GARO×艦隊これくしょん ~Iron blood Horizon~ (ジュンチェ)
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鬼ヶ島鎮守府篇
咆哮 ー前編ー


※艦娘ホラー化嫌な方はブラウザバック!




…………海

 

 

 

遥か古より、命を育んできた存在であり地球という惑星(ほし)に生きる者たちの母。時に静寂で美しく、荒々しく猛々しく…優しくて無慈悲な海。その底は…光が届かないけど暖かくて暗い……ふと気を抜けば、そのまま融けてしまいそうにになるくらい…

 

 

その海底から現れる人に仇なす異形たち『深海棲艦』。

 

それから、力無き人々を守る戦船の記憶を宿した少女たち『艦娘』。

 

 

 

……その戦いは双方譲らず、やがて泥沼化しつつあった。

 

 

 

 

 

 

だが、忘れてはならない。どんなに時代がうつろいで変化しようと人々から邪心・業…即ち『陰我』が消えることはない。世の闇に潜むホラーとの戦いは終わらないのだ……!

 

 

今宵、新たなる魔戒騎士の物語を語ろう。混乱の世に産まれ落ち、憤怒に身を焦がしたある男の生き様を…

 

 

 

 

………そこに、ふわりと浮いていたのはドクロの指輪。不気味だが造りこまれ…紅い眼がこちらを無機質に見据える。

 

『今宵………新たなる魔戒騎士の物語を語ろう。呪われし烙印を受けた黄金騎士の物語を………』

 

 

 

 

 

☆★ ☆★

 

 

 

 

 

 

この時代、表だって怪異・魑魅魍魎と呼ばれる存在は人々の文明による光によって淘汰され…その輪郭と意義を失っていったものが多い。確か、妖は人の畏れが見せる刹那の幻と誰かが言っていたような気がする…まあ、どうでも良い。

………問題は遥か古の時代においてからも、人々の営みの闇に潜み…『人を喰らう者』がいるということ。

 

 

「…ココまでくれば良いか。」

 

 

この廃墟の並びの何処かに確かにいる。足元が海水で浸かるのも気にせず、無骨な鋼色に鈍く輝く大剣…俗にいう斬馬刀に部類されるやも知れぬそれをブンッと振るい水面を裂く男。

黒のアンダースーツは所々避け、かつてはコートであったろう白いボロきれがマントのように首からなびいている……。猛禽の毛並みのような黒の頭髪にまた準ずる鋭い眼………

男は来るべき来客を待ちわびていた。

 

『囲まれたな…。』

 

「いつものことだ。」

 

…夜独特の澄んだ空気は徐々に淀んでいく

左手の指輪がカチカチと口を動かして警告すると同時に物陰の合間から……朽ちた屋根の上から……次々と『シュゥゥ…』と醜悪な獣の吐息が聞こえてくる……

 

『気をつけろ。深海の奴等もいるようだ。』

 

「構わねえ。纏めて叩き斬る…!」

 

『お前の場合は斬り潰すと言ったほうが正しいかもな。』

 

大小、幾つもの禍々しい異形のシルエットが囲んでも男は怯まない…。無骨な鎚ごとき刃を左手の甲にあてがうように構えると月光に照らされた左頬の傷痕が怪しく光る。

……時はきた。

 

 

 

 

 

「…さあ、来いよ。」

 

 

『『『『『シャァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』』』』』

 

 

その夜、廃墟の海辺では激しい獣の唸りと咆哮に断末魔……血肉が迸り、裂かれる音が夜があける近くまでしたという。

 

 

 

 

 

 

牙狼<GARO>×艦隊これくしょん

 

~鉄血ノ水平線<Iron blood Horizon>~

 

 

 

 

第 一 章

 

『憤怒』

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「…不幸だわ。」

 

…あんなに空は青いのに。そして、今日は非番だったはずなのに。

白い巫女を想わせるような彼女は空を見上げる。ただ、腰には戦艦そのものを切り出したような砲台が2門のそれが4基…頭には髪飾りのような艦橋がある。絵に描いたような大和撫子な彼女だが、表情は浮かない。

 

「山城、嘆いてても任務は終わらないよ?」

 

近くでは同じく砲台こそないが、戦艦の部位を背負うような少女がひとり。軍服のスカートなのだろうが、それを女子高生の制服のように着こなしている…。彼女、『鈴谷』はいつまでも憂鬱そうにぼやく同僚『山城』に声をかける。

今、辺りは潮が引きつつあるがまだぬかるむ砂地の廃墟…ここの調査を任じられて彼女たちはここに来たのである。どうやら、昨晩にかなりの騒ぎがあったらしく物騒なのでということで山城の休日は消え失せたのだ。

 

「なんで私なの?別に軽巡とか駆逐でも事足りるでしょ?」

 

「深海棲艦もいる可能性あるし、調査なんてうちの駆逐の子らじゃ朝潮抜けば心もとないじゃん。それに、能代は遠征で夜戦バカは寝てるし、自称アイドルは何処か行ったし……あと、もうそれなりにフットワーク良くて艦載機使えるのなんてうちらくらいだし?いざとなったら、火力が頼りになりますから山城さんは。」

 

「なら、伊勢は?」

 

「特別な瑞雲を捜しに行ったわ。日向と…」

 

「逃げたのね。」

 

絶対に許すまじ。心の中で同僚への怨念と運の悪さを嘆きながら渋々、廃墟を進んでいくと…明らかに自然災害のそれとは違う家屋の破壊がチラホラと見えてくる。これらを鈴谷は顔を近づけて観察していく……

 

「…確かにこの柱の折れたやつとかまだ新しいやつだね。でも、深海の奴等が暴れたにしては妙かな?何かどデカイ刃物で叩き斬ったような……」

 

「砲撃の跡も少ない。更に派手に壊されてるけど、何か変だわ。」

 

「取り敢えず、蒼龍に報告しますか!熊野の様子も気になるし!」

 

そして、パシャパシャッとカメラのシャッターをきるとラジコンの水上機らしきものを左腕のグローブへ。これは、カタパルトそのものになっており水上機もこれにおさまるとカメラから外されたフィルムが取り付けられる。これで準備完了…左腕カタパルトを青空の彼方へ掲げると………

 

「さあ、いってらっしゃい!!」

 

 

バシュッ!と弾けるような音と共にそれは舞い上がっていった…。

 

プロペラが音をたて、小さなエンジンが音を鳴らして目的地へと飛翔する………

 

 

 

………やがて、眼下は廃墟から砂浜…海辺の瓦屋根並ぶ旧き風貌の町並みへと変わっていき………ある所で旋回して円を描く。

それに、気がついたのは団子屋の長椅子に座る鈴谷と同じ制服を纏うポニーテールの少女。和風な景色に不似合いな紅茶が仄かに香るTカップを手に『あら?』と首からを傾げるやいなや、団子の皿の隣にそれを置き…足元へと立て掛けていた鈴谷の纏っていたのと同じ軍艦を模した装備を身につけた。

 

「流石、鈴谷……仕事が早いですわ!着艦を認めます。さあ、こちらへ!」

 

左腕のカタパルトを突き出して、指示をだせば機影は機種を反転させて滑らかに下り坂を描きながらゆっくりと描きながらこちらへ向かってくる…。そして、ガチャンッ!!と金属の衝突音をあげて着艦し、展開されたシャッター部の中へと消えていく。

さあ、これで任務完了。

 

「蒼龍、鈴谷たちは終わりました!」

 

「へぇ、思ったより早かったじゃない?ま、良いけど……」

 

後ろで優雅に団子を食していた着物姿のツインテールをした少女に声をかける。すると、彼女…『蒼龍』は立ち上がると矢筒に弓…そして、熊野のものより大型で盾のような飛行甲板を左肩に背負う。

 

「収穫は…?」

 

「目立ったものは無し。行方不明になった白露型の痕跡は取り敢えずは……」

 

「……そう。心配ね…ここ、最近は大規模作戦こそ無いものの何かと物騒だから。」

 

「無事を祈るしかありませんわ。」

 

彼女たちは自分たちの仲間を捜ししにきていたのだ。山城や鈴谷は海側へ…熊野と蒼龍は街中で聞き込みを任されていたのだが………

 

「成果は結局、0……か。あとは艦載機が戻ってき次第……」

 

諦めてこの場を後にしようとした。どうせ、獲られるものなんてまず無いだろうし……

 

 

 

「だ、誰か助けて~~~~!!!!!!!」

 

 

「「!」」

 

と、思った矢先に悲鳴。何事かと思っているうちにまだ年端もいかぬであろう黒いセーラー服の少女たちがこちらに駆けてくる……。黒髪と金髪がそれぞれ戸惑う蒼龍と熊野の後ろへ逃げ込み、泣きじゃくりながら震える…。すると、熊野はあることに気がつく。

 

「蒼龍、この娘たち!?」

 

「!…行方不明の白露型!?確か、時雨と夕立…!」

 

そう、彼女たち…黒髪おさげは時雨、長い金髪をサラサラとさせているのは夕立……文字通り、蒼龍らの『捜しもの』 である。見つかったのはまず良いとして、明らかに彼女らは逃げて…怯えていた。

 

「お、お願い!た、助けてほしいっぽい!!」

 

「落ち着いて!何があったの…!?」

 

涙目で今にも、崩れそうな夕立を宥めながら状況の確認を急ぐ蒼龍。しかし……

 

 

「……おい、邪魔だ。アンタら。」

 

「「!」」

 

ズシッとした足音と唸る獣のような声で全て察した。ああ、そうか……追われていたのだ…この悪鬼のようなこの男に。元はコートだったらしい白いボロキレのようなマントに筋肉質な肉体を浮き上がらせるバイクスーツ……そして、道行く人々すら視界に入るや逃げ出す何よりも禍々しく威圧的に主の肩に乗る『斬馬刀』。

これを見るや、時雨と夕立は『ひっ!?』と一層に身震いを強くする……。間違いない、原因は奴だ。

 

「止まりなさい!なんですの、貴方!?」

 

「退けと言ったはずだぞ…?死にたいのか…?」

 

熊野が警告するも、男はゆらりと斬馬刀を構える…。無骨で刃こぼれも見えるが身の丈もあるやも知れぬ鉄塊は振るうだけで鎚と同じであろう。されど、蒼龍も恐れずに弓を構える。

 

「その剣をおさめなさい!私たちは『艦娘』よ!!手を出せばただじゃ済まないわ!」

 

「…ッ!!」

 

男は苛ついた。用があるのは後ろの奴等なのだ……ここで取り逃がすわけにもいかない。

一方、これを好機と一目散に振り返らず逃げ出す時雨と夕立。『ちょ、ちょっと!?』と、蒼龍たちがあわてるよりも早く男は素早く行動を起こす!

 

「逃がさねぇ。」

 

力強く、アスファルトが砕けて舞い上がるほど地を蹴った。重厚な肉体を立ち塞がっていた少女たちの頭上を踊らせ……隕石のように逃げる時雨・夕立の前にズンッと着地。退路を塞ぐとそのまま、滑るように走って勢いを乗せ斬馬刀を胴体真っ二つルートで振り抜……ッ

 

 

ーーバシュッ!!

 

「!」

刹那、それを妨害したのは蒼龍の矢。男の頬をかすめた一矢はバランスを崩させ、斬撃をあらぬ方向に。そのまま、矢は光を発してプロペラ戦闘機に変身すると反転から一気に容赦なく弾の嵐を見舞う。男は慌て、避け斬馬刀の刀身を盾代わりにこれを凌ぐ。

そして、これが『蒼龍の致命的な隙』となったのを時雨は見逃さない。

 

 

ズドンッ!!

 

「…え?」

 

撃たれた…と理解した時には夕立が首を羽交い締めにしていた。いや、何故だ…?何故、自分は助けようとした彼女たちに攻撃された?

 

「動くな、ぽい。」

 

「「!」」

 

「残念だったね、魔戒騎士……少しでも動けばコイツの頭をふっとばすよ?」

 

時雨は自分の腕に装着された黒の砲を蒼龍の頭に突きつける。こうなれば、男も動けない……その様子を確認するやニタリと笑い……獲物を巣に持ち帰る獣のように蒼龍を連れて少女たちは跳躍して去っていく。

逃げられた……男は歯軋りし、熊野はわけが解らずあたふたするばかり…

 

 

「……くそが!火羅(ホラー)!!」

 

だからといって、八つ当たりに走ってはいられないと理解している男。彼は斬馬刀を模様が入った黒帯で素早く巻き、背中に引っ提げるとすぐに後を追う。

 

 

……さて、間に合うかどうか。

 

 

 

 

 

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→後編へつづく

 

 




艦 こ れ ロ グ イ ン で き な い ん じ ゃ が ……


そのうっぷんと勢いで書いてしまった。後悔はしていない。
はい、今作は艦娘だろうと情け無用スタイルで行きます…ええ、つまりあの姉妹の運命は牙狼的に考えるともう御察しですのじゃ。

……あ、斬馬刀じゃなくて魔戒剣じゃね?って絶対くると思いますので最初に言っておきますが理由はちゃんとあります。物語が進むにつれそれについては追々。

感想おまちしてます。


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咆哮 ー後編ー

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「ん……?あれ、熊野?おーい…?」

 

首を傾げる鈴谷。急に通信が途絶えたと思えば鼓膜をぶっ叩くようなノイズと熊野の悲鳴がしたような…取り敢えず、お互いに声が届かないのだ。一方でつい先まで文句垂れ流しだった山城も密やかな異変に顔を引き締める。

 

「鈴谷?」

「ちょっと、待って!熊野、落ち着いてってば…!?白露型がどうしたの?うん……うん……」

 

鈴谷の表情はやがて、頷くほど…重くなっていった。それだで、事態は良くない方向に傾いていると想像がつく…。

 

「山城、緊急事態。詳しくは移動しながら話すけど蒼龍が行方不明だった白露型に拐われたらしいってさ。」

 

「は…!?ちょっと、仮にも空母がどうして駆逐艦に拐われるのよ!?」

 

「さあ?とにかく、熊野と合流!急ぐよ…!」

 

「…………不幸だわ。」

 

嘆きの山城だが、そんな呟きは廃墟と水面に吸い込まれて消える…。そして、彼女たちは仲間を救うべく飛沫をあげてその場を去っていったのであった。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「痛っ…?」

 

頭と腹に響くような激痛を覚えて意識を覚醒する蒼龍。まだ朦朧とするが、自らを奮いたたせると…自分は何処かの暗い倉庫に放り込まれていることを察する。穀物類が入っているらしい袋が乱雑に積まれたり、家畜類らしき肉類があちらこちらに…。一部は腐り、悪臭を放ち…蒼龍の嗅覚に不快感を与える。

 

「弓が…無い。あ、そういえば……」

 

じわじわと甦る意識を失う直前の記憶。少女たちを斬馬刀の男から守ろうとしたら、どういうわけか人質にされ助けようとした少女たちに拉致されたのだ。こんなもの予測できるものか…!というより、助けた上にこの扱い…何様なのだ!?

 

「たく、何なのよ……」

 

『おい、お嬢ちゃん。』

 

「は?」

 

不意にかけられた男の声。辺りは自分しかいないが、確かに声がする。『こっちだ、こっち!』という言葉を頼りに視線を下に向ければ趣味の悪いドクロの指輪が口をカチカチと鳴らして喋っている…!

 

「うわ、ナニコレ!?」

 

『コレとは失礼な艦娘だな。俺は魔導輪のザルバだ……お嬢ちゃんが連れ去られる直前についてこさせられたんだぜ。全く、あの男も指輪使いが荒い…』

 

自らを『魔導輪ザルバ』と名乗るこの不気味な指輪……コイツの言う男とは例の斬馬刀を持つ男で、彼が見失う直前に己の指から外して投げ…蒼龍の着物の裾に噛みつかせたのだ。

 

『取り敢えず、俺をはめておけ。ここから、装備も無しには流石に艦娘でも逃げられないだろ?』

 

「え…っ!?あなたをはめるの…!?」

 

『無いよかマシだ。またあの小娘どもに見つかったら今度こそ終わりだぞ?俺様が誘導してやる。助かりたかったら手段は選んでられないぞ?』

 

「…っ」

 

しかも、指にはめろというこの指輪。まあ、指輪だから別におかしくは無いのだが…なんせ、喋る指輪だ。こんな魑魅魍魎としたアイテムを何故にと思うも護身する手段も無いのでどんな効果があるか分からないので渋々、左手へ。すると、ふむ…と頷いて感想を述べるザルバ。

 

『細い指だな?あんまり嬢ちゃんは強い艦娘じゃないのか…?』

 

「失礼ね。これでも、正規空母なんですけど…!」

 

正規空母とは何か?詳しい説明はいつか語ろう…取り敢えず、弱くはない。

ムッとしつつも蒼龍は指示に従い、倉庫の外に。時はもう日没…水平線に橙色とした太陽が沈んでいく…

 

「熊野とはぐれてだいぶ経ったようね。」

 

『あの時は昼だったからな。よし、このまま左に……』

 

 

 

ーーキャァ……ァァ…

 

「!」

 

その時、微かだが確実に悲鳴が蒼龍の耳に届いた。近い……近くに誰かいる!?まさか、自分以外にもあの少女たちに囚われている者がいるのか!?

咄嗟に蒼龍はザルバに指示された方向と真逆に走り出していた。

 

『おい!?よせ、嬢ちゃん…!!』

 

「私以外にも捕まっている人がいるんでしょ?放っておけるもんですか!」

 

あの白露型と呼ばれる少女たちは明らかに『艦娘』ということを差し引いても異常だった。彼女たちに囚われているのなら、どんな目にあうか知れたものではない……。助けねば、という強い持ち前の正義感は隣の空きかけた扉の倉庫へと歩を進ませ、彼女は扉の影から様子を窺う。

 

「ここね……」

 

『よせ、嬢ちゃん。後悔するぞ…?』

 

ザルバが警告するが、聞く耳持たずの蒼龍。すると、中の様子が徐々に見えてくる…………床で蛆のようにもだえる30代くらいの男にあの時雨と上機嫌そうな夕立の姿があった。

 

「ごっはーん♪ごっはーん♪提・督・さ・ん、が、ごっ・は・ー・ん~~♪」

 

「ゆ、夕立…」

 

「ふふ、恐いかい提督?君をすぐに殺さないでじわじわと恐怖させた甲斐があったね。」

 

スキップする夕立に、男にするりと抱きつく時雨。対する男は恐ろしさのあまりに顔が引きつり、ガチガチと震えている…。

さて、彼女たちが『提督』と呼ぶ彼は艦娘を直接指示する上官ということ…恐らくは彼女たちの上司。そういえば、彼も行方不明だったかと思い出した蒼龍だったが明らかに彼女たちは上官を脅している。

 

「…自業自得だよ?だって、僕達を散々にこき使った挙げ句に強引な改二改修で文字通り身が裂けて死ぬような痛みを味わったんだから。今度は提督の番だ……」

 

「ひっひい!?な、何をするつもりだ…時雨!?」

 

「何って決まってるんじゃないか……ね、夕立…?」

 

「うん!……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー提督さんは時雨と私で仲良く『半分こ』するっぽい!

 

 

 

 

 

 

 

 

「は……?」

 

時に無垢ほど残酷なものは無いと言う。あまりにも、楽しげに発せられたのは死刑宣告。彼が理解するより早く、時雨と夕立はそれぞれ右腕と左足を掴み……逆方向へ引っ張りはじめる。

 

「お、おい…やめろ!?マジでやめろって!??人間の身体がそんな割けるチーズみたいに……ぃ…ぃぃ…痛ぃ!?ぃ……いぃいい…ぎぃ…ぐ、げぇぁ……あ、がああああ、ぎゃあああああああああああ!!!!!!!」

 

「や、やめ…!」

 

すぐに、蒼龍は飛びだした……だが……

 

 

 

 

 

 

 

ーーブチッ

 

 

 

 

遅かった。男は左右に裂かれた人間の肉塊となり少女たちに貪られた……。ペロリと彼女たちは舌なめずりをすると唖然とする蒼龍へ視線を向ける。

 

「夕立、まだお腹ペコペコっぽい。全然、提督さんじゃお腹膨れない!」

 

「うん、そうだね…。それに、正規空母なら半分こしても強くなれるかも?」

 

「…!」

 

『逃げるんだ、嬢ちゃん!日があるうちならまだ逃げられる!』

 

ザルバが叫ぶ!はっ、と我にかえった蒼龍は一目散に駆け出した……このままでは自分もあの男のように『半分こ』されて殺される!!

だが、むざむざご馳走を獣たちが逃がすわけも無し…

 

「逃がさないっ、ぽい!」

 

「きゃっ!?」

 

夕立が一気に跳躍し、背中から押し倒して拘束する。耳許に届く興奮からくる荒立つ息はまるで狩りを成し獲物にトドメを刺そうとする野犬のようだ。

 

「あー、美味しそう。つまみ食いしたい…!」

 

…嫌だ。自分は艦娘だ!こんな…こんなわけもわからないまま殺され喰われるために今日まで生きてきたんじゃない!!こんな終わり方、誰にも知られず惨めに死ぬなんて嫌だ!絶対に嫌だ…!!

 

「は、離して…!!だ、誰か!助け…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…助けてえぇ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせぇ。」

 

 

ーードズッ!!!!

 

「!」

 

 

 

その時、弾丸……否、飛んできたのは鎚がごとき剣!夕立の腹を貫き、砕けるアスファルトに縫いつけた無骨な刃!!その主は獲物が逃げられないように更に、深々と突き立てる……!

 

「たく、今度こそ逃がさねぇぞ?」

 

「あ……ぁ…」

 

あの男だ。斬馬刀を振り回していた片眼に傷を持つあの男……

 

『よう、轟牙。遅いぞ…』

 

「文句を言うな。こっちだってあれを追うの苦労したんだ。」

 

あれ…?彼が指差した頭上には蒼龍が先程の小競り合いで男に放った戦闘機の機影が……成る程、これを追ってきたのか。

 

「ぎゃあああああ…あァァ!?いだい!?痛い、っぽいぃ!?!?」

 

「夕立!!」

 

「うるせぇって、言ってんだろ。」

 

男はまた強く力を込めた……同時に、悲鳴をあげていた夕立の身体が『半分こ』になり、血の代わりに邪気を撒き散らす。そして、蒼龍にギロリと視線を向ける。

 

「艦娘、お前にもうしばらくザルバを預ける。とっとと、逃げろ。」

 

「よくも、夕立をッ!!!! 」

 

この微かな隙に砲撃を放つ時雨。しかし、斬馬刀を盾代わりにすると反撃にと男は斬りかかってき…バックステップで回避。更に、追撃が……

 

「…っ!?」

 

来る直前に斬りとばした夕立の下半身が組み付いてきたではないか。振り向けば、まだ夕立は息絶えておらず…離れてしまった下半身を操って男を足留めしているのだ。このタイミングを時雨は逃さない。

 

「夕立!」

 

すかさず、夕立を回収して走りだす時雨。一方、男も下半身の骸を振り払い…斬馬刀で粉砕すると、愛刀を担いで彼女たちを猛追する。兎を追うチーターでも例えられるようなスピードに、時雨は腰にぶら下げていた魚雷菅から数発の魚雷をまきびしのようにばらまいて炸裂させるが…男はその隆々とした体に似合わないほどの跳躍で爆発をかわして斬馬刀を勢いに乗せ叩き込む!

 

 

……そんな戦いの様子を蒼龍はただ見ることしか出来なかった。

 

『嬢ちゃん、あの小娘たちはもう艦娘…ましてや、人間を守る存在じゃない。』

 

「え…?」

 

唐突にザルバが語りだした…

 

 

『あれは火羅(ホラー)……愚かな欲望・業…即ち、人の邪心たる陰我に囚われ、魔界の存在に己の魂と肉を売り渡したもの。火羅になれば、人を喰らい…自らの肉親や愛人ですら単なるエサになる。』

 

『…………だが、遥か古の時代…火羅に対抗する者が現れた。陰我の象徴が火羅であるというのなら、邪心に抗う人の善・光が形になった者。かつて、人々は彼等をこう呼んだ……【魔戒騎士】と!!』

 

 

火羅……それが時雨たちだとすれば、『魔戒騎士』とやらはあの男?とても、善よりかは悪鬼の類いみたいな形相で戦っているが今、蒼龍はこの点に踏み込む気にはなれなかった。

 

「はああッ!!!」

 

「くっ…!」

 

時を同じくして、戦況は動く。斬馬刀をかわした時雨は咄嗟に海へと夕立を抱えたまま飛び込んだ…。取り逃がしたかと走る男だったが、そこには下半身を再生した夕立と共に離れていく時雨の姿が…

 

「惜しかったね、魔戒騎士。君も海の上じゃ分が悪いだろう?諦めたらどうだい……?」

 

「…」

 

艦のパーツを展開した彼女たち…勿論、これは彼女たちの海上で戦うための力。逆に男……男はいくら斬馬刀を軽々扱えても人間、水に浮いて立つなど無理な話。しかし、男は躊躇いなく海面に向けて飛び出していく。同時に太陽が完全に水平線に沈み、時雨と夕立は馬鹿め!と笑う。

 

「そうかい、なら死ね!」

 

再び夕立と共に魚雷を放つ時雨。今度は水ということもあり、獲物の着地地点へ真っ直ぐと泳いでいく……

 

 

 

ーードオォォォォォォォォォン!!!!!!!

 

数秒後、男は水柱と共に見えなくなった。勝った…!時雨は確信した。いくら、魔戒騎士といえど魚雷を喰らえば……

 

 

ーー斬ッ!!

 

「……!?」

 

生きていられないはず。生身ならそうかもしれない…頭に血がのぼって周りが見えていたらそうかもしれない。

だが、『金色』の剣撃で水柱を叩き割ったこの男は違う…別に、気が狂ったわけでもないしその身は『鎧』を纏っていた。

 

 

……死神のような黒衣、黄金に輝くボディに左目を傷痕にて潰され光を灯さぬ狼の兜。

 

……右のみの『紅』に輝く目は内に秘める憤怒を覗かせるよう。

 

 

「……あ、……あぁ…!?」

 

時雨は知っていたこの男は自分たちの天敵だと。そして、悟った……この男は天敵の中で頂点に立つ存在。

 

「牙狼<GARO>…!?まさか、『鬼武者』!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『 黄 金 騎 士 牙 狼 < G A R O > 』

 

 

【99.9……】

 

 

 

 

魔戒騎士の中で最高位かつ最強の称号とされる騎士。

斬馬刀もいつしか、『△』の紋章が鍔に施された西洋型の剣『牙狼剣』へと変身し…サイズは通常の剣と変わらなくなったものの力強く存在感を放つ。

 

「…テメェの陰我、ここで叩き潰す。」

 

「馬鹿が!駆逐艦なら夜戦は独壇場さ…!!」

 

「黄金騎士でも敵じゃない、っぽい!!」

 

そうであっても、所詮は海の上とたかをくくる時雨と夕立は牙狼を囲むように旋回航行をしながら異形としての姿を晒す。自らを大人にしたような女性的な姿だが、時雨は黒…夕立は白の不気味な火羅『シラツユツヴァイ』へと変貌し、腕が変質したガトリングから弾丸の嵐を放った。

これを、牙狼は跳躍によってかわし…牙狼剣でいくつかを凌ぎながら手首に牙狼剣をあてがう構えをとる。

 

「…面倒だな。足を止めるか……」

 

鎧で水上で動けるようになったものの、敵の機動性は厄介だ……ならばと、手首の留め金からワイヤーを放つ牙狼。海面をビチビチッと跳ね、それは時雨の進行ルートと重なり彼女の足を絡めとる。

 

『…なっ!?』

 

「うおおおォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

 

『時雨!!』

 

そのまま、力任せに陸へ牙狼は彼女を放り投げる。続いて突進してきたシラツユツヴァイ(夕立)をすれ違いに一閃…。今度こそ完全にトドメを刺し、彼女を粉砕する。

 

『ぎゃあああああああああああ!!!!!!!』

 

「残り一匹。」

 

瞬間、牙狼は一気に反転して飛沫をあげて駆け抜けるとアスファルトへと勢いを殺さず着地…スイライディングをしながら直後、シラツユツヴァイ(時雨)を肉薄する!

 

「ふんっ!!」

 

『…がっ!?』

 

…牙狼剣が、魔の胸を貫いた。本来なら心臓にあたるところを鋼が強引にぶち抜いて、これを強引に引き抜く牙狼はサッと血をはらう。

 

『あ……ば…!?!?』

 

シラツユツヴァイは時雨の姿に戻ると血を撒き散らしながらゆらゆらと後退りをする…。あまりの痛みか呼吸がかなわない苦しみかは知らないがもう助からないのは確実だろう。

満身創痍の彼女だったが、牙狼は最後に問う。

 

「まだ消えるな。お前……黒薔薇の騎士に火羅にされたのか?正直に答えれば苦しまないようにしてやる。」

 

『し、……知らない!黒薔薇なんて…!』

 

「…」

 

『本当だよ!僕達はそんなやつは知らない!』

 

知らないか。別に嘘はついていないようだ…。なら、もう用は無い。

 

『ま、待って!!僕達はただ幸せに生きたいだけなんだ…!復讐も終わったしあとは……』

 

「『生きたい』だと……?笑わせるな。お前らは悪魔に魂を売った時点で……

 

 

 

 

 

 

……死んでるんだ。」

 

 

 

ーーズブッ

 

もう一度、突き立て時雨も消滅。男も鎧を解除すると、牙狼剣から戻った斬馬刀を背中にまたひっさげた。戦いは終わったのだ。

 

 

 

 

 

……月光に照らされ、浮き上がるシルエットと鋭い眼光

。未だ餓える野獣のようなこの男の名は『冴島轟牙』……

 

 

 

 

今宵より、新たな魔戒騎士の物語が幕を開ける。彼が見届けるは血に染まる暁の水平線……その先に何を見るのだろう?何が待つのだろう…?

 

 

それはまだ、轟牙や蒼龍自身も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GARO<牙狼>Iron bLood Horizon <To be continued>

 

 

 

 

 

 




★次回『矜持』

蒼龍「譲れぬ誓い、信念…その身に刻み、戦いはいつしか贖罪へ。だが、償っても…何も帰らない。」



★登場人物

時雨&夕立(火羅 シラツユツヴァイ)
→駆逐艦艦娘、行方不明になっていた白露型のうちにの2名。所属していた提督からの強引な運用と改造により、その苦しみから火羅に堕ちた。無垢な少女を気取るが油断した相手を隠れ家に連れ込み『半分こ』して喰らう。


提督の男
→夕立、時雨たちといった白露型の上官。明らかにオーバーすぎる程に艦娘を酷使し、彼女たちを消耗品扱いしていた属に言うブラック鎮守府提督。練度が足りない白露型たちを強引に改造しようとしたが、シラツユツヴァイに反撃を受け逆襲をされる。その後、拉致されて精神的に拷問を受けたあと彼女たちに喰われる。







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矜持 ー前編ー

……取り敢えずだ。

 

 

轟牙(オレ)は今、牢屋に放り込まれている。目が覚めたらこれだ……まず、説明しなきゃならない…そうだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 矜 持 ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り、昨晩。火羅と化した白露型姉妹を撃破した轟牙。ふぅ…と溜息をつくのは目的の成果が得られなかったため。まあ、良い…別に期待していたわけじゃない。あとは片付けてこの場を去る越したことは無い。

 

「おい、艦娘。ザルバを返せ。」

 

「えっ……う、うん……」

 

「今日のことは運が悪かったと割りきれ。そして、万一…またこんなことが目についても首を突っ込むな…お前じゃ何も出来ない。」

 

蒼龍からザルバを返却してもらい、警告を添えて背を向ける轟牙。その時……

 

 

 

 

 

 

 

「不幸だわ。」

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

不意に頭上に現れた影に対応出来なかった。凄まじい威力のパンチが脳天を直撃して、あまりの衝撃で脳ミソが揺れて頭がアスファルトをバウンドする。

蒼龍は気がついた…ここに現れた彼女は……

 

「山城!」

 

「蒼龍、無事だったようね。全く、手間かけさせて……」

 

蒼龍の危機にかけつけた山城だった。おしとやかな外見に似合わない怪力で轟牙を叩きつけたのだ。

 

「……な、な……んだ…?」

 

「で、コイツが誘拐犯?明らかに怪しいんだけど?」

 

「待って、その人は助けてくれたの!手荒に扱わないで…!」

 

「憲兵じゃないのに、こんな剣ひっさげてる時点で逮捕確定よ。取り敢えず、拘束して連れていくわ。」

畜生め。鎧を召喚して戦ったあとじゃなきゃ遅れはとらなかったのだが…消耗した今では山城に抗う力も術も無い。そのまま、蒼龍の弁護虚しく何処へと首根っこを掴まれて連れていかれるのであった。

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

「…ちっ、ドジ踏んだな。」

 

『らしくないな……連戦続きで勘が鈍ったか?』

 

悪態をついても仕方ない。斬馬刀も持っていかれたし、コート兼マントも盗られた……せめて、ザルバが残されていたのが救いだろう。牢の隅で踞りながら轟牙は考える……これからどうするべきか?まずここを出る…ザルバがいれば難しいことじゃない。次、剣の奪還……素人が扱える代物じゃないのだがそこは良い。問題はこの施設の何処にあるかだ。木造だがしっかりしており、牢屋の広さからして建物の規模もそこそこのもの。気がつかれないで奪還・脱出が出来れば一番だがそうはいかないだろう。

 

「仕方ねぇ。気がすすまねぇが憲兵とかの服でも盗って剣を捜すしかないな。最後の手段となったら、人質でもとるか…」

『おーお、黄金騎士の台詞かそれ。』

 

「…」

 

相変わらずうるさい指輪だ。事が事……手段は選べない。

すると、丁度よく誰かがくる足音が近づいてくる。

 

「ザルバ、黙ってろ……」

 

扉を破るのはザルバがあれば簡単だ。あとは、憲兵なり何なりを如何に無力化するか…取り敢えず、人間なら問題は無い。 一眠りしたあとだから体力の余裕も……

 

「…!」

 

「…お前が、時雨と夕立を殺したのか?」

 

『(轟牙、コイツは…!?)』

 

前言撤回。白と緑のセーラー服の眼帯少女は自分を戦闘不能に追い込んだ艦娘だ。山城を成人女性くらいとすらならまだ幼い雰囲気の彼女だが昨晩のことを考えれば丸腰で相手など愚かであろう。唯一の左目からは殺気をガンガンと乗せた鋭い視線が飛んでくる……ここは出方を窺う轟牙。問にまず、答えることにした。

 

「…昨日のガキどものことか?艦娘を誘拐した……」

 

「ああ、そうだ!何故、殺した!?」

件は昨日のシラツユツヴァイ…もとい、白露型姉妹のこと。大方、まだあの彼女たちが堕ちる前の同期か何かだろう…

 

「俺はな、アイツら白露型と付き合いがあった。アイツらは身勝手な提督のせいで酷い日々を送っていた。われるべきだった……更生の機会だってあったはずだ!それを……」

 

「アイツらは人を喰っていた…そして、もうとっくに死んでいた。斬らなきゃあんたのお仲間の艦娘が喰われてたぞ?」

 

「黙れ。やはり、貴様ら人間は身勝手過ぎるッ!!」

 

一層、殺気が強くなる。されど、怯まない轟牙…話はしているが意識は脇の西洋刀に意識が向けていた。怒るなり何なりすればこの獲物で斬りかかってくるだろう。怒らせ、引き抜いて牢に入ってくる時が千載一遇のチャンス…この僅かな隙を突いてこの少女を体当たりで蹴散らしてしまえばあとは全力で逃げきれるはず。

 

「貴様が審議を受ける必要は無い……ここで俺が裁く!自分たちは棚にあげ、艦娘(俺たち)を虐げるお前たちなど…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…誰が、誰を裁くって?」

 

 

 

 

 

「!」

 

 

…が、あと少し……彼女が構えていざ抜かんとしたところで邪魔が入る。木曾のように白のセーラー服で黒の三つ編みの少女。シャツの裾にチラリと見えた『北上』という刺繍が彼女の名前と思われる。

 

「はぁ……お姉ちゃんはそんなふうに育てた覚えは無いんだけどね。」

 

「テメェに育て貰った覚えも無い。邪魔をするな。」

 

「一応、外には伊勢と日向もいるんだけど?ここで、スーパー北上お姉ちゃんを相手にする?」

 

「…ちっ…!!」

 

会話の後、眼帯少女は舌打ちをして去っていく。これを確認すると、北上はゴソゴソと鍵を取り出して牢の戸を開けた…。

 

「ほーら、出なよ。そんなところにいると、また面倒なことになるよ?あ、私は雷巡の北上……ま、よろしく。」

 

「…」

「大丈夫、大丈夫、これ提督の命令だから。取り敢えず、私に着いてきて。」

何かだるそうなというか抜けたというか…独特な喋り方だ。というより、牢を以外な形で抜けられた。まあ、平和なことに越したことは無い……

轟牙は案内されるまま、不思議な少女…北上についていくのであった。

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「……不幸だわ。」

 

山城は本日もまた憂鬱である。理由は緊急任務で潰れた休日の代休申請が却下されたからだ…。無念を込めて、申請書をクシャッと丸めて、桜の木の下で溜息をひとつ。

 

「姉様も、何処で桜を見ているのかしら……」

 

丁度、満開から散り桜で見頃。余裕があれば花見でもしたいところ……そこは上官のさじ加減か。

すると、山城は気がつく。

 

「ん…?あれって……」

 

よく見ると、別棟エリアから歩いてくる北上と見覚えのある男……轟牙だ。

 

「もしかして、釈放されたの?…ってことは無関係の人間を殴ったってこと私?始末書……それとも、クビ?ああ、本当に不幸だわ。」

どうやら、まだ自分の憂鬱は終わりそうに無いと嘆く山城であった…。

その様子を……轟牙は歩く傍ら見ていると北上が声をかけてくる。

 

「ごめんね、さっきは。悪い娘じゃないんだけどね……」

 

「さっきの眼帯か。」

 

「私ら姉妹の末っ子、『木曾』…。水雷戦隊の指揮官をよく務めててあの白露型も一時は部下だった時もあってね…なまじ面倒見も良かったし、善くも悪くも世話焼きだったから…」

 

成る程、つまり彼女…木曾は先に可愛い元部下の仇を取り損なったわけだ。これはリベンジも覚悟しておくべきだな……

そんな時、北上の制服の袖……正確にはそこから見え隠れする……

 

(…傷?)

 

包帯だ。別に艦娘が傷を負うのは珍しいことじゃない。ことじゃないのだが……何故にこの傷を自分は気にしたのだろう?具体的には表現は出来ないが引っ掛かりを感じる。

 

「本当はかなり人情に厚いし、涙もろいし…駆逐艦にも好かれてるから私も助かってるんだよね~。私、駆逐艦に限らず小さい子どもとか苦手で……」

 

「…そうか。お前も末っ子想いのようだな。」

 

「ま、そうかな?」

 

木曾の話やら他愛ない話をしつつ、轟牙は本館とおぼしき建物へと案内され…木造の廊下を歩む。その際に昨晩の白露型と変わらないような少女たちや大人びた雰囲気を持つ軍服を纏う女性たちともすれ違った…あれら皆が艦娘なのだろう。それぞれで走り回ったり、談笑したり騒いだりと過ごしていた。彼女たちが命を危険に晒して戦っている……そんな実感、轟牙には感じられなかった。

そして、とうとう目的地の古めかしい如何にもその先に重役います雰囲気をだす扉の前へ…

 

「ここが、執務室…この鬼ヶ島鎮守府の提督がいる場所。ここから先は私は入るな、って言われてるから私はここまで。それじゃ、大井っちが待ってるから…バイバイ~。」

 

「…ああ。ありがとよ。」

 

ここで、北上と別れることになった。窮地を助けてもらい短い間でも会話した彼女との別れはほんの少し名残惜しいが仕方あるまい。また機会があれば会えるだろう…そう考えながら轟牙はドアノブに手をかける、

 

 

 

……一方

 

 

「あ……ちょっと、これはまずいかも……」

 

丁度、轟牙の死角にあたる曲がり角に入った北上は強い倦怠感と立ち眩みを感じて、平衡感覚を失うと同時に固い木の床へと身を投げ出す。彼女の表情はさっきの独特な雰囲気は無くなり…苦しげに、はぁはぁと熱に悶える少女となっていた。

 

 

 

 

 

G A R O

 

→→To be continued……

 




登場人物紹介

☆冴島 轟牙(さえしま ごうが)
黄金騎士 牙狼の称号を継承する独眼の魔戒騎士。背負う斬馬刀こそが、彼の魔戒剣である。『鬼武者』と通り名を持ち、敵・味方から怖れられる孤高の男。なにやら目的のある旅をしていたようだが…
所属の管轄は無い。

イメージはベルセルクのガッツとFate/のクー・フーリンを足して割ったかんじ。

☆山城
航空戦艦の艦娘。巫女服の大和撫子といった外見であるが不幸に見回れやすい体質なため、口癖は『不幸だわ』。装備があれば、消耗した轟牙でもワンパンできる。鬼ヶ島鎮守府所属。





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矜持 ー後編ー

……提督の執務室

 

 

入ってみれば、執務机を正面に壁には昔歌に聴いたようは古時計に水上機の油絵…来客用の相対して置かれる黒ソファーにテーブル。あとは、やたら気になるのは異様な存在感を放つジュークボックスだろうか。その広めな部屋の机に物静かに座している白い軍服の『女性』……

 

「待っていたわ、黄金騎士…元老院から指令は届いている。」

 

驚いた。しかも、まだ若いのだ…ちょっとボサッと膨らんだ黒髪に海軍の帽子。海軍なんてのは男ばかり幅を利かせていると偏見を抱いていたが、俗に言うエリートという奴だろう…その堂々さは男に劣るものではない。そして……

 

「本当だったんだな、艦娘を率いる提督でありながら『魔戒法師』をしている凄腕な奴がいるってのは……」

 

腰のベルトからひっさげている飛沫装飾の魔導筆は轟牙と同業者である証。魔戒法師……騎士のように鎧は持たないが法術に優れ、道具造りの他に優秀なものは火羅と戦えるだけの力を持つ。まあ、戦えるだけの技量を持つ魔戒法師など限られているがそれでも、彼女のような存在の意義は大きい。

今回、轟牙の目的は彼女であった。

 

「鬼ヶ島鎮守府の魔戒法師『烈夢』……間違いないな?」

 

「ええ、それが私。魔戒法師でこの『鬼ヶ島鎮守府』と所属する艦娘を任された提督……勿論、どっちも一流のね。」

 

「ほう?」

 

鬼ヶ島鎮守府提督兼、魔戒法師・烈夢。彼女に会うために旅をし……少々、イレギュラーなことが重なったがゴール地点にようやく着いた。

 

「まず最初に、山城のことはごめんなさい。彼女、ちょっとネグラで早とちりなとこはあるけど根は良い娘なの。許してあげて?」

 

「それはもう良い。だが、あまりここには長居しないほうが良さそうだ……どうも、ここの奴等にあまり快く思われていないようなんでね。」

 

「…?」

 

烈夢は首を傾げる…。少し間が空き、あっ…と声を出すと憶測を口にする。

 

「……もしかして、木曾に逢った?」

 

「天誅されるところだったぜ。ま、気にしちゃいないが……」

やはり…。彼女は哀しげに顔を曇らせる。提督なだけあって、北上と同様に彼女と白露型との関係は把握しているのだろう。ましてや、それが自分の艦娘となれば…

 

「…木曾が……」

 

「ああ、その件にいちいちかかってたら話が進まねぇ。その時は北上とかいう艦娘に助けて貰ったから礼を言っといてくれ。取り敢えず、はやいとこ俺の剣を鍛えなおしてくれれば問題は無い。」

 

「…ええ、わかったわ。剣の浄化が終わり次第、改修工厰へ案内するからそこで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督…!!っ、ひゃあぃぃ!?」

 

 

「「!」」

 

その時、少女が勢い良く扉を開けてすっとんきょうな声をあげた。轟牙とザルバは見覚えがある彼女に『げ…』と声を洩らす。どちらにとっても思わぬ再会であった。

 

「貴方、昨日の……!?」

 

『またまた偶然だな。轟牙、この娘は蒼龍だな。お前さんが昨日助けた艦娘…正規空母なんだらしいぞ…?』

 

「…ああ、そういえば。鬼ヶ島鎮守府(ここ)所属だったのかよ。」

 

艦娘……正規空母・蒼龍。シラツユツヴァイを喰われかけたところを助けたあの艦娘。関わるなとか言って、自分から彼女の職場に顔を出しに来てしまうとはバツが悪い。顔をしかめる轟牙だったが、彼女は挙動不審になりながら彼へ敬礼をとる。

 

「せ、せせ先日は助けて頂きありがとうござざいます!?鬼ヶ島鎮守府所属、秘書艦代理・二航船の蒼龍ですっ!?」

 

「わかった、落ち着け。あんまり詳しいこといっても分からねぇから。」

 

はぁ…と溜め息をつく轟牙。烈夢も苦笑いしている…

ひとまず、彼女が息を整えるのを待つと優しく烈夢は用件を問う。

 

「で…蒼龍、なにがあったの?」

 

「!…は、はい!!行方不明だった九頭鎮守府の白露型の生き残り『村雨』が発見されたと伊勢の捜索隊から報告がありました。今、伊勢並びに日向が対象を保護しこちら鬼ヶ島鎮守府に帰投中とのことです。」

 

「「!」」

 

白露型…轟牙としてもまだ耳新しい語だ。烈夢も顔を引き締め、席を立つ……

 

…彼も彼女もある可能性を疑っていた。

 

 

 

 

 

…………今回、保護された艦娘も火羅かもしれないと

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

……で、港に出てみたものの

 

 

「やっぱり、くっついているよな…ちっ」

 

和服姿の重装備な艦娘ふたりに支えられて海面を航行する夕立をツインテールにしたような少女。彼女が件の艦娘『村雨』で間違いないだろう……だが、予想した通りに木曾がピッタリと張りついて睨みを利かせてる。先回りされたか…一瞬だけこっちを睨んだ。やれやれ、流石に鎧を纏わなければ海面の移動は無理だし、周囲の目もある…強引な手段はとれない。

 

「ここは、私に任せてくれる?こういう時は提督のほうが立ち回りやすいわ。」

 

「そうだな。流石に上司には噛みつかねぇだろ…あの眼帯も。」

 

ここはひとつ、烈夢に任せよう。そして、振り返ると……

 

「なんだ、まだいたのか?」

 

蒼龍がおどおどしている佇んでいる…。気にしていなかった故に着いてきているのに気がつかなかったのか。

 

「俺に何か用か?」

 

「えと……その……」

 

「昨日のことは忘れろと言ったろ?話すことはなにも……」

 

「違うの!そうじゃなくて……!」

 

なんなのだ?ふむ……よく見ると小刻みに震えて腕を抱き締めている。怯えているのだ…。艦娘は戦うために生まれたと聞き、皆が勇ましいものだと思い込んでいただけに内心…少しだけ驚いた轟牙。

 

「…私、どうしたら良いかわからないの。あの白露型の娘たちがバケモノになって人を食べてた。私と同じ、艦娘なのに…平然とあの時…人を…。思い出したくなくても頭から離れない。怖くて……怖くて………」

 

ああ、そうか。戦場の恐怖と魔の恐怖…よくよく考えれば彼女のような艦娘にとっては違うことだ。深海棲艦との戦いは本来の彼女たちの存在意義。これを全うするために『艦装(戦う力)』が与えられている…恐れを克服するなら心身の鍛練あるのみだろう。一方、火羅の恐怖となればこれに抗う力は艦娘には無い。未知の存在・命に仇なす魔…邪悪。ましてや、ホームグラウンドである海上ですら無いのがほぼ。だとすれば、恐怖心は一般人と変わらないだろう。

 

…更に、ザルバが追い討ちをかける。

 

 

『自業自得だ。言ったはずだぞ、嬢ちゃん…後悔するってな…?』

 

「…」

 

返す言葉も無かった。あの時、ザルバの警告を無視したのは他ならないのは蒼龍自身…

もう萎む風船のように肩をおとす彼女に轟牙は本日、何度目かの溜め息をつきつつも掌におさまりそうな彼女の頭に手を置いた。

 

「もうなっちまったもんは変わらねぇ。忘れろと言われて『はい、そうですか』と忘れられたら人生、苦労はしないさ。時間に任せろ……そうすりゃ、少しずつ楽しい思い出が埋めてくれる。お前は独りじゃないだろ?」

 

「……轟牙さん…ぐずっ」

 

別に彼としては特別な言葉をかけたつもりは無かった。ちょっとだけでも、気が楽になれば良いくらいのつもりが…彼女には効果が大きかった。安心したのか、涙がポロポロと伝っていく……

「おい、泣くなよ……泣いてる女なんて火羅より面倒くせ…………ん?」

 

予想外過ぎた展開に戸惑う轟牙…だが、ふと目にした鎮守府の窓に移る廊下が慌ただしい。さっきは談笑していた艦娘たちも深刻そうな顔で行き交いをしている。

 

「蒼龍~!」

 

「……あ、鈴谷?」

 

すると、タイミングよく走ってきたのは鈴谷。息をきらしながら、駆け込んでくると肩を上下しながら話す。

 

 

「大変だよ……北上っちが倒れた!」

 

「「!」」

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

医務室。

 

そのベッドには北上が苦しげに呻きながら、寝ていた。彼女の世話は同じ制服を着る長い髪の艦娘『大井』が行い、腕の包帯を取り換えている…。

 

「北上さん……」

 

「平気だよ、大井っち。こんなの少しすれば治るって。もう、心配性だなぁ?」

 

ははは…なんて笑っているが明らかに無理をしているのは引きつりかけてる横顔から判る。そこへ、蒼龍と轟牙が駆け込んでくる。

 

「北上さん!!」

 

「お、蒼龍に……轟牙じゃん。やっほー。」

 

「倒れたって聞いたから、どうしたのかと……」

 

心配する蒼龍に随分と無理して呑気な態度をとる北上。その時、轟牙は大井の手にある包帯と北上の傷口に気がついた。さっきは、違和感くらいだったが今は微かだが感じる。

 

「(ザルバ……)」

 

『(ああ、火羅の臭いが僅かにする………この娘の近くに火羅がいたはずだ。)』

 

すぐに、轟牙は蒼龍を押し退けた。そして、北上に問う……

 

「その傷、何処でやった?」

 

「え?別に、この間の出撃で……」

 

「…あれ、でも北上さん…最近、出撃……」

 

蒼龍が呟いたその時、大井は鬼の形相になった。

 

「ここは医務室!!ほら、出てった出てった!」

 

問答無用。轟牙と蒼龍は叩き出された…。『せっかく、心配してきたのに。』と愚痴る蒼龍だったが、これまたタイミングよくザルバが通信を受信し伝える。

 

『轟牙、烈夢からだ。どうやら、あの白露型の生き残りは火羅じゃなかったらしいぞ。』

 

「…何?」

 

すぐに、白露型の火羅化の件からあの傷は村雨がつけたものではないかと踏んだが…宛が外れた。ならば、誰が?北上と白露型火羅と関連を持つ奴なんているはずが……

 

……いや、

 

 

「まさか……」

 

「轟牙さん?」

 

 

いた。たったひとりだけ……

 

 

「蒼龍、お前たしか秘書代理とか言ってたな?お前の権限で開けてほしいところがある。この嫌な予感、当たって欲しくはないがな……」

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

…その夜

 

もう日没などとっくに過ぎて、下弦の三日月が波がざわわと音をたてる浜辺を淡く照らす…。鬼ヶ島鎮守府からもう1~2キロは離れただろう……湿る砂の上をただゆらゆらと歩く少女。黒のセーラー服にツインテール…村雨である。特に理由の無い夜の散歩だったが、気晴らしということで提督が特別に許可してくれた時間。

 

 

ふと……顔をあげれば……

 

 

「捜したぜ。」

 

見知らぬ男が立っていた。身の丈ほどあろう大剣を背負い…鋭い眼が自分を……

 

「……やっぱり、お前だったか。木曾!!」

 

いいや、自分の後ろにいつの間にかいた眼帯の艦娘を睨んでいた。

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

「フッ…捜した?ハッ!!生憎、それはこっちのセリフだぜ……この畜生がっ!」

 

木曾は声を荒げ、西洋刀を抜き放った。艦娘としての装備もマントまで万全に揃え、海賊の船長といった様は本気で轟牙を倒すつもりなのは察せられる。

 

「時雨や夕立に飽きたらず、村雨まで殺る気ってか!?だが、丁度良かった…これならお前を合法的に殺せる!やはり、お前たち人間は信用出来ない!!」

 

「…」

 

身構えて吠える木曾とは対照的にただ黙っている轟牙。そして、村雨を見据えると……

 

「逃げろ。」

 

一言。たったの一言であった。されど、意味と裏腹に声の調子は少女を怯えさせてしまう。見かねた木曾が声をあげる!

 

「村雨!こっちだ…俺の後ろに隠れ……!!」

 

 

 

 

 

 

ーーオオッ!!!!!

 

 

「!」

 

 

ギャァッン!!次の瞬間、咄嗟に愛刀で木曾は斬馬刀を受け止めていた…!そのまま、轟牙は勢いで木曾を抑えつけると村雨に叫ぶ!

 

「とっとと、逃げろッ!!死にてぇのかァ!!!!!!?」

 

「…!」

 

この時、やっと村雨はこの異常から逃げようと足をもつらせながら走り出した。

数秒後、木曾は轟牙を圧し返し…歯軋りしながら轟牙を睨む。

 

「何の真似だ?」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……『火羅』を斬る、それが俺の仕事だ。

 

 

 

 

 

 

 

「…なっ」

 

その彼女の瞳を特殊なライターの緑の火で照らす…。すると、浮かび上がるこの世のものではない紋様。それは『人であらざる魔』の証明……

 

「人を人でなし呼ばわりしといて自分は人を喰う『バケモノ』とは恐れいったぜ。火羅…!」

 

「な、何を言ってるんだ……?ホラーだと…?人を喰う…?ふざけんな!!」

 

「ふざけてないわ、木曾。」

 

同時に、烈夢も現れて木曾に魔導筆から法力の弾丸を放つ……。弾丸は、木曾の眼帯を弾きとばし…本来、眼球があるべき場所に無数の蟲魔が蠢いているのが露になる。

 

「少し、おかしいとは思ってたけど…その眼帯、気配消しの魔導具とすりかわっていたわけね。」

 

「あ……あぁ、……!?」

 

 

木曾は混乱する。

 

理解不能(嫌だ)。理解不能(嘘だ)。理解不能(嫌だ)。理解不能(嘘だ)。理解不能(出鱈目だ)。

 

こんなことあってたまるか。自分は艦娘だ…バケモノなんかじゃな……

 

 

「お前、北上と同じ部屋だったろ。あの傷は毎夜…暴れるお前を押さえつけてその時についた……そして、白露型が行方不明になる前にお前と一緒にいたこともな調べがついてる。」

 

「…!」

 

ドックン。思い出す……理性を失い部屋で暴れまわる自分。必死で抑えようとする姉。時雨や夕立との最後の記憶……

 

【木曾さん、私たちと火羅(一緒)になるっぽい!】

 

【僕たちなりの恩返しだよ。受け取ってね。】

 

 

……そして、闇が…闇が…………身体の中に…!

 

 

 

やめろぉ……やめろぉ…

 

 

 

 

『ヤメロォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!』

 

 

「「!」」

 

爆発した感情が肉を喰い破って破裂したようだった。木曾は艦としての風貌を残しつつ、6本の腕にそれぞれ剣を持つ骸骨の巨人…火羅『ガシャスケルトン』へと変貌。直後、問答無用で剣を振り回しながら身体の随所の砲台から砲弾をばらまいて轟牙と烈夢を蹴散らす。

 

「…くっ!?」

 

轟牙は踏ん張って勢いを殺すと、タイミングをあわせて烈夢が法力の縄を魔導筆からとばしてガシャスケルトンを縛る。この確実な隙を逃がすまいと、飛び上がり、腕の1本を盾回転斬りで切断すると反対側に着地。悶える異形に振り向き、一気に畳みかけようとするが……

 

「待って!待って下さい!!」

 

「なっ…!?」

 

逃げたと思った村雨が轟牙に抱きついて止める。

 

「あれは、木曾さんなんです!!お願いです、殺さないで…!!!もう、誰も死ぬところなんて見たくない!」

 

「おい、馬鹿!離せ…!?」

 

「轟牙!…あぁ!?」

 

しかも、烈夢の縄が弾けてガシャスケルトンは自由になった。そうなれば隙だらけの轟牙を狙わない理由は無い…

 

『オ前は…俺ガ裁…グ!!』

 

「マジかよ。」

 

無慈悲。もう村雨すら認識出来ないのか、剣をそのまま勢いよく振りおろし……

 

「待った。」

 

『!』

 

…てしまう直前。聞き覚えのある声が後ろから……

「お姉ちゃんの声は、まだ解るようだね?」

 

「北上……!?」

『……ォ…ォ…』

木曾の姉、北上だった。彼女の登場はガシャスケルトンを激しく動揺させた……この異形の姿を見られたからか、はたまた人を殺めようとしたところを見られたからか……

ただ、彼女は悲しげな顔で語りかけた。

「ごめんね、こんなになっても何も出来なくて。やっぱり、駄目なお姉ちゃんだったね私は……。でも、もう苦しまなくていいんだよ?」

 

『……ォォ…』

 

そして、彼女は轟牙に願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……楽にしてあげて。」

 

 

 

 

…応。そう頷くことが返事代わり。村雨を引き剥がし、烈夢に託すと轟牙は斬馬刀を頭上に掲げて切っ先で円を描き鎧を召喚。独眼牙狼となると、牙狼剣を勢いを着けて擦りあげ…先の斬馬刀より巨大で雄々しい牙狼斬馬剣へと変化させる。この時、発生した火花が金色の刀身に緑の火『魔導火』を着火させ必殺技である『烈火炎装』を発動させる!

 

【99.9…】

 

「木曾、お前の無念の陰我…ここでぶっ潰すッ!!……ウオォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオ!!!!!!!!!!!」

 

狼の兜が吼え…ッ!そのまま、牙狼斬馬剣を一回転しながら気を巻き上げながら……放つは最強の一撃ッ!!即ち、奥義!!!

 

 

「……はああァッ!!!」

 

 

 

ーードドオッ!!!!!!

 

 

振り抜かれた瞬間、静かな夜の砂浜に…魔導火の鎌鼬が吹き荒れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《GARO×Kantai collection ~~Iron blood Horizon~~》

 

To be continued… つづく

 

 






☆次回予告 『不幸』

山城「ああ、不幸だわ……」




感想、お待ちしてます。


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不幸 ー前編ー

半分くらい前回のつづきです。

提督のミナサーン、資材溶かしてますかぁ!?(イベント的に)


イメージop『月華』


「不幸だわ…」

 

山城は水面に沈みかけながら呟いた……。

 

 

 

 

 

ー 不 幸 ー

 

 

 

 

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

 

『グゥゥ…!?』

 

吹き荒れ狂う魔導火!闇夜を喰らわんとするごとき業火にガシャスケルトン……木曾は斬り刻まれていく。そして、全てが終わった時…彼女は静かに砂浜に倒れ、姉の膝に抱かれていた。

 

「……ごほっ、げほッ!すまねぇ、北上姉さん…最後の最後でカッコ悪いとこ……ぐっ…見せちまった。」

 

「木曾…」

 

察する。彼女の存在は今、消えようとしている…。轟牙は鎧を解除し、せめてもの慈悲と姉との最後の時間を…火羅ではなく艦娘としての最期を見届けることにした。その隣を村雨が駆け抜けていく。

 

「木曾さん!!駄目です、死んだら…!」

 

「村雨…。無理言うな…」

 

「だって…!だって…、私は…白露型(わたしたち)は貴女に何一つ、報いてない!!あの地獄のような日々から庇ってくれた貴女に…」

 

泣きじゃくって、セーラー服をゆするも木曾は静かに微笑むだけだった。もう、覚悟しているのだろう…自分の『死』を。なればこそ、潔くある。それでも泣く村雨に彼女は額に指先を当てた…

 

「…なら、俺が守るはずだったものを守ってくれ。命を……俺達の大切な場所を…」

 

「うぅぅ……うっ!!」

 

「泣くなよ?頼んだ……村雨。」

 

やがて、彼女の肉体は塵になりはじめた…。風に吹かれ、やがて鉄でも魔でも無くなり世界へ還っていく……

 

完全にその輪郭も、彼女であった全ても無くなると…村雨は大声をあげ涙を流し…北上はそれを抱き締めていた。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

……それが、ほんの数日前

「北上さん、あそぼ~~!」

 

「遊んで!遊んで!」

 

「雪風は沈みません!!」

 

 

「あ~~もう、無理無理!やっぱ駆逐艦うざい!大井っち、助けて!!もうギブギブ!!」

 

「駄目ですよ、北上さん。木曾の代わりに駆逐艦の世話するって言ったの北上さんじゃないですか。(駆逐艦に振り回される北上さんも可愛い~~)」

 

鎮守府の庭で北上は元気いっぱいのチビッ子たちに囲まれており、慣れない世話係を大井が笑っている。すると、見かねた村雨が駆けつけて『はい、は~~い!』と手を叩いた。

 

「それじゃ、チビッ子さんたち!今度は村雨お姉ちゃんとかけっこよ~~!よ~~い、ドンッ!!」

 

「「わ~~い!」」

 

「かけっこでも雪風は沈みません!」

 

「あ……ちょっと、待って……流石にきつい…ぐえっ」

 

とうとう北上はダウン。仕方ない…と彼女をお姫様抱っこする轟牙。取り敢えず、そこらのベンチでこのグロッキーを休ませるか……

 

…さて、

 

「大井だったな?恨み言ひとつやふたつ……無いのか?木曾はお前の妹でもあるしな…」

 

轟牙が木曾を斬ったことは彼女も知っているはず。そして、木曾は彼女の妹でもある……恨みを持たれてもおかしくはない。だから、この際に彼女の気持ちを確認しようと思ったのだ。

 

「……恨むなんてしませんよ。いいえ、寧ろこれが一番の結末だった。毎夜、荒ぶるあの娘を抑えてなんてもう限界だったし、この大切な場所を自分の手で壊すなんて絶対に望まなかったでしょうから。」

 

「だが……」

 

「私達は艦娘。姉妹や仲間といつ別れると知れぬ……だから、私達は今を悔い無いよう生きる。誰かを悲しませないために、生きるために戦う。そう覚悟を持って生きてるんですよ、私達は。」

 

……解る。強がりだ。

妹を失って悲しみを持たない姉などいない。されど、力強い瞳は落涙を許さない。強がりであっても強いのだ……彼女の心は…

 

「失言だった、忘れてくれ。」

 

これ以上、ウダウダするのは男らしくない。背を向ける轟牙……と、その時……

 

 

 

 

 

「みぃぃぃ…つぅうう、けぇぇぇぇぇたぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

「げ…」

 

「あら、山城さん?」

 

さながらドロドロと怪談に出てくる幽霊さながらに現れたのは山城……見据えているのは轟牙…明らかに尋常ならざる形相。あ、何か想う節ありだと大井は悟る。『殺す。』ただその一言を皮切りに砲を背負い、襲いかかっていく!反射的に轟牙は彼女を避け、一目散に逃げ出した。その姿に大井は『はぁぁ……』と溜め息をつきながら見送っていた。

 

「意外と仲いいのね…。で、何があったかは……」

 

 

「よせ、ありゃ事故だ!?知らなかったんだ、つーか…文句なら烈夢の奴に言えよ!アイツが風呂場に誰もいないつったんだからな!」

 

「うるさい!黙れ、そして死ね!!」

 

 

「提督が山城の修理中を忘れて、お風呂に連れてった…ってところかしら。そこらの下手なラブコメみたいね……」

 

ま、放っておこう。関わる道理も庇う義理も無い……その後、動けない北上を膝枕して至福の一時を満喫する大井であった。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

「……で?鎮守府の奴等と大本営にはどう報告するつもりだ?」

 

緑の軍服を着た男…憲兵が執務机に腰かける烈夢に問う。すると、烈夢は手を組んだまま深刻な顔で答える。

 

「木曾は独自で夜間巡回中、深海棲艦と遭遇。奮闘するも援軍、間に合わず大破炎上…撃退に成功するも治療も虚しく轟沈。そういう創作(シナリオ)になるわ。」

 

「まあ……それが、一番に良い終わり方か。」

 

憲兵は無精髭を撫で納得する。木曾はこの鬼ヶ島鎮守府で面倒見の良さから人気が高く、提督である烈夢も大きく信頼を寄せていた。そんな彼女が火羅としてではなく、艦娘として生き抜いたと記せばせめてもの彼女の魂の報いになるだろう。そして、鎮守府で艦娘がバケモノになったと混乱が起こることもない。一件落着……

 

「いいえ、まだ何も終わってないわ。」

 

…などしていないと烈夢。机の上に出したのは木曾の眼帯だった。彼女の火羅の気配を隠し、堕ちた自覚を誤魔化していたもの。

 

「この魔導具を作った奴…もしくは木曾に与えた奴がいる。それが、白露型を含め今回の発端にいるのは間違いない。つまり、解るでしょ?」

 

「黒幕がいるとしたら…俺達と同じ『魔戒法師』か?」

 

そう、こんなものを造れるのは烈夢らと同じ魔戒法師のみ。恐らく、道を外れた外道の者。

烈夢は静かに怒りに震えていた…。魔戒法師として…愛する艦娘を奪われた提督として……

 

 

「絶対に………許さない……」

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

「たく、山城の奴…」

 

やっとの思いで山城を振り切った轟牙。散々走り回って今は港エリア……見れば次々と艦娘たちが発進し、果てない水平線へ向け波の狭間を滑るように駆けていく。恐らく、遠征か何かだろう…先頭には熊野と鈴谷がいる。自分より小さな艦娘、確か駆逐艦娘と部類される少女たちを率いる様子は快活ながらも勇ましい。

そんな様子を見届ける見覚えがある人影が港の先端に…

 

「……蒼龍?」

 

緑の着物にツインテール…うん、彼女だ。

 

「蒼龍!」

 

「ひゃっ!?……ご、轟牙さん……脅かさないでください。」

 

「さんはいらねぇ。見送りか…?」

 

「え?……えぇまあ…」

 

どうも挙動不審な態度だ。大方、察しはつくが……

 

「…」

 

「……」

 

あえて、口にはしない轟牙。多分、木曾のことだ…白露型に続き今度は自分に親い者まで火羅になったのだ。仕方あるまい……

無理して不安を掻き出してやる必要も無い。すでに、怯えを秘める横顔にかけてやる言葉は……

 

「安心しろとは言わねぇ。だが、守ってやるさ…俺が届くところまでならな。」

 

「!」

 

ぶっきらぼうだが、彼なりの優しさ。この手は例え魔戒騎士であっても万能には程遠い……されど、剣が…手が…届くものがあるならこの身を火羅と戦えない彼女たちの盾・抗うための牙である。そんな意味合いを込めていた。数秒後、自分で言っておいて気恥ずかしくなり顔を背けるのだが、蒼龍はそんな彼の顔を覗きこみ伺うとクスッと笑う。

 

「…優しいんですね?」

 

「…」

 

「うふふ…ありがとう。なら、海の平和は…私に任せて。二航船の名に賭けて絶対に守ってみせますから!」

 

「ああ。」

 

少しは気が楽になっただろう。彼女の笑顔に轟牙も無意識に口元を緩ませた……

 

『コイツは驚いたぜ。轟牙…お前さん、笑ったのはいつ以来だ?』

 

「…っ、ザルバ!?」

 

「ふふふ…あはははははは!!おかしい!」

 

ついでに魔導輪にまでおちょくられてしまう始末だったが不思議とそこまで気分は悪くない。そう、こんな時間がいつまでも続いたら幸せだろう…

 

 

 

 

 

 

 

…続くわけもないが

 

 

 

 

「楽しそうだな、黄金騎士?」

 

 

「!」

 

 

不意にかけられた声、振り向けばそこには黒づくめのローブを纏う16歳ほどらしき少年がいた……。

 

 

 

 

 

< G A R O >

 

→後編につづく。

 






☆独眼牙狼
轟牙の纏う牙狼。左目を失っている。
口元をマントで隠し、顎はアニメ版動揺に吼えるギミックもあるが特撮設定の魔導刻もあり。手首などのギミックからワイヤーを出せる。


☆鬼ヶ島鎮守府
魔戒法師・烈夢が提督として指揮する鎮守府。艦娘たちは魔戒法師の存在を知らないが、のびのびと日常を過ごしている。激戦区から少し離れているため着任している艦娘は少ない。







感想お待ちしてます。


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不幸 ー後編ー

<Iron blood horizon>

 

 

 

 

 

 

「…誰?」

 

蒼龍は首を傾げる……この少年は誰なのだろう?背は自分と変わらないくらいなのに両手に握る刃は…そして、轟牙が向ける殺意とは明らかに違う静かな眼光は……

解せぬ。されど、分かるとしたらこの状況は好ましくないものだろう。例えるなら、嵐の前の静けさか戦闘直前のピリピリとした空気……

 

「…随分なナリだな?それで変装のつもりか、白銀(しろかね)?」

 

「あんたも言えた口か。映えある黄金騎士がその格好じゃ、格も随分と堕ちたもんだ。」

 

白銀…少年の名。まだ垢抜けぬ顔立ちだが眼は轟牙に通ずるものがある。そして、彼は轟牙を知っている。

 

「…」

 

「…」

 

轟牙と白銀は互いに挑発しあい、ゆっくりと横へ歩きながら間合いを詰めはじめた。白銀は双振りの魔戒剣を取りだし、轟牙はただ斬馬刀に手をかけるのみ。

 

「あの時の約束を果たすぜ…牙狼の称号は、俺が貰いうける!」

 

「…前にも言ったぞ?俺より弱い奴に牙狼をくれてやる道理は無い。」

 

次の瞬間、「うおおぉぁぁぁぁぁ!!!!!!!」と雄叫び襲いかかる白銀!身をよじらせ、双剣の乱舞を繰り出すが轟牙はヒョイヒョイとかわす。ふっ、はっ、せい!と風を斬る音も虚しく刃は届かない。挙げ句、足をかけられてよろめく始末…

 

「どうした、もう終わりか?」

 

「…うるせぇ!!」

 

ならばと、身体の全力を乗せた回転斬を繰り出す。その刹那、轟牙は見逃さない。

 

 

「!」

情け無用の蹴りを横顔に見舞い、少年は弾かれたピンポン玉のようにアスファルトをバウンドして倉庫の壁に叩きつけられた。

 

「弱い。」

 

「…ッ!!」

 

でも、なお攻勢は止まない。肺から衝撃で吐き出した空気を噛み締め、怒りのままに再度突撃していく。

 

「鬼武者ァァァァ!!!!!!!」

 

「…」

 

瞬間、轟牙の瞳から光が消える。同時にはじめて斬馬刀を抜き放った彼はゆらめくように腰を落とし…白銀をギッ!!睨みあげた。すると、何かに反応した白銀は宙返りして反転…逆に距離をとった。まずいっ、それがまだ未熟な経験であってさえも感じとるのは簡単すぎた…。

 

「ちぃ!!」

 

間合いを仕切り直し、得物を構えなおす。轟牙もまた、斬馬刀を握り…ブンッと前へと振る。ここからは彼も本気ということだろう…明らかに先とは気迫が違う。『鬼武者』…それが、どんな意味合いがあるかはわからない。だが、轟牙にとって……まさに、竜の逆鱗であったのは見るに明らかだろう。見かねたザルバが声をあげる!

 

『よせ、轟牙!魔戒騎士同士の戦いはご法度だぞ!!』

 

「コイツはただの騎士見習いだ。鎧すら召喚できないガキなんざ騎士とは呼ばねぇんだよ。」

 

「!!」

 

今度は轟牙が白銀の逆鱗を鷲掴みにした。もう少年は躊躇わず、怒りを迸らせ喰らいつきにかかる!!轟牙も斬馬刀を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Woooooooooooooooooo!!!!!!!

 

 

 

「緊急警報!?…まさか、鈴谷たちが!!」

 

「「!」」

 

 

振り回そうとした直前、けたたましく鳴り響く警報。蒼龍はすぐにこれの意を察し…轟牙と白銀は手を止める。これは『人類の敵』が鈴谷たちの防衛戦を抜いて、鎮守府正面海域に侵入してきたことを意味していた。

 

 

「!…蒼龍!!」

 

瞬間、轟牙は蒼龍の前へ飛び出して斬馬刀を盾にガード…同時に、刀身に襲いかかった弾丸の通り雨。見上げれば、獣の爪のような機影が確認できた。轟牙は唸る……

 

 

「深海棲艦!」

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

鎮守府正面海域……

 

 

「熊野ですわ!!敵は旗艦にヲ級をはじめとした空母ヌ級2、重巡リ級1に駆逐イ級が2隻!はやく援護を…私と鈴谷では制空権確保は…!?」

波飛沫と弾丸の嵐…硝煙の臭いが立ち込める海。熊野や鈴谷を苦しめていたのは蒼龍を襲ったものと同じ艦載機の群れ。彼女たちも水上機は扱えるが、敵には空母もおり…そうなれば、搭載数で劣る彼女たちが制空権を失うのは当然の摂理であった。つまり、海上と上空の両方から攻撃を受けることとなる。最早、艦娘各々が防空に当たるなり元凶を絶たんと敵本隊へと向かったりと統制も何も無い有り様……

 

「駆逐艦(チビッ子)たち!!輪陣形ッ!!輪陣形だってば……!?勝手に動いちゃ駄目だって…!」

 

「駄目ですわ、鈴谷!皆、パニックで聞く耳持ちませんわ!!」

 

「鎮守府からの援護まだぁ!?蒼龍は!!?このままだと、マジ大破炎上からの轟沈なんですけど……!?」

 

 

……と、言われてもその頃の蒼龍は…

 

 

「ちょっと!?ふたりとも、やめてってば!?」

 

こんな非常時だろうと爆撃をかわしながら斬り合いを止めようとしない。入り乱れる弾丸や爆弾をかわし、時には魔戒剣でこれらを弾きながら未だ両者、勢い萎えず……斬り結ぶこと幾度。まだ終わらず鋼の乱舞は続く。

 

 

その時

 

 

 

 

 

 

ーーババババン!!!!!!!

 

 

 

「「!」」

 

咄嗟に、離れた間合いに弾の雨。再び飛来した禍々しい機体と陸にのっそりと上がる頭に円盤生物を乗せたような人型。真っ白な明らかに血の通う生物ではないしっとりした肌……黒金の杖……

 

 

 

『 深 海 棲 艦 空 母 ヲ 級 』

 

 

 

艦娘に何処となく親く見えつつも、人類を仇なす深海からの使者…そして、蒼龍と同じ空母の力を持つ。このうるさい(魔戒騎士感覚)艦載機もコイツの仕業だろう。

 

「邪魔をするなァ!!!!」

 

邪魔をされた白銀は魔戒剣を投げつける……しかし、ヲ級はこれを弾き、剣はあさっての方向から……

 

 

「え……」

 

タイミング悪く駆けつけた山城の脳天目掛け飛翔していく!咄嗟に轟牙が剣を振る……!

 

ーギャンッ!!!!

 

「きゃっ!?」

 

間一髪、斬馬刀の剣圧が飛刃を弾き山城は事なきを得る。かといって脅威は去っていない。ヲ級の上陸を許した今、戦うのは轟牙の役目。

 

「さて……お帰り願いたいが、そうはいかないようだな?」

 

『ヲ……』

 

言葉は生憎、通じないようだ。一応、ライターで眼を照らしてみるが反応は無し……火羅ではない。ふむ、ならば……

 

「いくら、空母だって陸じゃ分が悪いくらい解るよな?艦(ふね)は海に浮くもんだぜ。」

 

どっちにしろ問答無用!斬馬刀を素早く斬りあげて頭部の円盤目掛けて粉砕。踏み込んで更に、斬りつけると鮮血を散らせてヲ級は後ずさる。いくら猛威を振るう深海棲艦だろうと地上では海面とは勝手が違い思うように動けないのだろう。続けて一撃、二撃と繰り出されるものを杖で凌ぐのが精一杯のようだ。

 

「下手に動くなよ?うっかり、殺したら面倒だ…」

 

『ヲォ…』

 

振り上げる……命はとらない。ただ、剥ける牙を潰せれば……

『ヲッ!!』

 

「!」

 

だが、彼女も彼女なりの意地があるのか魔物さえ砕する鉄塔ごとき刃を杖で受けながら徐々に押し返しはじめる……が、これも一瞬だった。轟牙は力任せにヲ級を弾きとばすとその喉元に切っ先を突きつける。

 

「終わりだ……海に帰りな。もう陸に来ようなんてするんじゃねぇぞ。」

 

『……ッ』

 

情け。悔しいが申し出に乗るしかヲ級の生き残る手段は無かった。苦々しい表情をしながら海へと跳び跳ねて撤退していく…これを唖然として山城は轟牙へと駆け寄った。

 

「あんた、正気なの!?なに、逃がしてんのよ!人を襲うバケモノなのよ相手は!?」

 

「バケモノでも生き物だ。話が通じるなら殺すことは無いだろ?」

 

 

それに……と付け加える。

 

 

「いい加減、出てこいよ。バレバレだぜ。」

 

「…?」

 

 

 

 

 

【ほう?】

 

 

 

 

すると、倉庫の屋根…丁度見下ろせる位置、空間に炎がつくと不気味な声と共に鬼の能面をつけた男が現れた。白が汚れた提督服を羽織り、傷つけられた海軍の勲章が胸に輝いている……まだ若さの面影を残すがねずみ色になりかけた肌。まるで、……

 

「深海棲艦…?」

 

山城は直にそう印象した。すると、男はくっくっと嗤う。

 

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか小娘。残念ながら私は女ではないのでね……」

 

「そういうわりには生臭さがプンプンするぜ……エラでもついてるのか?」

 

一方、轟牙は明らかに先とは違い苛立っている。ギリリッと歯ぎしりをし…斬馬刀を構えなおす。その様を見下しまた嗤う…。

 

「鬼武者……その異様な魔戒剣を持つ立ち姿と並々ならぬ殺気を嵐のように振り撒きながら戦う様から火羅からも……そして、とうとう同胞までからも恐れられるようになった哀れな黄金騎士。さながら、阿修羅とでも呼ぶべきだろう……哀れな者よ。」

 

「ごたくは良い……その面をとれ。斬るかどうかはそれ次第だ。」

 

「ククッ……全く守りし者とはつくづく思えんな。生憎、俗世の顔は捨てた身…この鬼の面こそ我が素顔……貴様と同じよ、鬼武者。」

 

鬼……名を着せられた者と自ら被る者。唸る鬼と嗤う鬼。

彼の笑みに苛立ちが昂ればもう牙を留める理由は無い。躊躇いなく、地を蹴り舞い上がれば斬馬刀を脳天目掛けて降り下ろす…だが、鉄槌の一撃は取り出した魔の筆で受け止められる!

 

「魔導筆?魔戒法師…!?」

 

「否!言ったはずだ、我は鬼だと…!!」

 

ガッ!!と振り払われるも身を翻し屋根に着地する轟牙。しかし、構えたまま斬りかかろうとしない。間合いを詰めず……されど、開けず……

 

「なら合点がいく…今の襲撃はテメェが手引きしたんだろ?」

 

「如何にも。まあ、貴様への挨拶がわりだ…ここの提督どもに見つかると些か面倒でな。」

 

「どうでも良い。なら、お前……『黒薔薇の騎士』は知ってるか?」

 

……あ。蒼龍は気がつく…確か、あの白露型姉妹火羅にも彼は同じ質問をしていた。すると、男は…

 

「はて、心当たりが無いな。」

 

相変わらずの調子だが、どうやら本当に知らないようである。ならばもう用は無い。

 

「そうか……なら……」

 

 

 

 

「失せろ!!」

 

 

ーーーーーーーーーー斬!!!!

 

 

一瞬で詰め一撃。男は粉砕され塵と消えた……が、轟牙はまたも歯ぎしりをする。斬った感覚が無い…まるで煙を掻いたような手応えの無さ…経験からして

 

 

【残念。だが、最後に名乗ろう鬼武者…我が名は水蜘蛛!貴様と同じ…鬼の道を行く者よ!またいずれ逢おうぞ!!】

 

逃げられたか。残響に確信を得た。全く、運の悪い……また妙な因縁が増えた。そして、未だに自分を睨む挑みし少年を水蜘蛛と名乗った男と同じように見下ろす…

 

 

 

「……全く、ついてないな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

<GARO Iron blood horizon>

 

不幸 ー終ー

 

 

 





☆次回予告
ザルバ『凄まじき者、その領域に達すれば人助けだって恐ろしく見えるかもしれないな。次回【化物】…これだからつくづく人間は…(呆れ)』

次回、今度こそ山城さん編!最近、トラブって(愛であらず)ばかりですが更新していきますよ!あと次回予告を本家っぽくしてみました。感想お待ちしてます。


モンハンコラボやったー(ライトボウガン使い)

しかし、FFコラボのせいでショボくみえてしまう…(-_-;)
逆に考えるんだ…FFに力が入りすぎなんだって。

よし、このままゴッドイーターとコラボするんだ!(迷走)



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化物 前編

「失せろ!!化物!」

 

「お前らなんか、深海棲艦と同じよ!」

 

 

「忌々しい、奴等を倒すためとはいえ……同じ力に手を染めねばならんとは…」

 

 

 

……不幸だわ。

 

 

 

 

 

 

 

★★ ★★

 

 

 

 

 

- 化 物 -

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…水蜘蛛?知らないわよそんな奴。」

 

秘書艦代理である蒼龍のコーヒーをすすりながら、烈夢はデスクの椅子によりかかる。先日の襲撃に水蜘蛛と名乗る魔戒法師の報告をした轟牙…まあ、収穫は無かったが。 だが、明らかに烈夢との遭遇を嫌がるには彼女と面識があるかもしくは彼女の何か別に理由があるかだが…当の彼女は知らぬ存ぜぬでは話にならない。

 

「闇法師、闇騎士に因縁があるのなんかそれこそ闇ギリか銘ある騎士ぐらいでしょ?」

 

「生憎、奴は俺の追う奴とは関係ないんだそうだ。俺も知らん。」

 

「はぁ……深海棲艦を操る闇法師。大本営への情報操作が厄介になるわこれ。」

 

はぁ…と溜息をつく烈夢。提督でありながら魔戒の者や火羅を世間から隠蔽するのが彼女の仕事。水蜘蛛の存在があれば自分の仕事量が当然増えるだろう……全く面倒なことだ。椅子をグルグルと回していると見かねた轟牙が訊ねる。

 

「そうだ…俺の剣はそろそろか?」

 

「ん?そうね……そろそろ改修工しょうに行ってみたら?」

 

答を聴くや早々に背を向け提督室をあとにする……そう、今日の彼はいつもの斬馬刀を担いでいない。理由は後々…

 

「蒼龍、ちょっと良い?」

 

「はい?」

 

去った後、不安げな蒼龍に烈夢はあるお使いを頼む。

 

 

「帝都第壱鎮守府の加賀さん……顔見知りだったわよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★ ★☆

 

 

 

 

 

工しょうとは何か……鎮守府において武装の開発並びに艦娘の建造を担う施設である。生身の人間とさほど変わらないように見える彼女はの建造とは何かとはいずれ語ろう………

改修工しょうとなるとまた話は違う。こちらは既存の装備品を『工作艦』の艦娘が改修資材な資源を元に改修作業…もとい、グレードアップを行ってくれるのだ。故、例えば一番火力の低いとされる駆逐艦の艦娘も砲の改修を行えば火力や命中精度が上がり、自分たちより大きな深海棲艦と渡りあうのも夢ではない。

そんな、改修工しょうはやはり大小様々な機械やネジやらで溢れかえり油と作業員の汗の臭いでむせるような空間だ……たまに、そんな臭いが大好きで居座る変な艦娘もいたるするのだが。で、鉄板をカンカンッと叩くクレーンを装備したピンク髪の艦娘……ハチマキ姿が可愛らしい彼女こそが、この改修工しょうの主…工作艦『明石』である。

 

「ふぅ……流石に徹夜はきついですねぇ。というか、アイテム屋とか大淀で良いんじゃないかなぁ…」

 

「相変わらず大変よねぇ…明石は?」

 

「……第一艦隊旗艦殿はここで何をしているんです?サボってて良いんですか?」

 

ぼやきながらも仕事はそつなくこなし、腕は一流で工しょうの力仕事担当のオッサン連中にも負けない明石さん……そんな頼もしい彼女の隣で図太くカップアイスをほうばっている蒼龍の着物を橙色にしたようなサイドテールの少女。弓の装備といい声色といい、かなり面影が共通する彼女は『飛龍』…蒼龍と同じ二航船でありこの鎮守府の秘書艦である。のだが……

 

「サボり!ま、…あとは秘書艦代理がこなせるだけの仕事しか残して無いし、大丈夫でしょ!」

 

「蒼龍さん、お気の毒…」

 

仕事に関しては少々手抜き癖があり、大層な肩書きをひっさげながら割と自由奔放しているのである。これに関しては烈夢も諦めており、だからといって生真面目な蒼龍にまた荷を全部背負わせるのもと現在の体制に至る。

 

「……改修工しょう、ここで良いんだよな?」

 

そこへ、フラりと現れる轟牙。あっ!っ気がついた明石が頬の煤をぬぐい彼に駆け寄った。

 

「轟牙さん、お待ちしてました!魔戒剣の整備なんて初めてでしたけど、完璧ですよ!」

 

すると、彼女は自身のクレーンのアームを操り鉄の棺桶のような機械の中から魔導火を帯びる牙狼剣をゆっくりと取りだし……轟牙の前に突き立てた。そして、懐から取り出した魔導筆でサッと祓い…魔導火と熱を消し去った。

轟牙は牙狼剣を掴むとブンッと振るうとその出来栄えに感心する。

 

「驚いたな、艦娘の『魔戒法師』なんざどんなもんかって正直、心配してたが……脆かったソウルメタルが嘘のようだぜ。」

 

「フフン!工作艦と魔戒法師の名は伊達ではありません…!まあ、戦闘はからっきしなんですがね。」

 

そう、彼女は艦娘でありながら烈夢と同じ魔戒法師なのだ。といっても裏方担当で言うなれば縁の下の力持ちといったところか…

すると、牙狼剣に気がついた飛龍が近づいてきた。

 

「なになに?それ、見せて…!」

 

「触るな!!!!」

 

「ひゃっ!?」

 

そのまま、牙狼剣に触れそうになったところを強く一蹴し、彼女を退かせた轟牙。その鬼のような気迫に改修工しょうの空気が止まる…

暫くして、轟牙は牙狼剣を肩に担ぎ…改修工しょうを後にした。

 

「な、なんなのよアイツ……」

 

「当然ですよ、あれは艦娘の装備とは違って危険なものなんですから。」

 

「あんなのが趣味なんて蒼龍かわってるぅ~」

 

「オッサン好きが言えますかそれ。」

 

取り敢えず、そのあとは追わず…飛龍は自堕落的にまだこの場に居座ることにした。

一方の轟牙は……

 

 

「……お前は…」

 

「不幸だわ……本当に。」

 

 

…改修工しょうの前で山城と遭遇していた。

 

 

 

 

 

 

★★ ★☆

 

 

 

 

…何処かの海辺の寺

 

せせらぎが墓地まで届くこの場所で若い僧がホウキをサッサッとはいている。といっても、あまりやる気があるようには見えないのだが……

 

「くそ、あの住職め……良いようにこき使いやがって。仮にも軍閥の跡取りだぞ…畜生。」

 

「しくしく……」

 

「ん?」

 

ふと……耳に届くすすり泣き。墓地に目をこらせばゆらゆらと黒髪を垂らす和服の女の姿。幽霊か!?思わず、『ひぃっ!?』と情けない声をあげた男だったが、よく見れば別にただの人間であることに気がつき慌て駆け寄った。

 

「おいおいアンタ、どうした!?ぼろぼろじゃねぇか!?」

 

「……なが……す…」

「?」

 

何かボソボソと言っている……

 

「お腹が……空きました……」

 

は?腹が減った…だ?拍子抜けした…いくら空腹だからって泣くか普通……

仕方ない、と彼は懐かは本来は御法度の娯楽品であるチョコレートを取りだして与える。

 

「ほらよ、住職には内緒のチョコレートだ。あんた、名前は……」

 

「ガツガツッ!!……一航船の赤城です…ガツガツッ!!!」

 

(一瞬で食いやがった……しかも、艦娘かよこいつ!?)

 

まっ全く艦娘が寺で何をしているのだろう?取り敢えず、近くの鎮守府に連絡すれば良いかと考えていたが…そんな彼の肩を引っ張る赤城……

 

「お腹が空きました…」

 

「今、チョコレートやったろ!待ってろ、近くの鎮守府に連絡してやっから!!」

 

「……お肉が食べたいです。」

 

「仮にも坊主に肉せがむってアホがお前。ここは寺だ…肉なんて無いに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……お肉ならここにあるじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

次の瞬間、男は押し倒され…悲鳴をあげた。そして、赤城は食事をはじめる…

 

……その一部始終を墓石の影から鬼の能面の下で笑む水蜘蛛が窺っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

……その頃、轟牙と山城はとある寂れた村を訪れていた。昔ながらの瓦屋根が痛み、人も町並みも活気がろくに無い営みを忘れたような風景だった。山城は装備は腕の飛行甲板と主砲ひとつを折り畳んだ軽装で、轟牙は鍛え直された斬馬刀…もとい魔戒剣を背負っている。

 

「なんで、アンタと一緒なのよ……不幸だわ。」

 

(烈夢のやつがわざわざ、俺を呼ぶってことは…また火羅か……コイツも運が無いな。)

 

今回は烈夢からの頼みで彼は山城の仕事に同伴していた。どうやら、近くに火羅が出たらしく…おまけに行方不明の艦娘の目撃情報と重なったことからこの成り行きになったのである。だが……今は火羅どころか人すらまともに見られない。思わずザルバも…

 

『シケた村だな……』

 

「何?何か言った……?」

 

「何でもない。(ザルバ…!)」

 

山城がいるにもかかわらずうっかり声を洩らしてしまうほど。すると、轟牙は足を止める……

 

(……気配!)

 

そのまま、一気に身体を反転させ走ると彼は山城をあっという間に置いていき…村の入り口で急ブレーキ。そこには……

 

「白銀…!」

 

「……よお、鬼武者。」

 

白銀の姿があった。また自分を狙いに来たのか……と思ったが……

 

「貴様…!」

 

「残念だが、俺は今…烈夢法師からの依頼があってね。アンタと同じだよ。」

じゃあ、彼も火羅関連の任を受けたのか…いや、そんなはずはない。

 

「嘘つけ、たかが騎士見習いのくせに。」

 

「嘘じゃねえよ!!ちゃんと受けたつーの指令!」

 

「指令じゃなくてお使いの間違いだろ?」

 

「…んだとぉ!?」

 

また斬り合いに発展しそうな空気だ。だが、その時…

 

 

 

 

 

 

……きゃーーーーーーーー!!!!!!!

 

 

 

「「!」」

 

 

 

村の奥から山城の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

《 G A R O 》 後編につづく。

 

 




ついに、瑞鶴が手に入りました…! や っ た ぜ

モンハンダブルクロスも手に入りました…!バルファルク強すぎじゃね……え、作者が弱いだけ?ああ、そう。

はやく、ガロクエストやりたい……感想お待ちしてます。



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化物 ー後編ー

前回、間違ってFVAの最新話を投下してしまいました。すみませんでした。



~《Iron blood horizon》~

 

 

 

「痛い!痛い!やめて…!!」

 

ひとり取り残された山城を異常な事態が襲っていた。網を突然、かけられたかと思うとぞろぞろと現れた人間たちに囲まれ棒やら農機具で袋だたきにされていたのだ。

 

「艦娘!くたばれ!!」

 

「うちの息子を返せ…!」

 

「化物!化物!!海に帰れ…!!!」

 

「ここは人間の住みかだ!死ね!死ねぇ!!!!!!」

 

理由はわからないし身に覚えの無い罵詈雑言の嵐。共に、降り下ろされる凶器が山城の身体を傷つける……

 

そこへ、駆けつけた轟牙…

 

 

「何してんだテメェらァァ!!!!!!」

 

咆哮のような怒号が響き、彼は村人たちを蹴散らし…一緒にいた白銀が魔戒剣で網を切って彼女を救出した。何故、この村の住人たちは山城にこんな真似をしたのか…このリンチに轟牙の膓の奥からふつふつと怒りがこみ上げる。その時、ザルバは声をだす。

 

『落ち着け轟牙。ここに、火羅はいない。』

 

「…なに?」

 

なら、この村人の行いの理由が全く説明できない。すると、彼等へ口を開く白銀。

 

「俺達は鬼ヶ島鎮守府の者だ!その艦娘に傷つけてただで済むと思ってんのか!?」

 

「うるさい!!化物にはちゃんと首輪くらいつけとけ!!」

 

「お前らなんか、深海の奴等と同じよ!」

 

「…んだとぉ!?」

 

だが、相変わらず罵詈雑言で話にすらならない。すると、山城が立ち上がり……

 

「良いのよ。」

 

「…山城?」

 

「早くここを離れましょう。ああ、不幸だわ……」

 

村人たちを糾弾することなく背を向け歩いていく。続けて村人たちは石を投げだしたが、轟牙の獅子ごとき睨みですぐに彼等はたじろぎ引っ込んでいった。

暫くして、村の入り口で追いついた轟牙は彼女に問う。

 

「おい、山城……」

 

「は?なに?同情なんてなんの得にもならないからやめてくれる…?」

 

「山城!!」

 

「きやすく呼ばないで!」

 

理解出来なかった。このような仕打ちを不幸の一言で済ますなど普通は考えられない……仮にも人間を守っている艦娘であるなら尚更、守られる存在に傷つけるなどもってのほかだ。そんな彼を振りほどき、彼女は距離をとる。これを見かねた人物が木の影から現れる。

 

「鎮守府の……方たちですね。」

 

「「「!」」」

 

それは、汚く汚れた白と緑のセーラー服を着たまだ小学生~中学生くらいの少女だった。花の髪留めをつけた黒髪は傷んで幼さある姿にはあまりにも痛々しい。いや、それよりも…艦船を模した装備は…

 

(艦娘……行方不明の駆逐艦か……?)

 

「…帝都第壱鎮守府の如月です。」

 

「帝都の艦娘!!意外と早かったわね…鬼ヶ島鎮守府の山城よ。貴女をさがしてたわ…!」

 

轟牙が予測したとおり。お捜しの艦娘だ…確か、深海棲艦との戦いで座礁したらしいとか。山城が駆け寄ろうとするが、轟牙が一旦止め…魔導火ライターで瞳をチェック。反応は無し…火羅ではない。すると、バランスを崩しかけた如月を白銀が支える。

 

「良かった、無事のようだな。こんなとこ長居は無用だ…!とっととズラかろうぜ。」

 

「待って。まだ、舞風と赤城さんが…!」

 

この場をあとにしようとはやるが、如月によればまだ艦娘がいるらしい…指さしたのは村はずれまで続く林。ならばと、轟牙は歩を出した。

 

「その娘を頼んだぞ、白銀…山城……!俺は艦娘を捜す!!」

 

そして、暫く走るとザルバを辺りにかざして気配を追う……微かだが臭いを感じる。近い…

 

 

……火羅の気配が

 

 

意識を集中させると女性が弱り、倒れかけているにも関わらず村人が石を投げ……そこに水蜘蛛の影が窺えた。直後、彼女を邪気が包み異形へと姿を変える。

 

『間違いない、ここで魔界のゲートが開いたようだな轟牙。』

 

「奴か……」

 

この件…水蜘蛛が糸を引いているのは間違いない…蜘蛛だけに面倒なことを。なら、ただの火羅とはわけが違う…シラツユツヴァイの時のような知略的な行動をとるはず。また、艦娘の特性をあるといったことを考えれば……

 

『まずいぞ、もうじき夜だ…』

 

「ああ……」

 

……火羅の時間が近い。急がねば

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

「この地域は一時は大変な激戦区でした…」

 

一方、取り残された一行は如月から現状の説明を受けていた……

 

「時にはあまりにも激化した戦闘は時に人里すら省みないほど大規模に……あの村はその災禍に巻き込まれたんです。当時の艦娘たちも戦うのに精一杯で村を守る余裕なんてとても…」

 

「結果があの村人の態度か……。全く救われないぜ。」

 

「…っ」

 

白銀が吐き捨てた台詞は如月の胸を締めつける……守る存在が守った者から憎まれるなど甲斐が無い程度の意味合いだったが、彼女…否、艦娘にとってはその事実はもっと重い。

 

「私はこの激戦区応援のため浦島鎮守府の連合艦隊に合流していたのですが…大破した赤城さんを舞風さんと護送中に敵からの急襲を受け…そのまま3人とも座礁。あとは救難信号を出すのが精一杯で……」

 

確かに今の彼女の様子から徒歩で助けを呼ぶのは難しそうだった。それに、あの村人たちの村があるとすれば尚難しいだろう。すると、山城が懐からあるものを取り出した…

 

「……これ、食べなさい。ろくに食べてないんでしょ?」

 

それは、乾パンだった。メモの紙切れくらいしかないそれを見るや如月は慌てそれをとり口にほうばった。余程、腹が空いていたのだろう…その勢いは白銀もちょっと退いた。

 

「食べたなら立ちなさい。同情はしないわ…貴女たちの不始末で結果は私たちは損害を被ってることには変わりない。なら、貴女のすべきことは解ってるわよね?」

 

「はい……すぐに、赤城と舞風の元に案内します。」

 

「おい待てよ、流石に怪我人に酷ってもんだろ!?」

 

直後、如月に案内をさせようとする山城。まだよろよろとする如月に鞭打つものと白銀は反対するが如月は従うように立ち上がる。

 

「私たち艦娘は…皆が運命共同体、ひとりの不始末が全ての艦娘の存在に関わる…!私たちは……人を守ることでしか…生きられないの!!」

 

「…!」

 

まだか弱そうで自分よりも齡がいかぬであろう少女の言葉とは白銀は思えなかった。自分たちと人を守るのは同じだと考えていたが…それは違う。人を守るために産み出された艦娘たちは戦いこそが存在意義であり生なのだ。それぞれ個々個人があれど大衆からは全体で『艦娘』という括りでしか認識されない……駆逐艦だろうと空母だろうと……。故に彼女たちは生きるために戦うのだと思い知る。

ならば……自分の出来ることは何か?

 

「…っ。わかったよ、なら背中ぐらい貸してやる。」

 

「……え」

 

「別に、それくらいならバチ当たらねぇだろ。ほら、乗れよ。」

 

これくらいだろう。戸惑う少女を背に乗せ、よっこらせと前を見据える白銀。これに、山城は感心した。

 

「意外ね。つっかかるしか能が無いかと思ったけど、存外優しいのね。」

 

「…うるせぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーードオオォォン!!!!!!

 

 

 

「「「!」」」

 

 

その時、村の方向で火柱が立つ…!

同時に一行の進行方向は村へと変わった。

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーひゅるるる~~……ドオオォォン!!!!!!!

 

 

悪魔の笛と炸裂音に人々の阿鼻叫喚が聴覚を叩き、釜の中のような熱さが肌を引っ掻く……その中を轟牙は走る。爆発に巻き込まれた人間たちは血肉に還元され一ヵ所に吸い込まれていくのを頼りに炎の中を掻き分け進む。

 

「!……いた!!」

 

…そして、見つけた。弓から矢を放ち…艦載機、否、魔の使い魔と化したそれを飛ばしながらあちこちで絶命した命を喰らう赤城と…彼女と対峙する如月と変わらないくらいの金髪の少女、恐らくは艦娘だろう。その背には逃げ遅れた村人たちがいるではないか…!

 

「舞風さん…あなたを食べるつもりはありません。退いて下さい。」

 

「やめてください赤城さん!貴女が、何故…艦娘の存在意義を私達に説いてきた貴女が何故!?」

 

「私は……もう艦娘じゃありませんから…」

 

すると、少女の頭上から爆弾が落ちてくる…!咄嗟に少女は自らの身を盾にして村人を庇う…!!

 

「よせぇ!!!!」

 

轟牙の叫び虚しく…

 

 

 

 

ダダダダダダダダダ…!!ドォォォォォォン!!!!!!

 

「!」

 

…少女たちを爆風が喰らう直前に何処からともなく飛来した水上機により破壊された。振り向けば、そこには山城と白銀たちがいる…彼女の機転だろう。

 

「浦島鎮守府の赤城ね…。説明はいらないわよ。」

 

「待て!コイツはもう艦娘に手が負える存在じゃねえ!!」

 

赤城の追撃に入ろうとした山城…同時に赤城は笑いながらその身を烏帽子に和の甲冑のような異形『アーチャーヴルム』へと変貌し、弓を構える。対する轟牙も斬馬剣を抜き放ち、斬りつけるがかわされてしまう。

 

『待っていたゾ……鬼武者!!』

 

「やはり、水蜘蛛の手下に成り下がってやがったのか!」

 

予感は的中…鬼武者と轟牙を嗤い、矢を放つアーチャーヴルム。剣を盾にする彼だが、矢は寸前で使い魔へと変身しあちこちから弾を浴びせ轟牙に襲いかかる!

斬馬剣を振り回すも、バッドで蝿を落とすのは難しいように隙だらけになった背後や肩に弾が当たりブシュッと鮮血が飛び散った。コンマ数秒で振りが追いつかず、ついには血塗れで膝をついてしまう……

 

『轟牙、しっかりしろ!!』

 

「うるせぇぞ、ザルバ!!」

 

唸ってみせるが、分が悪い。額が切れた血で視界も霞む……アーチャーヴルムは目の前だというのに。この身体は思うように動かない。

 

『つまらんな、鬼武者。それでは、話にならん。』

 

…すると、アーチャーヴルムは山城たちへと狙いを向ける。

 

 

 

 

『あの時と同じように……また護れないな…?』

 

 

 

 

「!」

 

 

その時…轟牙の中で…プツンと……

 

 

「……んな…」

 

 

何かが……

 

 

「ふざけんなぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

キレた。

 

【99.9……】

 

鎧を纏い、独眼牙狼となり憤怒の咆哮をあげると黒い火花が飛び散り…燃えたぎる感情のままアーチャーヴルムへと飛びかかった。そのまま弓を腕ごと引きちぎり奪いとると、めった斬り。

 

ーー斬!!ーー斬!!ーー斬!!

 

 

「……ォオ!!…ォオ!!」

 

荒れ狂うまま、鋼のボディが抉れるまで牙狼剣で斬りつけ続ける…

 

脳裏には忌まわしいドス黒い記憶が揺らめく…

 

 

「この…腐れ火羅ごときがァ!!!!!!!」

 

 

ついに、砕けた鎧に向け…牙狼剣を振り上げその胸に真っ直ぐ剣を突き立てた。同時に、火羅の姿が弾け…元の姿に戻る赤城。彼女から剣を引き抜き…ようやく我にかえった牙狼は彼女を抱き留める。

 

「…あり……がとう…ございます…。」

 

「…」

 

もうそこに、火羅はいなかった。駆け寄る舞風と如月に…彼女はかすれ始めた瞳を向ける。

 

「ごめんなさい。また私が…不甲斐ないばかりに…」

 

「赤城さん、もう大丈夫です!だから、気をしっかり!!」

 

「そうです、私たちは無事です。鬼ヶ島鎮守府からの助けも来ました!そこでなら、補給も修理も充分に……!」

 

必死に呼び掛けるふたり…だが、彼女は首を振る。もう何も叶わないと…自分の最期を悟っているのだ。火羅に堕ちれば助かる術は無い…既に魔の者となり朽ち果てていくのを感じながら、せめてと微笑み泣きじゃくる少女たちに微笑む。 そして……

 

 

 

「貴女たちは……お腹いっぱい食べて下さいね。」

 

 

 

 

……彼女は轟牙に抱かれたまま塵となった。

 

 

舞風と如月は泣き崩れ、山城と白銀は目を閉じ黙祷していた…。せめて今は弔おう…飢餓の火羅ではなく、仲間を想い果てた艦娘として

 

 

「……これで、満足か?水蜘蛛…?」

 

 

……背後に立つ水蜘蛛(ひきょうもの)を斬ったあとで

 

 

「ククク…。いいやまだだ。まだお前たちが見定めるのは同胞の死ではない。その死と命の価値だ。見るがいい…」

 

 

その時、ビュンと空を何かが斬り…痛いっ!?と舞風が悲鳴をあげた。それは礫だった…礫に礫が続き自分たちに投げられる。ヒュンヒュンと霰のようなそれに罵倒の声が続く。

 

「失せろ、化物!」

 

「私達の村をかえせ…!!」

 

「死ね、海へ帰れ…!!」

 

それは村人たちだった。舞風が必死に守り、赤城が守るべきと説いた人間であった…。

 

 

「見るがいい、これが人のあさましさよ!!どれだけ身を盾にしようと何一つ理解しようとしない!自分だけ自分のためにしか生きない者に何の価値がある!?」

 

「…」

 

「守りし者よ、艦娘よ、これが世界の答だ!今一度、考えるが良い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……黙れ。

 

 

 

「何?」

 

ゆらりと立ち上がる轟牙…見据えるのは水蜘蛛と村人たち。彼の眼は…背は…憤怒で揺らめいていた…。

 

「水蜘蛛(おまえ)も村人(おまえら)も…いい加減に……しやがれ!」

 

ーーギュオオンッ!!!!!

 

【47.3…】

 

再び牙狼となった轟牙は水蜘蛛を斬りつけ、勢いこのままになんと、村人へと襲いかかる!まさに、鬼と相違ない勢いで牙狼剣を振り回し…怯えまどう村人へ容赦なく牙を剥く!!

 

『よせ、轟牙!!なにしてやがる!?』

 

ザルバの制止も聴かず暴れまわる独眼牙狼。『やめろ!』と白銀も止めに入るが凪ぎ払い、たぎる感情のまま咆哮をあげ山城にも刃を向ける!

 

「うおおおお…!!」

 

「!」

 

…一瞬だが、苦渋の決断だった。山城は砲身を牙狼に向け

 

 

ーードオオォォン!!!!!!!

 

 

「がはっ!?」

 

一発…その胸目掛け放つ。この衝撃で牙狼は弾きとばされ林の闇へと消えた…。

 

 

 

 

 

 

【GARO Iron blood horizon】

 

化物 ー完ー

 

 




★次回予告!

ザルバ『おっとコイツは驚きだ……異世界の黄金騎士に人の歴史を救うとはコイツはまた凄い。さて、どうする?次回【時空!】…その剣は何を救うためにある、轟牙!?』


次回、響く黒雲さんの『GARO Grand order』とコラボ編!!ジュンチェ作品からのオリジナル魔戒騎士も登場!金色の交錯を見逃すな!!!!!!


黒髭「取り敢えず、艦これときたらわし出番不可避。もしかしたら黒髭危機一髪再開!?」

謎の使用人「ナイナイ。」

黒髭「でしょーね!!(半ギレ」

謎の仮面オルタ「ところで……」

謎のベルトさん「私達の出番はあるかね?」


轟牙「仮にもガロ艦これなんだからすっこんでろ。」





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意思 ー前編ー

……また、あの夢か

 

 

振り上げた刃が…鉄塊のごとき剣が……名も知らない女を斬りつける…そんな夢。そんな自分は心で悲鳴をあげながら、それを噛み殺しながら振るう…そんな夢。

 

……そして、最後はいつも自分はこう言う。

 

 

 

 

 

「許せ、山城……」

 

 

 

 

……最後に、トドメの一撃を彼女胸に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 意 思 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼ヶ島鎮守府 執務室

 

部屋の主の烈夢の前には舞風、如月が敬礼をして並び立っていた。

 

「…舞風、報告しなさい。」

 

烈夢の一言に……胸にこみ上がってくるものを堪えながら彼女は告げる。

 

「……浦島鎮守府、第二艦隊所属舞風…報告します!3日前未明…座礁した赤城は……未知の深海棲艦の追撃を受け、当艦と如月を庇い……うぐっ…うっ………『轟沈』致しました!!」

 

「……うっ、ぅぅ…」

 

火羅と化し轟牙に斬られた赤城は都合上、『轟沈』…要は戦死という扱いになった。狩りにも軍の所有物である艦娘をただ死んだと片付けるわけもいかず、上層部に報告しなくてはならないのである。無論、火羅になったなど伝えられるわけもなく…烈夢の計らいと赤城の艦娘としての名誉のため事実は改竄された。それが皆のため、何よりも赤城のためだろう…

そんな彼女たちをドア越しに察する山城は壁によりかかる轟牙に目を向ける。

 

「あんた……わざと、私に射たれたわね?それで、化物の代わりになったつもり…?」

 

「…」

 

轟牙は答えない。ただ、目を閉じている……

 

「残念だけど、あの村人が艦娘だろうとあんただろうと化物の括りは変わらないわ。この先もあの村人たちは艦娘を恐れ忌み続ける…それが現実……」

 

変わらない。あの時の牙狼の怒りは無意味と無情に語る山城。そう……一度、刻まれた負のイメージは中々消えない…また他の艦娘が村に近づけば如月や山城のような目にあい下手をすれば第2、第3の赤城が生まれてしまうかもしれない。だが、変える術は山城にも轟牙にもない……時が解決するのを待つのみだ。

 

「……でも」

 

…と、彼女は紡ぐ。

 

 

「……艦娘(わたしたち)のために怒ってくれたのは嬉しかった。誰も…今までそんな人いなかったから。」

 

「…」

 

そして、足早に彼女は去っていく……

轟牙はそれを見送るとふぅ……とため息をつき、今度は口やかましい魔導輪へ耳を傾ける。

 

『虚しいな、轟牙。番犬所に寿命を持ってかれた分に対して報酬は女の礼だけとはな。』

 

「うるせぇ。」

 

山城に射たれた後、轟牙は人を殺めていないとはいえ鎧を纏い人を襲った……ということで、掟破りの罰として寿命の1年分を剥奪されている。だからと言って反省も後悔もどちらの素振りも見せずザルバは呆れていた。

 

『良いか、二度とこんなことするな。下手をしたら……』

 

「ザルバ…俺は魔戒騎士じゃねえ。『復讐の亡者』だ……鎧なんざ、復讐が終わったらどうなったって構わないさ。」

 

相棒の忠告も意味を為さず。 ならばと、もう何も言うまいと魔導輪も口を閉じる……

 

…そして、轟牙もその場をあとにし……

 

 

 

 

「へぇ……あんたが噂の斬馬刀使いか。」

 

 

 

「!」

 

 

……ようにも、またも面倒がやってきてしまう。白銀に続き、いい加減にしてもらいたいものだ。

茶をイメージした武人を思わせる和服姿に山城に似た砲身と飛行甲板を纏うボブの艦娘が後ろに立っている…まさかと思うが…

 

「噂は聴いている…ちと、手合わせを願いたい。」

 

 

……嘘だろ。少年漫画のノリだろこれ。

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

 

……その頃、鬼ヶ島鎮守府格納庫付近

 

 

 

「……平和ねぇ。」

 

相変わらず、サボりの秘書艦こと飛龍は春らしくなってきた陽気にのほほ~んとだらけていた。桜もちょうど蕾が膨らみはじめ、これまた善しと眺めている。こんな日は補佐官(蒼龍)に適当に仕事を押しつけてのんびりするのが吉だろう……

 

 

……そんな彼女に天罰が下る。

 

 

「どけぇぇ!!」

 

 

「へ?」

 

急に頭に影がかかったかと思うと影がふたつ頭上から落ちてきた…!ひとつは轟牙、もう1つは刀を構える艦娘であった。両者、飛龍の目の前に着地するや、互いの獲物を構え…いきなり決闘の体勢へ入る。

 

「どうした、斬馬刀使い?遠慮はいらんぞ。」

 

「ひゅ、日向!?あんた何やってんの!!?」

 

轟牙と相対する彼女は山城と同じ航空戦艦で伊勢型2番艦『日向』…。落ち着いた雰囲気とは裏腹に鬼ヶ島鎮守府一番のバトルマニアである。そして、艦娘では数少ない近接武器持ちかつ刃を交える決闘を好む。

 

…そんな彼女に目をつけられた轟牙だったが、斬馬刀は思うように振るえずにいた。

 

 

(ふざけんな…下手にこんなもん振り回したらテメェをバラバラにしちまうだろうが!)

 

火羅相手ならまだ良い…だが、相手は戦闘狂いといえど艦娘だ。大型火羅さえ粉砕するこれを振り回せば日向は確実に無事にすまないし、これ以上は烈夢や番犬所に睨まれるようなことを増やしたくない轟牙。故に隙あらば逃げるが、あの重そうな装備のままでお伽噺の牛若丸のようにひょいひょいと追ってくるので振り切れないでいた…。

 

「日向、やめてってば!?秘書艦の仕事増えちゃうから!!」

 

「正確には蒼龍の仕事だろう…問題あるか?」

 

「あるわ…!?私の仕事も比例して増えるの!始末書なんか書きたくないわよ!!」

 

(俺の命の心配はしないんだな…)

 

さりげなく酷い秘書艦の制止は無意味なようで、日向は太刀を構える。ならば、いた仕方ないと轟牙もブンッと斬馬刀を振った…!

 

「骨の一二本は…覚悟しろよ!!」

 

「…参るッ!!」

 

一瞬で狭ばる両者の間合い!轟牙は斬馬刀を……

 

 

 

「……な…」

 

 

しゃがみ、腰を落とした日向にかわされあさっての方向へ振り抜けた…。刹那、日向はこの隙に懐へ太刀を当てていた。

 

「勝負あり……期待していたのだが…」

 

「…」

 

黄金騎士、艦娘に敗れたり。轟牙はあまりのショックに固まっていた……まさか、手加減したとはいえ自分が…艦娘に?

 

「悪くは無かった。だが、いかんせん武器が大きすぎる故の大振りが目立った……いや、まあ確かに速かったが見切れないほどではなかったな。」

 

「…」

 

上には上がいる…とはよく言ったものだ。本当の殺しあいだったら、今頃は腹をかっさばかれていただろう。

轟牙はしばし、剣を収めるのも忘れていた……いや、正確には日向の太刀を見据えていた。

 

「…どうした?」

 

「いや、ありがとうな…日向だったか。お陰で新しい何かが掴めそうだぜ。」

 

「ふふ…そうか。ならば、良かった。」

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

その頃。

 

 

「あ……」

 

「……何よ。」

 

 

鎮守府の港。偶然…ばったり逢ってしまった蒼龍と山城。別に特別に変わったことではない…同じ鎮守府の艦娘なのだから。でも、違う…彼女はそんなことで声を出してしまったのではない。

脳裏で過る轟牙の顔…彼と行動を共にしたのなら彼女も知ってしまったかもしれない…あの火羅について…

 

「いや、あのさ……」

 

「あんたも見たんでしょ、火羅?」

 

「…!」

 

「全くお互いに不幸ね。提督には言いふらすな…って口止めされたけど。でも、あんた以外にもいるそうよ…見たことがあるの。」

 

やっぱり。いや、驚きだったのは自分以外にも火羅について知る者が複数いるらしいということだ……

少し、安心感というか山城に対して奇妙な親近感を覚える。

 

「やれやれ、言いふらしてなんになると思うのかしら?艦娘がいくらそんなこと騒いだって世迷い言よ。本当に救いが無いわ。」

 

「そ、そうかな……だって、彼が護ってくれるし……」

 

その時、山城はむむ?と首を傾げた。今の蒼龍の反応は明らかにおかし……いや、なんかノロけていたように見えた。いや、まさか…まさかと思うが…

 

「蒼龍、あんたまさか……あの男に惚れてるの?」

 

「ふぇっ!?」

 

腑抜けた声が飛び出した……あっ、マジか。何てこったいとため息をつく山城。

「悪いこと言わないから止めときなさい、あの男は。不器用だし頭に血がのぼったら手つけられないわよ?今は善くても将来、苦労するタイプよあれ。」

 

「…べ、別に私は……好きだなんて…」

 

否定する蒼龍だが、その顔は赤い。口よりも顔が真実を語ってしまっている……これではいくら言葉を重ねても説得力が無い。そんな彼女に『それに…』と付け加える。

 

「私たちは艦娘……兵器なのよ。そこはどう足掻いても覆せない。兵器が普通の女の子のように恋愛なんて出来ると思う?」

 

「……そ、それは…」

 

艦娘、則ち兵器…彼女の言うことは正論だった。命あっても兵器は兵器扱いしかされない…また時に人以上に忌まれることも山城は身をもって体感していた。故にこそ諭す…どれだけ人に近くとも自分たちは兵器なのだと。

 

「……でも、私は…」

 

でも、それでもと蒼龍は正論に抗おうと口を開くが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、お嬢さん方……」

 

 

 

 

 

 

 

 

その前にゆらりと水蜘蛛が現れた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《 G A R O 》

 

 

 

 





春イベント5月上旬からなんですってね。本日、足柄さんがようやく改二になりましたんですが他の艦娘全然、育成追いついてないんですよね……駆逐艦とか駆逐艦とか……(白眼)

ZERO ドラゴンブラッド完結…いやまさか、あれが出てくるとは思いませんでしたよ。バトルシーンはガロシリーズ屈指の胸アツです。終わりは確かにそうだな…零のはじまりは確かに別れからなんだよなぁって感じました。


さて、 ガロ艦これ感想お待ちしてます!



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意思 ー後編ー

すっごく、沼々する~(夏イベE-7)



お 久 し 振 り で す 。

コラボ編は後々更新予定です。感想お待ちしてます!!



<Iron blood horizon>

 

 

 

改修工廠

 

 

 

 

カーンッ!!カーンッ!!と明石は鉄板の上で熱く光る鉄塊をハンマーで叩き形を整えると、置いてあった瓶に詰まった魔導水を魔導筆で操り…勢いよくぶっかけて急激に冷やして鋼色の刀身へと鍛え上げた。これはただの鉄塊ではない……魔を祓うための刃である。産まれたばかりのこの剣の主ならとうに決まっていた。

 

「轟牙さん、どうです?」

 

「ああ、見りゃわかる……見事なもんだ。」

明石は依頼人に出来映えを確認すると、彼もうんうんと頷き彼女の技術を誉める。日向との一戦の後、非番の彼女の所へ飛び込んで強引に依頼したのだが…流石、工作艦兼魔戒法師というだけあって技術は確かなものである。ここまで早く仕上げてくれるとは思わなかったが、剣も魔戒剣とまでいかなくても充分に戦える代物。あとは柄が完成するのを待つばかりだが…

 

「おっ…こんなところに……」

 

「烈夢か…?どうした?」

 

ふらりと現れたのは烈夢。油や煤汚れだらけの場所に来ては真っ白な軍服が汚れてしまうか心配になるが本人は特に気にすることなく入ってくるなり轟牙らに問う。

 

「蒼龍と山城見なかった?捜してるんだけど、何処にもいないのよねぇ。」

 

「見てないな。」

 

「私も見てませんね。お力にはなれそうにないです。」

 

知るわけがない…基本、轟牙は鎮守府内では木曾の件からそこまで明石などを除けば必要なく関係を持ったりしないし、明石も工しょうにほぼ入り浸っているため出入りが無い輩など把握するなど無理な話。提督である彼女もわかっているだろうが、『おかしいわねぇ…』と首を傾げた烈夢は鼻から溜息を漏らす……基本、真面目な面子だけにサボりとかは考えられないのだが…

なら『外に出たんじゃねぇのか?』と考えた轟牙…

 

「それはないですよ、轟牙さん。私たち艦娘は許可が無いと鎮守府の外には出られませんし、あの2人の艤装はドッグに安置してありますから海もありえません。」

 

しかし、明石が否定。艦娘は兵器という性質からして昼休みのサラリーマン感覚で外に出るなど無理だ。また、海に行くにしても装備が無くてはいくら艦娘とてただの人…独特の水上スキーのような動作は出来ない。

そうなると、『まだこの鎮守府にいる』か『無断で鎮守府の外を出た』ことになる……

 

「でも、あの組み合わせはそこまで仲良いとか特別な縁の繋がりも無いはず……」

 

後者だとしても、烈夢の記憶する限りでは同僚以上の関係はない…そんな彼女たちがわざわざそんなことするだろうか?

 

そういえば、そろそろ日没……

 

(……)

 

轟牙はふと察す。蒼龍と山城の共通点といえば……火羅に遭遇してしまったということ。まさかとは思うが……

 

「提督!提督ぅ!!大変、大変!!!」

 

その時、慌て駆け込んできたのは北上だった。いつもマイペースな彼女が肩で息をするような様は珍しい…つまり、よほどのことがあったのだろう。話を聴くと……

 

 

 

「…舞風が、倒れたんだよ!!」

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

すぐに医務室になだれこんだ烈夢と轟牙が見たのは病に苦しむようにベッドに横たわる舞風の姿。結んでいた金髪は解き、はぁ…はぁ…と辛そうにする様子は痛々しい。付き添いの如月もあわあわとするばかりで何も出来なかった。

 

「如月、なにがあったの…?」

 

「わかりません。さっき帰りの支度をしていたら突然、苦しみだして……」

 

烈夢が見るからに、ただの風邪の症状ではない。虚ろか眼と衰弱の速度が尋常ではないからだ……。すると、ゴム手袋や器具を持ってきた大井がやってきて如月を『邪魔よ!』とどかして舞風の制服を脱がしていく…

実は彼女、元・看護士という情報はチラリとここで出しておくとして……同時に轟牙の指におさまっていたザルバはあるものに気がついた。

 

『(轟牙、あの娘の胸元を見ろ!)』

 

「…!」

 

主にしか聴こえない微かな声。促されて見た舞風の胸元には『痣』がある……まるで、刀傷のような痣が禍々しく黒みを帯びている。大井も『何これ?』と目を見張り、轟牙と烈夢はすぐに現世の理の産物ではたいと察する。

 

「……烙印。」

 

「烙印?」

 

轟牙の呟いた単語を烈夢は解らなかった。

それを解説するザルバ。

 

『火羅が目をつけた獲物に施す呪いの一種だ。他の火羅に獲物とられないようにするのもあるが、施された者を弱らせる効果もある。消すなら印をつけた火羅を倒すのが早いが……コイツをやる火羅はかなり強いぞ。』

 

成る程、要は文字通りに唾をつけられたということか。これをつけられたとすれば、赤城の件でまだ火羅がいたのだろう。しかし、印をつけた火羅なんて何処にいるかなどさっぱり検討もつかない…

 

……その時、大井が舞風の服の裾から黒い封筒のようなものを見つけた。

 

「……あら、何かしらこれ?」

 

「見せて、大井。」

 

烈夢はそれを受けとるとマジマジと眺める。轟牙も一緒に見ていると……封がパチンッ破けて禍々しい魔界文字が浮かび上がる。

 

「……これは…!」

 

これが現す内容はまさに、忌むべき存在からの挑戦状だった……

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う?」

 

目を覚ました山城は自分が鎮守府ではない場所…恐らく廃れた野球場らしき場所。芝生は枯れ、並ぶ座席は雨風にずっとさらされて汚くかつての観客が熱狂していたであろう痕跡は無い。そういえば、鎮守府の外れにかつ賑やかだったて野球場があったと聞いたことがある……まあ、深海棲艦の侵攻と共にオーナーが手放してしまったらしいが……

自分はその汚い椅子に寝かされており、隣には蒼龍もいる。そうだ……自分は突然、妙な男に……

 

「お目覚めかな?」

 

「…!」

 

……と、噂をすればか。鬼の能面に黒ずんだ提督の軍服に死人のような白い肌…水蜘蛛と名乗り、赤城の時など火羅関連で暗躍する男。山城もこの男は幾度も見かけている。

 

「山城…相変わらずだな。毎度、運が無いにも程がある。」

 

「は?何よ、あんた?」

 

妙に馴れ馴れしい…。まず、この状況はコイツの仕業なのは間違いない。

そう確信すると同時に観客席の出入口から轟牙が現れた。

 

「山城!」

 

「来たか、黄金騎士……否、鬼武者!!」

 

水蜘蛛は彼の登場に嬉しげに口角を吊り上げると手を挙げて合図をした。すると、轟牙の前に両腕が巨大な鎌となっている獣のような火羅が現れ立ちはだかる!咄嗟に、飛び退いてかわした場所には文字通りの鎌鼬が走り、床を引き裂いてみせた…。この火羅をザルバは知っていた。

 

『火羅【オオカマイタチ】。風を操り、獲物をズタズタに引き裂く残忍な奴だ。舞風の烙印もコイツで間違いない…!』

 

先の魔界文字…それは招待状。水蜘蛛からの挑戦であった。

そして、指定されたこの場所に駆けつけてきてみれば山城と蒼龍。即ち、人質というところだろう…ひとりならまだしもこれは力任せは難しい。ましてや、目の前には上級クラスに匹敵するであろう大型火羅…分が悪いにも程があるだろう。

そんな歯を食い縛る轟牙をせせら笑う水蜘蛛。

 

「俺の招待にわざわざ正面から来た度胸は誉めよう。おかげで、事が順調に進みそうだ。」

 

「あ?」

 

「話がしたいのだよ…貴様と。」

 

話?だから、わざわざ誘拐までしたのか。まあ、手ぶらだったら姿を見せた途端に問答無用と叩き斬っていたのは間違いないが…

さて、闇法師がわざわざ何を話すと言うのだろう…轟牙には知り得ないが水蜘蛛は能面の下で愉しげに口を動かす。

 

「…貴様は我と同じ憤怒の鬼を心に宿す者。眼と太刀筋で解る…私と同じ、裏切りを受けッ!!理想を挫かれッ!!その虚無を埋めるために復讐の炎を燃やす者ッッ!!!ならば、我等は共にあるべき…理不尽を押しつけたこの現世に我等の怨念をぶつけてやろうではないか!!!!」

 

「…」

 

「さあ、手を取るのだ…!冴島轟牙…!!」

 

復讐者。そう自らと轟牙に対し、評する様はある意味『炎』のようだった。恐らく、言葉に嘘は無く…この男は身を焼ききるような怒りを宿している…。

 

…そう、自分と同じ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否。

 

 

 

「俺は確かに復讐者だが、ケリをつけたい奴はただ1人だ。生憎、テメェの八つ当たりなんざに興味は無いし俺の決着は俺自身がケリをつける。」

 

冴島轟牙は違う。例え、怨みを秘める者でもただ撒き散らして頭の悪いガキのように当たり散らしたりはしない……己のことは己で終わらせる、他者など関係ないと。復讐の怨念に駆られていても人としての矜持は捨てていない。

 

「そして、お前の怨みとやらも晴れることも無い……ここで、叩き斬ってやるからよ!!」

 

「ふん、所詮は魔戒騎士か…!」

 

決別の手向けの一撃。飛び掛かり降り下ろした刃はオオカマイタチの鎌に割り込まれて弾かれる!されど、轟牙は怯まず、跳ね返るように地を蹴って落胆の溜息をつく仮面めがけて突っ込む!!

 

「うぉぉ…!!」

 

「やれ、オオカマイタチ!!」

 

同時に主の命令で『シィィ!!』と唸り声をあげたオオカマイタチはまたも簡単にあしらい、次は頭から真っ二つにしようとするが身をよじられて避けられた。

 

「…ちっ」

 

咄嗟にこの隙を逃すまいと鎧を召喚。独眼牙狼となり、三度目の攻撃をしかける。牙狼剣で鎌をいなし、懐に飛び込んで腹を一閃…が、浅い。また降り下ろされた鎌をよけて飛び上がり今度は顔を一撃。徐々に牙狼が圧してきていた……

「ええい、この役立たずが。」

 

これを見かねた水蜘蛛。なら…と未だに気を失っている蒼龍に魔導筆を向ける。

 

「これを見ろ、黄金騎士!!女が死ぬぞ?」

 

「!」

 

気が逸れたのはほんの一瞬。しかし、これが命取り……オオカマイタチはがら空きの脳天目掛けて刃を降り下ろす!いくら、ソウルメタルの鎧とて大型火羅の渾身の一撃を頭に喰らえば頭蓋が砕けてもおかしくない。かわせない…となれば『くっ!?』と呻きながらも牙狼剣で間一髪防御。…はしたものの、異形の力は凄まじく隕石を受け止めているような重量に片膝をついてしまう。

 

「ははははははは!!!無様よな、鬼武者!たかが、女にこの様とは?魔戒騎士の道を捨てたにも関わらず、復讐の鬼にもなりきれない半端者など用は無い…火羅のエサになるが良い!」

 

嗤う水蜘蛛。なんと哀れで滑稽なことか……自分のように決意を固めていればまた違った結果になったろうにと。熟さぬ果実は腐るだけだ…熟れない実は踏み潰す。勝利は我が手中にある……

 

「……ちっ…」

 

「?」

 

……と思うのもつかの間。牙狼の異変に気がつく。

 

 

 

 

 

(俺は………まだ、こんなところで死ねない……)

 

 

 

ーーーーまだ、やらなきゃいけないことがある

 

 

(アイツを………)

 

 

 

 

ーーーー『アイツ』を殺すまで………

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

『!?』

 

ゴォォ!!と突然、牙狼の傷ついた左目に黒炎が灯る。

呼応するように、鎌を押しかえしはじめ……焦りだすオオカマイタチ。もう片方の鎌で斬り裂こうとしたが、片手を離した牙狼に素手で止められた。

 

『!?!?』

 

「何をしている、オオカマイタチ!とっとと、殺せ!!」

 

主が無茶を言ってるが、オオカマイタチは全力である。全力なのだが、手から滴る血など意を介せずに相手は迫ってくるのだ…。

 

「……殺す。……殺ス。……殺スッ!!」

 

内側から流れてくる灼熱のマグマのようなドス黒い感情。言うなれば、殺意に自身が破裂しそうなのを感じる牙狼。この感情は…『殺意』『憤怒』。燃えあがる憎悪の炎は火羅すら怯ませる。

 

「アイツを…殺すまでは…ァ!!絶対に……死ねるカァ!!」

 

視界が真っ赤に染まっていく……このまま感情のままに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【それで良いのか、守りし者よ?】

 

 

 

「!?」

 

 

その時、目の前で花火のように弾ける金色の光。すると、辺りの景色が溶けるように消え……轟牙は鎧が解除されていることに気がつく。いや…正確には自分の意識が肉体と時間から剥離しているのだ。

死んだ…?違うだろう……では何が?

 

「!」

 

【久しいな、冴島轟牙。】

 

ハッ!と気配に振り向けばそこには『牙狼』がいた。左目を失っていない深い藍色の瞳をした轟牙ではない牙狼……彼と逢うのははじめてではない。

 

「先代?」

 

彼の正体は轟牙より以前に称号を受け継いだ者……の魂。俗に言う英霊というやつで、かつて轟牙を試した試練そのもの。一体、このタイミングでどうして現れたのかは検討もつかないが……英霊は師のように見据え、威厳を纏いながら立っている。

 

【怒りに呑まれてはならぬ。そして、復讐の炎に目を曇らせるな。お前は魔戒騎士だ…!】

 

「こんな時に…何を今更。俺は復讐の鬼だ。だからこそ、あんたは…!」

 

【そう、光を持たぬ者に大いなる力を任せるわけにはいかなかった。だが、今のお前は鬼か?いいや、違う…貴様の心は憤怒と嘆きだけではないはずだ。】

 

「…なに?」

 

そう告げると英霊は斬馬刀を手元へ呼び出し、刀身を見せつける…。すると、ソウルメタルの輝きの中に見覚えがある景色が映りこむ…

 

 

ーーーー……艦娘(わたしたち)のために怒ってくれたのは嬉しかった。誰も…今までそんな人いなかったから。

 

 

ーーーー……なら、海の平和は…私に任せて。二航船の名に賭けて絶対に守ってみせますから

 

 

 

山城と蒼龍…それに、鬼ヶ島鎮守府と艦娘たち。皆、轟牙が出逢った者たちである。剣の主は理解出来なかったが、英霊は答を知っていた。

 

【まだ微かな暁というには小さいが光が灯りはじめている。明けぬ夜など無い…光に照らせぬ闇など無いように、心は再び魔戒騎士に戻ろうとしている。】

 

まさか…自分でも無意識のうちに?戸惑う轟牙だったが、そんな彼に英霊は指差し……目的を告げる。

 

【ならば、私はお前の内なる輝きが夜明けだと信じよう……この『大いなる力』はその手向けだ。】

 

「!」

 

【力は正しき心で使え。そして、心せよ、既に運命の刻は近づいてる……逃れられぬさだめを断ち切るのだ。】

 

「おい待て、それはどういう!?」

 

なに?英霊の最後の言葉、意味を問おうとした轟牙だったが…既に彼も轟牙も本来あるべき場所へ還りはじめていた…。

 

やがて、止まっていた刻は動きだす……

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

ーードオォォォォ!!!!

 

 

 

「!?」

 

光の爆発。あまりの衝撃に水蜘蛛とオオカマイタチは彼方までふっとばされ、気絶していた蒼龍も目を覚ます。すると、目に飛び込んできたのは…

 

 

『ヒィヒィィィィィィィン!!!!』

 

 

牙狼の股がる金色の騎馬。全身が鎧と同じくソウルメタルで真紅の鬣を靡かせる雄々しく嘶く獣…。魔戒騎士の中でも100体の火羅を倒し、試練を乗り越えた者しか獲られない大いなる魔界の力……

 

 

『 魔 導 馬 ・ 轟 天 』

 

 

彼の存在と輝きは何も知らぬ蒼龍と山城さえも息を呑んだ。

 

「水蜘蛛、貴様の陰我…火羅もろとも俺が断ちきる!!」

 

「ええい、オオカマイタチ!!」

 

轟天の登場はさすがに予想外だったが、水蜘蛛としてもこのままやられるわけにはいかない。オオカマイタチの背にに直接、乗り込んで操り鎌を操るが牙狼剣で軽くいなされ、挙げ句に轟天の後ろ蹴りを叩きこまれてスクリーンに叩きつけられる。

 

「轟天!!」

 

戦いの流れを一気に奪った牙狼は轟天の手綱を握り、迫っていくが『まだだ!』と水蜘蛛。魔導筆を振るうやオオカマイタチが起き上がり、プロペラのように高速回転をはじめ竜巻を起こす!竜巻は邪悪な法力を孕みながら轟天もろとも牙狼を吹き飛ばし、さながらミキサーのように粉砕しようとする。

しかし、牙狼は慌てずにオオカマイタチを狙い…牙狼剣を牙狼斬馬剣へと変化させて振り上げた!!

 

「そこだっ!」

 

 

斬ッッ!!

 

そして、一気に降り下ろされた刃は竜巻を容易く両断からオオカマイタチや水蜘蛛の胸まで一瞬のうちに粉砕してみせた。直後、轟天が着地するやオオカマイタチを形成していた邪気が牙狼斬馬剣に吸い込まれていき水蜘蛛は地面に投げだされる。どうやら、勝負はついたようだ…。

 

「これで勝ったと思うなよ、鬼武者!!次こそは必ずッッ!!!」

 

最後、彼は陳腐な捨て台詞を吐いて逃げ去った。牙狼は追おうとはせず鎧と轟天を魔界に返還すると、蒼龍と山城の元へ向かう。

 

「おう、お前ら大丈夫か?」

 

「……え?あ、うん…」

 

「ええ。いつにもまして不幸だわ。」

 

蒼龍は未だに状況が呑み込めていないようだが、山城はもう散々だと溜息。そんな様子に安堵を覚えると轟牙の視界がグラリと揺らぐ……あと脇腹も思い出したかのように痛い。そのまま意識を手離し、蒼龍の胸の中に雪崩れこんでしまった。

 

「ひゃっ!?ご、轟牙…!?って、酷い怪我!!はやく鎮守府に戻らないと!!」

 

「落ち着きなさい、蒼龍。まずは応急処置よ。」

 

慌てる蒼龍だったが、彼女を落ち着いて宥める山城。着物の裾を破り、取り敢えず圧迫止血なりでもしておこうと思ったのだが…ふと、服の裂かれた轟牙の胸元を見る。

 

(なにこれ?薔薇のタトゥー…?趣味悪っ…)

 

黒く黒く禍々しい薔薇の紋様。

 

 

 

 

 

……山城がこれを『烙印』と呼ばれるのを知るのはまだ先の話。

 

 

 

 

 

<GARO Iron blood horizon>

 

意思 ー終ー

 

 

 

To be continued.

 





ザルバ『願いと想い…時にそれは思わぬ形で踏みにじられ惨めに汚される。次回【死者】!!…嘲笑うお前は一体、誰だ!?』



☆轟天
牙狼の魔導馬。
歴代シリーズでお馴染みだが、轟牙にはとある理由で継承が先延ばしにされていた。魔導馬の召喚は魔戒騎士としての成長の証とも言える。

★オオカマイタチ
鼬の前肢が大鎌に変質したような巨大な火羅。手練れの銘ある騎士でなくては討伐は危険すぎるとされる中々の大物。性格は残忍で風を操り、素早く獲物を斬り刻む。まさに、鎌鼬。

☆明石
艦娘でありながら魔戒法師。といっても裏方専門なのでどちらにおいても戦闘技術は皆無に等しい。彼女が魔戒法師になった話は後々語ることもあるかもしれない?
なお、この明石は良識的なのでマッド属性は無い。でも、作ろうと思えばなんでも作れるので一部の駆逐艦は彼女を『魔法使い』だと信じているとか…



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コラボ編!!『GARO Blood Order』
時空!


特別編も投下するぞい!




……さて、ほんの少し別の物語について語ろう。

 

 

 

時はフランス革命後のオルレアン。空には歪に天体級の大円が描かれ、街並みは中世の石造りの独特なもの。不気味か空以外はいたって普通の街並みだった……

 

……だが、この時代にはあってはならないものが存在していた。

 

 

 

『グゥオオオオオオ……』

ワイパーン……龍種。かつての神代の時代か今や魔界にしかいない翼の獣。口から業火を吐き、凶悪な爪は建物を砂の城のように簡単に崩していく。されど、人的被害は未だに出ていない…人々はある男のおかげでなんとかこのワイパーンから逃げおおせていたのだった。

男は紅のコートを纏い、葉巻をくわえながら屋根を天狗のようにヒョイヒョイと渡り歩きながらワイパーンを撹乱し、飛び立たないように翼を時折、忍者刀で斬りつけたり目玉をリボルバー拳銃で狙ったりとせわしなく動いている。

 

「ちっ……ガジャリも流牙も人使い荒いぜ…まだかよ、黄金騎士は!?」

 

『ヴゥゥ…!!』

 

しかし、ついに集中力が途切れた時に大木のような尾が鞭のようにしなり、一撃が男を跳ねとばし地に打ちつけた…!あまりの衝撃に『かはっ!?』と息を漏らしそこへ巨獣の前脚が覆い被さろうと…

 

「ちっ……ここまで…か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーガン!!

 

 

 

『!?』

 

 

…する直前、 男の前に巨大な盾が割って入り龍の脚を防いだ。支えているのはミニスカートのような甲冑の明らかに男より華奢な少女。雄叫びをあげながら外見に似合わないパワーでワイパーンを押し返すと彼女は叫ぶ!

 

「……先輩!」

 

直後、屋根から飛び上がりワイパーンの死角をとる影。

 

「はあっっ!!」

 

 

ーー斬!!

 

『ギャアアアアア!!!!!!!!?』

 

首筋を一気にかっ裂き、盾の少女の元へ着地する彼は白いコートに赤い鍔の剣を握り締めていた…。

 

「間に合ったようだな、マシュ。」

 

「はい、ですがダメージは中々深刻なようです。」

 

「そうか…なら、一気にカタをつけるぞ!」

 

少年の名は優牙……魔戒騎士。

少女の名はマシュ・キリエライト……盾のサーヴァント。

 

……共に、人の歴史を守る者!!

 

 

『グルォォ!!!!!!!』

 

直後、ワイパーンは踏み潰さんと前脚を出し…騎士たちと少女は散り散りになりかわす。そして、優牙は屋根の上を着地するや走り抜け、次々と放たれる火球を追い抜いていく。

 

「やぁぁ!!」

 

そこをがら空き死角からワイパーンの頭を盾で殴りつけるマシュ!ならばとワイパーンは彼女へと標的を変え着地した彼女を捻り潰さんと前脚を出してはみるがこれもまた盾でなぎはらわれる。更なる怒りが募り、再び業火のブレスでなぎはらおうとするが…

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 

ーー斬!!

 

『!?』

 

意識が逸れた優牙から一閃。気がついた時に鮮血を巻きながら角が切り落とされていた…

これには流石にたまらんと翼を拡げるワイパーン。空ならば己のフィールドだ…翼無き人間などに遅れはとらない。

 

「先輩!」

 

「…いくぞ、マシュ!!」

 

されど、戦士たちは恐れない。地を蹴り、業火をかわし…天を目指す!そして、マシュがフォローし、優牙は切っ先を突き出し鎧を召喚ッ!!

 

ーーグゥオオ!!!!

 

「はぁぁ……!!」

 

 

宿す瞳は『紫』……それは金狼……それは騎士……

 

 

 

黄金騎士 牙狼《GARO》!!

 

 

 

突き出された尻尾を足場に一気に駆け上がると翼をぶち抜き、大穴を開け…そのままワイパーンを頭上で肉薄すると…腕と牙狼剣を擦りあげ烈火炎装を発動ッ!!そして……

 

 

 

「はあああああああああ…っ!!!!」

 

 

『グギャァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?』

 

 

鋼のごとき鱗を……鎧のごとき身体を貫き、これを粉砕した。

 

 

 

…その後、鎧を解除した優牙はマシュと戦っていた魔戒騎士と合流する。

 

「先輩、お疲れ様です。被害もこの方のおかげで最小限に済みました。」

 

「そうか…良かった。そうだ、名前訊いてなかったけど……」

 

「俺か?俺は『不知火 剛』…フリーの魔戒騎士さ。今回、おたくらのお守りをするためにわざわざガジャリの奴に呼ばれたんだが……」

 

お守り?眉をひそめる優牙とマシュ…

 

その時だった。

 

 

 

【ソオルマニリナソトバマタユ…!(この怨み…今こそはらさん…!)】

 

 

 

ーーギュオオオオオオオオオオオ!!!!

 

「!」

 

奇妙な言葉が聞こえたかと思えば、ワイパーンが粉砕されたあたりからブラックホールのようなものが出現し優牙たちを呑み込まんと凄まじい吸引力を発揮しだしたのだ!慌てて捕まろうとするがもう遅い…

 

一行は数秒のうちに貪欲な闇の中に呑まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

……さあ、はらそう我等の怨みを

 

 

 

…この積もりに積もった我等の怨みを今度こそ

 

 

 

 

 

 

 

GARO Iron blood Horizon

 

 

×

 

 

GARO Ground Order

 

 

 

特別編 『GARO/Blood Order』はじまります。

 

 

 

 




響く黒雲さんより『GARO Ground Order』とコラボ!オススメします、面白いです!!

轟く牙と優しき牙……果たして…!




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異界!

お ま た せ

コラボ再開!! 感想お待ちしてます。


………い!…先輩!…先輩!

 

 

 

「……うっ…マシュ?」

 

 

 

 

…かん! ……しれ…

 

 

 

「司令官!」

 

「…え?」

 

慣れない呼び方に目を覚ました優牙……意識がはっきりすると、自分は初めて見る砂浜に海…晴れ渡る空…隣には見慣れないセーラー服の少女がいた。黒髪にはつらつと自分を『司令官』と呼んでいるが自分は彼女を知らないし、司令官とかそういう職でもない。

 

「良かった!中々、目を覚まさなくて心配しました…」

 

「…君は?」

 

「あっ!申し遅れました、特型駆逐艦一番艦『吹雪』です!よろしくお願いいたします、司令官!!」

 

吹雪…少女の名らしい。それにしても元気な娘だ……

優牙は頭をかきながら立ち上がるとサッと砂をはらい辺りを見渡す……取り敢えず、砂浜と海…遠目に港が見えるくらいだ。

 

「どうなさいました…?」

 

首を傾げる吹雪。さて……ここで、色々確認しなくては…

 

「……その…吹雪だったかな?俺を助けてくれたようだけど…?君は何者なんだ?」

 

「はい?私は司令の秘書艦…もとい初期艦ですよ。」

 

「…?」

 

なんだそれ?全然、覚えがない言葉が出てくる…。まず、彼女は何かしら勘違いをしているようだ…とにかく、訂正しておかねば…

 

「悪いけど…もしかして、人違いじゃないのか?」

 

「そんなっ!?だって大本営から新しく提督になるって通達が間違いなく…!」

 

「そもそも、俺…司令官とかじゃないし…君の勘違いだと思う。うん…」

 

「…ま、待ってください!?」

 

参ったな…頭をかく優牙。彼女が自分を騙そうとしているようには見えないしその分、必死に訴えてくる…出来ることなら傷つけないように片付けたいが……

すると、『そうだ!』と声をあげる吹雪。

 

「なら、鎮守府に来て頂ければ私の話が本当だって信じて頂けますよね!?そうだ、そうしよう!ついて来て下さい司令官!」

 

「お、おい…!?」

 

どうやら彼女は自分を鎮守府なる場所に連れていくつもりらしい…そして、思ったより力が強い!?優牙はズルズルと引きずられていき…取り敢えず、彼女についていく途中でマシュに出逢えるかもしれないと淡い期待を抱きながらついていくのであった。

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

「…は!?」

 

時を同じくしてアスファルトのクレーターにて目を覚ましたマシュ。バッと起き上がると海が見える…ここは港だろうか?

ここは何処…?優牙と剛の姿も見えないし、他に人影らしいものも無い。はぐれてしまったのだろう…

 

「…いたた。取り敢えず、先輩を捜さなくては……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………不幸だわ。」

 

 

 

 

 

「…? !!」

 

あれ?なんか立ち上がった足元に違和感がある…

下を向くとそこには巫女服らしき服のボブの髪型をした女性がブツブツと何か呟きながら倒れている!ま、まさか下敷きにしていたのか自分は!?と焦りながら飛び退いたマシュ。すると、女性はゆらゆらと立ち上がり不気味に『フフフ…』と微笑んでいた。

 

「…も、申し訳ありません!?」

 

「良いのよ別に。同僚は消えるわ、職場は変態に占拠されるわ…そして、落下物の下敷きになることぐらいいつものことだから。あぁ……不幸だわ。」

 

「あ、あの……っ」

 

やばい、目が死にかけてるこの人。独特の傾いた髪飾りといい白い肌といい美人の部類なのは間違いないのに、纏うオーラがあまりにも暗い…こんな良いお天気の陽射しも届かさそうなくらいな雰囲気である。

慌てながらフォローなり謝罪なりの言葉を探そうとするが彼女は気にも留めない。

 

「なんだか知らないけど、あんた艦娘?」

 

「はい?」

 

「取り敢えず、日本人じゃなさそうだから海外艦…でも、砲も機銃も無い……空母?」

 

「あ、あの……」

 

…と、思っていたら質問。かんむす?聞き慣れない単語に空母とか言われてもまるでピンと来ない。まあ、空母なら艦艇の一種というぐらいは流石にわかるが、何故に自分を見てそんなことを彼女は言うのだろうか?

 

「…すみません、そのカンムスってなんですか?」

 

「は?…それ本気で言ってる?どっかに頭でも打ったの?」

 

呆れられた。確かに自分は世間に疎い節があるのは自覚していたが会って早々の人に指摘されると胸にぐっとくるものがある。正直、凹む。

いや、ここはへこたれてても仕方ない。 優牙もいないし、頼れるのは自分のみ……しっかりしなくては…

 

「……じゃあ、あんた…もしかして魔戒騎士の仲間?」

 

「! 魔戒騎士をご存知なのですか!?」

 

「ええ。知らないもなにも、知り合いだし……」

 

ここで思いもよらない展開。彼女が魔戒騎士について知っているならば話は早い…うまくいけば優牙との再会もそれほど苦労しないかもしれない。早速、話を切り出してみるマシュ。

 

「私、黄金騎士に会いたいんです!名前は冴島優牙と言って……」

 

「あぁ、冴島ね。アイツでしょ……ん?」

 

しかし、山城は首を傾げる。マシュは何か変なことを言ったかと戸惑ったが…そんな彼女に確認するように問う山城。何か頭に違和感がある。

 

「上の名前が冴島?」

 

「はい……」

 

「キンピカの鎧?」

 

「そうです。」

 

 

 

 

「デッカイ剣を振り回す熊とゴリラを足して割ったようなやつ?」

 

「え!? 違います!先輩はそんな人じゃ…!?」

 

 

 

馬鹿な。優牙はそんなおっかない外見ではない…どちらかといえば優しく凛々しい好青年だ。それに、剣だって普通のサイズのもので大きいと形容されるには無理がある。

しかし、黄金の鎧を纏う魔戒となど牙狼以外あるのか?取り敢えず、『冴島』『金色の鎧』の条件だけは合致。続けて確認していくと…

 

「下の名前…ゆーがとか言った?」

 

「はい…」

 

「ああ、そう。『轟牙』なら知ってたんだけど…人違いね。」

 

最終的に条件が幾つか重なるだけの別人のようだが、これだけ重なれば無関係とは言えないだろう。宛もなくぶらぶらするよりかはこの僅かな可能性に藁にでもすがる思いで賭けてみるべきだ。落胆してなるものか…!

 

「あの!」

 

「うお!?なによ…」

 

「その、轟牙さんという方にあわせてもらえませんか!?もしかしたら、先輩の手掛かりになるかもしれないんです!」

 

「えぇ…。まあ、名前も似てるし親戚とかかもね。まあ、私も今アイツがどこにいるかは知らないけど。もしかしたら鎮守府にいるかも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュルルル……ドオォォォォ!!!!

 

 

 

「「!」」

 

 

その時、不意をつくように砲弾が飛来し山城とマシュの目の前で炸裂した。咄嗟に、受け身をとると彼女たちは自分たちに迫りくる不気味なふたつの影を目にする…。長い黒髪の女のようで両腕からは柱のようにそびえる異形の砲台。山城は知っている…なんと言ったって自分たちはコイツらと戦うために存在しているのだから。

 

 

 

「深海悽艦!?」

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

 

…ドオォォォォ

 

 

「!」

 

この爆発音を離れた場所で優牙たちも聞いていた…

 

「司令官!」

 

「行こう!!」

 

吹雪を連れ、駆け出す優牙。明らかにただごとではない…もしこの先にマシュがいるとしたら危険に巻き込まれているだろう。相棒の無事を祈りつつ、彼は先を急ぐ…

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

……よりにもよって、山城とマシュの前に立ちはだかったのは深海悽艦・戦艦ル級が2体だった。黒づくめにロングヘアーの女性のようなボディだが両腕には身の丈以上あるやも知れぬ異形の砲台がそびえている。

深海悽艦とはこの世界において、人類の敵。まだ解っていないことも多いが強力かつ知能の高い艦種ほど人型に近く、時には人語さえ理解する個体もいる。今回のル級は雑魚にあたる部類といえど、危険度は高い上に片割れは赤いオーラを纏う上位個体『エリート』だ。硝煙をあげる砲台からして射ったのはコイツだろう。

対し、マシュは盾があるといえど山城は艦娘とはいえ丸腰。対処しようがない。

 

『ハズレタカ…運ノ良イ奴メ。』

 

『エリート、チャントネラッテ!!盾ノ娘ハ生ケ捕リナンダカラ!!』

 

エリートと通常ル級はジリジリとにじりよる。すぐさま、盾を構えてマシュが山城の前に立つ……そこへ、エリートの砲撃がまた飛んでき盾へ直撃。分厚い鋼の装甲の戦艦艦娘でさえ時に容易く貫き粉砕し大破へ貶める凄まじい威力の砲弾である。古の英雄の盾といえどたった1発受けただけで華奢な彼女の体は大きくよろめき、山城が慌て支える。

 

「お、重い…!!」

 

「無茶よ!ここは一旦、逃げないと…!!」

 

『逃ガスカ!!』

 

分が悪い。ここは退散しようとしたがさせまいと放ったル級の砲撃がマシュの足元に炸裂。鎧のおかげで消しとぶなんてことはなかったが、バランスを崩した彼女は倒れてしまう…おまけに劇痛で左足が言うことを利かなくなっていた。なんとか起き上がろうとするも追撃のエリートの弾が盾を主の手から奪いとる。

 

『サア、コレデオワリダ!!』

 

向けられる無慈悲な砲口。無防備なマシュを山城が庇い…そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺 ス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーォォオオオオ!!!!

 

 

『『!』』

 

 

その時、ル級たちは自分たちに向けられた圧倒的な殺気の前に振り向く!!

気がつけば、いつの間にか空には暗雲立ち込め雷鳴が吼え…稲妻が闇から歩いてくる『鬼』を照らす。斬馬刀を背負い、憤怒で鍛えられた眼光が自分たちを射ぬいた…

 

 

鬼………否、『鬼武者』。

 

 

 

 

 

冴島轟牙……これが彼の者の名だ。

 

 

 

 

To be continued.

 

 

 





★山城
不幸だわ。ガロ艦これのヒロインのうちのひとり。扶桑型戦艦二番艦で水上機運用が出来る航空戦艦艦娘。やたらと不幸な目にあいやすいためかネグラな性格だが精神は強い。巫女服に艦橋を模した髪飾りが特徴の大和撫子系美人。(尚、艤装は改)

★吹雪
優牙を司令官と呼ぶ艦娘。本人いわく初期艦なんだとか…
セーラー服にまとめた黒髪のはつらつとした少女。駆逐艦、艤装は未改修。


★不知火 剛
謎の魔戒騎士。優牙たちの手助けをするために現れたらしいがはぐれてしまう。
魔戒葉巻を愛用する。



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鉄塊!

秋刀魚が……とれない。


……例えるなら炎のようにゆらめきながら

 

……現実は地を龍のように踏みしめ歩いてくる

 

 

自分たちへ敵対ではなく『死』を与えるであろう男の存在は人類を仇なす者と自負してきた異形たちに歩む一歩から指先ひとつの動きから畏怖を捩じ込む。

 

『クッ!!』

 

ドンッ!!とエリートが砲撃。寸分違わず轟牙の頭を粉砕するために飛んでいった鉄塊は唸りを上げ、顔面に出した彼の掌に衝撃波を出しきりもみ回転しながらおさまった。先も述べたが、艦娘といえど戦艦クラスの砲弾は命取りになるしシールダーであるマシュですら防御に徹しても受け止めきれない威力……それを男は片手でキャッチボールのように受け止める。そして、その腕にはマシュに見覚えがある輝きを放っている…

 

「あれは!?」

 

鎧…それも金色。部分的に纏っているだけだが解る…牙狼<GARO>の鎧だ。しかし、牙狼は優牙が継承者であるはずだし目の前の男は魔戒騎士の最高位の称号を持つにしては粗暴な格好をしていた。

 

「なにしやがる。」

 

『『!』』

 

轟牙は砲弾を投げ捨て、ギラリと眼を向ける。反射的にエリートとル級は砲撃をぶちかましていた。対し、轟牙は背中の斬馬刀を抜き放ち盾にすると連続する砲撃の硝煙に呑まれていく。これならば艦娘でもない人間が耐えられるわけもない………

 

 

「…ッ!!」

 

はずが、次の瞬間には轟牙が黒煙を突き破り宙を舞うとエリートとル級の懐へ着地から斬馬刀をル級の艤装にガンッと叩きつけ歯を食い縛ると………

 

 

「………ッッ!!!」

 

 

ーー斬斬!!

 

『『!?』』

 

勢いのまま振り抜き、エリートの艤装ごとバラバラにしてみせる。エリートとル級は両手の装備が無くなったために尻餅をつき、マシュは圧倒的な強さに感嘆する…。

 

(強い……!)

 

今までの旅で魔戒騎士に出逢うことはあった。確かに各々の強さや戦い方があったが目の前の男の力は彼等に見劣りしない…いや、もしかしたらそれ以上の強さを秘めているかもしれない。

そんな彼女の思考など知る由もなく、轟牙は斬馬刀の感触を確かめていた。

 

「流石、明石だ。切れ味も前より上がってるな…全く、良い仕事しやがるぜ。」

 

鋼鉄より硬い深海棲艦の艤装を斬り裂いたのに全く刃こぼれしない柱のような刀身。かつてはひび割れ等もあったが、腕利きの魔戒法師による改修のおかげで本来の力に近づきつつある。彼女には感謝しなくては…

ブンッと剣をはらうと黒衣を巻いて背中へひっさげると一言。

 

「失せろ。」

 

『ヒ、ヒィィ!?』

 

脱兎のごとくとはまさにこの事。ボロボロになった艤装を捨てエリートとル級は逃げ去っていく。凄まじい…言える言葉はこれに限る。不意打ちを喰らったとはいえ、ろくに対処すら出来なかったマシュに比べ、一切の反撃を許さず戦う手段のみを奪った力と技術は恐ろしいものだ。

 

(………凄い。)

 

「…」

 

その時、マシュの視線に気がついたのか腕の鎧を解除し歩み寄ってくる。

 

「大丈夫か、山城?」

 

「…不幸だわ。」

 

「そうか。」

彼女が不幸なのはいつものことなのでつまり平気なのだろう。さてと、それなら良いとしてと視線をマシュへと向ける…。屈強な体躯から見下ろされる感覚は彼女にとって威圧感があるものだった。

 

「…何者だ、お前。取り敢えず、俺たち側でも艦娘でも無いようだな。」

 

「わ、私はマシュ・キリエライト…シールダーのデミ・サーヴァントです!決して、怪しい者ではなく…!」

 

「ちょっと、あんたの顔怖すぎ。女の子にそれは駄目でしょ。」

 

確かに、山城の言うように轟牙の顔は阿修羅さながら。注意されるや、顔に手を当て頬や眉間に手を当てると気持ち表情が援和されれた気がした……気持ちだけなので充分怖いが……

 

「ちっ…。少し遠出して帰ってきてみればおかしな連中が溢れてるは深海の奴等は陸にいるわ……どうなってんだ一体…」

 

「あの…すみません、もしかして貴方は『黄金騎士』ですか…?」

 

「ああ?」

 

やはり、気になる……彼が山城の言っていた黄金騎士なのだろうか。だとしたら、優牙に繋がる情報を持っているかもしれない。

 

「私の仲間も黄金騎士・牙狼なんです!だから…」

 

「…何?」

「ひぃっ!?」

 

あれ?自分なにかおかしいこと言っただろうが………途端に顔つきがさっきより険しくなりはじめた轟牙。目力だけで心臓が握り潰されてしまいそうだったが、すぐに解放され彼は後ろに意識を向けた…どうやら問いただす必要性は無かったらしい。

 

「…うちの後輩に何の用です?」

 

「先輩!」

 

いつの間にいたのか轟牙の背に立つのはマシュの捜し求めていた先輩こと優牙。こちらも顔は友好的な顔は浮かべておらず、向き直る轟牙と睨みあう。優牙からすれば後輩に危害を加えようとしていた輩にしか見えなかったが轟牙からは違う…

 

「お前…なんで『黄金騎士』のようなナリをしている?」

 

「…?」

 

白い魔法衣に赤鞘の魔戒剣…ひだりて左手におそまっている魔導輪ザルバといい、牙狼を受け継ぐ魔戒騎士として外見まさにそれ。だからこそ、その存在はあまりにも異質過ぎる者…『まっとうだった頃の自分』を映して張ったよう。

そして、優牙は魔戒剣を突き出し名乗る。

 

「我が名は優牙…牙狼の称号を受け継ぐ者、そして…人の歴史を守るカルデアのマスターだ。この魔戒剣と魔魔導輪ザルバがその証!偽物なんかじゃない!!」

 

「…」

 

勇ましい…若くみずみずしく、正義感にあふれる声。対し、轟牙は老年の番犬のように細めた眼で証と突きだされたそれらを眺めた……すると、『クックッ』と笑い出す。

 

「何がおかしい?」

 

「いや……俺より随分と黄金騎士らしいなと思ってな。まあ、いくら格好がどうだと言ったって最高位・最強の鎧が2つもあるわけない。さて、んじゃ俺も名乗らせて貰おうか……。轟牙、『冴島轟牙』…こんな剣とナリだが黄金騎士・牙狼だ。」

 

「…!?」

 

「……さて、もう一度訊くぞ?お前は何者だ…?」

 

「!」

 

 

…殺気。

 

反射的に優牙は魔戒剣を構えていた。今まで旅の最中で殺意を向けられたことは何度もあったが……唸るよりも静かで、振り上げられた鉄槌のような声は命を奪うことに躊躇いは無い響き。触発……戦慄が走る空気。

しかし、ここでマシュが意を決して轟牙の前に立つ。

 

「待って下さい!貴方が黄金騎士だと言うのなら鎧を見せて下さい!!されが何よりもの証拠になるはずです!」

 

「…」

 

…鎧の召喚。確かにこれ以上の手っ取り早くかつ真実を明らかにする方法はあるまい。余計な戦いも避けれると踏んだマシュの作戦だったが……

当の轟牙は別の方向を見ていた。

 

「…ちっ、誰かは知らないが余計なモン連れてきやがって。」

 

 

 

ーーーォォオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

「「「「!」」」」

 

その時、空が暗黒に淀み…鼻から肺まで腐りそうな邪気が一帯を充たしていく…

同時に地面を砕いて腐りかけの人型(ゾンビ)が一行を取り囲むように次々と立ち上がっていきホラー映画さながらにとり囲みはじめた。

 

『オオオオオオ……騎士ダ、騎士ダァ…我等ヲ斬ッタ騎士ガ居ル!』

 

『…ォォオオオオオオオ…ォォ……ソノ心ハ燃エテイルゾォ!!復讐ッ!!!復讐!!!!陰我ノ炎ガ、メラメラト…』

 

「先輩、これは!?」

 

「マシュ、離れるな!あと、そこの人も!!」

 

異常事態。優牙もこんなケースははじめてだった……まるで、魔界にでも来たような気分だ。この蠢く死体どもは皆がホラーである。しかも、数が多い…マシュと山城をどっちも守りながら戦うとならば骨だ。ここはひとつ、揉め事はさておき轟牙と協力を…

 

「おい、ここは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さがってろ、ガキども。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!?」

 

だが、彼は既に一団から離れて前へ出始めていた…。斬馬刀に手をかけ、つい先まで優牙に向けていた殺気を自らを怨む亡者たちにとばしながら。

すると、亡者たちの反応も更に激しくなる!

 

『鬼武者!!鬼武者!!!』

 

『陰我マミレノ魔戒騎士!!ソノ分際デ我ラヲ斬ッタ!!』

 

『…鬼!…鬼ィ!!!!!』

 

『殺シテヤル!今度コソ、我等ガ!!』

 

 

 

 

 

 

「どうやら、テメェら俺が斬った火羅どもか。なんだって、化けて出やがったのかはどうでも良い…だが、俺は今すこぶる機嫌が悪い。ウサ晴らしさせてもらうぜ。」

 

 

 

 

 

 

ブンッと空を斬る斬馬刀。通常の魔戒剣の含有するソウルメタル量を遥かに超える鉄塊は振るうだけで風が舞い上がった…。告げるのは戦いの狼煙。刃に正義の意味など無く、獲物を喰らわんと主に従う無慈悲な鋼。

 

『寄越セェ!!ソノ肉身ヲ!!!!』

 

「…」

 

 

 

 

ドズンッ!!

 

 

まず、飛びかかってきた1匹が両断されて塵になった。頭から股に裂け…グロテスクな肉塊がマシュや山城の前まで転がってくる。すると、他のホラーたちは後退りをはじめる。

 

「…お前らも怨みつらみか?そうだろうな…だがな、俺の陰我は俺がケリをつける。なにより、俺の復讐は…!!お前らなんかにくれてやるほど安かねぇんだよォ!!!」

 

唸る切っ先が地面と摩擦し、火花を散らす。散らされた火花は光となり円を描く……そこから、金色の鎧が飛び出して轟牙へ纏われる。優牙と同じであれど違う牙狼の鎧。左目は傷で潰れ残る右目は憤怒で血走るように紅い。神々しさより遥かに禍々しさを醸しだす姿は最早、『鬼』。

 

「ォォオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!そこをどけェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

斬馬刀を振るい、牙狼剣へと変え…狼の兜

が咆哮する…!!

 

 

 

 

これが、『鬼武者』と呼ばれた魔戒騎士と人の歴史を取り戻すため戦う『守りし者』との邂逅であった。

 

 

 

 

 

To be continued.

 

 

 

 

 

 

 

 





こちら側の主人公が完全に凶悪すぎる。

優牙くんは正統派だよねぇ。可愛げだったら絶対こっちに分があがる。轟牙は熊とゴリラを足して割った悪人面だもん…


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幼姫!


※関係ない方は申し訳ないです。

タグ忘れくらいなら、普通に忘れてますよぐらいで対応します。わざわざ規約コピペとか貼ってコレ決まりですからとか感想欄に書かなくていいから本当。文句あるなら直接、私へ直接メッセージへお願いします。




……火羅を狩る鎧の戦士『魔戒騎士』

 

 

…………その中で最高位の称号を受け継ぎながら凄まじき戦いから敵・味方から恐れられる男がいた

 

 

 

 

 

その名は『鬼武者』……冴島轟牙!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【幼姫!】

 

 

 

 

 

時はうつろい、夜……

 

 

 

 

「しれいかぁぁぁぁぁぁん、無事でよがっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

「ふ、吹雪!?ちょっ、汚…っ!?」

 

ホラー急襲から暫く、泣きじゃくる吹雪と再会した優牙は鼻水やら涙やらで汚れた顔で抱きつこうとする彼女の頭をおさえながらもこれを喜んでいた。

あれから、轟牙の独眼牙狼はホラーたちをたったひとりで大半を蹴散らして捩じ伏せてみせ窮地は脱せられた…。今は少し離れた海岸で一時ながら休息をとっている。

 

「私、わだし、司令官にもしものことがあったら!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!」

 

「わかった、わかったから顔ふこうな?」

 

「先輩、こちらの方は?」

 

「ああ、この娘は『吹雪』。多分、サーヴァントだと思うんだけど……」

 

「はっ!? はじめまして、特型駆逐艦・吹雪型一番艦・吹雪です!も、もしかして司令官の奥様でありますか!?」

 

「へ!?」

 

いきなり何を言い出すんだこの娘は。面食らったマシュは顔を真っ赤にしてシドロモドロになるが、優牙が『マシュは大事な俺の後輩だよ』と笑顔で答える。

 

「そうですね、はい。私は先輩のサーヴァントで後輩です…。」

 

彼女も助け船に乗り、落ち着いたがその瞳はどことなく残念そうだった…。優牙はそれに気がつかなかったが……

と、ここで轟牙が咳払いをしてやってくる。

 

「…話をするぞ、お互いの今後についてだ。取り敢えず、魔戒騎士で潰しあってる場合じゃないようだ。」

 

山城も一緒になり、顔をつきあわす一同。さて、お互いに立場は違うし目的も違う…だが、置かれている状況はまず同じ。ここはひとつ、照らし合わせるべきだろう。

 

「お前らは人類の未来を守る魔術師の組織カルデアから来た…そして、現状はそこへ戻る手段を捜していると。悪いが、これについて俺たちは助けにはなれない。そんな組織も知らねぇし、人類が焼却されて滅んでるなんても信じられない。現状、俺らはピンピンしてるしな…」

 

「詳しい説明は通信が回復すればできると思うのですが…」

 

人類継続保証機関フィニス・カルデア。

まず優牙とマシュの目的は本拠地であるそこへの帰還…なのだが、カルデアの通信は全く機能していない。恐らく、ワイパーンを倒した時に発生した時空の穴(?)に吸い込まれた時にこちらを見失ったのだろう。帰還するにはあちら側から操作してもらわなくてはならないため自力でどうにかするのは無理に等しい。

そして、優牙たちからすればここは時間の歪み『特異点』だと思われるということだ。しかし、現地人である轟牙たちがどのようにおかしいなど実感がわかないのだ。

 

「もしかしたら、不知火さんなら何か…」

 

マシュはワイパーン討伐の時に出逢った魔戒騎士・不知火 剛を思う。間違いなく彼はサーヴァントであり、カルデアの事情を把握している節があった。彼ならばなにか知っていてもおかしくはないが…どうやらこちらもはぐれてしまった様子。途方にくれていると轟牙はある提案をする。

 

「お仲間のもうひとりの騎士か。なら、番犬所だな。あそこならそれなりに情報が集まる。ちと遠いが、歩けばそのうち着くしこんな所でウロウロしてたらまた深海の奴等なり火羅なりきてもおかしくない。」

 

「名案だな。マシュもそれで良い?」

 

「番犬所…魔戒騎士の統括組織ですよね。私は別に…」

 

 

 

 

 

 

 

「待って下さい、司令官!」

 

 

 

 

休息のためにも番犬所に向かおうと纏まろうとしたが、否と声をあげた吹雪。優牙の前に立つと焦った様子で喋りだす。

 

「鎮守府はどうするんですか!?早く着任手続きをしないと……」

 

「吹雪。さっきも言ったけど俺は『提督』じゃない。悪いけど、君と一緒にはいけない。」

 

「そんなっ!?」

 

仕方ない。彼女には申し訳ないが、ここはキッパリと言うべきだろう。

そんなやりとりを山城は不審そうに見ていたのをマシュは気がつく。

 

「…山城さん?」

 

「…」

 

何を考えているのだろう。知り合いなのだろうか…にしては、吹雪は優牙ばかりで彼女へ意識は向けない。そういえば、彼女は何者なのだろう?背負う艤装や『特型駆逐艦』と名乗っていたあたりから彼女も艦娘らしいが何故に優牙を司令官と呼ぶのかは謎だ。そして、彼を鎮守府なる場所に連れていきたがっている…すると、優牙は…

 

「わかった、じゃあ吹雪が俺たちに着いてきて。今の状態が落ち着いたらちゃんと鎮守府に行くから…」

 

「ぐずっ……本当………ですか?」

 

「ああ。轟牙も問題ないだろ?」

 

「フン……責任持ってテメェで守れ。」

 

鎮守府もいずれ行くという条件のもとでパーティに加えた。轟牙の了解も得られたことだし……早速、番犬所を目指すために歩きだす一行。

 

 

しかし、山城の吹雪に対する訝しげな視線は変わらなかった…。

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

明(あけ)の管轄……優牙は向かう道中にて自分たちの今いる場所と目的地について訊いていた。まず、ここはフランスではなく日本で現代にかなり近いということ。深海棲艦と呼ばれる海より来る人に仇なすホラーとは違う異形にそれと戦う艦娘についても。そして、吹雪や山城もそれに当たるということも…

 

「確かに、世界が狂ってるって言えばそうなんだろうな。まあ、マトモな世界なんて何なんだって話だが……」

 

内心、優牙は驚いていた。艦娘のことがどうではなく、話をする限り轟牙が先の戦いぶりは嘘のように落ち着いていることに…。もしかしたら、かなり敵対的な態度をとられるかと覚悟していたのに少し拍子抜けだ。

同時にとても気になるのは彼の風貌。黄金騎士なのは鎧召喚によって証明されたわけだが魔法衣も無く、剣も最高位の鎧に宛がわれる刃にしてはあまりに無骨な斬馬刀。加え、ホラーたちが呼んでいた『鬼武者』とは…

 

「…(この人は一体、どんな道を歩んできたんだ…)」

 

判るのはただ者ではない。それが、正しいベクトルの力はともかく…まさに鬼のような戦いぶりは同じ牙狼である優牙でさえ息を呑んだ。強い…けど、危うい。今に至るまで何があったのかは想像もつかないが恐らくは修羅の道だろう。その孤高の背は何を背負ってきたのか…

 

「明の番犬所はもうすぐ………俺の顔になにかついてるか?」

 

「あ………いや…」

 

しまった、見過ぎてしまったようだ。気まずくなり、隣のマシュと吹雪に視線をそらすと……

 

「それで!それで!!どうなったんですか!?」

 

「はい、私たちはワイパーンをジャンヌさんと一緒に……」

 

マシュは吹雪に自分たちの冒険談を語っているようだ。吹雪は熱を持ち、食い入るように聴きいり……マシュはまんざらでもないと語り部の役を担っている。どことなく気恥ずかしくなってくる優牙だったが、ふと…山城が距離を開けて吹雪をじっと見ている。話に混ざれないにしては、違和感があるが……まるで、警戒しているようである。

何となく気になったが、先導する轟牙が足を止め…同時に皆が目的地に着いたと悟った。

 

「……ここだ。」

 

松が茂る防風林地帯のど真ん中。そこに鎮座する盛り上がった下半身くらいの奇妙な岩が入り口らしい…

轟牙が近づくと、地面が割れるように変形して地下への階段が現れる。

 

「本来、部外者を入れるなんざ大目玉もんだが非常事態だ。ついてこい……」

 

マシュと吹雪はごくり…と息を呑み、山城は『さながら、RPGゲームね』と呆れたように呟きながら轟牙に続く。

 

 

中は薄暗い洞窟が続き、不気味な上に蝙蝠などがたまにかすめて飛翔するので吹雪が悲鳴をあげそれを優牙が眺める。不幸だわ……と山城は変わらず嘆いて済ませ、轟牙は黙々と進む。

 

「暗いですね、先輩。」

 

「番犬所はどこも大体こんな感じだよ。足許を気をつけて…」

 

マシュを気遣いながら、暫くすると広場のような開けた空間に出る。そのど真ん中の白い饅頭のようなクッションにポヨンと乗っている真っ白い雪のような少女がいた。少女だが、小さな双角がありくりくりと丸い紅い瞳は人ならざる者。途端に山城は顔を真っ青にして絶叫した。

 

「北方棲姫(ほっぽうせいき)!?なんでこんなところにいるのよ!!?」

 

「「…?」」

 

『五月蝿イ奴ガ来タナ。』

 

彼女はそのまま這いつくばって念仏まで唱えだす始末。一体、目の前の呆れている幼女がなんなのか優牙やマシュにはわからないが轟牙からさらりととんでもない事実が告げられる。

 

「コイツは北方棲姫……元・深海棲艦の親玉でこの明の番犬所の神官だ。」

 

「「!」」

 

「平気だ。襲いかかりゃしねぇ……機嫌を損ねない限りはな。」

 

「「!?」」

 

『不敬ダゾ。』

 

深海棲艦は通常の戦艦などの艦を束ねる上位の存在『鬼』『姫』とランク付けされる個体がいる。それらは数が少ないが他の追随を許さない圧倒的な戦闘能力を持つ……。彼女、北方棲姫は他の姫級に比べればまだ弱いくらいだが戦艦艦娘が1人いた程度ではお話にならないくらいの強さだ。無論、それほどの相手となれば艦種として小さい駆逐艦の吹雪は真っ白になり魂が抜けている有り様。

しかし、人類を仇なす異形の親玉が魔戒の組織である番犬所の神官とは訳がわからない。

 

「相変わらず、暇そうで安心したぜ。」

 

『不敬ダト言ッテイル。貴様ノ耳ハ節穴カ?マタ、寿命ヲトッテヤッテモカマワンゾ。』

 

彼女に対し、轟牙は完全に敬意0の不遜な態度。確かに優牙とマシュからすればこの小さい幼女がそこまで恐ろしいとは思えないのだが……

すると、轟牙はマシュにボソッと耳打ちする。

 

「…(何か適当な甘味とかないか?)」

 

「…(え…あ、それでしたら、確かドクターから頂いた茶菓子のクッキーが…)」

 

盾の中をゴソゴソとあされば出てきたのはビニールの小袋に包んだクッキー。奇跡的にあまり割れていなかったためこれを北方に差し出すと幼女は『フム…』と見定めるやマシュの手から奪いとりボリボリと咀嚼をはじめる。

 

『…西洋ノ菓子トハ洒落テイル。気ガ利クナ、誉メテヤロウ。』

 

「は、はい…恐縮です。」

 

別に特段に珍しいものではないのだが……黙っておこう。

さて、本題はここからだ。

 

「北方、ここで何が起きている?鬼ヶ島の連中はどうした? 」

 

轟牙が気になっているのはこの辺り一帯の守護を担う鬼ヶ島鎮守府の艦娘や魔戒法師がどうしたのかということ。深海棲艦どころかホラーまで闊歩しているのは異常である。何かあったのは間違いないだろう……すると、北方は語りはじめる。

 

『ワカランカ?存外、鈍イ奴ヨナ……コノ世界ハ時間ガ狂ッタ特異点トナッテイル。大半ノ者ハ時ノ歪ミ二封印サレテイルノダ。勿論、鬼ヶ島ノ【烈夢】アヤツモダ……』

 

「…つまり、身動きがとれなくなっているってわけか。」

 

烈夢……明の管轄の魔戒法師であり山城ら艦娘たちを統べる提督。その能力の高さは轟牙だって認めている。そんな彼女がどういう成り行きかは知らないが行動出来ずに深海棲艦とホラーの闊歩を許しているとなれば事態は相当悪い。しかし、なら何故に山城は無事なのだろう?

その答えも知っていると幼女は嗤う。

 

『コノ世界デ動ケルノハ私ノヨウニ【ガジャリ】二ツカワサレタ者ト黄金騎士二強ク縁ガアル者ノミ。ソコノカルデアノ魔戒騎士ト小娘ノヨウニナ。』

 

「…私たちのことを知っているんですか!?」

 

『無論ダ。』

 

マシュも驚かざらえなかった。まさか、自分たちのことまで把握しているとは…

すると、彼女は求めていた情報を話しだす。

 

『オ前達ガ捜シテイルノハ火炎騎士、不知火剛ダロウ?アヤツモココニ来テイタ。今、奴ニハ生キ残リノ保護ヲ命ジタ…西ノ街道二イルハズダ。』

 

剛が来ていた…予想は当たっていた。なら、はやく彼と合流すべきだろう。彼は既にワイパーンとの戦いで傷を負っているのだ…いくら魔戒騎士とはいえこの魑魅魍魎の徘徊するこの世界で長く動けるとは思えない。

ならば、善は急げだ。礼を告げることなく轟牙は背を向けて番犬所をあとにしていき、山城と吹雪も慌て続く。流石にこれは無礼とマシュは一礼し、優牙も続こうとしたが……

 

 

『待テ、カルデアノ騎士。』

 

「…?」

 

北方に呼び止められ、歩を止める。 他の面々はあっという間に見えなくなるほど遠くに行ってしまったがお構い無し。一体、自分が何をしたというのか……というわけではなく、話があるらしい。

 

「俺に何か…?」

 

 

 

 

 

『貴様二警告シテオクベキコトガアル。』

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく.

 

 





★アイブラ世界観設定

・深海棲艦と魔戒の者たち
深海棲艦は人に仇なす者が大半だが、時に縄張り争いに負けた鬼・姫などを紆余曲折を経て番犬所の神官として起用並び保護している。これは守りし者たちの深刻な慢性的人手不足にも由来している。深海棲艦は与えられた仕事の代わりに保護・人を傷つけることは禁止されているが、魔戒側は深海棲艦を非武装化以上のダメージを与えないようにしている……勿論、火羅に堕ちていれば話は別だが……


・明(あけ)の管轄
東の海に面する鬼ヶ島鎮守府の魔戒法師・烈夢が担当する管轄。本来なら、火羅や深海棲艦が闊歩するような場所ではない。元々は海辺の昔ながらの日本家屋が並ぶ港町である。



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追憶! 前編

新年初、更新!!お久しぶりです。

このあと、神の牙見に行く予定です☆ そのためまず、新幹線に乗らないといけないっていう…




「…」

 

明の番犬所をあとにした一行。取り敢えず、近くに使われていないあばら家を見つけそこに腰を下ろして一晩を過ごすことにした。

本来、一刻でもはやく西の街道に行かねばならないがダメージを受けたマシュに身ひとつでさ迷っていた山城はもう限界がきていたのである。優牙の魔法衣をかけ布団にマシュはすやすやと眠っており、轟牙は隅であぐらをかき目を閉じている……恐らく、寝ているわけではないようだが。一方、優牙は吹雪を連れて見回りをしていた。出逢ってから色々あったが、晩になっても平然とついてくるあたりやはり幼い姿であってもサーヴァントなのだろう。

 

「うう、先は情けない姿をお見せしてしまいました。すみません、司令官。」

 

「…」

 

番犬所の件で落ち込む彼女を見据える瞳で優牙は別のことを考えていた。最後、別れ際に北方が言い渡した言葉が気になって仕方ない……

 

 

 

ーー……アノ駆逐艦ノミ、『サーヴァント』ダ。気ヲツケロ…何カ裏ガアルヤモ知レヌ。

 

 

 

「司令官?」

 

小首を傾げる純粋であどけない表情に隠したものがあるとは思いたくない。でも、北方曰く轟牙が山城が生きている現地人なのに対して彼女のみこの世界の住人でありながらサーヴァントということ。考えられるのはすでにこの少女は故人で世界を守護する異常に対するカウンターとして現界した可能性……ありえなくもない。この世界で偉業を遺した艦娘なら英雄としてサーヴァントになったとしてもおかしくないのでは?

 

……それにしては、随分と弱そうであるが

 

「なあ、吹雪……」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「俺は君とあったのは今日がはじめてだ。何故、俺を司令官と呼ぶ?」

 

なら、手っ取りはやく問おう。時間は無駄にはできない。

 

「俺は魔戒騎士…そして、カルデアのマスター。海軍の人間じゃない。そもそも、この時間の人間でもない。これは事実だ。だから、答えてくれ…何を隠している?」

 

「どうして……どうしてそんなこと言うんですか……。私は……何も……何も隠してなんかいません!私は司令官の初期艦で!!一緒に鬼ヶ島鎮守府に…!!一緒に艦隊を……!!」

 

対し、動揺と悲しみを振り撒くように声を荒くする吹雪。若干、ヒステリックの域があるが優牙は動じない…いや、動じているように見せはしない。痛む胸中を押し留め彼女と向き合う。

 

「なら、順を追って話してくれ。君の中で俺とはじめて出会ったのはいつだ?」

 

「…っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、あんた『吹雪』なのね。」

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

その時、背後から声をかけられ振り向けば山城の姿。先から吹雪に対する目線は気がついていたが、彼女の疑問は今の会話で確信へと変わっていた。

 

「鬼ヶ島の初期艦…それは間違いなく吹雪。最初は別の同銘の空似かと思ったけどね。ずっと、他人のようにシカトこいてるからまんまと騙されるとこだったわ。」

 

「だ、騙す……?」

 

「なんでソイツを提督と呼ぶの?私達の提督を忘れた…?貴女と一緒に歩きだしたあの人のことを忘れたの…?」

 

「私の司令官は優牙さんです!!それ以外、ありえな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーパチンッ!!

 

 

 

「!」

 

 

乾いた音がした。

それが、山城が吹雪の頬をぶった音なのだと理解するのは時間がかからなかった。山城の眉間には怒りが露骨にわかるほど眉間に皺が寄せられ、吹雪の頬は赤く腫れている…。直後、吹雪は顔を伏せ何処へと走り去ってしまう。

 

「吹雪!」

 

すぐに優牙もそのあとを追い、共に深い林の中へ…

 

 

暫くすると、山城が完全に視界に入らなくなったあたりで泣き崩れて踞る彼女の姿があった。『吹雪……』と不安に思いながら震える肩に手をかけると……

 

「……!」

 

目の前で光が弾ける。まるで、花火が炸裂したような眩しさに視界を奪われ…彼は意識を手離した。

 

 

 

 

 

 

★★ ★★ ★★ ★★

 

 

 

 

その頃のあばら家……

 

 

 

 

「……(寝つけない。)」

 

一時は深い眠りに入ったものの、何かの拍子で目が覚めてしまったマシュ。まだ夜だとわかると二度寝しようかと思ったが、妙に目が冴えてしまって寝つけないでいた。う~ん、困った…。確かに身体から今一つ疲れが抜けきっていないのだが睡魔は仕事をする気配は無い。仕方ないと、身体を起こすと囲炉裏にパチパチと焚き火に火を灯す轟牙の姿が目に入った。

 

「わりい、起こしちまったか。」

 

「あ、いえ……あ……」

 

この時、マシュは炎に照らされた轟牙の鋼のような身体を見た。上半身の服を脱ぎ、汗を拭いていたのだろう…しかし、布切れを持つ手では隠しきれないほどの斬り傷や抉られたような幾つもの傷痕…それに、禍々しい胸の薔薇のタトゥー。歴然の戦士というよりかは、幾つものの死地を乗り越えてきた獣とでも言うべきそれにマシュは息を呑む。実際、本物の男性の裸など彼女には見る機会などまずなかった……ましてや、轟牙の肉体はそれなりに彼女にとっては刺激があるものだった。

 

「……なんだ?」

 

「!……えと、その…凄い身体をしてますね…!?」

 

しまった、じろじろと見すぎたか!?慌てるあまりすっとんきょうな音程でかえしてしまうが、轟牙は特に気にすることなく薪をくべる。

 

「まあな。魔戒騎士やってら、切ったはったやら腹をぶち抜かれるなんざよくあることだからな。まあ、俺の場合はそれだけじゃないが…」

 

「よ、よくある……」

 

斬る斬られるはまだしも、腹を貫かれている日常なんてよく生きていられると思うマシュ……。まさか、優牙もあの優しそうな顔をして数々の傷痕をその身に刻みつけているのかと思うといたたまれない気持ちになるが、それでも笑顔を持つ彼はやはり強いのだろう。

一本化で轟牙は対照的に全く笑みを見せることはない。まあ、笑うような場面などここに来るまで無かったのは事実だが、戦う時の荒々しさ以外は一遍した態度のまま。それに……

 

(……あの剣…)

 

今は主の横に横たわる斬馬刀。辛うじて牙狼の紋章である『△』印は確認できるが、脈々と続く系譜の剣にしてはあまりにも無骨で歪。優牙の魔戒剣に比べると同じ牙狼剣に成るものとしては何も知らなければ到底、同一のものとは思えない。そして、轟牙の戦い方も……あれは戦士というよりは怒り狂う嵐。逆鱗に触れられた竜……そんな言葉あうような気がする。

 

「……………優牙か…」

 

「え?」

「若いな。俺もあんな頃があったか…もう随分、昔の話だが……」

 

不意に優牙について触れる彼。その横顔はかなり老けているようにもくたびれているようにも見えた…。鼻からゆっくりと溜め息を洩らし、眼差しは焚き火の光が揺らめく愛刀に向けられていた。心なしか優しさとも悲しみともつかぬものが帯びているように見える……

 

「お前らが悪党とかの類いじゃねえのは見た瞬間から薄々わかってた。ま、お前らの言う歴史の焼却とやらはまた別だが…取り敢えず、近くにいる分くらいは信用することにした。」

人類史焼却。優牙とマシュの世界を襲った文字通り、人間の築いてきた原始から現代までにいたる全てを焼きはらわれた未曾有の事件。歴史はホラーの手によって狂わされ、それを解決するために時代を旅して原因である歴史の歪み=特異点を排除するため時代を旅するのが彼等の旅。

番犬所へ向かう最中、それについて話はしたが轟牙はおろか山城も信じなかった。無理のない話、あまりにも現実味が無い…それに、轟牙の世界ではそもそも人類史焼却など起きていないのだから。

 

「お前たちは俺にはもう無い『光』を持ってる。ソイツは尊いもんだ。」

 

「……?」

 

「…て言ってもわかりゃしねえか。悪い、変なこと言った。忘れろ、んでまた寝ろ。」

 

最後、ぶっきらぼうに言い残すと服を身につけ自分の腕を枕に横になる轟牙。暫くすると、彼は微動だにしなくなり…眠りの世界へ旅立つ。しかし、その顔はまるで死人のように生気が失せ…当の昔に魂が抜けた亡骸のようにマシュには思えた。

 

(この人は……一体、どんな人生を歩んできたんだろう?)

 

思い出す昼間の荒れ狂う戦い様。命を薪にしてくべるように刃を振るい、夜は死んだように眠る。こんな彼がかつて優牙のような人物だったなら、彼の過去になにがあったのだろう……?あれほどの強さと無数の傷が沈黙で何かを物語るが、残念ながら今のマシュには読み解くのは難しい。

 

(先輩……)

 

もし優牙が轟牙のようになるとしたら?ふと、そう考えると何故か胸が強く締めつけられた。なにか違う、今まで出会ったジャンヌ・ダルクといった英雄たちや魔戒騎士たちとは決定的に彼の『何か』が……

 

『…全く、コイツは相変わらず言葉が足りんな。』

 

「!」

 

突然、聞き覚えのある声が……しかし、轟牙の左手におさまっているのは見知っている形をしているが全くの別人である。

 

「ザルバさん……ですよね?轟牙さんの……」

 

『如何にも。俺がこのクソッタレ騎士の魔導輪さ。』

 

魔導輪ザルバ…こちらはあまり違いは見受けられないが今まで知るザルバとは異なるとなれば不思議な感覚だ。まあ、こちらもそれなりに口が悪いようだが……

 

「そんな……轟牙さんはお強いですよ。私や先輩が束になってかかっても勝てるかどうか………」

 

『む、お嬢ちゃんは魔戒騎士の強さを些か勘違いしているようだな。コイツの言葉を補填しておこう。魂を怒りや憎しみに委ねるな……例え、大切なモノを奪われた穴を復讐で埋めようとしてもいずれ自分が喰い破られる。もしくは、余計な悲劇を産む。現状そうなっている本人がいるんだから間違いない。』

 

「…復讐………轟牙さんは誰かに恨みを…?」

 

『ああ。それが、今の奴の原動力で戦う意味……全ては守るためではなく、己の怨みを晴らすため。栄えある黄金騎士の称号を持ちながら業を背負い、刃を振りかざしている。勿論、それに至るべき理由は確かにあるんだが……。』

 

確かに轟牙の戦い方は異常である。優牙はまだまだ未熟ながら『剣術』と呼べる領域だが、ホラーを力任せに腕っぷしと斬馬刀にモノをいわせる轟牙のそれは剣術と呼んで良いのかは傍から見たマシュにも疑問があった。

 

『結局、コイツは捨てた…受け継いできた誇りも技も、友も、優しさも…。人間としてあるべき良心の殆どを煮えたぎる怒りにすり替えちまった。その虚しさはまた本人も理解しているが切り離せない……だから、まだ大事な『心』を捨ててないお前たちには同じ道を歩んで欲しくないのさ。』

 

全てを…心を投げだすほどの怒りに駆らせる復讐。なにがそれを滾らせるのだろう。

自分も虐殺を見た…人の命が踏みにじられるのを見た……それに怒った、理不尽だと。でも、自分の核…心を削るようなことは無かった。決定的に自分も優牙も無かった。むしろ、より旅の完遂をすべきと決意を新たにして前に進む決意を固めた。復讐鬼という答えには至らなかった。

 

…そう、まだ彼女が憤怒や復讐というものを知るには純粋すぎたのかもしれない

 

 

しかし、魔導輪は語る

 

 

 

 

『人の心には鬼が棲む。万人、誰とて例外はない…何が鬼を目覚めされるのか、例え仏のような人間を阿修羅にも迫る鬼へと堕とさせるかは嬢ちゃんだっていずれ解る。ま、あの騎士のボウズを想うなら自分の命は粗末にしないことだな。』

 

…そんなことわかる日が来るのだろうか。のしかかる重い疑問を抱きながらマシュはザルバに挨拶をして優牙の法衣に再びくるまり目を静かに綴じた。

 

 

 

 

 

 

《 G A R O 》

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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追憶! 後編

コラボ編、終盤に。



<Iron blood Horizon>

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

特型駆逐艦吹雪型一番艦 吹雪

 

後に迫る世界大戦で活躍する新世代の特型駆逐艦の先駆けであった。 しかし、いざ戦乱時に入ると期待されていた戦果は残せず、多くの艦と共に続く形で砲火を浴び海底へと沈んでいった…。これが、艦として艦娘である吹雪がその銘と力をその身に受けた時から共に刻まれた記憶。

 

 

「だから、私は……今度こそご期待に……」

 

 

ーー大丈夫よ、吹雪姉さん。私が一番に声がかかったなら次はで吹雪姉さんにも声がかかるわ。

 

 

「…私は………ご期待に…答え…」

 

 

ーー電は、先にいってます。待ってますからね、吹雪ちゃん。

 

ーーこんなドジな私でも初期艦に選んでくれた人がいたんだもん。きっとすぐだよ。

 

 

「……ご期待に答え………」

 

 

 

ーーやったぁ!!念願のご主人様ゲッチュ……あ…

 

 

「……」

 

 

本当に期待されているのだろうか。古ぼけた校舎で気がつけば自分は独りで取り残されている……。同期たちは皆、一足先に戦場へと行ってしまった。今頃、各々の新米提督たちと新しい生活をはじめているだろう…もしくは、戦場の海原へ繰り出しているに違いない。それなのに……

 

 

ーーまだ、あの娘…残ってるのか。もうちっと、演習の戦績が良ければなぁ

 

 

ーーいくら、戦術の理解が高くたってそりゃあ頭でっかちじゃ戦場には出せない

 

 

ーーしかも、泥艦だろ…身寄りもないんじゃ、帰してやる場所も無い

 

 

囁かれる心無い言葉…でも、事実だ。だから、私は勉強した…努力した…いつか、私を選んでくれる司令官(誰か)のために…

 

 

 

そして、私は出逢えた…司令官に…私の提督…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『優牙!…優牙!!』

 

「!」

 

魔導輪の声、我にかえった自分は林に戻っていたと気がついた優牙。何だったのだ今のは…吹雪の情念が頭に直に流しこまれるような感覚……あれは、彼女の記憶だったのだろうか?孤独、焦燥、感傷、未だにいたいけな少女が押しつけられるには重すぎるそれらをずっと抱えていたのか?

ふと、気がつくと胸元に誰かが踞る感触を覚え…見てみると泣きじゃくる今にも折れそうな彼女の姿があった。

 

「……私、嘘なんてついてません。優牙さんは私の司令官です。私を選んでくれた提督です……。だから、お願い…ひとりにしないで………見捨てないで………」

 

「吹雪……」

 

怯えている。自分が信じたものが虚構かもしれないという不安とまた誰にも見向きもされない独りぼっちに戻るかもしれないことに……

その全てを優牙は図れるわけではないが、せめて抱きしめてあげようと手を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『優牙、うしろだッ!!』

 

 

「!」

 

 

その時、ザルバの警告。咄嗟に手を魔戒剣に走らせ身を翻すと飛来してきた鋼の二刃を弾きとばして吹雪を庇う。そして、獲物を狩り損なった刃は虚空で弧を描くと茂みの影にいる主の両手に吸い寄せられるように戻った。この動き、普通の鉄の武器で出来るものではない……優牙は察する…これはソウルメタル特有の軌道。つまり、今の攻撃は『魔戒騎士』によるもの……

 

「司令官…!」

 

「吹雪、下がってろ!! 何者だ!?」

 

 

問う、何故に自分たちを狙ったのかと闇に佇む人物に…

 

すると、優牙の声に呼応するように月明かりが射し込んでいき『男』の姿を照らしていく……

 

 

「…俺が誰かって?」

 

 

「…!」

 

知っている声!!いや、まさか……しかし、ツナギを着た轟牙な退けをとらない体格と2振りの魔戒剣……顎髭は……

 

 

「俺の真名は『へルマン・ルイス』……またの名を、魔戒騎士・ゾロ!!」

 

 

魔戒騎士ゾロ……へルマン・ルイス。かつて、優牙たちとオルレアンで共に戦った魔戒騎士。中年にあたる姿で召喚されながらもその強さは破格かつ歴戦の英雄すら唸らせる実力である。頼もしい味方だったが…今回はそうでもないらしい。

余裕の笑みを浮かべて歩み寄ってくる彼を、優牙はキチリと魔戒剣を握り直して相対する。

 

「久しぶりだな、優牙。オルレアン以来か……あのあとも特異点を攻略したらしいが……。ふむ、期待したほど強くはなっていないらしいな。」

 

「へルマン、本当に貴方なのか?」

 

「ああ、本当さ。本物のへルマン・ルイス……絶影騎士の称号を担い、お前やジャンヌと一緒にオルレアンで竜の魔女を倒したへルマン・ルイスだ。」

 

『嘘は言ってないようだぞ。確かにあの時にあった奴の気配と全くかわらない。』

 

ザルバも本物認定。ならば、どうして自分を狙ったのか?以前、魔戒騎士のサーヴァントでも敵対した前例があることをふまえると今回の彼が味方であるとは限らない。吹雪を庇うように構えていると、へルマンは優牙を…否、吹雪を見据えて指をさす。

「感動の再会といきたいが……悪いが、時間がない。その娘を渡してもらおうか。」

 

…わ、私?と、驚く吹雪…別にへルマンとは何の関わりもない彼女。勿論、優牙もそうふたつ返事で即答するわけもなく……

 

「何故ですか?」

 

「説明している暇はない。」

 

理由を問えばこの始末。予想していたが、ますます怪しい。引き渡すことなく間があくと、呆れたように溜息をつくへルマン……

 

「おいおい、お前さんだって薄々わかってるだろ?その娘は今回の『異常側』のサーヴァントだってことぐらい。」

 

指摘。確かに吹雪はおかしなことばかりだった……初対面の優牙を提督と呼ぶし、艦娘でありながらサーヴァントでもある。明らかに対人関係も不自然だ…疑わしい要素は多々目につく。もしかしたら、騙しているのかもしれない…何か企みがあるのかもしれない。もしかしたら、ホラーに加担している可能性もある。

 

「なら、あなたは吹雪を斬る気ですか?」

 

「必要ならな。」

 

へルマンも短く切り詰めた答え方から本気だと判る。魔戒剣を構えなおし、いつでも臨戦状態へと移行できる間合いで優牙たちを見据え…今か今かと好機を窺う獣のように脚を進めていく。優牙は吹雪を奪われないよう庇いつつ魔戒剣を突きだして牽制し間合いに入られないように相手から眼を一切離さない。

 

しかし…

 

「司令官は、私が守ります!!」

 

 

「吹雪!?」

 

突然、吹雪は前に出るなり単装砲をへルマンに放つ!…が、簡単にへルマンに弾かれて一瞬に間合いを詰められると少女の身体にあまりにも重い峰打ちが首筋にギロチンのように振り下ろされ意識を奪いとる。そのまま、彼女はへルマンの胸の中に崩れ落ち、わずか5秒とみたない内に奪われてしまった。

 

「隙だらけだな。守りも甘い……これで黄金騎士とは笑わせる。」

 

「吹雪を返せ!!」

 

すぐさま、鎧を召喚し牙狼を纏った優牙はへルマンからの奪還を試みるが、振るう牙狼剣はことごとくかわされるか片手の魔戒剣でいなされてしまう始末。へルマン側が吹雪を抱えるぶん、不利に見えるが実際は優牙も吹雪を傷つけないように気が気でなく思うように立ち回れないでいた。

 

「てやッ!!」

 

「ぐッ!?」

 

そんな隙を突かれ、丸太のような脚が牙狼の腹に勢いよく食い込む。ドンッと砲弾が当たったような音と共に牙狼の口元から息が洩れ、『く』の字になってふっとばされてしまい樹に叩きつけられてしまう。相手はまだ鎧を纏っていないというのになんという強さか……。かつて、彼が味方であったことがどれほどたのもしかったかを痛感しつつ痛みをこらえて立ち上がる。

 

「……痛ッ…」

 

「さてと……んん?おっと、これはまずいな!」

 

「?」

 

 

 

 

ーードゴォォォォ!!!!!!!

 

 

まだ立ち直るかどうかの1秒かそこらに満たない次回だった。背後から砲弾のような影が唸りを上げながら頭上を飛び越え、へルマンが冷や汗をかきながらそれを魔戒剣で防ぐ。勢いをつけて襲いかかってきたのは鉄塊…斬馬刀であり、質量と運動エネルギーがもたらす衝撃は踏ん張る彼の足元が砕けて塵が舞い上がる様から凄まじいものだと推測できる。やがて、持久されるにつれ勢いを殺されるのを勘づくと刃を弾いてヒラリと影……轟牙は間合いをとって牙狼の前に着地する。

 

「轟牙!」

 

「騒がしいってきてみりゃあ……どうやら敵みてぇだな。」

 

物音なしたとは優牙が魔戒剣を弾いた時か……だとしたら、ある程度距離が離れているあばら家から文字通り防風林の中を突撃のスピードのまま突っきってきたのか!?だが、驚いているほど余裕は無い。

 

「ほお?お前がこの世界の黄金騎士『鬼武者』か…?」

 

「そういうオッサンは火炎騎士か?」

「残念ながら人違いだ。俺は絶影騎士・ゾロさ、鬼武者。」

 

「そうかい。なら、その小娘を置いて失せろ。今の一撃を耐えるなら殺さないように加減する余裕は無いぜ?」

 

「言うなぁ、若僧?なら、来いよ!!」

 

次の瞬間、へルマンは吹雪は放りだされ両者は鎧を纏う!目映い閃光が刹那、視界を埋め尽くすと独眼の金狼と凛とした銀狼『絶影騎士・ゾロ』が激しい剣乱舞で喰らいあう!!火花が絶え間なく迸り、剣圧のぶつかりあいは小さな嵐そのもので地面に倒れた吹雪の身動きをしがみつくぐらいで精一杯なものにしている。

 

「おぉぉぉぉぉぉォォ!!!(このオッサン、隙が無ェ!!!)」

 

「…ダァァ!!(コイツの一撃、なんて重さだ…一発でも貰ったらヤバいな…)」

 

両者、戦慄する……一瞬のミスが命とりになるであろう。今、拮抗しているのは若さの差と練度の差が実力の天秤を平行にしていることか…。

 

「吹雪!」

 

この内に、吹雪を助けようと優牙は鎧を解除し、助けに向かおうと走るがその前に外廊を纏う剣士が現れ先に彼女を奪いとった。顔は影になって見えないが優牙はその剣士の持つ独特の刃に見覚えがあった。深紅に輝くうねりのある刀身はかつてセプテムで見た……

 

「!……あなたは!?」

 

「…(ニヤリ)」

 

すると、剣士は吹雪を抱えたまま優牙へと迫るッ!反射的に剣撃を弾いたが、その際に火花の代わりに薔薇の花弁が舞い散り……風に流されたそれは独眼牙狼の視界に入る。

 

「!!(薔薇……!!!)」

 

 

ーーーー脳裏に焼きついた黒い薔薇が咲き誇る忌々しい記憶が手を伸ばす。

 

ーーーーーー憤怒は理性を喰らい、自我すら燃やして激情として燃え上がる。

 

 

 

「うおおおおおおおおオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!黒薔薇ァァァァァァ!!!!!!!」

 

「何!?」

 

途端、騎士は禍々しい雄叫びを上げ獣となった。精神の妬けつく飢餓を満たさんがために剣撃を更に激しく振るい、ゾロをふっとばすと吹雪を抱える剣士に向かって突撃。吹雪がいるのもお構い無しに変身させた牙狼斬馬剣を振り下ろす!!

 

「轟牙、やめろ!!吹雪がいるんだぞ…!!?」

 

「邪魔ダァ!!!」

 

止めに入った優牙すら強引に払いのけ、暴走する金色は止まらない。血走る独眼は容赦など無く、空を切って咆哮をあげる刃は誰もが惨劇を予想…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否ッ!!

 

 

 

ーードォォォォォン!!!!!

 

 

「!?」

 

 

突如、頭上から降ってきた爆弾が炸裂した。独眼牙狼は不意を突かれて怯み、そこへ紅い衣を纏った人物が彼に組み付き地面に捩じ伏せた。そして、優牙は気がつく……

 

「剛!!」

 

「待たせたな!!」

 

離ればなれになってしまっていた魔戒騎士、剛だ。西の街道に向かったと聞いていたがまさかこんな形で再会するとはなんたる幸運か。独眼牙狼の顔面を足で押さえつけるや懐から魔戒銃を抜き放ち、銃口を腹の紋章に向ける。

 

「さあ、歯ァ食い縛れよ!!」

 

直後、引き金を引くや砲撃のような銃声が響き渡りソウルメタルの弾丸の羅列が次々と紋章を穿つ。同時に金色の鎧は揺らぎ、強制解除された。中から汗を滝のように流し、息荒く消耗している轟牙の姿が……

これを好機と外廊の剣士とへルマンは頷きあい、吹雪を抱えたまま飛び退いて撤退していく。

 

「待て!」

 

すぐさま、後を追い飛びあかる優牙。空中に踊り出るとゾロの頭上をとり魔戒剣を振り上げる……吹雪に当たらず兜の合間の首筋を狙える位置だ。しかし……

 

「…ッ」

 

刃は振りかぶったままだった。勿論、刹那のタイミングを逃すということは逆に致命的な隙に繋がり、がら空きの優牙の懐目掛けて振り向いたゾロの拳が勢いよく吸い込まれていった。そのまま、優牙はふっとばされ地面に叩きつけられゴロゴロと転がり…ゾロたちは森の奥に拡がる闇へと消えていく……

 

そして、取り残された者たちにはただ、沈黙が重くのしかかるだけであった。

 

 

 

< GARO Iron blood Horizon >

 

 

 

 




☆次回予告

ザルバ『全てを背負おうとする憤怒が若き剣の覚悟を試す!次回、【血闘!】折れる牙は果たしてどちらだ!?』



☆轟牙のトラウマ
黒い薔薇とたにか関係があるようだが、詳細はいまだ不明。鎧装着時に刺激されると頭に血がのぼり暴走状態になる。


☆剛の魔戒銃
剛は騎士でありながら、戦闘特化の魔戒法師としての一面もある。魔戒銃はハンドガンやリボルバーなど様々なタイプを所持している。中には『騎士殺し』と呼ばれるものもあるそうだ。


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