この素晴らしいゆんゆんの幼馴染になってイチャイチャしたいだけの人生だった (孤高の牛)
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第一話「起きたらそこはおっぱいだった」
あと、今回は出ません
ゆんゆんのおっぱいに顔を埋めたいだけの人生だった
起きたら何故か素晴らしきおっぱいに挟まれていた。
うん、これは凄い。今まで幾人のアイドルを前世で撮影してきたが三次元内……いや、妄想内のおっぱいランキングを合わせても間違いなく一位だろう、最早形やその人の容姿さえも確認せずともその人となりが大体は分かってくる。
そしてこの形や感覚は……実際に体験した事が無い……待て、これは俺がずっと昔毎夜毎夜ひたすら妄想していた感覚に酷似しているじゃないか。
いや、それを遥かに超越する感触と弾力の素晴しさ。
そう、それはまるでプリンやマシュマロの如く弾力があり、それでいて強く触れば今にも壊れてしまうのではないか、そう思ってしまうくらい柔らかくて、優しい感触。
何より俺の耳元から断続的に聞こえる甘美な嬌声と、これまたほんのり温かく甘い、短め且つ断続的に耳元にかかる吐息。
さて、それはそうとして問題は俺の知り合いにここまで素晴らしいお餅をお持ちになった方がいるかと言う話だが。
寝ぼけた頭で思考……しない内に一瞬で検討から確信まで、まるでスーパーコンピューターの如く終わらせた。
俺は一つ息を吸い、今生との別れを告げる言葉を紡ぐ。
「ありがとうゆんゆん、そしてフォーエbぶげらっ!?」
「らんらんのヘンターーーーーーーーーーーイ!!」
「そんなー……」
嗚呼、美しきかな我が桃源郷。
この素晴らしいゆんゆんに祝福を……グェッ。
「す、すいませんすいませんごめんなさいごめんなさいっ!」
「えぇ……いや、本当に謝るべきは俺の方なんだけど」
「それでも、あれは流石にやり過ぎでした! もしかしたらそのせいでらんらんに怪我や、もしもの事があったら私、私は……後を追いますっ!」
「いやいや俺紅魔族だから! そう簡単には死なないし、てか後追い自殺とか物騒と言うか洒落になんないから止めて!?」
紅魔の里、その一際大きな家に俺は住んでいる、と言うか住まわせてもらっている。
俺に今の世界で親はいない。
まあ、俺があのポンコツ可愛い女神様に頼んで、親無しで紅魔の里の長の家の前に、赤ン坊の姿から再スタートさせてくれと言った結果なんだがな。
そしてその長の家と言うのが正真正銘、正しくここである。
つまり、今俺と話しているこのゆんゆんと言うこの世の英知の結晶みたいな美少女は、後のこの里の長になると言う事だ。
んで、ゆんゆんの両親が今の俺の親代わりだ。
ところで、何で俺がわざわざ長の家の前に放置されて拾われてくださいみたいな展開を望んだかと言えば、それは権力を望んだ訳でも無く、楽な暮らしを望んだ訳でも無く、ただひとえにゆんゆんと言う少女を幼少の頃から支えてあげたいと、一途にそう思ったからだ。
前世の世界ではやけにあっさりぽっきり死んでしまったみたいだが、今回ばかりはゴキブリ並の生命力と蚊並の鬱陶しさとしつこさと執念で、何としてでもゆんゆんとハッピーエンドを向かえたいのだ。
前世でこの世界が舞台の小説やアニメを見ていても、この子の幼少期は見ていてどうしても自分の幼少期と重なる部分が見えてしまったのがその思考の発端だ。
……と、そう言った話はまた後でするとして。
「そ、それでもやっぱり謝らない訳には行きません! 紅魔族の魔法は危険なものが多いんですから! 何かお詫びをさせてください!」
「お詫びって言われてもなぁ。俺達赤ン坊の頃からの付き合いなんだし、さっきの俺くらい不味い事しない限り謝ってはいおしまい、それで良くない? と言いますかお詫びなら俺が今すぐしないといけないんですがね……」
ところで、さっきのおっぱい事件だがあれは自分で弁解するのもどうかとは思うが、一応故意でなかった事は確かだ。
二人で呑気に昼寝をしていて、先に起きたゆんゆんがボーッとしている隙に一体俺は何の夢を見ていたのやら、おもむろにゆんゆんの胸目掛けてダイビングし、あの冒頭へと戻る、と言うのが事故の真相。
しかしこの状況、どう丸く収めるか……
「うぅ……」
特にゆんゆんは人一倍優しくて気遣いが出来る分、人一倍罪悪感に
こっちが別に良いと言っても、それじゃあゆんゆんの精神的に逆に負担が掛かってしまう。
今回ダメ元で言ってみた訳だが、自分のワガママを我慢するゆんゆんは泣きそうになってる訳でして。
取り敢えず今回言ってみて分かったのは、もう二度とそれは言わない、そう誓わないといけないと確信した事のみである。
あの泣き顔は心が折れる、生きた心地がしない。
主に100%ゆんゆんが可哀想過ぎて。
「んー……それじゃあ、俺はゆんゆんのお胸を揉んでしまった、ゆんゆんは思わず吹き飛ばしてしまった、それでお相子って事には出来ね?」
「むぅ、ですがそれではらんらんの方が損してる気がします」
「本当君自分のお胸もっと大切にしなさいな、俺が言うのもどうかとは思うが。自己犠牲が過ぎると心配になるぞ。後ゆんゆんのお胸触って軽傷なら寧ろ得してる……ってああ違う違う今のは物の例えだから! 気にしないで! 絶対気にしちゃうかも知れないけど気にしないで!」
つい本音が口から漏れてしまった。
まあそれもこれも全てはゆんゆんが可愛すぎるのがいけないのだ。
可愛いは正義と良く言われるが、それはとんでもない大嘘なのである。
実際のところ可愛いの塊たるゆんゆんと十数年生きてきて、可愛いは正義ではなく罪なのだと確信した。
「わ、わわわわわわわ私の胸で得した、だなんて……よkゴホンゴホンハレンチです!」
その話は置いておくとして、ゆんゆんもちょいちょい本音漏れかかってるんだよなあ。
だがそれが良い。
ゆんゆん可愛いよゆんゆん。
……とは言うものの、こんなイチャイチャ……俺視点からの話だが、していても恋人同士かと言われれば、答えはノーだ。
ゆんゆんは正規の、原作に置ける話では親しい友達は愚か同年代で多少でも話せる子なんてカズマ御一行と遭遇する前まではギリギリめぐみんくらいなものだった、と記憶している。
そこに俺が介入した形になっているが、俺の事を一人の男として見ているのは先程の一連の流れを見ていれば分かるだろう。
だが問題はここからだ。
果たしてゆんゆんに、俺に対する恋愛感情があるかという話だ。
ゆんゆんは話す人間……と言うか動植物すら殆どいない為、仲の良い人間に対して依存気味になっている傾向にある。
勿論元の性格はちゃんと残っている上、自信過剰かも知れないが原作と比べても今の方が強くなっている気がする。
しかしその反動か俺がいないと、めぐみんがいても一時間もたたない内に大変な事になる。
例えば幼児退行だったり、軽い発作だったり、死んだ魚みたいになってたり、魔王軍の手下やモンスターが数人ゆんゆんの周りで瀕死になってたりと最後を除けば非常に胃に悪い。
それでだ。
それは恋愛感情なのか、はたまた否なのか俺には見当が付かず、この関係を下手に壊したくないと言う臆病者気質な心持ちも相まって此方から告白するのが難しい状態になっているのだ。
「あ、それじゃあこれから甘味処に行こうと思ってたし、そこでなんか奢ってくれれば良いよ」
とまあ長い事考察している間もずっとうんうん唸ってるゆんゆんが可哀想なので何とか落ち着け処を見つける。
落ち着け処は鉄板の『奢り』だ。
「そ、それで良いんですか? もっといつも頼めない様な事とか、良いんですよ? 例えば私にしてほしい事とか、何だってしますよ?」
「女の子が軽々しく『何だってする』なんて使わない。そんな事言い出したら里の中なら大丈夫だろうけど、外出たら変な男に引っ掛けられるぞ。あと、ゆんゆんは側にいてくれるだけで良いんだ、ホッとするから」
「そ、側にいてくれるだけで幸せ……ふへへ……らんらんに私と一緒にいると幸せだ、なんて言われちゃった……言われちゃった……嬉しいっ」
この子は何を曲解して聞いてしまったのか知らないが、強ちと言うか全く持ってその通りだから訂正はしない。
と言うかその呆れるくらい幸せそうな惚けた顔見てると、恥ずかしいけどこっちまで嬉しくなってくるし何より萌える、萌える。
大事な事なので二回言った。
「ほら、それより丁度良いくらいの陽射しになってきたし、甘味処行くぞー」
「……はっ、そうでした! ええと、お財布おっけー、ハンカチおっけー、よしっ。それじゃあ行きましょうか」
行きましょうかと言いつつ俺に手を差し出してくるゆんゆん。
あれか、手を繋げと申されるか。
いや確かにたまにこうして催促されて繋ぐ事あるけどさ、考えてみれば恋人でもないのに繋ぐってかなり恥ずかしい事だと思うのよ。
嬉しいんだけどね、飛び上がりたいくらい嬉しいのは嬉しいんだ。
って語彙が貧弱になってしまったが、それくらいには思ってはいるのだが恥ずかしくて仕方ないのも事実なのである。
「……やっぱ手、繋ぐの?」
「……ダメ?」
「………………繋ごっか」
しかし、どう足掻いても涙目と上目遣いの最強コンボには勝てない俺なのであった。
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第二話「甘やかしてしまう、そんな性」
そう思うとやっぱ紅魔の里ってすげえわ(小学生並の感想)
あと二日足らずでお気に入り50とかUA1500とか初めてそんな高い評価いただきましたわ
あれから十分もしない内に甘味処に着いたが、いつもの如く道中冷やかしばかりにあった。
お似合いカップルだの若夫婦だの、挙げ句の果てに涙脆い爺さんは『これで紅魔の里もまだまだ安泰じゃ!』なんて言いながら号泣する始末。
因みに先程『いつもの如く』と書いた通りこれは日常茶飯事である。
そして日常茶飯事と言えばもう一つ。
「今日も奢ってくれるんですか!? ゴチになります!」
「オイコラ何勝手に決めてんだよ……まあ、良いけど」
「わーい!」
「もう、めぐみんったら……」
この明らかにロリコンが好みそうなワガママロリっ子はめぐみん。
ゆんゆんと話してくれる唯一の友達みたいな存在だから、俺としてもめぐみんの存在は有り難いしコイツ自身こんなアホみたいな言動だが悪いやつでは決してない。
そもそもこんなカオスと中二病の固まりみたいなこの里に悪い人間なんているのかって話だがな。
しかしめぐみんはこれで頭の良さと魔法の最大火力は世界中でも屈指のエリート民族と呼ばれるここ紅魔の里内でも更にエリート、大人の中にはめぐみんより頭が良かったり強かったりする人間もいるが同年代で勝負になるのはゆんゆんくらいだろう。
そのゆんゆんですら未だに勝ち星を挙げられていないが。
ただ、普通にエリートと思いきや弱点も多いが。
しかも予想範囲外の出来事に滅法弱い事、一日一回撃てばそれだけでその日は使いものにならなくなるくらいの魔力を消費する、奥の手と呼ばれる爆裂魔法にまさかの特化をしてしまった為にめぐみん自体が一日一回しか使えないという、端から見たら超ハイスペック産廃みたいな事になってしまっている。
だが、ちゃんとしたパーティーに入る事が出来たなら報酬は要らない、衣食住と爆裂魔法を容認してくれるならタダで雇われても良いと話している事から、里を出ればもしかしたら強いパーティーと巡り会えるかも知れない。
……まあ、俺が時間と共に風化していった為に原作の内容をもう殆んど覚えてないとは言え、コイツの永久就職先(仮)になるパーティー、もといカズマとアクアのコンビと出会い、ダクネス達とも出会う運命なのは忘れてはいないから、極力心配は要らないだろう。
と言うかその運命にする為に、細心の注意を払って行動したんだがな。
と、話が脱線したがコイツの家は非常に貧乏であり、こうして遭遇すると飯や甘味を集られる。
本来ならいくら貧乏だとしても多少は断りたいところだが、やはり原作通り、コイツにもこれと言って親しい友人がゆんゆんだけと言う現状を知ってしまっているだけについ許してしまう。
コイツも頭は切れるから、本当は自制出来る思考を持っているはずではあるのだが、年相応の甘えたい気持ちやら友人のいない寂しさやらで感情をコントロールする事がイマイチ難しいのだろう。
俺も昔は本当にゆんゆんやめぐみんと似た……いや、ここはまだ周りが生けるギャグみたいな里だからかなりマシだが、俺が前世でこれくらいの年齢だった時はあまりにも悲惨だった。
だからこうして楽しく青春を過ごせているという事実を、少しでも多く幸せな時間をゆんゆんとめぐみんに与えたいという願望を持ってしまっている故に、集られると非常に弱い。
人の心を弄びやがって、コンチクショーめが。
「ほれ、めぐみんはいつものあんみつで良いな?」
「奢ってもらえるんですから文句は何一つ無いです!」
「素直にそう言えるのはお前の良いとこだよな」
安物という訳でもないが、何故かめぐみんには毎回あんみつを奢っている。
何で安くもないあんみつを毎回奢ってるのか、あまり覚えてないが多分こうして素直にお礼が言えたり、根はしっかり良い奴だからだろう。
「ゆんゆんは……季節限定ハイパーデラックスぜんざいパフェにするのか?」
「うぇっ!? な、何で分かったんですか!?」
「何でも何も、そこだけメニュー凝視してたし」
「う、うぐ……らんらんは何でもお見通しなんですね……恥ずかしいです」
やっぱりゆんゆんもめぐみんも一人の女の子だからか、甘いものには二人して目がない。
特にゆんゆんは今の流れを見ていれば分かるが、弩級サイズの甘味を一人で平らげるくらいに甘いもの好きである。
きっと某三と一の付くアイス店だったら特大のトリプルを食べても平気だと思う。
しかし良くもまあそこまでしこたま甘いものを一度に食べられるものだ。
まあ、某生徒会で駄弁ってばかりのラノベの生徒会長みたく幸せ味がどうのとか言ってる時の顔が、俺にとっては至福の一時になるから突っ込みはしないが。
あと太る心配も無い。
全て知能かおっぱいにエネルギーが回るらしい、女性から見れば何とも羨ましい体質持ちなのもある。
「何年一緒にいると思ってんだ、大抵の事ならお見通しなんだぞ」
「らんらんの前では少しくらい自制しようと思った私がバカみたいです」
「俺は沢山食べるゆんゆんの方が好きだけどな」
「なっ……な、にゃにを言って……!?」
「いやそこまで驚く事でも無いでしょうに」
小さい頃から好きなんて言葉一万回くらい言ってきてるのに、今更真っ赤になってあたふたする事もないと思うんだが。
だがそんないつまでも純粋なゆんゆんが俺は好きだ、大好きだ。
平静を装ってはいるが、今すぐお持ち帰りしてチョメチョメな事したいくらいには萌え尽きている。
萌え尽きているのだ、誤字ではない。
「むぅ……でもらんらんだって少し顔赤いです、照れてます」
「んなっ!?」
「私だって分かります。らんらんと何年過ごしたと思ってるんですか? それくらい見抜けて当然です」
そんな惚けていたのがバレたのか、即座に指摘し返された。
俺のポーカーフェイスはめぐみんですら全く見抜けないと言うのに、流石は俺の一番の幼馴染なだけある。
「全く、これで付き合ってないなんて誰が信じるんですかねえ」
「でも昔からやってたし、今更だろ? ……ゆんゆん?」
「…………へ? そ、そう、ですね……」
おおめぐみんよ、その良い流れの中にその話を入れてくるのは止めてくれ。
俺は鈍感系ラノベ主人公じゃない、このすば世界基準の主人公だからゆんゆんからの好意も、この落ち込み様も全部分かってしまう。
ああもう、今すぐにでも抱き締めて愛を囁きたいがやはりゆんゆんが本当に俺の事を好きなのか、ただ依存しているだけなのかの見分けが付かない。
ただの依存であるならば、告白して付き合っても、その先に本当の幸せは無い。
それではダメなのだ。
俺が望んでいるのは『ゆんゆんの幸せ』なのだ、そこに偽りが無いのならゆんゆんが俺以外を本気で好きになった時、俺は涙を呑んで、切腹するのと同じ覚悟でその人間にゆんゆんを任せよう。
ゆんゆんが本当の意味で幸せになれるのであるならば、この命さえも喜んで
「お、俺は柏餅とだんごにするよ……」
この微妙な空気に居ようが居まいが、時間は自分勝手に時を進める。
どうしようもないのなら、取り敢えず食って雰囲気を和らげるより他ない。
めぐみんにだって悪気は無い訳だし、あまりキツい事は言いたくないし。
「はい、あんみつと、季節限定ハイパーデラックスぜんざいパフェと、柏餅とだんごね」
沈黙の時間が続くかと、多少冷や汗を掻いたがタイミング良く注文していたものが出来た様だ。
ナイスタイミングと言わざるをえない。
「あ^~栄養とエネルギーが身体中に染み渡ります^~」
「お、おうそうか」
「良かったね、めぐみん」
言う程量は無いはずのあんみつでここまでとは、相変わらず極貧生活なのに変わりはないみたいだな。
また保存の利く料理でも持っていってやるかね。
「ゆんゆん、それどうよ。美味い?」
「うん、おいしいです!」
「おー、良かったじゃん」
この店にハズレの商品とは遭遇した事は無いが、今回もゆんゆんが絶賛する美味しさだった様子。
いっぱい食べる君が好き、みたいなフレーズのCMを前世で何度か聞いた覚えがあるが、この眩しい笑顔を見ていると本当にそのフレーズに偽り無しだと実感している。
「あ、あの、らんらん……」
「ん? どうしたゆんゆん」
ゆんゆんの笑顔を見つめながらのんびり食べていたら、何やらゆんゆんがモジモジしながらこっちを見つめてきた。
なにこの可愛い生き物、お持ち帰りして良いですか?
それはそうと、本当に一体なんなのだろうか。
「あ……あーん……」
「…………マジか、マジなのか」
あれか、パフェの一部が乗ったスプーンをこっちに向けて、そんで『あーん』。
これは間違いなくあの伝説の、恋人が出来たらやりたい事上位常連に入ってくるあの『あーん』である。
これだけはここでゆんゆんと暮らして来ても無かったイベントだが、俺は奇跡でも目の当たりにしているのだろうか。
「だ、だめ……ですか?」
いやしかし、硬直していてはゆんゆんに失礼だ。
現に不安そうな顔で俺の顔を見ているし、さっきからスプーンが緊張しているのか震えっぱなしである。
男なら据え膳食わぬはなんとやら、だ。
まあここにあるのはパフェだがな。
「ごめん、ちょっとびっくりしただけだ。あ、あーん」
「……おいしいですか?」
「ああ、これ自体もだけど、ゆんゆんが食べさせてくれたからかもな、なんて」
「ゆんゆんが食べさせてくれたから幸せ、だなんて……嬉しすぎてどうしたら良いんでしょう……ねぇ、めぐみん?」
「……ダメだコイツら、ですね」
ダメなのは分かっている、そしてまた言葉が勝手に捏造されているが全く持ってその通りなので例の如く訂正は一切無しとさせていただこう。
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第三話「ゆんゆんにお兄ちゃんと呼ばれたいだけの人生だった」
純粋に有り難いです、これからも宜しくお願いします
あと、ゆんゆんの両親に名前があった覚えがないのでオリジナルで行かせてもらいます
p.s
あらすじ少し変えました
「じゃあな、また明日」
「また明日も奢ってくださいね! 楽しみにしてますよ!」
「だーから勝手に約束取り付けんなよ……まあ良いけど」
あの後、ちょっと調子に乗ってあーんをゆんゆんにし返したり、それを店主のおばちゃんに冷やかされたりと色々あったが、めぐみんは知らないがゆんゆんは楽しそうだったり嬉しそうだったので良しとしておく。
「ばいばい、めぐみん」
「明日の体育では絶対負けませんよー! ばいばいですっ!」
それはそうとして、今更だがコイツ等が原作より仲良くなっているのは嬉しい誤算だった。
例えば弁当は巻き上げるのではなくゆんゆんが分けて一緒に食べたり、ライバル同士ではあるけど一緒に魔法の練習をしたりと、仲良しコンビの親友になっている。
俺としては、原作や原作スピンオフの流れにあまり誤算が出るのは宜しくないと見ているが、これによる変化で未来が変わってしまっても、後悔だけは絶対に無いと言える。
「ほんじゃ、帰るか」
「そうですね、帰りましょうか」
少し傾き掛けている太陽の光に照らされる、ゆんゆんの笑顔。
それが何故だかいつもより眩しくて直視出来ないのは、果たして太陽のせいか、はたまたいつもより調子に乗ってあーんのさせ合いなんてやってしまったからか。
取り敢えず恥ずかしくなったので目を少し下に落とす。
……うん、相も変わらず素晴らしいおっぱいだ。
「……手、繋ぐんだろ?」
「あ……はいっ」
男の夢と希望の詰まった物を見てしまったせいで余計ドキドキしてしまった。
誤魔化す為に手を繋いだが、手は震えていないだろうか、手汗はかいていないだろうか、力は強くしていないだろうか。
細心の注意と気遣いに神経を集中させ過ぎて、ちょっとばかり頭痛がしてきた。
スペック最強エリートの紅魔族が頭痛とか、全く我ながらどれだけ神経を張り巡らしているのか……
「ん……あれは」
もうすぐ家か、と思った矢先家の前にふと人影を二つ見た。
とは言え見慣れた人影、つまりはゆんゆんの両親だろうから何も問題は無いだろう。
現にゆんゆんはニコニコしている。
「お父さん、お母さん、ただいま!」
「ござえもんさん、れいぴょんさん、ただいまっす」
「おお、お帰り。今日もめぐみんちゃんと遊んでいたのか?」
「はいっ」
「らんらんもお帰りなさい、あとお母さん呼びで良いっていつも言ってるじゃないの、全く恥ずかしがりやね」
「あっはは……」
ゆんゆんの両親は、度々朝早くから里の重鎮達による会議や決議の為に家を空けている事がある。
それもこれもそこそこ頻繁に魔王軍下の手下やら幹部やらが攻め行ってくるせいなのだが。
そう言う事で、原作ではあまり描かれていなかったが、かなり寂しい思いをゆんゆんはしていたのかも知れない。
ゆんゆんの両親もそれは重々承知している事だと思うが、里の命運が懸かっているだけにどうしても外す事が出来ない。
ゆんゆん自体、それを分かっているからこそいつも二人の前では笑顔なのだ。
そして原作じゃ、それを含め全てを『黒歴史』で片付けられる程強くはあるが、寂しい事に変わりなかったのは事実だろうから、俺が少しでも支えになれているのは本望だ。
あと、俺が他人行儀なのはどうしても血の繋がりの有無と『親』に対する前世からの印象の悪さが足を引っ張っているのだが、この話はまた出来る時にでも。
「どうかしたんですか、お兄ちゃん?」
「あ、いやいや何でも。それじゃ俺はちょっと本でも読んでるよ」
ボーッとそんな事を思っていると、ゆんゆんがおもむろに近付いてきて疑問符を浮かべた顔で聞いてきた。
正直な話あまりゆんゆんに俺の今の心情を覗かれたくはないんだよなぁ、ゆんゆんは何よりも人との繋がりを大切にしている子だからこそ尚更。
何とか心を押し込んで無心で読書へと移る。
因みに読む本は魔法学や人望を深める為の本が中心になっている。
この里はなまじエリート集団ばかりだから、一応族長の息子という体になっている俺としては、他に劣らないだけじゃなく他より何か圧倒的に秀でているもの、そして人望は少なくとも必須なのだ。
俺は魔法学は好きだし、こうして読書するのは苦じゃないけどな。
「お兄ちゃん、一緒に本見ても良いですか?」
「ん、良いよ」
ところで、さっきからゆんゆんが俺の事を『お兄ちゃん』と呼んでいるが、たまにこうした呼び方に変わる時がある。
これがどうしてなのか直接ゆんゆんに聞いた事は無いが、もしかしたらこうやって呼ぶ事で幼馴染としてだけではなく家族としての繋がりを感じたいのかも知れない。
あ、因みに今ポーカーフェイスを保ってはいるもののお兄ちゃん呼びされて心が震えてます。
だってゆんゆんにお兄ちゃん呼びされるんだぞ?
そりゃ誰だって心が震えるに決まっている、主に100%ゆんゆんが可愛すぎて。
鼻血堪えなきゃ……全く、不定期でたまにしか言わないから破壊力がとんでもない事になっている。
俺の方が歳上と言えどたかが二つだぞ、それなのにお兄ちゃんでここまで精神が荒ぶるなんてやっぱり俺はどうしようもないくらいゆんゆんLOVEらしい。
「……この本、楽しい?」
「はい、とても興味深い事だらけで、楽しいです」
この魔法学書、かなり難しい事が書いてあると思うんだが、ゆんゆんはほぼ理解出来るらしい。
因みに俺は7割程度と言ったところか、天才という程素質が無い割には理解出来ている方だと思う。
しかしゆんゆんよ、顔が近い。
時折吐息が掛かって何と言うか、ドキドキする。
あとさっきは胸触ったら思いっきり吹き飛ばしてたのに、俺の腕に胸当てて平気なんですかねこの人。
結構密着してる事に果たして天然で気が付いていないのか、それとも計算の内なのか。
兎に角、俺の精神年齢は20代前半だけどこの身体は思春期真っ只中だからまずい……非常にまずい。
それを抜きにしたって元よりおっぱいと可愛い女の子は大好きだから、それ以前の問題と言われたらどうしようもないかも知れないが、二つが掛け合わさる最強のコンボに果たして勝てるのか……
この戦いは結局夕飯前まで続き、風呂から上がるまで悶々としていた……仕方ないのよ、多感な時期なんだから。
で、悶々とした時間が終わったら賢者タイムに入ってしまった訳だが。
そう言えばゆんゆんは兄・幼馴染離れとかするのだろうか、なんてふと考えてしまったり。
ああでもまだあれで12歳だし微妙な時期だろうかと思ったり。
この調子でいつまでも一緒でいたいなあ、なんて思ってやっぱり依存性を治すには一度どこかで離れる必要があるかも知れん……なんて深く考えたり。
「まあ、まだ良いか」
それで結局、今のこの環境でまだ大丈夫だろうという事で賢者タイムは終わった。
明日の事は明日考える、今をゆんゆんが幸せに生きられるならそれで良い。
遠くの未来を見つめるより一日一日、その日を確実に幸せに生きられる喜びを、ゆんゆんには原作とは違いそれをしっかり感じて生きてほしいからこそ辿り着いた考えだった。
「……今日もゆんゆんは幸せに過ごせたよな?」
自問する。これは毎日行っている事だ。
こうして落ち着いて一日一日を振り返り、幸せに過ごせている事を確認しなくては寝る事さえままならない。
幸い、今まで幸せじゃなかった事は俺の確認する限り無かった。
勿論今日も大丈夫だった。
ところでだが、この里の人間は老若男女総じて頭がおかしいが、老若男女総じてみんな良い人達だと言うのも知っている。
それでいて何故、ゆんゆんに一向に同年代の友人が増えないか。
それは簡潔に、接し方が分からないだけなのだと思っている。
ゆんゆんはこの里の人間の中では『常識人』と言う『イレギュラー』だ。
子どもは総じてイレギュラーな存在とは距離を置く、怖いからだ。
本能的に警戒し距離を置かれているのだ。
しかし周りの大人は見守っているだけ、行動は起こさない。
友人と言うものは『作る』ものではないからだ。
友人と言うものは『出来る』ものだからだ。
「お兄ちゃん、入っても良いですか?」
もう夜も更けてきたかという頃、ドアの向う側からゆんゆんの声が聞こえてきた。
「よっ、寝るなら灯り消すけど」
「……今日は一緒のベッドで寝たい、です」
「オイオイどうした、珍しいじゃん?」
声は震えてなかったと思う、何とか俺は平静を保つが何があったか分からないが何年か振りに一緒のベッドで寝ようなんて言われて兎に角動揺しまくっている。
ゆんゆんが軽く病む前からずっと同じ部屋で寝ているとは言え、同じベッドで寝たのは小さい頃でも数える程だぞ?
「えっと、何だか急にお兄ちゃんの温もりが恋しくなっちゃって……ダメ?」
「ダメじゃない」
即答だった、後悔は一切無い。
恋しくなったとか、恋愛じゃなくて兄妹愛の方だと分かっていても幸せ過ぎて神に祈りを捧げてしまうレベルだ。
一応祈りを捧げる神はあの駄女神ちゃんにしておく。
駄女神だけど滅茶苦茶可愛いし、この世界に無茶言って『転生』させてもらった訳だし。
ありがとう、今度出逢ったら酒を奢ってあげよう。
「そ、それじゃあ……」
「ん、おいで」
「し、失礼します」
おずおずと俺のベッドの中に入り込んでくるゆんゆん。
その仕草一つ一つが萌えポイントである。
「どうよ?」
「……お兄ちゃんの匂いがします」
「臭くない?」
「良い匂いです」
良い匂いなのはゆんゆんもだぞ、とか言いかけたのは流石にヒミツだ。
なお、その後ゆんゆんが寝惚けて俺に抱き着いてきたお陰で、俺は一睡も出来なかった模様。
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第四話‐転生前編‐「俺のおっぱい物語はここから始まった」
日間最高三位、お気に入り+約600件とどう感謝の気持ちを表して良いのか分からないくらいに凄く評価してもらえて、感謝感激です
本当に本当にありがとうございます!
※今回ゆんゆんは出ません
※あと一話くらい過去編続くかも?
※アクア様唯一のまともな登場回
「……本当に一睡も出来ないとはなあ。もうすぐ六時じゃねえかよ」
目だけで横を見ると、心底幸せそうな寝顔で寝息を立てるゆんゆん。
それだけならただの微笑ましい光景、で終わるのだが俺の腕にギュッと抱き着いたままなのが頭の痛くなる案件なのだ。
ご褒美且つ幸せだから寝る時以外なら大歓迎なのだが、寝る時にそれをやるとおっぱいの感触がモロにダイレクトアタックしてきて、とてもじゃないが眠れない。
だって男の子ですもん、あといくら妹として見ようと思ってもやっぱり見れないと言う心情も合わさって、睡眠不足的疲労より精神的疲労の方が重かった。
あとおっぱいも重かったです、本当にありがとうございます。
さてそれは良いとして、普段起きる時間までまだ大体一時間残っている訳だ。
これから寝ようもんなら寝坊&遅刻確定、最早どうしようもない。
なので少しの間、俺が前世で死んでから転生し、ここに至るまでの経緯みたいなものを思い出して行こうと思う。
まず前世で死ぬ日の出来事を語るのはだれるので省略するとして、死んであの駄女神ちゃんの目の前で目が覚めたところからにしようか――
★
「福良真悟さん、貴方は残念ながら死んでしまいました」
「……はい?」
俺はアイドルのグラビアを主に撮影するカメラマン、福良真悟23歳だ。
自分で言うのも何だとは思うが、カメラマンとしては成功者の部類に入るだろうと自負している。
度々雑誌でインタビューを受けたり、プロフェッショナル仕事の何ちゃらみたいな有名な番組で密着された事もある程度だ。
それは良いんだが、何か知らない場所にいるらしい。
一体ここは何処だ?
と言うか俺、何してたっけ?
「少し混乱してるみたいね、貴方はアイドルのイベントにカメラマンとして呼ばれていて、そのイベントの途中突然会場内に刃物を持った男が現れ暴れだし、とあるアイドル目掛けて刺しに行ったところを庇い、出血多量で死んだの」
「…………あ、あー、ちょっと思い出してきたかも」
言われてぼんやりとだが、徐々に思い出してきた。
俺は昔から可愛い女の子を撮影するのが趣味だった。
勿論盗撮趣味は無いが、中学生の頃には同人誌即売会やコミケでコスプレをしている女の子を見つけては、許可を取りに走りまくったものだ。
そこで感じたのが『被写体あってこそのカメラマン』の信条だ。
被写体がいなければいくら腕の立つカメラマンがいても、全く意味を為さない。
だからあの時は、その信条に従ったまでだったのだろう。
と言うか目の前にいるこの美人は誰だよ写真撮りたいんですけど。
「……貴方意外と冷静なのね」
「冷静と言うか、それで死ねたのなら本望なんで。自分を褒めてやりたいくらいですよ」
本来俺の事を知っている人間が聞けば、本当にアイドルが大好きだったからこそ言える言葉なのだろうと褒め称えるだろう。
しかし目の前の良く分からない人はどうだろう。
「……私が言える立場じゃないけど、辛かった事を乗り越え良く、生きましたね」
俺の暗い過去を知る人間なんて僅か、しかもこの人とは会った事すら無いと言うに全てを察した様な発言をしてきた。
偉そうな事をと言いたかったが、ここまでのおかしな点を纏めると一つの答えに辿り着いた。
「分かったよ」
「ほぇ? 何の話よ?」
「何で俺と会った事すら無いアンタが、ましてや俺の隠している過去を見通しているのか……本当に俺、死んだんだな『神様』よ」
神は全てを見通していると言われている。
この目の前の人物の目は、少なくともこの場面で嘘を吐く様な下劣な事をしないと確信を持てる目だった。
それはそうと冷静にこの人……ならぬ女神を見てみると、何か既視感を覚えてくる。
特にその青髪と美貌が、俺の良く見ていたラノベのとあるキャラと似ている様な……?
「フッフッフ……そうよね、私の美貌は正しく女神ッ!! 女神の名に恥じない容姿よね! 貴方人を見る目がある様ね!」
…………思い出した、と言うか俺が既視感を覚えていた人物そのものだった。
嘘だろオイ、死んで女神に会うだけでも現実味のまるで無い話だと言うのにまさかコイツがこのすばの駄女神ことアクアだったとは。
いやしかし、俺の話を勝手に改変して聞かないお馬鹿オーラを纏った瞬間容姿と雰囲気と、そしてオーラ全てが俺の知っているアホだった。
「……まあそう言う事にしておく。それはそうと、もし俺が『このすば』の原作知識を持っていたらどうする?」
「は? このすばって何よ?」
ふむ、やはり知らないか。
そうなるとまさかとは思うが、俺がここに来たのって手違いなんじゃ……
いやそれこそまさかだ、いくら原作でドの付くドジっ子とアホっ子振りだったとしても、それだけはあり得ないと信じたい。
まあそれは良いが、取り敢えずこの駄女神ちゃんに説明をしないと話が進まないな。
「このすば……正式タイトル『この素晴らしい世界に祝福を!』。ライトノベルの一つで、アニメ化にもこぎ着けた大ヒット作。現在アニメ第二期が俺の世界では絶賛放映中のはず。そして既巻十巻+スピンオフ五巻。最新十巻は去年の十一月に発売されていて、まあ内容をざっくり言えばお前の未来が載っている」
アニメ二期を数話しか見られなかったのは非常に残念な話である。
めぐみんの迫真の眼帯演技は一種の芸術まで感じたと言うのに、待望のゆんゆんが殆んど見れずに死んでしまうなんて……生前の唯一無二の未練である。
ダイマ? 知らんな。
まあその話は一旦置いておこう。
おもむろに俺の書類だろう物を震える手で凝視し、駄女神ちゃんが青ざめている。
「…………間違えて違う神の管轄書類一枚持ってきちゃってた」
だろうと思ったよ、君の事だからね。
涙目になっているが、悲しいかな全部君がしでかした事だ。
そして更に悲しいかな、あり得ないと信じてた事があり得てしまった。
取り敢えずミスに関しては自業自得なんだ、諦めろ。
「どうじよ……」
あー、泣き出しちゃった。
いやどうしよはこっちの台詞なんだが、本当にどうなるんだよ俺。
アクセルに行けず天界に強制収容は何がなんでも避けねばならん。
漸く成功した仕事で死んで、それ自体は良いが余りに有意義に過ごせた時間というものが無かった。
忌々しい学生時代、両親と呼べもしない様な下劣な連中……クソが、アイツ等のせいで何年間を無駄にしていると思ってるんだ。
「普通に転生は出来ないのか? 記憶を消して、ゼロから始めるスタンダードな転生」
「管轄の神様しか行えないのよぉ……でもこのままアクセルに送ったら神令違反でしょっぴかれるし……」
神令違反ってなんだよ、ちょっと怖いんだけど。
しかし普通の転生すら出来ないとなると……ヤバい、本格的に何をするでもない『地獄の天国』が待っている。
今度こそ幸せな一生を過ごしたいと思ってる俺からしてみれば、転生を拒否して天国で暮らすなんて言語道断である。
考えろ、何かあるはず……何か……待てよ?
今アイツ『このまま』送ったらしょっぴかれるって言ったよな?
その言葉をそのまま受けとれば所謂『法の抜け道』が存在する。
「なあ」
「何よ……」
「もしかしてだけど、俺をあの人口不足で困ってる異世界に『赤ン坊』として転生させればその神令抜けられるんじゃない?」
「人口不足って、本当に知ってたのねあの世界の事……って、転移が神令違反なら転生ってそんな話……いやでも『原作知識を持ってそのまま転移』が違反なだけで、神令に原作知識持ちでも転生で違反になるとは一言も書かれてない……! な、何よ神令も大した事無いわね!」
どうやら俺の考えがビンゴしたらしい、これで俺はあの世界に行けるらしい。
いやあ良かった良かった。
しかし強がってるアクアちゃん可愛いな、流石は俺の世界でも幾多のアクシズ教徒を作り出しただけはある。
……それにしても、転生か。
神様転生と言えばお決まりの特典だよなあ?
「そりゃあ良かった。ところでアクアさん、転生と言えば特典だと思うんですけど」
「あー……いつもは雑誌渡してそこから選ばせてるんだけど、あれ『転移』した人用なのよねえ……ハッ! まさか私の純潔を狙ってるんじゃないでしょうね!?」
「いや狙わないから、それは別の人の為に取って置いてやれ。それで、別にチート能力が欲しかったとかじゃねえんだよ、ちょっとした事だから」
思い込みの激しいアクアちゃんマジアクアちゃん。
脳ミソも水で出来てんじゃないのこの人。
「ちょっとした事?」
「そそ、ちょっとした事。その前に聞きたいんだけど、今その世界ってミツルギって人いたりする? あ、魔剣グラム持ってった人ね」
アクアちゃんがいるという事は、カズマは少なくともまだ来てないと思われるので、兎に角カズマが来るまであとどれくらいの時間があるのか推測しないと行けない。
ミツルギなら、多少予想と誤差が出てもあのレベル的にカズマの来る少し前に転移したものだと見た為、まずはミツルギの存在の有無の確認を急いだ。
「魔剣グラムね……確かに選ばれてるわね。その、ヨツルギだかカミツルギだかって人かは覚えてないけど」
哀れミツルギ、やはり名前は覚えられていなかった。
しかし魔剣グラムを特典として選んでいる人がいると言う事は、間違いなくミツルギだろう。
となれば、この時系列はカズマの来る少し前のはずだ。
「サンキュ。それならこの記憶を全て引き継いだまま俺を紅魔族として、十四年前の紅魔の里の族長の家の前に赤ン坊の姿で置いてくれ」
「……アンタ変わってるわね」
「このチャンスを逃す手は無いんだよ、頼む」
本来あり得ないチャンスを貰えるのだ、原作前に転生出来るなんてまずあり得ない。
そしてそれであるならば、変えられる未来がある、変えられる人生がある、救える人間がいる。
……独りぼっちで寂しい思いをしていた、可愛くて優しくて、それでいて俺に何処か似てしまっている『あの子』を救えるのなら、それ以外に何も要らない。
「まあ、一応助けてもらった恩があるし。過去に送るのは面倒だけど、それは恩でチャラにしとくわ。だからそれくらいなら問題無いわ。ただ紅魔族としての個体値はランダムになるわよ」
お馬鹿な癖してちゃんとしてくれるアクアちゃん素敵!
今日から俺はアクシズ教に入教しよう、そう決断した。
と言うか個体値とかポケモンかよ……
「構わない、寧ろその方が燃える」
「分かったわ、それじゃ送るわね」
「おう、サンキューな」
この駄女神がいなかったら、きっとこんなワクワク感に満ちた新たな人生の門出は無かっただろう。
変えられないはずだった事に関わる事すら出来なかっただろう。
だから、素直に感謝しておこう。
「フフン、女神なんだから当然でしょ?」
「だな」
「それじゃ、魔王倒したら何でも願い事を一つだけ叶えてあげるから頑張んなさい」
本当、調子の良い女神だな。
でも、褒めたら素直に嬉しがるところとか、正直なところとかがあるから嫌いになれないんだよな。
さて、しかし魔王倒した後の特典なんてどうしようか。
……ま、その内見つかるか。
「気長に頑張ってやってみる」
「そう。……ごほん、さあ勇者よ、願わくば幾多の勇者候補の中からあなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。そして、貴方の次の人生に幸多からん事を」
……最後のは卑怯だわ、卑怯。
ちょっと涙腺に来た、駄女神ちゃんの癖に涙腺に来る事言うとか普通の女神じゃねえか。
「ああ、『また今度会おう』」
俺に取っては十数年後の話だが、コイツに取ってはすぐだろう。
きょとんとしたアクアの顔を最後に、俺の視界は暗転した。
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第五話‐幼少期編‐『らんらんのいせかいにっき』
これも皆さんの応援あっての事です、どうかこれからもこの若輩者を見守って下さると嬉しいです
※今回、演出上漢字を使う部分に平仮名を多用しています。何とか見やすく出来る様努力しますが、見辛かった場合は申し訳ありません
※もしかしたら、タイトルを見て謎の頭痛と共にらん豚を思い出してしまう方がいるかも知れませんが、本作とらん豚に共通点は一切ございません(ジョーク)
――時計を見る。
まだ起きてから十五分も経っていない。
本来起きる時間にはまだまだ余裕がありすぎてしまう。
……それにしても、今思い出してもあの間違えてアクアちゃんが俺を呼んでしまった出来事、つまりは俺がここに転生する事となったあの事故は鮮明に頭に焼き付いている。
寧ろあの日の事を忘れろと言う方が無理がある。
唐突に死んだと言われただけでもかなりの出来事だったのに、書類を間違えて俺を呼んでしまったとか、何と言うか流石はこのすばワールド、やる事が違うとしか言い様が無かった。
今度会う時が、今更ながらもっと楽しみになった。
「うにゅ……らんらぁ~ん……」
それにしてもゆんゆんは、本当に昔から可愛いよな。
こうして寝ぼけて俺の名前を呟いたかと思えば腕への密着度合いが更に増していたり、これまた寝ぼけてるのか顔を腕にぐりぐりしていたり。
ぐりぐりしてくるのは正直痛い気もするが、こんな絶世の美少女の寝顔をまじまじと見られている代償だと思えば何の問題も無い。
寧ろ気持ちよくすら……って待て、俺はダクネスみたいなドMじゃない。
い、所謂愛情表現として受け取ってるから気持ちよく思えてくるってだけなんだ。
決して変態性癖を持っているとか、そう言う事ではない……はず。
まあ、そんな話は置いておくとして。
まだまだ起きるには時間がある、と言う事で折角なので俺が昔、まだこの異世界の言葉を必死に覚えている時から書いていた日記が何故か丁度手に取れるところにある訳だし、その話でもしようじゃないか。
そう、最初日記を付けた時はまだ俺が五歳の頃だった――
5がつ26にち
おれのなまえはらんらん、このせかいにてんせいしてはや5ねんがたった。
きょうはおれの5さいのたんじょうびだ、それをきねんしてきょうからここでのじんせいのあゆみをしるすため、『らんらんのいせかいにっき』としょうしてにっきをひみつりにつけていこうとおもう。
きょうはいちだんとゆんゆんがかわいかった。
こうまぞくでんとうのくろしょうぞくをうまれてはじめてみにまとったゆんゆんは、さんさいにしてすでにぜっせいのびしょうじょであった。
うん、我ながらどんな子どもだよコイツ。
たどたどしい汚ない字でそこそこ難しい単語使ってるとか端から見れば何者だよって話。
あと精神年齢二十代で三歳児をここまで絶賛していると、我ながらあの時は肉体に精神が引っ張られていたとしか思えない、と言うか正直流石にそれ以外の可能性は考えたくなかった。
……取り敢えず、もう少しこの頃の日記を思い出して見ていこう。
10がつむいか
きょうはともだちのぶっころりーとあそんだ。
ぶっころりーはとしうえだけど、はじめてあったときからみょうになれなれしかったからきにならなかった。
とちゅうからそけっとさんがきてぶっころりーがきょうきらんぶしていたのは、おそろしいくらいきおくにのこった。
だが、おれもゆんゆんがすきなので、すこしくらいはそのきもちがわからなくもないと感じた。
あと、ちょこちょこおれのうしろをついてくるゆんゆんは、やはりかわいかった。
それと、ゆんゆんがうまれてはじめておれに『おにいちゃん』といってくれた。
おれはそのひ、しょうてんした。
あったなあ、こんな事。
ぶっころりーは相変わらず今でもそけっとさん一筋で、その愛は日を追う毎に強化されていっている。
だが悲しいかな、ぶっころりーは所謂ニート。
いくら自分の事を好いてくれていても、それがかなりのイケメンだとしても、そけっとさんはニートを彼氏にする程甘い人では無かった。
悪い気はしていない様だが、それだけの様子。
顔良し愛情良し魔法もエリートなのにどうしてこうなったのか、まあ紅魔族だからと言われたらそこまでだが。
さて、まあ二つしか紹介していないが、どの年齢の時の日記も書いてる内容自体は大して変わってない訳だが、あと一つ、特別な日に書いた日記を紹介しよう。
十二月二十四日
俺がこの世界に転生し、はや十年と七ヶ月がけいかした。
この日は、俺の世界でならクリスマスイブ。
一部のしっとのねんにかられた、いたんしんもんかいみたいな連中をのぞけば祝い事の日である。
ちなみに俺の前世での立ちいちは、その一部の連中だったわけだが。
しかしこの日、俺にとっては危うく最悪の日になりかけるところだったのだ。
そう、この日記はゆんゆんが怪我をし、俺がそれを変に誤解したせいでゆんゆんを好意的に見ていた事を自覚した日だ。
可愛い妹で、友達。
そう見ていたはずのあの子は、気付けば俺の中で何よりも大切な人になっていた。
俺は日記を閉じ、あの日の事をスッと脳裏に浮かべた――
「ゆんゆんッ! おい大丈夫なのか!?」
「だ、大丈夫……です」
ベッドに横たわるゆんゆん。
大丈夫だとは言うが、とてもじゃないが聞いた情報と今見ているゆんゆんの表情を見る限り、そうは思えない。
「大丈夫な訳ないだろッ! お前は俺の大切な妹だ、お前が無理している事くらいお見通しだ」
「……出来れば、無駄な心配事はらんらんには掛けたくなかったんです」
「無駄な訳あるかよ……俺は……俺は……」
お前の事を――待て、俺は今何を言い掛けた?
好き? いやそんなバカな、俺は前世の頃からゆんゆんに可哀相と言う感情と、兄となって救いたいと思う感情しか無かったはずだ。
そして好きと言うのも、妹として好きと言う意味なだけだったはず。
それがどうだ、今のニュアンスは間違いなく女性として好きだと思っている人に対する『好き』だったのではないか?
いや、それは抜きにエロい目で見てなかったかと言われればそれも違うが、と言うかあの美貌と可愛さはエロい目で見るなと言う方がおかしいのだ、と暴論を吐き捨ててみる。
だが、恋愛には繋がらなかった。
あくまでカズマのポジションが俺と仮定するならばの時、ゆんゆんの立ち位置はアイリスなのだ。
可愛い可愛い可愛すぎる可愛すぎて昇天してしまうくらいには可愛い妹なのは間違いない、間違いないのだが……今さっき口走りそうになったあの言葉、何なら言っても問題なかったはずのその言葉を何故俺は躊躇してしまったのか、何故ゆんゆんを見るだけでその言葉が言えなくなるのだろうか。
「……らんらん?」
「い、いや何でもない。それよりもお前に怪我を負わせた相手が、黒くて図体の大きい奴と言うのは間違いないか?」
「え、えっと……」
俺が聞いた情報は『ゆんゆんが黒い巨大生物に襲われている』と言った事だった。
そもそもこの里にそんな生物は存在せず、侵入して来たのならばすぐ分かるはず。
となればゆんゆんが里の外れまで行った事になるはず……
しかもあの曖昧な返事の仕方は、きっと何か俺に言えない事を隠しているに違いない。
おおゆんゆんよ、お兄ちゃんに言えない様な事をしているとは嘆かわしい。
そしてそれによって足に全治二週間の怪我を負ったと医者は言っていたし、それでいてお兄ちゃんに話せないとは一体本当にどうしてしまったんだ……
しかしそんな些細な事はどうでも良い、取り敢えず――
「よし、それなら兎に角俺がそいつを殺ってくる」
「…………え?」
「任せておけ、お前の仇は必ず俺が討ち取ってきてやる。だから安心して待ってろ」
「あっ、らんらん!?」
そうそう、あの時の俺は頭に血が昇ってて冷静な判断が付かなかったんだよな。
あの時に関しては、もう少しでも冷静になれていればゆんゆんの制止を振り切り家を飛び出して
まあ、大事な妹傷つけられて冷静でいられる兄なんて存在するはず有り得ないんですけどね。
そんな訳で勢いそのままに家を飛び出した俺は、父代わりであるござえもんさんの刀も拝借し、完全に正気を失った状態で目撃された里外れの場所まで直行していったのだが――
「ここか……」
ゆんゆんが襲われていたと言われた場所まで辿り着いた。
薄暗くて何だか妙に肌寒さを感じるその場所は、この里には似合わない暗い空間を作り出していた。
この里の子どもを自由にほぼ野放しで遊ばせてるくらいの大人ですら、あの場所へは絶対に行くなと言う程の場所らしいが……まあ、別段雰囲気以外変わったところは無いな。
それより俺は今、ゆんゆんに怪我をさせた奴を殺さねば気が収まらない。
この場所が危険かどうか等、最早どうでも良い話だった。
――凍てつく冷気が一瞬吹く。
寒さに舌打ちをするが、カッとなっていた脳に少し冷静さを取り戻した様な気がした。
ふぅ、と短い息を吐き、さっき口走りそうになったゆんゆんへの言葉を考える。
ゆんゆんが怪我をした、そう聞いた時俺は何を感じた、何を思った。
妹を傷つけられた事に対しての憤慨、憎しみ、悲しみ……それ以外に何を俺は抱いた?
……分からない。
あと少しのところまで出掛かった結論は、
「俺は……クソッ! 何だってこんな時に簡単に結論が出てこねえんだよ……!」
悪態を吐きつつ、薄暗い森を歩く。
冷静にならなければ、ほんの少しの気の乱れで殺られる。
そんな事くらい、いくらでも分かっている。
分かってはいるのに、どうしてもゆんゆんを怪我させた相手への怒りと、そしてゆんゆんへの想いとで頭の中がグチャグチャになり、冷静になりきれない。
「……グアァ……!」
ふと、どこからか声がする。
それは明らかに人間からはかけ離れた『怪物』の声。
一度深呼吸をし、辺りを見渡す。
「……小さな湖? そうか、成る程」
遠くに、水面が揺らいだのが微かに見えた。
ここ、紅魔の里に森に繋がる川は無い。
だとすれば、少し開けた湖、池のある場所と思うのが自然だろう。
俺は慎重に歩みを進める。
「あれは……!?」
一歩、一歩。
近付く度に見えてくる巨大なシルエット。
それは不思議な事に、見えてくる度にゆんゆんへの、分からない想いのモヤも消えて行く様だった。
「コイツか……コイツがゆんゆんを……」
距離としては約十メートルか、その巨大なシルエットは全貌を露にした。
簡単に言えば、熊。
しかしその巨体は、前世で見たヒグマの三倍はあろうかと言う大きさだった。
身体が、恐怖で震える。
しかし、それ以上に。
心が、答えを得て震える。
「そうか、俺は……」
俺は、あいつを、ゆんゆんを、何処かずっと『創作の架空人物』として見ていたのかも知れない。
その固定観念で、ずっと気持ちを誤魔化していたのかも知れない。
剣を取る。
その気持ちに、もう迷いは無い。
「俺は、ゆんゆんが大好きだーーーーー!!!!!」
想いと共に、俺は駆け出した――
因みにダクネスの場合、サーチ&デストロイがサーチ&バッチコイ(見付け次第くっ殺状態開始)なのは言うまでもない
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第六話「愛が重たい(物理的な意味で)」
「らんらん、昨日に引き続き本当にごめんなさい……」
「いやいや、俺はあれくらいどうって事無いさ。寧ろ嬉sゲフンゲフンゆんゆんの手こそ大丈夫だったか?」
「は、はい。私の手なら全く心配要らないと思いますよ?」
「あっ、そうなの……」
あの後、目覚ましが鳴ったと共にゆんゆんが奇声に近い声をあげ俺の顎をアッパーでクリーンヒットしてきた。
あ、そこの貴方。言っておきますがゆんゆんは暴力ヒロインじゃありませんよ?
ゆんゆんは極度の恥ずかしがり屋なだけで、悪意があったり謝らなかったり、ましてや理不尽な暴力は絶対に有り得ない。
だから俺だって愛情表現で済ます事が出来るし、耐えられる。
後妙に肌がツヤツヤになっているが、決してダクネスと同族でない事だけはご理解願いたい。
これはゆんゆんのありったけの
決してあのドMくっ殺セイダーと同じにしてはいけない、いけないのである。
と言うか思いっきりアッパーしたのに全く痛みを感じてない拳って、本当紅魔族ってチートだわ。
まあ怪我が無いなら何よりなのだが。
「あ、めぐみん。おはよう」
「らんらんにゆんゆん、おはようです!」
それはともかく、朝の登校時の日常は平和そのものだ。
俺の前世ではこんな光景、まず有り得なかった。
あの世界の大半はここと似た様な光景だったのだろうが、俺にはやはりいつ見ても新鮮で、それでいてこの上なく好きなのだ。
「よ、おはよ。それは良いが今日も弁当、少ししか作れなかったけどお前の分とこめっこの分も作っといたぞ」
「いやー、いつもすいませんね。こめっこの分まで」
「こめっこの方がメインでお前はついでだけどな」
「なぁ!? ぐぬぬ……」
知っての通り、めぐみんの家はドが十個くらい付くド貧乏家庭だ。
だからこうして、作れる日はなるべく二人の為に……こめっこ優先だが、作っている。
めぐみんはもう12歳だがこめっこはまだ5歳、本来大量に栄養を採らねばならない時期。
そんな子が『もう三日も食べてないんです、食べ物ください』なんて言ってきてみろ。
即オチだ、即オチ。
陥落が早すぎる? 何とでも言え、あのおねだりの仕方が卑怯過ぎるのだ、あんなのチートだよチート!
「もう、らんらん。本当はめぐみんの事もちゃんと心配してるの、私は分かってるんですよ?」
「ぐっ……アイツそういう事言うと調子乗るから、口に出すのは控えてるだけだ……ったく朝っぱらから恥ずかしい」
「……そ、そうやって言われると正直、その。何とも言えない気持ちになりますね……」
本当は面と向かって言えないだけで、コイツの事も妹みたいに思ってるけどな。
いつもがいつもなだけに、どうも素直に言おうとすると恥ずかしい。
え? これって恋愛イベントじゃないのかって?
笑止。俺に対して発生する恋愛イベントはゆんゆんのみと相場が決まっているのだ、ましてや妹にしか見れない言動と体型と身長のめぐみんで発生する等、まるであのアホみたいな
と言うかアイツ作るだけでも一杯一杯だったのにゴ○ラとか無理ありすぎる話だがな。
流石にそんな事してたら世界滅亡してるだろうし、そもそもそんな事があったら原作崩壊どころの問題じゃないって話だが。
「え、えっと私こめっこにお弁当渡して来ますね!?」
「お、おう……アイツいくら恥ずかしい状況とは言え、やけに恥ずかしがりすぎじゃないか?」
「……もう少しめぐみんの事、気にしてあげてください」
ゆんゆんに苦い顔で指摘されたが、一体何の事やらさっぱりである。
やはり女の子同士にしか分からない事とか、あるんだろうか。
俺はゆんゆんの全てを知りたいと思ってるんだがな……因みに本人に知れたらアッパーやちょっとした魔法で済まない様な事まで知ってたりするけどな。
……何なのかは言わん、言わんぞ。
「まあ多少は気にしてやるさ……ゆんゆん第一だけどな」
「らんらん……」
「ゆんゆん……」
「はいはーい! 二人共イチャつかない! 全く毎度毎度見てる私の身にもなってくださいよ! 爆裂魔法打ち込みますよ!」
「おっ、嫉妬か? ん?」
「貴方って人はああああああ!! エクスp」
ちょっとやり過ぎたと思った、反省はしている。
因みに勿論だがこの後二人して全力で止めた、俺のプリンは死んだ。
「俺のプリンが……」
「もうらんらん、自業自得ですっ。めぐみんの事からかいすぎたからですよ!」
「分かってるって……」
結局めぐみんは怒って先に行ってしまい、二人きりで久々の登校みたいな形となってしまっていた。
済まないめぐみん、お前の犠牲はプリンでチャラにしてくれ。
俺はゆんゆんと登校デートに洒落混むのだ。
そこ、ゲス野郎とか言わない。
「ちゃんとめぐみんに謝ってくださいよ?」
「へいへい。んじゃ俺こっちだから」
それから約十分後、しっぽりと楽しんだ俺は大満足であった。
因みにここの学校は魔法学校と言い、本来なら『12歳』までの子どもが通う小学校みたいな場所だ。
因みに教室は男女別になっている。
俺もここに通ってはいるが、何もまだここで学んでいる訳ではない、俺は『14歳』だからな。
俺は所謂教育実習生と似た立場にある。
教師より年下で生徒との距離が近く、且つ魔法を簡単に教える立場だ。
ただ教育実習生と俺が違うのは、俺は将来的に教師になる気は無く、まあゆんゆんの発作の件があるから居るのは構わないから折角だし教えてやってくれと言う、恩師陣たっての希望を快く引き受けた形になっている。
……まさか、学校が嫌いで嫌いで堪らなかった俺が学校でものを教える立場になるとは思いもよらなかったけどな。
まあ、悪くはないし楽しいと思えてる辺り、ここの環境は良いんだろう。
「よお、お前ら。元気か?」
ドアを開け……る前から騒がしかったし、元気そうで何よりではあるが一応聞いておく。
挨拶は大切だからな。
「元気だぜー!」
「おはよー!」
「らんらん、良い事でもあったのか?」
十者十様と言った形で挨拶が飛び交う。
元気が有り余り過ぎて心配になるくらいには元気に見えたし、まあ平常運転だろう。
「フハハッ、良い事か? 良く気付いたな……今日は運良くゆんゆんと二人きりッ! 登校デート出来たのだ!」
「おー! やるぅ!」
「憧れるなあ」
「男の中の男だ!」
済まないめぐみん、テンションが上がって自慢話をしてしまったが今朝のお前の犠牲は忘れない。多分、きっと。
さて、そんなこんなで朝の自由時間を過ごし一通り談笑し終えホームルームも簡単に終わり、授業へと移る。
まあ授業とは言っても、名乗り口上と詠唱時の決めセリフ、実践が五分五分くらいの授業なんだが。
あ、因みに俺は名乗り口上とか詠唱とか大好きです、はい。
「はい、それじゃあ今かららんらんが名乗り口上のお手本を見せてくれます! お前ら良く見てろよ!」
「それじゃあ行かせて頂きます――」
「『我が名はらんらん! 何れこの里の守護者となる者! そしてこの里唯一の氷結魔法の使い手!』――みたいな感じでどうですかね」
「うんうん、良いんじゃないか? お前らもしっかり名乗り口上を練習しろよ! それが上達すれば魔法も上達する!」
まあこんな様な感じで名乗り口上をノリノリであげている。
ただ果たしてこれが魔法の上達に繋がるかどうかは……うん、き、気持ち上手くなるんじゃないか?
それと今サラッと出てきた『氷結魔法』だが、これが俺の魔法属性だ。
物を凍らせたり、獲物を体内から凍らせて仕留めたり、魔力消費が大きくなるが物を氷に置き換える事も可能だ。
対人戦闘から狩り、冷凍保存まで何でもござれな万能魔法を手に入れられたのは運が良かったとしか言い様が無い。
「さて、この授業はここまでだ。次は詠唱時の決め台詞練習と、実際に名乗り口上から詠唱、打つまでの練習を通してやるからな」
と、言っている内に授業が終わったみたいだな。
今回は基本的な事しかやらなかったし、俺の出番と言う出番は大して無かったか。
しかし問題はここからである……
「らんらん、今日は死ぬなよ」
「おいまるで俺が毎日死んでいる様な言い方は止めろ……ギリギリ生きてるから」
「ゆんゆんのタックル……ハァハァ、ぼ、僕は受けてみたいかな……フヒヒ」
「おい止めろ死ぬぞ」
「その前にもっと違うとこに突っ込めや」
「だからまるで俺が毎日死んでいr」
そう、昨日話したが一時間に一回でも俺に会えないとゆんゆんは謎の発作を起こすのである。
俺と言う心の支えが出来た代償なのかも知れないので、その辺は致し方ない事なのだ。
だからこそ俺はここにいるのだ。
それは良いが、会えない時間が一時間以内でも、長すぎると愛情表現がドギツイ事になる。
それこそとんでもないタックルみたいな勢いで抱き付いて来たり鳩尾に顔をグリグリしてきたりそのまま叩き付けられるかの如くマウント取られたり、兎に角色んな意味で昇天しかかってしまう。
まあ可愛いし愛情表現だから許しちゃうんですけどね!
ゾッコン過ぎて申し訳ない。
「まあ良い、今日は秘策があるのだ」
「秘策……だと……!?」
「まさか、遂にらんらんが勝ち名乗りをあげる日が……!?」
「その技を盗んで習得すれば、僕にだってゆんゆんのおっぱいタックルを受ける権利が発生するんじゃないか……!?」
「おい誰かこの変態を摘まみ出せ!」
「ええいうるさい! 今日勝って、毎日のコントともおさらばだ!」
そう、今日こそあの有り余る愛情を受け止めきるのだ!
ゆんゆんの愛情を受け止めきれずに、俺は……俺は死ねないんだよ!
「さあお前ら、良く見ていろ。今日であの忌々しき――」
「あ」
忌々しき日々に終焉を、何て格好付けようとした瞬間、何故か男子諸君から不味そうな声があがった。
一体どうしt
「ゴッハァ!?」
急に腹部にとてつもなく強大な衝撃と激痛が走った。
バカな……この痛みは間違いなく……い、今までは気配程度なら察知出来ていたと言うのに……
「ゆん……ゆん……」
「らんらんらんらんらんらあ~ん、漸く会えました辛かったですあと少しで発作で魔王軍に単独突げk」
今日も愛情は俺をクリーンヒットしていった、まあ死にかけたが後悔は無い……グホッ。
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第七話「バレンタインデー特別ストーリー!~らん×ゆんはバレンタインデーキッスより甘い?~」
……突っこみどころがあっても突っこんではならない、良いね?
砂糖吐きながら書いた、後悔は無い
※最後の方の不自然な地の文の無さは演出です
バレンタインデー、それは勝ち組リア充にとっては最高の日であり負け組非リア充にとっては最悪の日である。
俺は前世じゃどっちだったかって?
そりゃあもう、呆れるくらいの非リア充だった。
それこそ某ラノベの異端審問会として登場しそうなくらいには縁も何も、あったもんじゃなかった。
学生時代は論外としても、高校卒業二年で大手グラビア誌にスカウトされ、そこで類い稀な才能を開花させてアイドルを誰よりも綺麗に撮ってきた。
これがどういう意味を持つか、そんな事誰だって分かるはずだ。
そう、俺は有りとあらゆるアイドルを撮り、信頼と実績も勝ち取り、ある程度アイドルとお近づきにもなれた――そう思っていたのだ。
しかし現実はそう甘くない。
そう、俺は欲望の余り失念していたのだ……アイドルはバレンタインデーになるとバレンタイン企画やら何やらでチョコを渡す暇なんぞ到底有り得ない、と言う事をだ。
そして俺は結局たった一つの義理チョコすら貰えずにその生涯に幕を下ろしたのだ――
「バレン……タイン……だと!? バカな、この世界にバレンタインが存在すると言うのか!?」
俺が文字通り転生し、紅魔族となり早十と幾年か。
この里には勿論の事転生前の情報を捻り出してもこの世界には『バレンタイン』というものは存在していなかったはずだ。
転移者が布教していたならば、原作でも多少なりとも言及されているはずだろうし、何よりカズマの事が大好きなめぐみんやダクネス、アイリスが、そんな恋愛イベントをスルーする訳がない、有り得ない。
だが……何故だかは分からないが、この世界には原作で存在し得なかった『バレンタイン』が存在していた。
「この忌々しきXデーは俺の前世の世界にしか存在しなかったはず……クッ、誰がこの様な謀略をッ……!」
非リア充にとって血の雨が降る様なこの悲劇を、一体誰が持ち込んだのか……ここに異端審問会の会員がいたら全力で血眼になりながら探し出して殺戮の限りを尽くしていただろう。
俺だって『今までなら』前に習えで諸悪の根元を血眼で探して殺戮の限りを尽くしていただろう。
だが……だが、今世の俺は違うのだッ!
「クククッ……しかし、今の俺にその忌々しき悪魔の呪術は通用せんぞ……甘かったなリア充共、今世じゃ俺もリア充(仮)だ!」
因みにだが、この世界でも普通こんな事を道のど真ん中で叫んでいたら通報されます、当たり前だよなあ?
しかしここは中二病患者の吹き溜り紅魔の里、そんな普通通報されて当たり前の言動も、ただの中二病であるならば『あらあら今日も精が出るわねえ』『よし、今日も紅魔の里は平常運転だな!』で済まされる訳なのだ。
「さあ、そんな訳だし今日の練習はここまでで早目に切り上げて、ゆんゆんから待望の人生初ヴァレンタァインチョッコレイトゥッ(謎ネイティブ発音)をいただくぜ!」
ゆんゆんが手に寄りを掛けて一生懸命作ってくれたチョコ……学校では秘かに男子人気が強烈に高く、隠れマドンナでもあり、この世の全ての美、それを遥かに上回る美と可愛さを備え持つ圧倒的美少女からそれを貰えるとして、果たして浮かれない人間等存在するだろうか?
否、有り得る訳がない。
しかも大好きな人から貰えるチョコ、更に言えば本命(暫定)。
ああ神様仏様駄女神様、俺を間違えて呼んでしまったあの残念美少女女神(笑)をここまで崇拝出来るとは夢にも思わなかった。
「待ってろゆんゆん、今行くぞおおおおおお!!」
俺は希望に満ち溢れた顔で駆け出した――
「あら? ゆんゆんならさっき出掛けたわよ? 今日は暫く遠出するんですって。でも珍しいわね、らんらんに何も言わず、しかも連れても行かないなんて」
俺の希望は打ち砕かれた。
家に着くもゆんゆんの姿は見えず、れいぴょんさんの口からは絶望的な発言が飛び出したのだ。
……ウッソだろおい、自分で言うのもどうかとは思うが、あの子一時間も俺と離れられない体質持ちのはずだろ?
と言うかゆんゆんは今日がバレンタインデーって知らなかったとか?
でも無くば家にチョコの材料があるのにも関わらず、俺に何も言わず一人で遠出等という前代未聞の出来事はまず以前に100%有り得ない。
「……そう、ですか」
「あ、そう言えばめぐみんちゃんと何処か行くって話してたわね。それは覚えてるわ、めぐみんちゃんもノリノリだったわね」
めぐみんもどっか行ったのか……エクスプロージョンする以外は無駄なエネルギー消費を抑えるめぐみんが、まさかノリノリになる事とか一体何があるってんだ。
はぁ、もう心折れた。
取り敢えずぶっころりーの家にでも行って傷心の捌け口にでもするか……
いや待てよ?
いくら糞ニートのぶっころりーでも、そけっとさんから気に掛けられてるしチョコを貰っている可能性はあるのではないか?
いやいやあの良い歳して大口叩くだけの糞ニートがチョコを貰えるはずが……貰ってたらぶっころすれば良いか、ぶっころりーだけに。
「ぶっころりー、いるか?」
「フハハッ、俺は今起きたところだ。それは兎も角元気がなさそうだぞ、フラれでもしたか?」
「宜しい、ならば殺戮だ」
「まあそう気を立てるな、愚痴なら幾らでも聞いてやる」
真っ昼間に今起きたところ何て良く堂々と言えるもんだな……これがニートクオリティーってか。
しかし一々煽りを入れてくる辺りまるで自分は余裕とでも言うかの如く……
そんな言動を目の当たりにしていると、妙に腹立たしくなってくる。
「ケッ勝者の余裕かよ」
「フフフ……甘いな」
「何が甘いってんだ、チョコと掛けた下らない謎かけみたいなものはお断りだぞ」
「なーにそんな事は言わない……俺も、どうやらチョコ無しらしい――」
「……そうか、済まないキツい事を」
「いや良い、分かっているだろ。敗者に慰めは無用」
前言撤回、何故かは知らないが天を仰ぎ何かを悟った様な表情のコイツも
「本当に、ダメだったな」
「言ったはずだ、少なくとも俺は今回負けたのだ」
「そうだな」
あれから幾時が過ぎ去っただろうか、ぶっころりーの家に来た時まだ昇りきっておらず
昼間はまだ何とかかんとか昼食を摂るだけの元気はあったが、今は二人、体操座りの格好で部屋の片隅にこじんまりと座り負のオーラを露にしていた。
「済まん、帰るわ……」
「……もっと、いても良いのだぞ?」
「……大丈夫だ、問題ない」
俺は立ち上がる。
何時までもこんなところでくたばっていては、ゆんゆんの顔が見られないじゃないか。
「俺が求めているのはチョコではない、世界でただ一人のゆんゆんなのだ」
「……ククッ、それでこそ我が同志」
そうだ、俺はチョコを欲していたのではないのだ。
目が覚めた、俺はゆんゆんを、ゆんゆんの愛情を欲していたのだ……!
だからこそ俺は、もう一度立ち上がる。
もう迷わない。
もう何も怖くない。
「お前も諦めなければ、きっと良い事あるさ――まずは働k」
「分かったそれ以上は言うな、俺は図太いからな」
別れの挨拶をし、俺は立ち去る。
その別れは果たして、ただの挨拶か、それとも過去の醜き自分との決別か――
「――済まないと言うべきは俺の方だったやも知れんな」
ただ一つ言えるのは、それから間もなくして少し顔を赤らめた美女からチョコを貰った青年の表情は、とても清々しいものであった。
「ただいまー……あ?」
「あ、らんらん! 良かったですもう私頭がおかしくなりそうで発作を我慢する事も儘ならなくて、そうだ明日は一日中24時間ずっといてくださいそうじゃないと私何をしでかすか……」
「いや、うん。それは悪かったんだけど今咄嗟に隠した物は……」
そう言えば悲しみの余り、ゆんゆんの発作の事を失念していた、これは一生の不覚。
可哀想に、ずっと我慢していたのだろうと思うと罪悪感が……
しかし良く耐えてくれたと思いたい、本来なら危うく最終話がボートが映る番組に差し替えられた某アニメ展開になってもおかしくは無かったのだ。
と、それは兎も角として今何か隠した様に見えたのは気のせいだろうか。
手を後ろにやってる辺りとか、凄く気になるんだが。
「あ、えっと、その……」
「ん?」
……モジモジとしているリアクションからして、見られて嫌な物ではないらしい。
しかし見られて恥ずかしい物ではあるらしいが、見当は付かない。
うーむ、ヌイグルミだろうか。ゆんゆんは可愛いものは好きだからな。
「ああ、別に見せたくないなら良いよ。俺もそんな鬼じゃないし、嫌な事させたら罪悪感で死ねる」
「え、えと、違うんです! 見せたくない物じゃなくて、その、どちらかと言えば逆の方で……」
ふむ、ヌイグルミではないらしいがそうなると何だろうか。
しかも恥ずかしいけど俺にも見せたい物と来た。
まずい全く分からんぞ……
「な、何だろう……そう言われると、気になるかな」
「で、でも笑われたら……」
「俺がゆんゆんの事、バカにした事あるか?」
「な、無い……です」
俺がゆんゆんの事をバカにしていたらソイツは偽者だ、躊躇無く殺してもらって構わない。
俺はゆんゆんが大好きなのだからな。
「なら大丈夫だって」
「うぅ……その、それじゃあ……はいっ!」
「…………ぬっ!?」
一瞬、それが何なのか分からなかった。
ガラスの、比較的薄っぺらい容器にはハート型のブラウン色にして、この世で俺が五本の指に入るくらいには欲していた物だった。
しかし、しかし一体これはどういう事なのか、理解が追い付かず脳内がヒートする。
「黙っててごめんなさい……どうしてもお兄ちゃんを驚かせたくて、めぐみんと二人してそけっとさんの家でチョコを作っていたんです……」
「そうか、そう言う事だったのか……ゆんゆん。ゆんゆんは俺の為に本命チョコをッ……!」
ゆんゆんの説明で合点が言った。
俺の為に愛情を込めて。丁寧に作り上げられたそのチョコは、形や色艶よりもまず、想いが込められて作られたと言うのがはっきりと分かるデキだった。
「はい、頑張って作ったんですけれど……あ、味は保証出来ないですが……」
「いーや大丈夫さ、ゆんゆんの作ってくれたものなら何だって美味しいさ。それに俺今すっげえ嬉しくて、何て言葉にして良いか分からねえんだ……」
「らんらん……私、らんらんと出逢えて本当に良かったです。いつもありがとうございます、お兄ちゃんっ」
お兄ちゃん、か……何時に無く良い響きだ……
と、ここまで来たのであるならばもうやる事は一つである。
「それならさ――あーん」
「ふふっ、お兄ちゃんは甘えん坊さんですね」
「俺だってゆんゆん成分足りないんだよ、ちょっとくらい……良いじゃん?」
「ちょっとと言わず何時までも、でも私は構いませんよ? あーんっ」
「ムグムグ……ふんふん、ゆんゆんの味がする」
「も、もうっ私の味って何ですかぁ……」
「わりぃわりぃ、美味しかったよ」
「……本当に本当ですか?」
「嘘は言わねえよ、本当に本当さ」
「――それなら私は、嬉しいです」
こうして激動のバレンタインデーは終わった。
俺は今日をもって勝ち組になったのだ。
因みに後日、俺より先にチョコを貰っていた事が発覚したぶっころりーをドロップキックしたり、めぐみんからまさかの義理チョコを貰えたりしたのは、また別の話である。
~ちょこっとめぐみん編~
「その、いつもお世話になってますので……」
「マジ? くれるの?」
「ふ、ふふん。有り難く思ってくださいよ?」
「……良いのか? 貴重なエネルギー源を」
「おい貴様表に出ろ、成敗してくれるわっ! エクスp」
完
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第八話「一途な変態と妹想いと両刀談義/黒歴史日記と師匠」
※ここから何回か連作短編みたいなオムニバス形式になります、予めご了承ください
※活動報告にて、この作品の今後について少しだけ書かせていただきました。宜しかったら御覧ください
※あ、後この作品が遂に(一瞬だろうけど)月間総合ランキング入りしました!100位だけど!皆さんありがとう!
その日は、紛う事なき晴天であった。
その晴天の最中、俺とぶっころりーとめぐみんはぶっころりー家に一同に介していた。
原作では同じ紅魔族という事以外言う程接点の無かったぶっころりーとめぐみんだが、俺と言うイレギュラーが誕生し、図らずも架け橋の様な存在と化した事によりそこそこ仲が良い関係となっている。
そしてこの集まりが何なのかと言うと……
「さあ始まりました! 『第三三四回一途な変態とシスコンと両刀談義』! 本日も解説、実況共にお馴染みの三人でやらせていただきます!」
「相も変わらずヘンテコな開始ですね……」
「ククク……良いではないか、その方が我々らしい」
そう、これは暇な時にぶっころりーとめぐみんと俺が集まり、ただ単に一途変態っぷりとシスコンっぷりとその両方を談義するとてつもなくどうでも良い企画である。
だが俺達に取って好きな人の良いところを談義するのは生きる活力! エネルギー!
同志がいると言うのは本当に心強い話である。
ところでめぐみんのシスコンだが、何がどうしてか原作では普通の姉妹だったはずが何時の間にやらシスコンと化していた。
まあ心当たりと言えば、多分だが俺の策略である。
俺が数年前、何気無くこめっこに妹の極意をイタズラ半分で叩き込んだ訳だ。
勿論その当時三歳かそこらだったこめっこに通じる訳がないとたかを括っていたのだが、その翌日には既にめぐみんはまるで二コマ漫画風アへ顔ダブルピース落ちの如く陥落していたのである。
恐るべしこめっこ、やはりあやつは天然魔性のとんでもない美少女に育ちそうである。
いや既に魔性の美幼女ではあるし将来が色んな意味で楽しみな子だが……待て、誰がロリコンだ、俺は好きになった人がたまたま
何もやましい事は無い、断言しよう。
まあそんなこんなで、その辺の大筋に影響の出なさそうなちょっとした原作改変くらい大丈夫だと思ってめぐみんは犠牲になった。
済まないめぐみん、この前のプリンでどうにかチャラに……え、それは無理がある?
「いやー、今日のこめっこも一段と可愛かったですよ! 私が勉強を一問教える度に『ねえさますごーい!』ですよ!? あんなの萌えない訳ないじゃないですかッ!」
「うんうん、美しきかな姉妹愛」
「こめっこには謎の、人を惹き付ける魅力があるからなあ」
……まあ、本人が幸せそうだし良いって事でここは一つ。
「フフフ……今日のそけっともとても可愛かった。玄関先でちょっと転びかけ、顔を恥ずかしさで染めるあの表情は正しく至高! 至高に他ならん! 分かるだろう同志達よ!」
「ああ、分かりますね。ですが照れてる時の顔はこめっこの方が素晴らしいです! こめっこの照れ表情は世界を救います、アンデッドすら浄化します」
「何を言う、ゆんゆんの笑顔はアンデッドを浄化させて生き返らせるくらいには清くそして何よりも尊い! 寧ろ清すぎて神々しすぎて逆に近寄れないくらいの眩しさを放っているッ! それ即ち『光神』!」
揃いも揃って本当にくだらない談義である。
だが、この上無く楽しく、充実している、満たされている。
友人とこうしておおっぴらけに馬鹿やれるだけで、前世とは大違いだとひしひしと実感する。
そしてやはり、カメラマン時代に一人くらい良く話す友人でも作っとくべきだったかと、少し後悔したり。
「……ククッ」
「……ぷっ」
「……ハハッ」
熱い談義の後は決まってくだらないくだらないと笑って過ごす、それが俺達『三人』が集まった時の日常。
馬鹿ばっかりやる、そんな平和な一時。
「らんら~ん? お母さんがご飯出来たから呼んできてって」
「おう、ゆんゆんか。分かった。んじゃあまたな、めぐみん、ぶっころりー」
「はいです」
「楽しかったぞ」
さあ帰ろう、またいつもと変わらぬ日常生活が待っている。
☆
「さーて、昼食食べ終わったら今日はこの後くまごろーさんとこ行くぜ」
「また特訓ですか?」
「おうよ、くまごろーさんは俺の師匠だしな」
あの後家に帰ったら、図ったかの様に両親が重鎮達に呼び出され家を空けなければ行けなくなり、現在ゆんゆんと二人きりで昼食タイムである。
取り敢えず、ゆんゆんの表情が曇ってなくて何より安心した。
と、ここで話は『くまごろーさん』に移るが、そもくまごろーさんはその名の通り熊……型のモンスターである。
その大きさは実にヒグマの三倍以上はあろうかと言う巨体に、真っ黒な毛並をしている森の主だ。
無口ではあるが、他のモンスターとは違い心優しい性格をしており、それでいてとても強く俺は良く師匠と呼び鍛練をしている。
……ここまで言えば、思い出す人もいるかも知れない。
そう、『くまごろーさん』は少し前見返していた日記に載っていた『ゆんゆんを襲った黒い巨大モンスター』なのである。
まあ、先程の説明を見れば大体察しは付くだろうがあれは俺の全くの勘違いであった。
ゆんゆんが襲われていたと勘違いした目撃証言の真相は、坂から落ちて怪我を負っていたゆんゆんを心配して介抱してくれていたとか。
その真実を聞かされたくまごろーさんに一撃で無力化された俺は、その瞬間よりあの日記を黒歴史にしたのだった。
まあ幸い、誤解が解けた後は里のみんなからも謝罪と受け入れる心を見せ、俺の謝罪も快く受け入れてくれ、今では正式な里の守護神と俺の師匠となっていたりする。
学校の名乗り口上の時俺が『守護者』と口にしていたのは、いつかくまごろーさんの後を俺が引き継ぐと言う意思表示からのものだった。
……未だにくまごろーさんを越える事は出来てないが。
「それにしても、ゆんゆんも大分魔法上手くなったよな」
「そうですか? 毎日めぐみんと練習していますが、上達した気にはなれないので本当に成長しているか、とか心配してたんですが。らんらんがそう言ってくれるのなら、安心出来ます」
「まあ、授業中とか男女合同でやる時に男子側から見るからな。一歩引いた形で見られるから成長度合いとか分かりやすいんだよな」
俺はとある理由から女子の教室には入れない事になっている……いや、セクハラとかクズマさんのお家芸パンツスティールした訳じゃないからな?
ただまあ……あれは色々と思い出したくない、あれはゆんゆんではなかった、あんな恐怖がゆんゆんな訳……あれ、でもあれはあれで何かゾクゾク来て……
って待て待て待て、不味い方向に行きかけている。
……ふぅ、兎に角ちょっとしたトラブルが原因で入れないからこそ、逆に一歩引目で客観的に見られると言う訳だ。
で、ゆんゆんの魔法の腕だが、多分現在ゆんゆん、めぐみんが12歳である事から爆焔の時系列のどこかであると思われるが、爆焔時のゆんゆんより上手く使いこなせている印象を持った。
まあどこの時系列か分からないのは仕方ない、あれはめぐみんの視点メインだった訳だから。
「もっと頑張って、今度こそめぐみんに勝たなきゃ……私だっていつまでも負けてばかりではいられないですから!」
「うんうん、その息その息」
何はともあれ、ゆんゆんとめぐみんの距離が近いのが上手く作用している様だ。
仲が近ければそれだけ相手の影響を受けやすい、良い意味でも悪い意味でも。
原作で紅魔族感のまるで無かったゆんゆんは、何故だか原作より若干紅魔族っぽくなっているのはきっとめぐみんの影響だろう。
対抗心の強さも、原作より強くなっている。
表にはおおっぴらに出していないが、内に秘めたるその想いと情熱は、原作以上だと確信している。
まあだから、めぐみんには感謝はしている……紅魔族の影響以外は。
「よっし、それじゃあ行くか」
「行きましょうか」
手を繋ぐ事への羞恥心は、もう諦めた。
森林の、実に健康に良さそうな香りが鼻を抜け、サアッと風が吹く。
本来なら居心地が良い場所、こんな日には是非ここで森林浴デートをゆんゆんとしたいものである。
だが、今この場所は緊迫した空気に包まれていた。
ざわり、ざわりと。
森が騒ぎ出す。
――そして、森の四方八方から、異形の生物たる人間に仇なすモンスター達が遠くから一斉に襲い掛かってくる。
俺はそれの属性を瞬時に判断し、繰り出す魔法を決める。
「生命の源奪いし邪悪なる禁忌の氷結呪術」
杖を両手で胸の位置に持ち、目を閉じ詠唱する。
杖から不自然な冷気が発現し、辺りをまるで霊道の如く気味の悪い肌寒さに変える。
異変を感じた敵の約半数はその時点で立ち止まり、異変の出所を探る様な気配を感じた。
異変を感じない敵はそのまま構わず突っ込んでくる様に、声が、足音が近付いてくる。
「その禁忌を今こそ我が手中に収める時……」
敵はつい先程よりも大分近くになっている、躊躇していた連中も近付いてきているのか声が多くなっている。
だがそんな事は気にしない、俺は至って悠々と詠唱を続ける。
「そしてその力は、我が手に宿ったッ!」
目をカッと見開く。
敵はもうあと五秒もすれば攻撃が俺を捉えるだろう位置にまでいた。
それでも俺は動じない、紅魔族の一員として詠唱する事により、気持ち『だけは』最強になっている。
そして俺は、杖を勢い良く地面に打つ。
カンッ、と短めに、しかし相手への死刑宣告をする。
魔方陣から黒い冷気が一気に敵を襲う。
その禍々しい冷気は、防御魔方陣を敷いていた敵諸とも呑み込み、包み込む。
「フリーズ・ドライ!」
ピンッと指を鳴らせばそれは消え、まるで水分を一切合切抜かれたミイラの様な敵の山積みとなっていた――
「らんらん、相変わらず凄いです!」
「いやあ、ありゃ水分のある、しかも強くない敵だったから一撃だっただけだよ」
くまごろーさんの肩に乗ったゆんゆんが誉め言葉を投げてくれる。
俺は謙遜しながらも、しかしやはり嬉しさは隠せない。
……くまごろーさんは相も変わらず熊なのに仁王立ちで頷いている、いつも思うがシュールな光景である。
「殲滅戦だったら、今の紅魔族にらんらんより強い人はいないと思いますよ?」
「まあ、場合にもよりけりだけどな。この里を護るならまずは多くの敵を倒す魔法から覚えないといけないから、日々の練習の成果よ。んで一番強い相手を心置きなくゆんゆんに潰してもらう為にもな、俺はどう人生が転ぼうともゆんゆんの隣には立つ人間なんだから」
「私も、らんらんが心置きなく周りを殲滅出来る様に、もっともっと強くなります。……だから、ずっとズット一緒デすよ?」
「……ああ」
くまごろーさんは、静かに微笑んでいた。
ある晴れた日、干からびたモンスターの山積みになった死体の近くでの決意であった。
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第九話「ゆんゆんが一番ヤンデレだった時期」
因みにヤンデレゆんゆん編は二話ありますが、今回は感想欄からリクエストいただきました覚醒ゆんゆんのエピソードを一つ
そして以下主人公の簡単なプロフィールと登場キャラの今作での立ち位置やら原作との違いを書いたりします
要らないって人は飛ばしちゃってください
主人公
らんらん(14)/福良真悟(享年23)
生前は高校卒業後にフリーカメラマンとして働き、二十歳で大手グラビア雑誌編集の専属記者として引き抜かれ名高い地位を得ていたものの、偶々アイドルを逆恨みしていた人間からアイドルを庇い刺殺される
高校卒業まではかなり劣悪な学校・家庭環境に置かれていた
アニメとアイドル鑑賞・撮影が生前の趣味であり、これは生前いた、数少ない友人の影響によるもの。このすばはその中でも友人、主人公全員が一番好きだったラノベ
アクアの手違いにより結果的に紅魔族として転生、その後はゆんゆんLOVEになり心底楽しそうだが…?
ヒロイン
ゆんゆん
絶対的メインヒロインにして絶対的妹枠
主人公の事が好き(依存?)?過ぎるあまり、原作より明らかに紅魔族っぽくなっており、めぐみんとの仲も原作より更に良好
後にカズマとの仲も多少は良好になるとかならないとか
サブキャラクター
めぐみん
主人公との仲は、同じ妹キチ同志として結構良さげ
いつの間にかゲストキャラからサブになっていた
らんらんの策略により、原作とは違い妹キチになってしまうも実に幸せそうである
ぶっころりー
最近タグに昇格してきた奴
主人公とは一途な恋愛主義者としての同志であり、仲はかなり良好
アクア(ゲストキャラ?)
お馴染みの、このすばSSでは一番最初に会う確率の高い人
但しここでは四話に登場
最近ぶっころりーの方がサブとして入ってきた為に、ここまで四話限定登場だったが故にゲストキャラに降格
タグから無事抹消された
「らんら~ん、ちょっと手伝ってほしい事があるんですけど、今大丈夫ですか?」
「ん、ちょっと待ってくれ。今丁度格好良い詠唱が出来そうなとこなんだ」
「あ、はい。急ぎではないので少しくらいなら待ってます」
実に平和な日常である。
有りがちな日常風景のヒトコマと言われたら、百人が百人共にそう答えるに違いないくらいには平和だ。
だが、一時期そうと言えなかった時期があった。
ゆんゆんがガチでヤンデレ化していたのである。
俺は前世じゃ根っからのヤンデレキャラ好きだったが、ゆんゆんが不味くなったあの時は本気で肝が冷えた。
死ぬかと思った、もうガチのヤンデレは勘弁ってくらいに。
あ、この前くらいのほんのりヤンデレの香りがする雰囲気が丁度良いんだけどね、ほらこの前と言えばモンスター殲滅戦で微妙に黒いオーラ見えたじゃん?
そう、そうそうあれくらいのチラリズムが最高だって気付いたんだよ。
例えるならパンツがガッツリ見えるより、スカートからコソッと見える方が背徳感出るみたいな。
ゆんゆんのスカートも短いから、そう言うサービスはままあるし……って、一旦その話は置いておこう。
兎に角、まずはヤンデレになってしまった発端の事件から御覧いただいた方が手っ取り早いだろう。
あれは大体今から一年と少し前――
「……何だろう、当たり前の事ではあるが全く懐しさを感じんな」
暖かな太陽と花とその他と、穢れの無い自然の匂いを感じるこの季節、春に俺は魔法学校に戻ってきた――二週間振りに。
俺ことらんらん、年齢は今年で13になる。
ついこの前卒業式を終え、ゆんゆんと離れるとゆんゆんが何を仕出かすか分からない為に俺と教師陣とで話し合い、先生より身近で、且つ勉強をある程度教えられる事が評価され、ゆんゆんが卒業をするまでの期間限定で働いてみないかと言う提案に乗ったのだ。
月収は正規雇用の教師よりは安いものの、十代のそれも前半で普通のバイトより高い金を貰えるのは異例の事らしい……これも当たり前と言えば確かにそうなのだが、如何せん実感が沸かない為に他人事染みてしまう。
仕方あるまいだろう、何せ本来俺がいた世界ならまだピッカピカの中学一年生だ、そんな年齢の人間が正規じゃないとはいえ教職に携わるなんてこの世界でも前代未聞の出来事。
まあ、俺自身嫌な仕事と言う訳じゃない上にゆんゆんに会いやすい環境に身を置けるのは願ってもない棚から牡丹餅だった。
そして今日、初めて『職場』として来た訳だが……
やはり学校は学校、何一つ代わり映えのしない緊張感も何も感じないのも仕方ないの一言で片付いてしまう様な場所であった。
「おはようございます、今日からここで一時的に働きますらんらんです」
「おーらんらん、そんな畏まらんくて良いぞー」
「そうそう、楽しくやれればそれで十分だ。楽しむ事こそが最優先されるのがこの里だしな」
「まあ最低限の礼儀以外はラフにやってないと禿げるしな」
「貴方がそれ言いますか」
「朝っぱらから不毛な争いはやめてくださいよ……」
「また髪の話してる……」
……多少なりとも礼儀を重んじてみた俺がバカだった。
嫌いじゃないし、好きな空気だけどな。
「はい、それじゃあ今日からコイツもお前らに授業を教える立場になった。まあ全員顔馴染みだが、多少は敬意を払ってやってくれ」
「はーい、分かりましたー。あ、そう言えばらんらんー?」
「いやいや十秒持ってない! 十秒も持ってないよこれ!?」
紅魔族一の天然お馬鹿ことどどんこ、成績は良いのにどうしてこう言うキャラになってしまったのか……
いやそれを言ったらめぐみんも同じもんか。
全く馬鹿と天才は紙一重と良く言われるが、ここの連中は紙一重どころか完全に同化してるのだから何とも言えない。
俺は特別天才だった訳ではないが、これでも難解な問題もそこそこ出来る上に教えるのも上手い自信がある。
じゃなかったらこの年齢で、こうしてこの場に立つ事も無かっただろう。
誉れ高い事である。
「ふふっ」
そんな建前はどうでも良いが、ゆんゆんと同じ教室で暮らせるのはひとえに感極まり無い。
それが95%くらいの本音であった。
これからはきっと楽しい日常が待っているに違いない――
「楽しい日常が待っている、そう思っていた時期が俺にもありました……」
目の前にいるのは、間違い様も無いくらいゆんゆんである。
だが目が笑ってない、あと光も灯っていない。
あとどうしてか分からないと言うか分かりたくもないが、ちょっとそれで頭を殴打されたら洒落にならないくらいの分厚さの辞書を片手で鷲掴みにしている。
と言うか待て、その辞書って幾ら握力強くてもめり込まないよな……何故ギチギチと音を立ててめり込んで……いや、これ以上詮索したらそもそも命が危ない。
「オーケーゆんゆん一旦落ち着こう、その辞書で何をする算段なのだね?」
「大丈夫です、チャントカゲンハシマスヨ? ちょっとさっきの記憶だけトバシテあげようと思イマして」
「あっ、これ絶対ダメなやつだわ」
能面の様な顔に笑顔を貼り付けたとでも表現しようか、それくらいに恐ろしい顔付きになっているゆんゆん。
男の子だもん少しくらいチヤホヤされるのは幾らゆんゆん一筋でも仕方ないと思うの。
と多少でも思っていたのが運の尽き、初日終了と共に命懸けの逃走中開始、そしてこの様である。
初日終了、俺の人生も終了なんて誰が上手い事言えと。
「安心してクダさい、少し痛みは感じますがスグヨクなりますよ」
「それ絶対安心出来ないやつだから! 落ち着いてって!」
もう目が怖すぎる、そう思った俺は目が合わせられずつい目線を下に移してしまう。
……うん、良いおっぱいだ。
じゃねえよ何でこんな時までおっぱいに視線が行くんだよ……いやしかし、いつの間にかこんなにたわわに成長しちゃってまあ……本当にこの子11歳?
前世じゃロリ巨乳何て邪道だと常々思っていたが、ゆんゆんだけは別ものである。
あるえに関しては顔も何処か大人びてるから別カテゴリ扱いとして、この子だけは何を取っても別格、顔の幼さ、体つき、性格の良さ、そしてそこに紅魔族の可愛い衣装と来て全てが最高だ。
非の打ち所が全く見当たらない。
あれじゃあ俺って何で浮気染みた事なんて……いや浮気と言えどまだ付き合ってる訳でも無し、ちょっと女の子からチヤホヤされて良い気分になってしまっただけだが、それでもこれは俺が悪いな、うん。
「どうシタンデすか?」
「えっと、その……済まん! 俺ちょっと調子乗りすぎてた! 本当済まん! 謝って許される事かどうか分かんねえけど、それでもゆんゆんが寂しい思いしちまった事は確かだし、だから本当にごめん!」
「らんらん……?」
何とか説得して止めさせるところからスタートするのではなく、土下座から入るスタイル。
我を忘れていたのは、どうやらゆんゆんだけでなく俺もだったらしい、まずは自分の非を認めるなんて常識的な事すら忘れていた。
良く考えれば、今日は多少ゆんゆんに構う時間も少なかったかも知れない。
それで寂しい思いをさせてしまっていたのであるならば、俺から謝るのは当然の事だ。
これで許してもらえなくとも、それは自分の責任に他ならない。
ショックで落ち込んで、どうにかなってしまいそうになるかも知れないがそれも自分が悪い、もしそうなっても受け止めねばならない。
その覚悟は、怖くて仕方ないながらも出来ている。
「許してもらえなくとも構わない。ゆんゆんに寂しい思いをさせていたのに俺が謝らなかったのを根に持たれても仕方ない、だが謝る事だけはさせてくれ」
「らんらん。私、らんらんを嫌いになる事だけは有り得ません」
「……マジ?」
「本当ですよ? と言うか当たり前ですっ、私が寂しかった時いつも側にいてくれて、優しくて。そんならんらんがいない生活なんて考えられないし、したくもありません」
「そ、そうか……ありがとな」
正直な話、許してくれない可能性は結構考えたが、ここまで真っ向から断言して否定されると、何と言うか凄く嬉しいし照れる。
そしてもう他の女の子にデレデレするのは辞めようと、固く固く決断した瞬間でもあった。
「でもっ、もう他の女の子に靡くのはやめてくださいね? 今度そんな事になったら、私どうなるか……ね?」
「わ、分かった! 金輪際ゆんゆん以外にデレデレするのは辞めよう! だから腕に抱き付くのは止そう! 色々と、色々と不味いから!」
「……ふふっ」
「え、なにその意味深な笑みは……」
何故だかゆんゆんが小悪魔みたいに見えた、多分幻覚ではない。
おかしいなあ、原作ではこうはならなかったのに。
何処で道を間違えたのやら……俺?
「何でもないですっ。それよりも、今日はお詫びに甘味処でパフェ、奢ってくださいね?」
「ま、それくらいはお安いご用ですよ、っと」
何とか笑って終われたから良かったものの、もう本当に今回の件は堪えた。
反省、しなきゃな。
因みにゆんゆんは、腕にしがみつきっぱなしでしたとさ。
――ああ、今思い出すだけでも俺もバカだったなあと。
あの件のその後はと言うと、俺は自ら申し出て男子教室の方での授業担当に移してもらった。
ゆんゆんと会える時間が減るのは悔しいが、それはもう致し方ない事だろう。
その代わりと言ってはあれだが、学校でのスキンシップは物理的な意味で過激になっている。
その話は前もしたが、最近は更に気配どころか教室を出た瞬間鳩尾にゆんゆんの頭がクリーンヒットする等、最早手の付け様が無くなっている。
俺はもう諦めた、流れに身を任せている。
勿論ではあるが、俺はドMなんて珍妙な性癖は持っていない。
「らんらあ~ん」
「ん、どうしたよゆんゆん。甘えたくなった?」
「呼んでみただけ、なんて」
「えー?」
「冗談です、本当はお兄ちゃんに甘えたくて仕方なくて堪りません」
「そうかそうか! よーし、お兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで!」
ドMかどうかは置いておくとして、こう言う事をしていると、やっぱり他の子に靡かなくて良かったと染々思う。
……それは良いんだがまた鳩尾に頭がクリーンヒットしてるんですが……これも愛故にってやつですか。
まあ、しっかり受け止めておくとしよう。
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第十話「パンデミック★病んでミックⅠ」
しかし今回ゆんゆん成分は少なめ、済まない
「……んだ、ここ?」
俺は暗い暗い、どこまでも闇しか無い空間に一人、佇んでいた。
上を見ても、下を見ても、或いは左右を見ても何も無い……いや『闇』だけがそこにある。
最早上下左右の感覚、そして精神すら少し歩くだけで狂いそうになる。闇とは即ち恐怖だ、闇とは即ち絶望だ。
何も見えない事こそが何より人を恐怖に貶める。
そしてそれは、人の判断を狂わせる。
何を思ったか、俺は一歩足を前に進ませていた。
景色は何も変わらない。
また一歩踏み出す、景色は変わらない。
何歩、何歩進もうともこの絶望からは抜けられなかった。
「クソッ! クソがっ、何だってんだよ!」
走る、走る、走る。
それでも、方向転換しようと、転ぼうと、叫ぼうと、この常闇が何かを示す事は無かった。
「……ハ、ハハ。本当に何なんだよ……」
項垂れる、弱々しく呟いた声はやはり何にも聞こえる術は無く。
無慈悲に消えていく。
自暴自棄になった俺は、ただただ虚空を見つめる。
どうしてこうなってしまったのか、最早感情すら消えかけていた。
ふと、ぼんやりと見つめていた空間に一筋の光が見えた。
「光だ……行かなきゃ……」
何故だろう、本当ならすがる様に、飛び付く様に、今すぐ走って向かいたいのに落ち着いてしまっている自分がいるのに気付いた。
何を悠長にしている暇がある、自分にはもう帰るべき場所、帰りを待っている人がいるんだぞ、帰れなくなったらどうするんだ。
そう自分に言い聞かせても、足を動かそうと脳に命令を送れど、ゆっくりゆっくりと、足はまるで洋画のゾンビ、アンデットの様におぼつかず。
何者かに操られるかの如く歩みは続く。
「…………」
ふと人影が目に入る。
それはぼやけて良く見えないが、何故だかとても見覚えのあるものに、直感的にそう感じた。
「…………、…………」
「え、は?」
その人影が俺に向かってなのかどうなのか定かではないが、何かを口にする。
しかし、声まで朧気にしか感じとる事が出来ず何も聞き取れない。
だがその声には聞き覚えがあった、否
その声は――
「……ハッ!? な、何だ夢か……」
頭痛がする、思わず額に手を当てると脂汗を大量にかいていた。
何だろうか、とても不吉な夢を見た様に感じる。
真っ暗な空間にいた事は覚えている、そこから光を見付けて……
それから……それからが、思い出せない。
とても重要な何かを見落としているかの様な悪寒を背中に感じる。
いや大丈夫だろう、今日この日まで転生してから何も不吉な夢は見なかった、思い過ごしだろうと頭を降って不安を払拭する。
「頭痛え……」
しかし払拭しようとする度に、まるで脳がそれを拒絶するかの様に、まるで脳が警告するかの如く鈍痛が走る。
本当に何だってんだ、苛立ちが積もる。
……隣のベットでゆんゆんが寝ているのを思い出す、辺りもまだ暗い。
短く舌打ちをすると、ゆんゆんを起こさない様静かにベットを出、シャワールームへと向かっていった。
★
「みたいな事があったんだけど、どうすかね?」
「そうね……それはもしかしたら貴方や貴方の周りに、近い将来厄災が起こる事を示しているのかも知れないわね」
休日の昼下がり、俺は占い師をしているそけっとさんのところへ来ていた。
そけっとさんの占いはほぼ百発百中で有名且つ大人気であり、ゆんゆんも何故かは知らないが良く来ているとか。
しかしそけっとさんはいつ見ても美人である、ぶっころりーが惚れ込むのも良く分かる。
……何だか知らんが殺気がしてきたんですが、いやいや俺は美人だと客観的視点からそう思ってるだけで、俺が好きなのはゆんゆんだけだからな?
だから誰か分からないけど、分かりたくないけどその殺気は収めて、収めてくださいお願いします……
……あ、収まった。
その話は一旦置いておくとして、俺がここに来たのはやはり深夜のあの不吉な夢の事について占ってもらう為に他ならない。
「明確に、何が起こるか教えてくれませんかね? そうじゃないとまた夢に見そうで……」
「うーん、ちょっとそれは無理なのよね……」
「と、言いますと?」
ほぼ百発百中の占いにおいて無理とはまた珍しい、いや余りに不吉な事過ぎて話せないとか?
何にせよこの人が占いにおいて言葉を濁すなんて、嫌な予感しかしない訳でして。
「何と言うかね、見えないのよ」
「見えない? 確かそけっとさんが見通せないのは自分の事だけだと聞いたんですが」
「だから私としても不可解なのよね……誰かの為に占って、それで見えない事なんて初めてで」
「ええ……めっちゃ不吉じゃないですかそれ……」
「まあ、所詮は占いだし。そう、見えない事だってあるわよ、多分」
「いやいやいやいや不安煽ってますよ!? あと多分とか滅茶苦茶怖いんですけど!?」
そけっとさんも紅魔族の例に漏れず、紅魔族的センスだったり何処かお茶目なところはあるが今回に限っては何故だか洒落にならない気がしてならなかった。
「取り敢えず、気をしっかり持ってれば大丈夫よ。後は……ほら、男の子なら占いの結果に振り回されるより度胸と気合いよ!」
「上手くはぐらかされてませんかね……」
まあ何もないならそれに越した事は無いが……しかし、あの夢に最後出てきた何か、それが何か引っ掛かるんだよな。
光を見付けて、歩いて……何か、何か重要な事を忘れている様な気がするんだが。
はぁ、もう気にしても仕方ないか。
さて、めぐみんのとこへいつもの料理のお裾分けでもしてくるかな。
★
「で、どうしてこうなった」
一言で今のこの惨状を説明すると、間違いなくパンデミックである。
人死や傷害こそ出てない上ゾンビ化等も起きていないものの、この状況はそう言い表すより他無いだろう。
逃げ惑う男達(一部除く)、何故かピコピコハンマーを振りかざし逃げ惑う男達を猛追する女性陣。
もう、何と言うか色々おかしい。
「さて……残念ながら俺もゆんゆんから逃げなくてはいけないハメになった訳だが……」
どうやら見たところ、あのピコピコハンマーの餌食になった男達は叩いた女性の虜になり、下僕になってしまうらしい。
因みに俺が逃げる理由はとてもシンプルな事だ。
ゆんゆんが自ら望んだ形以外で結ばれるのは毛頭ごめんだからである。
こんな形で結ばれて、果たしてゆんゆんは喜ぶのか、周りの女性陣も後悔しないのか。
俺含め何故か紅魔族の男性陣は多くがその辺はしっかりしている、但し一部は除く。
「おーい、ぶっころりーは逃げなくて……うん、良いみたいだな」
俺の近くに偶々いたぶっころりーは、何時になくキリッとした男前な姿で無言の仁王立ちをしていた。
あれか、サーチ&バッチコイってか。
もうそけっとさんに愛されたくて形振り構ってられないと、そけっとさんの愛なら歪んだものでも良いと仰るか。
それはそれである意味男前だとは思う。
だがコイツはニートだ、もう一度言うがコイツは正真正銘ただのニートである。
形振り構ってられないのならまずは職、探せよ。
まあ
生きて、生き残って次の日の朝日を正常なゆんゆんと共に拝むのだ。
そしてまた、ゆんゆんのハッピーエンドに向かって走っていく日常を始める、それが出来ねば何の為に俺は転生してまであの子を助けに行こうと決心したのか分からなくなってしまう。
「済まないゆんゆん……俺だって逃げたくはないんだ。許してくれよ」
地獄絵図と化した里のエリアに背をむける。
そして、どうしてこうなってしまったのか、それが脳裏を過る。
そう、それは俺がめぐみんの家に料理をお裾分けしに行った時の事だった――
★
「おっすめぐみん、今日も料理持ってきたぜ」
「いつもすみませんね二人共、私の為に」
「お前の為だけじゃねえからな? どちらかと言えばこめっこの比率が高い」
「いつも似たものばかりでごめんね、めぐみん」
「いえいえ、貰えるだけで家は大助かりですよ。それにしてもこのジャイアントトードの肉じゃがはいつ食べても絶品ですね!」
「そりゃあこの俺とゆんゆんとで作ってるからな、最高の出来映えなのは当たり前よ」
不穏な占いから約一時間後、ゆんゆんも連れていつもの様にめぐみんの家へと来ていた。
ところでめぐみんの家は壊滅的一歩手前でギリギリ生き残ってる程度の貧乏だが、その貧乏の原因はめぐみんの父親にあるのだ。
「今度は違うものも作ってくるから楽しみにしててね!」
「はい、楽しみにしてますよー」
「ところでめぐみんよ、親父さんはまた魔道具作りか?」
「……そうですね、また性懲りもなく頭のおかしい魔道具を作ってますかね」
「頭のおかしいお前が頭おかしいと称すとか、やっぱりいつ考えてもヤバいよな」
「……反論出来ないのが心苦しい限りです」
「え、えっと、私に出来る事があったら言ってね?」
めぐみんの父親ことひょいざぶろーさん、話を聞いていれば分かる通り魔道具製作と販売を行っている。
だが致命的に魔道具製作のセンスが無い、壊滅的に無い。
快眠をお届けする代わりに永眠までお届けしてしまったりするアイマスク、無償で爆発魔法を打てる代わりに自分まで爆発するステッキだったり、兎に角一般に出回ったら人死の十件くらいは簡単に引き起こせそうな代物しか出来ない。
「やあらんらんくんとゆんゆんちゃんじゃないか、いつも料理ありがとうな」
「あ、いえいえ良いんですよ」
「そ、そうですよ。助け合うのは当たり前です」
まあ、こうして人柄は悪くないと言うか寧ろ気の良い人だからか、こうやってる事を否定するのが躊躇されると言うか……何ともタチの悪い事である。
「本当にありがとうな。あ、そうだ今日はウィズさんが来るらしいんだ。らんらんくん、また魔法を見てもらったらどうだ?」
「本当っすか? 久々っすねえあの人がここに来るの」
それは兎も角、ウィズさんが来ると言うのは朗報だ。
ウィズさんは氷結魔法を極めたリッチー、つまりはアンデッドの頂点に君臨する王だ。
しかし見た目は可愛いお姉さんみたいな風貌で、うんとても可愛い。
まあちょっとした冗談は置いといても、俺が使う氷結魔法にアドバイスをくれるもう一人の師匠みたいな人だから、来てくれるのは純粋に嬉しい。
のだが、まさかウィズさんがあの悲劇のトリガーになるなんて、この時はまだ思ってすらいなかったのだ――
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第十一話「パンデミック★病んでミックⅡ」
ウィズさんのおっぱいでパフパフされたい…されたくない?
おもむろにドアが開かれる、この時間帯めぐみんの家は一応、本当に一応ではあるが営業時間内だ。
来るとすれば俺達の様な店の事には一切関係の無い奴等が殆んどだが、今回ばかりは違っていた。
「こんにちは、ひょいざぶろーさん……あっ、それにらんらんくんにゆんゆんちゃん、めぐみんちゃんも」
「おお、いらっしゃい。また新作が何個が出来たんだ、見ていってくれよ」
「ちっすウィズさん、お久し振りっす」
「ど、どうも……」
「また買いに来たんですね、全く物好きな」
たまーにこのトンデモ魔道具を買いに来る物好きな人がいるのだ、そしてその中でも一番頻度が高いのがウィズさんなのである。
ところでウィズさんは、実はあの魔王軍の幹部の一人であるが幹部らしい行動は何一つ取っていない。
まあこんな優しい人が魔王軍幹部と言ったところで、まず誰も信じないだろうがな。
そもそも幹部と言ってもほぼ中立寄り、魔王軍やモンスターを倒して生計を立ててる冒険者以外を殺す事を絶対に良しとせず、殺した場合魔王軍でも容赦しないらしい。
そんな優しくて、アンデッドになった今でも人間が好きな非の付け所が無い……様に見えるウィズさんだが致命的な問題点が二つある。
一つはお察しの通りセンスが壊滅的なひょいざぶろーさんのところにわざわざ来ては魔道具を買い占めていく致命的な魔道具センス。
但しこれはめぐみんの家の生計の約九割以上を占めている為、一概に悪い事とは……いや、ひょいざぶろーさんがどうにかなれば済む話ではあるけどな。
そんな訳でめぐみんはウィズさんに対して何とも言えない気持ちなそうな。
勿論人間性やら何やらが良いのは分かってるんだがな。
んで二つ目は商売センスも壊滅的だと言う事だ。
そもそもウィズさんは、アクセルで魔道具販売を行っている。
そこで、ひょいざぶろーさんから安く仕入れてアクセルの街でそこそこの値段で売り捌く……一見すれば悪くない商売方法だが商品が致命的に売れない、当たり前の話ではあるが。
「新作ですか? 楽しみですね、是非仕入れさせていただきます」
「……ほんと、良く懲りないよな」
「今日はバニルさん、来てないんだ……」
「そう言えばあの愉快な悪魔はゆんゆんの数少ない友人の一人でしたね、悪魔ですが」
「数少ないって言わないでぇ!」
新作に目がないウィズさん、何故毎度毎度売れないのに売れると信じてしまうのか。
そしてバニルと言うのは、ウィズさんとゆんゆんの数少ない友人でもある。
バニルもウィズさんと同様肩書きは魔王軍だが、ほぼ不干渉である。
そんなバニルは、ウィズさんと魔道具店を共に経営していて度々来ていたりもする。
ゆんゆんはそこでバニルと友人になったらしい、どうしてなれたのかは分からんが取り敢えずあの悪魔、悪い奴では無いしゆんゆんも何だかんだで嬉しそうだから良いんだが。
「そんな事言って、その少ない中に入れてるのが嬉しい癖によ、めぐみんは素直じゃねえなあ」
「なあっ!? そ、そそそそそそんな事無いじゃあないですか!」
「……う、嬉しくないの? 私と友達な事……」
「い、いやいやそう言う事じゃなくてですね!?」
「ククッ安心しろゆんゆん、そいつ照れ隠ししてるだけでお前の事大好きだからよ。顔真っ赤で誤魔化してもバレバレだっての」
「ぬああにおぉ!? ……ま、まあ嘘かどうかと言われれば、その。否定はしにくいですが」
「ありがとうめぐみん! 大好き!」
「ふふ、みんな仲良しですね」
「はぁーあ。本当にそうですね、溜め息出るくらいめぐみんに焼き餅焼いちゃいますよ」
大好き、なんて言われてゆんゆんに抱き着かれてるめぐみんを見ていると本当にそう感じる。
女の子同士の友情だし俺が嫉妬する事なんてありゃしないのだろうが、ゆんゆんのめぐみんへの好感度が余りに高い為何かめぐみんがムカつくとまでは行かずとも対抗心が燃えたぎってくるのだ。
「……フッ」
「おいめぐみん、何で勝ち誇った様な表情と嘲笑をしやがった。ドロップキック喰らわすぞロリっ子」
「誰がロリっ子じゃボケエクスプロージョン打ちますよ」
「それだけは勘弁してくださいお願いします跡形も無く吹き飛ぶからマジで勘弁してください」
そう言えばめぐみんは、数ヵ月前に爆裂魔法を習得している。
原作同様それ以外の全ての魔法を捨てて手に入れた待望の爆裂魔法故にか、一日一発が限度のそれを一日一発必ず自己満足でぶっぱなしている、主に平地か雑魚モンスターに。
はっきり言って宝の持ち腐れ過ぎる、原作知ってるから今更だけど。
「あ、ひょいざぶろーさんひょいざぶろーさん、これ下さい!」
「おっ! お目が高いねえ、それは女の人の中に眠る男の人への愛情を爆発させるガスなんだ。だから厳重にビンに保管してあるって事だ」
とまあ俺達がコントをしている内に、何だか商談の方はいつも以上に怪しい方向へと向かっていた。
愛情を爆発させるガス、更にビン保存って単語だけでろくな目に合わなさそうである、使わずウィズ魔道具店のオブジェクトとなる事を願う他ないだろう。
きっとバニルでも同じ事を願っていたに違いない。
(あと一歩告白に踏み出せない私も、その中に眠る愛情を爆発させればゴールイン……い、いやいやそんな事しちゃダメよゆんゆん、私は私の意志で告白するんだから)
「ん、何かブツブツ喋ってるけどどうかしたのか?」
「え、えっと、だ、大丈夫ですっ! らんらんには関係の無い話ですから!」
しまった、ウィズさんとひょいざぶろーさんを警戒し過ぎたせいでゆんゆんの一人言が聞こえなかった……
いや、何も無いとは思うんだが何故か悪寒と言うか、嫌な予感がしてならないのだ。
何か今後のフラグに直結する事を言っていた様にも聞こえたが……聞き出せそうにもないか、残念。
まあ、大丈夫だろう。
「それじゃあ、ありがとうございました。今日はちょっと用事があるので、このまま帰りますね」
「また暇な時にでも魔法、教えてください」
「勿論です! 可愛い愛弟子ですから。ゆんゆんさんとめぐみんさんも、さよなら」
「はい、また何時でも来てくださいね」
「あ、あはは……そうですね、また来てください」
いつもの様にウィズさんの見送り、何でも今日はバニルさんと用事があるのだとかで魔法の特訓を見てもらう事は出来ないが、まあ仕方の無い話だろう。
また次の機会に教えてもらうとしよう。
見送るウィズさんの後ろ姿は、やはり何処か風格があって少し格好良くも――
「あっ」
格好良くも見えた、そう思い掛けたその時ふいにウィズさんの身体が前のめりにバランスを崩す……と同時に盛大にコケる。
何とも締まらない、しかしその人らしい感じもあり微笑ましく思える……はずなのだが。
何かとても、とっても嫌な予感がする。
そしてそれは的中していた。
「…………」
「…………」
「……ビン、壊しちゃいました」
「…………ん?」
数瞬の沈黙の末、ひきつった顔で壊れたビンを見せるウィズさん……って
それが壊れたって事は、中は確実に漏れだしてると言う事な訳でして……ゆんゆんとめぐみん、二人が吸ってたら不味い!
「おいゆんゆん、めぐみん! それ絶対吸うなよ!?」
「はい、大丈夫ですよらんらん」
「そうです、ちゃんと息は止めてました!」
何とか防御結界を即座に張り、二人に問い掛ける。
因みに咄嗟に掛けた為詠唱は省略している、当たり前だよなあ?
しかし二人共無事そうで何よりである。
「だから……ワタシトキセイジジツヲツクリマショウ?」
「ワタシ……ランランガホシイデス……」
「あ、駄目だこりゃ」
前言撤回、清々しいまでに手遅れだった。
と言うか何故にめぐみんまで掛かってるんだ、強力すぎて効き目が暴走でもしたのかよ傍迷惑過ぎるわ。
「ランラン、ズットワタシトイマショウ?」
「……」
しかしあれだな、愛が重たすぎるなゆんゆんは。
うむ、今日も今日とて可愛いなあゆんゆんは!!
でも無言で涎垂らして近付いてくるめぐみんは何なんですかね、俺はシマウマでアイツは虎かライオンかよ。
俺の方が食われるのかよ。
「そんな事考えてる場合じゃねえよ! かなりヤバイよこれ!?」
ジリジリと近付いてくる二人、目にハイライトが無い。
実にヤンデレであった、てか愛情爆発ってヤンデレ状態の事かよ。
そんな冷静な分析をしながら、取り敢えず捕まったらヤバそうなので全力疾走で逃げる事にした。
「っておい待て君達さっきそんな物持ってなかったよね!? ピコピコハンマー!? それどっから出したんだよ!? あとこの世界にもピコピコハンマーあったんだ!?」
しかし逃げてる途中、ふと振り向くと二人して何故かピコピコハンマーを片手に振り回しながら全力疾走で追い掛けてきていた。
下手なホラーよりよっぽどホラーだった、ちょっとだけ……いや結構ゆんゆんにピコピコされたいと思った事は押し込んでおく。
しかしピコピコハンマー……ヤンデレ……待てよ、この設定何処かで……前世、そうだ前世の何処かで見覚えのある設定なんだよな。
……何故か思い出したらいけない気がした。
まあ良い、兎に角ここは二人を撒かないといけない。
またナンセンスな無詠唱魔法になってしまうのは心苦しいが、自分の命の方が惜しいから我慢しよう。
「アイス・スモッグ!」
スモッグと言ってはいるものの、ただの白い霧に軽度の催眠術式を織り交ぜて迷わせる攪乱魔法だ。
これでもたかは知れているが、撒くだけなら何とかなるだろう、発動が上手く行ったのを確認し終える間も無く全力疾走で二人から出来るだけ遠くへと逃げる。
「ふぅ、ふぅ……何とか一旦は撒いたか。しっかし改めて見ると……感染酷いなこれ、パンデミックだわ」
五分後、大分撒いたと思った俺は一旦息をついて身を潜め、辺りの惨状を確認する。
聞こえてくるのは男達の悲鳴と女性達の執念に駆られた声。
正直怖すぎてチビりそう何ですけど、誰か助けてください。
まあそんな半分冗談な事は置いといて、一つ気掛かりな事がある。
それはこめっこの事だ。
こめっこは他の子より栄養不足な為、このガスで体調を崩していないか自称兄である俺としては非常に心配でならない。
「まあ余程の事は無いとは思うが」
有毒なガスではないと思う、だからあまりそう言う事は想定しにくいが念の為だ。
「待ってろよ……今お兄ちゃんが行くからな!」
手には既に食料が握られていた、出所に突っ込んではいけない。
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第十二話「パンデミック★病んでミックⅢ」
ところでホーストさん再登場はまだですかね…
こめっこに『にーさま』なんて呼ばれたら昇天不可避、これは世のこのすばファンなら誰しもが理解出来ると思いますわ
「ぜえ、ぜえ……ま、まさかあの後あの二人にあっさり見付かるとは思わなかった……」
こめっこの事が心配だからと意を決して飛び出した俺だったが、その僅か二秒後にはゆんゆんとめぐみん、二人に背を向けて逃走していた。
軽くどころじゃなくてまあ中々の恐怖体験であった。
特に追い掛けてくると言うか、そもそも催眠ガスの効果を受けたとしても俺を標的にする理由すらがこれと言って浮かばないめぐみんに関しては既にガチホラー案件である。
何とかフリーズ・ショット……相手の足元に打って踏ませ、踏んだ瞬間魔力を纏った氷が相手の足を覆い固め動けなくする魔法、因みに今回は俺の大事な大事なゆんゆんと、その心友兼俺ともそこそこ仲の良い……多分良いめぐみんを気遣い凍傷を防ぐ術式も組み込んだ魔力消費の高い方のやつで足止めしたがまた何時見付かってもおかしくない。
「てかめぐみんにあのガスが効いたって、もしかして俺に好意が……? ……無いな、とも言い切れないか、現状」
先程めぐみんがガスの催眠に掛かる理由は見当たらないとしたが、保留している候補なら一つだけある。
それはめぐみんが俺に好意を抱いている、という何とも現実味の無い話だ。
良く考えれば分かるが、アイツが俺に対して異性としての好意的言動を見た覚えは何一つ無い。
バレンタインデーに関してはあくまで義理チョコ、更に多少俺の発言が災いしたとは言え取っ組み合いになりかけたあれが唯一何とか異性としての好意的言動として見れなくも……微妙なところだが、見れなくもないという事にしておくとしてもそれだけだ。
めぐみんに直接言った事は一切無いが、確かにめぐみんは見てくれは可愛いし、料理も上手くてその他の家事も万能で嫁力は流石としか言い様の無い高さ、食いしん坊なところも可愛いげがある。
だが、俺はめぐみんの事は『手は掛かるけど可愛い妹兼友達』としか認識していない、あくまでそこ止まりだ。
だからそれ相応の接し方でやって来て、異性として好意を抱かれる様な事態になるとは想定しにくい。
やって来た事と言えば、昔から友達としてつるんで、餌付けして、ちょっと勉強教えて、妹LOVEにさせて、それくらいなもんだ。
やはり分からない、アイツにとって俺の存在は何だと言うのだろうか。
……まあでも、何もアプローチが無かったという事はまだ運が良かったと言えるか。
それなら有耶無耶にすれば良いだけの話だ、めぐみんには悪いがその恋心は芽吹く前に地面に押し込んでおいてやろう……原作通りカズマと良い雰囲気になってほしいのと、何よりアイツが傷付かない為に。
「さて、それより結果オーライとは言えめぐみんの家のすぐ近くまで来れたな。後は中にこめっこがいれば良いんだが」
その事は一旦さておき、当初の目的であるこめっこの現状確認が最優先事項だ。
連れ出して何処かに隠れさせておくか、最悪一緒に逃げる事も視野に入れないといけない。
正直こめっこを無事に逃げさせる事が出来るか不安ではあるが、こうなれば身体を張って多少の傷は致し方無しと見るより他ないだろう。
「おーいこめっこー、いるかー?」
「にーさま?」
「おお、こめっこ! お前大丈夫だったか!?」
ビンゴ、見事にこめっこは家の中にいた。
出歩いてたらと思うと青ざめてしまうが、これで何とか一安心出来そうだ。
「……だいじょぶじゃない、おなか空きました」
「ふぅ……食料はお兄ちゃんが持ってきたよ、だから取り敢えず開けてくれ」
大丈夫じゃないと聞いて一瞬ドキリッとしたが、空腹と聞いてホッと胸を撫で下ろす。
ああ、こめっこはこの状態でも至って平常運転だった。
「わかったー。ホースト、開けてあげて」
「チッ……分かっt……分かりました」
「おいちょっと待てや」
しかし、めぐみんの家からまさかの声が聞こえてきた。
知らない奴ではない、寧ろ親しい仲と言えばそうなるが、このタイミングで聞こえてくるのはおかしい。
そもそもだが、当たっていればこの声の主はこの前、ゆんゆんとめぐみんに倒されているはずだ。
「よぉらんらん、久々じゃねえか」
「ええ……おまっ、やっぱホーストじゃねえかよ! この前の感動的な別れみたいなの何だったの!? あの感動を返せや!」
「ハハッ、言ったじゃねえか……俺は将来的にコイツの使い魔になってやるってよ。だから、その、なんだ……約束を果たす為に、死なれたら困るからちょっと手ェ貸してやってんだよ」
「はぁ……ま、良いよ、こめっこを守ってくれてありがとな。今度はアイツ等に見付かんなよ」
コイツは悪魔のホースト。将来的にこめっこの使い魔になる事を約束し、俺ともそこそこ仲が良い自信家だけど気の良い奴だ。
だがこの前、ボロボロになったホーストを見付けた時に『多分、もう暫くは会えねえな』なんて言って、そして倒されてったはずなのにそこからあれか、ものの少しで復活してるのは何のギャグだと小一時間問い詰めでもしようかと思ったが、こめっこを守る為にこの短時間で急いで復活してくれたと思うと、許してしまう。
「そうだな……コイツが大体あの爆裂娘くらいにまで成長するその時までは、あの遺跡でのんびり暮らすとでもするか」
「う~、にーさまごはんまだー?」
「お、わりわり。取り敢えず残り物の肉じゃがしか無かったけど、良かったか?」
「うん、ありがとにーさま。だいすきー」
「あ^~」
「おいらんらん、昇天しかかってるぞ……」
それは兎も角相も変わらずこめっこが天使過ぎる件。
俺はもう自分の中では認めざるを得ないロリコンだが、ロリコンでなくともこめっこの天使っぷりは分かるはずだ。
最早そこに言葉など必要無い、ただひたすらに心をぴょんぴょんさせれば全て伝わるのだ。
五歳の女の子になにデレデレしているんだって? 甘いな、兄たる者妹が可愛くない人間等存在し得ない、更に直球で好意を伝えられて嬉しくない、そんな事ある訳が無い。
「ゴホン……どう、美味いか?」
「おいしーよ、やっぱりにーさまの料理が世界一!」
「良い……最高だ……!!」
「惚けるのはこのパンデミックを止めてからにしろよ……お前こそ見つかっても知らねえぞ」
「うっ……分かったよ、それじゃ俺は行くけどちゃんと守っといてくれよな」
「ハッ、この俺様がそう何度も殺られるかっての」
こめっこにデレデレし過ぎたせいで当初の目的を忘れるところだった、俺はそろそろここには居られなくなるだろう……何せあの二人の超強力連携プレイならもうすぐここを嗅ぎ付けてもおかしくはない。
俺はホーストと軽く拳をぶつけ合い、外へと舞い戻っていった。
「しかし、解決方法が分からないんじゃいつまで経とうともジリ貧のいたちごっこじゃねえか……」
外は相変わらずパンデミック状態が続いていた、俺と同じく持久戦に回った連中が何とか生き残ってるらしい。
勇敢に立ち向かった連中は……うん、見事に二コマ漫画オチの如く全滅している。
ところでこめっこ達と別れた後、ぶっころりーを見掛けたがさめざめと泣いていたのでそっとしておいてやった。
きっとそけっとさんが来なかったか、鉄の精神力でガスに耐えきったかしたのだろう、可哀想に。
まあそれは良いが、何をすればこの騒動が終わるのかが分からない限り迂闊な行動が出来ない。
「ん? ……あれは、ウィズさん!?」
そう思っていると、何人かの女の人の足止めをしているウィズさんに出会した。
しかしウィズさんには効いてないみたいで安心した、もし効いてたら終わりだった。
「おーいウィズさーん!」
「らんらんくん、無事だったんですね! 良かったあ私のミスで誰かに何かあったらと私気が気で無くて……」
確かにウィズさんのミスでこうなったのは事実だが、来る途中で沸いたモンスターをしっかり駆除してくれるし、里のみんなに魔法のアドバイスやスキルを覚えさせてくれたりと助かってるし、何より派手好きお祭り騒ぎ好きの紅魔族と言う人種も相まって恨まれたり好感度が下がる、なんて事にはそうなりはしないだろう。
「それより、一旦逃げましょう! 足止めしてても埒が空きません!」
「そ、そうですね!」
「い、一応ここまで来れば大丈夫か……」
「本当にごめんなさい、私のせいでこんな事に……」
「いやいや、いつも色々お世話になってますし、まあ大丈夫でしょ、多分」
申し訳なさそうに語るウィズさんだが、此方としてはそこまで重い事でも無し、更に言えばめぐみんの様な好きと言う感情を表に出してない人も同じく感染しているのならば、男としてはその気持ちを拾ってあげたりする事が出来る。
……俺はヘタレだから、めぐみんの気持ちは拾ってあげられないが、な。
「そう言ってもらえると、多少は心が落ち着きます」
「それなら良かったです。……ああそうだ、そう言えばこれ収める為の方法とかってひょいざぶろーさんから聞いてませんかね? 何とかしないと俺の命がまずいんですが」
ところでこの逃走中、一度もひょいざぶろーさんを見掛けてない為に今ウィズさんと会えた事で、漸く手掛りみたいなものを持ってる人と合流出来た事になる。
正直良くそれまで逃げ切れたものだと思う。
当のウィズさんはと言うと……何故か顔を赤らめ、物凄く申し訳なさそうな表情でこっちの様子を伺っていた。
おい待てどうして不味そうな雰囲気になってるんですかね……嫌な予感しかしないんですが。
「え、えーと……その。とても話しにくい事なんですが……」
「それでも俺は、ゆんゆんを元に戻したいんです……教えて、もらえませんかね」
やはり何かしら不味い展開にはなるらしい、だが俺はそんな事で躊躇っていてはいけない、いけないのだ。
ゆんゆんの為なら例え火の中水の中、地獄の果てにだって赴いてやろう。
「……分かりました。ですが、相応の覚悟はしてもらわないといけないと思います……大丈夫ですか?」
「ゆんゆんの為なら、この命すら省みない志です」
ふぅ、とウィズさんが大きく息を吐き出す。
どうやら本当に覚悟しないといけない事案らしいが、もう腹は括った。
何だって来いや。
「みんなを助ける方法、それは……」
「それは?」
「それは……」
「…………」
「…………好きな人への唇へのキス、です」
「………………はい?」
どうやら俺には幻聴が聴こえてしまったらしい、とても疲れている様だ……
「え、その、それって何かの」
「冗談ではないです、本当にこれしか方法がないんです……」
幻聴ではなかったらしい。
その後の事は良く覚えていない。
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第十三話「クリスマス特別番外編~ゆんゆんにサンタコスさせてみた~」
シリアスが書けなさすぎて手詰まりになってて頭を抱える日々を送っています、いやーキツいっす(素)
現実世界ではメリークリスマスでも落ちぶれた自分はヘビークルシミマス、皆さんこれからドッと寒くなるので身体には気を付けて
因みにこれの時系列は八~九話辺りって事で
「何故にミニスカサンタコスの衣装がこんなところに売ってるんですかね……」
紅魔の里、とある服屋にて。
俺はとある服を目の前にそんな事を呟いていた。
ここに来るキッカケとなったのは二日前、今着ている服が気持ち小さく思えてきたからじゃあ買いに行くか、となって徒歩三分の近所のおばちゃんがやってる店に来たのだが……
この前来た行商人が使い道の分からない服を貰ったから引き取ってくれないかと言い、何となく気に入ったおばちゃんが二つ返事で貰っていったんだとか。
で、こうして店に出していると。
オーケーそこまでは分かった、だが問題はそれが『サンタコス』用のコスプレ衣装だった事だ。
いや誰だよこんなの行商人にやった奴は。
「いやね、アタシもノリで貰ったんだけど着ようにも似合わないから……」
「そ、そうすか……」
口が裂けても言えない、確かに似合わないなんて言える訳が無い。
カメラマン魂に誓って少なくとも容姿の指摘に関しては軽率な発言はしたら切腹ものである。
「そんで丁度良いところにアンタが来てくれたのよ。どうだい、全然売れないし何ならタダであげるよ」
「タダですとお!?」
タダより高い物は無いとは古今東西異世界でも共通認識である。
勿論あっちの世界の男がサンタコスを嫌う訳も無いのは俺も同じく、見つけた瞬間からゆんゆんに着せる為に表示価格で買い取る算段であった。
何処とも知らない店ならともかく、いつもお世話になってる店な上に金ならゲームも漫画も小説も無いこの世界じゃちょっと贅沢な食生活をしようとも俺の稼ぎなら余裕で貯金されていくだけなのだ。
「ええ、暫く買い手が見つからなかったからねえ」
「……おばちゃん、それ表示価格で買わせてくれ」
「い、良いのかい? 私としては助かるけど」
「まあ、俺としては金は貯まってく一方だしたまには景気よく、ね?」
「そうかい? それなら無下には出来ないね」
「やりぃ」
この『買ったという事』こそが達成感を増幅させる。
金があるからこそ、金を使う事に意味がある。
物を大切にする気持ちや苦労して手に入れた先にある感情と言うのはこう言う事なのだろう。
お手製の毛皮バッグに俺の本来買うべき服数着と、ゆんゆん用のサンタコスを入れ服屋をニヤケ顔で後にする。
「フフフ……良い買い物をしたぞ……」
十分後、自宅。
帰ってきて早々ゆんゆんタックルを喰らいながらも生存し自室で思わぬ戦果に血反吐の跡を口に残しながら不審な笑みを浮かべる俺。
「小さめのサンタ帽にミニポンチョ、スタンダートなちょっとモコモコした服にファーの付いたミニスカ、んでブーツ。王道イズ最強ですわ」
あっちの世界じゃ数万円掛けて買えるレベルの代物だったが、約十分の一レベルの値段で買えたのはこの世界ならではだろう。
そうして戦利品を眺めホクホクしていると、自室のドアがノックされる。
「らんらん、入っても良いですか?」
「お、ゆんゆんか。良いところに来てくれたな、ウェルカムさ」
そろそろゆんゆん呼んで着せてみようか、なんて考えてた矢先にゆんゆん自ら丁度来てくれるとかいう神憑り的展開、サンキューポンコツ女神。
「……えーっと。なんですか、その服?」
入ってきて早々困惑気味のゆんゆん。
それもこれもこっちの世界じゃ全くお目にかかれない代物だから致し方あるまい、俺は笑顔でゆんゆんを手招きする。
「これはとある行商人が持ってきた高級な民族衣装(半分真実)らしくてな、服屋のおばちゃん曰く宝の持ち腐れだからと格安で譲ってくれたんだ。んでそれならゆんゆんに似合うだろうって考えて買ってきた訳」
「わ、私にですか!?」
「そうとも。この服絶対似合うって確信があるからね、寧ろ似合わない根拠がどこにも何一つ見当たらないんですがそれは」
「うぅ……でも本当に似合うかなあ……」
「フハハ、俺は嘘を付かない。なーにちょいと騙されたと思って着てみてくれ」
無論元売れっ子プロカメラマンとして、そしてヲタクとして衣装に関しての嘘は絶対に、何があろうと、天地が引っくり返ろうと、明日世界が終焉を迎えるとしても付かない、付く訳にはいかない。
「わ、分かりました……」
「万が一にも着心地が悪かったら言ってくれれば良いからね。それじゃあ終わったら呼んでな」
勿論女の子の着替えを覗く、なんて言う無粋な真似はしない。
そう言うものの担当はクズマさんだと相場が決まっているし、何よりも俺は着替えている時の服と肌が擦れる音だけで妄想出来る勝ち組なのだ。
『玄人とは変態と思われないまま変態行為を行う』
実際問題ゆんゆんにバレてるでも無ければ何かしらの実害を被っている訳でも無い。
俺はただ部屋の外で着替えが終わるのを待っているだけなのだ、そこに何も違和感などあるまい。
(……この感じは、らんらんが近くにいる!?)
(万が一にでも見られていたらと思うと……か、身体が火照ってダメになりそうかも……)
(はぁ、はぁ……早く着替えなきゃ)
「お、終わりました」
「よしっ、それじゃあ開けても良いか?」
「その、あの、まだ心の準備が……」
「なーにお兄ちゃんに見せるだけだから問題無い! ゆんゆんはお兄ちゃんに見せられない様な子じゃないって分かってます! 自慢の妹だからな!」
「……お、お兄ちゃんがそこまで言うなら……少しだけ」
「物分かりが良いのも自慢出来るポイントだな、本当に良い子だよ」
またの名をチョロいと言う。
だがそれが良い。
それが可愛いし、お兄ちゃん以外にはチョロくないからこそチョロさの価値と可愛さが跳ね上がるってもんよ。
今日はクリスマスでも何でも無い日だが、ちょっとだけリアルのプライベートでは全く縁の無かったこの日の気分になったって、多分許されるだろう。
そう心で思いながら、一言声をかけドアを開ける。
「――そうか、これが前世で体験出来なかった桃源郷ってやつなのか……」
「……らんらん? あ、あの……か、感想は……」
「ああ悪いね」
たった一瞬の出来事であった。
あの世界で何度この光景を想像した事だろう。
何度も探し回っては理想とズレた画像に落胆し、挙げ句に自分で描いて、やっとの事で何とかそれで一旦は満足していた。
だがやはり足りなかった、自分には映像として動いている『原作標準のサンタコスゆんゆん』が見たかったのだ。
自分では必死に必死をかけ原作絵に近いゆんゆんのサンタコスまでは完成させ、とあるワラワラ静画サイトにおいてはランキングトップを取るまでだった。
だがそれですら満たされなかった。
そして今、それは一瞬の間に満たされたのだ。
「…………美しい」
「ふぇぇっ!?」
見たままの、率直な、心からの言葉だった。
心から漏れ出た最初の一言だった。
「お兄ちゃんは……お兄ちゃんはっ! 今、猛烈に感動しているっ……!!」
「そっそそそそそそそそしょんにゃっ!?」
ゆんゆんは案の定顔を真っ赤に、手を両頬に置き頭から湯気が出てるんじゃないかと思うくらいのオーバーリアクション(?)をしている。
ああ、だがそれがまた美しい。
可愛いなんて表現じゃ収まりが付かない。
可愛いと言うカテゴリではあるが『美しい』のだ、最早その領域は人間の英知を越えていると言っても過言では無い。
まず言うなれば個人的に外せないポイント、ミニポンチョ。
間違いなくミニポンチョはゆんゆんに似合うと思ったが、その俺の慧眼……いや、それを遥かに越えるマッチングを見せている。
次にミニスカ、この見えるか見えないかの絶対的領域、このエロスのロマンが全男を卒倒させるに値する絶妙な位置にある。そして恥ずかしさからか内股になってるのも萌えポイントだ。
そして極め付きはニーハイブーツにある。
少しだけセクシーさを取り入れ、且つ根本にある可愛さを意識したサンタコスから浮く事無く、ミニスカの短さと相反して太股のチラリズムを増幅させている。
あとおっぱいはいつも通り最高でした。
うーん、マンダム(恍惚)
「いや言わせてくれ、ゆんゆんは最高の妹いやこの銀河で一番の女であると! ゆんゆん以上の女がいるとはとても思えない! 確かにこの里の女子勢は美人美少女美幼女揃いだ、だがそれを軽く上回る、この世の理の全てを理解した時訪れる真の楽園に出会ったんだ! 最早これ以上の幸せを俺は求めない、君に出会えた事こそが俺の人生最大の幸福だ……!」
「わ、私が最高の女だなんて……ら、らんらんにそう言ってもらえるなんて……夢じゃないんですよね……?」
「ああそうとも、俺がいつ、ゆんゆんに嘘を付いた事があった?」
「……無いです」
時が止まった様に、俺とゆんゆんは二人見つめ合う。
それはまるで永遠の愛を誓った恋人の様に、俺達以外の全てが除去される。
そっとドアを閉める。
ふと気付いたんだ、こんな神々しいゆんゆんは俺だけのものなのだ、俺だけが見て良い特権があるのだと。
俺が、俺の運と金で勝ち取った権利、ゆんゆんの両親には見せても良いとさっきまでは思っていたがもう無理だ。
俺達は俺達だけの世界を作ってしまった。
それは紛れもなく『俺とゆんゆんだけの世界』に他ならない。
申し訳ないが、ここより先は誰一人とて入らせたくない。
「……なあ、ゆんゆん」
「……なんですか、お兄ちゃん」
「この民族衣装を着ている地域ではな、年に一度良い子にしている子どもに、寝ている深夜帯にプレゼントを一個ずつ届けると言うイベントがあるんだ」
ドアを閉め誰も来ない事を確認しふっと一息付いたところで、新しい話を切り出す。
何がしたいか、そう問われれば真っ先にこう答える。
『ゆんゆんのプレゼントが欲しいっ!!』
つまりはそう言う事である。
流石に半分はジョークだが。
あと流石にサンタコス系統の衣装着たガチサンタはいないと思う。
「深夜帯に、ですか?」
「そ。子どもの欲しがってるものは実行する人達には分かっちゃうんだとさ……ところでね」
「はい?」
「ゆんゆんはさ……俺になんかプレゼント、くれたりしないのかなー、なんて。ああいや、ちょっとしたジョークだけど」
「……プ、プレゼント」
……ってあれ、なんかめっちゃ真剣に考えてませんかねこの人。
いや、本当に欲しがったら無茶ぶりも無茶ぶりですよ、そんな事分からず言う訳ないんですが。
「えっ、えっと、その、決まりました!」
「……えっ」
「お兄ちゃんへのプレゼント、決めたので……そ、その。目を瞑ってもらえると……」
「お、おう……」
どうやらゆんゆんには珍しく、ほぼ即決で決めたらしい。
しかし目を瞑っている……となるとすぐ取ってこられる様なものなのか?
うーん、何を持ってくるのか想像が付かない。
「つ、瞑りましたね?」
「瞑ったぞー。何持ってくるのか楽しみだな」
「じ、実はもうここにあるんです」
「…………はぇ?」
もうここにある?
いやここ俺の部屋なんだが……なんだ、新手のクイズか謎かけか?
くっ、お兄ちゃんそう言うのは得意な方じゃないんだよなあ……
「…………深呼吸、深呼吸」
「あの……?」
「…………………………えいっ!」
「……? ………………!?」
何かブツブツと独り言を呟いたと思ってから数瞬、俺の右頬に柔らかい感触がした。
何の感覚か分からず少し固まり……そして全てを察した時、俺の顔はゆんゆんの比じゃないくらい真っ赤に染まっていたと思う。
「ゆ……ゆんゆん、こ、こ、これ……は」
「…………いつもの、お、お礼……です。えと、その……今の私だと、これくらいしか、出来ないから」
「……こ、これは一本取られたなあ」
「えへへ……」
あまりに予想外のプレゼントに、それ以外言葉が出ない。
してやられた、それに尽きる。
俺の予想を越える、それでいて最高のプレゼントだった。
「……ゆんゆん」
「は、はい」
「最高のプレゼントをありがとう」
「……どういたしましてっ!」
他の誰がなんと言おうと、俺の『クリスマス』はこの日になった。
俺とゆんゆんだけの、特別なクリスマスに。
やっぱりシリアスって向いてないなって(番外編書いてみて。クッソノリノリで書いてた時ふと思った)
久々のイチャイチャ(を超越した何か)書いてすっきりした
…取り敢えず本編のシリアスはさっさと切り上げよう、なんか泣きたくなる
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第十四話「パンデミック★病んでミックIV」
そして第十七話の番外編を除いた第十九話までの削除及び第十三話の大幅改稿に付いてお話をここでさせてください
何回か本作を自分自身で読み返して、そして付けていただいた一言評価をじっくり見て
「本当にやりたかった事はこれなのか」「完結させられるのか」「完結させられたとして自分が思う良い作品になるのか」「自分の代表作として上げられるか」
と考え、一言評価でいただいた「期待していたのにどうしてこうなったんだ、残念だ」という言葉が一番胸に刺さりました。
俺自身どこかでそう思っていた事をそのまま直球で言われ、目が覚めました。
楽しく書いていたはずの自分自身が楽しめていないのに完結はさせられないと。
ですが作品自体の削除は自分自身初めて1000人以上の方に見ていただいている事、最初の頃心から楽しく書いていた事を思い未練が残り、こんな中途半端な削除になりますが温かい目で見ていただければ幸いです。
そして、またここから構想を練り直すのでまた時間が掛かってしまうと思いますがたまにでもこの作品の事を思い出して見ていただけたら、それに越した幸せはありません。
長々とごめんなさい、路線としてはギャグコメディ系統八割以上シリアス二割未満にしていきたいと思います、よろしくお願いします。
番外編の十七話は削除分少なくし十三話、十三話を削除後改稿とするので十四話とさせていただきます、本当に申し訳ありませんでした。
孤高の牛
「……で、まだ話せないのか?」
「な、何のこったよ」
「とぼけるなよ同志……ゆんゆん大好きで有名なお前が二日間も俺の家に泊まり、あまつさえ家から一歩も出ないとは何があった?」
俺は苦笑いする余裕すら無く、兎に角目を逸らすより他無かった。
パンデミック事件解決から数日が経ち、今では殆んどの人間が何事も無かったかの様に過ごしている……が、俺とゆんゆんとめぐみんだけはそうお気楽に過ごせる事態になっていなかったのだ。
それもそのはず、助ける為とは言え俺はゆんゆんに無断でキスを……のはずだった、本来ならそうなるべきだった。
「……何処かで。何処かで、役得なんじゃね? だとか思ってしまったのが間違いだった、か。やれやれ俺もバカが回ったかな……本当は分かってたはずなのに」
★
「キ、キス……? じょ、冗談って事は……流石に無いですよねーそうですよねー」
ウィズさんから聞かされた唯一の打開策、それは俺にとってあまりに過酷な条件であった。
その人の事を好きな人が唇にキスをすれば、連動して全員の暴走も止まるらしいが、他の男連中に関しては話を聞ける余裕は愚か生き残っている面々すらもう少ない。
よって生存者で唯一余裕がある俺しか無理……と言う事態らしい。
しかしよりによって俺しかいないとは、全く神様の悪戯にしたって陰湿過ぎる。
俺は確かにゆんゆんの事がこの世の誰よりも、いや前世の中ですら一番に好きだと言える。
だが俺は今の今まで一度すらもゆんゆんに『異性として好きである』と明確に示した事が無い。
……いやまあ同じベッドで寝たり本命チョコだとかストレートに言っておいて今更だと反論されそうだが、仲の良い兄妹間なら本命チョコとか言ってもおかしくは無いだろうし、何よりそのキスによって嫌われてしまうのが怖くて怖くて仕方なかった。
勿論嫌われる事よりゆんゆんの無事が一番だと頭で理解している、そんな事は分かっている。
それでも、考えただけで、脳裏に過るだけでゾッとしてしまう、動けなくなってしまう、俺と言う人間はそう言う弱い人間なのだ。
「それでも、やるっきゃないって事っすよね」
「……早く治したいと、そう願うのならそれしか無いです、ごめんなさい」
ウィズさんが、苦虫を噛んだ様な顔で言う。
情けないながらも、俺は覚悟を決めるより無いらしい……それこそ、ウィズさんを泣かしたらゆんゆんに合わせる顔が無くなってしまう。
「……ウィズさん」
「何ですか?」
「一つ、お願いがあります」
「……」
「…………めぐみんの足止め、やってもらえますか? アイツに見せるには……この現実は、辛すぎる」
思えば、カズマとくっ付けさせるが為に色々とめぐみんにしてあげた事も多いが、結局はアイツの事、心配で堪らなかっただけだったのかも知れない。
だからこそ、億が一にでもめぐみんが俺に恋愛感情を持っていたらガスがどんな副作用をもたらすか分かったもんじゃない。
ウィズさんは、何も言わず頷く。
「すみません、お願いします」
走れ、振り向くな。
今はただゆんゆんの事だけを考えろ。
「……いた」
見付けた、探し人。
俺を求める様に徘徊し、時折涙声になっているゆんゆんは、見てられないと言う表現で収まらないくらいに居たたまれない状態だった。
一つ大きく深呼吸をする。嫌われる覚悟、拒否される覚悟……そして俺がまた一人ぼっちになってしまう覚悟。
ゆんゆんを助ける為ならば、全て犠牲にしよう、全て背負おう。
「……ゆんゆん」
いつもの様に、優しく語りかける。
ゆんゆんの震えていた肩が落ち着く、それだけで心にゆとりが持てる。
それでも心臓が張り裂けそうなくらい緊張しているし、怖い。
手も足も、顎もガクガクと情けなく震えている。
「……ランラン」
光が宿ってない目で俺を見つめるゆんゆん。
覚悟した癖に、そうして見つめられただけでたじろいでしまう自分が嫌いだ。
「ええいそんなんでどうする! こう言うのは勢いが大事ってやつだ! そして最初に謝っとく、ごめん!」
それでもゆんゆんへの愛が勝った俺は勢いそのままにゆんゆんへと飛び込む。
そこまでは良かったのだ。
「………………あ、これごめんですまん展開だわ」
暴走して飛び込んで来ためぐみんにファーストキスを奪われるまではな!
「お前って奴は……お前って奴はどうしたらそんな事態になるんだ……俺ですらならないんだぞ……」
「うるせえお前はなるならない以前にチャンスすら無いだろうが」
「申し訳ないが俺の傷を抉るのはやめてもらえないか」
「……素直にすまないと思っている」
余談だがぶっころりーのところにはやはりそけっとさんは来なかったらしい、流石にかわいそうであるが残念ながら当然だろう。
「ごっほん、まあ俺の事は良い……で、その後どうしたんだ」
「まあ……その、アレだ」
「と、いうと?」
「暴走状態と化したゆんゆんから逃げてきた、死にたくなかった、後悔と反省しか無い」
「オイ」
いつもの大人しいゆんゆんはどこへ消えたのか、いやもう最早パンデミックにやられてたから仕方ないといえばそうなんだが顔にモザイク掛かるレベルの女の子がしちゃいけない形相で、しかもとんでもない速さで追い掛けてきたのだ、そりゃあ逃げるだろ。
いくら大好きな女の子相手でも逃げるだろ、死にたくないし。
「だから匿ってもらってた訳だ……だがここもいつ見つかるか分からねえ……」
「……どうするつもりだ。まさかこのままという訳にもいくまい」
「それを考える為に今こうして匿ってもらってるんだろ」
ゆんゆんはこの村……というか一族の中でも優秀な子だ。
年齢が年齢で経験不足なのもあり中級魔法までしか使えないが並大抵の上級魔法使いより強い。
魔法の特色を上手く使いこなし多種多様な魔法でしっかり攻めていくスタイルな為に弱点という弱点は上級魔法使いと比較した場合に火力不足という以外は特に無い。
そんな子を止める手立てというのが見つからないのである。
いや強引に倒そうと思えば相討ち程度には出来るだろうけど、そもそもゆんゆんを傷付けるのは俺の本望ではない。
傷付けず、更に言えば囮になってくれる奴さえいればキスも出来るのだが……
……そもそもゆんゆんにキスしたところでどうにかなるのか分からないが。
「……まあらんらんが一概に悪いとは言えんから良いが……早めにしてk」
早めにしてくれよ、とでも言いたかったのだろうがぶっころりーの声を遮って断末魔に近い声がした。
「私はまだ、死にたくなーーーい!!!」
「今の声は……」
「めぐみん!? アイツ真っ先に逃げ切ったんじゃないのか!?」
「あんまりにあんまりな情報をありがとうらんらん」
暴走していたとはいえ最大の原因たるめぐみんは落ち着いたら必ず謝るからと言って一番に逃げていった、まあ俺より先に殺られそうだったから賢明な判断だろう。
しかしそんなめぐみんが死にたくないという断末魔を上げながらぶっころりーの家……つまりはここに突撃してきているのだ。
「チィ……ともかく何がどうしてあんな事になってるか全く分からんがぶっころりー
! めぐみんを中に!」
「あ、ああ!」
死に物狂いという表現が合うくらいの形相で猛ダッシュしてくるめぐみんにぶっころりーがドアを開け入れ入れとジェスチャーで示すと、前世の高校野球で良く見た9回2アウトから一塁に決死のヘッドスライディングをするバッターの如くめぐみんが家に飛び込んで来た。
勿論ながら女の子の顔に傷が残るといけないから俺がそのロケット頭突きを腹にダイレクトアタックされたのは言うまでもない。
「ナイス……ストライク……ショット……グフッ」
「し、死なないでくださいらんらーーーーん!!!」
人というものは弱い、いくらゆんゆんのタックルに慣れていようと火事場の馬鹿力で突撃してきためぐみんのロケット頭突きには耐えられなかった。
「茶番をするな茶番を」
ぶっころりーのツッコミで思い出したがそうだ、今はそれどころではなかった。
初っ端に逃げ切っためぐみんがどうして今頃になってこっちに助けを求めてきたのか、或いは何かから逃げてきたのかについて聞かないといけない。
「すまんすまん……で、めぐみんは何がどうして逃げてきたんだ」
「それが……その、ゆんゆんに見つかってしまいましてね……」
「なるほど、災難だったな」
「助かりましたよ、ぶっころりー……」
うん、まあゆんゆんに見つかったなら仕方ない。
しかしそうなると本格的にここでの潜伏にもリミットが出来るって事になるか。
はぁ……どうしたもんか……せめてゆんゆんの注意を引けて尚且つ脅威にもなるがスキもデカい奴さえいれば……ん? んん?
「いた……」
「いきなりどうしました?」
「いたんだよ、ゆんゆんを止められるかも知れない切り札が!!」
「え!? どこです!?」
「お前だよ!!」
そう、そうなのだ。
コイツこそ最大級の『囮』になり得る存在……!!
だがしかし、それを決行するには確証も無くてはならない……普段ならな。
「ど、どういう事ですか?」
「良いかよく聞け、俺はゆんゆんに傷を付けたくない、しかし助けたい。そこで囮を用意したいんだ」
「はいはい」
「そこでゆんゆんへの脅威になり尚且つゆんゆんが狙ってくれるスキ、つまりは詠唱してる間を狙ってくれるスキが必要。そんなデカいスキがあるのはお前だけだ、めぐみん!」
「ええ……まあやりますけど……」
囮とか最低な事を女の子に頼むのは気が引けるがコイツにも原因があるのは確かなんだ、ここはまず是が非でもやらせてやる。
俺にキスとかした真意とかなんちゃらはその後で聞いてやる。
「良いか、お前への尋問は後回しにしてやるから取り敢えずは共闘しろって話だ。あ、間違ってもゆんゆんには撃つなよ!? 絶対撃つなよ!?」
「分かってますよ!」
「お前ら意外と余裕無いか?」
キスして止まるとも限らないのに余裕なんてある訳がないだろうが。
まあめぐみんがいてくれるお陰で多少なりとも絶望感は晴れてるのは確かだがな。
「……待ってろよ、ゆんゆん」
ともかく、希望は見つかった。
やるっきゃない。
改稿した結果病んでミックがらんらんだけ続いてしまいヘタレ度合いが爆上げする悲劇
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第十五話「ゆんゆん救出大作戦決行 前編」
「よし、作戦はこうだ」
ぶっころりーの部屋でチェス駒を使いながら作戦を立てている。
前世のアニメとかで憧れたよなあと思いつつも、絶対こんな場面で使うのは本望じゃないと思うのは必然だろう。
ちくしょうめ。
「まずぶっころりー含む遊撃隊三人で撹乱を行う」
白いナイトの駒を遊撃隊に見立て三体、黒いクイーンの周りに立てる。
黒いクイーンは言わずもがなゆんゆんである。
「……三人か」
「ああ、ゆんゆんはこの里の中でもかなりの強さ……となれば量よりお前が組んでるトライアングル何とかの三人の連携の方が戦力になる。まあ役割は核になるめぐみんと俺のとこへの誘導係だけどな」
「トライアングルスターズな」
名称はさておき魔王軍の一個中隊を三人だけで壊滅させた伝説のチームだ、ニートとはとても思えないがこんな優秀でもニートだからモテないんだと思う。
因みに他の二人は彼女持ち、ゴリマッチョのゴリーさんと計算高い眼鏡を掛けた七三分けインテリのグラサンさん(通称グラさん)だ。
顔だけなら間違いなくぶっころりーが一番良いのは二人も認めているだけに余りに残念イケメンである。
「まあなんだ、今回はゆんゆんを力でねじ伏せるんじゃなくあくまで正気にさせるのが目的だ。パワーだけなら魔王軍の大隊を殲滅させたりっきーさん率いる『パワーイズジャスティス』のパワー軍団だが小回り、奇襲、足止めが必要な今回それを出来る小隊且つ連携の一番高いぶっころりーの…何だっけ?トライアウトスターズ?」
「トライアングルだっつってんだろ!! ボケたのか!? ボケてるのか!?」
「あーそれそれ、トライアングルスターズが一番向いてるって話な」
原作でも紅魔の里はトンデモ民族で魔王軍幹部なんて何回も退けてきたとか言われてた気がするが、正直こっちの紅魔の里はそれ以上にヤバい、ヤバいったらヤバい。
良く分からん間に魔王軍幹部が何人か遺影になっている、この里のせいで。
但し原作の幹部連中でも無かったからもしかしたら原作より魔王軍は大規模なのかもしれないが何なんだコイツら……王都の正規軍の何倍強いんだよ。
そしてそんなやべー奴らの中でもかなり強い奴らを誘導係にする贅沢さよ。
いや俺もちょくちょく魔王軍と小競り合いやってるけど、周り半端ないって。
嬉々として笑顔で爆発魔法使ってるヤツとかいるけど真面目にホラーというかスプラッターだからな……ほとんどの犠牲者がゾンビ系でよかった。
俺とめぐみんに見立てたポーン(俺)とビショップ(めぐみん)のところに先程の四つの駒を動かしながら改めてヤバい場所に生まれたと実感する。
俺もそのヤバい民族の一人のはずなんだけどなあ、おかしいなあ。
「ごほん。それで、俺達の役割はゆんゆんを誘導した後はどうなる?」
「めぐみんのガード役だな、ゆんゆんは間違いなくめぐみんの詠唱を狙ってくるからその魔法を打ち消す事に集中してもらいたい」
めぐみんを生贄にする作戦とはいえ怪我をさせるなんてあったら絶対にいけない。
そう、まあ、一応、一応ではあるが妹みたいな存在な訳だし、ゆんゆんの親友だからな。
ちょっとビビらせるだけだ、あくまでも。
「しかし良いのか? めぐみんをこの作戦会議に出さなくても」
「アイツは今回の元凶だからな……ちょっとだけビビらせる算段って訳よ。お前らの事信用してるし」
「お、おう……」
何か引かれた気がするが無視しよう。本当ならゆんゆんと合法的にキスして一件落着……って言うちょっと甘酸っぱい思い出が作れたんだからその代償に絶叫アトラクションしてもらうだけなんだから寧ろ寛大と言われて然るべきとまで思っている。
要約するならめぐみんが悪い、俺は悪くねえ。
「よう、何だか大変らしいな」
「いや~ごめんね、準備に手間取っちゃって」
「ゴリーさん、グラさん! 待ってた……っていやいやいやいや!?」
そんなこんなで先に作戦情報をぶっころりーに伝え終えると同時に他のメンバーのゴリーさん、グラさんが到着した。
準備に手間取ってたとは言うがそんな用意してくる必要あったのかと突っ込みたいのを抑えたが更に二人の手に持ってるモノを見て流石に抑えきれなくなった。
「ん?どしたよ」
「何か問題あったかな?」
「大問題だわ!! 二人が手に持ってる!! その明らかにやべー物体が!!」
「やべー物体っても、ただのドス(剣)だが?」
「同じく、見慣れてるチャカ(魔法銃)だけど」
二人がさも当然の様に答える。
しかも爽やかな笑顔付きである、なんて眩しい笑顔だろう。
勿論だが俺は頭を抱えたのは言うまでもない。
「全く二人は……ゆんゆんを殺すつもりかと思ったわ! 紛らわしい!」
「ハハハ、すまんすまん」
「でもやっぱり、コイツを持ってないと気合いが出なくてどうもね」
この二人、実は日本からの転生者のヤクザと知り合いらしく物騒な用語を良く使う。
実際魔力も戦闘力も高い二人だが鬼に金棒とはこの事かと言うくらいにはイキイキと恐ろしい笑顔で使うから日本で遭遇したらまず『本職』を疑うレベルの怖さである。
まずなんでヤクザがこっちに転生してきてるんてすかね……というのは言わない約束、禁則事項。
取り敢えずこの二人も紅魔族の例に漏れず頭のネジがぶっ飛んでるやべー奴ら、という認識で差し支えない。
「下手に振り回したりすんなよ!? いやフリじゃないからね!?」
「わーってるよ、その辺間違える様な奴に見えっか?」
「グラさんならともかくゴリーさんはちょっと……」
「なん……だと……」
「ふっ」
「オイグラ今笑っただろ!? 笑ったよなあ!?」
「あー、それよりお前ら早く行かなくていいのか?」
ぎゃーぎゃーと茶番をして、ぶっころりーに突っ込まれる。
意外とグラさんもボケの立ち位置にいるせいでぶっころりーが原作基準で見違えるくらいにしっかりしてるというか、ツッコミポジションに収まる事も多々あったりする。
それはともかくとして、三人には感謝しかない。
ぶっころりー達がいなかったらめぐみんに無理をさせる事も危険過ぎて出来なかった。
「それもそうだな……三人とも、力貸してくれてほんとにありがとな」
「礼を言うにははえーぞ」
「終わったらパーっとどっかで打ち上げでもしよう、めぐみんとゆんゆんも入れてね」
「ククク、終わったら俺のラブコール大作戦に付き合ってもらうからな」
「……ああ、そうだな!」
……ほんと、コイツらは優し過ぎるくらい優し過ぎだっての。
「さ、とにかく善は急げだ、そうと決まったらさっさと助けに行くぞ!」
かくしてめぐみんを除く俺達四人は更に絆を深め一致団結したのだった。
これでもう怖いものはねえ!
「いやいやいや怖すぎですから!! 無理無理無理無理!!」
道中、遠くにゆんゆんを発見した時のめぐみんの発言である。
当たり前だがめぐみんとは一切打ち合わせをしていない、ゴリーさんグラさんに関してはめぐみんとの合流前に既にぶっころりーが伝達済み、それだけで完全把握しているのだからやはり熟練のエリート軍団だと再確認させられる。
因みにめぐみんやゆんゆん等学園所属の生徒は本来魔王軍との戦闘には参加していない、という訳でめぐみんは里随一の天才エリートではあるが実戦経験は少ない。
というかコイツに関しては一発ドデカい花火ぶっぱなして終了だからまともな実戦もクソも無いと思うが。
まあ本来ならかわいそうだしやめてやってもいいが……今回は話が別だ。
「めぐみんくん……今回の元凶は誰かね」
「……私です」
「いの一番に逃げたのは誰かね」
「……私です」
「よし、ならやろう!」
「……」
「なーにぶっころりー達が守ってくれるし心配無い無い、当たっても死にはしないし」
「当たりたくもないですよ!?」
遠目に血眼になりながら辺りを見渡すゆんゆんがいる中で実に和やかな茶番劇である。
と、ネタばらしをするならばこれは霧隠れの魔法をグラさんが使ってるからであり、相手の視界は遮ってこっちは知覚可能という半分チートみたいなものである。
この為にゆんゆんは立ち止まり辺りを見渡している……というデンジャラスな構図の中無駄話も出来てるという訳だ。
「めぐみんちゃんはただ無心で爆裂魔法の詠唱しててくれたらいいから、俺達の事信じてくれないかな?」
「うぐっ……」
そしてめぐみんはグラさんに弱い、というかグラさんがチビッ子に対して滅法強い。
将来子煩悩な父親間違い無しとはゴリーさんの談、里での評価も高いが許嫁持ちだったりもする。
「フッ、大人しくしていればまず当たる事は無い。魔王軍と戦い勝ちを収め続けた百戦錬磨の俺達に任せておけ」
「だはは、まあそういうこった! ……それに、めぐみんだってゆんゆんの事、助けたいだろ?」
「それは……そうですけど……」
うーん、やっぱりこう見ると三人とも紅魔の里のやべー奴らには見えないんだがなあ……
まだまだ子どもなめぐみんの本音をこうも引き出すのは俺でも難しいし。
「じゃ、パパっと行こうぜ。いざとなったら俺が盾になってやる」
「らんらん……」
「……そろそろ霧が晴れる、めぐみんとらんらんの二人は待機。僕達三人でこっちまで誘導してくる」
と、呑気な事も言ってられなくなったか。
さあ、腹を括らないとな……めぐみんも、そして俺も。
「了解! ……頑張ったら甘いもん奢ってやるから頑張れよめぐみん」
「……あ、甘い物があるというなら? や、やってやろうじゃないですか!!」
良くも悪くもこういう空気の読めなさに救われてきた。
今回も、横目で見守りながら、三人の到着を待つ。
決戦は目の前だ。
年号が変わり、暑い季節になりましたね
世間では苦しい、悲しい事件があり俺の大好きなものやそれに携わってくれた多くの人が亡くなり、今でも気を抜いたら泣いてしまう、そんな精神状態にあります
ですがせめて少しでもこの作品で心が救われる、笑えた、そんな人がいてくれたらそれに越した喜びはありません
漫画、ラノベ、アニメはいつも風当たりの強い趣味や業界ですが、それでも何十年も栄え生き残って来た、少しずつ認められてきた
きっと今回も、時間は掛かっても持ち直してくれると信じています
俺らが愛した業界がそう簡単に終わる訳が無い、そう信じています
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第十六話「ゆんゆん救出大作戦決行 後編」
お待たせし過ぎて申し訳無い
今回でパンデミック☆病んでミック編は終了
「おー、良い感じに撹乱してるなー流石トライアングルスターズ」
とてつもない連携だ、と素直に思った。
幾ら実戦経験の少ないゆんゆん相手とはいえ一瞬の隙も見せずに、且つゆんゆんに被害が出ない様に絶妙に魔法を相殺している三人を見て感心してしまう。
俺は一応魔力は高い方と自負しているが精密な一点に向けたコントロールはまだそこまで上手いとは言えない……そもそも俺の得意魔法は得意属性の氷と相性の良い広範囲殺傷系制圧魔法だから分野が違うと言ってしまえばそこまでだが。
それはそれとしても羨ましく感じてしまうのが男心ってものな訳で。
「ほほほほほ本当にやるんですかコレ……」
「おうやるんだよお前が」
「……私が言うのもどうかと思いますが、火力以外なら学園最強はゆんゆんだと思うんですよ」
「そりゃそうだろ俺の妹だぞ」
「その自信はどこから来るんですか……」
まあ、今は男心云々より隣でビビってるチビッ子何とかしないとだな。
確かに火力はめぐみんが最強で他のバランスを考えればゆんゆんが最強なのは自他共に認める事だ、特に俺としてはゆんゆんは自慢の妹で最愛の人なんだから当たり前だ。
「俺の全身からだよ」
「はぁ……本当に愛されてますねゆんゆんは……妬けちゃいますよ」
「ま、ゆんゆんには勝てないがめぐみんの事ももう一人の妹と思うくらいには可愛い存在だと思ってるがな。因みに本音な」
「うっ……らんらんはまたそうやってサラッと変な事言うんですから……諦めきれなくなったらどうするんですか全く……」
勿論めぐみんの事も家族愛として好いてるのもまた事実だ。
前々から言ってる事だが、身近にいる頼れる年上ってのが現状俺しかいないのが脳裏に俺の前世を思い出させてどうにも放っておけないのもそうだし、純粋に良い子で可愛いからつい甘やかしたくなってしまうのが本音だ。
この世界にゆんゆんがいなければ自動的に俺はめぐみんに惚れていただろうと思う程には魅力的だ。
惚れていたとしても俺は諦めていただろうがな。
横目で顔を赤く染めながらぷくーっと顔を膨らませる可愛い妹分を見ながら『スマンな』と心の中で謝罪をする。
どう足掻いたってコイツの気持ちには答えられない、いざという時引っ張ってやれる、めぐみんを覚醒させられるカズマとくっ付くべきだという決定事項はどうしたって揺るがないのだ。
なんで俺みたいなのに惚れてしまったのかと溜め息が出てしまう。
「ったく、自惚れるみたいな事言う様で悪いがなんで俺みたいな絶妙に冴えない男に惚れちまったのかねお前は」
「……あのですねらんらん」
「なんだよ」
「らんらんは自分が思ってる以上に女の子にモテるという事をもう少し自覚した方が良いと思います」
「……嘘だろ?」
「嘘じゃなきゃらんらんが女子教室から異動なんてまず有り得なかったと思いますよ?」
驚愕の事実だった。
ゆんゆんに好意を持たれるのは分かるがそれ以外に関しては初耳も初耳過ぎたのだ。
モテる?俺が?女子に?前世陰キャで今世もこれと言って目立ったところは無かったはずなのに?
「俺目立つ様な存在じゃなかっただろ?」
「寝言は寝て言えくださいですよほんと……らんらんは顔が比較的整ってる上に魔法も強くて面倒見が良くて……私の事も気に掛けてくれる様な……その、優しいところも多いじゃないですか……身近にいる兄的存在なんて思えば憧れる人が多いのも不思議じゃないんですよ」
「……スマン全く考えもしてなかった。俺がモテるとかちょっと現実味が無さすぎて……な、ははは」
「らんらんって頭良い割にはおバカですよね」
正直何も言い返せなかった。
実際俺がモテてる実情だのなんでモテてるだのという事について全く知らなかったから当然だ。
というか面倒見が良くて優しいのはそりゃ年上だから当然だから知る由が無い訳だがそっちより顔が良いって発言の方が俺にとっちゃ衝撃的だった訳で。
「あー……あと聞き返す様で悪いんだが…………俺って顔良いの?」
「ほんと……ほんとらんらんって人は……!!」
「そんな怒る事かよ……」
「そりゃそうですよ!! 一応幼馴染補正抜きにして客観的に見てもこれで顔が良くないなんて言ったら世の男は95%程度は嫉妬で死滅しますよ!! そもそも学校でだって特に同級生なんかは『恋人にしたい教師ランキング』でらんらんが圧倒的に首位なんですよ!! あ、因みに私とゆんゆんもらんらんへの投票常連ですが」
「死ぬ程返答に困るエピソードをありがとうそして比較的顔が整ってるみたいな発言がどこかに飛んでった気もしてるんだが」
吹っ切れためぐみんが思った数百倍吹っ切れていた件。
95%が嫉妬ってなんだよ95%って、比較的の範囲ロケット噴射で飛び越えてったじゃねえかよ。
確かに俺の事が好きとバレてからのめぐみんはまあまあフルスロットルかましてたがここまでぶっ飛んでたとは思うまい。
紅魔の里一番の常識人グッバイ。
ゆんゆんもめぐみんも原作じゃかなりの常識人枠だったのにどうしてこうなった。
あと俺の知らない間に勝手に俺をランキングに入れるな、恥ずかしいだろうが。
まあ、ゆんゆんが投票入れてくれてた事は素直に嬉しいし良いんだけど。
「っと、それはそうとそろそろゆんゆんがある程度消耗してぶっころりー達がこっちに誘導してくる感じだな。この話は後でじっくり聞いてやるから詠唱始めとけ」
「あ、気になるには気になるんですね……」
「当たり前だ、何せゆんゆんが投票常連なんて話聞かされたらお前らでどんな話してるか興味湧くだろ。何にしても生きて帰って来れたらの話だがめぐみん、もう緊張は解れただろうな?」
「お陰様で完全にいつも通りですよ! さぁ始めちゃいますかららんらんは私を無傷で帰してくださいよー!!」
「へーへー分かってますよ!」
話してる内にぶっころりー、ゴリーさん、グラさんがこちらに誘導してくるのが見えた為こちらも臨戦態勢に整える。
今回は対魔王軍とは違い相手を傷付けられない作戦な為に魔力消費と単純なスタミナ消費での消耗戦だから時間が掛かったがトライアングルスターズは余裕綽々といった様子でこちらに向かってきている。
ぶっころりー、ニートでさえ無ければ絶対モテるのに……と思わずにはいられないまでの繊細で巧みな魔力コントロールを駆使している。
ニートでさえ無ければ尊敬出来るのになあ。
そんな事をボヤきながら横をチラリと見、めぐみんが詠唱を開始したのを尻目に俺はめぐみんから離れゆんゆんの背後にある茂みに即座に隠れる。
これで俺はターゲットから完全に外れたはずだ。
「よし、らんらんはまずは上手く隠れられたみたいだな」
「じゃあ俺らは安心してめぐみんのアシストしてりゃ良いって訳だ」
「そうなるね、もう少し耐えててねめぐみんちゃん」
「ひえーーー分かってますよおおおおお」
……我ながら結構酷い事めぐみんにしてると思わされる。
理性を失ってるから容赦ないゆんゆんの洗練された中級魔法がめぐみんに襲い掛かりそれをぶっころりー達が淡々と消す。
分かってても怖いもんは怖いよなあ、ご愁傷さま。
後で少しくらいは優しくしてやるか、なんて思いつつ遠目で合掌。
奴は尊い犠牲になったのだ。
「さーてそれは良いがこっからは文字通りの命懸けだぜ俺よ」
そろーりそろーりほふく前進且つ魔力完全オフでゆんゆんへと近付いていく。
魔力消してたらただの人間だが、こうしないとゆんゆんの感知系魔法で魔力探知されてお陀仏なのだ。
この場合でも見つかったらほぼ即死だろうけど……
「ええいしっかりしろ俺、ゆんゆんのお兄ちゃんだろ! 兄なら妹を助けてやらなくてどうする!」
心の中でもう一人の強気な俺を作り出す。
ゆんゆんもだがめぐみんの詠唱にもタイムリミットがある、それまでにやってやらなきゃめぐみんの兄貴分名乗ってる意味も無いだろ。
大丈夫だ冷静になれ、俺なら出来る出来る……
よしっ!
are you ready?
「出来てるよッ!!」
ゆんゆんが魔法を打ち出す……と同時に背後の茂みから一気に魔力で肉体強化を掛け飛び出す。
正直専門外の無属性魔法だがある程度実戦レベルには整えられてるくらいには鍛えてある、その中でも一番得意とする肉体強化で脚に思いっ切り集中させ飛び出せば宛らロケット噴射だ。
決まった。
誰もがそう思った。
「……あ、今言ったの死亡フラグじゃん」
一人、本人を除いて。
結論から言おう、ゆんゆんの後ろを取って捕まえてキスする事には成功した、もうそれはあっさりと、感動的なものも何も無く成功した。
したにはしたんだが問題は今の状態だった。
「……なあぶっころりー」
「皆まで言うな、お前が変態厨二病なのは誰もが知っている事だ」
「……めぐみんさん?」
「バカだバカだとは思っていましたがここまでバカだとは思いませんでしたよ、ええ」
ぶっころりーとめぐみんははぁ、と溜め息を吐きゴリーさん、グラさんは無言で苦笑いを浮かべている。
俺も反論をしたいところだがどうにも状況がそれを許してくれない様子でして。
それもそのはずだ。
何せ俺は……
「ゆんゆん? これは違うんだ……その……なんか勢いでつい胸を鷲掴みにしちゃっただけで……」
「…………ら、らん……らん?」
そう、あまりに勢い付けすぎてキスしながら押し倒した上で胸を両手で鷲掴みにしてしまうという大失態を犯していたのだ。
そして正気に戻ったゆんゆんが見た最初の光景がこれである。
そけっとさんの占いここで回収しちゃうかそうかー……
「えーと……と、取り敢えず手退けるわ……」
「あ、はい……ひゃんっ……へ?」
あーまずいなーこれ、手退かそうとしてもその弾力のお陰で中々抜けずゆんゆんの卑猥な声が漏れ出て……
ゆんゆんがまだ脳の理解が追い付いてないから良かったのにこうなるともうね、多分ここにいる全員が察してると思うんですよ。
「ああ、なんか懐かしいな。懐かしくも無いはずなのに妙に懐かしさを感じてしまう」
「……です」
「……」
プルプル震えるゆんゆん。
最早俺に手立ては無い、逃げ場も無い。
ならば潔く受け止めようじゃないか、『いつもの』を。
「らんらんそれはまだ早いですぅううううううう!!」
「いや結構予想外の言bヘブライッ!?」
思い切り腹をエルボーされた俺は空中に舞い上がり予想とは大きく違う言葉に驚くと同時に地面に顔から突っ込んだのだった。
3年弱の間に今回のヤンデレ騒動の元ネタになったドキドキ病んでミックとこのすば原作が終了するという事態に追い込まれた作者の明日はどっちだ
※
are you ready?→出来てるよ
仮面ライダービルドより グリスブリザード使用時の猿渡一海の名言…ではあるが死亡フラグ(というか死を悟った上での発言)
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第十七話『今明かされる衝撃の真実とか言ってるけど衝撃的過ぎると人って逆にテンションが上がるらしい』
「……えーっと、ここどこだ?」
ゆんゆんにアッパーを喰らい気絶したと思ったら真っ暗な空間に立っていた。
これはあれか、前に見た嫌な夢に似たデジャヴを感じるからそういう事なのか。
だとしたらタチが悪い、妙に気持ち悪い夢だったから二度見るのは勘弁願いたいんだよなあ。
「さてどうしたもんか……てか今回は身体自由に動かせるのな」
あの時は身体が俺の意志とは関係無く動いていたのも不気味な要素だったが今回はそうでもないらしい、前に進もうと思えば進めるし止まろうと思えば止まれる、ジョジョ立ちをしようとすればする事が出来る。
なお、ジョジョ立ちをした意味は無いもよう。
「うーん……デジャヴは感じても不快感は覚えないし、だとすると尚更分からんのよなあこの空間」
嫌な感じはしない、しないからこそ逆に怖いんだよなこれ。
何の為にこの空間に俺がいるのか、何故動けているのか、考えれば考える程分からん。
まあ適当に動いてればその内何か分かるだろと適当に彷徨くのが今やれる事だろうが……
「あっ」
「あっ」
ふと、適当に歩いていると誰かと鉢合わせた。
お互いブラブラしていたのだろうか、ボケーッとしていた時にふと会ってしまった為にめちゃくちゃ気まずくなってしまう。
と言うか誰なんだよコイツ。
「……え、誰?」
「あー……もしかしてらんらん?」
「なんで知ってるんだ俺の事……気持ち悪っ」
「え、酷くない?」
「いやまあだって見た事無いしお前」
「それもそうか……取り敢えず話さない? ここに迷い込んじゃったってのは色んな理由があるんだろうしさ」
良く見ると割と壮年な顔立ちではあるがフランクな話し方をしてくる。
色々と不自然というか、違和感を覚える奴だ。
だが敵対心は無さそうだしまあ話しても良いかとも思えるんだよな。
「いつ出られるとかそういうのも分からないし仕方ない。敵対心も無さそうだし……無いよね?」
「無い無い……面倒じゃん争いなんて」
「そっか……まあそうだな……」
というか何か妙に波長合うなコイツ。
お互い気楽にやれるならそれに超した事は無いしまあ良いかと思っておくか。
「ま良いや、取り敢えずこっち来て適当に座って」
「椅子とか……まあ無いよね」
「まあねえ……単刀直入に言ってここ、君の深層心理世界だし」
「……マジ? 俺の精神が具現化してるって事?」
「そゆ事」
軽めに話してる雰囲気からとんでもない話が飛び出してきて若干ドン引いてしまう。
俺の深層心理世界ねえ……だとしたら辻褄は合うが……
「え、じゃあお前誰なの?」
そう、そこが問題だ。
俺の精神世界に住み着いてるとか何者なんだよと。
俺に関係のある人物なのか?
「ワシね、八坂恭一。昔の魔王。原作知識のあるらんらんなら知ってるでしょ。んで君、ワシの生まれ変わり」
「はい? 八坂恭一……はぁ!? え、はぁ!? おまっ、Web版のラスボスゥ!? で俺が生まれ変わりィ!? どういう事だよ! 俺は原作のある世界からこっちに生まれ変わったんだぞ!?」
もうね、脳みそバグりますよ。
だって急展開過ぎるでしょ、深層心理の世界に来たとかいうのでも意味不明なのに出会ったのがWeb版のラスボスで俺がその生まれ変わりだとか、情報量どうなってるんだよ。
もう怒らないからドッキリであってほしいくらいだわ。
「いやね、ワシもどうしてそうなったのかは分からんのだけど……そもそもワシはこんな日本人な名前してるけど日本人ではないのは知ってるよね?」
「あ、ああ」
「何か他と違う名前で不思議じゃなー不思議じゃなーと思って生きてたんじゃが、親父がどうにも原作のある日本からの転生者だったらしくて。道理で聞いた事の無い様な話を沢山聞かせてくれたと思った訳なんだが」
「そんで俺と何の関係があんだよ」
「関係自体は無いんだけど、そんな訳で日本と魂が離れてなかったのかワシの死後に日本に再転生したって訳。多分こっちに転生する必要無くなったからなんだろうけど」
「ええ……」
「んで今代の魔王軍が人間と敵対したからもっかい呼び寄せられたみたい」
「いやいやちょっと待て! だとしたらアクアが『俺という例外を見て慌てる事は無い』んじゃないのか!?」
もう勘弁してくれ。
今話にギリギリ着いて行けてるのが奇跡だと思うくらい意味の分からん展開になってるこれをどうしたら良いんだ。
八坂の父親が俺と同じ境遇で俺は都合良く世界に呼び戻された存在? 何なのこれ。
つまり俺がここに来るまでに至るまでの道のりって
現代世界→このすば世界(ここまで父親)→その息子(魔王)→現代世界再転生→このすば世界再転生
ってルートになるのか?
ああ、胃が痛くなってきた……
だが待ってほしい、俺が最後に放った言葉の弁解を聞くまでは耐えられる、一縷の希望はあるんだ……
「あそれ? ワシの父親って実はエリス様が間違ってこの世界に転生させちゃったみたいで、そりゃアクア様は知らんやろなあ……って感じ?」
「オイ二大教祖揃ってポンコツかよ!! 嘘だろ!?」
はい、一縷の望み消えました今しっかりすっかりしっぽり消えました。
嘘だろ、アクアがポンコツ駄女神なのはいつもの事だから良いとしてエリス様? 嘘だろ?
よりにもよって一番大丈夫だと思って何の疑いもしてなかった人……女神だけど、に裏切られる俺の身にもなってほしい。
あまりの衝撃で顎が外れそうだよ、どうしてくれるんだこれ。
「いやね、ズレたパッドを戻そうとしたら手を滑らかしたらしくて。転生させた後に思い切りクリスの格好して下界してきて謝罪してたの思い出すって死ぬ間際までボヤいてたなあ」
「しかも理由どうなってんだよ!! パッドなんて着けなくても美少女なんだから着けんでええ!! 俺は貧乳でも好きだから!! そんな失敗されるとツッコミが追い付かん!!」
「まあ親父も親父でエリス様とイチャコラしてたしまあいいんじゃない? てか今は
「何やってんだよ……」
悲報、俺の前世の前世の父親が女神とイチャイチャしてる件に付いて。
絶妙に反応に困るから本当にやめてくれ。
「というかお前……俺? の父親って職業何だったんだよ」
「悪行ばっかしてた魔王ぶち殺して魔王に成り代わって魔王として王国と手を取り合って善政を敷いてたんだよね。んでワシが引き継いで魔王になったって訳」
「ええ……いや、ちょっと待てよ?」
「なんだ? 魔王ならワシが死んでから代替わりする内にまた以前の暴虐非道になっただけだが」
「いや軽くそんなとんでも情報口にすんなや……って違う! 俺が聞きたいのは……お前の母親の事だよっ!」
そう、突っ込んでる最中一つとてつもなく嫌な予感が過ぎった。
それは紛れもなく『母親』の事だった、ここまで一度も母親に付いて言及されてない上でコイツの父親がイチャコラしていた相手を考えると……
「え? そりゃエリス様だけど」
「やっぱりそうなんのかよ!!! 女神って妊娠出来るのね!!! 知らんかったわ!!! お前半分天界人じゃねえか!!!」
「君も生まれ変わりである以上はその血を受け継いでるがな。良かったね! エリス様の血族だよ! 半分くらいエリス教の始祖だね!」
「めちゃくちゃ重てえよその肩書き!!!」
考えうる最悪の展開だよ、天界だけに。
いや笑えねえわ、うん。
というか半分天界人とか言うなら前世もう少しイージーモードにしといてくれませんかね……
「あー、前世に関してはエリス様も相当嘆いてたからなあ……どこにどうやって生まれ落ちるのかなんて決められっこ無いが、仮にもワシの生まれ変わりが実の両親に虐げられ、学校でも虐められ、ようやく出会った天職も人を庇って刺殺されたせいで夢半ば。凄く落ち込んでた。本当なら『母さんのせいじゃないよ』って言いたかったんだけどね……」
でも、そんな事言われたら責められないんだよな。
どうあったって俺が両親にも、環境にも、死に場所にも恵まれなかったのはエリス様の責任な訳が無い。
それだけは言い切れる、言い切らないといけない。
「……いつかエリス様に会ったら伝えといてやるよ。前世は確かに恵まれなかったけど、それは母さんのせいじゃないし、本当の父さんと母さんはアンタ達だって」
例えコイツと魂が同じなだけだとしても。
例え面識なんて無くても。
この世界で
俺にとっては救いになる。
そう、断言出来る。
「そうか、そいつはありがたい。是非頼むぜ」
「おうよ。……というか今代の魔王倒すだけならカズマ達だけで良くない? ってのは聞いちゃいけないやつ? いや俺だってこの世界で楽しくやらせてもらってるし不満があるとかじゃないんだけど、過剰戦力じゃないの? って思ってて」
ただ一つ疑問なのがこれだ。
魔王を倒すだけなら原作と何一つ変わらないルートを辿る訳だ、俺の役割ってゆんゆんの兄貴になって楽しい思い出作ってあげておしまいなんじゃないの? と言う思考に至っている。
わざわざ呼び寄せられたのは……別の何かがある、俺の中にある何かが警鐘を鳴らしている。
「……やっぱり気付いちゃう?」
「そりゃな。原作購読者ですから。ま、2016年の秋に死んだから10巻から先の話知らないんですけど」
「そうだよなあ、原作読んでれば分かる話だよな。……仕方ない、話そう。本来『この世界の』魔王は就任当初は善人で民からの信頼も厚かったんだ。だが……ある日、魔王の一人娘が何かに取り憑かれたかの様に別人になり、やがてそれを止めに来た魔王諸共洗脳して操ってしまった。そして月日は流れ『この世界』は『原作通り』の構図になり『原作以上』の魔王軍戦力が誕生した……これが真実だ」
「……それを、正確に把握出来ている奴は?」
「元より一度死んでいるウィズとベルディア、それにまともに魔王城に来てすらいなかったバニルくらいだ。強化された事で魔王軍幹部も増量されて全くもって迷惑この上無い」
「ああ、だから見知らぬ魔王軍幹部が……」
嫌な予感は見事に的中した。
魔王軍の娘……面倒ったらありゃしねえな。
原作でも一度たりとも登場しなかった謎の存在だからって適当に設定増やすんじゃねーよ、前世の数少ない友人達くらいだぞそんなハチャメチャ二次創作生み出してたの。
……しかし、アイツらは元気かねえ。
……ま、ここいらで俺の前世に付いて語るのもありかね。
そう、これは俺が前世の学生時代唯一の友人と呼べた二人の話でもある訳だしな――
一年振りの投稿が情報過多過ぎて謝謝
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