オタク剣士が武偵校で剣技を舞う! (ALEX改)
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第一章 武偵殺し
第1話 新学期の災難


ドーモ、ALEX改です。今回から新たに緋弾のアリアを書いていきますのでよろしくお願いします!


「んー……新学期からいい天気だなぁ」

 

てくてくと学校までの道を歩いているのは月島剣護。元超能力捜査研究科(SSR)で今日から強襲科(アサルト)に入る武偵である。

 

剣護「今日から強襲科かー……キンジがやかましいとこだって言ってたけどどんなのだろ……」

 

キンジとは剣護と同じ寮のルームメイトでフルネームは遠山キンジ。とある体質を持った元Sランクの武偵である。

 

剣護「にしても遠いなー……建物の上飛ぶか?」

 

そんなことを言いながら歩いている時だった。

 

キンジ「嘘だろぉぉぉぉぉ!!」

剣護「んあ?」

 

剣護と同じくらいの男子が自転車で爆走してきたのは。

 

剣護「おーいキンジー!どったのー?」

キンジ「チャリに爆弾仕掛けられてんだよ!」

剣護「乗り捨てれば良いじゃーん!」

キンジ「後ろを見ろぉぉぉ!」

剣護「んー?」

 

剣護がキンジのさらに後ろに視線を移すと銃座を載せたセグウェイが大量に迫っていた。

それを見た剣護は当然…………逃げた。

 

剣護「ザッケンナコラァァァ!!」

 

ヤクザスラングをブチまけながら突っ走る。

 

剣護「なんでや!なんでそんなことになってるんや!」

キンジ「知らねえよ!武偵殺しの仕業だろ!」

剣護「武偵殺し?知らない子ですね」

キンジ「とにかくお前銃持ってないのかよ!」

剣護「すまん、メンテに出してる」

キンジ「他には?!」

剣護「鍛錬用の刀しかねえな。スリケンも数が少ないから持ってきてない」

キンジ「何か使えそうなのは!?」

剣護「ちょっとのお金と明日のパンツ……」

キンジ「なんでそんなもん持ってんの!?」

剣護「やかましい!とっととチャリをこげ!」

キンジ「くっそ!死ぬのかよここで……ん?」

 

第2グラウンドに入ったとこでキンジは近くの女子寮の屋上に1人の女の子を見つけた。

その女子は飛び降りたかと思えばパラグライダーで降下し、さらに銀と黒のガバメントを抜き構えた。

 

???「ほらそこのバカ!さっさと頭下げなさい!」

 

バリバリと二丁の銃を撃ち背後のセグウェイを破壊する。

 

キンジ「ちょっ来るな!この自転車には爆弾が」

剣護「しょーがねえ……キンジ、飛べ」

キンジ「え?おまっ何言って……うげ!」

???「武偵憲章1条『仲間を信じ、仲間を助けよ』あるでしょ!いくわよ!」

 

女の子はパラグライダーで剣護たちの方へ逆さ吊りの状態で突っ込み、いつの間にか背後に回った剣護は自転車とほぼ同じスピードで走る。

 

キンジ「お前何する気!?」

剣護「そらそら全力でこげ!」

キンジ「ちっくしょー!」

 

キンジと女の子の距離がどんどん縮まりそしてお互い抱き合う形でキンジは空へさらわれる。

 

剣護「せぇ…の…!オォラッシャア!」

 

キンジが空へさらわれると同時に剣護は自転車の真後ろを思い切り蹴り飛ばし反動で後ろに飛び、蹴飛ばされた自転車は木っ端微塵に爆発した。

 

剣護「ふぃー……マジモンの爆弾かよ、何個か欲しーなおい」

 

そう呟いて2人が突っ込んだであろう体育倉庫に目をやるとセグウェイに囲まれていた。

 

剣護「……あれまぁ……跳び箱に隠れてんのか?」

 

 

 

一方でキンジは7台のセグウェイに囲まれる中、女の子に胸を押しつけられていた。

 

キンジ(ああ……これはダメだ……)

 

実際ないように見えてちゃんとある。そんなふくらみはキンジの中の禁忌を破ったのである。

 

ヒステリアモード。

 

遠山家の者が代々受け継いできたもので何が何でも女の子を守りたくなってしまう特殊な体質でキンジはそれになってしまったのである。

 

そのヒステリアモードになった時、弾切れの音が響く。

 

キンジ「やったか」

アリア「射程外に追い払っただけよ。並木の向こうに隠れてるけど」

キンジ「強い子だ。それだけでも上出来だよ」

アリア「……は?」

 

キンジはアリアをお姫様抱っこすると跳び箱から飛び出し倉庫の端に行くとアリアをマットの上に座らせた。

 

キンジ「姫はそのお席でごゆっくり。あとは俺たちがやるからさ」

アリア「ど、どうしたのよアンタ……おかしくなっちゃったの!?」

 

剣護「あー……キンジのやつ"アレ"になっちまったか」

 

2人の様子を見て剣護は呟いているとキンジは剣護の方を見てハンドサインを出す。

 

剣護「んーと……3台仕留めるから4台頼む……?なんでテメェの方が少ねえんだコラー!」

 

剣護は怒号を飛ばしつつも居合の構えを取り駆け出す。

 

キンジ「なんだかんだ引き受けてはくれるんだよな」

 

キンジはドアの方へと歩いてベレッタを抜いて外に出た。

セグウェイから一斉に銃弾が飛び出すが、キンジは上体を後ろに反らして避ける。

そしてその姿勢から横薙ぎで3発の銃弾を放った。

 

ズガガガンッ!!

 

3台のセグウェイは銃座を吹っ飛ばされ倒れる。すぐに残りの4台が構えるがキンジは背を向けてアリアの方へ歩く。

 

剣護「月島流……」

 

キンジの後ろを見れば、かなりの速度で剣護がセグウェイ目掛けて突っ込んできていた。

 

剣護「富嶽水流連舞」

 

水が流れるような動きで斬撃を4連続で繰り出しセグウェイを斬り捨てる。

 

剣護「ふぃー……って何してんだお前ら」

 

一呼吸置いてキンジの方を見るとアリアと喧嘩していた。

 

アリア「あたしは中学生じゃない!!」

キンジ「……悪かったよ。インターンで入ってきた小学生だったんだn」

剣護「アホかお前ぇぇぇぇぇ!!」

キンジ「アバッ!?」

 

思い切り失言したキンジに剣護は飛び後ろ蹴りをぶちかました。蹴飛ばされたキンジを見てアリアはギョッと目を見開いた。

 

剣護「うちの友人がとんだ失言を……申し訳ない」

アリア「えっあっいやっ……え、えぇ」

キンジ「ゲホッゲホッ……いってぇ……何すんだよ剣護……」

剣護「お前はアホか。ヒスっても失言は変わらんなおい。この子は高2だ。俺たちと同じ学年だよ」

キンジ「え?マジで?」

アリア「アンタねぇ……風穴開けるわよ!」

 

そう言うとアリアはジャキッ!と二丁のガバメントを構え発砲する。

 

剣&金『うお危な!?』

アリア「このっ!」

キンジ「危ない!」

剣護「おまっ何をするだキンジィ!」

 

さらに発砲するアリアに対してキンジは剣護を盾にして倉庫から出た。盾にされた剣護は刀で銃弾を弾く。

 

アリア「このっ!邪魔するな!」

キンジ「ごめんよ」

 

キンジはアリアからスリ取ったマガジンを遠くに投げ、それを見たアリアは銃をホルスターに突っ込むと今度は二本の刀を抜いた。

 

アリア「もう許さないんだから!ひざまずいて泣いて謝っても!」

キンジ「おっと!」

剣護「俺を盾にすんなキンジィィィ!!お前そういうやつだったか?!」

キンジ「状況判断だ」

アリア「この卑怯者!神妙にしなさい!アンタもよ!」

剣護「なんでや!俺関係ないやろ!」

アリア「邪魔するからよ!」

剣護「俺の後ろのやつが邪魔させてんだよ!」

キンジ「悪いな」

剣護「待てこらキンジ!」

 

剣護とアリアが切り結んでいる内にキンジは一目散に逃げる。

 

アリア「あーもー!まずはアンタからよ!」

剣護「ザッケンナコラー!」

アリア「神妙になさい!」

剣護「チッ……富嶽砂塵嵐!」

アリア「うわっぷ!」

 

剣護は押し返すと巻き上げるように切り上げ足元の砂を巻き上げ視界を塞いだ、アリアは咄嗟に顔を覆うが剣護はこの隙に退散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「はぁ……」

武藤「どうしたんだよキンジ。溜息なんかついてよ」

キンジ「別に……」

武藤「まあ詳しくは聞かないけどさ。剣護は?」

キンジ「あ……置いてきちまった」

武藤「あーあー……やっちまったな」

 

新しいクラスに来ていたキンジは同じクラスの武藤剛気と話をしていた。そして少しして剣護が鬼の形相で入ってきた。

 

剣護「キーンージクーン……アーソビーマショー……」

キンジ「怖えよ!やだよ!殺す気だろ!」

剣護「え?」

キンジ「なんで、それが何か?って顔したんだよ!?」

剣護「しばかれて当然だろがドグサレッガコラー!」

武藤「ま、まあまあ落ち着け剣護。な?」

剣護「チッ……肋骨8本で勘弁してやらぁ」

キンジ「やめて!?」

 

 

 

 

 

アリア「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

2年A組の最初のHR。先程剣護たちが会った女の子、神崎・H・アリアはそう言った。

キンジは絶句して椅子から転げ落ち、剣護は吹き出して笑っている。

 

武藤「よ、良かったなキンジ!お前にも春が来たみたいだぞ!俺、転入生さんと代わりますよ!」

剣護「先生!俺も代わりますよ!」

アリア「アンタはダメ」

剣護「ウソダドンドコドーン!」

 

武藤が席を代わろうと立つのを見て剣護も同じく立つがアリアに止められるとガックシと膝をついた。

 

アリア「キンジ、これ。さっきのベルト」

 

理子「理子分かった!分かっちゃった!これ、フラグばっきばきに立ってるよ!」

 

アリアがキンジにベルトを投げ渡す様子を見てフリルの付いた制服を着た女の子、峰理子が騒ぎ出し、そして語り始めた。

 

理子「キーくんは彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をした!さらにツッキーが現れて……つまり3人は熱い熱い、恋愛の真っ最中なんだy「イヤーッ!」アバーッ!?」

 

理子が言い切る前に黒い金属の塊が額にぶっ刺さった。

 

キンジ「……剣護、お前手裏剣あるじゃん」

剣護「あっても手持ち5発しか無えんだもん」

 

理子は鎮圧したがその周りが騒がしく盛り上がる。キンジは机に突っ伏したときに2発の銃声が響く。アリアである。顔を真っ赤にしてアリアは叫ぶ。

 

アリア「れ、恋愛だなんて……くっだらない!」

剣護「そうか?俺は結構ラブコメとか好きだが」

アリア「アンタは黙ってて!全員覚えておきなさい!そういうバカなことを言うやつには……」

 

一呼吸置いてアリアは叫ぶ。

 

アリア「風穴開けるわよ!」

 

こうして神崎・H・アリアを含めて剣護たちの新学期が幕を開けるのだった。

 

 

 

 



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第2話 ちょっと何言ってるかわかんない

キンジ「はぁ……」

剣護「俺はお前っで〜♪お前は俺っで〜♪」

 

新学期初日の放課後、剣護とキンジは寮で休んでいた。と言っても剣護は歌を口ずさみながら銃の手入れをしている。

 

キンジ「なあ、剣護。今朝のことどう思う?」

剣護「ん?うーん……今のところなんとも言えんわな。武偵殺しの目的も見えてこないし」

キンジ「そっかぁ……」

剣護「キンジはどう思う?」

キンジ「俺は……武偵殺しの模倣犯は爆弾魔だと思う」

剣護「ふーん……武偵殺しはボンバーマンってか」

キンジ「爆弾しか合ってねえ」

 

2人で今朝のことについて話してるとき

 

ピンポーン

 

剣護「…………」

キンジ「…………」

 

ピンポンピンポーン

 

剣護「…………」

キンジ「…………」

 

ピポピポピポピポピピピピピピピンポーン!ピポピポピンポーン!

 

キンジ「はぁ……」

剣護「しょうがねえ、出てやるか」

 

剣護は渋々玄関に向かうとドアを開ける。

 

アリア「遅い!あたしがチャイムを押したら5秒以内に」

 

バタンッ ガチャッ

 

アリア「ちょっ!?なんで閉めるのよー!」

 

ドアを開けた瞬間、アリアが入り口で立っていた。

剣護は速攻でドアを閉め、鍵を掛けた。そして何事もなかったかのように戻ってきた。

 

キンジ「お、おい剣護?」

剣護「外に誰も居ませんよ?」

キンジ「いやでもアリアが……」

剣護「入り口には誰も居なかった。いいね?」

キンジ「アッハイ。ってなんでクレイモア出してきてんの!?」

剣護「え?何か問題でも?」

キンジ「大問題だ!」

 

剣護がいそいそとドア付近にクレイモアを仕掛け始めたので慌ててキンジはそれを止める。

アリアはギャーギャーと騒ぎながらドアをドンドンと叩く。

 

アリア『ちょっとー!開けなさいよー!』

キンジ「おい、そろそろ開けてやった方が……」

剣護「え?なんで?」

キンジ「外道か!」

剣護「おいおい外道じゃねえ。ドSと呼べ」

キンジ「変態じゃねえか」

アリア『ね〜ぇ〜……グスッ……開けてよぉ……』

剣護「……そろそろ良いかな」

キンジ「最低だなお前!」

 

アリアがちょっとぐずり始めたので剣護はドアを開けてやる。アリアは部屋に入るとキッと2人を睨みつける。

 

アリア「鍵を閉めたのは誰!」

剣護「キンジがやりました」

キンジ「お前だろが剣護!」

アリア「アンタでしょ剣護!」

剣護「へいへい、俺ですよっと」

アリア「風穴ぁ!!」

剣護「させるかバーロー!」

 

アリアが太もものホルスターに手をかけるのと同時に剣護は素早く足を払い転ばせ、十字固めを繰り出した。

 

剣護「イヤーッ!」

アリア「いだだだだだ!痛い!痛い!」

剣護「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

アリア「ぎ、ギブギブギブギブ!風穴はしないから離して!」

剣護「ういっす」

 

パッと剣護は離れて、アリアは腕をぐるぐる回しながら立ち上がる。

 

アリア「いたたた……やっぱSランクね……」

キンジ「てかなんでここに来たんだよ」

剣護「何の用さね」

アリア「まあいいわ」

剣&金『よくねえよ』

 

2人のツッコミをスルーしてアリアは窓辺りまで行くとクルッと振り返ってこう言った。

 

アリア「キンジ。剣護。あんた達、あたしのドレイになりなさい!」

キンジ「…………は?」

剣護「ちょっと何言ってるかわかんない」

アリア「なんでわかんないのよ!」

キンジ「なんでそのネタ知ってんだよ」

アリア「ほら!さっさと飲み物ぐらい出しなさいよ!」

剣護「うぃー」

 

ポフッとソファーに座るとアリアは早速命令し始める。剣護は反発したらメンドくさいことになると分かるとキッチンに入っていった。

 

剣護「お待たせしました。エスプレッソ・ドス・マッカォになります」

キンジ「名前の後半モンスターじゃねえか。てかなんでエスプレッソあるんだよ」

剣護「前に買ってきた。手作りのお菓子に合うと思ってな」

アリア「……淹れるの上手いわね」

剣護「お褒めに預かり光栄です。お嬢様」

アリア「……なんで貴族って分かったのよ」

剣護「微妙に感じる雰囲気と直感」

キンジ「それで分かるとかすげーなおい……」

剣護「それで、アリア嬢よ。ドレイの意味を話してくれ」

アリア「強襲科であたしのパーティーに入りなさい。そこで一緒に武偵活動をするの」

キンジ「嫌だよ。強襲科が嫌で探偵科(インケスタ)に転科したんだぞ。それに武偵自体やめるつもりだし、あんなトチ狂ったとこに戻るなんて……無理だ」

アリア「あたしにはキライな言葉が3つあるわ。『ムリ』『疲れた』『面倒くさい』。この3つはあたしの前では二度と言わないこと。いいわね?」

剣護「人の話を聞けや」

アリア「キンジと剣護のポジションは……そうね。フロントがいいわ」

キンジ「よくない。剣護はともかくそもそもなんで俺なんだ」

剣護「待てやアホキンジ」

アリア「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」

剣護「ちょっと何言ってるかわかんない」

アリア「キンジは質問ばっかりの子供みたい。仮にも武偵なら、自分で情報を集めて推理しなさいよね」

剣護「んー……なあなあアリア嬢」

アリア「なによ?」

剣護「私に1ついい考えがある」

 

話が通じなさそうだと思った剣護はアリアに1つ提案をする。

 

剣護「もうめんどくさいから決闘で決めたら?」

アリア「……なるほどね」

キンジ「おいちょ待てよ!?」

剣護「そっちが勝てば俺もセットでチームを組む。こっちが勝てばキンジだけチームを組む。どうだ?」

キンジ「あのすんません。何も変わってないんすけど」

アリア「良いわ。ちょうどアンタの実力も知りたかったし」

剣護「じゃ交渉成立ってことで」

アリア「えぇ」

キンジ「あーもうどうにでもなれよ……それと終わったなら帰ってくれ」

アリア「だが断る」

キンジ「なにっ!?」

アリア「キンジがあたしのパーティーに入るって言うまで泊まっていくから」

キンジ「ちょっ……ちょっと待て!決闘で決めるんだろうが!?帰れ!」

アリア「うるさい!泊まってくったら泊まってくから!長期戦になることも想定済みよ!」

剣護「ほんじゃ俺は部屋にいるから後は2人でやっててくれなー」

 

そう言うと剣護は自室に戻っていった。戻る途中『裏切り者ぉー!』と聞こえたが無視した。

 

(神崎・H・アリア……俺らをパーティーに入れるってことは何かあるってことだよな……よし)

 

剣護は携帯を取り出すと、ある人物に電話をかけた。

 

剣護「もしもし?俺です。月島です。この辺にぃ美味いラーメン屋……間違えた、じゃなくてちょっと調べて欲しいことがあるんですが……」

 

 

 



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第3話 激突!『双剣双銃』と『月島流』!

翌日の五時間目、決闘場の中央でアリアと剣護はお互い向き合うように立っていた。

アリアはいつもと変わらず、剣護は制服の上に羽織を着て、両腕に腕甲を付け、腰に刀を二本差している。

 

アリア「よく来たわね」

剣護「おうよ。お前さんとやり合うのが楽しみだからな」

アリア「そう、あたしもアンタの実力を見せてもらうわ」

剣護「そうかい。なら失望させないようにしないとな」

 

お互い腰を低くして構える。いつでも仕掛けられるように、瞬時に対応できるように集中力を高めていく。

 

蘭豹「オラァ!お前ら思う存分殺し合えや!始めぇ!」

 

蘭豹の合図でアリアはサッとガバメントを抜き構えるがその時思わぬ光景を目にし驚愕する。

剣護が武器を構えずに猛スピードで一気に突進して来たのである。

 

アリア「んなっ!?こ、この!」

剣護「シッ!」

 

驚くもすぐさまガバメントを発砲するが剣護はスルスルと避けていく。まるで弾道を読んでいるかのように。

 

アリア「な、なんで当たらないの!?」

剣護「せいっ!」

アリア「くっ……!」

 

剣護は一気に間合いを詰めると居合い気味に抜刀。驚きつつもアリアは素早く避けると距離を詰める。

 

アリア「はっ!」

剣護「っと!」

 

アリアはガバメントを発砲、剣護は弾丸を刀で弾いてガバメントと鍔迫り合いをする。

 

アリア「ガン=カタは知ってるかしら?」

剣護「一応な」

アリア「やっ!」

剣護「ぜぇあ!」

 

ガバメントと刀が、拳と脚が至近距離でぶつかり合う。撃つ、避ける、斬る、避ける、殴る、蹴る。そんな攻防を周りの生徒は息を飲んで見入っている。

 

アリア「ぐっ!なかなかやるじゃない!」

剣護「そっちもな!でもまだまだ行くぜ!月島流!」

アリア「っ!」

 

お互いに少し距離を取ると剣護は刀を構えた。

 

剣護「富嶽鉄槌割り!」

アリア「うぐぅ!?」

 

剣護はアリア目掛けて刀を振り下ろす。アリアは横に避けたが、振り下ろされた一撃はアリーナの床に大きな円形の穴を作り、その衝撃で避けた筈のアリアを吹き飛ばした。

 

アリア「っ…なんなの一体…!?」

剣護「チッ…避けたか」

アリア「……あまり長期戦はダメそうね」

剣護「ちなみにこの技、連発できるって話する?」

アリア「嘘でしょ?」

剣護「………」(ニコッ)

アリア「何とか言いなさいよ!?」

 

ツッコみながら放たれた弾丸を弾いていく剣護。ガバメントが弾切れを起こしアリアは小太刀を抜き距離を詰める。

 

アリア「はっ!」

剣護「らぁ!」

アリア「ふっ!」

剣護「おぉ!」

アリア「っぐ……!」

 

甲高い激突音を響かせ、火花を散らしながら斬り結ぶ2人。しかし剣護が体格と筋肉量で上回っている分、だんだんとアリアが押され始める。

 

剣護「月島流、富嶽割り!」

アリア「あっ!しまっ……」

 

刀の柄でかち上げて小太刀を弾き飛ばすと腰を落とし刀を脇に構える。

 

剣護「月島流…!富嶽峰斬り!」

アリア「がっ……!」

 

一気に懐まで間合いを詰めると共に峰打ちを叩き込み斬り抜ける。

アリアはその場でガクッと膝をついて倒れ込む。

 

剣護「双剣双銃(カドラ)のアリア。結構強かったけど……今回は俺の勝ちだな」

 

剣護はそう呟くとカチンと刀を納める。

こうしてアリアと剣護の決闘は剣護の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「うぅ……ん……」

剣護「おや、お目覚めで」

 

放課後、空はもう夕暮れでオレンジ色に染まっている。現在2人は学校の屋上に居た。

 

アリア「ここ……は……?」

剣護「屋上さね。他の奴らがうるさいからここに来た」

アリア「そっか……あーあ、負けちゃったんだ……あたし」

剣護「まあな。それでもなかなかのもんだったぞ」

アリア「そう……」

剣護「まあでも楽しかったろ?」

アリア「………まあそうね。でも、次は負けないわよ?」

剣護「えーしばらくは良いや」

アリア「ちょっとなんでよ!」

 

噛みつこうとせんばかりの勢いのアリアをよそに剣護の携帯から着信音が鳴る。ちなみに着信音は仮面ライダードライブのオープニングである。

 

剣護「はい、もしもし月島です。はい……はい……わかりました。用意したらすぐに行きます。それじゃ」

アリア「誰なの?」

剣護「俺がいろいろとお世話になってる人さ。ちょっと今から行ってくる」

アリア「うん、わかった」

 

剣護はそう言うとピョンっと普通に飛び降りるのを見てアリアはギョッとするが何事もなかったように走っていく剣護を見て「化け物ね……」と呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

都内にあるカフェにて、アリアと別れた剣護は一度部屋に戻りいろいろと持ち物を整理してからこのカフェに来ていた。コーヒーを頼んで待つこと十数分、大柄な男が入ってきた。

 

尾上「待たせてしまってすまんな」

剣護「いえいえ別に構いませんよ。尾上さん」

 

剣護が待っていた男は尾上忠典(おがみただのり)。公安0課の1人で蟲奉行所武家組同心、尾上影忠(おがみかげただ)の子孫である。

 

剣護「それで例のこと調べてくれましたか?」

尾上「あぁ、神崎・H・アリアのことだろう?もちろんだ。彼女はヨーロッパでも武偵をしていたことは知ってるな?」

剣護「はい。それと俺とキンジにパーティーを組むように言ってきたときに時間がないって言ってたんですが……どういうことです?」

尾上「うむ、恐らく彼女の母親のことだろう」

剣護「母親……?」

尾上「彼女の母親、神崎かなえはかなりの罪を着せられているのだ。懲役864年だそうだ」

剣護「……なるほど、恐らくこの件に武偵殺しも絡んでいるようですね」

尾上「流石は鋭いな。だが黒幕が何なのかがまだ掴めてーー」

剣護「……いるんでしょ?何者なのか」

尾上「…………」

剣護「一瞬だけ空気の流れが乱れた。本当は黒幕のこと掴んでるんでしょ?尾上さん」

尾上「はぁ……わかった。ただし他言無用だぞ?」

剣護「承知」

 

ズズズとコーヒーを啜ってから尾上は話を続ける。

 

尾上「黒幕の名は……『イ・ウー』……」

剣護「イ・ウー……あー……昔なんかじーちゃんから思い出話として聞いたような……」

尾上「なぬっ!?それは本当か!?」

剣護「尾上さん声大きい。確かに聞いたことがあります。イ・ウーの教授とガチンコの殴り合いしたって」

尾上「はぁ……月島家は侮れんな……話を戻そう」

剣護「まあ要するにアリアのお母さんに罪を着せている黒幕がイ・ウーでアリアはお母さんの無罪を証明するためにパートナーを探してるってことですね?」

尾上「そういうことだろうな。お前は理解が早くて助かる」

剣護「いえいえ、引き続き調査をお願いしても良いですか?」

尾上「もちろんだ。できる限りのサポートはするとも」

剣護「それじゃあ俺は帰りますね」

尾上「あぁ、支払いは私がしておこう。気をつけてな」

剣護「はい、失礼します」

 

そう言って剣護はカフェから出ると近くに停めてあるCRF250Lに跨がるとエンジンをかける。

 

剣護「……イ・ウーねぇ……今回の山はかなり複雑みたいだな」

 

バイクを走らせ剣護はいろいろと考えながら男子寮へと帰るのだった。

 

 

 

 

 



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第4話 事件発生!発進!トライドロン!

アリア「やった!やったわ剣護!」

剣護「んあ?どしたよ」

 

剣護が部屋でDVDを見てるとき、アリアが嬉しそうに叫んできた。ちなみに剣護はコマンドーを見ていた。

 

アリア「キンジが一回だけパーティー組んでくれるって!」

剣護「おやまあ。決闘の後もあんなに嫌がってたのに……まあ良いんじゃね?」

アリア「うん。それでアンタはどうする?」

剣護「あー……俺も組むよ。勝ったけど」

アリア「いいの?」

剣護「おう。もちもちろんろんよ」

アリア「そう…ありがとね」

剣護「いいってことよー」

アリア「それじゃああたしは部屋に帰るわね」

剣護「ちょい待ち。これ持って行きな」

 

そう言うと剣護は仮面ライダードライブのDVDBOXをアリアに渡した。

 

アリア「え?なにこれ?」

剣護「布教。それに話してる時に目線がセットに集中してたし」

アリア「うっ……」

剣護「まあ、返すのはいつでも良いからさ」

アリア「そ、それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 

剣護「あーい………………1人確保じゃあ…」

 

 

アリアはDVDBOXを両手で抱えると部屋から出ていくのを剣護は仲間が増えたとニヤニヤしながら見送るのだった。

 

 

 

 

 

「キンジ!戻ってきたか!さあ早く死ね」

「よう!キンジ!久しぶりだな!死にやがれぇ!」

剣護「よっすー、キンジ」

キンジ「剣護……お前だけだよ。死ね死ね言わないのは」

剣護「そりゃこいつらが死にかけたことがないからだろ」

「なんだと剣護てめぇ!死にやがれ!」

剣護「うるさいよエ○スが」

「なんか違くない…?」

キンジ「お前馴染んでんなぁ」

剣護「まあ襲ってきた奴を片っ端からどつき倒したりいろいろやってたけど」

「アレはマジでヤバかったなぁ……」

「よく生きてたな俺ら…」

キンジ「何したのお前……」

剣護「襲ってきた方が悪い。いいね?」

キンジ「いやそれは仕方な……」

剣護「い い ね ?」

キンジ「アッハイ」

 

剣護が強襲科に入ってキンジが戻ってくる日までの間、剣護は相当派手にやったらしくキンジは軽く眉間を押さえた。

 

剣護「それでどういう風の吹き回しだ?キンジ」

キンジ「……別に関係ないだろ」

剣護「あっそ。まあ良いけどさ」

キンジ「そういやお前、この前の決闘すごかったよな」

剣護「そいつぁどーも」

「でもホントすごかったよなぁ!Sランク同士だったしさ!」

「そんじょそこらの模擬戦とは見応えが違いましたしね」

剣護「へいへい。俺この後武藤と平賀さんに呼ばれてるからこの辺りで」

キンジ「あぁ、わかった」

剣護「多分遅くなるから、晩飯は作り置きしてあるからそれ食ってくれ」

キンジ「おう、てかなんかお前主夫みたいだな」

剣護「60mm砲で吹っ飛ばすぞ?」

キンジ「60mm砲!?」

 

剣護が出ていった後もキンジは他の強襲科の生徒をいなして学校を出て、アリアと一緒にゲームセンターまで走ったりクレーンゲームをやったりしていた。

 

一方で剣護は車輌科の倉庫に来ていた。

 

武藤「おーい!剣護ー!」

平賀「こっちなのだー!」

剣護「おーっす武藤!平賀さん!」

 

倉庫には武藤剛気と平賀文の2人がシートの前で立っていた。

 

剣護「どうだ?進行は」

平賀「順調なのだ。これなら今日中に仕上げて明日には動かせるのだ」

剣護「よっしゃ!それならさっさとやりますか!」

「おう!」「なのだ!」

平賀「あ、その前に剣護くん携帯を貸して欲しいのだ」

剣護「ん?あいよ」

平賀「ありがとなのだ。えーと……ここをこうしてこうやって……」

武藤「剣護、これ積むから手伝ってくれ」

剣護「ウホッ!いいガトリング」

武藤「おいバカやめろ」

 

ワイワイガヤガヤと3人は喋ったり、ふざけたりしながらも作業を進めていく。参考にしている2つの画像を確認しながら削り、切り、組み立て、繋ぎ合わせたりして進めていく。

 

 

 

そしてーー

 

 

 

剣護「おっしゃできたー!」

平賀「うんうん、見た目もバッチリなのだ!」

武藤「変形は無理だけどな」

剣護「変形なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」

平賀「弾薬も充分、操作も問題なし、プログラムも完璧なのだ!」

剣護「それなら明日の放課後に試運転するか」

武藤「さっき動かしてみたけどエンジンも問題なく動作するしいけるだろ」

平賀「あ、剣護くん携帯返すのだ」

剣護「おう、サンキュー」

平賀「これを操作するプログラムを入れておいたからいつでも呼び出せるのだ」

剣護「ふむ……なるほど……ありがとよ平賀さん」

平賀「いえいえなのだ!あとこれ預かってたファイブセブンなのだ」

剣護「おぉ、すっかり忘れてたわ。ドーモ」

武藤「それじゃあ今日は解散するか」

剣護「だな。外はもう暗いし」

平賀「また明日なのだー……ふわぁぁぁ」

剣護「あー明日が楽しみだなー……オラワクワクすっぞ!」

武藤「落ち着け落ち着け」

 

3人はコツンと拳を合わせたらそれぞれの寮へ帰っていった。明日、それが叶わないとも知らずに。

 

 

 

 

次の日の朝、バスに乗り遅れたキンジは先に出ていた剣護に追いついて一緒に歩いていた。

 

剣護「お前またバスに乗り遅れたのかよ」

キンジ「うるせえ。ちゃんと時計みたのになぁ……」

剣護「……ちょっと貸してみ」

 

剣護はキンジから時計を預かるとマジマジと見つめ自分の時計と照らし合わせる。

 

剣護「……これ時間間違ってね?」

キンジ「マジで?」

 

そんな話をしている時にキンジの携帯が鳴った。アリアからだった。

 

キンジ「もしもし」

アリア『キンジ、今どこ』

キンジ「強襲科の近くだ」

アリア『剣護は?』

キンジ「近くにいるぞ」

アリア『ちょうどいいわ。C装備に武装してすぐに女子寮の屋上に来て』

キンジ「なんだよ。授業は5時間目……」

剣護「いや事件だキンジ。僅かに火薬の匂いがする」

キンジ「なに?事件だと?」

アリア『そうよ。すぐ来なさい!』

キンジ「お、おう、わかった」

剣護「掴まれキンジ、飛ぶぞ」

キンジ「は?ってうおおお!?」

 

携帯を切るなり剣護はキンジを掴むとダンッ!と思い切り飛んで学校に入っていった。

 

女子寮の屋上にはアリアと狙撃科のレキがいた。

 

アリア「揃ったわね」

キンジ「一体何が起きたんだ?」

剣護「バスジャックだな。空気中に火薬の匂いが混じってたから不自然に思ってたが……」

アリア「えぇ、そうよ」

キンジ「犯人は、車内にいるのか?」

アリア「分からないけど、多分いないでしょうね。バスに爆弾が仕掛けられてるわ」

剣護「そして、この事件はチャリジャックと同じ『武偵殺し』ってわけか」

アリア「えぇ、最初はバイク、次にカージャック。その次がキンジの自転車で今回はバス。乗り物に『減速すると爆発する爆弾』を仕掛けて自由を奪い遠隔操作でコントロールするの。でもその操作に使う電波にパターンがあってね。キンジ達を助けた時も、今回も、その電波をキャッチしたの」

キンジ「でも『武偵殺し』は逮捕されたハズだぞ」

剣護「いや、そいつは真犯人じゃない」

キンジ「なんだと?」

剣護「このことはいつか話すとして、まずはバスジャックの方を何とかしないと……あ、そだ」

 

剣護は携帯を取り出すと誰かに電話をかける。

 

剣護「あ、もしもし?ちょっと車輌科の倉庫の扉開けといてくんね?うん、うん、よろしく」

アリア「誰に電話したの?てかなんで車輌科?」

剣護「後で説明するって」

キンジ「とにかく行くか」

 

話しつつも4人はヘリに乗り込み現場へと向かった。

 

レキ「見えました」

キンジ「何も見えないぞレキ」

剣護「……見つけた。ホテル日航の前あたりだ」

レキ「はい、そこの前を右折しているバスです。窓に武偵高の生徒が見えます」

アリア「あ、あんた視力いくつよ」

レキ「左右ともに6.0です」

アリア「……剣護はなんで分かるのよ」

剣護「流れを読んだのさ。爆弾が取り付けられてる分、流れの形が変わってる」

アリア「……わけがわからないわ」

キンジ「……俺もだ」

 

そうこうしているうちにヘリがバスに近づいていた。アリアはパラシュートを使いバスの屋根に降りていき、キンジと剣護もそれに続く。

アリアとキンジはワイヤーで体を固定し、剣護は体勢を低くしてバランスを取る。

 

武藤「キンジ!剣護!」

キンジ「武藤、2限はまだだが、また会っちまったな」

武藤「あ、ああ。ちくしょう……!なんで俺はこんなバスに乗っちまったんだ?」

キンジ「友達を見捨てたからバチが当たったんじゃねーの」

剣護「バーカバーカ」

武藤「剣護てめぇ……そ、それよりキンジ。あの子」

女子「と、遠山先輩!月島先輩!」

剣護「一体何事かね?」

女子「い、いい、いつの間にか携帯がすり替わってたんですっ。それが喋り出して」

 

『速度を落とすと、爆発しやがります』

 

剣護「やっぱキンジの時と一緒か」

キンジ「だな」

アリア『キンジ、どう?状況を報告しなさい!』

キンジ「お前の言った通りだったよ。このバスは遠隔操作されてる。そっちはどうなんだ」

アリア『爆弾らしいものがあるわ!カジンスキーβ型のプラスチック爆弾、『武偵殺し』の十八番よ。炸薬の容積は3500立方センチはあるわ』

剣護「それヤバくね?」

キンジ「電車でも吹っ飛ぶほどの炸薬量だぞ」

アリア『潜り込んで解体をーーあっ!』

キンジ「うおっ!なんだ!?」

 

ドンッ!とバスに振動が走り、生徒がもつれ合うようにして転ぶ。キンジが後ろの窓を見ると一台のオープンカーがバスから距離を取っていた。

 

キンジ「大丈夫かアリア!……くそっ!」

剣護「来るぞ!みんな伏せろ!」

 

剣護が叫んだ瞬間、オープンカーの銃座がバリバリと掃射してバスの窓を粉々にする。キンジも胸に1発受けて車内に押し戻される。剣護は手甲でガードしていた。

 

武藤「キンジ、やべえぞ。運転手がやられてる」

キンジ「武藤!運転を代われ!減速させるな!」

武藤「い、いいけどよ!俺、こないだ改造車がバレて、あと1点しか違反できないんだぞ!」

剣護「じゃあなんで俺の提案に乗ったし」

武藤「ロマンだよ!仕方ねえだろ!」

剣護「いいセンスだ」

 

そんなこんなしてるうちにバスはレインボーブリッジに入っていく。キンジと剣護はバスの屋根に登ると、アリアがワイヤーを伝って上がってきた。

 

キンジ「おいアリア!大丈夫か!ヘルメットはどうした!」

アリア「さっきルノーにブチ割られたのよ!あんたこそどうしたの!」

キンジ「運転手が負傷して今、武藤に貸して運転させてるんだ!」

アリア「危ないわ!どうして無防備に出てきたの!伏せなさ」

剣護「あーもー!2人とも黙れ!!危ないのはどっちもだ!」

アリア「うぐっ……って後ろ!」

 

キンジと剣護がバッと振り向くとルノーがキンジの顔面めがけて銃座をぶっ放していた。アリアは真っ青になって応射する、キンジは自身の死を感じた。しかし一つの声がそれを振り払った。

 

剣護「月島流、富嶽風車!」

 

剣護が刀を抜きそれを風車のように回して銃弾を全て弾いたのである。

 

キンジ「……すげえ」

アリア「嘘……全て弾くなんて」

剣護「アリア、これを付けろ」

アリア「えっ……って危ないわ!」

 

剣護はそう言うとカポッとアリアに自分のヘルメットを被せた、そして自身は運転席辺りに行くと武藤に話しかける。

 

剣護「おい武藤!こうなりゃアレ使うぞ!」

武藤「え!?でもアレ試運転は……」

剣護「この場でやる!迷ってる暇はない!」

武藤「ちくしょう!わーったよ!やっちまえ!」

 

剣護は携帯を取り出すとカチカチと操作していく。その様子をアリアとキンジは警戒しながら見ている。

 

剣護「2人は車内に入ってな。俺が食い止める」

アリア「で、でも……」

剣護「入ってろ。チームワークもろくに発揮できてないしな」

アリア「うっ……わかったわ……」

キンジ「剣護、さっき何をしたんだ?あとアレって……」

剣護「見てればわかる」

 

全員が見守る中、剣護は1人屋根の上でルノーの銃座の掃射を弾いていく。そんな中、アリアが後部の窓から叫んだ。

 

アリア「ねぇ!何か来るわ!」

キンジ「なにっ!?新手か!」

 

アリアが言った通り、かなり後ろの方で赤い車がバスに向かって走ってきていた。全員が表情を強張らせる中、運転席の武藤と屋根の上の剣護はニッと笑う。

 

武藤「来たぜ!剣護!」

剣護「わかってらぁ!レキ、ルノーは俺がやる。爆弾は任せた」

レキ『わかりました』

 

剣護はダンッ!と飛び上がると車も加速して剣護の真下にきて屋根が開く。その中に剣護は乗り込むとドルンッとエンジンを鳴らし走る。

 

アリア「け、剣護!?それってまさか……」

剣護「おうよ!そのまさかよ!」

キンジ「あ、アリア知ってるのか?お前」

アリア「この前借りたDVDに出てたのよ」

キンジ「……あー、なるほどね」

剣護「ハッハァー!これぞ!武藤と平賀さんと俺の3人のロマンの結晶!トライドロンだ!」

 

そう、剣護が呼び出したのは昨日まで武藤と文の3人でNSXを改造して作ったトライドロンなのである。ただし見た目と機関砲だけ再現しており変形はできない。

 

ルノーはトライドロンにUZIを掃射するが簡単に弾かれてしまう。

 

剣護「無駄無駄無駄無駄ぁ!そんなもんがトライドロンに効くか!」

 

ドギュンッドギュンッと車体前部の機関砲を撃ちルノーの銃座を破壊し、さらに車体後部が展開されメインウェポンが姿を現わす。

 

キンジ「ダニィ!?60mm砲だとぅ!?」

アリア「ガトリングと暴動鎮圧器まで付いてるわよ!?」

武藤「ミサイルも付いてるぞ」

金&アリ『なんでっ!?』

武藤「トライドロンの武装はバットモービルを元にしてるから」

アリア「……あぁ、タイヤフエールができないからなのね」

 

剣護「くたばりやがれぇぇぇ!!」

 

ズドォォォンッ!!

 

60mm砲をぶっ放してルノーは爆散した。さらにレキの狙撃により爆弾もバスから外され、それをレキが狙撃で飛び上がらせ、剣護がガトリングで破壊した。

 

剣護「くぅ〜……最っ高だぜぇぇぇ!!」

キンジ「はぁぁぁ……」

アリア「な、なんとかなったわね……」

 

歓喜の声を上げる剣護を見て、アリアとキンジは糸が切れたかのように安堵の息を吐きながらその場に座り込んだ。

 

 

 



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第5話 神崎かなえとの面会

日曜日、剣護は新宿にある警察署に来ていた。尾上からアリアの母親と面会をするからお前も来いと連絡があったのだ。

警察署には入り口付近で尾上が立っており剣護を見つけるとこっちへ来いと手招きする。

 

剣護「尾上さん」

尾上「剣護、こっちだ」

剣護「なんで俺を?」

尾上「まあ少しな。お前が居てくれた方が良いのさ」

 

署内に入り、留置人面会室のドアの前に来たところでどなり声が聞こえた。

 

アリア『やめろ!ママに乱暴するな!』

 

その声を聞いて剣護の髪がゾワッと逆立ち、それを見た尾上はすぐにドアを開けた。

 

尾上「待て」

管理官「誰だ!……あ、あなたは公安0課の……」

アリア「け、剣護!?」

尾上「公安0課の尾上だ。神崎かなえと話がしたい。離してやれ」

管理官「し、しかし……」

剣護「…………薄いな」

管理官「……え?」

 

困惑する管理官を見て剣護はアクリル板を軽く叩くとそう呟き、拳を握ると思い切りぶん殴った。すると厚く固いアクリル板に大きなヒビが入り、それを見た管理官は顔を青くした。

 

尾上「……離してやれ」

管理官「は、はいっ」

剣護「あと出ていけ」

管理官「ひっ……!」

 

尾上が声を低くして話し、剣護が三白眼の如く右目を見開いて睨むと管理官はすぐさま出て行った。

 

かなえ「あ、ありがとうございます……」

尾上「いえ、良いんですよ。少々、荒っぽくはなりましたが」

かなえ「いえ、そんなことは……ところであなたは……?」

尾上「公安0課の尾上忠典と言います。隣に居るのはそこの2人と同じ武偵高の月島剣護です。本日はお話をお伺いしたいのですが……よろしいですか?」

かなえ「えぇ、構いません」

尾上「ありがとうございます。それではまず着せられた罪に心当たりは?」

かなえ「いえ……特には…」

尾上「それでは……あなたはご自身に罪を着せた犯人と面識がありますか?」

かなえ「……いいえ」

尾上「……なるほど、ありがとうございます」

アリア「何よ……ママを疑うの!?」

剣護「んなわけあるか。落ち着け」

尾上「それでは最後に一言」

 

尾上の言葉に剣護以外の3人の表情が険しくなる。

 

尾上「娘さんのことが心配でしょうが……ご安心ください。我々もできる限りのサポートをします」

かなえ「……はい。ありがとうございます」

尾上「それでは、我々はこのあたりで……」

かなえ「はい。娘をよろしくお願いします……」

アリア「ママ……絶対に無実を証明するから……!」

かなえ「えぇ……キンジさん、剣護さん……アリアをお願いしますね?」

キンジ「……わかりました」

剣護「……委細承知しました」

 

剣護達は警察署を後にすると近くのカフェに入っていった。

 

 

 

 

尾上「さて、いろいろ話したいことはあるだろうが……まずは改めて、公安0課の尾上忠典だ。よろしく頼む」

アリア「神崎・H・アリアです」

キンジ「遠山キンジです。尾上さんと剣護はどんな関係なんだ?」

剣護「ちょっとした先祖関係だよ」

アリア「そういえば、アンタについて知らないことが多いわね」

剣護「今は良いだろそんなもん。尾上さん」

尾上「あぁ、この間のバスジャックのことだが……まだ犯人が特定できなくてな……」

アリア「やっぱりね……『武偵殺し』は一筋縄じゃいかないわ」

剣護「隠蔽工作の可能性もあるというわけだ」

アリア「なるほどね……でもなんで公安0の人があたし達に協力してくれるのよ?」

尾上「あぁ、剣護に頼まれたんだ。君がパーティーを組むことに何か理由があるんじゃないかってな」

剣護「ゔっ……」

 

アリアとキンジの視線が剣護に集中する中で耐え切れなくなったのか剣護は叫ぶ。

 

剣護「ナズェミテルンディス!」

キンジ「オンドゥル語出てるぞお前」

アリア「まっ……ありがとね」

剣護「うるせえやい!」

尾上「俺もできる限りのことはする。ただ上からの圧力で動くことを限られるが……」

アリア「行動はあたし達ってことね」

尾上「そういうことになる。だがサポートなら任せてくれ」

アリア「えぇ、わかったわ。……でも」

剣・金『でも?』

アリア「あたし……明日ロンドンに帰らないといけないの……」

尾上「なるほど……向こうに呼び出されたか」

剣護「うーん……こっちの戦力減っちまうけど……どーするよキンジ」

キンジ「いや俺に言われても困る」

アリア「本当にごめん……」

剣護「なら手分けして調べれば良いだろ。アリアはロンドンで、俺らはこっちでさ」

尾上「うむ、その方が効率が良いかもしれん」

アリア「えぇ、そうね」

 

その時、剣護の携帯が鳴り響く。文からの電話だった。

 

剣護「もしもし。うん……うん……わかった」

キンジ「どうかしたか?」

剣護「ちょっと平賀さんから呼び出しが掛かった。それじゃ!」

尾上「うむ、俺も失礼するとしよう。『武偵殺し』についてもう少し洗ってみる」

アリア「ならあたし達も帰りましょうか」

キンジ「そうだな」

 

剣護達はカフェを後にするとそれぞれの場所に戻っていった。

 

 

 

 

剣護は装備科の倉庫に来ていた。さっきの電話のとおり文に呼び出されたからである。

 

平賀「あ、来た来た」

剣護「よう、平賀さん。今度はなんぞ?」

平賀「これのサイズを合わせるから来てもらったのだ」

剣護「なぁにこれぇ?」

 

文がゴソゴソと取り出したのは黒いアンダースーツだった。

 

平賀「これはTF-00用のアンダースーツなのだ。防弾防刃を兼ね備えたスーツで超高速の動きもへっちゃらなのだ!」

剣護「ほほう……超高速戦闘でも大丈夫なわけか」

平賀「でも加速し過ぎるとこれ着てても首を痛めちゃうから注意するのだ」

剣護「泊さんみたいになるわけか……」

平賀「そーなのだー!でも耐久も無限じゃないから気をつけてね」

剣護「ほむほむ……」

平賀「それじゃあ……早速取りかかるのだー!」

剣護「オーッ!って……エ?」

 

そう言った矢先に装備科の生徒達がメジャーや物差しなどを持って剣護を取り囲む。

 

剣護「ちょっこれ聞いてな……俺の側に近寄る……ウワァァァァァ!?」

 

この日の夕方、装備科の倉庫で1人の男子生徒の崖っ淵で尋問された挙句真っ逆さまに落とされたような断末魔が学園島に響いたそうな。

 

 

 

 



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第6話 『武偵殺し』とご対面

週明けの夕方、キンジは理子に大事な話があると呼ばれて台場のクラブ・エステーラに来ていた。

 

キンジ「で、話ってのはなんだ」

理子「あーんしてくれたら教えてあげる」

 

背に腹はかえられず、仕方なくキンジは理子からモンブランを一口もらうと目で早く教えろとすごむ。

 

理子「くふ、あのね。警視庁の資料にあったんだけどね……過去に『武偵殺し』にやられた人ってバイクとカージャックこ2人だけじゃないかもしれないんだって。そこに見つけちゃったんだ。多分、そうじゃないかなぁって名前」

キンジ「なんだよそ……れ……!」

 

キンジは背筋が凍るような感じに襲われつつも目を見開き、理子が取り出したコピー用紙を見つめる。

 

『2008年12月24日 浦賀沖海難事故 死亡 遠山金一武偵(19)』

 

そのコピー用紙にはキンジの兄、金一の名前が書いてあった。それを見てキンジは意識が飛びそうになった。

そんなキンジを見て理子は快感を得たような表情で近づき、しがみつき長椅子の上に押し倒す。

 

キンジ「理子!?」

理子「ねぇ、キンジぃ……せっかく個室取ったんだから……ゲームみたいなこと、してもいいんだよ……?だぁーれにもバレないし、白雪はS研の合宿だし、アリアはイギリスに帰るから……今はもう羽田かな。だから……理子といいことしよ?くふふっ」

 

理子が誘惑しながら迫る中、ヒステリアモードに覚醒していたキンジは頭の中に何かが閃いた。

キンジは一瞬で推理すると理子の目の前で指を鳴らした。

 

キンジ「お子様は、そろそろお家でネンネの時間だろう?」

理子「ひゃあっ!?」

 

理子を抱え上げ、体を入れ替え長椅子に横たわらせ立ち上がると部屋を飛び出していった。

 

 

 

 

キンジは羽田空港の第2ターミナルに着くとゲートに飛び込み、ハッチを閉じつつあったロンドン行きの飛行機に駆け込んだ。

 

キンジ「武偵だ!離陸を中止しろ!」

CA「お、お客様!?失礼ですがどういう」

キンジ「説明をしてる暇はない!とにかくこの飛行機を止めるんだ!」

 

慌てて駆けていったアテンダントが見えなくなるとキンジはその場で膝をつく。ここまでの全力疾走で体力がほとんど残ってないのだ。

アテンダントが戻ってきて話を聞くと管制官からの命令でしか止められないらしくキンジは窓を睨んでから頭をフル回転させる。

 

(仕方ない……作戦を変えるか……剣護が居てくれたらなぁ……あいつどこ行ったんだよ……)

 

アテンダントを落ち着かせ、キンジはアリアのいる個室に案内してもらった。

アリアと合流すると案の定アリアはキンジに詰め寄ってきた。

 

アリア「な、なんでキンジがここに!?」

キンジ「まあちょっとな……」

アリア「アンタがいるってことは剣護も?」

キンジ「いや、あいつとは一緒じゃない。っていうかどこ行ったんだよあいつ」

アリア「あたしが知るわけないじゃない」

キンジ「だよなぁ……」

 

しばらくして機内放送が流れ機体が少し揺れ始める。さらに雷が鳴り響き、それを聞いたアリアがガタガタと震えベッドに潜り込んだ。

 

アリア「き、キンジぃ……」

キンジ「はいはい、テレビつけてやるから」

アリア「う、うん……」

 

『この桜吹雪、見覚えがねぇとは言わせねえぜ!』

 

ドォォォォン!

 

「うひゃあ!?」

「おぉう!?」

 

キンジがテレビをつけて遠山の金さんのセリフが流れるとともに雷が近くで鳴り響いて2人は軽く飛び上がる。

 

アリア「うぅぅぅ……」

キンジ「大丈夫だって、な?」

 

ベッドに埋もれるアリアを宥めているその時だった。

 

 

パンッ!パァンッ!

 

 

機内で音が鳴り響く。先程まで聞いていた雷鳴ではなく、キンジ達が最も聞き慣れている銃声である。

キンジは通路に出て、銃声のした機体前方を見るとコックピットの扉が開け放たれており、さっきのアテンダントが機長と副操縦士を引きずり出し、床に投げ捨てた。

 

キンジ「動くな!」

CA「Attention Please.でやがります」

 

キンジは拳銃を向けるが、アテンダントは胸元からガス缶を取り出すと放り投げる。キンジは機内にいる全員に部屋に戻れと叫ぶと自分もアリアを部屋に押し込み扉を閉める。

 

キンジ「あのフザケた喋り方……あいつが『武偵殺し』だ。やっぱり出やがった」

アリア「やっぱり……?あんた分かってたの?」

キンジ「『武偵殺し』はバイクジャック、カージャックで事件を始めてさっき分かったことなんだが、シージャックである武偵を仕留めた。そしてそれは、たぶん直接対決だった」

アリア「……どうして」

キンジ「そのシージャックだけお前が知らなかったからだ。電波、傍受してなかったんだろ」

アリア「う、うん」

キンジ「ヤツは電波を出さなかった。つまり、遠隔操作する必要が無かった。ヤツ自身がそこにいたからだ。バイク、自動車、船と大きくなるのと同じように今回は自転車、バス、そして飛行機だ」

アリア「……ってことは」

キンジ「そうだ。コイツはメッセージだったんだ。お前は最初からヤツの手のひらの上で踊ってたんだ。かなえさんに罪を着せ、宣戦布告して、そして兄……いや、シージャックで殺られた武偵を仕留めたのと同じ3件目で、今、お前と直接対決しようとしてる。このハイジャックでな」

キンジの推理を聞いて、アリアは、ギリ、と歯をくいしばる。そこにベルト着用サインが注意音と共に点滅をし始めた。

 

アリア「和文モールス……」

 

アリアが呟いたのを聞いたキンジはそれを解読してみる。

 

オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ

オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イル ト オモウ

 

キンジ「……誘ってやがる。でも、なんで最後曖昧なんだ」

アリア「知らないわよ。風穴あけてやるわ」

 

和文モールスの曖昧な部分に違和感を持ちつつも2人は1階のバーへと向かっていった。

 

 

 

 

アリアとキンジは慎重に1階へと降りていき、バーのカウンターを見るとフリルだらけの武偵高の制服を着たアテンダントと1人のバーテンダーがいた。

 

CA「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねえ」

 

アテンダントはそう言いながら、ベリベリと顔に被せていた、薄いマスクみたいな特殊メイクを剥ぎ、中から出てきたのは

 

キンジ「理子!?」

理子「Bon soir」

 

手にした青いカクテルを飲み、キンジにウィンクしてきたのは理子だった。

 

理子「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才がけっこういる。でも……お前の一族は特別だよ、オルメス」

アリア「!……あんた……一体何者……!」

 

アリアの問いに理子はニヤリと笑いながら答えた。

 

理子「理子・峰・リュパン4世。それが理子の本当の名前」

キンジ「リュパンって……探偵科の教科書に載ってた、あのフランスの大怪盗……」

理子「そう。でも……家の人間はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母さまがつけてくれた、このかっわいい名前を。呼び方がおかしいんだよ」

アリア「おかしい……?」

 

アリアがそう呟くと理子は突然キレた様子で叫ぶ。自分は理子だ、数字じゃないと怒っていた。

 

理子「100年前、曾お爺さま同士の対決は引き分けだった。つまりオルメス4世を斃せば、あたしは曾お爺さまを超えたことを証明できる。キンジ……お前もちゃんと、役割を果たせよ?」

キンジ「なに…………?」

理子「オルメスの一族にはパートナーが必要なんだ。初代オルメスにも優秀なパートナーがいた。だから条件を合わせるために、お前をくっつけてやったんだよ」

キンジ「俺とアリアを、お前が……?」

理子「そっ。正直、剣護は予想外だったけどね。かなり。キンジのチャリに爆弾仕掛けて、わっかりやすぅーい電波を出してあげたの」

アリア「あたしが電波を追ってることに気付いてたのね……!」

理子「そりゃねー。あんなに堂々と通信科に出入りしてればね。でもキンジがあんまり乗り気じゃないみたいだったから、バスジャックで協力させてあげたんだぁ」

キンジ「バスジャックも……!?」

理子「キンジぃー。どんなに理由があっても、人に腕時計を預けちゃだめだよ?狂った時間を見たら、バスにチコクしちゃうぞー?」

キンジ「何もかも……お前の計画通りってワケかよ……!」

理子「んー。そうでもないよ?予想外のこともあったもん。主に剣護のことなんだけどね……チャリ蹴るわ、銃弾斬るわ、トライドロン作ってるわ……うん、なんかこの先もいろいろやりそう」

金・アリ『それは否定しない』

理子「もしかするとこの飛行機に乗ってたりしてね?」

金・アリ『……ありそう』

理子「まあとりあえず、キンジが理子がやったお兄さんの話を出すまで動かなかったのは、意外だった」

キンジ「兄さんを、お前が……お前が……!?」

 

兄のことを出されてキンジはふつふつと頭に血が上っていくのを感じていた。

 

理子「くふ。ほらアリア。パートナーさんがおこだよー?一緒に戦ってあげなよー!あとねキンジ。いいこと教えてあげる。あなたのお兄さんは……今、理子の恋人なの」

キンジ「いい加減にしろ!」

アリア「キンジ!理子はあたしたちを挑発してるわ!落ち着きなさい!」

キンジ「これが落ち着いてられるかよ!」

 

 

 

 

???「それなら、私の出番でございますね」

 

 

 

 

金・アリ・理『え?』

 

理子「ほがっ!?」

 

突然、バーテンダーが口を開いたかと思えば次の瞬間、いきなり理子が吹っ飛んで壁に激突する。あのバーテンダーが理子を殴り飛ばしたのである。

 

キンジ「え?え?……え!?」

アリア「え……て、店員さん?」

理子「ゲホッ……な……え……?」

???「少々おいたが過ぎましたねぇ……峰理子様」

アリア「だ、誰なの……?」

 

アリアの呟きにバーテンダーはニコリと笑うと理子と同じようにベリベリと顔のマスクを外して服をバッと剥いで、出てきたのは

 

剣護「ドーモ、理子・峰・リュパン4世=サン、月島剣護です」

 

武偵高の制服を着て、両腕に手甲を付けた剣護だった。両手を合わせお辞儀をしてアイサツの姿勢をしている。

 

金・アリ・理『えぇぇぇぇ!?』

 

機内に3人の絶叫が響く。無理もないだろう、バーテンダーに変装していたのは剣護だったのだ。武偵徽章を使い、飛行機に乗り込み、このバーの店員にお願いして代わってもらっていたのである。

 

理子「なっ……剣護、本当にいたの!?」

剣護「冗談で言ってたのかよ。一瞬バレたかと思って内心焦ったわ」

アリア「あ、アンタいつから理子が『武偵殺し』って気付いてたの?」

剣護「バスジャックが解決した後、理子の部屋に小型メカ忍ばせて盗撮、盗聴してた。しかも全部」

理子「理子のプライベートォォォォ!」

剣護「いやぁ〜……面白いくらいペラッペラペラッペラ独り言で喋ってくれてさ〜」

理子「あああ……ああああ……」

剣護「まあ……うん……ちょっとヤバいもんも写っちゃってるんだけどもさ」

理子「ま、まさか……夜中のも!?」

剣護「………………まあ」

理子「……理子、もうお嫁に行けない……」

 

剣護のあまりの行動にアリアとキンジはこう思った。

 

金・アリ(ダメだこいつ……もうどうにもできねえ……)

 

剣護が散々やり過ぎたせいで燃え尽きたかのように真っ白になって項垂れる理子を見て、アリアとキンジも流石に理子に同情の目を向けるのだった。

 

 

 

 



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第7話 リュパン4世vs月島剣護!

理子「……ハッ!」

 

先程まで真っ白に燃え尽きていた理子はなんとか正気を取り戻すとブンブンと頭を振るって3人を睨みつける。

 

理子「ま、まさか剣護が変装して潜っていたとはね……流石の理子も分からなかったよ」

剣護「そりゃどーも。反省もしないし後悔もしないがな」

金・アリ『反省はしろ(しなさい)』

理子「でも……そんな余裕もここまでだよ」

 

理子はワルサーP99を構える。アリアとキンジもそれぞれ武器を構え、臨戦態勢に入る。

 

アリア「剣護、あたしがやるわ。理子の目的もあたしよ」

剣護「なら俺はお前らの隠し玉さね。やりな」

アリア「どうも!」

 

アリアは床を蹴ると二丁のガバメントを構えて理子に襲いかかった。

理子はスカートからワルサーをもう一丁取り出すが、アリアは止まるわけにはいかずバリバリと至近距離から発砲する。

お互いに至近距離から格闘を混ぜながら撃ち込んでいく。

 

アリア「はっ!」

 

弾切れを起こした瞬間、アリアは両脇で理子の腕を抱え、銃撃が止む。

 

アリア「キンジ!剣護!」

 

キンジはバタフライナイフを開き、剣護は小太刀を抜き、理子に近づく。

 

キンジ「そこまでだ理子!」

剣護「大人しくしやがれ」

 

しかし、そこで理子が口を開いた。

 

理子「奇遇よね、アリア。理子とアリアはいろんなところが似てる。家系、キュートな姿、それと……2つ名」

アリア「え?」

理子「あたしも同じ名前を持ってるのよ。『双剣双銃の理子』。でもねアリア」

 

キンジは止まり、剣護は何かを察知したのか駆け出そうと踏み込んだ。

理子の髪が生き物のように動いたのである。

 

理子「アリアの双剣双銃は本物じゃない。お前はまだ知らない。この力のことを!」

 

背後に隠していたナイフを握り、アリアに襲いかかる。アリアは一撃目は驚きながらも避けたが。

 

アリア「うあっ!」

剣護「ぐっ!」

 

続けて反対のテールのナイフによる二撃目でアリアは側頭部を、剣護は左頬を切られた。アリアは後ろに仰け反り、剣護はアリアを受け止め後ろに飛んだ。

 

理子「あは……あはは……曾お爺さま。108年の歳月は、こうも子孫に差を作っちゃうもんなんだね。勝負にならない。コイツ、パートナーどころか、自分の力すら使えてない!勝てる!勝てるよ!理子は今日、理子になれる!」

剣護「……ふぅ……」

 

理子の笑い声にバツンッと剣護は自分の中で何かが切れたような感覚に襲われ、体の奥底から煮えたぎるようなものを感じていた。

 

剣護「キンジ、アリアを連れて一旦逃げろ」

キンジ「で、でも……剣護はどうすんだよ」

剣護「あいつをどつき倒す。意識が無くなるまで斬りまくって殴りまくる」

キンジ「ほ、ほどほどにな……わかった。ここは頼む」

剣護「急げ、キンジ!」

 

キンジはコクリと頷くとアリアを抱え二階に走っていくのを見送ると、剣護は理子の前に立ち塞がった。

 

理子「きゃはは!狭い部屋の中どこに行こうっていうの?」

剣護「さあね、俺にも分からん」

理子「あはは!ならアリアを殺す前に剣護と遊ぼうかなぁ?あははは!」

剣護「遊びになると良いけどな」

 

理子は髪を操って剣護に襲いかかる。剣護は深く呼吸をすると一気に踏み込み距離を詰める。

 

理子「速っ…!?」

剣護「月島流拳技!蓮華掌!」

 

懐に潜ると渾身の掌底を放ち、理子はギリギリで両腕で防ぎそのまま後ろに吹っ飛ぶ。

 

剣護「チッ。後ろに飛びやがったか」

理子「っ……!かーなり危なかったけどねぇ…でも」

 

プラプラと腕を振ってから理子は中国拳法の構えを取る。

 

理子「体術なら理子も負けてないんだよねぇ」

剣護「へっ、上等ォ…」

 

剣・理『ハッ!』

 

2人はお互いに拳を繰り出し、お互いに反対の腕で受け止める。

 

理子「ふっ!」

剣護「シィ!」

理子「ほっ!」

 

理子は髪を操りナイフを振り回し、身体のあちこちに掠めつつも剣護は蹴りを放ち、理子は軽やかに避ける。

 

理子「くふっ……容赦ないねー剣護は」

剣護「容赦する余裕も必要もないもんで……な!」

理子「うおっと!」

 

剣護は小太刀を振るうが髪を掠めるだけで避けられる。

 

剣護「ぜぇあ!」

理子「ふっ……はあ!」

剣護「むん!」

 

続けて振るわれた手刀を避けると理子は両手を剣護の腹に添えて衝撃を打ち込むが、剣護は床を踏み込み受け止める。

 

理子「うっそでしょ……!?」

剣護「ぐっ……なんのぉ…!」

理子「両手でやったのに耐えられるとかどんだけ頑丈なんだよ…!?」

剣護「まあな……」

 

理子「…ねえ、ツッキーもイ・ウーに来なよ。イ・ウーならもっと強くなれるよ?」

剣護「…悪いがお断りだな。犯罪者どもの仲間になる気ねえし」

理子「そっか…それなら…」

剣護「あぁ……」

 

理子はワルサーを両手に構え、剣護も腰を落とし身構える。

 

理子「ここでお別れだね!」

剣護「やれるもんならなぁ!」

 

剣護が疾走すると同時に理子は発砲、銃弾を小太刀で弾いて剣護は拳を構える。

 

剣護「月島流拳技……鉄鋼強…っ!?」

 

拳を繰り出そうとした瞬間、両足に激痛が走り剣護は膝をついてしまう。

 

理子「くふっ…引っかかったね」

 

両足を見ると太腿にナイフが深く突き刺さっていた。

 

理子「正面にばっかり気を取られてちゃダメだぞー?剣護?」

剣護「チッ。頭に血が昇ってたのが仇になったかね…」

理子「くふふ……それじゃあ剣護、今度こそ…」

 

ナイフとワルサーを突きつける理子。足を封じられても剣護は相手から目を離さず、痛みを気にせず集中力を高める。

 

理子「お別れだよ!」

剣護「どうだかな!」

 

ほぼ全く同時に理子はナイフと銃弾を、剣護は拳をお互いに繰り出し破裂音と打撃音がバー全体に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理子「バッドエンドのお時間ですよー。くふふっ。ゴフッ」

 

理子は痛む腹部を押さえながらスィートルームへと入ってくる。

 

理子「もしかしたら仲間割れして自滅しちゃうかなーなんて思ってたんだけど。そうでもなかったみたいなんで、ここで理子の登場でーす……いたた。」

キンジ「話すか痛がるかのどちらかにしろよ」

理子「それより、アリアは?まさか死んじゃった?」

キンジ「さあな、そっちこそ剣護はどうした」

理子「多分殺したよ。相打ちだったけど」

キンジ「そうかい」

理子「ふふふっ……そういうキンジ、ステキ。勢い余って殺しちゃうかも」

キンジ「そのつもりで来るといい。そうしなきゃ、お前が殺される」

理子「さいっこー。キンジ、見せてよ。オルメスのパートナーの力」

 

引き金を引こうとした理子に、キンジは酸素ボンベを盾にするように掲げた。理子の手が一瞬止まったのを見逃さずに、キンジはボンベを投げつけながら、バタフライナイフを開き、飛びかかろうとする。

 

しかし、次の瞬間、飛行機が大きく傾いてキンジは姿勢を崩す。理子はそれを逃さずワルサーを撃った。

銃口から弾丸が放たれ、右にも左にも避けられないキンジは咄嗟にナイフで弾丸を、斬った。それを見た理子が目を見開いた瞬間、アリアから借りた黒のガバメントを理子に向ける。

 

キンジ「動くな!」

理子「アリアを撃つよ!」

 

がたんっ!

 

理子がワルサーをシャワールームに向けた時、天井の荷物入れに入っていたアリアがガバメントで理子のワルサーを弾き、さらに背中から刀を抜くと同時に理子の左右のツインテールを切断した。

 

理子「うっ!」

 

理子は両手を自分の側頭部にあて、焦ったような声を上げるが、これだけでは終わらなかった。

 

剣護「はあぁぁぁぁ!」

理子「はっ!?」

剣護「月島流拳技、鉄鋼強打ぁ!!」

理子「ごぶぉ!?」

 

理子に殺されたはずの剣護が猛突進してきて勢いを乗せた拳を叩き込んだ。もろに直撃した理子は吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

 

キンジ「峰・理子・リュパン4世」

アリア「殺人未遂の現行犯で逮捕するわ!」

 

キンジとアリアにガバメントを向けられ、理子は目を回しながら

 

理子「そ、そっかぁ。ベッドにいると見せかけて、シャワールームにいると見せかけて、どっちもブラフ。キャビネットの中に隠してたのかぁ……すごぉい。ってそれよりなんで剣護は生きてるの?ナイフと銃弾食らったよね!?」

剣護「あ?あんなもんで俺が死ぬかバーカ。痛かったけど」

キンジ「いや血だらけなんだが……」

アリア「かなりタフね……」

理子「タフどころじゃないよぉ……化け物だよもはや。ま、3人とも誇りに思っていいよ。理子、ここまで追い詰められたのは初めて」

剣護「どうせならこれ以上に精神を追い詰められるけど?」

キンジ「それはやめてやれ」

アリア「追い詰めるも何も、チェックメイトよ」

理子「ぶわぁーか」

 

キンジが理子を捕らえようと踏み出した瞬間、ぐらりと機体が大きく傾いた。

姿勢を崩したアリアと剣護は壁にぶつかり、キンジは倒れないように踏ん張っていた。

 

理子「それじゃーねー。いつつ……」

 

そんな中、理子は腹部を押さえながら脱兎の如くスィートルームから出ていった。

 

 

 

 

キンジと剣護は理子を追って、階段を降りるとバーの片隅で窓に背中をつけるようにして立っている理子がいた。

 

キンジ「狭い飛行機の中、どこに行こうっていうんだい、仔リスちゃん」

剣護「しかも腹を押さえながら」

理子「剣護のせいだからね!それより2人とも。それ以上は近づかない方がいいよー?」

剣護「あぁ、ダ○ョウ倶楽部的な」

理子「違うよ!?ま、まあご存知の通り『武偵殺し』は爆弾使いですから」

キンジ「……おいまさか」

 

次の瞬間、理子の背後が爆発して壁に丸い穴が開く。理子はその穴から飛び出して、さらにはガクンと体勢を崩した剣護も穴から飛び出して落ちていった。

 

剣護「あぁぁぁぁぁ……」

キンジ「うおぉぉい!?お前もか!?」

 

次の瞬間、理子と剣護と入れ違いに2つのミサイルがANA600便に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「……おい理子。あのミサイルもお前か?」

理子「いや理子じゃないし。なんでしがみついてるの」

 

理子と一緒に飛び出てしまった剣護は理子の足にしがみついて、一緒に降りていた。

 

剣護「状況判断だ。大人しく相乗りさせてくれ」

理子「なんでやり合った奴と相乗りしないといけないんですかね……」

剣護「一応、制服にウィングスーツ仕込んでるけど」

理子「なら飛んでよ!?」

剣護「だが断る!と言いたいとこだが……」

理子「……多分あれ墜ちるね」

剣護「というわけだ。電話したら飛ぶさね」

理子「なら早くしてよー。理子、お腹がすんごい痛いんだけど」

剣護「はいはいっと」

 

剣護は携帯を取り出すとコードを入力した後、誰かに電話をかける。

 

平賀『はい、平賀ですのだー!』

剣護「もしもし?平賀さん?」

平賀『あ、剣護くん。何か用なのだ?』

剣護「ハイジャックの件は知ってるな?」

平賀『うん、武藤くん達と今話してたのだ。キンジくんから連絡があって』

剣護「オーケー。そのことで早急にアレを用意して欲しい。TF-00を」

平賀『了解なのだ。アンダースーツは着てるのだ?』

剣護「 もちろん。トライドロンでそっちに行くから頼んだ」

平賀『りょーかいなのだ!』

 

剣護は携帯を切るとフーッと一息ついた。

 

理子「終わった?」

剣護「おう、悪かったな」

理子「くふふっ。また会おうね、ツッキー」

剣護「次は敵じゃないと良いがな」

 

バッと理子から離れると剣護はネクタイを引っ張りウィングスーツを展開し、滑空していった。

 

 

 

 

 

 



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第8話 星空の『独唱曲』と『BGM』

剣護が落ちてからしばらくして、理子によるハイジャックで襲われた飛行機は羽田を封鎖され、人工浮島に着陸することになった。

 

キンジ「武藤、当機はこれより着陸準備に入る」

武藤『待てキンジ、「空き地島」は雨で濡れてる!2050じゃ停止できねえぞ!』

平賀『そこはあやや達がなんとかするのだ!』

キンジ「平賀さん?」

武藤『おい、平賀さんなんとかするって……』

平賀『さっき剣護くんから連絡があって例のアレを使うのだ』

金・アリ『例のアレ?』

 

文の言う例のアレのことでアリアとキンジの声がハモる。

 

アリア「ちょっと文、例のアレって何よ?」

平賀『秘密兵器とでも言っておくのだ。とにかくこっちに任せるのだ!』

キンジ「了解。良いか?武藤」

武藤『もうどうにでもなりやがれ!しくじったら轢いてやるからな!』

 

武藤は教室のみんなに怒鳴り散らしながら電話を切った。

 

 

 

 

武藤が電話を切ってすぐに剣護が多少ふらつきながらも学校に到着した。

 

剣護「お待たせ!みんな!」

武藤「剣護!?なんだお前血だらけじゃねえか!?」

剣護「知るか!それより急いで準備だ!」

武藤「お、おう!みんな!装備科の懐中電灯をかき集めろ!」

平賀「剣護くんこっちなのだ!」

剣護「おう!」

 

武藤の指示で教室のみんなはそれぞれ散会していき、剣護は文に連れられ装備科の倉庫へと走る。倉庫では装備科の生徒達が集まっていた。

 

装備科生「おーい。こっちこっち」

平賀「早く装着するのだ!」

剣護「よっしゃ!トップギアでお願いします!」

装備科生「オッケーイ!スタート!ユア、エンジン!」

 

用意されていたのは『TF-00』。蔵王重工という企業と文が開発したもので小型エンジンなどを積んでF1みたいなアーマーにしたもので、別名『タイプフォーミュラ』という。ぶっちゃけるとドライブ元にした特殊装備である。

 

緊急時にも関わらずノリノリで剣護にアーマーを装着していく。上半身の装甲から手足、頭部と着々と進んでいき、武藤から連絡が入った頃には完了していた。

 

武藤『こちら武藤!準備完了だ!そっちは?』

剣護「こちら剣護。こっちもオーケーだ。すぐに出よう」

武藤『よし!車輌科のモーターボートパクったんだ。早く来てくれ!』

剣護「了解!」

平賀「行くのだー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、キンジとアリアは人工浮島に向かって飛んでいるが、暗闇に包まれていて空き地島が見えず何もわからない状況だった。

 

アリア「キンジ。大丈夫。あんたにならできる。できなきゃいけないのよ。武偵をやめたいなら武偵のまま死んだら負けよ。それに、あたしだってまだママを助けてない!!」

キンジ「あぁ……そうだな……!」

アリア「あたしたちはまだ死ねないのよ!こんなところで、死ぬわけがないわ!」

剣護『お前らが死ぬわけがねえだろ。なぜなら』

 

聞き慣れた声が聞こえると共にキラキラと空き地島の上に光が見え始める。

 

剣護『俺たちがお前らを死なせないからだ!!』

武藤『キンジ!見えてるかバカヤロウ!』

キンジ「剣護!武藤!」

 

キンジとアリアがバスジャックから助けた生徒たちが誘導灯を作り、その向こうの中心に青いF1ボディを纏った剣護が立っていた。

 

武藤『お前が死ぬと、白ゆ……いや、泣く人がいるからよぉ!俺、車輌科で一番でかいモーターボートをパクっちまったんだぞ!装備科の懐中電灯も、みんなで無許可で持ち出してきたんだ!全員分の反省文、後でお前が書け!』

キンジ「あぁ……わかったよ!」

剣護『おっしゃあ!キンジ!アリア!フルスロットルで……ひとっ走り付き合えよ!!』

 

剣護のセリフにキンジとアリアは顔を見合わせクスッと笑うと大声で叫ぶ。

 

金・アリ『上等!!』

 

 

 

 

武藤「来るぞ剣護!」

平賀「行くのだ!」

剣護「はっ!」

 

剣護は加速レバーを3回倒しフルスロットルを発動するとANA600便に突っ込んでいく。地上走行用のステアリングホイルが地面に着くと同時にジャンプして加速を載せたキックを放ちぶつかり合う。

 

剣護「ふんぐぐぐ……!」

 

アリアも逆噴射をかけて、キンジももしもの場合に備える。

 

アリア「いっけぇぇぇぇ!」

キンジ「止まれぇぇぇ!」

剣護「おおぉぉぉぉ!!」

 

剣護はさらに6回加速レバーを倒して加速していく。その時、ボディからバチバチとスパークが走り、文が叫ぶ。

 

平賀「剣護くん!それ以上は爆発するのだ!」

剣護「構わない!それが仮面ライ……じゃなくて武偵だ!」

武藤「言いかけたよな?完全に仮面ライダーって言いかけたよな?」

 

ネタを挟むも飛行機はスピードは落ちてるもののなかなか止まらない。

 

アリア「止まれ、止まれ、とまれとまれとまれぇーーっ!!」

キンジ「頼む……止まれぇぇぇぇぇ!!」

剣護「っ……うおおらあああああああ!!」

 

さらにガチャガチャと6回加速レバーを倒して加速していき噴射炎が大きくなり、スパークも激しくなっていく。

 

平賀「あと少し!」

武藤「頑張れー!」

剣護「っ!自爆覚悟の……20回、超加速だぁぁぁぁぁ!!」

 

さらに5回倒して決死の20回に及ぶ超加速により衝撃波が周りに迸る。

 

剣・金・アリ『止まれえええええ‼︎』

 

キンジ、アリア、剣護の3人の叫びが重なると同時にANA600便がついに止まり、さらに同時にタイプフォーミュラも爆発して地面に叩きつけられた。

 

剣護「やっ……た…………ぜ」

 

武藤や文達が駆け寄る中、その言葉を最後に剣護の意識は暗闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく経って、3人は寮のキンジと剣護の部屋のベランダで夜景を眺めていた。

 

アリア「東京でこんなキレイな星空、見えるとは思わなかったわ」

キンジ「台風一過ってヤツだな」

剣護「……首痛い」

アリア「あんなことするからよ」

キンジ「よく生きてたなお前」

 

あの後、剣護は生命的にかなりヤバかったらしくキンジ達の必死の呼びかけでなんとか戻ってきたそうな。これには流石に医者も奇跡としか言いようがないそうだ。

 

アリア「あんた本当に人間?」

剣護「人間です!」

キンジ「巨人倒す兵士かお前は」

剣護「うるせえやい」

 

そう言って3人で笑い合う中、アリアがもじもじとしながら喋りだす。

 

アリア「あのさ。空で……あたし、分かったんだ。なんであたしに『パートナー』が必要なのか。自分1人じゃ解決できないこともある。あんた達がいなかったら、きっと、あたし……」

金・剣『……』

アリア「だから今日はね、お別れを言いにきたの」

キンジ「……お別れ?」

剣護「なん……だと……」

アリア「やっぱり、パートナーを探しに行くわ。ホントは……あんた達だったらよかったんだけど。でも、約束だから」

キンジ「約束?」

アリア「1回だけ、って約束したでしょ?」

キンジ「あ、ああ……」

剣護「え?アレ俺にも適応されてたの?」

 

剣護のことをスルーしてアリアは決心したようにキンジを真っ直ぐと見つめた。

 

アリア「……キンジ。あんたは立派な武偵よ。だからあたし、今はあんたの意思を尊重するし、もう……ドレイなんて呼ばない。だから……もし、気が変わったら……その、もう一度会いに来て。その時は今度こそあたしの、パートナーに……」

キンジ「……悪い」

剣護「…………チッ」

 

アリアの申し出にキンジは目を逸らしながら断った。それを見て剣護は小さく舌打ちした。聞こえてたのか2人は剣護の方を見るが剣護は思い切り目を逸らし、それから3人は一緒に笑い合った。

 

 

 

アリアが玄関で靴をはいてる間、剣護は自室に入っていった。キンジはアリアを見送っていた。

 

剣護「…………やれやれだぜ」

 

アリアが部屋から出たらしく、外からの泣き声を剣護は聞くと自室から刀を持って出て来て、キンジの横に立つ。

 

キンジ「剣護……」

剣護「ったく……男ならハッキリしやがれってんだ。お前の中でもう答えは出てるはずだ」

キンジ「っ…………」

剣護「アリアもお前も俺も、仮面ライダーとかみたいな正義の味方にはなれない。でもな……アリアの味方ぐらいにはなれるだろ?」

金・アリ『っ!』

 

剣護はわかっていた。扉の前で泣いてるアリアもこの話を聞いていることに。さらに剣護は続ける。

 

剣護「俺にはお前らみたいに家族や兄弟はいない。一人ぼっちだった。今のアリアは昔の俺と一緒だ。だからキンジ、お前が支えてやらなくちゃいけない。お前じゃないとダメなんだ。今のアリアには……お前が必要なんだよ」

キンジ「剣護……っ……あぁ、そうだよな……」

剣護「なら、とっとと開けてやんな。お姫さんが待ってるぜ」

キンジ「……あぁ!」

 

キンジは深く頷くと勢いよく扉を開けた。するとさっきまでそこで泣いていたアリアがキンジに飛び込んできた。

 

アリア「キンジぃぃぃぃ!!」

キンジ「ぐふぅ!?」

アリア「あ、ご、ごめん!」

キンジ「い、いや大丈夫だ……それよりアリア……その、パートナーのことなんだが……受けるよ。その申し出。お前は『独唱曲』だ……でも……『BGM』ぐらい俺がなってやるさ』

アリア「……うん……!」

 

キンジは照れ臭そうにしながら、アリアは涙をポロポロと零しながら、お互いに笑い合った。

 

剣護「全く……お互いに素直じゃないんだから……やれやれだぜ」

 

剣護はそう言ってキンジの転出申請の書類を手に取ると宙に放り投げ、2人のコンビ結成を祝うかのように、刀でそれを一刀両断した。

 

剣護「改めて、おめでとさん。キンジ、アリア」

 

 

 



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第二章 戦兄妹
第9話 戦姉妹結成!


 ドーモ、ALEX改です。今回から間宮あかり編に入ります。
 剣護のアミカは一体誰になるのやら。まあ、この話で決まるんですけどね。
 それではどうぞ!


アリア「間宮あかり。戦姉妹を賭けて、あたしと勝負よ!」

 

ある日の夕方、そんなアニメ声が武偵高に響いた。それは1人の1年生、間宮あかりにかけた神崎アリアの言葉である。

 

アリア「あんた、あたしに戦姉妹の申請をしたのよね?」

あかり「は、はい」

 

アリアに問われて、迫力に押されていたあかりもなんとか言葉を返す。

 

アリア「あたしは忙しいの。教務科の命令でも、無条件でお守りなんか……」

 

しないと言い切る手前でアリアはくるっと後ろを向くと目を凝らす。あかり、ライカ、志乃の3人もつられてアリアと同じ方向を見るとモウモウと砂煙が上がっていた。

 

あかり「……なにあれ?」

ライカ「んー……よく見えないなぁ」

志乃「あ、誰か走ってくるよ」

 

剣護「うおおおおおおお!!」

 

その姿を見て3人は1発で誰なのかを理解した。そう、アリアと同じクラスの男、月島剣護である。何故か焦った様子で爆走している。

 

あか・ライ・志乃『月島先輩!?』

アリア「ちょっ、剣護!?なんでこっち来るのよ!」

剣護「げぇっ!?関羽……じゃねえやアリア!?」

 

ズギャギャギャと急ブレーキして急停止する。

 

アリア「あんた何してんの?」

剣護「いやちょっとスーパーの特売が…」

アリア「主婦かあんたは」

剣護「そんで?何で1年達がいんの?」

アリア「実は……」

 

アリアは事の発端を剣護に説明する。

 

剣護「なーるほどねぇ……戦姉妹ねぇ……」

アリア「えぇ、そういうこと」

剣護「こいつに戦姉妹を申し込むたぁ、根性あんねぇ」

 

会話する2人をあかり達は目を丸くして見ていたがライカは剣護に近づくと話しかける。

 

ライカ「月島先輩!」

剣護「ん?」

ライカ「その……あたしと戦姉妹(アミカ)を組んでください!」

剣護「…………え?」

アリ・あか・志乃『え?』

 

ライカのまさかの言葉に剣護だけでなく、アリア達もポカンとしていた。

 

剣護「え……俺と……戦姉妹を?」

ライカ「はい!」

剣護「う、うーん……」

 

剣護は腕組みをして唸る。そしてしばらく唸ってから溜息をつくとライカに言った。

 

剣護「……わかった。なら、エンブレムだったな」

ライカ「はい」

アリア「それなら合同でやる?」

剣護「あぁ、そうしよう」

アリア「わかったわ、それじゃあ……」

剣護「あぁ、始めますか!」

 

アリアと剣護は脇腹に星のシールを貼り付け、タイマーをセットする。ライカはトンファーを構え、あかりも身構える。

 

アリア「あ、武器を使ってもいいわよ」

剣護「そこんとこは任せるさ」

志乃「あかりさん!ライカさん!頑張って!」

あか・ライ『はぁっ!』

 

2人はそれぞれ飛びかかり、アリアは桜の木に飛び、剣護は素手でトンファーを受け止める。

 

ライカ「っ!はあっ!」

剣護「ふっ!」

 

アリアとあかりは日本刀、ガバメントとナイフ、UZIで組み合い、剣護とライカは素手とトンファーでぶつかり合う。

 

アリア「おいで。鬼ごっこしよ」

剣護「ならこっちは組手だ!」

 

アリアはツインテールを翻し走り出し、剣護はライカに向かって駆け出す。

 

ライカ「あかり!頑張ってな!」

あかり「ライカも気をつけて!」

 

あかりはアリアを追いかけて、ライカは剣護を迎え撃ち、それぞれの思いを貫くために戦う。

 

剣護「はっ!」

ライカ「やぁっ!」

剣護「ふっ!」

ライカ「くっ……たぁっ!」

 

お互いに引けを取らず打ち、蹴り、投げ、などの技の応酬が繰り返される。しかし、それも少しの間だけでだんだんとライカが押され始めてくる。

 

ライカ「ぐっ!……はぁっ……はぁっ……らぁ!」

剣護「月島流、渓流捌き・無手」

ライカ「うわっ!」

剣護「せいっ!」

 

ライカの繰り出した拳をいなして、その勢いのまま投げ飛ばす。

 

ライカ「うっ……ぐっ……」

剣護「残り五分か……結構粘るじゃんか、ライカ」

ライカ「っ……ぐぅ……」

剣護「ふむ、ちょっとだけ聞かせてもらおうかな。なんで戦姉妹に俺を?」

ライカ「っ……中学の時に先輩のことを聞いて、それでどんな人なんだろうって気になって……武偵高で強襲科に入ってからずっと先輩のこと見てて…いろいろ教えてもらいたいなって思ってたんです」

剣護「……なるほどね……」

 

コキコキと首を鳴らして剣護はライカに向かって構え直す。

 

剣護「まあ、お前の思いはわかったよ。なら……早くエンブレムを取らないとな。あと3分だぞ」

ライカ「っ……はい!」

志乃「ライカさん、頑張って!」

ライカ「あぁ!」

剣護「これが最後だ。行くぞ!」

 

ライカも腰を落として構える。目を離さず真っ直ぐお互いに見据える。

 

剣護「月島流拳技」

ライカ「っ!おおお!」

 

剣護は左手を前に出して駆ける。それに対してライカも決死の覚悟で剣護に向かって突っ込んでいく。

 

剣護「螺旋巌砕拳!!」

 

踏み込んで捻りを加えたコークスクリューブローを繰り出す剣護。

 

ライカ(っ!ここだ!)

 

拳は迫る瞬間、ライカはギリギリのところでスライディングで回避してお互いすれ違う。

 

ライカ「はっ……はっ……よ、避けれた…?」

剣護「おぉう…マジかー……やるじゃあねえの」

ライカ「え……?」

剣護「自分の手見てみな」

 

見てみるとライカの左手には星型のエンブレムが握られていた。

 

ライカ「っ…てことは…!」

剣護「おう。合格だ」

ライカ「っ……ぃやったぁーーー!!」

 

志乃「す、すごい……」

 

佐々木志乃は先ほどの出来事に驚きを隠せないでいた。剣護の拳技もすごかったが、最後のライカの寸前での回避にもすごいと思った。

 

志乃(そして、月島先輩はまだまだ本気じゃなかった……)

 

今回で剣護は体術で相対した。本来の戦法の剣術で戦っていたら結果は違っていたのだろうと志乃はまだ見ぬ剣護の実力に息を飲んだ。

その後、アリアからあかりにエンブレムを取られたと連絡があり志乃とライカは喜び合った。

 

こうして間宮あかりと火野ライカは無事、それぞれ神崎アリアと月島剣護と戦姉妹になったのだった。

 

ちなみに剣護は特売のことをすっかり忘れており、思い出した頃には完全に時間が過ぎていて膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 



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第10話 佐々木志乃の策

 

剣護「んー……今日の夕飯何にしようかなー……」

 

ライカと戦姉妹契約した翌日の放課後、剣護は夕飯の買い出しに出ていた。夕飯を何にするか悩みながら歩いているとドンッと誰かにぶつかった。

 

???「きゃっ……!」

剣護「うおっと」

 

ぶつかった女の子は倒れそうになるが、間一髪剣護が腕を掴み事なきを得た。

 

???「あっ……ご、ごめんなさい!」

剣護「いや、こっちこそ悪かった。大丈夫か?」

???「は、はい。えっと……武偵高の方ですか……?」

剣護「ん?そうだけど……お兄さんかお姉さんでもいるの?」

???「は、はい。お姉ちゃんが……」

剣護「ふぅん……ちなみに名前は?」

ののか「あ、私、間宮ののかと言います」

剣護「間宮……あぁ、あかりの妹さんね」

ののか「お姉ちゃんを知ってるんですか?」

剣護「まあな。その子の友達と戦姉妹組んでるし」

ののか「はぁ〜……なるほど。ところでえっと……」

剣護「おっと、まだ名乗ってなかったな。月島剣護だ」

ののか「あ、どうも。月島さんは何用でここに?」

剣護「呼びやすい方で良いぞ。まあ、夕飯の買い出しにな」

ののか「そうなんですか……」

剣護「あぁ。そろそろ、行かないと」

ののか「あ、はい。またいつか」

剣護「おう。それじゃ」

 

剣護はそう言って駆けていくのをののかは見送ったが少し進んでから、振り返りののかの元へ戻ってきた。剣護は戻ってきてポケットから一枚のカードを取り出してののかに渡した。

 

剣護「そうだそうだ。君にこれを」

ののか「なんですかこれ?」

剣護「俺の連絡先。もしもの時は連絡してきな」

ののか「あ、ありがとうございます」

剣護「過去に何かあったようだが……まあ頑張ってな」

ののか「!?」

 

剣護のことにののかはビクッとしてなんでわかったのか聞こうとしたが既に剣護は人混みの中へ入っていた。

 

 

 

 

 

次の日の昼休み、剣護はライカに呼ばれて屋上に来ていた。

 

剣護「志乃の様子がちょっと変?」

ライカ「はい、なんというか……雰囲気がものっそいあかりに対して何かを抱いてるというか……」

剣護「……もしかしてヤンデレとか?」

ライカ「そこもよくわかんなくて……」

剣護「ふむ……ちょっと様子見してみるか……風魔!」

 

剣護が叫ぶと風に揺れる木の葉と共に何処からともなく1人のくノ一が現れた。風魔陽菜。キンジの戦姉妹で諜報科(レザド)の生徒である。

 

陽菜「お呼びでござるか。月島殿」

剣護「志乃の様子を探ってくれ」

陽菜「御意」

剣護「報酬は……そうだな。今度夕飯食いに来い」

陽菜「御意。それでは早速行ってくるでござる」

 

そう言うと風魔は木の葉と共に消えていった。

 

剣護「実は俺も妙に重苦しい雰囲気を感じてたんだ」

ライカ「重苦しい?」

剣護「あぁ。うっすらとお前らのクラスからな」

ライカ「……なんかすいません」

剣護「お前が気にすることじゃないさね。そういやお前『三日以内解消規則』は大丈夫か?」

ライカ「はい!大丈夫です。あたし1年の中では結構強いんで」

剣護「ん、そうかい。でもあまり慢心するなよ。それが命取りになることもあるんだ」

ライカ「……はい」

剣護「さて、そろそろ戻るか。次の授業始まるぞ」

ライカ「え?あ、も、もうこんな時間!?」

 

ライカが慌てて走っていくのを見て、剣護も自分もヤバいと気付くと猛ダッシュで走り教室に滑り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日の放課後。剣護は廊下で風魔と会い、一緒に歩いていた。風魔の報告によると特に怪しい感じは無く普通な感じだったそうだ。

 

剣護「うーん……やっぱ人の中まではわからんか……」

陽菜「流石に無理かと。ところで一体どこに向かってるのでござるか?」

剣護「装備科の平賀文のところさ。取りに行くもんがあるんだ」

 

そしてしばらく歩くと文の部屋に着き、剣護はドアをノックすると文が出てきた。

 

平賀「いらっしゃいなのだ」

剣護「おっす。平賀さん。例のやつ取りに来たよ」

平賀「わかったのだ。まあとりあえず中にどーぞなのだ」

陽菜「月島殿、某はここで失礼するでござる」

剣護「おう、またなんかあったら頼む」

陽菜「御意」

 

そう言って風魔と別れると剣護は文のいる教室へと入った。中では文が袖に青い線の入った白い羽織を出してきた。

 

平賀「はいこれ、頼まれてた防刃防弾の特注羽織なのだ」

剣護「ん、サンキュー」

 

剣護は文から羽織を受け取るとまじまじと見てからバッと羽織る。サイズもピッタリで着心地も良く、剣護は何度も頷く。

 

剣護「うん、いい感じだ」

平賀「それはよかったのだ。他には?」

剣護「うーん……今はいいや」

平賀「わかったのだ。それでは、またのお越しをなのだ!」

 

剣護は教室を出るとテクテクと廊下を歩いていく。

 

剣護「さて……どーすっかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の志乃はあかりを自分の家に招いていた。

 

あかり「わぁ、スゴイね……!志乃ちゃんの家……」

志乃「あかりさん。家の中ではジャマでしょうから……銃をお預かりします」

あかり「あ、うん。わかった」

 

あかりはなんの躊躇もなくホルスターから銃を外し志乃に渡す。志乃はそんなあかりの太ももをうっすらを笑みを浮かべながら盗み見していた。どっからどう見ても変態である。

 

その後は金銀の装飾品に囲まれた食堂で会話をしながら夕食を楽しみ、そして今はイングリッシュ・ガーデンを歩いていた。

 

志乃「すみませんあかりさん。食後に少し散歩をしたかったから……」

あかり「散歩できるぐらいの庭があるのがスゴイよね!」

 

ここに誘い出した理由について作り話をしても、あかりは不審に思わずむしろ喜んでいる。

現在、7時45分。そろそろ頃合いだと思った志乃に呼応するかのように冷たい風が庭に吹き込む。

 

あかり「ちょっと寒くなってきたね。戻ろっか」

 

そう言ってあかりは庭の門のドアノブを握るが、ドアは開かない。それもそのはず、先ほど志乃自身が鍵を掛けたからである。

 

あかり「あれ?ここ鍵掛かってる……志乃ちゃん?」

志乃「ねえ、あかりさん。『三日以内解消規則』ってご存知ですか?」

 

志乃の問いにあかりは首を傾げる。志乃はレモンバームの葉を咥えつつ話を続ける。

 

志乃「戦姉妹契約には、契約から72時間以内に戦妹が私闘で負けたら、契約解消になる規則があるんです。戦姉が戦妹を守れなかったわけですからね。再契約も許されません」

あかり「へぇ……そんなのあったんだ。えっと、契約が教務科に承認されたのが3日前の夜8時で、今が7時45分だから……あと15分かぁ……あれ?」

 

そこまで言ったあたりで「ん?」とあかりは首を傾げる。

 

あかり(そういえば……このこと誰かから聞いたような……?)

 

頭の中で何かがぐるぐると渦巻き、あかりは少しフラッとするもなんとか立つ。そんなあかりに志乃も流石に違和感を感じたのか声をかける。

 

志乃「あかりさん……?」

あかり「うん、大丈夫……契約解消させたがるとしたら、アリア先輩と戦姉妹になりたい子だよね?そういう子はもう20人も断られたし、再申請はできない校則だから……アリア先輩狙いの人に襲われる心配はないよね」

志乃「みんながみんなアリア狙いじゃないのよ」

 

あかりは志乃に笑顔を向けるが、志乃はその顔に背を向けボソッと呟く。そして今度ははっきりと聞こえる声で尋ねる。

 

志乃「あかりちゃん。防刃制服、ゆるんでないよね?」

 

そう言って志乃がバラ園の垣根から隠していたものを取り出した。

それは外装は洋刀だが刀身は関の刀鍛冶に打たせた日本固有の軍刀である。

 

あかり「志乃……ちゃん?」

志乃「あかりちゃん。アリアと別れて」

あかり「……!?」

 

志乃の言葉に驚くあかりに、志乃はスラリとサーベルを抜き、薔薇と月を背景に黒髪をなびかせその剣先をあかりに向けた。

 

 

 



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第11話 月夜に映える2人の剣士

 

ののか(晩御飯のメールにも、お返事してこないなんて……)

 

アパート『ハイツ勝どき』の202号室で、ののかは姉からのメールを待っていた。

あかりは1日に何食も食べられる体質で、今日志乃の家から帰ってきてから自分の作った夕食も食べるはず。そう思ってののかは今日の献立をメールしたのだが、それに返事が帰ってこないのである。

 

ののか(お姉ちゃん……)

 

ののかの脳裏に2年前の恐怖が浮かぶ。火に包まれる町、死と隣り合わせの地獄。あかりの身にあの時のような災難が降り注いでたとしたら……そんな考えがよぎり、ののかはギュッと袖を握る。

その時、カサッと一枚のカードがののかの足元に落ちる。それは昨日会った武偵に貰った連絡先である。

 

ののか「っ!」

 

ののかはカードを拾い上げると携帯に番号を打ち、その人物に電話をかけた。

 

ののか「もしもし……あのっお願いがあるんです……!」

 

 

 

 

 

 

一方、あかりは戸惑いながらも志乃と対峙していた。

 

あかり「志乃ちゃん……どういう事……?」

志乃「戦姉妹契約を強制的に解消させるには72時間以内に私闘でハッキリと敗北させなきゃいけないの。そういう……校則なの!」

 

そう言って志乃は一気に距離を詰める。あかりは転げるように前方から身を躱す。

振るわれたサーベルは薔薇の生け垣を斬り、斬られた薔薇の花びらが2人の間に流れる。

志乃は返す刀で方向転換するツバメのようにV字を描いた2撃目を繰り出す、あかりは刃の殺傷圏からバックステップで退き、バク転を切って距離を取った。

しかし、着地した際にあかりの防刃制服のタイ留めが外れる。

 

志乃「ごめんね。防刃制服を着てても、骨は折れちゃうかも……でも、付きっきりで看病してあげるから」

 

そう言って志乃はサーベルを手に向き直る。その顔は笑っており、あかりは恐怖に弾かれるようにタクティカルナイフを抜く。

 

志乃「あかりちゃん、さっきの素早かったね。まるでツバメみたいに……でも私はツバメでも斬れるよ」

 

志乃は体を捻り、刀をスライドさせ居合いの構えを取った。それを見たあかりの背筋に、警報のような危機感が走る。

 

志乃の中で燕返しに用いる術理が整っていき、そして5mの距離から超速度の胴払いの一閃が放たれる。

 

志乃(燕返し!)

あかり「っ!」

 

あかりは咄嗟にナイフでガードしたが志乃の狙いはナイフだった。

志乃による秘剣の一撃を受けナイフは砕け散り、あかり自身も衝撃で吹っ飛ばされ噴水の周囲の丸いプールに転がり込む。

 

志乃「あかりちゃん……あかりちゃんが、悪いんだからね……?」

 

志乃は涙をこぼしながら、脳裏ではあかりとの大切な思い出を甦らせていた。

 

志乃(私のお友達を失いたくない……だから……斬る!)

 

アリアとあかりを引き離すため、志乃が刀の柄を握り直した時だった。

 

 

パァン!

 

 

志乃「っ!?」

 

足元に銃弾が撃ち込まれ、志乃は思わず後退する。

 

剣護「ふぃー、なんとか間に合ったな」

志乃「まさか……!」

 

背後からの声に志乃は咄嗟に振り向くと、そこにはののかから連絡を受けて駆けつけた剣護がいた。

 

志乃「つ、月島先輩…!?なんで!?」

剣護「んまーこれ介入して良いのか迷ったけど依頼ってことで」

 

まさかの登場に志乃とあかりは驚きを隠せず、思考も絡まってひどく混乱していた。

 

あかり「な、なんで月島先輩がここに!?」

剣護「お前の妹から連絡があったんだよ。『お姉ちゃんに何かあったかもしれない。お姉ちゃんを助けて』ってな」

あかり「ののか……」

剣護「そんで来てみりゃ案の定、暴走してやがるな……これだからヤンデレは怖いねぇ」

志乃「例え月島先輩でも……邪魔をするなら斬ります!」

 

燕返しの構えを取る志乃の方を見て剣護も刀を構える。

 

剣護「月島流」

志乃「燕返し!」

剣護「富嶽一文字!」

 

志乃の胴払いの一閃に合わせて剣護は上段に構えた腕を振り下ろす。するとガキンッという音が響き志乃の刀がひび割れて砕けた。

 

志乃「なっ……!?」

剣護「ふー……なかなか鋭い技持ってんな」

志乃「……月島先輩」

剣護「ん?」

志乃「月島先輩なら知ってますよね?……武士は必ず、大刀と小刀を携えることを」

剣護「……まあ、基本武士は二本の刀を所有するわな」

志乃「そして私が今まで使っていたのは、巌流では小刀」

剣護「む?」

 

志乃は折れたサーベルを地面に突き立て、薔薇の茂みの奥に手を入れる。そして中に隠していた別の刀を取り出す。それは刃渡りが1m50cmを超えるような、異様なものだった。

 

志乃「これが私の大刀、通称『物干し竿』」

剣護「……ほっほーう…?」

 

志乃は慣れた手つきで鞘を抜き、剣護も構える。

 

志乃「今度はこれで、あなたを斬ります」

剣護「やってみな」

 

志乃は構える。先ほど放った技と同じ居合いの構えを。剣護は今度は刀を逆手に構えて、腰を低くする。

そしてお互いに技を放った。

 

志乃「燕返し!」

剣護「富嶽風切り!」

 

素早く振り抜かれた刀が激突し甲高い音を立てる。

 

あかり「志乃ちゃん、どうして……!?友達同士なのに!」

志乃「……友達だから、退けないの!」

 

あかりと志乃はお互い悲鳴のような声を投げかけ、志乃は鍔迫り合いを押し切る。

 

剣護「っと」

志乃「はっ!」

剣護「っ!」

 

志乃は大刀を横薙ぎに振るい、剣護は後ろに飛んで避けるが制服を少し切られる。

 

剣護「チッ、大刀だと距離に注意しないと掠っちまうな…」

志乃「逃がしま……せん!」

剣護「うおう!?」

 

遠くから志乃は一気に距離を詰めて居合斬りを放ち、剣護は上に跳び上がって避ける。

 

志乃「どんな高さを跳んでるんですか…!?」

剣護「今度はこっちから行くぞ!」

志乃「っ……そうはいきません!」

 

志乃は燕返しを放つが剣護はそれに合わせて刀同士をぶつけて弾き飛ばす。

 

剣護「月島流、富嶽弾き返し!」

志乃「なっ!?」

 

弾かれた衝撃が大きかったのか志乃は大刀から手を離してしまい、大刀は生垣の中に落ちてしまった。

その隙を逃さず剣護は懐に潜り刀の柄で打撃を打ち込む。

 

剣護「月島流…富嶽突き!!」

志乃「がっ!?……は……」

剣護「あ、やべ」

 

打撃は見事に鳩尾にクリーンヒットして、志乃は気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志乃「う、うぅ……ん……」

 

しばらくして志乃が目を覚ますと不安そうな表情をするあかりとやれやれといった感じの剣護がいた。時刻は8時過ぎ、三日以内解消規則の期限を過ぎていた。

時計を見たあかりが、これでアリアとの戦姉妹契約を誰かに解消されないとホッとしていると。

 

志乃「ふぇ……ふぇ……ふえぇえええーん!」

剣・あか『!?』

志乃「あかりちゃんに嫌われちゃったよー!また私、ひとりぼっちに戻っちゃったよー!」

 

志乃が突然幼児みたいに泣きじゃくり、あかりと剣護はギョッとした。しかし、2人はすぐに志乃の本心に気づき、あかりは志乃に顔を近づけ謝った。

 

あかり「……志乃ちゃん。あたしこそ、なんか無神経だったみたいで……ゴメンね。でも、志乃ちゃんのこと嫌いになったりしないから」

志乃「ほ、ほんとに?嫌いにならない?」

あかり「うん」

志乃「え、えっと。じゃあ、好きですか?私のこと、好きですか?」

あかり「う、うん」

 

苦笑いで志乃の言葉にあかりが答えるとパアアァア……と薔薇のように満開の笑顔を咲かせた志乃があかりに飛びつく。

 

志乃「あかりちゃん!私も大好き!好き、好き、好きなのよー!」

あかり「し、志乃ちゃん……?」

 

志乃はあかりをギューッと抱きしめながら何度もそう繰り返す。

 

剣護「あー……そういや間宮家では『女人望』って同性カリスマを持った子が稀に出るんだっけ…」

 

2人のやり取りを見ながら剣護はそう呟くであった。

 

 

 



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第12話 遠山キンジと間宮あかり

ある日の放課後、あかりとライカは強襲科2階のトレーニングジムで訓練をしていた。当然、剣護も来ておりサンドバッグを叩きまくっている。

 

あかり(アリア先輩、来ないかなぁ)

剣護「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

ライカ「よしっ、100!」

 

そんな3人がトレーニングをしているとき、男子生徒たちの会話が聞こえて、あかりとライカは動きを止めた。

 

「おい、聞いたか。キンジが強襲科に帰ってくるって!?」

「マジかよ!キンジって遠山キンジだよな?」

「強襲科の主席候補って言われてた奴か!」

 

ライカ「遠山キンジ……あの人が帰ってくるのか」

あかり「キンジ……?誰それ?」

ライカ「2年の先輩。任務でいつもいなかったし、去年、探偵科に転科しちゃったけど……前は強襲科でSランク武偵だった」

あかり「い、1年の時にSランク!?そんな人いるんだ……」

ライカ「言っとくけど月島先輩もSランクだぞ」

あかり「つ、月島先輩も!?」

剣護「え?知らなかったの?」

 

剣護はサンドバッグを思い切り殴り壊してから、2人のとこへやってきた。あかりとライカはサンドバッグの残骸を見て顔を引きつらせた。

 

剣護「キンジは入試で教官を倒してるのさ」

ライカ「伝説の男だよ。プロ武偵に勝てる中坊なんてバケモノだろ」

あかり「……バケモノ……」

剣護「お前それ俺もバケモノって言ってるようなもんじゃねえか」

ライカ「あっ……ま、まあ月島先輩は……規格外?」

 

剣護がライカにずずいと迫り、冷や汗を流しながらライカが弁解する中、1階ホールで人だかりができておりその中心にキンジが揉みくちゃにされていた。

 

あかり「……なんか……想像してたのと違う……」

ライカ「そう見えるんだよな。上勝ちすると大手柄だから、狙ってる1年もいるけど……なんか勝てなさそうなきがするんだよなあ」

剣護「ま、人は見かけによらずって言うからな」

ライカ「でも、あの人の戦妹は諜報科の風魔だし。あれも闘りにくそうなんだよなー。まあ、あたしは勝てないケンカはしない主義」

剣護「あとキンジは女嫌いだから、あまりしつこく付きまとうなよ」

 

剣護は2人に忠告するとトレーニングジムを出てキンジの元へ向かい、ライカも歯がゆそうにトレーニングジムを出ていった。

あかりはしばらくキンジを観察していたが結局、キンジの強さについて最後までピンと来なかった。

 

 

 

 

 

しばらくして、放課後の校内を歩いていたあかりは門の近くでアリアがキンジに近づいているのを目撃した。

 

あかり(あ、アリア先輩が遠山キンジと一緒に歩いてる……!)

 

あかりはキンジが何者なのか突き止めるため、2人を追いかけた。

 

ゲームセンターでUFOキャッチャーで手に入れたぬいぐるみを見て笑顔になってるのを見てあかりはアリアの中での自分の存亡の危機に、焦りまくっていた。

 

あかりはキンジにターゲットを絞ると、アリアと別れたその後を追跡し、学園島の路地までついていく。十字路をキンジが通った方向へ曲がろうとした時、頭上からの声に呼び止められた。

 

陽菜「間宮殿。そこまでにされよ」

あかり「……!?」

 

あかりが見上げるとそこには逆さ吊りで腕組みをしてポニーテールとマフラーを垂らしているくノ一がいた。

 

陽菜「お初にお目に掛かる。某は遠山師匠の戦妹、1年C組、風魔陽菜」

あかり「風魔一党は……相模の忍だよね。何の用?」

陽菜「…………」

 

あかりの家の事情もあり聞かされていたこともあり、あかりは警戒するが風魔は何も答えない。

 

陽菜「遠山師匠は女子がお嫌いでござる。それ以上追わぬよう。今より、某が師匠を護衛いたす。御免!」

 

沈黙を破った風魔は胸元から煙玉を地面に投げ、白煙が巻き上がるが強風ですぐに払われてしまい、あかりは路地の向こうに撤退中の風魔を見つけ、すぐに後を追ったが見失ってしまう。

しばらく駆け回っていると公園に辿り着いた。そこに踏み込むと公園の木の陰からキンジがあかりの背後に現れた。

 

キンジ「撒けてねーじゃねーか、風魔のヤツ……で、誰だお前?」

あかり「と、遠山キンジ!……先輩っ……」

キンジ「……大丈夫なタイプだな。なんで俺なんかを尾ける?」

あかり「だって……だって、ズルイです!あたしは戦って、ようやくお近づきになれたのに!2人はどういう関係なんですか!」

キンジ「話は見えんが……アリアのファンか?俺はな、アリアに追われて迷惑してるんだ」

 

あかり(アリア先輩のことが、め、めっ……迷惑!?この無礼者!)

 

キンジの話にあかりは今にも頭が大噴火しそうな気分になり、そんなキンジは火に油を注ぐように続ける。

 

キンジ「どうだ。聞いて満足したか?そしたら、もう俺を尾けるな。今の俺はEランクだが、探偵科だ。1年の尾行くらいさすがに分かる。次はシメるぞ」

 

そう言ってキンジは「じゃあな」と背を向けて立ち去ろうとするキンジを足止めするように指摘する。

 

あかり「何か隠してますね?遠山先輩は……!」

キンジ「度胸があるのと無鉄砲なのは違うぞ。1年」

 

キンジは振り返りあかりを睨む、その目に表れているSランクらしい鋭さをあかりは感じた。

その時、あかりはキンジの他にも別の殺気を察知した。見上げるとざわめく木の枝に風魔がクナイを手にして屈んでいた。

あかりは急いで距離を取りつつマイクロUZIを抜き、それを見逃さなかったキンジも勘弁してくれといった表情でベレッタを抜いた。だが

 

 

 

剣護「はい、そこまで」

 

 

 

次の瞬間、ドドォン!と2発の銃弾が3人を遮るように地面に撃ち込まれ、その間に剣護が割り込み銃を向ける。

 

金・あか・陽菜『っ!?』

剣護「やれやれ……困ったもんだね全く」

キンジ「け、剣護……」

あかり「月島先輩!?」

 

声の主はキンジのルームメイトでもある剣護であった。向けられている銃、M500を見てキンジは顔を引き攣らせる。

 

剣護「おい、あかり」

あかり「ひ、ひゃい!」

剣護「俺、言ったよな?キンジは女嫌いだからあまりしつこく付きまとうなって」

あかり「は、はい……」

剣護「人には触れられたくないこともあんだからそういうとこもちゃんと考えること。武偵云々じゃなくて人としてな」

あかり「……はい」

 

剣護に注意されてシュンと小さくなるあかり。

 

剣護「ったく……だいたいの尾行の理由は読めたけどよ」

キンジ「ど、どういうことだ?剣護」

剣護「こいつは間宮あかり。アリアの戦妹(いもうと)だ」

キンジ「あ、アリアの戦妹なのか……」

剣護「どーせ、アリアがキンジに取られるとでも思ったんだろ」

 

そう言って剣護はくるくると銃を回しながら話を続ける。

 

剣護「あのな、あかり。キンジにはある秘密があるんだが同時にそれがトラウマにもなってんだ」

あかり「ある秘密……?」

剣護「これ以上は俺からは教えられない。あとこのことについてキンジにも聞くな、トラウマだからな。あとは……銃の撃ち方でも教えてもらえ」

あかり「……は、はい……」

 

そう言いながら剣護は回していた銃をホルスターにしまう。

 

キンジ「……悪いな。剣護」

剣護「悪いと思うならもう少しマシに後輩の相手してくれませんかねー!」

キンジ「うぐっ……ぜ、善処する……」

剣護「じゃあ俺先に帰るから」

キンジ「あ、あぁ……」

剣護「あ、あと帰りに詰め替え用の塩胡椒買ってきて」

キンジ「アッハイ」

 

剣護はブツブツと何か呟きながら帰っていった。剣護の姿が見えなくなった後、3人は脱力するかのようにその場に座り込んだ。

 

金・あか・陽菜『はあぁぁぁああぁ〜……』

キンジ「いつになってもあいつがキレた場面は慣れないな……」

陽菜「そ、某は初めてでござる……月島殿が本気でキレたとこに出くわすのは……」

あかり「こ、怖過ぎる……まだ体が震えてるよぉ……」

キンジ「あれ本気じゃねえぞ」

陽・あか『嘘っ!?』

 

げんなりと半分死にかけている3人は剣護を怒らせてはいけないと思い知ったのだった。

 

あかり「あの……遠山先輩」

キンジ「あ?なんだよ……」

あかり「えっと……さっきはすみませんでした……先輩のこと何も知らないのに……」

キンジ「あー……それはもう良いぞ。だいたいは剣護の言ってた通りだから。まあ……俺もなるべく対応は善処するよ」

 

キンジは風魔に「行くぞ」と言うと背を向けて立ち去った。あかりはそんなキンジの後ろ姿を見送るのだった。

 

 

 



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第13話 遊園地で誘拐事件!?

 

その日は、強襲科の徒手格闘訓練が行われ、ライカが男子をアキレス腱固めを極めたり、あかりがアリアに吹っ飛ばされてもケロッとしていたり、剣護が数人相手を床を殴った衝撃波で吹っ飛ばしたり、新たな技を編み出したりしていた。

そして、その日の放課後に剣護はアリアに呼び出され強襲科の屋上に行くと、そこにはアリアと狙撃科のレキがいた。

 

剣護「よう、アリア。何の用だ?」

アリア「えぇ、アンタにちょっと頼みたいことがあるのよ」

剣護「頼みたいこと?別に構わんが……内容は?」

アリア「今度の日曜にあかりたちがラクーン台場に行くの」

剣護「あぁ、お台場にあるあの遊園地か」

アリア「そう。アンタにはあかりたちに付いていて欲しいのよ。気づかれないように」

剣護「ふーむ……なるほど。わかった。引き受けるよ」

アリア「ありがと、チケット代はあたしが出すわ」

剣護「いーよ別に。自分で出すから」

アリア「それなら良いけど……まあとりあえずお願いね」

剣護「委細承知」

 

そして剣護がまた屋上から飛び降りるのを見てアリアは苦笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

日曜日、アリアからの依頼通り剣護はラクーン台場に来ていた。その手にはチュロスやソフトクリーム、たこ焼きなどを抱えておりちょっとしたグルメツアーを楽しんでいた。

 

剣護「たまにはこういうのも良いかな。美味い美味い」

 

パクパクと依頼を忘れているかのように食べながらあかりたちの様子を見ていた。

一方で3人は剣護が付いて来ていることに気づかずに観覧車に乗っていた。観覧車の頂点を回った辺りでライカのスカートのポケットから洋楽のメロディーが、あかりの胸ポケットから電子音が、志乃のポケットからも携帯の振動音が聞こえた。

3人がメールを見ると事件発生のメールが来ていた。

 

ライカ「現場ここだぞ。ラクーン台場だ」

あかり「ケースF3Bは、誘拐・監禁されたって事で……O2って何だっけ」

志乃「『原則、2年以上が動け』です」

ライカ「『犯人は防弾装備』か。プロかもな」

志乃「近隣生徒の書き込みが……早い生徒でも、現場到着は20分かかるそうです」

ライカ「特殊捜査研究科はハニトラの専門科。拉致されたのは、騙し打ちぐらいしかできない生徒だ」

 

観覧車が一周を終え、3人は地上に降りると不安そうな表情で3人は顔を合わせる。

 

ライカ「どうする。動くか?」

志乃「……でも私たち、まだ入学式から半月しか経ってませんし……」

あかり「……行こう……!今、この子を助けられるのはあたしたちしかいない!」

 

志乃とライカにそう宣言したあかりは、2人と共に犯人がいるであろう場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

剣護「もしもし、アリア?さっきのメール見たか?」

アリア『えぇ、見たわ。アンタ以外で近隣にいる武偵だと20分はかかるそうよ』

剣護「さっき、あかりたちの会話を聞いたんだが……あいつらインターンの子を助けるつもりらしいぞ」

アリア『えぇっ!?ああもう……仕方ないわね。剣護!すぐに向かって!』

剣護「了解した」

 

電話を切ると剣護もあかりたちに気づかれないようにホテルに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

ホテルに着いたあかりたちは二手に分かれて、ライカはホテルの屋上、あかりと志乃は703号室の入り口にいた。

 

あかり「行くよ、志乃ちゃん」

志乃「はい、あかりさん」

 

2人は小声で言葉を交わし、まず志乃がドアにそっと近づき燕貫き、瞬発力を込めた突きを放ち鍵を壊す。

そこへあかりが突進してドアを開く。

 

あかり「武器を捨てて!」

 

あかりはセオリー通りに叫ぶが入口付近にあったスリッパに足を突っかけて前のめりに転んでしまった。志乃も志乃であかりを最優先するあまり室内から目をそらしてしまった。

ぶつけた鼻を押さえつつもマイクロUZIを構え直そうとするが。

 

あかり「う……武器を……捨て……」

黒髪「捨てるのはそっちだっ!」

あかり「……っ……!」

志乃「……!」

 

攻守逆転してしまい、2人は黒髪の男にデリンジャーの銃口を向けられ、銀髪の男は島麒麟の頭にコルトアナコンダの銃口を当てている。

 

麒麟「なんで……そこで転ぶですの……!?」

 

島麒麟は絶望的な表情で2人を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃剣護は外からの侵入を考えていた。その時にライカがワイヤーを使って横へと伸ばすのが見えていた。

 

剣護「あれは……ライカか……なるほど。ワイヤーでターザンってわけか……む?あれは……」

 

剣護はライカがいる反対側の位置に赤い人影を見つけた。その人影はライカの位置と703号室の位置を交互に見ていた。

 

 

 

 

 

 

ババババババババッ!

 

突如、703号室のベッドルームの側でライフルの連射音と窓ガラスの砕け散る音が響く。

 

黒髪「バカか。そっちにゃ誰もいねえよ!」

 

黒髪の男が無人のベッドルームを撃ったライカをバカにするが、島麒麟は、ぱぁ、と顔を明るくし、自分の首に掛けられていた腕に噛みつき拘束から逃れる。

 

銀髪「てめぇ……!止まれっ!」

 

誘拐犯たちに凄まれても麒麟は可憐な笑顔で歌いながら、ダンスするようなステップでベッドルームへと逃げる。

そして「3、2、1」とカウントダウンを指で数えた麒麟はベッドをジャンプ台にして、ブリっ子ポーズで背中から飛び出した。

 

麒麟「きゃはーん☆」

 

その光景に室内の全員が唖然とした瞬間、空中に飛び出した麒麟の体を右から左へ振り子状に戻ってきたライカが見事にキャッチした。

ライカはナイフでワイヤーを切り、プールの方へと落ちていく。しかしそんな2人に銀髪の男はコルトアナコンダの銃口を向ける。

 

あかり「ライカ!」

 

あかりが警告の声を上げ、ライカも気づくが空中では回避できない、ライカは麒麟の頭を抱え、自分の背中を銃口に晒す。

あかりはライカを助けるため、銀髪の男の所へ走るが黒髪の男が行く手を塞ぐ。2人はもつれ合い、あかりの手はもう銀髪の男のコルトアナコンダには届かない。撃たれれば頭部か首にマグナム弾が当たってしまう。

あかりは数日前のアリアのお小言を浮かべ、反省する。

そして声の限り叫んだ。

 

あかり「助けてぇ!」

 

バスンッッッ!ガキィィィン!

 

あかりの声を掻き消すように発砲音が響くがすぐに何かに弾かれる音が響いた。

弾丸はライカには当たらず、それどころか黒い鉄の塊に弾かれた。

 

それはニンジャの武器……スリケンである。

そして、あかりの叫びが届いたかのように。

 

『Wassoi!!』

 

1人の武偵と1人のニンジャが703号室に突っ込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

あかり「つ、月島先輩!」

 

突っ込んできたのは、アリアからの依頼であかりたちに付いて来ていた剣護と、もう1人は赤黒のニンジャ装束に身を包み『忍殺』と書かれたメンポを付けたニンジャだった。

 

黒髪「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

銀髪「アイエエエエエ!?」

 

誘拐犯の2人は赤黒のニンジャを見て慌てふためく。一方のニンジャは両手を合わせ合掌し、一礼する。

 

ニンジャ「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

剣護「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

 

アイサツを終えたニンジャスレイヤーは銀髪、剣護は黒髪の方へと駆け出した。

 

ニンジャ「イヤーッ!」

銀髪「グワーッ!」

 

銀髪の男はコルトアナコンダを構えるがニンジャスレイヤーはこれを簡単にいなし、腰溜めに拳を放った。

ジュー・ジツの技、『ポン・パンチ』だ!

それをもろに受けた銀髪の男は壁に叩きつけられ気絶してしまった。

 

一方で、黒髪の男はデリンジャーとマイクロUZIを構え撃つが剣護は弾道の流れを読み避けていき、両腕をクロスさせ弾丸の如く突っ込んでいくする。

 

剣護「月島流拳技、鉄鋼弾!」

黒髪「ごはぁ!?」

 

骨を砕くほどの強烈なタックルを食らって壁に激突した男は気絶した。

 

あかり「ライカ……!」

 

あかりはプールの方を見るとライカと麒麟の無事が分かると安堵の表情を浮かべた。

 

ニンジャ「一件落着のようだな」

剣護「まあ…一応増援呼んだけどさぁ……」

ニンジャ「む?」

剣護「誰がコスプレして来いつったよ」

ニンジャ?「…ッスゥー……いやだって正体バレたらまずいと思って」

剣護「忍者がニンジャのコスプレしてどうすんだよ」

ニンジャ?「オタッシャデー!」

剣護「逃げんな!」

 

そう言うとニンジャスレイヤー?は風のようにその場から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京武偵高、狙撃科の屋上ではレキが片膝立ち姿勢からドラグノフを下げ、アリアは軍用双眼鏡から目を外していた。

 

アリア「やっぱり剣護に頼んどいて良かったわ。でも……まさか壁を走って登るなんてね……」

 

そう、剣護は703号室の真下の壁を走って登り侵入していたのである。それよりもアリアはもう1つのことが気になっていた。

あの赤黒のニンジャ、ニンジャスレイヤーのことである。

 

アリア「あの忍者……何者なのかしら……剣護と知り合いっぽいけど」

レキ「……あの人武偵高の生徒ですよ」

アリア「嘘でしょ!?」

レキ「普段はあんな格好しませんから、恐らくコスプレかと。元々変装とか得意な方ですし」

アリア「えぇ……」

 

まあいっかとアリアはツインテールを翻しながらその場を後にするのだった。

 

 

 



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第14話 ライカの秘密

 

 

 

「火野ライカぁ?あんな男女は最下位だ!」

 

専門科目の授業が終わり、あかりとライカが廊下を歩いているとそんな声が聞こえてきた。

あかりとライカは窓からコッソリと覗くと、男子たちが同学年の女子のランク付けをしているらしく5人ぐらいでノートを広げて机を囲んでいた。

そのタイトルは『可愛さランキング』。

見たところ、『間宮あかり(強襲科)』は『△〜○?←チビすぎ』。

『佐々木志乃(探偵科)』は『◎』などとなっていた。

 

「あ、おい待てぃ。最近ではイメージが変わってきてるって話もあるゾ」

 

しかし1人の男子が言葉を遮って弁明する。

 

「聞こうか」

「なんでもかのSランクの月島先輩と戦兄妹を組んでから雰囲気が変わったと」

「……なるほどつまり?」

「まだ判断を焦るような時間じゃあないってことだゾ」

「あっ…ふーん……」

 

男子達の話を聞いてあかりとライカは少し複雑そうな顔をする。

 

ライカ「……あたしそんな雰囲気変わってる?」

あかり「まあちょっと柔らかくなった感じはするね」

ライカ「うーん…そっか…あ、先行ってていいぞー、あかり」

あかり「あ、うん。先行ってるね」

 

ライカはトイレに入ると少し最近の自分を振り返ってみる。

 

ライカ「……そんなに表面に出てるのかなぁ…」

 

 

一方で教室では通りかかった1人の上級生が5人の1年に対してO☆HA☆NA☆SIをしていたとかなんとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日があった翌日、その日は休みで剣護は気分転換で秋葉原に来ていた。

目的は銃と特撮グッズを漁るためである。

 

剣護「さーて……何見ようかなーっと。ん?」

 

フィギュアやドライバーなどを物色していると、ミリタリーグッズが並んでる店の棚にあかりと麒麟を見つけた。

2人が見ている方向に目をやるとライカがデレデレしながらドールを抱いてるのを見つけた。剣護はしばらくライカを見ていたがすぐに特撮グッズに向き直った。

 

 

あかり「い、意外すぎるストレス発散方法だね……でも、趣味は人それぞれだし、問題ないんじゃない?」

麒麟「いいえ。あれは『少女返り』……それも重症ですわ」

あかり「少女返り?」

麒麟「武偵高では、女子でも男勝りの活躍が求められますの。しかしそれは不自然な事。ストレスが溜まるのです。そこで心のバランスを取るため、自分には無いものを求め、ああいう少女趣味に走るッ!」

あかり「そ、そういうもの……?」

麒麟「ええ。武偵高の女子にはよくある事ですわ」

あかり「そ、そうなんだ……ってあれ?あそこにいるのって……」

麒麟「……月島様ですわね。なんでここに……」

あかり「月島先輩もライカの様子見に来たのかな……」

麒麟「さあ……どうでしょう……まあそれはさておき、今はライカお姉様ですわ!」

 

そう言うと麒麟はあかりの制止を聞かずにライカのいるドルフィードリームのコーナーへ突入していった。

 

 

 

 

 

ライカ(あーほんと、銃売って買っちゃおうかなぁー)

 

一方のライカはそんなことに気づかずにお人形さんに魅了されてしまい、武偵の魂を売ってしまうようなことまで考えてしまっていた。

ライカはダンスを踊るようにクルクルと回り、お姫様を中心に背景が入れ替わっていき、視界に島麒麟が入ったところでぴたりと止まった。

 

ライカ「アイエッ!?」

あかり「ライカそれ違う驚き方だよ」

ライカ「き、麒麟ッ!?あかりもッ……!?な、ななな、ナズェミテルンデス!?」

麒麟「お姉様、滑舌悪くなってますわ」

 

その場にいないはずの2人が登場してライカは真っ赤になって混乱してしまい、終いにはオンドゥル語まで出てしまっている。

 

あかり「あ、いや、その、いいと思う!こういうの!ライカかわいいよライカ!」

ライカ「あかり……っ」

あかり「ごめんね、ライカ。あたし……」

 

ライカのプライバシーを侵害した事情をあかりが語ろうとした時。

 

剣護「おぉ!?何故こんなところにホワイトグリントのフィギュアが!!」

ライ・あか・麒麟『ッ!?』

 

そんな叫び声があかりと麒麟の言葉を搔き消した。ライカは声の方を見て驚く。何せこの2人だけでなく剣護までこの場に来ていたのだから。

 

ライカ「つ、月島先輩まで……!?」

麒麟「こ、コホン。私は初めっから、お姉様の秘めた欲求には感付いてまひたのよ。私に対する冷たい態度は、ツンデレのツン」

 

剣護が遠ざかっていくのを確認すると麒麟はたくさんのドールを背景に話す。それに対しライカはそんな麒麟を睨みつける。

 

ライカ「……言いふらしたら殺す」

麒麟「秘匿しますわ。そのかわり……戦姉妹試験勝負。して下さいますわよね?」

ライカ「そうきやがったか……」

麒麟「正直ぶっちゃけますと言いふらしたら言いふらしたで月島様に殺されかねませんし」

ライカ「…………え?」

あかり「あのね?私も後から知ったんだけど、昨日ライカがトイレにいた後で何人かシメられたって話があったでしょ…?月島先輩がやったらしいの……」

ライカ「……月島先輩……が……?」

 

あかりからの話を聞いてライカは目に涙を溜めながら俯いた。剣護が自分のために怒ってくれた、そのことを知ったライカは胸がいっぱいになり、しばらくして涙を拭うと麒麟に向き直る。

 

ライカ「わかった。戦姉妹試験勝負、受けて立つ」

麒麟「わかりましたわ。お姉様は防弾制服ではいらっしゃらないご様子。CQCでよろしくて?」

ライカ「あぁ、いいぜ。なら屋上でやるか。あかり、立ち会ってくれ」

あかり「うん、わかった」

 

3人はドルフィードリームのコーナーを後にし、屋上へと続く階段を上っていった。

 

 

 

 

剣護「…………行ったか」

 

3人が見えなくなった頃、剣護はさっきまでいた店に戻ってくると周りを見回し武偵高の生徒がいないことを確認すると、ライカのいたドルフィードリームの店内へと入った。

 

店員「いらっしゃいませ。あら?あなたはさっきそこにいた方ね?」

剣護「どうもライカの先輩の月島といいます。えーっと……」

 

剣護は店内をキョロキョロと見てさっきライカが持っていたお姫様のお人形を見つけると。

 

剣護「これください」

店員「かしこまりました。それならこちらも。ライカさん、かなり気に入ってるみたいだから」

剣護「ふむふむ……じゃあそれもください」

 

その2つの人形を購入し、受け取るとちょっと特撮グッズと銃を覗いてから屋上へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、戦姉妹試験勝負をしていたライカと麒麟はすでに勝敗が決していた。

 

ライカ「え……あ……!?……え?」

麒麟「ライカお姉様!」

 

ライカは未だに自分が後輩に負けたことが信じられず混乱するばかりで、そんなライカのお腹の上にいる麒麟はハートマークを飛び散らしながら胸に抱きついている。

 

剣護「あーららら。負けちまったか」

ライカ「ッ!?」

 

突然の声にライカはバッと起き上がると声のした方向に振り向くと両手に紙袋を持ったまま剣護が立っていた

 

ライカ「つ、月島先輩……あの」

剣護「ま、良いんじゃないの?お前が戦姉妹組むのも」

ライカ「あのっ!」

剣護「ん?」

ライカ「昨日の男子をやったの……月島先輩なんですか……?」

剣護「さあ?どーでしょうね」

ライカ「真面目に答えてください!」

剣護「…………」

 

はぐらかして帰ろうとした剣護をライカは引き止め、ジッと見つめる。それに対し剣護は溜息をつくと頭を搔きながら振り返る。

 

剣護「君のような勘のいいガキはフライだよ」

ライカ「何故にフライ!?じゃなくて真面目にって言ったでしょ!」

剣護「いやちょっとムカついて」

ライカ「えぇ……」

剣護「だって自分の戦妹が何か言われてたらムカつくじゃん。俺にとっちゃ普通の妹も変わらんけどさ」

ライカ「妹?先輩は妹がいるんですか?」

剣護「いや、その逆だ。妹もいなけりゃ親もいない」

ライ・あか・麒麟『ッ!』

 

剣護の言葉に3人は目を見開いた。

 

剣護「俺はあまり覚えてないが、俺が小学校になる頃には父さんも母さんもいなかった」

ライカ「っ…………」

剣護「父さんと母さんが亡くなってからはじーちゃんやばーちゃんが俺を育ててくれたけど……中3の頃に亡くなった」

あかり「…………」

剣護「しかもうちは一人っ子でなぁ……兄弟もいなかったよ。でも」

麒麟「でも……なんですの?」

剣護「周りには俺を助けてくれる人がたくさん居た。だから今の俺がある」

あかり「……なんか似てますね。あたしと月島先輩って……」

剣護「お前は妹がいるだろ?それにあかりは2人で今まで頑張ってきた、そうだろう?」

 

剣護の言葉にあかりは俯く。散り散りになっても今までののかと一緒にあかりは2人で生きてきた。しかし剣護は周りの助けがあったにしても1人で生きてきたのである。

 

剣護「まあでもうっすら生きてんじゃね?って最近思ったりもすんだけどさ」

あかり「えぇ………」

剣護「おっとそうだ。ライカ、これ」

ライカ「え……?っ!こ、これ……!」

 

剣護はライカに袋を渡す。ライカは受け取り、袋を開けると中にはライカのお気に入りのお人形が入っていた。

 

剣護「お前すんごい欲しそうにしてたからな。まあ昨日のこともあるし」

ライカ「せ、先ぱ……っ…………ゃん」

剣護「え?」

ライカ「…お……お兄…ちゃん」

剣護「…………WHAT!?」

麒麟「ライカお姉様が言うなら……お兄様!」

剣護「っ!?」

あかり「え、えと……お……お兄……ちゃん」

剣護「………………」

 

バタンッ

 

こうかはばつぐんだ!

剣護は倒れた!

 

ライ・あか・麒麟『つ、月島先輩ぃぃぃ!?』

 

生まれて初めて兄と呼ばれた剣護はさすがに刺激が強すぎたらしく、その場から崩れ落ちるように倒れてしまった。

 

その後、寮に帰ってきてもボクサーのように真っ白に燃え尽きていたと彼のルームメイトの遠山キンジは語った。

後日「流石にヤバいからいつも通りにして欲しい」と剣護から言われた。

 

 



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第15話 習得せよ!新たなる力!

 

剣護「俺の技を教えて欲しい?」

あかり「はいっ!」

 

放課後、屋上で素振りをしていた剣護は4人にそう返す。今日の昼休みにカルテット、4人対4人の実戦テストの知らせがあり、剣護は通信科の中空知の手伝いで一緒にいたからすぐに理解した。

あかりたちの対戦相手は高千穂。強襲科のAランクで女王様みたいなヤツである。剣護も何度か見かけたが女王様笑いがうるさくて何回か叩き潰したことがある。

今回もライカが投げ落とされたところを見かけて思わず羊殺しで締め上げている。ちなみに風魔は隠れていた。

 

剣護「ふーむ……わかった。教えよう」

あかり「本当ですか!」

剣護「そのかわり、絶対に勝つこと!」

4人『はい!』

剣護「んーでもなぁ……」

麒麟「まだ何かあるんですの?」

剣護「俺が4人相手に教えるんだよなぁ……こういうときに影分身とかできたら便利なのに……」

ライカ「いや忍者じゃないんですから」

 

ぶつくさ呟く剣護にあかりは突っ込む。こうして4人の猛特訓が始まった。

 

翌日、あかりたちはとある道場に来ていた。

 

剣護「悪いな怜二。道場の掃除手伝ってもらって」

怜二「いいよいいよ。僕らの仲じゃん」

あかり「あ、あの……月島先輩。この人は……?」

怜二「あぁ、ごめんよ。僕は柳生怜二。剣ちゃ……剣護の幼馴染」

4人『剣ちゃ?』

怜二「剣護の昔の呼び方が剣ちゃんだったんだよ」

剣護「怜二貴様ぁ!」

怜二「ギャバンッ!?」

 

剣護が飛び蹴りをかました人物は柳生怜二(やぎゅうれいじ)。蟲奉行所武家組同心、柳生義怜(やぎゅうぎれい)の子孫で剣護の幼馴染である。

そしてあかりたちが来ている場所は月島道場。剣護の実家の道場だが今は家には誰もいないので柳生家が管理している。

 

剣護「まあそれはいいとして……なんで理子もいるんだ」

理子「まあまあツッキー。堅いこと言わないでよー」

麒麟「麒麟がお呼びしましたの!」

剣護「はぁ……まあいいさ。アリアもいるし」

 

この場にはあかりたちだけでなく麒麟の元戦姉妹の理子もアリアもいた。そしてさらに。

 

剣護「昼行灯キンジを召喚するぜ!」

キンジ「すんません勘弁してください」

 

何故かキンジまで連れてこられていた。

 

ライカ「な、なんで遠山先輩まで…?」

剣護「一応こいつも体術強いからな?」

キンジ「剣護いるなら良いじゃん……」

 

 

 

その後、それぞれ個人の特訓を始め、あかりとライカに剣護の技をそれぞれに教えていく。

 

ライカ「ふー……やっ!」

キンジ「しっ!」

ライカ「はっ!」

キンジ「ふっ!なかなか良い感じだな」

 

ライカはキンジと組手をして、キンジの攻撃を捌いている。

ライカにはキンジの体術と剣護の月島流拳技を教えられている。

 

 

 

メイド1「いきます!志乃様!」

メイド2「参ります!」

志乃「はあああああ!」

 

志乃は宮本武蔵の末裔であるメイド2人を相手に剣を捌いていた。

2人ばかりズルいとのことで志乃には鬼哭流の水の型の動きを教えることになり、今は相手の剣を捌きながら技を繰り出す特訓をしている。

 

 

 

麒麟「やっ!たっ!せいっ!」

理子「おっと!りんりん結構やるじゃんっ」

 

麒麟は元戦姉妹の理子から中国武術を教わっていた。手刀や掌底を繰り出し、理子はそれを防いだり反撃したりしている。

 

 

 

あかり「はぁ……はぁ……はぁ……」

アリア「ほら、頑張って」

あかり「ふー……はい!」

 

あかりはアリアに見てもらいながら木偶人形に向き合う。

あかりもライカと同じように月島流拳技を教わり、木偶人形で技を練習をしている。

 

剣護「果たしてこれでいけんのかねぇ……」

アリア「まああかり達次第でしょうね」

怜二「僕達はできる限りサポートするしかないね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も更けた頃、就寝のために、あかりたちは部屋に入る。剣護の家の居間はかなり広く女子たちが同じ部屋で寝られるほどだった。

ちなみにキンジと怜二は剣護の部屋に泊まっていた。

 

あかり「ふぅ……」

 

そんな中あかりは1人道場で練習を続けていた。木偶人形はいくらか砕けたものが散らばっており、どれだけあかりが練習しているのかを物語っている。

 

あかり「はぁ……はぁ……だ、だいぶできたかな」

 

散らばっている木偶人形を片付け、あかりは道場を出たところで足を止めた。そして道場の縁側辺りに行くと庭で剣護が刀を構えていた。

 

あかり「月島先輩……」

剣護「ん……あぁ。あかりか」

 

剣護が集中を切り、あかりの方を向くとドッと汗が吹き出した。

 

あかり「うわっ、すごい汗…」

剣護「そんだけ集中してたってことよ」

 

あかりは剣護にタオルを渡して、剣護は受け取ると顔を拭き首に掛ける。

 

あかり「……月島先輩は」

剣護「おん?」

あかり「どうして強くなろうと思うんですか?」

剣護「………んー」

 

あかりの問いに剣護はちょっと考えてから答える。

 

剣護「最初はまあ負けたくなかったから。でも今はキンジやアリア達がいるから皆を守りたいからかなぁ」

あかり「守るため……」

剣護「安直かねぇ?」

あかり「そんなことないです!……私も…守れるようになりたいです」

剣護「………ならもっと特訓していかないとな」

あかり「はい!」

剣護「あと勉強」

あかり「うぐ……」

剣護「ほら、今日はもう寝るぞー」

 

そう言って2人は部屋に戻っていった。

 

あかり(…強くならないと……もうあの時みたいなことは……!)

 

 

 

 

 



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第16話 カルテット開始!特訓の成果を発揮せよ!

 

 

 

教員「それではカルテット、『毒の一撃(プワゾン)』を開始します」

 

当日、11区の中央にある車道交差点の脇に、間宮班と高千穂班の計8名が集まっていた。

その様子を剣護と理子は近くの建物の屋上で見学していた。

 

理子「ねえねえ、ツッキー。どっちが勝つと思う?」

剣護「あかりたち」

理子「そ、即答なのね……でも高千穂班の方も結構手練れがいるけど」

剣護「大丈夫だって。俺らが鍛えたんだぜ?」

理子「まーそれもそだねー…」

剣護「あとは信じるだけさね」

アリア「……そうね」

 

 

 

 

その頃あかりたちは公園から裏路地に進んでいた。

いつどこから待ち伏せされているか、あかりたちは神経を張り詰めさせながら進んでいたとき、あかりの左右の膝の裏に衝撃が走る。

倒れ込んだあかりは相手を確認するとそれは先ほどすれ違った女子高生に変装していた愛沢姉妹だった。

 

志乃「あかりさん!」

 

ようやく志乃が気づいて振り返るが、すでにあかりの旗は折られてしまっていた。

 

湯湯「トドメよ!」

夜夜「うん!」

あかり「よいしょっ!」

湯・夜『なん……だと……!?』

 

あかりの首を絞めようと迫った愛沢姉妹だが、あかりはするりと2人の間を抜け出して離れた。

その隙を逃さないかのように志乃が2人にランニングネックブリーカードロップを決めてぶっ倒し、湯湯にスピニングトーホールドで足を封じ。夜夜の足に鎖分銅を投げて捕らえた。

 

湯湯「あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!」

志乃「いや、話さなくて結構です。あかりさん、ここは私が引き受けます。あかりさんたちは先へ!」

あかり「うん……!わかった!」

 

あかりは志乃からフラッグを受け取るとそれを握りしめ、北へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

一方で公園の林ではライカと麒麟が陣取り、あかりからの状況報告を受けていた。

 

麒麟「お話を伺うに、愛沢姉妹の動きは遊撃的でしたわ」

ライカ「守備に最低1人は必要だから、あと1人攻撃手がいるな」

陽菜「左様。それが某にござる」

ライカ「!」

 

背後からの気配にライカが振り返ると木の上に風魔がぶら下がっていた。風魔は両手を合わせるとオジギする。

 

陽菜「ドーモ、火野ライカ=サン。風魔陽菜です」

ライカ「…………なんでアイサツ?」

陽菜「あっ……し、失礼した。最近借りた漫画のものでつい……」

ライカ「アッハイ」

 

風魔はブンブンと首を振り地面に降り立つと、麒麟の方へと苦無を投げつけようと振りかぶる。

 

陽菜「お覚悟!」

麒麟「ひっ……!」

ライカ「フッ!」

 

ライカは振り返るのをやめて地面を強く蹴ってバク転し、背面サマーソルトキックを放った。風魔は頭上で両手首をクロスさせ蹴りを受け止める。

 

ライカ「戦妹は戦姉が守る!」

 

ライカはトンファーを風魔は苦無を構え、お互いに睨み合う。

 

陽菜「……島殿は、お手が土で汚れている様子。フラッグは近くに埋めてござるな」

ライカ「目がいいな……でも、今はアタシと合わせろ!」

陽菜「目は潰すものでござるよ」

 

風魔は足元から土煙を発生させライカの視界を遮る。土煙で何も見えなくてもライカは集中を切らさず逆に一層集中を高める。

その中で風魔は短い腕使いで苦無扱い刺すように突く。ライカはトンファーで冷静に捌いていく。

 

カキンッ!

 

ライカ「せぇあ!」

陽菜「ぐっ!?」

 

ライカが苦無を受け流すと風魔は一瞬だが体勢を崩す。そこを見逃さずライカは蹴り込み、風魔を吹っ飛ばした。

 

陽菜「い、今のは……なかなかでござる……」

ライカ「あぁ、アタシの戦兄(あに)が教えてくれたのさ!」

 

ヨロヨロと立ち上がる風魔にライカはトンファーを構えて叫ぶ。

 

ライカ「みんなを信じて……ここは守り抜く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗「……来たのね」

 

あかりは高千穂班が拠点にしている工場現場に来た。そこには敵の目のフラッグと高千穂が居た。

高千穂はあかりが動けない様子を見ると話しかけ始めた。

 

麗「私ね、神崎アリアに戦姉妹契約をお願いしてたの。でも、戦姉妹契約試験でつまづいちゃって。その後いくら契約金を提示しても、ダメだったわ」

あかり「…………」

麗「でも、今はアリア先輩と戦姉妹にならなくて良かったと思ってるわ。お前を戦妹にするなんて……錯乱されたとしか思えないもの」

あかり「…………」

麗「まあ今はそんなことはいいわ……見せてあげる。私自身の実力を!」

あかり「っ!」

 

そう言って高千穂はスーパーレッドホークを連射するが、あかりは銃弾を避けていく。

 

麗「回避能力はなかなかのものね…」

 

麗はリロードして撃ち、あかりは回避しつつ後退して近くにあったバイク、『DN-01』を盾にして呼吸を整えつつ、UZIをスカートから取り出そうとするがやめた。UZIだと弾は届くだろうが速射性ゆえ命中率は高くなくさらにこの距離だと1発も当たらないだろう。そこであかりは腰に手を回しもう1つの銃を取り出した。

ファイブセブン。装弾数20発のハンドガンで貫通力が高い。これは剣護が特別にあかりに自分のを貸したものである。

 

麗「バイクごと吹っ飛ばしてやろうかしら?壊しても、賠償すればいいものね」

 

高千穂はゆっくりと銃口を下ろす。あかりのいるバイクの方へと狙いが付けられたその時だった。

 

 

\Awakening/

 

 

電子音が聞こえたかと思ったら急にあかりの隠れていたバイクのエンジンがかかったのである。

 

あかり「へ?」

麗「え?」

 

ドルルルンッ!と動き出したバイクに2人はポカンとしていたがすぐにあかりは好機と言わんばかりにそのバイクに飛び乗った。

 

あかり(ごめんなさい!少しだけ……1分だけ貸して!)

 

麗「くっ!」

 

高千穂は驚くもすぐに銃を構えて撃った。スーパーレッドホークの弾はあかり目掛けて飛ぶがバイクの動きによってあかりのこめかみを掠めただけに終わった。

しかし衝撃は殺せず、あかりは後方に仰け反ってしまうが歯を食いしばりなんとか持ち直して再びハンドルを握る。こめかみから流れる血を気にせずに、ただ前を向いてあかりは叫ぶ。

 

あかり「落ちるもんかぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかり『落ちるもんかぁ!』

 

ヘッドセットから流れるあかりの叫びを聞いた麒麟は勢いよく茂みから飛び出した。

 

麒麟「ととのいました!」

 

そう言うと麒麟は風魔と対峙しているライカに全体重を乗せた胴タックルでライカもろとも吹っ飛び落下防止用の手すりを飛び越えて落下した。

 

ライカ「わあぁっ!?」

 

空中に投げ出された2人は下にあった花屋のビニールの庇にバウンドし、信号待ちしていたトラックのコンテナにゴロンと乗った。

 

ライカ「な、なんだよ!目のフラッグをやられちゃうだろ!」

麒麟「敵を欺くにはまず味方からですわ」

 

そう言うと麒麟は胸元からフラッグを取り出す。地面に埋めたはずの目のフラッグを。

 

ライカ「え!?それ、公園に埋めたはず……」

麒麟「埋めたのは蜂のフラッグですの」

ライカ「麒麟、お前……!なるほどな……ハハハッ……」

 

そう言うとライカは力の抜けた笑顔で笑う。そんなライカに麒麟は。

 

麒麟「これぞまさに!計画通り……!」

ライカ「おいバカやめろ」

 

新世界の神みたいな顔をする麒麟にライカはツッコんだ。

そしてカルテットはいよいよ決着を迎えていくのだった。

 

 

 

 

 



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第17話 掴んだ勝利と迫る闇

 

 

 

あかりの乗ったDN-01は砂山を登っていく。しかしだんだんと登っていくにつれてどんどん減速していく。

 

あかり(……こうなったら……!)

 

あかりが走行中のDN-01の上に立とうとした時だった。カチッとハンドル部分にある何かを押す感触がした瞬間、ガコンッと車体後方から音が聞こえさらにキィィィ……と高音が響いてくる。

あかりが振り向くとマフラーの噴射口から炎がチラついていた。

 

\BOOST ON!/

 

あかり「あ……これやば……」

 

\READY……FIRE!/

 

あかり「ちょっ、キャアァァァァ!?」

麗「危なっ!?」

 

ドォウッ!と噴射口から炎が勢いよく噴き出し加速してあかりを乗せたバイクは砂山を登っていく。高千穂は突然の噴射炎に驚き飛び退く。そんな中でもあかりは蜂のフラッグを取り出し横に構えた。

 

そして

 

 

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

 

 

横向きに握った蜂のフラッグは高千穂班の目のフラッグを天高く弾き飛ばした。そしてあかりの乗ったDNは砂山を駆け抜けるとガリガリと地面を削りながら止まった。

目のフラッグは高千穂の頭に落ちて、高千穂はガクッと膝をついた。

 

麗「そ、そんな馬鹿な……」

 

こうして間宮班対高千穂班のカルテットは間宮班の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「では、間宮班の勝利にカンパーイ!」

理子「おめでとー!」

 

その日あかりたちはロキシーで祝勝会を開いていた。メンバーの中にはアリアや理子に剣護、ののかもいて4人の勝利を祝った。

 

剣護「いやーにしても……地味に居心地悪いなおい」

あかり「えー、なんでですか?せっかく呼んだのに」

剣護「だって…………この中で男、俺だけよ?」

ライカ「まあでも剣護先輩、あたしの戦兄なんですから」

理子「そうそう!ツッキーはにぃにだもんね!」

剣護「やめんかロリクソビッチ」

理子「酷くね?理子に対して酷くね?」

剣護「大丈夫だ、お前のゴールはアウターヘブンだ」

理子「何?理子の居場所はマザーベースなの?」

あかり「ま、まあまあ……」

ののか「それにしても……」

 

剣護を宥めるあかりにののかは額に巻かれている包帯を見て言う。

 

ののか「お姉ちゃん。聞いたら、実戦だったら死んでたみたいな勝ち方じゃない」

アリア「死んでもいい実戦なんかないんだからね。まだまだよ、あかり」

あかり「うっ……はい……」

剣護「ま、よくやったと思うよ」

アリア「そうね。勝ちは勝ち。よくやったわね」

あかり「……はい!」

アリア(あたしは独唱曲だけど。この子たちの四重唱も、悪くないわね)

 

アリアはソーダをストローで飲みながらあかりたちを眺める。

 

剣護(あかりたちも頑張ってんなら……俺も先輩として頑張らねえとな)

 

あかり「あれっ、どこ行くの?」

ののか「ちょっと、お手洗いだよ」

 

ふと振り向くとののかが目元を押さえるようにして席を立っていったところだった。

 

剣護「ふぃー……俺もトイレ行ってこよっと」

 

剣護はののかが居なくなるとスッと立ち上がりそそくさとトイレへと向かった。

 

ののか(ど、どうしたんだろ……最近、よく……見えない……)

 

ののかは洗面台の前に立つと鏡に映った自分の目を見た。ボンヤリと曇る視界に困惑しつつもののかは自分が病に冒されていることを自覚する。

その時、コンコンと誰かがドアを叩く音が聞こえた。ののかは恐る恐るドアを開けるとそこには剣護がいた。

 

ののか「け、剣護さん……」

剣護「見えないのか?」

ののか「い、いえ……別になんでも……」

剣護「ちょっと失礼するぞ」

ののか「っ……!」

剣護「…………」

 

剣護はののかの目を開かせると顔を近づけてジッと見つめる。ののかは少し震えていたが剣護が左手を肩に置くと止まった。

そして手と顔をののかの顔から離すと険しい顔をした。

 

剣護「こいつは……厄介だな」

ののか「な、なんだったんですか……?」

剣護「………………毒だ」

ののか「っ!?」

剣護「それもかなり強力な……どんな毒かは分からんが……」

ののか「そ、そんな…………」

剣護「まいったな……あの人ならなんとかできるかもしれんが……遠いしなぁ」

ののか「あの人……?」

剣護「いや、こっちの話だ。それよりこの事をあいつらにどう説明すべきか……」

ののか「あ、あの!」

剣護「ん?どした」

ののか「この事は……お姉ちゃんたちには黙っててください」

剣護「……でも……」

ののか「お姉ちゃんには心配かけたくないんです……お願いします!」

剣護「…………わかった。でも症状が悪化し始めたら言うんだぞ」

ののか「…………はい」

 

ののかはそう言っていつも通りの表情であかりたちの元へ戻って行った。しばらく剣護は腕組みをして苦い表情を浮かべながらその様子を見つめるのだった。

 

 

 

 



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第18話 夾竹桃との接触

 

 

 

ある日、剣護が最近素手や刀だけで銃をほとんど使ってないなと昼休みに地下射撃レーンに向かっているところだった。扉に差し掛かったところで声が聞こえた。あかりとアリアである。

剣護は足を止めて扉の前で2人の話に聞き耳を立てる。

 

アリア「あかり、あんた……」

あかり「こうすれば満足ですか」

 

聞こえてくるあかりの声はどこか暗いものだった。

 

あかり「……こんなの、武偵の技じゃない……!」

 

呻くような声が聞こえたところで剣護は扉を開けようとした時だった。

 

あかり「アリア先輩、すみません。見なかった事にしてください」

 

その場から逃げ出すように走って出てきたあかりが剣護の腹にもろに激突したのである。

 

剣護「うぐふぉ!?」

あかり「きゃうっ!つ、月島先輩……っ!」

剣護「おらよぉ!」

 

あかりは剣護の顔を見るがすぐに走り去ってしまう。しかし剣護は髪をあかりの体に巻きつけて捕獲する。

 

あかり「うえぇ!?何これ!?」

 

急に髪の毛が巻き付いてきてあかりは混乱しながら叫んだ。

 

剣護「おーい捕まえたぞー」

アリア「えちょ何それ……」

 

巻きつかれたまま連行されてあかりは剣護とアリアと共に射撃レーンに戻る。アリアは剣護にターゲットを指しながらさっきの内容を説明した。

 

アリア「という訳なの」

剣護「ふむ……十弩(トウド)ねぇ……」

あかり「…………」

剣護「まあ癖はちょっとやそっとじゃ直らないわな」

あかり「…………」

剣護「でも直せない訳でもない」

あかり「っ!ど、どうすれば……」

剣護「正しい姿勢と撃ち方を新たに染み込ませる。まあすぐには無理だろうが……焦るこたあないゆっくりとやっていけばいい」

あかり「は、はぁ……」

剣護「それかオートマチック銃を使うか」

あかり「で、でもあたしそんなの買うお金なんて……」

剣護「お前ファイブセブン持ってるじゃん。俺があげたやつ」

あかり「え?…………あっ!」

剣護「……この子大丈夫?」

アリア「大丈夫よ、問題ないわ」

あかり「なんで目を逸らすんですかアリア先輩!」

アリア「ソラシテナイワ」

あかり「逸らしてますぅー!」

剣護「ハッハッハ。だいぶ調子が戻ったじゃねえか」

あかり「あっ…………」

 

剣護とアリアにツッコんでいるうちにさっきまでの暗さが無くなっていることにあかりは気づく。俯くあかりにアリアは話しかける。

 

アリア「剣護の言う通り直せない訳じゃないのよ。だから明るく前向きに、焦らずゆっくりと取り組んでいけばいいのよ」

剣護「つまづいたら俺たちを頼ったらいいのさ。みんな力になってくれる」

あかり「っ……グスッ…………はい!」

 

2人の言葉にあかりは泣きそうになるが堪えて涙を拭って力強く返事を返した。

 

剣護「ところで……時間は?」

アリ・あか『あっ』

 

この後、午後の授業に遅れて怒られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

小雨の降るある日、授業と授業の合間の10分休み。あかりとライカが会話をしてる時、車輌科のヘリがヘリポートに止まるのを見てあかりはイヤな予感がしたのか教室を飛び出し、雨の降る外へ走っていく。

そして近くのバス停付近まで行くと武偵高の生徒が集まっていた。そこには救急車が止まっていた。

 

あかり「あ、アリア先輩!」

 

あかりが叫ぶとその後方から独特なクラクションが響き、振り返るとそこには赤いボディの車、トライドロンが止まっていた。

それを見たあかりは思考が一瞬止まった。

 

あかり「…………は?」

アリア「こっちよ。あかり」

あかり「え?アリア先輩……いやなんですかその車!?」

剣護「俺のトライドロンだよ」

あかり「月島先輩!?」

 

ギョッとした表情であかりは立ちつくす。無理もないだろう、本来存在しない車にアリアが乗っているのだから。

 

あかり「な、なんでそれに……」

アリア「剣護が呼び出したのよ。事件の時に」

あかり「は、はぁ……で、でも良かったです。アリア先輩が無事で」

アリア「まあね。でも念のためこれから病院で診て貰ってくるわ」

あかり「あ、はい」

 

そう言ってアリアは救急車に乗ると行ってしまった。あかりはアリアを見送ると授業のことを思い出しあたふたとし始める。そんなあかりに剣護は声をかけた。

 

剣護「しゃーなし、今回はサボるか。おい、あかり。乗れ」

あかり「え、あ、は、はい……」

 

あかりはおずおずと乗り込み、剣護は車を走らせる。そんな中、ふとあかりの方を見るとポロポロと涙を零しているのを見て剣護はギョッとする。

 

剣護「ど、どうしたよ……」

あかり「い、いえ……アリア先輩が無事だったのが分かって……つい」

剣護「なんだそのことか……」

あかり「月島先輩が……守ってくれたんですよね……」

剣護「……まあ……」

剣護「月島先輩って結構優しいですよね。志乃ちゃんの時やカルテットの時とか」

剣護「守ることが俺の信念だからな。それにアリアやキンジやあかり、みんなが大事なものだから」

あかり「そうですか……あの、ここで降ろしてもらっていいですか?少し歩きたくて……」

剣護「ん、わかった。気をつけなよ」

 

車を停め、他の車輌が迫ってないか確認してからあかりを降ろす。あかりはペコリと頭を下げてから歩いて行った。

その表情は少し赤みを帯びていたのを剣護は知ることもなかった。

 

 

 

 

 

あかり「ふぅ…………」

 

剣護と別れたあかりは雨の降る中を歩く。冷たい雨があかりを濡らすがその冷たさを感じないほどにあかりの顔は赤く火照っていた。

 

あかり(ど、どうしちゃったんだろ。あたし……顔が……胸が……熱い?)

 

あかりは胸を押さえる。トクントクンと脈打つに連れてどんどん熱くなってくる。

 

???「間宮あかり」

あかり「……?…………っ!!」

 

あかりが声のする方を向くと瞬間、相手の顔を見てさっきまで赤かったあかりの顔は真っ青に染まる。

そこには2年前にあかりたち間宮の一族を襲ったうちの1人夾竹桃がコウモリ傘をさして立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

剣護「………なんか嫌な予感すんなぁ」

 

そう言うと剣護は携帯を操作してしばらくしてから車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

その頃、あかりは夾竹桃と共に三叉路にあるヴァルドシュートという大人びたムードの喫茶店にて対峙していた。

 

あかり「どうして、あたしの前に現れたの」

夾竹桃「間宮の口伝、秘毒・『鷹捲』。知ってるんでしょ?」

あかり「……仮に知ってたとしても、あたしは間宮の術を全部封じたの。教えない」

夾竹桃「なら……教えたくなるように、してあげましょうか」

 

そう言って夾竹桃は真っ白な足を組み直す。あかりはスカートの中に武器を隠してるようなバンドやホルスターがないのを確認するとマイクロUZIを抜き立ち上がった。

 

あかり「夾竹桃、大人しく……っ!」

 

銃を構え、テーブルを回り込もうとした時だった。首に微かな痛みが走り、あかりは足を止め目で周りを確認する。そこにはちょうど首の高さと同じ位置に極細のワイヤーが張られていた。

 

夾竹桃「TKNワイヤー。その防弾制服にも織り込まれてる、極細繊維よ」

 

あかりの首の後ろにワイヤーが回され徐々に食い込んでいく。

 

夾竹桃「戦っちゃダメ。あなた弱いんだから」

 

ジワリジワリと角度を変えて少しずつ力を込めてくる。

あかりは銃口を差し込み隙間を作ろうとするが、ワイヤーは首全体に巻き付いており差し込めない。

 

夾竹桃「……いっちゃおうか?ポトリって。交渉決裂気味だし」

あかり「うっ……ぐっ……」

 

 

プツンッ

 

 

不意にどこからか飛んできた鉄扇が二本のワイヤーを切断する。そしてその持ち主はどこともなく現れた。

 

麗「『弱い』ですって?聞き捨てならないわね」

 

それはかつてカルテットであかりと戦った高千穂麗だった。

 

麗「間宮あかりは私を倒した。それを『弱い』と侮辱したのは、私への侮辱でもあるわ」

あかり「高千穂さん……助かったよ」

麗「べ、別に、お前を助けたわけじゃないんだからねっ!」

あかり「で、でも何でここに…」

麗「……月島先輩が連絡してくれたのよ。お前ならあかりのところにすぐ行けるだろって」

あかり「月島先輩が……そっか」

 

麗はスカートの内側からスタームルガースーパーレッドホークを取り出し夾竹桃に銃口を負ける。あかりも同じくUZIを構える。

しかし、夾竹桃は2人を見て何故か赤面し始める。

 

夾竹桃「そう。そういう関係」

あか・麗『……?』

夾竹桃「……これで一冊描けるわ、夏に間に合うかしら……」

あか・麗『?』

 

急に立ち上がりブツブツと何かを呟くのを見てあかりと高千穂が困惑する中、バンッ!と喫茶店の扉が勢いよく開き現れたのは。

 

剣護「おう間に合ったか」

あかり「っ!月島先輩!」

夾竹桃「っ!?」

 

あかりの危機を感知し、すっ飛んできた剣護だった。

一応手には愛銃のM500が握られている。

 

剣護「なーんか嫌な予感がしたもんでな。高千穂に連絡して先行してもらった」

夾竹桃「流石に分が悪いわね…間宮あかり。あなたに1週間、時を与えるわ。何にせよ、種は2年前に植えた。そろそろ花咲く頃よ」

 

2年前。そのキーワードがあかりの心を鋭く抉る。傘を手にした夾竹桃は喫茶店から去ろうとする。

 

夾竹桃「あなたの全てが私のものになれば、誰も傷つかなくて済むわ……」

 

そう言うと夾竹桃は喫茶店から出ていった。その時、スカートから1枚の折りたたまれた紙を落として。

 

あかり「夾竹桃…………」

麗「…………」

剣護「……やれやれだ」

 

3人はただただ扉を睨むだけだった。しばらくして3人は武器を納め椅子に座る。

 

剣護「2人とも大丈夫か?」

あかり「はい、なんとか」

麗「特に問題はないわ」

剣護「とにかく、アリアの所へ行こう。あかりは妹に連絡しておけ」

あかり「はい」

麗「では、私はこのあたりで」

あかり「う、うん。高千穂さん、ありがとう」

麗「か、勘違いしないことね!今のはその……お前がコロっと斃されたら、私も学校で笑われるからよ!」

 

そう言うと高千穂はさっさとカフェを去っていった。途中、振り返って心配そうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、あかりと剣護は武偵病院へと向かった。そこにはバスジャックに巻き込まれた武偵高の生徒が何人かいた。剣護は他の生徒と情報交換や今の現状を聞いたりとしてる間、あかりはベンチに座って先ほど呼び出した妹を待っている。

 

しばらくして、ののかがロビーに入ってくる。しかし、入口正面のベンチに座っているあかりに気づかずしばらくキョロキョロしている。

 

あかり「ののか。こっちだよ」

ののか「お姉ちゃん」

 

振り返るののかに違和感を感じるあかりだがそれよりも伝えなければいけないことがある。

 

あかり「ごめんね、急に呼び出して。あたし今日、ここを離れられないから。あと、これ」

 

あかりは現金1万円と車輌科のクラスメートに依頼して手に入れた特急券・乗車券を取り出す。

 

あかり「しばらく長野のおばさんの所にいて。ワケは後で話すよ」

ののか「う、うん……あ……」

あかり「ののか……?」

 

切符を取ろうとするが空を掴んでしまい、そのまま戸惑うあかりの方へふらっと倒れてしまう。それに気づいた剣護は2人に駆け寄る。

 

あかり「ののか?ののか!ののか!」

剣護「っ……おい!先生を呼べ!早く!」

 

剣護が周りに叫んで、病院のスタッフが呼ばれ、担架が持ってこられ、ののかは運ばれていった。その様子をあかりは愕然としながら見送るしかなかった。

 

それから数時間後、外はすっかり暗くなっていた。

病院の個室のベッドの上で、ののかは上体を起こして座っていた。両目には痛々しく包帯が巻かれていた。あかりは、ののかの毛布に顔を埋めて泣きながら心配していた。

 

あかり「……ののか……ぐすっ……えぐっ……」

ののか「大丈夫だよお姉ちゃん。きっとすぐ治るから」

あかり「でもお医者さんも、原因が分からないって……」

ののか「だらしないぞお姉ちゃん。目が見えなくても、耳は聞こえるし、喋れるんだから」

陽菜「否。視覚の次は聴覚、次いで味覚。8日もすれば、命を落とされる」

 

ののかが気丈な言葉をかけるがその言葉を否定する声が聞こえた。振り向くとそこには風魔がカルテのコピーを読んでいた。次いで志乃、ライカ、麒麟が病室に入ってきた。この時あかりはみんながあかりのことをどれだけ心配していたのかを悟らされた。

あかりは風魔の方を向くと風魔は続きを話し始める。

 

陽菜「ののか殿の症状の原因は打たれて2年の後に五感と命を奪う『符丁毒』。その分子構造は暗号状になっており、作った本人にしか解毒出来申さぬ」

あかり「どうして知ってるの、そんなこと」

陽菜「それは……元々、風魔の術に御座ったゆえ」

志乃「それがどうして、ののかさんに……?」

陽菜「……一党の不覚をお詫び致す。数年前、幼子に別の毒を打たれ解毒して欲しくばと、製法を強請り取られたので御座る」

 

風魔は眉を寄せながら一族の失態を語る。そしてあかりに尋ねた。

 

陽菜「毒を以て毒を奪う。この手口、夾竹桃に御座るな?」

あかり「……ッ……!」

ののか「お姉ちゃん……」

 

あかりとののかは夾竹桃の名に息を呑む。

あかりはスカートのポケットの中のメモを握りしめる。みんなを巻き込みたくない。自分が犠牲になればののかを助けられる。

あかりは下を向いたまま、みんなの間を縫うようにして病室から出て行こうとする。

 

志乃「あかりさん!」

ライカ「あかり!」

あかり「ついてこないで!」

 

志乃やライカの制止の声を、大きな声で遮りながらあかりは病室の扉を掴む。

 

あかり「あたしが犠牲になれば……いいの!」

 

涙声で言い捨てて扉を開いた先には。

 

アリア「自己犠牲が『美談』になるのは、お伽話の中だけよ」

剣護「周りを頼れっつったのに……バカかお前は」

 

戦姉と自身を今まで助けてくれた先輩がいた。

 

あかり「でも……でも……!」

剣護「あかり」

 

剣護の声にあかりは顔を上げ、剣護は真っ直ぐにあかりの目を見る。

 

剣護「言っただろ?つまづいたら俺たちを頼れって」

あかり「で、でも……みんなを巻き込むわけには……」

アリア「はぁ……たまに思うけどあかりって剣護と似てるとこあるわよね」

あかり「え……?」

アリア「こいつもバスジャックの時に自分のことなんかお構い無しに銃座の前に立ったんだからね?」

剣護「うぐっ……」

 

アリアの言葉にあかりはキョトンとして、剣護はバツが悪そうに目を逸らした。

 

アリア「あんたはあたしたちに隠してることがある。そうでしょ?」

あかり「……あ……」

アリア「あんたは本当の自分を隠して、力を抑えてきた。だから武偵ランクも低いまま。違う?」

剣護「てゆーか、一部漏れてたけどな。鳶穿とか」

あかり「うっ…………」

剣護「もう良いんじゃないか?話しても」

あかり「……はい……って月島先輩は知ってるんですか?」

剣護「知り合いから聞いて思い出した。俺が9歳の頃の記憶をな」

あかり「9歳の頃の……?」

剣護「お前の後で話すからはよせいや」

あかり「は、はい。それじゃあ……話します。間宮のことについて」

 

 

 



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第19話 間宮の秘密と剣護の記憶

 

 

 

あかりの心の準備が整うまでの間、風魔と剣護以外は麒麟の淹れたコーヒーを手に病室のイスに座りあかりの様子を見守る。

そして心の準備が整ったのか、涙を拭いてあかりは話し始める。

 

あかり「あたしの家は昔、公儀隠密……今で言う政府の情報員みたいな仕事をしてました」

 

幼い頃に聞かせてもらった逸話を思い浮かべながらあかりは語る。

 

あかり「でもそれは生死を賭けた戦いが続く、危険な仕事だったそうです……そこで培われた戦技は、子孫に伝えられてきました」

 

あかりの脳裏には過去の記憶が甦る。間宮町の山中、野原、川辺、いろんな場所で教わった間宮の術の数々。しかし、その記憶の中で1つ気になるものがあった。

それは川辺で行われた毒薬の調合の訓練のことである。

 

みすず「今は色つきの砂と草で、調合の手順だけ教えるね。毒薬は危ないから」

ののか「はーい!」

あかり「は……へっぷち!」

みすず「あらあら……『鷹捲』……成功率がいつまでたっても1/3ねぇ。それじゃあ実戦には使えないわよ」

 

あかりの鼻をハンカチで拭いながらみすずはそう告げる。

 

みすず「長男長女だけが習うんだから、ちゃんと覚えてね」

あかり「がんばる!」

 

みすずの言葉に、あかりはグッと手を握り締める。その時、近くの草むらからガサガサと音がして3人は一斉に振り向く。すると草むらの奥から古傷だらけの巨大な熊がのそのそと現れる。

あかりとののかはヒッ!と息を呑み、みすずはそんな2人を守るかのように前に立つ。

 

あかり「お、お母さん……」

みすず「大丈夫よ。私が守るから」

 

ガタガタと震える2人にみすずは笑顔で返す。熊は目が合うと3人に目掛けて突進してくる。みすずは身構え、あかりは震えながら自身にしがみつくののかを見て精一杯の大声で叫んだ。

 

あかり「た、た……助けてえぇぇぇぇ!!」

 

熊との距離が数メートルに迫った時、あかりの声に応えたかのように何かが草むらから飛び出した。

 

剣護「しゃーんなろぉがぁぁぁぁぁ!!!」

 

ドッゴォォォォォンッ!!

 

飛び出してきたのは1人の少年。あかりの1つ上ぐらいの少年が熊を木刀で吹っ飛ばしたのである。その光景に3人はポカンとした様子で見ていたのも束の間、熊は起き上がるとその少年に突進してくる。

 

熊「ガルァ!!」

剣護「てめーはちったぁ……寝てやがれぇ!!」

 

思い切り大ジャンプして突進を避けた少年は落下の勢いを乗せて木刀を振り下ろし叩き込む。

 

剣護「月島流、富嶽鉄槌割り!」

 

繰り出された一撃はドゴォン!と轟音を響かせ地面に円形の穴を開けた。その光景にみすずは唖然とするばかりだった。

 

みすず「なんなのあの子……」

剣護「ふー……大丈夫ですか?」

みすず「え、えぇ……ありがとう。助かったわ」

剣護「いえいえ。なんてことは「コラー!剣護ー!」あ、やべ」

 

怒りを含んだ声が聞こえたかと思うと草むらから白い道着をきた老人が現れた。

 

???「コラ!剣護!勝手に飛び出すんじゃないわ!」

剣護「ご、ごめんじいちゃん。でも声が聞こえたから……」

???「全く……まあ無事じゃから良いとして……そちらの方は?」

みすず「間宮みすずと言います。そちらのお孫さんに助けていただいて……」

源二「それはそれは……災難でしたな。わしは月島源二。此奴は孫の」

剣護「月島剣護です」

みすず「月島さんですね。ほら、あかりにののかも挨拶なさい」

あかり「え、えと……まみやあかりです」

ののか「ま、まみやののかです」

源二「ホッホッホ。可愛らしいお子さんですな」

みすず「いえ……あなたのお孫さんもお強いですね。あんな大きな熊を倒すなんて」

源二「なんのなんの。あれぐらい大したことないですじゃ」

みすず「は、はぁ……?」

源二「うちの先祖は蟲退治をしてましてのぅ……今は蟲なんぞおらんが技だけは今でも受け継いでおるのじゃよ」

みすず「そうなんですか……似てますね。私たちの所と」

源二「ほう?」

みすず「間宮家も代々子孫に術を伝えていっております」

源二「ほう……間宮の術とな」

みすず「はい。あなたのは……剣術でしょうか?」

源二「左様。月島流剣術といってな、戦場を意識したものじゃ」

剣護「じいちゃん。ベラベラ喋ってっけど良いのかよ」

あかり「けんごお兄さん遊ぼー」

ののか「遊ぼ遊ぼー」

剣護「おっととと。はいはい、わかったわかった」

みすず「フフフッ。すっかり懐かれてるわね。あの、よろしければこれからもあの子たちの相手をしてやれないでしょうか?」

源二「ホッホッホ、構いませんぞ。剣護は一人っ子で兄弟がいませんからのぉ……」

みすず「ありがとうございます。それでは……あかり!ののか!そろそろ帰るわよ」

ののか「はーい!」

あかり「…………」

 

みすずの言葉に対してののかは元気よく返事をするがあかりはションボリと俯いている。剣護はあかりの前にしゃがみこむとポンと頭に手を置いた。

 

剣護「あかりちゃん」

あかり「…………?」

剣護「また今度遊んでやるからさ。元気出して、な?」

あかり「!…………うん!」

 

素直に元気よく返事をするとあかりはみすずの元へ走っていった。そして振り返るとののかと一緒に元気よく手を振って帰っていった。

 

剣護「……お兄さんか……」

源二「ホッホッホ。年下の相手は初めてだったじゃろ?」

剣護「まあね」

源二「そうか……ではわしらも帰るかの」

剣護「オッス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかりは初めて剣護と出会ったことを思い出すとボソリと呟きだした。

 

あかり「……剣護お兄さん……」

剣護「おいバカやめろ」

アリア「じゃあ、あかりは昔から剣護と接点があったのね」

ののか「そういえばあの時からずっと私とお姉ちゃんの3人で遊んでくれてたよね」

剣護「ええいそれより話の続きだ!」

 

そう言って今度は剣護が話し始めた。2年前、間宮の術を狙って夾竹桃を含めた一味が間宮町を襲った。間宮の一族は術を守るため掟に従い散り散りになったと。

 

あかり「あたしたちが襲われたのは……ののかがこんな目に遭わされてるのは、間宮の術なんかがあったからなんです……」

アリア「あかり。じゃあ、お母様の理念についてはどう思うの。『人々を守るために戦う』世にはびこる悪から、無辜の民を守るために戦う。それは立派な理念よ」

剣護「人々を守るために戦う。これは間宮の一族や武偵に限られたことじゃない。絶対に誰かがやらなくちゃいけない。それをお前らは受け継いできたんだろ?」

あかり「それは……守りたいです……でも、間宮の技は人を殺める技なんです。だから、あたしは武偵高で……」

アリア「技術を矯正しようとしてたのね。武偵法では殺人が禁じられてるから」

陽菜「それで鳶穿も、奪取の法に改変したと」

あかり「うん……でも……何年もかかって、作り直せたのはそれだけ……体に染みついた癖はなかなか取れないんだ」

 

あかりはそう言ってイスから立ち上がると病室の出口へと歩いていく。

 

志乃「あかりさん……?」

あかり「みんな、お別れだね」

 

左袖の武偵高の校章を剥がし、あかりは言った。武偵高章を付け替える以外の理由で剥がすということは武偵を辞める、ということを意味する。

 

あかり「あたし……やっぱり行くよ。夾竹桃のものになって、ののかを助ける」

アリア「あかり……」

あかり「戦姉妹も解消します。あたしはアリア先輩みたいには……なれなかった」

アリア「……皮肉なものね。戦姉妹試験の時はあんたがあたしを追い、今はあたしがあんたを追う」

 

アリアの言葉で戦姉妹契約試験のことを思い出し、あかりは足を止める。その背にアリアは語り続ける。

 

アリア「規則上、戦姉妹の途中解散には双方の同意が必要よ。あたしは同意しない」

あかり「…………!」

アリア「あたしの戦妹なら戦いなさい。敵と、そして、自分と。武偵として敵を逮捕するのよ!」

あかり「……でも……夾竹桃は、強いんです……あたし、間宮の技もほとんど失ってるんです……昔のものは封じて、新しいものは身につかなくて……今のあたしは、何も持ってないんです……!」

剣護「そんなわけあるか」

 

何も持ってない。その感情を即座に、真正面から剣護は否定した。

 

剣護「見落とし過ぎだっての。お前は大事なもんをたくさん持ってる」

あかり「……何を、ですか……?」

剣護「振り返ってみろよ。そこかしこにたっくさんあるぜ」

 

剣護は昔のように、あかりの頭に手を置きあかりの後方を見る。あかりもそれに促されて振り返ると。

 

志乃「あかりさん!」

ライカ「あかり!」

麒麟「間宮様!」

 

志乃が、ライカが、麒麟が、みんながいた。そして続けて3人は言い放つ。

 

ライカ「家がなんだ!技がなんだ!あかりはあかりだろッ!」

麒麟「微力ですが、お力添えしますの!」

志乃「あかりさんが死ぬなら私も一緒に死にます!」

剣護「ちょっと待てや。そのセリフ」

陽菜「某も助太刀致す。風魔の秘伝『符丁毒』の悪用、許すまじ」

 

風魔も味方すると言ってくれている。みんなの声を聞いてあかりは涙を溢れさせグシャグシャになる。

 

あかり「……助けて、くれるの……?」

アリア「1年暗誦!武偵憲章1条!」

1年達『仲間を信じ、仲間を助けよ!』

あかり「みんな……」

 

涙を溢れさせるあかりに剣護はポンと肩に手を置いた。

 

あかり「月島先輩……」

剣護「仲間だけじゃない。お前は俺の技も持ってんだからよ」

あかり「……あ……!」

 

そう。仲間だけではない。間宮の技だけではない。剣護から教わった数々の技もある。あかりは胸の奥にほのかな温もりを感じた。

そんなあかりにアリアはペタリと一度はあかりが捨てた武偵高の校章を拾い左袖に付け直した。

 

アリア「あかり。あんたに初めて、作戦命令を下すわ」

あかり「!」

アリア「あたしはあたしの敵を逮捕する。あんたはあんたの敵を逮捕しなさい」

あかり「アリア先輩……」

アリア「作戦のコードネームは『AA(ダブルエー)』」

あかり「ダブルエー……?」

アリア「アリアとあかりのAよ。同時に、2人の犯罪者を逮捕するの」

あかり「っ……はいっ…!」

 

あかりは涙を浮かべながらも元気よく返事をする。その表情は不安による暗いものではなく、明るい笑顔だった。

 

剣護「いよっしゃあ!AA作戦……ノーコンティニューでクリアしてやろうぜ!」

一同『おー!!』

 

夾竹桃は手強い。しかし、志乃やライカ、麒麟に風魔、みんなと一緒なら。絶対に勝てるとは言えない、でも怖くなんかない。

笑顔を取り戻したあかりは全員と拳を合わせ、夾竹桃と戦う決意を固めるのだった。

 

 

 



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第20話 『AA』作戦始動!

 

 

ホテル『ラストダンス』の403号室。あかりは夾竹桃のいるその部屋の扉の前に立っていた。呼び鈴を鳴らすが反応が無く、あかりは側面の壁を盾にするような体勢で解除キーを使い鍵を開け、部屋を覗き込んだ。室内には様々な植物や描きかけのマンガ、実験器具などが置いてあった。

 

…………カチャ

 

その時、部屋の奥からドアの開く音が聞こえた。あかりは音が聞こえた方へとUZIを向ける。

 

夾竹桃「あら」

あかり「……!?」

 

どうやらドアの向こうはシャワールームだったらしく、全裸の夾竹桃が出てきた。まさか全裸の状態で出てくるとは思わずあかりはUZIを落としかける。それを気にしないかのように夾竹桃は黙ってクローゼットを開く。

 

あかり「ふ、服着て!話があってきたの!」

夾竹桃「はいはい」

 

服を取り出す夾竹桃にあかりは背を向けるが彼女がどこかから武器を出したりしないか警戒をしながら、時々横目で監視する。

すると夾竹桃はあかりに背を向けたまま話し始めた。

 

夾竹桃「取引はシンプルよ。ののかの符丁毒の解毒剤と、間宮の秘毒、鷹捲を交換。あなたの身柄も、オマケで頂戴」

あかり「鷹捲は毒じゃない」

夾竹桃「トボケちゃって」

 

夾竹桃はあかりの足元に一冊の本を放ってきた。その本の表紙には女の子同士が抱きつきあっている様子が描かれていた。

 

あかり「……なにこれ?」

夾竹桃「え?……あ!ごめんなさい。これは私が描いてるマンガだったわ。こっちこっち、間違えたわ……」

あかり「え、あ、は、はぁ……」

 

慌てて放った本を拾い、夾竹桃は今度は和綴じの本を渡してきた。その本の表紙には『間宮奥伝其之伍』の文字が書いてあった。これは、2年前の襲撃時に間宮町から奪われた奥義を記した秘伝書の1つである。

夾竹桃は黒いセーラー服を着ながら話す。

 

夾竹桃「それには『千本の矢をスリ抜け』『一触れで死を打ち込む』『死体に傷が残らない技』とあったわ。そんなもの経皮毒しかあり得ないでしょ」

あかり「鷹捲は……難しいの。あたしも3回に1回しか成功しない。実戦じゃ使えな……ん?」

 

そこまで言ってあかりはふとあることを思い出す。数年前、ののかと剣護と一緒に鷹捲の練習をしていた時のことを。

 

夾竹桃「あら、どうしたのかしら?」

あかり「……ううん、なんでもない」

夾竹桃「あら?教えてくれてもいいのに……」

あかり「教えない。それに渡さない。あなたみたいな人には鷹捲を渡さない」

夾竹桃「そう、なら仕方ないわね」

 

ジワリと夾竹桃は今まで押しとどめていた殺気を発し始める。

しかし、あかりはその圧倒的なプレッシャーにゾッとするがすぐに持ち直した。恐らく剣護の殺気の方が強かったらしくこの程度は平気になったらしい。

 

夾竹桃「最後のチャンスをあげる。イ・ウーにおいで、あかり。あなたは選ばれた」

 

差し出された右手を見て、呼吸を整えながらあかりはイ・ウーの話に応じる。

 

あかり「アリア先輩や剣護先輩に聞いたよ。イ・ウーっていうのは、人に話しちゃいけないほど危険な、秘密結社。無法者の、国際組織……!」

夾竹桃「私が可愛がって」

あかり「それと」

夾竹桃「?」

 

あかりの発言が無かったかのように語りかけようとした夾竹桃の言葉をあかりは遮り、話を続けた。

 

あかり「剣護先輩が言ってた……イ・ウーは無法者という名のゴミの溜まり場とか…あいつらはグリードの塊……だとかいろいろ言ってた。ヤバすぎて後半聞いてなかったけど」

夾竹桃「…………おっふ」

 

あかりの言葉に夾竹桃は顔を引きつらせるしかなかった。何も言えねえ……そんな感じだった。

 

夾竹桃「ま、まあいいわ……あかり、イ・ウーに来なさい。私が可愛がって、育ててあげる。強くなれるわよ、あの神崎・H・アリアよりも」

あかり「あなたの物になんかならない。あなたの物になるくらいなら……剣護先輩の物になった方が断然良い!」

夾竹桃「さりげなく、すんごいこと言ってるわよ!?」

 

夾竹桃の言葉を無視して、あかりは身を捻って後ろに跳び、小型のスタングレネードを投げつけた。

室内で閃光と爆発音が弾けた。目を閉じ、両耳を塞ぎ、机から落ちる実験器具から身を守り、あかりは衝撃をやり過ごすとゆっくり目を開き、UZIを手に立ち上がる。このスタングレネードは外に待機している仲間たちへの合図でもあった。

あかりは銃を構え、夾竹桃が立っていた辺りを見渡すがそこに夾竹桃はいなかった。

 

夾竹桃「キョウチクトウの花言葉は……『危険な愛』……」

あかり「!!」

 

あかりがベランダの方へと向くと夾竹桃が空中に立っていた。否、空中に立っているのではなく、目に見えないほど細いワイヤーを蜘蛛の巣の如く張り巡らせ、その上に立っていた。

 

夾竹桃「遊びましょ。あなたの投降が先か、お友達の全滅が先か……今夜は2年前よりやりやすいの……皆殺しにしてもいいルールだから」

 

そう言って夾竹桃は、パッ、パッとワイヤーからワイヤーへと平然と飛ぶように渡って行った。あかりはベランダに出るがワイヤーを渡ることは到底できず、夾竹桃はビルの向こうへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかりによるスタングレネードの爆音を聞いた時、風魔はその振動で揺れ動きチラチラときらめいた不審な線、ホテル近傍の空に張られたワイヤーに気づいた。

風魔は街灯を蹴って飛び上がり、ワイヤーの上に立ちパッパッと跳び上がっていく。20m程まであがると風魔はコウモリの如くつま先でぶら下がった。そして火縄銃を取り出すと構えて、夾竹桃が出てくるのを待つ。

そして、雑居ビルの影から出てきた夾竹桃目掛けて発砲した。鉛弾は夾竹桃の黒髪を掠めただけで外してしまった。

 

陽菜「少々厳しい射角で御座ったな」

 

風魔は火縄銃を放り捨てるが次の瞬間何者かが風魔の捨てた火縄銃をキャッチし闇に消えた。一瞬不審に思った風魔だが今はそんなことを気にせず夾竹桃に向き直る。

 

陽菜「不肖の下忍、お相手つかまつる」

夾竹桃「……希望は聞いてあげる。あなた、どう死にたい?」

陽菜「畳の上で大往生と決めて御座るッ!」

 

そう言うと風魔は卍手裏剣を2枚投擲する。放たれた手裏剣はブーメランのようにカーブを描いて飛び、夾竹桃の立ってるワイヤーの左右を切断した。しかし、夾竹桃は落下中に小さなガス缶を投げた。それは風魔の目の前で弾けて紫色の煙を広げる。

しかし、次の瞬間、どこからか黒い塊が2つ飛んできて煙を吹き飛ばした。夾竹桃は一瞬驚きの表情を見せ、風魔はこの隙に口当てを引き上げ飛び降りた。

 

陽菜「……む!?」

 

路上に降り立ち、周囲を見回しながら立ち上がった時、ぷつぷつと防弾セーラー服に穴が開き、口当てまでも硫酸か何かを浴びせられたように溶けていく。どうやら完全には煙を吹き飛ばせてなかったらしい。

 

夾竹桃「肺呼吸させて毒するなんて面白くないわ。それじゃ楽しめないもの」

 

服が溶けるだけでなく、激しい目眩と頭痛に襲われ、脈拍も不整になり風魔は片膝をついてしまう。

 

陽菜「む、無念……!」

 

それでも風魔は最後の力を振り絞って苦無を3本とオナモミの実を投げつけた。苦無は易々と避けられたがオナモミの実は辛うじてプリーツスカートの裾にくっついた。

 

夾竹桃「耐毒訓練の経験があるのね。でも、もう限界でしょ」

陽菜「……あぐッ……!」

 

夾竹桃は風魔のポニーテールを後ろへ引っ張り、風魔は仰向けに倒されてしまう。夾竹桃は風魔の上にのしかかり、左膝を腹部、右膝は左肩、左手は右肩と人体の各ポイントを押さえ、体の自由を封じた。

さらに夾竹桃は風魔の口当てに手をかける。

 

陽菜「止されよ!某の一派では、くノ一が敵に素顔を見られるのは、裸を見られるようなものッ」

夾竹桃「知ってるから見たいのよ」

 

サディスティックな微笑を浮かべつつ、口当てを剥ごうとした時だった。

 

 

ズドドッ!

 

 

夾竹桃の右手に2つの黒い塊が突き刺さった。

 

夾竹桃「あぐっ!」

陽菜「え……?」

 

夾竹桃は思わず口当てから手を離し痛みに悶え、風魔は何が起こったのかわからないといった状況だった。そして、さらなる追撃が夾竹桃を襲う。

 

ニンジャ「イヤーーーッ!」

夾竹桃「がっ……!」

 

暗闇の中から赤黒のニンジャが飛び蹴りを繰り出し、夾竹桃を吹っ飛ばす。そして両手を合わせ一礼をする。読者の方々ならこのニンジャが誰なのかもうお分かりであろう。

 

ニンジャ?「ドーモ、はじめまして。夾竹桃=サン。ニンジャスレイヤーです」

 

そう、ニンジャスレイヤー?である。赤黒の忍者装束に身を包み、忍殺と刻まれたメンポで口元を隠すその姿はまさしく死神。

 

夾竹桃「な……ナンデ……」

陽菜「に、ニンジャスレイヤー……=サン」

 

夾竹桃はヨロヨロと立ち上がり、普段○○殿と呼んでいる風魔もサン付けで呼んでいる。まあ、大体は剣護が貸した漫画の影響なのだが。

 

夾竹桃「っ!」

ニンジャ?「ヌッ!」

 

夾竹桃は咄嗟にガス缶を地面に叩きつけ、毒ガスを撒き散らす。ニンジャスレイヤーはバックステップで離れ回転数を増したスリケンを放ち吹き飛ばすがそこには既に夾竹桃の姿は無かった。

 

ニンジャ?「ヌゥ……逃げたか……」

 

そう言うとニンジャスレイヤーは風魔の方へ近づき、しゃがむと丸薬を取り出した。

 

陽菜「そ、某のことは気にせず……夾竹桃を……」

ニンジャ?「いや、俺が依頼されたのはお主らのサポートだけだ」

陽菜「…………」

ニンジャ?「これを食べるといい。解毒効果がある」

陽菜「か、かたじけない……」

 

風魔の口に丸薬を入れるとニンジャスレイヤー?は風魔を背負い、停めている車の方へ移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麒麟「夾竹桃はガス状の毒も使うようですの。市民に被害が及ぶリスクを避けるため、広域へ誘導してください」

志乃『了解』

ライカ『夾竹桃の移動方向は?』

麒麟「倉庫街の方へ逃走中ですわ。私は風魔様を迎えに行きますわ」

ライカ『風魔は大丈夫なのか?』

麒麟「ニンジャスレイヤー=サン?が現れたから多分大丈夫かと」

あかり『に、ニンジャスレイヤー?』

麒麟「詳しくは月島様から聞くといいですの」

あかり『アッハイ』

 

麒麟はハンドルを握ると振り回すようにしてハマーを風魔の元へと急行させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青海の倉庫街ではライカがアサルトライフルを構えて索敵していた。

 

ライカ「逃がすもんかよ……」

夾竹桃「アリから逃げるサソリはいないわ」

ライカ「!」

 

声の方に振り向くとそこには夾竹桃が立っていた。ライカは距離を取りアサルトライフルを向け「動くな!」と叫び引き金に指を掛けるがトリガーガードに南京錠がかけられ、引き金が引けなくなっていた。

 

ライカ「ならっ!」

 

ライフルを放棄し、ライカは思い切りジャンプして夾竹桃の顔面目掛けてドロップキックを繰り出した。夾竹桃は左手を前に突き出していたが、それをすり抜け見事顔面にヒットする。夾竹桃は産廃物のゴミ袋が積まれた一角に突っ込んだ。

ライカは追撃を加えるべく駆けだそうとするが、その瞬間にチクッと痛みが走った。ライカが足を見ると右足の大腿の一部に小さな引っかき傷が出来ていた。

 

夾竹桃「……毒されやすそうな、いい体をしてるのに……」

ライカ「チッ……あんましダメージが入ってないな……」

夾竹桃「肌なんか見せて……」

 

溜息まじりに夾竹桃が言ってきたその時。

 

ドクンッ!ドクンッ……ドクンッ!

 

ライカ「!?」

 

今までに体験したことのないような鼓動が、ライカを襲った。大きく張った胸を制服の上から押さえると、内側に痺れるような疼きが駆け抜け、引きつるような声が出そうになる。

 

ライカ「な、何だ、これッ……!」

夾竹桃「媚薬よ。強すぎて体に毒だけど。交感神経をシロップ漬けみたいに蕩けさせてくれるわよ」

ライカ「なっ、なんでこんな……!」

夾竹桃「好きな人のことでも考えて、ゆっくり楽しみなさいな」

ライカ「…………」

夾竹桃「……あら?」

 

好きな人。その言葉が真っ白になりかけていたライカの頭を1人の人物が駆け巡る。自分のために、みんなのために一生懸命になる戦兄の姿がライカの頭の中を埋め尽くす。するとカァァァとみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。媚薬の効果ではなく自身の中から湧き上がる何かによって。

 

夾竹桃「……ちょっと意外だったわね」

ライカ「っ……!」

 

夾竹桃はライカに背を向けその場を去ろうとした時だった。

 

怜二「柳生新陰流」

夾竹桃「っ!またっ……!」

怜二「明月之風(めいげつのかぜ)!」

夾竹桃「くっ!」

 

剣護の頼みで応援に来た怜二が倉庫街の壁を蹴って飛んできて刀を振るってきたのだ。夾竹桃はギリギリで避けたが白いリボンと黒髪を少し斬られた。

 

怜二「避けられたか」

夾竹桃「……流石に危なかったわね」

ライカ「なんで……こんな……あたしに……!」

夾竹桃「あら。だってあなた、見るからにウブそうなんだもの」

 

ライカの性質のことを言い残すと夾竹桃は冷や汗を少し垂らしつつ闇に消えていった。怜二は夾竹桃を追いかけずライカの元へ行った。

 

怜二「大丈夫かい?」

ライカ「っ……あっ……」

怜二「ちょっと待っててね……えーと、これだったかな」

 

怜二はカバンからスプレーガンのようなものと電池のようなものを出すとカチッと取り付けスプレーガンをライカの腕に押し当て引き金を引いた。プシューッと音が聞こえライカはビクンッと痙攣させるがそれもすぐにおさまり落ち着きを取り戻した。

 

ライカ「あ、ありがとうございます……」

怜二「ま、お礼なら剣護に言ってよ。これ用意したのも剣護だし」

ライカ「その薬も……?」

怜二「いや、これは救護科が用意したもの」

ライカ「はぁ……あ!麒麟に連絡しないと……」

麒麟『いやお姉様、ヘッドセット付いたまんまですが』

ライカ「あっ……」

麒麟『大体は分かってますから大丈夫ですわ。柳生様、今から向かいますのでライカお姉様をお願いします』

怜二「ん、了解」

 

ふと、怜二がライカの方を見るとライカは両手を両頬に当て、顔を赤くしていた。もちろんさっきのことを思い出して赤面してるのだ。

それを見た怜二はちょっとイタズラっぽく聞いてみる。

 

怜二「さっきは誰のことを思い出してたのかなー?」

ライカ「っ!………………ちぇりおー!!」

怜二「アバッ!?」

 

恥ずかしさのあまりライカは怜二の顔面に右ストレートをかましてぶっ倒す。この時、年頃の女の子はからかうもんじゃないなと怜二は思うのだった。

 

 

 



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第21話 奥義炸裂!

いやー気が付けばお気に入り登録が60も……嬉しい限りですねー……皆さんありがとうございます!
これからも気合い!入れて!逝きます!



 

 

 

レインボーブリッジの台場出入口ではあかりと志乃が夾竹桃の反応を追ってきていた。そこで2人は風魔とライカの情報を参考に作戦を立てていた。

 

志乃「やはり夾竹桃の爪には劇毒が仕込んであるそうです。距離を置いて戦うように……との事でした」

あかり「……距離を……でも銃は……」

志乃「あかりさん。私も銃は苦手なので『飛燕返し』という技を使います」

あかり「飛燕……?」

志乃「数mの距離を一瞬で詰める足業……」

 

刀を腰だめに構えた志乃は体勢を低くして、バッ!と8m程の距離を一呼吸で移動し、シュバッ!と虚空を切り裂いた。

 

志乃「そこからの居合斬りです。物干し竿なら、敵の毒手は届きません」

あかり「……うん!」

志乃「私は格子床の下から強襲しますので、あかりさんは会話などで、敵の注意を引き付けてください」

あかり「わかったよ。いざとなったら月島先輩から渡された銃使うし」

 

あかりと志乃はお互いに頷き合うと二手に分かれ夾竹桃の元へと向かった。

レインボーブリッジのど真ん中、そこに夾竹桃はいた。角を金色のプレートで補強した、大型トランクをベンチ代わりに腰掛けていた。

あかりはマイクロUZIを夾竹桃に向け叫ぶ。

 

あかり「……夾竹桃!」

夾竹桃「お礼を頂戴。こんな所に、決戦の舞台を作ってあげたんだから」

あかり「ふざけないで!ここは、あたしの思い出の場所なの。犯罪者にいてほしくない!」

夾竹桃「私は猛毒、あなたごときじゃ消毒できないわよ?」

あかり「…………」

 

あかりはマイクロUZIを構えたまま、下に潜む志乃の存在を夾竹桃に知らせないように話しかけ、注意を逸らす。

 

あかり「そのトランク……どこか高跳びするつもり?」

夾竹桃「これ?イ・ウーで、ココに押し売りされたのよ。私は非力だからいらないって言ったのに……まあでも、持ってきて良かったかもね」

 

そう言ってトランクの留め金を外すと、トランクが開き中に入っていたものが自動で組み上がっていく。そして姿を現したのは。

 

あかり(が、ガトリングガン!?)

 

6本の銃身を束ねたM134改だった。夾竹桃は銃口をあかりに向けトリガーを引く。キュウイィィィィンと音を立て銃身が回転していく。そして次の瞬間、バリバリと無数の弾丸があかり目掛けて飛んでくる。

 

志乃「あかりちゃんッ!!」

 

そんなあかりの前にグレーチングから志乃が飛び出し、物干し竿を構えてあかりの前に立ち無数の弾丸を受けた。バチバチと物干し竿を貫通して腕に、胸に、腰に、脚に弾丸が当たりあるいは掠めて血飛沫が舞った。志乃は驚愕するあかりの方へと仰け反り背中からぶつかった。

 

あかり「志乃ちゃん……?」

 

動かない志乃を見てあかりはオロオロと涙を滲ませながら志乃の顔を覗き込む。

 

あかり(夾竹桃ォ……っ!)

 

やがてその視線は夾竹桃に向けられる。心の中にドス黒いものが広がる。敵意が止まらない。怒りと憎悪の表情で俯くあかりの腕に志乃の手が触れる。

 

志乃「……あかり、ちゃん……」

あかり「志乃ちゃん!?」

志乃「ぶ、武偵憲章10条……諦めるな、武偵は決して、諦めるな……」

あかり「っ……!」

志乃「あかりちゃんは、武偵高での、あかりちゃんのまま……武偵であることを……あきらめないで……」

 

そう言うと志乃はガクッと力尽きてしまった。

 

あかり「志乃ちゃん……志乃ちゃん……?」

 

あかりは動かなくなった志乃を抱きしめ叫ぶ。

 

あかり「志乃ちゃあああん!!」

 

あかりの絶叫がレインボーブリッジにこだまする。

怒りが湧き上がるがあかりは深く深呼吸をして夾竹桃に向き直る。

 

あかり(先輩……力を貸してください!)

 

夾竹桃「投降する気になった……っていう目じゃないわね?」

 

夾竹桃の言葉に答えず、あかりは足を踏みしめ、膝を曲げて腰を下ろし、開手の右手は前に突き出し、同じく開いた左手は引いて首筋あたりに置き、両手の手首を限界まで捻る。2つの掌が天を向き、その十指は獲物を捕らえる鷹の足先のように曲げられる。

 

夾竹桃「なに、それ」

あかり「鷹捲(たかまくり)

 

少し眼を見開いて尋ねる夾竹桃に、あかりはその技の名を告げる。それを聞いて夾竹桃は一瞬驚くが、続けて喜びに目を細めた。

 

夾竹桃「そう。そうだったの。あなたも私と同じ毒手使いだったのね。灯台下暮らしだったわ。その手にあったとはね…!」

 

あかり(あたしの鷹捲は成功率が3分の1……失敗したら……)

 

あかりは経験上の中で鷹捲を3回に2回失敗させている。失敗すればあのガトリングガンで蜂の巣にされ死ぬだろう。

 

でも。

 

あかり(死んでもいい戦いだって……あるんだ!)

 

あかりは呼吸を整え、呼吸音を聞き、心臓の鼓動を聞き、自らの体内にその原動力を五感すべて使って探す。

一方で夾竹桃はまだ喋っていた。

 

夾竹桃「千本の矢をスリ抜け。一触れで死を打ち込む、死体に傷が残らない技、鷹捲……!中距離で使える毒手……あなたの、その手に塗ってるのね……!」

 

夾竹桃は鷹捲に興味を示し興奮して、その細い体をワクワク、ゾクゾクと震えさせている。その姿はもはや変態である。しかし、夾竹桃にとって自分の知らない毒を新しく知るという体験はそういう事なのだ。

 

夾竹桃「約束練習みたいだけど……千本の矢は、私がやってあげるわ!」

 

トリガーを引く指に力を入れた瞬間、あかりは地面を蹴り前に出た。

銃身が猛スピードで回転しながら、駆け寄るあかり目掛けて、大量の弾をバラ撒く。

しかし、あかりは怯まず襲いくる銃弾の方へ全力疾走し、その場で全身をスピンさせ頭からまっすぐ、地面と平行に飛んだ。体の正中線を軸に、ネジ回しのように回りながら左手を前方に突き出す。そうしてガトリングガンの弾幕の隙間をあかりがスリ抜け、獲物目掛けて飛びかかる鷹の如く夾竹桃の方へと迫る。

 

鷹捲とは、毒でもなく、矢弾をスリ抜けるためだけの技ではない。全身を回転させるジャイロ効果で体内のパルスを増幅・集約する技なので、正中線に集まった振動で万物を破壊する技である。

 

あかりの指先、その爪の先端がガトリングガンの先端に触れた瞬間、バチィィイィィィイイィィィ!!と余剰のパルスが静電気となって指先で弾けた。それと同時にガトリングガンがバリバリと先端の中心から崩壊していく。さらに振動は夾竹桃の手元から感電するように全身へと伝わっていき、夾竹桃の黒いセーラー服とスカートを四散させた。鷹捲の衝撃で倒れていく瞬間、あかりは接近する。夾竹桃は接近してくるあかりの右手を見て敗北を確信する。

 

あかり「はあぁぁぁぁ!!」

 

目の前には螺旋状のパルスと衝撃波を纏った拳が夾竹桃に迫っていた。

 

あかり「月島流拳技、螺旋巌砕拳!!」

 

あかりは怒りを込めて力の限り拳を夾竹桃の体に叩き込む。その時に技の反動で右腕の骨がメキメキと音を立てるが根性で耐え抜く。

 

ドパァァァアァァァンッ!!

 

あかりの渾身の一撃を食らって夾竹桃が海に落ちていく。あかりはすぐさま海へと飛び込んだ。志乃との約束を果たすために。暗い海へ潜り、海底へと沈んでいく夾竹桃を見つけると抱きかかえ、水上へと上がった。右腕の骨がズキズキと痛むがそんなことは気にしない。

弱々しい表情で、どうして自分を救ったのか理解できてない様子の夾竹桃の左手首にあかりはスカートの中に隠し持っていた手錠をかける。

 

あかり「逮捕!」

 

こうしてあかりは、最後まで武偵として、見事、夾竹桃を現行犯逮捕したのだった。

 

 

 



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第22話 事件の後の穏やか?な日常

 

 

 

事件から数日後の週末、あかりは男子寮に来ていた。目的はもちろん剣護に会うためである。

あかりはずっと剣護にお礼を言おうと思っていたのだがこの数日間、全く学校に来なかったのである。

アリアに聞いてみると、どうやら滅茶苦茶ボロボロになったらしく寮で大人しく療養してるとのことだった。それであかりはこうして週末に訪ねて来たのだ。扉の前であかりは深呼吸してそれからインターホンを押した。

 

ピンポーン

 

キンジ「はーい」

 

少しして出てきたのは、剣護のルームメイトのキンジだった。

 

あかり「あ、こんにちは。遠山先輩」

キンジ「間宮か。なんか用か?」

あかり「はい、月島先輩に……」

キンジ「剣護か。ちょっと待っててくれ。呼んでくるから」

あかり「わかりました」

 

そう言ってキンジは部屋の奥に引っ込み、しばらくして剣護が出てきた。

 

剣護「へいへい。お待たせ」

あかり「なんか久しぶりな感じですね……月島先輩」

剣護「まあそうだな。今週全部休んでたし」

あかり「仕方ないですよ。そんな状態じゃあ……」

剣護「お前も右腕ボロボロじゃんか」

あかり「あはは……お互い様ですね」

 

そう言う2人の姿は今回の事件がどれだけ大変だったのかを物語っていた。あかりは右腕にギプスを巻いており、剣護は頭、胸、腹、腕、脚、首など体中のあちこちに包帯を巻いてたり、ガーゼを貼ってたりしていた。

 

剣護「ここじゃあれだし、ちょっと出ようか」

あかり「そうですね」

 

そう言うと2人は寮の屋上へと上がった。ここには剣護が鍛錬するための道具を置いていた。

 

あかり「……なんですか、あの岩3つを突き刺した棒は」

剣護「気にしない気にしない」

あかり「……まあ良いですけど」

剣護「そんで、ののかちゃんはどうよ?」

あかり「おかげさまで無事に治りました」

剣護「そっか……良かったな」

あかり「はい……」

2人『…………』

 

しばらく沈黙が続きあかりは何か話さないとと焦る中、剣護が話しかけてきた。

 

剣護「あかり」

あかり「ふぇ……?あ、はい!」

剣護「…………よく頑張ったな」

あかり「ッ!」

 

ポンッと昔のように頭を撫でられながらかけられた労いの言葉にあかりは顔を赤くしながらポロポロと涙を流す。剣護はそんなあかりをまるで自分の本当の妹のように撫でていた。

 

あかり「あ、あの!剣護先輩!」

剣護「うん?」

 

あかりは顔を真っ赤にして伝えようとする。自身の剣護に対する想いを。

 

あかり「あ、ああ、あたしッ……け、けけけ……剣護先輩のことがす……すすす……」

剣護「す?」

あかり「剣護先輩のことが……すっ……「見つけたぞ剣護ぉ!」へ?」

剣護「あ?武藤?」

志乃「あかりちゃん!」

あかり「し、志乃ちゃん!?」

 

次の瞬間、あかりの言葉を遮ったのは武藤やキンジたちに志乃やライカに麒麟も混ざっていた。

 

武藤「ふはははは!お前だけにいい思いはさせねえぜ!」

剣護「お前は何を言ってるんだ」

武藤「女の子と2人きりなど……うらやまけしからん!」

志乃「あかりちゃん!すぐに離れて!私は……認めない!」

あかり「し、ししし志乃ちゃん!?何を言ってるの!?」

ライカ「あかり!先輩は渡さな……ゲフンゲフン」

あかり「ライカ?ちょっとO☆HA☆NA☆SIしようか?」

麒麟「むー…いいところでしたのにー……」

剣護「おい、武藤剛気。これはどういうこった」

武藤「いやさっきお前らのとこ遊びに行ったらキンジから聞いてよ。てかなんでフルネームなんだよ」

キンジ「すまん剣護。こうなるとは……」

剣護「いたのか遠山キンジ……KILL YOU」

キンジ「怖えよ!あとなんでフルネームなんだよ!?」

 

剣護が男子たちとギャンギャン喚く中で、あかりは志乃たちと喚いていた。

 

志乃「あかりちゃん、大丈夫ですか?何もされてない?」

ライカ「いやー……可哀想な、ちょっと安心したような……複雑だな」

麒麟「ビデオカメラ持ってくれば良かったですわ」

あかり「………………」

ライカ「あ、あれ?あかり?」

志乃「あかりちゃん?」

麒麟「間宮様?」

あかり「…………な」

ライ・志乃・麒麟『え?』

あかり「…………風穴」

ライ・志乃・麒麟『……え?』

 

ジャキンッ

 

3人が頭に?マークを浮かべる中、あかりは光を失った目でマイクロUZIを引き抜いた。こいつ病んでね?と言いたくなるような表情で。

 

志乃「あ、あかりちゃん!?」

ライカ「お、おおお落ち着け!まだ慌てるような時間じゃアババババ」

麒麟「お姉様がめっちゃ慌ててますわ!」

 

あかり「みんな……みんな……風穴ぁぁぁぁぁ!!」

 

 

バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!

 

そう叫ぶとあかりはマイクロUZI(ロングマガジン)を一斉掃射する。男子3人もギョッとして一斉に逃げ始めた。

 

剣護「マジかぁぁぁぁぁ!!」

武藤「ちょっ!?あの1年ヤバくね!?」

キンジ「ますますアリアに似てきやがったなぁ……」

武藤「おい!剣護はどこ行きやがった!」

キンジ「真っ先に飛び降りたぞ。ここから」

武藤「え、いつの間に!?」

 

 

 

 

 

 

 

あかり「はぁ……はぁ……」

 

全員がいなくなり、全弾撃ち尽くしたところであかりはぺたんとその場に座り込んだ。周りには薬莢が転がり、床や壁に穴が開いていた。

あかりはせっかくのチャンスを失ったという表情で項垂れていた。

 

あかり「……うぅ…………」

アリア「はぁ……あんた私に似てきたわねぇ……」

あかり「!」

 

声が聞こえその方向に振り向くと、戦姉のアリアが立っていた。アリアはあかりの隣に座ると頭を撫でた。

 

あかり「アリア先輩……」

アリア「恋なんてそう上手くいくもんじゃないわよ。それに焦る必要もないわ」

あかり「……はい」

アリア「そのうちまたチャンスが来るわよ。元気出しなさい」

あかり「……はいっ。あ、あの」

アリア「何かしら?」

あかり「アリア先輩には……好きな人っているんですか?」

アリア「ソンナワケナイジャナイ」

あかり「なんで目を逸らすんですか」

アリア「逸らしてないわ」

あかり「いやでも……」

アリア「あたしは好きな人なんていない。いいわね?」

あかり「アッハイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、男子寮のキンジと剣護の部屋では。

 

剣護「キンジ……武藤……HA☆NA☆SIをしよう」

金・武藤『マジですいませんでした』

剣護「駄目☆」

キンジ「いやあの……マジで勘弁してくだせぇ……」

武藤「俺たちが悪かったからさ……お助けください!」

剣護「オレァクサムラヲムッコロス!!」

キンジ「いやその両手に持ってるもんぶち込まれたら俺らネギトロか爆発四散しちまうよ!?」

 

案の定、キンジと武藤は真っ先に剣護に捕まり、両手に持ったダネルMGLとM3スーパー90を向けられ脅されていた。

 

 

 

 

 



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第23話 あかりのランク考査

 

 

土曜日の昼下がり。通信科3Fの第2サブPCルームの前であかりはガチガチに緊張していた。

なにせ、今日はあかりの武偵ランク昇格が懸かったテストの日なのである。廊下にはあかりを応援するためアリアや剣護に友達が集まってくれていた。

 

麒麟「間宮様、今日は武偵ランクアップのチャンスですわよ!」

ライカ「いつまでもEランクじゃ恥ずかしいもんな」

志乃「お百度参りと水行で、あかりさんの合格を祈ってきました……!」

あかり「みんな。応援に、来てくれて、ありがとう」

アリア「あかり、緊張しすぎよ。ランク考査には『時の運』もあるわ」

あかり「はい……」

アリア「でも、ベストを尽くしなさい」

あかり「はい!」

剣護「ほれ、合格祈願のお守りだ」

あかり「あ、ありがとうございます!」

 

お守りを握りしめてあかりは第2サブPCルームへと入っていった。

 

 

 

 

 

しばらくして、剣護たちが1Fのホールで待っていると、エレベーターの扉が開き受験生たちが降りてくる。その中にいたあかりは何やら手応えがあったような顔をしていた。

 

志乃「どうでしたか!」

あかり「結構できたよ!」

アリア「採点結果、出るわよ」

 

アリアに言われて皆がディスプレーを見る中、採点結果が高い順に表示されていく。その中であかりはかなり下の方……というかほぼ最下位だった。

 

あかり「な、なんでーッ!?」

 

あまりの結果にあかりは問題用紙を握り潰し、志乃はショックで倒れてしまった。

ライカは問題用紙を拾い、アリアが横から覗き込んで読み上げる。

 

アリア「問33、『オートマチック拳銃の命中精度に関わる要素を書け』」

ライカ「お、おい、ここにメモ書きしてある『価格』って……」

あかり「安物は使うなって先生が言ってたもんっ」

剣護「このぉ……馬鹿野郎ッ!」

あかり「ひでぶっ!」

 

ぷくぅーとフグみたいに膨れるあかりに、スパァン!と剣護のハリセンが炸裂する。

 

アリア「問34、『短銃身のリボルバー拳銃で弾道を安定させる条件を書け』」

ライカ「ね、『狙いを定める』?」

 

スパパパパァン!

 

またもや剣護のハリセンが四方の軌跡を描いて炸裂した。

 

剣護「クソゥ!実技よりも知識の方が致命的だったか!」

ライカ「あーもー!そっちも教えてやりゃよかったー!」

剣護「完全に忘れてたぜ……!」

 

志乃、ライカ、麒麟、剣護がパニックを起こしギャンギャンと騒ぐ中、1人の女子の笑い声が聞こえてきた。見ると、その子は婦警の格好をしていた。

 

[考査番号7 インターン(中3) 乾桜]

 

胸のネームプレートにはそう書かれていた。

剣護は反射的にM500を引き抜いてその方向に向けるが、すぐにライカと麒麟に取り押さえられた。

 

桜「あ、ごめんなさ……ってそれかなりヤバイ威力のリボルバーですよね!?」

剣護「蘭豹先生のお墨付きだぜ」

アリア「……架橋生(アクロス)ね?そのカッコ」

剣護「アクロカント?」

ライカ「それ恐竜じゃなかったですっけ」

桜「はい。午前中に研修があったので」

 

ピシッと敬礼をしてハキハキと答える桜は、婦警さんのタマゴといった感じだった。

 

桜「あの、さっきの問題ですけど……解答例としては……命中精度は主にバレル長、マズルブレーキ、薬室精度で決まります。短銃身リボルバーの弾道は、ライフリングで安定する」

あかり「…………!」

 

桜の解答にライカはウンウンと大きく頷き、年下から教えられたあかりは顔を赤くした。

 

桜「他の科目で頑張ってくださいね」

 

背を向けた桜は、クスクスと笑い直しながら次の試験会場へと歩き出す。そこで、今まで黙っていた麒麟が口を開いた。

 

麒麟「私と同じインターン中等部の、乾桜さん。通称『何でも持ってる』桜さん。成績優秀、運動神経バツグン、お父様は麻布警察署の署長さんとか……今はノーランクですが、Aランク相当のエリート。格闘訓練は無敗、無遅刻無欠席、経歴に負けやミスが一切無い完璧主義者ですわ」

剣護「めんどくさいタイプじゃねえか」

ライカ「いや、知らないっすよ」

アリア「……そういう素質十分な若手も受けにくるのがランク考査よ。あかり」

 

隣でふてくされているあかりにアリアは『気にしない』という意味で言ってやるのだった。

 

 

 

 

 

その後も技能試験であかりはCQC審査、射撃審査を行い、CQC以外は低いスコアだった。それに対し桜は全て最高点を獲得していった。

そして最後の実戦試験、格闘戦に臨もうとした時、剣護はあかりに声をかけた。

 

剣護「あかり、これが最後だ。気負うことなく自分の全てを出し切れ」

あかり「はい!」

剣護「あとあまり無理しないように。いいな?」

あかり「は、はい!」

剣護「ん、行ってこい」

 

剣護は拳を前に突き出し、あかりもそれに拳を合わせた。

 

 

 

更衣室であかりが着替えていると後ろから桜が声をかけてきた。

 

桜「『時の運』ってあるものですね」

 

あかり(桜ちゃん……!)

 

桜「対戦カードの確認が遅いですよ、先輩」

 

桜が封筒を渡してきて、あかりはそれを見るとプリントには桜があかりの相手だということが書かれていた。

 

桜「いいですよ、棄権しても」

あかり「だが断る。勝負はやってみないと分からないよ」

桜「あなたの有名な戦姉さんのキャリアに、傷がつきますよ?」

あかり「アリア先輩のキャリアに、傷……?」

桜「知らなかったんですか?私に戦姉はいませんが……戦妹が考査でランクを上げられないと、戦姉には『人を育成できない』という評価が残り、彼女の次回ランク考査に響くんです」

 

桜の話を聞いて、あかりは困惑する。もちろんアリアからはこのことは聞かされていない。桜もウソをつくタイプに見えないことからして恐らく事実だろう。

 

桜「ただ、あなたが棄権すれば評価記録は残りません」

 

あかりの頰に汗が流れる。結果は散々、しかもこれから戦う相手は試験で全て完璧な結果を収めているエリートである。勝てる確率はかなり低いだろう。でも。

 

 

『ベストを尽くしなさい』

『自分の全てを出し切れ』

 

 

試験の前に応援してくれたアリアと剣護の声が脳裏をよぎる。その想いに応えたい。そう決意したあかりは、両腕をグッと振り下ろす。

 

あかり「あたしはベストを尽くすッ!アリア先輩のためにも……みんなのためにも!」

桜「そうですか。まあ、それならそれで好都合です」

 

奮起するあかりとは対照的に桜はクールなまま。これから何が起きようと、あかりの自己責任とでも言いたげに。

 

桜「私はこの試験でAランクになりますが、目標はSランク武偵……Sランク武偵には人数制限があるものの、彼女のランクが落ちれば席が1つ空く。先輩は、そこへの踏み台になってください」

あかり「…………」

 

宣告する桜の言葉をスルーしてあかりは先程の皆の言葉を思い返す。

 

あかり(絶対…負けられない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実戦試験が行われる4本のロープが張られた四角いリングの中では両者がそれぞれスタンバイする。

 

志乃「あかりさん、平常心です!」

ライカ「落ち着いていけよ!」

麒麟「間宮さま、ファイトですの!」

アリア「あかり!がんばって!」

剣護「あかり!ぶちとば……」

アリ・志乃『ダメでしょが!!』

剣護「あべしっ!」

 

アリアたちが声援を送る中、ヤバイことを口走りそうになった剣護を志乃とアリアが叩きのめした。

 

アリア「武偵法9条!」

剣護「いてて……サーセン。あかり!俺の教えた技を出し切れ!」

 

剣護の言葉にあかりはコクリと頷き、向き直る。

 

綴「ルールは総合格闘技な。相手に与えたダメージも採点対象だぞー。えーっと、この対戦のランダム付加ルールはだなぁー……『ビル屋上戦』だとよ。『リング外に落ちたら、転落と見なす』。よぉーし、実戦だと思ってやれぇー!」

 

カァン!とゴングが鳴り響き、双方のコーナーから2人が飛び出す。

 

あかり「んッ!」

 

あかりは先制のパンチを繰り出すも、負けたくないという思いが体を力ませ、攻撃が大振りになってしまっている。桜は簡単に攻撃を避けていく。そしてガバッとあかりに抱きつく。

 

桜「では、ディフェンスは試験官に見せたので」

 

桜はあかりを突き放すと攻撃に転じた。素早いジャブの連射でガードをこじ開け、右ストレートをねじ込む。

 

あかり「……うん?」

 

もろに受けたあかりはダウンせずに踏み止まるどころか余裕を持って立っている。

 

桜「……打たれ強いですね。じゃあ、それも利用させてもらいます」

 

桜がそう言った次の瞬間、バチィィィ!とあかりの右側頭部を激しい衝撃が襲った。桜があかりの側頭部にハイキックを叩き込んだのだ。

 

ライカ「あかり!!」

あかり「……んん?」

志乃「……あら?」

 

強烈な蹴りを受けたにも関わらずあかりはしっかりとリングに立っていた。これには桜も少し驚いていた。

 

桜「くっ!」

 

桜はジャブを繰り出すが、あかりは今度は拳を防ぎ、いなしていく。

 

あかり「やっ!」

桜「っ!」

 

多少落ち着いたのか反撃とばかりに拳や掌底を打ち込み、桜はそれを防ぎ、避けていく。

 

あかり「月島流拳技、蓮華掌!」

桜「ぐっ……なんの…!」

 

繰り出された掌底を受け流すと桜は左側に回る。

 

桜「打撃術だけじゃなく……」

ライカ「来るぞ!あかり!」

桜「関節技も披露します」

 

桜は左腕を取ると自身の手足で固めた。桜にとってこれは格闘技術のデモンストレーション。あかりはそのサンドバッグなのだ。

 

あかり「ぐっ!?」

ライカ「あかり!起きろ!」

志乃「試験官に見せているんですね、自分の技を……!」

 

ライカがマットを叩き、志乃がハラハラと涙する。

 

桜「これは鍵固め。腕一本を両手足で極める、逆転不能の関節技です」

 

そう言って桜はさらに強くあかりの左腕を固める。あまりの激痛に顔をしかめるがそれでもあかりは呼吸を整える。

 

ライカ「あかり!持ちこたえろ!」

麒麟「間宮さま!」

志乃「あかりさん……!」

剣・アリ『………………』

 

綴「あと30秒ォー」

 

何とも思ってない様子の綴が腕時計を見ながらダルそうに告げる。

 

桜「先輩、そろそろギブアップして」

 

あきらめないあかりに桜は苛立たしそうなタメ口をきき、キーロックをさらに強める。

 

桜「私は『何でも持ってる』桜。これでランクも持ってる桜になる。先輩のその役目はその踏み台」

あかり「………悪いけどそうはいかないよ」

桜「え?」

あかり「……フー………ん!」

 

あかりは深く息を吐き脱力するとスルリと桜の鍵固めから抜け出した。

 

桜「し、しまった!」

あかり「月島流拳技!」

 

桜は慌ててあかりの方に向き直り仕掛けるが、あかりは既に技の初動を完了していた。

 

あかり「回天翔竜脚!!」

 

身体を捻り回転を加えた後ろ回し蹴りがもろに顎にクリーンヒットして桜は吹っ飛ばされる。

 

桜「うっ…ぐっ……」

あかり「おっと!」

 

あかりは気絶してリングから落ちそうになっていた桜の腕を掴みリング内に引き戻す。

 

綴「気絶によりK.O.……時間、ちょうど」

 

そう言うと綴はカァーンと終了のゴングを鳴らした。

 

綴(なんとまぁ化けたもんだねぇ……間宮のやつ)

 

フッ、と少しだけ嬉しそうに笑うと綴は試験結果をまとめるためその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み、カフェテリアにはあかり、志乃、ライカ、麒麟、アリア、剣護の姿があった。

 

あかり「やったよやったよー!」

麒麟「おめでとうございますですのー!」

ライカ「実技とCQC以外なんで昇格できたのかフシギな体たらくだったけどなぁ」

志乃「実技で気になったんですけど、桜さんの攻撃に対してあかりさんの反応がやけに薄かったような…」

麒麟「たしかに。それは気になりましたの」

あかり「それはねー。剣護先輩との組手で慣れちゃって…」

『あぁー………』

 

「剣護先輩だから」で全員が声を揃えて納得する中。桜がやってきてあかりに問いかける。

 

桜「あの、間宮先輩……」

あかり「ん?桜ちゃん?」

桜「どうしてあの時、私がリングから落ちそうになった時に助けたんですか?そうすればリングアウトで勝っていたのに……」

剣護「それはだな、あの試験が『ビル屋上戦』ってシミュレーションだったからだ。仮に本当のビル屋上での戦闘だったらお前はリングアウトどころかお陀仏になる訳だからな」

アリア「武偵法9条。武偵は人を殺してはならない、でしょ?あかりはそれを意識して守った。だからDランクになれたのよ」

桜「っ……!」

 

剣護とアリアの言葉を聞いて実戦を意識して戦っていたあかりに対して点数を稼ぐことばかりを考えていた自分が恥ずかしくなり赤面する。それと同時にあかりに1つの尊敬の抱く。

 

桜「あかり先輩!私を戦妹にしてください!」

「「「……えぇ!?」」」

ライカ「な、なんであかりなんかに……!」

志乃「戦妹とは片腹痛い!私の屍を越えてからです!」

剣護「お前は何を言ってるんだ」

桜「さあ先輩方!授業の始まる10分前ですよ!」

 

そう言うと桜はあかりの腕を抱き抱えるように引っ張り、その後を志乃、ライカ、麒麟が続いていく。アリアと剣護はその光景を苦笑いしながら見送る。

 

剣護「せっかちなやつだなぁ……」

アリア「……まあ、チームバランスも良くなってきたかな?」

 

 

 

 

 



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第三章 魔剣
第24話 武装巫女『星伽白雪』見!参!


 

 

天誅ぅーーー!!

風穴ぁーーー!!

 

ガッシャーンッ!

 

ある日の夜、疲れ切った剣護が寝ていると2人の女子の声と何か物が壊れる音が響き、剣護は目を覚ました。

 

剣護(うるせえなぁ……誰だよ全く……)

 

普段なら流れを感じ取り喧嘩している人物を特定するのだが、剣護のこの感覚は眠気がヤバい時や寝起きの時などの場合は鈍っていて感じ取ることができないのだ。

フラフラと目をこすりながらリビングに出るとアリアと白雪が斬り結んでいた。

 

剣護「……あれ、白雪来てたんか…」

白雪「剣ちゃん!手を貸して!アリアをキンちゃんから引き離すの!」

アリア「剣護!なんなのこいつ!どうにかして!」

剣護「えー……痛いのやだよ……」

白雪「いなくなれ泥棒ネコッ!キンちゃんの前から消えろっ!」

アリア「何よ何よ何なのよ!」

剣護「………ったくよー」

 

その時、斬り合っていたアリアが棚にぶつかりガシャンと棚の上に置いていた『デンドロビウム』のプラモが派手な音を立てて粉々になった。そんなことをお構い無しに斬り合う2人。

 

剣護「俺のデンドロビウムゥゥゥゥゥ!?」

白・アリ『ちょっ!?』

 

思わず剣護は2人の間に割り込んだが、この時のタイミングが非常に最悪であった。何故なら、剣護が割り込んだ時には2人がお互いに刀を振り下ろしていたところだった。

止めるのは間に合わないので咄嗟に白雪とアリアは刀を返して峰の方を向けて振り下ろし、ガンッ!と鈍い音を立てる。

 

剣護「いってええええええええええ!!??」

 

この日1番の絶叫が学園島に響いた瞬間である。剣護は頭から血が流れており、アリアと白雪は顔を真っ青にしてあたふたしている。

するとそこへ、さっきの絶叫を聞いて防弾物置からキンジが出てきた。

 

キンジ「おいなんだ今の絶叫……って剣護、大丈夫か!?」

アリア「ご、ごごごごめん!剣護!」

白雪「あ、あわ……あわわわ……き、キンちゃん……」

剣護「うぬおおおお……!」

キンジ「と、とにかく、手当てしねえと」

 

そう言うとキンジは急いで救急箱を取りに行き、その間アリアと白雪は剣護に土下座した。

 

アリア「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

白雪「本当にごめんなさい……あぁ、ご先祖様になんて弁解すれば……」

剣護「お前ら刃の方だったらこれより大惨事だぞ……」

白雪・アリ『本当にごめんなさい……!』

 

その後しばらく2人はめちゃくちゃ静かだったという。

 

 

 

 

 

 

そしてある日の昼休み、学食の中でキンジ、アリア、剣護がそれぞれ昼食を取っていると不知火と武藤がやってきた。

 

不知火「遠山君。月島君。ここ、いいかな?」

剣護「良いけど。我、怪我人ぞ」

不知火「気をつけるよ」

武藤「聞いたぜキンジ。ちょっと事情聴取させろ。逃げたら轢いてやる」

キンジ「なんだよ事情聴取って」

武藤「キンジお前、星伽さんとケンカしたんだって?」

剣護「そういや全ての元凶はキンジだっけな……」

キンジ「俺が悪いの!?」

武藤「星伽さん沈んでたみたいだぞ?どうしたんだ」

剣護「アリアとキンジがなんか口喧嘩してたらしくて、そこに白雪が獲物を求めるイビルジョーみたいに乱入したらしく、そんで俺が起きてきたら斬り合いしててデンドロビウムのプラモ壊されて俺がキレて2人の間に割り込んだら刀で殴られた」

武藤「星伽さんをあんな暴食龍に例えるなよ!」

不知火「なんか……ご愁傷様だね……」

剣護「デンドロビウム組み立て直すのと慰謝料請求したから良いけど」

武藤「剣護てめぇ!星伽さんになんつーもん頼んでんだよ!」

剣護「当然やん」

武藤「この野郎!轢いてやる!」

剣護「上等だコラァ!カイシャクしてからネギトロにしてやる!」

 

剣護と武藤が言い争うのを他所に3人はアドシアードのことについて話し始めた。

 

キンジ「そういえば不知火。お前、アドシアードどうする。代表とかに選ばれてるんじゃないのか?」

不知火「たぶん競技にはでないよ。補欠だからね」

キンジ「じゃあイベント手伝いか。何にするんだ?何かやらなきゃいけないんだろ、手伝い」

不知火「まだ決めてなくてねぇ。どうしようか」

キンジ「アリアはどうすんだ?アドシアード」

アリア「あたしも競技には出ないわよ。拳銃射撃代表に選ばれたけど辞退した。あたしは閉会式のチアだけやる」

キンジ「チア……?あぁ、アル=カタのことか」

アリア「キンジもやりなさいよ、パートナーなんだし。手伝い、どうせ何でもいいんでしょ?」

キンジ「あ、ああ……剣護はどうすんだ?」

剣護「そーさなー……あんまし怪我に響くのはちょっとなー……あ、音楽は?確かあったろ?」

キンジ「音楽、か。まあ得意でも不得意でもないし……それでいいか、もう」

不知火「あ。遠山君がやるんだったら、僕もそれにしようかな。武藤君と月島君も一緒にやろうよ」

武藤「バンドかぁ。カッコイイかもな。よし、やるかぁ。剣護が歌えよ」

剣護「ふふふ……『SUPRISE DRIVE』に『EXCITE』に『シルエット』にふふふ……心が躍るなぁ!」

武藤「お前それ特撮とアニソンじゃねえか」

アリア「まあ、あたしはアドシアードなんかよりやらなきゃいけないことがあるし。競技の練習に出てるヒマはないわ。それよりも」

キンジ「それよりも?」

アリア「キンジ、あんたの調教の方が先よ」

武藤「……ちょ、調教?お前ら、なんかヘンな遊びでもしてんじゃねーだろーな……?」

剣護「そりゃあもう(バキューン!)とか(ズキューン!)に(チュドーン!)に(ウェーイ!)とかいろいろ……」

キンジ「そんな訳あるか!あと白雪と似たようなこと言うな武藤。あとアリア……せめて訓練と言ってくれ、人前では」

アリア「うるさい。ドレイなんだから調教」

キンジ「ていうか調教って何をするつもりなんだ。具体的には」

アリア「そうねー……んー。まずは明日から毎日、一緒に朝練しましょ」

キンジ「げぇ……」

アリア「もちろん、剣護もよ」

剣護「……馬鹿めと言って差し上げますわ」

 

そう言うとキンジと剣護はガックリと項垂れた。

 

 

 

 

 

 

剣護「なあ、不知火」

不知火「ん?なんだい?」

 

午後の授業10分前。アリアたちがトレーを片づけている時、剣護は不知火に話しかけた。

 

剣護「最近、あの人どうよ」

不知火「あの人?」

剣護「白榊さんだよ」

不知火「あー……あの人かぁ……まあ相変わらずだと聞いてるけど」

剣護「そっかぁ……」

不知火「あと偶には顔を見せに来いだってさ」

剣護「あー……尾上さんとしか会ってないもんなぁ」

 

剣護の言う白榊とは本名『白榊夢子(しらさかきゆめこ)』。蟲奉行所寺社見廻り組同心、白榊夢久(しらさかきゆめひさ)の子孫である。尾上と同じ公安0課の職員でデザートイーグルやショットガンなど威力の高い銃を好む。

しかし、何故不知火がこのことを知っているかというと彼は公安0課の協力者でキンジの監視をしているからである。1年の時に射撃訓練で不知火の射撃を見た剣護が不審に思い問い詰めて尾上たちの名前を出したらアッサリ話したからである。

 

不知火「あ、そうそう。白榊さんがこれを君にって」

剣護「あん?なんだこれ?」

不知火「面白い物だって言ってたけど」

 

そう言って不知火は包みを剣護に渡した。開けてみると中には銃弾が入っていた。

 

剣護「……何この弾?」

不知火「僕も詳しく聞いてないから分からないよ」

剣護「武偵弾っぽいけど……」

不知火「説明書見る限り色々あるね」

剣護「……これ普通に渡してきて良いやつなのかよ…」

 

説明書を見ながらボヤく剣護に不知火は苦笑いしかできなかった。

 

 

 

 

 

 



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第25話 ボディガード開始!

 

 

翌朝の7時。朝練のためにアリア、キンジ、剣護は待ち合わせていた場所に集まっていた。何をするのかキンジが聞くと通常モードのキンジにストレスを与えヒステリアモードにさせて、覚醒後の反撃までの流れを作る訓練だそうだ。そこでアリアが提案したのは真剣白刃取りの練習である。

何故か真剣白刃取りと聞いて剣護がワクワクし始めたが。

 

剣護「よーし!ならアリアがお手本見せてやれよ」

アリア「良いけど……なんでそんなに元気なのよ」

 

そう言いつつ2人はお互いに向き合う。アリアが白刃取りをする役、剣護が刀を振り下ろす役である。剣護は刀を上段に構えた。

 

アリア「良いわよ。いつでも来なさい」

剣護「オッケー。月島流奥義…」

アリア「え?」

剣護「富嶽泰山斬りぃ!!」

アリア「ヒィッ!?」

 

サツバツめいたアトモスフィアを纏いながら剣護は刀を振り下ろした。コワイ!

当然アリアは白刃取り……ではなく思い切り逃げた。

 

剣護「おーい、キンジにお手本見せるんだろー?逃げちゃダメじゃん」

アリア「だからって奥義まで使わないでよ!」

キンジ「てか奥義の初使用がこんなんでいいのかよ…」

剣護「仕方ないね」

キンジ「そのセリフはやめれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、剣護は教務科に呼び出されていた。教室に入るとそこには白雪と綴が椅子に座って向き合っていた。

 

綴「おー来たか。月島ぁー」

白雪「あ、剣ちゃん……」

剣護「剣ちゃんやめーや。怜二とお前はずっとその呼び方だなおい。怜二は多少マシになったけどさ」

白雪「ご、ごめんね。つい……」

綴「まー、とりあえずこっち座れや」

剣護「イエスマム」

 

綴に言われ剣護は白雪の隣の椅子に座り、2人の話を聞いた。

 

綴「ねぇー、単刀直入に聞くけどさァ。星伽、ひょっとしてアイツにコンタクトされた?」

白雪「魔剣(デュランダル)、ですか」

 

剣護(……魔剣?)

 

白雪「それはありません。と言いますか……もし仮に魔剣が実在したとしても、私なんかじゃなくてもっと大物の超偵を狙うでしょうし……」

綴「星伽ぃー。もっと自分に自信持ちなよォ。アンタはウチの秘蔵っ子なんだぞー?」

剣護「そーだそーだー」

白雪「そ、そんな」

綴「星伽ぃ、何度も言ったけど、いいかげんボディガードつけろってば。諜報科は魔剣がアンタを狙ってる可能性が高いってレポートを出した。超能力捜査研究科だって、似たような予言をしたんだろ?」

白雪「でも……ボディガードは……その……」

綴「にゃによぅ」

白雪「私は、幼馴染の子の、身の回りのお世話をしたくて……誰かがいつもそばにいると、その……」

剣護「いや俺がいる時点でお世話の必要無くね?てか俺も一緒にいたよね?」

白雪「あ……いや剣ちゃんは……その……」

綴「星伽、教務科はアンタが心配なんだよぉ。もうすぐアドシアードだから、外部の人間もわんさか校内に入ってくる。その期間だけでも、誰か有能な武偵をボディガードにつけな。これは命令だぞー」

白雪「……でも、魔剣なんて、そもそも実在しない犯罪者で(スパァン!)あいたっ!?」

剣護「ったく……グチグチグチグチしつこいわ。白雪の話はおしまい。それで綴先生、なんで俺は呼び出されたんすか?」

綴「あぁ、アンタもボディガードをつけろってことさ」

剣護「……なして?」

綴「アンタも超偵だろ?」

剣護「俺、超能力無いっすよ?」

綴「またまたぁー。だったらなんで去年、超能力捜査研究科にいたのさ」

剣護「……ちょっと調べておかないといけないことがあったんですよ」

綴「ふーん……あとアンタ光弾みたいなの出せるだろ」

剣護「ソンナコトナイッスヨー」

綴「誤魔化しても無駄だぞー。色んなとこから情報入ってるし」

剣護「そ、そそそ、ソンナコトナイッスヨー」

綴「そうなの……?剣ちゃん」

剣護「そんなことないっての」

綴「んー……でもお前、マークされる可能性高いって出てるぞ」

剣護「……嘘やん……うんもういいや。あれもこれも全て魔剣のせいってことにしておこう。うんそうしよう。これも全て魔剣ってやつの仕業なんだ……!」

綴「あと月島ぁ。夢子が偶には顔見せろってさ」

剣護「なんでそこであの人の名前が出てきますのん……あと先生。なんかおるんすけど」

綴「構わん。やれ」

剣護「あらほらさっさー」

 

そう言って剣護は通風口のカバーの真下に立つと、体を低く捻るように構える。そしてジャンプと共に拳を放つ。

 

「昇龍拳!!」

 

ドグシャア!!

 

金・アリ『アバーッ!?』

綴「んー?なんだぁ。こないだのハイジャックのカップルじゃん」

 

そう言いながら綴はダクトから落ちてきたアリアとキンジを壁際に投げ捨てた。

 

綴「こいつは神崎・H・アリア。ガバメントの二丁拳銃に小太刀の二刀流。二つ名は『双剣双銃』。欧州で活躍したSランク武偵。でもアンタの手柄、書類上ではみんなロンドン武偵局が自分らの業績ちしちゃったみたいだね。協調性が無いせいだ。マヌケぇ」

アリア「い、イタイわよっ。それにあたしはマヌケじゃない。貴族は自分の手柄を自慢しない。たとえそれを人が自分の手柄だと吹聴しても、否定しないものなのっ!」

綴「へー。損なご身分だねぇ。アタシは平民でよかったぁー。そういえば欠点……そうそう。アンタ、およ「わぁーーー!」」

アリア「そそ、それは弱点じゃないわ!浮き輪があれば大丈夫だもんっ!」

綴「じゃあ今度、浮き輪無しで東京湾に捨ててやろ」

アリア「やめてください死んでしまいます……」

綴「んで、こちらは、遠山キンジくん。性格は非社交的。他人から距離を置く傾向あり。しかし、強襲科の生徒には遠山に一目置いている者も多く、潜在的には、ある種のカリスマ性を備えているものと思われる。解決事件は……たしか青海の猫探し、ANA600便のハイジャック……ねぇ。何でアンタ、やることの大きい小さいが極端なのさ」

キンジ「俺に聞かないでください」

剣護「ある種の不幸体質かと」

キンジ「お前は黙れ」

綴「武装は、違法改造のベレッタ・M92F。3点バーストどころかフルオートも可能な、通称・キンジモデルってやつだよなぁ?」

キンジ「あー、いや……それはこの間ハイジャックで壊されました。今は米軍払い下げの安物で間に合わせてます。当然、合法の」

綴「へへぇー。装備科に改造の予約入れてるだろ?」

キンジ「うわちっ!」

剣護「うわ、根性焼きとかふっる」

綴「なにをー」

 

綴が剣護の額に根性焼きをする前に剣護は二本指でタバコを止める。

 

剣護「あっぶね」

綴「おー、やるねー。あと違法改造で思い出したけど、アンタのファイブセブンも改造してたよなぁ?」

剣護「ぶっちゃけそこまでイジってないすよ?特注のマガジンがあるだけで。あ、でも、3点バーストとフルオートできるや」

綴「……マガジンの装弾数は?」

剣護「50発の超ロングマガジン」

金・アリ『50発!?』

綴「……まあいいや。M500も……蘭豹が絡んでるから良いか」

剣護「やったZE☆」

綴「でぇー?なんであんた達は盗み聞きしてたのかなぁー?」

アリア「白雪のボディガード、24時間体制、あたしが無償で引き受けるわ!」

キンジ「お、おいアリア……」

綴「……星伽。なんか知らないけど、Sランクの武偵が無料で護衛してくれるらしいよ?」

白雪「い……いやです!アリアがいつも一緒だなんて、けがらわしい!」

剣護「お前が言えたことかバーサーカー」

白雪「うぐっ……」

アリア「あたしにボディガードをさせないと、コイツを撃つわよ!」

キンジ「お、おい!武偵法9条!9条!」

白雪「き……キンちゃん!」

剣護「じゃあ俺はアリアと白雪を撃てばいいのか」

金・アリ・白『どうしてそうなった!?』

 

キンジのこめかみにガバメントを当てるアリアと、はわっ!と両手を口に当てて慌てる白雪にM500を向ける剣護に3人は一斉にツッコんだ。その様子を綴は面白そうにニヤニヤと見ていた。

 

綴「ふぅーん……そぉかぁー。そぉいう人間関係かぁー。で?どーすんのさ星伽は?」

白雪「じ、じょ、条件があります!キンちゃんも私の護衛をして!24時間体制で!私も、私も、キンちゃんと一緒に暮らすぅー!」

剣護「いや、俺、キンジと暮らしてるんだが」

アリア「ならアンタが出ていけばいいことじゃ「ヌッコロスぞ」ごめんなさい」

白雪「あ、じゃあ剣ちゃんも護衛に付いてよ。強いし!」

剣護「重傷患者ですけど」

キンジ「頼む剣護。お前が居てくれるだけでかなり楽なんだ」

剣護「わかってるって」

 

こうして、アリア、キンジ、剣護の3人は白雪の護衛の依頼を受けることになったのだった。

しかし、キンジに手を合わせてお願いされた時の剣護の表情はどこか疲れ気味だった。

 

 

 

 



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第26話 巫女占いと転校生

 

 

 

白雪のボディーガードの依頼を受けた翌日。早速、白雪は武藤にトラックで荷物を運んでもらい引っ越してきた。

 

白雪「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いしますっ!」

キンジ「あのなー……なにテンパってんだ、今さら」

白雪「あ……き、キンちゃんのお部屋に住むって思ったら、緊張しちゃって……」

剣護「こないだ日本刀で人斬りかけたくせによく言うわ」

白雪「うっ……あ、お引っ越しついでにお掃除もするね!そもそも散らかしちゃったの、私だし……粗大ゴミも処分しなくちゃね。ふふっ」

剣護「そーだなー。粗大ゴミ、二つも処分しなくちゃならねえから大変だぁ」

白雪「……二つ?一つじゃなくて?」

剣護「そーだよ、粗大ゴミ1号」

白雪「粗大ゴミ1号!?私が!?」

剣護「そーだよ……文句あっか!」

白雪「むしろ文句しか無いような……」

剣護「知らんな。さてタンスを運ばねば」

 

そう言ったところで剣護の携帯が鳴った。電話の相手はどうやら剣護の知り合いらしくいつもの話し方で話している。

 

剣護「ん、じゃあ今から取りに行きますね。はい、はーい」

アリア「誰なの?」

剣護「悪いアリア。今から荷物取りに行ってくる」

アリア「ちょっと護衛は?」

剣護「監視用のメカでも置いて行くよ」

アリア「なら良いわ」

剣護「そんじゃあよろしく」

 

そう言って剣護は部屋を出て行った。そしてしばらくしてキンジも部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋から出たのは良いものの、別に行くところもなかったので、キンジはファミレス『ロキシー』で時間を潰すことにした。

しばらくアドシアードの閉会式でやるアル=カタの曲を聞いていると剣護とアリアがやってきた。

 

アリア「こぉーらぁー!なにサボってんの、キンジっ!」

キンジ「これはその……事情があったんだよ。お前らこそ出てきやがって」

アリア「あたしは買い物のついでに脱走兵狩りにきたのよ。正当な理由があるわ」

剣護「俺は注文してた武偵弾の受け取りだ」

キンジ「そ、そうか。てか脱走兵って。ていうかボディーガードはどうしたんだよ」

剣護「メカ置いてる」

アリア「見張りはレキに任せてるわ」

アリア「レキ?」

アリア「あたしが頼んだの。遠隔から部屋を守らせてる。とはいえパート・タイムだけどね」

剣護「あいつ狙撃科の日本代表でアドシアードに出るからいろいろ忙しいんだと。まあ、狙撃手は本来ボディーガード向けじゃないしな」

アリア「そっ。だから基本あたしとあんたたちがしっかり白雪を守らなきゃダメなんだからね?」

キンジ「わ、わかってるよ。それに……誰も白雪なんか狙ってないだろうからな。誰でも好きに雇えよ」

剣護「その考えを捨てることを強く勧めるぜ。キンジ」

アリア「マジメにやりなさいキンジ。これは正式な任務なのよ」

キンジ「ていうかなぁ。なんでお前、急に白雪のボディーガードをやるなんて言い出したんだよ」

 

キンジの問いにアリアは左右の目をパチパチとウィンクさせ始めた。

マバタキ信号。武偵同士が人に聞かれたらマズい情報を伝達する際に使う、信号である。

 

デュランダル ノ トウチョウ キケン

 

キンジがそれを解読すると、アリアがこいこいと手招きする。キンジがテーブルに身を乗り出すとアリアはキンジに耳打ちした。

 

アリア「魔剣はあたしのママに冤罪を着せてる敵の1人なのよ。この間の朝練で話した剣の名手ってのが多分それなの。迎撃できればママの刑が残り635年まで減らせるし、うまくすれば高裁への差戻審も勝ち取れるかもしれない」

キンジ「なるほど……」

 

そう言ったところでキンジの携帯が鳴った。キンジが引っ張り出して見ると相手は白雪だった。剣護はすぐさまアリアの口を塞ぎ取り押さえた。

 

キンジ「そうか。あぁ、すぐ帰るよ」

剣護「……あ、終わった?」

キンジ「あぁ、助かったよ」

剣護「面倒なのはごめんだからな。アリアももう少し空気読んでくれたら良いのになー」

アリア「むー……」

 

 

 

 

 

 

そして3人が部屋に戻るとテーブルには中華料理の皿がズラリと並んでいた。

 

白雪「た、食べて食べて。ぜんぶキンちゃんのために作ったんだよ」

剣護「では、この世の全ての食材に感謝を込めて……」

キンジ「どこの美食屋だよ……いただきます」

白雪「ど、どう?お……おいしい?ですか?」

キンジ「…………うん。うまいよ。白雪も食べろよ。なんで俺の世話ばっかり焼くんだ」

白雪「そ、それは……キンちゃんだから、です」

キンジ「答えになってないだろ」

剣護「ボウヤだからさ」

キンジ「わけがわからん」

アリア「で?なんであたしの席には食器がないのかしら?」

白雪「アリアはこれ」

 

そう言うと白雪はアリアの前に丼を置いた。丼には盛った白飯と割ってない割り箸が突き立っていた。

 

アリア「なんでよ!」

白雪「文句があるなら、ボディーガードは解任します」

剣護「徹甲弾どこにしまったっけな〜」

アリ・白『ごめんなさい』

剣護「そういやワカちゃんに炸裂弾貰ったっけな」

アリ・白『誠に申し訳ありません』

 

ゴソゴソとM500を抜き引き出しから徹甲弾を引っ張り出す剣護に2人は流れるように土下座をする。キンジはその様子を無視してカニチャーハンを頬張るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護が食器を洗い終えてから、コーヒーを淹れてリビングに戻ると白雪が声をかけてきた。

 

白雪「あ、剣ちゃんもやる?巫女占札」

剣護「占いか……キンジとアリアもやったのか?」

白雪「うん。キンちゃんは……黒髪の女の子と結婚します。なんちゃって」

剣護「…………」

白雪「やめて!?そんな哀れむような目で見ないでぇ!?」

剣護「……アリアは」

アリア「……総運、ろくでもないの一言につきる。だって」

剣護「……………………はぁ」

剣護「その溜息は何!?あとそのゴミを見るような目をしないで!?」

剣護「………………」

白雪「チベットスナギツネみたいな目で見ないで!?」

剣護「普段の行いだ。だがそんなことはどうでも良い。俺もやってもらうかな」

白雪「うぅぅ……わかった……」

 

白雪は手順通りにカードを引き、それを星形に伏せて並べて何枚か表に返していく。

 

白雪「…………え?」

 

すると白雪は驚愕の表情を浮かべると、さらにカードをめくる。すると驚愕の表情から険しい表情へと変わっていった。

 

剣護「どうしたよ」

白雪「え、あ……えっと、多少怪我はするけど問題なく過ごせますって」

剣護「ふーん……まあ多少の怪我は仕方ないか」

キンジ「剣護だからな」

アリア「剣護だからね」

剣護「お前らヌッコロスぞ」

 

その後、キンジとアリアが寝静まった頃、剣護はベランダで夜風に吹かれていた。すると白雪が隣にやってきた。

 

白雪「あの……剣ちゃん」

剣護「……占いのことだろ?」

白雪「!……わかってたんだ」

剣護「そりゃ、あんな顔すればな」

白雪「……やっぱり剣ちゃんは人の心を読むのが得意だね」

剣護「心を読むんじゃない。雰囲気の流れを読んでんのさ」

白雪「そうなんだ……でもスゴイよ。流れを読むなんて」

剣護「……話しなよ。占いのこと」

白雪「うん、わかった。話すね。まず結果は二つ出たの」

剣護「二つ?」

白雪「うん。まず一つ目はこれから先、いつかはわからないけど……1発の紅き銃弾に撃ち抜かれて……死にます」

剣護「…………なるほどね。で?二つ目は?」

白雪「……その前に一つ聞いて良い?剣ちゃん……私たちに何か隠してない?」

剣護「ッ……!」

 

ここで剣護の反応が変わった。ギクリと自分の秘密がバレたような反応だった。しかし、剣護はギリギリそれを顔には出さず心の中に留めた。

 

剣護「……いや、そんなことはないと思うが……二つ目はなんだったんだ?」

白雪「……近いうちに体の中に宿りしものが覚醒するって……」

剣護「ふ、ふーん……」

白雪「まあ、剣ちゃんがそう言うならこの結果はハズレかな。ごめんね。こんな夜中に」

剣護「い、いや……夜風に吹かれてただけだし良いよ」

白雪「そっか……それじゃあ、おやすみ」

剣護「あぁ、おやすみ」

 

白雪が部屋の中に入っていくのを確認すると剣護は大きく息を吐いた。実は剣護には心当たりがあった。というかありまくった。

白雪が聞いた通り、剣護は体の中にあるものを宿しているのだ。それも度々剣護の感情に反応してその力がちょっとだけ漏れていたのである。

 

剣護「あぶね〜……バレたかと思った……こいつはまだ隠しとかないとだから気をつけねえと」

 

剣護は部屋に戻ると白雪の占いのことについて考えながら、布団の中に潜るのだった。

 

 

 

 

 

 

高天原「今日は始めに転校生を紹介しますよ〜」

 

翌日のHR、先生の転校生という言葉にほとんどがオォ!といった感じの中、キンジとアリアは特に興味無さそうに、剣護はボケ〜っとしていた。

 

高天原「それでは入ってきてくださーい」

???「はーい」

剣護「……ん?」

 

先生が手招きして、返ってきた返事の声に剣護は違和感を感じた。というよりも聞き覚えのある声なのだ。アリアも剣護と同じ反応をして顔を見合わせ「まさか……」と思った時、その生徒が教室に入ってきた。

 

怜二「柳生怜二です。よろしくお願いします!」

 

 

バァンッ!!

 

入ってきた生徒はなんと剣護の幼馴染である、柳生怜二だったのである。そして怜二の挨拶終了から0.2秒、剣護は自分の席から飛び出し、飛び後ろ蹴りを繰り出した。

 

剣護「怜二ぃぃいぃぃ!!」

怜二「危なっ!?」

 

怜二は間一髪で避けて、剣護の蹴りは後ろの黒板にめり込んだ。

 

剣護「なんでお前がいるんだ怜二!」

怜二「と、とりあえず落ち着こうよ!まだ慌てるような時間じゃないから!」

剣護「ヌゥー……良かろう後でインタビューする」

高天原「それでは柳生君。好きな席に座ってくださいね」

怜二「アッハイ」

高天原「月島君も自分の席に戻ってください」

剣護「アッハイ」

 

とりあえず全員が思ったことは剣護と怜二の関係よりも、先生の適応力がハンパねえということだった。

 

 

 

 

 



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第27話 早めの対面 魔剣と剣護

 

 

 

怜二「あ、改めまして……柳生怜二です……」

 

その日の昼休み、キンジたちはカフェテリアでテーブルを囲んでいた。もちろん怜二もいるのだがその顔はタンコブだらけになっていた。

 

不知火「だ、大丈夫かい?柳生君」

怜二「ま、まあ……慣れてるし」

キンジ「1時間目の休み時間から追っかけ回されてたもんな」

剣護「背中が痛いでござる……」

アリア「自業自得よ」

 

それもそのはず。剣護は1時間目が終わってからずっと休み時間に怜二に襲いかかり、最終的にアリアが背中にガバメントを撃ち、ドロップキックをかまして沈黙させた。

 

キンジ「それより、柳生は剣護の幼馴染なんだってな」

怜二「怜二で良いよ。まあ先祖絡みの関係だけどね。あとキンジのことは剣護から聞いてるよ」

キンジ「そうなのか……どんな風に?」

怜二「流れるように女子にフラグ立てていく女たらし」

キンジ「剣護ぉ!!」

剣護「危ねえ!」

キンジ「高っ!?」

 

キンジは剣護になんのためらいも無く拳を繰り出し、剣護は思い切り大ジャンプして避けた。キンジは驚きつつも追撃を加え、剣護も応戦し、次第に殴り合いになる。

 

怜二「相変わらずだなぁ……」

アリア「あたしが出会う前もあんな感じなの?」

怜二「まあ……昔より激しくなってるけどね」

白雪「あー……確かに……昔より激しくなってるね」

アリア「白雪も知ってるの?」

白雪「私とキンちゃんも幼馴染みたいなものだからね」

武藤「なにっ!?」

怜二「剣護の実家は二つ……というか本来の月島道場は青森の津軽にあるんだよ」

アリア「じゃあ本来の実家は青森なのね?」

怜二「うーん……いや、生まれも育ちも東京だけど……先祖がー……的な?」

剣護「まあ青森と東京を行ったり来たりしてたからな」

アリア「あれ?キンジはどうしたのよ?」

剣護「あそこ」

 

アリアたちは剣護の指差した方向を見ると、キンジがプスプスと煙を上げながらぶっ倒れていた。

 

白雪「キンちゃあああああん!?」

アリ・武・怜『何があった!?』

 

白雪は女子とは思えない速度で駆け寄り、アリア、武藤、怜二は表ではツッコみ、内心では「ヤムチャしやがって……」と呟いていた。

 

白雪「キンちゃん!しっかり!何があったの!」

キンジ「うぅ……あ、青白い玉が……ば、爆発……して……グフッ」

白雪「キンちゃあああああん!!」

アリア「何これ昼ドラ?」

怜二「わけがわからないよ」

武藤「キンジ……まあ、いいやつだったよ」

剣護「ところで怜二よ」

怜二「あ、スルーしちゃうのね……で、何?」

剣護「お前、部屋はどーすんの?ここからお前の家まで遠いし、寮だろ?」

怜二「あ、うん。剣護と同じ部屋だって先生が」

剣・金『え?マジで?』

怜二「あ、生きてた」

 

怜二の言葉にキンジと剣護は声を揃えた。そして2人して肩を組み涙した。

 

剣護「怜二と同じ部屋……これで勝つる……!」

キンジ「あぁ!これで幾分マシに過ごせる……!」

怜二「ふ、2人とも?」

剣護「歓迎するぞ怜二!」

キンジ「男の同居人なんてこれほど嬉しいことはないぜ!」

怜二「え……あ……ハイ……」

アリア「そう。怜二も同じ部屋ならちょうどいいわ」

 

アリアは怜二の前に立ちビシッと指を差すと宣言する。初めてキンジと剣護に出会ったあの時のように。

 

アリア「怜二。あんたもあたしのドレイになりなさい!」

怜二「…………あぁ……そういう趣味なのか」

剣護「もしもし警察ですか?」

アリア「ちょっ……そういう意味じゃないわよ!?勘違いしないで!あと剣護は通報しないで!」

怜二「いや良いんだよ神崎さん。趣味は人それぞれだから」

アリア「だから違うってば!風穴開けるわよ!」

剣護「まあそういうとこも尊重するのも大事だよな」

アリア「話聞いてもらってもいいかしら!?」

怜二「まあ冗談はこのくらいにして……」

アリア「もう剣護のボケでお腹一杯よ……」

剣護「あはは……悪い悪い。それで……どういうことだってばよ?」

アリア「はぁ……あたしたちとパーティ組んで、白雪の護衛をするってことよ」

怜二「なるほどね。なら僕は……サポートかな?通信科だし」

アリア「あんた通信科なんだ……ならその方が良いわね」

 

金・武・白(俺たち(私たち)の入る隙がねぇ……)

 

3人の会話の様子を見ながらキンジ、武藤、白雪の3人は心の中でそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

剣護「はぁー……」

キンジ「なんか……落ち着くな……」

怜二「そ、そんなに大変だったの?」

 

その日の夜、剣護はソファーでぐでーんとしており、キンジはシャワーから出たのか上半身だけ裸だった。怜二はコーヒーを出しながら、そんな2人を見て苦笑いを浮かべた。

 

剣・金『そりゃあもう』

怜二「あ、あははは……」

 

その時、タタタッとこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。3人は音のする方を向くと、白雪が勢いよくドアを開けてきた。

 

白雪「キンちゃん!?どうしたの!?」

剣・怜『は?』

キンジ「な、なんだよ急にっ!?」

白雪「えっ、だ、だって、キンちゃんが……で、電話」

キンジ「電話?」

白雪「すぐ来いって言って、急に、切っちゃったからっ」

キンジ「電話なんかかけてねーよ!」

白雪「確かにキンちゃんだったよっ、非通知だったけど、『バスルームにいる!』って!」

剣護「……む?」

怜二「け、剣護?どうしたの?」

剣護「ちょっと出てくるわーほいっと!」

白雪「え?あ、ひゃあ!?」

キンジ「ちょっ!?おい!剣護!」

 

剣護は何かの気配を感じ取ったのか、手前の白雪を掴みキンジの方へと投げて、適当な刀を掴みちょっと慌てた様子でドアを開けて出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わりここは男子寮から割と離れた道路。そこには黒いローブのようなものを纏った人物が携帯を片手に立っていた。

 

???「やれやれ……容易いものだな……こんなに簡単に引っかかるとは」

剣護「そうだなー。暴走してばっかでこっちが大変なんだよな」

???「っ!?」

 

ローブを纏った人物は横からの声に飛び退いた。そして声の方を見るとそこにはパーカーとジャージといったもはや部屋着の格好をした剣護が立っていた。

 

???「き、貴様!いつの間に!」

剣護「いやね?電話と聞いた瞬間に妙にひんやりとした流れを感じてな、それを追ってみればお前がいたってわけだ」

???「…………」

剣護「……お前が魔剣……デュランダルだな?」

???「…………いかにも、私がデュランダルだ。だが、その名で呼ばれるのは好かない」

剣護「じゃあデュランダルって呼ぶわ」

???「嫌がらせか!」

剣護「そーだよ……文句あっか!」

???「文句しかないわ!」

剣護「ならデュランダルで呼ばれるのが嫌なら名前言うんだな」

ジャンヌ「ジャンヌ・ダルク30世だ」

剣護「アッサリ名乗りやがった……ん?ジャンヌ・ダルク……?」

 

ジャンヌ・ダルクと聞くなり剣護はジャンヌをジーッと見つめる。剣護の行動にジャンヌは首をかしげる。

 

ジャンヌ「な、なんだ?」

剣護「ジャンヌ・ダルクってもう少し大きくなかったっけ……どこがとは言わんが」

ジャンヌ「胸のことかぁぁぁ!!ってそれはFGOのジャンヌだろう!?」

剣護「あ、そうか。まあいいや。とりあえず……デュランダル、逮捕だ!」

ジャンヌ「フッ……やれるものならな!」

 

そう言った瞬間にお互いに接近して、ジャンヌの聖剣と剣護の刀がぶつかり合う。

 

剣護「ドラァ!」

ジャンヌ「ふん!」

剣護「おぉぉ!」

ジャンヌ「シッ!」

剣護「だぁらあああ!」

ジャンヌ「ぐっ……!」

 

剣護は連続攻撃で攻め立てていき、ジャンヌも聖剣を振るい応戦する。

 

剣護「ふんぐぐぐぐぐ……!」

ジャンヌ「っ……ぐぅ……!」

 

鍔迫り合いになり、2人はお互い譲らず押し込んでいく。するとジャンヌが話しかけてくる。

 

ジャンヌ「ふふふ……なかなかやるではないか」

剣護「そいつぁどーも……愛刀じゃねえけど舐めんなよ!」

ジャンヌ「ふん……私の聖剣デュランダルを相手にそんな刀とは…愚かだな」

剣護「へっ、これでも充分やれらぁ…!」

ジャンヌ「舐められたものだ……なっ!」

 

聖剣を振るいジャンヌは剣護を弾き飛ばす。ピキッと刀身が欠けて剣護はタラリと冷や汗を流す。

 

剣護「あっぶね……」

ジャンヌ「言っただろう?デュランダルに斬れないものは無いと!」

剣護「うおっ!?」

 

聖剣の振り下ろしをギリギリでいなす剣護。

 

ジャンヌ「甘い!」

剣護「ぐおっ!」

 

ジャンヌは聖剣を素早く斬り返し剣護の胸を切りつける。痛みに顔をしかめながら剣護はなんとか距離を取ろうとするが勢いに乗ったジャンヌはすぐに間合いを詰めてくる。

 

剣護「チィッ!」

ジャンヌ「逃げてばかりでは何も変わらんぞ!」

剣護「んなもんわかってらぁ!」

ジャンヌ「うわぁ!?」

 

怒鳴ると同時に剣護はジャンヌの剣を避けると思い切り膝を蹴り飛ばした。ジャンヌは簡単に体勢を崩し膝をつく。剣護はさらに回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

ジャンヌ「ぐっ……くっ!」

剣護「いつつ……今度はこっちの番だ」

ジャンヌ「っ……やってみろ。貴様ではこのデュランダルを折ることなどできん!」

剣護「やってやるよ……!」

 

剣護は体勢を少し低くし脇構えの構えを取る。

 

剣護「行くぞ!月島流!」

ジャンヌ「来い……!」

 

弾丸の如く剣護は飛び出しジャンヌの懐へと接近する。

 

ジャンヌ「速っ……!?」

剣護「富嶽水流連舞!」

ジャンヌ「がっ!」

 

流水のような斬撃の連撃を舞うように浴びせていく。

 

剣護「シャア!」

ジャンヌ「ふっ!」

剣護「っ!」

 

繰り出された振り下ろしを防ぎ、そのまま聖剣を薙ぎ払い刀身をへし折りながら胸を切り裂く。

 

剣護「ぬぐぉぉ……」

ジャンヌ「ふん、さっきまでの威勢はどうした?」

剣護「こんのっ……!」

ジャンヌ「無駄だ」

 

剣護は折れたまま刀を突き出すがジャンヌは避けて刀を持つ腕を掴む。するとパキパキと音を立てて剣護の右手が凍りつく。

 

剣護「うおっ!?冷たっ!」

ジャンヌ「私は魔剣とは別に『銀氷の魔女』と呼ばれている」

剣護「なるほど……超能力者か……!」

ジャンヌ「そんなに悠長に話してる場合か?」

剣護「あ?……げぇっ!?氷が侵食してるぅ!?」

 

ふと剣護が右手を見ると既に肘あたりまで氷が侵食していた。

 

剣護「くっそ!」

 

剣護は左ミドルキックを放つがジャンヌは左足に触れ凍りつかせる。

 

ジャンヌ「このまま氷像にしてやろう……」

剣護「っ……!」

ジャンヌ「まあこちらの要件を飲むのなら助けてやらんこともない」

剣護「……どうせイ・ウーの勧誘だろ?」

ジャンヌ「よく分かってるじゃないか。フォロミー月島。お前は選ばれ「だが断る」た……って、え?」

剣護「だーれが好き好んでそんな奴らの集まりに入るか。バーカ」

ジャンヌ「……そうか。なら仕方ない……ここで始末する」

 

そう言ってジャンヌはデュランダルを構えた。剣護は右手と左足が凍ったまま身構える。

 

ジャンヌ「無駄だ。折れた刀とその右手と左足はもう使い物にならない」

剣護「まだ左手と右足があるだろ」

ジャンヌ「それでも……だ。凍った所を見るがいい」

剣護「ん?……んな!?」

 

右手と左足を見ると氷が侵食しており、右手は上腕まで凍りつき左足に関しては地面にまで氷が張っていた。

 

剣護「やっべ……」

ジャンヌ「私に斬り捨てられるか、氷像になるか……だな。イ・ウーに来るのであれば助けてやらんこともないぞ?」

剣護「言っただろ。断るって……な!」

 

剣護は地面を思い切り踏み込み震脚で無理矢理左足を引き剥がす。

 

ジャンヌ「なっ!?そんなことしたら余計使い物にならなくなるぞ!?」

剣護「動けりゃ問題ねえ!」

ジャンヌ「っ……だが、素早くは動けまい」

剣護「まあな。それならこうするまでだ!」

 

突如剣護の髪が白くなりパキパキと音を立てながら動きジャンヌの身体に巻きつくと剣護の方に引き寄せる。

 

ジャンヌ「な、なんだこれは!?」

剣護「月島流拳技、限定技!」

ジャンヌ「くっ!」

剣護「氷砕鉄槌拳!!」

 

凍りついた右拳を放ち、ジャンヌは聖剣を盾に防ぐ。その衝撃で右手の氷と持っていた刀が砕け散る。

 

剣護「おぉぉぉらぁ!!」

ジャンヌ「ガハッ!」

 

そのままの勢いで殴り飛ばし、ジャンヌはガードレールに叩きつけられ咳き込んで血を吐く。

 

ジャンヌ「ゲホッ!……な、何だったんだ今の…」

剣護「ふー…ふー……!」

ジャンヌ「……流石にここは退かせてもらう…だが次は無いぞ…!」

 

ジャンヌは缶のようなものを転がすと缶から煙が噴き出し、辺り一面を煙幕が包み込み、すぐに煙が晴れたがジャンヌの姿はなかった。

 

剣護「チッ……逃げたか…………っておよよ?」

 

緊張が解けたのか一気に疲労感が押し寄せ、さらに凍傷や大量に失血してるせいで意識も朦朧として剣護はその場に倒れてしまった。

 

 

 



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第28話 剣護、やらかす

投稿が遅れて申し訳ありません。
今回から「」の前にキャラの名前を表示していきますので、何かあれば気軽に言ってください。
それと今回、急に場面が変わりますのでご注意下さい。
それではどうぞ!


 

 

剣護「う…………うーん……?」

 

剣護が目を覚ますと見知った天井見えた。なんとか体を起こし周りを見回すとそこは寮の寝室だった。隣のベッドを見るとそこにはルームメイトのキンジが寝ており、心なしか少し顔が赤く苦しそうにしていた。

 

キンジ「よう……起きたか」

剣護「おうキンジ……なんで俺はここに?あとなんでお前も寝てんだ」

キンジ「アリアと怜二が運んできたんだよ……俺はアリアに海に落とされて……それで風邪ひいた……」

剣護「お前一体何したんだってばよ……どうせろくでもないことだろうが……」

キンジ「うるさい黙れ」

剣護「キンジ、寝苦しいだろ?寝かせてやるよ……永遠にな!」

キンジ「やめておくれ……なんでその重傷で元気なんだよ」

剣護「まあいいや……てかめっちゃ痛い」

キンジ「そりゃそうだろ……あと絶対安静だとよ」

剣護「ええぇぇぇ…………」

キンジ「じゃ……俺は寝る……」

 

そう言ってキンジは目を閉じ寝息を立て始めた。それを見て剣護も大人しく眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の2時あたり。キンジは熱に慣れたのか起き上がった。隣のベッドを見るとルームメイトがクークーと寝息を立てて眠っていた。

ふらふらとベッドから降りて寝室を出てドアを閉めようとして、ガサッと取っ手に引っかかっていたビニール袋に触れる。中を探ると大和化薬『特濃葛根湯(とくのうかつこんとう)』という薬があまり効かないキンジに唯一効果のある風邪薬だった。

 

(白雪が持ってきてくれたのか……でもあいつに話したことあったっけ?)

 

そう思いつつ、キンジは薬を飲むとまたすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の4時頃。今度は剣護が目を覚ました。ズキズキと痛む体に顔をしかめつつ起き上がり居間へと出てくる。出てくるついでに冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出しソファーに座る。

ぐでーんとしながら昨晩の出来事を思い返す。

 

剣護「……しめ縄付けたままアレ使ったけど…封印緩んでんのかなぁ…」

 

剣護はスポーツドリンクを飲み干すと再び寝室に戻り眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、再びキンジが起きてくるとちょうど白雪と怜二が帰ってきた。

 

白雪「あっキンちゃん。カゼ、大丈夫?」

キンジ「ああ。熱も下がったし頭痛も取れたよ」

怜二「剣ちゃ……剣護はどうなの?」

キンジ「生きてるぞ」

怜二「そうじゃなくて」

キンジ「冗談だ。剣護ならまだ寝てるぞ」

白雪「あ、剣ちゃんの包帯取り替えなきゃ」

怜二「じゃ、僕が行きますね〜」

 

そう言って怜二は包帯とその他道具を持って寝室に入っていった。数分後に寝室からコマンドーめいたセリフが聞こえてくる。

 

『来いよ剣ちゃん。怖いのか?」

『誰がてめぇなんか……てめぇなんか怖かねえ!』

『じゃあ包帯取るねー』

『ちょっもうちょい優しく……ってギャアァァァアァァ!!?』

 

聞こえてくる絶叫にキンジと白雪は苦笑いを浮かべ、合掌する。

 

キンジ「……まあそりゃああなるか……」

白雪「あ、あはは……それよりよかった。キンちゃん元気になって」

キンジ「お前がくれた『特濃葛根湯』のおかげだ。飲んで寝たら、一発で治った」

白雪「えっ?私……キンちゃんお薬キライだから、薬膳作ろうと思ってたんだけど……」

キンジ「ん?あれ、お前がくれたんだろ?悪かったな。あの薬、アメ横の妙に入り組んだ角のキタナイ漢方薬の店でないと売ってないからさ。女の子が1人で入るの、ちょっと怖かったろ。ありがとうな」

白雪「え……あっ……う、うん」

 

白雪は何か考えるような顔をしながらちょっと目を逸らしつつ、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

まどろみの中をうつらうつらしているとキンジと白雪の声が聞こえてくる。

 

白雪『じゃあ、これからはキンちゃんが1人でボディーガードをしてくれるの?』

キンジ『ああ、アドシアード終了まで、俺がお前をボディーガードするよ。教務科とアリアがムリヤリ始めちまった事だけど……まあ、約束だからな』

白雪『キンちゃんが、私を守ってくれる、約束……』

 

一方は女の子の声でどこか嬉しそうな感じをしており、もう一方の男の声は少し暗めの感じだった。

 

白雪『じゃあ、ゴールデンウィークもジャマも……じゃない、アリア抜きだね』

キンジ『ああ……そうだな。どっか行きたいのか?』

白雪『う、ううん。私はおうちでのんびりお勉強でもするよ』

キンジ『……それだと引きこもりじゃねーか。はぁ……ちょっと待ってろ』

白雪『え?』

 

キンジはため息をつくと何かを始めたらしい。白雪は謝罪の言葉をキンジにかけているらしい。

 

白雪『キンちゃん。急にどうしたの?』

キンジ『その紙を読んでみな』

白雪『……5月5日、東京ウォルトランド・花火大会……一足お先に浴衣でスター・イリュージョンを見に行こう……?』

キンジ『行け』

白雪『えっ!だ、だめだよ、こんなに人が沢山いるところ……私……』

キンジ『心配するな。ウォルトランドには入らなくていい。少し遠くなるが、葛西臨海公園から見ればいいだろ』

白雪『で、でも……私……』

キンジ『俺もついてってやるから。剣護は……無理か』

白雪『キ……キンちゃんも一緒に……?』

キンジ『ああ。一応それアドシアード前だしな』

白雪『キンちゃんと一緒に…………えへへぇ……』

 

白雪の心底嬉しそうな声を最後に剣護の意識は深い、深い眠りの奥底へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「うー……ん……よく寝た……」

 

しばらくして、剣護はまだ痛む身体でのそのそと起き始めた。同居人の3人は出かけているのか部屋の中には誰もいなかった。

 

剣護「んー……今日からゴールデンウィークだっけ。何すっかな〜ってもう昼じゃん」

 

ベッドから起き上がりながら携帯を見ると既に午後1時を過ぎていた。他にメールを確認するとおびただしい数のメールが来ていた。

 

剣護「うわっめっちゃメール来てんじゃん。全部見んのメンドくさー……新しいのだけ確認するか」

 

1番新しいメールはアリアからだった。どうやら2時間前に送られたらしい。メールにはこう書かれていた。

 

 

 

アリア『ちょっと!今日アドシアードなのよ?なんで学校に来てないのよ!早く来なさい!』

 

 

 

剣護「……………………え?」

 

ダラダラと冷や汗をかきながら他のメールも確認していく。

 

 

あかり『剣護先輩。まだ学校に来てないんですか?まだ無理なら仕方ないですけど……』

ライカ『先輩、今日アドシアードっすよ?あ、もしかしてまだちょっと動くのキツかったりします?』

不知火『やあ月島くん。体の方は大丈夫かい?無理をせずにアドシアードの方は僕らに任せてくれ』

武藤『おい剣護、お前まだ寝てんのかよ。蘭豹がキレてたぞ』

怜二『剣ちゃんへ。このメールを見ているということはやっぱり寝坊したんだね。まあ仕方ないっちゃ仕方ないけど、大丈夫そうなら早めに来るんだよ?朝ご飯は僕が簡単なものを作り置きしておいたから』

白雪『け、剣ちゃん?まだ寝てるの?ていうかゴールデンウィークが始まる前からずっと寝てたけど……早く来ないと先生に怒られちゃうよ?』

キンジ『お前まだ寝てんのか。まあほっといた俺も悪いが……動けるようならなるべく早く来いよ』

 

 

剣護「…………………………」

 

剣護はおそるおそる携帯の日付を見る。そこには5月6日と表示されていた。5月6日、すなわちアドシアード当日である。

 

 

 

剣護「……やらかしたァァァアァァアアァァ!!?」

 

 

 

要するに剣護はゴールデンウィーク丸々寝てた上に、めちゃくちゃガッツリと大遅刻をしていたのだった。

 

 

 

 

 



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第29話 星伽白雪の失踪

ドーモ、ALEX改です。皆さんお待たせして申し訳ない!
ちょっと執筆意欲が出なくて一ヶ月もほったらかしになってました。
許して!お願いなんでもするから!
とにかくオタク剣士が武偵高で剣技を舞う!第29話です。どうぞ!


 

 

 

キンジ「…………ZZZ……」

 

アドシアードの開会式場の講堂のゲートでモギリをしているキンジは陽射しに当てられながら居眠りをしていた。

 

「おいキンジっ!」

 

しばらくして武藤に肩を掴まれてキンジは目を覚ます。ここまで走って引き返してきたらしく息を切らす武藤にキンジは眉を寄せる。

 

キンジ「どうした」

武藤「ケースD7だ、ケースD7が起きた」

 

武藤の言葉にキンジは一気に目が醒めた。

 

ケースD。アドシアード期間中の、武偵高内での事件発生を意味する符丁であり、D7は『ただし事件であるかは不明確で、連絡は一部の者のみに行く。なお保護対象者の身の安全のため、みだりに騒ぎ立ててわならない。武偵高もアドシアードを予定通り継続する。極秘裏に解決せよ』という状況を表す。

 

キンジは慌ててメールを確認すると1通の新着メールが届いていた。

 

 

 

『キンちゃんごめんね。さようなら』

 

 

 

その内容を見てキンジは血が凍りつくようだった。同時に白雪の身に良くないことが起きたことを悟った。

キンジはすぐさま道路に飛び出し走る。何の手がかりもなく走り回るが時間は無意味に過ぎていくばかり。

己の無力さを痛感しながらも、それでも何とかせねばとがむしゃらに走り回る。その時携帯が鳴り出し電話が入った。

 

レキ『キンジさん。レキです。いま、あなたが見える』

キンジ「レキ!」

レキ『D7だそうですね。狙撃競技のインターバルに携帯を確認しました』

キンジ「あ、ああ。お前今どこにいるんだ!?

レキ『落ち着いてください。冷静さを失えば、人は能力を半減させてしまう。あと私は狙撃科の7階にいます』

キンジ「そ、そうか……」

レキ『クライアントは見当たりませんが、海水の流れに違和感を感じます。第9排水溝の辺り』

キンジ「ど、どっちだ?」

レキ『私は……一発の銃弾』

 

レキの呪文のような言葉の後にビシッとキンジの足元から少し離れたアスファルトに狙撃銃の弾が傷をつける。続けてビシッビシッとアスファルトに傷がつく。レキはドラグノフの速射能力を活かして何かを点描しているようだった。

 

レキ『その方角です。調べてください。私は引き続き、ここからクライアントを捜します。それと』

キンジ「な、なんだよ」

レキ『剣護さんが目覚めたようです』

キンジ「やっとか……遅過ぎだ」

レキ『今こちらに向かって爆走しています』

キンジ「わかった。剣護が来たら頼む」

レキ『わかりました』

 

 

 

レキが点描した矢印の方向に向かって行くと第9排水溝のフタの辺りに着いた。フタには一度外されて無理に繋ぎ直されたような跡があった。キンジは武偵手帳で排水溝がどこに繋がっているのか調べる。

 

キンジ「地下倉庫(ジャンクション)……だと……!?」

 

東京武偵高の強襲科(アサルト)教務科(マスターズ)と同じ3大危険地域の一つである地下倉庫。地下倉庫とは柔らかい言い方に過ぎず要するにそこは "火薬庫" なのである。

 

キンジ「……行くしかないよな……!」

 

脂汗をかきつつもキンジは地下倉庫へと入って行く。できるだけ足音を立てずに暗い通路を走っていくと人の声が聞こえてくる。

キンジはバタフライナイフを取り出して開き、その刃を鏡にして角の向こう側をチェックすると50m離れた壁際に巫女装束の白雪を見つけた。

 

白雪「どうして私を欲しがるの、魔剣(デュランダル)。大した能力もない……私なんかを」

ジャンヌ「裏を、かこうとする者がいる。表が、裏の裏であることを知らずにな」

 

白雪と話しているのは少し時代がかった男喋りをする女の声。

 

ジャンヌ「和議を結ぶとして偽り、陰で備える者がいる。だが闘争では更にその裏をかく者が勝る。我が偉大なる始祖は影の裏、すなわち光を身に纏い、陰を謀ったものだ」

白雪「何の、話……?」

ジャンヌ「敵は陰で超能力者(ステルス)を錬磨し始めた。我々はその裏でより強力な超能力者(ステルス)を磨く。その大粒の原石、それも欠陥品の武偵にしか守られていない原石に手が伸びるのは自然な事よ。不思議がる事ではないのだ。白雪」

白雪「欠陥品の、武偵……?誰のこと」

ジャンヌ「ホームズには少々手こずりそうだったが、あの娘を遠ざける役割を、私の計画通りに果たしてくれたのが遠山キンジだ。ヤツが欠陥品でなくて、なんだと言うのだ?」

白雪「キンちゃんは……キンちゃんは欠陥品なんかじゃない!」

ジャンヌ「だが現にこうして、お前を守れなかったではないか」

白雪「それは違う!キンちゃんはあなたなんかに負けない。迷惑をかけたくなかったから……私が、呼ばなかっただけ!」

ジャンヌ「フンッ……迷惑をかけたくない、か。だがな白雪。お前も、私の策に一役買ったのだぞ?」

白雪「私……が?」

ジャンヌ「"電話を覚えているだろう?"」

白雪「っ!」

 

ジャンヌの発したキンジの声にキンジと白雪は息を呑んだ。その反応を楽しむかのようにジャンヌは言葉を続ける。

 

ジャンヌ「ホームズは無数の監視カメラを仕掛けていたが、お前たちの部屋を監視していたのは私の方だ」

白雪「……そっか……やっとわかった」

ジャンヌ「ん?」

白雪「だから……剣ちゃんはあの時血相を変えて飛び出したんだ」

ジャンヌ「フッ……そういえばそんなこともあったな。だが返り討ちにしてやった」

白雪「でもあなたもただじゃ済まなかったんでしょ?」

ジャンヌ「…………」

 

白雪の言葉にジャンヌは答えない。それどころか一筋の汗を垂らし、ほんの少し目を逸らした。

 

ジャンヌ「し、しかしあの時アイツにかなりの深手を負わせた!お前を助けに来ることなど……」

白雪「ううん。剣ちゃんは絶対に来る。あの人はキンちゃんよりも……ううん。この武偵高の誰よりも仲間を大切にする人。どんなに深手を負っても、骨が折れても、守るために突き進む。それが」

キンジ「アイツの信念であり、アイツ自身でもあるってことだ」

ジャンヌ「!遠山キンジ……!」

 

キンジはバタフライナイフを構えて前に出る。さっきまでの焦りが嘘のように落ち着いていた。

 

白雪「き、キンちゃん!?」

キンジ「白雪、ここは俺がやる。だから逃げろ」

白雪「ダメだよキンちゃん!逃げて!武偵は、超偵には勝てない!」

キンジ「やってみなきゃわかんねえよ!」

 

キンジは相手に向かって突っ走るが次の瞬間足元に何かが飛んできて突き刺さり、つんのめってキンジはぶっ倒れてしまう。

 

キンジ「これは……ヤタガンか!」

ジャンヌ「『ラ・ピュセルの枷』罪人とされ枷を科される者の屈辱を少しは知れ、武偵よ」

キンジ「うっ!?」

 

ジャンヌの声に続いてヤタガンを中心に冷気が広がっていき氷でキンジの足を貼り付け、起き上がろうとした肘にも広がっていく。

さらに室内の非常灯が消え、辺りは完全な暗闇に包まれる。

 

白雪「い、いやっ!やめて!何をするの!うっ……!」

キンジ「白雪!」

 

白雪が何をされたのかわからず再びキンジは焦る。『また何もできなかった』悔しさに歯をくいしばるキンジに次の銃剣が命を奪わんと飛来する。

 

 

 

ギンッ!

 

 

 

しかし、銃剣は後ろから飛んできた刃に弾かれ一瞬、火花が散った。

そして聞こえるアニメ声。

 

アリア「じゃあバトンタッチね」

 

その声とともに部屋に電気が灯り、暗闇が白の光に塗り替えられる。

 

アリア「そこにいるわねデュランダル!未成年者略取未遂の容疑で逮捕するわ!」

キンジ「アリア!?」

ジャンヌ「ホームズ、か」

 

声の主はそう呟くとガチャンとどこかの扉が閉まる音がした。

 

アリア「逃げたわね」

 

そう言うとアリアは白雪の方へと向かう。そしてすぐに戻ってきてキンジの近くにひざまずく。

 

キンジ「白雪は」

アリア「ケガはしてなかった。でも縛られてる。助けるの、あんたも手伝いなさい」

 

そう言って刀で凍りついたキンジの手足を床から剥がすとアリアは袖を掴んで白雪の方へと引っ張っていった。

 

 

 

 

 

 

 

一方でアドシアード当日に思い切り大遅刻をかました剣護はと言うと

 

剣護「ゼェ……ゼェ……ハァ……ヒィ……」

 

スタミナが切れたハンターのように街中をフラフラと走っていた。それもそのはず、寮から飛ばしてきた上に数日間何も食べていないのだから。

さらに追い打ちの貧血で軽く目眩いと頭痛を起こしており、完全にボロボロの状態だった。

 

剣護「く、くそぅ……こんな時に限ってバイクをメンテに出してるとは……」

 

背負っている刀が重く感じる。足が鉛のように重い。胸が苦しい。それでも走るのをやめない。

それは何故か?何がこの男を駆り立てるのか?

答えは簡単。"守るため" キンジを、アリアを、白雪を、みんなを守るために突っ走る。

 

剣護「っ……ぬおおおおお!!」

 

ガタガタの身体に鞭打って走る剣護の先には武偵高の校門が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しら……ゆき!何よ!どう、したの!」

 

地下倉庫の方では、白雪がアリアを背後から拘束して刀を首筋に当てていた。白雪は肩越しにアリアの右手に息を吹きかけ、アリアは銀色のガバメントを落としてしまう。

 

「アリア!違うんだ!そいつは白雪じゃない!」

 

さらに白雪はアリアの左手にも息を吹きかけ、漆黒のガバメントを落とす。

 

アリア「きゃあっ!?」

ジャンヌ「只の人間ごときが、超能力者に抗おうとはな。愚かしいものよ」

アリア「デュランダル……!」

ジャンヌ「私をその名で呼ぶな。人に付けられた名前は、好きではない」

アリア「あんた……あたしの名前に覚えがあるでしょう!あたしは、神崎・H・アリア!ママに着せた冤罪、107年分はあんたの罪よ!あんたが、償うのよ!」

ジャンヌ「この状況で言うことか?」

 

フンッとデュランダルはアリアを嘲笑う。

 

ジャンヌ「アリア。お前は偉大なる我が祖先、初代ジャンヌ・ダルクとよく似ている。その姿は美しく愛らしく、しかしその心は勇敢」

アリア「ジャンヌ・ダルク……!?」

 

15世紀、イギリスとフランスの100年戦争を勝利に導いた。オルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルク。彼女はその子孫だと言うのだ。

 

アリア「嘘よ!ジャンヌ・ダルクは火刑で……十代で死んだ!子孫なんて、いないわ!」

ジャンヌ「あれは影武者だ。我が一族は、策の一族。聖女を装うも、その正体は魔女。私たちはその正体を歴史の闇に隠しながら誇りと、名と、知略を子々孫々に伝えてきたのだ。私はその30代目。30代目ジャンヌ・ダルク」

 

ジャンヌの手が蛇のようにアリアの太ももに伸びると、アリアが激痛に体をねじる。

 

アリア「きゃうっ!」

ジャンヌ「お前が言った通り、我が始祖は危うく火に処せられるところだったものでな。その後、この力を代々研究してきたものだ」

 

見るとアリアの小さな膝小僧には氷が張り付いていた。

 

キンジ「……アリア……!」

 

キンジはベレッタを単射(セミ)に切り替え、ジャンヌの頭を狙って構えるが撃てない。

 

ジャンヌ「遠山。動けば、アリアが凍る。アリアも動くな。動けば、動いた場所を凍らせる」

キンジ「チッ……!」

アリア「キンジ……撃ち、なさい……!」

キンジ「っ……!」

ジャンヌ「喋ったな、アリア?口を動かした。悪い舌は、いらないな」

キンジ「やめろッ!」

 

ジャンヌは刀を持つ手でアリアの顎を強引に押さえ、アリアの口に自らの唇を寄せていく。キンジは叫ぶが手も足も出ない。

 

白雪「アリア!」

 

次の瞬間、力強い声が響いたかと思えば、分銅付きの鎖が伸びて刀の鍔に巻き付き、その刃はぐいっと引っ張られ離される。

 

ジャンヌ「!?」

白雪「キンちゃん、アリアを助けて!」

 

コンピューターの上には本物の白雪が立っており、鎖を引き上げ刀を取り返した。そして飛び降りざまにアリアとジャンヌの間に割り込むように刀を振り下ろす。

ジャンヌは防刃巫女服を翻し白小袖で刃をつかみ取ろうとするが、離れ際にアリアが無事だった片足でジャンヌの膝を蹴り飛ばす。

アリアはキンジの足元へ転がり、白雪はアリアを守るように前に立つ。

 

ジャンヌ「白雪……貴様が、命を捨ててまでアリアを助けるとはな」

 

ジャンヌは緋袴の裾から筒のような何かを落とすと、それはシュウウウ……と白い煙を広げる。

 

白雪「ごめんねキンちゃん。いま、やっつけられると思ったんだけど……逃しちゃったよ」

キンジ「上出来だよ、さすが白雪だ。アリア、大丈夫か?」

アリア「や……やられたわ。まさか、白雪が2人とはね……」

 

 

ウオオオオ………………

 

 

アリア「っ!?」

 

突然上から聞こえてきた雄叫びにアリアはビクッと体を強張らせる。

 

アリア「な、なに!?敵っ!?」

 

キョロキョロと周りを見渡すアリアにキンジと白雪は一瞬、眉を寄せるとすぐに否定した。

 

白雪「……ううん。違うみたい。なんか聞いたことあるような声だけど」

キンジ「まあ、大丈夫さ。俺がついてる」

 

それを聞いてアリアは少し強気になったのか、犬歯をむいて叫ぶ。

 

アリア「デュランダル!あんたがジャンヌ・ダルクですって?卑怯者!どこまでも似合わないご先祖さまね!」

ジャンヌ「それはお前もだろう。ホームズ4世」

 

声はエレベーターホールの辺りから返ってきた。いつの間にかスプリンクラーの水が空中で氷の結晶となり雪のように舞っている。

 

白雪「キンちゃん……アリアを守ってあげて。アリアは、しばらく戦えない」

キンジ「何を言うんだ白雪。お前を1人で戦わせるなんて、できない」

白雪「キンちゃん……そう言ってくれるの、うれしいよ。でも今だけ、ここは超偵の私に任せて。アリア、これ、すごくしみると思う。でもそれで良くなるから。我慢して」

アリア「……あっ……!んくっ……!」

 

白雪は何かの呪文のようなものを呟く。見えない力がアリアの手に伝わっていく。

アリアの治療を終えると今度は近くのコンピューターに御札を貼ると周囲が暖かくなってくる。

 

キンジ「白雪……」

白雪「キンちゃん……心配かもしれない。でも大丈夫。もう1人こっちにはSSRの子がいるから。キンちゃんも良く知ってる子」

キンジ「……え?…………あっ」

ジャンヌ「何を言ってる。貴様以外にここに超能力者はいない」

白雪「今は(・・)ね……でも、もう来るよ」

ジャンヌ「…………?」

アリア「どういうこと?」

 

白雪の言っていることがわからず質問してくるアリアにキンジはフッと笑いかけて答える。

 

キンジ「要するに……助っ人の登場って訳だ」

 

 

 

 

ボゴオォォォォオォォォオン!!

 

 

 

 

キンジの言葉に続くように、次の瞬間この部屋の扉が轟音を立てて勢いよく吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 



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第30話 覚醒!魔女と緋巫女と常世の神子!

ネタ多すぎてもうこれわかんねえな・・・まあいい、私にとってはつい昨日のことDA☆


 

 

 

剣護「うぅおらぁぁああああ!!」

 

 

 

ボゴオォォォォオォォォオン!!

 

 

 

大きな轟音と共に勢いよく扉が吹っ飛び、ガシャンガシャンと周りのコンピューターを倒していく。

 

ジャンヌ「ワアァァァ!?」

アリア「ひうっ!?」

 

ジャンヌは思い切りビビって白雪がいる方向へと後退り、アリアは小さく悲鳴を上げる。

 

剣護「ハー……ハー……やっと……着いた」

 

4人の視線の先にはいつもの武偵高の制服を着た剣護が汗だくで立っていた。

 

キンジ「待ってたよ。相棒(剣護)

アリア「……そっか。剣護は元SSRだったものね」

白雪「ごめんね。剣ちゃんにも迷惑かけちゃって……」

剣護「せめて誰か1人くらい起こしに来てくれても良かったじゃねえか!てかゴールデンウィーク中に起こしてくれよ!!」

3人「………………」

剣護「目を逸らすなコラァ!」

 

怒り心頭の剣護に3人は顔を合わせて頷くとキンジから順に言った。

 

キンジ「剣護。全ては魔剣の仕業なんだ」

アリア「そ、そうよ!これも全て魔剣ってやつの仕業なのよ!」

白雪「え、えっと。ジャンヌはとんでもないものを盗んで行きました。剣ちゃんのゴールデンウィークです!」

剣護「よろしいならば戦争(クリーク)だ」

ジャンヌ「ちょっと待てえぇぇぇぇ!?」

 

3人は罪を全部ジャンヌに擦りつけ、そのことに擦りつけられたジャンヌは思い切りツッコんだ。

 

ジャンヌ「ちょっと待て!?神崎かなえの冤罪は私だが、月島の方は知らんぞ!?」

剣護「そんなの関係ねえ。俺ぁただ…………殺すのみよ」

ジャンヌ「お前、武偵か!?」

キンジ「殺人鬼みたいだろ?武偵なんだぜこれで」

ジャンヌ「嘘だッ!!」

剣護「面白いやつだな。気に入った。殺すのは最後にしてやる」

アリア「ってなわけでジャンヌ!逮捕よ!」

ジャンヌ「どういうわけだ!?」

アリア「ツッコんでたらキリがないってことよ!」

ジャンヌ「アッハイ」

 

ジャンヌとキンジ達はお互い仕切り直すように離れる。白雪はアリアとキンジを守るように前に立ち、その隣に剣護が陣取る。

 

白雪「ジャンヌ。もう……やめよう。私は誰も傷つけたくないの。たとえそれが、あなたであっても」

ジャンヌ「笑わせるな。原石に過ぎぬお前が、イ・ウーで研磨された私を傷つけることはできん」

剣護「俺に傷つけられた癖によく言うわ」

ジャンヌ「うるさい!」

白雪「私はG(グレード)17の超能力者なんだよ」

ジャンヌ「…………ブラフだ。G17など、この世に数人しかいない」

白雪「あなたも感じるハズだよ。星伽には禁じられてるけど……この封じ布を、解いた時に」

ジャンヌ「……仮に、事実であったとしてもだ。お前は星伽を裏切らない。それがどういうことを意味するか、分かっているならな」

剣護「バーカ。お前に白雪の何が分かる?」

ジャンヌ「…………どういうことだ?」

 

バカにするような剣護の一言にジャンヌは眉を寄せる。

 

剣護「星伽を裏切れない。それは今までの白雪だ。今の白雪は……キンジが絡めばたとえ星伽に縛られようが、法に触れようがお構い無しに突っ切るぜ?」

ジャンヌ「………………」

 

不思議なセリフにジャンヌは黙る。自身の計画に誤算が生じているのだ。以前とは違う白雪によって。

 

剣護「断言するぜ、ジャンヌ。お前は白雪に……いや、俺たちには絶対勝てない」

ジャンヌ「……面白い。やってみろ。直接対決の可能性も想定済みだ。Gの高い超偵はその分、精神力を早く失う。持ち堪えれば私の勝ちだ」

剣護「いーや。こちらの人数的にも能力的にもお前の負けだ」

ジャンヌ「何故そんなことが言える?確証もないのに」

剣護「俺のあの力……あの程度だと思うなよ?」

ジャンヌ「っ……!?」

 

あの力とは最初に剣護がジャンヌと交戦した時の白い髪のようなもののことである。ジャンヌはだんだんと青ざめるのを見て、アリアとキンジは頭の上に?マークを浮かべ、白雪はジト目で剣護を見る。

 

白雪「剣ちゃん……?あの力って何かなぁ?」

剣護「ヘアッ!?」

白雪「剣ちゃんまさか……本当に何か宿してるの……?嘘ついたの?」

剣護「ヒイィィィィ!?見せる!見せるから待って!」

白雪「今、答えて」

剣護「え、いや、あの…………」

白雪「答えなさい」

剣護「………ボソボソ」

白雪「……え、嘘でしょ!?」

剣護「おのれジャンヌゥ!許ざんッ!」

ジャンヌ「今のはお前が墓穴掘っただけだろう!?」

白雪「……このことについては後でじっくりお話しようか」

 

そう言うと白雪はキンジの方に背を向けたまま、声をかける。

 

白雪「キンちゃん、ここからは……私を、見ないで」

キンジ「白雪……?」

白雪「これから私、星伽に禁じられてる技を使う。でも、それを見たらきっとキンちゃんは私のこと……怖くなる。ありえないって思う。キライに……なっちゃう」

キンジ「……白雪、安心しろ。ありえない事は1つしかない。俺がお前のことをキライになる?それだけは、ありえない」

白雪「すぐ、戻ってくるからね」

 

白雪は白いリボンを解くと刀を構え直し、ジャンヌに向き直る。

 

白雪「ジャンヌ。もう、あなたを逃がすことはできなくなった」

ジャンヌ「?」

白雪「星伽の巫女がその身に秘める、禁制鬼道を見るからだよ。私たちも、あなたたちと同じように始祖の力と名をずっと継いできた。アリアは150年。あなたは600年。そして私たちは……およそ2000年もの、永い時を……」

 

白雪が手に力を込めると刀の刀身に焔が灯る。焔を見てジャンヌは少し後退るが、ただ一人ジーッと白雪の焔を見ていた。

 

剣護「………………」

白雪「……け、剣ちゃん?」

 

そう、剣護である。剣護は白雪の焔を見てフゥッと息をつくと白雪の少し前に立つ。

 

剣護「なーにが怖くなるだ。キライになるだ。なんも変わらねえじゃん」

白雪「……け、剣ちゃんは怖くないの……?」

剣護「お前さんのセリフそっくり返すぜ。今から見せる俺の姿(・・・・・・・・・)を見れば怖くなるぞ?」

キンジ「いやまさかそんな……お前も白雪みたいなことになるのか?」

剣護「白雪より結構変わるぞ」

金・アリ・ジャン「……え?」

 

え?嘘だろ?とでも言いたげな顔をする3人に剣護は自身の髪飾りのしめ縄をトントンと指でつつく。

 

剣護「なら、何のために俺がしめ縄の髪飾りをしてるか分かる?」

アリア「えっと……確か魔除けじゃなかったかしら?」

剣護「まあ、そう答えたな。でもそれは表向きのこと」

キンジ「じゃあ……その髪飾りは白雪のリボンと同じ役目を……?」

剣護「ご名答」

 

キンジの答えに剣護はニッと笑って答える。白雪はジト目気味に剣護を睨んでいる。

 

白雪「……制御できるの?」

剣護「やってやるよ」

ジャンヌ「フンッ。たとえ変わったとしても使いこなせなければ意味がないだろう?」

剣護「ま、そうだな。ところでキンジ。去年の俺が入っていたところは?」

キンジ「ん?SSRだろ?…………あっ」

ジャンヌ「確かにそもそもなんで貴様は超能力者でもないのにSSRに…………ん?」

アリア「わかったわ!剣護は今使おうとしている力について調べるためにSSRに入った。ということね!」

剣護「イグザクトリー!その通りでございます」

ジャンヌ「ってことは……」

剣護「使いこなせるってこった。完全じゃないけど…よーく目に焼き付けときなジャンヌ・ダルク!」

 

そう叫ぶと剣護はしめ縄を掴み勢いよく外す。バサっと足元まで伸びている長い髪が広がっていく。それからすぐに異変は起きた。

 

 

なんと剣護の髪がだんだんと白くなっていっていき、髪の大部分が完全に白くなり、残っている黒髪は何やら紋様のように揺らめいており、前髪は逆立ちまるで獣耳のような形になっている。

 

 

 

 

 

剣護「……常世の神子、覚醒!!」

 

 

 

 

 

これが剣護が月島家の一族の中で唯一受け継がれた力【常世の神子】である。

 

 

剣護「どうよ?」

キンジ「すっげ……」

アリア「猫みたい…」

白雪「……なっちゃったかぁ…暴走は大丈夫そうだけど……」

 

剣護の姿に呆気に取られつつもジャンヌは憎らしげに言う。

 

ジャンヌ「ふ、フンッ。姿が変わったところでこの聖剣デュランダルに敵うものはない」

剣護「今回はちゃんと刀持ってきたから対等にやれるぜ」

ジャンヌ「舐められたものだな……そんなもの簡単にへし折ってくれる」

剣護「できるもんならな。行くぞ!白雪!」

白雪「う、うん!」

 

カッ!と床を蹴り白雪はジャンヌに接近し、刀を振るう。ジャンヌは背中の大剣を抜き受け止める。二本の剣は鎬を削り、いなされた白雪の刀がコンピューターを切断する。

この隙にジャンヌは距離を取った。

 

ジャンヌ「炎……!」

 

その表情には僅かな怯えの色と冷や汗が滲んでいた。ジャンヌは炎を怖れている。ヒステリアモードのキンジにはすぐに分かった。

 

白雪「いまのは星伽候天流の初弾、緋炫毘(ヒノカガビ)。次は、緋火虞鎚(ヒノカグツチ)……その剣を斬ります」

 

白雪は燃えさかる刀を掲げる。

 

白雪「それでおしまい。このイロカネアヤメに、斬れないものはないもの」

ジャンヌ「それはこっちのセリフだ。聖剣デュランダルに、斬れぬものはない」

 

ジャンヌも幅広の剣を胸の前に掲げる。古めかしい、しかし、手入れの行き届いた壮麗な洋風の大剣を。

 

ジャンヌ「だがその前に月島……」

 

ジャンヌは白雪にではなく剣護に狙いを定め、構える。

 

ジャンヌ「貴様にやられた分を返してからだ!」

白雪「!?剣ちゃん!」

 

ジャンヌは勢いよく突進し、白雪の脇を通り抜け、剣護の方へと突っ込んでいく。しかし、剣護は落ち着いた様子で腰に差し直した刀を居合気味に振るう。

 

剣護「しっ!」

ジャンヌ「っ!」

 

素早く振るわれた刀と大剣がぶつかり合い、刀が大剣を弾き飛ばす。

 

ジャンヌ「ぐっ!」

剣護「今度こそ逮捕だ……行くぞジャンヌゥゥゥ!」

ジャンヌ「上等だあぁぁぁぁ!!」

 

コンピューターに囲まれた部屋の中、神子と魔女は激突する。

 

 

 

 



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第31話 決着!超偵vs武偵!

 

剣護「おおおおおお!」

ジャンヌ「はああああああ!」

白雪「やあああああ!」

ジャンヌ「ふっ!」

剣護「ぬごらぁ!」

ジャンヌ「がっ!」

 

薄暗いコンピューターに囲まれた部屋で激しい攻防が繰り広げられる。剣護が攻めて、ジャンヌが避け、その隙を白雪が攻める。

 

白雪「はぁ、はぁ、はぁ……」

剣護「大丈夫か?白雪」

白雪「ごめん剣ちゃん……しばらく任せていい?」

剣護「了解。しばらく休んでな」

白雪「うん……」

ジャンヌ「来ないならこちらから行くぞ!」

 

ジャンヌはヤタガンを飛ばすとともに細かな氷の粒を振り撒く。咄嗟に剣護は上に巻き上げるように斬り上げる。

 

剣護「月島流、富嶽山嵐(ふがくやまあらし)!」

 

斬撃の竜巻が起こりヤタガンや氷の粒を吹き飛ばし、周りに強力な突風が吹き荒れる。アリア達は顔を腕で覆い、ジャンヌも同じようにしていた。

 

剣護「おお!!」

ジャンヌ「ぐっ!」

 

その隙を逃さず剣護は飛び上がり上から斬り下ろす。

ジャンヌは大剣で防ぎつつ後ろに下がるが、剣護は間合いを開けさせまいと相手に肉薄する。

 

ジャンヌ「くっ!」

 

ジャンヌは能力で氷の壁を発生させ阻もうとするが、発生させた側からまるで豆腐のように周囲の器物と一緒に簡単に斬り倒されてしまう。

 

ジャンヌ「この!」

 

今度は氷のつぶてを飛ばすが、剣護はもう1本の刀を抜き二刀流で弾き、斬り落としていく。

 

剣護「月島流!富嶽双円舞!」

ジャンヌ「くっ……!」

 

円を描くように二刀を連続で振るい、ジャンヌは大剣で防いでいくが鎧を少しずつ切り付けられていく。

 

剣護「まだまだぁ!月島流、富嶽怒髪天!!」

 

二刀での突きをジャンヌは大剣で受け止めるが勢いは殺せずそのまま後ろの壁まで吹っ飛ばされる。

 

ジャンヌ「ガハッ……」

剣護「ふうっ……いてて」

 

 

 

キンジ「すげ……」

アリア「あいつこんなものを隠してたのね…」

白雪「でもあまり持たないかも……」

アリア「そうね。動きが激しくて身体の傷が開いちゃってる」

 

アリアの言う通り剣護はジャンヌに斬られた部分を押さえ脂汗を少し滲ませていた。

 

ジャンヌ「い、いくら強化されようとも怪我は誤魔化せないようだな…」

剣護「ヘッ!だったら限界来るまでに決着つければ良いだけだ」

ジャンヌ「良いだろう。ならば見せてやる……」

 

そう言うと大剣に青い冷気の光が集まっていく。

 

剣護「キンジ!アリア!白雪!俺の後ろに来い!」

アリア「ちょっと何する気よ!」

剣護「ぶった斬る」

キンジ「は?」

剣護「いいから早く!」

 

キンジ達が後ろに来ると、剣護は十六夜を担ぐように構えて、呼吸を整え真っ直ぐとジャンヌを見据える。

 

ジャンヌ「銀氷となって散れ!オルレアンの氷花!!」

 

剣護「月島流奥義……」

 

大剣を振るい青い冷気の光の奔流が放たれ剣護の方に迫る。

しかし剣護は焦る様子を一切見せず、構えた刀を振り下ろした。

 

剣護「富嶽泰山斬り!!!」

 

振り下ろされた刀は真正面から冷気の奔流を一刀両断し、斬り裂かれた奔流はV字に剣護達の後ろに広がり周囲を凍らせていく。

 

ジャンヌ「…う、嘘………」

 

ジャンヌはまさか自分の渾身の技をぶった斬られるとは思わなかったのか目を見開き驚いている。

そして、次の瞬間アリアが叫んだ。

 

アリア「今よキンジ!ジャンヌはもう超能力(チカラ)を使えない!」

 

キンジはダイヤモンドダストを搔き分けるように駆けた。三点バーストのベレッタで正中線を銃撃するが、咄嗟に大剣で防がれてしまう。

 

ジャンヌ「っ……ただの武偵の分際で!」

 

ジャンヌはキンジの方へ突っ込み脳天めがけて振り下ろす。デュランダルの軌道は完全にキンジの脳天を捉えている。

しかし、ヒステリアモードのキンジはここで離れ技をやってのける。

両手が必要だが右手には拳銃を持っている、だから右手ではなく左手で……

 

 

 

デュランダルを受け止めた。

 

 

 

真剣白刃取りの片手かつ二本指版。キンジは土壇場でその技をやってのけたのだ。

人差し指と中指に挟まれて止められているデュランダルを見てジャンヌは驚いているが闘争本能は失っていなかった。

 

ジャンヌ「なんて、ヤツ…………」

キンジ「これにて一件落着だよ、ジャンヌ。もう、いい子にしておいた方がいい」

ジャンヌ「武偵法9条。よもや忘れたわけではないな。武偵は、人を殺せない」

キンジ「ははっ。どこまでも賢いお嬢さんだ」

ジャンヌ「お、お嬢…………?」

 

呼ばれ方が恥ずかしかったのか、ジャンヌは少し赤くなる。

 

ジャンヌ「だ……だが、私は武偵ではない、ぞ!」

 

ジャンヌがそう言って剣に力を込めた時、カッ!カカカッ!と下駄を鳴らす音に続いて

 

白雪「キンちゃんに!手を出すなぁぁぁぁぁッ!!」

剣護「オオオオオオオオオオオオオ!!」

 

白雪と剣護が居合の構えのままジャンヌ目掛けて左右から駆け出す。

 

白雪「星伽候天流!」

剣護「月島流!」

 

 

白雪「緋緋星伽神(ヒヒノホトギカミ)!!!」

剣護「白銀流星(しろがねながれぼし)!!!」

 

 

緋色の閃光を纏った刃と流星の如く振り抜かれた刃が大剣、デュランダルを両断した。

 

ジャンヌ「ば、ばかな……」

剣護「さ、て、と」

 

両断された大剣を見て呆然としているジャンヌに十六夜の剣先を向ける剣護。

 

剣護「まだやるかい?」

ジャンヌ「……いや、私の負けだ…」

アリア「魔剣(デュランダル)、逮捕よ!」

 

そう言うとジャンヌは両手首を差し出し、アリアによって手錠がかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「はぁ……はぁ……」

 

諸々が済んで剣護はその場に座り込む。常世の神子の変化は解けて、制服の胸部分は赤く染まっていた。

そんな剣護の元に3人はすぐさま駆け寄った。

 

白雪「け、剣ちゃん!大丈夫!?」

剣護「も、もう動けねぇ……」

アリア「相当消耗が激しいのね、あの力は」

キンジ「傷も開いてるから救護科に行かないとな」

剣護「まあ……なんにせよ……」

アリア「一件落着ね」

 

こうして『銀氷の魔女』ジャンヌ・ダルクとの激闘はキンジ達の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 



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第32話 一件落着!しかし波乱はまだ続く!?

 

 

 

アドシアードが終わってから、バンドの男衆とチアの女子達の打ち上げの後、ファミレスでは魔剣を逮捕したということで祝勝会が開かれていた。

 

アリア「それじゃ、魔剣による誘拐事件の解決を祝って乾杯!」

一同「カンパーイ!」

 

ガチンと飲み物が溢れるような勢いでコップを合わせる。

乾杯するまでにアリアが白雪に奴隷発言したり、キンジ達の部屋のカードキーが勝手に作られてたりしたが。

 

怜二「良いのかな僕もここに居て……」

アリア「良いの良いの!レキと一緒に剣護を地下倉庫に連れてってくれたじゃない」

怜二「まあそう言うならお言葉に甘えて……」

アリア「うんうん!」

白雪「さてと……」

キンジ「ん?どうした白雪」

 

白雪の表情が真剣になりキンジは問いかける。それに釣られて他の皆もそちらに向く。

 

白雪「剣ちゃんに聞きたいことがあります」

剣護「ギクッ…………」

 

白雪にジト目で睨まれ、剣護はシュバッと勢いよく目を逸らした。

 

剣護「ま、まあ今は事件も終わったんだし何もこんな所で聞かなくても……」

白雪「ダメです。キンちゃん達にも聞いて貰わないといけません」

金・アリ・怜『え?』

レキ「…………」

剣護「いや俺怪我してるし……」

白雪「現にここにいるじゃない」

剣護「ぅぐ…………」

白雪「大丈夫大丈夫、素直に答えてくれれば良いから。素直に……ね?」

剣護「ワッ…ワァ…ァ…」

 

若干黒雪モードに入っている白雪に迫られ、どこぞの小さくて可愛い生き物みたいな声をあげながら青ざめる。

 

白雪「話してもらうのは常世の神子に関してです」

剣護「あ、はい」

アリア「ジャンヌの時の白いやつね」

白雪「そう。本当なら剣ちゃんがその力を宿していることはあり得ないことなの」

キンジ「あり得ない?」

剣護「常世の神子は俺の先祖の代で役目を終えて消えたんよ」

白雪「その本来この世に存在しないはずの力を剣ちゃんは宿してる……」

剣護「なんでかは俺も親も知らねえよ?」

白雪「うーん……ともかく制御する為になんとかしないと…」

怜二「……あのさぁ…………」

キンジ「俺達……」

アリア「話についていけないんですけど……」

 

あまりにも話の内容について行けず3人は話を遮る。

 

白雪「え、えーと……要するに剣ちゃんは本来存在しないはずの力を持ってて、その力が結構危ないもので…えっと」

アリア「んー……まだ聞きたいことはあるけどこの話はこれでおしまい!折角の祝いなんだから湿っぽい話は無しよ!」

キンジ「良いんかい」

白雪「……うん、そうだね。折角のお祝いだものね」

剣護「んだな。よっしゃ!食いまくるぞオラァ!」

キンジ「そういやお前ほとんど何も食ってなかったな」

 

若干湿っぽい雰囲気をアリアがパンパンと手を叩いて切り替え、それからはまたワイワイと賑やかになっていった。

 

 

 

その様子を別の場所から見られていたことに気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護達の席からかなり離れた位置にある席ではあかり達が打ち上げをしていたのだが、あかりとライカの視線がほぼ剣護にしか向いてなくて志乃と麒麟はギリギリとハンカチを噛んでいた。

 

あかり「剣護先輩……カッコイイなぁ……」

ライカ「だなぁ……」

志乃「くっ……妬ましい……!」

麒麟「パルパルパルパルですの……!」

 

志乃と麒麟の様子を気にしていないかのように2人は話を続ける。

 

ライカ「……あかりってさ」

あかり「うん?」

ライカ「…………剣護先輩のこと好きなのか?」

志乃・麒麟『ブッ!?』

あかり「大好きだけど?」

志乃「グフゥ!?」

あかり「そういうライカはどうなのさ?」

ライカ「も、もちろんあたしも好きだけど……」

麒麟「ガハァ!?」

 

大体予想はしてたが備えることはしてなかったのか2人の答えに志乃と麒麟は吐血してぶっ倒れた。

 

あかり「ど、どうしたの2人!?」

ライカ「だ、大丈夫か?」

志乃「えぇ、大丈夫ですよ。あかりさん」

麒麟「問題ありませんわライカお姉様」

あかり「そ、そう」

ライカ「なら良いんだけどさ」

 

志乃(くっ……!既にあかりちゃんがこんなことになってるなんて……月島剣護許すまじ……!)

麒麟(慈悲などないですの……!)

 

キャイキャイと恋バナに花を咲かせる2人をホッコリと眺めながら志乃と麒麟は嫉妬の炎を燃やすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜とある廃工場〜

 

 

 

アリア達が打ち上げをしている同時刻、とある場所にある廃工場では1人の女性が拉致されていた。

他には誰もいないのか工場内はガランとしている。

 

???「……っ…………ぅ……」

 

女性は椅子に縛り付けられており、目隠しをされていた。

その傍らには砂や埃を被ってボロボロの魔導書と銃で撃たれたのか同じくボロボロの人形が転がっている。

 

???(……知らない場所に来たと思ったらいきなり拉致されるなんて……油断してたわ……)

 

???「…………誰か……助けて……」

 

彼女の弱々しい声は誰かに届くことなく虚空に消えるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「…………あん?なんだこれ?」

 

次の日の朝、キンジが起きてくると玄関のドアの側に『果たし状』と書かれた紙が置かれていた。

 

キンジ「……おーい、剣護ー。なんか来てるぞ」

剣護「あー?……なんこれ果たし状?」

怜二「差出人は……佐々木さん?」

剣護「あいつかー……今日休みなんですけど」

キンジ「どうすんだよ」

剣護「そりゃ受けるに決まってんじゃん。断れば侍の名折れよ」

怜二「流石ブシドー精神」

剣護「それジャスト回避のやつや」

 

そうやりとりしながら剣護達は朝食を用意する。

しかし、彼らは今日この日がとんでもない日になるとは思いもしなかったのだった。

 

 

 

 



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番外編
番外編1 気づかされた思い


 

 

 

休日の午前10時、武偵校の強襲科の体育館でキンジ、剣護、武藤の3人はジャージで集まっていた。

 

剣護「珍しいじゃん。キンジから特訓を誘ってくるなんて」

武藤「しかも俺まで誘われるとはな。明日槍でも降るんじゃね?」

キンジ「うっせ。最近何かと強敵相手にすることが多いからな。銃とナイフだけだと厳しくなってきたし……だから対抗手段を増やしとこうと思って」

剣護「それでそこそこできる体術に白羽の矢が立ったと」

武藤「そんで俺も呼ばれた訳ね」

キンジ「まあそんなとこだ」

剣護「んで?それなりの技は何か考えてんの?」

キンジ「もちろん考えてあるさ。あとは実際にやって試すだけだ」

武藤「え、俺らサンドバッグ?」

剣護「やだ、しかもぶっつけで?」

キンジ「一応こっそり1人で練習してるから大丈夫だろ。お前ら頑丈だし」

武藤「当たりどころ悪かったら轢くからな!」

キンジ「はいはい。とっととやるぞ」

 

剣護「にしてもなーんか忘れてる気がするんだよなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志乃「果たし状出したのに先輩来ないんですけど……」

麗「これ忘れられてない?」

麒麟「こっちから行った方が早いかもですの」

志乃「……もう少し待って来なかったら行きましょうか」

 

 

この後30分程待っていたがマジで来なかったので、3人は剣護を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「……なあ、今更なんだけどさ」

剣護「あん?」

キンジ「お前果たし状の件はどうした?」

剣護「………え?」

 

組手をしている最中、キンジの言葉に思わず固まる剣護。

 

剣護「果たし……状?」

武藤「え、おい剣護、お前まさか……」

剣護「そ、そそそそのようなことがあろうはずがございません」

キンジ「忘れてたなお前」

 

呆れたようにジト目で見てくるキンジに、目を逸らして口笛を吹いて誤魔化す剣護。

 

麗「あ、ここにいた!」

麒麟「見つけましたの!」

 

するとそこへ志乃達が現れ、剣護の方に詰め寄る。

 

志乃「先輩!なんで来ないんですか!?」

剣護「あー……いやー…そのー……」

キンジ「忘れてたらしい」

麗「当たってた……」

武藤「てか何で果たし状?」

剣護「一体俺が何をしたというのだ」

志乃「月島先輩にはもう我慢できません。ここで……成敗します!」

麒麟「ライカお姉様は渡しませんの!」

剣護「いやだからどういうことだってばよ……」

 

訳がわからずゲンナリと項垂れる剣護に麗が溜め息をついて言い放つ。

 

麗「わからないかしら?」

剣護「割とマジでわかんねえ……」

麗「仕方ないわね……間宮あかりと火野ライカは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたのことが好きなのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「…………………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、あかりとライカは乾桜と一緒にショッピングに来ており、今は海浜公園のベンチに座ってリーフパイを食べていた。

 

桜「い、良いんですか?私も一緒で……」

あかり「全然大丈夫だよ!人数は多い方が楽しいし」

ライカ「それにしても志乃と麒麟の用事ってなんだろな。まあ良いけど」

 

 

 

 

しかし、その海浜公園から近くのビルの屋上から3人の様子を監視する者がいた。

 

???「HQ、HQ。こちらコードA。目標を発見した」

???『こちらHQ。了解した。別動隊を向かわせる。お前は見張っててくれ、必要があれば撃っても構わん。あとなんでメタギア風なんだよ?』

???「やってみたかったんだよ。よくあるだろ?」

???『わからんこともないがな。それじゃ任せたぞ』

???「OK」

 

 

 

 

 

ライカ「む?なんだあれ?」

 

黒いバンが公園の近くに止まり、黒いスーツやパーカーなどを着た男達が出て来てこちらに向かってくるのを3人は不審に思い警戒する。

 

黒服a「お嬢さん達、ちょっと良いかな?」

桜「な、なんですかあなた達は!」

黒服b「ちょっと俺達と一緒に来てもらおうか」

あかり「だが」

ライカ「断る」

黒服c「なにっ!?」

ライカ「ハァッ!」

 

ライカは目の前のパーカーを着た男めがけてハイキックを繰り出すが男は避けもせずガードしてそのまま足を掴む。

 

ライカ「なっ……」

黒服c「CQCが得意なようだが……俺達もそんなヤワじゃねえぜ!」

ライカ「あぐっ……!」

 

男は足を掴んだまま背負い投げの要領で地面に叩きつける。

 

あかり「ライカッ!」

黒服a「余所見してる場合かい?」

あかり「っぐぁ!」

 

あかりの相手は黒スーツの男。繰り出される回し蹴りをガードするも体格差があり吹っ飛ばされてしまう。

あかりはそのまま距離を取り、月島流拳技の構えを取る。

 

あかり「月島流拳技……蓮華掌!」

黒服a「なかなかいい技だ。だが…」

あかり「っ!ガハッ……」

黒服a「避けるのは簡単なんだな」

 

男は正面に繰り出された掌底を避けるとカウンターで背中に左回し蹴りを決める。さらにそのままローリングソバットを繰り出した。

 

黒服a「せえあっ!」

あかり「ッッッ……!ゴ、ゴホッ……」

 

回し蹴りを受けガードもできず、あかりはもろにソバットを受けて血を吐きながら吹っ飛ばされ、そのまま気絶する。

 

桜「あ……あ……せ、先輩……」

黒服b「悪いな。ちと寝ててくれや」

桜「っ!あぅ…………」

 

2人がやられるのをただ見ているしかできなかった桜は背後からスタンガンを当てられ気絶した。

 

ライカ「あかり!桜!……くっ!」

 

叩きつけられた体勢からすぐに立つとライカは背中に隠し持っていたトンファーを構える。

 

黒服c「チッ。面倒だな…………やれ」

 

パーカーの男は手を上げ振り下ろした。

 

 

 

 

タァーーーン…………

 

 

 

 

ライカ「っぐぅ!?」

 

銃声が聞こえた瞬間、ライカの脇腹から鮮血が噴き出した。

遠くから狙撃されたのである。

 

ライカ「っ……ぁ……」

黒服a「よし、回収しろ。金髪の女は手当てしておけ」

黒服c「なあ、この子を見てくれ。こいつをどう思う?」

黒服b「すごく……大きいです……」

黒服a「バカやってんじゃないよ!確かに大きいけども!」

 

あーだこーだと言い合いながらも男達はあかり達をバンに乗せるとすぐに海浜公園から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護(あかりとライカが俺のことを……?ダメだ……整理が……)

 

麗に言われたことを頭から蒸気を噴き上げながら理解しようとする剣護。

 

キンジ「なるほどなぁ……」

武藤「剣護お前……1年2人からとか羨ましいぞ!」

剣護「えーと…えーと……つ、つまり…?」

麗「つまり2人から好意を向けられてる先輩が妬ましくて決闘を申し込んだのよ」

キンジ「アリアと戦姉妹組んだばっかの時の間宮みたいなもんか」

剣護「ハァ?」

キンジ「おい、ち○かわのうさぎになるな」

志乃「ともかく!月島先輩に決闘を申し込みます!」

麒麟「ですの!」

剣護「えぇ……俺まだ整理できてな……」

 

その時、その場にいた全員の携帯から着信音が鳴る。

 

志乃「え?」

キンジ「なんだ?」

 

携帯のメールを確認するとケースF3BO2と出ていた。

 

武藤「おい、これって……」

キンジ「誘拐、監禁の事件が発生したってことか……」

剣護「誘拐されたのはうちの生徒か……」

麗「1年生2人とインターンが1人……ねぇ、これって…」

 

すると今度はキンジの携帯から着信音が鳴り、連絡先を見るとアリアからだった。

 

キンジ「アリアか?」

アリア『キンジ!今どこ?』

キンジ「強襲科の体育館だ。剣護と武藤も一緒にいる」

アリア『メールは見たわね?今すぐ装備を整えて2人と一緒に車輌科の車庫の前に来なさい』

キンジ「わかった。すぐ向かう」

 

通話を切ると剣護と武藤に車輌科の方に集まることを伝える。

 

武藤「よっしゃ!俺は先に行って車用意してくる」

キンジ「頼んだ。俺達もすぐ行く」

剣護「そういや今日はあかりとライカはどうした?」

志乃「たしか桜さんと3人で出かけるって……」

剣護「………あかりとライカと桜…気のせいだと良いけどまさかな…」

キンジ「ちょうど1年2人とインターン1人だな…」

剣護「おい急ぐぞキンジ。ヤな予感がする」

志乃「わ、私達も行きます!」

 

嫌な予感が過り、焦った様子で剣護達は車輌科の方へと急ぐ。

その予感が的中しているとは知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライカ「う…………ん…………ここは……?」

 

ライカが目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。周りを見回すと近くにあかりと桜が倒れていた。自分の体を見ると手を縄でしばられており、撃たれた部分は包帯が巻かれていた。

 

ライカ「あかり、桜、起きろ」

あかり「んん……ここは……っつう……」

桜「ううん……ん……はっ!?ど、どこなんですか!?」

ライカ「わからない……どこかの廃工場みたいだ」

 

???「そこに誰かいるの?」

 

ライ・あか・桜「!!」

 

声がして、3人は振り向くとそこには金髪で青いワンピースのような服にケープを羽織った女性がいた。

 

???「もしかしてあなた達も捕まったの?」

あかり「は、はい。あなたは……誰なんですか?」

アリス「私はアリス。アリス・マーガトロイドよ」

桜「アリスさんですか。あなた達もということは……」

アリス「えぇ、私もあいつらに拉致されたのよ」

ライカ「なんであいつらはアリスさんを……」

アリス「……おそらく私が魔法を使うからかしらね」

あかり「魔法……?超能力(ステルス)ですか?」

アリス「ステルス?よくわからないけど……私は魔法使いなの」

桜「は、はぁ……」

アリス「それよりもまずはここから脱出しないと」

ライカ「でも携帯や武器は取られてるし、その前に縄を解かないと……」

アリス「そこは任せて。上海!蓬莱!」

 

アリスがそう呼ぶとフワリとアリスの後ろから二体の人形が現れ、それぞれ槍や剣を使ってあかり達の縄を切っていく。

 

ライカ「ホワァァァ……!こ、この子達は?」

アリス「上海と蓬莱。私の作った人形よ」

あかり「て、手作りなんですか!?」

アリス「えぇ。私は魔法使いであり人形師でもあるのよ」

桜「へぇ〜……すごい……」

アリス「そういえばあなた達の名前を聞いてなかったわね」

あかり「あ!あたし間宮あかりと言います!」

桜「乾桜です!」

ライカ「……はっ!ひ、火野ライカ……です」

アリス「なるほどね……それじゃあ早くここから出ましょうか」

あか・ライ・桜「はい!」

 

お互いに少し親睦を深めたところで4人は脱出するべく行動を開始するのだった。後にこの出会いが様々な事件や異変に絡んでくるとは知らずに。

 

 

 

 

 



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番外編2 黒い女剣士

 

 

アリス「…………参ったわね……」

 

廃工場に囚われていたあかり、ライカ、桜、アリスの4人は脱出を試みようと扉の隙間から外の様子を伺うが、外には多数の見張りや巡回している黒服達がいた。

 

あかり「流石に多いね……」

桜「何かで陽動できれば……」

ライカ「………うーん……ん?」

 

ライカはふと部屋の上の方に視線を向けると階段の先にハシゴがあり天井が開けるようになっている。

 

ライカ「あそこからいけるんじゃないか?」

アリス「確かに上からなら大丈夫そうだけど……一応警戒しておきましょう」

 

誰も来ないことを確認してから4人はハシゴを登り天井に出る。

まだ誰も気づいてないのか誰も上に注意を向けている者はいなかった。

 

ライカ「よし、このまま逃げよう」

桜「手錠とかも取られてますしね……」

アリス「気づかれる前に急ぎましょう」

あかり「うん…………っ!」

 

その時、あかりは何を感じ取ったのか急に背後を振り返る。

するとそこには黒いロングコートに短パン、少しウェーブがかった黒髪の少女が立って刀を抜いていた。

 

あかり「走って!!」

 

瞬間、あかりは反射的にアリス達を前に突き飛ばした。

そして少女は刀を構え、あかりの方へ突進してくる。あかりもギリギリバックステップで避けるが軽く頬を斬られる。

 

桜「あかり先輩!」

あかり「大丈夫!先に行って!」

ライカ「っ!」

 

走り去るライカ達を少女は追跡しようとするがそこにあかりが立ち塞がる。

 

あかり「ここは……行かせない……!」

「無駄です。あなたは私に敵わない」

あかり「確かにそう……あたしはあなたに勝てない。それでも……時間を稼ぐことはできる!」

「…………良いでしょう。別に始末しても問題ないのですから」

 

あかり(まずは…相手の刀を奪う!)

 

あかりは少女目掛けて一気に駆け出す。対して相手は刀を抜いたままその場から動かなかった。

 

あかり「鳶穿!」

 

間合いを詰め鳶穿を仕掛けるが、接触する瞬間にスルリと相手をすり抜けてしまった。

 

あかり「え?」

「影心流、夜霧」

 

正面にいたはずの少女はいつの間にかあかりの背後に立っていた。慌ててあかりは距離を取り構える。

 

あかり(刀を奪うのは無理そう……なら!)

 

右手右足を前に出し左手を口に添えて指を曲げる。その構えから放つのは間宮の技の1つ『鷹捲』。

それに対して相手の少女は刀を脇に構える。

 

あかり「間宮流……」

「影心流……」

 

そして2人同時に駆け出す。先手を取ったのはあかりだった。

 

あかり「鷹捲!」

 

走りながら飛び回転してパルスを収束しながら相手に向かって飛んでいく。しかし、相手は臆さず冷静に技を繰り出した。

 

鴉刃(からすば)

 

彼女はタンッと高く飛び越えて鷹捲を避け、鳥のような形の黒い斬撃を放った。

 

あかり「うあぁぁぁ!?」

 

当然技を出していた途中のあかりは避けることもできず飛んできた斬撃を受け、ゴロゴロと屋根を転がり地面に落ちていった。

 

ライカ「あかりぃ!」

アリス「っ!来るわ!」

ライカ「っ!飛び降りろ!」

 

ライカの声で2人は屋根の上を走り飛び降りる。すると次の瞬間先程までライカ達がいた場所がバラバラに切り裂かれた。

 

ライカ「強い……!」

 

あのままあの場所に留まっていれば自分達もあんな風にバラバラになっていたかと思うとライカは冷や汗が止まらなかった。

3人は着地するとすぐにあかりの方へ駆け寄った。

 

ライカ「あかり!大丈夫か?」

あかり「っ…………ぁ……ぐっ……」

 

背中はバッサリと斬られており防弾防刃であるはずの制服を真っ赤に染めていた。

 

黒服「おい!脱走されてるぞ!」

黒服「囲め!囲め!」

ライカ「クソッ!」

 

そうこうしてるうちに完全に壁際に包囲されてしまい手も足も出せなくなってしまった。

そして組織のリーダーらしき灰色のロングコートを着た男が4人のところへ現れた。

 

「脱出しようとしたようだが……彼女の存在に気づかなかったようだな。そこの小さなお嬢さんはすぐに気づいたようだが」

アリス「あんた……こいつらのボスね?」

「そうだ。俺がこいつらのリーダー、長宗だ」

ライカ「……なんであたしらを拉致した?」

長宗「ふむ、折角だ。冥土の土産に教えてやろう。ラクーン台場の事件は覚えているかな?」

あかり「た……しか…………麒麟ちゃんが……誘拐……された……」

ライカ「寄せあかり!喋るな!」

長宗「そう。その誘拐事件を行なったのが紛れもない、私の部下だ」

アリス「……それで捕まった部下の無念を?」

長宗「そういう訳ではない……煮湯を飲まされたお前達を商品と一緒に売り飛ばしてやるのも良いが、人質に他の奴らを誘い出して叩くのも一興かと思ってな」

あかり「……そんなこと……!」

 

重傷を負った体に鞭を打ちあかりは立ち上がる。そして鷹捲と同じ構えを取った。

 

長宗「ほう……その体で立ち上がるか」

あかり「ハァー……ハァー……」

桜「あかり先輩!やめてください!」

あかり「ハァー……ねぇ……ライカ」

ライカ「…………?」

あかり「この人達が他の武偵をおびき出すとして……誰が来ると思う?」

ライカ「そりゃ…………あっ」

あかり「……来るのはあの人……でも何度も迷惑かけてられない……だから!」

長宗「……仕方あるまい。殺しはしたくなかったがな」

 

長宗が腕を振り上げた瞬間、あかりは今の状態で出せる最高速で駆け出した。相手側の少女があかりに向かって駆け出すがそこにライカが割り込む。

 

「っ!」

ライカ「行かせるか!」

長宗「チッ!撃て!!」

アリス「させない!!操符『乙女文楽』!」

黒服「な、なんだありゃあ!?」

黒服「構うな!撃て撃てぇ!!」

 

アサルトライフルやハンドガン、ショットガンの弾丸とアリスの放つ色鮮やかな弾幕が交わると同時にあかりの姿が消えた。

 

長宗「な……なに!?」

あかり「……間宮流我流……」

 

宗牙が気がついた時には既にあかりは相手の懐に潜り込んでいた。

 

あかり「鷺旋(さぎつむじ)!」

 

そして体と腕を捻りパルスを纏った掌底を打ち込む。ドゥッ!バチィッ!と掌底の衝撃と共にパルスが流れ宗牙を吹っ飛ばした。

 

あかり「はぁ……はぁ……っぐ!?」

 

さっきの一撃で力を出し切ったのかガクッと膝をつくあかりにパンッという乾いた音と共に激痛が走る。背中が熱くなっているところ、そこを撃たれたらしい。

 

あかり「が、ガハッ…………」

黒服「こ、このガキ……よくもボスを!」

黒服「撃て!撃てぇぇぇぇぇ!」

ライカ「あかり!」

あかり「っ!」

 

黒服達の銃から弾丸が放たれる瞬間、ライカがあかりに覆い被さりバチバチと大量の銃弾を受ける。

 

ライカ「ぐくっ…………ぅぁ……」

あかり「ラ………イカ…………」

ライカ「っ…平気だ…この程度…!」

「………………」

あかり「…………っ!!」

 

2人が倒れてるところに少女がトドメを刺さんと禍々しく光る刀を振り上げる。

 

桜「あ、あかり先輩!!」

アリス「くっ!ま……間に合わない……!」

「あなた達に特に怨みとかはないですが……死んでもらいます」

 

あかり(……だ……嫌だ……まだ死にたくない!)

ライカ(こ、こんなとこで……死んでたまるか!)

 

 

 

 

 

あかり・ライカ(まだ先輩にあたし達の想いを伝えてない!だからまだ終われない!)

 

 

 

 

 

しかし、心の中で誓ってもどうすることもできず無慈悲にも刀が振り下ろされようとした時だった。

 

 

 

 

ボゴオオオオオオオン!!

 

 

 

黒服達『グワーッ!?』

「!?」

 

突然の衝撃波と轟音と共に黒服達が吹っ飛んだのである。

突然のことで驚いたのも束の間、衝撃波の中から少女の方へ白いものが突っ込んできて手に持った黒刀を振るう。

 

「オラァ‼︎」

「っ!何者……!」

剣護「こいつらの……先輩だ!」

桜「月島先輩!!」

 

白いものの正体は常世の神子に覚醒した状態の剣護だった。目の前で鍔迫り合いをしている少女に剣護はアイサツをする。

 

剣護「ドーモ。月島剣護です」

結月「……ドーモ。月島剣護=サン。結月(ゆづき)です」

剣護「随分と後輩が世話になったじゃねえか……キッチリ倍返しさせてもらうぜ……」

結月「……できるものならn「オラァ!」ぐっ!?」

 

相手の少女、結月が話してるにも関係無しに剣護は思い切り殴り飛ばす。常世の神子を解除して桜達の方へ駆け寄る剣護。

 

剣護「桜!……と、えーと」

アリス「アリスよ。アリス・マーガトロイド」

剣護「アリスね。あかり達を連れて行って欲しいんだが……いけるか?」

アリス「えぇ、任せてちょうだい」

剣護「よし。あいつらは俺が引き付ける。頼んだぞ」

桜「は、はい!」

 

桜とアリスはすぐさま、あかりとライカの方へ行き担ぐと出口の方へと走って行く。

 

黒服「逃すな!追え!追え!」

 

その後を黒服達が追いかけようとするが巨大な斬撃に阻まれる。

 

剣護「そうはいかねえ……こっから先は通行止めだ!」

黒服「く、くそぉ……こいつからやれぇ!」

結月「待った」

黒服「!な、何を……」

結月「あの人とは私がやります。あなた達は下がって」

黒服「っ…………り、了解した」

 

結月が一睨み効かせると黒服達は後ろに下がっていく。2人は刀を構えお互いに相手の出を待つ。

 

剣護・結月「!!」

 

 

瞬間、2人同時に飛び出し火花を散らしながら激突する。

 

 

剣護「おおおおあぁぁぁ!!」

結月「はあああぁぁぁぁ!!」

 

ドガガガガガガッ!とまるでマシンガンの撃ち合いのような連撃が繰り広げられる。

必殺の一撃を放っては防ぎ、放っては避けて、放っては捌いての繰り返しで両者一歩も譲らない。

 

剣護「月島流!」

結月「影心流……!」

 

剣護「富嶽虎逢断ち!」

結月「黒三日月!」

 

剣護は虎の爪のような3本の斬撃を、結月は黒い三日月状の斬撃を繰り出しぶつかり合う。

さらに2人は次々と技を出していく。

 

結月「影心流、上弦ノ太刀!」

剣護「月島流、富嶽昇り龍!」

 

剣護「月島流、富嶽霞潰し!」

結月「影心流、下弦ノ太刀!」

 

結月「影心流、影月輪舞(えいげつりんぶ)!」

剣護「月島流、富嶽独楽返し!」

 

円を描く斬撃がカウンターの回転斬りに弾かれたところで2人はお互い距離を取る。

 

剣護「ふー……ふー……」

結月「はぁ……はぁ……」

 

黒服「す、すげぇ……」

黒服「2人とも一歩も譲らねえ……」

長宗「そらそうだ」

黒服「ぼ、ボス!ご無事で!?」

長宗「あぁ、あの嬢ちゃんなかなかいいもん打ってきたよ。話を戻すがあいつの実力はかなりのもんだ。まだ隠してるもんもあるしな」

黒服「確か超能力(ステルス)持ちなんでしたっけ?」

長宗「そら、いよいよソレが出るぞ」

 

宗牙がそう言った時、結月は自分の前に刀を横に構えて左手を添えた。

 

剣護「む…?」

結月「少々、本気を出させていただきます」

剣護「へぇ……まだ何かあんのか」

結月「これでも……G14の超能力(ステルス)持ちなので」

 

すると刀の刀身がだんだんと黒いもやのようなものに包まれていき黒刀になる。

 

結月「影纏。私の能力は影…このように刀等に纏わせることもできます」

剣護「まさか影の中に隠れられるとか言わねえよな……?」

結月「さて……どうでしょう…ね!」

剣護「うおぉ!?」

 

結月が刀を振るうと黒い刀身が伸びて剣護に襲いかかる。咄嗟に横っ飛びで剣護は避ける。

 

剣護「リーチも伸びるのか……」

結月「ええ、この通り」

剣護「厄介だなー……」

 

そう言うと剣護は小太刀を抜いて二刀流に、結月は脇構えの構えを取る。

 

剣護「月島流秘技」

結月「影心流暗技」

 

そして繰り出すのはお互いの本気の技。

 

 

 

剣護「富嶽鎌風嵐(かまかざあらし)!!!」

 

結月「大蛇噛み(おろちがみ)!!!」

 

 

 



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番外編3 決着

どうもALEX改です。前からかなり投稿が遅れてしまい申し訳ございません。
どう書こうかで詰んでいたのと執筆意欲がなかなか湧かず今のようになってしまいました。(´・ω・`)
次はなるべく早く出せたらなと思うので気長にお待ちください。


 

 

 

桜「…………」

アリス「どうかしたの?」

桜「いえ…さっき何か聞こえませんでしたか?」

アリス「何かすごい音がしたわね」

桜「月島先輩…大丈夫でしょうか…」

アリア「桜!」

 

不意に声が聞こえて2人は振り向くと、アリアやキンジ、志乃に麒麟、麗、他にもレキや怜二に武藤などたくさんの武偵が駆けつけてきた。

 

桜「神崎先輩!間宮先輩が……」

アリア「っ!……よくやったわ、あかり…」

キンジ「剣護が先に向かったはずだが…どこだ?」

アリス「もしかしてあの男の子かしら?それならこの先で戦ってるわ」

白雪「あなたは…?」

桜「アリスさんです。私たちと同じように捕まっていました」

志乃「あかりちゃん……」

麒麟「お姉様……」

ライカ「大丈夫だ…平気、平気だから」

麗「それにしても何であかり達を……」

 

その時、ガガガァァァンッ‼︎と大きな音が響いた。

 

武藤「何の音だ⁉︎」

キンジ「武藤!この人たちを頼んだ!」

桜「気をつけてください!相手はかなり手練れです!」

怜二「りょーかい!」

 

4人を武藤に任せ、アリア達は音の聞こえた方へと走っていった。

 

アリア「剣護ッ!」

キンジ「大丈夫か!」

剣護「あ……?よぉ、皆」

 

キンジたちが駆けつけた時に見た剣護の姿はあちこちに切り傷を付けて、羽織と制服も少しボロボロになっていた。

 

剣護「こいつめっちゃ強いタスケテ…タスケテ…」

アリア「その割には余裕そうじゃない」

剣護「いやマジで強いんだって。超能力(ステルス)持ちだぞ」

キンジ「うわめんどくさ……」

 

結月(今のうちに……)

 

相手が騒いでる間に結月は呼吸を整える。彼女も剣護と同じくダメージがあるはずだが痛みを気にしていないかのように集中している。

 

志乃「皆さん!あいつ…何かする気です!」

 

志乃が叫び全員が視線を移した先には黒いもやのコートのようなものを纏っている結月の姿があった。

 

結月「影纏・影衣(かげごろも)

剣護「全身にも纏えるのか……」

アリア「……フッ!」

 

アリアが試しにガバメントを発砲し、結月は避けずに銃弾を受けるが平然と立っていた。

 

アリア「なるほどね……」

キンジ「銃だと効果薄いのか……」

結月「手札を隠し通すほどの余裕もないもので」

 

結月は再び影を纏わせた刀を剣護達の方に向ける。

 

結月「影心流……鴉刃・二連!」

 

結月はあかりにも放った影による黒い斬撃を2連撃で放ってくる。

 

剣・怜『フッ!』

 

飛んでくる斬撃を剣護と怜二は難なく弾き飛ばす。

 

怜二「なるほどね。纏わせた影を斬撃として飛ばせるのもできるんだ」

剣護「そして、飛ばした後は影纏は解除される」

アリア「そしてそれを使う分、体力と精神力を消耗すると」

結月「っ………!」

 

アリアの言った通り消耗が大きいのか結月は肩で息をしている様子だった。

 

アリア「大人しくしなさい。あんたらもよ!」

黒服「く、クソゥ…こんな所で…」

長宗「そうはいかないな」

 

項垂れる黒服達の前にボスの長宗が立つ。その後ろではRPGを持った黒服達が7.8人ほどいた。

 

長宗「RPG用意!」

黒服達「ハッ!」

全員『!!』

桜「ま、マズイですよ!あの数のRPGは!」

アリス「流石にアレは無理だわ…」

キンジ「……これは詰みか?」

剣護「かもなぁ……今の状態で捌くの厳しすぎる」

長宗「悪いね。我々も必死ということなのだよ……撃て‼︎」

 

宗牙の指示で一斉に大量のTBG-7V弾頭が剣護達の方に向けて放たれる。剣護、アリア、怜二、志乃はそれぞれ刀を構えるが、例え弾を斬ったとしても爆風で周りを巻き込んでしまうので正直防ぐ術がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなピンチに何かが起きるのはやはり何か運らしきものを持っているということなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夢符「二重結界」』

『魔符「スターダストレヴァリエ」』

『人符「現世斬」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三つの声が聞こえた時、四角い二重の結界、様々な色の星型弾、いくつもの斬撃が飛んできてTBG弾頭を全て撃ち落とした。

そして剣護達の前に赤い巫女服着た少女、黒い三角帽子を被った魔法使いのような金髪の少女、二振りの刀を背負った白いボブカットの少女の3人が降り立ってきた。

 

長宗「なに……⁉︎」

アリア「た、弾を全部……」

キンジ「てか…誰だ?」

剣護「ウェッ⁉︎あの緑の子の隣なんか浮いてるし⁉︎」

 

???「全く…やっと見つけたと思ったら…何よこの状況」

???「まあ何にせよ間に合ってよかったぜ。大丈夫か?アリス」

???「遅くなってすみません。かなり広いもんですから時間がかかってしまいました」

 

アリス「……れ、霊夢!魔理沙!妖夢!」

桜「お、お知り合いですか?」

黒服「く、クソゥ…こんなガキどもなんかに‼︎」

黒服「野郎!ぶっ殺してやる‼︎」

魔理沙「あぶな!」

 

RPGを再装填していた黒服2人がすかさず撃ち、偶然その弾道にいた魔理沙は思わず避けた。

 

その後ろにキンジと剣護の2人が立っていることを忘れて。

 

霊夢「ちょっと⁉︎なに避けてんのよ⁉︎」

魔理沙「あ…………」

 

迫り来る2発のTBG弾頭に対しキンジはファイティングポーズを取り、剣護は八相の構えを取った。

 

 

キンジ「レイザーキック!!!」

 

キンジは体を捻りその反動の勢いを乗せた鋭い回し蹴りでTBG弾頭を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたTBG弾頭はそのまま海の中へ突っ込んでいき、水中で爆発した。

 

剣護「月島流…富嶽割り!!!」

 

剣護は八相の構えから刀の柄をかち上げ弾頭の先端に当てて真上に打ち上げた。打ち上げられた弾頭は遥か空の彼方に飛んでいき爆発した。

 

妖夢「う、嘘……」

怜二「ロケランの弾を蹴り飛ばしたり、かち上げたりするっておま…」

キンジ「お返しだ!いけ剣護!」

剣護「常世針!」

 

剣護は髪を針状に変化させ黒服達目掛けて無数の針を飛ばしRPGを次々と撃ち抜いていく。

 

黒服「な……⁉︎RPGが全て破壊されたッ!」

長宗「ほう…やはり手強いな」

黒服「ぼ、ボス!このままでは…!」

長宗「あぁ、私も出よう。なかなか楽しめそうじゃないか」

 

そう言って長宗は二丁のモーゼルを懐から引き抜いた。

 

キンジ「モーゼルC96か…」

魔理沙「もーぜる…?なんだそりゃ?」

剣護「説明は後さね」

霊夢「そうね。まずは…」

アリア「あいつらを片付けるわよ!」

妖夢「了解です!」

 

長宗「フッ……来るか」

結月「……参ります」

幹部「ボス、我々も」

 

 

アリア「全員逮捕よ!」

剣護「いくぞォ‼︎」

全員「応ッ‼︎」

 

剣護の号令でキンジ達は一斉に駆け出し、それと同時に長宗達も駆け出す。

 

黒服達「ウラァァァ!」

霊夢「拡散アミュレット!」

魔理沙「喰らえー!」

アリア「風穴ぁ!」

 

ライフルやサブマシンガンを乱射する黒服達に対して霊夢は札を魔理沙は星型弾をアリアはガバメントを放ち牽制する。

 

黒服達「くたばれぇ‼︎」

妖夢「せいっ!」

志乃「ふっ!」

怜二「はっ!」

 

妖夢、志乃、怜二は刀を振るい次々と敵をなぎ倒していく。

 

結月「決着です!」

剣護「やっぱお前だよなぁ!俺の相手はよぉ!」

キンジ「なら俺はアンタとだな」

長宗「フッ……そのようだな」

 

剣護は結月と斬り結び、キンジは長宗と相対する。二丁のモーゼルによる銃撃を避けていきキンジは蹴りを喰らわせていく。

 

長宗「ふっ!」

キンジ「ォウラァ‼︎」

長宗「っ……!」

キンジ「はっ!」

長宗「ぐっ…⁉︎」

キンジ「ぜあ!」

 

キンジは左手のモーゼルを掌底ではたき落とし、その勢いで向けられた右手のモーゼルを後ろ回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

長宗「しまっ……⁉︎」

キンジ「スマッシュ……!」

 

後ろ回し蹴りの勢いのままキンジは長宗の腹に左手での掌底を叩き込み、左腕を引きながら引き絞った右ストレートを叩き込んだ。

 

キンジ「ハンマー!!!!!」

宗牙「ごはぁ⁉︎」

 

顔面に右ストレートをもろに受けて殴り飛ばされ長宗はコンテナに激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結月「あああああ!」

剣護「おおおおお!」

 

一方で剣護は結月と激しい剣戟を繰り広げていた。

 

結月「シィ!」

剣護「ぜあ!」

 

お互いの斬撃がぶつかり合い火花を上げる。さらに弾かれた斬撃が周りのコンテナや倉庫の壁に傷をつけていく。

 

結月「影心流、上弦ノ太刀!」

剣護「!」

 

振り下ろされた刀を剣護はもう一本の刀を抜き、二刀で挟むように受け止める。そしてそのまま刀を振り抜いて結月の刀をへし折った。

 

結月「嘘ッ……⁉︎」

剣護「月島流、富嶽蟹砕き(ガザミくだき)

結月「っ……!」

剣護「いくぜ決め技!一番勝負‼︎」

 

結月(まずい……防げない……!)

 

 

 

剣護「月島流……奥義!!!!」

 

 

 

剣護は神経を研ぎ澄ませ2本の刀を構える。

 

 

 

 

「富嶽二天無双!!!!!」

 

 

 

 

超高速で2つの刃から一気に繰り出される無数の斬撃が結月の全身に瞬く間に叩き込まれる。

 

剣護「せえりゃあああああ!!!!!」

結月「っ…あああああ‼︎」

 

最後の交差斬りで結月は吹き飛ばされ廃工場の奥へと消えていった。

 

霊夢「これで…終わり!」

アリア「全員…確保よ‼︎」

 

ちょうどアリア達も黒服達を蹴散らし確保。こうして大勢を巻き込んだ誘拐事件は武偵達と幻想郷の人々の活躍により幕を閉じた。

 

 

 

 

 

志乃「月島先輩、お願いがあります」

剣護「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後長宗率いる組織は壊滅、ボスを含め全ての者は見事逮捕されて駆けつけた武偵達に連れていかれた。しかし、結月だけは吹っ飛ばされた後の姿が確認されなかった。

 

 

 

アリア「ありがとうね。あなた達のおかげで解決できたわ」

霊夢「良いのよ。こちらもアリスを連れ戻すのが目的だったし」

魔理沙「アリスも無事だったしな。全員捕まったのか?」

キンジ「いや1人逃した。まあこっちの被害が大きいから深追いできないがな」

怜二「それは触れたらアカン」

アリス「あの子達に感謝しなきゃね…ところで剣護…だったかしら?彼はどこに?」

白雪「さっきまでそこに居たはず…」

レキ「それなら1年の人とあちらの方に…」

妖夢「ん?なんか2人とも刀を構えてるよ⁉︎」

全員「は?」

 

慌てる妖夢を見て全員レキの指した方を見ると、志乃と剣護がお互い抜刀術の構えを取り鋭い眼光で睨み合っていた。

 

桜「た、大変です!早く止めないと!」

アリア「待ちなさい」

妖夢「ど、どうしてですか⁉︎止めなかったらこのままだと2人とも…」

霊夢「この決闘に水を差すことになっても?」

桜・妖夢『え?』

霊夢「あの2人は何らかの思いがあって睨み合ってる…違うかしら?」

キンジ「鋭いなアンタ…」

霊夢「博麗の巫女の勘よ。それでも止める気?2人とも」

桜「いえ………」

妖夢「それなら…止められませんね。剣士として…この決闘を見届けます」

 

一同が緊張して見守る中、その瞬間(とき)は来た。

 

 

 

 

 

 

剣護・志乃『!!』

 

 

 

 

 

 

赤い水滴が地に落ちる瞬間、2人の剣士は同時に視界から消えた。そのすぐ後にお互いがお互いの位置に刀を振り抜いた状態で立っていた。

 

 

 

志乃「巌流……飛燕返し」

剣護「月島流……富嶽威合斬り」

 

 

 

アリア「え……ちょ、何今の……」

魔理沙「ま、全く見えなかったぞ…」

妖夢「抜刀術の打ち合い…すごい…」

 

剣護「………」

志乃「………っ!」

 

少し間があり、ピシピシと音を立て志乃のサーベルが砕け散っていった。

 

志乃「あ………」

剣護「……俺の…勝ちだな」

 

静かに…それでも剣護は力強く言うとカチンと音を立て納刀した。

 

 

 

 



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番外編4 結び合う想いと芽生える想い

皆さんお久しぶりです。
なかなかモチベが上がらず前回の投稿からかなり期間が開いてしまいました。
これからもこんな感じになるかもしれませんが気長に待ってておくんなし。


 

 

 

事件と決闘から2週間ちょっとの月日が経ち、剣護は一つの病室の前に来ていた。病室前の壁の名札には2つの名前が貼ってあった。

「間宮あかり」「火野ライカ」と。

 

剣護「………ゔー…どないしよ……」

 

病室の入口前でウロウロと歩き回る剣護。麗から2人の想いを聞かされ、それに答えることを決めたものの、いざ向かうとなかなか入る勇気が出てこない。

 

剣護「ったく…なんで誰も付いて来てくれねーんだよ」

 

ここに来る前にキンジ達に相談したのだが、キンジとアリアにはなんで自分達がとボコられ、白雪は頑張れと応援されただけだった。

 

剣護「……仕方ない、行くか…」

 

服装を整え、ドアをノックする。

 

あかり「はーい」

ライカ「どーぞー」

剣護「入るぞー…」

 

剣護が病室に入るとあかりとライカがトランプをして遊んでいた。周りには花束や色々な贈り物が置いてあった。

 

あかり「あ、剣護先輩!」

剣護「よう、元気そうだな」

ライカ「退院はまだ先ですけどね…」

剣護「んまぁ……なぁ………」

ライカ「?」

あかり「…どうかしたんですか?」

剣護「あー………いや……まぁ………」

あか・ライ「?」

剣護「………あのさ、高千穂から聞いたんだが……」

あかり「高千穂さんから?」

ライカ「何を聞いたんすか?」

剣護「………2人は………俺のことが…その……好き………なのか…?」

あか・ライ「……!」

 

剣護の言葉に2人は一瞬目を見開き、少しの間俯きそれから顔を見合わせ、一呼吸置いてから真剣な表情で剣護を見つめた。

 

ライカ「…あいつの言う通りですよ」

あかり「私達は……剣護先輩のことが好きです…………ですから!」

剣護「?」

あかり「改めて言わせていただきます」

ライカ「もう一回ってのは無しですよ?」

剣護「お、おう」

あかり「先輩は昔から優しくて、強くて………」

ライカ「あたしの為に怒ってくれたりと仲間思いで………」

あかり「でも大怪我したりして無茶することが多いけど……」

ライカ「それでも…あたし達はそんな先輩のことが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あか・ライ『……大好きですッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「ッ…………」

 

2人からの告白を受け、剣護もまた決心したように少し赤くなりながらも真剣な表情で2人を見る。

 

剣護「俺は………この間まで2人に好かれてることがわかんなかったけどさ……………でも、今ならはっきりと言える……俺も…2人が好きだ。でも……」

あか・ライ『でも?』

剣護「…………どちらかを選ぶってのはちょっと…俺には無理だ」

あか・ライ『…………』

剣護「だから……2人両方……ってのはダメか?」

ライカ「……まあ、そうなりますよねぇ…」

剣護「す、すまん……」

あかり「ま、そこが先輩の良いところなんですけどねっ」

剣護「うおっ⁉︎」

 

2人に両腕を引っ張られ剣護はベッドに倒れかかってしまう。

そんな剣護の両頬にあかりとライカは口付けをした。

 

剣護「…………へ?」

あかり「えへへ……」

ライカ「あはは……」

剣護「え、えっと……?」

あかり「不束者ですが…」

ライカ「これからもよろしくお願いしますね?」

 

あか・ライ『剣護先輩っ!』

 

剣護「……あぁ、こちらこそよろしく頼むな。あかり。ライカ」

 

今この時三人のカップルが誕生した。あかりとライカの想いがようやく実を結んだのである。

 

そしてその様子を優しく見守る人影が……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「……良かったわね。2人とも」

白雪「うん……そうだね。私もいつかキンちゃんと!」

キンジ「なんで俺なんだ。まあ、剣護もあんな顔するんだな」

怜二「僕もあんな剣ちゃん見るの初めてだよ」

アリア「それじゃ、邪魔者は退散しますか」

キンジ「だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志乃「はぁ………」

 

自宅の自分の部屋で志乃は机に突っ伏して溜息を漏らしていた。

 

志乃(敵わないなぁ……あの人には……抜刀術の打ち合いだって……恋愛の方だって…)

 

脳裏に浮かぶのは朗らかに笑っているあかり、月夜にて剣を構える剣護、白い髪の剣護、覚悟を決めて自身との決着に挑んできた剣護……

 

志乃(……ってなんで月島先輩ばかり浮かぶのよ⁉︎)

 

ガシガシと頭を掻き悶えてるとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 

詩織「志乃様、少しよろしいですか?」

志乃「え、えぇ……なにかしら?」

詩織「先程、志乃様宛にこのような荷物が届きまして……」

 

そう言ってメイドの詩織が差し出したのは紫色の布に包まれた木箱だった。

 

志乃「木箱?」

詩織「差出人は……書いてませんね」

志乃「中は?」

詩織「いえ、まだ見ておりません」

志乃「そう。なら良いわ。下がりなさい」

詩織「はい、失礼します」

 

志乃「……これの中何かしら…ましてや差出人不明って…」

 

メイドが部屋から出た後、志乃は木箱を開け中身を確認した。

中には布に包まれた物がありさらに布を解くと、中には一振りの刀が入っていた。

 

志乃「これは…刀?サーベル壊れた今としてはちょうどいいけど…」

 

箱から取り出して抜刀してみる。柄は赤色、刀身は白銀色に輝いていて、鍔は金色の正方形で、刃元にはこの刀の銘が刻まれていた。

 

 

白銀椿(しろがねつばき)】…と……

 

 

志乃「綺麗……」

 

あまりの美しい刃に志乃は見惚れてしまっていた。

それから居合いの構えを取り、胴払いの一閃を放つ。巌流の技「燕返し」である。

志乃の放った一閃は白い軌跡を残しながら閃いた。

 

志乃「……ものすごく使いやすい…気のせいかわかんないけど燕返しがいつもより速くなった気がする…というより私に合わせたような造りをしてる…?」

 

その時フワリと一つの紙飛行機が窓から部屋の中に飛んできて志乃の足元に落ちた。

 

志乃「これは……」

 

飛んできた紙飛行機を拾い書かれている文を読み、何かを察したかのように呆れたような顔をしながらもクスリと笑う。

 

志乃「全く……こんなことしても認めませんからね。まあでも…お礼くらいは言っておくべきですよね…」

 

庭のガス灯を模した電灯に視線を移しながら志乃は呟いた。

まるでさっきまで誰かがそこに立ってこちらを見ていたのがわかっているかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「まあ、そう簡単に認めたりせんわなぁ…あいつなら」

 

街灯照らす夜道を歩きながらぶつくさと呟く剣護の姿があった。しかし、その表情はどこか満足げな雰囲気を醸し出していた。

 

 

 




いかがでした?
恋愛の場面を書くのは初めてだったんでイマイチだったかもしれませんね。
それでは次回もお楽しみに!


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第四章 吸血鬼ブラド
第33話 波乱、再び


 

 

 

剣護があかりとライカから告白され付き合い始めてから1週間が経った。2人も無事に退院し元気に登校してきている。

そして今日も………

 

剣護「最近平和だねぇ……」

キンジ「お前はな。俺はアリアの相手で大変だよ……」

剣護「へー………」

キンジ「……ていうかお前、あの2人と付き合い始めてからなんか気が抜けてないか?」

剣護「あー……かもしんない」

キンジ「ちゃんと自覚してるあたりお前を尊敬するわ…」

剣護「なははは……ん?」

 

ふと剣護は足を止めた。キンジも足を止めて視線の方向を見ると校門の前に志乃が立っておりこちらに気づくと歩いてきた。

 

キンジ「あいつは…間宮達と一緒にいるやつか」

剣護「こんなとこでどうしたよ?志乃さんよ」

志乃「……あなたにお礼を言いに来ました」

剣護「お礼?なんかしたか?俺」

志乃「この刀…送ったのは先輩でしょう?」

 

そう言って志乃は白銀椿を取り出し剣護に見せる。

 

剣護「………ハテナンノコトヤラ」

キンジ「……お前嘘下手だな」

剣護「やかましいわ。まあ、確かに白銀椿(そいつ)を送ったのは俺さね。サーベル壊しちまったしな」

志乃「でもだからといってあかりちゃんとの関係は認めませんけどね」

剣護「んなもんわかってら。で?どうだった?実際に振ってみて」

志乃「とても扱いやすかったです。軽いけど軽すぎない程ちょうどいい重さで、まるで燕みたいな速さで振れますし、刀自体もとても綺麗で………ハッ!」

キンジ「あ、あはは……」

剣護「気に入ってもらえてなによりだな」

志乃「…わあああああああああ!!!?」

 

夢中になって話す志乃はふと我に帰るとキンジは苦笑いを浮かべ、剣護はニコニコしながら志乃を見ていた。すると志乃の顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていき猛烈な勢いで走り去っていってしまった。

 

キンジ「………どうすんだあれ」

剣護「知らんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「ういー、おはよー」

武藤「剣護てめえええええええ‼︎」

剣護「あぶね!」

 

教室に入ると急に武藤が剣護に襲いかかってきたが、剣護はアッサリと躱して自分の席に着く。

 

キンジ「朝から騒がしいな武藤」

剣護「ギャーギャーやかましいんだよ。発情期ですかコノヤロー」

武藤「うるせー!裏切り者!」

キンジ「どういうことだよ」

武藤「だってよぉ!キンジは神崎さんと星伽さんと一緒に住んでるだろ!剣護は1年の子2人と付き合ってるじゃねえか!」

キンジ「いや、アリアと白雪以外に剣護と怜二もいるんだが」

剣護「あ、そのことなんだけどさ。俺、隣の部屋に引っ越すから」

キンジ「あ?なんでだよ」

剣護「いやなんでって……同棲するからだけど?」

武藤「なん……だと………剣護てめええええ‼︎」

剣護「うるせえなぁ……」

武藤「この野郎次から次へと爆弾落としてきやがって!轢いてやる‼︎」

剣護「うるせええええええええ!!!!」

 

とうとう我慢の限界だったのか剣護はブチ切れると武藤の腹にボディブローを打ち込んでから顔面に膝蹴りを叩き込むと、右手刀を振り上げると全力で振り下ろした。

 

剣護「岩山両斬波(がんざんりょうざんは)!!!」

武藤「うわらば⁉︎」

 

振り下ろした手刀は見事武藤の脳天に直撃しそのまま床に叩きつけ轟沈させた。

 

アリア「そ、そこまでする?」

不知火「こりゃ完全に伸びてるね」

キンジ「こいつのキレ具合はまだまだこんなもんじゃないがな」

怜二「グレートですよ、こいつぁ…!」

 

周りがドン引きする中、剣護はスッキリしたかのような清々しい笑顔で席に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜放課後〜

 

 

強襲科生「死ねえええええ‼︎」

剣護「あらよっ」

強襲科生「うわあああああああああ……」

 

放課後に強襲科の連中が襲撃してくるもこれを屋外に投げ落とし

 

諜報科生「………シッ!」

剣護「ドラァ‼︎」

諜報科生「ひどぅぶ⁉︎」

 

諜報科の暗殺を返り討ちにしたり

 

車輌科生「くたばれええええええええ‼︎」

剣護「ふん‼︎」

車輌科生「えちょ、タイヤがぎゃああああああああ⁉︎」

 

轢こうとしてくる車輌科の車のタイヤを斬って横転させたりして襲撃を難なく退けていく。

 

 

アリア「……あいつ恋人できてからすごい調子良くない?」

怜二「愛の力ってやつなのかなぁ……」

キンジ「……人って変わるんだな…」

不知火「でも最近、火野さんや間宮さんかなり人気になってるから狙われることも多くなるかもね」

アリア「そうなの?」

不知火「この1週間であの2人も随分変わったって聞くからね」

アリア「ふぅん………」

 

アリア(…良いなぁ………)

 

不知火の話を聞いてアリアはちょっぴりあの3人が羨ましいと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、剣護は寮に戻ると隣の部屋を整理していた。

もちろん引っ越しのためである。住んでいた部屋から自分の荷物を運び出していた。

 

剣護「ふぃー………多いなぁ」

ライカ「手伝いますよ。先輩」

剣護「ん?あぁ、サンキュー理子」

ライカ「これくらいなんてことないで…ってアタシはライカですよ?」

剣護「ハハッ☆面白い冗談だね☆」

ライカ「いやあのそのミッ○ーボイスはヤバいですって…」

剣護「まあまあとりあえずそれ運んでくれや。その後で話を聞こう」

ライカ「はーい…「かかったなアホゥが‼︎」ファッ⁉︎」

剣護「お前は今何も言い返さなかった…つまり!お前が理子ということに肯定したも同然!」

ライカ「し、しまったぁー‼︎アタシとしたことが痛恨のミスを‼︎」

剣護「さあ………観念しろぃ!」

ライカ「うぅ………」

 

そう言ってライカ……いや、理子はウィッグを外すと長い金髪を振るってマスクを外した。

 

理子「いやー……なんでこうも簡単にバレるかなぁ」

剣護「お前身長小さいし、あまり言いたかないが胸のサイズがちょっと違うし」

理子「ツッキーのへんたーい」

剣護「うっせーバーロー。とっとと運べぃ」

理子「ほいほーい。りこりんにお任せなのだー!」

 

そうしてちゃっちゃと荷物を運び込んで整理してから、お互いソファーに座ると話を始めた。

 

剣護「んで?何用で?」

理子「もー久しぶりに会ったのにツッキーはつれないなー。もっとイチャイチャしよーよ」

剣護「ナイフや銃で殺されかけたやつに?」

理子「それ言うならアタシはお前に腹ぶん殴られたんだが?」

剣護「ハッハッハ!何言ってだこいつ」

理子「は?」

剣護「あ?」

剣・理『………………………………………』

 

お互いバチバチとメンチを切り合い、やがてお互いの額をグリグリと押し付け始める。

 

剣護「……なんだぁ…?おっ始めようってかぁ?」

理子「アタシはそれでも構わねえぞぉ?」

剣護「ハッハッハ。おっかねえ奴だ」

理子「くふふふ。ツッキー程じゃないよー」

剣護「ははははははははは!」

理子「ふふふふふふふふふ!」

 

剣・理『オラァ‼︎』

 

笑い合いから一転、次の瞬間お互いに拳を繰り出しお互いの頬を掠めた。剣護と理子は距離を取ると構えた。

 

剣護「ここらで決着つけてやんよぉ‼︎」

理子「上等だぁ‼︎」

 

そう言うと理子は距離を詰めると掌底を放ち、剣護はこれを左手で受け流し右拳を顔面に叩き込む。

 

理子「ぐぉ……」

剣護「オラァ!」

理子「ちぇい!」

剣護「ぬぉ……」

 

追撃の肘打ちを打ち込もうとした瞬間に理子は逆の手で掌底を打ち込んで離れる。

 

剣護「中国拳法か……そういや使ってたな」

理子「イ・ウーの知り合いに教えてもらったんだよ」

剣護「ならこっちだって拳技で対抗してやるぜ…」

理子「そうはいかない…よっ!」

剣護「ドラァ‼︎」

理子「あがっ⁉︎」

 

駆け出そうとした理子の足、正確には弁慶の泣き所を剣護は思い切り蹴り飛ばした。

 

剣護「月島流拳技、弁慶崩し‼︎」

理子「いっだああああああああああ⁉︎」

 

あまりの痛さに理子は足を抱え床を転げ回る。

 

理子「ぐおおお……な、なんちゅー技持ってるのさ…」

剣護「我ながらいい技を思いついたもんだ」

理子「こんのぉ……とりゃ!」

剣護「うおぉ⁉︎いででででで!」

 

理子は足を絡ませて剣護を転ばせると腕を折らんとばかりに十字固めを決めた。

 

理子「くふふ…この前のお返しだ!」

剣護「いやあの理子さんや」

理子「なぁーにぃー?くふふ」

剣護「俺の腕が2つの柔らかな何かに挟まれて…いてぇ⁉︎おま、何すんだ‼︎」

理子「変態!変態!変態!馬鹿! 変態‼︎」

剣護「やってんのお前だろが!痛っ!こら蹴るな!」

 

言われて恥ずかしくなったのか理子は固めながらゲシゲシと蹴ってくる。

 

理子「そーゆーのは思っても言うことじゃないよ‼︎」

剣護「ならやるな!」

理子「ふんっ‼︎」

剣護「ぬがっ!」

 

十字固めを外すと同時に両足で蹴り飛ばすと理子は距離を取ってからコメカミ目掛けてハイキックを放つが簡単に防がれる。

 

剣護「あっぶねーな、このやろー…」

理子「クフフ」

剣護「月島流拳技、百華乱撃!!!!」

理子「ちょ、がはぁ!?っ……ウラァ!!!」

剣護「は?がっ!」

 

剣護は高速の連撃を叩き込むが、理子はそれを受けつつも前蹴りで剣護を吹っ飛ばした。

 

理子「ぐ、がふっ……くふふ…」

剣護「げほっ………へへへ…」

理子「なんか…楽しいな…剣護?」

剣護「あぁ……ハイジャックん時はこんなこと思わなかったがな」

理子「それじゃあ……」

剣護「本気出すかねぇ‼︎」

 

理子はワルサーP99を構え、剣護も十六夜ともう一振り刀を構える。

 

理子「フッ!」

剣護「シャオラァ‼︎」

 

理子は横に飛びながらワルサーを撃ち、剣護はそれを全て斬り落とす。さらに理子は接近して近接拳銃戦(アル=カタ)を仕掛けようとするが同じく剣護も接近してきてお互いの拳銃と刀がぶつかり合う。

 

剣護「ぬぐぐぐ……」

理子「ぐっ……くくっ……」

剣護「らぁ!!!!」

理子「くっ!」

 

迫合いに勝ったのは剣護だった。弾かれた理子は距離を取りワルサーを構えるが、既に剣護は距離を詰めていた。

 

理子「嘘っ⁉︎」

剣護「月島流!富嶽慈愛斬り!!!」

理子「きゃっ!」

 

目にも止まらぬ速さで振るわれる二刀に思わず理子は目を瞑るが少しして目を開けるとどこにも傷は無かった。

 

理子「………あれ?」

剣護「……………」

 

そして次の瞬間、スパパパパンッと理子のワルサーがバラバラになって床に落ちた。

 

理子「……くふふふ。あーあ、ダメだこりゃ」

剣護「へっ。俺の勝ちだな」

理子「はいはい。参りましたよっと」

剣護「あー、やっとスッキリしたぜ」

アリア「剣護ー?引っ越しは終わってるのー?」

あかり「せんぱーい!お手伝いに来ましたー!」

剣護「あ、アリア達か」

理子「お、ちょうど良いや。アリア達にも話があるんだ」

アリア「入るわよー?……って理子ぉ⁉︎」

キンジ「は?理子?」

理子「やっほーアリアにキーくん」

アリア「なんであんたがここにいるのよ!」

キンジ「ていうかお前らなんでボロボロなんだよ」

剣護「さっきまで殴り合ってた」

アリア「そんなことはどうでもいいわ!理子・峰・リュパン4世!あんたを逮捕よ!」

 

そう言うとアリアはガバメントを引き抜くと理子に向けて発砲したが、理子はそれを簡単に躱してしまう。

 

理子「んん?」

 

しかし、着地した時理子は制服に違和感を感じた。

すると次の瞬間、理子の防刃のはずの武偵高の制服が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラリとバラバラになって弾けた………下着もろとも(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理子「…キャアアアアアアアアアア⁉︎」

アリア「ふぇ⁉︎」

キンジ「はっ⁉︎」

あかり「はわわわわわ……」

ライカ「……ふ、服が全部…」

アリア「見ちゃダメよキンジ‼︎」

キンジ「えちょぐわああああ⁉︎目があああああ⁉︎」

剣護「え…銃だけ斬ったつもりだったんだg」

理子「見るなああああああああ!!!!!」

剣護「ちょま、アッガイ⁉︎」

アリア「あ、あかり!何か着る物持ってきて!」

あかり「あ、は、はい!」

理子「もぉー!なんでこうなるのさぁー‼︎」

 

キンジはアリアに目を潰され、剣護は理子に顔パンされて悶絶、ライカは顔を真っ赤にしてフリーズ、アリアとあかりはあたふたと部屋を駆け回るカオスな状況の中、理子の悲痛な叫びが響くのだった。

 

 

 



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第34話 作戦会議と銀の狼

 

 

 

一騒ぎがあってから数十分後、部屋にはキンジ、アリア、理子、剣護、ライカ、あかりの6人が集まりテーブルを囲んでいた。

 

理子「はあぁ〜……帰ってきて早々酷い目にあった…」

剣護「悪かったって。まさか服まで斬れてるとは思わなんだ」

アリア「女の子の服を斬るとかあんた最低ね」

あか・ライ『先輩………』

剣護「見るな……そんな目で俺を見るなぁぁぁ‼︎」

キンジ「ま、そんなことよりだ。なんで理子がここにいるんだ」

剣護「ハァッ☆」

理子「あぁ、そのことね。今回理子は司法取引して戻ってきたんだ。ほらこれ書類」

アリア「むぅ……なら今捕まえたら不当逮捕になるわけね」

理子「まあアリアのママの裁判には出てあげるから安心してよ」

アリア「それなら良いけど……」

剣護「んで、何用で戻ってきたんだよ」

理子「理子ねー、イ・ウーを退学になっちゃってさー…しかも負けたからって大事な宝物も取られたんだ……ブラドに」

アリア「ブラド…⁉︎あの『無限罪のブラド』⁉︎イ・ウーのナンバー2じゃない!」

 

『ブラド』という名を聞いてアリアの表情が驚愕から一瞬で殺気を帯びる。

 

理子「そーだよ。だからキーくん、ツッキー、アリア、あかりん、ライライ……理子と一緒にドロボーしよ?」

剣護「ごめん。多分無理」

理子「ゑ?」

 

にやっと笑顔になって言うが、剣護はそれを即答で拒否した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「………で?なんで俺らはアキバにいるんだよ」

アリア「知らないわよ。文句なら理子に言いなさいよ」

 

キンジ達は秋葉原に来ていた。もちろん理子が待ち合わせの場所に秋葉原のある店を選んだからである。

 

志乃「それで?なんで私も連れてきたんですか?」

あかり「そうですよ。なんで志乃ちゃんまで?」

剣護「この作戦での俺の代理として呼んだのさ。俺は参加できないかんな」

志乃「むぅ………」

アリア「ところで怜二はどうしたのよ?」

剣護「父親がぎっくり腰なんだとさ。それで一旦帰ってる」

アリア「あらそう」

キンジ「おい、行くぞ。案内頼む」

剣護「はいはいよっと。つってもすぐ近くだ。えーと……あぁ、あそこだ」

 

剣護が指した方向には大きな看板のメイド喫茶があった。

店に入るとメイド達が出迎えてきた。

 

メイド達『おかえりなさいませ!ご主人様!お嬢様!』

アリア「…じ、実家と同じ挨拶だわ……」

メイド「あー!剣護さまお久しぶりですー!」

剣護「どもー」

メイド「また新作の味見してくださいね!」

剣護「はいはいよー」

アリア「え、あんた来たことあるの?」

剣護「理子に巻き込まれてな。まあここの飯美味いし」

理子「ツッキーがいくらかアイデア出したりもしてるんだよねー」

キンジ「居たのか理子」

理子「キーくん達が遅かったから待ってたんだよー。てかなんでしののんがいるの?」

剣護「それはついでに話すさ」

理子「まーとりあえず皆座って座って」

 

理子に促され各自席につき、それぞれ注文を入れる。

 

キンジ「で、一緒に泥棒をするってどういうことだよ」

理子「んー?そのままの意味だよ。アリアの裁判に出るかわりに理子の宝物を取り返すのを手伝って欲しいの」

アリア「それで取り返す物は何よ?」

理子「…お母様がくれたロザリオ……」

アリア「ふざけんじゃないわよ!!!!」

剣護「店内で騒ぐんじゃありません」

アリア「あだだだだだ⁉︎」

 

目をカッと開き立ち上がるアリアを剣護はアイアンクローで黙らせる。

 

剣護「ちったあ黙って話聞けぃ」

アリア「あががが!わ、わかったから離して!」

理子「……アリアはいいよね…アリアのママは生きてるから」

5人『………………っ』

剣護「………………………」

理子「…理子にはお父様もお母様も…もういない。理子は2人が年を召されてからできた子なの…2人とも理子が8歳になる頃に亡くなっちゃった……」

 

その場にいる全員が目を見開き、あるいは視線を逸らしていた。

 

理子「ロザリオはお母様が、理子の5歳の誕生日に下さった命の次に大切な形見……ブラドのヤツはそれを分かってて取り上げて屋敷の厳重な場所に隠しやがった………ちくしょう………」

剣護「………………」

キンジ「お、おい剣護……漏れてる漏れてる…」

剣護「あ?……おっと危ない危ない…スー…ハー……で、キンジ達は屋敷に忍び込んでロザリオを盗むってことか」

理子「グスッ………まあそうだね…ってツッキー本当に無理なの?」

剣護「あぁ、だから代わりに志乃を連れてきた」

志乃「代わるのは良いとして…先輩はその間何をなさるので?」

剣護「俺は………修行だ」

アリア「はぁ?何言ってんのよ!あんただけ逃げる気⁉︎」

剣護「白雪先生に呼び出し食らいました」

キンジ「白雪から?何かあったのか?」

剣護「常世の神子のことで……ネ?」

アリア「あー……」

キンジ「そういやそのことでキレてたっけか…」

理子「……ま、ツッキーが無理ならしののんにお願いしようかな」

キンジ「それで?どうするんだ?」

理子「ふっふっふ……キーくん達には屋敷でメイドか執事をやってもらいます!」

全員『………………は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「……どうしてこうなった」

武藤「なんだよキンジ。一緒に覗きしにきた仲じゃねえか」

キンジ「違うに決まってんだろ」

 

キンジと武藤の2人は救護科(アンビュラス)棟の第7保健室のロッカーの中に隠れていた。

何故この2人がそんな所に隠れているのかというとキンジは理子に呼び出された場所がこの保健室で女子達の声が聞こえてきたのでロッカーに隠れ、そこに何故か先客として武藤が入っていたということである。

 

キンジ「はぁ………こんなことになるとはな」

武藤「おい、キンジ」

キンジ「どうした?」

武藤「……レキがこっち見てるんだが」

キンジ「え?」

 

キンジが隙間から見るとレキがキンジと武藤の入ってるロッカーを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

救護科生「うん、傷は大体塞がりましたね。もう無茶ばかりしないでくださいよ?」

剣護「へーい。ありがとございましたっと」

 

キンジ達のいる保健室とは別の保健室から出てきた剣護はブラブラと救護科棟を歩いていた。

 

剣護「どうしようかな…あかりとライカは身体検査だし……」

 

その時、ガッシャアアアアアアン‼︎と割れる音が響いて、同時に女子達の悲鳴も聞こえた。

 

剣護(悲鳴…!第7保健室からか!)

 

すぐさま剣護は階段を降りると真っ先に保健室まで駆けつけると扉に向けて拳を構えた。

 

剣護「月島流拳技……鉄鋼強打ぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

武藤「ウッソだろ………?」

 

コルトパイソンを構える武藤だが目の前の相手に周りにいた全員が目を奪われていた。

そこにいたのは銀色の体毛の包まれた巨大な狼だったのである。

 

キンジ「お前ら、早く逃げろ!」

狼「ぐるぁ‼︎」

キンジ「フッ‼︎」

 

女子達に叫ぶと飛びかかってきた狼をキンジはハイキックで蹴り落とす。

 

キンジ「おぉ……らぁ‼︎」

狼「ぐるっ!」

 

落とした狼を掴むとキンジは扉に向けて投げ飛ばす。が、狼は軽い身のこなしで床に着地した。

 

武藤「逃がすなキンジ!」

キンジ「あぁ、今だ!剣護‼︎」

剣護「月島流拳技‼︎鉄鋼強打ぁ!!!」

 

キンジが扉に向けて叫んだ次の瞬間、轟音と共に扉と狼が吹き飛ばされた。

 

キン・武藤『危なっ⁉︎』

剣護「俺が来たのがよくわかったな。キンジ」

キンジ「まあね……」

剣護「………てめぇ何ヒスってやがる」

キンジ「君の彼女は見てないから安心してくれ」

剣護「ふん……後で血祭りに上げてやる」

キンジ「やっぱりかー……」

狼「グルルアアァ‼︎」

剣護「やるかい……?犬っころが……」

狼「グルゥ⁉︎」

 

剣護が拳を鳴らしつつ威嚇すると鳴き声を上げて狼が後ろに退く。

 

 

狼「グ…グルォン!」

小夜鳴「ぐわっ!」

 

狼は小夜鳴先生を体当たりで吹っ飛ばすと自分が入ってきた窓から飛び出していった。

 

キンジ「クソッ!逃がすか!」

武藤「キンジ!これ使え!」

 

武藤が投げ渡したバイクのキーを受け取るとキンジは外へ飛び出すと茂みの中にバイクが置いてあった。

バイクに跨りエンジンをかけるとヒラリと下着姿のレキがドラグノフを背負って2人乗りしてきた。

 

レキ「私も行きます」

キンジ「え、ちょ…戻れ!防弾制服を着ろ!」

レキ「あなたでは、あの狼を探せない」

キンジ「……あぁもう、しっかり掴まってろよ!」

 

キンジはアクセルを噴かしバイクを走らせた。

 

剣護「あ、ちょ…俺もー!って無理か……」

平賀「剣護くん!これを使うのだ!」

 

項垂れる剣護に向けて平賀は緑と黄色のボードを投げ渡した。剣護はそれを受け取ると目を輝かせた。

 

剣護「こ、これって………!」

平賀「ふっふっふ……その通り…あの(・・)ターボ付きスケートボードですのだ!」

理子「なにそれ超欲しい‼︎」

 

なんと平賀が渡してきたのは某見た目は子供、頭脳は大人の名探偵が使うスケートボードだった。

 

剣護「サンキュー!平賀さん!」

 

剣護は飛び降りるとスケボーに乗り、アクセルのスイッチを踏む。ジェット機のような高音を響かせ猛烈な勢いで発進した。

 

 

 

一方でキンジとレキは市街地を走っていた。

 

レキ「人工浮島の南端、工事現場です」

キンジ「見えたのか?」

レキ「工事現場の中に足跡が見えました」

キンジ「…よくそんな物が見えたな」

剣護「おーい!キンジ!レキ!」

 

そこへ剣護がスケボーで追いついて来るとバイクと並走する。

 

キンジ「お前何乗ってんの」

剣護「某少年探偵のスケボー」

キンジ「んなもん見たらわかるわ!なんでそれに乗ってんだよ?」

剣護「いや平賀さんに渡されて…そのまま」

キンジ「あ……そう」

 

狼の足跡を追いながら工事現場の中を進んでいるとバックミラーに狼の姿が写った。

 

キンジ「しまっ…罠か!」

剣護「賢いやっちゃな」

レキ「私は1発の銃弾」

 

するとレキがドラグノフを構え呪文のようなものを唱え始めた。

 

レキ「銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない」

 

そんなレキを無視して狼はたんたんとジャンプして上に登っていく。

 

レキ「ただ目的に向かって飛ぶだけ」

 

レキは狙いを定めると引き金を引いた。タンッと銃声と共に放たれた銃弾は狼の背中を掠めた。

 

キンジ「外した?」

剣護「いやレキに限ってそんなことないっしょ」

レキ「もちろん外してませんよ」

 

狼の後を追って屋上へと上がると先程の狼が倒れていた。

 

レキ「脊椎と胸椎の中間、その上部を銃弾で掠めて瞬間的に圧迫しました。脊髄神経が麻痺して5分くらいは動けないでしょう」

キンジ「そ、そうだったのか…」

剣護「やりますねぇ」

キンジ「やめろバカ」

 

レキ「あと数分ほどであなたは動けるようになるでしょう。逃げたければ逃げなさい。ですが次はどこに逃げても私の矢があなたを射抜きます。こちらに向かっても剣護さんが仕留めるでしょう……主を変えなさい。今から、私に」

 

その言葉に応えるように、銀狼はヨロヨロと起き上がるとレキの元へ歩いていくとレキのふくらはぎにスリスリと擦り寄った。

 

キンジ「……すげぇな」

剣護「ああ、俺も津軽の家の近くに出た熊と戦って懐かれたことあるけどこういうのはないな…」

キンジ「え、お前の実家って熊いんの……?」

剣護「まね。そんでそのワンコはどーすんだ?」

レキ「飼います」

キンジ「か……飼う?」

剣護「いんじゃね?別に」

キンジ「いやまあレキが良いなら良いけどさ……それより」

レキ「?」

キンジ「……そろそろ服着てくれないか?」

剣護「あぁそうだそうだ。追うついでにレキの制服持ってきたんだった」

レキ「ありがとうございます」

キンジ「それじゃあ……帰るか」

剣護「そだな。約2名ぶっ飛ばさないといけねえし」

キンジ「………なけるぜ」

 

そんな話をしながら3人と1匹は武偵高へと帰っていった。

 

 

 



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第35話 氷の魔女と新たな武器

 

 

 

狼騒動があったその日の夜、理子に呼ばれてガーゼだらけのキンジと剣護は部屋に来ていた。

 

剣護「……今思えば女子の部屋って初めてだな」

キンジ「あっそ……」

 

 

理子「ほほう、しののんもライライもなかなか大きいですな〜」

ライカ「そ、そうですか?」

志乃「あ、あまり見ないでください…」

アリア「……あかり、アタシより大きくない?」

あかり「へ?そうですか?」

 

隣の部屋から聞こえる声にキンジは居心地悪そうな表情を浮かべながら茶を啜る。

横に座っている剣護はというと、持ってきたPSvitaでダラダラとゲームをしていた。

 

理子「終わったよ〜…ってツッキーめっちゃ寛いでますやん」

キンジ「さっきからずっとカチカチやってる」

剣護「んあ?終わった?ちょっと待ってもうちょいでオメガモンできるから」

キンジ「いや、やめろよ⁉︎」

剣護「しょうがねえなぁ〜」

 

セーブをして電源を切ると他の皆もメイド服に着替えて出てきた。

 

理子「それじゃあまずはお手本見せるね。おかえりなさいませご主人様」

 

理子がお手本としてお辞儀をする。

 

志乃「おかえりなさいませご主人様」

 

志乃も同じようにお辞儀をする。少しぎこちない感じだがなかなか様になっている。

 

ライカ「お、おかえりなさいませご主人様…」

 

顔を真っ赤にしてお辞儀するライカ。恥ずかしそうにする姿に思わず剣護はニッコリと微笑む。

 

あかり「お、おかえりなさいませ…ご、ごご主人様…」

剣護「……可愛い」

あかり「ふぁい⁉︎」

 

同じく顔を赤くしてお辞儀するあかり。ぷるぷると少し震えながらする姿に自然と剣護の口から可愛いという言葉が出てきた。

 

アリア「お…お…ゲホーッゲホーッ!」

 

一方アリアは一文字言っただけで咳き込んでしまった。

 

アリア「む、無理よ!いきなりやれって言われても」

理子「頑張れ頑張れ!できるできる!」

剣護「絶対できる!頑張れもっとやれるって!」

理子「やれる気持ちの問題だ!頑張れ頑張れそこだ!」

剣護「そこで諦めんな!絶対に頑張れ!積極的にポジティブに頑張る頑張る!」

理子・剣護『諦めんなお前ッ!!!!!』

アリア「熱苦しいわ‼︎」

 

理子と剣護の某元テニスプレイヤーのセリフラッシュに吠えるアリア。

 

理子「ふぅ……じゃあキー君主人ね。何か注文してみよー!」

キンジ「え?……じ、じゃあ洗濯でも頼めるか?」

理子「アリアー?胸で洗濯しちゃダメだよー?」

アリア「風穴あああああ!!」

 

 

バリバリバリバリッ!

 

 

理子のセリフと共に発砲音が響き渡る。

またこれか…とキンジと剣護は溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、雨降る放課後で傘を忘れたキンジと持ってるがなんとなく付いて来た剣護が校舎内をブラブラ歩いてると音楽室からピアノの音が聞こえた。

 

キンジ「ん?この曲は……」

剣護「えーと…『火刑台上のジャンヌ・ダルク』だっけか」

金・剣『……ん?』

 

ふと嫌な予感が頭の中をよぎり、2人は音楽室へと向かった。

 

キンジ「……うっ!」

剣護「お〜〜〜う……なーるほどなー」

 

音楽室を除くと武偵高の制服を着た銀髪のサファイアのような瞳をした美少女……かつてアドシアードにて激闘を繰り広げた相手……魔剣ことジャンヌ・ダルク30世がそこにいた。

ジャンヌは2人に気づくとこちらに来るようにドアに流し目した。

 

剣護「お久ージャンヌ」

キンジ「軽いな⁉︎っと…司法取引ってことか」

ジャンヌ「あぁ、そういうことだ。ところで…」

剣護「あん?」

 

ジャンヌはジーッと剣護の顔、腕、体のあちこちを見ている。

 

剣護「な、なんだよ」

ジャンヌ「……気のせいか?傷が増えてる気が…」

剣護「ゔっ」

キンジ「あー……まあ気にすんな」

ジャンヌ「そ、そうか…なら気にしないでおく」

剣護「そ、それよりも…ここではあれだし場所変えようぜ」

 

音楽室から3人は移動してファミレス『ロキシー』に向かった。

ドリンクバーを注文して3人は人けのない店内の隅っこの席に着く。

 

ジャンヌ「さて、それでは本題に入るとしよう。ブラドについてだ」

キンジ「あぁ、頼む」

ジャンヌ「…とその前に理子についても話さねばな」

キンジ「理子のこと?」

ジャンヌ「あぁ、実は理子は幼い頃監禁されていたのだ」

剣護「………何?」

キンジ「リュパン家は怪盗とはいえ高名な一族のはずだぞ」

ジャンヌ「没落したのだ。理子の両親が亡くなった後にな。使用人たちは散り散りにり、財宝は盗まれた。最近、母親の形見の銃を取り返したようだがな」

剣護「それで……理子はどうなった?」

ジャンヌ「その頃まだ幼かった理子は、親戚を名乗る者に『養子に取る』と騙され……フランスからルーマニアに渡り、そこで囚われ、長い間監禁されたのだ」

キンジ「……マジかよ。一体誰に監禁されてたんだ」

剣護「いや、もうわかったようなもんだろ」

ジャンヌ「月島が察してる通りだ。理子を監禁した張本人の名は『無限罪のブラド』。イ・ウーのナンバー2だ」

キンジ「ブラド……」

ジャンヌ「知らない名前ではないだろう。お前達が盗みに入ろうとしている紅鳴館は、奴の別荘の1つだ」

剣護「へー…つっても俺にはあんま関係ないか」

ジャンヌ「館に行かないとしても戦うつもりなのだろう?」

剣護「もちろんです。剣士ですから」

ジャンヌ「ならばブラドについて知っておいた方が良い」

キンジ「それなら俺なんかよりアリアに教えておいた方が良いんじゃないか?」

ジャンヌ「いや、お前たちの方がいい。アリアに教えると猪突猛進にブラドを襲って返り討ちに遭い、反撃の手が私にまで及びかねないからな」

金・剣『………あぁ………』

 

『否定できねぇ…』と言いたげな様子でキンジと剣護は視線を逸らした。

 

ジャンヌ「ここからの話は、非常時にのみアリアと共有しろ。いいな?まず、先日ここに現れたというコーカサスハクギンオオカミのことだ。あの狼のことは情報科で調査中だが、私と見立てでは……ブラドの下僕と見て、まず間違いない」

キンジ「しもべ……?」

剣護「使い魔的な感じだろ」

ジャンヌ「使い魔というかペットに近い感じだな。放し飼いだが」

キンジ「つまり、俺たちの動きがブラドにバレてると?」

ジャンヌ「いや、そこまでは私も確証がない。狼は狙撃科の少女に奪われてブラドの所に帰れなかったし、奴の下僕は世界各地にいてそれぞれかなり、直感頼みの遊撃をするようだからな」

剣護「エサとかどうしてんだろうね?」

ジャンヌ「へ?い、いやそれは……さあ…?」

キンジ「話逸らすんじゃねえよ」

剣護「ちょっとコーラとオレンジをジンバーミックスしてくる」

キンジ「自由だなおい⁉︎あとジンバーって何だよ⁉︎」

 

キンジのツッコミをスルーして剣護はドリンクバーの方へとスタコラサッサと行ってしまった。

 

ジャンヌ「……自由だな。あいつは」

キンジ「…まあ大体あんな感じなんだよ」

ジャンヌ「そ、そうか。それでえっと…どこまで話した?」

キンジ「ブラドの下僕が世界各地にナンタラカンタラ」

ジャンヌ「あぁ、そうだそうだ」

キンジ「でもなんでそんなにブラドに詳しいんだ?」

ジャンヌ「我が一族とブラドは仇敵なのだ。3代前の双子のジャンヌ・ダルクが初代アルセーヌ・リュパンと組んで、3人組でブラドと戦い……引き分けている」

キンジ「ブラドの……先祖と、か?」

ジャンヌ「いや、ブラド本人とだ」

キンジ「ブラド本人だと……?そんなに長い間生きてる人間なんていないだろ」

ジャンヌ「奴は人間ではない」

キンジ「………そっち系かあ…」

 

ヤケクソ気味にメロンソーダをあおっていると剣護がコーラ×オレンジを持って戻ってきた。

 

剣護「途中から聞こえてたが…人間じゃねえならブラドは何だ?」

ジャンヌ「うむ……私も日本語で何といえばいいのかは知らないのだが……強いていえば…オニ、だ」

キンジ「鬼……?」

剣護「鬼……ブラド……」

ジャンヌ「ブラドは自力で逃亡した理子を追って、イ・ウーに現れた。理子はブラドと決闘したが敗北した。ブラドは理子を檻にもどすつもりだったのだが、そこで成長著しかった理子に免じてある約束をした」

キンジ「約束?」

ジャンヌ「『理子が初代リュパンを超える存在にまで成長し、その成長を証明できれば、もう手出しはしない』と」

剣護「てかブラドってどんな物なのよ?」

キンジ「物って言っちゃったよ」

 

訊ねるとジャンヌは少し考えるような顔をしつつ、胸ポケットから縁なしメガネを取り出した。

その時に制服の中で胸が少し揺れ、キンジは目を逸らし、剣護は手を合わせ拝もうとしてた所をキンジに脇腹を殴られ『ヴッ』と小さく呻き声を上げた。

 

ジャンヌ「どこ見てるんだお前はぁ!!」

剣護「へぶっ⁉︎なぜ俺だけ⁉︎」

 

そして案の定ジャンヌからのビンタもいただきました。

 

剣護「あ、繋がった」

金・ジャンヌ『今のビンタで⁉︎』

キンジ「ていうか何が繋がったんだよ」

剣護「ブラドの正体」

キンジ「ドライブかお前は……そういや前に似たようなアーマー着てたな」

ジャンヌ「えっと、じゃあ聞かせてもらえるか?」

剣護「ほいほい。実は理子から聞いた時からブラドって名前を聞いたことあるなー…ってちょっと引っかかってたんだよな。そんでジャンヌからオニと聞いてさらに引っかかってな…さっきのビンタで思い出した」

キンジ「どんな思い出し方だよ……」

剣護「そんでキンジ、FGOあったやん?」

キンジ「ん?あぁ…それがどうし……ん?たしか…」

剣護「いたよな?バーサーカーで同じやつ」

キンジ「あ……!ヴラド三世か⁉︎てことは…鬼…吸血鬼か⁉︎」

剣護「そう!つまりブラドは吸血鬼…ドラキュラだ!」

金・ジャンヌ『おぉ〜』

ジャンヌ「なかなかやるじゃないか月島。お前の言う通りブラドの正体はドラキュラだ」

キンジ「情報元がゲームで閃き方がビンタだけどn「黙れ」アッハイ」

剣護「んで、話戻すけどブラドに弱点とかあんの?」

ジャンヌ「あぁ」

 

ジャンヌは鞄からペンとノートを取り出すと何かを描き始めた。

 

剣護「んん?なにこれ?」

ジャンヌ「ブラドの絵だ。もし万が一ブラドが帰ってきたら即刻作戦を中断して逃げろ。絶対に勝てない。もし戦いになったとしても、逃げるための戦いをしろ。双子のジャンヌ・ダルク達はブラドを銀の銃弾で撃ち聖剣デュランダルで突いたが…ヤツは死ななかった、と記録にある。ヤツは、死なないのだ」

 

きゅっ、きゅっ、とジャンヌは迷うことなく絵を描いていく。

 

ジャンヌ「イ・ウーで聞いた情報だが……ブラドには全身に4か所の弱点がある。それを同時に破壊しなければならない。4か所のうち3か所までは判明している。ここと、ここと、ここだ…昔、バチカンから送り込まれた聖騎士に秘術をかけられ、自分の弱点に一生消えない『目』の紋様をつけられたのだ」

キンジ「………あ、あのさ、ジャンヌ…」

ジャンヌ「ん?なんだ?」

剣護「……下手すぎて全然わかんないっす」

ジャンヌ「んな⁉︎し、失礼な!ブラドはこういうヤツなのだ!お前たちは私を疑うのか⁉︎」

キンジ「いや、疑う疑わない以前に……」

剣護「んー……ジャンヌ、ちょっとペン貸してくれ。そんでもっかい弱点の場所を教えてくれ」

ジャンヌ「むぅ……」

 

ジャンヌからペンを受け取ると剣護は簡単に人型の図を描くと、ジャンヌの言う通りの場所に印を付けていく。

 

剣護「……っとこんな所か?」

ジャンヌ「うむ、この通りだ」

剣護「……最初からこうすれば良かったな…ほれ、キンジ。持っとけ」

キンジ「あ、あぁ……」

剣護「そんでジャンヌが描いたやつは俺がいただきます」

キンジ「え?なんでまた」

剣護「まあせっかく自信満々に描いてくれたし…な?」

ジャンヌ「そ、そうか……とにかく気をつけるのだぞ?」

 

剣護の言葉を聞いてジャンヌはちょっとだけ嬉しそうに頬を赤らめたことには誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキシーから女子寮までジャンヌを送っていった剣護は部屋まで来たところでジャンヌに呼び止められた。

 

ジャンヌ「ちょっと良いか?」

剣護「ん?どうした?」

ジャンヌ「お前に渡しておきたい物がある」

 

そう言ってジャンヌが出したのは銀色の大きな長方形のケースだった。

 

剣護「おぉ?結構デカいのな」

ジャンヌ「開けてみてくれ」

 

言われた通りにロックを外してケースを開けてみると、そこには白い鞘に収まった一本の脇差が入っていた。

 

剣護「こいつは……」

ジャンヌ「前に私が折ったお前の刀の刃と折られたデュランダルの刃を合わせて打ち直して貰って一本の刀に仕上げたのだ」

剣護「あ、どうりであの時、折られた刀身だけ見つからなかったわけだ」

ジャンヌ「すまない。あの時なにを思ったのか、つい持って行ってしまったのだ…」

剣護「いやまあ別に構わんけどさ。ところでこの刀は銘は無いのか?」

ジャンヌ「あぁ、名付けるなら渡す本人に付けてもらった方がいいと思ってな」

 

剣護は脇差を手に取るとそれを抜くと、少し青みがかった刀身が現れ剣護の顔を照らした。

 

剣護「……なかなかの業物だな。ふむ……よし、決めた」

ジャンヌ「ん?」

剣護「……『氷花(ひょうか)』。青っぽい刀身と氷を操るお前のあの技にちなんで命名させてもらった」

ジャンヌ「氷花……オルレアンの氷花からか…なんだか照れるな…」

剣護「合ってるだろ?」

ジャンヌ「あぁ…良い名だ」

 

剣護は新たな刀『氷花』の刀身を戻すと腰に差した。他に二本差してるので少し窮屈だが気にしない。

 

剣護「ありがとな、ジャンヌ」

ジャンヌ「良いさ。あの時の詫びだ。それと月島」

剣護「おん?」

ジャンヌ「……くれぐれも私と戦った時のような無茶はするなよ?」

剣護「あー……うん、なるべく善処するわ」

ジャンヌ「全く……」

剣護「あはは……そんじゃーな」

ジャンヌ「あぁ、また」

 

2人は別れ剣護は男子寮へと駆け出し、ジャンヌは自分の部屋へとお互いに戻っていった。

 

 

 



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第36話 それぞれの目的を果たしに

お久しぶりです。ALEX改です。
この頃全然モチベ上がらなくて、さらにレポートとかで忙しくて某団長のように止まってました・・・

なので今回のはかなり短いですのでご了承ください。


 

 

6月13日

 

キンジたちは朝早くからモノレール駅で待ち合わせをしていた。

もちろん剣護もここでワカちゃんと待ち合わせをしていた。

 

キンジ「俺たちはここでモノレールに乗るが…剣護はどうやって星伽まで行くんだ?」

剣護「んー?トライドロンだけど」

アリア「え、あれで行く気?」

キンジ「ここから星伽まで結構時間かかるんじゃないか?」

剣護「誰も走るとは言ってないだろ。蔵王重工で改造してもらったんだ。長距離をすぐに移動できるようにな」

キンジ「……なんか嫌な予感がするんだが」

理子「キーくん、アリア、ツッキー、あかりん、しののん、ライライ、ちょりーっす!」

 

理子が来たらしく声の方へ顔を向けた瞬間、キンジと剣護はその見知った顔に目を見開いた。

 

金・剣『か、カナ……⁉︎』

 

おそらく変装であろう理子の姿はカナという絶世の美女の姿をしていた。

 

理子「いやー理子、ブラドに顔が割れちゃっててさ。バレたりしてブラドが帰ってきたらヤバいでしょ?だから変装したの」

キンジ「だったら他の顔にしろ!なんでよりによってカナなんだ‼︎」

理子「カナが理子の知ってる世界一の美人だからだよ。怒った?」

剣護「怒った☆」

理子「すんませんマジ勘弁してください!」

キンジ「おいおいおいおい。待て待て待て待て」

 

剣護がM500を抜き理子の額にゴリゴリと押し当て始めたので、慌ててキンジたちが抑える。

するとそこへジェット機のような高音が響き、一同が上を見るとジェット機とオートジャイロを合わせたようなマシンが降下してきて目の前に着地した。

 

ワカ「お待たせしました!剣護くん!」

剣護「あ、ワカちゃん」

理子「た、助かった…って何これ?」

キンジ「……おいまさかこれって…」

剣護「おう、改造したトライドロンだ」

ライカ「す、すごい……」

ワカ「ふふん!これはですね、車体の後部両側にサポートマシン『ライドブースター』、車体の上部に支援機『ストライクガルーダ』を合体させたトライドロンの長距離高速飛行形態なのです!」

理・剣『フゥ〜〜〜‼︎』

 

キラキラと輝く満面の笑みを浮かべながらいきいきと話すワカちゃんとそれに対してテンションがトップギアになってる理子と剣護を見て他のメンバーは顔をひきつらせる。

 

理子「っとぉ、そろそろ行かないと。モノレールの時間もあるし」

キンジ「あ、あぁ…そうだったな」

剣護「カナのことはええのかいな」

キンジ「マシンの見た目のインパクトのせいでそれどころじゃねえよ」

アリア「カナって誰なのよ」

剣護「キンジの親族」

アリア「それだけ?」

キンジ「…まあそんなとこだ」

 

そんな話をしながらそれぞれ持ってきた荷物を持ち向かい合う。

 

剣護「それじゃあ…あかりとライカのこと、頼んだぜ」

キンジ「あぁ、わかった。任せておけ」

剣護「あかりとライカもしっかりな」

あか・ライ『はい!』

剣護「志乃も俺の代わり、任せたぞ」

志乃「もちろんです。当然、この作戦が終わったら約束を守ってもらいますよ?」

剣護「わかってんよ」

アリア「アンタもちゃんとやりなさいよね」

理子「まあ、決行日に間に合えば理子はなんでもいいよ〜」

剣護「へっ。ガッツリ修行して強くなって帰ってきてやらぁ」

キンジ「さらにバケモンになるのか」

剣護「お前は何を言ってるんだ」

 

冗談を言って笑い合うとキンジと剣護はお互いの拳をぶつけ合った。

 

剣護「じゃ、行ってくる」

キンジ「あぁ、また2週間後だ」

剣護「おう!」

 

拳を離してから剣護はキンジたちに手を振ると運転席に乗り込んでトライドロンを発進させた。

高音を響かせライドブースターのファンが高速回転して車体が上昇していき、ある程度の高さまで上昇すると車体後部のジェットブースターが火を噴き、一気に加速して飛んでいき、あっという間に見えなくなってしまった。

 

理子「うわー…はっや」

キンジ「……さて、俺たちも行くか」

アリア「そうね。ほらアンタたち!さっさと行くわよ!」

1年達『はい!』

 

そしてキンジ達も駅の方へと歩いて行く。

 

キンジ達はロザリオ奪還のために紅鳴館へ

剣護は力をつけるために星伽神社へ

 

それぞれの目的を果たしに武偵達は前に進んで行く。

例え、彼らが予想しない事が起こるとしても……

 

 

理子「To Be Continued…」

アリア「何言ってんのアンタ」

 

 

 



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第37話 修行……?

お久しぶりです。ALEX改です。学校の成績やらなんやらで忙しい上に精神的にもダウンしてしまい、なかなか執筆が進められませんでした。
今は割と安定?というか落ち着いてきてるのでゆっくりと進めていこうと思いますのでこれからもよろしくお願いします。m(_ _)m


 

 

 

東京を出発してから2時間半ほど経ち剣護と和香を乗せたトライドロンは星伽神社に到着した。

 

剣護「んー!久しぶりだなぁ星伽神社」

和香「それじゃあ私は会社に戻りますね。ブースタートライドロンは置いておきますので」

剣護「あぁ、ありがとワカちゃん。でもどうやって戻んの?」

和香「ストライクガルーダは1人くらいなら乗れますんで!」

剣護「へー……やっぱすげえな蔵王は」

和香「ふふん!蔵王の技術力は世界一ィィィ‼︎ですから!修行頑張ってくださいね!それじゃ!」

剣護「おう!」

 

帰っていく和香を見送ると剣護は星伽神社へと続く階段を上っていく。が上っていくうちにある疑問が浮かぶ。

 

剣護(あれ?いつもなら白雪の妹達がいるはずなんだけど……)

 

そう、いつも鳥居で守っているはずの白雪の妹達が全く見当たらないのである。

 

剣護「あんな真面目な奴らが役割放棄するわけないし……」

???「あれ?月島様?」

剣護「ん?この声、風雪か?」

 

声のした方へ振り返るとそこには白雪の1つ下の妹の風雪が掃除道具を持って立っていた。

 

風雪「お久しぶりです。月島様」

剣護「おう。それよりお前何してたんだ?」

風雪「月島様の家の掃除に行っておりました。月島様全く帰省しないものですから」

剣護「だって東京にも実家あるし、そっちの方が近いし」

 

そんな雑談しつつ2人は階段を上がっていくとそこには

 

 

 

 

 

 

 

白雪「天誅うううううううう!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

天誅と叫びながらアリアを模した藁人形に銃剣を突き立てる白雪がいた。その近くには3つ下の妹の華雪がその光景にドン引きしていた。

 

風雪「………またですか」

華雪「…またでやがります」

剣護「………はぁ…荷物運んどいてくれ。俺がなんとかしておく」

風雪「来ていただいて早々にすいません……」

剣護「気にしなさんな」

 

そう言って剣護はどこから出したのか能面を付けると藁人形を銃剣で滅多斬りにしている白雪に歩み寄っていく。

そして白雪の背後に立つと後ろから視界を塞いだ。

 

白雪「わっ!な、何っ⁉︎」

剣護「だ〜れだ?」

白雪「あ、その声は剣ちゃん?」

剣護「ご名答〜」

白雪「ごめんね。変なとこ見せちゃっt……キャアアアアアアア⁉︎」

 

白雪が振り返り間近に能面付けた剣護を見て、その場で後ろに転がっていく。しかも付けてる能面が血飛沫を浴びたように赤い液体が付いて不気味さを増している。

 

剣護「めっさ転がっていきますやん」

白雪「け、剣ちゃん……き、来てたんだね……」

剣護「お前が馬鹿みたいに馬鹿なことやってる時にな、このお馬鹿」

白雪「ちょ、馬鹿って3回も言った!3回も言った!」

剣護「大事なことなんで」

白雪「うぅ………こんなのあんまりだよ……」

剣護「てか呼び出したのお前だろが。はよ要件言えよ」

白雪「う、うん。じゃあとりあえず話は中でするね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「そんでなんでその場から動かないの」

 

白雪「………………………………腰抜けた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後なんとか動けるようになり、今は神社の一室にて剣護と白雪はお互い向かい合うように座っている。

 

白雪「要件っていうのは常世の神子のことなの」

剣護「うんまあ知ってた。んで?アレがどったの」

白雪「星伽にも報告した結果、完全に制御できるようにこっちで管理するように言われて……」

剣護「なるほどねぇ……いつの間にチクりやがったし」

白雪「だから完全に制御できるよう、もしくは制御し切れなくてもそれを補えるようにするために呼んだの」

剣護「言うて2週間くらいしか期限無いぞ」

白雪「剣ちゃんある程度制御できてるみたいだし、すぐできるようになるよ」

剣護「そっかなぁ……」

白雪「何気に私達から鬼道術を見て覚えてるし大丈夫だよ」

剣護「あぁ、やっぱバレてんのね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

境内に出ると風雪と華雪の他に星伽神社の巫女が10人ほど並んでいて、その他に標的の案山子や的が複数置かれていた。

 

剣護「風雪と華雪の他に星伽の巫女達……そんで何するんだ?」

白雪「まずは変化できる時間と再変化できるまでのインターバルを調べて……その後は出力とかの応用かな」

剣護「ほうほう。それでどーすればいんだ?」

白雪「常世の神子の状態で風雪達の攻撃をひたすら捌いて。剣ちゃんから攻撃するのは無しね」

剣護「了解」

 

剣護はしめ縄の髪飾りを解く。細くまとまっていた髪が広がりだんだんと白銀色に染まり黒い紋様が浮かび上がり、前髪は獣耳のように変わっていく。

その姿に星伽の巫女達はザワザワと戦慄するような様子を見せる。

 

華雪「おぉ……」

風雪「これが…常世の神子……」

白雪「剣ちゃん、どんな感じ?」

剣護「改めて変化してみると力が湧き上がる感じがすげぇな」

白雪「くれぐれもそれに飲み込まれないようにね」

剣護「あいよー」

 

剣護は木刀、巫女達は弓や薙刀等それぞれの武器を構える。

 

白雪「それでは……始めッ!」

 

風雪「ふっ!」

 

白雪の合図で一斉に放たれた矢を剣護は前に飛び出して避ける。身体能力が爆発的に上昇しているおかげか凄まじい速度で間合いを詰めていく。

 

風雪「速っ…!?」

華雪「くっ!」

剣護「しっ!」

 

突き出された薙刀を木刀で受け流し、続けて振るわれた薙刀は持ち前のスピードで避けていく。

 

華雪「明らかにレベルが違いすぎやがるです!」

剣護「こんくらいならまだ余裕かな…」

白雪「そこ!」

剣護「うおぉ!?」

 

白雪の投げた鎖分銅を咄嗟に避ける剣護。

 

剣護「お前もやんの!?」

白雪「やらないとは言ってないもの」

剣護「えぇ……」

白雪「当然、これ(・・)もね」

 

そう言って白雪が取り出したのはM60機関銃。主に黒雪状態でキンジに近づく異性に対して使用する武装である。

 

剣護「………うっそだろ」

白雪「………………フフッ」

 

戦慄する剣護に黒い笑いを浮かべ、白雪はM60のトリガーを引いた。瞬間、バリバリと音を響かせながら無数の弾丸が吐き出される。

 

剣護「うおおおおおおお!?」

 

咄嗟に木刀で防御するが流石に銃弾相手ではすぐに使い物にならなくなり、剣護は木刀を捨て超スピードで走り出す。仕舞いには銃弾だけでなく矢まで飛んできて攻め立てる。

 

剣護「マジかよ畜生めええええ!」

 

無数の銃弾と矢で追い立てられ、境内を走り回りながら剣護は悪態をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「っていうことがあってだな」

キンジ『そりゃ大変なことで』

 

時はかなりぶっ飛び、5日後の夜。お互いの状況を確認するために剣護はキンジと通話していた。

 

剣護「まさかマシンガン持ち出してくるとは思わねえじゃん」

キンジ『白雪も鬱憤が溜まってたんだなぁ……で、この5日間の成果は?』

剣護「まあ結果として常世の神子に変化していられるのはフルだと大体30分。変化した際の状態にもよると思うけどそれぐらい」

キンジ『まあまあ長いのな。インターバルの方は?』

剣護「消耗した分にもよるけどフルだと5時間くらいかな。今は出力を抑えて変化する時間を伸ばす訓練をしてるとこ」

キンジ『そうか……こっちはあんま変わりないな。小夜鳴先生に料理出したり、屋敷の掃除したりとかだな』

剣護「あかりのやつドジ踏んでないよな?」

キンジ『俺たちがフォローしてるから大丈夫さ』

剣護「ならいいけどさ」

キンジ『それじゃあ俺はそろそろ寝るから切るぞ』

剣護「おう、日程わかったらメールしてくれ」

キンジ『了解、じゃあな』

 

電話を切ると剣護は境内の修練場に出ると目の前に置いてある案山子と向き合う。

 

 

剣護「さーて…作戦まで手札は増やしておきたいとこだけどな…」

 

 

 

理子の十字架奪還作戦決行まで…………残り9日。

 

 

 



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第38話 吸血鬼の降臨

 

 

キンジとアリアが紅鳴館で働く最終日、即ちロザリオ奪還の作戦決行の日である。

結果を言えば、作戦はヒステリアモードになったキンジがロザリオを取り返したことで成功し、何事もなくキンジ達は紅鳴館を後にした。

 

 

 

そして現在、ランドマークタワー屋上

 

 

 

理子「キーくぅーん!」

キンジ「ほらよ。こいつだろ?」

理子「おぉ〜!ありがとナス!」

アリア「約束通り、ママの裁判に出てよね?」

理子「わかってるって!はいこれプレゼント。リボン解いてね」

キンジ「お、おう……」

 

差し出されたリボンを特に怪しむこともなくキンジは解くと……

 

 

 

 

チュッ

 

 

 

 

キスをした。

理子が、キンジに

 

その一瞬でキンジは再びヒステリアモードへとなってしまう。

 

アリア「な、何をするだァーーーーー!!!?」

 

周りがポカンと口を開けて驚く中、アリアが1番早く復帰して、まるで愛犬を蹴られた紳士のように叫んだ。

怒鳴るアリアを他所に理子は軽やかに側転を繰り返しキンジ達の後ろの扉の前に立つ。

 

理子「ごめんねぇーキーくぅーん。理子って悪い子だからぁー。ロザリオさえ戻ってくれば、理子的には欲しいカードはそろっちゃったんだぁ」

志乃「……と言うと?」

キンジ「約束は嘘だった、ってことだね。だけど俺は許すよ。女性の嘘は嘘にならないからね」

アリア「薄々こうなるかもって感じはしてたけどね……キンジ、闘るわよ。合わせなさい」

理子「くふふ……それでいいんだよアリア。ロザリオを取り戻してアリア達を倒せばそれでいい」

アリア「そう簡単に行くかしら?こっちには奥の手があるのよ」

理子「何それ聞いてないですけど」

アリア「言ってないもの。キンジ、アレ出して」

キンジ「ん?……あぁ、アレね」

あかり「アレって……?」

ライカ「あたしが知るわけないだろ」

 

首を傾げる理子らを他所にキンジは懐に仕舞ってあった小さな透明な袋を取り出した。袋の中には小さな黒いメモリーカードがいくつか入っている。

 

理子「んん?なにそれ?何かの情報でも入ってるのかな?」

アリア「あんたのゲームのメモリーカードよ」

理子「………What⁉︎」

アリア「これを粉々に粉砕するわ」

理子「はいいいいい⁉︎ちょ、おま、な、何で理子のゲームのメモリーカード持ってるのさ⁉︎」

キンジ「こいつの提供は剣護からお送りしております」

理子「あの野郎おおおおおおおおお!!!!!待って!それだけは!それだけは勘弁して⁉︎まだ全クリしてないのもあるのにぃ!」

アリア「恨むんならこんな展開にした自分を恨みなさい」

理子「待って!お願い!マジで勘弁して‼︎なんでもしますから‼︎」

 

全員『ん?今なんでもするって……』

 

理子「あ………………」

 

アリア「皆、聞いたわね?」

あかり「はい。しっかりと」

志乃「録音も完璧にしてあります!」

理子「の、ノーカウント!ノーカウントだよ!ノーカン!ノーカン!」

キンジ「理子、なんかどっかの班長みたいになってるよ?」

理子「ッ〜〜〜‼︎全員、ぶっ殺してやらあああああああ!!!!!」

 

やけっぱちになった理子はワサワサと髪を動かして大型のナイフを持ち、ワルサーを抜き、キンジ達を血祭りにあげようと駆け出す。

 

その時

 

 

 

バチッッッッッッ!!!

 

 

 

理子「ッ⁉︎」

 

突然、理子の全身に電撃が走り、理子は前のめりに倒れてしまう。

キンジ達は理子の背後に立つ人物に驚きの表情を浮かべる。

 

理子「…な……んで………おま……え…が……」

 

アリア「小夜鳴先生………⁉︎」

 

小夜鳴は恐らく理子を痺れさせる時に使ったであろう大型スタンガンを足元に捨てると、胸元から拳銃を取り出し理子の後頭部を狙う。

彼の背後には二頭の銀狼がキンジ達を今にも飛びかからんと睨んでいた。

 

小夜鳴「無様ですねぇ……リュパン4世」

アリア「なんであんたがリュパンの名前を知ってるのよ!まさか……あんたがブラドだったってわけ⁉︎」

小夜鳴「彼は間もなく、ここに来ます。それまでに一つ、君たちに講義をしましょう」

 

警戒するキンジ達を気に留めず小夜鳴は一方的に話し始める。

 

小夜鳴「遺伝子とは気まぐれなものです。父と母、それぞれの長所が遺伝すれば有能な子、それぞれの短所が遺伝すれば無能な子になります。そして……この子はリュパン家の血を引きながら」

理子「言うな‼︎オルメスたちには関係ない‼︎」

小夜鳴「優秀な能力が全く遺伝していない。遺伝学的に、この子は無能な存在だったんですよ。それは自分が一番よく知っているでしょう、4世?あなたは初代リュパンのように一人で何かを盗むことができない。先代のように精鋭を率いても……この通りです。無能とは悲しいですね。4世さん?」

 

散々言われた理子は額を地面に押し付け、きつく目を閉じてボロボロと涙をこぼす。

 

アリア「いい加減にしなさいよあんた……!理子をいじめて何の意味があるっていうの‼︎」

小夜鳴「絶望が必要なんですよ。彼を呼ぶにはね。おかげでいい感じになりましたよ……遠山君。よく見ておいてください。私は人に見られている方が、掛かりがいいものでしてね」

 

小夜鳴の言葉に眉を寄せるキンジは言葉の意味をすぐに理解した。それと同時に気づいてしまう。小夜鳴の雰囲気が切り替わっていくことに。遠山家の人間にはわかる、あの独特のスイッチが切り替わるような気配に。

 

キンジ(ヒステリアモード……だと………⁉︎)

 

絶句するキンジを他所に小夜鳴の雰囲気がヒステリアモードのそれからさらに変わっていく。

 

 

 

小夜鳴「さあ かれ が きたぞ」

 

 

 

ビリビリとスーツは破けて、肌は赤褐色に変色し、肩や腕の筋肉が不気味な音を立てて盛り上がっていき、露出した脚は毛むくじゃらである。

その姿は360°どこから見ても"バケモノ"としか言いようのない姿だった。

 

ブラド「はじめまして、だな」

全員『っ⁉︎』

 

本物のバケモノを目の前にしてキンジたちは絶句し、嫌な汗を流す。

ブラドは理子の頭を大きな指で掴むと、片手で軽々と吊り上げた。

 

ブラド「久しぶりだな4世。そういや、お前は知らなかったんだよな。オレが人間の姿になれることをよぉ」

理子「騙したな……!オ、オルメスを倒せば、あたしを解放するって……約束した、くせに…!」

ブラド「お前は犬とした約束を守るのか?ゲゥゥウアバババハハハハハ!」

 

キバを剥いて笑うブラドに、キンジにアリア、あかりたちまでもが怒りの表情を浮かべる。

 

ブラド「どこに逃げてもお前の居場所はあの檻の中だけなんだよ!ほれ、これが人生最後の、お外の夜景だ。よーく目に焼き付け……」

キンジ「ダッシャオルアアアアア!!!!」

ブラド「ごげば⁉︎」

 

ブラドの言葉は最後まで続かず、キンジの飛び後ろ蹴りがブラドの喉にめり込んだ。

思わずブラドは理子を離してしまい、落ちてくる理子をキンジは優しく受け止めた。

 

理子「……えっ…」

キンジ「……あーあ、思わずやっちまったよ。まあ我慢の限界だったし、仕方ない仕方ない」

理子「な、なんで………」

キンジ「例え騙してたとしても、理子は大事な仲間だからね。それにアイツだったら多分同じようにして助けるだろうし」

理子「………………」

キンジ「聞かせてくれないかい?本当の君の言葉を」

 

理子「あ、アリア………キンジ……あかりん………しののん……ライライ……………」

 

キツく目を閉じて、喉の奥から搾り出すように、ホームズの末裔とそのパートナーと1年達の名を呼び。

そして一呼吸置いて最後の1人の名を呼ぶ。1枚の青い木の葉が目の前に舞い落ちてきたのと同時に。

 

 

 

 

 

理子「…………剣護ォ………………たすけて…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……言うのがおせーよ。この意地っ張り』

 

 

 

 

 

 

 

理子「……ふぇ…?」

 

聞き慣れた声が聞こえた瞬間、ボンッ!と屋上一帯を覆いつくさんばかりの煙幕が上がった。

 

ブラド「うおっ⁉︎な、なんだ⁉︎」

アリア「ゲホッ!ゲホッ!ちょっとなによ!」

キンジ「…やっと来たか。タイミングが良いのか悪いのか…」

理子「………あっ……」

 

煙が晴れてくると、理子の目の前には自身がよく知る背中があった。

 

 

 

剣護「よっ。待たせたなお前ら」

理子「剣護ォ………!」

アリア「もう少し早く来なさいよ!」

志乃「そうですよ!」

あか・ライ『まあまあまあまあ』

剣護「なんでそこまで責められないといけないんですかねぇ…」

キンジ「それよりも目の前のことに集中しなきゃいけないんじゃないか?」

剣護「あん?」

 

視線をブラドに戻すとなにやら苛立っている様子でこちらを睨んでいた。

 

ブラド「てめぇは月島か……この俺を無視するとは良い度胸だなおい‼︎」

剣護「おい、なんだあの毛むくじゃらで筋肉モリモリマッチョマンの変態は」

アリア「あれがブラドよ。小夜鳴先生に擬態してたらしいわ」

剣護「はえ〜……あ、そう興味ねえわ。小夜鳴先生の授業以外」

ブラド「てめぇ……余程この俺を怒らせるのが好きらしいな‼︎」

剣護「うん‼︎大好きSA!!!!!」

ブラド「」

 

剣護「まあ何にせよ………………俺の仲間を泣かす奴は吸血鬼だろうが何だろうが許す気はサラサラねえから覚悟しろ」

 

 

 



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第39話 VS吸血鬼ブラド

 

 

剣護「覚悟しろよブラド……ついうっかり殺されねえようにな」

アリア「いや殺すんじゃないわよ⁉︎ママの裁判が掛かってるのよ⁉︎」

剣護「知らん」

アリア「一言で片すな‼︎キンジ!狼は任せるわ!」

剣護「あかりはUZIで牽制してくれ!志乃とライカは自分のタイミングで殴れ!」

 

そう言ってアリアと剣護はブラドに向かって突っ込む。狼が牙を剥き出し襲いかかるがキンジがベレッタで、かつてレキがやったように銃弾で掠めて脊椎を圧迫させて動きを止める。

 

ブラド「グババババ!てめぇらに何ができる‼︎」

アリア「風穴ぁ‼︎」

 

笑い飛ばすブラドにアリアは走りながらガバメントを掃射し銃弾を浴びせていく。あかりも銃弾をばら撒いて援護する。

十六夜を構え剣護はブラドの懐に潜り込む。

 

剣護「小手調べだ……富嶽虎逢断ち!!!!!」

ブラド「ぐご………⁉︎」

 

斬り上げと共にブラドの身体に3本の虎の爪痕のような斬撃が刻まれる。

しかし傷口から赤い煙が上がり傷跡は再生されてしまう。

 

剣護「む……やっぱそう簡単にいかねえか」

キンジ「マジで人間じゃないのな」

ブラド「ウガアアアアア!」

 

ブラドがアンテナをむしり取るのと同時に剣護もしめ縄を解き常世の御子に変化し、十六夜とジャンヌから受け取った氷花を抜き、構える。

 

ブラド「ククク……久しぶりだな人間を串刺しにするのは」

剣護「やれるもんなら………やってみな!」

 

ダンッ!と地面を強く蹴り、弾丸の如く飛び出し、横薙ぎに振るわれたアンテナをスライディングで避けるとその勢いのまま小太刀で脇腹を一閃する。

 

剣護「ちっ」

 

しかし、赤い煙を上げ傷はすぐに治ってしまうがそれを気に留めず剣護は次々と斬りつけていく。

 

剣護「月島流、富嶽双連斬‼︎」

 

背中、足、腕などを連続で斬りつけるが、どれもあまり効果はなくすぐに回復されてしまう。

 

ブラド「グババババ!そんなもんが効くかぁ‼︎」

志乃「燕返し!」

ライカ「おりゃあ‼︎」

 

志乃が居合いで腹を斬りつけ、ライカがトンファーでアッパーを放つ。

 

ブラド「効かねえってんだよ‼︎」

 

ブラドがアンテナを振り下ろし、3人はそれぞれ武器で受け止める。

 

志乃「ぐっ……くくっ…!」

ライカ「うぐぐぐ……!」

剣護「ぬぐおおおおお……!常世の御子で強化してもこれかよ⁉︎」

あかり「鷺旋!!!」

ブラド「ぐおっ!」

 

あかりがパルスを纏った掌底を放ち、静電気によってビクンッと痙攣するブラド。

 

剣護「ぬおらあ‼︎」

 

力が抜けた瞬間に剣護は二刀と馬鹿力でアンテナを弾き飛ばす。

 

キンジ「これでも……」

アリア「喰らいなさい‼︎」

剣護「うおらぁ‼︎」

 

すぐさまキンジとアリアがベレッタとガバメントの掃射を浴びせ、剣護も体勢を直すと両膝を斬る。

 

ブラド「ぬぅ………………厄介だな、まずはお前らにご退場願おうか。遠山キンジ、月島剣護。ワラキアの魔笛に酔うがいい!」

 

そう言ってブラドは空気を吸い込み始める。すると胸が風船のようにズンズンと膨らんでいく。そして

 

 

 

 

 

 

ブラド「ビャアアアアアアアウヴァイイイイイイィィィィィッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

ブラドの放った咆哮はランドマークタワー全体を振動させる。キンジ達は咄嗟に耳を塞ぐ。

 

剣・金『ッ‼︎』

 

嵐のような一瞬が過ぎた後、キンジと剣護の2人は気づいた。

キンジはヒステリアモードが解除され、剣護も常世の御子の変化が解けてしまっていた。

 

剣護「ちょっ、常世の御子まで解けるとかマジかよ⁉︎」

 

キンジは再び性的興奮をすればヒステリアモードになれるが、剣護の場合常世の御子は一度の変化で体力をかなり消耗するので再び変化するのに時間を置かねばならないのである。

 

ブラド「まずはお前だぁ‼︎」

剣護「ぬおぉ⁉︎」

 

振るわれるアンテナを辛うじて避けると剣護はブラドから距離を取った。しかしブラドは避けられたアンテナを勢いのまま振り下ろす。

剣護は体勢を立て直せないまま避けられず叩き潰される。

 

ブラド「おらよぉ‼︎」

剣護「がっ………」

キンジ「剣護ッ‼︎」

ライカ「先輩ッ‼︎」

 

ドロリと頭から血を流す剣護にキンジとライカは声を上げる。

 

ブラド「他人の心配してる場合か遠山ぁ‼︎」

キンジ「ッ‼︎」

 

迫り来るアンテナを転がるように避けるキンジだが、肩を掠めただけで吹っ飛ばされビルの屋上から落とされた。

咄嗟に理子がキンジの後を追うようにビルから飛び降りる。

 

剣護「がっ……あ…ぅ…ぬぅ‼︎」

ブラド「ん?まだ動けんのか……」

 

剣護は刀を杖になんとか立ち上がり、ブラドはとどめを刺さんとばかりにアンテナを振り上げる。

 

志乃「させません‼︎」

ブラド「うお……」

 

志乃が飛燕返しで腕の腱を斬りつけ、思わずブラドはアンテナを落とし、その隙にあかりとライカが剣護を支え離れる。

 

ブラド「このガキ……」

理子「こっちだブラド!」

 

理子がキンジを挟んでパラグライダーで上がってきた。すかさずキンジは叫ぶ。

 

キンジ「アリア!撃て!」

 

アリアはガバメント二丁を構え、ブラドの両肩を狙い引き金を引く。

 

ピカッ!

 

アリア「ッ!」

 

しかし突然の稲光が光り、雷が苦手なアリアは片方の銃弾を外してしまう。

キンジは慌てずヒステリアモードによって的確にアリアの銃弾を自身の銃弾で弾く。その名も

 

キンジ「銃弾撃ち(ビリヤード)

 

弾かれた銃弾はブラドの模様に命中する。

 

理子「ブラドォ!!!」

ブラド「四世ェ!!!」

 

上から理子が母の形見であるデリンジャーで最後の模様を撃ち抜く。

 

ブラド「ぐあ………」

理子「魔臓を破壊した今、お前は弱点も痛覚も戻ってるだろ」

剣護「おおおおおおおおおお!!!!!」

 

ブラドを踏んづけ軽やかに降りる理子と入れ替わりに剣護がブラドの背中を駆け上がり飛び上がる。

 

剣護「さっきのお返しだ喰らいやがれ!!!!」

 

空中から十六夜を上段に構える。

 

剣護「月島流ゥゥゥ……富嶽鉄槌割り!!!!!」

 

渾身の鉄槌割りがブラドの頭に叩き込まれ、あまりの威力に屋上の地面にヒビが走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「屋上半壊しかけてるんだけど」

剣護「ふぅ…ふぅ……いってぇ…」

理子「……本当に勝てたんだ……」

キンジ「あぁ、俺たちの勝ちだ」

剣護「早く帰ろうぜ、目眩してきた……」

志乃「せ、先輩まだ血が出てますよ⁉︎」

 

その時、ズンッと何か重い音が聞こえて剣護たちの背後に影が射した。

 

全員『っ‼︎』

 

全員が後ろを振り返ると倒したはずのブラドが魔臓を破壊されたまま立ち上がっていた。

 

ブラド「グババババ……こいつぁ良いぜぇ…力が出てくるぜ…!」

アリア「どうなってるのよ……⁉︎」

剣護「富嶽鉄槌割りが決まったはずだぞ……⁉︎」

キンジ(この感じはヒステリアモードと同じ……というよりはいつものヒステリアモードより強力な感じがする……一体何が起こってるんだ…⁉︎)

 

 

 



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第40話 怒る巌流 ブラド戦の終結

 

ブラド「ハハハハ!残念だったなテメェら!」

剣護「おい、どーするよキンさん。俺もう今日は変化できねえぞ」

キンジ「かなりマズイ。いや、ガチでヤバイ。弾も体力も気力もカツカツだ……」

 

予想外の出来事にキンジと剣護は冷や汗を流す。

 

ブラド「オラァ‼︎」

全員『がっ⁉︎』

 

アンテナが横薙ぎに振るわれ、キンジ達は咄嗟に避けられず受けてしまい吹っ飛ばされる。

 

ブラド「グババ!脆いなぁ人間は!」

キンジ「チッ…!舐めるな‼︎」

剣護「野郎ぉ‼︎」

 

キンジ「ボレーショット!!!!」

剣護「月島流、富嶽燕舞斬り!!!!」

 

キンジの飛び回し蹴りと剣護の空中からの横一文字がブラドを襲う。

 

ブラド「ふん‼︎」

剣護「あがっ……」

 

ブラドは剣護の一撃をアンテナで防ぎ、そのまま振り抜き壁にたたきつけ、もう片方の腕でキンジを捉える。

 

キンジ「剣護!ぐっ……」

ブラド「ウラァ‼︎」

キンジ「ぐあ……」

 

キンジを捉えた腕を振りかぶり地面に叩きつける。キンジは血の塊を吐き出す。

 

理子「ブラド‼︎」

アリア「このぉ‼︎」

 

理子が髪を操ってナイフを振るい、アリアも小太刀でブラドに斬りかかる。

 

ブラド「ふん!」

理子「ごぼっ………」

アリア「りっ………」

ブラド「ちゃんと受け止めてやれよ!」

 

ブラドは理子にボディブローを叩き込んで片方の手で掴むとアリア目掛けて理子を投げつける。

 

アリア「くぁっ!」

理子「カハッ…………」

ブラド「そらよ!」

アリ・理子『あがっ!』

 

アリアが理子を受け止めた瞬間にブラドは2人まとめて蹴り飛ばした。

2人は地面にワンバウンドしてエレベーターに激突し意識を失う。

 

あかり「アリア先輩!」

ライカ「ウオオオオオオオオ!」

志乃「はっ!」

 

あかり、ライカ、志乃はブラドに向かって駆ける。

 

あかり「鷹捲!」

ライカ「月島流拳技!蓮華掌!!!」

志乃「燕返し‼︎」

 

ブラド「トロいんだよ‼︎」

 

ブラドは飛んできたあかりを避け足を掴むとライカにぶつけ、裏拳で志乃を吹っ飛ばした。

 

あかり「うあっ!」

ライカ「っ!」

志乃「きゃっ!」

剣護「っづあ‼︎」

 

あかりはライカが受け止め、志乃はなんとか立て直した剣護が受け止める。

 

志乃「うっ………」

剣護「っ……立て直さないと……あ、ヤヴァス」

ブラド「グババ……死にな」

 

ブラドは剣護と志乃の方へ近づくと八つ裂きにせんとばかりに自身の鋭い爪を振り下ろす。

 

志乃「ひっ………!」

 

 

 

 

迫る爪に思わず目を瞑る志乃。しかし痛みは無く、ザシュッという切り裂くような音が聞こえただけだった。

 

 

 

志乃「………え…………?」

剣護「っ…………」

 

 

 

恐る恐る目を開けると剣護が自身の背を盾に志乃を庇い、爪の一撃を受け鮮血を散らし力無く志乃にもたれかかっていた。

 

志乃「あ………ぁ………」

あかり「剣護先輩!志乃ちゃん!」

ライカ「マズい‼︎」

 

目の前の出来事に志乃は顔を真っ青にして、彼の背中に触れてみると生暖かい濡れた感触と共に真っ赤な血がその手にベッタリと付いていた。

 

志乃「…ぅ……………ぁ……」

ブラド「グバババ……どうだ?仲間が傷つく様を見るのは…グハハハハ!」

志乃「………………」

 

追い打ちをかけるようにブラドが近づきながら、現実を突きつけるように語りかける。

 

あかり「志乃ちゃんから離れて!」

ライカ「こっち向きやがれ!化け物!」

 

あかりはUZIでブラドの背中を撃ち、ライカはトンファーでブラドの体を殴りまくる。

 

 

ブラド「チッ、ハエどもが……お前らみてえな下等生物(・・・・)が何人束になろうが俺には敵うわけねえんだよ‼︎」

 

志乃「………ッ‼︎」

 

 

ブチン……と志乃の中で何かが切れ、先程までの混乱が打ち消され、同時に灼けるような怒りが頭の中を塗りつぶしていく。

 

 

 

【下等生物】………こいつは今、誰のことをそう言った?

 

自分?あかり?ライカ?それとも自分を守って倒れた剣護(せんぱい)

 

違う………………こいつは……………

 

私の【憧れの先輩達】と【大切な親友達】に対して言ったんだ!!!!!!

 

 

 

ドクンッと大きな鼓動が聞こえる。ドクンッドクンッと続けざまに鳴り、その鼓動はどんどん速くなっていく。目の裏側が熱くなるのを感じるとドロリと何かが目から流れる。

 

志乃「…………………い………」

ブラド「あん?」

志乃「………………許さない……‼︎」

 

紅く染まった目から血を流し、志乃は白銀椿を握りしめ立ち上がる。

 

ブラド「グゥババババ‼︎許さないだあ?お前に何ができ(ザギンッ)……あぁ?」

 

突然の金属音にブラドが何が起こったと言わんばかりにアンテナを見ると先端の部分がスッパリと斬り落とされていた。

 

ブラド「………なんだと?」

 

驚きを隠せないブラドに対して、志乃は居合いの構えを取る。

そこから放つのは誰もが知る志乃の十八番【燕返し】。なのだが志乃はその構えから力強く踏み込みブラドとの間合いを詰めた。

 

志乃「っ!」

ブラド「何っ⁉︎うぐぁ!」

 

しかし、間合いを詰めると共に放たれたのは皆が知る燕返しではなく突進からの高速2連撃。その名も

 

 

巌流 燕返し・火閃

 

 

自身の燕返しとかつてこれまで見てきた剣護の技を元に志乃なりに組み合わせたオリジナルの燕返しである。

2連続の斬撃はブラドの腹を斬りつけるが、決定打にまでは至らなかった。

 

志乃(浅い……筋肉を固めて防がれた?)

 

ブラド「テメェ……やってくれるじゃねえか‼︎」

志乃「っ!」

 

ブラドは狂ったように爪やアンテナを振り回す。それに対して志乃はなんともないかのように捌き、避けていく。いくらかは捌き切れず受けてしまい血を散らすがまるでそれを他人事のようにブラドと渡り合う。

その様子にキンジ達は驚きの表情を浮かべ、目の前の光景を見ていた。

 

あかり「志乃ちゃん………」

アリア「い、一体どうなってるの……?」

理子「1人でブラドと渡り合うなんて……」

キンジ「身体能力だけじゃない…反応速度も上がっている…」

ライカ「す、すげぇ………」

アリア「でもそれは一時的なものに過ぎないわ。それに…あの子自分が傷つくことなんてお構いなしに攻めている」

あかり「え?」

 

アリアの言う通り、いつの間にか志乃の顔や体には切り傷が多数付いており、頭も少し切ったのか血を流していた。それでも関係ないかのように志乃は攻め続ける。

 

ブラド「グゥゥゥ…!どこからそんな力を出してきやがる……」

志乃「………………」

ブラド「なんとか言いやがれぇぇぇぇ‼︎」

志乃(燕返し・火閃)

 

がむしゃらに暴れまわるブラドに志乃は燕返しの連発で迎え撃つ。

 

ブラド「グラァ‼︎」

志乃「………………コフッ」

 

志乃(燕返し・陽炎)

 

ブラドの拳を避けるとその脇腹にカウンターの燕返しを叩き込む。斬り抜けるその姿は炎を纏った燕の如く。

 

ブラド「ウグゥア⁉︎」

 

思わずブラドは膝をつき、息を荒くしながら志乃を睨む。志乃は刀を腰溜めに構え足に力を込める。

 

志乃(…これで決める……‼︎)

 

全力の踏み込みから一気にブラド目掛けて突っ込み、その首を刈り取らんとばかりに担いだ刀を振るおうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

あかり「志乃ちゃんッ!!!!」

 

志乃(あかり……ちゃん…?)

 

志乃「…っ……ゴホッ!」

 

 

 

 

 

 

あかりが呼びかけた瞬間、我に帰った志乃は咳き込むとその場に崩れ落ちた。

 

志乃「ゲホッゴホッ…グッ……ゲホッゲホッ!」

 

 

人間には二つの限界がある。【体力の限界】を迎えると人は苦しくて動けなくなる。志乃のように目から血を流すほどの強い怒りで動けたとしても、その次に来るのは【命の限界】。当然ながらこれを超えれば死んでしまう。志乃は今それを超えかけたのである。

 

 

志乃「ゴホッゴホッ…グッ…ゲホッ……ゴブッ!」

 

強く咳き込む志乃。口を押さえる手からは血が漏れていた。

 

ブラド「惜しかったなぁ……おい」

 

その前にはブラドがアンテナを振りかぶって志乃を叩き潰そうとしている。

 

志乃「ゲホッ!ウグッ……ゴボッ」

ブラド「串刺しにしてやりたいとこだが串がこんな状態じゃなあ…」

あかり「志乃ちゃん!志乃ちゃん!」

キンジ「マズいッ……‼︎」

 

キンジは志乃の方へと突っ走り、ライカもキンジに続く。

 

ブラド「まあいいだろう………死ね」

ライカ「月島流拳技‼︎翔竜脚!!!!」

キンジ「ビートアッパー!!!!!」

 

振り下ろされるアンテナにキンジは渾身のアッパーカット、ライカはサマーソルトキックをぶち当て、弾き飛ばした。

 

ブラド「チッ……まだくたばって…「月島流拳技‼︎」ぬっ⁉︎」

剣護「鉄鋼強打!!!!!!」

 

さらに復活し、無理やり常世の神子に再びなった剣護のパンチがブラドを吹っ飛ばす。

 

ブラド「ぐお………テメェらぁ……」

キンジ「剣護!ここで決めるぞ‼︎」

剣護「当たり前だ!志乃がここまでやってくれたんだ。絶対にぶっ倒す‼︎」

ブラド「グオオオオオアアアァァァァ‼︎」

剣護「キンジ!」

キンジ「サンキュ!」

 

剣護はキンジに自身の銃、ファイブセブンとM500を渡す。受け取るとキンジはすぐさまM500でアンテナを持っている腕を撃ち抜く。

 

ブラド「ぐお………」

剣護「月島流拳技!百華乱撃!!!」

ブラド「喰らうかぁ‼︎」

剣護「ぐっ⁉︎」

 

接近して放たれた乱打をブラドは両手で受け止める。

 

剣護「ぐうううううううううう……!!!!!!」

ブラド「グバババ……‼︎」

キンジ「剣護!」

剣護「ぬぎぎぎ……!」

 

なんとか押し返そうとするが、本来時間を置かないといけない状態で無理矢理変化しているせいで、パワーが落ちていて押されていく。

 

ブラド「そうら落ちろぉ!」

剣護「なっ!?」

 

ブラドは剣護を持ち上げるとタワーの屋上から投げ落とした。自由が効かない空中ではどうすることもできず剣護は落ちていった。

 

ライカ「剣護先輩!」

アリア「理子!」

理子「ご、ごめん…ちょっと厳しい…」

 

アリアは理子に救助を頼むがさっきのダメージが抜けておらず動けずにいる。

 

ブラド「グババババ!そらどしたぁ!」

キンジ「ぐっ……!」

 

剣護のことを心配する間もなくブラドはアンテナ等の残骸を持って襲い掛かる。キンジは残弾のこともありなかなか攻撃に転じることができず回避するので精一杯である。

 

ブラド「グババ……んん?」

 

するとブラドの背後からキィィィィンとジェットエンジンのような高音が響く。思わず振り返った瞬間、氷のつぶてがショットガンのようにブラドの顔面に叩き込まれた。

 

ブラド「ぐおおぉ!?」

 

キンジ達が氷が飛んできた方を見ると、ブースタートライドロンの車体上部に剣護と援軍に駆けつけたジャンヌが乗っていた。

 

あかり「剣護先輩!」

キンジ「ジャンヌ!?なんでお前が…」

 

2人は屋上に降りるとキンジ達の方へ駆け寄る。

 

ジャンヌ「居てもたっても居られなくてな。こうして駆けつけた。月島が落ちてきた時は驚いたが…」

剣護「いやー緊急用のクッション積んでて良かったよ」

理子「マジで肝が冷えたんだけど…」

ジャンヌ「弾薬の予備も持ってきてある。使え」

キンジ「助かるよ」

 

ブラド「この羽虫がぁ!」

 

ブラドは瓦礫を掴むとブースタートライドロン目掛けて投げつけ左側のブースターにぶつけて撃墜させる。

 

剣護「げぇ!?やりやがったなあの野郎!」

アリア「退場早かったわね」

キンジ「間宮、火野。佐々木は任せたぞ」

あかり「はい!」

ライカ「わかりました」

 

あかりとライカは志乃を抱えて後方に下がる。

 

理子「で、どう行く?」

剣護「俺はラスト1発が限界だ。だから皆はブラドの気を引いて時間稼いでくれ」

キンジ「わかった」

ジャンヌ「ならトオヤマ達が気を引いているところを私が氷で動きを封じてそこを叩こう」

アリア「オーケー。それでいきましょ」

ブラド「作戦会議は終わったか?」

キンジ「あぁ、いくぞ!」

 

キンジの合図で剣護以外の4人は散開する。その間に剣護は腰を落として霊力を右足に集中させる。

 

ブラド「4世ぇ!」

理子「こっち来んな!」

ブラド「ぐおっ!?」

 

ブラドはまず理子を標的に襲いかかる。理子は弾を補充したワルサーで顔を撃って牽制し、それに続いてキンジとアリアも弾丸を浴びせる。

 

ブラド「そんな豆鉄砲が効くか!」

ジャンヌ「ならこれはどうだ!」

 

ジャンヌが修復したデュランダルを振るい、ブラドはアンテナで受け止める。

 

ジャンヌ「くっ!」

ブラド「グババババ!そんなもんかぁ?」

ジャンヌ「っ……だがこれでいい!」

ブラド「はぁ?ぅぐあ!?」

 

瞬間、理子とアリアが腕の筋とアキレス腱を撃ち抜き、ブラドはアンテナを手から落とし両膝をついた。

 

ブラド「な、何だと……」

キンジ「オッラァ!!!」

ブラド「はがっ!?」

 

ブラドは体勢を立て直そうとするがキンジが顎を蹴り抜いて脳を揺らし、揺れる視界にブラドはバランスを取れずにいる。

 

ブラド「ぐ、ぐおぉ……」

アリア「ジャンヌ!」

ジャンヌ「凍りつけ!オルレアンの氷花!」

 

ジャンヌがデュランダルを振るい青い光をブラド目掛けて放ちその身体を氷で包み込む。

 

理子「ここまでお膳立てしてやったんだ。キッチリ決めろよ。剣護!」

 

剣護「あぁ……任せろ!」

 

剣護は右足をバチバチと激しくスパークさせながら力強くヘリポートの床を砕く勢いで踏み込んで飛び上がった。

 

剣護「これで全部……フィニッシュだ!」

 

ある程度の高さまで飛ぶと飛び蹴りの体勢でブラド目掛けて突っ込む。

 

 

ブラド「つ、月島アアアアア!!!」

 

 

その姿はまるで流星の如し。

 

 

 

剣護「流星烈光弾!!!!!!」

 

 

 

青白い流星の如く放たれた飛び蹴りはブラドの胸の中央を打ち抜く。

 

ブラド「グ…ガアアアアア!!!?」

剣護「おおおおおおおおおおお!!!!」

 

それだけに留まらずヘリポートの床を破壊し突き抜け、ブラドをランドマークタワーの屋上から地上まで叩き落とした。

 

 

 

 

 



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第41話 本音

 

 

 

剣護「………知らない天井d……いや知ってる部屋だわこれ」

 

剣護が目を覚ますとそこは1年のときからお世話になっている武偵病院の病室だった。

 

剣護「あー……確かブラドにライダーキックぶち込んでー……そっからがわかんねえな………よっ……ア"ッガァッ⁉︎」

キンジ「うるせえなぁ………」

 

起き上がろうとして激痛に悶えてると隣のベッドからモゾモゾとキンジが顔を出してきた。

 

キンジ「お前1番重傷なんだから大人しくしてろよ」

剣護「へーい……なあ、あの後どうなったんだ?」

キンジ「え?あぁ、お前は落ちてたんだっけ。えっとだな」

 

キンジは剣護がブラドを倒した後に起こったことを全て話した。理子が逃げたこと、みんなが剣護の生存を確認しに行った時に近くのベンチに寝かされていたことなどなど。

 

キンジ「というわけだ」

剣護「ふーん……理子は逃げたのか……俺をベンチに運んだのは?」

キンジ「わからん。俺たちが降りてきた時にちょうど救急車も来たからな」

剣護「そうかい………他のみんなは?」

キンジ「間宮と火野とジャンヌ以外は入院してる。あの2人は思ったより軽傷だったみたいでな」

剣護「そりゃ良かった。志乃は?」

キンジ「あちこちに裂傷、目からの出血で失血しかけてたらしい」

剣護「まあ……そうだよなぁ…」

キンジ「………なあ、人って怒りだけであんなになるもんなのか?」

剣護「さあな。まあでも一時的にリミッター外したりはできるかも」

キンジ「うーん……俺もヒステリアモード以外に身体能力強化できるやつ欲しいとこだな」

剣護「ドゥンドゥン化け物になっていくぞ」

キンジ「うっせえ。お前の方がバケモンじゃねえか」

剣護「あぁん⁉︎ま、いいや。ところでお前ら退院すんのいつ?」

キンジ「あと3日くらい」

剣護「俺は?」

キンジ「あと10日くらい」

剣護「なんでや!」

キンジ「頭を鉄の塊でぶん殴られて、背中を切り裂かれて、さらにタワーの屋上から敵もろとも落下して、自爆する感じで大技ぶちかましている状態で、あと10日くらいで退院できる方がおかしいんですがそれは」

剣護「(´・ω・`)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ達が先に退院して3日ほど経った日の夕暮れ時。いつものように病室で惰眠を貪っているとコンコンとノックをする音で目が覚める。

 

剣護「ンガッ?……どーぞ」

志乃「……………失礼します…」

 

入ってきたのは先に退院した志乃だった。ところどころに絆創膏を貼ってたり、目がまだ赤いままである。

 

志乃「これ……どうぞ」

剣護「おっ、リーフパイか。サンキュー」

志乃「いえ………」

剣護「………どうしたよ」

 

暗い雰囲気を出している志乃の様子に剣護は思わず尋ねた。

 

志乃「……先輩」

剣護「おん?」

志乃「……手を…握ってもらってもいいですか?」

剣護「お、おう」

 

乗せられた手を少し困惑しつつ優しく握り返す。志乃の方は深呼吸を繰り返して落ち着かせていた。

 

志乃「実は……前のランドマークタワーのことで………あの時、敵に向かって行った時はなんともなかったのに…先輩が私を庇って傷ついた時……血と背筋が凍りつきました……っ……」

 

志乃はブラド戦でのことをポツポツと自身の本音を剣護に話す。いつの間にか彼女の目には涙が今にも溢れんとばかりに溜まっている。

 

志乃「先輩に……触れてる時…っ……どんどん冷たくなって……それでっ………怖くなって……」

剣護「………志乃」

志乃「グスッ……なんですk」

剣護「ほら」

志乃「わっ⁉︎」

 

ボロボロと泣き始める志乃を剣護はベッドに座る形で起き出て抱き寄せる。涙を零しながらも志乃は顔を真っ赤に焦りまくる。

 

志乃「あ、あのあのあの……⁉︎」

剣護「ごめんな」

志乃「っ!」

剣護「まさか散々俺を邪険に見てたお前が心配してくれるなんてな…悪かったよ、心配かけて」

志乃「っ…………もぅ…あんなことしないで……」

剣護「あぁ、わかったよ。志乃」

志乃「っ……わあああああああああああん‼︎」

 

いろいろと込み上げてきたのか志乃は泣いた。大声で、剣護の腕の中で。そんな志乃を剣護は優しく頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

志乃「…すいません…お恥ずかしい姿をお見せしてしまいました…」

剣護「スッキリしたか?」

志乃「グスッ……はい」

 

泣き止んでから落ち着いたのか志乃は顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俯いている。

 

志乃「そ、それでは私はこれでし、失礼します!」

剣護「あ、おい待てぃ」

 

足早に病室を出ようとする志乃を呼び止める。

 

志乃「な、なんですか?」

剣護「約束の件だよ。忘れたか?」

志乃「え?……あっ」

剣護「『俺の代わりに紅鳴館に行く条件としてなんでも言うことを聞く』だろ」

志乃「あー………そういえばそんな約束したような…」

剣護「んで、どうする?」

志乃「………じゃあ……退院できたら…2人で出かけませんか?」

剣護「あぁ、いいよ」

志乃「それでは…失礼します!」

 

目を腫らしたまま剣護に笑いかけ、志乃は病室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、気分転換に剣護は屋上に出て夜風に吹かれていると、背後からの気配に振り返ると逃げたはずの怪盗がそこにいた。

 

理子「やっほ。ツッキー」

剣護「なーんか今日は来客が多いなぁ。何の用だ」

理子「ただのお見舞いだよ。はいこれ」

剣護「サンキュ」

 

理子は買ってきたコーヒーを投げ渡すと近くのベンチに腰を掛ける。剣護もコーヒーを受け取ると理子の隣に腰掛けると缶を開けコーヒーを煽る。苦味と控えめな甘さが口の中に染み込んでいく。

 

剣護「あー…いてて…まだ背中痛えや」

理子「………ねぇ、ツッキー」

剣護「ん?」

理子「ありがとね……今回のこと」

剣護「気にすんな。当たり前のことをしたまでだ」

理子「変わんないなー。1年生のときから」

剣護「俺は俺だ。今も昔もな」

理子「くふふっ……ねぇ、なんでツッキーは……剣護は敵であるはずの理子を助けてくれたの?」

剣護「まあ1つはお前と俺が似た者同士ってこともあるな」

理子「似た者同士……お互いに親がいないってことだね……」

剣護「まあな。同じ境遇のお前が放っておけなかったのともう1つ」

理子「もう1つ?」

剣護「……あの時と今のお前は敵じゃないだろ?」

理子「え?」

剣護「前みたいに一緒にゲームしたり、コスプレしたり、ふざけまくったりする……ただのバカだろ?」

理子「オイコラ誰がバカだ」

 

裏モードがチラリと見えながらジト目で見る理子に剣護はイタズラっぽく笑いかける。

 

剣護「ハッハッハ。別に4世として生きなくても良いだろ?いつも通り……リュパンとしてじゃなく、峰理子として自由に生きていけば良いじゃねえか」

理子「………………うん。そうだね……」

剣護「ん?どした?」

理子「なんでもなーい。くふふっ!それじゃあまた学校でね!ツッキー!」

 

そう言って理子は夜空を背景に屋上から飛び降りていった。飛び降りる際に彼女の顔がほのかに赤みを帯びていたのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理子「………あーもー…なんでこんなにドキドキするかなぁ?顔もすごく熱いし……あ、ヤバい裸見られたことまで思い出しちゃった………うがー!もー!なんでこんなに顔が熱いのさー‼︎」

 

部屋に戻った理子は顔の隅から隅まで真っ赤にしてベッドの上でゴロゴロと悶絶していた。

この時部屋からめちゃくちゃ甘い雰囲気が溢れていたと隣の部屋の住人は語った。

 

 

 



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番外編
番外編 本当の気持ち


今回は下手なうえにいつも以上に長くなってしまいましたが温かい目でご覧ください。


 

 

ようやく剣護が退院し、学校に復帰してから数日後。剣護はその間溜まってた課題を消化したり任務をこなして単位を獲得していた。そして迎えた休日、志乃は白いブラウスに薄いイエローのロングスカートという服装で駅前の広場で待ち人を待っていた。

 

志乃「………約束の時間より早く来てしまった……」

 

集合時間は11時頃のはずだったのだが1時間も早く待ち合わせ場所に来てしまったようである。

 

志乃(べ、別に楽しみだったとかじゃないですよ?ただ遅れるのは悪いから早めに出ただけで……別にデートじゃないですし!デートじゃないし!)

 

志乃「はぁ………参りましたね……」

剣護「あれ?志乃来てたのか?」

志乃「へ?」

 

そこへ後ろからジーンズに白のTシャツの上に黒いパーカーを羽織った剣護が声をかけてきた。

 

志乃「い、いえさっき来たばかりですので……」

剣護「そうかい。いや俺も1時間半くらい早く来ちまってな」

志乃「私より30分も早く⁉︎」

剣護「そうそう。それでちょっとそこら辺で時間潰してたのよ。まあ早く来ちまったんなら……行くか?」

志乃「……そうですね。そうしましょうか」

 

志乃は立ち上がると剣護の隣に立って歩きだす。

 

剣護「さて、まずはどこに行く?」

志乃「そうですね……まず服を見に行きたいです」

剣護「ん、わかった」

 

そう言って2人はまずショッピングモールにあるブティックに行き、服を見ることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブティックにて志乃は服を見ているが……何故か男物の服を見ている。

 

剣護「………志乃さんや」

志乃「なんですか?」

剣護「なんで男物の服を見てるのかな?」

志乃「え?先輩に似合いそうな服を見てるんですよ?」

剣護「まさかそれ買う気じゃ……」

志乃「そうですよ?」

剣護「待って⁉︎流石に女の子に服買ってもらうとか男としてのプライドが……」

志乃「そう言っても……先輩お金に余裕あるんですか?」

剣護「軽く引くくらいにはあるぞ?」

志乃「え?」

 

剣護は自分の通帳を志乃に見せると0がいくつもあり、剣護の言った通りというか軽く引くどころかドン引きされた。

 

志乃「な、なんでそんなにあるんです……?」

剣護「蔵王製の武偵炸裂弾とかグレネード使ってたらこうなってた」

志乃「えぇ………」

 

結局服は志乃に『なんでも言うこと聞くって言いましたよね?』とほぼ強制的に払われてしまった。その代わり剣護も志乃に似合いそうな服を選び買った。ちなみに志乃が選んだのは左胸に三日月のマークが入った紺色のパーカーで、剣護は白いロングスカートのワンピースを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「さて、お昼どうする?」

志乃「あ、じゃあ私行きたいところが」

 

剣護「ここか?」

志乃「はい。ここのパスタが美味しいらしいですよ」

 

2人が来たのは洋風の少し小さな喫茶店。真昼間なだけあって割と人が並んでいるかと思われたがそこまで人が多くなくてすぐに店に入ることができた。

2人は席に着くと剣護はボロネーゼ、志乃はシーフードクリームパスタをそれぞれ頼んだ。

 

剣護「よくこんな場所知ってたな」

志乃「探偵科の同級生が教えてくれました。その……とても暖かい目で……」

剣護「あー……デートだと思われたか」

志乃(別に私はデートでも全然良いですけど………)

剣護「ん?なんか言ったか?」

志乃「い、いえ!何も」

店員「お待たせしましたー」

 

そこへ料理が運ばれてきて、一旦話を切り上げ2人は料理にありつく。

 

剣護「おっこれ美味っ」

志乃「本当ですね……流石はオススメされるだけのことはあります」

剣護「だな」

 

 

 

 

 

 

腹も膨れて満足した2人が次に来たのは雑貨屋的な店。志乃が裁縫道具を補充するとのことで一旦別行動として別れる。その間に剣護は来る途中で見つけた店まで急いで戻る。目当ての店に入ると品物を見ていく。

 

剣護「さーて……何が良いかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で志乃は様々な色の糸を選びながら自分の気持ちに向き合っていた。

 

志乃(……私は…あの人のことをどう思ってるんだろう…少し前まではあかりちゃんを奪った目の敵にしか見てなかったのに……今はあの人を見てると胸が締め付けられるくらい苦しくなる…)

 

志乃「…はあ………どうしたら良いんだろ…」

 

答えが出ないまま会計を済ませ店を出ると、ちょうど剣護も戻ってきていた。

 

剣護「お、済んだか」

志乃「はい。そちらも何か買ったんですか?」

剣護「まあな」

 

剣護はポケットから小さな紙袋を取り出すと志乃に渡した。

 

志乃「これは?」

剣護「開けてみな」

 

言われるままに袋を開けてみると中にはハート形のネックレスが入っていた。

 

志乃「ネックレス?」

剣護「まあ…俺からのお礼というかなんというか……プレゼント的なもんだ」

志乃「曖昧ですね……でも、ありがとうございます。付けてみても良いですか?」

剣護「おう。良いぞ」

 

さっそく貰ったネックレスを身につける志乃。後ろの部分が上手く付けられず剣護に付けてもらう。

 

志乃「…どうですか?」

剣護「うん、結構似合ってるじゃないか」

志乃「…ありがとうございます」

 

頰が熱を帯び、心臓の鼓動が大きく速くなる。顔を赤くする志乃に剣護は?を頭に浮かべるだけだった。

 

志乃「あ、あの……剣護先輩」

剣護「ん?どうした?(あれ?こいつの俺の呼び方こんなだっけ?)」

志乃「えっと……も、もう一つお願いというか…聞いてもいいですか?」

剣護「おう」

志乃「その…今日……泊まっていっても…良いですか……?」

 

不意にそんなセリフを無意識に言ってしまっていた。

 

志乃(…い、今なんて言ったの私⁉︎と、泊まっていってもって…⁉︎せ、先輩の部屋に泊まるの⁉︎)

 

剣護「良いけど?」

志乃「えっ……(良いの⁉︎)」

剣護「ちょうど今日あかりも泊まってく予定だったしな」

志乃「あ、そうなんですか……」

剣護「うーん…泊まってくなら晩飯も食ってくだろ?」

志乃「え、あ、は、はい…」

剣護「ふむ…なら材料買っていかないとな……悪い、ちょっと買い出し付き合ってくれるか?」

志乃「わ、わかりました」

 

志乃(な、なんであんなこと言っちゃったんだろ……あぁもう…恥ずかしすぎる……!)

 

ショッピングモールからスーパーに移動すると剣護は海老やタコや白身魚などの魚介類、舞茸や茄子に里芋などの野菜を次々とカゴに入れていく。

 

志乃「結構買うんですね」

剣護「大人数だからな。たくさん買っておかないとすぐ無くなっちまう」

志乃「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買い物終えた2人は男子寮の剣護の部屋に戻ると留守番してたライカにあかり、キンジが出迎える。

 

剣護「ただいまー」

志乃「お邪魔します」

キンジ「おかえり。佐々木も一緒だったのか」

ライカ「おかえりなさい」

あかり「あ、志乃ちゃんも来たんだ」

 

部屋に入るとライカとあかりとキンジの他にアリアや理子、白雪にレキに武藤や不知火に平賀に怜二まで来ていた。剣護は買い物袋を持って台所へと入っていき白雪もそれに続いていった。志乃は居間で他のみんなの輪の中へと入る。

 

志乃「あの…なんでアリア先輩や皆さんがここに?」

アリア「実はあたしもわかんないのよ。キンジならわかるでしょ」

キンジ「まあな。この集まりは月2回の恒例行事みたいなもんなんだ」

理子「そーそー。みんなでツッキーの部屋に集まってご飯食べて、ゲームしたりするんだよ」

武藤「俺とキンジと峰さんと星伽さんと不知火と平賀さんは1年の時からこの集まりやってたからな」

不知火「神崎さん達は今年からだし、知らないのも無理はないね」

平賀「たまーに娯楽研究部のメンバーも来てたのだ」

アリア「ふーん……でもなんでこんなことする必要があるのよ?」

怜二「確かに。学校でも普通に会えるのにね」

白雪「それにはちゃんとした理由があるんだよ」

 

アリアがその質問をした時、ちょうど白雪が台所から戻ってきた。

 

あかり「理由ってなんですか?」

白雪「うん。剣ちゃんって親がいないでしょ?」

怜二「あ、そっかぁ」

志乃「え、そうなんですか?」

キンジ「あぁ。ここだけの話、あいつ実は割と寂しがりやなんだよ」

アリ・1年ズ『えぇ⁉︎』

キンジ「まあその反応は当然だわな」

ライカ「すんごい意外なんですが……」

武藤「そりゃ普段のあいつの姿からしたらなぁ…」

アリア「あの剣護がねぇ……」

キンジ「いくら腕っ節が強くても精神面ではそうはいかないんだよ」

あかり「なるほど……」

 

 

剣護「おーい!男連中ちょっと手伝えや」

 

 

キンジ「っと呼ばれたか。まあゆっくりしててくれ。行くぞ武藤、不知火、怜二」

 

剣護に呼ばれ男子達は台所に入っていき、居間には女子だけになってしまった。

 

白雪「さてと、そろそろ聞かせてもらおうかな。志乃さん?」

志乃「え?な、何をですか?」

白雪「剣ちゃんのこと…気になってるんでしょ?」

志乃「ふぁい⁉︎」

 

白雪の爆弾発言に志乃は一瞬で顔を真っ赤に染め上げ、頭からは蒸気が上がっている。

 

理子「ほほぅ?これは面白いことになりそうd」

アリア「確保ぉ‼︎」

あか・ライ『はい!』

理子「ちょっ…HA☆NA☆SE!」

アリア「大人しくしてなさい!」

理子「んー!んんーー⁉︎」

アリア「縛ってもダメね。しまっちゃいましょう」

理子「んう⁉︎んんんー⁉︎」

アリア「文も突っ込んどきましょ」

平賀「なぜぇ⁉︎」

 

目を光らせる理子とおまけで平賀をアリア、ライカ、あかりは速攻で縛り上げると隣の部屋に収納すると居間に戻ってくる。

 

志乃「わ、私が先輩のことを気になってるという証拠がど、どこにあるんですか⁉︎」

ライカ「その反応が全てを物語ってるぞ」

あかり「へー志乃ちゃんもかー、ふーん」

アリア「こらハイライトを消さないの」

白雪「これでも貴女の戦姉なんだから。何でも言ってくれて良いんだよ?」

志乃「うぅぅぅ………」

アリア「別にからかったりしないわよ。そこの2人はどうかは知らないけど」

ライカ「うーん……こっちもこっちで反応が難しいんだよな」

あかり「そうだよね。剣護先輩がどうするかにもよるし……でも」

志乃「でも?」

あかり「私は志乃ちゃんに自分の気持ちを大切にして欲しいの」

志乃「あかりさん……」

ライカ「別に良いんじゃないか?自分に素直になってもさ」

志乃「ライカさん……」

ライカ「まあライバルは増えちまうけどな」

あかり「そこは仕方ないよ。同じ人を好きになっちゃったんだもん」

アリア「2人はこう言ってるようだけど、どうなの?」

志乃「わ、私は………………(です)……」

白雪「志乃さん?聞こえないよ?」

 

耳まで真っ赤にして俯き、絞り出すように志乃は声に出す。自分の本音を、自分の本当の気持ちを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志乃「…………好き…です…………………剣護先輩のこと…………1人の男性として……………………あの人のことが………好きです!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「………………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

志乃「っ⁉︎」

 

最後の「好きです」と言い切ったのとほぼ同じタイミングで剣護が居間に入ってきた。その後ろにはキンジ達がフリーズしている。

 

女子達『あ…………』

剣護「え、えー……っとその……」

志乃「あ……あ……あぁぁぁ………」

 

時が止まったかのように静寂する居間、真っ赤な顔をさらに赤くする志乃、フリーズする剣護、『あ、やべぇ』といった顔をする女子達と男4人。そして

 

志乃「うわあああああああああああああああ!!!!!!」

あか・ライ『逃がすかぁ‼︎』

志乃「へぶっ⁉︎」

 

恥ずかしさのあまり部屋を出て行こうと玄関にダッシュしようとする志乃をあかりとライカが抑える。

 

志乃「あ、あかりちゃん⁉︎ライカさん⁉︎は、離してください‼︎」

あかり「ダメだよ!志乃ちゃん!ちゃんと言わなきゃ!」

ライカ「もう言っちまったもんは仕方ねえ!このまま勢いに乗っちまえ!」

剣護「………ナニコレ?」

男3人『まあ頑張れ』

剣護「は?」

武藤「ふざけるな!ふざけるな!バカヤロォォォォ!」

不知火「はーい、僕らは引っ込もうねー」

武藤「離せ不知火!ちくしょう!剣護お前轢いてやるからな!」

剣護「あ"?」

武藤「ヒェッ……」

 

男4人が再び台所に引っ込んだかと思えば、急に誰かに襟を掴んで引き摺られる。

 

剣護「お?お?お?なんだ?」

アリア「こっからはあんた達2人で話しなさい」

剣護「え?話すって何を……ってか離せよ!どんな力してんだこのゴ「風穴」アッサーセン」

白雪「ほら志乃さんも」

志乃「うぅぅぅ………」

 

アリアと白雪は剣護と志乃をベランダに追い出すとカーテンを閉め居間とベランダを遮断した。

 

剣護「あーららら……なんなんだ全く…なぁ、志乃……志乃?」

志乃「………………」

剣護「おーい、志乃さんやーい」

志乃「……っ…剣護先輩‼︎」

剣護「うおぅ⁉︎は、はい…?」

 

呼び掛けてる最中に急に名前を呼ばれ、思わず剣護はビクッと跳ね上がる。志乃は顔が赤いまま真っ直ぐと剣護を見る。

 

志乃「好きです!!!!!!」

剣護「は、はい!………………………ヘアッ⁉︎」

志乃「最初はあかりちゃんをたぶらかす男としか見てませんでした………でも……この前のランドマークタワーの戦いの時…守ってくれた時から私の中で何かが変わって……自分の気持ちがわからなくなったんです…」

剣護「お前………」

志乃「今日もずっと悩んでました…でも私決めました。あかりさんとライカさんと一緒にあなたを支えたい。仲間のために戦うあなたを……」

剣護「志乃………」

志乃「私は剣護先輩(あなた)のことが好きです。だから…先輩のお側に居させてください」

剣護「………………………」

 

真っ直ぐと自分を見つめ想いを告げた志乃を、剣護は何も言わずしめ縄を外す。バサッと長い髪が広がりその大部分は白く染まり一部は黒い紋様となり前髪は獣耳のように逆立つ。常世の御子へと変化した剣護は志乃の方を真っ直ぐと見る。

 

剣護「こんな姿を持つ俺で…良いの?」

志乃「はい。結構可愛いじゃないですかその姿。前髪とか猫の耳みたいで」

剣護「俺結構寂しがりやだぞ?」

志乃「その時は私たちに甘えたらいいんですよ」

剣護「………ハハハ…こりゃ敵わねえわ。てか三股になるじゃんこれ」

志乃「最終的に勝てば良かろうなのです‼︎」

剣護「何に勝つんだよ。まいっか……よろしくな志乃」

志乃「はい!剣護先輩!」

剣護「それじゃ飯にしようぜ。みんな待ちくたびれてるしな」

 

 

 

 

 

 

 

元の姿に戻り、中に入ろうとする剣護の腕に志乃はギュッと組みつく。2人が居間に戻るとキンジは苦笑い、武藤は血の涙を流し、その他はニヤニヤと2人を見ている。

 

平賀「デキてるのだ!「黙れ小僧!」女なのだ!」

武藤「剣護てめぇ羨ましいなこの野郎!轢いてやる!」

剣護「その頃にはあんたの車は八つ裂きになってるだろうけどな!」

武藤「すんませんマジ勘弁してください」

キンジ「何にせよ無事納まって良かった?よ」

剣護「おうコラなんで疑問符付いたんだオラ」

志乃「あ、あかりさん…ライカさん…」

あかり「そんな怖がるような顔しなくても私たちはずっと友達だから。ね?」

ライカ「そうそう。まあ同居してる私が今んとこ1番有利だしな」

あか・志乃『ズルい⁉︎』

ライカ「へっへっへ〜」

志乃「ま、まだです!まだ今夜があります!」

あかり「そ、そうだよ!」

理子「ていうか早く食べようよ〜……理子お腹すいた〜」

剣護「おっそうだな」

キンジ「今日は天ぷらだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、みんなで夕食を食べてからスマブラやマリカーなどのゲームで対戦したりモンハンで協力プレイしたりした。

ちなみにどのゲームでも武藤が真っ先に全員からボコられたり、フレンドリーファイアされたりしていた。

 

武藤「なんでみんな俺を真っ先に潰すんだよ⁉︎」

全員『武藤(君)(先輩)だから』

武藤「ふざけるなああああああああ‼︎」

 

そんなやりとりもあったりして、時刻は夜の9時を過ぎたあたりでお開きとなり、剣護、あかり、ライカ、志乃以外はそれぞれの部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、寝室にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「Zzzz…………んん……」

 

あかり(……ね、ねぇ、本当にやるの?)

志乃(1人で行けないならば4人一緒にということです)

ライカ(めっちゃ恥ずかしいんだけど……)

あかり(それはみんな一緒だよ…)

ライカ(そ、そりゃそうだけど………志乃はどうなんだよ…)

志乃(……すいません。ぶっちゃけ私も初めてなんで…ものすんごい恥ずかしいです………でも、ここで引くわけにはいきません!)

 

剣護「………あのさぁ…何してんの?」

3人『え………………』

剣護「………………」

3人『………………』

志乃「………と……」

剣護「?」

志乃「突撃いいいいいい‼︎」

あか・ライ『ラジャ‼︎』

 

 

 

剣護「は?いや何やっt…ってうぉい⁉︎なんつー格好して…ちょ、待て!おい待て!待つんだ!あ、待ってくださいよ!えちょおま、3人同時なの⁉︎ちょっせまっ…聞けオラァ!あ、ヤベ。マウント取られ…お助けください!ヤメルルォ‼︎ナニバカナコトヤッテンダ‼︎こういうのって順序とかムードとか…ってコラ脱がそうとすな!お前らどっから覚えてくるんだよ⁉︎ちょっ…待っ……俺の側に近寄るなあああああああああああああ⁉︎……あっ……………………アーッ!」

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、キンジがなかなか起きてこない相方を起こしに部屋に入るとそこにはゲッソリした顔で左腕を上げてうつ伏せになってる剣護がいたそうな。

 

 

 



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第五章 兄と砂礫の魔女
第42話 再会と緊急任務


 

 

学園島とレインボーブリッジを挟んだ向かいにある人工浮島。かつて武偵殺しのハイジャック事件で飛行機を不時着させたその島にキンジは来ていた。キンジが見つめる先にあるのは飛行機を止めた時に折れた風力発電のプロペラ、その上に腰掛ける人物がいた。

 

 

キンジ「……久しぶりだな。カナ」

カナ「えぇ、久しぶりね。キンジ」

 

 

カナ。彼女はキンジの姉……ではなく、キンジの兄、遠山金一がヒステリアモードになった姿なのである。性的興奮でヒステリアモードになるキンジに対し金一は女装することで意図的にヒステリアモードになれるのだ。

 

キンジ「生きてたなら連絡の1つくらい寄越せよ…」

カナ「ごめんなさいキンジ……」

キンジ「俺も剣護も心配してたんだぞ……」

カナ「そう…あの子にも心配かけちゃったわね…」

キンジ「なんか『もし生きてたらぶち転がしてやる』って言ってた」

カナ?「え、マジで?」

キンジ「素が出てる!素が出てるよ兄さん⁉︎」

カナ「おっといけない」

 

一瞬、金一としての人格が出ていたがカナは咳払いして話を戻す。

 

カナ「ところでキンジはアリアのこと、好きなの?」

キンジ「………は?」

カナ「どうなの?」

キンジ「……い、いいいやそ、そそそんなことは…」

 

唐突な質問にキンジはフリーズしてから顔を少し赤くしテンパりながら目をそらす。

 

キンジ「そ、そんなこと今は関係ないだろ!」

カナ「そう。なら………私と一緒にアリアを殺しましょう?」

キンジ「……あ"?」

 

 

アリアを殺す?

 

 

それを聞いた時、ほぼ無意識に声を上げていた。

急に居なくなって散々心配かけといてやっと再会できたかと思えばアリアを殺すだと?

 

キンジ「…ふざけるのも大概にしろよカナ」

カナ「ふざけてなんかないわ。アリアは巨凶の因由。巨悪を討つのは、義に生きる遠山家の天命…違うかしら?」

キンジ「知らん」

カナ「あなた剣護に似てきてない?」

 

即答で返してきたキンジにカナは「えぇ…」とでも言いたげに困惑した表情を浮かべながらキンジの前に降りてくる。

 

キンジ「失踪しといて久しぶり会ってみればいきなり殺しをしようだ?あんたはナニイテンダ」

カナ「やっぱり染まってるでしょあなた」

キンジ「俺がどうなっていようが今は関係ねえだろ。カナ、あんたは今何をやらかそうとしてるんだ?」

カナ「それは言えないの……あなたを危険に晒したくない。だから何も言わずに手を貸してほしいの」

キンジ「断る。俺はアリアのパートナーだ。あんたの話には……乗れねえなッ‼︎」

 

答えると共に渾身の右ストレートが放たれる。しかしカナはそれを簡単に避ける。

 

カナ「そう…残念ね……」

 

次の瞬間、パァン!と発砲音が響き、キンジの腹部に衝撃と痛みが走る。

 

キンジ「ぐがっ……」

 

倒れそうになるがなんとか痛みを堪えてその場に踏み止まる。キンジを襲ったのは銃撃……それも銃が見えない銃撃。

 

キンジ(い…不可視の銃弾(インヴィジビレ)……)

 

カナ「ごめんなさいねキンジ……あなたには眠ってもらうわ」

キンジ「な、なに……ごっ⁉︎」

 

言い切る前にカナの膝蹴りがキンジの腹に打ち込まれる。嘔吐感に襲われつつキンジは膝をつく。

カナは追撃を仕掛けようと動こうとしたその時、大きめの金平糖のような玉が転がってきてカナとキンジの間で爆発し煙が2人の視界を遮った。

 

カナ「なっ…」

キンジ「っ!」

 

しばらくして煙が晴れるとそこにキンジはいなかった。

 

カナ「…仕方ないわね。また会いましょう…キンジ」

 

そう言うとカナは暗闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「………ハッ!」

 

キンジが目を覚ますとそこは男子寮の自分の部屋だった。目の前には理子からのメールを見たパソコンがあり、開くと『Replay』の文字が現れた。

 

キンジ「夢……だったのか?」

 

クンクンと自分の服の匂いを嗅ぐとほんの少しだけ煙臭かった。あの時自分を逃がすために焚かれた煙幕の匂い。ベッドの方を見ると下の方で怜二がモゾモゾと動いていた。

 

キンジ「………夢じゃないな。そうだアリアは…!」

 

部屋を出るとシャコシャコと磨く音が聞こえ、音のする方へ行くと洗面台の前でアリアが歯を磨いていた。ぶくぶく、ぺー、と口をゆすぐとキンジに気づいたのか牛乳を取り出しながら話しかける。

 

アリア「あら、やっと起きたの?」

キンジ「あ、あぁ」

アリア「あんた、昨日の夜あたしが帰ってきたらパソコンの前で寝てたわよ?」

キンジ「そうか………良かった……」

アリア「どうかした?」

 

コテンと首を傾げながら顔を覗き込むアリア。ふわっとクチナシの香りがしてキンジは慌てて顔をそらす。

 

キンジ「い、いや、なんでもない…」

アリア「そっ。なら良いけどね」

剣護「おーい、朝飯できたぞー」

 

バコーンとドアを蹴り開けて剣護が入ってくる。制服の上にエプロンを付けた状態で。

 

キンジ「主夫かお前。あと蹴り開けるな」

剣護「大丈夫だって安心しろよ〜。ちゃんと加減してっから」

キンジ「せめてインターホン鳴らせや!」

アリア「ねぇ、なんかネジ一個転がってるんだけど」

キンジ「壊れてんじゃねえか‼︎」

剣護「あれ?」

キンジ「あれじゃねえよ!直せ!あとついでに乗せてけ!」

剣護「わかった!わかった!わかったって!」

 

あの後ドアを直させて、作ってもらった朝食を食べ、アリアと怜二とライカと一緒に剣護のワゴン車に乗せてもらい登校した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に着くと教務科からの連絡掲示板の前に人だかりができていた。その中にジャンヌも松葉杖をついて立っている。

 

剣護「おっジャンヌじゃねえか」

ジャンヌ「ん?あぁ、月島たちか」

キンジ「どうしたんだ?その足」

ジャンヌ「ちょっと虫がだな……それより月島に遠山、お前たちの名前が出てるぞ」

金・剣『え?』

 

ジャンヌが指した掲示板の方を見ると『1学期・単位不足者一覧表』と書かれた紙がサバイバルナイフで留められていた。その中にはキンジと剣護の名前もあった。

 

 

『2年A組 遠山金次 専門科目(探偵科) 1単位不足』

 

『2年A組 月島剣護 専門科目(強襲科) 1単位不足』

 

 

金・剣『ファッ⁉︎』

ジャンヌ「どうやらお前たちは問題児のようだな」

剣護「あぁん⁉︎お客さぁん⁉︎」

ジャンヌ「どんなキレ方してるんだ⁉︎お、落ち着け!大丈夫だから!」

 

ジャンヌが指した方を見ると『夏季休業期・緊急任務』と書かれた張り紙があった。

 

キンジ「そうか!緊急任務!」

剣護「ほう……緊急任務ですか。たいしたものですね」

怜二「おいおいおい」

アリア「死ぬわアイツ」

 

3人のボケをスルーし、キンジは単位を取れる仕事を探す。

 

『大規模砂金盗難事件の調査』

『工業用砂鉄盗難事件の調査』

『砂礫盗難事件の調査』

 

剣護「…砂系のやつが多いですねぇ…怪しいとは思いませんか?遠山くん」

キンジ「それがどうかしたんですか杉○さん」

剣護「おいやめろ」

キンジ「お前が始めたんだろが」

怜二「あ、これ良くない?1.9単位だって」

 

怜二が指したのは『カジノ「ピラミディオン台場」私服警備』という依頼だった。

 

キンジ「これだ!これやるぞお前ら!」

アリア「あたし達も?」

怜二「僕ら単位足りてるんだけど」

剣護「いんじゃね?さっそく申し込むか」

キンジ「だな」

アリア「ちょっと待ってこれ見て剣護」

剣護「ん?」

 

アリアが引きつった顔で単位不足者一覧表を指し、見てみると

 

 

『火野ライカ 専門科目(強襲科) 0.5単位不足』

 

『間宮あかり 専門科目(強襲科) 0.7単位不足』

 

 

 

剣護「」

ライカ「す、すいません……」

アリア「あかり…あんたねぇ……」

あかり「あ、アリア先輩〜…」

剣護「……キンジ」

キンジ「…わかったよ。こいつらも申し込んでおくよ」

ライカ「ありがとうございます…」

怜二「キンジキンジ、その下見てみ」

キンジ「あん?」

 

 

 

『風魔陽菜 専門科目(諜報科) 0.6単位不足』

 

 

 

キンジ「風魔ああああああああ‼︎」

陽菜「お呼びでござるか師しょ…」

キンジ「これ見ろお前ぇ‼︎」

陽菜「へ?……あっ」

キンジ「あっ、じゃねえだろが!どうすんだお前⁉︎」

剣護「落ち着けキンジ。1単位不足してる俺らが言えたことじゃねえ」

キンジ「はあ……風魔、お前もこれ受けろ。カジノの警備」

陽菜「し、承知でござる!」

 

その後キンジ、剣護、アリア、怜二、あかり、ライカ、志乃、陽菜にたまたま近くにいたレキに加えて、急遽参加すると白雪と麒麟も加わり全員で11人のメンバーでやることになった。

 

剣護「ところでなんで志乃までやるんだ」

志乃「……だって1人だけ仲間外れなのは嫌じゃないですか」

剣護「それもそうだな」(ナデナデ)

志乃「んんっ……」

あか・ライ『あ!ズルい!』

アリア「やばい砂糖吐きそう」

キンジ「ブラックコーヒー買っていくか」

 

 

 



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第43話 対面

お久しぶりです。ALEX改です。
1年またいでの投稿になってしまい申し訳ないです。テストや卒論で忙しかった上にニンテンドースイッチ買っちゃいまして、かなり遅れてしまいました。(´・ω・`)
今年から就活も始まるので投稿頻度は下がるかもしれませんがちょこちょこ書いていこうと思うのでよろしくお願いします。


 

 

 

5限目、強襲科棟 体育館

 

 

 

剣護「うーし、じゃあ始めっか!」

アリア「いつでもいいわよ」

剣護「よし……」

 

体育館の端あたりで剣護とアリアは向かい合うとお互いに武器を持たずに構える。

 

アリア「制限時間は?」

剣護「授業終わるまで」

アリア「長いわ!せめて5分とかにしなさいよ」

剣護「はいはいじゃあ10分な」

アリア「まあそれなら……」

剣護「うし、そんなら…行くぞ!」

 

そう言うと剣護はアリア目掛けて一直線に駆けるとその勢いを乗せた前蹴りを放つ。

 

剣護「月島流拳技!蹴突撃!」

アリア「そんな見え見えなもの当たる訳ないで……しょ!」

剣護「ぬおっ!」

 

前蹴りを避け、放たれたアリアの拳を防ぎそのまま離れる。さらに今度はアリアから距離を詰めてきてキックやパンチを連続で打ってくる。

 

アリア「てりゃ!」

剣護「シッ!」

アリア「ああもう!ちょこまか動くな!」

剣護「無理!」

アリア「やっ!」

剣護「そこだ!」

 

アリアの右ストレートを左手で受け止めると勢いに乗ったまま腕を掴み背負い投げのように投げて叩きつける。

 

剣護「月島流拳技、菊一輪!」

アリア「ゲフッ⁉︎」

剣護「っしゃあ!」

アリア「ゲホッなんのぉ!」

剣護「うおっ⁉︎」

 

倒れた体勢からアリアは足を絡めて剣護を転ばせると腕に足と腕を組んで腕ひしぎ十字固めを繰り出す。

 

剣護「いでででででで⁉︎」

アリア「取ったわ!」

剣護「すいません!許してください!何でもしますから!」

アリア「ん?今何でもするって」

剣護「(言って)ないです」

アリア「ほらほら降参しないと折るわよ?」

剣護「あががががががが⁉︎」

 

 

 

カナ「楽しそうねぇ………私も混ぜてくれるかしら?」

アリ・剣『え?』

 

 

声がした方を向くとそこには武偵高の制服を着たカナがニコリと笑いこちらを見ていた。

 

剣護「……なんでカナがいるんだよ」

アリア「誰?」

剣護「女装癖を持つ不審変質者」

カナ「違うからね?」

剣護「んで、何の用だ?」

カナ「そうね。神崎・H・アリア」

アリア「な、なによ」

 

急にフルネームで呼ばれアリアはたじろぐ。

 

カナ「あなたがキンジのパートナーに相応しいかどうか見させてもらうわ」

アリア「なんですって?」

剣護「なるほど試すという口実で痛めつけまくってボッコボコにすると」

カナ「いやそこまでは言ってないわよ⁉︎」

アリア「………」

カナ「あら、怖気付いたかしら?」

アリア「上等よ。受けて立つわ!」

カナ「それで良いわ」

剣護「カナ、俺も良いか?」

アリア「剣護は見てて。あんたの手助けはいらないわ」

剣護「俺もカナには物申したいことがあんだよ。新技の実験がてら今までの思いぶち込んでやる…!」

アリア「あっ…………うん……わかった」

カナ「なら2人でかかってらっしゃい」

 

剣護は拳を、アリアはガバメントを抜き構え、カナは何も持たずに立ち尽くす。

 

蘭豹「おーおー。何ややるんか?なら存分にやり合えや!」

 

蘭豹のM500の号砲を合図に剣護とアリアは飛び出した。

 

剣護「おおおおおおおおお‼︎」

 

ある程度距離を詰めると剣護は一気に飛び出して勢いを乗せた前蹴りを放つ。真正面からの蹴りを簡単に避けるカナ。そこをアリアのガバメントの掃射が迫る。

 

カナ「なかなかのコンビネーションね。でもまだまだよ」

 

カナは三つ編みを振り返るように振るい銃弾を弾く。

 

剣護「サソリの尾(スコルピオ)……」

アリア「くっ!何なの今の…」

剣護「わからん。何かに弾かれたのは確かだ」

カナ「悠長に話してる場合?」

アリア「きゃうっ!」

剣護「いって!」

 

突然の銃撃が2人に命中する。

 

剣護「っ……そっちが見えない銃撃なら……アリア!時間稼げ!」

アリア「策ありってわけ?仕方ないわね!」

剣護「お礼にももまんの中身餡子とデスソース入れ替えておくわ」

アリア「死ぬわ!」

 

軽口を叩きつつ小太刀を抜いたアリアはカナへと突進し、今度はカナも迎え撃つように前に出る。

 

アリア「やっ!」

カナ「フッ!」

アリア「ぐっ……!」

カナ「まだまだいくわよ?」

アリア「うあっ!くっ!」

 

次から次へと放たれる素早い連打になかなか反撃できないアリア。小太刀を振るおうにも寸前で打撃を打ち込まれ、とうとう手放してしまった。

 

アリア「あぐぅ……はあ…はあ……」

カナ「こんなものかしら?」

アリア「はあ…さ、さっきの銃撃……『ピースメーカー』ね…⁉︎骨董品みたいな古銃だから…いまいち思い出しにくかったけど…」

カナ「あら、よく分かったわね?私の銃はコルトSAA。通称、平和の作り手(ピースメーカー)。でも、それを視ることはできなかったはずだけど」

アリア「はあ……ふう……あたしには分かる。銃声とマズルフラッシュでね」

カナ「そう………じゃあ、もっと見せてあげる」

 

剣護「必要ねーよ。そんなもん」

カナ「ッ⁉︎」

 

そう言って再び不可視の銃弾を放とうとした時、突然剣護が懐に現れ腹部を殴り飛ばす。

剣護の姿は黒髪のまま前髪だけ獣耳みたいに逆立っている。

 

剣護「常世の神子、20%解放バージョン」

 

 

 

蘭豹「ほーう……なかなかおもろいことするやないか。なあ?遠山」

キンジ「俺に振らないでください」

蘭豹「ええやないか。お前ら付き合い長いやろ。てか何しに来た」

キンジ「あの2人止めに来たつもりなんですけど……剣護いるから問題ないかなーと…」

蘭豹「ふーん……まあ見とけや。こっから面白くなるで」

 

ニィ…と口角を吊り上げる蘭豹にキンジは呆れたような表情を浮かべた。

 

 

 

 

剣護「おるぁ‼︎」

 

再び高速で放たれた拳がカナの肩に叩き込まれる。

 

カナ「……ッ!」

剣護「グホッ⁉︎」

 

しかし、カナも負けじと不可視の銃弾で剣護の胸を撃ち吹っ飛ばす。さらにカナは立て続けに足や腕を撃ち、剣護の動きを先読みするかのように止める。

 

カナ「ふぅ………さっきまでの勢いはどうしたのかしら?」

剣護「ッ…まだまだぁぁぁ……」

 

そう言うと剣護はガシッと近くにいたアリアを掴むと担ぎ上げる。

 

アリア「………は?」

剣護「俺の合体(強制)技パート1」

アリア「え、ちょ、何⁉︎何する気⁉︎」

剣護「人間ミサイィィィィィィィルッ!!!!!」

アリア「キャアアアアアアアアアアアアア⁉︎」

カナ「ちょっ…アバス⁉︎」

アリア「あだぁ⁉︎」

 

そしてカナ目掛けてアリアをぶん投げる。投げられたアリアは弾丸の如くカナの腹にクリーンヒットした。

 

キンジ「何やってんだお前ぇ⁉︎」

剣護「俺の合体技パート1、人間ミサイル」

キンジ「聞けよ……って、え?」

 

今度はいつの間にか闘技場に侵入してきたキンジを掴み担ぎ上げる。

 

剣護「第二射……ってぇぇぇぇぇ‼︎」

キンジ「ノオオオオオオオオオオ⁉︎」

 

2発目として投げ飛ばされたキンジは見事にカナの頭に命中した。

 

カナ「がっ……あ、頭が…わ、割れ……」

キンジ「っててて……野郎ぉ…」

剣護「月島流拳技ぃぃぃぃぃ……」

カナ「つっ……ち、ちょっと待ちなさ…え?」

金・アリ『第三射ァ‼︎』

カナ「ちょおおおおおお⁉︎」

剣護「鉄鋼強打!!!!」

カナ「ガッフゥア⁉︎」

 

頭の痛みに悶えるカナをいち早く復活したキンジとアリアが両腕を掴み前にぶん投げて、投げられたカナは自身目掛けて突っ込んできた剣護の拳を真正面から顔面に受けて床を転がっていく。

 

剣護「ふー……」

キンジ「スッとしたぜ」

剣護「あ…先言われた……」

アリア「大丈夫なのあれ」

金・剣『大丈夫大丈夫』

カナ「そんな訳ないでしょ⁉︎」

 

そんなこんな言っていると鼻を押さえたカナがフラフラと歩いてくる。

 

剣護「チッ…やっぱ頑丈だな」

カナ「いだだだ……ここまでね。ふあ……」

 

カナは小さくあくびをすると体育館から出て行った。

 

剣護「…キンジ」

キンジ「あぁ…あれが近いんだな。兄さん」

剣護「にしてもやっぱ強えなぁ…隙作らんと当てられねえわ」

キンジ「だな。大丈夫か?アリア………アリア?」

 

返事が返ってこないことをキンジは変に思いアリアの方を向くとアリアは携帯の画面を顔を真っ赤にして凝視していた。

 

アリア「………………………」

キンジ「あ、アリア…さん?」

アリア「き、キンジ……これ……」

キンジ「ん?………あ」

 

アリアが見せてきた携帯の画面には前の授業で武藤に送られたであろうメールが写っていた。

 

『親愛なるアリアへ。カジノ警備の練習がてら、二人っきりで七夕祭りに行かないか?7日7時、上野駅ジャイアントパンダ前で待ち合わせだ。かわいい浴衣着てこいよ?』

 

 

キンジ「そ、それは武藤が勝手に…!」

アリア「………………………(良いけど)

キンジ「……え?」

アリア「……べ、別に…一緒に……い、行っても良いけど…」

キンジ「そ、それは…つまり……」

アリア「だから!そのお祭りに一緒に行っても良いって言ってんの!か、勘違いしないでよね!あくまで警備の練習なんだからね!」

剣護「ツンデレ全開じゃねえか」

アリア「うっさい!」

キンジ「えっと…じ、じゃあメールの通り上野駅ジャイアントパンダ前で待ち合わせな?」

アリア「え、えぇ…わかったわ」

 

 

 

 

 

 

あの後、アリアとキンジと別れた剣護は寮への帰路についていた。先程の授業で今日は終わりである。

 

剣護「あぁ〜……ちょい解放は中途半端だから体に負担がかかるなぁ……」

 

部屋の前まで来るとゴソゴソと胸ポケットからカードキーを取り出しながらブツブツと呟く剣護。

 

剣護「えーと今日ライカはバイトだっけ……晩飯何作ろうかな〜」

 

鍵を開け、部屋に入る。誰もいない部屋にただいまと言いながら入ると

 

金一「おう。おかえ…(ドォン!)あっぶ⁉︎」

 

何故かキンジの兄、遠山金一がソファーで横になってお出迎えしてきた。反射的に剣護はM500を早撃ちで一切の躊躇もなしにぶっ放すがギリギリ避けられた。

 

剣護「なーんで鍵かけた部屋にいるんですかねぇ?金一さん?」

金一「いやちょっと…と、とりあえず銃を仕舞え。話ができん」

剣護「OK!」ズドンッ!

金一「だから撃つな⁉︎よくそんなもん平気でぶっ放せるな⁉︎」

剣護「で?イ・ウーにいるあんたが何用です?」

金一「あぁ。その前にちょっと伝えなければならないことがあってな」

剣護「………なんです?」

金一「お前の両親についてだ」

剣護「あぁ、この前メール来ましたよ。母さんから」

金一「そのお前の両親だg…って今何つった」

剣護「いやだからこの前母さんからメール来たって」

金一「え、おま…え?知ってたのか?生きていたこと」

剣護「えぇ、発端もぜーんぶメールで送られてきましたよ。長文で」

 

剣護の携帯からメールを見せてもらうと、確かにオーバーギリギリの文字数で失踪の訳が書かれていた。

 

金一「そ、そうか…なら良いんだ」

剣護「で?それだけですか?」

金一「いや、あともう一つ忠告だ」

剣護「忠告?」

金一「お前達に敵が近づいている。用心することだ」

剣護「用心ねぇ……アリアを殺そうとか言う人のセリフかねぇ?」

金一「安心しろ。第二の可能性がある限り殺しはしない」

剣護「そっすか」

金一「それじゃここらでお暇させてもらうとしよう。それと剣護」

剣護「はい?」

 

 

 

金一「………キンジのこと、これからも支えてやってくれ」

剣護「……わかってんよ。あいつは俺の相棒である以前に親友だからな。心配いらねえよ金兄(・・)

金一「フッ……そうか」

 

さも当然のように言ってのける剣護に笑いかけると金一は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金一「あれ、俺の銃がない…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライカ「ただいま戻りましたー」

剣護「おう、おかえり」

ライカ「あーお腹すいた……ん?」

剣護「おん?どしたね?」

ライカ「何かクッションの下に……リボルバー?」

剣護「おまそれピースメーカーじゃないか」

ライカ「誰のです?」

剣護「客が来てたんだよ。とりあえずそれは俺が預かるよ」

 

 

剣護(さては金一さん、寝てる時に落としたな……まあ今度会った時に返すか)

 

 

 

 



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第44話 夏祭り

 

 

剣護「きーみーがーいたなーつーはー」

怜二「とおいーゆーめーのなかー」

阿部「アーッ」

剣・怜『やめーや』

武藤「テンション高いなお前ら」

剣護「オィィィィィィッスどうもー剣護デース!えー今日は夏祭りですけどもー参加者はー……………………副部長、峰理子氏が轟沈しました」

怜二「えっマジで」

平賀「本人から連絡があったのだ」

阿部「おいおい、副部長入れて3人もいないじゃないか」

剣護「なお本人曰く『邪気眼が暴走したから行けない』とのことで」

猿飛「嘘だゾ、絶対ベトコンのアンブッシュだゾ」

服部「そうだよ。もしくはモウドク=ジツを操るニンジャか……」

田所「俺の持ちネタ取らないでくれよ頼むよ」

武藤「ピーポーレッドは?」

剣護「ピーポーセーバーこと乾桜氏はあかり達と回るそうな」

服部「百合ィ……」

怜二「剣ちゃんピーポーセーバーはドライブや」

猿飛「夾竹と……桃子氏は?」

剣護「夏コミ」

猿飛「あっ(察し)」

剣護「てな訳で今回は俺、怜二、レキ、武藤、文、阿部、田所、ニンジャ2人で回ろうと思います。質問は?」

武藤「キンジと神崎さん見かけたらどうする?」

剣護「あぁ、そうだそうだ。あの2人にバレないように全員お面買っとけよ。見かけたら話しかけず陰から見てるだけか写真撮るだけな」

田所「バレたらどうする?」

剣護「手段は問わん。誤魔化すなり何なりしてやり過ごせ。武力行使でも構わん」

田所「えぇ………」

阿部「いや遠山はともかく神崎に勝てるわけないだろ」

剣護「オンドゥル語かグロンギ語でやり過ごせ。ともかく夏祭りといえどイベントであることには変わりなし……各自思うままに満喫すること」

全員『ラジャ!』

 

 

 

剣護「それでは日本娯楽研究部……いざ‼︎出陣‼︎」

全員『エイ!エイ!オー‼︎』

 

 

まるで戦場に向かう武将のようなアトモスフィアを醸し出しながら剣護を始めとした娯楽研究部一同が夏祭りに出陣する一方で、上野駅ではキンジとアリアが待ち合わせしていた。

 

 

アリア「お、おまたせ……」

キンジ「お、おう…じゃあ…行くか?」

アリア「……う、うん。い、言っておくけどこれはカジノ警備練習だからね!」

キンジ「わかったわかった……そうだアリア」

アリア「何よ?」

キンジ「あー…その……似合ってるぞ、その着物」

アリア「そ、そそそう…あ、ありがと……」

 

ボシューと湯気を吹き上げながら真っ赤になるアリア。それにつられてキンジも赤くなる。

 

アリア「そ、そろそろ行くわよ!警備に!」

キンジ「だ、だな!行くか!警備に!」

 

駅から国道沿いに少し歩いてから曲がると屋台が並ぶ通りに出た。

 

アリア「わぁ……」

 

色とりどりに飾られた屋台、賑わう人々の喧騒にアリアは目を丸くしている。すると何かを見つけたのかアリアが目を細めはじめた。

 

キンジ「どうした?」

アリア「あれ………」

キンジ「ん?りんご飴か?」

アリア「あの黄色いの美味しそう……」

キンジ「おっ、あんず飴か」

アリア「……………よ」

キンジ「え?」

アリア「行くわよキンジ!」

キンジ「あ、やっぱ欲しいわけね」

 

アリアに引っ張られキンジはりんご飴屋へと歩いていく。

 

 

一方、他のメンバーと別れた剣護はレキと怜二の3人で屋台を回っていた。

 

剣護「いやーやっぱ祭りはいいねぇ」

怜二「ほとんど食べ物系の屋台しか回ってないんだけど」

レキ「………………」

剣護「良いじゃん別に」

レキ「剣護さん、あそこにりんご飴の屋台が」

剣護「あんず飴‼︎買わずにはいられない‼︎」

怜二「待って剣ちゃああああん⁉︎」

 

りんご飴屋を見つけると剣護はあんず飴を求めてまっしぐらに突っ込んでいった。ちょうど屋台にはあんず飴がラスト1つ残っていた。

 

剣護「あんず飴えええええ‼︎」

アリア「これちょうだい」

剣護「ウソダドンドコドーン‼︎」

 

しかし一足遅く、あんず飴はアリアが買ってしまった。

 

アリア「おわっふ⁉︎け、剣護⁉︎」

剣護「ファッ⁉︎アリア=サン⁉︎」

キンジ「あ、お前ら……」

怜二「キンジとアリアじゃん」

レキ「どうも」

アリア「あんた達も来てたのね」

キンジ「てっきり剣護は間宮達と回るかと思ってたんだが」

剣護「あかり達はあかり達でまわるんだと」

アリア「なるほどね」

怜二「一応僕ら日本娯楽研究部のメンバーで来てるんだよね」

キンジ「え、あいつらも一緒なのかよ……」

剣護「んまぁ各員別行動だけど。お前ら2人と出くわさないように言ってるから大丈夫大丈夫」

レキ「私たちが大丈夫ではないのでは」

剣護「もう手遅れじゃけえ……」

キンジ「…一緒にまわるか?」

怜二「もうこの際そうしようか」

剣護「よっしゃ型抜きで勝負しようぜキンジ!」

キンジ「やだよ!あれでお前に勝てる気せんわ!」

 

結局、5人で屋台をまわることになり皆でそれぞれお面を買ったり、アリアがももまん味の綿あめを頬張ったり、レキが射的で無双したり、金魚すくいをやったり、剣護がベビーカステラを爆買いしたりと思い切り楽しみまくった。

 

剣護「いやー…やっぱ祭りは最高やな!」

キンジ「お前そのカステラ何個目だよ」

剣護「200から先は数えるのやめた」

怜二「食べスギィ!」

アリア「いくらあたしでもそんなには食べられないわ……」

レキ「そうでしょうか?」

アリア「むしろなんでレキはそんなに食べられるのよ」

キンジ「諦めろアリア。こいつらに常識は無意味だ」

アリア「……そうね」

怜二「感動的だな」(^U^)

剣護「だが無意味だ」(^U^)

アリア「風穴開けるわよ?」

剣・怜『スンマセン』

キンジ「アホだなお前ら。…っとちょっと休んでくるわ」

アリア「あ、あたしも…」

レキ「では私達はそこら辺にいますので」

キンジ「おう」

 

そう言うとキンジは神社の本殿の裏に行くとその後をアリアが追って行った。

 

キンジ「やっぱあいつといると退屈しねえな」

アリア「ねぇ……1つ聞いてもいい…?」

キンジ「なんだ?」

アリア「カナは…キンジの何なの…?」

キンジ「ただの家族だ。それ以上でもそれ以下でもない」

アリア「そっか………」

キンジ「心配すんな。誰のもんにもなりゃしねえよ。俺はお前のパートナーだからな」

アリア「キンジ………うゅ"ッ⁉︎」

キンジ「?」

 

突然アリアが声とも言い難い奇妙な音を喉から出した。

 

アリア「みぎゃあああああああああああ⁉︎」

キンジ「な、なんだ⁉︎」

アリア「な、何かが着物の中にぃぃぃ‼︎」

 

バタバタと縁側の上で荷物をぶち撒けながら転げ回るアリア。暴れる中着物の中からブーンと虫が飛んでいき、近くの木に止まった。

 

キンジ(コガネムシ……か?)

 

アリア「はぁ…はぁ…なんてとこに入ってんのよ…」

キンジ「大丈夫か?」

アリア「ヘンなとこをこちょこちょと……!」

キンジ「お、おいこんなとこでぶっ放すなよ?」

 

アリアが睨みつけながらガバメントを抜くと、視線に気づいたのかコガネムシは雑木林の中へと飛んでいった。

その時、バシュンッと青白い光弾が飛んできて、コガネムシを跡形もなく消し飛ばした。

 

アリア「」

キンジ「……なんだ今の」

 

そう言いつつキンジはアリアが撒き散らした荷物を拾っていく。ふとアリアの武偵手帳から1枚の写真を見つける。

写真には若い男が写っていた。

 

キンジ(これは………)

 

しばらく写真を眺めていたがすぐにアリアに取り上げられてしまう。

 

アリア「見た?」

キンジ「いや、まあ……悪い」

アリア「別に気にしないわよ」

キンジ「そうか……でその人は?」

アリア「私が一番尊敬している人よ」

 

そう言ってアリアはキンジに写真を見せる。

 

アリア「シャーロックホームズ一世……私の曾お祖父様で…もうこの世にはいない人…」

キンジ「どうりで見覚えあったわけだ」

アリア「言っとくけど今までに誰かに見せたことないんだからね」

キンジ「現に見せてるじゃないか」

アリア「……キンジじゃなきゃ、見せないよ」

 

少し顔を赤らめて言ったアリアに、思わずドキッとキンジの心臓が跳ねた。

 

キンジ「そ、そろそろ帰るか…」

アリア「そうね。そうしましょ」

 

キンジ(き、きっと気のせいだ…ギャップとかそういうやつなんだ、きっとそうだ…………多分)

 

自身の感情に内心言い訳するキンジ。2人は縁側から降りると寮へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木 | 0M0)

 

 

 

 

 

 




日本娯楽研究部とそのメンバーについてはまた番外編で説明したいと思います。


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第45話 カジノ警備

ちょっと急ぎ目だから文章が変な感じかも


 

 

 

怜二「両替を頼みたい。今日は青いカナリアが窓から入ってきたんだ。きっと、ツイてる」

 

剣護「………憑いてる」

キンジ「ブフッ」

 

合言葉であるセリフを言いながら係員にアタッシュケースを渡す怜二。その一歩後ろでボケる剣護と吹き出すキンジ。

現在、3人は黒のスーツにサングラスという格好でカジノ『ピラミディオン台場』に来ている。

怜二が若手のIT社長、キンジと剣護はそのボディガードという構成になっている。

 

怜二「すごく綺麗なところだね」

キンジ「そうだな。流石カジノってところか」

剣護「テーマパークに来たみたいだぜ」

怜二「テンション上がるなぁ!」

キンジ「早速ボケんな」

剣護「見ろよキンジ。飲み物もすんごいキラキラして見えるぜ」

キンジ「あぁ……アレどういう名前してんだよ」

 

剣護とキンジが見ているバーのメニューには赤・青・白のトリコロールの炭酸飲料『RTスパークリング』クリアブルーと金色の2種類あるゼリードリンク、恐らくグレープ味であろう紫色の『クラックアップカクテル』等など、なんか剣護の心をくすぶりそうな名前の飲み物がたくさんあった。

 

「飲み物はいかがですか?」

剣護「あ、じゃあコーヒー1つ」

怜二「僕も」

キンジ「お、俺は、結構です」

 

バニーガールからコーヒーを受け取る剣護と怜二。キンジはヒステリア的な危険性があるので目をそらす。

 

剣護「どれ、ここのコーヒーは…」

怜二「カジノのコーヒーっていいヤツ使ってそうだよね…」

 

剣・怜『マズッ⁉︎』

 

キンジ「不味いんかい」

アリア「何してんのよアンタたち」

あかり「あはは……」

 

コーヒーの味に悶絶する2人を見ているとバニーガールの格好をしたアリアとあかりが話しかけてきた。

 

キンジ「ここで油売ってていいのかよ」

アリア「だって誰も注文してこないんだもん」

キンジ「あー……まあ…」

剣護「顔立ち良くても容姿が……」

アリア「シッ!」

キンジ「おごぁ⁉︎」

あかり「フッ!」

剣護「ウッ」

 

アリアがウサ耳をキンジの目にぶっ刺して、あかりが剣護にパルスを乗せた腹パンを叩き込む。

 

アリア「余計なことを言わんでよろしい!」

あかり「そうですよ!」

キンジ「俺何も言ってない……」

風魔「し、師匠、大丈夫でござるか?」

キンジ「お前はあまり近づくな…」

怜二「2人よりスタイル良いしn…」

あかり「らぁ!」

怜二「うごおぁ⁉︎」

アリア「せいっ!」

怜二「ひでぶ⁉︎あべし⁉︎」

 

あかりがウサ耳で目を突き、アリアがウサ耳で往復ビンタを繰り出し怜二がノックアウト。

 

キンジ「よし、退散だ」

剣護「とりあえず回ろう!そうしよう‼︎」

キンジ「……そういや白雪は?」

剣護「なんか裏の方に逃げてくのが見えた」

 

 

 

 

 

 

 

怜二が復活してからカジノ内を回っているとルーレットのエリアで大勢の見物客が集まっている所にレキを見つけた。

レキの格好はアリア達のようなバニーガールではなく金ボタンのチョッキとズボンの格好をしている。

 

「ははっ……初めてだよ…この僕が1時間も経たない内に3500万も負けるとはね……君は本当に運を司る女神かもしれないな」

レキ「……………」

「残りの3500万……これを全て『黒』に賭けよう!」

レキ「『黒』ですね。では、この球が黒に落ちれば配当金は2倍です。よろしいですか」

「ああ。だが配当金はいらない。僕が勝ったら…キミをもらう!」

 

剣護「何言ってんだこいつ…頭キチってんじゃねえか」

キンジ「お前に言われたらおしまいだわ」

 

レキ「……あちらの方なら良いですよ」

「え?」

 

レキの指す方を見るとそこには見回りとして徘徊している男前の係員がいた。

その人物にキンジ、剣護、怜二は見覚えしかなかった。

 

 

阿部「ん?俺かい?」

 

 

剣護「阿部じゃねーか‼︎」

金・怜『うっそだろお前……』

 

なんとそこには日本娯楽研究部の部員の1人、阿部高則がレキと同じようにチョッキを着て歩いていた。

思わぬ返しに若手社長も困惑せずにはいられなかった。

 

「い、いやぁ……流石に僕でもそっちの気は……」

阿部「別に構わないぜ?俺はノンケだって歓迎するさ」

「え、えっと……あの……」

 

剣護「いかん、あのままだとあの社長さん喰われるぜ」

キンジ「仕方ない。助け舟を出してやるか……怜二」

怜二「……それ僕が勝ったら僕が喰われない?」

剣護「大丈夫だって。そんときゃ俺がなんとかする」

怜二「………わかったよ」

 

そう言うと怜二はルーレットの方へ行き、若手社長の隣に立つ。

 

怜二「あー、すみません。僕も入れてください。えーと…僕もその子狙ってまして…」

「あ、あぁ…」

阿部「ん?」

 

怜二が入ってきて阿部はその後ろを見て、キンジと剣護を見つけるとそちらに向かう。

 

阿部「よう。大将に遠山。あんたらがここに来るとは珍しいね」

キンジ「……なんでお前がいるんだよ」

阿部「ん?俺か?俺はここでバイトしてんだよ。趣味を楽しむにしても金が無いとな」

剣護「なーるほどねぇ。そういうことか」

阿部「で?あんたらは?オーナーからは今日は手伝いが多いからよろしく頼むとしか言われてないんだが」

剣護「緊急任務でな。変装してこのカジノの警備さ」

阿部「あーそういうわけね。確か2人とも単位足りてなかったっけ」

キンジ「ちょうどいい。阿部、白雪のサポートしてくれないか?さっき裏に引っ込んでしまったんだ」

阿部「了解。ルーレットも決着したようだしな」

剣・金『ん?』

 

ルーレットの方を見ると、おそらく怜二が指定した場所にレキが入れたのであろう。赤の23番に球が入っていた。

それにより怜二は一気に大金持ちになった。7千万も負けた若手社長はガックリと落ち込むどころかむしろホッとしたような顔をしていた。

 

「た、助かった……」

怜二「………良かったっすね」

レキ「それではお引き取りください。今日はもう、帰った方がいいですよ」

「せ、せめてメアドだけでも教えてくれないか…?」

怜二(懲りないな〜……)

レキ「お集まりの皆さんもお帰りください」

 

 

そう言いながらレキは剣護達の方に視線を送る。

 

 

レキ「良くない風が吹き込んでいます」

剣護「レキ……?」

 

 

レキの言葉に剣護とキンジは不穏な表情をする中、阿部がフロアの片隅の方へ視線を向けると何かがこちらに走って来ているのを見つけた。

 

阿部「大将!何か来るぜ!」

剣護「ッ‼︎」

 

阿部の言葉と共にレキの後ろに隠れていたハイマキが飛び出し、同時に剣護も疾走する。

 

剣護「ハイマキ!体当たり!」

ハイマキ「ぐるぁ‼︎」

 

ハイマキは走ってくる相手に体当たりをかまし、剣護も一緒に飛び蹴りを繰り出して吹っ飛ばす。

吹っ飛ばした何かは全身が真っ黒で頭はジャッカルの頭をしていた。

 

剣護「アヌビス……?」

 

剣護がそう呟く中、ハイマキがジャッカル男の腕に噛み付くが、ジャッカル男は腕を振り回して強引に引き剥がした。

 

阿部「なんだありゃあ……」

キンジ「阿部、客の避難を頼む」

阿部「了解!」

 

阿部に指示を出すとキンジは銃を抜いた。

 

キンジ「怜二、お前銃は?」

怜二「あんま得意じゃないけど、一応持ってるよ」

 

怜二もネクタイを外して捨てると銃を抜く。

 

キンジ「P226か」

怜二「ぶっちゃけ刀振りたい」

キンジ「我慢しなさい。剣護!銃は?」

剣護「今回はコイツらだ!」

 

そう言って剣護が抜いたのはM19とピースメーカー。M19はコンバットマグナムとも言って某有名な怪盗の相棒がよく使っているリボルバーである。ピースメーカーは言わずもがな金一が忘れて帰った物である。

 

キンジ「なんでお前が兄さんの銃持ってんだよ」

剣護「前来た時に落としてったらしい。せっかくだからファイブセブンの代わりに使わせてもらう」

キンジ「本当リボルバー好きだなお前」

剣護「カッコいいじゃん」

白雪「伍法緋焔札(ごほうのひほむらふだ)!」

 

突然、火球がカーブを描きながらジャッカル男に直撃する。

 

白雪「キンちゃん!逃げて!この敵に触れると呪われちゃう!」

キンジ「何?」

 

白雪は札を取り出すと火球に変えてさらに放つ。

 

白雪「キンちゃんには指一本触れさせn…」

剣護「白雪、邪魔‼︎」

白雪「うわぁ⁉︎」

 

敵目掛けて突っ込もうとする白雪を髪を巻きつけて後ろに投げる。

 

剣護「本当にあんたって子はキンジ絡むと周りが見えないんだからもー」

白雪「ご、ごめん……」

剣護「ほら銃貸すから」

キンジ「いやお前どうすんだよ!」

怜二「来てる!来てる!敵来てる!」

剣護「こうすんだよぉ‼︎」

 

斧を振り上げて走ってくるジャッカル男に剣護は手を銃に見立てると人差し指の先が光り始める。

 

剣護「霊気弾!」

 

指先から光弾が放たれてジャッカル男を貫く。ジャッカル男はザァッと砂鉄に変わり中から虫が出ていった。

その虫も光弾で撃ち抜く剣護。

 

キンジ「今のアレ夏祭りのやつか?」

剣護「そだよ」

白雪「キンちゃん!剣ちゃん!まだ来てる!」

 

白雪が叫び、階段の方を見るとゾロゾロとジャッカル男が現れる。

 

キンジ「チッ!」

 

キンジはベレッタを3点バーストで撃つ。が……

 

キンジ(ッ⁉︎弾が2つしか出ない⁉︎)

 

平賀の魔改造は腕は良いのだが不具合も多いことで有名である。

そのせいでキンジのベレッタは3点バーストで弾が2発しか出なくなっているのである。

 

怜二「こんの!」

 

怜二も銃を撃つがあまり得意でないが故に命中精度はあまり良くない。

 

キンジ「本当に下手だな」

怜二「言ったじゃん。得意じゃないって。あーもー刀振りたい」

剣護「2人とも伏せろ」

 

キンジと怜二の後ろでは、パキパキと音を立てて髪を変化させている剣護が。

 

剣護「常世針!」

金・怜『あぶな!?』

 

変化させた髪から針を連射してジャッカル男を次々針山にして砂鉄に還していく。

 

キンジ「おいおい…どーすんだこれ…」

怜二「あーもう、めちゃくちゃだよ…」

白雪「お店の物まで壊してない…?」

剣護「コラテラルコラテラル」

 

アリア「ちょっと!やりすぎよ!」

 

バスバスとガバメントを掃射しながらアリア達が合流してきた。

 

キンジ「アリア!みんな!」

阿部「大将!怜二!」

 

阿部も一緒だったようで、店に預けていた剣護と怜二の刀を投げ渡す。

 

剣護「ナイス!」

怜二「ありがと!」

 

2人は刀を受け取ると抜刀し、目の前の2体のジャッカル男目掛けて疾走。

 

剣・怜『ハッ!』

 

すれ違うと共に一閃。ジャッカル男は砂鉄になり崩れていく。

 

『ガルルル……』

 

志乃「先輩!入り口からも敵が!」

キンジ「クソッ…キリがないな…」

 

上も下も敵だらけ、あまりにもキリがなさすぎる。

 

アリア「行くわよ!レキ!」

剣護「合わせるぞ!怜二!」

怜二「オケ!」

 

アリアはシャンデリアに飛び乗り、剣護と怜二は下に降りて疾走する。

レキがシャンデリアの金具を掠めるように撃ち、その衝撃でシャンデリアが回転し、そのままアリアは銃を掃射していく。

 

剣護「月島流!」

怜二「柳生新陰流!」

 

剣護「富嶽旋風独楽(ふがくつむじごま)!」

怜二「逆風の太刀!」

 

回転斬りの連撃と瞬時の斬り返しで、次々と敵を倒していく剣護と怜二。

その様子に息を飲む後輩達。

 

志乃「すごい…!」

陽菜「お互いに合わせて技を出してるようでござるな」

白雪「流れを読める剣ちゃんだからできることなんだよ」

キンジ「それにしてはやりすぎだろ……ん?」

 

剣護と怜二が掃討している内の1体が窓を破って逃げ出した。

 

怜二「1体逃げたよ!」

剣護「チッ、キンジィ!」

阿部「そこのモーターボートを使え!」

キンジ「あぁ…行くぞ!アリア!」

アリア「え"っ⁉︎」

 

キンジは近くのモーターボートに飛び乗るが、アリアが水が怖いのか固まってしまう。

 

アリア「せ、せめてライフジャケット……」

キンジ「そんな時間はない!」

アリア「うきゃぁ!」

 

キンジはアリアを引っ張って乗せ、引っ張られたアリアはキンジにひしっと抱きつく。

 

剣護「Foo↑お熱いね…っとウラァ!」

怜二「やりますねぇ!……ってオラァ!」

キンジ「攻撃しながら茶化すな!」

アリア「き、キンジッ、だめ、だめ、あ、あたしッ…!」

キンジ「ちょ、おまッ………ッ!」

 

ドクンッ!と脈打つように体の芯が熱くなり、キンジは成っていく………ヒステリアモードへと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、新手が入り口を破壊しながら襲撃してきた。

 

ライカ「剣護先輩!」

剣護「えっ」

 

剣護が振り向くと横薙ぎに振るわれた大剣が迫ってくる。

 

剣護(いなしは間に合わない…ガード!)

 

剣護「富嶽返し!」

 

剣護は咄嗟に刀の柄で防ぐが、勢いが殺しきれず上にかち上げて弾く。

相手の方を見ると、見た目はジャッカル男達と変わりはないが身長が3メートルよりちょっと下くらいでキンジや剣護を余裕で超えるほどのデカさだ。右手には武骨な大剣、左手には両刃の斧を持っている。

どちらの武器も重量が重く、破壊力が高い武器であり、一撃でも喰らえばひとたまりもないだろう。

 

剣護「ふうっ……」

キンジ「剣護、そっちは任せるよ」

剣護「おう、そっちもヘマすんなよ」

怜二「気をつけてね」

アリア「行くわよ!キンジ!」

 

キンジとアリアはモーターボートを走らせ逃げたジャッカル男を追っていく。

 

剣護「………さてと、阿部ぇ!」

阿部「ん?」

剣護「みんなを頼む!それとオーナーにここの修理と弁償は蔵王重工がやるって伝えといてくれ!」

阿部「あぁ、任しときな!大将!」

 

剣護の頼みにサムズアップで返す阿部。

 

剣護「……さてと」

怜二「これは流石に本気出さないとだね。剣護(・・)

剣護「だな。いっちょやってやるか!」

 

「グルアアアアアアアア‼︎」

 

雄叫びを上げて威嚇してくるジャッカル男に剣護と怜二は刀を構えると相手目掛けて駆け出す。

 

剣・怜『行くぞおおおおおおおお!!!!』

 

 

 

 

 




後から気づいたことですが、この『オタク剣士が武偵校で剣技を舞う!』もとうとう投稿数が50話になりました。
これからも更新は遅いでしょうがよろしくお願いします。


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第46話 VSジャッカル男

卒論と試験で忙しくて執筆すらできんかったですはい。


 

 

 

剣・怜『おおおおおおおおおおおお!!!!』

 

ジャッカル男に向かって疾走する剣護と怜二。

ジャッカル男は向かってくる2人に大剣を横向きに薙ぎ払う。

 

剣・怜『ハッ!』

 

横薙ぎに振るわれた大剣を剣護はジャンプで、怜二はスライディングで避けて、同時に斬りつける。

 

「グルル………」

 

剣護「チッ、大して効いちゃいねえか」

怜二「なるべく早く終わらせたいところだけどね」

 

そうこう話してるうちにジャッカル男は斧を振り下ろしてくる。

 

剣護「うおっ!」

怜二「っ!」

 

2人は左右に跳んで避けて、振り下ろされた斧はその場にあったスロットマシンを粉々に破壊した。

 

怜二「あんな重くてゴツい武器を振り回すとか…エゲツない腕力だね」

剣護「怜二!武器はなんとかするから奴の視界を潰してくれ!」

怜二「了解!」

 

剣護は氷花を抜くとジャッカル男目掛けて疾走し、その後ろに怜二が並ぶ。

 

剣護「月島流!富嶽双連斬!」

 

剣護は武器を持っている両腕を二刀の連撃で切り裂き攻撃を封じると、その背中を怜二が踏み台にして飛び上がる。

 

怜二「柳生新陰流!明月之風!」

 

飛び上がると素早く左右に顔を斬りつける。

ジャッカル男が怯むと今度は剣護が前に出る。

 

剣護「月島流!富嶽巌砕突き!!!」

 

螺旋状の斬撃と共に放たれた強力な突きがジャッカル男をカジノの端まで吹っ飛ばした。

 

剣護「ふぅ………」

怜二「……終わったかな」

剣護「はぁ……キンジの方はどうなった?」

 

その時、銃声がカジノ内に響き渡る。

振り返るとレキが狙撃したらしく、スコープで向こうの様子を見ている。

 

剣護「どうした?レキ」

レキ「アリアさんが撃たれました」

怜二「何だって⁉︎」

レキ「それとキンジさんが誰かと交戦に入ります」

剣護「見せてくれ」

 

スコープを覗くと船の上にキンジと金一が対峙しているのが見えた。

 

剣護「キンジ……!」

白雪「剣ちゃん!あれ!」

剣護「え?」

 

白雪がジャッカル男が吹き飛ばされた方を指差して、そちらを向くと倒したと思っていたジャッカル男が起き上がっていた。

 

「ガゥアアアアア‼︎」

剣護「やべっ⁉︎」

 

ジャッカル男は左手に持っていた斧を振りかぶるとこちらに向かって投げてきた。

咄嗟に剣護は刀を横薙ぎに振るって斧を弾き飛ばす。

 

「ガルアアアアア‼︎」

剣護「ぐおっ!」

 

弾いた後の隙を逃さずジャッカル男は大剣を薙ぎ払い、剣護はそれを防ぐがそのまま二階まで吹っ飛ばされてしまった。

 

怜二「剣護!」

「グオオオオ!」

怜二「い"っ⁉︎」

 

ジャッカル男は今度は怜二の腕を掴むと凄まじい腕力で投げ飛ばし、怜二は受付の方に突っ込んでしまう。

 

あかり「柳生先輩!」

阿部「おいおいマジか」

レキ「フッ!」

白雪「ハッ!」

 

レキがドラグノフでジャッカル男の頭を撃ち抜き、白雪が火球を放つがイマイチ効果が薄い。

 

「ガルルル……」

レキ「牽制にもなりませんか……」

白雪「イロカネアヤメさえあれば…」

阿部「オラァ!」

 

阿部が飛びかかり、飛び後ろ回し蹴りをジャッカル男の鼻っ柱に叩き込む。

少しは効いたのか怯んで後ずさっている。

 

「グルルルル………」

風魔「これならどうでござる!」

『ちょっ⁉︎』

 

風魔がバチバチと火花を散らしてる爆弾を投げつけ、ジャッカル男に命中すると爆発し、周りを爆炎と煙で包み込む。

 

ライカ「投げるなら言えよ!」

陽菜「も、申し訳ないでござる…しかし流石にこれなら彼奴も…」

麒麟「あ、アレ見てくださいですの!」

 

麒麟が煙の中を指差し、見ると煙の中からジャッカル男がほぼ無傷で立っていた。

持っている大剣から煙が上がっているのを見るからに、爆発を大剣を盾にして防いだらしい。

 

陽菜「そ、そんな……」

レキ「それなりに知能があるのでしょうか?」

阿部「ちと部が悪いかな」

あかり「ど、どうしよう……」

 

怜二「それならもう一度……」

剣護「俺達と交代だ!」

 

怜二が受付から乗り越えてきて、剣護が二階から降りてきた。

 

白雪「剣ちゃん!」

志乃「柳生先輩!」

 

2人は並ぶとジャッカル男と対峙する。

 

怜二「正真正銘、全力で行くよ」

剣護「あぁ。出し惜しみは無しだ‼︎」

 

怜二は刀を2本抜き、剣護は常世の神子に変化する。

 

「グルアアア‼︎」

 

ジャッカル男は斧を拾い上げると大剣と斧をを構えて2人に襲いかかる。

 

剣護「月島流!」

怜二「柳生新陰流!」

 

剣護と怜二もジャッカル男目掛けて疾走する。

 

剣護「富嶽荒波打ち!」

怜二「花車!」

 

剣護が波を打つような斬撃を繰り出して足を斬りつけ、振り下ろされる大剣に対して怜二がカウンターの突きを放ち迎撃する。

 

「ガアアアア‼︎」

 

怯みつつもすぐに体勢を立て直して大剣と斧を振り回してくる。

 

剣護「おおおおお!」

怜二「はあっ!」

 

しかし、取り乱すことなく剣護は縦横無尽に飛び回って刀を振るい切り裂いていき、怜二も相手の攻撃を避け的確にカウンターを決めていく。

 

剣護「せいはぁ‼︎」

怜二「決めるよ‼︎柳生新陰流、奥義の太刀!!!」

 

剣護が斬り抜けたところで、怜二は二刀を構えた。

 

怜二「無二乱剣・二刀!!!!」

 

二刀を一気に振るいジャッカル男の全身の至る所を斬りつけた。

それでも倒れないジャッカル男に少し眉を寄せるが動じることなく刀を納める怜二。

 

怜二「んー…流石に倒せるかなとは思ってたんだけどねぇ…」

「グルルルル………!」

怜二「ま、いいけどね。ラストは任せたよ!」

 

剣護「あぁ…任された‼︎」

 

ジャッカル男の後ろで、剣護は刀を床に刺しておくと右足に霊力を収束させていく。

 

「グルオアアアアアアアア‼︎」

 

脅威と見たのかジャッカル男は剣護目掛けて疾走し襲いかかる。

 

剣護「ハッ!」

 

ジャッカル男が駆け出したと同時に剣護もその場で高くジャンプする。

 

 

剣護「流星烈光弾!!!!!」

 

 

向かってくるジャッカル男目掛けてエネルギーを纏った飛び蹴りを放つ剣護。

急には止まれなかったジャッカル男は顔面にキックを受け、吹っ飛び壁に叩きつけられ爆発した。

 

剣護「……ふう」

怜二「やっと倒せたね」

剣護「あぁ…キンジのとこに急ごう」

ライカ「あの……先輩…」

剣護「あん?どしたね」

レキ「お代わり来てます」

剣・怜『……………………ゑ?』

 

大物を倒したかと思えば、なんと同じ大きさの奴が2体、小さい取り巻きが8体ほど追加で現れた。

 

怜二「ウソダドンドコドーン!!!」

剣護「あぁぁぁぁぁもうやだあぁぁぁぁぁ!!!!!」

阿部「いかん、発狂しやがった」

 

片方はorz状態で嘆き、もう片方は発狂してその場でジタバタと暴れ始める。

 

白雪「ちょ、剣ちゃん!暴れないの!」

レキ「流石に私たちも敵の数を減らしていきましょう。小さい方ならいけるはずです」

志乃「そうですね…」

あかり「あ、あたしは装備的にちょっと…」

 

剣護「あー、スッとした」

怜二「さーて、切り替えますかー」

ライカ「めっちゃ気が抜けてるじゃないですか」

剣護「まあまあ、こっからまた本気出すから……」

 

ジャッカル男達は雄叫びを上げると剣護たちに襲いかかり、迎え撃つべく剣護たちも駆け出す。

 

 

『グルォアァァァァァ‼︎』

 

阿部「フンッ‼︎」

ライカ「ラァッ‼︎」

 

阿部が体当たりで体勢を崩すと、追撃でライカのドロップキックが相手を吹っ飛ばす。

 

「グル……⁉︎」

怜二「斬ッ!」

 

さらに上からの怜二の上段斬りがジャッカル男を両断し、砂鉄となって崩れていく。

 

 

 

 

 

白雪「フー………」

 

白雪は剣護から渡された十六夜を正眼に構え、目の前の相手を見据える。

 

「グルァ!」

白雪「ッ……ハッ!」

 

飛びかかってくるジャッカル男を横に避けると白雪はガラ空きの背中を一閃し、斬り捨てる。ジャッカル男は膝からゆっくりと砂鉄になりながら崩れていった。

 

 

 

 

 

「ガルァア‼︎」

志乃「ハアアアアア‼︎」

 

相手の二刀による剣撃と志乃の高速斬撃が激しくぶつかり合う。

 

志乃「ッ……やっぱり正面からの斬り合いは悪手ですね…なら」

 

斬り結んでから距離を取ると、すぐに距離を詰めてきたジャッカル男に対して志乃は居合の構えを取った。

 

志乃「燕返し!」

 

相手が振り下ろされる瞬間に、一撃目で腹を斬ると共に脇を通り抜き、返しの太刀で背中に二撃目を叩き込むと、ジャッカル男は砂鉄になって崩れた。

 

 

 

 

 

「グルォア‼︎」

あかり「うわっと!」

 

素早い動きで次々と繰り出されるジャッカル男の爪撃を、あかりは一撃一撃をしっかり避けていく。

 

あかり「くぅ……!ナイフじゃ無理だし、UZIも…あ、アレなら…!」

 

爪撃を避けつつ、あかりはUZIを構えて反撃の隙を伺う。

 

あかり「人じゃないなら遠慮なく使っても問題ないよね!」

 

大振りの攻撃を避けると少し距離を取り、相手が振り返った瞬間に額・右目・左目・喉・心臓の急所5ヶ所を撃ち抜いた。撃ち抜かれたジャッカル男は砂鉄なって崩れていった。

 

 

 

 

 

剣護「イヤーッ!」

陽菜「イヤーッ!」

「グルアァァァァァァ!?」

 

一方で剣護と陽菜がジャッカル男の周りを駆け回りながら、スリケンもとい手裏剣を投げまくっていた。

 

剣・陽『イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!』

「グルアァァァ………」

 

次から次へと手裏剣がジャッカル男の身体に刺さっていき、終いには全身が手裏剣塗れになっていく。

 

剣護「イィィィィ……ヤァァァァァァ!!!」

 

トドメに剣護が脳天に踵落としを決めると共にジャッカル男は砂鉄になって潰れた。

 

 

 

 

 

レキ「私は1発の銃弾、銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない」

「ガルルル……」

レキ「ただ目標に向かって飛ぶだけ」

 

正確にジャッカル男の眉間を狙撃し砂鉄に還すと、今度はバーのカウンターに狙いを定めるレキ。

 

レキ「………そこ」

 

そこへ迷いなく発砲し、放たれた銃弾はカウンターに命中し跳弾、近くにいたジャッカル男の頭に命中し砂鉄に還した。

 

レキ「………私だけあっさりしてません?」

 

 

 

 

 

陽菜「リベンジでござる!」

阿部「行くぜぇ!」

「ガルルル!」

陽菜「ほいっ!」

阿部「シュートォ‼︎」

「ガゴッ⁉︎」

 

陽菜が投げた爆弾を阿部がジャッカル男目掛けて蹴り飛ばし、見事にジャッカル男の口に嵌まり木っ端微塵に吹っ飛んだ。

 

阿部「ゴォール!」

陽菜「でござる!」

 

 

 

 

 

「ガルゥアァァ‼︎」

怜二「小型はこいつでラスト!」

白雪「いくよ!」

志乃「はい!」

 

3人はジャッカル男を囲むように別れると志乃から順に駆け出す。

 

志乃「三!」

白雪「枚!」

怜二「下ろし!」

 

3人で脚・胴・首と連続で斬り抜ける。4等分になりながらジャッカル男は砂鉄になって崩れていった。

 

ライカ「……4等分じゃん」

怜二「ラスト2体ぃ‼︎」

ライカ「変な誤魔化し方しないでください⁉︎」

 

 

 

 

 

『グルルルル………』

剣護「…………フーッ…」

 

剣護が対峙するジャッカル男たちはそれぞれ大剣と大斧持っている。

 

白雪「剣ちゃん!」

 

白雪が貸りていた十六夜を投げ渡し、剣護はそれを受け取ると氷花を抜刀し、二刀の構えを取る。

 

『ガアアアァァァァァ‼︎』

剣護「っしゃあぁぁらあぁぁぁぁ‼︎」

 

雄叫びを上げると剣護は相手目掛けて突っ込んで行った。

ジャッカル男たちが武器を振り下ろしてくるのを剣護は高速移動で避けると背後に周り斬撃を浴びせる。

 

剣護「フッ!ハッ!シッ!セアッ!」

 

さらに周りを高速移動で駆け回りながら刀を振るい光刃を飛ばして攻撃していく。ミシミシと悲鳴を上げ始める身体に少し顔をしかめつつも剣護は関係ないと言わんばかりに二刀を振るう。

 

「ガルァア!」

剣護「月島流!」

 

大剣の叩きつけをバックステップで避けると、刀身の上に乗りそのまま駆け上がってジャッカル男を踏みつけて飛んだ。

 

剣護「富嶽鉄槌割り・砕撃!!!」

 

上から落下の勢いを乗せた振り下ろしでジャッカル男を粉砕して、周囲に砂鉄が飛び散る。

一呼吸おかないうちに、今度は正面から薙ぎ払われた大斧をブリッジで回避する。

 

剣護「あっぶ…⁉︎」

怜二「ワザマエ!」

陽菜「ゴウランガ!」

 

「ガルァアアア!」

剣護「富嶽…巌砕……突きぃ‼︎」

 

再度薙ぎ払われた大斧を剣護は回避ではなく正面から突きで迎え撃った。ゴギャァァァン‼︎と凄まじい金属音を響かせながら弾き飛ばし、弾かれたジャッカル男は大きく体勢を崩す。

 

剣護「月島流…秘技!」

 

二刀を握りしめ相手との間合を詰めると剣護は床を踏み砕かんばかりに踏み込み、技を放つ。

 

剣護「富嶽八重斬り‼︎」

 

二刀による高速斬撃により木っ端微塵に切り裂かれたジャッカル男は砂鉄になって崩れていった。

変化を解除すると剣護はその場で大の字になって仰向けに倒れる。

 

剣護「あー……ダメだ。もう動けん」

 

1年達『うっわぁ……』

阿部「おいおいおい…勘弁してくれよ。床ぶっ壊れてんじゃねえか…」

レキ「この中で剣護さんが1番ぶっ壊してますよね」

怜二「確かに。このメンバーの中で剣ちゃんが攻撃力とか範囲とかトップクラスだもんね」

白雪「そ、それよりキンちゃんはどうなったの⁉︎」

レキ「今確認します」

 

レキは船の方を確認するとモーターボートがこちらに向かっているのが視認できた。

 

レキ「向こうも終わったようですね。合流しましょう」

白雪「キンちゃあああああぁぁぁぁぁ………」

阿部「星伽が爆走して行ったぞ」

怜二「サラマンダーよりずっとハエーイ」

剣護「俺らも行くぞお前ら!」

レキ「私たちに支えられながら言わないでください」

ライカ「説得力皆無じゃないですか」

剣護「ウイッス」

 

 

 



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第47話 兄の道、弟の道

 

 

 

時間は少し遡り、キンジとアリアは逃げたジャッカル男を追っていた。

相手が射程圏内に目測で確認して、

 

キンジ「その先は通行止めだ」

 

キンジはベレッタでジャッカルの踵に命中させた。

ジャッカル男は走っていた勢いで水面を滑るように倒れ、そのまま沈んでいった。

 

キンジ「ふぅ……それじゃあ戻ろうか。剣護達が気がかりだ」

 

キンジの話にアリアは言葉を返さずにブルブルと震えながらコクコクと小さく頷く。

カジノの方に向きを変え、モーターボートを走らせようとした時だった。

 

 

 

タァァー……ン………

 

 

 

遠雷のような銃声が波の音に紛れて聞こえた気がした。

 

アリア「キンジ……第2射に気をつけなさい」

キンジ「第2射?」

 

その時、キンジの肩を掴んでいる手の力が抜けたのを感じ振り返ると、アリアがぐらりと後ろに倒れていき海へと落ちていった。

 

キンジ「アリアッ⁉︎」

 

気づけば目の前には異様な船が浮かんでいた。

船の屋上にはおかっぱ頭の女性とジャッカル男が6体、そして遠山金一がカナの姿ではなく男の姿で立っていた。

 

金一「キンジ………残念だ。パトラごときに不覚を取るようでは、『第二の可能性』は無い」

キンジ「兄さんッ!分からねえよ!『第二の可能性』って何だ!何で、そんな…アリアを撃った奴の船に乗ってるんだ!」

金一「これは『太陽の船』。王のミイラを当時海辺にあったピラミッドまで運ぶのに用いた船を模したものだ。それでアリアを迎える……そういう計らいだろう?パトラ」

 

金一がそう海に向かって語りかけると、海から黄金の棺が海面に浮上してくる。

棺の中にはぐったりと動かないアリアが収まっていた。

さらに、その棺と棺にかぶせる同じく黄金の蓋を持った女が浮きも無しにエレベーターか何かで上がってくるかのように浮上してくる。

 

パトラ「気安く妾の名を呼ぶでない。トオヤマキンイチ」

 

パトラと呼ばれた金銀財宝でその身を飾った女は頭上で棺と蓋を合わせ船の方に投げ入れた。

 

パトラ「1.9タンイだったか?欲しかったものの代償、高くついたのう。小僧」

 

妖艶な笑みで話すパトラ。

 

パトラ「まあよい。そこのお前。ミイラにして柩送りにしてやろう。祝いの贄ぢゃ。ほほほ」

 

そう言ってパトラは手のひらをキンジに向けるがそれを金一が止める。

 

金一「それはルール違反だ。パトラ。俺が伝えた教授の言葉、忘れてはいないだろう」

パトラ「……気に入らんのう」

金一「お前がイ・ウーの頂点に立ちたいのは知っている。だが、今はまだ教授こそが頂点だ。リーダーの座を継承したいのなら、今はイ・ウーに従う必要がある」

パトラ「いやぢゃ!妾は殺したいときに殺す!贄がのうては面白うない!」

金一「ルールを守るんだ。パトラ」

パトラ「うるさい!妾を侮辱するか!今のお前なぞひとひねりにできるのぢゃぞ!」

金一「たしかにそうだな。ピラミッドの側でお前と戦うのは懸命とは言えない」

パトラ「そうぢゃ!あの神殿型の建物がある限り、妾の力は無限大ぢゃ!だから殺させろ!そうでないとお前を柩送りにするぞ!それでもいいと云うか⁉︎」

 

激高しながら叫ぶパトラを金一はスッと距離を詰めるとパトラの顎を上げ、キスをした。

突然の兄の行動にキンジは目を見開いた。

 

金一「……赦せ。あれは俺の弟だ」

 

キンジ(ヒステリアモードになった…だと…⁉︎)

 

さらに先程の行動で金一の雰囲気が変化したことをキンジは気づかずにはいられなかった。

普段、金一はカナになることでヒステリアモードになるが異性との接触でなるところは初めて見た。

 

パトラ「ト、トオヤマ、キンイチ…妾を使ったな?好いてもおらぬクセに…!」

金一「悲しいことを言うな。打算でこんな事ができるほど、俺は器用じゃない」

パトラ「な、なんにせよ、妾はそのお前とは戦いとうない。勝てるは勝てるが、妾も無傷では済まないぢゃろうからな。今は大事な時ぢゃ。手傷は負いとうない」

 

そう言うとパトラは逃げるように海へ飛び込んでしまった。アリアが収められた黄金柩もジャッカル男たちが担いで行ってしまった。

キンジは後を追おうとするが……

 

金一「止まれ!」

キンジ「っ!」

 

金一の怒声にキンジは金縛りを受けたかのように制止させられる。

 

金一「『緋弾のアリア』か……はかない夢だったな」

キンジ「緋弾の……アリア…?」

 

キンジは金一を睨みつける。

 

キンジ「兄さん……俺を騙したな!あんた、アリアを殺すのはやめたって言ってただろ!」

金一「俺は殺していない。ただ看過しただけだ」

キンジ「詭弁だろそんなの!あんたが助けてくれれば…アリアは…!」

金一「まだ死んでいない」

 

そう言うと、金一はガラス玉の中に収められた砂時計を取り出した。

 

金一「あれはパトラによる呪弾。今から24時間は生きている。パトラはその間にイ・ウーのリーダーと交渉するつもりだ。それまではアリアを生かしておくだろう。だが、それまでだ。交渉がどう転ぼうと、『第二の可能性』は無い。無いなら……アリアは死ぬべきだ」

キンジ「兄さんは…アリアを見捨てるってのか……!イ・ウーで…あの無法者の超人どもに、何をされたんだ!」

金一「そう……イ・ウーは真に無法。世界のいかなる法も無意味とし、内部にも一切の法規が無い。だからイ・ウーのメンバーは好きなだけ強くなり、自らの目的を好きな形で、どんな手段を使ってでも実現して構わない。例え殺しても、また構わないのだ」

キンジ「どんな手段でも……」

金一「そんな無法者たちを束ね続けてきたのが教授……イ・ウーのリーダーだ。だがそのリーダーは間もなく死ぬ。病でも傷でもなく、寿命でな。そこで研鑽派(ダイオ)と呼ばれる一派の奴らは次期リーダーを探し始めた。教授と同じ絶対無敵の存在になり、無法者たちを束ねられる者をな」

キンジ「それに選ばれたのが……」

金一「そう……アリアだ。俺は奴らを斃す道を探した。そして見出したのが……同士討ち(フォーリング・アウト)

キンジ「同士討ち………」

 

同士討ち(フォーリング・アウト)

 

武偵が強大な犯罪組織と戦う時に、内部分裂を起こさせ、敵同士を戦わせて弱体化させる手法。

金一はその手法を『第一の可能性』としていたのだ。

 

金一「そして『第二の可能性』とはイ・ウーのリーダー……教授を倒すこと。お前たちならもしや…と思い、それにもう一度賭けた。だが、俺はその賭けに負けたようだ」

キンジ「……………」

金一「パトラに遅れをとるようでは、『第二の可能性』はない。それならば…俺は『第一の可能性』に戻るまでだ」

キンジ「………殺すのか、アリアを。武偵のくせに……人殺して事を収めるのかよ…!」

金一「俺は武偵である以前に、遠山家の男だ。遠山一族は義の一族。巨悪を討つためなら、人の死を看過する事を厭ってはならない。覚えておけ」

キンジ「………っ!」

 

兄は巨悪を討つためにアリアを殺そうとしている。

今、キンジは決断を迫られていた。

 

 

兄に従い、アリアが死のうと遠山一族として義を守る、正義の道。

 

義だろうが悪だろうが、問答無用でアリアを助け、守る道。

 

しかし、悩むことすらせず、決断はすぐに出た。というよりは一つしか無かった。

 

 

 

キンジ「………………けんな」

 

 

 

金一「何?」

 

チリチリと腹から胸、全体へと身体が熱を帯びていく。大きく息を吸い、腹の底から力の限り吠える。

 

キンジ「ふざっけんなああああああああああああああ!!!!!」

金一「ぐっ⁉︎」

 

海面が揺れ、ビリビリと空気が震える。金一が思わず耳を塞ぐほどの怒号をあげると、キンジは水上バイクから跳び、船体が軽くへこむほどの力でナイフを突き刺し、甲板へとよじ登った。

 

キンジ「兄さん…あんた分かってんだろ。何だかんだ言って自分が間違ってる事‼︎あんたは自分を誤魔化してるだけだ‼︎正義を謳うなら…誰も殺さず、死なせず、誰もを助けるべきだろ‼︎それが武偵だ‼︎」

金一「……キンジ。それは俺も百万回考え、百万回悩んだことなのだ」

キンジ「それなら答えが出るまで百万回でも、百万一回でも、何度でも考えて抜いて、悩みまくって、探し尽くせば良いだけだ!あんたはただ考えただけで終わってんだ!」

金一「っ……!」

キンジ「犠牲のある方法で世界が守られて……いいわけあるか‼︎」

金一「キンジ……たった1人の兄に逆らうつもりか」

キンジ「あんたを兄さんとは思わねえ……俺はあんたを…殺人未遂罪の容疑で、逮捕する!」

 

キンジはベレッタをホルスターから抜くとその銃口を金一に向ける。

 

金一「…そのHSSはアリアでなったものだな」

キンジ「ああ」

金一「ならば見せてみろ。お前の覚悟。お前の想いを」

 

金一は銃を抜かずに構える。

次の瞬間、光の一閃と銃声と共にキンジの胸の中央に痛みが走る。

 

金一「……なぜ避けなかった」

キンジ「わざと喰らったんだ………それくらい分かれ…」

 

口の端から一筋の血を流しながら、ニィッと笑う。

 

キンジ「見えたぜ……不可視の銃弾(インヴィジビレ)…!その正体!」

 

キンジがそう言うと金一は僅かに目を見開いた。

 

キンジ「ピースメーカーは早撃ちに適した銃だ。それをヒステリアモードの人を遥かに凌駕した反射神経で抜いて撃つ。それがその技の、カラクリだ」

金一「……さすがだな。だが、見抜いたからといって不可視の銃弾を防ぐ術はお前には無い。剣護(アイツ)ならやりそうだが」

キンジ「……無ければ作れば良いだけさ…」

 

金一の言葉に対し、キンジが取ったのは兄と同じ、無形の構え。

 

金一「浅はかな………俺と同じ技を使うつもりか。お前の銃は自動式。早撃ちには不向きだ」

キンジ「そうかな、やってみなきゃわかんねえだろ」

金一「そうか……やはり兄より優れた弟など、いない」

 

瞬間、ヒステリアモードの目に全てがスローモーションで見え始める。

キンジは金一と全く同じ動きでベレッタを振るう。ほぼ同時だがキンジの方が遅れて発砲する。不具合で2発しか出ない3点バーストで。

金一の不可視の銃弾で放たれた銃弾は、再びキンジの胸の中央へと飛んでいく。しかし、その銃弾は遅れて出たベレッタの銃弾に真正面から跳ね返され、ピースメーカーの銃口へと飛び込んでいく。

相手の銃口へと銃弾を跳ね返す新たな技、その名も

 

 

キンジ(鏡撃ち(ミラー)ってところか)

 

 

ベレッタの方に戻ってくる1発目に跳ね返した銃弾を2発目の銃弾が更に斜めに弾く。

バガンッ!と跳ね返された銃弾が金一のピースメーカーを破壊した。

 

金一「馬鹿な……」

キンジ「オオオオオオオオ!!!」

金一「っ⁉︎」

 

金一がキンジの方へ向き直ると、キンジの全身から赤い炎ようなものが溢れている。キンジは、金一を一睨みするとその場で飛び上がる。

 

キンジ「これが…俺の覚悟だ‼︎兄さん‼︎」

 

赤いオーラを纏い、怒りと共に強力な飛び後ろ蹴りを見舞うキンジの新たな必殺技。

 

キンジ「レイジングドライブ!!!!!」

 

放った蹴りは金一の顔面に直撃し、崩壊し始めた甲板を砕いた。

 

 

 

 

 

 

キンジ「はあっ……はあっ……」

金一「ぐっ……強くなったな…キンジ……」

キンジ「ごめん…兄さん……」

金一「良いさ……お前の覚悟と想い、痛いほど伝わったさ。というかめっちゃ痛え」

キンジ「マジでごめん……」

金一「まあ良いさ。お前なら……いや、お前たちなら『第二の可能性』を成し遂げられるかもな」

キンジ「兄さん……」

金一「仲間のところへ戻れ、キンジ。もうこの船は砂へと還る」

キンジ「ああ……」

 

そう言ってキンジは水上バイクに乗るとアクセルを吹かす。

 

金一「あぁ、そうだ。剣護のやつに1つ言っておいてくれ」

キンジ「剣護に?」

金一「忘れ物はお前にやるってな」

キンジ「あぁ、そういう……わかったよ」

 

 

金一「………やれやれ、とんだ馬鹿に育ったもんだな。父さんと剣護の影響なのかねぇ…」

 

 

水上バイクで行ってしまったキンジを見送る金一の表情はどこか晴れやかだった。

 

 

 



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第48話 敵の元へ

 

 

カジノでの騒動の後、剣護達と合流したキンジは車輌科のドックに来た。そのドックの第7ブリッジと書かれた所には武藤が油まみれの顔で何かを整備していた。

 

武藤「よう!来たか」

剣護「何これ?ミサイル?」

 

剣護が尋ねると後ろからジャンヌと理子が現れた。

 

ジャンヌ「それは『オルクス』。私が武偵高への潜入用に使った潜航艇だ。元は3人乗りだが今回の改造で部品が増えて2人乗りになっている」

キンジ「こいつで行くってことか……アリアの居場所は?」

理子「ちゃーんと調べてあるよ」

剣護「……この前の祭りで来なかった理由はその眼帯か」

 

剣護が言ったように、理子の右目には眼帯がされていた。

 

理子「うん、パトラのスカラベでね」

ジャンヌ「私の足にしてもそうだ。今思えばもっと早く気づくべきだった」

キンジ「祭りの時、アリアの浴衣の中に入ったのも……」

白雪「おそらく同じものだと思う」

剣護「なるほどねぇ……」

キンジ「それで武藤は…聞いたのか、俺たちの…その……」

武藤「……聞きゃあしねえよ。ま、ここ数ヶ月、お前らが危ねえ橋を渡ってたって事ぐらいは分かってたけどな」

 

するとその後ろの潜航艇のハッチから不知火が出てきた。

 

不知火「みんな薄々分かってたよ。武偵だもん。それに危ない橋の1つや2つ、みんな渡ってるからね。それにやっと手伝える時が来て、少し嬉しいしね」

キンジ「お前ら…………ありがとう」

武藤「気にすんなって!俺ら長い付き合いじゃねえか!」

不知火「もちろん行くのは、遠山君と月島君だよね?」

剣護「ま、そうなるな」

 

 

 

装備を整え、キンジと剣護は潜航艇に乗り込む。すると白雪が剣護に声をかけてくる。

 

白雪「剣ちゃん……ちょっといい?」

剣護「どうした?」

白雪「あの………………」

剣護「……もしかして護衛任務の時の占いか?」

白雪「うん……あの後何回か占ったんだけど…撃たれるってことだけは変わらなかったの…」

剣護「まあ撃たれたとしてもそれでくたばる俺じゃねえさね」

白雪「でも…どうしても嫌な予感が抜けなくて…」

剣護「うーん…一応用心はしておくよ」

白雪「気をつけてね……」

ジャンヌ「ではハッチを閉めるぞ。武運を祈る」

 

自動でハッチが閉まると2人を乗せた潜航艇は第7ドックから魚雷のような速さで出航した。

 

 

 

 

 

 

 

 

太平洋を北東へと進んで10時間後、潜航艇のディスプレイに目的の場所が表示された。

 

キンジ「着いたな……あれは…アンベリール号か……」

剣護「スヤァ……」

キンジ「おい、着いたぞ。はよ起きろや。てかよく寝られるなお前」

剣護「んあ?着いた?」

キンジ「あぁ、乗り込むから準備しろ」

剣護「あいあい。てかなんだよあのデケェピラミッドは」

キンジ「ジャンヌが言ってたが、あれがパトラの能力の源だと」

剣護「てことはあれぶっ壊せば無力化できるってか」

キンジ「爆撃機でもないと無理だろな」

剣護「………いや、一応壊せなくもない。てか確実に吹っ飛ばせる」

キンジ「マジ?」

剣護「でもやったら船沈みかねんよ?」

キンジ「じゃあやめとこう。うん」

 

 

 

 

 

アンベリール号に乗り込むと、神殿のような内部を進んでいく。

 

剣護「なんか内部全体から妙なものを感じるな。これが魔力か」

キンジ「これ全部パトラの魔力でできてんのか」

 

迷路のような通路を進み、ピラミッドを上っていく2人。ピラミッド上り詰めたところで巨大な扉が2人の前に現れた。

 

キンジ「この先にいるっぽいな」

剣護「そだな。それじゃあ……」

キンジ「あぁ………」

 

金・剣『おっじゃまっしまああああああああす!!!』

 

2人同時に扉を思い切り蹴り開けるとバギャアッと壊れる音が響くと共に扉は前に倒れていった。

 

パトラ「ちょおおお⁉︎何扉ぶっ壊してくれてるのじゃお主ら⁉︎」

キンジ「アリアを返してもらうぞ!」

剣護「カチコミじゃゴルルァ‼︎」

パトラ「ヤクザか⁉︎ま、まあよい。なにゆえ、聖なる『王の間』に入れてやったか分かるか?極東の愚民ども」

剣護「そっちが入れる前に扉蹴り壊されてるけどな」

パトラ「やかましいわ!…コホン、けちをつけられたくないのぢゃ。妾はイ・ウーの連中に妬まれておるでの。ブラドを呪い倒したにもかかわらず、奴らは妾の力を認めなんだ」

剣護「そりゃそうだろ。倒したの俺だし。なんならブラドにやったことまんまアンタにかましてやろうか?実際にビルの上から落ちながら」

キンジ「やめろよ?相手は人間だぞ?あの時のアレはブラドだからアレで済んだんだからな?やめろよ?」

パトラ「お主、一体どんな倒し方したのぢゃ……」

 

フンスと前に出て胸を張る剣護とそれを宥めるキンジの様子を見て、パトラは引きつった表情を浮かべる。

 

パトラ「おっと話を戻すぞ。奴らはブラドはこのアリアが、仲間と共に倒したものだ、などと云いおる。群れるなど、弱い生き物の習性ぢゃというのにの。ともあれ、そのアリアを仲間ごと倒してやれば……奴らの溜飲も下がろう」

 

そう言ったパトラが水晶玉を投げると、ガチャンとアリアの入った黄金柩にぶつかって割れた。

 

パトラ「イ・ウーの次の王はアリアではない。妾ぢゃ!『教授』も、妾がアリアの一味を斃し、アリアの命を握って話せば、王位を譲るに違いないぢゃろ」

金・剣『…はぁ………』

 

そう言ってハイヒールのサンダルをカツンッと鳴らし、仁王立ちするパトラに、キンジと剣護の2人は大きく溜息をつき、こう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

金・剣『あ ほ く さ』

 

 

 

 

 

パトラ「んなっ⁉︎」

剣護「しょーもねーことをダラダラダラダラ聞いてりゃあよぉ…そりゃこんな言葉吐きたくもなるわ」

キンジ「そんなことのために…アリアを、俺のパートナーを殺されてたまるかってんだよ」

剣護「彼女の間違いでは」

キンジ「ちげーよおバカ」

パトラ「ええい!これだから男はキライぢゃ!特にトオヤマキンジ、お前はトオヤマキンイチに似ておる」

キンジ「しょうがねえだろ、兄弟なんだから」

パトラ「ぢゃからお前は今、ここで殺す」

 

すると王の間の黄金が全て砂金へと変わっていく。剣護はキンジの前に立ち臨戦態勢に入る。

 

剣護「あいつは任せろ。お前はアリアのとこに行け」

キンジ「……頼む!」

剣護「走れ‼︎」

 

剣護がパトラに突っ込んでいくと同時に、キンジもアリアの方へ駆け出す。パトラの手には星伽から盗んできたであろうイロカネアヤメが握られている。

 

パトラ「ほほほ、良いな。少し遊んでやろう」

剣護「遊べるもんなら遊んでみな!」

 

十六夜を振るい、パトラと斬り結ぶ剣護。力の差は圧倒的でパトラの方がいとも簡単に弾き飛ばされる。

 

パトラ「ぐぅ⁉︎な、なんて馬鹿力ぢゃ……」

剣護「月島流、富嶽峰斬り!」

パトラ「ごふっ⁉︎」

 

弾き飛ばした隙に峰打ちを叩き込む。すると峰打ちを受けたパトラはサラサラと砂金になって崩れた。

 

剣護「偽物?」

パトラ「ほほほ、惜しかったのぅ」

剣護「っ⁉︎」

 

瞬間、砂金が剣護の手足に纏わりついて拘束し、崩れた砂金からパトラがイロカネアヤメを拾い上げながら現れる。

 

剣護「ちょ、全然動けな…⁉︎」

パトラ「残念ぢゃが……終いぢゃ」

 

 

ザシュッと、パトラは拘束を振り解こうともがく剣護の胸に深々とイロカネアヤメを突き刺し、貫いた。

 

剣護「がっ……あっ……」

キンジ「けんっ……⁉︎」

 

貫かれた剣護にキンジは思わず叫びそうになる。

しかし、次の瞬間ボフンッと剣護は煙となって消えると貫いたはずの身体が丸太に変わっていた。

 

パトラ「なっ⁉︎」

剣護「残念だったな、変わり身だよ」

 

柱の裏から本物の剣護がパキポキと拳を鳴らしながら現れた。

 

剣護「アヌビスを砂で作ってるあたりからそんな方法取ってくるのはお見通しなんだよ」

 

そう言いながら剣護は、腰を低く落とし、右拳を地面に叩きつける。

 

剣護「王とか言ってる割に裏の裏をかかれるなんざ、馬鹿な王だな」

パトラ「馬鹿………?王である妾のことを馬鹿じゃと…?」

剣護「あぁ、馬鹿だよオメーは…自分のことを王とか言ってる時点でな」

 

パトラの足元の砂金が何本ものナイフに変え、宙に浮く。

それに対して剣護はパキパキと音をたてながら髪を変化させていく。

 

パトラ「黙れ‼︎妾は王ぢゃ!いずれはこの世の女王になる存在ぢゃ!お主のその言葉、ファラオへと冒涜と知れ!」

 

パトラが叫ぶと無数のナイフが剣護めがけて飛びかかる。しかしナイフが当たる寸前、剣護の姿が消える。

 

パトラ「なっ、消え…⁉︎」

剣護「シャオラァ!」

パトラ「いっづあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"⁉︎」

 

全力の平手打ちがパトラの背中に叩き込まれ、凄まじい破裂音を響かせる。あまりの痛みにイロカネアヤメをその場に落としてパトラは転がり回る。その背中にはハッキリと手形が残っている。

 

パトラ「あ"あ"あ"あ"あ"……‼︎」

剣護「ほい、回収っと」

 

ジタバタと悶えるパトラを他所に、剣護は盗まれたイロカネアヤメを拾うと納刀し、腰に差す。

 

キンジ(見てるだけでめっちゃ痛々しいな…でも今のうちなら…!)

 

キンジはアリアの元へと走る。しかし、アリアの入った黄金柩の上のスフィンクスが行手を阻むように動き出した。

 

キンジ「こ、こいつ…動くのか⁉︎」

パトラ「っ……させぬ!」

剣護「そのまま走れ、キンジ」

キンジ「無理に決まってんだろ⁉︎」

剣護「じゃあ横に避けろ」

 

剣護は十六夜とイロカネアヤメを引き絞るように構え、弾丸の如く飛び出した。

 

パトラ「させぬと言ってるであろう!」

 

それを阻むように砂の盾が3枚出現するが、剣護は構わずスフィンクスへと突進する。

 

剣護「月島流…富嶽巌砕突き・双!!!」

 

2つの螺旋の衝撃波と共に二刀での突きが砂の盾をいとも容易く吹き飛ばし、スフィンクスを粉砕する。

 

パトラ「な…なんつー破壊力してるんぢゃ……⁉︎」

 

剣護「行け、キンジ!」

キンジ「っ!」

 

パトラ「っ!待て!」

 

砂金のナイフがキンジめがけて飛びかかるが、剣護が全て斬り伏せる。

 

剣護「逆転したな。パトラ」

パトラ「おのれぇ……!」

剣護「キンジを止めたけりゃ……俺を倒してからにしな‼︎」

パトラ「小僧がぁ……図に乗るでないわぁ‼︎」

 

砂金が大量のナイフ、腕へと姿を変えて剣護に襲いかかる。

剣護は焦ることなくナイフや腕を斬る、殴る、蹴る、避けるなど、次々と対処していく。

 

剣護「オラララララララララララァ‼︎」

パトラ「ええい!しぶとい奴め!」

剣護「お前もな!畜生、当たらん!」

パトラ「これなら、どうぢゃ!」

 

無数の砂金の腕が剣護の周りを取り囲み、一斉に襲いかかる。さらに足元の砂金が剣護の足に纏わりついて妨害する。

 

剣護「月島流……富嶽鉄槌割り!」

 

対して剣護は鉄槌割りで足元の砂金を吹き飛ばす。

 

剣護「月島流、富嶽八重斬り!」

 

さらに周囲に刀を振るい、幾重もの斬撃を全方位に繰り出し、砂金の腕を斬り飛ばす。

一呼吸置くのも束の間、体から上がる蒸気が上がっていき、今度は体が乾いていく感覚が剣護を襲う。

 

剣護「っ⁉︎……かっ……は……」

パトラ「油断したのう」

剣護「が……う………」

パトラ「所詮は人よの。神より力を授かりし妾には敵わぬのが道理。お前達が妾に逆らうなぞ無理だったのぢゃよ」

 

勝ち誇るように高笑いするパトラ。口が、喉が、眼さえも乾いていくも、剣護の怒気を含んだ眼光は全く衰えない。

 

「それじゃあ……もう少し無理させてもらおうかしら」

 

その時、銃声が響くと共にパトラがその場から下がった。

同時に剣護に頭から水がかけられ、乾いた体が一瞬で水を吸収していく。

 

パトラ「っ……お、お前は……キンイチ…いや…!」

金・剣『カナ!』

カナ「待たせたわね。2人とも」

 

 

 



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第49話 緋色の光

 

 

カナ「まずは剣護、はいこれ」

剣護「サンキュ」

 

2人の方へ振り返るとまず剣護に水が入った2リットルのペットボトルを渡す。受け取った剣護はそれを傾けてゴキュゴキュと一気に飲み干していく。

 

カナ「キンジ、私が渡した緋色のナイフは持っているわね?」

キンジ「あぁ」

カナ「あのナイフを持ったまま、アリアに口づけなさい」

キンジ「………………はい?」

カナ「キスの方が良かったかしら?」

キンジ「い、いやそういうことじゃなくて……」

カナ「パトラの相手は私達がするわ」

キンジ「……わかった。頼むぞ、カナ、剣護」

 

再びアリアの元へと走り出すキンジ。行かせまいとパトラが動くがその前にカナと剣護が立ち塞がる。

 

カナ「あなたの相手はこっちよ?パトラ」

パトラ「……カナ。トオヤマキンイチ。寄るでない。妾は、お、お前とは戦いとうない…」

剣護「なるほど。じゃあ俺が」

パトラ「お前もお前で嫌ぢゃ‼︎」

 

そう言いつつ、パトラは自分の周囲に大皿のような砂金の盾を6枚展開した。

 

カナ「それだけじゃないでしょう、パトラ。出せるだけ出してみなさい」

 

しかし、不可視の銃弾によって一瞬で6枚全て破壊されてしまう。

 

パトラ「お、お前なんか……大ッキライぢゃあーーー‼︎」

 

パトラは今度は黄金の鷹を8羽作り出した。作り出された鷹は四方八方から2人に襲いかかる。

 

カナ「8つか。もっといけるかと思ったんだけどな」

剣護「んー……技使うまでもねえや」

 

剣護は十六夜とイロカネアヤメを4回振るい、2羽ずつ鷹を斬り落とす。

 

パトラ「まだぢゃ!」

 

パトラはさらに鷹を一気に20羽ほど飛ばすが、何羽か片足が無かったり、頭が小さかったりと歪なものがあった。そのうちの1羽がカナの髪を結んでいた布を切った。

 

カナ「あら……まあ仕方ないか」

 

そう言うとカナは髪の中に隠していたものを組み立て始めた。ワイヤーか何かで繋がっているらしく、自動的に組み上がっていき、それが終わるとカナの手には大鎌が握られていた。

 

カナ「サソリの尾(スコルピオ)

 

パトラ「わ、妾はファラオぞ!お前達ごときに…お前達ごときに!」

 

大鎌の曲刃に一瞬戸惑ったパトラは、鷹の他に豹や蛇を砂金で作り出し、上下、空中からめちゃくちゃにけしかける。

 

カナ「剣護、合わせられる?」

剣護「おうよ。むしろ連携は得意だぜ」

カナ「それは頼もしいわね」

 

カナは大鎌をバトンを扱うように回転させていき、それに合わせて剣護も技を繰り出していく。

 

カナ「この桜吹雪、散らせるものなら……」

剣護「月島流……」

 

カナ「散らせてみなさい!」

剣護「富嶽渦雲斬り!!!」

 

円錐水蒸気(ヴァイパー・コーン)を発生させながら振るわれる大鎌と2人を中心とした渦を描く斬撃が次々と標的を蹴散らしていく。

 

パトラ「…ぐっ……!」

 

砂の中を武器を振り回しながら近づく2人に、パトラはさらに退く。

 

カナ「チェックメイトね。パトラ」

パトラ「わ、妾は…まだ……!」

剣護「………む?」

 

ふと、ズズズ…と何かが沈んでいくような音が剣護の耳に入った。

振り返るとアリアの入った柩とそれに飛びついたキンジが砂の中に沈んでいっているのが見えた。

 

剣護「キンジ⁉︎」

カナ「え?…りゅ、流砂⁉︎」

 

キンジの方を見てからパトラの方へ振り返ると既にパトラの姿がなくなっていた。

 

剣護「チッ!」

 

剣護が駆け出すも既にキンジとアリアは流砂の中へと沈み切ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「いってぇ……」

 

流砂に柩と共に飲まれ、どこかに衝突した衝撃で頭を打ったキンジは辺りが真っ暗なことに気づくと、蓋を押し開けようとするが砂金で重量が増しているのかビクともしなかった。

 

キンジ「クソッ……でも先にアリアを…!」

 

B装備のライトを照らすと、パトラと同じような衣装を着せられたアリアがそこにいた。

 

キンジ(よし、まだ生きてる…!けど…)

 

キンジはカナに言われたことを思い出す。アリアの呪いを特には緋色のナイフを持ってアリアにキスをしなければならない。

 

キンジ「っ………」

 

顔がどんどん熱くなり、鏡を見ずとも自分の顔が赤くなっているのがよく分かる。

 

キンジ(…アリア……)

 

何故、彼女に対してこんなに一生懸命になれるのか。

何故、兄を斃してまで、こんな場所まで助けに来てしまったのか。

同情、あるいは彼女に対してのある種の尊敬から来るもの。

 

そう思おうとしてきた。でも、それは自分につき続けていた嘘だった。

 

本当は認めるのが怖かった。

心の中で言いたくなかった。

 

 

それでも、こんな時くらいは……

 

 

キンジ(……俺は…知らない間に、お前のことを……)

 

気づくとゼロになる2人の距離。考えるよりも先に、キンジの唇はアリアの小さな唇に、触れていた。

 

キンジ(アリア……!)

 

キンジはアリアの頭を強く抱き寄せる。

その時、ズボンのポケットから緋色の光がキンジの周囲を照らす。

ポケットからそれを取り出すと、光っていたのは兄から貰ったバタフライナイフだった。

 

キンジ「なんだ、これ……」

アリア「………ん…」

 

小さく聞こえたアニメ声。

ナイフを仕舞うと、アリアがカメリア色の瞳を薄く開いていた。

 

アリア「…キン…ジ……?」

キンジ「アリア……!」

アリア「あれ…あたし、確か撃たれて……ん?あれ、ここどこ?てか何この服⁉︎」

キンジ「はは……」

 

キンジは自分の血流を、ヒステリアモードの発動を確かめる。

 

キンジ(なってるな。ヒステリアモード…でも何かいつもと少し違うような……?)

 

 

2人は蓋を押し開けて柩から出ると、ズズン…と遠雷のような音が聞こえた。

 

キンジ「今のは……?」

アリア「な、なんの音……?」

 

パトラ「トオヤマキンジ……!」

 

金・ア『っ!』

 

咄嗟にキンジはパトラに向かってベレッタをスライドがオープンするまでフルオートで撃つが、砂金の盾によって全て防がれてしまう。

 

パトラ「…今回は退いてやる。ぢゃが、アリアは置いていってもらうぞ…!」

 

キンジ達が落ちた穴から降りるとパトラは狙撃銃をアリアに向け、構えた。ヒステリアモードになっているキンジはその特性上、アリアの前に立ってしまう。

 

パトラ「さらばぢゃ、トオヤマキンジ」

キンジ「っ!」

 

アリア「キンジッ!」

 

引き金を引き、放たれた銃弾はキンジの頭へと飛んでいく。

キンジはアリアを背中で押し飛ばすように、後ろに倒れる。

 

アリア「キン、ジ……キンジィ!」

 

 

 

 

剣護「キンジ‼︎」

 

キンジが撃たれた瞬間、カナと剣護が到着した。

 

剣護「パトラアアアアアアアアアアアア!!!」

 

しめ縄を解かないまま常世の神子に覚醒すると、剣護はパトラに向かって突進する。

しかし、それは目の前の緋色の光によって止められる。

 

剣護「っ!なんだ…?」

 

光の方を見れば、アリアがパトラの方を向いている。その身体は緋色の光に包まれている。

怯えた様子で後ろに後ずさるパトラに、アリアは人差し指を向ける。

その先端が緋色に輝き始め、小さな太陽のようにその光が広がっていく。

 

剣護(あれは……やばい‼︎)

 

カナ「避けなさい!パトラ!」

 

緋色の光線が指先から放たれた瞬間、カナが叫び、パトラは滑るように、剣護も横っ飛びに避ける。

放たれた光は弾け、部屋全体を緋色に覆った。

 

剣護(っ……なんだこりゃ…)

 

顔を覆っていた腕を下ろすと、青い空が広がっていた。

アリアの放った光がピラミッドの上部をゴッソリと消し去ったのだ。

 

パトラ「あ、あ、あぁっ!」

 

天井を見上げていたパトラの衣装が砂金へと戻っていく。ピラミッドが破壊されたことで無限魔力を失いつつあるようだ。

アリアはくらっ…と後ろに倒れる。剣護が駆け出そうとするが、キンジがアリアを受け止めた。

 

剣護「キンジ!無事だったんか」

キンジ「あぁ……なんとかな」

剣護「……どうやって?」

キンジ「銃弾を噛んで止めたんだ。衝撃は止められなくてぶっ倒れて鼻血噴いたがな。名付けるなら銃弾噛み(バイツ)ってとこか」

剣護「えぇ……」

 

キンジと剣護は崩れ落ちてくるピラミッドの破片を弾いて避けながら、カナと合流する。

 

カナ「3人とも無事ね?」

キンジ「あぁ、なんとか」

剣護「むっ」

 

剣護がパトラの方を見ると、パトラはキンジ達に背を向け逃げ出していた。

 

剣護「逃すかってんだ……よ‼︎」

 

剣護は髪を操ってパトラの体に巻きつけて捕らえると、自身も上に飛び上がった。

 

パトラ「な、何なのぢゃ⁉︎」

剣護「ぬうおりゃああああああああああああ!!!」

パトラ「キャアアアアアアアアアアアアア⁉︎」

 

そして髪を掴むと自分を中心にハンマー投げのようにグルングルンと、勢いを増しながらパトラを振り回す。

 

パトラ「目が回るのぢゃあぁぁぁ……ウッ」

剣護「スゥ〜〜〜〜〜パァ〜〜〜〜〜……」

 

回転はドンドン速くなっていき、下の砂金を徐々に巻き上げ始めている。

 

パトラ「も、もう……やめ……」

剣護「トルネェェェェド………」

パトラ「待っ…」

 

剣護「スロォォォォォ!!!!」

パトラ「いやああああああああああああ⁉︎」

 

回転による遠心力と勢いを目一杯乗せて、剣護はパトラを下の砂金の上へと投げ落とした。

 

パトラ「ぐごっふ……」

カナ「結構強く打ったわね…」

 

そう言いながらカナはパトラに手錠をかける。

 

キンジ「とりあえず、これで一件落着か…」

剣護「お、そうだな」

 

剣護がそう言った次の瞬間、船が大きく揺れる。

 

カナ「いけない!船が沈むわ!」

キンジ「脱出するぞ!」

剣護「ガッテンテン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「ん………」

キンジ「アリア………!」

アリア「あれ………き、キンジ⁉︎なんで生きてるの⁉︎」

キンジ「アリア!」

アリア「ちょっ……き、きききキンジ⁉︎ち、ちょっと!」

 

目を覚ましたアリアに、感極まったキンジはその小さな体を抱きしめる。

 

剣護「この写真、あいつらにバラ撒いたろ」

カナ「やめてあげなさいな」

アリア「剣護達まで⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、海の中から近づいてくる気配にハッとカナが振り向いた。

その顔は真っ青になり、何かを探すように海原を見つめている。

 

カナ「あなた達……逃げなさいッ!」

キンジ「カナ…?」

カナ「逃げるのよキンジ!急いでここから撤退しなさい!」

キンジ「一体どうしたっていうんだよ!それに今は船が…」

剣護「キンジ、何か来るぞ…」

 

かつてないほどに取り乱すカナ。その次に剣護が海の方を睨みながら身構えた。

次の瞬間、海全体が揺れ始める。

 

アリア「あそこよ!」

 

アリアが海面の一部を指し、キンジと剣護が駆け寄るとその方向の海面が盛り上がっているのが見えた。

するとクジラの倍以上はあるであろう巨大な黒い塊が浮上してきた。その巨体には『伊U』の2文字が書かれている。

 

キンジ「潜水艦……?いや待てよ、あれは…!」

剣護「えーと…たしかボストーク号だっけ」

カナ「見て、しまったのね……」

 

アンベリール号の甲板に突っ伏しながらカナはそう言った。

 

カナ「ボストーク号は沈んだのではないの。盗まれたのよ。史上最高の頭脳を持つ、教授によって……!」

 

原潜の艦橋に立っていた男が見えるとカナはキンジ達を守るように、前方に立ちはだかった。

 

カナ「教授………やめて下さい!この子達と、戦わないで‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バギギィィンッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、何かを弾いたような甲高い音が響き、鮮血が飛び散った。

 

剣護「…チッ………」

 

キンジ「なっ………!」

カナ「っ………剣護…⁉︎」

 

カナの目の前には十六夜を振り抜いた剣護が、左肩から真っ赤な血を流している。さらに弾を弾いたせいなのか、刀の刃が欠けてしまっていた。

 

剣護「…ぐぅ……」

カナ「嘘……!」

キンジ「防弾制服と防弾ベストを貫通してるだと…⁉︎」

 

慌ててカナが傷口をハンカチで押さえる。しかし、流れる血はハンカチ、防弾制服を赤く染めていく。

 

キンジ「それに今のは…」

カナ「……不可視の銃弾(インヴィジビレ)

 

カナ…金一の『不可視の銃弾』。それをあの男は狙撃で行ったのである。

教授と呼ばれた男。ひょろ長く、痩せた身体。鷲鼻に、角張った顎。

夏祭りにアリアから見せてもらった写真の人物と瓜二つの容姿をしている男のことをアリアは掠れた声で呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「…曾…おじいさま………⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ達の目の前にいる人物。

 

 

 

アリアの曾祖父であり、世界一有名な名探偵。

 

 

 

『シャーロック・ホームズ1世』がキンジ達と前に立っていた。

 

 

 



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第六章 名探偵シャーロック・ホームズ
第50話 イ・ウー


 

 

 

剣護「っ……ぐぅ…!」

カナ「血が止まらない……ど、どうしたら…!」

剣護「今の…弾……アーマーピアスか…防弾装備を易々と撃ち抜きやがって……!」

 

次の瞬間、爆音と共に船全体が大きく揺れた。

 

アリア「きゃあ!」

カナ「うあっ!」

剣護「いでぇ⁉︎」

カナ「あ、ごめん…」

剣護「あんだよ今の⁉︎」

キンジ「恐らくMk-60対艦魚雷だ!イ・ウーが撃ちやがった!」

パトラ「教授がこっちに来るのぢゃ!」

 

パトラの言葉に焦る中、ごすん…とイ・ウーとアンベリール号が接舷したらしく船体が大きく揺れる。

 

キンジ(とうとう……来やがった……!)

 

 

 

シャーロック「もう逢える頃だと、推理していたよ」

 

 

 

その第一声に、キンジ達に緊張が走る。

たった一言だけでその場でひれ伏してしまいそうな、格の違いを感じさせられる。

 

シャーロック「卓越したら推理は、予知に近づいていく。僕はそれを『条理予知(コグニス)』と呼んでいるがね。つまり僕は全て予め知っていたのだよ。だからカナ君……いや遠山金一君。君の胸の内も僕には推理できていたのさ」

カナ「っ…………」

シャーロック「さて、遠山キンジ君、月島剣護君。君達も僕のことは知っているだろう。それでも僕は君達にこう言わなければいけないのだよ」

 

回りくどい言い方をしてから、一拍おくとシャーロックはこう言った。

 

シャーロック「初めまして。僕は、シャーロック・ホームズだ」

剣護「わーっとるわ、んなもん」

シャーロック「ハハハ……さて、アリア君」

 

名前を呼ばれたシャーロックに、呆然としていたアリアはビクッと反応した。

 

シャーロック「時代は移ってゆくけど、君は変わらないね。ホームズ家の淑女に伝わる髪型を、君はきちんと守ってくれているんだね」

 

剣護(ツインテって淑女がするもんなん?)

キンジ(いや、知らんがな)

 

シャーロック「アリア君。僕は君を、僕の後継者として迎えに来たんだ」

アリア「……ぁ……」

シャーロック「おいで、アリア君。そうすれば……君のお母さんは助かる」

アリア「っ‼︎」

 

その言葉はアリアの心を傾けさせるには充分すぎるものだった。

 

キンジ「アリア!」

シャーロック「さあ、アリア君。行こうか」

アリア「あっ………」

 

シャーロックがアリアを抱き上げるが、アリアは抵抗せずにされるがままにシャーロックにお姫様抱っこされる。

 

キンジ(行くな…!アリア…!)

 

キンジ「アリア‼︎」

 

アリアの名を叫んだことで、キンジは再認識する。

 

アリアが、自身のパートナーが奪われた(・・・・)ということを。

 

キンジ「アリアァァァァァ‼︎」

 

瞬間、ドクンッとキンジの身体の中心に灼けつくような感覚が巡る。

 

キンジ(これは…ヒステリアモード…?でもいつものとは何か違う…)

 

剣護「フー……………っ!ふんっ‼︎」

 

剣護はナイフを取り出すと、弾丸が撃ち込まれた左肩に突き刺した。

 

カナ「剣護⁉︎何をしてるの⁉︎」

剣護「ぐっ…ふんぎぎぎぎぎぎぎ‼︎」

 

血が更に溢れ出すにも関わらず、突き刺したナイフを動かし銃弾を取り除こうとする。

 

剣護「んがーっ!俺1人じゃ無理!キンジ‼︎」

キンジ「え、何…ちょおま何してんの⁉︎」

剣護「手ぇ貸せ!早く!」

キンジ「でもお前、止血…」

剣護「アリアを助けに行くんだろうが‼︎」

キンジ「っ……!わかった…」

 

キンジの手を借りると、突き刺した所に再び突き刺す。

 

剣護「フー…!フー…!ぬぎぎぎぎぎ…‼︎」

 

突き刺した所から少し深めにナイフを捻じ込む。激痛が襲うが構わずにナイフを動かしていく。

 

剣護「っ!ぐぬ……ガアァァァァァ‼︎」

 

カツンと固いものが当たると、その下にナイフを捻じ込み上に押し上げる。傷口から血の塊が溢れ出し、その中から銃弾が転がり落ちた。

 

剣護「フー…!フー…!っ………はぁ……!」

カナ「全く無茶するわね……パトラ!」

パトラ「わ、分かっておる!」

 

カナは消毒液を染み込ませたハンカチを傷口に押し当て、その上からパトラが手を当て青白い光を灯し、傷を治していく。

 

剣護「クッソ痛え…」

キンジ「当たり前だろが!」

パトラ「普通やらんぞ、あんなこと…」

剣護「しばらく左腕は使えんな…とにかくシャーロックを追うぞ」

キンジ「……あぁ…!」

カナ「待ちなさい。キンジ。あなたに教えておくことがある」

キンジ「何だよ?」

 

カナ「キンジ、覚えておきなさい。ヒステリアモードには成熟や状況に応じた派生系があるの」

キンジ「ヒステリアモードの…派生系…?」

カナ「そう、瀕死の時に発動するヒステリア・アゴニザンテ。別名を死に際の(ダイイング)ヒステリア」

キンジ「瀕死の時……もしかしてブラドの時の…!」

カナ「ええ、恐らくそれでしょうね。そして今のあなたがなっているのも通常のものじゃない。さっきの叫びで確信したわ」

キンジ「俺のも……?」

カナ「通常のヒステリアモードは、ヒステリア・ノルマーレ。女を守る(・・)ヒステリアモード。そして今のあなたがなっているのは、ヒステリア・ベルセ……女を奪う(・・)ヒステリアモードに変化しつつあるの。目の前で女を、他の男に奪われたことでね」

キンジ「………!」

カナ「気をつけなさい。ベルセは通常のヒステリアモードに自分以外の男に対する憎悪や嫉妬といった悪感情が加わって発現する危険な物なの。女に対しても荒々しく、時には力尽くで全てを奪おうとさえする。戦闘能力はノルマーレの1.7倍にまで増大するけど、思考が攻撃一辺倒になる、諸刃の剣。制御は不可能ではないけど、初めてだと難しいでしょうね」

 

カナが話している間にも、船はゆっくりと沈んでいる。

 

カナ「時間は限られてるわ。2人とも、行けるかしら?」

キンジ「あぁ…!アリアを救出して」

剣護「シャーロックも逮捕だ!」

カナ「それじゃあ……合わせるわよ!」

 

船が1mほど沈んだところで3人は、シャーロックが作り出したであろう流氷に飛び移り、駆け出した。

 

カナ「シャーロック!」

 

叫ぶと共にカナは不可視の銃撃を放つ。しかし、シャーロックの背後でその銃弾は火花を上げて弾かれる。

 

キンジ(銃弾撃ち(ビリヤード)……!)

 

カナの不可視の銃撃をシャーロックは同じ技で銃弾撃ちをやってのけたのだ。

 

カナ「キンジ!」

キンジ「分かってる!」

 

再びカナが2発目を撃ち、シャーロックはまた弾き返す。が、今度はキンジが弾かれた銃弾を更に弾いてシャーロックに向ける。

更に弾き返された銃弾をシャーロックはいとも容易く防ぐ。

 

キンジ「チッ!」

 

キンジが舌打ちすると、ほぼ同時にカナが4連射、加えて前もって宙にばら撒いていた銃弾をリロードし6連射、さらに隠し持っていたもう一丁のピースメーカーでの6連射、合計16連射の不可視の銃撃を繰り出す。

それに対し、シャーロックは同じ16連の銃弾撃ちで全て弾いて防いだ。

 

キンジ「うおおおおッ!」

剣護「らああああッ!」

 

キンジはロングマガジンに交換したベレッタをフルオートで撃ち、剣護もファイブセブンを使って同時に宙に散った無数の銃弾をカナと共に弾き返す。

銃弾撃ちだけでなく、新技の鏡撃ち(ミラー)も織り交ぜていくが、その攻撃も全てシャーロックの銃弾で防がれていく。

 

剣護「霊気弾!」

 

剣護はさらに左手の全部の指先から光弾を連射するが、それも無数の銃撃に掻き消されてしまう。

 

剣護「レッグ!ナイッ…………スライサー!」

 

さらに蹴り上げると共に光波を放ち、宙に散る銃弾を切りながらシャーロックに迫るが5mほど前で氷の壁に防がれる。

 

剣護「チッ!これもかよ…!」

キンジ「お前さっきレッグナイフって言いかけたろ」

剣護「お黙り!」

 

言い合いをしながらもキンジ達は攻撃の手を緩めず、ビリヤード、ミラー、霊気弾などの様々な技を繰り返し、見る間にイ・ウーの甲板上では100発を超える銃弾が激突し合い、無数の火花を三次元的に展開させていく。

 

キンジ(名付けるなら、冪乗弾幕戦ってとこか……!)

 

嵐のような銃撃戦が繰り広げられる中、シャーロックはアリアを抱えたまま艦橋まで跳び上がった。

シャーロックが反転してキンジ達の方に振り向く。アリアも同じ向きになっているのでキンジ達の攻撃も止まる。

そしてシャーロックはアリアの耳を塞ぐと、シャーロックの胸部が膨らんでいきネクタイが破れ、シャツのボタンが弾け飛ぶ。

 

金・剣『っ!』

 

キンジと剣護は咄嗟に耳を塞ぎ、体勢を低くする。

 

 

 

イ"ェアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

かつてブラドが放ったワラキアの魔笛。

衝撃と振動が襲うが2人はなんとか耐える。そしてそれが収まるとキンジは血流を確認し、ヒステリアモードが解除されてないことを確認する。

 

キンジ「カナ、大丈夫か?」

 

そう言って振り返るとカナが両耳から血を流していることに気付く。

 

キンジ「カn……兄さん!」

金一「っ…大丈夫だ…!」

 

カナのいつもの女口調から金一の男口調に戻っている。つまりそれは金一のヒステリアモードが解除されていることを表す。

 

剣護「え、マジ?金一さんに戻ってんの?」

金一「あぁ…まさかヒステリアモードが解除されるとはな……!」

 

金一はシャーロックを睨むとシャーロックの手元が2回光った。

 

金一(マズッ……‼︎)

 

金一がキンジと剣護に呼びかけ、突き飛ばそうと動くが、それよりも速く剣護が動いた。

 

 

 

バギギャリィィン‼︎

 

 

 

甲高い音が響き、剣護の足元に銃弾が、キンジの足元に刀の切っ先が転がり落ちる。

 

剣護「……ん?げぇッ⁉︎折れたぁ⁉︎」

 

抜き放った十六夜を見ると刃毀れが広がっている上に欠けていた部分の先が折れてしまっていた。

 

剣護「マジかよ……」

金一「後で直せば良いだろう。それよりも奴は中に入って行ったな…追うぞ」

キンジ「でも兄さん…」

金一「フッ…例えヒステリアモードで無くても戦えるさ。だが戦力は落ちてしまったな…」

 

金一は防弾制服を脱ぎ捨て、防弾アンダーウェアになるとピースメーカーを構える。

 

金一「もうここまで来たからには後には引けん。2人とも準備はいいか?」

キンジ「っ……あぁ…!」

剣護「はぁ……仕方なし…」

 

3人は艦橋から螺旋階段を降りて艦内へと潜入する。

艦内は広大なホールが広がり、巨大なシャンデリアが天然石の床を照らし出している。床には恐竜の骨格標本、周囲の壁には木製の棚に貝や海亀の甲殻、図鑑でしか見たことのない絶滅動物の剥製などが並べられている。

 

剣護「すっご……ほぼ博物館じゃんか」

キンジ「あぁ……これが潜水艦の中かよ…」

 

ホールを抜け、その先の螺旋階段を降りると生きたシーラカンスや様々な熱帯魚が泳ぐ水槽が並べられた部屋に入る。

 

剣護「すげぇ⁉︎モノホンのシーラカンスが泳いでんべ⁉︎」

キンジ「実際に見るとなんか不気味だな……」

金一「……お前ら、遊びに来てるんじゃないんだぞ?」

 

水槽の部屋を抜けると極彩色の鳥が飛び交う植物園、そこも駆け抜けて金や銀などの宝石を含む世界中の鉱石を陳列した標本庫も抜ける。

さらに長い布のタペストリーや革表紙の本が並ぶ書庫や黄金のピアノと蓄音機が並ぶ音楽ホールを抜けて、剣や槍、甲冑など世界中の武器やら防具やらが集められた小ホールに入ったところで3人は立ち止まる。

 

金一「止まれ、2人とも」

キンジ「兄さん?」

金一「何か近づいてくる…」

 

耳を澄ますと遠くからガシャガシャと音が3人の方へと近づいてくる。

武器を構え警戒する3人の前に現れたのは、西洋の甲冑に身を包んだ一体の騎士。その手には大型のロングソードが握られている。

 

剣護「先手必勝!」

 

すぐさま剣護が動き、蹴り上げで光波を放つが、いとも容易く剣で切り払われてしまう。

 

剣護「え、つっよ……」

キンジ「パトラの人形と似たようなもんか?」

剣護「あれより何倍も強えんだけど」

キンジ「どうすんだよ」

剣護「キンジは先行って。俺はアイツ抑えるから」

金一「俺も残ろう。今の剣護じゃ相手するのはキツいだろう」

キンジ「…わかった。後で合流しよう」

 

そう言うとキンジは先へと走って行った。甲冑騎士はキンジの行った方をチラリと見るとすぐに剣護と金一に向き直る。

 

金一「こちらを先にやるようだな」

剣護「その方が都合が良いっすわ」

 

金一はスコルピオを、剣護は氷花を構え、甲冑騎士もロングソードを構えて互いに向き合う。

 

 

 

 

 

 

 

キンジは肖像画の部屋の隠し通路から下へと降りていくと、聖堂へとたどり着いた。その奥には背を向け膝をついて祈りを捧げるような姿勢をしているアリアがいた。

 

キンジ「アリア!」

アリア「……キンジ!どうして…」

キンジ「パートナー助けに行くのに理由がいるのかよ。にしてもシャーロックは紳士ぶってるのか。人質のお前をこんな所に放すなんてな。だが合流できたのは好都合だ。一旦兄さん達と合流を……」

アリア「……帰って…」

キンジ「……何?」

 

アリアの言葉にキンジは眉を寄せる。アリアはキンジから一歩退いて、自分の胸の前で拳を握る。

 

アリア「帰って、キンジ…今ならまだ、逃げられるわ」

キンジ「帰れって……お前はどうするつもりだ」

アリア「あたしは、ここで曾お爺さまと暮らすわ」

 

「なんで」と言いかけたキンジの言葉を遮り、アリアは続ける。

 

アリア「あんたには話してなかったわね……ホームズ家でのこと。あたしは推理力を誇るホームズ家で、たった1人、その能力を持ってなかった。だから欠陥品なんて呼ばれて、バカにされて、ママ以外のみんなから無視されてきた…」

キンジ「………………」

 

アリアの話をキンジは何も返さず黙って聞いている。

 

アリア「それでもあたしは曾お爺さまの存在を心の支えに、武偵として活動してきたわ。そしてその憧れだった人が…あたしの前に現れてくれた。あたしを認めてくれた!あたしを後継者とまで呼んでくれた!この気持ちがあんたに分かる?分かるわけないわ!」

キンジ「だが、かなえさんに無実の罪を着せたのはイ・ウーなんだぞ。シャーロックはそのリーダーだった」

アリア「それも解決するわ……曾お爺さまはイ・ウーをあたしに下さると言ったわ。そうなればママは助かる。ここにはママの冤罪を晴らすためのあらゆる証拠が揃ってる」

キンジ「……ならお前が敵のリーダーになって、それでかなえさんの罪が晴らすことができたとしても……それをあの人が喜ぶと思ってるのかよ…!」

アリア「じゃあどうしたら良いのよ‼︎曾お爺さまはただの天才じゃない。歴史上、最も強い人間なのよ……剣護だって重傷負ったのよ!たとえ裏人格のあんたでもかないっこないの。キンジ……あんた達じゃ無理なのよ…!」

 

甲高い声で怒鳴るアリアに、キンジは長い瞬きをして息を吐く。

 

キンジ「無理、疲れた、面倒くさい。この3つは人間の持つ無限の可能性を自ら押しとどめる、良くない言葉だ。……俺と会った日に、お前はこう言ったよな」

アリア「っ………!」

キンジ「ハッキリ言わせてもらうけどな。イ・ウーなんざただの海賊と変わらねえんだよ。お前の曾爺さんは長生きしすぎて、ボケて、その大将なんかをやってんだよ」

アリア「……曾お爺さまを…侮辱してはダメっ……!」

キンジ「それに俺はお前のパートナーだ。だから絶対にシャーロックの奴からお前を奪い返すまで諦めねえぞ」

アリア「キンジ………」

キンジ「確かに剣護でも重傷を負ったけど、あいつならそんなの今更どうってことねえよ」

 

(めちゃくそ痛えんですけどォォォォォォ‼︎)

 

アリア「…何か聞こえたんだけど」

キンジ「キニスンナ」

アリア「アッハイ…」

キンジ「まあそーゆーわけだ。俺は…俺達はそう易々と帰るわけにはいかないんだ」

アリア「………そう。なら……」

キンジ「あぁ、そろそろ言い合いも飽きたろ?」

アリア「…そうね。話が通じないなら、『コレ』しかないわね」

キンジ「ああ」

 

アリアとキンジはそれぞれ自身の銃を抜き、構えた。

 

アリア「あんたには帰ってもらうわ」

キンジ「お前を取り戻すまでは帰らねえよ」

 

 

今ここに、互いの意思を貫き通す、全力全開の大喧嘩が始まる!

 

 

 



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第51話 VS甲冑騎士 VSパートナー

タイトル良いのが思い浮かばんかった……orz


 

 

Side: 剣護&金一 VS 甲冑騎士

 

剣護「ウラァァァァ‼︎」

金一「ハァッ!」

 

甲冑騎士と斬り結ぶ剣護と金一。2対1にも関わらず甲冑騎士は互角以上に渡り合う。

 

金一「こちらの動きを学習して作られてるのか…」

剣護「シッ!」

 

剣護の袈裟斬りを甲冑騎士は受け流すと動きに合わせて横薙ぎに斬り払う。

 

剣護「うおぅ⁉︎」

 

剣護は十六夜を抜いてガードするが、相手の腕力が強い上に、左肩の負傷で力が入ってなかったこともあり、簡単に吹っ飛ばされる。

 

剣護「ぐっあ……」

金一「オオオオオオ‼︎」

 

金一のスコルピオを加速させていきながらの連撃も的確に捌かれてしまう。

 

金一「ならば!」

 

金一は甲冑騎士の剣を大きく弾くと、すかさず不可視の銃撃を撃ち込むと甲冑騎士は体勢を崩した。

 

剣護「ウオラッシャアァァァァァ‼︎」

 

そこへ剣護がドロップキックで吹っ飛ばし、壁に叩きつける。叩きつけられた甲冑騎士はグッタリと座りこんで動かなくなった。

 

剣護「ッシャ!どうだ!」

金一「………やったか?」

剣護「ちょっ」

 

金一がお決まりのセリフを言ったことが関係したのかは確かではないが、ゆっくりと甲冑騎士は立ち上がると近くのハルバードを拾い上げると右手にロングソード、左手にハルバードを構えた。

 

剣護「ほらやっぱりぃ!金一さんがあんなこと言うから!」

金一「俺のせいか⁉︎」

剣護「相手さんトリニティフォームになってるし‼︎」

金一「それは俺関係な…うおぉぉ⁉︎」

剣護「ふおおぉ⁉︎」

 

甲冑騎士が両手の武器を同時に振るい、咄嗟に2人は受け止める。

 

金一「武器を振る速度も上がってるだと…!」

剣護「パワーも上がってやがる…!」

 

その証拠に剣護と金一はドンドンと後ろの壁へと押し込まれていた。

 

金一「おぉ‼︎」

剣護「らぁ‼︎」

 

2人同時に蹴り飛ばして甲冑騎士を離すが、甲冑騎士はそこから回転してロングソードとハルバードを薙ぎ払い剣護と金一をガードの上から吹っ飛ばす。

 

金一「ぐあっ!」

剣護「がぁっ……!っ……負けるかあああああ‼︎」

 

剣護は十六夜と氷花を手に突っ込んで行くと甲冑騎士と斬り結び、逆に押し込んでいく。

斬る、捌く、斬る、弾く、斬る、斬る、斬る、捌く、弾く、斬る、二刀とロングソード・ハルバードの攻撃の応酬が繰り広げられ、周りの武器や甲冑、小ホールもだんだんと壊れていく。

 

剣護「月島流!富嶽怒髪天!!!」

 

二刀の突きとロングソードとハルバードでの突きが激突し、互いに吹っ飛び壁に激突し、周りの武器や甲冑がガラガラと倒れていく。

 

金一「剣護!」

 

剣護「つぅ…!野郎ぉ……!」

金一「剣護!前だ!」

剣護「え?」

 

前を向くと甲冑騎士が今まさにロングソードを剣護の頭上に振り下ろすところだった。

 

剣護「ぬおおおおおおおおお⁉︎」

 

十六夜と氷花は吹っ飛んだ拍子に離してしまったので、咄嗟に剣護はイロカネアヤメを抜き、振り下ろされた剣を受け止める。

 

金一「剣護!」

剣護「ぐっ……こんの…!」

 

なんとか押し返そうとするが本調子でない為か、はたまた相手の方の力が強いのか徐々に壁に押し込まれていく。金一も援護をしようにも剣護と相手の距離が近すぎて巻き込みかねないのでなかなか手が出せずにいる。

 

剣護「っ………や、ろ、おぉぉ……!」

金一「む……?」

 

負けじと持ち前の馬鹿力で押し返そうとすると身体が薄らと光り出し、パリパリと小さなスパークが走り始めた。スパークはちょっとずつ大きくなりそれに伴い相手を押し返し始めた。

 

剣護「ぬがああああああああああ!!!!!」

 

バチィ!とスパークが大きくなると共に剣護はイロカネアヤメを振るい甲冑騎士を弾き飛ばし逆に壁に叩きつけた。

 

剣護「月島流!秘技!」

 

隙を逃さず剣護は間合いを詰めつつ大きく振りかぶる。

 

剣護「富嶽斬懐剣!!!」

 

振りかぶったイロカネアヤメを踏み込むと同時に腕力と振り下ろした勢いで、防御しようと構えたロングソード諸共甲冑騎士を砕き斬る。ほぼ真っ二つに斬られた甲冑騎士は左右に別れながら崩れるように倒れ、剣護は動かないことを確認すると刀を納める。

 

剣護「……ふぅ…」

金一「お疲れ。休ませたいとこだが時間がない。先を急ぐぞ」

剣護「はいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side: キンジ VS アリア

 

アリア「やあああああ!」

 

アリアのガバメント掃射。キンジは焦らず銃弾弾きで防ぐ。鏡撃ちで返したいがガバメントの銃弾の方が威力が高いので銃弾弾きで対応する。

 

アリア「はあっ!」

キンジ「フッ!」

 

アリアは小太刀を抜くとキンジに肉薄して振るってくる。キンジもナイフで応戦する。

 

アリア「せいっ!」

キンジ「シッ!」

 

小太刀の振り下ろしをキンジは刀身の側面に手を添えていなし、片方の小太刀もナイフで受け流すとその柄目掛けて蹴りを放つ。

 

アリア「くっ!」

キンジ「おお‼︎」

 

蹴りを回避しアリアは小太刀を手放すとガバメントを抜き、キンジはナイフとベレッタでその銃口を押さえる。

今の状態で発砲すれば自損しかねない。そんなお互いに発砲ができない状況の中、アリアが口を開く。

 

アリア「……どうして…あたしをバカにするのよ…キンジ」

キンジ「……………」

アリア「あんたの攻撃はどれもあたしの武器を狙ったものだった」

キンジ「………はあ…」

 

いくら荒っぽくなるベルセとはいえ、女性に対して弱くなるヒステリアモードであることには変わりない。

キンジは一息つくとベレッタとナイフを下げる。

 

キンジ「撃てよ。アリア」

アリア「え………?」

キンジ「今の戦いは引き分けだった。話し合いでも戦いでも、お前を奪い返すことができなかった今、もう打つ手はない」

アリア「き、キンジ……」

キンジ「お前を助けきれなかった俺は、もう武偵としての資格がない。だから撃てよアリア。どうせ逃げ道なんかないんだ。無法者どもに殺されるくらいならお前に殺られた方がいい」

アリア「こ、殺さないわ……そうよ…あんたも一緒に……」

キンジ「悪いが犯罪者の一味になるつもりはない。代々、『正義の味方』をやってきたご先祖様たちに、あの世でボコられたくないからな。剣護にもシバかれたくないし」

アリア「っ…………」

キンジ「いいんだアリア。お互い行く気がない方向に相手を引っ張り合ったって拉致が明かない。どちらかが消えるしかない。そして俺は…どうしてもお前を撃てなかった。だからお前が撃て。俺を倒して、後は好きにすればいい。でも……いつか思い出してくれ。全身全霊で、親友連れてお前を連れ戻そうとした武偵がいたことを。そして帰れ。無法者の世界から…銃弾が飛び交うあの日常に……武偵高に帰ってくれ」

 

噛み締めるように言うキンジに、アリアはその瞳に涙を浮かべる。

 

アリア「いや……いやよ……」

キンジ「アリア」

アリア「……いや……!」

キンジ「アリア‼︎撃t 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んなもん………俺が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「許すと思ったかあああああああああ!!!!!」

 

金・ア『ギャアアアアアアアア⁉︎』

 

 

瞬間、聖堂の扉を聖堂全体もろともぶった斬ってぶち壊しながら剣護が現れた。その後ろには金一が呆然として立っている。

 

キンジ「あぶっ、危ねぇ⁉︎」

アリア「か、かすっ、掠って…⁉︎」

剣護「俺はキンジとアリアの結婚エンド以外認めんぞオラァ‼︎」

アリア「け、けけ、けっこ…⁉︎」

キンジ「何言ってんだお前⁉︎」

剣護「全員で生きて帰ってのウルトラハッピーエンドの方が良いだろオルァ!」

キンジ「結婚エンドはどうした⁉︎」

剣護「結婚エンドはキンジの人生の1つの締めくくり」

キンジ「勝手に人の人生決めんな!おい、アリア。……アリア?」

アリア「け、結婚………!キンジとあたしが……あわわ……!」

キンジ「おい、戻ってこい」

 

軽く頭をはたくとアリアはハッと我に帰った。

 

アリア「あ……えっと…き、キンジ……あたしは…」

キンジ「………あぁ、わかってるよ。悪かったな、意地悪なこと言って」

アリア「ううん、あたしこそ……ごめんなさい…」

キンジ「いいさ。気にすんな」

アリア「そ、それで…あの……」

キンジ「なんだよ?」

アリア「………こ……これからも…あたしのパートナーで…いてくれる……?」

キンジ「……あぁ、もちろんだ。これからもずっと……な」

アリア「っ………!うんっ」

 

剣護「ヨシッ!これにて無事解決だな」

キンジ「どこが無事だ馬鹿野郎!」

アリア「聖堂も雰囲気も見事にぶち壊してんでしょーが!」

剣護「シリアスデストロイヤー舐めんな」

キンジ「初めて聞いたわそんなん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堂の奥にある扉から先に進むとそこには8本の大陸間弾道ミサイル『ICBM』が柱のように並んでいる。

 

アリア「あたし…この部屋見たことある……」

キンジ「何?」

アリア「確かに……見たことがある。あたし、ここであんた達と会ったことがある……!」

剣護「どういうことだってばよ?」

 

キンジは困惑し、剣護が首を傾げていると、突如音楽が室内に流れてくる。

 

剣護「あん?音楽?」

アリア「これは…確かモーツァルトの『魔笛』…」

 

 

シャーロック「音楽の世界には、和やかな調和と陶酔がある」

 

 

ICBMの陰から、落ち着いた声と共にシャーロックが現れる。

 

シャーロック「それは僕らの繰り広げる戦いという混沌と、美しい対照を描くものだよ。そして、このレコードが終わる頃には……戦いの方も、終わっているのだろうね」

キンジ「兄さん、アリアを頼む」

金一「ああ」

 

キンジは金一にそう言ってアリアを連れて後ろへと下がらせる。

キンジはベレッタとナイフを、剣護は背中の刀を抜いて構える。

 

シャーロック「いよいよ解決編、という顔をしているね。だがそれは早計というものだよ。僕は一つの記号……『序曲の終止線(プレリュード・フィーネ)』に過ぎないのだから」

キンジ「序曲……?」

シャーロック「そう。これから先で起きる戦いのね」

 

シャーロックはアリアの方を見る。

 

シャーロック「アリア君。君は僕の用意した罠を通して、僕の存在を心の中で乗り越えたようだね。君とキンジ君は戦いを経て、その結びつきはより強くなったことだろう。まだ愛の差は僅差のようだがね」

 

そう言うとシャーロックはキンジと剣護に向き直る。

 

シャーロック「さて、長話はここまでにしておこう。来るといいキンジ君、剣護君。君達の想いの強さ…見せてもらおう」

キンジ「言われなくても…!」

剣護「見せてやるよ!」

 

ステッキを握るシャーロック。

キンジと剣護は力強く踏み込み、シャーロック目掛けて疾走した。

 

 

 



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第52話 VSシャーロック

 

 

剣護「月島流!富嶽巌砕突き‼︎」

 

剣護の螺旋状の斬撃を纏った突きをシャーロックはステッキでいなす。

 

キンジ「シッ!」

 

反対側からキンジが脇腹に掌底を放つが、その前に腕を掴まれて止められる。

 

シャーロック「なかなかのコンビネーションだけど、僕には推理できてたよ」

キンジ「っ!」

剣護「シャオラァ!」

 

剣護の左拳をシャーロックはステッキの先で止め、押し返す。

キンジはシャーロックの手を振り払うとナイフを振るい、シャーロックは避けるとナイフを持った腕を掴み背負い投げで叩きつける。

 

キンジ「ガハッ……!」

剣護「月島流!富嶽双連斬!!!」

シャーロック「フッ!」

剣護「ぐほっ!」

 

剣護は氷花を抜き二刀を振るうが、シャーロックはステッキで鳩尾を突き、剣護は血を吐きながら下がる。

 

剣護「クッソ……!」

 

剣護はしめ縄を乱暴に外し、常世の神子に変化する。

 

シャーロック「全力全開ってわけだね」

剣護「でなきゃ敵わなそうなんで……な!」

 

そう言って剣護は二刀を振るい、シャーロックはステッキと左手で受け止める。

 

キンジ「オォォ!」

 

キンジが疾走し、シャーロックの背後から飛び後ろ回し蹴りを叩き込む。

 

シャーロック「ぐうっ!」

剣護「月島流!富嶽双龍牙!!!」

 

シャーロックが体勢を崩したところに、二刀での牙の如く鋭い斬撃を叩き込む。

 

剣護「っ………どうだ…!」

キンジ「モロに喰らってたが流石に………っ!」

 

ビリッ、と電流のような悪寒が2人に走る。

最初に会った時よりも圧倒的な存在感を纏い、その気配はキンジと金一がよく知るものだった。

 

キンジ「ヒステリアモードだと……⁉︎」

シャーロック「礼を言わせてもらおう。君達のおかげで…なることができた」

金一「ヒステリア・アゴニザンテか……!」

 

金一の言う通り、元々死にかけだったシャーロックはキンジと剣護の攻撃で追い込まれたことでヒステリア・アゴニザンテを覚醒させたのだ。

 

シャーロック「今度は僕から行かせてもらうとしよう」

キンジ「何………がっ!」

 

一瞬で間合いを詰められ、シャーロックのソバットがキンジを吹っ飛ばす。

 

剣護「キンジ!」

シャーロック「気にかけてる場合かい?」

剣護「っ!」

 

シャーロックはステッキで突きを繰り出し、剣護は辛うじて刀で防ぐがステッキで刀を絡め取られてしまう。

 

剣護「しまっ……!」

シャーロック「はっ!」

剣護「あがっ!」

 

剣護の左肩をシャーロックの突きが命中し、走る激痛に剣護は動きを止めてしまう。

 

シャーロック「はっ!ふっ!はぁっ!」

剣護「ぎっ……!」

 

その隙を逃さずシャーロックの連続突きが剣護を襲う。

 

シャーロック「はあぁぁぁ……はっ!」

剣護「っ……うおおあああああ‼︎」

 

眉間目掛けて繰り出される突きを剣護は頭突きで迎え撃つが、止めきれず額と左肩から血を流しながら後ろに吹っ飛ぶ。

 

シャーロック「さて、ここからは…君達がこれから戦うであろう難敵の技を予習させてあげよう」

 

そう言うとシャーロックはステッキを床に叩きつける。粉々になったステッキの中からは一振りの刀、スクラマ・サクスがその姿を露わにする。

 

シャーロック「銘は聞かない方がいい。これは女王陛下から借り受けた大英帝国の至宝。それに刃向かったとあっては、後々、君達の一族が誹りを受けるおそれがあるからね」

キンジ「名前なんて興味ねえよ。どうせエクスカリバーとかラグナロクとかだろ」

シャーロック「ははっ。凄い推理力だ。君には探偵の素質がある。僕が保証しよう」

キンジ「………あんたも適当な男だな」

シャーロック「もうあまり時間もないようだ。1分で終わらせよう」

キンジ「奇遇だな。俺たちもそのつもりだ」

 

そう言って互いに駆け出し、刀とナイフがぶつかり合う。

瞬間、シャーロックの刀から雷球が発生し、その雷撃によってキンジと剣護は吹っ飛ばされる。

 

キンジ「ぐっ!」

剣護「つっ!電撃……!」

 

気づけば2人の周囲には霧が発生している。

そして何かが2人の身体を防弾ベストごと撃ち抜いてくる。

 

剣護「いって!」

キンジ「これは……水?」

 

キンジの言った通り、高圧で飛んでくる無数の水弾が2人の全身を撃ち抜く。

 

剣護「つ、月島流…!富嶽山嵐‼︎」

 

剣護の巻き上げるような斬り上げによる斬撃の竜巻が霧と水弾を吹き飛ばすが、今度は鎌鼬が2人を切り刻んでいく。

 

剣護「ぐあっ!」

キンジ「ぐっ!」

シャーロック「ハアッ!」

 

鎌鼬が止むと同時にシャーロックはキンジに接近し、スクラマ・サクスを振るう。

 

キンジ「っ!」

剣護「キンジ!」

 

間一髪で剣護が割り込んでガードして、そのまま鍔迫り合いになる。

 

剣護「っ……おっも…!」

シャーロック「なかなか素早いね。けれどパワーは、こちらが上だ」

剣護「うおっ⁉︎」

 

シャーロックはスクラマ・サクスを振り抜き剣護を吹っ飛ばす。吹っ飛ばされた剣護は勢いよく壁に叩きつけられた。

 

剣護「ゴハッ………」

キンジ「オォ!」

 

キンジはナイフを振るうがシャーロックはキンジの拳に飛び乗ると、そのまま拳を足場にフワリと宙返りする。

 

剣護「そこぉ‼︎」

 

剣護は壁を強く蹴って、飛翔するシャーロックのさらに上に飛び上がると刀を振りかぶる。

 

剣護「月島流、富嶽……!」

シャーロック「甘いよ」

 

シャーロックがスクラマ・サクスを剣護に向けると、電撃が剣護に直撃し撃墜した。

 

剣護「がっ……⁉︎」

キンジ「剣護!」

剣護「ゴヒュッ……ゲホッ!ケホッ!」

 

常世の神子が解除され、床に叩きつけられる剣護。そこにキンジが駆け寄る。

 

その時、室内に流れるモーツァルトの『魔笛』がソプラノパートに入った。

 

シャーロック「このオペラが独唱曲になる頃には君達を沈黙させているつもりだったのだがね。君達は僕が推理したよりも長い時間を戦い抜いた。もう少し君達と戦いたいところだが……申し訳ない。この独唱曲は最後の講義……『緋色の研究』についての講義を始める時報なのだよ。紳士たるもの、時間にルーズであってはいけないからね」

 

キンジ(緋色の研究………?)

 

するとシャーロックの体が光り始め、光は勢いを増していき緋色へと変わっていく。

 

剣護「…あれって…アリアの、やつと…同じやつ……?」

キンジ「だろうな…」

 

シャーロック「僕がイ・ウーを統率できたのは、この力があったからだ。だが、僕はこの力を不用意には使わなかった。『緋色の研究』ーーー緋弾の研究が未完成だったからね」

 

語りながらシャーロックは銃を抜いた。

 

キンジ「あの、『緋弾』を……撃てるのか、お前も」

シャーロック「君が言っているのは、恐らく違う現象だろう。アリア君がかつて撃ったはずの光球……それは緋弾ではない。古の倭詞で『緋天・緋陽門』という、緋弾の力を用いた一つの現象に過ぎない」

 

そう言いながら、シャーロックは銃のマガジンから1発の銃弾を取り出した。

その弾頭は血、もしくは薔薇や炎のような緋色をしている。

 

シャーロック「この弾丸が、『緋弾』だ。日本では緋々色金と呼ばれる金属でね。峰理子・リュパン4世が持っていた十字架を覚えているだろう。あれも、この弾と同族異種の金属を極微量に含むイロカネ合金なのだよ。イロカネとは……あらゆる超能力がまるで児戯に思えるような、至大なる超常の力を人間に与える物質。いわば『超常世界の核物質』なのだ」

 

そう言うとシャーロックは緋弾を銃に籠め直す。

 

シャーロック「さて、この弾を使用するのは少し後にするとして……もう一つ、お見せするとしよう」

 

シャーロックは右手の人差し指をキンジに向ける。

 

シャーロック「これだろう?君達が見た現象は」

 

するとシャーロックの体を覆っていた緋色の光が指先に集まっていく。

 

キンジ(あ、アリアの時と同じ……!)

 

その時、後ろから緋色の光が発せられ始め、振り返って見るとアリアの体からもシャーロックと同じ緋色の光が指先から発せられていた。

 

キンジ「アリア……!」

アリア「な、何……これ……?」

シャーロック「アリア君。それは『共鳴現象(コンソナ)』だ。質量の多いイロカネ同士は、片方が覚醒すると共鳴する音叉のように、もう片方も目を覚ます性質がある。その際はイロカネを用いた現象も共鳴するのだ。今みたいに僕と君の人差し指が光っているようにね」

 

そう言いながらシャーロックは、緋色の光を蓄えた指でキンジ達に狙いをつける。

 

シャーロック「僕はこの『緋天』を君達に撃つ。僕が知る限り、それを止める方法は同じ『緋天』を衝突させることのみ」

アリア「曾お爺さま……」

シャーロック「アリア君。君は僕を撃つんだ。その光で」

アリア「………わかりました…!」

シャーロック「キンジ君。すまないが……」

キンジ「…あんたに頼まれるのは癪だが……わかったよ」

 

キンジはアリアの側へ行くと、金一に目配せする。金一は小さく頷くと剣護の方へ駆け寄り、剣護を担いでその場から少し離れる。

 

金一「大丈夫か?剣護」

剣護「……っ……ぉぅ………」

金一「…ギリギリってところか…」

 

 

 

アリア「キンジ……」

キンジ「心配するな、アリア」

 

キンジはアリアの手を掴むと、シャーロックに向けて人差し指を伸ばさせると、両手で支える。

 

キンジ「アリア。お前はパトラと戦った時に、無意識にだが一度この力を使っている。大丈夫、お前ならきっとできる」

アリア「っ………ええ…!」

キンジ「安心しろ。最後まで俺がついててやるさ……何がどうなろうとな」

 

シャーロックと同じようにアリアの指先に光が集まっていく。

 

シャーロック「良いパートナーを見つけたね。アリア君」

 

2人の光景を見て、緋色の光の向こうで微笑むシャーロック。

 

シャーロック「ホームズ家の人間には相棒が必要だ。かつて僕にワトソン君がいたようにね。人生の最期に……2人が支え合う姿を前にできて、僕は………幸せだよ」

 

シャーロックが光を放つと、アリアも同じように光を放つ。

光と光がぶつかり合うと静かに合わさっていく。

合わさった光球は緋色からだんだんと透明になっていき、レンズのような形へと変わっていく。

さらにそのレンズのようなものから何かの映像が映し出され始める。

 

シャーロック「これだ…!これが日本の古文書にある『暦鏡』ーー時空のレンズだ。実物を前にするのは、僕も初めてだよ」

 

興奮を含んだシャーロックの声を他所に、キンジ達は目の前の映像に愕然とする。

 

キンジ(あれは………アリア……?)

 

レンズに写っていたのはアリアだった。しかし、いつものピンク髪とカメリアの瞳ではなく、亜麻色の髪と紺碧の瞳をしていた。

 

シャーロック「アリア君。君は13歳の時、母親の誕生日パーティーで銃撃されたことがあるね?」

アリア「は、はい……撃たれました、何者かに。でも、それが今、何だと……」

シャーロック「撃ったのは僕だ」

アリア「!」

金・剣『っ⁉︎』

シャーロック「いや、正確にはこれから撃つのだ。僕は今から3年前の君に、緋弾を継承する」

 

シャーロックはレンズの中のアリアに向けて拳銃を構えた。

 

キンジ「や、やめろ‼︎シャーロック‼︎」

 

レンズに向かって、キンジは本能的に駆け出す。

剣護も身体からスパークを発しながらシャーロックに向かって駆け出す。

 

剣護「やらせるかぁ‼︎」

金一「止せ!剣護‼︎」

 

シャーロック「なに、心配には及ばないさ。僕は銃の名手でもあるからね」

剣護「月島流……!」

 

拳を構える剣護。

その時、シャーロックの手元が光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビシュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅れてくる銃声と共に左胸に痛みが走ると共に血が吹き出す。

 

 

剣護「っ………⁉︎」

シャーロック「すまないね。だが、この儀式を台無しにされるわけにはいかないのだよ」

剣護「ガフッ………」

 

アリア「う…嘘………剣護ぉ‼︎」

金一「っ……クソッ‼︎」

キンジ「っ……!」

 

前のめりに倒れ込む剣護。

すぐさま金一とアリアが駆け寄り、剣護を連れて後ろに下がる。

キンジは倒れた親友に駆け寄りたいのを堪えて、レンズに向かって駆ける。

 

キンジ「シャーロックゥゥゥゥゥ!!!」

 

シャーロックへと向けたキンジの叫びが聞こえたのか、レンズの中のアリアが振り返り、キンジと目が合う。

しかし、キンジの叫びも虚しく1つの銃声が響き、その背中に緋弾が撃ち込まれた。

驚愕の表情で倒れる過去のアリアと共に暦鏡も薄れていき、消えていった。

 

 

 



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第53話 キンジの意思、剣護への説教

 

 

アリア「剣護……!剣護!」

金一「クソッ…!出血が多い…!」

 

アリアと金一は、シャーロックの不可視の銃撃によって倒れた剣護の手当てに追われていた。

ギアブーストを使用していたせいか、左胸からは血が止めどなく流れている。

 

 

シャーロック「アリア君。2つ、ことわっておこう。緋弾の副作用についてだ」

アリア「!」

 

過去のアリアに緋弾を撃ち込んだシャーロックはアリアに向けて話し出す。

 

シャーロック「緋弾には延命の作用があり、共にある者の肉体的な成長を遅らせる。あれから君は、体格があまり変わらなくなったことだろう。それと文献によれば、成長期の人体にイロカネを埋め込むと体の色が変わるらしいのだ。皮膚の色までは変わらないようだが、髪と瞳が美しい緋色に近づいていく。今の君のようにね」

 

講義でもするかのようなシャーロックの話をキンジ達はただ聞いていた。

 

シャーロック「以上で、僕の『緋色の研究』に関する講義は終わりだ。緋弾について僕が解明できた事は、これで全てだよ」

 

そう言ったシャーロックは、緋弾を失ったせいなのか、いきなり何歳か歳を取ったように見える。

 

シャーロック「アリア君。キンジ君。『緋色の研究』は君達に引き継ぐ。イロカネ保有者同士の戦いは、まだ牽制し合う段階にある。しばらくは膠着状態が続くだろう。だが戦いはこれから本格化し、君達はそれに巻き込まれていくだろう。その時はどうか、悪意ある者から緋弾を守り続けてくれたまえ。世界のために」

 

キンジ(………世界…だと?)

 

キンジ「ふざけんな……!」

 

キンジは体内にヒステリア・ベルセの血が巡っていくのを感じながら、立ち上がった。

 

キンジ「シャーロック、お前はそんな危険な戦いにアリアを巻き込ませるつもりなのか…!自分の…血の繋がった曾孫を!」

 

その怒りに呼応するように、キンジの身体からかつて金一と戦った時にも出ていた赤いオーラが溢れ出る。

 

シャーロック「キンジ君。君は世界におけるアリア君の重要性が分かっていない。1世紀前の世界に僕が必要だったように、彼女は現代の世界に必要な重要人物なのだ」

キンジ「世界だのなんだの……知ったことか‼︎」

 

勢いを増すオーラと共に体が熱を帯びる。

キンジは犬歯をむいて叫び続ける。

 

キンジ「こいつはただの高校生だ!例え体の中に何を抱えてようと、クレーンゲームに夢中になって、ももまん食い散らかして、テレビ見てバカ笑いしてる……ただの高校生だ‼︎分かってねえのはお前の方だろ……シャーロック‼︎」

シャーロック「……認めたくない気持ちは分からないでもない。君は彼女のパートナーなのだからね。だがキンジ君。この世に悪魔はいないにしても、悪魔の手先のような人間はいくらでもいる。この世界には、君の想像も及ばないような悪意を持つ者がイロカネを」

キンジ「何度も言わせんじゃねえよ……!世界だの…悪意や善意だの…そんなもん知ったこっちゃねえんだよ‼︎」

シャーロック「……それなら平穏に生きるといい。君はそういう選択もできる。その意思を貫くためにアリア君を守り続けて……平穏無事に、緋弾を次の世代に継承しなさい。全て君達が決めていいんだ。君達はもう十分強い。その意思は通るだろう」

キンジ「………………」

シャーロック「いいかいキンジ君。意思を通したければ、強くなければいけない。力無き意思は、力有る意思に押し切られる。だから僕は君達の強さを急造するためにイ・ウーのメンバーを使って、君達がギリギリ死なないような相手を段階的にぶつけていく、パワー・インフレという手法を用いた」

キンジ「……あれもこれも全部、お前が描いた絵だった…てことかよ」

 

キンジは歯ぎしりしてから、シャーロックを睨みつける。

ベルセの血は全身に回り、赤いオーラは燃え盛る炎の如く溢れている。

 

シャーロック「気に食わなかったかな?」

キンジ「当たり前だろ。それに俺は今キレてんだ。パートナーと親友を撃たれてな」

シャーロック「ふむ……ならば、どうするのかね?」

キンジ「決まってんだろ」

 

キンジはバタフライナイフを構える。

 

キンジ「お前をぶっ飛ばす。無理だったとしても1発は叩き込んでやる!」

シャーロック「いいだろう。これで最後といこうか」

キンジ「あぁ、そうするとしようぜ!」

シャーロック「ここから先は、僕の推理の範囲外だ。どんな結末に転がるか……僕にも分からないよ?」

キンジ「上等だ……行くぞ。シャーロック・ホームズ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「キンジ……」

 

シャーロックに向かって駆け出すキンジを見て、アリアは剣護の方に向き直る。

金一の処置を受けているが、未だに目を覚ます様子がない。

 

金一(…弾が心臓までいっている上に、鼓動が止まっている……)

 

最悪の結果が脳裏を掠めるが、それでも死なせまいと金一は必死で処置を続ける。

 

金一「絶対に死なせないからな。剣護……!む?」

 

ふと顔を上げるとアリアが剣護のすぐ隣に座り込んでいた。

その手には武偵手帳から出したのか、ラッツォが握られている。

 

金一「お前、何を……」

アリア「……お願い……起きて…!」

 

アリアは目を覚まさない剣護に呼びかける。

 

アリア「…目を覚まして剣護…!キンジ1人じゃ、曾お爺さまに敵わない……今助けられるのはあなたしかいないのよ!あなたの力が必要なのよ………!だから……だから……!」

 

ラッツォを握ったまま、祈るように両手を合わせ、ポロポロと涙を零しながら呼びかけるアリア。

 

アリア「キンジを助けて……お願い………剣護‼︎」

 

アリアはラッツォを強く握ると、鼓動の止まったその心臓に強く、勢いよく突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「………………あり?」

 

ふと気がつくと、剣護は赤い花畑のような場所に立っていた。

周囲は深い霧に包まれており、人ひとりいないのか音もなくとても静かである。

 

剣護「この花は………彼岸花?」

 

よく見てみると辺り一面に咲いている花は全て彼岸花らしい。

少し歩いて行くと川へと辿り着いた。

 

剣護「川、か……いやー…あんま考えたくはないんだけどなぁ…」

 

とりあえず川に沿って歩いていると、どこからか歌声が聞こえてくる。

先に進んでみると、1隻の舟が停泊している。舟の上には1人の女性が歌を口ずさんでいた。

 

「♪〜………ん?おや、あんたも死んだのかい?」

剣護「………………ダリナンダアンタイッタイ」

「私かい?私は…そうさねぇ……死神とでも言っておこうかね」

剣護「死神………てことはやっぱここは…」

死神「あんたの考えてる通りだよ。ここは三途の川。どんなとこかは……まあ言わなくてもわかってるみたいだし良いか」

剣護「なら、俺は死んだのか?」

死神「んー………いや、そうでもなさそうだね。今のあんたは生と死の間を彷徨ってる状態にある」

剣護「はぇー……」

死神「にしても、あんた見る限り結構若いのに何でこんなとこにいるのさ?」

剣護「心臓を撃たれ申した」

死神「それでその状態でいられているのはすごいね……それでどうする気だい?」

剣護「んなもん決まってらぁ」

 

剣護「すぐに戻ってあの野郎に1発お見舞いしてやるぜ」

死神「……ふぅん。でも戻ったところで返り討ちにされるんじゃないのかい?」

剣護「それでもだ。やられっぱなしで1発も返せずに終われねえよ」

死神「ま、あんたが何をしようが私には関係ないけどさ。ところで、どうやってここから戻るつもりだい?」

剣護「………………………………」

 

戻る方法。それを聞かれて剣護は冷や汗を流しながら目を逸らす。

 

剣護「………なんとかなりません?」

死神「無理だね。私の仕事は死者の霊を舟に乗せてこの川を渡らせるだけだからねぇ」

剣護「………今はサボってるやんけ」

死神「それは言わないお約束ってもんさね」

剣護「クッソ…!どーすっかな…急いでなんとかして戻らねえと……」

 

 

 

 

 

「そうはいきませんよ」

 

 

 

 

 

剣護「っ!」

死神「あ、やば……」

 

声がした方を振り返ると、笏を持った緑髪の女性が立っていた。

 

「全く……相変わらずサボっているのですか…」

死神「し、しk……閻魔様……」

剣護「ゑ?閻魔?」

死神「私の上司だよ……」

剣護「…てことは俺、ここで裁かれんの?」

閻魔「いえ、それは地獄でやる仕事なので」

剣護「んじゃ何の用だよ」

閻魔「部下が仕事をサボってないかの確認です。それともう1つ……………あなたへのお説教です」

剣護「はいっ⁉︎」

閻魔「まずは正座!」

剣護「ア、ハイ」

 

閻魔に言われ、素直にその場で正座する剣護。

 

閻魔「あなたのこれまでの行いを見てきましたが……あなたは無茶をしすぎです!それも少しどころじゃない上に、ほとんどが自身の命を顧みていないような行動ばかり!今回もそうです!現にあなたは生と死の間を彷徨い、この三途の川に来てしまっているじゃないですか!」

剣護「や……あの……はい…………」

 

死神(あー………始まっちゃったよ……)

 

突然始まった閻魔の説教に剣護は戸惑いつつも、閻魔の説教を聞いた。

 

足の感覚が無くなってきても、説教は続き体幹で1時間経ったかぐらいの頃には、剣護の顔は目のハイライトが消えて表情が死んでいた。

 

閻魔「あなたはもう少しですね…」

剣護「あい………あい……………ッ!」

 

曖昧に返事を返していたその時、ドクンッと大きく心臓が脈打った。

剣護は胸を押さえると心臓の辺りから体の中が熱くなっていっていた。

 

剣護「カハッ…!ハッ……な、なん……?」

閻魔「む、恐らくあちら側から何かされたのでしょう。この続きはまたお会いした時にするとしましょう」

剣護「い、いやぁ…そ、それは……」

閻魔「嫌なら2度もここに来ることがないように気をつけることです。ここは死者の霊が来る場所……あなたが来るには早すぎます」

剣護「ぜ、善処します……」

閻魔「………それともう1つ、忠告しておくことがあります」

剣護「忠告……?」

閻魔「浄玻璃の鏡で見ましたが……あの男があなたに撃ち込んだものはただの金属ではなさそうです。私の推測ですがあなたに何らかの影響が現れるのは確かでしょう。くれぐれもその力に……飲み込まれないように気をつけてください」

剣護「え、でも緋弾はアリアに……ぐっ…」

 

そう言ったところで視界が霞み始め、おもわず剣護は膝をつく。

 

死神「だ、大丈夫かい?」

閻魔「目覚めが近いようですね。繰り返しますが2度もここに来ることがないようにしてくださいね?あなたのことを心配しているのは友人達だけではないのですから……」

剣護「っ…………それ、は……どう………?」

 

 

閻魔「いずれ分かりますよ。まあ……もしも、あなたがこちらの世界へ迷い込んでしまったらの話ですがね」

 

剣護「…何……を…………?」

 

 

それを聞こうとしたところで剣護の視界は暗転し、意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「おおおおおおお‼︎」

シャーロック「はっ!」

 

キンジの拳とシャーロックの拳が鈍い音を立ててぶつかり合う。

 

キンジ「ぜあっ‼︎」

シャーロック「シッ!」

 

拳の押し合いから離れると今度は互いに蹴りを放ってぶつかり合う。

さらにはナイフと刀と続き、拳、蹴りの応酬が繰り返される。

攻撃を繰り出し、避けて、防ぎ、裁き、2人は全力でぶつかり合う。

 

シャーロック「ふっ!」

キンジ「ぐっ!」

 

シャーロックの顔を狙った上段蹴りをキンジは腕を交差させてガードするが受け止めきれず、後ろに吹っ飛ぶ。

 

キンジ「ガハッ……!」

シャーロック「1人とはいえここまで僕と渡り合うとは驚いたよ。だがここまでだね」

キンジ「………あぁ……ここまでだ」

アリア「キンジ……!」

 

シャーロックはスクラマ・サクスの剣先をキンジに向ける。

その刀身からはバチバチと稲妻が走り始める。

 

キンジ「だけどな………………」

シャーロック「ん?何だい?」

 

電撃が光る剣先を向けられながらも、キンジはシャーロックを睨みつけニィィッと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「ここまでってのは、俺1人で戦うのはってことだ」

 

 

 

 

 

 

 

シャーロック「何を……………っ⁉︎」

 

次の瞬間、炎の壁が2人の間を遮るように発生する。

腕で顔を覆って炎の壁から離れるシャーロック。その腹部に衝撃が叩き込まれ、シャーロックは後ずさりして膝をついた。

 

シャーロック「ゴハッ……⁉︎」

 

血を吐きつつ、驚きと困惑の表情で前方を見る。

炎の壁が消え、その先に見えたのは赤いオーラ纏う者の隣に立つ緋色を纏った(・・・・・・)者。

 

シャーロック「そんな……まさか…だが君は……⁉︎」

 

驚きを隠せないシャーロックに、キンジとその隣に立つ者…………剣護はニヤリとしながら答える。

 

 

 

 

 

キンジ「言っただろ。俺1人で戦うのはここまでだってな」

 

剣護「さぁ………こっから反撃開始だ……!」

 

 

 

 



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第54話 舞うは桜、猛るは緋炎

 

 

 

剣護「よお、シャーロック。三途の川から帰ってきたぜ…」

シャーロック「確かに心臓を撃ち抜いたはずなのだがね……何故生きて…」

 

シャーロックに撃たれたはずの剣護。

しかし、その撃たれたはずの本人は多少ふらつきながらもキンジの隣に立っている。

 

剣護「さあな。でも死にかかっていたのは確かだよ」

キンジ「三途の川行ってたんかお前……」

剣護「おかげで1時間くらい閻魔様の説教聞くはめになったわ」

シャーロック「それは……なかなか出来ない体験をしたね」

剣護「まあな、アリアがラッツォを打ってくれてなかったら確実に川渡ってたぜ…そんでシャーロックよ」

シャーロック「何かね?」

剣護「………なんで俺の髪が赤くなってんの」

 

剣護が言った通り、その姿は普段とはかなり異なっていた。

髪型は常世の神子と同じだが、その髪と瞳の色はアリアに撃ち込まれた緋弾と同じような緋色に染まっていた。

 

シャーロック「ふむ……恐らく君に撃ち込んだ銃弾に少しながらイロカネが含まれていたのかもしれないね。それが君の力と何らかの反応が起きたことでその姿になったのだろう。憶測に過ぎないがね」

剣護「ふーん……やっぱイロカネか」

キンジ「……お前、平気なのか?」

剣護「あ?んなわけあるか。心臓撃たれてんのになんかドクンドクンいってるし、体痛くてガタガタだし立ってるだけで精一杯だわ」

キンジ「お、おう………………つまり?」

剣護「最高のコンディションでございますキンジ軍曹」

キンジ「よーし、大佐。その状態で行くぞ」

剣護「了解であります。二等兵殿」

キンジ「なんで降格してんだよ‼︎」

 

こんな状況にも関わらずギャーギャーと騒ぐ2人の様子に、シャーロックは小さく吹き出す。

 

シャーロック「フッ……本当に君達は面白いね。君達のようなパートナー……いや友人と言うべきか。それを持ったアリア君は幸せ者だね」

 

そう言うとシャーロックはスクラマ・サクスを構えた。

 

シャーロック「さて……時間もない。そろそろ…」

キンジ「あぁ、こっちもとっくに限界なんでな」

剣護「さっさと終わりにしようぜ」

 

キンジはナイフを、剣護はイロカネアヤメを構える。

 

金・剣『おおおおおおおおおおお!!!!!』

シャーロック「!」

キンジ「シッ!」

 

キンジが先に駆け出し、その後に剣護が続く。

キンジが逆手持ちでナイフを振るい、シャーロックは剣で受け止める。

 

剣護「せいっ‼︎」

シャーロック「ぐっ……!」

 

そこへ剣護のミドルキックが打ち込まれ、シャーロックは後ずさる。

 

キンジ「オラァ‼︎」

シャーロック「ガハッ!」

剣護「月島流!富嶽突き!」

 

さらに下がったシャーロックの顔面に、キンジが膝蹴りを叩き込み、続いて剣護が刀の柄による打突を胸に叩き込む。

 

シャーロック「グフッ……!くっ……!」

剣護「月島流!」

キンジ「おおおおお……!」

剣護「富嶽昇り龍‼︎」

 

剣護は斬り上げを放ち、シャーロックはスクラマ・サクスで防ぐが、剣護はガードされたまま打ち上げた。

そして姿勢を低くした剣護の背中を蹴り、キンジが飛び上がる。

 

キンジ「スマッシュダンク‼︎」

 

打ち上げられたシャーロックのさらに上に飛んだキンジは、落下の勢いを乗せて拳を叩き込み床に向かって打ち下ろした。

 

シャーロック「ぐあ………!」

 

ダメージが蓄積されてきているのか、動きが鈍くなっているシャーロック。

その隙を逃さないキンジと剣護。

 

キンジ「剣護!」

剣護「おう!」

 

キンジは纏ったオーラを足に集中させ、剣護も緋色のエネルギーを足に収束させる。

そしてその場で飛び上がると、シャーロック目掛けて飛び蹴りを放つ。

 

キンジ「レイジングドライブ!!!」

剣護「流星烈光弾!!!」

 

2人のダブルキックをシャーロックはガードするが2人の勢いは止まらず、ガードをこじ開けられ吹っ飛ばされる。

すかさずキンジはクラウチングスタートの構えを取った。

 

キンジ「決めてやる…!絶対に躱せない一撃を!」

 

そう言ってキンジは全速力で駆け出す。

 

キンジ「この桜吹雪………散らせるものなら‼︎」

 

最大速で駆けて時速36kmを造り出し、爪先、膝、腰と背、肩と肘、手首を一瞬だけ同時に動かし、合わせて時速1236kmを出す。

 

キンジ「散らしてみやがれッ!!!!!」

 

放たれる超音速の一撃。ナイフからは円錐水蒸気が発生し、衝撃波でキンジの腕が引き裂かれ、右腕から鮮血が飛び散る。

 

まるで、桜の花びらが散るかのように。

 

キンジ「桜花ァ!!!!!」

 

キンジの自身を右腕を犠牲にした最後の攻撃。

シャーロックはそれを躱さずに、あろうことか受け止めた。片手で、それもかつてジャンヌと戦った時に使用した二本指での真剣白刃取りで。

 

シャーロック「惜しかったね。キンジ君」

 

シャーロックが剣をキンジに向けて振るう。

自身に迫るそれをキンジも同じように二指真剣白刃取りで止める。

 

キンジ「惜しくねえよ」

 

ニィッと笑うと、キンジは深く、深く息を吸って大きく頭を後ろに反らす。

 

キンジ「そう来ることは………」

 

この状況から繰り出すのは、先祖代々伝わる遠山家の隠し技。

 

キンジ「分かってんだよ‼︎」

 

ガスッ‼︎と大きく鈍い音をたてて、世界最高の頭脳にキンジの頭突きが炸裂する。

 

キンジ「最後頼むぞ………剣護‼︎」

 

キンジがそう言うと、後ろの方でドゴォ‼︎と轟音をたて床を踏み砕いて剣護が飛び出す。

手には鞘に納めたイロカネアヤメが握られ、シャーロックに向かって流星の如く突撃する。

 

剣護「月島流奥義……絶剣!!!」

 

 

 

 

 

【絶剣】

 

 

常世の神子での使用を前提とした、剣護が編み出した月島流の奥義を超える剣技。

今の体の状態で放つとどうなるか分からないが、そんなものは後で考えれば良い。

 

キンジの頭突きで体勢を崩したシャーロックは、迎え撃つべく突きを放とうと構える。

しかし、剣護はキンジの隣に迫った所でさらに強く踏み込み、その姿を消した。

 

シャーロック「なっ……!」

 

シャーロックが気を取られると同時に緋色の光が視界を塗り潰し、熱風が顔を撫でる。

そして、背後からポツリと剣護の声が聞こえた。

 

剣護「神無神威(かんなかむい)……!」

 

瞬間、シャーロックの胸から鮮血が飛び散り、血を吐いてシャーロックは膝から崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「ハァ……ハァ……」

剣護「…ヒュゥ………ヒュゥ………」

 

キンジは今までのダメージと赤いオーラの反動で体がガタガタの状態で、剣護は変化が解除され刀を杖にして膝で立ちギリギリで意識を保っていた。

するとアリアが2人の元へ駆け寄ってくる。

 

アリア「キンジ………剣護………」

キンジ「……アリア」

 

アリアは超偵用の手錠を取り出すと、倒れたシャーロックの元に跪く。

 

アリア「曾お爺さま………いいえ、シャーロック・ホームズ。あなたを……逮捕します」

 

そう言って、その手首に手錠をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

シャーロック「素敵なプレゼントをありがとう。それは曾孫が僕を超えた証に頂戴しよう」

 

金・ア『!?』

金一「上だ!」

 

頭上からの声に、キンジとアリア、金一は慌てて顔を上げる。

そこにはICBMの扉に捕まって、手を振るシャーロックの姿があった。

 

シャーロック「キンジ君。さっきの君の一撃は僕にも推理できなかったよ。そして剣護君。僕が調べたものとは別に君が発現したイロカネの力には心底驚かされたよ。君ならその力を正しい方向に使ってくれると信じているよ」

 

キンジが倒れている方のシャーロックに視線を戻すと、その体が砂金になって崩れ落ち、左手で手錠を頭上のシャーロックにパスした。

 

キンジ「シャーロック、どこへ行く気だ……!」

シャーロック「どこにも行かないさ。昔から言うだろう?『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』ってね」

アリア「曾お爺さま………!待って!」

 

アリアは小太刀を抜き、飛び立とうとするICBMの表面に刃を突き立てよじ登っていく。

 

キンジ「待て!アリア!」

 

シャーロック「アリア君……短い間だったが楽しかったよ。最後に形見として、君に名前をあげよう」

アリア「曾お爺さま………」

シャーロック「僕は緋弾という言葉を英訳した二つ名を持っている。『緋弾のシャーロック』……その名を君にあげよう」

アリア「曾お爺さまの……名前………」

 

シャーロック「さようなら。『緋弾のアリア』」

 

 

 

ICBMはアリアを張り付けたまま、ゆっくりと飛び立ち始める。

 

キンジ「アリア……!クソッ!」

 

キンジはその場に転がっていたシャーロックのスクラマ・サクスを拾い上げるとナイフも使って、ICBMに突き立てよじ登る。

ふと、剣護の方を振り向くと剣護は刀を握ったままうつ伏せに倒れていた。

 

キンジ「剣護⁉︎」

 

キンジは張り付きながら呼びかけるが、反応は無くピクリとも動かず、やがてその姿はICBMからの白煙に包まれた。

そしてICBMはキンジとアリアを張り付かせたまま、イ・ウーから空へと飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ICBMが飛び立った後、金一は力尽きて倒れた剣護を連れてイ・ウーから脱出しようと駆け寄る。

しかし、白煙が収まった時には剣護の姿がなかった。

 

金一「剣護!どこだ!剣護!」

 

静かな艦内で何度も呼びかける金一。

するとコツ、コツ、と背後から誰かが靴を鳴らして近づく音が聞こえてくる。

金一はピースメーカーを抜き、背後にいる者に向ける。

 

金一「………誰だ」

 

金一はピースメーカーを構えたまま問いかける。

しかし、相手は臆することなく金一の方へと近づいていく。

 

 

 

「武器を納めてくださいな。あなたに危害を加えるつもりはありませんので」

 

 

 

そう言って金一の前に現れたのは、道士服風の前掛けとフリルドレスを合わせたような服装を身につけた金髪の女性だった。

 

金一「………信用するとでも?」

「警戒するのは仕方ありません。ですがこちらにはあなたを襲う理由も必要もありませんわ」

金一「………その前に質問に答えてくれ。剣護を攫ったのはお前か?」

「ええ。攫った…というよりは保護した、と言った方が正しいですわ」

金一「……その目的は?」

「あなたも見たでしょう。彼が発現した力を」

 

剣護が死の淵から戻った際に発現した、シャーロックによって左胸に撃ち込まれた緋々色金の力。

彼女が何故そのことを知っているのか疑問に思ったが、金一はそれを頭の中に留めた。

 

金一「……それがお前と何の関係がある?」

「知り合いの者も調べていたのですよ。その色金について」

金一「何だと……!誰だ、それは…」

「あなたも、あなたの弟さんもよーく知ってる方ですわ。遠山金一さん?」

金一「っ⁉︎」

 

名前も知らぬ女性から自分の名前を聞かされて、金一は目を見開く。

 

金一「な、なんでお前が俺の名を……⁉︎」

「……その前に口調戻させてもらうわね。コホン。なんで名前を知ってるだけど、まあ簡単に言えばその人から聞かされてたのよね。昔話とか」

金一「は、はぁ………」

「あの人ったらあなた達のことも話しちゃうもんだから……」

金一「お、おい待て!うちのことを知ってる人は限られ……っ!」

「……気づいたみたいね?このことは弟さんには秘密にしてもらえるかしら?色々と面倒なことになるし」

金一「あ、あぁ……どうせ戻ったら姿を消すつもりだからな…」

「そう。ならいいわ。話を戻すけど、彼を保護したのは療養ってのもあるけど修行が主ね」

金一「修行?」

「ええ。あの力が暴走とかしたら危険でしょう?だから制御するために修行させるってわけ。そこで私が管理してる所がうってつけなのよ。何人か知り合いもいるようだし。それに…」

金一「……それに?」

「あの子たちには恩というか借りというか…そんなのがあるのよ。それも兼ねてよ」

金一「………そうか」

「あなたが返せと言うなら、大人しく彼は返すけど……どうする?」

金一「………………………」

 

金一は少し考えてから………ピースメーカーをホルスターに戻した。

 

金一「……いや、あんたに任せよう」

「………………本当に良いのね?」

金一「あぁ、剣護を………俺の弟分をよろしく頼む」

「………えぇ、わかったわ」

金一「キンジには俺がなんとか言っておこう。あいつの仲間も心配しているだろうしな」

「そうねぇ………変なことにならないといいけど…まあなった時はなんとかしましょうか」

金一「……その時は頼む」

「えぇ。それじゃあ外まで送るわ」

金一「良いのか?」

「えぇ。行くわよー………えいっ」

金一「ゑ?うおおおおおお⁉︎」

 

次の瞬間、金一の足元に裂け目が現れ、金一はその中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金一「うおおおおおお、おお⁉︎」

パトラ「ぬおっ⁉︎キンイチ⁉︎」

 

金一が落とされた先は、救命ボートの上だった。

そこにはアンベリール号からボート使って脱出していたのだろう、パトラが乗っていた。

 

パトラ「お、お主、一体どこから……」

金一「あー………まあ、ちょっとな。それよりキンジ達は…」

パトラ「ちょうど落ちてきておる。あそこぢゃ」

 

パトラが指差す方を見るとキンジと髪を翼のように広げたアリアが降りてきていた。

 

金一「キンジ………」

 

弟とそのパートナーが無事なのを内心ホッとしつつ、剣護のことについてどう説明したものかと金一は心の中で頭を抱えるのだった。

 

 

 



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第55話 覚悟の告白

 

 

 

イ・ウーでの激闘から1ヶ月。キンジは武偵病院に入院し、無事に退院した。

入院している間に政府関係者を名乗る黒服が武偵高の教師とやってきて、イ・ウーに関して根掘り葉掘り聞かれた。その後は「事後処理は我々が行うから今回の事は永久に他言無用」と言い残して去っていった。

 

 

しかし、退院したのは良いが1つ問題が残っていた。

カジノ警備の任務で1.9単位貰えるはずだったのだが、パトラによる襲撃で大暴れし、ルーレットやスロットマシンなどを壊したりしたことで評価を下げられてしまい、1単位引かれて0.9単位しか貰えなかったのである。

このままでは単位不足で留年してしまう………

そう思ったキンジは高天原先生に頼み込んで『探偵科棟内の清掃』の任務を用意してもらった。

そんな訳で、早朝からキンジは1人で棟内の掃除をしていた。

武藤や不知火にも手伝ってもらおうと呼んだが任務や用事で無理だと言う。アリアは連絡しても出ず、白雪は明治神宮での祭事で不在、理子はジャンヌを連れてコミケに行ってしまい、レキも別件で無理、あかり、志乃、ライカの3人も一緒に出かけていて不在、風魔はバイトで駄目、剣護は連絡つく以前に行方不明だった。

結局キンジは1人で棟内の掃除をすることになり今に至る。

 

キンジ「はぁ………」

 

掃除道具を持って最後の教室に入る。

 

アリア「遅かったわね。キンジ」

キンジ「アリア………」

 

そこには電話を掛けても出なかったアリアが、机に腰掛けて足を組んで座っていた。

 

アリア「何ボーッとしてんのよ。これ終わらせられたらあんたは留年しないで済むんでしょ?」

キンジ「あぁ、完了させればな」

アリア「なら、さっさと終わらせましょ」

 

アリアはモップを持つと教室の角へと下がっていった。

 

アリア「競争よ!ここと反対側から拭いていって先に真ん中まで行った方が勝ち、負けたらリポビタン奢りってことで。どう?」

キンジ「お、いいなそれ」

アリア「じゃあ、ヨーイ…」

キンジ「ドン!」

 

開始の合図で2人は同時にすごい速さで拭き始める。

リポDは別にどうでもいいが負けるのは嫌という思いが負けず嫌いの2人を掻き立てる。

そしてキンジが真ん中を少し超えた直後、

 

金・ア『あだっ⁉︎』

 

モップの先端をガン見してたせいで互いに思い切り頭をぶつけてしまった。

2人はもつれ合うように長机と椅子の間に倒れる。まるでキンジがアリアを押し倒しているかのような状態で。

アリアは自分がどんな体勢になっているかに気づくと口をパクパクさせながら顔を真っ赤に染める。

キンジはヒステリアモードの血流が巡り始めたので、他のことを考えてなんとか阻止しようとする。

 

 

剣護『なにキンジ?アリアが可愛すぎてヒスりそう?逆に考えるんだ「ヒスっちゃってもいいさ」と…』

 

 

キンジ「いいわけあるかぁぁぁぁ‼︎」

アリア「ひうっ⁉︎」

 

脳裏に某イギリス貴族の台詞をいい笑顔で言う剣護が浮かび、思わずキンジはツッコんだ。

突然叫んだことでアリアがビクッと反応するが、そのおかげでヒステリアモードの血流は落ち着いたようだ。

 

アリア「ど、どうしたのよ急に叫んで……」

キンジ「あぁ……悪い。頭の中の剣護がちょっとな…」

アリア「頭の中の剣護って何よ」

キンジ「あー……まあ気にしないでくれ」

アリア「そ、そう……なら掃除に戻りましょ……っ」

 

アリアは左胸を押さえる。その顔色は少し悪いようだった。

 

キンジ「どうした?」

アリア「う、ううん、大丈夫………でも最近、ちょっと…」

キンジ「なら良いが……無理はするなよ?」

アリア「うん………大丈夫」

 

その後は何事もなかったかのように書類棚を整理したり、箒掛けをしたり、2人はどうでもいいような話をしながら掃除を進めていった。

アリアが手伝ってくれたこともあり清掃は夕方には終わり、とりあえず単位を確保することはできた。

少し時間が余ったな……なんてことを考えているとアリアが話しかけてきた。

 

アリア「ちょっと屋上で話さない…?」

キンジ「あぁ、良いぞ」

 

少し嫌な予感を感じながら、キンジとアリアは屋上へと上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上に上がると夕陽が沈みかかって、涼しげな風が吹き流れている。

 

アリア「……すごい夕陽ね…」

キンジ「あぁ、そうだな」

アリア「………あの日から1ヶ月も経ったのね…」

キンジ「……今思えば結構ハードな1日だったな…」

アリア「あの後…剣護、どうなっちゃったんだろ……」

キンジ「表向きは行方不明になってるが……兄さんが言うには生きてるのは確からしい。何処にいるかわからないから結局行方不明だが」

アリア「普段はふざけてばっかりな奴だけど……いざ居ないとなると…ポッカリと穴が空いた感じがするわね…」

キンジ「主にあいつと理子がムードメーカーだからな。居なくなったらなったで……なんかな」

アリア「寂しい感じ?」

キンジ「………………そうだな」

アリア「あんたでも寂しいって思うんだ」

キンジ「まあな。なんだかんだ長い付き合いだし……あいつにどれだけ支えられていたことか」

アリア「そっか………あたしにはそんな友達居ないから…ちょっと羨ましい」

キンジ「何言ってんだ」

アリア「?」

キンジ「俺たちがいるだろ。剣護に白雪、理子にレキに…皆仲間である前に友達だろ」

アリア「っ………!うん……そうね」

 

そう言ったアリアの表情はどこか寂しげだった。

 

アリア「………あのね、今回の一件でイ・ウーの証拠が十分揃ったから、もうすぐママの裁判が始まるの」

キンジ「そうか………あと少しなんだな」

アリア「ここまで来れたのはキンジと剣護のおかげよ。ありがとう」

キンジ「いいよ別に。………パートナーだからな…」

 

照れ隠しにぶっきらぼうに返すキンジ。

 

アリア「ママの無罪判決が出たらね……あたしね……ロンドンに帰るの…」

キンジ「………そうか」

アリア「それで……ちょっとした提案があるの」

キンジ「提案?」

アリア「あんたも一緒にロンドンに行くの。向こうで一緒に武偵やったりして……ね」

キンジ「あぁ、それも悪くないかもな。でも英語話せないぞ?」

アリア「それならあたしが付きっきりで教えてあげるわよ」

キンジ「ははっ……お手柔らかに頼むぜ」

 

そう言って互いに笑い合うキンジとアリア。

 

 

 

キンジ「アリア………実は俺からも言っておかないといけないことがあるんだ」

アリア「何?」

 

真剣な表情のキンジにアリアは小首を傾げる。

 

キンジ「………時々俺の性格とか変わる時があるだろ?」

アリア「えぇ、そのことについて?」

キンジ「あぁ………」

アリア「あんなに言いたがらなかったのに、どういう風の吹き回しよ?」

キンジ「言いづらい理由があったんだよ……」

アリア「ふぅん……別に無理に話さなくても良いのよ?」

 

アリアは気遣うように言うが、キンジは首を横に振る。

 

キンジ「いや、これは今後のことにも関わるから話さないといけない」

アリア「そう……わかったわ」

キンジ「俺の力はヒステリア・サヴァン・シンドローム。兄さんはHSS、俺はヒステリアモードって呼んでる」

 

爺ちゃんは『返對(へんたい)』って呼んでるがな…と付け足しながらキンジは話を続ける。

 

キンジ「効果は脳内のβエンドルフィンが一体以上分泌されることで思考力や判断力、反射神経などが通常の30倍にまで向上するんだ」

アリア「あんな芸当ができたのはそれの効果によるものだったのね」

キンジ「まあな。それで……その………発動条件なんだが……」

 

口籠るキンジ。アリアは少し心配そうにキンジを見る。

 

アリア「や、やっぱり無理に話さなくても……」

キンジ「……駄目だ。ここまで話したんだ……引くわけにはいかない」

 

大きく、深く深呼吸して覚悟を決める。

 

キンジ「………発動条件は……性的興奮なんだ…」

アリア「?………………………っ‼︎」

 

アリアはしばらく小首を傾げて、それからボッと火がついたように顔を真っ赤にした。

 

アリア「そ、そっ……か………そう、なのね…」

キンジ「……これが言いづらかった理由だ」

アリア「そう……ありがとうね。話してくれて」

キンジ「……傷つけて後悔するより…本当のことを話してスッキリさせる方が良かっただけだよ」

アリア「………本当、優しいわね。キンジは」

キンジ「そうか?」

アリア「剣護が言ってたわよ。キンジはぶっきらぼうに振る舞ってるけど根は優しい奴だって」

キンジ「あいつ……帰ったら覚えてろよ…!」

 

アリア「………………ん?ちょっと待って。それなら曾お爺さまと戦った時の赤いオーラみたいなのは何なの?」

キンジ「あー……あれか。俺にもよく分からんが……感情がトリガーになってるのは確かだと思う」

アリア「ふーん……今は使えるの?」

キンジ「いや、まだ自由に発動はできないな」

アリア「そう。でも使えるようになったらこの先有利になるわね」

キンジ「そうだなぁ……この2学期始まるまでにはそうなっておきたいな」

アリア「あんた大分鈍ってるんだから時間かかるんじゃない?」

キンジ「違いない」

 

いたずらっぽく笑うアリアに、苦笑いで返すキンジ。

 

アリア「それじゃあ……帰りましょ?」

キンジ「あぁ、そうだな……帰るか、一緒に」

アリア「えぇ、一緒に………ね」

 

キンジとアリアは横に並んで寮への道を歩いて出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「ふぅ……ただいま」

アリア「ただいま」

 

怜二「あ、おかえりー」

レキ「おかえりなさい、2人とも」

ライカ「おかえりなさい」

 

寮に着き中に入ると、レキと怜二とライカがリビングに晩ご飯を運んでいた。

 

キンジ「他はまだなのか」

怜二「そうだね」

アリア「この料理は?」

レキ「白雪さんが作り置きしておいてくれていたものです」

キンジ「お、それはありがたい」

アリア「ライカ。あかり達は?」

ライカ「それぞれ家に帰りましたよ」

 

ちなみに本来ライカはキンジ達の部屋の隣に剣護と一緒に住んでいるが、今は剣護がいないのでキンジ達の方で寝泊りしている。

 

怜二「任務はどうだった?」

キンジ「途中アリアが手伝ってくれたおかげでなんとか終わったよ」

怜二「それなら2学期は大丈夫そうだね」

キンジ「俺はともかく問題は………」

ライカ「剣護先輩……ですよね…」

アリア「あいつも単位足りてないわよね」

怜二「この夏休み中に帰って来なかったらヤバくない?」

レキ「かなりヤバいですね」

キンジ「一応あいつの任務は用意してあるらしいけどな」

アリア「そうなの?」

キンジ「あぁ、高天原先生から聞いたから確かだ」

怜二「……………ちなみに用意したのは?」

キンジ「………………蘭豹」

4人『あぁ……』

 

蘭豹の用意した任務と聞いて4人は何かを察し、この場にいない剣護に心の中で合掌した。

 

 

 

剣護「っ………⁉︎な、なんだ…?今の感じ……」

 

 

 

一方で謎の寒気に身震いする剣護だった。

 

 

 



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夏休み編
第56話 意外な再会


書くの久しぶりすぎて、どんな風に書いてたか忘れてしまったゾ……


 

 

セミの鳴き声がやかましく響く夏の真っ只中。

キンジたちは男子寮の部屋でダラダラと過ごしていた。

 

アリア「あ"〜…も〜……なんでこんな暑いのよ…」

怜二「年々暑さ増してる気がする……」

キンジ「夏はそういうもんだろ…」

理子「こんな日は冷房ガンガンにしてゲームするに限るぜぇ…」

アリア「いつもと変わらないじゃない」

理子「だって〜…ツッキーいないから娯楽研究部動かせなくて暇だもん。ジャンヌや夾竹桃はコミケ用の漫画で忙しそうだし」

怜二「剣ちゃんいないせいで全員のテンションだだ下がりだし」

キンジ「大体あいつと理子が盛り上げ担当だったからな……」

あかり「今頃何してるんでしょうか…剣護先輩…」

アリア「なんか情報ないの?」

理子「調べようがないんすけど」

アリア「そこをどうにかしなさいよ」

理子「いや流石に無理だよ⁉︎そもそもどこを何をどう調べろと⁉︎」

怜二「どうどう、おちけつおちけつ」

キンジ「唯一知ってるのは兄さんだが……連絡つかないしなぁ」

白雪「焦っても仕方ないよ。とにかくできることをしないと」

 

そこへ白雪と志乃が台所から切ったスイカと麦茶を持って出てくる。

 

理子「やほーい!スイカだー!」

怜二「キンッキンに冷えてやがる……!」

アリア「……今思うと怜二もだいぶ染まってきたわね…」

キンジ「そういうお前も既に手遅れよ」

アリア「そんなの百も承知よ……」

理子「ようこそ、こちらの世界へ……!」

怜二「ウェルカムトゥザジャパリパー……!」

ライカ「それ違いますよね」

アリア「あたしとあんたらを一緒にすな!」

 

スイカを齧り、麦茶を煽りながら駄弁るキンジたち。

ふと、志乃がポツリと呟いた。

 

志乃「ところで、皆さんはこの後はどうされるんです?」

 

金・理・怜『少なくとも外には出たくねえ』

 

 

即答である。

 

 

アリア「まあそうなるわよね……」

キンジ「といってもすることを無いんだがな…」

怜二「それな」

理子「理子はこれからオンゲーする約束あるから」

 

そう言って理子は奥の部屋に入っていった。

 

キンジ「………なあ」

怜二「んぇ?」

キンジ「………ここ、男子寮だよな…?」

怜二「そうだね」

キンジ「……こいつら普通に居座ってね?」

怜二「あー……まあ…最近は…だねぇ」

キンジ「……剣護早く帰ってこねえかな」

怜二「だねぇ……1年の子みたいに今は元気そうだけどまだ落ち込み気味の子たちがいるしねぇ」

アリア「何気に理子やレキがそれに当てはまってるわよね」

キンジ「あのあいつらがなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理子「………………」

 

カチカチとディスプレイを見ながらコントローラーを弄る理子。

ボーッとした様子でフレンドとオンラインでプレイしていると、そのフレンドから声をかけられる。

 

『りこりんさん?どうかしましたか?』

理子「………んぇ⁉︎な、何かな?サナーさん」

サナー『いえ、なんだかボーッとしてる感じでしたので』

理子「あー………まあ、ちょっとねー……」

『何か悩みかしら?良ければ聞くわよ?』

理子「………………………」

 

理子は少し考えてから、あることを2人に聞いた。

 

理子「……1ついいかな…?」

『ええ、いいわよ』

サナー『どうぞ』

理子「友達が行方不明でさ……それでちょーっと落ち込み気味なんだよねー……」

『ふぅん………ちなみにどんな人?』

 

理子「…長い髪を縄でまとめてるヤツなんだけど……もしかしてってことは無いだろうけど……見たことある?」

 

『いえ、私は見たことないわ』

理子「そうだよねぇ………」

 

そりゃそうかと溜息をつく理子。そこにサナーさんが答えた。

 

 

 

 

 

サナー『あ、私会いましたよ』

 

理子「………………え?」

 

 

 

 

 

サナーさんの思わぬ返答に理子は思わずコントローラーを落とした。

 

理子「ちょっそれマジ⁉︎」

サナー『は、はい。長い髪を縄でまとめてて…もしかして刀持ってます?りこりんさんが言ってる人って』

理子「ドンピシャだよ‼︎そいつだよ!理子たちが探してるヤツ‼︎」

『あら、すごい偶然ね………ん?待てよ?もしかしたらその人、うちの人が治療したって言ってたヤツかも』

理子「マジっすか⁉︎ぐーやんさん⁉︎」

ぐーやん『ええ、たしかね』

理子「そ、それで……生きてる、の…?」

サナー『ええ、結構ボロボロでしたけど元気そうでしたよ』

理子「そっか………」

ぐーやん『あの子めちゃくちゃタフよねぇ」

サナー『あ、そうだ。りこりんさん』

理子「ん?」

サナー『明日時間があればビデオ通話しませんか?』

理子「え、いいの?」

サナー『はい。明日は家の人が用事でいないので。あと彼も呼んでおきましょうか?』

理子「う、うん!お願い!」

サナー『わかりました。いつ頃するかはまた連絡しますね。それじゃ』

ぐーやん『私も今日はここでログアウトするわね』

理子「うん、ぐーやんさんもありがとね。そんじゃ」

 

理子もログアウトをすると、勢いよく部屋を出てすぐさま皆のいる居間へと走っていった。

 

理子「うおおおおお‼︎みんなぁぁぁ‼︎大ニュース‼︎大ニュース‼︎」

アリア「うるさいわね!ちょっとは静かにしなさいよ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、居間にパソコンを配置してビデオ通話の準備をした理子たちはサナーさんからの連絡を待っていた。

 

キンジ「相手はゲームのフレンドだろ?信用できるのか?」

理子「でも他に方法ないでしょ」

アリア「この際分かるなら何でもいいわ」

怜二「ハズレじゃないことを祈るばかりだね…」

理子「……あ、メール来た」

 

話しているうちにサナーさんから準備完了のメールが来たので、理子は通話で確認してからスピーカーに切り替えてビデオをオンにする。

 

理子「さて…どうかな…っと」

サナー『あ、映った。映った』

 

パソコンの画面に映ったサナーさんは、緑の長い髪にカエルとヘビの髪飾りをつけた少女だった。

 

理子「うっわ、サナーさんめっちゃ可愛いじゃん!」

アリア「………………おっきいわね」

サナー『えへへ…どうもです…っと自己紹介しないとですね。初めまして。サナーこと東風谷早苗といいます。今回は本名でやらせていただきますね』

アリア「早速だけど本題に入らせてもらうわ。あなた、あたしたちが探してるヤツを知ってるのね?」

早苗『はい、私が見た方と皆さんが探してる方の特徴が合っていればですが……』

怜二「長い髪を縄でまとめてて刀を持ってて……えーと、それから…」

ライカ「たしか常世の神子ってやつ……ですかね?」

理子「あ、それか。髪解いた時に色が白くなったりとかは?」

早苗『あ!ありました!ありました!能力が爆上がりするやつですね!』

理子「そうそう、それそれ」

早苗『となると、大体一致しますね……………ん?』

理子「どったの?」

早苗『誰か来たみたいで……ちょっと席外しますね』

 

そう言って画面を点けたまま早苗は何処かへ行ってしまった。

誰かと話しているのか話し声がスピーカー越しに微かに聞こえる。

 

キンジ「なんだ?」

理子「誰か来たっぽいね。確か誰か呼ぶとか言ってたっけ」

 

少しして早苗が戻ってくる。

 

早苗『すいません。呼んでた人が来たみたいで…あ、入ってきてくださーい!』

 

早苗が呼ぶと赤い巫女服を着た少女と例の彼………キンジたちが今まで探していた男が部屋に入ってくる。

 

霊夢『邪魔するわよ』

剣護『邪魔すんなら帰って〜ってか?あれ通話してんn………』

全員『剣護(先輩)!!!』

 

剣護は画面を見るなり回れ右して部屋から出ようとし始めた。

 

理子「ちょ、コラーー‼︎」

剣護『す、スピードワゴンはく、くくくクールに去るぜぜぜ……』

早苗『ちょ、なんで帰ろうとするんですか⁉︎』

剣護『あいつらが相手って聞いてないんですが⁉︎』

アリア「早苗!そいつ抑えなさい!」

キンジ「洗いざらい全部吐いてもらうぞオラァ‼︎」

理子「やべぇキーくんが壊れた」

剣護『こんなとこにいられるか!俺は帰らせてもらう‼︎』

霊夢『結界張ったから逃げられないわよ』

早苗『グッジョブです!霊夢さん!』

剣護『畜生めぇ‼︎』

 

それからヤダヤダと暴れる剣護をなんとか座らせて、キンジたちと対面させた。正座で。

 

剣護『………………………』

アリア「さて、まずあたしたちに何か言うことあるわよね?」

剣護『えー……あのー……連絡1つもしないで心配かけてすいませんでした………』

キンジ「………まあいいだろ。んでお前はどこで何してんだ?」

剣護『えーと、俺がいるのは幻想郷ってとこで…』

アリア「幻想郷……あれ、なんか聞いたことあるわね…」

霊夢『前にそっちにいた時に話したと思うわ。そっちの世界から結界で隔離した世界、幻想郷』

アリア「あ、それだわ」

白雪「それで剣ちゃんは何を…?」

剣護『えーと……これ話して大丈夫かな…色金に関することなんだけど』

キンジ「うーん……まあ大丈夫だろ」

剣護『なら話すか。俺の中に色金撃ち込まれてるだろ?そんでシャーロックと戦った時に死にかけて発現したアレ。アレを制御するための修行でこっちに留まってんだよ』

キンジ「アレの完全制御か……」

アリア「………できるの?それ」

剣護『そだなー……現状制御できてるのはざっと5分の4くらいかな』

アリア「大方できてるのね」

剣護『こっちからも聞いていい?』

キンジ「なんだ?」

剣護『単位どうなった?』

キンジ「あぁ、それか。大暴れしたせいで0.9単位に下げられた」

剣護『ファッ⁉︎0.1足りんやんけ⁉︎』

キンジ「俺は高天原先生に頼んで任務用意して貰って、それこなして単位貰った」

剣護『え、じゃあ俺はどうなんの……?』

怜二「蘭豹先生がなんか用意してるらしいよ」

剣護『うーわ蘭豹かよ……嫌な予感しかしねえわ…』

白雪「あとね剣ちゃん。SSRからも依頼が来てるみたいなの」

剣護『マジ?俺指名で?』

白雪「うん。詳細はこっちに帰ったら伝えるけど…あとどれくらいかかりそう?」

剣護『どれくらいつってもなー……そっち今何日?』

アリア「8月のー……18日ね」

霊夢『うーん……少なくてあと1週間くらいかしら』

理子「1週間………か………」

剣護『あん?どうかしたん?』

キンジ「お前が行方不明になったせいで1年や理子やレキとかがかなり参っちまってんだよ」

剣護『1年3人はわかるけど、理子とレキまで?』

怜二「というかほぼ全員が参ってます」

剣護『あー………マジかー………………………』

 

剣護はガリガリと頭を掻いてから、うーんと唸りながら俯く。

 

剣護『………………わかった。なんとかするわ』

キンジ「なんとかするって……何をだ?」

剣護『まー待ってな。なんとかすっからさ』

アリア「いやだからなんとかって……」

霊夢『……あ、もしかして…そういうことね』

早苗『え、霊夢さん、わかったんですか?』

霊夢『修行のスケジュール組んだのあいつだしね』

理子「………どゆこと?」

霊夢『まあ交渉よ交渉。もしかしたらもしかするかもね』

理子「?????」

早苗『結構時間経ちましたし、そろそろ終わりましょうか?』

理子「あ、うん。そうだね。良いよね?」

キンジ「ああ、後は帰ったら聞かせてもらうとするか」

早苗『それじゃあお疲れ様でした』

理子「ごめんねー無理言っちゃって」

早苗『いえいえ!また暇があればやりましょ』

理子「うん。そんじゃーねー」

 

通話を切ると一同はハァ〜…と大きく息を吐く。

 

キンジ「………………無事…っぽかったな」

アリア「そうね……なんか前よりボロボロだった気がするけど」

白雪「でも元気そうで良かったよ…」

怜二「なんとかするって言ってたけど何すんだろね」

レキ「交渉と言ってたので誰かと交渉するのでしょうか」

キンジ「お前………………居たのか」

レキ「居ましたが?」

アリア「いや、居たなら何か話しなさいよ。全然わかんなかったわよ」

レキ「すいません。剣護さんの顔見たら満足してしまいまして…」

ライカ「えぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーーーそれから2日目経過してーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「ただーいまー」

 

『ファッ⁉︎』

 

 

 

 



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第57話 帰宅

お久しぶりです。長期間、投稿が空いてしまい申し訳ないです。
就職等でモチベが下がってしまい、なかなか執筆が進められなくてズルズルとここまで引きずってしまいました。
なるべく早く続きが出せるように頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。


 

 

 

ビデオ越しに剣護と再会した日から2日後、割とあっさりと帰ってきた剣護。

 

剣護「おいっすー。帰ったぜよ」

『………………………』

剣護「………あり?」

 

反応が返ってこなくて首を傾げる剣護。

 

『……い…………』

剣護「い?」

『今まで何してやがったああああああああああ!!!!』

剣護「えちょま、キ"ャア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"⁉︎」

 

返ってきたのは暴力の嵐という返事だった。

パンチやキック挙げ句の果てには刃物や銃弾まで飛んでくる始末になり、数分ほどしばき倒されてから剣護はやっと解放された。

 

剣護「……怪我人ボコるってどういう神経してんだよ」

キンジ「自業自得だ馬鹿野郎」

アリア「心配かけた罰よ」

剣護「だからって刀や銃器とか爆弾はねえじゃん⁉︎」

理子「うっせぇバーロー。蔵王製じゃないだけマシだ」

怜二「そーだそーだ」

あかり「ホントに心配したんですからね‼︎」

志乃「連絡してくれても良かったじゃないですか」

ライカ「不安で押しつぶされそうだった…」

剣護「マジでごめんて」

レキ「おや?今なんでもするって……」

剣護「俺何も言ってねっすレキさん」

白雪「剣ちゃん」

剣護「ん?何だ?しらゆk……白雪さん」

 

白雪に呼ばれて返事を返す剣護だが、白雪の見るからにガチギレしてる雰囲気に思わずさん付けで呼んでしまう。

 

白雪「色々聞きたいんだけど……い い か な ?」

剣護「え、えっと……あ、後からでもイイデスカ…?」

白雪「は い ?」

剣護「い、いいいいいえ、が、学校にれ、連絡しに行かないととと…」

白雪「あぁ、そっか。それなら良いよ」

剣護「あ、あざっす!ザーッス‼︎あ、そうだ。これ返すわ」

 

そう言って剣護は、パトラから取り返してそのまま持ってたイロカネアヤメを白雪に返却した。

 

白雪「あ、イロカネアヤメ!やっと返ってきたぁ……これで怒られないで済むよ…」

剣護「俺自身めっちゃそれにお世話になってたわ。あんがと」

「そろそろいいかしら?」

 

そこへ玄関から紫のワンピースに身を包んだ金髪の女性が顔を出した。

 

あかり「だ、誰?」

紫「そこの彼を保護していた八雲紫といいますわ」

霊夢「久しぶり?て程でもないけど久しぶり」

怜二「あ、博麗さんじゃん」

アリア「あんたね?剣護を攫ったの」

紫「攫ったなんて人聞きの悪いこと言わないでくださいな。保護したって言ったじゃないの」

志乃「何が目的でそんなことを……?」

紫「それは後で話すわ。先に学校に報告に行かないといけないのよ」

キンジ「なんであんたが?」

霊夢「一応こいつが行方不明時の保護者扱いだからよ」

紫「てなわけで行ってくるわね。剣護」

剣護「お、おう。じゃあ後でな」

 

そう言って剣護と紫は武偵高に行ってしまった。

部屋にはキンジたちと霊夢が残った。

 

キンジ「……お前は行かないのか?」

霊夢「私はここで待たせてもらうわ」

理子「そんじゃあ色々聞かせてもらおっかな」

白雪「あ、私お茶とお菓子出すね」

霊夢「あら、悪いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「た……ただいま……」

 

日が傾き始めた頃、剣護と紫が帰ってきた。剣護の方は何やらゲッソリとした表情をしている。

 

キンジ「顔が死んでる……」

アリア「その様子だとこってり絞られたみたいね」

紫「ええ、めちゃくちゃ怒られてたわね」

剣護「おふぅ………」

怜二「そういや蘭豹先生から単位のための依頼か課題があったんでしょ?どんなの?」

剣護「……強襲科の連中100人をぶっ飛ばすこと」

ライカ「ひゃ、100人をですか…」

霊夢「あら、楽勝じゃない」

ライカ「ゑ?」

紫「そうね。今の剣護なら苦戦することはないわね」

怜二「ゑ?」

剣護「万全ならもっと余裕だぜ」

理子「ゑ?」

キンジ「………お前、一体どんな修行してきたんだ…?」

剣護「えー?ただ色んな人とやり合っただけだけど」

キンジ「絶対やばいレベルの奴らだろ」

剣護「まあ……そうさな」

霊夢「こっちを見んな」

剣護「いやだって……ねぇ?」

霊夢「あんたの方が強いでしょうが。私に勝ってるんだし」

怜二「マジかよ」

剣護「勝ってねえよ。相打ちだよ相打ち」

紫「それでも十分すごいわよ…それより剣護」

剣護「あん?なんだよ」

紫「この課題、あなたの修行の成果を試すにはもってこいじゃない?」

剣護「……奇遇だな、俺もそう思ってた」

紫「ただ注意しなさいよ。弾幕やスペカは使わないこと。もちろん形態変化も無しよ」

剣護「わかってるよ」

 

キンジ「……何の話してんだあいつら」

霊夢「気にしない気にしない」

 

怜二「ところで博麗さんから聞いたけど、弾幕ごっこ?を教わったんだって?」

剣護「そうだけど何か?」

怜二「もう一つ聞くね。その弾幕ごっこで技の手札いくつ増えたの?」

剣護「…………………君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

理子「実際は?」

霊夢「えーと…スペカに霊力系とかその他もろもろ……」

剣護「10あたりから数えるのやめた」

キンジ「もうちょい頑張れよ」

 

アリア「そういえば、まだ言ってないことがあったわね」

キンジ「ん?……あぁ、そういや忘れてたな」

剣護「あん?」

 

 

 

 

 

『おかえり(なさい)、剣護(さん)(先輩)』

 

 

剣護「お、おう……ただいま」

 

 

 

 

 

アリア「何どもってんのよ」

剣護「やかまし」

理子「へいへいツッキー、照れてるぅー!」

剣護「うるせえ焼くぞ」

怜二「まーまー」

霊夢「あんた達いつもこうなの?」

ライカ「大体こんな感じですね」

レキ「日常が帰ってきたって感じがしますね」

キンジ「だなぁ……」

 

 




久しぶりの投稿なのに短くて申し訳ないです。


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第58話 強襲科生100人抜き!

えー、まずは2年と少しの間休止しててすいませんでした……
就職したり、仕事で気力全部持ってかれたり、病んだり、病んだり、あと病んだりしてモチベーションを完全に無くしてました。あとホロライブにガチハマりしてファンアートを描き始めたり、EXPOやLiveに現地参加したりして諸々がギリギリな自分にとっての心の支えになってます。
今後もファンアート共々不定期な更新になるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。


 

 

 

翌日、強襲科棟には蘭豹によって集められた強襲科の生徒100人と剣護が対峙していた。

 

蘭豹「おう、来たか。昨日も言った通り内容は至極簡単や。こいつら全員をぶっ飛ばすだけ。できたら単位くれたるわ」

剣護「ウス」

 

蘭豹「お前らぁ‼︎今までの鬱憤を晴らすつもりでやったれや‼︎」

『おおおおおおおおお!!!!!』

蘭豹「よぉーし……では始めぇ!!!」

 

剣護「しゃあぁおるぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

蘭豹の号砲と共に剣護は全力疾走。そしてその勢いを乗せたラリアットを先頭の敵にぶちかます。ラリアットを食らった敵はぐるんと一回転して床に叩きつけられた。

 

「アバッ…!?」

「ファッ!?なんだその威力!?」

「やべぇよやべぇよ……」

「ええい!怯むな!こっちはあと99人もいるんだぞ!!」

『お、おお!』

 

剣護「月島流!鉄砕拳!!」

 

「グワーッ!?」

「ひでぶ!?」

 

2人まとめて殴り飛ばし数人巻き込むと、今度は何人かが剣護の周りを囲み始めた。

 

「囲め!囲め!逃げ場を無くせ!」

剣護「お?」

 

囲んでいる内の何人かは棒などの得物を持っている。

 

剣護「ほむほむ……多人数か…まあこれくらいならどうってことないかな」

 

剣護は掌を開いた状態で右手を前に、左手を腰溜めに構えた。

 

 

剣護「月島流拳技…」

 

 

「かかれ!」

剣護「しっ!」

 

一斉に向かってくる攻撃を剣護は次から次へと受け流して捌いていく。

さらに捌くだけでなく動きに合わせてカウンター繰り出していく。

 

「野郎!」

剣護「巻嵐・絡手」

「うおお⁉︎」

 

相手の振り下ろす棒に合わせて剣護は手を添えて棒を絡め取ると相手を蹴り飛ばす。

間髪入れずに複数人が得物をほぼ同時に振り下ろしてくるが、剣護は避けずに全身に力を込めて身体で受け止めた。

 

剣護「月島流、鉄鋼身!」

「な、なんだこれ⁉︎ビクともしねえ⁉︎」

「カッチカチやでぇ…」

剣護「フッ!」

「ぶべら!」

「たわば!」

剣護「せっ、らぁ!」

「ドゥフ!グホァ!?」

 

左右2人を沈めると剣護はさらに、正面の敵に前蹴り→後ろ回し蹴りで吹っ飛ばす。

そして間髪入れずに後ろの方に間合いを詰め、次々と薙ぎ倒していく。

 

剣護「月島流拳技、鉄肘撃!」

「げふぁ!?」

「畜生!なんでこんな強えんだよ!」

剣護「月島流、流水(ながれ)受け…かーらーの…撃鉄!」

「オゴォ!?」

「一斉にかかれ!防御されても攻めるんだ!」

剣護「月島流拳技、飛燕連撃!」

 

燕のような素早い動きで翻弄しつつ次々と倒していく。

 

剣護「うーん…まだ結構いるなぁ…」

 

ざっと数えてみるが残り60人ほど残っていた。

 

剣護(使わずにいたかったけど……しょうがねぇ、ギア上げるか)

 

剣護「ふー……」

 

意識を集中させると剣護の身体がボンヤリと青白い光に包まれる。

 

「な、なんだ……?」

「怯むな!ただの見せかけだ!」

剣護「ウラッシャア!」

「ガホァ!?」

剣護「シィッ!」

「オグォ…!?」

 

剣護は勢いよく跳び膝蹴りで蹴り飛ばすと、隣の敵に腹、胸、顔に3連撃を一瞬で打ち込む。

 

「この!」

剣護「ハッ!」

「ウゴッ」

剣護「まだまだぁぁ!!!!」

 

後ろから襲ってくる敵を肘打ちと裏拳で倒すと、瞬く間に次々と敵との間合いを詰めては猛烈な勢いで沈めていく。

 

「つっよ……」

「60くらい残ってたのに、もう40人切りそうだぞ…!?」

 

剣護「月島流拳技……!」

 

敵目掛けて剣護は疾走。

 

剣護「蹴突撃!撃鉄!鉄扇脚!」

 

前蹴りとストレートパンチで数人吹っ飛ばし、後ろ回し蹴りでさらに数人を薙ぎ倒す剣護。

 

剣護(まだ……いけるな)

 

「クソが!」

剣護「ふん!」

「ゴフゥ…」

剣護「せぇあ!」

 

正面の敵にボディブローを叩き込み、蹲る敵の背を飛び越えて後ろの敵を蹴り飛ばすと後ろの数人とぶつかって倒れていく。

 

剣護「月島流、蓮華掌!」

「フゴッ!」

 

さらに掌底を打ち込んで他の敵を巻き込んで吹っ飛ばしていく。

 

剣護(残り30人!)

 

剣護「でぇえりゃあああああ‼︎」

「えちょ、ごぶぁ⁉︎」

 

剣護は助走をつけて側転して背を向けた体勢から肘打ちを叩き込む。

 

「す……スペースローリングエルボー…」

「は、初めて見たぞ…」

「怯むな!やれやれ!」

剣護「オラッシャア!」

 

剣護は疾走すると正面の敵に前蹴り、続けて来る敵を掴むと薙ぎ払うようにぶん回して数人巻き込んでから投げ飛ばし近くの数人にぶつける。

 

「ッ……ウオオオオオオオオ!!!」

 

残り10人ちょっとを切る寸前のところで1人が剣護目掛けて突っ込んでくる。

 

「この!」

剣護「月島流、流水受け!」

 

相手の突き出してきた得物を横から手を添えて受け流し、振り返ったところに裏拳を叩き込む。

 

剣護「月島流!百華乱撃!」

 

拳の乱打で続けて攻めてきた複数人をぶっ飛ばすと剣護は集団に向かって一気に距離を詰める。

 

「これなら!」

「オラァ!」

剣護「っ!ふん‼︎」

『ぐほぉ!?』

 

左右から2人が挟み打ちで来たのをしゃがんで避け、腹を殴り沈める。

 

残り3人。

 

「くそったれぇ!」

剣護「シャア!」

 

向かってくるのを回し蹴りで蹴り飛ばし、

 

剣護「はっ!」

「うぐぁぁぁ⁉︎」

 

もう1人は一気に間合いを詰めて両手での掌底を打ち込み吹っ飛ばす。

 

剣護「ラスト……1人」

「や、やってやる……!オオオオオ‼︎」

剣護「月島流…拳技……」

 

突っ込んでくる相手の拳を受け流す。

 

「あ………」

「奥義……!」

 

瞬間、拳と蹴りがまるで旋風により巻き起こる桜吹雪の如く叩き込まれ相手の意識を一瞬にして刈り取った。

 

「桜華旋撃!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣護「はあ〜……やっと終わったぁ」

キンジ「お疲れ」

剣護「お、サンキュー」

 

無事単位をもらい校門から出るとキンジが待っていて、缶コーヒーを剣護に渡す。

 

キンジ「にしてもお前、強くなったなぁ」

剣護「そりゃ実際に化け物ばっか相手にしてたかんな。吸血鬼とか鬼とか」

キンジ「化け物ねぇ……」

剣護「言っとくけどブラドなんかより強えからな?」

キンジ「マジかよ……」

剣護「そんでもって全員が能力持ちだから厄介だのなんの」

キンジ「能力……ステルスか?」

剣護「いやー……こっちのとは別物じゃねえかな」

キンジ「ふーん…」

剣護「ま、何にせよ無事に単位は確保できたし。明日から遊ぶぞー!」

キンジ「と言っても日数残り少ないけどな。あとお前宿題は?」

剣護「こっちから持ってきて貰って修行中に終わらせましたが何か?」

キンジ「えらい」

 

寮に着いてキンジの部屋に入るとリビングにアリアと理子とジャンヌと怜二がゲームをしていて、ソファーの方ではレキがイラストを描いていた。

 

アリア「あら、おかえり。単位は貰えたの?」

剣護「あぁ、余裕だった」

ジャンヌ「む、月島か」

 

ジャンヌは振り返ると剣護の方に近寄りジト目気味にマジマジと見てくる。

 

剣護「あの……ジャンヌさん…?」

ジャンヌ「……やはり最後に会った時より怪我が増えてるな…全く」

剣護「ハイスイマセン……」

理子「ジャンヌも心配してたんだよー?ツッキーのこと。まあジャンヌだけじゃないけども」

剣護「ぐぬぅ……」

怜二「まあまあ。ちゃんと帰ってきたしもう良いんじゃない?」

ジャンヌ「はぁ……それもそうか」

理子「その代わり今日はオールで付き合ってもらうけどネ!」

剣護「へっへっへ、途中で寝落ちしそう」

理子「ダメだからね?」

キンジ「おい待て俺もか?」

怜二「もちもちろんろん」

キンジ「えぇ……」

 

結局その場にいた全員が夜中までゲームに付き合わされ、全員リビングで寝落ちをかます羽目になった。

 

 

 



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