平和な幻想郷へ二度目の幻想入り (疾風迅雷の如く)
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プロローグ

 やあ、俺の名前は尾田(おだ)清朝(きよとも)。21歳でありながら未だに14歳と間違われる男の娘だ。非常に認めたくないが。

 

 

 

 そんな俺が幻想入りしたのは5年前の夏休みのことだった。

 

「幻想入りしてえな」

 

 そうすればハーレム築いてやれるのに……などと思いながら自室で妄想していた。それが間違いとも知らずに。

 

「それじゃ、一名様ご案内〜」

 

 この時俺はテンプレktkrなどとはしゃいでいた。だが今思えばあの時、ああ呟いてなければ幻想入りすることなく平和に暮らしていたんだろうな……などと何度後悔したことか。

 

 

 

 とにかく俺は紫によって幻想入りを果たしたがそこで待っていたのはハーレムもチートもありゃしない、原作よりも恐ろしい幻想郷だ。

 

 何が恐ろしいかって? そりゃ原作でもドジ属性のある妖怪の小傘が、ただ驚かす存在でなく平気で人間を殺すような奴だったということだ。

 

 小傘でそれだぞ? あの弄られキャラ代表の小傘でだ。小傘が特別なんじゃない。そこに所属している命蓮寺は死人を処理するとか言っておきながら人肉を畑にばら撒いて肥料にしている等外の世界のヤクザですらもドン引きするほどのことを平気でやる。

 

 

 

 え? それじゃ命蓮寺が過激なんじゃないのかって? 甘い甘い。永遠亭は大怪我を負った俺を治療という名目で俺の顔と声及び見た目──なんとかタマタマは無事だったが髪や眉、まつげ以外ツルピカだった──を女みたいにさせただけでなく、金が足りなくなったからという理由で大麻を取り扱ったりしている。あのマッドや我がまま姫様ならやりかねないって? じゃあこの幻想郷の守矢神社を聞いて驚くなよ? 

 

 

 

 この幻想郷の守矢神社は祭りの度に人妖問わず祟り殺しているわな。その祟りのおかげか邪悪なる病魔を吸い取っている為作物に病気とかにはかからなくなるらしいが、もっと別にやることがあるだろうが! なんで貴重な信仰の元になる人を殺すんだよ!? 人一人よりも大きな信仰が大切なのか!? 

 

 

 

 一番過激なところだと人間達を人里から出た瞬間、攫って紅魔館で木乃伊にさせた紅魔館当主レミリア・スカーレット主犯のミイラ事件。その振る舞いに怒り狂った慧音が紅魔館を爆破させて起こしたテロ事件が有名だな。

 

流石に紫達もこれには動いて『人間が人里から出た瞬間攫ってはいけない』という新たなルールが加わってだいぶマシになったが……今度は人里から出た瞬間殺して人間ではなく死体だからという理由で持ち帰ったことに対して「グレーゾーンギリギリのところを探すんじゃねえ!」と流石にツッコミを入れておいた。

 

 

 

 博麗神社やその他の勢力のことが知りたい? ……百歩譲って博麗神社の事を説明してもこれ以上他の勢力の事は話さないぞ? 

 

 博麗神社は紫やその代の巫女または御子が幾つかその候補を見つけ、次代巫女や御子を育てている。それだけならまだいいが次代に引き継がせる時はその巫女や御子同士で殺させ、最後にはその代の巫女や御子と戦い、博麗の巫女または博麗の御子の称号を引き継がせる。

 

その代の巫女達がいなかったらどうなるって? その例に当たった霊夢によると「次代の巫女や御子がその戦いで死んだ者達の肉を食べ、霊力を増加させる」とのことだ。ここまでいくとキチガイじみており、狂気に慣れた人里の人間ですらも「よほどのことがない限り博麗神社にいかない」とまで明言しているくらいだ。

 

 

 

 そんな死と殺し合いが日常となっている幻想郷(ところ)で俺は5年も生きているんだ。いつ発狂してもおかしくない。出来ることならあの頃に戻りたい。戻れなかったとしても……

 

「せめて、平和な幻想郷に行きたかった」

 

 声優みたいな凛々しく可愛らしい声が周りに響くが誰もいない。俺は人里の人間であり、仲間もいるが何故か幻想郷の妖怪達に好かれている為基本的には一線引かれている。

 

 ハーレムなんじゃないか? と思った奴出てこい。この女みたいな見かけの俺は弄られキャラとしか見られていない。よしんばモテたとしてもこの殺伐とした幻想郷に普通の性格の妖怪がいると思うか? ヤンデレしかいないに決まっているだろうが。もし俺と仲良くなったらそんな奴の目に止まり、確実に殺されるので俺は人里の人間達からやや疎まれている。

 

 

 

「ああぁぁぁぁぁ!」

 

 ついに発狂した。もうどうでもよくなるような虚脱感等が俺の頭の中に襲ってくるが叫ばずにはいられない。身体を永琳とにとりに改造されただけでも発狂してよかったと思う。

 

俺、よく我慢出来たよな? こんな狂気だらけの幻想郷で5年も過ごしたのに癒せるものは何もない。自分が女みたいな見かけだから女と話しても恋愛感情までには届かない。能力でチートしようにも『銃とその弾丸を創造する程度の能力』という普通すぎる能力。毎日が辛すぎて涙が溢れてしまう……

 

 

 

「……そんなに辛い?」

 

 どこからともなく声が聞こえ、俺はそれに答える。

 

「あ゛だり前だ!」

 

 涙声で答えると目の前にスキマが現れ、紫がそこに来た。

 

「それじゃあ私の幻想郷に来ない?」

 

 こいつは別の世界の紫なのか? だけどそれ以上に気になるのは……

 

「平和な゛どごろ、なのが?」

 

「ええ、とっても平和よ」

 

「行ぐ!」

 

「それじゃあ決まりね。レッツゴーよ!」

 

 そうして俺は二度目の幻想入りを果たすと泣き疲れてしまい眠りについた。




今回はあれだが次回はコメディー一色の話だから許してくれ…なるはやで作る


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楽園の素敵な巫女

「……う」

 

 永琳に整形されて以来女声となった俺の声を聞いて目を覚ますがやはりそこにあったのはいつもと変わらない天井だった。

 

「夢か」

 

 どうせならあれこそ現実であって欲しかった。いつもと変わらない殺伐な日常を繰り返す。その為にはまず生き残らなきゃいけない。俺の能力『銃とその弾丸を創造する程度の能力』を発動し、銃と弾丸を作る……わけではない。

 

 確かにあれは便利だが強い銃を作る程疲れる。一撃必殺の黄金マグナムとマグナム弾を作ろうとしたら三日三晩寝てしまってアリスの着せ替え人形となった苦い思い出がある。まだ着せ替え人形になっただけマシと喜ぶべきだろう。あいつは魔法の森で死体を見つけたら蘇らせて文字どおり人形として操るからな。怖すぎだろ。眠っている間に殺されてアリスの人形となって戦い続けるなんて展開も十分にあった。

 

 

 

「外に出るか」

 

 あれは所詮夢だったんだ。そう頭で切り替えると手紙を見つけた。

 

「何だこの手紙は?」

 

 俺はそれを手に取り、中を見る。そこにはこう書かれていた。

 

【ハロー、永遠の17歳ゆかりんです♡】

 

 ウザさ全開のこの文を見て破り捨てたくなったが我慢し、手紙の読み続けた。

 

【貴方の望む通り、この幻想郷に引っ越させたよん♪ サービスとして貴方が使っていた家もここに引っ越したので自由に使ってちょーだいな。だけど流石に近所の皆さんの意識まで弄れないから挨拶をして来なさいな。以上、ゆかりんからの手紙でした!】

 

 ウザい! とにかくウザい! だがこのウザさが平和を表しているようで何よりだ。何せあそこは死と隣り合わせのようなところでウザいだの何だのと言っていられる状況ではない。このウザさに懐かしさすらも感じるくらいだ。

 

 

 

 その懐かしさを感じながら外へ出るとそこは人里ではなく、紅魔館の目の前だった。

 

「近所ってここかよぉぉぉっ!?」

 

 まさか確かに引っ越した先は人里だとは言ってないけれども! これはあんまりじゃねえか!? いきなり友好度が低い紅魔館から挨拶に行けっていうのか? くそっ、文字どおりの挨拶じゃなく、殴り込むという意味での挨拶になるのかよ!

 

いくら平和と主張しても奴らが殺さないとは限らないからな。フル装備で行かなきゃ最悪木乃伊にされてぶっ殺されそうだ。

 

「その前に博麗神社に行こう」

 

 まだ幸いにも朝5時あたりなので飛んでいけば午後には人里の菓子も買えるだろ。

 

博麗神社でお祈りするのは抵抗があるが妖怪退治屋にはこれ以上ないほど縁起の良い場所なのでそこでお守りなり何なりと買っておけば少しはマシになる。

 

その少しでも頼ろうとするあたり、向こうの幻想郷に染まり切っているのかもな。

 

 

 

 〜整形男の娘移動中〜

 

 

 

「到着!」

 

 そして博麗神社に着くと俺は真っ先に賽銭箱に妖怪退治で一番稼いだ時の9割弱である42万1402円入れた。何でそんなに入れたかって? ()()()せん()ように(四〇二)という語呂合わせと、それくらい入れてくれれば他人にドライかつ中立な霊夢も重い腰を上げてくれる……と向こうの幻想郷にいる妖怪退治屋の先輩に教わったからだ。

 

もっとも俺も先輩も霊夢に頼らざるを得ないほどの相手はしない為一回もその賽銭箱を使うことはなかった。

 

 

 

 しかし今回は相手が紅魔館全員だ。妖精メイドはともかく個人のレベルが高く、数も多い。

 

しかもその中には幻想郷トップクラスの実力者が二人もいるんだぞ!? そんな多人数相手に一人で立ち向かうのには無理がすぎるので霊夢に頼らざるを得ない。

 

「貴女ね! このお賽銭箱にお賽銭を入れてくれたのは!」

 

 うわっ!? 何か霊夢が感激しながら俺の手を握ってブンブン上下に振り回している。おそらく霊夢に尻尾が付いていたなら尻尾も振りちぎれんばかりに振っているだろう。そのくらい霊夢は感激していた。

 

「そうですが、一体?」

 

「いや〜助かったわ! 貴女のおかげで貧乏生活ともおさらば出来るし、何よりもこのお賽銭には信仰心があるわ! 困ったことがあったら何でも言ってね!」

 

 いや貧乏ってことはないだろ。俺のような妖怪退治屋や歩き巫女のようなフリーの奴らとは違い、博麗神社の巫女及び御子は幻想郷の国家公務員のような役割できちんと給料も貰えるから貧乏というよりもむしろ逆で裕福な方だ。

 

もしかしてこの幻想郷の博麗神社は自分で稼ぐようになっているのか? 

 

「じゃあ早速」

 

 とはいえそんなことは後で聞けば良い。俺は別のことを頼みに来たんだ。

 

「なになに?」

 

「近所に挨拶にし行きたいんだけれどもその場所が物騒なところだから一緒に着いて来てくれないか?」

 

「物騒? 人里にそんな場所あったかしら……?」

 

「あ〜なんか引っ越した先が紅魔館の近くでね。そこに挨拶しに行きたいんだよ」

 

「人里で言われる程物騒じゃないわよ? あんなお子様吸血鬼」

 

 それだけ言える霊夢が頼もしい。それは平和な幻想郷でも俺が居た幻想郷でも変わらない。

 

「それでも不安なんだよ! あそこには時を止める従者がいたり、挙句には七曜の魔女もいるって話じゃないか。そんな物騒極まりないところに行ったら死ぬわ!」

 

 少なくとも向こうの幻想郷ではこの二人がいるから紅魔館が勢力を保てていると言っても過言ではない。何せミイラ事件の実行犯と計画犯だ。危険と言うには十分だ。

 

「ああ、ロリコンに紫もやしね。滅多なことじゃ敵対なんてしないから大丈夫よ」

 

「……はい?」

 

 ロリコンに紫もやし? 何だそれは? 

 

「まあ、とにかく紅魔館に行って自分の目で確かめた方が早いわ」

 

 霊夢が俺の体を抱き上げ、空を飛ぶ。

 

「え!? ちょっと、準備がまだ終わっていないんだけど!」

 

「心の準備なら行く間に出来るわ」

 

「心の準備じゃなくて菓子とかの準備なんだけどぉぉぉっ!」

 

「ビビり過ぎよ」

 

 煩いわ! どうせ俺はビビりだよ! そうでもなきゃ死んでいるわ! 

 

「こっちは客として行くのよ? もてなす側は向こうだから集りに行くくらいが丁度良いの」

 

 集りに行くってどんだけ顔の皮分厚いんだよ。少しは遠慮しろよ。幻想郷や外のカラスですらそこまでじゃないぞ。

 

「それはわかったから降ろしてくれないか? 自分で飛べるから」

 

 どうせどうこう言っても無理やり連れて行くんだろうし、腹括って紅魔館へ行こう。

 

「それじゃ私について行きなさい」

 

 霊夢がそう言って俺をお姫様抱っこから降ろし、前へと進み、俺はそれに着いて行った。



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普通の魔法使い&常闇の妖怪(ただし影が薄い)

ルーミアの影の薄さが半端ねえ…決して作者はルーミアが嫌いなわけではありません

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「この森からいくのか?」

 

「そうよ。この道の方が近いし、何よりも私が付いているから妖怪の心配なんてしなくても良いでしょ」

 

「それはそうだけどな……」

 

 この道はトラウマだからな。肉体的には大丈夫でも精神的に負担がかかるから出来れば通りたくない。

 

 

 

 あれは俺が幻想入りした直後の事だ。俺はおバカなことに自分がピンチになれば能力に目覚めんじゃね? と思ってこの森を散策しているとルーミアにとっ捕まってしまった。ルーミアは東方を知っている奴らならご存知だろうが人喰い妖怪だ。ただしほとんどの奴らが誤解していることだがルーミアは生で人を喰わない。ちゃんと調理してから食う礼儀正しい奴だ。これは元の幻想郷云々以前にちゃんと設定されている。

 

 話を戻す。俺の前にルーミアに捕まった人間が断末魔を上げながらルーミアによって調理されるのを間近で見てしまった俺は吐いてしまった。その時はグロ耐性が付いていないから当たり前と言えば当たり前だ。俺は調理台に乗せられ、殺されかけたが危機一髪のところで先輩に助けて貰い助かった。もしもう少し遅ければ間違いなく犠牲者となった人間のように殺されていただろうと思うと今でもゾッとし、背筋が硬くなる。その為神社に行く時この森にはなるべく近づかないように迂回したんだからな。

 

 

 

「それにしても貴女ちょっとビビり過ぎじゃない? 妖怪が怖いからと言ってそこまで怖がる?」

 

「慎重と言ってくれ……こうでもしなきゃ生き残れなかったからな。いやマジで」

 

「そんなに恐ろしいところって一つくらいしか思い当たらないんだけど」

 

「言っておくが太陽の花畑じゃないぞ」

 

 落とされた場所があそこでなくて助かったよ。もしあそこに落とされたら人間植物──人間が幽香の植物の種に寄生された状態──の刑にされていただろうからな。それにしてもやっぱり風見幽香はこの幻想郷でも恐怖の対象なのか。

 

「それじゃどこよ?」

 

「それはぎゃふっ!?」

 

 痛っ!? 何だ何だ!? こっちは決意して霊夢に話そうとしたらいきなりこれだよ! 

 

「おー……痛てえー。やっと止まったぜ」

 

 ん? この声と口調は何度も聞いたことがあるな。もしかするとあいつだな。この声の持ち主は俺や先輩達などの妖怪退治屋と持ちつ持たれつの関係を保っているんだから顔見知りどころか親密な関係だ。多分。

 

 

 

「魔理沙ぁっ、あんたは私のお客様を轢いておいて謝罪の一言もないの?」

 

 お、やっぱり魔理沙か。個人の強さは霊夢に多少見劣りするがそれでも異変のスペシャリストであり、大抵の妖怪を捩じ伏せてしまう実力者でもある。

 

 彼女と持ちつ持たれつの関係なのは妖怪退治屋は安くかつ迅速に対応出来るがその分、質がお世辞にも良いとは言い切れない。助っ人として彼女に依頼することもしばしばあるし、何よりも回復薬などの調合薬も永遠亭よりも安く手に入る。

 

 そういう意味で持ちつ持たれつの関係を保っているんだよ。尤もその関係は今の俺にとっては何も関係ないが。

 

「霊夢、お前に客なんていたのか?」

 

 ひどい言われようだ。どんだけこの幻想郷で博麗神社は利益がないと感じられているんだ? 

 

「この方は過去最高額の御賽銭を入れてくれたお嬢様なのよ! この方をお嬢様と言わずしてなんと言うの!?」

 

 お嬢様、ね。確かに俺の見た目と声は原作キャラ達にも劣らない程の美女──これは俺がナルシストなわけではなく、永琳が俺の顔と声を無断で整形したから客観的に判断出来るだけ──だ。だから霊夢が俺の事を女だと勘違いするのは無理はない。

 

 

 

「一体幾ら出したんだ?」

 

「42万1402円よ!」

 

「……マジで言っているのか?」

 

 魔理沙の目が飛び出し、顎が外れる。

 

「これでわかったでしょ! さあ、早く彼女に謝りなさい! さもなくば私の針があんたの眉間に刺さるわよ!」

 

 俺が男であることを訂正をしようとするも、前の幻想郷ですっかりヘタレになっていた俺は霊夢達の罵声にビビって割り込むことも出来ない。

 

「悪かったな、えーと」

 

「尾田清朝。こんな見た目だがれっきとした男だ」

 

 この隙を逃さず俺は自分が男だとカミングアウトした。

 

 

 

「……嘘だろ? 男がこんなに可愛い訳ないじゃないか!? 声だって女だし!」

 

 魔理沙の反応は正常で、俺が男だとカミングアウトすると絶対に二度見し、「男がこんなに可愛い訳がない」などとほざく。そりゃ可愛くて当然だろうよ。

 

 永琳が幻想郷一どころか歴史史上最高クラスに美しいと言われている輝夜の顔をベースとした──輝夜の顔とはまた別の──顔に整形したんだからな。

 

 その上体型も輝夜のように華奢になり、声も女性そのものにさせられた。おかげで目が覚めた時は声も出ないし、身体も痛むしで最悪だった。

 

 

 

「あらそれじゃあご主人様で良いかしら?」

 

 霊夢のように呑気に反応するのはレアだ。ちなみに先輩の場合は整形された俺の顔を見て動揺もせず「その顔で結婚に困ったら良い女を紹介してやるよ」と言ってくれたことに今も覚えている。

 

「好きなように呼べばいい」

 

「ぶつかって悪かったなオダカマ」

 

 魔理沙が冗談半分で俺のことをそう呼ぶと霊夢の右ストレートが魔理沙の顔面を陥没させ……まあ、所謂「前が見えねえ」みたいな感じにさせる。俺の名字とオカマを文字って呼んだ魔理沙も悪いとは思うが、それ以上に霊夢が魔理沙の顔を陥没させるまで殴るのを見て同情してしまい、魔理沙に対する怒りは完全に消えてしまう。

 

「魔理沙、ご主人様に対して変な呼び方をしたら殴るわよ」

 

 殴ってから言っても遅いだろ。というかあんな風にされて魔理沙は大丈夫なのか? 普通なら死んでいるぞ。

 

「ふがふが!」

 

「何言っているのかわからねえよ」

 

 魔理沙がもがく様子を見て俺は呆れながらもツッコミを入れる。あれだけ陥没しておいてよく生きてられるな。

 

「ん……」

 

 ポンっ! と気持ちの良い音が耳に響き、魔理沙の顔が元に戻る。本当に人間かよ? 

 

「じゃあ何なら良いんだ?」

 

「侮蔑の意味が入らないような呼び方なら大丈夫だろ」

 

「オカマは侮蔑か?」

 

「そりゃ男らしくないと真正面から言っているからな。俺は男だと紹介しているのに目の前で言ったら侮蔑だろう」

 

 だから男の娘とか表現を優しくしても俺の前では侮蔑になる。流石に男扱いされなかったら俺だって怒る。それで怒らなかったら俺はとっくに仏さんになっているよ。

 

「う〜んそれじゃ見た目で決めるのはなしだな。キヨトモってどう書くんだ?」

 

「清い心の清に、源頼朝の朝だ」

 

「……それじゃあセイチョウ……イマイチだな。普通にキヨでいいか?」

 

「OK」

 

「霊夢、キヨがOKを出した以上文句は言わせねえぜ!」

 

「それじゃ行きましょう。ご主人様」

 

「え? もう行くのか?」

 

「私達はあんたに会いに来た訳じゃないわ。私達が用があるのは紅魔館よ」

 

 今回は唐突に出会ったからそうなるがいずれ挨拶することになっただろうし、これからも様々な事情で長い付き合いになるはずだ。会えて良かったとは思う。

 

「それじゃ私も一緒に行くぜ!」

 

「嫌よ。あんたと行くととばっちり食らうもの」

 

「あ〜あの紫もやしな。何で私に攻撃するんだろうな?」

 

「それはあんたが本を盗むからでしょ?」

 

「盗んだんじゃない! 死ぬまで借りるだけだ!」

 

 何というジャイアニズム。リアルにこんなことを言う奴は初めて見た。架空の人物でもそんなことを言うのはジャイアンくらいしかいないぞ。まああっちは永久に借りるからまだマシかもしれないが。

 

「それが原因じゃないのか?」

 

 俺は魔理沙にその半端なジャイアニズムこそが原因だと指摘する。

 

「えっ?」

 

 何でそこで惚けたような声を出す? 

 

「逆に言えば死んだら返してくれるってことだからな。幻想郷のルールに反してでも返して欲しいってことだろう。とっとと返した方が良い」

 

「でもなぁ、あの中には大切な資料があるからな」

 

「写生しろよ」

 

「私にネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲はないから無理だぜ」

 

 何でネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲が関係しているんだ? 一応銃の系統──おそらく弾を放つもの──であれば理論上俺はそれを作ることができるが大砲やミサイル等を作るとなると銃に比べて威力が強いので負担も大きくなる。その為ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を再現しようとしたら威力が洒落にならない程高くて作るのを断念したくらいだ。インドのシンザンみたいに名前負けしているかと思えば全然違うもんな。名前の方が負けているくらいだ。

 

 

 

「まさか魔理沙……それを見たことがあるのか?」

 

「見たことがあるわけないだろ! 私はまだ乙女だしな」

 

 自分で乙女とか言うなよ。つか乙女とネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は無縁の存在なのか? 

 

「じゃあ何で知ってんだよ」

 

「ご主人様、誤解しているから解説するわよ」

 

 霊夢が魔理沙の助け船を出すかのように溜息を吐きながら口を挟んできた。

 

「俺が誤解?」

 

「要するに魔理沙は自分は男じゃないから男性器から白濁した液体を出すことは出来ないって言っているの」

 

「男性器から白濁した液体……ってそっちじゃねえよ!」

 

 下ネタ挟むとか最低な奴だな! 

 

「俺が言っているのは本等の書物の内容を写して生かすの写生だ! 魔理沙、お前がそんな下品なことを言うとは思わなかったぞ!」

 

「ええ!? 私のせいか!?」

 

「あんたが写生するのが嫌だからって無理矢理話を逸らしたんでしょうが」

 

「それを言われると何も言えない……」

 

 魔理沙の眉がハの字になり、影を落とす。

 

 

 

「第一何よ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲って。アームストロング二回入っているじゃない」

 

「霊夢、お前がそれを知らないのか? ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は吸血鬼異変の時、当時の博麗の巫女がそれを使って異変を終わらせた最終兵器だぞ」

 

 魔理沙が復活し、それを解説する。その様子はまるで自分を語るかのように生き生きとしており、目を輝かせていた。

 

 しかしこの幻想郷ではそんな風になっているのか。元の幻想郷じゃ「八雲紫が幻想郷において最も発言力がある所以」とか紹介されるくらいだが、それを持っているだけでも十分に脅威となり、核兵器扱いされる代物だ。それを知らずして作ろうとしたのだからあの時は骨折り損だと後悔したものだ。

 

「嘘でしょ?」

 

「本当だぜ。ちなみに私のマスタースパークを完成させたのもネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲と言っても良いくらいだ」

 

 霊夢は魔理沙を胡散臭い目で見る。そういうのは紫にでもしてやれよと言いたいが魔理沙の発言は嘘ばかりだからイマイチ信用されないんだよな。原作でも映姫にそのことを説教されているし。

 

「その話は本当かどうか知らないが威力は最終兵器と言って差し支えない程のもんだ」

 

「……少し席外すわね」

 

 霊夢がそう言うと森の中に入ると我がトラウマと呼ぶべき存在、ルーミアが悲鳴を上げる。霊夢に見つかったのが運の尽きだよ。ご愁傷様。

 

 

 

「確かに本当らしいわね。丁度、偶然、偶々そこに出会った妖怪にその名前を出したら私の手を振り払って逃げたわ」

 

 どんだけ強調してんだよ。

 

「な? だから言っただろ」

 

「ご主人様、もうこんな時間だし行きましょう。魔理沙は勝手にしなさい」

 

「お、サンキュー」

 

 魔理沙も一緒に同行することになったが霊夢曰く魔理沙といるととばっちりを喰らうらしいから不安だ。まあその時は霊夢を盾にすれば良いだろ。




元ネタ集


☆前が見えねえ
元ネタ クレヨンしんちゃん
解説 しんちゃんこと野原しんのすけが悪戯をしたせいで大人に殴られ顔面が陥没したシーンである。現在こんな漫画を描いたらもちろん猛抗議ものである。

☆ジャイアニズム
元ネタ ドラえもん
解説 ジャイアニズムとは横暴、傲慢、理不尽な事を発言する、及び実行しそのように振る舞うことである。主人公が言っている通り魔理沙は半端であり、ジャイアンこと剛田武であれば「死ぬまで借りる」ではなく「永久に借りる」あるいは「お前のものは俺のもの」と言って自分のものにしてしまうだろう

☆ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲
元ネタ 銀魂
解説 ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は見た目が男性器そのものである為新八からは「そんな卑猥な兵器があるか!」と突っ込まれていた。しかしその実態はいずれも決戦兵器だったり、最終兵器だったりと新八以外の人間から解説されている。もちろんギャグ回なので本当に使われていたかは不明。

☆インドのシンザン
元ネタ オウンオピニオン
解説 JRAがジャパンカップで招かれたインドの競走馬オウンオピニオンをその触れ込みで紹介した。なおオウンオピニオンはジャパンカップ前に日本で走ったが散々な結果に終わっている。ジャパンカップ当日も散々な結果でありそのことからジャパンカップ招待馬史上最弱と言われ、名前負けの代名詞とも言える存在となった。


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