狗の長兄が行くD×D (始まりの0)
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人物紹介① 【主人公+神社関係者】


ネタバレを含みますので注意して下さい。

随時更新します。


 ~龍王神社side~

 

 名前:龍牙王

 

 性別:男性

 

 年齢:不明(長生きし過ぎて忘れた)

 

 種族:龍神・狗妖怪のハーフ

 

 身長など:少年時・中学生くらい、青年時・殺生丸と同じくらい

 

 容姿:闘牙王に似ており、長い白銀の髪、金色の眼、額には三日月ではなく太陽、頬の紋様は殺生丸と同じ、首から大きな宝玉が掛かっている。鎧は闘牙王と同じ形の物。殺生丸より細いがモフモフが両肩と腰(合計3本)から出ている。青年時は少年時をそのまま成長させた姿。

 

 強さ:不明

 

 別名:裁龍神、龍王さま

 

 好きな物:人間、子供、弟達、昼寝

 

 嫌いな物:これと言ってないが、例外的に悪魔を嫌悪している

 

 

 

 

 ―家族構成-

 

 父:闘牙王

 

 母:無の龍神

 

義理の母:ご母堂様

 

 弟:殺生丸、犬夜叉

 

 

 

 

 

 

 交通事故で死に、何故か転生した主人公。

 

 狗の大妖怪・闘牙王とこの世界最古の龍を母に持つハイスペックな存在。ハイスペックな存在ではあるが、半妖の様な扱いを受けたこともあり幼い頃は嫌な思いをした。なので犬夜叉に対して思う所がある。

 

物語の始めではこの世界が本来の「犬夜叉」の世界でない事は分かっているが、どの様か世界かは分かってない。

 

 闘牙王と世界を創造した龍神の子供だけ在って、この世界でも最強クラスの存在。最終形態の奈落や魍魎丸などを簡単に倒す事が可能。特異な力を持っており、子供の時で既に叢雲牙の悪霊を簡単に抑え込めたとか。

 

  具体的にいうと、その身体は神の一撃を防ぎ、その爪は万物を引き裂き、その牙は神を噛み殺す。そして体内では魂を侵し神を殺す毒が生成されている。

 

 数百~千年単位で数十年の眠りにつく龍眠というものがあり、これは犬夜叉で言う朔の日の様な物である。

 

 兄弟とは本人は仲良くしたいと思ってるが、叢雲牙と鉄砕牙を狙う殺生丸に狙われていた。弟の様に本人はこれと言って力に固執してはいない。また鉄砕牙も使い熟すことができる。後に殺生丸が心身ともに成長した為、鉄砕牙は譲り渡したが、D×Dの原作開始約50年前には何故か、天生牙と爆砕牙と共に龍牙王の元に在った。

 

 兄であるのに、何故か殺生丸より幼い姿をしているのには秘密があるらしい。

 

 また生前より「犬かご」よりも「犬桔派」である。

 

 殺生丸に闘鬼神、人間となった犬夜叉には自分の牙から打ち出した二振りの牙を渡している。

 

 家族への情だけでなく、半妖、人間にも隔てなく優しい。しかしその半面、自分勝手な都合で罪を犯す者や意味なく命を奪う者には冷酷な裁きを与える。

 

 また悪魔に対しては個人的に私怨があるが、無容易に滅する事はせず、己の地や氏子達に害がない場合は監視をつけた上で放っており、地や氏子に害をなす場合は容赦なく切り捨てる。

 

 「龍王神社」に身を置いており、氏子達からは「龍王さま」と呼ばれ崇められている。

 

  本来の名で呼ばれていないのは、永い時の中でこの名が親しみを込めて氏子達がつけてくれたものであり、自分の名が世界にどれほどの影響力を持つか知っており、地や氏子達を護る為である。

 

  ヒロインは現代の段階でも複数おり、その全てが無自覚で落とした女達。誰か1人などと絶対に決めることが出来ない優柔不断だが、これは女関係だけである。ヒロイン達もこれを仕方ないと半分諦めているが、自分が正妻になるために日々頑張っている。

 

 

 

 

 

 

【約3000年前】

 

 幼少期は母と同じ世界の外側にいた。この世界の外側は無限の龍神や赤龍神帝ですら長い時間存在することの出来ない場所である。

 

 強靭な肉体と強大な力を手に入れた事で、精神が身体に引かれて思考が元々のものから人外のものとなっており、残忍な所もある。

 

 しかし完全に人間の心は消えていなかったため、旅先で弱者が踏みにじられるのを見ると、残った人間の心がざわめき、苛立ちという形で出現する。これを解消する為に、弱者を踏みにじる者や傲慢な神々などを打ち倒すのを繰り返す内に【裁龍神】などと称される様になった。本人は自分の苛立ちを解消する為に戦ったので、その気は全くない。

 

 また母である無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)がありとあらゆる時間・世界・次元に飛ばしている為、様々な時代に出現している。

 

 母曰く『これも息子の成長のため……ククク』だそうで、本当に息子の為を思ってなのか、息子の困惑する姿を見たいだけなのか分かりかねる。現に彼が強くなったのは事実なので後者ではない…………筈だ。

 

 身体は強靭なものの、その反面人間の心があるので弱い部分もある。天照達の彼に惚れてる女神はそれに気付いており、その弱った彼を見ると保護欲……母性本能が疼くらしい。後に彼曰く『天照達が居なければ今の自分はない』と言っており、彼女達の事を想っている。

 

 巫女であるアイリと過ごす内に彼女に心惹かれて、男女の関係になるが、その事を天照や他の女神に言った日には死にかけたそうだ。色々な意味で。

 

 彼が青年の姿ではなく、少年の姿で過ごしているのもアイリと過ごした姿であるため。

 

 

 

 

 

 

 

 ―武器紹介-

 

 

 ・鉄砕牙

 

 父・闘牙王の牙から打ち出された人界を司る刀。普段は錆び刀だが、使用時は大振りな刀へと変化する。

 

 犬夜叉に残された物であるが、人間となった事で使えなくなったので龍牙王が所持する事になった。後に殺生丸に譲渡されるまでは、龍牙王が所持し、冥道残月破以外の技は習得されていた。

 

 一振りで百の妖怪を倒す事ができる。また人を慈しむ心がないと使用できず、妖怪・悪魔などは鉄砕牙自身が拒絶する。

 

 使用技:風の傷、爆流破、結界破りの赤い鉄砕牙、龍麟の鉄砕牙、金剛槍破。

 

 

 

 ・天生牙

 

 父・闘牙王の牙から打ち出された天界を司る刀。殺生丸に残された物で、この世の者は斬れないが死んだ者を1度だけ甦らせる事ができる。第7話では龍牙王が所持しているが、理由は謎である。

 

 一振りで百の命を救うとされ、慈悲の心がなければ使い熟せない。鉄砕牙同様意志を持っている。

 

 使用技:癒しの天生牙、蒼龍破、冥道残月破。

 

 

 

 ・叢雲牙

 

 父・闘牙王が所持していた地獄を司る剣。龍牙王が使い熟し、封印の役目を引き継いだ。太古の悪霊が憑りついており、龍牙王以外が持てば、魔王であろうが、神であろうが乗っ取られる。

 

 一振りで百の亡者を呼び起こすとされる魔剣。現在は鉄砕牙と天生牙、龍牙王の力により完全に封印されているが、龍牙王とは意思疎通している。悪魔の血肉・魂より情報を読み取る事が可能で、最後には悪魔を取り込んでしまう。

 

 冥界の剣の為に、冥道残月破も使用できる。

 

 

 叢雲牙が人間態になった姿。中の人繋がりか〇ダオの姿をしている。

 

 龍牙王とは和解したのか、時折自由に人の姿で出歩く事が多い。

 

 しかし元は地獄の剣だけあって、ダメな男ではない。グラサンの下の眼は(ひぐ〇しの)葛〇さんの様に鋭い目をしている。因みに最近は鞘と出掛け、街を散策するのが趣味である。

 

 龍牙王の影響か、人を助けることもあり、街では有名である。

 

 ―本当に地獄の剣なのか?―

 

 

 使用技:亡者の軍勢、獄龍破、冥道残月破。

 

 

 

 ・爆砕牙

 

 殺生丸が鉄砕牙への執着を捨てた時に出現した殺生丸自身の牙。

 

 斬り付けた部位から爆発が起き、全体にダメージが広がっていく。犬夜叉の原作でもチート武器扱いだったが、この世界では変わらない。

 

 

 

 ・雷砕牙

 

 雷を模した様な刀身を持つ刀。龍牙王自身の牙の1つであり、名の如く雷を砕く牙である。

 

 使用技である【白龍破】は龍牙王が編み出した技で、殺生丸の蒼龍破もこれを元に編み出した技。

 

 使用技:白龍破

 

「兄上の技、格好いい!」→修行→蒼龍破→修行の風景は御母堂により撮影された

 

 

 ・陰陽牙

 

 龍牙王自身の牙の1つで、刀身が白、峰が黒となっている刀。陰陽=光と闇を司る力を持っている。使用技は前世の知識をフルに使い考えたとか。

 

 使用技:滅犠鑼怨(メギドラオン)=エレベーターガールと同等の力

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:天龍 夜叉

 

 性別:男性

 

 年齢:17歳

 

 容姿:犬夜叉の犬耳を無くして、髪を短くした姿

 

 種族:人間

 

 

 500年の前の龍牙王の弟・犬夜叉の生まれ変わりであり、龍王神社の長男として産まれた。前世の記憶は殆どないが、龍牙王を兄の様に慕い、妻の生まれ変わりである桔梗が好きである。だが性格は前世から変わっておらず、素直ではないところもあるが、曲がった事は嫌いで、不器用だが優しい正格である。

 

 龍王神社の長男として、龍牙王の牙から打たれた刀を受け継いでいる。また同時にこの街を護る守護者としての役目も受け継いでいる。

 

 一誠達とは同い年で、幼い頃より交流があり彼等の性格も把握しており女子(桔梗)の着替えを覗くのを止めている。龍牙王が人間に化けて入学してからは共に三馬鹿達を止めている。

 

 前世の記憶は殆どないものの、半妖の時の嫌な思い出を偶に夢に見る。幼い頃はその度に龍牙王の尾に包まって寝ていた。

 

 家族は曾祖母の陽菜、父の玲雄、母の奏、弟の颯太がいる。祖父と祖母は守護者として戦い死んでしまった。

 

 

 

 ・護龍牙

 

 龍牙王の牙から刀々斎が打った刀。鉄砕牙の様な意志を持っている。

 

 刀身は水晶の様になっており、斬られた対象は浄化されるので妖怪や悪魔を相手にするには相性がいいが人間や物を斬れない。そして名の通り、人を護る刀であり強力な結界を張る事ができる。

 

 また刀そのものに意志があるため、護龍牙に認められた者しか扱えず、妖怪や悪魔を拒絶する。

 

 

 ・闘滅牙

 

 龍牙王の牙から刀々斎が打った刀。

 

 刀身から黒い雷の様な物が放たれており、斬られた対象は細胞ごと破壊される。鞘に入れていないと危険で、敵の殲滅に使用される。しかし人を護る為に打たれたので、人に対しては刃物としては使用できるが、力は使えない。

 

 護龍牙同様、意志があり闘滅牙に認められた者しか扱えない。妖怪や悪魔を拒絶する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:日暮 桔梗

 

 性別:女性

 

 年齢:17歳

 

 容姿:前世の桔梗、そのままである

 

 種族:人間

 

 

 

 

 桔梗の生まれ変わりであり、龍神神社の長女として産まれた。夜叉と対照的に前世の記憶はある。

 

 現世では巫女と守護者としての役目があるものの、夜叉と共にいる時は1人の少女として生きていける事に感謝している。

 

 性格も前世と変わらず、誰にでも優しく、芯が強い。そして美人であるので学園でも人気があり、駒王学園で「(非公式)恋人にしたいランキング」の上位であり、学園の「お姉様」の1人。

 

 しかし龍牙王と夜叉(番犬)がいるので、下心のある男共は近付けない。

 

 巫女と守護者としての役目に誇りを持っており、前世の記憶もあるので、夜叉や家族以外の同年代には姉の様に接する。だが、恋する乙女でもあるので夜叉の前だけでは1人の少女である。

 

 巫女として実力も前世より強くなっており、現在も龍牙王の元で修業を続けている。

 

 家族は祖父母と妹の楓がいる。父は幼くして病で死に、母は守護者として死んだ。龍牙王が天生牙を使い生き返らせようとしたが、母本人の願いによりそれはなされなかった。

 

尚、生まれ変わりならかごめでいいじゃん?と思ったが、作者も犬かごより犬桔派なので彼女が転生してきた。

 

 

 

 

 

 ・破砕弓

 

 龍牙王の爪から作られた弓。

 

 弦を引くには、破砕弓自身に認められる必要がある。認められるのに必要なものは、「霊力」と「愛する者を護る心」だ。

 

 これは前世から使用していたものでもあるので、桔梗にとっては使い慣れた物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:神無

 

 性別:女性

 

 年齢:???歳

 

 容姿:奈落の分身の神無と同じ

 

 種族:神

 

 

 龍牙王がとある山奥で見つけた棄てられた社に祀られていた神鏡に宿っていた神。人々に忘れられ荒神になろうとしていた所を龍牙王に拾われた。

 

 何故か奈落の分身の彼女と同じ姿、同じ能力を有する。現在は本体である鏡で街の様子を監視しており、異変があれば龍牙王に伝える。また気の流れを操作する事ができ、土地の管理も任されている。

 

 同じ社で見つけられた神楽とは姉妹であり、小さいが姉である。趣味は鏡で恥らっている神楽を見る事だそうだ。

 

 白、無口とキャラが被っているからか白音とも仲がいい。また姉繋がりで黒歌との仲も良好である。

 

 学園に通い出したのは、龍牙王の配慮によるもので天龍の性を名乗っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:神楽

 

 性別:女性

 

 年齢:???歳

 

 容姿:奈落の分身の神楽と同じ

 

 種族:付喪神

 

 

 

 龍牙王が神無と共に見つけた扇子の付喪神。

 

 何故か奈落の分身の彼女と同じ姿、能力を持っている。性格も自由を愛するので、誰にも縛られないが姉である神無にだけは逆らえない。龍牙王に対しては恩義があり、大抵の事は従っている。

 

 白音達とも仲は良いが、制服を着るのが嫌だったらしいの学園に通うのを拒否した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~その他の眷族~

 

 陽牙・陰牙

 

 

 龍王神社にある狛犬達。最も古い時代から龍牙王に仕えている者達。

 

 因みに陽牙が雄、陰牙が雌の対なす狛犬。

 

 

 

 

 

 光牙・闇牙

 

 

 龍神神社にある狛犬達。陽牙達と同じく古い時代より龍牙王に仕える眷族。

 

 光牙が雄、闇牙が雌である。



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人物紹介② ヒロイン(候補)

ネタバレを含みますので注意して下さい。

随時更新します。


 ~ヒロイン1~

 

 名前:天照大御神

 

 性別:女性

 

 年齢:???歳

 

 容姿:赤い髪の美女(イメージ的には邪神つ〇ぎの大人Ver)

 

 種族:天津神……太陽神

 

 

 

 高天原の最高神であり、太陽神の女神。

 

 性格は面倒な事が嫌いではあるが、役目はしっかりと果たす。女神とは思えぬ発言もする事があるが、慈悲深い女神である(筈)。とある事で龍牙王と出会った。彼と出会うまでは彼女は孤高で在ったが、自分の為に怒ってくれた彼に本気で惚れてしまった。

 

 しかし無自覚に女を落とす事が当たり前の様な主人公は事ある毎に惚れる女が増える一方なので、それを追い払うのに手を尽くしている。彼女自身は龍牙王程の男が1人しか妻を取らないのはどうかという事で妾・愛人は認めているが増え過ぎると………義母ゆずりの病みが発生する。

 

 龍牙王のヒロインの1人であり、彼の弱さを知る者の1人。

 

 

 

 

 

 

 ~ヒロイン2~

 

 

 名前:アイリ

 

 性別:女性

 

 年齢:13~14歳(享年:約18歳)

 

 容姿:黒髪赤目の少女

 

 

 

 

 

 太古の駒王町の龍泉地と龍牙王の最初の巫女。

 

 母は龍泉地を浄化し鎮める役目を担っていた巫女だったが、龍牙王がこの地を訪れる数年前に突如魔物が襲来。龍泉地を手に入れようとするが、力が強大過ぎて魔物は自滅……魔物により穢れ暴走する龍泉を命と引き換えに鎮めた。

 

 それ以降は彼女が龍泉地を鎮めてきたが、未熟で一向に浄化できず、村人達と土地を離れるあ否か話し合っている時に龍牙王と出会う。

 

 主である龍牙王の心の弱さと人を見ていない事を気付き、それを彼に直接言う度胸と罪人にも情けをかける優しさを持つ心の強い少女……なのだが、龍牙王に出会うまで巫女として生きてきたので一般的な事には疎い。

 

 1日に十数回は何もない所で転ぶ。これについて龍牙王は「幸が薄い訳でもなく、身体能力も巫女をしてるだけあって唯人より上なのに、こうも転ぶのは一種の天才ではないか」と言っている。

 

 隠形の術を使っていた龍牙王を見抜く霊視力、霊力、術の技量を持ち巫女としての力は強い。

 

 龍牙王と恋仲になった事で、彼に惚れてる女神達とは色々とあったが、彼の弱さを見抜いた彼女には女神達も一目置いている。

 

 龍牙王が高天原に赴いている間に異形(悪魔)から村人を護るために戦い、命を燃やし尽くし、最後は彼の腕の中で生き絶えた。

 

 その身体は総ての力を出し尽くしたが為に、髪は黒から白髪に、身体は黒くなり崩れ、血に染まった巫女服のみが残った。

 

 ヒロインの1人であるが、既に故人。

 

 

 

 

 

 ~ヒロイン3~

 

 名前:アーシア・アルジェント

 

 性別:女性

 

 年齢:16歳

 

 容姿:原作そのまま

 

 種族:人間

 

 

 

 元々は教会に捨てられた赤ん坊で、シスターとして生活していたが怪我をした犬を助けたいと言う一心で神器(セイグリッド・ギア)聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)を覚醒させた。

 

 しかし彼女は巫女・アイリの生まれ変わりであり、輪廻転生の際にアイリとしての人格と記憶は封印されていたが神器(セイグリッド・ギア)が覚醒時にその封印が解かれた事で、記憶が夢という形で体験した。

 

 性格がアイリと似ているので、原作とは人柄はあまり変わらないが、アイリの記憶と人格が統合された事により、(ヤハウェ)への信仰心は原作より強くない。

 

 分かりやすく言うと性格などは原作と大差ないが、信仰などは龍牙王に向けられている。

 

 神器のみだけでなく、巫女として術・力を使用する事も可能。

 

 

 

 

 

 

 

 ~ヒロイン4~

 

 

 

 名前:月読命

 

 性別:女性

 

 年齢:?

 

 容姿:銀髪美人(Lovのツクヨミそのまま)

 

 種族:天津神……月神

 

 天照の同じ高天原の三貴士の1人。男性として語られる事が多いがこの世界では女神である。

 

 端から見たら絶世の美女なので、近付き難い雰囲気を出している。女神であるので自分を信仰する者達には慈悲深く、その者達の為になる事なら努力は惜しまない。

 

 天照と同じく龍牙王に出会うまでは孤高の存在で、気軽に話せたのは、天照と弟神・スサノオくらいのものだった。

 

 月に引きこもっていたが天照が何やら男を連れ込んだと言う噂を聞きつけ、久し振りに高天原に行った際に龍牙王と出会い一目惚れ。本人曰く「これは運命の出会い」と言い、求婚。その相手が姉・天照の噂の相手とは夢にも思わなかった。

 

 それからと言うもの、姉とは正妻の座を巡り日々火花を散らせている。姉と同じく、龍牙王程の男が1人しか女を娶らないのはどうかと思い、側室や妾は許しているが、上限はあるらしい。

 

 弟神・スサノオはこれに対して、「姉貴達から解放されたぜ!龍牙王……いや兄貴!ありがとう!」とコメントしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ヒロイン候補~

 

 

 

 名前:白音

 

 性別:女性

 

 年齢:?歳

 

 容姿:原作そのまま

 

 種族:猫魈

 

 

 原作の小猫本人。今作では悪魔に狙われた時に姉と逃げ出し、駒王の地に逃げ込んだ際に龍牙王に助けられた。

 

 現在では龍牙王と共に暮らしており、学園に通っている。悪魔に故郷を滅ぼされ、同胞を殺されたので快く思っていない。

 

 原作と違い、龍牙王に救われ、姉と生き別れになっていない為に仙術も扱う事もできる。

 

 龍牙王には救われた恩もあり、加えてかなり優しくされた為に惚れてしまっているが、本人はそれを自覚しておらず、父や兄の様に思っている。しかし姉の黒歌曰く「時間の問題」だそうだ。

 

 

 

 ~ヒロイン候補~

 

 

 

 

 名前:黒歌

 

 性別:女性

 

 年齢:?歳

 

 容姿:原作そのまま

 

 種族:猫魈

 

 

 原作の黒歌本人。原作と違い、悪魔に追われ白音と共に逃げていたところ駒王の地に入り龍牙王に助けられた。

 

 妹と共に龍牙王の庇護下におり、学園に通っている。シスコン繋がりで、魔王達とは気が合いそうだが、故郷や同胞を滅ぼした悪魔を快く思っていない。

 

 原作と違い、白音と生き別れになっていないので姉妹仲は良好であるが……妹の成長を確かめる為、スキンシップと称して何かと白音に抱き着こうとすると拳が飛んでくる。

 

 妹共に救われ、龍牙王に仕えているが、その強さと優しさに惚れてしまっている。しかし当の龍牙王はそれに気付いておらずあくまで家族と接しているのが唯一の不満。本人曰く「子供さえ作ってもらえればいい」と言っている。



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人物紹介③ 主人公の家族・その他

ネタバレを含みますので注意して下さい。

随時更新します。


 名前:無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)

 

 性別:なし

 

 年齢:???(世界が存在する以前から存在していた)

 

 種族:龍神?

 

 

 

 世界が生まれる前から存在していた存在。本来は形がない意志だが龍神として自分の形を創り上げた。

 

 世界を創造した存在であり、指先1つで破壊する事もできるとか。真なる赤龍神帝であるグレートレッドや無限の龍神オーフィス、神などを産み出した大母神とも言える。

 

 大母神ではあるが、その性格は御母堂に似ており、龍牙王を本人の意志に関係なく違う時代に送り慌てる姿や困っている姿を見るのが楽しみだとか。そのお蔭で龍牙王自身も強くなったが、息子曰く止めてほしいらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:闘牙王

 

 性別:男

 

 年齢:???

 

 種族:狗妖怪

 

 戦国最強の狗妖怪。天下覇道の三剣を手にし、妖怪達を治めていたが、竜骨精との戦いが原因で死んだ。

 

 龍牙王の父であり、彼が最も憧れた存在であった。アイリの一件では、息子に頼まれていたにも関わらずその場を離れ、彼女を死なしてしまった。その一件以来、龍牙王とは疎遠になっていた。

 

 しかし死の間際には、犬夜叉と十六夜を守ると言ってくれた息子に感謝し、2人を護る為に死地へと赴いた。死後は黒真珠の向こう側に葬られている。

 

 

 

 

 

 

 名前:殺生丸

 

 性別:男

 

 年齢:???

 

 種族:狗妖怪

 

 

 父上、兄上大好きな次男。大好き=殺すの大妖怪。父が死に、兄である龍牙王を尊敬しその強さに憧れ何時かは越えようとしている。天生牙を残されたが、未だその意味を理解していない。

 

 しかし、りんや邪見と出会い慈悲の心、優しさを知り父と兄を越える大妖怪となり、兄にも認めて貰えた。

 

 平成の時には何故か、彼の武器は龍牙王が所持していた。

 

 

 

 名前:犬夜叉

 

 性別:男

 

 年齢:初登場時は10歳未満

 

 種族:人間・狗妖怪……半妖

 

 

 初登場時は子供で、半妖と罵られているが長兄・龍牙王に出会い孤独で無くなった。

 

 そして桔梗と出会い、奈落を倒した後、人間となった。桔梗との間に子供が生まれて、その子孫は龍王神社にいる。

 

 

 

 

 名前:桔梗(前世)

 

 性別:女

 

 年齢:14~8

 

 種族:人間

 

 

 犬夜叉に登場する悲劇のヒロイン。この作品では龍牙王に救われた1人。

 

 四魂の玉を護っていた巫女。犬夜叉と出会い、惹かれ合った。原作では奈落により犬夜叉と憎み合い悲惨な最期を迎える事になるが、犬桔派の龍牙王により運命を回避した。

 

 四魂の玉、消滅後は妹の楓と共に龍牙王を祀った龍王神社の巫女として、人間となった犬夜叉の妻として生涯を遂げた。犬夜叉との間には双子の女の子を産んだ。

 

 余談ではあるが、その娘達が婚約者を連れてきた時には犬夜叉と龍牙王が動く事となり大変だったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 名前:十六夜

 

 性別:女性

 

 年齢:???

 

 種族:人間

 

 

 闘牙王の妻であり、犬夜叉の母。戦国の世で女で1つで犬夜叉を育てようとしたが、幼い犬夜叉が半妖と蔑まれている事を知り哀しんでいた所、龍牙王により御母堂の元に連れられた。

 

 御母堂や無の龍神とは、闘牙王の妻と言う事で仲がよい。

 

 龍牙王によれば、50歳過ぎまで生きたらしく、最後は息子に見送られた。彼曰く母としても、女性として強い……ヒロイン達以外に龍牙王(自分)の頭の上がらない女性との事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 名前:???………御母堂さま(殺生丸の母)

 

 性別:女

 

 年齢:???

 

 種族:狗妖怪

 

 

 闘牙王の正妻。高飛車な性格では在るが、狗妖怪の性質か母性は強い。多少原作と異なり十六夜と犬夜叉の事を聞き、彼等の身を案じ龍牙王と共に動いていたらしい。

 

 十六夜や無の龍神とは同じ男に惚れた女性として、母として良き友である。

 

 戦国時代の時の悩みは「息子に可愛げがない」との事だ。

 

 

 

 

 ・楓

 

 桔梗の妹。原作では目を負傷し老巫女の姿で登場していたがこの世界では普通の巫女として桔梗達と共に生活していたが、好きな男と一緒になった。

 

 その子孫は駒王町にあるもう1つの神社を継いでいる。



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設定集

ネタバレを含みますので注意して下さい。

随時更新します。


 ~土地・名前~

 

 

 ・駒王町

 

 この世界では、桔梗の村とその近くにあった龍牙王の土地を合わせた土地の名称。

 

 D×Dの舞台であるが、現在は龍牙王の管理下にある。

 

 

 

 ・龍王神社

 

 駒王町にある2つの神社の内の1つ。元は桔梗の村に建てられた龍牙王を祀る神社。

 

 犬夜叉と桔梗の子孫がこの神社を経営している。

 

 

 

 ・龍神神社

 

 駒王町にある2つの神社の内の1つ。龍牙王の思い出の地に建てられ龍牙王を祀っている。イメージとしては「犬夜叉の日暮神社」。境内には大きな桜の木がある。

 

 この神社は楓の子孫が取り仕切っている。

 

 また、龍王神社と龍神神社の者は龍牙王の姿が見えている。

 

 

 

 

 

 

 ・龍王さま(龍牙王の別名)

 

 龍牙王の駒王の地での呼び名。

 

 太古にこの地で産まれた人の子供が呼んだことが始まり。龍牙王……龍……王……龍王となり、龍牙王自身もそれでも良いと考え呼ばせていた所、永い時をかけて馴染んでしまった。

 

 本人は氏子達が親しみを込めて呼んでくれるので嬉しいらしく、かつて自分の名がこの地に禍を呼び大切な物を失った事があり、龍王の名で通している。

 

 龍牙王は個人の呼称であって、D×D原作の五大龍王とは別の物である。

 

 

 ・駒王学園

 

 原作と同じ、学園。在校生も原作と変わりはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~原作との違い~

 

 

 ・駒王街が龍牙王所有であること

 

 龍牙王が土地神をしており、龍眠の間は天照と妹神・月読が管理していた。

 

 悪魔嫌いの龍牙王であるが、人間達が悪魔に対してどう言った反応を示し、思うのかを見据える為に現在は悪魔を土地に入れている。

 

 人に害成す者は容赦なく龍牙王や夜叉達により排除される。しかし未だ悪魔側はそれに気付いておらず、土地で好き勝手に活動している悪魔に対して個人的な私怨はあるが、害がなければ監視して見逃し、害があれば排除する。

 

 

 

 

 

 ・猫姉妹

 

 現在は龍牙王の庇護下にいる。

 

 暮らしていた里を悪魔に滅ぼされ、悪魔を快く思っていない。

 

 

 

 

 

 ・日本神話

 

 原作では静観している日本神話も、今作では妖怪の里を滅ぼすと言う悪魔の所業を見て静観している場合ではないと考えている。

 

 現在、妖怪の里の殆どは名のある神に管理されており、現在の所は妖怪の里被害は一先ずは収まっていた。

 

 

 

 

 

 ・兵藤家

 

 父:一也

 

 母:清香

 

 子:一誠

 

 かつて龍牙王に親子共々救われた為に、家族揃って信心深い。

 

 一也:原作と同い年であるが、過去に妖怪に襲われた事や溺れている息子を助けられなかった事から日頃から身体を鍛えている。その為なのか原作と違って若々しい。

 

 清香:若い頃から一也との間に子供が出来ず心を痛めていたが、近くの人達に勧められ神社にお参りした所、一誠を宿したらしい(これに龍牙王が関わっていたのかは現在不明)。一也が若々しい姿の為、自分も若くいなければと努力しており若い。

 

 一誠:幼い頃、女性の尻を追っかけていて川に転落。その後、龍牙王に助けられた……その様子を周りの住人は奇跡・龍王さまの加護と呼んでいる。その為か、本人も信心深い。



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特別編
龍王の正月


 今年は戌年………戌……つまりは狗である。

 

 

「狗と言えばこの我だろう!」

 

 そう言いながら、自分の神社の鳥居の上で叫ぶ龍牙王。

 

 

「今年は2018年、あけましておめでとう、諸君!」

 

 そう言いながら、自分の社の方を見る。神社にはかなりの数の参拝客が並んでいた。

 

 勿論、龍牙王は人から見れないのだが、気分だろう。

 

 

「はて、さて。忙しい、忙しい」

 

 鳥居から降りると、社の方へと歩いて行った。

 

 

「流石に正月は遊んでいる場合じゃないな」

 

 社の中では夜叉と桔梗、アーシアが正装して忙しそうに働いていた。老巫女である陽菜や、夜叉の母である奏達も忙しそうである。

 

 龍牙王も定位置である神殿の最奥・祭壇の前に鎮座した。

 

 神である龍牙王の仕事は参拝しに来た氏子達の声を聴く事。

 

 

 

 ―明けましておめでとうございます、今年も何卒、宜しくお願いします―

 

 

「ウム………おめでとう。今年も宜しく」

 

 

 ―龍王様、お蔭様で無事に曾孫が産まれました。ありがとうございます―

 

 

「ほぉ、年末に産まれたのかおめでとう」

 

 

 ―明けましておめでとうございます。どうか、今年は彼女が出来ますように―

 

 

「これは松田か、正月なんだからちゃんと挨拶くらいして欲しいな」

 

 

 ―明けましておめでとうございます。今年は生乳を見れますように―

 

 

「元浜……そんなんだから女子に嫌われてるんだ」

 

 

 ―明けましておめでとうございます。今年はおっp………いや、龍王様に対して失礼か。胸に……じゃくなくて、今年も家族が元気で過ごせますように―

 

 

「一誠………最終的に修正したから許してやるが………我が地の氏子達は何故に、此処まで欲望に忠実なんだろう?」

 

 

 ―明けましておめでとうございます。今年も妹と弟が元気で過ごせますように―

 

 

「これは匙 元士郎か。ウム、妹、弟思いの良い兄になったな」

 

 と、氏子達の声を聴き1人1人に加護を与えていく事だった。

 

 

「龍王様~、兄ちゃん達が休憩に入るって言ってました」

 

 そう言うのは小学生くらいの1人の少年だった。

 

 

「あぁ、颯太か。お前も少し休みなさい」

 

 彼の名は天龍 颯太。夜叉の弟であり、龍牙王が見える1人だ。

 

 

「はぁ~い」

 

 

「あぁ、神無。龍神神社にいる神楽に楓をこっちに連れて来る様に言ってくれ。何人か、手伝いに向かわせるから、アイツも休憩させないと」

 

 

「うん」

 

 と指示を出していく龍牙王。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し時間が経ち、落ち着いた。

 

 龍牙王は神社の人間達を神殿へと集めた。

 

 

「ぇ~と、皆、この数日間、お疲れ様。皆のお蔭で、一先ずは年始を始める事が出来た。じゃあ、今日は存分に食べて、飲んでくれ!じゃあ乾杯!」

 

 龍牙王がそういい、合図すると皆もそれに合わせて乾杯した。

 

 これが龍王神社、龍神神社の正月恒例の正月で忙しい人達を労って龍牙王のポケット・マネーで行う宴会である。

 

 

「そうそう、夜叉、桔梗、颯太、楓はこっちに来なさい」

 

 言われた者達は龍牙王の前に並ぶ。

 

 

「毎年恒例のお年玉だ。まずは夜叉と桔梗。じゃあ今年も頑張ってくれ」

 

 

「ありがとう……と言うか、毎年思うけど多すぎないか?」

 

 

「ありがとうございます」

 

 龍牙王が夜叉と桔梗に渡したお年玉。でも神様から渡す物なので普通とは桁が違う様だ、結構分厚い。

 

 

「そうは言うが、お前等は殆ど小遣いない訳だからな。お年玉くらいは多少多くてもいいだろう」

 

 

「どう見ても100以上はありそうなんだが……」

 

 

「そう言うな、夜叉。これも龍牙王様も我等の事を考えてくれているんだから」

 

 

「うん………まぁそうか」

 

 

「はい、次、颯太と楓」

 

 

「「はい」」

 

 

「はい、お年玉……今年も勉強頑張る様に」

 

 

「「はい!ありがとうございます!」」

 

 そう言って、10万くらい入っているお年玉袋を渡した。

 

 

「そんでアーシア」

 

 

「わっ私もですか?」

 

 

「アーシアにはお年玉として我との熱いy「龍牙王様、颯太と楓(子供)の前で何を仰るつもりですか?」桔梗ちゃん、怖い……」

 

 桔梗に冷たい目で見られた事で直ぐに止めた。

 

 

「コホン……気を取り直して。はい、お年玉」

 

 

「ありがとうございます……所でお年玉ってなんですか?」

 

 そう言って首を傾げるアーシア。

 

 

「アーシア、可愛い……お年玉って言うのは………」

 

 

「成程、そう言う事だったんですね」

 

 

「アーシアには別に我との素晴らしいよr……コホン、思い出を」

 

 

『『あけましておめでとう!龍牙王(ダーリン)!!!』』

 

 

「ぐほっ!?」

 

 突如、龍牙王の真上に穴が開き、飛び込んできたのは天照と月読だった。落ちてきた2神は、そのまま龍牙王に抱き付いた。

 

 

 

「もがっもがっ」

 

 

「明けましておめでとうございます、天照様、月読様」

 

 

「久しぶりだな、夜叉に桔梗、それに今日は颯太と楓まで居るじゃないか。明けましておめでとう」

 

 

「おめでとう、はい、皆、お年玉ね」

 

 そう言って、夜叉達にお年玉を渡す太陽神と月神。

 

 

「それで何しに来たんだ?と言うか、仕事は?」

 

 

「分霊に任せて来た」

 

 

「それで、此処に来たのはパパとママが偶にはダーリンを連れて来いって言うから……まっでもこっちが忙しいのは分かってたから断ったけど」

 

 

「つまり、サボりか」

 

 

「「♪~♪~」」

 

 そう指摘され視線を外し、口笛を吹いている日本のトップ2人。

 

 

「それでいいのか?」

 

 

「さっサボりじゃない……これも仕事の一環だし」

 

 

「そっそうそう、日本に属する神々の仕事ぶりの確認だし」

 

 

「全く………」

 

 

「おっ、これ龍牙王の手作りじゃねぇか」

 

 

「頂きます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―今年も騒がしくなりそうだ―

 

 龍牙王はそう呟き、楽しむ皆を見ながら願う。

 

 

 ―どうか………一刻でも長くこの楽しい時間が続きますように―

 

 そう静かに願うので在った。



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幕間
闘牙王・前編


今回は父・闘牙王の話です。


 私の名は闘牙王。西国の狗妖怪だ。

 

 若い頃の私はかなりやんちゃをしていた。妖怪を見るなり喧嘩を売り、勝ち。そんな事を繰り返していた、当時の私は血の気が多く、自分こそが最強なりえる存在だと思っていた。

 

 そんな日々を過ごしていると、突然現れた女人にこう言われた。

 

 

 ー中々の度胸と力だ。魂も中々なもの……我が子の父としては上々。我と共に来て貰うぞー

 

 訳のわからぬ事を言われて反論しようとしたが、女人は巨大な龍へと変化し、私を拉致した。

 

 いや、あの時は本当に驚いた。本能的に勝てないと思ったのはあれが最初で最後だった。

 

 それから色々あって、直ぐに解放された。それからあの者は現れず、私もあれを夢かと思い日常へと戻っていた。

 

 それから数百年の時が過ぎた。私も強くなり妃を取った。挙式を挙げてから少し経った時の事だ。私の城の上空に巨大な穴が開き、以前現れた女人がやって来た。

 

 

 

 

 

「あなた……此方はどちら様で?」

 

 

「いや……その……」

 

 

「ふっ……我はお前達が、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)と呼ぶ存在。我が子が父親に会いたいと言うので連れてきた次第だ」

 

 そう言う女人の後ろから小さな子供が現れた。

 

 白銀の髪、金色の瞳、闘牙王に似た顔立ち……白銀の髪と金色の瞳は闘牙王の血族の証だ。そして闘牙王そっくりとなると、奥方……後の殺生丸の母はこれが誰の子供なのか分かった。

 

 

「あなた……これはどういう事ですか?」

 

 妃がそう訪ねてきた。微笑みを浮かべているが、目が笑ってない。と言うか、これまでに感じた事のない程の凄まじい妖気を放っている。

 

 

「母よ……あの男が俺の父親か?」

 

 

「そうじゃ、我が子よ」

 

 幼子はそれを聞くと、少し離れると闘牙王へと近づいてきた。

 

 

「初めまして父よ。貴方の息子、龍牙王です。俺の容姿と妖力を見れば貴方の子供だって分かりますよね?

 

 取り敢えず1つ頼みがあります」

 

 

「りゅ龍牙王か……良い名だな。ウム、確かにお前は私の子の様だ。それで頼みとは何だ、私に出来ることなら何でも言うといい」

 

 闘牙王はこの子供が自分の子供だと直ぐに理解できた。血族の証の髪と瞳、それに龍牙王から溢れる自分と酷似した妖力は、間違なく自分の子供だと証だ。

 

 

「アレ……どうにかしてよ」

 

 龍牙王がそう言い指差した先には、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)と奥方がいた。お互いににっこりと笑みを浮かべているのだが……

 

 

「龍だか、蜥蜴だか知らぬが、アレは妾の夫ぞ」

 

 

「ふっ……別に我はアレを必要とはせん。我が子を宿した事で、興味はなくなった。何処で誰と番おうと構わんよ」

 

 

「ほぉ……」

 

 奥方より物凄い圧力がくる。と言うか、顔が半分変化している。

 

 

「……えっと奥」

 

 と闘牙王が奥方に声をかけるが、ギラッとした視線が向けられる。最近、西国最強と言われ初めている闘牙王も奥方には弱いらしい。

 

 その姿を見た隠し子・龍牙王はやれやれと肩をすくめて、奥方に声をかける。そして幾つかの言葉を言葉を言うと、奥方の機嫌が良くなった。

 

 

「ホホホ、そうか、そうか。では龍牙よ、此処に居る間は妾を母と思うがよいぞ」

 

 と何故か受け入れられた龍牙王。闘牙王は何を言ったのか気になって聞いたが……。

 

 

 ー実は此処に来たのは父に会う為と、自分を鍛える為のです。御母堂様にはその許可を頂きたいー

 

 と笑顔で言っただけらしい。

 

 突然現れた夫の隠し子がその様な事を言ってくれば断るのが普通だが……龍牙王は闘牙王とそっくりである。

 

 奥方にとって闘牙王は愛する夫……その夫に生き写しと言ってもいい子供が無垢な笑顔を向け、お願いしてきたのだ。唯でさえ母性の強い狗妖怪である奥方がコロッと行かぬ訳がない……龍牙王がこれを狙ってやったかは定かでないが……この瞬間、

 

 奥方・龍牙王>闘牙王>側近(冥加達)>その他、妖怪と言うヒエラルキーが決まったのである。

 

 

 

 

 

 

 ―我が息子・龍牙王は私と龍神の血を宿す為か強かった。妖怪的に五歳程の歳であると言うのに、魔剣・叢雲牙を平然と振るってみせた。普通ではあり得ぬが、私と龍神の血がそうさせるのだろう。

 

 私と手合わせする度に強くなり、戦に連れて行った時は、その力と知略、他の妖怪達を惹き付ける魅力で軍を率いて戦った。

 

 だが強くなる度に龍牙王の中で何かが変わっていった。それが何なのか分からないが、やがて心を閉ざし始めた。私や奥、側近達には普通に接するが、その他の者達とは壁を作っていた。そんな我が子を心配していたが、ある者が解決してくれた。

 

 驚いた事にそれは人間の女子であった。神々より土地神と言う役職を貰い、その地で巫女をしている少女。良く笑う様になった息子をみて、彼女が息子の氷を溶かしてくれたと私は喜んだ。たがそんなアイツから私は再び笑顔を奪ってしまった。

 

 龍牙王が土地を離れる間、土地の守りを頼んできたのだ。まだ土地の守りは完璧ではなく、心配だからと……。

 

 正直、嬉しかったよ。昔から大抵の事は自分で成し、誰にも頼らなかった息子が初めて父である私に頼みごとをしてきたのだから。私は嬉々としてこれを受けた。

 

 龍牙王の巫女・アイリと会った。彼女は中々に気持ちの良い雰囲気を放ち、周りを和ませる存在だ。それでいて、強い……力と言う話ではなく、魂的に…精神的にだ。息子が気に入るのも無理はないと思った。

 

 彼女とは色々な事を話した、龍牙王の子供の時の話などだ。話していて、後で怒られるなと言うような恥ずかしいものも話した。

 

 そんな楽しい時間を過ごしていると、西国より火急に戻る様に連絡があった。しかし息子より頼まれた仕事を放り出す訳にもいかなかったのだが、一族の事故に行かぬ訳には行かなかった。故に私は冥加と刀々斎を残し城へと向かった。この時に、息子が戻るまでもう少し待っていれば……あの様な悲劇は起こらなかっただろう。

 

 私は一族の問題を片付けて直ぐに戻った………だがそこで見たのは穏やかだった村の変わり果てた姿、そして息子が哀しい咆哮を上げている姿だった。

 

 何があったのか、冥加達に問うと、私が出て数刻後に異国の魔が此処にやって来たのだと言う。始めは守護の者達で対処できていたのだが、子供を人質に取られ倒された。何とかアイリ殿が子供を取り戻したが……その時に傷付き抵抗できなかった、だが命と引き換えに強力な結界を張り村人達を護り通した。

 

 息子が戻った時には死んでいても可笑しくなかったが、精神だけでなんとか保っていたらしい。既に限界を越えたアイリ殿の身体は残る事無く塵芥となってしまったと言う。

 

 龍牙王はアイリ殿の血で赤く染まった巫女服を抱き、天を仰ぎ吠えていた。息子のその様な姿、初めて見た。―

 

 

 

 

 

 

「りゅ……龍牙王」

 

 咆哮する息子に声を掛けた。だが今の私がアイツに何を言えばいいのか分からなかった………いや合わせる顔などなかった。

 

 振り返った龍牙王は目を赤く腫らし血涙を流しており、瞳から光が消えていた。

 

 

「謝ってすむ事ではないのは分かっている…………だが……すまない」

 

 

「………ギリッ」

 

 龍牙王は私の胸倉を掴むと拳を握り締め振り上げる。私はそれを避ける事も防ぐ事もしない……これは当然の事だ。

 

 

「………今は親父の顔を見たくない。悪いが帰ってくれ」

 

 龍牙王はそう言い、私を離した。

 

 

 

 

 

 息子の幸せを願っていた………なのに私は息子からその幸せを奪ってしまった。

 

 あの時、何故もう少し待たなかったのかと………私は長い時の中で初めて後悔した。



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闘牙王・中編

 ―アイリ殿の事より約二千年が経ち、その間に奥が殺生丸を産んだ。

 

 龍牙王とはアレから疎遠となっている。会ったとしても殆ど言葉を交わす事はなかった……だが殺生丸が産まれた時には会いに来た。

 

 殺生丸は奥に似ており、私の血の所為か幼い頃より強くなる為に日々修行していた。常に私の後ろを着いて来て愛らしい子供だった……のだが何時の間にか冷酷な性格になっていた。強さを求め、日々妖怪達と戦っていた。

 

 今は未だ周りが見えて居らんが、いずれは私を越える大妖怪となるだろう。

 

 それにしてもこの数百年、飛妖蛾一族や妖猫族など強い妖怪達がこの国を狙ってきている。今は私が統治してるので、人々は無暗に襲われる事はない。だが飛妖蛾一族や妖猫族の様な力のみで戦う者達が統治すれば、暴力と恐怖の支配する地へとなってしまうだろう。

 

 そして私はある人間に出会った。

 

 丁度、ある妖怪と戦い、その傷を癒す為に療養していた時の事だ。奥に色々と言われたり、殺生丸に戦おうと言われるのが嫌で城から抜け出し空を散歩していた時の事だ。悲鳴が聞こえてきた、何事かと思い私は悲鳴のした方向に向かってみると、そこには牛車が在った。見た所、貴族の牛車だ……野党に襲われているみたいだが………供の者も連れていない。

 

 このままではやられるだろう……ムゥ……見捨てるのはいかんか。私は牛車の元に降りて、野党を倒した。勿論命を取るつもりなどなかったので、加減はした。覚えていろ等と言うお約束な言葉を残して野党は去って行く。

 

 そして牛車から出てきた1人の姫に目を奪われた。姫は美しく、凛とした雰囲気が漂っていた。

 

 ふっと私はどう見ても人外の格好だった為に、脅えられても困るので直ぐに戻ろうと考えたが、姫は私に臆する事無く礼を言ってきた。

 

 普通、人間とは私の様な妖怪を恐怖し、脅えるか、罵倒してくる物なのだが……姫は全く私を恐れていない。この様な人間もいるのだな……そう言えば龍牙王が何時か妖怪と人間が共に暮らす蓬莱島の話のしていたな。人間と妖怪との共存……夢の様な話だ―

 

 

「お前は何故、私を恐れぬ……人間にとって私の様な存在は恐怖の対象だろう?」

 

 

「貴方は……御優しい目をして居られます。だから怖く等ありません」

 

 

「………そなた、名は?」

 

 

「十六夜と申します」

 

 これが私と十六夜の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数年後~

 

 京の都の近くにある屋敷で、1人の姫が空を眺めていた。

 

 

「十六夜、今日は冷える……屋敷の中へ入れ」

 

 姫の後ろに現れたのは西国最強の妖怪・闘牙王だった。彼は身重な十六夜の気遣い、そう言う。未だ見た目では分からないが、十六夜の胎内には闘牙王の子供が宿っている。人間と妖怪……その間に産まれる子供は半分が人間、半分が妖怪……つまり半妖となる。半妖は人間からも、妖怪からも疎まれる存在だ。

 

 闘牙王はそれを理解していた……そして十六夜もまたそれを知り闘牙王が妖怪知りながらも望んで子供を孕んだ。

 

 十六夜は闘牙王と共に屋敷の中へ入ろうとするが、闘牙王が足を止め、振り返ると空を見上げた。

 

 

「この匂い」

 

 

『この様な所で珍しい匂いがあると思えば……これはどう言う事だ』

 

 凄まじい風が吹いた。十六夜の視界は一瞬、風に遮られた。彼女が再び、目を開くと、自分達の前に闘牙王に似た男が立っていた。

 

 

「龍牙王……」

 

 

「龍牙王?……それではこの方があなたの」

 

 十六夜は闘牙王から長男である龍牙王の事を聞いていた。今では伝説にまでなった自慢の息子だと……そして自分の所為で息子から奪ってしまったと。

 

 

「……この匂い、身籠っているのか……親父の子を」

 

 

「……ウム。数ヶ月もしない間に産まれるだろう」

 

 龍牙王は匂いだけで十六夜が身籠っている事を見抜いた、彼は何も言わずに十六夜の腹へと視線を向ける。

 

 

「……姫よ、名は?」

 

 

「はい……私は十六夜と申します。闘牙様から貴方の事は御伺いしています、龍牙王様」

 

 

「そうか……」

 

 

「……ッ」

 

 龍牙王はそう答えると、自分の尾の中に手を入れる。彼は尾の中に自分の牙や武器を隠している事を知っていた闘牙王は構える。もしこの場で戦えば確実に自分は息子に倒されるだろう……いや龍牙王には自分を殺す権利はある。だが十六夜と子は命を変えてでも護ると決意する。

 

 

「別に此処で戦うつもりはない………身重な姫の前でその様な事はせんよ」

 

 彼はそう言うと、尾の中から御守を取り出した。

 

 

「我の社の安産の御守だ……我手ずから念を込めた物だ。その辺の物よりは効果がある」

 

 そう言い、龍牙王は十六夜に御守を渡した。

 

 

「龍牙王……お前……」

 

 

「その腹の子に罪はない………スンスン……やはり男か」

 

 龍牙王はそれだけ言うと、何処かへと去ってしまった。

 

 

「なに!?腹の子は男なのか?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~1週間後~

 

 龍牙王が去ってから1週間、特に変わらぬ日々を過ごしていた闘牙王と十六夜。

 

 

「おい、大将~」

 

 

「おう、刀々斎か。アレは完成したのか?」

 

 

「あぁ……十六夜も久々だなぁ」

 

 

「御久しぶりです、刀々斎様」

 

 

「おうさ……ほれっ大将の注文通りに仕上げたぞ」

 

 そう言って刀々斎が渡した2振りの刀………それは後に天下覇道の剣と呼ばれる鉄砕牙、そして天生牙である。

 

 闘牙王は十六夜と一緒になると決める前から、彼は自分の牙を自らの手で折り、それで刀を打つ様に刀々斎に頼んだのである。

 

 始めに打ったのは、鉄砕牙のみであったのだが……闘牙王がどんな命であっても救いたいと言う想いが鉄砕牙に神の如き力を与え、そして冥道を扱う死神鬼を斬り、冥道残月破を宿した事で死んだ命を1度だけ生き返らせると言う奇跡の力を得た。

 

 だが鉄砕牙は敵を斬る為の力、それに相反する蘇生の力を宿した事で壊れそうになっていた。それを刀々斎が2つに別ける事で問題を解決したのである。そして十六夜が身籠った事を知り、鉄砕牙に妖怪の血を封じる力を与え、仕上げたのである。

 

 

「いずれ、この刀は私とお前の子へと受け継がせる」

 

 

「だがよぉ、大将。殺生丸に知れたら、アイツ黙ってねぇぞ」

 

 

「既にアイツは自分の中に牙を持っている………私の力など必要はない。だがもう少し慈しみの心を持ってくれれば………」

 

 

「ぁ~中々に想像できねぇな……なっ!」

 

 闘牙王と刀々斎が話していると、凄まじい妖気を感じた。

 

 

「この感じ……竜骨精か」

 

 

「あの暴れ竜か……」

 

 

「刀々斎……暫し此処を頼む」

 

 闘牙王は鉄砕牙と天生牙を持ち、屋敷を飛び出した。

 

 全ては十六夜や腹の子供……そして人々を護る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数ヶ月後~

 

 山奥で白い狗妖怪の姿の闘牙王と白い龍が激突していた。

 

 

『闘牙ぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!竜骨精!!!!」

 

 闘牙王は竜骨精の腹にその爪を突き刺し、大きな岩山へと竜骨精を縫い付けると自身の爪を圧し折った。

 

 

『ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!おのれぇぇぇぇぇ!!!』

 

 

「はぁはぁ……」

 

 この数ヶ月、闘牙王と白い龍・竜骨精は死闘を繰り返していた。

 

 

『これは封印の力か?!ぐぅぅぅぅぅぅ』

 

 闘牙王の爪に流し込まれた封印の力の効力で竜骨精の意識は深い深い眠りへと落ちていく。

 

 

「ぐっ……」

 

 闘牙王は竜骨精に流し込まれた大量の毒の所為で意識が飛びそうになったが、何とか意識を繋ぎとめる。

 

 側近である冥加から十六夜が出産間近で、都に闘牙王が人間でないとバレてしまい、兵達が屋敷に押し寄せたと報告を受けた。

 

 このままでは十六夜の命も子供の命も危険だと知っていた、この様な所で止まっている場合ではないのだから。

 

 

 

 

 

 ~天空城~

 

 闘牙王は十六夜を助けに行く前に、天空城の御母堂の元へやって来た。

 

 

「あなた……」

 

 

「奥……これを」

 

 闘牙王は懐から黒い石のついた首飾りを御母堂に渡した。

 

 

「これは冥道石ではありませんか」

 

 

「殺生丸が天生牙の事で尋ねて来た時にコレを使え。これを使えばアイツは危険な目にあるだろうが、怖れる必要も悲しむ必要もない。アイツならば試練をこえる事ができるだろう………私とお前の子だ、きっと大丈夫だ」

 

 

「逝かれるのですか?」

 

 

「十六夜とアレを死なせる訳にはいかん…………後を頼む」

 

 

「(全く……此方の気も知らないで)……もう行け。間に合わなくなる」

 

 御母堂は既に闘牙王が長くない事を知っていた。ならば最後の時間くらいは共に居たいと思うのは女の性……だが夫には果たさねばならぬ役目がある。

 

 

「奥……【     】」

 

 闘牙王は御母堂に何かを伝えた。御母堂はそれに応える様に笑みを浮かべた、きっと夫婦にしか分からぬ事だろう。

 

 闘牙王は再び十六夜と子供の為に地上へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~月夜の海岸~

 

 闘牙王は砂浜の上で満月を見上げていた。

 

 

「殺生丸か」

 

 闘牙王は息子の殺生丸の気配を感じた。

 

 

「行かれるか………父上」

 

 

「止めるか、殺生丸」

 

 

「止めはしません。しかしその前に牙を……鉄砕牙と叢雲牙をこの殺生丸に譲って頂きたい」

 

 

「(やはりか……)渡さぬ………と言ったらこの父を殺すか?」

 

 殺生丸からは無言になっている。

 

 

「フッ………それほど力が欲しいか………何故お前は力を求める?」

 

 

「我、進むべき道は覇道。力こそ道を開く術なり」

 

 

「覇道…………か。殺生丸よ、お前に守るべきものはあるか?」

 

 

「そのようなもの、この殺生丸に必要ない」

 

 

(いずれお前にも見つかるだろう………自分の命を賭してでも守るべきものが)

 

 殺生丸は闘牙王に何かを言おうとするが、闘牙王の全身から放たれる妖気と覇気に気圧される。それはこれから死地へと赴くもの者の物とは思えない。

 

 

「グオオォォォォ!!!」

 

 狗へと変化した闘牙王は駆け出した。

 

 

(父上……それほど、あれは守るに値するものだと言うのか)

 

 殺生丸は父の後ろ姿を見ながらそう思う。



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闘牙王・後編

 ~森の中~

 

 闘牙王は必死に駆ける。間に合わなくなる前に、自分の命が残っている間に十六夜と子供を助ける為に。

 

 

「無理ですじゃ!無茶ですじゃ!どうかお考えなおし下さい!親方様!親方様は竜骨精と戦った傷が癒えていないではないですか!」

 

 闘牙王の毛に必死にしがみ付く冥加はそう叫ぶ。

 

 

「アレを死なせる訳にはいかん!………それに私はもう長くない」

 

 

「親方様!」

 

 

「ムッ!(この感じ)」

 

 闘牙王は狗の姿から再び、人の姿に転じ立ち止まる。すると木の影から長男・龍牙王が現れ、道を塞ぐ。

 

 

「何処へ往く?」

 

 

「十六夜と子を助けに往く……邪魔をするか?」

 

 

「そんな身体で死ぬつもりか?」

 

 

「この身は竜骨精の毒が回っている……長くはない。ならば十六夜と子を助ける為にこの命を掛けるだけぞ」

 

 

「十六夜殿との子……産まれてくるのは半妖だぞ。何時の時代で在っても半妖が生きるには辛い、それは我が一番分かっている」

 

 闘牙王は龍牙王がこれまでどれ程、苦労したのかを知っていた。だからこそ、半妖がどの様な目に合うかも分かっていた。

 

 

「だからと言って、見捨てる訳にはいかん。それに私の子だ、きっと強くなる。私の血がそうさせるだろう」

 

 きっと自分の血がどの様な時でも生き抜くために力を与える。生きていればきっと……幸せになるチャンスは幾らでもある。闘牙王はそう考えていた。

 

 

「全く……命さえ助ければそれでいいって思っているのか……バカ親父!」

 

 龍牙王は父に向かいそう叫ぶ。闘牙王にとって父と呼ばれたのかかなり久しぶりの事で、少し嬉しかった。

 

 

「うっ……むぅ」

 

 

「十六夜殿は強いが、この乱世の世をあの細腕の姫君が半妖の子供を抱え、どうなのか考慮しないんだ……母上や御母堂が聞いたら、殺されるぞ」

 

 

「ぐっ……」

 

 戦に生きてきた闘牙王は一先ず命さえ助かればそれでいいと考えていた、確かにこの戦乱の世を十六夜と子供だけで生きて行けるかなど全く考えてなかった。

 

 

「はぁ…………全く、戦馬鹿め。困った父親だ……腹違いとは言え、我が弟だ。産まれた子が一人前となるまでは守るとしよう」

 

 

「スマヌ……お前には」

 

 かつて息子より笑顔を奪った自分がこの様な事を頼める立場ではないのは分かっていたが、今は息子に頼るしかない。

 

 

「それ以上の言葉は不要………疾くと行け、バカ親父」

 

 

「十六夜と子を頼む」

 

 息子の開けた道を行く闘牙王、すれ違い様に彼は見た。笑みを浮かべる龍牙王を……それを見て闘牙王は安堵する。言葉には出さないが、「後は任せろ」と言っているのが顔を見れば分かった。きっと息子に任せれば、十六夜と子は大丈夫だと。ならば心残りはない、全身全霊をかけて2人を助けるのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜の捕えられた屋敷を一望できる崖の上に来ると、天に向かい咆哮した。

 

 

「グオォォォォォン!グオォォォォォン!(十六夜、今往く!)」

 

 崖から飛び降り屋敷の門が見える場所に来ると、闘牙王は鉄砕牙を振り抜き、構える。

 

 

「風の………傷!!!」

 

 鉄砕牙より放たれた風の傷が屋敷の門を破壊した。その衝撃で僧兵や侍達が吹き飛んだ。駆け出し、門から入ろうとするが生き残った者達が矢を射るが、突き刺さろうと関係なしに進み、再び風の傷を放つ。

 

 

「十六夜!十六夜!!」

 

 壊した門から屋敷へ侵入すると、周囲を見回す。

 

 

「一足遅かったな……十六夜様は貴様の手の届かぬ所へ送った、この私の手でな!」

 

 そう言って出てきた赤い鎧を着た1人の青年。

 

 

「確かお前は……刹那猛丸、まさか、十六夜を!」

 

 この青年、刹那猛丸は元々は貴族である十六夜の家に仕えていた武士の1人だ。彼は密かに十六夜に好意を寄せていた、だからこそ妖怪である闘牙王の子を身籠った事が許せなかった。故に彼は十六夜をその手に掛けた。

 

 

「馬鹿がぁぁぁ!!」

 

 闘牙王は駆け出すと、猛丸も駆け出す。2人の剣が交差するが、猛丸の左腕が斬り落とされただけだった。闘牙王は直ぐに屋敷の奥へと侵入する。

 

 屋敷の何処に居るかは分からない。だが、彼の耳には聞こえた。懸命に生きようと泣く赤ん坊の声が……それに導かれる様に闘牙王は奥へ奥へと向かう。

 

 道中、屋敷に火が放たれていた。だがその様なこと、気にしている暇はない。何とか十六夜と赤ん坊の元へ辿り着いた彼は十六夜の傷を見る。致命傷……そして既に息はない、それを見た闘牙王は直ぐ様、天生牙を引き抜いた。

 

 

「頼むぞ、天生牙」

 

 天生牙の力で、十六夜に群がるあの世の使い達が見えた。闘牙王は使い達を斬り伏せた。それにより条件は整い、無事に蘇生した十六夜。

 

 

「ぅ……あっ……」

 

 

「十六夜……」

 

 闘牙王は安堵すると、直ぐに十六夜に懐から出した火鼠の衣を被せた。これで火に焼かれて死ぬ事はなくなったが、急いで十六夜達を逃さねばならない

 

 

「ぐっ……はぁはぁ」

 

 そこにやってきたのは、先程戦った猛丸だった。

 

 

「貴様とならば悔いはない、このまま黄泉の国に旅立とうぞ」

 

 猛丸の言葉に応える様に、普段では絶対抜かない叢雲牙を引き抜く。

 

 

「生きろ」

 

 

「あなた!」

 

 

「………犬夜叉」

 

 闘牙王はそう呟いた。

 

 

「なに?」

 

 

「子供の名前だ……その子の名は犬夜叉!」

 

 

「いぬ……やしゃ」

 

 十六夜は自分が抱く子供を見る。

 

 

「往け!外で龍牙が待っている!」

 

 

「……はい!」

 

 十六夜は振り返る事無く、走り出した。今、此処でこの子を死なす訳にはいかない。

 

 闘牙王と猛丸が燃え盛る炎のからで剣をぶつけあう……だが既に遅かった、屋敷が崩れ落ちたのである。




これで闘牙王の話は終わりですが………その後と十六夜と犬夜叉の話をしようかと思います。


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闘牙王その後+十六夜

 ~十六夜side~

 

 

「はぁはぁ」

 

 十六夜は裸足で雪の降る山を走っていた。

 

 

「十六夜殿」

 

 

「!………りゅ……龍牙王様」

 

 十六夜は声を掛けられ驚くが、声の主は龍牙王で在った為に安堵する彼女は力が抜け、その場に膝を付いてしまう。その所為で火鼠の衣は落ちてしまう。

 

 

「あの人が……」

 

 

「あぁ………」

 

 龍牙王は落ちた火鼠の衣を十六夜に被せた。そして赤ん坊を見る。

 

 

「その子が」

 

 

「はい……犬夜叉と……あの人が付けた名前です」

 

 

「そうか………全く一度も子を抱かずに逝くなど………」

 

 龍牙王は尾の中から、刀を取り出した。白い刀身と黒い峰の刀……陰陽牙である。それを十六夜の近くの地面に突き立てた。すると、光が膜が十六夜と赤ん坊の周囲に張られた。

 

 

「少し此処で待っていてくれ………あの馬鹿親父を迎えて来る」

 

 龍牙王はそう言うと、直ぐに燃え落ちた屋敷の方へ向かい駆け出した。数分もせずに龍牙王は、闘牙王を抱えて戻ってきた。そして十六夜の前に父を寝かせる。

 

 

「あなた!!!」

 

 十六夜が声を掛けるが反応のない闘牙王。龍牙王は手をバキッと音を鳴らせると、その爪が光る。

 

 

「フン!!!」

 

 そして爪を躊躇する事無く、父の腹へと突き刺した。

 

 

「ぐほっ!なっなんだ!?痛い!!!」

 

 息を吹き返した闘牙王は激痛のあまりに飛び起きる。

 

 

「此処は……私は死んだ筈……十六夜、犬夜叉?!」

 

 隣にいた十六夜と犬夜叉を見て驚く闘牙王。

 

 

「我が一時的にこっちに呼び戻したんだ、痛みくらいは我慢しろ………陰陽牙、我が社に」

 

 陰陽牙が龍牙王に応える様に、光を放つと雪山にいた筈だが何処かの大きな桜の木の下へと移動した。

 

 

「ここは?」

 

 

「此処は、我が社…………せめて犬夜叉を抱き締めてやるくらいの時間はある」

 

 龍牙王はせめて最後に犬夜叉を抱く時間を与えた。これはこれまでの父への感謝と弟への思いからだろう。

 

 

「龍牙……」

 

 

「勘違いするな……犬夜叉の為だ」

 

 

「あなた……抱いてあげて下さい」

 

 

「あぁ……」

 

 犬夜叉を抱いた闘牙王は感じた。この子の中にある、自分の血と、十六夜の血を………。

 

 

「犬夜叉………強くなれ」

 

 ただそれだけ言うと、直ぐに犬夜叉を十六夜に渡す。何故なら段々と自分が死に向かい戻り始めたのが分かっていたからだ。

 

 

「十六夜……生きて、生きて、生き抜くいてくれ……犬夜叉と共に」

 

 

「はい……犬夜叉はきっと守って見せます」

 

 それを聞くと、闘牙王は目を瞑る。もう彼が目を開ける事はないだろう……彼は安らかな表情で旅立った。

 

 

「あなた」

 

 十六夜は直ぐに涙を拭う。愛する人がこんなにも安らかな顔をしていったのだ、悲しんではいられない。

 

 

「さて……十六夜殿、親父は此方で埋葬する。親戚はいるか?居るならばそちらまで送ろう……」

 

 

「はっはい……」

 

 

「我が一族の中には、犬夜叉が親父の血を受け継いでいる事が気に喰わぬ者達もいる……我はそやつ等をどうにかする。その間、スマンが親戚の元へ行っていてくれ。

 

 此処は我の地であるが、万が一に氏子達に危険を及ぼす訳にはいかんのでな」

 

 

「はい、それは当然のことかと思います……」

 

 

「全て終われば必ず迎えにいく故に安心せよ」

 

 龍牙王は十六夜にそう言う。

 

 狗妖怪は基本血を重んじる一族だ、特に力が強くカリスマ性に優れた長たる闘牙王の血……彼等にとっては重要な物だ。

 

 現在、その血を継ぐのは長男・龍牙王、次男・殺生丸、そして目の前にいる犬夜叉である。

 

 龍牙王は半分龍と言えど数々の伝説を残した存在=逆らえる筈がない。

 

 殺生丸は闘牙王と同じく狗妖怪の御母堂との子供……つまりは純血の存在故に問題はない。

 

 だが犬夜叉は違う、妖怪である闘牙王と人間である十六夜の子供…………つまりは半妖である。長であり、最強と言われた闘牙王の血を半妖が継いでいるなど許せない連中も多い。そうなれば犬夜叉の命を狙う輩も出て来るだろう。

 

 龍牙王はそういう輩を何とかする為に動く………彼女達を自分の地に置けば、何かないとも限らない。基本的に土地神は自分の氏子が危険な目に合わせる事をしてはならない………故に彼女達を一先ず十六夜の親戚の所へ送る事にした。勿論……最低限の護りを行ってだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数年後 貴族の屋敷~

 

 この屋敷で暮らす事になった十六夜と犬夜叉……この屋敷の主は十六夜の父方の親類に当たる人間で、飛んでやってきた龍牙王を見て、始めの内は怪しんでいたのだが………彼の摩訶不思議な力を見て、妖怪ではなく神が降りてきた思った様だ。

 

 十六夜の保護を要求すると、この屋敷の主はそれを快く受け入れた。なので十六夜と犬夜叉は此処で暮らす事が出来ている。

 

 しかし犬夜叉の容姿は……銀色の髪、金色の瞳……そして何より犬耳と牙と爪は隠し様がない。隠せと言っても、子供である犬夜叉がそれを行える訳もなかった。

 

 この屋敷に住む使用人や出入りする者達は犬夜叉の姿を見て忌み嫌っていた……そして言う【半妖】だと。

 

 

「ははうえ……はんようってなに?」

 

 幼い犬夜叉は十六夜にそう尋ねた。十六夜は犬夜叉が受けている扱いを知っていた……そして半妖と蔑まれている事も………だからこそ十六夜に出来るのは、ただ犬夜叉を抱き締めてやることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬夜叉は戦い方など知らなかった……本能的に犬夜叉は理解していた、己が爪は引き裂く為に、牙は噛み砕く為にあると。

 

 子供ながらに犬夜叉は何時も、泣きながら自分を抱き締める十六夜を見て、自分が母を護るのだと考えていた。だから庭にある岩を爪で斬り裂く練習をしていた。

 

 

「やぁーーー!」

 

 幼い犬夜叉の爪では岩に少し傷を付けるのが精一杯だった。

 

 

「犬夜叉……犬夜叉、何処ですか?」

 

 

「あっ母上」

 

 やって来た犬夜叉は母を見て、十六夜に抱き付いた。

 

 

「また修行をしていたのですか?」

 

 

「うん!つよくなっておれがははうえをまもるんだ!」

 

 

「あらあら………」

 

 十六夜は犬夜叉を抱き締め、その小さな頭を撫でる。

 

 

「私は後、どれほどこの子の傍に入れるのだろう?

 

 この乱世の世……この子を育て護る為には此処に来るしかなかった……でも」

 

 犬夜叉が半妖と蔑まされている事を知っている彼女は考える。此処から離れれば貴族達から蔑まれる事はなくなるだろう……だがこの戦乱の世で自分は犬夜叉を護りながら生きていけるのかと。

 

 何処で暮らす?どうやって日々の糧を得る?賊に襲われれば?と言った事がある為、此処から離れる事は出来ない。

 

 龍牙王が迎えに来るまではと思っていた……だがこのままでは何時、犬夜叉の身に危険が及ぶのかと考えてしまう。自分の身に危害が及ぶなら別に構わないが、犬夜叉に危害が及ぶとなると話は別だろう。

 

 

(あなた……私はどうすれば)

 

 十六夜は犬夜叉のこれからを考えて涙を流す。犬夜叉は母が泣く姿を見て、心配になる。

 

 だが次の瞬間、凄まじい風が吹いた。

 

 

「!?……この匂い」

 

 犬夜叉は半分とは言え狗妖怪である闘牙王の血を継いでいる。普通の人間とは嗅覚は数倍以上だ、その鼻がある匂いを嗅ぎ取る……何処か懐かしい匂いだ。

 

 風が止むと、そこには1人の男が立っていた。十六夜はその男に闘牙王の姿を幻視する。

 

 

「あなた?」

 

 

「久しぶりだな、十六夜殿」

 

 その声で我に帰った十六夜。

 

 

「龍…牙王……様?」

 

 

「あぁ、色々と走り回っていたら数年が経っていた。迎えが遅れてスマンな」

 

 

「ははうえ……だれ?」

 

 

「この方は龍牙王様……貴方のお兄様ですよ」

 

 

「あにうえ?」

 

 

「あぁ……会うのは久しぶり……と言ってもお前は未だ赤子だったから覚えておらんか。

 

 母は違えど、お前の兄だ、因みにお前にはもう1人兄がいるが……いずれ会うだろう。まぁ当分は無理だろうけど」

 

 龍牙王はもう1人の弟・殺生丸の事を思い出す。もしこの場にいれば彼は容赦なく犬夜叉を切り刻むだろう。

 

 それは置いといて、犬夜叉を見る。小さな犬夜叉は十六夜の後ろに隠れて龍牙王をジッと見て、う~と唸り威嚇している。

 

 

「警戒するのは仕方ないか……十六夜殿、まずは此処を離れよう。その子を狙ってくる同族も多い」

 

 

「っ……ですが」

 

 

「案ずるな……母上と御母堂が色々と動いてくれたんでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~天空城~

 

 

「そなたが……十六夜殿か」

 

 

「はい」

 

 現在、十六夜は天空城の主、御母堂と対面していた。

 

 

「妾が誰だか分かるな?」

 

 

「はい……闘牙王様のご正室様ですね」

 

 

「そうだ」

 

 

「それでその子が犬夜叉か」

 

 御母堂はジッと犬夜叉を見る。犬夜叉は龍牙王と十六夜の後ろに隠れている。

 

 御母堂は玉座から立ち上がると、犬夜叉に近付き、その顔をジッと見つめている。

 

 

「ほぅ……フムフム………これは……成程、闘牙に似ておるの」

 

 

「確かに犬夜叉は親父似だな」

 

 

「あっあの……奥方様は私の事を」

 

 

「妾はそなたの事を怨んでなどおらぬ………闘牙が死んだのはそなた達の所為ではない。奴が己で決めた事だ………奴も満足であろう、命を賭して護った子を抱けたのだからな。改めて礼を言うぞ、長男殿」

 

 

「我は親父の為にした訳ではない……この犬夜叉の為にやった事だ」

 

 龍牙王はそう言いながら犬夜叉の頭を撫でる。

 

 

「全くあの戦馬鹿め、命を救っただけで後の事を考えぬとは………十六夜殿、これからは此処で暮らすといい」

 

 

「しっしかし」

 

 

「妾は器量が小さい訳ではない………例え半妖で在っても、闘牙の子で在れば、何であろうと妾の子供と思う事にしておる。そこにいる長男・龍牙王も、我が子・殺生丸も……妾は変わらず平等に我が子として愛しておる」

 

 

(我が此処に来た当初は物凄い剣幕だったがな………そういや、あの時は悲惨だったな。親父の顔の形が変わるまで叩かれてたっけ………うん、我が天照達以外で逆らえない存在だなぁ)

 

 当時の事を思い出してそう考える龍牙王。

 

 

(きっと惚れた女に頭が上がらないのは……親父の血だよな。待てよ……我が複数の女と現在の様な状況は血の所為か?)

 

 

『何でも私の所為にするな』と死んだ闘牙王の声が聞こえてきた。

 

 

「長男殿」

 

 

「あっ……あぁ」

 

 御母堂に声を掛けられ我に帰った龍牙王。

 

 

「十六夜殿と犬夜叉の事は妾に任せよ、誰にも手を出させん」

 

 

「では頼む、御母堂……我は少し休む」

 

 

「あぁ……そなたの部屋はそのままにしてある、今日はゆるりと休むがいい」

 

 こうして十六夜と犬夜叉はこの天空城で御母堂の保護下の元で暮らす事になった。




~十六夜が親類の貴族の元にいる間~


「弟を狙う理由を聞こうか?」

龍牙王は犬夜叉の存在を知り、殺そうとしていた一族の者の元に訪れていた。そしてその者に叢雲牙を向けている。


「あっあの子供は下賤な人間の……ひぃ!」


「18分割されたいって?仕方ないなぁ……身体の末端から徐々に切り刻んでやるよ」


「すっすいません!狙いません!もう決して手を出しませんから!!」


「よし、ならこの契約書にサインを」

そう言って龍牙王は懐から禍々しいオーラを放つ魔法陣の描かれた契約書を出す。


「なっなんでしょうか、この禍々しい邪気を放つ紙は?」


「知り合いの邪神から貰ったクトゥルフの契約書だけど?これにサインするか、叢雲牙に喰われるかどっちがいい?」

そう笑顔で言う龍牙王。

こうして犬夜叉を狙う輩を黙らせる龍牙王の日々が始まったのである。















・クトゥルフの契約書

 その名の通りクトゥルフの契約書。これで交わした契約は絶対………破れば死ぬよりも辛い目に合うらしい。


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殺生丸 前編

 龍牙王を除き、戦国最強の妖怪と呼ばれる殺生丸は日ノ本の西国を支配する闘牙王とその奥方との間に産まれた。

 

 幼き頃の殺生丸は強き父と強き兄に憧れ、彼等について回っていた。

 

「兄上~修行して下さい」

 

 

「殺生丸は可愛いなぁ……そうだ、着物(女物)(これ)を着てくれたら修行してやろう」

 

 などと兄の思惑にのせられ、後に後悔する殺生丸なのだが……幼い頃の彼はまだ知らない。

 

 殺生丸の力は成長するにつれて強く、高みへと昇り幾千の敵を前にしようと、殺生丸は怖れる事もしなくなった。己の死すらも怖れる事もなくなった。

 

 そんな時だ、父が死んだのは……しかも人間とその間に産まれた半妖を助ける為に命を賭けた。彼は許せなかった、自分が倒す筈だった最強が奪われた事が。

 

 故に彼は最強である為に、父の形見である【牙】を求めた。

 

 一振で百の妖怪を凪払う【鉄砕牙】、一振で百の亡者を甦らせる【叢雲牙】を。自らは一振で百の命を救う【天生牙】を譲り受けていたが、【天生牙】は斬れない刀であり殺生丸には必要のない物であった。

 

 殺生丸は残りの牙を持つ兄・龍牙王の元へ向かった。

 

「兄上……牙を渡して貰いたい」

 

 

「お前には天生牙があるだろう……それに今のお前じゃ、叢雲牙も鉄砕牙も扱えない。親父が遺言通り天生牙だけで我慢しろ」

 

 

「この様な斬れぬ刀など……」

 

 

「はぁ……全く力ばかり求めおって」

 

 龍牙王は鉄砕牙を引き抜いた、錆刀から龍牙王の妖力を得て巨大な妖刀へと変化する。

 

 彼はそのまま、鉄砕牙を地面に突き刺す。

 

「なんのつもりだ?」

 

 

「お前は言葉よりも実際に体験した方がいい」

 

 

「……」

 

 殺生丸は兄が下がったのを確認すると、鉄砕牙へと手を伸ばす。

 

 だが殺生丸は鉄砕牙の結界により拒絶された。

 

「っ! ……どういう事だ! 兄上!?」

 

 

「鉄砕牙は人の護り刀だ……親父は犬夜叉の母、十六夜殿を護る為に己の牙から打ちだしたものだ。

 

 人を見下している今のお前には使えんよ。それに鉄砕牙はいずれ犬夜叉に渡す」

 

 龍牙王はそう言いながら鉄砕牙を引き抜くと鞘に納めた。

 

「何故あのような半妖に渡す必要がある!?」

 

 

「鉄砕牙は人を護る刀であると同時に犬夜叉を護る為の物だ。半分は人間である為に我等よりも庇護がいると言うことだ。

 

 我は叢雲牙を封じる為に、犬夜叉には護り刀である鉄砕牙を、それぞれに意味がある。親父は意味なくお前に天生牙を残した訳じゃない。

 

 その意味を考えろ……とは言えそれで納得するお前ではないか。こいつは闘鬼刃、鬼の牙から打ち出した剣だ。まずはこいつで自分を鍛えるがいいさ」

 

 龍牙王はそう言うと身を翻し、その場を離れようとする。

 

「何故だ……何故、父上も兄上も人間などを護ろうとする? あんなにも弱く、愚かな存在を」

 

 

「お前にもいずれ分かるだろうさ」

 

 それだけ言うと、龍牙王はその場を去っていった。

 

 兄の言葉が何を指すのか分からなかったが、今は目の前の剣を取り己の敵となる存在を探しに向かった。

 

 旅の途中で、従者となる小妖怪と出会う……以上。

 

「えっ!? 儂の紹介これだけ?!」

 

 

「黙れ、邪見」

 

 

「えっでも……」

 

 キッと睨まれ黙る邪見……哀れ。

 

 それから豹猫族や様々な妖怪の一族と戦った殺生丸なのだが、彼の心が満たされる事はなかった。

 

 戦い、戦い、戦いの日々、ある日、ある噂が耳に入った。

 

 異母兄弟である犬夜叉が人間の巫女と生きる為に妖怪の力を捨てたと言う事を。

 

 幾度か犬夜叉と顔を合わせた事があるが、その頃の犬夜叉は力を望んでいた……それが何故と言う疑問があるが、彼には理解出来ないでいた。

 

 それから少しして、再び鉄砕牙を手に入れる為に兄に戦いを挑んだ。

 

 結果は勿論……敗退。

 

 真正面から鉄砕牙の風の傷を受けてしまう。重症を負ったのだが、天生牙の結界により違う場所へと転移させられる。

 

 

 

 

 重症を負った殺生丸は森の中に転移させられ、倒れていた。

 

 この場に来てどの位の時が経ったか……そんな時、物音がした。重症を負っている為、普段はする事のない威嚇をする。

 

「シャ──!」

 

 茂みから出てきたのは驚いているボロボロの人間の少女だった。

 

 少女は威嚇に驚いていたが、恐る恐る近づいてくる。

 

 それから少女は、水や魚、山菜を採って来て殺生丸の前に置いた。殺生丸がそれに手をつける事はなかったが、ある日、ボロボロな少女に声をかけた。

 

 ただ怪我をしていたのを聞いただけであったが、それだけの事で少女は笑った。

 

 数日経ち、ある程度怪我が治ったので移動しようとしていたが、少女の血の匂いを嗅ぎとりその方向へと向かう。

 

 そこには盗賊と自分の元を訪れていた少女がいた。どうやら少女は盗賊達に斬られた様だ。盗賊は殺生丸の爪にて引き裂かれた。

 

「殺生丸様……あの人間の娘を知っているので?」

 

 殺生丸は邪見の言葉に答える事なく歩を進める。何を思ったのか天生牙を引き抜いた。

 

「試してみるか…」

 

 そして天生牙の力により見えたあの世の使いを斬り捨てる。そして少女は蘇った。

 

 少女・りんはそれから殺生丸と共に行動する事になった。

 

 りんと行動する様になって、少ししてから兄が突然現れた。

 

「久しいな、殺生丸……お前が人間の娘を連れ歩くとは」

 

 

「……」

 

 

「誰じゃ貴様! 殺生丸様を呼び捨てにするなどどういうつもりじゃ!?」

 

 と龍牙王の事を知らぬ邪見が声を上げる。

 

「兄弟の間の事だ、邪魔をするな、小妖怪」

 

 

「えっ……兄弟?」

 

 

「我はそこな殺生丸の兄だ……さて、殺生丸よ。兄の質問に答えておくれ」

 

 

「貴方には関係ない」

 

 

「はぁ……昔はあんなに素直だったのに、何でこんな性格になっちゃったのかねぇ?」

 

 と呟く龍牙王を睨む殺生丸。

 

「まぁいい……」

 

 次の瞬間、龍牙王から凄まじい妖気が発せられる。

 

 それに素早く反応した殺生丸は、直ぐにりんの前に立ち、龍牙王の妖気からりんを庇った。

 

 それを見て龍牙王は妖気を収めてにっこりと笑った。

 

「直ぐに我に斬りかからず、その娘を庇うとは……昔なら嬉々としてこっちに襲いかかってきただろうに。

 

 それなりに成長したと言う事か」

 

 嬉しそうに笑う龍牙王は、鉄砕牙を腰から抜き殺生丸の前に差し出す。

 

「どういうつもりだ?」

 

 

「お前も少しは成長してると思ってな……鉄砕牙を使えるか、否かはお前次第だ」

 

 そう言うと兄、殺生丸は訳が分からない顔をしているが鉄砕牙に手を伸ばす。以前に鉄砕牙の結界で拒絶された殺生丸であるが、今回は拒絶されなかった。

 

 そして、鉄砕牙を鞘から抜こうとしたが全く抜けなかった。

 

「ぁ~まだその段階までいってないか……まぁいい。鉄砕牙が拒絶しなかったからお前に預けておこう」

 

 龍牙王はそう言うと、殺生丸の横を通り抜けりんの前にしゃがみこむ。

 

「悪かったな怖がらせて」

 

 そう言うと彼は尾の中から御守りを取り出すとりんに手渡した。

 

「せめてもの侘びだ、ではな」

 

 そうして龍牙王は去っていった。

 

 殺生丸は抜けぬ刀に何の意味があると思いながらも鉄砕牙を捨てる事は出来ず腰に納めた。

 

 

 それから一年が経とうとしていた。

 

 この一年、りんと行動を共にする内に殺生丸に変化が起きた。

 

 大量の血の匂いを感じとある村に立ち寄った時だ。そこでは妖怪に喰い散らかされた人々を見た。以前なら全く何も感じなかった筈だが、この時は言い知れぬ何かが彼の胸で蠢いていた。

 

 人々を襲っている妖怪が殺生丸に気付き此方を向いた。その口には小さな子供が咥えられていた。

 

 それを見た瞬間、その子供がりんの姿と重なり、気が付けば爪で妖怪を切り子供を助けていた。

 

 何故自分がこの様な事をしたのか彼には理解できなかったが、何とか生きていた妖怪が声を上げる。

 

『ナゼダ……妖怪ガ何故人間ヲ助ケル? 人間ナド我等ノ餌デアルコトシカ価値ガナイノニ』

 

 

「……黙れ」

 

 ドクッと鉄砕牙と天生牙が脈動を打つ。殺生丸は自然と鉄砕牙に手を伸ばすと、鉄砕牙を抜き「風の傷」で妖怪を滅ぼした。

 

 この時は、殺生丸は鉄砕牙を扱える事ができ、更に天生牙に封じられていた「冥道残月破」を解放できた。

 

 それは殺生丸に「誰かを慈しむ心」が芽生え始めたからである。



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殺生丸 中編

 殺生丸が鉄砕牙と冥道残月破を扱い出し約半月。

 

 殺生丸は冥道残月破の冥道を広げる方法を探していた。彼はそれを知る人物に2人ほど心当たりがあった。1人は兄龍牙王である。しかし兄は自分の土地を留守にしており、帰るのはかなり先だと聞いた。なので、不本意であるがもう1人の元に向かっていた。

 

「殺生丸様、一体何処に向かわれておるのですか?」

 

 邪見はりんの乗った阿吽の手綱を引きながら殺生丸に尋ねる。殺生丸はそれに答える事なく空を見上げていた。

 

 すると空から白い巨大な妖怪が現れた。

 

「なっなんじゃあ!?」

 

 

「すごく大きい~」

 

 

「感心しとる場合か!?」

 

 邪見とりんのやり取りを他所に妖怪は光だすと女性の姿になり、彼等の前に降り立った。

 

「久しいな、殺生丸」

 

 女性は笑みを浮かべてそう言うが、当の殺生丸は心なしか嫌そうな顔をしていた。

 

「長男殿から聞いていたが、お前が人間の小娘を連れ歩いておるとはな。

 

 まぁよい……お前がこの母を訪ねてきた理由は分かっておる。天生牙の冥道を広げる為であろう?」

 

 

「……そうだ」

 

 殺生丸一行は、御母堂に連れられ天空城にやってくる。

 

「さて……私はお前の父上からこの冥道石を預けられた。まずは今のお前の力を見せて貰おう」

 

 御母堂がそう言うと、彼女の首元の冥道石な光だし巨大な犬が現れた。殺生丸は直ぐに天生牙を引き抜く。

 

「冥道残月破!」

 

 天生牙を振るうと三日月状の冥道が犬を切り裂いた。かに思えたが犬は全く無傷で、りんと阿吽、邪見を飲み込んで、殺生丸の開いた冥道へと飛び込んだ。

 

「おやおや、あの殺生丸が人間の小娘と小妖怪を助ける為に冥道に飛び込むとは……あやつも変わったものだ、そうは思わんか長男殿?」

 

 御母堂がそう言うと、自らが座る玉座の後ろに視線を向ける。

 

「全くだな……御母堂」

 

 玉座の後ろから龍牙王が出てきた。

 

「出雲から急に呼び戻されたと思ったら……これを見せる為に?」

 

 

「長男殿とて気になるであろう?」

 

 確かにと呟くと龍牙王は御母堂の冥道石に手を翳す。すると冥道石から彼等の前に殺生丸達の様子が映し出された。

 

 

 

 

 

 ~冥道~

 

 冥道犬に食われたりんと阿吽、邪見を救う為に、冥道に飛び込んだ。そして、癒しの天生牙を使い冥道犬を斬り伏せ助けた。

 

 阿吽、邪見は直ぐに意識を取り戻したが、りんは意識が戻らないままだ。

 

「邪見、りんと共に後を着いてこい」

 

 

「はっはい!」

 

 殺生丸は彼等を連れて冥道を進む。

 

 その途中、邪見はりんの変化に気付く。

 

「りん! りん! しっかりせんか!?」

 

 

「どうした邪見?」

 

 

「そっそれがりんが息を」

 

 普段、どんな事があっても表情を変えない殺生丸。しかしその邪見の言葉に動揺を隠せていない。

 

「直ぐにりんを下ろせ」

 

 殺生丸は直ぐに天生牙を抜く。

 

(あの世の使いが見えん……何故だ? 応えろ天生牙)

 

 天生牙は使い手があの世の使いを斬る事で、死者を甦らせる。だが今の殺生丸にはそれが見えない。

 

 次の瞬間、冥道の奥から何かが現れ、彼等を包み込み再び冥道の奥へと消えて行った。

 

「殺生丸様! りんが!」

 

 何かはりんだけを冥道の奥へと引き摺りこんだ様だ。

 

 彼等は直ぐにそれを追いかける。その途中、外の御母堂から道が開かれるが無視した。

 

『本当に可愛げのない。一体誰に似たのやら』

 

 

『まぁまぁ……(御母堂(母親)似だろうな)』

 

 

『長男殿、なんだその顔は……妾に似てると言いたいのか?』

 

 

『まぁ親子だし』

 

 

『妾はもう少し素直だぞ?』

 

 とやり取りがあったのだが、殺生丸が知る事はなかった。

 

 冥道の奥へと進むと、巨人がいた。そしてその周りには無数の亡者達の山があった。この巨人は冥道の主だ。そして冥道の主が大きな雄叫びを上げると、周囲の亡者達が冥道の深淵へと吸い込まれていった。

 

 殺生丸は直ぐに天生牙を引き抜くと走り出す。

 

(そこへは行かせん……!)

 

 殺生丸は冥道の主を天生牙で両断する。生きている者を斬る事は出来ないが、あの世の存在なら斬る事はできる。

 

 冥道の主は斬られた事で消滅し、りんは放り出されるが直ぐに殺生丸が受け止めた。

 

 そのまま、彼はゆっくりと亡者達の山の間へと降り立った。

 

「りん」

 

 殺生丸はりんに声をかけるが、返答はない。

 

「りん……起きろ」

 

 彼はりんを抱えている腕から伝わってくる……彼女の温もりが失われていくのを。

 

 邪見と阿吽も近くに来てその現実を目の当たりにする。邪見は涙を流し、阿吽は哀しそうに鳴いている。

 

(救えんのか……?)

 

 殺生丸は天生牙を手放すと、地面に突き刺さる。

 

(救えんのか? 天生牙、こんな物の為にお前を死なせてしまった。

 

 りんの命と引き換えに得る物など……何もない!)

 

 殺生丸の中に芽生えた哀しみ……天生牙はそれに応えるかの様に暖かな光を放ち始める。

 

 それに反応し、周囲の亡者達が光に集まり始めた。それはまるで、天生牙にすがっているかの様だ。

 

「お前達も救われたいのか……」

 

 殺生丸はしっかりとりんを抱えると、再び天生牙を手にする。

 

 天生牙を構えると、天生牙から光が溢れ出し周囲の亡者達をその力で浄化していく。

 

 この瞬間、冥界は天生牙の光で包まれた。

 

 

 

 ~天空城~

 

 御母堂と龍牙王は天生牙により冥界の死人達が浄化された事を確認すると

 

『冥道残月破!』

 

 殺生丸の声と共に真円に近付いた巨大な冥道が開き、そこから殺生丸達が出てきた。

 

 それから少し落ち着くと、再び邪見が涙を流し始めた。

 

「どうした、殺生丸。浮かない顔をして……お前の望み通り天生牙は成長し、冥道は真円に近付いたのだ。少しは喜んだらどうだ?」

 

 

「知っていたのか、りんがこうなる事を」

 

 殺生丸が御母堂に尋ねる。

 

「妖怪ならいざ知らず人間が冥道に耐えられると思っていたか? 

 

 それに殺生丸よ、お前は一度その小娘を天生牙で甦らせているな?」

 

 

「そうだ……」

 

 

「天生牙で命を救えるのは一度きりだ」

 

 その言葉に驚きを隠せない殺生丸。

 

「当然であろう。本来、命とは1つしかないもの。お前の都合で何度も呼び戻せる程、軽々しい物ではない。

 

 それとも殺生丸、お前は神にでもなったつもりか? 天生牙さえあれば死しても呼び戻せると、死など恐れるに足らぬと」

 

 殺生丸の心の何処かにあった天生牙さえあれば命を呼び戻せると言う慢心、それがこの度のりんの死に繋がった。

 

「お前は知らねばならなかった!

 

 愛する者を護ろうとする心と、同時にそれを失う哀しみと恐れを!」

 

 

(哀しみと……恐れ……)

 

 殺生丸は長い時の中、哀しみや恐れを感じた事はなかった。だが今この時、たった1人の人間の娘の命が殺生丸の心に哀しみと恐れを刻み込んだ。

 

「父上はこうも言っていた。

 

天生牙は癒やしの刀。たとえ武器として振るう時も、命の重さを知り、慈悲の心を持って、敵を葬らねばならぬ。

 

それが百の命を救い、敵を冥道に送る天生牙を持つ者の資格だと」

 

 

「(殺生丸様が慈悲の心を知るためにりんは死なねばならなかったのか)ぅう~」

 

 

「どうした小妖怪?」

 

 

「邪見と申します……殺生丸様はどんな時も涙を見せないご気性故、私が代わりに」

 

 と邪見が言った。

 

「ほぅ……悲しいか殺生丸?」

 

 御母堂は真っ直ぐ殺生丸を見る。

 

「悲しかろう殺生丸」

 

 今まで黙っていた龍牙王が話し始めた。

 

「まぁ、お前は顔には出さんからな……だが忘れるな、我等と違い人間の命は儚い……ほんの少しの傷で死んでしまうし、例え元気でも次の日にはぽっくりなんて事は良くある事だ。

 

 だから、お前がこの子を護ると言うならしっかりと護ってやれ。どんな事があっても後悔のない様にな。

 

 これは兄としての助言だ」

 

 龍牙王はそう言うとりんの方へと手を翳す。するとりんの懐が光出す。りんの懐からその光が出てくる。どうやらそれは以前に龍牙王がりんを怖がらせた侘びとして渡した御守りだった。

 

「万が一と思って渡しておいて正解だった」

 

 光は段々と強くなり、りんの身体を包み込んだ。

 

「……んぅ……こほっこほっ」

 

 光が消えると、りんが息を吹き返した。

 

「あっ……せっしょう……まるさま?」

 

 

「もう大丈夫だ」

 

 殺生丸はりんの頬に手を添えそう言う。心なしかその声は嬉しそうだ。

 

「全く……人間の小娘にこの騒ぎとは……変な所が父親に似てしまった」

 

 

「まぁまぁ……殺生丸も成長したと言う事だろう。今の殺生丸を見たら親父は何と言うかな?」

 

 

「さて……なぁ」

 

 

「さてと……我は戻るとしよう。あまり遅くなるとアイツ等がうるさいからな」

 

 龍牙王はそう言うと殺生丸とりんの姿を見つつもその場を去った。



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殺生丸 後編

 冥道残月破の件から数年。

 

 りんは成長し、子供から少女へと近付いていた。

 

 殺生丸も邪見も妖怪なので代わりはない。変わった事と言えば、この数年で己の牙である『爆砕牙』を手にした事くらいか。

 

 再生増殖を繰り返す妖怪と戦い、その中でりんと邪見を救う為に鉄砕牙と天生牙を手放し2人を救った。その時、爆砕牙を顕現させ、敵を葬ったのである。

 

 旅の途中、りんを兄の膝元である桔梗の村に置いていった。龍牙王が、人と生きるか、殺生丸と生きるかを選ばす為には人と暮らさせた方がいいと申し出たからだ。殺生丸もそれを了承した。しかし問題があった。

 

 殺生丸がずっと顔を出さない為、りんが寂しがっていると殺生丸に伝えたところ

 

 

「おい、殺生丸」

 

 

「何だ、兄上……?」

 

 

「何だ、この貢物の山は」

 

 龍牙王は殺生丸()の後ろの反物やら宝石やらを指差しそう言った。

 

「りんにだ……あれがいらんなら村の者達に配ればいい」

 

 

「はぁ……村人達もあっても扱いに困るだろう、それに3日に一度は来すぎだ。

 

 お前……選ばす気ないだろう?」

 

 呆れた顔をしていう龍牙王、そんな兄の言葉に視線を反らして無言を突き通す殺生丸。

 

「全く……あの娘も今年で14、大人と言えば大人であるからな。それにあの容姿だし、結構見合い話も上がって……」

 

 チラッと殺生丸の方を見ると、怖い顔をして、彼の妖気が可視化されるほど溢れだしていた。

 

「何処の誰だ?」

 

 

「殺すなよ?」

 

 

「……何故、殺さねばならん?」

 

 

「なら、何でそんな殺気だっている?」

 

 

「りんが人として生きるのであれば、それでよい。しかし私より弱い男にりんをやるつもりはない」

 

 

(やっぱり手離す気ないな、こいつ)

 

 そう言う弟を見て、その成長が嬉しい龍牙王。

 

 そんなこんなで、時は経っていく。

 

 

 

 

 りんが16になる頃、殺生丸からある相談を受けた。

 

「兄上……婚姻を申し込むにはどうすればいい?」

 

 

「ぶっー!」

 

 突如訪れ、とんでもないことを聞いてきた弟に飲んでいた酒を吹き溢す龍牙王。

 

「殺生丸……未婚の我に聞くのか?」

 

 

「あれだけの多くの女神を侍らしておいてか?」

 

 

「コホン、お前がそんな事を聞いて来るとは……クククッ

 

 それで御母堂には話したのか?」

 

 龍牙王はそう言いながら杯を殺生丸に差し出す。

 

 殺生丸も彼の前に座ると杯を受け取り、龍牙王はその杯に酒を注ぐ。

 

「話した……好きにせよ、と」

 

 

「そうか……それでお前はどうするつもりだったのだ?」

 

 

「私と生きるか、人として生きるかを選べと言うつもりだ」

 

 

「1つ足りんな、求婚するのであれば櫛を送れ。人の世では平安の世では和歌を、最近では櫛を送るんだ」

 

 

「櫛か……」

 

 

「そうだ。それで、仮に了承された場合、何処で住むんだ? まさか御母堂と同居……はないな」

 

 殺生丸が物凄く嫌そうな顔をしたので、それはないと思った様だ。だがあの御母堂の事だから何処に住もうと飛んできそうだと思ったが取り敢えず言わないことにした。

 

「仮にりんが私を選ぶなら……此処から少し離れた所にでも屋敷を建てる。あまりこの村から離れすぎればりんも寂しがるだろう」

 

 それなりに彼女の事を考えているのだと龍牙王は弟の成長に喜んだ。

 

「ならば我の土地の山に住むとい」

 

 

「しかし……」

 

 殺生丸はこれまで、りんの事で何かと兄に世話になってきた。これ以上、迷惑をかけるのはどうかと考えていた。

 

「殺生丸、お前とて一族の事や戦で家を空けることもある。我の地であれば護ってやれる。

 

 お前とてその方が安心できるだろう?」

 

 兄の言葉に頷く殺生丸。しかしまだ納得していない様だ。その様子を見て、龍牙王は酒を置き真っ直ぐ弟を見た。

 

「殺生丸……お前も分かっているだろうが、人とは儚いものだ。

 

 かつて我も1人の巫女を愛した。しかし……我の判断の誤りでアイツを失った。だからこそ、お前にはあの娘との時間を大切にしてほしい。

 

 お前には我の庇護など必要ないだろうし、あの娘もお前が護るなら必要ないだろう。しかし、万が一の時、この地であれば我が護ってやれる。

 

 犬夜叉亡き後、この世に残った2人だけの兄弟だ。その弟の幸せを護らせてほしい。

 

 だから殺生丸、我の地においで」

 

 龍牙王は殺生丸の幸せの為にそう言う。殺生丸は少し考えると、姿勢を正し、頭を下げた。

 

「兄上……宜しく頼みます」

 

 

「あぁ……と決まれば忙しくなるな! さて婚姻の用意だ!」

 

 決まっていないのだが、この兄は気が早いらしい。

 

「気が早い……」

 

 

「そう言うが、他の男に渡す気などないだろ?」

 

 殺生丸はその言葉に視線を反らす。全くその気はないようだ。

 

 

 

 

 その日の夜、殺生丸はりんを呼び出した。

 

 

「殺生丸様~お待たせしました!」

 

 

「あぁ……」

 

 殺生丸は何やら辺りを見回している。

 

「どうかなさいましたか?」

 

 

「兄上は……社にいたか?」

 

 

「はい、何やら御忙しそうでしたよ?」

 

 

「そうか……(流石に兄上も空気を読まれたか)」

 

 兄の性格上、こういう時は覗き見しにくると思ったらしい。

 

「りん……今宵はお前に話がある」

 

 

「はい、何ですか?」

 

 

「りん……これを」

 

 殺生丸は懐から櫛を取り出した。装飾のされた物でかなり高価な物だと一目で分かる。加えて何やら神々しい雰囲気を放っていた。

 

「櫛ですか?」

 

 

「あぁ……これには特別な意味がある」

 

 

「特別……!」

 

 りんは男性から女性に櫛を送る意味を思い出し顔を真っ赤にする。

 

「でっでも殺生丸様……りんは人間です」

 

 

「その様なこと承知している。それをふまえた上で私はお前にこれを送る。

 

 これを断ったとしても、私の心は変わらん。例えお前が人間の男と生きる事を選んでも、私にとって大切な女はお前だけだ」

 

 りんはそれを聞いて涙を流していた。

 

「殺生丸様……私、嬉しい。でも幸せ過ぎて怖いです」

 

 

「お前を怖がらせる物は全て私が蹴散そう」

 

 殺生丸はりんの頬を撫でそう言った。りんもそれを受け入れ、彼の手に触れる。

 

「殺生丸様……私、直ぐにしわくちゃのお婆ちゃんになりますよ?」

 

 

「例えお前がどんな姿になろうとお前への気持ちは変わらぬ」

 

 

「殺生丸様からしたら、一瞬の時しか生きれません」

 

 

「……お前が生まれ変わったら必ず見つけ、迎えに行く。

 

 私のお前への気持ちは変わらぬ、どれ程の時が経とうと、お前の姿形が変わろうともだ」

 

 りんはそれを聞き、櫛を受け取った。

 

「私、殺生丸様の事が大好きです。だからもっと傍に居て欲しいって思って我が儘になっちゃいますよ?」

 

 

「構わん」

 

 

「殺生丸様……りんを……りんを殺生丸様のおy」

 

 それ以上言う必要はないと言わんばかりに、殺生丸はりんの口を自分の口で塞いだ。

 

 こうして、りんは殺生丸と共に生きる事を選び、嫁入りしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(我が弟ながら大胆だなぁ……それにしてもあの殺生丸があんな言葉を言うとはのぉ。

 

 これは良い物が撮れた! 帰って編集だ!)

 

 この時代にない筈のハンディビデオカメラを片手に覗いていた龍牙王()であった。



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殺生丸とりん 兄の苦労

 りんが殺生丸と共に生きる事を選らんで1年半が経とうとしていた。

 

 現在、りんの中には新たな2つの命が宿っていた。つまりは殺生丸とりんの子供である。

 

 当初、殺生丸は子を成す気はなかったらしい。理由はりんの身を案じていたからだ。出産は命懸けだからだ、既にりんは天生牙では生き返る事はない。もし、りんを失う事を考えれば子を成す事を考えていなかった。

 

 だが、りんは子を成し、自身の亡き後も自身がいた証を残したいと考えていた。そこで義兄である龍牙王に相談した所、様々な準備を行い、万全の体制で出産に望む事を条件に子を成した。

 

 現在、りんが産気つき、桔梗の妹である老巫女、楓の元にいた。

 

 神社からそれを見守っていた殺生丸と龍牙王。

 

「殺生丸よ、りんの傍に居てやれ」

 

 龍牙王は殺生丸にそう言うが、彼は何かを気にしている様だ。

 

「傍に居てやれ……出産は命懸けだからな」

 

 龍牙王はそう言うと殺生丸の背を押す。殺生丸は龍牙王に一礼すると、りんの元へ向かう。

 

 彼はこれからの事を考えて辺りの気配を探り始めた。

 

「子供とりんの事は楓に任せておけばいいか……親父、面倒事を残しやがって」

 

 龍牙王はある匂いの方向に向かい飛ぶ。

 

 

 

 丘の上から楓の村を見下ろす2つの影。

 

 1人は仮面を着けた男、もう1人は白髪の女性だった。男の方は複雑な表情をしており、女性の方は怨めしそうに村を見下ろしていた。

 

「姉上……何をするつもりだ? 俺を起こしてまで」

 

 

「麒麟丸、今宵、殺生丸様の子が産まれる。人の血を継いだ子供がだ」

 

 

「だからどうした?」

 

 

「忘れたか! 【四魂の玉】の予言を! 私はお前の為を……!?」

 

 

「これは!?」

 

 2人は凄まじい妖気を感じ空を見上げる。

 

「久しいな、是露殿、麒麟丸」

 

 

「っ!」

 

 

「龍牙王か」

 

 龍牙王は2人の前に降りる。

 

「我の地に何用か?」

 

 

「此処は御主の土地であったか」

 

 龍牙王の言葉にそう答える麒麟丸。

 

「あぁ……それで……是露殿?」

 

 

「大将……」

 

 是露の目には龍牙王の姿がある人物の姿が被る。西国を支配していた大妖怪であり龍牙王、殺生丸、犬夜叉の父、犬の大将こと闘牙王である。

 

「そこまで似てるか? ……あまり嬉しくはないが」

 

 と言葉を切る。すると彼から放たれる妖気の濃さが増した。

 

 麒麟丸は龍牙王達の父、闘牙王の好敵手であり、東国を支配する大妖怪である。その強さは言うまでもなく強い、それ故に龍牙王の強さが分かる。

 

「さて2人は此処に何をしに? 勘違いであって欲しいのだが……殺生丸とりん、その子達に何かしに来たか?」

 

 更に強まる妖気、麒麟丸はそれに笑みを浮かべる。麒麟丸は最強の相手と戦う事を喜びとする、龍牙王達の父、闘牙王が死んでからは殆ど戦う事はなかった。だが目の前の龍牙王は最強と呼ぶに相応しい相手だ。彼との戦いはこの上ない喜びとなる。

 

「もしそうなら……斬らねばならん」

 

 斬ると言うものの少しずつ妖気が収まった。

 

「とは言うものの……是露殿が親父の血をひくあの子供等が許せんのは理解しているつもりだ。だが……是露殿、心を、感情など簡単に捨てる物ではない」

 

 龍牙王はそう言うと、懐から7色の真珠を取り出す。

 

「虹色真珠!?」

 

 

「これは四魂の玉により産まれた是露殿の涙であり、悲しみの感情。探すのに手間はかかったが……」

 

 龍牙王の姿が消え、次の瞬間、是露は彼に胸を貫かれていた。

 

「がっ……」

 

 

「龍牙王! なにを!?」

 

 

「あるべき物を元に戻すだけだ」

 

 そう言うと、彼は腕を引き抜く。是露は力が抜けた様にその場に倒れ、貫かれた場所を確認するが貫かれた形跡もない。

 

 すると是露から大粒の涙が流れてきた。

 

「何故っ……何故です! こんな忌々しい物を、再びこの身に!?」

 

 虹色真珠……かつて是露には愛しく思う男がいた。それは龍牙王達の父、闘牙王である。是露は闘牙王が亡くなったと聞かされた際に涙を流し、それが当時所持していた四魂の玉に願い、是露の妖力と悲しみを封じた結晶となったものだ。その頃から是露は人間を憎むようになった。闘牙王が死ぬ原因が、人間である十六夜と犬夜叉だと思っている。だからこそ、彼女は闘牙王の血を継ぐ半妖が許せないでいた。

 

 そして、時を経てその哀しみの象徴たる虹色真珠は是露の中へと戻した。

 

「忌々しい物ではなかろう、我等が親父殿を思うて流した哀しみの涙だ。それは是露殿だけの感情だ」

 

 

「こんな……こんなっ! こんなにもっ!」

 

 何百年ぶりに是露に哀しみの感情が戻り、その感情が彼女の中で暴れている。

 

「哀しみも、喜びも、決して捨てれる物ではない。いずれ自ら受け入れ、折り合いをつけねばならぬものだ……」

 

 龍牙王が横を見ると、そこに殺生丸の母が現れた。

 

「久しぶりだのぅ、是露、麒麟丸」

 

 

「御母堂」

 

 

「これは奥方……」

 

 

「りんが産気付いたと聞き飛んでくれば、珍しい気配があるではないか……それで、何をしに来たのだ? まさかと思うが……我が義娘や孫達をどうにかしに来たのではなかろぅな?」

 

 御母堂はそう言うと、可視化する程の妖気を発した。どうやら御母堂も彼等が此処に理由を理解している様だ。

 

「御母堂……お前は憎くはないのか!? 大将を死なす原因となった十六夜が! その血を継ぐ半妖が!?」

 

 是露は御母堂に問う、愛する者を失った原因である者達が憎くないのかと。それを聞いて御母堂は笑う。

 

「ぷっ……アハハハハ!」

 

 

「何が可笑しい!?」

 

 

「是露よ、何を言うかと思えば……そもそも、十六夜やその子である犬夜叉に原因がある等、妾は思うておらぬよ」

 

 

「なにっ!?」

 

 

「十六夜もまた己に責任があると言っておった。

 

 しかし親として、男としての役目を果たすとあの人が……闘牙自身が決めた事だ。

 

 闘牙自身が己の命を賭け護ると決めたのだ、夫の決意を妾がどうして無下に出来ようか?」

 

 御母堂はそう言い放つ。是露はそれを聞き苦虫を噛み潰した様な顔をする。

 

「それに……十六夜もまたあの人を失い悲しんだ。それに子供である犬夜叉に何の罪があろうか? 

 

 あの人が十六夜との子を望んだ故にあの子が産まれた。ならば妾に出来るのはあの人に良くやったと言ってやる事と、あの人が護ろうとした者達を助けてやる事だけだ」

 

 

「だから……十六夜とその子供を引き取ったと言うのか!?」

 

 

「そうだ……妾は我が子、殺生丸を含め、あの人の血を引く長男殿も、犬夜叉も、己の子と思い接しておる。それは昔から変わらんよ」

 

 御母堂は実際、十六夜を責めず、犬夜叉と共に己の元に匿った。それは夫の護ろうとした物を護りたいと思う妻としての愛情であり、夫の血を引く犬夜叉に対する母性愛からだ。

 

「ッ……それはお前が選ばれたから言えたことだ。選ばれなかった私はこの想いを、哀しみを何処にぶつければいい!?」

 

 

「そんな事は知らぬ……お前を袖にしたあの人に当たるならいざ知らず、罪もない我が義娘や孫達に当たるとは……今、お前のやろうとしている事は唯の八つ当たりではないか。

 

 それこそ、お前の嫌う人間そのものの様だな」

 

 

「ッ! ふざけるな!」

 

 

「御母堂……」

 

 龍牙王は言い過ぎだと思うが、彼の言いたい事は御母堂と同じ事だ。

 

「是露殿……我は出来れば貴女を斬りたくない。だから、今の我に出来るのは……」

 

 龍牙王はそう言うと、全ての刀を地面に置き、その場に膝を付いた。

 

「どうか、我に免じて退いては下さいませぬか? 

 

 人や半妖の一生は我等に比べて短い、殺生丸がりんや娘達と共に生きれる時間は長くはない。だからこそ、我はアイツ等の時間を守ってやりたい。

 

 かつて我も愛する巫女を失った。あの様な別れを殺生丸に味わって欲しくないのだ。

 

 その為なら、この頭を幾らでも下げよう。罵倒を受け入れよう、幾らでも打たれよう。

 

 どうか、どうか、この通りだ。是露殿、アイツ等に手を出さないで貰いたい」

 

 そう言い、龍牙王は是露に頭を下げた。

 

「ちっ違う! 悪いのは私だ! 私は四魂の玉の予言を聞き、助けに行けなかった! 大将の比類なき強さを信じたかった! 人間の女等に絆されないと信じたかった……私だけが大将を護れたのに! 大将を殺したに等しい、いや私が殺したんだ!」

 

 是露の後悔、かつて四魂の玉の予言した闘牙王の死、それを知っていたのに、彼女はそんな筈がないと信じなかった。結果、闘牙王が死んだと。

 

 龍牙王はそれを見て立ち上がると手を上げる。

 

「はぁ……後でアイツ等に言い訳しないとな。鉄砕牙! 天生牙!」

 

 龍牙王が呼んだのは父の牙の名前、するとその声に答える様に鉄砕牙と天生牙が現れる。

 

「我が血において冥府より還れ」

 

 龍牙王がそう言うと空から一筋の光が彼に降り注ぐ。

 

「これは!?」

 

 光を受けた龍牙王はその姿を変えた

 

「まっまさか……?」

 

 

「貴方」

 

 龍牙王が行ったのは鉄砕と天生牙を媒介に魂を呼び出すこと。呼び出す魂は1つ、父闘牙王の魂だ。今、その魂をその身に宿した。

 

「久しぶりだな、奥。麒麟丸、是露殿」

 

 

「大将」

 

 

「是露殿、私の為に泣いてくれてありがとう。相変わらず変わってないな、是露殿。しかしそれでこそ是露殿。そのままでいいんだ」

 

 闘牙王はそう言うと再び光に包まれる。

 

「あまり時間がないか……奥、苦労をかけてすまん」

 

『ワォォォォ!』

 

 それだけ言うと、闘牙王は光となって天へと還っていった。

 

「やっぱ、他の奴に身体を貸すのは疲れる……さて」

 

 

「大将……」

 

 

「是露殿」

 

 

「龍牙王様……私の絡まった心の糸を解いてくれたこと、感謝致します」

 

 是露はそう言うと頭を下げる。

 

「是露殿の心が救われたのならそれでいい」

 

 

「ご安心をもう殺生丸様やその娘達には手を出しません。大将の名に誓って……」

 

 是露はそう言うとその場から去ろうとする。

 

「是露殿、あまり早まった真似はなさいますな。我等の時は長い、だからこそ愛しい者の末裔を見守ることも出来る」

 

 

「えぇ……大丈夫、そんな事はしません」

 

 是露はそれだけ言うと消えてしまった。

 

「我が姉が面倒をかけた、すまん」

 

 麒麟丸がそう言うと、頭を下げる。

 

「別にいいさ。それよりもお前もいい加減に娘を解放してやったらどうだ?」

 

 

「っ……ワシとりおんの事は放っておけ」

 

 

「まぁ、他人の家の事に干渉はせんが…………もし我が考える事を実行しようと言うなら、全霊をもって相手をする」

 

 龍牙王がそう言うと2人の間に火花が散る。

 

「とは言え今日は大人しく帰ってくれ、今宵は目出度い日なのでな」

 

 

「……フッ、そうするとしよう」

 

 麒麟丸はそう言うと帰っていった。

 

「さて……長い1日だったな」

 

 

「長男殿、苦労をかけるな」

 

 

「弟や姪達を思えばこの苦ではありませんよ、御母堂。では参りましょうか」

 

 

「あぁ」

 

 この日、誕生した殺生丸の娘達。

 

 その名をとわ(永遠)せつな(刹那)、名を付けたのは頼まれた龍牙王であった。



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戦国編~近代まで
プロローグ


 浜辺で美しい満月を見上げる3本の剣を携えた男、そしてその後ろにいる美しい青年がいた。

 

 

「行かれるか……父上」

 

 

「止めるか、殺生丸」

 

 月を見上げる犬の大妖怪である父の背を見ている、息子の殺生丸。

 

 

「止めはしません。しかしその前に牙を……鉄砕牙と叢雲牙をこの殺生丸に譲って頂きたい」

 

 

「渡さぬ……と言ったらこの父を殺すか?」

 

 殺生丸は何も言わずに無言を突き通す。

 

 

「フッ……それほど力が欲しいか……何故お前は力を求める?」

 

 

「我、進むべき道は覇道。力こそ道を開く術なり」

 

 

「覇道………か。殺生丸よ、お前に守るべきものはあるか?」

 

 

「そのようなもの、この殺生丸に必要ない」

 

 殺生丸がそう言うと大妖怪は何も言わず、その身を妖怪へと変化させ風の如き速さでその場から去った。

 

 

「くだらん……」

 

 殺生丸はそれだけ言うと、何処かに去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬の大妖怪……闘牙王は獣の身と成り、森の中を駆け抜ける。その美しい白い毛に赤黒い血が滲み出していた。どうやら怪我をしている様だ。

 

 

「無理ですじゃ!無茶ですじゃ!どうかお考えなおし下さい!親方様!親方様は竜骨精と戦った傷が癒えていないではないですか」

 

 闘牙王の身体にしがみ付く、小さな蚤の妖怪がそう叫ぶ。

 

 

「アレを死なせる訳にはいかん!………それに私はもう長くない」

 

 

「親方様!」

 

 闘牙王は強敵と戦い傷付き、傷も癒えぬ身でありながら彼は駆ける。例え死ぬ事になったとしても彼には成すべき事があった。

 

 

「ムッ!」

 

 闘牙王は何かを感じると、獣から再び人の身へと転じ、立ち止まった。すると木の影から、闘牙王に似た青年……青年と言うには幼すぎる少年が現れ、闘牙王の道を塞いだ。

 

 

「何処へ往く?」

 

 

「十六夜と子を助けに往く……邪魔をするか?」

 

 少年の問いにそう答えた闘牙王。

 

 

「そんな身体で死ぬつもりか?」

 

 

「この身は竜骨精の毒が回っている……長くはない。ならば十六夜と子を助けた為にこの命を掛けるだけぞ」

 

 

「十六夜殿との子……産まれてくるのは半妖だぞ。何時の時代であっても半妖が生きるには辛い、それは俺が一番分かっている」

 

 

「だからと言って、見捨てる訳にはいかん。それに私の子だ、きっと強く育つなる。私の血がそうさせるだろう」

 

 

「全く……命さえ助ければそれでいいって、思ってるのか……バカ親父!」

 

 少年は闘牙王に向かい叫んだ。

 

 

「うっ……むぅ」

 

 

「十六夜殿は強いが、この乱世の世をあの細腕の姫君が半妖の子供を抱え、どうなるか考慮しないんだよ。母上や御母堂が聞いたら、殺されるぞ」

 

 

「ぐっ……」

 

 

「はぁ………全く、戦馬鹿め。困った父親だ……腹違いとは言え、我が弟だ。産まれる子が一人前になるまでは守るとしよう」

 

 

「スマヌ……お前には」

 

 

「それ以上の言葉は不要………疾くと行け、バカ親父」

 

 少年はそう言うと、道を開ける。

 

 

「十六夜と子を頼む」

 

 

「約束は違えぬよ」

 

 闘牙王は少年の横を抜け、再び獣になると駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―初めまして、俺の名は龍牙王。彼の大妖怪・闘牙王の息子にして、殺生丸とこれから生まれる犬夜叉の兄だ。

 

 何故、産まれてくる子供の名前を知っているか?実は……俺、転生者です。

 

 前世では大学生だったんだけど……車が突っ込んで来て、子供を庇って死んじゃいました。そんで気が付いたら、赤ん坊になっていた。前世のアニメなどの知識で、父親を見て驚いた。なんせ、犬夜叉の世界に出て来る主人公の父親だったんだから。

 

 俺の名前に龍が入ってる?俺の母親が龍です、しかもこの世界最強だとか。えっ…なにそれ?この世界は一体何だ?と考えていたんだが……俺の様なイレギュラーがいる以上、元の世界とは違ってくるだろうと思った。そんで……まぁ色々在って、完全にこの世界が「犬夜叉」とは違う世界である事を理解できたけど。

 

 成長して、殺生丸が産まれた。昔は可愛かったのに、今じゃツンツンだよ。出会う度に襲い掛かって来るし、昔の話したらマジで殺しに掛かってきた………家の弟、怖い…。

 

 それなりに強くなった。まぁ元からこの身体は龍である母と大妖怪である父の血を受けた身だからハイスペック過ぎる。子供の頃から叢雲牙の悪霊を抑え込めるくらいにはね。

 

 と言う訳で……このハイスペックな力で出来る限り、皆をハッピーにしてやろうと思う。前世の記憶はこれからに関係ある事以外は殆ど忘れているが、「犬かご」より「犬桔」派だったのは確り覚えてるので、頑張っていこう!

 

 殺生丸?……決まってる「殺りん」万歳。おっと……まずは十六夜殿を助けに行きましょうかね―



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第1巻 犬夜叉

 ―あにうぇ~-

 

 

 ―おぅどうした、殺生丸-

 

 

 ―どうしたら、あにうえやちちうえのようにつよいようかいになれますか?-

 

 

 ―頑張って修行すればいい―

 

 

 ―わたしもいつか、あにうえたちのようなだいようかいになります!-

 

『小さい殺生丸は可愛かった。何をするにしても我の後をひょこひょこと付いて来た。このまま兄を尊敬する弟になってくれればいいなぁ……いや上手い事いけばそうなんじゃね?』

 

 

「渡さぬと言うなら殺してでも奪うまで!」

 

 

 ―そう思ってた時期もありました。はい……現在、殺生丸()と追いかけっこ中です。追い掛けられている理由は、我の背の叢雲牙と腰の鉄砕牙だ。

 

 親父は龍牙王()に『一振りで百の亡者を甦らせる【叢雲牙】』を

 

 殺生丸に『一振りで百の命を救う【天生牙】』を

 

 犬夜叉に『一振りで百の妖怪を倒す【鉄砕牙】』を残した。

 

 かと言って、犬夜叉は未だ子供だ鉄砕牙を渡す訳にはいかないと言う訳で我が管理している。故に―

 

 現在の叢雲牙と鉄砕牙の所持者は龍牙王→龍牙王を倒せば二振りとも手に入る→龍牙王を倒す→兄を越えた上に剣が手に入る→「死ね!兄上!(鉄砕牙と叢雲牙を寄越せ)」と言う訳です。

 

 

「はぁ、殺生丸……今のお前には此奴等は使い熟せんよ。じゃあバイビー!【風の傷】!」

 

 我は腰の鉄砕牙を引き抜き、変化させると奥義「風の傷」を目晦ましとして使う。

 

 

「くっ!?……逃げたか、あの力……何時か我が手に」

 

 殺生丸は逃げた兄に舌打ちしながらも、何時か自分の手にと考えその場から去った。殺生丸が去ったのを確認すると、龍牙王は物陰から出て来た。

 

 

「はぁ……今のアイツは鉄砕牙の結界に拒まれるのによくもまぁ……分からなくもないけど、その執着を捨てない限り、親父は越えられんぞ殺生丸」

 

 龍牙王はそう言うと、何処かに向かい飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~屋敷~

 

 

「さんこんてっそう!」

 

 赤い衣を纏った銀色の髪の幼い子供が真剣な顔付で屋敷の岩をその爪で斬り裂こうとする。しかし岩にはほんの少しの傷しかつかない。

 

 

「むぅ……」

 

 

「犬夜叉」

 

 呼ばれた少年・犬夜叉は振り返るとそこには長い黒髪の美しい女性がいた。この女性こそ、犬夜叉の母・十六夜である。人間の姫の身でありながらも、闘牙王と愛し合い犬夜叉を産んだ。

 

 

「ははうえ!」

 

 先程までの顔つきが嘘の様に無邪気な子供らしい顔になって、母に抱き着いた。

 

 

「また修行をしていたのですか?」

 

 

「うん!つよくなっておれがははうえをまもるんだ!」

 

 

「あらあら……」

 

 十六夜は愛おしそうに犬夜叉を撫で抱き締める。

 

 

(私は後、どれほどこの子の傍に居れるのだろう?この乱世の世……この子を育てる為には此処に戻るしかなかった……でも)

 

 十六夜は知っている、この屋敷の者達が犬夜叉の事を半妖と蔑んでいる事を。それでも生きていく為には此処にいるしかない。十六夜は元はかなり位の高い家の姫だが、妖怪の子供を産んだ事で蔑まれ、この屋敷には情けで置いて貰っている身だ。

 

 そして半妖は人間からも、妖怪からも蔑まれる身だ。もし妖怪が犬夜叉を襲えば、自分には守る事はできない………犬夜叉も自分も殺されるだろう。かと言ってこのままこの屋敷にいても犬夜叉が本当に幸せなのかと彼女は考える。

 

 

(此処にいるのが……本当にこの子の幸せなのだろうか?……あなた……私はどうすれば)

 

 十六夜は我が子の事を思い涙を流す。犬夜叉はそれを見て、母を心配そうに見ている。その時、凄まじい風が吹いた。

 

 

「!?……この匂い」

 

 犬夜叉は半分とは言え狗妖怪である父の子供だ、鼻は人間の数倍以上効く。その鼻が匂いを嗅ぎ取った、それは何処か懐かしい匂いだった。

 

 風が止むと、そこには1人の青年が立っていた。

 

 

「あなた?」

 

 

「久しぶりだな、十六夜殿」

 

 犬夜叉と十六夜はその声で我に帰ると、青年が立っていた場所に少年が立っていた。

 

 

「龍…牙王……様?」

 

 

「あぁ、色々と走り回ってたら数年が経っていた。迎えが遅れてスマンな」

 

 

「どうして……此処に?」

 

 

「親父と約束したからな……犬夜叉が一人前になるまでは守ると」

 

 

「ははうえ……だれ?」

 

 

「この方は龍牙王様……貴方のお兄様ですよ」

 

 

「あにうえ?」

 

 

「あぁ……会うのは久しぶり……と言ってもお前は未だ赤子だったから覚えておらんか。お前の兄だ、因みにお前にはもう1人兄がいるが……いずれ会せよう。まぁ当分の間は無理だろうけど」

 

 犬夜叉は十六夜の後ろに隠れて龍牙王をジッと見ている。う~と唸って威嚇している様だ。

 

 

「警戒するのは仕方ないか……十六夜殿、まずは此処を離れよう。その子を狙ってくる同族も多い」

 

 犬夜叉は半妖……故にその力と血を重視する妖怪達にとっては、偉大な大妖怪である闘牙王の血が半妖如きに流れている事が許せない輩もいるのだ。

 

 

「ッ……ですが」

 

 

「案ずるな………母上と御母堂が色々と動いてくれたんでな」

 

 

 ―こうして我は十六夜殿と犬夜叉を連れ、この屋敷を出た。向かう先は親父の城……現在は殺生丸の母の城だ。御母堂には十六夜殿と犬夜叉を一時的に保護して貰う。

 

 犬夜叉を狙う者達がいる、我はそんな輩をどうにかする為にこの数年走り回っていた。しかし数が多い故に、完全に終わるまでは御母堂に保護して貰う事にしたのだ。御母堂は意外に乗り気だったので助かった、恐らく狗妖怪の性質だろう。母性が強く、成長した殺生丸が可愛げがなくなったと嘆き、幼く親父に似ている姿の我を着せ替え人形にして遊ぶのは止めて欲しい。

 

 親父に似て幼い犬夜叉と十六夜殿の事を聞き、是非とも保護したいとか。原作でも案外そうだったりして……まぁ分からんが、手伝って貰おう-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~天空城~

 

天空を飛ぶ城……元々は闘牙王の城だが、現在では殺生丸の御母堂の居城となっている。そんな天空城の一室では……

 

 

「おぉ!どれどれ、こっちの着物を着てみよ」

 

 

「あらっ可愛いですよ、犬夜叉」

 

 

 ―正妻やら側室やら関係なく仲良くなった母親達。犬夜叉は着せ替え人形になっている。ふぅ、これで着せ替え人形にされずに済む―

 

 

「いやだぁ~女の服なんてきたくない~あにうえ~たすけて~」

 

 

 ―無理、こっちも標的になるし―

 

 

「はくじょうもの~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―犬夜叉……我が鍛えてやる……だから強くなれ。いずれお前は出会うだろう、お前を想い、愛し、共に歩む者と……そんな存在を、大切な者を護る為の力を手に入れろ。我の様に失うな―

 

 龍牙王は着せ替え人形になる犬夜叉を見ながら、そう思っていた。



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第2巻 鉄砕牙

 ~???~

 

 どうも、龍牙王です。犬夜叉と十六夜殿を保護し、御母堂の所に連れてきて年月が経った。

 

 親父に似てる上に、幼い犬夜叉は御母堂に気に入られた。犬夜叉も母性溢れる御母堂に懐いていた。成長とは早いもので、ついこの間まで見下ろしていた犬夜叉が、今では見上げる程の背丈になった。

 

 親父の秘宝「火鼠の衣」を纏って、今は岩でも簡単に切り裂く。だがまたまだ未熟だ。

 

 一先ずはこれまでの話をしよう。

 

 修行をかねて、幼い犬夜叉を連れ出して日本各地を回ったな。蓬莱島にも連れて行ったりしたな。何で蓬莱島が出てくるか?あそこの巫女とは知り合いで、島の結界を張る際に手を貸したからだ。四闘神?なんか居たなそんなガキ共……我からすれば、大概の奴等は年下となる。何時産まれたか?覚えてない、長年生きてるとどうでも良くなるし、母親の所為で時間の観念とか無くなってる……それはまたの話にしよう。

 

 始めの頃こそ、十六夜殿と御母堂から離れると泣きじゃくっていた犬夜叉だが、親父の血の影響か強くなる度に泣く回数は減った。だが、まぁ……帰って来るなり十六夜殿と御母堂に甘えていたな、その度に我も巻き込まれそうになったが……と言うか十六夜殿はともかく御母堂ってこんなキャラだったか?

 

 殺生丸は相変わらず、力を求めて全国を旅している。戻ってくるなり我に襲い掛かってきたり、原作通りに犬夜叉を蔑むかと思えば、寝ている幼い犬夜叉を自身の尾のもふもふで包ん《バシッ!》←何処からか毒の鞭が飛んできた。

 

 十六夜殿は数年前に死んだ、現在の人間にしては長生きな方だったな。それからだったか………犬夜叉が我武者羅に力を求め始めたのは……そして1人で旅に出た。まぁ男だからそう言う時期もあるだろう。しかし……何時になったら我はお前をアイツに渡せるんだろうな。のぅ?

 

 

 ―ドクンッ―

 

 

「鉄砕牙……時が来たと言う事か?」

 

 暗闇の中に立つ龍牙王の腰にある、父の牙である鉄砕牙が脈動を打った。

 

 

 ―ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!―

 

 そして彼の言葉に応えるかの様に脈動が一層強くなる。

 

 

「そうか………現世に行くとするか。叢雲牙、道を開け」

 

 

【よかろう】

 

 龍牙王の背にある地獄の剣・叢雲牙の宝玉が紫色の光を発すると、龍牙王の前に球体が現れた。その球体には黒く宇宙の様な物が浮かんでいる。この技こそ「冥道残月破」、敵を冥道へと直接葬る技だ。

 

 一度飲み込まれれば助かる事など殆ど不可能である。だが同時に冥界から現世へと帰る方法の1つでもある。そして先程の声は叢雲牙に宿る太古の悪霊の声……人間やその辺にいる妖怪などがこの叢雲牙に触れれば、瞬く間に叢雲牙に意志を乗っ取られる事になるだろう。

 

 龍牙王は迷う事無く、「冥道残月破」へと飛び込んだ。本来は死神鬼と言う妖怪の技であるが、黄泉の剣である叢雲牙に、冥界に通ずる技が使えない訳がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~森の中~

 

 静かな森の中に、冥道が出現し中から龍牙王が現れた。

 

 

「ふぅ……冥界は気が滅入る。久々に現世に来たな、すぅ…はぁ…うん、やっぱりこっちの方が空気が美味いし死臭で溢れてない」

 

 と久々に来た現世の空気を堪能していた。それから背伸びしたり、肩を回したりと寛いでいる。すると何処からか光を纏った矢が龍牙王に向かい、飛んできた。

 

 

「おぉ、これほどの威力の破魔の矢。久しく見る事はなかった……誰だ、こんなもの撃ったのは?」

 

 龍牙王は矢を素手で簡単に受け止めると、矢が飛んできた方向を見る。そこには弓を構えている巫女が立っていた。巫女は矢を素手で簡単に受け止めた龍牙王を真っ直ぐと見ている。彼女は冷静な表情をしているが、その額には汗が浮かんでいた。

 

 

「私の矢を受け止めるとは……何者だ?見た所、それなりに名のある妖怪だと見受けるが」

 

 

(この巫女……もしかすると)

 

 

「お前も【四魂の玉】を狙ってきたのか?」

 

 

「(この姿……四魂の玉とくれば)……その様な物に頼るなど弱者のする事だ。我には必要ない」

 

 

「四魂の玉を狙ってないと?」

 

 

「あぁ……強さも、願望も自分で叶えてこそ意義があるものだ。ん?(スンッスンッ」

 

 龍牙王は何かの匂いを嗅ぎ取った。

 

 

「この匂い……妖怪の群れか」

 

 龍牙王は妖怪の群れを嗅ぎ取った。龍と狗妖怪のハーフとは言え、狗である以上は人間以上に鼻も、耳も効く。龍牙王に矢を放った巫女も妖怪達の邪気を感じ取り、空を見上げた。すると空の彼方から妖怪の群れが此方の方向に来るのが見えた。

 

 

「またか……四魂の玉を狙ってきたか(村に行かせる訳にはいかない)」

 

 巫女は再び、矢を番えて弓の弦を引く。狙うのは妖怪の群れだ。矢を放とうとした瞬間、自分の近くで凄まじい妖力を感じた。巫女はその方向を見ると、右手に雷を模った様な刀身を持つ刀を持った龍牙王がいた。

 

 

「やるぞ、雷砕牙……【白龍破】」

 

 龍牙王の持つ刀から白い雷が放たれる。雷が龍の形になると妖怪の群れへと襲い掛かった。そしてほぼ、一瞬で妖怪の群れが消し飛んだ。

 

 

「己の弱さを理解できぬ雑魚共が……」

 

 龍牙王はそう言うと、雷砕牙と呼んだ刀を反対の手に持っていた鞘に納めた。

 

 

「何故…?」

 

 巫女は龍牙王の行動が理解できなかった。龍牙王が妖怪達を倒す理由などはないからだ。

 

 

「特に理由などない……唯、あの様に知性もない者共は生かしておいても人の害悪になるだけだからな」

 

 

「何故、人を護る?」

 

 龍牙王は巫女にそう聞かれると一瞬だけ哀しそうな顔をして、雷砕牙を自分の尾の中へと仕舞う。

 

 

「1人の女と約束したからだ。『人はまだまだ未熟な存在……だから護って欲しい』とな」

 

 巫女はそれを聞いて驚いた顔をしている。普通、妖怪は自分の本能……己が欲のままに生きる存在だ。例に上げるなら殺生丸が良い例だ、覇道の為に力を求める。そこに理由はない、ただ最強であらんとする妖怪の血がそうさせるのだ。約束した……しかも人間と、ただそれだけの理由で動く妖怪など巫女は見た事はなかった。

 

 

「ただそれだけだ……おっこの匂いは」

 

 

『ききょー!』

 

 匂いのする方角から声が聞こえてきた。そして赤い衣を纏った少年が駆けてきた。少年は巫女に駆け寄ると、心配そうに巫女を見ている。

 

 

「桔梗!無事か!?妖怪共が来たみたいだが…」

 

 

「あ……あぁ。大丈夫だ、犬夜叉」

 

 

「そうか……なら良いんだが……ん?この匂い……げっ!兄貴?!」

 

 この少年こそ成長した犬夜叉の姿である。

 

 

「げっ!とはなんだ、お前を育ててやった兄に対して言う言葉か?」

 

 

「うるせぇ!何処の世界に、丸腰の弟に風の傷やら獄龍破を撃ってくる兄がいるんだよ!」

 

 

「それも修行の内だ……それにしてもあんだけ大妖怪になるやら言ってたのに……女の心配か。成長したなぁ我が弟よ」

 

 ニヤニヤした顔で犬夜叉を見ている龍牙王。

 

 

「犬夜叉、この方はお前の兄なのか?」

 

 

「えっ……あぁ……まぁ」

 

 

「我が名は龍牙王、そこに居る犬夜叉の兄だ」

 

 

「龍牙王……まさかあの【裁龍神】か?」

 

 

「ぁ~……その名は恥ずかしいのだが、そう呼ばれる事もある」

 

 恥ずかしそうに頬を掻く龍牙王。

 

 

「なんだ、そりゃ?」

 

 

「犬夜叉、自分の兄の事なのに知らぬのか?太古に異国より来た邪神から人を護り、人と共に生き、時には悪人を裁くと謳われた龍神の伝説……この日の国の者なら子供でさえ知ってるぞ?」

 

 かつて日本に異国より邪神がやって来た事が在った。邪神の力の性で地は黒く淀み、草木は枯れ、生命が生きられる様な状態ではなかった。この時は、日本の神々や妖怪、人間が手を携え共に戦ったがその邪神の力は凄まじく手に負えなかった。その時、天より来た龍神がその邪神を倒し、その光で地を浄化し、再び大地に緑を戻したと言う。そして暫く、地上で人と共に暮らし、時には咎人に裁きを与えたという。

 

 故に人々から、【裁龍神】【善なる龍神】などと謳われており、他にも色々な伝説を残している。日の国……つまり日本なら貴族から平民に至るまで子供でも知っている有名な話である。

 

 

「はぁ?兄貴が?……絶対盛ってるだろ、その話」

 

 

「大体は合っているぞ………それで犬夜叉よ。そちらの巫女殿は?」

 

 

「先程は失礼した。私は桔梗という……まさかあの伝説の龍神が犬夜叉の兄だったとは」

 

 彼女の名は桔梗。龍牙王は前世の記憶で知っていた。犬夜叉のヒロインの1人。最後には死してしまったが、奈落が居なければ、本来犬夜叉と共に生きていた巫女だ。四魂の玉の穢れを清め護る巫女でもある。

 

 それから犬夜叉、桔梗と共に話をしていた龍牙王は此処に来た目的を思い出した。

 

 

「そうだ、犬夜叉」

 

 

「なんだよ?」

 

 

「ほれっ」

 

 龍牙王は腰の鉄砕牙を犬夜叉に渡した。

 

 

「鉄砕牙……俺が変化させる事ができなかったから、兄貴が預るって言ったのに何で急に?」

 

 

「今のお前なら問題ないだろう、抜いてみろ」

 

 犬夜叉はそう言われ、鉄砕牙を抜いてみた。錆び刀で在った刀身が巨大な牙へと変化した。鉄砕牙は普段は錆び刀であるが本来は犬夜叉の父、闘牙王の牙から打ち出した妖刀である。

 

 

「なんで……」

 

 

「犬夜叉、鉄砕牙は一振りで百の妖怪を蹴散らす剣。しかしその本質は【守り刀】だ。元々は親父が十六夜殿を護る為に自らの牙から打たせたもの……人を慈しむ心がなければ使う事ができぬ……今までのお前はただ力を求めていただけだ。だが今は違う、桔梗殿を守ろうとする心がある。故に鉄砕牙はそれに応えたんだ」

 

 

「人を慈しむ心……」

 

 犬夜叉は鉄砕牙を見ながらそう呟いた。

 

 

「一先ずはお前に渡そう……さて、我は行かねば……何か在れば何時もの方法で連絡して来い」

 

 

「また何処に行くんだよ?」

 

 

「高天原にな……そろそろ顔出さないと、アイツが怒るだろうからな……あっそうだ、桔梗殿」

 

 龍牙王は桔梗に近寄る。そして袖の中から赤い数珠を桔梗に渡した。

 

 

「これは?」

 

 

「強がっていても犬夜叉は結構寂しがり屋でな……弟を頼む。これは、結界の媒体にでも使ってくれ。今よりは結界は強固になるだろう」

 

 

「はい……ありがたく使わせて頂きます」

 

 

「こらぁ!クソ兄貴!桔梗に近付くな!」

 

 

「おっと……まだまだだな。ではな、桔梗殿!今度は犬夜叉の恥ずかしい話や幼児の時の話をしよう!フハハハハ、さらばだ!」

 

 斬り掛かって来た犬夜叉の斬撃を避け、龍牙王は何処かに飛んで行った。



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第3巻 四魂の玉

今回は少し時間が飛びますが、犬夜叉と桔梗の話がメインです。


 ~龍牙王と桔梗が出会って1年~

 

 龍牙王は突然、犬夜叉に呼び出された。

 

 犬夜叉が龍牙王を呼び出す方法は1つ。かつて龍牙王から貰った鈴がある、それは特殊な力を発し龍牙王だけが知覚できる。幼き頃に犬夜叉に渡した物だ、しかし鳴らされた事は半妖である犬夜叉が力を失う朔の日……それも幼き頃くらいのものだろう。

 

 鈴が鳴らされた事に気付き、龍牙王は光の如き速さで犬夜叉の元へと翔けつけた。

 

 

「どうした、犬夜叉?」

 

 

「兄貴……ちょっと相談したい事がある」

 

 顔を赤くしながらそう言う犬夜叉。

 

 

「相談?」

 

 

「あぁ……その桔梗との事でだな。どうすればいいのか、分からなくて……冥加爺が兄貴なら分かるだろうって言うから」

 

 

「(なに、この弟……可愛いんですけど)……ほぅ冥加がね。隠れてないで、出て来い冥加」

 

 龍牙王がそう言うと、犬夜叉の髪の中から蚤の妖怪・冥加が出てきた。

 

 

「おっお久しぶりでございます、龍牙王様」

 

 

「あぁ」

 

 冥加は龍牙王を見て、俯いている。

 

 

「冥加爺?そういや、冥加爺は昔から兄貴と顔を合わせたがらないな」

 

 

「フン……冥加、あの時の事は貴様の責ではない」

 

 

「っ!しかし、儂等がいながら……『黙れ、それ以上言うな』」

 

 龍牙王から殺気が向けられ、硬直してしまった冥加爺。犬夜叉もその様な兄の顔を見た事ないため、全身から汗を噴き出している。だが彼は直ぐに何時もの表情になると、犬夜叉に顔を向けた。

 

 

「冥加、我はお前を恨んでおらぬし、アイツだってそれを望まぬ」

 

 

「龍牙王様……」

 

 

「それで、犬夜叉、何の用だ?」

 

 

「あっ……あぁ」

 

 犬夜叉は話し始めた、この1年桔梗と共に四魂の玉を狙う妖怪や各地の妖怪を退治してきた。その中で風の傷、爆流破(これは龍牙王に言われて、竜骨精を倒しに行った)を覚え、自分も強くなれたと。そして桔梗と愛し合い、共に生きようと考えたと。だが、桔梗は巫女……それも四魂の玉を護る巫女だ。普通の女としては生きられぬ……その為に四魂の玉を使い、犬夜叉は人間となると。そうなれば四魂の玉は正しき願いにより消滅する、桔梗もまた巫女の宿命より解放される。

 

 

「そうか……桔梗殿と生きるか。それはお前が選んだ道か?」

 

 

「あぁ……『愛する者の為なら、何処までも強くなれる。だからお前もそう言う者を見つけるんだな』って、昔兄貴に言われた事がやっと理解できたような気がするぜ」

 

 

「分かった……しかし、それでは四魂の玉は消滅しないぞ」

 

 

「えっ?」

 

 

「よし、取り敢えず桔梗殿に会いに行くぞ!」

 

 

「えっ、ちょっと待て!兄貴はなんでそんなことを知って……って離せ!」

 

聞こうとするが、龍牙王に首根っこを掴まれる犬夜叉。龍牙王はそのまま桔梗の村の方へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~桔梗の村~

 

 突如やって来た、犬夜叉と龍牙王。犬夜叉は桔梗と共にいるから未だしも、龍牙王は初めて来るため警戒しない訳がない。

 

 

「犬夜叉、それに龍牙王殿?」

 

 

「半月振りだな、桔梗殿」

 

 龍牙王は桔梗と会っていた。半月に一度程のペースで、会うのは犬夜叉の話をする為だ。赤子の時からずっと犬夜叉を見守っている龍牙王は大抵の事は知っている、それを話すためであり、桔梗自身が強くなる為に龍牙王に術を教わっていたのだ。

 

 

「少し話がしたくてな」

 

 

「そうですか……では私の家に」

 

 

「もふっもふっ」

 

 

「ん?」

 

 桔梗が龍牙王を家に案内しようとした時、小さい子供が龍牙王の尾を触っていた。これには村人達も顔を青ざめさせる、見ず知らぬ妖怪の身体に触れる等自殺行為にも等しいからだ。子供にそんな事が分かる訳もない、子供の母親らしい女性が子供を抱き、謝罪をしている。

 

 

「別に構わんよ、尾に触れられた程度で怒りはせん。それよりも……犬夜叉、気付いたか?」

 

 

「あぁ……ぐうぅぅぅぅ」

 

 犬夜叉は空の方を睨み唸っている。桔梗も何事かと思い、気配を探ると巨大な邪気を感じ取った。そしてその方向から凄まじい数の妖怪がやって来た。

 

 

(こんなに近くまで……やはり霊力が)

 

 桔梗の霊力は落ちている。その理由は恋をしたからだ、巫女は恋をすれば霊力が落ちるとされている。

 

 

「また妖怪共か……近頃多いぜ」

 

 

「(もう鬼蜘蛛が動き出しているのか)弟の恋路は邪魔させんよ」

 

 

「兄貴?」

 

 

「犬夜叉、下がっていろ……グルルル」

 

 龍牙王の眼が紅く染まり、その身から眩い光を放ち天へと昇る。その姿は人から空一面を覆う七色の光を纏う巨大な龍へと変化していく。龍へと変化した龍牙王は神々しい光を放ちながら妖怪達を見据えている。光の所為でハッキリとした姿は分からないが、巨大過ぎる。

 

 

【悪しき者共よ、消え去るがいい】

 

 龍がそう言い、一瞬、太陽の様な光を放つと妖怪達は光により消滅した。龍はそれを見届けると、再び人の姿へと戻った。

 

 

「ふぅ……一先ずは脅威は去ったか。ん?」

 

 龍牙王は周りを見てみると、村人達が自分を崇めていた。あの様な光景を見れば、龍牙王が龍神だと気付くだろう。龍牙王はそれを見て、困ったような表情をする。犬夜叉と桔梗の脅威になると思ったから、自分の本性を現してまで妖怪を消滅させた。まぁ本人の思惑は別の意味もあるが、それは置いておこう。

 

 それから龍牙王は犬夜叉と桔梗と話をする事にした。

 

 まずは四魂の玉の事だ、四魂の玉は「正しき願い」を告げない限りは消滅しないと。その正しき願いとは「四魂の玉の消滅」だ。その事を前世の知識で知っていた龍牙王はそれを伝えた。

 

 犬夜叉と桔梗はそれを聞くと、玉の消滅を願うと決めた。犬夜叉は自分が人間になれずとも、桔梗を宿命から解放できると言い、それを伝えると桔梗は了承した。

 

 次に犬夜叉の事だ。犬夜叉を人間にするのは簡単な事だ、元は半分人間であるため、龍牙王の力を使えば人間に出来ると言う事だ。

 

 2人はそれならば、玉の消滅を実行させる事を決め、夜明けに実行する事にした。

 

 

 

 

 

 龍牙王は桔梗の村の上空から、地上を見降ろし笑みを浮かべていた。

 

 

 ―さて……俺の掌で踊って貰うとしようか、奈落-



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第4巻 四魂の玉の消滅

 ~夜中~

 

 ―己、一体なんだあの巨大な力は……あの様な力が桔梗の味方に付いたと!?くっ今のままでは四魂の玉を我が手に入れる事は出来ぬ……しかし、今はあの力は村から感じぬ。ならば今こそ好機―

 

 怪しい影が四魂の玉を祀る神殿に忍び寄る。すると声が聞こえてきた。

 

 

「じゃあ、桔梗。夜明けにな」

 

 

「あぁ……御神木の前で四魂の玉を持って待っている」

 

 その声が止むと、神殿から犬夜叉が飛び出した。

 

 

 ―夜明けに御神木の前……良い事を聞いた。奴等を利用し玉を黒く染めてやる―

 

 影は神殿より去った。

 

 この時、影は知らなかった。既に自分が龍牙王の掌に乗っていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~夜明け前 御神木前~

 

 桔梗は四魂の玉を持ち、御神木の前に来ていた。だが未だ犬夜叉は来ていない。

 

 

「犬夜叉……寝坊したのだろうか?」

 

 そう考え、少し移動し花畑の方へと歩みを進めた。そして犬夜叉から貰った貝殻に入った紅を取り出した。これは犬夜叉の母・十六夜の形見である。十六夜はこの紅と犬夜叉の纏う「火鼠の衣」を犬夜叉に残した。桔梗は紅をつけようと貝を開く。

 

 そんな桔梗に影が迫る。

 

 

「テメェ!桔梗に何しやがる!」

 

 声と共にその影に鉄砕牙で斬り掛かる犬夜叉。

 

 

「犬夜叉!?」

 

 桔梗は慌てて振り返る。そこには鉄砕牙を持った犬夜叉と、もう一人の犬夜叉がいた。

 

 

「犬夜叉が2人?……いやこの気配、誰だ!?」

 

 

「くっ!何故だ!?何故、貴様が此処にいる犬夜叉!」

 

 もう1人の犬夜叉がそう叫ぶ。

 

 

「残念だったな、奈落」

 

 もう1人の犬夜叉は空を見上げると、そこには龍牙王がいた。

 

 

「貴様、何者だ!?何故、儂の策が分かった!?」

 

 もう1人の犬夜叉は服を脱ぎ捨てると、狒々の被り物を被った様な姿に変わり、龍牙王に向かい叫ぶ。

 

 

「我が名は龍牙王。そこにいる犬夜叉の兄だ……何故貴様は犬夜叉と桔梗殿の仲を引き裂こうとしていたのは知っている。それほど、桔梗殿が欲しいか、鬼蜘蛛?」

 

 

「鬼蜘蛛!?」

 

 

「何故それを!?」

 

 桔梗は鬼蜘蛛と聞いて驚いた。鬼蜘蛛とは桔梗が匿っていた野盗であり、多くの妖怪にその魂を食わせ、半妖となった本来の犬夜叉の宿敵だ。

 

 

「貴様が知る必要はない」

 

 

(龍牙王と言えば、あの伝説の龍神。そうか先日のあの力……まずいこの場から逃げねば、今の儂ではアレには勝てん)

 

 鬼蜘蛛はそう考えながら、ゆっくりと身を退いていく。原作ではかなりの力をつけていた、しかし今は未だそれだけの力はない。まぁ原作の様な力を持っていても勝てるかどうか分からないが……今はこの場から逃げなければならない。

 

 

「くっ!ぐわっ!?」

 

 鬼蜘蛛はその場から飛び去ろうとするが、背中に衝撃が走る。

 

 

「残念、既に此処は我が結界内。逃げだす事は叶わぬ」

 

 

「テメェ!鬼蜘蛛だか、何だか知らねぇが!よくも俺の姿で桔梗を襲いやがったな!覚悟しやがれ!」

 

 それから犬夜叉と桔梗は力を合わせ、鬼蜘蛛を倒す。小さい蜘蛛になって逃げようとしていたが、最後には龍牙王の力で魂の一片も残さず消滅した。

 

 全て、龍牙王の思惑通りである。前世の知識を用いて、以前より準備は進めていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―それから、桔梗殿の願いにより四魂の玉は消滅した。マジで声、あの人だったわ。「親父にもぶたれた事ないのに!」って言って欲しかったなぁ……おっといかん、話しが逸れた。

 

 そして、我が力を用いて犬夜叉の中から妖力を吸い出した。それにより犬夜叉は人間となり、晴れて桔梗殿と一緒になれる様になったと。

 

 戦闘シーンがない?

 

 とは言っても犬夜叉が風の傷で攻撃する。桔梗殿にも弓矢を渡して攻撃→奈落はバラバラ、再生して攻撃→大きい一撃を放ったタイミングで爆流破と桔梗殿の破魔の矢で大ダメージ→死に掛けの奈落は蜘蛛になって逃げだすが、叢雲牙に魂を喰わせて終了だ。

 

 さてと………忙しくなる。まずは犬夜叉と桔梗殿の結婚式だ。桔梗殿はそんな事しなくていいと言ったが、やはり年頃の少女だから式はした方がいいだろう。それに十六夜殿の遺言もある……十六夜殿と親父は式など挙げる暇はなかった。せめて犬夜叉の妻になる者には花嫁衣装を着せてやって欲しいと。

 

 結納品は……屋敷でも立てるか?それとも……―

 

 そう悩む龍牙王の姿はとても伝説に聞くような龍神には見えなかった。




~特別空間~

此処に作者呼ばれた奈落とそこ分身達がいる。


ーちょっと、奈落の扱いが雑過ぎた気がする……まぁいいかー


「良くないわ!おのれ!よくもこの奈落をあの様な目に!せめてもう少し出番を寄越せ」

作者に文句を言う奈落。


ーだって犬桔にするためには邪魔なんだもん。お邪魔虫だな、蜘蛛(虫)だけにー


「私らの出番なしか」


「なし…」


ー神楽と神無ちゃんに罪はない。考えておこうー


「そりゃ、ありがたい。やったな神無」


「うん…」

喜ぶ神楽と神無。


「「「「儂(俺)は?」」」」

奈落とその他分身達。


ー野郎に用はない、失せろー


「儂は女にも化けられるぞ!」


ー見た目だけ化けても仕方ないだろ、それに出てどうするんだよ?ー


「桔梗と犬夜叉の仲を引き裂くに決まってる」


「うわぁ…まだあの女の事、引き摺ってるぜ」


「あの様な未練たらしい男の心臓なのか、儂は…」

と奈落を見て、ヒソッヒソッと話している分身達。分身達からすら変な目でみられる奈落であった。


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第5巻 牙

 ~火山~

 

 火山帯にある巨大な魚の骨で出来た工房。その中に1人の妖怪が住んでいた。

 

 

「ふぁ~……なんか嫌な予感がする。殺生丸でも来るのかな?………逃げよう」

 

 このよぼよぼの妖怪は刀々斎。見た目によらず犬夜叉の父・闘牙王の牙から鉄砕牙と天生牙を作った刀匠だ。刀々斎は嫌な予感を感じて、この場から去ろうとしていた。

 

 

「刀々斎」

 

 

「おわぁ!?儂はお前に刀を打たんぞ!……って龍牙王、お前さんか」

 

 

「あぁ……貴様に仕事を依頼しに来た」

 

 

「はぁ?お前さんはもう牙を多く持ってるだろうに……これ以上何を望む?」

 

 刀々斎は冥加爺と同じ、闘牙王に仕えていた妖怪達の1人だ。

 

 

「守護の刀……そして人を禍より護る刀だ」

 

 

「はぁ?それならお前さんも持ってるだろう」

 

 

「あぁ、しかし人の身が扱うには強大過ぎるから我以外に使えん。だから人……正しい心を持つ人間だけが使える刀を打ってくれ」

 

 

「むぅ……分かった。何を素材にするかのぅ……お主の注文通りに作るなら相応の物がないと」

 

 

「素材なら此処にある」

 

 刀々斎は龍牙王は口を開き、左側の上の牙をへし折った。

 

 

「なっ……なぁ~!!なんて事しやがんだ!!!半分とは言え狗妖怪の牙をへし折るなんて!その牙にはお前の力が何百年……いやお前さんなら何千年分の力が蓄積されてるだろうが!」

 

 

「純粋な狗妖怪ではないからな、牙はまた再生する。我が力の大元は宝玉だ、牙など大した物ではない」

 

 

「それでも、牙だけで親方様の半分以上の力を持ってるじゃねぇか……はぁ分かった。作ってやるよぉ……お前さんにはあの時」

 

 刀々斎が何かを言おうとするが、龍牙王が睨みつける。それ以上言うなと言う目だ。

 

 

「ッ!すまん……それにしても誰が持つんだ?」

 

 刀々斎は牙を受け取ると、作業に入る。

 

 

「犬夜叉だ」

 

 

「犬夜叉?……アイツには鉄砕牙が……ってなんでまたお前が持ってるんだ?」

 

 

「人間になったからな。もうアイツには使えん、だから代わりの物を用意してやろうと思ってな」

 

 

「はぁ?!」

 

 龍牙王は刀々斎に事情を説明した。犬夜叉と桔梗の事、四魂の玉の事を。

 

 

「それにしても……全く親子だなぁ」

 

 

「なにが?」

 

 

「親方様も鉄砕牙を作る時、躊躇なく牙をへし折りやがったんだ……十六夜を護る為の力が欲しいってよ」

 

 刀々斎は龍牙王を見る、その姿がかつての主・闘牙王の姿と重なった。

 

 

「……では頼んだぞ」

 

 龍牙王はそう言うと、去って行った。

 

 

「親方様、ますます、アイツはあんたに似てきたぜ……はぁ、これも儂等の性じゃなぁ。儂等があの時…」

 

 その呟きは金槌の音に打ち消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙王は飛んでいると懐かしい匂いを感じた。

 

 

「殺生丸か」

 

 

「お久しぶりです、兄上」

 

 それはもう一人の弟・殺生丸だった。

 

 

「やはり鉄砕牙は兄上の元に戻っていたか……兄上、鉄砕牙と叢雲牙を私に譲って頂きたい」

 

 

「まだ言っとるのか、お前は……親父と同じ戦バカめ」

 

 

「何と仰ろうが構いませぬ。ですが、その牙達こそ最強への道を開く力……何としても手に入れる」

 

 その眼は唯、純粋に力を求める眼だ。父を超える為に力を求めている殺生丸。だがそれだけでは駄目だと龍牙王は知っていた。

 

 

「殺生丸、お前に守るべきものはあるか?」

 

 

「!?」

 

 殺生丸は兄の言葉を聞いて驚いた。その言葉は正に最後に父が自分に聞いてきた言葉だ。

 

 

「守らねば生きていけぬ様な弱者は不要」

 

 殺生丸はそう伝えた。彼にとっては力こそが総て、強者こそが絶対だ。

 

 

「……殺生丸、いつかお前にも出来るだろう。もしその時が来れば鉄砕牙は譲ろう」

 

 龍牙王はそれだけ言うとその場から去った。



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第6巻 殺生丸

今回は殺生丸の回想です。

時代的には

幼き頃:千数百年前の話

成長後:犬夜叉が産まれて数年の間の話

となってます。


 西国を治めた大妖怪・闘牙王とその妻・御母堂。

 

 2人の間に男の子が産まれた。それこそが次男・殺生丸だ。両親は殺生丸を見て確信した、この子はいずれ闘牙王を超える大妖怪になると。

 

 幼き殺生丸は歩ける様になると、何をするにも父の後をついて回った。恐らくこの頃から最強である父に憧れていたのだろう。そんな殺生丸の前に1人男が現れた。殺生丸はその男に父と同じ面影を見た。姿形だけではない、その溢れんばかりの巨大な力まで父と同じだ。

 

 

「殺生丸、この者は腹違いのお前の兄だ」

 

 母にそう言われ、龍牙王をジッと見ている殺生丸。

 

 

「あにうえ……」

 

 

「我は長く生き過ぎて兄と言われても実感ないが……まぁ宜しく頼む、殺生丸」

 

 

「まぁアイツの事だから、そう言う風にしたには意味があるのだろう」

 

 闘牙王はそう言う、アイツとは龍牙王の母の事だ。

 

 

「いや、違うね。ありゃ、我が困っているのを見て絶対に楽しんでやがる」

 

 

「そんな訳……ないとも言い切れんな、アハハハハ」

 

 笑い合う父と兄、幼き殺生丸はそれを見て何故か腹が立った。この兄という者に、父を取られた様な気がしたのだ。

 

 別にそう言う訳ではないのだが、子供心にそう思ってしまったのだろう。可笑しい話ではない、子供は親に認められ様とするものだ。なのに、突然現れた兄と名乗る父に似た者は誰よりも認めて欲しい父上に認められていた。それは言葉で言わずとも幼き殺生丸にも理解できたのだ。

 

 そんな、気持ちを抱えながら殺生丸は何かと構ってくる龍牙王にそっぽを向く。

 

 

「殺生丸、遊ぼう」

 

 

「わたしはそんなに子供ではありません」

 

 遊びに誘ってきた龍牙王にそう言って去る。

 

 

「今日は1人であろう、兄が添い寝してやろう」

 

 

「けっこうです」

 

 1人で寂しく寝るのを忍びなく思った兄が誘うが、行ってしまった。

 

 

「一緒に風呂へ」

 

 

「ゆあみはひとりでできます」

 

 

「では兄が修行を」

 

 

「ちちうえにならうのでけっこうです」

 

 

「殺しょ」

 

 

「ちちうえ~」

 

 事あるごとに構おうとするが、悉く避けられる龍牙王。

 

 

「御母堂………我、何かしたか?」

 

 

「はてさて……最近では妾にもあの調子だ。全く可愛げのない…誰に似たのやら」

 

 龍牙王は「それは貴女でしょう」と言おうとしたが、にっこりと笑う御母堂を見て直ぐに言葉を呑み込んだ。

 

 例え龍神であろう母には勝てない……曰く「言ったら殺される」だそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーどうして、あんな変な者が兄なのだろう。事あるごとに私と関わろうとする。父上に似たあの者は、似てはいるが性格は異なる。父上はあんなにもだらしなくないし、酒に酔って裸踊りなどしないー

 

 これまで殺生丸は龍牙王を見ていた。飯を喰ったと思えば寝る、だらしない顔で……ふざけた様な顔をして日常を送る。酒に酔ってどんちゃん騒ぎの上に衣を脱いで踊り出す。酷ければ朝から酒を飲む。

 

 しかも最も尊敬する父親とそっくりな者がするのだ。許せる訳がない、絶対に父親はそんな事はしない…と思っているのは殺生丸だけでなのだか……

 

 実際には闘牙王と龍牙王は似ている姿形だけでなく、性格、普段の何気ない動作まで似ていた。これは龍牙王が長い間、闘牙王に憧れ追い続けた結果と前世の影響である。元々の性格が闘牙王に似た者であったのだろう。唯、殺生丸の中で美化され過ぎているだけなのである。

 

 

 

 

 

 それから少し経っても、相変わらず殺生丸と龍牙王の仲は良くない。

 

 だが、2人の距離が縮まる出来事が起きた。

 

 大陸より、異国の妖怪が日ノ本に攻めて来たのだ。闘牙王は勿論、龍牙王だけでなく、日ノ本に全域の妖怪が集結し異国の妖怪と戦うという大きな合戦だ。

 

 幼き殺生丸も共に行きたいと行ったが、戦を経験するにはまだ幼な過ぎた為に置いて行った。しかし殺生丸は隠れて着いていった。唯、父親に認めて貰いたいという子供心で……。

 

 異国の妖怪達は確かに強かったが、雑魚は闘牙王と御母堂の血を引く殺生丸がその幼き爪で引き裂くのは簡単な相手だった。しかし、大将クラスになればまた別の話だ。そのか弱い爪が届く訳もない。

 

 幼き殺生丸は虎の様な妖怪の手に掛かりやられそうになる、目を瞑ってしまうが何時になっても痛みが来ない。目を開いて見ると、自分の前に龍牙王が立っていた。

 

 龍牙王は片手で妖怪の爪を止めていた。

 

「我が弟に手を出すな、雑魚が」

 

 

【ナニィ、我ガ一撃ヲトメタ!?】

 

 

「その姿……窮鬼か」

 

 

【貴様何者ダァ!ブルワァァァ!】

 

 窮鬼は腕に力を込め、爪で引き裂こうとするが腕な全く動かない。

 

 

「我は龍牙王……貴様等にこの日ノ本は渡さん!」

 

 龍牙王は窮鬼の腕を弾き飛ばし、大きく後退し小さい殺生丸を抱える。

 

 

「殺生丸!歯をくいしばっておけ!ガアァァァァ!」

 

 龍牙王の目が真っ赤に染まり、凄まじい妖気と共にその姿を巨大な狗へと姿を変える。龍牙王は母から龍の姿と力を、父からは狗妖怪の力を受け継いだ。

 

 白銀の毛並みに、鋭い牙と爪、窮鬼を超える巨大な身体。その姿に幼き殺生丸は掴まっていた。

 

 

【ガアァァァァ!】

 

 狗となった龍牙王はその牙で簡単に窮鬼を噛み砕く。それからはほぼ一方的に龍牙王の牙と爪で異国の妖怪達が蹂躙されていった。それは日頃のだらしない生活をしている姿からは全く予想できなかった。

 

 

【ウォォォォァン!】

 

 異国の妖怪達の屍の山の上で雄叫びを上げる龍牙王。

 

 その蹂躙の全てを幼き殺生丸は見ていた。人間であれば恐怖するところだが、妖怪である殺生丸は違う。父に次ぐ最強を目の当たりにした彼は、兄を始めて尊敬した。そして何時か父と兄を超えようと志すのであった。

 

 しかし、無断で着いて来た殺生丸はこの後に闘牙王からキツイお灸を据えられる事になったのは言うまでもなかったが、今の彼にとってそんな事はどうでもよかった……なんせ、父以外に憧れる存在が出来たのだから。

 

 それから、殺生丸は一変し龍牙王の後を着いて回ることになった。そして手を組んだ龍牙王と御母堂により修行と称した着せ替え人形になったり、成長した本人にとって恥ずかしい思い出となったのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 成長した殺生丸は、その血に従い力を求めていた。

 

 だがかつて目指した父は人間等という弱小な存在を助け死に、兄もとある事件でかつての様に力を出さなくなった。

 

 

 ー父上……何故人間等を…それほど人間に価値があるというのですか?

 

 兄上、貴方もだ。人間の女の為にその身を幼くし、守っている。何故人間等という弱き存在の為にそこまで出来るのですか?ー

 

 自分が目指した最強達、父は人間の女の為に死に、兄は人間の女の為に力を封印した。もう自分が目指した最強達はいない……もう超えるべき目標はいない。

 

 正確には認めて欲しかった最強である父も兄もいないと言う事だ。兄は生きているが、かつての兄ではない腑抜けた存在だ。

 

 故に殺生丸は父の力の象徴である天下覇道の剣を求めた。それを手にし、使いこなす事は父に認めて貰えると同じ意味だと考えたからだ。

 

 そして殺生丸は龍牙王の元に向かった。現在、父の形見である鉄砕牙と叢雲牙は龍牙王が持っている。それらを手に入れる為に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーバチィ!バチッ!ー

 

 しかし現実は簡単に行かない、龍牙王により鞘から引き抜かれ地面に突き立てられた鉄砕牙の結界に阻まれた。鉄砕牙は父の牙、鉄砕牙に否定されたのは父に否定されたも同じだ。殺生丸は幾度も鉄砕牙を抜こうとするが結果は同じ。

 

 鉄砕牙には意志があり、扱うには人を慈しむ心がなければならない。今の殺生丸に人を慈しむ心などある訳がない。

 

 結界に阻まれ、膝をついてしまった時、父の言葉を思い出した。「お前に守るべきものはあるか?」と。

 

 そんな殺生丸を見て、龍牙王は鉄砕牙を鞘に納めると、自分の尾の中から一振りの剣を取り出し、殺生丸の前に突き立てる。

 

 

「コイツは闘鬼神、鬼の牙から打った物だ。まずはコイツで自分を鍛えろ、そして親父の言葉の意味を考えろ」

 

 龍牙王はそれだけ言うと去っていく。殺生丸も立ち上がると闘鬼神を手にして兄の去った方向を見つめていた。今は力を封印しているが、龍牙王こそは自分が超えるべき最大の壁だと再認識した。

 

 

 ー兄上…何時か必ず、貴方を超えて見せるー




~不思議空間~

無言で幼き頃の殺生丸の話を見ていた奈落とその分身達。


「あの殺生丸にもあんな頃が……」


「何か気持ちわりぃ」

等とそれぞれ反応している。


ーどうだったかな、神楽ー

ぼっーとしている神楽に話し掛ける作者。しかし、反応がない、しかも鼻血出てる。

全員の視線が突き刺さり、我に帰った神楽は慌てている。


「べっ別にアタシは殺生丸を見て興奮した訳がじゃねぇ!」


「神楽、誰も聞いてないのに」


「はっ!?」

神無に言われ顔を真っ赤にする神楽。


ー仕方ない、そんな神楽には特別サービス。そこで笑っている奈落達を倒したら、龍牙王撮影の幼き頃の殺生丸様写真集を上げようー


「ななななな…べっ別に欲しくないけどやってやる。奈落達には本編での怨みがあるしな」

やる気になった神楽は扇子を構える。奈落達も勝てると思っているのか?と言う風な態度だ。


ー因みに此処では、お前らは人間と同じだから……能力使えないよー

作者の声を聞いて


「ふざけるな!」


「人権…妖権の侵害だ!」

等と抗議している。しかし、奈落は竜巻に巻き込まてしまう。


「ちょっと待て、能力使えないんじゃ」


ー俺、女の子には優しいんだよ~。それに……ー


「「「それに?」」」


ーゆ・え・つー


「「「この下衆がぁぁぁぁぁ!」」」

こうして、犬夜叉と桔梗を引き裂こうとした悪達は竜巻により滅んだのである。




・殺生丸写真集「せっくん、可愛い」

撮影者:龍牙王・闘牙王

監修:御母堂様

・内容

龍牙王の知識と能力を結集し造り出したカメラにより撮影された殺生丸の写真集。

因みに当然、本人に許可などとっていない。産まれた直後から龍牙王と闘牙王により撮影され、御母堂様により監修された一品。

限定百冊生産されたが、見つかり次第殺生丸により処分された。現在残っているのは、御母堂様と龍牙王の保存・永久保存・観賞用の計6冊と数冊のみ。

殺生丸は美しく、強いため、女性妖怪の間では人気は高いので全財産を賭けてでも手に入れようとする品である(笑)。

龍牙王、御母堂共に何時か殺生丸に嫁や子供が出来た際には是非とも見せてやろうと企んでいる。


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第7巻 兄と弟、そして鑑賞会(笑)

 ー龍牙王だ。まずは此れまでの事を話そう。

 

 犬夜叉と桔梗殿はちゃんとした結婚式を上げた。うん、桔梗殿の白無垢を美しかった……犬夜叉は……贔屓目で見ても馬子にも衣装みたいな感じだったな。

 

 式には犬夜叉の家族として我、御母堂、親父、十六夜殿が参加した。えっ?死人がいる?問題ない、黄泉の王とは知り合いだ。酒で手をうった。

 

 それから、変わった事と言えば桔梗殿の村に我が祀られる事になった。まぁ、我を祀ると言う事はその土地が我の領地となると言うことだ。この土地を襲おうとするバカな妖怪もいなくなるだろう。個人的には犬夜叉と桔梗殿、そしてその子孫を護れるならと言うことで引き受けた。そして神社には巫女として桔梗殿とその妹の楓が着任した。

 

 ちゃんと手続きはしたし、高天原の神の許可も貰った。天照に言ったら二つ返事で良いよって言われた。何で最高神と知り合いなのか?色々とあんだよ……。

 

 丁度、近くに我が所有する土地も在ったのでそこと合併した。名前は特に決めてないが……人間は駒王(こまおう)と呼んでいるのでそれに決めた。

 

 ん?駒王(こまおう)……駒王(くおう)まさかな。そういや、1500年程前に赤い竜と白い竜…天使・堕天使、そして腐れ悪魔共の戦争があって……それに介入した様な……ぁあ~今、思えばD×Dだなありゃ。

 

 悪魔に対して当たりが強い?悪魔には因縁があるからな、それはいずれ話そう。それにしても……D×Dの舞台が我が土地になるとは……これは気を引き締めよう。

 

 それからなんだっけ……犬夜叉は人間になったものの、身体能力は普通の人間を遥かに凌ぐ、刀々斎に打たせた我の牙で出来た剣を二振り渡した。

 

 1つは結界を張る剣、もう1つは魔や邪を祓う剣だ。桔梗殿と楓ちゃんも我が加護を受け、霊力があがり3人で妖怪退治や悪霊払いをして生計をたてている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬夜叉が人間になって50年が過ぎた。犬夜叉も桔梗殿も大往生し、今はその孫達が神社を仕切っている。

 

 そんな時、殺生丸がやって来た。原作の様に邪見とりんを連れて…。我はそれを見て、殺生丸に鉄砕牙を渡した。このまま行けば、殺生丸も答えを見つけると思ったからだ。

 

 そして、その考えは当たった。冥道残月破を手にして、りんを再び死なせてしまい、愛する者を失った哀しみを知った。そして、鉄砕牙への執着を捨て、自分自身の牙・爆砕牙を手に入れた。

 

 まぁ、鉄砕牙はほぼ完全状態で渡してたからな。この50年で、月夜丸、宝仙鬼、奪鬼などと関わる事が在ったので冥道残月破以外は習得済みだったしな。因みに旅の途中で弥勒やら珊瑚にも会った、そんで我は二人の恋のキューピットになったりと色々在ったな。

 

 それから少し経ってから殺生丸が結婚式すると言ってきた。相手は勿論、りんちゃんだ。

 

 だが婚姻する前に、一度全力で戦ってほしいと殺生丸に頼まれたー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~荒野~

 

 荒野に立ち、互いに相手を見ている龍牙王と殺生丸。

 

 殺生丸の腰には鉄砕牙と天生牙はない。前にやった闘鬼神は折れたらしい、鉄砕牙達は今は此処から離れている場所に御母堂と共にいるりんちゃんに預けてる。どうやら自分自身の力だけで我に挑む様だ。

 

 殺生丸は爆砕牙を抜き構える。龍牙王も自分の尾の中の牙を取り出した。その牙は普通の刀と変わらぬが、峰の部分だけが真っ黒になっている。

 

 殺生丸はそれを見て、笑みを浮かべた。その理由は龍牙王が出した牙だ、今まで兄弟で戦うのに決して出さなかった自身の牙を龍牙王が出した。それは兄自身が自分を牙を出すべき相手だと認識してくれた、認めてくれたと思ったのだ。

 

 先に動いたのは殺生丸だった。人の目では見えぬ程、速い動きで龍牙王に迫り爆砕牙を降り下ろす。

 

 龍牙王はそれが見えていた、故に殺生丸の一撃を右手の牙で受け止めた。だが殺生丸も受け止められるのは分かっていた。父と同じく目指した最強がただの一撃で倒せる訳もない。

 

 殺生丸は直ぐに爆砕牙を引き、連続で斬撃を繰り出した。爆砕牙の能力は斬りつけた部位から爆発が起こり、全体にダメージが広がると言うものだ。原作でもチート的な武器だった、故に爆砕牙を同じ敵に対して幾度も振るう事など殆どなかった。

 

 しかし龍牙王には、その牙が届く前に防がれている。

 

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

 原作でも掛け声など殆ど出さずクールを貫いていた殺生丸が掛け声をだし、斬撃が先ほどより速くなる。次第に土煙が龍牙王を包み込む、しかしそんな事は殺生丸に関係ない。斬撃は確実に防がれ、匂いは其処にある。自身の持てる全てを掛けて越える壁だ、一瞬たりとも気が抜けない。

 

 

「!?」

 

 殺生丸は爆砕牙が動かなくなったことに気付く。そして、土煙の中の龍牙王の気配が変わった。土煙の中から感じるのはかつて目指した兄の気配だった。次の瞬間、土煙が何かに吹き飛ばされた。

 

 そして、龍牙王が立っていた場所に素手で爆砕牙を止めている青年の姿があった。

 

 殺生丸と同じ位の背丈、闘牙王と似ている顔立ち、額の太陽、頬の紋様、首から掛かる宝珠、鎧、3本の尾。それは本来の姿の龍牙王だ。

 

 

「!」

 

 殺生丸はその姿を見て、表情には出さないが歓喜していた。兄がこの姿を出すのは、本気になる時のみ……それは兄が本気を出すに値すると、認めてくれたのだ。それは何事にも代えがたい喜びだ。

 

 

「強くなったな、殺生丸」

 

 

「それも、兄上が居たからこそ。父上亡き今、兄上こそ私が越えべき最強だったからです」

 

 

「そうか……殺生丸、1つ教えてやろう。我や父上を越えると言うことは、お前が愛すべき者を護り通した時だ」

 

 殺生丸は兄な言葉を黙って聞いていた。

 

 

「親父にも、我にも出来なかったこと……お前なら出来るだろう。後、りんちゃんは人間だ。産まれてくるのも半妖だ」

 

 

「心得ています」

 

 

「ならば言うまい。殺生丸、よくぞ此処まで這い上がってきたな。流石は我が弟だ」

 

 

「兄上…」

 

 その言葉こそ、殺生丸が父や兄から言って貰いたかった言葉だ。そして龍牙王の持つ牙に力が収束していくのに気付いた殺生丸は、自分の妖気を自身に纏わせる。

 

 

「これは我からの餞別だ。心して受け取れ……陰陽牙【滅犧鑼怨(メギドラオン)】」

 

 陰陽牙より放たれた光と闇による破壊の力が、龍牙王と殺生丸を呑み込んだ。

 

 眩い閃光が起こり、消えると荒野に巨大なクレーターが出来ていた。その中心には少年の姿の龍牙王と殺生丸が倒れていた。二人ともボロボロである。

 

 こうして、兄弟の決闘は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~天空城~

 

 

「いだだだだ!御母堂!もう少し優しく」

 

 

「至近距離であんな技を放ったのは自分であろう、長男殿。この位は我慢されよ」

 

 御母堂に傷の手当てを受けている龍牙王。

 

 

「殺生丸様、大丈夫?」

 

 

「……」

 

 りん()の手当てを無言で受けている殺生丸。痛かったのか表情が歪む。

 

 2人とも、手当てなどせずとも時間を掛ければ勝手に治るが動けない痛みで2人はされるがまま治療を受けていた。

 

 

「痛っ……それで殺生丸、満足したか?」

 

 

「はい……」

 

 

「殺生丸も満足した所で……婚姻の準備だな」

 

 御母堂がそう言い出した。龍牙王はそれを聞いて、ニヤッと笑みを浮かべた。殺生丸はそれを見て、悪寒がした。

 

 

(兄上のあの顔……ろくでもないことを考えているな。何としても止める)

 

 殺生丸は経験上、龍牙王があの笑みを浮かべるとろくな事にならないのを知っていたため、何とか止めようと動こうとする。しかし、敵は龍牙王だけではない。

 

 

 ーしゅる…ギュ!ー

 

 殺生丸は圧迫感を感じて自分の体を見てみると、体が太い注連縄で縛られていた。しかも、札の様な物まで貼られている。後ろを見ると、御母堂がニコッと笑いながら縄を結んでいた。

 

 注連縄とは、元来神社等で穢れを寄せ付けぬ様にする他に神の力を社の内に封じる為の物だ。貼られている札は妖力封じの物、そして穢れ、このコンボでは流石の殺生丸も動けなくなった。

 

 

「りんちゃん、良いものを見せよう」

 

 龍牙王が自分の尾から出したのは、自分が製作した殺生丸の幻の写真集「せっくん、可愛い」だ。

 

 それから、鑑賞会(龍牙王・御母堂の解説付)は殺生丸にとって地獄だったのは言うまでもない。



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第8巻 駒王町

 ~殺生丸との決闘から約450年~

 

 龍牙王は駒王の土地神として人々を見守っていた。

 

 この数百年で様々な事が在った、寿命、病、飢饉、戦争等により多く人の子等の死を見届け、それとも同じ位の誕生を見てきた。

 

 龍牙王は丘の上にある社の屋根から、町を見下ろしていた。

 

 元々、桔梗の村があった場所とその近くの龍牙王自身の土地……正確には思い出があり、高天原の許可を得て貰い受けた土地だ。それらを合併した事でかなりの広さを有する土地となった。

 

 

 ーこの土地との付き合いも長くなったな……我が神社の名前も【龍王神社】と呼ばれ、氏子達も多い。人間達は我を「龍王様」と呼び信仰してくれている。今や、犬夜叉と桔梗殿の子孫も10代以上続き、この地から離れることなく我に仕え続けている。我は人に化けて町に出ることもあるが、普段は力を抑え普通の者には見えない。だが桔梗殿の血の影響か、はたまた血縁だからか、今でもこの家の者達には我が見えている。

 

 時代は昭和となり、第二次世界大戦と呼ばれる戦争が終結し人々の生活も段々と変わってきた。これからは神秘が一層薄れていくだろう。他の地の神々は信仰が減ったと嘆いているが、我は殆ど変わらず信仰されている。ありがたい限りだ。

 

 そして、人々の生活が変わるほど、悪魔共が此の地に入ってくる。悪魔共は200年程前に悪魔の駒を開発した様で、日本だけだなく他の神話体系でも被害が出ている。日本神話……天照は今は静観する事を決めた。

 

我は個人的に悪魔に怨みはあるが、個人的な感情で天照や我が地の子等(人間)に被害が及ぶ可能性もある。故にこの地で静かに過ごすのであれば監視を付けて放置している。この地に害を成すので在れば排除するだけだが……まぁ大概は数ヶ月もしない内に何処かへ去るので問題はない。

 

 何の話だったか……ぁあ、他の神話体系でも悪魔による被害が出ているという事か……ゼウス、ハデス、アテナ、オーディン、ロキ、帝釈天、ラー、オシリスなど多くの知り合いがいるのでそう言う情報は早くの内に耳に入ってくる。

 

何故知り合いなのか?我が母の所為だ。そう言えば、母の事を話してなかったな。

 

 我の母は無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)と言う龍だ。

 

世界が何もなかった頃に産まれ、世界を創造し、真なる赤龍神帝(グレート・レッド)無限の龍神(オーフィス)、神さえも創造した存在……それこそ世界を思うがままに出来る存在だが、普段は世界の外側から世界を見ている。そして、我を違う時代飛ばして暇潰しをする親である。何処の世界に子供の困ってるの見て悦に浸る親がいるんだよ!?

 

 あっ居たわ。御母堂もそういう感じのキャラだ。母親らしい部分もあるけど、基本的に子供が困っているのを見て楽しむタイプだ……兄弟の中で良い母親持ったの犬夜叉だけじゃね?この話は止めだ、話してると来そうで怖い。

 

 えっとそんなチート存在な龍が母なだけあって、我もそういう力を持つ。滅犧鑼怨(メギドラオン)とかもそんな能力の一端で編み出した技だ。

 

 話が逸れたな。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だったか……悪魔共は自分達が全滅せぬ様に、他種族を悪魔に転生させる方法を編み出した。それも本人の同意もなしに強制的に転生させる事もできるらしい。

 

 日本の妖怪は他の国の妖物と比べ力こそ弱いが、特殊技能を持っている。それを狙いこの数百年で日本各地の妖怪の隠れ里が滅んだ、日本の神々も危険視して各地に警戒を促している。我が土地内では今の所、人間にも妖怪にも被害はないが、気を付けよう。特に犬夜叉と桔梗の子孫は狙われ易いだろう。我は人をまm「神さま~」ー

 

 

 

 

 

 

 龍牙王は声に気付き、その方向を見てみると巫女服を着た女性と子供がいた。

 

 

「小夜と陽菜か」

 

 小夜は犬夜叉と桔梗の子孫だ、陽菜は小夜の娘で小学生だ。龍牙王は屋根から飛び降りると、2人の前に着地した。

 

 

「おはようございます、龍牙王様」

 

 

「おはようございます、神さま」

 

 

「あぁ、おはよう」

 

 そう挨拶を返すと、陽菜は龍牙王の尾に抱き着いた。

 

 

「もふっもふっ」

 

 陽菜は嬉しそうに尾をモフッモフッしている。

 

 

「こらっ!陽菜!龍牙王様に失礼ですよ!」

 

 

「ぇ~気持ちいのに~」

 

 小夜が陽菜に注意するが、一向に離れる気配はない。

 

 

「まぁまぁ、お前だって小さい頃は陽菜の様に我の尾に抱き着いて来たではないか」

 

 

「えっと……そのあの……」

 

 小夜はそう言われると、顔を赤くしてしどろもどろになっている。

 

 

(幼き頃の犬夜叉も事ある毎に我の尾に抱き着いてきた、妖力を失う朔の日などは我の尾に包まって眠っていたしな……血は争えんな)

 

 

『ふぁ~……よう寝た』

 

 声が聞こえ、龍牙王の背中にある叢雲牙の鞘から小さい半透明な老人が出てきた。

 

 

「あっ鞘のお爺ちゃんだ」

 

 

「鞘様、御久しぶりでございます」

 

 小夜と陽菜もこの老人を知っている様で、そう挨拶した。

 

 

『おっ……小夜と陽菜ではないか。久しいのぅ~』

 

 

「また寝ておったのか、鞘」

 

 

『儂だって眠いんじゃ、それにお前さんと天生牙、鉄砕牙の力で叢雲牙は完全に沈黙しておる。問題なかろう?』

 

 この老人は龍牙王の持つ叢雲牙に宿る精霊の様な存在で、叢雲牙を封じる為にいるのだが、偶に寝ている事がある。そして在り得ない事を言った、天生牙、鉄砕牙と。

 

 何故か龍牙王の腰には天生牙と鉄砕牙、それにもう一振りの刀が刺さっていた。これには色々と事情があるが、後々語られるだろう。

 

 

「まぁいい……ん?」

 

 何かを感じ取ると、龍牙王の表情が真剣な表情に変わる。

 

 

「小夜、今日は何曜日だ?」

 

 

「日曜日ですが?」

 

 

「そうか……なら今日は出来るだけ、外に出るな。嫌な匂いの者がこの土地に入った様だ」

 

 

「!……分かりました。陽菜、社に戻りましょう」

 

 

「うん……」

 

 陽菜は龍牙王の表情が変わった事で心配そうに彼を見つめている。

 

 

「大丈夫だ、陽菜。直ぐに終わる」

 

 

「神さま、明日学校で遠足があるの。行けるかなぁ?」

 

 どうやら遠足の心配をしていた様だ、それを聞くと龍牙王は笑みを浮かべしゃがみ、陽菜と同じ目線の高さになる。そして陽菜の頭を撫でる。

 

 

「勿論だ、厄介事は我に任して、お前は社で修業してなさい。そしたら明日は楽しい遠足だ」

 

 

「でも明日は雨だって、テレビで言ってたよ?」

 

 

「大丈夫だ、明日はきっと晴れる」

 

 

「本当?」

 

 

「あぁ、龍神たる我が言うのだ間違いない」

 

 龍牙王はそう言うと、立ち上がり空へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~駒王町 町外れ~

 

 村全体に張り巡らされている結界を越え、1人の悪魔がこの地に侵入した。

 

 

「ククク……この程度の結界を破るなど、貴族悪魔である私にとっては容易こと。さて、この地に神社に仕える一族が特別な力を持っているとか……我が眷族にしよう」

 

 どうやらこの悪魔は神社に仕える一族……犬夜叉と桔梗の子孫を狙っている様だ。

 

 

「残念ながらそれはさせんよ」

 

 悪魔は声に気付くと、振り返った。すると辺りの景色が変わっていた。人間の町の近くにいた筈なのに、何処か分からぬ草原にいたのだ。

 

 

「これは……貴様、何者だ!?」

 

 悪魔は声の主……龍牙王に向かいそう叫ぶ。

 

 

「この地の土地神……と言った所だ。そして此処は我が結界内。貴様、悪魔か?」

 

 

「そうだ。貴様がこの地の神か、自分に仕える人間達を護る為に来たのか?」

 

 

「あぁ……あの子等に手は出させん」

 

 龍牙王はそう言うと、背の叢雲牙を引き抜いた。すると周囲の草が枯れ始める。

 

 

「ムッ……たかが極東の神にしては中々の力……それにその剣も……貴様を滅ぼし、この私が貰い受ける!」

 

 そう言いながら、龍牙王に襲い掛かる悪魔。自分が誰に挑んだのか理解などしてないのだろう。

 

 

「フン」

 

 彼は襲い掛かってくる悪魔を見て、鼻で笑うと凄まじい速度で悪魔の腕と脚を斬り飛ばした。

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 腕と脚を斬り飛ばされ、激痛により地面に転がり悶えている。

 

 

「さてと……色々と話を聞かせて貰おうか、クソ悪魔」

 

 そう言うと、叢雲牙を悪魔の首に押し当てる。

 

 

「なっなんでも話す!だからいっ命だけは!」

 

 完全に震えている悪魔は命乞いを始めた。だが悪魔を見降ろす龍牙王の眼はとても冷たいものだった。

 

 

「貴様は話す必要はない」

 

 命乞いする悪魔にそう言い、容赦なく叢雲牙を悪魔の身体に突き刺した。

 

 

「うぎゃあぁぁっぁぁぁ!!」

 

 

「うるさい……どうだ、叢雲牙?」

 

 叢雲牙に向かい、そう言うと、叢雲牙の宝玉が光り始めた。

 

 

【此奴は悪魔の名門の家の者の様だ……どうやら、悪魔共は徐々に日本の妖怪・能力者に目をつけ始めたらしいな。此奴もそれも聞いて、此処に来た様だ】

 

 

『寄りにもよって、この土地を狙うなんて……運のない奴じゃ』

 

 叢雲牙の言葉を聞き鞘がそういった。悪魔が此処に来たのは偶然らしい。しかし運がない、寄りにもよって龍牙王の土地に手を出そうとしたのだから。

 

 

「そうか……喰え、叢雲牙」

 

 

「なっなにを……うがっ!?」

 

 叢雲牙の宝玉が光り、突き刺した部位から悪魔の血を、魂を吸い上げていく。叢雲牙は黄泉の剣、故に叢雲牙にとって魂は食糧の様な物だ。

 

 総てを吸い上げられ、喰われた悪魔は塵となって消滅した。

 

 

「悪魔共が動き出したか……」

 

 

「相変わらずだな……悪魔に対してはキツいな」

 

 龍牙王が振り返ると、眩い光を放つ朱い髪の女性が立っていた。その女性の周囲の草には次第に花が咲き始め、叢雲牙に至っては女性から放たれる光により、邪気が薄れていく。

 

 

「お前の場合は憎んでるか」

 

 

「……悪魔共は日本の力ある者達を狙い始めたぞ。静観なんてしていたら、妖怪の里にも、人間にも被害が出るぞ?」

 

 そう言いながら、叢雲牙を鞘に納めると女性の方に向き直る。

 

 

「あぁ……分かっちゃいるんだけどな。今は各地で減り続ける信仰をどうにかしようとしている最中だ。それにしてもお前の土地は本当に気持ちいい位に信仰に満ちてるな」

 

 

「まぁな」

 

 龍牙王はそう言うと、手を振り払う。すると、辺りの景色が龍牙王の神社へと変わった。2人は社の屋根の上に移動すると、町を見降ろした。風が吹き始めた。

 

 

「いい風だな」

 

 

「あぁ……」

 

 女性の言葉にそう答えると、龍牙王はその場に座り込んだ。

 

 

「街も……人も……変わっていく。でも変わらないものもあるだろう」

 

 

「うん、そうだな」

 

 

「我は弟の子孫達が生きるこの地を、アイツが守ろうとした地を悪魔共に穢させたくない」

 

 

「……アイツの事を忘れられないのはわかるけどさ、私等の事も忘れないでくれよ」

 

 女性はそう言うと、龍牙王の背中に抱き着いた。

 

 

「忘れてないよ。だから毎週、通ってるだろう?」

 

 

「でも、私だって女だ。愛する男が他の女の事を考えてるのが分かると、不安にもなる」

 

 

「そんなものか……っ」

 

 龍牙王は急激に眠気に襲われ、屋根から落ちそうになるが直ぐに体勢を立て直す。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「何とかな……そろそろ、【龍眠】の時期か」

 

 

「確か数十年だっけ」

 

 

「あぁ、これからって時に……この眠りが邪魔をする。今ほど、忌々しく思った事はない」

 

 

「仕方ねぇだろ……お前が寝てる間、私と妹でこの土地は守るよ」

 

 

「すまんな……天照、後もう1つ頼みだある」

 

 天照大神、日本の最高神にして太陽神だ。豊穣・生命を司る神であるため、その光により叢雲牙の力も弱まったんだろう。

 

 

「なんだ?」

 

 

「明日、この土地は雨だ。でも晴れにしてくれ、我の力でもできるが、太陽神のお前なら確実だろう」

 

 

「まぁいいけど……なんで?」

 

 

「陽菜が遠足らしいんでな」

 

 

「……お前、それだけの為に私を呼んだのか?」

 

 

「話もあったよ」

 

 

「はぁ……まぁいいや、何時もの事だし。それより龍牙、これどうだ?」

 

 と天照は龍牙王から離れると、その場でクルッと回った。

 

 

「なにが?」

 

 

「……この……鈍感!」

 

 ―パァン!―




~翌朝 龍王神社~


「あっ神さま~ありがとう!お母さん、行ってきます~」


「いってらっしゃい」


「あぁ、いってらっしゃい、気を付けてな」

鳥居の下から陽菜を見送る龍牙王と小夜。天照に頼んだからか、晴天だ。


「龍牙王さま……その頬、どうなさったんですか?」


「色々だ……」

小夜は龍牙王の頬に出来ている赤い手形の事を聞いたが、龍牙王はそう言うと直ぐにその場から去った。

因みに天照に叩かれたのは、折角おしゃれな着物を着てきたのに全く気付かなかったからだそうだ。


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第9巻 龍眠

 龍眠……それは半妖で言う、月に1度の力を失う日の様な物だ。龍牙王は龍神と妖怪のハーフの為に、月に1度起きる訳ではない。

 

 通常の半妖とは規模が違い、数千年周期に起きる。起きてしまえば数十年眠り続ける。前回の龍眠は西暦以前だった

 

 龍牙王は最高神・天照に土地を任せ、龍眠についた。

 

 龍眠の欠点は完全に無防備となること、龍牙王自身の耐久自体は高く滅多な事でダメージを受けないが絶対にないとは言い切れないために安全な場所で眠りにつく。そして、数千年と言う長い時の中で何時起きるか分からないことだ。ただギリギリまで眠るのを伸ばす事は出来るが、龍眠が近くなると日常でも眠気に襲われ、実力を出せない。

 

 龍牙王が現在、居るのはかつて天照が弟・素戔嗚が暴れた際に篭った「天岩戸」だ。

 

 天岩戸は天照の許可なしに出入りできぬ特別な場所、他の神話体系の最高神でも開ける事のできない世界で最も安全な場所の1つだろう。故に龍牙王はそこで安心し眠ることが出来る。

 

 

(開始まで数十年……始まる前に目覚めればいいが……まぁなる様になるだろう)

 

 天岩戸の中で、薄れゆく意識の中でそう考えなら睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~夢~

 

 龍牙王は龍眠の中で、夢を見ていた。

 

 それは遠い日の記憶……龍牙王にとっては大切な思い出の1つ。

 

 

 

 ―貴方は他の妖怪とは違うのですね?―

 

 

「我と雑魚を一緒にするな」

 

 1人の巫女が龍牙王と共に歩きながらそう言った。

 

 

 ―そうではありません、まるで人間の様だと―

 

 

「……お前は妙に鋭いな。それより気をつけないとまた転ぶぞ」

 

 

 ―私だってそう何度もこr……きゃ!―

 

 何もない場所で転びそうになる巫女。龍牙王は呆れた顔をして転ぶ前に自分の尾を巫女の身体の下に滑り込ませた。

 

 

 ―ぅう……どうして―

 

 

「言わんこっちゃない、今日だけで13回目か」

 

 

 ―何でそんな事を覚えているんですか!?―

 

 

「面白いから数えてる……今までで、最高記録が1日の14回だ。後2回で記録更新だ、良かったな」

 

 

 ―よく、ありません!―

 

 顔を赤くしている巫女を見て、笑う龍牙王。彼と彼女の関係はどう言う物か分からないが、彼にとって彼女は大切な存在なのだろう。そうでなければ、龍牙王が此処まで親しげにする訳がない。

 

 この時間が続いてほしいと願う龍牙王だが、しかし巫女は人間だ。龍神と狗妖怪の血を引く己とは違い限りある命だ。ならば巫女の命の限り、共にいようと考えていた。

 

 彼自身は理解していた筈のことを忘れていたのだ……此処が本来の世界でないという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数十年後 天岩戸~

 

 天岩戸内で、自分の尾に包まり眠っている龍牙王。そんな龍牙王の頭を自分の膝に乗せ、撫でている太陽神・天照大御神。

 

 天照は龍牙王が龍眠についてから、ずっと此処に通っていた。

 

 

「今、どんな夢をみてるんだ?………アレから約50年、お前の土地の子供達にも孫が出来てるくらいの時間だぞ。そろそろ起きろよ」

 

 

「ん……ぅう」

 

 

「やっとか」

 

 

「うぅ~………ふぁ~」

 

 龍牙王は目を覚ましたのか、いきなり身体を起こす。だが未だ寝惚けている様で、ぼっーとしている。

 

 

「起きたか、龍牙王?」

 

 龍牙王は天照に声を掛けられるが、天照の方に向かって倒れ寝転んでしまった。完全に龍牙王が天照を押し倒す形になっている。

 

 

「ちょ……お前、いきなり」

 

 

「眠い……」

 

 

「50年も眠って未だ寝ようとするな!」

 

 

「50年……50年…………50年!?」

 

 龍牙王は再び寝ようとしたが、50年と聞いて次第に意識が覚醒する。そしてガバッ!と身体を起こした。

 

 

「おはよう」

 

 

「あぁ、おはよう……50年ってマジ?」

 

 

「本気と書いて……正確にはお前が眠って57年と6か月23日が経ってるぞ」

 

 

「半世紀も寝てたのか我……と言うか、えっとこの状況は」

 

 半世紀も寝ていた事に驚きながら、現在の自分の状況に気付いた。自分は寝てた筈なのになんで、こんな状況になっているのだろう?と考える龍牙王。

 

 

「アレ……普通に寝てた筈なんだけど」

 

 

「酷い!私にあんなことをしといて!」

 

 着物をはだけさせ、髪を一本口に含み何やら色っぽいポーズになっている。

 

 

「嘘つけ!寝惚けてするか!大体、今さらだろう」

 

 

「ちぇ……一昔前なら慌ててたくせに」

 

 

「うっ……ってあれから何千年経ってるんだよ。それにお前だって一昔前は」

 

 龍牙王は何かを言おうとしたが、天照に睨まれ黙ってしまう。

 

 

「ナンデモナイデス……それより我が寝てる間の事を教えてくれ」

 

 一先ずは土地の方が気になるようで、話を切り替えた。

 

 

「あっ、そうだったな」

 

 天照は着物を正すと、龍牙王の膝の上に座った。龍牙王も慣れているのか、何も言わない。そして、天照は話始めた。

 

 龍牙王の土地であったこと、世界全体のことを事細かに。途中で質問を入れながら、話は数時間に及んだ。

 

 まずは時代が移り変わり、人間の科学が飛躍的に発展した。それに伴い、信仰がより失われてしまった。それにより各神話体系も困っているらしい。その辺りは龍牙王も予想していた。人は目に見えぬ神を捨て科学に頼る、前世でもその様な事を感じていた。

 

 次に聖書の神が残した神器(セイグリッド・ギア)が近年になり、人間に多く宿る事になった。悪魔達は神器(セイグリッド・ギア)の宿る人間に狙いを付けている。更に特殊技能を持つ妖怪などの種族までもが、悪魔絡みの事件の犠牲となっていた。

 

 日本では巫女や能力者が行方不明になることも多くなったとか。また多くの妖怪の隠れ里に被害が出ており、対策として各隠れ里を日本の強力な神々の配下に置くことにしたらしい。そうする事で今は被害は止まって居る。悪魔と言えど、大々的に日本の名のある神の地に入るほど、馬鹿ではないらしい。

 

 駒王の地でも悪魔が侵入してくることがあったが、龍牙王が目覚めている時と変わらぬ対応をしていたらしく、被害も特に出ておらず、不安要素は龍牙王の眷族達が排除したので問題ないらしい。

 

 

「成る程な、考えたな」

 

 

「流石の私達も静観する時期は過ぎたからな……そういや、お前の土地は相変わらず凄いよ。前よりは信仰が減った感じだけど、まるで出雲みたいに信仰が満ちてる」

 

 龍牙王はそう聞いて安心した様だ。

 

 

「管理はお前達に任せていたから、安心だったが……」

 

 

「妖怪達は刀々斎や冥加達が説得・保護して、悪さをする悪魔共は叢雲牙が仕切ってる」

 

 

「ならいい。さて、世話になった。先ずは我が地へ帰る」

 

 

「でも、良かったのか?お前なら悪魔は皆殺しかと思ってたけど……一先ずは悪魔を様子見するなんて」

 

 

「個人的な私怨で流れをせき止める訳にはいかないしな……それに土地に入って我が接触すれば悪魔側で噂が立ち、正体がバレて、あの時の様な事になっても困る」

 

 そう言う龍牙王の顔には哀しみの感情が浮かんでいる。天照はその事情を知っているが故に何も言わずに彼を抱き締める。

 

 

「ありがとう……」

 

 

「ばか……こんな時は甘えていいんだよ」

 

 

「あぁ……でもそろそろ土地に戻るよ。少し心配になって来た」

 

 二人は話を終え、天岩戸から出た。

 

 

「天照、礼を言う」

 

 

「なら、今度デートしやがれ」

 

 

「了解……じゃ、またな」

 

 

「あぁ」

 

 天照に礼を言うと、その場から飛び上がった。

 

 空へと向かい翔け昇りながら、龍牙王はその身を龍へと変化させていく。

 

 

【グオオォォォォォォォォ!!!】

 

 龍へと変化した龍牙王が咆哮を上げると、青空に曇りだし瞬く間に暗雲が空を覆い尽くしてしまった。そして雷が鳴り響き、豪雨が降り出した。

 

 龍はその声で雷雲を呼び、嵐を起こす。天空に昇り、自由自在に天を駆けると言われている。龍神である龍牙王もまた同じく暗雲を呼んだ様だ。

 

 雨を浴びながら空を翔ける、彼にとっては約50年振りのシャワーと言う所だろう。

 

 

【ウオォォォォォォォ……ガアァァッァァ!】

 

 龍牙王は暗雲と共に消え去ってしまった。

 

 

「全く……本当に世話のかかる旦那様だな」

 

 天照はそう言い、笑みを浮かべながら龍牙王の飛んで行った方向を見ていた。




・龍眠

 犬夜叉で言う朔の日の様な物。

 しかし龍神と狗妖怪のハーフの為、その規模が違い力を失う事はないが数十年の眠りに付くことになる。

 数千年周期で起きるが、ギリギリまで起きている事は可能だが、日常的に眠気に襲われ、普段の実力を出せない事態になる。

 一度、眠ってしまえば余程の事がない限り起きる事はない。そして眠っている間は完全に無防備で危険な為、安全な所で眠る。眠っている時は、人型である事が多いが寝惚けて龍になったり、狗になったりするらしい。

 



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第10巻 帰還と誕生

 ~空~

 

 

 ―ん~久々の空は気持ちが良いね……シャワー()も浴びたし帰るとしよう―

 

 龍牙王は龍へと変化して、空を翔け自分の土地へと向かっていた。

 

 そして駒王の地のやってきた。どうやら現在の駒王は曇りの様で、上空から街の様子は見えない。なので、自分の力を使い雲を吹き飛ばした。

 

 これでやっと見通しが良くなった。現在時刻は分からないが、空には月と星が輝いている。夜であるのは確実だ。龍牙王は見通しの良くなった空から街の方を見降ろしてみた。

 

 約50年、眠っていたので街並みは多少変わっている……だけど、街……家の光は何時の時代も変わらない。龍牙王は懐かしそうに、街を見ながら龍王神社へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社~

 

 現在、龍王神社では慌ただしく人々が動いていた。

 

 

「ほれっ!早く産湯の用意を!」

 

 

「はい!」

 

 

「後、清潔な布を大量に!」

 

 

「はい!」

 

 その理由は、この神社で子供が生まれようとしていたからである。老巫女が若い巫女達に指示を出す。

 

 

「おっお婆様、僕も手伝いを」

 

 

「えぇい!婿殿は奏の近くに居らんか!」

 

 婿らしい男性にそう言い、陣痛で苦しんでいる女性の傍に行かせた。

 

 

(むぅ……長い、儂や娘の出産の時に比べて長い。万が一にも、奏が死ぬ様な事になれば……)

 

 出産に掛かっている時間が長い……それは母子共に危険な事を意味する。しかしこの神社は街から外れた場所に在り、病院に行くにしても百段以上在る階段を下りなければならない。此処に居るのは巫女達と婿である男性のみ、今にも産まれそうな妊婦を抱えて階段を下りる訳にもいかない。

 

 老巫女は助産師の資格も持っている……昔でいう産婆である。なので神社で出産しようと考えたが、それが裏目に出た様だ。

 

 

【グオォォォォォォォォォォ】

 

 

「!……この声は」

 

 老巫女はこの声に聞き覚えがあった。それは今となっては遠き日の記憶であるが、鮮明に覚えていた。自分はかつて、この声の主と共に生活していたのだから。

 

 老巫女は急いで外に出た。そして空を見上げる。

 

 

「おっ………おぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 空一面を覆う程、巨大な光を放つ龍がいた。龍は此方の方向をみると、神社へと降りてくる。降りてくる途中で龍は小さくなり始め、やがて人と同じ位の大きさとなり、ゆっくりと神社の境内へと着地した。

 

 光が収まると、そこには少年が立っていた。以前と変わらぬ、白銀の髪、3本の尾、幼い顔つきで在りながらその身から強大な力と覇気を放っている。

 

 

「ん~……はぁ……気持ち良かった」

 

 

「あぁぁぁぁ……神さま」

 

 

「ん?……スンスン、この匂い……お前は……陽菜か?」

 

 

「はい、御懐かしい……アレから約50年、本当にお久しぶりでございます。龍王様」

 

 どうやらこの老巫女……かつて幼き頃に龍牙王と共にいた陽菜だった。

 

 

「50年か……お前も皺くちゃになったなぁ」

 

 

『あぁぁぁぁ!痛い!痛い!』

 

 

「なっなんだ?」

 

 

「実は、孫の子供が生まれそうになっているのです。ですが出産に時間が掛かり過ぎておりまして」

 

 

「それは一大事だな。我が目覚めた日に、産まれようとは……だが時間が掛かり過ぎとは母子共に心配だ」

 

 龍牙王は老巫女・陽菜と共に神殿へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~それから数十分後~

 

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」

 

 元気な男の子が産まれた。

 

 龍牙王はその男の子を見て驚いた。龍牙王の一族……つまりは闘牙王の血を継いでいる証。龍牙王・殺生丸・犬夜叉も受け継いだその特徴的な白銀の髪と金色の瞳……目の前で産まれたばかり赤ん坊も、白銀の髪と金色の瞳をしていた。

 

 だがそれだけではなかった……それは恐らく龍牙王だけのみが気付いた。この赤子の匂い……正確にはその魂の匂いを龍牙王が知っていた。

 

 

 ―あぁ……まさかまた……お前に会う事があろうとは―

 

 龍牙王は陽菜に産まれた赤子を渡された。是非、抱いてやってほしいと言われたのだ。龍牙王は慣れた手つきで、赤ん坊をその腕に抱いた。これまで、龍王神社、龍神神社で産まれた子供達を世話している彼にとっては赤子を抱くなど慣れている。

 

 先程まで泣いていた筈の赤子は泣きやみ、龍牙王の腕の中で安心して眠っている。

 

 

 ―あぁ……世界よ、この子に祝福を。お前が産まれてきた……ならば彼女も同じ時代に産まれるだろう。いずれ会えるだろう……だから今は―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆっくりとお休み、犬夜叉」



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第11巻 生まれ変わり

 ~龍王神社~

 

 

「わぁーい」

 

 

「もふっもふっ」

 

 境内の真ん中に立つ龍牙王の身体に昇っている銀髪の男の子と尻尾を触っている巫女服の女の子。

 

 それを見て、慌ててる二人の母親らしい巫女達。

 

 

「別に構わんさ、陽菜だって小さい頃は尾で遊んでたしな」

 

 男の子の名は、天龍 夜叉(てんりゅう やしゃ)

 

 銀髪、金眼で、赤い羽織を着ている。犬夜叉の生まれ変わりであり、龍牙王が龍眠より目覚めた日に産まれた赤子だ。何故、妖力を失った筈の犬夜叉の血族なのに銀髪、金眼なのか……龍牙王によれば先祖帰りだそうだ。因みに着ている羽織は犬夜叉が着ていた火鼠の衣を直した物だ。

 

 女の子の名は、日暮 桔梗(ひぐらし ききょう)

 

 名前から分かるように、桔梗の生まれ変わりである。桔梗の生まれ変わりだけあって、霊力はかなり強い。夢中で龍牙王の尾を触っている。序でに言うなら、この街の神社の1つ龍神神社の巫女……つまり桔梗の妹・楓の子孫に当たる。

 

 この二人、今は前世の記憶はないものの仲がよい。流石、前世では夫婦だけの事はある。そして二人は龍牙王が見えているので、懐いている。

 

 龍牙王自身も、弟とその嫁の生まれ変わりとあっては目にいれても痛くないほど可愛い。子供の居らぬ彼にとっては、弟達の血族が、そしてこの地に生きる人間が自分の子供の様なものである。故に龍眠をギリギリまで延ばしてでも、この地に生きる人々を護った。そして現在は見守っている。だからこそ、この50年……大変な時期に眠ってしまっていた事を彼は後悔していた。

 

 

「相変わらず子供には甘いな」

 

 そう声が聞こえ、そちらを見ると鳥居の方から着物を着たグラサンの男が歩いて来た。

 

 

「街の様子はどうだった?」

 

 

「特に変わりない。我は疲れたので休む」

 

 

「それにしても………マ〇オだな、お前の姿って」

 

 

「マ〇オ?」

 

 

「何でもない、忘れてくれ。叢雲牙、元に戻ってくれ」

 

 龍牙王が男の事を何故か叢雲牙と呼んだ。そして男は光り出すとその姿を黄泉の剣へと姿を変える。剣となった叢雲牙は龍牙王の手の中に納まった。叢雲牙を背に背負う。

 

 

「あにき!その剣なんだ!?カッコイイ!」

 

 

「夜叉、これがカッコイイのか?」

 

 

「変身できるってカッコイイ!」

 

 龍牙王はそれを聞くと、夜叉を降ろして人間よりは大きいサイズの狗の姿へとなり、お座りの格好をしている。

 

 

【我も変身できるぞ】

 

 

「犬だ!」

 

 夜叉は大きな狗の姿に興奮し上に乗って遊んでいる。桔梗はキラッキラッとした目をしながら、狗となった龍牙王を見ている。桔梗は神社の社務所に走って行く……しかし直ぐに戻ってきた。その手には市販で売られている様なドッグフードを入れた皿を持っている。

 

 それを見た、母親巫女達は顔を青ざめさせている。確かに狗に変化しているものの、相手は神。

 

 当の龍牙王()は狗の真似をしているのか、本気なのか分からないが餌を前に尾を振っている。

 

 

「待て」

 

 

【ワン】

 

 

「お手」

 

 

【ワン】

 

 そう言って大人しくお手をする龍牙王()。本当に神なのか怪しい所である。

 

 

「食べてよし」

 

 その合図で皿の上のドッグフードをペロリと平らげた。

 

 

「ドッグフード、うまいのか?」

 

 夜叉はドッグフードの味を聞いている。

 

 

【近頃のドッグフードは美味いな。昔に陽菜に喰わされたのと比べると随分と良くなった】

 

 どうやらドッグフードを食べるのは初めてではないらしく感想を述べた。桔梗は狗となった龍牙王を撫でており、夜叉は身体の上で飛び跳ねている。

 

 悪い事をすれば叱りはするが、基本的に子供のする事は何でもOKな龍牙王である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~夜~

 

 龍王神社の神殿で寝転んでいる龍牙王、彼の前には陽菜が正座していた。

 

 

「ぐぅ~……かぁ~」

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 食事を終え、風呂に入ると龍牙王の尾に抱き着いて眠ってしまっている夜叉と桔梗。どうやら遊び疲れた様だ。

 

 

「今日も子供達と遊んで頂き、ありがとうございます龍王様」

 

 

「構わんよ、我も楽しかったしのぅ」

 

 陽菜にそう言われると、龍牙王はそう返す。

 

 

「それにしても……子供と言うのは成長が早い。ついこの間まで赤ん坊だと思っていたのに、もう走り回るほど成長している。フフフ」

 

 自分の尾の中ですやすやと眠っている夜叉と桔梗を見て、2人が寒くない様に尾で包み込んだ。

 

 

「龍王様……貴方様から見て2人はどうでしょうか?」

 

 

「どう……とは?」

 

 

「2人はこの地を護っていけるでしょうか……儂にとって曾孫である2人は目に入れても痛くない可愛い子等です。ですが、2人はこの地の守護者としては優し過ぎると思います」

 

 

「お前の時も言ったが、役目を継ぐかどうかを決めるのはこの子等だ。役目を継がないと言うならそれで構わん、今の時代はこの子等にとって生きにくいのかもしれん……この子等が唯人として生きていくと言うなら、それでいい」

 

 

「ですがそれでは……」

 

 陽菜は今まで続いてきたこの地を護る役目を放棄するなど、考えた事もなかった。何故なら龍神たる龍牙王の弟の血に連なる一族であり、この地を代々護ってきた。役目を継いできた者達もそれに誇りを持っていた。村の人々も彼等も龍牙王を崇め、役目を継いだ者達に感謝していた。

 

 だが近年に科学の発展と共に信仰は失われている。夜叉や桔梗達の様に妖怪やこの世ならざる者達を視る事のできる者達は気味悪がられることもある。

 

 龍牙王はこれまでずっと見てきた………犬夜叉と桔梗、楓の子孫達。どの様な時代であっても変わらずに自分に仕えてきた彼・彼女達……今でも鮮明に皆の事を思い出せる。もし、彼等の血と意志を継ぐ夜叉達が苦しむのであれば継ぐ必要はないと考えている。

 

 

「決めるのはこの子達だ………まだこの子等が役目を受け継ぐ歳まで時間はある。その時まで我は待とう」



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第12巻 継承

沢山の感想ありがとうございました。

読み難いという指摘もありましたが、作者は文章力はあまり高くないのでどうかご容赦を。


 龍王神社と龍神神社、同じ神を祀る一族……つまり犬夜叉と桔梗、楓の子孫には役目がある。

 

 1つ目は、龍牙王を祀り仕えること。

 

 もう1つは、この駒王の地を護る事だ。

 

 これは神社が出来る際に、犬夜叉達と交わした盟約である。龍牙王は犬夜叉達の子孫を護る為に、自分の大切な地を護る為にこの駒王の地の神となった。

 

 しかし犬夜叉や桔梗、楓もその守護の役目を担う事になった。

 

 

 ―護るのは神だけでない、人もまた護る為には戦う必要がある―

 

 と桔梗の言葉から始まった。龍牙王もまたそれに同意し、彼等に加護を与え今まで共にこの地を護ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社 神殿~

 

 神殿内で祭壇に向かって正座している夜叉と桔梗。その後ろには陽菜や夜叉達の母親達が控えている。

 

 彼等は成長し、10歳となった。

 

 祭壇の前には龍牙王が座っており、2人を見ている。

 

 

「2人とも本当にいいのだな?」

 

 龍牙王は夜叉と桔梗にそう尋ねた。

 

 

「はい……私は母が……龍王さま……龍牙王様が、先祖達が護り継いできたこの街が好きです。」

 

 

「俺は別に街がどうとか思わないけど、自分の見える所で悪魔や妖怪に好き勝手にされるのは嫌だからな」

 

 桔梗と夜叉がそう答える。

 

 

「こらっ、夜叉。こういう時くらいは敬語を使ったらどうだ」

 

 

「でもよぉ桔梗、兄貴が神様って感じしねぇし。今更なぁ」

 

 

「全くお前という奴は……」

 

 夜叉の態度に呆れている桔梗。龍牙王はそれを見て、笑みを浮かべる。

 

 

「別にいい……夜叉」

 

 

「なんだよ、兄貴」

 

 

「お前に守るべきべきものはあるか?」

 

 

「俺は……」

 

 龍牙王にそう聞かれると、横に座る桔梗を見て顔を赤くする夜叉。

 

 

「そうか……」

 

 龍牙王は2人の意志が固い事が分かっていた。2人のその眼は前世と同じく、誰かの為に戦う者の眼だ。ならば自分がすべきことは、彼等にそれを成す力を与えてやるのみ。彼は立ち上がると、祭壇に祀られている2振りの刀を取った。

 

 

「我が牙より打ち出した刀……人を守る【護龍牙(ごりゅうが)】、人の敵を滅する【闘滅牙(とうめつが)】。夜叉よ、この力をどうするかはお前が決めろ」

 

 そう言って、刀々斎に打たせた牙を……犬夜叉から子に、また子へと代々受け継がれてきた人を護る為の牙を夜叉に渡した。夜叉に返したと言うべきかもしれない。夜叉は龍牙王を聞き、牙をギュッと握り締めた。すると2振りの牙は夜叉が振るえる大きさに変化する。

 

 龍牙王は陽菜に視線を向けると、陽菜が大きな箱を持ってきた。

 

 箱を開くとそこには赤い色の大きな弓が入っていた。龍牙王はその弓を取ると、桔梗に差し出した。

 

 

「桔梗にはこの【破砕弓】を……お前も力をどう使うかは自分で決めなさい」

 

 

「はい」

 

 桔梗が弓を受け取ると、弓は桔梗が扱える大きさへと変化する。

 

 

「その武器達はお前達の先祖の……この地を護ってきた者達の使っていた物だ。牙は我が牙から、弓は我が爪から造りだしたものだ。強大な力を持つ……力は使い方を間違えば破滅に繋がる。だから良く考えて使いなさい」

 

 

「「はい」」

 

 龍牙王の言葉にそう返事を返す夜叉と桔梗。

 

 

「2人とも、何でも自分で抱え込むな。この地を護るのはお前達だけじゃない、我も、眷族達もいる。無理はするな………以上だ。長ったらしい儀式は終わりだ」

 

 龍牙王はそう言うと、2人の頭に手を乗せる。

 

 

「2人とも、役目も大事だが今と言う時間を大切にしろ。お前達の時間は我の様に長くはない……だから1日、1日を後悔の無い様に過せ」

 

 

「おう!」

 

 

「はい!」

 

 

「後、夜叉はちゃんと宿題もする様に。昨日も忘れていって先生に怒られたろ?」

 

 

「うげっ!なんで知ってんだよ!?」

 

 

「なんせ、この地は我の土地だ。何処で誰が何をしたかは把握しているぞ。ワハハハ」

 

 楽しい時間が過ぎていく。

 

 龍牙王にとって彼等と過ごせる時間は限られている。人間の命は儚い、医療の進んだ平成(現代)でさえ百年もせずに人間は死んでしまう。それを知っているからこそ彼等には、1日1日を悔いなく生きて欲しいと願っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙王は継承式が終わると、神社を離れ1軒の家へと向かう。大きな一軒家で、敷地もかなり広く、檜で出来た家だ。

 

 家の扉を慣れた手つきで鍵を開け、中へと入る。

 

 この家は龍牙王の家である。何故、家を持っているのだろう?

 

 

「ただいま~……って誰もいないけど」

 

 龍牙王は家の奥へと入って行くと、家中の窓を開ける。空気の入れ替えだろう。

 

 何故こんな家を持っているかと言うと……事の始りは龍牙王の一言だった。

 

 

 ―偶には息抜きをしたいので家が欲しい―

 

 その呟きを聞いた天照。彼女はたまたま遊びに来ていたのだが、それを聞き天照が用意したらしい。どうやって用意したのかと聞いた所……。

 

 

 ―最高神の力、舐めんなよ―

 

 だそうだ。要するに神の力である、きっと深くは聞いてはいけない事だろう。

 

 そうして用意された家で偶に過ごすしている。彼も神社で過ごすより自由に過ごせる場所が欲しかったんだろう。

 

 龍牙王は自分の部屋へと向かう。10畳ほどの広さの部屋でテレビ、ソファー、本棚などが置いてある。本棚には漫画、ゲームソフトなどが並んでおり、その隣の棚にはプラモデルが所狭しと並んでいた。

 

 

「ふぅ……さて今日はデン〇ロビ〇ムの続きを作ろう」

 

 龍牙王が指を鳴らすと、着ている着物と尾が消え洋服に変わる。そして長い髪を紐で縛ると巨大なプラモデルの前に座った。

 

 

「ん?……何かが家の敷地に入ってきたな」

 

 龍牙王は家に張ってある感知結界に何かが掛かったのに気付くと、立ち上がり部屋を出る。

 

 そして、軒先から庭を見廻す。広い庭には花や草が茂っている。それは何時もと変わらぬ光景で、感知した筈の存在の姿はない。だが龍牙王の鼻にはこの庭にいる何者かの匂いを嗅ぎ取っていた。

 

 

(血の匂い………しかも妖怪か)

 

 龍牙王は庭に降り、草を別け進むとそこには黒と白の2匹の猫がいた。どちらも傷だらけで衰弱している様だ。

 

 

「この土地の者ではない様だな………しかし見捨てる訳にはいかんか」

 

 龍牙王は傷付いた猫達を抱えると家の中へと入った。



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第13巻 猫の姉妹

 1匹の黒猫が目を覚ました。

 

 黒猫は此処が何処なのかをと思い辺りを見廻す。何処かの和室の様だ。そして自分は白いモフモフに包まれていた。

 

 

(此処は一体……それに私は……傷が治ってる。確か悪魔達に追われて白音と一緒に逃げて)

 

 黒猫はこれまでの事を思い出していた。

 

 自分は悪魔達に追われて逃げていた。たった1人の血の繋がった妹と一緒に。

 

 

「白音……白音は!?」

 

 黒猫はモフモフから飛び出すと、人間の姿へと変わる。黒いボロボロの着物を着た女性の姿に。

 

 

「起きたか……随分、傷は深かったが治しておいたぞ」

 

 男の声がした、人間に化けた黒猫は振り返ると着物を着た少年が座っていた。先程のモフモフは男の身体から出ている様だ。良く見れば、この少年の膝の上には白い猫が丸くなっていた。

 

 

「白音!?」

 

 黒猫は少年の膝で丸くなっている白猫を抱き上げた。

 

 

「そっちの子の方の傷も治しておいた」

 

 少年は優しい顔でそう言うが、黒猫は白猫を庇うようにしており完全に警戒している様だ。

 

 

「まぁ警戒するのも分かるが落ち着け。此処には悪魔共は来ないから安心しろ」

 

 

「貴方は……見た所、人間じゃない様ね。この匂い、狗妖怪?」

 

 

「半分は狗だがな。我はこの辺りの土地を統べる龍牙王という者だ」

 

 

「龍牙王……龍牙王って御伽話に出て来る龍神!?」

 

 黒猫は驚いた。龍牙王と言えば、日本だけでなく世界中の人間・妖怪・魔物問わずに知っている数々の神話や伝説に出て来る龍神。伝説だけでなく御伽話にも出て来て、子供ですらも知っている有名な存在だ。神話や伝説の中では神々と戦い、神すらも怖れる龍神達の長とも言われる者。

 

 何処からともなく現れ、あらゆる厄災を退け、大地を浄化し、死者すらも甦らせる等々の偉業を残している。

 

 

「……騙りなら止めた方がいいわよ。伝説の龍神がこんな人里に居る訳がないわ」

 

 

「嘘じゃないんだけどなぁ……まぁいいや。取り敢えず……胸くらい隠したらどうだ?」

 

 黒猫は自分の姿を見てみると、破れた着物から胸が出ている。それに気付くと顔を真っ赤にする。

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 羞恥で頭が一杯になった彼女は無我夢中で龍牙王に向かい、青い炎弾を放つ。

 

 

「こらっ、人の家で火を使うな。燃えるだろうが」

 

 龍牙王がそう言うと、炎は消えた。

 

 

「なっ何をしたの!?」

 

 

「消火だよ、和室だからな。火が燃え移ったら困るだろ……一応、我は命の恩人なんだしさ。いきなりそれはないだろ。まぁ、胸を見た我も悪かったが」

 

 龍牙王は立ち上がると、部屋の箪笥から着物を取り出すと猫に渡す。

 

 

「風呂はそこの廊下の先だ。妹と一緒にその汚れを落としておいで」

 

 黒猫は唖然としているが、龍牙王の言葉に甘えて風呂へと向かった。

 

 

 

 

 ―さて、我が助けた猫の姉妹は猫魈の一族の者達らしい。一応、我が龍牙王という事は信じてくれたらしい。

 

 黒猫の方が姉の黒歌、白猫の方が妹の白音。山奥にある妖怪の隠れ里で暮らしていた。人間の文明からはかけ離れた昔ながらの生活をしていたが、自然と共に生きている妖怪達にとっては特に不便はない生活だ。

 

 穏やかで、普段と変わらぬ日常が続く筈だった。だがこの里に居る妖怪達の特殊技能を狙い、悪魔達が攻めてきたらしい。その所為で里は全滅、妹と2人で何とか逃げ出したはいいが悪魔達に追われてこの駒王の地にやって来て逃げる途中で受けた傷で動けなくなってしまったそうだ。そして結界の張ってある我の家へと逃げ込んだ様だ。

 

 えっと……黒歌、白音……ぁ~確かD×Dのキャラで………駄目だ、思い出せん。前世の記憶が薄れてるな、別に惜しくはないが今後の展開は……まぁなる様になるか―

 

 龍牙王は黒歌と白音から話を聞き、そんな事を考えながら悪魔達に怒りを覚える。その表情も端から見ていて怖いものになる。

 

 

「あっあの」

 

 

「あっ……あぁ、すまん。取り敢えず事情は把握した、行く宛はあるのか?」

 

 

「えっとその……ありません」

 

 人の姿になった黒歌と白音。龍牙王の家にあった箪笥の着物を着ている姉妹だが、行く宛があるのかと聞かれそう答え俯いてしまう。

 

 

「……フム、ならば此処にいればいい。他の土地よりは安心だ」

 

 

「でっでも此処に居たら貴方に迷惑が」

 

 

「我の土地で悪魔共に好き勝手はさせん。この街には人もいるが、妖怪も数多くいる。だから安心しろ……此処にいる限りはお前達に手を出させない」

 

 龍牙王はそう言うと、2人を抱きしめ自分の尾で包み込んだ。

 

 

「此処までよく頑張った……もう我慢しなくていい」

 

 2人は暖かな尾に包まれた。優しい温もりに包まれた事で、今まで我慢していた家族を失った哀しみが、辛さが、、溢れてくる。2人は泣いた、溜めていたものを吐き出すかのように泣き叫んだ。龍牙王はただ、それを優しく包み。

 

 彼女達は泣き疲れた猫姉妹は尾の中ですやすやと眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「龍牙王様」

 

 呼ばれた方向を見ると、髪の白い鏡を持った幼女と扇子を持った女性が立っていた。

 

 

「布団……敷いた」

 

 

「ありがとう、よいしょっと」

 

 2人を器用に尾で持ち上げると布団の敷かれた隣の部屋に運ぶと、布団に寝かせた。

 

 

「それで、アンタはどうするんだい?」

 

 

「この子達を追って来た悪魔共が我が土地に入って来た様だ……神無、神楽は此処でこの子達を護って置いてくれ」

 

 龍牙王は2人にそう言うと、軒先から空へと飛びだした。

 

 

「ぁ~あ、行っちまった……どうする神無?」

 

 

「主の命令……実行する」

 

 

「面倒だねぇ……折角、散歩に行こうと思ったのに」

 

 

「お姉ちゃんの言うこと聞けない?」

 

 神無は無表情にも関わらず、無言の圧力を放つ。

 

 

「わっ分かった!大人しく留守番してるからそれは止めろ!怖い!」

 

 

「よかった……お姉ちゃん、理解のある妹をもって嬉しい」

 

 

「はぁ……自由が欲しいねぇ」

 

 

「自由気儘に、散歩したり、龍牙王様にお小遣いまで貰ってるのに?」

 

 

「いや………それはまぁ」

 

 小さい神無にそう言われて、視線を逸らしてしまう神楽。

 

 

「私達は龍牙王様に助けられなかったらずっとあそこにいた……」

 

 

「うっ確かに……まぁ心臓握られてる訳でもないし、勝手にできるからいいけどさ」

 

 

「そう言えば……この間、ヒラヒラしてた服を見てたけど」

 

 

「どっ何処から見てやがった?!」

 

 

「私はこの街を監視してる……あの時の神楽、かわいかった」

 

 

「うっ……うわぁぁぁぁぁぁっぁ!!!」

 

 顔を真っ赤にした神楽は家の奥へと消えて行った。

 

 

「神楽もまだまだ……」

 

 神無は神楽の背を見ながらそう言うと、自分の持っている鏡を覗き込んだ。

 

 鏡には神無の姿ではなく、龍牙王の姿が映っている。

 

 

『このクソ悪魔共、人の土地に侵入してきやがって……妖怪達の無念と恨み思い知れ【獄龍破】!』

 

 龍牙王の持つ叢雲牙から発せられたドス黒い光が鏡を埋め尽くす。

 

 

「……憐れ……悪魔」

 

 神無の静かな呟きは、庭の虫達の鳴き声に掻き消されてしまった。




~不思議空間~


「作者の野郎、マジで2人を出しやがった!?」

 神無と神楽が登場した事を驚いている夢幻の白夜。奈落も他の分身たちも騒いでいた。


―私は約束は違えない―

 何処からともなく聞こえてくる作者の声。


「ならば儂等も出せ!儂なんて犬夜叉と桔梗にやられて以降、忘れられてるぞ!」

 そう叫ぶ奈落、それに続き他の分身達も自分達も出せと言ってくる。


―野郎はいらん―


「男女差別だ!」


「そうだ!そうだ!」


「このヘボ作者!」

 ブーイングと罵倒の嵐が続く。


―作者に対してその様な口を聞くのか……いいだろう、今から出て来る敵を倒せたら出してやる―


「本当だな!?」


―作者、嘘つかない……まぁ倒せたらだけど―

 作者の言葉共に光が現れ、光が止むと2人の人影が立っていた。


「よし!貴様等を倒して桔梗と犬夜叉の仲を裂いてやる!」


「儂は出番がアレばそれでいい!魍魎丸!」


「俺は嫌な予感がするから止めとこう」

 夢幻の白夜だけがその人影達に襲い掛からなかった。他の分身達は出番が欲しいので襲い掛かる。


「むぅ……作者よ、此奴等を倒せば妃や十六夜達に会えるのだな?」


「りんに会えると聞いてきた……嘘だったら殺す」


―大丈夫、大丈夫。じゃあ、白コーナー戦国最強の妖怪・闘牙王&殺生丸―


「「「ぇ?」」」

 闘牙王と殺生丸の名を聞いて固まる奈落達。


―紫コーナー、奈落&分身―


「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!」


「流石にアレはずるすぎるぞ!」


「せめてどちらか1人にしろぉ!」


―だって俺、ヘボ作者だし、バカだし―


「「「こっこいつ!さっきの事、根にもってやがる!?」」」


―そんじゃ……ファイ!―

『カーン!』


「ではお前達」


「覚悟しろ」

やる気満々の父上と兄上様方。

奈落達の明日は如何に?


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第14巻 学園生活

 ~駒王街 山奥~

 

 

「【風の傷】!」

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 

 駒王街の山奥で龍牙王は己が土地で悪事を働く醜い怪物に向かい鉄砕牙の必殺技である「風の傷」を放った。「風の傷」を受けた怪物は悲鳴を上げ、バラバラになってしまった。

 

 

「ぐがっ……こん……なはず……じゃっ……なか……たのに」

 

 頭部だけが残り、怪物がそう言う。龍牙王はそれを見て、鉄砕牙を振り上げ、怪物に対して振り下ろしその命を絶った。

 

 

「……」

 

 龍牙王は鉄砕牙を振り、血を払うと変化を解き鞘に納めた。だが敵を倒したと言うのにその表情は晴れない。

 

 

「兄貴、そっちも終わったか?」

 

 声が聞こえ、そちらを向くと刀を二振り持った銀髪の少年と弓を持った巫女が此方に向かって歩いてきた。

 

 

「あぁ……夜叉も桔梗も怪我はないか?」

 

 

「あぁ」

 

 

「はい……それにしてもこの所、多いですね」

 

 この少年達こそ、夜叉と桔梗が成長した姿だ。そして桔梗がそう龍牙王に言う。

 

 

「はぐれ悪魔……元々は人間や妖怪や魔物が悪魔に転生した者達。そして主に棄てられたか、力に飲まれ気に触れ狂ったか。確かにこの所は奴等も多い、かと言ってこの街を完全に結界で閉ざす事はできぬからな。こうして倒していくことしかできない」

 

 

「確か結界で閉ざすって言うのは、気の流れも止めちまって、街全体の気が悪くなるからだっけ?」

 

 龍牙王の言葉に夜叉がそう聞いた。

 

 

「そうだ。土地神である龍牙王様がこの街の気を管理しているからこそ、街の気が安定している。だが部屋と同じで、換気しなければ気が淀み、悪くなる」

 

 夜叉の言葉に桔梗がそう答え、話していると龍牙王はその様子を懐かしそうな眼で視ている。500年前の2人の前世の事を思い出しているのだろう。

 

 

「フフフ……おっともうこんな時間だな。2人は社に戻り休め、朝から学園だ」

 

 

「面倒だな……第一勉強なんてして意味あるのか?」

 

 

「夜叉。確かに学校での勉強が全てではないが、『学生』という時期は一刻しかない。友人と遊び、恋をする、勉学で苦悩するなどは良き思い出となる。我はお前達のその時を堪能して欲しいのだ」

 

 

「兄貴の言う事は偶に難しいな………まぁ一誠達と遊ぶのは楽しいけど……そういや明日は体育があったな」

 

 

「そう言えばそうだな」

 

 

「ならっアイツ等を縛り上げておこう。着替えを覗かれちまう」

 

 

「フフフ、お前は優しいな夜叉」

 

 

「べっ別にお前の為じゃねぇよ!俺が嫌なだけだ!俺は帰る!」

 

 夜叉は顔を真っ赤にしながら神社に帰って行く。桔梗はそれを見て笑みを浮かべ、龍牙王に一礼すると夜叉の後を追った。

 

 

「全く、アイツは相変わらず素直じゃない。あぁいう所は前世()と変わらんな……さて我はもう1度、街を見てから戻るとしよう」

 

 龍牙王は夜叉と桔梗を見送ると、空へと舞い上がり街を見まわるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~朝 駒王学園前~

 

 

「ふぁ~……眠ぃ」

 

 

「夜叉、襟がおかしくなっているぞ」

 

 2人はこの街にある駒王学園の制服に身を包んでいる。

 

 眠そうに欠伸をしている夜叉の乱れた制服をその手で直している桔梗。それを見て、周りの登校している男子生徒達は夜叉に対して嫉妬の目を向けている。女子生徒は黄色い声を上げている。

 

 

「夜叉、桔梗」

 

 

「あっ兄貴、それにチビ共」

 

 夜叉と桔梗が声のした方向を見てみると、髪が短い龍牙王と白い2人の少女と、少女に抱き着いている女性が立っていた。

 

 

「誰がチビですか……おはようございます、桔梗先輩」

 

 

「夜叉、桔梗……おはよう」

 

 

「おはようございます、龍牙お……龍牙くん、白音、神無」

 

 

「おはよう。それにしても熱いわね、御二人さん」

 

 

「うんうん、黒歌の言う通り……熱い熱い。まだ夏は遠いんだけどなぁ」

 

 恐らく人間に化けている龍牙王はそう言うと、手で顔を扇いでいる。

 

 龍牙王……この学園では天龍 龍牙と名乗っており夜叉とは親戚と言う事になっている。まぁ実際に血は繋がっているが。

 

 白い少女達は天龍 神無と天龍 白音。白音はかつて龍牙王が助けた猫魈の姉妹の妹だ。残り2人は天龍 黒歌。黒歌もまた龍牙王が助けた猫魈の姉妹の姉である。

 

 

「おっとイチャつくのもいいが、そろそろ行かないと遅刻だぞ」

 

 龍牙王がそう言うと、皆もはっとして学園へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―さて、まずは状況を説明しよう。

 

 我が何故、人間に化けて学園に通っているかと言うと……記憶が曖昧になっているが、原作の悪魔達が此処に通っているからだ。夜叉と桔梗に手を出されるのは困る……2人ともしっかりしてるから問題ないだろうが……悪魔の駒は強制的にでも転生悪魔にできるからな。それと暇潰しだ。

 

 次に黒歌達は我が保護して、我が眷族となった。眷族と言っても転生悪魔の様な物ではなく……何と言えばいいのか、神使の様な物だ。とはいっても名だけのものだがな。

 

 神無の紹介はしてなかったか。奈落の分身の神無と似ているが全くの別人、とある山奥の忘れ去られた社に中にあった神鏡に宿る神だ。偶々通りかかって我が眷族として地を管理するのを手伝って貰っている。因みに神楽の方は、同じ社で見つけた扇子の付喪神だ。

 

 いやぁ、2人に力をやって実体化した時はびっくりしたなぁ……奈落の分身に似てるから、個人的には2人は好きなキャラだったのでいいが。

 

 3人が学園に通っているのかと言うと、我だけでは夜叉達は守れても、もしもの時に他の者も護れない可能性もある。後、3人には人と接して欲しいという個人的な願いもある。神楽は?

 

「制服なんて着れるか!足元がスースーする!大体、スカート短すぎだろ!」だそうで、入学を拒否した。確かにアイツの洋服ってズボンかロングスカートだな。一度「色気ねぇ」と呟いた時は本気で怒られたが……。

 

 因みに、夜叉と桔梗、我と黒歌は現在2年、白音と神無は1年である。エロガキ……もとい主人公の兵藤一誠とは同い年、同じクラスである。松田と元浜と共に女子の着替えを覗くので、我と夜叉で縛り上げるのが日課になっている。今の所、我等の正体は悪魔共にバレてないので問題ないが……夜叉達に手を出しやがったら、天下覇道の三剣の力を嫌と言う程味あわせてやる。

 

 

 おっと、そろそろアイツ等が覗きに出る時間か……縛り上げにいこうっと。我が土地の子供と言えど覗きは駄目だよ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こらぁ!三馬鹿共!大人しくお縄につきやがれ!」

 

 

「テメェ等!覚悟しろ!」

 

 

「やべぇ!龍牙と夜叉だ!逃げろ!」

 

 

「「おう!」」

 

 縄を持った龍牙と夜叉は今日も三馬鹿を追い掛けるのであった。



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龍神の巫女
第15巻 昔話


 世界が始まる以前、1つの存在が産まれた。

 

 それは始めは、形は無く意志だけの様な存在だった。その存在はまず自分の形を創り、その次に世界を創り出した。

 

 その存在こそが無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)である。

 

 無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は次に宇宙を、恒星を、惑星を、そして惑星に命を創り出していく。それがある程度終わると、後は産み出した命達を傍観する事に決め、世界の外側から世界を視ていた。

 

 無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は多くの宇宙の中から青く輝く星を見つけ、何となく訪れてみた。その星では多くの命が進化しているのを見た。そしてその星を気に入り、この星を見守る事に決めた。

 

 何千年……何万年、何億年と言う時が経ち、星の……自然の意志である神と言う存在が産まれ、やがて人間と呼ばれる存在が産まれた。

 

 無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は神や人間、動物を見ていてフッと思う事が在った。神であれ、人であれ、動物であれ番いを見つけ、子を産み、増えていく。時には神と人の子が産まれる事も在った。それを見て、自分も子を産んでみようと考えた。どうしてそう考えたのかは誰にも分からないが、もしかしたら本人にも分からなかったのかも知れないが、衝動的にそう思い付き実行した。

 

 性別を一度女性にして、番いとなるべき雄と子となる魂を探し出すことにした。過去・現在・未来、平行世界から神、人、怪物……妖怪などと呼ばれる存在まで徹底的に探した、流石は世界創造の龍神やることが凄い。

 

 始めに我が子になるに相応しい魂を探した……それで見つけたのが他者を庇い死に輪廻の輪に戻ろうとしていた人間の魂。彼女?はその魂に手を伸ばし、自分の元へ引き寄せると腹へと宿した。そして次に番いとなる雄を探し、偶々見つけた若い雄の狗妖怪……闘牙王と呼ばれる存在を見つけ、彼を自分の元へと引っ張り、それで魂に肉体を与えた。

 

 時が経ち、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は子供を産んだ。龍神と狗妖怪の血を継ぐ者……その子の名を龍牙王とした。

 

 

 

 

 

 ―我が母、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)。孤独で在ったが、他者と関わる事のなかった故にその感情を嫌い出来なかった龍神。

 

 我を宿した事で愛情というものを理解したらしい……だが子育てなど初めてで幾度我が死に掛けた事があるのは言うまでもない。そして我は産まれて100年程経ち、父親である闘牙王に引き会わされた。

 

 まぁ始めこそ、あの闘牙王が父親で驚いていた。それから親父と過ごして、尊敬し憧れる存在となったのは言うまでもない。子は親を尊敬し憧れるのは当然の事で、我と言えど例外ではなかった。そして決めた、これから産まれてくるであろう、弟やその恋人を幸せにしようと……その為に親父の元で修業する事にした。

 

 我は修業しそれなりに強くなったのだが、そんな時我が母が「旅に出ろ」と言われ、ありとあらゆる場所に飛ばされた。過去・未来・外宇宙・異世界……しかも戦場の真っただ中……今考えてもよく生き残ったものだ。戻れば、母に飛ばされた先での事を弄られ続けたが……まぁそのお蔭で強くなったからその面では感謝している。

 

 父と母のお蔭で我は強くなった……だがそんな中で失っていたものが在った。だが我はそれに気付けずに……いや目を背けていた。傷付く事を怖れていた。アイツ(・・・)に言われるまでは……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社 神殿~

 

 龍牙王は神殿の祭壇の前に座して昔の事を思い出しながら、晩酌をしていた。横には神無が座り、銚子を持ち龍牙王の盃に注いでいた。

 

 

「あにき~」

 

 

「りゅうおうしゃま」

 

 

「どうした、夜叉、桔梗?」

 

 寝間着を着た幼い(3~4才)夜叉と桔梗が龍牙王の元に駆けてきた。

 

 

「おはなしききたいです」

 

 

「ききたい!」

 

 どうやら、2人は寝る前に龍牙王の話を聞きたい様だ。

 

 

「しかしもう寝る時間……ぅう」

 

 子供が起きているには遅い時間なので寝る様に言おうとするが、キラキラした純粋な目で見られると断わり辛い龍神である。答えを返さないと2人の目に段々と涙が浮かんでくる。

 

 

「はぁ………分かった。だからその様な顔をするな」

 

 

「「やったー!」」

 

 

「神無、スマンが酒を下げてくれ。夜叉達が誤って飲んでは大変だ。2人とも、話を聞いたらちゃんと寝るんだぞ?」

 

 

「「はぁ~い」」

 

 龍牙王は結局、話をする事にした。誤って酒を子供達が酒を飲まない様にちゃんと下げさせて、2人が風邪をひかない様に自分の尾で包んだ。

 

 

「さて何の話をしようか……」

 

 

「おおきいたこのはなし!」

 

 

「何度もしただろう……思い出したくないから却下だ」

 

 

「じゃあ」

 

 ―チュー―

 

 夜叉が何かを言おうとすると、何かが吸われる音がした。夜叉は自分の頬に吸われて感覚を覚え、頬を叩いた。

 

 

 ―ペチッ!―

 

 

「ぐぇ!」

 

 何かの苦悶の声がすると共に夜叉の頬から叩き潰された何かが落ちる。

 

 

「あっみょうがじいちゃん!」

 

 

「おっお久しぶりです、夜叉様。相変わらず美味しゅう血でございますなぁ」

 

 それは蚤妖怪の冥加だった。冥加は龍牙王や殺生丸、犬夜叉の父親に仕えていた妖怪の1人で現在はこの地に身をおいている。

 

 

「久しぶりだな、冥加」

 

 

「お久しゅうございます、龍牙王様」

 

 

「どうかしたのか?」

 

 

「いぇいぇ、特に用があると言う訳ではないのです。ほんのすこ~し、龍牙王様の血を頂こうと思い来たのですが……夜叉様と桔梗様のお声が聞こえて来ましてな」

 

 どうやら冥加は龍牙王の血を貰う為に神社に来たらしい。

 

 

「そうか、なら好きに吸え」

 

 

「ちっておいしいのか?」

 

 夜叉がそう冥加に尋ねた。

 

 

「そうですなぁ~、人間にとっては不味くても儂にすればおいしいですぞ」

 

 

「だれがいちばんおいしいのですか?」

 

 続いて桔梗まで夜叉につられてそう尋ねる。

 

 

「難しい質問ですなぁ~……親方様、龍牙王様、夜叉様、桔梗様、皆さまの血は美味しいですし……そうですね、一番良いのは若い女性……特に【アイリ】様の……っ!もっ申し訳ありません!龍牙王様!」

 

 冥加はアイリと言う名を口にした瞬間、すぐさま土下座して龍牙王に謝罪する。それはかつて、犬夜叉が人間になる際に龍牙王を呼び出した時に冥加が見せたものと同じだった。

 

 

「「あいりってだれ?」」

 

 聞いた事のない名前に首を傾げる子供達。

 

 

「……冥加、顔を上げろ。何度も言うがアレはお前達の責ではない……責められるは我だ」

 

 そう言う龍牙王は哀しげな表情なる。それを見て、心配そうに彼を見上げる夜叉と桔梗。彼はそんな子供達の頭を撫でる。

 

 

「そうだな……アイリ………我に仕えた初めての巫女であり、我に他人を慈しむ事を教え……いや気付かせてくれた女」

 

 ―龍神は語り出した、この地を護ろうと命を賭して戦った少女の物語を―



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第16巻 巫女との出会いと人の心

 この世界を創造した無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)と大妖怪・闘牙王の子供………ハーフではあるが始まりの龍神と大妖怪の血を引く故に、強靭な肉体と強大な力を有していた。

 

 世界最強とされるのは、無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)が産み出した真なる赤龍神帝(アポカリプス・ドラゴン)、次に無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)の2体の龍だ。

 

 無の龍神(ゼロニクス・ドラゴン)は2体の造物主であるが故に、その力は先の2体の龍とは次元が違う。そして己が血肉を別けて産んだ子供である龍牙王もまた規格外と言えるだろう。

 

 だがその魂は……心は元々は人間のものだ。強靭な肉体に宿った魂はやがて、肉体につられてしまう。つまり心も龍神・妖怪のものへと染まってしまう。現に龍牙王も強くなる度に、弱い人間の心より、龍神・妖怪の心へと染まっていった。他者の事など考えず、力の限り敵を倒す思考へと変わり、戦いが終わり周囲の悲惨な状況を見ても何とも思わなくなる。

 

 だがそんな中でもある状況では龍牙王の心は揺れ動く出来事がある。それは戦いでもないのに弱者が強者に一方的に嬲られる事だ、その状況を見た途端、彼の中にある人間の心が苛立ちという形になって現れた。勿論、当の本人はそれを理解していない……だからこそ、苛立ちを解消する為に強欲な者達を打倒す。それを繰り返す事で弱き者達は、龍牙王を神または神の使いとして崇めた。そしてついた名が【栽龍神】だ。

 

 ただ力を付け、自分の苛立ちをおさめる為に戦っていた日々……それはとある切っ掛けで変わる。

 

 

 

 龍牙王は偶々、空を飛んでいた時の事だ。

 

 彼は禍々しい力を感じた。普段であれば放っておくのだが、力を感じた方向から吹く風に人間の匂いが混じっていたのだ。

 

 

「……チッ」

 

 彼は舌打ちすると、一先ず力を感じた方向へと飛んでいく。

 

 一刻も掛からずに龍牙王は目的の場所へと辿り着いた。そこは雑草1本生えていない土地……荒野と言っていい土地だった。

 

 

「これは……邪気?いや違うか」

 

 人間の目にはただの荒地にしか見えないが、龍牙王の目にはこの地に広がるドス黒い川の様な物が見えていた。

 

 

「龍脈……それも大きい……この先は……大きな龍穴……なるほど、此処は【龍泉地】か。何かが在って、龍泉が穢れてしまったとみるべきか」

 

 龍牙王が黒い川……地に入る気の流れ【龍脈】を辿っていくと、そこには黒い気が噴き出ている【龍穴】を見つけた。

 

 龍脈と言うのは気が流れる道の様なもの、そして龍穴とは龍脈が流れ込む場所。この2つは陰陽道や道教、風水などでは繁栄する土地とされているが、現在の状況はその真逆だ。

 

【龍泉地】とは大きな龍脈と大きな龍穴がある土地の事だ。

 

 龍牙王はこの状況は、何かがあり龍穴と龍脈が穢れてしまった故の惨状だと。

 

 

「人間の匂い……それも大勢……」

 

 人間の匂いのする方向へと向かう。龍牙王の力をもってすればこの地の浄化し、再び緑溢れる地へと戻す事は可能だがそこまでするつもりはなかった。

 

 瞬きの間に龍牙王は人が集まる場所へと辿り着いた。どうやら小さな村の様だ……その中心に人々が集まって話し合いをしている様で、彼は自分の力を使い人から己の姿が見えない様にするとその近くへと歩み寄る。

 

 村人の前に立つ、村長らしい老人と巫女らしい少女が立っていた。良く見れば皆、痩せ細っており顔色も優れない。

 

 

(この地では満足に食い物も水も獲れない……それに龍穴から溢れる負の力でいずれは死ぬ……いやあの巫女の張った結界で何とか生きていけるという所か。霊力は申し分ないが、技術はまだまだ未熟の様だな。結界も穴だらけ。

 

 何故こんな土地に留まっているんだ?他の土地に行けばいいものを)

 

 

 ―村長!もうこの土地では生きていけない!―

 

 

 ―老人、女子供の多い儂等では安住の地へと辿り着けぬ可能性もある……それに先祖の想いの詰ったこの地を捨てる訳には―

 

 

 ―だが、このままではどちらにしても全滅する!―

 

 

 ―しかし近頃では付近の土地で戦が起きているとも聞く。もしそれに巻き込まれればそれこそ終わりだ―

 

 

 龍牙王はイライラし始めた。理由は分からない、だが弱い人間達(彼等)を見ていて心がざわつき始めた。

 

 

 ―巫女様!巫女様はどうお考えなのですか!?―

 

 龍牙王は村人達の声で我に帰ると、巫女の方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~巫女side~

 

 

 ―私の母はこの地の力を神を崇めていた巫女。私は母の後継として幼き頃から修行していた。

 

 しかし数年前、この地に魔物が襲ってきた。その魔物がこの地の力に手をだし、結果地の力は暴走し穢れ、緑豊かだったこの地は数日で荒野と化した。母はそれを止める為に命と引き換えに暴走を鎮めたが、地の力は穢れたままだった。今の私ではこれを浄化する事はできない。

 

 今は私の結界でこの地で暮らしてるが、修行不足の私の力では生きていくのがやっと……。かと言って他の地に村人全員で行くには危険が多い。安住の地に辿り着けると言う保証もなく、現在では豪族達が戦を繰り返していると聞く。

 

 だけど、もうこの地で生きていくのは限界なのは言うまでもない―

 

 

「巫女様!巫女様はどうお考えなのですか!?」

 

 

「えっ……あっ」

 

 私は村人の言葉で我に帰る。皆が此方を見ていた。

 

 

「確かに今は生きていくだけでやっとですが……豪族達が力を付ける為に戦を繰り返しているとも聞きます。もし移住中に襲われでもすれば……今の私達は何も出来ずに終わってしまうでしょう。なn……誰かいるのですか?」

 

 巫女は突然、何かの気配に気付き気配の方向へと声を放つ。村人達が周りを見渡すが誰も居ない。

 

 

(この気配は……圧倒的過ぎる。でも禍々しい気配はない……その逆、清らかな力)

 

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

「誰かいるのですか?」

 

 

(我か?どうみても我を見ている……本気でないとは言え、穏形を見破るとは……霊視力が高い)

 

 龍牙王は自分に掛けていた術を解き、姿を現した。

 

 

「貴方は」

 

 

「我は通りすがりの妖怪だ。偶々、この地から溢れる邪気を感じてやって来た。貴様がこの地の巫女か?」

 

 

「はっ…はい」

 

 龍牙王の問いに返事を返す巫女。

 

 

「何故、この地はこんなにも穢れている?」

 

 

「数年前、この地に魔物がやって来ました。その魔物がこの地の力に触れた事で力は穢れ、暴走しました。先代巫女である母はそれを止める為に命を賭して暴走を止めましたが……穢れはそのまま残ってしまいました」

 

 

「この地では生きてゆけまい……何故離れぬ?」

 

 

「私達はご覧の通り殆どが女子供と老人です。移動して目的地に辿り着く可能性も低く、最近では戦が多く巻き込まれると考えれば」

 

 

「動きたいが動けぬか……若い男達はどうした?」

 

 

「皆、水や食料を求めて土地から出ましたが……」

 

 

「誰も戻らないか………」

 

 

「それに此処は儂等の先祖が……家族が眠り、その想いが詰まった土地……簡単には捨てられませぬ」

 

 巫女の後ろに居た村長が前に出てそう言った。

 

 

「想い……(何故……何故こんなにも人間は我の心を揺り動かす?我が人間だったからか?だが今の我には人間の心など……とうの昔に)」

 

 己の中で自問自答を繰り返す。恐らく100年……1000年、永遠に続けても今の彼では答えが出る事はないだろう。だからこそ、苛立つ。

 

 龍牙王は何を思ったのか、天を見上げる。彼の身体が光りに包まれて、天へと翔け昇りその姿を龍へと変え、彼は龍穴を目指して飛んでいく。

 

 

(これは奴等の為じゃない……唯の気紛れ……穢れた土地があったからそれを浄化するだけのこと)

 

 彼は、これは気紛れであり、穢れた土地を浄化するとだけだと自分に言い聞かせ、どす黒く力を放つ龍穴へと飛び込んだ。

 

 すると、真っ黒な力が溢れ出していた龍穴が光に包まれると消滅した。龍穴の在った場所には人の姿に戻った龍牙王が立っており、彼の足元には徐々に草が生え始めていた。黙ったまま、周辺を見渡した。

 

 

「フム……中々良い土地だ……だがこれだけの地、守護がなければ誰かに狙われるか……」

 

 龍牙王は近くに在った大きな石に触れ、自分の爪で4つにすると己の血を石にかけると石はそれぞれの意志が大きな狗へと姿を変えた。

 

 

「この地で産まれし精霊達よ。汝等は我が血により我が眷族となり、動ける身体、名を与えてやった……その身で汝等の故郷を守るがいい」

 

 龍牙王は眷族となった狗達にそう言うと、再び龍へと変化して天へと昇って行った。

 

 

 

 

 ~高天原 天照の神殿~

 

 

「ふぁ~……こう暖かいと眠くなるな」

 

 

「そうだな」

 

 神殿の中で龍牙王の尾を枕にして寝ているこの高天原の最高神・天照。因みに彼は何かの巻物を読んでいた。

 

 2人は関係は夫婦ではない、恋人なのかと言われると実際の所本人達にしか分からない。

 

 

「ぁ~やっぱこのモフッモフッ最高だなぁ」

 

 

「そうか……」

 

 

「と言うか、何を読んでいるんだ?」

 

 

「地脈とかの事をな……考えてみたら地脈を操る時、感覚的にやってるけどしっかりとした知識を持ってなかったと思ってな。知識が在ればもう少し活用できるかと思ってな」

 

 

「ふ~ん……じゃあ、土地神になればいい」

 

 天照は突然そう言い出した。龍牙王はそれを聞き、巻物を落とした。

 

 

「変な事を言うなよ。我がなんでそんな事を」

 

 

「まだ気付かねぇのかよ(ぼそっ」

 

 

「ん、なにか言ったか?」

 

 

「なんでも……この間、お前が浄化した土地あったろ。あそこの土地神になれ」

 

 

「……寝惚けてるのか?」

 

 

「寝惚けてもないし、酔ってもない。これは太陽神としての決定だ、従って貰うぞ」

 

 満面の笑みを浮かべてそう言う天照。

 

 

「……龍眠近いし、準備しないと」

 

 

「まだ200年以上先だよな」

 

 

「母からの呼び出し」

 

 

「それについては私からお義母様にお願いして呼び出さない様に頼んだよ」

 

 

「………用事を思いd「嫌ならこれを各神話にコレを送るぞ……可愛い私からのお・ね・が・い」…………はい」

 

 天照の手には「招待状」が握られていた。因みにその中身は龍牙王と天照の結婚式の招待状だ、因みに龍牙王にその気はないようで、それを出されると拙いらしい。

 

 

「その脅し本当に止めろ……アイツ等が見たら、戦争しかけて来るぞ」

 

 

「問題ない、お前への愛は誰にも負けないからな。全員、返り討ちにする自信はある」

 

 

「お前等が戦うとそれこそ世界が神々の黄昏(ラグナロク)になっちまう」

 

 そう言った瞬間、龍牙王は尾を引っ張られ天照に押し倒された。

 

 

「だったらさぁ……いい加減、誰を娶るか決めて欲しいんだが」

 

 そう言われて、龍牙王は天照から視線を逸らす。

 

 

「我が誰か1人を選んで、自分じゃなかったらどうする?」

 

 

「相手を滅してでもお前を奪い返すに決まってるだろ」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる太陽神……目が笑ってないのは気の性だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数か月後~

 

 龍牙王は天照に言われて、例の土地の神となった。

 

 この土地の神となった日、やって来た龍牙王……龍穴が浄化された事で土地は緑豊かになっていた、だが一番驚いたのはそこに住む人間達の変化だった。

 

 絶望していた人間達が、たった数日で明るくなり生気に満ち溢れていたからだ。

 

 

「えぇい!土地神の仕事はこんなにも忙しいのか?!」

 

 龍牙王は人々の手で立てられた神殿で土地神として忙しい日々を過ごしていた。だがこの地の神となって、彼は不思議と充実感を覚えていた。

 

 

 ―なに親父が来た?追い返せ、面倒だ。

 

 光り輝く女神達が争っている?直ぐに止めに行く!我に土地神になれとか言っておいて、土地を焼き払うつもりか!?

 

 子供が迷子になった……村人に探させればいいだろう。一々我に報告するな………陽牙、陰牙、眷族達に探させろ。仕事?その様な事、後回しでよい―

 

 土地神として過ごし始めて龍牙王の中で何かが変わり始めた。

 

 

 

 

 

 

 ~巫女side~

 

 私は巫女・アイリは先の事件で龍牙王様に助けられ、龍牙王様が土地神となった事で私は彼の巫女となった。未だ巫女として認めてくれないので、「娘」としか呼ばれていない。この数日、彼に仕えて疑問に思った事が在った。

 

 土地神となった龍牙王様は何処か村人と一線を引いていたからだ……神と人であるならそれは当然の事なのでしょうが………人々を視る時の嬉しそうな眼、子供が行方不明になった時眷族達総出で探させ見つかった時の安堵した表情、村人の1人が死んだ時に表情には出さなかったが哀しそうな雰囲気、子供達に尾で遊ばれているのに楽しそうな顔………まるで何かを押し殺している普段の姿からは想像できない刹那に見せたあの方の本当の姿なのでしょうか…。

 

 

「龍牙王様」

 

 

「なんだ……娘」

 

 

「ヤエさんが亡くなりました……村の皆に見守られて安らかに逝ったそうです」

 

 私は村人の1人、ヤエさんが亡くなった事を龍牙王様に報告した。ヤエさんはこの村で生まれ育った女性で、村の皆さんの母親の様な存在でした。病と言う訳でもない……私は人の身なので天命は分かりませんが、恐らく寿命なのでしょう。

 

 龍牙王様は無表情になり、そうか…と呟かれた。

 

 

「ヤエ……確か毎日、朝早くから来ていた老婆か。人と言うのは儚いな……数十年も生きずに死ぬとは。これだから人間は」

 

 

「……どうしてそんなにも感情を押し殺すのですか?」

 

 

「なに?」

 

 

「貴方様に仕えさせてまだ短いですが……貴方様は感情を押し殺している様に思えて仕方ないのです。子供達を見守る時の御顔や人々を視る眼、あれが本当の貴方さまではないのですか?」

 

 

「知らん……貴様の勘違いだろう。我は人間が死のうが関係のない話だ」

 

 

「だったら何故、その様に哀しそうな顔をなさるのですか?」

 

 

「哀しむ?我が……そんな訳「いいえ!貴方様は哀しんでいる!なのにそれを押し殺しておられます!」」

 

 私はそう言い切った。理由は分からない、でも彼の方が押し殺しているのは事実。

 

 

「貴様等の様な矮小で儚い存在と同じにするな………巫女風情が口を慎め。何度も言うが我は人間などどうでもいい」

 

 その眼を見てアイリは理解した。

 

 

「貴方様は……喪う事が怖いの……ですね」

 

 

「なに…を」

 

 

「だから大切な物を作ろうとしない」

 

 龍牙王の目が赤く染まり、アイリの首を掴む。

 

 

「止めよ……それ以上口を開くなら、このか細い首を圧し折るぞ」

 

 

「確かに私達、人間は貴方様から見れば瞬きの様な時間しか生きていけません」

 

 

「止めよ」

 

 

「でもきっと何かは残る筈です」

 

 

「ッ!」

 

 龍牙王は永い時の中で多くの様々な人間を見てきた。だが龍神の身たる彼からすれば人間の生きてる時間なんてほんの一瞬の事だ。色々な出会いがあり、同じ数だけ別れが在った。

 

 優しい人もいた、英雄と呼ばれる者達もいた、龍神相手に気軽に話しかける者達もいた……だが皆、死んでしまった。戦や病で死んだ者、寿命を全うした者もいた……でも死に立ち会う度に龍牙王の人間の心はすり減っていく。

 

 仲良くなった者達……そんな者達の死を10……100と繰り返せば人間の心は耐えられなくなるのは当然の事だ。だから無意識の内に彼は人間を遠ざけた……しかし弱者が一方的に嬲られるのを見るとほんの微かに残った人間の心が動き苛立ちという形で現れていた。

 

 

「貴方様がその人と過ごした時間は忘れない限り貴方様の中に残ります。その人の想いは子供や家族に引き継がれていきます」

 

 龍牙王が人々と過ごした思い出は、その時に感じた想いは、彼が忘れない限り彼の中で生き続けるだろう。その人々の想いは、彼等の子が孫が……子孫が延々と受け継いでいく。それが限りある命を持つ人間達が太古から続けてきた「人の営み」だ。

 

 

「想い………ふ……フフフ……ハハハハハハハハ!!!」

 

 

「あっ……えっと……あの」

 

 

「その様な当たり前の事を……人間の……それもこんな小娘に気付かされようとは……我もまだまだ未熟という事か」

 

 

「龍牙王様?」

 

 

「人の心か………巫女・アイリ!」

 

 龍牙王は今までアイリの事を「娘」としか呼ばなかったが急に名前を呼んだ。

 

 

「はっはい!」

 

 

「『今』の我には人の心が分からん……故にお前が人の心を我に教えよ。後、我の巫女を名乗るのであれば神具の1つのでも身につけよ」

 

 そう言うと、龍牙王は自分の銀髪の髪を指で摘むと爪で切った。そしてそれに息を吹きかけると白い紐の付いた鈴に変わり、アイリに渡した。

 

 

「さて行くぞ!」

 

 

「えっ、どちらへ?」

 

 

「あの者は我を信仰した。短い間で在ったが、その信仰心は本物だった……なれば我は土地の神として信じた者の魂を冥府へ送ろう。案内せよ、巫女よ」

 

 

「はい!」

 

 これが彼の土地神としての本当の始りだった。



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第17巻 土地神としての日々

 ~数年後~

 

「こらっ!痛い!髪を引っ張るな!尾の毛を毟るな!

 

 身体にぶら下がるな、落ちたらどうする!」

 

 

「あらっあらっ駄目ですよ、龍牙王様に失礼しては」

 

 子供達の玩具と化している龍神様を見て、他の子供達と薬草を取っているアイリ。

 

 アイリに心を気付かされてから、龍牙王は人間達とよく接する様になった。赤ん坊が泣いている時にあやす為に狗の姿を見せてからというもの、子供達に懐かれている。子供達が怖がらない様に青年だった姿を、少年の姿に変えたりと本人も満更ではないようだ。

 

 

「うがぁぁぁぁぁ!いい加減にしろぉぉぉぉ!」

 

 

「きゃぁぁぁ!龍王さま、おこったぁ!」

 

 

「「「おこったぁーー!」」」

 

 

「にげろーーー!!!」

 

 逃げ回る子供達を追い掛ける龍牙王。

 

 

「ぜぇぜぇ……子供って……なんでこんなに…体力ある……んだ!?」

 

 子供達を捕まえると、肩で息をしている龍牙王。神でも活発な子供達の相手はかなり体力を使うらしい。

 

 神さえも疲れさせるとは、恐るべき子供の体力だ。

 

 

「「「「たべられる~」」」」

 

 

「誰が食うか……全く…アイリ、そろそろ戻るぞ」

 

 

「はい、では皆……戻りますよ」

 

 

「「「はぁ~い!」」」

 

 アイリに言われて、素直に返事を返す子供達。

 

 

「お前等、アイリには素直だな………一応、我は神だぞ。アイリより偉いのだぞ?」

 

 

「ぇ~だって龍王さま、何時も屋根の上で座ってるだけだもん」

 

 ―グサッ―

 

 

「アイリ様、忙しいのに龍王さま、寝てただけだし」

 

 ―グサッ―

 

 

「お日様、出てるのにお酒飲んでた!」

 

 ―グサッ―

 

 

「「「「それに龍王さまより、アイリ様の方が綺麗で優しいもん!」」」」

 

 

「そっそんな事、ありませんよ。龍牙王様は」

 

 

「もう知らぬ……尻尾も触らせてやらん、狗にもならぬ」

 

 

「「「「龍王さま、ごめんなさい!龍王さまは凄く優しいです!」」」」

 

 

「現金な奴等め……子供の内はそれでもいいか。良い事をすれば褒め、悪い事をすれば叱る…………子供を育てるのは難しいものだ」

 

 そう言いながら、狗へと変化する。

 

 

「フフフ、では皆さん還りますよ。龍牙王さまに乗せて頂きましょう」

 

 

「「「「はぁ~い」」」」

 

 アイリと子供達は狗へと変化した龍牙王の上に乗った。

 

 

【では戻るぞ……皆、しっかり掴まっていろよ!】

 

 そう言い、龍牙王は空へと駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍牙王の社~

 

 日はすっかり落ち、この社の主・龍牙王は空を見上げていた。夜空には雲1つなく沢山の星が輝いている。

 

 

「龍牙王様、どうかなさいました?」

 

 

「星を見ていた………明日は雨だな」

 

 

「雨?こんなにも晴れているのにですか龍牙王様?」

 

 

「風に雨の匂いが混じっている………少し荒れそうだな」

 

 

「そうですか………」

 

 

「どうした?」

 

 何やら不安そうにしているアイリの顔を龍牙王は覗きこむ。

 

 

「いぇ……最近、何やら不安でして」

 

 

「不安………案ずるな、この地には我がいる。我がいる限り、お前にも、子等にも手を出させぬから安心しろ」

 

 そう言うと、自分の尾を彼女に巻き付けた。アイリはモフモフな暖かい尾で包まれているため、少し安堵した様子だ。

 

 

(この胸騒ぎは一体なんでしょうか?)

 

 

「今日はもう休め………夜も遅い」

 

 

「はい……ではお休みなさいませ」

 

 

「あぁ……お休み」

 

 龍牙王はアイリにそう言うと、社の屋根の上へと上がった。屋根の上に乗ると突然、眠気が襲いかかり、その場に膝を付いた。

 

 

「今回は早いな。だけど未だだ……せめてこの地が安定するまでは眠る訳にはいかん」

 

 眠気を振り払う様に首を振ると、立ち上がると村を見降ろした。まだまだ

 

 

「龍眠は逃れられない。今回ばかりは半龍半妖の我が身が呪うぞ……一度完全に眠ってしまえば数十年は眠ってしまう。その間、此処の護りは守護狗達だけじゃ………天照達に頼むか。どちらにしても天岩戸を借りなきゃならんし……明日、行ってみるか」

 

 そう呟きながら、視線を再び夜空を見上げようとするが……覚えのある匂いを嗅ぎ取り、溜息を吐くと匂いのする方向に向かい駆け出した。

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 

「レドラ様」

 

 

「おぉ、爺か。それで例の噂は?」

 

 

「はい、確認してまいりました。凄まじい力の秘めた土地でございました……ただ、あの土地には凄まじい力を持つ者が居りまして……ですが噂では伝説の裁龍神が治める地だとか」

 

 

「裁龍神……ぁあ、あの噂の龍神か」

 

 

「はい……なので少し様子をみた方が」

 

 

「フン、噂や伝説には尾ひれがつくものだ。伝説の龍神を倒したとなれば私の株も上がる……それに所詮は神など純血悪魔であり、アスタロト家の次期当主の座を約束された私にはとるに足らん存在だ……ククク……アハハハハハ!」

 



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第18巻 別れ

 ~翌日~

 

「はぁ~」

 

 アイリは心ここに在らずと言う感じで溜息を吐いていた。今までその様な姿を見た事がないため、村人達は混乱していた。しかし、女性陣だけはその様子を暖かい眼で見守っていた。

 

 子供達は何時もの様にアイリに遊んで貰おうと近付いていくが、母親達に止められた。

 

 

「ダメよ」

 

 

「「「どうして~?」」」

 

 

「女の子には1人になりたい時もあるのよ」

 

 

「そうそう」

 

 

「「「?」」」

 

 そう話す母親達の姿を見て、首を傾げる子供達。

 

 

「「「若いっていいわよね~」」」

 

 アイリが龍牙王に「己の弱さ」を気付かせてから、2人の距離はかなり縮まった。周りから見れば、恋仲の様に見えても可笑しくないものだった。なので女性陣は2人に上手くいってほしいと考えていた。彼女達も女性なので、恋する乙女の悩みは理解できるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイリ殿」

 

 

「あっ……闘牙王様」

 

 何故、闘牙王が此処にいるのかと言うと……。

 

 昨日の夜にこの地の近くを通った闘牙王に気付いた龍牙王が此処に招いたのだ。その理由は、龍牙王が龍眠のことで高天原に行く間のこの地の守護だ。

 

 守護狗達がいるとは言え、もしもの事があるかも知れないので自分が知る中で最も強い妖怪である父に留守の間の事を任せたのだ。闘牙王も龍牙王(息子)が頼ってくる事など滅多になかったので、嬉々としてそれを受けた。刀々斎や冥加達も一緒にいる。

 

 

「それにしても此処は気持ちの良い土地だな」

 

 

「はい、龍牙王様のお蔭でようやく此処まで復興できました」

 

 

「そうか……そなたのお蔭で変わったんだな。昔のアイツは滅多に笑う事などなかったのだが……あの様に笑ったのを見たのは久し振りだ」

 

 

「そうですな~……ですが小さい頃の龍牙王様は良く笑われておりましたぞ。親方様は龍牙王様が幼いからと城に置いて、戦にばかり行かれてましたからなぁ」

 

 

「うぐっ!?」

 

 闘牙王の髪の中から冥加が出てきてそう言った。

 

 

「それに突然、自分の子供だって言ってアイツを連れて帰って来た時はおったまげたぜ……まぁ一番おっかなかったのは奥方だったな」

 

 

『ウム……恐ろしかったのぅ』

 

 供である刀々斎と鞘がそう言い、冥加もそれに同意し頷いている。

 

 

「うぐっ……その話は止めよ、あの時の傷が疼く」

 

 そう言って闘牙王は腹を押さえている。

 

 

「小さい頃の龍牙王様……」

 

 

「そうだ、小さい頃のアイツの話でもしよう」

 

 

「はい!聞きたいです!」

 

 そうして、龍牙王の幼い頃の話が始まった。それを村人一同が聞いていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~高天原~

 

 

「……と言うふうに頼む」

 

 

「成程……分かった。私と月読でお前が寝ている間はちゃんと管理しよくよ」

 

 

「助かる……ふぁ~」

 

 

「……」

 

 

「いたっ!いきなりなんだ?!」

 

 龍牙王と天照が龍眠の間の土地の話をしており、話す中で時折安らかな表情を見せた。今まで自分の心を閉ざしてので彼が自分や妹神、心を許している者達以外の事で笑みを浮かべる事などなかった。天照にとってはそれは嬉しい事なのだが……それが他人の手でもたらされたのが気に入らなかった。なので彼の尻尾の毛を毟り始めた。

 

 

「うるさい……私の気持ちも知らないで、また女を増やしやがって」

 

 

「うぐっ」

 

 

「確かにあそこの土地神になれって言ったのは私だけど………何人、女を増やせば気が済むんだ……ぁあ!?」

 

 

「それに関しては…本当にすまない」

 

 

「……だけど、お前に気付かせたのはあの巫女だ。それに関しては感謝している、だけど覚えておけ」

 

 天照が龍牙王を押し倒すと、顔を近づける。彼もそれに抵抗しなかった。

 

 

「女神としての退屈な日々を過ごしている私に楽しみ・喜びを教えてくれた。

 

 勝手に動く他の神々を、私の為に叱責し、戦ってくれた。だからこそ、お前に惚れ……愛した。

 

 私はお前が愛してくれるならそれでいい。お前みたいな強い男には女が集まってくるのは当然だと思う……だから『妾』くらいなら何人居ても許す………だけど」

 

 天照は龍牙王にしか見せない哀しそうな顔になりそう言った。

 

 

「我は弱い、お前達が居なかったら恐らくとうの昔に壊れていただろう………お前達の内、誰か1人でも欠けたらと怖い」

 

 恐らく龍牙王は天照や他の女神達に出会わなければ今の彼では居られなかっただろう。

 

 

「……女神は嫉妬深いからな、捨てられない様に気を付けるんだな」

 

 

「努力します」

 

 

「後、正妻の座は月読()にもあの巫女()にも譲る気はないからな!」

 

 

「そっそれに関してはですね……皆との話し合いで」

 

 

「ハハハ、無理。私等誰も退かないしな……それとこれ以上増やすなら私にも考えがある」

 

 

「なっ何するつもりだ」

 

 

「鍛え上げた去勢拳……解放しちゃうぞ」

 

 ニッコリと笑いウィンクする太陽の女神なのだが……眼は全く笑っていなかった。自業自得ではあるが流石の龍牙王も顔を引き攣らせており、縮こまっていた。

 

 それを見て「冗談だよ」と言い彼女は龍牙王から離れた。

 

 

「土地の事は任せな……じゃそろそろ戻ってやんなよ、人間の一生は短いんだし」

 

 

「あぁ……ありがとう」

 

 笑みを浮かべて礼を言う龍牙王。それを見て、顔を赤くする天照。

 

 

「……その気もないのに、女を落とすイケメンは本当に性質が悪い。これで性格が悪ければ私もキッパリと捨てれるんだけどな(ボソッ」

 

 

「なにか言ったか?」

 

 

「何でもない、それよりも早く行け」

 

 

「あっ…あぁ……?」

 

 彼女の言葉が聞こえなかったので、疑問に思うがこの場を後にして自分の地へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍牙王の地~

 

 龍牙王は自分の土地に帰って来て、何か違和感を感じた。

 

 

「……なんだ、邪気?……にしては感じた事のないものだ」

 

 村の方から邪悪な気配を感じた。そして風に乗って覚えのある匂いが漂ってきた。

 

 

「まさか!?」

 

 凄まじい力で地を蹴り、村へと急いだ。

 

 

(ありえぬ………間違いであってくれ!)

 

 その匂いは血の匂いだった。複数の者の血が混じっているため、はっきりしないが一番強く出ているのは最も自分の近くにいた女の血の匂いだ。

 

 だからこそ全力で駆ける、何が在ったのか、原因は何かなど様々な事が頭を巡るが、そんな事は二の次だ……最優先事項は1秒でも早く辿り着く事だった。

 

 辿り着き、始めに目に入ったものはボロボロになった村と村人達が光の結界に包まれて、その結界を破ろうとしている異形達の姿だった。そして深紅の衣を纏い倒れているアイリの姿だった。

 

 龍牙王は始めそれを見て訳が分からなかった……正確には視覚が目の前の光景を認識していても、脳がそれを理解しようとしなかった。

 

 

「けっ!この結界、全然壊れねぇ!」

 

 

「それにしてもこの巫女……結局何も喋らないままくたばっちまいやがった」

 

 異形達は結界が壊せない為に、イライラしていたのか倒れているアイリに蹴りを入れようとする。

 

 

「この人間風z「死ね」」

 

 だがその足はアイリに届く事なかった。龍牙王が瞬時にアイリの元に移動しその爪で異形を引き裂いた。

 

 

「きっ貴s」

 

 その隣にいた異形は龍牙王に襲い掛かろうとするが、彼の身体から放たれた光で消滅した。

 

 異形達や村人達が何かを言っているが、彼は総てを無視して()()()()()で染まった己が巫女を抱き上げた。彼女の全身は血塗れで、綺麗な黒髪は白髪になっている。

 

 

「何をしている……我が戻ったのだぞ」

 

 声を掛けるが彼女から返事はない。龍牙王は抱き上げた彼女の身体が既に冷たくなっているのに気付いていない筈もない。

 

 

「何故、目を覚まさぬ………アイリ」

 

 

「りゅ……お……さ」

 

 

「アイリ……やっと目を覚ましたか。寝坊だぞ」

 

 

「もうし……ま…せん」

 

 微かだがアイリは目を覚まし声を出す……しかしそれはもう風前の灯火だった。

 

 

「謝る必要などない」

 

 

「りゅ……おう…ま……………………を…ます」

 

 途切れ途切れで何が言いたいのか分からないが、龍牙王にだけは彼女が何が言いたいのか分かっていた。

 

 

「分かっている……だからもう喋るな」

 

 アイリは震える手を伸ばして、龍牙王の顔に触れた。そして最後の力を振り絞り言の葉を放つ。

 

 

「あ……し……」

 

 

「あぁ……我もだ」

 

 龍牙王の言葉を聞き、最後に笑みを浮かべるとその手の力が抜け地に落ちた。その瞬間、完全にアイリが息絶えたのが嫌でも分かってしまった。そして、アイリの身体は真っ黒に染まり、ボロボロと崩れ始めた。そして唯一残ったのは彼女の血で真っ赤に染まった巫女服のみ。

 

 彼はそれを持つと、村人達の方に向かう。光の結界に彼が触れると、結界はその役目を終え消滅した。

 

 

「龍王さま!」

 

 

「アイリ様が…アイリ様が」

 

 

「私達の所為で……」

 

 村人達はアイリの最後の姿を見て、涙を流している。

 

 

「お前達、怪我はないか?」

 

 

「はっはい……ですがアイリ様が」

 

 

「あぁ……アイリは自分の為すべき事は成した。褒めてやってくれ……少し此処で待っていなさい」

 

 彼は村人達にそう伝えると、辺りを見廻してみると、大きな石が砕かれて居たのを見つけ触れた。すると石が光り出し陽牙達へと姿を変える。しかし重傷を負っていた。

 

 

「あっ主様……」

 

 

「申し…訳…ありま…せん」

 

 

「よい……村人達を守れ」

 

 龍牙王は無表情のままそう言うと、異形達の方に向かい歩き出した。陽牙達は声を掛けようとするが、黙ってしまった。主である龍牙王が放つ凄まじい力が放たれており、その力は彼等が今まで感じた事のない程強大で、異質なものだった。

 

 彼は異形の者達の前に立つ。

 

 

「貴様等が……我が地を穢し、巫女を死に追いやった者か」

 

 

「フン、人間如きがこのレドラ・アスタロトに逆らった罰だ……貴様が伝説の栽龍神とやらか、それなりの力だな……貴様、何故涙を流す。まさか、たかが人間の小娘1人が死んだくらいで悲しいと言うのか?」

 

 

「愛する者を喪い哀しいと思うのは当然の事だ」

 

 

「愛する?人間を?……くっ……フハハハハハハ!皆、聞いたか!伝説の龍神様は人間の小娘を愛していたそうだ!これは傑作だ、ハハハハハハ!」

 

 レドラがそう言うと、その後ろの配下らしい異形達も笑い始めた。

 

 

「………耳障りだ」

 

 龍牙王はそう言うと、後ろを振り返り陽牙達を見た。彼等はその視線に気付くと、村人達の周囲に結界を張る。

 

 

「ぐぅ………アアァァァァァッァ!!!」

 

 龍牙王の白目が血よりも深い紅に染まり、凄まじい妖力が溢れだし、狗の姿へ変化していく。

 

 

【グルルルルル】

 

 巨大な狗の姿へと変化した龍牙王はレドラとその配下の異形達を睨みつけ唸る。

 

 

「なっ……ぁ……」

 

 

「「「「ぁぁぁぁぁ」」」」

 

 レドラ達は理解できなかった。

 

 目の前の存在は一体何だ?

 

 自分達が震える程、強大な力はなんだ?

 

 

【貴様等ハ生カシテ返サン】

 

 そう言い、その爪を振るう。するとレドラの後方で何かが潰れる音がした。

 

 

「なっ……」

 

 レドラは後ろを見ると、そこにいた筈の配下の者達がいない。正確には、辺り一面が血の海になっていた。

 

 そして空に居た異形達も何が起きたのか理解できなかったが……だが次の瞬間、目の前の狗は自分達の方向を向いたのに気付く。ただそれだけの事なのに身体が全く動かなかった。

 

 

【ガアァァァァァァ!】

 

 龍牙王は尾を振るうと、尾から無数の針の様な物が放たれる。その針が空の異形達に突き刺さった。

 

 

「くっ……こんなも」

 

 

「なっ身体が溶け」

 

 針の刺さった所から身体が溶け始めた。

 

 これは龍牙王の体内で生成された毒によるものだ、弟の殺生丸でさえ凄まじい毒を持っている。龍牙王は【万物を溶かし魂さえも侵し、神をも殺す毒】を体内に持っている。その様な物を受けては一溜りもない。

 

 

「なっ……なんだ………これは……栽龍神などただの伝説ではなかったのか」

 

 レドラは目の前で起きた事が理解できていなかった。自分は貴族の悪魔……つれて来た者達も中級・上級の悪魔達だ。それがこうも簡単にやられるものなのか……あってはならない、その様な事があってはならない。

 

 

「ふっ………ふざけるなぁ!!!こんな事が……こんな事があってたまるかぁー!!」

 

 レドラは魔力弾を形成しそれを龍牙王に向かい放つ。その魔力弾は龍牙王の顔に直撃し爆発する。

 

 

「はっ……ハハハ!どうだ!たかが、極東の神如きがこのレドラ様に勝てる訳がないんだ!」

 

 

【ガアァァァァァ】

 

 

「はっ……ハハハ……そんな……ばかな……そうだ、これは夢だ……きっとゆめだ」

 

 だが全くと言っていいほど、無傷だった。それで彼のプライドは完全は崩れ去り、現実逃避を始めた。

 

 龍牙王はレドラ以外を全てこの世から消し去った。すると、彼は何を思ったのか人間の姿へと戻る。そしてレドラを掴み上げると、その爪を喰い込ませた。そしてその爪から毒が流し込まれる。

 

 

「ぎゃあぁぁぁあっぁ!!!」

 

 

「その魂もろとも消えろ」

 

 神さえも侵し殺す毒がレドラの身体を、魂を溶かしていく。

 

 

(いっ嫌だ!死にたくない!死にたくない!なんで、なんでこんなことに!?)

 

 数々の神話・伝説に名を残す栽龍神を侮り、無謀な行動を起こした結果の報いを受け魂すらも消滅してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―我が帰る3日前に、我が父・闘牙王は一族での問題が発生した為にこの地を離れた。残ったのは刀々斎と冥加のみ……そして一昨日の朝に奴等……後から知ったが悪魔がやってきたらしい。

 

 悪魔共はこの地を明け渡す様に言ってきたらしいが、眷族達も巫女も村人達もそれに反対した。眷族達は悪魔共を圧倒していたが、悪魔共は子供達を人質にとった故に抵抗できなかった様だ。そして奴等は龍泉をコントロールする神具を奪い、地の力を穢した。

 

 その状況では人間は生きてはいけない、故にアイリはその命を削り村人達に結界を張り戦い続けた。

 

 我がアイツを抱き起した時には既に肉体は死んでいた……なのに結界を維持し抵抗していた。その代償に肉体は塵と成ってしまった。

 

 巫女を喪い、我は3日3晩の間雄叫びを上げ続けた。だが何時までも哀しんではいられなかった。アイツの最後の言葉を実行する為にも……

 

『龍牙王様……どうか、この地を……生きる人々を貴方様のお力で……末永く御守下さい』

 

 我はこの地を護る為に、天照や我が知る神々の元に赴き、我が土地の情報を抹消する様に頼んだ。今回の件は恐らく我の名前が引き寄せてしまったものだと考えたからだ。

 

『強大な力は敵を圧倒するが、より多くの敵を引き寄せる』

 

 我の名がより多くの敵を寄せるなら、隠さなければならない。これ以上、我の名の所為で地や民達に不幸を招く訳にはいかないからだ。

 

 だからこそ、この地での名を【龍王】に変えた。元々、子供達にそう呼ばれていた為に馴染むのには時間は掛からなかった。龍眠が近かったが、無理矢理それを引き延ばして、我はこの地の結界・地脈・眷族を全て整えた。巫女は不在であったものの、村人達が揃って社を支えてくれたので問題はなかった。

 

 その間に幾度も親父とその配下の冥加達が訪ねてきた。正直に言うと、会いたくはなかったので追い返したがな……あの時、親父が居てくれればとどうしても考えてしまう。あの時から、親父とは死ぬ間際まで疎遠になっていた。

 

 そして我が龍眠の間は天照やその知り合いの神々に地の管理を頼んでいた―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在 龍王神社 神殿~

 

 

「と言う訳だ……って夜叉、寝てるし」

 

 昔話をしていると、何時の間にか夜叉は尾に包まって眠ってしまっていた。桔梗は真っ直ぐ龍牙王を見上げている。

 

 

「りゅうおうさま」

 

 

「なんだ?」

 

 

「りゅうおうさまはみこさまをあいされていたのですか?」

 

 

「……そうだな。今でも愛しているよ」

 

 

「そのみこさまはしあわせですね」

 

 

「どうしてだ?」

 

 

「とのがたにいちずにおもわれている………おんなとしてとてもしあわせなことですから」

 

 

「どこでそんな言葉覚えて来るんだ……と言うかお前、記憶が」

 

 

「ついさいきん、すこしずつですけど」

 

 どうやら、彼女の前世の記憶が少しずつ戻って来ているようだ。

 

 

「そうか………まぁいい。今は唯の子供としてのびのびと育て」

 

 

「はい」

 

 

「話はこれで終わり……さっさと寝なさい。早く寝ないと胸も大きくならないぞ」

 

 

「せくはらです。うったえますよ」

 

 

「酷いなぁ……ほれっ部屋に行くぞ。神無、酒とつまみを頼む。飲み直す」

 

 

「おさけののみすぎはだめです。きゅうかんびもひつようです」

 

 

「母親みたいだな、お前は…………」

 

 そんなこんなで今日も平和な1日が終わった。



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第1章 旧校舎の龍王さま
第19巻 変わる日常


 ~駒王学園 放課後 運動場~

 

 駒王学園……小中高一貫の進学校で元々は女子高だが現在は男女共学の学園だ。

 

 そしてこの学園の三馬鹿……もとい変態、兵藤一誠、松田、元浜は夜叉に拘束され地面に伏していた。その周りには竹刀やらテニスラケット、バット等を持っている女子生徒達。

 

 現在、どうしてこうなっているかというと……

 

 

 

 放課後になる

  ↓

 三馬鹿は部活の女子生徒を覗く為にダッシュ

  ↓

 着替えを覗く

  ↓

 勿論バレる

  ↓

 女子生徒達が一丸となって一誠達を追い掛ける

  ↓

 夜叉がそれに気付き一緒になって追い掛ける

  ↓

 夜叉の人外染みた身体能力で捕まる

  ↓

 その後、女子達に囲まれる

  ↓

 現在に至る

 

 

 要するに全面的に一誠達が悪いのである。

 

 何故、夜叉が追い掛けたのかと言うと理由は凄く簡単、桔梗は弓道部所属だからだ。

 

 

「お前等、またやったのか」

 

 そこに人間に化け、此処に通っている龍牙王が呆れた様子でやって来た。因みに彼が此処に通っているのには理由があるが、それは後々明かされるだろう。

 

 

「天龍!」

 

 

「お前等みたいなイケメンには決して分からないんだ!」

 

 

「お前等にモテない俺達の気持ちがわかるかぁー!!」

 

 天龍と言うのは、夜叉の苗字であり、龍牙王もそれを名乗っている。この学園での名前は「天龍 龍牙」だ。

 

 

「年頃だから気持ちは分からんでもないけど………覗きは警察沙汰だぞ?」

 

 

「「「うぐっ!」」」

 

 龍牙王にそう言われて押し黙ってしまう三馬鹿。

 

 

「皆、此奴等には我がきつく言っておくから、部活に戻りなさい」

 

 龍牙王がそう言うと、女子生徒達は顔を赤く染め「「「はぁ~い」」」と返事をすると各自の場所に戻って行った。

 

 

「全くお前達は……覗きなどして恥ずかしくないのか?」

 

 

「「「俺達は女体の神秘を見るまでは止まる事はできない!」」」

 

 どうやら何がなんでも覗きをしたい様だ。

 

 

「覗きなんてしても面白くないだろうに」

 

 

「イケメンに何がわかる!」

 

 

「イケメンなんて頼めば幾らでも見せて貰えるだろう!」

 

 

「阿呆、そんな訳がないだろうが………大体、そんなにモテたいなら自分達の日ごろの行いを正せ。一誠なんて、顔は中々のものなのに………そのスケベ心をもう少しなんとかしろ、松田と元浜もだ。

 

 お前等は女に夢を見過ぎだ。いいか、女はな外では聖母の様に優しくても、心の中では嫉妬やら憎しみが渦巻いているんだ。特にプライドの高い女ほどな……まぁお前等にも女が出来ればわk…!」

 

 驚いた様な表情で、空を見上げる。すると、夜叉もそれを見て何かを感じた様だ。

 

 

「今日は勘弁してやるから、真っ直ぐ家に帰るんだぞ。夜叉、戻るぞ!」

 

 

「あぁ!これに懲りたらもうすんじゃねぇぞ!」

 

 彼等はそう言うと走り去ってしまった。

 

 

「何だったんだ?」

 

 

「「さぁ?」」

 

 残された3人は良くわからなかったが、一先ず帰路に着くことにした。

 

 

 

 

 ~一誠side~

 

 

 俺の名前は兵藤一誠。駒王学園に通う高校生だ。

 

 俺は小さい頃からこの土地で暮らしているのだが、1つだけ不満がある。

 

 それは………この町にイケメンが多すぎることだぁぁぁー!

 

 同じクラスの天龍達にしろ、噂のイケメン王子木場にしろ、全体的にレベルが高すぎる!あいつらがいるから、俺の様な男はモテないんだ!

 

【それは貴方が覗きをするからでしょう】

 

 あっなんか声が聞こえてきたけど気のせいだろう。故に俺達は覗きや妄想で欲求を満たすしかなかった!

 

 何故過去形なのか?

 

 ふふふ……よくぞ、聞いてくれた!

 

 兵藤一誠、ついさっき彼女が出来ました!違う学校の娘だったんだけど、告白されて付き合う事になりました!いぇーい!

 

 松田と元浜には悪いが大人の階段を先に登らてもらうぜ!あっそうだ、帰りに神社に寄ってお礼を言わないと。

 

 誰にかって?勿論、神社の神様……龍王様だ!見たことはないけど、きっといる!そう断言できる……その話はまた今度にしよう。

 

 俺は毎日、神社に参拝して彼女が出来るようにお願いしていたんだけと……漸く願いが通じたんだ!きっとそうに違いない!

 

 彼女の名前?天野夕麻ちゃんだ、かなり胸もデカい、何時の日かあの胸に触れると考えると……おっと鼻血が……さぁて!今度の日曜はデートだ、頑張るぞぉー!

 

まずは明日、松田達に自慢だな。そう言えば、龍牙の奴、最近見てないな。この間から来てない、夜叉に聞いても体調崩してるって言うし……今度見舞いにでも行くか。

 

 

 



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第20巻 デート

 ~放課後~

 

 龍牙王、夜叉、桔梗は龍王神社の祭壇の前に居た。

 

 

「それで、兄貴どうしたんだ?」

 

 

「私達を呼び出すと言うことは余程の事が起きたのでしょうか?」

 

 

「ウム……実は外縁の結界にある者達が通った」

 

 普段から夜叉と桔梗には家族の様に接し、家ではゆるいイメージのある龍牙王だが、今は全くと言っていい程、その様な雰囲気を出さず神としての態度で2人の前に座する。

 

 龍牙王が神としての態度をとる時は、土地や氏子に関わる時、外から他の神や妖怪が来て会談する時くらいだ。だからこそ、夜叉達は事を重く見ていた。

 

 

「外縁の結界……感知結界にですか」

 

 

「あぁ……お前達も知っての通り、この地には多くの結界が張られている」

 

 この駒王の地には太古から無数の結界が張られていた。

 

 耐物理結界:名の通り、物理に働く結界。

 

 耐霊的結界:霊に対する結界。

 

 感知結界:土地に入って来た存在を感知する結界。

 

 この3種類が幾つも土地に張られている。

 

 その中で最も強固な強固な耐物理・霊的結界…これらは主に龍王神社と龍神神社の周辺に張られ、外敵から拠点である社を護っている。

 

 次に街全体を覆う耐物理・霊的・感知結界…神社周辺の結界に比べて弱く、龍牙王や眷族の任意がないと発動できない。

 

 そして最後に土地全体を覆う巨大な感知結界だ。これは龍牙王だけでなく、近い眷族達が感知可能なものだ。

 

 

「何者かは知らぬが万が一に備え、我は暫く社に篭る……お前達は普段通りに過ごして構わんが、武器の携帯をしろ。最悪の場合は」

 

 龍牙王は横に居る神無に目を向けると、彼女が夜叉達の元へ歩み寄り2人に数珠を渡した。それを見て、2人は驚いた表情をしている。

 

 

「結界珠……この様な物まで」

 

 

「もしもの為だ………嫌な予感がする。何かは分からんが、こういう時は良くない事が起きるかも知れん」

 

 

「兄貴、その入って来た奴等って【悪魔】共じゃないのか?」

 

 

「恐らく違う……悪魔であれば我が感知できる。それが感知できないという事は……それ以外の勢力の者だ。まぁ街の近くまで来れば何者かははっきりする。

 

 ……今の所は何も起こってないが、氏子達に被害が出るのは何としても防ぎたい。しかしお前達が遭遇しても決して殺すなよ」

 

 土地に危険を齎す可能性のある侵入者を殺すなと龍牙王は言った。それに対して夜叉は何故かと聞き返す。

 

 

「暴走するはぐれ悪魔であれば処断する必要があるが…………話が通じる相手であり、偶々通っただけでの相手を殺めると外交的に問題がある。まずは相手の特定だ、それは此方でやっておくから今日は休め」

 

 2人は返事を返すと、そのままこの場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~日曜日~

 

 

 ~一誠side~

 

 ふっふふふ……俺はとうとう大人の階段を昇ることになる!

 

 俺は夕麻ちゃんとデートをしていた。この日の為に色々と下調べをして寝不足だが、そんな事はどうでもいい。買い物、食事、色々と済んだが勝負はこれからだ。

 

 夕暮れ時の公園……シチュエーションはばっちりだ。このまま行けばきっと……

 

 

「一誠君、お願いがあるの」

 

 夕麻ちゃんが顔を赤くしてそう言ってくる。これはお約束の「キス」だ!

 

 

「死んでくれないかな」

 

 ほらっ来た!きs……あれ?俺の耳が可笑しくなったのかな?

 

 

「夕麻ちゃん、ごめん……もう一度、言ってくれるかな。どうやらちょっと疲れてるみたいで在り得ない言葉が聞こえてきたんだ」

 

 

「死んでくれないかな」

 

 

「えっと……冗談だよね」

 

 なんの冗談かと思っていると、夕麻ちゃんが突然光だした。すると服装がボンテージに変わった。それになんか真っ黒な翼まで生えてる!コスプレか!?

 

 

「ううん、冗談じゃないの……私の目的は始めから貴方の命。じゃないと貴方みたいな男と付き合う訳ないでしょう」

 

 夕麻ちゃんはその手に光の槍の様な物を出現させる。情けない事に何が何なのか分からなかった。

 

 

「じゃあ、さようなら……本当につまらないデートをありがとう」

 

 彼女はそう言うと、槍を俺に向かって投げてきた。訳が分からないがこれだけは分かる……あんなぶっといのに貫かれたら死んじゃうな。

 

 

『誰の許可を得て我が氏子に手を出す』

 

 男の声が聞こえてきた。そして俺の前に白銀の何かが現れた。何かは見た覚えがあり何処か懐かしい感じがした。

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

 

「何者だ?!」

 

 天野夕麻こと堕天使レイナーレは目の前に現れた存在に向かいそう叫ぶ。

 

 殺そうとした相手、兵藤一誠の前に立ち私の槍を受け止めた。

 

 

「何故に一誠を狙う」

 

 

「なんででも良いでしょう……それよりも答えなさい!何者だ!?(なんだ、此奴は……それにこの気配は!?)」

 

 

「まぁいい。それにしても堕天使だったとは……堕天使、警告する。今すぐこの地を去るので在れば我は追わん、だがもし氏子達に手を出すと言うのなら」

 

 白銀の男は腰の刀を引き抜いた。錆び刀だったが、その刀が巨大な刀身へと変化した。

 

 

「全力で排除させて貰う」

 

 男は刀を軽く振るうと、凄まじい衝撃波が放たれる。その瞬間に私の身体は吹き飛ばされた。

 

 

「チッ逃がしたか。生かしておく為に加減したのがそれが裏目に出たか……まぁいい、匂いは覚えたし何時でもやれる。さて一誠」

 

 

「はっはい!ん?なんで俺の名前を?」

 

 

「話は後だ……行くぞ、よっと」

 

 

「えっちょ……おわぁぁぁぁぁとんでるぅぅぅぅ!!!」

 

 その日の夜、駒王の街に叫び声が響き渡った。



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第21巻 意外な接点

今回はタイトル通りの話です。


 ~龍王神社 境内~

 

 

「はぁはぁ……死ぬかと思った」

 

 一誠は神社の境内で四つ這いになり顔を青く染めていた。

 

 

「情けない……たかがあの程度で」

 

 

「無茶言うな!本気で怖かったんだぞ!」

 

 本気で怖かったのか、若干涙目になっている一誠。

 

 

「お戻りでしたか」

 

 声のした方を見ると、巫女姿の桔梗と火鼠の衣で出来た羽織を着た夜叉がいた。

 

 

「巫女姿の日暮さん!?きたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 桔梗の巫女姿を見た一誠はどうやら復活した様だ。

 

 

「でもなんで2人が?」

 

 

「だって此処は俺の家だぜ、桔梗は龍神神社の巫女だが……まぁ色々在って此処に住んでる」

 

 

「住んでる!同棲だと!?」

 

 

「そう言う訳ではないのだけど……何故彼を此処へ?」

 

 

「夜叉、此奴に服を貸してやれ。汚れたままで神殿に入れると掃除が大変だ。桔梗はついて来てくれ」

 

 

「あぁ……ほらっ行くぞ、一誠」

 

 

「えっ、ちょっと!?」

 

 一誠は夜叉に引き摺られて、家のある方向へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~神殿~

 

 夜叉の服を借り、着替えた一誠は案内されて神殿の中へ来た。

 

 

「……えっと、夜叉、日暮さん。1つ聞きたいんですけど」

 

 

「なんだ?」

 

 

「此処って神殿だよな」

 

 

「そうだけど……」

 

 

「なら、なんであの人は神殿の奥で座ってるのかと」

 

 神殿の再奥で我が物顔で座っている自分を助けた人物について考えた。

 

 人とは思えない力・容姿→神殿の奥で寛いでいる→神殿の主→神様。

 

 しかし普通ではそんな事を考えもしないが、目の前で普通では考えられない事が起きていたので案外、直ぐに行きついた様だ。

 

 

「あの方は此処の主ですから」

 

 桔梗は瞬きしている一誠にそう言った。

 

 

「(此処は龍王神社……此処の神様は龍王さま………と言う事は目の前にいるのが)……でぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

「一誠、うるさい」

 

 

「えっ……あっ……その……本当に……本当に神様……龍王さま?」

 

 

「然り……我はこの地に祀られる神だ。お前達、人の子は龍王と呼んでいる存在だ。本当の名は違うがな」

 

 一誠はそれを聞くと、何故か頭を下げた。

 

 

「助けて頂いてありがとうございました!」

 

 

「気にする必要はない、この地の子等を護るのが我が役目でもある」

 

 

「さっきの事もそうですけど……その12年前に俺が川で溺れた時の事です!」

 

 

「12年前……ぁあ……あの時の事か」

 

 

 ―アレは12年前……夜叉達が4~5歳頃の事だ。

 

 我は龍眠より目覚めて、溜まっていた仕事をして土地の調律を行っていた時の事だ。森の中で惨殺死体が出たとかで……それが人ならざる者の仕業と聞き、そこへ赴き解決した。確か百足上臈だったか……原作で幾度も出てきたな。この世界に来て、見てなかったと思ったら今頃出てきたのかよ思ったくらいだ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~12年前~

 

 駒王の山奥で上半身は人間の女性、下半身は百足になっている妖怪がいた。この妖怪は百足上臈、原作でも幾度か出てきた妖怪である。

 

 百足上臈は何かを貪っていた。その手には無残に殺された男が握られており、百足上臈は男の身体を喰らっていた。

 

 

「この街にいると言われている巫女は凄まじい霊力の持ち主だとか……ククク、喰ろうてやる。そう言えばこの街の神はなんと言ったか?」

 

 

「おい、お前」

 

 

「なっ!?」

 

 百足上臈は突然、声を掛けられて振り返ると白銀の少年が立っていた。

 

 

「貴様……ん?百足上臈、今頃かよ……まぁいいや。人を喰らっているのか……近頃の惨殺は貴様の仕業か?」

 

 

「くっ!だとしたらどうした!?」

 

 

「殺す……我が土地の子等を傷付けられるのは困る」

 

 

「貴様、この地の土地神か!ッ!なんだこの巨大な力は!?何者!?」

 

 

「知っていてきたのではないのか……我が名は龍牙王だ」

 

 

「りゅ……りゅう…‥がおう……あっあの伝説の龍神!?」

 

 

「【滅魂爪】」

 

 百足上臈は龍牙王の名を聞き驚いている間に、爪で引き裂かれた。

 

 

「でっ出番これだけぇ~!?」

 

 

「桔梗を狙ってきた時点……と言うか、この地で子等を手に掛けた時点で貴様の死は決まっている。さっさと死ね」

 

 出てきた所なのに終わってしまった百足上臈はそう叫ぶと消滅してしまった。

 

 

「全く……取り敢えず……ん?この男……何処かで?まぁいいや」

 

 龍牙王は手に付いた百足上臈の血を振り払うと、腰に刺さっている天生牙を引き抜いた。

 

 ―ドクン!―

 

 天生牙が脈動を打つと、龍牙王は無残に殺された男を見た。龍牙王の眼には男の亡骸に群がる小さい鬼の様な者達が見える。この者達は魂を冥界へと導く【冥界の使い】だ。

 

 龍牙王は使い達に向かい天生牙を振るった。天生牙の一閃により、冥界の使い達は消滅した。そして男は一瞬、光に包まれると男は息を吹き返した。

 

 

「はっ!?此処は!?確か私は……化物に」

 

 

「ちゃんと生き返ったか」

 

 龍牙王は天生牙を鞘に納めると、男を見た。

 

 

「あっあなたは……」

 

 

「我の事はいい。それよりも体に異常はないか?」

 

 

「はっはい……ですが化物が」

 

 

「案ずるな。奴は始末した……あっ思い出した!」

 

 龍牙王は何かを思い出した様に手を叩いた。

 

 

「確か数年前に神社に来てた夫婦だ。確か子供が欲しいと祈願されたな……中々子供が出来ないから来たんだったな。かなり熱心に願ってて、幾度も来てたからな」

 

 

「どっどうしてそれを……」

 

 

「あっ……ぁ~まぁ気にするな。取り敢えず街まで送ってやる」

 

 龍牙王は自分の尾で男を掴み上げると、空へと飛び上がる。

 

 

「うっうわぁぁぁっぁぁ!!とんでるぅ~!?」

 

 男は空を飛んだ事で驚きの声を上げた。そして龍牙王は街の方へと向かい飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙王の尾の中で下を見ながら震えている男。現在の高度は地上から1000mほど……落ちたら確実にミートソースをぶちまける事になるだろう。

 

 

「安心するといい、落とす気はないからジッとしてろ」

 

 

「あっ……はい。あっあの貴方は一体」

 

 

「詮索するな。世の中には知らなくていい事がある。ん?雨が降ってきたな……」

 

 どうやら雨が降って来た様だ。急ごうと速度を上げようとした時、龍牙王はふっと下を見た時の事だ。丁度、川が見えた。何故か川に人が集まっていた。

 

 川は先日からの雨で増水しており、流れる水も濁っているのだが特に変わりない様に見えた。

 

 龍牙王は近くに降りた。何故か他の者達は気付いていないが、神の力なのだろう。助けられた男も龍牙王の尾から解放された。

 

 龍牙王と男が人の集まっている方に近付いてみる。

 

 

「レスキューは未だか!?早くしないと子供が」

 

 

「子供?」

 

 龍牙王と男はその言葉を聞き、人々の視線の方向を見てみると増水した川に4~5歳くらいの子供がいた。どうやら何等かの理由で川に落ちた様だ。

 

 川の幅は20m程で普段は川岸で子供が遊べるのだが、増水でかなり深くなっている上に流れも速い。子供は川の真中辺りにある中州にいるが、天候は雨だ。徐々に川の水は増えてくるだろう。そうなれば子供が流されるのは言うまでもない。

 

 

「早く助けを……あれ……一誠!?」

 

 龍牙王に助けられた男は子供を見てそう叫ぶ。どうやら顔見知りの様だ。

 

 

「一誠!?なんでそんなところに!!」

 

 

「……(まずいな。このままじゃ、助けが来る前に)」

 

 龍牙王はこの駒王の地の神。土地の天気や気の流れなどは手に取る様に分かる。雨は強くなり、数分もせぬ内に子供は流されてしまう事が理解できた。

 

 

「はぁ……また陽牙と陰牙に文句を言われるだろうが……」

 

 龍牙王が動こうとした時、子供は流されてしまった。

 

 

「やばっ!」

 

 それを見ると、直ぐに増水する川の中へと飛び込んだ。普通の人間なら助ける事など不可能に近いが、神ならば……。

 

 見ていた人々も何とかしようと動くが、次の瞬間、眩い光が川の一面を覆った。それにより人々の視界は一時的に奪われた。

 

 皆の視界が回復すると、急いで川を見る。先程と変わらぬ荒れた川だ、子供の姿もない。

 

 

「……あっ、一誠は!?」

 

 助けられた男は先程の子供の事を思い出すと、川を必死に探すが見つかる訳もなく。男は飛び込もうとするが、周りの者達に止められた。

 

 

「離して下さい!息子が……息子が!」

 

 

「あれ……あそこで寝てるの、さっき流された子じゃ」

 

 男を止めていた内の1人が、近くで眠っている子供を見つけた。

 

 

「一誠……一誠!?」

 

 男は子供に駆け寄った。子供はどうやら気を失っているだけの様で、目立った外傷もない。だが何故、流された筈の子供が自分達の近くで寝ているのか分からなかった。

 

 

「これは……これは龍王さまじゃ!龍王さまの御加護じゃ!」

 

 人ごみの中に居た、老人がそう言った。そして老人は神社の方向に向かって手を合わせている。それが広がり皆まで手を合わせだした。

 

 これが龍牙王と一誠、一誠の父・兵藤 一也の出会いであった。

 

 ~回想終了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―龍王さま……この駒王の地の神であり、我の事だ。

 

 我は街に出て、時折困っている者達を助けている。

 

 時に妖怪を倒し、病に苦しむ者達に巫女を通じて治療法を伝授したり、池が干上がり雨が降らなかった時には雨を降らし、貧しい少女に嫁入り道具一式をやったりしたか。

 

 正直、例を上げればキリがない。そんな中で偶に我の姿を視える者もいた、特に子供は見える事が多い。子供は純粋だからな、見えなくていい物を見る時期がある。

 

 そんな助けられた者達から噂が広がり、村全体が信仰する。

 

 日本の神は人を見守る存在であり時折、巫女を通じて意志を伝える。その様な存在なのだが、我は前世が人であるのでそんなのは知らん。

 

 故に、現在でも我を信仰する者達が多い。我は別に信仰を狙って助けた訳ではないのだが、結果的に信仰を増やす事になった。

 

 まぁ、側近の陽牙と陰牙達の眷族……アイツ等は神社の狛犬達で、我に仕える最も古い者だ。奴等は忠義に篤い者だが、事ある毎に神の在り方やら、何やら小言を言ってくる。

 

 我、神なのに-




 名前:兵藤 一也(ひょうどう かずや)



 一誠の父。何より、妻と一誠を愛している。しかし幼い頃から女の尻を追い掛ける一誠の将来を心配している(主に逮捕されないかどうか)。

 誠実で優しく、現在は一誠が溺れた一件で何があっても対処できる様に日々身体を鍛えているらしく、細マッチョで若干原作より若々しくなっている。

 一誠が生まれる前は、子供が出来ず妻と共に困っていた所、龍王神社の事を聞き神頼みをしたところ、一誠が出来たとか。これに龍牙王が力を貸したかどうかは不明。

 初登場時は何故か、百足上臈に襲われており、喰われていたが天生牙により蘇えった。










 ・兵藤 一誠



 特に原作と変わらない主人公。

 しかし、子供頃に龍牙王に助けられたからか信心深い。













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第22巻 一誠の秘密

 ~龍王神社 神殿~

 

 12年前の話を龍牙王から聞いた夜叉、桔梗、一誠。

 

 龍牙王と一誠の意外な接点に驚いたが、話を進める事にした。

 

 

「それでだ……一誠が狙われた理由についてなのだが……心当たりがある」

 

 

「「「えっ?」」」

 

 龍牙王の言葉に驚く3人。

 

 

「多分、一誠の中の神器(セイグリッド・ギア)が狙いだろう」

 

 

「「神器(セイグリッド・ギア)?」」

 

 夜叉と一誠は慣れぬ言葉を聞き、首を傾げている。

 

 

「一誠は未だしも夜叉には説明した筈なんだが……桔梗は分かっているな?」

 

 龍牙王が桔梗に尋ねると、彼女は頷いた。

 

 

神器(セイグリッド・ギア)とは聖書の神が作った不思議な能力を所持者に与える物……その能力は個々によって異なり、中には神をも殺す神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる物もあるとの事です」

 

 

「その通り、一誠にはその中でも神滅具(ロンギヌス)の1つ。赤龍帝ドライグを宿した赤龍帝の篭手(ブースデッド・ギア)が宿っている」

 

 

「「「……えっ?」」」

 

 神器(セイグリッド・ギア)の説明をした桔梗に続き、そう言った龍牙王の言葉に唖然となる3人。

 

 

「まぁ……一誠が弱いので未だ発現はしてないだろうけど、確かにお前の中にいるぞ」

 

 

「赤龍帝ドライグ……白龍皇アルビオンと並ぶ二天龍。確か、かつての天使・悪魔・堕天使の起こした大戦争で暴れていたのを龍牙王様が倒してたとか」

 

 

「あぁ。アイツ等、我の言葉も聞かずに暴れるからプチッとしたぞ」

 

 

「プチッ……ってどんなだよ?」

 

 龍牙王の言葉に、どんな状況か全く予想ができない夜叉達。

 

 

「確か……我が龍に変化して、アルビオンの方は尾で地面に叩き付けて、ドライグの方は抓んで振り回した。全く、身の程知らず共が」

 

 龍牙王は昔の事を思い出しながらそう呟いた。

 

 

「ん?……龍牙王……龍牙王?えぇ!?」

 

 一誠は龍牙王の名前を聞くと、何故か驚いている。

 

 

「どうした?」

 

 

「龍牙王って、あのお伽話にも出て来る龍神様!?でも龍王さまで……えっ?えっ?」

 

 何やら一誠は混乱している。

 

 

「どうしたんだよ?」

 

 

「ちょっと待てよ……えっと目の前に居られる方が龍王さま、この街の神様だよな?」

 

 

「あぁ」

 

 

「龍牙王って言うのは、子供でも知る龍神だよな?」

 

 

「そうです」

 

 

「えっと……龍王さま=龍牙王?」

 

 

「「あぁ(その通りです)」」

 

 一誠の疑問に答えた夜叉と桔梗。

 

 

「うえぇぇぇぇぇぇ!!!!?」

 

 

「何だ、知らなかったのか?」

 

 

「知らないよ!初めて知った!」

 

 どうやら、龍王さま=龍牙王と言う事は知らなかった様だ。

 

 

「だって、皆、龍王さまって言ってるんだぞ!?」

 

 

「そう言えば……街の者達は龍牙王様の御名を知らぬ様ですね」

 

 

「そういや、兄貴って龍王さまとしか呼ばれてないよな。俺だって、神社(此処)に産まれてないと一生知らないと思うぜ、そんなん」

 

 

「そんなんって………何故か、我は龍王さまと呼ばれている。何時からそう呼ばれていたか……まぁ我にとっては親しみを込めてそう呼ばれてるので別に構わん。それに我の名は良くも悪くも色々なものを呼び寄せてしまうからな。

 

 それに我がこの地にいるのを知るのは悪魔以外の各勢力のトップ達くらいのものだ。今回の堕天使共は下っ端連中だろう……トップ達も我の事はできるだけ口外したくないらしいしな」

 

 

「どういう事だ……ですか?」

 

 一誠は何時もの調子で話していたが、直ぐに言葉を正した。

 

 

「そりゃ……この世界最強と言われる真なる赤龍神帝(アポカリプス・ドラゴン)よりも強い存在がいるなんて、言ったら世界は混乱するからな。だから我を知るのは各神話・勢力のトップとそれに近しい者くらいだ。龍牙王の伝説は知っていたとしても、我がこの地を統べるのは……悪魔共は我の事を知らぬ様子だな。フッ……誰の土地に土足で足を踏み入れたのか、教えてやる。ククク………さて、一誠。色々と聞きたい事もあるだろうが、我は動かねばならん。残りは2人に聞くと言い」

 

 龍牙王はそう言うと、立ち上がり神殿から出て行った。

 

 

「それでは今の兵藤君の状況や私達の事について説明しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 ~神社の屋根の上~

 

 

 龍牙王は着物の袖の中からスマホを取り出すと、何処かに電話を掛けた。

 

 

「もしもし、我だが」

 

 

『ぁあ?どちらの我さんですか、コノヤロー、ひっく』

 

 

「酔ってるのか?龍牙王だが」

 

 

『りゅうがおう…………龍牙……龍牙王!?うおっ、いって!』

 

 電話の向こうの主は転んだ様で、何かが割れる音やら聞こえる。

 

 

『お前から電話なんて滅多に来ないから驚いたぜ……それで何の用だよ、厄介事か?』

 

 

「お前の所の下っ端が我の土地の氏子を殺そうとしていたんだが………堕天使は我と戦争するつもりか?」

 

 

『えっ………ちょwちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!俺にそんなつもりはねぇぇぇぇ!!』

 

 

「五月蠅い……今の所、未遂で済んでいるが……万が一犠牲者が出れば我はお前達を攻め滅ぼすが?」

 

 

『待ってくれ!!!俺達はお前に楯突くつもりなんかねぇんだ!』

 

 

「ならば急いで来るんだな。この事が天照達の耳にでも入ると我では止められんぞ……できればお前やシェムハザとは荒事は起こしたくない」

 

 

『わっ分かった!明日には行く!』

 

 電話の相手はそう言うと、電話を切ってしまった。

 

 

「はぁ……黒歌、白音」

 

 龍牙王がそう言うと、彼の後ろに2人が現れた。

 

 

「御用ですか?」

 

 

「済まないが、明日は学校を休み。アザゼルを迎えに行ってくれ」

 

 

「ぇえ~あのスケベ親父を……」

 

 

「そう言うな……アレは酒に酔ってのことだ……頼む」

 

 

「はぁ~ご主人様にそう言われたら仕方ないか……じゃあ行きましょうか、白音」

 

 

「はい」

 

 2人はそう言うと、神社を出て行った。

 

 

「ふぅ………出来れば被害が出ぬ内に終わればいいが……」

 

 龍牙王は夜空を見上げながら呟いた。



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第23巻 オカ研との話し合い

 ~一誠side~

 

 ―俺は先日彼女に殺されかけました。彼女は人間でなく堕天使と呼ばれる存在だったらしい、彼女は俺に宿る神器(セイグリッド・ギア)……赤龍帝の篭手(ブーステット・ギア)を危険視して俺の命を狙ってきたらしい。

 

 結構なトラウマなんだが……良い事も在った。それは龍王さまに直に会えた事だ。龍かと思っていたけど人間の姿をしていた。夜叉や日暮さんによると、アレも龍王さまの姿の1つで龍の姿もあるらしい。

 

 この街についても色々と話を聞いた。身近な人々の殆どが妖怪だと言うのがかなり驚いた。

 

 魚屋のおっちゃん、おばちゃん。

 

 八百屋のお姉ちゃん。

 

 駄菓子屋の爺ちゃん、婆ちゃん等々、小さい頃から世話になっていた人達が妖怪とか結構びっくりした。

 

 聞けば聞くほど、驚きの連続であるが………あの憧れのリアス先輩や生徒会長が悪魔だと聞いた時は固まってしまった。なるほど、あの巨乳は人外の……と納得した。何でも龍王さまは悪魔を嫌っているらしい。

 

 夜叉達には恐らく接触してくるだろうから気を付ける様に言われている。何か在った場合は、彼等も動くらしい―

 

 

「兵藤君……ちょっといいかな?」

 

 そう言って俺に声を掛けて来たのは木場祐斗……イケメン許しまじ。

 

 

「えっと確か木場だったよな……俺に何か用か?」

 

 

「うん……部長……リアス・グレモリー先輩に君を呼んでくる様に頼まれてね」

 

 

「ぇ……あぁ……分かった」

 

 夜叉と日暮さんに視線を向けると頷いた。どうやら接触してもいいらしい。

 

 

「それと天龍くんと日暮さんもいいかな」

 

 予想外に木場は夜叉達にも声を掛けた。

 

 

「……あぁ、いいぜ」

 

 

「私も構いません」

 

 

「ありがとう……もう1人の天龍君は?」

 

 

「兄貴は家の用事でな……この所は学園に来てない」

 

 

「そう……」

 

 こうして俺達はオカルト研究部に向かう事にした。

 

 女子達が「一×祐!?」「祐×一よ!」「リアス先輩が毒牙に!?」等々と言っていた。

 

 

 

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 ~オカ研部室~

 

 この部屋の主…リアス・グレモリーとその傍に控える副部長・姫島朱乃………彼女達に対峙する様にソファーに座っている夜叉、桔梗、一誠。夜叉は今にも襲い掛かりそうな雰囲気を放っている。

 

 

「初めまして、私の名はリアス・グレモリー……横に居るのが副部長の姫島朱乃よ」

 

 

「あっ……はい!宜しくお願いします!」

 

 リアスと朱乃の胸に視線を集中していた一誠がそう返事を返す。

 

 

「もうお分かりでしょうが、私達も自己紹介をしておきましょう。

 

 私の名前は日暮桔梗……龍王神社・龍神神社の巫女です。隣にいるのが天龍夜叉……龍王神社の現神主です。

 

 今日は何用でしょうか、悪魔の方々」

 

 桔梗がそう言うと、リアス達は少し驚いた様な表情をしていた。

 

 

「私達を悪魔と知っているという事は貴方達も此方側の人間なのね……なら話が早いわ。先日、その兵藤一誠が襲われているのを目撃したわ。

 

 偶々……本当に偶然に堕天使の結界を発見し、入ってみるとその子が襲われていた。でもそこにある存在が現れた。

 

 白銀の髪、3本の尾、3本の剣を携えた男……剣圧だけで堕天使を退けた。只者ではないのが分かった………彼を連れていく際に此方にも気付いていた様だけど……『此処は私の管轄地』…けど私の知る限り、この土地にあんな存在はいない筈なのよ」

 

 リアスの言葉に反応して夜叉が動こうとするが、桔梗に制されて止まった。

 

 

「それは貴女が知らぬだけの話………あの方はこの地を統べる御方です。古よりこの地を護り、生きる者達を護る慈悲深き神………我等が仕える龍神です」

 

 

「ではあの者がこの地の土地神?」

 

 

「その通りです………その前に1つ御伺いしたのですが?」

 

 

「どうぞ」

 

 

「お前達、悪魔は誰の許可を得てこの地を己が地だと言う」

 

 桔梗から霊力が溢れ、オーラの様に身体を覆う。

 

 

「「「!?」」」

 

 

「我等も、我等が主も、お前達がこの地を管理する事など認めていない」

 

 龍牙王は過去の一件から悪魔を忌み嫌っており、それを知っている桔梗達………故に彼女達の発言が許せなかった。

 

 この地は永く龍牙王と先人達が護り、育んできた土地だ。多くの命が、想いが染み込む地を悪魔が自分の管轄地だと言った。それを許せる筈はない。

 

 

「どう言う事かしら……私達、悪魔はこの地の神の許可は得てこの地で活動をしているわ」

 

 

「はぁ!?そんなこと、ありえねぇ!」

 

 夜叉がリアスの言葉を否定する。

 

 

「どうしてそう言えるの?」

 

 桔梗はこのままでは夜叉が余計な言いそうなので、少し落ち着かせた。夜叉もそれを理解したのか、何も言わなくなった。桔梗も自らを落ち着かせると、少し考え始めた。

 

 

「……我等が主はとある理由から悪魔を嫌っております。本来であれば一歩たりとも悪魔をこの地に入れたくない筈ですが……事情があり、それができない故に悪魔がこの地に踏み入る事を見過ごしていると言うのが我等の状況です」

 

 

「………では私達が虚偽を言っていると?」

 

 

「少なくとも我等はそう考えている……悪魔が自分達の種族へと転生させる悪魔の駒(イーヴァル・ピース)が出来てからというもの、日本の多くの者達が被害を受けた。

 

 それは貴女達がよく理解している筈だ……貴女(悪魔)達はどれほど多くの妖怪を、彼等が住まう隠れ里を、特異な力を持つ能力者達を、駆逐した?強制的に悪魔にした?

 

 それを貴女がした訳ではないのは、貴女の後ろの眷族達を見れば分かる………悪魔がそれを行ったのは事実。そう簡単には信じる事はできない」

 

 

「ッ!」

 

 悪魔の駒(イーヴァル・ピース)が開発されてから、現に日本の能力者や妖怪達は被害を受けている………仙術を使うと言う特殊技能を持つと言うだけで黒歌、白音の住む妖怪の里は滅ぼされた。それは傲慢で自分勝手な悪魔達の行いによるものだ。

 

 

「故に私は問います………異国の魔よ。お前達はこの地に害を成す我等の敵か?」

 

 

「……………っ………いいえ、少なくとも私達はこの地に害成す事はないわ」

 

 それを聞くと、桔梗は自分の霊力を抑え何時も通りに戻る。

 

 

「………そうですか……今はその言葉を信じ此処で争う事はしません。どうやら事は……私や貴女では判断できぬ状況になっている様ですね。私は我等が主にこの話を持って帰りましょう………あの方が怒り狂いそうな内容ですが………致し方ありませんね」

 

 桔梗は座っていたソファーから立ち上がると、そのまま部屋を出る為に扉の方に向かう。後に夜叉と一誠が続いていく。夜叉はともかく、一誠はこの場に居づらくなったらしい。

 

 

「なんとか、我等が主には話し合う様に進言してみます………話し合いが終わるまで、貴女方は下手に動かない事をお勧めします。恐らく、この土地に古くから居る方々は悪魔に良い印象はないでしょうから」

 

 桔梗はそれだけ言うと、夜叉達と共に出て行った。

 

 

 

 

 

「………朱乃、直ぐにお兄様に連絡を。それにソーナにも……この件は私達の一存では決められないわ。それと暫くの間、外出は控える様に……彼女の言葉が本当であるなら危険よ」

 

 

「分かりました……それにしても予想以上に事態は大変な事になってきましたわね」

 

 

「えぇ………でも私達が考えている以上の事になりそうね。兵藤一誠の件以来、この地を『何か』が覆っている………多分これは悪魔にとって致命的なものよ」

 

 一誠の件以来、龍牙王は本格的に動き出した。この地の総てを監視する為に、力の一端を解放した。彼の力は駒王の地を覆い尽くしていた、リアス達はそれを感じていた。

 

 

「恐らくこの地を覆うのは真の『神の力』……私もそれを感じていました。この力の主は強力な神………幾度か神社の近くに行き確認しましたがこれほど力は感じませんでした。恐らく力を隠していたのでしょう………それが出来るという事はかなり格の高い神なのでしょう……それこそ、魔王様クラスの」

 

 

「「なっ!?」」

 

 元巫女である朱乃の言葉を聞き、驚いているリアスと祐斗。しかし朱乃は勘違いしていた………彼の神は魔王と同等なのではない。

 

 

「急いで動いた方が良さそうですわね」

 

 朱乃はそう言うと、その場を後にする。

 

 

(でもこの力……何処かで……未だ母様と共に居た時に感じた事がある様な………今は私のすべきことをしないと)

 

 朱乃は頭を振り、切り替えると再び動き始めた。



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第24巻 聖女来る

 ~龍王神社 神殿~

 

 学園より帰宅した夜叉、桔梗、一誠は龍牙王の眼前に集まっていた。リアス達と話し合った内容を龍牙王と眷族達に話した。

 

 

「ということです」

 

 

「なっ!?」

 

 

「バカな!!!」

 

 龍牙王は沈黙したままだが、眷族達の一番古い陽牙、陰牙、光牙、闇牙が声を荒げる。彼等はアイリが居た時からこの地に居る始まりの眷族達……自分達が護りきれなかった所為でアイリが死んだ。だからこそあの事件の原因である悪魔達を憎んでいる。

 

 その悪魔達が、この地の神である龍牙王と話し合いはついていると言った。彼等はそれが許せなかった、最も長く龍牙王に仕えてきたが故に知っていた……その哀しみを、絶望を、怒りを、憎しみを……。

 

 

「主よ!直ぐにでもその悪魔共を引き摺り出すべきです!」

 

 

「勝手にあちらが踏み込んできたのです!殺そうが何とでも言えましょう!」

 

 眼を瞑り考え込む龍牙王にそう進言する眷族達。

 

 

「橋姫達から堕天使だけでなく、はぐれ神父まで入ってきたと聞く。あやつらは性質が悪い……被害が出る可能性がある。氏子達を護るのが優先だ」

 

 

「「「「しか……【くどい】ッ!」」」」

 

 陽牙達は言おうとするが、龍牙王の一言で黙った。

 

 

「お前達の使命は地と地に生きる生命を守るのが役目………それを忘れるな」

 

 

「……申し訳ありません」

 

 

「では往け」

 

 

「「「「はっ!」」」」

 

 眷族達は主の声と共にその場から消えた。

 

 

「ふぅ………」

 

 龍牙王は疲れた様子で、頭に手を当てる。

 

 

「一誠、堕天使共の第一目標はお前だ。事が解決するまでは神社にいろ」

 

 

「えっ……でも」

 

 

「親の事も心配だろう……だがアイツ等の狙いはあくまでお前。堕天使共も人目に付く事は避けるだろう……それにそろそろ、アザゼルに着く頃だろうしな」

 

 

「あざぜる?」

 

 

「堕天使の長だ………この前の一件の時に電話して呼び出した」

 

 

「電話!?」

 

 一誠は龍牙王がアザゼルと言う人物を呼び出すのに電話を使ったと聞いて驚いている。

 

 

「正確にはこれでだけど」

 

 そう言うと、龍牙王は袖の下からスマートフォンを取り出した。

 

 

「神様もそういうの使うんですか……」

 

 

「人間がこういう便利な物を発明するのは喜ばしい事だぞ。だが便利になる反面、神や自然への感謝を忘れていくのは解せんがな………では夜叉、桔梗。一誠の事を頼む………我はアザゼルが来るまで、街を見回ってくる。何かあれば神無に伝える」

 

 龍牙王はスマートフォンを袖の下に仕舞うとその場から出て行った。

 

 

「神様もハイテクなんだな」

 

 

「あぁ……あに……じゃなかった、龍王さまは未だマシな方だぜ」

 

 夜叉の言葉に「えっ」と漏れる。

 

 

「まぁ……そうですね。神々にも色々といらっしゃいますから」

 

 と桔梗が明後日の方向を見て呟いている。何か在ったらしいが、桔梗の姿を見て聞かない事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~駒王街 街中~

 

 龍牙王は人間に化けると、街中を歩き彼は見ていた。

 

 年老いた夫婦が仲良くベンチで座っている姿。

 

 遊んでいる子供達を見守る母親達が話している姿。

 

 お腹の大きな妻を気付かって荷物を持つ夫。

 

 それは太古から彼がずっと見守って来た人間達の営み。

 

 

 ―静かで平穏な時間だ………何としてでも護らないとな。

 

 それにしてもこの地は多くの闘争に巻き込まれている………龍泉地の所為か。大きな力は更なる力を呼ぶ……それは我も同じ事か―

 

 そんな事を考え、時計を確認する。そして彼の横にお茶を飲んでいる老女が現れた。

 

 

「東の橋姫か」

 

 

「はい、お久しぶりですわね龍王さま」

 

 

「そうだな……それでどうした?」

 

 

「つい先程、黒歌ちゃん達が橋を渡った事をお伝えしようと思いまして」

 

 橋姫とは土地の境界を監視する地の守護神……言うなれば龍牙王の眷族の1人だ。龍牙王の横に現れたのは東の方の橋姫で、どうやらアザゼルを迎えに行った黒歌達が戻ってきた事を伝えに来たらしい。

 

 

「それで堕天使達は動きましたか?」

 

 

「今の所ははぐれ神父と共に教会に潜んでいる………このまま動かなければいいが……万が一に備えて、陽牙達や他の眷族達は街の方へ行かせている」

 

 

「そうですか………この地は本当にこの様な事が多いですわね」

 

 

「………それでも我は護る。アイツとの約束だけじゃない………我はこの地を、この地に生きる者達を愛している。だから何としても護り通す」

 

 

「本当に……本当にあの方を愛しておられるのですね。同じ女としてはあの方を羨ましく思います………まぁでも、龍王さまもいい加減に誰なのかを決めないと大変な事になりますわよ?」

 

 にっこりと笑みを浮かべてそう言う東の橋姫。

 

 

「ハハハ………我にとっては皆、大切なんだよ」

 

 

「龍王さま………女と言う生き物は愛情を言葉や行動で示してくれないと不安になるものなのです」

 

 そう言って、立ち上がると風が吹いた。

 

 

「なぁ!?」

 

 突如驚いた様な顔で空を見上げる。

 

 

「龍王さま?」

 

 

「あっ……ありえぬ……橋姫よ、今は現実か?それとも夢か?」

 

 突然訳の分からない事を言う主・龍牙王に首を傾げている橋姫。

 

 

「えっと……どうなさいましたか?」

 

 龍牙王は近くの電柱に頭をぶつけ始めた。その様な事をしていれば周りの者達から変な目で見られるのは言うまでもない。勿論、橋姫は突然の主の行動にオロオロとしている。

 

 

「痛い………少しだけど………」

 

 

「りゅ龍王さま?」

 

 

「ぁ……悪い」

 

 彼は少し落ち着いた今の自分の状況を理解すると、手を振った。すると、周りの人々は何事も無かった様に散って行った。

 

 

「一体、どうなさったのです?貴方様があの様な事をするなど、御仕えしてから見たことがありません」

 

 

「いや……我も現実なのか疑ってな。橋姫、すまんが社に行ってアザゼルに待つ様に伝えてくれ」

 

 

「はい、承知しました」

 

 橋姫はそう言うと、その場から消えた。すると龍牙王は術で人間達から見えない様にすると人の姿から本来の姿に戻り、風の吹いた方向に向かい飛んだ。

 

 無我夢中で風の吹いて来た方向……正確には風に乗った匂いのする方向へと向かう。

 

 そして辿り着いたのは、1人の少女の元だった。どうやら日本の者ではないらしく、金髪碧眼の少女だ。何やら大きな荷物を持っている。

 

 

「えっと……こんにちわ?」

 

 

「あぁ……こんにちわ、いい天気だな」

 

 

「えっはい……そうですね」

 

 龍牙王は少女の顔を見ると、少し俯いた。

 

 

「お前はこの地の者ではないな……どこへ行く?」

 

 

「あっ、実は道に迷っていまして………この街に教会はありませんか?」

 

 

「教会?ぁあ……しかしあそこは何年か前に無人になっている(まぁ今は堕天使とはぐれ神父で一杯だが)」

 

 

「はい、なので私が赴任してきたわけなんですが…………あの、何処かで御会いしたことがありましたでしょうか?何故か、貴方様から懐かしい感じが」

 

 少女はそう言うと、龍牙王の顔を覗こうとすると

 

 

「きゃ!」

 

 何も無い所で、躓き龍牙王の方へと倒れ込む。

 

 

「ごっごめんなさい」

 

 

「ククッ……構わない……それよりも名前は?」

 

 

「アーシア……アーシア・アルジェントと申します」

 

 

「アーシアか………我は龍王、この地の土地神をしている」

 

 

「はい、宜しくお願いします……あれ?貴方は人間ではないのですか?」

 

 

「ウム……スンスン…この匂い、堕天使の匂いがする。何故お前から」

 

 

「えっあの…」

 

 アーシアは堕天使と聞いて困った顔をしている。

 

 

「まぁいい………一先ずは、我が社に行こう」

 

 

「えっ……あの……」

 

 

「お前の向かう教会には堕天使やはぐれ神父がいる。あんな場所にお前を行かす訳にはいかん」

 

 龍牙王はそう言うと、自分の尾でアーシアと彼女の荷物を包み込んだ。

 

 

「あっあの」

 

 

「色々と語り合いたいが今は時間がない……すまんが黙って着いて来てくれ」

 

 

「……はい」

 

 アーシアは何故か断れなかった。断わってはいけない……いいや断わる必要がないと何故か思ってしまった。

 

 龍牙王はアーシアを連れて、自分の社へと飛ぶ。

 

 戻る際中にアーシアの顔を見た。見れば見れるほど似ている……瓜二つと言ってでも過言ではない。唯一違うのは髪と眼の色くらいだろう。

 

 龍牙王は彼女に手を伸ばそうとするが、彼は直ぐに手を戻した。アーシアの方はいきなりの事だと言うのにかなり落ち着いた様子だ。

 

 再び運命は動き始めた。



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第25巻 聖女の心

 ―私……アーシア・アルジェントは最近になって自分の道が本当に正しいのか分からなくなってきました。

 

 私に両親はいません。私は赤ん坊の頃に捨てられ、教会で育ちました。それから()を信じずっと生きてきました。

 

 そしてある日、傷付いた子犬を助けたいと願った時、私に宿る聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)が目覚めました。その力は自分以外の者を癒す力………この力を見た周りのシスター達が私を聖女と言った。それをきっかけに私の日常は変わり始めた。

 

 私は怪我人や病気の人々を癒す日常……それ自体は嫌ではなかった。誰かが笑顔で居れるなら私は頑張れた……でもシスターや神父様達の私に対する態度が変わってしまった。少し寂しかったが、怪我人や病気の人々の為に頑張る事で寂しさを紛らわせていた。

 

 でもその頃からある夢を見だした。

 

 その夢の中では私は巫女様と呼ばれていた。そして私の隣には笑みを浮かべる男の人が居た。

 

 白銀の長い髪、三本の白い尾………御顔はよく見えませんが……恐らく人間ではないのだろう。でもその方を怖いとは思わなかった。寧ろ、その方を見ていると安心する………でも子供達といる時は笑みを浮かべて、子供達と同じ様に遊んでいる。そして子供達だけでなく、村人達にも優しく接していた。夜となれば村人達と食事を楽しみ、誰かが亡くなった時にはその死を悼んでくれた。

 

 その夢は何度見ても胸が暖かくなる………でも最後には龍王さまは哀しそうな顔をしていた。その表情を見ると胸が苦しくなり、悲しくなり、申し訳ない気持ちで一杯になります。

 

 そして最近、()()が現れる様になりました。

 

 私と瓜二つの少女……違うのは髪と眼の色くらいのものです。現れた彼女は私を見つけるとにっこりと笑顔を浮かべる―

 

 

『もう直ぐ………もう直ぐです』

 

 

「えっ?」

 

 彼女はそれだけ言うと、後は何も言わずに私の手を取る。すると彼女から色々な物が流れ込んでくる、記憶・感情・想い…………。

 

 

「暖かい……」

 

 ―そうして夢は覚める。でも彼女が現れる様になってから、色んなことを彼女と話す様になりました。辛い事もありましたが、夢の中で彼女が話しを聞いてくれてました。

 

 あの時………私が()()()()()()()()()()()()し、それを見た教会の方々が私を魔女と言い教会を追放された時……私は悲しく辛かったですが、彼女が話しを聞いてくれたお蔭で頑張って来れました。

 

 追放された私は堕天使のレイナーレ様に助けられ、今日、日本の駒王街にやって来ました。

 

 この街に脚を踏み込んだ瞬間、懐かしい気持ちになりました。理由は分かりません……私はそれから教会を探す為に歩き回ったのですが、中々見つからず、人に聞こうにも、日本の方々には私の言葉は通じず困り果てていた時、現れたのです。夢に出てくるあの御方が―

 

 

「えっと……こんにちわ?」

 

 

「あぁ……こんにちわ、いい天気だな」

 

 

「えっはい……そうですね」

 

 どうしてでしょうか、この龍王さんと言う方はどこか懐かしい雰囲気を放っていました……それに夢に出てきた方に良く似ていました。

 

 そして社……日本の教会へと向かう事になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社~

 

 

「それでアザゼル、申し開きはあるか?」

 

 龍牙王は神社に着くなり、アーシアを降ろして鉄砕牙を引き抜き、アザゼルの首にその刃を当てる。

 

 

「申し開きのしようがねぇ……まさか家の連中がお前さんの土地で暴れているなんて、本当にすまん!斬るなら斬ってくれていい!だが頼む!他の連中は助けてやってくれ!!!」

 

 この男、堕天使の総督・アザゼル。先日龍牙王の話を聞いて飛んできたのだろう。そのアザゼルは土下座している。

 

 

「全く、堕天使共がはぐれ神父をつれて来たから色々と大変なんだぞ………今の所、眷族達に見張らせているから被害は出ていないが………」

 

 

「分かってる。その場合は俺が腹を切る………お前さんの土地に手を出したんだ。無事に済むとは思ってない……だけど頼む!俺の命だけで勘弁してくれ、他の奴等に罪はねぇ!」

 

 裁龍神・龍牙王の土地に手を出すという事は彼を敵に回すだけでなく、天照の様な彼と親しい神々を敵に回すという事だ。そうなれば確実に堕天使の勢力は滅ぶ事になる。だからこそ、アザゼルは総督の責任として自分の命と引き換えに他の者達を助ける様に懇願する。

 

 

「……今の所は被害が出てない。だから今の内に解決しよう、俺もお前を殺したくはない」

 

 彼はそう言うと、鉄砕牙の変化を解いて鞘に納める。

 

 

「アーシア、スマンが此処で待っててくれ。行くぞ、アザゼル」

 

 

「あぁ」

 

 龍牙王はそれだけ言うと、アザゼルと共に空へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~教会~

 

 此処は昔、教会の在った場所なのだが、現在は神父も居らず廃墟の様になってしまった。

 

 その廃れた教会の祭壇に座っている1人の男がいた。

 

 

「ぁ~暇だぁ~さっさと悪魔共、ぶち殺してぇ~」

 

 彼の名はフリード・センゼル。元は正当な教会のエクソシストだったが、追放され現在は堕天使の元にいるはぐれエクソシストだ。

 

 

『っておい!いきなりそんな物騒な物、使うのか?』

 

 

『大丈夫、大丈夫。結界張ってる………やるなら派手にやらないと』

 

 

「なんだ?誰か外に居るのか?」

 

 フリードは外から話し声が聞こえてきたので、覗こうと扉を開く。外には着物を着た男と、スーツの男がいるのが見えた。男達は何かを言い争っている。

 

 

「あぁん?なんだ、此奴等」

 

 

『ぶち壊すつもりか?』

 

 

『請求はミカエルとアザゼルにするから問題ない……風の~』

 

 着物の男が巨大な刀を振り上げると、その刃が風を纏い始めた。

 

 

「ちょ……なんかやべぇ!!!」

 

 フリードは危険な予感がしたので直ぐに扉から離れる。

 

 

『傷!』

 

 ―カッ!!!―

 

 

「どひゃあぁぁぁっぁぁ!!」

 

 フリードは閃光と凄まじい衝撃により、教会ごと吹き飛ばされた。

 

 

「ん?龍牙王、なんか叫び声聞こえなかったか?」

 

 

「なんか聞こえた様な気もするが……スン、スン」

 

 龍牙王は何かを嗅ぎ取った………すると表情が険しくなり、祭壇の在った場所の瓦礫を鉄砕牙で吹き飛ばすと地下へ続く階段を見つけた。そこまで来ると、咽返る様な鉄の匂いがした。それに気付くとアザゼルの表情も強張る。

 

 それと同時に龍牙王から視覚できる程、強大で圧倒的な力が溢れ出した。鉄砕牙を鞘に納めると、背にある叢雲牙を引き抜いた。

 

 地獄の剣・叢雲牙………地上で使えば、使った場所は地獄の瘴気に蝕まれ、向こう100年は草木1本生えない地になる。それを理解でしていない程、愚かではない。だが理解していても今の彼は冷静でいられないのだろう。

 

 そして彼は1歩ずつ下へと降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ~教会 地下~

 

 そこに広がっていたのは血の海だった。

 

 

「こっこりゃ」

 

 大勢のはぐれ神父の中に倒れている人間達。男女の大人と小さい子供、それと赤ん坊……龍牙王は彼等に……この家族に見覚えが在った……この地で産まれ育ったこの地の子供達。

 

 堕天使らしい4人とはぐれ神父達は龍牙王の登場に驚いている。

 

 龍牙王は血塗れの家族へとゆっくりと歩を進めていく。はぐれ神父達は退魔の力を持つ光の剣で龍牙王に襲い掛かろうとするが、龍牙王の持つ叢雲牙の剣圧で肉体は掻き消された。

 

 それを見て、恐怖したはぐれ神父達は道を開けた。

 

 

「………息はないか」

 

 

「きっきs……ひぃ!」

 

 堕天使レイナーレは睨まれ、圧倒的な殺気と力に恐怖する。

 

 龍牙王は叢雲牙を地面を突き刺すと、腰の天生牙を引き抜いた。

 

 

「頼むぞ……天生牙」

 

 天生牙が脈動を打ち、龍牙王の眼に亡骸に群がる冥界の使い達が映る。そして、彼は天生牙で冥界の使いを斬り伏せた。その瞬間、天生牙の力が発揮され死んだ者達が蘇えった。彼は天生牙を鞘へと納め、直ぐに横たわる家族達に触れ、蘇えった事を確認した。

 

 

「助かったぞ、天生牙………陽牙!陰牙!光牙!闇牙!」

 

 龍牙王がそう叫ぶと、その声は離れた場所にいる眷族達に伝わり、彼等は主の声に応え、風よりも早く主の元にやって来た。

 

 陽牙達は周囲と龍牙王の足元で眠っている家族を見て、状況を理解した様だ。陽牙達は周囲の神父達や堕天使達を睨みつける。

 

 

「お前達はこの者達を家へ帰してやってくれ……勿論、記憶は消してな」

 

 

「はっ!」

 

 陽牙達は眠っている家族達を抱えるとその場から消えた。

 

 

「いっ今のがお前の持つ、天下覇道の三剣の内の天生牙か」

 

 降りてきたアザゼルがそう言った。

 

 かつて龍牙王の父、闘牙王が持っていた三剣……天界を司る【天生牙】、人界を司る【鉄砕牙】、地界を司る【叢雲牙】……この剣をもって闘牙王は妖怪の頂点を納めた。故に天下覇道の剣と呼ばれ、この剣を手に入れれば最強の証だと言われていた。

 

 闘牙王亡き後は叢雲牙は危険なため、龍牙王に管理されていた。実際にこの三剣を手にしていたのは闘牙王と龍牙王のみだ。どうやら交流していたアザゼルも剣の存在は知ってはいたが、見たのは初めての様だ。

 

 

「あっアザゼル様?!どうしてここに!?」

 

 

「アザゼル……子等に被害が出た。どういう事か分かるな」

 

 

「あぁ………覚悟はできている」

 

 どうやら、アザゼルは既に覚悟を決めている様だ。

 

 

「我が地の子等にこの場で全員………消し去ってやる」

 

 叢雲牙を引き抜き、殺気と妖力が周辺を覆い尽くす。それによりこの場にいる者達は動けなくなる。

 

 これは神の裁きだ、決して逃れる事はできない。

 

 龍牙王の妖力が掲げている叢雲牙に流れ込み、剣より禍々しい妖気が溢れだした。

 

 天生牙が一振りで百の命を救う剣ならば、叢雲牙は一振りで百の命を奪う【死】の剣だ。

 

 

「叢雲牙よ……地獄の龍よ、裁きの一撃を!」

 

 叢雲牙の妖気が龍の形へと変貌し、龍牙王の身体に纏わりつく。

 

 その技の名は【獄龍破】……地獄の龍の一撃は敵を葬るだけでなく、地獄の瘴気は周囲の生命を蝕み、被害を受けた地は向こう百年は草木1本生える事はないだろう。

 

 この教会周囲には結界が張られている故に周りに被害が出る事はない、加え放たれた後の瘴気は龍牙王がどうにかするだろう。だがこの結界の中に居る者達は確実に死ぬ事になるだろう。

 

 

「【獄龍】「ダメです!」っ!?」

 

 声と同時に後方から眩い光が現れ、周囲を覆っていた禍々しい妖気が浄化されていくのを感じた。龍牙王は剣を下げ、振り返るそこには眩い光を放つ黒髪の少女が立っていた。



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第26巻 再会

 ~駒王街 教会跡地 地下空間~

 

 この地の神・龍牙王はこの地に住んでいた家族が傷付けれたのを目の当たりにし、怒りで地獄の剣【叢雲牙】を引き抜き、獄龍破を放とうとしていた。

 

 今まさに放とうとしていたその時、叢雲牙から放たれていた邪気が龍牙王の後方から出現した光に掻き消された。

 

 全員、光の方向を見るとそこには巫女服を着た黒髪の少女が立っていた。

 

 

「どうかお止め下さい、龍王さま」

 

 その姿、その声、その匂い、その霊力、龍牙王は忘れる筈がない。この時を幾年も待ち続けていたのだから。

 

 

「ふっ………フハハハハハハハハハ!」

 

 龍牙王は彼女の姿を見て、笑い出した。そして、叢雲牙を鞘へ仕舞うとゆっくりと彼女の方へと歩を進めた。

 

 

「たわけ………遅い」

 

 彼はそう言いながら、歩を進める。

 

 

「申し訳ありません」

 

 巫女は申し訳なさそうに俯いてしまう。

 

 

「我があの時、どの様な気持ちでお前が散って行く様をこの腕の中で感じていたと思う?」

 

 

「あの時は……ぁあするしか……本当に申し訳ありません」

 

 

「いやお前を責めてはいない………あの時、我が地を離れなければお前があの術を行使する事も無かったのだ。許せ」

 

 

「そっその様な事はありません!貴方様は何時も、この地の為に、この地で生きる者達の為に身を削ってまで………」

 

 そう彼女は知っていた、龍牙王がギリギリまで本来の眠りを伸ばしていた事を。

 

 

「それは当然のこと……土地神となった我の役目、我はそれを果たす為に全霊で行っただけだ。

 

 あれから数千年経った………その間、3度、我は眠りについた。眠っている間にお前や天照達と一緒に過ごした日々を夢に見ていた。間違いなく、これまでで一番幸せだった時間だった」

 

 

「龍牙王様」

 

 龍牙王は巫女の顔へと手を伸ばす。

 

 

「我にはお前達が必要だ……お前達がいないと我はきっと壊れてしまう。だからまた我の傍に居てくれぬか?」

 

 

「っ……はい!」

 

 

「おかえり………アイリ」

 

 

「ただいま戻りました……龍王さま」

 

 龍牙王はアイリを、アイリは龍牙王を抱き締めた。こうして龍王と巫女は時を越え、再会した。

 

 

「……ぁ~良い雰囲気の所、申し訳ないんだが俺達はどうすれば」

 

 この雰囲気を破ってそう声を掛けたのはアザゼルだった。

 

 

「チッ、良い所で邪魔しやがって………とまぁ言っても仕方ないか。一度、社に戻るか……この神父共は」

 

 

『彼等については私達に任せて頂きましょう』

 

 声と共に、空に光が満ち、白い翼を持つ天使達が現れた。

 

 

「ミカエル、遅いぞ」

 

 

「申し訳ありません。何分、天界も色々ありますので……ガブリエル、私は彼と共に行きます。此処を任せても大丈夫でしょうか?」

 

 

「はい、ミカエル」

 

 こうして龍牙王はアイリとミカエル、アザゼル達を連れて神社へ戻る事にした。



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第27巻 話し合い

 まず始めに……本当にすいませんでした!!!

 本当に御待たせしました! 

 此方を更新するのはかなり久しぶりになります、活動報告からかなり遅れましたがやっと修正を終える事ができました!


 ~龍王神社~

 

 

「成程、事情は分かった」

 

 龍牙王は堕天使レイナーレ達から今回の事件を起こした理由を聞いた。

 

 自分達は堕天使の中でも下級の存在故に何時も他の堕天使達に虐げられていた。その時に助けてくれたのが、堕天使の総督アザゼルとその補佐シェムハザだった。

 

 そしてアザゼルが神器(セイグリッド・ギア)を研究していると知り、神器(セイグリッド・ギア)を手に入れる為に動いたと言う。

 

 この地の教会に用意した装置でアーシアから癒しの神器(セイグリッド・ギア)聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)を抜く予定だった。神器(セイグリット・ギア)は魂と密接な関係の為に、神器(セイグリット・ギア)を抜かれれば持ち主は死んでしまう。

 

 

「つまりは……アザゼルの所為か」

 

 龍牙王は鉄砕牙を引き抜くとアザゼルの首を刎ねようとする。

 

 

「元々、お前が堕天使共をちゃんと管理してればこうならなかっただろうが!」

 

 

「面目ない……総ては俺の責任だ。だが頼む、他の奴等と……此奴等だけは見逃してやってくれ!」

 

 

「現に犠牲は出た……故に我はこの地の神として氏子等を害した輩に断罪せねばならない。例え友人であるお前の頼みでもそれは出来ない」

 

 龍牙王は土地神だ……土地神には自分を信仰する氏子達を護る義務がある。土地に、氏子に害がある者が居ればそれ等を排除しなければならない、そこに私情は挟む事は許されない。

 

 

「龍牙王様」

 

 

「アイリ……」

 

 龍牙王が座していた神座の横に居たアイリが声を掛けた。

 

 

「御待ちを………レイナーレさん達の事情がございます、どうか慈悲の御心を持ちまして御対応を」

 

 

「慈悲を与えよと?」

 

 

「私が再びこの地に足を運ぶ切っ掛けとなったのも彼女達在ってのこと………それに」

 

 アイリが光に包まれ、やがてアーシアの姿になる。

 

 

「「「「アーシア!?」」」」

 

 

「はい………今の私は巫女・アイリであり、アーシア・アルジェントでもあります」

 

 

 巫女・アイリ……そしてアーシア・アルジェント、この2人は同一人物である。

 

 アイリはアーシア・アルジェントとして転生した。しかし本来魂が転生する際には前世の記憶はリセットされるのが普通だ。だがアイリの様な特殊な存在は記憶を残す可能性もある。

 

 今回の転生の場合は、記憶が封じられていた事でアーシア・アルジェントとしての人格が形成され、その人生を過していた。しかし魂の記憶はそう簡単に封じれる物ではない、前世の記憶が夢と言う形でアーシアは見ていた。そして段々と記憶に見る事で前世のアイリと接触する機会が触れ、2つの人格の統合が始まった。人格の完全な統合はこの神社に来てからなったのだろう。

 

 今の彼女は、アイリとアーシアの記憶を両方保持し、2つの人格が融合した状態だ。別々の存在が1つになったのではなく、元は1つの魂から発生したからこそ実現できたのだろう。

 

 アイリとしての姿をしていたのは龍牙王の元へ向かう為だ。これはかつての習得した術……一時的に他の者の姿になる【転身の術】を使えば簡単な事だった。

 

 

アーシア()の願いでもあるんです。龍牙王様、どうかお願いできないでしょうか?」

 

 アーシア(アイリ)に涙目+上目使いでお願いされた龍牙王。

 

 

「ぐっ!いやしかし……これは土地の」

 

 

「ダメですか?」

 

 

「………はぁ。分かった、しかし完全に見逃す訳にはいかん……アザゼル!」

 

 どうやら龍牙王も女には弱い様だ。

 

 

「おっおう!」

 

 

「お前やそっちの堕天使共に対して判決を降す………アザゼルには向こう500年、我の手と成り足となって貰う」

 

 

「つまり俺が500年間、お前の下僕になると?」

 

 

「そう…………堕天使総督のお前であればそれなりに能力を持っているしな。我の……ひいてはこの土地の役に立って貰う、まぁ主に外交でな……。

 

 1人に対して100年、お前、その他4人……計500年。後、そっちの奴等はこれから人間を害する事を禁ずる。それとこの地から出て行ってもらう。我が眷族達は血の気が多い……特に古くから居る者達にとって、この地に生きる者達は我が子の様な物だ………子等を傷付けられて黙っている親はいない」

 

 彼は「我もそうだがな」と言う言葉を付けたした。

 

 彼が出した判決は「アザゼルが500年間、己の手駒となる事」「レイナーレ達がこれから人間を傷付ける事を禁じる」と言う2つを提示した。

 

 

「これでも破格の条件だろう?たかが500年だ、我や貴様にとっては一刻の話だ」

 

 

「あっあぁ……でも本当にいいのか?お前さんが言った様に俺達は滅ぼされても文句は言えねぇんだぞ?」

 

 

「なんだ、気に喰わぬか?ならば、今後のことも考え堕天使を滅ぼすというのも」

 

 

「いや!とても気にいりました!」

 

 

「そうか、ならば一先ずは連れて帰れと言いたい所だが……一誠に謝って貰わないとな目的の為にとは言え少年を騙したんだ、けじめとして謝罪せよ、小娘」

 

 

「はっはい」

 

 レイナーレを含めた他の堕天使達も龍牙王の正体を知ると完全に縮こまってしまっていた。

 

 

「一誠」

 

 一誠は護るため、一時的に神社に居た。龍牙王の声で一誠はレイナーレに向かい合う。

 

 

「はっはい……えっとその……やっぱり好きでもないのに、あぁ言う事をするのはいけないと思う」

 

 

「っ!」

 

 

「あの告白してくれた時、本当に嬉しかったんだ……でもあれが嘘だって分かって凄くショックだった」

 

 一誠にとっては産まれて始めての告白だったので、ショックなのは言うまでもない。

 

 

「ごめんなさい……謝ってすむことではないのは分かってる。でも本当にごめんなさい!」

 

 レイナーレは頭を下げて謝った。

 

 

「ぁ~坊主、本当に悪かった。こいつのしたことは許される事じゃねぇ……だがこいつ等もそれだけ追い込まれてた。俺の所為だ、殴って気が済むなら俺を好きなだけ殴れ」

 

 

「あっアザゼル様!?」

 

 

「お前等の事をしっかり見れてばこんな事にはならなかった。だからこれは俺なりのけじめだ」

 

 

「いぇ……今回の事は確かにあれでしたけど、夕麻ちゃんのお陰で龍王様に会えた訳ですし……人生の勉強の1つとして受け止めます」

 

 

「そっそうか。何か在ったら、何時でも俺に相談してくれ。力になる」

 

 一誠は騙された事を哀しんだが、何より龍牙王に出会えた事を喜んだ様だ。アザゼルはそれでは気が晴れないので、彼の力になる事を誓った。

 

 

「マジっすか?!じゃ、ハーレムを作るにはどうすればいいですか?!」

 

 

「なんだ、今回の赤龍帝はハーレムが希望か。俺がアドバイスするよりも、龍牙王に聞いた方がいいぞ」

 

 

「えっ?」

 

 

「なんせ、大陽神に月の神、月の姫、外宇宙の神姫……色々な女を落としてるんだ。俺よりプレイボーイだ」

 

 

「アザゼル……」

 

 余計な事を言ったなとアザゼルを睨む龍牙王。一誠はアザゼルの話を聞いて、眼を輝かせている。

 

 

「ほっ本当なんですか?リアルハーレムって」

 

 

「一誠、止めとけ。アレはハーレムなんて生易しいもんじゃない」

 

 龍牙王に聞こうとしていた一誠に黙っていた夜叉は耳打ちする。

 

 

「どういう事?」

 

 

「受け売りだが、女神ってプライド高いんだ」

 

 

「うっうん」

 

 

「そんなのが、何人も居て1人の男を取り合うのを想像してみろ」

 

 一誠は夜叉に言われて少し想像してみた。誰も一歩も退かず、1人を取り合う図……最終的には血を見る事になる。

 

 

「こっ怖い」

 

 

「実際はお前が考えているよりもっと怖いから安心しろ」

 

 想像して身体を震わせる一誠にそう呟く、夜叉。

 

 

「一誠、1人の男として言っておく。ハーレムやらに憧れるのはいい………女の嫉妬と怨みは神罰より恐ろしいぞ。我もそれを身をもって知った……特にプライドが高くて、孤高な女には注意しろ。そう言う女はな、独占欲が強くて……病む可能性が大きい」

 

 

「はっはい、肝に命じておきます」

 

 信仰する神様からこんな生々しい男女の問題を聞かされるとは全く思っていなかったが、一応神様の言う事なのでそう答える。

 

 そして桔梗から「もう少し神らしくして下さい」と言う様な視線を向けられる。なので咳払いすると、話を打ち切った。

 

 

「それで……あっ」

 

 アーシア(アイリ)の方を見てそう言えば、彼女の事を夜叉達に説明してなかったなと思い出した龍牙王は彼女の事を夜叉と桔梗達に説明した。2人は成程と納得した様だ、因みに桔梗に至っては何故か彼女を見る眼には畏敬の念が含まれていた。

 

 

「お話は龍牙王様から聞いております。貴女の巫女としての御力も心意気も、素晴らしい物です。是非とも私にもご指導頂きたい」

 

 

「ぇ…はぁ……龍牙王様、一体何をいったんですか?」

 

 

「事実だけを言ったぞ。因みに我が神社の歴代の巫女達は皆、お前の話を聞いて育ったのだ。巫女達にとってお前は憧れの的だ、ハハハ」

 

 

「そっそんな私なんて大したことないです!結局最後は無様に死んでしまいましたし」

 

 

「そんな事はありません!貴女様の生き様は、巫女としても、女としても、憧れです!」

 

 桔梗や、この神社の歴代の巫女達にとってアイリは憧れの存在の様だ。それもこれも龍牙王が話したのが原因だろう。因みにその話の内容は幾分か美化されている部分もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に空気になっている、ミカエル、アザゼルとレイナーレ達。

 

 

「まさか彼にあの様な事があったとは……」

 

 

「あぁ、驚きだ……道理で悪魔を憎悪してる筈だ。愛した女を殺されりゃ誰だってそうなる」

 

 

「えぇ……彼のあの様な表情、あまり見ないので少し新鮮ですね」

 

 

「そうか?……それにしてもあの嬢ちゃんも大変だな、何処かの大天使に見放されて、追放されたそうじゃねぇか」

 

 

「ぅ……それは」

 

 そう……アーシア・アルジェントは魔女の刻印を押され、教会より追放された。ミカエルやガブリエルと言った天使達は彼女を救おうと思えば救えただろう、だがとある事情により見て見ぬ振りをしたのだ。

 

 

「そう言えば……アーシアを追放されたんだったか。ミカエル、アーシアを魔女だ、なんだと言って追放した輩は何処のどいつだ?」

 

 彼女から追放された話を聞いていた龍牙王………今にも叢雲牙を引き抜きそうな勢いでミカエルに詰め寄った。

 

 

「えっと龍牙王、落ち着いて下さい」

 

 

「そうです、龍牙王さま!落ち着いて下さい!私は気にしていませんから!」

 

 

「お前がそう言うなら止めよう………だが何か在れば直ぐに言え、我が手ずからOHANASHIをする、ハハハ」

 

 

「絶対になにかする気でしょう?」

 

 

「さてな……ワハハハハ」

 

 こうして、巫女は時を越えて帰還した。

 

 彼の龍神は今度こそ、巫女も、民も、全てを護り通すだろう。その為には己が力を行使する事も、己が手を血で染める事も、矜持を捨てる事も厭わないだろう。




~まとめ~

・アーシアはアイリが輪廻転生した存在。転生の際に記憶は封印されていたので【アーシア】としての人格と【アイリ】としての人格が個々に1つの身体に存在していた。記憶を封印されていた時は【アイリ】の人格も封印されていた。

・神器が発現した際に記憶と共に【アイリ】の人格も目覚めていたが、アーシアの人格を塗潰す事になるので自ら自身を封じていた。しかし本来1つの魂から生まれた存在なので時間と共に徐々に1つに戻ろうとしていたので、アーシアは夢と言う形で【アイリ】の記憶を体験した。

・存在が1つになるにつれて【アイリ】との会話も可能になった。そして駒王街に来た時に人格と記憶の統合は殆ど終わっており、龍牙王が激怒した事を気付いた際に完全に統合された。

・現在のアーシアは【アイリ】でもある、勿論両者の記憶も在る。人格の方は元々似たものなので特に変わりはない。優しさ、ドジっぷり、天然は原作と殆ど変らないが、巫女としての術や土地の力を扱う事も出来る様になっている。


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第1.5章 会談と目覚める宿敵
第28巻 魔王の会合と龍神(笑)


ーこれからー

アイリはアーシアと1つになったので、これからはアーシアと表記します。時折、アイリとして呼ばれる事もあります。


 ~冥界 魔王領地 ルシファード~

 

 冥界の一部にある悪魔の首都ルシファード。

 

 その領地内にある城で、魔王サーゼクス・ルシファーは他の魔王達と会談を行っていた。

 

【ルシファー】の名を継ぐサーゼクス。

 

【レヴィアタン】の名を継ぐセラフォルー。

 

【ベルゼブブ】の名を継ぐアジュカ。

 

【アスモデウス】の名を継ぐファルビウム。

 

 これが現在いる魔王達である。中でもファルビウムは「働いたら負け」と言っている怠け者……仕事の殆どを部下に投げ出す魔王なのだが、今回ばかりはそうは言ってられなかった。

 

 ーサーゼクスの妹がいる駒王街……そこで問題か発生。しかもその土地の神はあの【裁龍神】の可能性があるー

 

 その様な事を聞けば、怠け者も動かざるおえないのだ。

 

 なんせ、此処にいる魔王達は全員、先の戦争に参加していたのだ。そこで、赤龍帝と白龍皇を彼の龍神が倒したのを目の当たりした。

 

 先の魔王や神でさえも苦戦した赤龍帝と白龍皇……二天龍を簡単に倒したその力に【超越者】と呼ばれるサーゼクスとアジュカでさえも彼の龍神には恐怖した。

 

 

「ねぇ、サーゼクス。リアスちゃんが目撃したのは本当にあの龍神なの?」

 

 

「それは分からない。でも、リアスの女王、姫島朱乃が言った風貌とその地の神の姿は酷似している」

 

 

「巫女とは言え実際に会ったこともないのに何故それを知ってるんだ?」

 

 

「彼女の父親バラキエル、母親姫島朱璃……どちらとも彼の龍神と親交が在ったと噂がある。それに本人も母親からその話を聞いたらしい、信憑性は高いだろう」

 

 

「……堕天使と人間のハーフか。

 

 幻想の地・蓬莱郷、人とそうでない人外達が共存していると言われる楽園。それも彼の龍神の伝説の1つだったか」

 

 蓬莱郷(ほうらいきょう)とは龍牙王が創ったとされる幻の都。そこでは人間だけでなく、妖怪や異形達も共に暮らしていると言われる理想郷だ。

 

 

「それに彼女の母親はあの姫島家の人間だ。実際に会っていたとしても不思議ではない」

 

 

「そう言えば、あの娘の母親って」

 

 

「ぁあ、異形との子供を産んだとして姫島家に殺された可能性がある」

 

 

「可能性?」

 

 

「朱乃くんは母親の一件でバラキエルとはほぼ絶縁状態。朱乃くん自身も追撃から逃げる為に母親の亡骸はそのまま社に置いて来てしまったらしい」

 

 

「ではバラキエルが弔ったか、姫島の家が回収したんじゃ……いや、待て。まさかあの噂が関係してると?」

 

 

「もし、龍神と親交があったなら……天下覇道の三剣を使い蘇えらせたことも考えられる。詳しい事は分からないがね」

 

 一同はそれを聞いて黙ってしまった。

 

 本来、命の蘇生とは禁忌の技。転生悪魔でさえも、悪魔への転生が条件で蘇らせる事は可能なのだが、天下覇道の三剣はその上をいくとは考えたくもなかった。

 

 

「だが何故、今まで接触して来なかったんだ?」

 

 

「リアスが巫女殿との話し合いをした所、あえて見逃されていたと言われた様だ」

 

 

「あえて?」

 

 

「真相な分からないが……話し合いの場を設けなければ」

 

 

「応じなかった場合は?」

 

 

「リアスやソーナくんには悪いが、即時冥界に戻って貰う」

 

 

「それがいいわね。仮にその土地の神なあの【裁龍神】で機嫌を損ねたとしたら……」

 

 四大魔王の脳裏に蹂躙される家族、仲間、同胞の姿が浮かぶ。

 

 

「それに【裁龍神】は様々な神話体系の神々と関係があるとも聞く。そしたら完全に終わりだ」

 

 実際には神話体系の女神達と関係があるのだが、彼らにそれを知る術はない。

 

 故に魔王達は困惑し、悩む。どうすればいいのか、ヒントすら見えて来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~駒王街 龍王神社~

 

その頃、裁龍神こと龍牙王は

 

 

「あっあの……龍牙王さま、この巫女服は私の知る物とはかなり違うのですが」

 

 そう言って龍牙王の前で恥ずかしそうに胸の所や脚を巫女服(?)の袖で隠しているアーシア。大きな櫃の横で座り龍牙王はニヤニヤしながらそれを見ている。

 

 現在アーシアが着ているのは、腋の所や横から見れば胸が見えてしまそうな巫女服だった。袴に至ってはミニスカートと見違える程、短い。

 

 

「あっうん、時代と共に巫女服も変わってるんだ(適当)。

 

 一応我が神社の巫女の正装だから(嘘)。他にも色々と種類はあるけど、それが一番(自分の目の保養に)いいと思ってな。

 

 なんならこっちにするか?」

 

 

「すっすけすけ!?」

 

 

「駄目か、じゃこっち」

 

 

「もぅ服じゃないじゃないですか!」

 

 どうにも龍牙王が進めてくるのは、自分の知っている巫女服からかなりかけ離れた物だったので顔を真っ赤にしているアーシア。

 

 

「ぇ~似合うのに……(ぱさぁ)ん?」

 

 

「何ですかこれ?」

 

 龍牙王の持っていた際どい巫女から落ちたのは鞭だった。

 

 

「鞭……だな。何だ、これ?我の物ではないし……そう言えば【撮影】に使うから貸してくれと(土下座で)頼まれた事あったか……やっぱアイツ、ドMか」

 

 

「これを使って何をするんでしょう?」

 

 純粋な眼で鞭を見ているアーシアに、【そう言うこと(意味深)】などと言える訳もなかったのでそうそうに鞭を捨てた龍牙王。

 

 

「龍牙王さま、社でその様な物を出されると困ります。と言うか、アーシア様、何ですかその格好は?」

 

 とやって来た桔梗と夜叉。

 

 

「えっと、これが巫女の正装だと言われたのですが……」

 

 

「違います、そんな破廉恥な服は巫女服とは呼べません」

 

 そう言うアーシアに言うと、龍牙王を軽く睨んでいる桔梗。

 

 

「桔梗、お前は間違っている!」

 

 そう叫ぶ龍牙王。今までに見たことがないほど、真剣な面持ちだ。

 

 

「何が間違っていると?」

 

 

 ー巫女とは神に仕え、奉仕する者というだけに清廉潔白を尊しとされるケガレなき乙女のこと!そして、その証である巫女服を着る資格があるのは同じ時間同じ場所に生まれ出た女子の中でも、ほんの一握り!まぁ…世代によっては絶無の時もありうる貴重で希少な存在にのみ許された服!

 

 そして何より神に奉仕する為の服装=神様が喜ぶ格好でなくてはならない!愛する巫女が()が喜ぶ格好をしてなにが悪い!誰が何と言おうが、我が許す!

 

 そうか、桔梗も着たk(ドスッ)何でもないですー

 

 持っていた巫女服(?)が桔梗の矢により地面に突き刺さったのを見て黙ってしまった龍神様。

 

 

「全く……もう少し神らしくして欲しいものだ。なぁ夜叉」

 

 

「……(あれを桔梗が……悪くない、寧ろ良い。でも野郎共に見せたくねぇし…二人の時に頼んで……いや射られるな)」

 

 なんて事を考えている夜叉。この神社の神主兼守護者だが、彼も健全な男の子なのだ。そう言うことに興味がない訳がない。

 

 

「夜叉?」

 

 

「ぇ……ぁ~うん、そうだな」

 

 

「何か変な事を考えてなかったか?」

 

 

「べっ別に……」

 

 

「そうか……アーシア様はどう思われますか?」

 

 

「えっと……個人的には龍牙王さまがお喜びならいいかと思いますが、流石に人前ではちょっと」

 

 個人的には良いらしい。

 

 

「ぁ~お楽しみの所、悪いけどちょっといいか」

 

 そう言って入ってきたのは、人間態の叢雲牙だった。

 

 

「叢雲牙か……買い物はどうした?」

 

 どうやら地獄の剣は買い物に行かされていた様だ。

 

 

「途中だったんだが……こっちの嬢ちゃんに案内して欲しいと頼まれてな。

 

 色々と事情があるものの、全く知らない訳でもないから連れてきた」

 

 そう言う叢雲牙の後ろから出て来たのは巫女服を着た黒髪の少女だった。




龍牙王の新たな属性:巫女服フェチ


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第29巻 懐かしさの正体

 ~龍王神社 神殿~

 

 人間態の叢雲牙に連れてこられた巫女を見て龍牙王は眼を細める。

 

 

「御初にお目に掛かります。偉大なる龍神様、私は姫島朱乃と申します……此度は挨拶に伺いました。悪魔としてではなく、巫女として、人間としてです」

 

 リアス・グレモリーの眷族、姫島朱乃が来たのだ。本来なら接触は禁じられていた筈だが、今の彼女にはどうしても気にかかる事があった。

 

 突然の事に夜叉と桔梗は龍牙王を見る。

 

 

「構わん……姫島朱乃よ、入って来るがいい。おっとその前に」

 

 龍牙王が手を振る。すると何かが変化した。

 

 

「悪魔のこの身を気遣って下さったこと、深く感謝致します」

 

 龍牙王が行ったのは、普段満ちている神気を少し弱めたのだ。転生悪魔と言えど悪魔は悪魔。神聖な場所などに居ると言うのは、毒ガスが充満している部屋に何の装備もなく入る様なものだからだ。

 

 夜叉と桔梗は龍牙王のこの気遣いが気になった。普段は悪魔と聞くだけで殺気立つのに、彼女に対して氏子に接する様な対応をしている。

 

 龍牙王に言われ、朱乃は神殿へと入って来る。

 

 

「叢雲牙、助かった。後は買い物に戻ってくれ」

 

 

「あぁ」

 

 叢雲牙はそう言われると買い物へと戻っていった。

 

 

「さて……こうして会うのは十数年ぶりか」

 

 龍牙王の言葉に場に居る全員が驚いた。どうやら、彼女とは面識があるらしい。とは言うものの朱乃本人はそれを知らなかったらしい。

 

 

「それにしても朱璃に良く似ている。と言うか、瓜二つだな」

 

 

「母を知っているのですか?」

 

 

「あぁ……朱璃、そしてお前の父親バラキエルは我の元に尋ねてきたからな。幼いお前を連れてな……蓬莱郷へと案内して欲しいと。

 

 アーシアは知らんか………かつてある巫女が造った人と妖怪が共存する蓬莱島、しかしその島は50年に一度、結界が緩み余分な奴等がやってくるからな。

 

 我も人と妖怪達の共存には賛成していた。故に蓬莱島の巫女と協力し、新たな楽園……蓬莱郷を創造した。そこでは妖怪と人間の子供達……俗に言う半妖が多く暮らしている。今では天使や堕天使、エルフとかも共存している。

 

 さて、我が名前だったか。いずれ知る事だ………我は龍牙王。敢えてこの地では龍王と名乗っている」

 

 

「やはり……貴方様はあの………では貴方様の力を懐かしく感じたのは」

 

 

「少しの間、お前は蓬莱郷で暮らしていたんでな。その時によく我の尾に抱き着いて眠っていたな、いや懐かしい」

 

 その様な驚くべき真実をさらっと言う龍牙王。勿論他の者達は唖然としている。

 

 

「それでバラキエルは元気か?」

 

 

「ッ!………私に父は居りません。あの様な……()()()()()()()()()()を父と思いません!」

 

 それを聞いた者達は気まずくて黙ってしまっているが、龍牙王はきょとんとした表情で朱乃を見ている。

 

 

「ぇ~と…………ぁ~(死んだ事になってるの?あれ?バラキエル、話してないのかな?言うべきか……いや、バラキエルに聞いてからにするか)。

 

 そっそうか………親子の関係を我が口を出す事もあるまい。まぁ何か在れば何時でも訪ねて来ると良い。お前であれば構わん……悪魔のあの小娘が来たら切り殺している所だがな」

 

 それから朱乃は直ぐに帰った。どうやら本当に龍牙王の力の懐かしさを確かめに来ただけらしい。

 

 

「まさかあの姫島先輩と龍牙王様にその様な関係が在ったとは……」

 

 

「あの小さかった子供が今やあんな美人になるとは……人間と言うのは成長が早いな。そう考えてみれば夜叉と桔梗も変わったな。

 

 寝小便ばかりしてた夜叉がこんな立派に………桔梗も美人になったし……育ててきた我からすればくるものがあるな。

 

 フフフ………さて、気を取り直してと。夜叉、桔梗」

 

 龍牙王は今までの個人としての顔から、土地神としての顔へと変わる。

 

 

「我の代理として悪魔共に接触しろ………『この我が魔王共と同じ座について話し合いをしてやると伝えろ。これに応じぬ様なら………地獄の龍が暴れる事になるとな』」

 

 

「「はい」」

 

 

「龍牙王さま……」

 

 

「アーシア、これはこの地に生きる氏子達の為でもある。個人的に怨んでいるが、それを仕事にまで持ち出さんさ………我が眷族達よ!」

 

 龍牙王の声でこの地にいる総ての眷族達が集まった。

 

 

「聞いていたな………我は悪魔と接触する。警戒を怠るな!魔王共が来る、そうなればそれに乗って入ってくる輩もいる可能性が高い。

 

 此度の話し合い次第では……悪魔共を追い出すことになる。そうなれば我は全力を出す……しかし我だけでは守れぬ事もある。この地を護る為にもお前達の力を貸してほしい」

 

 

「「「「御身に忠誠を誓い、この地と共に生きると決めた時より我等が命は、魂は貴方様の物です!どうかこの身、力をお好きにお使いください!」」」」

 

 陽牙達がそう言うと他の眷族達がそれに同意する声を上げる。

 

 

「ではこれより各自、自分の場所へと戻り備えよ!」

 

 

「「「「「承知!!!」」」」」

 

 眷族達はそう言うと、再びその場から消えた。

 

 

「ふぅ………一先ずはこれでいい。

 

 夜叉、桔梗、スマンがこれから少し忙しくなるぞ」

 

 

「あぁ!構わねぇぜ!」

 

 

「構いません」

 

 

「アーシア……今回の話し合いはお前にも出て貰おう。勿論、この龍牙王の巫女としてな」

 

 

「はい!」

 

 龍牙王は動き出した。

 

 魔王達との会談……これがこの地にとって、悪魔達にとって何を齎す事になるのか……。




~龍牙王と朱乃との関係~

・未だ姫島 朱乃が1歳くらいの時に、父・バラキエル、母・朱乃が混血の我が子をどう育てるかを悩んでいた時、バラキエルが友人の龍牙王に蓬莱郷の伝説が在ったのを思い出し、龍眠から目覚めたばかりの龍牙王を尋ねていた。

・蓬莱郷では多くの混血達が暮らしていたので、一時的にはバラキエル家族が蓬莱郷で暮らしていた。その時には朱乃は龍牙王の尾で寝た事もあるらしい。


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第30巻 一誠の修行

 ~龍王神社 早朝~

 

 

「ぜぇぜぇ………」

 

 

「一誠、この程度でばててたら駄目だぞ」

 

 龍王神社の長い石階段の上で、ばてているジャージ姿の一誠。その横には同じ夜叉と龍牙王が立っていた。

 

 

 《この程度でばてるなんて情けない》

 

 一誠の左手の甲が緑色に光っており、そう声が聞こえた。

 

 

「そう言うな、ドライグ。人間はな、弱いものだ。お前だって、それは知ってるだろう?」

 

 

 《知ってるけど………エルシャやベルザード、他の私の歴代の宿主に比べるとなぁ》

 

 

「あのな、昔と今じゃ色々と違うんだ……ほれっ、夜叉、一誠、もう1本だ」

 

 

「仕方ねぇな、行くぞ一誠」

 

 

「おっおう……」

 

 そうして、夜叉と一誠は石階段を下りて行く。どうやら、石階段を上がったり下りたりしている様だ。龍牙王は彼等が降りて行ったのを確認すると、鳥居の上へと昇り街の方を見降ろしていた。

 

 何故一誠がこんな事をしているのかと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~アーシアの一件が終わった翌日~

 

 事が終わって、何時もの日常を取り戻していた龍王神社。龍牙王は事後処理を終え、アーシアとゆっくりしようと考えていた。

 

 

「久しぶりだな、アイリ」

 

 

「本当に久しぶりね~」

 

 高天原よりやって来た太陽神・天照大御神と銀髪の女神。

 

 

「お久しぶりです、天照様、月読様。えっと今はアイリではなく、アーシアです」

 

 

「おっそうか、じゃあ改めて宜しくな、アーシア」

 

 

「また宜しくね、アーシア」

 

 そう言う、太陽神と月神。天照が居るのは分からなくも、ないが何故その妹神がいるのだろう?

 

 

「アーシア、こっちに天照、月読が………って何しに来たんだお前等?」

 

 

「あっダーリン!」

 

 月読は龍牙王の姿を見ると、彼に飛び付いた。

 

 

「ぐぉ………毎度言うが、飛び付いて来るのは止めろ」

 

 

「妻を抱き留めるのは夫の役目じゃない」

 

 

「ハハハ、月読。妾なら許すが、正妻はわ・た・しだからな」

 

 

「あらっ、姉さん。正妻はわ・た・し」

 

 ―ギュー、ミシッ―

 

 そう言って、龍牙王を抱き付く力を強くする月の女神。

 

 

「月読……」

 

 ―メキィ、メキィ―

 

 天照は月読を軽く睨むと、天照は一瞬で龍牙王の前に移動して彼に飛び付いた。現在、天照は龍牙王の頭を抱き締める形となっている。頭から変な音がしているのは気の所為だろう。

 

 

「わっ私もします~」

 

 アーシアも負けじと龍牙王に抱き付いている。端から見ればハーレムだ………見えない女の戦いがなければ。

 

 ―メキッ!ボキッ!―

 

 ―ミシッ!バキッ!―

 

 

「~~~~~~~」

 

 龍牙王の顔は天照に抱き締められている為に声を出す事は出来ない。

 

 

「兄貴……ちょっといいk……」

 

 

「失礼しm……」

 

 タイミングの悪いのことにその場にやって来た夜叉、桔梗、一誠。勿論、その様な場面を見れば固まってしまうのは仕方がない事だろう。

 

 

「……はっ……ハーレム………リアルハーレムだ。しかも美少女ばかり」

 

 

「「お邪魔しました」」

 

 夜叉と桔梗は一誠を連れてその場を離れていった。

 

 

「~~~~~~~~~~~~(助けて~!潰れされる!)」

 

 龍牙王の助けは届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒロイン達が落ち着きを取り戻したことで、解放された龍牙王。

 

 

「しっ死ぬかと思った」

 

 

「あれくらいでお前は死なんだろう」

 

 

「そうね、ダーリンはあの程度では死なないわ」

 

 龍牙王の強さを知っている彼女達なのだが、しっかりと左右から彼の両腕に引っ付いている。アーシアは流石に人前ではしない様だ。

 

 

「あのなぁ……まぁいい。気を取り直して……一誠、良く来たな」

 

 

「はっはい………」

 

 

「ぁ~此奴等は……」

 

 

「私は天照。高天原の主神で、此奴のだ」

 

 

「私は月読、姉さんの妹で、ダーリンのよ」

 

 互いに妻と言う部分を強調している女神達。龍牙王を挟んで火花を散らし、2人から眩い光が放たれ、空間が歪み始めた。それを見ると、夜叉と桔梗は構えた。

 

 2人は神だ………それも最高神とその妹だ。その気になれば街どころか、日本と言う国そのものを消し飛ばすなんて簡単な事なのだ。

 

 

「我の社を消し飛ばすつもりか……落ち着け」

 

 原因は自分なのできつく言えないが、こんな事で自分の土地を消し飛ばす訳にはいかないので、落ち着かせる為に2人を尾で包む。

 

 

「悪い………熱くなり過ぎた」

 

 

「ごめんなさい、ダーリン」

 

 

「いや……まぁ……元の原因は我だし。

 

 コホン、さて……一誠よ、今日はどうした?」

 

 

「あっ……はい、えっと……助けて頂いたお礼をと思いまして」

 

 どうやら、命を助けられた事のお礼を言いに来たらしい。

 

 

「そう気にする必要はない。この地の子等を救うのが我の役目だ」

 

 

「それだけじゃ、ないだろ……さっさと言えよ」

 

 彼の横にいた、夜叉がそう言う。

 

 

「でっでも……流石に畏れ多くて」

 

 

「ん?」

 

 

「兄貴、一誠が力の使い方を教えて欲しいってさ」

 

 

「ほぉ……力をね。一誠、何の為に力を求める?

 

 確かにお前は赤龍帝(ドライグ)の宿主だ、その力を狙う輩もいるだろう。だが我が地にいる限りは手は出させん……お前は人として生きていけるのだ。無理に力を手にする必要はない」

 

 この地にいる限りは龍牙王が一誠に手を出させる事はないだろう。故に力を手に入れる必要はない。

 

 

「確かにドライグの力を手に入れれば、異性を引き付ける事ができるし、人を越えた力を手に入れる事ができる」

 

 

「いっ異性を引き付ける?」

 

 

「あぁ………そうらしい。まぁその人間の性格にもよるがな。だが……歴代の赤龍帝や白龍皇達は悲惨な結末を迎えている。出来ればお前にはそうなって欲しくない」

 

 

「でっでも……俺、今回の事で思ったんです………今のままじゃ、もし何か在った時に父さんも母さんも、友達を護る事ができないって。でも力が在れば」

 

 

「成程……まぁ確かに自衛程度は出来た方がいいか。それに鍛える事は悪い事ではないし……いいだろう、だがその前に一誠、ジッとしてろ」

 

 龍牙王がそう言うと、一誠の胸の辺りに触れると、どういう原理かは分からないが龍牙王の手が一誠の身体へと入っていく。少しすると、身体から手を引き抜いた。

 

 

「???」

 

 一誠は何をされたのか分からなかったが、自分の左手に違和感を感じた。左手を見てみると、赤い光に包まれて緑色の宝石の嵌め込まれた赤い篭手が装着された。

 

 

「久しぶりだな、ドライグ」

 

 

 《出てきた早々、アンタと会うとか最悪だ》

 

 一誠の篭手の宝石が点滅し始め、声が聞こえてきた。何故か声は叢雲牙に似ていた。この声の主こそ、一誠の神器(セイグリッド・ギア)赤龍帝の篭手(ブースデット・ギア)に宿る二天龍の片割れ、赤き龍の帝王・ドライグだ。

 

 

「おいおい、未だ昔の事を引きずってるのか」

 

 

 《当たり前だ!お前が白いのと邪魔したあの時のこと、忘れたとは言わさんぞ!》

 

 

「なんだ、ちょっと放り投げただけじゃんか」

 

 

 《あんなタコかイカ、良く分からん連中共がいる外宇宙までブッ飛ばしていてか?!白いのなんか、地獄まで堕とされたのにちょっとだと?!》

 

 どうやら龍牙王からすればちょっとの事でも、彼等からすればちょっとの事ではなかった様だ。

 

 

「だってあの時は話を聞かずに、暴れ出したのはお前達だろう」

 

 

 《ぐっ………確かに》

 

 

「それにあの時のクトゥルフの娘達にモテモテだったじゃないか」

 

 

 《うおぉぉぉぉぉぉ!!やめてくれぇ~!!!思い出したくもない!!!》

 

 余程、嫌な思い出でもあるのだろう………とても声が震えている。

 

 

「クトゥルフって……あのクトゥルフですか?」

 

 どうやら一誠もクトゥルフの名を知っていた様だ。

 

 クトゥルフとは「クトゥルフ神話」に登場する架空の神性……または宇宙生物の事である。一般的にタコやイカと言った様な姿で表現されている。

 

 

「あぁ、今やゲームやらで有名な連中だ。架空の存在と言われてるけど、外宇宙に存在してるぞ……まぁ……見た目はアレだけど、話せば結構楽しい連中だぞ。まぁいい……それよりお前の現在の宿主の事なのだが」

 

 

 《あぁ、見てたよ。間違いなく、歴代最弱だろう……まぁ鍛えれば身を守るくらいには強くなるだろうよ》

 

 

「あぁ、お前にも協力して貰うぞ」

 

 

 ~回想終了~

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在 龍王神社~

 

 

「じゃあ、ドライグの力で限界まで倍加してみろ」

 

 

「はい!ブースト!」

 

【Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!】

 

 一誠に宿る赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)……赤龍帝ドライグの力は10秒ごとに力を倍加させるというもの。それを幾度も重ねると人間でもやがては神や魔王に匹敵すると言われている。

 

 

「5回か………始めた頃は2回、それに比べたら増えたな………まぁ禁手(バランス・ブレイカー)に至るにはまだまだ遠いか。日々の鍛錬、あるのみだな」

 

 

「でもこれで少しはマシになったんじゃねぇか?」

 

 龍牙王と夜叉がそう言い合う。

 

 

「あぁ……まぁ小物の妖怪くらいなら倒せるくらいだろう。じゃあ今日は此処まで……2人ともシャワーを浴びて来い。汗かいたまま学園には行けぬだろう」

 

 

「「はい(おう)」」

 

 2人は汗を流す為に神社の中へと向かった。

 

 

「ふぅ……さてと。飯を喰いに」

 

 ―カッ!―

 

 龍牙王も神社の中へ戻ろうとすると、雲も出ていないのに雷が彼の横に落ちた。

 

 

「刀々斎か……珍しく出てきおったか」

 

 

「ぉ~久しぶりだな、龍牙王」

 

 現れたのは三つ目の牛の妖怪・猛々に乗った闘牙王の側近の1人、刀匠・刀々斎だった。

 

 

「実はちぃ~とばかしややこしい事になっちまってな」

 

 刀々斎が龍牙王の耳元で何かを呟くと、彼の表情が強張った。

 

 

「まさか封印が解けたと?親父の封印を解くなど……そう簡単には」

 

 

「封印は解けてないと思うぜ。お前さんの言う様に親方様の封印が簡単に解けない筈だぁ……でもよぉ、跡形もなく消えちまったんだ」

 

 

「そうそうに消し去るべきだったな………放置していた我の責任か。しかし一体誰が」

 

 何者かの思惑がこの地に何を齎すのか、彼等はまだ何も知らなかった。



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第31巻 四大魔王との会談

今回、若干、主人公の言葉に棘があります。

11月28日、指摘があったので少し修正しました。


 ~駒王学園 旧校舎 会談室~

 

 駒王学園にある旧校舎……その一室に設けられた会談席。

 

 その席に座るサーゼクス・ルシファー、セラフォルー・レヴィアタン、アジュカ・ベルゼブブ、ファルビウム・アスモデウス。

 

 その後ろには魔王達の眷族達とサーゼクスの妹であるリアス・グレモリー、その眷族、姫島朱乃、木場祐斗。セラフォルーの妹であるソーナ・シトリーと眷族達がいた。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 この場にいる誰もが言葉を発しなかった。いや発せなかった……この場に来る【裁龍神】、彼の龍神の一言で悪魔の存亡が掛かっている。裁龍神は世界中の神々と繋がっている、彼の龍神が悪魔を滅ぼすと言えば世界中の神々がその為に動くだろう。それを理解しているからこそ、この場にいる全員の気が張り詰めている。

 

 

 ―ギィ―

 

 扉が開く音と共に、龍牙王の側近である陽牙達が入って来た。彼等は部屋の中を隈なく見回すと入口の前に並んだ。そして、腰に差す刀を引き抜くと自分の胸の前に構える。

 

 

「この地を永く渡り守護せし」

 

 

「慈悲深く、貴き龍神」

 

 

「我等が主・龍王様」

 

 

「御入来である」

 

 彼等がそう言うと、扉から巫女姿のアーシアと桔梗、歴代の巫女であり夜叉達の曾祖母の陽菜、母の奏、戦闘時の格好の夜叉、神無、神楽、黒歌、白音、そして何故か、一誠までいる。………最後に入って来たのはこの地の神・龍牙王が入って来た。

 

 

「我がこの地の神…龍王……いや見た顔がいる故に隠しても仕方あるまい……我が名は龍牙王である」

 

 龍牙王がそう言った瞬間に、魔王達が立ちあがる。そして直ぐに理解した、彼の龍神は例え四大魔王が力を合わせたとしても勝つ事は不可能だと。

 

 

「私の名はサーゼクス・ルシファーと申します、以後お見知りおきを」

 

 と魔王達が挨拶していくが、龍牙王は全く表情を変えない。

 

 

「御託はいい………我は貴様とこうして場を同じくする事自体、正直我慢しがたいので早く終わらせたい」

 

 龍牙王はそう言うと、用意された席に座る。流石の魔王達のこの態度はどうかと思ったが、相手は栽龍神……機嫌を損ねれば自分達が終わってしまうと。

 

 

「率直に言う、悪魔共……この地から去れ。貴様等はこの地に害悪を齎す」

 

 

「わっ我等にはその様な気はございません!どうか話し合いを……」

 

 

「話し合い?少なくとも我が知る悪魔は話し合いではなく略奪に来たがな……例えば悪魔の駒(イーヴァル・ピース)とか言う物を使って、家の夜叉や桔梗を手にしようとして輩とかな」

 

 

「「「「ッ!!!」」」」

 

 悪魔の駒(イーヴァル・ピース)を作った事により始まった悪魔達による他の種族の狩り………魔王達もこれを知っていた。彼等もこれを止めるべく動いた。現在は表面化では止まっているが裏では止まっていない。

 

 

「それに悪魔など、己が欲の為に他者の命などどうでもいいと考える存在だろう」

 

 

「なんですって!!!黙っていれば好き勝手言って………悪魔の事を何も知らないくせに何を偉そうに」

 

 

「大体なんなのですか!?貴方に悪魔の何が分かると言うのです!!!」

 

 黙っていたリアスとソーナも龍牙王の言葉に怒りを感じそう言い放つ。彼女達は力の差が分かっていないのだ。そして感情に流される事も若さ故だろう。

 

 その言葉を聞いた龍牙王の眷族達が動こうとする。現に悪魔の所為で滅んだ種族は多い、日本の妖怪達……黒歌と白音もその被害者だ。だが龍牙王は動こうとした眷族達を制する。

 

 

「フン…………力の差も分からぬ餓鬼が。

 

 まぁいい………確かに理由も分からずにそう言われるのは腹が立つだろうからな」

 

 そして龍牙王は語り始めた。

 

 

 

 

 

 

『かつてこの地で起こった悪魔による災害……アイリのこと、日本全体で起きている妖怪の被害……その被害者が黒歌や白音だという事、近代になって力ある能力者であるこの地の巫女を狙ってきたこと……その悪魔達は皆、龍牙王や眷族達により倒されたことを語った』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でっではこの地で行方を晦ませる者達が多かったのは」

 

 

「勿論、我等が手によるもの……この地で生きる人間や動物に害成す者達を排除するのは土地神である我の役目だ。例え相手が神族だろうと、邪神だろうと例外なく我は戦う」

 

 それを聞いた魔王達やリアス達は驚いている。

 

 

「何故か分からぬ顔をしているな……まぁお前に言って理解できるかは分からんが……話してやろう。

 

 人間は神や高等な魔から見れば愚かで浅はかな生き物だ……時が経つごとに神への感謝を忘れる。だが神にとってはその様な事はどうでもいいのだ。友神の言葉を借りるなら…!例え不要とされ祀られなくなっても、忘れ去られても……一度、愛されれば、愛してしまえば………忘れる事はできぬ。

 

 忘れられぬからこそ、その時の事を想い狂う……神は時に荒神と言う厄災を振りまく存在になるのはその為だ。

 

 我にとってこの地に生きる人間は己の子供も同じ。子供が理不尽に傷付けられるのを黙ってみている親は居らぬ」

 

 

「……確かにそうだ。私にも1人の息子がいます。息子が同じ目に合えばきっと私も我慢なりません」

 

 サーゼクスがそう言った。今の龍牙王は土地神()として人間(子供)の事を話していた。サーゼクス・ルシファーも同じ親の身である故に龍牙王の心境を察する事ができた。

 

 

「フン………さてと。話を戻すとしよう、我はそう言った経緯があった故にお前達を信用できぬし、信用するつもりもない。

 

 そして我が巫女・桔梗から可笑しな話も聞いている」

 

 そうそれは桔梗がリアス・グレモリーから聞いた「この地の神の許可を得て自分達は活動している」というものだ。

 

 

「我はその様な許可を出した覚えがない……よもや貴様等は我の先程の言葉を聞いて許可を出すかどうかなど分かりきっているだろう」

 

 

「たっ確かに……だが何故だ、私は我等がこの地でくる際に使いをだし、此方と話し合いをさせた筈です。その時にそちらと誓約を交わしました」

 

 

「……何時の話だ、それは」

 

 

「確か20年程前です……此処に誓約書があります」

 

 そしてサーゼクスが出したのが1枚の紙だった。龍牙王はそれを手に取ると、内容を見た。悪魔がこの地で活動する事についてだ。内容は、この地で活動するにあたって、土地に迷惑を掛けぬ様な事など様々な条約が書かれていた。

 

 そこに「龍王」と言うサインが書かれている。

 

 

「我の字ではないな……それに我が署名の際には己自身の名を書く。【龍王】と言う名は我のこの地での呼び名で在って本来の名ではない。それにこの紙に残っている匂い……何処かで………はて何処っだたか?」

 

 

「悪魔が勝手に書いたものなのでは?」

 

 陽牙がそう言った。悪魔が自作自演をしたと考えた様だ。

 

 

「そっそれはありえない……と言いたい所なのですが………あえて正直言わせて貰うと、その可能性もあるかも知れません」

 

 サーゼクスはそう発言した。なんせ、その発言は自分達の首を絞めるのと同じ事だ。龍牙王はそれを聞くと、ピクッと眉を動かした。

 

 

「リアスより此度のことを聞き一度調べ直したのです。この誓約書を貰いに行った悪魔は現在行方不明となっており、詳細が分かりません。他にも色々と怪しい所もありました」

 

 

「だろうな。我の名を騙る眷族達はいないだろうし……それに我はとある事情により20年前はこの地にいなかった。故に我がこの地でそれにサインするのはありえん」

 

 

「「「「………」」」」

 

 

「だがこの問題はどうやら悪魔だけの所為と言う訳ではない様だ。誓約書(これ)に付く()()。どうにもこの匂い、気に喰わん…………何処かで嗅いだ覚えがあるんだが、遠い日の事過ぎて忘れた。スンスン………はて誰だったか?」

 

 龍牙王はサーゼクスの出した誓約書を鼻に近付けている。この誓約書に付いている匂いに覚えがあった………あったのだが、それが誰だったのか忘れている様だ。

 

 

 ―カタッカタッカタッカタッ―

 

 

「鉄砕牙、天生牙……何に反応している?」

 

 龍牙王の腰にある鉄砕牙と天生牙が何かに反応するかの様に震え出した。龍牙王は鉄砕牙と天生牙に触れるとその震えを抑えている。

 

 

「たっ大変です、サーゼクス」

 

 サーゼクスのクイーン、グレイフィアが彼の耳元で何かを呟く。他の魔王達の側近達も彼等に何かを言っている。

 

 

「なに!?」

 

 何やら魔王達が騒ぎ始めている。

 

 

「どうやら、互いにこの様な事をしている場合ではなさそうだ…………叢雲牙でないとしたら、親父の掛けた封印のどれかに異常が在ったと言うべきか………陽牙よ、お前達は神社へ戻れ、鉄砕牙と天生牙のこの反応はただ事ではない。急ぎ、警戒にあたれ」

 

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

「すぅ…………【この地を愛し、我と共にある眷族達よ!何かが起ころうとしている!この地を護る為にお前達の力を貸してほしい!暫し警戒を!】」

 

 天井に向かいそう叫んだ。その声は例え何処に居ようと、駒王にいる眷族達に伝わった。そしてそれに応える声も龍牙王を耳に伝わっている。陽牙達はその場から消えた。

 

 

「さて……聞かせて貰うぞ、貴様等に起きている異変を……我の直感が言っている。貴様等の異変はどうやら我が追うべきものだとな」

 

 

「そっそれは……」

 

 魔王達は言う訳にはいかなかった。今回起きた異変は悪魔にとって不利なものだ……他の勢力に漏れればつけ入る隙を与える事になるからだ。

 

 

「この我が聞いてやると言っているんだ……【話せ】」

 

 

「ぐっ……何を」

 

 魔王達は何か逆らえぬ感覚に襲われる。

 

 

「無駄だ……言霊を使った。我の地にいる限り……いや日本にいる限り我に逆らう事はできぬ」

 

 言霊……それは日本における言葉に宿る霊的な力だ。神が使う言霊は強力で、生物だけでなく、無機物にすらも作用する。

 

 特に龍牙王の様に土地神で、自分の地にいる存在なら殆ど逆らえる存在はいない。言霊により、魔王達は話し始めた。




今回、リアス達の言葉に何もしなかったのは龍牙王が土地神として交渉の場にたっていたからです。

話し合いの場で、悪魔が何かを言ったとしてもその場で彼女達を切ったとなると報復の可能性があり、大なり小なり自分の地に被害が出るかもしれないからです。

龍牙王は悪魔を憎んでいますが、私怨で動いてこれまで護ってきたものが傷付く可能性があるなら、我慢することが多いです。

次回、犬夜叉で出てきた敵キャラが強化されて登場します。


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第32巻 動き出した影

 ~数時間前 冥界 中央研究領~

 

 この冥界の中央研究領は四大魔王達公認の研究施設だ。

 

 四大魔王が支配するそれぞれの領の近くに在る。此処では様々な物が魔王のアジュカ・ベルゼブブを中心に研究が行われている。つい最近ある日本のある場所で確保された物を研究していた。

 

 昔より入った者は決して帰ってこないよ言われる【かえらずの森】で回収された禍々しい邪気を放つ樹。回収時に大きな犠牲を出していたが……その樹は特別な物だからこそ回収された。

 

 

「成程………これが【時代樹】。時を越える力………もう直ぐ我等の手に」

 

 

「しかし何でしょうか、この時代樹の中にある大きな力は?」

 

 

「ウム……それが分からん。その何かを封印しているのは恐らくあの大きな()だろう」

 

 時代樹……時を越えて存在する樹であり、各時代に通じる力を持ち、普通の生命とは異なる時間を生きている樹だ。龍王神社にある御神木もまた時代樹だ。

 

 そしてこの樹には何か大きな力があり、それを封じる為の巨大な牙が突き刺さっていた。

 

 

「どうにかしてこの封印を解かないとこの時代樹も機能しないだろう」

 

 牙の封印により時代樹の力は全くと言っていいほど、機能していない。だからこそ、牙を破壊する為に研究を行っているのだが………彼等は未だ分かっていない。これがどれほど、危険な物なのかを。

 

 

「それにしても何処のどいつだ、時代樹にこんな物を打ち込んだのは………」

 

 

「どうにかしてこれを破壊できないものか………」

 

 

《ほぉ……こんな所に在ったのか》

 

 

「誰だ!?」

 

 此処に居る研究員の悪魔達以外の声が響く。それと同時に自分達の周囲に大量の蛾が現れる。

 

 

《勝手に我が一族の物を持ち出しおって………まぁいい、貴様等悪魔には礼をいっておくべきか。奴に気付かれる事無く継承の儀が行える》

 

 現れたのは翠色の髪の男だった。男はただ、時代樹を見ており周りの悪魔達の事など全く見ていない。悪魔達は男を捕え様と動こうする。

 

 

「ぐっ……身体が」

 

 

「動かない……意識が遠のいて」

 

 周囲の悪魔達は蛾から放たれた鱗粉を吸い込むと倒れて行った。

 

 

「フハハハハ!やっと……やっとだ!この時が来た!忌まわしきあの一族に復讐する事ができる!!!

 

 闘牙王は死んだが、その息子とその一族が人間の中で生きている。今度は我が一族が全てを奪ってやる!特にあの龍牙王!絶望させてやる!!!」

 

 男の声に共鳴する様に時代樹が禍々しい光を放っている。

 

 

「私が解放された数百年前はこの封印を解く事はできなかったが、成長した私の力なら……はぁぁぁぁぁぁ」

 

 男は腰の剣を引き抜き、剣先を時代樹に突き刺さった牙へと向ける。そして剣の刀身に凄まじい力が収束していく。

 

 

「はぁ!!!」

 

 男が剣を振るうと、紫色の光の衝撃波が牙に向かい放たれた。衝撃波を受けた牙は破壊され、時代樹が変貌を始めた。

 

 樹はやがて、研究所を飲み込むほど巨大化し始めた。そして樹の天辺には紫色の球体の様な物が出現する。

 

 

「これで……これでこの瑪瑙丸が一族の力を継承する事ができる!!!!」

 

 瑪瑙丸と名乗った男は球体の上に降りたち、剣を球体に突き立てると引き裂いていく。するとその球体から凄まじい妖気が放たれ、瑪瑙丸に吸収されていく。やがて瑪瑙丸そのものも球体へと飲み込まれていった。

 

 

《フハハハハハハ!!!これが父の……一族の力か!!!

 

 集うがいい!我に従う者共よ!我に生きとし生ける者達の魂を献上せよ!!》

 

 瑪瑙丸がそう高らかに叫ぶと、時代樹が更に巨大化し、大量の蛾が四方八方に放たれた。

 

 

《まずはこの冥界に住む悪魔共から蹂躙してくれる!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在 駒王学園 旧校舎 会談室~

 

 冥界で起きた出来事を言霊により魔王達に話させた。それを聞いた龍牙王は激昂する。

 

 

「馬鹿がぁぁぁ!飛妖蛾(ひょうが)を封印した時代樹を運び出しただと?!」

 

 

「龍牙王様、飛妖蛾(ひょうが)とは一体なんのです?」

 

 桔梗が龍牙王にそう尋ねた。

 

 

「かつて元が日本に攻め込んできた時に起きた戦争……その戦争で出た死人魂を求めてこの国に来た大妖怪だ。そして我の親父に封印された。恐らく飛妖蛾の肉体は滅びている故に此度動いたのは息子の……名前は忘れた。息子だろう。

 

 鉄砕牙と天生牙が騒いでいたのはこれか。封印が解けたとなると、貴様等の領土は滅茶苦茶になっているだろうな」

 

 龍牙王は魔王達に向かいそう言った。

 

 

「奴は力を次代の子へと継承する事でより強大になっていく。恐らく我が知っているより強くなっているだろう………それに奴が喰らうのは魂だ」

 

 

「たっ魂?」

 

 

「そうだ、生きているのであれば人間だろうと妖怪だろうと、悪魔だろうと喰らい尽くす………今頃は周囲の存在は魂を抜かれて奴の元に集められてるだろうさ」

 

 

「そっそんな……」

 

 

「気を強く持っていれば魂を取られる事はないだろう。上級悪魔ならば抵抗できるだろうが………奴が力を継承すれば保つまい」

 

 龍牙王はそう言うと、席から立ち上がる。

 

 

「どっ何処へ」

 

 

「悪魔が滅びるのは我の知った事ではない………。

 

 今、思い出したがその契約書に付いた匂いは飛妖蛾の息子の物だ。小賢しい、我が悪魔に目を向けていれば封印の方へ気が周らんと考えたか………どうやら悪魔(お前達)は奴に利用された様だな」

 

 

「なっ……ではこれは」

 

 

「利用されていた……と」

 

 あまりの事に困惑している悪魔達。しかし魔王達は直ぐに冷静さを取り戻していた。

 

 

「飛妖蛾は強い、親父が封印するのがやっとだったんだ。恐らく悪魔総出……お前達四大魔王の命と引き換えにならどうにか勝てるかもな。早く戻らねば全滅するぞ」

 

 龍牙王はそれだけ言うと、部屋から出て行こうとする。

 

 

「龍牙王さま」

 

 アーシアが龍牙王に声を掛ける。

 

 

「貴方様のお力でどうにか出来ないのでしょうか?」

 

 

「悪魔を救えと?我からお前を奪った悪魔をか?悪魔が滅びれば、それだけ日本の能力者や妖怪達への被害が減る」

 

 

「ですが、龍牙王さま……貴方様は【調()()()】です。

 

 調停者は世界の均衡を保つのが役目だと、かつて私に教えて下さいました………その均衡を破り、多くの種族を脅かす者を裁くのは貴方様のお役目。

 

 それに貴方様は自らのお役目に私情は一切挟まなかったと眷族様達からお聞きしています………悪魔だからと動かぬと言うのは【裁龍神】としての貴方様の御名に傷をつける事になります」

 

 土地神としても土地の危険になる存在は排除し、危機とならぬ存在は悪魔で在っても監視して見過ごしてきた……何故なら氏子や土地を私情により危険に晒す訳にはいかないからだ。

 

 此度、悪魔が滅びる事になるから見逃したとなると【調停者】の役目に私情を挟んだ事になる。それでは【裁龍神】の名に傷がつくとアーシアは考えた。

 

 

「知らぬ」

 

 

「龍牙王さま……お話から察しますに、飛妖蛾と言う妖怪は龍牙王さまの御父君に怨みを持っている可能性があります。ならば、いずれはこの地に」

 

 

「害があるか………確かに(しかし悪魔がやられてから倒せばいい)」

 

 

「どうか、この地の為にもお願い致します」

 

 アーシアがそう頭を下げる。夜叉と桔梗もこの地の為にと龍牙王に動く様に頼んだ。

 

 

「ご主人様」

 

 今まで黙っていた白音と黒歌も何かを訴えるかの様な視線を向けている。

 

 

「良いのか?悪魔はお前達の……」

 

 

「確かに復讐相手だけど………無慈悲に奪われる辛さは私達がよく知ってる」

 

 

「それに今何もしないと……あの時、ご主人様に助けられた私達を見捨てる様な気がして嫌」

 

 かつて黒歌や白音は、住む場所も家族も無慈悲に悪魔に奪われた。だが龍牙王と出会った事で救われた……だからこそ、この場で悪魔を見捨てるという事は、かつての自分達を見捨てると同義だと考えたらしい。

 

 

「……神無、神楽」

 

 

「私達は………龍王さまに従う」

 

 

「私はこの街の風が好きだ……それを乱す奴は気に喰わないねぇ」

 

 どうやら戦う気満々の様だ。

 

 ―カタッカタッカタッカタッ―

 

 加えて腰の鉄砕牙と天生牙が彼に何かを訴えかける様に震えている。

 

 

「親父め、面倒な役目を残しやがって…………それに愛しき巫女(アーシア)や夜叉達にそう懇願されれば動かぬ訳にはいかんか」

 

 龍牙王がそう呟くと、鉄砕牙と天生牙を手で抑える。そして魔王達の方向を向いた。

 

 

「此度の話し合いは中止だ………飛妖蛾の討伐が最優先だ。急ぎ冥界へ向かう……アーシア、お前達は神社にかえ「帰りません!一緒に行きます!」駄目だ。危険だ」

 

 

「俺達だって子供の頃からは多少強くなってるんだ」

 

 

「露払いぐらいはできます」

 

 一緒に行くと言いだしたアーシアに続き、夜叉と桔梗も行くと言いだした。

 

 

「龍牙王さま……ダメしょうか?」

 

 

「ぐぅ………その様な目で頼まれると断われぬ。はぁ」

 

 上目使いでそう言うアーシア。流石は龍牙王の巫女を称すだけ在って、龍牙王の事を知り尽くしている様だ。

 

 

「危険だと思ったら逃げるのだぞ……またお前を失うと思うと我は恐い」

 

 

「はい……でも龍牙王様が護って下さいますよね?」

 

 

「当たり前だ!……夜叉も桔梗も出来るだけ我の傍を離れるなよ」

 

 

「「おう!(はい)」」

 

 龍牙王はそう言うと、腰の天生牙を引き抜いた。

 

 

「おっ御待ち下さい、我等より早く冥界へ行く手段があるのであれば私達も御連れ下さい!」

 

 

「仲間が危機に晒されているのに何も出来ないのは嫌なのです」

 

 

「貴様等の同胞は自分達で助けるのだな……道は開く故について来るなら勝手にしろ」

 

 自分達が冥界に戻るには色々と手順がいり、それには時間が掛かる。だが裁龍神の龍牙王ならば自分達より早く行けると考えたのだろう。龍牙王は魔王達に対してそう言い放つ。

 

 

「おっと……お前達には足が居るか」

 

 龍牙王がそう言い、指笛を吹くと彼の隣に空間の穴が開き1匹の小動物と人間の成人より大きな動物が現れた。

 

 小さい方は2本の尾がある黄色い猫の様な生き物だ。大きい方は馬の様なそれでいて龍の様な2つ頭の妖怪だ、口には轡をされている。

 

 

「雲母、阿吽、此奴等頼むぞ」

 

 龍牙王がそう言うと、雲母と呼ばれた猫が炎に包まれ、人を乗せれる位の大きさに巨大化する。阿吽は龍牙王の言葉に頷いてる。

 

 黒歌と白音は雲母に乗り、アーシアと夜叉・桔梗は阿吽に乗った。神楽は自分の羽を大きくさせると、神無と共にそれに乗り込んだ。

 

 

「一誠、お前は家に戻れ……また時間g「あっあの!俺も一緒に行ってもいいですか!」お前までか」

 

 

「おっ俺も龍王さまのお役に立ちたいですし……この街に危険が及ぶなら黙っていられません!」

 

 

「はぁ………まぁ、戦場の空気を知るにはいい機会だろう。夜叉達と離れるなよ」

 

 

「はい!」

 

 

「それと……」

 

 龍牙王は天生牙を床に突き刺すと自分の髪を一掴みしてそれを自分の爪で切った。そして息を吹きかけると、6つの組紐に変わり、それを神無と神楽以外のメンバーに渡す。

 

 

「お守りだ………天生牙、頼むぞ」

 

 彼は再び、天生牙を握ると刀身が黒く染まる。

 

 

「【冥道残月破】」

 

 龍牙王が天生牙を振るうと、彼の前に冥道が開く。

 

 

「行くぞ……我の後に続け」

 

 彼はそう言うと、冥道へと飛び込んだ。彼の後に続き、他の全員が飛び込む。

 

 この先に待つのは龍牙王の父・闘牙王でさえも封印する事がやっとで在った大妖怪だ。悪魔達の命運はどうなるのか……彼の龍神にしか分からない。




・中央研究領

 四大魔王の許可を得て創設された研究機関。所長はアジュカ・ベルゼブブ。

 アジュカにより選ばれた想像性豊かな悪魔達により、色々な物が発明されている。悪魔の駒もアジュカによる物だが、開発そのものはこの研究所で行われた。







・飛妖蛾(ひょうが)

 劇場版で出てきた大妖怪。闘牙王により時代樹に封印されたので、肉体は滅んでいるがその力は息子の瑪瑙丸に継承されようとしている。


・瑪瑙丸(めのうまる)

 父・飛妖蛾と共に封印されていた妖怪。既に復活しており、登場時には闘牙王の牙の封印を破壊するくらいまでに成長していた。

 かつて自分の封印が解けたことを悟らせない様に龍牙王を語り、悪魔の契約書にサインし、龍牙王の意識を悪魔へと向けさせた。

 勿論、闘牙王やその一族………特に龍牙王には凄まじい怨みを持っている。


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第33巻 復活、大妖怪・飛妖蛾!

 ~冥界 中央研究領 上空~

 

 ー瑪瑙丸により解かれた時代樹の封印。

 

 朽ちた飛妖蛾の肉体、しかし残った膨大な妖力は継承の儀式により息子・瑪瑙丸に引き継がれようとしていた。

 

 研究施設を丸々飲み込んだ時代樹と瑪瑙丸。彼等は周囲から魂を奪い、更に強大な存在になろうとしていたのであった。

 

 これを倒すべく、龍牙王さまやその御一同が冥道を通り冥界へ向かうのであった。

 

 がみょん、がみょんー

 

 

【冥道残月破!】

 

 継承の儀式を行っている瑪瑙丸の上空に開いた冥道。そこから現れた龍牙王とその一同、そして魔王達やリアス・グレモリーやソーナ・シトリーといった悪魔達。

 

 

「チッ、もう儀式が始まってたか」

 

 龍牙王は下にある変貌した時代樹を見た。

 

 

「兄貴、あれが飛妖蛾って奴なのか?」

 

 

「いや、我の知る飛妖蛾はもっと違った形だった」

 

 

「龍牙王さま、時代樹の目指して集まってくるあれはもしかして」

 

 アーシアは時代樹に向かい集まってくる光球を指差す。前世の巫女としての知識がある為に、あれが何なのかが分かっていた。

 

 

「周辺に存在する生命の魂だ………まぁ周囲に存在するのは悪魔だ、故に悪魔以外に在り得ぬだろうがな。それで冥加、アレはまだ完全体ではないな?」

 

 龍牙王が自身の肩に乗っている蚤妖怪・冥加にそう訪ねた。

 

 

「はい、そうですじゃ。まだ完全に終わっておりません……………あの龍牙王様、そろそろこれを外して頂けませんか?」

 

 冥加は臆病な性格で何時も直ぐに逃げ出すが現在、龍牙王の髪で縛られており逃げる事が出来なかったのである。何故、冥加が此処に居るのか、かつての飛妖蛾と闘牙王の戦いを目撃したであろう者だから龍牙王に連れて来られたらしい。

 

 

「離すのはいいが………此処は表層とは言え冥界の一部だ。我から離れると魂がどうなっても知らんぞ」

 

 

「嘘ですじゃ!この冥加、龍牙王様と共に飛妖蛾に立ち向かいますぞ!」

 

 どうやら死にたくない様だ。

 

 

「それで……親父は奴とどう戦ったんだ?」

 

 

「ぇ……そっそれは……そのぉ……」

 

 

「………逃げたのか」

 

 

「でっですが!親方様にしても、龍牙王様にしても、無茶ばかりし過ぎなのですじゃ!」

 

 

「はぁ……全く……夜叉、冥加を預っておけ」

 

 髪ごと冥加引っ張ると、冥加を夜叉に預けた。

 

 

「お前達は下がっておけ………どうなるか、分からんからな」

 

 龍牙王はそう言うと、手に持っていた天生牙を鞘に納め、代わりに鉄砕牙を引き抜いた。そして継承の儀式を行っている、瑪瑙丸の元へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、時代樹と融合し、継承の儀を行っている瑪瑙丸。彼は紫色の巨大な繭に包まれた状態になっている。

 

 龍牙王は繭の高さまで降りてくると、鉄砕牙を向けた。

 

 

「チッ……一足遅かったか」

 

 そう言うと、龍牙王は直ぐにその場から離れ、繭から距離を取る。次の瞬間、繭にヒビが入り出した。

 

 

「さて……これからどうしたものか」

 

 

《おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!》

 

 繭の中から現れたのは巨大化した瑪瑙丸が現れた。

 

 

「………」

 

 

《フハハハハハハ!!!まさか、目覚めて直ぐに貴様に出会おうとは……どうやら、運は私に味方しているらしい!》

 

 

「………」

 

 

《流石の貴様も、この我に力に恐怖したか!》

 

 

「ん~……えっとどちら様?何処かで御会いしました?」

 

 

《……なに?私の事を知らぬと?》

 

 

「あっ思い出した………飛妖蛾の息子の………め……め……め」

 

 

《そうそう》

 

 龍牙王は「め……め……め」と呟き続けている。

 

 

「ぁ~喉まで出かけてるんだけどな………め…………名前なんだっけ?」

 

 

《瑪瑙丸だぁ!……いや継承の儀式を終えた今、名は飛妖蛾になるが私の事を忘れただと!?あれだけの屈辱を与えておいて!!!》

 

 

「我、何かしたか?」

 

 

《我が剣を避け、その直後私を踏み台にしたではないか!!!》

 

 

「ぁ~……そういやそんなことしたな。でも戦時だったし仕方ないだろ」

 

 

《戦の最中である故にそれに関しては何とも思っていない》

 

 

「じゃあ何を?」

 

 

《あの後、幾度も貴様の元に向かっても私を無視し続けたではないか!!!》

 

 

「………居たっけ?」

 

 

《(ブチッ)死ねぇぇぇぇぇぇぇい!!》

 

 瑪瑙丸………もとい新たなる飛妖蛾は額の水晶から紫色の妖気の奔流が放たれた。妖気の奔流は真っ直ぐ龍牙王へと向かう。

 

 

「ふっ………おぉぉぉぉ!」

 

 龍牙王は妖気の奔流を鉄砕牙で受け止めると、別の方向へと弾き飛ばした。

 

 

「ふぅぅぅぅぅ………いい。クククククク………ハハハハハハハハハ!!!」

 

 龍牙王は突然、笑い始め、その表情は歓喜に満ちていた。

 

 

「成程、神族クラスの力は久しぶりだ………戦いはこうでないとな」

 

 そう呟きながら、鉄砕牙を鞘へと納める。これからの戦いだと言うのに、彼は何故剣を納めたのだろう?

 

 

「うぅぅ………グオオォォォォォォォォォ!!!」

 

 龍牙王の白目が血の様に紅く染まると、全身から凄まじい妖気が溢れ出した。そして、その身を巨大な白銀の狗の姿へと変化させた。

 

 

【他人など牙は不要!戦いは己が牙と爪をもって行ってこそだ!オォォォォォ!!】

 

 

《来い!忌まわしき狗の一族よ!我等が一族の命運をかけて、いざ!》

 

 

【《勝負!》】

 

 狗へと変化した龍牙王(闘牙王の息子)飛妖蛾の力を継ぎし者(飛妖蛾の息子)、古より居る大妖怪達の戦いが今、始まった。




・瑪瑙丸(めのうまる)


 飛妖蛾一族の唯一の生き残り。

 父親である飛妖蛾と共に封印されていたが、瑪瑙丸だけ数百年前に封印を解かれた。しかし父親の肉体は滅び、その力を受け継ぐ為には闘牙王の封印の牙に邪魔をされていた。

 当時それを破壊できる力を持つのは龍牙王の叢雲牙か殺生丸の鉄砕牙のみだけだった。だが両者とも協力などする筈がないのが分かっていたので、大陸へ戻り修行を行っていた。

 そして20年前に駒王の地にやって来た、使者だった悪魔を操り契約書にサインをさせた。総ては父・飛妖蛾の封印へ目を向けさせない為の作であった。それから20年は潜伏し、此度継承の儀式を執り行い、飛妖蛾の力を継いだ。龍牙王曰く、瑪瑙丸が数百年大陸で修業していたからか、その力は神族クラスへと上がっているらしい。

  


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第34巻 守護者達の力

 ~冥界 中央研究領 上空~

 

 

【グオオォォォォォォォォ!!!】

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

 巨大な狗と巨人の戦い………それを上空から見ていた夜叉達、彼等は思った。

 

 

「「「「「怪獣大戦だ」」」」」

 

 何処かの特撮で見た様な戦いが目下で行われている。そしてこの戦いは自分達が入る事などできない、既に次元が違う戦いだ。魔王達でさえもその戦いを見て唖然としていた。

 

 彼等が動く度に大地が揺れ、互いに咆哮する度に大地が裂ける。両者が衝突する度に凄まじい妖気と邪気が周囲の物を吹き飛ばす。

 

 此処に来る前に、龍牙王へ暴言を吐いたリアスとソーナはこの光景を見て、顔を真っ青にさせ震えだした。自分達はなんて相手に喧嘩を吹っかけたのかと。

 

 

「なっなぁ、アレが龍王さまの本当の姿なのか?」

 

 

「えぇ……何時も人間のお姿も、あの狗の姿も、そして龍の姿もあの方にとっては本当のお姿です」

 

 一誠の言葉にそう答える桔梗。

 

 

「人となりては人間に寄り添い、狛犬となりては人間を護る、龍神となりては邪神を討つ……龍牙王様の伝説の1つです。

 

 それよりも、そろそろ避難した方が宜しいかと」

 

 アーシアがそう言うと、全員が首を傾げる。此処はかなり離れているので、大丈夫なのではないのかと。

 

 

「それはどういういm……

 

 

【我が毒を喰らうがいい!!!】

 

 

『我が一族の力くらえぃ!!!』

 

 龍牙王の咢から毒を含んだ妖気の息吹が、飛妖蛾の額の水晶から妖気の奔流が放たれた。2つの巨大な力が衝突すると、凄まじい閃光が起きた。夜叉達はその閃光により、視界が遮られる。

 

 

 ―ワオォォォォォォン!!!―

 

 

 ―うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!―

 

 皆の視界が遮られる中、龍牙王と飛妖蛾の咆哮が聞こえていた。そして段々と視界が回復してくると目の前で起きている出来事に目を疑った。

 

 

 

「なぁ!?」

 

 龍牙王と飛妖蛾を中心に巨大なクレーターが出来ていた。勿論のそこに在った研究施設は影も形もなく消し飛んでいた。当の本人達はその様な事、全く気にせず怪獣大戦争を続けていた。

 

 

「けっ研究施設が……」

 

 

「消し……飛んじゃった」

 

 

「研究成果が……」

 

 

「こっこれは……夢だ…………夢だ」

 

 流石の四大魔王達も驚愕している。アジュカは今までの研究が灰となった事で呆然となり、ファルビウムに至っては目の前で起きた事を信じられず現実逃避している。

 

 

「おぉ……すっ凄い事になってる」

 

 

「はぁ~危なかったぜ……」

 

 

「アーシア………結界張ってなかったら危なかった」

 

 夜叉、神楽、神無がそう言い、皆がアーシアの方を見た。アーシアは祈る様に手を組んでおり、良く見れば自分達の周囲に光の膜が張られていた。

 

 

「助かりました、アーシア様」

 

 

「いえ………ですがそろそろ、本当に避難なさった方が宜しいかと……龍牙王様の眷族である神楽さんや神無、加護を受けている私達は未だしも、悪魔の方々は消し飛んでしまいますよ」

 

 アーシアは悪魔達にそう言った。彼女が悪魔達を見る眼には彼等に対する憎しみなど、一切なかった。

 

 

「それに……あの飛妖蛾と言う妖怪の翼……あれから無数の異なる妖気を感じます。恐らく……」

 

 アーシアがそう言うと、飛妖蛾の翼から無数の何かが飛び出した。巨大な龍牙王や飛妖蛾から見れば米粒の様に小さい……しかしアーシアや桔梗、感覚が人よりも鋭い夜叉達にはそれ等が何なのか直ぐに理解できた。

 

 それ等は妖怪だった、それもそれなりに力を持つ妖怪達だ。

 

 

「護りは私に任せて下さい」

 

 アーシアが巫女服の袖から勾玉と巫女鈴を取り出した。前世で使っていた者で、これらもまた龍牙王の身体の一部から造り出された神具の1つだ。

 

 

「よし………全部俺がぶった斬ってやる!」

 

 夜叉がそう言い彼の両手の嵌められている腕輪が光り出し、彼が守護役を龍牙王から拝命した時に共に受け継いだ護龍牙(ごりゅうが)闘滅牙(とうめつが)が出現する。

 

 

「夜叉、あまり無茶をするな……お前は熱くなり過ぎると周りが見えなくなるからな」

 

 桔梗は夜叉にそう注意を促すと、自身もまた腕輪を破砕弓へと変化させた。

 

 

「援護は任せるぞ桔梗!おりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 夜叉は阿吽から飛び降りると、護龍牙と闘滅牙を使い向かってくる妖怪達を斬り伏していく。

 

 

「でぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 

 妖怪を斬り、妖怪を踏み場にして次の敵へと向かって行く。そんな夜叉へ近付こうとする妖怪の群れ。

 

 

「夜叉はやらせぬ」

 

 何も番えず破砕弓の弦を引くと、桔梗の霊力が光の矢になる。桔梗の破魔の力が込められた光の矢が放たれる、そして矢は分裂し、夜叉に襲い掛かる妖怪達を貫いた。回避された矢もあったが、矢は意志のある様に妖怪を追従し、最後には敵を貫いた。

 

 

「助かったぜ桔梗……おわっと!?」

 

 夜叉が桔梗に向かいそう言うが、隙を突かれて攻撃される。しかし持ち前の反射神経で直ぐに回避するが、体勢を崩し落ちそうになる。

 

 

「全く……世話が焼けるねぇ」

 

 神楽が扇子を振るうと、風が起こり夜叉を包むと桔梗の乗った阿吽の元へと運んだ。

 

 

「夜叉……油断大敵」

 

 神無はそう言いながら、自身の鏡から放つ光で妖怪達を退けていく。

 

 

「すっすまん」

 

 

「夜叉さん、大丈夫ですか?」

 

 

「あっ……あぁ」

 

 

「おっ御怪我を……ジッとしていて下さい」

 

 夜叉は頬にかすり傷をあり、それを見たアーシアはその傷に手を翳す。すると彼女の手に翠色の光を放つ指輪が出現した。これはアーシアに宿った癒しの神器(セイグリッド・ギア)聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)だ。放たれた光により、夜叉の傷は直ぐに完治した。

 

 

「これで大丈夫です」

 

 

「わりぃ助かった」

 

 

「夜叉、あまり心配をかけてくれるな」

 

 

「あっ……あぁ」

 

 

「ふっ……まぁお前らしいと言えばお前らしいがな……阿吽、頼むぞ」

 

 桔梗はそう言うと、阿吽の轡を外す。拘束から解放された阿吽は咆哮すると、その咢から雷を放ち妖怪達を撃退していく。

 

 

「私達も行くわよ!雲母、お願いにゃ!」

 

 

「姉様、羽目を外し過ぎないで下さい」

 

 

「分かっているにゃ……お姉ちゃんもそこまで馬鹿じゃないわ」

 

 

「そう言って、以前は大変な事になったのを忘れたとは言わせません」

 

 

「ぐっ!白音、最近お姉ちゃんにキツくない?」

 

 

「気の所為です……来ましたよ」

 

 白音はグローブを嵌め、黒歌も気を取り直すと自分の妖力と仙術で練り上げた青い炎を自分達の周囲に展開した。

 

 

「じゃあ、お姉ちゃんが援護するからねぇ~」

 

 

「分かりました……よっ……行ってきます」

 

 白音はそう言うと、雲母から飛び降りた。重力により白音は落下していく。

 

 

「てぃ………やぁ」

 

 白音は落下し、近くに居た妖怪を殴り飛ばす。次に迫って来た妖怪の攻撃を避け、蹴り飛ばすとその勢いで次の標的へと向かい飛ぶ。

 

 

 《このクソガキ!!!》

 

 

「私の妹に近付かないでよ!!!」

 

 黒歌が周囲に待機させている炎を白音に近付くこうとしている妖怪に向かい放つ。放たれた炎は途中で槍の様な形状へと変化し、妖怪に突き刺さる。そして内側からその妖怪を焼き尽くした。

 

 雲母はタイミングを見計らって降下し、白音を回収する。

 

 

「白音、怪我はない~?どれどれ、お姉ちゃんが確認してあ・げ・るぅ~」

 

 

「フン!」

 

 

「ぐほっ?!」

 

 雲母に跨る白音を後ろから抱き付こうとする黒歌。しかし白音は黒歌の鳩尾を肘で突く。そうして、姉妹は次の標的へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

「すっすげぇ…………」

 

 皆の戦いを見ていた一誠はそう声を上げる。現在、彼は神楽の羽の上に乗っている。

 

 

「まぁ……アイツ等は小さい頃から戦っているし……おっと【風刃の舞】」

 

 神楽は近付いてきた敵に気付くと、真空の刃を放ち妖怪達を切り刻む。

 

 

「夜叉……桔梗………守護者として戦ってきた」

 

 

「俺は………」

 

 

「無理すんじゃないよ。アンタは生まれながらにドラゴンを宿しているとしても、アイツ等とは歩んできた道が違うんだ」

 

 

「無理は厳禁………此処は戦場………素人だと死ぬ」

 

 それもその筈だ、此処は本当の戦場………それも人外達の本当の殺し合いの場だ。神殺し(ロンギヌス)に部類される赤龍帝の篭手(ブースデッド・ギア)を宿しているとしても、つい最近まで一般人だった。正直、この殺気に満ちた場に居るのも辛いだろう。その証拠に彼は少し震えている。

 

 

「夜叉達も……初めからあぁじゃなかった」

 

 

「確かにねぇ………」

 

 

 ―グオォォォォォォ!!!―

 

 

 ―うおぉぉぉぉぉぉ!!!―

 

 

「……本気でそろそろ逃げた方が良さそうだね」

 

 

「うん………皆を連れて逃げる」

 

 神楽と神無は真下で起きている怪獣大戦争を見て、逃げる事を決意するのであった。



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第35巻 飛妖蛾一族との決着

【ガアァァァァァァァァ!!!】

 

 狗となった龍牙王は飛妖蛾の身体に飛び付くと、彼の腕に牙を身体に突き立てる。

 

 

 《ぐっ!……このぉぉぉぉ!》

 

 飛妖蛾は自分に噛み付いている龍牙王を無理矢理引き剥がす。その所為で腕の肉が引き千切られるが、それを気にすることなく、飛妖蛾は龍牙王を地面に叩き付ける。更に龍牙王の腹に蹴りを入れる。

 

 

【グッ!?】

 

 龍牙王はその場から飛び上がり、距離を取った。

 

 

【グルルルルルル】

 

 

 《むぅぅぅ》

 

 互いに一歩も動く事なく、睨み合っている。その身から妖気が溢れ、両者の妖気がぶつかり衝撃波が放たれる。

 

 

 《………貴様等の一族は何故人間などを護る?》

 

 

【なに?】

 

 

 《貴様の親父にしろ、貴様にしろ、何故人間を護る為に命を掛ける?風の噂では貴様の親父は人間の女を護る為に死んだそうではないか》

 

 

【親父……】

 

 かつて自分が憧れた父親・闘牙王の背中を思い出した。竜骨精との戦いの直後の満身創痍の状態で、十六夜と産まれたばかりの犬夜叉を助けに向かった。愛する者を護る為に命を賭して戦い死んだ父親………例え自分が同じ様な立場になったとしても後悔はないだろう。

 

 

 《何故、あの様な下等な生き物を護る?》

 

 

【確かに……愚かで、少しの傷が原因で死ぬ様な儚い生き物だ。だが………人間はそれだけじゃない、優しさや慈しみ……自分以外の他を思いやる心がある。それは美しく強い】

 

 

 《下らん……その様な物が何になると言うのだ》

 

 

【分からんか………分からぬならそれでもいい。それが貴様の限界だ!】

 

 龍牙王が光に包まれると、彼はそのまま天へと翔け昇り、その姿を再び変化させていく。

 

 薄暗かった空が七色の光に染まり、巨大な白銀が空一面を覆っている。普通の人間や妖怪に比べれば狗状態の龍牙王も、飛妖蛾も巨大だった………しかし龍となった龍牙王はそれを越えていた。巨大過ぎて、全貌を把握しきれない。

 

 

 《なっ……なんだ!その姿は!?その力は!?》

 

 飛妖蛾は強い……強いからこそ分かる。眼前の巨龍は、その姿通り巨大な力を持ち、自分とは次元の違う存在だと。

 

 龍牙王が咢を大きく開くと、そこに膨大な力が収束していく。

 

 

【グオォォォォォォォォ………ガアァァァァァ!!!】

 

 太古より竜が放つ滅びの息吹……龍牙王のそれは唯の息吹ではない。

 

 龍牙王自身の力に、これまで人々が自分に向けた信仰心が力へと変換され、上乗せされている。

 

 七色の息吹が龍牙王の咢より放たれる。

 

 

『ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

 七色の息吹が飛妖蛾を包み込む。飛妖蛾は何とか抵抗しようと自身の妖気を全開にしているが、龍牙王の力はそれを遥かに超えている為に、直ぐにそれを打ち破られ、飛妖蛾の身を破壊していく。

 

 

【これが貴様が馬鹿にする人間の想いだぁぁぁ!!!】

 

 

『こっ……これが………人間の想い』

 

 龍牙王の力に乗せられた、人々の想い・願い………それが飛妖蛾の身を滅ぼし、彼の中に流れ込んでいく。

 

 この数千年、龍牙王へ捧げられた人々の純粋な信仰心、現代になっても変わらぬ想い。感謝と畏敬の念……そして自分を、妻を、子供を、恋人を、友人を、隣人を護って欲しいと言う願いから来ている。自分達は弱く儚い存在と理解しているからこそ、人々は神に祈る。

 

 

『くだらない………この様な物の為に戦うとは………だが……暖かい……この温もり……何処かで』

 

 飛妖蛾……瑪瑙丸はこの暖かな温もりに覚えがあった。

 

 

『ぁあ……そうか………これは私が未だ幼児の時に受けた……母上と同じ………ぬ…くも……り』

 

 遠い記憶だが、確かに覚えがあった。それは母親から受けた愛と温もり………親が子を想い愛する気持ちに人間も妖怪も、動物も違いはない………龍牙王の力に上乗せされた人々の想い・が瑪瑙丸にかつての母の温もりを思い出させた。最後には安らかな顔で、消滅した。

 

 

【グオオォォォォォォォォォ!!!】

 

 龍牙王は勝利の雄叫びを上げ、人の姿へと戻る。

 

 飛妖蛾の周囲に居た妖怪達は龍牙王の息吹により消し飛ばされた。その代わりに飛妖蛾が喰らった魂達が周囲を飛んでいる。

 

 

「すぅ……ふぅ………親父、飛妖蛾一族との因縁終わらせたぞ。全く、面倒な事ばかり残しやがって……はぁ~疲れた……帰ろう」

 

 

『龍牙王さま~』

 

 龍牙王が空を見上げるとアーシアや夜叉達が此方に向かってくるのが見えた。

 

 闘牙王一族と飛妖蛾一族との決着は数百年の時を経て終わりを告げた。



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第36巻 終結

 ~冥界 中央研究施設跡地~

 

 研究施設は龍牙王と飛妖蛾の戦いで影も形も無く消えていた。

 

 

「お疲れ様です、龍牙王様」

 

 

「あぁ……アーシア、疲れた。さっさと帰るぞ……帰ったら風呂だ、それで飯食おう」

 

 

「はっはい……分かりました」

 

 

「良し、帰ろう」

 

 

「でっですがこの魂達を放置しておいては」

 

 

「此処は表層とは言え冥界だ。いずれ冥界の奥底に連れて行かれるだろうな………悪魔がどうなろうと我の知った事ではない」

 

 

「でっでは………今、倒れている者達は」

 

 やって来たのは魔王達と眷族、リアス達だった。

 

 

「遠からず死ぬだろう………肉体と魂、両方なければ生命として成り立たん。魂が冥界の奥へ誘われ、肉体に戻らねば、活動も停止するだろうな。

 

 さぁ帰るぞ……我は兎も角、冥界に生者であるお前等がいるのは本来規則違反だからな」

 

 

「兄貴の場合、規則を守った事がすくないと思うんだが……」

 

 

「夜叉、酷い。これでも我は調停者なんだぞ、世界を護るのが役目だ。規則は守ってる…………まぁ、時には破る事もあるけど………叢雲牙、冥道を開け」

 

 

【あぁ……いいだろう】

 

 龍牙王に背負われた叢雲牙の宝玉が光り、目の前に冥道が開いた。

 

 

「あっ………あの」

 

 アーシアは何かを言いたそうだ。龍牙王は彼女が何を言いたいのか理解していた、理解できたからこそ機嫌が悪い。

 

 

「嫌だぞ、幾らお前の頼みでも断る。

 

 飛妖蛾を倒したのは、奴が魂を多く喰らう存在で、奴がもし地上に出れば多くの人間や妖怪に被害が出るからだ。まぁどちらにしろ、奴とは一族の誇りをかけて決着を付けないといけなかったから、奴と戦った事に関しては文句はない。

 

 だが悪魔共の命を救えと言うのは別だ………調停者としての役目を終えた今、何故コイツ等を助けないとならんのだ」

 

 龍牙王は飛妖蛾を倒した。それは闘牙王の子として、調停者として、土地神として動いただけだ。結果的に悪魔を救う事になったが、彼にそんな気など全くない。

 

 

「ですが、龍牙王さま……例え魔と言えど命は命です。命は奪うのは一瞬で事足りましょう……ですが産み育てる事は時間が掛かります。それは人も妖も同じ事です……そして命の重さは変わりません」

 

 

「だからかつてお前を奪った悪魔を救えというのか!?」

 

 龍牙王は怒りのあまりに半分顔が変化し、凄まじい力が溢れる。その影響か、叢雲牙の開いた冥道が消えてしまった。

 

 

「龍牙王様………逆にお考えください」

 

 

「なに?」

 

 

「此処で龍牙王様が怒りを押し殺し、悪魔を救う事で多くの人間や妖怪を救う事になるのです」

 

 アーシアは突然そう言い始めた、一体どう言う事なのだろう。

 

 

「悪魔は先の大戦でその数を多く減らし、悪魔の駒(イーヴァル・ピース)により人間や他種族を転生させていると聞きます」

 

 

「そうだ………その所為で多くの者達が苦しんでいる。黒歌や白音もその被害者だ」

 

 そう言い、魔王達を睨む龍牙王。それを受け、苦渋の表情を浮かべる。

 

 

「此度犠牲となった悪魔達は見た所、千は居ましょう。これだけの悪魔が死んだとなれば、これまで以上に地上の者達を襲う事になるでしょう」

 

 

「………はぁぁぁぁ」

 

 それを聞くと、大きく息を吐き、毒気を吐き出した。そして腰の天生牙へと視線を向ける。

 

 

「………我は機嫌が悪い、お前の手料理を喰い、膝枕で眠らなければ直らんぞ」

 

 

「はい!がんばります!」

 

 龍牙王がそう言うと、アーシアは笑顔で返す。

 

 

「天生牙……正直乗り気ではないが、これも地上で生きている者達の為だ。力を貸せ」

 

 そう言うと、それに応える様に天生牙が震えている。天生牙を引き抜く、その刀身は光に包まれていた。そして天生牙が脈動を打つ。

 

 龍牙王がその場から飛び上がると、魂達の中へと向かう。魂達の中へ来ると、周囲を見渡し遠く離れた魂まで全て捕捉した。すると天生牙の脈動がこれまで以上に強くなる。

 

 ―癒しの天生牙―

 

 死者をただ1度のみ蘇生させる力と龍牙王の力をもって一度に数多の命を生き返らせた。眩い光が周囲を照らした。

 

 光が収まると、龍牙王の周囲の魂達は消えていた。彼はアーシアや夜叉達の元へ降りてきた。

 

 

「帰るぞ……【冥道残月破】」

 

 天生牙の刀身が黒く染まり、振るうと冥道が開かれる。

 

 

「此度の話し合いは中止だ………いずれ連絡をやる、それまでに我が地で問題を起こせば………次は貴様等滅ぼしに来る。覚えておけ」

 

 龍牙王はそれだけ言うと、アーシアを抱え冥道へと飛び込んだ。夜叉は桔梗達もそれを追い冥道へと入る。

 

 こうして此度の事件は終結した。

 

 悪魔達は此度の事件で改めて龍牙王の危険を知った故に滅多に動く事はないだろう。



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第37巻 龍王と巫女

 ~龍王神社~

 

 飛妖蛾……瑪瑙丸を倒し数日が経った。飛妖蛾が復活した事で、5月にも関わらず雪が降ったりなどしたが、現在は元通りとなっている。

 

 

「ふぅ………食った、食った」

 

 食後そう言いながら、アーシアに膝枕されている龍王神社の主神・龍王さまこと龍牙王。

 

 

「さて………我は食後の眠りを」

 

 食事が終わった事で、昼寝をしようとしていた龍神様。

 

 

「ふぁ~」

 

 本日は晴天………暑過ぎず、寒くもなく、ポカポカとした1日だ。昼寝をするには持って来いの日である、まぁ神で妖怪の龍牙王に気温などは関係ないのだが……。

 

 

「あの龍牙王様……」

 

 

「どうかしたかアーシア?」

 

 自分が膝枕している主神に声を掛けるアーシア。彼女は顔を真っ赤にしている。

 

 

「膝枕と言うのは普通、頭は上向きなのではないでしょうか?」

 

 普通の膝枕とはよく恋人や夫婦がしている膝に頭を乗せ、顔は上か横を向いている。だがアーシアがしている膝枕は少し違っていた。

 

 龍牙王はアーシアの膝に顔を埋めているのだ。つまり顔は下向きなのである。

 

 

「すぅ………ぁ~良い匂い、落ち着く~」

 

 

「あぅ……恥ずかしいのですが」

 

 

「此処に居るのは我等だけなんだ、問題なかろう。ふぅ」

 

 現在、この神殿にいるのは龍牙王とアーシアのみ。神殿の最奥の為、例え参拝客が来ようと外から見える事はないのだが、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。

 

 膝枕をして貰っている龍神様の3本の尾が忙しなく動いている。その様はまるで犬の様である。まぁ、実際に狗妖怪なので違いはないが。

 

 

「さて……何用だ、お前達」

 

 龍牙王がそう言うと、陽牙達が現れた。

 

 

「我等が主よ、1つお尋ねしたいことがあります」

 

 

「何だ……我は先の戦いでの疲れが残っている」

 

 

「申し訳ありません」

 

 

「ですが、どうしてもお聞きしたい事が」

 

 

「分かった……それでなんだ?」

 

 

「先の戦いの後での事です」

 

 龍牙王はそれを聞くと体を起こす。

 

 

「何故……何故に悪魔を救ったのですか!?」

 

 普段冷静な眷族達が激昂した。

 

 

「みっ皆さん、それは」

 

 アーシアが冥界での事を言おうとするが、龍牙王に止められた。

 

 

「そのことか………」

 

 

「主は悪魔を恨んでいたのではないのですか?!」

 

 

「アイリ様が……アーシア様が帰ってきたからとまさか許されると言われるのですか?!」

 

 それを陽牙達は、まだアーシアがアイリの時よりこの地にいる古き眷族達。悪魔のしてきた事を目の当たりにし、立ち向かって来た者達だ。

 

 龍牙王がどれ程、この地を想い、アイリを愛していたかを知っている。故にどれ程、悪魔を憎んでいたかも……だと言うのに彼は悪魔を天生牙で救った。

 

 

「許す………我が悪魔を?そんな訳がなかろうが!!!」

 

 龍牙王が激昂すると同時に神気と妖気の暴風が吹き荒れた。

 

 

「我はあの時の事は昨日の様に覚えている。巫女が深紅に染まった姿も!巫女が崩れ往く感触もだ!」

 

 

「では何故!?」

 

 龍牙王は息を整えると、近くに置いていた水を飲む。

 

 

「さて………悪魔を助けた理由だったか、我とて本意ではなかったのは言うまでもない。お前達も良く分かっていると思うが………それは心に留めておいてくれ」

 

 龍牙王がそう言うと、陽牙達は頷いた。

 

 

「まずは、アーシアの言った『多くの悪魔が死ねば、それだけ悪魔の駒(イーヴァル・ピース)で転生悪魔を増やす可能性がある』という言葉だ。

 

 アーシアの言葉には一理ある、我が護るこの地の者達に手を出すのは考えにくいが………それ以外の土地に被害が出る。そうなれば、犠牲者が増えるのは言うまでもないだろう。

 

 人間だけでも能力者、神器使いがいる。加えて黒歌や白音達の様な妖怪達もいる。特に特異な力を持つ存在は狙われ易い………最近では此方の世界で活動している蓬莱郷の半妖達も狙われている様だ」

 

 

「なっ!?」

 

 

「なんと!」

 

 

「ならば何故!?」

 

 龍牙王の創った妖怪や人間達が共存する楽園……そこ出身の半妖たちも狙われたと言う。だと言うのに何故彼は悪魔を打倒しようとしないのだろう?

 

 

「此処までなら我は悪魔を助けるなどしなかった………だが気になる情報が出て来てな」

 

 

「気になる情報……ですか」

 

 アーシアが龍牙王の言葉に首を傾げる。

 

 

「【禍の団(カオス・ブリゲード)】と言う組織だ……そこに様々な存在が居ると聞く、英雄の魂を継ぐ者、魔王を名乗る者………そしてその頂点に立つのが……あのオーフィスだと言う」

 

 

「「「「なぁ?!」」」」

 

 最後の名前を聞いた瞬間、陽牙達の表情が一変する。

 

 

「アイツが権力などに興味がない筈なんだが…………最近は顔を見せぬと思ったらそんな所に居たとはな。奴が関わっているとなると、我も慎重に動かねばならん。

 

 それに情報では禍の団(カオス・ブリゲード)側の魔王は、現魔王達を快く思っていない連中だと聞く」

 

 

「では此度、悪魔を助けたのは」

 

 

「現魔王達を餌にする為に貸を作ったと思えば安いものだ………まぁ腹は立つが。それでこれから先、動きやすくなるのなら構わん」

 

 それを聞くと、陽牙達は納得した様な表情をする。

 

 

「しかし、その彼の龍神がトップに立っているとは言えそこまで危険な存在なのですか?」

 

 

禍の団(カオス・ブリゲード)だけなら問題ないんだが………これを機に動き出そうとしている輩も多いみたいでな」

 

 

「動き出そうとしている者ですか?」

 

 

「詳しくは未だ調査中なんだがな…………禍の団(カオス・ブリケード)は世界規模で何かをしようとしている。これはもうこの土地だけの問題ではない」

 

 

「世界そのものの問題……」

 

 

「それに赤龍帝(一誠)が居るとなると、その内白龍皇(アルビオン)も引かれるだろう。

 

 まぁ……どんな奴に転生したかは知らんし、我が土地で暴れる事は許さんがな。

 

 取り敢えず、お前等は土地の護りを固めよ。我は、天照や神々、他の守護妖達に連絡をする。万が一に備えて八守にもな」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

「八守?」

 

 八守と言う単語を聞いた瞬間、陽牙達は目を見開いた。アーシアは分からない様で、首を傾げている。

 

 

「お前は知らないのも当然だ。約千年前に創設した、日本の各拠点を護る妖怪達の事だ。実力は神や魔王に匹敵する」

 

 

「そんな凄い方々がいらっしゃるのですね」

 

 

「しかし八守までも動かすとは……」

 

 

「あくまで万が一の為だ………何か異常があればお前達にすぐ知らせるとしよう。それで他に聞きたい事は?」

 

 

「「「「いぇ………申し訳ございません」」」」

 

 龍牙王がそう言うと、陽牙達は頭を下げる。

 

 

「何故謝る?」

 

 

「我等は……主が悪魔を助けたと聞いた時、疑ってしまいました」

 

 

「別に構わん………客観的に見れば、アーシアに惚けて助けたと思われても仕方ないからのぅ」

 

 

「「「「っ!」」」」

 

 

「我はアイリの生まれ変わりであるアーシアの言葉と言えど、この土地の不利益になる様な事はせんよ」

 

 龍牙王はアーシアを愛おしく思っているものの、万が一にも土地や氏子達の不利益になる様な事であれば、彼女の言葉であろうと聞きはしない。

 

 

「それにしても悲しいな………女で腑抜けたと思われるのは」

 

 

「「「「ぐっ!?」」」」

 

 

「女に惚けて仕事を粗末にする程、阿呆ではないつもりだ」

 

 そう言う龍牙王なのだが、陽牙達は何やら微妙な表情になる。

 

 

「いや……それは……」

 

 

「女性関係に関しましては」

 

 

「その……言い難い事ではありますが」

 

 

「全くと言って信用なりません」

 

 陽牙達はそう言った。どうやら女関係に関しては完全に信用していないらしい。

 

 

「えっ?」

 

 龍牙王はそれを聞いて、間の抜けた声を出す。

 

 

「太陽神、月の神から始まり」

 

 ―ドスッ―

 

 

「月の姫、外宇宙の神姫、夢幻に、無限に」

 

 ―ドスッ―

 

 

「他にも色々とございます」

 

 ―ドスッ―

 

 

「特に好いた女性が危険な目に合うのが分かると、後先考えず突っ込むのが御身ですし」

 

 ―ドスッ、ドスッ、ドスッ―

 

 龍牙王に言葉の刃が突き刺さる。

 

 

「龍牙王様……」

 

 

「いや、その違うのだ。我はその」

 

 

「いぇ、分かってますから。龍牙王様が多くの女性を囲っているのは昔から……です……し……あっ、ごはんのお買いものしてきますね」

 

 アーシアは涙目になると、そう言い残しこの場を後にした。

 

 

「………」

 

 

「「えっと……」」

 

 陽牙と光牙は落ち込む主を見て何も言えなかった。

 

 

「此度に関しましては自業自得かと」

 

 

「陰牙の言う通りかと」

 

 

「ぅう…………」

 

 落ち込む龍牙王なのだが……自業自得の為、何も言えない龍神。

 

 

「それはそうと………我が主よ、アーシア様についてなのですが」

 

 

「ん?」

 

 

「前世からそうでございましたが、あの優しさは危ういかと」

 

 陽牙がそう指摘する。

 

 

「あぁ………かと言ってあの優しさは、アレの魂の形と言ってもいい物だ。止めよと言っても止めぬだろうし、あの優しさがなければアレらしくない。

 

 度が過ぎれば我から言うし、我としては昔と変わってなくて嬉しい限りだ」

 

 龍牙王はそう言うと、神無と神楽を呼ぶ。

 

 

「呼んだ?」

 

 

「あぁ、我は今暫く社に留まる。お前達は先に家に戻っていろ……黒歌と白音にもそう伝えておいてくれ」

 

 

「うん……分かった」

 

 

「私はともかく、神無は居なくて大丈夫なのかい?」

 

 

「今の所、結界に反応はない。それに悪魔共が学園で手を出さないとも限らないからな、お前達にはアイツ等の見ていて貰いたい」

 

 龍牙王の言葉に2人は頷くと、神社を出て行った。

 

 

「さて………我はアーシアを追い掛けるとするか。お前達は自分の仕事に戻れ」

 

 彼はそう言うと、大きな狗へと変化して神社の階段を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~駒王街 商店街~

 

 商店街で今日の夕食の買い物をしていたアーシア(巫女服)。

 

 

「はぁ………分かっていた事ですが」

 

 

『それに関してはすまん………優柔不断なのは分かっているが、我は誰か1人に決める事はできん』

 

 

「ひゃ?!どっ」

 

 自分の横にいる狗の姿の龍牙王(大型犬サイズ)。アーシアはそれを見て、言葉を発しそうになる。

 

 

『たわけ、(この姿)だから念話で話しているんだ』

 

 

『そっそうでした………どうして此方に?』

 

 アーシアは直ぐに念話に切り替える。

 

 

『いや………謝りたくてな』

 

 

『いぇ……その事は昔からですし』

 

 

「『すまん……』クゥン」

 

 落ち込む様に頭を下げる龍牙王(狗)。

 

 

『それよりも、晩御飯は何がいいですか?』

 

 アーシアは直ぐに話を切り替えて、晩御飯の話をし始めた。

 

 

『お前は相変わらずだな………フフフ、そうだな。カレー』

 

 

『カレーですか……狗なのに、大丈夫なんですか?』

 

 

『半分は龍だ、問題ない』

 

 

『では、今日はカレーにしましょうか』

 

 

『ウム………』

 

 念話でそう話していると、商店街の者達が声を掛けてきた。

 

 

「おっ、新しい巫女さんじゃねぇか。今日は肉が安いよ……ん?」

 

 肉屋の店主が声を掛けてきた。そして横にいる龍牙王(狗)を見た。

 

 

「ワン」

 

 

「おっ、神社のワン公じゃねぇか。元気か?」

 

 肉屋の店主は店から出てくると、狗の龍牙王を撫でる。

 

 

「ワン」

 

 

「店主さんは、りゅ……このワンちゃんの事を知ってるんですか?」

 

 

「おうさ、このワン公は龍王さまの遣いって言われててな。このワン公を撫でると病気が治ったり、子供の頭がよくなったりって言われてるんだ。案外、本当に神様の遣いだったりして」

 

 

「あっ……ハハハ」

 

 

「ワン」←本人です。

 

 

「おっそうだ、待ってろよ」

 

 と店へ入って行き、大きな骨を持ってきた。

 

 

「ほらっ、肉を切った時に出た骨だ」

 

 

「ワン(サンキュー)!」

 

 店主から貰った骨を齧る龍牙王(狗)。本当に神様なんだろうか?

 

 そんなこんなで、買い物をしていく1人と1匹。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社~

 

 

「すげぇ、荷物」

 

 

「今日も一杯ですね」

 

 学園より帰って来た夜叉と桔梗が見たのは、凄い量の荷物を持った狗姿の龍牙王。

 

 

「買い物に行ったら皆さんが下さったんです」

 

 どうやら、アーシアと龍牙王(狗)は商店街の者達から色々と貰って帰ってきたらしい。

 

 

「当分の間、お買い物行かなくてよさそうですね」

 

 

「あぁ」



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第2章 不死鳥乱入す
第38巻 人とそうでない者


 ~駒王学園 旧校舎 オカ研部室~

 

「はぁ………」

 

 

「大丈夫ですか、リアス?」

 

 

「えぇ……それにしても頭が痛いわね。私の領地があの裁龍神の地で、この地での活動を見逃されていたなんて」

 

 

「しかもこの土地の神は悪魔嫌いと来ましたものね」

 

 

「加えてあの力………ッ」

 

 リアスは龍牙王と瑪瑙丸が戦っていた時の事を思い出し、身を震わせる。

 

 ―彼の龍神は時に人となりて、共に在る。

 

 時に狗となりて、人を護る為にその牙と爪を持って魔を討ち滅ぼす。

 

 時に本来の姿へと戻り、天を翔け、その神通力にて邪神を討ち、地上に光を齎すー

 

 飛妖蛾との戦いを見たリアス達は何も出来なかった。手を出さなかった訳じゃない……次元が違い過ぎて全く手を出せなかった。震える事しかできなかった。

 

 彼女達は悪魔とは言え本物の戦争などした事はない。敵を滅ぼすと言っても格下のはぐれ悪魔を討滅する程度の事だ。だが先の戦いは妖怪と妖怪の本気の殺し合いだ。自分達よりも高次元の存在の殺気と妖力のぶつかり合いだ、恐怖するのも無理はない。

 

 

「それにあの子達………」

 

 リアスの脳裏に浮かぶ、龍牙王に従う人間と妖怪達。彼等はリアスが知る人間や妖怪達と違い強かった。だからこそ、彼等を自分達の眷族にしたいと考えた。

 

 

「リアス、あまり変な事は考えない方がいいですわ。悪魔全体の問題になりますわよ」

 

 

「えぇ………でも彼の龍神の身内が眷族になってくれればと思ってしまうわ」

 

 

「多分、無理ね。彼ら自身も悪魔を良く思ってなかったみたいですし」

 

 

「はぁ……上手くいかないものね」

 

 若い彼女達は知らない、龍やドラゴンと言う幻想種の頂点に立つ存在の逆鱗に触れるとどうなるのかと言う事を。

 

 

 

 ~翌日 龍王神社~

 

「……眠い」

 

 本日は晴天、ポカポカした陽気の中、食事を終えたこの神社の主・龍牙王。彼は現在、眠気に襲われていた。

 

 現在、龍王神社には彼しかいない。夜叉と桔梗、颯太、楓、黒歌と白音、神無は学園。悪魔と色々とあったが、夜叉と桔梗の本業は学業なのでそちらを優先させた。黒歌達は護衛である。

 

 アーシア、陽菜、奏は買い物。奏の夫である玲雄は仕事。眷族達は見回り。必然的に留守番は神である彼だけになった。

 

 

「暇だ……仕事は一通り終わった。する事がない、こんな時に限って叢雲牙と鞘は出掛けてるし、マジでする事がない。寝るか」

 

 龍牙王はそう言うと、社の奥から出て鳥居の近くまで来るとその姿を狗へと変える。そして近くにある大きな石に乗ると身体を丸めて寝転んだ。

 

 

(こう言う暖かい日は外で寝るのに限る)

 

 そんな事を考えながら睡魔に身を任せて眠りについた。

 

 

 

 ―たったったっ―

 階段を上がってくる足音があった。

 

「ん?この足音は……陽牙達と……誰だ?」

 

 

「はぁはぁ……」

 

 

「着いたぞ……って大丈夫か?」

 

 

「まぁ、人間の身にはこの階段は少しキツイか」

 

 石段を昇って来たのは陽牙と陰牙、それと1組の男女だった。龍牙王は鼻を鳴らし、匂いを嗅ぐ。

 

 

(女の方は人間、しかしこの土地の者ではない。男の方は……)

 

 

「此方に居られましたか」

 

 陽牙と陰牙は龍牙王の姿を見ると、その前に跪いた。

 

 

「犬?」

 

 陽牙達が連れて来た男性の方が息を整えながら、龍牙王を見てそう呟いた。

 

 

「訳ありか」

 

 

「犬が喋った?!」

 

 

「喋るし化けるぞ」

 

 龍牙王はそう言うと、石の上から飛び降りて青年の姿に戻った。人間の前だと言うのに、何故この姿を取ったのだろう?

 

 

「よく来たな、人の子……そして鬼か」

 

 そう言うと、男の頭に2本の角が生える。

 

 

「何者だ……」

 

 

「何者だって……我を訪ねて来たのではないのか?」

 

 龍牙王がそう言うと、男は彼の正体に気付いた様だ。直ぐにその場で頭を下げた。

 

 

「フム……一先ず、中に入るといい」

 

 

 

 

 龍牙王は陽牙と陰牙、そして彼等が連れて来た男女を伴って神社の中に入る。

 

 

「では自己紹介をしよう、我は龍牙王……この地では龍王と呼ばれている土地の神だ」

 

 

「龍牙王?!あっあの伝説の龍神様!?」

 

 龍牙王の名を聞き、驚いている男女。

 

 

「それで、汝等の名は?」

 

 

「おっ俺……いや僕は大木 剛です。こっちは妻……になる予定の巴菜です」

 

 男の方がそう言うと、女の方が頭を下げる。

 

 

「フム……お前、喋れないのか?」

 

 龍牙王がそう言うと、驚いた表情になる凛。そして彼女は頷いた。

 

 

「えっと此奴は……」

 

 

「良い目をしている。成程……幼い頃から()()()視て来たが故に心が病んでしまったと言う所か」

 

 

「どっどうしてそれを」

 

 

「我の様に長く人を見ていると、そう言う事が分かる様になる………では話して貰おう」

 

 

 

 

 ―大木 剛(おおき つよし)、300歳……普通の日本人の名前だが、これはあくまで仮の名だ。人間ではなく【鬼】だ。彼の様に人間の中に混じっている人外は多い、神でさえも混じっている事もあるくらいだ、鬼が居ようと不思議ではない。

 

 女の方は三波 巴菜(みなみ はな)、21歳………何処にでもいる人間なのだが、彼女は俗に言う()()()()()だ。彼女はかなり視る力が強い、巫女や神官などをしていても可笑しくレベルだ。

 

 子供の頃にはそう言う物が視える事が多いが、次第に視えなくなるのが普通だ。だが彼女の様に視る力が強いと大人になってからも視る事になる。そして自分にだけ他の者と違う物が視えると言う事は、異質として扱われるという事だ。理解者が居ればいいが、居ないと辛いものだ……どうやら彼女は理解者がいなかった様だ。

 

 詳しい事は省くがこの2人、偶然出会い、恋に落ちたらしい。彼女は彼の正体を知っても共にいると言ったらしい。とはいえ、鬼と人間だ。色々と問題だろう。

 

 偶々この2人がいた街の神社の主神が月読だったらしく、我の所に来る様に勧めたらしい―

 

 

「成程……全く、連絡くらい入れろと言うのに」

 

 

「えっと……その」

 

 

「此方の話だ、気にするな………フム、ではお前達に道を示そう。お前達の道は3つある」

 

 剛と巴菜は龍牙王にそう言われて、唾を飲んだ。

 

 

「1つ、力を封じこの街で暮らす。でも鬼と言う種族は基本的に感情を高ぶらせると、力が爆発し暴走する……その際に封印など掛けていたら通常よりも周りに被害が出るから駄目か。

 

 2つ、剛の寿命を削って人間もどきになる。ただ、そうすると……寿命が1~3年くらいになってしまう」

 

 

「そっそれでも………此奴と一緒に居れるなら」

 

 剛は自分の命が短くなっても彼女の傍に居れるならそれでもいいと言っている。

 

 

「フム……それも良いが残された者が哀しむ事になるぞ?」

 

 龍牙王の脳裏にアイリの最後の姿が、闘牙王の死を悲しむ十六夜の姿が、そして……………の姿が蘇える。自分もまた残される側の者だ、だからこそ残されると言う事がどれ程、残酷で、絶望なのかを知っている。

 

 

「……フム、では最後、3つ目の選択肢だ。此方の世界を捨てて、我が世界……人とそれ以外の存在、妖怪も、鬼も、神も、共存する世界・蓬莱郷に往くかだ」

 

 

「蓬莱郷………伝説に聞く、龍神の世界」

 

 

「そうだ……あそこは誰しもが共存する世界だ。まぁ喧嘩はないと言えば嘘になるがな。ただあちらの世界に行くなら、此方の世界の総てを捨てなければならない。一度、行けば戻る事は滅多にできないからな。

 

 次の満月は……5日後か。それまでに答えを出すといい、3つ目の選択肢を選ぶなら、幾つが条件があるから覚える様に……一先ずはゆっくりと休むといい。陽牙達に寝床に案内させよう」

 

 龍牙王がそう言うと、剛と巴菜は頭を下げ、感謝の意を示す。

 

 

 

「あっあの」

 

 

「ん?」

 

 

「俺達は間違っているのでしょうか?……鬼と人間が愛し合うなんて、可笑しいのでしょうか?俺は此奴と一緒にいる為に、親や兄弟に別れを告げました。すると言われました『お前はおかしい、お前は鬼だ、そして相手は人間だ。狂いでもしたのか』と」

 

 人とそうではない者の愛……普通では考えられない事だ。

 

 

「おかしいか?……では聞くぞ、お前はその娘を愛するのが自分で変だと思うか?」

 

 

「いいえ、俺は例え誰が何と言おうと、此奴が好きです!

 

 儚げな表情も!笑うと可愛いのも!猫達と遊んでいる時の楽しそうにしている事も!陰口を言われても負けない様に立ちあがろうとする所も!失敗してオロオロしてしまう所も!強い所も、弱い所も全部ひっくるめて此奴が大好きです!」

 

 胸を張って言う剛。余程、彼女の事が大切なのだろう。

 

 

「そっそうか………」

 

 

「その他にも」

 

 

「それ位にしてやれ、隣で沸騰しているから」

 

 剛はそう言われ、横を見てると巴菜が顔を真っ赤にしており、頭から煙を出していた。後ろを見てみると、陽牙と陰牙が「若いなぁ~」などと微笑ましい表情をしている。

 

 

「良かったな、娘。その男はお主が余程大事の様だぞ、ククク」

 

 剛は自分で言っていて、今頃恥ずかしくなってきたのか彼も顔を真っ赤にした。

 

 

「誰かを好きになるのに、愛するのに理由等はないさ……少なくとも我はそう思う。言わせたい輩に言わせておけばいい」

 

 

「はい……ありがとうございます」

 

 

「あぁ、それと1つ言っておく………女と言うのは子供が出来ると強くなるからな。お前も尻に敷かれない様に気を付けろ」

 

 

「巴菜が………俺をですか……すいません、イメージできないですけど」

 

 

「我の友にそう言う奴が居てな。若い頃のそいつは誰彼構わずに喧嘩を売って勝利していたんだけど………結婚して人間の嫁を娶って、子供が生まれてからと言うもの…………家の中で底辺まで落ちたからな。そいつ曰く【邪神の俺も、嫁さんだけには勝てなかった】だそうだ」

 

 遠い目をしながらそう言う龍牙王。一体、彼は何を見たのだろうか?

 

 

「フフフ……今日は、ゆっくりと休むといい。陽牙、陰牙、あそこに連れて行ってやれ」

 

 

「「はっ」」

 

 2人は陽牙達に連れられて、神社を出た。彼等が向かうのは、この街に住む妖怪夫婦の元だ。その妖怪夫婦はアパートの大家で彼等の様な者達に手を貸しているからだ。

 

 1人になった龍牙王は、腰に差していた爆砕牙を手に取り撫でる。

 

 

「お前は絶望し、嘆きながらも………………まさかお前からあんな言葉を聞く事になるとはなぁ」

 

 龍牙王は杯に入った酒を煽りながらそう呟いた。

 

 

「弟よ………お前は今、幸せか?」

 

 その問いに答える者はいない、爆砕牙の本来の持ち主は此処にはいないのだから。



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第39巻 久しぶりの登校

今回は少し短めです


 ~龍王神社 神殿~

 

「と言う訳だ。お前達も忙しいかも知れんが、1つ頼むぞ」

 

 龍牙王は神無に対してそう言った。神無は黙ったまま、鏡を龍牙王に向けている。

 

『大丈夫だ、此方は何時でも受け入れ可能だ。貴方に比べれば此方はそれほど忙しくはない』

 

 神無ではない声が神殿内に響く。良く見れば、神無の持っている鏡に1人の男が映し出されていた。

 

「ならば良かった。我も一度、そちらに行くからな」

 

 

『あぁ、子供達も喜ぶ』

 

 

「そう言えば……娘も大きくなったんじゃないか?そろそろ、男でも連れてくる年頃だろう?」

 

 

『あっあの子ははそんな事はしない!』

 

 

「ククク………そうか。まぁいずれは通る道だ、覚悟しておけ。結構キツイぞ」

 

 

『貴方には子は居なかった筈だが?』

 

 

「我からすると姪っ子になる……赤ん坊の頃から見てるから我が子も同然でな。あの子が男を連れてきた時は凄く大変だったな………(まぁ我以上に犬夜叉がだが)」

 

 

『そっそうか………ではまた満月の時に』

 

 鏡の中の男がそう言うと消え、普通の鏡に戻った。

 

「ご苦労だったな神無」

 

 龍牙王の言葉に頷いて返事を返す。

 

「門………開く?」

 

 

「あぁ。そう言えば………一応、連絡しておくか」

 

 龍牙王はそう言うと、袖の下からスマートフォンを取り出すと何処かに電話を掛ける。

 

「よぉ、久しぶりだなドM………耳元で騒ぐな。お前等に見本として貸した服に鞭が入っていて、桔梗に変な目で見られたんだぞ………こっちだって忙しいのにわざわざ電話かけてやってんだぞ。5日後に蓬莱郷に行く、その時にお前の娘にも誘いをかけるつもりだ…………それよりもアイツの事を伝えてないのか………なに、言われた言葉がショックで言えなかった?駄目父が………泣くな、気持ち悪い。伝えたからな、来るも来ないもお前次第だ」

 

 彼はそう言い終えると、通話を切った。

 

「あの子?」

 

 

「一応な。悪魔になったとは言え、あの子は向こうで産まれた子だ。それに……」

 

 

「分かった………誘っておく」

 

 

「頼む…………いや、久しく我も登校するとしよう」

 

 

「?」

 

 

「一先ずは状況も落ち着いたしな………あそこの状況も確認しておかないとな」

 

 

「………ならっ今日はお酒ダメ」

 

 

「えっ?」

 

 

「高校生はお酒ダメ」

 

 

「未だ一口も飲んでない………ちょw神無?!待って、それ年代物で高いんだってば!花にやっちゃだめぇ!」

 

 

「御神酒だから御利益ある………元気になる」

 

 

「Noooooooo!!」

 

 氏子から奉納された高級な年代物の酒………龍牙王の神気に当てられ神酒となった。それが今、花の肥料となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 ~翌日 龍王神社前~

 

 昨日の酒の件で落ち込んでいる龍牙王(人間Ver)。

 

「なぁ、神無。兄貴、どうしたんだ?」

 

 

「気にしない………偶には休みも必要」

 

 

「最近は飲み過ぎだから良い薬だろう」

 

 

「「「?」」」

 

 神無と桔梗の言葉に疑問を持つ、夜叉、白音、黒歌。

 

「ほらっ行くぞ、兄貴」

 

 

「………あぁ」

 

 こうして龍牙王は天龍 龍牙として久しぶりに登校する事になった。



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第40巻 不死鳥と邂逅す

 ~駒王学園 放課後~

 

「「「「「待てぇー!!!この変態共!!!」」」」」

 

 

「「「待てと言われて待つ奴がいるかぁー!!!」」」

 

 何時もの様に覗きをして女子生徒に追い掛けられている一誠、元浜、松田。一誠に至っては神様直々に心身ともに鍛えられている筈なのに、この変態行為は直らない様だ………これに関して龍牙王(神様)は「一誠のアレは産まれ持っての物………直そうと思って直せる物じゃない。まぁ………直すなら恋人作るか、最終手段として()()()()()かだな」との事だ。

 

「フン!」

 

 

「「「ぐへぇ!?」」」

 

 

「またやってやがるのか、このバカ共」

 

 

「「「げっ!夜叉!」」」

 

 そして毎度、それを止める夜叉。

 

「この風景は変わらないなぁ…………そう思わないか?」

 

 龍牙王の人間態・天龍 龍牙は校舎の入り口の近くに在る、金次郎像の台座に持たれながらそう言った。

 

「そうですね………あの熱意を勉学に向ければ成績も上がるでしょうに」

 

 今、喋ったのは何を隠そう金次郎さんである。

 

「それが出来れば毎度補習なってないだろうな…………そう考えるとこれから先、アイツ等の将来が心配だな………逮捕されるかと言う点で」

 

 

「捕まらなければいいのですが………私もこの沢山の子供達を見て来ましたが、あの子達程、心………欲望に素直な子供達を見た事はありません」

 

 

「我は過去に幾度が見た事はあるが………嫁さんが出来ると大人しくなったぞ。一誠達みたいなタイプは本当に惚れ込んだ女に尽くすタイプだし………まぁその変わり尻に敷かれるけど」

 

 

「貴方と同じタイプという事ですか」

 

 

「おい」

 

 

「尽くすと言うのは間違いではないでしょう?………何時ぞやは月の姫の為に戦争始めたじゃないですか」

 

 

「あったな、そんな事も」

 

 

(確実に尻に敷かれるでしょうけど)

 

 

「それで最近、悪魔に動きは?」

 

 

「特にないと思われます」

 

 

「そうか………監視の目は光らせておいてくれ」

 

 

「分かりました、龍王様」

 

 この金次郎像、彼の有名な金次郎さん本人とか霊とかではない。金次郎像に宿った精霊………正確には像を作る為に切り出した石に着いた精霊だ。この学園の監視役である。勿論、悪魔に存在はバレていない……そう言う様になっている。

 

「さて…………我は行くとする」

 

 龍牙王はそう言うと、金次郎像から離れて、夜叉達の元へ向かった。

 

 

 

 

「「「すいませんでしたぁー!」」」

 

 夜叉の前で正座している三変態。

 

「テメェ等………桔梗の着替え覗きやがったな」

 

 

「いや、それがその………」

 

 

「覗く前にバレたので」

 

 

「全然見てません」

 

 

「覗こうとはしたんだな…………」

 

 夜叉から冷たい視線を向けられ、寒気を覚えた。

 

「まぁいい………此処は被害者の方に任せよう」

 

 

「「「?」」」

 

 

「「「「この覗き魔共!!!」」」」

 

 一誠達は何時の間にか部活の女子生徒達に囲まれていた。剣道部から始まり、空手部、テニス部等々、これまでに覗かれた女子生徒総出の様だ。

 

「偶には痛い目に合うにもいいだろう」

 

 

「「「えっ?!ちょっと!!夜叉さん!助けて!!!」」」

 

 

「無理」

 

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!」」」

 

 総ては自業自得である。

 

 

 

 

 ~30分後~

 

 お仕置きより解放された三変態。松田と元浜は先に帰宅していた。

 

「いっ痛い」

 

 

「自業自得だろうが………」

 

 

「全くだ」

 

 夜叉と龍牙にそう言われて俯く一誠。

 

「そういや、龍牙は何で休んでたんだ?」

 

 

(そう言えば言ってなかったか………龍牙王()天龍 龍牙()が同一人物なのを)

 

 龍牙王はそう言えば一誠に伝えてなかった事を思い出した。顔の紋様や耳、尾、服が違っているが、名前で気付いても良さそうなのだが………一誠は未だ気付いていない。

 

「未だ気付かんのか………鈍いな、お前は」

 

 

「?」

 

 

「俺に王を付けると?」

 

 

「龍牙に王……龍牙……王……龍牙王……えっ?」

 

 そう聞くと、土地の神である龍王の事を思い出した。そして、目の前の龍牙と並べてみた。

 

「あっ………あっーーー!」

 

 どうやら完全に気付いた様だ。

 

「はぁ」

 

 

「って事は…………俺ってこれまで凄く不敬な事をして」

 

 

「まぁ、それに関してはお前の性分だし仕方ないと思ってるぞ。でもいい加減にしとかないと捕まるぞ?」

 

 

「うっ!」

 

 

「と言うか、今でも捕まってないのが不思議なくらいだ。まぁ……それは置いといて、悪魔共から接触は在ったか?」

 

 

「いっいぇ……今のところはないです」

 

 

「ならばいい………ん?」

 

 

「兄貴………これは」

 

 

「悪魔だな」

 

 

「えっ……それってグレモリー先輩達ですか?」

 

 

「違うな……恐らく、別の個体だな。行くとするか」

 

 

「龍王様!」

 

 胴着姿の桔梗も此方に走って来た。

 

「おっと桔梗も丁度来たし………行ってみるか。一誠、お前も来るか?」

 

 

「えっ、いいんですか?」

 

 帰る様に言われるかと思っていたので、唖然とする一誠。

 

「此処は我が地、お前は我が氏子………故に我はお前を護る。しかし赤龍帝である以上、決して逃れなれぬ運命もある。譲れぬ物の為に、護る者の為に戦う事もある…………男であるなら余計にだ」

 

 彼の身体を包む様に風が巻き起こり、その姿を変化させていく。

 

「ならばそう言う局面で逃げなくていい様にお前を育てよう………お前がそう望むのであれば」

 

 天龍 龍牙の姿から龍牙王の姿へと戻った彼は、一誠にそう告げた。

 

「俺は……」

 

 

「直ぐに決める必要はない。此方側に来るにしても、来ないにしても悩めばよい。悩んで、悩んで、悩み抜いて答えを出すがいい。だが今の自分の現状は細かく知っておいて損はないからな」

 

 

「はっ……はい!」

 

 龍牙王は夜叉、桔梗、一誠を連れて旧校舎へと向かった。

 

 

 

 ~旧校舎 オカ研部室~

 

 この部屋にはリアスとその眷族達、彼等の眼の前にはソファーに腰掛けている金髪の男とその後ろには複数の女性達が立っていた。

 

「こうしてお前と会うのも久しぶりだな、リアス」

 

 リアスの前のソファーに座っている金髪の男はそう言った。

 

「ライザー………どうして此処に来たの?」

 

 

「なんだ、未来の妻に会いに来ちゃ駄目なのか?」

 

 

「貴方に構っている場合じゃないのよ………今は大変な状況なのよ」

 

 

「はぁ、どう言う事だ?」

 

 

「残念だけど言う訳にはいかないわ。魔王様達から箝口令が敷かれてるのよ」

 

 

「へぇ……面白そうじゃないか」

 

 この男はライザー・フェニックス。元72柱のフェニックス家の三男だ。

 

 悪魔の駒(イーヴァル・ピース)を用いて行うレーティング・ゲームでは、10戦中8勝2敗の成績を残している。2敗も御得意先でわざと負けている為に、実質無敗の実力者だ。そして、リアス・グレモリーの婚約者だ。

 

「悪いけど直ぐに帰ってくれるかしら………此処は……この地は貴方が思っているけど安全じゃないのよ。だから帰りなさい」

 

 

「意味が分からん。分かるように言え!」

 

 どうやらライザーも簡単には引き下がらない様だ。しかし、この土地での問題は既に一悪魔だけの問題ではない。この地の神を怒らせた暁には、悪魔と言う種族はそこで終わってしまう。

 

 今はこの情報を他に漏らして混乱を招く訳にはいかない、それに龍牙王より漏らす事を禁じられている、それを破れば大変な事になるのは目に見えていた。

 

 龍牙王は特例として話し合いが終わるまでは限られた悪魔達だけが学園内での滞在は許している。万が一にでも、ライザーが此処にいるのがバレれば、此方に敵意は無くとも土地に侵入したとして、処断されても文句は言えない。それどころか、印象がより悪くなる。故に急いでライザーを帰したかった。

 

「お願いだから早く帰っ」

 

 リアスが帰れと言おうとした時に、彼等の前に魔法陣が現れ、そこからメイドが現れた。

 

「グレイフィア、丁度良かったわ。ライザーを連れて帰って」

 

 

「やはり此方に来られましたか、ライザー・フェニックス様。フェニックス卿から此方に向かったと聞いて急いで来たのです。ライザー様、今すぐにお戻りを」

 

 

「せめて、どう言う事かくらいは説明してくれてもいいんじゃないか?」

 

 

「残念ながらそれはできません、お戻りにならないなら力ずくという事になr《ガチャガチャ……開かないな》………」

 

 

「まっ拙い」

 

 リアスの顔が真っ青になる。

 

 《兄貴、開かないぞ》

 

 

 《多重結界だな………まぁ我の前では無意味だがな。【開け】》

 

 ―ガシャ……ギィー―

 

「「なっ!?」」

 

 閉まっている筈の扉が開いた。

 

「勝手に人様の土地に無断で入って来やがったな、悪魔共………御用改めだ、抵抗するなら斬り捨て御免なんで、宜しく」

 

 龍牙王と夜叉達が完全装備でやって来た。

 

 それを見た、リアスとグレイフィアの顔が真っ青になったのは言うまでもなかった。




・金次郎像

 駒王学園の校庭を見守る様に建てられた金次郎さんの像。駒王の地に在った石から削り出された像で、像には駒王の地の精霊が宿っている。
 
 何故彼が学園に置かれたのかと言うと、駒王学園は上層部の者達は悪魔もしくは悪魔に通じる人間達だが、中には龍牙王の手の者達も混じっているので、彼等の手により設置される事になった。

 因みに彼はかなり昔からこの土地の学校を見守っているらしい。


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第41巻 不死鳥、壁に貼り付けられる

 ~駒王学園 旧校舎 オカ研部室前~

 

「此処だな」

 

 龍牙王は夜叉、桔梗、一誠を連れてオカルト研究部の部室に来ていた。その理由は悪魔の魔力を感じたからだ。現在、この地への悪魔の出入り・居住は禁じられている。だと言うのに悪魔が許可を取る事無く入って来た。神として、守護者としてそれを許す訳にはいかないからだ。

 

「この間の事も解決してないってのに」

 

 夜叉はそう言いながら、オカルト研究部の扉に手を掛けるが開かない。

 

「鍵掛かってやがる」

 

 

「それだけではない……この感じ複数の結界が張られている」

 

 

「兄貴、開かないぞ」

 

 夜叉が力尽くで開けようとするが開かず、桔梗が扉に結界が張られている事に気付いた。

 

「多重結界だな………まぁ、我の前では無意味だがな。【開け】」

 

 龍牙王が命じる様に扉に向かい言い放つ。これは先に魔王達に使った【言霊】だ。

 

 言霊の発動条件は言霊に掛ける対象に声が届く事だ。他にも幾つか条件があるものの、生物であれ無機物であれ同じ条件で言霊を行使できる。

 

 ―ガチャ―

 

 故に言霊を使えば、結界が張られていようと鍵が掛かっていようと龍牙王にとっては開錠は簡単だ。

 

『『なっ!?』』

 

 中から驚愕の声が聞こえてくる。龍牙王を先頭に部屋へと入って行く。

 

 中にはリアスを始めとするその眷族達とメイド、チャラ男、その後ろに複数の女性がいた。

 

「勝手に人様の土地に無断で入って来やがったな、悪魔共………御用改めだ、抵抗するなら斬り捨て御免なんで、宜しく」

 

 龍牙王の額には青筋が立っている。直ぐに天下覇道の三剣を抜かないだけ未だ冷静な様だ。

 

「忙しいのに毎度、毎度、問題起こしてくれてどうもありがとう………本来なら此処で獄龍破か冥道残月破を放つ所だが……生憎、此処は学び舎だ。未来を担う子供達の学ぶ場を血で穢したくはないんだ、言い訳があれば聞いてやる」

 

 

「こっこれはその……」

 

 

「下らん理由で我が手を煩わせたならば………魂を消滅させる」

 

 殺気と神気がこの場を支配していた、それを受けリアスとグレイフィアは汗が滝の様に流れる。下手な事は言えない、言えば殺されるだけでは済まされない……悪魔全ての問題へと発展すると彼女達は理解していた。

 

「この後は色々と予定が詰まってるんだ、さっさと答えろ」

 

 

「そっそれは……「なんだ、貴様は?」」

 

 ライザーはこの空気の変化に気付いてない様だ、彼はドカッドカッと龍牙王の前へと歩を進める。

 

「………鳥か」

 

 

「なんだと、この俺が聞いているんだ………ん?いい剣じゃないか、雑魚には似合わん。この俺が貰ってやろう」

 

 そう言って龍牙王の剣に目を付けたライザー、彼は龍牙王の剣へと手を伸ばす。

 

「触れるな下郎、【下がれ】」

 

 

「はぁ?……ぐわっ!!!」

 

 龍牙王が言霊を使う。その力は物理法則を無視して作用する、下がれと言われたライザーの身体は真っ直ぐ吹き飛び壁に叩き付けられた。

 

「ぐっ……ぐぅぅぅ!なっなんだ、この力は、身体が動かん?!」

 

 

「ライザー様?!」

 

 

「貴様ぁーー!!!」

 

 ライザーの眷族の少女達が龍牙王に攻撃を仕掛ける。再び言霊を使おうとするが桔梗が前に出たのを見ると笑みを浮かべ口を閉じた。

 

 桔梗は何処からか札を取り出し、札に息を吹きかけた。

 

「『偉大なる龍神へ申し立て奉る………禍を封じ給え』」

 

 桔梗がそう呟くと、札が光り始め光の鎖へと変化した。鎖は意志が在る様に動きだし、ライザーの眷族達を拘束した。

 

「流石は桔梗……巫女としても腕は我が巫女の中でも上の方だな」

 

 

「いぇ……私など、アーシア様に比べればまだまだです」

 

 

「そっちの悪魔共は動くなよ、桔梗が今使ってる術は魔に属するお前等にとっては毒だぞ」

 

 夜叉がそう悪魔達に警告した。

 

「これは……『バチッ!』っ!」

 

 グレイフィアは鎖に手を近づけてみると弾かれた。そして手は火傷した様な傷ができる。

 

「それは神の力を用いた封印術の1つ。魔が触れれば、神の力に焼かれるのは当然の事だ」

 

 

「ッ……今回の事に関しては我々の不手際による物です。偉大なる神よ、どうかご容赦を」

 

 グレイフィアはそう言うと頭を下げた。

 

「確か貴様は赤い魔王の後ろにいた女か」

 

 

「はい、グレイフィア・ルキフグスと申します。魔王サーゼクス・ルシファーの女王であり、妻です」

 

 

「それで………貴様もあの場にいたなら分かっているな。特例としてそこのガキ共は滅多な事をしない限りは滞在を許可したが…………他の悪魔の出入りは禁じた筈だ。入って来た場合、命はないと」

 

 

「はい、心得ております。此度は完全に此方の不手際です。御身の地へ入る事を禁じる辞令を四大魔王の名の元に各家へ伝達していたのですが………どうやら彼には未だ伝わっていなかった様です」

 

 

「だから許せと?残念ながら我は悪魔にかける慈悲など持っていない」

 

 

「そっそこをどうか!伏してお願いいたします!彼は、ライザー・フェニックス様は此処に居られるリアスお嬢様の婚約者にございます!この結婚には悪魔の未来が」

 

 

「貴様等、悪魔は人間や妖怪の都合など考えずに襲撃し、無理矢理眷族にしている。ならば何故、我が悪魔の都合なんぞ考えねばならん」

 

 

「っ!!!」

 

 それもそうだ、悪魔は妖怪や人間の都合など関係なしに襲い眷族にする輩もいる。それで絶滅した種族もいる。自分達の未来の為の婚姻だから見逃してくれと言うのは都合がよすぎる。

 

「そっそれは……」

 

 

「だが………これから言う条件を飲むならそこの壁に張り付いている小僧を見逃してやろう」

 

 

「ほっ本当ですか!?」

 

 

「悪魔と違って嘘は云わぬ…………」

 

 そして龍牙王は条件を言った。

 

「なっ?!」

 

 

「そっそんな事、出来る訳ないじゃない!」

 

 その条件に過剰に反応したのがリアスである。何故なら条件の1つにリアスに………正確にはリアスの眷族である姫島 朱乃に関する事だった。

 

「ならばそこにいる小僧を殺すだけだ………」

 

 彼はそう言うと叢雲牙を引き抜いた。

 

 グレイフィアは迷っていた、龍牙王の出した条件は2つだ。1つは朱乃に関する事だが危険ではない、だが問題はもう1つの条件だ。とてもじゃないが、グレイフィア個人で決定できる物ではないからだ。

 

「不死鳥の名を冠する存在であろうと、魂諸共喰われればどうなるやら………」

 

 叢雲牙から禍々しい力が溢れ出す。人間であろうと、妖怪であろうと、地獄の剣の力の前では無力だ。

 

「…………わっ分かりました。もう1つの案件につきましては魔王様にご相談し必ずやどうにか致します、誓います……だから」

 

 

「ほぉ、必ず……ねぇ。神前で誓うという事は、絶対に果たさなければならぬという事だぞ?」

 

 

「この命に代えましても」

 

 グレイフィアは龍牙王の出した条件の1つを飲む事を誓った。では残りもう1つだ。

 

「さて姫島 朱乃、君はどうかな?」

 

 龍牙王は叢雲牙を下げると、笑みを浮かべながら朱乃にそう問う。

 

「わっ私は……」

 

 

「駄目よ!朱乃!」

 

 リアスはその条件に反対した。

 

「別に捕って喰おうって訳じゃない。ある場所に一緒に来て貰うだけの事だ、それが終わればちゃんと送り届けるさ……勿論、無傷でだ。それに貴様には聞いていない、【黙っていろ】」

 

 

「むぐっ!?ん?!ん~!!」

 

 言霊によりリアスは口を強制的に閉じさせられた。

 

「危険な事はない、約束しよう」

 

 

「………分かりました。私が付いていくだけで、ライザー様の命を御助け頂けるなら」

 

 

「約束は守るさ。そっちが襲ってくるなら返り討ちにするがな」

 

 龍牙王はそう言いながら殺気を収めると、叢雲牙を鞘に納めた。同時に壁に張り付いていたライザーとリアスの口に掛けられた言霊が解けた。

 

「きっ貴様!神か?!極東の神の分際で良くもこの俺をぉぉぉ!!」

 

 ライザーは未だ力の差が分かっていない様だ。

 

「止めなさい!ライザー!貴方じゃ勝てないわ!」

 

 

「リアス!お前は黙っていろ!フェニックス家の看板を背負っている俺がコケにされたんだ!相手が誰だろうと許さん!」

 

 どうやら何もできないまま壁に貼り付けられていた事に腹を立てている様だ。

 

「フン………帰るぞ、お前達。数日後に迎えをやるから、そいつについて来てくれ。じゃあな」

 

 龍牙王はそう言うと、夜叉達を引き連れて帰ろうとする。

 

「この……このライザー・フェニックスを無視しやがって!」

 

 ライザーはその手に炎を出現させた。

 

「ライザー様!それ以上するので在れば、力ずくで止めさせて頂きますよ!」

 

 グレイフィアがライザーにそう言った。彼はそう言われると、ビクッと身体を震わせた。

 

「さっ最強のクイーンである貴方まで何故だ!?たかが極東の神風情に何故そこまで頭を下げる!」

 

 

「詳細については話す事はできません。四大魔王により厳命されていますので」

 

 キレているライザーを落ち着かせようとするグレイフィアとリアス。龍牙王はそれを見て詰まらなそうな顔をしていたが、何かに気が付くと廊下の方を見た。

 

『ご主人様、此処にいたんですか』

 

 

「ん?白音か……どうかしたか?」

 

 龍牙王が振り返るとそこには白音と黒歌が立っていた。

 

「ご主人様の力の気配がしたから来たにゃ」

 

 

「何か在ったんですか?」

 

 

「何でもない、帰るぞ」

 

 

「今日はスイーツ祭りに連れて行ってくれるって言いましたよね?」

 

 

「あっ……そうだったな。大丈夫だ、無料優待券はこの通り持って来ている」

 

 そう言うと、龍牙王は袖の下から何かの券を取り出した。そこには【駒王カフェ・デザート食べ放題券】と書いていた。

 

『何故悪魔の俺が極東の神如きに頭を下げねばならん!』

 

 

「皆で行くとするか」

 

 ―ゴオォォォ!―

 

 後ろから炎が迫るが龍牙王はその尾で炎を掻き消した。それに驚いているライザーとその眷族達が聞こえる。

 

「全く………校舎が燃えたらどうするつもりだ。本来なら冥道に送ってやる所だが………あっ良い事思い付いた。おい、そこのメイド」

 

 

「はっはい」

 

 龍牙王はグレイフィアにある事を提案した。それを聞いて少し困惑しているが、直ぐにその提案に了承した。

 

 一体龍牙王は何を提案したのだろうか?




と言う訳でライザーは貼り付けられました。



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第42巻 代償

 ~冥界 都市ルシファード~

 

「………すまない、グレイフィア。どうやら私達は疲れている様だ」

 

 

「そっそうだよね……疲れてるよね、私達。ぁ~ソーナちゃんを抱き締めて癒されたい」

 

 

「私もリーアたんとミリキャスを抱き締めたい」

 

 四大魔王はこのルシファードで会談をしていたが、グレイフィアより報告を聞いた。そして内容があり得ない事だった為に自分達は疲れていると判断し、現実逃避を始めた。

 

「残念ながら夢でもなければ、幻でもありません。皆様、お気を確かに御持ちください」

 

 

「嫌だぁ!もう魔王止める!家に引きこもる!」

 

 ファルビウムは現実を受け止めきれず叫び出した。

 

「そっそれで彼はなんと?」

 

 

「まっまさか悪魔と全面戦争とかじゃないわよね?」

 

 魔王達は(龍牙王含む)日本神話VS悪魔の全面戦争を想像した。守りに徹したとしても1日保つかどうか…………それだけは何としても避けなければならない。

 

「そっそれが…………『純潔悪魔の小僧が我が地で暴れても困る。恐らくこのまま放置すると我が地に害を成す可能性がある、本来であれば小僧の存在ごと消して悪魔も滅ぼしている所だ』」

 

 龍牙王の言葉をそのまま伝えるグレイフィア。それを聞いて、魔王達の顔から血の気が引いていく。

 

「『しかし報復され、地に被害が出るのは御免だ。なので貴様等に選択肢をやろう。

 

 1.ライザー・フェニックス(小僧)の処刑、2.悪魔と我との戦争』」

 

 

「「「「ッ!!!」」」」

 

 未来ある若い純血悪魔の命を取るか、戦争をするか。天秤に掛けてどちらに傾くかは言うまでもない。

 

「『その3.ライザー・フェニックス(小僧)と、小僧が侮る人間と妖怪を勝負させる。その結果、勝てば無罪放免、負ければ………』」

 

 

「まっ負ければどうなるんだ?」

 

 

「そっそれがそのある条件を絶対に飲めという事です」

 

 

「条件?」

 

 

「日本における悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の使用禁止と悪魔の駒(イーヴァル・ピース)の詳細情報とサンプルの提供。もし、ライザー様を処刑するにしてもこの条件は飲んで貰うとの事です」

 

 

「なっ!?」

 

 限定的とは言え悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の使用禁止、これはどうにかなるにしても、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の詳細情報と提供と言うのは拙い。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は悪魔の数が極端に減少した事で危惧して開発した物、万が一にでもこれが他に出回れば大変な事になる。

 

 その種族に対応する様に改造する事も出来れば、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に対する対策法を編み出す可能性もあるからだ。

 

 龍牙王の今回の目的は悪魔の駒を手に入れる事と悪魔達に力を示す事だ。

 

「もし従わない様なら…………天下覇道の剣の力を見る事になるとの事です」

 

 

「すっ直ぐにライザー君を呼び出してくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ~数十分後~

 

「サーゼクス殿、この度は息子がご迷惑を掛けた様で」

 

 ライザーと共にやってきた1人の男、彼はフェニックス卿。現在のフェニックス家の当主であり、ライザーの父親だ。

 

 現在ライザーは部屋から出されており、この場にいるのは四大魔王とその眷属、フェニックス卿だけである。

 

「えぇ……フェニックス卿、我々も正直困惑していますが、今回の件は悪魔全体の未来に係わる事です」

 

 

「はっ?」

 

 フェニックス卿はサーゼクスの言葉の意味が分からなかった。

 

 彼は今回、息子が呼び出されたのは婚約者であるリアスとの問題を起こしたと思っていたからだ。

 

「申し訳ない、サーゼクス殿。言葉の意味がよく分からないのだが……」

 

 

「この場での話は必ず内密に。我等、四大魔王の名の元に厳命します」

 

 サーゼクスや他の魔王達の真剣な顔を見て、フェニックス卿は事の重大さを改めて認識した。

 

 そしてサーゼクスが話を進めるにつれ、血色の良かった顔から血の気が消え、顔が真っ青になってしまった。

 

「でっ……では息子が負けた場合は」

 

 

「悪魔の駒に関する情報とサンプルの提供。ライザー君の事は入ってないが……万が一もある」

 

 

「なっ……何と言うことを……」

 

 

『おい、俺を何時まで待たせる気だ!』

 

 

『もう少しお待ちを』

 

 

『ふざけるな!』

 

 

「構わないよ、話は終わった。入りたまえ」

 

 扉が勢いよく開き入ってきたライザー。彼は完全に不機嫌になっている。訳の分からぬ者にやられ、上から物を言われた。貴族であり、ゲームで勝ち進み、現在絶好調の彼にはこれ以上の屈辱はない。

 

 彼はまだ自分の置かれた状況が分かっていない。

 

「これは、魔王様方がお揃いd『バキッ!』ぐぁ!」

 

 ライザーは殴り飛ばされた。

 

「父さん、何を「この大馬鹿者が!!!」」

 

 フェニックス卿がライザーを殴り飛ばしたのである。詳細は説明出来ないものの、息子が仕出かした事は知らぬ事とは言え悪魔の存在そのものを危険に晒した。父親としても平然とは居れはしないだろう。

 

「フェニックス卿、そのくらいで」

 

 

「しっしかし」

 

 

「御気持ちは分かりますが、今は話が先です」

 

 

「……分かりました」

 

 

「ライザー君。いきなりで、困惑しているだろう。でも、これは極めて高度な政治的な問題だ」

 

 

「どういう事です?」

 

 

「君が襲い掛かった者は、リアスがいる駒王の土地の神なんだ。

 

 勿論君は知らなかった事だろう。君が手続きも踏まずに乗り込み、無礼を働いた事にお怒りでね」

 

 

「だから、どうだと言うのですか?たかが、極東の島国の神でしょう?力で黙らせればいいではありませんか」

 

 

「事は政治的な問題、無礼を働いたのは此方側だ。

 

 そして、彼の神はかなり有名な神でね。日本の主神や神々に顔が利く。此処まで言えば分かるね?

 

 日本神話との政治問題に発展する」

 

 

「魔王ともあろう方々が揃ってどうしたのですか?

 

 神とは言え、島国で崇められている存在だ。我々、悪魔にとっては敵ではない!」

 

 ライザー・フェニックスは悪魔の駒を用いたレーティングゲームで勝ち進んでおり、現在一番調子の乗っている時期と言うことと、産まれながらの能力により倒された事がない故に自信過剰になっていた。

 

 そして、悪魔と言う高等な存在が島国の神になど負ける筈がないと思い込んでいた。

 

「先の件では油断して不覚をとりましたが、今度は絶対「ライザー君」」

 

 魔王達が凄まじい覇気を放つ。それは若輩であるライザーを簡単に黙らせた。

 

「君は確かに強い。若手悪魔の中でも期待をもたれている若者だ。しかし、覚えておきたまえ。

 

 上には上が居るということを」

 

 

 

 

 

 

 ~龍王神社~

 

「と言う訳で、2日後、ゲームを行う事になった。

 

 出て貰うのは夜叉、桔梗、白音、黒歌、神楽、神無、そして一誠だ。あの小僧とその駒である転生悪魔なら十分だろう」

 

 神社の神棚の前に座り、前にいる夜叉達にそう言った。その後ろには陽牙達も控えている。

 

「それは別にいいけど、何で一誠まで?」

 

 

「本人たっての希望だ。参加したいとな」

 

 夜叉は自分達の後ろに座っていた一誠を見た。

 

「だがよ」

 

 

「案ずるな、今回は悪魔共のゲームに乗っ取って行われる。

 

 一定以上のダメージを受ければ退場だ。死ぬことはないだろう。これも経験の1つだ。まぁ、試合までに禁手が出来た場合だけどな」

 

 

禁手(バランス・ブレイカー)?」

 

 

神器(セイグリッド・ギア)の奥の手と言う所だ。とは言え、アレは劇的な変化がなければ起こらない。出来て、その手前までだ」

 

 

「でもどうすればいいんですか?」

 

 

「本来なら身体の一部を取引として使う所だが、ドライグ」

 

 龍牙王が、一誠の中の赤龍帝ドライグに声を掛ける。一誠の左手に赤龍帝の籠手(ブースデット・ギア)が出現する。

 

 《代償無しじゃ無理だ》

 

 

「何とかしろよ」

 

 

 《例え、師であるアンタの言葉であろうと無理な物は無r「我はお前がチビの頃から見てる。つまりはあんな事やこんな事まで知ってるんだがなぁ。例えばティア」分かった!分かりました!逆らってすいません!師匠!》

 

 

「初めからそういやいいんだよ」

 

 

「りゅ龍王様ってドライグの師匠なんですか?」

 

 

「あぁ、コイツとアルビオンがチビの時から知ってるし、ドラゴンとして鍛えたのも我だ。

 

 だって言うのに、この恩知らず共は前の大戦の時には我に楯突いてきたからな。次があったらどうしてくれよう?」

 

 龍牙王が籠手を見ながらそう言うと、籠手の宝玉が震える様に点滅している。

 

「まぁいい。それで出来るんだな?」

 

 

 《あっ、あぁ。やろうと思えば出来るが、ただ、代償の代用品はいる。それに出来たとしても不完全な禁手で、時間制限もある……今の小僧じゃ、数分が限界だ。こればかりは、本人の能力の問題だからな》

 

 

「つまり、俺の実力不足か……」

 

 

「つい、この間、鍛え始めたばかりだ。そう落ち込むな、徐々にではあるが確実にお前は強くなっている。急く必要はない、少しずつ成長すればいい」

 

 

「はっ…はい!」

 

 龍牙王に言われて落ち込んでいた一誠が、そう返事を返した。確実に強くなっていると言われて嬉しいかったのだろう。

 

「さて…………代償だったか」

 

 龍牙王はそう言うと、自分の髪を1房抓むと、その爪で切った。そしてその髪に軽く息を吹きかけると赤い炎が灯り、赤い組紐に変化した。

 

「我の毛は1本だけでもかなりの力を秘めている。我が毛を束にし、これに純粋な龍の気を纏わせた。ドライグ、これが代償ならどうだ?」

 

 

 《確かに、アンタの力の詰ったそれが代償として使うなら十分だろう。だが、幾ら代償が凄い力を持っていても、力を受け止める小僧が弱けりゃ意味がない》

 

 

「どのくらい、保つ?」

 

 

 《小僧のスペックなら………そうだな、5分と言う所だろう》

 

 

「だそうだ。一誠、時間制限はあるが、禁手化すれば戦う事はできる」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

「くれぐれも無茶はしない様に………じゃあ、リーダーを決めるとするか」

 

 組紐を一誠へ渡して、これからの作戦等を考えようとする龍牙王。

 

「あの、龍牙王様」

 

 

「どうかしたか、アーシア?」

 

 

「私も参加させて下さい」

 

 

「へっ?」

 

 真剣な表情で龍牙王に進言するアーシア。それと真逆に間の抜けた声と顔をする龍牙王。

 

 果たして、本当にアーシアも参加する事になるのだろうか?



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第43巻 ゲーム開始前

 ~駒王学園 会議室~

 

 駒王学園の会議室で真剣な表情で時を待っている四大魔王。その後ろではリアスとその眷族、ソーナとその眷族、そして本日、悪魔を代表して戦うライザーとその眷族達がいた。

 

「チッ………何時までこの俺を待たせるんだ?!」

 

 ライザーは待たされている事に腹を立てている様だ。

 

「ライザー君、落ち着きたまえ。約束の時間までは未だ時間が在る」

 

 サーゼクスがイラついているライザーに声を掛けて、宥めている。他の魔王達も時計を見て、時間を確認している。現在時刻、23:40。

 

 龍牙王達との約束の時刻は午前0時、定刻までは未だ余裕があるのだが………魔王達は今回の件が如何に大切な事か理解している為、余裕を持って1時間前から此処で待っている。しかしライザーは既に我慢の限界の様である。

 

 どうした物かと考えていると、以前にも感じた重圧が身を襲った。

 

「「「「ッ!」」」」

 

 この場に居る全員がその重圧により身を強張らせた。そして魔王でさえも冷や汗を掻き、唾を飲んだ。

 

 会議室の扉が開き、龍牙王の眷族である陽牙達が入って来ると部屋の中を見廻した。安全の確認が終わると、扉の前に並んだ。

 

「「我等が主よ」」

 

 

「「部屋には問題はない様です」」

 

 彼等がそう言うと、龍牙王と巫女服と装飾品を身に付けたアーシアが部屋に入って来た。その後ろに夜叉、桔梗、黒歌、神無、一誠が入って来る。

 

「フン………」

 

 

「こっこの度は私共の「下らぬ話など要らぬ………準備が出来ているならさっさと始めるぞ。我等は暇ではない」はっ……はい」

 

 龍牙王はサーゼクスの言葉を遮ると席に着く。

 

「で………ではルールの確認をします」

 

 グレイフィアはそう言うと、今回のレーティングゲームの説明をした。

 

 1.両チームのキング(今回の場合は代表としてアーシアがキングの役となる)がリタイアしたチームの負け。

 

 2.回復アイテムは3つまで。

 

 3.キングにはリザインの権利がある。

 

 4.一定以上のダメージを負った場合は直ぐに退場となる。

 

 5.アーシアチームが勝利の場合、悪魔側は無条件で龍牙王の要求を全て飲む。

 

 6.ライザーチームが勝利した場合、先のライザーの無礼は不問とする事。

 

 と至って簡単な物だ。

 

「お前達、そのルールで問題ないな?」

 

 龍牙王はそのルールを聞き、アーシアや夜叉達に確認した。

 

「あぁ、分かり易くていい」

 

 

「問題ありません」

 

 

「だ、そうだ…………それで試合の場は?」

 

 

「此方で準備しました、別の空間にある駒王学園と同じ建造物のステージです」

 

 龍牙王の問いに答えるアジュカ。

 

「では此方も試合の場を確認させて貰う。万が一に前もって罠でも仕掛けられていては困るからな」

 

 

「………分かりました。一応、此方側も確認させて頂きます」

 

 

「よかろう。陽牙、陰牙、確認せよ」

 

 

「「御意」」

 

 陽牙と陰牙はグレイフィアと共に試合の場の確認に向かった。

 

「では此方の条件の確認をしておくか。

 

 我の要求は貴様等の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の詳細情報とサンプルの提供、そして日本における悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の使用禁止だ」

 

 それを聞いて魔王達は苦虫を噛み潰した様な表情になる。

 

「なっ、一介の土地神がそんな事を要求するのか!?何様のつもりだ!!!」

 

 それを聞いて、声を上げたライザー。要求が大き過ぎると言いたいのだろう。未だ彼は龍牙王の正体を知らないからそう言うのだろうが………龍牙王からすれば当然だ。

 

 龍牙王はそれを無視しているが、それが余計に腹が立ったのか、ライザーが彼に向かい近付いていく。

 

「この愚か者が!」

 

 ―バキッ―

 

 ライザーを止め、殴り飛ばした悪魔がいた。それはライザーの父親である、フェニックス卿だった。

 

「息子が御無礼を働き、真に申し訳ありません!」

 

 フェニックス卿は龍牙王の方を向くと、直ぐに土下座した。

 

「貴様は?」

 

 

「私はグリア・フェニックス。この愚息の父親でございます………知らぬ事とは言え、偉大なる龍神である貴方様に無礼を働き、御詫びのしようがございません!」

 

 

「ほぅ、悪魔のくせに分を弁えているな。まぁいい………表を上げよ」

 

 

「ちっ父上!なぜだ!?」

 

 

「黙れ!お前も頭を下げろ!」

 

 そう言って、押さえつける様にしてライザーにも頭を下げさせた。

 

「なんで、上級悪魔の俺が!極東の神如きに頭を下げなきゃならんのだ!」

 

 

「このっ」

 

 

「構わんぞ、フェニックス…………その愚か者に説明してやろう」

 

 龍牙王はそう言うと、着物の袖の下から巻物を取り出した。

 

「これは高天原からの書状だ」

 

 巻物の紐を解くと、机の上に広げた。四大魔王、リアス、ソーナ、ライザー達がその巻物を見る。

 

【此度の案件に限り、彼の者に日本神話の全権を委ねる。

 

 天照大御神、月夜見尊、建速須佐之男命】

 

 日本神話の最高権力者である三貴士が今回の交渉に限り、龍牙王に全権を預けると言う書状だ。

 

 つまり、現段階で彼は日本神話の代表となっている。

 

「今日は話し合いに来た訳ではない…………そこの小僧が舐めきっている人間と妖怪の力を示しに来たんだ。まぁ、舐めきっているのは、小僧だけとは限らんがな」

 

 そう言ってライザーから視線を外し、魔王達、そしてリアス達へと視線を向ける。

 

「「戻りました」」

 

 そのタイミングで陽牙と陰牙が戻ってきた。

 

「現在の時点でステージの方には特に怪しい術式、罠等はありません」

 

 

「そうか。お前達、準備はいいか?」

 

 アーシアや夜叉達に聞いた。彼等は大丈夫だと返事を返す。

 

「それでは此方に」

 

 グレイフィアがそう言うと、魔法陣が展開する。

 

「転送の魔法陣です。それぞれの拠点へと送ります。

 

 試合開始は転送10分後となります」

 

 グレイフィアの案内により、夜叉達とライザーとその眷族達がそれぞれの魔法陣に入る。

 

「お前達、気を張る必要はない。何時も通りにすればいい」

 

 龍牙王はこれから戦いの場へと向かう夜叉達にそう言った。

 

「それでは転送します」

 

 グレイフィアがそう言うと、彼等は別の空間にあるステージへと向かい転送された。

 

 

 

 

 

 

「主よ、夜叉達は大丈夫でしょうか?」

 

 陽牙達は先程まで、夜叉達がいた場所を見つめていた。

 

 彼等にとって、歴代の守護者達は誕生から死までを見守ってきた我が子も同然の者達。

 

 夜叉達はその血を継ぐ者であり、龍王神社の初代神主であり、主の弟(犬夜叉)巫女(桔梗)の生まれ変わり、心配するのは当然の事だろう。

 

 当の龍牙王は落ち着いた様子で、椅子に座り投影されているステージの光景を見ていた。

 

「お前達は、我が愛しの子等があの様な輩に負けるとでも思っているのか?」

 

 

「そうは言いませんが……相手は悪魔とは言え、不死鳥の名を持つ者。不完全とは言え、不死です」

 

 ライザー・フェニックスは不死の力を持つ者達だ。普通に戦っては人間である夜叉達に勝ち目はない。

 

「不死だろうと、戦い方はあるさ」

 

 龍牙王はそう言い、黙ってしまった。

 

 陽牙達は主がそう言っているので、黙って投影されている光景へと目を向けた。



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第44巻 巫女の力

 ~レーティングゲーム 特別空間 校舎~

 

「それでは組み分けは事前の作戦通りに………夜叉さん、桔梗さん、一誠さんは校舎裏。黒歌さん、白音ちゃんは体育館周辺をお願いします」

 

 現在ゲーム開始5分前、アーシア達は本校舎が陣地となっている。ライザー達の陣地はオカ研の部室のある旧校舎となっている。

 

 そして、各人の配置をアーシアが説明した。

 

「それでは各人、時間まで宜しくお願いします」

 

 

「おう!」

 

 

「分かりました」

 

 

「OKにゃ」

 

 

「分かりました」

 

 

「分かりました!」

 

 アーシアを残し、それぞれ支持された場所に向かった。

 

「御武運を…………私も準備を始めましょう」

 

 アーシアは彼等を見送ると、何かの準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 ~夜叉、桔梗、一誠side~

 

「と言う訳だ。一誠は、死なない様に気を付けろ」

 

 

「分かってる」

 

 夜叉が緊張している一誠にそう言った。

 

「無理をする必要はない。私達は、私達のするべき事をすればいいんだ」

 

 巫女モードに入っている桔梗がそう言う。

 

「日暮さん………何時もと違う」

 

 

「アレは夜の仕事モードだ。あぁ、なったら敵に容赦ないからな。因みに昼の仕事モードの場合は分け隔てなく優しい」

 

 

「へっへぇ……!?」

 

 

「「?!」」

 

 3人の足元に魔法陣が浮かび上がり、凄まじい爆発が起きた。

 

「フフフフフ!たかが、極東の島国の神に属する人間の分際でライザー様に刃向うからこういうことになるんです」

 

 彼等の上空に1人の女性が浮いていた。ライザーの女王(クイーン)ユーベルーナだ、彼女は【爆弾女王(ボムクイーン)】と呼ばれる実力者である。

 

「ユーベルーナ、もう終わりまして?」

 

 

「はい、レイヴェル様」

 

 彼女は自分に声を掛けた少女の元へ降りた。

 

 彼女の名はレイヴェル・フェニックス、名前から分かる様にライザーの妹であり彼の僧侶として此処に居る。彼女の後方には【騎士】カーラマイン、シーリス、【戦車】イザベラ、【僧侶】美南風が控えている。

 

「ミラ達は体育館の方でしたわね?」

 

 

「はい。彼女達の方も直ぐにおw『たかが、極東の島国の神?』なに!?」

 

 レイヴェル達は先程、ユーベルーナが爆破を起こした場所を見た。未だにそこには煙で覆われているが、その中から光が漏れ始めていた。

 

「それはあの方の事ですか?」

 

 

「なっ!?アレを喰らって無傷とは」

 

 

「あの方をたかがと言いましたか?」

 

 

「だから何だと言うのだ!?日本の神等、悪魔からすれば雑魚に等しい!」

 

 ユーベルーナはそう言い張った。そして、それは桔梗や夜叉の逆鱗に触れた。

 

 前世より知る龍牙王、その力だけでなく、優しさを知る桔梗。忘れているとは言え、兄の強さと優しさを知る夜叉。その彼を「たかが」と言われたのだ、黙っていれる筈がない。

 

 桔梗と夜叉の足元に罅が入る。

 

「『我等を古より見守りし、偉大なる龍神に願い奉る。我等を迫りくる悪しき闇を祓い給え、清め給え』」

 

 レイヴェル達の足元に巨大な龍の紋様が浮かぶ。桔梗は破砕弓を両手で天に掲げた。

 

『『『我等は龍神と共に生き、歩む者』』』

 

 桔梗の周囲に無数の光球が出現し、人の形へと変わる。そして、その姿がはっきりとしていく。年老いた者、男も、女も、幼い子供までいる。

 

「なっなんですのアレは!?」

 

 現れた人達は何も言う事無く、桔梗の傍で祈る様に手を合わせている。

 

『今此処に魔を祓いし龍神の雷を此処に』

 

 巫女とはその身に神を降ろし、その言葉を人々に伝え、時にその力で奇跡を起こす者。

 

 この術はかつて、この地を護る1人の守護者が編み出した物だ。人の一生は龍牙王()からすれば瞬き程の時しかない、またその加護無しには生きていけない。だからこそ血を次代へと繋ぎ、護られるだけではなく、共に戦う事を彼女は選んだ。

 

 龍牙王()の力を借りると同時に、歴代の守護者達の力を借り、魔を祓う術。

 

「【裁龍の雷】」

 

 天より眩い光が、レイヴェル達に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっすげぇ」

 

 

「桔梗、無事か?」

 

 先程、光が落ちた場所には巨大なクレーターが出来ており、その端にはレイヴェルと満身創痍のユーベルーナが転がっていた。

 

「あぁ、だが霊力の殆どを使ってしまった」

 

 

 ―らっライザー様の【騎士】2名【戦車】1名【僧侶】1名、戦闘不能により退場―

 

 アナウンスが流れ、先程までいた6名の内、4名が退場した事を伝えた。

 

「がっ………にっ人間が何故、これほどの力を?!」

 

 ユーベルーナは『フェニックスの涙』を使い回復しながら、桔梗を睨む。

 

「我等が繋いできたのは血だけではない。その力、想い、愛を、私達人間は繋いできた。

 

 お前達が相手をするのは、私達だけではない。私や夜叉を含めた、あの方を慕い、共に歩んで来た駒王の地の守護者全てだ」




 と言う訳で早々に4人退場しました。


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第45巻 猫姉妹の力

 ~夜叉達が進む一方~

 

「姉様、引っ付かないで下さい。尻尾引き抜きますよ」

 

 

「酷い!お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはないにゃ!」

 

 瞳に涙を浮かべ、着物の袖で口元を隠しながらそう言う黒歌。そんな姉に対して、うんざりした様な顔をする白音。彼女達は徒歩で体育館の方へと向かっていた。

 

「一応、試合は始まっているんですよ?油断しててやられるとか、御主人様に顔向けできませんよ?」

 

 

「白音………私があんな奴等にやられると思ってるの?」

 

 

「そうは思いませんが………油断大敵ですよ」

 

 

「まぁ、それに関しては同感ね………あっ体育館が見えて来たわよ?」

 

 

「中に1、2、3………6人ですね」

 

 

「しかも何の罠も仕掛けずに堂々と待ってるなんて………完全に舐められてるわね」

 

 黒歌と白音は猫魈と呼ばれる種族の生き残りであり、猫魈は猫又でありながら仙術を使用できる珍しい種族である。故に悪魔の駒が出来てから狙われていた一族だ。

 

 仙術は自然のエネルギーを取り込む事で自分の力を飛躍的に上げ、肉体強化から、生命エネルギーの生産しそれを他者へ分け与える事まで出来き、習得すれば周囲の命の気配や気の流れを知る事が出来るので、隠れている者や罠などを感知できる。

 

「まぁ、罠もない様ですし、このまま入りますか?」

 

 

「そうね、折角待っていてくれたみたいだしね」

 

 姉妹はそう言うと体育館の中へと入って行った。

 

 

 

 

 体育館の中には姉妹が感知した通り、ライザーの眷族が6人待ち構えていた。

 

「よく来たな。妖怪共」

 

 

「此処まで堂々と待たれてるとねぇ…………取り敢えず自己紹介が必要ね。私は黒歌、見ての通り猫又よ」

 

 

「同じく猫又の白音です」

 

 

「其方が名乗ったのであれば此方も名乗ろう。私は雪蘭(シュエラン)、ライザー様の戦車(ルーク)だ」

 

 中華風の少女・雪蘭がそう名乗った。

 

「私はミラ。駒は兵士(ポーン)よ、武器はこれよ」

 

 そう言って和服を着た少女・ミラが棍棒を見せながらそう言った。

 

兵士(ポーン)のイルです~」

 

 

「同じく兵士(ポーン)のネル」

 

 

「「バラバラにしてあげる!」」

 

 双子の姉妹イルとネルがそう言いながら、手に持つチェーンソーのエンジンを作動させた。

 

「私はニィにゃ~」

 

 

「リィにゃ~」

 

 

「「同じ猫又にゃ!」」

 

 セーラー服を着た水色髪と赤髪の少女がそう名乗った。どうやら、猫又らしい。

 

 両者が自己紹介を済ませ、互いに殺気立ち始める。

 

「戦う前に1つ言っておきます。降参して下さい、貴方達は私と姉様には勝てません」

 

 

「そうね。大人しく去りなさいな。特のそっちの猫又ちゃん達………同じ猫又としては争いたくないわ」

 

 白音と黒歌が彼女達にそう告げた。

 

「ふざけているのか?………戦わずしてその様な事を言うなどと!」

 

 

「あの神といい、お前達といい、一体何様のつもりだ!!」

 

 

「「ふざけないでよ!」」

 

 

「口だけなら何とも言えるにゃ!」

 

 

「お前達も、あの神も、きっと口だけにゃ!」

 

 彼女達はそう言う。しかも此処にいない龍牙王の事まで引合いに出した。

 

「そうですか、残念です。ならもう1つだけ……………………………………」

 

 白音はそう言うと、頭に猫耳が、スカートの下から3本の尾が現れた。

 

「あの方の事まで侮辱したんです。少し痛い目に合って貰います」

 

 

「「「「「「はっ?」」」」」」

 

 白音の発言に唖然とするライザーの眷族達。自分達が下に見られていると思い激昂しようとする。

 

「「「「「ふz」」」」」

 

 

「ぐぅ!?」

 

 雪蘭、イル、ネル、ニィ、リィが叫ぼうとした瞬間、苦悶の声が聞こえた。彼女達がミラの方を見てみると、そこにはミラにボディーブローを入れている黒歌に似た白い猫耳の女性の姿が在った。

 

「いっ何時の間に?!」

 

 

「まっ………まった……く………見えな………かっ………た」

 

 ミラは鳩尾を殴られた為に、肺の中の空気が全て吐き出された様で、途切れ途切れにそう言う。

 

「きっ貴様、一体誰だ?!」

 

 

「白音です………さっきも言いました」

 

 

「「「「「なっ?!」」」」」

 

 黒歌以外の全員が驚いた、先程の白音と今、ミラに拳を叩き込んでいる白音の姿はあまりにも違い過ぎる。具体的には、緩やかな丘が大きな山になっている。即ち、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる…………もっと分かり易く言うとボン・キュ・ボンである。

 

「この程度、仙術を使えば余裕です」

 

 

「仙術?」

 

 

「「まさか猫魈かにゃ?!」」

 

 ニィ、リィだけがどうやら2人が猫魈だと理解した様だが、他の者達は分かっていない様で、仙術がその様な物かも知らない様だ。

 

「その通りよ。私達は猫魈の生き残りよ」

 

 ニィとリィはそれを聞いた瞬間、顔が青ざめ、冷汗が流れ始めた。

 

「猫……魈だ…か…何だか知らないけど!」

 

 白音に殴られ苦しんでいたミラだが、何とか息を整えた様だ。

 

「舐めるn「遅い…はっ!」がっ!?」

 

 膝蹴りで反撃するの為に足を動かそうとしたした瞬間、白音は一度拳をミラの身体から離し、掌を彼女の胸に当てた。その瞬間、ミラの身体が大きく後方に吹き飛んでしまった。

 

「ぐっ!……かはぁ!」

 

 ミラはそのまま、壁に激突する。壁が陥没すると共に、彼女の身体は壁にめり込んだ。どうやらミラは気を失っているらしく、既に動かない。やがて彼女の身体が光に包まれると、このステージより退場した。

 

『らっライザー様の兵士1名脱落』

 

 そうアナウンスが鳴り響き、場が沈黙した。

 

「てっ…」

 

 

「撤退にゃ!」

 

 ニィとリィがそう叫ぶと、雪蘭、イル、ネルの腕を掴んで体育館から出ていった。

 

「ちょっと2人とも!?」

 

 

「敵を前に逃亡なんて」

 

 

「ありえないよ!」

 

 引っ張られている3人がそう言うが、ニィとリィは止まらない。

 

「駄目にゃ!」

 

 

「あれは危険にゃ!」

 

 

「どういう事?確かに見えないほど早かったけど、全員で掛かれば」

 

 雪蘭は残った5人でかかれば何とかなると考えて居る、イルとネルも同意見の様だ。

 

「無理にゃ!私達猫又の一族の中には決して喧嘩を売っちゃ駄目な一族が2ついるにゃ!」

 

 

「1つは豹猫族、凶暴で力も強く、一時は西国でその名を轟かせたにゃ。そしてもう1つは猫魈にゃ!」

 

 

「それってあいつ等の………」

 

 

「猫魈は豹猫族とは正反対に大人しい一族だけど、特異な力を持っているにゃ。それこそが仙術にゃ………風の噂で滅んだって聞いてたけどにゃ」

 

 

「真面に戦っても勝てないにゃ!」

 

 

『その通りよ、お嬢ちゃん達』

 

 声が響くと共に彼女達の前方に青い炎の壁が出現する。彼女達は何とか、炎の壁に当たる前に停止する事ができた。

 

「罠!?」

 

 

「くっ!」

 

 直ぐに逃げようとするが、右も左も後ろも既に炎の壁で塞がれてしまった。

 

「囲まれた?!」

 

 

『終わりね』

 

 

「くっ!こんな事でやられる訳には……」

 

 

『もう終わりです』

 

 

「何処だ?!どこにいる?!」

 

 

『『上です(にゃん)』』

 

 5人が上を見上げると、そこには空に浮いている白音と黒歌がいた。

 

「そろそろ時間が差し迫っているので」

 

 

「終わらせて貰うにゃん」

 

 白音、黒歌、血を別けた姉妹が敵を倒す為にその力を合わせる。2人は手を雪蘭達に向かって翳す。

 

「魔に属する悪魔にとっては少し痛いかも知れませんが………運がなかったと思って諦めて下さい」

 

 

「死なない様には加減するから安心しなさい」

 

 2人の手から白い炎が出現し、それが雪蘭達に向かい放たれる。

 

 仙術の力は周囲の気を取り込むだけではない、邪気を払い、浄化する力を持っている。つまり闇に属する悪魔にとっては致命的な力だ。

 

 それは一瞬だった、雪蘭達の視界が真っ白になった瞬間、凄まじい熱と共に彼女達の意識は強制的に失われた。

 

 

 

 

 

 

「ん~終わったにゃ~」

 

 炎が消え、その場には既に雪蘭達の姿はなかった。

 

「姉様、早く合流しましょう」

 

 

「白音~お姉ちゃん、疲れたから白音成分を補給したいにゃ~」

 

 そう言いながら、白音に抱き着こうとする黒歌。だが白音はそれを避けた。回避された故に黒歌は地面とキスする羽目になった。

 

「いったぁ~」

 

 

「先に行きますよ」

 

 

「えっ?ちょw本気で私を置いて行くつもり!?」

 

 

「来ないなら置いて行きますよ、姉様」

 

 

「ちょっと待っててばぁ!」

 

 先に行ってしまった白音を追い掛ける黒歌。

 

 彼女達は夜叉達と合流する為に、先へと進んだ。



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第46巻 眷族の力

 ~夜叉達がライザー眷属を倒している頃 校舎付近~

 

 ライザーの兵士(ポーン)であるシャリヤー、マリオン、ビュレントはアーシア陣営の陣地である校舎へと接近していた。

 

「ふっ、此処まで接近して罠の1つもないとは……」

 

 

「所詮は人間と妖怪か」

 

 

「全く……弱い者いじめは趣味じゃないんだけど」

 

 3人はそう言いながら校舎へと近づいていく。

 

「それはこっちの台詞だよ………私等の5分の1も生きてない小娘が行ってくれるじゃないか。なぁ、神無?」

 

 

「…………此処には近付けない」

 

 

「あっアンタたちは!?」

 

 校舎の前に立ちはだかったのは、神楽と神無だった。

 

「悪いけどここから先には行かせないよ」

 

 

「なんですって!?」

 

 

「まぁ一応自己紹介をしておくか。私は風使い神楽、それで此方は」

 

 

「……神無」

 

 そう自己紹介する2人。

 

「痛い目に合いたくなけりゃさっさと逃げるなり、リタイアするなりしな」

 

 

「黙れ、たかが妖怪如きに私達が止められるものか!」

 

 そう言うとシャリヤー、マリオン、ビュレントは2人に襲い掛かる。どうやら近接戦闘をしようというらしい。

 

「おいおい、これでも勘違いしないで欲しいねぇ。これでも神の身だよ」

 

 

「「「はっ?」」」

 

 3人はその言葉に驚いた。神楽はそんな3人を見ながら扇子を開く。

 

「この国には長年使われた物には魂が宿り、付喪神になるのさ。私等も元は神社に在った神鏡と儀式用の扇子だったのさ。

 

 今の主も、この土地も、此処での生活も気に入ってるんだ。だから土地でのゴタゴタは困るんだよ、アンタ等に恨みはないけど、やらせて貰うよ」

 

 神楽はそう言うと、向かってくる3人に対して扇子を振るった。3人は警戒するが何も起きていない。

 

「なにも…!」

 

 安堵した瞬間、彼女達は直ぐに足を止めた。気がつけば幾つもの竜巻のが3人は周りを竜巻に囲んでいた。

 

「くっ……何時の間に!」

 

 

「魔力なんて欠片も感じなかったのに!?」

 

 魔法等の使用の際、魔力や何らかの力を感じる。レーティングゲームの経験者である彼女等ならそれが分かってもおかしくはない筈……だと言うのに彼女達は何も分からなかった。

 

「私達は……この地が好き……護りたい……」

 

 神無がそう呟き、その手の中の鏡に龍の紋章が浮かび上がる。

 

「私達はかつて民を失った……そして私達は荒神になる筈だった」

 

 

「だけど何の因果か、アイツに助けられた。300年………私等はこの土地を見守ってきた。だから情も湧くのさ。アンタ等にゃ、理解できないだろうけどね」

 

 

「何だと!?」

 

 

「我等は誇り高きフェニックス眷族だ!」

 

 

「お前達の様な下等な者達と一緒にするな!」

 

 

「なら………貴女達は私達には勝てない」

 

 神無の言葉に竜巻の檻に捕らわれる3人は反応した。自分達は誇り高きフェニックス一族の眷族悪魔だ。日本の神々は彼らにとっては格下としか見ていないらしい。

 

「神技・龍光」

 

 神無の鏡に浮かんでいた龍の紋章がより一層強くなり、彼女の鏡から光の龍が出現した。

 

【オォォォォォォォ】

 

 光の龍は天高く昇ると竜巻の檻に囚われている3人に向かい落下した。

 

 3人は悲鳴も上げる間もなく退場となった。

 

「うわぁ……神無、アンタ、可愛い顔してやる事、えげつないねぇ」

 

 

「死んでないから……大丈夫……」

 

 神無はそう言うと校舎の方へと戻って行った。

 

「一番怒らしたら怖いのは神無の様な気がしてきた…………」

 

 

「私なんて………未だマシ…………一番怖いのは主様を囲っている時の女神達」

 

 

「‥……………ぁ~確かにあっちの方が万倍怖いな」

 

 神楽は龍牙王に好意を寄せている女神達が彼を挟んで牽制し合っている彼女達を思い出した。皆、目の笑っていない笑顔で互いに牽制しあっている様子………皆、神気全開で周囲の空間が歪んだり、熱気を放ったり、言葉に出来ない程、凄い事になっていた。1人1人が世界を簡単に壊したり、造り替えたりする事ができる存在なので性質が悪い。

 

 当の原因の龍牙王は彼女達の尻に敷かれているので、土地等の被害が出ない限り何も言わないのである。

 

「それにしても…………あの男も面倒な輩を惚れさせるのが得意だねぇ」

 

 

「神楽はきっと………クールで、普段はツンツンだけどふっとした時に優しくしてくれるイケメンに惚れると思う」

 

 

「はぁ?私は男には興味ないんだけど」

 

 

「そのわりにおしゃれの時は大胆……この間もミニs「さっ!早く仕事を終わらせ様じゃないか!」」

 

 そう言って神無を抱えて校舎の方に走っていく顔が真っ赤な神楽。

 

「普段は面倒だとか言ってるのに………そんな神楽も可愛い」

 

 

「何で今日に限ってそんなにお喋りなんだよ!?」

 

 普段は無口な姉が今日はよく喋っているのに突っ込みを入れる妹。

 

「何故でしょう?」

 

 

「もういいから黙ってな!」

 

 姉妹はそう話ながらアーシアの元に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 ~校舎 アーシア陣営 拠点~

 

 アーシアは拠点に用意した祭壇の前に正座して座っていた。

 

「ぅう……まだ感覚が戻りません」

 

 彼女は大掛かりな術の準備をしているのだが、未だに巫女・アイリの頃の感覚が戻らず戸惑っていた。

 

「でも少しでも早く発動させないと………」

 

 彼女は記憶を取り戻した…………だが以前に培った勘等は身体が覚えている物だ。現在のアーシア・アルジェントの身体では簡単な術を行えても、高等な術を行うだけの勘が戻っていないのだ。

 

「ふぅ…………もう少し頑張りましょう」

 

 龍牙王の眷属、そして駒王を守る者達とフェニックス眷属の戦いももう少しで終わる事になるだろう。



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第47巻 纏え、赤き鎧

 ~レーティングゲーム特別空間 校舎前~

 

 桔梗の巫女の力で、ユーベルーナとレイヴェル以外は退場した。

 

 そして同じタイミングで、他の場所でライザー眷属達が退場した事がアナウンスで流れた。

 

 その結果に驚いたレイヴェルとユーベルーナ。

 

「ばっ馬鹿な!?あの娘たちが1人も倒さずにやられるなんて!!?」

 

 

「信じられませんわ?!」

 

 どうやら彼女達は驚きが隠せない様だ。

 

「俺達は毎日死線を駆け抜けて来てんだ!このくらいはこなせずにこの地の守護者が務まるかよ!」

 

 夜叉がそう言う。それもその筈、元々神である神無や神楽は別として、夜叉、桔梗、黒歌、白音はこの地を守る為に血を流すのが当然の修行をこなし、1歩間違えば死ぬ様な戦いをしてきた。

 

 対してライザーの眷属達はレーティングゲームはするものの、命を掛けた戦いをした事など皆無と言っていいだろう。

 

「夜叉。私は霊力が少ない、しばらく動けない」

 

 

「分かった………後は俺に任せとけ。いっs「馬鹿な!」」

 

 校舎の方から大声が聞こえ、校舎から炎が噴き出した。

 

「「「?」」」

 

 そして、校舎から飛び出してきたライザー・フェニックス。

 

「馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!あいつ等がこうも簡単にやられるだと!?たかが人間と妖怪如きに!」

 

 

「悪かったな、人間ごときで………なぁ、桔梗。彼奴が王将なのか?」

 

 

「その通りだ。奴を倒しさえすれば我等の勝ちだ」

 

 

「よしっ」

 

 夜叉は腰に差している護龍牙と闘滅牙を引き抜いた。

 

「あの神といい!貴様等といい!何故俺の邪魔をする!」

 

 

「俺達的にはお前等の政治的なことなんてどうでもいいんだよ。問題は俺達の神に対して牙を向けたからだ。

 

 あの人はずっと俺達を……人々を護ってきた。俺達は守られるだけじゃなく、共に生きる事を選んだ。だからあの人の敵は俺達の………この地に生きる者達全ての敵だ」

 

 夜叉はそう言うと、剣先をライザーに向けた。

 

「くっ……このぉ!」

 

 ライザーの額に血管が浮かびあがり、その表情は怒りのものへと変わった。

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 彼がそう叫ぶと、全身から炎が噴き出した。

 

「たかが!人間ごときがぁぁぁぁぁ!!このライザー・フェニックスに敵だと!?たかが人間が!この俺と同じ位置に立っているつもりかぁぁぁぁ!!!」

 

 

「あちぃな………おい、一誠。お前はどうする?」

 

 

「俺は………俺も戦う!俺もあの人に救われた!恩には報いなきゃな!行くぞ!ドライグ!」

 

 《おう、あの鳥野郎のプライドをズタズタにしてやれ!!!》

 

 一誠の左手に赤き龍(ウェルシュ・ドラゴン)の力を宿した赤龍帝の篭手(ブースデッド・ギア)が出現する。

 

 《Welsh Dragon Over Booster!》

 

 一誠の身体は龍を模した赤い鎧に覆われる。

 

「なっ?!ウェルシュ・ドラゴン……赤龍帝だと?!」

 

 

「まさかあの伝説の赤き龍ですって!?」

 

 

「一体何なんですの?!」

 

 ライザー、ユーベルーナ、レイヴェルが一誠の纏う赤龍帝の鎧に驚いた。

 

 伝説に聞く二天龍………封印され、神滅具(ロンギヌス)となった赤龍帝が目の前に………しかもこんな場で現れる等想像もしなかった。

 

「せっ赤龍帝だろうと、何だろうとこの俺が葬ってやる!!!」

 

 こうして夜叉達とライザー達の戦いが開幕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「うおおぉぉぉぉ!!」

 

 夜叉と一誠が真っ直ぐライザーに向かい突っ込んでいく。ライザーも人間に退く訳にはいかないと言わんばかりに真っ直ぐ突進する。

 

「おおぉぉぉぉぉ!!」

 

 突っ込んでくるライザーを護龍牙と闘滅牙で切り伏せようとする。だがライザーはそれを避けようとしない。

 

(俺には不死の力がある!たかが人間に)

 

 火の鳥、不死鳥と謳われた神獣の力を持つフェニックス家。その血を受け継ぐライザーもまた不死に近い力を持っている。

 

 本当の不死ではないのか?不死ではある………だが彼は不死以前に悪魔なのだ。その枠からは抜ける事は出来ない。

 

「おらぁぁぁぁぁ!」

 

 夜叉はライザーの拳を避けると、闘滅牙でライザーの腕を斬りつけた。

 

「ぐっ!このぉぉぉ!」

 

 

「俺を忘れんなぁぁぁぁ!!!」

 

 《Boost EXPLOSION!》

 

 ライザーが斬られた事で夜叉に注視した隙をついて、一誠がライザーの顔面を殴り飛ばす。

 

「ぐぼぉぉぉぉ!!」

 

 

「「お兄様(ライザー様)!?」」

 

 

「ぐっ………ぐぅぅぅ」

 

 ライザーの顔を炎が包み込み、一誠に殴られた部分を治癒していく。だが此処で違和感を感じた。

 

「腕の傷が………治りにくいだと?!」

 

 夜叉に斬られた個所の傷……瞬時に治ってもいい筈なのだが、未だに治癒されないでいた。腕の傷は30秒程で漸く完治した。

 

「成程………不死って言うのは強ち間違いではないな。闘滅牙との相性は微妙って所か」

 

 闘滅牙は斬った対象を細胞ごと破壊する力を持つ。ライザーの不死の力は破壊された細胞を一から再生させるのに時間が掛かるが、再生できない事はない。

 

「なら護龍牙で……桔梗!」

 

 夜叉の第六感が桔梗に危険が迫っている事を感知した。

 

「!!!」

 

 彼女の足元に魔方陣が浮かび上がる。それはユーベルーナによる爆発の魔法だ。

 

 今の桔梗は大規模な術を使った影響で霊力が殆どなく防御の術がない。回避するにしても、爆風に巻き込まれるのは言うまでもない。

 

「間に合えぇぇぇぇ!!!」

 

 夜叉は護龍牙を全力で桔梗に向かい投げた。

 

 凄まじい早さで護龍牙は飛ぶ。そして桔梗の足元から爆発が起きた。そしてその数秒後、更に爆発が……連鎖爆発である。

 

 恐らく時間差または衝撃が伝わると爆発するような魔法が桔梗の周囲に展開されたのだろう。十数回爆発が起きた後、漸く爆発は収まった。

 

「ふっフハハハハハハッ!良くやった、ユーベルーナ!」

 

 

「フフフ……やはり人間が我等悪魔に勝とうなど…なっ!?」

 

 先程の桔梗の立っていた場所は爆発により黒煙が立ち上っていた。だが何時まで経っても桔梗が退場したと言う放送はなく、黒煙が薄くなっていくとそこから光が漏れだしていた。

 

 煙が消えると、光に包まれた無傷の桔梗の姿があった。

 

「「「なぁ!?」」」

 

 ライザー達は空いた口が塞がらなかった。先程の一撃、これまで戦ってきた相手を防御の上から倒してきた戦法だ。だと言うのに、桔梗は無傷で平然と立っていた。

 

「どうにか間に合ったぜ」

 

 

「助かったぞ夜叉」

 

 桔梗が無傷だった理由は簡単だ、夜叉が投げた護龍牙の力だ。護龍牙は龍牙王の牙から打たれた刀、邪を祓い浄化する。だがその本質は使い手の思いに応え、誰かを護る事だ。

 

 夜叉は先程、桔梗を護る事だけを考えていた。故に護龍牙はそれに応えて桔梗を護る為に結界を張った。その結界は護龍牙が張っただけ在って強固だ。ユーベルーナの1撃の直撃を受けても全く揺らいでいない。

 

 

 

 

 

 

 ~現実世界 会議室~

 

 旧校舎の会議室に魔法によって映し出された夜叉達のゲームの映像…………それを見て魔王達は唖然としている。

 

 ライザーと彼の眷属達は若い悪魔達の中でも有望な者達だ。これまで行ったゲームは10回、その内8回は勝利を収めている。2回は試合的には負けているが、それは一族の御得意様が相手だったので花を持たせただけの事だ。

 

 だが少なくとも多少力を持った人間や、妖怪が相手に一方的にやられる訳がないと思っていた。

 

「馬鹿な……………こんな一方的な」

 

 

「しかも赤龍帝だと!?」

 

 

「此処まで日本の妖怪は強いの?」

 

 

「信じられない………これは夢だ」

 

 四大魔王も信じられないと言う顔をしている。後ろに居るリアスやその眷属、実況をしていたソーナ達さえも同じ様子だ。

 

「ゲームが始まって30分………そろそろか」

 

 龍牙王は映像を見ながら、そう呟く。未だライザー、レイヴェル、ユーベルーナが残っている。だが既に彼には結果が見えている様だ。

 

「まっ未だ結果は分からないわ!これから巻き返せば」

 

 リアスがそう言う。確かに、ユーベルーナの爆発魔法、ライザーやレイヴェルの不死の能力があれば………だが忘れている未だ表に出ていない人物が1人居る事を。

 

「フン………おっ?」

 

 龍牙王の首元に掛っている彼の龍玉が光り始める。

 

「数千年のブランクを30分で取り戻したか…………流石は我が巫女だ。陽牙、陰牙、神社に戻り祝杯の用意をさせておけ。ククク」

 

 

「龍牙王殿、なにを!?」

 

 徐々に龍牙王の龍玉の光が増していくことに悪魔達が声を上げる。

 

「よかろう………存分に使うがいい」

 

 彼はそう言うと、ニヤッと笑みを浮かべた。そしてその笑みが悪魔達にとっては恐怖の対象でしかなかった。



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第48巻 ゲーム終了

 ~特別空間 校舎 アーシア陣営拠点~

 

 教室の中央に設置された祭壇の前に正座するアーシア。その後ろには神無と神楽が居た。

 

「すぅ………はぁ………すぅ……はぁ。では始めます!」

 

 気合いを入れたアーシアは白い毛皮のついた神楽鈴を両手で掲げ、祭壇に向かい言の葉を紡ぎ始めた。

 

「『我等をその大いなる愛により、見守りし龍神に願い奉る。

 

 愛すべき地に、愛すべき民を、生きとし生ける者達を闇へと引き擦り込もうとせし魔を、その光により退け給え。

 

 闇に引きずり込まれし者達にはその光にて照らし給え』」

 

 アーシアは祝詞を紡ぎながら、立ち上がり、扇子を広げて舞を舞い始める。すると、彼女の周囲に光の球が出現し始める。

 

「こりゃ………」

 

 

「全ての厄災を払い、人々の幸を神へと願う【破邪救世の舞】」

 

 

「今じゃ途絶えた神代の舞……懐かしいねぇ」

 

 ―シャラン、シャラン―

 

 アーシアが舞を舞う度、鈴を振る度に、周囲の空気が浄化されていく。

 

 この舞は先程、神無と神楽が言った様に、魔や災いを討ち祓い、人々の幸せを、神へと祈願する舞。

 

 現代では既に忘れ去られてしまった物であり、現在舞えるのは前世の記憶を思い出したアーシアだけだろう。

 

 舞が後半に差し掛かっているのか、彼女の動きが激しくなり、それに呼応するかの様に彼女の周囲の光球は光を増していく。

 

(どうか……皆さんが無事で帰って来ます様に。

 

 龍牙王様……皆さんに御加護を)

 

 アーシアの願いは唯、それだけだった。誰も怪我することがない様に願いを込めて彼女は舞続ける。

 

【よかろう。存分に使うがいい】

 

 龍牙王の声が聞こえてきた。その声を聞いた瞬間、彼女は目を開き神棚の前に座すると両手を合わせた。

 

 ーパァン!ー

 

 手と手がぶつかる音と共に彼女の額に龍牙王の紋章が浮かび上がった。

 

「『祓い給え。清め給え』」

 

 彼女を中心に眩い光が溢れ出し足元には陣が展開し広がり続ける。陣と光はやがて教室全体を、校舎を、学園を、この空間全体を覆い尽した。

 

「【破邪調伏】」

 

 再度手を叩くと、邪を打ち砕き、魔を調伏する光がこの特別空間を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ?!」

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 突如この空間全体に出現した光により、ダメージを負い、そのまま強制退場となった。

 

「これは………」

 

 

「破邪調伏………今や忘れ去られてしまった、太古の巫女の術だ」

 

 

「すっすげぇ………綺麗だ」

 

 空間全体を包む光は温もりを帯びており、とても美しい物で、見る者全てをを魅入らせた。

 

 こうして夜叉達とライザーとその眷属との試合は終わったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現実世界 会議室~

 

「よくやったな。お前達」

 

 龍牙王は戻ってきた彼らに労いの言葉を掛ける。

 

「おう」

 

 

「ただいま戻りました」

 

 

「怪我はないな?」

 

 

「はい、だいじょうb………きゃ」

 

 アーシアが大丈夫だと言おうとするが、何故か何もない所で転んでしまった。それを予想していたらしく、龍牙王は直ぐに自分の尾を伸ばし彼女を掴んだ。

 

「なんで何もない所で転ぶんだい?」

 

 

「ぅう……何故転ぶのでしょう?」

 

 

「こいつは術以外の事は基本鈍くさいんだ。過去最高は1日24回転んだぞ」

 

 

「なっなんでそんなこと覚えているんですかぁ?!」

 

 

「我はお前との事は全部覚えているぞ。子供達と遊んでいる時の事も、間違って毒キノコを食べそうになっていた事も、勿論ねy「きゃあぁぁぁぁぁ!それ以上はダメですぅ!」もがもがっ」

 

 何を言われるのか想像できたアーシアは直ぐに龍牙王の口を塞いだ。

 

 女性陣も言いたい事が分かった様で冷たい目をしている。白音なんか龍牙王の横腹に拳を入れながら、「セクハラ最低です」と言っている。

 

 そんな光景を後ろから暖かい目で見守っている眷族一同。

 

「最後のは一体………」

 

 ゲームの光景を見ていた魔王達が呟く。

 

「破邪救世の舞により我の力を引き出し……破邪調伏にそれを上乗せする【破邪の龍光】。久しく見たが、見事よな」

 

 

「いっいぇ、私なんて………龍牙王様の御力ですし」

 

 アーシアの行った術・破邪の龍光は【破邪救世の舞】により主である龍牙王の力を借り、邪を打ち砕き魔を祓う【破邪調伏】の術を発動する事で広範囲の魔に属する存在を祓う術だ。

 

「ちょ……ちょっと待って、神の力を借りるなんて」

 

 

「はっ反則ではありませんか?」

 

 リアスとソーナがそう呟く。それもそうだ、アーシア陣営とライザー陣営のゲームに龍牙王と言う第三者の力が介入すると言うのは確かに反則とも言える。

 

「反則?アハハハハハハ!」

 

 龍牙王はそれを聞いて笑いを上げる。

 

「戯けた事を言うな。巫女とは神の声を聴き人に知恵を与え、時に神の力を借り邪悪を退ける者…………そのアーシア(巫女)が我の力を借りる事に何か問題があるか?」

 

 

「それは……」

 

 

「フン、何も知らぬ小娘共が………さてと……我が巫女とイチャイチャするのは帰ってから存分にするにして」

 

 龍牙王は土地神としてのスイッチが入ったのか、目が鋭くなり、覇気を纏った。

 

「此方の圧勝だな。さて、悪魔の駒と詳細を書いた書類を渡して貰おう。後、これより日本での悪魔の駒の使用は止めて貰おうか。 

 

 姫島朱乃については3日後の晩、神社にくる様に」

 

 結果、龍牙王側が勝利した。事前に決めていた悪魔の駒のサンプルと詳細を渡す様に龍牙王が言った。

 

「悪魔の駒は我等の中でも最高機密の物なのです。魔王の我等と言えどそう簡単に動かせる物ではないのです。どうか、暫くm「残念ながら待つつもりはない。土足で我の土地に入って来たんだ、それも貴様等との話し合いの後に…………知っていたにしろ、知らなかったにしろ、悪魔(ライザー)がこの地に入った時点で、我と貴様等との戦争なんだよ」ッ!」

 

 

「だが小僧1人とその眷属を消そうと我に益はない故に、取引してやったんだ」

 

 会談の後、魔王達は直ぐに駒王だけではなく、日本全土の悪魔の出入りを禁止の命を出した。だと言うのに悪魔(ライザー)は許可なく龍牙王の地に足を踏み入れた。これは本来で戦争を意味する。龍牙王がライザー達を消し、冥界に乗り込んでもおかしくないにも関わらず、それでは自分に益がない故に悪魔に取引を持ちかけた。

 

「まさかとは思うが………我の力を借りて勝ったのだからゲームは無効だとか言わぬよな?」

 

 龍牙王は魔王達を睨みながら背中に収まっている叢雲牙を鞘から引き抜いていく。

 

「従わぬならばそれでもよいぞ…………その代わり、それだけの代価は支払ってもらう」

 

 彼はそう言うと叢雲牙の剣先をリアス達に向けた。

 

「なっなにを!?」

 

 

「代価を支払って貰うだけのこと………言っておくがこの叢雲牙で殺された者は黄泉の亡者へと落ちる事になる。いや……此処は魂を叢雲牙に喰わせるのもよいか」

 

 叢雲牙の刀身が紫色の光を帯び、その妖気から2匹の黒い地獄の龍が出現した。地獄の龍はリアスとソーナに絡み付くとその口を開き、2人を喰らおうとする。

 

 リアスとソーナは抵抗するどころか、恐怖で身が竦み動けなくなっていた。

 

「わっ分かりました!直ぐに用意しますので、1週間……いぇ、数日で結構ですので時間を頂き………下さい!」

 

 四大魔王が揃って土下座する。今此処で龍牙王の許しを得る為には魔王としてのプライドなど捨てて彼に懇願するしかない。

 

「…………言っておくが神前で言った事は守って貰うぞ。今此処でお前等を消しても此方に益はない故に、1週間の刻をやろ。だが守らぬ場合は……」

 

 彼は叢雲牙に自身の妖力を流し、リアスとソーナに絡み付いている地獄の龍に指示を出し、彼女達の腕に噛みつかせる。

 

「「!?」」

 

 

「「なっなにを!?」」

 

 リアスとソーナの兄と姉であるサーゼクスとセラフォルーが声を上げる。

 

「痛みはない………唯、刻印を刻むだけのこと」

 

 龍牙王がそう言うと、霧散する様に地獄の龍は消えた。

 

「リアス!怪我は!?」

 

 

「ソーナちゃん!大丈夫?!」

 

 

「えっ………はい。特に痛みは」

 

 

「なかったです、お姉さま」

 

 それを聞いて安堵するシスコン魔王達。しかし先程の龍牙王は言った「刻印を刻む」と、それを思い出し魔王達は妹達の腕を見る。そこには黒い龍の刻印がされていた。

 

「これは……」

 

 

「地獄の刻印、万が一貴様等が約束を守らなかった場合は…………その刻印よりこの小娘達は強烈な痛みと苦しみが襲い死ぬ。死後、その魂は叢雲牙に喰われ未来永劫苦しみ続けるだろう」

 

 

「なぁ……何でソーナちゃんにそんなことを!?」

 

 

「そっそうだ!リアスだって関係ない筈だ!何故私達でなくこの子達に!?」

 

 ソーナとリアスが何故そんな目に合うのか理解出来なかった。

 

「何故?可笑しなことを……我は事前に条件を出していた筈だ。ならば勝敗が分からぬにしろ、準備しておくのは当然の筈だが……貴様等はそれを怠った。それともあの小僧が負ける可能性はないと………相手は所詮人間と妖怪だから大丈夫だと考えていたか?」

 

 

「そっそんなことは……」

 

 

「まぁ貴様等が何を考えようが構わん。加えて、貴様等悪魔に苦しめられた者達の気持ちを知るがいい。

 

 それと我を侮ればどうなるか覚えておけ」

 

 龍牙王の神気と妖気がこの室内に満ちる。

 

 その圧倒的な力にリアスやソーナ、その眷属達、そして魔王達でさえも龍牙王の事を【化物】だと思った。

 

 リアスとソーナ、その眷属達は震え、腰を抜かす者さえいる。魔王達もなんとか踏ん張っているが、その手足は震えていた。龍牙王はそれを見ると、直ぐに力を納めた。

 

「貴様等が約束を守るのであれば、その刻印は消してやろう」

 

 

「くっ……」

 

 魔王達は思う、そんな事を言っているが、悪魔嫌いの龍牙王が本当に約束を守るのだろうかと。

 

「言っておくが、我は貴様等の様に約束をたがえる事はない」

 

 ―ドタッドタッ―

 

 外から誰かが駆けてくる音がする。

 

「慌しい」

 

 扉が開き、包帯を巻いた男が入ってきた。

 

「ぜぇぜぇ………なんだ………何なんだ!?貴様等は?!唯の一撃で俺達を倒すなど在って堪るかぁぁ!!どんな手を使った?!」

 

 どうやらライザーは先程のゲームの結果が不服であり、何か不正を働いたのだと思った様だ。

 

「はぁ………五月蝿い小僧だ。魔王共、そういう訳だ。その小娘たちの命が惜しいなら制約は守ることだ」

 

 彼はそう言うと、皆を連れて神社へと帰ろうとするがその前にライザーが立ち塞がる。

 

「貴様ぁぁぁ!この俺を無視するとはいい度胸だ!この俺が本気を出せば極東のかm「ダァァァァァリィィン!」ぶへぇ!?」

 

 ライザーの上に穴が開き、そこから女性が降りてきて、彼を踏みつけ………踏み潰した。

 

「げっ……」

 

 

「げっ……って何よ!折角、可愛い奥さんが通ってきたのにぃ!」

 

 頬を膨らませて文句を言う女性。

 

「あのなぁ………仕事は?」

 

 

「私は家庭と仕事はちゃんと両立する女よ!姉さんと違って引き籠ったりしないし!私生活もあんなにもだらしなくないもの!」

 

 

「それは………うん………まぁ………置いといて。そんなのアイツに聞かれたらまた姉妹喧嘩が始まりそうだから止めとけ。それで本当に何しに来た………終わった所だが、因みに此処は悪魔共との取引の場なのだが」

 

 

「あれ?…………アレって月が満ちた時じゃ?」

 

 

「それは蓬莱郷に行く日だが?」

 

 

「…………てへっ、間違えちゃった」

 

 

「月読………歳を考えr「ダーリンでも、言って良い事と悪い事があるわよ?」我が悪かった」

 

 そう言いながら笑う高天原の頂点に立つ3人の1人、月の神・月読。勿論、目は笑っていない。どんな慈悲深い女神でも年齢と体重の事は言っては駄目らしい。

 

「つっ月読!?」

 

 

「日本神話の頂点の1人………」

 

 魔王達が月読の名を聞き、騒ぎ出す。

 

「正確には日本の神道神話体系よ。ねぇ、ダーリン、そこにいる魔王って輩かしら?」

 

 

「あぁ」

 

 

「ふぅん、丁度良かったわ。私もコイツ等に言いたい事があったし」

 

 

「このぉ………ぐっ!」

 

 月読はライザーを踏みつけ魔王達の前まで歩いて行く。きっとワザとヒールに力を入れたのは気の所為じゃないかな。

 

「アンタ達の作った悪魔の駒の所為でどれだけの人間(子供達)や妖怪達が苦しんでると思ってるのよ」

 

 魔王達を睨み付け、彼等を神気を放ち威圧する。彼女の神気は龍牙王のそれに引けを取らない物で、魔王や後ろにいるリアス達は押し潰される様な感覚に襲われる。

 

「それは……まことに」

 

 

「アンタ達に親を、子を、同胞(はらから)を、友を奪われた気持ちは分かる?

 

 分かる訳ないわよね、分かるなら止めるだろうし、悪魔の駒の使用は中止させる筈よね。聞いた私がバカだったわ。

 

 此処で消しちゃう方が、この日の国の為になるわよね」

 

 月読はそう言うと、放っている神気が一層強くなる。

 

 聖書でも神と同じ天の座へと立とうした人間達に雷が降り注ぎ、統一言語を失ったとされる。日本で在っても神の怒りを買った者は崇りを受けた。

 

「あぁ……でも私の独断で殺ッちゃったら後々面倒かなぁ?まぁ、姉さんもスーちゃんも反対しないわy「何勝手にやろうとしてんだ、こらっ!」ぴぎゃ!」

 

 龍牙王は叢雲牙を鞘に仕舞った状態で月読の頭を叩いた。

 

「いったぁ~い!ダーリン!乙女の身体が傷付いたらどうするのよ!あっでも……もぅダーリンには傷だらけにされてるし」

 

 

「少し黙ってなさい」

 

 龍牙王は自分の尻尾の1本でで月読をグルグル巻きにした。

 

「もがっもがっ………ダーリン、人前z「そう言えば天照がデータが消えたとか騒いでたな。誰の仕業だろうな」ぴゅ~ぴゅ~。つっきー、お口チャックします」

 

 どうやら月読の弱みを握っているらしく、口に手を当てて黙る事にした様だ。

 

「全く………天照()といい、月読(此奴)といい、素戔嗚()といい、なんでこうも暴走するかねぇ。まぁ、それは置いといて…………。

 

 1週間以内に悪魔の駒と詳細を書いた書類を用意して貰おう。勿論分かっているだろうが、悪魔の駒の使用も禁止だ。もし禁止しなかった場合は………」

 

 龍牙王の持つ叢雲牙の宝玉が怪しい光を放つ。それに呼応するかの様に、リアスとソーナについた刻印も同じ光を放ち始める。

 

「うっ!……ぐぅ」

 

 

「いっ!」

 

 リアスとソーナは刻印を抑えて蹲ってしまった。

 

「リアス!?」

 

 

「ソーナちゃん!?」

 

 

「その小娘共の命は我が手中にある事を忘れるな」

 

 龍牙王がそう言うと、叢雲牙の光は消え、同時にリアス達の刻印の光も消えた。彼は叢雲牙を背中へと仕舞い、身を翻し扉の方へと歩き出す。

 

「姫島朱乃、君は3日後の社に来る様に…………ほらっ帰るぞ」

 

 

「ぁ~ん、ダーリン、抱っこ~」

 

 

「自分で歩け。子供かお前は?」

 

 龍牙王の尻尾に包まれたまま、引き摺られている月読。

 

「ほらっお前達も帰るぞ」

 

 

「「「「「はい(うぃす)」」」」」

 

 突如、風が吹き龍牙王達の姿が消えた。

 

 こうしてライザー達とのゲームは終了した。




・破邪救世の舞

現代では既に失われた神へ捧げる舞。厄災を祓い人々の幸せを願う為の舞であるが、同時に神を身に降ろしその力を行使する事ができる。


・破邪の龍光

アーシア(アイリ)が龍牙王の力を身に降ろして発動する巫女の術。

発動には破邪救世の舞を行い龍牙王の力を身に降ろす必要があるので発動までに少し時間が掛かる。

発動すると、アーシアの額に龍牙王の紋章が浮かび上がり、足元には陣が展開し拡大する。最後に手を叩く事で、陣から魔を調伏する光が溢れ出す。

魔に属する者にとっては致命的な攻撃手段である。


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第49巻 祝勝会

明けましておめでとうございます。

PCの調子が悪かったのと、仕事が忙しかったので更新できませんでした。

何とか完成したので投稿します。今回はタイトル通り、ゲーム後の祝勝会です。


~龍王神社 神殿内~

 

「と言う訳でお疲れ様。今日は好きなだけ飲んで、喰え!」

 

 

「龍牙王様、労ってくれるのはありがたく思います…………しかし私達は明日は学校なんですが」

 

龍牙王が夜叉達を労い、宴会を開いた。参加しているのは主役の夜叉や一誠達は勿論、数多くの龍牙王の眷属達も参加していた。

 

宴を開いたのはいいのだが明日は平日………神である龍牙王は行っているが、絶対的に行く必要はない。だが夜叉達にとっては大切な学業なのである。

 

「大丈夫だ!我の力で誤魔化しておいてやる!」

 

神の言葉とは思えない発言である。

 

「そうそう、桔梗。兄貴もこう言っているし偶にはいいじゃねぇか」

 

 

「夜叉まで………はぁ」

 

呆れた様子で溜息を吐く桔梗。

 

「大体、桔梗は真面目が過ぎる。偶には息を抜く事も必要だぞ、お前の様に家以外で気を張っていたら疲れるだろう………流石に酒を飲めとは言わんから、飯食って、寝て、明日はゆっくり休め」

 

 

「そうよ、桔梗ちゃんは真面目過ぎるわよぉ………偶には遊んだりしないと!守護者の仕事も大切だけど、青春はこの一時しかないんだから!特に人間である貴女達は寿命が短いんだし!恋は………まぁ相手は決まってるから置いといて……青春を謳歌しないと!」

 

 

「ぶっ!げほっ!げほっ!」

 

龍牙王と月読がそう言いニヤッとしながら夜叉を見る、それに気付いた桔梗は少し顔を赤くし俯き、夜叉は飲んでいたドリンクを吹きだし咳込んでいる。

 

「コホン………分かりました。ですが、明日だけですからね」

 

桔梗は確かに自分も疲れが残っており、体力も霊力も回復していない。無理して行けば回復は遅れ、万が一の場合に動けない可能性がある。ならば龍牙王の言う通り、休息を取り回復に努めるようだ。

 

「それでよしっ………ほれっ!一誠!お前も喰え!飲め!」

 

 

「あっ……はい、頂きます。でも酒は飲めませんよ」

 

 

「当たり前だ。儀式なら兎も角、こういう場あっても未成年に酒を飲ませるか………ジュースで我慢しろ。酒は二十歳からだ、まぁ昔ならもっと若くから飲んでいたがな」

 

 

「なっ成程………頂きます」

 

龍牙王に注がれたジュースを飲む一誠。

 

「一誠も初めての戦闘にしては中々に動けてたし、禁手も未完成とは言え使えていた。人の子の成長は早いものだ」

 

 

「そうよね、本当に子供達の成長って早いわね」

 

と龍牙王と月読は夜叉や桔梗、一誠を見る。

 

 

「ダーリン、子供がh」

 

龍牙王はこれから月読が何を言うかを気付いた為に、直ぐに彼女を自分の尾でグルグル巻きにした。

 

「全く昔からお前は酒が入るとそっち方面に話を持って行こうとする………はぁ、祝いの席では控えろ」

 

 

「あっあの龍王様……どうしたら彼女が出来るんでしょうか!?」

 

と一誠が聞いてきた。

 

「一誠は恋人が欲しいのか……お前の毎年の初詣の願いは今年こそ彼女欲しいとかだったな」

 

 

「はい……そう言えばその節は自分勝手な願いばかり言って申し訳ありませんでした」

 

一誠は神を目の前にして、去年までの自分が勝手な願いをしている事を思いだし龍牙王に謝罪する。

 

「いやいや、人間誰しもそう言う時期はあるしな……何故に我に聞く?普通そう言うのは友達等に聞くものだろう?」

 

 

「友達は松田とか元浜で俺を含めてモテないですし、この間、神器の修行に付き合ってくれたアザゼル先生に聞いたら『俺が教えてやってもいいが……俺の色恋はお前さんには刺激が強すぎるだろうしな。此処は龍牙王に聞きな、何せアイツは色んな女に好かれてるからな』と言ってました」

 

 

「まるで我が女遊びをしているみたいな言い方だな。アザゼルは後で締めるとして……………フム」

 

龍牙王は何かを考えていると口を開いた。

 

「第一に女の前で下ネタ発言はしない事だ。後、彼女が出来たら彼女の前で他の女の話はするな。死にたくないなら絶対にな」

 

 

「えっ?」

 

 

「特にそれが力を持った女なら尚更だ。力を持った女は孤独な事が多い……月読(こいつ)天照()がいい例だ。こいつらの前で他の女の話をしてみろ、次の日は足腰が立たなくなるくらいボロボロにされる。色んな意m…がふっ」

 

月読は龍牙王が言い終わる前に、彼の後ろから抱きつき彼を締め付けた。

 

「あらぁ、ダーリン。まるで私達が悪いみたいじゃない。そもそも優柔不断なダーリンが悪いんじゃないかしら?ダーリンが私を選んでくれてたら、姉さんにも、他の女にも手を出させないのに」

 

段々と月読の声のトーンが下がり、腕の力も上がっていく。

 

「むぅぅぅ……」

 

アーシアも涙目になって、横から彼の胴を絞め始めた。効いているかどうかは龍牙王(本人)のみぞ知るである。

 

「とまぁ、こんな感じになる……」

 

 

「そっ…そうなんですか」

 

一誠は若干引きながらそう答える。

 

「坊や、彼女がほしいならダーリンの言った事は守りなさいな」

 

と月読が声を掛けてきた。

 

「はっはい」

 

 

「私達の場合はダーリンがこんなんだし、私達自身ちゃんと平等に愛してくれるならと言う条件で許してるだけ。でも坊やの恋人となる娘がそうとは限らないわ。それに現代の日ノ本じゃ、一夫一妻だからね。

 

恋人を作っても他の女の子を見ちゃ駄目よ。後、ちゃんと自分の気持ちは言葉や行動で伝える事。女の子はそうして貰わないと不安で不安で堪らないのよ。

 

男として、女の子の気持ちに気付いてあげてね」

 

と途中から月読女神による恋愛講座が始まった。

 

女性陣はそれを興味津々に聞き、一誠もそれを聞いていた。

 

「とは言うものの……男は基本、獣よ。家のダーリンみたいに甲斐性があるなら未だしも……甲斐性があろうと許せないけど、女の子を弄ぶ男は最低よ。

 

覗きとかも論外ね」

 

そう月読が言うと皆の視線が龍牙王と一誠に突き刺さる。

 

「まぁ……うん、でもね、誰か1人なんて決められないし、1人を選んだらそれこそ各神話体系が戦争しそうだし……ある意味、世界の平和w…いたっ!こらっ月読、尻尾の毛をむしるな!まじで痛いから!すまん!我が優柔不断なのが悪かった!アーシアまで、いたっ!黒歌と白音まで、何故に?!」

 

 

「覗きについては反省してます、絶対今後しませんので許して下さい!」

 

龍牙王はアーシアや月読達に尻尾をむしられ始めた。まぁ、自分の優柔不断を女達の所為にしたのが悪いのである。

 

一誠は覗きに関して、反省し今後は一切しないと誓った。

 

「ハハハハハハ、賑やかでいいですな」

 

 

「相変わらず、我等が主はモテますなぁ、羨ましい限りだ!」

 

 

「まったくだ、1度でいいからあんな美女、美少女に囲まれてみたいもんだ!」

 

 

「へぇ……貴方にそんな甲斐性があるのかしらねぇ、それに妻の前で堂々と浮気したいなんて……今夜から外で寝て下さいね」

 

 

「悪かった、母ちゃん!俺は母ちゃん一筋でだな、しかし男としては憧れと言うか」

 

 

「女の尻を追いかけて川に落ちたり、していた一誠がな」

 

 

「覗きや問題発言ばかりしていた問題児だった一誠君が、龍王様のお役にたてる時がくるなんて……長い教師人生の中でこれ程、

嬉しい事はありせん」

 

眷属達もそれぞれ、この祝勝会で楽しんでいた。

 

「ふぅ……それにしても」

 

一誠は月読の恋愛口座が終わり席に戻ると辺りを見回した。

 

龍牙王の眷属達……その中には自分が知っている大工の棟梁や肉屋の親父、八百屋の夫婦、近くに住む老人、小学、中学、そして現在の駒王学園の教師までいた。

 

「よぅ、一誠……楽しんでるか?」

 

と飲み物を持って近付いてきた夜叉。

 

「あぁ、それにしても……顔見知りの殆どが妖怪とは本当に驚いた。しかも小学校の時とかの担任まで」

 

 

「まぁな……今日は参加してないけど、市長とか、市営病院の医院長とか、近くの病院の先生とかもだぞ」

 

 

「えっ、マジか~……街の半分は妖怪だったりして」

 

「正確にはこの街の人口の四分の一だけどな」

 

 

「結構多いんだな……」

 

 

「他の街でも結構いるらしいぞ。土地神がコンビニ経営してたり、緑のおじさんしてたり、俳優やってたりするらしい」

 

 

「えっ、神様がコンビニ経営?緑のおじさん?俳優?」

 

夜叉から神が色々な職業をしていることに驚く一誠。

 

「それで驚いてどうする、家の神なんか高校生してるんだぞ」

 

一誠は夜叉にそう言われ、龍牙王を見て納得した。

 

 

ー数時間が経過ー

 

「よぉし……そろそろ、御開きにするか」

 

 

「そうねぇ、流石に子供達も疲れてるみたいだしそろそろ御開きにしましょうか」

 

祝勝会が始まって数時間が経過し、龍牙王はそう言い周りを見回した。半分程の眷属達は酔い潰れたり寝落ちしていた。

 

夜叉や桔梗、一誠達も疲れているのか眠そうにしている。

 

龍牙王と月読の後ろには大きな酒樽が幾つも積み上がっており、2人はまだ平気そうではあるが流石に自分達に他の者達を付き合せるのも悪いと思ったらしい。

 

「と言う訳でそろそろ御開きにしよう、自力で寝床に行ける者は行きなさい。大丈夫な者は潰れている奴等を連れて帰る様に」

 

 

「私達は少し片付けしましょうか、ダーリン」

 

 

「そうしようか」

 

酔い潰れてない者達は酔い潰れた者達を言えに送り届け、龍牙王も一誠を含む数名を自宅に送り届け、先に片付けをしていた夜叉と桔梗を部屋へ戻らせると、月読とまだ残っていた黒歌と白音、アーシア達と神殿を片付けた。

 

「はい」

 

 

「ありがとう……」

 

龍牙王と月読は片付けを一通り終えると、2人だけで酒を飲んでいた。黒歌と白音は龍牙王の尾に包まり眠っており、アーシアは彼に凭れ掛かり眠っていた。

 

「ふぅ………一段落だな」

 

 

「そうねぇ………それでダーリン、悪魔共の駒なんて要求してどうするの?」

 

 

「アレを調べれば転生悪魔を殺さずに元に戻す方法が分かると思ってな………今まで会った転生悪魔の末路は酷いものだったからな。どうにかできないものかと思ってな」

 

 

「確かにあの末路は悲惨ね……力に溺れた果てに狂ってしまう。憎い者も大切な者も分からずに壊してしまう、悲しすぎるわよね」

 

 

「まぁ、そう言うことだ………それはそうとさっきからその手に持ってる酒はなんだ?加えてその小瓶は?」

 

龍牙王は先程から自分が飲んでいる盃に注がれている酒を見た。酒瓶のラベルには【龍殺し】と書いており、小瓶には【これで男は狼に】………つまりはアレな薬である。

 

「油断も隙もない。お前は我にそんなものを飲ませて何をする気だ?」

 

 

「なにって………ナニに決まってるじゃない!」

 

 

「堂々と言うな………はぁ、その辺りは変わらんな。まぁいい…………何時もの事だしな」

 

彼はそう言うと盃に入った酒を飲み干した。

 

こうして、祝勝会は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドクッ……ドクッ……ドクッ―

 

真っ暗な空間で獣が居り、その瞳を開く。するとある衝動に駆られた………全てを壊したいと言う破壊衝動に。だが直ぐに巨大な力により、獣は眠りにつかされた。

 

そして獣は夢に見る。己と、己より幼く脆い1人の人間の少女が居り、少女が己に笑い掛けてくる。それだけ……それだけの事だが、獣はそれで心を満たされた。

 

故に獣は願う、例えこれが夢幻であっても、この夢がずっと続いてくれる事を……。



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