怪盗アルセーヌの溜め息 (アリス・リリス)
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第一話~生まれたての怪盗~

黒薔薇水晶(ブラックローズクリスタル)が盗まれた!」

「逃がすな!」

 

下界では、警察や探偵が慌てていた。

そんな様子を高い塔の上から見下ろし、マントをはためかせる一人の女性…。

まるで絵画のような…。

その女性の美しさは、美の女神・アフロディテが全てを注いだかのよう…。

人は、彼女をこう呼ぶ。

怪盗アルセーヌ、と。

 

「これもあたくしが満足する獲物ではないですわ」

 

彼女は、手の中にあった水晶(クリスタル)を放り投げた。

 

―あたくしは、アルセーヌ・アンリエット・ミステール。

幼い頃のあたくしは、大富豪のお嬢様でしたわ。

しかし、あの嵐の夜、全てが変わった。―

 

『やあ、アンリエット』

二人の男がー一人は、紳士服、もう一人は、赤いコートを着てー陽気に話しかけてきた。

『なんですの?あなた方は』

紳士服の男が答えた。

お嬢ちゃん(マドモアゼル)、私は、アルセーヌ・ルパン。君の先祖に当たる』

『君のトイズが目覚める時がきた』

 

トイズ…、それは選ばれた者だけが得る力…。

それを得たものは、多くは探偵か怪盗として生きることになる…

 

「あ…あたくしにトイズが…?」

『ああ、俺たちの血筋に代々受け継がれる怪盗のためのトイズ…『幻惑』…だ』

 

『さあ、目覚めよ!アルセーヌ・アンリエット・ミステール・フィオナ!』

 

ゴロゴロッ!

 

次の瞬間、雷が落ち、辺りが黄色くなった。

辺りに闇が戻ったとき、二人の姿はなくなっていた。

鏡を覗くと、仮面を付け、マントを纏っていた。

「アンリエットお嬢様…そのお姿は…」

侍女のウルエラが目を覚ましたようだ。

 

「ウルエラ、トイズ…『幻惑』が目覚めた以上、この…探偵一族で名高い、フィオナ家の城を出なければなりませんわ…」

外は、次第に晴れ、月明かりが窓から漏れ出した。

 

「フィオナの名も捨てます。もうこの城(カステル・ディ・フィオナーティア)にも戻りません」

 

窓辺へ足を向け、窓を開いた。

 

「ごきげんよう、ウルエラ…」

 

一陣の風が吹いた。

マントをひらめかせながら、怪しげな夜の闇へ身をやつした。

 

フィオナ家の城(カステル・ディ・フィオナーティア)は、だんだん小さくなっていった。

二度と戻らないだろう、あの城には。

 

「お嬢様!」

ウルエラの声がいつまでも響いていた。

 

――――――――――

 

「いたぞ!」

 

その声を聞いて、我に帰った。

 

「幻惑のトイズ…」

 

アルセーヌの姿がフッと消えた。

 

「オーッホッホ…!」

アルセーヌの笑い声だけがいつまでも響いていた。



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第二話~怪盗帝国~

怪盗として、夜の世界で暗躍するうちに、彼女は多くの怪盗に出会った。

しかし、多くは、怪盗の美学に反していた。

名誉ある怪盗のトイズを受け継いで生まれた彼女は、全ての怪盗の頂点に立つことを望んだ。

 

(あたくしこそ、怪盗達の女王に相応しき者…)

 

そして、ある日、とある博物館で―

 

「へへっ、いただきっ」

帽子をかぶった青年が手を伸ばした。

 

「そうはさせない!」

日本刀が降りかかってきた。

 

「危ないじゃねーかよ!」

「あ゛~、美しい僕が~!」

 

いかにもナルシストな男が泣き叫んだ。

 

「その『黄金の女神(ゴッデス・アウレラ)』は、このストーンリバーが頂く!」

「違う!このラット様が!」

「ノンノン、この美しい僕・トゥ~エンティが!」

それぞれのトイズが小さな部屋に炸裂した。

三人の様子を笑いながら、見ている人がいた。

 

「フフフ…みっともないですわ。怪盗は、もっと優雅でなくてはなりませんのよ…」

 

「誰だ!」

「あたくしは、怪盗アルセーヌ」

「かっ怪盗…」

「アルセーヌ…!?」

「本物なのか…?噂でしか聞いたことがないのだが…」

ふと降り立った美しき女神(アルセーヌ)に三人は、驚きを隠せなかった。

 

「あたくしが教えて差し上げますわ。…『幻惑』のトイズ…」

 

花びらが舞い散った。

 

―ここは…?トイズなら、俺の刀が…。なっなんだ!?―

―ああ、俺、猫に捕まったみたいだ…―

―美しい僕よりも美しいなんて…―

 

怪盗アルセーヌは、『黄金の女神(ゴッデス・アウレラ)』を左手に持ち、右手でカチッと指を鳴らした。

 

「はっ!俺たちは、一体何をして…」

 

ストーンリバーが最初に口を開いた。

 

「あたくしは、怪盗の頂点に立ち、全ての怪盗のための国…その名は、怪盗帝国…を築こうと考えていますの。あなた方は、あたくしの従者に相応しいですわ。どうかしら?あたくしの従者になるのは…」

 

始めに動いたのは、トゥエンティだった。

 

「…この美しい僕、トゥエンティは、美しいアルセーヌ様に忠誠を…」

続いて、ラットが

「火炎使いのこのラットもアルセーヌ様に忠誠を誓う…」

 

最後にストーンリバーが右手に日本刀を差し出して

「私の刀は、アルセーヌ様を守るためのもの…」

三人が頭を下げたのを見たアルセーヌは、満足した表情で

 

「怪盗帝国に歯向かうものに鉄槌を下すのですわ!そして、怪盗を怪盗たらしめる怪盗帝国を我らの手に!」

高らかに宣言した。

 

「では、参りますわよ。ストーンリバー、ラット、トゥエンティ」

4人は、風のようにその博物館から消えた。

 



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第三話~探偵と怪盗~

怪盗アルセーヌ率いる怪盗帝国は、次々と盗みを成功していき、その名を世界に轟かせていた。

 

「怪盗アルセーヌ!この天才・明智ココロ率いる『G4(ジーフォー)』から逃げることはできないわ!さあ、観念しなさい!」

 

小さい刑事が追いかけてきた。

と、突然、転けた。

どうやら、躓いたらしい。

 

「ココロちゃん、大丈夫?ここは、私たちに任せて!」

色違いのお揃いの服を着た4人組の姿が現れた。

 

「ココロちゃん、言うな~!」

 

四人組は、そんな明智ココロを無視した。

ピンク、青、緑、黄色の少女達からトイズの気配がした。

 

(トイズの気配…)

 

「ネロっ!あの機械を制御して!」

「まかせな!」

ネロと呼ばれた、黄色の服を着た少女は、金属の棒を機械に差した。

 

ガシャン!

「なんですの!?」

 

機械は、粉々になった。

「エリー、あれを投げて!」

「は…はい!」

 

緑色の服の少女、エリーは、頬を赤く染めつつ、壊れた機械の破片の中で大きいものを持ち上げた。

 

「甘いですわ!」

 

アルセーヌは、姿を消した。

 

 

青色の少女、コーデリアが耳を澄ませた。

 

「あそこよ、シャロ!」

 

「『女神の首飾り(ティル・アルーラ)』を返してもらうです!」

 

「フフフ…。出来るのかしら?」

 

 

アルセーヌのが笑っていると、首飾りがふわりと浮かんだ。

 

「なっ…」

 

「怪盗アルセーヌ!返してもらったわ!おとなしく捕まりなさい!」

 

いつの間にかココロが復活していた。

 

あたくしを照らす、数多のライト…

 

「ハァァァ!」

「爆弾だァァ!」

 

スリーカードがライトを次々と壊していった。

 

「アルセーヌ様、お逃げください!」

 

あの場から離脱したあと、アルセーヌの頭の中からあの少女達のことが消えることはなかった。

 

(あの子達は、一体…?)

 

アルセーヌは、彼女達のことを知ろうと、必死になった。

 

そして…

 

「…ミルキィ…ホームズ…」

 

 

―ミルキィホームズは、シャロ、ネロ、エリー、コーデリアの4人組。

それぞれ、偉大な探偵を先祖に持っている。

彼女達の育ての親は、小林オペラ―

 

 

「ワクワクしますわ!ミルキィホームズ、あなた方をあたくしが潰して差し上げますわ」

 

「アルセーヌ様、ミルキィホームズは、横浜の『ホームズ探偵学院』の特待生として、『ポワロ探偵養成所』から入学します」

ストーンリバーが助言した。

 

「そうですわ…、あたくしが生徒会会長、アンリエット・ミステールとして、彼女達に近づく。あなた方は、あたくしの安全確保をするのです」

 

 

「はっ!」

 

三人が部屋から出たのち、アルセーヌは、一言口にした。

 

「オペラ…。あたくしは、あなたに負けていなくてよ。あなたが育て上げた『ミルキィホームズ』をこの手で潰して差し上げるの…」

 



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サイドストーリー ~戻らない時間~

「怪盗アルセーヌ!おとなしく捕まるんだ!」

 

私が最後に見た彼は、いつもと同じだった。

 

「あたくしは、そう簡単に捕まらなくてよ、小林オペラ」

 

彼は、私を捕まえるためには、危険も顧みなかった。

 

「ならば、トイズで勝負だ!」

 

そう、彼も私と同じトイズ使いだった。

 

「あたくし達のトイズに勝てるのかしら?」

 

でも、もう彼とは対峙できない…だって―

 

 

「アンリエット・ミステール…いい名前だね。僕は、小林オペラ。よろしくね」

全ての始まりは、私が探偵の卵として、『ホームズ探偵学院』に潜入した時だった。

 

彼は、そこの講師をしていた。

 

「僕は、いつか怪盗アルセーヌを捕まえるのが夢なんだ」

 

「そう…。あの怪盗は、捕まえるのが大変なのでは…?」

 

「僕は、まだ会っていないけど、同僚が手間取っていてね…。でも、いつか捕まえる―」

 

 

初めて話をした日の夜、怪盗アルセーヌとして、彼に会った。

 

「アルセーヌ!『月の涙』を返せ!」

 

「嫌ですわ!返してほしければ、ここまで来るのです」

 

 

昼は、学院の一生徒「アンリエット・ミステール」として、夜は、怪盗帝国の「アルセーヌ」として彼―小林オペラに会っていた。

 

 

初めは、情報を得るためだったが、いつしか彼に恋をした。

 

アンリエット・ミステールは、小林オペラのことが純粋に好きだった。

 

そして、アルセーヌは、彼を好敵手として見始めていた。

 

 

怪盗帝国のアジトでぼんやり窓の外を眺めていると―

 

「アルセーヌ様、何かお悩みでも…?」

ラットが近寄ってきた。

 

「あたくし…、怪盗をやめますわ。『アンリエット・ミステール』として、生きていきます」

 

「アルセーヌ様!考え直してください!」

「僕たちの忠誠を…」

 

三人の従者を凪ぎ払うような言葉を言い放った。

 

「お黙りなさい!…これがあたくし最後の予告状です。この日の夜…全てが終わるのです」

 

しかし、従者が私の知らないところである計画を進めていたなんて…

 

 

「小林さん、あなたのトイズを見るのは初めてね」

 

「それは、僕も同じさ」

 

彼の目に光が宿った。

 

 

「さぁアル…、嘘だろ!?」

 

あたくしは、自分の姿が『怪盗アルセーヌ』としてのものでなく、『アンリエット・ミステール』としてのものに変わっていたのに気づいた。

 

「僕に近づいたのは…」

 

「違う!違うの!初めは、そうだったけれど、あなたと会ううちに怪盗をやめようと思ったわ!」

 

彼は、腕を広げて言った。

 

「なら、戦わなくていいじゃないか…」

 

「そ…そうね」

 

 

私は、彼に近づいた。

 

 

突然、

「覚悟しろ!」

スリーカードが彼を襲った。

彼は、よろけて屋根から落ちそうになった。

 

下には、トイズを消滅させることができる力を宿す湖ーレテ湖。

 

とっさに動いて、腕をつかんだ。

 

「アルセーヌ…」

「アンリエットって呼んでよ。…オペラ、もう少しの辛抱だから」

 

 

「いけません、アルセーヌ様!」

ストーンリバーが私たちを引き離そうとした。

 

 

「キャァ、嫌よ!」

 

その瞬間、握りしめた手が緩んだ。

 

「アルセーヌ…!」

 

「オペラ…!」

 

そのあとの彼は見ていない。

 

次の日、アンリエット・ミステールとして学院寮の自室で目が覚めた。

机には、手紙が置かれていた。

 

―アンリエット、アルセーヌへ

 

僕のトイズ―いかなるトイズの力を見破る『観察』は、失われてしまった…。

だから、もう学院で会うことはないだろう。

トイズを取り戻す方法を見つけだし、もう一度君と対決がしたい。

それまで、待っていてほしい。

 

小林オペラ―

 

あたくしは、再び怪盗アルセーヌとして、そして、アンリエット・ミステールとして生きることにした。

彼に会う日を夢見ていた。

 

けれど、アンリエット・ミステールが生徒会会長になっても、アルセーヌが次々に財宝を盗んでも、学院に戻っては来なかった。

 

(小林オペラ…、いつまで待たせるの…)



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第五話~運命の日~

ミルキィホームズの活躍は、著しいもので、横浜・七大怪盗の一人、トイズ『狩人』のウェルディを捕らえるほどだった。

「おめでとう、ミルキィホームズ」

「ありがとうございます、アンリエットさん!」

「私たちは、これからも頑張って残りの大怪盗、ナディア、ジャンヌ、ギーダー、イリーシェ、シンドバット、そして、アルセーヌを捕まえます!」

 

「頼もしいですわ」

 

アンリエットは、微笑んだ。

 

(あたくしを捕まえるのは無理ですわ…)

 

また、何度もアルセーヌと対峙してきた。

 

「ミルキィホームズ、また会うことができて、嬉しいですわ。でも、あたくしは、行かなければなりませんの…。また今度会いましょう…」

 

 

「待ちなさい、アルセーヌ!」

 

「ごきげんよう…」

 

アルセーヌは、フッと消えた。

 

 

(なぜかしら、ミルキィホームズと戦えるなんて嬉しいと思うのかしら?)

 

初め、怪盗のプライドを守るため、怪盗帝国を束ねる者として捕まるまいという気持ちでミルキィホームズと戦っていたが、次第にミルキィホームズの力を認めていった。

 

そんなミルキィホームズと対決する日々が永遠に続くと、思っていた。

 

しかし、ある時崩れてしまう。

 

あの日は、確か嵐の日…。

 

アンリエットとして、彼女達が女大怪盗・トイズ『神風』のジャンヌと大怪盗・トイズ『海流』のシンドバットを捕まえた功績を讃えたあの日の夜だった。

 

夜になって、天候が変わった。

 

しかし、あの日も怪盗アルセーヌとしてミルキィホームズの目の前に舞い降りた。

 

「怪盗アルセーヌ!今日こそ、捕まえるです!」

シャロが叫んだ。

 

「シャーロック・シェリンフォード、私からこの『女神水晶(ミネルバクリスタル)』を取り返してごらんなさい!」

 

「言われなくても!」

 

「コーデリア・グラウカ、せいぜいあたくしを楽しませてほしいわ」

 

「たっ楽しませるって…」

 

「エルキュール・バートン、あたくし達は共にトイズを持つ者。だから、トイズをぶつけ合うのです」

 

「つべこべ言わないで、さっさとやろう~」

 

「そうですわね、譲崎(ゆずりざき)ネロ」

 

偵都(ていと)・ヨコハマで5つのトイズが繰り広げられた。

ゴロゴロッ!

 

雷がなり始めた。

 

「そろそろ、あたくしは行きますわ」

 

フッとアルセーヌは消えた。

 

「待てっ!」

 

ゴロゴロッ!

雷がミルキィホームズに落ちた。

 

その時、アルセーヌには何が起きたのかわからなかった。

その後、ミルキィホームズがトイズを失ったことを知った。

 

 

「トイズを失うなんて、探偵としてダメダメのダメダメですわ。屋根裏へ部屋を移させていただきますわよ。トイズが復活するまで、自室には立ち入り禁止ですわ」

 

 

アンリエット=アルセーヌは、薄笑いをした。

 



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