テイルズオブノワール ー君を見届けるRPGー (ピコラス)
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ノワール変幻辞典

『テイルズオブノワール』(Tales of Noir、/TON)は、オリジナルテイルズにわかファンが後ろ向き全開時にガガッと書いてしまったRPG気分の何か。語彙力ゼロ。没タイトルはデッドレイズ、ノクターンなど。

 

 

 

◇物語◇

ある夜、魔法画家テトラのアトリエに彼女の魔法画のファンである妖魔ヴェルディが訪ねてくる。

お互い絶体絶命の死に際にいることを知ったヴェルディは、禁断の魔導器「ノクティルカ」を使って身勝手にも自身の血を捧げテトラを救おうとする。

「ノクティルカ」によって力を取り戻したテトラは妖魔ヴェルディを死から救うべく、旅に出る。

 

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◇登場キャラクター◇

 

◆テトラ・エピクロス◆ - 女性/16歳/身長155cm

魔法画家の金髪ガール。弱くも純粋な心を持つ。

故郷を飛び出して1~2年、魔法画を描きまくるも、ある日突然描けなくなってしまう。モンモンとする最中ヴェルディが参上。魔力を取り戻した彼女は旅に出る。

♪「生命のシンバル」

 

◆妖魔ヴェルディ◆ - 男性/15歳/身長160cm

妖魔の盗賊。テトラの魔法画のファン。

死の風を感じた彼はテトラのピンチを知り、力になりたいと思う。盗人三ヶ条を守る(なるべく)。命は奪わず・女性は傷つけず・貧乏人からは盗まず。

フェンリィ・ヴェルディ。

♪「荒野の狼」

 

◆人形レジンキッド◆ - 男性/36歳/身長145cm

魔導人形。テトラを見守るお父さんみたいなヒト。

型式番号[MPN-99]。

♪「デンジマンop」

 

◆魔女ニーキス◆ - 女性/年齢不詳/身長170cm

元歌姫の黒髪美女。テトラ・レジンの憧れの人。

幼少の頃から魔術を修行。しかしいつしか修行から逃げ、歌劇の人となる。魔術師狩りが始まると師匠ケイオスの下に戻り、修行を再開。

ニーキス・ペンローズ。

♪「AISHI-AISARE」

 

◆対魔士ナラシノ◆ - 男性/26歳/身長178cm

ド三流対魔士。…実は狂剣術・泥酔剣の使い手。

魔物&少女捜索の密命を帯び、各地をさまよう。船酔いで死にかけのところをテトラが発見。命を救われる。

ナラシノ・ユウカ。

♪「宙船」

 

◆月の精霊ルナ◆ - 女性/14歳/身長165cm

生まれたての精霊。迷宮塔に生まれる。

ハリウサギの妖魔ムーシュ(とその他色々)によって守り育てられていたが、テトラ一味が襲来。連れ出される。

月夜は元気。たぶん日中はおねむさん??

ルナ=テッサ・ロイシュネリア。

♪「輝く月のように」

 

 

◆幻魔ポルカ◆

???

 

◆テオリア◆

少女。絵を描くのが好き。

 

◆魔術師ヘルレイオス◆

最強の魔術師。かつてニーキスと共に魔術を学んだ。現在、行方不明。

 

◆聖女ミシュラ◆

騎士団のリーダー?

 

 

 

◇用語とか◇

 

◆魔原子クロリム◆

あらゆるものに宿る魔力源。水のように循環しているらしいが、現在減少中??

 

◆妖魔◆

基本的には人や動物がルーツの魔物たちの事。理性ある者もいれば、野性的で凶暴な者もいる。体内に多くのクロリムを宿しており、それが失われると死ぬ。

 

◆精霊◆

クロリムの集合が長い年月を経て意思を持った霊的存在。

 

◆幻魔◆

???

 

◆エストルーズ対魔士団◆

凶悪な妖魔を狩る者たち。光の騎士団。

1年程前から魔術書や魔導器などの所持を禁止(魔術師狩り)。

 

◆魔導器◆

魔力で動く道具・装置など。

 

◆魔筆ノクティルカ◆

妖魔の血を吸い魔力を作り出す禁忌の魔導器…がナゼか「絵筆のカタチ」となったもの。

 

 

 

◇雑チャート◇

テトラのアトリエ - ガラクタ屋トラッシュ - マドレイユ山 - 港町ベルシー - 雪の町クーレンベルク - ディアナの塔 - 幽霊船? - ミザール地下牢 - - - かめにんロックフェス - - - - - きっとラスダンは美術館

 

 

 

◇イメージキャスト◇

テトラ - - - - - 黒沢ともよ(ユーフォの久美子)

妖魔ヴェルディ - - 石川界人(RINNE)

人形レジン - - - - 宮本充(スティーブン)

魔女ニーキス - - - 森なな子(キュアショコラ)

剣士ナラシノ - - - 日野聡(サイト)

精霊ルナ - - - - - M・A・O(ジュリエッタ)

 

幻魔ポルカ - - - - 鳥ポケ(ファイヤーとか)

テオリア - - - - -

魔術師ヘルレイオス - 花江夏樹(イクス)

聖女ミシュラ - - - 照井春佳(ミリーナ)

 

 

編集はつづく(たぶん)…!




◇あらすじ◇

少女が森でオオカミに襲われる。
そのとき助けを求める「心」と雨水の中の「化学物質」、
少女の絵の中の「魔力」がまざって幻魔が生まれる。

すべてを食べる幻魔の脅威があきらかになり
人々は幻魔を退治する(1部完)



騎士団長は幻魔の力を国に役立てようと考える。
王国では魔力で動く機械兵が導入され始めていたが、
幻魔に兵隊をやらせれば研究開発など必要なく手っ取り早い。

「精霊術」「魔科学」「幻魔創造法」をきわめた騎士団長は
やがて考えを改める。
ただ強い兵隊をつくって置くのでなく
やはり人々自体を「より強く成長させる」…それこそが王国の
栄光への道だと。

騎士長ミシュラは機械兵や精霊、そして幻魔とまざって融合する。
強く美しく生まれ変わったミシュラはもはや人間でなく、
その心は濁っていた…
新生命ミシュラの凶行を主人公たちが阻止する(FIN)


*要約…おそろしい魔法生物・それをも利用しようとする人間



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▶メニュー - - - /術技/装備/年表

* 年表追加 あらすじは別のとこに


 

【挿絵表示】

 

 

◇術技◇ (†=特技/奥義、*=術、b=ブラッド、¶=秘奥義)

 

◆テトラ◆

†エザリィウィップ †ドラッグレーベン

†マーメイドグリフ †ディジータイフーン

†サーチガルド

b「キアロスクーロ」

¶ミストグラデーション

¶鳳翼熾天翔

¶デンドリティドリッパー

 

◆妖魔ヴェルディ◆

†無影衝 - †幻竜拳 - †飛燕連脚

†灼風狼火 - †幻魔衝裂破

b「フェンリィブラッド」

¶ジェラスドッグハウル

¶インパルスディザイア

¶ヴァイレンスメイズハート

 

◆人形レジンキッド◆

†瞬迅剣 - †霧沙雨 - †魔空牙

†マグネティックゲート †タイガーランページ

b「アウトオブコントロール」

¶ステルスレイダー

¶リバースクルセイダー

¶ディシデントアグレッサー

 

◆魔女ニーキス◆

†紅蓮剣 - †碑零幻 - *ホーリーソング

*ドレスミラージュ *プリズンセイヴァー

b「エトワールリターン」

¶紫龍幻灯剣

¶浄破滅焼闇

¶九羅魔玲蝶閃

 

◆剣士ナラシノ◆

†魔神剣 - †冥斬封 - †邪霊一閃

†獅子戦吼 - †爪竜連牙斬

b「泥酔剣」

¶破邪烈焔刃

¶瞬閃・桜吹雪 (To零!

¶黒雨霜破斬

 

◆精霊ルナ◆

†月閃光 †ムーンサルト *シャイニングレイ

*ネガティブゲイト †ムーンスクレイパー

b「ルナティックオーヴァドライブ」

¶月影剣三連殺

¶ラストヴァニッシャー

¶霊命剣宵ノ月暈 (ヨイノツキガサ

 

 

 

 

◇装備◇ (上から 武器/固有/その他/称号)

 

◆テトラ◆

†魔筆ノクティルカ (血を吸う筆…!)

-ポンチョコート

-レザーブーツ

*「ヴァンパイアガール」

 

◆妖魔ヴェルディ◆

†サバイバルナイフ (大きい…!)

-エスニックな首飾り

-ジェットブラック

*「テトラの下僕」

 

◆人形レジンキッド◆

†エストック - - - (二刀流かも)

-でんげきのつるぎ/ディスク

-ザ・レッドマント

*「魔導戦士」

 

◆魔女ニーキス◆

†ルイガノ/タクト (やっぱ杖かも)

-ヘルシング/魔導書

-エメラルド

*「サモナー見習い」

 

◆剣士ナラシノ◆

†妖刀ワライフクロウ (喋りはしない)

-叶鈴御守/お守り

-酔い止めグミ

*「泥酔剣使い」

 

◆精霊ルナ◆

†ムーンストーン (結晶武器のコア?になる)

-カルサイトレット

-ムーンセレクター

*「月の精霊」

 

 

 

 

◇ウルトラ駄文コーナー◇

 

◆主人公テトラについて◆

テイルズシリーズ最高の様式美(??)魔法少女担当。

お姉さんがいる。たぶん出てこない。

名前はオレンジテトラポットより。波を防ぐというのがシンプルでカッコいいかも

 

◆妖魔ヴェルディ◆

リオン、ベルベット、よりもシアン(イノセンス)愛が宿っていそう。なんとか彼を死なせずにクリアしたい(?)

 

◆人形レジンキッド◆

ガンダム愛の具現結晶。ユニバース!!

たしかターンエーガンダム、ガデッサ、あたりが元ネタ。あとフクロウ

 

◆魔女ニーキス◆

ヴェルディ以上にベルセリアや2017年の気分が表れていてお気に入り。

ゲームだったらきっと衣装称号が100個ある。BGMも変わる。なんなら歴代BGMに歌詞つけてニーキスが歌ったりして最高になる

 

◆剣士ナラシノ◆

正統派主人公風(のつもり)の人

 

◆精霊ルナ◆

かわいい。

体内、あるいは空気中の魔力素を結晶化、武器をこさえて戦う。ので普段は帯刀とかしてない。

うどん好き

 

 

 

 

◇おまけ◇

 

◆妖魔ガストロ◆

†魔神衝 - †爆竜拳 - †陽炎

†灼地滅穿 - †割破爆葬撃

b「ディアボロスブラッド」

¶クリティカルブレード

¶イービルスティンガー

 

◆魔術師ヘルレイオス◆

†蒼破刃 - †紅蓮剣 - †碑零幻

†四葬天幻 *ディバインセイバー

(その他 数多の術技……)

b「フィアレスソード」

¶閃光鏡牙斬

¶ケイオストーネード

 

◆聖女ミシュラ◆

†因果応報 - †霊陣雷散 - *守護方陣

*リザレクション *マイトレインフォース

b「聖なる心」

¶聖華鏡水陣

¶禺憐天抄

 

◆機士サーフェイサー◆

†アサルトダンス †サンダーブレード

†インスペクトアイ †ライトニングブラスター

b「ガンマバースト」

¶ディシデントアグレッサー

¶ヴァイスイントルーダー

 

◆精霊エンテラス◆

†灼光剣 - †覇道滅封 - *シャイニングレイ

*バーンストライク *ヴァーミリオンサンズ

b「ヴォルテックオーヴァドライブ」

¶ブライティストゲート

¶天耀剣虹ノ朝露




◇年表◇

◆217
・少女テオリアの心から幻魔ポルカ生まれる。
  一旦捕獲されるも間もなく脱走。
  エストルーズ騎士団のポルカさがしスタート。

◆218
・テトラと妖魔ヴェルディ接触。 魔筆ノクティルカ覚醒
・魔女ニーキス、☽ルナと契約ならず。

・妖魔盗賊ガストロ死ぬ。
・聖女ミシュラ、テトラ一味と接触。 ひきつづきポルカさがし
・魔女ニーキス、✞ナイチンゲール?と契約。

・幻魔ポルカ、魔術師ヘルレイオスや妖精たちを吸収する。
  vs ポルカ=レイ
・ニーキス、テオリアを助ける。
・ノクティルカが魔力を天地に還し、魂を海に還す?

◆219
・幻魔兵づくりスタート。 ヘルレイオスの幻影つくる?
・聖女ミシュラ、☉エンテラスと契約。
・人形兵+エンテラス+幻魔兵の力で隣国攻撃?

・人形兵研究者エピクロス博士、ミシュラに殺される。
・テトラ一味とミシュラ決裂。
  vs 衛兵ナラシノ
  vs 人形兵サーフェイサー
  vs ヘルレイオスの幻影?
  vs エンテラス
・大魔術師ケイオス、傷ついたテトラ一味を退避させる。

・人形レジンキッド、サーフェイサーと合体復活。
・魔女ニーキス奥義継承。 ケイオス死ぬ
・ルナNEW武器ゲット!
・ナラシノとエストルーズ騎士団決起。

・人形兵たちの反逆プログラム発動。 妖魔たちも助力?
・魔筆ノクティルカに宿った情念(ねがい?)がみんなに力を与える?
  vs 幻魔兵団
  vs エンテラス+ミシュラ
・新生命ミシュラ生まれる。ラストバトル

・ノクティルカがミシュラを永遠色に塗りつぶす。
  光や時間すら寄せ付けないインクはミシュラの姿形を消して
  後には正義の心だけが残る。
  テトラも消えかけるが妖魔ヴェルディにひっぱり出される。

蛇足?:後世の書物や絵画では王国を救った英雄としてミシュラが描かれ、
  テトラとヴェルディの2人旅などは当然ヒミツのままである。


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第0話 夜風

「落ちこぼれの出来そこないのコシヌケ。かと言って愛されるだけの愛らしさも、思いやりの心というやつも無い。信念とかシュウチャクシンの様なたくましさも無い。なにも無い…………」

 

盗賊の少年ヴェルディは暗黒の中にいた。

眼前には中々立派な白い建物。その中には高価な毛皮や光る宝石が眠っている……かもしれない。大きな金庫が待ち構えているかもしれない。

白い息がフッと生まれてすぐ消えた。

盗賊ヴェルディがここを訪れたのは、しかし盗みをはたらくためではないのだ。

ひんやりとした夜風の感触を背に、盗賊ヴェルディはこっそりと白い建物の中へと忍び込んでいった。

 

 

「……描けない!!」

 

少女テトラは白い部屋の中、ひとり闘っていた。

絵筆で紙の上を描き殴ってはクシャクシャと丸めて投げる。投げた先には同じ様なクシャクシャが無数にあった。

悔しそうな表情で今度は金色の髪をクシャクシャと引っ掻き、ついにテトラは絵筆を投げようとした。

……その時。

突然ドアが開かれ、振り向くテトラ。

 

「誰……!?」

 

「勝手に入り込んですまない……あんたがテトラなのか?」

 

赤茶色の髪の少年は一応、両手を上げて『ワルい事をするつもりはない』という風なポーズをとっていたが、背中には大剣みたいなものが見えていた。なんだこいつは。

 

「死ぬ前に会っておきたかった、会いたかったんだ……テトラという絵描きに。」

 

 

今、この世界は光の時代を迎えようとしていた。

どういうワケなのか魔の力は弱まり、多くの魔物や精霊が姿を消し始めていた。

魔の力無くしては生きられない者達……音も無く消えていく者達……

ヴェルディもその内の1人だった。彼は妖魔なのだ…………

 

 

「いろんなものを盗んだ。キレイな指輪だとか、胡散臭いツボとか……その中でも一番のお気に入りはあんたの絵だった。それだけ言いたかったんだ。」

 

「……死ぬしかないの?……どうして…………」

 

素直な人だなと、ヴェルディは少女の曇った顔を眺めていた。

もう少し年の離れた、あるいは老人の画家を想像していたというのもあって、ヴェルディは不思議な気分だった。

俺が死んだ後も彼女は絵を描き続けるのだろうか。

 

テトラはしばらく固まったままだったが、何も言わず急に絵を描き始めた。盗人には目もくれずに筆を動かす。なんだこの女。

いつの間にやら窓の外は夜明けを迎えていた。長い時間揺れ続けた筆は動きを止めた。

だが…………

とうとう絵は、完成しなかった。

紙は一面、真っ黒になっていた。

 

「もう少し早く来てくれれば、あなたが好きになってくれたような楽しい絵が描けたんだけど……もう、描けなくなっちゃったんだ。もうずっと真っ黒だ……夜が明けてもずうっと真っ黒…………」

 

テトラは笑顔だった。少し寂しそうな笑顔。

かつて魔法の力を借りて絵を描いていた魔法画家テトラは『死んだ』のだと、彼女は言うのだ。

『死んだ』のだと…………

 

 

「違う!!!」

 

ヴェルディは叫んだ。

テトラは驚きつつ少年の方を見ると、彼自身も自分の声に驚いているようだった。

 

「そんな簡単に死なれたら困る!!まだ、絶対に描ける!!……会いたかったなんて嘘だ……本当は描いてほしかったんだ!!俺は描いてほしいんだ!!このまま死ぬなんて絶対に駄目だ!!!」

 

ヴェルディは衝動的にテトラの腕を掴んでいたが、少しの沈黙の後すぐに手をはなした。

 

一瞬。ふいに何者かがヴェルディを襲った!

素早く背中の大剣……みたいなものを取って迎撃すると、そこには刺突剣を握った人形が立っていた。

 

「テトラ、無事か!?」

 

「えっと……無事だよ。」

 

目つきのワルい人形はテトラの身を案じているようだ。部屋の隅で眠っていたそいつは少年の大声で目を覚ましたらしい。

(人形がそもそも眠るのかという事については今は考えないでおこう)

二人よりもひと回り小さいが、人形にしてはだいぶ大きめの白い人形……おそらく魔の力で動く、魔導人形とかいうのだろう。魔の力で動いているのなら、こいつの命もそう長くはない……

 

再度襲い来る刺突攻撃。ヴェルディは武器を床に投げた。人形の剣はヴェルディの腕をつらぬく。

 

「人形、俺たちが死ぬのはここじゃない……」

 

「レジン、この人はワルい人じゃないよ……いや、ワルい人かもしれないけど。でも、わたし、この人の為にもう一度絵を描きたい……このまま死なせたくない!!」

 

魔導人形レジンはゆっくりと剣を収めた。

 

テトラは真っ黒になった紙を拾うと、真っ二つに破いた。



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第1話 トラッシュ

「ここがガラクタ屋『トラッシュ』だ。」

 

「ストレートでいい名前だね。」

 

パッと見、店をやっているようには見えない茶色い木組みの建物。元々茶色いのか、汚れまくっているのか……たぶん後者なのだ。少年がドアを押し開け店内へ進むと、金髪の少女と背の低いマント男(実は人形)が後に続いた。

店の中は、当たり前だがガラクタの山!! 針の無い時計やカラッポの鳥かご、これでもかというくらい割れた鏡、その他イロイロ用途不明の物体が数百点。大体みんなサビているか黒ずんでいた。

店内の絶景を心底楽しそうに見回すテトラを置いて、ヴェルディはサッサと奥へ向かう。最奥にはこの店の主、黒い犬の妖魔だ。

 

「ようこそヴェルディ! めずらしく元気そうだ。」

 

「……どうしても欲しいものがあるんだ。…………増幅器。それに関する情報だけでもいい…………」

 

 

ヴェルディの言う「増幅器」とは『魔原子増幅器』のことだ。

この世界のあらゆるものの中に宿る魔力の源……それが魔原子、『クロリム』…………

 

「増幅器か……何か宿命のようなものを感じるな。実は今1つ、ある。男が昨日の夜売っていった。」

 

「それがあればヴェルディは死なずに済むんじゃないの!?」

 

……と、うしろからテトラ。手にはよくわからん物体を持っている。……買うのか?

 

「キミは……ヴェルディのおともだちかい?お嬢さん」

 

「こいつが『テトラ・エピクロス』なんだ……!ビックリだろ?」

 

「! あぁ、あなたがテトラ…… あなたの『魔法画』はいくつか観たが、皆素晴らしかった! この店にあったものは全部その少年に持っていかれてしまったがね。」

 

少年はそんなことわざわざ言うなよと、ほんの少し困ったカオをした。テトラは少年の方を見たが、その眼差しは真剣だった。横からマント男レジンが言った。

 

「テトラ。増幅器や増幅術による爆発的なクロリム増幅は、ヘタをすれば妖精を殺してしまうとても危険なものと聞く。人体にも害を及ぼす禁断の技術と…… ましてガラクタ屋に売られるようなモノ…… 危険過ぎる………」

 

「………そうだね。」

 

テトラの声は穏やかだった。

 

「そう……ガラクタ屋に売られるようなモノだったんだ、私の絵は。誰かの為にじゃない、ただ自分が『楽しく描く』為の絵だった。でも気に入ってくれる人は、いた。…………正直もう…………それでいいんじゃないかって気もする…………けど、それでも、ヴェルディはまだ描けるって、描いてほしいって言うんだ。……描かなきゃ。」

 

 

店主はカウンターのさらに奥の部屋から箱を出してきた。……傷も汚れも無い黒の木箱…… 箱を開け中に眠っていたそれを店主はゆっくり持ち上げた。それは球根のような、「かたまり」。怪しげな割れ目がはしり、黒いうぶ毛状のものが一ヶ所から微かに生えている…… それはテトラに手渡された。

 

「これ、持ってるだけで魔力をくれるの?」

 

テトラはヴェルディに目を向けた。

 

「いや、…………妖魔の血が要る。」

 

ヴェルディはおもむろに左腕……先日テトラのアトリエで怪我した腕を突き出した。すると「黒いうぶ毛」が勢いよく波打ちながら伸びて腕に巻き付く!

 

「?!何……?」

 

「黒いうぶ毛」は一瞬で赤く染まり「かたまり」は膨らみ始める。やがて「かたまり」から新たに根っこが生え出し、今度はテトラの両腕にまとわりつく! テトラは、そこから身体中へ何かが流れていくのを感じた。それと同時に危機感が沸きだした。……このままにしておくとヴェルディを殺してしまう…………?

 

「この……はなれろっ!!!」

 

テトラはあわてて「赤いうぶ毛」を引きちぎった。近くのガラクタ達に血しぶきが飛ぶ。ヴェルディの腕は解放され、うぶ毛は元の黒色に戻った。

 

「これは……何を?…………血を、吸ったの…………?」

 

ふう、と一息ついてからヴェルディは話した。

 

「そいつは、妖魔の血に宿るクロリムをタネに……核分裂……新たにクロリムを発生させる、そういう性質を持ったものなんだ。」

 

「レジンは知ってたの……?」

 

「いや……ただ、危険なものとして大昔に禁じられた技術だと認識してはいたが……」

 

「こんな、吸血鬼みたいなことしてまで、私…………」

 

「かたまり」を持ったままテトラはぺたりと座り込んだ。

 

「すまないテトラ…… わかってくれとは言わない。……いや、ここのガラクタの山を宝の山のように思えるあんたなら、きっとわかってくれるだろう…………自分勝手な俺の気持ち。よくわからないまま、消えていくヤツらの気持ち。無意味に仲間を人間を自分を傷つける面白くないヤツらの面白くない気分さえも…………」

 

 

ずいぶんと長い静寂。テトラはその無音の空間でガラクタの声を聞いた気がした。

テトラの手にあった「かたまり」はみるみる形を変え、少々大きめな絵筆の姿を現した。

それを操りテトラは絵を描いた。……『魔法画』は、絵具ではなくクロリムを用いて色彩明暗姿形を描き出す。店内壁面の適当なところに描いたそれは、天を仰ぐ狼。少年は黙ったまま絵を見つめていた。これは売り物に出来ないなと、店主。久しぶりに絵を完成させたぞと、テトラは喜んだりはしなかった。

 

「なんで魔力が弱まってるんだろう…………?」



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第2話 涙の話

「妖精たちの消失のハナシが聞こえ始めたのはここ1~2年のことだが、原因はわからない。突然ボロボロ崩れ去るともケムリのように宙に溶けていくとも聞いた。俺はまだ見たことないが……」

 

テトラとヴェルディ、レジンは町を離れ野道を歩いていた。目指すは魔術師たちの隠れ集落。ナゾの魔力異変について、魔術師たちなら何か知っているんじゃないか、聞きに行ってみよう、そうテトラが言い出したのだ。

 

「……エストルーズのヤツらが何かやってるせいだってウワサもある。『魔術師狩り』も1年程前からだ。まったく鬱陶しいヤツらだ。」

 

「ヤツら」……『エストルーズ対魔士団』をヴェルディはえらく嫌っているようだ。別名、光の騎士団。国の人々を守る為に凶悪な妖魔を狩る者たち。

きっと彼らとヴェルディの間で何度も闘いがあったのだ。そうに違いない。テトラは闘いのシーンを空想し出した。その空想はしかしすぐに終わった。

一瞬立ち止まり、また歩き始めるヴェルディ。彼の視線の遥か先には、どうやら「ヤツら」がいるようだった。……検問だ。空は晴れ渡っていたがテトラにはなんとなく、雷の匂いがした。

 

「気づくのが遅かったな……向こうはもう俺たちに気づいてる。まあ、槍兵と、鳥みたいなのを連れたヤツ。二人と一羽。イケるか。」

 

「ちょっと待って……! もうちょっと穏やかに、というかフツウに通してくれないかな?」

 

「どうかな。俺は通してくれないと思うな。」

 

私も通してもらえないと思うぞと、レジン。

結局、なにも策を講じることなく対魔士たちのもとへ。

 

「お三方。失礼だが、持ち物を調べさせていただく。よろしいかな?」

 

どうぞどうぞ、とテトラは『ノクティルカ』(テトラ命名、絵筆の形をしたアレ)を、ヴェルディは大剣みたいなやつを手渡した。

 

「……やけに大きいが、これは絵筆、か?」

 

「はい、ワタシ一応まほ………、画家をやっているんです! コノタビはマドレイユ山を絵に描いてみようかと思いまして。」

 

「山を。なるほどねぇ。」

 

「そこの二人は護衛です。あの辺は魔物がワンサカおると聞きまして。はい。」

 

「おっしゃる通り、あの辺はとても危険だ。気をつけたまえよ。」

 

「お心遣いありがとうゴザイマス……!」

 

思いのほか易々と通してもらえて、テトラはホッとひと安心。

 

「そこの男、………………人形、じゃないか?」

 

お三方は石化した。

 

「人形?…………魔導人形とゆうやつか。」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

「ううむ、……魔術書や魔導器は没収、所持者はもれなく捕縛せよと言われているが……」

 

「待ってっ!!!」

 

対魔士にガガっとすがり付くテトラ。ヴェルディは戦闘行動に移ろうとしていた手を止めた。

 

「……この魔導人形は親の形見のようなもの……いえ、もはや『このひと』は私の家族です。どうかもう少しだけ、……一緒にいさせて下さい……」

 

少女の目からはキラキラと涙が零れていた。一同はその涙に戸惑い、そして見蕩れた。やがて対魔士が口を開く。

 

「顔を上げなさい、画家のお嬢さん。我々は今、平和を脅かす物を禁じようとしているにすぎない。家族を奪ったりはしないよ。」

 

さあ行きたまえ、という風にテトラの肩をポンポンと叩く対魔士。三人は歩き始めた。

ところで、対魔士が連れていた鳥(どうやら飼い慣らされた鳥型の魔物のようだ)はずっと大人しくしていたのだが、テトラが目前を横切ると急にバサバサと羽ばたき始めた。

 

「その筆、魔導器か!?」

 

「鳥さんゴメンッ!!」

 

テトラはノクティルカを、襲い来る魔鳥に向けてかざす! すると漆黒の筆毛があっという間に魔鳥を縛り上げる。

 

「ふたりとも!!私を守れッ!!!」

 

「「まかせろ!!!」」

 

「無影衝」「魔空牙!!!」

 

テトラを取り押さえようとする二人の対魔士を、ヴェルディが薙ぎ払いレジンがつらぬく。

 

「ドラッグ・レーベン……!!!」

 

ノクティルカはゴクゴクと不気味な音を鳴らし、力尽きた魔鳥を野道の上にドサリと放した。

 

…………対魔士たちは敗北した…………

 

 

「……一件落着だな。」

 

「これって、もしかして国家反逆罪とかになるんじゃ……?」

 

「うむ……………」

 

「しかし、……テトラ。あんたは中々怖い人だな……」

 

「血を吸うのは、だってコレそういう物なんでしょ?しょうがないじゃん……」

 

いや、怖いというのは先程の涙の話だ……レジンとヴェルディはそう言いかけて、やめた。……二人は信じたかったのだ。あの涙もあの言葉も全て嘘偽りのないものだったのだと。



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第3話 憧れ

吸血画家テトラは妖魔ヴェルディと人形レジンを引き連れて、マドレイユの山奥にあるという隠れ集落を目指していた。そこにいるであろう魔術師様に色々と聞きたいことがあるのだ。

 

「オウルベア出てこないかな。そしたら死んだフリしてみたいなぁ。三人で川の字。」

 

「死んだフリは良くないとこの前聞いたが、うむ……フリでも死体が3つも転がっていたら少しは戸惑ってくれるかもしれんな。」

 

ヴェルディは、後ろの方から聞こえてくる妙な会話に動揺しつつも先頭を歩いていた。手には目的地までの道のりが丁寧に描かれた地図。ガラクタ屋のマスターから『ノクティルカ』と一緒にもらったものだ。なんとも気前のいいおじさんだこと。

三人は地図のとおりに山道を歩いた。途中、茂みの奥へ進み、小さな川をまたぎ、天然の石階段をよじ登った。描かれたとおり、順調だ! …ったのだが。

 

「……ねぇ。まだ、着かないんけ??」

 

 

「おかしい……天然岩のアーチをくぐってしばらく真っ直ぐ行けば、集落がある、はずなんだが。」

 

いくら歩いても辿り着けない。ほんのりと不穏な気配。

 

「……なんかアレ、あそこ、またアーチがある。」

 

二度目のアーチ。三人の不安ゲージが急激に上昇した。半ばヤケクソ気味にくぐり抜け、先ほどより足早に直進する。

 

「あっ……………………また、ある。岩のアーチ。たぶんまったく同じ形。……………………………………………………

 

同じところグルグルしてるコレ?!?!」

 

さすがに三度はくぐれず、止まった。

 

「これはマズイな。……たぶん引き返しても岩のアーチが無限に続くんじゃないか?」

 

「じゃあ横に逸れてみるとか……?」

 

「いや、そういう問題ではないんじゃ……」

 

レジンはハッとして、辺りを見回す。……そこらじゅうにワサワサと生い茂る草木たち。彼らの「緑」に囲まれていたはずが、気付けば葉がすべて「紫色」なのだ…! それによく見ると、なんだかグニャグニャ揺れている。

三人の不安ゲージはMAXに達した。瞬間、心臓をざくりとひと突き。何者かの妖艶な声が刺さる。

 

『おまえ達……なにも知らず足を踏み入れた訳ではあるまい……』

 

何処からともなく響いてくる、炎のように静かで、氷のようになめらかな声。

 

『おまえ達がこれまでに犯した罪……それをひとりずつ、言え。……正直に言えば……生きたままこの無限の山林から出してやろう……』

 

美しくも残酷な声。次の発言で生きるか死ぬかが決まってしまいそうである……。

生と死の狭間、コショコショと話し合う三人。……上手く誤魔化せないかな?ムリだろ。無言は?たぶんヤバイ。軽度なイタズラ話とかは?やめた方がいいだろう……

どうあがいても逃れられない雰囲気。なんか最終的に、三人とも目をスッと閉じ、無の表情に。そしてとうとうテトラから順々に懺悔し始める。

 

「実は私たち、来る途中で対魔士様方を痛め付け……いえ、……なんと言いますか、しばき倒して、しまったんです。悪気は無かったんです……ごめんなさい。」

 

『……………………しばき…………???』

 

「俺は基本的に、金持ちとか性根腐ったクソ貴族からしか盗まない主義だったんだが、実は一度だけ(略)……申し訳ない事をしたと思っている……」

 

『??????』

 

「私は昔、テトラとフィエール歌劇を観に行った際、一度この小柄な人形の身体を駆使して楽屋裏を覗きに行った事があった。楽しかった……いい思い出だ。」

 

『……フィエール歌劇か……』

 

「そういえば声似てる。あなた、『ニーキスさま』と声そっくり。……昔はいっつも歌ってたな私。声マネしてた。憧れの人……」

 

『憧れか。……………………』

 

「ほんとに好きなのは、でも声じゃなくて目かな。目がセクシーで。」

 

『……………………』

 

「エッチなこと考えてそうな目」

 

『どんな目じゃ!! 考えてねえ!!…………もういい、カメレオン解け!』

 

瞬く間に紫うごめく山林は消え、緑の世界に「声の主」が現れた。 頭髪だけでなく、服も真っ黒の女。どうやら無限山林は彼女と彼女の使い魔・カメレオンが見せた幻だったようだ。

 

「え~~~~~~~~~~?!? ニーキスさまだ???!」

 

「なんという事だッ!!!?」

 

「何だ。どうしたんだ……誰だ???」

 

二人のとてつもない盛り上がりに着いていけず、ちょっぴり寂しいヴェルディ。黒髪の女はヴェルディに向かって話した。

 

「私はニーキス。そこのソイツラが言っている憧れの人とやらは、劇場で一時は……歌姫などとも言われた『かつての私』。私の幻なのだ。」

 

目線をテトラの方に向ける。

 

「すべては幻、すべてウソだった。すまないな…………」

 

「ニーキスさま、……あの、握手、してください!!」

 

「!?あ、あぁ。」

 

握手。

テトラは力強くニーキスの手を握りしめた。

 

「今もニーキスさまは私の憧れです!! きっと、これからも!!……それはウソじゃないです…………!!!」

 

そのテトラの言葉にニーキスは強く握りかえし、柔らかく美しい笑顔を見せた。ありがとう。

それを、朝焼けを見るような目で見守るレジン。

ヴェルディは、なんだろう、さっき俺たちその女に危うく殺されるところだったんだけど……などと、よく分からない感情の芽生えを感じていた。



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第4話 魔術師たちの世界

テトラ達は、黒髪の魔術師ニーキスに導かれながら天然岩のアーチをくぐった。……アーチの向こう側には深々と茂る緑の世界が見えていたはずなのだが、くぐった瞬間、彼らは目的地の入り口にいた。

 

…………『マドレイユの隠れ集落』…………

 

「ようこそ、名も無き村へ。」

 

ニーキスはそう言うと、また静かに歩き出した。彼女の背中を追う三人組。

男二人は一応、警戒心を保ったままチラチラと村を見回したが、テトラはやはり好奇心の塊となってキョロキョロと村を、魔術師たちの世界を、全身で堪能していた。

 

「草も木々の葉っぱも全部チョコレート色だ。空は金色!」

 

「外から村を見えにくくする結界とか、なるべくクロリム(魔力の源)が外に出ていかないようにする結界、……色んな結界術のせいで色が違って見えちゃうんだよ。」

 

「へぇ~~……なんだかロマンチックです!」

 

「……ここの空は、昼間は金色・夕方はオレンジ・夜はネズミ色に染まるんだ。」

 

そよ風が吹くと、風がキラキラと光って見えた。これも魔力のせいなのだろうか。

 

立ち並ぶ建て物たちの多くは、クリーム色の石を積み、赤い屋根を乗っけたような感じだった。その内のひとつに入っていくニーキスと三人。

外の清々しい印象とは裏腹に、建て物の中はゴチャゴチャと散らかっていた。

……床には、生命力が爆発したような複雑な模様のじゅうたん。その上にはカボチャやドクロ、土器やら陶器やらがゴロゴロ。植木鉢からは、おそらく草花ではない別のナニカが生え出ている。

……壁には、大量の魔方陣と額縁に入れられた絵画が数点。壁際には本棚や魔導具棚や鏡。鏡は何故か水面のようにユラユラと揺れ、向こう側で魚が泳いでいる。

そして……建て物の中央には、いかにもな魔術師のお婆様が一人。水晶を前に置いて座っていた。

 

「……ケイオス様だ。一応、この村の長になるのかな。私の師匠……魔法の先生だ。」

 

 

【挿絵表示】

 

↑クソ雑ケイオス様

 

「はじめまして、お嬢さん方。ワシの名はケイオス。ただの魔法好きの年寄りじゃ。……まあ、お座りなさい。」

 

ポポポンとケイオスが出したイスに座る三人。

 

「私はテトラと申します。コッチの奴らは、その、友人です。」

 

「ヒヒヒ……獣人妖魔に人形。なかなか楽しそうじゃのう。……わざわざこんな山奥の村を訪ねてくる理由も察しがつく。ワシらがそうであるように、お主らも『魔と共に生きる者たち』なんじゃろう。」

 

「……はい。……ズバリ、魔力が失われていってるのは一体、何が原因なんでしょう??」

 

「ウム。その事じゃが、……………………実はワシら魔術師もまだよく分かっておらんくてのう…………『何かがクロリムの循環を壊してしまった』ということなんじゃろうけども…………」

 

「……そう、ですか…………」

 

「ワシの弟子ヘルレイオスなら、あるいは何か知っておるかもしれんのじゃが…………」

 

ニーキスが補足説明した。

 

ヘルレイオスは、ニーキスと共に大魔術師ケイオスの下で魔術を学んだ魔術師。……と言っても、ニーキスは早々に修行から逃げて劇場に入り浸り、いつしか劇団入りし、その後十数年もの間を歌劇の人として生きてきた……ので、その力の差は歴然。月とスッポンだ、と彼女は言う。 ……月とスッポン??

 

「ヘルレイオスの力量はとうの昔にワシのそれを上回った。現時点で恐らくは最強の魔術師じゃ。コレがどういうわけか、1年程行方知れずでのう…………」

 

「始めは『魔術師狩り』で捕まった者たちを逃がすために、一人でエストルーズに乗り込んで行ったんだと思っていたんだが、……まったく音沙汰がない。」

 

もしかして……処刑、されてしまったんでは……と、気まずそうに呟くテトラ。

 

「いや、それは無い。どうも魔術師狩りは、そもそも処刑だとか牢屋にぶちこんだりだとか、そういう事はしないらしい。勿論、魔術でよっぽどワルイ事したなら話はベツだろうけど。」

 

「……ただ、のう……………………」

 

少し、言いよどむケイオス様。

 

「推命術(占い)で、近い内にニーキスとヘルレイオスとが、……相対することになるであろう、と出ておるのじゃ…………」

 

「だから……生きてはいるだろうが、『クロリムの循環を壊したモノ』か、少なくとも良くないコトには関わっているかも…………」

 

「相対するって、戦うってこと……ですか?」

 

「もしそうなれば私に勝ち目は無い。……道を誤った出来損ないの私が、最強の魔術師に勝てるワケがない……………………」

 

『ニーキスさま』が出来損ない………………????

 

 

「いえ。ニーキスさまは負けません。」

 

テトラは言った。……めずらしく、わずかに憎しみが込められたような、低い声色。

 

「だって、信じているから。…………フィエール劇場でニーキスさまの声に焼き焦がされた人、洗い流された人、吹っ飛ばされた人、飲み込まれちゃった人みんなが、美しいカッコいい力強いニーキスさまを信じているから。たとえニーキスさまが信じられなくても関係無いんです。……………………道を誤ったなんて、勝てるワケがないだなんて…………そんなのは!! ウソなんだ!!!」

 

勢いよく建て物の外に出ていってしまうテトラ。

だが……何処へ行こうにも、初めての土地。なんだかややこしい事になるなコレと我に返り、すぐにニーキスたちの所に戻る。

 

「ヘルレイオスさんを探しに行きましょう……! そして、万が一ワルさでもしてたら……華麗な技で叩きのめすっ! ……それが、みんなの信じているニーキスさまです!!」



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第5話 海のバトル

テトラたちは港町ベルシーのとあるレストランにて、ちょうど料理を頼もうかというところだ。何故ならば、それはモチロンおなかが減りまくっているからだ……! (主にテトラの)

 

…………『シーフードレストラン・レカイエ』…………

 

レストランといっても、テーブルもイスも木製。壁も床も長い木の板を並べた感じの、なんとも居心地の良さげな料理店だ。

 

「俺はこのナントカ・グリエで。」

 

「シーフードつってるのにィ。」

 

ヴェルディ少年はステーキを注文。肉が食えりゃいい系男子。

 

「わたしブウサギのテリーヌと、ポテトサラダ、アントルコート・グリエ、あとモフモフスープに、……レカイエ流マーボーカレーってやつ!…………と、焼き鳥丼!! デザートはベルティーユ・アイス。」

 

「お前も肉、てか量…………!!?」

 

テトラは食べ盛りらしい。大人二人が後に続く。

 

「すまないがオリーブオイルを一本、頂けるだろうか。」

 

「私はサーモン・グリルとヴェックス(ビール)。よろしく。」

 

この女、昼間なのにフツーにビール頼んだな…… あと、なんか、……潤滑油…………

テーブル上はテトラの注文料理でテンヤワンヤになるかと思われたが、彼女が猛スピードで食べ終えていくので別にそんなことにはならなかった。まあ、ウェイターとキッチンはテンヤワンヤだろう。

 

。。。。

 

さて、ランチを済ませたテトラたち。

 

「そおいえば、コレ誰が払うんだっけね?」

 

テトラの目はヴェルディ・レジンの目線に導かれ、三人の視線が魔術師ニーキスに集中した。

 

「ニーキスさま??」

「ニーキスだろ?」

「ワタシはニーキスさんかと……」

「…………イヤイヤ、各々自分で払うんじゃないの!?」

 

ホロ酔いニーキス、慌て気味なスマイル。

 

「ニーキスさまって、なんと言いますかその……」

「あんた歌姫かなんかなんだろ?金持ちだろうよ?」

「ちなみに我々の旅資金は先日、尽きた……」

「私、妖精関連の本とかしか持ってきてないぞ?……お金はすっかり忘れちゃって。そもそもお金持ちでもないし。」

 

いつの間にか横で会話を聞くシェフ、快晴のスマイル。なかなか男前なシェフの手にある包丁が、意味深に見えてくる。

 

「どうやらお困りのようですねえ……」

 

「はいっ……あ、イエ、そんな困ってる訳じゃ……」

 

「誤魔化さないで下さい……実は、私たちにも困っていることがありまして……」

 

「????」

 

 

最近、海に現れた狂暴な魔物。ソイツが漁船を襲いまくっているのだとシェフは言う。漁師はモチロン、シーフードレストランにとってもそれは深刻な問題である……

 

「過去にも魔物が船を襲うことはありましたが、『今度のヤツ』はソレハソレハ手強くて。……魔術師様にお力添え頂きたいと思っていたところなんです……!」

 

「…………どんなヤツなんだ?」

 

「サメっぽいヤツだと聞きました……」

 

「?……数は?」

 

「数はタブン一匹だけだと……」

 

「ニーキスさま!」

「一匹なら、イケるんじゃないか?」

「引き受けようじゃないか。」

「そうだな。……腹ごなしに一匹、やっつけてやろうか。」

 

直後にニーキスは四人の食べた分量について考えたが、それを言い出すとまたテトラの思い描く「ニーキスさま」を壊してしまう気がし、すぐ考えを改めた。……これは港町ベルシーを救うための戦いだ……!

 

 

▼▼▼▼!!『ベルシー近海』!!▼▼▼▼

 

全速前進ッ!!

光る水しぶきが青の世界の真ん中をまっすぐに走る。しばらくして目標海域に入ると、船は勢いを緩めた。

小型の帆船、その上で四人は戦いの準備を進めた。

テトラは『魔筆ノクティルカ』の筆毛を数本ニョキニョキと伸ばすと、先の方でヴェルディをぐるぐると縛った。

 

「コレ、勝手に吸血したりしないだろうな……?」

 

「それは大丈夫! ……だと思う。わたしにもう、だいぶ『馴染んできてる』から。この筆。」

 

「カメレオン!!幻惑のドレスを貸してっ!!」

 

ニーキスがそう叫ぶと、陽炎のような揺らめきから妖魔カメレオンがにじみ出る! カメレオンがその瞳から火花を飛ばすと、ヴェルディは『魚のようなシルエットのオーラ』をギラギラと纏った。

要するに彼らは、ヴェルディを魚に見せかけて海獣を釣ろうとしているのだ……!!

魔導人形レジンが海面の向こうへ手を突っ込むと、やがて海獣の存在を探知(どういう仕組みじゃ)! ヴェルディは不服そうな面持ちで海に飛び込む!

 

……どうやらオーラの中で少しは息ができるようだな……

 

無数の泡が天の彼方へ飛んでゆくのを見送る…………すると予想外に巨大な海獣のキバが視界の両端から迫る!

 

……ガキンッ!!!……

 

「釣れたぞッ!!」

 

「よっしゃ!!!」

 

急いで筆を持ち上げるテトラ! 最後はニーキス・レジンも一緒になって引っ張り、遂に青空の下に姿を現す青緑色の海獣!

その巨体は帆船よりも大きそうだ。身体中の傷痕が彼の狂暴さを物語る。

噛みくわえていた『ナイフ』(とヴェルディ)を宙に放ると、猛スピードで船を襲う…………!!

 

「ニーキスさまッ…………」

 

「ッ……プリズンセイヴァー!!!」

 

「霧沙雨!!!」

 

ニーキスは虹色の幻槍を空から落とし、レジンは刺突の豪雨を巨体に浴びせる!

……その間に無事、船上に戻ったヴェルディ。だが休むヒマなくヴェルディの身体はテトラの『釣竿』に引かれ、飛翔! 空に弧を描くヴェルディ……!

 

「マーメイドグリフッ……!!!」

 

テトラとヴェルディのトドメの一撃!!

ヴェルディは、そっと呟く。

 

「ワルいな海獣。……恨むなら……俺以外にしてくれよ?……」

 

…………テトラたちは勝利した……!!…………

 

。。。。

 

 

海獣「ムニエル」(テトラ命名)は、港町のみんなで心して食そうということになった。……夜。町はちょっとしたお祭りムードだ。

その中にテトラたち四人も混ざっていたハズなのだが、テトラはすぐにヴェルディの姿がないことに気づいた。

 

…………『ベルシー港』…………

 

ヴェルディは港で、ボケっとしていた。

 

「いた!……ヴェルディ。」

 

「…………」

 

「……ごめん、『魔物退治』なんて、面白くないよね。」

 

「! イヤ、そういうワケじゃない。……肉や魚や、パンやら酒やらを飲み食いするのはアタリマエの事だ。」

 

「でもッ………………」

 

「…………」

 

「……でも、……ムニエル……めちゃくちゃウマイよ…………?」

 

「……えっ」

 

テトラは真面目な顔つきでヴェルディを見つめていた。

 

「食べよう。……最高なので。」

 

串に刺さったのを手渡され、ひとくち、ふたくち。

星月夜を眺め、波の音を聴きながら、妖魔ヴェルディは色々なものを味わっていた。 モグモグモグ…… モグモグ…… ウマイなコレ。…………

楽しい無言がしばらく続いた。

テトラ、安心のスマイル。



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第6話 ヨコウレンシュウ

テトラたちは飯代のかわり(?)に海獣退治を引き受け、無事討伐成功。漁師たちからお礼にと貰った漁船で海を越えた。

 

。。。。

 

彼らの第一目標は、魔力異変について何か知っているであろう魔術師・ヘルレイオスを探すこと。

第二目標は、「妖精との契約」……ヘルレイオスと対峙することになった場合に備え、力をつけておきたいのである。一応。

 

。。。。

 

ヘルレイオスの行方については全く手掛かりが無いので、ひとまず彼らは「ある精霊」が住むという「ディアナの塔」を目指していた。

精霊契約……なるべく多くを味方にしたいところだが、どうなることやら。

 

 

…………『ホワイトヴェルト・港』…………

 

「すっごい雪!」

 

「足を滑らせるなよ?」

 

人形レジンがウキウキ・テトラちゃんに警告。北の大陸「ホワイトヴェルト」ではほとんど一年中雪が降っているそうだ。

 

「俺はこのままでも平気だが(テトラも元気そうだが)、……念のため防寒具やら色々買っておくか。」

 

後ろの方で寒そうにしていた魔女ニーキスを、ヴェルディは気遣ったのだろうか。一同は港に居た「かめにん」から防寒具やらを掻っ払った。所持金はゼロガルドなので、支払いは船上で釣った魚介類共をまるごとドン。なんだかサカナクサイ奴らっスねえ。

 

「アレ、なんか、舟。……」

 

そうこうしているとテトラたちの漁船の横にもうひとつ、小舟が着港した。……着港、というか漂着の方が正しそうな雰囲気。舟上には一人、大人の男が倒れているよう。

待てッ、とヴェルディは止めようとしたが、テトラは既に小舟の上。

 

「……ウゥ、………………」

 

「!生きてる…………大丈夫、ですか?!」

 

「…………ダイ……ジョブデス。……スコシ船酔イヲ…………」

 

「それなら、……わたしの酔い止めグミあげます!!……酔い止めって酔ってからでも効くっけ?……とにかく、どうぞ!!」

 

テトラは謎の男にグミを食べさせた。モグ、モグ、モグ。

テトラは男を舟から引きずり上げて背中をさすってみたりするが、依然として激烈に弱々しい。

 

「ワタシが回復術を使えればソレでイッパツ、なんだろうが……」

 

申し訳なさそうなニーキス。人形と少年も困り顔だ。

ふと、目を男の持ち物に向けるヴェルディ少年。……刀、と……荷物袋…………なにやら見覚えのあるマーク。それは彼が幾度となく目にした、日の丸とクロスを重ねたような、対魔士のシンボルマークだった。

 

「……その男、対魔士のようだ。息はしてるみたいだからもう、ほっとこう。」

 

「そんな、……凍死しちゃうかも…………」

 

「大丈夫だろう、きっと。……ヘタに面倒見て、復活したソイツに斬られたりするのはゴメンだ。……ニーキスの魔導書だとか、ノクティルカを、レジンを没収されるかも。…………凍死するようなことがあれば、まあ俺たちもラッキーというか……」

 

と、テトラの顔を覗くヴェルディ。ムッとした表情……

 

「…………この人が死んじゃったら、ラッキーなの?」

 

「!……いや、…………そういうことじゃ、」

 

「わたしが、レジンやニーキスさまが対魔士だったら、ヴェルディは見捨てちゃうの?!」

 

イヤ、少年は我々を気遣って……衝突を避けるためにだな……とレジンが間に入ろうとするが、テトラは何やら収まらないようだ。

 

「……ヴェルディは、間違ってる。……『あのとき』だって、なんかヴェルディはウヤムヤにしたけど、………………死のうとしてたんだ。わたしが……ひとまず描ければ、もういいんだって思ってた。……違うよ。……全然良くないんだよ…………!!!」

 

そう言うとテトラは男をおんぶして歩いて……行こうとしたが、やはり大人の男をおんぶするのはキビシイようで、男を運ぶのはニーキスに任せ歩いていくのだった。

 

 

…………『雪降る町クーレンベルク』…………

 

テトラたちは雪道を黙々と歩き、町に着くと宿屋へ直行した。

未だに弱っている男をベッドに寝かせると、フゥゥっと、ニーキスは一息。その日は男子女子・二部屋借りて一泊することとなった。

 

「すまないな少年、……テトラは……気分屋なのだ。」

 

部屋の壁に背中を預けて座るレジンが、一言。ヴェルディはもう片方のベッドに腰を下ろして謎の男を眺めていた。

 

「……俺は間違ってる、か。…………それはわかってるつもりだし、『そのこと』をテトラもわかってはいるんだろうけどな……」

 

しばらくして、少しは回復したのだろうか、謎の男が喋り始めた。

 

「……本当に申し訳ない……彼女には……命を救われた……この恩は……返さねばな……」

 

「…………」

 

「彼女は……あなた方は、一体……旅の途中ですか……??」

 

レジンは男の問いに答えた。

 

「彼女は、テトラは魔力異変の真相を確かめようと旅をしている。あわよくば異変を治めて、妖精の消えるのを食い止めようとしているのだ。私は、ただの彼女の人形。付き添いのようなモノだ。」

 

ヴェルディが後に続いた。

 

「俺は、…………。…………俺も、お前と一緒だ…………。彼女に救われた…………! そう、……テトラは何故か俺に救われた気でいるが、そうじゃない。……俺がっ………………救われたんだ…………俺が力になりたいんだ………!」

 

それを聞いて男は晴れやかな表情を浮かべた。

 

「素敵じゃないか……! オボロゲだが、どうも僕のせいでテトラさんを怒らせてしまった様子。……どうか今の言葉を直接伝えてあげてくれ……」

 

一方、女子部屋…………

 

ニーキスが何か聞きたそうなのを察して、テトラは話し出した。

 

「ヴェルディは絵の描けなくなった私を……もう一度、描けるようにしてくれた。助けてくれたんです。なんかちょっとアブナそうな方法で。……………でもわたしはソノコトよりも、単純に『描いてくれ』って言ってくれたのが嬉しかった。それはニーキスさまの歌声みたいに……もしかしたら、それ以上に眩しかったコトバ…………」

 

ニーキスは黙ってテトラの話を聞く。

 

「……ヴェルディには、死んでもいいみたいな事を言って欲しくない…………!」

 

 

コンコンと音を鳴らし、魔女ニーキスが男たちの部屋に入ってきた。ドアの向こうにはテトラがイブカシゲにしている。

 

「ワタシの魔女修行にチョコっと付き合って貰えないか?」

 

 

…………『クーレンベルク・キムラスカ広場』…………

 

一同は宿屋から少し歩き、広場に出た。

謎の男もついてきている。いいのかアンタ?……

雪は降り止んでいた。おそらく珍しい事と思われる。空はピンクと紫のグラデーション。

魔女ニーキスは、広場にある大きな像(ユリア像…岩場に腰掛けた女性を象った石像…)の前に立ち、本を開いた。

 

「テトラが魔法使い役。ヴェルディが妖精役で。」

 

「???」

 

「契約の儀式のヨコウレンシュウだ。」

 

「??ニーキスさまの、練習では……????」

 

「……教える側に立つと、より理解が深まるかなぁって、ね。」

 

グニョッと飛び出てきたカメレオン。舌を伸ばして、降り積もった雪を少量・ペロンと口に入れる。そしてペッ!と吐き出したモノをニーキス様がキャッチ。

 

「テトラ。これを……。」

 

……ニーキスから氷の指輪を受け取ったテトラ。なんだか汚そうなんですケド、というカオを直ぐに整えた。テトラとヴェルディはなんとなく「流れ」を理解していた。

 

「ヴェルディ……」

 

「テトラ、……望みはなんだ。」

 

「わたし、テトラは、契約を結びたい。」

 

「……では契約の指輪を。」

 

ニーキスは本をテトラに向けて開いた。

 

「……我、今、妖魔ヴェルディに願い奉る。……指輪の盟約のもと、我に妖魔を従わせたまえ……我が名はテトラ…………。」

 

「……テトラに従おう。……俺は、……テトラの力になりたい…………!!」

 

「……ヴェルディ…………。この契約を結んだ今! あなたはわたしの『絶筆』を見届けるまで死ぬことを許されない……わたしが許しません!!! ……お願いだからね?ヴェルディ……」

 

「……わかった。……ありがとうテトラ……」

 

 

暮れ色と白雪のあいだ。氷の指輪が美しく光る!!



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第7話 幻魔とテオリア

妖魔ヴェルディと契約を結んだテトラと仲間たち。

町の空に闇夜と星明かりが舞い降り、彼らは宿屋に帰還した。

 

 

…………宿屋『ブラック・アンド・ホワイト』…………

 

彼らは一応二部屋借りているワケだが、テトラが部屋の隅に「メランジュライフ」(たぶんスゴロクのようなボードゲーム)というのの一式を見つけてしまったので、今5人は一部屋に集まり就寝前のナイトゲームを行っていた。

 

 

(しばらくの間テトラ-ヴェルディ-人形レジン-魔女ニーキス-謎の対魔士~の順番で発言↓↓↓↓↓)

 

「……3、4。ハリウサギを踏んづける。一回休み! ガーンッ!!痛そう……」

 

「……5。大きめのハリウサギを踏んづける。二回休み。……ハリウサギってなんだ。」

 

「……6。ハリウサギの王に踏まれる。」

 

「…………。……そういえばアナタ、対魔士らしいけど……ひとりで一体何しにこんな寒いトコまで?」

 

「えっとソレは……実は密命を受けて今、任務の最中なんだ。……」

 

「密命!?かっこいい!!」

 

「(……密命って、喋っていいのか?)」

 

「ハリウサギの女王に恋する。?」

 

「……その任務って……もしかして魔力異変に関するコト……?」

 

「ウ~ン……詳しくは聞かされてないけど、ただのフツウの魔物討伐任務、だと思う。『金色の髪の少女とマダラ模様の魔物』を探せ! っていう。」

 

「『少女と魔物』……? それってわたしたちのコトじゃん!!?」

 

「いや違うだろ……? 俺はマダラ模様じゃないし。」

 

「ハリウサギに食べられる。フリダシに戻る。むぅ……。」

 

「魔物はともかく、少女は…………誘拐?」

 

「それならもっと大勢での捜索になりそうだが……少人数でチョコチョコと探しているんだ……今回は『ディアナの塔』周辺を見回りに行けと。」

 

「すごい! わたしたちもディアナの塔に行く途中だよ?!……せっかくだから一緒に行こう!! えっと……」

 

 

なんて御名前でしたっけと対魔士の男のカオをうかがうテトラ。男は笑顔で名を名乗った。

 

「僕はナラシノ。今日は助けてくれて本当にありがとう……キミは命の恩人、運命の女神だ!! この恩は必ず返そう。」

 

メランジュライフのボードの上空で、テトラとナラシノは握手した。なかなか男前のスマイル。何故かほんの少しだけヴェルディは面白くない気分。……フン、馴れ馴れしそうな対魔士だ。

 

ナイトゲームを楽しんだ5人はそのあと、……テトラはニーキスさまと一緒に温泉タイム、レジンはオリーブオイル・タイム、ヴェルディはナイフお手入れタイムを過ごしてから……それぞれ眠りの中へ向かった。風のない、穏やかな夜…………

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

この世界『メランジュ』の半分を、闇夜の黒が優しく包む。……曇りのない黒色…………

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

黒色はやがて、白い紙の上に不思議なシルエットを現した。……それは、空想の生き物の「魔法画」……

少女テオリアは森の中、コモレビの集まる所に寝転んで絵を描いていた。

 

無心で絵を描くテオリア。彼女を突然の『雨』が襲う。

雨に降られて慌てる少女……絵も雨に濡れてしまった。これは困った…………雨の当たらない場所へと、彼女は急ぐ。

 

「……ふぅ。イキナリこんな雨……」

 

テオリアはひとまず大きな木の下に避難した。雨は勢い激しく、森中にその轟音を響かせ続ける。

 

「ぜんぜん降り止まなそう……」

 

雨は瞬く間に海のような水溜まりを作った。轟音の中、さざなみをじっと見つめる。

 

「…………?」

 

さざなみにパシャリと魔物の前足が刺さる音。……気付くとテオリアは魔物の群れに囲まれていた……!

 

「?!なにこれ……魔物がいっぱい……!! なんで……やだ……コッチに来る……………………だれかッ!!!……………………」

 

 

……「助けて」。そう叫ぼうとした、その時。

 

テオリアが手に握っていた絵……雨に濡れた魔法画から、何か黒い煙のようなものが立ち上がり、その中から得体の知れない生き物が姿を現す。

…………魔法画から魔物が生まれ出たのである…………

 

それは黒いカラダで、四本足。イヌやネコに少し似ている気もするが、やはり違う。それらよりもう少し大きめの……テオリアが紙に描いた空想の生き物……

 

「……ポルカ…………」

 

生まれたての『ポルカ』はトリのような声でキョウキョウと短く数回泣き叫ぶと、軽やかに駆け出す。

ポルカは嵐のように浅い海の上を走り、テオリアの周りにいた魔物たちを全て跡形も無く、「喰らい尽くした」。…………

…………ポルカは、テオリアを守った…………

 

「すごい、ポルカ。……コワそうな魔物みんな食べちゃった……」

 

 

テオリアは自分を助けてくれたポルカを、愛した。

毎日のように森へ行き、パンやお魚やミルクを、時には遊び心でビールなんかをポルカに与えた。

ポルカはテオリアの出すものはなんでも、すぐさまペロリと平らげた。ポルカは好き嫌いしない、イイコだ!

 

 

…………ポルカとテオリアの楽しい日々…………

それはしかし、いつまでも……とはいかないのだ……

 

数年の間にそれはテオリアの倍程までカラダを大きく成長させ、空腹が満たされなくなったポルカは周囲のもの……木々や岩塊、動植物、そして妖魔……なにもかもを喰らい始めた。

 

「……だめッ……このままじゃ、ポルカが、…………町のひとたちまで、食べちゃう………………………!!!」

 

無謀にもテオリアは力ずくでそれを止めようとしたが、とても敵わない。

……ついに「食べ物を探す」真っ赤な目が、テオリアを見つけた。

 

「……ポルカ…………?」

 

 

…………黒い魔物が、テオリアを襲った…………

 

 

魔物はガブリと噛み付き、引き千切ろうと首を横にグイと反らした。だがどうも、上手くいっていない感触。「食べ物」が見当たらないぞと、赤い目が燃える。

テオリアは自分の身体が男に抱きかかえられているコトに気付く。

 

「……大丈夫か!?…………アイツは、あの黒い妖魔はなんだ……」

 

テオリアは男のカオが恐怖や憎しみ、やがて殺意に歪むのを間近で見てしまった。

 

「……待って!!……………………ポルカを殺さないで…………!!!」

 

男はその言葉と、胸元に流れ落ちた涙に、揺れた。

 

 

…………男が、……魔術師ヘルレイオスが、テオリアと出会った…………

それは1年程前のことだった。…………



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第8話 迷宮塔攻略

↓↓↓↓↓ノワール登場キャラたち

 

【挿絵表示】

 

 

早朝、……広い雪原をガシガシと歩くテトラたち。

凍る風を切り林を抜け、彼らは天高くそびえる塔を見上げた。

 

「……たっ…………かいなぁ~~ディアナの塔!! ココに精霊さんがいるんだ?」

 

朝からテトラは超元気。魔女ニーキスはウン、と無言で頷いた。寒いのはやはりどうも苦手なようだ。

絵に描きたいなぁなどと漏らしつつ、テトラと仲間たちは塔内に突入した……!

 

 

…………『ディアナの迷宮塔』…………

 

 

☉太陽の間

ステンドグラスの天使が陽光を広間の隅々にまで導く。

広間は何かしらの伝説を描いた魔法絵画に覆われている。言うまでもなく画家テトラはエキサイティングだ。なんて神々しい色彩、描写、ワザ、……どうやって描いてんだか全然わかんない!!……らしい。

右奥の階段→ ☿メルクリウスの間へ

左奥の階段→ ♇プルートの間へ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

☿メルクリウスの間

広間の中央には噴水が凍ったのか、あるいは氷の彫刻なのか……「クリスタルの木」のようなものが輝いている。

テトラがしばらくその輝きを見つめていると、何か光のタマみたいなのが奥の方へ飛んでいった…………

 

「今の、見た……? 皆の衆。」

「……オウ。」

「ウム。」

「……なんなの今の……」

「『鬼火』というヤツかもしれない……」

 

対魔士の人がなんか言い出した。対魔士ナラシノさん。

 

「オニビとはまあ、つまり霊魂……ゴーストだ。僕たちを霊界へとイザナっているのかも……」

 

なあんてね。……と濁すより先に、今度は反対側からフシギな「歌声」が聴こえてきた……。その声は人によるものか、妖精の類いか…………

 

「なんかどっちも妖しげなんですケド……」

 

鬼火の方→ ⛢ウラヌスの間へ

歌声の方→ ♀ヴィーナスの間へ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

⛢ウラヌスの間

そこは一見、なんの変哲もない寝室だった……

しかし扉が閉まった途端、テトラたちは星空の中!!

…………天幻空間に飲み込まれた!!…………

 

「何これ?? キレイ?!……なのはイイんだけどッ……」

 

扉も壁も床も見当たらない。ヴェルディ少年はテキトーにナイフを振り回すも空を斬るばかり。

 

「ッ……ニーキス、あんたお得意の幻術じゃないのか?!どうにか出来ないのか……!」

 

「……幻術を解くには、より強い魔力・より高位の幻術をぶつけなきゃイケナイんだが…………ずばり、キビシイ……!!」

 

「そ…そんな……」

 

「案ずるな!!!」

 

危機的な空気を魔導人形レジンキッドの声が撃ち抜く。

 

「目標は既に捉えた。まとめて撃ちのめしてやろう……開放、アウトオブコントロール……...」

 

赤いマントを投げ去ると、レジンは足場の無い空間を駆け出した……高速で宙に作り出した電磁フィールドを蹴り進んでいるのだ……!!

星空を縦横無尽に駆け回るレジンは加速を続け、ついに人の目では追えないスピードに達した……

 

『...攻撃プログラム:ステルスレイダー...』!!!

 

……星のあいだを紛れ飛ぶ無数の鬼火…ウィルオウィスプたちを一撃に思えるほどに一瞬で撃破。星空の幻術が解かれた。

 

『目標消滅...コントロールリカバリー...……

……ウム、倒せたようだな。まあ、ザッとこんなものだ。」

 

部屋の片隅に、塔攻略のキー『聖なる灰』を発見!

……聖なる灰を手に入れた……

← ☿メルクリウスの間へ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

♀ヴィーナスの間

どこか懐かしい歌声の温もりに誘われ、テトラたちはヴィーナスの広間に足を踏み入れた。

いつの間にやら歌声は止み、静寂に迎え入れられる一行。

広間は優美な大理石や平和なイメージの魔法絵画など、ゴージャスが敷き詰めれ、様々な「楽器」が大量に飾られていた。

 

「……さっきの歌声、なんだったんだろ。」

 

……~♪~♪♪~~……

 

なんとなく先程聴こえたメロディを鼻歌で歌うテトラ。

それに合わせ、魔女ニーキスも詞の無い歌を口ずさむ。

 

「……ん……?」

 

……微かに何かが軋む音……

人形レジンはハーモニカを、ヴェルディ少年はボンゴを、対魔士ナラシノは三味線(異国のストリングス)を奏で始めた。

テトラは近くにあったチェンバロ(カッチョいいピアノみたいなやつ)を叩き鳴らす……

 

……~♪~♪~~♪♪~~……

 

徐々に熱が入ってゆく(元)歌姫ニーキス……

彼らのシンフォニーに反応して、大理石の隠しトビラが重々しく御開帳……! ……と同時に扉の中からモンスターが襲来。

 

……バット×6 マンドレイク×6が現れた!……

 

「今イイトコなのにぃ……!」

 

テトラたちは演奏を中断し、歌姫も声を休める。

歌姫はブルージーなフォービートの笑いを洩らす……

 

「……キャアキャアとウルサイけもの共…………黙らせてやる…………ワタシの声を聴いてみろ!!」

 

ニーキスは身体中の魔力を声に乗せ、高音の波動をけもの共に浴びせた……! 浴びた者は皆動きを止める……

その声は中断していたメロディの続きをなぞり、最後まで歌い切ったところでワザを繰り出す!!

 

「……奥義、紫龍幻灯剣!!!……」

 

剣のように鋭い光を帯びたタクトは、ニーキスの声に呼応して紫色の魔力波を放つ……! その波は容赦無くけもの共を震わせ、押し潰し、そして静めた。

 

「……なかなかイイ声、出てたでしょ?」

 

少女と人形は大盛り上がり! 男共も拍手を送った。

隠し部屋にて、塔攻略のキー『ポムポムの種』を発見!

……ポムポムの種を手に入れた……

ボンゴの鳴る方→ ♆ネプチューンの間へ

三味線の鳴る方→ ♂マルスの間へ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

♆ネプチューンの間

 

「……おフロだ?」

 

そこはなんと「浴室」!

カベに描かれた絵画の神々が丸い浴槽をグルリと囲む。半円の天井にも天使や女神の姿が見える。なんとも賑やかな「おフロ」である……

と、ここでニーキスが口を開いた。

 

「外よかマシだが……やっぱり中もサムイ。……フロ、入りたい……入ってイイだろうか?」

 

「どう考えてもワナだが?」

 

「……よし、入ろう。」

 

人形レジンの忠告はスルーされた……。 恐る恐るナラシノさんが尋ねる。

 

「あの、ちなみに僕たちはどうすれば……」

 

「ワルいが外で待っててもらおうかな……ヴェルディ君も。」

 

「マジか。」

 

「レジンさんは、まあ紳士だし……一度ゆっくりと話してみたかったんだ。一緒に入りましょう!」

 

「!??」

 

男二人が外に出るとニーキスは魔術パワーか何かで瞬時にタオル一枚となり、魔導紳士レジンを湯船に無理矢理突っ込んだ。

一方、服を脱ぐ途中だったテトラは重大なことに気付いた……

 

「そういえばレジン、ガッツリ濡れるのはマズイ……!!」

 

……魔導人形レジンキッドは、

……………

……………………

……………………………………水に弱い……!!…………

 

◆◆◆◆

 

テトラ一味は断トツ最高戦力・レジンを失い、精霊契約を果たすことは出来なかった……

その後、テトラたちの行方を知る者は誰もいなかった……

 

GAME OVER…

 

← ……☉太陽の間へ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

♇プルートの間

扉を開けると、左右に真っ白い彫刻がズラリ。中央には妖しく光る黒い石碑……テトラはその石碑に吸い寄せられていく。

 

「待てテトラッ…」

 

何か感づいたヴェルディ少年がテトラの後を追う。

少年少女は石碑のもとに辿り着くとすぐに姿を消した。……落とし穴だ……!

 

◆◆

 

「ゥ……ッン~~…………」

 

……テトラが目を開けると、視界にはまずナイフを構えたヴェルディの後ろ姿。次に魔物(スケルトン、デッドウルフ)の群れが映る。その数は2ケタは優に越えている。テトラとヴェルディは魔物の群れのド真ん中にいるのだ。

そこは洞窟の様な暗く狭い空間で、光源は遥か上空に小さな格子窓みたいなのがヒトツ。先ほど通ってきたであろう「穴」もやっぱり遥か彼方だ。

 

「もしかして、これ……絶対絶命??」

 

「……さて、どうだろうな……」

 

足元には人骨がゴロゴロと転がっている……

ふいに群れの中の一匹がテトラを襲う!……テトラはなんとか回避したが、頬のかすり傷から鮮血が滲み出た……

 

「ッ……!! このままじゃ…………」

 

「この野郎、(テトラにキズを付けやがったな)……仕方ない…………イヌ一匹ホネ一本残らずブッ潰す。」

 

ヴェルディはナイフを地面に突き刺すと、彼が発しているとは思えないような……動物的な叫び声を上げた。すると一瞬で赤黒い毛が全身に燃え広がり、狼の姿を現した!!

 

……鏖殺撃…ジェラスドッグハウル!!!……

 

狼の爪は次々に犬型妖魔の肉を裂き、鋭いキバがガイコツ共を噛み砕く!! 魔物の血は花吹雪のように四散する……

すべてを微塵に散らし終えると、狼は美しい声を響かせて元の人型に戻った……

……起死回生の獣化技『フェンリィブラッド』……

 

「テトラには見られたくなかったんだが…………。」

 

「カッコイイ……カッコイイよヴェルディ!!」

 

◆◆◆◆◆

 

ニーキスの幻槍に助けられ(壁に刺しまくって足場代わり)二人は無事、薄暗闇から抜け出した。

石碑を調べると、塔攻略のキー『ムーンストーン』を発見!

……ムーンストーンを手に入れた……

← ☉太陽の間へ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

♂マルスの間

……から先は次回へつづく…………



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第9話 隠し剣

…………ディアナの迷宮塔・マルスの間…………

 

 

テトラたちは揃って、広間の中央にドンと置かれた「巨大なワイングラス」に目をやった。それは透明というワケではなく、鋼色。侵入者に気付いたか、それは魔力の火をつけた……

 

「テトラ、ヘタに近づくなよ…………落とされる。」

 

「オ、オウヨ……!」

 

ゆらゆらと燃える火炎の光にあたり、テトラたちの背後に影が生まれた。一人一影。

…………五つの影・シャドウが妖煙を掻き分ける…………

 

「……ッちょっと、何……わたしたちのニセモノだ……!?」

 

「ニセモノじゃ本物には勝てんだろ?……」

 

狼少年ヴェルディは勢いよく飛び上がり、自分のシャドウにケリを浴びせる! 続けざまに三度繰り出された蹴撃は見事、すべて相殺……

 

「コイツはまた、メンドクサそうな……!」

 

「我々の動きを完全にマネることができるようだ。……奥義:タイガーランページ!!」

 

レジンキッドが両拳でシャドウを滅多打ちにするが、やはり鏡のように同じ動きで跳ね返す!

シャドウから離れようにも影は途切れず。対魔士ナラシノの前髪を数本、シャドウの剣が斬り落とす……ナラシノは焦り笑顔。

 

「僕たちが何をしたっていうんだ……!!」

 

「……!炎を消せばイイんじゃ……碑零幻、穿て!!……」

 

魔氷が炸裂! 魔女ニーキスの攻撃で燭台は凍てつく!!

……が、炎は、平然と燃え続けている……

魔女のシャドウが反撃……炎を纏った剣閃、紅蓮剣!! ニーキスはギリギリで回避。

 

「ッな、…………こいつカタチだけじゃない、ワタシがまだ見せてない技までマネてきた……そんなのって…………!!」

 

もしカメレオンを召喚されたら、幻術空間に閉じ込められでもしたら、……………………絶対オワル…………!!!

……ニーキスが悲しい結末を想像すると間もなく、ニュルリと黒いカメレオンが出現。

 

「ゲッ!!!……ワタシのニセモノ、早まるなよ…………??!」

 

青ざめて唾を飲む……

一方、一味の首領(ドン)・テトラ……のシャドウは魔筆ノクティルカの毛をゾワゾワと広間中に伸ばし、黒毛がいよいよテトラたちを襲おうとしていた……

 

「ス、スワレル……!! 血ィ、吸われちゃう…………!!!」

 

…………漆黒と火炎が揺らめき、走馬灯が浮かび始めた…………

 

そんな時に、妙なことを言ったのはナラシノ……

 

 

「……オサケ……なんて、皆サン持ってたりしないですよね……」

 

 

…………オサケ…………

…………お酒……………………??

唖然とするテトラたち。しかしニーキスだけは違った。

 

「酒…………それなら持ってるぞ。ナルホド今が最期の時。存分に味わえ…………!」

 

「イヤイヤ!! そういうんじゃないって……」

 

一体何処に忍ばせていたのか。投げられた小さな酒瓶を手に受け取るとナラシノは一口、酒を飲む。

……飲んだのは、ほんの少量に見えたが……

今更に抜刀。再度酒を口にすると、今度はそれを刀身に吹きかけた!

 

「…………久し振りの人斬り……まァ影の猿真似だが、やはり心躍る。…………死の叫び、流血はマネ出来るかな?…………」

 

 

ふらりと転びそうな足取り……

先ずテトラの影を一太刀。

次に少年の首根っこを一太刀。

振り返り、人形レジンを一太刀。

 

「……おお、人形は血を飛ばさない……良く出来てる。

っははは!! 面白くないなあ?」

 

テトラとヴェルディ、レジンは目の前で自分を斬り殺され、絶句……!

魔女の術攻撃を容易く受け流すと、男の刀はしなやかに魔女の体を斬り落とした。

 

「ヒエッ…………ワタシのカラダ真っ二ツ…………!!」

 

殺人剣の耽美な閃きをシャドウの刀が止める。二本の刀は何回か火花を散らして広間に戦慄を奏でた。

 

「…爪竜連牙斬!!」

 

強力な斬撃が四度激突! しかしどちらの刃も相手の命には届かず……

 

「うゥむ、畜生!! 水月の如し……これは敵わん。悔しいが………………終わらせよう。火をおこす!!

…………奥義ッ、…破邪烈焔刃!!!…………」

 

紅の爆炎が沸き上がり、灼熱の剣が影を焼く!!

影は烈火に包まれると、目映い光の狭間に消えた……

 

「うぎゃ~…ッ…………」(テトラのうめき声)

 

多少離れた所にいたテトラたちも爆風に飛ばされかけた。

刀は最後、燭台にキレイな斬れ目を作り鞘に納まった。バラバラと燭台は散らばり、上階へと進む為のトビラが開放……

 

「………………オヤ? これは……」

 

ナラシノは塔攻略のキー、小さなツボ(?)を発見。

……『火焔の器』を手に入れた……

→ナラシノすごい…!!

→ナラシノおっかないな……

 

どうやら男は「酔い」が覚めてきたようだ。優しい笑顔で酒瓶を持ち主に返した。

 

「……秘技・泥酔剣……少しは役に立てたかな、ヨカッ…タ……」

 

「あっ!? 一気にまた弱々しく…………!?!」

 

千鳥足が治まって姿勢良くなったと思えば、すぐさま崩れる剣士……ニーキスは渋々剣士を膝の上に休ませた。ラッキー野郎。

 

「……酒、全然減ってないんだが、なんなんだコイツ……」

 

「悪酔いが無ければ割と最強なんじゃ……」

 

ヴェルディは対魔剣士の脅威に畏怖の念を抱いた……

しばらくの休息の後、テトラたちは塔の最上階を目指して再び歩き始めた。

きっと待っているはず……古代悠久あまねし月光……闇に柔く照る精霊ルナ!…………



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第10話 声のする方へ

古木のトビラが開かれると、草木のクールな色と水のキュートなせせらぎが侵入者を出迎えた。

そこは植物庭園の様な、生命溢れる空間。

 

…………ディアナの迷宮塔・ジュピターの間…………

 

 

「……やっぱりココにも罠とか魔物、潜んでんのかなぁ……」

 

テトラたちはしばらく、警戒しながらゆっくりと草木のあいだを歩いていった。しかし。

……銀色のセージ、水色のサフラン、白雪色のラベンダー……

 

「…………はて……??」

 

「てっきり食人植物でも湧いてくるのかと思ったが……」

 

「行き止まりのようだな。」

 

木製テーブルと、それを挟むように長イスがふたつ。ひとまず、みんなして座った。ふぅ。まったりタイム。

……テーブル上には、「お皿」の様なものが1枚……

 

ヴェルディは足組み、ナラシノは腕組み、レジンキッドはフリーズ。テトラは突っ伏したまま喋る。

 

「ウ~~ン、なんだろ……凄まじく親切なヒントに取り囲まれている気がするよ?」

 

「……そうか。コレだ。」

 

魔女ニーキスは「戦利品」のことを思い出した。

この迷宮塔で得たものは「聖なる灰」「ポムポムの種」「ムーンストーン」「火焔の器」……の4つ。

 

ニーキスはお皿に「器」を乗せ、「灰と種、ムーンストーン」を、そして最後にその辺の土と水をブチ込んだ。すると……

 

「!! 芽が、…………こ、これは……!」

 

土の中から出てきた「芽」は目まぐるしく成長、真っ直ぐに伸びて広間の天井を突く! それによってカラクリが作動。歯車の音がラベンダーの海を引き裂き、隠し通路をあらわにした……

 

「おお~~、すごい……!!」

 

天から降ってきたムーンストーンをニーキスがキャッチ。テトラたちは緊張と共に通路を進んだ…………

 

。。。。。

 

 

…………月の間…………

 

 

月色の円形空間。

壁の暖かな灯、天窓の寒空が広間を照らす。

奥の祭壇の様なスペースには金色のススキ、まんまる団子がお供えされている。

 

「お団子……」

 

床には人や動物、月の満ち欠けが描かれたモザイク画。……テトラたちがその上に立つと、小さな光が1ヶ所に集まった。

 

「!!」

 

キラキラとぼやけるシルエット。

……月の精霊・ルナが具現した……

 

狐色の髪の少女…… 彼女はその長い髪をフワリと風になびかせながら、三日月型の浮遊体にゆっくりと腰掛けた。何かワサワサと毛をとんがらせた生き物を両腕で抱いている。

 

「……あなたが、ルナ…………?」

 

「…………はい。私が月霊のルナ……皆様初めまして。…………」

 

テトラは麗しき月の精に交渉を試みる。

 

「あの、わたしたち、あなたの……ルナ様の力が必要なんです。力を貸していただけないでしょうか…………!」

 

「それはやはり……争い事の為でしょうか?」

 

ルナは優しい眼差しと可愛らしい声で、優しくない言葉をテトラに返した。少し戸惑うテトラ。

 

「……わたしたちは……いいえ、わたしはただヴェルディを、こちらのヒトを助けたい。………………たとえ誰かを傷つける事になっても!!…………」

 

「!…………」

 

「……あっ、わたしはテトラと申します……。」

 

ルナは瞳を閉じて少しのあいだ思い巡らせていたようだったが、やがて静かに瞼を開けた。

 

「テトラさん。……実は私は、生まれたてのまだまだ未熟な若輩精霊。大して力になれないかもしれません……」

 

「??生まれたて??」

 

『精霊は長命だが不死じゃあねえ。ウン十年前にルナは死に……そしてまた新たに生まれてきたのだ。』

 

ルナに抱えられていた生き物(ハリウサギ)が喋りだした。やけにシブイ声。

 

『ルナがこのディアナ塔に生まれて14年。精霊の14年なんて人間なら赤ん坊同然だ。……お前たちは赤ん坊をケンカか何かに巻き込もうってのか?』

 

「ッそんなつもりは。でも…………魔力異変の事、知らない……んですか?! このままじゃルナ様も、ルナちゃんも、……!」

 

『それは風のウワサ、シルフたちのウワサで耳にしてる。時折飛んできて教えてくれるんだ。 だが、なァ…………。 人や妖精がクロリムのバランスをどうにかしようなんて、そんなの、不可能だろう……ハッキリ言うとな。ムダだ…………』

 

……………………

 

テトラたちは、おそらくその言葉の裏にあるであろうシンプルな想いを感じていた。ハリウサギの優しい気持ちを。

 

 

「…………ま、待って………………!」

 

断念すべきかと顔を見合わせるテトラたちに、ルナの小さいながらも力の込められた声が投げかけられた!

 

「…………実は何度か、……「声」を聞いたんです。女の子の声を…………」

 

『? 何を言って……』

 

「月の精霊は遠くの音・声を聞くことが出来るという……」

 

と、呟いたのはニーキス。

 

「私が聞いた声……それは異変とは関係の無いことかもしれません……今更遅いかも、ムダなのかもしれない。……それでも………………声のする方へ私は行きたい…………!!!」

 

『ルナ…………』

 

「ムーシュも見たでしょう? テトラさんたちが罠をはね除け、星空を駆け回り、不滅なる影をやっつけてしまうのを。 私はそんなテトラさんたちを……信じたい。」

 

「ルナちゃん…………。 そうだよ……行こうルナちゃん……! 穴に落ちるかもしれなくても。コワイ魔物に食べられるかもしれなくても。たぶん、ムダじゃない。遅くなんてないよ。…………」

 

 

。。。。。。

 

 

 

……ところで……

 

「……ヴェルディって幾つだっけ?」

 

「今それ聞くのか……」

 

妖魔ヴェルディは15歳。妖魔の15は火の玉同然…………



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第11話 ルナの夜ふかし

迷宮塔から精霊ルナを連れ出したテトラたち。彼らは今、ルナが聞いた「声」というのを頼りにガンドコ西へと向かっていた。

 

 

…………夜の暗闇に浮かぶ船・船内…………

 

「………………なんだか、眠れません………」

 

なぜだか目がさえてしまったらしい。ルナはしずしずとベッドから脱出した。

すぐ側で眠る画家テトラと魔女ニーキスの顔をコッソリ、夜中の怪しい気分のまま眺めた。

 

チラリ……

 

「…テトラさんは、絵描きさん。昨日、お願いしたら狐の絵を描いてくれました。また描いてほしいです。……」

 

チラ……

 

「…ニーキスさんは、魔女さん。歌がとってもお上手です。歌手だったそうですが、歌劇とはどうゆうのでしょう? いつか観てみたいです。……」

 

ルナは結局、ニーキスと契約を結ばなかった。

それは育ての親ハリウサギ・ムーシュの反対があったからなのだが、……実は『ただ人に付き従うのではなく一緒に歩き闘いたい』という思いが密かに芽生えてしまったからでもあった。

精霊である彼女が実体化したままベッドで一緒に寝ようとしていたのもきっとそんな気持ちの表れなのだ。

 

「……よいしょっ……」

 

未熟な精霊は少々手こずりながらも自身の体を透過させる。半透明のルナは壁をすり抜け、今度は男たちの眠る部屋を覗いた。

 

じっ……

 

「…ヴェルディさんは、……妖魔さん。ヒトと妖魔は昔から仲が良くないと塔で教わりましたが……テトラさんは『ヴェルディはそんなにワルい奴じゃないよ』って。実はオオカミさん。……」

 

じろり……

 

「…ナラシノさんは、対魔士さん。トクベツな任務があるらしいのですが、……本来は妖魔をやっつけるのがお仕事。ヴェルディさんと一緒に旅していて上司に怒られないのでしょうか?……」

 

ルナはもちろんテトラたちのことをまだよく知らない。しかしなんとなく、彼らと自分をどこかへと導こうとしているのは……そのチカラのようなものの発生源はテトラなのだろうと思った。

 

 

…………夜の暗闇に浮かぶ船・甲板…………

 

外に出ると間もなく、ルナは魔導人形・レジンキッドを見つけた。甲板に腰を下ろしてまったりと彼方の光を見つめていた。

 

「…レジンさんは、お人形さん。……周りを警戒してくれているんでしょうか?……」

 

具現化したルナの素足がペタペタと音を鳴らす。

 

「こんばんはレジンさん。」

 

「……『さん』なんて付けなくて構わん……寝なくて平気なのか?」

 

「レジン…はいいんですか?」

 

「人形だからな。ヘッチャラさ。」

 

「……私も精霊だからヘッチャラです。 それに今日はいつにも増して眠れません。船旅なんて生まれて初めてなのです……!」

 

「そうか、ずっと塔で暮らしていたんだものな。どうか旅を楽しんで、…………テトラと仲良くしてやってくれ。」

 

「…………。…テトラさんは一体何者なんでしょうか……」

 

思わずルナはざっくりとした質問を投げてしまうが、レジンは気にせずに話す。

 

「テトラはごく普通の女の子さ。小さい頃から絵を描いていた。夢中で描いていた。私はオモチャとかペットのようなものとして買われたワケだが……あまり私の相手はしてくれなかったな。」

 

「今でも……ずっと描き続けているんですね。ステキです。」

 

「イヤイヤ、アイツはしょっちゅう描かなくなる。飽きっぽいからな。でもまあ、……魔力尽きるまでテトラは描くのを止めないだろう……」

 

「……?」

 

「アイツはずっと姉の背を追い続けているのだ。」

 

「お姉さま??」

 

「……この造られた人形の眼では判らないが、テトラいわく『あまりにもウマい』、『一生敵わない存在』…………姉コルザの描く絵はソレハソレハ素晴らしいものだったらしい。」

 

「憧れ、というのでしょうか……?」

 

「それだけなら明快で可愛らしいんだが、……恐らくはもう少しフクザツな……愛と憎しみ、リスペクトや劣等感が混ざりに混ざった情念のカタマリ……そんなのがテトラを動かしているんじゃないかと私は思っている…………」

 

「は、はぁ…………。?」

 

レジンが何処からともなく「苦労人オーラ的なもの」を纏い始めたように見え、ルナはもう何とも言えないような、あるいは申し訳なさそうな笑顔で応えるしかなかったのだった……。

 

「(色々と苦労があったんでしょうか??)……でもレジンはテトラさんのことをずっと見守られてきたんですね……?」

 

「…………気晴らしの話し相手になったり、たまに遊び相手になったり。必要とあらば盾となり、必要とあらば剣となる。…………それがお人形のオシゴトだからな。」

 

「!…………お人形のオシゴト…………」

 

 

突然、片膝立ちになるレジン。遠くの方を凝視している。

ルナもつられて目を向けた。

 

「……船、でしょうか?」

 

「イヤな予感がするな……」

 

暗闇の中に小さく、青白い船が見えた。

青白い船はグングンと近づき、すぐにそれがテトラたちの船とは比べ物にならない程に巨大だとわかった。

一応避けようとレジンが舵を取るも、やっぱりどうして逃れられず。ルナとレジンは船ごと青白い巨大船の中に「飲み込まれて」しまった!…………

 

 

◆◆

 

…………死霊船マッド・ウォルラス…………

 

「ここは…………?」

 

ルナとレジンは辺りを見回した。

一体何がいついつ壊れたのやら。そこには無数の残骸が散らばっていた。かつて誰かに形作られ、いつの間にか跡形も無くなってしまった木片石ころ鉄くずイロイロ。

 

「……かすかに波の音が聞こえます。」

 

「船の中か。とりあえず地獄じゃなくてよかった……。」

 

木や石や鉄のカケラは宙に浮き上がり、パズルのように器用に合わさると……それらはルナとレジンに襲いかかった!

 

……vs.ブルータルデブリ×6!……

 

破片のカタマリたちは一ヶ所を鋭くトンガらせて一斉に突進! ルナは綺麗な宙返りをみせて攻撃をかわす。

 

「幽霊さんのイタズラでしょうか?」

 

「除霊してやろう……マグネティックゲート!!」

 

黒い稲妻を帯びた強力な磁場が発生! デブリたちをみるみる引き寄せ動きを封じる。

レジンがチラと目配せするとルナの術撃!

 

「光に踊れ!!……シャイニングレイ!!」

 

上方に浮かび上がった華やかな魔方陣が光を放つ! 聖なる輝きはデブリを打ち砕いた。

砕かれたデブリたちは再び集まり合わさろうとするが、レジンの連続剣がそれを許さない。

 

「トドメだ!」

 

「はい!……月閃光!! 成仏しなさい!!」

 

白刃一閃! 魔原子の結晶刀はデブリを鎮めるとキラキラ宙に溶けた。

なんとか無事に悪霊を凌いだ、かと思った矢先。……バキバキと周囲の壁、床、天井がヒビ割れ始めた。

 

「船がいきなり壊れだしました??!」

 

「……というか、『形を変え始めた』かな。」

 

二人は急いでデブリ・ガレキの雨アラレをくぐり抜け、なんとか幽霊船の外…甲板(のようなスペース)に躍り出る。と言っても、もはやそれは『船ではない別の何か』になろうとしていた……

 

……vs.マッド・ウォルラス……

 

「この船は一体何なんです??」

 

「きっとこのデカイのは悪霊たちの集合体。……デブリも船自体も皆、おそらく幽霊だったのだ。」

 

口をバキバキと大きく開き二人を飲み込もうとする悪霊集合体。夜空まで食べそうな勢いだ。

レジンは素早くルナをおんぶ。即席の電磁フィールドを蹴って空を駆け登る。

大きなキバがレジンの赤マントの端っこを噛み千切った……!

 

「フゥ……こんなところで喰われるワケにはいかん。テトラはまだまだ旅の途中……」

 

「レジン……そうです……! 私の冒険だって、まだまだ始まったばかり。負けるワケにはいきません!」

 

二人は夜空から悪霊マッド・ウォルラスを見下ろした。

海上に黒々と蠢く巨大なカタマリ。悪魔とはコレのことか。

 

「さて、こんなデカイの、どうしてやろうか……」

 

「私に任せてください……レジン、失礼しますっ!……」

 

そう言うとルナはレジンのおんぶを解き、しなやかな脚で彼の背中を蹴って更に上へとジャンプ! 輝く月……その中をルナの影が泳いだ。

 

「……ヒトの安らかな眠りの時を……守るが月霊ルナのオシゴト!! ワルいオバケにはお仕置きですッ!!」

 

ルナは月の魔力を背に浴びて特大サイズの剣を創り出す……これだけあればなんでも斬れるだろう……そんな安心の特大結晶剣!

 

「いざ必殺の月影剣…………一つ!…二つ!!……三ッつ!!!」

 

ルナ渾身の三連撃!! 三日月型の斬撃波が海の悪魔を六等分。ルナはゆっくりと海上…水面の上にひたと降り立つ……

 

「オマケです……ムーンスクレイパー!!」

 

悪魔を中心にして、月のシルエットを海面上に浮かべる! ルナが特大剣を霧散させると……悪魔は斬り払われたことに気づいてバラバラと砕け散り、暗闇の中へ還った……

 

「…浄化完了、でしょうか?」

 

戦いを終えたルナは、ふぅ、と気を休める。

 

『……タイマシドモヲ……・・・ヲ……コロシテクレ……』

 

「!?……」

 

ルナは低くドロドロとした声を聞いた。レジンは……聞こえていないようだ。

ルナはしばらく耳をすませたが、それ以上の言葉は無かった……

 

◆◆

 

ルナとレジンは自分たちの船の無事を確認。二人は甲板に帰還して夜ふかし(夜の警戒)を再開するのだった。

 

。。。。。。

 

 

……翌朝……

 

「ルナちゃんなんだか眠そうだねぇ? ……そっか船旅なんて初めてだもんね??」

 

「えっと、まあ。……それに元々私、夜型でしたし……はいっ。」

 

ルナは視界の端にレジンを見つけた。レジンは自身の体の汚れをブラシでゴシゴシと落としている様子。

「悪霊に喰われてたことも知らずに、コイツは朝からお元気さんだこって」とレジンの目が語っていたので、ルナはフフッと微笑んだ。…………



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第12話 プリズナー!

テトラ一味は海を渡り、西の大地ワイルドヴェルトに降り立った。

ワイルドヴェルトはその半分以上が荒野。砂嵐にまぎれて妖魔盗賊が行き交う、とても暮らしやすいとは言えないダーティな世界だ。

魔導器の材料やら燃料やらがたくさん採れるため、内陸の町には魔導器職人や売り買いする者たち、そしてそれを奪い盗るワル……いろんな人たちが集って割と賑わっているらしい。

テトラたちはたった今、町に到着したところだ。

 

 

…………荒野の町ミザール…………

 

「やっと、着いた、…………よし、……み、水……。ヴェルディ、直近で水が飲めるトコに早急に導きなさいワレワレヲ…………」

 

「オウ……マカセロ…………!」

 

一味のリーダー・テトラは大きな筆に体重を預けて杖の代わりにしつつ、使い魔(?)ヴェルディに案内を命じた。

井戸は、蛇口は、湧き水は。命うるおす水いずこ……

 

「…!?」

 

ヴェルディが駆け出そうとしたところに突然、見知らぬ男が現れぶつかりそうになった。

 

「……おお、てめえは…………なんだ、ヴェルディだっけか!?」

 

「……? あんた、…………………誰?」

 

木造の建物と建物のスキマから出てきた謎の男。 男はボロいポンチョに身を包み、黒い帽子をかぶった黒ひげ。少し息を荒らげているが……

 

「おい、いたぞッ!! こっちだッ!!」

 

……今度は遠くの方から、黒ひげとはまた別のヤツの声。なにやら……結構な数の対魔士が押し寄せてくる……!

黒ひげは立ち去ろうとするも何故かその場でガクリと膝を落とす。

 

「……ケガしてる……?」

 

魔筆ノクティルカのざわめきが、テトラに黒ひげの流血を気づかせた。乾いた地面にぽつりぽつりと赤い血痕。

テトラ一味と黒ひげは、あっという間に大勢の対魔士たちに包囲されてしまった。

 

「コリャまいったゼ……。よォヴェルディ、助けてくれや。」

 

「……助けるったって、あんた…………(誰だ)」

 

「貴様ら仲間かッ……全員引っ捕らえろッ!!」

 

「!?…………」

 

…………

……

 

 

 

……さて。 我らがリーダーによれば「話せばわかるでしょ」とのことだったが……

 

「どうしてこう、厄介なことに……」

 

ヴェルディ少年は薄汚れたベッドに座ったまま呟く。

そこは暗く冷たい真四角の空間。 正面に鉄格子が取り付けられており、その向こう側……通路を跨いだ反対側には同じような真四角の空間がキレイに並んでいるのが見える。

 

なんというかまあ、テトラ一味(+黒ひげ)は対魔士たちに捕らえられ、ベーシックな作りの牢屋に一人一人バラバラに入れられてしまったのだ……!

 

 

…………ミザール地獄牢…………

 

しばらく通路を観察したところ、どうやら等間隔で魔導人形がテクテクと巡回している。ふむ。

ヴェルディがあれこれ考えていると、壁をスルリとすり抜けて精霊ルナが入室してきた。ルナだけはその霊体のおかげで捕まらずに済んだのである。

 

(お待たせしました。)

 

(テトラはなんて言ってる? ……「すぐ出してくれるでしょ」ってか?)

 

(! まさに、そう言ってました。)

 

(……大人しく待てってか……そんなオキラクな……)

 

ヴェルディとルナがコショコショバナシをしていると、となりの牢屋から男が壁越しに、やはり巡回人形にバレない程度の声で話しかけてきた。

 

(……ヴェルディ、聞こえるか。力を貸せ。……脱獄する。)

 

(!? ……黒ひげのオッサンか? ……そもそも、あんたに巻き込まれて俺らはッ……)

 

(まあ待て。聞けよ。……もし脱獄に失敗したら、オレに脅されてイヤイヤ協力したと言えばいい。 その時は今度こそオレもしっかり「コイツラはオレとは無関係の一般人だ」と……対魔士共に分からせてやるゼ。)

 

……う~~む……

 

(ヴェルディよォ、頼む。行かなきゃなんねェトコがあるんだ。……「時間が無ェ」…………。妖魔のお前ならわかるだろう?)

 

(…………!…………)

 

ヴェルディは黒ひげの言葉に何かを察した。

 

(……………………。よし、ルナ。テトラに伝えてくれ。)

 

(? はい。……)

 

(……「おそらくこの地下牢獄は心無い操り人形たちに任せっきり。なんとか地上に出ないと話も聞いてもらえないまま永久に監獄生活だ。」ってな。)

 

(……では伝えてきますっ……)

 

(待った。あともう一つ……「俺はこんなトコで死にたくない。」)

 

 

◆◆

 

(そう……だよね。…………)

 

テトラは伝言を聞き終えるとやがて立ち上がる。

 

(しょーがない……ルナちゃん、ワルいけどヴェルディに伝えてきて。「オーダー、脱獄を遂行しろ……!! 必ずわたしを救い出して、青空の下に送り届けること……!! よろしくドウゾ!!!」)

 

 

◆◆◆

 

精霊ルナは再び妖魔ヴェルディの牢屋にオジャマした。

 

(……了解した……よしルナ、巡回人形の数はどんくらいだ?)

 

(10数人くらいかと……。ヴェルディさんのおっしゃった通り、等間隔で通路をグルグル歩いているみたいです。通路は真四角。……一ヶ所、上階へ続いているであろう階段がアッチの方に……)

 

と、キレイな指で指し示すルナ。

ふむふむ。

ま、なんとかなるかな。

 

ヴェルディは一息ついて、さあ行きますかとルナの目をチラと見た。

 

「オッサン!! 行くぞ!!!」

 

ヴェルディはフェンリル化! ベッドを蹴っ飛ばして鉄格子をガブガブと破った。

妖狼ヴェルディが通路に出ると、となりの牢屋から同じようにして赤黒い妖魔が出てきた。

 

『オッサンじゃねェ。オレはガストロ……昔会ってるんだがなあ……まあいいか。』

 

一応はヒトの形をしているが、ツノや翼や尻尾を持った「魔界の住人」のような出で立ち。ヴェルディをケモノ型妖魔とするならガストロはまさしく「アクマ型」。チャームポイント(?)の黒ひげは消え失せすっかりアクマ化・臨戦態勢。

 

『……ガストロ。人形を片付ける。』

 

『……オウまかせろ!』

 

……vs.ハートレスドール×13!……

 

ヴェルディとガストロは一瞬、背中合わせになると勢いよく反対方向へと進撃!

 

『……幻竜拳』

『爆竜拳!』

 

『……飛燕連脚』

『割破爆葬!』

 

『……灼風狼火!』

『灼地滅穿!!』

 

オオカミとアクマは電光石火の如く、人形を蹴散らしていく!

地上に居るであろう衛兵に人形たちが脱獄を知らせるスキを与えない。

すぐに二人の妖魔は通路をグルリ半周。反対側で再会する。ラスト一匹を挟み撃ちだ。

 

『……大したことなかったな……デェヤッ!!』

『くたばれッ……陽炎!!!』

 

オオカミの突進攻撃で吹き飛んだ人形に、アクマが上空からトドメの一撃! アクマの爪に裂かれた人形は機能を停止した……

 

『……フゥ。ひとまず一掃したかな……』

 

『中々やるじゃねェかヴェルディ!』

 

『……あんたも結構なオテマエで。』

 

 

◆◆◆◆

 

オオカミはテトラを閉じ込める鉄格子を蹴り破った。

 

『……出るぞテトラ。』

 

「お疲れ様ヴェ…………その後ろのコワイヤツ何!?」

 

『あぁ、ホレ。』

 

オオカミ・ヴェルディの背後にいたアクマ・ガストロは、ぞわぞわと身体を波打たせて人のカタチ…黒ひげのオッサンの姿をテトラに見せた。

 

「ワルかったな嬢ちゃん。巻き込んじまって。」

 

「いえいえ。さあさあ、脱獄しましょう!」

 

そう言ってテトラは黒ひげ…妖魔ガストロと握手した。

テトラは滅多に味わえない「脱獄」というものに、ほのかに興奮気味のようだ……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

ヒューマン組(テトラ・ニーキス・ナラシノ)と合流すると、精霊ルナが先行する。

 

「皆さまコッチです!」

 

階段近くの牢屋に武器や魔導書など、没収された品々がゴチャゴチャと押し込まれていた。そこの牢屋には結界が張られているようだ。

 

「この結界、私ではどうにも出来なくて……」

 

……そう聞くや否や結界をどつくアクマとオオカミ。しかし結界は破れてくれない。むむ。

 

「ナラシノ! なんか、『泥酔拳』とか出せないのか? ……コブシの方のケン。」

 

「御免、出せない……。興味はあるけどね。」

 

「これくらいならワタシに任せろ!」

 

魔女ニーキスは指先を噛み切り、流れ出た「血」で地面に魔法陣を書いた。すると地面が割れて砕ける……

 

「……ストーンザッパー!!……どうだ?!」

 

砕けた地面が魔力を帯びた石つぶてを飛ばす! 魔石の雨が結界にヒビを作り、そこへ再びオオカミが蹴りを浴びせると結界は破れコナゴナに散った……!

 

「よしッ!!」

 

一同は牢屋を漁り、愛用の武器たちを取り戻した!

 

 

【挿絵表示】

 

 

皆が回収し終えたのを見届けると、ヴェルディは話し始めた。

 

「……これでもう、この地下世界に用は無い。誰にも見つからず地上に、いや町の外に出られたらパーフェクトだが……」

 

「ヴェルディよォ。ココの地下牢は盗賊ナカマの間じゃ、『ちょっとやそっとじゃ出られねェ』メンドクセェトコだって言われてんだゼ……」

 

「確実に『なんかある』な……」

 

憂鬱の雲がヴェルディの頭のまわりを流れだした。

 

……と、その時。どこか遠くから声が……

 

……た……たすけて……くれ…………

 

「……あっ!?」

 

テトラが没収品の山のふもとに注目すると、そこにはガチャリガチャリと山の中から這い出てくる、魔導人形レジンキッドの姿が……。

レジンキッドは全身を鎖でぐるぐる巻きにされ、埋もれていたようだ。

 

「ごめん忘れてた……」

 

「忘れてくれるな……」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

何はともあれ、一味は難無く再結集。

青空もしくは夜空を目指して螺旋階段を駆け登る…………



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第13話 蜘蛛糸

「しかしてめえ、一匹オオカミが嬢ちゃんの言うことをヤケに素直に聞いてやがるなぁ。」

 

「……なんだよ、ワルイか?」

 

「いンや。ステキだなァと思うゼ。」

 

「…………旅は道連れ、とかってヤツだよ……」

 

 

鉄獄を抜け出して階段を駆け上がるテトラたち。やがて重苦しい石のトビラが現れる。

 

「……ナラシノ!」

 

「よしっ、……斬れるかなコレ。」

 

刀剣担当ナラシノは愛刀『ワライフクロウ』のことを心配しつつ、閉ざされたトビラを斬り刻んだ。

トビラはサイコロ状に斬り分けられてバラバラと崩れ落ちてゆく……

 

「だいぶ音たてちゃったけど大丈夫かな……?」

 

 

…………ミザール地獄牢・断罪場…………

 

恐る恐る先へと進むテトラたち。

薄暗い大部屋。そこには妖魔のホネ、それもかなり大きめのものがゴロゴロと転がっていた。

が。……それよりなにより、闇の奥にたたずむ『なにか大きなもの』にテトラたちは全員一斉に釘付けとなった。

 

「き、きょじん…巨人だ…………!! でかい…………」

 

「なにかしら居るだろうとは思っていたが……まさに、想像通りな感じだな…………」

 

下手すれば丸呑みされそうなくらいの大型妖魔! 筋肉隆々のソレは壁に背中を預け、腰を下ろしている。

 

…………。

 

…………?

 

「動かないね??」

 

「寝てるのか……?」

 

この巨人。呼吸音は微かに聞こえるが、微動だにしない……。幸い(?)ぐっすりお休み中のようだ。

これは……やり過ごせそう?

 

「……しかし出口というか、通路はドコだ……? 見当たらん。」

 

「行き止まりってことはないよねえ。」

 

「巨人さんの大きな身体に隠れているのでは……?」

 

「ム。…………」

 

巨人によって道が塞がれているとしたら、文字通り『避けては通れない』。 力ずくでどかすのは難しそうだ。

 

 

……vs.サイクロプス!……

 

「よし。テキトーな所に誘導して、サッサと抜けよう。」

 

ヴェルディ少年は床に転がる妖魔のホネを一本拾い、巨人サイクロプスに向かって投げた。

妖魔のホネが巨人の脚に当たると、やがて巨人は一つ目の眼球をギョロリ開眼! ゆっくりと起床した。

 

「鬼さんこちら!……ってね。」

 

魔女ニーキスがタクトを頭上に掲げると、タクト先端に小さく明かりが灯った。魔女は光を振り動かして鬼さんの気を引く。

 

『…………グ……ォォ…………!』

 

巨人は地を揺らしながら立ち上がり、ドシンドシンと歩み出す。

テトラたちは巨人の足元をダッシュ。その向こう側へとまっしぐら。

しかしそこには……

 

「……あれっ!?」

 

「……通路、無いぞ…………」

 

そこにあるのは石壁のみ……

これは一体どうしたもんかと狼狽えるヒマなく、巨大な魔法陣が床の上に浮かび上がる……

 

「魔法陣!?……なんかマズイ気が…………」

 

テトラたちはもれなく全員が魔法陣の上に立っていたが、特に「影響を受けてしまった」のは妖魔・精霊・そして人形レジン……!

 

「な、何!!?…………」

 

「!!……これはクロリムの力を…魔力を封じる、上級陣術『魔封陣』!! 妖精はマヒさせられ魔法は使えなくなる……!」

 

ニーキスは術を唱えてみたが、やはり失敗に終わる……。ニーキスの表情は険しい……

テトラは急いで妖魔たちのもとへ駆け寄った。

 

「ヴェルディだいじょうぶ!?……オジサンも…………!」

 

「……ッ大丈夫だ……、と言いたいところ、だが…………」

 

妖魔ヴェルディもガストロも、なかなか身体を思うように動かせないようだ……

 

「……すみま……せん、ニーキス、さん…………」

 

「ルナ?! あ、ああ……」

 

精霊ルナはニーキスに指輪『ムーンストーン』を預けると、キラキラと光の粒になって指輪の中に退避した……

 

「なんてこった……魔力を封じられたら、僕の刀もナマクラだ…………」

 

剣士ナラシノは冷や汗と共に愛刀を握り、動けなくなった人形レジンを庇うように立った……

ヴェルディ・ガストロ・ルナ・レジンキッドの四名が戦闘不能。魔術も妖刀剣術も使用不可となってしまった……!

 

 

……テトラ・ニーキス・ナラシノvs.サイクロプス……

 

一つ目の巨人は重たい足でナラシノを…レジンキッドも巻き添えに容赦なく蹴り飛ばす!

二人は石壁に叩きつけられ、部屋のスミに倒れた……

 

「ナラシノッ!!…レジンッ!!」

 

「テトラ、一旦離れよう……!」

 

「は、はい…………あッ…」

 

予想外の事態……テトラは慌てて転んでしまう。

巨人の眼は怯えるテトラをギロと見た……

ヒト一人くらい容易く握り潰せそうな…大きな手はテトラに向かってゆっくりと伸びた……

 

「テトラッ!!…」

 

薄暗い地下空間に悲鳴…呻き声が響いた…… だがその声は巨人によるもの。

ヴェルディの大型ナイフが巨人の片腕に突き刺さっていた!

そのスキに走り、距離をとるテトラ・ニーキス。

 

「グ…ァ…………ッ」

 

「ヴェルディッ!!!」

 

巨人はもう片方の手でヴェルディ・ガストロを乱雑に払い除けた。そしてナイフを引き抜くと、それをテトラたちの方へ投げる……

 

「…わ……ッ!」

 

ヴェルディの大型ナイフはテトラの足元…紙一重のところに刺さり、突き立てられた。

ナイフの刃にはベットリ赤黒い血がついている……

 

……赤黒い、妖魔の血……

 

……こんなところで死ぬ訳には、死なせる訳には…………

 

「テ、テトラッ! 『ソイツ』は…………」

 

「…え…………?」

 

ニーキスは驚きつつ、テトラの方を指差していた。

気づかぬうちにテトラの魔筆『ノクティルカ』が、黒い筆毛を禍々しく伸ばし始めていたのだ……

 

「その筆は魔導器…なのだろう? 魔力を封じられているのに……どうして動いて…………ソイツは一体……」

 

「…分からない、ですけど…………やっぱり確かにこの筆には「意思」があって! 今こいつは…………血を欲してます……!!」

 

ノクティルカはナイフの血をすすり終えたが、まだまだ「足りない」らしい…… 毛をギザギザと伸縮させる。

巨人は再びテトラたちの元へドシドシと迫り来る……

 

「返り討ちだッ…………ノクティルカッ!!」

 

『グォ…オオオオ…………!!』

 

はたして魔筆はテトラの言葉を理解しているのか…… テトラの叫びと同時に毛糸がみるみる大部屋中に張り巡らされ、蜘蛛糸の如く標的を捕らえた。

巨人は必死に糸を取り去ろうともがくが、その巨体は黒い毛糸にグルグル巻かれ……いつしかもがくのを止めた。

 

毛糸は獲物を強く締め付けると、じわり血色に染まってゆく……

溢れ飛んだ血は霧の様に部屋中を漂い、石の壁に美しいグラデーションを描いた…………

 

 

魔筆は満足したのか、巨人に巻き付いた毛糸を切り捨てるとスルスル毛を縮め、元の「絵筆のカタチ」に戻った。

ぐるぐる巻きになった巨人が大きな音をたてて倒れると……

 

「…! トビラだ…………」

 

「巨人の体重がどこかしらに掛かることで扉が開放されるようになっていたらしい…………」

 

呆然と立ち尽くすテトラとニーキス。

もちろん二人は隠し扉のギミックに感心している訳ではなく。

 

「…なんて恐ろしい、絵筆…………」

 

「今回はワタシたちを助けてくれたが…………」

 

いつか完全に持ち主を離れ、従わなくなってしまったら……。 やはりこの筆は魔の血を求めて地を這いさまようのだろうか?…………



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第14話 燃えて消えた

「よし、……地上階だ。……」

 

「誰も居ないじゃん。脱獄成功?……」

 

「いや、どうかな……」

 

 

テトラ一味と妖魔ガストロはなんとか地下から脱した。

対サイクロプス戦で受けたダメージは残ったままだ。

テトラは扉を押し開けて外に出た……

 

 

…………ミザール地獄牢・正門前…………

 

「!!」

 

「待っててくれたようだな。……」

 

「…悪賊共、大人しく縛につけッ! 抵抗すれば命は無いぞ、この場で罰する!!」

 

久し振りに空を拝んだテトラたち。日は沈みかけている。

オオゲサな数の対魔士たちが正門前にてニクき脱獄囚共を包囲した。

 

「……あァ、こいつァまいった!降参だ!! ……対魔士サマよヒトツ聞いてくれ。」

 

「…………なんだ?」

 

「『コイツら』は、オレとはマッタク関係の無い……市民だ。すぐに解放してやれ。」

 

「…盗賊団のボスの言うことを信用しろと?」

 

「わたしたち、なんにもしてないのに……話も聞いてくれないなんて、あんまりだよっ!」

 

「脱獄はオレが脅して…協力させただけだ。……」

 

「…………むぅ……」

 

対魔士たちは困った。

ガストロはともかく、金髪の女の子テトラの眼差しはあまりにも透き通っており、とてもウソをついているとは思えない。根拠は無いが……どうやら確かに無関係の者を牢屋に押し込んでしまったようだと、察したのだ。

 

両者は離れるでもなく詰め寄るでもなく。ひたすら沈黙した……

 

「ゥグ…………」

 

「?……」

 

「……なんだ?」

 

ガストロは突然、血を吐くと崩れるように倒れた。

テトラと妖魔ヴェルディは慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫っ?!……血が……」

 

「オッサン……!」

 

「…ヴェルディ…………「これ」を………………」

 

ガストロは隠し持っていた「何か」をヴェルディ少年に手渡すと、もう何も言わなかった。もう二度と…………

 

 

「どうして、……どうすれば……ニーキスさま……!!」

 

「くッ……治癒術はまだ修行中なんだが………」

 

魔女ニーキスは急いで術を試したが……効果は無かった。

そもそもガストロは致命的な物理ダメージを受けた訳ではない……

 

「……ガストロッ……!!」

 

 

妖魔ガストロの身体はドロドロと流れ落ち、ヴェルディが抱き抱えていた肩や背中の重みは無くなった。

最後にはボロボロの身ぐるみと赤黒い跡だけが地面に残った。

夕陽は彼らに影を落とした。

 

……テトラ一味と対魔士たちは、妖魔盗賊の死を目撃した……

 

 

テトラ:

「なッ……なんで、………………死んだ、の…………?」

 

ヴェルディ:

「……魔力が尽きたんだ、おそらく…………」

 

レジンキッド:

「こんなにも……呆気ないものなのか……」

 

ニーキス:

「……助けられなかった…………」

 

ナラシノ:

「『光の時代』とやらはもう目前に迫っているらしい……」

 

ルナ:

「これが妖魔の…死…………?

……私たちが生き延びるすべなんて……有るのでしょうか……」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

ヴェルディはガストロから手渡されたものを見返した。

それは「封筒」だったのだが、中に入っていたのは手紙などではなく「紙包み」のようなもの。

紙が小さく折り畳まれて、いくつか収められていた……

 

「これは、…………!!」

 

少年は…脳裏になにが閃いたのか…驚愕した。

 

「なんだ、なにかヤツから受け取ったな……よこすんだッ!」

 

対魔士の一人が少年に詰め寄る。すると少年は素早く『ナイフ』…巨大剣を構えた!

 

「こ、こいつは渡せねェ…………」

 

「なにを……どうせ盗品の在処を示した地図とかだろう。さあよこせッ!!」

 

少年はとっさにナイフで対魔士の手を薙ぎ払った! ナイフとガントレットは綺麗な音を空に響かせる……

 

「ヴェルディ……!?」

 

「すまんテトラ。俺にはどうも、イイモンのフリは向いてないようだ……」

 

「無礼者め、……捕まえろッ!!」

 

「チッ、……飛燕連脚!!」

 

ヴェルディは対魔騎士たちを足技で牽制!

しかし当然騎士たちは怯むことなくジリジリ近寄る。

 

「オレが無礼者なら……旅行者をテキトーなシゴトで誤認逮捕する「あんたら」は何者なんだよ!」

 

「なんだとッ…!!」

 

「この、………………グッ…!」

 

ヴェルディは抵抗を続けようとしたが、後方にいた対魔士の術攻撃によってあえなく倒れた……

その術攻撃…魔力火球は無情にもヴェルディの身体を焦がし、「封筒」を焼いてしまった!

 

彼の手から離れメラメラと燃えるそれを、ヴェルディはただただ見つめることしか出来なかった……

 

 

「しまった………………クソ……ッ!!!」

 

「よし、捕らえろッ……」

 

「待って…ノクティルカ、エザリィウィップ!!」

 

テトラが魔筆を地に下ろすと、筆毛は一旦地面を潜ってから無数の黒い「つる」となって周囲にめきめき生え出た!

「つる」は複雑に交差し織り重なり、一時的な防御壁を編み出してテトラとヴェルディを囲んだ。

 

「ヴェルディ!…………どうして……」

 

「昔、このワイルドヴェルトの荒野で一度……死にかけたことがあった。」

 

「…………?」

 

「砂漠のド真ん中に倒れて……遂に地獄に逝くのだと……。

だがオレは生き延びた。助けられたんだ。

そのときの記憶はすっかりぼやけきっていたが、……「こいつ」を見て、思い出した。」

 

ヴェルディは黒こげになったものを拾い上げて示した。

 

「熱にうなされながら…見知らぬ男にニガイ粉薬を飲まされたような…覚えはあった。

…………そのときの男はガストロだったんだ!…………間違いない!今になって思い出してしまった……どうして気づかなかったのか……」

 

「……「それ」の中にも粉薬が……?」

 

「いや、…………わからない……。オレは紙包みを見ただけ。また何処かの誰かにやる為の…気まぐれの風邪薬だったのか、「おつとめ」を滞りなく完遂させるための魔法薬だったのか……それとも毒薬……睡眠薬だったのかもしれない……

……

だが燃えて消えた……。残ったのは消し炭。もう何もわからない。……確かなのは………………ただ対魔士たちを、ぶちのめしてやりたいという衝動だけだ……!!」

 

 

◆◆

 

 

テトラは妖魔ヴェルディが感情をあらわにしたところを初めて見た気がした。

美しい感情ではなかったが、テトラはそれを見ることが出来て不謹慎ながら少し嬉しかった……

 

「……一発だヴェルディ……」

 

テトラは漆黒の防御壁をほどいた。

 

「一発…………死なない程度にぶちのめしたら、……すぐにこの町を出る……!!」

 

 

……vs.対魔槍兵、術士……

 

「このワルガキッ、妖魔か!!」

 

『一発、か。……コイツラならソレで十分だ。「一人一発」……全員ぶちのめす……』

 

フェンリル化したヴェルディは、マグマの血をたぎらせ邪悪な獣毛を燃やしながら対魔士たちを睨みつけた。

 

「お前は一体ッ…………ガ、ガストロの敵討ちのつもりか?!」

「やはり盗賊仲間だったようだなッ…」

「愚かな……ガストロは我々の眼前で勝手に死んだだけだろうッ…」

 

『!…………。

そうだな。ガストロは…………勝手に死んだ。そしてオレは勝手にイラつき、勝手にあんたらを殴るだけだ…………!!!』

 

破壊衝動のカタマリとなったヴェルディを見て、その場にいた者たちは皆息を飲んだ……

ヴェルディは一気に力を解放……!!

 

……失せろ!!…ヴァイレンスメイズハート!!!……

 

「なんだッ!?…あ、脚が……」

「なにかが巻きついてッ……?!」

 

(気の毒だけど、ヘタに動かれたらヴェルディの手加減が失敗して……死なせかねないからね……)

 

……魔筆ノクティルカが伸ばした漆黒の「つる」に動きを封じられた対魔士たちは、片っ端からヴェルディに屠られ叩きのめされ……そして全滅した…………

 

 

『……ただ一言…………

…………ありがとうと、言いたかった…………』

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「…………。さあ、ずらかろうヴェルディ……」

 

「…あ、ああ。……」

 

 

「なんということを……。一体どういうワケです……!?」

 

 

……ふいに遠くの方から女性の声。

夕暮れの牢獄に新たなる来客だ。

彼女は牢獄のメインゲート前にバタバタと倒れている対魔士たちを……そしてそれを見下ろすテトラ一味を発見したのだった…………



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