麻雀少女とぽんこつな美穂子姉さんがいる依存世界 (小早川 桂)
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麻雀少女とぽんこつな美穂子姉さんがいる依存世界

二時間で書き上げた即興SSなのでクオリティに保証はありません。
カオスです、それでもよければ。


独身アラサーとなる未来を知った咲ちゃん。親が再婚してブラコンとなった美穂子。京太郎への愛が止まらないモモ。
この三人と仲良くしている京ちゃんの世界線のお話。



「ハッピーバースデイ!! 私がプレゼントですよ! さぁ、好きなようにしてください! 早く! 遠慮せずに! Halley! トリック!!」

 

 そんな荒い声と共に入り口に現れるパッツンパッツンの魔法少女のような服とミニスカートを履いた桃子。

 

 自室で楽しく会話していた京太郎と咲だったが、今、この瞬間、時間が止まった。そう錯覚した。

 

「……勉強の邪魔なので外に出ていろ。それと一週間ほど出禁で」

 

「あ、ひどい!? 大丈夫ですから! お義母様に許可をもらってから下で着替えたので――顔が痛い!?」

 

「ちょっと黙ろうか? あ、このまま陥没するか?」

 

「ちょっ!? ごめんなさい、ごめんなさい! この時期にこんな格好で外にいるのは流石の私でもキツかったと言いますか、ああっ!? ナイス、アイアンクロー!!」

 

 京太郎に対してその大きな胸から溢れかえるほどの愛を持つ桃子は彼のアイアンクローに大層満足のご様子で恍惚としていた。

 

 桃子が悦びに力が抜けている隙に全腕力を集中させてドアの向こうへと放り投げる。彼女が倒れたのを確認すると京太郎は急いでドアを閉めて鍵をかけた。

 

「……うん! 何もなかったな!」

 

「き、京ちゃん?」

 

「なんだ、咲!? わからないところでもあったか!?」

 

「いや、勉強教えてるの私の方なんだけど……って、そうじゃなくて! さっき東横さんが見えた気が」

 

「モモがいるわけないだろ!? あの人ね! あれは遊びに来ている親戚だから! こうやって変な服装をしてはよくからかうんだよ、本当に困るよな!!」

 

「そ、そうなんだ……。京ちゃんがそういうなら、いいんだけど……」

 

 京太郎の剣幕に圧されたのか咲はそれ以上は追求せずに納得した。意識を切り替えてテスト勉強に集中する。

 

 テーブルの上に広げられたノートにはバツ印と丸印が半分の割合でつけられており、そこから京太郎の苦手分野を咲は読み解いていく。

 

「それにしても、こうやって京ちゃんと二人きりなんて久しぶりだね」

 

「言われてみればそうだな。最近は麻雀も忙しかったし」

 

 京太郎は今年に起こったことを思い返す。映画のように流れる数々の思い出。その中でも最も多かったのは新しい出会いだった。次いで麻雀。

 

 こんなにも濃い半月を過ごしたのも初めての経験だった。すでに一年を終えたかのような感じもある。そんな日々を過ごすなかで中学以来となる咲との勉強会は経った時間以上に久しく思えた。

 

「……本当だな」

 

「でしょ? みんなとワイワイ騒ぐのもいいけど……たまにはこういう日もいいよね」

 

「だな。俺も咲とこうやって話す時間は好きだし」

 

「ふぇっ!? う、うん。……私も京ちゃんと二人でいるの……好きだよ」

 

 唐突な京太郎の攻める発言に咲は頬を薄桜色に染めて肯定する。幼馴染が同じ風に思ってくれていることが嬉しかったようで京太郎は破顔し、咲の頭を撫でていた。

 

 部屋中に満たされるラブコメの空気。さらに付け加えるならば今日はクリスマス。まさにそういう日だ。

 嫌がる素振りを見せつつも手を払いのけようとはしない咲のテンションは最高潮に達していた。頭の中もハイテンションである。

 

 ……あれ? この雰囲気なら……もしかしていけるんじゃない?

 

 告白したら京ちゃんも受け入れてくれるんじゃない?

 

 一度は失敗した身。だけど、今日は和ちゃんはいない。東横さんなんていなかった。だから……イケる!

 

「……あのね、京ちゃん。……聞いてほしいことがあるんだ」

 

「ん? なんだ? 俺にできることなら何でもいいぞ。なんたって咲のお願いだからな」

 

「ありがとう。……優しいね、京ちゃんは」

 

 その優しさにずっと救われてきたんだ、私は。それに甘えてしまってズルズル未練引っ張って三十路に……。でも、それも今日で終わりだ。

 

 寂しい未来への道のりに、アラサー独身に終止符を打つ!

 

「……京ちゃん……実は、私――」

 

 

 

『京太郎。美穂子よ。電話に出てくれないと悲しいわ』

 

 

 

「――でした!」

 

 

「あ、わるい、咲。ちょっと電話入ったから出てくるな?」

 

「ええ、どうぞ! 電話してきて! 好きなだけ! 帰ってくるな!」

 

「え!? ひどくない!? ここ俺の部屋なんだけど!」

 

「もう……いいから早く出ておいでよ。あとその着信音キモい」

 

「俺の趣味じゃねえからな!? ごめん、すぐ戻ってくるから」

 

 もう一度謝罪を挟むと京太郎は部屋を出る。

 

 ほっぺを膨らませた咲はまた告白を阻害されて怒り心頭と言った感じである。もうこれで三回目だ。なにか得体のしれない力が働いているのかと勘ぐるレベル。

 

「いいもん。このイライラは京ちゃんで発散するから」

 

 宮永咲は須賀京太郎の幼馴染。それこそ京太郎の部屋など我が城も同然。何がどのように配置されているのかも把握している。

 

 そう、例えば親に見られたくないエッチな本の場所も。

 

「ふふーん。どうせ巨乳ものばっかり置いているんだから」

 

 机の上から二番目の引き出し。その上に置いてある教科書をどけてカモフラージュしている板を外せば……。

 

「やっぱり。もー、また増えてるし……」

 

 咲が以前チェックしたときにはなかった新刊が一番上になっていた。タイトルは『性夜のクリスマス特集』と銘打っており、表紙を飾っているのはやはり巨乳の女の子。

 

「……胸の何がいいんだろ」 

 

 パラパラと中身をめくるとあるシーンが目に留まる。簡単にいえば胸で挟んでいるのだ、ナニを。

 

 う、うわぁ……すごい……。もしかして、こういうのに憧れているのかな……。

 

 咲はペタペタと手を自分の胸へと這わせる。壁はいくら揉んでも壁だ。

 

「……よ、寄せればなんとか……」

 

「なにが?」

 

「Bくらいはあるんだから――って京ちゃん!? どうして帰ってきたの!!」

 

「俺の部屋だから当然だよな!?」

 

「帰ってくるなって言ったじゃん!」

 

「理不尽! ていうか、お前こそなに読んでんだよ……お前もか! あれか!? 最近女子高生の中ではエロ本を漁るのが流行ってんのか!?」

 

 京太郎は咲から宝物をぶんどるとそのまま泣く泣くダストシュート。

 

 いくら相手が幼馴染といえど男には矜持がある。見られては仕方ないのだ。

 

「仕方がないんだ……!」

 

「京ちゃんなんで泣いてるの……? エロ本なんかで……」

 

「男にとっては大切なものなんだよ! いいか、咲! お前には罰としてあることを手伝ってもらう!」

 

「えぇ……。まぁ、いいけど」

 

 渋々といった様子ではあるが受けてくれるのがやはり咲。

 

 根は優しくいい子なのだ。

 

「母さんが父さんとデートに行くから自分たちでご飯作れだって」

 

「えっ、おばさんいたんじゃないの?」

 

「もうすでに出てた。電話で伝えてきたくらいだし元からそのつもりだったんじゃないか?」

 

「じゃあ、東横さんはどうするの?」

 

「モモは相手してくれなくて寂しいから帰ったってメール来てた。これはどうせすぐに帰ってくる。とにかく今日の晩飯は俺たちの手で用意しないといかん」

 

「でも、私、あんまり料理作れないけど……」

 

「それはわかってるよ。でも、ここにはいるだろうが。料理のスペシャリストが」

 

「ああ、美穂子さん」

 

「そうだよ。今朝会ってから全く部屋から出てこないんだよなぁ。嫌な予感がする」

 

「大丈夫じゃない? それに京ちゃん相手するの慣れてるし」

 

 全然大丈夫じゃないと京太郎は心のなかで断言する。

 

 我が家で一緒に暮らすことになってもう何年も経つがあのグラマラスボディで家のなかをうろつかれるのは目に悪い。思春期男子ということを忘れている気がするんだよな、姉さん。

 

「とりあえず下準備しておくから姉さん呼んできて」

 

「私がするの?」

 

「俺がいったらろくなことないからな。任せたぞ」

 

「……なんとなく予想が出来る。任せられました!」

 

 ラジャーとポーズを決めて階段を駆け上がっていく咲。京太郎は一階へ下りてリビングに入ると鼻歌を奏でながら調理に取り掛かった。

 

 それから数分後。トントンと包丁の音がテンポよく響くリビングにいつもの声。優しさが溢れて母性を感じさせる透き通るそれは明らかに京太郎の耳に届いていたが彼はそれを無視していた。

 

 だんだんと声音は近付いてきて、やがてゼロ距離となり肩に何かが乗せられる。小さくため息を吐いて京太郎は彼女の膨らんだ頬を突いた。

 

「美穂姉。料理手伝って」

 

「それはいいわ。だけど、私はいま京太郎に怒っています。なぜかわかるかしら?」

 

「その慌てて着てきた逆向きの服を見ればなんとなく」

 

「そう! お姉ちゃんは部屋でいつでも京太郎と一つになれるように準備していたのに京太郎が来ないからずっと寂しかったです! 寒かったです!」

 

「なんでそんなことしてるんだ……」

 

「だって、今日は京太郎の誕生日だもの。だから、私がプレゼント。受け取って……くれる?」

 

「それもうさっきモモがやったから」

 

「じゃあ、私が第一妻で桃子ちゃんが第二妻ね」

 

「なんでそうなるんだよ!?」

 

「京太郎、大好き~」

 

「み、美穂姉。やめろってこんなところ咲にでも見られた……ら……」

 

 背中から抱きついてきた美穂子を引き離そうとするもポジションを取られているせいで上手く引きはがせない京太郎。彼の視線の先には与えた任務をこなして戻ってきた咲がいた。

 

 彼女は笑っているが瞳は全く笑っていない。怖い。恐怖さえ感じる。

 

「……なにやってるの、京ちゃん? カンされたいの?」

 

「えっ、なに!? カンってなにするんだって、お、おい咲? ポケットから麻雀牌取り出していったい何を――あぁ!?」

 

 その後、京太郎の悲鳴が家中に響き渡った。

 

 

 ◆

 

 

「ひどい目にあった……」

 

「京ちゃんが悪いんだからね! いくら家族だからってあんまりだ、抱きつくとは良くないと思うな」

 

「だから、あれは俺のせいじゃないんだって。……よし、味見してくれ」

 

「もう話を逸らして……美味しい!」

 

 咲によるお仕置きを受けた京太郎はこぶを頭に作りながらも調理に勤しんでいた。本日のメニューの最後を飾るコンソメスープが完成したので咲に試食させると彼女からも合格が出る。ぴょこぴょこと出っ張った髪が尻尾のように揺れているような気がした。

 

 ……おかわりが欲しいんだな。

 

「……そういえば」

 

「なんだ?」

 

「京ちゃんは誕生日なのに料理全部自分で作っちゃったけど良かったの? 今日くらいのんびりしていてもよかったんじゃない?」

 

 貰ったおかわりをチビチビと飲みながら咲はテーブルに広げられた品々を見て、京太郎に尋ねる。下調理は美穂子たちも手伝ったものの主に作業をこなしたのは京太郎だ。

 

 美穂子や桃子も別に苦手というわけでもないが、今は二人とも食器の準備や飾りつけをしている。桃子は相も変わらず魔法少女のコスプレだし、美穂子も京太郎のカッターシャツのお古というなんとも評価しづらい服装ではあったが。

 

「……うーん、なんというかさ。俺は美穂姉と一緒に暮らすようになって、咲と知り合って、モモと出会って……。こうやって四人でなんだかんだ騒ぐのが好きなんだよ」

 

「……ふーん」

 

「……ニヤニヤするな」

 

 そう言うと京太郎は恥ずかしさから咲の頭を撫でる。それに気付いた桃子たちが恨めしそうに二人を見つめて今にも飛びかかってきそうな気配だ。

 

 その様子に京太郎は破顔する。

 

「だから、これからもずっと毎年一緒に誕生日を祝ってくれるのがプレゼントってことで。俺の誕生日はいつも通りでいいよ」

 

「……しょうがないなぁ。京ちゃんは寂しがりだから私たちがずっと傍にいてあげる!」

 

「あっ、咲さん抱きついちゃダメっす! 京さん私もー!!」

 

「な、ならお姉ちゃんは後ろから!」

 

 やはり予定調和といった形で三人は京太郎に抱きつく。しかし、いつもは面倒くさそうにする京太郎も今回はそれを受け止めて。

 

 そこには四つの花が咲き誇っていた。




京ちゃんイェイ~。誕生日おめでとう! これからもよろしく!


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