「ただいまー」
「あ、お兄ちゃんおかえり〜。お姉ちゃんはもう帰ってきてるよ」
約4カ月ぶりの我が家。まだ中学生であるみほが出迎えてくれる。まほの帰省に合わせて翔も家に帰ってきたのだ。
「お、久しぶりだなみほ〜。勉強頑張ってるか?」
そう言ってみほの頭を撫でる。確かみほはまほと同じ黒森峰への受験が控えている。いくら家元の娘とはいえあそこは偏差値が高い。勉強ができなければ入学はできないはずだ。
「えへへ。頑張ってるよ〜。この前の期末試験学年で一番とったんだ〜」
のほほんとしてるようで中々やる奴である。みほとの再会を済ませたところで靴を脱いでしほがいるであろう執務室へと向かう。
「母上。ただいま戻りました」
「おかえりなさい。少し見ない間に貴方もちゃんとした言葉遣いができるようになったのね」
「お母さんを驚かせようと思ってね〜」
「そっちの方が貴方らしいわ。元気そうでなによりね。ゆっくりしていきなさい」
しほとの挨拶も済ませ自分の部屋に荷物を置いた後居間へと向かった。お盆ということで季節は夏。熊本はかなり暑い。しかも西住家は最寄り駅からかなり離れている。そんな中彼は歩いてきたのだ。タクシー使えば?という声が聞こえてきそうだが久しぶりに景色を楽しみたいということで徒歩を選択した。結果的に後悔することになったのだが…
「なんかねぇかな…」
助けを求めるかのように冷蔵庫を開ける。そしてポツンと一つ置いてある物体を彼は見逃さなかった。
「お!白くま(鹿児島発祥の氷菓)あんじゃん。いっただき〜」
「うめ〜。クーラー効いた部屋で食う白くまほど最高なものは」
「何をしている」
空気が凍りついた。恐る恐る襖の方へ振り返ると無表情だが静かなる怒りのオーラを纏ったまほが立っていた。
「た、ただいま…これもしかしてまほの…?」
「そうだ。駅から来る途中で買ったんだ。あまりにも暑かったからな」
「食べるの楽しみにしてたんだ。それがこれだ。この気持ちどうしてくれるんだ」
まほが無表情のまま迫ってくる。
(やべぇ!ガチ怒りだ…!どうしよう)
「ほら!まほ!あーん」
食べかけの白くまをスプーンですくってまほの口元へと差し出す。
「……」
「……」
パクっ
まほは白くまへと食いついた。その瞬間まほから怒りのオーラが消え去った。
「美味しい」
「だ、だろ〜?どんどん食わしてやるから!」
その後も双子の兄が無表情の妹にスプーンで白くまを食べさせるという異様な光景が繰り広げられた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夜ご飯を食べ、お風呂にも入った3人は今翔の部屋にいる。なぜかと言うと翔がみほの勉強を見てあげていたところにまほが押し入ってきたからだ。そしてこれは丁度良い機会と翔は提案する。
「そうだ。久々に3人揃ったことだしよかったら明日みんなでどっか出かけないか?」
「ほんとに?やったぁ!」
「いやだ」
(こいつまだ昼のこと根に持ってんのか…。あ、そーだ良いこと思いついた)
「だってみほ。まほは行かないんだってさ。しょーがないから2人でお出かけしようね?」
「え」
「え〜…でも仕方ないかぁ。お姉ちゃんも忙しいもんね。お兄ちゃんと2人でデートしてくるよ!」
「待って」
みほが翔の意思を察したのか完璧なノリの良さを見せる。あとはまほが泣きついてくるのを待つのみだ。
「に、西住流にこ、こ、後退の文字はない…」シュン…
半泣きになりながら縮こまってしまっている。ここまできちゃうと可哀想だなと思い始めた時。
「し、翔!」
「私も一緒に連れて行くんだ!」クワッ!!
涙目で凄んできたため笑いながら謝罪し、ちゃんと3人で行くと約束してその日は就寝となった。
さぁ明日はどこへ行こうか。とか考えてるうちにけっこう楽しみになってきてしまって寝不足になる翔であった。
日常系の物語は書いてて楽しいですね。次回は3人でお出かけします。お楽しみに!
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2.3人でおでかけ
午前11時を少し過ぎた頃、3人は最初の目的地に到着した。翔が"若干"寝坊したせいで予定より1時間以上到着が遅れてしまった。
「うむ。中々良いところだな。テレビで見てから一度来てみたいと思ってたんだ」
「うん。めちゃくちゃ落ち着く場所ではあるんだが」
「お姉ちゃんのセンスがよくわからない」
今3人がいる場所は水前寺成趣園という庭園である。豊富な阿蘇伏流水が湧出して作った池を中心にした桃山式回遊庭園で、築山や浮石、芝生、松などの植木で東海道五十三次の景勝を模したといわれている。まぁ要するに高校生や中学生がぶらりと遊びにくる場所ではないということだ。しかも何気に広いため一周見て回るのけっこう時間がかかる。現にみほはもう飽きてしまってぶすくれた顔で翔たちの後をついてきている。
「そういえばまほ。戦車道の方はどんな感じなんだ?」
「ん?副隊長に任命された」
「えぇ!?1年なのにか!?」
「黒森峰は実力主義だからな。まぁそういうことなのだろう」
「それはすごいなぁ。なんでもっと早く言わないんだよ」
「言う必要がないと思ったからな」
「じゃあ連絡を返さなかったのは?」
「携帯の使い方わからない」
「今携帯持ってる?」
「家に置いてきた」
ダメダコリャ。家に帰ったら徹底的に指導しなければ。戦車乗ってる時と私生活との差が激しすぎるのだこいつは。
「お前はどうなんだ?整備の勉強はちゃんとしているんだろうな。約束を破ったら許さないからな」
「当然。伊達に親父の弟子やってるわけじゃないって。もちろん他の科目もしっかりやってるよ」
彼は機械科のある学園艦に入学しており夢は父、常夫のような優秀な戦車整備士である。幼い頃からずっと父の後にくっついて機械のことを学んできた。そんな彼にとって高校で学ぶ基本的なものは退屈ではあるが整備士としてしっかり知っておかねばならないものなのである。そこを弁えているのが彼の良いところだ。他の科目でも軒並み優秀な成績を残しており教師からも一目置かれているようだ。ちなみにまほの言う約束というのはいずれは兄妹3人、一緒のチームで戦車道を〜というものだ。妹2人は戦車に乗り、兄は整備士として一緒のチームで戦車道を歩んでいきたいという幼き日に3人で立てた誓いである。
「朝は起きれていないようだが」
「なんで知ってる?」
「今日の朝を見れば一目瞭然だろう」
一見完璧に見える彼にも弱点はある。それは朝がめちゃくちゃ弱いところだ。中学生の頃は毎朝まほが叩き起こしてくれていたため遅刻するといったことはなかったのだが現在は業界最高峰の音量を誇る目覚まし時計と携帯のアラーム二台体制をとっているのにも関わらず朝起きれなくて遅刻ギリギリという生活を送っている。たまに遅刻もする。
「みほの声が聞こえたら一発で起きれんだけどな…」
「なに〜?呼んだ?」
「なんでもない」
後ろからすっかり飽きてしまっているみほの声が聞こえる。みほの呼びかけで起きないとなにをされるかわからない。まぁ主に落書きなのだが。顔ならまだ気づいて落とせるからいい。背中に落書きされていて体育の着替えの時恥をかいたことは思い出したくない。
こんな雑談をしているうちに出口が見えてきたので3人は水前寺成趣園を後にして市内のデパートへ向かうことにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そういやまだなんも食べてないしそろそろお昼にしようか。なに食べたい?」
「カレー」
「マカロン!」
「うん。マカロンはお昼に主食として食べるものじゃないね?せめてお昼後のデザートにしようね?」
「え〜…」
「とりあえずあそこにあるカレー店入ろうか」
この後想像を絶するような戦いが待ち受けていることを3人はまだ知る由もない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お、お姉ちゃん…」
「まほ。なんだそれは」
「激辛スパイシーカレーだ」
まほの前にカレーと言う名の兵器が鎮座している。カレーの色をしていない。もはや赤い。
「黒森峰の先輩がこのカレーを美味い美味いと食べていて私も食べてみたいと思ってたんだ」
「いや、もう匂いからしてすごいし多分その先輩がおかしいんだと思うよお姉ちゃん」
みほが的確なツッコミをいれる。翔の前には温玉ハンバーグカレー、みほの前にはシーフードカレーが置かれる。
「じゃあ食べようか。いただきます」
「「いただきます」」
それぞれが一口目を運んでいく。
「うん!これは安定の美味さだな!」
「お兄ちゃん!こっちも美味しいよ!」
「なんだ。意外とからくな……ブフォ!!」
時間差攻撃にまほが耐え切れずルーを吹き出す。噴出されたルーは正面に座っていた翔の顔を捉え……
「ぐぁぁ!?目がァ!目がぁぁぁぁ!」
某ジブリ作品に出てくる大佐のようなセリフを口にしながらお手洗いに駆け込んでいった。ゲホゲホと咳き込むまほの隣でみほがゲラゲラと腹を抱えて笑っている。この後店員から注意を受けたのは言うまでもない。
〜数分後〜
「まほ。なにか言うことは?」
「ごめんなさい」
「よし。食事を再開しよう」
みほと翔は順調に食べ進めていく。まほは…まぁ御察しの通りだ。
「みほ、そのカレー一口ちょうだい」
「いいよ〜。じゃあお兄ちゃんのも!」
「食え食え。ハンバーグの部分とっていいぞ」
「み、みほ!私のカレーもたべ」
「ごめん無理」
「………」
「翔。はいアーン」
「う、それ断れないやつ!」
ついにまほが最終手段に出た。普段はこんなこと絶対にしない人が不意にやったりするとギャップ萌えなるものが発動するらしいが今の翔にそんなことを感じている余裕はなかった。
「…。食わないとダメか?」
「私は翔にこのカレーを食べてほしいな」
彼はついに決心する。
パクっ。もぐもぐ…
(ぐぁ!?なんだこの辛さ!口が焼ける!でもここで負けるわけには…西住流に後退の文字はないんだぁぁぁぁ!!)
ゴクリっ
「ハハっ。メッチャオイシイジャンコレ」
「そうか。それなら私も嬉しい。もっと食べさせてやろう」
普段表情を崩さないまほがにっこりと笑いながら兵器。もといカレーを口元に差し出してくる。結局残ったカレーは全てまほから食べさせられたのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「覚えてろよ」
「楽しみにしておこう」
お昼を食べ終わった後デパートで服を見て回ったり生活用品を買ったりして3人で楽しく過ごした。もうすぐ家に到着である。
「なんだかんだで楽しかったな今日」
「そうだな。良い息抜きになった」
「みほも受験頑張るんだぞ?」
「うん!頑張るよ!お兄ちゃんにいっぱいマカロン買ってもらったし!」
「そいつは結構。奢った甲斐があるってもんだ」
そして家に到着した。時間的にもう夜ご飯だろう。
「ただい…。こ、この匂いはもしかして!」
「もしかしなくてもあれだな。お母様特製の」
「メッチャ辛いやつ…?」
みほが今にも気を失いそうな虚ろな目をしている。
3人が怯えながらキッチンに向かうとエプロン姿のしほが立っていた。
「あら、帰ってたの。今日ご飯はカレーです。久々に家族全員揃っているので私が作りました」
顔を見合わせた3人はしほを前にしながらも恐怖の表情を隠すことができなかった。
かなりグダグダになりました。次回はもっと話を進めていきたいです!
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3.新たな出会い
それじゃあ本編いってみましょう!
みほが無事に黒森峰に入学して早3ヶ月。2年になったまほは隊長に任命され黒森峰戦車道チームをまとめあげていた。そんな中代替わりのしていないチームで1年生であるみほが副隊長に選ばれるという快挙を成し遂げていた。みほ自身あまり自信があるようではなかったが強豪校である黒森峰で副隊長に選ばれるということは余程戦車道の才能があるのだろう。この前まほと電話した時珍しく彼女は嬉しそうに話していた。"みほと一緒に優勝するんだ"と。ちなみにまほは去年の9月頃、ようやく携帯の使い方をマスターした。それからというもの毎日メッセージやら電話やらよこしてくる。まぁそこまで忙しくないので付き合ってあげるのだが。そして今日もまほから電話がかかってきたのである。
「翔。今週の土曜日にお父様が戦車の整備をしに来てくれるんだ」
「知ってるよ?」
「なんでだ?」
「だって俺も行くもん」
「冗談は顔だけにしてくれないか」
「待って」
まほの冗談なのだが翔でないと判断できないだろう。余談ではあるのだがしほもごく稀に同じ手を使い兄妹3人をビビらせてくる時がある。とりあえずこれはスルーして大丈夫だ。
「親父に一緒に来て手伝わないかって言われたんだ。ティーガーとか近くで見れる機会そんな多くないし勉強させてもらおうかと思って」
「そうなのか。じゃあみほには内緒にしておこう」
「え、どーして?」
「その方が驚くと思うし喜ぶだろう。みほはお前のこと大好きだからな。それに最近あんま元気ないんだ…」
「副隊長の件か?」
「恐らくそうだろう。実力はあるのに自分に自信が持てていないんだ」
「そうか。なら俺に任せておけ!」
「頼んだぞ。ではまた明日」
「おう。おやすみ…って明日もか!?」
突っ込んだ時にはもう電話は切れていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うん。さすが女子校だな。めっちゃ居づらい」
翔の通う学園艦は共学のため学校に通う生徒が全員女子というのは新鮮な景色である。そしてなぜか翔は一人で戦車倉庫前で待機している。時間は朝7時30分。土曜日といえど様々な部活動の女子達が学校へと集まる。そんな中男が一人戦車倉庫前にいるのだから視線を集めてしまうのは当然だろう。
(早く親父帰ってこないかなぁ…)
父、常夫は関係者に挨拶してくると言ってどこかへ行ってしまった。俺も連れてってくれればよかったのに…
「あの、なにしてるんですか?ここ女子校なんですけど」
目の前にはツリ目気味で美しい銀髪をした女の子が立っている。これが彼と彼女の運命の出会いとなった。
わけでもなく完全に冷たい視線をぶつけられている。
「いや、戦車の整備の手伝いに来たんだけど…」
「整備?まだ訓練始まってすらいませんよ。私が一番最初ですし。そんなこと言ってただ忍び込んだだけなんじゃないの?」
「ひどいなぁ。そんなことするわけないよ」
「じゃあ何をしに来たのよ」
「戦車の整備だって!」
「じゃあ証明してみなさいよ」
「うーん…。ここの隊長西住まほって奴だろ?俺はそいつの兄貴なんだけど」
「そんな嘘バレバレよ」
「ダメダコリャ」
身分証を出せば一発なのになぜこの時その判断ができなかったのだろうか。目の前に急に可愛い子が現れてしかも話しかけられたから動揺してたのだろうか。我ながら疑問を感じる。
「とりあえず今風紀委員を呼ぶからちょっと待ってなさい」
「ちょ!待って!」
翔はとっさにケータイを取り上げてしまった。
「ちょっと!返しなさいよ!!」
「君が信じてくれるまで返すことはできないな」
ケータイを少女の手が届かないよう高く掲げる。翔は身長が182センチあるので男子の中でも背が高い方である。比べて少女は160センチに満たないくらいであろうか。それでもケータイを取り返そうと身を寄せてジャンプしてくる。はたから見たらただカップルがいちゃいちゃしてるような光景だっただろう。ただ本人達はそんなこと感じてる余裕はなかった。
(体に柔らかい感触が…耐えろ俺!)
翔が色んなものと戦っていたその時だった。
「……。エリカ、何をしている」
「た、隊長!助けてください!この変質者が!」
「何をしたんだ翔」
「なんもしてねーよ。早く助けてくれ」
「え、ほんとに隊長のお兄さんなの?」
「最初からそう言ってるだろ?」
ようやく翔はケータイをエリカと呼ばれた少女に返した。
「ずいぶんと仲良くなったみたいだな。中々やるじゃないか」
「からかわないでください隊長!」
「そうだな。よろしくエリカちゃん」
「なっ…!誰が貴方みたいな変質者と…てかちゃんづけしないで!!」
エリカはなぜかとても照れているようだ。若干顔が赤い。そしてみほもその場に現れた。
「あれ?なんでお兄ちゃんがここにいるの?」
「みほに会いに来たんだよ」
「お兄ちゃん。冗談は存在だけにしてくれないかな?」
「存在を否定!?」
「そしてなんでエリカさんは顔が赤いの??」
「うるさいわね!あんたには関係ないわ!」
「ふぇ〜」
「そろそろ訓練が始まる。茶番はここまでにして早く行くぞ」
まほが鶴の一声を放ちその場は収束した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
午前の訓練が終わり今はお昼ご飯の時間だ。翔、みほ、エリカの3人でご飯を食べている。
「みほ。中々良い動きしてたじゃん」
「そうかな?ありがとう。でも…」
「自信ない?」
「うん…。私まだ1年生だし、私より指揮が上手な先輩だってたくさんいるし」
「そっか。じゃあ君にこの言葉を贈ろう」
「人間は自分の人生を描く画家である。貴方を作ったのは貴方。これからの人生を決めるのも貴方。」
「誰の言葉?」
「アルフレッド・アドラーですね。現代の心理学において多大なる功績を残しながらも世にあまり知られることがなかった学者よ」
「さすがエリカちゃん。博識だね」
「ちゃんづけしないでください」
エリカがぶすくれている。しかし翔はこれを華麗にスルーする。
「確かに西住の名を受け継ぐ者として1年生だけど副隊長にならなければいけなかったのかもしれない。でもね?本当にできないんだったらノーと言うこともできたはずだ。だって僕たちはその権利を持っているのだから。でもみほは副隊長になる道を選んだ。決断したんだよ。これまでの人生を作ってきたのはみほだ。ということはこれからの人生を作っていくのもみほなんだよ?"意思一つで人はどんなことでもできる"んだ。みほにできないことなんてないんだよ」
「でも失敗したら…」
「そん時は仲間に助けてもらえばいい。俺だってまほだって。それに一番近くにいるじゃないか。頼れる仲間が。だからみほはみほらしく自信持って堂々と戦車道をやりな」
「お兄ちゃん…。ありがとう…!」
涙目になりながらみほが抱きついてくる。その隣ではエリカがニヤニヤしながらこっちを見ている。
「みほ!みんな見てるから!」
どうやら聞こえていないらしい。
「エリカちゃんどーにかして!」
「ちゃんづけされたので嫌です」
「そんなぁ」
こーしてお昼休みは終了した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
訓練終了後、一通りの整備を終えホテルへ戻った常夫と翔。翔は疲労のあまりシャワーを浴びるとベットへと倒れ込んだ。
「疲れたなぁ。黒森峰は車両数も多いしあんなに機構が複雑だと…」
その時翔のケータイが鳴る。知らない番号だった。
「もしもし?」
「あの、こんばんは。翔さんですか?」
「あれ?その声はエリカちゃん?」
「だから…もういいです。好きに呼んでください」
「ははは。てかタメ語でいいよ。そっちのが話しやすいしね」
「え、でも…」
「いいのいいの。で、どうしたの?」
「頑張…るわ。昼間の事謝ろうと思って。あと明日黒森峰の学園艦を案内してやってくれって隊長が。その…昼間はひどいこと言ってごめんなさい」
「気にしないで。あれ?明日も訓練じゃないの?」
「明日は大会前最後の日曜日なので1日休みだそうです」
「そーなの?じゃあお願いしようかな」
「わかりました。集合場所はどうし…する?」
「駅前に10時くらいでいいかな?寝坊したらごめんね」
「許しません」
こうして不意にエリカとのデート?が決まったのであった。
翔はモテるのになぜか彼女はいません。
次作は頑張ってなるべく早く投稿したいと思います。
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4.デート?
忙しすぎて時間が取れない泣
朝8時、翔は目覚めた。隣では常夫がまだいびきをかいて寝ている。父親とは思えないほど幼くて可愛い顔しておきながらひどいいびきをかいている。確実に翔とみほは常夫に似たのだろう。まほは完全にしほに似たみたいだが。
「よし。今日はちゃんと起きれたぞ。着ていく服は…って言ってもジーンズとTシャツしかねーや」
(でも学園艦を案内って…ここの学園艦かなりでかいよな?半日で回りきれるか?)
今は長期休暇ではないため普通に明日から学校だ。翔は16時に迎えにくる船に乗らないと自分の学園艦に帰れなくなってしまう。
「まぁいいか」
とりあえず早めに駅前に行くことにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
駅前に着いた時間は9時20分。少し早すぎたらしくさすがにまだエリカの姿は見えない。
「てか学園艦に電車ってほんとすげーよな〜。どんだけでかいんだよ」
あまりに学園艦の規模が大きいため山手線のごとくぐるぐると学園艦の中を電車が回っているらしい。規格外だ。
そんなことを考えながらベンチに座っていると少し離れたところに真っ赤なスポーツカーが停まったのが見えた。翔は車が好きでそれなりの知識も持っている。それ故にかなりの好奇心が湧く。
(アルテガGTだと!?初めて見たぞ!ん?ドライバーは女の人か)
降りてきた人物を目にした時、翔は驚愕することになる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今目の前に意図せず翔とほぼペアルックみたいな格好で来てしまった女の子が立っている。
「エリカちゃん。一つ聞いてもいいかな?」
「なんですか?ていうか翔さんなんで私と同じ格好してるんですか?変態なんですか?」
「変態じゃない!まさかデートなんてすると思ってなかったから服作業着と寝間着とこれしか持ってきてなかったんだ!」
「で、デートじゃないです!!」
エリカが顔を赤くしながら反論してくる。まるでトマトだ。
「とにかく俺の質問に答えてもらおう。なぜ君は乾燥重量1132kgの軽量ボディに最高出力300ps、最大トルク350N・mは必要十分。0-100km/h加速は4.8秒、最高速度270km/hを誇る軽量ミッドシップ2シーターという点では“ドイツ製ロータス”とも言うべき今は無きアルテガ社が生み出した幻の名車、アルテガGTに乗って来たんだ?」
「なんでそんな詳しいんですか…ちょっと引きますよ?」
「車好きだからな」
「私も車好きなんです。まぁなぜこの車に乗って来たのかは秘密です。そんなことよりさっさと行きましょ」
「そんなことよりって」
「早く乗る!」
なんだかどっちが年上なのだかわからなくなってきたところで翔は高級車の中に身を投じた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「いや〜こんな高級車に乗れるなんて夢にも思わなかったよ〜。ありがとなエリカちゃん」
翔は車に乗ってから興奮しっぱなしである。
「いえ、別に…。西住家では何乗ってるんですか?」
「うちはトヨタTS010だよ」
「へぇ……ってレーシングカーじゃないですか!」
「あ、ごめん間違えた。ヘネシーヴェノムGTだった」
「ですよね。日本でレーシングカーが乗れるわけ…って億越え!?合計29台限定の超高級スポーツカーじゃない!」
「ははは。エリカちゃんのツッコミはキレがあるなぁ」
「私をツッコミキャラにしないでください!で、ほんとは?」
「バモス」
「落差!冗談との落差が激しすぎです」
「車にこだわりはないらしいよ。母さんが真顔でバモスを運転するんだぜ?どう思う?」
「別に…」
しかし翔はエリカの肩が小さく震えているのを見逃さなかった。そしてすかさず畳み掛ける。
「西住流に後退の文字はありません」
「ぶふっ!」
翔はハンドルを持つ真似をしながら急に真顔になり西住流の格言を言い放った。それにエリカは耐え切れず吹き出したというわけだ。
「俺の勝ちということでいいかな?」
「反則よ!こんなの我慢できるわけないじゃない!」
「まぁそんなことよりもどこへ向かってるんだ?」
「ソーセージ生産工場です。名物なんですよ?」
「へぇ。名物なんだ。そりゃ楽しみだ」
深紅のアルテガGTがアウトバーンを駆け抜けて行く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
二人が到着したのは黒森峰学園艦の全てのソーセージの生産を担う工場である。ドイツの生産方法を模しているためかなり本格的なものだ。
「へぇ〜試食コーナーにもかなりの種類があるんだな」
「翔さんこれ美味しいですよ。私の一番のオススメです」
「お?どれどれ・・・」
翔は全く警戒することなくエリカが差し出してきたソーセージを口へ運ぶ。隣ではなぜかエリカが心なしかニヤニヤしているようにみえる。この後翔がどのような結末を迎えることになるのかを知っているかのように。
「エリカ、お前もか・・・」
「私はブルータスではありません」
「ぐはっ・・」
激辛チョリソーを吐き出して力尽きるガイウス・ユリウス・カエサル(翔)であった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そういえばチョリソーってドイツではなくスペイン発祥らしいですよ」
「ドイツですらねぇのかよ!おのれサクラダ・ファミリアめ」
「いや、関係ないでしょ・・・」
遥かなる歳月を経て現代の地へ甦ったカエサル(翔)とエリカは学園艦を一通り見渡せる展望台へ来ていた。
「ほんと広いよな〜。俺の学園艦なんて比べ物にならないよ」
「翔さんはどこの学校に通っているんですか?」
「えー言わなきゃだめ?」
「なんで渋るんですか?」
「だって恥ずかしいし」
「いいじゃないですか。教えてくださいよ!」
「しょうがないなぁ・・・。ケンブリッジ大学ジャパンカレッジ高等学部だよ」
「・・・」
「・・・」
まるで時が止まってしまったかのごとく長い沈黙が二人を襲う。
「・・・・は?」
「まぁそうなるわな」
「嘘ですよね?」
「いや、残念ながらこれはガチやで」
「あの日本で一番合格率が低くて入学すること自体困難とされるあの名門校ですか?」
「そうそう。だから必然的に人数も少なくなるわけ。でも公立だからそこら辺はあんまり問題ないんだろうけどね」
「そこを卒業した生徒は大体世に出て活躍しますからね」
「まぁ受けてみたら合格しちゃったって感じだけどな。俺もびっくりしたわ」
「その軽さ・・・。本当に意外です」
「そうか?」
「だって翔さん変態だし」
「ちがうけどな?」
エリカは本当に驚いているようだ。まぁ当然だろう。この反応が安易に予想できるためこのことは誰にも言ってなかったのだ。そのため家族と中学の先生とエリカ以外真実を知るものはいない。
「ところでエリカちゃん。この話は内緒な?」
「あ、はい。わかりました」
「約束な!指切りでもしとくか?」
「・・・遠慮しておきます」
「それな。ははは!」
気づけばもうすぐ港に向かわなければならない時間である。楽しい時間というのはいつもあっという間だ。
「エリカちゃん」
「なんですか?」
「まほとみほのことよろしくたのむよ」
「え・・・。いきなりなんですかそんなまじめな話」
「あの二人は基本戦車に乗ってるときしかしっかりしてないからさ。特にみほは高校入学してからほんと大人しくなっちゃってエリカちゃんがいてくれなかったら友達もできてたかわからないし」
「そんな・・私こそあの二人がいてくれなかったらこうして戦車道ができていないですし。お世話になるのは私の方です」
「それでいいんだよ。人っていうのは独りでは生きていけない。足りないところを補いあって生きているんだ。だからエリカちゃんも思いっきり支えてもらえ。そしてその分君もあの二人を支えてやってくれ」
「今俺はあの二人の近くにいてやることはできない。この思いは君に託すよ」
そう言って翔はにっこりと微笑む。
「・・・シスコンですね」
「おう。可愛い妹たちだからな」
「わかりました。頑張ります。あ、あの・・」
なぜかエリカは頬をほのかに赤く染めながら言い淀んでいる。
「どうした?」
「もし挫けそうになったら翔さんは支えてくれますか?私のこと」
「ん?当たり前だろ?」
「そうですか・・ありがとうございます。そろそろ行きましょ。出航に間に合わなくなります」
「そうだな。あ、ちょっと待って。記念に写真撮ろうよ」
「え」
翔はポケットからスマホを取り出す。広大な学園艦を背景に満面の笑みの翔とその翔に肩を抱かれ顔を真っ赤にして俯きながら控えめにピースサインをカメラに向けたエリカが写真に収められた。
〜その夜ラインにて〜
「あの写真まほとみほに送って見せてあげたらめちゃくちゃ喜んでたぞ」
「なに勝手に見せてんのよぉ!」
次もいつあげられるかわかりません。。。
頑張りますので少々お待ちください泣
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4.5 翔の1日
今回オリキャラも出てきます!
かなり久しぶりで書きたいことを書いていく感じなのでとても稚拙なものになると思います。。。
ご了承ください。
午前7時20分。鳴り響く目覚ましを他所に翔の朝はまだ始まらない。目覚ましを止めてから二度寝し呆気なく寝坊というのではなく最初から起きない。それほど翔は朝が弱いのである。それでも目覚ましは諦めない。スヌーズ機能を駆使して5分置きに翔に襲いかかる。
「うるさい」
6回ほど繰り返されたところで何者かが翔の部屋に侵入してきた。
「毎回言ってるけど起きないんだったら早くに目覚ましかけるのやめてよ。ほんと迷惑」
「あと5分……」
「早く起きないとおいてくよ」
「それはダメだ」
やっとのことで翔が布団から起き上がる。
ちなみに翔が遅刻する日はこの人物に本当に置いていかれた時である。こうして翔の1日は始まる。
午前8時。翔たちは学校へと向かう。
「本当に悪いなぁ。毎日毎日」
「ほんとに悪いと思ってるんだったらちゃんと一人で起きてほしいんだけど」
隣を歩いている人物は翔の住むアパートの隣の部屋の住人にして同じクラスの大和桜(やまとさくら)という女の子である。女子にしては身長高めの168センチ、少し垂れ気味の目、短く切り揃えられているがそれでも女の子のオシャレさを感じさせる髪型に整った顔立ちとモデル顔負けの容姿をしている彼女だが運動面でも凄い。バスケ部で2年生ながら司令塔であるポイントガードを担い学校創設初の全国大会へ導いたとされる逸材だ。しかし彼女、驚くほどに表情変化がない。口数は多いのに表情が全く変わらないからけっこうなにが冗談でなにが本気なのか本当にわからない。そこがまた良いのではないか!!という男子も多数いるようだが。。。
「そーいえば1時間目の数学課題あっただろ。やってあるか?」
「やってない」
「……」
「貸して」
「俺もやってないって言ったら?」
「やってあるでしょ?西住ってそーいうとこしっかりしてるじゃん。朝私が部屋に行かないと起きないくせに」
「どうぞ私めの課題を写してください」
〜〜〜学校〜〜〜
「あ、桜おはよ〜。今日も一緒に登校してきたんだね!ラブラブ〜^ ^」
「おはよ。今日もこいつが起きなかっただけだよ」
「でも朝どーやって部屋に入ってるの?鍵かかってるでしょ?」
「西住から合鍵預かってる。こいつが泣きながら朝起こしてくれって言うから仕方なくね」
「おい。頼んだのは事実だが泣いてはいないぞ。そして大和、いいのか?課題やる時間なくなるぞ?」
「おっとそうだった。じゃあまた部活の時ね」
「またね〜( ˊᵕˋ* )」
元気なバスケ部員に挨拶を告げ教室へと向かう。
〜〜〜教室〜〜〜
「おい西住〜。また大和さんと登校してきたらしいな!?」
「おうよ」
「ちきしょ〜!俺も大和さんと登校したいぜ!」
「そか。なら今俺の隣にいるから頼んでみれば?」
「え?」
「ごめんなさい山本君」
「(´༎ຶོρ༎ຶོ`)」
翔の友人である山本が血涙を流しながら崩れ落ちる。なーに大丈夫。このやり取りは少なくとも週4で見てる。山本は不屈の魂を持った男だし大和も本気にはしてない……はず。
〜〜〜授業〜〜〜
(あっ!!大和からノート返して貰ってねぇ!!)
(しかもあいつまだ写してるし!)
「じゃあ今から課題やってあるかチェックするぞ〜。ノート開いて机に置いとけ〜」
(やばいやばいやばい)
「先生。授業の前まで手元にあったノートが急に無くなってしまった場合はどうすればよろしいでしょうか」
翔が時間稼ぎを始める。なんとかしてくれまじで!
「西住、忘れたなら忘れたって正直に言え?今ならまだ課題2倍で許してやるぞ?」
「いや、さっきまであったんですけど気づいたら無くなってて…僕、もうどうしたらいいか…!!」
「西住がそんな言い訳をするなんてなぁ。今日は雪でもふるんじゃないか?」
(これまでか…!)
「あれ?もしかしたらこれ西住のノート?さっきロッカーの前で拾ったんだよね。名前ちゃんと書いておいた方がいいよ」
「おぉ!そんなところに我がノートが!先生!ちゃんとやってあります!!」
「うむ。やってあるならよしとしよう」
間一髪で課題を写し終わった大和からノートを返してもらったことによって翔の課題2倍は免れたのであった。
〜〜〜昼〜〜〜
「いや〜1時間目はどうなるかと思ったぜ」
「ほんとだよなぁ。大和さんが拾ってくれてなかったらお前課題地獄だったぜ?」
「なにも知らないって幸せだよな」
「なにが?」
「なんでもない」
今は山本と沢尻というクラスメイトと一緒にお昼を食べている。まぁいつメンってやつかな?
「そーいやさ新しい喫茶店が近くにできたみたいなんだ。今日放課後行ってみないか?」
唐突に沢尻が提案する。
「あ、わりー俺今日部活なんだ。2人で行ってきて感想聞かせてくれよ」
「なんで山本と2人で行かなきゃいけねーんだ!」
「なんだと沢尻?」
「ははは」
こうしていつも通り平凡で楽しいお昼は過ぎていく。
〜〜〜午後の授業〜〜〜
午後の授業は選択科目。エンジニアコースを専攻している翔はその手の授業を受けることになる。
「今日はシステム分野か…。まぁ将来のためだし頑張るか!」
気合いを入れて授業を受ける翔だった。
〜〜〜放課後部活〜〜〜
翔は自動車研究部に所属している。どうすればさらに速くかつ安全に走れるのか。それを研究し車体に直接反映させていけるのが自動車研究部の醍醐味である。そして1年に一回開催される学園艦GPで入賞するのが我が部の目標だ。しかし去年3年生が引退して部員は翔だけになってしまい部の存続が危ぶまれたが今年、1年生が1人入部してくれたことによってなんとか部を存続させることができた。部の予算は減らされたけど…。
翔が作業着に着替え車庫で先代から受け継がれてきたR-33GT-Rを弄っているともう1人の部員が現れた。
「こ、こんにちは」
「おっす」
「遅くなっちゃってすみません!」
「いや、全然遅くないから大丈夫だよ?」
もう1人の部員とはなんと女の子である。名前は佐藤詩織さん。普段は大人しめな可愛らしい女の子だが自動車に関することになるとキャラが豹変するよくありがちなやつである。
「今なにしてるんですか?」
「エアクリーナーを取り替えてるんだ〜。かなり汚れてきちゃっててエンジンに影響出るかもしんないし」
「あ、じゃあそれ終わったらちょっとエンジン弄ってもいいですか?」
「別にいいけどどーして?」
「クランクシャフトの回転バランスがちょっと悪くなってる気がして…」
「まじか!よく気づいたね詩織ちゃん」
「車を愛しているので」
「そ、そうか…」
押され気味の日々はまだなんとか続けていけそうだ。
〜〜〜帰宅後自室〜〜〜
「明日の分の弁当も作ったしもうそろそろ一曲弾いて寝ますか」
時計はそろそろ23時を回ろうとしている。そして一曲弾くというのはピアノのことである。優秀な整備士になりたいのであれば自由に指を動かせるよう指先まで神経を張り巡らせておけという父の持論のもと幼少期から続けてきたものである。
さすがに家からピアノは持ってこれなかったのでキーボードなのだが翔の演奏は一級品だ。
「音量を一番小さくしてっと。今日はこれでいこうかな」
〜〜♪♪
「なんでそんな悲しい曲弾いてるの?」
「うわっ!いたのか大和…」
「そりゃいるよ。この時間で1日の疲れを癒さないと」
「そんな大層なもんじゃないぞ」
「いや、私もそれなりにピアノ弾けるけど西住は普通に上手いと思うよ」
「え、お前ピアノ弾けたの!?」
風呂上がりで若干火照った顔でパ○コを咥えながら床にに寝転がっている美しき隣人がいた。
「どいて」
「お手並み拝見」
♪♪♪〜〜
大和は何食わぬ顔顔でキラキラ星変奏曲を弾き切った。
「どうよ」
「恐れ入ったわ。本当になんでもできるんだなぁ」
「西住がそれ言っちゃいけないでしょ」
「そんなことないよ。できないことの方が多い」
「まぁいいや。次あれ弾いて。某アニメの最終回に主人公が涙ながらに弾くやつ」
「え、あれもけっこう悲しくないか?」
「聴きたくなった」
「まぁ弾けるけど」
「よろしく」
♪〜♪〜♪〜♪…
「ふぅ…。感想は?」
「zzz」
「って寝てるし!おい起きろ俺の布団で寝るな!!しっかり掛け布団まで掛けやがって!自分の部屋で寝ろ!」
こうしていつも演奏の最中で寝てしまう美しき隣人を起こして部屋に戻すところまでが翔の1日なのである。
そしてまた明日、いつもと変わらないちょっと騒がしいけど楽しい1日が待っている。
完全に某ピアノアニメに感化されました。。。
次回からはちゃんと本編書いていきます!
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5.開幕
「なぁ」
「なんだ?」
「お前の妹めっちゃ可愛いな」
「山本、お前はいつもそんなとこしか見ていないのか」
今日は第62回戦車道全国大会の開会式ということで山本が翔の部屋に遊びに来て一緒にテレビ中継を見ている。ちょうど黒森峰の隊長であるまほが選手宣誓を行なっているところだ。
「まほさんって彼氏いるのかなぁ」
「いないと思うぞ」
「まじか!?じゃあ俺にもチャンスが…」
「ねーよ」
「山本君サイテー」
「うわぁ!?大和さんいつからそこに……?」
「ん?山本君が"なぁ"って西住に問いかけてたとこくらいからかな?」
「最初からかよ…」
「ちなみに俺は気付いてたけどな。冷蔵庫漁って勝手に俺のハー○ンダッツを食していることも」
「後で買ってきて冷蔵庫入れとくよ〜。でも西住の妹さんてなんか人を惹きつける魅力があるよね。山本君が好きになっちゃうのも分かる気がするわ〜」
「ぐはっ」
山本は力尽きた。
〜〜〜〜
「今日は試合ないんだっけ?」
「確か今日は開会式だけで試合はないって言ってたな。そーいえば大和って戦車道のこと分かるのか?」
「全然?やろうと思ったこともないし周りに戦車道をやる環境もなかったしね〜」
「確かにお前が戦車に乗ってるとこはちょっとイメージできないな。でも戦車道って面白いぞ?主砲を初めてぶっ放した時なんて本当に爽快だった!」
翔が熱く語り始めると大和が意外な反応を見せてくる。
「そーなんだ。主砲ってあの大砲みたいなやつだよね?あれは私も撃ってみたいかも。どっか戦車乗れるとこないの?」
「んー。この学園に戦車はないしなぁ。俺ん家行けば乗れるんだろうけどそれはさすがに…」
「じゃあ西住ん家行こうよ」
「………ん?」
「西住ん家行けば乗れるんでしょ?来週の土日に行こう。丁度部活も休みだし」
「なんだよその行動力…。てか、え!?来週の土日!?急過ぎやしません!?」
「だってそこしか休みないし」
「なんで休みなんだよ。バスケ部けっこう厳しいんじゃないのか?」
「なんでって。テスト期間だし」
ふぁーーーー。忘れてましたテスト期間。再来週の月曜日からテストの為明日からの1週間部活動は原則禁止となるのだ。思い出した瞬間憂鬱になる午後1時半。
「あれ?じゃあなんで今日はここにいるんだ?部活は?」
「今日は早朝練だったからね。ほらもうすぐ6月だし最近暑くなってきてるでしょ?朝の涼しい内にゲームとか実戦系の練習をしてその後は自主練習になるから日曜日は基本昼前には終わるの。その代わり土曜日は鬼のような基礎練が…」
珍しく大和が表情を曇らせる。こいつ表情を変えることができたんだと感動した翔であった。
「じゃあ勉強しないとじゃないか。戦車乗ってる暇ないぞ?」
「え、別に授業聞いてればテストとか余裕じゃない?」
「……1年3学期期末テストの順位は?」
「6位」
200人中6位。チクショウ!!俺より上じゃねーか!!ちなみに翔は8位だった。
「やっぱり天才なんだなお前………」
翔ががっくりとうなだれていると携帯に一件の着信が入る。相手はまほだった。
「どーした?」
「いや、特に用はない。開会式が終わってこれから帰るところなんだがいかんせん混雑しててな。空くまで待機してるんだ」
「そうか。選手宣誓カッコよかったぞ?後で飯奢ってやる」
「ふむ。言ったな?女だからといってあまり私を舐めないことだ。覚悟しておけ」
「はいはい。あと一つ相談があるんだけどさ。戦車に乗りたいって言ってる女の子がいてさ。うちに連れてくってなったら母さんなんて言うかな?」
「……」
「まほ?」
「彼女か?」
「ちげーよ!!隣の部屋に住んでる友達だ!」
「ほう。隣に住んでると。朝も一緒に登校していると」
「そこまでは言ってねぇ」
「なんとも言えないな。友人がうちに遊びに来るなんてことほとんどなかったし異性ともなれば尚更だろう」
「だよなぁ。まぁ母さんに聞いてみるわ」
「それはそれとしてだ」
「ん?」
「私も話してみたいのだが。その友人と」
「いや、今この場にはいないんだ(・_・)」
「もしかして今私のこと話してる?」
「こら!ちょっと静かに…」
「やっぱりいるんじゃないか。早く代われ」
「そんなこと言」
「もしもしお電話代わりました」
あーーー!携帯奪われタァァァァ!!
「君か。私は西住まほという。よろしく」
「私は大和桜です。よろしくお願いします」
「同じ歳だろうから敬語じゃなくても大丈夫だぞ」
「そういえばそーだね。双子の妹なんだよね?」
「そうだ。翔がなにかと迷惑をかけてそうだがよろしく頼む。それと私とも連絡先を交換しないか?」
「そんなことないよ。翔君はなんでもできるし色々と頼りになるよ。本当に?喜んで!」
ん?心なしか大和が笑っているように見える。なに話してるのかな?
話し終わったらしく大和が携帯を返してくる。
「なんか盛り上がってたみたいだけどなに話してたの?」
「内緒。あとまほさんの連絡先教えて」
「え」
「んふふ〜」
笑ってる。すんごい緩みきった顔で笑ってる。こいつこんな顔もできたんだと本日2度目の感動をした翔であった。
「なんだよ騒がしいな」
ここで翔の布団で力尽きていた(寝ていた)山本が目を覚ます。
「本当にお前は間が悪いな……。もうちょい早く起きてればまほと話せたのに」
「え」
「まほさんの声かっこよかったなぁ」
「ちくしょぉぉぉぉ!!」
山本は血涙を流しながらこの部屋から退場した。
〜その夜〜
「もしもし母さん?」
「久しぶりね。どうしたの?」
「戦車に乗りたいって言ってる友達がいてさ。次の週末にうちに連れて行ってもいいかな?」
「そうね…。次の土日は常夫さんも家にいるから別に構わないわ」
「え、いいの!?」
「戦車道の普及も西住流家元の務め。なにか問題でも?」
「いや、ないけど…」
「でも珍しいわね。男の子が戦車に乗りたいなんて」
「………」
「どうしたの?」
「…女の子なんだ」
「………」
「母さん…?」
「貴方も中々やるようになったわね」
「ちょっと待って!?絶対なにか誤解してる!」
「楽しみにしているわ。ではおやすみ」
「ちょっ……!」
電話が切れてしまった。
「どうしよう。全力で帰りたくなくなってきた」
そして翔は布団に倒れ込み次の週末に起こりうることを考え始める。次第に思考は夢へと変わりじきに翔は深い眠りについた。
枕の隣にあった爆音目覚ましはセットされていなかった。
次回も波乱の予感?
なるべく早く書いていきたいと思います!
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