったんで妹にあげてもいいですか?」

 

陽乃「ありゃ、もう少し早く持ってくれば良かったかな」

 

陽乃さんが少し申し訳なさそうに答える。

あれ?この人っていい人だったっけ?

 

八幡「いや、そうじゃなくてですね。実は俺ベータテストの抽選に当たって、その時にもらった優先購入券で買っちゃったんですよ。」

 

陽乃「え?そうなの!?あれって確かすごい人数が応募してとんでもない倍率になってたのによく当たったね。あ、妹さんにならあげちゃってもいいよー、比企谷君には雪乃ちゃんも世話になってるしね」

 

陽乃さんがそう言うと雪ノ下が口を開いた。

 

雪乃「姉さん、私はこの男に世話なんかされてないわ、むしろ私が世話しているのよ」

 

八幡「いや、俺の方が世話してるんじゃないか?お前、一人で買い物行ったら絶対迷子になるだろ」

 

雪乃「何を言っているのかしら?あの時はたまたま道を間違えただけで毎回間違える訳では...」

 

八幡「いや、自分で道間違えたって言っちゃってるし」

 

雪ノ下は言われて気がついたのか悔しそうに肩を震わせた。

 

陽乃「あはははは!雪乃ちゃん、かっこ悪ーい。あははははは!」

 

雪乃「姉さん...」

 

雪ノ下は陽乃さんの方を見てなにか言おうとしたのだろうか、口を開いたが結局やめて俺の方に恨めがましそうな目を向けてきた。

いや、今のはお前のミスだろ。俺は知らん。

 

すると陽乃さんがなにか思い出したのか急に笑うのをやめて腕時計を見始めた。

 

陽乃「やばっ、私もう行かなきゃ行けないところあるから。あ、先生にナーヴギア見つからないようにしなよ、

学校にこんなの持ち込んだのがバレたら絶対に怒られるから」

 

雪乃「えぇ、分かっているわ」

 

陽乃「それじゃあね、比企谷君、ガハマちゃんも」

 

八幡「はい、ありがとうございました」

 

結衣「あ、ありがとうございました」

 

陽乃「うん。じゃあねー」

 

そうして陽乃さんは部室を去っていった。

何か初めてあの人に感謝した気がする。

...そういえばこれどうやって持ち帰るんだ?

 

八幡「なあ、これどうやって持ち帰るんだ?俺、こんなの絶対に自転車のかごに入らないんだけど」

 

俺がそう聞くと雪ノ下が答えた。

 

雪乃「帰るときになったら私が車を呼んでみんなの家に届くように手配するわ」

 

おぉ、さすが雪ノ下だ。こういう時に一番頼りになる。

 

結衣「ねぇ、ゆきのん。残りの二つはどうするの?」

 

雪乃「そうね...一色さんにあげてはどうかしら?」

 

結衣「いろはちゃんかー...うん。いいと思う!生徒会長の仕事の息抜きにもなっていいんじゃないかな」

 

一色か....何か嬉々としてmobを狩る姿が想像できるな。○ねぇ!とか言ってそうだ。下手したらそのままPKしてきそうで怖い。

 

雪乃「後一人ね。比企谷君、誰か心当たりはないかしら?出来ればこれをあげて喜びそうな人に」

 

八幡「そうだな...あっ、材木座なんてどうだ?あいつなら絶対に喜ぶぞ」

 

あいつのことだ、どうせ『ついに本物の剣豪将軍になるときが来たか』とか言って楽しむだろう。

 

雪乃「そうね。彼なら絶対に喜ぶわね、それに日頃の願望を叶えるチャンスなんじゃないかしら」

 

結衣「え、それ大丈夫なの?何か今より中二病が悪化しそうなんだけど」

 

もっともな心配だ。だが...

 

八幡「心配するな、あいつの中二病は既に末期だ。これ以上ひどくはならん」

 

結衣「そっか。なら大丈夫だ」

 

由比ヶ浜は安心したようにほっと息をついた。

 

雪乃「そこは安堵するところじゃないわよ由比ヶ浜さん。むしろ悲観すべきよ」

 

八幡「まぁ、気にするな。ところで

『二年F組の由比ヶ浜結衣さん、至急職員室の○○先生の所に来て下さい。繰り返します。二年F組の......』

...由比ヶ浜、何やらかしたんだ?」

 

俺が聞くと思い出したのか顔をしかめながら言った。

 

結衣「もしかしたらテストのことかも...この前風邪で休んじゃったから」

 

八幡「あぁ、そういえば休んでたな。...ってやばくね?」

 

結衣「え?何が?」

 

こいつ現状を理解してないな。

 

八幡「いや、もし明日学校に来てテストやれって言われたらお前俺達と一緒にソードアートオンライン出来ないじゃないか」

 

俺がそう言うと由比ヶ浜だけではなく、雪ノ下も『あっ』と声をあげる。

 

雪乃「由比ヶ浜さん...」

 

そう言って雪ノ下は由比ヶ浜に憐れみの目を向けた。

 

結衣「で、でも今日中に終わらせれば...」

 

雪乃「それは無理よ。だってもう下校時刻まで一時間もないもの。どうやっても全部のテストを終わらせることは出来ないわ。」

 

結衣「うぅ..そんなぁー」

 

由比ヶ浜はそのまま床にへたりこんでしまった、流石にかわいそうだな。

 

八幡「まぁ明日が無理でも明後日いっしょにやってやるよ」

 

俺がそう言うと復活したのか立ち上がった。

 

結衣「ヒッキーそれ絶対だからね!絶対だからね!」

 

八幡「お、おう...」

すごい勢いで詰め寄られて思わず顔を背ける。

 

ちょっとそんなに詰め寄らないで!当たってるから、メロンが二つ当たってるから!頼むからはなれて!八幡の八幡がフルバーストしちゃうから!

 

雪乃「由比ヶ浜さん、早く職員室に行かなくて良いのかしら」

 

ナイスだ雪ノ下!さぁ今のうちに落ち着かせよう。Be Coolだ八幡!煩悩滅殺、心頭滅却........よし落ち着いた。

 

顔をあげると由比ヶ浜の姿が消えていた。

どうやら職員室に行ったようだ。

 

八幡「すまん雪ノ下、助かった」

 

雪乃「気にしなくていいわ。あなたを助けるためにやったわけじゃないもの」

 

そう言うと雪ノ下は顔を背けた。どうしたんだ?

 

八幡「どういうことだ?」

 

雪乃「こっちの話よ、それよりも一色さんたちに連絡しましょう。材木座君にはあなたから連絡してちょうだい」

 

八幡「?...まぁいいや、分かった」

 

少し気になるがどうせ教えてくれないだろう。

材木座に連絡したところ帰っている途中だったらしいが、ナーヴギアとソードアートオンラインのことを伝えたら直ぐに学校に戻ると言っていた。一色は生徒会の仕事が終わったらこっちに来るそうだ。そういえば今日は仕事を手伝わされなかったな。どうやら生徒会長としてそれなりに仕事を頑張っているようだ。あいつも変わったな。

少し感傷に浸っていると一色からメールが来た。

『先輩、後でそっちに行くときに書類持ってくんで手伝ってください♪』

...前言撤回だ、やっぱりあいつは変わってない。

俺の感動を返せ、このやろう。

 

 

あの後二人を待つ間、雪ノ下にベータテストの時の話をしていたら唐突に部室の扉が開いた。

一色か材木座が来たのかと思って部室の入り口の方を見ると予想外の人物...いや、来てもおかしくはないのだが今部室に来てはまずい役職の人物が来た。

 

平塚「邪魔するぞー。ん?珍しいな、お前たちが本を読まずに話してるなんて...ところで比企谷、そこの机の上にあるダンボール箱の山はなんだ?」

 

まずい、平塚先生が来るかもしれないことをすっかり忘れていた。雪ノ下の方を見ると、しまった、という顔をしていた。くそっ、ちゃんと部屋の何処かに隠しておけばよかった。

いや、待てよ。ダンボールの中身は見られてないから何とか誤魔化せるんじゃないか?よし、そうと決まれば善は急げだ、善じゃないけどな。

 

八幡「あぁ、それ演劇部の小道具と衣装ですよ。部室に置く場所がないからって頼まれたんです」

 

これで誤魔化せるか...表情を崩さずに言い切ったぞ。

 

平塚「そうか。...それより由比ヶ浜のことなんだが」

 

よし、何とか誤魔化せたぞ。このまま無事にすぎてくれれば...

 

そう思っていると廊下から足音が聞こえてきた。

まずい...このドタドタと廊下に響く足音は...

そしてその足音の主は部室の前にたつと言い放った。

 

材木座「剣豪将軍ただいま参上!して八幡、ナーヴギアはどこにあるのだ?って平塚先生がなぜここに...」

 

あっ、詰んだ。何でこんなタイミングよく来るんだよ!

ってヤバい、平塚先生の顔がまるで般若の如く変わっている。

 

八幡「ちょっと待って下さい、平塚先生!話せばわかります。なのでラストブリットだけは『問答無用!!』

 

グホアッ バタッ

 

 

材木座「...我のせいか?」

 

雪乃「いえ、下らない言い分けをした彼が悪いのよ。気にしなくていいわ」

 

平塚「はぁ...比企谷、なぜここにナーヴギアがあるのかね?ここは学校だぞ、こんなものを持ち込めばどうなるかぐらい百も承知のはずだが」

 

比企谷「出来れば殴る前に聞いてくれませんかね...」

 

腹を押さえながら俺が起き上がると、代わりに雪ノ下が質問に答えた

 

雪乃「先生、それを持ってきたのは比企谷君ではなく、私の姉さんです」

 

雪ノ下の言葉を聞くと平塚先生はため息をついた。

 

平塚「陽乃か...いつまで経っても問題児だな、あいつは」

 

八幡「やっぱり問題児だったんすね、あの人」

 

平塚「あぁ、あいつがいた頃は...って今はそんな事はどうでもいいな。」

 

八幡「もしかして没収ですか?」

 

あぁ、小町の喜ぶ顔が見れると思ったのに。やっぱり人生は甘くなかったようだ。

 

平塚「いや、没収するのは勿体ない。それに確か明日の午後3時がソードアートオンラインの正式サービスの開始だったはずだ。たまには羽目を外して遊んでもいいだろう」

 

あれ?学校の教師としては普通没収すると思うんだが...それにやけに詳しかったな。まさか...

 

八幡「平塚先生、もしかして先生も陽乃さんに貰いました?」

 

平塚「へ?あ、いや、貰ってないぞ」

 

...黒だな。てかそんなあからさまに顔を背けたらばれるわ。

雪ノ下も呆れながら言う。

 

雪乃「平塚先生、バレバレです。それで隠してるつもりですか?」

 

平塚「ぐっ...はぁ、私も陽乃に貰ったよ。日頃のストレス発散にはもってこいだ、って言われてな」

 

この人はゲームなんかより頑張るべきことがあるんじゃないのか?それに陽乃さん、日頃のストレスって...

 

平塚「比企谷、なにか失礼な事を考えてないか?」

 

八幡「いえ、なにも」

 

なんでわかるんだよ、エスパーかよ。

 

平塚「まぁいい。それよりも比企谷、さっき陽乃に聞いたが君はベータテスターだそうじゃないか。もしよければ私も君達と一緒に行動してもいいか?それに序盤のコツとかを教えてもらいたい」

 

八幡「構わないですよ。今さら一人増えてもあまり変わりませんし。ところで平塚先生、さっき由比ヶ浜がどうとか言ってましたけどどうしたんですか?」

 

平塚「そうだ!すっかり目的を忘れていた。由比ヶ浜なんだがテストで今日はもう部室に来れないそうだ」

 

すると雪ノ下も薄々わかっているだろうが尋ねた。

 

雪乃「先生、そのテストって明日もやるんですか?」

 

平塚「ん?そうだが...あぁそういうことか。残念だが明日いっしょにやるのは諦めるしかないだろう。」

 

雪乃「そうですか...」

 

雪ノ下は残念そうに呟いた。どうやら相当いっしょにやりたかったらしい。俺的には教える人数が減って楽なんだけどな、まぁ明後日に教えることになったけど。

 

平塚「じゃあ私は職員室に戻る。雪ノ下、明日の予定が決まったらメールしてくれ」

 

雪乃「分かりました」

 

そうして平塚先生は職員室に戻っていった。

さて、雪ノ下とベータテストの話の続きをするかな。

そう思って雪ノ下に話しかけようとすると材木座が話しかけてきた。

 

 

材木座「八幡、我も教えて貰ってもいいか?」

 

八幡「あれ?いたの?」

 

材木座「ひどい!」

 

 

その後材木座も交えて話そうとすると一色が部室に入ってきたため話は中断し明日の予定についての会議が始まった。

 

一色「あ、先輩。話しながらでいいんでこの書類お願いします♪」

 

八幡「ホントに持ってきたのか...」

てっきり冗談かと思ってたわ

 

雪乃「比企谷君、私はどんなゲームか聞いたけれど、この二人は知らないと思うから説明してあげて」

 

八幡「あぁそうだな。まぁ時間も無いから簡潔に言うぞ。まずこのゲームは実際に体を動かす。だからそれなりにセンスが要求される。身体能力についてはゲーム内のステータスに左右される。それと戦いについてだが魔法は存在しない」

 

俺が書類を整理しながらそう言うと一色が驚いたように聞き返す。

 

一色「え?ファンタジー世界なのに魔法がないんですか?」

 

もっともな疑問だ。でもまあソードアートって言うぐらいだしな。

 

八幡「あぁ、このゲームは魔法を完全になくして剣だけで戦うゲームだ。その代わり様々なスキルや武器、それと剣専用のスキルも存在する。これがこのゲームの目玉要素だな」

 

一色「へぇ、何か面白そうですね」

 

おっ、どうやら一色も興味を持ったようだ。

材木座は...言うまでもないか。

 

 

 

それからも会議は進み、全員のアバターに分かりやすい特徴をつけることと、最初の街の広場で待ち合わせることが決まった。

 

 

雪乃「それじゃあ今日はもう解散しましょうか。それじゃあみんな、明日はよろしくね」

 

八幡「そうだな、早く小町にナーヴギア貰ったって教えてやらないと」

 

小町のやつ驚くだろうな

 

材木座「ムハハハハ!明日はこの剣豪将軍義輝の剣さばきを見せてやろう!」

 

お前は教えてもらう側だろうが。まぁいいや、突っ込むのもめんどくさい。

 

一色「先輩、書類終わりました?」

 

いや、お前...もういいや。一色に書類を渡す。

 

八幡「それじゃあ明日始まりの街の広場で集合な」

 

雪乃「えぇ」

 

一色「わかりました」

 

材木座「うむ」

 

 

こうして俺達は解散した。

明日このメンバーに平塚先生と小町を加えた6人でデスゲームを戦い抜くことになることを知らずに。

 

 

 

 

 

 

 




どうでしょうか?
書いていて思いましたが執筆している途中って、あれもやりたい、これもやりたい、となってなかなか進まないですね。
後すいません!SAOにはいるまでにもう1話使います!


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プロローグ2

あれから雪ノ下の家の車で家に帰る途中、小町にナーヴギアとソードアートオンラインを貰ったことを伝えたらすごい喜んだ。

 

しかし車だと帰りが早いな。普段の3分の1の時間で家に着いたぞ。まぁそんなことより早く小町にナーヴギアを見せてやろう。そう思って家に入るとリビングで小町が謎の動きをしていた。

 

なんだあれ?

 

八幡「ただいまー。帰ったぞ小町、そこで何やってんだ?」

 

小町「うわっ!?あっ、お帰りお兄ちゃん。今日は遅かったね、学校で何かあったの?」

 

さっきの謎の動きをなかったことにしようと平静を装って話しかけてきた。まぁ、あれだな。今見たことには触れるな、ってことだろうな。だがな小町、人生はマッ缶のように甘くはないのだよ。それに気になるしな、一体どんな反応をするのか...

 

八幡「あぁ、学校でちょっとな。てかさっき電話で話しただろ。で、さっきの謎の動きはなんだ?」

 

小町「ちょっと!?そこは触れないでおいてくれるのが優しさだよ!!これだからお兄ちゃんはゴミィちゃんなんだよ!!」

 

何かすごい勢いで怒られた。急にそんな大声を出すなよ。

かまくらが驚いて逃げてったじゃないか。

 

八幡「いや、だって気になるだろ。帰って来たら妹が謎の動きをしてたんだから。だが安心しろ、例え小町がちょっと痛い子だとしてもお兄ちゃんは変わらずに接してやる。あ、今の八幡的に超ポイント高い」

 

俺が胸を張ってそう言うと小町は一瞬ムッとして言い返してきた。

 

小町「小町的にはありがたいしポイントも高いけど小町は痛い子じゃないよ!ちょっと練習してただけだよ!」

 

八幡「練習?何の?」

 

小町「えぇっと、なんだっけ。ソードスキルって言うの?ナーヴギアとソードアートオンライン貰ったって聞いたからテンション上がっちゃって」

 

八幡「あぁ、あれね」

 

ちなみにソードスキルって言うのはソードアートオンラインの、剣専用の攻撃スキルのことだ。正確には剣や斧とか槍とか武器全般のスキルだけどな。

それにしても安心したぜ。最愛の妹が材木座と同じ世界に旅立ったのかと思ったわ。

 

八幡「それにしても気が早くないか?サービス開始は明日の昼過ぎだぞ。」

 

小町「だってしょうがないじゃん!やれないと思ってたら急にナーヴギア貰ったって電話が来たんだもん!そりゃテンションも上がるよ!」

 

八幡「そ、そうか」

 

詰め寄ってきたので思わず仰け反ってしまう。何で俺の周りのやつってこんなに詰め寄ってくるの?心臓に悪いんだけど。

しかし、なぜだろう。由比ヶ浜にやられたときは内心ドキドキしたが、小町にやられるとそういう気持ちにならない。

妹だからだろうか?いや、そういえば由比ヶ浜は他にも原因があったわ。

 

俺が若干下がりながら姿勢を元に戻すと小町ががっくりとうなだれて言った。

 

小町「うぅ、お兄ちゃんに引かれた...お兄ちゃんに引かれた...」

 

今この子二回言ったよね。そんなに俺に引かれるのが屈辱的だったの?

 

八幡「いや、別に引いてないから安心しろ。それよりもナーヴギアを箱から出して明日の準備しようぜ」

 

小町「うん、わかった」

 

 

 

 

それからナーヴギアの設定や周りの環境を整え、

今は小町とテレビを見ながら晩御飯を食べている。

うん、やっぱり和食は旨い。鍋をつつきながらテレビを見る。

しかしどの報道番組もナーヴギアの事ばっかだな。他に伝えることねぇのかよ。

そんな事を考えていると小町が話しかけてきた。

 

小町「そういえばお兄ちゃん。さっき説明書で読んだんだけど、何でナーヴギアを着けた状態で全身を触らなきゃいけないの?」

 

八幡「ん?あぁ、それなんだが、お兄ちゃんにも分からん。でも必要な事なんだと思うぞ。あんなゲーム機を開発した人間が無駄な事をさせるとは思えないしな」

 

しかしすごいよな。茅場晶彦だっけ、ナーヴギアとソードアートオンラインの開発者は。絶対に生きてる間にこんなゲームは開発されないだろう、って思ってたからな。

 

小町「でもその開発した人って少し変わってるよね。テレビや雑誌で見たけど『これはゲームであって、遊びではない』とか言ってるし。それにゲームは遊びじゃん。頭のいい人は何考えてるか分かんないよ」

 

小町は首を振りながらお手上げって感じで両手をあげる。

 

八幡「うーん、何が言いたいのか分からんでもないが......いや、意味わかんねぇな。確かにベータの時もすごいとは思ったがやっぱりあれはゲームだ。死んでも死なねぇし、それに食べ物も変な味だったし。」

 

まじであの食い物の味はどうにかすべきだと思う。スキルがないと旨い食事なんて無理だったし、俺はまだましなNPCの店で飯食ってたけどさ。マッ缶が何度恋しくなったことか...

 

小町「えぇぇ、食べ物美味しくないの?じゃあご飯はちゃんと現実で食べた方がいいね」

 

そう言いながら小町はおでんの大根を食べてほほをゆるめる。そんなにその大根旨かったのか。どれ、俺も1つ...ってもう無いし!おでんなのに大根食えなかった...。くそっ、一人で全部食いやがって、心の中で文句を言いながらはんぺんを食べる。

あ、はんぺんも旨い。

 

八幡「あぁ、それにちゃんと食わないと栄養が摂れないからな」

 

ダイエットしたいやつにはもってこいかもしれんが、止めた方が身のためだろう。

あ、鍋の具がなくなった。

 

小町「ところで、明日って小町以外に誰がいるの?」

 

八幡「そういえば教えてなかったな。雪ノ下と一色と平塚先生だ。あともう一人、材木座っていうやつが来る。

こいつは中二病で、話すのが面倒くさかったらスルーしていい」

 

ていうか小町には出来ればあいつと関わってほしくない。小町に悪影響が及びそうだ。

 

小町「ふぅーん、中二病って現実にいたんだね。妄想でやめときゃいいのに。それに平塚先生も来るんだ。

ってあれ?結衣さんは?」

 

小町が首をかしげて聞いてくる。

 

八幡「あいつはテストだ。もし来たとしても、もう夜だろうしその頃には俺達も飯食うために落ちてるから明日は来ない」

 

皿を片付けながら俺がそう言うと小町は残念そうに呟いた。

 

小町「ありゃー、結衣さん来ないんだ。残念」

 

八幡「あぁ、それじゃお兄ちゃんは風呂入ったら寝るわ。小町も早く寝ろよ」

 

小町「うん、分かった」

 

そうして俺たちは部屋に入って眠りについた。

 

 

 

《翌日》

 

小町「お兄ちゃん、早く早く!もうすぐサービスが始まっちゃうよ!」

 

八幡「分かってる」

 

小町に急かされナーヴギアを取り付ける。

しかし眠いな。結局昨日は全然眠れなかったぜ。

まったく、俺は遠足前日の幼稚園児かよ。

 

小町「じゃあ行くよ!お兄ちゃん!」

 

八幡「おう」

 

楽しみだな。またあの世界に行ける。

そう考えると眠気が何処かに行ってしまった。

 

そして俺達はナーヴギアを起動するための合言葉を言う。

 

『リンクスタート!!』

 

 

 




うーん。やっぱり会話文が多くなってしまう。
今回は短めですがまた次から長めにします
それにしても1日で1000UAもいくとは...ハーメルンってすごい。高評価つけてくださった方、
ありがとうございます!少し自信がつきました!
今回でプロローグは終わりです。
次からSAO内の話になります。
それでは、また次の話で。


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第1話 再会と猪の猛追

お待たせしました。
リアルで一段落ついたので続きを投稿します。
ちなみにお気に入り30件突破いたしました!!
登録してくださったかた、ありがとうございます!!
前回と比べると今回めっちゃ長いです。

では、どうぞ。


「戻ってきた...この世界に!!」

 

周りの風景を見て思わずこの言葉が口に出た。

俺は今、ソードアートオンラインの舞台である

通称“浮遊城アインクラッド”の百層あるうちの最下層である第一層の始まりの街にいる。この街はかなり大きく道を知らない初心者は迷子になりやすい。特に雪ノ下のような方向音痴の人にとっては、まるで最初から迷宮区に居るように感じるだろう。

.....ちゃんと会えるだろうか?心配だ...

 

待ち合わせ場所に向かっていると街が騒がしくなってきた。どうやら続々とプレイヤー達がこの世界にやってきているようだ。ある者は歓声を上げ、またある者は周りの建物を見て目を見開いている。

やっぱり最初は驚くよな、俺だってそうだった。

すると近くを歩いていたプレイヤーにいきなり話しかけられた。

 

「そのアバター...もしかしてハッチか?」

 

え?俺を知ってる?それにこの呼び方に特徴的なひげのアバターは...

 

「...もしかしてアルゴか?」

 

俺がそう訊くと安心したように、そして嬉しそうに話しかけてきた。

 

「やっぱりハッチか。久しぶりだな、ベータテスト以来か」

 

「あぁ、久しぶりだな。その髭は相変わらずか」

 

まさか雪ノ下達よりも先にベータ時代の知り合いに会うとは思わなかったな。

 

「この髭はオレっちのトレードマークだ。それにこの髭がないと“鼠のアルゴ”じゃなくなるからな」

 

そう言ってアルゴはアバターの顔に施されたペイントを触る。

ちなみに今アルゴが言ったのはベータテスト時代の二つ名だ。両頬に髭が三本ずつ描かれていることが由来している。だがアバターが特徴的だからといって二つ名が付けられるわけではない。二つ名は有名なプレイヤー、良くも悪くも知名度が高いプレイヤーに付けられる。

こいつの場合は情報屋、すなわち情報を売って金を稼いだり、取引の仲介をする代わりに手数料を取って金をもらう商人プレイを主な活動とする数少ないプレイヤーとして有名だった。俺もこいつから情報を買ったことがある。

 

「そういえばそんな二つ名が付けられてたな。なぁアルゴ、フレンド登録しないか?次はいつ会えるかわからないしな」

 

俺がそう言うとアルゴはニヤリとした。

え?何その顔、絶対に何か良からぬ事を考えている顔だ。

 

「もちろんいいぞ。ハッチは上客だったからな、また何かいい情報が手に入ったら売ってやるよ。そうだ!さっきベータの時にはなかった要素を見つけたんだが...聞きたいか?」

 

「いきなり商売の話かよ」

 

俺は思わず苦笑いしてしまう。

でもベータになかった要素なら知っておいて損はないな。...それにしてもまだ始まって数分なのによく見つけたな。流石は鼠のアルゴといったところか。

 

「あぁ、でも金はあまり持ってないからな。タダだったら聞いてやる」

 

「タダか...まぁ大した情報じゃないしいいか」

 

「え?お前、大した情報じゃないのに金とろうとしてたのかよ」

 

俺が聞くと、アルゴは当然だろ?と言わんばかりの顔で言ってきた。

 

「当たり前じゃないか。こっちの手札を可能な限り見せずに金を引き出す、情報屋ってのはそうやって金を稼ぐんだよ」

 

「なんと卑怯な...」

 

俺は思わず顔をしかめながら呟く。

 

「まぁそんな商売を続けてたら客が居なくなるけどな。金に困った時か、反応を見て楽しみたい時にしかやらないさ」

 

「いや、俺の反応を見て楽しむつもりだったのかよ...」

 

アルゴはケラケラと笑いながら言った。

 

「まぁまぁ、そんなことより情報について教えてやるよ。実はな、ベータの時にはただの民家だった場所が新しく宿屋になってたんだ。しかもこの辺りだけでも3ヶ所」

 

「宿屋?何でそんな物が...」

 

予想外の情報の内容に思わず聞き返す。それと同時にベータテストの時の記憶を確認する。

宿屋なんてベータの時に使ったか?いや、そういえばクエストの受注ができるところもあったな。でもそれはごく限られたところだけだったはず...寝る時は現実に戻るから寝泊まりに使用することなんてなかったし...

何か新しいシステムでも追加されたのだろうか。

俺が考え込むのを見てアルゴが言った。

 

「そんなに気にすることないんじゃないか?ベータテストの時よりも9000人も増えたんだ。それに宿屋なんて街の雰囲気を出すための飾りみたいなものだったし」

 

「まぁ...それもそうか。そんなに人が増えたら宿屋も増やすか」

 

何か腑に落ちないがアルゴの言う通り、気にしても仕方がないか。理由なんて製作者にしか分からないしな。

ってそんなことより待ち合わせ場所に行こう、待ち合わせ時間には早いが、もうみんな着いてるかもしれない。

 

「じゃあ俺はもう行くわ。リアルの知り合いと待ち合わせしてるからな」

 

俺の言葉を聞いたアルゴは信じられない、と言った顔つきをする。

 

「何だよその顔は」

 

「いや...ハッチもリアルには一緒にやる仲間が居たんだな。ベータの時みたいな事はするなよ、またソロになるから」

 

ぐっ...痛いところを突いてきやがった。

そう、俺はベータテストの時にちょっとやらかしているのだ。ある日、たくさんのモンスターを討伐するクエストを受けた俺はパーティーを組んでいたのだが、ヘイトを他のパーティーメンバーに集めて楽をしたことがある。それが露見してから俺はパーティーを組むことがなくなった。

いや、一人だけ俺と組もうって言ってきた物好きなやつが居たな。

 

「あいつらにはあんなことしねぇよ。初心者だし、何より怒らせたら怖い連中ばかりだからな」

 

もしそんな事したら......想像するだけでも恐ろしい。

 

「そういえばハッチの知り合いってどんなやつらなんだ?」

 

「俺の妹と所属してる部活の毒舌お嬢様な部長とその顧問の独身教師、小悪魔生徒会長に末期の中二病...だな」

 

「何かすごいメンバーだな...」

 

「自分でもそう思う」

 

今思えばまじで普通のやつが誰一人としていない。てか俺の学校ってキャラ濃すぎじゃね?

 

するとアルゴが首を傾げて聞いてきた。

 

「ん?...って今、部活に所属してるって言ったか?」

 

「あぁ、そうだけど」

 

あっ、これヤバい

 

俺の返事を聞いたアルゴが言い淀みながら聞いてくる。

 

「嘘だろ...ハッチが...あのハッチが......部活に...。なっ、何部なんだ!?」

 

 

あー、やっちゃった。....どうする。奉仕部なんて言ったら、まず間違いなく驚く、というか引かれるに決まってる。いっそ開き直って堂々と言ってやろうか。いや、辞めておこう、変人の烙印を押されたくはない。

よし、適当にごまかして逃げるか。

 

俺はその場から逃げ出すべく語りかけた。

 

「まぁ、ちょっと変わった部活だ。じゃあそろそろ待ち合わせ時間だから行くわ」

 

そう言うと同時に俺は体の向きを変えて歩き始める。

それを見たアルゴが慌てて言う。

 

「ちょっ、何部か教えてくれないのカ!?...まぁいいか。じゃあオレっちも情報収集に行くよ。知り合いに宜しく言っといてくれ」

 

「あぁ」

 

俺の返事を聞くとアルゴは街の何処かに消えていった。

 

ふぅ、奉仕部って言わずにすんだか。今度、雪ノ下に奉仕部の名前を変えないか真剣に相談しよう。流石にこの名前は色々と面倒なことが多い。

にしても相変わらず仕事熱心なやつだ。俺には真似出来そうもない。する気もないが。

 

さて待ち合わせ場所に行くかな。もうみんな着いた頃だろう。そうして俺は、また歩きだした。

 

 

 

 

待ち合わせ場所に着くと既に全員が揃っていた。どうやら雪ノ下もちゃんと来れたようだ。

俺が近くに行くと小柄な女の子のアバターが話しかけてきた。

 

「もしかしてお兄ちゃん?」

 

このアバターは小町か。リアルと同じで可愛いな。

 

「あぁ」

 

俺が返事をするとロングヘアーのアバターが話しかけてくる。

 

「本当に比企谷君?どうしたの、目が腐ってないわよ」

 

この喋り方と罵倒の仕方は雪ノ下か。てか罵倒の仕方で誰か判るって凄いな。俺、今までどんだけこいつに罵倒されてきたんだよ。

 

「おい、ゲームの中でまで目を腐らせるつもりはないぞ俺は」

 

俺が文句を言うと、雪ノ下は笑いながら答える。

 

「ごめんなさい。リアルの印象が強すぎてつい口に出てしまったわ」

 

「そんなに俺の目は印象的なのか...」

 

「そんなの今さらじゃない」

 

「.....さいですか」

 

否定できないのがつらい...

 

「そんなことよりも比企谷君、なぜ小町さんと一緒にログインしたはずのあなたが一番遅いのかしら?小町さんは一番最初にここに来たそうよ」

 

「すまん。知り合いに話しかけられて少し話してた」

 

「知り合い?君と同じベータテスターかね」

 

このアバターは平塚先生か。

 

「そうですけど」

 

「先輩、その知り合いって女の人ですか?」

 

先輩呼びって事は、一色か。女性陣はみんなリアルに近い姿だな。

 

「そうだが...それがどうかしたのか?」

 

すると一色は『また女性ですか...』とため息をついて雪ノ下と何か話し始めた。どうしたんだ?何か小町も混ざり始めたし。

首をかしげて不思議に思っていると眼鏡のイケメンが話しかけてきた。

 

「八幡、余りフラグを立てると後悔するぞ」

 

ん?誰だこいつ。いや、あとはあいつだけだった。

 

「材木座か。てか何アバター、なんでイケメンになっちゃってんだよ」

 

「ふんっ。ゲームの中でくらい夢は見たいものだ」

 

「いや、それはいいんだがリアルに戻った時にへこむぞ?ソースは俺」

 

俺もベータテストの時に普通の目のせいか、初対面で引かれることがなくなって、それなりに話したりしていたが、リアルに戻って鏡を見たときの、あの虚しさは何とも言えないものがある。

 

「抜かった......そこまでは考えていなかった...」

 

そう言って材木座は頭を抱える。こいつの場合まず体格が違うから戻った瞬間にへこむだろうな。可哀想だが自業自得ってやつだ。

そういえばあいつもベータの時にアバターを男らしくして、リアルに戻った時にへこんだって言ってたな。

戸塚みたいな奴なんだろうか?いや、それはないな。あんな天使がそうそう居るわけがない。そう、戸塚は戸塚であり、天使なのだ。....何を言ってるんだ俺は。

 

てか、いつまでこいつは頭を抱えてるんだ。相変わらずの紙メンタルだな。

 

「まぁ、気にするな。そのうち慣れる。多分な」

 

材木座を慰めていると話し合いが終わったらしく、小町が話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん。そこの人はほっといて、そろそろ狩りに行かない?時間の無駄だから」

 

「え?そこの人って。八幡、お主の妹ちょっと酷くない?」

 

材木座が何か言っているが確かに時間の無駄だな。

 

「そうだな、じゃあ先にこのゲームをやる上での注意点を1つだけ言っとく」

 

「え?無視なの?」

 

「いいから聞け」

 

「あ、はい」

 

おい、素が出てるぞ。キャラは保てよ。

まぁいいや。続けよう。

 

「このゲームの中ではリアルの名前で呼び会うのは控えること。リアルの知り合いだけの時はそれでもいいが、見ず知らずのプレイヤーとパーティー組んだときに困るからな」

 

全員が頷くのを見て俺は話を続ける。

 

「まぁ、俺は本名を名前にしてるから慣れるまでは今までと同じ呼び方でいい。俺からは以上だ」

 

話し終えると雪ノ下が言った。

 

「私も本名にしたわよ」

 

え?

 

「あ、私もです先輩」

 

「私も本名だが」

 

「小町も本名だよ」

 

「我も本名だ」

 

まじか...

 

「あー、えっと...全員、慣れるまでは今まで通りで行くか」

 

俺がそう提案すると一色が答える。

 

「そうですね。正直いきなり先輩から名前呼びとか無理です」

 

「そうね、私もいきなりはちょっと...」

 

「いや、お前ら本人目の前にして酷くない?」

 

俺がそう言うと二人は同時にため息をつく。

 

「そういう意味じゃないんですけどね...」

 

「えぇ、私もよ...」

 

 

「...?どういうことだ?」

 

俺が聞くと二人は、よりいっそう深いため息をついた。

この様子を見ていた小町たちが呟く。

 

「お兄ちゃん...」

 

「八幡め...爆発しろ。そして塵となれ...」

 

「いいなぁ、青春だなぁ」

 

「...?」

 

一体何なんだ?訳がわからずに俺は首をかしげる。

何故か周りのプレイヤーから憐れみや羨望の眼差しを向けられるし。何か一部のプレイヤーからは怨念じみた視線を感じる。

とりあえず早く行こう。流石にこの視線は痛い。

 

「とりあえず早く外に行くぞ」

 

「そうね、それじゃあ行きましょうか」

 

そう言うと雪ノ下は真逆の方向へと歩き始める。

いきなり間違えるなよ。やっぱこいつは一人だと危ないな。

 

「おい、そっちは逆だ」

 

指摘するときれいに回れ右をして方向転換をする。

そして何事も無かったかのように歩き始める。

...何かデジャヴだな。

今の光景を見た一色が呟いた。

 

「雪ノ下先輩って方向音痴だったんですね...」

 

「一色さん、私は方向音痴ではないわ。今のは比企谷君が気づくか試したのよ」

 

「はぁ...そうですか」

 

おいおい、一色にまで呆れられてんじゃねぇか。

とりあえず外に行くか。時間がもったいない。

 

「じゃあ外に行くか。行くぞ小町、平塚先生も」

 

「え、我は?」

 

「あ、忘れてたわ」

 

「ねぇ、絶対にわざとだよね?わざとだよね」

 

「......」

 

すまない材木座、今ナチュラルに忘れてたわ。正直に言ったらこいつの紙メンタルは引き裂かれるから言わないけど。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

そして俺達は歩き始めた。俺が進むと小町たちもついてくる。材木座もちゃんとついてきた。

 

 

 

 

「八幡、さっきの沈黙はなんだったんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

「これは......凄いわね...」

 

雪ノ下は目の前の光景を見て感嘆の声をあげる。他のみんなも同じように驚いている。

まぁ、無理もない。こんな光景、現実には存在しないだろうからな。

一面に広がる草原に、その上を我が物顔で闊歩する青色のイノシシ、この時点でもう有り得ない。それに加えてふりそそぐ日の光や、吹いてくる風の感触や揺れる草花によって、ここが作り出された仮想空間だと云うことを忘れさせる。

 

「ほんとにすごいですね....とても仮想空間とは思えないです」

 

一色は空を見て呟く。

それにしても建物の中なのに空が見えるっておかしいよな。

 

「小町もここまでとは思わなかったです.....この時代に生まれてきてよかった...」

 

「そうね、私もそう思うわ」

 

そう言って雪ノ下たちはこの風景を見て感動している。すると、この空気をぶち壊す者が二人、

 

「我は早くモンスターを狩りたいのだが」

 

「私も早くモンスターと戦いたいのだが」

 

そう言って材木座は剣を握り、平塚先生は拳を握る。

この二人ただの戦闘狂にしか見えないな。

って拳!?なんで!?

 

「いや、平塚先生。何で拳を握ってるんですか」

 

「何でって...あそこのイノシシの角をへし折るためだが?」

 

平塚先生はさも当然のように言って、近くのイノシシ型モンスター“フレンジーボア”を指差す。いや、確かに角は折れるけども...

 

「そういうことじゃなくて、何故に剣を使わないのかと」

 

「え?拳では攻撃できないのか?」

 

平塚先生は衝撃を受けたような顔をする。

逆に何で拳で攻撃ができると思ったのか教えてもらいたい。初期装備としてストレージに全種類の武器が支給されてるのに。

 

「いや、流石に分かりますよね?現実でも拳でイノシシとやりあう奴なんて居ませんよ」

 

そんなやつがいたらお目にかかりたい。いや、居ないよね?そんな人。

 

「そうか.....拳はないのか。拳でイノシシをタコ殴りにできると思ったのに」

 

そう言って平塚先生は落ち込んだような顔をする。な、何か罪悪感がするな.....仕方ない、一応教えておくか。

 

「そんなに落ち込まないでくださいよ。一応方法は有りますから」

 

俺がそう言うと平塚先生は俺の両肩を掴んで聞いてくる。

 

「何!?比企谷、それは本当か!?」

 

「は、はい本当ですよ。ちゃんと教えますから手を離してください」

 

「あぁすまない。で、その方法とは?」

 

そう言って平塚先生は目を爛々と輝かせている。子供か!?この人は!?

 

「期待しているところ悪いですけど、この階層では無理ですよ。次の階層のクエストで体術スキルを習得すれば拳でも攻撃が当たります。威力は弱いですけど」

 

そう言えばどんなクエスト何だろうな、たまたま話しかけたNPCがクエストの存在を教えてくれたけど、ベータテストの最後の日に知ったから結局クエストをやる時間がなくて内容までは分からなかったしな。

 

「そうか...次の階層か...ならばそれまでは剣を使うか」

 

そう言って平塚先生は渋々といった様子で剣を握った。

はぁ.....初めからそうしてほしい。

ため息をつくと小町が聞いてくる。

 

「お兄ちゃん、さっきからどんどん人が外に来始めてるけど、場所無くなっちゃうよ?」

 

「え?まじで?」

 

そう思って周りを見ると小町の言う通り、見えるだけでも数十人のプレイヤーがいる。思ったよりも人が来るのが早いな。まだサービスが始まって30分も経ってないのにもう街から外に出てくる人がいるとは...。いや、よく見ると知っている姿の人が多いな。元ベータテスター達か。

 

「マジじゃん。じゃあ早くモンスター狩りに行くか。余り人が増えると良い場所が無くなっちまう」

 

そう言って俺が動き出すと材木座が聞いてきた。

 

「八幡、良い場所とは何だ?場所によって差があるのか?」

 

他のみんなも疑問に思っているようだ。

そうか、こいつら初心者だからこういう狩場の情報とか知らないのか。

 

「あぁ、モンスターのリポップのインターバルや、地形によって狩りやすさも変わる」

 

「なに!?ならば早く狩り場に行こうではないか」

 

「だな。じゃあみんなそろそろ行くぞ」

 

そうして俺達は狩り場に向かった。しかし、この草原広いな。マジで歩きたくねぇ。

 

 

 

 

「では、八幡、早速ソードスキルについて教えてもらおうか」

 

狩り場に着くと早速、材木座が聞いてきた。既に剣を手に持っている。平塚先生も既に手に持っていた。

これは勿体ぶると俺が斬られそうだな。

そう思った俺は早速説明を始める。

 

「よし、じゃあ今から説明するぞ」

 

俺がそう言うと全員が耳を傾け始める。

 

「まずソードスキルを発動させるためにはシステムに自分の動きを認識させる必要があるんだ。スキルごとに必要な動きも変わるからそれは覚えるしかない。システムが動きを認識したら武器が光り始める。後はシステム任せで腕を振り抜けば良い」

 

「それは説明書でも読んだわ。出来れば実際に見せてほしいのだけど」

 

「そうだよお兄ちゃん。聞いたり読んだりしただけじゃピンと来ないよ」

 

一色たちからも同じような事を言われて結局手本を見せることになった。まぁ、元々手本を見せて教えるつもりだったからいいか。

 

「それじゃあ今から実際にやるからちゃんと見てろよ」

 

そう言って俺は近くにいたフレンジーボアに狙いを定める。そして挑発するために石ころを投擲スキル“シングルショット”を使って当てる。

 

「ちょっとまって。比企谷君、今のスキルは何?」

 

いきなり質問かよ。何かめんどくさくなってきた。

 

「投擲スキルだよ。通常エリアの敵は攻撃しないと敵対しないからな、一回でも攻撃を当てないといけないんだよ」

 

俺が説明すると全員が納得したようだ。よし、説明を続けるか。

 

「まずお前たちには、この“フレンジーボア”っていうモンスターを相手に練習してもらう。こいつは見た目通りに突進しか能がないから攻撃も避けやすいし、威力も低いから死ぬことはまずない」

 

実際に突進を避けながら説明する。

 

「ちなみにこいつは某有名RPGで云うところのスライム的な存在だからソードスキルを一発当てるだけで十分にHPも削れる」

 

そして俺は武器を構える。

 

「それじゃあ今からソードスキルをやるからちゃんと見てろよ」

 

俺がそう言うと全員が集中して見始める。

再びフレンジーボアが突進して来るのを見て、俺は剣を背中に背負うような感じに構えた。それと同時に片手剣のソードスキル“ソニックリープ”が発動して、剣が青白い光を纏う。そして突進してきたフレンジーボアをすれ違い様に切り裂いた。

HPバーが一気に無くなりフレンジーボアはポリゴン片になって砕け散り、俺にはドロップアイテムの猪の肉と少量のコルが手に入る。コルは、この世界の通貨の単位だ。

 

「とまぁ、こんな感じだな。他にも色々と戦闘の技術は有るけど、まずはソードスキルに慣れることだ。これが戦闘の基本になるからな。他のはそれからで良い」

 

俺がそう言うと全員が頷いて、それぞれが自由に狩りを始めた。

それじゃ俺も少しレベル上げするかな。

 

 

 

 

 

 

あれからしばらくの間、俺達はフレンジーボアを狩り続けた。その間に俺はレベルが5まで上がった。

 

「ふぅ、一時間やってレベル5か....やっぱり最初はレベルが上がるのが早いな」

 

レベル10を越えると極端にレベルが上がりづらくなるもんな。

さてと、そろそろみんなの様子を見てみるかな。剣を仕舞って地面に腰をおろす。

まずは平塚先生だな。ちゃんと剣を使っているだろうか...。見ると淡々とフレンジーボアを狩っていた。

無表情で、ただひたすらに。

気のせいかな、フレンジーボアが怯えているように見える......。何にせよ、もうソードスキルは使いこなせているようだ。

 

雪ノ下の様子を見ようと思ったが、どうやら既に休憩し始めているようだ。だが周りのフレンジーボアの少なさから見て大分狩りには慣れたのだろう。恐らくソードスキルも使いこなせているはずだ。あいつは無駄に高スペックだからな。

 

次に一色の方を見ようと首を動かすと、ちょうどソードスキルを使った瞬間が目に入る。

おっ、どうやら使いこな...

 

「くたばれ、イノシシィィーーー!!」

ズバンッ パリーン

 

 

....うん。ちゃんとソードスキルは使えてるな。○ねぇ!、って言わなかっただけ良しとしよう。にしても、くたばれなんて、女子中学生が使う言葉じゃねぇよ。

呆れながら一色を見ていると視線に気がついたのかテヘッと舌を出して笑いかけてきた。

いや、さっきの言動がインパクト強すぎてカバーできてねぇから。

思わず心のなかで突っ込むと一色が俺の方に向かって歩いてきた。

 

「先輩、そろそろ休憩にしません?流石に疲れました」

 

さっきの様子を見る限り、とても疲れているようには思えないんだが、罵倒されそうだから言わないでおこう。

あれ?俺の周りの女子って俺を罵倒してくるやつしかいなくね?

 

「そうだな。あれから一時間たってるしな。流石にみんな疲れただろ。雪ノ下はもう休み始めてるしな」

 

「平塚先生は疲れてなさそうですけどね」

 

そう言えばあの人、一時間もあの無表情で狩り続けていたのか?.....軽くホラーだな。そりゃフレンジーボアもビビるわけだ。

 

「まぁ、平塚先生だからな」

 

「....なんか、納得できちゃいますね。そう言えば先輩、さっき小町ちゃんがモンスターに乗ってたんですけど、あれってどうやるんですか?」

 

一色の質問に俺は頭に、はてなマークを浮かべる。

は?モンスターに乗ってた?そんな事有るわけ無いだろ。一色の見間違いじゃないのか?

そう思って俺は小町の方に顔を向ける。

 

 

「突撃ぃぃーー!」

 

.......え?

 

 

視線の先では小町が、フレンジーボアに乗りながらもう一体のフレンジーボアに斬りかかっている。

 

.....幻覚か。一度目をつぶってもう一度小町の方を見る。だが、そこに見えるのはフレンジーボアを乗り回す小町の姿だった。

 

「は?何あれ?」

 

「え?先輩が教えたんじゃないですか?」

 

一色の質問に俺は首を振って答える。

まさか....本当にモンスターに乗るなんて....。ベータの時にはモンスターに乗ることなんて出来なかったのに。ビーストテイマーって確か専用のアイテムが必要じゃなかったか?しかもそのドロップ確率は有り得ないだろ!って思わず叫ぶくらい低かったはずなのに。それにもっと小さな使い魔を使役するはずじゃ...。

 

愕然として小町の方を見ていると俺の視線に気づいたらしく、俺の方に体を向けた。なんか、嫌な予感が....

すると小町はニヤッとして微笑を浮かべて叫んだ。

 

「お兄ちゃんに向かって突撃ぃーー!」

 

「は?いや、ちょっ...えっ?」

 

小町がフレンジーボアに乗ってこっちに迫ってくる。それを見た俺は、慌てて立ち上がって走り出した。そして頭の中で思考をフル回転させる。

 

え?マジで状況が把握できないんだけど。何あれ?どうなってんの?いや、フレンジーボアに乗ってるだけか。

 

......それが一番の疑問じゃねぇか!!

 

一体何なんだあれ!?新要素か!?ライドモンスターとかか!?

 

後ろを振り向くと小町がチェシャ猫ばりの笑顔を浮かべながら追いかけてくる。

てか、足早くね!?フレンジーボアってあんなに足早かったのかよ!?

 

このままじゃ轢かれると思った俺は走りながら小町に向かって叫ぶ。

 

「小町!!頼むから止まってくれ!!色々聞きたいこと有るから!!」

 

 

「えー?どうしよっかなー」

 

小町は考える素振りをしながらも、走る勢いを止めようとはしない。どうやら俺の妹はいつの間にか陽乃さん並のドSになっていたようだ。

 

「ちょっとマジでストップ!!何でも言うこと聞くから!!」

 

俺はフレンジーボアが追ってこれないように直角に曲がる。すると、小町はフレンジーボアに曲がるように指示を出した。

ふっ、残念だな小町。フレンジーボアは突進するときは真っ直ぐにしか進めないのだよ。

勝ちを確信した俺は走るのを止めて後ろを見る。すると、少し膨らみながらも曲がって小町が追ってきた。

 

「曲がれんのかよ!?」

 

ええい!!小町のフレンジーボアは化け物か!!

 

まずい、逃げれない。そう思った俺は剣を取り出す。

仕方ない.....斬るか。悪いな小町、そのフレンジーボアが普通の個体と同じ体力なら殺してしまうが、また新しい奴を使ってくれ。

 

「ちょっとお兄ちゃん!?流石に斬るのはないんじゃない!?」

 

俺が剣を構えるのを見て小町は慌ててフレンジーボアの動きを止めた。どうやら斬らずにすんだようだ。

 

「いや、轢こうとしてたやつに言われたくない」

 

俺は剣をしまって溜め息をつく。色々と説教したい気分だが、今はそれよりも聞くべきことがある。

 

「なぁ、一体どうやったんだ?」

 

「え?何を?」

 

俺の質問に小町は不思議そうに首をかしげる。

そうか、こいつはベータの時の事を知らないから、フレンジーボアに乗れることが異常だということが分からないのか。

 

「聞き方を変える。どうやってフレンジーボアに乗ったんだ?」

 

「え?普通に乗っただけだよ?」

 

いや、普通にって.....

 

「じゃあ、乗る前に何かやらなかったか?」

 

「あぁ、そういえば最初に乗ろうとしたときに、ゲージが出てきたから、それが満たされるまで頑張ってしがみついてたよ。そしたら急におとなしくなって言うことを聞くようになったの。って急にどうしたの?そんなに真剣な顔して...」

 

「いや、ちょっとお兄ちゃんも知らないことかもしれないからな。気になっただけだ」

 

俺がそう言うと小町は一瞬驚いた顔をして、目を輝かせて逆に俺に質問してきた。

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃんも知らないって事はさ、もしかして小町が第一発見者?」

 

小町に言われて俺は気づく。そうか、ベータテスターの俺が知らなかったって事は小町が第一発見者になるのか。第一層の最初のエリアの事なのにベータテストの最後まで発見されなかったことだ。これは新要素で間違いない。恐らくこの情報はアルゴも知らないだろう。それにしても周りにいるプレイヤーが少なくて良かった。新規参入者はともかく、もし俺以外のベータテスターがこの様子を見てたら間違いなく大騒ぎになっただろう。

 

「まぁ、そういうことになるな。なぁ小町、他にも聞きたいことが有るんだけど聞いても良いか?」

 

「うん、もちろん良いよ!」

 

「じゃあまずはそのフレンジーボアについてなんだが...」

 

俺が質問をしようとすると、それを遮るように後ろから声をかけられた。

 

「その話、俺も聞かせてもらっても良いかな?」

 

「え?」

 

誰だよ、今俺が質問してる真っ最中だろうが。後ろを振り向いて文句を言ってやろうと口を開いたが、口からでたのは素っ頓狂な声だった。

 

「え....キリト?」

 

「久しぶりだな、ハチ」

 

そう言って目の前の男、キリトは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この終わりかたってどうなんですかね?
いやー、今回は広場に転移するとこまでやるつもりだったんですが、書いてる最中に思い付いたことを追加してたら6000文字ほどの予定だったのに10000文字越えちゃって(笑)
無理やり途中で切りました。はい。
多分ですが次も同じような長さになるかと....。
小町のはユニークスキルです。ビーストテイマーの強化版みたいな感じです。

では、また次の話で。



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第1,5話 『だからナンパじゃない!!』

お待たせしました。
前回の続きを...と、言いたいところですが今回は話進みません。
前回の話の最後に至るまでのキリト目線の内容です。
こういう風に話が進まないときは、これから話数に小数点をつけようと思います。あと、タイトルに『』をつけます。
キリトがキリトじゃないです。

では、どうぞ。


《sideキリト》

 

俺は今、始まりの町のすぐ外の草原エリアで、さっき知り合ったクラインと云う名前のプレイヤーにソードスキルについて教えながらフレンジーボアを狩っている。何故こんなことになったかというと、こいつにベータテスターだと見抜かれて、『序盤のコツを教えてくれ』と、頼まれてしまったのだ。断るような理由もなく、現在に至る。

 

周りのプレイヤー達が街に戻っていくのを横目に見ながらフレンジーボアと戦っていると、クラインが戦いながら訊いてきた。

 

「なぁキリト、ちょっと訊きたいことが有るんだけど、訊いてもいいか?」

 

「ん、別に構わないよ。じゃあそろそろ休憩にしようか。この近くに眺めの良い場所が在るんだ、そこに行こう」

 

俺は戦っていたフレンジーボアをソードスキルで倒す。そして、剣を腰に収めて、クラインと一緒に移動し始めた。

 

「で、何が訊きたいんだ?」

 

歩きながらクラインに尋ねる。すると、待ってましたと云わんばかりの様子で訊いてきた。

 

「いや、実はな、さっきからすごい気になっててよ。モンスターって一体どうやったら乗れるんだ?」

 

.....は?モンスターに乗る?そんなの無理に決まってるじゃないか。いきなり何を言い出すんだよ。

 

クラインの質問に口をポカーンと開けると、クラインが『えっ?』と、驚いた顔をする。

 

「もしかしてキリトも分からないのか?」

 

「いや、そもそも出来ないと思うぞ。モンスターに乗ることなんて」

 

俺がそう言うとクラインは不思議そうな顔をしながら、さっきまで俺達が居たところの更に奥を指差して言った。

 

「でもよキリト。あそこに居る女の子、フレンジーボアに乗ってるぜ?」

 

「ははは....そんな事あるわけないじゃないか。多分見間違いだろ」

 

 

苦笑いしながらクラインの指差した方を見て俺は目を見開いた。

 

「.....マジで?」

 

視線のさきに居るのは小さな女の子のアバター。だが、確かにクラインの言う通り、フレンジーボアに乗って他のフレンジーボアをすれ違い様に切り裂いている。

何あれ?普通に狩るより何倍も効率いいじゃん。

 

「な?本当だろ?」

 

「あぁ、でもどうやって...」

 

俺はその場に立ち尽くしながら、ベータテストの時の事を思い出す。

確かベータテストの時には、あんなこと出来なかったはずだ。俺も一回チャレンジしたけど、暴れられて出来なかったぞ。それに、あの2ヶ月の間でフレンジーボアに乗ることができた、なんて話を聞いた覚えがない。

そこまで考えて、俺は一つの結論を導きだす。

恐らく、あれは新要素で間違いない。まさかこんなに早く新要素を発見できるとはな...。思わずテンションが上がってしまう。

さて、試しにやってみるか。

 

「クライン、ちょっと試しにやってみようぜ」

 

「だな、やってみるか」

 

そして俺達はフレンジーボアに乗るべく、先ほどまで狩りをしていた場所に戻っていった。

 

 

 

 

 

「ぐあっ!」

 

クラインがフレンジーボアにしがみついていたが、振り回されて地面に転がる。見事なやられっぷりだ。かくいう俺も先ほどからチャレンジしているのだが、乗るどころか後ろ足で蹴り飛ばされたりと、散々な目に遭った。

 

「やっぱり無理か...」

 

俺が呟くとクラインが仰向けになりながら言った。

 

「やっぱり直接本人に聞いた方が良いんじゃないか?」

 

クラインの提案を聞いた俺はうーん、と唸る。

やっぱりそうするしかないだろうか。正直な話、女の子にいきなり話しかけて、『ちょっと訊きたいことが有るんだけど良いかな?』とか言ったら不審者扱いされそうで嫌なんだけど。

だが、仕方ないか。このままじゃ埒があかないしな。

 

「じゃあそうするか」

 

「よし、早速聞きに行こうぜ」

 

クラインはムクッと起き上がり言った。

そうして俺達はフレンジーボアに乗っている女の子の方に歩いていく。

 

....大丈夫だろうか?不審者扱いされないといいけど。それよりも男二人で行ったら怖がられるんじゃないか?

なんて事を考えながら俺は周りに他のプレイヤーが居ないかを確認する。万が一、あの女の子が逃げ出しでもしたら、その様子を見たプレイヤーに通報されかねないからな。

 

どうやらこの近くには余り人が居ないようだ。見たところ、あの女の子を含めて6人しかいない。しかしこの辺のプレイヤーは何かすごいな。無表情でフレンジーボアを斬っている女の人や、周りの敵を狩り尽くしたのかポツンと座っている少女。加えて、微かにだが聞こえてくる声を聞く限り、『中二病?』と疑わざるを得ない少年に、二人で座って話している少年少女。しかも、それほど距離が離れてないところを見るに、この6人は知り合いなのだろう。よくもこんなにバラエティーに富んだプレイヤーが揃うものだ。.....もしかして他のプレイヤー達が居ないのは、この状況のせいかもな。ここは他のところよりもリポップまでの時間が短いから、自然と人が集まりやすいのに彼ら以外に誰もいない。

 

この光景を見て思わずため息をついたときクラインが俺の方を見て提案する。

 

「なぁキリト、この人達知り合いみたいだからよ。この人達を経由して訊かないか?」

 

どうやらクラインもこの6人が知り合いだと気づいたようだ。

 

「そうだな」

 

「じゃあ、誰に経由してもらう?」

 

俺は顎に手を当てて少し考える。

あの女の人がアバターの見た目的には一番年上だろうけど...。ちらっとそちらの方を見る。そこには変わらず無表情で狩る姿が映る。

.....やっぱり他の人にしよう。

一人で座っている少女に話しかけるのは結局、同じ懸念が有るからダメだな。となると中二病は消去法で消して...

 

「じゃあ、あそこにいる二人組に頼もうぜ」

 

俺はそう言いながら二人組の座っている辺りを指差す。

それと同時に俺は立ち止まり、目はそのうちの一人に釘付けになった。そして頭の中で思案を巡らす。

 

あのアバターってハチじゃないのか?いや、絶対そうだ。遠くて姿がはっきりとは見えないが、ハチとは一時期コンビだったんだ。間違えるわけがない。てか女子と話してるし.....どこがボッチなんだよ。ちゃんと一緒にやる仲間も居るじゃないか、随分と個性的だけどさ。

ベータテストの時に聞いた、『俺は、ボッチだからな』と云うハチの言葉を思い出して思わず内心で突っ込む。

 

「どうしたキリト?急に立ち止まって」

 

クラインが怪訝そうに訊いてくるが、俺は返事をせずに少し笑ってまた歩き始める。

するとまたクラインが訊いてくる。

 

「どうしたんだよ?急に立ち止まったと思ったら、次は笑いやがって.....大丈夫か?」

 

「悪い。少しここで待っててくれるか?あそこにいるやつが、実は知り合いでさ。少し話したい」

 

「え?あ、おう。分かった。じゃあ、後で俺にも紹介してくれ。それとちゃんとモンスターに乗る方法を聞いといてくれよ」

 

「分かってるよ。後でちゃんと紹介もしてやる」

 

クラインに返事をして俺はまた歩きだす。早くハチのいる場所に行こうと、少し早足になった瞬間にフレンジーボアに乗った女の子が『お兄ちゃんに向かって突撃ぃーー!』と叫んだ。するとハチが慌てて立ち上がり走って逃げ出す。

 

え?てことは...ハチがあの女の子のお兄ちゃん!?あいつ妹がいたのか!?

 

思わぬ事実の発覚に、また立ち止まってしまう。視線の先では、あのフレンジーボアに乗った女の子がハチを笑いながら追いかけ回している。ハチが『止まってくれ‼』と叫ぶが、あの女の子は『どうしよっかなー?』と考える素振りをしながら言って、走る勢いを止めようとはしない。

 

....プッ、ククククッ。

 

この光景を見て思わず笑ってしまった。いや、これは笑うだろ。あの普段無口で、自分から進んで喋ろうとはしなかったハチが妹に追いかけられて叫びながら必死に走っているんだから。そのあとも、数秒間笑っていたが目的を思い出して、笑うのを止める

さて、とりあえず追いかけるか。走り出すと、さっきまでハチの横に座っていた女の子が、横で走りながら話しかけてきた。

 

「あの、すいません。もしかして先輩の知り合いですか?」

 

「先輩?ハチのことか?」

 

「ハチ?」

 

そう言って女の子は首をかしげる。

あれ?通じてない?あ、そうか。ハチじゃなくてハチマンって言わないと分からないか。....あれ、普通に気づくよね?

内心そう思いながら俺は言い直した。

 

「悪い。ハチって言うのはハチマンのことだよ」

 

「あっ、ハ、ハチ...ハチマンの略ですか。やだなぁ、ちゃんと言ってくださいよ。分かりづらいじゃないですかぁ」

 

そう言って女の子は笑いかけてくる。しかしその顔は若干紅く染まっていた。

 

「そうかな。それよりも大丈夫?顔紅いけど」

 

「えっ!?」

 

すると女の子は立ち止まって、腕をブンブンと横に振って叫ぶ。

 

「違うんです!!これは、このゲームの描写が過剰すぎるだけです!!決して名前を呼ぶのが恥ずかったわけじゃ....」

 

そこまで言った女の子は、また顔を赤らめて俯いてしまった。

俺は、この様子を見て思った。

 

もしかしたら、この子はハチのことが好きなんじゃないか、と。

 

まだ俯いて、時折首を振る姿を見て俺は『これは間違いないな』と確信した。そして、ちょっと悪戯心が湧いてきたので更に尋ねる。この時の俺は人様には見せられないゲス顔だったかもしれない。いや、しょうがないよね?こんなに露骨に反応してくれると悪戯したくなるよ。....誰に言い訳してんだ俺。

 

「なぁ、もしかして君、ハチのことが好きなのか?」

 

俺がニヤッとしながらそう訊くと、女の子は顔全体を真っ赤にしてさっきと同じように腕を振って叫んだ。

 

「な、な、な、何言ってるんですか!?私が先輩のことを好きなわけないじゃないですか!!確かに先輩は優しいですし、さりげなく荷物を持ってくれたりもして頼りにもなったり、一緒に居て楽しかったり、素を出しても変わらずに接してくれるから甘えちゃったりもしますけど.....って何言わせるんですか!?」

 

「はいはい。ハチのことが好きなのは、よく分かったからとりあえず落ち着いて」

 

俺がそう言うと女の子は、ぼしゅん!と、頭から煙を出してワナワナ震えながら口をパクパクして、また俯いてしまった。

....確かに描写が過剰かもな。ぼしゅん!って(笑)

しかし、こんなにも露骨に反応してくれると思わず笑っちゃうな。

俺が苦笑いしてると復活した女の子は俺に指を突きつけて言った。

 

「絶対に先輩には、さっきまでの私の様子を言っちゃダメですからね!?言ったら殺しますよ!?」

 

もう俺にはバレてしまったと悟ったのか、これ以上否定はしてこなかった。...若干涙目なのは俺のせいだろうか?いや、俺のせいか。

 

「分かったよ。それよりもハチ達を追いかけないか?」

 

俺がそう提案すると、返事をしようとした女の子よりも先に後ろから声が聞こえた。

 

「おーい、いつまで待たせるんだよ。さっきの女の子、何か男を追いかけて向こうまで行っちまったぞ。って何女の子泣かせてんだよ!?」

 

やば、クラインのやつこっちに来ちゃったよ。俺が慌てて言い訳しようとすると、女の子がニヤッと不気味に笑った。そして俺にしか聞こえない小さな声で『ふっふっふ。さっきの仕返しです』と呟いた。

ヤバい、これ逃げた方がいいんじゃ....。

俺が逃げようとすると、逃がさないと云わんばかりに女の子が大きな声で言う。

 

「助けてください!この人が私のことナンパしてくるんです!」

 

そう言って泣いたふりをして、しゃくりあげる真似をする。

ちょっと待て!!涙目だから凄い信憑性増しちゃうんですけど!?

走り出そうとすると肩に手を置かれて振り向くと、そこにはクラインの顔があった。心なしか、怒っているように見える。いや、怒ってるね、これ。

 

「おい、キリト。まさかとは思うがナンパするために嘘をついて一人で行ったのか?」

 

「いや、俺はナンパなんてしてない!!嘘ついてるのは、その女の子のほうだ!!」

 

俺が叫ぶと女の子も負けじと叫び返してくる。

 

「嘘じゃありません!!その人が余りにもしつこいから...」

 

そして女の子は再び泣き真似をする。

 

「お願いだからその泣き真似やめて!!お願いします!!」

 

「おいキリト!!」

 

「何だよ!?」

 

クラインが叫んだので俺も叫びかえす。するとクラインが拳を握りしめる。

あぁ、これ殴られるやつか。まぁ、体術スキル持ってないからダメージも入らないしクラインもオレンジプレイヤーにはならないからいいか。そこの女の子が勝ち誇ったような顔をしているのは気にくわないけど。

俺が観念したように抵抗を止めると、クラインが拳を振りかぶった。

どれくらい吹っ飛ぶかな?五メートルくらいかな?

そんな事を考えているとクラインが拳を地面に叩きつけた。

え?何やってんの?女の子も俺と同じように唖然とした顔をしている。

するとクラインが叫んだ。

 

「ちくしょう!!何で俺も誘わないんだよ!?俺だって女の子と話したりしたいのに!!」

 

 

 

『は?』

 

 

 

俺と女の子の声がハモった。

 

「え、いや、何言ってるんですかこの人。今のって殴る流れじゃないんですか?」

 

女の子が俺に訊いてくるが俺にも分からない。てか、俺に訊かないでほしい。

 

「殴る流れって何だよ...。君のせいじゃないか」

 

俺がやれやれと首を振ると更にクラインが続ける。

 

「おいキリト!!何で俺も誘ってくれなかったんだよ!?てか、泣かすなよ!!引き際ぐらい見極めろ!!」

 

「いや、この子が泣いてるのナンパのせいじゃないから!!てか、そんなアドバイス必要ない!!」

 

「じゃあ何でこの女の子泣いてるんだよ!?」

 

「それは....」

 

俺が言葉に詰まって目をそらすと、クラインがまた言ってくる。

 

「やっぱりナンパじゃねぇか!!泣かしちまったんだから、この子に謝れ!!」

 

「だから違うって!!」

 

あぁ、もう!!これどうすればいいんだよ!?

助けを求めるように女の子の方に視線を向けると、彼女は『はぁ、しょうがないですね』とため息をついて、クラインに話しかけた。

 

「すいません、ナンパって言うのは私の嘘です。誤解させてしまって申し訳ありません」

 

そう言って女の子は頭を下げた。するとクラインが戸惑ったように言う。

 

「え、嘘だったのか?じゃあなんであんた泣いてたんだ?」

 

「それは.....はぁ...。キリトって言ってましたよね。後でそこの人に聞いてください」

 

投げ槍な様子でクラインに言うと、次に女の子は俺の方を見て凄い真剣な顔で言った。

 

「この人には言っちゃってもいいですけど、本当に先輩には言わないでくださいよ。本当にお願いしますよ」

 

「分かってるって。そんなに念を押さなくても大丈夫だよ」

 

俺の返事を聞くと、女の子はため息をついて頭を押さえた。どうやらさっきまでのやり取りで相当疲れたようだ。

 

「なぁ、キリト。一体何があったんだ?」

 

「ん?あぁ、実はこの子あそこにいる「ああああぁーーー!!今ここで口に出さないでください!!お願いですから!!」

 

再び顔を真っ赤にして女の子は叫ぶ。すると、女の子の様子を見て、クラインも何となく察したのか尋ねる。

 

「なぁ....もしかして色恋沙汰か?」

 

「えっ!?違いますよ!?決してあそこにいる先輩がす......ってああああぁーーー!何でもないです!!今の無しです!!忘れてください!!というか何で言っちゃうの!?私のバカ!!」

 

女の子はついに耐えきれなくなったのか、しゃがみこんで頭を膝でしまって悶絶している。

この反応を見たクラインが悔しそうな顔をして地面を何度もたたく。

 

「くそっ!何で俺には彼女が居ないんだ!?世の中不公平だろ!!何でゲームの中でまでこんな思いをしなきゃならないんだ!!俺だって、俺だってよぉ...」

 

そう言うとクラインは泣き出してしまった。泣くなよ.....お前大人だろ.....。

てか、何だよこの状況。どうすればいいんだ?

二人とも当分復活しそうにないし....置いてくか。ハチ達も追いかけっこは終わったみたいだしな。

そう決めて俺は歩きだした。

 

 

ハチ達の近くまで行くと、ハチが妹に質問しているのが聞こえてきた。そして俺は二人に話しかける。

 

「その話、俺も聞かせてもらっても良いかな?」

 

 

 

 




どうでしたか?正直今回のは書いてて自己満足してる部分があったんですけど...。
次はちゃんと話を進めます。一気に街を出るところまで投稿しようと思います。出来れば今週中に...。文字数がえげつないことになるかも(笑)
読んでくださってありがとうございました!!

では、また次の話で。


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第2話 蹴りと談笑

お待たせしました。
前回の続きです。街を出るとこまでの予定でしたが、そこまでやると1話で今までの総文字数を越える、なんてことに成りかねなかったので、今回は転移するところまでです。
前回、ベータテストを1ヶ月と表記したところを2ヶ月に修正しました。
原作タグもsaoからソードアート・オンラインに変えました。

今回は視点変更が多いです。

ではどうぞ。


《side八幡》

 

 

「久しぶりだな、ハチ」

 

目の前の男が笑いかけてきたのを見て、俺は、つられて笑いかえす。

 

「あぁ。久しぶりだな、キリト」

 

俺はそう言って拳を突き出し、キリトは拳を突き合わせた。すると、小町が困惑したように訊いてくる。

 

「え?え?お兄ちゃん、このイケメンさんと知り合いなの?」

 

「あぁ、そうだよ。このイケメンさんと、お兄ちゃんは知り合いだ」

 

「イケメンさんは止めろって」

 

「事実だろ?イケメンさん?」

 

「いや、だから....。はぁ、相変わらずだな。ハチは...」

 

俺がニヤつきながら言うと、キリトは早々に諦めてため息をついた。

俺達のやり取りを側で聞いてた小町は目をしばたく。

 

「へぇ、珍しいね。お兄ちゃんがこんな風に人と話してるの初めて見たよ」

 

「そうか?」

 

「うん、いつも罵倒されてる所しか見たことないもん」

 

「いや、そんなことは......。なくはないな」

 

 

小町に言われて俺は気づいた。

確かに罵倒しかされてない...。というか、何故か罵倒がコミュニケーションとして成立しちゃってたな。雪ノ下に至っては、挨拶が罵倒だし。しかもそのあとも話しかける度に罵倒されるし。由比ヶ浜には『ヒッキーのバカ!』って言われるし、それに一色には何度もフラれて.....あれって罵倒なのか?まぁいいや。

そう考えるとキリトを弄ったりするのは、俺にとっては珍しいのかもしれない。

 

「まぁ、珍しいかもな。俺が罵倒されずに仲良くしてるなんて」

 

「罵倒されて仲良くって....ハチってどんな生活してるんだよ...」

 

キリトは俺に哀れみの目を向ける。

 

「おい、キリト。そんな目で俺を見るな。確かに俺は罵倒しかされてないが、それでもちゃんとコミュニケーションは出来てる。何にも問題はない」

 

「いや、罵倒でコミュニケーションが取れるってどういうことだよ。それに、それが問題じゃないっておかしいぞ」

 

「大丈夫だ。もう慣れたしな」

 

俺がそう言うと小町とキリトが同時に言う。

 

「慣れちゃダメだろ...」

「慣れちゃったんだ...」

 

そんなこと言われてもな...。俺は、やれやれと首を振る。

 

「しょうがないだろ。毎日罵倒されりゃ誰だって慣れる」

 

「ま、毎日.....」

 

それを聞いたキリトは顔をひきつらせたが、やがて俺の肩に手を乗せて、何故か可哀想な者を見る目をして言った。

 

「ハチ...」

 

「な、何だよ」

 

さっきとは違う声音の声を聞いて、俺はたじろぐ。

どうしたんだ?何かさっきよりも哀れみの感情が増してるような...。

 

 

 

「強く生きろよ...」

 

「余計なお世話だ!!」

 

 

 

 

 

俺が叫んだのを聞くと、キリトは笑って『まぁまぁ(笑)』と言って小町に話しかける。

 

「で、妹さんに聞きたいんだけど」

 

「おい、キリト。後で覚えとけよ」

 

「え?なんのことだ?」

 

「.....もういい」

 

俺はため息をついて額に手を当てる。あれ?雪ノ下の癖が俺にも....。

はぁ、やっぱりこいつと居ると調子が狂う。今度、こいつの弱味を握ったらアルゴにその情報を売り飛ばしてやる。

心の中でそう決心して、俺は小町に話しかける。

 

「じゃあ小町、さっきの続きだ。と、その前に。キリトも小町がフレンジーボアに乗ってるところを見たんだよな」

 

俺が訊くと何を今さら、と云うような顔をして言う。

 

「じゃなきゃ、訊きに来ないだろ。ハチってバカなのか?」

 

「ただの確認だ。それに、バカとは失礼な。これでも国語学年三位だぞ」

 

俺がムッとして言い返すと小町が横から口を挟む。

 

「数学8点の最下位だけどね」

 

「小町....そこは言うな」

 

これを聞いたキリトは目を見開く。そして次にあれ?と首をかしげる。

 

「8点....ハチ点....。なぁ、狙った訳じゃないよな?」

 

「アホか。テストでそんな下らない遊びをやるわけないだろ」

 

俺は呆れながらキリトに言った。

いや、本当に8点は狙ったわけじゃない。例え、その後に0を4つ付けて、『これで八万点だな。八幡が八万点....何てな』とか言って一人で密かに笑ってたとしても。

 

「そうだよな、それを聞いて安心したよ。というか、こんなことよりも、さっきの質問の続きをしないか?」

 

「そうだな。じゃあ小町、さっきの続きだ。そのフレンジーボアの体力は他のフレンジーボアとおなじなのか?」

 

小町は俺の質問に首を横に振る。

 

「ううん。他のフレンジーボアよりも二倍有るんじゃないかな」

 

『二倍!?』

 

思わず俺とキリトが叫ぶ。

 

「うわっ!?どしたの急に叫んで。小町、何か変なこと言った?」

 

小町の質問にキリトが首を振りながら早口で答える。

 

「いやいやいや。変というよりは、おかしいっていうか...」

 

 

「キリト、それ余り変わってないから」

 

「いや、だっておかしいだろ...二倍って」

 

「それは俺も同じだ。なぁ、本当に二倍だったのか?」

 

「何?お兄ちゃんは小町を疑うの?」

 

そう言って小町は俺の方をじっーーと目を細めて見てくる。その目はやめて!?店で女性用下着を見てた俺を見つめてた雪ノ下のジト目をおもいだすから!!あれ、黒歴史の一つだから!!

内心で焦っているのを誤魔化すように俺は答える。

 

「何を言ってるんだ小町。俺が小町の言うことを疑うなんて事が、あるはずがない。何なら、どんな嘘までも信じちゃうまである」

 

「.....ゴミィちゃんめ」

 

「その反応おかしいからね」

 

俺か突っ込むと、キリトが意外そうに言う。

 

「ハチって、シスコンなんだな」

 

「は?何言ってんだ。千葉の兄妹は、みんなシスコンだ」

 

「へぇ、それは知らなかったな。俺は東京だから」

 

「キリトさん。今のお兄ちゃんの冗談だからね」

 

「分かってるよ。それよりもどうして二倍だと分かったんだ?」

 

「書いてあったからだよ」

 

そう言うと、小町はスキル欄をタップして、俺達に見せてきた。俺とキリトは、それを食い入るように見つめる。

 

そこには『あー...これマジ?』と、思わず唸る内容が記されていた。

 

 

《sideイロハ》

 

「......死にたい」

 

ひとしきり悶絶した後、私は一言呟いた。

 

マジで何なんですかあの人。本当にマジで何なんですかあの人!?あんな意地悪しなくてもいいじゃないですか!!恋する乙女に悪戯して何が楽しいんですか!?

私も私で何であんなことを....。思い出しただけでも、恥ずかしくて死にそうになる。私、あんなキャラじゃないのに。どちらかと言うと悪戯して笑う側なのに。

さっきまでのキリトとか言う人のニヤニヤ笑いを思い浮かべる。

....何か無性に殴りたくなってきた。何だろう、戸部先輩が『っべー。マジやっべーわいろはす』とか言ってきた時と同じ感覚だ。一発グーで殴ってやる。

そう決意して私は立ち上がった。

 

「....絶対に許さない」

「おっ、やっと復活したか」

 

私が立ち上がると、横から男の人が話しかけてきた。

 

「あっ、えーっと...」

 

「そう言えば自己紹介してなかったな。俺はクラインだ。よろしくな」

 

「あ、私はイロハって言います。よろしくです」

 

私は普通に挨拶をかえす。

 

...おかしい。いつもの調子が出ない。いつもならここでもっと...。

私が疑問に思うと、顔に出ていたのかクラインさんが訊いてくる。

 

「どうした?深刻そうな顔して」

 

「いえ、大丈夫です。お気遣いなく」

 

私は再び考え込む。

あれ?どうしたんだろう。私ってこんな敬語使うキャラだったっけ。初対面だからかな?うん、絶対そうだ。

 

私は、いつも初対面の男性には愛想を振り撒いてることを頭の片隅に追いやって無理やり自分を納得させる。

 

パンチじゃなくてキックにしてやろう。ドロップキックで吹っ飛ばしてやる。頭の中で制裁方法をランクアップさせて、私はクラインさんに尋ねる。

 

「さっきのキリトって人、どこに行きました?」

 

「キリトならあそこで話してるぞ」

 

クラインさんの視線を追うと、先輩とキリトさ...いやキリトが話しているのが見えた。あんなことされて、さん付けで呼ぶのも何かおかしい。

 

「クラインさん。私たちも行きませんか」

 

「そうだな、じゃあいくか」

 

クラインさんと先輩の方に歩いていると、急に先輩達が小町ちゃんが出した何かに目が釘付けになった。

 

何だろう?....でもこれはチャンスだ。今なら確実にドロップキックを決められる。でもただ後ろから蹴り飛ばすだけじゃ面白くない。どうせだったら顔面から吹き飛ばしてやりたい。

そのためには.....

 

「クラインさん、ちょっと協力してもらってもいいですか?もし成功したら、彼女作るのに協力してあげます」

 

「何!?本当か、イロハちゃん!?」

 

うわ、凄い食いつき。やめた方が良かったかな。でもあの人とだったら同じような悩みを持つ者同士、仲良くやれそうですし、借りを作って成績を上げてもらうことも....。あ、そうだ。ついでに...

 

「もちろん本当ですよ。でも、もし彼女さんが出来たら、更に協力してもらいます!」

 

私はビシッと指を指してクラインさんに宣言する。

 

「おう!もちろんだ!でも、このゲームの中でしか協力出来ないぞ?」

 

「大丈夫です!無理やり連れてくるので。それに多分私が言わなくてもこのゲームにハマってるので自分から来ますし」

 

これを聞いたクラインさんが尋ねてくる。

 

「誰か来るのか...一体何に協力すればいいんだ?」

 

「ある男を落とすのを手伝ってもらいます。あの人を落とすのって、正直言ってライバルも多いし大変なんですよ。おまけに超鈍感ときてますし」

 

私は自分で言ってため息をつく。

 

マジで先輩の攻略難易度、高すぎじゃないですかね。多少意識させることは出来ても、ライバルが強大すぎて....。そうだ、キリトって人にも協力してもらおう。あの人先輩と仲が良いみたいですし、かなり利用できそうだ。もし断ったら、またナンパされたって周りに人が居る時に叫んでやる。

 

「へぇ、そんなモテ男が現実に....砕け散れちくしょう!」

 

「そうなんですよねー。ホント砕け散れ!って感じですよ。私、リアルでもビジュアルには自信は有るんですけど、あの人周りの人が美人ばかりで目が肥えてるのか、見た目じゃ動揺すらしてくれないですし」

 

私がそう言うと、クラインさんが『何!?』と、言って叫ぶ。

 

「何だその男は!?そんなやつは男の敵だ!!」

 

「やっぱりそう思いますよね!!私も女の敵って言われますけど、あんなリアルハーレム築いてる人には言われたくないですよ!」

 

私はクラインさんに同調するように勢いづいて言った。

自分自身もそのハーレムの一員になってることには触れないでおこう。

 

「任せとけイロハちゃん!!それにハーレムとか俺は許さねぇぞ!!男なら一人に決めろってんだ!」

 

クラインさんは、拳を握ってその腕を震わせる。

 

「交渉成立ですね!」

 

「おう!」

 

私が手を差し出すと、クラインさんも手を出してガシッ、と私達は握手をかわす。

 

「それじゃ行きましょうか」

 

「で、まず何をすればいいんだ?」

 

「キリトに話しかけるだけでいいです。振り向いた瞬間、私が顔面にドロップキックを食らわせるので、すぐにしゃがんでください」

 

私がそう言うと、クラインさんは頷いた後に、少し気の抜けた顔をする。

 

「そんだけだったらお安いご用だ。でもいいのか?彼女作りに協力してもらうんだから、もっと他にも手伝ってやってもいいのに」

 

「いいんですよ、それだけで。残りの分は先輩を落とすときに返してもらいますから」

 

「先輩?リアルのか?」

 

あ、ヤバ...でもいっか。どうせ後からバレることですし。

 

「はい、それよりも早くいきますよ。顔面にドロップキックをかますチャンスがなくなっちゃいます」

 

「あくまでも、顔面狙いなんだな....」

 

私が走り出すと、クラインさんは少し苦笑いしながら私についてくる。

そして、私は振り向いて笑顔で言った。

 

「もちろん!それぐらいやらないと面白くありません!」

 

 

 

なんだ、私もう全然元の調子に戻ってるじゃん。

 

 

 

 

 

《side平塚》

 

今、私は様々な愚痴を言いながら、フレンジーボアを次々とソードスキルで切り裂いている。最初、私は無心でひたすら切り刻んでいたが、『せっかくだから何か叫びながら殺ろう』と思い、最近の不満をぶちまけることにした。

 

 

「クラスのカップルとか....消えてなくなれ!!」ズバンッ

「『ライン告白で付き合い始めました!』とか、...私に報告するな!当て付けか!」ズバンッ

 

「インスタグラムにツーショットを公開するやつ!!爆ぜてしまえ!!」ズバンッ

 

「ん?」

 

何体目になるかも分からないフレンジーボアを斬った先に二人組の男女が街に戻って行くのが見えた。どうやら私の愚痴が聞こえてしまったようだ。悪いことをした。

しかし....

 

「ゲームの中でまでイチャイチャするんじゃない!」ズバンッ

 

再びソードスキルを発動させてフレンジーボアを切り裂く。もう百体は斬っただろうか。いい加減斬るときに言う台詞が底を尽きてきた。さて、そろそろ休憩にするかな。雪ノ下のやつも休んでることだし。それに、流石に私も疲れた。確かに斬ったあとにモンスターがポリゴン片になって砕け散る時に爽快感はあるが、自分で自分の傷を抉りながらやってたせいで逆に気持ちが沈んでしまった。次は純粋にこのゲームを楽しもう。陽乃にも申し訳ないしな。

 

そう思って、私は草原に座り込んだ。

しばらく空を眺めてボーッとしていたが、そういえば他のみんなはどうしてるかと、比企谷の方に視線を向けると一色と仲良く談笑してる姿が目にはいって来た。

 

そう言えば最近、学校でも一色と一緒に居ることが多いな。一色もサッカー部のマネージャーを辞めて奉仕部に入り浸っているしな。私は二人が話しているのを見て笑みを浮かべた。

 

比企谷は一色にも良い影響を与えたようだ。本当にあいつには驚かされることが多い。そう言えば最初から驚かされっぱなしだったな。まずは、あの腐った目だな。一体何があったらあんな目になるんだろうか?そして、次はあの下らん作文だな。最初に読んだ時は、『何だこれは!?』と、職員室で思わず叫んでしまったし、由比ヶ浜がクラスであの三浦に本音を話すようになるまで、良い方向に変えてしまった。

雪ノ下もあいつには特別心を許しているように思える。

それは、由比ヶ浜や一色にも言えることだが。

 

しかし材木座にまで影響を与えるのは辞めてほしかったな。ただでさえ比企谷並みに手のかかる奴だったのに、奉仕部に紹介してから授業中に小説を書くようになってしまった。

私が、

 

『材木座、授業中に小説は書くな』

 

と言っても、以前は大人しく止めていたのに、今では

 

『我の小説を読んでくれる者がいるのだ!!我は小説を書きたい!!それにこれはある意味、現国の授業になるのではないだろうか』

 

と言って反抗するようになってしまった。全く...屁理屈は比企谷だけで十分だ。

 

ため息をついて視線を上げると、比企谷の妹がフレンジーボアに乗って、比企谷を追いかけ回しているのが見えた。しかし足が速いな。通りすぎた所の草花が風圧で凄い揺れているじゃないか。

まぁ、せっかくの機会だ。そのフレンジーボアの角で背中をどついてやるといい。見てて面白いからな。

 

意地の悪い笑顔を浮かべながら私はその光景を眺めていた。しかし揺れる草花を見て唐突に私の脳裏に嫌な思い出の記憶が湧いてきた。

笑顔を無くした私はどんよりとしながら剣を腰から抜いて立ち上がり、比企谷達から視線を外して近くにいたフレンジーボアに狙いを定める。すると、フレンジーボアがこちらを見て少し駆け足になって反対方向に逃げ出した。

 

「ふふふ...何故逃げるのだ。少し待て、すぐに終わるから」

 

そう言って私は石ころを比企谷に教えてもらった投擲スキルで逃げ出したフレンジーボアに当てる。石ころを当てられたフレンジーボアは私が敵だとシステムが認識したので此方に体を向けて突進してくる。

 

「何でそんなに嫌そうに突進してくるんだ?私は敵だぞ、思う存分攻撃してくるといい」

 

私がそう言うとフレンジーボアはむしろ更に嫌そうに、システムに抵抗するかのように鳴き声を上げる。そんなに嫌がるほど今の私は怖いだろうか?確かに負のオーラは出ているかもしれんが....

 

すると、フレンジーボアはもう諦めたのか一直線に突進してきた。

 

「それでいい」

 

私はソードスキルを発動してフレンジーボアが攻撃範囲に入るのを待つ。そして入ってきた瞬間に思い切り叫びながら剣を振り抜いた。

 

 

 

「もうブーケトスは嫌だぁぁぁーー!!」

 

 

 

 

《side雪乃》

 

「ふぅ....大体こんなものかしら」

 

私は剣を腰にしまって息をついた。

 

もうソードスキルにも慣れたから、休憩しようかしら。それに、周りにモンスターが居なくなってしまったし。

そして私はその場に腰を降ろした。

 

それにしても、この世界は良いわね。もし現実でこんなに動いたら、私の体力はあっという間に尽きてしまうでしょうし。こんなにも思いっきり動き回ったのは、生まれて初めてかもしれない。

 

「比企谷君がこのゲームをやる時に毎回ついていこうかしら」

 

口に出して私は首を、ブンブンと横にふった。

 

そんな事言ったら、絶対に『いや、何でだよ』って言われるに決まっているわ。いや、無理矢理にでも...でも迷惑だったら...。

 

そこまで考えて私はあることに気づく。

 

何故私は彼に遠慮しているのかしら。今更、迷惑だ、なんて言われても大したことないじゃない。彼には初対面の時から罵倒をしているのに。それに今もほぼ顔を会わせる度に罵倒をしているし.....。

そういえば、何故彼はあそこまで罵倒されて平気なのかしら?材木座君みたいに地面を、のたうち回らなくても、普通はショックを受けると思うのだけど。

私は姿勢を変えて再び頭のなかで考える。

 

でも、それで良いのかもしれないわね。彼は軽口を叩いて流してくれるけれど、もし彼に嫌われたら私は死んでしまうわ。主に精神的に。

 

「ふふっ、こんなこと誰かに聞かれたら本当に死んでしまうわね」

 

私は笑みを浮かべて比企谷君の方を見る。

 

....何故、一色さんが一緒にいるのかしら?私もあんな風に積極的に話しに行けたら....。

唇を噛み締めて私は一色さんの姿を見る。

 

彼は性格が大人しいから、彼女のように明るい女性に惹かれるのだろうか。だとしたら由比ヶ浜さんにも同じことが言える。じゃあ私も....。いえ、それでは私らしくないわね。それにいきなり私がそんな風になったら引かれてしまうわ。しかも私はそんな事はやりたくないわ、恥ずかしいもの。それにもし比企谷君を取られたとしても、まだ愛人というポジションも....。

 

「流石にそれはないわ....」

 

思わず口に出して自分の考えを否定した。ただ、その未来を否定しきれないのが怖いわね。

 

再び比企谷君の方を見ると、そこには比企谷君の姿はなく、少し離れた所で小町さんに追いかけ回されていた。そこから少し離れた場所では、一色さんが男二人に話しかけられていた。そして何を言われたのか、いきなりしゃがみ込んでしまった。

 

「これだから低俗な男どもは....」

 

ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせてやる。

 

そう決心して、急いで一色さんを助けに行こうとして立ち上がると、男二人の内、歳上だろう人が地面を叩き始めた。

 

 

「....あれは一体何なのかしら?なにか悪さをされているわけではないみたいだけど」

 

疑問に思いながら近くまで行くと、その様子を見ていた男の人がため息をついて一人で比企谷君達の方に向かって行った。

 

彼は比企谷君の知り合いなのだろうか。一色さんに聞こうとして、私は話しかける。

 

「一色さん」

 

「なぜ、私はあんなことを....ううぅ」

 

「一色さん」

 

「うぅぅーー.....」

 

駄目だ。何故か全く反応しない。

その後も何度か呼び掛けたが、全く反応しないので仕方なく隣の男の人に話しかける。

 

「あの、すみま「何で俺には彼女ができないんだー!!」.....」

 

私は踵を返してその場から離れた。やはり本人に聞いた方が早いだろう。

 

それにしても平塚先生と同じような悩みを抱えた男性とは.....。

 

比企谷君を追いかけて行った男の人を追いかけながら私はそう思った。そして、そういえば平塚先生はどうしてるだろう?と思って視線を移すと、ゆらゆらと体を揺らしながら立ち上がるのが見えた。

 

「一体どうしたのかしら?」

 

ただならぬその様子に、思わず立ち止まってその方向を凝視する。すると、平塚先生に攻撃されたフレンジーボアが怯えながら突進してくるのが見えた。

 

「モンスターでも恐怖は感じるのね...」

 

私がそう呟くのと同時に、平塚先生が何かを言うとフレンジーボアが諦めたように突進していった。

 

「哀れね....」

 

斬られると分かっていながら、システム上逆らえずにモンスターは攻撃してくるしかない。それにしても今の平塚先生はどんな顔をしているのだろうか。通常、感情何て持たないはずのAIのモンスターが恐怖を感じているように見える...。

そのままさっきの男の人を追いかけようとするが、平塚先生の叫んだ言葉に私は再び足を止めた。

 

「もうブーケトスは嫌だぁぁぁーー!!」

 

そう言ってフレンジーボアを切り裂くと、その場に仰向けに倒れてしまった。

 

「はぁ......。あの先生は....」

 

私は盛大に大きなため息をついて、額に手を当てた。

そして、先程の男の事は比企谷君に聞くことにして、平塚先生の方に歩みを進めた。

 

 

どうやら、このゲームの中でも私の気苦労は絶えないようだ。

 

 

 

《side材木座》

 

「くらえっ!!我が必殺の....エクスプロー!いや違うな..」

 

我はソードスキルでフレンジーボアを斬ろうとするが、良い決め台詞が思い浮かばず腕を止める。危うく爆発を引き起こすところであった。

うーむ、普段かいてる小説ではナイトメアスラッシャーとかを技の名前にしたりするのだが....。

試しに言ってみるか。

 

再び我は剣を構えてソードスキルを発動する。

 

「くらえっ!ナイトメアスラッシャー!!」

 

ソードスキルを食らったフレンジーボアはポリゴン片になって砕け散った。

やはりなにか違う....。そもそも何がナイトメアなのだ、剣は青白く発光するからそんな禍々しいネーミングは相応しくない。ならば....

 

「くらえっ!ジャスティスソーードッ!」

 

我はフレンジーボアを切り裂くと、地面に剣を突き刺して頭を抱えた。

 

いや、流石に今のは無いな。何だジャスティスって、小学校低学年でも思いつくではないか。

そこまで考えて我は愕然とした。

 

 

ナイトメアスラッシャーも十分幼稚ではないか!!!

 

 

何ということだ!!今にして思えば今までの決め台詞も全て....。いや!まだ我は小説に書くときは何か難しい漢字を使っているから大丈夫だ。しかし、いざ口に出すと....よくよく考えたら体育祭の時に言った『材木座クラァァッッシュ!』とか、なんの捻りもないではないか!あんな台詞を我は何百人の衆人監視の下、叫んでいたのか!?

 

我はその事に気づいて剣を抱えて転げ回った。

 

五分ほど経って、我は自分の状況を改めて見つめ直した。考えてみれば、もう我は常軌を逸した中二病として他校にまで知れ渡っているのだ。今更何を風評に怯えているのだ。そこらの名も知らぬ有象無象どもの罵倒など、奉仕部長の雪ノ下殿と比べたら.......。

 

調子を取り戻した我は、誰に聞いてもらうわけでもなく、剣を斜め上に掲げて叫ぶ。

 

「ふはははは!我は剣豪将軍義輝だ!猪どもよ、覚悟せよ!!!!」

 

そう言うと、我は近くにいたフレンジーボアに切りかかった。そしてポリゴン片になって砕け散るフレンジーボアを眺めながら我は心のなかで思った。

 

 

あの罵倒を軽くあしらう八幡のメンタルは尊敬に値するな、と。

 

 

 

 

 

 

《side八幡》

 

 

今俺は、キリトと一緒に小町のスキル欄を見ている。それによると、どうやらこれはビーストテイマーの上位互換のスキルのようだ。しかも、普通のビーストテイマーとは違い通常一体しか出せない使い魔を二体まで出すことが出来るらしい。他にも、戦闘中でなければ三体まで出せるとか、さっき見たようにテイムしたモンスターに乗れるとか、小町の言うように使い魔の体力等ステータスの上昇など様々な事が書いてあったが要約すると大体こんな感じだ。ここまで見た俺達は、キリトが小町と同じようにチャレンジしてもできなかったことと、このぶっ壊れ性能から、このスキルをユニークスキルでは?と疑った。

 

そして更に読み進めると、ひときわ目を引くものがあった。

 

それは、このスキル固有の使い魔の存在を示す文だった。その使い魔は《幻狐》というテイム不要のモンスターで、レベル10から呼び出せるようになるらしい。小町のレベルは今は5だから、まだしばらくは呼び出せない。これを見て俺達はユニークスキルだと確信した。

そして小町に俺たち以外の人がいるときは無闇に使わないように言いつけた。こんなのが知れ渡ったら、大騒ぎになる。もしそんなことになったら小町が、熱心なゲーマーどもからの質問攻めで、多大な迷惑を被ることになるからな。そんなことになったら俺がそいつらを抹殺しないといけなくなる。だから、他のユニークスキルが何個か発見されるまでは公言は避けた方がいい、と俺が判断して、キリトもそれに同意した。

ゲーマーの抹殺については同意してくれなかったが。

 

すると、キリトがスキル欄を眺めながら俺に訊いてきた。

 

「なぁ、この幻狐ってどんなモンスターだと思う?」

 

「多分キツネじゃないか?」

 

俺がそう答えると、キリトが顔をしかめて言ってくる。

 

「そんなの文字からして分かるだろ。俺が聞きたいのは、どんな性能を持ってるかってことだよ」

 

「そんなの出してみないと分からないだろ」

 

キリトは『そうだよなぁ』と言って考え込む。

いくら考えても想像の域を出ないのに無駄なことを....。内心でキリトのゲームバカっぷりに呆れていると誰かがキリトに話しかけた。

 

「おい、キリト」

 

どうやらこの男はキリトの知り合いのようだ。キリトは返事をしようと後ろを振り返った。

 

「ん?クラインじゃな「○ねぇぇー!!」グハッ!?」

 

「キリト!?」

「キリトさん!?」

 

何だ今の!?キリトが振り返った瞬間に誰かがドロップキックしやがった!!しかも、顔面にいくとは....リアルだったら鼻の骨が折れてるぞ!!

 

しかし、見事な連繋プレー....話しかけた男がキリトが振り返る寸前でしゃがみ、その上をもう一人がジャンプして、キリトの顔面に綺麗なドロップキックをかました。蹴られたキリトは小町にぶつかりそうになったが、寸前でフレンジーボアの角で弾かれて、更に遠くまで飛んでいく。そして十メートルほど先の地面に背中から落ちる。

 

キリトを蹴った人の顔を見て一瞬驚いたが、俺は落ち着いて言った。

 

「一色、お前いきなり蹴るって随分と過激な挨拶じゃないか?」

 

「いろはさん、流石に蹴るのはどうかと思うよ」

 

俺と小町がそう言うと、一色は何故かスッキリした顔をしながら言った。

 

「あの人には、これぐらいしないとダメなんですよ」

 

「いや、何で?」

 

「先輩は知らなくていいです」

 

えぇー...何だそれ。こういう言い回しをする時って大体教えてくれないんだよな。雪ノ下と由比ヶ浜もそうだった。

俺が聞き出すのを諦めると、小町が尋ねる。

 

「いろはさん、小町は聞いてもいいですか?」

 

「うーん....小町ちゃんだったら大丈夫かな」

 

「やったー!」

 

小町は一色の近くによって話を始めた。

 

「あ、先輩はそこで大人しくしててください。来たら、そこの人と同じようにドロップキックしますから」

 

「分かってる」

 

俺は頷いて大人しくその場から動かない。

しかし何だこの扱いの差は....女子って本当によくわからん。取扱説明書とか誰か作んねぇかな。ま、どうせ役に立たないだろうけど。

とりあえずキリトを起こしに行こうとすると、さっきキリトに話しかけた男が話しかけてきた。

 

「なぁ、あんたがイロハちゃんの先輩か?」

 

そう言えば誰なんだこいつは。一色の事を名前にちゃん付けで呼んでるから一色と面識はあるんだろうけど...。

 

「そうだけど」

 

「へぇ、あんたが....」

 

そう言って、目の前の男は俺の事をじっと見つめる。

 

「何だよ」

 

「いや、何でもない。俺の名前はクラインだ。よろしくな」

 

「....俺はハチマンだ。とりあえずよろしく」

 

俺は不審に思いながらも、挨拶をした。

このクラインという男なんか怪しいな。まじまじと、俺を見てきた理由も分からないし、一色とあんな連係プレーをする所から考えても警戒した方がいいかもしれない。

訝しげに思っていると、起き上がったキリトが顔を擦りながら歩いてきた。

 

「イテテテテ....ったく。まさか蹴られるとはな....」

 

「おっ、起きたかキリト。悪いな、まさかイロハちゃんが蹴るとは思わなかったわ」

 

「嘘つけ!!」

 

俺は思わず突っ込んだ。

キリトはクラインがしゃがんだのを見る直前に顔面を蹴られたから気づかなかったろうけど、俺はがっつり見たぞ!あの連繋プレーを!

 

「まぁ、しょうがないさ。ちょっと弄りすぎたしな」

 

キリトは苦笑いをしながら一色の方を見た。

 

....こいつら一色と何があったんだ?しかもキリト、一色を弄るって何て恐れ知らずな....。

 

すると、クラインが俺に密かに耳打ちしてきた。

 

「実の事をいうとな、彼女作るのに協力してやるって言われてよ。思わず乗っちまった」

 

「え?そうなの?」

 

「あぁ、ついに俺にも春が来たぜ...!」

 

クラインは拳をグッと握って、感極まったように空を見上げた。あれ?こいつ涙を浮かべてないか。

そうか、この人は平塚先生と同じ人種だ。あの人みたいにいい人かどうかは、分からないけどな。

俺はこの様子を見て警戒心を解いた。

 

....まさかとは思うが、一色は平塚先生を紹介するつもりじゃないだろうな。確かにこの二人なら上手く行くかもしれないけど。

 

心に一抹の不安を抱えながら、俺はクラインに声をかける。

 

「まぁ、あれだ。頑張れよ」

 

「おう!」

 

クラインは俺に向かって親指をたてる。

....やっぱり不安だ。こいつみたいに明るく対応する人間は大体根っからのバカの事が多い。いや、平塚先生には好都合なのか?もしかしたら、クラインの性格だと相性がいいんじゃ....。

いや、俺がこんなに心配しても意味がないか。本当に一色が平塚先生を紹介するつもりなのかも分からないしな。

 

 

とにかく先生に、やけ酒ならぬ、やけ食いに付き合わされるのはもうごめんだ。

 

 

 

 

 

その後、一色との話を終えた小町が、『みんな一緒に休憩しませんか?』と、提案すると、キリトが『せっかくだから眺めの良い場所に行こう』と言ったので今は、総勢八人で始まりの町を一望できる場所で休憩している。

 

平塚先生は何があったのか、呼びに行ったときには雪ノ下に頭を撫でられていた。そして、思った通り、一色は平塚先生をクラインに紹介した。そして、これまた思った通り、二人は相性がいいらしく、今は仕事の愚痴を言い合って盛り上がっている。

うん、やはり俺は絶対に働かないぞ。目指すは専業主夫だ。現実味が薄いのは分かっているが....。

チラチラと聞こえてくる話を聞く限り、社畜してるなぁ、と思わずにはいられない。

 

それにしても、材木座を呼びに行ったときは大変だった。キリトとクラインは何となく察してたけど、こいつ人前で堂々と自分が中二病だと公言しやがった。おまけにそれを聞いた雪ノ下が、

 

『あなたには羞恥心というものがないのかしら。ここでは見た目が良いから多少は見過ごせなくはないけれど、正直貴方の事を知らない人の前でそんなに堂々と中二病だと公言しないでほしいわ。貴方みたいな社会不適合者と知り合いだと思われたくないもの。それに――」

 

と、いつも以上に長く、辛辣な発言を受けたにも関わらず、

 

『我は恥など捨てた!!今の我に恐れるものなどなにもない!!あ、小説の酷評は別です』

 

と、いつもなら訳のわからない言葉を口走りながら地面を転げ回ったところを、何故か誇らしげな顔で宣言した。

雪ノ下が俺に助けを求めたが、俺は首を振って雪ノ下と同じように額に手を当てた。

 

はぁ....由比ヶ浜の言う通り、こいつにはソードアートオンラインをあげるべきじゃなかったな。すでに末期だと思っていた中二病が悪化してしまった。

まさか、前以上に手がつけられないことになるとは....。

 

 

先程までの出来事を振り返っていると、一色が話しかけてきた。

 

「先輩、クラインさんと平塚先生良い感じじゃないですか?」

 

「そうだな。平塚先生は今まで一人で何でもやって来たせいで他の男は近寄り難かっただろうが、クラインはそんな事は気にもしないだろうからな」

 

本当に平塚先生にはピッタシの性格の持ち主だな。これ様子だったら、最後まで.....ってことも十分に有り得る。

 

そのまま一色と話していると雪ノ下も混ざってきた。

 

「でも、平塚先生が暴走しないか心配ね。このゲームの中に居るときは私達が目を光らせてるからいいけど、現実で会う、ということになったら....」

 

『....確かに』

 

俺と一色が同時にいう。

すると、一色が身を引きながら俺に言ってきた。

 

「な、なんですか先輩。私と全く同じこと言って『何だ、気が合うな』みたいな感じに、さりげなくアピールですか。正直ビックリしましたし、嬉しくないこともなくはないですけど、やっぱりもっとハッキリと言われる方が私的にも嬉しいですし男性的にもどうかと思うので、次はもっと堂々と言ってきてください。お願いします!!」

 

そう言って一色は頭を下げた。

あれ?フラレるパターンじゃない?どうしたんだこいつ。何か病気にでもかかってるんじゃねぇのか?そういえば今日は何かいつもと少し様子が違ったような...。

 

そう思って俺は一色の頭に手をのせた。

 

「えっ....な、な、な、何ですか。本当に急にそんな「一色、調子が悪いなら無理せずに病院に行った方がいいぞ」.....」

 

 

『.....................』

 

 

 

 

....................................

 

 

....................................

 

....................................

 

 

 

「何だこの空気。俺なんか変なこと言ったか?」

 

本当に何だったんだ今の沈黙は。マジで俺変なこと言ったか?俺が釈然としない顔をしていると小町が言った。

 

「ゴミィちゃん」

 

え?断言したよこの子

 

「ハチ.....」

 

「お前は本当にブレないな....」

 

「八幡....やはりお主はお主のままだったか...」

 

「イロハちゃんの言った通りだ.....」

 

おいまてクライン、何か聞き捨てならんぞ、その言葉は。

 

「...流石、と言うべきかしら」

 

そう言ってみんなは俺の事を蔑んだ目で見てくる。

一色はガックリとして言った。

 

「はぁぁぁーー.....。ま、先輩ですからね。私がバカでしたよ」

 

一色は呆れながら言った。

俺は『何だよ、心配してやったのに』と、言おうとしたが視界の端に捉えた夕焼けの光を見て思わず顔をそちらに向けた。

すると、他のみんなもつられて顔を向ける。

 

そこには絶景、と言って差し支えない光景が広がっていた。眼下に広がる草原に夕焼けの茜色が反射して何とも言えない絶妙な色を放ち、その上にフレンジーボアの影が落ちて、その明暗の差が、また風情を感じさせる。

そして、なんと言ってもこの大パノラマだろう。広がる茜色の空、そこに浮かぶ雲、湖に反射する夕焼け、遠くに見える夕暮れ時の始まりの町の風景。全てが組み合わさって、およそこの世には存在しないレベルで美しいとすら思わせる。

 

 

 

「凄い。....メチャクチャ綺麗...」

 

しばらく、全員がこの絶景に呆気にとられていたが小町がポツンと呟いた。

それを皮切りに、さっきまでのことは無かったように全員が喋りだした。

 

「本当に綺麗だ。マジでこの世界作った茅場ってやつは凄いな」

 

クラインがそう言うと全員が頷く。

その後もしばらくこの風景を見ながら全員で雑談していた。

やれまた、このメンバーで集まろう。一緒に狩りをしよう。もし機会があったら現実でも会おう。など、様々な話をした。

今日初めて会ったとは思えないほど俺達とキリトとクラインは意気投合していた。

 

すると、クラインが思い出したように言った。

 

「悪い。6時にピザ取ってるのすっかり忘れてた。俺はそろそろ落ちるわ」

 

6時!?もうそんな時間なのかよ。じゃあ俺達は二時間ぐらいここで喋ってたのか。凄い時間がたつのが速く感じるな。それほど、この時間が楽しかったのか...。

 

「じゃあ俺と小町もそろそろ落ちるか。晩飯作らないといけないしな」

 

「そうだね。じゃあ明日もみんなで集まろうよ!明日は結衣さんも来るしさ」

 

「そうね。私も行こうかしら」

 

「じゃあ私も行きます!」

 

「我も行っていいのだろうか」

 

「何を言ってるんだ材木座。君だけ除け者にはしないさ。無論私も行くぞ。クラインも来るだろ?」

 

「シズカが来るなら喜んで行くぜ!」

 

クラインがそう言うと平塚先生は顔を背けて頬を染めた。

 

「よくもそんなことをぬけぬけと....」

 

誰だ、この人は。俺はこんなうぶな反応をする平塚先生など知らないぞ。

 

「とにかくだ!明日もまたこのメンバーで集まろうぜ!今度は俺の会社の連中も連れてくるから、2パーティー組んで一緒に狩りも出来るしな」

 

「そうか、それは楽しみだな。じゃあ小町、ログアウトするか」

 

そして俺達はメニュー画面を開いてシステムからログアウトのボタンを探す。するとクラインがメニューをいじりながら訊いてきた。

 

 

「なぁ、ログアウトのボタンってどこにあるんだ?」

 

「え?クラインさんもですか?私も見つからないんですけど。先輩、どこを開けば有るんですか?」

 

雪ノ下達も俺の方を見た。

 

「いや、俺も見つけられない。キリトはどうだ?」

 

「俺もだ。おかしいな、もしかしてバグか?」

 

キリトが首をかしげるとクラインがあっけらかんと言う。

 

「まぁ、初日だからな。こんなバグもあるだろ」

 

「ログアウト出来ないって、このゲームじゃ、かなり致命的なバグだな」

 

俺の言葉を聞いたキリトが頷く。

 

「要は閉じ込められた、ってことだからな。今頃運営は必死になってると思うぞ。」

 

「だろうな。これで詫びのアイテムとか配布されたりするだろうし別に俺は構わないが、クラインはドンマイだな」

 

「ヌオオオォ!!俺のマルゲリータがァァ!!」

 

クラインが叫ぶと全員が笑った。

すると、唐突に始まりの街の鐘の音が響いてきた。

 

「お兄ちゃん、この音なに?」

 

「鐘の音」

 

俺がそう言うと小町に頭を叩かれた。痛くはないが、若干の衝撃が走る。

キリトが苦笑いしながら付け加える。

 

「6時になったことを伝える鐘だよ」

 

「へぇー、ありがとうキリトさん!ゴミィちゃんとは違うね!」

 

おい、ナチュラルにゴミィちゃんで呼ぶなよ。文句を言おうと口を開いた瞬間、体が白い光に包まれた。

 

「うおっ!?なんだこれ!?」

「比企谷君、これはなに!?」

 

「この光....強制転移か!!」

 

 

そして視界は完全に真っ白になった。




ちょっと終わり方が雑ですが、そこは目をつぶってください(笑)
次回も今回と同じか、もしくはそれ以上の長さになると思います。

あと、ここで設定で書き漏らしたことを書いておきます。
次回、八幡の目が浄化されます。

では、また次の話で。


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第3話 始まりと仲間

お待たせしました。
前回の続きです。
長さは前回と余り変わらないです。
そして、長さと話の進み具合が比例してない....。

ちなみに、お気に入り70件突破致しました!!
見た時はマジで驚きました....。
登録してくださった方、ありがとうございます!!

では、どうぞ。


体が白い光に包まれた直後、気がつくと俺達は始まりの街の広場に転移させられていた。俺達だけではなく、恐らく他の全プレイヤーもここに転移させられている。

 

周りの様子を見ていると、近くに転移させられたキリトが訊いてきた。

 

「ハチ、何だと思う?」

 

「ログアウト出来ないことへの謝罪と説明、だろうな」

 

「やっぱり、それが妥当だよな」

 

キリトが俺の意見に同意した直後、クラインや雪ノ下を含めた全員が集まってきた。

また全員がちゃんと会えたことに安堵していると、急に空に《WARNING》という赤い表示がいくつも出現する。そして、その中から巨大な赤ローブのアバターが現れた。

 

あの赤ローブのアバターが責任者だろうか...。しかし、謝罪会見にしては....

 

「随分と、おどろおどろしい演出だな」

 

「そうね。これじゃあ安心するどころか、むしろ不安になるわよ」

 

雪ノ下だけでなく、他のみんなも頷く。

他のプレイヤー達も、『やっと帰れる』という気持ちより、この状況に対する不信感を感じているように見える。

 

すると、おもむろに腕を広げ、上空に浮かぶ赤ローブが喋り始めた。

 

「ソードアート・オンラインのプレイヤー諸君。私の世界にようこそ。私の名前は茅場晶彦、今やこのゲームをコントロール出来る唯一の人間だ」

 

この発言に広場にどよめきが広がる。

 

“茅場晶彦”

 

ソードアート・オンラインとナーヴギアの開発者だ。

 

プレイヤー達が騒ぐ中で茅場晶彦は話を続ける。

 

「諸君の中には、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいている者も居るだろう。だが、これはゲームの不具合などではない。繰り返す、これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である」

 

 

茅場晶彦がそう言うと、俺も含めた広場のプレイヤー達ほぼ全員が、発言の意味を即座に理解できずに沈黙する。

 

.....今何て言った。これが本来の仕様だと?つまり出られない事が本来の仕様ってことなのか?それって監禁じゃねぇか。

プレイヤー達が呆然とするなか、茅場は淡々と続ける。

 

「諸君らは、自発的にログアウトすることができない。また、外部からのナーヴギアの解除、停止などによる強制ログアウトもあり得ない。もし、それが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブによって脳は焼き切られ、諸君らの体の生命活動は停止される」

 

これを聞いたプレイヤー達が流石に声をあげて抗議を始める。中にはまともに取り合わず、広場から出ようとする者もいた。

だが、クラインが『そんな事あるわけないだろ』と言うと、キリトが『理論的には出来てもおかしくはない』という。俺は機械工学には詳しくないからよく分からないが、キリトの本気で焦る顔からして、それは本当なのだろう。

もし茅場の言葉が本当だったら....洒落にもならねぇぞ。まさか、宿屋が多かったのも....。

 

「だが残念なことに、警告したにも関わらずプレイヤーの家族や友人などがナーヴギアを強制的に外してしまい、既に213人がアインクラッド及び、現実世界から永久退場している」

 

「213人も...」

 

茅場の発言にキリトが思わずうめく。

 

「信じねぇぞ....俺は信じねぇぞそんなの!!」

 

クラインが叫び、他のプレイヤー達もそれに呼応するかのように声をあげる。

 

すると、茅場晶彦は空中に幾つかのウィンドウを表示させた。そこには、既に死亡してしまった被害者の顔写真や、被害者の家族が泣く映像などが流れていた。

これを見たプレイヤー達は茅場晶彦の言っていることが決して虚言では無いことを悟る。

 

「ご覧の通り、死者を出したことを含め、数多くのメディアがこの事を報道している。よって、これ以上のナーヴギアの解除等による死者は出ないだろう。だから、安心してゲーム攻略に勤しんでもらいたい。

しかし、十分に留意してほしい。今後、このゲームにおいて一切の蘇生手段は機能しない。諸君らのアバターのHPがゼロになったとき、この世界でのアバターは消滅し......同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」

 

茅場が改めて言ったその言葉に、この広場にいる全てのプレイヤー達が沈黙し、茅場に目を向ける。

 

「諸君の生き残る方法はただひとつ。このゲームをクリアすれば良い。現在君たちが位置しているのはアインクラッドの最下層、第1層だ。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば次の階層に進める。そして、第百層の最終ボスをたおせばゲームクリアだ」

 

これを聞いたクラインがたまらずに叫ぶ。

 

「第100層?.....ふざけるなよ!ベータテストじゃろくに上がれなかったって聞いたぞ!」

 

クラインの言っていることは間違っていない。俺達はあの2ヶ月で8層までしか行けなかった。

他のプレイヤー達が茅場に抗議の声をあげる中、平塚先生が俺に話しかけてきた。

 

「比企谷、仮に本当に攻略しないといけないとしたら、どれだけかかる?」

 

平塚先生の質問に雪ノ下達も耳を傾けて俺の返事を待つ。

 

「ベータテストの時と同じペースで考えても2年と1ヶ月、でも今からの状況だと.....悪くすれば3年、下手したら4年はかかる...とは思います」

 

俺の答えに平塚先生達だけでなく、俺の声が聞こえた周りの見ず知らずのプレイヤーも目を見開く。

正直、俺だってこんなこと信じたくない。だが、ベータテストの時とは違い、今回は死がすぐそこにある。その差はあまりにも大きい。

 

「やっぱりハチもそう思うか....」

 

俺の答えにキリトも同意したことで、さっきまでわめき散らしていたクラインまでもが静かになる。

 

俺達が戦慄する中、茅場は話し続ける。

 

「では最後に、ささやかながらアイテムを進呈しよう。諸君らのアイテムストレージを確認してほしい」

 

茅場がそう言うと、プレイヤー達はメニューを操作してアイテムを取り出す。雪ノ下達もアイテムを取り出した。

 

何でこいつら、そんな従順に言うこと聞いてるんだよ。少しは警戒しろよ。

俺はアイテムを取り出さずに、名前だけを確認する。

 

「...手鏡?...何で」

 

俺が疑問に思っていると、アイテムを使ったプレイヤー達が光に包まれた。そして、その数秒後には俺も光に包まれる。何でだ?俺、使ってないのに。

 

すると、茅場が言った。

 

「中には使わなかったプレイヤーもいたが、私がアイテムの効果を付与しておいた」

 

初めからそうしろよ...。無駄なことさせやがって...。

だが、茅場がこのゲームのコントロールが可能な事を改めて確認できたな。分かりきってたけど。

 

視界が晴れると、先程まで雪ノ下が居たところに現実の姿そっくりの雪ノ下が居た。どうやら、現実の姿に変えるためのアイテムだったようだ。俺は強制的に変えられたが....。

 

すると、雪ノ下が俺の顔を見て、詰まりながら言った。

 

「え.....ひき...がや...君?」

 

「どうした雪ノ下。....にしても本当に現実そっくりの姿だな」

 

俺がそう言うと、雪ノ下は口をあんぐりと開けた。

雪ノ下のこんな顔は初めて見たかもしれない。確かに、この再現度は凄いな。驚くのも無理はない。

 

「え?でも先輩、どうやって現実の顔....を....」

 

一色が俺に質問してきたが、途中で雪ノ下と同じ表情になって固まってしまった。

どうしたんだ、一体。まさか、あの手鏡のせいで何か異常をきたしてるんじゃ....。

 

俺が茅場に対して文句を叫ぼうとすると、平塚先生が一色の質問に答えた。

 

「ナーヴギアは顔全体を高密度の信号素子で覆っている。それによって、限りなく現実に近い顔を再現しているのだろう」

 

平塚先生は一色にそう言うと、俺に哀れみの目を向けてきたが、次の瞬間には雪ノ下と一色と同じように口をあんぐりと開けて固まってしまった。

 

まさか....平塚先生まで。でも、微かに体が動いているから問題は無さそうだな。多分。知らんけど。

 

「でも何で体型まで再現できてるんだ?」

 

「あっ!!そうだよお兄ちゃん!!だからプレイする前に...ぜ...ん...」

 

「小町、せめて全部言ってくれ」

 

俺は小町にそう言ったが、小町は三人と同じ表情で固まってしまって返事をしてくれない。

まさか、材木座もなってないだろうな。

そう思って目を向けると、案の定だった。

こいつら、一体どうしたんだよ。そんな間抜けな面をするような状況でもねぇぞ。

 

そう言えば、キリトとクラインの姿を見てないな。先程までキリトとクラインが居た場所に目を向けると、少し幼い顔をした少年と髭面の男が目に入った。

 

「お前、もしかしてキリトか?」

 

「え?その声....ハチ?」

 

「おめぇハチマンか?」

 

俺が頷くと、二人とも驚いた顔をした。特にクラインが。

 

よかった。こいつらは普通の反応をしてくれた。

 

すると、クラインが呟く。

 

「にしても何でこんなことを....」

 

「どうせ、すぐに説明してくれる」

 

キリトが茅場晶彦の方を指さすと、ちょうど話し始めた。

 

「諸君らは今、『何故?』と思っているのだろう。何故、ソードアート・オンライン及びナーヴギアの開発者である茅場晶彦はこんなことをしたのか、と」

 

他のプレイヤー達と同じ様に、キリトやクライン達も茅場の言葉に耳を傾けた。

正直今は、こんな犯罪の理由よりも雪ノ下達の現状の理由の方が気になるんだが....。

それは、後で聞くことにして、俺も茅場に意識を向けた。

 

「私に、既に目的はない。私は、この世界を作って、観賞するためだけに、このゲームを作った。故に、私の目的は既に達成せしめられている」

 

「こいつ.....そんな事本気で言ってるのか?」

 

ただ観賞するために....本当にただそれだけのために、これ程のゲームを作り上げたっていうのか?

もし、そうだとしたら本当に頭のイカれた人間としか思えない。こいつ、どこか頭のネジがぶっ飛んでんじゃねぇのか?

 

キリトも歯軋りをして、茅場晶彦を睨んでいる。

 

「それでは、長くなってしまったが、これでソードアート・オンライン、正式サービスのチュートリアルの終了とする。諸君らの健闘を祈る」

 

 

そして、茅場晶彦の巨大な赤ローブのアバターは消滅し、《WARNING》という表示も消滅して、元の夕日と僅かに紫がかった空が映る。

総勢9787人のプレイヤー達は、ただ、広場の上で立ち尽くすしかなかった。

 

こうして、後にSAO事件と呼ばれる未曾有の大事件、デスゲームの幕が上がった。

 

 

 

 

 

茅場が消え去った直後、広場ではプレイヤー達が大パニックに陥っていた。正に阿鼻叫喚とは、この事だろう。このままではパニックに巻き込まれると思った俺とキリトは、クラインと雪ノ下達を連れて脱出しようとしたが、復活した雪ノ下と一色に両腕を組まれて、俺は連行された。キリトも驚いたが、慌てて後ろをついてきた。

 

 

 

「おい、お前らいい加減離せ。いつまで腕を組んでるんだ」

 

マジでこいつら、何処まで連れていく気だよ。もう広場からは、とっくに離れてるのに。

 

「良いから、少しあなたは黙りなさい」

 

「そうです。少し黙ってください」

 

「今は大人しく言うこと聞いた方がいいと思うよ」

 

「うむ、妹殿の言うとおりだ」

 

「んな理不尽な....」

 

その後も数分間、連行されていたが、唐突に雪ノ下達の足が止まった。そして、建物についている窓を拳で小突きながら言った。

 

「さて。この建物の窓で自分の顔を確認しなさい」

 

「....はぁ?」

 

いきなり何を言い出すんだこいつは。わざわざ現実世界と同じ様に腐った目を確認しろっていうのか。雪ノ下って、そこまで鬼畜だったのかよ。

 

困った俺を見かねて、キリトが助け船を出す。

 

「ユキノ、俺には何でそんな切羽詰まった言い方してるのかは知らないけどさ。ハチが困ってるから少しは説明してやっても....」

 

キリトがそう言うと、クラインも頷いて俺を助けてくれる。あぁ、こいつらは俺の救世主だ。後でマッ缶をおごってやろう。あれ?でもこの世界には....。

 

俺がマッ缶が飲めなくなることに気づいて絶望しかけていると、雪ノ下と一色が冷たい声で言った。

 

「キリト君は黙ってて、クラインさんも」

 

「そうです。キリトとクラインさんは黙っててください」

 

雪ノ下と一色の高圧的な態度に、キリトとクラインは黙り込んでしまう。

 

はぁ、何か雪ノ下と一色以外の奴も『早くしろ』と言わんばかりに目で、訴えてくるし。とりあえず言う通りにするか。俺の目が腐ってるの何て、もはや俺のチャームポイントですら有るからな。今さら傷つきはしないさ。

 

そう思って、俺は窓に映る自分の顔を見た。そして、そこには、やはり現実と同じく腐った目が.....

 

「誰だ。この男は」

 

「は?何言ってるんだ。それハチの素顔じゃないのか?」

 

キリトとクラインが不思議そうな顔をして訊いてくる。

だが、俺は返事をせずに、顔をペタペタと触りながら頭の中で考える。

 

いや、マジでこの男誰だ。俺の目が腐ってないなんて事が有っていいのか?自分でいうのも何だが、俺から腐った目を取ったら、最早ただのイケメンではないか。性根が捻くれてるけどな。

なるほど....だから、雪ノ下達は、あんな反応をしたのか。これで、キリトとクラインだけが普通の反応をしたのにも納得がいく。この二人は俺の現実世界での顔を知らないからな。目の変化なんて気づくわけがない。

 

にしても目だけでここまで変わるのか...。俺のピョンと立ったアホ毛が無かったら自分の顔だと気づかなかったぞ。

てか、アホ毛まで再現するって.....逆に何で俺の腐った目を再現出来ないのかが不思議だな。ナーヴギア被ってるから、髪の毛はペチャンコになってるはずなのに....。

 

え?俺の腐り目すごくない?そんな技術力をもってしても再現出来ないとか...。

 

俺が変なところに感心していると、雪ノ下が言ってきた。

 

「その反応....やっぱり比企谷君なのね。俄には信じ難いけど...」

 

「マジで先輩本人なんですか....。見た目だけじゃ判別出来ませんでしたよ」

 

「お兄ちゃんがイケメンに....。喜ぶべきなのか、このゲームに巻き込まれた事を嘆くべきなのか....」

 

おい、小町。それは間違いなく後者一択だろう。てか、何でこいつらこんなに落ち着いてるんだ?俺だって、少なからず怖い気持ちはあるのに....。

 

俺が訊くと、小町は当たり前の様に答える。

 

「だって、あのお兄ちゃんの腐り目が無くなったんだよ!!これは天地を揺るがす大事件だよ!!」

 

「んな、大袈裟な....」

 

俺が呆れると、キリトとクライン以外の全員が頷く。

 

あれ?俺の感覚がおかしいのかな?それか、こいつらも恐怖で頭のネジが飛んだんじゃねぇか?それともただ強がっているだけか?

だとしたらわざわざ指摘してやる必要もないな。せっかく恐怖心を何処かに吹き飛ばそうとしてるんだ。それを邪魔する必要はない。

 

 

 

キリトとクラインがようやく事情を呑み込めたのか『あぁ...そういうことか』と呟くと、平塚先生が言った。

 

「比企谷本人の確認も取れたことだし、この先の方針を決めないか?」

 

「その事なんだけど、俺から提案があるんだ。聞いてもらってもいいかな?」

 

キリトの発言に全員が頷く。俺とキリト以外にこの場にはベータテスターがいないから、必然的に俺とキリトが指揮を取ることになるだろう。

 

「まず、俺はこの街を出た方がいいと思う。というか、そうするべきだ。今は広場だけに収まってるけど、しばらくしてプレーヤーが動き出したら、混乱が始まりの街全体に広がる。それには巻き込まれない方がいい。ハチもそう思うだろ?」

 

俺も全く同じ事を考えていたので、頷く。

 

「第2に、生き残るためには強くならないといけない。ここから先はリソースの奪い合いになる。俺とハチは、この先の安全なルートもクエストも知ってる。この人数で行けばベータテストからの変更があったとしても対処できるし、みんなの実力はこの目で見たけど、ニュービーにしては上手すぎるって言っても過言じゃない。だから、今すぐにでも外に行かないか?」

 

皆がそれに従って動こうとすると、クラインが口を開いた。

 

「悪い、キリト、みんな。俺は....一緒には行けない。さっきも言ったけど、俺の会社の連中もこのゲームをやってるんだ。俺は....あいつらを置いては行けない」

 

クラインはそう言って、申し訳なさそうに頭を下げる。

こいつ.....滅茶苦茶良いやつじゃねぇか。

わざわざ頭を下げる必要なんかないのに、俺達と一緒に行けないことに負い目を感じてやがる。

すると、平塚先生が優しい笑顔で言った。

 

「そうか、だったら私もここに残ろう。キリト君、ひ....いや、もうハチマンと言った方がいいな。悪いが君たちは先に進んどいてくれ」

 

「わかりました。小町、お前は平塚先生と一緒にここに残れ」

 

俺がそう言うと、小町は大きな声で叫ぶ。

 

「え...どうして!?小町も一緒に行くよ!!」

 

「駄目だ。正直に言うが、お前には危険なことはしてほしくない。頼む」

 

俺は頭を下げて懇願した。もし、モンスターに小町が殺されるような事があったら....俺は、まともじゃなくなるかもしれない。

 

だが、小町は俺の懇願をあっさりとはねのける。

 

「絶対に嫌だよ。お兄ちゃんが何と言おうと小町は絶対に一緒に行く」

 

「何で....何で言うことを聞いてくれないんだよ!!俺は!」

 

語気を荒げて、何とか小町に言うことをきかせようとするが、続きの言葉が出てこなかった。小町が今まで見たこともないような強い意思を持った目で俺を見ていたからだ。

この様子を見た平塚先生が俺に優しく語りかけてくる。

 

「比企谷、君の気持ちは分かる。大切な妹に危険なことをさせたくないという思いも理解できる。だがな、それはお前の妹だって同じなんだ。大切な兄が危険な場所に自ら進んでいこうとしている。本当だったら止めたいだろうさ。でも、お前は止まらない。そんな事は今まで君を見てきた私でも分かることだ。だから、止めずに一緒に行こうとしている。妹の気持ちも理解してやれ。この世界に来ても、一緒にいる唯一の家族なんだから」

 

「そうだよお兄ちゃん!!小町、自分の知らない場所でお兄ちゃんが戦って死んじゃったら物凄く辛いよ!!だから絶対に一緒に行く!!それでお兄ちゃんは私が守る!!」

 

 

.....驚いた。

小町がこんなにも自分の思いをさらけ出してきたことに。そして、自分の妹がいつの間にか、とても強くなっていたことにも。

 

 

「そうか...悪かったな。じゃあお兄ちゃんは小町を絶対に守り抜かなきゃな」

 

「うん!」

 

にしても、平塚先生は何で結婚出来ないんだろう。こんなにも良い人なのに。いや、もう彼氏は居るのか。

クラインの方を見ると、平塚先生の方を見て呆然としていた。

 

あ、あれ惚れたな。

 

俺達のやり取りをキリト達は暖かい目で見守っていたが、やがて声をかけてきた。

 

「ハチ。絶対に、このゲームをクリアしよう。そして生きて帰るんだ」

 

「あぁ、そうだな。.....と、そうだ。小町、あのビーストマスターとかいうスキルだが、遠慮無く使っちゃっていいぞ。お兄ちゃんが許可する」

 

「え?いいの?お兄ちゃんとキリトさんが使っちゃ駄目だって....」

 

小町が心配そうに俺とキリトを見る。

 

「問題ない。小町に群がるプレイヤー共はお兄ちゃんが処理する。それにその方が生存率が何倍にもなるからな。ちなみにキリト、異論は認めんぞ。これは決定事項だ」

 

俺がそう言うと、キリトは苦笑いしながら言った。

 

「そうだな。もし、プレイヤー達が小町に質問攻めに来たら追い払うのを手伝ってやるよ。にしても....やっぱりハチってシスコンだな」

 

「シスコンで何が悪い。俺はシスコンであることを誇るぞ!」

 

「いや、誇るなよ」

 

「お兄ちゃん.....小町的にポイント高いよ!」

 

「そうなのか!?」

 

 

キリトが突っ込むと他のみんなが笑って、さっきまでのシリアスな雰囲気が一気に和んだ。

そして、全員がフレンド登録をした後、クラインと平塚先生は、広場にクラインの会社の仲間を探しに行った。

 

ちなみに、その時にクラインが俺に向かって、『イケメンはくたばりやがれ!!』と言ってきたから、思わず否定すると、『今のお主が言うと、ただの嫌みだぞ』と、材木座に言われてしまった。

 

この顔の生活にはしばらく慣れそうもない。

 

 

 

 

今俺達は、クライン達がいなくなった後、この先のルートの説明を雪ノ下達にしている。そして、小町のフレンジーボアに二人のりで行くことにした。俺達の体格ならギリギリ乗れるらしい。

 

「じゃあ、出発するか」

 

「そうだな。小町、早速フレンジーボアを出してくれ」

 

小町はフレンジーボアを3体呼び出す。そして、俺達はそれぞれに二人ずつ乗った。俺と小町、雪ノ下と一色、キリトと材木座という組み合わせだ。

 

「なぁ、キリトの乗ってるフレンジーボア、何かでかくないか?」

 

「あれ?本当だ。もしかしたら乗るひとに合わせて、大きさが変わるのかもな」

 

キリトは自分で言って首をかしげる。恐らく、『俺ってそんなに体大きくないんだけどな』とか、思ってるだろうが、それは違うぞ。原因は後ろでふんぞり返っている材木座だ。

 

いい加減俺も材木座じゃなくて、ちゃんと名前で呼ばないとな。

 

いざ出発しようとすると、後ろから声が聞こえてきた。

 

「お、やっと見つけたぞ。おーーい、ハッ.....って何でここにフレンジーボアが!?」

 

後ろを振り向くと、髭を頬に描いたアバターが俺達の方を見て、目を見開きながら短剣を構えていた。あの髭はアルゴだな。すごい分かりやすい。

...ってこの状況はまずい!

 

「ちょっと落ち着けアルゴ!!ちゃんと説明するから!!」

 

俺は慌ててフレンジーボアから降りて、アルゴの元に駆け寄った。

 

「え?お前がハッチなのか?嘘だろ....イケメンじゃないか....ってそんな事よりこれはどういうことなんだ!?」

 

俺が説明しようとすると、キリトも話に入ってきた。

 

「少しは落ち着けよアルゴ」

 

「誰だよお前は!?」

 

「だから、落ち着けって。俺はキリトだよ」

 

「え、キー坊なのか?しかも、またイケメン...」

 

アルゴがキリトの出現に呆気にとられているうちに、小町にフレンジーボアを消してもらった。流石に、街中から行くのは判断ミスだったな。他のプレイヤー達はまだ広場に居るものだと思って油断していた。

次は外に出てからにしよう。

 

 

アルゴが落ち着いたので、今までの流れと小町のスキルについて説明する。くそ、時期が来たらこの情報を売り付けるつもりだったのに。

そして、今俺とキリトはアルゴに説教を食らっている。

 

「お前たち、一体何を考えてるんだ!?いくら路地裏だからってそんなスキルを堂々と使うんじゃない!!他のプレイヤーはまだ広場に居るからよかったけど、俺っち以外にもプレイヤーがいたらどうするつもりだったんだよ!?余計なパニックを起こすつもりか!?」

 

返す言葉もなく、俺とキリトは大人しく説教をくらう。雪ノ下達はアルゴに話しかけるか迷っていたが、タイミングを失いオロオロしている。

 

アルゴの説教が終わると、キリトがアルゴに質問した。

はぁ、アルゴの説教は二度と食らいたくないな。軽くグロッキー状態だ。

 

「ところでアルゴ。どうして正確に俺達の場所が分かったんだ?」

 

「フレンドリストからハッチの位置情報を検索したんだよ。それで、こっちに来たらフレンジーボアが居た」

 

そう言って、アルゴは俺達に向かって責めるような目を向ける。

 

「だからそれは悪かったって。ていうかハチ、いつの間にアルゴとフレンド登録したんだよ」

 

「ログインしてすぐだ。偶然会ったんだよ」

 

俺がそう答えると、雪ノ下達が話に入ってきた。

 

「ということは、彼女が私達に会う前に会ったっていう人かしら」

 

「あぁ」

 

「え?この綺麗な人が、待ち合わせしてた知り合いなのか?何か聞いてた話からは想像出来ないんだが...」

 

「比企谷君、あなた一体どんな風に私の紹介をしたのかしら?」

 

アルゴの言葉を聞いた雪ノ下が笑顔で言ってくる。

 

ヤバイよ今の雪ノ下の顔、めっちゃ怖い。あとめっちゃ怖い。ちょっとー、目が笑ってませんよー。

何か背景にゴゴゴゴッ、って効果音が付いてても違和感ねぇぞ。

 

「いや、変な紹介はしてないぞ...うん」

 

俺は顔をひきつらせながら言うと、一色が話しかけてきた。

 

「先輩、私の事はどんな風に紹介したんですか?」

 

「あー...ただの後輩だ」

 

「え?そんな風に言ってた人いたっけ?おかしいなぁー、オレっちの記憶にはないんだけど?」

 

アルゴはニヤニヤしながら、俺の方を見て言う。

こいつ.....絶対に楽しんでやがる....。

 

俺がアルゴを睨む。そして、一色と雪ノ下が俺を見ながら、それはそれは綺麗な笑顔で一言。

 

「先輩?」

 

「比企谷君?」

 

 

 

「.....すみませんでした」

 

 

俺は素直に謝るしかなかった。

 

 

 

 

 

あの後、アルゴは俺が処刑(罵倒、そして罵倒、からの罵倒)されるのを見て爆笑すると、俺が復活する前にキリトと何か話してから、街の何処かに消えてしまった。

 

しかし、雪ノ下の罵倒は相変わらず容赦がない。俺じゃなかったら自殺にまで追い込まれてるぞ。

ただ、途中で腐り谷君とか言った時に『もう目は腐ってないのね....』と言って俺の顔を見ると、『くっ.....』と言って目を反らした後、更に罵倒してきたのは何故だ。流石にそれは理不尽だろ。

一色も雪ノ下と同じ様な反応をするし.....。

まだ、前の方が良待遇だった気がする。

腐った目に戻りたい..。

てか、前のは良待遇だったのかよ...。

 

一人で突っ込んでいると、キリトが話しかけてきた。

 

「ハチ、大丈夫か。そろそろ出発したいんだけど」

 

「あぁ、もう大丈夫だ。ところでキリト、アルゴと何を話してたんだ?」

 

「この先にベータテストからの変更点が有ったら教えてくれってさ。あと、やっぱり小町のあのスキルは、しばらく使うなって言われたよ。あいつもしばらくは、この街に居るらしいぞ」

 

「そうか....。それじゃあ行くか」

 

始まりの街の門に向かいながら俺は考える。

 

小町のスキルは正直言って使って欲しいんだが、アルゴの言う通り、今のパニックに余計な混乱を与えるのは非常にまずい。流石に、アルゴの指示にしたがった方がいいか。

 

それにしても、アルゴもやはり外に出るのは怖いのだろうか?いや、あいつは情報収集でもするんだろう。少なくとも、さっきのあいつは怯えているようには見えなかった。

だが、雪ノ下と一色は口には出さないが、いつもよりも表情が堅い。小町も、さっきはあんなことを言っていたが、少し手が震えてしまっている。やっぱり、恐いものは恐いのだろう。材木座は何故かやる気になっているが、多分無理矢理にでも自分を鼓舞しているのだろう。もしかしたら本当にやる気になっているのかもしれんが....小説の酷評には極端にメンタルが弱いが、それ以外は思いの外強いからな。材木座に限っては心配ないのかもしれない。

 

ただ....材木座には謝らないとな。俺がナーヴギアをあげよう、何て言わなければ、こんなデスゲームに巻き込まれることは無かったんだ。それは小町も一緒だが、小町に謝ったら、またさっきみたいに俺が怒られそうだ。

.....そう考えると、材木座にも怒られそうだな。こいつのためにも、絶対に、このデスゲームをクリアしてやらないと....。

そういえば、陽乃さんは大丈夫だろうか。罪悪感に苛まされてなければいいんだが....。

 

みんなの様子を見たキリトが、歩きながら俺にしか聞こえないように質問してきた。

 

「ハチ....心配じゃないのか」

 

恐らく雪ノ下達のことをいっているのだろう。端から見ても、決して大丈夫とは断言できない様子だしな。

 

「...まぁ、正直心配だな」

 

「そうだよな....やっぱり外に行くのは....」

 

そう言いながら、キリトは目を伏せる。自分でも、外に行くことの危険性は理解してるのだろう。だが自分がそれを提案して、みんなが無理をして付き合ってくれている、と思って自分を責めている。

その考えは今のうちに正しておいた方がいいな。一番最初からこんな様子じゃ先が思いやられる。

 

まったく、世話の焼けるやつだ。人の事は言えないけど...。

 

俺はため息をついてキリトに語りかけた。

 

「はぁ、馬鹿かお前は。そんな事は全員がわかってる。それを承知でお前の提案に乗ったんだ。俺だってそうだ。俺は自分の意思でお前の提案に乗ったんだ」

 

「でも、他のみんなは....」

 

すると、雪ノ下が俺達の会話に入ってきた。どうやら、思ったより大きな声で話してしまっていたらしい。

 

「キリト君、貴方もそこの男と同じ様に罵倒されたいのかしら?」

 

「ユキノ....聞こえてたのか...」

 

「横で歩いてるんだから、そりゃ聞こえるに決まってるじゃないですか。少し前に、私をいじっていた人とは思えないですよ。しっかりしてください。先輩とキリトが今一番頼りなんですから」

 

どうやら一色も俺達の話が聞こえていたようだ。俺も一色に続ける。

 

「そういうことだ。俺とお前がぶれてちゃ、ニュービーのこいつらはもっと不安になる。だから、そんな事は気にするな」

 

「ハチ....分かった。そうだな。俺達がしっかりしないとな」

 

そう言ってキリトは、頷いて前を向いた。

 

はぁ、こういうことは俺の柄じゃ無いんだけどな。でもま、キリトの顔から迷いが消えたように見えるし良しとするか。

しかし、雪ノ下と一色は思っていたよりも平気そうだな。

 

そう思って雪ノ下の方を見ると、俺の考えを察知したのか口を開いた。

そんなに分かりやすく表情に出てただろうか?

 

「私だって不安よ。でも一人じゃないもの。それに、街に残って、ひたすら攻略されるのを待つだけだなんて絶対に嫌よ」

 

 

「そうですよ。それで誰かが死んで現実世界に戻っても私は素直に喜べないです。もちろん私は死ぬつもりは有りませんよ?絶対に生きて現実世界に戻ってやる」

 

俺は雪ノ下と一色の発言を聞いて目を見開く。俺と全く同じ事を考えていたからだ。驚いていると、材木座も言った。

 

「我も死ぬつもりはない。現実世界に戻り、この出来事をラノベにするまではな!!」

 

「は?ラノベ?」

 

思わず俺は聞き返す。俺だけでなく他のみんなも材木座の方に注目する。材木座は全員に見られて、一瞬キョドりかけたが、俺の質問に答える。

 

「うむ。....この際だから言ってしまうか....」

 

そう言うと、材木座は俺達を一瞥して宣言した。

 

「我が書くのはライトノベル、タイトルは未定だが、主人公は八幡とキリト、お主ら二人だ」

 

 

『は?』

 

何を言ってるんだこいつは。俺が主人公だと?しかもキリトもかよ。

 

「そして、我も含めたここにいる者全員が主要人物だ。だから、今ここで全員に言おう。絶対に死ぬな。我が物語の中で死者が出るなど言語道断だ」

 

「...........」

 

俺はこの時、材木座の方を見て、先ほどの雪ノ下達と同じ様な表情をしていただろう。

俺以外の全員も、この時は間抜けな面をしていたと思う。

 

全く.....無駄にカッコいいこと言いやがって。こいつのこういうところは素直に尊敬できる。

 

 

 

「あれ?今のかっこよくなかったか?少しぐらいリアクションして欲しいのだが....」

 

「今ので台無しよ....」

 

「まったくです」

 

「小町も同感ですねー」

 

「なっ!?」

 

「気にすんなよヨシテル。さっきのはかっこよかったぞ」

 

「キリト殿....」

 

材木座がキリトを救世主でもみるかのような、眼差しを向けるなか、俺は一言つぶやいた。

 

「最後で台無しだったけどな」

 

「はぐぁ!!」

 

あ、やべ。とどめを刺しちまった。

 

にしても、この展開どこかで.....。

 

地面を何か呪文を唱えながら転がる材木座を見て俺はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

その後、自分の発言を悔いる材木座を励ましながら、俺達は始まりの街の出口までやって来た。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「そうだな。とっとと、このデスゲームを終わらせてやる」

 

それにしても、こいつらとデスゲーム攻略か。何か笑えてくるな。何故かは分からないが、こいつらと一緒なら大丈夫な気がする。

 

「八幡くん、何笑っているのかしら?」

 

「何でもねぇよ。って今、名前で...」

 

「貴方が言ったんじゃない。このゲームでは名前で呼び合えって」

 

「そりゃそうだが....。ってこんな状況だしな。いつまでも名字で呼ぶわけにもいかねぇか」

 

「じゃあ私も先輩のこと名前で呼びますね。ってことで私の事も名前で呼んでください。さぁ、今すぐに!」

 

「うっ.....まぁ、追い追いな。キリト、先に外に出てるぞ」

 

「ちょっ、俺も行くって」

 

キリトが慌てて俺の横に来ると、後ろから声が聞こえた。

 

「.....このヘタレが」

 

え?今の声一色か?コワッ!どこからそんな低い声が出るんだよ。

 

「いろはさん。相手はお兄ちゃんですよ」

 

「そうだった....」

 

おい、それで納得しちゃうのかよ。俺の評価ってそんな低いの?

 

俺とキリトが歩き出すと、一色達もついてくる。だが、時折笑い声が聞こえてくる。

全く、緊張感のないやつらだ。今からデスゲームに挑もうとしてるってのに....。

 

ま、変に気負うよりはマシか。ガチガチに固まってたら、いざ戦い、ってなった時に即死亡も有りうるからな。

 

後ろを振り向くと、とてもデスゲームに巻き込まれた人とは思えない表情が並ぶ。全員、もう恐怖なんて感じていないような顔だ。

 

「ハチ...お前の仲間は強いな」

 

「....そうだな」

 

まったく、俺の周りはどいつもこいつも、こんなやつらばっかりだ。でも、本当にこいつらが一緒で良かった。俺一人じゃ、こんな精神的に余裕が出来ることなんて有り得なかっただろうしな。

 

そして、俺達は始まりの街を後にした。




今回はやりたかった展開を『これでもかっ!』って感じで詰め込んだ回です。
この話の進むスピードだと、いつSAO編が終わるんだろう....。先が長すぎて....。(白い目)
ユウキなんですが、もしかしたらストーリーに入ります。入る場合の展開は考えたんですが、その後が..(泣)。何か思いついたら加えると思います。


とりあえず、読んでくださってありがとうございました!!

では、また次の話で。



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第4話 アイデンティティクライシス

どうも。お久しぶりです。
約五ヶ月ぶりですね!!時の流れは早い!!
......本当に待たせてしまい申し訳ない。
とりあえず、続きです。どうぞ。


俺達が始まりの町を出て既に1ヶ月が経つ。流石に信じたくなかったが、既に千人以上がゲームから退場...もとい死んでしまった。黒鉄宮と呼ばれるこの世界の監獄の前にある生命の碑、それに刻まれたプレイヤーネームの上に横線が引かれてしまったのだ。幸い俺の仲間や知り合いからは誰も犠牲者は出ていない。

 

「....まぁ、こんなもんか」

 

目の前でポリゴンとなって霧散するモンスターを眺めながら俺は剣を納刀した。第一層の最後の町《トールバーナ》から少し離れた狩り場に潜って既に二時間。狩ったモンスターは雑魚を100体、エリアボスを一体。おかげでレベルも1つ上がった。ちょっとやり過ぎた感も否めないが、俺は気にせず帰路につく。とりあえず、あのエリアボスの情報はアルゴに教えておこう。それと、次からはキリトにもついてきてもらおう。危うく死にかけた.....。

 

そして、今、俺の周りにはユキノもコマチもイロハスもいない。それは何故かって?

 

 

 

 

....今が深夜の2時過ぎだからだ。

 

 

 

 

アイテムと情報の整理に没頭していたら日付を跨いでしまっていたのだ。その後、なかなか寝付けなかった俺はせっかくだし少しレベリングしようと他の皆にバレないようにこっそりと宿を抜け出した。そして、店で安い剣を数本とポーション、暗がりを照らすための松明を買って、迷宮区周辺の森のエリアに来たというわけだ。

 

恐らくさっきのエリアボスはこの時間帯限定だろう。第一層にしては結構強かった上に昼にキリト達と来たときには遭遇しなかった敵だ。出現条件がソロで戦うことでない限り恐らく間違いない。これもアルゴに教えとかないとな...。

先程の《ザ・ビギニングゴースト》という、いかにもな名前と姿だったエリアボスのドロップアイテム、《ゴーストケープ》を装備しながら思慮に耽る。ちょっと見た目はあれだが、気にしないでおこう。この装備は隠密と敏捷値に僅かだが上昇効果がある。俺の元々の隠密のレベルを考えると、もうこの辺りのモンスターには攻撃でもしない限り気づかれる事はない....かもしれない。

試しに近くにいた《ダイアー・ウルフ》とかいう狼のモンスターに手を振ってみたが気づかれることはなかった。物音をたてても反応はするが、見つかることはなかった。

 

 

 

その後も様々な悪戯をしてモンスターをおちょくって楽しんでいた。そして、俺は何を血迷ったのか後にして考えると馬鹿な行動を取ってしまった。深夜テンションとかいう奴の存在のせいだろう。狼にしては妙にフワフワした毛並みに目がいってしまったのだ。

 

あの毛を思う存分撫で回したら気持ちいいだろうな。....やっても良いよね?いや、やる。

 

決断を下してからの俺の行動は速かった。もしかしたら家に置いてきてしまった愛猫のカマクラの触り心地が恋しくなっていたのかもしれない。

俺は素早く《ダイアー・ウルフ》の背後に忍び寄って、第一層ではかなり希少な麻痺ナイフを使用した。首もとにザクッとさしこむと、カーソルの上に稲妻のエフェクトが表示される。麻痺状態になった証だ。

パリィンと音をたてて麻痺ナイフは砕け、俺は手を伸ばした。

 

「おぉ.....」

 

予想通りの素晴らしい毛並みだ。これを布団にしたらさぞ寝心地の良い布団が出来るだろう。誰か作ってくれないだろうか。

暫くモフモフしながら堪能していると、麻痺状態を示すエフェクトが点滅し始めた。もうすぐで効果が切れる合図だ。

.....名残惜しいが仕方ないな。そして、俺が手を離そうとした瞬間背後から声が聞こえてきた。

 

「何してるんだハチ?」

 

「なっ!?」

 

背後から聞こえた最近すっかり聞きなれた声に反応して悲鳴を上げてしまった。キリトじゃ無かったら斬りかかってたぞ。

剣に伸びかけた腕を下ろして、俺はホッと息をついた。ホント勘弁してほしい。時間が時間だからSAOの中とはいえ、そういう類いかと思ってしまった。

文句を言おうと後ろに顔を向けようとした瞬間、眼前に《ダイアー・ウルフ》の牙が迫ってきた。それを俺は体を捻ってかわし、転がりながら更なる追撃をかわす。そして、起き上がると同時にソードスキルで反撃しようとすると、キリトが先にソードスキルで葬り、音をたてながらポリゴン片が霧散した。

 

「....で、何してたんだ?」

 

キリトめ。随分と悪い笑顔をするじゃないか。表情から察するに、恐らく現場を見られてしまったのだろう。

新たな黒歴史誕生の瞬間だ。穴が有ったら入りたい。そして消えたい。

心の中で『死にたい!!死にたいよぉぉぉぉ!!』と叫びつつ、俺はどうにか誤魔化そうと口を開く。

 

「あれだ....あれがあれであれしてたんだよ」

 

駄目だ。自分でも何言ってるのかわからん。

材木座の小説あげるから誰か助けて...誰も居ないか....

 

死にたい

 

 

「毛を触ってたのか?」

 

......ジーザス!!

 

「.....モフモフしたかったのか?」

 

「.....真実を知りたければ歩く死神でも呼ん━━

 

「アルゴ」

 

「いくらだ?」

 

キリトがスッと手を差し出し、その上に俺はコルの入った袋を落とした。誰でも自分の名誉は守りたいものだ。

 

 

「あと2000だな」

 

「ぐっ...」

 

 

 

 

キリトとの商談を終え、俺達は一緒に宿まで戻り始めた。

 

帰り道の途中にあるセーフティーエリアと呼ばれる、モンスターが入れない安全地帯。そこで寝ていたどっかのバカを運搬しながらだが。

いや、マジで驚いた。何か居ると思って松明で照らしたらプレイヤーだったんだから。おかげでまた悲鳴を上げそうになった。

まぁ、それは置いといて....

 

 

「さっきから言おうと思ってたんだが、流石にその運び方は酷くないか?」

 

「しょ、しょうがないだろ!俺でも持ち上げられないんだから!」

 

キリトは言葉に詰まりながらも自分は悪くないと主張する。

しかし、深夜2時という時刻。携帯寝袋に詰め込まれたフードのプレイヤー。それをズリズリと引きずるキリト。そして、その周りを剣を持ちながら警戒する俺。

 

....事案ですね。

 

この世界に警察がいないことに感謝だ。

しかし、いくら安全地帯とはいえPKされる可能性は十分にあるのに、そこで熟睡するとはこのプレイヤーは一体どんな神経をしているのだろうか。流石にPKなんて事する奴は居ないとは思うが念のために町に連れていくことにした。

このまま放置したせいで、このプレイヤーが死んでしまったら寝覚めが悪いからな。これを聞いたキリトには相変わらず捻くれてるなと言われたが。しかし、文句も言わずに手伝ってくれるキリトはお人好しだな。いつかその優しさが仇にならないといいが.....。

 

そして、誰にも見つからずトールバーナにたどり着いた俺達は、フードのプレイヤーのために空き部屋のある宿に一泊分のコルを払って部屋のベットの上に投げ捨てた。投げ捨てた、というのは俺よりも筋力値の高いキリトでも持ち上げる事ができなかったのだから仕方ない。

よって、最後に聞こえた『ぐぎゅっ』とかいう呻き声も仕方なかったのだ。

 

「さ、俺達も帰ろう」

 

「そうだな」

 

一応『もうあんなところで寝るな』と書き置きを残して、俺達も自分の宿に向かった。

 

 

 

翌日、寝不足な体を無理矢理起こしつつ目を覚ました。

寝起き特有の体の重さまで再現しているとは流石は茅場晶彦だな。恐れ入った。

腕を伸ばして体をほぐしていると、眼前にメッセージの通知が表示された。どうせユキノ達からの早く来いとかの命令だろう。少し寝過ごしたし。

 

「差出人は....アルゴか」

 

予想と違ったその名前に眠気は消し飛び俺は身構えた。こいつからのメッセージは大体教えてくれと頼んだ情報が主だ。しかし、今は特に頼んでいる依頼はない。ということは、このメッセージは向こうからの商談ということだ。キリトがベータ時代に何度かぼったくられたことを考えると、内容を十分に審査する必要がある。情報は信頼できるが、物の売買となるとずる賢いからな。

慣れた手つきでカーソルを操作し、アルゴから送られてきたメッセージを開く。

 

『久し振りだなハッチ。いきなりだけど、今まで無料で提供してくれた情報の見返りとして通常1000コルのガイドブック、しかもその最新版を500コルで提供してやるヨ。半額だぞ?』

 

バカな.....半額だと.....!!.....アルゴだぞ....?あの、アルゴだぞ!?

 

少し、いや、かなり怪しいが、キリトに金を搾り取られた俺にとっては暁光だった。すぐにアルゴに『別に気にするな。あと買う』と返信してベットから降りて窓から外を見上げる。今日の天気は快晴。絶好の昼寝日和だ。今日は朝から運が良いのかもしれない。

まぁ、今日は遂に第一層ボス攻略会議が開かれるから昼寝はできないし、この世界の天候はカーディナルシステムによって決められているのだが。

随分と、このゲームに思考が毒されたな、と苦笑いしつつ宿の扉を開ける。すると、既にアルゴが待ち構えていた。

 

 

.....何処から湧いてきやがった。

 

 

「おはようハッチ。で、500コル」

 

「会って二言目が金の催促ってどうかと思うぞ?」

 

この金の亡者め。

 

文句を言いつつも俺は差し出された手に500コルを置く。もはやこのやり取りは恒例化しつつあるから慣れたものだ。アルゴは金をストレージにしまうとガイドブックをストレージから取り出して俺に渡す。軽くパラパラと捲ると、地図にアイテム、モンスターにクエストなど様々な情報がビッシリと書いてあった。

 

「相変わらずの良い仕事ぶりだな」

 

「プレイヤーの命に関わる事だからな。少し気合いを入れたゼ?」

 

アルゴの言葉通り、確かに気合いが入っている。これがたったの500コルとはな。回復ポーション数個分と考えると考えものだが、それ以上の価値は十分にあるだろう。ベータテスター以外にとってはそれ以上の価値があるに違いない。

 

「ま、お疲れ様」

 

「ハッチが....人をねぎらった...?」

 

「おい」

 

「ニャハハ、冗談に決まってるだろ。そんなに睨むとイケメンが台無しだぞ?」

 

「はぁ...お前と話してると調子が狂う」

 

「誉め言葉だな」

 

「どこがだよ」

 

「全部?」

 

「あ、そう」

 

「急になげやりになったな。そうだ。あの件なんだけど向こうが額をつり上げてきたゾ?」

 

「まだ諦めてねぇのかよ...」

 

あからさまに俺が顔をしかめると、アルゴは苦笑いする。

あの件、というのは俺の所有する強化済みのアニール・ブレードの買い取り依頼だ。前も断ったのだが、随分と執着心の強いプレイヤーが交渉相手のようだ。

 

「その様子だと売る気は無さそうだな」

 

「あぁ。いい加減諦める様に言っておいてくれ。流石に鬱陶しい」

 

「分かった。じゃ、オレっちはもう行くよ。ハッチも攻略会議遅れるなよ?」

 

「おう」

 

俺の返事を聞くとアルゴは町の中へと消えていった。そして、俺はガイドブックを半額で買ったことで上機嫌になりつつ、キリト達との待ち合わせ場所。

第一層ボス攻略会議の会場へと足を向けた。

 

 

会場に着くと、既にそれなりの人数のプレイヤー達が集まっていた。思っていたよりは人が集まっている。48人のフルレイドを作れるかは微妙だが、これならボスもどうにか出来るだろう。第一層のボスは無茶をしなければ十分に勝てる敵だったはずだ。

周りを見渡してキリト達の近くまで行くとユキノが俺に気づく。

 

「遅い」

 

「すまん。布団の温もりには勝てなかった」

 

本当はアルゴと話しててギリギリになったのだが一々言う必要はないだろう。

座りながら答えると再びユキノが口を開くが、それを遮るように良く通る声が会場に響いた。

 

 

「みんな今日は集まってくれてありがとう!!」

 

「....ん?」

 

妙に聞き覚えのある声が攻略会議の司会である青髪のプレイヤーから放たれた。それと、同時に会場のプレイヤー達の視線が司会のプレイヤーへと注がれる。しかし、俺を含めたキリト達の視線は他のプレイヤーへと向かった。

 

「そんなに見られても困るのだが...」

 

俺達の視線を一身に受けたヨシテル(材木座)はビクッと体を震わせた。

.....気のせいか?ヨシテルとディアベルの声が全く同じに聞こえたんだが。

もう一度良く聞こうと耳を傾けると再び司会のプレイヤーが口を開いた。

 

「俺の名前はディアベル!職業は気持ち的にナイトやってます!」

 

....ヤベェ。有り得ないぐらい似てる。そして、こいつリア充だ。何だあの自己紹介。悲しいが孤独を愛するボッチの俺には思い付きもしないし、思いついても後から死ぬほど後悔するレベルの発言だ。

というか俺が言ったら『は?あんた何いってんの?』とか『バカじゃないの?』とか言われて即撃沈すること間違いなしだろう。

自分で想像しといてあれだが俺可哀想.....。

 

 

だが、この時、俺は気がついていなかった。

 

この時、すぐそばにもっと可哀想な人物が居ることに。

 

 

 

 

 

「我と同じ声なのに......リア充....だと.....!!しかも、イケメンで痩せている......完全に我の上位互換ではないか.....爆ぜろリア充....爆ぜろイケメン。爆ぜ━━━」

 

 

Oh.............。

 

 

負のオーラを撒き散らしながら呪詛の様に何かをブツブツと呟くヨシテルに俺達だけでなく他の見ず知らずのプレイヤー達も距離を取る。

.....金はやれんが同情するぞヨシテル。

 

「お兄ちゃん。あれ大丈夫なの?」

 

コマチよ....。せめて名前で呼んであげてくれ。あれでもヨシテルという立派な名前が有るんだから。たとえ、怨念と怨嗟と憎悪にまみれてても。

 

「ちょっとしたアイデンティティクライシスだから大丈夫だ。.....たぶん」

 

「それ、本当にたぶんですよね」

 

「ヨシテルの周りに嫉妬の炎が見えるぞ」

 

「彼はゴキブリ並にしぶといメンタルを持ちあわせているから大丈夫よ.....」

 

 

 

 

 

 

その後、何故会場が騒がしくなったのか知りもしないディアベルは手を叩いて静寂を促す。慌ててプレイヤー達は口をつぐみ会場が再び静かになり、本題であるボス攻略会議へと話が移ろうとしたその時、事件は起こった。

 

 

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん!!」

 

 

 

ディアベルとヨシテルの声とは正反対のだみ声と共に、そいつはやって来た。

階段をワッセワッセと飛び降りながらディアベルの近くに着地する。

...随分と特徴的な頭をしていらっしゃるプレイヤーだ。

 

「イガグリか」

 

「いえ、あれはサボテンね」

 

「モヤっとボ◯ルじゃないか?」

 

俺達の声が聞こえたのかイガグリ(仮)が俺達の方を睨む。慌てて俺とキリトとユキノが顔を逸らすと、直ぐにイガグリ(仮)は元の方向に向き直った。どうやら会話の内容までは聞き取れなかったようだ。

イガグリは一度咳払いをすると、気を取り直して会場を見渡し、声を張り上げる。

 

「ワイはキバオウってもんや。会議に入る前に一つ言っとかなアカン事がある!!」

 

「....それは何かな?キバオウさん」

 

キバオウはディアベルの質問に鼻を鳴らすと、会場全体を見渡しながら言う。

 

「決まっとるやろ!!こん中に、今まで死んでった2000人に詫び入れなアカン奴が居るハズや!!」

 

キバオウの叫びに会場が一気に不穏な空気に包まれた。

あぁ....この流れはマズイ。その対象に察しがついた分、余計に頭を抱えたい衝動に駆られる。出来れば今すぐにここから離れたい。いつもの俺なら、この時点で今後の不利益を回避するため、何らかの行動を起こしていただろう。

だが、今の俺にはそれをする能力は有っても資格はない。

心が形容しがたい何かに締め付けられる様に感じる。

しかし、状況は更に俺達にとって過酷な物に変わっていく。

 

「キバオウさん。それはベータテスター達....の事をいっているのかな?」

 

ディアベルの質問に勢いを得たかの様にキバオウは更に声を張り上げる。

 

「せや!このクソゲームが始まった瞬間、やつらは始まりの町で右往左往するワシらを置いてった挙げ句に、クエストやらアイテムをぎょーさん独占して自分等だけ強くなりよった!!」

 

徐々に憎悪の籠ったような声に変わっていくキバオウの声。それに比例して、会議に出ている内の大多数が拳を強く握りしめ、顔を歪ませる。

そんな中、キリトは俯いて肩を震わせ、俺は目を閉じていた。

....本当に最悪の展開だ。幸い、まだ感化されていないのか、誰もキバオウに賛同して騒ぎだすやつは居ない。今の内に事態を終息しないと本当にマズイことになる。

自らの保身なんて関係ない。もし、ここでベータテスターを前線から排斥して何になるんだ。貴重な戦力を失うだけで、大した利益は生まれない。むしろ、今後の攻略に尋常じゃない遅れをきたす可能性がある。

あまりにもデメリットのほうがでかい。

 

.....やるしかないのか。

 

もうしないと誓ったんだがな....あんなやり方は....。脳裏に嫌な記憶がちらつく。

本物を求めて.....考えて.....守ろうとして.....大切な者や場所を傷つけた過去の記憶が。

 

「そいつらに今まで貯めてきた金やアイテムを吐き出して土下座でも何でもしてもらわな、同じパーティーメンバーとして命は預かれんし預けれん!!せやろ!!」

 

......決まりだな。

 

俺はベータテスターで本来ならここでとやかく物申す資格はない。だが、資格がないベータテスターだからこそ出来ることもある。この現状を打破するために出来ることが。

俺は目を開いてキバオウの姿を見据えた。

 

「お「発言いいか?」

 

「な、なんや!?」

 

....先越された。まぁ、あの黒人っぽいプレイヤーがどうにかしてくれるなら有難い。あげかけた腰を下ろして俺は口を閉じる。

 

「俺の名前はエギルだ。キバオウさん。あんたの言いたいことは━━━」

 

.....ん?....あれ?....何かおかしい。

 

エギルとかいうプレイヤーの声と姿が遠ざかっていく。背中に階段の角がガツガツと当たっているのを感じる。それと同時にさっきから装備している《ゴーストケープ》が引っ張られるのも感じる。

 

「あの...何で俺は引きずられてるんですかね」

 

「黙りなさい」

 

「.....すまん」

 

「分かっているなら大人しく引きずられなさい」

 

「いや、俺にも二本の足がある訳で....」

 

「何か言ったかしら?」

 

「いや.....何でもない」

 

会議から遠ざかる俺を不思議そうな顔で見つめるキリト達に苦笑いを返して、ズリズリと引きずられながら俺は町中に姿を消した。

 

 

 

「あのフードのプレイヤーはこんな感じだったんだな.....」

 

「.....その件についても詳しく聞きましょうか」

 

 




読んで下さってありがとうございます!!
実は材木座の所のネタが思い浮かばず放置してしまいました。

待たせてしまいすいませんでした!!


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