異世界での生活も楽ではない (XkohakuX)
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第1話 *やはり人生何があるか分からない*

自分なりに頑張って書いてみました( * ˊᵕˋ )暇なときとかそういうときに軽く読んでくれれば嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و


「まだわしの邪魔をするか!小僧!お前とはあまり殺り合いたくは無かったが仕方ない!殺す気で行くぞぉ!!」

「お前を止めることが俺の役目だ。ここから先は行かせねぇよ!」

立ち込める砂埃の中から二人の叫び声が飛び交う。そして、向かい来る60代後半と思しき人物を止めようと少年が迎え撃つ。

「あの頃の俺と同じと思うなよ!"飛蝗"(カヴァレッタ)!!」

少年がそう叫ぶと両脚の膝から下にかけて緑、茶色の入り混じりのクリスタルのような煌めかな鎧を纏った。

そして、向かい来る相手に向かって曲げた脚を伸ばした。

すると、さっき少年が居た場所は地面は抉れ、少年の進行方向とは逆にコンクリートの破片や土、石が飛び散り街の家々を襲った。それはまるで土砂崩れのような、もしくは土の津波とも捉えられるそんな感じのものだった。そんな被害をもたらした少年の姿は無く既に相手のすぐ側まで迫っていた。

どうやら、土の津波は少年の驚異的な脚力が影響だったようだ。そんな脚力を持つ少年の姿は一般人が捉えることが出来ない速度だった。その少年は消えたかと思えば相手の側で蹴りを入れようと片脚を上げ、相手の顔面と少年の脚の距離が近づいていた。

しかし、相手は一般人では無かった。彼も化け物だ。故に少年の姿をしっかり捉えていた。そして、ただただその少年を憐れむような表情をしため息を吐く。

「そんなのでわしに勝てる訳がないだろう。残念だ...。"特性破壊"(アビリティカラプス)。」

ブヲォン、と音と共に相手の左拳が白いオーラのようなものを纏い、その手で少年の向かい来る脚を掴む。

そして、捕まれた少年は急に両脚の鎧が砕け粉と化した。

「俺の前では特性や武器などあらゆるものは無意味だ。故に俺は最強だ。お前が俺に勝てることなんてこの先一回もない。これで終わりだぁ!!"物質破壊"(マターカラプス)!!」

ぎゅっと強く握りしめた右拳は白いオーラを纏うと少年の腹部辺りを殴った。すると、オーラは広がり少年事前方の家々も幾つか覆った。オーラに包まれた家々は次々と粉々に粉砕されていく。

それは家に限らず少年も同様だ。骨が砕け肉、皮がベリベリと剥がれていく。そして、次第にオーラの白さは増していき、遂には少年や家々の姿が見えなくなった。

これは何の力もなかったただの一般人だった少年が力を得て、あらゆる命の危機を乗り越え、そして英雄になっていく話である。

 

 

* * *

「.......ぁー....死ぬ死ぬ......ふぅ〜あぶねぇー......。」

と、ゲームに興じる男性。

部屋は...十畳ほどだろうか。中々に広い。

だが、パソコンやプレステなどの多数のゲーム機、テレビ、タブレットPC、スマホ、ゲームの雑誌.......などの物が沢山あり、中々に広いだろう部屋が狭く感じる。

家には彼しか居ない。

 

彼...嵐鬼 裕兎(あらき ひろと)。18歳・コンビニのアルバイト生・ゲーム廃人。

髪は黒色。左耳の上でピンをしており耳は露わにしている。だが、右耳ではピンはされておらず耳は髪によって隠されていた。

裕兎は給料が良いからと自衛隊員になろうとしたが落選。

普通なら夢を実現する為に頑張る人が多いだろう。

だが彼は違った。落ちた瞬間、自衛隊を諦めアルバイトを始める。さらに自衛隊に入ってもキツイ思いをあまりしないようにとずっと鍛えてきていたが、その筋トレすらも辞めた。

今では趣味で軽く体術を嗜んでるくらいだ。

 

「あぁー腹減ったなぁ〜。何か食べるものあったっけ?」

裕兎はゲームをクリアし終わると腹を擦りながらドアノブに手を掛け部屋から出てリビングへと向かう。

ガサガサ...。

リビングのあちこちを一通り探し始める。

無いことを確認し顔を上げようと曲げていた膝を伸ばし立ち上がると後ろで開けっ放しのなっていた棚の扉に後頭部をぶつける。

「痛ったぁぁ!」

後頭部を抑えしゃがみ込み悶えること数十秒。

痛みが和らいでくると裕兎は後ろを振り向き、痛みの原因となったものを睨んだ。

「こいつか。誰だよ開けっ放しにした奴。....俺じゃねぇか!」

今さっき食べ物を探しているときに開けたのを思い出し大声を上げて驚く。

「さて、この扉どうしてくれようか!」

左手で後頭部を擦りながら立ち上がると右手を棚の方へと近づけた。

鍛えている裕兎は扉くらい簡単に壊せるのだが、もしかするとぶち取るのではないのだろうか。

「こうしてやる。」

しかし、心配していたのも束の間、裕兎はただ扉を閉めただけだったのだ。

「もう開けっ放しは気をつけよう...。」

気を取り直して再び探し始める。

だが家に手軽に食べれるカップラーメンやカロリーメイトのようなものはなかった。

あるとしたらレトルトカレーやチャーハンの素、後は卵やキャベツといった材料くらいだ。

「はぁー、仕方ねぇ…。ちょっとコンビニに買いに行くか...。作るの面倒臭いしなぁ...。」

髪をわしわしと掻くと、面倒くさそうに深くため息を吐く。

近くにコンビニかスーパーとかが無いか適当に思い出そうとしながら自分の部屋へと戻り財布とスマホを手に取りボタンを押してみる。が電源がつかない。

 

(あれ?電源落としてたっけ?)

 

「あぁーそういえば、充電してなかったなぁ...。」

スマホの充電切れを確認すると昨日程からベランダで出しっぱなしにし充電していた太陽光パネル式充電器を取り、それをスマホにはめ、両方持って行くことにした。

必要なものを持ち玄関まで行き靴を履き始める。

「よし、準備出来たっと。...財布の中身オッケー。携帯も大丈夫...これくらいで大丈夫だよな?」

忘れ物がないかを確認し、大丈夫と判断した裕兎が玄関を開け外に出た。

ガチャンッ。

今まで数十時間ほど暗い中ゲームをずっとしていた為か陽射しが眩しく手で視界に陰を作る。

白くボヤけていた視界が段々慣れていき、慣れきった頃には裕兎は目を見開いていた。

そこには見知らぬ風景が広がっていたからだ。

「あっあれー.......?ここどこ....?あーゲームし過ぎたかなぁ...。幻覚が見えるなぁ。やっぱ、夏の炎天下の中、陽射しを浴びるというのが自殺行為だったのか...。」

と、裕兎は困惑しひとまず家に戻ろうと振り向く。

だが、そこには何もなかった。壁しかない。

「なっ...!?何だこれは.....!ここは、どこ..だよ....!」

ひとまず混乱した脳を落ち着かせようと目を閉じ五秒程時間をかけた。

それはいつもなら短く感じるちょっとした時間だろう。だが、今回はそのたった五秒でも一生に感じられるほど長く感じられるものだった。

恐る恐る目を開けはじめる。

白く光り輝く太陽の陽射しを浴びながらも、裕兎はしっかりと見えた。

そこには変わらず見知らぬ風景があった。

それはどう見ても中世風のレンガ造りの家、ときどき通る馬車、見たことあるような果物や見たことがない食べ物らしき物まで売られている小さな店.....などなど、あらゆる店があり賑わっている。

人々は甲冑を身に纏った傭兵や踊り子のようなヒラヒラな服を着た華やかな女性、ノースリーブや半袖といった汗水垂らしてる男性や、子供が愉快に走り回っていた。

裕兎の世界でいう車道のようなものもあり、人々はそこを避けて通っていた。それは馬車2個分はあるだろう幅だったが、道の幅が元から広い為か人々にはなんら影響を与えそうにもないように感じる。

「えっここって、まさか異世界!?すげぇー、アニメだけかと思ってたけど、ほんとにあるもんなんだなぁ。どういった原理で飛ばされたのか些か疑問だが...。」

まずは、と周りを見渡して見ると少し離れたところに八百屋のようなところがあり、そこにはリンゴのような物が並べられていた。

その他にもキャベツやトマト、見たこともない緑色の野菜や果物までも並べられている。

その中で裕兎は食べれそうで尚且つ美味しそうなリンゴが目に付き、ぎゅるるる〜とお腹を鳴らす。

「ん?あれってリンゴ?腹減ったし買いに行くか!」

異世界に来るという貴重な体験ができると喜びや近くに食べ物があったという安堵感に顔を綻ばせ店に歩いていった。

「おっちゃん。その赤い実一つ売ってくれ。」

値段は〜とダンボールのような物に書かれている数字分財布から小銭を取りだし、店主にそれを渡す。

しかし、受け取った店主は手に持っている小銭を見ると怪訝な表情を浮かべ首を傾げる。

「なんだ?これは。見たことねぇな。こんなんじゃリンゴは買えねぇよ。ちゃんと金払え金。それにお前なんだ?その格好は。」

迷惑そうに応えた後、裕兎を向き直ると見たこともない服装に更に驚いたらしく店主は裕兎から受け取った100円玉や10円玉を返しながら問う。

そんな店主の反応を見て裕兎は肩を落とす。

「マジかよ!?はぁー....まぁ考えてみればそれもそうか...。ここ異世界だしお金が違ってて当たり前だよな....。」

深くため息を吐いていると、男性は裕兎の服装が気になっているのか未だにうーん、と唸り考えていた。

そんな店主に裕兎は気づくと、あっと言い話を続けた。

「あーこの服装のことだっけ?こういう服装の田舎村出身なんだよ。」

だが、お腹が空いて働かない頭で上手い言い訳が思いつくことも無く、またそのやる気すらも無かった裕兎は適当に受け流す。

「あー...飯どうすっかなぁ...。腹減り過ぎて、さっきからちょっと腹痛てぇな...。」

口々に愚痴を零していると、それを見兼ねた店主の手から赤い球体のようなものが飛んでくる。どうやら、リンゴのようだ。

おっと、と不意なことに驚きながらも見事にキャッチが出来た。

「それ、やるよ。お前さん田舎から出たばかりでお金あんま持ってねぇんだろ?なら、一個ぐらい分けてやるよ。」

そう言って店主はニカッと笑った。

「えっ!くれるのか!?ありがとう!ほんとにありがとう。」

裕兎は人受けの良さそうな爽やかな笑顔を浮かべると上機嫌に店主に手を振り別れを告げる。

「さて、これからどーするかなぁー。金ないし、宿もない。とりあえず、仕事先探してみるか!」

リンゴを食べ終わり色んな店をまわってみた。

一つ目は野菜や果物を売っている八百屋みたいな所、二つ目は精肉店.....と商品販売系統をメインに声を掛けて行ったが全て断られる。

2時間は歩きまわっただろうか。日の高度が上がり真昼間となっていた。

「あぁー疲れた〜...。ちょっと休憩っと。」

路地裏の影になっている所へ入り、壁に背を持たれると考え事を始める。

「とりあえず、日本語がここで通じるっぽいから助かった〜。.......就職先はどーするかなぁー...。俺が見過ごした影が薄いマイナーな店もあるかもだし、ついでにこの世界について聞けるかも知れないから情報収集も頑張ってみるかー!」

顎に手をやり、ふむ、としばらく考え、やる事が決まると背伸びをし早速取り掛かる。

路地裏から出ると、目の前を丁度通りかかった男性がいた為、その男性へと声を掛ける。

「あのー.....すまないんだけどよ、この国について教えてくれねぇか?俺田舎からきたもんでよ、この国のことよく知らねぇんだ。」

異世界からきたと言っても信じないだろうと思った裕兎は、この世界に田舎という概念があるか分からないため田舎だから、という理由で納得して貰えるのか内心心配になりながら質問した。

だが、男性は案外気にすることもなく普通に返答してきた。

「この国はな、多分人類種の中で一番発展した国じゃないか?あっここは東帝都アデレード王国ってんだ。」

田舎と言って納得して貰えたことに内心ホッとしながらも質問を続けて言う。

「?何でここが人類で一番発展してる国なんだ?」

「国自体があまりなくてな。それにドラゴンとかがたまに襲ってくるから壊滅する国もあるんだ...。」

「へードラゴンなんて居るんだな。...あっとか、ってことは他にもいるのか?」

「お前ほんとに何も知らないんだな!?びっくりしたぞ!一体どこの村出身だよ。人類種(ニンゲン)龍魔種(ドラゴニア)魔獣種(ゲシュ)森精種(エルフ)亜人種(デミヒューマン)吸血鬼種(ヴァンピーア)の6種族いるんだよ。」

(案外沢山いるんだな。)

他に必要となる情報はないか思案しているところに先にその男性が話してくる。

「そして、その他種族からこの国を守ってるのが国王が認めた4騎帝と呼ばれる最強の兵士4人だ!いやぁ〜心強い!あの人達が居なかったら今頃この国は滅びているだろうな!」

男性はそう言いながらゲラゲラ笑った。

(4騎帝....?)

ただ、裕兎が首を傾げていたからか、男性も笑いが止まると、ん?と首を傾げた。

「他に質問はあるのか?」

「4騎帝ってなんて名前の奴らなの?」

「だよな!やっぱ4騎帝のこと聞くと気になるよな!?ワハハ!」

自分の思った通りになって嬉しかったからか、裕兎の肩をパンパン叩く。

(ちょっと強すぎない!?結構痛いよ!?)

そんな裕兎の心の叫びは男性に届く筈もなく、話し続ける。

「まず1人目はな!煉獄王(れんごくおう)ユグリス・レンだ。レンは今までにあらゆる種族の討伐に功績を残し、今まで対立してきた種族は皆灰と化され4騎帝の中でも1~2位を争う実力者だそうだ!」

(やっぱり、人間種(ニンゲン)って他種族に襲われて追い詰められてる、って訳じゃないのか。...まぁ、周りを見れば一目瞭然だな。)

裕兎は、明らかに怯えることなく満足そうに賑わう人々を見渡し納得していた。

テンションの上がっている男性は周りを見渡す裕兎を知らぬ顔で、いや実際には気づいて居ないのだろう、気にせず続けていた。

「4人目は雷神(らいじん)アイン・クレイステネス。彼女は最近4騎帝に入ったばかりで、更にレンとはさほど歳も変わらんだろうが一番若い!その為か、4騎帝の中では実力は一番下かもしれんな。」

「まぁ、一番下と言っても4騎帝の中で、だから、俺らからしたら相当強いんだろ?」

「あぁ!最近の話でいえば、亜人種(デミヒューマン)を一人で500~600人以上はいる大軍を倒した、とかな。」

「そりゃあ、すげぇな...。」

(それにしても、さっき4騎帝の残り二人聞き逃したなぁ.....。周りをキョロキョロしてたからなぁ。まぁ、名前だけでも聞けたからいっか。)

裕兎は思い出すかのように聞こえてきた二人の名前を心の中で復唱する。

(氷河姫(ひょうがき)アイス・キュロス。そして、破壊神(はかいしん)ディオクレ・ティアヌス、ね。こいつら計四人が国内最強な訳ね。)

納得したところで、また再び疑問が一つ芽生えた。

「そういえば、何で国王はわざわざ4騎帝なんて制度を作ったんだ?」

作る必要性が分からず、何となく男性へと聞いてみる。

「国王曰く、4人の最強の席を作ることで反乱が起きないように均衡を保っているらしいぞ。あとは、東西南北に一人ずつ守備を頼み、更にそこ一帯の町を譲って自由にさせてるってことよ。」

(自分の広大な土地と町かぁ。いいなぁ...。)

腕を組み、うーん、想像していたがある程度情報を聞けて満足そうに男性に別れを告げた。

「じゃあな。助かったわ。」

(あまりに大仰な仕草で説明するもんだから、目立って仕方がない。こんなところ俺は耐えれない...。)

だが、急いで歩いていると急に近くで危機迫る声が響く。

「あなた!危ないわよ!!」

そこを見ると上下ピンク色の可愛らしい洋服に身を包んでいる女の子が飛び出しており、そこから少し離れたところに馬車が通っていた。

このままでは女の子は轢かれてしまうだろう。

それを防ごうと裕兎は反射的に走り出していた。

しかし、裕兎が居たところは馬車と同じくらいのところにおり、それはつまり馬車より速く走らないといけないということだ。

間に合わないと分かっていながらも走る裕兎。

(ここは異世界だろぉーがっ!魔法とか特殊な能力とかねぇーのかよ!?このままじゃ間に合わねぇーよ!もっと速く走れよっ!俺ぇーー!)

体力がキツいと顔を顰め、歯をギリっと鳴らせ俯かせた顔を上げ、それでもと足に力を込める。

その瞬間、目の前が風景がいきなり視認出来なくなった。

建物パッと別の建物に変わり、裕兎の前に走っていた馬車さえも視界から消えて無くなっていた。いや、実際には無くなってはいない。あるにはある。裕兎も馬車の走る音は聞こえていた。

しかし、それは何故か後ろから聞こえるのである。

そして、更にはさっきまで遠く感じた女の子は今じゃ目の前にいた。

何がなんだかよく分からなくなっていたが少女は助けれそうだったから抱きかかえ自分がいた反対側の歩道へと走り切る。

ザッと地面を踏み込み抱き抱えていた女の子を下ろす。

久しぶりの全力疾走に荒らげた息を少しずつ整えていく。

「はぁ...はぁ...。良かった...。助けれた...。」

「「おぉー!すげぇな!」」

その現場を見ていた周りの人は口々に言い、そこら一帯は一時の間賞賛の海となっていた。

「な...なんだったんだ.....。今の...。」

そんな中、自分自身の驚異の速さに驚きを隠せないでいた。

(な...なんだったんだ...。)

再び自分の胸に問い考えを張り巡らせていたが、やはり分かることは無かった。

「まぁ、何はともあれ助けることが出来たしいっか。」

分からないことを考えても仕方が無い、と思い諦める。

それに

(うん、こういう目立ち方は悪い気はしないな。)

裕兎は助けれて良かったという安堵感や周りからの賞賛に達成感を感じ満足そうだった。

そんな騒がしい群衆の中から一人女性が出てきた。

その女性は金髪の髪で長さはスーパーロングだろうか。そのくらいの長さまであり皇貴な服を身にまとい気品溢れる人だった。瞳は黄色で黄金のように美しく輝いていた。

「ありがとう。感謝します。さぁ、あなたはもうお家に帰りなさい。」

「うん、ありがとう。」

その美しい女性は裕兎にお礼を言うと女の子に帰るように促した。

女の子はその女性の言う事を素直に聞き入れ、裕兎にお礼を言ってから走って家に向かって行く。

それを裕兎と女性は見送り、見えなくなった頃には女性は裕兎に向き直っていた。

「私はこの東区アルジェを治めるユグリス・レンの妻ユグリス・ミカという者なのだけれど、あなたの名前も聞いていいかしら?」

「俺は、嵐鬼 裕兎だ。」

(ん?今この人ユグリス・レンって言わなかったか!?レンってあの4騎帝の一人だよな!?....あっそっか。4騎帝は一人ずつ領土を貰え、その代わりに国の守護をするんだから居ても不思議じゃないか。)

軽く有名な名前がパッと出たことに驚きつつも何とか理解し平常を保てた。

「嵐鬼、さんね。よろしければお礼をさせてくれないかしら。」

ミカは顔に喜色を浮かべ、その笑顔は美しく、また可愛らしさも垣間見れた。

そんなミカのお礼という言葉に裕兎は目を光らせ瞬時に反応する。

「でしたら、俺に雇ってくれるところを紹介してくれると助かる、かなぁ。」

「なら、私の旦那は4騎帝の1人ユグリス・レンという方なのだけれど、その団の幹部になるのは構わないかしら?給料もちゃんとあるわよ。もちろん宿も、ね。」

「そうなのか!?ならお願いしようかなぁ。」

異世界へ飛ばされてからのいきなりの安定収入業への就職を果たせそう、とテンションを上げる裕兎。

しかし、今は気づいていないのだろう。

騎士として働く大変さや覚悟を。

「では、レンに紹介したいので着いて来て貰っていいかしら?見たところあなたは特性を持っているようだから、認めてくれると思うわ。」

それを聞いていた裕兎は、一つ疑問を感じ思わず呟いていた。

「特...性...?」

なんだろうか、と考えていると裕兎の意図を汲み取ったミカが答える。

「あなたがさっきあの子を助けるときに使ったでしょう?もしかして、今さっき覚醒した子かしら?」

どうやら、この世界では能力のようなものを特性というらしい。

「かなぁ。あんな体験初めてだし。」

(なら、あれは能力だったのか!?へー俺でも使えるのか!)

あまりの嬉しさに裕兎は思わずにやけていた。

「どうしたのかしら?」

首をコクンと傾げる。

その可愛らしさに現実に引き戻される裕兎。

「あー悪い。大丈夫だ。」

「そう。なら、行くわよ。」

ミカはクルッと踵を返すとレンが居るであろうところへと向かって進み始める。

「これで一つ目の目標、就職先、宿ゲットっと♪。これから色々と頑張って行くかぁ。」

周りの人々はいつの間にか、さっきまでのの賑わいに戻り仕事をしていた。

そして、裕兎は伸びをするとミカに続き人々の間を通り抜けながら進んでいく。

こうして嵐鬼 裕兎の異世界生活が始まった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1話.......終




次回は嵐鬼 裕兎がユグリス・レンの元へ案内してもらい、そこで自分の特性について知ろうとします。

初めて書いた小説なのでつまらなかったらすみません(´д⊂)


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第2話 *ユグリス・レンはやはり強かった*

前回は嵐鬼 裕兎が異世界に行き情報収集とか色々頑張ってる話でした( * ˊᵕˋ )

この小説を楽しんでもらえれば嬉しいです!笑


王国アデレードの東帝都アルジェー東部区画二番地。

宿や仕事を探していた裕兎はミカに連れられ4騎帝のユグリス・レンの家に案内してもらっている。

「へーここがレンの家かぁ。ってか城じゃね...。」

そこは広大な土地が広がりその奥には城があった。

そのあまりの大きさに驚き目を白黒させる。

「はい、だからこれが家だわ。」

ミカはこちらに振り向き柔らかな笑顔で応えた。

「いや、確かに家だけど!でもスケールが違い過ぎるでしょ!せめて屋敷とかそんな感じで言わないと何も知らない人からしたらビックリするわ!」

「細かいことを気にする男は嫌われるわよ。」

どうやら、訂正する気はないらしくすまし顔で歩いていく。

「それにしても門を通ってから屋敷の入り口までが遠すぎるだろ...。」

裕兎の言うとうり門から屋敷まで少し遠く距離は100メートル以上くらいの道のりだった。

「あそこに何もない土地があるでしょう?」

「あーあの無駄に広い土地?」

「はい、あそこでレンは特性の特訓をたまにする為、屋敷周りは広くしているわ。屋敷が壊されかねないわ。」

さらっと恐ろしいことを言うミカに四騎帝とは対立したくない、と裕兎は固く決心をした。

(ほんとに怖ぇよ...。)

やっとのことで着いた屋敷の中は広く見た目も豪華だった。

更に、こんなにも広いのにどこを見ても一面綺麗に磨かれていた。

そんな綺麗な床を見ているとミカに連れられ、いつの間にか客間へと着く。

そこは中々に広くテレビやアニメとかでよく見る、お金持ちあるあるの長いテーブルに椅子が並べられていた。

「そこで座って待ってなさい。今から呼んでくるから。」

すると、レンを呼びに客間を出て行った為一人残された裕兎は静かな部屋をぐるっともの珍しそうに見渡すと椅子に座る。

しばらく天井を見上げ呆けていると、コツコツと足音が聞こえる。

そして、ガチャッと扉が開く音が聞こえてくる。

「おっもう来たのか?」

その足音の方向へ視線をずらすと、そこにはお盆の上にティーカップとティーポットを乗せて運んでくるメイド服の女性がいた。

裕兎の隣まで来ると、ティーカップをそっと置き紅茶を注ぐ。

「紅茶でございます。ごゆっくり。」

メイドは他にも色々と仕事があるのか、お辞儀をするとすぐさまどこかへ行ってしまった。

裕兎はそんなメイドを見送りながら紅茶を口へ運ぶ。

「忙しそうだなー。.......ズズっ、この紅茶うまっ!?」

(それにしても何か落ち着くなぁ...。歩き過ぎて疲れたからか?)

くつろいだ顔で深く息を吐く。

紅茶を飲みながら待っていると扉が開かれた。

ガチャーン、と音が鳴り響く中現れた男性。

そこには二十代中頃と思しき男性。赤茶色の髪をしており、服装からは上品さを感じられる。背丈は少し高めで、体格も太くなく細くもないっといった感じだ。

レンかな、と思い立ち上がる。

そして、イケメンだなぁ、と眺めているとその男性は口を開く。

「こんにちは。俺がレンだよ。事情はミカから聞いたよ。昼間のことはありがとうね。お礼の件はOKだよ。あと余ってる部屋もあるからそこに住むといいよ。」

つかつかと裕兎の前まで来ると手のひらを向けてきた。

どうやら、握手を求めているらしい。

「マジか!?これで金銭面と宿のことは安心だな。」

意図を汲み取った裕兎はレンの手を握る。

そのことに満足したレンは手を離すと苦笑する。

「まぁ、でも魔獣種(ゲシュ)や竜魔種(ドラゴニア)の討伐とかそういう依頼がきたら命懸けの戦いとなるけどね。」

「あー.....そう言われるとこの仕事も楽じゃないなぁ......。」

「まぁ、死なない為に力をつけたらいいよ。君は自分の特性について把握出来ていないんだろう?」

「あぁ。そうだなぁ...。」

「なら、ここまで来る途中に見た広場があっただろう?あ..そこで使いこなせるように頑張ったらいいよ。」

「おっ助かるわ。ありがとう。」

「今はこの屋敷に慣れるまでのんびりしてたらいいよ。」

爽やかに微笑むレンに、良かった、優しい人で。と安堵する裕兎。

「じゃあ、挨拶も出来たし俺は溜まってる仕事を終わらしてこようかな。早く終わらせないとミカに怒られるからねぇ...。」

乾いた笑顔を浮かべるレンの近くからミカが深くため息を吐く。

「あなたに集中力が無く、ペースが遅いからでしょう。自業自得だわ。」

こめかみを抑えキッと睨むミカ。

(いつも笑顔な分睨むと怖いなぁ...。レンに心開いてるからあの態度なんだろうけど、差あるなぁ...。あんなに怖いなら俺一生心開かれないでいいわ。)

ミカに睨まれたレンは顔がこわばって笑顔なのかなんなのかよく分からない表情となる。

「あっじゃ...じゃあ、俺はもう戻るね。またね。」

早口でそう言い終えるといそいそと元来た道を戻っていく。

「あっお...おう。またな。」

急いで出ていくレンを見送りながら別れを言うと広場へ向かう。

だが、レンはあっそだ。と振り返る。

「広場に行ってもいきなり分かる訳じゃないし少しの間見てみるよ。アドバイスもするし。」

(4騎帝直々の指導を誰が断るだろうか。俺は断らないな。)

「頼む。」

また近くでため息が聞こえたが裕兎は聞かなかったことにした。

(後で怒られそうだなぁ。レン。)

 

* * *

裕兎とレンは広場に来ている。

ミカは仕事があるようで何処かへ行ったようだ。

「使った時の感覚、考えてたことでもいいよ。その中にヒントがあるかもしれない。考えてみて。」

そう言われ頭の中で思考を巡らせ始める。

(...特性を使えたときの感覚?考えていたこと?うーん、ただただ走ってただけだしなぁ...。)

しばらく考えててあることに気づく。

「あっ速く走りたいって強く思ったから足の筋力が上がったんなら俺の特性って人間の五感とか免疫力とかそこら辺の向上とかじゃね?」

「なるほどね。身体能力の向上、かぁ。いいね。なら、あとはそれを使いこなせるようになれたらよりいいと思うよ。」

「だなー。」

「じゃあ、俺は仕事あるから戻るよ。今日中に仕事終わらせないと!」

終わらなかったときのことを想像したのかレンの顔が青ざめる。

「おう。分かった。アドバイスありがとな。」

レンが城に帰っていくのを見送った。

(ありゃあ、ミカに怒られたときのことを考えたんだろうなぁ...。四騎帝が青ざめる、かぁ。....考えるのやめよ。)

気持ちを切り替えるように両ほっぺをベシッと強く叩くと気合いを入れる。

「よし、使いこなせるようにするか!」

それからしばらく特訓をするとレンから借りた部屋へ戻りどっときた疲れに眠った。

 

* * *

「ふぁーぁ....。」

朝日の光に照らされ裕兎は目を覚める。

(我ながらよく寝た、というより寝過ぎたと思う。日の昇り加減を見る限りこれは、もう昼だからな。)

ふわぁー、とあくびをし、軽く伸びをするとベットから起き上がる。

「今日でこの世界に来て2日目か...。長かったなぁ。」

昨日の出来事を思い耽りながら呟くと部屋を出る。

昨日はレンと別れてから特性を使いこなせるように特訓していた裕兎だったが特性を使うと思ったより体力の消耗が激しく長時間特訓出来なかった。

(もう筋肉痛になるレベルで。少し辛い...。)

筋肉痛により痛めた腰を擦りながら長廊下を歩いていく。

「とりあえず特性を使っていけば、その内体力もつくだろうし、ひたすら使っていくか。」

そう思い外へ向かおうとしたところでミカに会う。

昨日と服装が異なり、今日は緑色がメインとなった色合いのドレスだった。スカートの部分の裾は黄色や橙色と鮮やかになっており、白く透明のポンチョのような物を羽織っている。

ちなみに、裕兎はレンから借りた服を着ていた。

軍服、というより指揮官のような黄緑色の服装に赤いネクタイのような物を身につけ上からは藍色のコートのような物を羽織っている。

夏なのに暑そうだな、と思っていたが、いざ着てみるとあまり暑くなく風通しがよく涼しかった。

そのことに驚きレンに聞いてみたところ、どうやら前領主がエルフ国から奪ってきた魔力の篭った服の一つらしい。

他にもいくつかあるようだ。

「あら、どこかへ行く途中だったのかしら?客間の方に昼ごはんの準備がされておりますけど?」

「あっそれはそなんだ。なら、食べて行こうかなぁ。」

「分かったわ。では、私は他に仕事があるので。」

ミカは軽くお辞儀をすると仕事へと戻っていく。

(どんな料理が並べられてるんだろうなぁ。)

ワクワクウキウキ、と期待に胸を膨らませ、客間へ向かう。

中々に長い廊下を歩いていると思わずため息が漏れる。

「思えば、ここって城だもんなぁ。やっぱ大きいなぁ。広いな、ちょっと疲れるな....。」

異世界の建物がどのようなものか見ながら歩いていたが、それもすぐに飽きてしまった。

背伸びしたり、ぼぉー、としたりし数分程歩いていたらようやく客間の扉の前へと着く。

「やっと着いたなぁ...。遠すぎた訳じゃないけど、もう少し近くにあって欲しかったな。ここまで歩くのめんどくさい...。」

疲れた足取りで愚痴を零しながら入ったのもつかの間、目の前に広がる食卓を見て元気が戻った。

そこには期待以上の美味しそうな料理が並べてある。

ソーセージに目玉焼き、ワッフル、サラダ、紅茶、といったものだ。

「おー美味しそうだ!ここまで来た甲斐があった気がする!」

香ばしい匂いが裕兎の食欲をそそり元気が戻る。

いそいそと席に着くとご飯を食べ始める。

ソーセージはいい感じに焦げ目が付けられ皮がパリッとしており、目玉焼きはしっかり焼けているように見え黄身は半熟となっていた。ワッフルもモチモチしサラダはドレッシングと相性がバッチリで裕兎も空かせたお腹をどんどん満たしていく。

食べ終わると最後に紅茶をのんびりとゴクッゴクッと喉を潤す。

ふぅー、と満足そうに息を吐き余韻に浸っていた。

しばらくすると、皿を重ね厨房へと持っていき皿を洗うと並べた。

やることやると裕兎は外へ出て歩きながら特性について考えていた。

(俺の特性は、"身体強化"(フィジカルアビリティ-) もしくは、"具現化" (エンボディメント) ってところかな。)

などと考えていたら広場に着いていた。

すると、広場の方から音が聞こえた。そこでは、レンが特性の特訓でもしていたのだろうか、所々芝生が焦げている。

レンは自身の身長の3分の2くらいはあるだろう、大きな盾と片手用長剣を持っていた。白と赤い鎧を着ており、その上から白いマントを羽織っている。

いかにも、ナイトっぽい感じだ。

剣を通常の逆に持ち刃先を下に向け、柄を上に向ける。すると、その柄の先の方に炎の玉のようなものが数個現れたかと思うと、それらは遠くへと飛んでいった。

「"火炎爆発"(フレイムバースト)」

レンがそう言うとさっきまで浮かんでた玉が歪な形になったかと思えば、一気に膨らみ爆発する。

シュィーン、ドゴォォン!!物凄い爆発音が鳴り響く。黒煙が巻き起こり、爆発が起こった場所は、砂埃が舞い焦げ軽く小さなクレーターみたいな穴が出来る。

「うわぁ、すげぇなこりゃあ...。」

あまりの威力に呆然と立ち尽くす裕兎。

しばらく呆けていた裕兎だったが、落ち着きを取り戻すとレンのところへ行き話しかけた。

「凄いなぁ。これがレンの特性?」

「うん、"熱炎" (イグニート)と言うんだよ。熱と炎を操る特性なんだよね。」

なるほど、と考えていたらふとある事を思いついた。

「もし良かったら俺と手合わせお願いしていいか?」

自分の特性について考えてても分からないだろうと判断し、実践して何かしらのコツを掴もうと懇願する。

「うん、構わないよ。」

案外、簡単に了承をくれた。

よし、とガッツポーズを取ると互いに逆方向に歩き距離を離れ準備を始める。

裕兎は軽くジャンプをし身体をほぐしながら考えていた。

(そういえば、俺技名とか考えてないなぁ。何にしよう。あの速度を出す脚力で連想できるもの。.....ぁ、バッタ?とかかな。)

などと考えていたらレンは盾と剣を構え互いに準備は整っているようだった。

「じゃあ、好きなタイミングで来ていいよ。」

レンが構えながら笑顔ながらも真剣な眼差しを向けながら言う。

「なら、遠慮なく。...あっ思いついた。」

タン、タン、タンッ。最後に地面に足が着いた瞬間、裕兎の足があった場所の地面が割れ、軽くえぐれる。更に裕兎の進行方向とは逆方向に砂煙と共に強風が巻き起こる。

「"飛蝗"(カヴァレッタ)!」

そして、俺はレンの目の前まで走り地面を強く蹴り右脚が孤の円を描きながらレンの腹部へ横から迫っていく。

だが、それを盾で防がれる。

しかし、流石にレンはこの脚力に耐えきれず飛ばされた。

「ぐっ....。かはっ!ぐは...。」

レンは飛ばされながら、地面を打ち付けられ転がっていく。

転がりを止めようと足に力を込め盾を地面に突き立てる。

そして起こった砂埃を剣で切り裂く。

レンに一撃与えれたことに満足感にしばらく浸る裕兎。

(...うん、中々のネーミングじゃないか?これ。)

ふと下を見ると裕兎の膝辺りから足先まで緑と茶色の鎧又は甲皮のようなものを纏っている。

(うお!昨日は気づかなかったけど、脚って変形していたのか!?)

予想外のことにまじまじと脚を眺める。

「予想以上の実力だ。俺もちょっと本気出さないとな。」

そんな中レンの剣は紅く輝き始める。

視界の端で赤い輝きを見つけ、顔を上げると裕兎は剣を構え狙いを定めるレンの姿が写った。

(とりあえず、今は戦いに集中するか。)

「"追跡する火竜"(ファイヤードレイク)」

すると、レンは剣を横一線に振る。すると、炎のラインが敷かれ、そこから竜のような形をした火の塊が3体裕兎の方に飛んでくる。

「3体、ねぇ...。あれに当たったら痛いの前に熱そうだなぁ。いや、普通に痛いか。」

バキッ。飛んできた火竜を避けるため横に飛んだが、方向を変え、またこちらに向かってくる。

「追跡か。なら....これでどうだぁ!追いついて来れるかな。」

火の方に走り火竜をすり抜けレンのところまで向かう。

そのまま加速をし、レンの前に来て蹴ろうとしたが.....。

シュンッ。裕兎の前に何かが横切ったと思った瞬間、右腕に違和感を感じた。

(何か...右腕が熱い...?)

それと同時に背中の方で火竜が当たり飛ばされる。

ドカァーン。裕兎は背中が焦げ服が燃え一部だけ灰と化していた。

「ぐっはぁ...!」

レンは飛び退き裕兎から距離を取ると爆撃を避ける。

爆風で地面に転がり、起き上がろうとすると右腕が途中で無くなってるのに気づく。

「...は?ぐっ...がぁー!クソ痛てぇ...。」

ドクドクッ。血が止まらない。

次々に血が流れ出していく。

あまりの痛さに顔を歪ませる裕兎。

「治れ!治れ。俺の特性じゃ治せないのか!?治れよ!」

右腕に力を入れたその時!

ブシャ!右腕が生えてきた。

「はっ!?何で生えてきて!?」

困惑を隠しきれずに目を瞬かせる。

(どういうことだ!?)

よく見ると腰の方からも触手のようなものが6本生えている。

いや、触手というよりもタコやイカみたいな足、と言った方が正確だろうか。

だが、裕兎の元からある脚はタコの脚のようにクネクネはしていなかった。しかも、太ももから足先まで紫の模様が入った鎧を纏っていた。

「これってタコの足か...?さっきの脚力がバッタとするなら

動物と昆虫の特徴を得られる能力(チカラ)ってことか...?」

状況を整理しようと脳をフル回転させていると。

「自分の特性を理解することが出来たみたいだね。どうする?まだするの?」

レンが裕兎の元へゆっくりと歩いて近づいてくる。

「やるよ。やっと自分の特性が分かったんだからな。」

未だに痛そうに裕兎は腕を撫でる。

「そっか。なら付き合うよ。」

歩む足を止め、レンは再び剣を構える。

心配そうな表情から瞬時に真剣な表情に切り替わったレン。

(相変わらず、切り替え凄いなぁ。)

そんなレンを見て裕兎は感嘆の息を吐く。

「俺の特性は、"変態"(メタモルフォーシス) って感じかな。」

特性名を思いついたところで裕兎も戦闘態勢に入る。

立ち上がると再び軽く跳躍をしタッとその場から消える。どうやら裕兎はレンに向かって走り出したようだ。

「昔、護身術として身につけた体術を見せてやろう。蛸は筋肉の塊だから相性がいいしな!」

レンの前に行き、構える振りをして素早く横に移動した。

「くらえ!」

そして、そのまま右腕でレンを殴る。

「"発勁"(ハッケイ)!」

もう少しでレンに届くというところでレンは振り向きざまに剣を振った。

「"火神斬"(ゲイボルグ)。」

その瞬間、裕兎は紅いドーム状のようなものに包まれた。そう火の塊に飲まれたのだ。全身に熱を感じ過呼吸を起こす。

「ガハッ!くそ!熱い...。"飛蝗"(カヴァレッタ)!。」

裕兎は強靭な脚力を使って即座にそこから抜け出した。

だが、既に遅かった。

もう全身火傷をしていた...。

「もう...あまり、はぁ...動け...ねぇな...はぁ...。」

「ほぅ、あの技を抜けるか。中々やるな。けど、次で終わらそう。」

驚き、というより関心の方が正しいだろうか、微妙な反応をした。

腕に力を込め起き上がったものの裕兎はなんとかギリギリの状態で立っている状態だった。

レンは剣をグルんと回すと柄を上に向けた。そして柄先に紅い火の玉を5個程出す。

「"爆銃"(バーストショット)。」

その瞬間、紅い玉が速い速度で飛んでくる。

避けようとしたが避ける体力も残っておらずそのまま爆撃を受けた。

小さな火の玉が大きくなり黒煙と共に物凄い爆風を起こした。砂埃と黒煙の中で裕兎はそのまま気を失い、その後の記憶はない......。

 

 

 

 

 

第2話......終

 




次回は嵐鬼 裕兎が自分の特性を使いこなせるように頑張るところです。
やっと戦闘シーンを出す予定です!笑

たらしさんお気に入り登録ありがとうございます。( *´꒳`* )


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第3話 *初仕事に向けて*

前回は戦闘シーンでしたが、これからしばらくはのんびりした話だと思います( *´꒳`* )


目を覚ますと、そこには見慣れた天井があった。

「ん...?ここは、俺の部屋か...。」

自分の置かれている状況を把握しようと周りを見渡すとメイド服の女性がベッドの隣で椅子に座っている。

「あっ目覚めましたか。裕兎様。気分はどうでしょうか?」

裕兎がムクっとベットから上半身を起こすと、それに気づいたメイドの女性が重心を前にし顔を覗かせる。

裕兎は顔の前にメイドの女性の顔が急に現れたことに驚きつつも、前髪が揺れ今まで隠れていた目がチラッと見え、綺麗な目だな、と見惚れる。

彼女は低身長でそれに比例した慎ましい胸、髪は薄ピンク色をしており服装は裕兎が元いた世界であったようなメイド服に似たものだった。

「あー悪い。時間を取らせてしまったようだな。もう大丈夫だ。」

ハッと正気に戻ると申し訳なさそうに頭をかいた。

そんな裕兎を見てからか、メイドの女性はやんわりと裕兎までほんわりなってしまいそうなほど暖かな微笑みをする。

「大丈夫ですよ。私はメイドリーダーのローズですから!メイドの中で一番偉いんです!それに、ちょっと疲れてたんで休憩ついでです。」

胸を貼って自慢げに言うローズに呆れながらも軽く微笑む。

「そうか。...なら良かった。」

「だから、もう少し安静にしていた方がいいのでは?まだ治療しきれてないところがあるかもしれませんし。」

「時間潰ししようとしてサボり過ぎるとレンに怒られるぞ。」

「や...やだなぁ~。サボってなんかいませんよ。」

苦笑いするローズ。

「最悪、メイドを辞めさせられるくらいだろうし、殺されませんし大丈夫だとは思うんですけどね。」

そんなローズの言葉にえっと驚く裕兎。

(それって全然大丈夫じゃなくねぇか?辞めさせられるは相当な罰だよ!?)

そんな風にローズと話し、起きてから時間たった。

すると頭が冴えてきて思い出す。

(そういえば、俺はレンに負けたのか...。)

ふと疑問に思う節があった。

「思ったけど、俺が気を失ってからどのくらいたったの?」

「1日程でございます。」

「案外、眠ってないんだなぁ。」

予想よりも寝てる時間が短く、へーと感心しながら身体中を見ているとあることに気づく。

「あれ...?そのわりには、怪我治るの早くないか?」

その通りだったのだ。

レンから受けた大火傷が跡形も無く治っているのだ。

自分で治した記憶もなく、どういうことだろうと考えているとローズが口を開く。

「ヒーラーという回復系の特性を使いましたから。この屋敷では私や私以外の少数のメイドがヒーラーですので。」

「あーなるほどね。便利な世の中だなぁ。」

納得をし、自分の身体を凄いなぁ〜と物珍しそうに見る裕兎。

(メイドが何人居るのか分からないけど、ヒーラー率高いな...。人選しているのか?)

「では私はそろそろ仕事に戻りますね。」

そう告げてからローズは部屋から出ていく。

ローズが居なくなり、静かになった部屋でしばらく裕兎は虚空を見つめていた。

「さて、これからどーするかなぁ...。とりあえず、レンのところ行ってみるか。」

部屋を出てレンが居るであろうと思われる部屋へと向かうため、ベットから降り立ち上がる。

いつも1日も寝ないため、思いっきり伸びをする。

「う...うぅーん。....はぁ〜。じゃ、行くか。」

スッキリした表情でドアへ向かう。

ずっとベットで温もっていた身体に久しぶりにドアノブを握り、ひんやりとし一瞬ビクッとするものの、次第に慣れていく。

廊下に出ると床には赤を主にサイドに黄色のラインの模様が入った絨毯が敷かれている。

天井にはシャンデリアのようなものにロウソクが置かれ美しく輝いていた。

どこの壁を見ても汚れているところはなくピカピカでメイドがきちんと掃除が出来ていることが見受けられていた。

(あそこって王室?って言うのかな?うーん......)

しばらく廊下に佇み考えていると

(まぁ、何室でもいっか。)

結局は面倒くさくなり考えるのを辞めた。

「それにしても綺麗だなぁ...。何回見てもすげぇと思うわ。」

王室に向かう間もへー、ほーと感心が止まずにいる。

王室に向かう間にチラッと調理場も覗け、視線を横にずらし軽く見ると、そこも綺麗に並べられた食器に台の上も何一つなくピカピカに輝いていた。

「うわぁ...綺麗過ぎて逆に入りたくないわ。何か、入ったらいけない気分になるわ。」

あまりの綺麗さに遂には軽く引く裕兎。

そんな中、少し先の方から煙の出ている部屋があった為気になり早足となる。

いざ着いて見ると男湯と女湯と書かれた部屋がそれぞれあった。

そして、煙は女湯から出ているのである。

(...なん...だと...!?まさか朝風呂をしているとは!?夜勤だったメイド達か。これはどうするべきか!?男として見るべきか!確かに俺の特性を使えば消えることくらい容易い!しかし!それを見抜く特性を持っている人も居るかもしれない!回復(ヒーラー)のみとは限らないからな!どうする...!)

時間もあまり無いことを考慮し、全神経を使って考えを張り巡らし葛藤する裕兎。

すると、不意にガチャッとドアノブが捻られた。

(なっ...ヤバイ!このままだと見つかる!飛蝗(カヴァレッタ)ァァ!!!)

ドアノブが捻られる、そんな何点何秒という短い時間の間に気づけば裕兎は、そこから数メートルも先に移動していた。

ドアが開かれる頃には平然と歩いていく裕兎。

顔をひょこっと出したメイドの女性は辺りを見渡すと首を傾げる。

「あれ?さっきまで人の気配感じたのになぁ...。まぁ、いっか。」

あまり気にすること無く風呂へと戻っていく。

逆に裕兎は心臓の鼓動をこれまでにないくらい強く鳴らしていた。

(あっぶねぇ!殺されるかと思った。)

裕兎は、移動するときにドアが開けばぶつかりバレると考え天井に飛び上がり、そこから今の地点まで飛んだのだ。

起きて早々疲れていると背中から焦げの臭いと共に熱を感じ、裕兎は驚きながら確認すると、なんと洋服が燃えていたのだ。

どうやら、天井に焦って飛び上がったことによりロウソクが洋服に燃え移ったようだ。

「な...やべぇ!熱い!早く消さねぇと!」

焦ることにより上手く消せず、それにより更に焦り、それが原因で更に上手く消せず、と悪循環が続いていく。

「うぎゃゃゃゃーー!!!!!」

消すのが間に合わず、廊下には裕兎の叫び声が響いていった。

 

* * *

「はぁ...はぁ...はぁ...。部屋からここまで近くはないが遠い訳でもないのに...死にかけた...。」

洋服は部分部分焦げ穴があき、顔や身体は少し黒ずんでいた。

荒らげた呼吸を整えるとドアをノックする。

コンコン。

「いいよ。」

ドアの向こうからレンの声が聞こえ、ドアを開け入る。

ガチャッ。

ドアの向こうには椅子に座っているレンがいた。

だが、俺が入ると立ち上がりこちらへと向かってくる。

「大丈夫?怪我は治ったと思うけど...。」

振り返ってそう言うレンの言葉は次第に小さくなっていき、それと同時ににこやかな顔だったのが驚愕な表情へと変わっていく。

「ほんとに大丈夫!?何か黒いけど!」

「 あー...うん。大丈夫だ。というか、気にしないでくれ...。」

最期の方はあまりに小さな声で聞こえていなさそうな声でボソボソと言った。

「そっか。まぁ、無事ならそれで良かった。」

レンは安堵し、笑顔を向ける。

(眩しい!眩しすぎるッ!その笑顔!)

自分を心配してくれるレンに罪悪感を感じる裕兎。

「少しやり過ぎたようでごめんね。」

レンはバツが悪そうに頬を掻く。

「少しは厳しくしてくれた方が実力向上にはいいと思うから、俺はあれくらいがいいと思う。」

(ほんとだよ?べ...べつに恨んでなんかないんだからね。

.....うん、このセリフはツンデレとあってない気がするな...。はい、分かってました...。)

しかし、レンの隣にいたミカはポスッとレンの頭を叩く。

「確かにやり過ぎかしらね。真面目に取り組むのは構わないのだけれど、手加減というものもあるでしょう。レン、あなたは四騎帝という自覚を早く持ちなさい。」

「あ...あぁ。確かにそうだね。悪かった。でも、俺は練習相手が務まるように気合いを...ね...。」

次第に声が小さくなっていくレンに対して全く容赦なく追撃を与える。

「それで、死んでしまっては元も子もないのでは無いのかしら。それとも、あなたにはそんなことも分からないのかしら。流石に分かると思っていたのだけれど、私の買い被りかしら。」

(あー...怒ったら毒舌になるタイプね...。怖いわぁ...。怖いなぁ...。)

そんなレンとミカのやり取りを止めに入るか入らないか迷っている。

(だって、怖いんだもの!テヘペロ☆)

裕兎が迷っている間もレンとミカは止まる気配は無かった。

「いや、そこまで言わなくとも...。分かってはいたんだけど、いざやってみると集中しちゃってね...。」

「だから、何なのかしら。集中しなければいいだけの話じゃない。何でそんなことも出来ないのかしら。」

次第に沈んでいくレンの顔。

(やめて!仲良くして!)

見てるこっちもキツいわ、と裕兎は目を背ける。

沈んだレンに対してミカはこめかみを抑えため息を吐く。

「私はローズの手伝いをしてくるわ。失礼します。」

そう言うと力強くドアを閉めていった。

しばらく続く重苦しい沈黙。

(やだなぁ...。気まづいなぁ...。つらいなぁ...。)

何か言葉をかけるべきかと悩んでいると、暗い表情のままレンは顔を上げる。

「実は裕兎にちょっとした仕事を与えようかと思ってたんだけどね...別に急ぎじゃないから明日でもいいかな?.....今はちょっとキツイから...。」

悲愴なオーラをただ寄せるレンに裕兎は、ただうんとしか答えれ無かった。

(南無阿弥陀仏.....。それにしても仕事ってなんだろうなぁ 。)

どんまい、という意味を込めて唱える裕兎。

そこへレンの呟きが聞こえる。

「あぁー...どうしよう。何て言って仲直りしようかなぁ...。今日中に仲直りしに来ないときっちり24時に浮気してるんじゃないかと問い詰めに来るからなぁ...。前にも一回だけあったなぁ...。あれは...辛かったなぁ...。」

(えっ何それ...。こっわ...!ミカ、こっわ...。見た目と反しすぎだろ...。新手のヤンデレ...?)

これ以上ここにいたら鬱になりかねない、と裕兎はそそくさと逃げることにした。

「じゃ...じゃあ、俺、今日も疲れたから休んでくるわ。....じゃ。」

手短に伝えると足早に部屋を後にした。

はぁ...とため息を吐き、廊下を歩いていると中庭の方で花の手入れをしながら愚痴を零すミカに、仕事しながらも呆れながら話を聞くローズがいた。

(第二被害者まで現れたか...。)

これ以上被害者を増やすまい(自分が第三被害者とならないように)とする為にそそくさと自分の部屋へと戻っていった。

ドアを開けると、そこは朝まで自分が寝ていたベットに何も置かれていない本棚、机の上に置かれた花の入った花瓶があった。

よく見ると中々に広い部屋だ。

ベットに腰をかけると、まだ明るい空を窓から見上げる。

(今から寝るにしても早いしな。何するかなぁ...。)

うーんと唸っていると、ふとレンに負けたことを思い出す。

「久しぶりに鍛える、かなぁ。レンにはボロ負けだったしなぁ。...あとは、俺が今まで集めてきた生物学の内容に生物一覧表を見てバリエーションでも増やすか。」

そうと決まれば、とベットから勢いよく立ち上がるとトレーニングに向きそうな環境の元へと向かう。

 

 

* * *

「よし、始めるか。」

そこは木々が立ち並ぶ林の中だった。

陽の光は微かにしか入ってこず、ほとんど陰。

その為か空気はヒンヤリとしており涼しい環境下だ。

ここはレンの屋敷から少し離れたところにある場所。

そこで裕兎は屈伸をし落ち着く為に深く息を吐く。

「ふぅー...。飛蝗(カヴァレッタ)。」

すると、裕兎の足が膝辺りから足先まで緑も茶色の入り混じったクリスタルのような鎧を纏った。

「あの木、スタートにするか。」

そこから高らかに飛び上がると木の幹まで飛び、更にそこを強く蹴り飛ぶ。

そうやって次は木の茎の部分に足を着地させ、また飛びまた木に乗り移り飛ぶ、を繰り返しまるで忍者のように木々の間を自由自在に飛び回る。

(これで、飛蝗(カヴァレッタ)を使いこなす練習+体力、脚力向上の筋トレをしばらくするか。)

次第に速くなる速度に気を抜くとぶつかりそうになる為、ひたすら目を動かし集中し続ける。

「それにしても、涼しくて気持ちいいなぁ!これ!」

宙を自由に飛び回るという初体験。そして、全身に感じる風。裕兎はテンションが上がり特性を堪能する。

それから約2時間は経っただろうか。

徐々に加速していく裕兎の速度は風を切る速度で飛び回っていた。

そんな裕兎の蹴りを耐える木々はバキバキとたまに音を鳴らせては揺れ葉を散らす。

しかし、そんな裕兎にも限界がきていた。

木に着地をし足を踏ん張る度に膝が揺れ、体力も残り乏しく呼吸を荒らげている。

「.....そろ...そろ...終わり..に、する....か!」

最後に一気に空気を吸い上げて残りの力を振り絞り目の前の木の根本付近まで飛ぶ。

更に空中で身体を捻り回転力を付けた。

そして、地面に着地すると共に木に一発蹴りを入れ切断した。

バキッバキッと音を響かせ、葉をざわめきさせながら倒れていく。

地面に着地した瞬間、裕兎は膝と手を地面に着ける。

「かっ!はぁ...はぁ...。すげぇ...汗かいたな。あーキツいわ!」

胸の奥がヒューヒューと鳴っている中、呼吸を整えようと深呼吸を何回も行い、次第に汗が引いていくと仰向けになり地面の上を横たわる。

「疲れたなぁ...。まだする予定だったけど、今日はもう帰るかぁ。寝る前に腹筋、腕立てすればいいし。」

しばらくゆっくりし呼吸が整うとよっこらせ、と立ち上がりのんびりと歩いてレンの屋敷へと戻っていく。

 

 

* * *

バタンッ。

布団の上へ倒れ込む裕兎。

仰向けの状態でスマホを弄り出す。

その画面には生物一覧表と書かれ、その下にはオニヤンマやフタボシコオロギ、クロカタゾウムシ、ミイデラゴミムシなどの数多くの生物が載っていた。

「やっぱ、昆虫とか動物の図鑑とか見てて勉強なるし面白いなぁ。すぐ、飽きるけど...。」

それからしばらくひたすら、スマホに保存した動物、昆虫を生物学を引っ張り出し勉強する。

すると、いつの間にか寝ていたのだろうか。ミカのドアをノックする音で目が覚める。

「ご飯の用意が出来たのだけれど。起きているかしら?起きているなら食堂へ来てくれると助かるわ。」

「ん?あぁー分かった。ありがとう。...ふぁーあ。」

寝ぼけながらも何とか状況判断をし、起き上がる。

欠伸をすると背伸びをし電源が付けっぱなしとなっているスマホに気づく。

「あっ電源付けっぱだったか。太陽光パネル式充電器は確か机の上で陽に当ててたような....。あっあった。」

スマホを片手に辺りを見渡すと太陽光パネル式充電器を見つけカチッとはめる。

「それにしても、この世界Wi-Fiとかないからなぁ...。そこら辺も早めに作らねぇとなぁ。」

どうしたものか、と頭をがしがし掻く。

「あっそだ。ご飯出来てるんだっけな。早く行かねぇとミカ怖いからなぁ。」

昼間の出来事を思い出し慌てて部屋から飛び出し食堂へと向かう裕兎。

食堂へと着くと、既にミカとレンは大きな机の席に着いていた。

いつものようにほんわかな雰囲気を漂わせて。

どうやら仲直りは無事に出来たようだ。

良かった、と安堵し裕兎も席に着く。

「こんばんは。裕兎。」

「こんばんは。」

ミカもレンも完全にいつも通りのテンションに戻っていた。

裕兎は思わず笑顔になる。

「こんばんは。レン、ミカ。」

「あっ裕兎。明日の朝に任務の件を話すってのは覚えているかな?」

「覚えてる。大丈夫だ。」

「なら良かった。」

心配だったのか表情を見て分かるくらいわかりやすく安心そうな表情をした。

「今日はしっかり休めたかしら?」

「あっ確か出掛けて無かったかな?」

「あっちょっと林の方でトレーニングを...。」

「休めるときはしっかり休むものよ。」

「そうだよ。休まないとね。」

「そうだなぁ。今度からそうするか。」

こんなたわいの無い会話をし有意義な時間を過ごした。

ご飯も食べ終わりある程度話し込むと、外はもう真っ暗なことに気づくミカ。

「もうこんな時間ね。そろそろ皆寝る頃かしらね。」

「そうだね。裕兎も疲れてそうだしね。」

裕兎の顔がやつれているのか、裕兎の顔を見てレンはそう言った。

「うーん、確かに疲れてる、かなぁ。」

「そうね。死んだ魚のような目をしているわ。」

「そこまで!?」

「じゃあ、今日はもうお開きだね。」

レンがそう言うとミカも立ち上がり、それに続いて裕兎も立ち上がる。

「じゃあ、私はもう寝るわ。おやすみ。」

「俺ももう眠いから寝るね。おやすみ。」

「おう。おやすみ。」

ミカとレンはそう告げると自分の部屋へと戻っていく。

裕兎は窓から見える輝く月とその周りにある煌びやかな星々を見て一息つくと

「俺も風呂入ってさっさと寝るか。」

と部屋を目指してのんびりと歩き、裕兎の姿は次第に闇の中へと呑み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

3話.......終




今までは話の流れが少し速かった気がするため、これからはゆっくり進めていこうと思います(^ν^)


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第4話 *力自慢の大男*

今回は投稿が遅くなることが無かったので良かったです笑( * ˊᵕˋ )
これからも週一のペースをキープしていきたいです笑笑( *´꒳`* )


パタパタパタと鳥が飛び立つ音で目を覚ます。

昨日はあまり忙しいことが無く、のんびりと過ごしていたからか昼に起きることが無く朝に起きることが出来た。

「ふぁ〜ぁ。よく寝たなぁ...。」

軽く欠伸をしてからレンのところに向かうため身支度を始める。

いつも寝巻きに使っているジャージを脱ぐと引き出しを開けた。

そこには、レンから譲り受けた衣類がたくさん入っている。

(昨日レンが連絡事項があるから来てくれ、とのことだったが一体なんだろうか?)

そう思いつつ裕兎は適当に一番上にあった衣類を手に取ると、それを着る。黒に灰色の縦ラインが入ったワイシャツに上から青色の燕尾服のような物を着る。その燕尾服の内側は黒色に白い茨の模様があった。

ズボンは灰色のものだった。

(それにしても慣れない生活のせいか、ちょっと寝足りないな...。)

自分の部屋を出て廊下へ出ていくとレンの部屋へと向かった。

裕兎は眠たそうに目を擦りながら歩く。

なんとなく窓から外の自然をぼぉーっと見ているとふと思いつく。

(そういえば、蕎麦って穀物のソバの実から出来てるんだよなぁ。久しぶりに食べたいなぁ...。蕎麦。)

ギュルギュルとお腹を空かせ、ため息を吐く。

自然と低くなった視線を再び上げると、とある部屋から煙が出ていた。

「今日は通り過ぎるぞ...。うん!通り過ぎる!」

しかし、それでもチラッチラっと目を泳がせ気になってしまう裕兎。

「はぁ...。何か安全に覗く方法ないかなぁ...。」

うーん、と顎に指を添えながら瞑目する。

そうして数秒裕兎は閃きカッと目を見開く。

「そうだぅあっとぉぉぉ!!」

目を開くと丁度目の前にロウソクがあり、裕兎はギリギリのところで背を反り、クルッとターンし避ける。

「あ...あっぶねぇー...。」

はぁ、はぁ、と呼吸を荒げ少しずつ息を整えていく。

「携帯で撮れば良くないか!?...にしても、ある台数は俺の一台のみ!あぁーリスク高ぇなぁ。」

眠気で頭が働かないながらも、またもや閃いた。

「あっそだ!携帯を作ろう!...にはパソコンが必要かぁ。あと携帯は需要度高いから回線も使っていきたいなぁ。うーん...、まぁ、今は眠いし後々考えるか。」

欠伸をしながら疲れたなぁ、とのそのそ歩いているといつの間にかレンの部屋に着く。

そしてドアをノックした。

コンコン。

「入るよー。」

「うん。構わないよ。」

ドアの向こうから爽やかな優しげな声が聞こえた。

裕兎はドアを開け部屋へ入ると再び声が飛んでくる。凛とした声と共に。

「おはよう。早かったね。」

「おはよう。今日は朝早いのね。」

どうやら、声の主はレンとミカだったようだ。

裕兎はレンの爽やかな笑顔やミカの微笑みに迎えられた。

「ん?あー...うん。おはよう」

相変わらず眠たそうにして挨拶を返す裕兎。

「眠たそうだね。朝早かったかな?」

レンは少し申し訳無さそうに頬を掻いていた。

(あれ...?俺ってこんなに朝弱かったっけ?まぁ、疲れや慣れない生活が原因なんだろう...。)

「一体何をしていたのかしら?まぁ、夜な夜なすることといえば予想つくのだけれど。」

「いや、大丈夫だ。問題ない。って、ん!?ちょっとミカさん?俺がそんなことしてると思います?」

予想外の言葉に苦笑いしながらも否定を試みるが、ミカは未だに軽蔑の目を向ける。

レンに関しては普通に笑顔で受け入れていた。

「まぁ、年頃の男の子だもんね。」

しかし、ミカは二人の反応を見てフッと勝ち誇るように嘲笑う。

「レンも裕兎も何を言っているのかしら?私は何の本を読んでいるのかしら、と思っただけよ。汚らわしい。」

「えっそうなの!?」

「ハメられたぁー!!」

二人して頭を抱える中、ミカは出し抜けたことに満足したようで今までで見たことがないような明るい笑顔をしていた。

「そんなことより、裕兎に連絡事項があったんじゃないのかしら。」

気合いを入れ気持ちを切り替えると裕兎はしっかり聞こうと耳を傾ける。

「あぁ、連絡というのはね、王都の方から遠征を頼まれてね。俺はミカと一緒に行ってその間の警備は屋敷の者達に任せようかと思うけど裕兎はどうする?」

「遠征かぁ...。興味はあるな。」

「そう?なら、分かったよ。なら裕兎も幹部なんだし仲間の1人は必要だろう。皆が特性持ってる訳じゃないから難しいだろうけど、街で特性持ちの人見つけたりしたら勧誘したらいいと思うよ。」

(なるほど。仲間かぁ。)

いいな、それ。と目を輝かす裕兎。

「分かった。遠征はいつ行くんだ?」

兵の準備などの遠征の準備で時間は結構かかるだろうし1ヵ月といったところだろうか、と考えていたが

「予定通り行けば1週間後、遅くても最悪2週間後...かな。」

案外早かった。あまりの驚きにきょとんとするレベルだ。

しかし、裕兎はまぁ、いっか。早いに越したことはない、と気持ちを切り替えて胸を張った。

「なら、それまでになんとか見つけて見せるか!」

「うん、宜しく頼むよ。」

「じゃあ、善は急げ、だな。もう探しに行ってくるわ。」

ドアへ向くと部屋を出ようと歩み、後ろ向きのまま手をヒラヒラする。

「だね。また後でね。」

今日もまた忙しい日になりそうだな、と大きく息を吸うとゆっくりと吐いていく。

 

* * *

(懐かしいなぁ.....。)

そこは裕兎が転生され、色々と情報収集をしていた街だった。

そこはアルジェと呼ばれる街で、裕兎も前ここで街の名前を数度聞こえることがあった。

まずはどこへ向かおうと考え無しに動き出そうとすると丁度体格のいい男性が通り過ぎた。

(おっ。なんか強そう。特性保持者かもしれないし話しかけてみるか。)

「ねーそこの人。ちょっと時間あるか?」

「ん?なんだ?坊主。」

裕兎はその男性の肩を叩くと男性は振り返った。

更には意外と強面だった。

(近くで見るとよりでかいな...。185?190はありそうだな。)

「あんたって特性持ちだったりするか?」

「あ?いや、持ってねぇけど。坊主は軍人か何かなのか?」

「あーまぁそんなとこだ。ならさー何か特性持ってるやつとか、持ってそうだなぁ、強そうだなぁって人知らねぇ?」

すると、男性はうーんと別の方向を見て考える素振りをする。

「あーそういえば、南の街アムステルダムにいる鍛冶屋に1人だけ2mはある身長に図太い体格をしたとてつもなく力の強い男がいると聞いたぞ?」

そう言うと、その方向へ指を指した。

「とてつもなく力の強いって特性持ってそうなほど?」

「あぁ。俺は噂を聞いただけでほんとかどうかは知らんがな。」

少し困り果てたように男性は言う。

(まぁ、可能性はあるな。行ってみるかなぁ…。)

「あっそういえばさ、アムステルダムが南の街として、ここアルジェはどこの街?」

アムステルダムを向かう前に自分のいる方角の街を知ろうと聞いてみたが、なっ!?と男性から驚かれる。

(まぁ、そうなるよな...。レンに聞いとけば良かったなぁ。)

色々説明して誤魔化すの面倒くさそうだなぁ、と考えていたが男性はすぐに驚きの表情がさっきまでの表情に戻り教えてくれた。いや、地味に何で知らねぇんだよ。こいつ馬鹿か?みたいな顔をしてやがる。

「アルジェは東だよ。」

「あーそっか、そうだったなぁ。じゃ俺はその鍛冶屋のところに行ってみるわ。」

アルジェの位置する方角を思い出した風を装い別れを告げる。

「じゃあ、俺急いでるから。」

「おう。じゃあな。あと、坊主!自分の街くらい知っとけよ。」

笑いながら手を振ってくれる強面男性に案外優しいんだな、と安堵しつつ裕兎はアムステルダムへ急ぐ。

その道中人に会う度とりあえず、聞いてみる裕兎であったがあまり成果は見受けられなかった。

結構な時間を経て住宅街を抜けるとアムステルダムへ続く道へと出ることが出来た。しかし、その道のりは長く軽く疲れ始めていた。

「案外遠いなぁ…。これ多分特性使った方が早いやろし疲れない、かな。よし!使うか。」

一体何を使おうかなぁと考えていると飛んでみたいな、とふと思った裕兎は飛行系の生き物題材に再び考え始める。

(うーん、飛んでいったら気持ちいいやろうけど変態する生き物によっては結構疲れるからなぁ.....。)

うーんと唸っていると、そういえばと思い出す。

「トンボは低燃費でメッチャエコな飛行をしてるんじゃ無かったっけ?うーん、まぁ、とりあえずトンボで行ってみるか。」

(トンボといえばオニヤンマ、かなぁ。)

トンボの種類でパッと思いついたものに決めると颯爽特性を発動する。

「鬼蜻蜓"(アノトガステルシエボルディー)。」

バサッと背中から4枚の羽根が生えた。その羽根は一見普通のトンボの羽根のように見えるが外骨格みたいな枠ぶちのようなところが緑色のクリスタルとなり刺々しく。身体は、胸から腕にかけて黄色と黒色の鎧を纏い目の色が黒から緑色へと変わる。

「うおぉ!カッコイイな、これ。あっとりあえず、羽根を使いこなせるか確認しないとな。」

羽根を振動させ徐々に早くしていくと身体が浮き始める。

そのことに感動しながらもそのまま上昇して横に動いたり下降したりし軽く練習を始めることにした。

「まだ少し遅いけど飛べたから良しとするか。それにしても凄いなぁ。」

飛べたことの優越感に浸りしばらくそこら辺りを飛び回った。

だが、距離も分からないところを無駄に飛んでると体力が持つか分からないと気づき、先を急ぐことにした。

30分程飛んだだろうか。もしかしたら1時間以上飛んだかもしれない。

表情に疲労の色が見受けられるがなんとか、裕兎は無事にアムステルダムに着くことが出来た。

「ふぅ~結構飛んだなぁ。あー...疲れたぁ。」

特性使用を解除すると羽根と鎧が灰のように粉と化して風に飛ばされた。

(そういえば、タコの足のときもこんな風になったなぁ。どんな原理なんだろ。)

不思議に思い考えていたが、まぁ考えても分からないだろうと思い考えるのを辞める。

「とりあえず、鍛冶屋っぽいところを探して聞いてみるか。」

と思っていたが、アルジェでの聞き込みに時間がかかってしまった為か、外はもう暗くなり初めていた。

鍛冶屋から宿屋に変更し途中で八百屋で買ったりんごを食べながらのんびり探す。

(あっこのリンゴ盗んだ訳じゃないからね。ちゃんと買ったからね。幹部になった祝いで貰った資金だから、レンからの入社祝いだから。これ。)

リンゴを食べ終わりお腹が膨れたところで丁度宿屋らしき建物を見つけた。

「ここだと嬉しいなぁ。早く休んで寝たいわ...。」

ギギッと古い木の軋む音を鳴らしながらドアを開けると、この宿のオーナーらしき男性がコップを拭いていた。

どうやら、この建物は一階が飲み屋、二階が宿屋となっているようだ。

「いらっしゃい。」

接客が得意そうに見えなく無愛想だった。

「一日泊めて欲しいんだけど。」

「でしたら、こちらの紙に名前をお書き下さい。」

「ここってさ、ご飯付きだったりする?いやぁ、お腹空いちゃってさぁ。」

あはは、と軽く笑いながらもスラスラと紙に記入事項を書いていく。

「付きも可能ですよ。ですが、その代わり代金が上がってしまいますが宜しいですか?」

「ほぅ。いくらだ?」

「金貨3枚です。」

(確か銀貨10枚で金貨1枚分だったよな。うーん、ちょっと高いがいっか。)

仕方ない、と割り切り小包みから金貨を3枚出すと店主に渡す。

それを確認すると店主は後ろで並べられている鍵を一つ取ると裕兎に渡す。

「部屋は006号室となります。あとでご飯の方も運び致します。」

「分かった。」

渡された鍵を受け取ると裕兎は二階へと登っていく。

一号ずつ部屋番号を確認していくと自分の部屋を見つけ、ガチャっと鍵を開けると入っていく。

中は簡素的な部屋で特に何もなく、ただベットと椅子と小さめなテーブルがあるくらいだ。

あまり汚くなく、綺麗に整理されていた。

裕兎はふぅー、とため息を深々と吐くとベットに倒れ込み突っ伏す。

「ベットはやっぱ気持ちいいなぁ。」

満足そうにベットをコロコロ転がっていると、不意にドンドンとドアが叩かれた。

急な音にビクッとビクつかせていたが、ドアを開けると店主がお盆を手に立っており安心する。

「こちらが今日の夜食となります。ごゆっくり。」

何かを挟んだパンを乗せた皿を裕兎に渡すと店主は軽く会釈をし戻っていく。

受け取ったパンをテーブルの上に乗せると裕兎も椅子に座り再びパンを見直す。

どうやら、パンに挟まれているものはハンバーグもしくはステーキのようだ。

「サンドイッチというより、ハンバーガーだな...。」

フッと笑いながらハムッと一噛みすると、肉汁が口の中いっぱいに広がり予想を超える美味さだった。

あっという間にハンバーガーを二つ食べ終わると、ん〜と背伸びをし再びベットへ飛び込んだ。

お腹が満たされたせいか、裕兎の視界は次第に暗くなっていき虚ろな目となっていく。

そのままいつの間にか眠ってしまった。

 

* * *

営業時間になり店が開かれたのか人々の喧騒により裕兎は目を覚ました。

「あー、いつの間にか寝てたわ。」

昨日は早めに寝た為、裕兎はすぐ頭が冴えることができた。

乱れた布団を畳み直し綺麗に並べていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。

なんだろう、とドアを開けると昨日と同じように店主が立っていた。

今日はおにぎりと唐揚げのようだ。

昨日のように無愛想な表情のまま裕兎に手渡すとサッと去っていく。

そんな後ろ姿を見送っていると階段を下りていき見えなくなった為、ドアを締めご飯を食べ始めた。

食べ終わると片付けと身支度を始め宿屋を出ていった。

それからしばらく歩いて鍛冶屋探しを始める。

辺りは住宅街らしく家が多く立ち並んでいた。

そんな中から鍛冶屋混じってないかなぁ、と辺りをクルクル見渡すこと数分。

すると、案外早い内に見つけることができた。

そこはそこら中にある家から少し離れたところにある建物だが、家よりも圧倒的に大きいその建物は存在感があり遠くからでも簡単に見つけられた。

「あっここっぽいな。見るからに工場的な感じの建物だしな。行ってくるか。」

ドアを軽くノックし開け中に入る。

そこでは数十人の人がカーン、カーンと色んなものを作っていた。

「あのーすみませーん。誰か暇ある人いませんかー?」

すると近くにいた女性の方がこちらに向かってくる。

騒がしい中、自分の声がちゃんと通って良かったと安堵する裕兎。

「どうしたの?君。」

「いやぁ、この街に力がとてつもなく強い男性がいると聞いて会ってみたいなぁって思って。知りませんかぁ?」

その女性はどうやら知っていたようで別段困ることなく笑顔で言う。

「あーガリア・カエサルさんのことですかね。あの人でしたら今日は鍛冶屋の仕事じゃなくて大工の仕事してますのでここから3キロ程いったところの山で木を刈ってると思いますよ?」

鍛冶屋だけでなく大工もやるとか働き者だなぁと、裕兎は感心する。

「じゃあ、そこ向かってみるか。わざわざお忙しい中ありがとうね。」

人懐っこそうな笑顔を浮かべお礼を言うと裕兎は工場を出ていく。

その女性は裕兎が見えなくなるまで笑顔で手を振っていた。

そんな女性を見て裕兎はドアを閉める前にももう1度微笑みかけドアを閉めた。

それから山の方向を確認すると鬼蜻蜓(アノトガステルシエボルディー)を使い空高く舞い上がると瞬時に飛び去った。

それからしばらく飛び進めると山付近に着いたが。

「着いたはいいけど、結構広いなぁ...。どうやって探すかなぁ。」

しばらく森林の上空を飛び周りながら考えていると数km先らへんに木々が倒れる音がする。

そして、ドスンという音と共に鳥達がさえずりながら飛び立っていた。

「ん?あそこか?とりあえず、行ってみるか!」

音がした方向に向かうため羽を上手く翻すと速度を減速しクルッとバク転をする要領で回転すると方向を変え飛び去る。

しばらく飛び回り辺りを見渡すと人影がチラっと木と木の間から見つけ出すことができた。

しかし、木々の影によりその人物までは見据えることは出来ずにいた。

バサッバサッ!と力強く羽ばたき、少しずつ地面に近づきゆっくり降りる。

「お前がガリア・カエサル、か?」

その男は俺の声に気づくとゆっくりを振り返る。その表情には怪訝な顔色が伺えた。

「そうじゃが。何ようじゃ?」

カエサルは50~60代の高年齢のようだ。白い髪に前髪が軽く残されオールバックといった髪型となっていた。身長は聞いた通り高かったが、体格の図太さは予想を軽く超えていた。例えば、殴ってもこちらの腕が痛くなりそうだと錯覚してしまうほどの丈夫そうな筋肉だった。そのためかまだ全然老人には見えなかった。

(うわぁ、でけぇ...。ってか、コイツの迫力のせいで存在感薄れてるけど何その大きい斧。重そうだなぁ...。それにその斧中世の兵とかが持ってそうな斧っぽいんだけど、大工感全くねぇ...。メッチャ兵士っぽいじゃん。)

少し迫力に気圧され気味だったが落ち着きを取り戻しカエサルの問いに応える裕兎。

「俺は嵐鬼 裕兎といって軍人だ。だけど、なったばかりでな。仲間になって欲しいんだけど。カエサルは特性持ちだったりするのか?」

「うむ。確かに"増力"(フェアメールング)という特性を持っておるが、わしは自分より弱い奴につく気はないんじゃがのぅ。お主は強いんかのぉ。足を引っ張られ死にとーないし、給料もそれなりに出ないとなぁ。」

「給料はそれなりに出すが...実力、かぁ。どちらが強いかは分からない、が一試合やってみるか?」

(いくら体格がいいとしてもこっちは人間を超えるほどの力倍増が可能な訳だし勝てるだろう。)

そう踏んで勝負を仕掛けた裕兎だが、それに対してカエサルは

「よかろう。」

余裕の笑みで勝負を受ける。

裕兎は指の骨をポキポキと鳴らすとカエサルをしっかりと見据える。その目は先ほどとは打って変わりとてつもなく真剣な眼差しだった。

カエサルもそれに呼応するかのように下に下げていた斧をブンッブンッ!と勢い良く回転させると肩にドスン、と乗せ戦闘態勢を取る。

「"飛蝗" (カヴァレッタ)!」

「"限界点" (リミットフェアー)!」

互いに戦う準備ができ今勝負が始まろうとしていた!

 

 

 

 

 

 

第4話.......終




戦闘シーン書くつもりでしたが、カエサルに会うまでの過程が予想以上に長くなってしまい次回作となってしまいました(´д⊂)


龍弥/ライダーさんお気に入り登録ありがとうございます(♡´艸`)


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第5話 *時には噂は盛られない*

今回は早めに完成されることが出来たので良かったです( *´꒳`* )
今週中にあと1話完成出来たらいいな、と思っています笑


裕兎は地面を思いっきり踏み込みカエサルとの距離を一気に詰める。

あまりに一瞬のことで驚いたのかカエサルの眉がピクッと反応していた。

その勢いのままカエサルの腹部目掛けて弧を描きながら横から一発蹴りを入れる。

地面が抉れ、土が崩れることで木々がぶっ倒れる程の力がカエサルに加わる。

それは、考えただけでも鳥肌が立つようなことの筈...なのだが...。

カエサルは後ろに少し飛ばされるくらいで、特に何も感じでいない様子だった。

「フンッ!まだまだじゃな。鍛え方が足りんのじゃ!わしが本物の力というものを見せてやろうかのぅ!」

全く効いていないのだろうか、カエサルは余裕な表情を浮かべると、裕兎の元へ一蹴りで距離を詰め腕を真っ直ぐ上に伸ばしそのまま斧を振り下ろす。

もの凄い音と共に目を疑うほどのことが起こった。なんと斧の柄まで深々と地面にめり込み山が真っ二つとまではいかなくとも、相当な深さそして遠い距離まで割れていたのだ。

裕兎は咄嗟に身体をそり辛うじて交わすが、その光景を見た瞬間、顔を青ざめ、これが当たってたら...と想像して鳥肌をたてていた。

「し...死ぬかと思った...!!」

「まさか避けられるとはのぅ。反射神経だけなら認めてやるかいのぅ。」

めり込んだ斧を軽々と上に持ち上げ斧の背で裕兎を襲う。

しかし、それもまた裕兎は上に飛び上がると地面に手をつきバク転をして避ける。

(あっぶねー!!振っただけでこの風とかエグ過ぎるだろ...!?)

奇跡的に避けれたことに感動しながらも足をガタガタさせていた。

すると、カエサルは左側にあった近くの木を左手でガシッと掴むとそれを握力で握り、むしり取る。

「えっ...何で、んなことを平然とやってんの...?...同じ人間だよな...?」

バキッ!と音を響かせると、木を投げ飛ばした。

60キロ以上はあるような大木がカエサルの手元から消えたかと思った時ドスンという重みを感じそのまま飛ばされる。腹部に直撃し激痛に襲われていると後ろにある木と飛ばされた木で挟まれ押しつぶされる。

「ぐっはぁ!!...は!吐きそう...!だぁ...!」

そのまま地面に落ちると膝をつき血を吐いた。骨と内蔵が一部潰れたらしい。

どうやらカエサルの"限界点"(リミットフェアー)は身体能力を最大まで高める技のようだ。

口端から垂れた血を腕で拭うと立ち上がる。が、そこには余裕な表情は伺えない。余裕どころか顔色が悪いレベルだ。

痛みを紛らわす為か深く深呼吸をするとカエサルをキッと見据えた。

「ふぅー。流石に簡単にはいかないか...。」

(ってか!大木を握り潰すだけじゃなく、投げ飛ばしてもくんのかよ!?...しかも、速ぇし!)

「裕兎とやらは、随分と脆い男なのじゃな。ガッカリじゃのぅ。」

既に勝っていると見据えているような眼差しで裕兎の元へ向かってくるカエサル。その顔には余裕しか感じられない。

そんな中、裕兎は次にどのように行くか考えているとカエサルが斧を片手に加速する。

「そういや、ここには木が沢山あるしあれが出来そうだな。」

何かを思いついたのか裕兎はニッと笑う。

「"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)!よし、これで相手の動きがある程度読めるしコオロギの持つ脚力も使える。」

(だが、バッタと比べると脚力は劣る...まぁ今は仕方ないな。)

そう思うとさっきの笑みとは対照的に苦々しげな表情を浮かべる。

"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)を使うと脚の膝辺りと前腕筋辺りから指先にかけてクリスタルのような茶色の鎧を纏う。

膝を曲げ狙いを定めると脚に力を込めカエサルの付近の木まで飛ぶ裕兎。

流石に、二度目の高速移動ではカエサルは驚くことは無かったが止められることもなく、狙った場所に移動することが出来た。木は大きく反れ葉はざわめき落ちていく。

「よし!あとは、踏み外さないように気をつければ完璧だな!」

休む暇もなく木から木へとカエサルの上を飛び回る。それと同時に木に飛び移るときに生じる脚への負担が踏ん張りに繋がり速度が徐々に上がっていく。その結果、ほとんど姿が見えなくなり、あちらこちらで木々が揺れざわめいていく。

「ほう、速いのぅ。じゃが、まだギリ目で追えるのぅ。」

カエサルは感心していたが確かに裕兎を捉えていた。

だが、

「そんなもんは想定内済みだ。だからこそ"飛蝗"(カヴァレッタ) ではなく. "二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン) だ。」

裕兎はそんなこと想定済みだったようだ。

そして、裕兎はカエサルの方へ飛び勢いをのせたまま蹴りまたは尖った指先で傷を付けまた木へ飛ぶ。その一連の流れの動きを高速で行っていく。

その動きはまるで忍者のようだった。

あまりに素早いせいかカエサルの周りでは軽く砂ぼこりが巻き起こっていた。

カエサルは休む暇もなく脚、腹部、胸部、背中と色々なところを蹴られ引っ掻きまわされる状態となる。

だが、それでも全く見えない訳ではない。

「ちまちまと鬱陶しいのぅ!邪魔じゃぁァァァァァ!!」

カエサルは裕兎を視認し、来るタイミングに合わせて斧を横一直線に振る。

「当たんねぇよ!」

しかし、裕兎はそれを読み避けていた。

何故なら"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)は自身を纏っている鎧のお陰で空気などの粒子レベルの動きすらも感じ取ることができ、その影響での空間把握能力に長けているからだ。

故に相手の動きが読める。だが、動きの速度までは読めないみたいだ。その為、裕兎は来ると察知出来ていたとしても目で見てタイミングを合わせることでギリギリ避けていたのだ。

(効いてはいそうだが、この方法も長くは持たなそうだな。いつまで持つか...?)

しばらくの間カエサルは裕兎の来るタイミングに合わせて斧を振っては交わされ蹴られる、が続く。

「くっ!!しかし、これは中々に効くのぅ...。」

どうやらカエサルも効いてきているらしく、顔を顰めていた。

「今ここで倒す!」

「さて、そろそろどうにかしないといけないのぅ。どうしたもんかのぅ。」

裕兎がこのまま押し切ろうとしていたとき...。

「"筋肉硬化"(ミュスクルローシス)!」

カエサルの身体に血管が浮き出る。そのことに気づいていない裕兎は、上からカエサルの元まで勢いをつけて飛んできており、そのまま身体を捻り回転しカエサルの肩へ思いっきり蹴りを入れた。すると、カエサルにダメージがあるどころか裕兎の脚の骨が折れてしまった。どうやら、カエサルは全身に力を込め身体を硬くしたようだった。

裕兎は地面に落ち脛を抑え悶える。

「う...うぐぁ...!!!」

「ん?折れたんかのぅ?そろそろ諦めたらどうじゃ?」

勘づいたカエサルは落ち着いた声音で諭すように言った。

「こんなに強い奴を...諦められる...かよ!」

そう言い放つ裕兎にカエサルは少し残念そうにする。

「なら、殺す気で行くんじゃが?」

「あぁ、俺もそのつもりだ。本気でいく!」

「その状態では、もう勝負がついたようなもんじゃろ?」

裕兎は諦めないと悟ったカエサルは覚悟を決めるかのように斧を握る手に自然と力が入った。

勢いよく斧を高らかに掲げると裕兎の折れていないもう一方の足を狙い真っ直ぐに振り下ろす。

そして、斧の刃が地面にめり込むと同時に裕兎の足が宙を舞っていた。

脚の切り口からは血がドクドクと溢れ出ていた。

「ぐっがぁぁぁ!!はぁ...はぁ..."三井寺芥虫"ァ(ボンバルディア)!」

腕に力を入れると指先が赤黒く手のひらにいくにつれて赤色となり肘辺りになると橙色といった感じの鮮やかなクリスタルのような鎧を纏った。

そして、裕兎はカエサルに手のひらを向ける。

次の瞬間右手から過酸化水素、左手からはヒドロキシンを放出した。

「ぐはっ。な...なんじゃ...!?」

ブシャーッ!と裕兎の手のひらから放出された高温ガスによりカエサルは身体が焼かれる。

更に放出されたガスの勢いによりカエサルは飛ばされ、地面もえぐれることで溝ができ草は熱により焦げている。

カエサルは飛ばされた先にあった木に強くぶつかり倒れていた。

「まさか、まだこんなに戦える...とはのぅ。」

どうやらカエサルは少しは効いたようだったがまだピンピンしていた。

「くっ...!今のうちに治さねぇと!"豹紋蛸"(プワゾンプルプ)。」

痛みを堪えながらも声を絞り出すと切断された脚も骨も急速に修復されていた。

「ふぅーなんとか治ったか。さぁて、結構効いてきたんじゃないか?カエサルはそろそろ倒れたかな?」

「ふん。この程度で倒れるほどわしは老いぼれちゃおらんわ。....そんなことより何故さっき斬った筈の脚が生えておる!?」

あれほどの蹴りを受け更には高温ガスまでも受けたにも関わらず立ち上がったカエサルは、裕兎の治りきった脚を見て驚きを隠せずにいた。立ち上がるカエサルに裕兎も驚く。

「まだ立てるか!?頑丈だなぁ...。まぁ、それが俺の特性だからな。これ以上長引けばまた追い詰められそうだし、今のうちにぱっぱと倒すとするかぁ!」

裕兎はカエサルの近くまで踏み込むとクネクネとしたタコの足でカエサルの手足を素早く絡ませ身動きが取れないようにする。

しかし、それを逃れようとカエサルは抵抗しようと力を入れ始める。

斧を地面に埋め込む程の力を持つカエサル相手に流石に長くは持たないと思った裕兎は

「発勁(ハッケイ)!」

カエサルが力を入れにくくするために一発腹部に打ち込んだ。

「そんなもんわしに通じるわけ.....ない...じゃろ..?」

余裕そうな表情をしていたカエサルが急にゴポッと口から血を吐いた。

「な...なぜ..じゃ....!?」

なぜ自分が血を吐いたのか分からないのか困惑するカエサル。

「俺は今テトロドトキシンという毒を纏っているような状態でな。さぁ、大人しくなって貰おうか。」

自分に優位性が持てたことにより表情が少しばかり涼しくなる裕兎。

だが、それで抑えられる相手では無かった。

「毒がなんじゃと言うんじゃ!こんなものでわしを抑えられると思われるとは甘く見られたもんじゃのぅ!」

カエサルは身体を捻ったり両腕を振り裕兎のタコ足を振り払おうと力を込めた。

そして、裕兎の締め付ける力が緩んだところをつかさず素早く斧振り回した。すると、カエサルの振りほどく力によりバランスを崩した裕兎はいつの間にかタコの足が全て切られ裕兎も軽く肩を切られそこから血が軽く吹き出していた。

「なっ!?...痛ぇ。」

「これで終わりじゃゃ!!」

裕兎が驚いて未だに態勢を立て直せずにいるとカエサルは斧の柄を両手で持ち上に掲げ力を込め裕兎目掛けて振り下ろす。

裕兎は避けようとしたが避けるより速くカエサルの振り下ろす斧の方が早かった。

(くそ!間に合わない!!)

「"黒硬象虫"(デュールウィーヴァル)!」

顔を含め、全身を黒く分厚いクリスタルのような鎧を纏う。

カエサルの斧と裕兎の鎧がぶつかり合うと今までとは比にならないほどの衝撃が起きる。

それはバチッバチッと火花を散らし周りの木々はぶつかった衝撃により起きた風で大きく揺れ葉が舞っていく。

そして、山はカエサルの居るところから山の下の平地まで一直線に真っ二つに切れている。それに続くように周りの土も平地まで流れていき土砂崩れが起こる。

そんなカエサルの攻撃を受けた裕兎は物凄い勢いで飛ばされていた。あらゆる木にぶつかりまくり、ぶつかった木々は裕兎とぶつかった衝撃に耐えきれずバキバキ折れていく。

ドスンドスンと飛ばされた裕兎は平地まで続く地面の割れ目に埋もれていた。死んだかと思われたがピクッと指先を動かしゆっくり顔を上げた。そこからなんとか起き上がろうとした。

だが右腕が無くなっていることに気づく。二頭筋の中間辺りから下が無いのだ。そこからは血が垂れていた。

「ぐ...!なんとか間に合って良かった...。が、切られたのは腕1本ってところか...。まぁ、クロカタゾウムシになれて無ければ死んでただろうな。」

(そう思うと間に合って良かったって思えるな....。)

裕兎はもう1度ヒョウモンダコになると腕を再生させ、右腕の手のひらをグーパーグーパーして状態を確かめると、割れ目から出る。

「よっと。さて、これからどう倒していくかなぁ...。そろそろ俺も体力的に限界が近づいてきたな...。特性の使い過ぎか?」

対策を考えながら、軽く深呼吸をするとフラフラな足取りで裕兎はカエサルの元へと向かっていった。

その頃カエサルは全力を出し切り息を荒らげていた。

「はぁ...はぁ...。あの若造中々やるのぅ...。仲間になってもいいと思えるくらいの実力は認めようかのぅ。じゃが、負ける訳にはいかぬな。わしにもプライドがあるからのぅ。」

どうやらカエサルも限界が近づいているようで膝をついて呼吸を整えていた。

裕兎がカエサルの元へと着くと

「ほぅ、まだ生きておったのか。」

そう言い立ち上がるカエサル。

「まだ立ち上がるのか、と思ったがフラフラじゃねぇーか。」

「お主に言われとうないわ。お主もフラフラではないか。」

互いに疲弊しきった身体に力を入れ向きあう。

裕兎は深く息を吸うとムエタイのような構えを取る。それに続きカエサルも斧をゆっくりと持ち上げる。

「"紋華青龍蝦"(オドントダクティラズ)。」

すると、肩から指先まで緑や青、水色といった色に変わりそれは鮮やかな綺麗なクリスタルのような鎧を纏い、目は黒色から青色へと変わる。

裕兎とカエサルは互いに足を引きずりながら重たい身体を動かした。

「お主の力は認めよう。じゃが、勝つのはわしじゃぁ!!」

カエサルが斧を振り回すが裕兎はモンハナシャコの特徴の一つである視力を使い斧の軌道を読みカエサルの腕を押し軌道を変えたり、しゃがむ、反れるといった風に避けていく。

それでも構わず振り回すカエサル。

カエサルが斧を振る度に木々は切り倒されていく。

互いに倒れてくる木を避けながらひたすら続けることしばらく。

そんな中、裕兎はカエサルの隙を狙いシャコの強力なパンチに更に発勁をのせ一層重くした拳を1発1発確実に当てていく。

カエサルが斧を振り上げれば瞬時に腹部を殴り、振り下ろせば顔を殴る。また脚に斬りかかろうものなら腕を殴り軌道をずらしていた。それでも、カエサルは倒れること無く斧を振り続ける。

「ガハッ...ヒューヒュー...。」

やっとのことでカエサルも少しずつ効いてきたようだった。痣や傷だらけとなり血を垂れ流し、息をする度に喉の奥からヒューヒューと音を鳴らしていた。

だが、裕兎が左手で殴ったときにカエサルに腕を捕まれ力強く握られてしまった。振りほどこうにも振りほどけず、残った右手で何発も殴るが怯むことがなかった。

そして、そのまま裕兎は腕を斧で切断された。

裕兎の左手からは血が垂れ切断面からは熱いと感じるとともに激痛も走った。

しかし、裕兎も負けずと力を込め右手で一発大きく振りかぶってカエサルの顔面に殴りかかろうとする。

それをカエサルは斬りとった裕兎の腕を適当に放り投げると迎え撃つ。

しかし、カエサルが裕兎を斬るよりも早く裕兎の拳が先にカエサルの顔に当たる。

そして、そのままカエサルは飛ばされた。

その間にシャコの再生力を使って左腕を生やそうと力を込める。

「はぁぁぁ!」

なんとか左手を生やすことが出来たが、その一瞬の隙を狙ってカエサルは瞬時に裕兎の元へ来て勢いを乗せたまま、肩ごと腕いっぱいに斧を振り下ろす。

が、裕兎はそれを横へ飛び避け斧を持ってる右腕の肘に思いっきり一発殴り骨を折る。

骨が折れたことにより斧を落とすカエサル。流石に骨が折れるのは効いたのか眉を顰めた。

「うっ...!やるのぅ。じゃが、まだわしは諦めぬ!」

それでも、カエサルは諦めずに左手で殴ろうとしてきたがそれも左手で受け流し裕兎はカエサルの懐へと入り込み、最後の力を振り絞り渾身の一撃をカエサルの胸にぶつけ、そのまま地面へと叩きつけた。

「なぬっ!!」

ドスン!バギバギ!という鈍い音と地割れが起きる音を響かせながらカエサルは地面が凹み、地割れが起きた中心部で埋もれた。

周りの木々は起こった風により葉を散らしながら、今にも折れそうなくらい反る。

「はぁ...はぁ...。倒した..のか...?」

裕兎は警戒しつつしゃがみこみ、カエサルの頬をペシペシと叩き確認してみるとどうやら気を失っているようだった。

「よし!俺の勝ちだな。ふぅー...、今すぐ横になりたいところだが治療するために連れて帰らないと、だな。」

そう思い何の生き物が適策か思案する。

(あっゴマバラワシが適してるかもな。)

「"胡麻腹鷲"(マーシアルアークイラ)。」

大きな翼が生え、羽の付け根や肩から手首辺りまでクリスタルのような輝かしく刺々しい鎧を纏う。

裕兎はカエサルを持ちそのままアルジェへと向かい、飛び去った。

 

 

 

 

 

第5話........終



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第6話 *そしてガリア・カエサルは決意する*

戦いの末勝った裕兎は気絶したカエサルをアルジェの領主ユグリス・レンの敷地へと運んだ。

そこでは屋敷で働くメイドたちによるカエサルと裕兎の治療が行われ二人とも無事治療が終わった。

「おぉー凄いわ。これ。もう痛みとか感じないわ。」

裕兎は身体に違和感がないか確認する為に腕をぐるぐる回したり背を伸ばしたりする。そして、隣のベットで寝てるカエサルに目を向ける。

「カエサルも俺の毒で死んだりしてなくて良かったぁ。」

毒の入れ過ぎで死んでたらと思うと、と想像して裕兎は冷や汗をかく。

(ヒーラー特性の保持者って重要だな。この世界では必須と言っても過言ではないレベルで。.....自分の国持つことなったら真っ先にヒーラー保持者の人数確認しよ......。)

そんなことを思いつつ裕兎はカエサルが目を覚ますまで待つことにした。

何十分経っただろうか。いや何時間、だろうか。

それほどの長い時間の間カエサルは眠っていて、やっと目を覚ました。

カエサルが目を覚ますまでの間、裕兎は暇だなぁと天井を見ていたがふと筋トレを始めた。

しかし、様子を見にやって来たメイド長のローズに叱られ胴体を縛られベットに放られた。

(怪我人の心配をして取った行動とは思えんな...。)

しばらくの間、暇そうに、ぼぅーとしていると。

「ん...?こ...こは..どこじゃ....?」

微かに聞こえたその言葉に裕兎は気づき、カエサルが目を覚ましたのだと分かった。そして、周りを見渡していたカエサルと目が合う。

「あーその、なんだ。わしは気にしないぞ。裕兎にどんな趣味があろうとのぅ。」

引き攣った笑顔でそう言うカエサルに裕兎は焦って事情を話した。

「い、いや!違うぞ!これはだな。事情があってだな。」

「分かっておる。そうしたい年頃なのじゃろう?」

「おいいぃぃぃぃ!!」

(全然分かってねぇじゃねぇかぁぁ!!)

勘違いを続けるカエサルに叫ぶにはいられなかった。

「だから、違うっつの!これはここのメイド長、ローズに縛られたんだよ!俺が怪我人なのに筋トレしてたからな!」

言い終わる頃には裕兎は肩を上下させ息を切らしていた。

「あっそうじゃ。ここはどこじゃのぅ?」

(コイツ、俺の全力な無罪潔白を何もなかったかのようにスルーしやがったな。)

「ここは東の国アルジェで、そこを治める領主ユグリス・レンの領地だ。お前が気絶したから、メイドに治療して貰ったんだよ。」

「そうか、わしはお主に負けたんじゃったな…。」

カエサルは負けたことが悔しかったのか、俯く。

だけど、少ししてから元気な声を発する。

「うむ、わしはお主の実力を認めたぞ!これからはお主の部下として全力を尽くそうかのぅ。」

裕兎は2人目の仲間が出来たことを喜び、握手しようと右手を差し出す。

「おう。これからよろしく!」

カエサルは裕兎からの歓迎に嬉しく思い軽く微笑む。そして、裕兎の手を握り返した。

それからしばらく話していた2人は互いに疲弊しきっていたせいか軽くやることやったら今日は早めに寝た。

次の日になり起きた裕兎はレンに2人目の仲間を紹介するためにカエサルを呼びレンの元へと向かう。

「ユグリス・レン、と言うと4騎帝の1人煉獄王(れんごくおう)のことだったかのぅ?」

「あーうん。」

「お主はどのくらいの実力の持ち主か知っておるのか?」

4騎帝の実力がどれほどのものか気になったのかカエサルは聞いてくる。

「1度戦ってみたが俺は負けたよ…。それにレンは本気を出してるようには見えなかった。」

「お主をそんな簡単に倒すとは相当な力の持ち主じゃの...。」

カエサルは予想以上の実力だと思ったのだろうか、軽く驚いた表情をしていた。

「まぁ、あやつは4騎帝の中でも一〜二番目の実力がある奴だろうと言われておるのだし納得のいく話だがな。」

その話を聞き裕兎は驚く。

裕兎は、4騎帝は皆特性を最上級レベルまで引き出せていてそれを越えることなどないと勝手に思い込んでいたのだから。

「そうなのか!?俺はてっきり4騎帝は皆同じくらいの実力だと思っていた...。」

「うむ。元々は破壊神(はかいしん)と呼ばれるディオクレが最強と言われておったのじゃがなぁ。じゃが、あやつももう60代後半もう少しで70代になってしまうくらいだ。流石に歳には勝てないのじゃろう。そんな飛び抜けた実力はもう持っておらぬ。」

ディオクレの活躍を知っているのだろうか、カエサルは懐かしむように語り始めた。

「ディオクレは衰えたから今はレンが一番ということか...?」

「そういうことじゃ。といってもさほど実力は変わらぬ。ディオクレのように飛び抜けておる訳ではない。」

「そうか...。まぁ、ディオクレは衰えて良かったな。」

そう言うとカエサルは不思議そうにする。

「なぜかのぅ?」

「四騎帝最強なんだろ?そんな異常な強さのディオクレはいずれ反乱を起こしていただろ。だから、衰えて良かったと思うんだよ。」

「それはないと思うんじゃがなぁ…。」

カエサルは少し納得がいかないと言ったような表情をした。

「それはどうだろうな...。」

4騎帝になったばかりの頃はまだ大丈夫だろう。

まだ上へ上へと力を求め高めようとするだろう。

だが、30年以上も4騎帝という座を守ってきたら、そんな長い年月称えられていたらふと思うだろう。これでいいのか、と。

今の生活は悪くはない。だけど、もっと資金が欲しい、賞賛が欲しいなどと思い始めるだろう。

慣れとはそういうものだ。

(だから、俺は反乱を起こす可能性が高いが故に衰えて良かったと思う。)

もし衰えて無かったらと考えると恐ろしいとさえ思ってしまう。

裕兎はそんなことを考えていた。すると、いつの間にかレンの居る部屋へと着く。

「失礼する。」

「失礼しますぞ。」

ドアをノックし、2人はほぼ同時に言うと部屋へ入る。

ガチャ。

「おはよう。裕兎。」

「おう。レン。おはよう。」

「そちらは裕兎の仲間、だよね?」

「おう。実力も確かめ済みだ。相当強いぞ。」

自慢げに話す裕兎にレンは微笑むとカエサルへ視線を向ける。

「俺はユグリス・レンだよ。よろしくね。」

「はい。存じておりますぞ。わしはガリア・カエサルと申す者です。」

そうしてレンに軽くお辞儀をした。

そんなカエサルを見ていたレンの表情は少し曇った。

「そんなに丁寧にしなくてもいいよ。いつも通りでよろしくね。」

「そうだぞ。俺なんて初対面からタメ口だぞ。」

「いや、お主は少しは自重しろ!四騎帝じゃぞ!」

そう言って裕兎の頭を叩くカエサル。

頭に衝撃を受けた裕兎は頭を抑えながら見上げた。

「いや、お前も自重しろよ!俺、一応上司だぞ!」

「そんな礼儀知らずの上司などわしは知らぬわ!わしの上司はレンじゃ。」

「なんだと!?カエサル、お前!俺の努力を無駄にする気かぁ!」

「知らんのぅ。」

睨み続ける裕兎に再び頭を叩くカエサル。しかも何発も。

「やめて!!痛いから!脳細胞無くなっちゃう!俺が!俺が悪かったからぁ!」

涙目になりながら言葉の最後がほぼ奇声となっていた。そんな裕兎を見てガラガラ笑うカエサル。

「もう打ち解けたみたいだね。とても仲がいいよ。」

「なんじゃと!?」

「どこを見てそう言ってる!!?」

にこやかに微笑み続けるレンに声を揃えて反論を唱える二人。

そして、声が揃ったことに二人とも反応し目が合う。

「なんか不満があるんかいのぅ?」

笑っているが、目が笑っていないカエサルが拳をポキポキと鳴らす。

「あーいや、なんでもないっす。」

(やめて!その笑顔怖いから!...なにこれ、少しデジャヴってるぅ!)

さっき以上に笑っているレン。ひとしきり笑い終わると満足したのか本題へと移った。

「それで裕兎に仲間集めをさせた理由はね、遠征へ行くのに仲間が必要だと思ってね。だから、裕兎はカエサルの力を必要とし勧誘したんだよ。」

「なるほどのぅ。そのような理由じゃったか。」

それで、とレンは少し申し訳無さそうに言う。

「それで、昨日の疲れがまだ2人とも取れてない気がするけど遠征の出発大丈夫かな?」

「俺は問題ない。」

「わしも大丈夫じゃぞ。」

レンは2人の反応に安堵した。

「じゃあ、遠征の準備して門の方で待っていてくれ。俺たちも準備ができ次第行くよ。」

「.....?分かった。行くか、カエサル。」

「うむ。」

裕兎は、俺たち、という言葉に疑問に思ったが、あとあと分かることだし、と気にしないことにした。

二人はレンの部屋を出ると自分の部屋に戻り準備を始める。

カエサルは斧を片手に持ち、裕兎は槍を持つ。

「おっさっそく使うのかのぅ?」

「あぁ。俺の初武器だからな。やっぱ、槍はカッコイイな...。」

裕兎が手に持っている、その槍は昨日カエサルと握手を交わし軽く話していたとき武器の話になり、作って貰ったものである。

それは黒がメインとなった槍で刃は少し大きめとなっていた。長さは裕兎とあまり変わらないくらいの長さだろうか。

「よし、行くか!」

「そうじゃの。」

互いに準備が済んだことを確認すると門の方へと向かう。

裕兎達が集合場所へと着くと、そこにはもうレンともう1人、ミカが居た。

「あれ?ミカも行くのか?」

裕兎は不思議そうに聞く。

「ええ。私も幹部みたいなものだから。」

あぁ、回復系みたいなサポート担当なんだろうな、と思っていたが。

「ミカは元4騎帝候補だったからね。強いよ。俺の右腕だからね。」

とレンは自慢するかのように自信満々に言っていた。

「元4騎帝候補!?」

裕兎はレンの言葉に驚いた。

「うん。ミカは "悪化"(トアメント) という特性の持ち主でね。あらゆる生物を滅ぼしかねない鬼のような剣士って言われてたんだよ。それから滅鬼(メッキ)の剣士 ミカ、という二つ名が出来ちゃったね。」

「懐かしいわね。あの頃は今よりヤンチャだったかしら。」

二人は懐かしむように微笑みあっている。

するとカエサルが目を見開いていた。

「なっ...!?お主があの滅鬼の剣士でしたか!?」

そんな反応を見て裕兎は不思議に思い首を傾げる。

「そんなに有名なのか?」

「うむ。ワシが聞いた噂ではミカ1人で竜魔種(ドラゴニア)の群れ一つのほとんどを殲滅することが出来ると言われておる。」

「なっそんなに強いのか!?」

裕兎はあまりの驚きに冷や汗をかく。

「いえ、竜魔種(ドラゴニア)の群れは一つ20~30匹居るけれど、私は10匹程度が限界かしらね。ちょっとその噂は盛られているわ。一体誰が流したのかしら。」

ミカは噂以上の実力じゃなくて申し訳ないと思ったのか少し困った表情をしていた。いや、ただ誰が流したのか分からない噂に困っていただけかもしれない...。

「噂が盛られていたとしても10匹前後...か....。」

(元4騎帝候補でこれってことはレンはそれ以上ってこと、だろ...!?あれ?これ俺らの出番ある?)

「じゃあ、早めに行かないと野宿することになるしそろそろ出発しようか。」

裕兎が驚きの余韻に浸っている間に遠征の出発が告げられた。

丁度そこへメイドの女性が数人、四頭の馬を引き連れてやってきた。その中にはローズもいた。

レンはローズたちに気づくと笑顔で手を振った。

「わざわざごめんね〜。それと、ちょっと遠い所へ行くから留守の間、街のことお願いね。」

「分かりました。お任せ下さい。」

そう言って一人ずつ馬を渡していく。ローズは手網を握って裕兎の元へと馬を連れていく。

「はい。どうぞ。裕兎様も気をつけてくださいね。」

手網を握った腕を裕兎に向けるときにローズは片目を閉じウインクをした。

「お...おう。ありがとな。」

自分より大人なローズがふと見せた年下のような可愛らしい仕草に少しキョドりながら手網を受け取った。

そして、東区王都防衛街アルジェを出て王国アデレードから出た。

王からの命令は村を襲った亜人種(デミヒューマン)を討伐して欲しい、出来れば村も救って欲しいとのことである。

その村はアスタナ国付近にある村だが、襲われたと知った国王は兵を派遣したが敗れ手に負えないと契約金を払いアデレード王国へ援軍を求めた模様だった。

その任務に選ばれたのが裕兎達である。

しばらく馬に乗り進んでいると裕兎はふとあることに気づく。

「あれ?そういえば、俺らって一般兵みたいなのないの?」

周りを見渡しても自分合わせて4人しか居ないことに不思議に思いながら聞いた。

「ん?一般兵令のこと?あれなら一般人は他種族に勝つことは出来ない。無駄な兵力となる、とのことで廃止になったよ?だから、今の時代、兵士は特性持ちの人しかいないんだよね。」

レンは、だから人員不足なんだよねと言いたげに困り顔をし苦笑した。

それを聞いてなお裕兎はまだ疑問があった。

「なるほどなぁ...。何で探さねぇの?」

ふと思った疑問を口にすると

「俺は必要ないと思って探してないんだよね。それに特性持ってる人ってあまり居ないから探してもあまり見つからないよ。」

苦笑いしながら応えるレン。

(やっぱりかぁ〜。だから、居ないのか〜。まぁ、確かに4騎帝+4騎帝並の強さだもんなぁ。必要無いもんなぁ...。ほんと、なんで俺らも行かなきゃなんだろ...。行かないって手段はないかなぁ。無いよね...。)

1人で納得しながら村へと向かっていると、裕兎達が向かっている方向から人影が一つ見え始める。

だが、しばらくすると更に後ろから人影が複数あることに気づく。

「あれって追われてないか!?」

そのことに気づいた裕兎はカエサルに問いかける。

「ぬ?確かに追われているように見えるのぅ。どうするかいのぅ?助けるかいのぅ?」

「この中で一番速度出せるの俺だと思うから俺が助けに行く!カエサルは追われている人を保護してくれ!」

カエサルにそう指示すると特性を使う準備を始めるため、馬を降りた。

「なら、俺は裕兎が逃したときの敵の相手をしようかな。」

「なら私は薬品を持っているから、あの方の怪我の応急手当てを受け持つわ。」

レンとミカは追われている人の護衛をする為に素早く剣を鞘から引き抜く。

「カエサル!頼んだぞ!"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)!」

膝辺りと前腕筋から指先にかけて茶色のクリスタルのような鎧を纏い、槍を構えると高速で走った。

その時の脚力により足に面していた部分の地面が割れえぐれる。

近づくにつれ追われていたのは1人の少女ということが分かった。

そんな中、追っていた複数の人影のうちの1人が裕兎達に気づいたらしく仲間に指示を出す。

「おい!誰か突っ込んでくるぞ!とてつもなく速い!気をつけろ!」

彼らは斧やハンマー、剣、槍、薙刀と様々な武器を手にしていた。

「クソ!こんなときに邪魔が入りやがって!」

「ざっと10人ってところか。」

裕兎は人数を確認すると力いっぱい踏ん張り加速した。

その瞬間2人の頭が飛ぶ。

どうやら裕兎が槍で斬ったようだ。

「な...何が起こった!?」

さっきの出来事に集団は困惑し始める。

「おっ!この槍すげぇ切れ味いいな。」

裕兎は振り向き集団に向けて手をかざした。手に持っていた槍は取手のところを口で咥えていた。

「残念だが俺はもうここにいるぜ。"三井寺芥虫"(ボンバルディア)。」

指先は赤黒く手のひらに進むにつれ赤色で肘辺りは橙色と鮮やかなクリスタルのような鎧を纏う。

すると、両手を向け集団に高温出力ガスが放たれた。どうやら、そのガスには過酸化水素とヒドロキノンが混じって発生した蒸気らしい。

「なっ...!避けろ!!」

集団の中で気づいた者数人は裕兎の狙っているところから飛び、退きながら呼びかけたが間に合った者があまりおらず五人焼かれ死んでいた。

「やっぱ、これって殺傷能力高いんじゃん...。何でこれ喰らってもカエサルはピンピンしてたんだよ。」

自分の両手を見つめながら感心すると同時にカエサルへの畏怖も芽生えた。しかし、まだ3人残っていた。急いで気を取り直して槍を投げた。

その槍は集団の1人に向かっていき心臓を貫く。

「くそ!このまま殺られてたまるか!」

地面から起き上がり、また構え直した残りの2人は裕兎に斬りかかろうと走ってくる。

「ほら。来いよ。"紋華青龍蝦"(オドントダクティラズ)。」

肩から指先にかけて緑色、青色、水色と色鮮やかで綺麗なクリスタルのような鎧を纏い目は青色に変わる。

向かってきた2人の剣の軌道をしっかり見極め確実に避けていく。

「何で当たんねぇんだ!!おらぁぁ!!」

すると、一人がヤケクソになり振り回し始めた。そして、一振り一振りに隙ができ始めたところを狙い裕兎は脇腹を狙い殴った。バキバキと骨の軋む音が鳴り、そいつは痛みで顔を歪めた。そして、うがぁっと痛みに耐えているかのような小さな悲鳴と共に脇腹を抑えたところを下から上へと拳を突き上げ相手の顎を殴った。

強い衝撃が顎に掛かり首は千切れ、頭は飛び血は上へ吹き出す。

その光景を見ていたもう一人は顔を青ざめわなわなと口を震わせながら裕兎へと向かう。

「う...うわぁぁぁ!!」

そこへ背負い投げの要領で相手の懐に潜り背を向けると顎を殴り地面に叩きつけ頭を破裂させた。

どうやら、無事全員を倒せたようだ。

「どうやらこの集団は亜人種(デミヒューマン)のようだね。」

「そうね。でも、何故人を襲っている筈の亜人が獣人種(ビースト)を追っているのかしら?」

レン達は裕兎の元へ追いつけたようだ。

追いかけられていた少女はカエサルが連れている。

その少女は犬の耳のようなものが髪のところから生え尻尾もあった。この子は、獣人種(ビースト)のようだ。それは例えるなら、獣っ子のコスプレのような容姿と言うのが適切だろうか。

髪はセミロングかロングくらいの長さで銀髪だった。そして、横髪をそのまま残して後ろの髪の先辺りを赤いリボンで結んでいた。

肌は白過ぎず黒過ぎずといったバランスのいい色合いで、運動神経が高い戦闘民族とは思えないほどの美しさだった。

「あーこれが亜人種(デミヒューマン)か。」

裕兎は再び辺りを見渡してみる。

そこには、体は人間と同じだが皮膚の色や顔がそれぞれ違っていて、魚や鮫、豚や牛など様々なものがいた。

(これはゲームでよく見るトカゲの顔と鱗をした人型モンスターそっくりだなぁ。)

そう思いながら見ていると少女が慌てたように話しかけてくる。

「うちは獣人種(ビースト)のシャネル。うちん村が亜人種(デミヒューマン)に襲われたと!人間の襲われとるところにうち達も見つかっち襲われてうちは助けば呼びに行こうっちしよったところ!はよ助けて!」

(...あれ?これって...博多弁...?あっでも、博多弁じゃないところもある。まぁ、いっか。)

裕兎は一瞬、ん?と疑問を持ったが気にしないようにした。

シャネルは集落にいる家族が心配なのかとても焦っている。

村の住人を助けるのと同時にシャネルの仲間も助けようと裕兎達は先を急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

第6話........終




次回はなんと!元4騎帝候補だったミカが戦います笑( *´꒳`* )
少ししかないけど、楽しんで貰えたら幸いです笑


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第7話 *ユグリス・ミカは予想以上の実力者だった*

亜人達に襲われている村へと向かっている中、レンに亜人種(デミヒューマン)について聞いていた。

「亜人種(デミヒューマン)ってのは俺たちみたいに特性を使ってきたりするのか?俺はあまり詳しく知らないから知ってることあれば教えて欲しい。」

「亜人種(デミヒューマン)は俺たちと違って特性は使えないよ。ただ、伸びしろの限界が無いんだ。」

「の...伸びしろ...?」

裕兎はどういうことか理解出来ずに首を傾げる。

「簡単に言うと努力した分だけ強くなれるってことだ。怪我をすることが多ければ免疫力といった回復力が向上し、すぐ再生したりする。その他の面でも同じだよ。筋力とかもね。だから、強い奴はとんでもなく強いよ。」

レンは亜人種(デミヒューマン)と戦闘の経験があったのか、苦笑いをする。

「そっか...。なら、俺が倒したあの亜人種(デミヒューマン)は弱い方だったのか。」

「うん。まだ戦闘経験の少ない者達だったのかも知れないね。」

ふと、何かを思いついたように裕兎に顔を向ける。

「裕兎、俺とミカは君らと比べて機動力は劣る。だから、機動力のある裕兎とカエサル、シャネルで先に獣人種(ビースト)の集落へと向かってくれ。俺とミカで村に向かうから。」

「え...俺らの任務は村救いなのに行っていいのか!?」

それに、と裕兎は続ける。

「それに、他種族を助けるのは国王への反乱に捉えられなくもないだろうし、裏切りを疑われると思うが?」

「大丈夫だよ。任務は必ず遂行するし、そこに居たから捕虜した、みたいなこと適当なこと言ってれば問題ないよ。それに、裕兎なら自分から向かってたでしょ?」

レンは本当に問題ないのか簡単にそんなこと言い、微笑んだ。

(俺が向かう、かぁ。まぁ、可能性は無くもないな。きっと向かっていたんだろうな。)

「あっこれからは私とレンが同伴では無いのだから念のため言っておくけれど特性は使い方や技の種類によって消費する体力が違うからそこら辺を気をつけないと死ぬわよ。」

ミカは手短に助言をしてくれた。

「おう。そこら辺はもう経験済みだ。だから大丈夫!」

裕兎は知っていたらしくニッと笑う。

だが、

「なぬ!?そうじゃったのか。ならば、移動の際は脚力の一部強化にしておくかいのぅ。」

逆にカエサルは知らなかったらしい...。

「シャネルは俺が背負って走るから任せとけ!」

裕兎はシャネルに笑顔を向け、胸をドンと叩いた。

「うん。分かった。ありがとう!」

すると、シャネルは馬の上から裕兎の背中に飛びついてくる。

(案外他種族への恐れとかないんだなぁ。)

などと思いながら何をベースにするか考えていた。

「カエサルのペースに合わせるから...うーん...コオロギ辺りでいっかなぁ。」

「うむ。それで構わぬぞ。では..."増脚力"(ルピエフェアー)。」

カエサルも馬から降りて脚の筋肉を増強させる。

「じゃあ、俺も準備すっか。"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)。」

2人同時に特性を使用した。

そして、互いに走り始めた。

二人が走り去ったのを確認するとレンとミカは二人の馬を一頭ずつ手網を掴むと村に向かって走り始める。

「さっき何故レンはあのようなことを言ったのかしら?」

さっきのことについて不思議に思いレンに聞いた。

「さっきって?亜人種(デミヒューマン)の説明のこと?」

「そうよ。確かに亜人種(デミヒューマン)は強い奴は強いけれど、そんなに沢山いる訳では無いと思うわ。何よりレンが手こずるような相手ではないと思うのだけれど。何故あのようなことを?」

どうやらミカはなぜレンが苦い表情をしたのか、とそう疑問を持ったらしい。

「少しは警戒するようにだよ。裕兎とカエサルは強い。だからこそ、ちょっとした油断で命を落としかねない。それに、今回たまたま強い亜人種(デミヒューマン)が居るかも知れないでしょ?だからだよ。」

自分がした行動の理由を話すと、ミカは自分の行動が間違っていたかな、と心配しているように弱ったような苦笑いを向ける。

「なるほど。そういうことね。」

ミカはレンの考えに納得がいきフムフムと頷き。そして、

「流石だわ。」

と笑った。

 

 

* * *

裕兎とカエサルが集落へと向かって結構時間が経っただろうか。

「もう少しで着くよ!」

裕兎からおんぶをされている状態のシャネルが裕兎の顔の横でそう叫ぶ。

「分かった。カエサルはこのペースで大丈夫か?」

「うむ。多少足場は悪いが特に問題はないのぅ。」

周りは木々で生い茂っており湿って滑りやすい場所や足を引っ掛けやすい木の根など足場の悪いところを裕兎とカエサルは森の木々を避けながら走る。

特に転けることや敵と鉢合わせすることがなく問題なく進んでいくと崖先に着いた。

「あれ?道がない...。」

「いや、あっちにあるのぅ。」

そう言うとカエサルは崖下に指をさす。

確かにそこには家がいくつかあった。

だが、それらの家々は崩れたり燃えたりしていてまるで戦争後のような有様だ。

ところどころに亜人種(デミヒューマン)の死体が転がっている。

シャネルは裕兎の背中から降りると家族や友達を探すかのようにそこを見渡し目を見張った。

「間に合わなかった...?そげな...。」

シャネルは今にも泣き出しそうにし、顔を俯かせた。

「すまなかったのぅ。お主の仲間を助けることが出来なくて......。」

カエサルも暗い顔をしシャネルの頭を撫でている。

だが、それでも裕兎は諦めずに集落を見渡しているとある事に気づく。

「いや、シャネル。お前の仲間はきっとまだ生きているぞ。」

裕兎は嘘でもでまかせでもなく、本当にそうであるように自信を漲らせながら言った。

「えっ...?」

裕兎の言葉にシャネルは驚き、俯かせていた顔を上げる。

「ほら、良く見てみろ。そこら中に転がってる遺体あれ全部亜人種(デミヒューマン)のじゃねぇーか。お前の仲間の遺体なんて一体も無い。」

カエサルはその言葉を聞いて再び集落へ目を向ける。

「本当じゃ!?良かったのぅ。」

そう言うとシャネルに笑顔を向ける。

シャネルはカエサルの反応を見て恐る恐る集落を再度見返した。

「ほんっちだ!?」

すると、シャネルは仲間が死んで居ないことを確認でき、喜びさっきまで落ち込んでいたのが嘘かのように綺麗な明るい笑顔となった。

「じゃあ、早くここを降りて探すか!」

裕兎はそう言うと、シャネルを抱き抱えるとカエサルと共に崖を滑り落ちる。

 

 

 

* * *

「着いたわね。」

ミカとレンは国王から命令があった襲われた村へと着いていた。

そこは、あらゆる建物が壊され沢山の人々が焼かれたり斬られ殺されていた。

「"熱波"(ヒートウェーブ)。」

そんな惨状の中、特に動じたりせずレンは目を閉じ人体熱がないか周囲の確認を始める。

「どうかしら?」

ミカが尋ねるとレンは残念そうに首を振る。

「居ないよ...。皆殺されたみたい...。」

「そう。」

「ここは俺の特性で一気に片付けようか。」

そう言うとレンは背負っていた大きな盾を左手で持ち、腰に携えた剣を引き抜き構える。

だが、今すぐにでも村を焼き消しそうなレンをミカがそれを制す。

「レンが特性を使うほどではないでしょう。」

「いや、でもこの村には敵しか居ないんだから俺の特性の方が効率いいよ?」

「断るわ。たまには私も戦わないと腕が鈍ってしまうわ。ここは私に任せなさい。」

ミカはレンに胸を張り自信満々に言う。

「そっか。分かったよ。なら宜しく頼むね。」

レンはミカに微笑むと頭を撫でる。

「別に撫でなくても構わないわ。...その、まぁ、行ってくるわ。」

レンに撫でられて頬を染めたミカだったが、すぐに顔を背けた。

そして、そのまま髪を結び始める。横髪はそのまま伸ばした状態にし、後ろ髪だけを黒いゴムで結んだ。そして剣を抜くと走り出す。

「じゃあ、ここで待ってるね。」

レンのほんわかした声が後ろから飛んできた。そんな声を聞きミカはフッと軽く笑いながら燃え広がる村の中へと進んでいった。

道中に人間の死体がゴロゴロ転がっていたがミカは動じることなく、ただただ残念そうな哀れみな目を向けては前方を見つめ直す。

しばらく走っていると亜人種(デミヒューマン)が五人程固まって移動しているのを発見した。

「居たぞー!ここにも生き残りがまだ居た!」

そのうちの一人がミカを見つけると他の場所で探してる亜人種(デミヒューマン)に知らせる為か大声を発する。

ミカは走る速度を上げ、どんどん亜人種(デミヒューマン)達と距離を縮めていく。

「へへっ。人間が一人突っ込んできたぜ。返り討ちにしてやるぞー!」

『おぉー!』

亜人種(デミヒューマン)は全員で叫び指揮を上げ、向かってくるミカとの戦闘に備え武器を構える。

ミカとの距離が近づき亜人種(デミヒューマン)達は剣や槍を振り斬り掛かる。

あらゆるところから迫りくる刃物にミカは冷静に見据える。

「"創傷悪化"(フェリータトアメント)。」

すると、ミカの剣が薄暗い霧を纏う。

その次の瞬間、亜人達の目の前にミカが一振りすると、上半身が宙へ飛ぶ者も居れば頭も飛ぶ者が現れた。それと、同時に彼らが持っていた武器もまとめて斬られていた。

ミカは 一振りで亜人種(デミヒューマン)五人を一気に倒したのだ。

「悪いわね。あなた達じゃ私には勝てないわ。」

ミカは剣を振り刃にまとわりついた血を飛ばす。まとわりついていた血はビジャッという音と共にレンガ造りの家や地面に痕が付く。

すると、次は前と後ろから亜人種(デミヒューマン)の群れが走ってくる。

「数はざっと50~70前後といったところかしら。」

ミカはあっという間に亜人種(デミヒューマン)に囲まれてしまう。

亜人種(デミヒューマン)達はミカにじりじりと近づいて行くと武器を振り上げ一気に襲いかかってきた。

だが、ミカは自分の身に襲いくる刃を避けることなくただひたすらに武器ごと亜人種(デミヒューマン)達を真っ二つにしていく。

上半身と下半身が分かれる者首が飛ぶ者右左で真っ二つにされる者など多く現れ、そこら中に血が撒き散らされる。

「なっ...なぜだ!?なぜこんなにも武器が意図も容易く斬られる!...ば..バケモノがぁ!」

動揺を隠せずに勢いに任せて襲いかかってきた者も容易く切り殺される。返り血を浴び、鎧の下に着ている服の裾や頬は赤く染まり、その姿が冷酷な表情と合わさり周りの者に畏怖を与えるほどの恐ろしさだった。

最初は50人を超えるという大人数だったのが今ではもう少数しか生き残っていない。

仲間が減り悲壮な表情を浮かべ諦め始めている中、声を張り上げ、集団の中から姿を現す者がいた。

「どけ!俺が行く。」

「オ...オーク副隊長!」

イノシシのような容姿をした亜人種(デミヒューマン)が現れた。

オーク副隊長と呼ばれる者は部下の間をくぐり抜けミカの目の前へと歩いていく。

オークの手にはとても重そうなデカイ斧を持っていた。

「俺はお前が今まで倒してきた奴らとは実力が違うぞ。俺の部下の仇を討ってやる!覚悟しろ!」

オークは自分の強大な力を活かし、一振りするのに時間がかかりそうな斧を素早く振り回す。

一振り一振りが重く地面に当たれば刃は地にめり込み、家や木に当たれば一瞬でズバッと切断し空気を切り裂く音は大きく響き渡る。

ミカはそれを一筋一筋をしっかりと見て避けていく。すると、今まで片手で振り回していた斧を両手で掴み力を込め、身体を捻ると横一直線に斧を振った。それをミカは咄嗟に姿勢を低くして避けると、後ろにあった家々が土煙を上げながら斬れ崩れていく。

更に、ミカは咄嗟の反射に無理な体勢をしてしまう。そこへ降りかかってきた斧を避けきれなかった。

「さぁ、死ね!」

しかし、地面が抉れたり土煙が舞うことが無く、ただただオークの目の前で血が飛び散りながら腕と武器が舞うだけだった。

どうやら、ミカはオークの斧と腕を斬り落としたようだ。

「な...何で俺の腕と斧が切り落とされてんだぁ!!」

オークは焦り冷や汗を垂らしながら無くなった腕を見て喚く。

「何が起こったのか分からないといった様子かしら。私の特性は"悪化"(トアメント)。あらゆる者を悪化させるのを得意とする特性だわ。だから、私の剣に当たった時点で真っ二つに出来るわ。」

ミカは今まで見てきた穏やかなミカとは思えない程、無機質で怖い顔をしていた。

「な...そんなの勝てる訳がない!」

オークは恐怖を感じ後ずさりしているとミカに一瞬で距離を詰められ斬られる。

「ぐがぁー!!この俺がぁぁぁ!!」

オークは身体から血を吹き出しながら上半身が地面へとズレ落ちる。そして、次第に表情から生気が無くなっていった。

オークの身体から勢いよく飛び散る血はさながら赤い雨の如く降り注ぐ。

「さて、次はどなたが相手をしてくれるのかしら?」

亜人種(デミヒューマン)達が恐れおののいていると1人の亜人種(デミヒューマン)が前に出た。

「俺が相手をしよう。」

「ドラフ隊長!」

その亜人はトカゲのような容姿をしており二本のサーベルを持った者だった。

ドラフが現れると周りの亜人種(デミヒューマン)達は安堵したかのように肩の力が抜けていた。それほどに彼は強いのだろう。

二本のサーベルを指でしばらく器用に回していたが、不意にバシッと柄を握りミカに刃先を向ける。

次の瞬間、ドラフは強力な瞬発力でミカに近づき襲いかかる。予想以上の速さにミカは驚いていたが、なんとか避けることが出来た。

ドラフが距離を縮め尚且つ素早いサーベル捌きにより攻勢に出れずにいた。

「なかなかに速いわね。」

「瞬発力に自信があるのでな。お前の剣に触れたら終わりなら振らせる暇と距離を与えなければいいだけの話だ。」

ミカは攻勢に出るため、避けながらも距離を開けようとするが即座に近づかれひたすらに避けるしか出来ずにいた。

「このままじゃ体力が切れて負けてしまうわ。...だったら、"自然悪化"(ナトゥーアトアメント)。」

すると、足元に薄暗い霧がかかる。そのとき、ドラフが踏み混んだ地面が腐れ割れた。

「なっ!?」

その影響により足を滑らせ膝がガクッと折れ体勢を少し崩すドラフ。

そこを狙いミカは剣を振る。が、ドラフは後ろに飛び退きそれを素早く躱した。

「あっあぶねぇ...。」

「なかなかやるわね。」

次はミカが距離を詰め剣を振り攻撃をする余裕を与えないようにする。

「くそっ!このままじゃ俺が負けてしまうな。」

ドラフは隙が出来るのを待っていたが一向に隙が出来ない。次第に表情からは疲れが見え始める。

「このままでは少々時間がかかってしまうようね。」

ドラフが剣に気を取られている間に隙を見てデコに手を触れた。

「"視力悪化"(ヴィスタ)。」

「がっ...!な...何が起きた!何も...何も見えんぞ!」

指先に薄暗い霧を纏いミカの特性によりドラフの視力は壊される。

急な視覚遮断にドラフは状況を読めず目を抑える。

「クソ。剣に注意をし過ぎたか!」

ドラフは少しずつ後ろへ後ずさっていく。

「なかなかに強かったわ。」

ミカはそう言うと剣を振るい、ドラフの首を斬る。

斬られたドラフはグシャッと頭が身体から離れ落ち、身体は倒れる。

「や...ヤバイ。ドラフ隊長までもが殺られたぞ!」

ドラフが殺されると周りの亜人達も動揺し始めいつ逃げ出してもおかしくない状況となった。

しかし、それでも逃げ出せないのは腰が抜けた者や背を見せたら殺されるそう思う者がほとんどだったからだ。

ミカは恐怖に気圧された他の亜人種(デミヒューマン)達はもう動けないと分かると

「"空気汚染"(ルフトポルーション)。」

次の瞬間、ミカから半径50m程の円内にいた亜人達は苦しみ踠きだし、しばらくすると皆血を吐き出し倒れ死んでいった。

「やっと終わったわ。レンの元へと帰るとするかしら。」

そのまま歩いてレンの元へと帰っていく。

 

 

 

 

 

 

 

第7話.......終




今回は、軽い戦闘シーンですね( * ˊᵕˋ )
ミカの実力は予想以上だったでしょうか?
予想以上なら自分的に嬉しいです笑笑( *´꒳`* )


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第8話 *亜人は強い奴は強い*

ザザザッ。

裕兎とカエサル、シャネルは獣人種(ビースト)の集落を見つけ、崖を砂煙を上げながら滑り降りる。

「亜人の遺体が多いのぅ。そこら中に倒れとるわい...。」

カエサルは周りを見渡し獣人種(ビースト)がやったと思しき光景を目の当たりにし少しながらも畏怖を感じた。

「とりあえず、今は先を急ぐぞ。」

裕兎はカエサルにそう言うと走って奥へと進んで行く。

「そうですな。」

「うん!」

カエサルもシャネルもそれに続いた。

しかし、いくら亜人種(デミヒューマン)を早く討伐して住人を助けたいと思っていても情景は嫌でも目に映ってしまう。

そのせいか、先ほどからシャネルは仲間が殺られてないか心配するかのように周りをキョロキョロと見渡しながら走っている。

しばらく走り続けるとシャネルは何かに気づき足を止めた。

「何か来るよ!しかも、沢山!」

シャネルはそう叫ぶと裕兎達が向かっていた進行方向を睨む。

裕兎とカエサルもそれに釣られ前方に目を向けると、砂煙と共に徐々に多くの人影が現れ始める。

「な...結構居るな...。100?いや、200くらい居るかもだな...。」

裕兎は亜人の大軍を見て冷や汗をかき時間がない中どうするべきか思案する。

そんな裕兎を見てカエサルはシャネルに問いかける。

「シャネル、お主あの軍勢の中死なずに戦えるかのぅ?当然、わしも加勢するが。」

「あんだん実力は知らんたい。ばってん、まぁ、いけるっちと思うっちゃ。うちはこん集落でいっちゃんの実力者だからね!」

シャネルは自信満々にニッと笑い胸を張る。

「そうかのぅ。うむ、なら裕兎先に行ってくれぬか。あっちからあ奴らが来ておるということは、あの方向の先に大将が居るのじゃろう。ここはわしらに任せてくれぬか?」

そう言うと斧を肩に乗せる。

「お前らは大丈夫なのか...?」

裕兎は心配そうに尋ねた。

だが、

「大丈夫じゃよ。」

「よかよかばい!こぎゃんところで殺られとう場合じゃなかしね。」

二人は余裕だと言ってるかのように元気に笑顔で応えた。

「そうか。お前らがそう言うんなら大丈夫なんだろうな。」

裕兎は安心したようにふっと息を吐くと笑った。

「なら、行ってくるわ。お前ら...死ぬなよ。....."豹紋蛸"(プワゾンプルプ)!」

「うん!」

「うむ、分かっておる。じゃが、それはこちらも同じじゃ。お主も死ぬんじゃないぞ。」

裕兎は二人が戦闘の準備が出来たのを確認すると亜人に突っ込んだ。

「"変色"(クラールハイト)。」

無謀に突っ込んでいったと思われた裕兎の姿は徐々に消えていきすぐに見えなくなる。

「な...なんの起こったと!?」

シャネルは獣人種(ビースト)が生まれながら持つ特性"五感操作"(サンクヴィゴーレ)以外の特性を見たのが初めてで驚いているようだった。

「まぁ、見ておれ。少しじゃが、あやつの強さが分かるじゃろう。」

カエサルはシャネルの反応を見て落ち着くように促す。

そして、裕兎が向かっていると思われる方向をただ黙って見据える。すると亜人種(デミヒューマン)達がどんどん近づいてきている最中いきなりバタバタッと倒れはじめる。

「え...え!?」

急に倒れゆく亜人種(デミヒューマン)を見てシャネルは困惑を隠せずにはいられない様子だった。

向こうでは仲間がいきなり倒れたことにより慌てふためいていた。

「何かしやがったぞ!きっと奴らだ。奴らをさっさと殺すぞぉ!」

1人がそう叫ぶと、周りも「おぉ!」と声を張り上げて走る速度をあげてくる。

それでも、やはり倒れていく者は現れ続ける。

「何で奴らは倒れていってるの!?」

その光景を見ながらシャネルは驚き、その疑問を晴らそうと口をパクパクさせながらも何とかカエサルに問う。しかし、倒れゆく亜人種(デミヒューマン)から目が離せないのか釘付けのままだった。

「裕兎の特性の一つじゃよ。今は体中に毒を纏っている状態じゃから、それに触れた亜人種(デミヒューマン)どもは倒れていってるんじゃよ。」

シャネルの反応に苦笑し、優しく諭すかのように落ち着いた声音で淡々と話した。

「触れるだけで倒れてしまうほどの毒って...すごい...ね..。」

裕兎の実力を見て呆気に取られていた。

しかし、カエサルは次第に近づいてくる亜人種(デミヒューマン)を睨むと自然と斧の握る手に力が入る。どうやら、初めての戦争で肩に力が入ってしまっているようだ。

「じゃが、裕兎は通りすがりに軽く倒すつもりのだけじゃろう。もう少しで倒れる者は居なくなくなる。準備はしておれ。」

「うん。」

カエサルの言っていた事が本当に起こり、さっきまでバタバタ倒れていたのに今では誰も倒れなくなっていた。

「数は減っておるがそれでも相当な数じゃ、充分に気をつけるんじゃよ。」

「よかよか!任しぇて。」

二人は亜人の群れに警戒をし身構えていると、いつの間に後ろに回り込んだのかカエサルの後ろで2つの影が現れる。

「きししし。まずはこっちの強そうなジジイから殺そうぜ!兄貴!」

「おう!」

きししし、と笑いながら弟と思わしき者は盾を片手にもう片方の片手用長剣を振り下ろし兄の方の大剣もそれに続いた。

「ぬっ...!?」

「うわ!?」

ギリギリのところで勘づいたカエサルはシャネルを小脇に抱え後方へと飛び退く。

ズシャッと音を鳴らし、弟が振った剣は地面に刺さり兄が振った大剣は地面に亀裂を走らせる。

「危ないのぅ。誰じゃお主らは!?」

シャネルを下ろすと苛立ちが混じった声を上げ剣を振ってきた相手を睨む。

隣では降ろされたときに付いた洋服の砂を払っていた。

そこには兄と呼ばれていた者はゴリラのような容姿をした3メートルはありそうなほどデカイ亜人と弟と思しき者は1.6メートルほどの大きさの猿のような亜人だった。

「俺はシャンパンゼ。」

「俺はグノン!俺たちは団長の幹部二番隊隊長と三番隊隊長だぜ。」

兄、弟と順番に名乗る。

シャンパンゼは落ち着いたような雰囲気だが、グノンは子供っぽい陽気な感じの雰囲気だった。ベラベラと元気そうに喋り、自分の実力に自信がありそうだった。

「ところで、お前らこそ何者だ...?見たところガキの方は獣人種(ビースト)のようだが、ジジイの方は人類種(ニンゲン)だろ。人類種(ニンゲン)がわざわざ何しに来た。」

シャンパンゼはカエサルが居る理由が分からず、すっと目を細め睨みつける。

「わしはカエサルと言うんじゃ。兵士をしていてな。王の命令...って訳じゃないが、我が主の命令でのぅ。」

カエサルは立ち上がると同時に斧を構える。

「そうか。兵ならば死ぬ覚悟が出来てるんだろうな。」

「逃げるなら今の内だぜぇ~!俺と兄貴のコンビネーションは最強だからなぁ!!」

シャンパンゼは静かにカエサルを睨み地面にめり込んだ大剣を持ち上げる。

グノンはシャンパンゼとは異なり愉快に高笑いをし盾と剣を構える。

「もちろんじゃ!...シャネルあの群れを何とかしてくれ。こいつらはわしが何とかしよう。」

「分かった!」

元気よく頷くと群れに向かって走っていく。

「よし、じゃあ始めるかいのぅ。」

「行くぞ。グノン!」

「よっしゃー!!兄貴!ジジイを殺すぞぉ!」

二人は息を揃えてカエサルの元へと走ってくる。

そして二人はコンビの良さを活かした迅速攻撃を仕掛けてきた。

シャンパンゼは重いはずの大剣を素早く振り回し、大剣を使っていないのではと錯覚させるほどだ。更に力が篭っており空気を斬る音が大きい。それに比べグノンは身軽さや運動神経を上手く利用しカエサルに隙が生まれる度に素早く長剣を奮う。

「ほほぅ。なかなかやるのぅ。」

カエサルはひたすら避け続ける。だが、避けきれないのも少々あり少しずつ擦り傷が増えていく。

「きししし。兄貴!こいつぁ弱いなぁぁ!」

「あー!だなぁ!」

二人の笑い声がこだましその場で響く。そして、二人は速度を緩めるどころか更に上げてきた。

グノンが長剣を振り後ろへ飛び退いたところをシャンパンゼが上から飛び越し体重を掛け大剣を振り下ろす。

「これは避けれないのぅ。"筋肉硬化"(ミュスクルローシス)!」

カエサルは特性を使うと避けるのを止め全身に力を込める。

シャンパンゼとグノンは勢いを乗せて剣を振っていたが、少し切れた程度でそれ以上深く切れなかった。更にそこから抜くことさえも出来なくなっていたのだ。

どうやら、身体に力を込めた筋肉の圧力で剣が抜けないようにしているようだ。

「ぐっ!どういうことだ!?剣が微動だにしないぞ!」

「な...何でだぁ!」

剣が抜けないことに混乱しているとカエサルは兄弟の剣を片手で掴み斧を高くかざす。

「"限界点"(リミットフェアー)!」

「おい!グノン!これはヤバイ!ここは一旦離れるぞ!」

「分かった!」

シャンパンゼは焦り気味に早口でグノンに指示を出すと後方へ退こうとする。

「もう遅い!」

そう呟くと斧を勢いよく振り下ろした。

すると、斧は凄い衝撃と共に地面にめり込んだ。地面には地割れが出来ておりカエサルの付近はひび割れ状態となっていた。更には斧を振り下ろした一直線上は斬撃により地面が割れている。

ガゴッという音を鳴らしながらカエサルは斧を引き抜く。

すると、次はグシャッという音が鳴り響いた。

カエサルとグノンの間に一つの剣と腕が落ちていた。

「ぐあぁぁ!お...俺の!腕がぁぁ!」

グノンの片腕が切り落とされている。

「クソぉ!ぐがぁ!ぎぎぎぃ!」

ドタバタ暴れ苦しみながらも片腕に力をこめるとブシャッと腕が生えてきた。

「はぁ〜!深手を負うなんて久しぶりだ!再生ってこんなに疲れるもんだっけ!?」

生やした腕が正常に動くか確かめるかのようにグノンは腕をグルグル回す。

「ぬ!お主は再生が出来るのか...!?」

カエサルは驚いたのか素っ頓狂な声を出した。

「きししし!俺だけじゃなく兄貴も出来るぜ!俺たちはこの団の2番3番目の実力者だからなぁ!」

そんなカエサルの驚いた反応を見たグノンは喜び、まるでマジックのネタバラシをするかのように自慢げに高らかに言った。

「じゃが、流石に首を切り落とされれば死ぬじゃろ。」

「まぁな。お前が首を切り落とせれたら、の話だけどな。」

シャンパンゼは切り落とされない自信があるのか挑発的に言い、首を手でパンパンと叩く。

「笑わせるな。余裕じゃ。」

カエサルはそう強がってみせたが内心焦りと殺られる前に倒せるだろうか、という心配で冷や汗をかいていた。

(さて、どうするかのぅ...。全力で行けば倒せなくもなかろうが、裕兎の増援として力添えしたいからのぅ。体力は残しておきたいところじゃが...。ふぅ......仕方ない。死んでしまっては力添えすら出来なくなるからのぅ。全力を出すしか他あるまい。)

しばしの間苦悩していたが決意を固め身体中に力を入れる。

「"限界を越える増力"(リミットフォルス)!!」

すると、カエサルは筋肉量が増え上半身の服が耐えきれずビリッと破れ、鎧は邪魔だと言わんばかりに脱ぎ捨てた。

鎧が無くなり、刃物が通りやすくなったように感じるがさっきとは筋肉量が異なり迫力が大きく、より刃物が通らなさそうなオーラを放っていた。筋肉こそがカエサルにとって本当の鎧なのではないか、と錯覚させるほどに。

「さぁ、行くぞ!」

カエサルは力いっぱい地面を蹴るとそこは地割れが起き、えぐれ砂埃が舞う。

さっきまでとは比べものにならないほどの動きにより呆気に取られていたシャンパンゼとグノンは瞬時に近づかれたカエサルと距離をおくことが出来ずにいた。

その隙を狙ってカエサルはフンッと力を込め両手で握った斧を振り下ろす。

斧はカエサルの手元のところまで地面にめり込み、数百メートル...いや数キロ程先まで地面は割れる。その影響が崖にもきたのだろうか。崖も崩れ岩がゴロゴロと落ちてきた。更に振り下ろすことで生じる空気抵抗によりカエサルを中心に風が巻き起こり、周りの木々がなぎ倒され、散らばっていた亜人の死体は飛ばされた。

そんな化け物じみた攻撃をグノンはカエサルの攻撃が当たるギリギリのところでなんとか盾と盾の前に長剣を構えガードの二重構えをする。だが、カエサルの力に負け、ぐあぁぁという声と共にゴロゴロと頭や肩、腰といったところを地面にぶつけては跳ね上がりを繰り返されながら後方へと飛ばされる。

それを隣で眺めていたシャンパンゼは自分の見ている光景を理解しカエサルに弟が重症にされたということに対する怒り、弟を守れなかったという悲しみや後悔、憎悪で我を忘れ、ただ怒りに任せそのままの感情をぶつけるかの如くカエサルに刃先を向ける。

「貴様ぁぁぁぁ!!俺の!弟をぉぉぉ!!」

我を忘れ力任せに振るう剣は先ほどまでと比べものにならないほどの力と速度だった。

地面に多くの切れ目が入り、カエサルにも次々に傷が増えていく。遂にはカエサルの腹部から厚い胸板にかけて深い傷を一斬り入れたのだ。

裕兎の攻撃をすら耐えたあの頑丈な肉体が...だ。

「ぐぬぬっ!」

そんな攻撃を受けたカエサルは血を吐き膝をついた。傷口からも血がダラダラと流れ出す。

無理に己が耐えれない力を使った為か体力の限界と今までのたくさんの傷によってカエサルは息を荒くし始める。

「ぶっ殺す!」

しかし、怒りと憎悪に満ちたシャンパンゼのその声は空気を震わせ疲れ始めるカエサルとは逆に力が増す一方だった。

カエサルを容易に真っ二つにしそうなほどの力で振り下ろされた大剣はガキンという大きな音と共に斧によって弾き飛ばされ火花が飛び散る。

「こんなところで死ぬ訳には行かんのじゃぁぁ!!」

筋肉が負担に耐えきれず壊れはじめ、いつ特性が切れてもおかしくない状態だが、それでもカエサルは踏ん張り力を振り絞る。

弾き飛ばしたことで斧は振動で小刻みに揺れていた。

強い力同士がぶつかりあったのだ手にも負担がかかり数本の指の付け根から血が出て滴り落ちる。

だが、それでも!

「こんな痛み気にしてる暇などなかわぁ!わしは負けぬ!!」

地面に着いていた右膝を前へ1歩進め、両手でしっかり斧を握りしめシャンパンゼに向かって振った。

横に勢いよく振られた斧は斬撃を飛ばし周りにあった木々や家すらも真っ二つにしていく。

そんな中、カエサルの目の前でブシャッという音が響き赤い液体が飛び散る。

勝ったとそう思い前を見ると、微かに生きていたグノンはシャンパンゼを押し飛ばし代わりに腹部から真っ二つにされていた。

グシャッ。地面に倒れるとシャンパンゼを見ながら悲しそうにグノンは手を伸ばす。

「あ...兄貴...。あまり...力に...カハッ!はぁ...はぁ...力に、なれなくて...悪かった...。」

涙を一筋流し苦しそうにそう言い残すとどくどくと血を流しながらグノンは次第に薄れゆく意識と共に伸ばす手を落とし息を引き取る。

「グ...グノォォン!!」

シャンパンゼは涙を流し泣き叫んだ。そして、グノンの仇を取ろうと大剣を手に取るとカエサルを睨みつける。

目からは血の涙を流し赤く染めていた。

「グノンの仇を取る!殺してやる!!」

大剣をしっかりと握りしめ、カエサルを倒そうと走る。

カエサルも感覚が無くなり始めた身体を動かし斧を手に取り立ち上がった。

ガンッガンッガンッと何回打ち合っただろうか。打ち合う度に空気は震え、火花が飛び散る。

二人が戦ってる土地はいつの間にかひび割れや穴、切れ目、倒れた木々などにより荒れ果てている。

相当な時間ぶつかり合い互いに汗と血が溢れ疲れ果てていた。

「次で倒す!」

「次で終わらす!」

二人は同時に言うと最後の力を振り絞り互いの武器を振るう。

「ウア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

「負けぬわぁぁぁぁぁぁ!」

大剣と斧がぶつかり合うと、今までで一番火花が散った。

カエサルの斧はシャンパンゼの首と共に大剣を真っ二つに切り落としたのだ。

ガシャン、という大剣の刃が落ちた音とグシャッという頭の落ちる音が同時に鳴った。

「裕兎、わしはもう少しの間行けそうにないんじゃ。すまないのぅ...。」

勝ったという安堵感と同時に無理した分の疲労が身体にどっとのしかかり、カエサルはズサッと崖を背に座るとゆっくりと目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

第8話.......終

 




明明後日はゴールデンウィークですので、沢山投稿していく予定です( *´꒳`* )


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第9話 * 獣人種は女であろうと関係なく強い*

GW始まりましたね( *´꒳`* )
GW中は毎日投稿する予定です(♡´艸`)


カエサルに亜人の集団を任されたシャネルは人間よりも比較的高い運動神経を用いて多くの亜人を倒していた。

「ふぅー...。結構倒したばい、ばってんまだ結構いる...。」

「ゲヘヘ。そろそろ体力の限界が近づいてきたか。」

集団の中にいたカエルのような容姿をした亜人が下品に笑う。

そして、右手に持っていた槍を高らかに挙げ叫んだ。

「俺らはまだこんなにいる!たかだか1人に全滅になってたまるか!一気に畳みかけるぞぉ!」

カエルの亜人は周りの仲間を鼓舞し士気を上げた。

「あはは。一気に来よるからっちうちの負けるわけなかやん!そいに今までんあまり力出して無かったけん。だから、これからちょこっとだけ使っちいあげるか!」

シャネルは自信有り気に笑うと身体に力を込める。

「"二感変換"(ツヴァイフェアエンデル)!」

すると、シャネルは味覚と触覚に働いていた運動エネルギーが全て筋力へ変換され、力を倍増した。しかし、この技は変わりに変換された二感は機能停止となる、という代償がある。

「行くぞぉ!」

『おぉぉーー!!』

シャネルが特性使うのと同時にカエルの亜人の掛け声が発せれた。その声に反応して周りの亜人達も一斉に迫ってくる。

上や横といったところからたくさんの刃が襲ってくる。

シャネルはそれを一つ一つ見極めしゃがみ、飛んで右足左足を前後に蹴りあげ、そのまま身体を捻り回転して近い敵の首を折ったり、頭蓋骨を割る。

ガバッやガハッという声と共にドタバタと倒れていく。

シャネルが地面に着地すると亜人の1人が短剣を突き刺そうと腕を伸ばしながら背後から突進してきた。

「今だぁ!!」

「ん!」

だが、聴覚で敵が接近してることに気づいたシャネルは後ろに飛びバク宙をし脚を首に絡みつけ締め上げる。

「どげん?おなごしん子ん脚の至近距離にあっけんか!?男なら嬉しかんじゃなか?」

シャネルは冗談っぽくニカっと笑いながら体重を後方へ傾ける。

すると、亜人は体重に耐えきれず身体が宙へ浮かされそのまま頭を地面にぶつけられる。

その時、バキッ!という頭蓋骨が割る音が鳴りその亜人は死した。

「まだえらいいっぱいいるっぽいなぁ…。」

「まだいけるぞ!諦めるな!」

一気に周りの奴らが殺られ一瞬怯んだように見えたがすぐに気を取り直し襲ってきた。

「あっこれ!よかね。」

シャネルは近くで崩れていた家の大木を掴むと振り回す。

ゴスッと音が鳴り亜人達は血を撒き散らし後方へと飛ぶ。

「やぁぁ!」

立っている者が残り僅かという時、シャネルが持っている大木が少し軽くなった。それと同時にドスンッという音が鳴り響く。

「あ...あれ?」

不思議に思ったシャネルは前方を見ると1人の亜人が立っていた。

その者は薙刀を持っており仁王立ちしている。

しばらくの間砂煙が舞っておりあまり見えなかったが目を凝らすとその者はワニのような容姿をしていることが分かった。

ワニの亜人は辺りを見渡すと口を開く。

「おいおいおーい。こらぁ、どういうことだぁ?俺ぁちょっと寄り道してサボってる間に何があったんだぁ?」

「ディール副班長!今までどこに居たんてすか!?あの少女がとてつもなく強いんです!お願いします!倒して下さい!」

カエルの亜人から呼ばれたその者はディール副班長と言うらしい。

「あん?疲れたんでな。ちょっと森の中で寝てたんだよ。」

そう眠そうに目を擦りながら言うと、ふぁーあと大きく欠伸をした。

「まぁ、この際どこに居たとかどうでもいいですから!あとはお願いします!」

「なら、サボりの件はボスには内緒なぁ?ラーナ」

ニヤっと笑うと俄然やる気を出したかのように肩を回す。ラーナと呼ばれたカエルの亜人は頷く。

「良し!なら、秘密にして貰う訳だし一仕事頑張るかぁ!」

ディールは伸びをするとシャネルを見た。

「お前がこの状況の元凶か。」

「そうばってん。」

シャネルは切られた大木をディールに向けて投げる。

シュンッと音を出しながら飛んだ大木は綺麗に真ん中に真っ二つにされる。

「あっぶねぇなぁ。ビックリしたぞ!」

全然ビックリなんてしてないのだろう、眉一つピクリとも動かさなかった。

「次はこちらから行くぞ!」

薙刀を構えるとシャネルに向かって走ってきた。

近くに来ると力強く踏み込み横一直線に薙刀を振るう。

シャネルはバク転をし避けたが、砂煙が巻き起こりディールが見えなくなった。

目を凝らし探していたが見つからず、次に聴覚に集中すると背後から足音が聞こえる。

「はっ。後ろ!」

素早く後ろを向いたが既に薙刀を振り下ろしていた。

シャネルは後ろに重心を置き飛んだが、少し間に合わなかったようだ。

肩が軽く切られ血が飛び散り膝を着いた。

「そこまで強くないじゃねぇか。クハハハハ!」

高らかに笑うと薙刀を振り回す。

シャネルはそれを紙一重で避けて行くが、頬や腰、腹部、太もも、と少しづつ切り傷が増えていく。

地面に切れ目を入れ、刃がめり込み、木々をなぎ倒し、砂煙を起こし無双していた。

全く反撃する猶予がない程に。

「このままじゃ殺られる...。.....こうなりょったら!!」

迷っていたシャネルだったが決意を決める。

「"五感変換"(オールフェアエンデル)!」

特性を使った瞬間、僅かな視覚以外の味覚、触覚、嗅覚、聴覚の働きが全て停止し、それに注がれていた全エネルギーが全て筋力へと変換された。

これは獣人種(ビースト)の中で選ばれし者"五感操作"(サンクヴィゴーレ)を極めし者にしか出来ない技と呼ばれる最終奥義である。

この技は例えるならあのカエサルをすら凌駕する力を発揮する。

だが、この技にはデメリットもあり使用時間が決められている。長くて10~20分しか持たないだろうと言われており更に使用後は五感が元に戻るのは時間がかかるためしばらく《無》の状態が続くらしい。

故に1vs1の時にしか使えないのだ。

不意にすぅぅぅっとシャネル息を吸う。

「"雄叫び"(ルーフェン)!」

次の瞬間、吸っていた空気を全て吐き叫ぶ。

ギュイィィーンっという音が耳に鳴り響き耳鳴りがした。更に空気を吐いた風圧によりディールは後方へと飛ばされ崩れた家の残骸へと埋まる。

「だぁぁぁ!何が起こったぁ!クソ!何も聞こえねぇ!」

"雄叫び"(ルーフェン)により鼓膜が敗れたディールは急なことに驚き理解出来ずにいる。しかし、困惑したのは一時で、すぐに立ち上がるとシャネルを睨む。

「たかだか鼓膜だ!こんなもんあろうが無かろうが俺にはかんけぇねぇ!お前を殺す!」

薙刀を片手に襲いかかってきたディールであったが次の瞬間、一瞬でシャネルを見失う。

つい今し方まで目の前にいたのに砂煙が軽く起き、それと共に消えたのだ。

シャネルはディールの懐まで一瞬で詰め寄っていた。

「なっ!?いつの間に!」

すぐそこまで来られたことに気づいたディールだったが気づくのが遅かったようだ。

「もうとろか!」

ディールの膝に横蹴りをかました。

すると、ディールの視界がグラッと揺れると地面が見えたかと思うとすぐ空が映る。

一発の蹴りによって両足が千切れたのだ。

ブシャッと血が飛び散る。

「はっ...?」

あまりにも一瞬で物事起こり過ぎて思考が停止してしまう。

視界の端にシャネルが映ったかと思えば、顔面を思いっきり地面に向かって殴られた。

地面は地割れが起き、えぐれ浮き上がり殴ったところから中心に深く凹み大きなクレーターのようなものが出来た。

地面を粉砕するかのようなパンチを顔面で受けたディールは当然生きてる筈もなく頭が潰れて死んでいた。

周りに居た奴らもシャネルによって起こった風圧により飛ばされ、木にぶつかる者、岩にぶつかる者、崩壊した家にぶつかる者などさまざま現れた。

そして、全員の頭や背中、腰といったところを強くぶつけ痛みと共に意識が飛んでいく。

シャネルは僅かな視界で倒したことを確認すると、安心し力を抜き特性を解除した。

「ふぅ...。」

バタッと倒れると何も感じ無くなった身体に五感が戻るまでシャネルは休んだ。

 

 

* * *

しばらく経つと視界はある程度回復し、聴覚も少しは聞こえるようになっている。

なんとか動かせるようになった身体を無理矢理起こしカエサルの元へと向かう。

そこでは崖を背にスースー寝息をたてながら寝ているカエサルの姿があった。

近くで二人の亜人の姿を見つける。

「カエサルも勝ったんやね。.....よいしょっと。じゃあ、裕兎んところへと向かうかいなぁ。」

カエサルの腕を自分の肩に掛けてシャネルは足を引きづりながらも少しずつ裕兎の元へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

第9話.......終

 




蒙武さんお気に入り登録ありがとうございます( *´꒳`* )
これからも頑張っていきますね( * ˊᵕˋ )


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第10話 *亜人種を甘くみると命がない*

ザザッザザッと木々がざわめいている。

裕兎は亜人の集団をカエサルとシャネルに任せ先に進んでいた。だがところどころにあった家が途中で途絶えている。

ここで終わりだとしたら生き残りの獣人種(ビースト)と今追い詰めているであろう亜人種(デミヒューマン)がどこにいるんだ、と急ぎたい気持ちを抑え冷静にしばらく周りを見渡す。

すると、森の奥から微かな声が聞こえてきた。

裕兎はその声を頼りに森の中深くへと入り先を急いだ。

「この森の先にも数個家があるとして、少し離れたところに建てているのは何でだ?」

不思議に思いながらも走る動きは止めず思案する。

「もしかして、隠れ家とかだったりしてな…。」

そうする中、隠れ家なのでは、と一つの推測ができた。

(でも、だとしたら…。バレちゃ駄目だろ...。.....何で隠れ家まで攻められてんだよ...。)

次第に今まで聞こえていた声も大きくハッキリしたものになり、もう少しで着くと分かった裕兎は走る速度が自然と上がる。

森から出るとそこには少数の獣人種(ビースト)がギリギリのとこで大勢の亜人を食い止めていた。

そこら中に亜人の死体が転がっており、獣人の遺体も稀に転がっている。

獣人種(ビースト)にも結構な犠牲が出ている。

「ぐあぁぁ!」

「怪我人が出たぞ!後衛へ回せ!」

「了解!さぁ、こっちへ!」

獣人たちは指示を出し合いながらなんとか回していたが、ジワリジワリと戦える者が減っていく。

「やばいな...。急がないと。」

裕兎はその現状を見て予想以上の被害に驚き急いで前衛に加わる。

「"三井寺芥虫"(ボンバルディア)!」

指先が赤黒く手のひらにいくにつれ赤色で肘に近づくにつれ橙色と鮮やかな鎧を纏う。

次の瞬間、裕兎が放った高温ガスにより5〜6人の亜人が包まれ焼け後方へと飛ばされ、殺されたと自覚出来ないほどの速度で倒した。

高噴出されたガスの勢いにより地面はえぐれ溝が出来る。周りの草々は焦げたりし茶色に染まった。

「な...なんだ!?」

「一体、何が...!?」

いきなりのことに獣人たちは驚き裕兎を凝視する。

まるで、味方か敵かを見定めるかのように。

「...ん?あぁ、大丈夫だ。俺はお前ら獣人種(ビースト)の味方だ。シャネルって知ってるだろ?そいつに頼まれたんだ。」

警戒されていることに気づき、味方であると主張するように両手を上げる裕兎。

「さよか...。シャネル...よう無事に助けを呼んでくれたな...。」

獣人たちをまとめているリーダーっぽい人がしみじみに言った。

「あっ、うちはパンテラ。このグループのリーダーをしてんで。よろしゅうな。」

黄色いチーターのような耳を携え、ミディアムほどの長さの髪に金髪だった。

歳は裕兎より少し上だろうか。だが、童顔で可愛らしい人だった。

(あれ?シャネルが博多弁だったけどパンテラは大阪弁だ。人によって喋り方違う、とかかぁ...?もしくは、この二人が特別方言なだけ...とか?...今はそれどころじゃねぇか。)

などと疑問に思うところはあったようだが、今はそれどころではないと裕兎は気にしないことにした。

「おう。よろしく。」

「増えた敵はたかだか1人だぁ!変わらずこっちが優勢なのは変わりねぇ!一気に潰すぞぉ!」

牛のような容姿をした1人の亜人がそう叫ぶと周りの亜人も呼応するかのように『おぉ!』と叫ぶ。

「あいつが団長か?」

「いや?ちゃうよ。団長は一番後ろで戦いに参加せず座って寝てる奴やで。」

パンテラが指を指した先には確かに1人いた。大きな金棒が立て掛けてある隣で目を瞑り座っている。

筋肉質で図体が大きいその団長はライオンの容姿をしていた。

「部下に任せっきりかぁ。やる気なさげだな...。」

「今周りの奴らをまとめている牛っころがなかなかに強いからね。信用して任せてるんやと思うで。」

「んじゃあ、まぁとりあえず、あいつらと団長を倒しにかかりますかぁ〜。」

裕兎はそう言いながら伸びをする。

満足したところで膝を曲げ脚に力を入れると目つきが変わった。

「"飛蝗"(カヴァレッタ)。」

膝から足先にかけて緑色や茶色の鎧を纏い槍を脇にに挟み固定する。狙いを定めたそのとき。

足元から砂煙が巻き起こる。きっと亜人から見たら消えたように見えただろう。

砂煙が舞い終わる頃、亜人の軍勢の後ろで裕兎は立っていた。

一瞬のうちに移動した一直線上に居た亜人は頭や首、肩、腹部といったところが槍で切られ殺され倒れ始める。

微かに生きている者がちらほらいた。

そんな彼らも口々に叫んだ。

「ぐあぁぁ!」

「な...何で!いつの間に切られたんだ!」

「何が起こったんだ!」

その他にも聞こえる声はあったがあまりにも驚いているのか何を言っているのか理解出来ない。

そんな中、1人だけ裕兎の攻撃にギリギリ反応出来た者がいた。

だが、そいつも頬を軽く切っている。

「ふぅー...。なんだよ。さっきのは速すぎやしねぇか。」

頬を切った亜人は裕兎に向き直る。

そいつは周りの奴らをまとめていた牛の亜人だった。

「おい!お前ら!お前らはあっちの獣人どもを殺れ!俺はこっちの人間の相手をする。」

身長は160くらいだろうか。がたいはそこそこ良く右手にはナタを持っていた。

「お前を含めて全員倒したつもりだったんだけど、倒せなかったかぁ。俺もまだこの槍使いこなせて無いなぁ。」

裕兎は残念そうに苦笑いをし気を取り直す。槍を振り回すと付いた血を飛ばし、綺麗になった槍を肩にかけた。

「安心しろ。お前が武器を使いこなせてない訳ではない。俺がお前より強かっただけだ。」

牛の亜人は裕兎を嘲笑うかのように笑い、鼻から勢いよく息を吐き胸を張る。

「たった一撃防いだだけだろ...。」

裕兎は悔しかったのか、そう不満げに言う。だが、裕兎より強いかは微妙だが、確かに強かった。

「それで、てめぇは何者だ?」

言え、と言わんばかりに睨んできた。

「4騎帝 煉獄王(れんごくおう)の幹部、嵐鬼 裕兎だ。」

「ほう、あの煉獄王の幹部...か。フハハハ!それにしては弱いな人選ミスだろ!?」

本当におかしいのかお腹を抱えて涙目になるほど笑っていた。

「そういうお前は何なんだよ。」

ふぅー、と落ち着こうと一呼吸おいてからそいつは言った。

「俺はリオン団長の元で一番隊隊長をしているオックスだ。ここに来る前にてめぇらの元に向かっていた亜人共にも2、3、番隊隊長とその隊の副班長が向かっていただろう。そいつらより俺は強ぇぜ。」

オックスは自慢げに言うとニヤリって笑い、裕兎をしっかりと見据える。

(やべぇ...。何かカエサル達のところ隊長クラスが3人も居たっぽいじゃん...。......あいつら大丈夫かな。)

オックスの話を聞き心配になったが大丈夫だと信じ今は戦いに集中しようと深呼吸をする。

「じゃあ、行くぜ!」

オックスはナタを構え裕兎に襲いかかってきた。

さほど重そうじゃない武器のため、力のあるオックスが振り回すとそれなりに速かった。

裕兎も槍でなんとか防ぐ。しかし、防ぐのがやっとで仕返すことが出来ずにいる。

「おらおら!どぉした!」

このままでは危ないと思い、裕兎も攻勢には出てみるがナタで防がれ火花が散るのみ。

「クソ。うざいな。」

裕兎は後方に飛びオックスとの距離を開ける。

その後つかさず槍をオックスに構え固定ししゃがみ、左手で軽く地面に触れバランスを取るような格好をした。

「"絶対なる進行"(パルフェクルス)。」

すると、裕兎は両足にありったけの力を込めオックスに向かって飛ぶ。

蹴ったことによりその場の地面が砕け、進行方向とは逆方向に石や砂が飛び散り砂煙が舞い上がる。

そして、あまりの速さに裕兎が通ったところ付近ではかまいたちのような荒々しく風が舞っていた。

咄嗟のことにオックスは避けるのが間に合わずナタを構え受け止める。

だが、受け止めることが出来る筈もなくなんなくと粉砕した。

あとは心臓を貫くだけだったが、オックスはなんとか身を捩らせ心臓は回避した。

だが、心臓の上辺りを貫かれ肩ごと吹き飛ばされる。

自分の勢いをなんとか止めようと裕兎は地面に足を付け踏ん張った。

しかし足は地面にめり込み土が盛り上がるだけで、それでもなお止まらない。中々止まらないことを理解した裕兎は槍を地面に刺して少しずつ進みゆく力を抑える。

数メートル進んだ辺りでなんとか止まった。

「やっと...止まったぁ。」

裕兎が止まったことにより安堵している中、オックスは左肩を抑え顔を歪ませ痛がっていた。

不意に後ろからブンッと風を切る音が聞こえ、振り返ると金棒が飛んできているのが目に映る。

裕兎は咄嗟に身を捩らせ何とか避けた。が、金棒はそのまま勢いよく飛んでいきオックスの顔面にぶつかった。

「ウガァ!」

金棒の重さと勢いに耐えきれずオックスの顔面は千切れる。

そして、ドスンという音と共に金棒は地面にめり込み、オックスの身体は倒れた。

「あ?オックスお前に当たってしまったか。わりーな。まぁ、お前はいずれコイツに殺られていただろうから、遅かれ早かれだったか。」

いつの間に起きたのだろうか、リオン団長は後頭部をかきながら歩いてくる。味方を殺してしまった、というのに眠そうに、そして興味が無さそうに頭を掻きながら現れたリオンに裕兎は呆気に取られているとそいつは通りすがる。

「邪魔だ。」

通りすがった直前にリオンは裕兎の腹部を殴った。

たった一発のパンチで裕兎は飛ばされ岩にぶつかる。そして、ぶつかった衝撃で岩は一部割れ砕け、凹んだ。

あまりの衝撃に槍を落とす裕兎。

「ぐっ!おぇぇ...。」

裕兎は立ち上がろうとすると口からゴポッと血を吐き出す。

「肋の骨が数本が折れたっぽいな...。」

骨が折れたことにより裕兎は痛みに顔を歪ませる。

「よっと...。なんだ?もう終わりか?」

つまらなそうに言うとリオンは金棒を持ち肩に乗せると裕兎の方を向いた。

「"豹紋蛸"(プワゾンプルプ)。」

足が紫色の模様が入った鎧を纏い腰からは6本のタコの足が生えた。そして、折れた肋を修復し槍を握るとなんとか立ち上がる。

「いや?終わりじゃねぇよ?」

「ほぅ、お前治るのが早いな。」

リオンは裕兎の回復の早さを見て少し驚いたようだった。それと同時にさっきまでの無気力な顔と比べ、裕兎には興味が湧いたらしく少しやる気に満ちた顔つきとなっていた。

「それが俺の特性なんでな。そう簡単には負けねぇぞ。」

そう言うと裕兎は走り攻撃を仕掛ける。

テトロドトキシンを纏ったタコ足を器用に使い少しでも触れようと殴りかかった。

6本もの足に襲われ避けるのは困難かと思われたが、ただの一振りでタコ足は粉砕し肉が飛び散る。

「んな...!?力強すぎだろ!?」

「当たり前だ。俺を誰だと思っている。」

体勢を崩しかけて出来た隙を狙ってここぞとばかりに金棒を振り回す。

一発一発が重くのしかかり、その金棒に当たると地面はえぐれ地は揺れ、ちょっとしたクレーターが出来上がる。

裕兎は避けながらもなんとか足を再生し終わる、という時に金棒が当たり膝が粉砕される。

「ぐ...!ヤベ!」

膝から下が無くなり地に落ちかけている俺目掛けて金棒を振ってきた。

再生したタコ足同士で絡ませて肉の壁を作り、それで受け止める。

だが、タコ足は粉砕して裕兎は後方へと飛ばされた。そのせいで槍を離してしまい、槍は置き去りとなる。

強い衝撃を受け脳が揺れるような錯覚を受けた。

「ぐあぁぁ!」

ゴロゴロ転がる中リオンは休むことなく走り近づき、俺が止まると飛び体重をかけて金棒を振り下ろしてきた。

「こ...このままじゃ...死ぬ!"黒硬象虫"(デュールウィーヴァル)!」

頭を含めて全身が黒くて分厚い鎧を纏う。

ガンッという音を響かせ、地面は巨大なクレーターとなり割れ砕け、浮き上がる部分まである。周りの木々は揺れ葉は落ち、少し離れたところで戦っている亜人達の中で数人バランスを崩し倒れる者が現れるほどに。

そんな馬鹿げた力を受けた裕兎は両腕の骨が砕け使いものにならないものとなり、当然鎧も砕け粉砕していた。

それはつまり腕を1本切り落としたカエサルの本気の力を超えている、ということになる。

「...どんだけの馬鹿力だよ...これ。」

(さっきから再生ばかりで体力の減量も激しいし。いよいよやばいな...俺。......あっそういえば、コイツの力に対抗出来るかもしれない奴があったな。)

「どうした?もう終わりか?」

リオンは嘲笑うかのように言う。

「まだだ!」

全身に力を入れ両腕、両足を即座に再生する。

そして、素早く起き上がった。

「見せてやるよ。小さき最強パラポネラの強さを!"銃弾蟻"(バールフルーミ)。」

両腕、両太もも、背中に黒茶色の鎧を纏い、背中の鎧には赤い紋章のような模様が描かれていた。

「外見が少し変わった程度か。」

リオンは残念そうにし金棒を振るう。

だが、裕兎は片手でそれを受け止めた。

さっきのような重い一撃だったが足が地面にめり込んだだけでどこも負傷していない。

裕兎は左手でリオンの腹部を思いっきり殴った。

「ぐふっ!」

すると、リオンは止まることなく地面裂いて後方へと吹き飛ばされていく。

しばらくして止まると地面の割れ目は崩れリオンは埋まる。

「破壊力はシャコだけど、パンチの重さといえばやっぱりパラポネラ、だな!」

裕兎はクレーターのような穴ぼこから出ると同時に地崩れしたところの岩が飛び散る。

「ゲハッゲハッ!クソがぁ。こりゃあ内蔵ぶっ潰れたじゃねぇか。」

リオンは地面からなんとか出ると、鎧を脱ぎ捨てる。

「こんなもんは邪魔だぁ!久しぶりに本気を出してやる!」

すると、全身に力を入れたかと思うと急に筋肉量が倍増した。

図体が大きくなり、体重で地面に少しめり込む。

「でけぇな...。」

あまりの変わりようにぽつりと感想を零すことしか出来ずにいた。

「さぁ!血祭りにしてやる!」

そう言うと一瞬で近づいてきて金棒を振り下ろす。

なんとかギリギリ反応をし避けたが地面が割れ木々は葉をざわめかせながら揺れ付近の鳥達は驚いたかのように飛び立つ。地面に埋まり突き刺さった金棒を引き抜くと一振りで土を払った。

裕兎はその場から素早く身を引くとたまたま近くにあった自分の槍を手に取る。

「あれは金棒に触れた瞬間、触れた場所が千切れて持ってかれるな.....。」

あまりの力に裕兎は冷や汗をかく。

「だが、力なら俺も強い筈だ。」

対抗出来ると言い聞かせ深呼吸をして落ち着く。

そして、ダッと走るとリオンのところへ向かう。

リオンも裕兎が近づいて来ていることに気づき金棒を振り回した。

「なかなかやるな...!」

「あぁ、お前こそな。」

互いの武器と武器がぶつかり合い火花が飛び散る。

リオンの金棒を上手く受け流したり、交わしたりし隙あらば切っていた裕兎だったが、皮膚が固くほとんど刃が通らず深い傷を与えれないでいる。

腕、脚、腹部、胸と色んなところを切っていたがどこも軽い傷しか出来なかった。

「お前の実力はそんなもんかぁ!」

リオンは更に動きを早める。

しばらくすると裕兎が押され始め遂にはリオンの金棒に当たり飛ばされ、勢いのついたまま木々をなぎ倒していく。

「グハッ!こうなったら!"飛蝗"(カヴァレッタ)!」

裕兎の身体はいつも通りに戻ると、次は膝から足先まで緑色と茶色の鎧を纏う。

そこで、しゃがみ左手を地面に触れバランスを取り槍を構える。

「"絶対なる進行"(パルフェクルス)。」

森の中からキラリと刃が光ったかと思えば、シュンッとリオンの顔の近くを通る。

するとドサッという音と共にリオンの左腕が落ち血が吹き出した。

だが、それはリオンだけでは無かった。裕兎も左腕が無くなっていたのだ。

「俺の肉体を貫くとはなかなかだな。」

「いつの間に俺も腕が千切られたっ!」

再生しようとしたが、リオンはそうする暇を与える筈がなく素早く身を翻すと裕兎に襲いかかる。

地面が砕け、木々はなぎ倒され、そこはもう人が住んでいたような風景は無い。まるで地獄のような光景となっていた。

そんな中、死ぬことに抗うかのように裕兎は避け続ける。

倒れてもおかしくない状態にまで追い詰められていたのだ。

遠くではまだ獣人と亜人が争う声が聞こえたが気にしている暇は無かった。

避けることに全神経を注いでいると体力の限界がきたらしく、不意に脚力は元に戻ってしまう。

「なっ!?そんな!?」

急に元に戻った身体に驚きつつも元の人間の身体能力で迫りくる金棒を避けれる筈もなく思いっきりぶち当たる。

身体はそのまま飛ばされ血が飛び散り、肋や胸骨、腕の骨といったあらゆるところの骨が折れる音が響く。

勢いにのったまま地面にぶつかり跳ねて木々や岩にぶつかった。

「あ...も..う.....う...ご..けねぇ....。」

ドシンッドシンッと地が揺れ近づいていることを感じ取れた。

そして、裕兎の目の前に止まるとリオンは金棒を大きく振りかぶる。

「なかなかに楽しい戦いだったぞ!」

リオンは満足げにそう言うと振り下ろそうとした。

そのとき

「ウフフ♪あらあらぁ♪楽しそうなことしているわね。混ぜてくれないかしらぁ♪」

同じ歳くらいで紫色の髪をしてツインテールの髪型をした女の子が居た。そして、右手には大きな鎌を持っている。

肌は色白で可愛いというより美しい系に入るだろうか。美少女がそこにいたのだ。

 

 

 

 

 

 

第10話.......終




今回の敵は予想以上に強くしてしまいましたが、まぁこれはこれでいい感じだと思いました笑笑( *´꒳`* )


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第11話 *突如現れた謎の影*

リオンは邪魔されたことに不満があったのか、些か怒りの眼差しを彼女へと向ける。

「なんだぁ?テメェ。ここはガキが来るようなところじゃねぇぞ!殺されてぇならコイツより先にテメェを殺してやるよ!」

そんな怒りの眼差しを気にすることもなく彼女は受け流す。

「あらまぁ♪私はただ美味しそうな血の香りに惹き付けられて来ただけ、ですわよ♪」

すると、ニヤッと笑い鋭利な尖った歯が二本見えた。

「なるほどなぁ。お前は吸血鬼種(ヴァンピーア)か。俺の血でも吸いに来たのか?」

「いえ、違いますわよ♪私はそこの死にかけの人の血が飲みたいんですの♪凄く美味しそうな匂いが漂って我慢なりませんわ♪」

(えっ...。俺の血を狙ってる!?美少女かと思ったら全然違かった...。むしろ悪魔じゃん...。)

「ほぅ、強い者の血を好むと思っておったが、そういう訳ではないようだな。それで?俺と殺り合うのか?」

リオンは殺る気満々らしく身構えている。

「まぁ、血を飲むと戦闘本能が出てしまいますので貴方は私の食事の生贄となってもらいましょう♪これ、ですわよね♪彼の血は♪」

彼女はおもむろに地面に垂れている裕兎の飛び散った血をすくい舐めた。

「キヒ♪キヒヒヒ♪あぁ♪美味しいですわぁ♪こんなに美味しい血は初めて、ですわぁ♪直接、新鮮な状態で飲むとどれほど美味しいのか気になりますわねぇ♪」

頬を染め、狂気じみた目の色へと変わる。

身体を左右にフラフラと大きく揺れたかと思ったらすぐさまリオンの元へ大鎌を持って走ってきた。

「キヒヒヒ♪力が!力が湧きますわぁ!♪」

「正面から突っ込んで来るとは馬鹿だな。」

リオンは嘲笑うと金棒を振り下ろした。

だが、彼女は金棒に手を掛けクルッと回ると金棒の上へと乗り、大鎌を振るう。

だが、やはりリオンの身体は硬く、軽く傷をつけるのが精一杯だった。

(予想外の実力だけど、やはり勝てる気がしない。俺が援護しないと。そのために今は怪我を治すことに集中だ。)

裕兎は焦る気持ちを落ち着かせ、特性を発動出来るまで体力の回復に務めた。

大鎌を振り回す彼女にもの凄い勢いで傷を付けられていくリオンは金棒を上に振り上げ、彼女を空中へ飛ばす。

「キヒヒヒ♪凄いパワーですねぇ♪」

落下すると共に身体を捻り回転させ、その勢いのまま鎌でリオンの背中に傷を負わせた。

「ぐっ!」

勢いがそれなりにあったおかげか今回は深い傷を与えることが出来た。

「ちょこまかとウザってぇ!」

金棒を大きく振りかぶって後ろにいる彼女にぶつけようとし振り返ったが目の前にはもう居ない。

「どこへ行った!?」

すると、リオンの懐の方から声が聞こえた。

「ここですわよぉ♪」

次の瞬間、腹部と胸部に一切り入れ、続けて鎌を下から上へと上げリオンの右目を切る。

「いってぇな!」

リオンは左目でなんとか彼女の姿を捉えながらも金棒を振り回す。

地面は砕け散る中、彼女には華麗に避け一発も当たらない。

逆にリオンは傷が増えていく。

「全く当たらねぇ!うぉぉぉぉ!」

リオンは体力を気にすることを止め、力任せに振り回し速度を上げる。

「キヒヒヒ♪その程度じゃ当たりませんわよぉ♪もっとぉ楽しませて下さいなぁ♪」

彼女は相変わらず余裕な笑みを零していたが、リオンが速度上昇をしたおかげか顔をかすり、頬が軽く切れた。

「あらぁ♪当たってしまいましたわぁ♪ですけどぉもう少しでぇ貴方を殺せますわぁ♪」

「ふん!強がりか。勝つのは俺だ!」

相手に傷を与えることが嬉しかったのかリオンは更に速度を上げる。

互いの血と火花が飛び散り合い、なかなかに決着が着かない。

(...俺がこんなにも簡単に負けたのに、あんな化物と互角...!吸血鬼種(ヴァンピーア)って皆あんなに強いのか…!?)

裕兎は微かに残る意識の中、土地が壊れ荒れ果てていく凄まじい戦いを見て冷や汗をかく。

「おらおらぁ!どうした!少し動きが鈍くなってきたんじゃねぇのかぁ!?」

「それはこちらのセリフでしてよぉ♪貴方だってぇ傷の痛みを感じ始めたのかぁ動きが鈍いですわよぉ♪」

さっきまでの勢いが少し弱まり互いに疲弊しきった表情が見られる。

彼女がリオンの肩や太ももを切ると、金棒が肩や腹部などをかすり、傷が増える。

「そろそろ、かしらぁ♪」

次の瞬間、彼女は今まで狙ってたかのように急に力を込め鎌を振るった。

すると、今までかすり傷が限界だったのに左腕を切り落とせたのだ。

「うがぁぁ!お...俺の腕を切り落とすだと!?」

予測していなかった事なのかリオンは驚き顔に焦りが見えた。

「キヒヒヒ♪流石に同じところを何度も切ると効きますわよねぇ♪」

顔に軽くかかった返り血を拭い不敵な笑みをニヤっと浮かべた。

どうやら、彼女はあらゆるところを切りながらも1箇所に狙いを決め悟られないように地道にそこへ傷をつけ切り落とす準備をしていたようだ。

「だが、切り落としたからなんだと言うのだ。フハハハ。」

リオンは高らかに笑うと左腕に力を込め容易に腕を生やした。

「それが狙いなのであれば自然回復の方にも体力を回せばいいだけの話だろう。」

すると、さっきまであった傷が次々と塞いでいく。

「キヒヒヒ♪...これは流石に私も危ない、ですわねぇ...。」

それは本心らしく彼女から余裕の顔色が消えた。

(確かにヤベェが。俺ももう少しで特性が使えそうだ。2人でなら何とかなる...と思うが、どうだろ...かな。)

リオンのあまりの実力に裕兎も勝てる気が失せ始める。だが、一つの勝機を見つけた。

「よし。これなら...。」

リオンと彼女が戦いに夢中になっているのを確認すると特性を使用する裕兎。

「"豹紋蛸"(プワゾンプルプ)。」

そう呟くと、粉砕した肋の骨や腕が修復し終える。

「次は"変色"(クラールハイト)。」

スーっとどんどん裕兎は透明化していき、すぐに見えなくなった。

槍を掴むと槍は見えることに気づく。

(あっやべ!そこまで考えて無かった...。さて、どうするか...。あっ思えば服は消えてるよな?なら、もし触れているものなら特性を関与出来るとするなら...。よし!試すか!)

裕兎は気持ちを落ちつかせ槍に力を流し込むようなイメージをした次の瞬間、うっすらと消えていき、遂には見えなくなった。

よし!と頷くと足音を消してリオンにじわじわと近づいていく。

そして、リオンの後ろへ着くと槍をしっかり握り更にタコ足を絡ませ全身全霊を込めて、上へ切り上げた。

「グガ!なんだ!?」

リオンは突然のことに驚き、頭を後ろに向けたところで彼女の鎌も食らう。

裕兎は金棒で飛ばされる前に素早くタコ足で傷口を開き突っ込みテトロドトキシンを流し込んだ。

だが、すぐに金棒が横から飛んできた。

槍で防いだものの元々ボロボロで立つことでさえ危うかった裕兎が耐えきれる筈もなく何の抵抗もできず飛ばされた。

「ぐわぁぁぁ!」

強く頭を地面に打ったがなんとか意識を保つことができた。

「クソがぁ、いつの間に俺の背後に!」

リオンが裕兎を向いた隙を狙い彼女は鎌を振るったが金棒で打ち返されぶん殴られる。あの協力なパンチを食らったら危ないと焦った裕兎であったが、彼女はギリギリのところで鎌で防ぐ。

しかし、飛ばされた先にあった岩に強く打ち付けられる。

「痛い...ですわねぇ…。うっ.....。」

強く打って肋が折れたのか手を当て痛がった。

(こ...これはヤバイ...!絶対絶命だ!俺も彼女も動けない状態になってしまった!)

「ってか...何で毒大量に入れた筈なのに喰らわねぇんだよ...。少しは弱れよ。」

「ん?あぁ、毒を入れられたのか。道理で傷が塞がらねぇのか。」

そう言うとリオンは背中と腹部の閉じない傷を見た。

「致死量以上の毒は入れたぞ...!それで...お前に与えた影響が...傷が塞がらなくなる...だけ!?」

あまりの化物っぷりに裕兎はもう駄目だと諦めた。

その時!

森の方から声が響いた。

「"創傷悪化"(フェリータトアメント)!」

森から現れた声の主は、金髪の長い髪をゴムで結び上げ右手に持っている剣に薄暗い霧を纏わせた女性。ユグリス・ミカだった。

「また増援かぁ!フハハハ!俺に勝てる奴なんか居ないわぁ!」

リオンは金棒を振り上げ全力で振り下ろした。

普通なら潰されるだろう。

だが、ミカは違った。

火花を飛び散らしながら金棒を切り落とし、そのままリオンの腕を切った。

腕は血を撒き散らしながら空高く舞い上がり、血の雨を降らせる。

ドスンッドスンッと腕と金棒が落ちる音が響き渡る。

「ぐっ!あぁぁぁ!何でだ!?俺が...!この俺がこんなに意図も容易く切られてたまるかぁ!!」

右腕を抑えながら予想外なことに驚き叫んだ。

「あなた程の実力なんてこの世にはゴロゴロといるわ。そして、私はあなたより強かった。ただそれだけ。」

ミカは冷たくそう言い放った。そして、剣を振り付いた血を払った。

「俺は負けない!お前なんざに負けてたまるかぁ!」

リオンはミカに向かって殴りまくった。地面がボコボコに凹んだが、全て躱され左腕さえも切り落とされる。

「ヴアァァァ!何なんだ!何なんだよ!てめぇは!」

両腕を失い何も出来なくなったリオンは顔色を青ざめ後ずさりした。

「あなたが再生出来なくて助かったわ。再生出来ていたのなら私も危なかったと思うわ。」

だが、ミカは距離を空けるのを許さず歩調を早め更に距離を縮めていく。

「こんなところで!死んでたまるかぁ!」

リオンはミカに背を向け逃亡しようとした。

だが、ミカは逃げる隙を与えない。

素早く近づくと両足を切断した。

「なっ...?...うわぁ!お...俺の!俺の足が!!」

「逃がす訳無いでしょう。」

「嫌だ!俺はまだ死にたくない!亜人種(デミヒューマン)の最強になるんだ!死にたくな.....。」

ミカはリオンが言ってる途中で真っ二つに切った。

「うるさいわね。」

容赦なく振り下ろした剣を再び振り、血を払うと鞘に収める。

少し離れた所では大きな炎が覆った。

 

 

* * *

しばらくすると、裕兎達の元へ3人の人影が近づいてきた。

赤茶色の髪に大きな盾と片手用長剣を持った男性と50~60代程の白髪のゴリマッチョの爺さんと裕兎と同じくらいの歳に犬耳と尻尾が生えた銀髪の可愛い系の女の子だ。

ミカは赤茶色の髪の男性に近づくと声をかける。

「あちらの亜人どもは片付いたのかしら?レン。」

レンはにこやかに応え、ミカの頭を撫でた。

「うん。終わったよ。ミカもお疲れ様。」

裕兎は高年齢の男性と女の子に心配そうに尋ねる。

「カエサル、シャネル。お前ら大丈夫だったか。」

「大丈夫じゃよ。」

「大丈夫ばい!」

安堵のあまり倒れそうになったところをギリギリ耐え抜いた。

カエサルもシャネルもフラフラだったが大丈夫そうだった。

「それより、お主の方が大丈夫じゃなさそうじゃぞ。」

カエサルにそう言われ、裕兎は確かに今回は危なかったな、と呟き笑う。

そして、裕兎はあっと何かを思い出したかと思えば足を引きずりながらある方向へと向かう。

向かった先にはリオンと戦っていた吸血鬼の彼女がいた。

「お前は大丈夫か?」

「ウフフ♪これが大丈夫に思えますぅ♪」

彼女は痛みに顔を歪ませながらも苦笑する。

「でもぉ♪もし宜しければ血を飲ませて下さいな♪血が貰えれば再生能力も向上されますのでぇ♪」

裕兎はまぁ、いいだろうと思ったがふと疑問を持った。

「吸血鬼種(ヴァンピーア)に血を吸われたら吸われた本人は何か影響が出たりするのか?」

「いえ♪何も影響ありませんわよ♪」

だが、裕兎はやはり心配になりとりあえず、カエサルに聞くことにした。

「カエサル!吸血鬼に血を吸われたら影響とかあったりするか?」

「うーん、わしには分からんのぅ。レンはどう知っておりますかな?」

カエサルはしばらく考えていたが知らないらしくレンに聞く。

「ん?影響は無いよ。」

「そうか。なら、ほれ吸っていいぞ。」

裕兎は腕を彼女に差し出した。

「ウフフ♪ご馳走になりますわ♪」

パクッと前腕筋に噛み付くとちゅーちゅー血を吸い始める。

「あぁ〜♪満たされますわぁ♪」

次第に彼女の顔色も良くなり立てるようになるくらいには回復した。

「そういえば、お前名前何て言うんだ?」

「私は吸血鬼種(ヴァンピーア)のクロエという者ですわ♪......それより、貴方の血は美味しいですわねぇ♪毎日飲みたいくらいですわぁ♪」

本当にそう思っているのだろう、クロエの目が妖しく光った。

「クロエね。なら、提案があるんだがクロエ俺の仲間にならないか?そうすれば好きなときに血飲めるぞ?まぁ、代償として戦争に駆り出されるんだがな...。」

「いいですわよ♪」

「えっ!?」

戦争なんて命をかけないといけない危険な条件付きのため断られるのを分かった上で誘った裕兎だったが簡単に受け入れられ驚きを隠せずにいた。

「だってぇ♪こんなに美味しい血を飲める+戦争に行けば血の雨も出来ますわぁ♪断る理由がありませんもの♪」

これからの将来が楽しみだと言わんばかりに目を輝かせている。

(......え?何この子。怖いんだけど...。)

すると、急に隣からも声がとんできた。

「うちも裕兎ん仲間になりたい!」

「えっ?俺は構わんけど、集落のことはいいのか?」

「大丈夫じゃなか?」

(えっ?この子はこの子で何?ちょー適当...。)

裕兎は苦笑いしながら考えを張り巡らせ一つの案を見つける。

「なら、今日はもう暗いしここでシャネルの家族達と野宿になるだろうから、その時に話して許可を得てからでいいか?」

「よかよ!」

シャネルは元気に頷く。

こうして、裕兎達は新しい仲間と仲間になる予定の2人を連れ獣人種(ビースト)の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

第11話.........終

 




次回からは日常編に入ります。( * ˊᵕˋ )
後々にプール編もする予定です(♡´艸`)


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第12話 *亜人種討伐任務完了*

もう梅雨ですね^_^;ムカデが出やすい季節ですが噛まれたとき毒は熱に弱いですので、間違っても冷やさないように皆さんも気を付けて下さいね( * ˊᵕˋ )
43~45度辺りでシャワーで洗い流せば毒も弱まるらしいですよ( *´꒳`* )


裕兎達は亜人の大将と残兵を討伐し終わると獣人種(ビースト)と合流をし応急手当をし始める。

「あ...ありがとうございます。」

「すみません...。」

ミカは手馴れた手つきで次々と傷だらけとなった獣人種(ビースト)の手当てをしていく。

「いいえ。構わないわ。」

多くの人からお礼を言われ、ミカはにこやかに微笑み返している。

シャネルやレンもミカ程ではないが、それなりに出来ている。

裕兎やカエサル、クロエに関しては手当てが下手過ぎて逆に邪魔にしかならなかった為、ミカに下げられてしまっていたので除外され邪魔にならないところで並んで座っている。

(応急手当かぁ…。興味無かったから授業中ほとんど寝てたもんなぁ...。)

ミカの手馴れた手つきを見て、ほぇーと感心する裕兎。

「さすがじゃのぅ。」

どうやらカエサルも裕兎と同じ心境だったらしく感服していた。

クロエはというと裕兎の膝を勝手に枕にし寝ていた。

(こいつ、いつの間に膝枕してるんだよ。

ぼーっとしてたら気づかんかったわ...。......可愛いから、まぁいっかってなっちゃうな、これ。)

そんなことを考えていると、いつの間にか手当ては終わったらしくミカ達は汗を拭っている。

「やっと一段落出来るわね。」

そう言って、ミカは結んでいたゴムを取りバサッと髪を下ろした。

「お疲れ様。流石ミカは速いね。」

レンがミカを撫でていると、その隣をバッと黒い影が通り過ぎ裕兎の元へと飛び込む人影があった。

どうやら、シャネルが疲れたようで倒れるように飛んで来ていた。

「えっ...お...おい?...危ねぇだろ!?」

寝てるクロエと、そのせいで動けない状態の裕兎は何かないかと辺りを見渡すが何もなく、とりあえず、支えようと腕を前に出す。

ところが、寸でのところでカエサルがガバッとシャネルを掴み肩に乗せた。

飛び込んできたシャネルは既にスースーと寝息を立てて寝ている。

(は...はぇぇ...。まぁ、それほど疲れたんだろうな。)

カエサルも同じことを思ったのか、ぽつっと一言感想を零すとシャネルを下ろした。

「どうやら、疲れが溜まっていたようじゃな。」

それから、しばらく休憩していた裕兎達だが、獣人種(ビースト)をまとめるリーダー、パンテラに呼ばれ一つだけ少し離れたテントのところへと向かった。

「すまんの。うちの者達の手当てを手伝わせてしもうて。」

パンテラは申し訳なさそうに言った。

「構わないわ。私の得意なことですしお気になさらなくて結構よ。」

「それより、これからが大変そうだね。」

パンテラが申し訳なさそうにしていた為、レンは気にしないようにすぐに話題を切り替える。

「せやね。まぁ、ゆっくりやっていくよ。ところで、あんた達はこれからどないすんねん?」

「俺たちは夜が明け次第アデレード王国へ帰省するつもりだよ。」

「うちも行くばい!」

そこへシャネルが元気よく手を挙げて言った。

「さよか。......って、えっ!?あんたも行くん!?」

予想外だったらしくパンテラはシャネルの言葉に驚く。

シャネルはパンテラの反応を気にする風もなく、裕兎の腕に抱きつき続けて言う。

「裕兎は、よかよっち言ったもん!」

(おい!ちょっと待て...。何で抱きつくの。可愛ければ何しても許されるって思ってるの?......いや、まぁ許しちゃうけどね...。とりあえず、柔らかいものが俺の腕を挟んで話に集中出来ないから離れようか。)

シャネルの腕を振りほどこうとした裕兎。だけど、解けない。ていうか、動かない。

(あっ駄目だこれ...。よし、無になろう。こういうときは仏教の教えに習って...。あっ俺無宗教だわ...。)

煩悩を自力で消していっているところで裕兎に新たなる煩悩が追加されてしまう。

「あらあら♪楽しそうなことをしていますわね♪」

そう言うが否やクロエは裕兎の空いているもう片方の腕に抱きつく。

「おい...。お前まで何してんだよ...。」

(当たってんだよ...。ってか!お前はわざとだろ!)

「なんとなく、ですわ♪」

クスリと笑い抱きつく力が更に強まる。

「はぁ...。」

ため息をつく裕兎。

「あらあら♪両手に花、ですわね♪一体何にため息をついていらっしゃるのですか?♪」

裕兎の反応を見てクロエはわざとらしくとぼけてみせる。

「どこ...ん?どうした?」

どこが花だ、と言おうとしたところでシャネルからも話かけられる。

「裕兎からもパンテラに頼んでよ!」

「ん?あーそうだな...って次はなんだよ...?」

「私との話がまだ終わってませんわよ?♪」

「ワハハッ!裕兎は人気じゃのぅ!」

裕兎は両方から休む暇なく構わられているとコホンッとパンテラがわざとらしく咳込んだ。

「まずはうちの話がさきやろ?......まぁ、うちは

ええと思っとるよ。自分らは亜人を倒してくれたし、それなりに強いって思ってるから安心できる。」

「そう...か。分かった。」

案外、簡単に許可を貰えて裕兎は少し驚いていた。

それに引き換えシャネルはとても喜んでいる。

「やったー!」

許可を貰え、シャネルは両手を上に上げてバンザイをして喜んだ。

「うち、ちょー暑かから風に当たっちくる!」

言うが否や、すぐに外へ飛び出していった。

(天然系、かぁ...。可愛いんだけど、不意のスキンシップが...。早めに慣れよう...。)

シャネルが外へ行き少し安堵する。

「まだ私がいることをお忘れなく♪」

やはりまだ安堵するには早かったようだ。

しばらくすると、パンテラは一つの課題を思いつく。

「それにしても今回のようなことがまたあるんやったら、わてらも次は終わりやろな...。どないしようかな?」

今回の件でパンテラはこのままでは危ないと思い、解決策がないか考え始める。

「一つ確認だけど、獣人種って他には居ないのか?」

「何か考えでもあるのかのぅ?」

どんな考えなのか、と自然と裕兎に皆の目が集まる。

「まぁ、少数の集落に別れてどこぞで過ごしとるって思うよ?大人数で固まるより少数で過ごした方が狙われへんってことで皆で別れたからね。」

「なら、集まればたくさん居るってことだな。となると、パンテラはこれから獣人種を集めて大国を作ればいいじゃん?いや、大国というより街、だな。」

「せやけど、それやって狙われるよ。」

「だけど、少数のときに狙われたら絶滅だろ。そうなるんなら集まった方がまだ打開策はある。」

どうやら納得したらしくパンテラは頷く。

「...せやな。やったら、うちはそないやることにしよかな。

やけど、竜魔種(ドラゴニア)に襲われたらどないしよか?うちらは空中戦は無理やで?やから、勝てる自信あらへんよ...。」

昔に対立したことがあるのか苦々しい顔をする。

「あーそこら辺は対策あるから大丈夫だ。まぁ、俺が間に合えば、の話だがな。対策する前に狙われたら無理だな。」

「無責任やな...。まぁ、対策があるんやったら良かった。」

裕兎の話を信じたのか、苦笑をしていた。

「ほな、ご飯の準備も出来てるやろしはよ食べて休もうや。うちはしんどいからはよ寝るで。」

解散、と示すようにパンテラは手を叩きパンッパンッと音を響かせた。

裕兎達はその合図を聞くと皆立って食卓へと向かう。

「確かに疲れたなぁ…。カエサルもお疲れ。」

「そうじゃの。今回は相当強い相手じゃったからのぅ。しばらくは仕事休みがよかのう。」

カエサルはそう言うとハッハッハと笑った。

すると、裕兎の隣からひょこっとクロエは顔を覗かせた。

「私にはお疲れ様、という言葉掛けはないんですのぉ?♪」

「お前もお疲れ。」

ポンポンとクロエの頭を撫でる裕兎。

クロエはそれに対してからかうように返す。

「ウフフ♪嬉しいご褒美、ですわね。」

「そりゃあ、良かったな。」

(...何でこの子はさり気なくこういうこと言うんですかね。頬を染められたらこっちまで恥ずかしくなっちゃうだろうが...。)

何気ない普通の会話をしながらも3人は歩きながら向かう。

レンとミカは、それを後ろから微笑ましくみていた。

「予想以上に元気そうで良かったね。ミカ。」

「はい。そうね。レンも今日は疲れたでしょう?帰ったら膝枕してあげましょうか?」

ミカはにこやかに言う。

「なら、お言葉に甘えて軽くして貰おうかな。」

レンはそう言うとミカの頭を撫でて向かう。

 

 

* * *

裕兎達は獣人種(ビースト)の皆と外でバーベキューのようなものをしていた。

裕兎は皿に適当な肉を入れるとクロエの元へと向かう。

辺りを見渡すと倒れた大木に座って肉を食べていた。

見つけるとクロエの隣へと座る。

「なぁ、クロエ。吸血鬼(ヴァンピーア)って血以外を食べても大丈夫なのか?」

血しか摂取出来ないと思っていた裕兎は少し驚いた。

「?普通に食べれますわよ?♪血以外食べれないなんて不便ですわ♪私たちの種族も人間とあまり身体の作りは変わりませんわ♪ただ戦闘経験をすればするほど強くなり、血は効率よく強くなる手段、のようなものですわね♪」

それにしても、やっぱり肉は美味しいですわね。と笑顔で食べているのを見ていると裕兎も安心した。

(今は種族同士対立しているけど、多民族国家ってのも可能っぽいな...。俺がそれなりに地位が高くなったら国王に提案してみたいものだな。)

賑わう街を想像し、いいものだな。と微笑みながら今のひとときを楽しんだ。

その後、酒を飲んだり踊ったりとし皆盛り上がり楽しそうに愉快に笑った。

裕兎はシャネルに踊りを誘われ次にクロエと踊り2人とも寝付いたのを確認してからカエサルと話したりした。

しばらくの間、賑やかだったが疲れたのかだんだんと眠る者が現れ始める。

「シャネルとクロエのダンスの相手お疲れじゃの。」

カエサルは酒を飲みながら笑った。

「あぁ。明日から賑やかになるな。」

そう言いながらも実際は悪い気もせず笑う。

「それにしても今回はなかなかにギリギリじゃったの。わしも力を付けねばじゃの...。」

「あーそうだな...。俺も強くならなきゃな。まぁ、今回は勝ったんだ。勝ったときはちゃんと喜び息抜きしないとストレスで禿げるぞ。」

そう言いつつも今回の反省点などを考えてしまっていた。

それからしばらく話しているといつの間にか寝てしまっていた。

 

 

* * *

チュンチュン。

鳥のさえずりと共に裕兎は目を覚ます。

ふぁ〜あ、と欠伸をしながら伸びをする。

辺りを見渡すとまだ寝ている者が多くいた。

どこか川ないかな、と呟き起き上がると歩き回った。

しばらく歩いていると少し離れたところで川の流れる音がする。

裕兎はその方向へと進む。

歩いていると数分で森を抜け川が見えた。

「結構、綺麗だな…。」

元居た世界の川を思い出しながら呟く。

川の近くまで歩みよると水を手ですくい上げて顔を洗った。

「ふぅースッキリしたー。」

服の裾で顔を拭くと腰を下ろし、川を眺めた。

すると、突然後ろから声がかかった。

「こんなところでどうしたの?」

どうやら、声の主はレンのようだ。

「ん?あーいや、少し暇だったんでな。ぼーっとしてただけだ。」

「そっか。」

そう言うとレンは裕兎の隣に腰を下ろした。

「今回の任務について考えてた、とかじゃないのか?」

「レンは鋭いな...。うーん、まぁ、そんな感じだ。今回は結構ギリギリ、というかミカが来なければ危なかったからな...。」

思い出したのか、裕兎は顔をしかめる。

「なら、そんな裕兎に軽く特性について教えてあげるよ。特性同士が戦う場合、勝敗を分けるのはなんだと思う?」

「やっぱ、相性とかじゃねぇのか?」

「うん。そうだね。でも、相性が悪い特性相手でも勝つことは可能だよ。だから、相性なんて覆せるからそこまで重要じゃないんだよね。」

それを聞き驚く。

「となると、一番重要なことはなんだ?」

「特性の濃さ、だよ。」

「特性の...濃さ...?」

あまり理解出来ずに復唱する裕兎。

「例えば、だよ。砂を操る特性があるとする。砂で自分自身をドーム状に囲まれると、俺は炎をぶつけてもびくともしない。これが相性。だけど、俺はそんな相性を覆して砂ごと灰と化せる。これが特性の濃さだよ。」

「つまり、相性なんてハンデでしかなく特性の濃さで勝負は決まる、ということか。」

「うん。そういうことだよ。」

(4騎帝の実力は皆同じじゃない、というのはそういうことか。俺も努力すれば最強になれる、のか...?今の仲間を守れるような力が欲しい...な....。)

そんなことを考えていると向こう側からガヤガヤと音が聞こえ始める。

「そろそろ皆起きたみたいだね。戻ろうか。」

レンはスッと立つと裕兎を向きそう言った。

「あぁ、そうだな。」

裕兎もそれに習い立ち、皆の元へと向かった。

集落へ戻るとパンテラ達は起きていた。

だが、シャネルとクロエはまだ眠っているようだった。

二人を起こすと王国へと帰る準備を始める裕兎。

裕兎達は身支度を済ますとパンテラと挨拶を交わす。

「昨日は楽しかったで。ほんなら、お互いに頑張るかいの。」

「うん。そうだね。」

最後にレンはパンテラと握手を交わすと王国へと帰った。

裕兎達はその際に振り向き獣人種(ビースト)たちに手を振った。

「じゃーな!またどこかで会おうなぁ!」

「うち頑張るちゃ!」

こうして、新たな仲間を二人加え裕兎の異世界生活は賑やかなものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第12話.......終




AZ∑さんお気に入り登録ありがとうございます( *´꒳`* )
これからも頑張っていきます( * ˊᵕˋ )


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第13話 *王都バルバトス*

アデレード王国に帰還した裕兎達は今回の任務の詳細を伝える為に中央区王都バルバトスへと向かう。

そこは国王の広大な領地。

あちらこちらで貴族のような皇貴な服装に身を包んだ人たちや兵士が歩いたりしている。

「ほぇ〜、ここが王都かぁ。広いな。」

「そうじゃのぅ。」

「しゅっご〜い!広い!建物のでか〜い!」

「ウフフ♪なかなかに凄いですわね♪」

王都に初めて来た裕兎、カエサル、シャネル、クロエの4人はそれぞれ感想をこぼし、皆驚きながらもソワソワしている。

「あーそういえば、4人は初めてだったね。」

「すぐに慣れるわよ。」

レンとミカは慣れているらしく、ソワソワすることなく王宮の入口へと進んで行く。

「流石、4騎帝。慣れているのぅ。」

「だな。置いてかれて迷子にならないようにはぐれないようにしないとなぁ。」

どんどん離れていくレン達裕兎達も急いでレン達に続き王宮へと入った。

王宮内はシャンデリアや赤い絨毯などあらゆるところが豪華できらびやかな感じだった。

「中も結構綺麗だな。」

「王宮には専属のメイドが居るからね。」

裕兎の感想に対してレンはにこやかに理由を話した。

後ろではカエサルやシャネル、クロエが話していてミカは3人に王宮について説明しているみたいだった。

裕兎は初めての王宮で周りをキョロキョロ見渡しているとあること気づく。

それに対し、ん?と少し不思議に思った。

そこの様子を見るかのように一時の間見ていると、視界に1人の美しい女性が映る。

その女性は明るめの金色の髪と瞳で歳は主人公と同じくらいだ。

髪の長さは長く、歩く度にふわりと髪が揺れていた。横髪は編み結びされ、結ばれた両方の髪を後ろで結んでいる。

美しい高貴に身を包まれた姿に少しの間見惚れているとさっき不思議に思ったところでまた動きがあったのを裕兎は見逃さなかった。

(なんだ...?さっきからちょっと違和感のある行動をしている奴がいるな...。......あっもしかして!)

しばらくの間考えてた裕兎はもしかしてと思い、槍をその場に置きその女性に向かって走る。

すると、裕兎が警戒していたとある男性が女性へと少しずつ近づいていく。

手にキラリと光るナイフを忍ばせて。

そのことに気づいてない女性は何食わぬ顔で男性の隣を通り過ぎようとしていた。

手を伸ばせば刺せる距離に近づいた時に男性のナイフが動く。

女性に刺そうとしているのだ。

腕を伸ばしナイフを刺そうとしたところで、裕兎はその男性の伸ばした腕を掴み背負い投げをする。

「うわっ!?」

驚きの声と共に男性は背中を思いっきり床に叩きつけられた。

男性が怯んだところを狙い手を殴りナイフを飛ばす裕兎。

そのまま男性の顔を床に伏せ、腕を背中に回し関節技を決めた。

「いたたたっ。」

関節技を決められ男性は痛がる。

「おい...。お前は何でそんなことをした?」

ギロリ、と睨むと裕兎は男性そう聞く。するとカエサル達が裕兎が急に走り出したことに不思議に思いながらも走って向かって来ていた。

「どうしたのじゃ?」

「こいつがそこの女性にナイフを向けようとしたから押さえ付けたんだ。」

今までそれぞれの話で夢中になっていた貴族達は裕兎の声と騒ぎで、そこに自然と視線が集まる。

そこで、周りの人は女性を見た瞬間にわなわなと声を上げた。それに連鎖するかのように周りもそれに便乗する。

「あっあなたは、ソフィア王女!護衛も付けずここで何をしているんですか!?」

「お怪我はありませんか?」

彼女がソフィア王女と気づいたレンとミカは慌てて心配した。

「その...お父様が仕事で忙しそうでしたので、軽く散歩に出掛けようとしていただけよ。」

ソフィアは自分が殺されかけると思っていなかったようで少し驚いていたようだった。

(王様の娘!?あーまぁ、確かに気品溢れる服装だな。あっ今はそれどころじゃねぇわ。)

「それで、お前は何でこんなことをした?」

裕兎は押さえ付けている男性に再び聞く。

「...そこにいる奴に頼まれたんだよ!」

すると、男性はその騒ぎを見ていたギャラリーの中の1人の男性に顎をくいっとし示した。

「はっいや!?俺はそいつとは今初めてあったぞ!?」

男性に命令されたと容疑をかけたれた男性は慌てて否定する。

「...そうか。カエサル、俺の武器をくれ。」

「ほれ。」

カエサルはこちらに向かって走って来る時についでに持ってきた裕兎の槍を投げて渡した。

それを受け取った裕兎は槍を回して掴むと男性の顔の近くに刺した。

「ひっ...!」

「おい...。嘘は付くなよ。残念ながら、俺は嘘かどうか見分けるのが得意だからな。どうせお前は、いきなり関係ない奴を指名すればそいつは焦る。その慌てた反応を俺らに見せあたかもそいつが企てたように見せる、とでも思ってたんだろ?」

「なっ...!?」

裕兎にとって、その男性の反応を見て図星と分からせるには充分過ぎる反応だった。

「残念だったな。お前の狙いが外れて罰が軽くならなくて。さて、レンこいつの罰はどうする?やっぱ王女を殺しにかかろうとしたんだ。死罪か?」

ふむ、と考えているレンはふと思いついたようにその男性に一つの質問をする。

「そういえば、お前は何で王女を狙ったの?」

「ソフィア王女に多少傷を付けてもいいから連れてこいと頼まれたんだよ...。」

レンの質問に男性は諦めたように白状した。

「それを頼んだのは誰だ?」

「それは知らない!ほんとだ!相手は二人組だったが、二人とも深く帽子を被っていて顔までは見えなかったんだ。」

抑える力を強めた裕兎に男は恐怖で声を張り上げる。ほんとに何も知らないらしい、男性に裕兎はため息を吐くとレンに向き直り、視線だけでどうするかと問う。

「そうか...。...とりあえず、王女が狙われたという問題は俺たちだけで勝手に処分したら駄目だろうから王の元へ連れて行こうか。そして、ソフィア王女の護衛の警戒意識改善とでもして貰おうか。」

「そうか。分かった。ほら立て。」

レンの意見を聞いた裕兎は男性を立たせ歩かせる。

「シャネル、クロエ。あと、念のためカエサルも。ソフィア王女の散歩中の護衛を頼んだぞ。」

「分かった!」

「了解しましたわ♪」

「うむ。」

シャネルは手を上げて元気良く返事し、クロエは微笑み返事しカエサルは頷く。

そこから王室までは何の問題無く向かえた。

コンコンッと扉を叩く。

「入ってよいぞ。」

扉の向こうから声が聞こえた。

『失礼します。』

裕兎とレン、ミカはそう言って扉を開け入る。

「今回の任務はどうじゃった?成功したのか?」

「はい。亜人種(デミヒューマン)の殲滅は出来ました。ただ、住民は着いたときにはもう殺されており助けれませんでした。すみません、ディラン国王。」

黒い髪にあごひげ、鼻のしたのひげを生やしたその男性はディランという名前のようだ。

多少厳つい顔をし玉座に座っているその姿は見た目が怖かった。なにより迫力がパない。

(おっかねぇ〜。あれが王様か...。任務とかミスったら怒鳴り上げてすぐ死刑とか言いそうだなぁ...。)

そう思っていたが、ディラン国王は意外にも見た目とは裏腹に穏やかだった。

「いやいや。構わん。亜人種を討伐してくれただけでも十分だ。助かった。」

ディラン国王はそう言い笑う。

「ところで、その者は?」

裕兎に拘束され、連れてこられていた男性を見て不思議に思ったのか聞いてきた。

それに対してミカが答える。

「この者は、とある者から依頼を受けてソフィア王女を拉致しようとした者ですわ。」

それを聞きディラン国王は驚く。

「そ...そんなことがあったのか!?ソフィアは...ソフィアは無事なのか!?そこの兵!こやつを牢獄へ連れて行くのだ!」

「はい。無事です。うちの部下が何とか防ぎました。今は他の部下に護衛させております。」

レンは裕兎を紹介した。

拘束されていた男性は扉近くに居た二人の兵に連れて行かれた。

「お主が。名前は何と申すのだ。」

「はい。嵐鬼 裕兎と言います。」

「嵐鬼 裕兎、だな。...本当にありがとう。」

ディラン国王は不意に玉座から立ち上がると裕兎の元へと歩み寄る。

そして、手を握ると礼を言った。

「いえいえ。たまたまですよ。...あっディラン国王。一つ二つほど提案宜しいですか?」

「良かろう。」

「今回の件、護衛兵が居れば防げた事態。しかし、普通の兵じゃソフィア王女に1人で行きたいと言われれば、従わざるをえない立場。故にソフィア王女は1人で散歩をしていたと思われますが、そうでございますか?」

「...うむ。確かに一般兵だ。」

やはりか、裕兎はそう思い一つ提案をする。

「でしたら、これからはソフィア王女の護衛は一般兵ではなく国王の信頼出来る家臣にしては如何だろうか。それなりに腕が立つ者も居ますでしょうし。」

「そう...だな。うむ、分かった。」

そして、ディラン国王は強く頷いた。

「それと、ですね。護衛が付いているのであれば、多少の外出も許すのも本人の自由にした方がいいかと。色々規制されるのは案外ストレス溜まりますし。まぁ、規制しているんでしたら、の話ですけどね。」

「確かにそこら辺も厳しい過ぎるかもしれんな。お主の助言有り難く受け取ろう。」

案外、簡単に聞き入れてくれて内心驚く裕兎。

「はい。」

「今回の任務のことも報告ご苦労。お主達はもう帰っても構わぬぞ。」

「はい。分かりました。では失礼します。」

レンがそう言うとミカと裕兎もお辞儀をし部屋を出る。

「じゃあ、俺はソフィア王女をディラン国王の元に帰してから帰るから。レン達は先に帰っていて構わないけど、どうする?」

「なら、お言葉に甘えて先に帰ろうかな。」

「レンがそうするのなら私もそうするわ。」

裕兎は二人と別れると、カエサル達の元へと向かう。

 

 

 

* * *

カエサル達は小さな池で魚を見ていた。

「よっ。カエサル。襲ってくる輩は居なかったか?」

「うむ。何にも無かったぞ。」

カエサルから何も無かったと聞き安堵しているとクロエとシャネル、ソフィアが裕兎が帰ってきたことに気づき近づいてきた。

「あっその...さっきはありがとう。」

「おう。気にすんな。...じゃなくて、気にしなくてもいいですよ。」

裕兎は咄嗟に言い直し苦笑した。

それを見てソフィアが頬を染めながら微笑む。

「普通に話してくれていいよ。」

「なら、遠慮なく。...あっそうだ。あの男性ソフィアの父親に渡してきたけど、今回護衛も無しに散歩してたの怒ってるようでは無かったぞ。良かったな。」

「そうなの?良かったぁ。」

しばらく話していると鎧に身を包んだ一人の女性が裕兎達のところへ走ってくる。

「ソフィア王女。こちらに居ましたか。今日から私がソフィア王女の護衛を務めさせて貰います、イザベラという者です。」

その女性は紫色の髪と瞳。耳の後ろは縦ロールがかかっており、後ろ髪はロングで前髪は目に軽くかかるくらいの長さだった。

腰には長剣を携えている。

「イザベラ、だね。うん。分かったよ。」

そう言い微笑む。

「はっ!」

「そんな気を張らなくていいよ。イザベラ。」

「ありがとうございます。では、少しだけ...。」

イザベラは膝を付いてたのを辞め立ち上がる。

「お前が裕兎、だな。ソフィア王女を助けてくれたようだな。感謝する。」

「おう。あっそだ。なぁ、お前ら俺前に広大な湖を見つけたんだけど明日辺りに泳ぎに行かね?夏だし最近暑いじゃん。クロエとシャネルの歓迎会みたいな?」

裕兎は陽射しの強い空を見ながら言った。

「歓迎会...かぁ。わしはいいと思うぞ。」

「うちもさんせ〜い!水浴びしたかばい!」

「ウフフ♪なかなかに楽しそうですわね♪」

(あっ思ったけど、この世界って水着とかあるんかな?帰ったらメイドに確認するか。)

そんなことを考えていると隣から声がかかる。

「あ...それ、私も行きたい。楽しそう!」

「えっ!?いや、ソフィア王女があまりそのようなこと危ないですよ!?」

ソフィアの言葉にイザベラは驚き身を案ずる。

そして、それに、と言葉を続ける。

「ディラン国王に許可を貰えるかどうか...。なんなら、許可を頂くのは困難だと思いますよ。」

「あーそこら辺は大丈夫だよ?」

イザベラはその言葉に驚く。

「はっ!?何で分かる?」

「いや、さっき国王に会って来たんだけど、その時に護衛が居るときはソフィア王女の行動を自由にさせたら?って聞いたら納得してくれたから。」

「なっ!?」

「ほんとに!?」

驚いているイザベラの隣でソフィア王女は目を輝かせ喜んでいた。

「なら、私も明日は行く!」

「おう。アルジェのレンの領地集合にしたいんだが、いいか?」

「うん!」

「あっ俺って迎えに行ったがいいの?それとも、護衛の人と一緒に来る?」

そう言うと裕兎はイザベラに顔を向ける。

「はぁ...迎えは必要ない。私が全力でお守りする。」

こめかみを抑えながらも自信を持って答えた。

「そうか。なら安心だな。じゃあ、そろそろ帰るか!」

「うむ。」

「うん!」

「そうですわね♪」

カエサル、シャネル、クロエとそれぞれ返事をするとソフィア王女とイザベラに別れを告げた。

裕兎もそれに続き別れを言う。

「じゃあ、また明日だな。」

軽く手を振ると4人は楽しく賑やかに歩きながらレンの領地へと帰っていく。

「ソフィア王女。私達も戻りましょうか。」

「うん。」

裕兎達を見送ったソフィアとイザベラは王宮へと足を向け帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第13話.......終



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第14話 *初めての水着イベント!*

「着いたー!!」

裕兎は湖に着くなりそう叫んだ。

「結構遠かったのぅ。」

若干疲れたような表情でカエサルも荷物を地べたに置いた。

「じゃあ、私達はあちらの木陰で着替えるわ。」

ミカはそう言うと、クロエ、シャネル、そして前日に誘っていたソフィアとイザベラも続き木陰に入っていく。

「じゃあ、俺達も早めに着替えて道具の準備をしようか。」

レンの意見に裕兎とカエサルの二人は、そうだなぁーと軽く返事をし着替える。既に服の下に着ていたため、着替えるというより上の服を脱いだ、の方が正確かもしれない。

裕兎は黒色と赤色を主としたズボンのような水着のようだ。

レンは裕兎とは色の異なる赤色とオレンジ色だが、形状は同じで更にパーカーを羽織っている。

カエサルも形状は同じだが、色は青色だった。彼に関しては露わになった上半身は見事な筋肉で迫力がある。

「とりあえず、バーベキューの準備をするか。」

そう呟くと裕兎はカエサルが運んできた袋に手をつけた。

袋を開けると、そこには金網やトングといったバーベキュー用品が1式揃って入っている。

これらは裕兎が前日に急いで設計し鍛冶屋に頼んで作って貰ったものだ。ついでに言うならば、今着ている水着も前日に作って貰った特注品だ。

この世界にはバーベキューという概念がないため、これは世界で一つしかないであろうと思われる代物だ。

売ったら高そうだなぁ、グへへなんて思いながらも裕兎は組み立てていく。

「レンは机を組み立ててその上に肉を並べてくれ。カエサルは木1本ほど切り落としてそれを手のひらより一回り大きめくらいまで切ってくれ。」

「うむ。」

「分かった。」

二人は返事をすると早速作業に取り掛かる。

しばらくすると、遠くの木々がなぎ倒され鳥達の鳴き声と羽ばたきの音が響いてきた。どうやら、カエサルが斧で木を切り落としているようだ。

(まぁ、あれ...見るからに一本どころじゃないよな...。あんなに木必要ないんだけどなぁ。)

作業する手を止めて音がした方向を見ていたが、まぁいっかとまた作業に戻る。

裕兎はあらかた準備し終わると木を切り終わったのだろう、カエサルが袋に入れて持ってきた。

「これくらいで足りるかのぅ?」

「おう。充分過ぎるくらいにあるな...。」

木の入った袋を広げ見てみると予想通りとなった大量な量が入っていた。

(まぁ、肉の量多いし多めでいいか。)

それらをバーベキュー台へと入れていく。

「俺も準備終わったよ。」

肉を並べ終わったらしい、レンが裕兎のところへときた。机の上にはたくさんの肉が並べられていた。

「なら、次はこの木に火を付けてくれ。」

裕兎はバーベキュー台に入れられた木を指さす。

「りょーかい。」

レンは台に手をかざすと手のひらから炎を吹き出した。

みるみる炎は燃え広がりいい感じに火力が付いた。

「良し。もう止めて大丈夫だ。助かったよ。」

「この道具便利だね。裕兎よく思いついたね。」

裕兎は礼を言うと金網を乗せる。それを見ていたレンは、ほぉーと感心しながら道具を珍しそうに眺める。

「あーまぁな。こういうのは得意な方だ。」

異世界からの情報といえる筈もなく、裕兎はふと思いついた理由を適当に並べた。

「流石じゃのう。」

そんな風に準備をし終わると、三人で雑談しながら一息ついていた。すると突然木陰から一人の少女の姿が現れ裕兎に向かって抱きついた。

裕兎は急な衝撃に倒れそうになったが何とか倒れることなく踏みとどまった。

一体誰の仕業だ、と思い目を向けるとそこにはドレスのような紫色の水着を着ているクロエがいた。

着痩せするタイプなのか、水着を着ているクロエはいつも見るときよりも胸が多少大きいのだと気づいた。

いつもよりくっきりと分かる身体のラインや露わにされた肌が艶めかしく表現され美しかった。

「うふふ♪この水着似合っているでしょうか?♪」

(なんでくっついてきてるの...?あまりくっつかないで頂きたい...。ほら...水着だし?俺、男の子ですし...?恥ずかしいじゃないですか...?)

そんなことを思いながら頬を染めていると、その反応をからかうかのようにクロエは胸を押し付けてくる。

「いや...お前離れろよ...。似合ってるから。早く離れろ...。」

「目を背けないでくださいまし♪」

「ってか、こういうことはシャネルがしそうなんだけどな。シャネルはまだ着替えてるのか?」

「いえ?あちらに居ますわよ?」

クロエが向けた視線の先にはいつの間に来たのかシャネルが肉の並べられた机の前で目を輝かせていた。

「わぁー肉がどっさいあん!」

その光景を見て裕兎は納得をした。それと同時にふっと笑みがもれる。

「あーなるほどね。」

シャネルは黄色と黒色の豹柄の水着を来ていた。

豹柄という模様がシャネルのイメージにピッタリと合い凄く似合っておりいつもより露わにされた肌は白過ぎず黒過ぎずといった色でいつもより可愛らしく見えた。

いつもなら、見惚れてしまうところだっただろうが今はそうはいかない。なぜなら、隣にいるクロエのせいでそれどころではないからだ。肉食系女子か、と言ってやりたくなるほど積極的だった。

「それよか、早く離れろよ...。」

身を捩り何とかクロエから離れると一息ついた。

そこへ更に人影が三人現れた。

一人は純白の白といった至ってシンプルな水着であったが、逆にシンプルが似合い美しく豊満な胸が強調された女性。ミカだった。

その後ろに続いて現れた二人は、赤色やピンク色、青色といった花柄が主となり、下半身には腰周りの横から後ろまでミニスカのようなヒラヒラに包まれ前だけがヒラヒラがないような水着で両腕の前腕筋には鎧を付け腰には剣を携えている、イザベラ。

それと、胸の方は薄紫色の水着で下半身は左足が足首辺りまで薄紫色の煌びやかな布を纏っている、ソフィア。

肌は白く美しくきらめき恥ずかしいのか頬はほのかに赤く染めている。その姿は例える言葉が出ないほど綺麗だった。初めて見た人は皆、女神と間違えるのではないかと思えるほどに。

裕兎はそんなソフィアに見惚れているとイザベラがソフィアの前に踏み込むと剣の柄を掴み構えた。

「裕兎!お前、ソフィアを下卑た目で見ていただろう!切り殺すぞ!」

「いや、ちょっと待て!見ていたのは認めよう。だが、下心があった訳ではない。」

急なことに慌ててそう力強く宣言する裕兎。

しかし、逆にそれを聞いていたイザベラは手を震わせ困惑していた。震える振動で剣が鞘とぶつかりガチャガチャと音を鳴らしている。

「なっ...!?こんな美しいソフィアを見てそんな訳あるか!.....はっ...!まさか...お前は女ではなく、男が好きなのか!?」

(めんどくせぇ。これじゃ、下心あるなし関係ないじゃん...。正解はなんだったの...。ねぇ...!)

裕兎のそんな心の悲痛な叫びなど聞こえる筈もなくイザベラはなおも困惑していた。

このままでは変な誤解をされたまま周りに広がる、と思い急いで訂正をした。

「いや、違うから。俺は同性愛者じゃないから、異性愛者だから。」

「なら、やはりソフィアを!?」

「お前の勘違い両方ともないから。」

「ふん。まぁ、いい。今回は許してやろう。...だが、次はないぞ。」

そう言い終わると最後にギリッと睨まれた。

(怖いなぁ...こぇーなぁ...。)

何とか誤解は免れたが、少し疲れため息をついた。

ソフィアとイザベラは、いつの間にかレンとカエサルが焼き始めていた肉のところへと向かっていった。

ミカは机の上に置かれている皿を持って既にレンの隣に立っていた。

レンと楽しげに話したりしており、肉を焼いて手が塞がっているレンにたまに肉を食べさせたりしている。

皆楽しそうにしておりそれを見ていた裕兎は安堵すると隣からクロエが声を掛けてきた。

「裕兎は食べないんですの?♪私が食べさせてあげますわよ♪あっ私を食べて下さってもいいですわよ?♪」

クロエは冗談めかしにそう言い、からかうと皿に乗せられた肉を1枚箸で持つと裕兎の口まで運ぶ。

「はい、あーん♪」

「肉は有難く貰うけど、お前は食べねぇから。」

苦笑混じりに笑うとクロエの持っている肉を口に含んだ。

「あらあら♪釣れないですわねぇ♪」

「おっ美味いな。これ。」

「それは良かったですわ♪どうです?私との関節キスのお味は♪」

ニッコリ笑いながらそう言った。

「う...!?ゴホッゴホッ!!関節キスしてようがしてなかろうが味は変わらねぇよ。」

関節キスと言われ勢いよく咳き込んでしまったが、至って平静を装う。

(まぁ、平静を装えてないよね...。はぁ...やっちまったなぁ。油断してたなぁ。)

「悲しいですわぁ♪その割には意識してた気がしましたけども♪」

うふふと笑いながらクロエは次々に裕兎の口に肉を突っ込むと空になった皿を持ってカエサルの元へと向かった。

口いっぱいに肉を含んだ裕兎もそれに続いて机から皿を一枚取りカエサルのところへ向かうことにした。

肉を焼いてるところでは、シャネルが物凄い勢いで食べていた。食べる度に目を輝かせて美味しそうに顔を和ませながら。

レンは肉を焼きながらも今回の任務での話をミカと話している。

「そういえば、ミカ。今回の任務では一人で行かせたけど、次からも俺も戦うからね。」

「私が失敗をするとでも思っているのかしら?」

ギロリと睨まれたレンは苦笑いをしながらも話を続けた。

「い、いや違うよ!?ただね、最近とある噂を耳にしてね。」

噂?とミカは首を傾げる。

「最近、俺ら四騎帝に並ぶ実力者が現れたという噂を聞いたんだよ。確か、十賤兵と呼ばれる人達だったかな。ほら、四騎帝も皆それぞれ個性強いから。」

「十賤兵と呼ばれる人達も個性が強いだろうから、絡まれたら問題が起こるかも、ということかしら?」

レンが話している途中でミカは先読みをし言う。その通りだったらしくレンは、うんと頷く。

しかし、ミカは特に気にする風でもなくケロッとしていた。

「別に大丈夫と思うのだけれど。それに絡まれたとしてもレンが居るわ。」

「凄い信頼してくれるんだね。」

そのことが嬉しかったのかレンは満足そうに微笑んでいた。

「まぁ、レンが心配してのことならそうするし気をつけるわ。」

それからしばらくたわいもない話をし楽しい時間を過ごしていると肉が無くなった。

うーん、と伸びをすると裕兎は口を開く。

「良し。じゃあ、腹も膨れたし軽く遊ぶかぁ。」

腹が満たされ満足なのかシャネルはタッタッタッとバーベキューの袋とは別のもう一つの袋へと走る。

袋を漁るとビーチボールを取り出した。

「うち、これで遊びたぁい!昨日裕兎から教えて貰ったぁ。これを上にポーンてして落っちしたばいら負け、てゆうゲームの楽しかげな。」

両手でボールを持ってニッコリ笑って言った。

ミカ達の女性陣は楽しそうやら、やってみたいやらと好評だった。裕兎の思惑通りに。

「レン、カエサル。俺らは泳がね?」

「俺は辞めとこうかな。日陰でゆっくり休んでるよ。」

「わしは構わぬぞ。」

裕兎は二人を誘ったがレンは申し訳無さそうに断り日陰で座った。どうやら、ひたすらに肉を焼いていたためか疲れたようだ。

カエサルと裕兎は湖へと入り泳いだ。

「水が冷たくて気持ちいいのぅ。」

「あぁ、最近暑かったしなぁ。」

二人で軽く雑談しながら泳いでいるとカエサルが唐突に止まった。

「あっそうじゃ。裕兎、わし新しい技を思いついてじゃな。少し見てくれんかのぅ。」

「おっ!新しい技かぁ。」

「うむ。あそこの岩を見ていてくれ。」

カエサルが指さした先には湖の水面から1メートルほど出ている岩があった。

すると、そこに手をかざすカエサル。

「"増風圧縮"(ヴァンフェアザンメルン)。」

そう言うと岩の周りで風が巻き起こったかと思ったらいきなり岩が砕けた。

「...なるほどな。風という力の働きを倍増させたってことね。カエサルの特性は"増力"(フェアメールング)だし、納得がいくな。」

「どうじゃ!?凄いじゃろ!」

裕兎が原理について考え納得しているとカエサルは自信ありげに胸をはる。

「確かに凄いな。その発想は無かったわ。俺も新技考えないとなぁ。というより、生物学の勉強しないと、だな。」

率直な感想を述べると顎に手をやり考え始める。

しかし、少し離れた浅瀬の方からミカ達の声が聞こえ考えていた頭はリセットされそちらに視線がいく。

そこには楽しそうにボールで遊ぶミカ達が見えた。

(女性のみでのビーチバレー。目の保養になるなぁ...。それに、しても皆スペック高いよなぁ。)

そんなことを考え見ているとイザベラがソフィアにコソっと一言言う。

当然ながら離れている裕兎にはそれは当然聞こえない。

「ソフィア、ボールを高く上げて下さい。」

「...?まぁ、分かった。」

何をするのか理解出来ずにいたソフィアだったが、とりあえずイザベラの指示通りボールを高く上げた。

「裕兎!貴様また見ていたな!次は許さないと言っただろうがぁ!」

イザベラは高く上がったボールに向かって飛びスパイクを打つ。無経験者とは思えないほど綺麗なフォームだった。

飛ばされたボールは一直線に裕兎へと飛んでいく。

咄嗟のことに反応出来ずにいると思いきや、裕兎は高らかに笑う。

「フハハハッ!そんなもん想定内済みだ!!さぁ、来い!レシーブしてやる!!」

そう勢いよくレシーブの体制を取ろうとして裕兎はあることに気づく。裕兎のいる所は深くて立てないと言うことに。

「あっ!!やべぇ!!ここじゃ構えきれない!しまったぁぁぁぁぁ!」

そんなこんなしている内にボールはそのまま裕兎の顔面へと当たった。あまりにも間抜けな失敗だ。

「かはっ!!」

そして、ブクブクと湖の中に沈んでいく裕兎。

「なっ何してるの!?イザベラ。死んじゃったらどうするのよ。」

ソフィアは何が起こったのか理解すると困惑しながらも何とかイザベラに聞く。

「あのくらいじゃ死にませんよ。」

「うふふ♪大変そうですわね♪」

「また怒られてるのかしら。全く懲りないわね。」

イザベラはソフィアをなだめ、クロエとミカは笑っていた。

シャネルはというと

「わぁーしゅごぉい!ボールのビュンっち飛んでった!」

目を輝かせてイザベラを見ていた。師匠って呼びそうな勢いで。

ボールを顔面に受けた裕兎は一瞬失った意識をなんとか取り戻す。

(はっ!!ここは...湖の中かぁぁ!!くっ苦しい!)

意識を取り戻したところがまさかの水中で焦り、慌てふためきながら息を吸おうと水面から顔を出そうと脚をバタつかせ腕を回す。

すると、あることに気が付く。

海底の方に吸い込まれるな、と思った裕兎はそこを見るとどんどん大きくなっていく渦を見つけた。

(な...なんだあれ!?このままじゃ水に浸かってる奴ら皆吸い込まれて溺れ死ぬぞ!)

そう危機感を覚えた裕兎は急いでどうするか考える。

しかし、時間は裕兎を待ってくれない、みるみるの内に渦は大きくなっていくのであった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

第14話........終




久しぶりの投稿です( *´꒳`* )
少しの間投稿出来なくてすみません:(´◦ω◦`):


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第15話 *謎の刺客*

どんどん大きくなっていく渦を目の前に裕兎はこの状況を打破するべく一つの技を思いついた。

「"駄津"(ニードルペシェ)。」

裕兎の口と鼻辺りの形が変形し鳥のクチバシのようなダツの口のように鋭く長くなった。

クチバシから耳にかけて藍色のマスクのような鎧を纏う。

それはまるでハロウィンとかで使われるコスプレマスクのような、そんな感じだった。

更に両腕の上腕二頭筋と両足の太ももの途中までが青色の鱗のような鎧を纏った。

「おぉ!息が吸える!それに喋れる!」

水中で呼吸や言動をすることが出来るようになりテンションが上がりながらもすぐさま膝を曲げ水中を蹴る。

その瞬間、もの凄い勢いで水中を移動した。その場から消えたような速さだ。

裕兎が水中を蹴った反動で湖の水は大きく揺れ泡がたくさん出る。

それは80キロほどだろうか。いや、それ以上はある速度だった。そのまま水面に向かって移動する。

そして、裕兎はカエサルを抱えると方向を変え浅瀬に向かって再び水中を蹴り移動した。

すると、大きな水飛沫が起き浅瀬とは逆方向に少し大きい波が起きる。

「なんじゃ!?...おっ裕兎ではないか。どうしたのじゃ?」

カエサルは急な衝撃に驚きはしたもののすぐに裕兎に運ばれていると理解した。

「海底に渦があった!このまま水に浸かってたら危ねぇ!だから、急いで運んでるんだよ!」

「うむ。分かったぞ。任せろ!」

力強く頷いたカエサルは不意に深く息を吸い始める。何を任せろなのか、今から何をするのか疑問に思っていると。

「お主らぁ!水に浸かっていては危ないぞぉ!今すぐ陸へ上がれぇ!」

大声で叫んだ。どうやら、皆に知らせるために息を吸っていたらしい。

カエサルの声を聞き取ったミカ達は急いで陸へと上がる。

「どうしたのかしら?」

「なんかいたんかいなぁ?」

「うふふ♪怖いですわねぇ♪」

「ソフィア、さぁ陸へ急いで上がりましょう!」

「う...うん!」

皆一体何があったのか分からずいた。が、それでも、鬼気迫る状況ということだけは理解してくれたようだ。

「ナイスだ!カエサル。助かった。」

「うむ。」

「じゃ、速度上げるぞ。しっかり耐えろよー?」

「余裕じゃな。風圧などには負けぬわ!」

裕兎も急いで陸に上がろうと更に蹴り上げ速度を上げる。その原因でカエサルの上半身は風の抵抗で進行方向とは逆側に身体が持っていかれそうになるところだが、それを余裕の表情で耐えていた。

だが、陸に着くときには勢いがあり過ぎたせいか水ごと陸に持ってきてしまった。つまり、小さな津波のようなものを起こしたということだ。となると当然、先に陸に着いていたミカ達にかかるのが当たり前であり文句言われるのも想像がつくだろう。

案の定、ドボォン、と音と共に先に陸に着いていたミカ達の女性陣と木にもたれ掛かって寝ていたレンにかかる。

「ぷはっ!えっ何!?何かあったの!?」

不意に浴びた水に驚きを隠せないでいるレン。

他にかかった女性陣も口々に口を開いた。

「あら、濡れてしまったわ。」

「そうですわねぇ♪」

「わぁーえらいいっぱい水かかったぁ。」

「おい!裕兎、ソフィアに水をかけたな!」

「大丈夫だよ?イザベラ。」

ミカとクロエは微笑み、シャネルはテンションを上げていた。

イザベラはソフィアに水をかけた裕兎に怒り、それをソフィアが宥めていた。

「あぁ、ごめん。」

(喜怒哀楽、綺麗に全部表現されてるんじゃね?これ。こんなこと滅多にないやろなぁ。)

「わしからも、すまぬな。」

裕兎とカエサルは水のかかったレン達に謝った。が、裕兎に関しては能天気なことを考えていた。

すると、どこかから声が響く。

「あらら〜、一人も殺られてないねぇ〜。なら、これでどうだ。"水竜"(ヴァッサードラゴーネ)。」

そう言い終わると湖の水が盛り上がり、そこから竜のような水の塊が三体裕兎達に向かって襲う。

「...あの渦も何者かの仕業だったか。」

裕兎はそう呟くと水の龍を何とかしようとする。

しかし、そこで三人の人影が前へと出た。

「ソフィアに向けて、そのような技とはぶった斬ってやる!"貫通する風"(ペネトラッションヴェント)!」

イザベラの剣の周りに風が巻き起こり、それを纏う。

左手を水竜に向けて狙いを定めるとその剣を前に突く。すると斬撃と共に鋭利に尖った大きな風が水竜へと直撃し吹き飛ばす。

周りの木々は巻き起こった風にざわめき葉は吹き飛ぶ。

水竜を吹き飛ばしたことにより水滴が飛び散り雨のような状況となる。更には辺りの木々が風圧で反ってたりもしていた。

ブワッと巻き起こった土煙は雨が止む頃には消えていた。

その隣ではカエサルが水竜を真っ二つにしていた。

「なかなかやりますのぅ。"増腕力"(ヴィーグルフェアー)。」

上半身の筋肉が更に引き締まり増大し向かいくる水竜に向かってカエサルも飛んで迎え撃つ。

そして、空中で斧を縦に振り下ろすと湖ごと水竜を真っ二つにした。湖を真っ二つにしたその斬撃は湖の向こう側まで続き、森の木々をなぎ倒していく。森では一部緑が消えていた。

カエサルが地面に着地する頃ではまだ森では土煙が立ちこもり、湖の水の流れは荒れていた。

ザバァンという音と共に水竜は湖に落ち普通の水に戻る。

最後に残った一体の水竜はイザベラやカエサルとは別のもう一人の人影へと向かった。

その人影は水竜が近くに来るのを待ち自分の攻撃範囲に入った瞬間、キラリと剣を鞘から引き抜く。

「"創傷悪化"(フェリータトアメント)。」

静かにそう言い放つとミカの剣が薄暗い霧を纏う。

そして、ミカは目にも止まらぬ速さで剣を振るい鞘に収める。

スチャッという音がなり完全に剣を鞘に収めると共に水竜は木っ端微塵に水滴となり飛び散った。多量の水が地面に落ちていき、それから起こった風でミカは髪をはためかせていた。

「やるなぁ〜。お前ら。なら......」

どこからか再び声が響き、また何かしようとした。ところで、裕兎も何かしようとする。

「一体どこにいるんだ。...そうだ。"阿弗利加鬼鼠"(オウガラッテ)。」

裕兎の尖った口がだんだん元の大きさに戻っていく。しかし、マスクのような鎧は相変わらず纏っており色は藍色から黒茶色へと変色した。

両腕、両足の青色の鱗のような鎧は元の人間の肌へと戻った。

変態し終わると裕兎はスゥーと勢いよく息を吸う。

「...なるほどな。そこにいるのか。」

裕兎はアフリカオニネズミの驚異的な嗅覚を用いて敵の居場所を特定した。

見つけると地面に伏せ右手に槍を構え足に力を込める。

「"飛蝗"(カヴァレッタ)。そして、"絶対なる進行"(パルフェクルス)!」

膝辺りから足先まで緑色と茶色の入り混じった色の鎧を纏った。

そして、伏せた姿勢の状態で地面を強く蹴り前へと飛ぶ。

裕兎の足元の地面は砕け、裕兎の進んだ逆方向に砂や石が吹き飛ぶ。

進んだ先にある木々は槍により切り落とされ貫通していく。

裕兎の通った道は砂埃が舞い上がり風が巻き起こる。

全く緩む気配のない速度で進むと20代後半辺りの男性の目の前へと来た。

その男はサングラスを掛けバンダナを頭に付けておりバンダナから少しはみ出てる髪は青色だった。

体格は細過ぎず太過ぎず筋肉質。肌は茶色と軽く焼けている。

身長は160程の平均よりちょっと下といったところだ。

そのまま男性を貫通しようとしたときその男は手を前に翳した。

「あらら〜。見つかっちゃったかぁ。"水大砲"(ヴァッサーカノーネ)。」

すると、翳した手の前に水の塊ができ徐々に大きくなっていった。

そして、その水の塊を裕兎へと飛ばす。

だが、たかだか水で裕兎の勢いが止まる筈もなく、それを粉砕し水滴が飛び散る。

それを見ていた男性はニヤッと笑うと開いていた手のひらを閉じた。

「"微水針"(クラインナーデル)。これで一人目終了だな。」

飛び散った水滴が急に振動したかと思ったら急に針のような形へと変化する。

そして、変形した水は裕兎へ向けて伸び裕兎はあらゆるところを貫かれた。

「やべっ!?...ぐはっ!」

水に串刺しにされ、あらゆるところから血が出る。

裕兎はその痛みにより狙いを外し男性を貫通出来なかった。

「次はあっちの奴らだなぁ〜。」

男性はカエサル達を見据えると歩いていく。

(どうやらあいつは俺らの特性を把握している訳じゃないんだな。よし。なら、後ろから狙うか。)

裕兎は男性が自分から気が逸れているのを確認すると怪我を治した。

「"豹紋蛸"(プワゾンプルプ)。」

そうボソッと呟くと両足が紫色の斑点模様の鎧を纏い腰からは同じ模様のタコ足が6本生えてきた。

水に貫通され空いた傷は塞がり治る。

裕兎は立ち上がると気配を忍ばせて男性へと近づく。そして、タコ足で男性の腕や胴体、足といったところに絡ませ縛り上げる。

「う...あ...あらら〜。捕まっちまったかぁ〜。」

裕兎は更に力を入れ更に締め上げていく。

「もう無理っぽいなぁ〜。仕方ねぇなぁ。"偽物精製"(ファクティスファーレ)。」

そう言った男性はいきなり身体がドロッとしたかと思うと水になり地面へとビシャッという音を響かせて消えた。

「あ...あれ!?消えた!」

目の前で男性が消え裕兎は驚きを隠せずにいた。

すると、湖からさっきの男性の声が響いてきた。

「こんなにも早く俺の偽物が殺られるとはなぁ〜。"水装巨人"(ヴァッサージガンテ)。」

声が聞こえるとすぐに湖が盛り上がり、そこから巨大な水の巨人が現れた。

その頭部にはさっきの男性が中にいた。

「コソコソ殺るのはもう面倒だし一気にいくとするかぁ〜。"水精傭兵"(ファクティスソルダート)。」

すると、湖から水の剣や鎌、槍などといった武器を持った水の傭兵が次々に現れる。

「皆、どいて。俺が行こう。」

さっきまで寝ぼけていたレンが前へと出た。何も持たずに。

「あっ俺、今日武器持ってきてない...!?仕方ない。"火炎噴射"(エリュプシオン)。」

武器がないことに慌てつつもすぐさま右手を傭兵へと向けた。

すると、手の平が橙色や赤色の入り混じった色に光っていき熱を帯びてくる。

そして、手の平から巨大な炎が噴出され水の傭兵と共に水巨人も炎に包まれた。

「あらら〜。これは危ないねぇ〜。"水大砲"(ヴァッサーカノーネ)。」

向かいくる炎に向けて水巨人も左手を前に向け巨大な水の塊を飛ばし炎とぶつけた。

火と水がぶつかったのだ。当然、多大なる蒸気が発生する。

その蒸気によって巨人は見えなくなった。

「や...殺ったのか?今回は武器が無かったからあまり力出せなかったんだけど...。」

敵は殺られたのか見定める為に皆一点を見つめ様子をみていた。

すると、蒸気の中から再び水の傭兵が現れた。

「やっぱり、倒せてないみたいだね...。」

敵が殺られてないと分かりレン以外の皆は武器を構え戦闘態勢へと入る。向かいくる大勢の敵に警戒をしていると不意に森の中から裕兎の声が響き渡る。

「皆はそこの傭兵を頼む!」

「裕兎、無事じゃったのか!」

「良かったですわぁ♪」

「任せて!。」

森から姿を現した裕兎を見て、カエサルとクロエ、シャネルは元気に言う。

「レンは下がっていなさい。」

「ごめんね。こんな時に戦えなくて...。」

「いえ、構わないわ。」

ミカはレンを守るために後衛に下げると傭兵を見据える。

「ソフィアも下がって下さい。」

「う...うん!分かった。イザベラも気をつけてね。」

「レン様!もしもの時はソフィアを宜しくお願いします!」

「うん。任せて。...あっそれと俺も呼び捨てで構わないよ?ねぇ...聞いてる...?」

「では。」

イザベラもミカと同じようにソフィアを後ろへ下げレンに護衛を任せる。途中、レンが何かしら話しかけていたが、こんなときに何を言ってるんだ、こいつわ。危機感を持ってソフィアを守って。という意思を込めてシカトするイザベラ。

「では、私達は傭兵狩りを始めましょうか♪」

「そうじゃのぅ。」

「うん!」

皆、準備は出来たようだった。

「じゃあ、俺も行くとするか。」

裕兎は水の巨人を見据え今戦いが始まろうもしていた。

 

 

 

 

 

 

 

第15話.......終



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第16話 *裏で舞台は着々と進められている*

サブタイトル、何かいい感じの思いつきませんでした笑(´д⊂)


裕兎は槍を片手に湖へと入る。

ひんやりと水の冷たさを身体全身に感じているはずだが気にする素振りもなく平然としていた。

「相手は水の塊だ。...なら、"駄津"(ニードルペシェ)!」

水の中でも陸にいる時のようにいつもと変わらずしっかり目を見開き男を見据えながら言う。

すると、裕兎の鼻と口が鋭くダツのように尖り長くなり、耳元まで藍色のマスクのような鎧を纏う。

更に両腕の上腕二頭筋と両足の太ももの途中辺りまで青い鱗のような鎧を纏った。

水中で身体を倒し少し前かがみになったところで膝を屈折させ曲げると勢いよく伸ばした。

それにより水は裕兎の進行方向とは逆方向へと泡を発生させ水飛沫を上げる。

そして、全身に水の抵抗を受けながらも速度を緩めることなく水中を蹴り進む。

湖の水から巨人の腹部へと入り胸部へどんどん男の元へと向かっていく。

鎧の色のお陰か裕兎は湖の水に溶け込んでいた。更にもの凄い速さを兼ね備えている。それは目を凝らさないと見失うほどだ。

しかし、男は見失うことなく裕兎を鋭い目つきで睨んでいた。

「あらら〜。お前、なかなかに速いねぇ〜。なら、これでどうだ。"水圧"(ヴァッサープーセ)!」

男は裕兎を見つけると特に焦ることなく冷静な表情でそう言った。

「うぐっ!がはぁ...!!」

裕兎はさっきまで物凄い勢いで水中を移動していたのに何故か動きが止まる。

そして、血を吐いた。口から出た血は水を赤く染め徐々に消えていく。

顔色は青白く血色の悪い色となる。

あろうことか片方の肺が潰れたのだ。

裕兎はその痛みに耐え歯を食いしばっていた。

「今お前の周りには水深400メートルのときの水圧がかかっている。このまま押しつぶされるんだな。」

裕兎は急な圧力に驚き苦しそうに顔を顰める。だが、急がないと死んでしまうと焦る気持ちを押さえつけ、打開策を見つけるため考え裕兎はすぐに次の生物へと変わった。

「このままじゃ、あいつを斬る前に殺られる...!"電気鰻"(エレクトシテアール)!!」

「何かするみたいだねぇ〜。そうなる前に終わらすかぁ〜。」

藍色に尖った口先は元に戻りマスクのような鎧は消え、青色の鱗のような鎧も消えた。

かわりに、裕兎の目は黄色へと変わり、髪も少し伸び黄色へと染まった。

そして指先はサイドに黒色の粒のような模様が等間隔に左右対称に現れる。

両腕や両足、肋のところも同じような模様が浮き出た。

更に胸筋辺りから両腕の指先まで竜の鱗のような黄色の刺々しい鎧を纏う。

両足もそれと同様に同じ模様で腰辺りから鎧を纏っていた。

電気を常に発しているせいか身体は淡白く輝いていた。

裕兎は圧力を感じ苦しそうだったが、それでも男を睨んでいた。

「あらら〜。雰囲気変わったねぇ〜。」

男は驚きの言葉を言っているものの表情は余裕に満ちた笑みを浮かべている。

「水中で今の俺に勝てると思うなよ。"雷槍"(エレクトリシテランツェ)!」

すると、裕兎の左手がバチバチッと音を響かせて白く輝く。

そこには電気が凝縮して作られた槍が出来上がっていた。

それを鷲掴みすると、腰を捻り腕を後ろへと引き男へ向かってぶん投げた。

電気の痛みを感じないのか圧力以外のキツさは伺えず手も焼けることなく放たれる。

水の中では電気は通りやすく槍は裕兎の手から離れると瞬時に消え、いつの間にか男を貫いていた。

槍が通った経路は電気の熱により蒸発し風穴が空く。

更に水中には軽く電気が流れバチバチと音を鳴らしながら外の空気中へと抜けていく。

雷槍が巨人の外へと出ていくと空気中に電気をバチバチ鳴らしながら徐々に無くなっていった。

男は雷槍で腹部を貫かれてからも痺れ気を失っている。

また雷に打たれたように手足が軽く痙攣していた。

洋服は貫通したところは穴が空き皮膚を覗かせており、そこから中心に焦げ、皮膚もところどころ黒くなっており焦げていた。

裕兎は倒したかと安堵し深く深呼吸して特性を解除しようとしたところで男は意識を取り戻す。

「ぜぇ...ぜぇ...。これじゃあ、環境的に不利だなぁ...。"水大砲"(ヴァッサーカノーネ)!」

ギリギリのところで意識を保ち、さっきまでの余裕な表情が無くなった男はギリッと裕兎を睨むと叫ぶ。

すると、急に裕兎のいる周りの水の水流が変わり、そのまま勢いよく巨人の体外へと弾き出される。

あまりの咄嗟のことに反応出来ずにいた裕兎は水と共に木々と地面に叩きつけられる。

背中を強く打ちその反動で宙へ浮く。更に強く地面に叩き付けられたせいか額からは赤い液体が一筋に垂れていく。どうやら、頭を怪我し血が出たようだ。

そこら一体の木々はへし折れ倒れていた。

「いってぇ…。」

裕兎は頭を左手で抑えながら右手に持っていた槍を支えに立ち上がる。と、血を拭く。

「水じゃあお前に有利だからなぁ。"氷結化"(ゲフリーレン)。」

どうやら、男は裕兎を甘く見るのを辞めたらしく、冷ややかな能面のようなゾッとする冷笑的な薄笑いを浮かべていた。

まるで全力で殺しに行くと錯覚してしまうくらいに。

水の巨人の拳の部分の水温がだんだん下がっていく。そして、カチカチカチッという音と共に水は凍っていき、しばらくすると完全に氷となった。

そして、裕兎に向かって拳を連続で打ち付けた。

裕兎は驚きも恐れもせず平気な顔をし身体から微小な電磁波を発し空気の流れを掴み向かってくる拳を読み避けていく。

凍った拳が地面に叩きつけられる度にドンドンッと音を鳴らし氷は砕け飛び散り、地面は地割れ砂埃が起こる。

「どうするか…。あっそうだ。"雷槍"(エレクトリシテランツェ)。からの〜、"雷装"(ドナー)!」

特性を使っている状態で避け続けるのは体力的に負担があったのか、頬に一筋の汗が流れ何か方法はないか気を急いでいた裕兎だったが、思いつくとすぐ行動へと移した。

左手は電気で作り出した槍を握り右手では槍に電気を纏わせ横に振った。それゆえ裕兎に向かってきていた氷の拳は電気の熱によって氷を溶かし槍で切り裂かれる。

「あらら〜。斬られちまったかぁ。」

言葉は落ち着いていたが、やはり男にとっては予想外だったらしく些か愕然としていた。

「次で終わらす!これで俺の勝ちだ!」

切り裂かれて氷の奥にある水の巨体に包まれる男を狙って左手の雷槍を放つ。

「そう簡単に俺はやられねぇよ。」

男は不敵に薄ら笑いを浮かべると自分の前の水を凍らし電気は氷を伝って横に流される。

「受け流すか!?」

(いや、これが昨日レンが言ってた特性の質の差ってやつか。)

「実力では劣ってるってモチベーション下がるなぁ。テクニックで勝るしかねぇか。次は貫く!!」

「お前に次なんてねぇ!俺が先に倒す!」

裕兎はそう言うと再び左手に雷槍を再び作り持った。

「仕方ねぇ〜。体力を結構消費してしまうがそのくらいしないとお前には勝てないようだしな。」

男は斬られた拳を氷で再生させると湖に腕を浸し裕兎に向けて水を飛ばす。

勢いよく飛んできた水は凍り鋭く尖った氷となって裕兎を襲った。

どうやら、数多くの水を尖らせ凍らす為それなりに体力を消費するようだ。それでも男は余裕そうな表情を浮かべていた。

避けなければ身体に突き刺さりそうな程の勢いで飛んできた氷を裕兎は槍で切り捌き避けていく。

しかし、男はそれでも辞める気は無いらしく変わらず飛ばす。

裕兎の表情はだんだん曇っていく。

少しずつ体力がすり減らされているようだ。

そのうえ、飛んでくる氷が掠ったりし傷が増えていく。

「このままじゃ先に体力が切れて終わり、だな。なら、"雷動"(ラヴィテス)!」

裕兎は叫ぶと雷槍を巨人の顔付近から10メートル程離れたところへ投げ飛ばす。

雷槍が巨人の近くを通ると裕兎は雷槍に向けて静電気を発生させ磁石の原理のような引力を使い一瞬で槍の元へ移動した。

「速い...!こりゃあ、見失ってしまうな。」

裕兎が視界から消えたことにより男は驚きの表情を見せ顔を四方八方へと向け見つける。

「これで終わりだぁぁぁ!!」

不意をつくことに成功した裕兎は左手の雷槍を男に向けて放つ。

「まだやられねぇよ。残念だったね〜。」

「何...!?そろそろ体力の限界がきてるのに...。早く終わらせないと!」

裕兎が雷槍を放つとパキパキパキッと言う音を立て水の巨人の頭部は凍っていき男は電気を回避する。

「俺は今まであらゆる奴を倒してきたんだ。お前みたいなガキに殺られる実力じゃねぇよ。そろそろ諦めたらどうだ。」

未だに殺せずにいる裕兎は徐々に体力がなくなり苦しみ焦燥を感じ始める。

空中で雷槍も無くなり身動き取れなくなった裕兎の隙をつき男は腕を凍らせ叩きつけた。

巨大な氷に叩きつけられた裕兎は風を巻き起こしながら地面へと落ちる。

地面へと打ち付けられると地面は砕け裕兎はめり込む。

「うがぁ!!」

「ほんと丈夫だねぇ。そろそろ死んでもいいと思うんだがなぁ。」

裕兎がまだ息をしているのを確認した男は呆れ気味にそう言った。

裕兎は呼吸を荒げながらも立ち上がるとニヤリと笑い男に指を突き立てる。

「はぁ...はぁ...。お前は...もう俺に攻撃を与える暇なんて...ねぇぞ。ふぅ〜...、俺がそんな暇与えねぇし体力の限界だ。すぐに終わらしてやる。......お前はもう俺にはついてこれねぇよ。」

「ふはははっ!何を言い出すかと思えばそんなふらふらの状態で強がりはやめておけぇ。みっともないぞ。」

「ふっ。言ってろ。俺は負けねぇ...!"雷神"(トネールディーオ)!」

すると、黄色だった裕兎の髪と瞳、鎧は青白く変わり更に周りをバチバチッと電気を走らせながら淡白く光る。

また肋というより背中から左右一本ずつ電気で形成された腕が出来上がり槍を一本ずつ持つ。よって、それは腕が四本ある状態である。

それから裕兎は雷神が腰辺りから背中辺りの大きさまである小さな太鼓が繋がり背負っているみたいなものを電気で形成し作り出す。

その変わりようはまるで雷神のような様で。それを見ていた男は顔を引き締め警戒する。

「なんだぁ〜?その姿は。また変わったねぇ。潰れろ!」

凍った巨大な拳を冷静に見つめタイミングを測る裕兎を。

視覚から外され不意を突かれないようにしようもキリッと睨みつける男に裕兎は左手の雷槍を放つ。

「おせぇ!"雷動"(ラヴィテス)!」

「また消えたか!次はどこだぁ?」

予想通りだったのか、男は今回はあまり驚くような反応がなかった。

目の前で一瞬で姿を消した裕兎を見つけようと辺りを見渡すと巨人の右側で槍を口で咥え雷槍を四本持っている姿を見つける。

「そこかぁ!吹き飛ばす。」

見つけるとすぐに地面に叩きつけた拳を横へスライドし裕兎へと向かった。

「吹き飛ばされる前に俺はお前を先に倒す!」

「何をするか知らねぇが。止める!」

「分かった頃にはもうお前は殺られてるだろうよ。"雷分身"(フェルシュング)!...もって数秒だが、お前を倒すには十分だ!」

そう叫ぶと裕兎は四本の雷槍を巨人の付近へと飛ばす。

飛ばされた雷槍は青白く形成された裕兎そっくりの状態が作り出されていた。

四人の...いやこの場合は四つと言った方が正しいのだろう。

四つの偽物と裕兎は雷槍を四本持つと巨人に向かって構え始める。

それを見ていた男は。

「ほぅ...。全方向からすればどれかは当たるだろう、という算段か...。だが、残念だったな。"氷結化"(ゲフリーレン)!そんなもの全身凍らせばいいだけのことだろう。」

そう言い放つ。

ピキピキピキッ。

そんな音が響く。

男が...即ち水の巨人の表面が下からどんどんペースを上げ冷気が出始めた頃にはもう既に氷の像と化していた。

だが、それでも裕兎はあまり驚きもせず技を当てれる、そう信じて前を見ていた。

「まだそんな体力が残っていたのか。だが、まぁそれでも俺の攻撃は防げない。"十六本の天災"(ナトゥーアカタストローフェ)!!」

その声が響くと偽物の四つは四本の雷槍を放ちバチバチッと音を鳴らしながら消える。

放たれた十六本の雷槍は真っ直ぐに巨人へと向かい同時に当たった。

巨人は青白い光に包まれるものの男のところまで届く雷槍は無く、雷のような電気の音が響くだけだった。

「ふはははっ!残念だったな。やはり俺の所までは届かない!これで俺の、勝ちだ!」

そんな高笑いをしていると不意に。

ピキピキッパキッ!

そんな音が脈絡もなく唐突に鳴り響いた。

氷の像と化した巨人に。

ヒビが入ったのだ。

どうやら、多量の電撃を受け発生された熱により巨人は溶け始め液体となっているようだ。

だが、男にはそんなこと知る由もなくただ呆然と立ちつくし状況の理解をしようとする。

しかし、裕兎はそんな暇を与えず"雷動"(ラヴィテス)で巨人の背後へと回る。

「残念だったのはお前のようだったな。これで終わりだ!"大雷槍"(グロースランツェ)!!」

不意に咥えていた槍を右手で構え振りかぶり叫ぶ裕兎。

すると、右手で持っていた槍に電気が走りどんどん集まっていき次第に水巨人と同じほど、では無くとも腕くらいの大きさはあり、その大きさはざっと10メートルはあるだろう。

それを上半身を捻り力一杯ぶん投げた。

投げられた槍は一瞬にして巨人を貫き更にその中にいる男の腹部をも貫いた。

「うがぁぁぁ!...これは俺の...負け、のようだな。だが、俺は諦めはしない!」

力強く手を裕兎へと向けると

「"氷結化"(ゲフリーレン)!!これで道連れだ。」

水を集め水圧で潰す。

「な...!?や...ヤバイ!」

これは予測していなかったのか裕兎は水の中であたふたしている内に水が外側から徐々に凍っていく。

カチカチッカチン。

球型の氷になると湖へと落ちていき波を立たせ飲まれていった。

それと同時に巨人も普通の水と化し遠くでひたすら出続ける水傭兵もバシャッバシャッと地面に倒れ水溜りを作っていく。

「終わったのぅ...。」

「少し疲れましたわぁ♪」

「裕兎が倒してくれたのか!」

カエサルやクロエ、イザベラは裕兎が勝ったのだと喜び。

「怪我した人はいるかしら?」

「ソフィア様は大丈夫ですか?」

ミカとレンは周りの心配をする。

「私は大丈夫。皆無事で良かった。守ってくれてありがとう。」

ソフィアは皆に感謝し安堵していた。

 

* * *

バシャーン。

巨人が崩れた付近で水飛沫を上げて湖から現れたのは巨人の中にいた男だった。

男は裕兎に腹部を槍で貫通され上半身だけ、となっていたが。

「ハァ...ハァ...。ふっふっふっ。ふははは。何とか奴を殺せた。最後の最後で油断しちゃったねぇ〜。」

堪え切れない笑いが湧き上がり、不敵に笑う。

腕で身体を引きづり陸に上がったため地面は水に濡れ土色が焦茶色と変色していた。

「はぁ...はぁ...。...なんとか、ゲミュートの命令通り裕兎を殺ることが出来た。今回は、ギリギリ、だったな...。」

なんとか息を整えようと深呼吸をしていると、不意に湖からザバァーンと何かが出てくる音がなる。

男は振り返ると視界に映ったものを見て男は呼吸することすら忘れ、死人のように力無い表情へと変わる。

「あー...死ぬかと思った...。ギリギリだったわ〜...。湖に俺が飛ばした槍があることを思い出せて良かったぁ...。」

「.....な...何で...お前..が生きて...るんだよ...!?」

湖からずぶ濡れで現れた男性。それは殺したと思っていた裕兎だった。湖から元気そうに現れたことに男は目を点にして驚いた。

そんな男を裕兎は見つけ指を指す。

「あ!お前まだ生きてたのか!?...てか、何でお前血、出てないんだ...!?」

目を見開き見つめていた裕兎の視線の先には確かに水に濡れ色が濃くなった土があるだけで、男の胴体の近くには血など、どこにも無かった。

そんな裕兎を見た男はニヤッと笑う。

「あらら〜。残念だったねぇ。俺は"偽物精製"(ファクティスファーレ)によって作られた偽物だったんだよ〜。まぁ、任務には失敗したが、手土産は作れそうだねぇ〜。」

どんどん透明になっていき、最終的には人の形の水となった。

「任務...?」

裕兎が呆気に取られていると、男は水の状態のまま風を切るような速さでカエサル達の元へと向かっていく。

状況処理が追いついてない頭で男の向かった先を見てやっとのことで男のしようとすることを理解する。

「そういうことか!!おーい!お前ら、気を付けろ!"電気鰻"(エレクトリシテアール)!間に合え!"雷槍"(エレクトリシテランツェ)。そして、"雷動"(ラヴィテス)。」

すると、裕兎の目と少し長くなった髪は黄色く染まり、両手、両足、肋といったところは黄色い鎧のようなものを纏い、そこには等間隔に小さな斑点模様が出来る。

右手に黒槍を持ち、左手には電気により作られた雷槍を持っていた。

その雷槍をカエサル達の元へと投げる。

手から離れるとビュンッと目を凝らしてやっと見ることの出来るような速度で飛んでいく。

裕兎がそんなことをしている間に男はカエサルやレン達の近くに既におり、地面から液体の状態で現れた。

「ん?何これ?...あっこいつまだ生きていたのか!?」

「レン!危ない!」

レンは避けようとするものの間に合いそうに無く、ミカは庇おうと前へ飛び出す。

カエサルやシャネル、クロエ、イザベラ、ソフィアの五人はレン達とは少し離れており、遠くからの声に振り向く程度だった。

人型の液体の右手には水で出来た剣のようなものを持っている。

男はレンを突き殺す気なのか剣の刃先をレンの頭へと向けていた。

曲げていた肘を伸ばし徐々に刃先がレンの頭へと近づいていく中、空気中でバチバチッと放電音が聞こえた。

いつの間に追いついたのだろうか、音が鳴ったかと思ったら裕兎がレンの頭上で槍を構えていた。

「よし!間に合った!この野郎。消えてなくなれ!」

黒槍に電気を纏わせ、裕兎の腕は弧を描きながらそのまま、男に向かって振り落とされる。

あまりの速さに追いつけずにいた男は避けることも出来ず槍が頭のてっぺんからまっすぐに突き刺さる。

更に、電気の熱により液体の身体は蒸発し消えて無くなっていった。

裕兎は特性"変態"(メタモルフォーシス)を解除すると、いつも通りの人間の姿へと戻る。

地面に足を付けると、そのまま崩れるように膝を折り手のひらを付く。そして、深くゆっくりと息を吐いた。

「疲れたぁ〜。つい最近、亜人種(デミヒューマン)と戦って疲れたのに、また戦闘とはなぁ...。あっレン大丈夫か?」

愚痴を零しながらもレンに顔を向け尋ねる裕兎。

「うん。助かったよ。ありがとう。ミカもありがとうね。」

「いえ。油断したわ。それにしても、生きていたとは驚いたわ。」

「あぁ、俺も倒せたと思ったんだがな。...それにしても、折角の休みなのに疲れて明日からも仕事かぁ...。」

レンはにこやかに笑いながらお礼を言い、ミカは安堵し胸を撫で下ろす。

裕兎はそんな二人を見て大きな傷がないのを確認すると安心し、それと同時に今日一日あまり休めなかったことを少しぼやく。

そんな中、カエサル達は裕兎達の元へと足を向けていた。

「おぉー。裕兎、無事じゃったかのぅ?」

「あん雷ピカーっち凄かった!」

軽くフラフラしながらも立ち上がった裕兎にすかさずシャネルは抱きつく。

そのお陰で、よろけ倒れそうになったのを何とか耐える。

「あぁ、大丈夫だ。と思ったが、やっぱ大丈夫じゃねぇわ...。ほら、今とか。」

「なんそい!ひどい!」

シャネルはぷくーと頬を膨らませると顔を背ける。

(その癖に離れないのか…。怒るんなら離れてくれよ。今はほんとに...無理...。)

バランスを崩し裕兎が倒れかけたところで、ふと腰周りに腕が周り助けられた。

誰だろうと顔を向けるとそこにはニッコリと笑顔を浮かべるクロエがいた。

「相当疲れていますわねぇ〜♪大丈夫ですの?」

「疲れていると思うならお前は俺の血を吸うのを辞めろよ...。余計に疲れるだろうが。」

しれっと肩に噛み付き血を吸うクロエにジト目を向ける裕兎。

「だって、わたくしも疲れましたもの♪ご褒美が欲しいですわぁ♪」

「はぁ...。今日は帰ったら早めに寝よう…。」

クロエが満足そうにしている最中、対照的に裕兎がどんどん疲労していく光景を見てカエサルは、皆が無事で良かったと微笑ましく見ていた。

すると、視界の端でイザベラとソフィアが移った。

どうやら、イザベラはソフィアに怪我はないか心配しているようだ。

(それにしても、あやつは何でワシらを襲ったんかいのぅ。ワシらは別に金目の物など持っておらぬし…うーむ、考えても分からぬわ...。とりあえず、今は疲れたから早く帰って休むとするかのぅ。)

「裕兎、今日はソフィア達を王宮へ届けて、もう解散とするかいの?」

しばらく、こめかみを抑え考え込んでいたカエサルであったが頭が働かず諦める。

「そうだな。じゃあ、まず荷物纏めるか。あっあと水着も着替えないと。...ほら、シャネルもクロエも行ってきなさい。」

「はーい!」

シャネルは元気に返事をし、荷物を纏めに行く。が、クロエはニヤニヤしながらも名残り惜しそうに言う。

「あーぁ、裕兎へと誘惑ももう終わり、ですわねぇ。残念ですわぁ。」

「いや、お前は基本的にいつも誘惑してるだろ...。」

「誘惑なんてわたくししませんわぁ♪まさか裕兎がそんな風にわたくしを見ているだなんて♪」

「あーはいはい。分かったから行ってこい。」

大袈裟に目を開けて驚いたふりをするクロエに裕兎は適当にあしらえつつ、荷物を纏め始める。

そんな裕兎を見てクロエはふてくされたように口を尖らせて、いいもんとか色々と小言をいいながらミカ達が先に行った後を追いかけるように茂みの中へと姿を隠していく。

「じゃ、着替えるかな。」

纏め終わり、着替え始める裕兎に続きカエサルも着替え始める。

レンに関しては、裕兎達が纏めてる間に着替えたのか、いつの間にか水着では無くなっていた。

こうして、嵐鬼 裕兎の休日は慌ただしく幕を閉じていく。

 

 

* * *

とある高台から望遠鏡で遠くを覗く一人の男性とその傍らで立ち尽して待っている男性がいた。

「あらら〜。殺られちゃったねぇ〜。俺の分身体。」

「まぁ、相手はあのユグリス・レンが率いてる奴らだからな。仕方ないとは思うが、お前の実力を考えると一〜二人は殺れると思ったんだがな。」

「ちゃんとすまないと思っているさ。ゲミュート。」

「だといいんだがな。ファルシュ。お前は手を抜くことが多々あるからな。私の計画実行の時くらいは真面目にやるんだぞ。」

「へいへい。分かってるさ。」

ファルシュと呼ばれた男性はさっきまで裕兎達と戦っていた男の本体のようだ。

どうやら、今までこの高台で様子を見ていたらしい。

そして、ファルシュを従え隣に立って居るのがゲミュートというようだ。

彼は、黒く背中まである長い髪を一束に纏め、眼鏡を掛けている。

見た目は強そうではなく、ガタイは細いが身長はそれなりに高く、白衣を着てるその姿は研究者そのものでファルシュを従えそうには見えない。

ゲミュートは眼鏡をクイッと上げるとファルシュに命令する。

「まぁ、今回は特にお咎め無しにしといてやろう。私のただの思いつきだしな。」

「それに今回は力試しだしねぇ〜。じゃあ、次の本命作戦の実行準備といこうかねぇ〜。」

「あぁ。裕兎とか言う奴が現れたからどんなものかと実力データ分析をしたが、今回の計画の邪魔にならないだろう。」

「そりゃあ、何よりだねぇ〜。」

ファルシュは望遠鏡から目を離すと立ち上がり伸びをする。

それを合図だったかのようにゲミュートは後ろを向き歩き出す。ファルシュもそれに続き後ろを歩いていく。

「もう少しで私の夢の実現も可能となる!フハハハ!その日の為に今まで何年費やしてきたことか。遠い道のりだったな。」

「あらら〜。それは大変そうだねぇ〜。」

あまり興味なさげに言うファルシュに特に何も言う事が無く気にせず白衣を翻しながら姿がどんどん遠くに行っていく。

二人は不穏な空気を漂わせながら帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

第16話.........終



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第17話 *危ない選択*

久しぶりの投稿になります。
最近、忙しかったですがやっと余裕が生まれました(`✧ω✧´)
これから少しずつ書いていこうかと思います( *´꒳`* )


湖の一件が片付き、レン達を先に帰らせると裕兎はイザベラとソフィアを王の元へと送る。

そこはアデレード中央地区王都バルバトス。貴族らしき人や付き人で多く賑わい、目の前には大きな王宮が建てられていた。

裕兎は、その人混みを避けながら歩き進めた。するとソフィアはコツッと横に並ぶと上目遣いの笑顔で見上げる。

「わざわざ送ってくれてありがとうね。でも、傷の方は大丈夫なの?」

...!はっ天使かと思った!!健気過ぎるその対応に天使だと錯覚するほどにときめく裕兎であった。

「あ...あぁ、このくらい平気、平気!日頃から鍛えてるからね。」

俺も強くなってきたなぁ。この世界に染まってきたなぁ...。王宮を眺め、そうのほほんともの耽っていると後ろから少し苛立ちを感じ取れる声が飛んでくる。

「おい!私一人でも護衛は充分に出来るぞ!あまり私を見くびるなよ!」

「見くびってねぇよ...。いつ、またさっきの奴らに襲われるか分からないから、俺も念の為に付いてるだけだ。」

「ふん。見くびってないなら別に構わん。」

さっきまでの戦闘でたった一人に手こずったことを思い出し、素直にイザベラはそれを聞き入れる。

どうやら、イザベラも裕兎同様にあの敵を認めているようだった。

「まぁまぁ、もう王宮もそこだし、大丈夫だと思うよ?」

そんな二人を見てからか、ソフィアはその場の雰囲気を正すかのように笑って明るく振る舞う。

「まぁ、そうだな。とりあえず、俺はディラン国王に今回の件を軽く報告してくるが、イザベラ頼んだぞ。」

「そんなこと言われなくても分かってる!」

「行ってらっしゃい。」

王宮の中に入ると、裕兎はイザベラにソフィアを任せて国王の元へと向かう。

頼まれたイザベラは、余計なお世話とギランと睨んでいた。

それをなだめているソフィア。

やっぱ、怖ぇな...。後ろからの殺気を感じながら、足取りを速めた。

 

* * *

王室に入るなりディラン国王と軽く世間話をし、本題の例の戦いについて話した。

「そうか。そんなことがあったのか...。よくぞ、わしの娘を助けてくれた!感謝の胃を称してお主にはあとで、お礼として褒美を渡す。どうか、受け取ってくれ。」

怖い顔に似合わぬ、落ち着いた優しい声でお礼を言い、頭を下げた。

「いえいえ、頭をお上げ下さい。ところで、今回の対策としてどのようなことをするおつもりで?」

「うむ、特性保持者はあまりいないから、まずは四騎帝の兵や国兵にそういう者がおるか回り、居たら調べる。その中にいなければ、国内の平民を調べるつもりだ。」

四騎帝といえど、レンと同じくらいしか兵はいない。しかし、例外もいた。

それが、ディオクレ・ティアヌス。彼が率いる軍は遠方からわざわざ来ては彼の軍に就きたいと志願されるほど、実力があり人気なのだ。

これは、ティアヌスが四騎帝最強という名声があるからだけではない。

彼は若い頃からこの座を守ってきたため、信頼と経験があるのだ。

そんな彼は来るもの拒まず去るもの追わず、だったため自然と今のような軍団が出来上がったのだ。

「ソフィア王女の方はどうしますか?」

「そこは大丈夫じゃ!イザベラが付いておるからな。王宮内では彼女レベルの実力はあまりおらぬ。」

確かにイザベラは王宮内上位の実力者だった。その他にも同じレベルの者はいる。

彼ら彼女らは王宮護衛騎士の中で最上級の役職をしている。そんな者達を"天界騎熾"(てんかいきし)と呼ばれている。

その中で、イザベラは"裁きの騎熾イザベラ"。という二つ名がある。

その他にも六人いるが彼ら彼女らもまた四騎帝に負けず劣らずの実績を残している。

「あいつはそんなに実力があったとは驚きだな...。」

四騎帝に負けず劣らず、ということはイザベラはレン並の実力があるというのだろうか?

「それでも、残している実績が劣らないだけで実力は四騎帝の方が上じゃがな。あやつらは次元が違う。」

裕兎が疑問に抱いたことを知ってのことか露知らず、そう言ってのける彼の言葉を聞き不思議と納得がいく。

まぁ、レン並の実力者がそんなちらほら居たら人類が追い詰められる訳もないか。

しかし、彼ら四騎帝に近しい実力の者達が七人もいるのであればソフィアの身の安全も保証されるであろうことは明白であった。

すると、ふと思い出したかのようにディラン国王は口を開く。

「そういえば、最近ここから南にある鉱山で栄える国"ハイランド"が何者かによって攻めいられ陥落された、という情報を耳にしたんだがお前さんの実力を見込んで頼みたいんだが。その国を調査して来てはくれまいか?もし、まだ生きながらえている人々が居るのなら、放っておくにはいかんじゃろ?」

このことは裕兎達が亜人討伐任務を終えた頃にディラン国王の耳へと噂が入ってきたことだ。

その噂によれば、"ハイランド"いつものように日が沈むと焚き火を上げ国外の警備をしていたとき、急に風が吹き荒れ黒い影が点々と現れ、あっという間に陥落させられたという噂だった。

その国には特性保持者は少ない訳ではない。それどころか、少しは名を知れ渡られているほどの実力者が多数いたと言われている。

そんな人材が揃っていながら陥落させるほどの相手とは如何程か、ディラン国王はそれが事実なのか信じ難い情報を確かめるべく裕兎へと確認を頼んでいる。

「了解。なら、今から仲間を連れて行ってくるかぁ〜。」

そう立ち上がると背を向けて歩き始める裕兎。

その姿を見るやディラン国王は彼の身を案じていた。

「もう行くのか!?今回の任務はレン達には別の任務があるため、お前さんとカエサルしかおらぬが大丈夫か?なんなら、"天界騎熾"を呼ぶぞ?」

クロエとシャネルの二人のことをバレると他種族が国内にいると踏んで秘密裏にしておこうと決めたため、それを知らないディラン国王は二人で大丈夫なのか心配していたが。

まぁ、レンが居なくても前回をなんとかなったし今回も大丈夫だろう。

裕兎は特に気にする素振りもなくケロッとしていた。

「まぁ、大丈夫だろーよ。ほら、うちのカエサルは強ぇから。」

後ろを振り返らずに手をブラブラと振ると王宮を出てアルジェへと帰還した。

「行ってしまったか...。まぁ、あやつなら大丈夫だと何故だか分からぬがそう思えてしまうな....。」

根拠のない自信を抱いている自分自身に自分らしくないな、と微笑を零すと玉座へ持たれかかり天井を眺めた。

予想以上に厳しく、命を落としかねない戦いになるとは知らずに二人は今までの急成長ぶりを過信し、"天界騎熾"を呼ぶべきときに呼ばずして進むのであった...。

 

17話.........終了



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