ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜 (ソードダンサー)
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聖者の右腕篇
聖者の右腕1


初投稿です。文才ありません。私のメンタルは豆腐より柔らかいんであまり
辛辣なことは書かないでいただけると助かります!それとしばらくは不定期更新になります。なんせ受験戦争真っただ中なので・・・状況が落ち着き次第投稿頻度が上がりますのでそれまでは勘弁していただけるとうれしです。では本文どうぞ!


プロローグ

 

 

 

 

あたり一面真っ赤だった。

子供の泣き声が木霊する。

その時、少年は村から離れた森にいた。二本の刀を抱える腕が振るえる。

鍔鳴りが止まらない。

熱い。

口が渇く。

体が石のように重い。

が、足だけは別の生き物のように前へ前へと動いていく。

村を出てからこちら、できるだけ遠くへという思考に支配された脳は絶えず五感を過敏にさせた。

何処へ向かっているのかも分らない。兎に角先へ先へと芋虫のように進んでいた少年だったが、ついに鉛のような重さに動きを止めた。限界だ。瞼が下がる。持ち上げられない。

 

 

 

「小僧、生きたいか?」

 

 

 

 頭の上で声がする。若い女の声・・・?

 

 

 

「生きたい・・・」

 

 

 

 頭の上の誰かに縋るように、灼けつきと、プレッシャーにやられた喉から声を絞り出した。瞬間意識が反転した。

 

 

 

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東京南方海上から330km付近の太平洋上に浮かぶカーボンファイバーと樹脂と金属と魔術によってできた島。

五基のギガフロートを中心に構成された、人工島その名は絃神島と呼ばれていた。「魔族特区」の1つであり、絶滅の危機に瀕した魔族の保護や世界の名だたる企業の研究所があり日々研究や実験が行われっている。

 

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とあるマンションの一室で少年は目覚めた。

「懐かしい夢を見た」

カーテンの隙間から漏れてくる朝日に照らされそう呟いた少年―南宮火乃香-は、まだ覚醒しきっていない重たい頭を何とか持ち上げ、二度寝を誘う悪魔のベットから脱出し、このマンションの主たる南宮那月を起こしに部屋へと向かった。

「姉さん、朝だから起きて」

部屋の戸を一定のリズムでノックしながら伝えた。

部屋の中からゴソゴソと物音が聞こえていたが、暫くすると音が聞こえなくなった代わりに、扉が開いた。

「おはよう、火乃香」

「おはよう、姉さん」

爽やかな挨拶を互いにかわした。

ただTPOを思いっきり無視した暑苦しそうな格好のゴスロリ姿で出てきたことを除けば、いたって普通の朝だろう。

ここで一つ説明しておけば、火乃香と那月は血が繋がっていない。彼は10年前、死にかけていたところ、那月に拾われ助けてもらったのだ。そんなこんなで、火乃香はプライベート時には彼女のことを姉さんと呼んでいる。

朝食の準備に取り掛かった。基本的に家事全般は火乃香がこなしているのだが、食事は交代で作っている。そして、今日の当番は、火乃香だ。二人とも朝食はそんなにしっかりと食べるほうではない。よって、朝食は紅茶とトーストそして果物というのが基本だ。

『昨夜二人の男性の吸血鬼が工事現場で倒れているのを発見しました。警察はこの事件を最近起きている魔族狩りと同一犯であるという線で捜査を続けています。』

「また魔族狩りかぁ・・・姉さん捜査に進展ある?」

「いやこれと言って進展はないな」

「早く捕まえなきゃ」

朝に弱く、低血圧な二人は更に、食事中ほとんど会話しないので朝の会話というのは、ほとんど交わされない。若しくは、このような少々寂しい会話が繰り広げられるのである。

そうしている内に、二人とも食事を終え食器を流し台に出し片付けけを終わらせ、二人は学校へ行く準備をし、玄関を出た。

 

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-私立彩海学園-

とある教室にて二人の生徒と背の小さいゴスロリを着た教師がいた。

「暑い、焦げる、灰になる」

文句ばかり垂れているのは火乃香のクラスメートで親友の暁古城である。

現在彼は夏休み前の無断欠席や、成績不良による補習という名の拷問を担任教師から受けていた。

「暁古城、少しは静かにしろ。しゃべると余計に暑くなるぞ。と言うか貴様のせいで私の休日が潰れているんだ。こっちが文句を言いたい」

「けどよぉ那月ちゃんエアコンくらいつけt・・・ごふっ!」

「教師をちゃん付けで呼ぶな!それに貴様のような不良にエアコンなんて勿体ないがまんしろ」

那月は持っていた扇子古城の頭に叩き込んだ。

そんなやり取り見ていた火乃香はと言うと現在数学の問題を解いていた。

「古城あしたついしなんだろ?喋ってないで勉強したらどうなんだ?」

なんてことを火乃香から言われてしまっう始末である。

ちょうどいいので説明するが、南宮那月は自称26歳の彩海学園高等部一年B組の担任である。しかしその正体は”空隙の魔女”と呼ばれアイランドガードの実働部隊の教官を務め魔族から恐れられている攻魔師なのだ。

さらに暁古城の正体を知っている数少ない人物なのだ。そんなこんなで文句を言いながらも課題をこなしていくうちに、時計の針が12時をさし補習がおわった。

鞄に道具をしまいながら、二人の生徒は、昼食をどこでとるかを相談しながら、教室を後にしたのだった。




今回はここまでです。暫く投稿できないかもしれませんが気長に待っていてください。


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聖者の右腕2

取り敢えず、試験が一つ片付いたので投稿します。


「暑い・・・焼ける・・・融ける・・・焦げる」

ぶつくさと不満を垂れ流しながら明日の追試に向けて必死になっているのは、つい先ほどまで、彼の担任である南宮那月の補修という名の拷問を見事耐え抜いた暁古城だ。

現在彼は、否、彼らは、昼食をとるために、火乃香と共に立ち寄ったファミレスで暑さをしのぎながら、勉強しようとした。

が、しかし、現実はそんなに甘くなく、彼らが案内されたのは、日光が直に当たり、さらには、エアコンの恩恵を受けることのない、角の座席へ案内されたのだ。

「今何時だ?」

「さっきも同じようなこと、聞かなかったか?」

「古城の勉強に対する意識が低いのは今に始まったことじゃないだろ?ちなみに現在時刻は15:56だ。因みに、試験開始まだ残り18時間4分あるぞ!」

同じ問いを繰り返す古城に呆れ、半目でにらむ火乃香を余所におどけた風に答えるのは、いつもヘッドフォンを首にぶら下げ、髪の毛をツンツンに逆立てた、彼らのクラスメイトであり親友の矢瀬基樹である。

彼は財閥の語曹司だとかなんとか・・・もっともそんな風には全く見えないのだがあえて口にはしないでおこう。

「つか、なんで俺だけこんなに追試があるんだよ!数学なんて授業で習ってないぞこんなの・・・!」

彼の追試教科は国数社理英の主要五教科に加え、体育のハーフマラソンがあるのだ。

「文句言うんじゃねーよ。」

火乃香に一蹴された古城は悔しそうにうなだれた。

「だからこうして哀れに思った私たちが、こうしてあんたの勉強を見てあげてるんでしょ!感謝しなさいよね!」

「俺の目の前に大量の皿がなければ、感謝の念が出たものを・・・つか浅葱と火乃香!お前ら食いすぎなんだよ1少しは自重しやがれ!」

古城が文句を言うのも仕方ないだろう。何せ彼の目の前には山ほどの料理の皿が積みあげられているのだから。

そ原因は、食べ盛りの男子高校生一人と、髪の毛を派手に染め制服を改造した校則ギリギリの少女藍葉浅葱によって作られたのだ。

「まぁ、足りない分は出してやるよ。」

「頼むぜ、火乃香」

「あ、そろそろバイトの時間だ。じゃ古城明日の追試頑張ってね。」

「バイト?」

「そ。管理公社のメンテナンスのバイト。ワリがいいんだ。」

「ふーん、気を付けろよー・・・しっかし、あんな派手な格好していて、機械に強くて、頭良いとか」

「本人は嫌がって努力してますアピールしてないけどな。っと俺もそろそろ帰るわ。」

「え?お前最後まで付き合ってくれねぇのか?」

「浅葱がいないんじゃ、いても意味ないしな。じゃあな古城、火乃香」

浅葱と矢瀬二人が店から出て行ったことにより寂しい空間ができてしまった。

「そんじゃ、俺らも帰るか」

「だな」

二人も店から出ていくことを決意したのだった。

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昼食代により、モノレールの運賃すらなくなってしまった二人は現在、夕方なのに日光に照らされながら歩いていた。

古城はフードを深く被り、火乃香は扇子で仰ぎながら、先ほどから尾行してくる存在を、必死に撒こうとしていた。

「古城、意外としつこくないか?」

「だな。どーすっかな」

何とか振り払おうと、周りを見当たすとちょうどよさげな場所を見つけた。

「火乃香、ゲーセンに逃げるぞ。」

「賛成、ついでに涼めるしな。」

というわけでゲーセンに立ち寄り、尾行してくる人間を観察していた。

「うちの中等部の制服か?凪沙の知り合いか?」

入り口でおどおどしている少女をクレーンゲームの陰から観察する二人なのだが、どうしても位置が悪くよく見えない。

「古城、俺なんかすごい、罪悪感に襲われているんだけど。どうしよう。」

「奇遇だな実は俺もなんだ。」

二人はとてつもない罪悪感に苛まれていた。

「「店でるか・・・」」

二人は店を出ることにした。そして店を出ようとした瞬間、尾行少女と鉢合わせしてしまった。

(ん・・・?この子どこかで、見たことがあるような・・・)

火乃香はまるでゴマが歯に挟まったかのような違和感に苛まれていると不意に少女の声で思考の海から現実へと戻された。

「第四真祖!」

「!?」

火乃香は思いもよらぬ出来事に唖然としていた古城もどうやら同じようだ。

が、次の瞬間火乃香は更に唖然としてしまう。

「Oh!Midispiace!Auguri!ワタシトオリスガリノイタリアジンデース!ニッポンゴヨクワカリマセーン!Arrivederci!Grazie!」

(は?こいつ何言ってんだ?嘘つくならもう少しまともな嘘つけよ・・・このこもビックリして声が出てないぞ…!)

「外国人・・・?違いますよね・・・?暁古城ですよね?」

(こいつ・・・第四真祖目当てかよ・・・てことは・・・獅子王機関か?めんどくさいことになりそうだ・・・姉さんの機嫌が悪くななぁ)

「あーすまんそれ人違いだわ。他当たってくれ。」

「え・・・人違い・・・だってそこに・・・」

何かを言いかけているが、気にせずその場を離れる二人。だが火乃香は薄々感づいてはいた。

(もしかして姫柊雪菜か・・・?)

何故なら彼は一度、師匠に連れられ獅子王機関の実戦教官補佐およびサバイバル教官として訪れていたからだ。

突如、後ろから二人の男と少女の声が聞こえた。

「ねぇねぇ、そこのキミィ、逆ナン失敗しちゃった?お兄さんたちと遊ばない?」

「給料出たばっかだからさぁ、色々楽しませてあげられるよ?」

少女はナンパされていた。

「中学生に手を出すとか変態かよ」

「それにあいつら魔族だぜ」

男二人の腕には、魔族であることを示すにブレスレッドがはめられていた。

「いえ結構です。」

「っち、いいから来いよ・・・!」

男の一人がいらいらしながら少女に手を出し・・・

「きゃっ」

スカートをめくった。その瞬間、火乃香はバネではじかれたように男二人に走って近づきCQCを叩き込み素早く手錠をかけた。

この間僅か20秒足らず。これも日ごろ那月の指示のもと特区警備隊との日ごろの訓練のたまものだろう。

「はい。痴漢二名現行犯逮捕。警察が来るまでおとなしくしていろ」

そういいながら、警察へ連絡した。それからものの数分で警察が到着し容疑者を渡した。

「あのっ・・・」

さっきの尾行少女が火乃香のもとへ何か言いたげなっ風によってきた。

「その前に、古城こっち来い。腹くくるしかねぇぞ!・・・でなにかな?」

「前に一度、高神の森に来ませんでしたか?」

「あーやっぱりあの時の子か・・・姫柊さん久しぶり。元気そうで何よりだ」

「覚えててくれたんですね!?」

「勿論だとも」

「お・・・おいお前らふたりとも知り合いか?」

話についていけなくて困惑している古城がやってきた。

「まぁなんだ・・・ここで昔話もあれだちょうど近くに銀行あるから金を下ろして、俺の知り合いがやっている店に行くぞ」

「いえわざわざ下さなくても、食事代は私が出します!」

「いや悪いだろ・・・」

「いえ!助けていただいたお礼だと思って!」

「そうか・・・?ならお言葉に甘えさせてもらうかな」

古城と火乃香は彼女の申し出にありがたく乗っかることにし、古城は凪沙に火乃香は那月にそれぞれ連絡し、火乃香の知り合いのやっている店に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。ということで今回はこの辺で終わりです。
なぜ師子王機関が外部の人間を雇ったかは次の章で明らかになります。
更新されないからと言って見捨てずに、読んでくれればうれしい限りです。
それと聖者の右腕篇が終わりましたら、キャラ設定を書こうかと思いますので措置裏も併せて読んでくれると幸いです!
それでは、また次回!


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聖者の右腕3

はいお待たせしました。
キャラ設定などはこの章が終わったあとにでも書こうと思います。


 豆電球の暖色系の明かりで照らされた薄暗く更にはタバコや酒の匂いが混じった独特の匂いが充満する建物の中に若い学生3人がいた。

「な、なぁ・・・ほんとに大丈夫なのか?・・・」

 若い男と言うよりも少年が声を震えさせながら訪ねてくる。

「ここにいる事がバレたら確実に怒られます・・・」

 ギターケースを背負った少は動揺したいなさそうに振舞ってはいるもののやはり少年と同様に若干震えている。

そんな彼らを1人の少年火乃香はニヤニヤと生暖かい視線で見つめる。

そんな3人は筋骨隆々の歴戦の猛者のような男やガラの悪い男たちの視線にさらされていたのだ

なぜ彼らがこんなことになってしまったのか・・・遡ること約1時間前のこと

 ______________ナンパ男2人を撃退した暁古城と南宮火乃香そして、被害者である姫柊雪菜の3人は火乃香の知り合いがやっていると言う店で夕食を摂る事になった。

 古城と雪菜が想像していたのは食堂のような穏やかな物を想像していた。

 が、しかしそこはやはり謎多い男火乃香だ。2人を連れてやって来たのは中世の酒場のような、無法地帯にも等しい場所だった。

 店の中は薄暗く、酒、タバコの匂いが充満した酒場にやって来た。それだけならばまだ良かったのだろうが、こう言う店にはそう言った場所に似合う客が来る。筋肉質の厳つい男や全身タトゥーが入ってる男、マフィア、ヤクザのような男たちが酒を煽っている店にやって来たのだ。

「まぁ、安心しろよこいつらは見た目がやばそうだが、全員知り合いだ。

 さっきのナンパ男達みたいに、俺たちをどうこうしようって言うような奴らじゃないさ」

 笑いながら火乃香は言った。

「いや、でもよこんなとこ那月ちゃんに見つかったら確実に殺されるだろ!」

 古城は火乃香に非難の声をあげるが当の本人はケラケラ笑い続けている。

「安心しろ!此処は姉さんとよく来る店だ!もちろん最初は俺もびびったさ・・・だがな、こいつらは非戦闘員にいきなり攻撃を仕掛けてこないぞ!」

 自信満々に火乃香は言うがそれでも始めて来る店で、更には個性豊かな客を見てしまっては安心できない。と、そこに店のマスターであろう人物が話しかけて来た。初老のいかにも英国紳士を思わせる人物だ。が、しかし腐ってもこのような『ならず者』が来る店を営んでいる人物だ。オーラが違う。これには高神の杜で厳しい訓練を積んで来た雪菜とて、怯みかねないレベルだ。

「ようこそボス。今回は那月さんはいらっしゃってないのですね。それとお二人とも、そんなに緊張しなくてもよろしいですよ。とは言っても無理ないでしょうな。しかし安心してください。ここに

「えっと・・・その・・・」

 返答に困る雪菜に助け舟のつもりで火乃香が話を進める。

「まぁ、2人とも萎縮するのは仕方ないよ。なんたって此処にいる人たちは、ほとんどが傭兵なんだからーそれより、マスター適当に料理を作ってくれない?だけどあまり高いのはやめてくれ」

「珍しいですね?どうかしたんですか?」

「さっきこの子がナンパの被害にあってね、それのお礼に奢ってくれるって言うからあまり高いところはダメだし、夕食の時間にもなりそうだから此処に来たんだよ」

「それは災難でしたね。ならば今日は私があなた方にご馳走しましょう。お代は結構ですからね。」

 朗らかに3人に笑いかけながら言ってきたマスター。

 そんなマスターに雪菜は悪いですそんなのと言いかけたがマスターは学生なのだから大人の好意に甘えらと言われ結局お代は必要ないと言う形で決着がついた。

 そう言う話をしながら個室に案内される3人を見ている客達からは「嬢ちゃん、災難だったなー」「今日はマスターの奢りだって?!お前ら飲むぞ!」などなど此処にいる人たちは古城が警戒するほど危険な人物達ではないことがようやく理解できた。

 そんなこんなで席に案内され座った3人ー1番奥に古城その隣に火乃香

 古城の正面に雪菜と言うポジションだーは料理が運ばれて来るまでの間にどう言うことなのか事情説明をするのであった。

「姫柊はその獅子王機関ってとこから来たのか・・・つか獅子王機関ってなんだ?」

「先輩そんなことも知らないんですか?!いいですか先輩、獅子王機関は日本の国家公安委員の魔導犯罪者や魔導テロを防ぐための機関なんです」

「つまり国家公務員って事か」

 古城はなんとか話について来ているようだ。

「で、なんでその国家公安委員が俺なんかの監視に?」

「いいかい古城。真祖は1人で一国の軍隊レベルの力を保有してるんだつまりワンマンアーミーってところだな。」

「南宮先輩の言う通りです。先輩は核兵器と同等もしくはそれ以上の扱いなんですよ」

「なんだそれ?!もはや人として扱われてねぇじゃねぇか!」

「仕方ないさ。吸血鬼が脅威と言われているのは不死身だけではなく、眷獣が使えるからなどっちかと言うと、眷獣の方が脅威だ。」

「そう言う事ですので先輩は諦めてください。それとこちらからもいいですか?」

「なんだよ・・・」

 警戒しながら古城は雪菜からの質問を待つ

「先輩はこの島になぜ来たんですか?自分のドミニオンを持とうともせずに・・・まさか、この島を影で操ろうなんてー」

「待て待て待て!この島に来たのは2年前だしそもそも第四真祖になったのはつい三ヶ月前なんだぞ!」

 嘘をつくなんてますます怪しいですね!」

 全く古城の話を信じようとしない雪菜に呆れ、火乃香は古城に助け舟を出すことにした。

「姫柊さん、古城の言ってることは本当だよ。彼は2年前からこの島にいたし、三ヶ月前に第四真祖になったのも本当だ」

「なら何故第四真祖に急になったんですか?!」

「それは先代の第四真祖におしつけられたからであって・・・」

「先代の・・・!?」

 息を飲む雪菜だ。仕方ないことだろう。普通の人間が吸血鬼のしかも第四真祖になってしまったのだから。そんなことを話していると急に古城が頭を抑え倒れそうになる。

「大丈夫ですか?!」

「こいつは吸血鬼になった時のことを思い出そうとすると頭痛に襲われるんだ。しばらくすれば治る。ゆっくりさせてやれ」

 火乃香の雑なアドバイスを受けた雪菜だがそれでもやはり心配なのだろう。優しすぎるそう思った火乃香だった。暫くすると頭痛が治まったのか、体勢を立て直した古城を見た雪菜はこれ以上深く追求しない事を伝えた。

「それで、今度は俺からなんだが・・・なんで火乃香は姫柊と知り合いなんだ?」

「あー、それは遡る事約3年前だ・・・俺の師匠が獅子王機関で外部講師として呼ばれてねついでに同年代で『実戦』を経験した俺も助教として招待されたんだ。」

 そう、火乃香は攻魔師以外にも傭兵として約7年前から活動している。余談だが彼の師匠稲垣隼人、国連軍最高司令長官であり人類最強と言われる人物なのだ。

 閑話休題

 いくら獅子王機関から優秀な剣巫や舞威姫などは任務で忙しくスケジュールが合わないだからと言ってあまり優秀では無いものたちには教官を務めることができない故に12歳くらいの候補生たちの実戦訓練は外部講師を雇っている。

「火乃香さんは歳が1つしか違わないのに、私達なんかじゃ敵わなかったんですよ!私が師家様の他に尊敬してる人です!」

「尊敬って・・・俺はただの人殺しさ。それに剣術しか自信がない・・・魔術と言った分野になってくると君たちには敵わない」

「火乃香・・・お前実は凄い強いのか?」

「強いってほどじゃ無いよ・・・ただ姉さんが空隙の魔女だからある程度の魔術の使い方を教えてもらってあと他は全部師匠任せだよ」

 ハハハと笑ってはいるものの、火乃香は恐らく稲垣隼人を除けば人類側のトップクラスの戦力だろう。そんな会話をしているうちに料理が完成したみたいで3人は料理を美味しく平らげ、マスターにお礼を言って店を出ようとした時、線は細いが鋭い目つきをした男がやって来た。

「暁古城だったか・・・?お前第四真祖なんだな・・・つーことは、君が監視役の剣巫か?」

 2人は同時に息を呑む。話を聞かれていたのか・・・。そう考えている。2人に対し男はあっけらかんと言った様子でタネを明かした

「君たちの目付きや仕草視線を観察すればすぐに分かる・・・古城君は若干人目を気にしすぎているし、剣巫ちゃんの方は視線が兵士の目特に火乃香が獲物を前にして冷静に状況を分析している時の目付きにそっくりだ・・・ボスから聞いていたけど君は火乃香の事を尊敬してるらしいね」

 全て当たっている。

「僕は諜報のスペシャリストだからねそれくらい余裕さ。もう暗いんだ気をつけて帰りな」

 2人は礼をして、火乃香は「んじや、また今度」と言いながら店をあとにした。

 




今後は若干ペースが上がるかもしれません。ですがやはりまだ投稿ペースが安定しないので、もう少しだけ皆さんに迷惑かけるかもしれませんが、見守ってくれるとありがたいです!それではまた次回!


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聖者の右腕4

投稿します。初めての戦闘シーンですがあまり期待しないでください。では!


現在時刻23時38分。

暁古城達との会食が終わり、帰宅した早々火乃香は義姉である南宮那月に連れられ、生徒指導に駆り出されていた。

「姉さん、生徒指導をするのに俺がいたらだめじゃね?」

「何を言っているんだ?お前は今、アイランドガードの仕事をしているんだ。つまりお前現在私の部下ということだ。」

ドヤ顔で意味不明なことをほざいている姉に呆れつつ彼女の後ろを渋々歩いている。

彼らは住宅地が並ぶ南地区でパトロール?をしている。するととあるクレーンゲームで遊んでいる男女のペアを見つけた。男子生徒はどこかで見覚えのあるパーカーを着てフードを被っている、女子生徒もこれまた見覚えのあるギターケースを背負って更に彩海学園の制服を着ている。

(こんな時間に出歩くのに制服って…アホか?)

そう思いつつ隣を見ると先ほどまで仏頂面だった那月の表情がみるみるうちに変わって行く。まるでこれから尋問官が捕虜をいたぶって愉しもうとしているような表情だ。

そして、どこか見知った二人組はそれに気づかずに遊んでいる。

那月と火乃香は気配を極限にまで消し、観察していたが那月がこの静寂を破った。

「そこの2人、こんな時間に何をしている?」

ついに始まった那月の尋問が。舌ったらずな口調で尋ねる。

その声を聞いた瞬間2人は肩をビクつかせ、ガラスに映った火乃香と那月を確認している。この状況を愉しんでいる那月は更に追い討ちをかけていく。

「お前達、彩海学園の生徒だな?そしてパーカーを着たそこの男!ゆっくりフードを外して顔をこちらに向けてみろ。素直に従えば課題だけで許してやる」

(ドSだ…正体がわかっていてもこの仕打ち…怖えぇぇぇぇ)

男子生徒こと暁古城が火乃香に気づきモールス信号でSOSを発信した。

だがここで彼らを庇っては、彼らの為にならない。ここは心を鬼にして事の顛末を見守ろうと決意する火乃香だった。

そんな緊張状態の中、港で爆発音が聞こえた。

「………?!」

那月が一瞬爆発に気をとられた瞬間、古城と雪菜は走ってその場を離れた。

「覚えてろよ!暁古城!」

どこか喧嘩で負けたチンピラのような捨て台詞を吐いていた。

「ハハハ残念だったね」

「仕方ないあいつには課題の提出で許してやるか…それと火乃香爆発現場を見てこい。充分に気をつけろよ。それと蒼氷の抜刀を許可する」

「了解」

少し困った顔をしたがすぐに真面目な顔をした。しかしどこか寂しそうな表情が見えた。亜空間から彼の愛刀のうちの一本である『蒼氷』を出現させ火乃香に渡した後現場まで転移した。

ーーーーーーーーーーーーーー

火乃香は現在現場から少し離れたコンテナを下ろしたりするためのクレーンの上にいた。

周りはアスファルトの焦げた匂いや自然界で生み出される気温とはまた違った灼けるような熱が容赦なく火乃香の肌にまとわりつく。

目の前には体長十数メートルは有るであろう火の鳥の眷獣とこれまた火の鳥と同じくらいの大きさの腕が対立していた。

火の鳥を召喚しているのは、スーツを着たサラリーマン風の吸血鬼の男だ。そして腕を召喚しているのは藍色の髪の毛と無表情更にはローブのような物を身に纏った少女だ。そして彼女の隣には、どこかガタイがよくハルバートをもった聖職者のような格好をした男がいた。

「くそ!化け物!こっち来るな!」

そう言いながら火の鳥が炎の球を彼方此方に飛ばしている。内臓まで響く爆音が火乃香を襲った。あまりの大きさに体がふらつく。

そしてコンテナや倉庫がどんどん破壊されていく。爆発によってたった破片が線路にあたりモノレールが落ちていく。そうしている間に巨大な腕が眷獣を掴む。すると驚く事に、眷獣が消えてしまった。

スーツを着た男は驚きのあまりか、それとも恐怖か、形容しがたい感覚に陥ったらしく、腰を抜かしていた。そんな彼に聖職者はハルバートで斬りつけようとしていた。が間一髪でそれをかわし致命傷にはならなかったようだ。

暫く観察していると、今度は見知った少女が現れた。先ほどまでゲーセンで遊んでいた姫柊雪菜だ。

何かを話している。次々に起きる爆音で内容はよくは聞こえない。

が、恐らく生真面目な彼女のことだ。手負いの魔族に対する攻撃が許されていないだなと話しているのだろう。

(しかしあの藍色の少女…ホムンクルスか?余りにも忠実に命令に従っている、けど、どこか苦しそうな表情だ。眷獣を使っているからとかではなく、傷つけたくないといった感情に似ているな…彼女は被害者という線で見ていた方が良さそうだな)

冷静に観察していく。すると雪菜がどうやら痺れを切らしどこか戦闘機の翼を彷彿とさせる武器を取り出し聖職者に斬りかかりに行った。

(お、あれは獅子王機関の秘奥兵器七式突撃降魔槍(シュネーヴァルツァー)か真祖を殺すための兵器だけど雪菜は使いこなせるのか?つか霊視に頼りすぎてるな…そんなんじゃすぐにカウンター喰らうぞ…っと言わんこっちゃない。そろそろ助けに行きますか…)

最初は押していたが実戦の経験がないのか、カウンターを喰らい形勢逆転となっていた。

火乃香はクレーンから飛び降り雪菜の元に向かった。

彼女の体が刃で切り刻まれるまで数秒。雪菜もそうだが聖職者やホムンクルスそして火乃香この現場にある全ての人物の体感時間が引き伸ばされた化のような感覚に陥った。

雪菜は霊視で一寸先の未来を見たがどれも自分が斬られる未来しか見えない。なぜなら彼女は淡々と迫っていく死にたいし恐怖を抱き、先入観によってそれ以外の未来が見えない状態にある。

ハルバートが振り下ろされ徐々に近づいて来る死を運ぶ鎌。

体が重い、息苦しい。視界が狭まり、呼吸困難な状態に陥る。体の感覚が無くなる。しかし、逆に感覚が鋭くなって来る。あたりを囲む炎の熱がさっきよりも熱く感じる。肌を撫でる風はどこかピリピリと痛み、視界が暗くなっていく。聴覚に至っては今尚続く爆発音は聞こえずしかしハルバートが振り下ろされる音は五月蝿いほどに大きく聞こえて来る。

(私、死ぬ…の?先輩…悲しむ?)

恐怖により目を閉じた。これから来る痛みに耐える準備をし只々まった。

 

ガキンッ!

いきなり金属同士がぶつかる音が聞こえた。

そしていつまでたっても痛みがこない。

ゆっくり目を開けるとそこには、先ほど那月の横に立ったいた少年がハルバートを刀で受け止めていた。

「なにっ…!!」

突然の出来事により聖職者は後ろに後ずさった。

「まだまだ姫柊さんは甘いな。霊視に頼りすぎるからこうやって足元取られるんだもっと視野を広く持て」

ここでも説教をするのは彼らしい。

「くっ!赤いバンダナに氷の刀…まさか刀使い(ソードダンサー)だと?!」

「え?!」

雪菜は目を見開く。

ソードダンサー________聖域条約が締結されていても魔族と人間の紛争はチラホラ発生していた。5年前その人物は特に多かった中東アジアや北欧地域の紛争地帯に突如として現れた。

人、魔族合わせて2300人の兵士及び、400両以上の戦車、装甲車を一晩で破壊し尽くした。その人物は、白い龍と黒い龍のような刀を持ち、妖精のように舞いながら刀を振り下ろしていく。

その姿から、ソードダンサーと名付けられ、魔族からは空隙の魔女に続いて災厄を司るものとして扱われている。

因みにこの出来事は北欧では三大悪夢として語られている。

 

閑話休題

「てめぇ、人の個人情報ペラペラ喋りやがって!個人情報バラされたんだ、てめぇも早く名乗りやがれこなク○ッタレ!」

「失礼した。私はロタリンギアから来た殲教師ルードルフ・オイスタッタハと言うもの。そしてこちらがホムンクルスのアスタルテだ」

「ほーん自己紹介あんがとさんそれとさいなら」

火乃香はそう言いながらオイスタッタハに斬りかかった。

脇をしめ無駄な動きが内容小さく動く。小回りの効いた動きで相手の動きを封じ、そしてトドメを刺そうと言うのだ。そしてその思惑通り隙ができ、トドメを刺そうとした瞬間火乃香の右から危険を感じた。

「危ない!」

雪菜が叫ぶ。火乃香が横目で見ると既にアスタルテの眷獣がすぐそこまで迫っていた。殴られても別に問題は無いのだがそれでも直接喰らうよりある程度刀で防いだ方が食らうダメージが小さい。

しかし彼にはそんな時間が残らせれていない。迫り来る腕に対し覚悟を決める。が瞬間影が割り込む。

暁古城だ。

ロクに眷獣も使えないくせして、火乃香の盾になろうとし殴られた。

「グアァァァァア!」

「「古城(先輩)!」」

彼の体から電気が迸っている。

「くっそ…ヤメ…ろぉぉぉお!」

眷獣の暴走だ。

「第四真祖の噂は本当のようですね!ソードダンサーに剣巫第四真祖では分が悪いですね!行きますよアスタルテ!」

「アクセプト」

無機質に答えるがどこか悲しそうな顔でこちらを見ながら去っていくアスタルテを見ながら古城の暴走に対し、雪菜が雪霞狼の魔力無効化の能力で暴走を止めた。

こうして雪菜にとっての初めての実戦が終わりを告げたのだった。

______________

戦闘が終わり南宮邸に帰宅した火乃香は目の前に座る那月の親友であり、火乃香にとっては仕事仲間のような存在である、国連の魔導機関『図書館』の総記である仙都木阿夜に事の顛末を伝えた。

「なぜロタリンギアの坊主がここにきたのか気にならな…」

「那月、この島に、何かロタリンギアに関係する物が、あるのかも知れぬぞ」

「阿夜姐ぇに同意。奴は各国の魔族特区にちょっかい出してるみたいだけど、この島には特に被害を大きくしている。この島自体に関わる何か…ロタリンギアの坊主と絃神島ここから導き出される共通点…姉さん、阿夜姐ぇ、もし2人が何かしらの宗教の信者だとして、何をされたら怒る?」

火乃香に突如話を振られ、頭を悩ます2人。

2人とも特定の神など信じていない。いや信じるはずがない。

確かに神は存在するが彼女らは聖典に書かれているような偉大な人物ではなく、ちゃらんぽらんな性格をしていることを2人は知っているからだ。

「我が…か?ふむ、1番はやはり信仰している神への侮辱…だな」

「確かに、そうだな…だが、一部の人間にしか触れることのできない神よりも、確実にいたであろう聖人をずさんに扱われることだろうな…。例えそれが聖人の遺体出会った…として…も………あ!」

「そうか、わかったぞ、那月が言いたいことも、奴がやりたい事も。」

「だな。明日から暫くキーストーゲートにアイランドガードの拠点防衛部隊(ガーディアン)を配置した方がいいな。だけど多分明日は襲撃してこないと思う。」

「何故だ?」

「ホムンクルスのアスタルテの眷獣の調整のためだよ。おそらく明後日に襲撃してくるだろう」

「一応明日から配置しておくか」

「我らの、思い違いならいいのだが…」

暗く沈む3人。そんな空気をぶち破った人物が出てきた。

「火乃香、今日は疲れただろ?風呂にでも入って寝るぞ。私は眠いんだ…そうだな時間短縮だ!一緒に風呂に入るぞ!」

「は?!姉さんどうしちゃったの?!急に?!」

「嫌なのか?昔はよく入っていたのに姉さんは寂しいなぁ」

わざとらしくヨヨヨと泣くふりをする那月に呆れて声が出ない火乃香

「な、な、那月よ火乃香を1人で可愛がるなんて…ずるいぞ!」

そう言いながら阿夜は火乃香に抱きつく

「だー!もううっとおしい!」

こうして南宮邸の長い夜は更けていった。




はい、皆様お待たせしました。火乃香の異名が出てきたり、初めての戦闘シーンだったりと…下手くそですねはいすみません…。
頑張って上手く描写できればいいのですが…なかなか難しい。
そして仙都木阿夜が出てきましたね。私の作品では闇聖書事件は扱わない予定です!サナちゃん期待してた方すみません。そして現実の組織などをこの話に組み込んでます。オリ設定で図書館は犯罪組織ではなく、魔導書などを集めたり国際的な魔導関連の事件、災害を扱う国際連合の組織の1つとして扱いました。賛否両論だと思いますがここはご愛嬌という事で…堪忍してつかぁさい。
ではまた次回!


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聖者の右腕5

今回で聖者の右腕を終わらせようとしましたが無理でした。
戦闘シーンもいつもによりも酷く、さらに、自分の身勝手な解釈も入ってます。見れたものではないですね笑
あと今回の話は難産しました。きつすぎて原作の文章をパクリまくってしまった…許してくださいお願いしますorz
夏音ちゃんの喋り方難しすぎる…!
ではどうぞ!


所々壊れかけ、焦げている協会の中で黒髪の少年と銀髪のどこか幻想的な雰囲気を持つ少女が居た。2人の周りには十数匹の仔猫が集まり、キャットフードを食べている。

「いやー、ほんとこいつらよく食うなー」

「皆んな、遊んでお腹が空いていたみたい。でした」

語尾が若干特殊な少女は、仔猫達に向ける目は優しく、シスターの様だ。

彼女は叶瀬夏音。2年前火乃香がアルディギア王室の護衛の任務から帰って来た時、不良に絡まれていた所を助けだした。当時は、王女であるラ・ファリアから王の隠し事がいるかもしれないと聞いてはいたものの、実際に出会い、戸惑ってしまった。

しかし、お互い話したり一緒に出掛けたりしているうちにに惹かれあい、現在は付き合っている。

「そう言えばまた猫を拾って来たみたいだね?」

「気づいたら付いて来ちゃってる、でした」

夏音は猫に好かれる体質なのか歩いているだけで猫がすり寄ってくる。本人も生粋の動物マニアなので、問題はないだろう。

仔猫がビニール袋を被って遊んでいる様子がどことなく、可愛らしく、そして面白い。

2人は小さく笑いながら、火乃香は昨夜の戦闘を忘れ、ずっと望んで来た『平穏な日常』を噛み締めていた。

「火乃香さん…また危険なことをしようとしてるんじゃないんですか?」

「突然どうした?」

「もう2年も一緒にいるんです。それに、この夏もずっと危険な仕事に出ていたみたいでした。昨日の爆発事件の現場にもいたんじゃないですか?」

「夏音には隠し事できなさそうだ。ちょっとテロリストまがいな奴が島に入って来て、それの対応に追われてるんだ…」

降参のポーズをとりながら軽く言ったがそれでも夏音の表情は優れない

「火乃香さん…絶対に帰って来て欲しい…でした」

「当たり前だ!俺は絶対に死なないし、君の元に帰って来るから安心しろ」

「本当ですか…?」

「勿論」

火乃香は優しく微笑むと、夏音は頬をほんのり赤くして、微笑み返してきた。その表情は誰が見ても天使のようだと火乃香は思った。

「あと、夏休みは仕事で一緒に居られなかったけど、これからお昼食べに行かない?」

「!行きたい、でした!」

2人は互いに小さく笑いながら一通り戯れ協会跡地を後に、テティスモールへと向かったのだった。

 

____________________________

通常夏休み明けと言うのはどこの学校もダラダラとした雰囲気に包まれた学生や夏休み中の思い出話に花を咲かせる学生達がいるだろう。そしてここ彩海学園も例に漏れずそういった生徒達が多くいた。しかし1年B組の男子だけは違った。パーカーを着た少年暁古城と制服をきっちり着こなした南宮火乃香の周りに男子生徒どもが暑苦しく纏わりついていたのだ。

「中等部に転校生が来るんだってな!暁の妹さんと同じクラスだって聞いたぜ!なぁ紹介してくれよ!」

「おい火乃香!中等部の聖女とはどうなってるんだよ!?夏休みお前ら2人の目撃情報がなかったからついに爆発したか!?」

「な訳あるか!夏休みは仕事で絃神島(ここ)ないなかったから一緒に出かけられなかっただけだわ!」

すると火乃香に纏わりついていた男子たちの近くによりそって来る影が一つある。学級委員長の築島倫だ

「そうよー火乃香と聖女ちゃんの絆は火乃香がいつも持ち歩いている斬れ味の良さそうな刀ですら斬ることはできないんだか。」

ニヤニヤ笑いながら火乃香をからかう倫。火乃香はいつも弄ってくる築島倫が少し苦手だ。

女子からは羨望の眼差し男子からは嫉妬の眼差しホント辛いねぇ。

火乃香は中性的な顔立ちで、基本学校では肩より若干長い髪を後ろで纏めている。格好によっては女子にもなりうるのだ。

クラス中から弄られている最中、教室のドアが開いた。担任の南宮先生だ…。

「暁古城はいるか?」

「はい、なんすか?」

「昼休み生徒指導室に来い。中等部の転校生と一緒にな。それと火乃香は別件で話がある。悪いが何処かのバカと一緒に来てくれ。」

那月は古城に意地悪い笑みを浮かべながら伝え、火乃香には複雑な表情で伝え、風のよう颯爽と消えていった。

「おいおいおい、暁ぃ!転校生に手を出したのか?!」

クラスの厄介ごと全てを引き受けてくれる古城は、クラスのサイクロン掃除機とでも言うべきかもしれない

浅葱がゴミ箱の近くに寄り、何やら紙の束を破いている。

古城が悲鳴をあげている。おそらく見せてもらう予定だった課題を破いたのだろう…古城御愁傷様。

____________________________

場所は変わり生徒指導室。

古城は姫柊を呼びにいくため、少し遅れて来るそうだ。故に部屋には那月と火乃香の2人だけである。

「火乃香が言っていた通り、昨日キーストーゲートに襲撃が来なかった。恐らく今日襲撃される恐れがある。HRは出なくていいから授業が終わったら直ぐに向かってくれ。あれはいつも携帯してるんだろ?」

「勿論。キーストーンゲートまで転移してくれる?」

「仕方ない特別だ」

「ありがとう南宮先生」

するとドアが3回叩かれた。古城が来たらしい。

「那月ちゃん、話ってn−ガハッ!…いってぇいきなり何しやがる!」

「教師をちゃん付けで呼ぶな!いつもいっているだろ馬鹿者!それとお前が件の転校生か。何故呼ばれたかわかるか?」

「えっと…なんでですか?」

「一昨日、港の倉庫で爆発事件があったのは知っているな?」

古城と姫柊の顔がみるみるうちに青くなっていく。

そりゃぁそうだろう。何せ当事者だから。

「暁古城、眷獣を暴走させたらしいな。被害額は300億になるそうだ」

魔女のようなー実際魔女なのだがー笑みを浮かべながら古城を問いただす。が、那月はその事で弄る気は無いらしく、本題に入った。

「お前たちは奴らの事をどこまで知っている?」

「男はロタリンギアの殲教師ってのと女が眷獣付きのホムンクルスってことだけだ。」

「そうか…お前たちはこの件には首をもう突っ込むな。あとはこちらの仕事だ」

そう言い終わると姫柊は那月に食いかかった。

「それは出来ません!これは立派な国際魔導犯罪です!獅子王機関の管轄です!」

国の縄張り争いが高校の生徒指導室で繰り広げられた。

「私はあくまで教師としてお前たちに言っているんだ。生徒を危険な目に合わさないそれが教師の務めだ。だから首を突っ込むな。いいな?」

「はい…」

「ならもう行っていいぞ」

そう言われれば誰も反論ができなくなる。いくら獅子王機関の剣巫だからと言って、まだ彼女は15で義務教育を受けなければならないのだ。故に雪菜は彼女に論破され食い下がるしか無く、2人は那月に解放され、生徒指導室から出ようとした。

その時、那月は思い出したかのように爆弾を投下した。

「それともう一昨日のような夜遊びは控えるんだな。ホラお前の忘れ物だ」

「ネコマたん…」

雪菜がそう呟いた時ハッとした表情をし、那月を見るとニヤニヤと笑っていた。どうにも釈然としない表情で古城と雪菜は今度こそ生徒指導室を後にしたのだった。

「んじゃ姉さん、また後で」

そう言いながら5時限目が始まるのでさっさと教室へ戻った時、古城の机が空いていた。

「浅葱、古城知らないか?」

「なんかあいつ戻ってきたと思ったらいきなりロタリンギアの会社について調べて欲しいって頼まれたから調べてあげたら5時間目休むって言ってどっか言ったわよ」

「ほーん」

「なんか知ってるの?」

「いや別にっとチャイム鳴ったし、んじゃ」

自分の席に着き怠い授業をうけ、キーストーンゲートへ向かったのだった。

 

____________________________

火乃香がキーストーンゲートについた時、すでに2人組は侵入し拠点防衛隊(ガーディアン)との戦闘が行われた後だった。アスタルテとか言うホムンクルスの眷獣に向かって、放たれたであろう空薬莢や空マガジンが彼方此方に散乱していて、火薬の匂いや血の匂いが立ち込めていた。ガーディアン側の戦力は相当なものだったはずなのだが、それでも2人組を抑えることができなかったようだ。

「クッソ…!もうちょっと耐えろよガーディアン…!」

悪態をつけつつ火乃香は殲教師のオイスタッハとホムンクルスのアスタルテを追った。

そしてついに見つけた。厚さ70センチの気密隔壁がぶち破られ、オイスタッタハが中央に歩み寄っていた。

「ロタ…ギアより簒…し不朽体…我らの手に取り戻す日を待ちわび「見つけたぜ…テロリストが…!」!?」

______________

火乃香が到着する前、暁古城と姫柊雪菜を倒したオイスタッタハとアスタルテはキーストーンゲートのエントランスから堂々と侵入し、警備用オートマタを破壊していた。

勿論、その情報はすぐにでアイランドガードの特殊部隊のガーディアンに情報が入っていた。

襲撃者2人を食い止めるべくアイランドガードは獅子奮闘したが、アスタルテの操る人工眷獣には敵わず、結局無残に敗れ、周りには血が飛び散っていた。

キーストーンゲート最下層にあるのは海の中。海面下200メートル地点。4機のギガフロートから伸びる連結用のワイヤーをチューンすることで、島全体の振動を制御、無害化している。

だが現在、この最下層を隔てている厚さ70センチの気密隔壁が悲鳴のようなきしみ音をあげて、こじ開けられていく。こんな芸当をやってのけたのは、虹色に輝く人型の眷獣だった。

命令完了(コンプリート)目標を目視で視認しました。」

もともと抑揚の乏しかった声は、今はすでに感情を失っている。

しかしオイスタッタハはアスタルテに一瞥もくれず、最下層へと歩み出る。

「お…おお…」オイスタッタハの口から悲嘆と歓喜の声が同時に洩れた。

「ロタリンギアの聖堂より簒奪晒し不朽体…我らさんとの手に取り戻す日を待ちわび「見つけたぜ…テロリストが…!」!?」

________________

遂に火乃香とオイスタッタハが対立した。火乃香は気配も無くオイスタッタの背後に無 忍び寄り声をかけた。

驚いたように後ろを振り向くオイスタッタハを尻目に、火乃香は口を開く。

「貴様が求めていたのはその死骸か…。

憐れだな…。過去の偉人に囚われ、教徒の為自分のためと本心を押し殺し、剰え、あたかも自分が望んでいた様に自己暗示をかけ、己を犠牲にしようとする。だから僕は君に聞いてみよう。本当にそれは望んだ事なのか?僕はね人は自らの意思に基づいて行動した時価値を持つと思っている。だがねさっきも言ったが僕の目からは君のその行動自体何らかの自『義務』という自己暗示からくる一種の脅迫概念の様に見える」

「何を訳のわからない事を言っている!これは紛れもなく!我ら信徒の総意であり私自身の願いでもある!」

「信徒の総意とか言っている時点で君の意思からくる行動ではないよ。

ファシズムって知っているかい?集団心理を利用し、指導者が現状の問題点や不満要素を大きく取り上げ民衆に対し熱く語りきかせる。

するとやがてその指導者と同じ思考を持つ一部の民衆が、その指導者が正しいと言うふうに主張し始め、そんな考えを元から持っていなかった筈の人間が、あたかも最初から自分もその意見を持っていた、と錯覚する。

そして民衆が指導者の言っていることが正しいという論調ができたら、それらの課題を達成しようと指導者が民衆に語りかけ熱狂に包み、やがて民衆は指導者の雄弁な主張と自己暗示に負けてしまう。

そこまでならまだ救いようはあるにはある。だがね、中には熱狂に必要以上に当てられ狂った様に指導者を支持し、指導者を神格化してしまい一種の宗教団体になってしまうことがある。

我らの崇拝すべき指導者の為に我々が実践しよう!と言い出す愚か者がいる。まさに君の様な人間さ。

君がどれだけ偉いのかはわからないが…指導者の立ち位置に立っていない事は確かだ。つまり君は踊らされていた憐れな羊さ」

「う、うるさい…!貴方に何がわかるか!偉大なるロタリンギアの聖人の遺体が地に埋められるならまだしも、踏みにじられているのだ!」

「残念だ…自覚が無ければ反省のしようもない。君にはこれ以上の成長は期待できないみたいだ。主人公が来るまで、僕が相手をしようじゃないか」

そう言いながら、火乃香はおもむろに刀に手を伸ばした。刀身は白く輝き、どこか冷たさもある。一方のオイスタッタハも戦斧をとり、火乃香に斬りかかりに行った。火乃香は感覚を極限まで鋭く尖らせ、時間感覚を限界にまで引き伸ばす。そうすることによって、周りの動きが、何十分の1のスピードにまで緩められ、全てがスローに見える。

例えば、ハエや蚊の羽根の羽ばたく様子がはっきりと見えたり、時速160キロの球が時速50キロくらいの速度に見えたり、極限まで引き伸ばせば、銃弾が目標に到達するまでの光景を見たり…。故に、オイスタッハの太刀筋など見切るのは火乃香にとっては容易い。

横に斧が薙ぎ払われる戦斧をしゃがみで回避し、腕を切り落とそうとオイスタッハの目の前に飛び出す。しかしオイスタッハも馬鹿ではない。飛び出して来る火乃香に右足の膝蹴りをかまそうとする。しかし火乃香は左に回避し、同時にオイスタッハの右肩を掴み全力で左にに押しのける。全体重が左側に傾いていたのでオイスタッハはあっさりと倒されてしまう。

「雑魚だな…」

「くっ…アスタルテ!要石を取って逃げるぞ!」

今まで棒立ちだったアスタルテに命令を出す。

命令認識(リシーブド)ただし前提条件に誤謬があります。故に命令の再選択を要求します。」

「なに…?」

「悪いな。さっきの命令はキャンセルしてもらうぜオッサン。」

第四真祖暁古城が気怠げな表情で笑っていた。

「おせーよ。第四真祖」

「悪いな主役は遅れて登場するもんだろ?」

「お前の場合は姫柊さんとイチャコラして遅れたんだろ?」

「んぐ!」

言葉に詰まる古城は話題を変えようとオイスタッハたちを見る。

「聖遺物って言うんだったなやっぱりこいつがあんたの狙いだったわけか」

「この島の設計者である絃神千羅はよくやりました。東西南北よつに分割したギガフロートを風水で言うところの四神に見立て、それらを有機的に結合する事で龍脈を制御しようとした。」

オイスタッハが語る。ものすごく語る段々鬱陶しくなってきた火乃香はオイスタッハの言葉に続く様に言葉を紡ぐ。

「それでも四神の長たる黄龍つまり要諦となるキーストーンが必要だった。しかし当時の技術じゃその要石は作り出せないだからロタリンギアの聖遺物に手を出した…だろ?」

「供犠建材…」

弱々しくうめいたのは雪菜だった。

「我らの聖堂より簒奪した尊き偉人の遺体を魔族どもが跳梁する島の土台として踏みにじる所業決して許せるものではありません!故に実力を持って我らの聖遺物を奪還するのです!」

「ふーん。だったら五十六万人が犠牲になってもいいと。それは横暴だ。だけど理にかなっているのも確かだ」

「南宮先輩!?」

雪菜は驚き火乃香を見やる。

「だってそうだろ?自分達の信仰を踏みにじられたんだから…ならそれ相応の罪を受けなければならない。だけどねオイスタッハ…さっきも言ったがこれは君の本当の意思のように感じられないんだよ。己の意思だと言うのなら力づくで奪って見るといいさ。この世に正解なんてものはなに1つない。あるのは妥協だけなんだから。力は明確だりだから力で決着をつけよう。古城も掌握した眷獣使ってみたいだろ?」

薄ら笑いを浮かべながら火乃香は古城に尋ねる。

「力を積極的に使いたいかと言えばそうではないんだが…

だがなオッサン!あんたは俺はあんたに胴体をぶった斬られた借りがあるんだぜ。あんたの目的の前にこっちの決着をつけようか」

「ふん!ならばいいだろう!アスタルテ!」

命令受託(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)

「さぁ始めようか、オッサン____ここから先は第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

「いいえ、先輩。わたしたちの戦争、です!」

WC(お前の色は何色だ)?」

______________

「古城!お前はオイスタッタハを頼む!俺と姫柊さんでアスタルテをやる!姫柊さんは七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)で奴の眷獣の動きを封じてくれ!後はあいつの眷獣を真っ二つに斬る…!」

指示を受けた古城と雪菜はそれぞれの目標に向かい走り出した。

雪霞狼に刻印されたDOEによりアスタルテの眷獣の動きが鈍る。

その隙に、火乃香は気配を極限まで消し去り、背後に回る。そして自らの刀に手を伸ばす。

「破魔・龍王刃!」

刀に神力を流し込みながら空間を斬るように、刀を抜く。すると眷獣であるゴーレムが消え去り、アスタルテが横たわる。

「んじゃ俺は見学に回るわ」

そう言いながらアスタルテの横に腰を下ろした火乃香は古城とオイスタッハの決着を見ていた。

古城はオイスタッタハに対し魔力で作り出した雷球を鋭いパスの感覚でオイスタッタハへと投げつけていく。

しかしオイスタッタハも切り札はあったようだ。

法衣の隙間から吹き出した凄まじい呪力に古城の顔から血の気が引いた。「汚ねぇぞオッサン!そんな切り札隠し持ってたのかよ!ならこっちも切り札を出させてもらおうか!

焔光の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷から解き放つ!疾く在れ!五番目の眷獣!獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

勝負は決したな。そう思いながら火乃香は未だ戦っている古城を尻目に立ち去るようにキーストーンゲートから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で聖者の右腕篇を完結させます!
そして前々からしつこく言ってますがキャラ設定などを書き終わったあと、一旦、日常会を挟んで戦王の使者篇にいきたいと思います。


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聖者の右腕6

書きます今回で右腕篇完結です。


「ただいま〜」

オイスタッタハとの戦闘を途中で放棄した火乃香は自宅に帰宅していた。

「おかえり、火乃香」

「あれ?阿夜姐ぇまだここに居たの?仕事は?」

「有給休暇の消化だよ。那月に留守番を頼まれた」

十二単のように着物を着込む阿夜は優雅に紅茶を飲みながら本を読んでいる。

「ふーん書記(ノタリア)の魔女が留守番ねぇ…自分の妹に家族サービスしてあげたらどうなの?」

「優麻は、新しく確認された魔導書の回収任務に就いている。」

「妹を働かせて自分は優雅に休暇かよ」

皮肉100パーセントのセリフを吐いた火乃香に、阿夜は苦笑せざる終えない。

そんな中、リビングに那月が突如現れた。

「姉さんおかえりー早かったねぇ。」

「ただいま。火乃香…お前が途中で抜けだすからあの暁古城(バ カ)が余計な事をしてくれた!お陰で私は苦労したんだからな!」

どうやら古城はオイスタッタハに対し獅子の黄金(レグルス・アウルム)を召喚したのはいいが、眷獣から迸る稲妻でこの島が沈みかけたらしい。

「それはそれはご苦労様だよ。じゃ晩御飯作ってきまーす」

「さっさと作れこの愚弟!…とそうだお前に部下ができるぞ」

「部下?」

「オイスタッタハが連れ回していたホムンクルスだが、検査が終わり次第うちに来るからそのつもりでな」

「なんで!?」

「いくらテロまがいなことに加担していたとはいえ本人は望んでいなかった。更に眷獣が植え付けられた人工生命体(ホムンクルス)なんて珍しいからな。3年間の観察保護処分が下された。そして攻魔官であり教育者の私が適任と言うわけでアスタルテの面倒をみる事になった!(忠実なメイドが欲しいから引き取った)」

「ふーん」

冷めた目で火乃香は那月を見る

「なんだ…?」

「別に」

本音は口にしていないがダダ漏れだ。

こうして新しい家族を迎える事になった南宮家はいつもより少しだけ騒がしい夕食となった。

________________________

事件を解決した次の日担任の南宮先生から新学期そうそう無断で早退した罰として、追試が言い渡されたため古城は彩海学園の食堂で追試の対策を行なっていた。古城の目の前で火乃香は優雅に紅茶を飲みながら『ガリバー旅行記』を読んでいた。

その姿はどこか那月に似ている。

「クッソ…那月ちゃん…!なんで追追試なんて…!一応この島を救ったんだからそれでチャラにしてくれたっていいだろ!」

「まぁ、救ったと言っても古城が眷獣の扱いを少しでもミスってたら今頃俺たちは海の藻屑になっていたところだ…。そう考えると古城の功績は無いに等しいんだぞ」

「はぁぁぁあついてねぇ」

そう言いながら古城は必死で問題を解いているがどこか落ち着きがない。

「落ち着かないみたいだね」

「当たり前だろ…姫柊にあんなことしちまったんだから」

あんな事とは恐らく吸血だろう。すると雪菜が古城と火乃香のところにやってきた。

「どうだった!?」

「古城…がっつきすぎだ…」

「はい。陰性(だいじょうぶ)でした。」

「はぁぁぁあ、よかったぁ。姫柊をその…『血の従者』にしちまったんじゃねぇか…って気が気じゃなくて」

『血の従者』ー吸血鬼が身体の一部を与えて作り出す1代限りの疑似吸血鬼の事。その身体の一部と言うのは唾液や血液なども含まれており、吸血行為の最中に唾液が侵入したり、月齢などの条件が重なることでも『血の従者』になり得るのだ。

「でもあの時は月齢も計算して比較的安全な日だってわかってましたから」

「あ、あと傷とか残ってないか?」

あ、はい。ちょっと血が出ただけで、最初は少し痛かったですけど、そんなに苦しくなかったですし、跡になる事もなさそうです」

(おかしい…いやらしい意味の会話ではない筈なのに、誰かに聞かれたら確実に修羅場になりそうだ)

火乃香の背中には嫌な汗が滲みでてくる。彼の危機察知能力が反応している。火乃香自身、己の危機察知能力は人類…いや地球上の全生物で最も優れていると自負している。彼の危機察知能力と危機管理能力のおかげで戦場では何度も仲間の命と己の命を救ってきた。彼が所属する世界最強と言われている国連軍総司令長官直属の特殊作戦部隊【『COMBAT FAIRY FORCE』通称CFF。日本なんかでは妖精部隊なんて言われることもある】の作戦指令本部長、つまり稲垣隼人からも火乃香の第六感には度々助けられている。故に彼の能力は最も信頼できるものである。

そんな彼の第六感が危険を告げているのだ。

(あ、わかったぞこの会話のダメなところが)

そう火乃香の目の前で繰り広げられる会話には重要な主語が指示語で示されているのだ。このままでは危険だと判断した火乃香は2人に会話をやめるよう促そうとする。

「古城…そう言う会話はここでしない方が…「古城君…雪菜ちゃんの何を吸ったって…?」…」

目の前で急に発せられた声にビクリと震える古城。長い髪をショートカット風にまとめた彼の妹暁凪沙である。

「やぁ凪沙ちゃん、久しぶり元気してた?」

古城を助けるべく話題をそらそうと奮闘する火乃香。

「ほのちゃん、久しぶり〜。随分と疲れ切った顔だね?ちゃんと休んでる?お仕事で無理しちゃダメだよ?」

よし!マシンガントークに持ち込めそうだ!そう火乃香は確信した。

がしかし女性の怒りというのは、簡単には治らないようだ。

「いろいろ外国での面白いお話を聞きたいけど、先にやらなきゃいけない事(尋 問)があるから…。それで古城君何を雪菜ちゃんに何をしたって…?」

「な、な、凪沙…?部活……は?」

「今日は偶々休みになったんだよ…。だから試験勉強で頑張っている古城君と最近仕事で忙しいほのちゃんのために浅葱ちゃんと何か差し入れしてあげようって話てたんだけど聞き捨てならないセリフが聞こえたから」

どんどん凪沙の目が死んでいく。

「そ、そうだ、なら、あ、浅葱はどうしたんだ?」

「浅葱ちゃん?ずっと古城君の後ろで話を聞いてるよ?」

古城はギ、ギ、ギと音がなりそうなほど首をゆっくりと後ろに向ける。

彼の後ろには穏やかな笑顔を見せる浅葱がいた。

「ふ〜〜ん、この子を吸って、痛い思いさせて、血を出して、古城が心配して、挙げ句の果てに陰性…ねぇ?」

「あ、浅葱…誤解してるぞ…?」

古城は涙目で火乃香を見る。やめろ!飛び火するだろ!火乃香はこれ以上関わりたくなかったので必死で読書にのめり込む。が浅葱ここで火乃香を睨む。

「火乃香…古城とこの転校生に何があったか教えなさい。」

すごい迫力だ…。今まで経験してきた様々な威圧で最も強烈だと後に火乃香は語る。

「………俺は拷問に屈しないぞ………痛みに耐える訓練はしてるからな………」

「答えなさい。」

その一言でこの場の空気が凍りついた。

「Yes.sir!しかし自分がここで真実を言えば社会的に殺されかねません!」

火乃香は思わず昔教官に鉄拳制裁を喰らう度に使っていた返事と直立不動の陸軍式の敬礼を行う。流石は現役特殊部隊の隊員。とっさの行動であってもその姿は立派だ。

「古城!火乃香が言えないような事をしたっていうの!?」

「火乃香ぁ!お前のせいでややこしくなっただろうが!」

古城が逆ギレしてくる。だって事実だろ…

「古城君の変態!エロ!スケベ!」

凪沙は大声で古城を変態呼ばわりし非難する。

「それと転校生のあなた!一体古城のなんなのよ!」

「私は先輩の監視役です」

いきなり話を振られた雪菜も古城同様ビクリと震わせつつも答える雪菜も中々に肝が座っているだろう。

「そのあなたが誘惑してどうするの!」

「それは…そうですね」

頬を若干赤くさせもじもじしながら答える雪菜。これでは示しがつかない。そうしている間にも暴走した乙女2人はヒートアップしていく

「ここに淫魔が!妹のクラスメイトに手を出す淫魔がいます!」

「ちょ!やめろ浅葱ぃ!」

騒がしかなっていき段々と野次馬が増えてきた。火乃香は同類だと見られたくないので、とっとと席を離れていく。席を離れ、辺りを見回すと小柄で銀髪が特徴の少女がいた。

「やぁ、夏音。どうしたの?」

「火乃香さん、何かあったのですか?」

「いや気にしなくていい…っといっしょに帰るか?」

「はい、でした」

騒がしい食堂を背に帰路につく火乃香だった。

「そうだ、今週の土曜日空いてる?」

「あいてました。」

「良かった…どこか行こうか?」

「はい!」

夏音は穏やかなな笑顔を火乃香に見せた。彼女を守り抜くそう誓いながら火乃香は夏音と帰路につくのだった。

__________________________________________

現在時刻21:30彩海学園のとある教室にて2人の話し声が聞こえる。

「かくして、血の伴侶を得た第四真祖こと暁古城は眷獣を一体掌握し次の段階へといたるのであった」

髪をたてヘッドフォンを首からぶら下げた少年、矢瀬基樹は1匹の鳥に話しかけていた。

「そうですか、監視役ご苦労様です」

その鳥から声が聞こえた。式神だ。相手は獅子王機関三聖の一角である、閑古詠だ。

そんな2人の間に1人の少年が突如割って入ってきた。

「やぁ基樹、こそこそと何をしているんだい?あ、まさか彼女と逢引?いやー悪いねー空気読めなくて」

「っ!?火乃香か…なんだ?」

「警戒しなくて結構…成る程ね姫柊さんは未だ眠っている獣につけられた鈴…いや首輪の方が正しそうだな」

「何の用ですか?刀使い(ソードダンサー)…」

静寂破り(ペーパーノイズ)いや閑古詠といった方がいいか?まぁ俺はただ忠告しにきただけさ…」

「なんですか」

「古城を舐めてたら痛い目あうぜ…。それと、あんたらがやろうとしている事が何かは知らんが…なるべく巻き込まないように配慮してくれ…ただそれだけだ」

「分かっています。あなたを本気で怒らせてしまっては、あの2人以誰も手をつけることができなくなってしまいますからね。私も殺されかねませんし」

基樹は心底驚いた。火乃香が強いというのは知っていたがハイパーアダプターでもないのに三聖ですら太刀打ちできないということを知ってしまったからだ。

因みに火乃香を宥めることの出来る人物は1人は叶瀬夏音、もう1人はアルディギアの王女である。

「まぁそう言うことだ…あまり遅くまで出歩くなよ…じゃないと2人揃って姉さんの生活指導が入りかねんからな」

その一言を残し、火乃香は空間転移で消えていった。

 

 

 

 

 

 



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南宮 火乃香(みなみや ほのか)男(16)

髪は黒で背中ぐらいまだ伸ばしている。普段はそのままだが体育時は髪を纏め戦闘時は更に赤いバンダナを巻いている。

彼の体に流れる血の霊力は世界最高純度らしい。

約10年前、欧州でなに不自由なく暮らしていたがある日の夜中に突然彼の住んでいた村が焼かれた。(その日の夜中に同様の事件が50箇所で起き、欧州三大悪魔の1つnightmareの名で知られている。実行犯は1人。蒼いサイボーグとステレス迷彩が特徴的だったらしい。後にその存在は『蒼の殺戮者(ブルーブレイカー)』と呼ばれる事になる。)

その時偶々近くを通りがかった南宮那月に拾われ、彼女の義理の弟として身柄を保護された後、火乃香に魔術の使い方を教える。更にその時に那月と一緒に仕事をしていた稲垣隼人が彼を弟子として迎え、体術(CQC)や剣術、射撃、サバイバル術を始め、現地への単独潜入からの工作活動や集団戦闘の基礎などを教わる。(尚、最近火乃香はファイターパイロットの技能も身につけたらしい。しかもエースパイロットレベルだとか)彼の能力に目をつけた隼人は彼を自分の部隊に編成させる。これが後のCFF部隊として結成され、初期メンバーとして数えられる事になる。副業として絃神島では特区警備隊(アイランドガード)の仕事を引き受けている。5年前に欧州三大悪夢の一つである血塗れの惨劇(ブラッディ・トラジディ)を引き起こした張本人。妖精のように刀を振るう姿から刀使い(ソードダンサー)の異名を付けられた。仲間からしたら勝利を導く妖精。敵からしたら死を運ぶ死神である。

基本は刀と体術そして銃を使っての戦闘。彼の戦闘スタイルは多様性に富んでいる。射撃の腕も一級品。私服の時はハンドガンを上着の下に隠し、登下校中は帯刀、カバンの中にハンドガンを入れている。アイランドガードの仕事時は無地のオリーブ色の迷彩服のズボンに白い無地のシャツ、半長靴に左腰に帯刀し右腰にハンドガン、足にナイフを装備している。

CFFの任務ではスニーキングスーツにアサルトライフルとハンドガンを持ち歩く。黒死皇派壊滅の功績を受け大尉から少佐へ昇進。

メタルギアのアナライザーによる能力測定で言えば

剣術S+ 体術S 射撃S++ 魔術A++ サバイバルS++ 単独潜入S 集団戦闘B

戦闘機操縦A++

基本使用武器

刀:黒鋼、白鋼、蒼氷、火焔

ハンドガン:HK45

アサルトライフル:HK416

狙撃銃:M82

コンバットナイフ

 

 

 

 

黒鋼(くろがね)

全体的に黒い刀。片刃の長剣。龍のような見た目。霊力の強い血を刀身に流し込む事により古き世代の吸血鬼ですら致命傷を与えかねない。斬れ味は蒼氷と同じくらい。nightmareの時に両親から託された刀のうちの一本。

 

白鋼(しろがね)

黒鋼とは対照的に真っ白な刀。龍のような見た目。片刃の長剣。霊力の強い血を刀身に流し込む事により斬れ味が増していく。nightmareの時に両親から託された刀のうちの一本

 

蒼氷(そうひ)

火乃香が普段持ち歩いている二本の刀のうちの一本。片刃の長剣。氷の力を宿し強度と斬れ味が強く大抵何でも斬れる。

 

緋炎(ひえん)

火乃香が普段持ち歩いている二本の刀のうちの一本。片刃の長剣。火の力を宿し強度と斬れ味が強く大抵何でも斬れる。

 

 

 

 

稲垣隼人(いながきはやと)男(45)

火乃香の師匠であり上司。国連軍では総司令官を務め、火乃香の所属する特殊部隊『COMBAT FAIRY FORCE』の指揮をとる。

元々少年兵だったところ大戦の英雄に拾われ約15年間共に修行し、CQCなどの近接格闘術を開発。しかし20年前とある作戦にてその師匠を抹殺。再び傭兵として各地の戦場を転々としていたところ、評価され国連軍指揮官になった。そんな中那月と仕事で知り合いその那月が火乃香を連れてきた事で、火乃香に戦い方を教えた。

火乃香からは「大佐」と呼ばれたり、他の特殊部隊のメンバーからも慕われている。

武器は刀と銃を使う。

使用武器

刀:銀龍

銃:M1911A1カスタム

 

 

 

 

COMBAT FAIRY FORCE

通称CFF。妖精部隊とも呼ばれている。国連軍唯一の特殊部隊。指揮官は稲垣隼人。主な任務は作戦目標地域への単独潜入と世界各地に潜伏するテロリストの壊滅。隊員数はそれぞれ何かしらのスキルを持っている。後方任務に勤めるものの中には女性もいる。戦闘員は約50人程度。1チーム約5人程度で第○特務隊という風に表現する。その中で火乃香は第1特務隊に所属する。緊急時にはメンバーは国連軍の全戦力を招集することが可能。

 

第1特務隊通称アルマース隊

 

配備されている兵器

戦闘機:特殊電子戦闘機Bー503 5機…全長22.2m全幅14.63m全高5.56m

最高速度マッハ3.0 巡航速度マッハ1.65限界高度23300m

武装

20mmガトリング砲

主翼下ハードポイント×2

短距離空対空ミサイル

中距離空対空ミサイル

長距離空対空ミサイル

輸送機:Cー17グローブマスターIII1機

超高速単独潜入輸送機「秋水」1機…全長7m最大速力マッハ6以上GPS、アクティブレーダーホーミングとパッシブレーダーホーミング方式の複合シーカー及び内蔵プログラムによる完全自動操縦。

降下ポイントに到着する3秒前にハッチ解放降下ポイント到着で固定器具が外れる仕組み。

単独潜水輸送艦「ノーチラス」15隻…全長13m潜水艦から射出される。GPSによる自動操縦で潜入ポイント到着もしくわ限界まで侵入したところで乗り捨て後は泳ぎで潜入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




兵器についてはこんなのもあるよって程度です。
ではまた次回


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日常篇
火乃香の休日


はい以前より予告していた夏音とのデート回です
彼女いない歴史=年齢の作者にとってこの回を執筆するのはとてつもなく恥ずかしかった…。
かなり飛ばしたりおかしな点があるかもですがそこはもう気にしないでください。
それとお気に入り登録が20件となりました!皆さん本当にありがとうございます!これからも文才のない私を応援してください!
あ、それとアドバイスとかあれば感想に書いてくれれば今後の作品を作る上での参考にさせていただきます!
ではどうぞ!


七分袖のリネンシャツにボーダーカットソーそしてブルーのジーパンをを履いた全体的に清潔感と線の細さが目立つ格好をした1人の少女のような青年がいた。

(ちょっと早かった気もするが…まぁデートだしな、15分プラス五分前行動は基本か…)

そんな事を思っているのは火乃香だ。

数日前古城が浅葱と妹の凪沙に詰め寄られている間、夏音とデートの約束をしたのだ。

「火乃香さんお待たせしました。待ちました?」

「……っ!いや、俺も今来たところだからそんなに待ってないよ」

夏音は白のワンピースを来ていた。シンプルな格好だが、夏音の銀髪や整った顔立ちそしてどこか浮世絵離れした容姿をもっているせいか下手な飾りをつけるよりも綺麗に見える。火乃香は見惚れつつも微笑みながら答えた。

「それじゃ、行きますか。」

火乃香はそっと手を差し出し、夏音も差し出された手を握り返し2人はモノレールに乗りショッピングモールへと向かった。

 

________________________________________________

「火乃香さん!こんなのはどうでした?」

「んー似合ってると思うぞ」

夏音が手にしている服はブルーのシャツシャツだ。

モノレールから降りた2人はモノレール内にある服屋で服を選んでいた。

「さっきからそればっかりでした」

「いや夏音はなんでも似合うから仕方ないじゃない?」

少しムッとする夏音に対し苦笑いしながら事実を言う。

火乃香は基本的に制服か仕事の場合だと白いTシャツにオリーブ色の戦闘服だからあまりファッションには気を配らない。しかしセンスが悪いというわけでもない。

「火乃香さん次はあなたの服を選びますね」

「え?いや俺はいいよ」

「めっ!です!私ばかり選んでもらったら悪いですし…」

「んーわかったならコーディネートお願いするよ」

(はてさて今回は何着着せられるのかねぇ)

心の中で火乃香はため息をつきつつ大切な人と過ごせる時間に幸せと感謝を感じずにはいられなかった。

________________________________________

昼時となったため服選びは一時中断し、2人でホットドッグを食べている。

「………夏音、楽しかった…?」

ぐったりとフードコートに置いてある椅子に座りちのはさきほどまで着せ替え人形の状態になっていた南宮火乃香だ。

「はい!すごく楽しかったでした!」

そんな火乃香とは対照的にどこか嬉しそうな声と表情で答える銀髪少女こと叶瀬夏音。彼女のコーディネートには南宮那月みたいな悪意が全くないので火乃香は呆れることもないし、面倒とも思わない。

「そっか…服のコーディネートありがとうね」

「いいえ、私もとても楽しかった、でした」

「夏音が居なければ今頃俺の服は那月姉さんが選んだゴスロリファッション確定だからすごく感謝してるよ」

「南宮先生のあの服いただきてみたいと思ってました」

「んー夏音にゴスロリかー…多分似合わんぞ…」

「そうでしたか…」

シュンとしぼむ夏音に苦笑いしながら火乃香はフォローを入れる。

「夏音は大人しいからさ、派手な格好より落ち着いた服の方が似合うよ?今日着てる服もすごく似合ってるし」

「ほんとですか?」

「あぁホントだよ」

「嬉しいでした」

褒められて若干照れつつ嬉しそうに笑う夏音を見て火乃香はすぐにスマホを出し写真に収めた。

「っ!?何撮ってるんですか!」

「いやいや可愛いかったからこれは是非写真に収めておかねばと思ってねハハハ」

「もう…誰にも見せないでくださいね…?」

「わかってるって」

そう言いながら火乃香は夏音の頭をそっと撫でてあげる。

撫でられている夏音は気持ちよさそうに目を細めている。

(やっぱ夏音は猫っぽいな)

そんなやりとりを見た一部の人間はコーヒーのブラックを追加で買ったそうだ。

________________________________________

ショッピングモールの中をゆっくりと歩く2人は恋人繋ぎをしている。

「今日は楽しかったでした」

「そうだな…夏音ちょっとこの店によっていいか?」

「?いいですけど…ここは…」

火乃香が入ろうとしているのは海外でも人気のブランドハリーウィンストンだ。

「すまないが少しここで待っててくれ」

火乃香はそう言い店の中に入る。中は豪華であり気品が高い。

中にいるのはスーツを着た如何にもお金持ちであるだろうとわかる客ばかりだ。店の中にはガードマンがいる。

そんな中に学生が入ると凄く浮くのは仕方のないことだ。それ故か店員がすぐに来た。

「本日はどのようなご用件で?」

「これを受け取りに来ました」

火乃香は財布から一枚の伝票を渡す。店員のお姉さんの表情がみるみるうちに営業スマイルから真顔に変わっていく。

「か、畏まりました。代金はすでに支払われていますので直ぐに品物を持って来ますね」

「お願いします」

まつこと数分、如何にも高級そうな箱をもち火乃香のところへ来た

「こちらでお間違えはございませんでしょうか?」

「えぇあっています」

中に入っていたのは1カラットアップのハートシェイプ・ダイヤモンドをセンターに、サイドにはテーパード・バゲットカットのダイヤモンドを配したハリー・ウィンストンを代表するリングだ。

値段はおよそ330万といったところだろうかそれが2つお揃いで入っている。

「こちらは梱包しますか?」

「いや直ぐにつけるのでそのままで結構です」

「畏まりましたご来店有難うございました」

店員は深々とお辞儀をしながら火乃香を見送った。

火乃香は崩れないように丁寧にカバンに指輪をしまい店を出た。

「どうしたんですか?」

「いや…なんでもないよちょっとね…夏音今日の夜は1人?」

「?はい」

「うちも今日は姉さん仕事で家に帰れないから1人なんだ…もしよかったら晩御飯うちでどう?」

「いいですよ!」

「じゃ帰りますか」

「はい♪」

2人は帰路に着いたのだった。

________________________________________

「火乃香さんの料理は美味しいです♪」

「そういってくれるとありがたいよ」

夕飯を食べ終えた2人はソファで寛いでいる。お互いにシャンプーの香りをさせながら夏音は火乃香の肩に頭を預けている。

「なぁ夏音…君に渡すものがある」

「なんですか?」

「これだよ」

そ言いながら火乃香が取り出したのは先ほど受け取った指輪だ。

「もしよかったらさ…ちょっと早いかもしれないけど…婚約指輪として受け取ってくれないかな…?」

「本当にいいんですか?」

「勿論!君に貰って欲しい」

「ありがとう、でした。あの…今後とも宜しくお願いします。それと…」

「あぁ…こちらこそ宜しく頼む」

お互いに微笑みながら火乃香は夏音の左手を取り、その薬指につける。そしてお互いに口づけを交わす。

薄暗いオレンジ色の光で照らされた部屋に2つの影が重なっていた。

「火乃香さん…もっと…してほしい…でした」

「夏音…」

火乃香は夏音をソファに押し倒し、もう一度口を塞ぐ。ゆっくりとお互いの口内を貪る。深く繋がっているのを感じる。

どれだけだっただろうか…体感では途轍もなく長い時間口付けをしていた。しかし、実際はほんの数分程度だろう。それだけ濃い時間を過ごしたということだ。

口を離すと銀色の一本の線が繋がっている。

これで何度目のキスか数えるのもバカらしく感じる

「火乃香さん…もう…我慢できません…」

熱い吐息と切なく甘い声で火乃香を求める。火乃香の頭の中で理性がプツリと切れた。火乃香とて男なのだ。愛しい恋人にここまでされれば歯止めは効かなくなる。火乃香と夏音はゆっくりとお互いの服を脱がせ、本当の意味で一つになった。




最後はR15で収めました…その後の展開は私の口からは直接言いませんがまぁお察しということで(笑)
次回は戦王の使者篇ですね
遂に火乃香と古城が本気で戦います。
お楽しみに


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割と忙しい戦闘員の入院生活

火乃香には休む暇が無いんじゃないかなと個人的に思う今日この頃。


「南宮さん起きてください。検温しますよ」

人の声で起こされる。掠れた視界に飛び込んだのは真っ白い天井だ。

そして次に視界に入り込むのは、ナース服を着た若く綺麗な看護師だ。

「……おはようございます…今何時ですか?」

開口1番に看護師に尋ねる。

「今は8:00ちょうどですよ?朝食も運んできたので、早く体温を測りましょう?」

朝起きた時間を確認するのは、今までずっと朝が忙しかったせいだろう。火乃香はそう思い込む。

笑顔で体温計を渡され火乃香は渋々脇にそれを挟んだ。

「何処か具合の悪いところはありませんか?」

「いいえ、ありません」

霞にボコボコにされてから既に18時間経とうとしている。

それだけ時間が経てば、至る所で悲鳴をあげていた体は、今はもう大人しい。

ベッドを起こし、ボケっとしていると、電子音が鳴った。

「どうぞ」

火乃香は体温計を看護師に渡し、ベッドにテーブルをセットし朝食を摂る。

入院食は味気ない。昔はそうだったらしいが、今の入院食は進化し、通常食と言われる一般的なお食事から、特別食と言われる代金が高いが豪華な食事が出る。しかも和食と洋食のどちらかを選ぶことができる。

火乃香が目を覚ました時、那月は看護師に言って火乃香の入院食を全て洋食の特別食にしたのだ。

サラダやコンソメスープ、仔牛のソテー、ホタテやスモークサーモンといった海の幸を使ったサラダ、果てにはデザートとしてフルーツなど中々に豪華なものだった。

そして、同じカロリー計算がきっちりとされている戦闘糧食(レーション)とは比べ物にならないほど美味しい。

そしてそれらを全て食べ終わった後、廊下に出されている配膳車に置き、ソニックミサイルや昨日行われた戦闘の報告書を作成し始めた。

「はぁ…めんどくさいなぁ…これ。なんで英語で纏めなきゃいけないんだよ…」

パソコンの画面にはワードの画面が映し出され、シートには英語で文字が書かれていた。

CFFの作戦ならば殆どが公式文書として残されないので、形だけの報告書の提出になる。

つまり日本語で報告書を作成しても問題はないのだ。

しかし今回は国連軍として公式の作戦である。故に公式文書としてきっちりと世界共通言語である英語での作成となる。

「なんか…英語の小テストを受けてる感じだ…」

英語の授業を那月が担当しているクラスは週一のペースで英語の小テストが執り行われる。

そのテストは実に様々で簡単なものは単語テスト。那月の気分次第では英作文の試験や、様々な物語の和訳だったりする。

書類作成から2時間が経過し、集中力が切れかけた時、病室のドアがノックされた。

「やぁ、気分はどうだ?」

「大佐!あなたが直々にお見舞いしに来てくれるとは…光栄ですね」

やって来たのは大佐だ。

火乃香が入院したことを聞きつけ見舞いに来たのだ。

「ほれ…土産品だ。」

そう言いながら稲垣は火乃香にスポーツドリンクを渡した。

「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていてそろそろ買いに行こうと思っていたところなんですよ」

「無駄金使わずに済んだな。それはそうと、相当苦戦してるみたいだな」

「当たり前じゃないですか…。はぁあなたの緩さ加減にマジ感謝ですわ」

「まぁ公式文書だからね。きちんと書かなきゃいけない」

「でもなんで英語で…姉さんからは英語の課題をプレゼントされるし…、報告書まとめなきゃだし…しかも英語で…休めるものも休めないじゃないか…もうヤダ…」

プゥーと頬を膨らませながら駄々を捏ねる火乃香に苦笑せざるを得ない稲垣。

「ハハハ…まぁ仕方ないさ。公式文章だから英語で書かなきゃいけないし適当には書けない。もし適当に書いてしまったらその文章がそのまま発表される事になって、周りから冷たい目で見られる事になるよ?」

「くっ…それだけは勘弁願いたい…!」

「どれ…どこまで書けているんだ?」

「殆ど書き終わっているんです。後はソニックミサイルについて纏めるだけです」

そう言いながら火乃香は稲垣にディスプレイを見せる。

火乃香の言う通り戦闘の報告書は完成しており後はソニックミサイルの実戦評価のみを纏めるだけとなっていた。

「ソニックミサイルの実戦評価は日本語で提出してくれて構わないよ」

「ほんとですか!?」

「あぁ。あとで私が英訳するから」

「ありがとうございます!」

先ほどの死にそうな火乃香の表情が、心なしか生き生きとし始めている。

そして作成する事30分。

「できました!USBメモリー貸してください!」

「はいどうぞ」

稲垣からメモリーを受け取りコピーし返す。全ての報告書の提出を確認した稲垣は時計を見ている。

「どーしたんですか?」

「そろそろ私は本部に戻るとするよ。色々と忙しいんでね」

「わざわざ俺のためにありがとうございます、お気をつけて」

「あぁ。ありがとう。火乃香、お大事に」

そう言いながら稲垣は部屋を出て行く。

その姿を眺めていた火乃香は今度は用意された英語の課題と格闘するのであった。

_________________________________________

彩海学園高等部1年B組ではいつも通り、HRが始まろうとしていた。

いやいつも通りではない。何故なら空席が1つあるからだ。

空席がある事自体にはなんら不思議なことはない。問題なのはその座席の人物に問題があるのだ。

だからと言って休みについて騒ぎ立てはしない。何故なら皆考えていることが同じなのだから。

「どーせ那月ちゃんに言われて、特区警備隊(アイランドガード)と一緒に犯罪組織を相手に刀を振り回しているのだろう」と

始業のチャイムがなり、生徒たちは慌ただしく自分の座席に座り、彼らの担任である那月が教室に入りHRが始まる。

「那月ちゃん火乃香いないけどーべぶっ!」

いきなりクラスの男子生徒が那月をちゃん付けで呼び、扇子が飛んで行く。

「私を那月ちゃんと呼ぶなと言っているだろ!お前たちは暁古城と同レベルの知能しか持ち合わせていないのか!」

(((いやいや、あんたは普通にちゃん付けしないと違和感ハンパないし)))

見事にいつもの返しをしながら、それでいて古城に対する罵倒も忘れない。ツッコミ役の鑑だ。しかし残念ながらクラスの意見は満場一でちゃん付けじゃなければ気が済まないようだ。

「それと火乃香だが入院している」

「「「なにー!?」」」

クラスが一斉に騒ぎ始める。

それもそのはず彼が休むのは仕事だけで、病に倒れることもなければ、手足を骨折しても平然としている火乃香が入院したのだ。

クラスがざわめき始める。

「おいおい、あいつが入院って…」「どんな怪我を負ったんだよ…」

「火乃香君をそこまで追い詰める犯罪者がいるとなると…」「私達、明日の朝日をちゃんと崇められるのかな?」「いやいや、なにも犯罪者にやられたとは限らないぜ?」「まさか、那月ちゃんから拷問を受けた?」

「え、なにそれ、もし本当ならめっちゃ羨ましいんですけど」

様々な憶測や不安が教室内で飛び交う。

つか、最後のやつは別の意味で入院したほうがいいと思う。

と、古城は思いつつ口には出さない。趣味は人それぞれだからだ。

あの場面を見た古城や雪菜達には厳しい箝口令が敷かれた。

どんどんヒートアップしていき収集がつかなくなりかけたので、那月は仕方なく黒板に爪を立て引っ掻き、騒ぎを沈めた。

「お前達静かにしろ!それと、私は断じて火乃香に暴力など振るっていないからな!そこら辺理解しておけ!あいつが休んだのは…ただの検査入院だ!だから心配するな。HRを終わる号令」

そう言いながら無理やり事態を収束させ、那月のあらぬ誤解も解いた

のだった。そして古城達いつものメンバーは放課後火乃香をからかいに病院へ行こうと決意するのだった。

________________________________

火乃香は必死に那月から出された課題を処理していた。

報告書を書き終えて、昼食を摂り、シャワーを浴びプリントの束と向き合ってから約2時間半ようやく最後の一枚を片付けようとしていた。

「ふぃ〜やっと終わりそうだ…これでようやく昼寝ができる」

午前中から今までずっと書類整理をしていたため眠ることができなかった火乃香は、ようやく本来の目的である休養を取ることができそうだ。

しかし現実は残酷だということを火乃香は忘れていた。

「おやすみなさ〜……」

コンコンコン。病室の扉が等間隔のリズムで三回ノックされ、容赦無くドアが開け放たれる。ぞろぞろと6人の人間がわちゃわちゃと入室して来た。

「よぉ、元気してっか?」

「火乃香君、お見舞いに来たよ〜?」

若干の笑いを押し殺しながら真っ先に火乃香に声をかけて来たのは先日死にかけた矢瀬基樹と学級委員長の築島倫だ。

「おい2人とも一応ここは病室だぞ。静かにしてやれよ…」

古城が呆れながら興奮する2人を睨む。

基樹はまぁまぁと古城を落ち着かせようとしている。

「ほのちゃん大丈夫?急に来ちゃったから、もしかして迷惑だった?もしそうだったらごめんね?」

「あ、いや別に迷惑ではないよ、それにちょうど暇つぶしが消えたところだから退屈せずに済みそうだよ」

申し訳なさそうな表情で凪沙が火乃香に尋ねるが、火乃香は別に気にしていないというそぶりで答える。

凪沙や雪菜達に言われてしまえば、自然とありがとうと言える。

何故なら悪意というものがないからだ。

しかし、残念ながらクラスメイトは違う。こいつらは火乃香との距離が友人として近いが故に、邪念の混じった言葉を投げかけてくる。

もし古城達だけで見舞いにやって来て凪沙のセリフを言われれば、恐らく火乃香は追い返していただろう。

「南宮先輩…怪我の方はどうなんですか?」

小声で雪菜が怪我について聞いてくる。

「あぁ別に大丈夫だよ。走ったりとかすると傷口が開くから暫くは体育とかは見学だけど別に日常生活には支障をきたさない」

「そうですか…」

雪菜と会話しているうちにどんどん古城達は騒がしくなって行く。

「お前ら騒ぐんだったら帰れや!」

「ちょっと基樹!あんたのせいじゃない!」

「なんでだよ!?」

どうやら今日浅葱が学校で古城との接し方が若干おかしかったらしく、その事について昨日病室で何かあったのではとからかわれて、浅葱がキレたらしい。

「全く…お前らここ病室だってこと忘れてるのか!?いくら個室だからって、少しは静かにしろ!」

「てかあんた、個室って!私は大部屋だったのになんであんただけ個室なのよ!」

「いや、浅葱はただ気絶していたから、起きるまでの処置ってやつじゃないのか?」

古城はもっともな事を言う。実際そうなのだ。浅葱が気絶していたので病院へ搬送され一応検査はしたが問題ないと言う事で起きるまで病室で寝かせる事になっていた。

しかし火乃香は違う。なにせナイフで刺され高圧電流を2度も全身に流されたのだから、入院は必至だった。

偏に那月が個室を選んだのもそうだろう。

「まぁ、明日には退院できるし、午後の授業には間に合うと思うよ」

「ほーそうかそうか良かったな。んじゃ俺たちはもうお暇しようぜ」

先程までヘッドフォンをつけていた矢瀬が急に話を切り出した。

「矢瀬のくせに常識があるじゃねーか」

火乃香は矢瀬に対していつも皮肉られているのでその返しをした。

「まぁな。それじゃ、甘い時間を過ごせよ」

「?矢瀬お前なにいってるんだ?」

「いいから早く行くぞ!」

「うぉ!ちょ!押すな!」

入室して来た同様騒がしく退室していく6人を見ながら矢瀬のいっていた意味を理解した。

「失礼します。火乃香さんこんにちは」

「夏音、今日も見舞いに来てくれたのか?」

「はい、でした。」

そう言いながら夏音は火乃香の側によりパイプ椅子に座った。

「夏音…せっかくお見舞いに来てくれたのに、ごめん。ちょっと寝ていい?」

「どうぞ、ごゆっくり。それに火乃香さんの寝顔はとても可愛いかった、でした」

「なんか…恥ずかしい…な…」

そう言いながら火乃香は意識を手放した。夏音が来た事により安心したのだろう。火乃香はスースーと寝息をたてながら瞼を閉じている。

「ちょっと…だけ」

夏音はそう言いながら火乃香のサラサラな髪の毛にに触り、頭を撫でた。シャワーを浴びてから少々時間が経っているはずだが、髪を撫でるとシャンプーの匂いがふわりと夏音の鼻腔をくすぐる。

「柔らかい…それに…いい匂いでした…」

火乃香が着ているTシャツから覗く白く細い首や鎖骨が艶めかしく見える。女性のような…いや、自分よりもキメの細かいであろう肌を夏音はまじまじと見る。さらに、若干、影で暗くなっているがそこから見える鎖骨は首の細さも相まってか妙に色っぽく、夏音は舐めてみたいそう考えてしまう。

しかし夏音は頭を振って邪念を必死に取り払おうと奮闘する。

だが振り払えば振り払うほど、火乃香の鎖骨が夏音を誘う。

「うぅ…少し…少しだけなら…」

そう言いながら、夏音は火乃香の鎖骨に顔を近づけ舐めようとする。

その時火乃香から「ん、んんっ」と呻き声が聞こえた。

「!?」

起きたのか?そう考えながら、そっと火乃香の顔を見やるが未だに眠り続けている。

しかし夏音は火乃香の呻き声で冷静になり、先程の行動で顔を赤くしている。

「火乃香さんに、こんなことしようとしたなんてしれたら嫌われちゃう…」

そう呟きながら夏音は火乃香が起きるまで顔を赤くしながら悶々と悶え続けるのだった。

 

________________________________________

現在時刻19:00火乃香覚醒から1時間経過。

「いやー何かせっかくお見舞いに来てくれたのに、ずっと寝顔晒し続けてごめんね」

「い、いえ…問題ありません、でした…」

未だに若干恥ずかしそうにしている夏音に?マークを浮かべる火乃香。

火乃香が起きた時、夏音はシーツの端を持ち顔を真っ赤にさせていた。

何かあったのかと聞くと

「何もありませんでした!」

と勢いよく言われてしまい、さらに夕食の時間帯で、夏音は火乃香にあーんをした事により、それ以上の追求ができずに終わってしまった。

「まぁ何にせよ、明日には退院できるから…またいっしょに帰れるな」

「はい。あ、火乃香さんそろそろ帰らなきゃ…」

「そっか、もう時間も時間だから気をつけてね?今日は1人なんでしょ?」

「はい…」

「変な人に猫を見せられてついていかないようにね?」

「もう!そんな事しません!」

プクリと頬を膨らませながら夏音は子供扱いしてくる火乃香にそっぽをむく。

「悪かったって、冗談だから」

「もう…わかってますよそれくらい」

火乃香が笑いながら夏音に謝り、先程の表情とは打って変わり笑顔を見せる夏音。

「お大事に」

「あぁ」

そう言い残しながら昨日と同じように夏音は病室を後にした。

「はぁ…意外と今日1日退屈せずに済んだかも」

そう呟きながら、再び眠りに落ちるのだった。

こうして15時間後無事に火乃香は退院し、5時限目から学校に復帰したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ではまた次回


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ソードダンサー怒りの訓練指導

アメリカ海兵隊ネイビーシールズBUDsの動画見て書きたくなったんです!許してください。


「なんなんだそのみっともない腕立ては!テメェそれでも○玉ついてるのか!?」

「一々悲鳴をあげるんじゃねぇ!黙ってやれや!」

「顔あげろよ!サボるんじゃねぇ!」

歴戦の勇士達が訓練生に対し怒鳴り散らしながら暴言を吐いている。

ピッ!

笛が一回なったので伏せていた腕を上げ顔を上げバディを見る。

「なんだ?貴様ら?腕が震えているぞ。寒いのか?」

「「「「SIR!YES!SIR」」」」

「そうかなら暖めてやる感謝しろ」

クールな声の持ち主はこの場には似つかわしくない可愛らしい顔をしている。そして首にぶら下げた笛を口にくわえ笛を一回鳴らした。

(クッソ…如何してこうなった)

炎天下の中必死に腕を下げ地面に着きそうなほど体を下げている古城は目の前で候補生達を見下し罵倒している助教達と冷たい視線を浴びせる教官(火乃香)を睨みながらつい2ヶ月前の自分の言動を呪った。

____________________________

事の発端はアメリカで開かれた祝勝会から火乃香と夏音が帰ってきた時まで遡る。

南宮邸へ帰還した2人の目に飛び込んだ風景は涼しい顔で紅茶を飲む那月と土下座を決め込んでいる古城そして、それを冷たい目で見るアスタルテというなんともカオスな空間が広がっていた。

「姉さん。この状況は?」

「さぁな本人がいるんだから本人に聞けばいいだろう?」

随分と疲れ切った声色をしている。相当前から土下座を決め込んでいたのだろう。

「古城さんや、どうしたんだ?」

「大切な人を守れるだけの力が欲しい」

なにやら切迫した状態のようだ。

「なぜ力を欲する?お前には第四真祖の力がある。なのに何故」

「俺は…この一年で思い知った!自分の弱さを!その弱さのせいで凪沙を守ることができなかった…!結果的に無事だったから良かった。だけど今のままじゃダメだって思ったんだ!うまく言葉に表せないけど…だけど!」

「…わかった、で、俺はお前になにをすればいいんだ?」

「火乃香と同じように戦えるだけの技術が欲しい」

「あー…まじか…困ったな…」

「ダメか?」

涙目で見つめる古城を見て若干キモいと思いながらも火乃香は古城の言わんとすることを正確に捉えていた。

しかし、ほのかと同じポテンシャルを持つということは少なくとも世界屈指の特殊部隊CFFに余裕で入隊できるだけの行動力とリーダーシップそして体力が必要なのだが今の古城にはそれのどれもが圧倒的に不足している。絶対についていけない。そもそもCFFはアメリカ海兵隊特殊部隊NAVY SEALsの理念を色濃く引き継ぎつつ、七式突撃攻魔機槍(ジュネーヴァルツァー)のような魔導兵器を使用しない一般の戦闘員による対魔族、魔導テロへの対応と各国特殊部隊の牽制を目的とし、唯一の司令官であり国連軍総司令官である稲垣隼人大将直属部隊という超エリート集団なのだ。

故に、火乃香は悩んだ。

約2ヶ月後にCFFへ新たに入隊しようとする候補生に対し行われる養成訓練学校通称BUDsがある。

火乃香は今回は訓練教官として呼ばれているのだが。

「古城…あと2ヶ月でBUDsとヘルウィークに耐えれるだけの体力と精神力そして忍耐をつけるぞ…。一応大佐には話してみる…ただ…1ヶ月後に選抜試験があるから、まずそれに合格するために今からみっちり色々教え込むから覚悟してくれ…それと並行して予備訓練も受けてもらうからそのつもりで」

「え、ちょちょちょ急すぎないか?」

「俺と同じだけ戦えるようになりたいんだったら2ヶ月後にあるBZZの訓練に参加するしかないよ」

「ま、まじか…」

「ちなみに期間は約8ヶ月あって最初の3ヶ月は徹底的に体力と精神を追い詰める訓練が主に行われて古城が学びたがっている戦闘訓練はその後の5ヶ月間だ」

「は!?学校はどうするんだよ!?」

「休学だ」

「な、那月ちゃん…そんなシステム彩海学園にあるのか!?」

「ない、が、BUDsの訓練期間の中で何回か帰省休暇が与えられる。但し一週間程だ」

「古城戦闘訓練ならなんとかなるLCOの特別捜査隊も前半の訓練に参加するから阿夜姐ぇを経由することになるが」

「もしLCOの方から入ると三ヶ月で済むのか?」

「うん」

「なら頼む!三ヶ月なら学業にも支障をきたさない…と思うし…」

「わかった、那月姉さん古城も追加でお願い」

「仕方ないな義弟の頼みだ受けてやろう」

こうして古城は約1ヶ月後に迫った選抜試験に付け焼き刃で挑みギリギリで合格したのだった。

__________________________________________

そして冒頭へと戻る。

「暁古城とか言ったな。貴様は俺の推薦で入れたようなものだ。たかが腕立て750回そこそこだぞ?やる気がないなら帰れ」

「Sir!No!Sir!自分はまだやれます!!」

「そうか。お前らに聞こう!BUDsの教訓はなんだ!?」

「「「「勝者のみが報われる!!!!!」」」」

先ほどまでクールだった火乃香が腹の底から張り上げた声に反射的に答える訓練生達は満身創痍とといったところだろう。

「貴様ら個人がいくら脱落しようとクラス234だけはチームとして生き残っていく!戦場はもっと過酷だぞ!」

こうして地獄のように思える腕立て伏せは合計1000回を超えたあたりでやめになった。後に残ったのは砂浜に手をつけ肩で息をしてびしょ濡れになった訓練生達のみだった。彼らは腕立て伏せをしている間ホースで水温10度の水を定期的かけられていたからだ。

「何を休んでる!?貴様らに休みなどない!」

火乃香がそういった瞬間訓練生達は点呼をしながら整列していく。疲労と寒さで震えているがそれでも容赦なく冷徹なことを吐き出した。

「いいか!次はIBS訓練だ!急いで準備し、スタートラインにつけ!このレースで1着になったチームは2着以降のチームの腕立てが終わるまで休んでいていいぞ!」

こうして足場の悪い砂浜で約1キロを6人1チームがボートを担ぎ競争させる。レースに勝てば休憩。負ければ腕立てと海水に塗れる。

そうすることで勝つこととチームの重要性を訓練生達に無意識のうちに植え付ける。

BUDsが始まった時は100人近くいた訓練生が今では30人程度となってしまった。それだけ訓練がきついが火乃香達にとっては随分と甘くなったと感じている。

初期の頃はヘルウィークが終了した後に輸送機に詰め込まれCFF所有の演習島から約50キロ離れた太平洋のど真ん中の地点に放り出され約二週間サバイバル生活を行うという鬼畜仕様だった。サバイバルだけならばまだしも|自動歩兵〈オートマタ〉の上陸作戦から演習島の防衛任務が与えられたりととにかくそれはもう凄まじかった。そう思いにふけっているとEチームがゴールした。

「ようやく戻ってきたか。貴様らはボートを頭に乗せ立ったまま休憩することを許可してやる」

チームEに続き続々と他のチームが戻ってきた。古城がいるCチームは4番目に到着した。だが2着以降は腕立てをやらなければならない。

 

これはヘルウィークまで残り10日前の話だった



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戦王の使者篇
戦王の使者1


書きます


絃神島より離れた場所に一隻の豪華客船が航行していた。デッキには金髪で白のスーツを来た好青年が立っていた。

「で、日本政府はなんと?」

「日本政府は貴殿の入国を歓迎します。それと条件として…」

「君が監視役として僕の側にいるト」

「はい」

「まぁいいサ、僕の愛しの第四真祖に早く会いたいネ。でも君は良いのかナ?僕と第四真祖がぶつかるのハ」

「構いません…!第四真祖暁古城は私たちの敵ですから…!」

そういうと髪をポニーテールに結び、どこの制服か分からない紫のベストをきた少女が金髪スーツの男をにらみながら手に持っていた少年の写真を握り潰したのだった。

________________

「くそっ!なんでアイランドガードが来やがるんだ!おかげで取引がバレちまった」

そう言いながら倉庫の屋根を必死で走っている獣人がいた。

「おーい。待てよー。逃げたら綺麗に殺せないだろー?」

オリーブ色の迷彩ズボンに白いTシャツに腰には黒い鞘に納められた刀を持ち長い黒髪を後ろで纏めて結び、赤いバンダナをなびかせた少女のような少年南宮火乃香は獣人の後ろをぴったりとくっついて走っていた。

「てめぇ!なんでついてこれるんだ!お前本当に人間なのか!?」

「人間だよ」

しばらく走ると獣人は急に走るのをやめた。

追い込んだのだ。

「へへっだがな甘いんだよ餓鬼が!あの倉庫には爆弾が設置されている!こいつを押せばあそこにいるアイランドガードを吹っ飛ばすことができるんだよ!」

へへへと得意げに話してくる獣人に火乃香は呆れ果てていた。

「押したければ押せば良いさ」

「お前が押せと言ったんだからな!押すぜ!」

そう言いながら獣人はボタンを押した。

しかしいつまで経っても爆破音が聴こえない。

「どうなってやがる!?」

「今時暗号プロテクトがさ施されていない遠隔爆弾を使うとはな。貴様の脳みそは犬以下なのか?」

今度は後ろに建つクレーンの上から若い女性の声が聞こえた。その声にはどこか冷たさがあり、さらに獣人を見ている目がどこか汚物を見るような目だ。

「空隙の魔女…!なぜ貴様がここにー」

「ハッ!」

火乃香は刀を抜き獣人の手足を切り落とした。切り口からは鮮血が噴き出ていた。血の匂いが辺り一面に漂い、そしてもろに血飛沫を食らった火乃香は苦虫を噛み潰したような顔で刀を鞘に納めた。

「やりすぎだ馬鹿者」

「どーせこいつは獣人なんだ…たかだかダルマになったところで、死にやしないさ…

それより姉さん血を洗い流したいからさっさとアイランドガードに連絡してお風呂に入りたい」

「はぁ。お前はもう先に帰っていて良いぞ。」

「やったぁ!」

そう言いながら火乃香の足元に開けられた空間に堕ちていった。

「さて私も帰るとするか」

こうして火乃香と那月の仕事は終わったのだった。

________________________

基本的に火乃香の朝は目覚まし時計によって叩き起こされるのが日課だ。

最近の目覚まし時計は耳をつんざくような金属音が鳴る昔のものとは違い電子音が鳴るタイプやスマホなどに目覚まし機能が付いてたりする。しかしそれでも人外の音が急にけたたましく鳴ると言うのは、戦場で常に精神を研ぎ澄ましてきた火乃香にとっては朝から心臓に悪い。

しかしつい数日前からそんな辛い思いをしなくて済むようになった。

なぜなら…

「教官、起床時刻です。速やかに起床してください。」

声に抑揚がないがそれでもどこか優しい声色で、体をゆすりながら起こしてくれる少女がいるからだ。メイド服を着た藍色の髪に感情の起伏が見られない人工生命体(ホムンクルス)のアスタルテが火乃香の掠れた視界に飛び込む。

「んぉ…おはよぉーアスタルテ」

「おはようございます、教官」

「はぁ…学校か…。朝ごはん作らにゃならんなぁ…アスタルテ那月姉さんを起こしてきてくれないか?」

命令受託(アクセプト)

やはり感情がこもっていない。

(あのメイド服…完全に阿夜姐ぇと那月姉さんの趣味か…つかあの二人がニヤつきながら俺に着せようとしたメイド服じゃん。いやーアスタルテがいるだけで女装させられる心配がなくなる。感謝だな)

なぜ彼女が南宮家(ウ チ)にいるのか…。それは遡ること数日前、聖遺物奪還のためにテロをしでかしたオイスタッハ一行は火乃香達にその野望を阻止され無事にアイランドガードに身柄を拘束されることになった。そこまでは良かった。しかしただオイスタッハに利用され犯罪行為を強いられていたアスタルテは被害者なのだが、それでも、テロに加担したのは変えられない事実としてそこにはあった。さらには世界初となるであろう人工生命体(ホムンクルス)でありながら人工眷獣を使役するという事により更に面倒な事態となった。そこで、声を上げたのが南宮那月だった。

彼女曰く

「あいつは元々医療用のホムンクルスだ一般市民に危害を加えるようプログラミングされていない。更にオイスタッハは一人で遂行することが出来ないから彼女に人工眷獣を植え付けたと言っている。これはどう見ても彼女は被害者だろう?それでも心配だと言うのなら、彼女を何年かの観察処分として私の家で引き取ってやる。国家攻魔官の資格を持ち、教師である私が適任だろ?どうだ?悪い話ではないだろう?(ホムンクルスはその存在理由から主人には従順だからメイドとして欲しい)」

彼女を良く知る者たちならば長ったらしく語ってはいるがそこに隠された彼女のたった一行の本音を見抜くだろう。

しかし残念ながらその場にはそこまで彼女をよく理解しているものは存在しない。直ぐに彼女の語った処遇について目先の厄介ごとを早く片付けたいが為にその提案を呑み、3年間の観察処分とし、南宮家でその身柄を預かる事になったのだ。

ご主人様(マスター)を起こしてきました。」

「助かるよ、じゃ次は姉さんに出す紅茶入れといてそれと俺はコーヒーのブラックよろしくアスタルテも好きなの用意して先で待っててくれ」

命令受託(アクセプト)

今日の朝食はパンケーキと那月とアスタルテは紅茶火乃香はブラックコーヒー。

「おはようアスタルテ、火乃香」

「「おはよう(ございます)姉さん(ご主人様(マスター)」」

こうして二人だけの朝から3人になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




また次回…


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戦王の使者2

「アッハハハハハハハ!ヒィ〜!古城っ!まじで?ネタ?寝言なら寝てから言ったほうがええで?」

南宮火乃香は朝の清々しいモノレールの中で爆笑していた。

「っ!?そんな笑う必要あるか!?仕方ないだろ!あれは事故だ!」

「だって…!絵に描いたようなラキッキースケベだもん…ククッ…

笑うなってほうが無理だわ!それに事故で済ませるってお前なあまりにも酷すぎるぞ」

火乃香が笑っている理由それは、今朝暁家の食卓には古城と凪沙以外にもう一食分の朝食が用意されていたので、母親が帰ってきたのかと思いながら凪沙の部屋にノックもなしに突入。部屋の中では彼の妹の凪沙とそのクラスメイトで古城の監視役である雪菜が近々彩海学園で行われる球技大会の応援のためのチア衣装の採寸をしていた。

つまりは下着姿であり、その中に男性が突入してくればどうなるか…。賢い読者なら分かると思うが、凪沙からは罵倒され雪菜からは腹パンを喰らい古城は朝からHPをゴリゴリと削る羽目になったのだ。

「南宮先輩!そんなに笑わないでください!それにあれは先輩がわざとやったわけでもないと思いますし!」

雪菜が真っ赤にしながら抗議の声を上げる。

「雪菜ちゃん!ダメだよ!こんな変態を許しちゃ!ほのちゃんも何か言ってあげてよ!」

「古城よ、女性の部屋に入るなら必ずノックをしてドアを開けていいか確認してから開けるものだ」

「けど妹だぜ?」

「アホか!妹だからだよ!家族だから余計にだよ!もし那月姉さんの部屋にノックもなしに入ってみろ……。マンションの屋上に上半身裸で鎖で拘束されて炎天下の中水一滴与えられずに干されるんだぞ!数時間経ったら大量の塩を体に塗ったくられるんだぞ!マジで辛いんだぞ!一度体験してみろ!つか体験させてやるか!?」

どんどんヒートアップしていく火乃香。以前火乃香は那月の部屋にノックもなしに突然ドアを開けたら丁度着替えの最中だった那月がいて、ひどく怒られた。罰が必要だということで頭を悩ませていたところ、偶々顔を出していた火乃香の師匠である稲垣隼人から

「それなら、昔テレビで見た世にも奇○な物○の懲役3○日に出てきた拷問でもやらせたらどうです?」

なんて事を言われてしまい火乃香はその拷問を受けることになった。

「ほのちゃん…お疲れだったね…」

「あれは本当に死ぬかと思ったよ〜…塩が沁みる沁みる…どうだい?古城?古城ならいけるっしょ?」

「やめろや!死ぬだろ!まじ勘弁だわ!」

「フリか?フリなんだな?流石は我らが古城だ!芸人魂が熱いねぇ!」

「南宮先輩!それいいアイディアですね!先輩?その拷問受ければ少しはそのヤラシイ考えが改まるんじゃないんですか?」

「ヤやしくねぇーし!」

こんな感じで朝のモノレールは楽しい。後輩2人が古城のツッコミに笑っている時、火乃香に悪寒が走った

「っ!」

「?どうしたんだ?」

「いや…なんでも…ない…けど、誰かの視線と気配と殺気と感じてはいけない何かを俺の第六感が感じ取っただけ…」

「おいおいおい大丈夫か?」

「わかんない…」

そう言いながら火乃香はモノレールの外を見る。太平洋のど真ん中に浮いているだけあるこの島は外を見れば綺麗なオーシャンブルーの海が見える。そんな中港に見慣れぬクルーズが一隻停泊していた。

(うわぁなんかやな予感がするんですけど…マジ面倒ごと勘弁…)

なんとなくその正体に察しがついた火乃香だった。

 

________________________________________

火乃香たち4人は校門で別れ、高等部の生徒玄関にいた。

「火乃香さっきから顔色悪いが大丈夫か?」

「あ、あぁ大丈夫だ、問題ない」

「そうか」

「…」

「2人ともおはよう!」

古城と火乃香の間に割って入ってきた明るい声の主は藍羽浅葱だ

「おはよう浅葱」

なんとかいつも通りの声色で挨拶をする火乃香

「よぉ浅葱おはようつかなんだ?その荷物?」

「これ?バドの道具よ!姉貴に貸してもらったんだ多分学校の備品じゃ足りないと思うから」

「ヘェ〜浅葱は気がきくんだな」

「そうよ私は綺麗で優しくて気がきく女子高生なんだから」

「それ自分で言うのか?」

「うっさい古城。それとこれ教室に運ぶの手伝って」

「はぁ!?俺だけかよ!?火乃香にも持たせろや!」

「あんた!病気には無縁のあの火乃香が顔色悪くしてんのよ!?少しは気を使いなさいよ!だから周りからいつもいつも呆れられるのよ!?」

「それは関係ねーだろ!」

「2人とも、邪魔になってるよ」

朝の玄関で騒いであればそれはもう注目の的だろう。そそくさと古城と浅葱は教室に行き火乃香は溜息を吐きながら教室に向かった。

「お!当事者2人が道具を持って現れたぞ」

髪を逆撫でし首からヘッドフォンをぶら下げる男矢瀬基樹

「これは運命かもしれないわねぇ」

委員長の築島倫

「「はぁぁぁぁ!?」」

騒いでいる中火乃香はボケーっとしながら黒板を見る。そこに書かれたのは『バドミントン男女ダブルス暁古城藍羽浅葱ペア』だった

(なるほど球技大会のペアか)

そんな事を思いながら席に着くわちゃわちゃと基樹が責められている。火乃香は高みの見物を決め込むことにした。しばらくバカップルぶりを見てニヤついている火乃香のそばに1人の女子生徒が近づいてきた。

この騒ぎを起こした元凶の片割れである築島倫だ

「どーしたのー?委員長」

「火乃香君はまた今年も審判よろしくね?」

「Aye,ma'am」

火乃香は球技大会に参加しない。一般男子高校生よりも高い身体能力を有しているからだ。その代わりサッカーの審判をいつもやっている。理由はいろいろあるが主に2つだ

1つは火乃香の動体視力によって正確な審判を下すことができる。基本的な事は別に構わないのだがファウルについては正確に判断していかなければならないので、火乃香が抜擢された。

そしてもう1つは熱くなりすぎたプレーヤー同士の乱闘にならないようにするための抑止力だ。、これに関しては常に帯刀している火乃香だからこそできる事である。滅多なことでは抜刀しないし、周りも重々承知してはいるものの、それでも、刀に手をかけられればどんな人間でも素直に黙り込むからだ。

球技大会でサッカーの試合といえば常にグダるイメージだが火乃香という存在がいるのでスムーズに試合が進む。

「今日は屋上で昼寝だなぁ」

「ダメだよ火乃香君?聖女ちゃんに言っちゃうよ?」

「アー…それは…勘弁」

(あの日から電話なら大丈夫だけど面と向かっては若干夏音と話すのが恥ずかしいんだもん…)

盛大にやらかしてしまったのだが夏音は今まで通り接して来てはくれているものの火乃香は若干ギクシャクしている。

ふと古城たちを見るとまだ騒いでいた。

そんなこんなでこの出来事南宮那月が教室に入り、古城と基樹に扇子で殴られるまで続いたそーな。

________________________________________________

色々あって現在は球技大会の練習時間だ。火乃香は現在屋上で絶賛お昼寝中である。

しかし感覚だけは研ぎ澄ませている。その甲斐あってか、侵入者にすぐに気がついた。

「今朝俺たちを見ていたやつだな?出てこいよ?今なら何もしないから」

そう警告をするとその侵入者もとい追跡者は素直に姿を現した。

「お久しぶりですね助教」

「煌坂さんか…もう少し気配を消したほうがいい。それじゃすぐにバレるぞ。」

「ぐっ!善処します…!」

「そんで?何の用だい?」

「アルデアル公より招待状を預かってきております。どうぞ異性のパートナーと一緒に来てください。」

「うわぁ…ホモ野郎からかよ…どーりで今日調子悪かったわけだ…。

ねぇこれ本当に行かなきゃダメ?」

「来てくださいっ!では私は暁古城に渡して来ます!」

「あ、そうだ煌坂さんや、古城が雪菜の下着姿見たらしいで?」

「ーっ!?殺す!暁古城!絶対に殺してやるっっっ!」

「ワーオ戦闘力が53万になっちゃったよ…」

煌坂紗矢華は物騒な事を言いながらフェンスから飛び降り体育館の方はと走っていった。勿論その後に魔力を感知したのは言うまでもない。

「でもどーすっかなー…パートナーかーアスタルテは…ダメだあの子には早すぎる…那月姉さんは最近忙しいみたいだし…阿夜姐なら暇…かな?」

念のために那月に相談したが阿夜を連れて行けと言われ、阿夜を誘ったら二つ返事でOKしてもらえたのだった。

________________________________________________________

洋上の墓場(オシアナス・グレイブ)…趣味の悪い名前だな」

タクシーから降りた黒いタキシードを着た色素の薄い髪をした少年暁古城は港に停泊しているクルーズを見ながらそう呟いた

「あの…この服やはりおかしくないですか?」

恥ずかしそうにそう言うのは肩と背中が大胆にさらけ出てさらにスカート丈も短いドレスを着た姫柊雪菜だ。

「いや…そんな事はないんじゃ…!」

「先輩は何をいやらしい目で見ているんですか!?」

古城が雪菜に放った言葉を曲解してしまった雪菜は雪霞狼を古城に突きつける。

そんな中、魔法陣が展開され2人の人物が現れる

「古城…また姫柊さんにセクハラしているのか…?懲りないなぁ」

「そうだな火乃香よ。暁古城…そう言うのは優麻にやってあげれば良かろう?姉である我が許可しているのだ…遠慮するでない」

「!?火乃香…!?阿夜さん!?なんでここに!?」

そこに現れたのは普段ならば中性的な顔をしている火乃香だ。がしかし、礼服を着て髪を後ろに纏めているのでどこからどう見積もってもイケメンにしか見えない。そしてその隣には仙都木阿夜がいた。いつもの和服ではなく白く雪菜のように露出度の高いドレスではなくおとなし目のドレスを着ていた。大人の女性を醸し出している。古城の顔が見る見るうちに赤くなっていく。

「オマエは我に欲情したのか…?」

イタズラっぽく微笑む阿夜。

「いや…それは…ち、ちが…げっ!?」

「せ〜ん〜ぱ〜い〜!!!!」

鼻血が垂れそうになるのを必死にこらえている古城の横で未だに雪霞狼を突きつけ続けている、雪菜の表情は先ほどのテレの表情とは違い鬼の形相のようだった。

「お前ら早くいくぞー」

呆れ果てた火乃香は阿夜を連れて船へと乗り込んだ。

船へ乗り込んだ古城たちはまず会場となるホールへ足を運んだ。シャンデリアが天井からぶら下がっておりテレビでよく見る顔が大勢いる。

「なぁ…俺たち場違いすぎやしないか?」

「いいえ、戦王領域の貴族がこの島に来てまず訪れなければ行けないのはこの島の持ち主である第四真祖の所です。」

そうきっぱり言う雪菜。

「しっかし…火乃香と阿夜さんは顔が広いな…」

古城の見る先には和やかな笑顔を浮かべ握手をする火乃香の姿があった。

「あの人は稲垣教官や南宮先生ののツテで顔がすごく広いですからね、それに阿夜さんも阿夜さんで顔は広いみたいですしね」

現在火乃香と阿夜が合っているのは特区警備隊(アイランドガード)総司令官である。何を話しているかはよく聞こえないがいい感じに話が終わったのか壁際に寄りかかっていた古城たちの元に来た。

「いやー悪いね知り合いがいたから挨拶しておこうと思ってね」

ハハハと笑う火乃香と阿夜の手にはたくさんの料理が盛られた皿があった。

「火乃香…それ食うのか…?」

「当たり前やでー」

「南宮先輩!遊びに来たわけじゃないんですよ!?」

「わかってるって」

そんな会話をしている4人に1人の影が忍び寄る。古城ほど色素が薄いわけではないブラウンの髪をし、チャイナドレスを着た少女がナイフを持って古城の元に忍び寄る

「せいっ!」

「うぉ!危ね!何しやがるんだ!?」

「うっさい!この変態!私の雪菜にその薄汚い手で触れないで!」

「変態って!それに薄汚くねーし!」

いがみ合う2人に対し雪菜は目を見開きながらチャイナドレスを着た少女に尋ねる。

「紗矢華さん…?」

「はぁぁぁ雪菜ぁ!雪菜!雪菜雪菜!すんすん、すんすん」

「さ、紗矢華さん…その…離れてもらえますか?それに匂いを嗅がないでください!」

先ほどまでの雰囲気とは打って変わり雪菜に抱きつきモフモフしながら匂いを嗅ぐ変t…もとい煌坂紗矢華。そんな2人に飽きれた古城は紗矢華に手刀をいれる。

「痛っ!何するのよこの変態!私と雪菜の甘い時間に邪魔しないでくれる!?」

「あの…紗矢華さん…?時間がないのでアルデアル公の場所に案内してくれませんか?」

「わかったわよ…助教と仙都木さんとそこの変態も付いて着てください」

「あぁわかった…それと煌坂さんこの船には花火を打ち上げるための装置が積まれているのかい?」

「?いいえ積まれてないはずですけど…急にどうしたんですか?」

「いや…なんでもない」

「?わかりました」

火乃香が感じ取ったのは会場の中に漂う料理の匂いの他に若干の火薬の匂いを感じたからだ。

(それにあのウェイター…足運びや息遣い視線…どう見ても一般人ではないな…あの野郎面倒ごとばかり起こしやがって…)

悪態をつきながら紗矢華に案内される火乃香たち4人

こういう外洋クルーズのアッパーデッキというものはなかなかに広い。

閑話休題

アッパーデッキに登ったのは良いが誰もいない。

「誰もいねーな」

「おかしいわね…」

「っ!?危ない!」

無防備だった雪菜を押しのけ襲ってくる蛇の眷獣を殴った。魔力を使ったことで少なからず那月にはばれただろう。

するとすぐに白のタキシードを着た好青年が現れた。

「いやいやお見事この程度の眷獣では傷つける事は出来なかったネ。

御身の武威を検するが如き非礼な振る舞い。衷心よりお詫び申し奉る。我が名はディミトリエ・ヴァトラー。我らが真祖忘却の戦王(ロストウォーロード)よりアルデアル公位を賜りし者。今宵は御身の尊来をいただき恐悦のー」

「死にやがれくそったれ!」

火乃香がヴァトラーと名乗る者に斬りかかった、阿夜以外状況を理解できているものはおらず、ヴァトラーは華麗に火乃香の斬撃を躱した。

「いきなり酷いじゃないカ、火乃香?ボクはこんなに愛しているのに…。でもそこがまたいい。」

「っち…避けてんじゃねーよクソホモが…!貴様の顔を見るだけで吐き気がする…!阿夜姐、こいつぶった斬って良いよね?」

「やめておけ火乃香そいつを殺したところで汚い返り血を浴びて服をダメにしてしまう。其れよりオマエ、なぜ日本に来た?」

「これはこれは図書館の書記の魔女(ノタリアの魔女)お久しぶりでございます。」

何やら2人はもともとヴァトラーを知っていたらしい。

「火乃香、そいつ知ってるのか?」

「あぁ。こいつは昔散々俺の事を小突き回して任務に支障をきたしたやつだ。そのせいでこっちは敵に捕まって仲間が殺られちまったんだよ!」

「あの時は悪かったヨ」

「なぁそのヴァトラーはよ、俺たちに何の用だ?」

「おっと失礼、初めまして暁古城…いや、焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)ーー我が愛しのの第四真祖!」

「ーえ?」

古城と雪菜の目が点になる。仕方のない事だ何故ならいきなり男に求婚されたのだから。

「あーこいつ自分と殺し合いができるやつには次々と求婚してくるからな…気をつけろいつ貞操を奪われるかわからんぞ」

「って!まじかよ!気持ち悪いな!」

「フフフ、そんなに照れなくていいんだヨ?」

「ヴァトラー早く要件済ませろ。大方テロリスト関連だろ?」

「流石ボクの可愛い火乃香ダ。そうだナ黒死皇派という名前聞いた事ないカイ?」

「黒死皇派…だと?」

阿夜の顔が見る見るうちに青ざめていく。同様に火乃香も苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「国際テロ組織…獣人優位主義を掲げるテロ組織サそれがこの島に来てるみたいなんダ。そのテログループが第九メヘガル遺跡から発掘された古代兵器を使ってこの島にテロを仕掛けようとしているのサ。うちのテロ組織ダカラ、手を出さないでほしいナ!」

嬉々としてそんな事をいうヴァトラー。こいつは重度の戦闘狂(バトルマニア)だ。だがそんな事を言うヴァトラーに待ったの声が掛かった。

国家攻魔官であり魔導犯罪を取り扱う那月の商売敵獅子王機関の剣巫だ。

「その心配には及びません。ここは日本です。魔導犯罪を取り締まるのは我々獅子王機関です。手出し無用です」

「「姫柊(雪菜)!?」」

古城と紗矢華の声がかぶる。しかし雪菜は2人の声を無視し、毅然とヴァトラーと対峙していた。

「へぇ、君が古城の霊媒ナンダ。恋敵はどこまでいっても対峙するんだネ」

「っ!今はそんな事関係ありません!」

「ちょっと変態どう言うことよ!まさか!あんた私の雪菜の血を吸ったんじゃないでしょうね!?」

「し、仕方ないだろ!?緊急事態だったんだし…」

カオスな現場だ。

「ね、ねぇ雪菜?そんなバカな考えはやめて?」

「なら、紗矢華さん、誰がこの件を処理するんですか?」

「そ、それは…」

「姫柊さんこれはCOMBAT FAIRY FORCE(ウ チ)の仕事だ」

「なっ!?どう言うことですか!?いくらあなたが南宮先生と同じアイランドガードの人間だからですか!?」

「違うヨ、ボクの恋敵。火乃香はそんな組織ではなく国連軍特殊部隊『COMBAT FAIRY FORCE』の戦闘員としてこの話に首を突っ込もうとしてるんダヨ」

「「「なっ!?妖精部隊だと(ですって)!?」」」

阿夜以外の3人は驚きの声を上げる。妖精部隊の名前は世界中に知れ渡っており、絶大な人気を誇っている。だが内情は全くのブラックボックス化していてただその存在があるとだけしか知らない。

「CFFは国際テロ組織に対する殲滅作戦も扱っている。上に申告すればすぐに部隊を動かすことができる。だから真祖2人と獅子王機関(お ま え ら)の出る幕はない。帰るぞ阿夜姐」

そう言い残し、その場から"消えた"のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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戦王の使者3

遂にオリキャラの稲垣隼人が物語の進行において出て来ます!
そして前線指揮を執るお方はわかる人にはわかるあのお方です!
そして通算UAが3000を超えました!皆さんこんな酷い文章を読んでくださりありがとうござます!これからもよろしくお願いします!


「馬鹿者が!お前はいつもいつも厄介ごとばかり持ってくる!ただでさえ忙しいと言うのに!」

「那月…火乃香を怒らないでやってほしいんだが…」

怒り狂う我が義姉の那月とそれを宥めている阿夜。

「大体なぜお前が付いていてこうなった!?」

「獅子王機関の剣巫のせいだよ…あの者が、首を突っ込んだからだ」

「そーだよ。姫柊さんが首突っ込んだら自然と力の使えない古城までこの事件に首を突っ込むことになる。それにテロ組織の存在が確認されたら報告するようにと上から言われてるんだ。仕方ないよ」

「くっ…!稲垣め…!火乃香、お前は明日からアイランドガードの仕事をしろ!公欠扱いにしてやる」

「はい、わかりました。本部(HQ)に連絡するね」

そう言いながら火乃香は自室にこもり、与えられた無線機に手をかける。

暗号化された秘匿回線。火乃香はその通信機を使い国連軍本部に連絡を取った。

「IP、No.5、cord30、総司令官への通信許可求む」

「こちらHQ、確認取れた。直ちに繋ぐ待機せよ」

「了解」

暫くするとすぐに通信が切り替わった。

『火乃香か…cord30と言うことは増援をよこせと言うことだな?』

戦闘訓練や剣術稽古をつけてもらった時いつもその声からは厳しい言葉が飛びでたり罵倒されたり怒鳴られたりした。しかしどんなにひどいことを言われてもその奥には戦場で死んでほしくない生き抜いてほしいそんな優しさが巧妙に隠れるほど深みと渋みそして張りのある声が、ヘッドフォン越しに聞こえてくる。

「はい。目標は黒死皇派です。ナラクヴェーラも使用してくると考えられます。例の新型兵器とB-3の使用許可を求めます。」

『許可する。アイランドガードには話をつけておこう。ただし君はCFFではなく国連軍として参加しろ』

「了解です大佐…。そして申し訳ありません…」

『いや君はよくやってくれている、部隊が到着するのは約8時間後だ、本作戦はアイランドガードとの共同だ。国連軍のデイビッド・オウ少佐に任せる。こちらが送る事のできる地上部隊は30名。Bー3に関してはオートコックピットで絃神島に送る』

「はっ!了解であります!稲垣総司令官!」

『よろしい。では』

そう言い残し稲垣との交信が終わった。フゥと息を吐きながらリビングに戻り、事の顛末と捜査資料に目を一通り通したのちガサ入れのために睡眠を眠りについた。

 

 

 

________________________________________

彩海学園高等部南宮那月の執務室の扉の前で2人の人間が立っていた。

「ここ最上階だよなぁ?なんで学園長より上なんだよ」

そう呟く暁古城は扉を三回ノックしながら入室した。

豪華な執務机に座りながら扇子を扇ぐこの部屋の主人、南宮那月と制服ではなく戦闘服を着て客人用の椅子に座りながら資料を読んでいる火乃香がいた

「那月ちゃんちょっといいーグハッ!」

突然古城の頭に英語の辞書が飛んできた。古城後ろから雪菜も入室した

「私のことを那月ちゃんと呼ぶなといつも言っているだろ!いい加減学習しろ…ん?お前も来ていたのか中等部の転校生。2人揃って何の用だ?」

「なんで火乃香が制服着ないでコスプレしてるんだよ…」

古城は呆れながら火乃香を見た。

「戯け!コスプレじゃない!特殊作戦用の戦闘服だ!」

「悪かったよ…だからそんなに怒んなって」

「まぁいいやで、2人とも何の用?」

「南宮先生に聞きたいことがあります」

「なんだ?」

「クリストシュガルドシュと言う男を探しています」

雪菜がその名を口にした瞬間那月と火乃香は顔をしかめた。彼女の口からその名前が出たと言うことはほぼ100%この件に首を突っ込む気だからだ。

「どこでその名を?」

「ディミトリエ・ヴァトラーだよ。知ってるだろ?」

雪菜に続き古城も話す。火乃香が帰った後詳しい話をヴァトラーから聞いたらしい。

「チッ…余計な真似を」

「教えて下さい、今、ガルドシュはどこにいるんですか?」

「聞いてどうする?」

今度は火乃香が雪菜に鋭く突っ込む

「捕まえます!ガルドシュがアルデアル公に接触する前に!」

那月と火乃香は雪菜の言葉を静かに聞いた。しかし、3人の間に火花が散っている。教師として生徒を危険な目に合わせたくないと言う気持ちのある那月

国連軍としての、CFFの一員としての矜持なのか、はたまた、助教としての役職に就き彼女を指導した身として、たった一回の実戦でいい気になり戦死する彼女の姿が目に浮かぶ火乃香。

そして、ガルドシュのテロを阻止するのは魔導犯罪を取り締まる獅子王機関の…自分の仕事であると思っている雪菜がいる。

そんな緊張感に満たされた空間に抑揚のない声が響く。

「お待たせしました」

「あ、お前…」

「アスタルテ…さん?」

雪菜と古城が驚き声を上げる。アスタルテが紅茶を運んできたらしい。やはりメイド服姿だ。

「あぁ、お前ら顔見知りだったな…そいつらにお茶なんかいらない。それより私に新しい紅茶を」

「俺にも頼む」

命令受託(アクセプト)

そう言いながら火乃香と那月の分の紅茶を入れ直す。

「なんでここにいるんだよ」

「アスタルテは現在3年間の保護観察処分中だ。国家攻魔師であり教育者である私が身元引受人になるのは理に叶っているだろ?ちょうど忠実なメイドも1人欲しかったところだしな」

「明らかに最後の一言がメインの理由だよな」

古城は呆れながらドヤ顔で説明する那月をよそに新しく注がれた紅茶を2人に配るアスタルテを見ながらため息をついた。

「それで、ガルドシュの居場所は?」

雪菜がそう口にした瞬間火乃香は口を開いた。

「必要ない。奴らは俺たちが処分する。それにヴァトラーは真祖にもっとも近いと呼ばれている化け物だ。奴らは何もできやしない。連中があてにしていたナラクヴェーラも使い物にならないしな。」

「火乃香の言う通りだ。無数の文明を滅ぼした神々の兵器なんだが、カノウアルケミカル社という所がその制御法が書かれた石版とともに密輸していてな」

「密輸?まさか黒死皇派がそれを奪うためにこの島に?」

「奴らの目的を考えれば手に入れたいのは当然だろう」

「それで、そのナラクヴェーラはどこに?」

「さぁな、すでに強奪された後だ」

「そんな…」

雪菜が嘆くように呟くが、安心しろと言わんばかりに火乃香が那月に続き語る。

「まぁお前らの心配には及ばない。石版の解読は世界中の言語学者や魔術機構でも…それこそ図書館やCFFの諜報班ですら解析しても解読の糸口すら掴めなかったブツだ。頭の悪いテロリストには解読できない」

「それに解読に協力した研究者はすでに捕獲済み。強奪されたナラクヴェーラや石版は島の外に持ち出された形跡はない。既にアイランドガードと国連軍の合同部隊が虱潰しに潜伏場所を探し、サブフロートの一角にそれらしきものが隠されているという報告を受けた。私達もこれから向かう所だ」

「え!?火乃香、授業はどうするんだよ!?」

「公欠扱いだ」

「兎に角手出し無用だ」

「待ってください!」

それでも雪菜は引き下がらない。それに呆れたのか那月は乱暴にティーカップをソーサーに置きながら標的を古城に絞る

「それより暁古城。お前は自分の心配をしたら如何だ?」

「俺?」

何が何だかさっぱりわからない風に呟く。

「ディミトリエ・ヴァトラーは真祖に次ぐ第2世代の吸血鬼だ。今までに吸血鬼を2人も喰っている。お前も喰われないように気をつけるんだな」

そう言い残した那月は火乃香とともに目の前で消えた。

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サブフロートではアイランドガードと国連軍の合同部隊が黒死皇派との間で激しい銃撃戦を繰り広げていた。

この戦場では主に銃を扱う戦場だ。銃弾が飛び交う中で火乃香は刀一本持って突っ込むようなバカはしない。

サブフロート前に建てられた簡易司令室で本作戦の国連軍の指揮をとっているデイビッド少佐に現状の確認とB-503についてそして国連軍の新兵器である『ソニックミサイル』を受け取る。

『ソニックミサイル』とは携帯型ミサイル発射装置から弾頭を発射させアクティブレーダーホーミングとパッシブレーダーホーミングの二種類の誘導システムを取りさらに赤外線と紫外線で目標を探知し、まっすぐに目標に突っ込む。

魔力障壁などに阻まれた場合、図書館と国連軍研究開発班の合同開発によって完成したどんな魔力障壁も無効化するシステムが作動し、振動弾を打ち込む。

打ち込まれた振動弾は装甲に張り付き物質の固有振動数を算出し共鳴反応により兵器を破壊する。

テロリストなどが魔導兵器を手にした場合の国連軍の切り札として開発されたものだ。

火乃香はそれを背負いながら前線へ出張った。

前線では既に何人かの負傷者が転がっている。激しい銃撃戦の中、火乃香の愛銃であるHK416Dに取り付けたダッドサイトを覗きながら照準を合わせ弾を撃っていく。

銃本体から伝わる強烈な反動を感じながら次々に目標を排除していく。

周りの兵士達は火乃香をみて「いけるぞ!」「押せ!押せぇ!」「奴らを無力化しろ!」などなど、指揮が上がっていく。

しかし、火乃香にとってそれはどうでも良いことだった。

ただ生きて帰るそれだけを目標に、ひたすら銃を撃ち続けたのだった。

________________________________________

火乃香が現場に到着して既に2時間は経過している。そろそろ火乃香の持つ銃の弾が無くなった来て残り30発マガジンが3本となりきつくなり始めたところで無線がなった。

「こちらデルタワン、如何した!」

『デルタワン、緊急事態だナラクヴェーラが起動した!それと、暁古城と煌坂紗矢華がそちらに向かってる!2人の保護と部隊の撤退だ!』

デイビッド少佐が焦っている。

「なに!?無理だ!こっちは残弾数が残り少ない上に負傷者が大勢いる!こいつらを抱えての撤退は更に被害を大きく拡大させるんだぞ!」

火乃香も焦りが見える。残弾数も残りわずかで負傷者を大量に抱え込んでしまだだ状態で、ゲリラ戦を行いながら撤退するには、圧倒的に戦闘員が足りないのだから。

『火乃香!よく聞け!お前達はナラクヴェーラの試運転のためにおびき寄せられたんだ!負傷者を見殺しにしてでも戻ってくるんだ!』

那月から伝えられた事実に火乃香は固まるしかなかった。

戦場で機能停止した瞬間その兵士の命はなくなる。そう稲垣隼人に教えられた。

にも関わらず、動けなくなった。

なにせ自分たちは古代兵器の試運転のために用意されたエサだと知らされたからだ。

火乃香の心には決して小さくない傷と動揺が生まれたのだった。

しかしここで立ち止まってしまっては、やって来るのは確実な『死』のみ。火乃香は感情を押し殺しながら命令を承諾した。

「了解!こちらデルタワン!緊急命令!全部隊に通達!直ちに退避せよ!負傷者を置いてすぐにその場から離れろ!ナラクヴェーラが起動した!」

火乃香は全部隊の無線に指示を出す。混合部隊は必死にその場から走り出した。火乃香もまたその場から離れるべく全力で走り抜けた。

そのわずか数秒後火乃香達デルタ分隊が盾にしていた装甲車にナラクヴェーラのレーザーが当たった。間一髪で死なずに済んだ。

________________________________________

火乃香達デルタ分隊が那月達の元に駆けつけた時倉庫の上にはヴァトラーがいた。

「あれが火を噴く槍か…いい感じの威力じゃないか」

バトラーは拍手しながら標的を品定めしている。

「いつまでここにいるつもりだ!ヴァトラー!自慢の船は如何した!」

古城は怒りに震えていた。

「オシアナス・グレイヴかい?ガルドシュ達に乗っ取られてしまってネ。命はかながら逃げて来てネ」

「黙れよ!クソホモ!ワザとなんだろ!?お前はいつもいつも余計なことばかりしてくれる!貴様のせいで!部下が何人死んだと思ってやがる!ぶっ殺してやる!」

火乃香の全身は怒りで震えている。

もし今、火乃香の手元に黒鋼か白鋼があれば直ぐにでも斬りかかりに行っただろう。

那月はため息をついている。

「そう怒らないでヨ、火乃香…それと逃げて来る途中でこんなのを拾ったんだが」

そう言いながらヴァトラーの足元に倒れていた人を古城に投げつけた。その人物を見た瞬間古城と火乃香は驚いた。

「「矢瀬!」」

「あれ、もしかして知り合いだった?まぁ安心してくれそいつは死んでいない。それとナラクヴェーラはボクが責任持って破壊する」

ヴァトラーはそう言いながら倉庫から飛び降りながら眷獣を呼び出し合成させた。

「まてクソ野郎!」

火乃香が止めようとした時古城の携帯が鳴り響いた。相手は浅葱からのようだが電話口でしゃべっているのは雪菜だろう。

何度か頷いた後古城は携帯をしまいヴァトラーに声をかけた。

「おい!ヴァトラー!お前は手を出すな!あいつは俺が相手する!」

「他人の獲物を横取りするとは、礼儀知らずだネ」

「それを言うなら、他人の縄張りに入って来て勝手に暴れているあんたの方が礼儀知らずだろーが!お前の出番は俺がくたばってからだ!」

「ふむ、そう言われると言い返せないナ、なら健闘を讃えて君にプレゼントを使用じゃナイカ」

そう言いながら合成眷獣から魔力を放ちサブフロートとギガフロートをつなぐ橋を破壊しサブフロートを孤立させた。

「これなら気兼ねなく戦えるだろ?」

「あぁ…那月ちゃん混合部隊の撤退状況は」

そう那月に聞いた所那月が火乃香を見つめる。

「ここにいるデルタ分隊を除いてギリギリサブフロートから離脱できた」

「そうか…火乃香達も早く…」

「バカ言え、こちとら伊達に生死をさまよう戦場に身を委ねてる訳じゃない。いざとなれば俺たちは自力で泳いで帰ることもできるし死ぬ覚悟だってある。それにこいつの性能実験もまだだしな」

そう言いながら背中に背負っている携帯ミサイルを触る。

「そうか!なら行くぞ!」

古城と火乃香は同時にナラクヴェーラに向かって走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で戦王の使者篇を終わらせたいなぁと思いますではまた次回!


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戦王の使者4

戦闘シーンってやっぱり表現するの難しいですね…。戦闘機の操縦シーンなんてのは表現するのが大変です…。ミリタリー系に詳しい人がいましたら今回はツッコミどころが多すぎます。まぁ戦闘妖○雪風の機体を出したんですが…まぁアニメ視聴のみだったので色々間違ってると思いますが…大目に見て欲しいなとおもいます。
もし、何かアドバイスがありましたら感想に書いてください。よろしくお願いします。


ナラクヴェーラにまっすぐ突っ込んで行く古城と回り込みながら走る火乃香。

古城がナラクヴェーラの下をくぐり抜け飛び出すと、ナラクヴェーラ火を噴く槍で古城を攻撃する。

足元に攻撃を受けた古城は、尻餅をつきながらそれでも走って行く。

「クッソ!なんでこいつこんなにすばしっこいんだよ!火乃香!早くその背負っているミサイル打ち込んでくれ!」

「なに古城はバカなこと言っている!切り札とは最後の最後まで取っておいてこそ真価を発揮するものだ!こんな前菜に使ってられるか!」

「なっ!?今そんな悠長なこと言ってられる状況かよ!?」

「安心しろ古城!俺を誰だと思っている?那月姉さんや阿夜姐に散々魔力や霊力の使い方を叩き込まれたんだ!今こそ俺の真の力を見せてやる!」

「お前!魔術使えるのかよ!?」

「当たらずとも遠からずだ!まぁ見てな…!姉さんに拾われて10年間唯のうのうと銃を撃ち、刀を振り回して来た訳じゃない!」

そう言いながら火乃香は倉庫の屋根に登り、手を太陽にかざす。

「不死の太陽よ、我が前に立ちはだかる永劫の闇を焼き払わんと欲す、我に勝利を運び給え!『プロメテウス』!」

詠唱を終えた瞬間、太陽にかざした手を振り下ろす。火乃香の動作に合わせ古城たちの直上に輝き続ける太陽の方角から巨大な焔が降り注ぐ。それはまるで隕石の落下のようだ。

焔がナラクヴェーラに直撃する。

「ひゃっはー!ナラクヴェーラ!灼熱の焔に打ち滅ぼされろ!」

火乃香のハイになりすぎている。

古城たちは火乃香が呼び出したプロメテウスの焔に唖然とするしかなかった。

ナラクヴェーラに直撃した瞬間辺りに轟音が響き渡り、内臓が押しつぶされる錯覚を感じだ。

直撃の衝撃波で壊れかけの倉庫が次々と崩壊して行く。

さらに海は荒れ果てている。

これだけの衝撃を喰らってもいまだ耐える余裕のあるサブフロートは人類が生み出した建築技術の賜物だろう。

「火乃香!なんだよこれ!おま!こんなことできるんだったらなんで使わないんだよ!」

古城は驚きながら火乃香をみる。

「はぁ…はぁ…。バカ…か……。こいつを…使うと………体力がごっそり持って…いかれるんだ…。動かないという…ことは…ないが…。はぁ……。暫くは、魔術が使えなくなる…。俺はあんたみたいに不死身じゃないし、真祖でもない。ただの人間だ」

火乃香は両手を屋根につき肩で息をしている。

うまく酸素を取り込むことができない。疲れすぎで、息をするのもやっとだ。

そんな状態なのにも関わらず、火乃香は古城に説明する。

「だがこれでナラクヴェーラは再起不能なんじゃ…ってうわ!」

あれだけの攻撃を喰らってもいまだ健在なナラクヴェーラがそこにはいた。いや、ダメージは通っていた。つまり

「再生した…!?」

古城がそう言った瞬間ナラクヴェーラは古城に向け攻撃を仕掛けた。

ビームが古城を貫くまでに、コンマ数秒。

古城は死を直感した。真祖はしなないが元々人間だった古城にとって、それは死の恐怖を感じてしまうのは無理がない。

もうダメかそう思った瞬間、ナラクヴェーラの攻撃が消えた。

「あっ…煌坂!」

「私の煌華鱗の能力は2つ。1つは物理攻撃の無効化よ。そして…」

そう言いながら煌華鱗を持ちながらナラクヴェーラに向かって走り出す紗矢華。

「あらゆる障壁を塞ぐ刃はこの世で最も堅牢な刃にもなる!」

ナラクヴェーラの六本ある足のうち2本を斬り、さらに高く飛びナラクヴェーラ本体に対し煌華鱗を突き立てようとする。

しかし

「!?」

攻撃が通らない。

「どういう事だ?」

古城は混乱する。

そこにヴァトラーが近づき説明を加える。

「斥力場の結界だな…フフッどうやらあの剣は、触れたものの空間連結を切り裂くものみたいだからネ。触れる前に結界で防いだのサ」

いまだに結界を斬り裂こうとする紗矢華を見ながらヴァトラーは感心する。

相手の攻撃を学習し進化する–神々の兵器とはこう言ったことを言うのだろう。

ナラクヴェーラはいまだに張り付く紗矢華を振りほどこうと暴れ出す。

その揺れで紗矢華はナラクヴェーラに振りほどかれてしまう。

その隙をナラクヴェーラは見逃すはずもなくビームを撃つが、先に古城が紗矢華を抱え、壊れた倉庫の壁に隠れた。

「暁古城…アッ…その傷…」

「この程度ならすぐ塞がる。」

息を整えながら2人は壁の外を見ると、ナラクヴェーラが宙に浮かんでいる。ちらりと火乃香の方を見るが未だ動けそうにないらしい。

「叩き落とせ!獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

古城は叫びながらレグルス・アウルムを召喚しナラクヴェーラの頭上に向け、体当たりをさせた。

その反動でナラクヴェーラはサブフロートの地面を突き破り海の底まで落ちて行く。

しかしこの攻撃が決定打となったのか古城たちの足元から一気に崩落し、2人はサブフロートの地下に落ちて言ったのだった。

「2人とも何したんだよ…」

そう呟きながら火乃香は無線を那月に繋ぐ。

「姉さん、司令室にあるM82を持ってきてくれない?」

『お前は私をなんだと思っているんだ!まぁいい可愛い義弟のためだ感謝しろ』

「助かるよ〜」

『デルタワン、B-503だが到着は40分後だ!それまでになんとか持ちこたえてくれ!』

「了解!」

そう言いながら火乃香は通信を切り、落ちて行った2人を見ながら、はてさて修羅場になりそうだと思いながら、那月の到着を待つのだった。

__________________________________________________

雪菜は現在オシアナス・グレイブの格納庫にいた。

目の前に対峙するのは今回の騒ぎの首謀者であるクリストシュ・ガルドシュ本人だ。

「獅子王機関の剣巫か。不意打ちとは言え、素手で獣人を倒せる人間はそう多くはない。見事なものだ」

「クリストシュ・ガルドシュ…」

「こいつらの存在はヴァトラーも知らない。」

雪菜の目の前にはナラクヴェーラの大群がいた。これらが起動すればいくらヴァトラーや古城がいたとしても手の施しようがない。

雪菜はそう感じていた。

「これがあなたの目的ですか?ナラクヴェーラの軍団を手に入れることが…!」

怒気を含みながら悠然と立ち尽くすガルドシュに尋ねる

「戦争というのは個々の性能ではなく戦力で決まる。如何に強大な第一真祖だろうと、広大な戦王領域を1人で守りぬくのは不可能だ。奴を倒さなくても奴のドミニオンが崩壊すれば聖域条約は維持できなくなる。」

雪菜はこの事を聞かされ、怒りが増す。しかし直接顔には出してはいないもののそれでも増していく怒りはガルドシュにもわかる。

「絃神島の人々だけでなく、戦王領域の人々までも犠牲にするつもりですか!」

「ふん!だから我々はテロリストと呼ばれているのだよ!」

ガルドシュはそう言いながら、ナイフを鞘から抜き、完全な獣の状態になり、雪菜に襲いかかった。

縦、横、斜め様々な方向からナイフが振り下ろされていく。しかしそれら全てを雪菜は霊視により避けながら、ガルドシュの懐に潜り込む

「響よ」

雪菜がガルドシュに対し攻撃を仕掛けるが一切効いているそぶりが見えない。

「!生体障壁!?」

「お前たちが気功術と呼ぶ技だな?獣人だからと言って使えないというわけではない!」

ならばと雪菜はさらに詰め寄る。

「鳴雷!」

しかしどれも効かない。雪菜はアッパーデッキへ逃げ込むことにした。

しかし雪菜は選択を誤ってしまった。アッパーデッキに移動すれば、逃げ道がなくなる。

詰んだ–そう思った瞬間、ガルドシュの足元に銃弾が撃ち込まれた。

「なんだ!?」

ガルドシュが声を乱す。そこにガルドシュが持っていた無線に雪菜の知った声が聞こえた。

『やぁ、ガルドシュ…10時間ぶりかな?昨日のパーティーにいたよね?』

「誰だ!?」

『貴様に名乗る名前などない!元軍人なら分かるだろうが今あんたの足元に撃ち込んだのは警告だ。動くんじゃねーぞ…俺はスコープ越しにあんたのその醜く歪んだ顔がよく見えている。たかだかサブフロートから1キロちょっとしか離れていないんだ。狙撃にはもってこいの距離だと思わないか?』

「くっ!」

『少しでも変な真似したら12.7ミリの徹甲弾がお前の顔面にクリーンヒットして綺麗なザクロを咲かせることになる。それでも良いんだったらどうぞご自由に…じゃぁな』

一方的にガルドシュたちの無線に入り込み、一方的に殺害予告を突きつけ無線をリーブした火乃香はさすがといったところだろう。

そんな事を考えていると雪霞狼が飛んできた。

「雪霞狼!?」

「気流使いか…。流石は極東の魔族特区…!珍しい人間がいるものだ!戦闘はこうでなくてはな!」

ガルドシュはナイフを構えなおしながら雪菜を睨む。

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る!破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

詠唱が終わりガルドシュに向かい斬りかかりにいく。

すれ違う瞬間雪菜はガルドシュのナイフを持つ手を斬りつける。

「流石は剣巫!…ぐっ!」

ガルドシュは腕を斬られただけでなく足に銃弾が喰らった。

火乃香だ。

「これで終わりです!投降してください!」

 

________________________________________

「流石だな火乃香」

「あんまり無理すんなよー、監視者」

「フゥン成る程…監視者は直接戦闘に介入出来ないンダ」

「うっせぇ消えろクソホモ」

「火乃香…酷いじゃないか…」

体力が回復した火乃香は那月に持ってきてもらった対物狙撃銃でガルドシュの足を狙い打った。

「あれ?なんかやばくね?ナラクヴェーラあんなにいたの?」

スコープ越しでなくともオシアナス・グレイヴに張り付く4機のナラクヴェーラ。

唯でさえ、力はもう使えない上に、切り札として取っておいたソニックミサイルも1発しか渡されていない。B-503が到着していればまだなんとかなるかも知れないが、生憎到着まで残り20分もある。

すると一機だけ妙に性能の良さそうなナラクヴェーラがやってきた。

後ろでは先ほど、古城が解放した9番目の眷獣双角の深緋(アルナスル・ミニウム)が試運転として先ほどから戦っているナラクヴェーラに攻撃を加えていた。

「あれが…指揮官機か!」

火乃香は古城たちの元にはしっていった。

 

____________________

女王(マレカ)に乗ったガルドシュは古城の眷獣に対し攻撃を加えていた。

マレカが放った攻撃をアルナスル・ミニウムが振動で破壊するが一部破壊に失敗したものが住宅街へと流れていく。

「なんて…ことを」

古城は戦慄する。それを他所にある声が聞こえた

「フゥン、あれが女王みたいだネ。一体の指揮官に無人の子機が付き随うことによって真価を発揮する。やってくれるじゃないか、ガルドシュ…。

古城、変わろうか?」

「うっせぇ、お前は引っ込んでろ!いい加減戦王領域だのなんだのって、頭に来たんだ!ここから先は第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

そう言いながら古城は馬鹿正直に走り出す。

ナラクヴェーラが古城に向け、ビームを撃つがそれらは全て消え去った。

「いいえ先輩!私達の戦争(ケンカ)です!」

雪菜が現れ、ナラクヴェーラがはなってきたビームを打ち消していた。

「姫柊!」

古城は雪菜の登場に安堵した。さらに後ろから声をかけられる。

「古城、奴らは切り札を出してきた。その意味わかるか?」

声の主は先ほどまで屋根でへばり、狙撃したい少年火乃香だ。

「まさか…!」

「あぁ、そうさスコープ越しに見えたんだがあれの起動コマンド解析したのは浅葱みたいだな…。だろ?姫柊さん?」

「流石ですね南宮先輩。それと暁先輩新しい眷獣を掌握したんですね?」

火乃香には真剣な顔でそう答え、古城には微笑みながら眷獣のことについて問いただす。

顔は笑っている。しかし目が笑っていない。古城は本能的に危険を感じた。もちろん、原因の1つである紗矢華も冷や汗を流す。

「違うの!雪菜!これにはその…深い訳があって…!」

「そ、そうなんだよ!緊急事態で!」

まるで浮気が発覚した夫のようだ。

紗矢華が言い訳をしようとする。しかし現在2人が言い訳したところで火に油を注ぐようなものだ。

紗矢華が着ているパーカーを目敏く睨みつける。

「3人とも痴話喧嘩は後回しにしてくれ奴は元祖変換で破壊しても修復されるんだ。ソニックミサイルは1発しかないから女王のコックピットハッチに向けて撃つから、浅葱が作ったであろうコマンドを入力してくれ!」

「「「痴話喧嘩じゃねぇ(ないわよ、ないです)!」」」

「兎に角、まずは子機をどうにかしないとロックオンがそっちにいっちまうどうにかしないと…」

「それなら、任せろ!疾く在れ!獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

周りの子機が電撃によって吹き飛ぶ。さらに女王にもダメージがいくしかし無傷のようだ

「フハハハハっ!効かないぞ!第四真祖!戦争は楽しいなぁ!」

ガルドシュが大きく笑うが次に耳にした声を聞き青ざめる

「待たせたな…!そっちが古代兵器ならこっちは最新兵器だ!青ざめろ!恐怖に打ちひしがれろ!シーカーオープン!目標補足(ロックオン)!ファイア!」

火乃香が担いでいるスティンガーにも似た形状のミサイル発射管弾道が発射されたミサイルは迷わずにガルドシュの乗るコックピットハッチに突っ込んでいく。後ろからは反動を打ち消すためのカウンターマスが噴出する。

ミサイルの速度はマッハ8。発車を確認した瞬間にはすでにミサイルが障壁を打ち破ろうとしている。

ミサイルが青く光った。ミサイル本体に刻まれた、呪術式により障壁に穴が開く。

そこから振動弾が撃ち込まれ、マレカのコックピットに接着した。

ここまで行けばもう抗う術はない。物体がこの世に存在し続ける限り必ず固有振動数というものがあり、共鳴反応が起きる。崩壊のシンフォニーが鳴り響く。辺りには耳をつんざくような甲高い音が鳴り響いている。

そして数秒後、コックピットだけではなくその周辺諸々、破壊された。

「コックピットが空いたぞ!」

「す、すげぇな!」

古城は感嘆の声を上げる。

人類の兵器が神々の兵器を超えた瞬間だ。

コックピットからガルドシュは飛び降り、古城たちの元に走り出す。途中、雪菜とすれ違ったが、そのことには気にもとめなかった。

「第四真祖!剣巫!ソードダンサー!戦争は楽しいな!」

餓鬼のようにはしゃぐガルドシュに対し古城は魔力の込めた強烈なアッパーを叩きつける。

「んなこと知るかぁぁぁぁあ!」

「グハッ!!!!」

ガルドシュ側は決着がついた。

あとはナラクヴェーラに55番目のコード終わりの言葉を聞かせるだけだ。

「ぶち壊れてください!」

そう言いながら雪菜は女王に浅葱のスマホを投げる。すると周りの子機が軒並み機能停止して動かなくなったのだった。

勝った誰もがそう確信した。

再び無線が火乃香に入る。

『デルタワン!レーダーに機影確認!数10!戦闘機だ!』

「なに!?おい!ガルドシュ!どういうことだ!」

「くっ…!私は戦士としての誇りを失っていた。そんな我々に力を与えてくれ、さらに今回我々がナラクヴェーラを使うことができたのはあのお方達のおかげだ…」

「それは誰だ!」

「JAMだ…」

「なっ!JAMだと…」

JAM(ジャム)火乃香が所属するCOMBAT FAIRY FORCEの最大の敵。10年前に起きたnightmareの首謀者蒼き殺戮者(ブルーブレイカー)が所属する武装テロ組織だ。

「くっそ!なんてことだ!少佐!対空ミサイルの用意は!?」

『急だからまだ出来ていない!くっ…!なに!?やっとか!?』

「どうした!」

『喜べ!B-503雪風が!来たぞ!』

その無線と同時に火乃香達の頭上すれすれを飛行する一機の戦闘機。前進翼の翼をもち、戦闘機ではあり得ないほどの機動力を持つ機体。

そう火乃香が操る戦闘機B-503ペットネーム雪風。

最高速度マッハ3を誇る世界最強の戦闘機。

両翼に備えらつけられたミサイルは全部で12発。

その機体が火乃香の前に垂直着陸した。

「火乃香…お前…それを使って…」

「無謀です!南宮先輩!幾ら何でも一機だけでは…!」

「心配するな。俺は堕とされない。堕ちるのはJAM(彼奴ら)だ」

そう言いながらコックピットに乗り込み、ヘルメットをつけながら機体を操作する。火乃香が乗り込んで数秒後、雪風は飛び出していき、すぐに音速に達した。見る見るうちに機体が遠ざかっていく。のをみながらその場にいた全員はその先の戦闘を見つめるのだった。

______________________

飛び出してから数秒、編隊を組んだ飛行部隊が見えた。

雪風のコックピットに備え付けられている電子パネルからは

「enemy contact

engage safety cancel」

と伝えられる。雪風に搭載された人工AIシステムだ。〈彼女〉には意識がある。感情がある。雪風と火乃香は一心同体だ。互いに信頼し合っているからこそ、無茶な飛行もできる。

「雪風…行くぞ!」

そう呟きながら火乃香の左手に握る操縦桿を最大限まで押し込む。アフターバーナーも吹きながら最高速度のマッハ3に到達する。

少しでも機体を揺らそうものなら凄まじいGが加わり、対Gスーツの着ていない火乃香は気を失いそうになる。

「ぐっ!」

ミサイルが前方に展開していた飛行部隊を全機ロックオンした。火乃香は迷わずミサイルを発射した。

凄まじいスピードで迫ってくる機体に気をとられていた敵のパイロット達は目の前でミサイル発射された事で、痛みもなくすぐに撃墜されていった。

それでも勇敢なパイロットは火乃香を発見した後すぐにミサイルを発射していた。追尾性能の高いミサイルだ。

火乃香はミサイルを振り切りながらループや急旋回を試みるがなかなか振り切れない。

「っち!こうなったら…!」

エアブレーキを全開に開きその場で180度回転しミサイルと向き合う。

雪風のディスプレイからは

「auto attack」つまり自動で迎撃する旨の内容が伝えられる。その瞬間雪風の20ミリバルカン砲が火を噴く。

永遠に思える長さだった。火乃香が時間の感覚を取り戻したのは目の前で空対空ミサイルが破壊された時だった。メーターを見ると800発だった球が600発にまで減っていた。ディスプレイには

「mission complete RTB you have control」の文字が書かれていた。火乃香は古城達のいるサブフロートに向かった。

しかしHUDから見えたのは古城、雪菜、紗矢華、ヴァトラー、ガルドシュ…そして、見知らぬ…いや火乃香のよく知っている人間が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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戦王の使者5

この章の最終回です!


火乃香が戦闘機で飛び出して行く姿を見上げる古城、雪菜、紗矢華。

ただ目の前で何が起こったのか、事実を並べれば、

・今回のテロを影で手引きしたのが妖精部隊の最大の敵であるJAMという組織。

・そのJAMに所属する10機の戦闘機部隊が絃神島にやって来た。

・そんな時に漫画のような展開でCFFの戦闘機が登場。

・火乃香はその戦闘機に乗り、敵の航空部隊に突っ込んでいった。

客観的且つ、箇条書きのように整理すれば今起きている現象を理解するのはのは簡単である。しかし、古城達は知らないことが多すぎる為に、現状の理解が追いつかないでいる。

「結局…今俺たちはどうなっているんだ…」

古城は呟く。

だがその問いに答えてくれる者は誰1人いなかった。

JAMと面識を持つクリストシュガルドシュですら、彼らからはナラクヴェーラを強奪するまでの装備やバックアップのみでしか関わっていたので、JAMそのものの内情は知らない。

古城は吸血鬼としての五感を最大限にまで活用しはるか遠くの空で起きているドッグファイトを見続ける。

雪菜や紗矢華も霊視によりじっと見続けている。

雪風からミサイルが発射される瞬間すら見ずに気がついたら10機いた戦闘機部隊が撃墜。敵飛行部隊の発射したミサイルを華麗に避けて行く姿を見続ける。

「まるで妖精みたいだわ…」

紗矢華がそう比喩する。

実際、古城もその通りだと感じた。戦闘機にはあまり詳しくないが通常の飛行では決して行う事のできない数々の変態機動。その場で180度方向転換したりするところなんかは、既存の…いや、通常の技術では不可能だろう。

そんなふうに考えていると、〈突如〉ヘリコプターが現れた。

ステレス機能のついたヘリコプターらしい。

「今度はなんだ!?」

古城はもう勘弁してくれというふうな表情で睨みつける。

「「先輩(暁古城)下がって(いてください)!」

雪菜と紗矢華はそれぞれ得物を手にしながらヘリから降りてくる1人の男を睨む。

「手厚い歓迎みたいだな…」

「「「ーーっ!?」」」

澄んだ声だ。だが、どこか威圧のある声でもある。

しかし、それ以前に3人は目の前の男に戦慄した。

何故なら、容姿が似すぎているのだ。

現在戦闘機に乗って空を舞っている少年と。

ただ、違いといえば髪の長さだろう。火乃香は長い髪を後ろでしばっているが目の前の男は短く髪を切っている。

「あんたは…何者だ!」

古城は男に問う。

「同い年の少女に護られながら正体を問いただすとは…やはり愚弟の友人か…。残念だ暁古城」

「なっ…!何故俺の名を知っている!」

「一遍に質問を投げかけないでほしい。そうだね…私の名前は天童霞だ。天童火乃香の…いや南宮火乃香の実の兄だ」

ニヤリと笑いながら堂々と言い放った。

「火乃香に…兄が…!?」

「そんな!ならば、貴方は敵ではないんですか!?」

古城と雪菜は情報の処理が追いつかない。

火乃香の家族は10年前に皆死んだはずではなかったのか?

そして何故暁古城の名を知っているのか謎が増えるばかりだ。

しかし後者の質問に関しては案外あっさりと理由がわかった。

「そして2つ目の質問だが、今まで無線を傍受し続けていたのさ」

成る程、無線の内容で彼を知る機会はいくらでもあった。だからだろう。

そうしているうちに、先ほどまでドッグファイトをしていた火乃香が帰ってきた。

重量のある前進翼の戦闘機が垂直着陸をし、コックピットから火乃香が出てくる。

火乃香の表情は、今までで1番歪んでいた。

「何故貴様がここにいる!兄さん…いや!蒼の殺戮者(ブルーブレイカー)

火乃香から殺気が溢れていた。今までに感じた事のない程だ。

古城はその殺気に気圧され、口を抑え胃からの逆流を防ごうとしている。

雪菜と紗矢華は古城とまではいかないが、それでも、汗が止まらない。

そんな殺気を直に浴びて、怯みすらしない霞はさらに煽りを入れる。

「兄弟の感動の再会なのにいきなりそんな態度を取るとは…随分と偉くなったものだな刀使い(ソードダンサー)。結局、俺たちは反対側にしか立つ事のできない者だ。」

「俺はあんたに訊きたいことがある…。何故あんな事をした…!」

「それは天童家に代々伝わる刀を手にするためさ。貴様が持っている二本の刀。あれは出来損なえなのさ。真の刀はずっと本家にだいじにほかんされていた。」

「まさか龍刃刀を…!あれは!ただの言い伝えじゃなかったのかよ!」

「いいや実在している。私はは本家から龍刃刀を奪取するため、欧州で惨劇を繰り広げ、本家の人間が欧州に対し目を向け隙を作るために、あの惨劇を繰り広げたのさ」

「貴様…!そんな理由で…父さんと、母さんを…!」

「愚弟よ、そんなんだからいつも利用されては捨てられるんだ。いいだろう。私はJAMの人間だ。そして貴様はCFFの人間だ。対極に位置するこの組織…。どちらが正義か決めようじゃないか」

「…っ!」

「正義は論議の種になる。力は非常にはっきりしていて、論議無用である。そのために、人は正義に 力を与えることができなかった。なぜなら、力が正義に反対して、それは正しくなく、正しいのは自分だ と言ったからである。

このようにして人は、正しいものを強くできなかったので、強いものを正しいとしたのである。パスカルの著書『パンセ』からの引用だよ」

「俺はパスカルを引用してくる人間がいれば用心するようにと随分前に学んだ」

「なかなか返しが上手くなったじゃないか。なら最早言葉は必要ないな。」

そう言いながら霞は火乃香を睨みつける。霞が初めて、火乃香に対し敵愾心をむき出しにした瞬間だ。

火乃香はHK416Dを装備する。

火乃香は照準を霞の胴体に向けつつ、実際は小銃を使ったCQCに持ち込もうとしていた。

視線は一箇所に定めず、手や足、頭など体の隅々を観察しながらこれから起こりうるすべてのパターンをシミュレーションする。

更に自分を第三者の視点に置き換え、この戦場の全体像を客観的に見続ける。

対して霞は火乃香と違いただ突っ立っていた。しかし視線は火乃香と同じく相手を観察している。

互いに緊張感が増し、場の空気がピリピリと肌を刺激する。

戦場には2種類ある。

1つ目は銃をがむしゃらに打ち続け、ただひたすらに生きる事を目標とする、スクリーンの向こう側のような戦場。

そしてもう1つは火乃香と霞が現在進行形で行なっている、客観的な情報を元に、神経を研ぎ澄ませるような戦場。

後者の方が前者よりも圧倒的に個人差が目立つ。今まで経験してきた修羅場や戦場の数。知識、技量、更にはお互いどこまで知っているかどの程度の能力を持つのか、そういったカタログスペックの把握。

この緊張感あふれる場では、歴戦の戦士ですら体力をすり減らす。

並みの人間ならば気分が悪くなり、吐き気や頭痛が襲ってくるだろう。この並みの人間というカテゴリには、当然の如く、古城を含め、雪菜と紗矢華が当てはまり、果てはガルドシュやヴァトラーですら当てはまる。

それ程までに2人は殺気を放ち続けている。

先に動いたのは火乃香だ。

なるべく相手の正面に立たないよう側面に回り込みながら、そして足掛けを受けないように立ち回りつつ相手の胴体にノズルを突こうとする。

「ーっ!」

しかし霞の方が一手上手だった。

すぐに体を突きを放つ火乃香の側面に回り込みつつ、その小銃を力の向きに逆らわずにそして力の向きに引っ張った。

火乃香はバランスを崩す。そのわずか0.01秒の隙を突くかのように霞から見て右に流れるノズルをそのまま右に流しつつ火乃香の体に押し込むよう、力を加える。

突然力が加わった事によって、火乃香の鳩尾が銃床に突っ込むように前のめりになる。

霞はと言うと更に素早く銃を押し込む。

霞が押し込む事によって銃床が得られる力といままでの運動エネルギー、そして火乃香の全体重が火乃香の鳩尾にぶつかる。

ただでさえ鳩尾を軽く殴られただけでも痛みでもがく羽目になるのに、2つの力が衝突した事により火乃香は痛覚を通り越して意識を手放しそうになってしまう。

呼吸ができなくなり、眼前が暗くなる。力も抜け、膝を地面につきかけたがそれでも必死で耐える。

しかし力が抜けたせいで小銃を手放してしまう。直ぐに火乃香は体制を立て直すべく、ホルスターからハンドガンとコンバットナイフを装備する。

そしてもう一度今度は相手の小銃にも気を配りつつ肉薄していく。

しかし、それでも霞は巧妙に避け、火乃香の腹に火乃香から奪った小銃のノズルで腹を突き、流れるように銃床で火乃香の首の後ろに回し思いっきり地面に叩きつけようとする。そうする事で火乃香の両腕は大きく開き、ほのかの右腕が霞の左腕の側面に右腕が乗り、火乃香の右腕を器用に背中側へと曲げ、右手に持っていたハンドガンを奪う事が出来る。

霞は火乃香を解放し、火乃香は手と膝をつきながら脂汗を流しながら、荒い息を上げる。

「CQCで私に勝つことは一生ない。貴様の本領を発揮すれば、もう少しは粘れたかもしれないな。魔術だとか、射撃だとか格闘だとか…。そういった様々なものに手を出し『中途半端』な状態で終わらせる。1番厄介なものだ。そういった技能を細かく使い分ける戦闘スタイルは一見『強い』ように見えるが所詮小細工にすぎない。更に、それを見せられ、その小細工が本物の強さだと勘違いする三流兵士もいる。そして、そいつらを見て自分は強いと思っていては5流以下だ。一生かけても私は倒せない。愚弟よ闘争本能の赴くままに動け、でないと俺は殺せないぞ」

「はぁ…はぁ…。うるせぇ…。」

「ほぉそこまで口答えするのか。ならいいだろう」

そう言いながら四つん這いになっている火乃香の腹に強烈な蹴りを入れ更に襟元を掴み掛かりながら霞のもつナイフを火乃香の肩峰に突き刺し、無理やり起立させた。

「ぐっ!」

「ここまで頑張ってきた愚弟に1つ、プレゼントを使用じゃないか。」

「…なんだと…?」

意識が朦朧とする中で必死に意識を保とうとする。

「愚弟よ、なんだか辛そうだな。どれ目覚ましがわりだ。こいつはただのコンバットナイフではない。スタンナイフなんだよ」

そう言いながら霞はナイフの柄を強く握る。すると、火乃香の全身に電流が流れる。

「がああぁぁぁあぁああああ!!!!!!!!!」

傷口から流れる電流は全身を痺れさせ、脳が焦がされる感覚に陥る。

手足の指先まで電流が流れ、筋肉が痙攣を起こす。

傷口の周りは熱く、まるで焼きごてを押されたかのような感覚に襲われる。

「こいつはな、110万ボルトの電圧を流す代物なんだ。こうして生きているだけでも奇跡だと思わないかい?」

「……!」

火乃香は霞のことを睨みつける。

「おい!てめぇ!やめろよ!」

古城が見ていられなくなったのか、霞に抗議をする。しかし、霞はそれを一瞥し、さらに睨みつけた。

「真祖だかなんだか知らないが…、君は何も分かっていない。ちょっと事件に巻き込まれて、世間の裏側を見て、修羅場をくぐったからといって、大きく出るのは間違えだ。この件はな、お前たち素人が首を突っ込んではいけないんだよ。何でもかんでも首を突っ込んでいると、火乃香(こいつ)のようになるぞ…!」

そう言いながらもう一度スタンガンの電源を入れる。

まるで、その姿と行為は古城達への見せしめのように感じた。

「グガァァァァァァアアアアァァア!」

火乃香は叫ぶ。全身からありとあらゆる体液が溢れ出し、そして体がヌメっていく。唾液や涙、鼻水が溢れ、格好も何もない。しかし火乃香にとってそんなことはどうでもよかった。

一回に流れる電流は約2秒。

しかし、その2秒は永遠に思える長さだ。

「さぁ、わかったか?お前たちが首を突っ込めば突っ込むほど…こいつが弱くなり苦しむんだ。自分たちの立場をわきまえて見たらどうだい?」

「クッソォ!」

古城は自分が何もできないことに対し、腹が立って仕方がなかった。これほどまでの無力感はいつぶりだろうか。欧州の列車事故で妹の凪沙を失いかけた時以来だろうか?そう考えていた。

「先輩…!ここは南宮先輩に負担はかけられません。ですのでここはただ話を聞くだけにしましょう」

「あ、あぁ…。」

「火乃香…。可哀想に…あんなにボロボロにナッテ…」

古城と雪菜は憎々しげに霞を睨み、紗矢華は必死で目をそらし、耳を塞ぎヴァトラーは憐みの目を向けていた。

「さぁ、愚弟よ、邪魔がいなくなった。さぁ、本題に入ろう。実はな、近々、とある軍事演習が行われるんだが、そこで私は武装蜂起を決行することにした。この事は誰にも言ってはならないよ?もし言ったらあそこにいるお前のオトモダチも今のお前と同じ運命になる。俺たちははJAMだ。CFFと同じ種類の組織だ。そこのところよく考えるんだな」

そう耳元で呟く霞を虚ろな目で見続ける火乃香。

この話は火乃香以外には聞こえていない。いや火乃香の耳にすら聞こえていないのかもしれない。

火乃香にとっては霞の言葉を言葉としてではなくただ音として認識していた。

何を言っているのか分からない。それだけ火乃香は疲弊していた。

「ふむ…聞いているのかわからないがまぁいい。さらば愚弟よ、次に会うときはもう少し期待しているぞ」

そう言いながらナイフを手放しヘリに向かう霞。

ナイフを手放された瞬間、脱力し、ピントの合わない目で霞を見続けながら最後に放った言葉を聞く。

霞が火乃香を解放した瞬間古城達は火乃香に駆け寄り、火乃香の近くには転移魔術の魔法陣が展開され那月が現れた。

「火乃香!しっかりしろ!」

古城が大きく呼びかける

「暁古城!何が……!?火乃香!しっかりしろ!くっ!意識が朦朧としている!早く病院に連れていくぞ!急げ!」

いつもは澄まし顔で優雅に紅茶を飲みながら古城や火乃香をいじって遊んでいる那月だが、今は違う。

今までに無いくらいに取り乱している。

その証拠に那月は珍しく大声で古城達に指示を出している。

火乃香の耳元で慌ただしく繰り広げられる会話を聞きながら意識を手放したのだった。

 

_______________________________________

ピッ、ピッ、ピッ

規則的に聞こえてくる音は心電計から流れている。

呼吸器マスクをつけられ、ナイフで刺された場所は手術によって縫われている。

命に別状は無いが、もしもう一回電流を喰らっていれば死んでいたかもしれないと医師から告げられた。

運がいいことに、火乃香は集中治療室(ICU)にいれられずに済んだ。

那月は火乃香の頭を優しく撫でながら、唇を噛み締めた。

「火乃香…すまない…」

泣きそうだった。もうとっくに枯れ果てたはずの涙なのに、泣きそうだった。

子供達を良き道へ歩ませるため、それまで全力で守りたい。そういう決心から、国家攻魔師の資格を習得し、教師へとなった那月だが、たった1人の大切な義弟すら守れなかった事に対し己の無力さで震えていた。

「那月…オマエは良くやっていると思う。火乃香を守りきれなかったのは私の責任でもある」

阿夜は那月を抱き寄せ慰める。

火乃香は目を覚ますまでどれくらいの時間がかかるかわからない。

そんな時、火乃香が入院している個室のドアがノックされた。

「誰だ?」

「あの…火乃香さんのお見舞いに来ました…」

「あぁ、火乃香の恋人か…。まだあいつは眠っている。」

やって来たのは左手の薬指に指輪をはめた火乃香の恋人である夏音だ。

「………火乃香さんは…」

細い声で那月に尋ねる。

「命に別状は無い。だが、目が醒めるまで…少なくとも2、3日は入院だと医者が言っていた」

「そうでしたか…。火乃香さんが…なんで…こんな事に…」

夏音は涙を堪えていた。しかし、その目には大粒の涙がたまっていき、いつダムが決壊するかわからなかった。

那月と阿夜も泣きたかった。しかし自分達にはその資格がない。何故なら、自分達が泣く理由は、大切な義弟を守れなかった己の不甲斐なさに対しての涙。結局は自分に向けての涙なのだ。

だが夏音(彼女)は違う。真っ直ぐに火乃香に対しての涙を浮かべる事が出来る。

だから夏音(彼女)には泣いてもらいたかった。

その思いがあり那月と阿夜は頑張って泣かないようにしている彼女にこう伝えた。

「お前は…お前だけは火乃香のために泣いてくれ…私たちはあいつのために泣くことが許されない。だから、せめて、お前だけは泣いてやってくれ」

那月がその言葉を発した瞬間に、夏音は那月にしがみつき声を上げて泣いた。

どれ程の時間だろうか…。実際は数分しか経っていないだろうが那月は何時間にも感じていた。

その時、寝ている火乃香から唸り声が聞こえた

「んんっ…ここ…は?」

マスク越しに曇った声が聞こえる。その声に3人の表情は明るくなる。

「火乃香!気がついたか!?」

「姉さん…?俺は…」

「喋るな!まだ寝ていろ!」

「うん…夏音も…心配かけた…みたいだね」

そう言いながら苦笑する火乃香を見ている夏音は何か言いたげだった。

「火乃香さんのバカっ!南宮先生から電話が来て、大怪我をしたって聞いて、どれだけ心配したと思っているんですか!もう…私の前から消えないで欲しい…でした!」

泣きながら火乃香の胸に顔を埋める夏音。

その頭を優しく撫でながら、それでもやらなければいけない事が出来た火乃香にとって、これだけは伝えなければいけないと思った。

「夏音…ごめん…まだ、色々と始まったばかりだし…それに…やらなきゃいけない事が出来るかもしれない…。そうなるとまた俺は戦場に身を置かなきゃいけなくなる。でも必ず君の元に帰ってくるから…だから…今は許して…。必ず全て話すから」

「はい…。絶対戻って来てください…。」

「火乃香…お前は三日間入院することになる。退屈凌ぎに英語の課題を用意した。それと…お前のスマホとPC、それから着替えだ。置いておくぞ。私たちは、もう面会時間が終わりそうだから帰る。今日はゆっくり休めよ」

「ありがとう。それと、お休みなさい那月姉さん、阿夜姐、夏音」

「「「おやすみ火乃香(さん)」」」

そう言い残し、3人は空間転移で消えて言った。

ほんの少しの沈黙の後、電話が鳴り響く。

海外からの番号だ。

「もしもし」

『火乃香ですか?』

「ラ・フォリア?どうした?」

電話の相手は以前護衛していたアルディギアの王女だ。

『大変なことになりました…やはり以前に話していた例の子はお爺様の隠し子だったみたいです…。』

「そ、そうか…」

火乃香の顔が引き攣る。

『夏音さんを我がアルディギア王室に正式に迎え入れようと思います。ですから、来週日本に行きますね。それに貴方の事ですから夏音さんを彼女にしているんじゃないんですか?』

「え!?あ、いや…その…」

図星だ…。火乃香は思った。彼女の域ならばまだ良いだろう。しかも婚約指輪まで渡して更にヤってしまったのだ。

『はぁ…。その様子ですとわたくしより先に夏音さんにプロポーズして男女のアレをしたみたいですね?夏音さんが嫌だといえば手を引きますが、私は別に2人でも構いません。』

「はぁ…本当に申し訳ございません…。」

『いいえ、まだ貴方の答えを聞く前でしたし、浮気にはなりませんよ」

微笑みながら喋っている様子が目に浮かぶ。しかし背後にはどす黒いオーラが見え隠れしている。現に電話の向こう側からでも分かるほどのどす黒いオーラが感じる。

しかしそのオーラも一瞬のものでありすぐに霧散した。

『火乃香…それよりももっと自分を大事にしてください。貴方に期待している人は大勢います。ですから辛くなったらわたくしに頼ってください。苦しみで押しつぶされるその前に…』

火乃香の声のトーン、喋り方で何かあったのだと感じたラ・フォリアが火乃香に対し、いつでも頼って欲しい旨を伝えた。

「あぁ…わかったよ…。ありがとなラ・フォリア」

『いえ、気にしなくて結構です。ではお休みなさい』

「あぁ、お休み。ラ・フォリア」

そう言い終えて携帯の電源を切り、再び夢の中へ潜り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




格闘戦の描写がうまくいかない…。分かりづらかったかな…。
火乃香と霞の格闘戦はMGS4のACT3レジスタンス尾行の最後に行われるリキッドとスネークのCQC戦を見てくれればイメージがつくかもしれません。と言うよりもあのシーンをイメージして書きました。
色々間違っているかもですがそこはスルーで。
次回は火乃香の入院中のエピソードとかを番外編で書けたらなと思っています。
ではまた次回。


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天使炎上篇
天使炎上1


まぁぼちぼちと火乃香の過去を語りましょうかね…


朝のモノレールの中で古城は久々に雪菜と2人っきりで登校していた。

いつもならば、火乃香や凪沙が一緒にいるのだが、凪沙は朝練、火乃香は那月と共に朝早くに登校するらしい。

理由を聞いたが上手くはぐらかされた。しかし、電話口からは彼の動揺した声が聞こえだのだ。何か事件でも起きたのか…。古城はそう考える事にし、次に思考を別な方向へ向ける。

つい数日前、黒死皇派の事件を解決した後の病室で起きた浅葱との情事の一端を思い出していた。

「ーぱい!先輩!」

「おぉどうした?」

「どうしたじゃありませんよ。考え事ですか?」

雪菜が上目遣いで古城を見てくる。しかし古城は目を合わせない。

「あ、あぁまぁな」

「?なんでこちらを向かないんですか?」

彼女は天然だ。自分の状態をよく分かっていない。

「いやだって…そっち向いたらその…」

古城がしどろもどろに呟くとようやく雪菜は気づいた。

「ーっ!見たんですか!?」

「いや!今のは完全に俺は悪くないだろ!」

「はぁもういいです。それで先輩何を悩んでいたんですか?」

「あ、あぁ。最近煌坂の奴が夜電話寄越してくるんだよ。本当姫柊の事を心配してるんだな」

「先輩それって…もういいです。私はこっちですので」

雪菜は古城の鈍感ぷりに呆れながら校門前で別れた。

「ふぁ〜あおはようさん」

「お、古城眠そうだな?どうしたんだ?」

「別にどうもしねーよ…火乃香、学校でパソコンなんて開いてどうしたんだ?」

「ん?あぁ…まぁちょっとね…別に大したことではないんだけどさ…これ見てくれよ」

「「ん?」」

火乃香が古城と基樹に見せたのは、炎上している装甲飛行船だ。しかも真上からの写真だ。所謂、衛星写真という奴だろう。

「これがどうしたんだよ」

「この写真はCFF(ウチ)の諜報用軍事衛星が撮った奴なんだよ。今はまだニュースになっていないが、こいつはアルディギアの装甲飛行船ランヴァルトなんだよ…」

「ほーアルディギアっつーと火乃香がずっと前に護衛していたところ…だったか?」

「あぁ…そうなんだ。あいつがこれに乗って日本に来る予定だったんだが…」

古城と基樹はあいつの後がよく聞こえなかった。そんな辛気臭い雰囲気を放っている男子3人…主に古城をからかう為に築島倫がやってくる。

「3人とも何辛気臭い顔しているの?それと暁君、その眉間の角度から見て人間関係に悩んでるわね?しかも女性関係」

重たすぎる場を少しでも軽くしようと倫は古城を茶化す。

「なっ!なんで分かったんだよ!」

「古城お前霊感商法とかに引っかかるタイプだな」

基樹が古城のチョロさというのか素直というのかよく分からない反応に呆れた風に言う。

「多分こいつは将来何かしらの詐欺に引っかかるんじゃないか?」

「かもな」

火乃香の何気ないフラグとも取れる一言を放ち基樹と倫はくすくすと笑い始める。

そんな時、浅葱が欠伸をしながら教室に入ってきた。

「おやおや?浅葱も寝不足?」

「あー、うん、ちょっとね」

「ふーん。。2人して寝不足とは…怪しい」

「?なんの話?」

「いや、なんでもない」

倫と基樹が浅葱にカマをかけたが華麗にスルーする浅葱を見てつまらないとでも言うかの如く席を離れていく。

そして火乃香もまた、ディスプレイに向き合うのだった。

何やら後ろで放課後美術室に来いと浅葱が誘っている声が聞こえたので、面白くなりそうだから那月に報告することを心に決めたのだった。

 

_______________________________________________

放課後、火乃香が学校の廊下を歩いていると2人の生徒が、何やら窓の外を見ている。

何事かと思い、窓の外を見ると凪沙が運動部のジャージを着た男子生徒から手紙を受け取っているではないか。

(まぁ、あの手紙の内容は知っているんだがな)

「あれは…手紙か?」

「恐らくラブレターでしょう」

「確かにラブレターかもなー」

「ははっ凪沙にラブレター渡す男なんて…ってうわぁ!」

「南宮先輩いたんですか?」

「モチのローン」

「なぁ火乃香!凪沙のこと好きなやつなんているわけないよな!?」

「先輩…何言っているんですか!凪沙ちゃん以外と人気あるんですよ!」

「まぁ確かに人気あるって話は聞いたことあるな。可愛いし、話しやすいし。男にモテない理由がないな」

「そ…そんな」

へなへなと崩れ落ちる古城はいかにも世界の終わりだ見たいな顔をしている。

暁古城は世間一般で言うところのシスコンだ。本人は全力で否定しているが、妹に彼氏ができそうだと言うことがわかった時点でこうして力なくうなだれていてはその言葉にも説得力がない。

「俺はもう帰るわ。じゃぁな」

「おーう」

「お気をつけて」

燃え尽きた古城と苦笑している雪菜に別れを告げ、火乃香は普段なら絶対に使わない転移魔術で帰宅した。

「火乃香さんが魔術使うなんて珍しいですね先輩は何か知りませんか?」

「ん?あー、なんかアルディギアの装甲飛行船が墜落したとか言ってたな」

「乗組員の捜索でしょうか?」

「さぁ」

2人は火乃香に対し頭を悩ませるのであった。

 

________________________________________

『YUKIKAZE,Vector050,climb angels25』

管制官からの聴こえにくい無線が火乃香の耳に入る。

「YUKIKAZE roger」

火乃香は管制官からの指示に従い、機体を50度、進路を変更をした。

『target lost Point 230/68』

現在火乃香はB-503でアルディギアの聖環騎士団に所属する装甲飛行船ランヴァルトの捜索を行っていた。

「…こちら雪風…多数の浮遊物を確認…しかし新たな生存者は確認できない」

「こちら管制…了解した。帰投せよ」

「YUKIKAZE roger」

(ラ・フォリア…無事でいてくれ…)

火乃香の儚い願いは無事に届いたのか…それすら今の火乃香には知るよしもない。無力な自分に対し、怒りが込み上げてくる。

自然と操縦桿を握る握力も強くなり、表情が険しくなる。それを感じ取ったのか、雪風は火乃香からコントロールを奪いさらに、ディスプレイには「 cool down Honoka」の文字が出てくる。

無機質な機械だとしても雪風は雪風なりに火乃香の心配をしている。

そんな雪風に対し火乃香は「悪い…落ち着いた」と一言発すると雪風は「YOU HAVE CONTROL」と映し出され火乃香に機体のコントロールを渡し、絃神島にある特区警備隊(アイランドガード)の保有する滑走路へ向かったのだった。

________________________________

「………」

「………」

2人の影が見える。

中等部の屋上の扉に耳を当て、吸血鬼の能力をフルに活用し扉越しの音を拾うのはシスコンで有名な暁古城とその姿を呆れた目で見続ける監視役の雪菜。

「大人しくしろって…」

「キャッ…!乱暴にしないで…」

「慣れてないんだよ…」

「もう…くすぐったいよ」

古城の妹である凪沙と男子生徒の声が聞こえる。

古城はいてもたってもいられなくなり、扉をけ破る。

「コラァァァァ!お前ら!離れろォォォォォォォォォォォォォ!」

「「うわっ!」」

突然開かれた扉と古城に驚く凪沙と男子生徒。そしてそんな状況を作った本人である暁古城の後ろから目頭を押さえながら出てくる雪菜。

「おいお前!誰に手を出そうとしてるのか分かってんのかぁぁぁぁあ!」

古城はもはや暴走状態だ。そんな古城を後ろから思いっきり殴りつける人物が現れた。

「ちょっとは静かにしろ!」

「ぐはっ!」

火乃香が古城の背中を思いっきり蹴り付け古城はそのまま前方に吹っ飛んだ。

「せ、先輩!?」

「ほ、火乃香…もう少し手加減しろよ…」

「悪いな」

「てかなんで古城くんがかここにいるわけ!?」

「あ、いや…その…なんと言うか昨日ラブレターもらったの見ちゃってさ…その…気になったんだよ」

「ラブレター…?あぁこれのこと?」

そう言いながら凪沙は手紙をヒラヒラと古城に見せていた。

「あぁ!それだ!」

「なんでラブレターっていう発想になるのよ!これはただ猫の里親リストだよ!高清水君驚いちゃってるじゃないどうしてくれるのよ!それに私がラブレターもらったからってどうして古城くんが出てくるわけ?」

早口で捲したてる妹に兄はうなだれている。どこの世界も兄は妹に勝てないのだ。

「あの、すみません。こうなったのは私のせいでした。」

唐突に鈴を鳴らしたような澄んだ声が聞こえる。火乃香にとっては聞きなれ、古城にとっては初めて聞く声だ。

「あ!夏音ちゃん!」

「夏音、古城に謝らなくていいぞ。自業自得だからな」

「え?え?」

1人状況に取り残される古城。仕方ないので順を追って説明することにした。

________________________

「つまり、拾ってきた猫の里親探しを火乃香と2人でやっていたけど、それでも日に日に増える猫に対処するため、凪沙を頼ったと。

そして高清水くんからは猫の里親候補の名簿を貰ったと。成る程」

「そうだよ!古城くん!もう!」

凪沙と火乃香は古城の状況整理を手伝っている最中、仲良くなった夏音と雪菜は猫と遊んでいた。

「で、あの子が叶瀬夏音と」

「あぁ。そうだよ…。それとお前手を出すなよ」

「夏音ちゃんはほのちゃんと付き合ってるからねぇ」

「?呼びました?」

「いや読んでないよ」

凪沙が火乃香を茶化してきたのに対し夏音は反応したが、すぐに火乃香がこの話題から夏音を触れさせまいと答えた。

「まぁ何にせよお前の勘違いだ」

「それは分かったんだが何で凪沙なんだ?」

「凪沙ちゃんとは去年同じクラスで、仲良くしてくれました。だから凪沙ちゃんに頼ったんです。凪沙ちゃんはクラスの人と仲がいいから」

「そういうこと!」

「へー、でもそんなに可愛いんだったら友達とか他にいるんじゃないのか?」

「なぜか私が話しかけると逃げてしまうんです」

「あー、多分それは夏音ちゃんに話しかけるのが畏れ多いと思ってるんだよ」

「何で?」

古城はそう言った学校の裏事情にあまり詳しくない。よって裏事情をよく知る凪沙の話についていけなくなる。

「夏音ちゃんは中等部の聖女なんて呼ばれているからね〜。男子達が夏音ちゃんとの接触に応じて独自のルールを設定してるんだよ」

凪沙が誇らしげに語っていく。

まぁそれもそのはず。この中等部の聖女こと叶瀬夏音は、あまりの可愛さに中等部男子が平等に触れ合う機会を作ろうということで、接近距離に対してそれぞれ時間を設け、その時間を超えての接近はペナルティを課すことになっている。

更に自分たちから話しかけてはいけない事など細かなルールが設定されている。

「中等部の男子ってアホなのか?」

「ホントですね」

「それは雪菜ちゃんにも言えた事なんだよ!」

中等部の聖女と並んで人気の高い雪菜にも同じルールが設けられている。雪菜自身は天然なので避けられているといった感覚はないのだろう。

因みに凪沙も影ではすごい人気が高い。可愛くて明るく元気があり、話しかけやすいといった理由だ。

「あ、それと古城くんは気をつけた方がいいよ」

「何でだよ」

「暁古城を呪う会なんてのが有るから。それとほのちゃんも気をつけてね」

「ん?俺にもそんなおかしな会があるの?」

「夏音ちゃんが指輪してくるようになってから男子の間で荒れに荒れたんだよ?しかも南宮火乃香を呪う会が不可能だってことで却下されたほのちゃんの暗殺計画をまた持ち出して来ようとしてるし」

「え、まじで?」

「うん。ついに南宮先輩の婚約者になったのか!闇討ちだ!ってね」

「俺に闇討ちを挑もうとは…中等部の奴ら…俺を舐めすぎてないか?」

たかだか男子中学生が現役の軍人に…しかも国連のCFF所属の人間に敵うはずがないのだが…それほど悔しいのだろう。

「え!?お前婚約者いるの!?」

古城は凪沙と火乃香の会話に首を突っ込み驚き、火乃香の左手の薬指にはめられた指輪と夏音の左手薬指にはめられた指輪を交互に見返し、絶句する。

「鈍すぎるなお前」

「南宮先輩は、10日ほど前から指に嵌めてますよ」

「まじか…」

「因みにほのちゃんと夏音ちゃんを応援する会もあるんだよ」

「なぜ?」

「く、悔しいけどほのちゃんは可愛いから…その夏音ちゃんと百合百合しているように見えるから…そう言うのが大好物な女子とか男子にね…」

段々凪沙の表情が暗くなっていく。男子に負けた方がよほど悔しいらしい。そんな気持ちなど一切知らない火乃香は別の意味で凹んでいくのだった。

歩く事10分。焦げた教会が見えた。

「え…教会…?」

「私が小さい頃お世話になっていた修道院でした」

「え、てことは叶瀬さんはシスター…?」

「憧れでした」

門を潜るとそこには20匹くらいの猫がいた。

「先輩!猫ですよ猫」

雪菜が猫の元に近寄り抱き寄せる。すると他の猫達もソロソロと雪菜の元にやってきた。

「ふぁ〜柔らかくてあったかくて…癒されます〜」

獅子王機関の剣巫といってもやはり15歳の少女だ。顔を綻ばせ、頬ずりする姿はなんだかんだ言っても年相応の少女である。夏音と火乃香は猫達にエサを与えたりしている。凪沙は途中で高清水くんにお礼と謝罪しに行くといいこの場にはいない。

「きっと叶瀬さんはいいシスターになれると思うよ」

猫に囲まれた夏音を見た古城は素直に感想を述べる。

「今は…その言葉だけでも嬉しいでした」

そう微笑みながら古城に返すがどこか寂しさがあるように感じたのだった。

その時、火乃香の携帯の電話がなった。

「もしもし…うん…うん分かった今から行くよ」

「誰からなんだ?」

「姉さんから。ちょっと呼び出されちゃった…夏音…ごめん急用ができたから帰るね…」

「はいわかりました、気をつけて」

火乃香は教会を後にした。

________________________________

「おぉ那月ちゃんと火乃香こっちこっち」

「管理公社直々に呼び出しとはな」

「基樹お前…何で俺まで巻き込もうとするんだよ…こっちは別件で動いてんのに」

「悪いな火乃香」

全く悪びれていない様子の基樹を無視し、目の前にある強化ガラスの向こう側に眠っている少女を見る。

「こいつが昨夜確保された5人目か…もう一体こいつと戦っていた魔族がいたと聞いたが」

「そっちの子は不明なんですけど、一つ訂正っす。この子はどうやら魔族じゃないってのが公社の見解なんすわ」

「ふーん見るからに内蔵の欠損もありそうだな」

「あぁ、調べたところ横隔膜と腎臓のあたりマニプーラチャクラの欠損が見られる。それに魔術的回路しか仕組まれていない」

「…なーんかどっかでこういうこと聞いた気がすr…!!!!」

「ふーんボクから見れば霊的中枢が食われているように見えるネ」

「突然姿をあらわすなコウモリの分際で何の用だ?」

「外交特権でいえないね」

「あんたらがらみか?」

火乃香は殺気をチラつかせながら問い詰める。

「いやそれは答えられない。それより聖環騎士団所属のランヴァルトが一昨日から行方不明なんだ」

「それは知っている。ランヴァルトの最後に出した信号とCFF(ウチ)の保有する軍事衛星が撮影した写真の座標から割り出し予測されたロストポジションを昨日からずっと飛び回っていたからな…」

「そうか…それで?生存者ハ?」

「いねーよ。海に浮いていたのは墜落した機体の残骸だけだ」

「まさかアルディギア王室がこの件に関わっているのか?」

那月はひどく冷静な口調でヴァトラーに詰め寄る。

「いや、分からないナ…ダケド、ボクから一つお願いがある。古城をこの件から遠ざけて欲しい。モチロン火乃香、君もね」

「…断る。つかどのみち首突っ込むことになる…多分」

「マァ死なないようにネ、君は簡単に死ぬんだから」

「五月蝿ぇ。まだ死なねーし死ぬ気もねーよ…奴を殺すまでは…な」

ヴァトラーは火乃香の言葉を聞き満足したのか何処かへと消えてしまった。この事件の解決に誰よりも早くリーチをかけた火乃香は、確証を得るために、那月と管理公社を利用することにした。

 

 



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天使炎上2

「悪いな内田、助かった」

よく晴れた放課後、中庭で段ボール箱に入った数匹の猫を渡す古城と火乃香と、里親として猫を引き受けた彼らのクラスメイトである内田。

「いいよ別に、うちの家族みんな動物好きだからさ」

「でも、なんか意外。暁が中等部の聖女ちゃんと仲良しだったなんて…火乃香君は…付き合ってるって知ってたけど、もしかしてそれで知り合ったの?」

内田の隣にいたもう1人の女子生徒棚田夕歩が2人に話しかけた。

「いやーまぁ…な。つか叶瀬と知り合いなのか?」

「彼女が暮らしていた修道院が家の近くだったから割とよく遊んでたんだでも…」

夕歩は夏音を見ながら懐かしそうに語る。しかし、でもの後、こちらを振りまきながら、語る。

「?」

「あの事件以来、疎遠になっちゃってね」

夕歩の顔に影がさす。

「あの事件?」

古城が聞く。

「修道院で事故があってね…何人も死んじゃったの。あの子はたった1人の生き残り。私の友達も巻き込まれてね…顔を見るとそのこと思い出しちゃって…彼女が悪いわけじゃないのに…」

申し訳なさそうな顔をしながら古城と火乃香そして夏音の方をそれぞれ見ながら続ける。

「だから、暁君と火乃香君は仲良くしてあげてね…火乃香君には言う必要ないか」

「あぁ」

古城がちらりと夏音を見ながら夕歩に答える。そして夕歩と内田は2人で校門の方まで歩いって行った。

見送った古城と火乃香は夏音の方まで歩いていった。

「これで一応全部引き取り手は全部見たかったんだけど

「はい、後はさっき拾って来た一匹だけですからね私1人でも大丈夫でした」

いつの間にかどこからかもう一匹拾って来ていたようだ。彼女は最新の猫発見機でももっているのだろうか。恐らく彼女と一緒に絃神島を歩いていたら島中の捨て猫を見つけることができるだろう。

「って!また拾って来たのかよ!」

「しーっ!先輩静かにしてください!さっき寝たばかりなんですよ!」

「あ、あぁすまん…って火乃香、さっきから黙っているがどうしたんだ?」

「……………いやなんでもない……」

「お前、この間からずっと様子がおかしいぞ?なんか悪いもん食ったか?」

「別に………考え事を…していただけ」

だんだんと声が小さくなって最後の方はよく聞こえなかった。

そんな火乃香を見ながら古城と雪菜は頭にクエスチョンマークを浮かべる。

そんな不思議空間に、声が聞こえた。

「ほう、うまそうな猫だな。知っているか?猫は極上の旨みを持つ食事だと。どれ、今晩の我が家の夕食は鍋の予定だったからな、丁度いい、その猫を私が食ってやろう」

目を細め舌舐めずりしながらとんでもない事を口走る那月が登場した。

「は!?今晩鍋とか聞いてないんですけど!?つか猫捌くのは姉さんがやってくれない!?」

今晩鍋というのは火乃香は知らないようだ。そして猫を捌けと言わんばかりの目線を向ける那月に火乃香は全力で拒否をした。

あまりの出来事に、南宮先生ではなく姉さんと呼んでしまった火乃香に那月は持っていた扇子で眉間をつく。

「ほれ、今晩の鍋の材料だその猫をよこせ火乃香の恋人」

「南宮先生、夏音が怯えてるからやめてあげてくれ」

「あー叶瀬…ここは俺たちがなんとかしておくから、お前は猫連れてさっさと逃げろ」

「あ、あの…す、すみませんでした…お言葉に甘えて、逃げます…!」

そう言いながら後ずさり、猛スピードで逃げて言った。

「全く、冗談の通じないやつだ」

「いやあんたの場合冗談に聞こえないから」

古城から正論を叩きつけられた那月は、話題を逸らす。

「暁古城、今夜私に付き合え」

「え!?なんで!?」

「バカかお前!仕事に決まってんだろ!」

「火乃香も駆り出されるのか!?」

「当たり前だ暁古城。こいつは私の助手だからな」

「へいへい」

「目標はここ最近暴れていた二体のうち一体だ。詳しくは後でメールを送る。時間に遅れるなよ?」

「わーってるって…」

「そうか。よかったもし駄々をこねられたら、この間藍羽浅葱と2人で美術室の中で生着替えを見せ合っていた写真をクラスラインに拡散せずに済んだ」

「ちょ!?なんで知ってるんだよ!?…あ」

「先輩?どう言う事ですか?」

古城は己の失言にしまったと言う顔をしながら雪菜の方を見ると、拳を固く握り、若干震えている雪菜の姿があった。

「それじゃぁな。行くぞ火乃香、準備だ」

「分かったよ。お前ら2人も痴話喧嘩で遅れるなよ」

聞いているのか聞いていないのかわからなかいが一応伝えておく。

「…お前の頼みは一応これで聞いてやったからな」

「ごめん…手間をかけさせて…でも、確証を掴むにはこうしたほうがいいと思って」

「まだ、話すことができないのか?」

「うん」

 

________________________________

テティスモール屋上に古城と雪菜がいた。

雪菜は紺色の浴衣を着ている。今日近くでお祭りがあるらしい。

放課後に那月から伝えられた時間からすでに2時間が経過しようとしている。

「待たせたな暁古城」

ようやく那月が登場した…が、彼女の格好がいささかおかしい。

「待たせたなって…待たせすぎだ!」

那月の格好は雪菜と同じく浴衣姿だ。髪飾りもつけている。同様にアスタルテも髪をサイドテールにし、お面を頭につけ、たこ焼きを美味しそうに頬張っている。

「アスタルテに夜店を堪能させてやっていたんだ」

「2時間の遅れが生じました。ご主人様(マスター)に変わり謝罪します」

「楽しかったか」

「はいとても」

「そうか、よかったな」

表情も心なしか笑っている。火乃香達と共に暮らし、表情を表すことができるようになってきているようだ。

「暁古城、メールで送った資料は読んだか」

「あぁ仮面付きってやつだろ?二体で戦ってらるみたいな…この間の爆発事故にも関係してるとかなんとか」

「そうだ」

「でもあいつらなにもんだ?」

「さぁな、新手の魔族か何かか…このあいだの爆発事故も、魔力を感知しなかった。特殊な術で魔力を感知しないようにしているのか、それとも物理か」

「魔力なら私が感知しないほうがおかしいです」

「転校生もいたのか…仮に物理だとしても、火乃香が気がつかないはずがない」

「え?なんで火乃香なんだ?」

「あいつの超直感を舐めるなよ?あいつ1人いれば例えこの島の何処かに爆弾を設置していたとしても1時間以内に見つける」

「なんだよそれ!?犬か何かか!?」

「さぁな。ただ言えるのはあいつはなにも反応しなかった。ただそれだけだ」

その時、遠くで爆発が聞こえた。

「アスタルテ、花火を上げろと特区警備隊(アイランドガード)に連絡しろ」

命令受託(アクセプト)

「え!?火乃香が居ないけどいいのか!?」

「あいつは既に私たちが今から向かうところに待機している」

そういうと空間転移をした。そこには髪を後ろで纏め、赤いバンダナを装備しオーブ色の戦闘服のズボンと白のタンクトップを着た火乃香がM82のスコープを覗いている火乃香が居た。

「火乃香、どうだ」

「動きが早すぎて照準が合わない。髪が白い子には絶対に当てたく無いからなぁ…」

「仕方ない戒めの鎖(レージング)で動きを止めるから狙い撃てそれと転校生は火乃香が外した時のために準備しておけ」

そう指示を出しながら那月はレージングで黒髪の仮面付きの動きを止める。

「ステンバーイ、ステンバーイ、」

火乃香はそう言いながらM82の引き金を引いた。

あたりに爆音が鳴り響くが先程から上がっている花火で音を誤魔化すことができている。しかし、12.7ミリの呪術弾は結界のようなものに阻まれ、消失した。

「くっそ、外した!姫柊さん!」

「はい!」

そう言いながら雪菜は雪霞狼を構えながらレージングの上を走り仮面付きへ斬りかかりに突っ込む。

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威を持ちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

しかし雪菜の雪霞狼も障壁に阻まれ、傷一つつけることができない。

雪菜は直ぐに後ろへ飛び、古城達のいるタワーへと戻ってくる。

それと同時に、レージングが断ち切られた。

「なに!?レージングを断ち切っただと!?」

さすがの空隙の魔女もこれには驚くしかなかった。レージングを断ち切ることのできる存在など殆どいないのだから。

「あれは魔族というよりも私達が使う神懸かりに似ています」

「…!!まずい!姉さん!」

「分かっている!暁古城!手加減するなよ!手加減すればお前が死ぬ!」

古城はとっさに天使へと向きなおる。黒髪の仮面付きはタワーを破壊した。タワーが傾きかけるが那月のレージングによって倒壊は避けることができたようだ。

「疾く在れ!9番目の眷獣!アルナスル・ミニウム!」

壊れかけの塔の横でナラクヴェーラ戦で掌握した9番目の眷獣を召喚し、仮面付きへと突っ込ませるが効いていない様子だ。

黒髪の仮面付きがこちらを睨み、攻撃を加えるため、こちらは突っ込もうとする。恐らく仮面付きは今の所、素手のみが攻撃手段のようだ。

「くそ!姉さん!黒鋼の使用許可を!」

「許可する!」

その言葉と同時に火乃香は亜空間から柄が龍の形をした漆黒の刀を手にし、そして親指を刃で薄く切る。

すると漆黒の刀身から銀色の刀身へと変わった。その輝きはあたり一面を照らし、そして膨大な神力を生み出していく。

「破魔・龍王刃!」

火乃香がそう呟きながら刀を横になぎ払うと、今まで無傷だった黒髪の仮面付きの腕が吹っ飛んでいった。

これならいける!そう誰もが信じた瞬間黒髪の仮面付きが火乃香に標的をしぼり、光の槍を手に出現させ、投げようとしていた。

素手のみかと思っていた火乃香達は完全に不意をつかれた形となった。

光の槍がどれほどの攻撃力かは分からないが、戦場で浴びる銃弾なんかより遥かに強力で、傷口の再生を阻害するだろうと火乃香はほぼ直感的に感じた。

光の槍が己を貫く瞬間を頭が勝手にイメージし、まだ開けてすらいない傷を脳が再生する。それと同時に、穴が開くであろう胴体の位置が痛み出す。幻肢痛(ファントムペイン)だ。

失ったはずの部位が痛み出したり、まだ受けてすらいない攻撃による痛みを今までの痛みの経験則から脳が勝手に再生するようなものだ。

火乃香のひたいに汗が浮かぶ。

黒髪の仮面付きが光の槍を投げようとした瞬間、先程まで様子を伺っていた銀髪の仮面付きが黒髪の仮面付きに体当たりをし、空中からタワーの上に突き落とした。

すかさず火乃香達はその現場を見にいく。

すると銀髪の仮面付きは黒髪の仮面付きの腹…正確にはマニプーラチャクラのあたりを抉った。

黒髪の仮面付きは痛みで騒ぐ。しかし、ただ騒いで終わりではない。

黒髪の仮面付きも反撃のため銀髪の仮面付きに対し、手を振りかざし、銀髪の仮面付きの仮面を叩き割った。

その瞬間火乃香は柵を飛び越え銀髪の少女の元へ走った。

彼が見た仮面の下の素顔…

「やめろ!夏音!!!」

火乃香の叫びがあたりに聞こえる。

火乃香は夏音に触れようとするとした瞬間、両手で押された。その力は恐ろしく軽かった。

「な…嘘…だろ」

古城達も銀髪の仮面付きの正体がわかったらしい。未だに信じられないというような声を上げる。

しかし夏音にはその声は届かなかった。黒髪の仮面付きのマニプーラチャクラを食べようとした瞬間一瞬体が止まった。

「夏音…本当に君が望んだことなの?」

ただ一言、風にかき消されそうなほど小さく、細い声で火乃香は夏音に尋ねた。しかし、夏音は一瞬だけ停止し捕食し始めた。

捕食し終わった夏音は口元の血を拭う動作をした。しかしその一連の行動で火乃香は夏音が涙を流していたのを見逃さなかった。

「夏音…君の本心がわかった…絶対に助けてやるからな…!」

夏音の生気を感じさせない目は一瞬だけ生気が宿ったように見えた。

火乃香は拳を固く握りながら、飛んでいった夏音を見続けた。

後ろから古城達がやってくる。

「火乃香!夏音が!知っていたのか!?」

「半分正解。正確には憶測の域だった。だけど…これでもうわかった。俺の大切な人(夏音)を助ける…!」

火乃香の目には確かな覚悟をした炎が宿っていた。

________________________________________

メイガスクラフト社宅前に3人の人影があった。

「あれが夏音の家だ。受付嬢は俺のことを知っている」

いつもとあまり変わらない雰囲気だが、背中にはキーボードケースを背負い、肩にはカメラバッグ、更にキーボードケースとは反対側に長い袋、恐らく三脚か一脚を入れるための袋だろう。

「でもどういう口実で入るんだ?」

パーカーを着た古城がボヤく

「先輩…あなたはアホなんですか?」

古城にあきれるのはキーボードケースではなくギターケースを背負った雪菜だ。中には真祖を殺すための兵器が入っている。

「つか火乃香のカバンの中に何入ってるんだよ…」

「まぁ明けてからのお楽しみだ…さて入るぞ」

エントランスに3人は堂々と入り込み受付をすませる。するとエレベーターから出て来たのは赤いスーツをきたグラマーな女性だ。

「お前らあの腕輪…偽物だ」

古城達は驚いた顔をした。しかし火乃香は何食わぬ顔で前へ出る。

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「叶瀬夏音に会いにきたんですが」

「あいにく現在外出しています」

「じゃぁ父親の叶瀬賢生さんは?」

「お二人共島外に保有する島にいます。皆さんは一体…」

受付嬢が訝しんだ目でこちらを見る。

「夏音の恋人が父親に婚約の許可を貰いうため会いに来たという理由では不十分でしょうか?それとあなたは?」

「………いえ充分です…それと私は賢生の秘書のようなことをしています」

「そうですか」

「島に行くことができますよ」

「なら案内してください」

「畏まりました飛行場に案内します」

そう言われ案内されるがままに飛行場へやってきた。

「俺はロウ・キリシマ。ここで雇われているパイロットだ。兄ちゃん随分と荷物が多いみたいだな」

「趣味の写真撮影だよ。まぁ島外に研究所があるってのは聞いていたからもし行くことになったら野生動物とかあれば写真撮れたらなーって思っただけさ。もちろん許可はもらうつもりだ」

「そうか…だがあそこにいるのはヘビくらいなもんだぜ?」

「そうなのか」

ロウ・キリシマと何気ない世間話をしている最中古城は青ざめる雪菜を心配していた。恐らく彼女は飛行機が苦手なのだろう

「俺は前に乗るから2人は後ろに乗れ」

こうして3人はセスナ機に乗り込んだ。荷物は古城に預け、火乃香は腕に巻いてきたG-SHOCKとスマホを取り出しメモ帳を開く。

スマホの予備充電もしっかりと持ってきているので充電が切れる心配もない。

「それじゃ飛ぶぜ」

ロウ・キリシマの合図と同時にセスナは滑走路から飛び立つ。それと同時に雪菜は悲鳴をあげることになった。

火乃香は後ろの惨劇など気にせずにひたすら時計と操縦席のところにつけられている計器を見ていた。

「兄ちゃんそんなに計器が珍しいか?」

「あ、あぁ…あんまりセスナとか乗らないから気になってね」

「ふーん」

火乃香が現在行なっているのは計器の数値をスマホにメモしている。

飛行機がどの速度で何度の位置を向いているか、そしてその速度と方向にどれくらいの時間進んだか。それを細かくスマホにメモして行く。

そうすることによりセスナがどういう進路を取ったのかをわり出すことができる。

そうする事2時間島に着陸した。

「んじゃ熱心な兄ちゃんと後ろのバカップルここでサヨナラだなあーばよー」

「はぁぁぁ!?置いてくなよ!?オッサン!」

「おっさんじゃねぇ!俺は26だ!」

そう言いながらセスナでとっとと離脱したロウ・キリシマに対し怒りを覚える古城とカップルなどと言われ赤くなっている場違い少女の雪菜を横目で睨み呆れ果てる火乃香。無人島に置き去りにされこの状況はなかなかにカオスだ。

「とりあえずお前ら…ここから移動するぞ」

そう言いながらカメラバッグから取り出したのは大型のサバイバルナイフだ

「こいつ一本あればこの島で生き抜くことはできる」

「おま…これから野宿だってのに自信あるのかよ」

「当たり前だ。過去の任務でジャングルの中で1週間過ごしたこともある!食料集めや寝床確保は全て俺に任せて欲しい!お前らは飲み水の確保だけで十分だ!それに、帰ろうと思えば変えることもできる」

妙にテンションの高い火乃香に若干引く古城は火乃香の何気ない一言に食いつく

「なんで?」

「この島までの進路を事細かく書いてきたからな。ファイターパイロットなら計器だけでホームベースに帰れるくらいじゃなきゃやってけないね」

「南宮先輩そろそろ行きませんか?」

先程まで赤かった雪菜は復活し冷静な態度で火乃香に提案する

「まずは海岸沿いに出るぞ」

こうして特殊部隊所属の火乃香によるサバイバル生活が幕を開けた。

________________________________

歩くこと数十分ようやく砂浜に出た。もちろんこれまで歩いてきたところには火乃香がナイフで木に傷をつけてきた。

「トーチカだな…それに銃撃戦の後か…薬莢があちこちに転がっている後は足跡いくつもあるな」

「トーチカ?なんだそれ?」

「トーチカとは敵の進行を食い止めるための要塞みたいなものですよ先輩」

「とりあえずトーチカを寝床にするか…」

「その方が良さそうですね…それにしてもなんでこんなに銃撃戦が」

「この薬莢の形を見るにNATO弾だな5.56ミリだ。それとこっちの薬莢は9ミリ弾…しかも薬莢の形がNATOのものとは違う…アルディギアの狩猟用のスラッグ弾の薬莢に近い。それとかの足跡…いくつもあるがどれも均等だ…オートマタの軍隊か?こっちは若干足が小さい…女性のものだな…走ってきたと見ていいだろう」

何やらブツブツとつぶやいている火乃香に若干どころではないレベルで引いてしまう2人。

今回の火乃香は何かと気持ち悪い行動が目立つようだ。

「さて、姫柊さんここは南国の島だ。何が取れると思う?」

火乃香の唐突な質問にクエスチョンマークを浮かべるがすぐに質問の意味を理解した。

「ヤシの実です」

「正解だ。ヤシの実は水分を多く含んでいるから、水分に関しては問題ない。食料もロウ・キリシマが言っていた通りなら蛇がいるから、それを捕食しよう」

「うっへぇ蛇を食うのか?」

「今の状況で好き嫌いはできない。兵士たるもの、どんな時でもなんでも食べることのでる胃袋を持つべきだ。と言うことでお前は荷物番な」

「はぁ!?まてよ!?まじでか!?」

「この島には何が潜んでいるかわからない。だからお前は体力を温存しておけ。それと、無線機を渡しておこう。チャンネルは01だ。何かあったら連絡してくれ」

火乃香はそう言いながらカメラバッグから無線機を3つ取り出し、はそれぞれ渡した。

「クッソ…わかったよ」

「では解散」

そう言いながら3人はそれぞれの役目についたのだった。

 



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天使炎上3

古城と雪菜に持って来た無線機を渡した後、火乃香は森の奥へと歩いていた。

「………せやっ!」

そろそろと気配を押し殺しながら、順調に今夜の夕食となる蛇を捕獲していた。

「結構捕まえたが…念のためにもう少し取っておくか」

今、火乃香の手元には毒を持たない蛇が5匹いる。

だが念のために、もう5匹程度捕まえておきたいところだ。

ナイフを再び装備し直し、再び匍匐前進で慎重に蛇を捕獲していくのだった。

________________________

さて、火乃香にいらない子扱いを受けた噂の第四真祖本人である暁古城は、砂浜で体育座りをしながらのの字を書いている。

「火乃香にあそこまで言われるとは…」

とは言うものの火乃香の言うことは一理ある。

テレビなどでよく見るサバイバル番組と現実のサバイバルには雲泥の差がある。

あちらはキャンプ感覚の危険な目に決して合わない人工的に造られたサバイバルだ。

しかし、彼らが直面しているのは本物の、一歩間違えれば死に直結するような状況下に置かれたサバイバル生活だ。

吸血鬼である暁古城ならば死なないが、火乃香や雪菜は人間だ。

彼1人犠牲になるならばどうと言うことはないが、暁古城という素人(お荷物)を抱えての行動となると、いざという時に足手まといになる。

そう言った点で見ると、火乃香の判断は正解だ。

頭では分かっているが、2人だけに任せ、のうのうとただ飯を喰らうのは性に合わない暁古城は無い知恵を必死に絞り、1つの考えに至った。

「疾く在れ!5番目の眷獣!獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

古城はレグルスアウルムを召喚し海へと導く。

「そっとだぞ。そっと」

古城の言うことを聞きながらゆっくりと前足を水面に触ろうとする電気の塊。

そう、彼がやろうとしているのは水中に高圧電流を流し、気絶した魚が浮上したところを採ると言う電気ショック漁をやろうとしていた。

だが無い知恵を絞っただけあって、そうそううまく行くはずもなくー

「あばばばばばばば!?」

電圧が強すぎたためにあたりの海水が吹き上げ、水中にいた魚もろとも消し炭になってしまった。

「先輩?何をやっているんですか?」

後ろから聞こえてくる怒りに満ち溢れた声にビクつきながらゆっくりと後ろを向く。

そこに立っていたのは先ほどの海水をもろに浴び、全身ずぶ濡れの姫柊雪菜が立っていた。

「いや…それはその…電気を海水に流して魚を捕る方法があった気がしてそれで…その…」

イタズラを仕掛けているところを見つかり、シドロモドロに答える子供のような雰囲気で語る古城に雪菜は呆れ「もういいです。南宮先輩も戻ってきましたし夕食にしましょう」と言われ、項垂れながら火乃香の元へ戻ってきた。

「え…っと…これ…は?」

戻ってきた古城が目にしたのはサバイバルナイフで頭を斬り、蛇の皮を剥いでいる火乃香の姿だ。

「あ?蛇を捌いてる最中だよ?見ればわかるでしょ?」

「いや…まだ…生きて無いか?それ」

「そんなことを気にしてたら餓死するぞ」

そう言いながら着々と蛇を手慣れた様子で捌いていく。

そして木の枝に串刺しにし、焚き火の近くで炙る。10匹近くいた蛇を全て焼くと3人はそれぞれ蛇と雪菜が採ってきたヤシの実の水分で喉と胃袋を満たす。

「…意外とベビって美味いんだな」

「鶏肉みたいですね」

古城と雪菜が遠い目で海を見ながら呟いた。

不意に雪菜が火乃香に質問を投げかける。

「南宮先輩はその…夏音ちゃんがあんな状態になって、辛くないんですか?」

「辛いさ…凄くね…。でも俺のせいで夏音の方がもっと辛い思いをしているし、多分無事に救ったあと彼女の性格なら罪悪感に苛まれると思う…。だから夏音が辛くなっても俺にいつでも頼れるように表情には絶対に出さない…」

「…あんな事が起きたのに…南宮先輩は全く表情に出さないのは夏音ちゃんの為…だったんですね。南宮先輩、夏音ちゃんとの出会いって聞かせてもらってもいいですか?」

「いいよ。あれは2年前ちょうど中2の夏だったな。俺はアルディギアで王女の護衛の任期が終了して絃神島に帰って来た時に夏音が高校生にナンパされていて、その高校生を刀でちょっと脅して助けたんだ。彼女と初めて出会ったのはその時だよ」

雪菜と古城は状況が若干違うが自分達と似たような出会い方をしたことに驚いていた。何故なら、同じナンパを通して出会ったのにも関わらず、火乃香と夏音みたいに関係が発展せずに、雪菜の気持ちが宙にぶらぶらと揺れている状態だからだ。

「その日以降夏休みの間は彼女と出会いはしなかったんだけど、夏休み明け初日の下校の時にさ、夏音が大量のキャットフードを袋に入れて歩いていたから声を掛けて手伝ってあげたんだ。そこから暫くの間話したりしているうちに、自分の事をすべて話したんだ。夏音はそれでも俺を受け入れてくれた。1人じゃないって…。俺の罪を全て受け入れてそして赦し罰してくれたのはアルディギアの王女と夏音だけだったんだよ。彼女達に俺は救われた。だから俺にできる事は、彼女達に傷を1つもつけさせないこと」

最後の方は火乃香の覚悟だった。

「なんか…負けた気がします…」

「あれ?でもそのアルディギアの王女様の護衛とかについていたなら、なんつーかこう、そう!求婚とかされなかったのか?」

修学旅行で消灯時間後の暴露大会に似た独特の雰囲気になりかけている。

そういう雰囲気ではどんな堅物でもそういった話をしてしまう。

古城もその例に漏れなかったようだ。

「されたよ。でも、いくら吹っ切れた後とは言え流石にそこまで気持ちの整理ができるかっていうとそうでもなくてね…。とりあえず保留にしたままこっちに帰って来たんだ」

「え、まてそれって浮気じゃ…」

「夏音と王女同士はまだ会っていないけど俺が間接的に話しはしたんだ。だけど、2人とも別に構わないって言ってたよ。今回王女が日本に来るのは夏音に会いに来るためだから」

嘘は言っていない。

ラ・フォリアが来日する理由は失踪したアルディギア前国王の隠し子であり火乃香の恋人である夏音に会いに来る事だから。

因みに、ラ・フォリアとの関係性などについて、彼女は2人目でもいい事や、夏音が嫌だったら手を引くと言っていた事を、夏音が火乃香の見舞いに来ていた時に話して見た。すると、夏音は意外とあっさり2人目を許してくれた。

彼女にとっては友達ができるみたいな感覚だろう。無理をしていないか不安だった火乃香に、何処からこの話題を聞きつけたのか分からないが、阿夜が魔導書を使い本心を見たが、本当に気にしている様子はなかったと言っていた。

火乃香が意外と垂らしであった事と夏音と王女がお互いハーレムを容認している事を聞いた古城と雪菜は両手を地面につき項垂れている。

「お前…チャラくね?」

「まぁ…両者一応公認だから…まだお互い合っていないけど…。それに、私達以外に作らないでって言われてるし作る気もないし」

「南宮先輩…まぁ自覚がある分、何処かの無自覚な先輩よりはマシでしょう」

そう言いながら冷たい視線を古城に投げかける。さらに火乃香はお返しと言わんばかりに古城に問いを投げかける。

「そう言えば今日は金曜日だったな」

不意に火乃香が古城に向けて話題を振る

「そうだな…ってあぁぁぁあ!週末の浅葱との約束があぁぁぁあ!?」

「古城、財布の中身チェックしとけよ?」

より一層顔色が悪くなる古城の姿がそこにはあった

________________

夕食が終わり、焚き火を消した後、今後の為に交代で眠る事にした火乃香達。最初の見張りは雪菜。次は火乃香、最後に古城という順番だ。

そして火乃香が交代のために雪菜に起こされ、トーチカの横に荷物を全て持って座り込む。

「あの南宮先輩…水浴びしてきますね」

「無線機はきちんと手元に置いておけよ」

「はい。行ってきます」

そう言いながら森の中に入っていく雪菜。

火乃香は蛇を捕まえている時に、何箇所か池があったのを思い出す。

水は透明で綺麗だったように思える。少なくともジャングルの水よりはマシだろう。

しばらく海を眺めているとトーチカから古城が出てきた。

「姫柊は?」

「水浴びだ」

「そうか…やっぱりあいつも女の子だから水浴びはしたくなるのか」

「いや…たぶんどっかの誰かさんのせいで海水被って体がベタついてるんじゃないか?それとお前はどうした?」

「トイレだよ」

そう言いながら古城も雪菜と同じ方向へ歩いていく。

まさかとは思うが古城のラッキースケベに遭遇する確率は一般人のそれを遥かに上回っている。

火乃香は荷物を纏め古城の後をついていく事にした。

古城が宣言通り手近なところでトイレを済ませ、戻ろうとした時、水音が聞こえた。

「?誰かいるのか?」

そう言いながら水音がする方へ歩いき、草を掻き分けた古城の動きが止まった。

「?どうしたんだ?ここからじゃよく見えない」

火乃香が今いふ位置的に古城がどうなっているのかよく見えない。

古城は何かを呟いているようだがそれも聞こえない。すると後ろから全裸の雪菜が雪霞狼を持って近づいていく。

「先輩!?覗きにきたんですか!?」

「!?いや!別に覗きにきたわけじゃねーよ!」

そう言いながら振り向こうとする古城の肩に雪菜は雪霞狼を突きつけこちらを向くなと行っている。

そしてパーカーを着た雪菜は何処か恥ずかしそうにしている。

「古城はただ用を足すために来ただけだ。それは俺が保障しよう。それと古城そこに誰がいたんだ?」

「あ、あぁ叶瀬に似た人がいたんだ。けど叶瀬より身長は大きかったと思う」

「!そ、そうか」

その事を聞いた火乃香は安心したような表情を見せた。だが平和はそんなに長くは続かない。2人がトーチカのもとに帰ろうとしているが火乃香の第六感が危険を探知する。

「お前ら、トーチカには戻らない。イヤな予感がするこっちについてこい」

そう言いながら茂みの方を歩いていく。すると一隻のホバーボートが島に揚陸して来た。

ボートの横にはメイガスクフトのロゴが入っていた。

「メイガスクフト…!あいつら俺たちを!?」

「いいえ恐らく先輩が見たという夏音ちゃんが成長した人を狙いに来たのでは?」

「お前ら伏せろ!」

サーチライトがこちらを当たりを照らしている。

恐らく見つかってはいないだろう。

「見つかったか?」

「いや見つかっていないはずだ…ん?何か下船しているな」

船から降りて来たのは肩幅や背丈が同一の特殊部隊用の戦闘服を来たメイガスクフトの私兵部隊だ。

「げっ銃を持ってんじゃん」

「先輩達はここにいてください」

「バカかドンパチは俺の専門分野だ素人は引っ込んでろ。それにこういう事があろうかと対物ライフルを持って来ている。しかし…敵の装備は5.56ミリトランペットだけか…?」

敵は5.56ミリのアサルトライフルを装備しているだけだった。

手際よくライフルを組み立てマガジンをセットしスコープを覗き引き金に指をかける

「お前ら耳を押さえておけよ。音でかすぎて鼓膜が破れかねん」

「お、おぉ!」

2人は耳を押さえる。そして火乃香は引き金を引いた。

あたりには爆音が鳴り響き、音が大きすぎるが故に何処から狙撃されたのか逆に分からない。

一体のオートマタが倒れこみ火花を散らしている。次々とコッキングし引き金を引いていく。

マガジンには10発入っておりそれが3つ30発の弾を火乃香は今回の為に用意した。

敵部隊はおよそ40機。着々と火乃香はオートマタをスクラップにしていく。一方的な攻撃は約5分続いた。

「弾切れか!古城!姫柊さん!俺が飛び出したら岩陰に隠れろ!流れ弾に当たるなよ!」

そう言いながらコンバットナイフを装備しながら敵部隊に突っ込んでいく。

壊れたオートマタから銃を奪い走りながら銃を撃ち続ける。コンバットナイフで敵の首元を切り裂いていく火乃香。一時は勝てるかと思ったが、それも束の間、残り4体となったところで弾切れを起こしさらにナイフが折れた。

「チッ…まずいな…」

ジリジリとにじりやってくるオートマタに腰を低くし後退っていく姿を雪菜は見た。

その瞬間雪菜は手に持っていた雪霞狼を構え走り出そうとする。

その時、4体のオートマタが倒れた。

「皆さん!無事ですか!」

若い女性の声が聞こえ、その方向を3人は向くとそこには、紺色の軍の制服のようなものをスカートにしブレザーのように改造した服とブーツを履いた夏音によく似た少女が立っていた。火乃香は彼女を見て安堵した表情をし、雪菜と古城は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情で見つめる。

「先程も会いましたね?第四真祖…いや暁古城さん?」

「え、あぁえっと貴方は?」

「私はアルディギア王国国王ルーカス・リハヴァインが長女ラ・フォリア・リハヴァインです」

そしてと言いながら火乃香の左腕に抱きつく。

「火乃香とは愛し合っている仲です」

その表情はイタズラ心満載の表情だった。




はい、今回は以前から話にちょくちょく出ていたラ・フォリアが満を辞して登場しました。
そして火乃香がタラシである事を決定付けさせました。安心して下さい古城のように無自覚に作って行くのではありませんから!
それに火乃香のヒロインは2人だけですから!
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天使炎上4

いやーみなさん長らくお待たせしました。大学生になり新生活に慣れずにいる私です。とりあえず投稿しておきますができは悪くありません…。


「火乃香とは愛し合っている中です」

ラ・フォリアがイタズラ心満載の笑みを浮かべ古城達に言い放った。

「ほ、火乃香の言っていたこと本当だったんだな」

「南宮先輩………」

「あら?思っていた反応と少し違いますね」

古城と雪菜の反応が想像と違ったらしく、首を傾げながら呑気に考えるラ・フォリア。

「取り敢えず移動しましょう。私が乗ってきた救命ポットに案内します」

そう言い森を突っ切って反対側の海岸に出た。

そこにあったのは王族専用の救命ポットだった。

5日分くらいはあるだろうと思われる飲料水や非常食が入っているのは勿論、簡易ながらベッドもあり更には温水洗浄便座まで備え付けられているというなかなかに豪華だ。

外装は防弾製で周りには金箔が塗られ、避雷針なんかも備えられている。

火乃香は暫く救命ポットの中を物色しているとアンテナを見つけた。

「あった!これで外部と通信ができる!」

「本当ですか?火乃香?」

「多分ね!でもこれだとギリギリ絃神島には電波が届かない…ラ・フォリア、航空地図とかある?」

「確かこの辺にあった気が…ありました!」

そう言いながらラ・フォリアは航空地図を火乃香に手渡した。

「古城…お前、ここに来た最初の時に言っていたよな?数字をメモして意味あるのかって…見せてやるよこの島の位置さえわかればこっちのものだからな」

そう言いながら火乃香はスマホを取り出し絃神島からの飛行経路を書き出して行く。そしてこの島の位置がようやくわかった。

絃神島からおよそ100キロ程離れた小さな無人島だった。

「場所がわかったし、運がいいな…約7時間後にこの島の上空を雪風が通過する予定だから、無線機から救難信号を発信していれば助かるはず!」

「やりましたね先輩!」

「よっしゃ!これで戻れる!」

「ラ・フォリア、取り敢えずこれで助かる可能性が出たから現状の確認と君がこの島に流れ着いた理由を聞かせてほしい」

「分かりました」

手放しで喜ぶ2人に呆れながら取り敢えず現状の整理をしようと火乃香はラ・フォリアに提案するとラ・フォリアの顔に若干影が差したが快諾してくれた。

「古城、姫柊さん?喜ぶのは良いけど、状況を整理をするからこっちに来てくれない?」

そして、4人は夜明けの陽の光を浴びながら、確認に移る。

「で、あんたが絃神島に来る途中、メイガスクラフトに襲われたってのは本当なのか?ラ・フォリア」

古城はまず、現状の敵を確認することにした。

「はい。彼らはアルディギア王家の血筋である私の体が狙いです」

「血筋?」

古城は何故アルディギアの血筋が狙われるのかがわかっていなかった。

確かに王家ということだけあり、身代金目的などで誘拐すると言うのはわからない話ではない。しかし、身代金目的で聖環騎士団の船に突っ込み、ラ・フォリアをさらうと言うハイリスクローリターンの賭けに出るかと思うと普通はそんな事はしない。

「ラ・フォリア…話辛かったら、俺が代わりに話そうか?」

「いいえ…これは私が話さなければならないことです。火乃香」

「わかったよ」

彼女の目には確固たる意志が宿っていた。

「メイガスクラフトに雇われている叶瀬賢生は元はアルディギアの宮廷に仕える宮廷魔導技師だったのです。ですが彼の知る魔導奥義の殆どは霊媒としての王族の力を必要としています。だから危険を犯して私を拐おうとしたのでしょう」

「あんたと叶瀬の関係はなんなんだ?どうしてあんたたちはそんなに似ているんだ?」

古城の質問にラ・フォリアと火乃香は俯く。

「叶瀬夏音の本当の父親は私の祖父です…。15年前アルディギアに住んでいた日本人女性と道ならぬ関係になり、彼女との間にできた娘が叶瀬夏音なのです」

大きく目を見開く古城と雪菜に背を向け、海を見続けている火乃香と2人から目を背けるラ・フォリア。

あって数時間程度だがラ・フォリアは火乃香と同じく芯の強い人だというのを見抜いていた古城だが、この2人がこうまで暗い表情を浮かべているのに対し、ただ動揺を隠しきれないでいた。

「ちょっと待て…じゃぁ叶瀬とは…!」

「私の伯母ということになります。王位継承権は有りませんが王族の一員であることには間違いありません」

「お、王族…」

「最近彼女の存在が発覚し、王宮は混乱の最中にありますが、彼女は放っては置けない存在です」

ラ・フォリアは先程までの暗い表情から一転し、苦笑いを古城たちに浮かべる。

「混乱…と言うよりも、お祖母様がただ荒れてるだけ…じゃなくて?」

「火乃香?それは言わないお約束ですよ?」

悪戯っぽく火乃香にウィンクをするラ・フォリアを見てこの腹黒お姫様は何一つ変わっていないと言う事を改めて痛感したのだった。

「兎も角、夏音が叶瀬賢生の娘になっていると言うことは非常にまずい状態です」

そう言うと古城たちは俯く。それに察しがついたラ・フォリアは取り敢えず、夏音がどういう状態にされたのかを確認する。

「その様子では…もう…」

「あぁ…叶瀬は改造されて羽みたいなのを生やしていた…」

古城の一言でその場の空気が鉛のように重く感じた。

彼女が何故こんな事になってしまったのか?誰よりも優しさを持つ彼女が被験体に選ばれたのか?

そんな疑問が次々と湧いて出てくる古城を他所に、火乃香はただじっと水平線の彼方を見続けていた。

水平線からはそんな重たい空気を無視するかのように太陽が顔を見せる。

どの様な思いで彼が暁の水平線をただじっと見続けているのかは、古城や雪菜は愚かラ・フォリアですらわからなかった。

どれくらい経ったのだろうか。

次に状況が動いたのはそれから数分後だ。この数分間はかなり濃い時間だった。

水平線から一隻のホバーボートがやってきた。

「あいつら!しつこいにもほどがあるぞ!」

「待った!」

そう言いながら古城は再び眷獣を召喚しようとしたがここに待ったの声がかけられた

「なんだよ火乃香!早くあれを沈めなきゃまたやられるぞ!」

「よく見ろ古城!確かなあの船はメイガスクラフトのものだが白旗が上がってる!」

「対話を要求してるようですね…先輩…」

「クソッ!」

警戒心を剥き出しにした火乃香と古城を前に雪菜とラ・ファリアが後ろから続く。

ホバーボートは浜辺へ乗り上げゴムから空気が抜ける。

そして出てきたのは男女3名の集団とメイガスクラフトが開発したオートマタとは違う自動歩兵を引き連れながら目の前に現れた。

「あぁ!てめぇ!オッさん!よくも俺たちをこんな様に置き去りにしてくれたな!」

「おっさんじゃねぇよ!まだ29だっつーの!」

古城がいきなり絡んだ男性は古城達3人を置き去りにしたパイロットであるロウ・キリシマ。

もう1人は赤いジャケット着た女性…メイガスクラフトで受付フロントで対応した女。

そして最後の1人は白衣を着た以下にも研究者というような風貌の初老の男性だ。

「ラ・フォリア殿下ごきげん麗しゅうございます。またお美しくなられましたね」

初老の男性はラ・フォリアにそう挨拶する。まるで世間話のように…。

「ありがとうございます。こんな状況でなければお茶をしながら話したいものですね」

勤めて笑顔を崩さないようにしている。

「それは大変光栄だ。」

「けっ!あんたら何のんきに話したんだい!さっさとテストするんだろ!」

「まぁまてよ…殺し合いする前に1つはっきりさせないといけないことがあるんじゃねぇか?」

「あぁ?なんだあんたは…ってあの被験体の彼氏かよ…」

「火乃香君…君がここにいたことは想定外だ…」

「賢生さん…俺は別に、夏音になんて事したんだ!とか、何故こんなことをする!なんて事は言わない。貴方が何故このような事をしたかが問題ではないからだ…」

「火乃香!お前にとって大切な彼女(ヒト)なんだろ!?なんでそんなに冷静なんだよ!」

「彼女を救う方法は十分にあるからだ!それよりもメイガスクラフトには模造天使(エンジェル・フォウ)を作るための資金も資材もない筈だ…。どこから調達した?」

「それは言えない」

「まぁ何と無くは予想つく…」

「ほう…」

「なんの話だ?」

先ほどまで啀み合いをしていた古城が話に割り込む。古城にとっては賢生と火乃香が穏やかに会話しているように見えたのだろう。

はたから見れば穏やかに話を進めているようには見えるがそれは怒りが臨界点を突破し、逆に冷静になっている状態だ。

「あんたらメイガスクラフトはアメリカの兵器会社であるアームズテック社とつるんでいる事はそこの自動歩兵を見ればすぐにわかった」

自動歩兵…それはアームズテック社が開発した兵器。コンセプトは戦場で人員を失わないようにするため敵地への強行偵察用AI搭載型の二足歩行兵器。

「アームズテック社は軍事産業グループの1部門にすぎない。そのグループを束ねているのはプレイズマンティスグループであるのはもう調べがついている」

「それで?」

「このプレイズマンティスグループの傘下に民間軍事会社(PMC)がある…その組織はJAMの隠れ蓑であることも分かっている。つまりプレイズマンティスグループ自体がJAMと何らかの関係があり、その傘下であるアームズテック社と繋がりを持つメイガスクラフトはJAMから提供された資金を使ってエンジェル・フォウを造った…違うか?」

「アームズテック社からは確かに資金の援助は受けた…」

賢生は驚くのではなく、まるでこのことが予想できていたかのように冷静に火乃香の話を肯定した。

「あんたが犯した罪はテロリストとつるんだ事じゃない。自分の守るべき娘を改造したことにある。夏音はどこにいる」

「なーに、くっちゃべってるんだい!?早く模造天使(商品)を使ってプレミアをつけろ!」

赤いレザースーツを着たベアトリスが醜く顔を歪めながら賢生と火乃香達を睨む。

「待て!商品とはどういうことだ!?」

いきなり賢生が声を荒げた。彼のあずかり知らぬところで別のプロジェクトが進行していたのだろう。

「あぁそうさ。あいつは商品だよ!うちの模造天使(エンジェル・フォウ)が第四真祖と刀使い(ソードダンサー)をぶっ殺しましたって言うプレミアをつけりゃあ、クライアントは高く買ってくれる!」

歪んだ倫理観と言うのはこう言うことを言うのだろうか…。現代社会で生命についての倫理観で非常に揉めている。体外受精がどうとかクローンがどうとか脳死は死と判定するべきかとか、生きている人を改造するのは悪であるとか…。しかし、どちらにしろ、夏音は望んであの姿になったわけではないと言うことが確実に言える。

夏音があの祭りの夜、タワーの上に現れ、火乃香達に姿を見せた時に流した涙が全てを物語っていた。

火乃香の脳裏にその涙がフラッシュバックした。

「やっちまいな叶瀬夏音!愛する男をぶち殺して、ついでに第四真祖も殺っちまいな!」

そう言いながら懐からコントローラーパネルを取り出しそれを操作する。

ホバーボートから白い影が飛び出し空に羽を広げた。

「夏音さん…」

「ひ、ひでぇ」

「叶瀬さん…」

「…………」

次元を超越した夏音の姿に言葉を失う3人と漆黒の刀を鞘からゆっくりと抜き、その刀身にうっすらと血を流し込む火乃香。

「アッハハハハハ!刀使い(ソードダンサー)!今更カッコつけて刀抜いたところであんたはあいつに殺されるんだよ!助けられしない!」

バカみたいに高笑いをするベアトリス。その顔は勝ち誇った顔をしてはいるものの、醜く歪んでいる。

この女は不幸だ。火乃香はソクラテスやプラトンが見ればきっとそう思うだろう。彼らは善悪と幸不幸をイコールで結びつけている。

正しい善意の行動を示せばハッピーな気分になるし、逆に悪いことをしたらアンハッピーになる。そして幸不幸の差を決定付けるのはやはり『知』の存在だろう。己がどれだけ善悪についての正しい知識を持っているかがそのまま幸不幸につながっていく。善悪が分からなければ自分は今幸福なのか不幸なのか全く分からない。犯罪者や今目の前にいるベアトリスみたいな奴は自分は今ハッピーな感覚に陥っているが、それは違う。悪に手を染めればその時点で不幸になるのに彼女は全くそういう気配がない。無知というのは時に残酷な結果を生み出すこともある。それがいつかと問われれば今だろう。

ベアトリスとロウ・キリシマの横で絶望に打ちひしがれている叶瀬賢生は火乃香と古城、雪菜、ラ・フォリアに懇願するまで訴えてくる。

【夏音を救ってくれ…!私のバカな研究で苦しめてしまった夏音を救ってくれ…!】

そう訴えてきていた。

火乃香の中にある一つのスイッチが押された。

「おい。ベアトリス(クソビッチ)。お前今言った言葉忘れんじゃねぇぞそのままそっくり返してやる。お前ら覚悟できたか?特に古城てめーは民間人(甘ったれたクソ野郎)だか貴様にもし第四真祖(雑魚)としての自覚があるんだったらケツの穴閉めて奴らの○玉むしりとってこい」

いきなり口汚くなった火乃香に古城と雪菜は唖然としたがラ・フォリアだけはクスクスと笑っている。

海兵隊仕込みとは程遠いがそれでも十分口汚いだろう。

火乃香が受けた訓練で浴びせられた数々の罵倒の一つを引用しある程度丁寧な言葉に言い換えたつもりだ。

「kryyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!」

夏音が人が出す声だとは思えないような声をだし戦闘態勢へと移った。

 

 

 

 

 

 

 




次の投稿がいつになるかはまだ決まっていませんが早くこの章を終わらせなければと考えてます。
予定としてはあと2話、うまくいけば1話で完結するかもしれませんがその辺はわかりませ
ではまた次回!


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天使炎上5

みなさん大変長らくお待たせしてすみません。
中々、アイディアが舞い降りずにダラダラ書いてました…。
そして気づいたらUAが7000超えで作者びっくり!こんな駄作を読み続けてくれた皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです!



「kryyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!!!!!!!!!」

夏音から人が出せる音とは思えない機械的な音が発せられ、その光景をベアトリス達は見て高らかに笑っていた。

「古城!夏音には眷獣が効かないぞ!」

「やって見なきゃ分かんねぇだろ!疾く在れ、獅子の黄金(きやがれ、レグルス・アウルム)!」

電気を放ち上空から凶悪な爪を模造天使(エンジェル・フォウ)となった夏音に襲いかかる。

「?!」

夏音が素早く反応し、獅子の黄金(レグルス・アウルム)を光の矢で撃ち抜き消滅させた。

「貰った!破魔・龍王刃!」

辺り一面に立ち込める水蒸気に紛れ黒鋼に霊力を練り上げ刀身に血を流し込み居合術で空中を斬った。

霊力の衝撃波は真っ直ぐ夏音を縛り付けている術式に向かったが、あと一歩のところで効かなかった。更に血を刀身に流し込みながら雪菜と古城に合図し、古城は二体の眷獣を合成させ夏音へ攻撃を加える。

直接のダメージはなかったみたいだが以外と威力があったのかよろめき地面へ堕ちた。

その隙を逃すまいと火乃香と雪菜はそれぞれ得物を構え走りだし、夏音の背中についている不気味な目玉模様の羽を切り落としにかかる。

「ぬぁ!?」

夏音が本能的にこの場の最も脅威となりうる火乃香を蹴り飛ばした。

「大丈夫か火乃香!?」

古城が駆け寄り火乃香に肩を貸す。

「いってぇ…。少し腹にきた…久々にこんな強烈な蹴りを浴びたわ…」

ヘラヘラと笑いながらお腹を抑えながら立ち上がる火乃香を感情の失くした夏音はじっと見ている。蹴られたところから赤いシミが服に広がっていた。

「酷いなぁ…分かっちゃいるけどこうも拒絶されると落ち込むよ…」

遠くではラ・フォリアとロウ・キリシマが殺り合っている。だが体格もさることながら既に弾切れを起こしている呪式銃で勝てる見込みは限りなくゼロに近く、一旦体制を立て直すため火乃香達はゆっくりと後ろに下がり固まる。

その間ずっと動かない夏音は突然苦しみだし、感情が爆発した。

「いかん!堕天仕掛けている…!」

「ッチ!一旦下がるよ!」

賢生たちはその場を離れ、後に残った火乃香達は雪菜とラ・フォリアによって生み出された障壁で外の吹雪から身を守った。

南国の島は一瞬にして氷の塊に姿を変えたのだった。

「火乃香大丈夫ですか?」

「あーまーなんとか…死なことは無いだろうけど…手持ちの道具でどうにかできるかといえばわからないなぁ…取り敢えず刺さってる枝を摘出しなきゃ」

そう言いながら枝をゆっくりと取り出した。その瞬間、出血が酷くなったが構わずに手持ちの銃弾を取り出し火薬と鉛弾を分解し火薬を傷口に入れライターでその傷口を燃やした。

「!!!!!!!!!!!!!!」

表現することができないほどの痛みを味わう。その姿を見ていた3人は苦い顔をしながら火乃香を見ていた。火薬による傷口の消毒を行い、包帯を巻きモルヒネを打ち込みゆっくりと立ち上がる。

「これで暫くは戦える。古城、雪菜の血を吸っとけお前の中にいる眷獣を呼び起こす。安心しろ見ないから」

「いやいやいや何いきなり言ってんだよ!」

「そ、そ、そそうですよ!セクハラで訴えますよ!?」

「お前らは平和ボケしすぎだ!バカか!お前の中にいる眷獣に空間ごと食い荒らすやつがいただろ?あいつを掌握しないと夏音に掛けられた術式を完全に排除することができないんだよ…それと俺はしばらく眠る多分五分くらいだと思うからそれまでに決めてくれ」

そう言い残し火乃香は眠りについた。

古城の中に存在する

 

__________________________

火乃香は深い心理の底にいた。上と下の感覚も無ければ右や左すらわからない。何1つ光が存在していないのになぜか回りが良く見える。身体はふわふわと浮くような感覚はあるのにしっかりと地面を歩いている宇宙空間とは全く違った、この世の物理法則すら通用しないような不思議空間にいた。

「…………」

こんなに不気味な空間なのにどこか暖かい感覚に包まれ、どこか安心できる。いつの日か失った温もりに包まれながらゆっくりと目を開けた。

火乃香が目を開けたと同時に目の前から声が聞こえた。

幼い少女の声、見た目は十そこそこだろう。巫女服を着た黒髪のストストレートロングの少女だ。

「久しぶりだねぇ火乃香♪」

「嬉しがらないでくれ…」

「なによ!折角の感動の再会なのに!誑しの火乃香って呼んじゃうぞ♪」

いつもこうだ。目の前の少女は人をからかう事を何よりも楽しみとしている。

黒鋼(・・)あまり時間がないんだ。状況は見ていただろ?あとでいくらでも相手するから今は力を貸してくれ」

「黒鋼って呼ばないで!火乃香がつけてくれた名前で呼んでくれなきゃやだー!」

「…はぁ、黒歌…頼む夏音のあの術式を切断するために力を貸してくれ」

黒歌、火乃香がずっと昔この黒鋼を手にし、初めて彼女と出会った時にそう名付けた。

「よく出来ました♪では、私の力を解放する為の対価を提示しなさい」

今までの巫山戯た様子から一転し、真面目な様子で対価を要求してくるその姿は神秘的なものだった。

「対価は俺の寿命(・・・・)だ」

「貴方の寿命、あと何年かわかってる?」

「あぁ…」

「…………いいわ、貴方の今の寿命の5分の1である8年分を対価として受けとるわ…」

対価として寿命を5分の1持ってかれる即ち、火乃香は対価として渡す前は40年分の寿命だった。そして現在の残りの寿命は32年。

どんなに頑張っても彼は48歳で死ぬことになる。

だんだんと意識が遠のいていく中、目の前の少女は涙を流しながら儚い笑顔を見せている。

「もう…これ以上自分を傷つけないで…あ……を………る………」

声が聞こえなくなりゆっくりと意識が暗転した。

 

_____________________

「んっ……」

後頭部に柔らかい感触が伝わる。数回瞬きをし、まるでカメラのピントが合うように朧げにだが火乃香を見る顔が徐々に見えてきた。

まず先に目についたのが目の前には服の上からでも十分分かる豊かな山脈が見える。

色素の薄い髪の毛をした男子1人に銀髪ロングの少女が1人と黒髪セミロングの少女が1人見えた。

状況がはっきりしてきた。現在火乃香はラ・フォリアに膝枕されている挙句に頭をずっと撫でられていたみたいだ。かなり頭頂部に違和感があるのは言わないでおこう。

「気がつきましたか?火乃香?」

「あぁ、何とかな、それと膝枕ありがとな。絃神島に着いたらなんか礼をしなきゃな」

「気にしないでください。火乃香の為です。それでも何かお礼がしたいというなら…夜のいt「その話はここではしないでくれ!」冗談ですよ…1割くらい」

なにやら不吉なことを呟いた気がするがそこはスルーすることを固く決意した。

ラ・フォリアのこの手の悪戯にのってしまったらいつ何処で墓穴を掘るかわからないからだ。

何事もなかったかのように火乃香は話題を変えようと古城と雪菜に顔を向けた

「血吸い終わった?」

「「ブッ!!!」」

「何だお前ら俺が気絶してる間血吸ってなかったのか」

「「いや…それは…その…」」

2人揃ってオロオロしているところを見ると血を吸っていないか吸ったが掌握できなかったかのどちらかだろう。

「あら、違いますよ?古城はしっかりと雪菜の血を情熱的に吸ってましたよ」

「ちょ!ラ・フォリア!それは断じて違くてだな…!それはその不可抗力で仕方がないんだよ!」

「違う…仕方がない…ですか…」

また古城のデリカシーのない発言に雪菜が暗黒面に堕ちている。意外と雪菜はヤンデレ気質があるかもしれない…つかあるわ。

「てことは掌握できなかったのか」

「あぁ…」

「しゃーねーなー。ラ・フォリア、悪いがナイフを取ってくれ」

「どうぞ」

ナイフを手渡された火乃香はおもむろに手首に当て、リストカットをする。

「普通は直接首から血を吸った方が効率はいいんだろうが男に吸われる趣味がないから手首で我慢しろ、つっても手首に穴が開くの流石には嫌だから手首から流れる血でも飲んどけ変態」

汚物を見るような目を古城に向けながら血が流れている手首を突き出した。

こう言っては何だが火乃香は男だが格好をちゃんとすれば万人が認める美少女に早変わりなのだ。アルディギアにいた頃はラ・フォリアが面白がってレディース物を着せては街のお忍びに連れ回していた。

アルディギアの人々からは完全に少女と勘違いされ鬱病になりかけの状態で日本に帰ってきた。その時の那月と阿夜は大慌てでカウンセリングを施したり魔道書やら魔術を駆使して精神を回復させようと奮闘していたのはまた別のお話。

「じ、じゃぁ…悪いが頂くわ…」

そう言いながら手首を持ち血を吸い出す古城。

側から見たら特殊なプレイをしているようにしか見えない。

「…!」

急に古城の体が痙攣を起こした。

古城の体に熱いモノが魂を焦がし胃を焼き延髄から脳を一気に刺激する。

古城の体の中で今か今かと暴れ狂う瞬間を待ちわびているかのように、闘志を燃やす眷獣の気配を感じた。

「戦闘準備完了みたいだな」

「あぁ」

互いを見ながら力強く頷く。その姿はたった一人で一つの軍隊を潰す時の覚悟のように絶体絶命のピンチに立たされた主人公たちが反撃に出る瞬間のようでもあった。いや、まさにその状況なのだ。そしてここでもお約束というのがあるらしく、通信音が火乃香の胸にしまってある無線機から鳴った。

「雪風からか…どうした」

『雪風よりシルフへ、捜索目標D103のシグナルを確認しました。ポイント1053-286。これより作戦規定に従い沿岸警備隊(カーストガード)への救助要請を行います。許可を』

無線機からは人工知能が語る機械の音声が聞こえてくる。

「こちらシルフ、許可する。それと追加で当該空域の哨戒を頼む」

『雪風、roger、over』

雪風への作戦指示を終了させた火乃香は、刀を持ち周りを覆う氷のドームを破壊し随分と久しく感じる太陽光を体に浴びせた。

その頭上では、戦闘機のエンジン音とともに特殊電子戦闘機が旋回していた。

目の前には既に再上陸を済ませた叶瀬賢生を先頭にロウ・キリシマ達が待機し、睨み合う両者の横には天にも届くほどの氷の柱とその頂点に目を閉じたまま凍りついた火乃香にとって最愛の人である夏音がいた。

「ここから先は、俺のケンカだ!」

「いいえ先輩、私たちのケンカです!」

「夏音を、返してもらうぞ…!」

「人を弄ぶあなた達を、許すわけにはいきません」

それぞれの獲物(想い)構え(抱き)ながら走り出した。




次でこの章も最終回にしたいと思います
第4章は私がずっと書きたかった火乃香の所属するCFFと霞率いるJAMとの決戦と過去を明かしていきたいなと思っています。
ではまた次回!アデュー!
P.S皆さん某朝鮮半島の北に位置する黒電話の髪型をした将軍様から日本列島へプレゼントが贈呈されましたが…怖いですよねぇ特に寝てる時にアラートがなったので作者パニックでしたw


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天使炎上6

戦闘シーンとか大幅にカットしました。



ー闇の中へ意識が沈んでいくー

ー誰かが私に向かって必死で呼びかけてくるー

ー私はなぜか涙を流すー

ー私の記憶がだんだんと白く濁って見えなくなるー

ー大切な誰かを傷つけたー

ーごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイー

彼女にとって大切な人の笑顔だけが殺戮衝動を抑えている。

彼女にとって大切な人の声が押しつぶそうとしてくる黒い何かから必死に彼女自身を守っている。

彼女また、彼らと同じく自らのうちに湧く黒い衝動を抑えようと戦っている。

愛する彼からの最後に聞こえた言葉を信じて。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

「ちっ!数が多いな…古城!お前の眷獣であたりを蹴散らしてくれ!」

「おう!疾く在れ(来やがれ)5番目の眷獣、獅子の黄金《レグルス・アウルム》」

一個大隊相当の自動歩兵(オートマタ)は一瞬にしてただの鉄屑へと姿を変えた。未だに夏音からの攻撃はない。

「姫柊さん!ラ・フォリア!こっちは終わった!そっちは!?」

「南宮先輩!こちらは終わりました!」

「私も片付きました」

肩で息をしている雪菜と自らを精霊溶炉としてたからを使ったのか、若干輝いているラ・フォリアを見ながら苦笑する。

「さて、姫柊さんは夏音の結界と攻撃を分散して。俺が夏音の背中についている羽を斬るから古城は新しく掌握した眷獣の能力で斬った羽を食いつぶしてくれ、ラ・フォリアは賢生たちに手錠をはめておいて」

「「「はい(おう)!!!」」」

こうして、無事に夏音を救出し、戦闘中ずっと沿岸警備隊(コーストガード)に無線通信で救助要請を出していた雪風のおかげで、遅滞なくコーストガードと那月が氷漬けの島に到着し、囚人達を収容し島から離脱することになった。

ユキカゼはこの作戦により当初予定していた給油エリアへの到着ができなくなったためと来日したラ・フォリアの帰りの航空機の護衛の為、絃神島へ帰投することになった。

ーーーーーーーーーーーーーー

巡視船の一室に目を閉じたままの少女とその少女に似た少女そして火乃香がいた。

「結局、賢生が夏音を模造天使(エンジェル・フォウ)の被験体にした理由は不明のままか…」

「何を企んでいるのか分からないところが怖いですね」

「賢生が金に貪欲な人ならば話は単純だったけど実の娘同然に可愛がってたから余計に分からない…」

「ん…んん…」

「「!」」

2人の間に重たい沈黙がのしかかる中夏音が意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。

「こ、こは?何処でした…か?」

「夏音!ここはコーストガードの保有する巡視船の一室だよ。それより気分が悪かったり痛いところとか体が変なところはある?」

「大丈夫でした」

「そっか…一応医務官を呼ぶから少し見てもらおう?」

「はい…それと火乃香さん…私…私は…貴方を傷つk「気にしてないよ。辛い思いしたよね…?泣いてもいいよ」…うっ…」

不安そうな瞳で火乃香を見つめる夏音をそっと抱きしめながら背中を優しくさする。そしてひとしきり泣いたところでラ・フォリアが声をかけた。

「叶瀬夏音さん…初めまして。私はアルディギア皇女、ラ・フォリア・リハヴァインです。本日は貴女とお話しがしたいと思い訪ねた次第です。」

急に目の前に現れた自分と瓜二つの少女に目を丸くしながらも夏音はラ・フォリアの話を聞き入れた。

自分はアルディギア前国王の隠し子だったことや前国王の妻は夏音を王族として受け入れたいと言う話をしたが王族としてではなく一般人として生活したいことを話したり診察してもらった後の医務官と打ち合わせを終わらした火乃香に打ち解けた夏音とラ・フォリアが火乃香にどちらを選ぶかと言うことで詰め寄ったり、世間話で盛り上がった。ひとしきり笑いあったところで那月が入室してきた。

「さて、談笑しているところ悪いが叶瀬夏音には決めてもらわなければならないことがある」

「はい」

緊張した空気が部屋の中に流れた。

「メイガスクラフトが解体されることになった。そして必然的に社宅も売却される。そしてお前は色々と狙われる事になる。そこにいる腹黒王女の誘いを断った今、お前を保護する者がいない状態になる。

そこでどうだ?私の家に来ないか?」

「え…でも…」

「うちに来れば物理的に守ることもできるし、何より火乃香がいる。悪い話ではないだろ?」

挑発するかのように話す那月を見ながら火乃香は苦笑した。そこまで言ってしまったらもう彼女の答えは決まってしまったも同然だろう。

一回火乃香を見て俯きながら呟く。

「あの…よろしく…お願いします…」

その姿に苦笑しながらも南宮家がまた一段と賑やかになるなと感じた火乃香だった。

ーーーーーーーーーーーーーー

絃神島コーストガードの基地についた後、ラ・フォリアが雪菜と古城を抱きしめ出迎えにきていた浅葱に詰め寄られていた。

「ちょっと!あんた古城約束破ったわね!それにあの人は誰よ!」なんで叶瀬さんのそっくりさんがあんたに抱きついてるのよ!」

「ちょ!しらねぇよ!」

修羅場になる2人に目を輝かせながら地味に喜んでいる妹の凪沙と言うなんともカオスな空間の中に火乃香がわって入った。

「あれは欧米式の挨拶だから」

「火乃香、また改めて貴方の家に伺いますね」

「あぁ、わかったよ来るとき連絡してくれればこっちも助かるよ」

「えぇ、わかりました。でもしばらく後処理で会えそうにありませんね」

いたずらな笑みを浮かべながら流れるように火乃香を抱き寄せ唇を奪った。

軽くキスをしたあと名残惜しそうに顔を放した。

「お、おおおおぉおおま!」

「ちょ!火乃香!?あ、あんた…!夏音ちゃんがいるのに…!」

「これはもしかして!はなちゃんをめぐっての泥沼の三角関係に…!」

若干1名何か良からぬことを期待しているらしい。

「お姉様!抜け駆けはしないでください!」

「あら、別に良いじゃない♪」

それにと耳に近づけ何かを囁いた瞬間夏音が赤面した。また良からぬことを囁いたのだろう。

騒がしつつも日常が戻ってきた事に嬉しさがこみ上げる。

だがしかし、この静けさは嵐の前の静けさでもあった。

 




次回は日常回やりますー


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孤島の武装蜂起篇 First mission
孤島の武装蜂起篇


今回からオリジナル(完全オリジナルとは言っていない)ストーリーに入っていきます。頑張って長編にしたい。
青き迷宮の魔女とか観測者達の宴の話ははやりましぇーん!だって那月ちゃんとか阿夜とかLCOとか闇聖書とか過去の問題がないんだもん!てかそういう原作設定は引っ張ってきてないからね!仕方ないね!


「あっはははははは!ほらほら遅いぞ!追いついてみなよ!」

白い肌をした子供が高笑いをしながら闇夜の中を走り抜けた。

戦場にいた全ての人間の目にはその子供は白い悪魔のように映った。子供が通った道にいた兵士は殺され兵器は真っ二つに叩き切られていた。黒と白の刀を持ちその刃には赤い一本の細い線伝っている。赤い線を刃が取り込むほど刀の切れ味は増していく。

1人また1人と正規軍、魔族、反乱軍関係なしに上半身と下半身が切り捨てられていく。

まさにこの世の地獄だ。野外だというのにあたりからはナパームの独特の匂いと血の匂いが充満している。

奇跡的に生還した1人の軍人はのちにこう語った。

「やつは悪魔だ」と。

________

「……っ!」

勢いよく上半身を起こし辺りを見回す。豪華な装飾が施された部屋をゆっくりと見回す。

「…?火乃香?大丈夫ですか?相当うなされていたようですが」

隣から鈴を鳴らすような声が聞こえ、ようやく火乃香は正気を取り戻しゆっくりとその声の主に顔を向けた。彼女より少し身長が高く髪の毛が長いこと以外は瓜二つの外観を持つ裸の少女がこれまた上半身裸の火乃香に抱きついた。

「リア…ごめん心配かけたね…」

ここはラ・フォリアが滞在しているホテルの部屋だ。病院で夏音と別れた後一緒にいたラ・フォリアからディナーに誘われた火乃香はそれを快諾したのが運の尽きで、食事をした後はラ・フォリアの泊まるホテルまで送って帰るつもりだっだが結局なんやかんやで一夜を共にしている。

「シャワー浴びてくるよ…ってもうこんな時間かよ!?」

ふと枕元にあったデジタル時計を見ると時刻は5:30を指していた。

「まだ早朝ではありませんか?どうしてこんなに早くに?」

「今日は多感な囮捜査に協力しなきゃいけないんだよ…7時学校集合だから早く行かなきゃ…」

火乃香は朝からドッタンバッタン大騒ぎしながら学校の準備をして登校するのであった

___________________________

朝のモノレールというのはなかなかに混んでいるもので特に登下校中の女子学生を狙った痴漢が多発する時間帯でもある。乗車率150%以上を記録しているモノレール内で古城と雪菜はギリギリまでくっついていた。

「先輩…当たってます…!」

「し、仕方ないだろ!満員なんだから!」

「ひゃ!いい今胸触りましたね!?この変態」

「不可抗力だ!」

小声で話しているので周りに聞こえていないのが幸いだ。

「ん?あれ…うちの生徒…だよな」

古城が意識しないようぐるっと辺りを見回すと痴漢の被害にあいそうになっている彩海学園高等部の制服を着た女子学生に痴漢を働こうとする不届き者を発見した。

「痴漢か…?」

「先輩あの子を助けてあげないと」

「そうだな…。すみません」

そう言いながら痴漢魔の手を握ろうとしたときブレーキがかかりモノレールが停車し人がホームへなだれ込んで行く中古城の手が誰かに掴まれ…

「現行犯で逮捕します!」

「え…?」

妹の担任であり那月の後輩の笹崎岬がそこにはいた。

「馬鹿者痴漢はこっちで捕まえた」

後ろを振り向けばゴスロリではなく彩海学園の制服を着た那月とその後ろには見慣れない女子学生が立っていた。

「最近痴漢が多くてな囮捜査の一環だ」

「へー後ろの子がさっき痴漢に会いそうになってたけど大丈夫だったのか?」

「せ、先輩…」

「ありがとう暁さん私は無事よ」

「お、そうか…那月ちゃんどうしたんだ?なんでみんな笑いこらえているんだ」

「暁古城お前鈍感にもほどがあるぞ…ハハハこいつは火乃香だ」

「ウェ!?うそだろ!?え!?発作は大丈夫なのか…?」

「騒ぐな古城鬱陶しい。別に任務だと割り切ればどうということはないぞ!それじゃ後処理があるからまた後で〜ほら行くよ姉さんとワンコ」

そう言いながら火乃香達3人は颯爽と消えていった。

「何だったんだ?」

「さ、さぁ…」

2人は茫然と立ち尽くしたのだった。

__________________________________________

女子の制服から着替えた火乃香は鬱陶しいほどうるさい朝のクラスに足を踏み入れた。

やはりというべきかほとんどの会話が今朝の痴漢の話題だった。

やれ古城が痴漢に間違われただの那月ちゃんがうちの制服姿でウロついてただの大抵ろくな話ではない。

「火乃香〜古城〜中等部の聖女ちゃんからご指名よ」

学級委員の月島倫が夏音が来ていることを知らせる。声がいささか大きかったせいか色々と注目を浴びる。火乃香は別に浴びはしなかったが例にもれず古城にはクラスの男子による死線が突き刺さる。

女子は女子で先ほどまで話題にしていた痴漢から修羅場か修羅場かと期待する目で2人を見続ける。

「夏音、凪沙ちゃんおはよう。夏音、無事退院できそうだって話だね」

「ヤッホーほのちゃんおはよー」

夏音と夏音の後ろからひょっこり顔おだした凪沙に挨拶を忘れずにする。

「叶瀬さん退院したのか?」

「はい、おかげさまで無事でした」

微笑む夏音を見て火乃香はひっそり心の中でデレていた…勿論表には出さない。

「そうか…あれ?退院したら今度どこに住むんだ?」

「そ、それは…」

南宮家(うち)で暮らすって話になってるよ。放課後引っ越し荷物がうちに届く予定だ」

「え!夏音ちゃんとほのちゃんが同居!?これはもしや…」

何か変なことを想像しているらしい凪沙は顔がゲスいことになっている

「こりゃ那月ちゃんが大変だな…毎日甘ったるい光景見せられて」

古城は明日からげんなりとした表情でHRにやってくるであろう那月ちゃんを想像して苦笑いをしていた。

__________________________________________

「こちらアルファ分隊配置についた」

「こちらヤンキー分隊了解配置についた」

「アルファ1より全機へこれより突入作戦を開始する。目標はアルマース隊所属天童火乃香周りの生徒には一切傷つけるな」

「「「roger」」」

「突撃」

 

 

「!?」

突然火乃香に謎の警告音が聞こえた。

「?火乃香?どうした?」

「全員窓から離れて耳を抑えて伏せろ!目を開けるな!」

「おいおいいきなり叫ぶなよ!戦争ボケか(笑)?」

クラスの人は誰1人として火乃香の忠告を無視し笑っている。平和ボケした人間にはわからないだろう。だがその数秒後に教室と廊下の窓が割れ、フラッシュバンが教室に投げられた。

火乃香は急いで目と耳を抑え、閃光と音響から身を守った。

そして爆発と同時に襲撃犯が窓を破り教室へ突入した。

教室内で銃を撃つこともできるが混乱状態の生徒や何よりも夏音や凪沙がいる手前、銃をむやみに打てば2人に被弾しないという保証もないことを悟った火乃香はすぐさまCQBへと移る。

教室に突入した2人をベクトルに逆らわずに投げ飛ばし、ようやく状況が掴めた時には既に遅く、夏音と凪沙の背中に銃が突きつけられていた。そして同時にエンブレムで襲撃犯の所属もわかった。

「貴様…どういうつもりだ」

「同行を願う」

「拒否させてもらう貴様らに指示を受ける筋合いはない大佐からの直接命令以外では動かない」

「総司令からの命令だ」

「なっ!聞いてないぞ!」

火乃香は驚嘆する。大佐ならばこのような無駄なことは決してさせない。それだけ緊急の作戦が立てられるのだろうがこれはあまりにも非効率的すぎる。もっと上手くやるはずだ。様々な思考を巡らすが、残念ながらほとんど手持ちの情報を持たない火乃香にとってはそれらの思考で得た結論はほとんど意味をなさない。

「火乃香さん…!」

「ほのちゃん…古城くん助けて…」

「2人ともそのまま動くなよ…!」

不安そうな2人の声に古城は落ち着かせるかのように伝える。

「こんなことが許されると思っているのか?民間人に銃を突きつけ、挙げ句の果てに隠密作戦すらない…!貴様ら後でしばか倒してやるから覚えておけ…!」

「ご自由にどうぞ…やれ」

「うぁ!」

意味深な事を呟いたと思った次の瞬間、火乃香は気絶し倒れ込んだ。

「時間がかかりすぎた。急いで回収しランデヴーポイントまで移動するぞ」

「お、おい待ちやがれ!」

古城は火乃香を連れ去ろうとする襲撃犯に拳を叩きつけようとする。

「いいのか?お友達が死ぬぞ」

「うっ!」

気絶している火乃香の頭に銃を突きつけられるのを見た古城は全ての戦意を根こそぎ持っていかれ膝から崩れ落ちる。

その後ろで夏音は凪沙に支えられながらも泣いていた。

不気味な静寂を残し、火乃香を担いだ襲撃犯は窓から脱出し、あらかじめ用意していたであろうワゴン車に乗り込み何処かへ行ってしまった。

彼女達が次に姿を見たのは約1週間後のニュースだった

そしてこれから起きる出来事は後に世界最小規模の戦力による世界最大規模の被害をもたらすことになる第三次世界大戦の幕開けでもあった。

 

 

 

 




みなさん10月22日は選挙ですね!誰に投票するにせよ選挙にはしっかりいかなければ!ではまた次回!


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孤島の武装蜂起篇2

火乃香が拐われたからクラスは朝の喧騒さを失っていた。

誰1人として口を開かず動くことすらしない。廊下や他クラスの笑い声が静寂に包まれた教室内にまで響く。それがどうにも煩わしいと感じながらもやはり動くことはできない。

HRの開始を知らせる予鈴が鳴るが、座席にに座ることもしない。

那月がそんな教室にいつものように入ってきた。

「お前らHRを始めるから席につけ」

クラスは一斉に那月を睨む。

「なんで早くに気づかなかったんだ?那月ちゃんならいくらでも気づけたはずd「暁古城それ以上口にするな。この教室で何があったかはわかっている」…なら!」

「それができなかったんだ。上からの命令でな…今はこれで許してほしい」

あの天上天下唯我独尊を貫く南宮那月が生徒の前で頭を下げた。それが意味することは誰にでもわかった。いつまで続くかわからない重苦し日々が幕を開ける。

 

____________________________

機内の中で火乃香は目覚めた。手錠や猿轡といった拘束器具がつけられていない事を確認していると、部屋に襲撃犯の1人が入ってきた。

「申し訳ありません少佐。あのような拉致まがいな事をしてしまったのには訳があります」

「言い訳は聞かない…事情は大佐に聞く繋がってるんだろ?」

襲撃犯…もとい第2特務隊通称サピロス隊所属の男を睨みつけるが男ははモニターを火乃香の前にセットし電源を入れる。

すると画面の向こうには今回の襲撃を手引した黒幕がコーヒー片手に待っていた。

「どういう事なんだ大佐?」

「まぁそんなカッカするな。いきなり拉致られて憤ってるのはわからないでもない。がまずは私の話を聞け」

「俺は夏音に手を出した事を!」

「だから話を聞くんだ!いいか?約2時間前とある島で演習が行われていたところを潜り込んでいたJAMの奴らが島を乗っ取った。そして奴らは国連軍が保管するとある武装システムを要求してきた。人質はアメリカ合衆国国防省付属機関先進研究局局長ドナルド・アンダーソンとアームズテック社社長ケネス・ベイカー社長だ」

「まて、国防省長官はわかるだけどなぜアームズテック社の社長だ?奴らはアームズテック社を隠れ蓑に使っているはずだそんな組織のお偉いさんを人質にって意味がない気がするが…」

「アームズテック社は米軍や第三世界向けに兵器を提供しているからな、何も知らないホワイトハウスは表の顔を見て今慌てはためている」

「ホワイトハウスの地下がお祭り騒ぎなのはわかった。肝心なタイムリミットは?」

「あと22時間だ。もし要求が飲まれなければ核を発射するといってきた」

「核だと?」

「あぁ。情報によれば移動式のミサイル発射台らしい。そして、厄介なことにステレス弾頭だという話だ」

「ステルス?」

「今までのミサイルでは燃料の噴射によってどうしてもレーダーに探知されるが、レールガンによって打ち出すことでその問題をクリアしたらしい。島に囚われた開発者のタレコミだがな。

よって火乃香、君の任務は2点だ

アメリカ合衆国国防省付属機関先進研究局局長ドナルド・アンダーソンとアームズテック社社長ケネス・ベイカー社長の救出と開発者のハル・エメリッヒ博士の協力のもとで、JAMのミサイル発射能力有無の確認ともしミサイル発射が可能だと判断できた場合はそのミサイル発射システムの破壊だ」

「作戦はわかった。潜入経路は?」

「現地は今、台風が直撃しているからHALO降下は不可能だ。よって、太平洋を横断中の第7艦隊と合流し、ディスカバリーに積み込んだ単独潜水輸送艦ノーチラスで島から約20マイル手前まで接近し、輸送艦は放棄、後は泳いでくれ。

武器装備の支給はない唯一支給されるとすれば双眼鏡くらいだろう。後は現地調達だ」

「単独潜入か…まるで昔やったゲームのパロディだな…つか状況や名前がほぼそのまんまなきがする」

「そういうな火乃香。作者はそのゲームのシリーズがお気に入りなんだ許してやれ」

「大佐あんたちょっとメタいよ?!ただでさえくそつまらんこのSSが更につまらなくなっちまうだろ!」

「お前もなかなかひどい言いようじゃないか、それだけ軽口叩けるんだったら余裕だな?」

「もち」

潜水艦ディスカバリーに乗船した火乃香は作戦のメディカルサポーターのナオミ・ハンターに注射をしてもらった。1をプレイしてくれた人にはわかるとおまうが注射の内容は彼が打たれた注射とほぼ同じものを含んだ注射だ。唯一違うところといえばFOXDIEが入っていないところだろう。

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狭い空間の中で息を押し殺しながらハッチが解放されるのを今か今かと待ち構える。

暗視機能のついたカメラからの映像をディスプレイが映し出していく。ディスプレイからは外の景色が見ることができ、所々にサンゴや魚が泳いでいるのを確認することができる。ディスカバリーから射出されてから約1時間が経とうとしている。もうそろそろかと思った時ノーチラスが揺れ、ハッチが解放された。ここからは泳いで地下のドッグへ潜入しなければならない。

泳ぎ続けること1時間で地下の搬入ドッグについた。

様子を見る限りコンテナが一定の間隔で積まれていてその奥に地上へ行くための昇降エレベーターが見える。

火乃香は迷わずそのエレベーターへ乗り込み地上へ出る。

どんな作戦でも報告連絡相談は必須事項であるため一応本部と通信を取ることにした。

「こちらアルマース1潜入に成功した。これより任務を開始する」

『こちら本部了解。タイムリミットまで18時間をちょうど切った。それと先ほどハワイ州ヒッカム空軍基地から陽動作戦(フェイントオペレーション)のためF18二機が出撃した。地上の様子はどうだ?』

「まってくれ…ハインド!?ロシアの戦闘ヘリ(ガンシップ)が駐機している。敵はほとんどロシア製だAK47やパイナップルを装備している…それと…っ!」

『どうした』

「霞…いやコードネーム蒼き殺戮者(ブルーブレイカー)がいたハインドを出すみたいだ会話はあまり聞こえない」

ほのかの目先にいたブルーブレイカーもとい天童霞はハインドDに搭乗し、出撃した。火乃香の頭上をわざわざ通過して行くところを見ると既にこちらの参入に気がついているのだろう。よくは見えなかったが口角が若干上がっていた気がする。

『でもこんな嵐の中ハインドを飛ばすなんてバカよね』

「誰だ?」

『初めましてアルマース1私はメイ・リンよあなたのレーダーや通信システムをサポートしているわ。あなたが使ってるそのレーダーも私が開発したの。ソリトンレーダーって言うのよ』

そこからソリトンレーダーについてある程度レクチャーを受けたあと唐突にメイリンが話題を晒した

『でも驚いたわ』

「なにが?」

『だって世界のCFFが誇る最強の切り札がこんなに可愛らしい男の子だったと言うことよ!私より若いじゃない!』

「よせ…これでも結構気にしてるんだ。それに君だって十分若い。そんな君がソリトンレーダーなどと最新技術の開発者だなんて考えられない」

『あら、最強の切り札に口説かれた?』

「口説いたつもりもなければ口説こうと言う下心もない」

『えー!まさかそっち系?』

随分と失礼なことを言う人だと火乃香は思った。

『メイ・リン…彼をからかうのはやめたほうがいい。アルディギアの王女様と彼の後輩に睨まれるぞ』

「そう言うことだ生憎俺の左右の席は埋まってる」

『は、ハーレム系だったの…。意外だわ』

「まぁなんにせよお互いの職業に偏見を持っていたみたいだな」

『そうね、これから18時間よろしくね』

何かブツクサ言っていたがこれ以上話し続けると収拾がつかなくなるので話を強引に切り上げ通信を切って任務に集中することにした。

 

 

タイムリミットまで残り17時間50分

 

 




ぶっちゃけ一万文字くらい書いてから投稿しようかと考えていたんですが、長文は趣味に合わないのでやめました。


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孤島の武装蜂起篇3

メイ・リンとの通信を終えた火乃香は改めて現場の地形を確認する。

中央には先ほどまでハインドDが飛び立ったヘリポートがありその先にある戦車格納庫と思われる建物の二階部分に相当する位置に設置されたサーチライトによって一定間隔でヘリポートが照らされている。

そして火乃香から見て左には武器庫と思われる部屋が1つあり、左側は少し丘のようになっていて、その上にコンテナが乱雑に置かれている。そのあたりを歩哨一名が巡回している。

火乃香としては武器庫に行きたいが、もしそうなるとしたらヘリポートの真ん中を突っ切っていくことになる。幸いサーチライトは全体を照らしているわけではないので、照らされていないところをうまく歩けば、見つからずにたどり着くだろう。

そう判断した火乃香はタイミングを見てヘリポートを突っ切り武器庫へ侵入した。入り口には監視カメラが設置されていたが、死角を利用し難なく突破した。

武器庫には敵の目を潰すフラッシュバン、電子機器を撹乱するチャフグレネード、そしてありがたいことにMk.23ソーコムピストルが保管されていた。ソーコムにはサプレッサーが装着されていたので発砲音を気にせず打つことができる。この状況では心強い装備だ。

他にも探ると赤外線暗視ゴーグルとレーションがあった。

部屋をある程度見渡した時、この場で超重要アイテムを見つけた。

それはカードキーだ。

大佐から聞いていたが、この施設の扉にはそれぞれカードキーが必要になっているらしい。カードを見るとLv1と書かれているので、おそらくそのレベルの扉が開く。

ここで本部から無線が入った。

『嵐で戦車格納庫の扉は閉まっているようだな』

「ノックしても開けてくれなさそうだな」

『別の入り口を探すしかないみたいだな…周りに侵入できそうなとこはあるか?』

「兵士が居眠りしているその下にダクトが一箇所、上にももう1か所ありそうだけど確認できないから下のダクトから潜入する」

『気をつけろよ』

「わかってる」

とりあえず兵士の頭上にいやらしいまでの監視カメラがある。

装備からレーションを取り出し敵兵に投げつけ、起こしダクトの前から動かす。チャフを使い監視カメラを撹乱させ、狭っこいダクトの中を這いずりまわった。

中にいたネズミの誘導もあって無事戦車格納庫内に出ることができた。格納庫内には、歩哨4名と戦車が二台鎮座していたがその鎮座している戦車に問題があった。

「!ハインドの次はM1かよ!なんなんだこの組織…」

呆れて声も出ない。

ロシア製のヘリの次は米軍の主力戦車ときた。しかも中にいた歩哨の装備を見るとAK47からM4やM16に変わっている。それらだけならまだしも、M14というWW2時に使われていた骨董兵器まで使用している。このままだと89式やF2000、果てはジャムおじさんことL85が出てきてもおかしくないと感じる。

「めちゃくちゃだ…まるで警察予備隊創設の装備品並の入り乱れようだな…」

二階にあるエレベーターに乗っている最中につぶやく。

とりあえずダーパ局長が捕まっていると思われる地下一階に降りてみた。

『アルマース1、レーダーをよく見て!右上にダーパ局長の反応があるわ!』

「確認した。とりあえず扉のセキュリティレベルは1みたいだからさっき手に入れたカードで開きそうだ」

カードをかざし、扉を開ける。独房は2つあるらしく、手前の独房にダーパ局長の反応が示されている。

独房の扉についているのぞき窓から鼻をつんざくような腐った臭いがする。

火乃香はこの臭いに顔をしかめると同時に中の様子が手に取るように想像できた。しかしこれは任務だ。いくらわかっていたからといって、何もしないわけにはいかない。中に入ると案の定想定していた光景が広がっていた。細かく描写すればおそらく別の意味で18禁になってしまうのであえて描写しないがそれほど凄惨なものだった。

激しく拷問を受けたような傷が身体中に残っていた。

「大佐…ダーパ局長は死んでいる。死後3日ってところだ」

『…わかった、この調子だとドナルドアンダーソンも死んでいるかもしれないな』

「不吉なこと言うなよ大佐」

『悪い』

そう言いながら地下二階に降りるとそこは巨大なコンクリート製の支柱が何本も立ち尽くしていた。それぞれの支柱は空洞であり入り口にはセキュリティロックのかかったドアが付いていた。

とりあえず、それぞれの部屋に入るためセキュリティレベル1の扉を片っ端から開ける。

結局この場で見つかったのはソーコムのマガジンを3つグレネード1つとC4爆弾4つだった。

ここにくる前戦車格納庫で盗み技いた話だったのだが地下二階は何箇所かの壁をコンクリートで塗り固めているらしくまだそれが乾いていないらしい。

ちらりと周りを見たら確かに所々周りのコンクリートの色と違う壁がある。

火乃香は持ち前の超直感で、適当に塗り固められた壁にC4を設置し、起爆させる。

相当な爆発音だったが、敵が駆けつけてくる様子はない。

罠の可能性もなきにしろあらずだが、破壊した壁の先に侵入した。

壁にはむき出しの岩があることから、洞窟をそのまま利用しているのだろうと予想できる。明かりも白熱電球が点々としているだけなのでそれだけでも寂しさを醸し出す。

3回ほどC4で壁を破壊したところで爆薬を使い切ったと同時にようやく目的の人物を見つけることができた。

ターゲット、アームズテック社社長ドナルドアンダーソン。彼はワイヤーで縛られている。

「ドナルドアンダーソンだな」

「触るな!」

ワイヤーを外そうと手を伸ばした瞬間社長は叫んだ。

「ワイヤーの先をよく見てみろ!触ると爆発するぞ!」

「わかったから叫ぶな」

「き、貴様…誰だ?」

社長が警戒しながら火乃香に尋ねた。

「俺はあんたみたいなロクでなしを助けるために送り込まれた哀れな傭兵(ポーン)だよ」

「そうか…」

「しかし困ったな…これじゃ外せn…!?」

突然銃弾が飛んで来た。コツコツと足音が聞こえたのでそちらの方向を向くとリボルバーをくるくると回しながら悠々と歩くまるで西部劇に出てくる初老のガンマンの格好をした男がいた。

「私の銃弾から12発以上逃れることのできた奴はこの世にいない。私は銃弾の声を聞くことができる。私の名はリボルバーオセロットだ。精々楽しませてくれよ国連の犬め!」

オセロットと名乗る男が中二病のように颯爽と登場し、西部劇でおなじみのシングルアクションアーミーを使ってガンプレイを披露しながら発砲してきた。

(うわぁ…時間がないのにめんどくさいおっさんに出くわしたなぁ…)

警戒しつつ内心はグダグダと愚痴をこぼしているのだった。

 

 

 

タイムリミットまで残り17時間



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孤島の武装蜂起篇4

「私の銃弾から12発以上逃れることのできた奴はこの世にいない。私は銃弾の声を聞くことができる。私の名はリボルバーオセロットだ。精々楽しませてくれよ国連の犬め!」

オセロットの撃った銃弾は壁を跳弾し4本の支柱を避けて追ってくる。

まるで、高性能追尾ミサイルにロックオンされ追いかけられている戦闘機のパイロットの気分を味わう。

「くそっ!舐めやがって!」

支柱から飛び出し発砲するがオセロットは難なく避ける。

ジリジリと(プレムシャー)が火乃香の周りを纏わりつくその感覚に目眩と幻覚をもたらしながらも何処かもう1人の自分はその感覚に歓喜打ち震えていた。

このようなやりとりがベイカー社長を挟んで十分近く続き、火乃香の持つソーコムの弾が底をつきかけた時のことだ。

「やるな!さすがボスの弟といったところか…愚か者に育てられた割には粘るな。だが次は外さない!」

そう言いながら銃口を向け、引き金を引こうとした瞬間オセロットの右腕を切り落とされた。

「ぬぉ!う、腕があぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「お前は!?」

天井から突然サイボーグを纏った忍者のような者が現れたのだ。そして忍者はオセロットの腕だけではなくベイカー社長を縛っていたワイヤーを斬りそのまま何処かへ行ってしまった。

「邪魔が入った!また会おう!」

「会いたくねーよ!!!!」

オセロットが捨て台詞を吐き散らし、火乃香はそれに答えるように拒絶反応を示したが、のちにあのような形で出会うとは今の火乃香は想像してすらいなかった。

「社長、大丈夫か?」

「あ、あぁ…すまないな」

「色々聞きたいことがあるが、核について聞いておきたい」

「全てこの中に入っている…新型核兵器のデータが…それと、PALキーを渡す。これがあれば核の発射入力コードが打ち込まれていても緊急解除できる」

「わかった。それで奴らの持つ核兵器はどんなものだ?」

「あぁ、あれは米軍…国防省と共同で開発していたものだ。君もブリーフィングで聞いたと思うが、核ミサイル自体の材質に電磁波吸収シートを使い形をステレス戦闘機に似せることでレーダーに探知されないステレス核弾頭に仕上げることができる…」

「発射方法も違うと聞いているけど」

「あぁ…超電磁砲(レールガン)を使って弾道を射出するから、ロケットの噴射を探知されることもない」

「そうか。最後に1つだけ、お前たちは国連軍が保有する秘匿兵器システムの要求と言っているが、それはなんだ?」

「!驚いたな…CFFの第一特務隊に所属しているからには、その辺りのセキュリティクリアランスを持っていると思っていたが…ぬっ…!?うぉぉぉぉぉ!!」

「社長!?どうした!しっかりしろ!」

「くっ…オセロットめ…!あの…注射は…!」

ベイカー社長は何か言いかけた途中で倒れた。

何が起きているのかわからない。火乃香がいま認識できるのは救出対象のうち2人が死亡してしまったという事実だけ。もしかしたら内部告発した科学者とやらもこの2人と同じようにすでに死んでいる可能性がある。火乃香の頭にそんなな考えが浮かぶ。しかし、1戦闘員の火乃香はこの事実をありのまま報告しなければならない。

「大佐!ベイカー社長が死んだぞ!」

『心臓発作のようなものだな…』

「科学者は生きていると思うか?」

『わからない』

「…大佐…。ブリーフィングの時から思っていたんだが、あんたにしては今回の作戦、随分とずさんじゃないのか?ほとんど知らされていない。なんだよ秘匿兵器って?アルマース隊に入ればほとんどセキュリティクリアランスは持っていると思っていたんだが…他の連中は知っているのか?」

『答えられない』

ゆっくり事実を確認するように問い詰めた火乃香だが、稲垣は飄々と受け流した。この反応で火乃香は今回の作戦におけるバックアップに失望した。

「…わかった、ただこの作戦が終わったら覚えておけ…。それと5年前に死亡していた筈の雷電が生きていた」

『雷電が…』

『アルマース1それは本当?』

今まで黙り込んでいたナオミがいきなり声を荒げた。

「間違いない。あのサイボーグと刀はあいつだ…ただ…正気を失っているように見えた」

『薬物実験を受けているようね』

「メイリン?なぜわかる?」

『JAMのデータベースにハッキングしかけてみたの。色々な薬物が投与されてるみたい』

ならなぜ奴らのデータベースから

『麻薬まで投与されているわね…』

「あー…ナオミ、今雷電にどうな薬物を投与されているとか言わなくていい。俺が聞いたところで何もわからないから」

『えぇ…ただ彼に会う時は気をつけて』

「わかった」

通信を切った火乃香は先ほどのサイボーグ忍者について知ることができた。

雷電ー彼は約5年前第一特務隊に所属していた4人のうち1人だった。

とある作戦に駆り出されたのだが、敵に捕まり捕虜として手酷い扱いを受けたらしく、火乃香が雷電の代わりに作戦を遂行するため敵地に潜入していたのだが、その時独房を通りかかった火乃香は彼の死体が独房の中で放置されていたのを見た。

死んだはずの忍者、本作戦のバックアップ体制への疑念、そして上層部が隠したがっている秘匿兵器と核弾頭。更にはオセロットが呟いた愚か者…様々な疑念と自分の知らないところで何か重大な出来事が起ころうとしている。そう感じずにはいられなかった。なぜなら、火乃香の第六感がそう囁いているからだ。

だが、このまま何もしなければ確実に自分が滅んでしまうので、前進することにした。

とりあえずベイカー社長の死体をそのままにすることはできないので、どこか隅に安置しようと身体を引っ張ろうとした瞬間カードキーが落ちた。しかもカードキーのレベルは5だ。

「カードキーか…拝借しておこう」

死体を漁るのは趣味ではないが今は丸裸も同然の状態だ。使えるものは何でも使わなければならない。

ベイカー社長を隅に安置し、手に入れたカードキーで先ほど開けることのできなかった武器庫の扉を次々と開けていく。

手に入れたのはアサルトライフルのM4とスナイパーライフルM24SWSだ。あとはチャフグレネードやスタングレネード、通常のグレネードを手に入れた。

エレベータへ乗り込み戦車格納庫に出てみると先ほど鎮座していた二台のM1戦車が一台に減っていた。

恐らくどこかへ行ったのだろうと予想をつけ、戦車の行方も気にしつつ核弾頭保存塔へ行くために平原を抜けるためセキュリティのかかったシャッターの前まで行く。しかもシャッターの大きさはちょうど”戦車一台”が通れるほどだ。

シャッターをカードキーで開ける。ゆっくりとシャッターが上がり中へ入ろうとするとシャッターが閉まった。

薄暗い道だと思いながら先ほど手に入れた赤外線暗視ゴーグルを装着し、電源を入れると、壁からセンサーがため出ていた。

大佐から通信がきた

『アルマース1、気をつけろエアロックだ』

「みたいだ…通り抜けるにはちょっと時間がかかる」

エアロック…センサーに触れると有毒ガスが部屋に充満し侵入者を殺すシステムだ。

うまく赤外線を避けながら無事に渡りきった火乃香は平原に出るとまた無線通信が入った。

知らない周波数に警戒しつつも通信に出る。

『アルマース1気をつけろそこは地雷原だ。しかもその先にM1が待ち構えている』

「雷電か?」

『雷電は死んだ…なに私は君のファンの1人さ第二の告発者(セカンドディープスロート)とでも名乗っておこう』

「待て!」

通信が一方的に切られた。第二の告発者が残したメッセージと戦車格納庫になかった一台のM1戦車。ディープスロートもとい雷電。

所々地面を掘った後がある。やはりこの平原は地雷原であり、その先にM1がいるのだろう。

とりあえず超万能レーダーの機能の1つ地雷探知を使うことにした。

地雷探知機能を入れると出るわ出るわあちらこちらに対人・対戦車地雷の数々が…

それらの地雷をうまく避けながら前へ進み続ける。

反対側に見える核弾頭保存塔の扉まで残り250メートルを切ったところで、妙な電子音と戦車(・・)の砲塔が回る音がした瞬間、火乃香は反射的に右手を軸にしバク転をした。先程まで火乃香のいた位置にはちょっとしたクレーターが出来上がっていた。もしそのままのうのうと突っ立っていたら今頃は四肢がバラバラに砕けていたと思うと…。

物陰に隠れながら、未だ収まる気配のない動悸を何とか抑えるようとする。

『大丈夫か!?』

大佐からだ。一応察して死にかけたんだ。大丈夫なわけがない。なのに素人が聞いてくるような事を言わないでほしい。嫌がらせのつもりなのか?

「何とか。対戦車ミサイルなんて持ち合わせていないから随分と古典的な方法で撃破するしかなさそうだ…あんな戦車刀があれば瞬殺なのに…これで死んだら化けて出てやる」

『怖い事を言うな。刀が入るスペースなんてなかったんだ仕方ないだろう?それより、M1に対抗する方法だが…その手の専門家を呼んでいる』

「専門家?」

『あぁ、ナスターシャ・ロマネンコだ。彼女はディスカバリーにはいないがニューヨークにある自室からアルマース1をサポートする予定だ。彼女の周波数は141.52だ』

「わかった」

ここで、新たな協力者が出て来たらしい。とりあえず言われた周波数に合わせて通信を試みることにした。

『こちらナスターシャ・ロマネンコ。はじめまして刀使い(ソードダンサー)

「悪いが今は作戦中だ。2つ名で呼ばないでくれ」

「悪い事をした。フランクに行こうと思ったが逆効果だったようだ。改めてこれから君のことをサポートするナスターシャ・ロマネンコだ。これからよろしく頼むアルマース1』

「よろしくナスターシャ。早速だが目の前にM1がいる。手持ちの武器は…」

『こちらでも今までのことはモニターしていたからわかる。M1の主砲はラインメタル社製44口径120ミリ滑腔砲一門と主砲同軸と砲塔正面右側に7.62ミリ機関銃M240が装備されている。さらに暗視装置や高度な電子装置で砲塔とシステムが連動しているから君が動けば砲塔は自動で追尾してくる。だから砲身の内側に行かない限り常に打たれ続けることになるし、仮にうまく懐に潜り込めてもそのあとは機関銃の雨が降り注ぐ。それに戦車を破壊するには手持ちの武器では火力不足にもほどがある。あれを戦闘不能にしたければ第二次大戦中ロシアやドイツ日本で行われていた方法を使うしかない』

「ハッチを開けてその中にグレネードを放り投げるか…」

『大戦中だったら相当厳しい作戦だが、今の君にはチャフグレネードがある。それで敵の電子装置を撹乱すれば』

「奴らの目を潰せば自ずと目視で確認する必要が出るからハッチを開けざるおえない」

『その隙にグレネードを投げ入れるんだ。うまくいけば弾薬庫に火がついて戦車はスクラップになる』

「わかった、何とかやってみよう」

『健闘を祈る』

通信を切った。電子装置の撹乱からグレネードを投げ入れる時間は約6秒程度。この一瞬で決着がつく。

大男が戦車から顔を出してきた。距離が相当あると言うのに大男の声が十分に聞こえる。

「来たな!ソードダンサー!ここが貴様の墓場だ!カラスたちが貴様の行動を見ている!荒ぶる大地が貴様を敵とみなしている!俺は執行者だ!異端児は俺が排除してやる!死ねぇ!」

勝手に熱くなっているらしい。あれが巨漢のシャーマンバルカンレイブンか…ああいう奴はしぶとく生き残って最後の最後まで手こずらせてくれる。ここはきっちりと奴もろとも始末しなければ後々めんどくさいことになる。

火乃香は覚悟を決め、3つあるチャフグレネードのうちの1つを手に取りピンを抜いた。

 

 

タイムリミットまで残り16時間38分



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孤島の武装蜂起篇5

3つあるチャフグレネードの1つのチャフを手に取りピンを抜き、投げる。小さな爆発音とともにアルミ箔が大量に空中散布された。

この隙に近くにある岩陰まで移動した。

戦車が目標を見失い、ウロウロと車体を走らせながら、地雷原へ突っ込み、1つの対戦車地雷を踏みつけた。

大きな爆発音とともに、車内でマイクが入ったのか乗組員の慌てふためく声が外にダダ漏れだった。

火乃香はこの隙をつき、もう1つのチャフを投げ、戦車の電子系統を完全に破壊した。

一気に戦車の近くにより砲塔の真下まで来る。戦車内の混乱が若干治ったらしい。戦車の履帯は地雷によって破壊され、動ける状況ではなかった。砲塔の自動照準機能が使い物にならなくなったため、直接目標を視認するため、1人の兵士がハッチを開け中から顔を出した。

その隙に火乃香はグレネードのピンを抜き、戦車のエンジン部分に登りハッチの中にグレネードを投げ入れた。グレネードは信管抜いてから約5秒で爆発する。投げ入れた時にはすでに1秒半経っていた。

残りの3秒半で、戦車から大きく飛び降りなるべく遠くへ走り体を伏せる。

やがて戦車が大爆発を起こし、戦車は完全に沈黙した。

「哀れだな」

『アルマース1よくやった!』

ディスカバリーからの通信だ。

今頃司令部はこのハリウッド映画顔負けの対戦車戦闘に興奮を隠しきれていないのだろう。こっちはつい先ほど死にかけたというのに不謹慎にもほどがある!遺憾の意を表明しそうになった火乃香だが、何とか飲み込み淡々と事後報告を済ませる。

「敵戦車完全に沈黙…これより核弾頭保存棟に侵入し、囚われているであろうエメリッヒ博士の救出に向かう」

『わかった。それと核弾頭保存棟一階ではすべての武器にロックをかける』

「死なせたいのか?」

『違うわ。忘れたの?廃棄とはいえそこには核弾頭が陳列されているのよ。もし穴でも開けたらどうなるかわかってるの?被曝するどころの話じゃないわよ?』

「…確かに管理がずさんすぎる」

通信しながら、核弾頭保存塔の若干空いているシャッターの下から中の様子を伺う。

そこには乱雑に並べられ、ただ布を上から被せているだけの剥き身の核弾頭が大量に鎮座していた。

普通廃棄核物質などはコンクリートで固めてからうん百メートルもの地下に特殊な施設を建造しそこで厳重に保管するのがセオリーだ。

しかしこの島の実態は締め上げられた国防費によって大量の廃棄核弾頭を処理できずに持て余している状態だ。つまりこの島はそう言った大人の事情(・・・・・)でおおっぴらに捨てることのできない核弾頭を密かに廃棄するためのところらしい。

そしてこの島は地球温暖化の影響であと十数年間で海の底に沈むと言われている。秘密裏に処理するにはもってこいの場所だ。

『そこで戦闘になれば勝ち目はない。決して見つかるな』

「さっきちょうどいい段ボール箱見つけたからそれをうまく使って抜けるさ」

通信を切り、とりあえず的の様子を伺う。

銃はやはりM4だ。それにMBC防護服を着用している。おそらく侵入者との戦闘状態に突入した時流れ弾が廃棄核弾頭に当たった場合の放射線への対策だろうと目星をつけつつ倉庫内を確認する。

シャッター正面の向こう側つまり北側には輸送トラックが停車している。その上を監視カメラが常に警戒している。フロアには3人の歩哨が決まったルートを巡回している。西側には二階へ上るための階段とその二階には地下へ行くためのエレベータが稼働していた。

あれを使って下に降りよう。火乃香は歩哨の巡回ルートを見極め、音を立てずにエレベータ前まで移動する。

奇跡的にエレベータはこのフロアに止まっていたらしく、すぐに地下へ移動することができた。

エレベーターの扉がゆっくりと開き火乃香はソーコムを腰の高さに構え、入り口の脇に体を寄せ外の様子を伺った。

暗くほとんど何も見えない空間が伸びきっている。唯一の光源は遠くで壊れかけた照明の明滅のみだ。

何かがおかしいーーーと察する前に異臭が鼻腔を刺激した。5年前に嫌という程嗅ぎ、そして嫌という程慣れ親しんだ血の匂いが。

ゆっくりと道なりに進んで行くと、転々と鋭い刃物で斬り刻まれた兵士が5、6人横たわっている。

中には内臓が飛び出ているものもある。

火乃香は吐き気をこらえながら、一番奥にある壊れたセキュリティのかかった扉を開けた。

彼方此方にべっとりと付着した血や散乱したファイル、破壊された液晶画面が設置された部屋だ。

「ひ、ひぃぃぃ!こ、こここっち来るな!」

火乃香は姿勢を低くし様子を伺った。

ロッカーの扉に背中を預け、腰を抜かしたような姿勢の男がいた。血にまみれた白衣を着ている。だらしなく投げ出された脚の間に、小さな水たまりが見えた。薄いグレイのズボンの股間が濡れていた。男は何もない空間を見上げ、震えている。灰色の髪は乱れ、汗で額に張り付いている。丸い銀色の眼鏡は半ばずれ落ち、もともと痩せていたであろう顔は恐怖のせいかさらに頬がこけ髑髏のように見える。

こいつが今回CFFにタレコミをした主ハルエメリッヒだ。そう確信した。

すると何もない空間が徐々に歪み、正体が現れる。

白の強化骨格を纏い、鋭く研ぎ澄まされた銀色の刀身を携えた忍者が。

「雷電!」

「アルマース1俺は雷電ではない…雷電は死んだ。古き盟友よ私は飢えている…痛みに飢えている」

機械によって合成された音声だが確かに雷電だ。火乃香は確信した。

刀をゆっくりと鞘に納め両手で拳を作り構えた。まるでボクシングでステップを踏むように淡々と火乃香を挑発する。

「っーー!」

ハルエメリッヒは勢いよくロッカーへ閉じこもった。

「いいだろう!特等席で見ているがいい!震えながらな!行くぞ!」

「目を覚ませ雷電!」

雷電の右ストレートが火乃香を襲うが難なくかわし、お返しと言わんばかりに火乃香は左フックを鳩尾めがけ食らわす。

互いに襲いかかるパンチをいなしながら少しずつダメージを加えていく。火乃香は忍者がガードしたら強烈なストレートで相手のガードを力で崩し顔面に拳を叩き込み、忍者は火乃香の顳顬めがけトーンキックをお見舞いする。

脳が揺れ、力が抜けると忍者は火乃香に猛攻を繰り広げた。

全身が痙攣し始め、本格的にヤバくなってきたことを感じつつ、最後の力(笑)を振り絞りボディーブローをお見舞いしたところで、途中までいい感じの殴り合いをしていたために蓄積されたダメージによってサイボーグから火花が散り始めた。

「ぬぉぉおぉおぉぉぉぉぉ!」

突然忍者が震え出し、刀を抜いたと思うとめちゃくちゃに振り回してきた。

ただでさえ部屋中がボロボロになっているのにどんどん壁に切り傷が増えていく。

しかも途中でバギッ!という音がしたと思ったら無残に砕け散ったガンプラが落ちていた。ロッカーの中から情けない鳴き声が聞こえている。恐らくハルエメリッヒ博士が丹精込めて作ったものなのだろう。今まで暴れていてよく壊れなかったと感心しつつもこのカオスな空間に頬をひきつらせるしかない。

「く、薬を…!」

忍者は光の速さで部屋から姿を消しどこかへ行ってしまった。

「出てきていいぞ博士」

「き、君は誰だ?!も、もしかしてぼ、僕をころしに…!」

「違う!落ち着け!あんたが流してくれたタレコミでこんな僻地に放り出された憐れな犬だ」

「そ、それじゃぁき、君はCFFの…でもこんな可愛らしい女の子g…」

「あぁ?!いまなんて言おうとした?!女の子じゃねぇ!男だ!」

思いっきりロッカーのドアをパンチしたおかげで拳の形でへっこんだ。

「ご、ごめん!で、でも驚いた…」

「何が」

「ぼ、僕は同じ趣味を持つ人以外とはうまく喋られないんだけど…君もヲタクかい?」

「ヲタク?全く違うけど」

「おかしいな…」

「で、俺がオタクだったらなんなの」

「いや…僕は日本のアニメーションが大好きなんだ」

なんか唐突に語り出したぞ…。

ボケーっと聞くこと五分くらい。そろそろ肝心の核発射システムなんかの情報を聞き出さなければならない。

「博士悪いんだけど俺たちには時間が残されていないんだ。奴らの核発射能力について教えてほしい」

「いいよ…彼らの核発射能力についてだけど3枚の解除キーをそれぞれ入力することさえできればいつでも発射できる。なんならいますぐポチることだって」

「なるほど…つまり奴らを殺すか、機械を破壊する若しくわPALによる緊急解除しか手がないんだな?」

「七割五分正解。緊急用のPALは核発射シークエンスに突入した状態で解除することができる。けどもし、座標を指定しただけで発射待機状態ならばPALキーによって核を緊急的に発射することも可能だよ」

「なぜその必要性が?」

「核を発射する権限があるのは基本的には大統領なんだけど、もし相手が発射した核がホワイトハウス直撃した場合現場の判断で発射しなければならなくなる。その時に使うのがPALキーだよ。ただPALキーで一度入力してしまうと解除できないんだ」

「つまり奴らが発射シークエンスに突入するまでPALキーは使ってはいけないんだな」

「そう」

「賭けになるな…それで博士…もう1つ興味深い情報をタレコミしてくれたな?移動式だのなんだのって」

「博士はやめてくれオタコンって呼んでもらいたい」

「わかった」

「でだ、今回の発射台はどんな悪路でもそうは可能な二足歩行兵器なんだよ」

「なるほど、てことは通常の攻撃で壊せなさそうだな…」

「まぁね…破壊するには核を使わない限り不可能だけどこれを見て」

オタコンは火乃香に今回奴らが使おうとしている二足歩行兵器の3Dモデルを見せてきた。その形はまるで白亜紀に生息していた肉食恐竜のティラノサウルスを彷彿させる形だった

右肩には核兵器を打ち出すためのレールガンと思しき装置と左肩には円盤の盾のようなものが装着されていた。

「こいつはREXって言うんだ。こいつは基本的には有人操作できるように設計されている。コックピットは一種のVRのようなものでできていてそれぞれの装置は左肩にあるレドームによって集められるんだ。

そしてこのレドームは個人携帯型地対空ミサイル数発打てば壊れるように設計されていてこれが壊れたらコックピットが自動的に開くようになって肉眼で目標を捕捉できるようになっているんだ」

「つまりレドームを破壊して開いたコックピット内にミサイルを叩き込めばいいんだな?」

「その通り!」

「で、肝心のREXはどこに?」

「ここの施設にある地下一階から所長室に向かってその奥にある扉から洞窟に入るんだ。そしたら連絡通路に出られるからそこをまっすぐ進んで第1ヘリポート一階につながっているからエレベーターを使って9階まで登って連絡通路を通ると第2ヘリポートに入ることができる。そしたらまた一階まで降りてセキュリティドアを開けて平原に出るんだ!そこから東に真っ直ぐ700メートルくらい歩くと地下整備基地に繋がる倉庫があるよ」

「長々とありがとう。オタコンはこのあとどうする?言っておくが非戦闘員を守りながら行動する余裕はない」

「この基地には詳しいからね、僕は君のサポートをするよ。周波数は141.12。通信してくれれば武器弾薬を持って来てあげるよ。勿論見つかったりはしないさ!何故なら僕が開発したステレス迷彩があるからね」

「ステレス迷彩…光学迷彩の一種か…そう言えば雷電のサイボーグにも実験的だけどステレス迷彩が搭載されてたな…」

ステレス迷彩(これ)がある限り僕はこの世にいないものと同然だよ」

「そうか…困ったらとよりにさせてもらう」

こうして無事生きていた内部告発者を味方につけると同時に多数の情報を入手することができた。

ほのかにとって当分の目標はREXが居るとされる地下整備基地へ向かうことになる…。

 

 

タイムリミットまで残り15時間45分



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孤島の武装蜂起篇6

研究室でオタコンから得た情報を元に核弾頭保存棟地下一階までエレベーターで上がる。

地下一階は今まで見てきたフロアとは明らかに毛色が違った。

壁は木造だ。赤い絨毯が敷き詰められ、左右には男子トイレと女子トイレがある。エレベーターの目の前にはセキュリティレベル5の扉があり、横には細い通路が通っている。その先におそらく所長室室があるのだろう。足が絨毯に埋もれる感触に戸惑いつつも所長室へ続く通路を進む。

所長室はレベル5のカードキーで解除することができた。

ゆっくりと署長室に侵入する。床はまるで磨き上げられた鏡のように光を反射する大理石でできていて歩くと足音が響く。壁には歴代の所長のような人物の写真が並べられている。四隅には石膏でできた顔や模型他にも哲学書やらとさまざまな小物類まで飾られている。

ゆっくりと部屋を見渡すがオタコンの言っていた洞窟への入口は見当たらない。

ここで不意に前に読んだアンネの日記を思い出した。ユダヤ人のフランクは戦時中ナチス警察から逃れる為、会社にある隠れ屋で暮らすという内容だったが、その際の隠れ屋への入り口が本棚の裏だった。

まさかな。と思いながら本棚を触ると横へスライドし、薄暗い通路を見つけた。

「大佐…洞窟への入り口を見つけた」

『気をつけろよ。何がいるかわからないからな』

「今更何が出るって言うんだよ…ん?狼の遠吠え?」

『何故狼が…?』

「タイリクオオカミだ…おそらく誰かがペットとして持ち込んだんだろう」

『アルマース1!狼って言ったかい?!』

交信中、先程まで直接会話していたオタコンがいきなり回線に割り込む

『な!なんでこの通信に割り込めるのよ!』

自慢のシステムを構築したメイ・リンがご乱心のようだ。それもそのはず。世界中のハッカーを集めたところで鉄壁の防御力を誇るCFFの通信システムへ簡単に割り込むなんてほぼ不可能だろう。まぁ、火乃香の知るところで1人だけいるのだがそれを言えば収集がつかなくなるので口を紡ぐ。が、もし本当にハッキングで侵入したのならばオタコンは藍葉浅葱と同程度若しくはそれ以上のポテンシャルを秘めていることになる。

「いきなりどうしたオタコン」

『あ…いや…なんでもない』

勢いよく通信に割り込んで来たと思ったら急に尻込みしはじめた。

「大佐…とりあえず気をつける」

『そうしてくれ。洞窟内は暗いが赤外線暗視ゴーグルがあるから大丈夫だろう。狼はスタングレネードで怯ませることができるから上手く使ってくれ』

「あいつらは集団で襲ってくるからな…集団リンチに会うことだけはごめんだ」

ほのかのブラックジョークをひとしきり笑い飛ばし、洞窟内に潜入する。

洞窟内の光源ははわずかな白熱電球の光のみだった。

大佐に言われた通り、赤外線暗視ゴーグルを装着し、スタングレネードを放り投げ、狼を怯ませた隙に反対側のドアに走り、扉を開いてそのエリアを抜けた。

「?」

扉の先には6×9の長方形の形をした空間と幅4メートルほど長さ50メートル強の通路で壁は果てしなく高かった。通路を抜けた先には高さ5メートルほどの位置に足場がある。

そして最大のこの空間の様子が変だった。人の影はない。しかし、誰かにねっとりと見られているような…まるでスナイパーに捕捉された歩兵のような感覚だった。

「くっ!」

真横に飛ぶと同時に1発の銃声が聞こえてきた。

この場に間違いなく狙撃兵がいる。

「大佐!狙撃を受けた!JAMに狙撃の名手っていたか?」

『1人だけ…スナイパーウルフだ…』

「面倒だな…あいつの方が地形的に有利だ…」

『拝借したスナイパーライフルでウルフを倒すんだ!』

「了解」

火乃香は伏せて、M24のスコープを覗く。スコープで捉えた人物の容姿がよく見える。白い服を着て、その胸元は大きく開いている。腰まで届きそうな綺麗な金髪。白い肌に整った顔立ち目はサファイアを彷彿とさせる緑の瞳。まるで芸術品のような細かさを感じる。男ならばイチコロだろう。そんな容姿に火乃香は恐怖した。隠れているのだ…その美しい瞳には獲物を刈り取る鋭い視線。輝くオーラの裏側には禍々しい死神が鎌を振りかぶっている姿が。

間違いなく殺しにかかっている。すぐに引き金を引かなければ後ろで控えている死神の鎌に首を刈り取られる。幻覚はナノマシンの故障が引き起こしたものじゃない!俺の精神が生み出したんだ…!

数多くの兵士をテロリストの浄化という大義名分のもとで殺害し続けた火乃香は今、殺して着た数々の怨念とこの孤島で受けたストレスによってありもしない怪物を作り出し、そして畏怖していると自己完結した。

自己完結したところで、スコープに映る十字線の真ん中をスナイパー・ウルフに合わせ、静かに引き金を引く。

銃声が響区と同時に、硝煙によってスコープが若干曇る。

煙が晴れそのまま覗き続けて見たが完全にウルフはどこかへ行ったようだ。

進路を妨害していた死神(スナイパー)を排除したため、通路のその先へ走り抜ける。

 

 

ビー!ビー!ビー!

セキュリティドアの前に立った瞬間、警報装置がなった。

「動くな!」

歩哨三人が火乃香に銃口を突きつける。罠にかかったのだ。上を向くと赤外線装置が取り付けられていた。おそらくそれに引っかかったのだろう。敵兵士の到着が早すぎると思いながら辺りを見回すと、ウルフが狙撃に使っていた足場の奥に非常扉がある。恐らくはそこで待機していたのだろう。

「……」

ゆっくりと銃を地面に置き、両手をあげる。

「詰めが甘いわよ坊や」

「まさか本当にかかるとはな」

声の方向を見やると先程撃ち合ったスナイパーウルフと大男がゆっくりと歩いてきた。

「こいつを連れて行け」

「待って…」

大男が部下に指示を出した瞬間ウルフが近づいてきた。

「坊やは私の獲物…殺すのは私…っ!印をつけたわ…これであなたは私から逃げられない。愛してるわ」

細長い爪で頬を引っ掛かれ、謎の求愛を受けた瞬間後頭部に衝撃が走り、深い闇に落ちた。

闇の中で火乃香は1つの記憶を見るのだった

 

 

 

タイムリミットまで残り15時間30分

 




次回からちょっと脱線します
過去編でもやろうかな…ってかここでやらないと一生やらない気がするんでやります…。なるべく話数は少なくしますが、長くなったらごめんなさい


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とある刀使いの追憶
とある刀使いの追憶


火乃香が拐われてから約8時間半が経過した現在。南宮邸には夏音の荷物が業者によって運び込まれ、それぞれの作業を淡々とこなしていた。夏音の荷解きを手伝っているのは古城、元基、浅葱、アスタルテ、雪菜、凪沙だ。

空気が重すぎる。ラ・フォリアと家の主人たる那月は珍しく台所に立って料理をしている。皆、それぞれの作業に集中しているように見えて、今朝の出来事を無理にでも忘れようと作業に没頭しているのだろう。

重い空気で過ごすこと数十分が経った。

「できたぞ…とりあえず食べろ」

那月がぶっきらぼうに言い放ち、テーブルの上に料理を並べていく。

生徒たちがいる前で酒なんて飲まない那月だが今日ばかりはワインのコルクを抜きグラスに注ぎ、一気に煽る。

ゆっくりと静かに食事が進んでいく中、顔を赤く染めた那月が唐突に口を開く

「………お前たちも知っておいた方がいいかもしれんな…火乃香の過去を」

「「「え?」」」

急な話題についていけず、口をぽかんとさせる。今まで火乃香はどういった人間かは知っていたが過去については一切知らなかった。夏音ですらそれは聞いていない。恐らくはこの中で過去の火乃香を知っているのはラ・フォリアぐらいだろう。

「あいつは元々戦争孤児だったんだ…10年前に欧州で起きた三代悪夢の1つのナイトメアの被害者だ…」

「ナイトメアって…欧州の村や町50箇所が一夜にして焼け野原になったって言う…」

浅葱が目を見開き、それぞれ那月の話にのめり込むように聞き入り始めた。

____________________

鬱蒼とした森をひたすら歩き続ける1人の少女がいた。

「村が燃えているな…」

闇の中に1箇所だけ紅い光が生き物のように揺れ動いていた。

仙都木阿夜からの依頼を受け、とある魔道書の回収から帰還する最中偶然この道を通りかかったところ村が燃えているのを見たのだ。

「とりあえず行ってみるか。生存者がいるかもしれんしな」

そう呟き、ゆっくりと焔へと近づいていく。

とは行っても直線距離にして約500メートルそこそこある。しかも村までは足場の悪い森を抜けなければならないために近付くまで時間がかかる。

ガサガサ

「!」

背中にリュックを背負った1人の子供がいた。子供は足をひねっているのかまるで芋虫のように地面を這うように動いている。少しでも村から離れようと必死で身体を動かしていた。煙を吸い込んだらしい。ヒューヒューと呼吸をしている。

顔は泥塗れで所々切り傷や腕の一部に軽い火傷を負っていた。

今にも死にそうだ。

しかし少年は二本の刀を離さないようしっかりと握っていた。

那月は静寂に包まれる。

村の建物が焼け、家屋が崩れる音や赤子の泣き声が響いていたが全て雑音として処理されてしまっている。

那月は少年に釘付けだ。そしてゆっくりと少年に手を差し伸べ

「小僧、生きたいか?」

少年に問いた。

少年は力なく頷く。首が動いているのかわからないほど小さく本当に小さく縦に動かし、気絶した。

那月は少年を背中に担ぎ、空間移動で街に移動し、病院へ連れて行った。

医者が手際よく治療している横で那月はじっと少年を見つめていた。

(何があったんだ…あの村で…)

 

____________________

闇の中でうっすらと灯りが浮かび上がる。懐かしい光景が光の中に描かれていた。火乃香にとって、人生における最初のターニングポイントとでも言うべき場面だった。

真っ白な天井が目に飛び込んだ。白く清潔なベッドの中でゆっくりと起き上がる。

目覚めたばかりの瞳へカーテンから降り注ぐ眩しい朝日が刺激を与える。

周りをゆっくりと見渡す。清潔な部屋だ。ベッドのすぐ近くには花の飾られた花瓶が置いてある。ゆっくりと辺りを見渡す。二本の刀は部屋の隅に立てかけられている。それを見た火乃香はホッとした。

そして、今いる場所が病室だと認識するのに、さして時間がかからなかった。

ゆっくりと引き戸が開く。

入室してきたのは自分よりも背丈がいくらか高く白のゴスロリを着た少女だった。

「目が覚めたみたいだな…」

「あなた…は?」

掠れた声で少女に聞く。

「私か…?火事から逃げようとしていたお前を助けた…南宮那月という。君の名前は?」

死んだような目で見つめられる。無理はない。あれだけの大火事だ。話によれば、あの村での生存者は彼1人だったらしい。

「僕は…天童…火乃香」

「火乃香…か…女みたいな名前だな」

「!仕方ない…だろ…そうやって名前をつけられたんだから」

「悪かった…火乃香…あの村で何が起きたんだ?」

「………蒼い化け物が…村を突然焼き払った…父さんと母さんは僕にあの刀を渡して死んだ…」

冷たい瞳だ。涙すら流れない。何が起きたのか理解できないのだろう。それよりも、那月にはふと違和感を覚えていた。

それは火乃香の精神の成熟度だった。

普通の子供ならば目の前で親が死ぬところを見れば、精神を崩壊させても仕方がない。なのに火乃香は淡々と語る。それでも彼の姿は、今にも消え入りそうなほど小さく、そして生きているように思えないほど生きているという空気を感じさせない。少しでも衝撃を加えたら簡単に割れてしまいそうなガラス細工のような雰囲気を纏わせていたのだ。

那月は何故か他人事のように思えなかった。そして1つの決断をし、

 

 

 

 

ゆっくり少年に歩み寄り、そして優しく抱き寄せた。

「え…?」

少年は震える声を発した。何が起きたのかわからないとでも言わんばかりに。

「辛かったな…もう大丈夫だ…私が付いている」

「ど…う…いう…こと?」

今にも泣きそうだ。

「私がお前を守ってやる…ずっとだ…今は見ず知らずの…初対面の人間だけど…それでも…ゆっくりと私に歩み寄ってほしい。だけどそれは後だ…今は泣いた方がいい。今泣かなければ…壊れてしまう…火乃香の気がすむまで泣くんだ…泣き止むまでずっと側にいる…」

それは同情心なのか

「うっ…うぁぁ…ぁぁ…………」

それとも…

 

 

 

 

小さく泣いた。泣き叫ぶのではなく小さく本当に小さく泣いた。

泣き始めてからどれぐらいの時間が経ったのだろうか?

1時間?2時間?10分?20分?もしかしたら数分だったかもしれない。時間の感覚がなくなるほど密度の高い時間を過ごしたのだ。

「気は済んだか?」

「うん…」

「火乃香…もしよかったら…私のところに来ないか?」

「え?」

「日本…いや…私が暮らしている絃神島だよ…そこならば安心して暮らすこともできる。それにその苗字からして火乃香は…日本人なのだろう?」

「知らない…生まれたのも…育ったのもあの村だから」

「日本語はわかるか?」

「日本語?父さんと母さん…それかとお兄ちゃんの時だけ使ってた言葉の事…?」

今までイタリア語で話していたので気づかなかったが、日本語が喋れなければ日本で暮らす前に一通り習得させなければならない。が、本人曰く家族同士でしか喋らなかった言語があるらしく、もしその言語が日本語ならばと考え、とりあえず日本語で会話してみることにした。

「?この言葉わかるか?」

「うん」

日本語が喋れるらしい。

「日本語での会話も問題ないみたいだな……」

「那月お姉ちゃんの住んでいるところはこの言葉を喋ってもいいところなの?」

「?!というよりその言葉以外通じないと思う」

いきなりのお姉ちゃん呼びで心がキュンと締め付けられつつも日本についての情報を与えていく。

どれくらい時間が経ったか…会話に花を咲かせ、火乃香の顔にも自然と笑顔が見られるようになり始めた。

「どうする?日本に来るか?」

「本当にいいの………?」

「あぁ」

「………よろしくお願いします…それと…日本に行く前に…村へ行きたい」

「お別れか?」

「うん…友達がいっぱいいたんだ…それに…お父さんとお母さんとお兄ちゃん達みんなに…さよならを言いたい…」

「わかった…だけどまずはしっかりと体を休めて傷を治すんだ。でないと何も始まらない」

____________________________________

この三日間でどのテレビ番組もこの村の消失が主な話題だった。

火乃香を拾ったあとも次々と村が焼き払われ、一夜にして50もの町村が消えたらしい。被害はイタリアだけではなく、フランスやドイツ、果てはベルギーにまで及んだ。EUの合同捜査チームは魔族の仕業ではないかと見ている。チャンネル毎に違いはあるが、やはりどれも一環として魔族の仕業ではないかと報道している。日本でもこの事件は大々的に報道され、様々な専門家を呼び、意見を交換しているらしい。仙都木阿夜からの情報だ。

イタリア政府とヴァチカンはこの事件を受け、魔族狩りを開始した。

現在病院を無事退院することのできた火乃香は那月に付き添われながら、焼けた村が見える丘に来ていた。

当然だが、村の周囲には厳重な警戒態勢が引かれていて近づく事すら出来ない状態だったからだ。

「お父さん…お母さん…お兄ちゃん…みんな…さよなら…僕は日本に行くよ…絶対…絶対に仇は打つ…!だから…安心してね」

火乃香の鋭く睨みつけていた。

那月はなぜこんな小さな子供が憎悪に満ちた瞳を持たなければならなくなったのか…世の中の不条理さを改めて感じるしかなかった。

「別れは済んだか?」

「うん…」

「では空港に行くぞ」

近くに止めていたタクシーに乗り、今度は日本へ行くために、ミラノ・マルペンサ国際空港へと向かい、搭乗手続きに移る。火乃香が出会った時背負っていたリュックの中にパスポートが入っていたため、なんとか出国することができた。驚くべきことに、火乃香のパスポートは日本のものだった。恐らくイタリアにはビザで長期滞在していたのだろう。国籍は日本にある。火乃香の話から察するに幼少期にイタリアへ渡ったのだろう。兎にも角にも無事絃神島に到着することができた。

「火乃香、ここがお前の新しい家だ」

「大きい…」

地上150メートル以上のタワーマンションを見上げる。

そう、今、火乃香が暮らし、後に夏音が暮らすことになる南宮那月の自宅だ。

ここから全てが始まった。そして今の火乃香が作られる切っ掛けとなる第2の分岐点は約3ヶ月後だった。

 




もうちょっと続けます


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とある刀使いの追憶2

火乃香が日本にやってきてから約3ヶ月、無事小学校への編入を終え、元気よく学校へ通っている………………はずだった。

無事編入手続きが終わりはした。ただ登校初日から約1ヶ月で不登校になってしまったのだ。

最初のうちは転校生しかも海外からの帰国子女という立場に大いに助けられ、うまく打ち解けられそうだった。その点について、那月や担任教師も安心したのだ。しかし世の中、出る杭は打たれるという言葉がある。それは組織の中で目立ち過ぎれば、周りから集中的に攻撃を受けるということだ。よく日本の社会で起きる現象として知られている。

小学校とはいえ学校という組織に所属するのだ。少なからずそういった現象が起きるのは火を見るより明らかだ。

火乃香という名前やその見た目、イタリアで暮らして居たといった話題性が良くも悪くも児童たち特に女子からの注目を集めた。

ここまで言えばわかると思うが、女子の人気を一手に集めた火乃香は今までいた男子児童にとって面白くないのだ。次第に男子児童達が結束をしだし、発動する。いじめという名の洗礼が。

家族を失い、多くの友人達を失った火乃香にとって、このいじめは大きく心を抉られた。

こうしてひと月ほどで不登校になってしまったのだ。

那月も火乃香を引き取ったとは言え、まだ16歳。現役女子高生なわけで、昼間は学校に行かなければならず、最初のうちは、心配で授業は上の空だった。

しかし、火乃香は元々頭が良いらしく、那月が帰ってくるまでおとなしく本を読んだり、那月の部屋に置いてある教科書を読み漁ったりと時間を潰していた。

そのこともあってか、6歳にして、高一年程度の頭脳を持つことになる。

____________________

「意外でした」

夏音が驚く。それはそうだろう。ラ・フォリアと那月を除けば一番親しい人物なのにそんな事情を知らなかったのだから。そんな夏音を横目に那月はワインの入ったグラスで遊ぶ。

「何がだ?」

「火乃香さんが不登校だったことでした」

「ふふっ…。そうか?まぁ確かに今の火乃香からは考えられないかもな」

750mlのワインボトルが残り約半分になっている。しかし、グラスに残ったワインを煽り、また注ぐ。

____________________

とある日のことだ。那月と一緒にとある男性が家に上がってきた。

男は深緑の制服とベレー帽を着用し、左胸には豪華絢爛な勲章が縫われている。彼こそが、火乃香の人生において大きく左右させる人物、稲垣隼人との邂逅だった。

「散らかっているが気にするなそこに掛けてくれ」

「あ、あぁ…」

「稲垣隼人…どういった要件だ?」

「いや…欧州の連続喪失事件について重要参考人になりうる人物を日本に帰国させたという話を聞いて…訪ねたわけだが…彼が?」

「そうだ。言っておくがきちんと書類も提出して、審査も通っている何1つ問題ないはずだ」

「確かにそうだが…」

「どうした?」

「この子の名前は…天童火乃香で良いのか?」

「こいつをしっているのか?」

「正確にはこの子の親だ…」

話の流れが一気に変わった。この話を聞かせるのはまずい。そう判断した那月は火乃香を別室で待機してもらうことにした。

よって火乃香は未だ知らない。なぜ村が家族が焼き払われ、兄がそれを引き起こしたのかを。そして知ることになる。この戦争の先で。

しばらくしてから那月に呼ばれ、リビングへとやってきた。

「初めまして、天童火乃香くん」

「はじめまして…あの…何ですか?」

「強くなりたいとは思わないか?」

「強く?どうして?」

「いいから答えるんだ…今の生活を守れるぐらい強く…辛い思いをしないように…」

「…………わからない……」

「そうか…もし強くなりたいんだったら南宮さんに行ってくれ」

「…?わかった」

男がそう言いながらマンションを後にした。

「あの人…何で強くなりたいなんて言い出したんだろう」

「さぁな…まぁゆっくり考えればいいさ…危険にさらされるかもしれないがそれでも強くなりたいと思って…家族の仇を討ちたいと強く思っているならば止めはしない…。夕飯を食べて早く寝よう」

この夜火乃香はずっと考えていた。昼間訪問してきた軍人がなぜ強くなりたいか聞いてきたのかを。

故郷で誓った想いを果たすために、火乃香なりに考えていた道筋はあった。

自衛隊や欧州連合軍外人部隊それからアメリカ軍日系部隊などなど、那月が留守にしている間ずっと調べまわっていた。

しかし、どこも国から命令されてからでないと動けないことは知っていた。

だけど稲垣とか言う男についていけば何かあるかも。自由に動くことができるかもしれない。この頃から超直感の片鱗が現れていた火乃香の内心には付いていけと囁くもう1人の自分がいたのだった。

____________________

深夜12時を回る頃、那月は勉強をを終え、眠りにつこうとした瞬間のことだ。

ドアが二回鳴った後、ゆっくりと開いた。

そこにいたのは自分よりもいくらか背の小さい火乃香がいた。

「どうした?寝付けないのか?」

首を横に振る。違うみたいだ。

「夕方のことか?」

「うん…お姉ちゃんはどうしたらいいと思う?」

「そうだな…私からは何も言えないな…決めるのは火乃香だから。ただ私としては…もう少し時が経ってからでも遅くはないと思う…が、火乃香はどうしたい?」

ベッドに座る那月の横に火乃香を座らせ、頭を撫でる。那月としては、少年兵に自ら進んでなることはないと考えている。が火乃香は違うようだった。早く力が欲しい。仇を討ちたい。心のどこかでそう考えているのだろう。ようやく火乃香が口を開いた。

「僕は…稲垣さんのところに行って…強くなりたい…」

「…………それが火乃香の選んだ答えなら何も言わない。但し、一月に一回でもいいから声だけは聞かせろ。いいな?お前には帰りを待っている()がいるんだ…辛くなったら帰ってこい…だから無茶だけはするな」

那月に拾われてから約3ヶ月…短い時間だったが、家族の絆はできている。と思っている。だから笑顔で送り出そう。火乃香が自ら決断した道へ、そして私は火乃香の帰る家になってやればいい。那月はそう考えたのだった。

_____________________

「那月ちゃん…あんた意外と酷いんだな」

「私をちゃん付けで呼ぶな暁古城」

「たった6歳の子供を訓練に参加させるって…」

「本人が望み、自分で決めたことだ。私はな教育者の前に1人の親でもある。親として、どんなに茨の道を行こうとしていても子供がそうしたいと願うなら背中を押して送ってやるのが勤めだと思っている。

ただな…私は1秒たりとも火乃香の事を忘れたこともなければ、心配しなかった時なんて無い…今だってそうだ…」

暗く沈んでいく表情に古城達は何も声をかけることができなかった

_____________________

それから2年後、火乃香は再び那月の元へ帰ってきた。

あの時の稲垣と同じ制服を着ていた。左胸には、万物で最も硬く、不撓不屈の象徴とされるダイアモンドを中心に、その中心のダイアモンドを一本の劔が突き刺さっている。その周りを勝利と栄光を表す月桂冠が周りを囲い、空挺を意味する落下傘に吊された金色に輝く1つの徽章が縫い付けられていた。

国連軍の特務隊にのみ持つことの許された英雄の証だ。

「随分とたくましくなって帰ってきたじゃないか」

体は2年前より成長し、那月と同じくら位の身長だ。見かけ上筋肉は全くついていないが、それでも十分鍛え上げられているとわかるほどだ。

「ただいま…姉さん…守れるだけの力をつけたよ…」

「あぁ…無事で何よりだ…電話しかしていなかったから…な見違えたな本当に」

見違えた…2年前の心身ともに弱かった彼ではなく、姿は似ているが、精神が強くなった。これからは危険なことも付きまとうようになる。ボロボロになって帰ってくるかもしれない。だけど火乃香の帰る場所になると決意したからには、火乃香が安心して暮らせる場所を那月なりに守る事をもう一度認識したのだった。

そして3年後、彼は_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまで語り終えた那月は最後のワインをグラスに入れ、一気に煽る。結果的に那月1人で750mlのワインボトルを開けたことになる。引っ越し作業から今の今までずっと語っていたおかげで、最初の頃のような重い空気が少しはマシになったのではと考える。

そんな中、那月のスマホが突然鳴り出した。

相手を見ると仙都木阿夜の妹の優麻からだった。

「もしもし、どうした阿夜の妹」

『南宮先生!大変だ!妖精部隊から通達が来たんだけど…』

「何があったんだ?」

電話の後ろが随分と騒がしくまた優麻も焦っている。普段那月に電話をかけてくるのは火乃香か稲垣、あとは阿夜ぐらいだから、優麻からかけてくるのは珍しい。

若干イライラしつつも優麻からの返答を待つ

『落ち着いて聞いてほしい…火乃香が…』

パリン!

持っていたグラスが落ち、割れた。

「那月ちゃん?どうした?」

「おいおい那月ちゃんどうしちまったんだ?」

「先生?」

「お義姉様?どうかしましたか?」

「南宮先生?」

ご主人(マスター)どうかしたのでしょうか」

「南宮先生!何があったんですか?」

「南宮先生…」

急に固まった那月に対し困惑を隠せないでいた。

古城が那月の手からスマホを半ば強引に奪い取ったのだが、その時の那月は脱力しきっていたため、簡単にスマホを奪えた。

暁兄弟と優麻は小さい頃から面識があったため、すぐに事情が聞き出せる。そしてスピーカーに設定し、古城がもう一度何が起きたのか聞くことにした。

「優麻か!何があったんだ?!」

『古城!なんで君が!』

「いいから!答えろ!」

『そういえば同じクラスだったね…。君のクラスにいる南宮火乃香の事なんだが』

連れ去られてから約10時間半が経ち、どうなっているのかすら見当がついていない彼らにとって、まさに、喉から手が出るほど欲しい情報だろう。そして次に伝えられる言葉が、この空間を凍りつかせることになるとは誰も想像していなかった。

『南宮火乃香が…捕虜として拘束された…。情報によると…今拷問を受けている』

沈黙が空間を支配した

 




もうなんか思い付きませんねさて残りの過去話はタイミングを見て入れていきます


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孤島の武装蜂起篇7

水をかけられ、深い沼の底にあった意識が急激に戻される。

暗い部屋だった。コンクリートの壁と鉄の重たい扉が固く閉ざされていた。近くには竃が設置され、赤く輝いた竃の中には鉄棒が何本か刺さっていた。

スナイパーウルフとの戦闘後にそのまま進もうとしたところ奴に嵌められたことを思い出した。顔についた引っかき傷が若干痛む。

見張りに2人補助に5人、大男が1人。そして5人が囲っている台の上には剃刀やナイフ、針、鞭、他にも怪しい薬やノコギリのようなもの、ハサミが置いてあった。

徐に、兵士が火乃香の左肩から真っ直ぐ左脇の下まで剃刀を使い切っていく。

「ッッッッ!」

それからは針で上腕筋や右肩といった急所ではない場所をを刺され、背中には何十回と鞭で打たれ皮膚がめくれていない部分を探す方が苦労するほどだった。

「…刀使い…お前は敗者だ…この記念すべき日に一生残るプレゼント欲しいと思わないか?」

レイヴンが邪悪な笑みを浮かべる。思えばこの島自体、核廃棄処理施設といってはいるものの施設自体は米軍が管理している。ここは政府に見放された島だ。キューバにある米軍キャンプ同様、この島ではアメリカの法律が適用されない土地だ。だったら様々な拷問器具が置いてあるのも頷ける。

火乃香は痛みで逆に冷静に判断できるようになっていた。

だが一生残るプレゼント…そう考えた瞬間、竃に刺さっていた鉄棒が抜かれた。

「!」

何かの柄になっている真っ赤に燃えた…鉄板…紛れも無い焼印だ。

「敗者の烙印を今からつけてやる…味わえよ」

右肩に真っ赤に燃える鉄板を押し付けられた。

「ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

熱いを通り越して痛い。腕がめくれるように熱い。涙を流すことすらできない…声にならない悲鳴が部屋の中に響く。

レイヴンはどことなく興奮している。右腕が震え、力なく首が沈む。右肩には髑髏の背後に二本の剣がクロスして刺さっている模様が見えた。

そして訳の分からぬ薬を刺され、火乃香は意識を失った。

「!」

鳩尾辺りに鋭い痛みが走り、呼吸がままならなくなる。

暗い。そして苦しい。周りが見えないが、自分はまだ上半身裸体で両手首を上から鎖で吊るされ拘束されているようだ。先ほどと変わった点といえば顔に麻袋か何かで覆われ、水をかけられたのか呼吸するたびに、布が顔にひっつく程度だろう。

「ウォラ!」

殴られる今の火乃香は文字通りサンドバッグである。様々な痛みが火乃香を襲う。

「刀使い…これは拷問では無い…スポーツだ!気持ちがいいものだ…。しかし不思議なものだなぁ!お前を殴るたびにまるでワーグナーのワルキューレの騎行を聞いているかのような錯覚に陥る!」

「!」

ジャラジャラと自分を拘束する鎖が鳴り、火乃香は脱力している。もし鎖で拘束されていなければすぐに倒れてしまうほどだ。

全身に痣ができ、血が流れている。傷のないところなんてどこにもないほどに。

「レイヴン、時間がないんだ早くしろ」

「ボス!まぁもう少し楽しませてくださいよ」

「何を行っているんだレイヴン?次は私がやるんだ…殺したら呪ってやるぞ」

ボスーそう聞こえた瞬間残された力を振り絞り、横目で睨みつける。

この武装蜂起の主犯格であり、火乃香の敵でもある天童霞だ。

それにオセロットもいる。

「火乃香…喋る気になったか?」

「テメェに…喋ること…なんざ…ねぇ…よ」

「まだ言うのか?!」

「グッ!」

強烈な右ストレートが火乃香の脇腹を抉ってくる。

「レイヴン!まぁまて…いいか火乃香…素直に喋るんだ。CFFの持つ切り札…ワームホールドライバーを…あれの制御コードを手に入れなければならないんだ」

「そんな…もん…しらねぇし……初めて聞いたな………」

ボロボロになった火乃香を憐れみの目で見続ける霞は踵を返し、部屋から退出しようとした。

「少し待ってくださいボス」

オセロットが部屋を出ようとしていた霞に制止をかける。

「あなたの今回の戦闘員の配置について余りにも消極的すぎる…忍者の件や我々の配置に悪意が感じます!もしやと思うが…あなたが密告者なのでは?」

「何を言っている?」

オセロットが今まで抱いていた疑問を投げつける。確かに、レイヴンやオセロット、ハインドDやM1戦車を1箇所に集中して配置し、火乃香を迎え撃てば簡単に殺すことができた…筈だ。なのにそれをやらなかった。だからこそ、霞が裏で糸を引いていたと考えたのだろう。

「証拠がありませんボス。自分が無実だと証明したければ…」

「目だ」

野太い声が発せられた。今まで散々火乃香を苛めていたレイヴンだった。

「目は兵士にとって生命そのもの…それを奪えれば…無実を信じよう」

「わかった」

ゆっくりと霞は火乃香の元へ歩く。コツンコツンと一歩一歩踏み出す音が無音の空間の中で鳴り響く。

火乃香の目の前でナイフを抜いた。ゆっくり顔をあげる。痛みで火乃香の顎が痙攣しているためガチガチと歯が鳴る。

ナイフの先端を左目にゆっくり合わせる。

「_____________________!」

霞が火乃香の目にナイフを突き刺した。火乃香は叫んだ。声にならないほどだ。痛む。目が圧迫され左目が熱くなり、そしてヌルヌルとした液体が頬を伝う。ゆっくりとナイフが抜かれた。右目は光を視認できるが、左目は闇だ。鋭い痛み以外何も感じない。

未だ無事な右目から見える光景は下にボタボタと落ちる自分の血と、涙で歪んだ地面だけだった。

「これで十分か?」

「え、えぇ…」

「衛兵…奴の左目の止血と包帯を巻いとけそのまま死んでもらっては困るからな」

火乃香が気絶しそうになるたびに水をかけていた兵士に霞がそう命じ、もう2人ほど人員を呼び、両手を縛っていた鎖を外し火乃香を独房に放り込んだ。

________________________________________

火乃香が拷問を受けている間ディスカバリーは阿鼻叫喚の嵐だった。

火乃香の痛みは全てナノマシンを介して数値化されている。

火乃香が受けていた電気責めや水責め、鞭打ちなどの様々な痛みが生と死の境目ギリギリを狙われていた。

背中には赤い線が無数に走っていて、胴体は青く変色までしている部分もある。

凄まじい拷問になんとか耐え抜いてはいた。

「酷すぎる…」

モニターからは火乃香の苦痛で歪んだ声が聞こえてくる。

少しでも痛みを和らげるため、ナノマシンでホルモンの分泌を促そうとしたナオミ・ハンターだが、稲垣隼人に止められた。

「なぜ止めるんですか?!」

「奴らは火乃香の様子を見ながら死ぬギリギリを狙って痛めつけたているんだ!もしここで痛みをかき消してしまったら、殺されてしまう!それに火乃香も伊達にアルマース隊の隊長をやっているわけじゃない!今は…信じるしかない」

彼の言う通りだった。痛みを無視できるようになっても結局は体に負担がかかっているのは変わりない。相手が行き過ぎた先に殺すのは目に見えている。

『ワームホールドライバーを…あれの制御コードを手に入れなければならない…』

モニターから火乃香への尋問内容が聞こえて来た。

ワームホールドライバー…機密の多いこの組織(CFF)で最重要機密とされている兵器の名称。それがどんなものかなんて、総司令官と一部の執行権限の持つ人間のみしかコードなどわからない。

そもそも、CFFでの機密情報の扱いは現場にいる隊員を始めオペレーターを始めとする後方支援…果は数時間前に火乃香がボヤいていた通り、特務隊の連中や国連安保理常任理事国に出席する各国代表ですら知らない。全てを知っているのは総司令官である稲垣隼人ただ1人。

そして、モニターに映されている心拍数が一気に跳ね上がる。

不穏な会話が聞こえ、次の瞬間今まで聞いた悲鳴の中で最も激しく、苦痛に歪んだ声が聞こえてきた。

そして、一気に静まり返り、ズルズルと引きずられる音が聞こえていた。

_____________________

「グッ!」

「そこでおとなしく寝てろ!」

白い部屋で研究室を印象付けさせる部屋に放り込まれた。

部屋は防弾ガラスで脱出は不可能に近い。唯一の脱出口となるのは今は固く閉ざされた鉄扉ただ一つ。

部屋には壁から備え付けられただけのベットと丸見えなトイレのみ。とりあえずベッドに腰掛けることにした。

横を見ると先程まで拷問わ受けていた部屋が見える。

左目は乱雑に止血され、包帯が適当に巻かれているだけだった。

最低限の治療はしてくれたらしい。左目はいまだにじくじくと鈍い痛みが続き、鞭で打たれた背中には無数の細い線に位置する部分が鋭い痛みが脳を刺激する。

通信がきた。

『アルマース1!大丈夫か?』

「この状態で大丈夫か?って言ってるお前の頭が大丈夫か?左目をやられた…」

『アルマース1デキセドリンは要るかしら?』

「有難いが気持ちだけ受け取っておく…制欲を持て余すからな…」

『あら、ごめんなさい』

可笑しそうに笑うナオミに釣られ、火乃香も笑いだす。デキセドリンなんていう薬物に手を出さなくとも痛みを紛らわす方法はいくらでもある。

「そうだな…痛みを紛らわすために話を聞いてくれる?」

『えぇ、いいわよ』

「話といっても懺悔に近いけどね…あれは今から5年前かな…」

『火乃香…あのことを話すのか?』

「大佐…俺はもう平気だ」

『そうか…』

ゆっくり語り出した…

 

 

タイムリミットまで残り13時間30分




ちょっと今回は追憶編の休息です。
それとこれから投稿ペースが落ちてくると思います…テストや文化系サークルの展示会とか体育会系のサークルの練習とかゼミのプレゼン発表とかとかそれにあと2ヶ月くらいで後期試験があるから惚れに向けての勉強も始めなあかんくなりまして…かなりリアルが忙しくなりはじめてます。ご迷惑をお掛けしますがなるべく半月に1話ずつのペースで投稿できたらなと思ってます。ではまた!


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とある刀使いの追憶3

「こちらサピロス2…司令部に潜入。目標発見次第、射殺する」

『こちらHQ了解』

通信が切れた途端、思いっきり足でドアを蹴り破り、室内へ潜入する1人の少年兵がいた。

天童…南宮火乃香だ。

現在、火乃香はトルコ国境付近の島、サモス島で活動しているJAMの支部攻略作戦を担当していた第一特務隊所属の雷電が敵に囚われ音信不通の状況に陥ったために急遽火乃香に任務が与えられた。

任務は2つ。先に潜入していた雷電の救出とトルコで活動しているJAM司令官の暗殺。

残念ながら1つ目のミッションは雷電の死をもって達成が不可能になってしまったために、現在は残されたもう1つの任務の達成を目指していた。

「火乃香…扉は蹴ってはいけないと死んだ両親から教わらなかったか?」

「に……ぃさん…?な…んで?その服は…その制服は…!」

「元気そうでなりよりだ火乃香…君の方こそなんだ?その服装とエンブレム…まさか戦争の犬(Dogs of War)に成り下がったのか?」

「う、うるさい…!」

死んだはずの兄がJAMの軍服を着て、椅子に踏ん反り返っている姿に動揺を隠せないでいた。

そして揺れる。火乃香が構えるハンドガンの銃口がカタカタと。

「それと…さっきの質問だが答えは簡単だ…あのクソみたいな両親は俺が殺してやったんだ!」

その瞬間、火乃香はキレた。気付いた時にはハンドガンの引き金を引いていた。

霞の頬を擦り、壁に穴が空いた。

緊迫した空気の中、霞が刀を抜き、火乃香も同じく、刀を抜く。

両者がにらみ合い、そして数秒後、火乃香が踏み込んだ。

狙うは鳩尾よりも左寄り…心臓ただ一点のみ。黒鋼を鋭く突き刺す。

霞はその突きを流し、刀を振るう。二本の銀色に光る刃は互いにぶつかり、甲高い金属音を立てながら、攻防が行われる。

しかし、2人の攻防はそこまで長くは続かなかった。

火乃香の握力が次第に弱くなり遂に、霞の一撃で刀が吹き飛ばされる。

「力の差も何もかも俺に遠く及ばない。いいか心技体この3つの中で他人から教わることが出来るのは技術のみだ。体なんてものはそこまで重要ではない。重要なのは技術でも体でもない心だ。その心にお前はまだ迷いがある」

「何が言いたい」

「自分で考えろ敵にそんなのを教える義理はない。だがこの世に不変なものなんて何1つないことは教えてやる…じゃあな」

ゆっくりと霞が部屋から出て行き、その部屋には火乃香だけになった。自分の無力さに嘆く暇もない。戦況は次々と変わる。その流れに自分は以下に取り残されないように着いて行くか。

そして、その流れの中で絶対的な敵なんてものは存在しない。火乃香は任務が失敗した事を大佐に伝え、トボトボと施設を後にした。

基地から出た火乃香は15マイルほどの距離にあるカルロヴァシが見える丘にふらりと立ち寄った。このサモス島は魔族と人類他にも反政府組織と正規軍の紛争など相当治安が悪い。今も眼下で戦車隊やヘリなどの機甲部隊と歩兵戦力が死体の山を築きあげていた。

日本の刀を握りしめ、涙を流す。

刀に涙が一粒一粒落ちてゆく。無線がうるさくなっているが全て無視した。何もかもどうでもよく感じた。このまま何も聞こえなくなれば知らなくていい事を知らずに済むかもしれないそう思えていた。

(憎い?)

幼い…ほのかと同じくらいの歳の女の子の声が聞こえた。

(全てを壊したい?)

別の声が聞こえる。

「あぁ…壊したい…殺したい…憎い…みんな…俺も…何もかも…」

(じゃあ私に血を頂戴?あなたの血美味しそう)

刀が喋っている。しかしそれほど恐怖は感じない。

自暴自棄になっていた火乃香は白と黒を抜き、刃を指で薄くなぞった。刀身に血が流れ、意識が暗転した。

上と下の感覚も無ければ右や左すらわからない。何1つ光が存在していないのになぜか回りが良く見える。身体はふわふわと浮くような感覚はあるのにしっかりと地面を歩いている宇宙空間とは全く違った、この世の物理法則すら通用しないような不思議空間にいた。

「やっと答えてくれた…私たちはあなたが持っている刀よ」

黒髪の子と白髪の子がいた。

「なぜ俺を呼んだ?」

「苦しそうだったから」

白髪の子が答えた。

「その辛さ忘れさせてあげる。ほら見て火乃香…あそこにいる人たちみんな死ぬ事を恐れるどころか喜んでる。あなたが殺しても誰も責めない。力を貸すわよ…そのモヤモヤした気持ち忘れない?」

甘く囁かれる。どんな代償を払おうと今この瞬間を逃れるためなら何を差し出しても構わないとさえ思えていた。

「乗った。だけど聞かせて…君たちの名前」

「黒鋼と呼ばれているわ」

「私は白鋼…」

「女の子らしくない名前だね…」

「あなたが別なな目をつけてくれても構わないのよ?」

「なら…黒音と白音って呼ばせてもらうよ…」

「気に入ったわ♪」

「ありがとう…」

黒鋼と白鋼改め、黒音と白音は嬉しそうに顔を綻ばせる。

「俺は何を差し出せばいい?」

「寿命」

黒音が答える。

「半分もらうわよ?忘れるほど暴れたいのでしょ?」

「………………わかった」

________________________________________

「あっはははははは!ほらほら遅いぞ!追いついてみなよ!」

白い肌をした子供が高笑いをしながら闇夜の中を走り抜けた。

戦場にいた全ての人間の目にはその子供は白い悪魔のように映った。子供が通った道にいた兵士は殺され兵器は真っ二つに叩き切られていた。黒と白の刀を持ちその刃には赤い一本の細い線伝っている。赤い線を刃が取り込むほど刀の切れ味は増していく。

1人また1人と正規軍、魔族、反乱軍関係なしに上半身と下半身が切り捨てられていく。

まさにこの世の地獄だ。野外だというのにあたりからはナパームの独特の匂いと血の匂いが充満している。

火乃香だ。何もかも忘れるためだけに、全てを焼き払い、そして破壊する。

次々と戦車が鉄屑に変わり果てていた。もう誰ものにも止められやしない。

こうして、欧州に新たな血塗れた惨劇が語り継がれるようになった。

________________________________________

「てのが5年前の事件さ…軽蔑したでしょ?」

静かに火乃香は語り続けていた。全身の痛みを忘れるために。

自分の過去を話すことはあまり得意ではなかったが、話しておいてもいいかなと感じたためだ。

『辛かったのね』

「罪悪感はあるし後悔もした…あの後大佐が直々に回収に来てくれたな」

『そうだったな…懐かしい5年前なのにな』

「しばらく精神が安定してなかったな…だけど彼女のお陰で、なんとかなった。本当に感謝しかない」

『ラ・フォリア王女様と夏音ちゃんのこと?』

「あぁそうだよ…本当に2人には救われた…」

精神崩壊の後、2人に出会わなければ今頃どうなっていたかわからなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイムリミットまで残り13時間25分




ビミョーな感じで終わらせました…べ、別に終わらせ方がわからなかったとかじゃないんだからね!
ではまた次回


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孤島の武装蜂起篇Secondmission
孤島の武装蜂起篇Secondmission1


中盤戦にさしかかりました。


激しい拷問を受け、独房に放り込まれた火乃香はどうにか突破口を探していた。

壁の向こう側には常に敵兵士が1人見張っている。そして唯一の出入り口になりそうな扉は1箇所しかない。

さてどうしたものか…。

ほのかの知りうる全ての周波数を探り出した。

ここで気づいた。頼りなさそうだけどあの男を使えばいいと。

この基地にいながら、火乃香との協力関係にあるあの男なら、なんとかしてくれるかもしれない。

「オタコン聞こえるか?」

『どうしたのアルマース1』

「敵に捕まったから助けてくれない?」

『いいよ。どこの独房にいるの?』

「どこにいるかはわからないが近くに天井から鎖が垂れている部屋だ」

『あそこか!わかった僕も今近くにいるから助けに行くよ』

どうやら助けに来てくれるらしい。装備品は先ほど拷問を受けた部屋に置いてあるのが見える。突然壁の向こうにいる見張りの兵士がお腹を抑えながらトイレへ駆け込んだと同時に、拷問部屋の扉が開き、若干分かりにくいがちょっとした空間の歪みが独房の扉に近づいて来た。

「お待たせ!それにしてもひどい傷だね」

「あぁ…それよりも、早く出してくれ!」

「ごめんこの扉は電子制御じゃなくて物理的にロックがかけられているんだ」

「だったら見張りから鍵を奪ってくれ!ちょっと気絶してもらうだけだから!」

「僕は科学者だぞ?!人殺しなんかできやしない!それにもしかしたら殺されるかもしれないんだ!」

「殺すんじゃない気絶してもらうんだ!」

「どちらにしろ無理だ!僕じゃできない!…これケチャップとレーションこれでうまくしのいで!…あ!見張りが戻って来た!じゃぁね!」

「お、おい!」

火乃香を置き去りにしてステレス迷彩でどこかへ行ってしまった。

ケチャップとレーションで美味しいご飯を作れとでも言いたいのかと愚痴りたくなるが、まさかなと思いながらも、うつ伏せになりケチャップをお腹の下にしまいこみながら、ゆっくりと出す。所謂死んだふりだ。

「!どうした?!」

…………(((なんで騙される?!)))

火乃香だけではなく、この状況をモニターしていたディスカバリーにいるメンバーも心の中でツッコミを入れる

こんな見え透いた子供騙しにも律儀に乗ってくれるとは、なんとも真面目なのかそれとも一周回ってボケ担当なのか、いや火乃香による彼の評価はボケ担当というふうに決まってしまったが…。

重たい扉の施錠が解除され、死体もどき(火乃香)に近づこうとした瞬間火乃香は相手の顎に手をかけ転ばし、部屋を出た。

ふと部屋の中を見ると見張りは気絶しているようだった。軟弱なやつで助かったと思いながら、拷問部屋を抜けた。拷問部屋が位置していた場所はドナルドアンダーソンが拘束されていた部屋のすぐ近くだった。

そこから装備を整えた火乃香は真っ直ぐと連絡通路へ向かう。

今回はスナイパーウルフはいなかったようだ。そのままあの忌々しい扉を潜り、第1ヘリポートの階段を登って行く。

なんだって?エレベーターは使わないのかだって?HAHAHA!エレベーターが止まっていたんだよチクショー!

エレベーターが止まっていたことや様々なストレスで火乃香はどうにかなってしまったらしい。

そして階段を上る行為というのは舐めてもらっては困る。登っても登っても上が見えてこない。見栄えの変わらないコンクリートの壁と鉄の階段だけが続く景色と聞こえるのは自分の足音と荒くなっていく息。

「いつまで登らにゃならんのだ!」

つい叫んでしまった。なぜなら既に9階以上の高さを登っているからだ。

上ること数分、今までずっと登っていたが、途端に平坦な通路にたどり着いた。目の前にはおそらくもう1つの通信塔に行くための連絡橋があるのだろう。ゆっくりとセキュリティ扉の横についているパネルにカードを翳そうとしたが、扉が開かなかった。

「オタコン扉が開かないんだが…」

『おかしいな…普通は開くはずなんだけど…』

「?」

火乃香はじっと扉を見つめるとあるものを発見した。

『どうしたの?』

「溶接されてる…」

『溶接?なんでわかるんだい?』

「溶接した後がしっかりとあった…オタコン他に行く方法は?」

『あるにはあるけど…ラペリングしなきゃ無理だよ?』

「ならそれで行こう…嫌な予感しかしないけど…」

嫌な予感がするということは100%何かあるということだ。

この島に来た際に見たハインドDもまだ何処かにいる。

梯子を登り、第1ヘリポートの屋上に出た。

大きなパラボラアンテナやヘリポート、変電施設などが存在し、その先には第2ヘリポートの屋上が見えた。ヘリポートをつなぐための連絡橋などはなく、下を見ると溶接された扉の反対側にある連絡橋が見えた。近くには頑丈なロープがあり、十分な長さだ。

しかし安全に降下するために必要なハーネスがない。別にハーネスがなくてもラペリング降下はできるが、頼りになるものは自分の腕力と握力だけになってしまう。それに着用しているスニーキングスーツの強化繊維がどこまで耐えられるかわからない。加えて今火乃香の腕は何箇所か切り傷を負っているためうまく力が入らないことも懸念される。

ロープを括り付け、降下しようとした瞬間、ハインドのローター音とともに機銃掃射された。

《ガハハハハ!ソードダンサーァ!ここで決着をつけるぞ!》

バルカンレイヴンの声だ。

壁からは蒸気が噴き出し、さらに降下を難しくした。ハインドの機銃掃射はちょっとした動きで避けることもできる。しかし機銃によって火乃香の命を支えるロープが切られれば真っ逆さまに落ちてしまう。急いで懸垂降下を開始する。

ギリギリを銃弾が通る。

まるで獲物をゆっくりと追い込ん出るかのようにハンティングを楽しんでいるかのように絶妙なまでに弾がばらまかれる。

降下するにつれ、強化繊維のグローブは段々と擦れていくのを感じる。グローブ越しにロープが食い込み手が痛むが泣いている暇はない。連絡橋まで残り15メートルほどの地点でロープを手放し、落下する。うまく受け身を取り無事に着地成功した。

そして連絡橋を渡り第2ヘリポートの中へ入る。

中の構造は第1ヘリポートと全く同じらしい。同じフロアにエレベータがあったためボタンを押したが電源が落とされているらしく反応がなかった。仕方なく階段で下に降りようとするがその階段が何者かによって破壊されていた。

「クソッ!」

誰かの妨害を受けている。誰が見てもそうだと言い切れるほどにだ。

第1ヘリポートの連絡橋といいこの妨害工作といいおそらくレイヴンがやったのだろう。

仕方がないので屋上に出るためエレベータ前を通ろうとした時、ガサゴソと音が聞こえた。

「誰だ!」

壁から飛び出しソーコムを構える。

「僕だ!僕だよ!アルマース1!撃たないで!」

ステレス迷彩の電源を切り即座に手を挙げ射撃の制止を呼びかけたのはオタコンだった。

「オタコンか…驚かさないでくれ…」

「いやぁごめんだけど君の勇姿を下から見ていたよ!まるでハリウッドのワンシーンみたいだったね!」

ニコニコと笑いながら先ほどの降下を語っていた。

しかし火乃香は複雑な顔をした。

「現実は映画みたいに華やかで見栄えの良いものではない…自分が生き残るために泥だらけになり必死になる…それが俺の生きる世界さ…」

「…アルマース…君に1つ聞いても良いかい?」

「なに?」

「人は戦場でも愛は芽生えると思う?」

唐突な質問だった。火乃香は目を見開き、オタコンの顔をまじまじと見る。オタコンの表情はなにかを期待しているようでもあった。

「…そうだな…人は…どんな場所でもどんな時でも…人を愛することができる…だけどそれはとても容易なことではない…もし愛を享受したいのならば、その人を守り抜く覚悟と信じる心そして何倍も愛することが大切だ。俺はそう思っている」

「君に恋人は…?」

「いる…だけど…苦労や心配ばかりかけているがな。だから彼女達が笑顔で居られるように最大限の努力をする…それが俺がしてやれることだ」

脳裏には笑顔で手を差し伸べてくるラ・フォリアと夏音の顔が浮ぶ。

今も心配をかけている。だから必ず生きて二人の元に戻る。こんな島で野垂れ死ぬことだけは避けなければならない。

「そう…なんだ…ありがとう!」

オタコンはどこか満足したような顔でどこかへまた走り去ってしまった。

火乃香は屋上に向かうため、ゆっくりと階段を登り始めた。

数分登ったところで屋上に出ることができた。

見渡せば隅っこにスティンガーミサイルが置いてあった。

『スティンガーを手に入れたか』

ナスターシャ・ロマネンコが通信を入れてきた

『これならば勝率が若干上がる!』

「勝率が若干上がる?何言ってるんだ?」

『君はわかっていない。確かにM1エイスブラムを対戦車ミサイルなしにグレネードと地雷だけで倒し切った君とは言えど、相手は対戦車ヘリなんだぞ!生身の人間では勝つ事は不可能だ!だがそのスティンガーを手に入れたならばそのゼロに近い確率も10パーセントくらいは上がった!』

「随分と酷評してくれるな」

『それだけ勝つ見込みがなかったという事だ。いいかアルマース1。スティンガーミサイルは短射程の携帯型誘導ミサイルだ。赤外線センサーで相手を捕捉し、あとは打ちっ放し(Fire-and- forget)だから君は照準をヘリに合わせ引き金を引くだけであとは全て機械がやってくれる。冷戦下で行われたソ連用兵器としてアフガン侵攻の際アメリカが現地で活動するムジャヒディンに対ソ連用兵器として提供されたんだ。スティンガーによってソ連は戦術を見直さなければなくなったほど有効的な打撃になった』

「へぇ…」

『まぁ君が唯一気をつけなければならないのが機銃掃射くらいだろう。健闘を祈る』

通信を終了し辺りを見渡す。遠くからヘリのローター音が聞こえた。

《準備運動は万全のようだな刀使い(ソードダンサー)!楽しませてくれ!》

大音量の外部スピーカーで挑発され、機銃掃射を受ける。屋上にはコンテナが置いてあった。そのコンテナをうまく利用しながら銃弾の雨を掻い潜る。

スティンガーのシーカーを開き、照準を合わせる。ヘリをロックオンし、引き金を引いた。

樹脂製コンテナからミサイルが超音速でレイヴンの操るハインドDに突っ込んでいった。

ハインドDはフレアを撒き散らしながら回避行動を取ろうとしたが、2波長光波ホーミングによって赤外線と紫外線を辿ることも可能としているため、フレアによる妨害を難なく躱し、ローターに直撃し、エンジンが被弾した。大きく期待がぐらつきながら

墜落していく。

火乃香はゆっくりと手すりにつかまり下を見下ろす。あの爆発で生き残ることはまず不可能だ。恐らくは死んだだろう。念のため双眼鏡で墜落現場を確認する。

コックピットは燃え上がり、レイヴンと思しき死体が燃えていた。

「地獄に堕ちたか…」

『アルマース1!エレベーターが動いたよ!』

「助かる」

『ハインドを落としたの?!』

「蝿を一匹堕としただけだ…」

『……そっか…君にとってヘリを一匹落とすのなんて造作もないことなんだよね…』

「何か言ったか?」

『!いや!なんでもない!それより、きちんとルートは覚えてるかい?』

オタコンが小さく呟いていた。

「あぁ…この建物の一階にあるセキュリティ扉の先にある平原に出た後700メートルほど東に行ったところにあるんだろ?」

『問題無いみたいだね。幸運を祈るよ!』

第2ヘリポート屋上から地上へ降りるために来た道を永遠と下っていく。

オタコンと出会ったエレベーター前に着いた。

先ほどオタコンからエレベーターの作動が可能になったとの連絡を受けていたので早速操作パネルを押す。

無事動いてくれたようだ。

ほんの10秒程度で火乃香のいる階層に到着しエレベーターへ乗り込む。

エレベーターに乗ること10秒。一階に到着し、目の前にあるセキュリティ扉を開け細い通路を道なりに進んでいくと、平原へ出るための扉を見つけた。屋上でハインドを落としていた時もそうだったが、嵐が潜入した時よりも酷くなっていた。

扉を潜ると小高い丘が250メートル程先に存在していた。

高低差は約10メートルほどと言ったところだろう。荷物の運搬する為のトラックやその先には木が生えていた。

そしてこの平野には火乃香の心音と風の音以外に、『(ウルフ)』の遠吠えが聞こえた。(ウルフ)がいるという事は火乃香を一旦地獄に落とした女スナイパーもいることになる。より一層緊張が増す。

地形的に観ても火乃香のいるところは障害物がなく、そして高度が低い為、こちらからは見えにくく相手には見えやすいという状況だ。警戒していて損はないだろうと考えていた。姿勢を低くしゆっくりと前進していく。

____________________!

撃たれる!

火乃香は右に転がる。その0.1秒後には地面に穴が開いていた。

『流石だね刀使い(ソードダンサー)!まぁ今のはわざと外したのだけれど』

「!スナイパーウルフ!…貴様…よくもやってくれたな…!生きてこの島から出られると思うなよ…!」

『ウルフだって?!』

オタコンが殺伐とした通信に割り込み、嬉しそうに話しかけてきている。

刀使い(ソードダンサー)…死ぬのは貴方よ…?』

『待って2人共!話し合えばわかるはずだよ!』

「目を覚ませオタコン!こいつは俺とお前を殺そうとしている組織の人間だ!」

ストックホルム症候群___拉致監禁された被害者が心理的に生き延びる為犯罪者に心を許してしまう症状だ。オタコンはこの軟禁生活で自然と生き延びるためにウルフを受け入れ、挙げ句の果てに恋心まで抱いてしまったのだろう。

ハインドを落とす前…オタコンとあったあの時、戦場でも愛は芽生えるかなんて聞いてきた時に気がつかなかった自分を責めた。

ハインドを落とした時から微妙に感じていた嫌な気配。素直に従っていれば、もしかしたらオタコンとの通信を一時的に切断していれば。ウルフが獲物(火乃香)を挑発する為に入れてきたこの無線を聞かせることもなく。火乃香はウルフをあっさり殺すことができたはずだった。

『刀使い…貴方に1つ教えてあげる…私が今いる場所…貴方がよく見えるわ…』

無線機越しにでもわかるほど熱い吐息とともに甘く囁く。それはまるで恋する少女のようだった。

スナイパー()が自らの存在をアピールしてくるとはスナイパー()失格だぞ?」

『私の宣言は死の宣言…私が近くにいるという事は貴方のしも近いという事』

『まって!ウルフ!やめて!お願いだ!』

『五月蝿い!子供は指くわえて見ていろ!』

愛おしい人との会話に突如割り込んだ元カレへの塩対応を彷彿とさせる光景だった。火乃香もこれ以上オタコンをこの会話へ割り込ませるのは余りにも酷な事だ。それに彼女は狼の死かそれとも刀使いの死どちらかを望んでいる。だったらそれに答えるのは筋だ。これ以上オタコンをこの通話に割り込ませ続けると火乃香は彼女を殺し辛くなり、自分が刈り取られてしまう。

「オタコン!目を覚ませ!こいつも俺もお前の生きる甘ったれた世界には生きちゃいない!」

『楽しませて頂戴…刀使い(ソードダンサー)!』

スナイパーウルフ()との最後の決着(デスゲーム)が幕を開けた。

 

 

 

 

タイムリミットまで残り13時間




モーイクツネールトクリスマスー彼女のいない私はクリぼっちを謳歌します└(՞ةڼ◔)」
あまり細々と書いて長くするのも読みづらくするだけかなとおまってしまうし、かといって大雑把に描き過ぎたらただでさえ文才がなく状況や心理的な描写がわかりづらいというのに、更にわかり辛くしてしまうしで…難しいですねぇ…SS書くのって。
だんだんと設定を忘れてきているのも問題ですけどね…
プロット書いてないんで結構ガバガバではあります。許してください!
こんな作品ですがこれからもよろしくお願いします!


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孤島の武装蜂起篇Secondmission2

前回までのあらすじ
突如CFFと敵対する国際テロ組織『JAM』によって太平洋上に浮かぶ島で蜂起が起きた。彼らは人質として国防省付属機関先進研究局(DARPA)局長ドナルドアンダーソン、アームズテック社社長ケネス・ベイカー両名を人質にし、24時間以内に国連軍に対しワームホールドライバーの制御システムを要求。もし要求が飲めなかった場合人質に名の殺害と新型核弾頭の発射をすると警告した。
この事件に対応するため国連軍特殊部隊『COMBAT FAIRY FORCE』
第一特務隊所属南宮火乃香を投入。
途中基地で幽閉されながらも新型核弾頭の情報を提供した開発チーフであるハル・エメリッヒとの接触やこの武装蜂起における幹部クラスであるリボルバーオセロット、バルカンレイヴン、スナイパーウルフや五年前に失踪した雷電との戦闘を潜り抜けた。しかしスナイパーウルフによる罠によって火乃香は一度敵の手に落ち、拷問を受け目を失った。
その後独房を脱出し、新型核弾頭が保管されていると言われている地下整備基地へ向かうためヘリポートへ向かう。そこでハインドに乗ったバルカンレイヴンを撃破し、平原へ向かうも火乃香を罠に嵌めたスナイパーウルフの狙撃に合うのであった。


『人は戦場でも愛が芽生えると思う?』

たった1人の男が持ったその疑問。そしてその男のうちに秘めるその想いがなんなのか。それを知りたいが故の質問だった。そして今火乃香はそんな彼が一方的に愛する女性を殺そうとしている。そしてまた彼女も火乃香を殺そうとしている。

とにかく急いで移動しなければただの的になってしまうので急いで岩陰に隠れた。

風が強いなかここまで正確に狙撃してくるということは相当の腕がなければ難しい。

火乃香も狙撃に自信がないわけではない。むしろ得意な方だ。しかし、度重なる生死の境目を彷徨う激闘を何度も行なっていたことと拷問による体力の消耗によって精神的にも肉体的にも緊張が高まり腕が震え、狙いが定まらない。

それに加えて狙撃をするにはいささか無理がある場所にいる。

しかしそれでも全く引き金を引くことができないという状況ではない。スコープを覗けば反対側ウルフが居る場所を見ることができるし、偶にウルフが移動するところを見ることもできる。

もっといい狙撃ポイントはある。

だが、その場所からうごけないよう、ウルフはある一定のラインを引き、圧力をかけている。正確には圧力をかけていると感じるのだ。

試しにギリギリまで前に行こうという自殺と同レベルの行為はしたくないので大人しく今いるポイントで狙撃を続ける。

ウルフがレーザーポイントを使い、絶対に外さないとメッセージを送ってくる。

スコープ越しに目があった。

火乃香とウルフは同時に引き金を引く。高速で飛び出した2発の弾丸は丁度2人の距離の中間地点で甲高い音と火花を散らしぶつかった。

玉と玉の衝突が起きたのだ。

ウルフは依然として伏せ撃ち姿勢(ブローン・ポジション)でこちらを狙っている。岩陰から身を乗り出し、スネークとウルフが再び同時に引き金を引いた。気のせいだろうか、耳元でうるさく鳴っていた風の音と嵐が止み、ウルフの持つライフルから放たれた弾丸の軌跡がゆっくりと見えた。右回転をしがらみ火乃香の左頬を掠め、地面に着弾した。そしてスコープ越しにはウルフが胸を苦しそうに押さえている。押さえているその手からは赤い液体が垂れていた。

火乃香は奇妙な感覚に陥った。依然として強風が火乃香を煽るがそれとは比べ物にならないほどの感覚だ。時間が引き延ばされる。そんな奇妙な感覚に身を委ねながら自然と体が倒れこむウルフの元へ近づいていく。

オタコンが息を切らせながら走ってきたのを横目で見る。

「そんな…どうして…」

膝から崩れ落ち泣いていた。

とうとう火乃香がウルフの側に立った時世界は静まり返った。

「私は、ずっと待っていた」

先程まで荒れていた空が今は静寂を貫いていた。狼の遠吠えが聞こえる。まるでここが戦場であるということを忘れてしまうほど幻想的な景色だった。

「私はスナイパーだ。待つのが任務。微動だにせず、ただひたすら」

彼女は月を見ていた。彼女の体の一部だったライフルはその手から離れた。

「肺をやられた。もう助からない。お前ならわかるな?楽にしてくれないか」

ウルフが咳き込むのが聞こえる。早く彼女のところに行かなければ。焦り、躓き、そして無力を味わう。自分を責め、呪い、そして泣く。涙を流す。けれどもウルフのハンカチを使わなかった。彼女の子のハンカチはもっと尊いもののためにある気がしたからだ。

「私はクルドだ。ずっと落ち着けるところを探してきた」

「私は戦場で生まれた 育ったのも戦場だ 銃声や怒号―― 悲鳴が私の子守歌だった 

来る日も来る日も狩りたてられ 憑かれたように戦う それが私の日課だった… 

朝 目覚めると 仲間や家族の死体が累々と横たわっていた 私達は朝日を見ながら… 今日の命を祈った 

政治や歴史は 単に私達をなぶるだけの存在でしかなかった そんな時 あの人が現れた 

あの人―― 英雄サラディンが助けてくれた」

ポツポツと今にも消え入りそうな小さな声が途切れ途切れに聞こえる。

「英雄サラディン…霞か…」

「私はスナイパーになった。身を隠し、スコープから世界を傍観する立場になった。戦場を内からではなく、そとから客観的に観る立場に。私はそうやって、戦場の外から殺戮をーこのおほかな歴史を観てきた。私は世の中に復讐する為にこの部隊、この蹶起に参加した。しかし私は、(ウルフ)としての誇りを失ってしまった。復讐の念が、身も心も私を変えてしまった。今の私は(ドッグ)同然…」

ウルフは泣いていた。火乃香は彼女の涙をそっと拭きながら話始めた。

(ウルフ)は高潔な生き物だ。(ドッグ)とは違う。俺の住んでいる日本やイヌイットでは昔から狼と共存し、そして彼らを神のように崇めていた。俺たちのような傭兵なんかは戦争の犬(dog of war)と呼ばれている。確かに俺たちは消耗品だ。しかしお前は違う。(ウルフ)だ。(dog)ではない」

「お前は、誰なの?もしかして、サラディン?」

「お前は逃げも隠れもしなかった。やろうと思えば一方的に殺せたにも関わらず」

「例え任務でも…あなたみたいな未来ある子供を一方的に殺したくはない…」

「安心しろ、ウルフらしく、気高く死ねる」

「今わかった。誰かを殺す為に潜伏していたんじゃない。殺されるのを待っていたんだ。お前のような男に……お前は英雄だ。私を解放してくれる」

2人の会話を聞きながらオタコンは考えていた。なぜ彼女に惹かれたのか。2人のように明日の命をも知れない過酷な環境にいたわけでもない。でも僕の運命は、自分でどうしようもないあらかじめ定められた呪いがかけられていた。それが勝手に見出した僕とウルフの共通点だった。

火乃香がソーコムをウルフの胸にそっと照準を合わせている。

「どうしてなんだ」

オタコンはステルス迷彩を脱ぎ捨て実体化した。

「愛していた」

オタコンは呟いた。その声はウルフに届いているのかわからない。

「銃を、私の近くに…」

オタコンがPSG1を手に取りウルフに渡す。

「銃は私の一部なの」

ウルフが微笑んだ。最初で最後にオタコンへ向けられた表情だった。

その表情はどこか儚げでそして残酷なまでに美しかった。

「みんな、いるわね。さあ、英雄(ヒーロー)、私を解放して」

優しい風と共に狼の遠吠えが聞こえてきた。

火乃香の指がトリガーを引き絞った。

バン!

1発の銃声と排出された空薬莢が宙を舞った。

 

 

 

________________________________________

「アルマース1、戦場でも愛は享受できるって言ったよね。僕は何もできなかった」

オタコンはウルフにハンカチを返した。これは彼女が持つべき高貴なハンカチだからだ。

「地下整備基地に潜入する。時間がない」

「わかってる」

「自分の身は自分で守れ。誰も信用するな。メタルギアの破壊に失敗すれば、空爆を受けるはずだ」

「無線機は手放さない。君を追跡している」

「いつでも逃げていい残りの人生好きなように生きろ」

「アルマース1!」

オタコンは叫んだ

「彼女は何のために闘ったのかな?僕は何のために!アルマース1は何のために!」

オタコンの涙はすでに枯れていた。そして火乃香は歩みを止め振り返った

「生きて会えたら答えを教えてやる!」

だから死ぬなよ。隠されたメッセージも一緒に送った。

オタコンは少し考え込むそぶりをした後に無邪気に笑い、叫んだ。

「わかった!ほの時までに僕も答えを探しておくよ!」

だから生きて必ず再開しよう。隠されたメッセージへの返答が帰ってきた気がした。

そして2人はそれぞれ反対の向きに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

タイムリミットまで残り12時間30分




後半はほとんど使い回しました。手抜きという方もいらっしゃると思いますが自分的にこのシーンはMGS1の中で1番の名シーンであり、話を変えるなんてことができませんでした。私はこのシーンで何度泣かされたことか。


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孤島の武装蜂起篇Secondmission3

平原を後にし、いくつかある扉をセキュリティカードで開いていく。

それぞれ武器弾薬、それから手ブレを抑えるのに利用しているジアゼパムなんかも手に入れ、装備を整え最期の扉を開いた。

中にはコンテナがいくつか積まれていて、天井の隅にガンカメラが設置されていた。

火乃香は迷わずチャフグレネードのピンを抜き、部屋に放り込む。

数秒してから小さな爆発音と共に金属片がバラ撒かれ、ガンカメラの無効化に成功した。そっと奥にある地下整備基地へ続くであろう階段を下り、扉を開けた。

扉を開けた瞬間、熱風が火乃香の体全体に吹き付けてきた。

部屋の中を見渡すとマグマのような液体が下に溜まっていた。溶鉱炉のようだ。

(暑い…早く抜けたいな…)

火乃香は目の前にある昇降機に乗るため、ボタンを押そうとした。だが、その瞬間見てしまったのだ。見張りの兵士1人を…。

その兵士は丁度手すりの側にいた。しかも鼻歌を歌いながらだ。

火乃香は兵士を見ているとなぜか無性に腹立たしい気分になった。

ーこのまま背後から下にある溶鉱炉に突き落とせば楽に処理できちまうぜ!アニキ!ー

火乃香の中にいる悪魔が囁く。そして普通だったらここで天使が現れ、邪悪な考えに喝を入れ、早まった行動を止めるのだが、何せここは戦場だ。そんな天使なんて現れることはなく、遂に名も知らないJAMの兵士をちっとも哀れに思わずに、後頭部を勢いよく抑えつけ、上半身が手すりから乗り出したところ両足を持ち上げ、手すりの向こう側へと突き落とした。

奇声を上げながら溶鉱炉に落ちていき、ジューと音を立てながら沈んでいった。

『アルマース1…流石にあの処理の仕方はひどいと思うんだが…』

『あなた何か日常生活で不安やストレスを抱えているの?』

『うわぁ…あれは可哀想だよ…!非道徳的な人ね!』

大佐、ナオミ、メイリンがこぞって火乃香を非難してくる。

しかも無線越しだというのに、司令部にいる他の人達からも白い目を向けられているような気がした。

「武器装備は現地調達なんだろ?貴重な物資を無駄にはしたくないし、何より地形を利用するのは基本じゃないか?!それとナオミ…ストレスや不安というが戦場にいてストレスを感じない奴は人間でもなんでもない!もしそんな奴がいるならばそいつは重篤潜在犯かコンバットハイになっている兵士、最悪は精神崩壊を起こした奴だけだ!道徳的にと言うことも同じだ!戦場で道徳を大切にしていたら真っ先に殺されてしまう」

それぞれ3人を黙らせ通信切断した。

思い返せば8時間前、拉致同然の強引さで部隊招集を受けた時から火乃香にのしかかるストレスは相当のものだった。それからと言うものの、無駄にガンプレイをかましてくる厨二爺さんや、既に死んだと思っていた過去の仲間との殴り合い、女スナイパーに望んでもいない好意を寄せられ、更に敵の手に落ちてわ拷問を受け、一方的にではあるがオタコンが愛する女スナイパーを殺し、そしてこれからメタルギアの破壊と核の発射阻止、場合によっては自分の最後の血縁者である兄を殺さなければならないのだ。これだけのプレッシャーとストレスを受け続けているのだ。たかが溶鉱炉の中に兵士1人を突き落としたからといって、何も感じない。それどころか、少しスッキリしたのは仕方のないことだ…と、少なくとも本人はそう思っている。

昇降機に乗り、下の階層へ向かう。

一階には大きな搬入扉とボイラー室があった。

火乃香はボイラー室の方へ向かい何かないか探した。

探ること数秒。ボディーアーマーを見つけた。ボディーアーマーを身につけ、火乃香は搬入扉へ向かった。

火乃香が搬入扉に近づいた瞬間大きな扉はゆっくりと開き、その奥に続く搬入用のエレベーターに乗り込みさらに地下へと進んでいった。

地下に着くとそこは先程までいた溶鉱炉とは真逆の極寒の地だった。おそらくは巨大な冷凍室か何かだろう。歩哨がちらほら見えるが余裕で突破し、そのまま真っ直ぐ通路を走っていった。

扉を抜けると排水施設があり、反対側には扉見えた。おそらくそこにメタルギアが眠っているのだろう。

反対側の扉まで走り、セキュリティカードで開けた。

横幅約3メートルほどの細い通路を抜けた先に見えた。

遂にだ。巨大な鉄の塊が。それはまるでティラノサウルスを彷彿とさせるような巨大な恐竜が。

メタルギアとの対局だった。

「大佐…メタルギアだ…」

『あぁ…』

息を呑むほど大きくそしてどこか冷たい雰囲気を纏っているようなそれでいてかつてこの地上を支配し、王者として君臨していたティラノサウルスのように堂々としていた。

その圧倒的スケールに火乃香は息を呑んだ。

「大佐…メタルギアだ…REXだ…」

『あぁ…遂にたどり着いたか…アルマース1!REXの核発射能力を確認し、破壊するんだ!』

大佐からの最終任務が言い渡された。

火乃香は周りを見渡し、上に上がるためのハシゴを見つけた。

何回かハシゴを登り、高さ約15メートルほどにある頭部に登った。

通信がなった。オタコンからだ。

『アルマース1!』

「オタコン!どうした?」

『今僕の研究室にいるんだ!』

「で?それがどうした?」

『REXのミサイル発射を止めるためには3つの鍵が必要だっていったの覚えてる?』

「あぁ…3枚のPALキーが必要だったな…だけど俺は一枚しか持っていない…!残りは奴らが持っているかもしれない…」

『安心してアルマース1!今ベイカー社長のネットワークシステムにハッキングしているから!』

「そうか!お前ハッカーだったな!」

『うん!その道で僕の横に出る人はいないと自負してるよ!』

大きくでたオタコンに心強く感じる。浅葱よりも腕がいいのは確かだ。いや浅葱も負けていないだろう。そんな心強い味方の情報を待つことにした。時間が惜しいので目の前に見える地下管制室に向かうことにした。おそらくあそこで全てを操作するのだろう。管制室の窓は強化ガラスでできていることぐらい想像つく。

部屋には人影が2つ。双眼鏡で覗く。

1人はオセロット、そしてもう1人が霞だ。すぐに管制室の入り口に向かい、聞き耳をたてる。

「計画の進行具合はどうだ?」

「順調です。予定に変更はありません初弾の着弾地点は予定通りニューヨークに設定しています」

「わかった。では予定通りニューヨークに向けて発射する」

『アルマース1!やったよ!』

「オタコンか…どうした?」

『3つの鍵についてだ!いいかいアルマース1、君の持っている一枚の鍵で三枚の鍵の役割をするんだ。形状記憶合金ってことだよ!鍵の順番も間違ってはいけないよ。順番に熱した鍵、冷やした鍵、そして常温放置した鍵だ』

「わかった」

『部屋の中央に3つのボックスがあるだろ?』

「あぁ」

『その目の前にカードの差込口があるからそこに差し込むんだ。全てのボックスが沈んだらPALキーの入力が完了して、描くの発射が阻止される!』

「助かった!」

オタコンとの通信を切った。火乃香はウルフが死んで酷く落ち込むかと思っていたがそうでもなかった。いや彼は酷く落ち込んでいるのだろう。しかし、彼はそれを表に出さず忘れようとしているのだろう。彼女の死から必死に目をそらすために、自ら役割を求めて。

一旦火乃香は溶鉱炉へ行き鍵を熱し、形を変形させ管制室の入り口にもう一度戻った。管制室に霞たちはいないようだった。チャフをばら撒き、監視カメラを無効化し、部屋に侵入する。

そこからは作業だった。それぞれ鍵を熱しては差込み、冷やしては差込み、そして最期の鍵を入力する。

鍵の変形を待つのは意外と時間がかかった。3つ目のボックスが沈んでいき、そして機械の音声が流れ出した。

《第3のPALコードが入力されました。接続可能な核発射台を検索します………見つかりませんでした。》

「なに?!核が見つからない?!オタコンどうなっている?!」

『それは僕にもわからない…!今そっちのネットワークに侵入して…よし!…えぇぇぇえ?!』

「どうした?!」

『核が持ち出されている…』

「なんだって?!大佐!」

『あぁ!ずっとモニターしていたからわかる!それと、その島の周辺に巨大な潜水艦が向かっているぞ!軍事衛星から送られてきたデータによれば400メートル級だ!もしかしたら関係があるかもしれない!』

世界で最も最先端軍事技術を保有するロシア、アメリカのさらに10年先を行く軍事技術を持つCFFですら想像を超える大きさの潜水艦が向かってきているらしい。400メートル級の潜水艦なんて聞いたことがない。第二次大戦時に沈んだ戦艦大和の全長263メートルだし、アメリカ海軍所属の最新鋭原子力空母ロナルド・レーガンでも全長333メートルだという。それよりも巨大な船を開発していたとなると、CFFはJAMを見くびっていたようだ。JAMは恐らく、この世で最大の軍事組織なのかもしれない。

後ろでバタバタと騒がしい。クルー達が慌てているのだろう。ここにきての急展開に理解が追いつかない。

ふと窓の外を見ると霞がREXの上に立っていた。くそっ!何処までも舐めやがって!

火乃香は管制室を飛び出しレックスへ向かって走った

「霞!!!」

腹に力を入れて大声で叫んだ。

「お前たちは常に後手に回っていたというだけだ!それといい知らせだ」

『火乃香!ワームホールドライバーのシステムが乗っ取られた!』

「なぜワームホールドライバーが奪われた!大佐の話じゃ全くもって別系統なんだろ?!」

『スパイが紛れ込んでいたらしい…それも本部に、だ。たった今連絡が入った。スパイを捕まえたと。しかし…ウィルスが流し込まれたあとだった…』

なんてザルな警備なのだろうか。この基地でもそこまでザル警備ではなかった筈だ…と火乃香は少なくとも思っていたい。しかし、国連軍の警備がザルなのは仕方のないことだった。それは万年人手不足によることが起因している。

最悪のシナリオが動き出そうとしていた。

そんな状況の中REXを乗せたエレベータがゆっくりと登るのだった。

「さて…アーセナルギアが到着するまでまだ時間がかかる…それまでに、全て明かそうか…なぜ俺がこんなことをしているのかを…」

 

 

 

 

____________________

-ディスカバリー艦内にてー

時は火乃香が敵の手に落ちたところまで戻る。

稲垣隼人は新たな一手を打とうとしていた。

「COMBAT FAIRY FORCE全軍へ通達。総員戦闘待機、繰り返す総員戦闘待機」

総員戦闘待機。CFF第一特務隊から第十特務隊及び、特殊航空戦闘団の作戦展開を意味する。

「メイ・リン、海軍技術部へ繋いでくれ」

「は、はい!」

メイリンへ海軍技術部に繋いでもらった。海軍技術部ー水上戦力の乏しいCFFにとって水上戦力増強のために用意された組織だった。

「レイス艦長…あれ(・・)の準備はできてるか?」

『ええ、既にそちらへ向かわせています』

「一隻は作戦海域へ、もう一隻はアメリカ西海岸へ」

『わかっていますよ』

白の制服を着た40台半ばの男が海軍式の敬礼をし、モニターは再び火乃香のバイタルを映し出した。

「司令官、どうしてですか?」

「まぁそのうちわかるさ…念の為だよ…それと彼の回収もしなければならないしな」

この読みが数時間後には当たっていた…最悪の形として




次くらいで武装蜂起篇は終わりになると思います(終わるとは言っていない)


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孤島の武装蜂起決着篇
孤島の武装蜂起決着前篇


「約10年前、イタリアを始めヨーロッパ各地で起きた消失事件…あれは魔族によるものだとか様々な憶測が飛び交っているがあれは全て政府がばら撒いたカバーストーリーなんだよ。本当の情報はEUと各国政府によって握りつぶされたのさ!そして俺は同時期に村や町を潰していたJAMによって回収された」

「同時期に?あらかじめJAMと打ち合わせしていたんじゃないのか?」

「あぁそうだ。当時の俺はJAMなんて組織知るわけない!偶然にも日程が被っただけだ。まぁそのお陰で俺の目的も達成されたからな」

「目的?」

「火乃香…俺たちの姓は天童だ」

「それがどうした」

「父方の祖先は陰陽師の家系。母方はとある社の巫女の家系だった。

親父とお袋の家同士で過去から今までずっと敵同士だ。だがそんな中なにをどう間違ったか知らんが親父とお袋は出会っちまい俺たちを兄弟を生んだ。それに感づいた天童家は有り余る財力と政府機関に手を回し、俺たちの抹殺を試みた」

「各…政府機関…だと?」

「そうかお前はなにも知らないんだったなぁ!それでよく本土に出かけ、生きて帰ってこれたものだ!天童家はなぁ獅子王機関を始め太史局、更には防衛省や警察庁、政府には裏で繋がっているんだよ。他にもお前のいるCFFもとい国連軍のスポンサーのうちの1つでもある。

そんな天童家が各省庁にとある密命を出した。

天童霞、火乃香両名を暗殺せよ、とな」

「…!な…に?」

「密命を受けた当時まだ傭兵家業を営み、そして獅子王機関に雇われていた稲垣にもその密命が下された。元々どう言った道筋で知り合ったかは知らんが、その事をイタリアで隠居生活をしていた俺たち一家に伝えられ、偶々それを聞いた俺が親父たちに提案したんだよ…」

火乃香はそれ以上聞きたくなかった。今までの価値観が狂わされるからだ。自分はなんのために戦ってきたのかを見失ってしまうかもしれないからだ。

「俺があんたらを逃がすために村を焼き払い、本家の目をそらすからその隙に国境を渡りドイツへ逃げろとな…だけど2人は反対した。大切な息子に罪を背をわせることができなかったんだろうよ。だけどなぁ、あいつらの目的はお前だけだったみたいだ。お前の体に流れるその血は世界でも相当純度の高い霊力があるらしいからな。あいつらはそんなお前と逃げる前に持ち出した3本の刀の回収が目的だった。そんなお前を逃がすために俺たちは囮になったってわけだ。親父とお袋を殺すことによってお前が生き残ることは不可能だと錯覚させ、そして犯人である俺は一生逃げ続ける生活をする。全てはお前を生かすためにやったことだ。だが1つだけ誤算があったらしくさっきも言ったがJAMが同時期にテロを起こし、その対象に俺たちの暮らしていた村も含まれていて、俺が奴らに拾われた。これで衣食住と本家に対抗するための力、そして指名手配犯として注目を集めお前を影の中に隠すことができた」

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだイヤダイヤダイナダイヤダイヤダイナダイヤダイヤダイナダイヤダイヤダ

聞きたくなかった事実。知りたくなかったこの感情。

心の奥底からふつふつと湧き上がる黒い感情に溺れかけ、そして視界が歪む。いつの日か枯れ果ててしまったと思っていた涙が溢れてくる。

しかし現実は残酷だという事を改めて知らされるのだった。

そして霞の話が終わったと同時にREXを乗せた貨物昇降機は最上階に到着した。

天井はドーム状になっていて、高さ70メートル縦横80メートルの格納庫だった。REXが雄叫びをあげながら震える。それは王者の敵として相応しい相手である事を讃えるように…。




取り敢えず前編後編に分けました


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孤島の武装蜂起決着後篇

REXが大きく吠えた。

火乃香はあまりの大きさに平衡感覚を失いそうになる。

未だによく分からない。先ほどの話は火乃香を惑わせる為に霞が蒔いた小さな種だと信じたいが、嘘をついている様子がなかった。

人間という生き物は常に何処かしらサインを発している。それはどんなに鍛え抜かれた歴戦の兵士だろうと、表面上は隠せても小さなサインは隠すことはできない。霞が話していた時、注意深く、慎重に観察していたが何処にもそういった様子が見当たらなかった。

___お前を逃がすために両親を殺した__

未だに深く心に突き刺さるその言葉。

だが今は自分の命をチップとして掛けた死のルーレット(デスゲーム)をプレイしている最中だ。余計な疑問や感情が数刻後には冷たい死体となっている。

全神経を集中させる。

レックスの機銃が火乃香を襲う。火乃香はギリギリ機銃を避けながら走り、物陰に隠れる。

オタコンが言っていたREXの弱点であるレドームを確認した。

レドームは目標を探すように左右へ動いている。あそこにスティンガーさえ叩き込めれば…。

火乃香の今の手持ちの武装といえば、ソーコムとM4カービンライフル、チャフグレネードが1つとグレネードが1つだ。

鉄の塊と対峙するにはあまりにも貧弱な武装だった。

それに先程から続く機銃の掃射で身動きが取れない状況だった。

このままでは八方塞がり。そのうちこちらが消耗し殺されてしまう。

絶体絶命のピンチかと思えたその瞬間だった。

「情けないぞ、アルマース1…いや火乃香」

機械の音声だったが、それでもわかった。全身強化骨格に身を包み、刀を持ち、背中には2発のスティンガーを担いだ男。

「雷電!」

「全く…俺がいない間にずいぶん腑抜けたものだ…。先程はすまなかったな」

「先程?」

「研究室での殴り合いだ…」

「気にしていない…だが…本当に雷電…なのか?」

「あぁ…待たせたな…。REX(あいつ)をスクラップにするんだろう?」

「あぁ…あれを開発した研究者の話によれば、REX全身は核でも壊れないらしい…けどレドームだけは唯一弱点でそこを破壊すればコックピットが開く。そこにスティンガーを叩き込めばいいと言っていた」

「チャフはあるな?なら俺が囮になろう。ディープスロートからの最後のプレゼントだ!」

雷電がスティンガーを置き、物陰から飛び出した。足元には火花が散っていた。機銃とREX本体が雷電の方へ向いたその隙に火乃香はチャフを撒き、スティンガーの照準をレドームへ合わせた。

チャフの効力が切れるまで約3秒。

沈黙の時間だった。

チャフの効果が切れる。スティンガーが目標をロックオンし、電子音の甲高い音が鳴り響く。

ゆっくりと引き金に指をかけそしてREXが背中に搭載した小型ミサイルを発射するためにかがんだ瞬間、火乃香の持つスティンガーが火を吹いた。

弾道はまっすぐ目標を追いかける。そして、レドームに直撃した。

大きく火花と爆音を鳴らしながらコックピットが力なく開いた。

中に乗っていた霞は頭を振りながら火乃香を睨みつける。

「火乃香アァァァァァァァァァ!」

「霞ィィィィィィィィィィィィィ!」

2人の怒号が格納庫内に響く。雷電は立ち止まり2人をじっと見ていた。観察者として。

そして火乃香と霞は互いに銃口を突きつけた。

火乃香はスティンガーを霞はガバメントを。

先に引き金を引いたのは火乃香だった。

まっすぐ弾道がREXのコックピットに直撃する瞬間コックピットをとっさに上へあげたため爆破から難を逃れた。

REXは制御システムにダメージをくらい、倒れ込んだ。コックピットからボロボロになった霞が吐き出され、ふらふらになりながら格納庫の出口へと走った。

火乃香も爆風をもろに浴び、うまく立てなくなっていた。全身に鞭を打ち、痛む身体をなんとか歩かせようと踏ん張りながらも、戦闘の連続で疲労がピークに達していたために何度も転ぶ。

そして何度目か数えるのがバカらしくなるほど転倒し、立ち上がろうとした瞬間右肩に違和感を覚えた。

「アルマース1大丈夫かい?!」

「オ、オタコン…」

オタコンが肩を持ってくれた。

雷電も近くにより、左肩を持つ。

「き、君は!な、何の用だ?!」

いきなり現れた雷電を見てオタコンは若干怯えていた。それもそうだろう。何せオタコンは雷電に殺されかけたのだから。

「オタコン…こいつは…今は大丈夫だ…それより霞を追わなきゃ」

「そ、そうだね」

格納庫横にある駐車場に向かい、一台のジープに乗り込みエンジンをかけた。

座席は運転席にオタコン助手席に火乃香、後部座席に雷電という位置関係だ。

霞が検問を突破したのだろう所々車で跳ねられた兵士がいた。

運転すること約5分。ついに出口の光が見えた。

朝日が昇り始めていた。

そして、その朝日をバックに巨大な影…潜水艦アーセナルギアが停泊していた。

霞は既に潜水艦の甲板に乗り込んでいた。

腕を組み、こちらを見下している。

「残念だったな兄弟!貴様は今日この俺を殺し損ねた!それにワームホールドライバーとステレス核弾頭という切り札を手に入れた!核弾頭はニューヨクへ…記念すべきワームホールドライバーによる攻撃は…絃神島だ!だか喜べ!その前に貴様を殺してやる!火乃香ぁ!」

「やめろおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉ!」

ワームホールドライバーと核弾頭。世界を揺るがす力を秘めた二枚の切り札をJAMに奪われ、さらに満身創痍の火乃香は霞とアーセナルギアを仕留めることなどできない。

アーセナルギアが島に向かい前進してくる。

地面がえぐれ火乃香達に近づいてくる。

オタコンは基地に向かって走った。火乃香はその場に座り込み、最後の瞬間を待った。

ここで死ぬのか…アーセナルギアがほのかに近づいてくる。1m、50cmこのまま押しつぶされる。目を固く瞑り、最後の時を待つ。しかし火乃香まで残り30cmのところで、アーセナルギアは………止まった。

いつまでたっても潰される気配がないことに疑問を持ち、目を開ける。アーセナルギアが目の前で止まっていたのだ。

下を見ると雷電がアーセノルギアを止めていた。

「ちっ!死に損ないが!いつまでその強化骨格が保つか見ものだな!」

「ほ、火乃香…俺達は…消耗品だ道具なんだ…政府や組織の消耗品なんだ…。時代に翻弄され、弄ばれ続ける存在だ。人を殺し、泥水をすする様にその日その日を生き続けなければならない…!だけど…それでも俺は…常に誰かのために戦ってきた訳ではない…。どんなに命令されても…必ず自分の意思で戦ってきた…。戦う事から逃げずに向き合ってきた。火乃香…俺にはもう未来はない…だが…お前にはこの先を切り開く力がある…。ダイヤモンドの原石のように…輝く瞬間を待っている。今は泥だらけの只の石ころだ…だけど…絶望するな…お前には未来があるんだから…」

強化骨格から火花が散り、限界を超えているのは誰にだってわかる。

雷電は懺悔に近い告白をする。

火乃香や雷電の様な傭兵は誰かの道具であることに間違いはない。その中で自分の意思で人を殺す者と時代に翻弄され流されて人を殺す者両者がいる。

雷電は常に自分の意思で人を殺してきた。ただの道具でありながら、その罪を背負っている。彼の(ダイヤモンド)は本物だった。

火乃香とて、自分の意思で戦ってこなかった訳ではない。しかし、忠を尽くす相手が変わり続けていた。

雷電は己に忠を誓い、火乃香は任務に忠を誓っていた。

この世に絶対敵などいない。存在するのは時代によって変わり続ける相対敵しかいない。

火乃香は泥にまみれた猟犬と同等の存在でしかなかった。今までずっとそう感じ、傭兵は皆そういう者だと思っていた。しかしそれは間違いだった。

雷電は泥塗れの猟犬ではなく、誇り高き(ウルフ)と同じ側の人間だった。

火乃香が殺した彼女も己に忠を尽くし、任務を全うしていた。

ー生きたいーこの一瞬で火乃香はそう感じた。

アーセナルギアの出力が上がる。

雷電の苦痛に満ちた声が聞こえてくる。

逃げなければ…今すぐ逃げなければならない。最後の力を振り絞りゆっくりと立ち上がろうとした。

そして、立ち上がろうとした瞬間、無線機から人の声がした。

『戦闘用意』

無線機越しから水上戦闘を開始するベルが聞こえてきた。

『46糎主砲1番2番3番徹甲弾装填、VLS1〜15ハープーン装填』

『目標補足、アーセナルギア、主砲射角調整』

『TDS指示の目標』

『1番砲塔撃て!』

無線機から砲撃の合図がした数秒後アーセナルギア右舷に巨大な水柱が3本そびえ立った。至近弾だった。その後砲弾が飛んできた方向から高速で飛翔する飛行物体ハープーンがアーセナルギアに向け真っ直ぐ突っ込んできた。

アーセナルギアは、迎撃用艦対空ミサイルを発射し、ハープーン15発全弾撃破した。

そして徐々にアーセナルギアへ攻撃を仕掛けた存在が浮かび上がってきた。海にそびえ立つかのように高い艦橋。鋼鉄の46糎三連砲(・・・・・・)を搭載した戦艦が存在していた。

「くそ!大和だと…?!あれは第二次大戦で沈んだんじゃないのか…?!まさか…!くっ!稲垣め!あいつ化石を発掘してきやがった!」

戦艦大和。大日本帝国が総力を挙げ、国の威信をかけ建造された艦隊決戦の切り札として、また、大艦巨砲主義の象徴。

第二次大戦末期、沖縄特攻に向かう最中、敵の激しい空襲を受け、沈没した船。戦艦大和のもう一つの特徴ともいうべき高射砲などは全て排除されている。恐らく、高射砲の代わりに、ミサイル発射装置とCIWSを取り付け、索敵能力を上げるためのレーダー機器を取り付け、近代化改修を済ませたのだろう。

戦艦の近代化はミズーリが実際に行なっているため、設計や、構造などは容易に立てることができたはずだ。

アーセナルギアは水中へ逃げ、島に残ったのはボロボロになった雷電と地面にヘタリ込むオタコン、そして仰向けになり横たわる火乃香の3人だった。

ヘリの音が聞こえてくる。

こうして、JAMによる孤島の武装蜂起は幕を閉じた。

CFFの敗北として、そして、これから始まる一週間は彼らにとって人生で最も長い一週間になるだろう。

長かった1日はその前触れでしかなかった。

 




と、取り敢えず前半戦終了です…。
次からは火乃香を少し休ませます。
今年はこれで投稿が終了になるかもしれませんねぇ…キリがいいですし。
次話は来年に投稿させていただきます!とは言っても1月には期末試験があるんでその対策に追われるため、来月もビミョーですね。
投稿に関する情報は後で書いておきます。
では皆さん少々早いですが、良いお年を!!!


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第三次世界大戦
第三次世界大戦1


明けましておめでとうございます。
新年最初の投稿です。


「ストレッチャーがくるぞ!メディック!急げ!」

「酷いな…だめだ瞼を縫合する。全身麻酔…は彼に効かないから部分麻酔…いやナオミさん!ナノマシンで痛みを鈍くさせてくれ!それとあるだけの消毒液も!治療室開けろ!」

「司令官…彼を次の戦闘に参加させるのは無理だ。今からICUに入れる」

「わかった…医務官…彼を頼む」

「えぇ」

耳元がうるさかった。船のスクリュー音と波の揺れによって休まることもできない。

火乃香は今、戦艦大和に回収され、オセロットたちから受けた拷問による痛々しい傷の治療を行っている。

体中から痛みが消えていく。そして呼吸器を取り付けられ、傷口に何本もの針が刺さり、縫われていく。

_________

大和艦内にある最も大きいブリーフィングルームには、多くのスパコンが持ち込まれ、技術者やエンジニアが必死にコンピュータを操作していた。その中には先の作戦で通信系統のサポートをしてくれたメイ・リンと火乃香を現場で支えてきたオタコンもいた。

スクリーンにはワームホールドライバーの発射状態や衛星の位置など事細かに映し出されていた。

彼らはJAMに奪われたワームホールドライバーのシステムを奪還するために編成されたチームだ。

「あー!もう!なんなのよ!これ!いつまでたってもウィルスを破壊できないんですけど?!てか凄い勢いで増殖してる?!」

「それだけじゃない…セキュリティシステムがどんどん書き換えられているよ…とほほ…」

火乃香達が回収されてから約2時間彼らはずっとPCの前に張り付いていた。約1時間にも及ぶ作戦の後のデスクワークに弱音を吐きながらもポチポチとキーボードを打ち込む。

「全然埒があかない…!どうすれば…」

その時治療を終え、ICUに監禁されたた火乃香から艦内通信が入った。

『どっかの誰かさんのおかげで、ワームホールドライバーの奪還に相当苦労してるみたいだな』

「火乃香!あなた寝てなきゃダメでしょ!」

『メイ・リン…お前は俺のお母さんか!それはそうと望みは薄い上に俺の財布がとんでもないことになるけど、いれば頼りになる人がいるからその人呼んでみる?』

「待って火乃香、その人って誰?」

『電子の女帝藍葉浅葱だ…ただ…』

「藍葉浅葱って誰?」

『俺のクラスメートで絶賛恋する乙女16歳だ。ふざけた紹介だが、そいつナラクヴェーラのコマンドを自分で作っちまうくらい腕はいいぞ。少なくとも俺なんかよりはな』

ナラクヴェーラのコマンドを作ったということを聞いた対策チームはざわつく。

『ただ召集を受けたのが午前8時45分、作戦遂行時間が16時間、回収されてから2時間半の計18時間半が経過しているから、日本だと今は深夜の3時15分だから起きてるかわからない』

「それでも一回当たってみたほうがいいと思う」

「そうね…正直言って私達だけじゃ無理よ」

『わかった。データリンクを暗号化して彼女の指定したコンピュータに送ってくれ。かけるぞ』

そう言い、艦内通信機を手に取り、タッチパネルで番号を押していく。ピピピと音がなってから呼び出し音が聞こえてくる。

4回ほどコールした後寝ぼけた様子の女性の声がほのかの耳元に当てている受話器と対策室のスピーカーから流れる。

『もしもしどちら様ですか』

「繋がった!」「やった!」「これで勝てる!」

対策室は狂喜乱舞だ。まるで世界の終末に女神が助けに来たかのような状態だ。

「浅葱か?」

『ん…?誰?』

「あー…南宮火乃香だ…」

『みなみや………!あんた!ちょっとどういうことか説明しなさいよ!いきなり今朝連れてかれたと思ったら夜の8時くらいにLCOとか言う組織にいる優麻って子から南宮先生に電話が掛かってきて拷問受けてるだの何だのって!』

「落ち着け浅葱!いいか!今はそんなことを言っている暇ではない!」

「そんなこと?いい加減にしてちょうだい!私や古城だけじゃなくて1番守らなきゃいけない夏音ちゃんとラ・フォリアさんにも心配かけて…!よくそんなこと言えたわね!無事を伝えるならまず先に2人じゃないの?!南宮先生だって電話来た後酔い潰れるまでお酒飲んじゃってたし!』

いきなり攫われ生死不明の状態になったと知らされ1番、心配している彼女2人に謝りもせず、2人に心配させたことを《そんなこと》として扱う火乃香に聖人君子ではない浅葱は頭にきていた。

状況が全くわからないのにその当人から電話がかかって来ていきなり落ち着けと言われても落ち着けるわけがない。

「それは…あとできちんと事情を説明するし…夏音とラ・フォリアには埋め合わせもきちんとする…。だけど今はそれどころじゃないんだ!」

『それどころじゃないって…じゃあどう言うことよ!』

「よく聞くんだ。国連軍は地球上あらゆる地点を攻撃することのできる対地攻撃用衛星を保有しているんだ。だけど、国際指名テロ組織JAMによってコンピュータウイルスに感染させられてその攻撃用衛星が乗っ取られたんだ。だから2時間ほど前に対策チームを組んで急ピッチでシステム奪還を狙っているんだが埒があかない。彼らに言わせればあと1人凄腕のエンジニアがいれば何とかなるらしい。だから力を貸してくれ!」

『あんたね……!そんな危険な兵器作って勝手に乗っ取られてそして民間人に助けてもらいたいですって?!冗談言わないでよ!』

「すまない…『パフェ』…はい?」

『パフェ奢りなさい!あとそれからきちんと夏音ちゃんとラ・フォリアさんに無事だってこと伝えて、心配かけた分一緒にいてあげなさいよ!』

「あぁ…わかっている…。って…ことは」

『仕方ないからこの藍葉浅葱様が特別に!手を貸してあげようじゃない!』

「「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」

「国連軍を代表して、申し上げます。貴殿の協力感謝します」

『それで私はこれからどうすればいいの』

「今いる場所は?」

『南宮先生の家よ古城たちもいる。元基は帰っちゃったけど』

「そうか…ならちょうどいいな。俺の部屋に入って3つ目の扉にスパコンがあるから。俺の部屋は59階5901号室、鍵はかけてない」

『わかったわ。パスワードは?』

「今こっちで遠隔操作して外してもらった。コンピュータの電源入れてもらったら衛星のシステムにつながっているはずだ」

『もう少し待っててちょうだい。それと電話は切ったほうがいい?』

「いや、今から対策室の…そうだな…メイ・リンという人物とコンタクトを取りながらやってくれ。だから切らなくていい」

『分かったわ』

「はじめまして、貴女が火乃香の言っていた藍葉浅葱さんよね?通話をモニターしてたから分かるわ。それと改めて自己紹介するわ。私はメイ・リンよ。宜しくね。それと単刀直入に言うのもなんだけど、初弾のエネルギーのチャージと座標の入力が終了してるみたいで、もう手が出せないのよ…」

『え…えぇ?!初弾は…よくわからない島ね……だけど2発目って絃神島じゃない?!』

「その辺の対策は…司令長官に任せてあるから…ごめんなさい…」

『……2発目を打たせなければいいのよね…』

「そ、そうよ!それでなんだけどーーー」

浅葱とメイ・リンの会話は全て会議室のスピーカーから流れてきている上に火乃香のもとにも聞こえていた。しかし途中から専門用語のオンパレードとなり、ちょっとしたハッキングやダークウェブでの情報収集しかしない火乃香にとって、そちらの道にあまり詳しくないが為に早々に話を聞くのをやめ、ベットに体を預けることにした。

16時間にも及ぶ作戦。人生で最も長かったと感じていた。生きていることをいまだに実感できないし、それに別のICUには五年前死んだと思われていた雷電が眠っていることが未だに信じられないでいた。

しかし、ゆっくり休んでもいられないのは事実だった。

ワームホールドライバーを2発目発射する前に機能を完全に停止することに失敗すれば、物理的に絃神島をなんとかしなければならない。

幸いにも着弾予想地点が分かっている。それに久し振りに思い出す人物を頭に描いた。第四真祖暁古城。彼の何番目かの眷獣に自分の体や周りの物体を霧にしてしまう者が居たはずだ。姫柊さんや護衛についていると聞いた煌坂さんの血を吸ってもらって覚醒させればいい。

使えるものはなんでも使わなければならない。出来ることなら、民間人に頼りたくはなかった。ワームホールドライバーの光線をミサイルでも無人戦闘機でもなんでもいいからぶつけて防ぎたいところだ。しかしそれができないのはそれを実行に移すための時間も労力も無い。現在CFFだけでなく国連軍全体を見ると人員の稼働率が150%以上を超えている。明らかにオーバーワークとなっている。只でさえ少ない人員を圧迫しているのは第二次大戦の遺物(戦艦大和と戦艦ミズーリ)によるところが大きい。

故に非情な決断と利用できるものは全て利用する覚悟を必要としている。

だから古城には悪いが最悪の時はしっかりと働いてもらわなければならない。なぜなら遅かれ早かれ絃神島は暁古城の物になるのだから。

自分の領土をしっかりと自分で守ってもらわなければならない。未来の為に。




ちょっと題名変更しました。
その為、前の話に出てきた一週間戦争を第三次世界大戦という風に変えています。まぁ名称が変わっただけですのでそこまで大きく話が変わるとかありませんし、もし前回までに投稿している話の中で一週間戦争という単語が出てきたら「あぁ第三次世界大戦の事か」って脳内変換してください。
適当な作者でほんとすみません!


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第三次世界大戦2

藍葉浅葱が対策チームに協力したと時、ニューヨークにあるホワイトハウスにて大統領による緊急記者会見が行われていた。時刻は13:00、ちょうどニュースが放送されていた。そのため記者会見はライブ映像で報道されていた。

「本日、皆さんに重要な報告があります。国際指名テロ組織JAMが我が国の西海岸と同盟国である日本に向け、大部隊を編成し、侵攻しているという情報を手に入れました。彼らは卑劣な事に核弾頭を切り札にし、我々に多額の金銭を要求してきました。しかし!同時多発テロによって深い傷を負った我々は決してテロに屈することは絶対にありえない!彼らは我が偉大なるアメリカ合衆国を敵に回し、剰えテロの標的にした事を後悔するだろう!」

この記者会見が行われた瞬間、全米はパニックに陥った。ニュースでは専門家達が持論を展開しだし、西海岸では我先にと逃げだした人々の車によって高速道路は渋滞し、ロサンゼルスの高層タワーから見える海にはアメリカ合衆国が誇る第三艦隊と今や国連軍所属となったミズーリが合流し、西海岸に展開され、JAMの襲撃に備えていた。

また、アメリカ西海岸には全米の航空隊が集結し、ビール基地だけでは処理しきれないため、普段は試験機の運用を行うエドワーズ空軍基地も活用されることにたった。西海岸の空が戦闘機で埋め尽くされ流のは時間の問題だろう。

こうして着々とアメリカではJAMの侵攻に備え、部隊を展開すると同時にロシアとの電話外交で、テロに対する徹底的な攻勢を改めて確認し、援軍を要請、約束させた。

これらのニュースは約4時間後、日本でも同様に放送される事になり、海上自衛隊はアメリカ第7艦隊と合同で海上封鎖し、現在日本に向かっている飛行機を除き全ての便の発着を停止させ航空自衛隊による空域封鎖を行った。陸上自衛隊は空と海がカバーしきれない地域に展開される事になった。絃神島も同様に特区警備隊(アイランドガード)沿岸警備隊(コーストガード)が周辺海域の封鎖を行いその指揮に南宮那月も加わっていた。世界が静まり返り、戦争の足音がすぐそこまで聞こえてきていたのだった。

________________________________________

藍葉浅葱を含め対策チームの面々の表情には疲労が見えいた。

何故ならパソコンの画面に張り付いてから既に2時間半が経過し、絃神島では現在時刻は5時半。朝日が昇り始める頃合いだ。大和の現在位置は11:30。真昼間だ。1発目のワームホールドライバーの発射まで残り15分を切り、対策チームにも焦りが見えていた。ワームホールドライバーの発射は一度もなく、シミュレーションと机上の空論で出されているだけだった。その為、1発ごとのインターバルは理論上4時間から6時間だが、もしかするともっと早まるかもしれない。故に焦っていた。

そして船のエンジンがけたたましく唸り、前進し続けているのを肌に感じながら火乃香は今寝ることしかできない自分に嫌気がさしていた。天井の眩しい蛍光灯の光は右目にのみ届き、左目は暗闇を映し出していた。左目を失ってから何時間も経つのに今更ドクドクと左目が痛み、熱く感じる。そして白い包帯が冷たく感じる。まぶたはきっちりと縫合され、今更血は出ないのに冷たく感じた。

ICUの扉が開き、稲垣隼人が見舞いに来た。

「具合はどうだ」

「最悪だ…目が今更痛む………」

火乃香の声は普段の凛とは違い震えていた。

「…………こんな目に合わせてしまってすまない。これは餞別だ」

黒い眼帯が渡された。柄も何もないただの眼帯だった。

「火乃香、荷物をまとめて絃神島に戻れ」

「何故」

大佐からの唐突な言葉に驚いた。

「お前は十分戦った。その眼帯と荷物をまとめて普通の学生としてこれから生きていくんだ。もう2度と引き金を引くな。刀を握るな。空を飛ぶな」

事実上の解雇宣言だった。火乃香は何故そのようなことを伝えられたのか全くわからなかった。稲垣隼人から伝えられた言葉は火乃香の心に響かず、素通りした。理解する事が出来なかったのではなく理解したくなかった。火乃香は現実逃避をしていた。

「それは…俺がこの任務でヘマをしたから…ですか?それとももう使い物にならないと?!人を殺す事が出来ないとでも言うんですか?!」

「あぁそうだ。お前がこのまま戦場にいればいずれ火乃香自身が壊れる。大和は3日後に最終決戦に参戦することになる。それまではゆっくりと休んでいて構わない。作戦が始まる前に大和()を降りろ」

「待ってください…!俺は…俺はまだやれます!」

「無理だ」

「何故そんなことを言うんですか?!」

「もうお前の精神は壊れている。あの島での歩哨の殺し方。正常な判断能力を有していたならもっと丁寧に殺っていた。だがあれはなんだ?溶鉱炉に突き落としたあの殺り方。殺し方から見てわかった。お前は殺戮を楽しんでいる。ただの殺人鬼同然だ。そんな犯罪者は COMBAT FAIRY FORCE(うち)には必要ない」

稲垣隼人の言葉が冷たく火乃香の胸を突き刺した。

確かに冷静になって考えれば火乃香自信もあの殺し方はあり得ないと感じていた。戦場で冷静さを欠如させた時点でもう火乃香自信戦う事を自ら拒絶していた。本格的に壊れたと感じたのは恐らくウルフを殺してからだろう。彼女の死が引き金となり、殺人への拒絶反応と任務と言う理性の鍔迫り合いが苦痛に感じた。その苦痛から逃れるために、人を殺すことに快楽を感じるようになっていた。

火乃香の精神はすでに崩壊寸前だった。このまま作戦に参加し続け、兄を自らの手で殺した後、確実に壊れてしまう。それを感じ取った稲垣は火乃香からありとあらゆる武装を剥奪し、日常に戻そうとした。

「大佐…心遣い感謝します…ですが…自分は…まだやらなければならない事があります」

「霞か」

「はい…彼奴は俺の手で殺さなきゃならない…だから…!彼奴を殺すまでは…いや彼奴を殺した後、大佐が判断し問題がなければ前線とまで言わなくても後方でもいいのでどうかCOMBAT FAIRY FORCE(ここ)にいさせてください」

涙でかすれていた。霞を自らの手で殺す事が、影で火乃香を匿っていた()へのせめてもの礼だと思うから。

「わかった。但し除隊するべきと判断したその瞬間お前には前線を離脱し、COMBAT FAIRY FORCE(ここ)から去ってもらう。32時間後、第3ブリーフィング室で会議を行う。それまで休んでろ」

「…!了解…!」

『休んでいるところ悪いけどちょっといい?』

モニターからオタコンの声が聞こえてきた。ワームホールドライバー奪還に成功した雰囲気ではなさそうだ。

「どうした」

『ワームホールドライバーがカウントダウンに入った。軍事衛星を使ってリアルタイムで着弾予想地点の映像を見ているんだ。こっちにも映像を流すよ』

そこに映し出された光景は緑豊かだが少々小さすぎる島だった。海鳥が休憩のために岩場に群れをなしているのがわかる。そして小さなモニターにはカウントダウンが記されていた。10秒ほどの時間だ。

1秒1秒が長く感じる。そしてカウントダウンがゼロになった瞬間、一筋の光がまっすぐ島の中央に突き刺さり、その緑豊かな島は一瞬にして蒸発した。

「大佐…発射台を破壊するのにあんな高威力のレーザーを使う必要性を感じないんだけど」

「確実にミサイル基地を叩くためだと理解してくれ。しかしこれほどまでの威力とは…」

予想されていたよりも遥かに上回る威力を見せつけた光学兵器ワームホールドライバー。それは3㎢ほどの島を一瞬にして蒸発させてしまうほどの威力だった。

もしそれが絃神島それもキーストーンゲートに直撃すればほぼ間違いなく絃神島は崩壊する。

「エメリッヒ博士、この映像はここ以外にどこに流している」

『LCOだよ…LCOの仙都木長官と副官だよ……』

オタコンは震えた声で大佐にそう伝えた。稲垣大佐の溜息がマイク越しにまで伝わっていたのだろう。しかし震えていた理由はそれだけではなさそうだった。その証拠にすぐさまメイ・リンからフォローが入った。

『司令官仕方なかったのよ。あまりの剣呑さにこっちだって断れないわよ』

「大佐あのあの姉妹が逆らうと命の危機を感じるレベルだ。まぁ…オタコンたちを責めないでやってくれ」

「わかっている。だがなぁ!はぁぁぁ…なんとまぁ情けない」

大佐の溜息はより一層大きくなったのだった

「それでオタコンワームホールドライバーの次弾発射はいつになるんだ」

『約144時間後ってところ。藍葉さんがワームクラスターを速攻で作ってくれたおかげであとは放置ゲー。だけどやっぱりシステムに侵入したウイルスは手強いらしくて、140時間ほどかかるらしい』

「ずいぶんとギリギリだな」

『仕方ないよ』

「まぁこれでわかった。最悪の状況を想定しておくか…。大佐、次弾発射までのタイムリミットを144時間に設定して全特務隊に通達しておいていい?それと6から10は先に第三艦隊と合流させる」

「通達は構わないがなぜ先に送る」

「感」

「そうか」

火乃香の感はよく当たるしいつも期待できる。先遣隊として部隊を送る為、稲垣はICUから退出した。

特務隊に新たなタイムリミットが設定され、緊張感がより一層増したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー発射まで144時間

システムクラッキング1%




ツイッターのアカウント作っては見たものの設定がおかしいのか検索がかからないかもしれません。もしツイッターで検索に引っかからなかったら報告お願いします。


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第三次世界大戦3

第3ブリーフィングルーム。

そこそこ大きな会議室だ。収容人数はざっと100人ほど。そのうち約半分程度しか席が埋まっていなかった。殆どが特務隊だ。特務隊はそれぞれの分隊毎に着席していた。第1特務隊は雷電を含め現在6人。一個分隊に5人ずつの特務隊としては異常だ。そんな彼らはスクリーンの真ん中2列を陣取り一列開けてそれぞれの分隊のメンバーが座っていた。天井からプロジェクターがぶら下がっており、スクリーンに映像が映し出される。その横に彼らの指揮官である稲垣隼人が立っていた。

「第三艦隊、本隊、先遣隊がそれぞれ交戦を開始したという情報がリンク16経由でこちらに伝達された。JAMはまだ西海岸に上陸していない」

「たいさーしつもーん」

ジル・コナー。階級は中尉コードネームはアルマース5。普段は飄々としているが彼も特務隊の端くれなだけあって狙撃の腕だけでいけば世界で3本の指に入るぐらいの腕前で、それはどんな不安定な場所でどんなに小さな的でも中央をきっちり撃ち抜くほどだ。

「なんだコナー中尉」

「持ってどれくらいなの?」

「まだわからない。一応こちらの艦艇を一隻派遣しているし、第6特務隊から10隊を寄越したから暫くは持つだろう」

「稲垣、俺は最近のことはよくわからないが、この船といい派遣した船…ミズーリだったか?あれの他に海上戦力はあるのか?」

「悪いがまともにアーセナルと殺り合う戦力は大和(これ)ミズーリ(あれ)しかない」

「空母や潜水艦はどうなんだ?この下で潜ってるだろ?」

「天童少佐忘れてもらっては困るがあの二隻はアメリカからレンタルしているから純粋にうちの戦力としては数えられない」

「つまり海上戦力は大和とミズーリ、航空戦力は電子戦隊だけだと?それに対して奴らはアーセナルギアだとかよくわからんどでかい要塞と何万といる歩兵戦力に戦車やうちの保有する異次元航空機よりもさらに高性能な航空戦力を何機も保有していると?極め付けに核兵器とワームホールドライバー…これではまるでワニに兎が挑むようなものだ」

「冷静な解説ありがとーティラー大尉」

「おちゃらけた口を聞いていられるのも今のうちだコナー中尉」

「あんたはいつもいつも頭が硬いんだよ!もっと楽観的にいこーや!」

冷静な戦力分析を行ったのは脳筋とバカばかりの第一特務隊唯一の頭脳ケヴィン・ティラー大尉だった。ジルや火乃香のように見た目ひょろひょろもやし小僧とは違い、絵に描いたようなこれぞ特殊部隊!これぞ傭兵!兵士!というレベルの筋肉マッチョな男だが、この部隊のメンバーは皆どこかで踏み外したのか、こういったいかにも脳筋そうな人に限って部隊の頭脳と言うべきポジションについている。

彼の説明からわかるように火乃香は意外にも頭より体の方が先に動く脳筋タイプだ。決してバカというわけではないのだが、卓越した戦闘技術(バトルセンス)と未来予知や霊視に等しいレベルの直感で戦う為、脳筋の部類に入ってしまうのだ。もし、火乃香に感覚ではなく頭を使って戦うように指導若しくは矯正していれば天童霞に負けることはなかった。

「その辺でやめてくださいよコナー中尉、ティラー大尉。天童少佐も何か言ってくださいよ」

「お前らいい加減にしろ話が進まない。俺たちには時間が限られておるんだ。ケイル少尉が困っているぞ」

「へいへい」

「さて、話を進めるぞ。諸君らに課せられた任務は3つ。一つアーセナルギア内部に潜入し、システムを破壊すること。一つ上陸部隊の戦力をできる限り削ぐこと。一つ敵の大将。天童霞の排除だ。天童霞の排除およびシステム破壊はエメリッヒ博士と第一特務隊に任せるとして、残りの任務は第2から第5特務隊に任せる」

「本当に俺たちだけで天童霞を殺るんですか?天童少佐ですら勝ててないんですけど」

「その為のチームだフロー中尉」

「わかりました」

ジーク・フロー中尉は火乃香と同じく絃神島で活動していた諜報だ。絃神島で火乃香が敵の戦力を把握し武器弾薬を惜しげもなく使えていたのは全て彼のバックアップがあってこそだったりする。

天童火乃香、雷電、ジル・コナー、ケヴィン・ティラー、クリス・ケイル、ジーク・フロー。この6人が世界最強の分隊、第一特務隊アルマース隊のメンバーだ。

「次は実質的な話に移っていく。ここからはメイ・リンとエメリッヒ博士に解説をしてもらおう」

「分かったわ。オタコン説明お願い」

「OK。アーセナルギアの内部構造について、まずはこれを見てくれ」

映し出されたのはアーセナルギア全体の区画だった。各ブロックごとに水密区画が設けられ、非常に入り組んだ構造となっていた。

「アーセナルギアの中心部はここ。そしてこの通路を進んだ先にJAMの中枢を司る端末が置いてある。そこで戦場にいる兵士の体内ナノマシンの管理制御や兵器を取り扱っていて、その中に核発射権限がある」

「てことはそこにワームクラスターをぶち込めばJAMは崩壊したと同然って事?」

「その通り。君たちが戦闘時いつも腕につけている端末型の時計を中枢システムに近づけるだけで良い。ただ問題はこの端末にたどり着くまでなんだ」

困ったように頬を掻きながらPCを操作するオタコンに会議室はざわついた。

「端末にたどり着く前に、マイクロ波が放射している部屋を突破しなきゃいけないんだ…」

「マイクロ波か…随分と厄介だな」

「人間の丸焼きができちまうな」

「ブラックジョークを言うな…稲垣、ワームクラスターに関しては俺がやろう。今の俺は機械でできている」

「分かった。メインシステム破壊は雷電に任せよう。異論はないな?」

その後はアーセナルギアに潜入する為の段取りなどを確認しただけだった。

「では我々も18時間後、船尾メインブリッジに集合だ。以上、解散」

ブリーフィングに参加したメンバーは静かに席を立ち、各々作戦の準備に取り掛かった。

レーションを食べて腹を満たすものもいれば睡眠を取る者や神に祈りを捧げる健気な信徒など実に多種多様な過ごし方をしていた。

勿論、火乃香も作戦参加にあたり武器の選択を行なっていた。

火乃香が装備する武器はHK416D、HK45、そして夏音を助けた時に折れた黒鋼と白鋼を一本の刀に打ち直した火乃香の新しい刀、牙刀だ。一つ一つ丁寧に装備のチェックをしているとノックが二回鳴った。

「どうぞ」

「邪魔するよ。火乃香…本当に出て大丈夫なのか?」

「あぁ…やっぱあんたも寝ていろと言うのかケヴィン」

「いや、ただ叶瀬さんや殿下、南宮さんに一本連絡は入れないのかと思ってだな…」

「じゃあ電話してなんて言えばいい?君の元へ必ず帰ってくる!か?それとも心配するな!君達を置いて死んでしまうことはありえない!か?」

「そこまでは言っていない」

「いや言ってるね。死ぬかもしれないのにそんな適当なことを無責任に言い放つことはできない…俺が死んだらそれまで。みんなには悪いが俺の死を受け入れて未来を生きてくれってところだ」

火乃香は死亡フラグを盛大に建設するつもりなんて毛頭ない。とでもいいそうな勢いでケヴィンの提案を却下し、作業に没頭した。

無責任なことは言えない。

戦場に立つ者はいつ死ぬかわからない。ほんの数刻先は闇なのだ。さっきまで見ていた人間からほんの一瞬手元に目線を落としてもう一度そいつを見ると手足や首から上が吹っ飛んでいたりするなんてザラにあることだ。

小説や映画みたいにうまく自分だけが危機を脱し、愛する者の元へ戻れるなんてことは現実世界では起こりえない。映画のように情熱的な戦闘シーンで壮大なBGMが流れることもなければ、弾が自分から逸れていくこともない。戦場という大きなフィールドを見渡せば、映画のようなワンシーンなんてただの歴史(風景)の一部分にしか過ぎない。『戦争はヒーローごっこじゃない』

オタコンが熱く語っていた人気ロボットアニメシリーズのとあるパイロットのセリフだ。戦争に悪もなければ正義もない。あるのは殺伐とした自然の絶対的な掟である弱肉強食だけ。お互いのイデオロギーがぶつかり合い、そして死んでいく。ただそれだけのこと。それ以上もそれ以下でもない。だから火乃香はしっている。行きて帰ってくるなんて絶対的な保証はどこにもないことを、その気になれば物語の進行を大きく変えられてしまうこともある。いつ火乃香(主人公)(作者)に殺されるかわからない。戦場はそれだけ気まぐれなのだから。

「そうか…」

「あぁ」

ケヴィンは部屋から出ていき、火乃香は再び牙刀の手入れに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________________________

『CNNのスタジオからお送りさせていただきます!現在西海岸では大規模な戦闘が行われています。民間人の避難は完全に終了しているため民間人の犠牲はありません!しかし、既にアメリカ軍、国連軍、JAM共に多数の戦死者が出ており、第三艦隊所属艦艇のうち二隻が沈められています!」

『もしJAMが日本に攻撃を仕掛けてきたらどれほど持ちこたえることができるのでしょうか?』

『恐らく1日は耐えられるでしょうが、それ以降はなんとも…』

『憲法9条にあるように我が国に交戦権はありません!この侵略も不当な行為ではありますが、他国からの侵略ではなくテロ組織による都市破壊です!まずは刑法に照らし合わせ機動隊を出動させ…』

『この攻撃能力からして、いち組織の範囲を大きく上回っています。よってテロ組織としてではなく、他国からの侵略と解釈するのがこの場合はーー』

テレビではコメンテーターと専門家が未だにくだらない議論を展開し、次にテレビに映ったのは国会前でプラカードを持った民衆が戦争反対!と平和ボケした運動が繰り広げられ、平和ボケした民衆全員で手を繋ぎ国会の周囲を囲む人の輪なるものを展開している。

国会中継では自衛隊による今回の独断行動は憲法に違反するとか森友加計学園の忖度について立憲民主党を中心とした左寄りの野党が政府、与党に対し厳しい追及と無駄な議論の展開をして、首相や防衛大臣を悩ませていた。

国家非常事態宣言が発令し、予算の解放を決断しようにも、野党側から議事妨害を行うなど、国民の命より自分達の支持率確保を優先させる行動をとり続けていた。

「不思議ですね、有事の際に、同じ国なのにここまで対応に差が出てくるなんて」

「こんな事をしている場合ではないのに…」

「彼らは現状を正しく理解できていないと思われます」

南宮邸では3人の少女がテレビから流れるニュースを見ていた。

JAMの侵攻によって厳戒令が絃神島全体に発令され、学校は全て臨時休校になり、交通機関も停止し、普段多くの乗用車が行き交い、多くの人々が乗り降りするモノレールの存在はなくなり、その代わり特区警備隊(アイランドガード)の戦闘車輌が道路を埋め尽くしていた。

絃神島の周辺空域、海域を航行していた旅客機や貨物船を全て収容し、タンカーの集積が行われる港は現在、軍港として機能し、空港は全てのフライトを停止させ、航空戦力の本拠地として機能していた。

また、この家の主人たる南宮那月は防衛作戦の指揮に当たっていた。

本土では事の重大さがわからずに騒ぎ立てているのに対し、絃神島は徹底して交戦準備に取り掛かっている。一体何がこの差を作っているのか?それは絃神島が特別な存在であり、また与えられた権限が強く、乗り越えてきた修羅場の違いだろう。

『速報です!国連軍の別働隊が主力部隊と合流しました!映像を回します!』

電子戦から送られてきた映像がテレビ画面から流れている。

巨大な潜水艦を囲むようにイージス艦が並び、空に無数の航空機がドッグファイトを繰り広げていた。

アーセナルギア周囲に二つの異常な影が見えていた。

『最新情報です!現在西海岸には第三艦隊の他にハワイで記念艦として停泊していたはずの戦艦ミズーリと大戦中に沈んだと思われていた戦艦大和が、艦砲射撃を繰り広げています!』

まるで地獄絵図だった。

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー次弾発射まで残り85時間

システムクラッキング35%




久しぶりにアスタルテとか夏音とかラ・フォリアのセリフを書こうとしたらセリフがおかしなことになってしまったorz
本当はもう少し書こうと思ってたんですけどあまりにも酷すぎたため諦めました。
前半は第一特務隊のメンバーの紹介が目的です。
後半は聞き覚えのある政党や政治的問題を出しましたが、これはフィクションです。念の為に言っておきます!これはフィクションですから?!
とまぁこれは置いておいて、ニュースや国会の下りは実際にアメリカが某北半島と戦争をすることになって日本でも戦の火蓋が切られた場合国内はこうなるんじゃないかな〜っていう予想の元で執筆して見ました。
現実問題として、たった今開戦した場合、国内は避難とかの混乱ではなく国民は自衛隊反対のデモを、国会では与党のスキャンダル暴露や上げ足を取って早急に決定しなければいけない事案をグダグダと長引かせるような気がしてなりませんね(´・ω・`)


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第三次世界大戦設定集

天童火乃香

階級:少佐

コードネーム:アルマース1(アルス1)

携行武器:HK416D、HK45、牙刀

 

ジャック

階級:少佐

コードネーム:雷電

携行武器:刀、強化骨格

補足:血の繋がった妹がいる。

 

ケヴィン・ティラー

階級:大尉

コードネーム:アルマース2(アルス2)

携行武器:ミニミ軽機関銃、HKUSP

 

ジル・コナー

階級:中尉

コードネーム:アルマース3(アルス3)

携行武器:SR25、デザートイーグル

 

ジーク・フロー

階級:中尉

コードネーム:アルマース4(アルス4)

携行武器:P90、FNfiveseven

 

クリス・ケイル

階級:少尉

コードネーム:アルマース5(アルス5)

携行武器:FNSCAR、SAA

 

 

 

 

____________________

アーセナルギア某所

「霞…本当に行くの?」

鈴を鳴らしたような可愛らしい声が聞こえてくる。

透き通るほど白い肌を惜しげもなく全て晒しベットの上で足を揺らしながら腰まである金色の綺麗な髪を撫でる少女がベットから立ち上がろうとした霞を引き止める。

「…まぁな…俺はもう戻れない、戻る気もなければ立ち止まる気もない」

「火乃香君、可哀想に。殺してしまうの?」

「まさか。俺が殺されに行く」

「火乃香君を引き込む事はしないの?」

「しない。世界に必要なのは俺ではなくあいつだ。こっちに引き込んだらいよいよ本家に潰されてしまう」

どこか遠い場所を見ながら、彼女の頭を撫でるのをやめ、蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)の異名を世界に知らしめたその要因となるバトルスーツを装着する。

「あなたがすべてを壊せばいい。霞…泣いてるよ?」

誰が見ても霞は泣いてはいないし、そんな表情も表には出していない。ましてや霞自身泣いているという感情を抱いてすらいない。彼女は何を言い出すのか…。また、彼女は霞の深層心理を覗いたのか。霞はいつもの事だと思い大きくため息をついた。

「ハァ…リズ…お前は逃げろ。信頼できる部下を付けるからお前はどさくさに紛れて逃げろ」

「イヤ。私も戦う」

どこかボーッとしながら刀を取り出し、彼女も強化骨格でできたサイボーグを着込み始める。

「あなたが火乃香君に会うんだったら私はお兄ちゃんに会いに行く」

「…………お互い地獄で会うことになりそうだな」

「うん…」

静かに互いに抱き寄せ、おもむろに唇を重ねた。最後の口付けをたっぷりと時間をかけ味わう。そう、米艦隊との開戦を伝えられるまで。

2人はそっと唇を離し、霞はリズの頭撫で、部屋を後にした。

リズはその1分後に、アーセナルギア心臓部に歩を進めるのだった。

________________________________________

天童霞

コードネーム:蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)

装備:M4、M1911、銀龍

 

リズ

コードネーム:深山

装備:刀、強化骨格

備考:血の繋がった兄がいる




ちょっと登場人物がいきなり増えたんで、色々と整理したのと、霞の方にスポット当ててなかったなーと思ったんで霞視点を書いてみました。(設定だけじゃ文字数足りなくて投稿できなかったなんて言えない)


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第三次世界大戦4

18時間後、火乃香を中心に特務隊のメンバーが後部甲板に向け歩いていた。その様子は映画のワンシーンを彷彿とさせるようなものだ。歩けば周りの乗組員達は海軍式の敬礼をし、道を開けた。歩くこと2分程度、後部甲板には4機のオスプレイと6機のカタパルトが装着されていた。作戦決行まで其々に割り振られたポジションで待機していると、彼らの耳小骨に内蔵されたマイクから稲垣総司令の訓示が聞こえてくる。

『10年前に起きた欧州の悪夢から始まり、強大な軍事力を前に我々は幾度となく煮え湯を飲まされつづけた!しかし!各国政府は同胞の平和だけでなく!世界平和を掲げテロに抵抗しようとしている!本作戦は多くの犠牲の上に成り立っている!奴らに核を!衛星を!撃たせてはならない!本作戦の成否は一重に諸君らの勇気ある行動によって決定する!以上を持って訓示とする!』

総司令の力強い訓示によって、彼らの闘志は静かに燃えている。

作戦目標は敵上陸部隊の破壊、システムの破壊、敵総大将天童霞の排除だ。まず第1特務隊がカタパルトで浮上し、防壁を開いたアーセナルギア内部に直接乗り込み、LZを確保、第2特務隊以下はオスプレイでヘリボーン降下を行い、其々の作戦目標を達成するというものだ。

『12時の方向、艦影…アーセナルギアです。距離、25000。第三艦隊及びミズーリ、確認、交戦を開始しています』

『アーセナルギアよりミサイル発射を確認ハープーンです』

『最大戦速、対空、水上戦闘用意。CIC指示の目標』

『All station All SAM』

艦内にけたたましくベルが鳴り響き、鋼鉄の砲塔が旋回しだした。

艦首に設置されているVLSが一斉に火を噴き出し、対艦ミサイルがアーセナルギアへまっすぐと向かって突っ込んで行った。46糎砲の衝撃波から機体を守る為の防壁が後部ハッチに新たに装着されているため、史実ではほとんどその出番がないまま終わってしまったその砲塔は今や惜しげも無く三式弾や徹甲弾が打ち出されている。主砲を発射するたびに、水面が波打ち、船が揺れ、肝が潰れるほどの振動が伝わる。

『距離18000。各員、所定の位置にて待機せよ。第1特務隊はカタパルトに搭乗せよ』

「泣いても笑ってもこれが最後だ。俺たちが失敗すれば全てが火の海になる」

「絶望と仲良くしようじゃないか!気楽さが肝心だぜ隊長さん」

「まぁ初手で盛大にすっ転ぶとか世界の笑い話になるな」

「およ?これ中継してんの?」

「らしいですよ。特殊電子戦が高高度から撮影してるとかなんとかで」

「命知らずだな」

火乃香がいい感じに緊張感を出そうとしてもすぐこれだ。第1特務隊は変り者が多いが、そもそも原因はジルの能天気さ加減なのだ。

しかし、案外これがいいのかもしれない。下手に気を引き締めるよりも上手く動ける。

「かっこ悪いところ見せられませんねぇ。天童少佐?」

「何が言いたい?」

「いや二つほど意味がありまして…俺たちの存在がついに陽の光を浴びるというのにかっこ悪いところを見せることはできない。

あなたはテレビでこの状況を見守っているかもしれないガールフレンドにかっこ悪いところを見せられない」

「…作戦が終了したら覚えておけよケイル少尉」

「……了解です」

『第1特務隊、スタンバイ』

その通信と同時に大和がアーセナルギアに船体を擦り付けながら船尾を潜入ポイントまで近づけて行く。

大きく船体が軋みながら進み続ける。上空では戦闘機がドッグファイトを繰り広げている。周りにはイージス艦がアーセナルギアを囲むように陣形を組み直そうとしている。潜入するにあたり、大和は無防備となる。そこをミズーリが援護する形で砲撃を繰り広げる。

6人がカタパルトにまたがり、ストックを握りしめ体とカタパルトをギリギリまで近づける。

『大和、アーセナルギアに接触を確認。カタパルト異常なし、コース異常なし、戦闘要員異常なし…システム、オールグリーン。第1特務隊、出撃、どうぞ』

「「「「「「第1特務隊、出る」」」」」」

管制から出撃許可が下り、彼らのミッションが始まった。

ストックに付随するレバーを握りしめた瞬間、体が一気に宙に向け押し出され、そして飛んだ。

腰からワイヤーガンを取り出し、手頃な高さの壁にアンカーショットを刺し、船内に潜入した。

内部は完全に迷路になっており、強化兵部隊が出迎えてきた。

「コンタクト!12時軽機6」

「8時アサルト10」

「3時ショット4」

「火乃香どうする」

着てるのほぼ囲まれた状態だった。着地した位置が悪かったのだろう。しかし、この程度の戦力で世界最強と謳われた第1特務隊の足を止めることなどできるはずがなかった。

「俺とアルス2は8時アルス3、5は3時、雷電とアルス4は残りを」

『了解』

其々獲物を取り出し、標的を撃っていく。雷電は刀を抜き軽機関銃を持った部隊を翻弄しながら腕を切り落とし、アルス4の持つサブマシンガンで次々と胴体に風穴を開けていく。

火乃香達も交互にリロードしながら敵を殲滅し、数秒とかからずに追撃部隊を壊滅させた。

「状況報告!」

「12時クリア」「8時クリア」「3時クリア!」

「周囲に脅威なし、アルス2とアルス3、アルス5は対空機関砲の破壊を、残りはLZ周辺の完全制圧と拠点防御だ。其々ブラボーとヤンキーに分ける。小回りのきくアルス4はブラボーチームから通信が入り次第、作戦本部に連絡し、ここを確保し続けてくれ。雷電は6時の方向へ、俺は反対に行く。解散」

大雑把ではあるが的確に火乃香はメンバーに指示を出して行く。

戦場での作戦判断なんてこんなものだ。分隊長が大まかに分隊を分け、大雑把な指示を出し、あとは現場判断。彼らほどになればここまで説明もなくフィーリングだけでなんとかなるが絶対に失敗することの許されない作戦。念の為だ。

そして分隊が其々解散したところで火乃香達も役割に戻る。

コンテナを縦にしたくらいの大きさの壁や水密扉、窪みなど曲がり角が多く、敵と鉢合わせ内容慎重に進んで行く。

閉所戦闘では、障害物を盾に待ち伏せを行なったり出会い頭の白兵戦、更にはスタングレネードやスモークグレネードなどで視界を奪われないよう細心の注意を払いながら進んで行く。

現在火乃香はアサルトライフルを背中に回し、ハンドガンを構えている。入り組んだところではハンドガンの方が制圧力が高い。

約20秒ほどで約3人の敵を倒し周囲を制圧した。

その15秒後に、爆発音とと共にブラボーチームから対空機関砲の破壊を完了したと通信が入り、本部に突入部隊の投入を指示、1分もしないで、分隊と第2特務隊から第5特務隊を乗せたオスプレイがLZに到着し、アーセナル潜入部隊総勢26名が集合した。そのうち先ほど降下した部隊はすぐに上陸部隊を撃破するため、格納庫へ向かい、そしてまた、第1特務隊も、艦首側にある水密扉を開け、その先にあるエレベータでアーセナルギア内部に降りていった。

「意外とサクサク進んでるね〜」

「何か嫌な予感がする…ここまで警備が緩いと…」

「罠…ですか?」

「エレベータ出た瞬間目の前に赤外線が走ってたりして」

クククと笑いをこらえるお気楽なジルを尻目にジークは手に持っているP90を握りしめていた。

目的の階層に到着し、狭い通路では、ケヴィンが前でミニミを構えながら、後ろではクリスが後ろ歩きで周囲を警戒する。

そして歩くこと20メートルほど、あまり代わり映えのない自動ドアを抜けた瞬間部隊は円になり互いに背中を合わせながら部屋の中央へ寄った。

その部屋の中央にはホロググラムで映し出された地球儀とその地球儀を下から上へと階段状になった机と椅子が360度囲い全報告から中央を見落とすように設置され、さらに10メートルほど上には同じように座席が並んでいた。

入ってきた扉から直線に、アーセナルギア最深部につながる道を閉ざす扉が見えた。しかしジークの様子がどこかおかしい。

「…お前達は先に行け…俺はここで足止めをする…!」

急に立ち止まり、最深部へと続く通路の前に立ち、P90を構える。

何事かと5人はジークの方を振り返ると、二階から十数人の兵士が曲芸のように一階に降り立った。

「わー…なんかカエルみたいな動きだなぁ」

楽園の戦士(ヘイヴンソルジャー)か…」

ジルとジークは銃を構えだした。

「ここは押さえておくから早く行け!」

「大丈夫か?」

「あいつらの武装をよく見ろ俺と同じP90を使ってる。弾はあいつらから補給できる」

「…わかった死ぬなよ」

火乃香は先を急ぐことを決断した。

仲間を置いて行くのではないを信じて背中を任せるのだ。

4人(・・)は扉の向こうへと消えて行った。

「…ジル良かったのか?」

「別にー1人だと死体を漁ってる時にここ突破されるだろ?」

「背中は任せられそうだ」

「任せなって!」

2人は壁に隠れつつ頭を出した楽園の戦士(ヘイヴンソルジャー)の頭を撃ち抜いて行ったのだ。

_______________________

2人が最深部への唯一と思われる通路を死守している時、4人は異常に長い通路をただひたすら走っていた。

高さ15メートル、幅1メートルほどの金網でできた細い道だけが永遠と続いている。通路のある空間は恐ろしく大きく、幅20メートルほどある。壁の周りには様々な機械やエンジンが規則正しく設置され、機械音と機関音がゴーゴーとうるさくなっていた。

この道を通っている間、今までの出来事がフラッシュバックしてきた。

《こんな嵐の中ハインドを飛ばすなんてバカよね》

メイリンとの初めての通信が、霞のディスりから始まった。

《私の銃弾から12発以上逃れることのできた奴はこの世にいない。私は銃弾の声を聞くことができる。私の名はリボルバーオセロットだ。精々楽しませてくれよ国連の犬め!》

魔族や聖職者、霞を除き純粋な人間でいけば、だが、初めてゲームやアニメで言うボス戦と呼ぶ兵士はいい年した爺さんが厨二病を拗らせていたという非常に残念なものだった。

《来たな!ソードダンサー!ここが貴様の墓場だ!カラスたちが貴様の行動を見ている!荒ぶる大地が貴様を敵とみなしている!俺は執行者だ!異端児は俺が排除してやる!死ねぇ!》

対戦車砲などという便利な道具を持たずグレネードと身一つで戦車と渡り合った。もう一度やって見せろと言われてもおそらく次はできないだろう。

《…君もヲタクかい?》

初めはなんとも頼りなく貧弱な内部協力者だと思った。

しかし、彼の助言と協力がなければREXと対等にやり合う事も出来なかったし、島からの脱出は不可能だった。

《今わかった。誰かを殺す為に潜伏していたんじゃない。殺されるのを待っていたんだ。お前のような男に……お前は英雄だ。私を解放してくれる》

死闘を繰り広げ、過去の呪縛から解放さたいと願う1人の女性を火乃香は叶えた。

《俺があんたらを逃がすために村を焼き払い、本家の目をそらすからその隙に国境を渡りドイツへ逃げろとな…だけど2人は反対した。大切な息子に罪を背をわせることができなかったんだろうよ。だけどなぁ、あいつらの目的はお前だけだったみたいだ。お前の体に流れるその血は世界でも相当純度の高い霊力があるらしいからな。あいつらはそんなお前と逃げる前に持ち出した3本の刀の回収が目的だった。そんなお前を逃がすために俺たちは囮になったってわけだ。親父とお袋を殺すことによってお前が生き残ることは不可能だと錯覚させ、そして犯人である俺は一生逃げ続ける生活をする。全てはお前を生かすためにやったことだ。だが1つだけ誤算があったらしくさっきも言ったがJAMが同時期にテロを起こし、その対象に俺たちの暮らしていた村も含まれていて、俺が奴らに拾われた。これで衣食住と本家に対抗するための力、そして指名手配犯として注目を集めお前を影の中に隠すことができた》

ずっと憎しみ、その首を切ることしか考えていなかった兄が、自分を逃し、生かすために世界の憎しみを背負い、全て敵に回した。唯一の肉親の火乃香ですら裏切って。

《10年前に起きた欧州の悪夢から始まり、強大な軍事力を前に我々は幾度となく煮え湯を飲まされてきた。しかし!各国政府は同胞の平和のみならず!世界平和を掲げ、テロに抵抗しようとしている!本作戦は多くの犠牲の上に成り立っている!奴らに核を!衛星を!撃たせてはならない!本作戦の成否は一重に諸君らの勇気ある行動で決定する!以上を持って訓示とする!》

つい数時間前、大佐の訓示とその横で余裕の表情を見せる仲間たちの光景が何年も昔のように懐かしく脳裏に蘇る。

《ほ、火乃香…俺達は…消耗品だ道具なんだ…政府や組織の消耗品なんだ…。時代に翻弄され、弄ばれ続ける存在だ。人を殺し、泥水をすする様にその日その日を生き続けなければならない…!だけど…それでも俺は…常に誰かのために戦ってきた訳ではない…。どんなに命令されても…必ず自分の意思で戦ってきた…。戦う事から逃げずに向き合ってきた。火乃香…俺にはもう未来はない…だが…お前にはこの先を切り開く力がある…。ダイヤモンドの原石のように…輝く瞬間を待っている。今は泥だらけの只の石ころだ…だけど…絶望するな…お前には未来があるんだから…》

一度失い、そして敵同士で再開した戦友が命を張って守り、そして再び隣で戦う雷電。

たった一週間されど一週間。人生で最も地獄と言われるヘルウィークを超えた濃密な一週間だった。

しかしそれも今日、しかも数時間で終わる。どちらかの死をもって。

死ぬのはJAMか世界か。その戦の火蓋は、アーセナルギア最深部へとつながる最後の障壁となるマイクロ波が放射され続ける通路の入り口があるフロアを開ける最後の扉を開けた瞬間から決定する。

 

 

 

 

 

_____さぁ、始めよう血に塗れた最終決戦(ラストダンス)

 

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー次弾発射まで残り65時間

システムクラッキング50%



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第三次世界大戦5

遅くなりました!
ss書き始めて一年かー。
長いなぁ…。最初はすぐにやめるかなって思ってたけどなんやかんやで続いたなぁ
これも皆さまが読んでくださってるというモチベーションがあったから続けられてきたのかもしれません!
でも…作品の感想とか欲しいとは思っちゃいますね(´・ω・`)


ウーーーーン

Jアラートがテレビや夏音たちのスマホから鳴り出し、JAMの一斉攻撃が始まった。通常ならば、頑丈な建物の中に入ったり、避難所に避難するだろう。しかし、ここは絃神島、魔族特区だ。元から、こういった被害が出ることを想定し、建物が作られている。下手に外へ出ると逆に危険だ。まして夏音達がいる建物は南宮那月の所有するマンションなわけで、様々な結界が張られているため、なおさら避難する必要がないのだ。

多くのミサイル群と戦闘機が絃神島に急襲を仕掛けてくる。

「ついに始まりましたか…どうしたのですか?夏音?」

「不安なんです…。火乃香さんが…無事に救助されたって稲垣さんから連絡がありました。でも火乃香さんからは何も…声すら聞けてない…」

「夏音…大丈夫です…火乃香は絶対に私たちを…置いて消えてしまうなんてことありません」

外から迎撃用のミサイルや、爆発音が聞こえる中、マンションの一室は異常に静かな空間だった。まるでこの空間だけが切り取られたかのように。

テレビから緊急特番が組まれ続け、本土の戦闘情報が流れ続けていた。

 

________________

扉を開き、中に入るアルマース隊。

中は見事なまでに静かで、白のタイルが張り巡らされ、十字路で形成された空間だった。

前方にはマイクロ波の通路を塞ぐ扉とアーセナルギア最上部に繋がる貨物用のエレベーターだけだった。

「アルス1、ここからは別行動だな」

「あぁ…雷電、気を付けろよ」

「わかっている。お前こそ死ぬなよ」

「2人とも、本当に気をつけてください。あなた方が失敗すれば…わかってますね?」

「あぁ」

「アルス2もいいですよね?」

「司令官からの命令では俺たちもアルス1の援護だったが…これはお前の手でおわらてこそ意味がある…それに、ちょうどお客さんが来たらしい」

左右通路からヘイヴンソルジャーが突入して来た。彼女らは刀を持ちジリジリと迫り寄ってくる。

「2人ともいってください!」

「ここは俺たちで抑えてる!お前らはそれぞれの決着をつけろ!」

「「わかった」」

「行くぞ雷電」

「あぁ」

2人はそれぞれしかるべき場所へと進んでいった。

「さて、大尉」

「あぁ」

「「ここから先に行きたければ俺たちの屍を超えていけ!!」」

________________________

全長およそ30メートル弱、一歩一歩が非常に重く、また体を少しづつ焦がしてゆく。

いくら体は機械だからと言って、生身の部分が無いわけではない。

雷電はその唯一生身の部分がヒリヒリと痛むのを必死にこらえている。

ぼやけた視界を必死にこらしながら、壁から流れる電流に触らぬよう慎重にまっすぐ進んで行く。

足の筋肉はボロボロになり、膝から崩れ落ちて尚、這いつくばって前へ進む。

放漫な人間が見れば今の雷電は無様だ。

1メートルずつゆっくりと前へと進む。

そして無限にも思えた地獄の時間も終わりが見えてくる。

マイクロ波の流れる通路を抜け出したのだ。

体から蒸気が立ち上り、立つことを困難にさせるほど体力を奪っていた。体は急速に冷え、ぼやけた視界がクリアになっていく。

「ハァ…ハァ…。こちら雷電…HQ聞こえるか?」

『こちらHQ、無事にたどり着けたんだな?!』

「…あぁ…もう少しで本体とご対面だ…。目の前にある頑丈な扉を開けてくれないか?」

『わかった…デバイスをパネルにかざせ』

雷電はゆっくりと立ち上がり腕に巻きつけられたデバイスをコントロールパネルにかざした。

ゆっくりと重たい扉が開き、光が漏れ出して行く。

中に入るとそこはまるで墓地のようだった。

一面に紫色のシオンの花が咲き乱れていた。

その中に、規則正しく墓標のように埋まっているスーパーコンピュータとその中央には中枢システムが設置されていた。

ゆっくりとデバイスを中枢システムに近づける。オタコンたちが一斉にキーボードを操作し出すのが音でわかる。インストールがものの数秒で完了し、あとは効果を発揮するだけとなった。

……コツン……コツン……

足音が聞こえてくる。後ろをゆっくりと振り向いた雷電は気配を消していたサイボーグを着込んだ兵士を見る。

体つきや歩き方からして女だった。

その兵士はゆっくりとマスクを外す。

「お前は…誰だ…?」

「酷いね…兄さん…折角一緒になれたのにまた逃げて…私まで忘れちゃうなんて」

「…!」

超高周波ブレードを抜き、女は構える。

雷電もまた刀を抜き構える。

「ねぇ…なんで逃げたの?ジャック?」

「…俺には世界を敵に回した家族よりも共に戦い抜いてきた仲間たちがいる…リズ…」

「妹より仲間なんだ…やっぱり霞が言った通りだった…。私達も貴方達に譲歩することはできない」

「世界を敵に回すならその前に俺の屍を超えていけ」

雷電は自分でも臭いセリフだとは思ったが、このまま奇行に走らせるわけにはいかない。右脚で地面を蹴り、リズの体に刃を突き刺すため、肉薄する。

激しい斬撃を繰り返しては死角をつくように斬り込みを変えて行く。

お互いに激しい攻防が続く。

剣の速さはすでに肉眼では捉えることすら難しくなっていた。しかし雷電とリズにとっては斬撃が速くなればなるほど神経が研ぎ澄まされ、時の流れが、刀と刀がぶつかるたび耳に障る金属音が聞こえなくなってゆく。

どちらともなく、息が上がり、聴覚と視覚が鋭くなり、余計な情報をシャットアウトしてくれる。アドレナリンが大量に放出され、先程まで、マイクロ波のなかを突破してきた人間とは思えないほどの運動能力を見せつける。

そして数刻後、雷電はリズの刀を右腕ごと斬り、その流れで腹部に刀を突き刺し、勝負がついた。

「お…にぃ…ちゃん…」

「リズ…」

「私、淋しかった…。12年前…朝…目がさめると…お兄ちゃんが…何処かへ消え……て…しまったあの朝…」

それは雷電にとって今までずっと閉ざしきっていた過去だった。ジャックとリズが生まれ育った場所は常に内戦が絶えない地域だった。とは言っても彼らの両親は政府軍の重鎮だったため戦時中にもかかわらず、安全な後方で何不自由なく生活することができた。しかし、国連軍とイスラム教過激派の代表、アルカイダ系武装テロ組織イスラム国の進撃が、国連軍の分厚い防御陣地が突破され、彼らの住む首都にまで迫った。

家は砲撃で破壊され、ISの戦闘員が軍人、民間人、老若男女問わず虐殺し尽くした。その被害者の中に彼らの両親がいた。2人は所謂難民になってしまった。食べたいものを食べることができ、やりたいことをすぐに実行できたあの日までの戦争とは程遠い平和な日常があっさりと瓦解し、その日その日の食べるものを確保するのに必死になり、ゴミ溜めを漁り、腐っていようと構わず口にした。夜は体を寄せ合い、寒さをしのぎ、泥水をすすりながら生きていた。

そんなある日の朝だった。

リズが朝目を覚ますと、隣で寝ている兄の姿が見当たらなかった。

兄を見つけるため彼女は必死に周りを探したが、どこにもいなかった。なぜならジャックは、リズが寝静まった後、いつも朝食べる分の食料を調達するため、歩き回っていたから。

しかし、彼は食料を探している最中、国連軍に所属していた稲垣に救出されていたから。

そんな事情も知らずただただ歩き続けた。

そして探すこと5日、元々体力があまりなかったリズはその場に倒れこんで気絶してしまった。そして世界規模の軍事力をつける前のJAMに拾われ、2人は互いに敵同士となってしまった。

「一緒に…わた…し……は…ただ…いっ………しょに…居たかっただけ…。でも…私…これでも…しあ…わ…せ、なんだよ?」

「リズ…」

「おにぃ…ちゃん…の腕の…なか…で、死ぬ…ことが…できる…から」

出血によって顔が青白くなっている。喋るのも辛いというのに、彼女は微笑んだ。

ジャックの頬に、涙が一筋流れ、リズの頬に落ちると同時に、ジャックが握っていたリズの手は力なく落ちた。

_______ありがと、さよなら。先にお父様とお母様のところで、待ってるね_______

そんな声が聞こえてきた気がした。

 



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第三次世界大戦6

___血の匂い

___火薬の匂い

___波の揺れ

___発砲音

この世の地獄がここにはあった。

また1人、血を流し倒れる。仲間はもういない。隣にいるのは、そこに付いてるはずの右腕が無くなり、左手でデザートイーグルを撃つジルと脇腹と右脚から血を流すジークがいた。

火乃香達を先に送り、殿を続けて約10分。楽園の戦士(ヘイヴンソルジャー)から弾薬を回収しながら継戦していた2人だったが、ふとある時、右脚に銃弾を受けたジークが倒れこみ、ブレードを持ったヘイヴンソルジャーの斬り込みから防ぐため、ジルが右腕を犠牲にしながら最深部へ続く扉の方へ逃げていった。

「……すまない…ジル…」

「隊長達はもう到着した頃だろーよ…」

「そうだな…」

「弾は?」

ジルはもう手元に弾は残っていないことを知っていて、ジークに聞いた。

「もう手元に無い…グレネードならある…」

「自爆してでも…足止めするってか?」

「カミカゼ…か……彼らは国に忠を尽くす為に…死んでいったらしい」

ジリジリとヘイヴンソルジャー達が寄ってくる。

「俺たちは…何に忠を尽くしていると思う…?ジル…?」

「さぁ……な…唯、言えるのは……自分だ…」

「自分に忠を尽くす…か…」

「あぁ…」

「ならやることは決まったな」

「やるのか?」

「ここで…何もしなかったら……唯、無惨に殺されるだけだ…なら…同じ命を落とすくらいなら…1人でも…多く道連れにして…隊長達がやりやすいようにしなければ…な…」

「分かった…」

ヘイヴンソルジャーがP90を構えながら、扉へ近づこうとする。人数はざっと8人ほど。

そして、8人のヘイヴンソルジャーが2人の隠れる物陰に足を踏み入れた瞬間、2つの爆発音が、ルームに響いた。

 

 

____________________________

火乃香は今、リフトで最上階に登り、辺りを見回していた。よく晴れた空だ。雲ひとつない…というのは嘘になる。飛行機雲やミサイルによってできた雲が空一面に広がっていた。オレンジ色の西日が甲板最上部を照らし、反射する。

甲板最上部の面積はおよそ60㎡ほど。縦の方が長い。四隅には支柱が立ち、その頂上にはアンテナが伸びていた。

大和とミズーリが両舷に展開し、目下では突入してきた米海兵隊の特殊部隊SEALsとCFFがJAMと銃撃戦を繰り広げていた。

発砲音はよく聞こえない。まるでここだけが時間と空間が切り離されているかのようだった。

_______コツン_____コツン_______

右前方の柱から足音と共に人影が現れた。青いサイボーグに身を包んだ霞___否、蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)だった。

「お前は天童火乃香だ」

「お前が天童霞だ」

どこかで聞いたようなフレーズのやり取りをし、火乃香と霞は互いに睨み合う。

火乃香は左目の痛みを感じ始めていた。

「その傷でよくここまでこようと思ったな。…さて、お前は俺に勝てると思うか?」

「知らないね」

「お前は学習しないな。なぜ俺をそこまで殺そうとする?あの時お前の復讐心を砕いたつもりだ。なぜそこまで執着しようとする」

「………さぁな…でもな…俺はあんたを殺さなくちゃいけないと思っている」

「ほう…それは義務だからか」

「そうだ」

「俺はあの時、復讐のためにお前を殺そうと躍起だっていた。だけど今は違う。殺さなきゃならない、殺さなければならないから殺す。お前があの時真実を暴露した瞬間俺にあった全ての理由が消えた。そして残ったのはただ殺さなければならないという義務に従った感情だけだった」

「つまり?」

「俺は義務に忠を尽くす。何者も寄せ付けず、ただひたすら孤独にあり続けるその義務に忠を尽くす」

「そうか」

「あんたをここで始末する。世界平和とか人類の救済とかそんなもんは後回しだ!今ここでお前の首をそぎ落としてやる!!」

火乃香は刃刀を抜き、霞に肉薄し、霞もまた銀龍を抜き防ぐ。愚直なまでの剣筋だった。一撃一撃が重い。銀色に輝く刀身が夕日を反射し煌めく。

お互い刀に血を刷り込ませ、刀が血を吸い取り、その刀身に宿る力と鋭さが増していく。

鍔迫り合いだけでなく、体術も存分に使い、またハンドガンやグレネードを使いながら戦闘を進めていく。

お互いハンドガンの弾を避けず、手に持つ刀で真っ二つに斬り、グレネードの破片も全て刀で防ぐ。

サイボーグを少しずつ、火乃香は破壊していく。

火乃香にとって3度目の正直だった。肉薄し続けた火乃香は思い立ったかのように後ろへ後退し、ハンドガンを取り出し地面へ向けて引き金を引いた。その瞬間甲高い音と共に霞の持つ銀龍が弾き飛ばされ、隅へと滑るように転がっていく。

「…腕を上げたか」

「違う。俺は迷っていた。だけどそれが今はない」

「なるほど」

霞はサイボーグを脱いだ。下は黒のBDU、上は(ネイキッド)だった。拳を固く握り締め、構えだした。火乃香もまた霞と同じように構える。野戦服ならば火乃香も脱いでいたがスニーキングスーツであったため動きに制限がかからない。

互いの拳が交差し、顔面に強烈なストレートが入る。2人は2、3歩後退し、今度は顳顬にめがけて蹴りを入れるが霞も同じように蹴りを入れてきた為に、互いに蹴りを防いだ状態となる。その後もしばらく同じ様に攻撃を繰り出し、そして近接格闘に持ち込んでいく。

眉間にめがけ掌底をくらわせ、関節を集中的に痛めつけようとする。

2人はがむしゃらだった。格闘の基本なんてものを棄て去りただひたすらに拳をぶつけていく。更に、眼帯の紐が切れ、縦に縫合された瞼が露わになりながらも、火乃香は霞に肉薄する。指の関節が変な方向に折れ、それを無理やり戻す。殴り合って約15分、お互い息を乱しながらそれでも睨みつける。

大和のスピーカーからは降伏勧告が流れる。

あぁ___雷電…やったのか…

火乃香はそう思った。あとは目の前にいる此奴()を殺すだけだった

一旦息を整え、休憩した為に火乃香は冷静さを取り戻した。

第二ラウンドのコングが鳴った。

先ほどとは違い、綺麗な戦闘だった。体術を使いながら攻撃をいなしていく。霞が火乃香を投げ飛ばし、首を絞めてくる。意識が遠のいていく最中、突然視界が開けたと思った次の瞬間には眉間に強烈な痛みが走った。

「気を失っている暇があるのか?!」

霞が初めて声を荒げた。

そこから五分ほど経過し、2人の顔には痣ができ、足を引きずりながらにじり寄っていく。

もう体力の限界はとうに過ぎていた。火乃香は最後の力を振り絞り霞の顔面に拳を叩きつけた。

霞は後ろへ倒れこみ、起き上がってこようとしたが、体がふらつきそのまま力尽きた。

「俺の負けか…」

「あぁ…負けだ」

「なら…勝者が…やるべきことは……ただ一つ…俺を殺せ…。銀龍で…」

火乃香がふらつく体に鞭を打ち端に転がっていた太刀を手にし、ゆっくりと霞の近くへ寄る。

「…火乃香…最後まで兄らしいことをしてやれなかったな…。今になって…ようやく気がついた…俺は……もっと上手く立ち回れたんじゃないか…って…。全ての悪意を……天童家を俺に向け…お前を隠そうとしていた…。だけど…俺が死ねばお前の存在が…露わになる…。そうなれば……どうなるかわからない…。敗者は死をもって闘争の輪から抜けることができる…死をもって救われる…。人を殺すことも無くなる…。だけど…生き残った勝者は…また次の闘争へと身を委ねることになる…永遠に…己が朽ち果てるまで…。この地獄から抜けることができない……。天童家は強い……。お前では…太刀打ちできないかもしれないぞ…」

「それでも俺は義務に忠を誓った」

「お前のその誓いが…身を滅ぼさなければいい…な…っ…そろそろ…時間だ…俺を殺せ!」

ほのかはゆっくりと立ち上がり剣先を心臓部に合わせ、そして、一息に心臓を貫いた。肉を裂き、サクリと手応えを感じた。肉をえぐるような感覚ではない。まるでスポンジケーキにフォークを突き立てたような感触が手に伝わる。絶対に忘れてはいけない感触。絶対に忘れてはいけない感情。

今ここに、10年間追い続けてきた敵が死んだ。そして、仇であると同時に唯一の家族を失ったのだった。

人は生きるたびに何かを失っている。それでも明日へと向かい進む。出会いと別れは同じ数だけ存在する。しかし不幸な兄妹(ジャックとリズ)すれ違った兄弟(霞と火乃香)は失いすぎた。互いに唯一の肉親を失い、後に残ったのは虚無感だけだった。

すれ違い、誰かの助けを拒み続けた結果の先に待ち受けていたのは不器用すぎた別れ。

そして、火乃香はもうすでに涙は枯れている。大切な人のために泣くことすらできなくなっていた。敵であり仇である霞とて、それでも血の繋がった兄であることには変わりない。

枯れ果てた心は永遠と枯れ続け、いずれは崩壊する。泣くことは弱さの象徴の他にも、枯れた心に新たな潤い(感情)を満たすことができる。

この先火乃香はどうなるのか?それは誰にもわからなかった。

薄れゆく意識の中で、最後に火乃香が感じ取ったのはヘリコプターのローター音だった。

 

 

 

 

 

 

__________________________

JAM壊滅から15時間後、火乃香達は先の戦争で戦死した第1特務隊のメンバーの水葬を行なっていた。

ケヴィン・ティラー 最終階級少佐

ジル・コナー 最終階級少佐

ジーク・フロー 最終階級少佐

いずれも二階級特進

 

生存者

天童火乃香 階級中佐

ジャック 階級中佐

クリス・ケイル階級大尉

ケイル大尉は左腕を失いつつも生還し、2人を最後まで支えてきた功績が讃えられ、生存者にして二階級特進を果たした。

「…この戦争で優秀な奴らがみんな死んだ」

「…………あいつらの犠牲があったからこそ俺たちはこうして任務を遂行できた」

「まさに部隊が壊滅してもチームは生き続ける…ですね」

「ジャック、クリス…俺たちはこの傷を負いながら、この傷を抱きながら戦場に出るんだ…」

登る朝日を背に水葬が終わった。

___________________

本部壊滅を知らされないまま侵攻してきたJAMの部隊によって絃神島は陥落寸前に追い込まれていた。

『こちら第三防衛区画!損害拡大!増援を要請する!』

沿岸警備隊(コーストガード)壊滅!特区警備隊(アイランドガード)被害甚大!』

絶望的な情報が耳に入ってくるたびに那月は戦線の立て直しを図ろうとするもジャムの進行が恐ろしく早く、どうにもできない。

絃神島には第四真祖はいるが、彼は学生ましてやその存在自体が秘匿されなければならない為、戦線へ出すことは避けるべきだ。

ヴァトラーに応援を頼むことは絶対にあってはならない。もしヴァトラーに応援を頼めば、さらに被害が拡大する。

島全体を守ることはもう不可能だった。

その為、那月は西とキーストーンゲートの守備に焦点を絞ることにした。

東区に多くの兵器を当てていた為に西と中央の戦力にはミサイルなどの兵器があまり配備されていない状態だった。

どんどん顔色が悪くなってくる那月を尻目に作戦会議は進んでいく。

その時、那月の携帯に電話が鳴った。

那月は一言断ってから会議室を出てその電話に出た。相手は暁古城だった。

『那月ちゃん!俺や姫柊が西区を防衛するから、アイランドガードは中央区と東区を!』

「馬鹿なことを言うな!学生にそんなことをさせられるか!」

『那月ちゃん…俺は火乃香みたいに戦場に身をおきつっ負けた人間じゃない…。だけど!それでも俺は今やらなきゃならないと思っている!この力をただ遊ばせてるだけじゃダメなんだ!』

「お前の正体が、藍葉や暁妹にバレるとしてもか?」

『あぁ!今やらなきゃ後悔する!俺は無力のまま誰かに守ってもらうだけの人生は嫌なんだ!』

那月は考えた。もしこれで古城を出せば、島の防衛は楽になる。しかしそれでいいのか?本当にそれで…。

『頼む_______』

 

西区某所___前方には多くの揚陸艇が西区に向け進行していた。その様子を嘲笑うかのように3人の影が立っていた。

疾く在れ(来やがれ)獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

古城が召喚した黄金の眷獣は、次々と前方に展開する上陸部隊を乗せた船を薙ぎ払っていく。

「なんだ?!」「吸血鬼か?!」「上陸した我々があいつを殺せば上陸を再開できる!」「見たところ素人だ!」

上陸部隊はたった1人の吸血鬼に銃口を構えた。

しかし、その指は引き金を引くことはなく、腕が次々に地面へと落ちていく。

「させません!」

「雪菜が協力するって言うから仕方なく協力してあげてるだけだからね!」

上陸部隊の阻止は獅子王機関の頼れるコンビが処理をしていたのだった。

 

 

________________ヴァンデンバーグ空軍基地地下滑走路

『雪風、ブースター接続』『カタパルトオンライン』『耐熱装甲接続』『ウェポンシステム接続』『高気圧依然として停滞中』『大気圏再突入進路計算終了』『パイロットバイタル正常』『人工電子演算システムTYPE-Xへのデータ入力完了』

『火乃香、もう一度伝える。糸神島は現在陥落寸前であり、第四真祖や現地で待機している獅子王機関などの尽力もあり、最も被害の出ているのは東区だ。よって雪風を東区に投入することとなる。絃神島には最新鋭のロケットブースターを使って宇宙(そら)を渡り移動する。ブースターの切り離しはそれぞれ3箇所。第1ブースターを点火してから約3分で高度1500km地点に到達、その後ブースターを切り離し第2ブースターでマッハ25まで加速しながら約5分間秒水平飛行しその後、冷却システムを起動しながら第3ブースターで大気圏へ再突入。高度33,000フィートで耐熱装甲とブースターを切り離し、空戦に参加することになる。この辺りは雪風が自動でやってくれるからお前は大気圏再突入した後のことと発進さえ意識していればいい』

後ろで機体の最終チェックをする声とともに稲垣の説明が聞こえてきた。火乃香はシステムチェックを済ませながら稲垣の説明を流しながら聞く。

絃神島が壊滅寸前という一報を受け、ロサンゼルスの緊急対策本部から国連軍特殊電子戦の本拠地に指定されたヴァンデンバーグ空軍基地に駐機している雪風の元へと移動し、現在、最新鋭ロケットブースターを用いて宇宙を渡り約9000km離れた絃神島へと移動しようというのだ。

航空機による平均フライト時間はおよそ10時間だがこの方法だと11分ほどで絃神島に到着するということになる。

有人飛行でマッハ25を飛行するなど正気の沙汰ではないと心の中で戦々恐々しながらも平常心を保ち続けなければならなかった。意識が飛ぶかもしれない。そう覚悟しながらOSが立ち上がるのをかくにんしし発進の合図が出るのを待っていた。

『進路クリア、全システムオールグリン、ホノカ・テンドウ、雪風発進どうぞ』

上から順にTHROTTLE、BRAKES、CATAPULTのそれぞれがCLEARの文字に変化し、発進を知らせてくる。

火乃香はブースター点火ボタンを押す。その瞬間今までに感じたことのないほど後ろに引っ張られる感覚が襲ってくる。およそ2キロメートルある地下滑走路はたった10秒足らずで走りきり、大空へと吐き出した。

「雪風ブースター点火を確認。カウント始めます1、2、3」

「風向、風力、気圧、気温それぞれ問題なし」

「ブースター温度上昇中。予定通りです」

「現在雪風高度650km未だ上昇中」

「……176、177、178、179180」

「雪風第一ブースター切り離し…成功。水平飛行に入ります」

「第2ブースター点火を確認」

「速度マッハ18」

次々と雪風の情報が入ってくるのだった。

______________

「くっ…意外ときつい…!意識が飛びそう…」

『耐えてください中佐』

「う…るさ…い…!あとどれくらいで再突入だ…?」

「予定ではあと6分ほどです。現在の速度はマッハ21』

「…やばっ…もう無理…吐きそう…!」

『堪えてください!中佐!』

宇宙(そら)では人間と人工知能によるコミカルな漫才が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー発射まで45時間

ワームクラスター侵食率85%




最後の方はガンダム種死でキラがストライクブースターで宇宙に出て行くところをイメージしました。
最初は色々と計算してやっていたんですけど途中で「あ、これ計算めんどくせぇ。つか俺、文系だし、高校の時は物理を専攻していたわけじゃないし」って事でめんどくさくなってやめました。ですから色々と物理的に無理はありますけどそこは創作物としてみてくれれば幸いです。


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第三次世界大戦7

最初は順調だった。

本隊が核とワームホールドライバーを奪取することに成功しこれで強力な後ろ盾がついたと感じたからだ。予定通り全世界で工作員(同士)が一斉に戦闘を開始し、日本本土侵攻のため太平洋側に展開した部隊と同時に絃神島に大量のミサイルを飛ばした。

勿論、開戦して暫くは抵抗も激しかったが。そこが実験島であり、いつでも切り離し干上がらせることができるよう物資を輸入することに頼りきらせているという弱点を突き、兵糧攻めを決行した。

そこから20時間以上が経ち、艦隊司令部がざわついた。

本隊の壊滅と総大将天童霞の戦死。殺ったのはす宿敵とも言えるCFF、しかも第一特務隊らしい。

だが後戻りはできない。投降という2文字は我々の辞書にはなかったからだ。

そして手をこまねいているうちに事態が急変した。物量的に圧倒的な優位を確立し、一部の上陸部隊ではあるものの絃神島に上陸を開始した部隊も存在する中、航空隊が次々とレーダーから反応を消していく。

「…眷獣です!しかも真祖級の!」

どこからか悲鳴をあげるかのような切羽詰まった報告が伝えられた。

その瞬間、艦内は凍りついた。

「なんでだ?!」「戦王領域の真祖が絃神島に寄港していなかったか?!」「しかしあれは…!」「まさか幻の第四真祖?!」「バカ言うな!あんなもん迷信だ!」

徐々に隊員達に動揺が走り出す。上陸部隊からの先程から滞っていた定時連絡がようやく本部に届いたが様子がおかしかった。

『し、しょう…はぁあ…少女ふ…2人が…少女が槍と…弓で…!襲ってきた…!部隊は全滅…!それから…男が…!眷獣で………!』

途切れ途切れの通信で確信した。絃神島の通常の戦力は大したことがない。ただし、この島にはいざという時には一国の軍隊以上の戦力が眠っていることを。

もう戦力の出し惜しみはしていられない。残っている戦闘機隊と全ミサイルを発射するしかない。

「全部隊に通達!これより総力戦を開始する!全戦闘機隊は直ちに発艦せよ!他の艦はミサイルを全て使ってでも沈めろ!」

____________________

「全方位よりミサイル群接近!」

「西区は問題ない!電波妨害をやれ!ECM作動しろ!ここ(東区)と中央ははなんとしても守り抜け!」

「着弾まで残り1分半!」

次々と事態が変わり、刻一刻と物資が減らされていく中で打てる手が限られてくることに焦りが募っていく。最も冷静にならなければならない那月はなんとか感情を押し殺し、次の手をどう打つか予想し思考する。

「ミサイル群、全弾消滅!海に落ちました!」

「敵の航空隊はどうなっている?」

「150機の航空戦力がこちらに向けて進行中です。西区は完全撤退したためどのような状態になっているかわかりませんが、全軍が東区から攻めようとしています」

「まだ生きてる対空火器は?」

「全弾命中させればどうにかなると思います」

「!レーダーに感あり!ミサイル接近!数1…速い…!まっすぐこちらに向かって来ています!」

絶望的な状況だった。なぜここまで来てたった1発のミサイルを感知できなかったのか。対策本部で指揮をとっていた者はその瞬間死を覚悟した。神はいない。あるのは現実だけ。しかし、この時那月や他の誰もが、神に願ってしまった。

_____助けてくれ_______

「…全弾…消滅…司令官…やられました」

「仕方ない。最新鋭のミサイルを撃て」

「了解。目標絃神島中央。発射段数1発。ミサイル撃て!」

VLSから高速ミサイルが火を吹きながら発射された。

誰もが勝利を確信した。その直後だった。

「ミサイル消滅!」

「どうした?」

まるで信じられないとでも言うような声色だった。

「嘘だろ?!高速で接近する機体(・・)を確認!」

「なに?!」

_______________

《ミサイル迎撃成功》

ヘッドセットから機械音が聞こえた。なんとかミサイルをギリギリで迎撃することに成功したことにとりあえず胸をなでおろす。

ここからが彼にとって勝負だった。なにせ絃神島は見た目はダメージ受けていないがおそらく対空ミサイルは殆ど底を尽きているだろうと予想できるからだ。何はともあれ、まずはアイランドガードとコンタクトをとらなければならない。彼らの弾薬を拝借するにも…だ。

無線周波数をアイランドガードの周波数に合わせコンタクトを取りはじめる。

「こちら、国連軍特殊電子戦所属雪風だ。アイランドガード聞こえるか?」

『あ…あぁ…聞こえる…聞こえるが…一体これは…!』

無線越しに男性の困惑する声が聞こえてきた。それはそうだろう。いきなり国連軍が援軍として出てきたのだから。しかし、丁寧に付き合ってやる時間もないので早口で要件を済ませることにした。

「本部の周波数がわからなかったためこちらに合わせた。本部全体に聞こえるようにしてくれ。あとそっちの指揮官と話がしたい」

『わ、わかりました…』

指揮所がざわつくのが聞こえてくる。

『私が…指揮官の南宮那月だ…しかし…お前は…!』

「ただいま戻りました。姉さん。あとはこちらが引き受けます。西区で暴れてるバカ3人を安全な場所に避難させてください。それからアイランドガードのデータリンクを貸してください」

『わかった…火乃香…それと終わったら本部に来い』

「了解…データリンク接続完了。武装システムオンライン、全ミサイル誘導開始。国際チャンネル接続…」

ハードポイントによる雪風の現在のミサイル発射段数は16発内1発は先ほど使用し現在15発。

アイランドガードの対空ミサイルはおよそ160発。火乃香にとってこれだけのミサイルは十分すぎるほどだった。

衛星や地上電波を乗っ取りありとあらゆる方法で通信を開く。

「こちらは国連軍特殊電子戦。貴軍らの本部および総司令部は壊滅した。よって速やかに投降しなさい。繰り返す、こちらは国連軍所属特殊電子戦。貴軍らの本部および総司令部は天童霞の死亡を持って壊滅した。現在本部として利用されていた巨大潜水艦はCFFによって接収された。よって直ちに武装を解除し、投降せよ」

全世界に対し火乃香の勧告が流れた。

『この畜生がぁぁぁぁぁ!』

ヘルメットに内蔵されたスピーカーから、一人の敵パイロットの叫びとともに高速で雪風に接近し始めた。火乃香は雪風のABを一気にふかし、距離を取りつつ旋回を繰り返す。雪風に内蔵された小型のカメラが世界中に流れる。

《WARNING MISSIL APPROCH》

雪風から電子音が聞こえた。ヘルメットに内蔵されたHUDは通常緑色で映し出されるが、警告音とともに赤色へと変わる。右端に簡易レーダーが映し出され、ミサイルとの距離が秒単位で短くなってゆく。

フレアを炊き、いつぞやの空戦で見せた変態機動を繰り出す。

内臓が破裂するほどの負荷が体にのしかかり、気を失いそうになりつつも、ミサイルを撃ってきた勇敢な機体をヘッドオンしそのままミサイルを撃った。約数秒後、目の前の機体が爆発し、レーダーからも反応を消した。

火乃香は内臓HUDを切り、マルチロックオンシステムを起動させ、150近くの機体を同時にロックオンし、アイランドガードの持つミサイルを全て撃った。

絃神島には汚い花火が咲き乱れたのだった。

____________________

白い天井が視界に入り、鼻をつくような薬品の匂いがし、規則的になる機械音が聞こえてくる。

(あぁ…また病院か…)

絃神島周辺を囲っていたJAM艦隊は航空戦力の殆どを戦闘開始から制空権を握り有利だったのが雪風一機によってそのほとんどを消滅させ制空権を奪われ、敢え無く投降した。また世界各国の戦線の殆どが火乃香の流した降伏勧告によって戦意を喪失させこれまた現地政府軍によって捕らえられ、今後は国連軍に引き渡された後、国家間の紛争を裁くことしかできない国際裁判所は異例の対応としてJAMの投降した部隊の処遇を決定することになった。

閑話休題

戦争が終結し、雪風から降りた火乃香はここ一週間続いた緊張と疲労そして拷問による肉体的、精神的ダメージによって意識を失い、現状に至る。

ゆっくりと首をまわすと小さく寝息をたててベットに頭を預ける夏音の姿が見えた。

健気だな

火乃香はそう感じずにはいられなかった。ここまで心配させたのに側に居てくれる彼女は本当に優しいとしか言いようが無かった。

左目に手を当てると布の感触があった。

ほぅと一息つき、体を起こし時刻を確認する。

丸3日意識を手放していたみたいだった。

もう一度夏音の頭を優しく撫でる

「ふみゅぅ……んんっ……」

可愛らしい吐息を吐きながらゆっくりと頭をあげ目をこする。その姿はまるで昼寝から目を覚ました仔猫のように可愛らしかった。

「火乃香さん……?…!大丈夫でしたか?!体はもうなんとも…!」

「お、おいおい…」

普段の彼女からは想像できないほど慌てた様子で火乃香の体をぺたぺた触ってくる。

そして次第に涙を流し始めた。

「なんで!なんで何も教えてくれなかったんですか?!いつもいつも無茶ばかりして…!私が!私がどれほど心配したか?!」

「……」

彼女の言葉が今の彼の心を大きく抉り取る。連絡の一つもよこさなかった。安否のわからない状態が続く状態は待っている人々にとって大きなストレスになる。

「あなたが何処かに行ってしまうんじゃないかって心配になっていたんです!もう…もう二度と私のそばから離れないで……お願いです…謝らないでください…でも…そのかわり二度と…私の側から離れないで…」

「………あぁ」

「私はそんなに頼りないですか…?」

「そんなことはない。夏音が側にいるだけで安心する」

「ずるいです。そうやって…優しくして…頼りないって言ってくれた方がずっと良かったはずなのに…怒るにも怒れないじゃないですか…」

「…っ」

火乃香の中で底知れぬ後悔と自分の気持ちに対する疑念が生まれた。大切にしているはずなのになぜなのだろう?火乃香は自分の無意識下で彼女に弱みを見せることで夏音を喪うかも知れないと心のどこかで感じていたのかも知れない。彼の抱える苦しみは大きすぎる。差し伸べられた手はどんなに多くても小さすぎる。軽くすることなど到底不可能なほどだ。なのに…。

「違う…喪うのが怖いんだ…もう…何も喪いたくない…」

気づいたら口が動いていた。

「俺は…俺は自分の手でこの手で!命の恩人()を殺した…!ずっとずっと!何も知らないままの方が楽だったのに!これが俺に背負わされた十字架だ…。あの戦争で他にも仲間を失った…。ケヴィンとジルは顔を付き合わせればお互い取っ組み合いが始まるんだ…。それを笑いながら肴にして『今日はどっちが勝つと思う?』って言いながら次の休日の為に掛けをしていた。ジークは口数が極端に少ないやつだったけど何かとちゃっかりしていてさ…いつも最後は華麗に勝利をかっさらっていくんだよ…。どんな作戦でもあのメンバーならこなせないものは何もないって思えるほど居心地が良かった…。でももういないんだよ…。クリスとジャックは隠居生活だ…。みんな戦場から消えていく。だけど俺だけは違うんだよ…!永遠と戦場に身を置かなきゃいけない…。全てを喪うまで…それが俺に課された罰だ…!夏音…君がいなくなったら俺は…俺は…どうすればいいか…わからないよ…」

「安心してください。私はずっとあなたのそばにいますから」

そっと夏音は火乃香の頭を抱き寄せた

10年前に失った涙が今流れ出す。たまり続け、ダムが決壊したかのように、夏音の腕に抱かられみっともなく泣きじゃくった。

_____________________

扉の外で火乃香の泣き声を聞きながら様子を見に来たラ・フォリアはそっと壁に背を預けた。

(ようやく見つけることができたのですね…)

4年前、アルディギアでラ・フォリアと火乃香が出会い良好な関係を築きはじめた頃彼に唐突な質問をぶつけた。

『貴方はその年齢で傭兵でしたね?』

『えぇそうですが…どうかしましたか?』

『いえ…辛くならないのかと…』

『え?』

『戦場で多くの命を奪うことにです』

『それが仕事だと割り切っています…血塗れになりながら戦場の泥をすすり続けるのは慣れました…だけど…懺悔したくなる時や弱音を吐きたくなる時はあります。ただ…それはできそうにありませんし、それをしてしまうとその人に依存しそうで怖いんですよ…だから仕事だと割り切っているんです』

『ならば私が貴方のその辛さを受け留めて差し上げましょうか?』

『殿下…恐れ多いです』

『でも私は貴方のことが心配です…そうですね…1人でもいいですから信頼できるパートナーを見つけなさい?これは王女として私の護衛をする貴方に対しての命令です!』

『善処します』

(私じゃないのが残念ですが…よかったわ…)

ゆっくりとその場から立ち去ろうとしたラ・フォリアは見知った何人かの人影を見つけた。

古城達だった。

「先程病室に行ってみましたけどまだ寝ていました。ゆっくりさせてあげましょう?」

(ふふっこれは私からのささやかなプレゼントです♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワームホールドライバー機能完全停止。

CFFによって発射された新型核弾頭によって物理的に消滅




長きに渡るオリジナル(笑)が一応完結したゾォ…
ただ次話は間章ということで事後報告と日常回にしようかなと思っています…。


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日常

『ミス相葉が作成したウイルスは正常に機能して、ワームホールドライバーは完全に停止したんだが…アメリカから衛星の破壊を強制させられてね…。新型核弾頭で衛星を物理的に破壊した』

「まぁ、そりゃそうですわな。お互い痛みを伴う秘匿兵器(ばくだん)の処理ってところでしょうか」

『そんなところだ』

笑いながら自虐ネタを受け入れる稲垣の懐は深いようだ。

事の顛末はこうだった。

全てが終わった後、アメリカに、ワームホールドライバーの存在とその危険な兵器が強奪され、民間人にその処理を依頼したことがバレてしまい、アメリカ側のいいなりになった。

しかし、不幸中の幸いで、一時は部隊解体どころか一定以上の幹部の一斉逮捕なんてことを覚悟していた稲垣だが、アメリカ政府の要請は同国で試作した新型核兵器を用いてワームホールドライバーを物理的に破壊せよというものだった。その時の大佐は腰を抜かしつつ心底安堵したようだ。

今回の戦争でJAMが得た世界各国の機密情報は多かった。アメリカもステレス核弾頭なんていうものの存在が明るみに出れば世界中から糾弾されるだけならまだしもこれ見よがしに中国が何を言いだすかわからない状況だった。そこにちょうど良く機密を握られ、しかもそれが明るみに出たら自分たちよりもやばい立場に立たされるのが確定しているCFFを利用し、一刻も早く自分達の持つ不安要素を処理しようと、稲垣に揺さぶりをかけ、核兵器と対地攻撃衛星の破壊による潜在的脅威の排除という表裏一体となった目的の為に同時処理を行った。

『お前も休暇を取れ。色々と疲弊しているからな…それとお前にとっては不謹慎極まりないと思うが近いうちに祝勝パーティーとお前の授与式があるから礼服を選んでおけ」

「制服じゃダメなのか?」

「授与式は制服の方が望ましいが祝勝パーティーには礼服を着てこい。なにせ、世界各国の首脳が集まるんだ。1人軍服では来賓の方々に威圧をかけることになる」

「…わかりました」

『それから分かっていると思うが、パーティーに行くときはくれぐれも一人で来るなよ?きちんとパートナーを連れてこい』

「…姉さんでもいいのか?」

『いやー……なるべくおとなしい人を頼む』

遠回しに物事を語り、私利私欲、または自国の覇権を世界に見せつけようとする世界各国の首脳陣とバッサバッサと言いたいことをストレートに言う那月とでは、とても相性が悪い。

「俺が誘える人の中でおとなしい人物は1人しかいないんだが?その人にはあまり泥沼の政界を見せたくないんだが?」

『お前が守ってやればいいさ』

「休めと言ったのはあんただ」

『レディを守るのは紳士の務めだ。任務とは違う』

「まぁいい。終わってしまったことには仕方ない。わかった。礼服を用意しよう」

そう言い残し、通話を切り再びソファーに座り込んだ。

退院から約一週間が経つが学校には行けていない。

フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を片手に紅茶を飲みながらホゥと一息つき地上60階の大きな窓から絃神島の風景を眺める。

島にはほとんど被害がなくてよかった。そう思いながら、つい10日ほど前の出来事を忘れてしまったかのように、活発な人々の生活を見ながら再び目線を風景から文字の羅列へと移した。

それから1時間ほどが経ち、アスタルテが用意した食事を食べ、ふと時計を見る。

時刻は14:00を回ったところだった。5限目が終わり、6限目へと入ろうとしているころだろう。

時間割をちらりと見ると今日の6限は英語のようだった。

火乃香は、古城が那月に辞書を投げつけられクラスが一斉に笑っている風景を思い出した。笑っている中に自分は確かに存在していたが、それはもう過去の話でしかなかった。今は、笑える自分がいなかった。

大佐は言っていた。CFFは解散させられなかった、と。しかし火乃香にしてみれば解散したも同然だった。

3人の仲間が死に、2人は部隊を去り、残されたのは自分だけ。

いつまで手を血に染めなければならないのだろう?そんな考えがよぎり続けた。そして思考するのをやめる。

退院してからはいつも同じ事の繰り返しだった。意識だけを深く沈めただ時が経つのを待つ。

16:30ドアが開く音が聞こえた。その音でいつも意識を取り戻すのだ。ゆっくりと後ろを振り向くとそこには銀髪の少女が鈴を転がしたような声で「ただいまでした」という。

そして火乃香は「おかえり」と返す。いつも夏音が帰ってきたら真っ先にこのやり取りをする。最早日課となっていた。

そして制服から白のワンピースに着替えた夏音が火乃香の隣に座り火乃香は彼女の膝に頭を乗せる。

平和。

脆くて儚くて尊い時間。

頭にふわりとした感覚がして、頭を撫でられていることを理解した。

「夏音…もう少し上を撫でて…」

「はい」

優しく微笑みながら火乃香のお願いに応える。

言葉をかわすことはない。2人にとって静かに寄り添うことができればそれでいいのだから。言葉による飾りつけは必要ないのだ。

2人の空間は下手なバカップルの醸し出す空気よりも甘く、あの那月ですら休日出勤を積極的に行い、アイランドガード本部に逃げる始末である。目は口ほどに物を言うとはよくいったものだがまさにそれを体現しているかのようだった。

「夏音…明日時間ある?」

「ありますよ?」

「明日買い物に行かない?」

「明日ですか?学校は…?」

「放課後だよ。それまで待ってる」

「いいですよ…但し条件があります」

楽しそうな声だった。

「どんな条件?」

「せっかくなので明日学校に来てください」

「………わかった…ただ」

これは夏音なりの交渉のようだった。先にも述べた通り、火乃香が戻ってからというものの殆ど家から出ずに引きこもっているのを夏音は心配していたようだ。夏音曰くクラスのみんなも相当心配しているらしい。火乃香自身もそろそろ学校に行かなければ不味いとは思っていた。しかし、彼は怖かった。周りからの目が。彩海学園の制服は半袖だ。眼帯はまだいい、しかし、右腕に押された敗者の烙印の存在を気にしていた。夏音に烙印を初めて見られた時、心が死んだように冷たくなり、手足の感覚がなくなり倒れそうになったのを覚えていた。夏音はそんな些細なこと気にしないと言い、それを証明するかのように、右腕に自身の体を絡め、烙印に唇を当てた。

だが、皆が皆、夏音のような聖人君子ではない。例えば体育などで着替える時どうしても脱がなければならない。腕だけでなく、身体中に拷問の跡が残っている。それが怖かった。

「ただ…怖いんだ…みんなが…夏音みたいに受け入れてくれるとは限らない…」

「インナーを着てみたらどうですか?」

「インナー?夏音がいつも着ているみたいに?」

「はい。それなら傷も隠すことができるはずです」

「…インナーか…あったかな…」

そう言いながら夏音の膝から頭を起こし、ゆっくりとホールに向かい、自室に戻った火乃香はチェストの中をあさる。

1番奥に通気性抜群の黒のインナーが3着あった。それはCFFで支給されたものだ。

「あった…」

これで夏音とまた登校できると心の中でホッとしていても、まだ不安要素があった。

(みんな怒ってるかな…)

彼らの目の前で火乃香はさらわれた。それはどうでもいい。問題は、相手が銃器を持ち、閃光手榴弾の被害にあったことだ。怒っていないはずがないと考えてしまうのも頷ける。

取り敢えず明日学校へ行くことが決定した火乃香は時間割をちらりと見て教科書をカバンの中に入れ始めるのだった。

 

 

 

 

____________________

朝、久々に制服の袖に腕を通し、カバンを持ち夏音達と一緒に玄関を出た。

「火乃香がようやく学校に来てくれるのは安心したが…なぜそこまで露骨に武装する?」

「別に…武装という武装じゃない…。ただ…腰に拳銃のホルスターを巻きつけてるだけ…」

那月が火乃香の持つ物騒な武器に眉をひそめる。

火乃香の腰には愛銃のHk45がホルスターの中に収まっていた。

以前まではなるべく凶器は隠すようにしていたが今は逆に見せている。彼なりの防衛行動なのだろう。凶器をちらつかせることで自分を守るという心理だ。アイランドガードから武器携帯許可を受けている身であるため、問題はないのだが…。

「そんなに警戒しなくても誰も攻撃しないと思いますよ?」

「暫くは…これで許して…」

夏音が苦笑いを浮かべ、火乃香は夏音にか細い声で懇願した。なんとも軟弱になったものか…。那月は呆れるほかなかった。

それぞれ校門で別れた後、ゆっくりと自分の教室に向かう。その足取りは非常に重く、浮かない表情をしていた。教室や廊下から他クラスの笑い声が聞こえ、1年B組からも同様に聞こえてくる。

ガラリ、扉を開く音がすると同時にクラスが横目で火乃香を見る。それと同時に先程まで騒がしかった教室が静まり返りその瞬間この空間には二つの表情が生まれた。驚きと無表情。

いずれも火乃香の存在を現実のものとして受け止めるほど肝が座った生徒はいない。

以前との変化は眼帯の存在とインナーを着込んだという違いだけ。依然として顔立ちは変化することも衰えることもなかった。自分の席に遺影と花瓶が置かれていないことだけは唯一の救いだった。ゆっくりと自分の席に向かい歩き始める。次々と生徒達は道を開ける。火乃香が机に座り突伏したところで、ヒソヒソと話し声が起こり、そして次第に先程と同様の喧騒さを取り戻した。

だが、誰も彼に話しかけることはしなかった。否、できなかった。

何を話せばいいかわからなかったからだ。

「ゲホッ!」

突如、背中に衝撃が走り、むせる。

何事かと勢いよく顔を上げ周囲を確認すると古城達がいた。

「ようやく来たか」

呆れた声で古城が言う。

「随分とカッコよくなっちゃってよぉ!なんだ?!あのイケボ!本当にお前か?!」

首にヘッドホンをぶら下げたツンツン頭の基樹がからかう。

「あんた約束覚えてる?すっごい高くて美味しそうなパフェ見つけたからそれ奢ってもらうわよ」

金髪に髪を染め、制服を改造し、化粧をした浅葱が鬼の形相で迫る。

「火乃香くん、大変だったわねぇ」

ニヤニヤしながらじっくり揶揄ってやろうとする委員長。

「お前ら…」

__あい変わらず能天気な奴らだ。俺と関わればろくな事が起こらない_

そう言おうと、顔を上げたその時、真っ暗に沈んだ世界が一気に明るくなった。先程まで気味の悪いものを見ているかのような目で見られていたはずなのに今は違った。みんな表情が明るかった。

沈んだ気分で憂鬱な表情を浮かべていた自分自身が描き出した幻に騙されていたのだった。

那月がガラリと教室の扉を開け、生徒達に着席するよう指示をする。

「さて、ようやく全員が揃ったか…。これでいつも通りだな。HRを始める」

那月が連絡事項をざっと述べた後、HRを終わらせる。

男子生徒が一気にほのかに詰め寄りわちゃわちゃし始める。その混雑に苦笑しながらも火乃香はもう少し早く学校に行っていればよかったかなと幸せな後悔にうなされたのだった。

 



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日常2

遅れてすみません!
色々ありまして遅れました!
長く時間を開けたせいでひどいことになってますがご勘弁を…


放課後、火乃香と夏音はラ・フォリアが泊まっている部屋の前にいた。

呼び鈴を鳴らし、目的の人物を呼び出す。

中からはーいと腑抜けた声を出しながら鍵を開ける音が同時に聞こえた。

「お久しぶりですノンナさん」

「あら〜ほんと、久しぶりじゃない火乃香くん?」

中から出てきたのは金色の髪が所々跳ねている女性が出てきた。

「夏音、彼女がラ・フォリアの専属コーディネーターのノンナさんだ」

「は、はじめましてでした。今日はよろしくお願いします!」

少し緊張した様子で頭を下げる夏音を見ながらノンナはニヤつきながら夏音に抱きついた。

「はじめまして〜夏音ちゃん!夏音ちゃんすごく可愛い!ねぇ、火乃香くん?このまま持ち帰っていいかしら?!」

「ふぇ?!」

「それは困ります。それより、今回は無理を言って申し訳ない」

「んと…そうね、興奮しすぎちゃったみたい。それと謝らなくてもいいわよ!今日はよろしくね、夏音ちゃん!」

2人は無駄に豪華な部屋に足を踏み入れた。

「ノンナさん、そういえばリアの姿が見えませんが…?」

「シャワー、浴びてるわよ?」

「そうですか」

昨日、稲垣大佐から夏音とラ・フォリアと一緒にパーティーに参加するように言われたため、夏音のドレスが必要となったのだ。

そこで火乃香は数週間前から絃神島に訪れているラ・フォリアに夏音のドレスについて打診したところ、近々、アルディギア王室御用達の服屋が絃神島に進出しようとしているらしく、その関係でノンナがこちらにいたため、彼女に夏音のドレスを仕立てて貰うことになった。

「生地のカタログはこれで、色のカタログはこれ…夏音ちゃんどれがいい?」

夏音と火乃香の目の前には生地のサンプルが広げられていた。

滑らかな肌触りのものがほとんどだがそれぞれ若干の違いがある。

色も白や赤、黒、金といったものや、薄めの色など非常に多くのサンプルがある。

「随分と多いんだな…」

「種類が多いと何選んでいいかわからなくなっちゃいます」

「でしたらこれがいいのではないですか?」

「お姉様、こんにちわでした」

「えぇ、こんにちわ夏音」

サンプルの多さに火乃香は驚き、夏音は迷っていると背中からラ・フォリアの声が聞こえてきた。

「リア…背中から抱きついてくるのはいいけどきちんと服を着るんだはしたないぞ」

「あら、いいではありませんか?」

「風邪を引いたらどうする?」

「仕方ありませんわね」

火乃香は背中から急に熱が消えていくのを感じた。

ラ・フォリアはスタスタと寝室に引っ込み布が擦れる音がそこから聞こえてきた。それと同時に火乃香の裾をくいくいと引っ張られた。

「火乃香さん、ノンナさん、決まりました」

白を基調とし、肌触りの良い生地を選んだらしい。デザインは派手なフリルがあしらわれていないシンプルなパーティードレスだ。

「かしこまりました…では、採寸するので…あちらに行きましょうか!」

手をわしゃわしゃさせながら夏音の肩を掴み、一室に閉じこもった。

部屋の中からちょっとした喘ぎ声が聞こえてくるが、火乃香はきっと気のせいだと思い込むことにした。

「リア、大佐からの打診だ。これに目を通してくれ」

「これは…わかりましたわ。後で必ず本国に転送して直接お父様から返事をすると伝えておいてください」

「わかった…ところで…クレジットって使えたっけ?」

「使えるはずです」

現金を持ち歩かない火乃香は基本的にカード決済だった。なぜかカードで決済しようとすると店員は皆そろって顔をひきつらせるが火乃香はそう言ったことに興味がないためよくわからないでいた。

現に火乃香が使っているカードは那月が契約を代行したためすべて任せっきりにしている。那月本人は自分と同じところだと言っていたが…。

「お待たせしました〜」

「火乃香さん…お待たせしました…」

妙にツヤツヤしたノンナと心なしか疲れが滲み出ている夏音が部屋から出てきてそれぞれ元の位置に座った。

「では、決済に入らせてもらいますね〜現金で一括にします?」

「いやカードで頼む」

「わかりました少々お待ちください…読み取る機械を出すので…」

カバンからカードを読み取る専用の機械を取り出したノンナが火乃香からクレジットカードを受け取りカードをスキャンさせた。

「一括にしますね…こちらにサインをお願いします。それから領収書です」

南宮火乃香とサインをして、領収書をすぐに回収する。給料は恐ろしいほどもらっているし全く使っていないためスイスの銀行に溜まるだけ溜まっていたために、値段は大した気にもとめず、ましてや元々はこちらの要件につき合わせる為とここ二週間のせめてものお詫びとしてプレゼントするためだ。これぐらいどうと言うことはない。

火乃香はゆっくりとソファから立ち上がる。

「さて、要件は終わったしいい時間になったからレストランに俺たちは行かせてもらうよ。リア、夏音行くよ」

「はい!」

「楽しみですね火乃香!」

ゆっくりと日常が動きだした



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