この腹黒主人公に祝福を! (ユキシア)
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女神(笑)から誇りと特典を

刈萱無苓(かるかやむれい)さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

唐突に目の前にいる水色の髪をした女性に人生終了を告げられた無礼は体の力を抜くように息を吐いてその言葉に納得した。

いじめを受けてようやく自分をいじめてくる奴等に社会的死を与えられたその日。

舞い上がり周囲の警戒を疎かにして車が目の前に来ていたことまでは覚えていた。

「……そうですか、死んでしまったのなら仕方ありませんね」

「あら、随分あっさりしているのね?大抵ここに来た人は慌てるか落ち込んだりしてるのに」

「思い残すことは果たせましたので」

改めて冷静に考えれば復讐を終えた自分はその先何を持って生きればよかったのだろうかと考えてしまう。

復讐に毎日を明け暮れていた自分に復讐を取り除ければ何もないではないか。

「まぁいいわ。私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ。あなたには二つの選択肢があるわ」

アクアと名乗る女神は無礼に二つの選択肢を説明した。

一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩む。

もう一つは、天国に行くか。

ただし日向ぼっこか世間話ぐらいしかすることしかない。

「では……」

無苓は後者の天国に行くことにした。

前者で生まれ変わって新たな人生を歩むのも一つの手だと考えたがせっかく死んだのだからのんびりと暮らしたい。

「安心なさい。あなたの考えはわかっているわ。そんなあなたに三つ目の選択肢を上げる!」

「………」

何もわかっていないというか話を聞けよと内心で愚痴を溢すが今は黙っておいた。

アクアが出した三つ目の選択肢は異世界への転生。

ゲームなどに登場する魔王。

そして、魔王軍の侵攻により世界はピンチ。

そこで無苓のような若くして死んだ者を肉体と記憶をそのままで更には向こうの世界に好きな物を持って行ってもいいという。

異世界で人生をやり直せる。

確かに魅力的な提案に無苓も納得する。

「……よろしいのでしょうか?」

「何が?」

「貴女様が女神ならご存じのはずです。私は最低な人間です。復讐に囚われて私をいじめて来た者達に社会的死を与えてきました。その私が人生をやり直してもよろしいのでしょうか?」

無苓の言葉にアクアは手元に資料らしき紙の束を出してペラペラと見た後、破り捨てた。

「ムカつくわね!いいわ!女神の名においてあなたの罪を許します!というかどうせなら精神的死も与えなさいよ!」

「は、はぁ……」

態度が急変するアクアに戸惑う無苓だが、アクアはまったくと言いながら無苓を指す。

「あなたがやったことは正しいわ。例えそれが人を欺き、騙したことだとしてもあなたのおかげでその先に犠牲者は出なかった。もっと自分の行動に誇りを持ちなさい」

アクアのその言葉に無苓は力なく笑った。

無苓をいじめてきたリーダーの親が強い権力を持っていた。

告訴しても権力でなかったことにされてきた。

誰もが逆らわなかったなかで無苓は動いた。

自分もその被害者であるが故の復讐として親子やそいつらから甘い汁啜ってきた者達の悪事や弱みを見つけ出してそれを世界に広めた。

ニュースなどでも話題になってその親子は逮捕された。

復讐が果たせたその日に無苓は事故で命を落とした。

「……そうですね。ありがとうございます、女神様。貴女様のおかげですっきりしました。貴女様のお言葉通り私は私の行動に誇りを持とうと思います」

「ええ、そうしなさい。それでどうするの?」

「異世界へ行こうと思います。また私のような人を生み出さない為にも」

異世界に行くことにした無苓にアクアはカタログのようなものを渡す。

「なら選びなさい。たった一つだけ。あなたに、何者にも負けない力を授けましょう。例えばそれは、強力な特殊能力。それは、伝説級の武器。さあ、どんなものでも一つだけ。異世界に持って行く権利をあげましょう」

アクアの言葉にカタログを見る無苓。

どれもが強力な能力や武器が記されている中で無苓はアクアに尋ねた。

「女神様。質問なのですがここにあるもの以外でもよろしいのでしょうか?」

「ええ、構わないわ」

即答で返すアクアに無苓は一枚に用紙にアクアに見せる。

「女神様。この《魔眼》というのはどのような能力があるのでしょう?」

「ないわ。それは自分で五つまで能力を設定することができるの」

「設定の仕方はどのようにすれば?」

「自分がしたい能力を念じたら設定可能よ」

つまり能力次第ではチートになると納得する無苓は少し考えると決断した。

「女神様。決まりました。この《魔眼》それと物質を創り出せる名付けて《物質創造》を私は異世界に持って参りたい」

「……え?」

無苓の言葉が一瞬理解出来なかったアクアは特典は一つにしなさいと言おうとしたがその前に無苓が手で制した。

「御多忙の女神様に不躾なお願いをしているのは重々承知しております。ですが女神様、どうか私の話に耳を傾けては頂けませんでしょうか?」

「いいわ、言ってみなさい」

発現の許可を貰い深々と一礼した後に無苓は語る。

「職務を真っ当に忠実に行われている女神様は私のような方達を何人も送られたはずです。ですが、私がここにいるということはまだ魔王は倒されてはいないと思われます」

「ええ、私も長くこの仕事をやってきたけどまだ魔王は健在ね」

「ですが、ここで私を異世界に転生したとしても結果は変わらないでしょう。私もせっかく女神様のおかげで生まれ変わった命を無駄にはしたくありません」

「……まぁ、私も命を無駄にしてほしくはないわね。だって女神ですもの」

頬をポリポリと搔きながら無苓の言葉に同意するアクアに無苓は微笑む。

「慈悲深い女神アクア様。どうか私を助けると思い、私のお願いを聞き入れては頂けませんでしょうか?この通りです」

深々と頭を下げる無苓にアクアはどうするかと唸りながら思考を働かせること数秒後。

「わかったわ!あなたの願い聞き入れましょう!慈悲深い私に感謝を忘れないように!」

悩んだアクアだが、ここまで自分に敬う無苓の願いを無下に扱うことは出来なかった。

「もちろんです、女神様。貴女様と出会えたことを忘れはしません」

アクアは無苓の懇願を聞き入れて特例として二つの特典を持って転生することが決まった。

無苓の足元に、青く光る魔法陣が現れる。

「刈萱無礼さん。あなたをこれから異世界へ送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には、神々から贈り物を、どんな願いでも一つだけ叶えて差し上げます」

慈愛に満ちた表情でこれから異世界に旅立つ無苓を見送ると無苓の眼が一瞬だけ痛みが走る。

「さぁ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。………さぁ、旅立ちなさい!」

光に包まれていく中で無苓は感謝と嘲笑を込めて。

「ありがとうございます。チョロイ女神様」

アクアのおかげで生前の自分の行動に誇りを持てるようになった無苓はアクアを言い包めて二つの特典を持って異世界に旅立つ。

 



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ボッチを確保

転生した無苓は気が付けば異世界にやって来た。

中世ヨーロッパのようなレンガ造りの家や獣耳やエルフなどいった亜人まで普通に街中を歩いていた。

「ここが異世界ですか……」

驚嘆しながらぼやく無苓は手持ちの荷物を確認する。

腕時計、スマホ、財布など確認すると財布に札や小銭の代わりに金貨が入っていた。

「この世界のお金でしょうね……」

元々は五千円ぐらい入っていた金がこれでどれだけになるのかはまだわからない。

それどころか無苓はこの世界の事を何も把握していない。

「ゲームを当てにするとまずはギルド的なところに行き、冒険者になるのが筋でしたね」

それであっているのかはわからないが手がかりがない以上取りあえずは冒険者になる為にギルドを探す。

「申し訳ありませんが少々お時間よろしいでしょうか?」

「ん?あたしに何か用?」

無苓は頬に傷がある銀髪の少女に声をかけた。

「ええ、実は冒険者になる為にこの街に足を運んだのですがギルドがわからず。もしよろしければギルドの場所を教えては頂けませんか?」

「いいよ。ついでにこの街も案内してあげる」

「ありがとうございます。私の名前は刈萱無礼と申します」

「あたしはクリスだよ。あと、別に敬語じゃなくてもいいからね」

「習慣のようなものでしたのでお気になさらず」

クリスと名乗る少女に街を案内して貰いながらこの街の情報も入手していく。

駆け出しの冒険者の街、アクセル。

それがこの街の名前でその名の通り駆け出しの冒険者が住んでいる。

「ところでさ、君はどこから来たの?見たことない服装しているけど」

無苓は今は学生服を着ている。

学校に向かう途中で死んだのだからそれは仕方がない。

「小さな田舎からです。冒険者になる為に家を飛び出してつい先ほどこの街に着いたのですよ」

「へぇ、あ、ついたよ」

ギルドに到着した無苓はクリスと共に中に入る。

「あ、いらっしゃいませー。お仕事なら奥のカウンターへ、お食事なら空いているお席へどうぞー!」

ウェイトレスの人に出迎えながらギルドに入った無苓に多くの人が視線を向ける。

「ほら、冒険者の登録はこっちだよ」

クリスに案内されて受付に足を運ぶ無苓。

「はい、今日はどうされました?」

「冒険者になる為に来たのですが」

「そうでしたか。では、登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」

「はい。えっと、これでよろしいでしょうか?」

財布から適当に金貨を数枚取り出してそれを受付の人に渡す。

「では、冒険者になりたいと仰るのですから、ある程度は理解していると思いますが、改めて簡単に説明を」

受付の人から冒険者の事を教わる無苓は真剣にその話に耳を傾ける。

職業、レベル、冒険者カードなどいった説明を聞くと受付の人は書類を無苓に渡す。

「まずはこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をお願いします」

言われた通りに自身の事を書いて無苓はカードに触れる。

「……はい、ありがとうございます。カルカヤムレイさん、ですね。ええと……えっ!?筋力が平均以下と幸運が平均並み以外は平均値を超えてますよ!特に知力と魔力は平均値を大幅に超えています!」

「そうですか。なれる職業はありますか?」

「《ソードマスター》や《クルセイダー》といった前衛職は無理ですが魔法使い職の《アークウィザード》ならすぐにでもなれますよ!」

興奮気味になれる職業を説明してくれる受付の人に無苓は他になれる職業を尋ねようとした時、近くにいたクリスが無苓に声をかけてきた。

「あたしは《盗賊》がお勧めだよ!罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗……まぁ、地味だけど有用なのは確かだよ!ダンジョン探索では必須だからね」

「では《盗賊》でお願い致します」

「「え?」」

受付の人とクリスが呆気を取られると無苓は何故《盗賊》を選んだのかを説明した。

「魔法使い職よりクリスさんと同じ《盗賊》の方が私に合ったいるような気がしますので」

微笑みながら説明する無苓に受付の人は少し納得できず顔をしかめるが了承した。

「……わかりました。それでは冒険者カルカヤムレイ様!冒険者ギルドへようこそ!スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」

「期待に応じられるように努力させて頂きます」

こうして無苓は冒険者になった。

「それじゃ改めてよろしくね、ムレイ!」

「こちらこそ宜しくお願い致します。クリスさん」

クリスと同じ《盗賊》になった無苓は早速冒険者カードを見るとそこには自分のステータスが記されていた。

横からクリスが無苓の冒険者カードを覗くとおおっと感嘆の声をだす。

「すごいじゃん!もうスキルポイントがあるて。これなら盗賊スキルをすぐにでも覚えられるよ!」

優秀なほど初期ポイントは多い。

どうやら無苓はその優秀の類のようだ。

無苓は早速《盗賊》のスキルを取得して覚える。

「クリスさん。もしよろしければ一緒にクエストでも」

「あ、ごめんね。この後、ダンジョン探索を手伝う約束があるんだ」

申し訳なさそうに謝るクリスに無苓はいえいえと答える。

モンスターのことについても教えて貰おうと考えたがそこまで都合はよくはなかった。

街の情報とここまで付き合ってくれただけでも無苓はありがたかった。

「あ、初めてはジャイアントトードがいいからね!」

クエストのアドバイスを残して去って行くクリスにどうするかと悩む無苓。

装備もない今の状態でクエストに行ったとしてもモンスターに食べられるのがオチ。

何よりこの世界の事は無知と言ってもいい。

まずは仲間を増やすべきかと判断して無苓は酒場のテーブルを見渡して一人の少女に目を付けた。

酒場の端のテーブルで一人、座っている黒髪紅瞳を持つ黒いローブとマントをした少女に無苓は声をかける。

「失礼。相席よろしいでしょうか?」

「え……ど、どうぞ………?」

突然声をかけられてオドオドしながらも相席を認める少女に一礼して席に座ると少女に話しかける。

「突然申し訳ありません。私の名前は刈萱無礼。つい先ほど冒険者になったばかりの新人です。あ、これ冒険者カードです」

自己紹介しつつ冒険者カードを見せる無苓に少女はおどけながらも冒険者カードを見る。

「もしよろしければお名前を教えては頂けませんか?」

その言葉に少女は固まる。

どうして固まるのかわからない無苓に少女は頬を赤くしながら名乗った。

「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者……!」

「ゆんゆんさんですね。よろしくお願いします」

名乗るゆんゆんに微笑み返す無苓にゆんゆんは目を見開く。

「あ、あの、笑わないのですか……?」

「個性的とは思いましたが人の名前を笑うなんてことはしませんよ」

不思議そうにおずおずと尋ねるゆんゆんに無苓はそう言うと安堵するように息を吐いた。

「よかった。紅魔族のこの名乗り方は恥ずかしくて……」

「そうでしたか。失礼ですが紅魔族のことに関して教えては頂くことは出来ませんか?」

紅魔族。

生まれつき高い知力と強い魔力を持つ魔法使いのエキスパート。

あと、変な名前を持っている。

「なるほど。教えてくださりありがとうございます」

「い、いえ!お礼を言われるほどではないですよ!」

礼を言う無苓に謙遜の言葉を出すゆんゆんに無苓は不躾に頼む。

「ゆんゆんさんはお一人ですか?もしよければクエストを手伝って頂けると嬉しいのですが」

「いいんですか!?ぜひ、手伝わせてください!!」

予想以上に喰いついてきたゆんゆんだが無苓は表情を崩さず礼を言う。

「ありがとうございます。初めてのクエストなのでジャイアントトードでよろしいでしょうか?」

「もちろんです!ムレイさん!」

こうしてゆんゆんと一緒に初めてのクエストに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがジャイアントトードですか……」

ショートソードとロープを持って平原地帯に足を運んでいた無苓は遠くにいるジャイアントトードを見て引いた。

巨大なカエルを見てこれなら山羊などを丸呑みするのも頷けた。

「あの…どうしますか?」

「……ゆんゆんさんは《アークウィザード》ですので魔法で援護して頂けると助かるのですがよろしいでしょうか?」

「はい!任せれてください!」

頼られることに嬉しいのか笑顔で引き受けてくれたゆんゆんに無苓は前に出ていく。

無苓の存在に気付いたカエルは無苓達に近寄ってくる。

「『ボトムレス・スワンプ』!」

魔法を発動するとカエルは大きな泥沼に沈む。

始めての魔法に内心で少々感動しながらもせっかくの隙を見逃すわけにはいかずショートソードで頭部を突き刺す。

すると盗賊スキル『敵感知』に反応があった。

「ゆんゆんさん。後ろからも来てます!」

「『ライトニング』!」

すぐに魔法を発動させて背後から来たカエルを討伐。

ゆんゆんのおかげで早くも二体倒せれた無苓はせっかくだから貰った特典を試してみようと思った。

無苓がアクアから貰った特典は《魔眼》と《物質創造》。

二つの内《魔眼》の能力を一つ決めた。

「オーソドックスですが悪くはないでしょう」

念じて設定し眼に何かしらの力が流れてくる。

跳ねて来るカエルに無苓は魔眼の力を発動させる。

「幻惑」

五つあるうちの一つを対象に幻を見せる能力に設定。

その能力により、カエルの動きは止まって眼の焦点は定まっていなかった。

そんな隙だらけなカエルを突き刺して討伐。

「なかなか使いどころがいいですね。まぁ、まだ詳細はわかりませんが」

一つ目の能力について高評価を出す無苓。

「ムレイさん!あそこにいるカエルも倒しますか!?」

「討伐は全部で五体ですので倒しましょう」

「はい!」

遠くにいるカエルも討伐する為に無苓はゆんゆんの援護の下で討伐を完了した。

討伐を終えた無苓はカエルを移送してギルドに報告。

報酬を貰いそれをゆんゆんと半分に分けて渡そうとするがゆんゆんは首を横に振って受け取らなかった。

「新人の人はお金が必要になりますので今回の報酬はムレイさんが受け取ってください。私も一緒にクエストに行けて楽しかったですし」

新人である無苓に気を遣って報酬を全て無苓に譲った。

「ゆんゆんさん。もしよろしければ私とパーティを組んでは頂けませんか?」

「え、い……いいんですか?あれは冗談で誘ったんだよ?なに、本気にしたの?とか言いません?」

そんな経験があるのかと思うぐらい現実味があった言葉だが取りあえずは置いておいてゆんゆんに手を差し伸ばす。

「私から誘っているんです。冗談ではありませんよ。もちろん新人である私でよければですけど」

「そんなことありません!私の方こそよろしくお願いします!!」

本当にパーティに誘われたことに嬉しいのか表情が凄く幸せに満ちていた。

魔法も豊富で判断力もあり、更には性格も良いゆんゆん。

何故これほどの人材がパーティに誘われていなかったのかが不思議でならなかったがそのおかげでゆんゆんとパーティを組むことが出来たので気にしないでおいた。

無苓がなった職業《盗賊》には攻撃系のスキルはない。

しかし、チームを組めば短所を埋めることが出来る。

更にはこの世界のことについてもまだ知らな過ぎる為に無苓はパーティを組むことを最優先にした。

その内一人《アークウィザード》のゆんゆんを仲間に加えられることが出来た。

「では改めてよろしくお願い致します。ゆんゆんさん」

「私のことはゆんゆんでいいですよ?ムレイさん」

こうして無苓に仲間ができた。



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ネガティブなアークプリースト

ゆんゆんとパーティーを組んだ次の日。

無苓はゆんゆんと一緒にテーブルに座って溜息を吐いていた。

「……来ませんね」

「そうですね……」

新たな仲間を募集する為に張り紙を出してから既に三時間が経過したが誰一人集まらなかった。

 

『パーティーメンバー募集。盗賊とアークウィザードの二人です。前衛職、僧侶(プリースト)を探していますが基本職の方でも構いません。一緒に冒険をしませんか?』

 

無苓が張り紙にそう書いて張り出して貰ったがまだ誰も来ない。

無苓は盗賊、ゆんゆんはアークウィザードの為、バランスを良くするために前衛職と僧侶(プリースト)を優先に募集の張り紙を出した。

もちろん、基本職の冒険者でも構わないのは本当だ。

全ての職業のスキルを取得できるという点は基本職の冒険者の長所。

それを活かせれることが出来れば十分に冒険者でも活躍できる。

「私のせいでしょうか……私がパーティなんて組んだせいで……」

「それは違うと思いますが……」

仲間が集まらないことを自分のせいにするゆんゆんに何故そうなると疑問を抱いた無苓。

そもそも仲間を募集しようと言い出したのは無苓の方であってゆんゆんはそれに同意してくれただけ。

募集内容を書いたのも無苓の為ゆんゆんが悪い要素は一つもない。

「そろそろ昼ですし、食事をしてもう少しだけ待ってみましょう。それでも駄目でしたら今日はクエストに行きましょう」

表情を暗くするゆんゆんの気分を変える為に食事にする。

腹も膨れれば気分も多少なりはよくなるだろうと思い、注文を取る。

「あ、あの……」

小さい声に二人は反応して声がする方を向くと銀髪の少女が立っていた。

シスター服に身を包まれた少女の手には無苓が書いた仲間募集の張り紙を持っていた。

「パーティーに入ってくれるんですか!?」

「ぴぃ!ごめんなさいごめんなさい!!私なんかが声をかけてしまってごめんなさい!」

仲間候補が来てくれたことに喜ぶゆんゆんに怯えて頭をペコペコと下げる少女。

それを見てゆんゆんは怖がられているとショックを受けた。

「謝る必要はありませんよ、私の名前は無苓。パーティーに入って頂けると嬉しいのですが」

「あ、はい……ごめんなさい、私なんかがパーティーに入ろうとしてごめんなさい。お詫びにお昼ご飯のお金を出しますので許してください」

「募集しているのはこちらです。謝る必要も食事をおごる必要もありません。よろしければ食事をしながら話でもしませんか?」

何度も謝り倒す少女に無苓は表情を変えずに取りあえずは一緒に食事を取ることに成功した。

「アークプリーストのアリッサさんですね」

「はい、ごめんなさい。私なんかが上級職でごめんなさい」

「あ、謝らないで……」

アリッサの冒険者カードを拝見して上級職のアークプリーストだと判明した。

そんな凄い職業についていることがおこがましいかのように謝るアリッサにゆんゆんはオロオロしながら止めさせようとする。

しかし、僧侶(プリースト)の中で上級職であるアークプリーストが来るとは予想以上だった。

幸運が平均と無苓とボッチのゆんゆんにとってこの巡り会わせには感謝しなければならないほど素晴らしいものだった。

無苓は冒険者カードをアリッサに返して問いかける。

「失礼ながらアリッサさんはどうしてこのパーティーに?上級職のアークプリーストならどのパーティーにも誘われると思うのですが」

あらゆる回復魔法と支援魔法を使いこなし、前衛にも出れる万能職。

それが何故このパーティーに入ってくれたのかが疑問に思った。

「えっと、その…ごめんなさい!!」

「謝らないで!お願いだからこれ以上謝らないで!」

何度も謝るアリッサにゆんゆんはとうとう涙目になって止めに入る。

無苓はアリッサが訳アリと判断してそれ以上の追求はしなかった。

アークプリーストであるアリッサがパーティーに入ってくれるならとやかく聞くつもりはない。

それに今の謝り方に無苓は違和感があった。

これだけは話したくないのかそこだけは強い拒絶を感じた。

アリッサには誘われないもしくはすぐに止めさせられる何かがあるのではないかと推測した無苓はある案を閃いた。

「せっかくですのでこの後一緒にクエストに行きましょう」

それが一番の近道と判断した無苓は二人にそう言った。

今日も平原地帯でジャイアントトード、カエルを討伐に来た無苓は腰にかけているホルスターから拳銃を取り出すとゆんゆんはそれを興味深そうに見る。

「ムレイさん。それはなんですか?」

「拳銃という遠距離で攻撃が可能とする武器ですよ」

ゆんゆんの質問に爽やかに答える無苓は昨晩の内にもう一つの特典である《物質創造》を使って拳銃を創造してみた。

試し撃ちはこれからだが、いい感じにできていると思っている。

復讐の為に様々な知識を身に着けた一環で拳銃の構造も把握している。

正直無駄知識だったが異世界で活躍するとは思いもよらなかった。

すると、ゆんゆんが突然無苓に抱き着いて来た。

「捨てないでください!私、何でもしますから!!」

「どうしてそうなるんですか?安心してください、これは筋力が低い私の護身用のようなものですから」

魔法使い職のゆんゆんの存在を奪う拳銃にゆんゆんはもういらない子と思い泣きつくが無苓がその気がないことに安堵する。

「ごめんなさい!私なんかがパーティーに入ろうとしたせいで……!カエルに食べられて消化されてきますので許してください!」

「ちょっ!待ちなさい!お願いですから単身でカエルに向かわないでください!!」

自分のせいで無苓達が喧嘩をしたと思ったアリッサは単身でカエルに突っ走る。

それを見た無苓は止めようとしたが止まらずロープを取り出してスキルを発動する。

「『バインド』!」

「ぴぃ!」

盗賊スキルにより、アリッサを縛り付ける無苓だがアリッサは危機は変わらない。

カエルが舌でアリッサを捕まえたからだ。

「ぴぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいッッ!!」

「『バインド』!!」

《物質創造》によりもう一つロープを創造してアリッサを縛ってカエルと綱引き状態になる無苓は隣にいるゆんゆんに助けを求めた。

「ゆんゆん!魔法で倒してください!」

「はい!『ライト・オブ・セイバー』ッッ!!」

ゆんゆんの魔法により無事に助けることが出来た。

「ひぐ……うぅ……ごめんなさい……」

「いいのよ。怖ったよね?もう大丈夫よ」

涙を流すアリッサを優しく慰めるゆんゆんに無苓はどうして他のパーティーに誘われなかったのか納得した。

自虐してモンスターの餌になろうとしてそれを助けるのに色々苦労したのだろうと今までアリッサとパーティーを組んできた者達に同情した。

アリッサのネガティブ思考と上級職のアークプリーストと相まって苦労と嫉妬も含めてパーティーに誘わなかったのだろう。

「大丈夫ですよ、アリッサさん。私達は貴女を見捨てるようなことも囮に使うようなことは決してしません。そうですよね?ゆんゆん」

「私とムレイさんで何度もアリッサちゃんを助けるからアリッサちゃんも私達を助けてね?」

諭すように優しく告げる二人にアリッサは泣くのを止めて顔を上げる。

「本当……ですか?こんなカエルの餌になるしか取り柄のない私がパーティーにいてもいいんですか?」

「悲しいこと言わないで……」

「同感です。もう少し自分に自信を持ってもいいんですよ」

無苓は逆にどうしてそこまで自分を自虐できるのか気になったがその事は胸にしまっておいた。

そんな話をしているなかでカエルが何匹が近づいてくることを敵感知で察知した無苓は気を取り直して拳銃を取り出す。

カエルに照準を合わせて引鉄(トリガー)に指をかける。

そして、引鉄(トリガー)を引くと暴発した。

「~~~~~~ッッ!!?」

声も出せない程の激痛が走る。

「ムレイさん!?」

暴発した拳銃により、右腕は大火傷を負って指は辛うじてついている状態。

突然の爆発に二人は慌てて無苓に近寄ってアリッサは慌てて回復魔法を施す。

「『ヒール』!」

「「おおっ!」」

アリッサの回復魔法により傷が治った。

瞬く間に傷が治ったことに驚嘆の声を出す二人は慌てて近づいてくるカエルの存在を思い出した。

「幻惑!」

「『ライトニング』!」

魔眼で動きを止めて魔法で瞬時に倒せて一安心すると二人はアリッサに視線を向ける。

「凄いよ、アリッサちゃん!あっという間に傷を治すなんて!」

「ありがとうございます。アリッサさんのおかげで右腕は無事です」

褒めるゆんゆんに礼を言う無苓にアリッサは首を横に振る。

「お礼なんていりません。私も……助けていただきましたので………」

ゆんゆん同様にいい子なのだろう。

ネガティブ思考で暴走しなければきっと他のパーティーに入れて貰って活躍しただろう。

だからといってここでアリッサを手放すつもりは無苓にはなかった。

無苓は視線をアリッサに合わせて話しかける。

「アリッサさん、これからも私達のパーティに留まっては頂けませんか?貴女ほど優秀なアークプリーストを手放したくないのです」

「わ、私なんか……」

「謙遜は美徳ですがいきすぎる謙遜は嫌味にしかなりませんよ。必要以上に自分を貶すは止めた方が良い。それは自分だけでなく他の方も傷付けてしまう」

「そ、そのつもりは……」

少々言葉を強めに言う無苓にアリッサは怯えながらそのつもりはないと言おうとしたがその言葉よりも無苓が先に口を開く。

「そのつもりはないことは私達はわかっています。ただ、もう少し自分に自信を持って頂きたいのです。私達がアリッサさんのことを自慢できる仲間と自信を持って言えるように。ゆんゆんもそう思いませんか?」

「ア、アリッサちゃんはもう大切な私達の仲間だよ!私は自信を持ってめぐみん、友達にアリッサちゃんのことを自慢したい!」

「―――ッッ!?」

ゆんゆんの言葉に顔を赤く染め上げてフードを深く被って顔を隠すアリッサに無苓は微笑みを崩すことなく告げる。

「私達の言葉を信じては頂けませんか?友達として同じパーティーの仲間として」

「……………はい」

小さい声で確かな肯定を獲得した無苓は優しくアリッサの頭を撫でる。

そこでにゅるりとぬるぬるしたものがアリッサに巻きつかれて勢いよく引っ張られた。

「ぴぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」

「ア、アリッサちゃーーーーーーーんッッ!!」

いつの間にか舌の範囲内にいたカエルによってアリッサは捕食された。

無苓も思わず敵感知を忘れる程に気が緩んでいた。

頭からぱくりと捕食されたアリッサを見てそういえばとアリッサの冒険者カードで幸運が凄く低いことを思い出した。

しかし、今はそれは置いておいて。

「ゆんゆん!助けますよ!」

「はい!」

二人は慌ててアリッサの救助に向かった。

クエストを終えた無苓は《物質創造》で大きめのタオルを創ってアリッサの身体に付着した粘液を拭いて街に帰った。

帰りの道中でアリッサは泣いていたがあれは泣いてもいいと思った無苓だった。

正直、自分もカエルに捕食されたら泣いてしまう自信があった。

「あの、私はアリッサちゃんと一緒に大衆浴場に行きますね」

「ええ、報告は私がしておきます」

「ぐす……ごめんなさい、カエル臭くてごめんなさい……」

粘液は落としたが服に染みついた臭いまでは落とせずに二人は大衆浴場に向かい無苓は討伐の報告の為にギルドに向かう。

報告と報酬を頂いた無苓は二人が来るまでテーブルに座って拳銃がどうして暴発したのかを考える。

「すまないが、少しいいだろうか?」

「はい、何でしょうか?」

拳銃の反省を考えようとした時、一人の女性が声をかけて来た。

金属鎧に身を包んで腰には剣を携えている赤い髪をした女騎士。

「パーティー募集を見させて貰ったがまだ募集しているだろうか?」

「勿論です、私の名前は刈萱無礼。職業は盗賊。今は一人ですが他にもアークウィザードとアークプリーストの二人がいます。もしよろしければ貴女のお名前を窺っても?」

「失礼した。私の名はセルティ、ソードマスターを生業としている者だ」

セルティは一息開けて無苓に告げる。

「私をパーティーに加えては頂けないか?」

 



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殺戮凶のソードマスター

「あの、無苓さん。これは何ですか?」

アリッサが仲間に加わった次の日の昼頃にテーブルの上に置かれているガラクタのことを無苓に尋ねた。

「拳銃の部品ですよ。前回の反省を活かして今回は確実に成功させてみせます」

昨日のジャイアントトードの討伐の際に無苓は拳銃を暴発させてしまった原因を追究して新たに改良を重ねた拳銃を組み立てていた。

部品を一つ一つ創造してどこか異常がないのかを確認して拳銃という形に整えていく。

創造する際には細かいところまで鮮明にイメージしなければ繊細な拳銃は作れない。

《物質創造》の短所は詳細までイメージしなければならないということだった。

単純な物、材質、素材はイメージするだけで簡単に創れた。火薬も安易に創造できたことがその証拠だった。

ただ詳細なところまでになると鮮明にイメージしなければ前回のような失敗が起きる。

前回はどこか形に不具合が生じて暴発したと推測した無苓は今度は部品を一つ一つ創造して組み立ててから拳銃の完成に向かう。

「また暴発したらどうするんですか?」

「大丈夫ですよ。それに少々憧れていたんです、一回や二回で諦めるには惜しいのですよ」

銃刀法違反がある日本で銃を気兼ねなく撃つことは出来ない。

だが、ここは異世界。

気兼ねなく銃を撃つことが出来る。

何より男の浪漫でもある。

「だ、大丈夫です。私が治しますから……ごめんなさい、失敗を前提に話してしまってごめんなさい」

「いえいえ、その時は頼りにしていますよ」

優秀なアークプリーストであるアリッサがいるから多少の無茶は可能になった。

「すまない、待たせてしまった」

無苓達のテーブルにやってきたのは昨日無苓に声をかけて来たセルティ。

「そんなことありませんよ。ゆんゆん、アリッサさん。こちらが昨日パーティーに加わりたいと声をかけてくださったセルティさんです」

「セルティだ。昨日は君達がいないから日を改めてさせて貰った」

先日、無苓は一人では承認できないからと日を改めて貰った。

勿論無苓はセルティをパーティーに加えるつもりでいるが一人で決めるとゆんゆん達に少なからずの不満を生じさせてしまう。

なのでゆんゆん達がいる今日に来て貰った。

「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者…!」

「そ、そうか。よろしく頼む」

ゆんゆんの名乗りに少し引いたセルティにゆんゆんは羞恥のあまり顔を赤くしてテーブルに突っ伏した。

セルティは視線をアリッサに向けるとアリッサはビクと肩を震わせる。

「ごめんなさい!私なんかが自己紹介なんておこがましいですよね!?」

「い、いや、そんなことはないと思うぞ……?」

突然謝られるアリッサに困惑するセルティは助けを求めるような視線を無苓に向けると拳銃を完成した無苓は軽く咳払いする。

「んんっ!まぁ、二人は私なんかよりも優秀なアークウィザードとアークプリーストです。気軽に名前で呼んであげてください」

「そ、そうか。それではゆんゆん、アリッサ。今日は私の実力を見て仲間に相応しいか判断して欲しい。ムレイもいいだろうか?」

「もちろんです」

新しいパーティーメンバーと共に今日はゴブリンの討伐に向かう。

異世界でも知らない者はいないメジャーモンスターであるゴブリンは群れで行動し、武器を使う。動きは速く、小柄ながら凶暴で、人や家畜を襲う。

そのゴブリンを討伐する為に森の中を進む無苓達。

森の中を進む中で無苓のスキル敵感知に反応があった。

「あちらに複数の反応があります。恐らくはゴブリンだと」

「そうか。よし、私が前衛を務める。いいだろうか?」

無苓に確認を促すセルティに無苓は頷いて答える。

潜伏を使って反応があるところまで向かうとそこには十体のゴブリンが武器を持っていた。

無苓は小声で全員に作戦を伝える。

「まずはセルティさんが正面から向かってゴブリンの注意を引き付けてください。私は潜伏スキルを使ってバインドで拘束と攪乱を行います。ゆんゆんは魔法の詠唱を行い、完成すれば私達に合図を出して教えてください。アリッサさんは私達が怪我をしたら治療をお願いします」

無苓の指示に全員は静かに頷くと先手必勝とばかりにセルティはゴブリンに向かって突進した。

「まずは一匹!」

不意を突かれて切り裂かれたゴブリンを見て他のゴブリンは武器を構える。

潜伏スキルを使っている無苓はまずは弓矢を持っているゴブリンの近づく。

「『バインド』!」

拘束して遠距離攻撃を封じる。

ゆんゆんも詠唱を唱えているなかでセルティは次々にモンスターを斬り裂いていった。

「そらそらそら!アハハハハハハハ!死ね死ね死ね!血を噴き出して死に絶えろ!!」

「………」

豹変してゴブリンを斬り裂いていくセルティに無苓は唖然とした。

いや、無苓だけでなく恐らくはゆんゆん達も同じだろう。

「汚い悲鳴を上げて醜い肉の塊となって死に晒すといい!!」

狂喜に満ちたセルティに無苓は戦闘中でありながら正直引いた。

ゴブリンに何か恨みでもあるのかと思うほどの豹変ぶりに驚く中事態は急変した。

敵感知により新たなモンスターが乱入してきた。

全身が黒い体毛で覆われた猛獣。

「初心者殺しです!逃げてください!」

茂みで隠れて魔法の詠唱を行っていたゆんゆんが無苓達に逃げるように催促する。

弱い冒険者を狩る狡で危険度の高いモンスターと言われている初心者殺し。

しかし、逃げるにしても距離が近い。

無苓は盗賊スキルである逃走か潜伏を使えば逃げられる可能性はあるがソードマスターであるセルティにはない。

「来るがいい!初心者殺し!貴様も殺してその体毛を剥ぎ取ってやる!」

煽るセルティに初心者殺しは視線をセルティに向けるが無苓は石を拾ってそれを初心者殺しに当てると今度は無苓に視線を向けた。

「幻惑」

そして魔眼を発動させて初心者殺しに幻を見せる。

そんな隙だらけな初心者殺しに無苓は拳銃を向けて引鉄(トリガー)を絞る。

発砲音と共に発射された弾丸は初心者殺しの頭部に命中して絶命させた。

しかし、反動が予想以上に大きかった無苓は尻もちをついてしまったが暴発することなく目標目掛けて発射することができた。

練習は必要だが、大きな一歩を踏み出せれた無苓にゆんゆん達は茫然と見ていた。

「初心者殺しを一撃で……」

「凄い……」

「いったいなんなんだ?その魔道具は」

驚愕に包まれる三人に無苓は告げる。

「その事は後程。それよりも今の内にクエストを終わらせませんか?」

同じく驚愕に包まれていたゴブリンを倒してクエストを終わらせた。

 

 

 

 

 

 

クエストを終えてその報酬と初心者殺しの討伐も加わりクエストの報酬以上に貰えた無苓達は一つのテーブルに座って拳銃をゆんゆん達に見せてどういうものかを説明していた。

「凄い……魔法の詠唱もなしであの威力ならやっぱり私を捨てるのですか?」

「捨てません。昨日も言いましたがそれは私の護身用です」

拳銃の性能に自分はお払い箱と思い落ち込むゆんゆん。

「しかし、このようなものをどうやって作ったというのだ?」

「企業秘密です」

作成方法を問われたが無苓は答えない。

特典である《物質創造》で創ったと言っても信じては貰えないだろう。

「それよりもセルティさんのあの豹変ぶりは何だったのですか?」

話を変えて今度はセルティに視線が集まるとセルティさんは何とも言えない気まずそうな顔で告白してきた。

「……すまない、どうも私はモンスターを見ると頭に血が上って殺さらずにはいられなくなるんだ。ただ、安心して欲しい。人に危害を加えることは決してしない」

ああなるほどと無苓はアリッサ同様に納得した。

上級職のソードマスターが何故入って来たのか。

それはあの豹変ぶりを見れば誰もが怖がってしまうから。

「……やはり、ダメだろうか………?」

「いいえ、対象がモンスターだけなら問題ありません。二人はどうしますか?」

「わ、私もいて欲しいです。その、怖かったですけど……セルティさんの言葉を信じようと思います」

「わ、私なんかが否定するなんてことできません……」

ゆんゆんもアリッサもセルティを受け入れた。

豹変ぶりには驚きはしたけどそれとこれとは別問題だったようだ。

「い、いいのか?無理をする必要はないのだぞ?」

「安心してください。万が一に誰かに危害を加えようとしたら私がバインドで拘束しますから」

安心案を提供する無苓にセルティは本当にいいのかと困惑する。

「すぐには納得する必要はありません。取りあえずは私達のパーティーに入ってみては頂けませんか?それで残るも去るもセルティさんの判断にお任せします」

「……わ、わかった。迷惑をかけると思うがよろしく頼む」

新たなパーティーメンバーが加わって仲間が増えた無苓達。

そしてパーティーリーダーは無苓がいいと案が出て無苓がリーダーを引き受けることになった。

盗賊の刈萱無礼。

アークウィザードのゆんゆん。

アークプリーストのアリッサ。

ソードマスターのセルティ。

パーティーが結成されて今日はパーティー結成に乾杯した。

「「「「乾杯」」」」

 

 



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魔剣使いキョウヤ

パーティー結成からも無苓達はクエストをこなしていた。

潜伏を使って茂みに隠れてモンスターが来るのをじっと待っていると目的地点にまでモンスターが現れると無苓は《物質創造》を使って太くて長いロープを創り出す。

「『バインド』それと幻惑」

討伐モンスターである一撃熊をロープで拘束してそれと同時に魔眼を使用して幻を見せる。

それにより、抵抗されることもなく一撃熊を無力化できる。

「今日はゆんゆんでしたね。お願いします」

「はい、『ライト・オブ・セイバー』!」

ゆんゆんの魔法により討伐される一撃熊を見て依頼達成。

「しかし、ムレイの盗賊スキルと魔眼のコンボは凄まじいな。レベルの低い私達がここ数日で大きく上がったぞ」

「ごめんなさい、私なんかがレベルを上げてしまって……ッ!」

「いえいえ。ゆんゆん、どうでしたか?レベルは上がりました?」

「はい!レベルが三つも上がりました!」

パーティーが結成してから数日間。

無苓達は今のようなやり方で順調にレベル上げと依頼を達成している。

敵感知でモンスターの接近を感じたら潜伏で隠れて近づいて来たモンスターにバインドで奇襲を仕掛けて幻惑で幻を見せる。

最後は隙だらけなモンスターを順番にトドメをさしていきレベルを上げていく。

このやり方を続けて行き、無苓のレベルは既に15になっている。

「ムレイさんばかりに負担を掛けてしまって何だか申し訳ないです……」

「そんなことはありませんよ。この魔眼も無敵というわけではないのですから。やりやすい相手を選んでいるから簡単に行けるんです」

無苓はここ数日で魔眼の能力の一つ幻惑について知ったことがある。

まずはアンデットや眼がないモンスターには効果がない。

複数に幻惑をかけることができるがその場合幻惑の効果が薄れてしまう。

命ない者や対象者が多いほど幻惑の効果がなくなる。

「新しい能力も考えないといけませんか……」

あと四つ、能力を設定できる。

いくつかある候補の中から選ぼうと考えを纏めて無苓は皆に告げる。

「帰りましょうか」

「そうだな、帰って皆で食事にでもしよう」

「わ、私も……」

「皆で……食事……ッ!」

討伐を終えて街に帰還途中でセルティが無苓に尋ねた。

「ムレイ。お前もそろそろ装備を整えたらどうだ?十分に金も溜まっているから良い装備買えるだろう。今回の報酬にそれを使ってもいいんだぞ?」

無苓はいまだに学生服で過ごしている。

最低限の服は《物質創造》で創っているがきちんとした装備は身に着けていない。

武器もショートソードと拳銃を常備しているだけ。

「……そうですね、ゆんゆん。明日、装備を買うのに付き合っては頂けませんか?」

「私でよければお付き合いします!えへへ、友達とお買い物……嬉しいな……って駄目よ、これはムレイさんの装備を買う為なんだからしっかりしなきゃ」

あっさりと了承してくれたゆんゆんは後半ぶつぶつと何かを呟いていたが取りあえずはそれは置いておいた。

「それでは明日は一日休みにして英気を養いましょう」

「そうだな、明日はゆっくりとしよう」

「わ、私が休んでもいいのでしょうか?」

「一緒に買い物……」

それぞれの思いつくことにまで無苓は何も言わない。

アクセルに戻ってギルドで報告を終えて報酬を受け取ると一つのテーブルに集まって注文を取る無苓達は食事がくると今日も無事にクエストが達成できたことを祝して。

「「「「乾杯」」」」

無苓は今日も順調に冒険者生活を堪能していた。

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

無苓は装備を買う為にゆんゆんと街中を歩いていた。

「ムレイさんの職業は盗賊ですからやっぱり軽装の方が良いですよね?」

「そうですね、鎧を着てもすぐに体力がなくなると思いますので」

無苓は近接戦闘は弱い方だ。

筋力が平均以下もあって腕相撲をしてもゆんゆんに負ける自信があるほど。

「軽装で短剣がいいですね。剣を扱える自信はありませんが」

「ムレイさんの職業は盗賊ですからね。前衛はセルティさんに任せましょう」

「そうですね」

一緒に街を歩きながらゆんゆんはもの凄く楽しいのか今にも鼻歌を歌うのではないかと思うぐらい上機嫌。

それほど楽しみにしていたのだろう。

それが何故かという不躾なことは言わない。

一人で買い物するよりも友達と買い物の方が楽しいことは無苓も知っている。

ゆんゆんに心情を察して仲間として一緒に楽しもうと無苓は思った。

「あの……どうして慈愛に満ちた眼で私を見るんですか?」

「いえ、そんなことはありませんよ」

どうやらそんな眼をしていたらしいが微笑んで誤魔化す。

「さぁ、いいものを選んでくれるのを期待していますよ」

「はい!ムレイさんに合うものを選んでみせます!」

訝しむゆんゆんに期待の言葉を言うと怪訝な表情はどこかに飛んで行った。

武具ショップにやってきた二人は早速防具や武器を見て回る。

「ムレイさん、これなんてどうでしょう?」

「革製の鎧ですか。こういうにもあるんですね」

ゆんゆんが言っていた白色の革鎧は防御力よりも機動力を重視しているように見えた無苓はうんと頷く。

「では、防具はこれにしましょう。せっかくゆんゆんが選んでくださったんですから断る理由もないですね」

「そ、そんな……同じパーティーメンバーとして当たり前のことをしたまでです……」

「それでも嬉しいですよ。ありがとうございます、ゆんゆん」

礼を言う無苓にゆんゆんの顔は赤くなっていく。

そんなゆんゆんを微笑ましく見て無苓は魔法が掛けられたダガーと普通のダガー二本も一緒に買って店を出て行く。

高い買い物をしたが先日の報酬の分を当てたおかげでそれなりに良い買い物ができた。

報酬を譲ってくれた三人に感謝する。

「明日から早速装備してクエストに行きたいですね」

「ムレイさん、凄く嬉しそうですね。でも、その気持ちは私もわかります」

新しい玩具を買って貰った子供のように喜ぶ無苓を見てゆんゆんは楽しそうに微笑みながらその気持ちに同調する。

「次は何のクエストに行きますか?」

「そうですね、食事ついでにギルドで確認してみましょうか。いいクエストがありましたら取っておきましょう」

遅めの昼食を取る為にギルドに到着するとアリッサとセルティと遭遇した。

「奇遇だな。二人もギルドで昼食なのか?」

「ええ、装備も買えましたので明日いいクエストがあるか確認も込めて。せっかくなので皆で食事を取りましょうか」

パーティーメンバーと全員で食事を取ることにした無苓達は一緒に明日受けるクエストを確認してから昼食を取る。

「今のパーティーの実力ならもう少し高難易度のクエストを受けてもいいと思うのだがどうだろう?」

「そうですね、全員がレベル10は超えていますからいいと思いますが無理そうでしたらすぐに逃げましょう」

「ムレイさんは心配性ですね。私も前より上級魔法を覚えましたので次のクエストは活躍してみせます」

「わ、私はもう少し難易度を下げた方が……ごめんなさい、私なんかが意見をしてしまってごめんなさい」

次はどうするかと口論し合う無苓達。

結成当時はまだ互いに遠慮するところがあったが今となってはいい感じに砕けている。

「すまない、少しいいだろうか?」

その時、無苓達に声をかけて来た者がいた。

無苓達は声の方に視線を向けると青く輝く鎧を身に着けた青年とその後ろにはパーティーメンバーと思われる女性。

「何でしょうか?」

代表して無苓が青年に声をかけると青年は視線を無苓が腰にかけている拳銃に向ける。

「その拳銃。もしかして君は日本人なのかい?」

「もしかして貴方も?」

その言葉に青年は頷いて答える。

「僕の名前は御剣響夜。この魔剣グラムを持ってここに来た。少し話をしないか?同じ国の者同士で」

その言葉に無苓は応じて皆とは少し離れた席に座る。

「まさかこんなにも早く日本人の方とお会いできるとは思いませんでしたよ」

「ハハ、僕もだよ」

同じ日本人で転生者同士和気藹々と話をする無苓と響夜。

しばらく話をすると響夜は無苓に尋ねた。

「無苓。もしよければだけど僕達のパーティーに入らないかい?もちろん、君のパーティーの人達も含めて」

響夜は無苓をパーティーに誘った。

「僕は本気で魔王を倒すつもりで日々努力している。アクア様から選ばれた勇者として僕は必ず魔王を倒してみせる。その為にも同じ選ばれた者として君の力を借りたい。一緒に魔王を倒そう」

「お断りします」

言い終わると同時に無苓は響夜の誘いを断った。

断られたことが予想外だったのか呆然とする響夜に無苓は告げる。

「響夜さん、貴方が魔王を倒そうという意気込みは素晴らしい。その為に努力しているのも称賛に値します」

「なら何故断るんだい?」

「仮に貴方が魔王を倒したらその後の世界はどうなると思います?」

不意にかけられたその問いに響夜は疑問を浮かべながら答える。

「それは、平和な世界だろう?魔王がいないのなら争う理由がないと思うのだが」

「違いますよ。魔王がいなくなれば次は人間同士の戦争が勃発します」

その言葉に眼を見開く響夜だが、無苓は続ける。

「今は魔王という共通の敵がいるから人間同士の争うは少ないですが、その共通の敵である魔王がいなくなれば人類は領地を巡っての戦争が始まると私は推測しています。何故かはという言葉は同じ日本人である貴方もご存じでしょう?」

響矢は無苓の言葉に深刻な表情を浮かべながら何も答えない。

地球でも人間同士で戦争を行い数多くの人が命をおとしたことぐらいは響矢も知っている。

その理由は無苓があげた通り領地拡大や国の発展など。

それが異世界でも変わらないことぐらい容易に想像できた。

「なら、君は魔王を倒すべきではないと言いたいのか?」

「いえ、そこまでは言いません。ただその可能性も否定しきれないだけです。魔王を倒した報酬として世界平和を望めば戦争もなくなると思います」

「……なるほど、僕達転生者の誰かがそれを願えば」

「ええ、戦争という言葉自体なくなる可能性もあるでしょう」

転生者には魔王を倒した報酬としてたった一つだけどんな願いでも叶えてくれる。

だけど、その可能性も低い。

大抵の人間がどんな願いでも叶えてくれると言われたら自分の欲望を満たす願いだ。

いくら善良な人でも少なからずの我欲が存在する。

「なら、尚更僕のパーティーに入ってくれ。僕か君かで平和を望む世界にすればいい。僕達にはアクア様から頂いた特典を使えば魔王を倒すことだって夢ではないはずだ」

同じ特典というチート持ちである二人が組めば確かに魔王討伐も夢ではないかもしれないが、無苓はそれに応じるつもりはない。

無苓は響矢ほどに魔王を倒す気概はない。

倒せれば倒す程度の気概しか持ち合わせていない。

せっかくの第二の人生を無苓は出来る限り平和に暮らしたい。

「なら、冒険者らしく勝負で決めませんか?」

「勝負?」

「ええ、このままでは互いに納得ができずに終わってしまう。なら、いっそのこと勝負で決着をつけましょう」

「わかった、それで構わない。僕が勝ったら君達は僕のパーティーに入って貰う」

勝負に応じた響夜は自分が勝った時の内容を伝える。

しかしそれは想定内。

「私が勝ったら……そうですね、装備を買ったばかりで懐が寂しいので。私のお願いを叶えてくれると助かります」

「お金かい?わかった、君が勝ったら出来る限りのお金を用意しよう」

互いに勝利した後の内容を了承し合うと二人は席に立つ。

「立会人は互いの仲間達でどうでしょう?」

「僕はそれで構わないよ」

あっさりと了承する響夜は自分が勝利することに疑いも持っていない。

響夜は既にレベルを30を超えて王都でも活躍している冒険者だ。

それに対して無苓はまだレベルは15。

どちらかが勝利するかは明白だった。

互いの仲間を連れてギルドの裏手の広場に到着すると無苓と響夜は互いに距離を取って向かい合っていた。

「勝敗はどちらかが敗北を認めるか倒れたら負けでいいですか?」

「わかった。恨みっこはなしで勝負しよう」

「ええ」

無苓は金貨をゆんゆんに渡して合図を出す様に促す。

「金貨が落ちたら勝負開始でいいですか?」

「もちろんだ」

無苓が負けるか心配するゆんゆんは不安で胸がいっぱいになりながらも金貨を上空に弾いた。

そして、重力に従って金貨は落下して地面に落ちる。

「『スティール』」

先手必勝。無苓は盗賊スキルである窃盗(スティール)を使用。

相手の持ち物をランダムに一つ奪うことが出来るスキル。

幸運値に依存するこのスキルの発動に無苓の手にずしりと重い物が握られる。

それを見て響夜は不敵に笑った。

「……なるほど、拳銃で先制攻撃すると思わせて本命はスティールで僕の魔剣を奪うつもりだったんだね?しかし、結果は見ての通りだよ」

響夜の手にはしっかりと魔剣グラムが握られている。

無苓が奪ったのは響夜が持っていた財布。

「さぁ、次は僕の番だ!」

剣を構えて向かってくる響夜に無苓は。

「幻惑」

魔眼を発動した。

「う……」

「『バインド』」

幻惑をかけられて更にはバインドによって縛られた響夜はその場で倒れる。

幻惑とバインドのコンボが炸裂して無苓は勝利した。

「考えが足りませんね、響夜さんは」

縛られて倒れている響夜に告げる無苓。

響夜の考えは間違ってはいない。

この世界にはない拳銃を見ればそれがアクアから頂いた特典と考えるのは当然で警戒をするのも当たり前だ。

だから響夜は初めは拳銃に警戒して無苓のスティールを受けてしまった。

結果的は魔剣グラムは奪われることがなかったが、それにより響夜は無苓がもう一つの武器を持っている事を考慮しなかった。

二つ目の武器に気付いたり、警戒をしていればまだ響矢にも勝機はあった。

だから無苓は考えが足りないと言った。

幻惑を解いて意識が戻った響夜に近づくと響夜は悔しそうに言う。

「……僕の負けだ、素直に敗北を認める」

「ええ、今回は私が勝たせて頂きました」

素直に敗北を認めた響夜に無苓は微笑む。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!こんな勝負認められないわ!」

「そうよ!キョウヤが負けるなんてありえないわ!」

「おい、往生際が悪いぞ」

響夜のパーティーメンバーであるクレメアとフィオは響夜が負けたことを認めずに声を上げる。

セルティはそんな二人に窘めようとするが二人は止まらなかった。

「だいたい何よ今のは!?どうせ卑怯な手でも使ったんでしょう!?そうでなければキョウヤが負けるはずないのも!」

「キョウヤは王都でも名を知られているほどの高レベルの冒険者なの!それがあんなにあっさりと負ける訳がないわ」

「二人とも、それは言い過ぎだ。彼はちゃんと」

「それでしたらどうして貴女方は何もしなかったのですか?」

二人を止めようとする響夜の声を遮って無苓は二人に言った。

「響夜さんが勝負に負けたことが納得できないのでしたらどうして貴女方は何もせずに傍観に徹していたのです?勝負をする前の少しでもそちらが有利なルールや勝負の内容の変更だってできたはずです」

「そ、それは……」

「勝負にしても私も響夜さんも一対一とは告げていません。貴女方が勝負の最中に乱入いてきてもそれはルールの穴を突いた作戦とも言えばよかったはずです。勝負前も勝負中も貴女方がしたのはただ見ていただけ。それなのに響夜さんが負けたら今更文句を言うのですか?」

強めの口調で告げる無苓に二人は何も言い返せなかった。

「どの世界にも完全無欠の人なんて存在しません。誰にでも長所があって短所があります。そして、パーティーとは互いに短所を補って助け合う大切な仲間です。響夜さんの勝利を疑わないことに悪く言うつもりはありませんが、先ほど言いましたように完全無欠の人はいません。響夜さんが足りない所を貴女方で補うことも出来た筈です」

コツコツと二人に近づく無苓は二人を指す。

「今回の響夜さんの敗因は響夜さんだけでなく貴女方にもあります。今回はそれを反省して次は響夜さんが勝利できるように貴女方で支えるべきではありませんか?」

「「……はい」」

優しく諭すように静かな声で告げる無苓の言葉に二人はただ返答した。

「わかればいいのです。それでは響夜さん、約束通り」

「え、あ、ああ。わかっている。それで君はいくらお金が必要なんだい?」

「違いますよ?」

「え?」

「いつ私がお金が欲しいと言いました?」

数秒思考が真っ白になって響夜は思い出した。

無苓は懐が寂しいとは言ったがお金が欲しいとは一言も告げていない。

願いを叶えてくれると助かると言っていた。

「安心してください。貴方の魔剣を寄越せとは言いませんから」

無苓の言葉と微笑みに冷や汗が流れる。

先程と変わらないその言葉と微笑みは今は悪魔のように見えた響夜に無苓はお願いを告げる。

「いい加減宿ぐらいも嫌になりましたからこの街で一番広くて高い屋敷と最高級の家具一式でいいですよ。恨みっこなしでしたよね?」

 



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キールのダンジョン

「流石はこの街一番の屋敷なだけあって凄いですね」

響夜に勝利した無苓は賭けによってこの街一番の屋敷を手に入れた。

一軒家の何倍も大きく広い庭には豪華な噴水までも設置されていた。

一言で表すなら貴族が住んでいてもおかしくない屋敷に感慨深く頷く。

「しかし、何だ。お前は敵に回したくないことだけはよくわかった」

これから住む屋敷を見向きもせずに神妙な表情を浮かべるセルティは無苓の恐ろしさを実感した。

「わ、私ムレイさんの事が少し、本当に少しだけ怖くなりました……」

「私なんかがこんな立派なところに済んだら罰が当たります!私みたいなゴミクズにはゴミ捨て場がお似合いです」

「お二人とも酷いですね。それとアリッサさんもこの屋敷に住んでもらいますからゴミ捨て場に行こうとしないでください」

どこかへ去ろうとするアリッサを捕まえながら無苓は二人に言う。

「私の話を聞かずに勝手に勘違いをしたあちらが悪いのですから遠慮する必要はありません。騙される方が悪いんですよ」

「ムレイさんが黒いです!騙される方の身にもなってください!辛いんですよ!」

「……ゆんゆんは少しは人を疑いましょうね?それと私は腹黒いですよ。ええ、どす黒いです………というより騙されたことがあるのでしたら少しはそこから学習しましょう」

騙されやすいゆんゆんにこれから変な人が寄り付かないように気を遣おうと思った無苓はアリッサを捕まえたまま屋敷に入っていくと中も広くて部屋の数も多い。

揃っている家具もどれも高級な物揃いを見てしっかりと約束は守ったことに真面目な人と思った。

「中も立派ですね。ゆんゆん、友達ができたら屋敷に招待してパーティーを開くのもいいかもしれませんね」

「友達と……パーティー……ッ!すっごくいいですね!」

無苓の言葉に笑顔を見せるゆんゆんは本当に友達に飢えているんだなと無苓達は思った。

部屋割りを決めようとするときアリッサが物置部屋などと言ったが当然のように却下。

各自部屋を決めて無苓は学生服ではなく前にゆんゆんと一緒に買いに行った装備を身につける。

白色の革鎧に腰には二本のダガーと拳銃を装備。

冒険者らしい格好になれたことに少し感動した。

軽装だから防御力は低いがそもそも前衛職は向いていない無苓にとっては敵に近づく前に魔眼かバインドで動きを封じる。

盗賊スキルはクリスの言う通り有用なものが多い。

ゆんゆんのように魔法を使ってみたいという気持はなくもないがアークウィザードよりもやはり、盗賊のほうが無苓はしっくりときた。

「あ、そういう能力にすれば……」

そこに不意に閃いた無苓は二つ目の魔眼の能力を設定する。

「これでいいですね。後はゆんゆんにでも頼んでみましょう」

魔眼の能力を設定を終えて広間に足を運ぶと既に荷造りが終えたのか皆集まっていた。

「うん、見違えたな」

「お似合いです、ムレイさん」

「か、格好いいです……ごめんなさい、私なんかが褒めたら穢れてしまいますよね。暖炉のたき火代わりになりますから許してください」

「しなくていいですよ。それと皆さん、褒めて頂きありがとうございます。早速で申し訳ないのですがクエストに行きませんか?」

「そうだな、新しい装備を試したい気持ちは私もよくわかる。昨日クエストを確認したグリフォンの討伐に向かおう」

「ムレイさんは盗賊ですからダンジョン探索も行ってみませんか?アリッサちゃんもいますし大丈夫と思いますが」

「私なんかが皆さんの役に立てる訳がありません……ッ!」

討伐、探索と別れた無苓達は取りあえずはギルドでもう一度確認してから決めることにした無苓達はギルドに足を運ぶ途中で無苓はゆんゆんに懇願した。

「ゆんゆん、後で『ライト・オブ・セイバー』を見せては頂けませんか?」

「構いませんけど、どうしてですか?」

「魔眼に新しい能力を設定してそれにはゆんゆんの助力が必要なのです。ゆんゆんが仲間になってくれて本当に助かりました」

「任せてください!」

了承するゆんゆんにセルティは訝しな目で無苓を見てくるが無視した。

先日の響夜との一件以来、少なからず無苓に対する信憑の変化があったのだろう。

そんなかんだでギルドに到着して掲示板から無苓達はゆんゆんが提案したダンジョン探索に行くことにした。

討伐系のクエストばかり行っていたこととダンジョン探索の経験も兼ねて無苓達はキールのダンジョンに足を運んだ。

駆け出し向けのダンジョンであるキールのダンジョンは探索の練習にはちょうどよく、運が良ければ宝が手に入るかもしれないと淡い期待も込めて無苓達はダンジョンの中に入っていく。

アンデットモンスターには潜伏スキルは通用しない以上倒す方法はアリッサの浄化魔法か一応で用意しておいた聖水。

灯りをつけて奥へと進んでいく無苓達。

前衛をセルティにしてその次に無苓、アリッサ、ゆんゆんの順に進むなかで無苓が動きを止めると全員が周囲に警戒して無苓が小言で告げる。

「何か来ます、アリッサさんは魔法の準備をお願いします」

「は、はひ」

神聖魔法の準備を取り掛かるアリッサにセルティは剣を持って警戒し、ゆんゆんも魔法を詠唱する。

そして、そいつは姿を現した。

小さな人型のモンスター、グレムリンは正面にいるセルティに襲いかかった。

「死に晒せ!木っ端悪魔!」

セルティは罵倒と共に剣で切り裂いた。

モンスターを見ると豹変するその性格にも慣れた無苓達。

下級の悪魔であるグレムリンは一瞬にしてセルティに切り伏せられて無苓が他に近づいてくるモンスターはいないことを告げると一安心。

グレムリンの血の臭いに他のモンスターが寄ってくるかもしれない為急いでその場から離れる。

その後も順調も無苓は盗賊としての実力を身に着けて行き、モンスターもセルティ達が問題なく倒していく。

駆け出し向けのダンジョンという理由で上手く行っているだけかもしれないがそれでも初めてのダンジョン探索としては上々だった。

「ふむ。何度も探索されているダンジョンとはいえ中々上手く行くものだな」

セルティも無苓と同じ考えを皆に言うと二人も同意するように頷いた。

「せっかくですし、もう少し奥まで探索してみましょう」

絶好調の無苓達は更に奥に進む。

特典以外のこの世界のスキルも使用してそれなりに実力が身について来た無苓。

性格にやや難ありだがいいパーティーメンバーにも恵まれて調子がよかった。

敵感知に多数の反応を感じるまでは。

「九体……十体……十一体……まだ……………」

十体を超える複数のモンスターが真っ直ぐ無苓達に近づいて来た。

無苓の言葉に一瞬で警戒を強いる三人。

剣を構えて皆の正面に立つセルティ。

いつでも神聖魔法を発動できるように準備するアリッサ。

詠唱を唱え始めるゆんゆん。

拳銃を片手に持ち、ロープを複数創っていつでもバインドを発動できるようにする無苓。

その四人の前に姿を現したのはアンデットナイト。

ゾンビの上位互換モンスターで駆け出しの冒険者にとっても十分な脅威となる。

そのアンデットナイトが十体以上更にはゾンビやグレムリンなどのモンスターまでも引き連れて無苓達に襲いかかって来た。

「『ターンアンデット』!」

先手を取ったのはアリッサ。

襲いかかってくるアンデットナイトを中心に発動した神聖魔法によってその体が消失するが数が多すぎる為それだけでは終わらなかった。

「『ブレード・オブ・ウインド』!」

素早く詠唱を終えたゆんゆんが放った中級魔法。

ダンジョン内で下手に上級魔法を放てば生き埋めになることから中級魔法を選んだが数が数の為大して倒すことは出来ない。

「どうして駆け出しのダンジョンにアンデットナイトがこんなにもいるの……ッ!?」

叫ぶゆんゆんだがその原因はわからない。

「全員撤退!私が殿を務めます!セルティさんは前を!ゆんゆんはアリッサさんを抱えてこの場から離れます!」

発砲しながら敵の数を減らそうとする無苓の言葉にゆんゆんはアリッサを抱えるがセルティは無苓の指示に従わずにアンデットナイトと戦っていた。

「セルティさん!撤退です!ダンジョン内でこの数のモンスターとは戦えません!」

「私がこんな腐敗した汚物に背を向けろと!?」

「幻惑!」

豹変していたセルティの性格に無苓は有無言わせずにセルティに幻を見せて無力化させるとセルティと戦っていたアンデットナイトにロープを投げつける。

「『バインド』!」

アンデットナイトを拘束させて急いでセルティの傍まで駆け寄ると無苓は《物質創造》でワイヤーを創り出す。

「『ワイヤートラップ』!」

叫ぶと同時に投げるとワイヤーはダンジョンの壁に触れると同時、鉄条網のように張った。

盗賊スキルの『ワイヤートラップ』を使ってアンデットナイトやモンスターの行く手を阻む。

「『ワイヤートラップ』!『ワイヤートラップ』!」

続けてスキルを発動してゆんゆん達と共にダンジョンの出口に向かって走る。

「はぁ……はぁ……重い………」

只でさえ思い鎧を身に着けているセルティ。

筋力が平均以下の無苓は既に体力が尽き始めて来た。

「『ファイヤーボール』!ムレイさんもう少しなので頑張ってください!」

魔法で襲いかかってくるモンスターを倒しながら喝を入れてくるゆんゆん。

その脇にはアリッサが邪魔にならないように小さく丸まって大人しくしていた。

逃走する四人の前から地上の光が見えて無事にダンジョンから脱出した。

「はぁ……はぁ……皆さん、大丈夫ですか……?」

呼吸を整えながら無苓達の安否を確認するゆんゆんに無苓はその場で前のめりに倒れる。

「もう……動けません……」

知力はあっても体力はない無苓は体力を使い果たして倒れてその背に背負うセルティの下敷きになった。

「あわわわ……ッ!!どうしようどうしよう……私が支援魔法を使っていればこんなことには………ッ!私、ダンジョンで息を引き取ってきます!」

「行っちゃダメ!お願いだからムレイさんに回復魔法をかけてあげて!」

ダンジョンに突撃しようとするアリッサを必死に止めに入るゆんゆん。

今まで順調だったとは反対に今日は慌ただしい冒険者日和となった。

「これも……冒険…………ですかね……」

下敷きになりながらも無苓は力なく笑った。

 



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アクアとカズマ

異世界に転生して一週間が経過した無苓は徐々に新しい世界にも慣れてきた。

「今日も一日頑張りますか……」

ベッドから出て装備を整ええていると不意に鏡に映っている自分を見て苦笑した。

「この格好にも見慣れてきましたね……」

感慨深く呟いた無苓は部屋を出て朝食を作るべくキッチンに足を運ぶ。

ガスコンロに火をつけて熱したフライパンに卵をのせてその端でベーコンも一緒に焼いていく。

昨日ホームベーカリーに具材を入れて作っておいたパンを取り出して適当なサイズに切っていくと無苓は思った。

「……ここだけ異世界ではないですね」

ガスコンロもフライパンもホームベーカリーも全ては無苓の特典である《物質創造》で創り出した物。

よく知らない物より手に馴染んでいる物が便利と思って使っていたが改めて思えばキッチンだけが異世界感から遠く離れている。

「おはようございます。ムレイさん、何かお手伝いすることはありますか?」

起きてきたゆんゆんが何か手伝えることがないかと尋ねてくると無苓は食器棚を指す。

「おはようございます。食器を並べては頂けませんか?」

「はい」

食器を出していくとその上にパンや目玉焼きなどを載せていくとセルティとアリッサが起きてきた。

「相変わらずいい匂いだ。おはよう、ムレイ、ゆんゆん」

「……おはよう、ございましゅ……」

朝食の匂いに嗅ぎ付けたのかというタイミングで起きてきたセルティとまだ瞼が半分落ちているアリッサ。

「おはようございます、そろそろ完成しますので座って待っていてください」

「いや、私も何か手伝うぞ?いつも食事を作って貰ってばかりなんだ。それぐらいはさせてくれ」

「ありがとうございます、しかし、もう終わりますので大丈夫ですよ」

最後にサラダを盛り合わせて本日の食事が完成した。

目玉焼きにベーコンに食パンにサラダをテーブルに置いて全員で食事を取る。

パンを食べながらゆんゆんはホームベーカリーに視線を向ける。

「それにしてもこの魔道具は凄いですね。材料を入れるだけでパンができるなんて」

「そうだな……なぁ、ムレイ。これの売買を視野に入れてはみないか?」

「そうですね、考えておきます」

ホームベーカリーの売買を進めるセルティに無苓はその案を保留にした。

実はというとまだ実用的ではないからだ。

電気の代わりにマナタイト結晶を使用して動くように改良を施しているが一番安いマナタイト結晶なら一回使用しただけですぐに新しいマナタイト結晶に変えなければならない。

せめて魔力式に改善できるまで売買は保留。

朝食を済ませたら無苓達は屋敷を出て、ギルドに向かう。

冒険者の仕事であるクエストを達成して報酬金を手に入れて生活費を稼ぐ為に。

前回のキールのダンジョンでのことを反省して無苓は更に新しい能力も設定しておいた。

ギルドに到着すると既に何人かの冒険者達が朝食を食べにと集まっているなかで無苓達は真っ直ぐと掲示板のところに向かう途中で何人かの冒険者が声をかけてきた。

「よぉ、ムレイ。今日も高難易度のクエストに行くのか?」

「ええ、一緒に行きますか?」

「馬鹿言うな!そこまで命知らずじゃねえよ!」

「ムレイさん、おっはよー!昨日はありがとね!」

「おはようございます。飲み過ぎには注意してくださいね」

親しく接してくる冒険者達に対応する無苓にゆんゆん達は感心の声が出た。

「……いいな、こんなにもたくさんの人に声をかけられて」

「前なら礼儀正しいと思っていたのだが今となっては裏があるとしか思えなくなるな」

「……うぅ、残飯以下の存在な私がムレイさんのパーティーにいるのはやっぱりおこがましいです………」

羨ましがるゆんゆん。

怪訝するセルティ。

自分を貶めるアリッサ。

「人との繋がりは貴重なものですからね。友好関係は極力築き上げるんですよ。一回食事を奢ればあっさりと仲良くなれるほどちょろいものでしたしね」

「そういう発言がなければ素直に感心したんだがな……」

腹黒いことをぽろっと告げる無苓に呆れ声を出すセルティだが、無苓の素の部分が見えているということは自分達に信用を寄せているということ。

正直なところが見れて嬉しいと思う部分もあった。

「さて、では今日はグリフォンの討伐に向かいますか」

クエストに出発する無苓達は街中を歩いていると不意に奇妙な叫び声が聞こえてそちらに視線を向けた。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!」

青髪の女性がジャージ姿の茶髪の少年に掴みかかって揉めていた。

「あれは……」

「お知り合いですか?」

「いえ、気のせいですね」

覚えのある青髪の女性ともう一人は自分と同じ転生者と思われる少年。

何故女神が転生者と一緒にここにいるのかという疑問があったが転生する時の特典について思い出した。

好きなものを持っていけるということが好きな”者”を指名できるということ。

自分と同じ女神を言い包めて二つ持っているとしたら別の能力もあるか、単純に女神の力を使って魔王を討伐しようとしているのか。

どちらにしろ友好関係を築いていた方が利害を得られるだろう。

女神の力が使えるとしたらそれこそチートだ。

「クエストが終わり次第声をかけてみますか……」

本当ならまだ右も左もわからない今の段階で借りを作っておいた方が後々役に立つのだが流石にこれからクエストに向かう途中でそんなことは出来ない。

慌てる必要もなければ焦る必要もない。

クエストから戻り次第声をかけてみようと考えを纏めて無苓達は街を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガアアアアアアアアアアアっ!!」

鷲の上半身と獅子の下半身を持つモンスター、グリフォン。

「『カースド・ライトニング』!」

ゆんゆんの魔法で攻撃を行うが宙に飛んで回避するグリフォンは爪を突き出して魔法を発動直後の隙だらけのゆんゆんに接近する。

「このクソ鳥が!丸焼きにして焼き鳥にしてやる!」

だが、接近する途中でセルティがグリフォンに斬りかかった。

急な攻撃に攻撃は当たったが致命傷は与えられずにグリフォンはまた宙に飛ぼうと羽ばたく。

「もう飛ばせはしませんよ」

だが、飛ぼうとするグリフォンの背から無苓が木から飛び降りた。

潜伏を使って木々に上りこのタイミングを待っていた無苓は魔眼の力を発動する。

「発動、『ライト・オブ・セイバー』!」

無苓の手から光の剣が出現する。

無苓が二つ目に設定した魔眼の力は模写(コピー)

視界に映した魔法、スキルを一回使用で発動することが出来る。

一回使用でまた模写しなければ使用することが出来ない能力だが、魔力などの消費なしで発動できる。

完全にグリフォンの背後を取った無苓は光の剣でグリフォンを突き刺す。

更には拳銃をグリフォンの頭に突き付けて発砲して完全に息の根を止める。

グリフォンと共に落ちてきた無苓にアリッサは近づいて回復魔法をかける。

「『ヒール』」

細々とした傷を治してくれるアリッサ。

アークプリーストは前衛に出ても問題ない職業のはずだがアリッサは性格上ネガティブ思考で暴走しない限りはモンスターに突っ込むことなく全員の支援、回復に専念してくれている。

ゆんゆんは魔法で支援、攻撃、防御まで行って更には近接戦闘までこなしてパーティー全員をサポートしてくれる。

セルティは前衛全般をこなしてモンスターを殲滅してくれる。

無苓は主に奇襲、バインドや魔眼による支援などを担って指揮を執る。

改めて考えればバランスのいいパーティーだなと思った無苓は危険でもない限りはバインドと魔眼のコンボは控えてパーティー全体の連携を上げて行こうと思案する。

「さぁ、帰りますか」

クエストを達成して街に帰還する無苓達はギルドに赴き報酬を山分けにする。

「ム、ムレイさん。帰ったら私とボードゲームしませんか?」

「いいですね。ルールはわかりませんので教えてくださいね」

「二人とも。クエストが終えて遊びたい気持ちはわかるがまずは食事を取って風呂に入ってからにしておけ」

「わ、私はお風呂は最後でいいです……汚物と同じ私が先に入って皆さんを穢すような真似はできません」

和気藹々と話をすると無苓はギルド周囲を見渡すと目的である人物達を見つけた。

「皆さん、先に食べていてください」

ゆんゆん達に先に食べるように伝えて無苓は二人に近づく。

「失礼。日本という国に聞き覚えは?」

ジャージ姿の少年に無苓は声をかけると少年は目を見開く。

「日本………ということはお前も俺と同じ転生者なのか?」

予想通りの反応に無苓はまずは自分から名乗ろうと。

「ちょっとあんた誰よ!?言っとくけどね、この食事はあんたにはあげないからね!」

シッシッと追い払うようにする青髪の女性に無苓は頬を引きつかせるがすぐに表情を元に戻す。

「お久しぶりです、女神様。そして貴方は初めまして。私の名前は刈萱無礼。貴方と同じ日本から来た転生者です」

「おおっ!転生初日で同じ境遇の奴に会えるとは思ってなかった!俺は佐藤和真。知ってると思うけどあいつはアクアだ」

握手を求める和真に無苓も手を伸ばしてその手を握ると本題に入った。

「私のことは名前で呼んでください。ところであなたの特典は何かお聞きしても?」

その言葉を聞いた和真は何も言わずにアクアを指さす。

「俺は……あれだ……」

その顔は後悔に満ちていた和真に無苓は再度尋ねる。

「女神を連れて来るとは思いませんでしたが女神の力が使えたら確かにチートですね」

「……女神の力は使えねえ上にコイツ自身何の役にもたちゃしねえ。正直、今でもこいつを選んだことを後悔している」

「そ、そうですか……食事、奢りますよ?」

「………助かる」

哀愁漂る和真の顔を見て思わず同情してしまった無苓は食事を奢ることにした。

「え、奢ってくれるの?貴方いい人ね!すいませーん!一番高いものをくださーい!」

「少しは遠慮しろよ!この駄女神!!」

人の話を全く聞かずに食事を進めていたアクアは奢りと聞くと遠慮くなく高いものを注文して和真に頭を叩かれた。



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いざ、勝負!

「和真さんはよく女神様を選びましたね。女神を特典で選べるという発想はありませんでしたが、考えれば”者”ではありますからね」

「……だろ?でも、本当に後悔しているよ。はぁ、腹いせで選ぶもんじゃねえな」

溜息を吐きながら唐揚げを齧る和真の隣では無苓の奢りとわかりばかすかと食べているアクアはネロイドを一気飲みして無苓を見る。

「そういえばあんたのこと思い出したわ。えっと、ムレイだったよね?」

「ええ、合っていますよ。まさかこんな形で女神様と再会するとは思いも寄りませんでした」

女神様と呼ばれて鼻を高くするアクアは和真の背中をバンバンと叩く。

「カズマも少しはこの人を見習って私を敬いなさい!ムレイはね、私の事を仕事をしっかりとこなす慈愛に満ちた女神様って言ってくれたのよ!」

「……マジか」

「嘘に決まってるじゃないですか。褒めて気分を良くさせただけですよ、特典を二つ手に入れる為に」

調子に乗るアクアの陰でひそひそと話す二人。

「特典って二つも持って行けたのかよ!?クソ、俺も嘘でも褒めてそうすればよかった」

「まぁ、頭が子供で助かりました」

「俺、基本的にイケメンは嫌いだけどあんたとは仲良くできそうだ」

「奇遇ですね、私も和真さんと仲良くできそうと思ってましたよ」

強く固く握手する二人は微笑むと和真は無苓が腰にかけている拳銃に視線を向けると無苓に尋ねた。

「なぁ、その拳銃って本物なのか?」

「ええ、特典で創ったんですよ。構造は把握していましたから」

拳銃を取り出して和真に見せる無苓。

「……もしかして創作系の特典なのか?」

「ええ、後は魔眼ですよ、せっかく知り合ったのですから能力をお見せしましょうか?」

「いいのか!ぜひ頼む!」

「ちょっと、私の話聞いてる?」

「では、透過」

魔眼の能力を発動させて無苓は和真を見るとふむ、と頷いて。

「和真さんの職業は基本職の冒険者ですね、そして女神様はアークプリーストで和真さんは女神様を見ながらこういうイベントは俺の方に起こるんじゃとショックを受けたのですね」

「過去を見る能力なのか……?」

「私がムレイにあげた特典《魔眼》は五つの能力を自分で設定できるの。今のはムレイが考えたものよね……?」

「五つもあるのかよ!?本当にチートだな!」

「でも、そこまで凄くはないのよ?あくまで眼に関する限定の能力だからね」

「ええ、ですが自分で設定できて自分専用の能力ができますからこれを選びました。ちなみに今のは透過。対象者の過去と思考を見るだけではなく暗闇でも昼間と変わらず見ることも可能とします」

そして無苓は和真のおかげでこの能力について新しい発見があった。

和真の場合は過去を見てみたがこのアクセルの街に来た前の過去が見えなかった。

死後でのアクアとのやり取りやその前の地球にいた頃の過去も見ることができなかった。

なるほど、と納得して立ち上がって五万エリスを和真に渡す。

「では、私も自分のパーティーメンバーと食事がありますのでここで。余った分は装備を買うなり好きに使ってください」

「ああ、助かるよ。なんせ本当に金がねえからな」

「最初はそうですよ。それでは失礼します」

会釈して去って行く無苓は自分のパーティーに戻る。

顔合わせが出来ただけでもそれなりに収穫はあっただけでも良しとして無苓は皆のいるテーブルに行く。

「あ、お帰りなさい」

「戻りました。先に食べても良かったんですよ?」

テーブルに行くとゆんゆん達は料理は注文していても料理に手はつけてはいなかった。

「ムレイは私達のリーダーなんだ。ムレイがいなければ始めることは出来ない」

「皆さんで食べた方がおいしいです」

「さ、先に食べる事なんてできません……」

無苓が戻ってくるまで待っていてくれた皆に無苓は嬉しかった。

「ありがとうございます。では、頂きましょうか」

いい人たちと出会えた、そう思いながら今日もパーティーメンバーと共に楽しく談話をしながら食事を進める。

「へぇ、めぐみんさんは爆裂魔法以外覚えようとしないのですね」

「そうなんです。里の人達もこぞって天才だって期待してて……。そんなめぐみんが、爆裂魔法しか使えない欠陥魔法使いに成り下がってしまいましたし、他の魔法を覚えようともしないんですよ」

「爆裂魔法は爆発系の最上級クラスと聞くがやはり魔力の消費量も激しいのか」

「そうです。一発だけのネタ魔法なんです。それなのにめぐみんは」

食事を取りながらゆんゆんはライバルであるめぐみんのことばかりを話すがそれは友人でもあるめぐみんを心配している。

思いやりのあるゆんゆんらしいその言葉に無苓達は微笑ましく話を聞いている。

「何で爆裂魔法に……あ、アリッサちゃん、口元が汚れてるよ?」

「あううう……ご迷惑をかけてごめんなさい……」

話の途中でアリッサの口元が汚れていることに気付いたゆんゆんはハンカチで拭うとアリッサは顔を赤くして謝った。

危険なクエストの後の平穏な食事。

異世界に来ての暮らしにも慣れて冒険者として働いて生活をしている。

しかし、冒険者だけで生活出来る程世の中は甘くないことは重々承知している無苓は近い内に地球で得た知識をもとに生活用具を商売品として売るか、知的財産権を手にするかなども考慮している。

それでも今はこの平穏な生活を堪能できるだけで無苓は満足だ。

食後に昨日暇つぶしに作ったチュパチャプスを口にくわえて味わう。

物珍しそうに尚且つ欲しそうな目で見てくるゆんゆん達にも渡して食後のチュパチャプスをパーティーメンバーの皆で堪能した。

ちなみに味は林檎味。

味わいながら屋敷に戻る無苓達は順番に風呂に入って無苓は約束通りゆんゆんとボードゲームを始めてセルティは剣の手入れ、アリッサは既に就寝し始めた。

無苓はゆんゆんにボードゲームを教わりながら地球のチェスや将棋とは違い、魔法という概念があって若干ではあるがルールは違っていた。

「んん……負けました」

「えへへ、勝ちました」

初戦はゆんゆんに軍配があり、敗北したがこれでルールは完全に把握した無苓は反撃に出た。

「冒険者をウィザードに転職」

「甘いですよ。ここに盗賊を移動です」

「クルセイダーを移動」

「テレポート」

しかし、中々攻められない。

攻防共にバランスよく配置しているゆんゆんに隙はない。

紅魔族は知力と魔力に優れているとはゆんゆんから聞いて実際にゆんゆんの冒険者カードも見て確認もした。

これは中々の強敵であるゆんゆん。

真剣に駒を動かす無苓にゆんゆんは手早く駒を動かして徐々に無苓を追い詰めていく。

「ああ、一人でするのとは全然違う……」

悲しいことを嬉しそうに言うゆんゆんに無苓は今後も付き合ってあげようと思ったがこれはこれ。

勝負に手を抜くほど無苓は優しくない。

「ゆんゆん。一つ賭けをしませんか?負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞くでどうですか?」

「いいんですか?私、勝っちゃいますよ?」

優勢のゆんゆんは余裕の笑みを浮かべているが無苓は不敵に口角を上げる。

「宣言しましょう。ゆんゆん、貴女は自らの意志で敗北を認めると」

それは勝利宣言。

減勢状態のはずの無苓はゆんゆんに向けて勝利を宣言した。

それを聞いたゆんゆんは少しご立腹。

「めぐみんみたいなことを言っても手を抜いたりはしませんから!ソードマスターで盗賊を撃破!」

「クッ!ならアークウィザードでクルセイダーを撃破です」

互いの知力で競い合う二人は熱が入り、鮮烈なまでの攻防を繰り広げる。

それを見たセルティはボードゲームでよくそこまで熱くなれるものだ、とぼやいていたが今の二人にはその言葉に耳を貸すほどの余裕はない。

相手より一手でも早く読み合い、計算して、駒を動かす。

この手、あの手と二人は知力をぶつけ合う。

駒を移動させて、撃破させて、潰し合う二人の決着は徐々に終盤に近付く。

負けたくない、その思いを糧に頭を働かせて指を動かす。

そして――――。

「これで王手です!」

ゆんゆんは王手をかけた。

残された無苓の駒では逆転は不可能。

もうゆんゆんの勝利は確定してる。

自身の勝利に何の疑問を抱かないゆんゆんは自信たっぷりに胸を張る。

第三者であるセルティから見てもここから無苓が逆転する手はない。

万事休す。その時に無苓はゆんゆんをじっと見る。

「な、なんですか?そんなにじっと見てきても私の勝ちは揺るぎませんから」

負けを認めない無苓に怪訝するゆんゆん。

そんなゆんゆんに無苓は切り札(ジョーカー)を発言。

「ゆんゆん。今度、私の知り合いを紹介しますので降参してください」

微笑みながら無苓はそう告げた。

その隣でセルティがそんな勝ち方でいいのか……?と呆れていた。



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ゆんゆん(メイド)のお礼

「うぅ……恥ずかしいよ………」

先日のボードゲームで無苓の策により降参したゆんゆんはメイド服姿となっている。

「よくお似合いですよ、ゆんゆん」

丈の短いスカートが気になるのか下に引っ張るゆんゆんの姿に無苓は微笑む。

一日メイド服姿で無苓に奉仕する。

それが賭けによって決めた無苓の命令。

因みにメイド服は《物質創造》で創った。

「ゆんゆん、コーヒーがなくなりました。おかわりを下さい」

「……はい、ムレイさん」

「おや?メイドは主人の事を何と呼ぶのか忘れましたか?」

「ご、ごしゅ、ご主人様……」

「よろしい」

顔を赤くしながらも言い切ったゆんゆん。

新しいコーヒーを注いでもらうとそれを一口飲む。

「ううぅ……どうしてあの時降参なんかしたのよ、私……」

勝利目前だったのを無苓の一言で降参したゆんゆんは今になって後悔している。

「まぁ、似合っているから気にしない方が良い」

「よ、よくお似合いです……」

そんなゆんゆんを励ます二人。

だけどそれは今のゆんゆんにとっては逆効果だったのかより羞恥心が強くなって顔を真っ赤にしてその場に座り込んで顔を隠してしまう。

そんなゆんゆんに無苓は優しい声音で。

「ゆんゆん、まだ掃除が終えてはいませんよ?早くしないとお仕置きしますからね、メイドさん」

新たな仕事を与えた。

「わあああああああああああああああああああああああっっ!!」

「ゆんゆん!ゆんゆん!?」

「ゆんゆんさん………ッ!?」

広間から廊下へ駆け出して行ったゆんゆん。

「お、おい、ムレイ。もういいんじゃないのか?」

「何を言っているんですか?私はゆんゆんの為は思ってあのような恰好をさせているんですよ」

「ご、ご趣味では………いえ、なんでもありません、ごめんなさい……」

駆け出して行ったゆんゆんを心配してもう止めさせようとするが無苓の言葉に首を傾げた。

「ゆんゆんはいつも一歩引いて私達と付き合ってくれます。ですので少し強引にでも人と触れ合えるきっかけを作る必要性があると私は思います。あのような恰好をしていれば私からは罰ゲームで仕方がなく、周囲の人に見られたらからかい半分で声をかけて来るでしょう。そうなれば自然とゆんゆんと接触してくる人も増えるはずです」

コーヒーを飲みながら語る無苓。

一人、ボッチのゆんゆんに自分から、周囲の人から接触できるきっかけを手に入れる為にメイド服の恰好をさせた。

全ては心優しいゆんゆんの為、心を鬼にしての行動だった。

「とまぁ、これが半分の理由でして後は純粋に面白いからです」

「……だんだん本性を現してきたな、はぁ、ララ、ダクネスと相性が良さそうだ」

呆れるように息を吐くセルティに半眼で見てくるアリッサ。

二人の視線に耐え切れなくなった無苓は広間を出てゆんゆんの様子でも見てみようと探すと無苓の言葉通りにしっかりと掃除をしていた。

潜伏を使って掃除しているゆんゆんに歩み寄る。

「んしょ、よいしゃ、と、ふぅ~」

棚を動かしてその下まで丁寧に掃除をするゆんゆん。

真面目だな、と感心している無苓は感心と同時にこのままではつまらないと思い、そっとゆんゆんの背後に近づく。

「ゆんゆん」

「ひゃっ!?」

突然耳元で囁くように声をかけられたゆんゆんは驚きの余りに変な声が出た。

「ムレイさん!からかわないでください!!」

「すみません、ゆんゆんがあまりにも可愛らしいものでしてつい」

「ついではありません!!」

顔を真っ赤にして怒るゆんゆんに笑顔を崩さない無苓。

「実はというとゆんゆんに一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」

「はい?」

唐突に頼みごとをする無苓はその内容を耳打ちするとゆんゆんは羞恥心にかられる。

「む、無理ですよ!恥ずかしくてできません!!」

無苓の頼みごとを断ったゆんゆんだが無苓はここで諦めるつもりはない。

「ゆんゆん、私達はなんですか?」

「え?何ですか、いきなり?」

私達とは何か、と問いかけられて怪訝するゆんゆんに無苓は言葉を続ける。

「私達は仲間です。共に苦楽を分かち合い危険な依頼をこなしていく……それが仲間というものです」

「仲間……」

「私達はまだパーティーを組んで日が浅い。だからこそ話し合い、触れ合いをすることで信頼関係を固めて行きたいのです。自分の後ろを任せられる大切なパートナーとして」

「パートナー……」

「……しかし、そう思っていたのは私だけのようですね。いいのです、異性にする頼み事ではないことは私も重々承知しております、お仕事の邪魔をして申し訳ありませんでした」

「ま、待ってください!」

頭を下げて去ろうとする無苓をゆんゆんは呼び止めた。

「そうですよね、私達は仲間ですよね!仲間同士のスキンシップは信頼関係を固まるいいことですよね!」

「……無理しなくてもいいんですよ?」

「無理してません!むしろさせてください!!私の膝でよければいくらでも!!」

「ありがとうございます、ゆんゆん。私はいい仲間と巡り合えて幸運です」

こうして無苓はゆんゆんに膝枕をさせて貰いながら耳掃除もして貰った。

「う、動かないでくださいね……私、男の人とするのは初めてで」

「ゆんゆんの初めてのお相手になれて感激です。大丈夫です、ゆっくりでいいですか」

「は、はい……あ、動かないでください」

「すみません、あまりにも心地よいものでしたもので」

「そ、そんなにいいものなのですか?」

「ええ、暖かくて気持ちいいですよ」

ゆんゆんに膝枕をさせて貰いながら堪能する無苓は内心でゆんゆんはちょろいな、と思っていた。

美少女の膝枕を十二分に堪能する無苓はゆんゆんが耳掃除を終えても離れるつもりはなかった。

離れない無苓に困惑するゆんゆんの反応が見たい無苓は寝たふりを行う。

「あの、ムレイさん……寝ているんですか?」

予想通りの反応をするゆんゆんに内心ほくそ笑むと不意に頭を撫でられる感触が無苓を襲った。

「ふふ、普段は大人びてるムレイさんだけど寝ている顔は子供みたいで可愛い」

無苓の頭を撫でながら微笑ましいことを言うゆんゆんに無苓は起きようにも起きれなくなった。

「あ、でも変な所をこだわるところは子供みたいで可愛かったな」

そんなことを思っていたのかと内心で愚痴る無苓。

「ムレイさんが起きていたら恥ずかしくて言えないけど私、ムレイさんに話しかけられて凄く嬉しかったんですよ。気さくに話しかけて来てくれて、パーティーに誘ってくれて、今もこうして一緒にいてくれる」

無苓が寝ていると思って一人でどんどん話を続けていくゆんゆんに無苓の心臓は今にも飛び出しそうなほどドキドキしてきた。

こんな告白されるような空気のなかどうやって起きればいいと真剣に悩み始める。

「ありがとうございます、ムレイさん……って、寝ている人に何お礼言っているのよ、私」

起きていますよ、とは言えなかった。

完全に起きるタイミングを見失った無苓は最後の手段を取ることにした。

適当なタイミングで起きたふりをして至急かつ速やかにギルドに行って酒を飲みまくってこの事は忘れようと決めた。

万が一に実は起きていることがわかれば気まず過ぎる。

「ゆんゆん、ここにいたのか?ん?ムレイは寝ているのか?」

部屋に入って来たセルティはゆんゆんに膝枕をされて寝ている無苓が視界に入ると訝しむ。

「ムレイ……お前、起きているだろう?寝たふりしてゆんゆんを困らせるのはどうかと思うぞ?」

「え?」

「……………」

セルティの言葉に放心するゆんゆんと額から冷や汗が流れ落ちる無苓。

視線を膝元で寝ている無苓に向けるゆんゆんは若干涙目だった。

「お、おはようございます、ゆんゆん……」

耐えられなくなった無苓は観念して当たり障りのない言葉を述べる。

涙目で顔を真っ赤にしたゆんゆんが掴みかかって来た。



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我が名はムレイ!

無苓達は昼頃にギルドに向かっていた。

遅めの昼食といいクエストがあれば受けようと考えてギルドに足を運ぶと無苓は前に話しかけた同じ転生者の和真に声をかける。

「和真さん、こんにちは」

「おう、ムレイ。お前も飯か?」

「ええ。ん?隣にいる方は?」

「よくぞ聞いてくれました!!」

和真の隣に座っていたゆんゆんと同じ紅魔族の少女がマントを翻して高らかに名乗り上げる。

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者………!」

「という頭がおかしい子なんだ」

「おい、誰の頭がおかしいのか詳しく聞こうじゃないか?」

追加でめぐみんの補足説明をする和真。

「め、めぐみん!ここで会えるなんて流石は私の運命のライバル!さぁ、今日こそ長きに亘った決着をつけるわよ!」

友達であり、ライバルであるめぐみんにゆんゆんは嬉しそうに指を突き付ける。

「………どちら様でしょう?」

「ええっ!?」

何気なく言った言葉に驚きの声を上げるゆんゆん。

「わ、私よ私!ほら、紅魔の里の学園で同期だった!めぐみんが一番で、私が二番で!あなたに勝負を挑んだ……!」

「それは私の自称ライバルであるゆんゆんです。貴女がゆんゆんなわけないでしょう。ゆんゆんはぼっちです。他の誰かと一緒にいるわけないでしょう」

「自称じゃないよ!ちゃんとしたライバルよ!それと私はもうぼっちじゃないのよ!今はムレイさん達とパーティーを組んで一緒に屋敷に住んでいるのよ!」

無苓達を指しながらめぐみんの言葉を訂正するゆんゆん。

するとめぐみんは遠い目で天井を仰ぐ。

「ああ、ゆんゆん。ぼっちの貴女はどこに行ってしまったのですか?どこでもいいですが」

「ひ、酷い!そんなに私がパーティーを組んでいるのがおかしいの!?あと、どこでもよくないよ!!」

今にも掴みかかっていきそうなゆんゆんを無苓達は宥めながら無苓はめぐみんに挨拶する。

「我が名は無苓!盗賊を担う者にしてこのパーティーのリーダーを務める者也!!」

拳銃を片手に持ち、ポーズをとって紅魔族の名乗りで挨拶する無苓にめぐみんの目が輝く。

「おおっ!まさか紅魔族の挨拶で返してくれるとは思いませんでした!どこかの変人ぼっちにも見習ってほしいものですね」

「私のこと!?今、私を見て言ってよね!?」

呆れながらチラリとゆんゆんを見てつぶやいためぐみんに無苓はそろそろフォローに入ることにする。

「めぐみんさん。ゆんゆんは私達の大切なパーティーメンバーなのでからかうのは今日はこのくらいでお願いします」

「別にからかってはいません。弄っているだけです」

「同じよ!!」

胸を張って言うめぐみんにゆんゆんが叫ぶ。

「さて、お遊びはこのくらいにして和真さん、冒険者生活は順調ですか?」

仲が良い紅魔族の二人を置いて無苓は和真に声をかける。

「順調もなにも取りあえずはスキルを取得してみないとわからねえもんだな。なぁ、ムレイ。盗賊スキルってどんなものがあるんだ?スキルポイントが3ポイントで取得できるおとくなものってあるか?」

「ええ、盗賊スキルは取得にかかるポイントは少ないのでお得と言えばお得ですよ」

無苓は既に盗賊スキルを全て取得している。

「そうそう、盗賊スキルはお得だよ!」

活発な声に二人は振り返るとそこには同じ職業のクリスと金髪の騎士がいた。

セルティはその金髪の騎士に声をかける。

「ダクネス、久しいな」

「ああ、貴女の噂は私も聞いている。いいパーティーに恵まれて友として嬉しく思うぞ」

「ありがとう、そういうダクネスはどうなんだ?」

「私も…ハァハァ、良いパーティーを見つけた」

途中で息を荒くして和真に視線を向けたダクネス。

和真は凄く嫌そうな顔をしていたが無苓はわからなかった。

 

 

 

 

 

 

「まずは自己紹介しとこうか。ムレイはもう知っているけどあたしはクリス。ムレイと同じ盗賊だよ。で、こっちの不愛想なのがダクネス。職業はクルセイダーだよ」

「ウス!俺はカズマって言います。クリスさん、よろしくお願いします!」

冒険者ギルドの裏手の広場。

和真に盗賊スキルを教える為にやってきた。

「よろしくお願いしますね、ダクネスさん。私のことがムレイとお呼びください」

「こちらこそよろしく頼む。私の事もダクネスと呼んでくれ」

手を握って握手を交わす二人はクリスと和真のやり取りを見学していた。

本来なら無苓が和真に盗賊スキルを教えようとしたが和真はクリスがいいと即断した。

その気持ちはわからなくもない無苓はそれを了承した。

「ダクネスはセルティさんとお知り合いで?」

「ああ、幼い頃からの知人だ………ところでセルティのことは」

「ああ、安心してください。知っていますから」

「そ、そうか」

モンスターを見ると豹変することを知った上でパーティーを組んでいることを知って安堵するダクネス。

「セルティは幼い頃にモンスターに母親を殺されて以来、あのように変貌してしまうんだ。し、しかし!それ以外は大丈夫だ!私が保証する!だから……!」

「安心してください、セルティさんは私達の大切な仲間です。追い出そうとは思ってもいませんよ」

友達であるセルティを心配するダクネスに無苓は笑みを浮かばせながら答える。

友達の事を心配するダクネスはいい人だなと思った。

「ねぇ、ダクネス!ちょっと手伝って!」

「ん?……ああ、わかった」

ダクネスに手伝って貰いながら盗賊スキルを教えるクリスは最後に盗賊スキルである『窃盗(スティール)』を教わるとクリスが勝負を仕掛けてきた。

先程教えたスキルで奪う勝負。

何を奪われても文句は言わないクリスの誘いに和真は乗ってスキルを取得する。

しかし、『スティール』は幸運値に依存して奪えるものが変わる。

どんなスキルも万能ではないが為に対応策がある。

「よし、やってやる!俺は昔から運だけはいいんだ!『スティール』ッ!」

一発で成功するあたり和真の幸運値が高い。

そして、和真が奪った物は一枚の白い布切れ。

「ヒャッハー!当たりも当たり、大当たりだあああああああああああ!」

「いやああああああああああ!ぱ、ぱんつ返してええええええええええええええっ!」

クリスは自分のスカートの裾を押さえながら、涙目で絶叫。

涙目で必死に和真からパンツを返してもらおうとするクリスの顔がたまらなく可愛いと思うのは自分はサディストなのだろうかと考えてしまう。

「何という鬼畜!流石は私に見込んだ男だ!!」

恍惚な顔で叫ぶダクネス。

それを見てしまった無苓は少し試した。

「どうしました?そんな嬉しそうな顔をなされて……もしかしてダクネスは人前でパンツを取られることに悦びを感じる変態なのですか?」

「ち、違うぞ!これはだな……ッ!」

「そうですよね、これは大変失礼な発言をしてしまい申し訳ありません。まさか騎士である貴女がそんな変態のようなことをなさるわけありませんよね」

「う、うむ!私は騎士だ!そのようなことに悦びはしない!」

「ではどのようなことなら悦ぶのです?」

「そうだな、激しいぐらい攻撃を受けるのも気持ちいいが………ハッ、誘導尋問!?」

「そうですか、ダクネスは生粋のマゾヒズムなのですね」

あっさりと自分がドMだと暴露してしまったダクネスは悔しそうに呻く。

「クッ……!これをネタに辱めようとするつもりだろう!いいだろう!しかし、私の体は好きに出来ても心までは自由にできると思うなよ!」

「そんな興奮しきった顔で何を言っているんですか?発情期の雌豚は四つん這いでぶひぶひ言っていなさい。和真さん、そろそろクリスさんを許してあげたらどうですか?」

「罵倒しておいて放置プレイだと!?ブ、ブヒ―――――――――!!」

「おい、パンツ返すからあの変態を止めさせてくれ。友達なんだろう?」

「う~~~ん、友達なんだけどな………」

四つん這いで豚の鳴き声を真似するダクネスに和真とクリスは引くと視線を無苓に向ける。

「ね、ねぇ……ダクネスを止めさせて。流石にあれは……」

「ああ、本気で引くぞ」

責任者である無苓にダクネスの変態行動を止めさせようと促す。

「はぁ……はぁ……見られている……それもいいぶひ………」

「幸せそうですから放置しましょう」

恍惚な顔をしているダクネスを見て無苓は表情を崩すことなく言い切った。

「いやいやいや!俺は嫌だぞ!あのままあいつがギルドに戻ったら他の人達に白い目で見られちまうだろう!!」

「そうだよ!あたしだって嫌だよ!!」

「仕方ありませんねぇ………」

二人の必死の説得に無苓は折れてポケットからブレスレットを取り出して右手につける。

「それは?」

「ちょっと思いついて創ってみたマジックアイテムです」

「……お前の特典はそんなものまで創れるのかよ」

羨ましいと小さくぼやく和真に無苓は早速それを試してみる。

「『スティール』……成功ですね」

「お前…………ッ!?」

「なっ!?」

「えっ!?嘘!?」

驚く三人の視線の先にはピンク色の布切れが握られている。

ダクネスは咄嗟に自身の下腹部を確認してあるはずのものがないことに気付いて顔を赤く染め上げる。

「成功ですね」

無苓が身に着けたブレスレットのマジックアイテムは幸運値を上げる効果がある。

《物質創造》の特典を使ってマジックアイテム的なものは出来るのかという思案から物は試しに創って実証。

結果は成功に終わった。

「わ、私のパンチュ……!?」

噛みながら立ち上がって無苓からパンツを取り返そうと動く。

「おすわり」

その一言で座り込むダクネス。

「くぅ……命令に逆らえない自分の性癖が情けない……!」

「ダクネス。これを返してほしければ今すぐ豚の真似事は止めなさい。もし、私の命令に逆らうというのであれば私にも考えがあります」

「ど、どんな………?」

目を潤わせて頬を染めるダクネスに無苓は微笑みながら告げた。

「どこかの変態に貴方の名前入りで百エリスで売りつけます」

「や、やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

ギルドの裏手の広場でダクネスは嬉しそうに叫び声を出した。

 



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見ていますよ?

「あ、お帰りなさいムレイさん―――――ダクネスさんはどうして顔が赤いんですか?」

ギルドの酒場に戻るとゆんゆんが迎えの言葉を送るとダクネスの顔が赤くなっている事に気付いて尋ねた。

「うむ、実はあああああああああああああああああああああああああああッッ!?」

「ダ、ダクネス!?どうしたんだ!?」

突然悲鳴というより官能的な声を出すダクネスにセルティは心配して慌てて駆け寄る。

「ダクネス、急に悲鳴を上げてどうしたんですか?大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ……ああ、問題ない」

恍惚な表情を浮かべているダクネス。

無苓は微笑みながらそうですか、と返答する。

その際に和真とクリスは無苓の後ろに隠しているスタンガンを見てしまい、顔を青ざめる。

ちらりと無苓と目が合うと無苓は表情を変えることなく微笑んだ。

余計なことを言えばわかりますね?

無言でそう言っている無苓に和真とクリスは青ざめながら何度も首を縦に振った。

それを確認して無苓はダクネスに耳打ちする。

「ダクネス。先ほどの事を誰かに言ったらわかっていますね?また『スティール』で貴女の下着を奪い取って五十エリスで売り払います。その先を想像してください」

自分の下着で自分の名前を呼ばれながら変態の欲情を満たす為に妄想の産物にされてしまう、ダクネスの下着。

汚らしい男が自分の下着を持ってはぁはぁと息を荒くしているその姿を妄想してしまったダクネスは身を抱き、震わせる。

「たまらん……ッ!」

妄想で悦ぶダクネスに無苓は続ける。

「たまりませんか……ダクネスは想像以上の変態汚れ騎士なのですね。なら、和真さんに頼みなさい。どうか私を仲間という性奴隷として扱ってくださいと。私が見る限り和真さんは相当の鬼畜外道の男です、貴女との相性も十分でしょう」

ぼそぼそと話す無苓と話す度に息を荒くするダクネス。

そんな二人にゆんゆん達は首を傾げるとめぐみんが和真にスキルを覚えられたか尋ねると和真は不敵に笑った。

「ふふ、まあ見てろよ?いくぜ、『スティール』ッ!」

右手をめぐみんに突き出してスキルを発動させる和真の手にはパンツが握られていた。

「……なんですか?レベル上がってステータスが上がったら、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?………あの、スースーするのでパンツ返してください……」

「カ、カズマさん、最低です……」

「ち、違う!?おかしいな、奪えるものはランダムのはずじゃ……!?」

慌ててめぐみんのパンツを返すが周囲の女性達の視線が冷たくなった和真に熱い視線が向けられる。

「なんとう鬼畜外道!ムレイの言う通りだ!カズマ、どうか私をパーティーに入れてそれ以上の辱めを受けさせてくれ!得意分野なんだろう!?」

「違うわ!!変なこと言うんじゃねえよ!ほら、ギルドの女性達の視線が冷たくなっちまっただろうが!?」

ダクネスの言葉を全力で否定して全力で弁明する和真に無苓は右手をゆんゆんに突き出すとそれを見てゆんゆんは一歩後退した。

「ム、ムレイさん……その手はなんですか?」

「………」

尋ねるゆんゆんに無苓は微笑みを崩すことなく近づくとゆんゆんも下がる。

「ま、まさか私もめぐみんみたいなことしませんよね?ムレイさんはそんなことしませんよね?」

「………」

一歩近づく、一歩後退する。

「ど、どうして何も言わないんですか?え、まさか本当に……!ムレイさん、止めてください!キャッ!?」

スカートの裾を押さえて後退するとバランスを崩して後ろに転倒するゆんゆん。

そんなゆんゆんに無苓は手を差し伸ばして立ち上がらせる。

「大丈夫ですか?ゆんゆん。というより私は手を突き出しただけでゆんゆんは私が何をすると思っていたのですか?」

「え……?」

「もしかして私も和真さんと同じようにゆんゆんのパンツを奪おうとすると思ったのですか?それなら悲しいです。ゆんゆんにとって私は変態扱いなのですね」

悲し気に話す無苓にゆんゆんは慌てふためく。

「ち、違いますよ!私はムレイさんのことちょっといじわるだけどとても優しい人って思っていますから!」

「ありがとうございます、ゆんゆん」

頭を撫でて礼を言う無苓は自然と口角が上がる。

ギルド内で他者から無苓はどのような人物と思われているのかという印象を周囲に与えることで自分の株を上げる。

和真とダクネスのやり取りの後で行ったためか予想以上にその成果は出た。

半分近くはゆんゆんをからかいたいという遊び心だったが。

「「………」」

同じパーティーメンバーからの冷ややかな視線は気にせずゆんゆんの頭を撫でる。

その時。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

街中に大音量のアナウンスが響く。

「緊急クエスト?ゆんゆん、何か知っていますか?」

「えっと、キャベツですね」

「はい?」

答えてくれたゆんゆんの言葉に無苓は自分の耳を疑った。

隣にいる和真もキャベツの正体がわからずめぐみん達に聞いている。

「キャ、キャベツの収穫時期なので……冒険者は疾走するキャベツを捕獲するんです」

「なるほど………」

疑問を抱いている無苓にアリッサが教えてくれるが正直理解できない。

キャベルが疾走?

足でも生えるのか?と思っていると冒険者ギルドの外で飛び回る緑色の物体、キャベツがそこにいた。

「………流石は異世界」

予想斜め上の展開に無苓はそう述べた。

そしてキャベツ一玉一万エリスという破格の報酬だった。

取りあえず。

「ゆんゆん、セルティさん、アリッサさん!乱獲しますよ!!」

《物質創造》で巨大な網を創ってキャベツを乱獲することにした。

「カズマ!私達も行くわよ!ムレイ達に負けていられないわ!!」

「俺、もう馬小屋に帰って寝てもいいかな」

呆然と和真はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

無事にキャベツ狩りを終えた無苓達は取り立てのキャベツを使った野菜炒めを食べている。噛み応えのあるシャキシャキ感がキャベツの新鮮さを促す。

「それにしてもセルティさんはキャベツ相手ですと豹変しないのですね」

「あ、ああ、モンスター限定なんだ」

モンスターを見ると殺戮凶に豹変するセルティだったがキャベツが相手だと最高の攻撃力を誇る《ソードマスター》として活躍していた。

「………それでゆんゆんはまだ落ち込んでいるのですか?」

「うぅ………また負けた……」

めぐみんにどちらがより多くキャベツを収穫できるか勝負を申し込んだゆんゆんだが、めぐみんのあざとい手口によって負けた。

というより、ゆんゆんが負けるように無苓が仕掛けた。

めぐみんにキャベツの一部を渡す代わりに一度爆裂魔法を見せてもらうという取引を持ち込みめぐみんはそれを了承。

結果、めぐみんは勝利した。

ゆんゆんは二人の間で行った取引のことは知らずに敗北を認めてしまった。

「まぁ、同じ街に住んでいるのですからいつでも勝負ができるではありませんか。次に勝てるように前向きに努力していきましょう」

「ムレイさん………ッ!」

励ましの言葉に目を輝かせるゆんゆん。

「今回一番頑張って頂いたのはアリッサさんですね」

「ふえ!?そ、そんな………私なんかが一番だなんてありえません!!収穫量も全然ですし…………」

「収穫量ではなくアリッサさんは私達を支援魔法で強化、更には他の冒険者が傷を負えばすぐに回復魔法をかけて助けていた。自分の為ではなく他の人の為に頑張っていました。私はこれはとても凄いことだと思いますよ」

「そうだな、ムレイの言う通りだ。今回のMVPはアリッサだ」

「そうだよ!アリッサちゃんが一番活躍していたよ!」

「―――――――――――ッッ!!」

褒めまくる三人にアリッサは顔を真っ赤にしてテーブルの下で蹲ってしまった。

照れ隠しなのだろうと三人は和やかに微笑みながら本人が落ち着くのを待つ。

「しかし、ムレイは私達の事をよく見ているな。私は自分の周囲の事で精一杯だったぞ」

「私も遠くから見ていましたがムレイさんほど見れなかったです」

「このパーティーのリーダーなんですから皆さんの事はしっかりと見ていますよ。例えばセルティさんは先日、前に使用していた防具が着れなかったことに落ち込んでいたり」

「な、何故それを!?」

「アリッサさんは普段は着ていない可愛らしい服をゆんゆん達に見せたらいいですのに」

「―――――ッ!?」

「ゆんゆんは……」

びくりと肩を震わせるゆんゆんは無苓が何を言ってくるのかに警戒すると無苓は申し訳なさそうに言う。

「夜はもう少し静かにしましょうね。大丈夫です、性欲は人間の三大欲求の一つですから」

「あああああああああああああああああああああああああああああッッ!!違う、違いますから!!」

テーブルから身を乗り出して涙目で掴みかかってくるゆんゆんに無苓は微笑みを崩さない。

「夜の慰めが必要なら私の部屋に来ますか?」

「行きません!!」

無苓はめぐみんがゆんゆんをいじめる理由がわかった気がした。

 



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お金は大切に

「ゆんゆん、聞きましたか?魔王軍の幹部が街の北外れの廃城にいるみたいですよ」

「はい、私も他の冒険者の方の話を聞きました」

街中を歩きながら無苓はゆんゆんに魔王軍の幹部がアクセル街付近に来ているという情報を共有し合った。

魔王軍の幹部がどのような理由でこの街に来たかは不明だが、警戒の為に無苓達はしばらくの間はクエストは控えてそれぞれ自由に暇をつぶしていた。

「めぐみん達大丈夫だといいけど……」

「流石に魔王軍の幹部にちょっかいを出したりはしないと思いますよ」

友達兼ライバルのめぐみんを心配するゆんゆんに無苓は苦笑気味に言葉を投げる。

「それよりもよかったのですか?めぐみんさん達と一緒にいても良かったんですよ?これから行うのは私事ですので私一人でも問題はありませんが……」

「わ、私と一緒は嫌だったんですか……?」

「そんなことはありませんよ。ただ、退屈するのではと思いまして」

道端で捨てられた子犬のように無苓は苦笑しながらゆんゆんの頭を撫でる。

可愛いと思いつつ無苓達は魔道具店に足を運ぶ。

「いらっしゃいませー」

ドアについている小さい鐘が涼しげな音をたて入店を店主に告げると店主は微笑みながら挨拶をする。

茶色の髪をした女性店主に無苓は微笑みながら挨拶を返す。

「どうも、店主様でよろしいでしょうか?」

「あ、はい。店主のウィズと申します」

柔和な微笑みをする店主ウィズに無苓は本題に入る。

「本日は店主様と商談を交える為に足を運ばせて頂きました」

無苓は以前から考えていた商品の売買を行う為にウィズ魔道具店に足を運んだ。

冒険者だけでは収入は不安定というのは明白。

その為に地球で身に着けた知識と技術を駆使してそれを商品にしてその利益を得ようと考えてその第一歩を踏み出しに来た。

「商品ですか?拝見してもよろしいでしょうか?」

「はい、この三点にあります」

無苓が店主の前に置いたのは一つは以前ダクネスの時に自称した幸運値を上げるブレスレット。

残りは懐中電灯と双眼鏡。

懐中電灯は魔力を送ると光を発生する鉱石を使用して作製に成功。

双眼鏡はアーチャースキル《千里眼》を知って思いついた。

「このブレスレットはプリーストの支援魔法『ブレッシング』と同じ幸運を上げる効果があります、実証も終えておりますので問題はありません。これは懐中電灯と申しまして暗闇なら遠くの方まで光を当てることが出来て、こちらの双眼鏡はアーチャー職の《千里眼》を元に考えたものでして」

商品の長所を告げる無苓にウィズも真剣に頷く。

説明が終えるとウィズはその商品を手に触り、拝見する。

「どうでしょう?もしよろしければこちらの商品を貴女様のお店で販売して商品の売れた利益の二割を頂ければこちらとしては十分です」

「確かにこれは素晴らしい商品です。しかし、八割もこちらが頂いてもよろしいのでしょうか?」

「貴方様のお店で販売して欲しいと懇願しているのはこちらです。貴女様が頷いて下さなければ私は売ることさえできません。これぐらいの譲渡はさせてください」

無苓は微笑みを崩さず言い切る。

予めこの魔道具店の情報は掴んでいる無苓はこの店が赤字続きだということは知っている。だけど、美人店主と噂があるウィズと無苓の商品が合わさればそれなりの利益はあると踏んでいる。

仮に駄目だったとしても商品の出費は殆どない。

殆どは《物質創造》で創り部品を組み合わせただけなのだから。

「わかりました。取り合えずは半年で契約をさせてください」

「商談成立ということで、こちらにサインをお願いします」

商談が成功して契約書にサインするウィズに無苓は目的が達成した。

「さて、ではギルドに行って以前のキャベツの報酬を受け取りに行きますか」

「はい」

数日前のキャベツ狩りのクエストの報酬を受け取りにギルドに向かう二人はキャベツの報酬をどうするか考えていた。

「私はマナタイト製の杖を買おうと思います。その……少しでも皆さんのお役に立ちたいですし」

「ゆんゆんは優しいですね。私は半分は貯金で残りは本でも買おうと思ってます」

ゆんゆんはパーティーメンバーの為に魔法の威力を向上する杖を買おうと考えて無苓はこの世界の知識を得る為に本を買おうと考えている。

それぞれの欲しい物を言いながらギルドに到着すると既にセルティとアリッサは報酬を受け取っていた。

「やっと来たか二人とも。私達はもう報酬は受け取ったぞ」

「さ、先に受け取ってしまってごめんなさい……」

セルティは三十万エリスでアリッサは十万エリス。

ちなみにアリッサはいくつかレタスも交ざっていたらしい。

「見てください、七十万エリスです!」

ゆんゆんも貰った報酬を見て嬉しそうにはしゃいでいた。

そして無苓は。

「お待たせしました、ムレイさん。報酬の四百万エリスです」

「ありがとうございます」

四百万エリス稼いだ無苓にゆんゆん達は絶句した。

特典と盗賊スキルを使いまくって荒稼ぎした無苓は和真達のところに足を運ぶ。

「おや、雌豚が随分と綺麗になっていますね。まぁ、豚は綺麗好きですから当然と言えば当然ですが」

「くぅ……平然と雌豚呼ばわりしてくるとは……ッ!」

罵倒されて悦びに浸かるダクネスを無視して無苓は和真が装備を変えている事に気付く。

「新しい装備が買えてなりよりです。スキルの方は順調ですか?」

「おう、取りあえずは魔法剣士のスタイルで行くつもりだ」

「あの~ムレイさんは今回のクエストの報酬はおいくら万円?」

「四百万エリスですがどうしました?」

その言葉に和真達は絶句する。

和真でも百万ちょいしか稼げなかったのを無苓はその四倍稼いでいた。

「ムレイ。私の信者である貴方なら敬愛している私にお金を恵んだりしてくれるわよね?」

「申し訳ありません、女神様。私は無信教者ですのでこれで」

爽やかに去ろうとする無苓にアクアはしがみついてきた。

「お願いよ、ムレイ!お金を貸してちょうだい!!私、クエストの報酬で相当な額になるって踏んで、この数日で、持っていたお金、全部使っちゃったんですけど!ていうか、大金が入ってくるって見込んで、ここの酒場に十万近いツケまであるんですけど!!今回の報酬じゃ、足りないんですけど」

半泣きでしがみついてくるアクアに無苓の笑みは崩れないどころかより深まる。

「それは大変ですね、女神様」

「そうでしょ!?私を助けると思ってお金を貸して!?」

「しかし下界には自業自得という言葉がありますよ?」

「お願いしますムレイ様!!どうか卑しい私にお恵みを下さい!!」

ついに泣き始めるアクアに和真達は軽くその光景に引いてダクネスは喜んでいた。

「あいつ、絶対わざとしてるだろう」

「ええ、アクアが泣き叫ぶ姿を見て楽しんでいますよ、あれ」

「はぁはぁ、やはりムレイはいい攻めを知っている。私にもして欲しいぐらいだ」

好き勝手言う和真達に気にせず無苓はそろそろ頃合と判断してアクアにお金を見せびらかす。

「ほらほら、女神様。貴女の必要なお金ですよ。懇切丁寧にお願いすれば恵みましょう」

「ははー!ムレイ様。どうか私にお情けをお恵み下さいませ」

その場で綺麗な土下座を披露するアクアに無苓は膝を折ってアクアの肩に手を置く。

「顔を上げてください、女神様」

その言葉に待ってましたかと言わんばかりに勢いよく顔を上げるアクアの眼前には一枚の契約書がある。

「ここにサインして頂ければ十万エリス耳を揃えてお貸ししますよ」

「わかったわ!」

「おいちょっと待て!何の契約書だ!」

契約書に名前を書こうとするアクアに和真は急いで止めに入って契約書に目を通すが特に変なことはない。借用書と同じだった。

「流石に和真さんが想像するようなことはしませんよ」

苦笑を浮かべる無苓にアクアは契約書にサインをして無苓から金を借りた。

「では、私はこれで」

去って行く無苓はゆんゆん達のところに戻る。

「めぐみんさん達元気そうでしたよ」

「そうですか」

ほっとするゆんゆん。

「今日はどうしますか?」

「そうだな、屋敷の掃除でも終わらせるか?まだ全部は終えていないだろう?」

無苓達が住んでいる屋敷は広い。

四人で住むには十分と言える程の広さを持っている。

「それがいいですね。では今日は普段は使わない部屋の掃除を終わらせましょう」

ギルドを出て無苓達は自分達の屋敷に帰る。



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魔王軍の幹部を名乗る変態騎士

「『エクスプロージョン』ッッッ!」

模写(コピー)

クエストに行っていない無苓は今日は以前に約束していためぐみんの爆裂魔法を見させて貰う為に和真と変わって貰い、遠く離れた丘の上にある廃城に向かった放たれた爆裂魔法を見させて貰ったと同時に《魔眼》の力の一つ模写(コピー)を使ってめぐみんの爆裂魔法を手に入れた。

「い、いかがでしたか?我が爆裂魔法は……」

地面にうつ伏せに倒れるめぐみんは自身の爆裂魔法の感想を求める。

「そうですね、初めてでしたので素人意見になりますが想像以上です。これほどの威力でしたら大抵のモンスターは一撃でしょう」

「……ふ、ムレイも中々わかっているじゃないですか。どうです?盗賊からアークウィザードに転職して共に爆裂魔法を極めるというのは……?」

「いえ、私は盗賊の方が向いていますので転職はしませんよ」

魔力が尽きためぐみんを背負いながら街に戻り始める無苓。

「ムレイはドSですけど紳士ですね。カズマならセクハラ発言とかしてきますのに」

「表面上は紳士的にしないと警戒してしまうでしょう?」

「………否定しないのですね」

自他共に認めている無苓にめぐみんは呆れるように息を吐いた。

「ムレイはどうしてゆんゆんをパーティーに誘ったのですか?」

「おやおや、やっぱり友達であるゆんゆんの事が心配なんですね」

「ち、違います!ただ、どうやってあのボッチがパーティーに入れたか気になっただけです!断じて心配などしていません!!」

ほくそ笑む無苓の言葉を全力で否定するめぐみんだが、無苓は話半分で聞き流す。

「そうですね、偶然という言葉がしっくりきますね。私が冒険者になった日に誰かクエストを手伝ってくれる人がいないか探していたら酒場の隅でゆんゆんを見つけて声をかけたのがきっかけですね」

当時の事を懐かし気に語る無苓。

「……ゆんゆんは友達という言葉にちょろいですから変なことしてませんよね?」

「安心してください。メイド服着せて膝枕して貰うこと以外に手は出してはいませんよ、今はまだ」

「最後不吉な言葉が聞こえたのですが!?というよりゆんゆんに何をさせているのですか!?カズマでもそのようなことしていませんよ!」

不安要素たっぷりの言葉に叫ぶめぐみんに無苓は微笑む。

「ゆんゆんは13歳ですから手を出したら犯罪ですから!」

「大丈夫ですよ、全然守備範囲内です。それに私からは手は出しませんよ」

「怖いです!今まさに私は貴方に恐怖を感じます!………ちょっと待ってください、ゆんゆんが守備範囲内ということは」

「ええ、めぐみんさんも入っていますよ。あ、安心してください。許可さえなければ襲いませんから」

「許可しませんから!万が一に手を出そうというのなら私の爆裂魔法が炸裂しますよ!」

「あまり暴れると悪戯しますよ?今、この場で」

無苓の背中でジタバタともがくめぐみんに軽く脅しをかけると借りてきた猫にように大人しくなった。

「……ムレイは下手をすればカズマ以上に鬼畜ですね」

「まさか、私はただめぐみんさんが慌てもがく姿が見たいだけですよ」

「ドS発言はダクネスにしてあげてください!」

「自分から求めてくる人を責めるのも面白いですが、嫌がり、抵抗してくる人を責める方が何倍も楽しいんですよ?」

その発言にめぐみんはカタカタと震え始める。

少しやりすぎたと思った無苓は話を切り替える。

「そういえば先ほどの廃城、もう何発も爆裂魔法を受けているにも関わらずまだ壊れていなかったですね」

「………そういえばそうですね。もう崩れてもおかしくはないのですが」

「もしかして魔王軍の幹部があそこに住んでいて防御結界でも張っていたりして」

「ムレイ……それは冗談でも笑えません」

「申し訳ありません。あ、街が見えてきましたよ」

冗談半分で話をしていた二人は無事にアクセルの街に戻って来た。

実は冗談ではなかったとは言わなかったのは無苓の優しさだった。

 

 

 

 

 

 

その次の日。

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』

街中に、緊急のアナウンスが響き渡り、無苓達も他の冒険者達と一緒に正門に集まるとそこには凄まじい威圧感を醸し出すモンスターに呆然と立ち尽くした。

 

デュラハン。

 

それは人に死の宣告を行い、絶望を与える首無し騎士。

漆黒の鎧を着た騎士は自分の首を目の前に差し出した。

「………俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……」

首をプルプルと小刻みに震え出す。

「ままま、毎日毎日毎日毎日っっ!!おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だああああああああー!!」

それはもうお怒りだった。

やはり、爆裂魔法ぐらいで魔王軍の幹部は倒せれなかったと思った無苓。

そんな無苓を置いてデュラハンは何かに耐えて、我慢ができずに切れてしまったかのように叫んだ。

「………爆裂魔法?」

「爆裂魔法を使える奴って言ったら……」

「爆裂魔法って言ったら……」

誰の視線がめぐみんに集まるなかで無苓は一人で前に出た。

「ムレイさん!?」

「大丈夫ですよ。発動『エクスプロージョン』!!」

「え?」

他の冒険者より少し前へ出て無苓は模写(コピー)した爆裂魔法をデュラハンに向けて放った。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

あまりの不意打ちの爆裂魔法にデュラハンは悲鳴を上げた。

静まり返る冒険者の中で無苓は息を吐いて。

「よし」

「よし、じゃねええええええええええええ!!」

予想外過ぎる無苓の行動に和真が叫んだ。

「ムレイ!どうして私ではなく貴方が爆裂魔法を披露するのですか!?」

「お前は黙ってろ!ロリっ子!!」

無苓を中心に騒ぎ出す和真達に爆裂魔法を撃ち込まれたデュラハンは立ち上がる。

「いい、いきなり爆裂魔法を撃ち込むとはどういう神経してをいるんだ!俺でなかったら間違いなく吹き飛んでいたぞ!!そこの無礼な男を!名を名乗れ!」

「透過………では名乗りましょう。自分の頭を女性のスカートの中に投げ込むことで日々精進している変態デュラハンことベルディアよ」

「へ、変なことを言うな!お、俺は決してそのようなことはしていない!!」

図星をつかれて慌てふためきながら否定の言葉を上げるベルデュア。

「私の名は刈萱無苓です。よろしくお願いします」

丁寧に頭を下げて挨拶する。

「ああこれはどうもご丁寧に俺の名はベルディア……って違う!クソ!調子が狂う奴だ!」

調子を狂わせられるベルディアは一度落ち着いて無苓を指す。

「貴様だな!我が城に爆裂魔法を撃ち込んできた大馬鹿は!」

「はい、私ですがそれがどうしました?」

「どうしただと?低レベルの冒険者しかいない街だと知って放置しておけば、調子に乗って毎日毎日ポンポンポン撃ち込みにきおって………っ!!喧嘩売っているのなら、堂々と城に攻めて来る気概はないのか!?貴様には!」

「何故貴方の流儀に従う必要があるのですか?陰湿であろうと戦いは戦い。貴方を倒すことが出来れば過程など私にはどうでもいいのですよ、いつ撃ち込まれるか不安で毎日毎日ビクビクしているベルディアさん」

「ビ、ビクビクしておらんわ!貴様には人として常識はないのか!?」

「知っていますが?」

「き、貴様………!雑魚だと思って俺がいつまでも見逃して貰えると思うなよ?」

怒りが溜まっていくベルディアに無苓の表情から笑みは消える。

「雑魚ですか………ベルディアさん、貴方は一つ勘違いをしています」

「何?」

「私が何の策もなく貴方の前に立っているとお思いですか?」

「ほう、つまりなんだ?俺はまんまと貴様の策に嵌められたと言いたいのか?」

ベルディアの表情から怒りは消えて好戦的な笑みを浮かべ始める。

自分を倒す為にどのような策を用意しているのかと楽しみだと言わんばかりの笑みを浮かばせているベルディア。

「その通りです。貴方を精神的にジワジワと嬲るように倒す算段です」

「陰湿な嫌がらせではないか!?」

吠える騎士ベルディア。

予想外の陰湿な策に叫ばずにはいられなかった。

「私は逃げてアクシズ教団に貴方の根の葉もない噂を流します。そこから徐々に外枠から貴方の心を追い詰めて騎士として人としての心を壊して魔王城から出てこれないようにします」

「ふざけるな!!よりによってアクシズ教団を選ぶとは貴様アクシズ教か!?そんなことしてみろ!今すぐこの街の住民を血祭りにあげてやる!!」

その時、無苓は一枚の用紙を取り出してベルディアに見せた。

「なんだそれは………?」

「とある人物の契約書ですよ」

下にある名前欄を指すとベルディアの表情が強張る。

何故ならそこにはウィズと書かれていたからだ。

「バ、バカな………!?」

「筆跡を見れば本物かどうかは貴方の方がわかるでしょう?もし、街の住民に手を出したらいくら貴方でもただでは済まないでしょう?」

ウィズが魔王軍の幹部であることは商談の際に《魔眼》の力で知っていた。

そしてその過去は『氷の魔女』という二つ名を持つ凄腕のアークウィザード。

その過去を知った無苓は使えると思い、商談が成功した時に用紙を二枚重ねて容易してカーボン紙を使って商談ように契約書の上から名前を転写させいた。

「街に手を出せばどうなるかこれでハッキリしましたね?」

微笑む無苓に歯を食い縛るベルディア。

無苓がベルディアに見せている契約書には街に襲撃が陥った場合戦場に赴くと記されている。

もちろんこの事はウィズは知らない。

だけどハッタリには十分通用する。

「……ここは互いに大人になりませんか?」

「何?」

襲撃に迷うベルディアを無苓は畳みかける。

「貴方が今日は大人しく帰るというのならここでこの契約書を破りましょう。私も二度と城へ爆裂魔法を撃ち込みません。互いに譲渡し合うということです」

本当に爆裂魔法を撃ち込んでいたのはめぐみんであったが、無苓が前へ出ている以上ベルディアはめぐみんを疑ってもいない。

こちらの被害をゼロで済ませることができる。

「………いいだろう。爆裂魔法を撃ち込まないというのならここに留まる理由もない。今日は見逃してやる」

「騎士として名に誓いますか?」

「誓おう」

「では」

無苓もその場で契約書を破り捨てる。

去って行くベルディアを見て息を吐く。

「さてと、取りあえずは時間を稼ぐことはできましたね」

 



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侵入!ベルディア城

魔王軍の幹部であるベルディアが去ってから一週間ぐらい経った昼頃に無苓はギルドで一冊の古ぼけた本を片手に読んでいた。

「何を読んでいるんですか?」

クエストに行かず基本的に暇な無苓達。

セルティは実家で剣を振って、アリッサは教会で女神エリスに祈りを捧げている二人と違って基本的にすることのない無苓とゆんゆんは今日一日も適当に過ごしていた。

「今、ベルディアさんが住んでいる廃城の資料ですよ。どうやらあそこは以前は貴族が住んでいたものだったようです」

「そうなんですか……でも、どうしてそれを?」

「万が一にベルディアさんと戦うとなればこの周辺か城周辺になります。知識を一つ持っているいないかで戦況が変わる可能性もありますからね」

以前はなんとかやり過ごすことが出来た無苓だが、次もやり過ごせるという可能性はないと考えて次の手を考えなければならない。

備えあれば患いなしというやつだ。

「………あの時のように無茶はしないでくださいね」

「その時はゆんゆんが私を守ってください」

めぐみんに意識を向けないように挑発して自分に意識を向けさせた。

結果的にはめぐみんは庇ってくれたことに感謝されてゆんゆんからは無茶をしないでと怒られた。

「当り前です!私達は友達でパーティーメンバーなんですから!」

「期待してますよ」

胸を張るゆんゆんに微笑みを浮かばせる無苓。

「実はもう一つ面白いことがわかったんですよ。どうやらあそこに住んでいた貴族は冒険者が使っていた武器、防具、杖などを収集する趣味があったそうですよ」

微笑みを浮かばせながら告げる無苓にゆんゆんは短い付き合いながらもその微笑みが何を告げているのかある程度察してしまった。

「あ、あの……もしかしてですけど、あの城に侵入するなんてことしませんよね?だって魔王軍の幹部が住んでいますし……行きませよね?」

「ゆんゆんはこの前『ライト・オブ・リフレクション』という上級魔法を取得してましたよね?」

光を屈折させて姿を消す魔法。

術者の周囲に追従式の結界を張り、その範囲は半径数メートル。

以前、ゆんゆんがレベルを上げて取得した魔法。

無苓は当然行くつもりである。

せっかく盗賊という職業についたからには盗賊らしいことをしなければ勿体ない。

更に言えば今回行くのは既に主がいない廃城で魔王軍の幹部であるベルディアがいる。

敵勢力に武具の強化を阻止するという大義名分がある。

しかし、無苓一人だけで行くのは少々厳しい。

その為にゆんゆんも連れて行こうと思ったがゆんゆん本人は凄く嫌そうだった。

だからそんなゆんゆんに無苓は魔法の言葉を送る。

「信頼できる貴女にしか頼めないのです」

「任せてください!必ずムレイさんの信頼に応えてみせます!」

無苓の魔法の言葉にゆんゆんもすっかり行く気になってくれた。

「ふ~ん、面白いことを話しているね?」

そんな二人の背後から声をかけてきたのは無苓に盗賊職を進めてくれたクリスは微笑みを浮かべていた。

微笑みを浮かべるクリスに無苓も微笑みで返して二人は手を握り合う。

「よろしくお願いしますね、クリスさん」

「こっちこそ、よろしくね」

二人の盗賊が手を組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜の時間帯に三人はベルディアが住んでいる廃城付近まで足を運んでいたが門を警備しているアンデットの門番を見つけて隠れている。

「ゆんゆん」

「はい、『ライト・オブ・リフレクション』」

ゆんゆんを中心に光を屈折させて姿を消すと結界内にいる無苓達も結界外から見たら姿が見えない。

そこに無苓達は潜伏スキルも使用してあっさりと門番の横を通り過ぎて城壁の前まで足を進めることができた。

「では」

《物質創造》で城壁の縁まで届く梯子を創り出す。

「おわぁ、便利。でも、これだと足が残るんじゃない?」

「大丈夫ですよ、消すことも可能ですから」

《物質創造》で創り上げたものは無苓の意志一つで形も残さず消滅することが出来る。

あくまでイメージした物質を創り出す特典で消すイメージをすればその物質を還元することも可能。

「ゆんゆん、お先にどうぞ」

「あ、はい」

梯子に手をかけて登ろうとする時、クリスが何かに気付き慌てて止めに入った。

「ちょっと待って!そのまま登ったらパンツが……ッ!」

「っ!?」

その言葉に顔を赤くして慌ててスカートを押さえるゆんゆんはこの場にいる異性――無苓に視線を向けると無苓は残念そうにしていた。

「………見ましたか?」

「残念ながら………はいはい、私が先に登りますよ」

二人の視線に負けて無苓が先頭で登って無事に城壁の縁まで到着した三人はそのまま城の内部に侵入する。

「思っていたよりアンデットの数が少ないですね」

内部に侵入しても出会うアンデットは見渡しても数体程度。

「欠片も残らず消滅しちゃえばいいのにね」

「え?」

「ん?」

ゆんゆん、無苓はアンデットに対するクリスの毒舌に首を傾げるが今は気にせず前へ進む。

「ムレイ、こっちだよね?」

「ええ、この城の図面は頭に入っています。宝感知に反応しているこの道を進めば間違いありません」

盗賊スキルである宝感知で目的の場所に進む三人。

無苓達の目的はこの城に住んでいた領主が収集した冒険者達の武具、もしくはお宝。

ここに来るまではもしかしたら既に略奪されているかもという考えもあったが宝感知に反応している以上少なくとも売れば金になるものは存在している。

三人はそのまま地下へ侵入して一つの扉の前に足を止める。

「宝物庫……ここだね」

開錠スキルを使って宝物庫の扉を開けるクリスは一度振り返って無苓達と目を合わせて頷くと扉を開ける。

だけど、そこには何もなかった。

「あ、あれ……?」

首を傾げるクリス。

宝感知は間違いなくこの場所を指している。

だけど部屋にあるのはガラクタのようなものばかりで宝らしい宝はなかった。

「おかしいな……?確かに反応はあるのに……」

「落ち着いてください。確かにここにありますから」

困惑するクリスに無苓は周囲の石壁を軽く叩いていくと一つだけ他と違う音がする石壁を見つけるとその壁周辺を調べて一つだけ他とは微妙に色が違う石壁を押すと石壁は左右に開いて道が出来た。

「おお、隠し通路」

「よく見つけれましたね、ムレイさん」

「いえいえ、たまたまです」

三人は隠し通路を進むと通路の先にある扉を手にかけて開けるとそこには数多くの武具や杖だけではなく金銀財宝が眠っていた。

「うわぁ……」

その光景に驚きの声を上げるゆんゆん。

無苓も内心感慨深くなっているとクリスが二人に忠告する。

「二人とも、一応言っとくけど盗んだお宝は全額寄付するんだからね?私利私欲の為に盗むを働くのはダメだからね?」

「はいはい、振りですね、振り。わかっていますよ。あ、ゆんゆん、この杖を見てください、本で見たことしかない希少な鉱石がついていますよ」

「振りじゃないから!盗んだお宝は貧しい子供達に寄付するからね」

お宝漁りに夢中になる無苓達を窘めるクリス。

もちろん無苓達もそれはわかっているし、クリスの言葉通りに従うつもりでいる。

有名な冒険者が使っていたであろう武器、防具、杖は埃が被ってはいるが、どれも芸術品と思わせる程の価値がある。

「しかし、これほどのものが揃っているのにどうしてベルディアさんはここに足を運ばなかったんでしょうか?」

無苓達が足を踏み入れるまで誰かが来た痕跡はなかった。

「あの、それはめぐみんのせいだと思いますよ。爆裂魔法で城が崩壊したら」

「……地下にいたら生き埋めにされてしまいますね」

よくよく考えてみたらベルディアがこの城に住み始めた頃からめぐみんは爆裂魔法を放っていた。

いつくるかわからない爆裂魔法でもしも地下にいる時に爆裂魔法を浴びて城が崩壊したら確実に生き埋めにされてしまう。

納得しながら名剣だと思われる剣を手に持つ不意に無苓の髪がなびく。

「風……?」

地下にいるはずなのに奥から風を感じた無苓は風を感じる方に足を運ぶと一本の剣が飾られていた。

刀身から柄まで銀色の輝きを放つ剣で刀身と握りの中心には紅玉が埋め込まれている。

不思議と目が離せられないその剣に手を伸ばそうとすると紅玉が光り輝き出す。

「ちょっ!?なにこれ!?」

驚きの声を上げるクリスにゆんゆんは杖を手に持ち警戒していると紅玉から小さな小人が姿を現した。

いや、小人というより妖精、精霊を思わせるような雰囲気を醸し出している。

『初めまして、私はエアリエル。風の精霊よ』

「神器………ッ!?」

無苓や和真のような日本から来た転生者がこの世界に持って行ける特典をこの世界では神器と呼ばれているが、神器は与えられた者にしか本来の力は発揮できない。

目の前にいる精霊、エアリエルは神器なのかもしれないとクリスは踏んだ。

しかしそれはエアリエルが否定した。

『そんな大層な代物じゃないわ。私はこの剣の宿主と契約して力を貸していただけだからね。久しぶりに人の気配がいたからお喋りしたくなって貴方達を呼んだの』

「精霊は人が無意識に思い描く思念を受け、その姿を実体化すると聞きますがその姿は前の宿主の影響ですか?いい趣味していますね」

手のひらサイズの美少女精霊エアリエルを見て感慨深く頷く。

『これは貴方が思い描いた姿よ?』

クスクスと笑いながら言うエアリエルに無苓の後ろにいる二人の視線が冷たく感じた。

なるほど、道理で自分好みだと納得しているとエアリエルは無苓に問いかける。

『貴方の名前は?』

「刈萱無苓ですよ、エアリエルさん」

『ムレイね、私もエアリエルでいいわ。それじゃムレイ―――――私が欲しい?』

「欲しいですよ」

一瞬の迷いもなく即答する無苓に一瞬驚きながらも笑みを浮かべるエアリエル。

『率直ね、それじゃ何の為に私が欲しいの?地位?名誉?お金?勝利?』

「そんなものに興味はありません。私は貴女自身、いえ、貴女の全てが欲しい」

『……どうして?』

「友達を守る為に、もう二度と後悔をしない為に貴女の全てが欲しい………という建前では駄目ですか?正直理由なんてものはありません。欲しいと聞かれたから欲しいと答えただけですので」

困ったように頬を掻きながら話す無苓にエアリエルは笑みを浮かばせていた。

今の言葉の後半は嘘だと見抜いていたからだ。

後半は前半で告げた言葉を誤魔化す為の照れ隠し。

『私はもう何十年もここにいて退屈していたの。私の力を使う対価は私を楽しませることでいいわ』

「安心してください。私のパーティーメンバーは個性豊かな人達ばかりですよ。そうですよね、ゆんゆん」

「え、ええ!?わ、私ってそんなに個性豊かですか!?」

ボッチという個性を持っているとは言わないでおこう。

今のやり取りにエアリエルは表情から笑みを漏らして告げる。

『今日から貴方が私の新しい契約者よ、ムレイ』

「ええ、宜しくお願い致します」

紅玉も戻っていくエアリエルに無苓は今度こそ剣を手に持つ。

「精霊剣エアリエル。頼りにしていますよ」

『任せなさい』

思わぬ収穫を手に入れた無苓。

その後はいくつかの宝を盗んで外に出ると無苓は剣を抜く。

「エアリエル、飛翔の力を私達に」

風が無苓達に纏わりつくと宙に浮き、空を駆ける。

風の力で空を飛びながら無苓達はアクセルに帰還する。

「白……でしたね」

何かまでは言わない。

 



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暇ですからお付き合いします

ベルディアの城に侵入して手に入れた精霊剣エアリエル。

無苓はエアリエルを同じパーティーメンバーであるセルティとアリッサに紹介した後にセルティに頼んで剣の扱いを教わって貰っていた。

「う~ん、筋は悪くはない……だが、実戦にはまだ早いな………」

「まぁ、そうでしょうね……」

一通りの基礎を教わってセルティが無苓の今の実力の程度をバツ悪そうに言うと無苓自身もそれに納得する。

この世界に来る前は一応、護身術程度で武術は身に着けていたが剣術に関しては空っきりと言ってもいい。

剣よりもペンの方が圧倒的に持つことが多かった。

「で、でも、鍛えて行けば今より扱えるようになれますよ!」

「そ、そうですよ!私なんかよりずっといいです!………ごめんなさい、私なんかと比較してしまってちょっとモンスターのお腹の中で反省して来ます」

「行かないでくださいね?」

ネガティブ思考持ちのアリッサはどこかに行こうとするがその前にゆんゆんが止めに入る。

『アハハ、本当に個性豊かね』

剣の紅玉からエアリエルが笑いながら姿を現す。

『ムレイは盗賊でしょ?どうして剣技を鍛えようとするの?』

「一応は知っておいた方が良いと思いまして。いざ、接近されて剣が使えませんでしたでは話になりません。それに、せっかくエアリエルが私を選んで下さったのです。恥ずかしい真似は出来ませんよ」

『おおっ、嬉しいこと言ってくれるね!狙ってる?』

「おや?わかります?」

微笑み合う二人。

エアリエルは気分を良くしたのか自身の力を無苓に語る。

『私の力は風。剣に風を纏わせるイメージをしてみて』

「はい」

目を閉じて出来る限り鮮明にイメージを固めていくと刀身から風が発生して剣に纏わりつく。

『そのまま剣を下から上に振り上げる時に同時に風を放出させる』

「はい」

言われた通りに剣を下から上に振り上げて風を放出させる。

すると―――。

「「きゃあああああああああああああああッッ!!」」

ゆんゆんとアリッサのスカートが捲れて下着が露になった。

地面に座り込む二人は涙目になって無苓達を見るとエアリエルは悪戯が成功した子供のように笑っていた。

『どう?』

「完璧です」

「セクハラだぞ………?」

笑うエアリエルに親指を立てる無苓にセルティは呆れるように告げる。

『でも、一発で成功できるとは思わなかったわ。前の宿主でも何回か練習して風を使えたのに。ムレイは魔法使い職の才能があるんじゃない?アークウィザードに転職したら?』

「ダ、ダメです!私がいますからアークウィザードに転職しないでください!!二人分頑張りますから!!」

転職の言葉にゆんゆんが真っ先に否定の言葉を上げる。

無苓がアークウィザードに転職したら自分の存在価値がなくなってしまい、パーティーから追い出されることに怯えるゆんゆんに無苓は苦笑を浮かべる。

「転職はしませんよ、私達にはもう優秀なアークウィザードがいますから」

その言葉にセルティもアリッサも力強く頷いた。

「だから安心して二人分働いてくださいね、ゆんゆん」

「おい」

さり気なく倍で働かせようとする無苓にセルティは思わず声を出した。

『ふふ、いいパーティメンバーだね。全員が上級職のパーティーっていうのも珍しいし』

「私たち以外にもいますけどね…………そういえば和真さん達は何をしているのでしょうか?折角ですし和真さん達にもエアリエルを紹介しておきましょう」

「それはいいな。私も最近はダクネスと話をしていないし会っておきたい」

「わ、私もめぐみんに勝負をしないと」

「皆さんに合わせます……」

満場一致によって無苓達はギルドに足を運ぶとギルドに向かう途中で和真達と出会った。

ただし檻の中にアクアを閉じ込めた状態で。

「………檻の女神に転職されました?」

「違うわよ!!」

思わずそう尋ねてしまった無苓に檻の中にいるアクアが否定した。

「どうしたんですか?あれ?」

檻に閉じ込められているアクアを指しながら和真に尋ねる。

どうやら湖の浄化を安全で行わせる為にモンスター捕獲用の檻の中にアクアを入れてそのままアクアを湖につけて浄化させるという作戦らしい。

その説明を聞いたゆんゆん達は少し顔を引きつった。

「お前達は最近クエストに行ってないみたいだけど大丈夫なのか?」

「ええ、金には困っていませんから。それに私は収入もありますし」

「………流石はチート持ち。羨ましいことで」

恨めしそうな目で見てくる和真に苦笑を浮かべて誤魔化す。

「じゃあさ、暇なら付き合ってくれよ。万が一にアクアに何かあったら俺達だけで対処できねえし」

「ええ、構いませんよ。時間が掛かるようですし、少し待っていてください」

ゆんゆん達も同意して無苓達は和真達のクエストに付き合うことになった。

その道中でめぐみんが勝負を申し込んでくるゆんゆんをあしらいながら無苓の剣を訪ねて来た。

「ムレイ、その剣はなんですか?前衛職でないムレイが剣を持つとは」

「ああ、そいえば紹介し忘れていました」

最初の時の檻に閉じ込められたアクアが衝撃的で思わず和真達に会いに来た目的を忘れてしまっていた。

『もう!私を忘れるなんてひどいじゃない!』

紅玉から姿を現すエアリエルに和真達は目を見開いて驚愕に包まれる。

「紹介します、風の精霊エアリエルです」

『よろしくね』

紹介するとめぐみんが瞳を輝かせてエアリエルに顔を近づける。

「精霊!精霊ですか!?精霊の剣なんて紅魔族の琴線に激しく響きますよ!」

「おい、チート持ちの癖になに、美少女精霊を侍らせてんだ。俺にチート能力一つぐらい寄越せよ。もしくはアレと交換でもいいんだぞ?」

「ちょっとカズマ!どうして私を指すの!?」

「……まさか、精霊とこうして言葉を交える日がくるとは思いも寄らなかったぞ」

和真達はそれぞれ言いたいことを話すが無苓は話半分で聞き流すとエアリエルが無苓の肩に止まる。

『ねぇ、ムレイ。この人達も面白いね』

「そうですね」

笑みを浮かばせ合う二人に目的の場所である湖に到着すると和真達は早速アクアを湖に浸ける。

アクアは膝を抱えたままぽつりと呟く。

 

「……私、ダシを取られてる紅茶のティーパックの気分なんですけど……」

 

アクアを湖に設置して二時間が経過するが未だに変化はない。

「……暇ですね、ダクネス、疲れたので椅子になってください」

「ま、任せろ!」

「止めろ。ムレイも変な命令をするな」

呆れながら二人を止めに入るセルティ。

「めぐみん!もう一度勝負よ!」

「……またですか、貴女もこりませんね」

紅魔族の二人は無苓が《物質創造》で創ったトランプで勝負を行っていた。

ぼんやりとアクアを眺めている和真やオロオロと心配そうにアクアを見つめているアリッサは手伝おうか、しかし自分が手伝うのはおこがましいのではと悩んでいた。

それぞれ暇を潰していると。

「カ、カズマー!なんか来た!ねえ、なんかいっぱい来たわ!」

ブルータルアリゲーターは群れでアクアに接近してきた。

浄化を始めてから四時間が経過。

「な、なぁ、そろそろあの爬虫類を斬り殺して……アクアを助けに行っても………」

「ギブアップしますかー!?」

「イ、イヤよ!ここで諦めたら報酬が貰えないじゃない!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!わああああああああーっ!メキッっていった!今オリから鳴っちゃいけない音が鳴った!!」

「大丈夫そうですね」

助け、もとい、ブルータルアリゲーターを斬り殺しに行こうとするセルティに無苓はアクアにギブアップをするかと尋ねてみたが拒否されるのを見てまだ問題ないと判断する。

一心不乱に浄化魔法を唱えるアクアの姿を無苓達は弁当を食べながら見ていた。

「この唐揚げは頂きますよ!」

「あ、ずるいめぐみん!それは私のよ!」

「おや?これのどこに貴女の名前が書いてあるのです?早い者勝ちですよ!」

「なぁ、精霊って何食べるんだ?」

『精霊に食事は不要よ。娯楽で食べることはあるけどね。ん、おいしい』

「美味いな、ムレイは料理も出来るのか……」

団欒と食事を進める無苓達。

無苓は時間が掛かるということで腹を空かしてはと思い、簡易の弁当を準備しておいてよかったと思いながらおにぎりを口に運びながらアクアを眺めていた。

「あ、あの、いいんですか………?」

「本人が良いと仰っていますし本当に危なくなったら助けましょう」

一人だけ本当にアクアのことを心配しているアリッサは天使のような優しさを持っていた。

「くぅ……」

「行かないでくださいね」

今にも鞘から剣を取り出して湖に突っ込もうとするセルティに制止の言葉を放つ。

浄化を始めてから七時間が経過。

浄化が完了されてブルータルアリゲーターはどこかへ去って行った。

「………おいアクア、無事か?アリゲーター達は、もう全部、どこかに行ったぞ」

「……ぐす…………ひっく…………えっく…………」

檻の中でアクアは泣いていた。

無理するくらいならさっさとリタイヤすればいいものだが、和真達は今回の報酬である三十万エリスは全てアクアに譲るらしい。

和真は檻から出てくるように催促するが。

「………オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

心の傷(トラウマ)を負いましたね……」

そうなる前に助けを求めればよいものをと思いながら無苓達は一足先にアクセルに帰還することにした。

「しかし、必死になって浄化魔法を唱えていた女神様の顔は面白かったですね……」

しみじみとそう思った。



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対決ベルディア

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!………特に冒険者カルカヤムレイさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

 

 

緊急のアナウンスにより、無苓達を含めた冒険者達が正門前に駆け付けるとそこには魔王軍の幹部のデュラハン―――ベルディアがそこにいた。

今度はその背後に配下と思われるアンデットナイト達を引き連れて来ていた。

ベルディアの前に代表するかのように無苓が前へ出て声をかける。

「何の用でしょう?」

「何の用でしょう?だと、貴様!俺との契約はどうした!?あれからも毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込むとはどういう了見だ!?」

怒鳴り声を上げるベルディアに無苓は後ろにいるめぐみんに視線を向けるが逸らされた。

だが、和真に頬を引っ張られる。

「貴様が毎日爆裂魔法を撃つせいでもう城の修復が追いつかん!!前回は契約ということで見逃したがもう我慢ならん!!貴様諸共、街の住民を皆殺しにしてくれるわ!!」

毎日爆裂魔法を撃ち込まれたベルディアは怒髪天を衝くかのように怒りを露にする。

「ちょっと待った!!」

ベルディアが配下に命令を与える寸前にめぐみんが制止の声を投げた。

「我が名はめぐみん!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者……!貴方の城に爆裂魔法を撃ってきたのは私です!!」

自白するめぐみん。

「……お前が?しかし、あの時は……」

「ムレイは魔法をコピーする特殊能力を持っているのです。私の爆裂魔法をコピーしてそれを貴方に撃っただけのこと。実質、私の爆裂魔法に変わりありません」

めぐみんは視線を無苓に向ける。

「ムレイ。庇ってくれたのは嬉しいです。しかし、友を危険な目に会わせて自分だけ安全なところにいることなど私にはできません」

「………人の苦労を無下にしないで欲しかったですね」

小さく息を吐いた無苓だが、その表情は笑みを浮かべた。

「まぁ、もう全面戦争しかないようですね。エアリエル」

『ええ』

精霊剣エアリエルを鞘から解き放つ無苓に続くように冒険者達もそれぞれの得物を強く握りしめる。

それを見たベルディアは。

「お前達ひよっ子の冒険者が俺に傷をつけられるものか」

「ひよっ子を甘くみていると痛い目に会いますよ?」

売り言葉に買い言葉。

ベルディアは悠然とした態度で右手を掲げる。

「お前達……街の連中を。…………皆殺しにせよ!」

その右手が振り下される。

それを合図に配下であるアンデットナイト達は一斉に襲いかかってくるに大して無苓は静かに剣を構える。

「エアリエル」

名を呼ぶ。

剣に風が纏わると無苓は風の纏った剣を横に一閃する。

「なっ!?」

剣から放たれる風の斬撃がアンデットナイト達の胴を切断してベルディアにまで襲いかかるが、ベルディアは咄嗟に剣を持って風の斬撃を防いだ。

その光景を目撃して静まる冒険者達やベルディアに無苓は微笑む。

「いくらアンデットといえど、胴体を切断されては動けないでしょう」

疲れを知らない身体、魔王の加護による神聖魔法に対しての強い抵抗を持つ。

ベルディアが誇るアンデットナイトの軍団を無苓は一撃で葬った。

「言ったでしょう?甘くみていると痛い目を会うと」

剣先をベルディアに向けて無苓は告げる。

「次は貴方の番ですよ、魔王軍の幹部、ベルディア」

『あ、ごめんムレイ。今ので力を使い果たしたからもう私限界』

「…………え?」

剣から唐突に告げられるその言葉を理解するのに無苓は数秒有した。

『いくら私でも力を無限に使えるわけじゃないのよ?今の一撃に力を込め過ぎたせいでもう私、クタクタよ………』

無苓がエアリエルを手に入れてまだ数日。

無苓はエアリエルの力を使えるが、まだ完全に制御できたわけではない。

アンデットナイト達を倒す為にエアリエルの力を込め過ぎたせいでエアリエルは限界が訪れてしまった。

それを聞いたベルディアは哄笑を上げる。

「クハハハハハハ!次は誰の番……だったか?それは貴様だ!カルカヤムレイ!!」

大剣を掲げて自ら襲いかかってくるベルディア。

そのベルディアの前に二人の騎士が立ち向かう。

「ムレイ!お前は下がっていろ!」

「この汚物は私達に任せろ!」

ダクネスとセルティが剣を持ってベルディアと対峙する。

「クルセイダーにソードマスターか!!相手にとって不足無し!!」

「防御は任せろ、セルティ!」

「なら攻撃は私がする!」

二人がかりでベルディアと戦っている間に無苓は急いで和真達のところまで後退する。

「ムレイさん!大丈夫ですか!?」

「ええ、しかし状況はよろしくない………」

心配してくれるゆんゆんに返事をして無苓は状況を把握するが正直芳しくない。

配下はエアリエルの攻撃によって全滅させることが出来たが、魔王軍の幹部であるベルディアが健在。

振り下されるベルディアの大剣をダクネスが防御してその隙にセルティが攻撃を仕掛ける。

セルティはソードマスターのスキルを攻撃重視に取得しているおかげか鎧に傷を与えて入る。

今はまだ何とか持ち堪えられるが持久戦となれば疲れを知らないベルディアが有利になってしまう。

以前の遭遇で爆裂魔法だけではベルディアは倒せれないことは把握している。

ここでめぐみんに爆裂魔法を撃ってもらいそれを模写(コピー)してもう一度爆裂魔法を撃てたとしても倒せられる可能性は低い。

「魔法使いのみなさーん!!」

和真が魔法使い達に呼びかけ、魔法使い職は魔法の準備を始める。

その時、ベルディアは自身の首を高く放り投げる。

何かある。そう察した無苓は拳銃を取り出してベルディアの頭部に発砲。

「痛ッ!」

「そこだ!!」

頭部に弾丸が命中してその隙にセルティがベルディアの身体に一撃与える。

「おのれ……!妙なマジックアイテムを使いおって……!!」

兜のおかげか特にダメージはないベルディアは自身の首を拾う。

「ダクネス!セルティ!下がれ!魔法使いのみなさん!ゆんゆん!めぐみん!魔法で一斉攻撃だ!」

「はい!」

「わかりました!」

ウィザード達の中級魔法が放たれるがベルディアに傷は与えられない。

「『トルネード』!」

「『エクスプロージョン』!!」

続けてゆんゆんは上級魔法であるトルネードで巨大な竜巻を発生させてそこにめぐみんの爆裂魔法が放たれた。

「あんぎゃああああああああああああああああああああああッッ!!」

流石のベルディアも上級魔法と爆裂魔法のコンボに悲鳴を上げた。

だが、それでもベルディアは倒れない。

不死の如く立ち上がり、大剣を持って再び戦場を駆ける。

「おいムレイ!お前チート持ちだろう!?何とあいつを倒せる武器とは創れないのか!?」

「無茶を言わないでください。私の特典は戦闘に特化したものではありませんし、私自身そこまで戦えられるわけではないんですよ」

めぐみんの爆裂魔法でも倒せれなかったベルディアに和真は特典持ちの無苓に叫ぶが無苓は首を横に振って否定する。

「そうだ!お前、相手の過去を見通せる力があったよな!?」

「透過ですか?確かにありますがあれは戦闘には―――」

「あいつの過去を見て弱点を見つけんだよ!そうすればまだ勝ち目がある!」

「なるほど、透過」

《魔眼》の力でベルディアに使用してその過去を見る。

「水……ベルディアは水の攻撃のみ避けています。もしかしたら水が弱点かもしれません」

「よし、そうと分かればこっちのもんだ!『クリエイト・ウォーター』ッ!」

和真の叫びとともに、二人とベルディアの頭上に突然水が姿を現した。

慌てて避けるベルディアだが、二人は頭から水を浴びた。

「………不意打ちで突然こんな仕打ちとは……。や、やってくれるなカズマ、こういうのは嫌いじゃない。嫌いじゃないが、本当に時と場合を考えて欲しい………」

「冷静にはなれたが、真面目に戦い気はあるのか?」

「ち、違う!妙なプレイじゃない!あいつの弱点は水なんだよ!!」

「ダクネス!セルティさん!和真さんの言っていた通りベルディアに弱点は水です!ただの水をあんなに慌てて避けるということはそれだけ弱点ということです!二人でベルディアの動きを封じてください!ゆんゆん!すみませんが、前へ出て二人の援護を!」

「はい!」

「アリッサさんを始めとするプリーストは三人に支援と回復を!魔法使いの皆さんは水の魔法を放ってください!」

「は、はい!」

「『クリエイト・ウォーター』!『クリエイト・ウォーター』!『クリエイト・ウォーター』ッッッッッ!」

指示を出す無苓の言葉に連携を取る全冒険者。

「『ライト・オブ・セイバー』ッ!!」

ゆんゆんもベルディアに恐れず攻撃を繰り出す。

「くぬっ!おおっ?っとっ!」

だが、腐っても魔王軍の幹部。

三人の攻撃を回避しながらも水魔法を避けている。

もっと水がいる。そう思っていた時。

「水だよ水!あいつの弱点は水なんだよ!お前、仮にも一応はかろうじてとは言え、水の女神なんだろうが!それともやっぱり、お前はなんちゃって女神なの?水の一つも出せないのかよ!?」

「!?あんた、そろそろ罰の一つも当てるわよ無礼者!一応でもかろうじてでもなんちゃってでもなく、正真正銘の水の女神ですけど!水?水ですって?あんたの出す貧弱なものじゃなく、洪水クラスの水だって出せますから!謝って!水の女神様をなんちゃって女神って言った事、ちゃんと謝って!」

隣で和真とアクアが言い争っていたがアクアの口からこの状況を逆転する言葉が聞こえた。

それは和真も気付いてアクアを煽る。

「後でいくらでも謝ってやるから、出せるんならとっとと出せよこの駄女神が!」

「わああああーっ!今、駄女神って言った!あんた見てなさいよ、女神の本気見せてやるから!」

売り言葉に買い言葉。

和真の言葉でアクアの周囲に、霧の様な物が漂う。

『まずいわね、本当に洪水クラスの水を召喚するつもりよ』

エアリエルが姿を現してアクアを見てそう告げてきた。

『あのアークプリースト何者なの?というより、避難した方がいいわね。ムレイ、今回は魔王軍相手に頑張ったご褒美よ』

ふぅと息を吐くエアリエルに無苓は宙を浮く。

『疲れたからこれ以上力は使いたくなかったけどね』

無苓はエアリエルと共に空を高く飛翔する。

下を見ると不穏の空気がアクアを中心に漂るとアクアは両手を広げる。

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」

アクアは自分が言った通り洪水クラスの水を召喚した。

ただし、冒険者含めてベルディア諸共押し流されていた。

『人がゴミのようね』

無苓はエアリエルのおかげで洪水に会うことなく水が引いてから地面に着地した。

「ちょ……ちょ………っ、何を考えているのだ貴様……。ば、馬鹿なのか?大馬鹿なのか貴様は………!?」

よろけながらベルディアは立ち上がるがそこに無苓はロープをベルディアに投げる。

「『バインド』」

「ぬうっ!」

「和真さん!一緒に奴の武器を奪いましょう!」

動きを拘束して武器を奪う為に無苓と和真は叫ぶ。

「「『スティール』ッッッ!!」」

二人の魔力を込めたスティールが炸裂。

「重た……ッ!?」

無苓の手にはベルディアが使っていた大剣。

ベルディアの武器に奪うことに成功した無苓。

「あ、あの…………」

か細いベルディアの声は和真の両手から聞こえた。

和真はベルディアの頭を奪ったことに気付き、あくどい笑みを浮かばせる。

「おいお前ら、サッカーしよーぜ!サッカーってのはなあああぁ!手を使わずに、足だけでボールを扱う遊びだよおおおおおお!」

ボールのようにベルディアの頭を蹴り込んだ。

冒険者達にボールのように扱われている間に無苓はベルディアが使っていた大剣をセルティに渡した。

「汚物が粋がるな!!」

「ぶはっ!!」

鎧を着こんだベルディアの身体に一撃入れた。

「ここまで弱っていたらもういいだろう。楽にしてやってくれ」

「おし、アクア、後は頼む」

ダクネスの言葉に和真は後処理をアクアに頼む。

「『セイクリッド・ターンアンデッド』-!」

こうして魔王軍の幹部、ベルディアはアクアの手によって浄化された。

無事に戦いが終えた無苓はほっと一息つく。

「よかった………」



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討伐の翌日

ベルディアとの戦いが終えて無苓は泉で釣りをしていた。

「平和ですね……」

『平和ボケしてるわね、ムレイ』

腰に携えているエアリエルが紅玉から姿を現して無苓の肩に乗る。

「ベルディアの報奨金も手に入りましたから無理する必要はありませんし、それに私はこのまま戦うことなく平和に過ごしたいんですよ」

魔王軍の幹部ベルディアを討伐して全冒険者はその報奨金を受け取った。

元々ある分も加えてそれなりに潤っている無苓は無理してクエストに行く必要性にない。

それに無苓は元々魔王を討伐する気概はない。

第二の人生を楽しく生きれたらそれでよかった。

『ムレイに比べてカズマ達は大変だもんね~』

「そうですね」

アクアが召喚した大量の水により、街の入り口付近の家々が一部流され、損壊し、洪水被害が出てしまい、和真達は三億四千万の弁償金額が科せられてしまった。

ベルディアを倒したMVPとして特別報酬の三億が消え、残った四千万の借金が和真達は残っている。

是非とも借金返済を頑張って欲しいものだ。

『ムレイはさ、変わっているよね』

「何がです?」

唐突にそう言ってくるエアリエルは無苓の肩の上で足をブラブラと動かしながら口を動かす。

『平和に過ごしたいって言っている割にデュラハンと戦おうと誰よりも速く決断していたじゃん。ただ平和で生きたいのなら他にもやり方があるのにムレイはそれをしない。矛盾してない?』

相手は魔王軍の幹部。

間違いない強敵相手に無理して戦う必要はないにも関わらず無苓は前へ出て戦うことを誰よりも速く決断した。

結局はベルディアの配下を倒しただけでベルディアは和真達が討伐したが、エアリエルの言葉通り、他にやり方があったはずにも関わらずに無苓は逃げることもせずに戦うことを選んだ。

「矛盾していませんよ、私は英雄でも勇者でもない。特殊な力を持った一般人。世界を救えるような心構えもなく、魔王を倒す勇気もないただの臆病者」

『じゃあ、何で戦うの?』

「自分の手が届く友達と仲間を守る為ですよ、戦えない人間が戦わない理由にならないように友達と仲間を守る為に私は武器を手に取るのです」

それが刈萱無苓の第二の人生における最低限の覚悟。

もう後悔をしない為にも無苓は戦うべき時は戦いに赴く。

そのちっぽけな覚悟を聞いたエアリエルは笑みを浮かべていた。

『魔王を倒すのはムレイだったらいいのにな~』

「勘弁してくださいよ、エアリエル」

笑うエアリエルに嘆息する無苓。

「ムレイさ~ん!」

遠くから聞こえてきた声に二人は振り返るとゆんゆんが手を振りながらこちらに駆け付けて来ていた。

『ふぅ~』

そんなゆんゆんに向けてエアリエルは息を吐いて突風を発生させてゆんゆんのスカートを捲らせて下着を晒させる。

「ピンクですね」

「きゃああああああああ!?エ、エアリエル!急に何するのよ!?」

地面に座り込んで涙目で叫ぶゆんゆんにエアリエルは平然としている。

『ムレイがゆんゆんのパンツ見たいかなって思って』

「どちらかと言えば下着が周囲に晒されて羞恥で顔を真っ赤にするゆんゆんの顔の方が見たいですね」

「もう!二人のエッチ!いじわる!」

怒るゆんゆんだが、二人にとっては怖いと思う以前にゆんゆんの怒る顔も可愛いと思いながら黙って怒られた。

「すみません、それでどうかしたんですか?セルティさんとアリッサさん達はいないようですが?」

この場に来たのはゆんゆんだけの同じパーティーメンバーである二人の姿は見えない。

「セルティさんは新しい剣を慣らしてくると実家に戻りました。アリッサさんは報酬金をエリス教に寄付すると教会に行かれましたよ」

『つまり、一人寂しかったゆんゆんはムレイを探しにきたと』

「ち、違うよ!私はただ………そう、ムレイさんは何をしているのかなって思ってきただけよ!!」

「………無理しなくていいんですよ、ゆんゆん。寂しい時はいつでも私の胸に飛び込んできてください」

「や、止めてください!そんな慈愛に満ちた目で私を見ないでください!!」

酒場で一人、何もすることもなくぽつんと席に座っているゆんゆんの姿が容易に想像できてしまった無苓は優しい目でゆんゆんを見ていたがゆんゆんは慌てながら否定するがその説得力はゼロだった。

「そう言えばセルティさんは少し重たいと言っていましたね」

ベルディアとの戦いで無苓が盗賊スキルのスティールで奪ったベルディアの大剣はセルティが持っている。

相当な業物らしく売るよりも前衛職であるセルティが使った方がいいと判断してセルティの得物となっている。

だが、今のセルティに少し重たかったらしく得物を馴染ませる為に実家で鍛錬を行う。

アリッサは家族皆がエリス教徒で女神エリスを深く信仰している。

その中でもアリッサはアークプリーストとして時折は教会に呼ばれて活躍している。

「………改めて思えば私達は真面目で努力家ですけど微妙に報われていないですね」

ゆんゆんは優秀のアークウィザードだが、魂レベルのボッチ。

アリッサは根も優しく支援回復共に活躍できるほどの腕前だが、幸運値に恵まれていないせいか非常にネガティブ思考。

セルティは勇敢で努力家で周囲に信頼されているがモンスターを見ると殺したくなる残念嗜好の持ち主。

『ムレイは紳士そうに見えるドSだもんね』

「否定はしません。特にゆんゆんの前では」

「ど、どうして私の前では否定しないんですか?」

「ゆんゆんを見ると虐めたくなるんですよ」

『あ、わかる』

「やめてください!本当に怒りますよ!?」

今にも掴みかかってきそうなゆんゆんを宥めて無苓は釣竿を消してゆんゆんと一緒に街へ戻る。

隣で歩くゆんゆんはどこか楽しげにしているがそれはそれで微笑ましかった。

「そういえばゆんゆんとめぐみんさんの生まれた紅魔の里とはどういうところなんですか?」

「え、え~と………に、賑やかなところですよ」

言いたくないのか、それとも言うのが恥ずかしいのか目線を泳がせながら必死に答えた。

生まれた里を悪く言うこともできないゆんゆんは思いついた告げると無苓は苦笑しながらゆんゆんの頭を撫でる。

「いつか案内してくださいね」

まだこのアクセルの街しか知らない無苓は何時かはこの世界を見て回ろうと考えている。

その最初がゆんゆんの生まれ故郷である紅魔の里にしたいと告げるとゆんゆんは嬉しさ半分恥ずかしさ半分で首を縦に振る。

「……はい」

「ゆんゆんの御両親にも挨拶しておきたいですしね」

「え!?」

同じパーティーを組んでいる仲間として一言挨拶をするのは礼儀だろうと考えていた無苓とは反対にゆんゆんは頬を染めて胸元で指を絡ませていた。

「あ、あの……私はまだ13ですし、まだそれは早いと思いますけど………それにまだちゃんとお付き合いを…………」

小言でごにょごにょと口走るゆんゆんに無苓は首を傾げる。

「早い?ああ、確かに私達はまだ出会って一ヶ月程度ですけど時間は関係ありませんよ。私達の仲じゃないですか」

同じパーティーメンバーとして寝食を共にしてきた無苓達に時間など関係ない。

既に互いが信頼できる仲間と無苓は思っている。

「私達の仲……!?そ、そうですよね……私とムレイさんの仲ですよね……でも、やっぱりもう少ししてからの方が………」

この国では16歳から20歳の間に結婚するのが普通で結婚自体は14歳からできる。

無苓は今年で17歳、結婚してもいい年齢になっている。

ゆんゆんはまだ13歳だが、もうすぐ14歳になる為結婚もできる。

「もちろん今すぐという訳ではありませんよ。もう少しこの街でゆっくりしてから行きましょう」

「は、はい!私からもムレイさんの事を父に紹介します!」

「ええ、その時はよろしくお願いしますね」

「はい!えへへ……」

幸せそうに微笑むゆんゆんは無苓の言葉の意味を知るまで数時間後。

しばらくの間、部屋へ閉じこもってしまった。

 

 

 



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居候の条件

異世界に来て初めての冬が訪れた。

外では冷たい風が吹くなかで懐が潤い、屋敷を持っている無苓達は屋敷の中でゆっくりと寛いでいた。

暖炉に火を入れて部屋を暖めて、暖かい空間で無苓はキッチンで昼食を作っている。

グツグツと音をたてて煮込む鍋の中に具材を入れる無苓。

「ムレイさん、サラダの盛り付け終わりました」

「ありがとうございます、こちらももうすぐ終わりますから食器を出して下りてください」

「はい」

今日の昼食は無苓特性のシチュー。

寒い日のは心も体も温まるシチューを作っている。

今日も穏やかな一日を過ごそうとのんびりとした空気に包まれている時、ドアをノックする音が聞こえた。

出迎えようとする無苓をセルティが手で制した。

「私が出よう」

「お願いします」

無苓の代わりにセルティが部屋を出て出迎えの対応をしてくれる。

鍋の取っ手を持ってテーブルの真ん中に置いて準備は完了。

後はセルティが戻ってきたら昼食だ。

そんな穏やかな空気のなかでドアが開かれるとそこには困った顔で頬を掻くセルティと体を震わせている和真とアクア、それと申し訳なさそうにするめぐみんとダクネスの姿がいた。

「どうしました?」

声をかける無苓に和真は震える口調で無苓に懇願した。

「………俺達を住まわせてくれ」

和真は今にも凍えそうなほど心も体も冷たくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「………ああ、シチューってこんなにも心と体が温まるものなんだな」

シチューを口にしながらしみじみと和真はそう言う。

「ムレイ!おかわりをください!」

「めぐみん!これで何杯目よ!?少しは遠慮しなさいよね!」

空になった食器を手渡すめぐみんにゆんゆんは声を上げる。

「大丈夫ですよ、ゆんゆん。まだたくさんありますから問題ないですよ」

「ほら、ムレイもああ言っているんです。というよりいちいち小うるさいですよ」

「う、うるさくないよ!常識よ、常識!」

怒るゆんゆんを見て苦笑しながらめぐみんの食器にシチューを入れて渡すとめぐみんはまたがっつくように食べ始める。

「ムレイは本当に料理上手だな。うん、美味い」

めぐみんとは対極的に一口ずつ味わいながら食べているダクネス。

「食事に関しても本当に助かっているさ。朝食も基本的はムレイが作ってくれている」

家庭的な意味でも無苓に助けられているセルティ達。

というより、まともに料理が出来るのは無苓とゆんゆんだけだった。

簡単な料理ならセルティも出来るがセルティが作るより無苓は作った方がいい。

アリッサは本人のネガティブ思考と暴走により危ないと判断してキッチンには立たせていない。

「ムレイー!私にもおかわりちょうだい!」

「はいはい」

おかわりを催促されるアクアに食器を貰う無苓は微笑みながらアクアの食器にシチューを入れて手渡すと無苓は和真に視線を向ける。

「和真さん、この屋敷に住むのは構いませんよ。部屋は余っていますし、ベルディアを討伐した功労者を馬小屋で寝泊まりさせるほど私も鬼ではありません」

「ほ、本当か!?………た、助かった。あのまま馬小屋の寝床だと凍え死ぬところだったからな。本当に助かる。冬の間だけでも世話になるわ」

「借金もあるでしょうから家賃も取りませんよ、その代わりに労働で返してもらいます」

「………まぁ、背に腹は代えられねえ。それぐらい引き受けるさ」

その言葉を聞いた無苓は微笑みが深くなる。

「では早速着替えて頂きましょうか」

《物質創造》で無苓は早速と言わんばかりに五人に来て貰う服を創り出して着てもらう。

「ふふん、悪くないわね」

ロングスカートのメイド服を着こなすアクアは鏡と向かい合いながら胸を張っていた。

「……ど、どうして私のはアクアと違うものなんだ?」

ダクネスにはサイズが小さめの丈の短いメイド服をダクネスは頬を染めながら訝しむ。

「わ、私にいたってはメイド服ですらありませんよ………ッ!」

めぐみんには一撃熊の着ぐるみを身に着け無苓に文句を告げるが無苓は無視。

「おい、どうして俺はつなぎ服なんだ?」

「男はそれでいいでしょう」

「お前、だんだんいい性格してきたな。それともそっちが本性なのか?」

「ご想像にお任せします」

つなぎ服を着て半眼する和真。

「ど、どうして私まで……ッ!」

ゆんゆんもダクネスと同じメイド服姿だが、頭には犬耳カチューシャが装着されている。

「よくお似合いですよ、ゆんゆん。犬と猫のどちらにしようか悩みましたが取りあえずは犬して正解でした」

親指を立てる無苓にゆんゆんは涙目で顔を近づけて訴えてくる。

「どうして私までこんな格好しないといけないんですか!?恥ずかしいです!」

働くのは和真達だけのはずが気が付けば自分までこんな格好をさせられたゆんゆんは掴みかかってくるが無苓はゆんゆんの肩を持つ。

「ゆんゆん、これは訓練です」

「く、訓練ですか……?」

「ええ、人と目を合わせて話ができる為にまずは一定の緊張感の中でいかに冷静に話が続けられるかという訓練です。例えば誰かがゆんゆんに声をかけてきたとしましょう。その時、ゆんゆんは緊張のあまり声が裏返ったり、何を言っているのかわからないと言われたことがあるはずです。これは友達ができるチャンスを取り逃がさない為の訓練です」

「そ、そうだったのですか……?」

「そうです。しかし、突然こんなことをさせるには些か抵抗はありましたが友達であり、ライバルであるめぐみんさんと一緒ならまだ緊張は和らいだ状態で訓練を行うことができるはずです。目指せ、友達百人です!」

「は、はい!私……恥ずかしいですけど頑張ります!」

「その意気ですゆんゆん」

目を輝かせるゆんゆんとそんなゆんゆんを言い包める無苓。

二人の近くで和真達は表情を引きつかせていた。

「カズマカズマ。ゆんゆんってチョロイ子なの?」

「友達がいないことを利用して言い包めるなんてあいつは詐欺師か……」

「全く、本当にチョロイ子ですね、ゆんゆんは。というより私を引き合いに出すのは止めて頂こうか」

「はぁはぁ、ムレイは悪徳貴族で私はそこに使える使用人だったきっと私はムレイに言いように言い包められてこの身を途轍もない辱めを受け続け最後は寒い冬の外に………」

「はぁ………」

「ムレイさん…………」

「はいはい皆さん、仕事に取り掛かってくださいね。頑張った人には今日の夕飯のリクエストぐらいは聞いてあげますよ」

手を叩いて仕事をするように促す無苓。

アクアとダクネスは屋敷の掃除を。

和真は無苓の収入源である双眼鏡と懐中電灯を組み上げ作業を。

めぐみんはこの場で一番年下であるアリッサの監視ではなく面倒を。

ゆんゆんは無苓の膝枕を。

「私だけ皆さんと違うような気がするんですけど………」

「気のせいです」

『気のせいよ』

いつの間にか姿を現したエアリエルはゆんゆんの頭の上で寛ぎだす。

「ゆんゆんの膝枕は気持ちいいのですからついついお願いしたくなるんですよ」

あと、上を向けば目の保養になるとは言わない。

『ゆんゆん、仲間同士のスキンシップは重要よ。照れないの』

「う、うん………」

エアリエルに促されて一応は納得するゆんゆん。

ゆんゆんの頭の上で親指を立てるエアリエルに無苓は感謝した。

流石は我が相棒と褒め称える。

『それに両親の挨拶を結婚の挨拶と勘違いしちゃうほどムレイの事が好きなら尚更恥ずかしがらずに攻めないと』

「ちちちちちち、違うから!わ、私はムレイさんの事がそう思っていないから!あ、ち、違うんです、ムレイさん!思っていないと言いましたが嫌いというわけじゃないんです!」

慌てふためくゆんゆんに無苓はそっと目元を押さえて視線をゆんゆんから外す。

『あーあ、傷付けちゃった』

「わ、私のせいなの!?ム、ムレイさん!私はそういうつもりで言ったのではなく…………私の両親の事も考えてくれるムレイさんの気遣いが嬉しくって、えっと、その…………」

慌てながら何とか言葉を繋げようと必死に考えるゆんゆん。

しかし、無苓は別に悲しんでいる訳でも傷付いているわけでもない。

ただ、慌てふためくゆんゆんの顔が非常に面白い為に必死に誤魔化そうとしているだけ。

エアリエルはそれに気づいているがそれを言わない理由はただ一つ。

ゆんゆんを苛めると楽しいから。

嗜虐心を満たさんとばかりの二人は数分間ゆんゆんを苛め抜いた。



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