人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。 (創夜叉)
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プロローグ

初めまして創夜叉です。
初投稿です。誤字や間違った表現があった場合、ご報告をお願いします。作者の心は絹ごし豆腐を3倍もろくしたような心なので誹謗中傷は出さないでください。



魔化魍・・・仮面ライダー響鬼に登場する怪人又は巨大な生物の総称。

太古の昔から森や山、海などに発生し、人里に降りては人を襲い捕食する恐ろしい生物でもある。特定の気象条件や生活環境の下でしか生育しないことが多く、その生態は謎に包まている。不死身のため、通常の物理攻撃などが効かないが、猛士の鬼が使う清めの音…通称 『音撃』により清められ土に帰される。

 なぜ、急にこんな話をしているのかと言いますと。

 

ガルルッ

 

 全身虎縞模様のコガネグモに似た生物

 

ピィィィィィ

 

 燕と糸巻鱏を合わした生物

 

ギリギリギリ

 

 白蟻と蜘蛛を合わした生物

 

 今、私の目の前に見えているのは本来なら空想の存在のツチグモ、イッタンモメン、オオアリの3体の魔化魍がいるんです。しかも、本来の大きさと違い小さいのでまだ育っていない幼体だと思うけど。

 

 私、おかしいことを言いますと前世っていうのがあるんです。

 小さい頃、気まぐれで特撮好きな弟と一緒に見ていたのが『仮面ライダー響鬼』だったんです。

 それに登場する『魔化魍』という妖怪をモチーフにしたものに目を奪われました。

 それ以来、私は響鬼に出る魔化魍とそのモデルの妖怪が好きになり、オカルト好きな兄からそういう知識を教えて貰ってかなりの魔化魍マニアになったと自負しています。

 前世のような暮らしとは違い、今の私の生活は最悪といってもおかしくないです。両親からの虐待が嫌になり、近くにあるこの山へ逃げた。

 

 山中を歩いていると、この3体が出てきたんです。急に現れたからびっくりして、尻餅をついたけど、現れてからそのままジッと私を見ているだけで、なにもしてこないのです。糸で身体を包んでこないし、尻尾で身体を締め付けてこないし、落とし穴に落して蟻酸を吐こうともしない、ただじぃぃぃっと私を見ているだけ。

 

 それから、数分経ったとき、イッタンモメンが私の肩に向かって飛んで来た、私の肩に止まり、ピィっと鳴いて、首に身体を擦り寄せる。擦り寄せて来たから、なんとなく撫でてあげたら。気持ちよさそうにピィィと鳴く。

 それを見た、ツチグモとオオアリが私の足元に近付き、イッタンモメンと同じように頭を擦り寄せてくる。イッタンモメンを撫でるのをやめて、ツチグモとオオアリの顎の部分を撫でる。ツチグモは複眼が怪しく輝き、オオアリが顎をカチカチと鳴らし、嬉しそうにしている。

 

ピィィィ

 

 それを見たイッタンモメンはもっと撫でろというかのように鳴き声をあげる。

 

「なんで、私を襲わないの?」

 

 本来、魔化魍は童子、姫と呼ばれる怪人かクグツと呼ばれる存在によって生み出される存在で幼体から成体までは童子、姫によって餌を与えられて、育てられる。

 さらに、本来この3体はそれぞれ生まれる特定の気象条件、生活環境とはまったく合わないこの山で、同時に発生することがありえない。

 もっと言えば、水中で暮らすイッタンモメンが長時間陸にいて大丈夫なのかと思う。

 

ガルルッ  ピィィィ  ギリギリギリ

 

 3体が少し離れた茂みに向かって唸り始めた。茂みが激しく揺れて、こっちに向かって何かが現われる。

 

「「我々の子が人間のそばにいる?」」

 

 全身にたっぷりとした布を巻きつけた男女が現れた。男は女のように高い声をだし、女は野太い男のような声をだしている。イッタンモメンの童子と姫である。

 非常にまずい、私は響鬼たちのような音撃戦士じゃないただの一般人だ。何も出来ずに殺されるがオチだ。

 

「こいつを絞って我が子のご飯に」

 

 童子はそう言うと、童子の戦闘形態でもある怪童子に姿を変えて、私に向かって歩き始める。そして、逆立ちをして片足を私に向けて伸ばす、ああ、私これで死んじゃうんだ。そう思い、目を瞑った。だが、いつまで経っても身体を締め付けられない、目を開けてみると。

 

ガルル  ピィィィィィ  ギリギリギリ

 

 怪童子の顔をツチグモが糸で巻きつけて見えなくし、腹にイッタンモメンの尻尾が突き刺さり、伸びている足にオオアリが乗り上顎で切断していた。

 私は驚いた、ツチグモとオオアリは他の魔化魍だから分かるが、育たれる子供であるイッタンモメンまでもが怪童子を攻撃している。

 それを遠くから見てる姫は驚きながら、倒れている怪童子を見ている。倒れている怪童子をツチグモとオオアリは少しずつ喰べていく、怪童子は暴れるが、腹に突き刺さったイッタンモメンの尻尾が怪童子を地面に縫い付けるように押さえつけている。

 

「何故だっ!! 我が子よ、何故!! 人間ではなく俺を襲う!!」

 

 身体の半分以上がツチグモとオオアリに喰われた怪童子が自分の腹を突き刺しているイッタンモメンに問う。

 イッタンモメンは何も声を出さずに、自分の尻尾をグリグリと怪童子の腹に突き刺し、動けないようにする。その間、ツチグモとオオアリは半分しか残っていない身体の怪童子を喰らっていく。喰われていく怪童子を見ながら、姫は魔化魍たちが、少女を襲わずに逆に怪童子を襲う理由を考える。

 

「(何故、あの人間を守る?)…うん?」

 

 姫は、少女のまくった服の袖から見える腕にある青い龍の痣(・・・・・)が目に入り、それに驚く。

 

 怪童子はすでに影も形もなく、魔化魍たちは少女を守るように前に立ち、姫を睨みつける。姫は少女の前で片膝をつけた。急な行動に少女が驚くが、姫の入った言葉にさらに驚く。

 

「先ほどは、失礼しました。我らが王よ」

 

「………えっ?」




どうでしたでしょうか?
感想を楽しみに待っています。オリジナル魔化魍をだしてほしいお方は、感想と一緒に出してください。


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魔化魍のオリジナル設定 改

魔化魍のオリジナル設定の改訂版です。
新たにスタイルを1つと、極スタイルを書きました。

7月24日に悪魔魔化魍の設定追記。

7月28日に混合種の設定追記。

2021年2月11日に亜種の設定追記。

2022年3月14日に元種と派生特種の設定追記。

2023年6月11日に混合種設定変更。
           カオスからキメラに変更。


本来の設定にある特定の気候条件、生活環境で育つという設定は無視していますので、原作に出てきた魔化魍が本来、発生しない場所で出現します。

ナナシやヨロイツチグモ、カエングモなどの洋館の男女に作られた魔化魍は元の種族の亜種、異常種、混合種という設定です。また、洋館の男女に作られたサトリやロクロクビは自然発生する種となっています。

 

〜属性〜

本来の魔化魍にはありませんが作者が作った設定の1つで属性が存在し全て色で属性分けされている。通常は赤、青、黄、茶、緑の通常属性5種と白、銀、黒、空、紫の特殊属性5種で構成されています。これらを総じて『十属性』とする。

 

◯通常

赤・・・炎の属性。緑に強く、青に弱い。

    高温地帯、火山に生息する魔化魍。

    炎を受ければ受けるほど、自身を強化する特性を持つが、水を浴びると弱体化し

    て本来の力を発揮出来ない弱点を持つ。

 

青・・・水の属性。赤に強く、黄に弱い。

    海や川、湖、沼などに生息する水棲系の魔化魍。

    水が無くても大気中の水分を器用に集めて、それを攻撃に転じたり水場外の活動

    力に変えている。

 

黄・・・雷の属性。青に強く、茶に弱い。

    雷の落ちる土地、変電所など電気が起こるまたは発生する場所で育つ魔化魍。

    電気と人間を主食とする魔化魍で、2つの餌を交互に与えなければ、育つ事が難

    しい為、童子や姫は体内に電気を生み出す器官が存在する。

 

茶・・・地の属性。黄に強く、緑に弱い。

    植物も生えない厳しい環境、砂漠などで暮らす魔化魍。

    そんな環境下で育つ為か身体が硬く、音撃を弾いたりする為に鬼も清めるのに梃

    子摺る魔化魍が多い。

 

緑・・・樹の属性。茶に強く、赤に弱い。

    自然豊かな大自然で育った魔化魍。

    古くから最も猛士と戦っていた魔化魍達で、古の技術や術、呪いなどの知識を数

    多く持ち、他の魔化魍にその知識を伝授したりしている。

 

◯特殊

白・・・氷の属性。強いて言うなら赤に弱い。

    極寒のような寒冷地方に対応した身体を持つ魔化魍。

    産まれる数が非常に少なく、特殊な環境下で育つ為に、猛士からは研究対象とし

    て捕獲される事が多く、稀少な存在。

 

銀・・・鋼の属性。強いて言うなら青に弱い。

    時が経った道具から産まれるツクモガミ系の魔化魍、又はそれに類する物の残留

    思念から誕生する魔化魍。

    古い道具から産まれるという特徴通り、大抵100年以上の月日が流れた道具な

    らばツクモガミ化する。その為に、通常の魔化魍よりもその数は多く、倒しても

    倒しても新たなツクモガミが現れ、猛士はイタチごっこを繰り返している。

 

黒・・・闇の属性。強いて言うなら黄に弱い。

    人の恐怖心、都市伝説、概念、怨念などといったマイナスの感情によって産まれ

    た魔化魍。

    上記の通りの理由で産まれた為に特殊能力や魔眼などの並の魔化魍が持つことの

    ない物を多く持つ為、上位の魔化魍が多く、猛士に対してかなりの被害を与えて

    いる。

 

空・・・風の属性。強いて言うなら茶に弱い。

    風を操る特殊な能力を持つ魔化魍で、上位の魔化魍ならば風のみならず、天候を

    操作する事や更には空間を操ることが出来る。

    風で真空状態を作り出したり、風を纏って身体を不可視化したりなどの技を持ち

    、それらの技で、今まで猛士から逃れてきたために討伐された数は非常に少ない。

 

紫・・・毒の属性。強いて言うなら緑に弱い。

    環境汚染の酷い場所、隔離地帯などの危険地帯で育った、毒を体内で精製または

    毒を武器にする魔化魍。

    毒は神経毒や出血毒、未知の毒などを扱い、人間に対して多大な被害を与える魔

    化魍が多く、猛士は発見次第直ぐに清める事を方針づけている。

 

〜属性相性〜

   赤       よくある             炎

 ↗︎   ↘︎     ゲームの表現でいうと     ↗︎   ↘︎

緑     青    こんな感じ         樹     水

 ↖︎   ↙︎        →           ↖︎   ↙︎

  茶←黄                      地←雷

 

また特殊属性は強いて言うならの少し弱い程度の為に相性がない

 

〜スタイル〜

これもオリジナル設定の話です。魔化魍の個々の戦闘スタイルを表している。

突・・・近接攻撃に特化したスタイル

 

射・・・遠距離攻撃に特化したスタイル

 

駆・・・素早い攻撃に特化したスタイル

 

堅・・・攻撃より防御に特化したスタイル

 

幻・・・術や特殊技法などの中距離攻撃に特化したスタイル

 

献・・・味方の補助や相手の妨害に特化したスタイル

 

〜極スタイル〜

変異態の戦闘スタイルで、上記のスタイルの上位版。

破・・・突の極スタイル

 

撃・・・射の極スタイル

 

迅・・・駆の極スタイル

 

剛・・・堅の極スタイル

 

惑・・・幻の極スタイル

 

癒・・・献の極スタイル

 

〜個体〜

元種・・・通常の魔化魍を指す。

 

亜種・・・元種の特徴が一部残っているが属性が異なる個体。

     突然変異または故意に亜種として産むケースもあるが、大抵は突然変異。

     産まれた時にその異なる属性で育てられずに幼体の時に捨てられる事が多いが、

     生存能力とその属性違い故の身体能力で生き延び、元種に比べて強い魔化魍が多

     い。

 

派生特種・・・稀に亜種の魔化魍が長い月日や様々な要因、環境変化によって変化した個体

       。いわば亜種の異常種。

       その姿は異常種と同じように元種からかけ離れた姿と亜種から発展した能力

       を持ち、亜種の頃よりも遥かに強い。

       従来の異常種に比べて、亜種の異常種である派生特種の数はそこまで多くな

       いとされるが、実際は猛士が確認出来てないだけでその存在は日本だけでな

       く世界中に存在する。

 

異常種・・・元種から大きくかけ離れた姿と異なる能力を持つ個体。

      元種が長い年月で姿を様々な形態に変化させたものまたは何かしらぬ要因で変

      化したものを指す。

      元種に比べて、突出した何かを持つが、それ故に意外な弱点を持つ魔化魍が多

      い。

 

混合種・・・異なる種族同士の子供。決まった種族名が存在せず、猛士からは全てナナシ、

      またはキメラ、または◯◯(まざる)呼ばれている。

      ナナシとキメラは異なる種族同士(蟲系×植物系、獣系×人型系)から産まれた

      ものを指し。

      ◯◯(まざる)は種族的に近い外見同士または近い種族同士(獣系×獣系、蟲系×蟲系)

      から産まれたものを指す。

      また、混合種同士の子供と同じ境遇の子供が交わって産まれた魔化魍をヌエと

      呼ぶ(この名を知る者はあまり居ない)。

      属性を2つ持つ子供が生まれる事がある。

 

変異種・・・修行して得た術や道具を使って、異なる姿と属性に変化した個体。

      亜種や派生特種、異常種と違って、一時的な変化の為に時間が経つと元の姿に

      戻る。

      稀に時間経過が経っても姿が戻らない事個体やそもそもそれが本来の姿という

      場合がある。

 

〜悪魔魔化魍〜

サキュバスの異常種 リリム(後に幽冥の家族となる麗夢)が産み出した魔化魍の特殊種族

。禍種、歪種とも言う。

禍種は『真名』を貰い派生特種または異常種へと進化した個体。

歪種は『真名』を貰っても進化してない個体または混合種。

悪魔魔化魍は元々は普通の魔化魍だが、リリムによって『真名』を与えられることにより、

従来の魔化魍を超えた存在に進化する。

『真名』という種族名とはまた異なる名を与えられる。

他にもリリムが他種族の魔化魍と交配して産み出した子供は例外を除いて悪魔魔化魍となる

同じ外見(装備や傷跡などの相違点もあるが)をしているが、能力が異なることが多く、故

に過去の資料もあてにならず初見討伐においては多くの鬼が殺されている。

しかし、悪魔魔化魍を生み出す元凶のリリムを清めれば、悪魔魔化魍は生まれない為、猛士

において『魔化魍の王』と並ぶ最高討伐指定魔化魍にされている。



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始まり
記録壱


は〜〜い創夜叉です。
2回目の投稿です。心温かい目で読んでください。





 イッタンモメンの姫が急に片膝をつき、私に向かって『王』と言ってから少し経った。今、私は姫と一緒に山道を歩いている。

 

 そう、さっきのイッタンモメンの姫はなぜか自害しようとしていたから、従者にした。従者になった事で姫を睨んでた3体も睨らむのを辞めて、ツチグモは私の背中に移動し、イッタンモメンは姫の肩に乗っかり、オオアリは私の後ろから歩いて着い来ている。

 

「ねえ、姫さん?」

 

「何でしょうか?」

 

「『鬼』って存在するんですか?」

 

 鬼。

 陰陽道の一派である音撃道を使う組織 猛士に属する戦士のことで、特殊な鍛錬によって自らの身体を鍛え上げて、魔化魍と戦う人間。

 魔化魍たちは、そんな彼らを鬼と呼んでいる。

 

「鬼は………存在します」

 

ガルルルッ ピィィィィィ ギリギリギリギリ

 

 歩くのをやめた姫は、怒り、憎しみ、恨み、そんな感情を混ぜ合わせたような顔をしながら姫はそう言い、3体の魔化魍たちも呪詛のように声を出す。

 鬼は魔化魍たちの天敵とも言える相手だ。今でも数少ない成体の魔化魍が1体また1体と数が減らされている。気になることは他にもあるけれど今、気になるのは–––

 

「姫さん。『王』って何ですか?」

 

 王。これが、一番知りたいことだった。仮面ライダー響鬼には他の平成ライダーと違い、首領やラスボスのような存在は登場しなかった。だが、姫は間違いなく私のことを『王』って言っていた。

 

「王とは、我ら魔化魍の頂点の存在」

 

「え?!」

 

「150年に1度、青い龍の痣を持つ者が現れて、我ら魔化魍を導くだろうと云われてます」

 

 そう言われて、私は自分の右腕にある痣を見た。私が生まれた時からずっとある痣。これが原因で、よく両親から虐待されたものだと考えていると。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

 何も喋らずに静かに考えていたせいか姫が心配そうにこちらを見ている。魔化魍達も姫と同じようにこちらの顔を見ている。

 

「大丈夫だよ。心配しないで」

 

 心配かけないようにそう言ったら、姫が私の手を握り、山道を再び歩き始める。

 

 姫に手を引っ張られて、歩き続けるとどこかで見たことのある大きな洋館が見えて来た。さらに近付くとその洋館の全体が見えてくる。

 モダン的な様相の洋館で近付いて見て、ようやくその正体に気付く、この洋館は魔化魍の実験をしていた洋館の男女の住む館だと。

 前世の時に、住んでみたいなと何度も考えた洋館を目にして、かなり興奮する。ここには様々な魔化魍の実験データがあり、洋館の男女がそのデータを管理している。

 だが、洋館が半壊させられてことから見て、サトリやロクロクビなどの魔化魍が鬼と戦った後だと思う。データが残っているかどうか分からないが、無かったら無かったで、これから集めていけばいい。

 そう考えながら、肩に移ったツチグモの頭を撫でる。

 

「そういえば、ずっと姫って呼ぶのは、なんかイマイチだよね」

 

「そ、そうですか」

 

「そう! で、あなたの名前なんだけど白でどうかな?」

 

「白ですか?」

 

「そう白! イッタンモメンって人間の妖怪イメージでいうと白いヒラヒラした奴なの、だから白」

 

「その名前ありがたく頂戴します」

 

 姫は私があげた名前を気に入ってくれたのか、少しぎこちない笑顔をして返事を返してくれる。

 下から服を引っ張られてるのに気付き、下を見るとツチグモが足を器用に服に引っ掛けて引っ張っている。ツチグモの後ろにイッタンモメンとオオアリもいる。ツチグモが6つの複眼でジィーット私を見ている。

 

「もしかして、名前欲しいの?」

 

 そのことを3体に聞くとコクコクと首を縦に振り、期待の眼差しをこっちに向ける。

 

「じゃあ、土門、鳴風、顎でどう!」

 

ガルルルッ ピィィィィィィ ギリギリギリギリ

 

 そう聞くと嬉しそうに3体は鳴き、私に飛びつく。急に飛びつかれてビックリしたけど、3体を落とさないように抱える。まだ、幼体だから良かったけど、この子達が成体だったら私、潰れてたな。

 それぞれの名前はツチグモは土門、イッタンモメンは鳴風、オオアリは顎って付けた。それぞれの特徴や見た目で考えたけど、みんな嬉しそうだから良かった。

 

「さ〜てと、みんなの名前も決めたし、次はこの館を直さないとね」

 

 そして、壊れた館を修理することを考え始めた。




さて、今回は洋館の発見、イッタンモメンの姫と魔化魍達の名付けの回でした。
次回は洋館を直す話と両親をご飯にする話になります。さらに、新たな魔化魍が出現するかも。


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記録弐

前回で宣言しましたが、今回は主人公の両親が土門達の食料にされます。なるべくグロく書いてみたつもりです。
新たな魔化魍も出ます。


 白たちの名前を考えたから。今度は、この館を直さないとね。

 これからは此処で暮らすんだから。ちゃんと直して、住めるところにしないと。誰が二度とあんな両親のところに戻るもんですか。

 

 しかし、外から見る限り、壁は見事に砕かれて、屋根はボロボロ、窓ガラスは割れている。中はどうなってるか入ってないから分からないけど、多分ボロボロだろう。

 

「白〜〜ぅ!!!」

 

 突然の大声で、私の背中にいた土門がビックリしたのか地面に落っこちた。腹を出してジタバタする土門の姿が微笑ましいが見てるだけでは、可哀想だから私が背中に手を入れて、起き上がらせた。

 土門はプンスカ怒っているのか、前脚を使って、私の足を突っつく。

 

「何でしょうか? 我が王?」

 

 白が片膝を付けて、私の前に現れる。

 

「これからこの館を直すんだけどね、ここら辺に材料になるやつない?」

 

「残念ですが、ここら辺には材料になるような物はありません。そういう物は人間の街に行かねば」

 

「そっか」

 

 それもそうだ。そもそもこんな人工物を直すための材料をこんな山奥にあるかと聞く方がおかしい。やはり、山を降りて材料を買わなければいけないだろう。だが、財布は両親に取られているから取り返さないといけない。どうすれば。

 

 あっ! そうだ!

 今の私には間違いなく人間としては間違った考え方が思い浮かんだ。しかし、魔化魍として、いや魔化魍の王としての考えならば正しい考えだ。

 

 両親(・・)をこの子達のご飯にすればいいんだと。そう思った私の行動は速かったと思う。

 

「土門、鳴風、顎」

 

 私の声を聞き、みんな私の前に集まる。

 

「お腹空いてない?」

 

グルルルゥゥ ピィィィィィィ ギリギリギリギリ

 

「そっかお腹空いてるんだね? じゃあ、これからご飯を捕まえようと思うだけど? どうかな?」

 

グルルルゥ  ピィィィィィィ ギリギリギリギリ

 

 嬉しそうにみんな声を出して、土門は私の背中に掴まり、鳴風は白の腕を尻尾で掴み、顎は今か今かと顎をカチカチと鳴らして、私が歩くの待っている。

 

「白も来て、鳴風のご飯はあなたが居ないといけないから」

 

「分かりました」

 

「じゃあ、行こっか」

 

 そして、家へと向かった。

 

SIDE主人公の両親

「どこにも居ないのか?」

 

「ええっどこにも居ません」

 

「っち! あのガキ。今度は1週間の飯抜きじゃあ済まさんぞ!」

 

「それよりも、あんなの捨てた方が良かったんじゃないの?」

 

「何言ってやがる! 誰が俺たちの飯を準備すると思ってるんだ? 誰が俺たちの服を洗うと思ってるんだ? 誰が部屋を綺麗にするんだ? 全部あのガキにやらせてるんだぞ!」

 

「それもそうね」

 

「これからも全部の炊事、洗濯、家事をあいつにやらせるんだから、何としても見つけねえと」

 

 さっきから人を物の如く、言っている彼らこそ、少女の両親である。

 この両親は、産まれてからそれほど経っても居ない子供を放置しては、警察に逮捕されて留置場に入れられてを何度も繰り返している。今は逮捕されることは無くなったが今度は、4歳になったばかりの少女に無理矢理、家事を教えた。失敗すれば、何度も躾と称して殴ったり、蹴ったりした。5歳になる頃には、失敗も無くなったが、それでも、気にいらないことがあれば、すぐ少女を痛ぶっていた。

 

 だが、少女の両親の心配はすぐ無くなるだろう………………なぜかと言うと。

 

「ただいま」

 

 その少女は帰って来たからだ、自分に優しくしてくれる『人とは違うもの(魔化魍)』を引き連れて。

 

SIDEOUT

 

 山を降りて頃には、すっかり夜になっていた。山から少し歩いた所に私の家がある。いつもはこの家に戻る時が、悪夢だったけど、もうそんな生活をしなくて済むことが嬉しい。

 だから、この子達のためにご飯になってよ。ね、父さん(・・・)母さん(・・・)

 

「今まで何処に行っていたの?」

 

「勝手に居なくなりやがって、てめえが居なきゃ俺らは生きていけないんだ! さっさと、夕飯を作れ!」

 

 いつものように少女に命令をする父親。

 

「おい! 聞いてるのか!」

 

 だが、いつまで経っても動こうとしない私にイラついたのかいつものように、私を殴る。

 

「…………」

 

 だが、少女は殴られなかった。何故なら、少女の父親の腕を掴む白がいたからだ。

 

「なんだ、てめぇ!」

 

 急に現れた白に怒鳴り声で質問するが、白は質問に答えようともせずに、父親の腕を捻る。

 

「我が王に手を挙げようとしたのです。生きていられると思わないでください」

 

 そう言うと、姫の姿がたっぷりとした布を纏った姿から戦闘形態でもある妖姫に姿を変える。

 

「ひぃいいい!」

 

「ば、化け物」

 

 母親が悲鳴をあげ、父親が掴まれた腕を外そうと力を込めるが、さらに強い力で腕を掴む。やがて、父親を壁に投げて、白は逆立ちの姿勢になり片足を父親に伸ばして、絡み付け締め上げる。

 すると、太った身体をしてる父親から大量の液体が溢れてくる。それを見た鳴風は溢れて出てくる液体を吸い始める。嬉しそうに翼を動かす鳴風は満足したのか吸うのやめる。そして、もう液体が出ずにカラカラになった父親を白から渡してもらう。

 カラカラになってもう骨と皮しか残っていない父親の死体を私は力任せに引き千切る。か弱い少女の力でもベリッと皮が破けて、骨の付いた上半身と下半身に分かれる。上半身を土門にあげて、下半身を顎にあげる。バリバリと貪り喰われていく父親に対してはなんの感情も湧かなかった。思ったのは、『死んでくれてありがとう、この子達のご飯になってありがとう』ということだけ。

 次に母親をこの子達にあげようと思ったら、母親は消えていた。多分、父親が喰われてる間に家の裏口から逃げたんだろう。

 

「白、逃げたから捕まえて来てくれない」

 

「分かりました」

 

 白はそう言って、裏口から逃げた母親を追いかけていった。

 久々に人間を食べれて満足しているのか鳴風は少し目を瞑りかけている。土門と顎は既に食べ終わっており、少女の足元に集合する。

 眠たそうな鳴風を抱いて、土門と顎と一緒に母親を追いかけてる白の方に向かうことにした。

 

SIDE白

 我が王が追いかけろと言った母親という人間を見つけた。大小様々な岩がある所の中で一番大きな岩に隠れている。だが、人間の隠れている岩を見て、違和感を感じ始めた。気のせいだと思うが、少し岩が動いた気がした。

 今、そのことよりも王の命令を遂行せねばと思い、人間の隠れている岩に向かおうとした。

 だが、気のせいだと思ったことは気のせいではなく、岩は動いてる。岩の一部が目のようにギョロっと開き、人間と目が合った。

 

「いやあああああ」

 

 自分の隠れていた岩に突然、目が現れたら誰だって驚く。多分、私もビックリします。

 

「あれって、オトロシ!!」

 

ノォォォォォン

 

SIDEOUT

 

 オトロシ。

 犀と象亀を合わした姿に岩のような甲羅にある1つ目が特徴な100年に1度現れるか現れない伝説の魔化魍。

 岩に擬態する能力を持ち、鈍重な見た目と違い、手足をしまいガスを出して高速でガスを噴出し、660Kmのスピードで移動できる。

 

 それが、私の前に見える魔化魍の名前である。

 母親を標的にして、再び岩に擬態する。そして、どこかに消える。周りが岩だらけでもあるせいか母親は周りを警戒するが、そんなことは意味がない。もう、側に寄って来ているのだから。

 

「ギャぁぁぁああ、足があぁぁぁ!」

 

 オトロシは母親の右足を潰し、それを軸にして回転を始める。足からどんどん回転するオトロシに取り込まれていく。骨と肉が擦れて、嫌な音が響き、血がドクドク溢れていく。そして、上半身まで来ると音はさらに響き、血の量はさらに増える。

 オトロシが回転をやめ、潰れた母親から身体を退かして潰れた肉を喰らってった。




はい。新たな魔化魍はオトロシでした。
次回はオトロシの名付けと白のお使いみたいなのを書きます。


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記録参

今回はおつかいに行く白の話です。
色々と突っ込みそうなところがありますが、なるべく突っ込まないでください。


 オトロシが現れて、母親を喰らった。そして、オトロシにも崩という名前をあげた。

 土門たちに比べて、少し大きいから後少しでもしかしたら、成体になるのかもしれない。

 でも、これだけじゃダメだ。しばらくはあの子達のお腹は持つかもしれないけど、崩は他の子より大きいから次の餌も早く準備してあげないといけない。

 そして、再び家に戻って来た、崩は大きいからさっきの場所に待ってもらっている。必要な服や持ち物を父親の持っていたキャリーバッグに詰め込み、お金を探す。探すのは白にも手伝ってもらっているから多分、すぐ見つかると思う。

 

 お金を探し始めて少ししたら見つけた。両親がなんの仕事をしていたのか分からないけど、財布の中を見る限りお金はたくさん持っていたみたい。これを使って、あの洋館を直して、この子達と暮らしていく。

 キャリーバッグを持ち、白と共に家から出る。裏口で土門たちが待っており、土門は背中にくっ付き、鳴風と顎はキャリーバッグの上に乗っかる。そのまま崩が待っている場所に移動する。

 崩と合流したところで、これからの予定を白と一緒に考えていた。

 

「ねぇ白?」

 

「なんでしょう我が王?」

 

「白ってその服装と声を変えられる?」

 

「変えられるには変えられますが、時間が掛かります」

 

「じゃあ、私が言う服と女性らしい声に変えて」

 

「分かりました」

 

 白の服がシュルシュルと動き私が言った通りにたっぷりとした布のような服から上は白のブラウス、下は水色のシフォンスカートに変わる。

 そして、私の持っていたキャリーバッグにのせていた麦わら帽子を白に被せる。

 

「うんうん。いい感じだよ白!」

 

「ありがとうございます」

 

 褒められて嬉しいのか頬を赤らめる白。この格好なら外へ出しても問題なさそうだ。そう思い、私は白に材料を書いた紙とその店に行く方法を書いた紙を渡した。

 

「じゃあお願いね」

 

「………分かりました。では王、行って来ます」

 

「いってらっしゃい」

 

 そして、白はおつかいに行った。土門たちが見送ってくれている。

 白を見送り、土門たちと共に洋館に戻るため、山へ登った。

 

SIDE白

 我が王からおつかいというものを頼まれた。妖姫として生き、山で暮らしていた私は初めて人間の暮らす街という場所に行く。

 王が言うには、我々魔化魍の餌である人間がたくさんいる場所。だが、今回はあの洋館を直す材料を買うために来たのだから。さっさっとおつかいを達成させねば。

 

「よお姉ちゃん1人なの?」

 

 そう考えていたら、金髪褐色肌の男が私に質問してきた。

 ここに王である少女がいたのならこれはナンパだと気付くのだが、今は白一人しかいない。時間の無駄だと思い、その場から離れようとする。

 

「おい! 無視するな!」

 

 男は白の腕を掴み、行かせまいとその場に止めようとする。だが、白からすれば鬱陶しいだけの男を妖姫に変わって男を排除しようとしたが–––

 

「あの、その人嫌がってますから手を離してあげてください」

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 後ろを振り向くナンパ男の肩をバッグを持った男が掴み。ナンパ男に注意をする。

 

「なんだ! テメぇ?」

 

「だから、その人が嫌がってそうですから。その手を離してあげてください」

 

「じゃあ、とっとと失せろ! 用があるのはこの女なんだからよ」

 

「はぁ〜優しく言ってる内に離してあげれば……」

 

「ああっ!」

 

 そう言ったナンパ男は男を殴ろうと顔に向かってパンチする。

 

「なっ!」

 

 ナンパ男のパンチを片手で掴み、掴んだ拳に男は力を込める。

 

「痛い、痛い痛い!」

 

 男に掴まれた拳を離して貰おうと腕を引っ張るナンパ男の手を離し、ナンパ男は急に離された反動でコンクリートの道路に後頭部をぶつけ気絶する。

 

「大丈夫だった?」

 

 男は白の方に向き、心配そうに聞いてくる。だが、白は妖姫であるため何を心配しているのか分からず、そのまま何も言わずに人混みの中に消えていった。

 

「あら、行っちゃった」

 

 バッグを持った男は白が消えた人混みをしばらく眺めてるとポケットに入れている携帯が鳴る。ポケットに手を突っ込み、携帯を取り出して電話に出る。

 

「はい僕です。はい。これから関東支部のほうに向かおう………ええっすぐに総本部に戻れ、それは無いですよ今着いたばかりですよ、えええっ! 分かりましたすぐに戻ります」

 

 電話を切り、携帯をしまった男は駅に再び戻った。

 

SIDEOUT

 

 白がおつかいに行ってから数時間経った、その間に崩が土門たちの面倒を見てる間に、洋館の修理するべき所を見ていた。

 まず目がいくのは、大きな穴が空いた壁、おそらく、ロクロクビが壊した部分の穴だろう。一部の窓ガラスは割れており、周りの土は深く抉れてる。まずは、抉れてる土を埋めて芝生を植えなきゃ。芝生は白が買ってくれるからそれは後でにしてここはこうしよう。

 

「崩ちょっと来て」

 

ノォォォォォン

 

 岩石のような甲羅に土門たちを乗せてこっちに来る崩。

 

「崩、ここに土で埋めて平らにしてくれる」

 

 甲羅に乗せた土門たちを降ろして、右足を使って穴を土で埋めて前足で交互に踏み、平らにしている。

 少しすると深い穴はなくなり、真っ平らな地面に変わった。

 

「ただいま戻りました我が王」

 

 崩が地面を平らにしてもらっていたら白が帰って来た。右手におつかいで買ったものを持ち、左手に金髪褐色肌の男を引きずって帰って来た。

 

「白、それは何?」

 

「おつかいの後、ずっと付きまとって来たので此処まで誘って、気絶させました」

 

「そう………あっ、お腹空いてる子」

 

 土門は片足を上げて、欲しそうにコッチを見てる。

 鳴風は私の肩に乗り、眠そうにしてる。顎は居なかったが穴を見つけたので、落とし穴を作ってるのだろう。崩は土門と同じように欲しそうにコッチを見てる。

 

「じゃあ、土門から食べていいよ。崩はその後」

 

 土門は男の足を食べ始める。

 気絶しているみたいだが、土門に右足の脛まで食われてるのに、男は一向に目を覚まさない。だが、よく見ると男の首が一周したかのようにグニャグニャだった。

 それに気付き、白の方に目を向けると、視線をそらす白。

 

「今度は、気をつけてよ」

 

「分かりました」

 

 土門は男の下半身を食べ、崩に男の上半身をあげようと引っ張るが、まだ幼体だからか力がなく上手く運べないようだ。それを見た崩は自分から近付き、男の上半身を咥えてどこかに行った。

 後ろから白と一緒に崩を追いかけると、顎の掘った穴の側に崩がいた。男の死体の片腕に噛み付き引き千切ると顎の掘った穴に食い千切った男の腕を穴に落とす崩。

 

 それを見た私たちは静かにその場を後にした。




白を助けた男の正体は察しのいい人なら多分、分かるはずです。
次回はいよいよ館の修理の予定です。


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記録肆

やっと館の修理に入ります。
さらにオリジナルの魔化魍を出そうと思います。


 崩が顎に餌を分けているの目撃した後に白と共に館の修理の話をしようとしたら–––

 

「ん」

 

 急に眠気が来た、考えて見たらもう寝る時間だった。でも、館の外観を覚えてるのは私だけだから起きてなきゃ。

 

「失礼ながら我が王。そろそろ体力の限界のはずです。お休みになってください」

 

「でも、私が起きてなきゃ」

 

「王の体はあなた1人のものではありません。少しは私達を頼ってください」

 

「分かった。じゃあお休み」

 

「お休みなさい」

 

SIDE白

 王が私に寄りかかり眠りについた。丸1日起きていればそれは眠くなる。ましてや王は人間の子供、睡眠は必要だ。

 だが、魔化魍の王について王に言わなかったのがいくつかある。その1つが人間から我々、魔化魍の身体に徐々に近付き変わっていくこと。

 今まで人間として生きて来た王にその事を言えなかった。

 私は最初に会った時、王だと気付かずに童子と共に王を襲おうとした。だがそれは、我が子とツチグモとオオアリに阻まれ、童子は喰われた。腕から見える青い龍の痣を見た瞬間、魔化魍の王の伝説を思い出した。そして後悔した。

 王に手を出そうとした私は死ぬつもりだったが、王が止めて私に従者になれと言った。嬉しかった、王を殺そうともした私を王は従者にしてくれた。この恩はこの命続く限り、一生忘れることはないだろう。

 王を洋館の中にあったベッドというものに運び、掛け布団を王に掛ける。

 

「みんな集まってください」

 

 王をベッドに寝かせ、洋館の外に出た私は 、土門や鳴風、顎、崩たちを呼ぶ。

 崩の上に3体は乗っかり、私の前に集まる。集まったの確認して、私は本題を話す。

 

「王はこの館を早く完成させたいようです。ですから私たちが少しでも王の役に立つようにこの館の修理を王が眠っている間に私たちだけでやろうと思う」

 

グルルルルッ ピィィィィィィ

ギリギリギリギリ ノォォォォォン

 

 各々が理解して声を上げる。

 

「土門はこのレンガをあの壁に組み込み、糸で補強してください。鳴風はレンガを運んであげて下さい。顎は館の外の邪魔なものを退かしてください。崩は館の周りの穴を埋めて来てください」

 

 私の言った指示の通りに各々が行動を始める。土門と鳴風はレンガを館の壁の方に持っていく。顎は崩と共にも移動する。

 私は館の中の掃除をしようと思い、再び館の中へ移動する。

 

SIDEOUT

 

 目を覚ましたら、いつの間にかベッドの上にいた。白の肩に寄りかかって眠ってたはずなんだけど、白はどこにもいない。

 扉が出ると驚いた。まず、綺麗なのだ。昨日は埃や瓦礫によって汚かった廊下が綺麗になっている。他にも、昨日治そうと思っていた壁の穴がレンガで埋められてたり、折れてた柱が真っ直ぐに建っていたりと明らかに直されている。

 外へ出れる扉に向かい、外へ出る。

 

 また、驚いた。昨日は一つしか直せなかったが、穴は他にもあった。それが全部無くなっていた。

 そして少し歩るくと白たちを見つけた。

 

 白を中心に土門や鳴風、顎、崩が一緒に寝ていた。微笑ましく思い、白のそばに向かおうとすると白の隣に見慣れないものが居た。

 

 ハエトリグサを縦にし、蕗の葉を乗せた頭に、全身を覆う緑のツタにツタのような腕。そして、この館に置いてあったガーデニング用の如雨露に脚から伸びてる蔓で水を飲んでいる。

 魔化魍には大型だけではなく、等身大のサイズの魔化魍もいる。だが、これの多くは夏に発生する個体が主で、夏とは真逆の冬に育つ魔化魍ではない。さらに、魔化魍オタクとも言える私が全く知らない『等身大魔化魍』だった。




いかがでした。館を直すと言いながら、あまり描写がなくてすいません。
次回、オリジナル魔化魍の正体と名付けをやります。


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記録伍

オリジナル魔化魍の正体は・・・
今回は白がオリジナル魔化魍の正体を言います。


 白が起きるの待ちながら、謎の魔化魍の身体を触る。

 脚から伸びてる植物の蔓を触るとプニプニしてる。次に上のツタを触るとこっちは少しベタっとし、腕のツタはツルツルしてる。蕗の葉を乗せた頭のハエトリグサのトゲを触ると腕と同じようにツルツルしてる。

 

「うぅん」

 

 謎の魔化魍を触ってると白が目を覚ました、それにつられて土門たちと謎の魔化魍も起き始める。如雨露に入れていた蔓を抜き自分の身体に戻し、謎の魔化魍は立ち上がり、私の顔を目がない顔でジロジロ見てる。

 

「王! お、おはようございます」

 

「おはよう。土門たちも」

 

グルルルル ピィィィィィィ

ギリギリギリギリ ノォォォォォン

 

 起きたみんなが私におはようと言うかのように鳴く。そして、白が起きたことでまず聞きたいことを聞くことにした。

 

「白。まず聞きたいことがあるけど、この子は?」

 

「報告しなくてすいません王。その魔化魍はコロポックルと呼ばれる魔化魍です」

 

「コロポックル?」

 

 白から聞いた名前は聞いたことのない魔化魍だった。魔化魍オタクとなった私はそれ以来、妖怪を調べるのが好きで、その時のコロポックルについてのことを思い出す。

 

 コロポックル。

 アイヌの伝承に登場する妖怪で、背丈が低く、動きが素早く、漁に巧みだった。蕗の葉を傘のように持ち、鹿や魚などの獲物を取り、アイヌの人々と物品交換をする。

 ただし、人に見られるのを極端に嫌い夜になった時に窓からこっそり差し入れるような感じだった筈……

 

「昨日私が眠っている間に何があったの?」

 

「はい。この子と会ったのは館の中の掃除が終わった時です」

 

SIDE白

 私は館の中の掃除を終えて掃除道具を片付けている時、つまづいて転んでしまい、何かを押してしまった。

 するとガコンと壁の一部が奥に消えると、壁の1つが横にスライドして階段を見つけました。階段は下まで続いており、興味が湧いて階段を降りた。

 階段を降りると1つの通路を見つけた。さらに歩くと鉄で出来た扉を見つける。重い扉を開ける。すると中で見えたのは。

 

「これは………」

 

 中には、透明な液体に浸かる心臓のようなモノ、怪しい色をした薬品を入れた試験管、茶色い種のようなものが中心に入れてるプラスチック製のケース、巨大な冷凍庫、巨大な本棚、乱雑に置かれた書物や巻物等が目に入った。

 私はまず書物と見ると現存しているあらゆる魔化魍の情報が載っており、ここまで正確な情報に私は驚いた。次に巻物を見ると聞いたことも見たことのない魔化魍の情報があった。

 

 コロポックルと書かれていたその魔化魍はこの部屋に置かれてるらしく、探すために巻物を閉じて部屋を見渡すとガラスの机に置かれてる1つの植木鉢に気付く。

 植木鉢の方に向かうと、如雨露を見つけた。持ち上げようとするとツタが如雨露に絡み付いていて、持ち上げれない。すると絡まっていたツタが私の頭に向かって勢いよく伸ばしてきた。

 

 危なかった。もう少し掴むのが遅かったら私の頭に穴が空いてただろう。如雨露に絡まってツタが減り、如雨露がツタから外れる。すると、植木鉢の上の植物がウネウネ動き出し、私の目の前で人型になっていく。

 

 ハエトリグサを縦にし、蕗の葉を乗せた頭に、全身を覆う緑のツタにツタのような腕をした魔化魍 コロポックルが姿を現した。

 コロポックルはこちらの様子を伺い、右のツタの腕を槍状に変えて私を警戒し、目がない顔で私の手元をジロジロ見てる。

 私の手元を見るコロポックルにもしかしてと思い質問する。

 

「もしかして、如雨露を返して欲しいのですか?」

 

 するとコロポックルはコクリと頷き、私は如雨露をコロポックルに渡すと、何も持っていない左のツタで如雨露を取り、ツタで絡め、足付近の蔓を如雨露に入れる。

 私はコロポックルを王に会わせようと思った。人間でありながら王は我々、魔化魍を家族のように接してくれる。このコロポックルも王は受け入れてくれるだろう。そう思った私はコロポックルのツタの腕を掴み、この部屋から連れ出す。

 

 暗い階段を上がるたびにペタペタとコロポックルから音が鳴る。だが、コロポックルの腕は少し震えていた。どうやら、あの部屋を出ること自体が初めてのようだ。そして、壁のスライドドアを通り、館の外の扉を開く。

 コロポックルの腕を離してあげると、コロポックルは初めて見る外に興奮しているのか外を走り回る。

私は遠くからその様子を眺めている。下から土を掘る音が聞こえるくる。音はどんどん近くなり、音の正体………顎が現われる。

 

 自身の身体を振って身体の土を落とす顎。顎が私に気づきこちらに歩いてくる。するとコロポックルの存在に気づき、コロポックルの前で足を止める。

 コロポックルも顎に気づき、ジット見ている。顎も初めて見るコロポックルにどうすればいいという感じで首を傾け、同じくジット見ている。するとコロポックルがツタの腕を伸ばして顎を撫で始める。撫でられている顎はそのままコロポックルの側までより横になって眠ってしまった。

 顎が眠ると、土門や鳴風、崩も戻ってきた。皆初めてはコロポックルを警戒するが、気持ちよく寝る顎を見て警戒を解き、コロポックルに近づく。

 コロポックルも近づいてきた皆を撫でると、撫で始めて数分経つ頃には、私を除く、全員が眠っていた。

 コロポックルは私をツタで絡みつけて自分の側に寄せて、私の頭を撫でる。どんどん眠気を誘われ、ねむ・く………

 

SIDEOUT

 

「それで、今に至ったという訳」

 

「恥ずかしながら、そういことです」

 

 しかし、そう考えるとすごい魔化魍だ。警戒心を抱かせるも少し撫でるだけで、眠らせるなんて。

 まあ、新しい家族が増えたと思えばいっか。でもそうすると名前を考えなきゃな。そうだな・・・

 

「そうだ! 睡樹」

 

「睡樹ですか」

 

「眠りを呼ぶ樹だからね。まあとにかくこの子は………ワッ!」

 

 振り向くといつの間にか 、睡樹が立っており、私の頭を撫で始める。

 あ、ああ眠くな……て…




いかがでしたでしょうか。今回オリジナル魔化魍 コロポックルを出してみました。
次回はオリジナル人物たちによる猛士の会議を書きたいと思います。


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記録陸

今回は猛士の緊急会議の話です。


SIDE◯◯

 奈良県吉野郡の八経ヶ岳。ここには魔化魍の天敵と言える鬼を率いる『猛士の総本部』がある。

 1年に数回の会議か緊急時の緊急会議の時のみ各支部の王と呼ばれる支部長と一部の許可を許された音撃戦士が参加する。ここに1人の角、音撃戦士が到着した。

 彼の名前は練鬼。総本部直属の若く優秀な鬼である。

 

「せっかく関東支部に挨拶行こうとしたのに」

 

「まあまあ落ち着いてください」

 

「そうです。それに緊急会議はしょうがないですよ」

 

「まあ、何年かに1度しかない緊急会議ですから」

 

「はぁ〜まあ直属だからしょうがないか」

 

 僕の隣で慰めてくれるのは関東地方の王 箱田 了と金の箱田 あかりの2人である。ちなみにこの2人は親子である。

 緊急会議に呼べれて、東京からとんぼ返りで総本部に戻るとは思わなかった。思えば、僕が総本部に直属になって2年も経つのか。

 

 しかし、今回の緊急会議はいったいなんでしょうか。そう思ってる間に、会議室の部屋に着く。

 扉を開けるとそこには、北海道の王、東北地方の王、関東地方の王、近畿地方の王、四国地方の王、九州地方の王が席に座って待っていた。

 空いてる席から後は中部地方の王と中国地方の王が来ていない。

 

「おお。来たか練鬼」

 

 緑の服を着た男性、近畿地方の王をする大塚 拓己が話しかける。

 

「総本部直属 練鬼ただいま戻りました」

 

「ほほう。彼が練鬼か噂はよく聞いてるよ」

 

 白い髭を生やした老人が話しかけてくる。この老人は九州地方の王 千葉 武司。昔は白鬼という音撃戦士だったが、引退して今は九州地方の王をしている。

 

「久しぶりだね練鬼」

 

 着崩した和服を着た女性が挨拶してくる。この人は北海道の王 水野 絵梨奈さん。ここ総本部に来る前にお世話になった人である。

 

「ねえ〜練鬼〜いい角いない?」

 

 怠そうに喋るこの人は四国地方の王 加藤 勝が僕に相談してくる。

 

「おお練鬼! これお土産な」

 

 紫の風呂敷に包んだお土産を渡すのこの男性は東北地方の王 三原 春。今の王の中では最年少の王だ。

 

「いや〜すまんすまん遅れたよ」

 

「何故、私まで……男の………」

 

 僕の後ろから入って来たのは中部地方と中国地方の王の2人である。遅れたのを全然反省していないのが中部地方の王 飯塚 徹。その隣でブツブツ文句を言っているのが中国地方の王 若草 みどりの2人である。

 2人は席に座り、テーブルに全員座ったのを確認した僕は奥にいる人に話しかける。

 

「全員揃いましたよ武田さん」

 

 テーブルの一番奥で腕を組み、目を瞑っている人。猛士の総本部のトップ 武田 烈火その人であり、僕の師匠でもある。

 

「では、今日の緊急会議の議題を言おう」

 

 その言葉により、さっきまでとは違う空気が漂う。ふざけていた徹さんですら、真面目な顔になる。

 

「魔化魍の王が現れたようだ」

 

 その言葉は各支部の王を驚かせた。

 

「遂に現れましたか」

 

「ほぉう」

 

「以前の王が現れたのは200(・・・)年前だと聞きましたが?」

 

「そうだな。150(・・・)年に1度、現れるか現れないかのやつだが………」

 

 だが………と烈火さんは言った。

 

「武田さん、今回の魔化魍の王は今までと何か違うのですか?」

 

「!!! 流石だな練鬼」

 

「烈火さんどういうことですか?」

 

 すると、武田さんはケースに入った透き通った紫の水晶の破片を取り出した。

 

「皆も知っていると思うがこれは、『魔化水晶』のカケラだ」

 

 魔化水晶。

 それは最初の魔化魍の王と呼ばれた魔化魍 オオマガドキが持っていた水晶の名前。

 音撃の無効化や魔化魍と無機物を合わせる力、人間や動植物に使えば童子、姫、魔化魍に変えることのできる厄介な道具。これによって無限に増殖する魔化魍達により当時の猛士は壊滅に近い打撃を受けた。

 だが、これは完全な形になった時にのみ発動する力で、オオマガドキと最後の戦いに挑んだ8人の鬼の一人 覇鬼によって魔化水晶は砕かれ、今は8つのカケラに分けられてオオマガドキを倒した8人の鬼の子孫が代々受け継ぎながら守っている。

 

 だが、魔化魍の王は発生条件も不明で、常に別の魔化魍が魔化魍の王となっている。『魔化水晶』のない魔化魍の王は強いことには強いが倒せない訳ではなかった。

 500年前に現れた魔化魍の王 シュテンドウジも他の魔化魍の王に比べれば、かなり弱体化していたと武田さんの師匠の師匠が言ってそうだ。

 そして、この『魔化水晶』は魔化魍の王が現れた時に赤く光を放つのだが–––

 

「これは!!」

 

 ケースから出された魔化水晶は光を放つには放っているのだが、それは青い(・・)光だった。

 

「これが今回、緊急会議を開いたもう1つの理由だ。もしかすると、今回の魔化魍の王は今までとは違うのかもしれん」

 

SIDEOUT

 

 睡樹に頭を撫でられ眠ってしまった。現在私は–––

 

「あなたは王に何をするんですか?」

 

シュルルゥゥゥ

 

「まあまあ、わざとじゃないんだから。もうその辺で許してあげなよ白」

 

 睡樹を正座させる白をなだめていた。

 

「はあ~~分かりました。」

 

シュルルゥゥゥ 

 

 睡樹が前に倒れる。魔化魍でも長時間正座をすると足が痺れるようだ。土門が睡樹の足を前脚で突くと、睡樹は、ビクッと悶えて、地面をゴロゴロ転がる。

 面白く思ったのか、鳴風も尻尾でツンツンと突き、さらに悶えて転がる睡樹の様子を眺める顎と崩。

 

「こらこら、土門も鳴風もやめてあげなさい」

 

 土門と鳴風の頭を撫でて、睡樹の足を突くのをやめさせる。撫でられて嬉しいのか睡樹の足を突くのやめた土門と鳴風は私の胸元に飛びついて来る。

 

グルルルル  ピィィィィ

 

 胸元に土門たちを抱えて、白たちが直した洋館を見る。窓はまだ嵌められていないが、壁はレンガで埋められ、館の中は掃除されてるのをさっき館を出る前に見たから、あとは窓だけなのだがここが問題だ。少なくても数十枚の窓ガラスが必要だ。

 

「あっ!!」

 

 随分前に、近所に住んでた大工のおじさんからガラスの作り方を聞いたことがある。

 珪砂と炭酸ナトリウム、石灰石の三つを1500度の高い温度の釜でドロドロに溶かし、それを引き伸ばして作る。珪砂は砂から採れるし、炭酸ナトリウムは重曹を加熱させれば作れる。問題は石灰石のほうだな。確かこの近くで石灰石を取れるのは武甲山だったはず。

 

「白、旅の支度を」

 

「何処にでしょうか?」

 

「武甲山に行くよ。石灰石を取りに」

 

「分かりました」

 

 白が旅の支度のために館のほうに行った。さてと、私も支度をしないとね。




いかがだったでしょうか?
今回は主人公の存在が猛士にバレました。次回の話でまた魔化魍が増えます。


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記録漆

新しい子(魔化魍)が出てきます。


SIDE白

 旅の支度が整い、私と王、睡樹は崩に乗り、土門と顎は鳴風の上に乗って、洋館の窓ガラスを作るために、埼玉県秩父地方の秩父市と横瀬町の境界にある武甲山へと石灰石を取りに向かう。

 長時間じっとしているのが原因か王は私の膝を枕代わりに眠った。睡樹は王が眠る前にすごく頭を撫でたそうにしていたが、自身の腕のツタを毛布のように組んで王に掛けている。

 

「王よ起きてください。後少しで武甲山です」

 

「んんん」

 

 もう少しで武甲山に着くので、王の肩を揺すって起こす。睡樹も王を起こすために肩を揺する。

 

「ん………着いたの?」

 

「いいえ。後少しです」

 

「ありがと白」

 

「いいえ。これも従者として当然です」

 

シュルルゥゥゥウウ

 

 私にも感謝してよという感じで睡樹は王に声を出す。

 

「睡樹もねありがとう」

 

シュルルゥゥゥ

 

 感謝されて嬉しそうにしてる睡樹。そうこうしてる間に、崩は走るのをやめて目的地の武甲山に着いた。

 

SIDEOUT

 

 肩を誰かに揺すられて、眠っていた意識が起きる。館から武甲山を目指す時に、崩に乗ったが、乗り心地が良くて白の膝を枕代わりに眠ってしまった。

 

「ん………着いたの?」

 

「いいえ。後少しです」

 

 思えば、白と出会って3日も経った。

 初めて会った時は私を鳴風の餌にしようとしたけど、今では私の従者をしてくれている。魔化魍ではない私を心配してくれて気が利く。だからこれからも何度も言うかもしれないけど–––

 

「ありがと白」

 

「いいえ。これも従者として当然です」

 

シュルルゥゥゥ

 

 睡樹も褒めてというように声を上げる。私の身体をよく見ると睡樹の腕から出てるツタを編み込んで毛布のように掛けてくれている。

 

「睡樹もありがとう」

 

シュルルゥゥゥ

 

 睡樹は嬉しそうに声を上げて、腕のツタを元に戻した。そうしていると崩の動きが止まった。武甲山に着いたようだ。

 石灰石は武甲山の北側斜面で採掘されているようなので、崩にそっちに向かうように指示する。鳴風も崩の後ろから飛びながら着いてくる。

 崩が山道を歩いているのを上から見てい………あ!

 

「崩! ここで止まって!」

 

 私の声を聞き、崩が歩くのやめて身体を屈める。

 屈めた崩の上から降りて、私は1つの野草を毟り取った。

 

「山ウドがこんなに生えてる」

 

「山ウドって何ですか王?」

 

 山ウドが何なのか分からない白たちは首を傾げる。

 

「山ウドは冬に生える山草の一種で刺身、酢の物、和えもの、味噌煮、天ぷらなどのいろんな料理にできる山草だよ。これをいっぱい持ち帰って、久々に美味しい料理を作れる」

 

 食器や調理器具、調味料はあの家に置いてあるのは全て持って来た、色々作れる。

 思えばこの3日間何も食べていない、早く石灰石を取って館に戻ろう。

 そうだ白たちの分も作るからいっぱい持って帰らないと、あんな親から教わったことでも、こんな風に使う時が来るとは思わなかったなあ〜。

 でも、このリュックには山ウドを入れるのはダメそうだし、どうすればいいんだろう。

 

「んん?」

 

 私の肩を何かがツンツンと突くので後ろを振り向くと–––

 

シュルルゥゥゥ

 

 睡樹が居た。腕のツタを使って、私の肩を突いていたようだ。

 

「どうしたの睡樹?」

 

シュルルゥゥゥ

 

 睡樹が腕のツタを伸ばして網目状に組んでいくと籠のような形に変えて背中に背負い、私の持っていた山ウドを籠に入れて、下にまだ生えてる山ウドを次々に入れていく。

 正直驚いた。睡樹がこんなことが出来るとは、でもこれで山ウドを館に持って帰れる。

 

「ありがとう睡樹。それを落とさないように気をつけてね」

 

シュルルゥゥゥ

 

 山ウドを入れた籠の上をツタで塞ぐ。

 

「じゃあ、睡樹それを無くさないように持って、ここで待ってて? 土門、鳴風、崩は睡樹を見ててあげて」

 

シュルルゥゥゥ グルルルル

ピィィィィィ ノォォォォォン

 

 万が一の為に、土門たちに睡樹の護衛を頼む。

 

「白、顎ここからは歩いて行こう」

 

「分かりました」

 

ギリギリギリギリ

 

 白と顎を連れて、採掘場へと向かう。

 

SIDE白

 王と私、顎で採掘場を目指しているのだが–––

 

 明らかに何かが私たちの後ろを付いて来ている。しかも1体ではなく3体くらいで、しかも人間の気配ではない。おそらく私と同じ魔化魍が付いて来てるのだろう。

 王は我らのことを家族と言っている。魔化魍でもない人間の少女が、だから我らは王に降りかかる害という名の炎を全て排除する。

 

ボソッ「顎、あなたは王を守りなさい」

 

ギリギリギリギリ

 

 顎に王を任せて、私は王が視界から見えなくなるのを確認すると、後ろから尾いてくるものに声を掛けた。

 

「付いて来てるのは分かっています! 出て来なさい!」

 

 私の声を聞き、後ろから尾けて来ていたもの達が後ろの岩陰からその正体を現す。

 

「スゴイナ王ノ従者、私タチニ気付クトハ」

 

ウォォォォォォォ  コォォォン

 

 現れたのはヤマビコの姫、そして肩に乗せてる幼体のヤマビコと私が見たことのない狐の魔化魍だった。

 

SIDEOUT

 

 いつの間にか白が消えて、顎が私の側を付いて歩いていた。

 そんな感じで歩いてると、やっと目的の場所に着いた。そして、リュックから電灯付きヘルメットを出して、顎を背中のリュックに入ってもらう。

 もしも、人間がいたら面倒なことになる事、間違いないから。

 

「いい顎、私が出て良いと言うまで出ちゃダメだからね」

 

ギリギリギリギリ

 

 顎は理解したようで上顎を鳴らす。

 そして、ヘルメットの電灯の明かりを付けて、採掘場の中に入っていく。

 

SIDE白

 私は現在、ヤマビコの姫と話している。

 彼女はどうやらここからかなり離れた地で、この幼体のヤマビコを童子と共に育てていたようだが、鬼が現れ、童子が自分の身を犠牲に姫とヤマビコを逃してくれたようだ。

 だが、鬼は童子を倒して追いかけてくると狐の魔化魍が現れて鬼の一瞬の隙を突いて、火達磨にして焼き殺したと言う。

 ヤマビコの姫の話を聞き、狐の魔化魍を見る。

 

コォォン

 

 とてもじゃないが今、首を傾げて私を見てるこの魔化魍に鬼を殺す実力があるとは思えない。だが、幼体で鬼を倒したという事は相当の実力を持っているということだ。

 

「それで、あなた達はなぜ王を付けていたのですか?」

 

「知ラナイノカ?」

 

「?」

 

「噂ニナッテイルゾ、人間ナノニ魔化魍ヲ家族トイイ、魔化魍ノ王デモアルトイウ噂ガ。ダカラ王ニ会イタイト思ッタ」

 

「!!! ……………本当ですか?」

 

「嘘ヲ付イテドウスル、本当ノ話ダ」

 

 驚いた。私が王に出会ったのは3日前。

 確かに王は我々を家族のように接してくれる。だが、この噂は王に出会う前から流れていたと考えるのが正しいだろう。しかしそうすると誰がこの噂を流したのかが疑問だ。

 

SIDEOUT

 

 顎をリュックに入れ坑道に入ってしばらく歩くと、電灯が点いていたので、ヘルメットの電灯を消した。

 先ほどまで暗かった足元は今は良く見える。坑道の奥に進んで行くと坑道を広くした場所に着いた。周りには古いスコップやツルハシ、それとさらに奥に行くための線路の上に乗ったトロッコがあった。ここが多分、目的の場所である石灰石の採掘場に着いたようだ。

 

 背中に背負っている顎の入れたリュックを下ろして、そこらに置かれたツルハシを取って採掘場の土を叩く。カン、カンと叩く音が坑道に響く、すると白い塊が出て来た。

 石灰石を見つけた。でも1つだけでは意味がない。もっと掘らないと–––

 

「顎?」

 

 リュックからいつの間にか出てた顎が私のズボンの裾を上顎で挟んでグイグイ引っ張ってた。すると上顎を離して、さっきまで掘っていた土を掘り始める。ザクッザクとさっき私が掘っていたスピードより速く、適確に石灰石を見つけていた。

 数分経つ頃には石灰石の山が出来た。

 

「ありがとう顎」

 

ギリギリギリギリ

 

 感謝の気持ちで頭を撫でると顎を鳴らす顎。すると、坑道から足音が聞こえてきた。

 だんだんと音は近づいてきて、その正体を現した。

 

「王よただいま戻りました」

 

ウォォォ  コォォォン

 

 白だった、他にも幼体のヤマビコを肩に乗せてるヤマビコの姫と2本の尻尾を生やす赤い狐の魔化魍がいた。

 

「王、こちらの姫が話があるそうです」

 

「初メマシテ、ヤマビコノ姫デス」

 

 白の隣にいたヤマビコの姫が私に話しかける。

 

「私ヲ貴女ノ従者二シテモライタイ」

 

 いきなりヤマビコの姫が土下座をして、急な行動に私は驚く。

 

SIDE白

 先程出会ったヤマビコの姫たちを王に会わした。今、ヤマビコの姫は王に従者にしてくれと頼んでいた。

 本来なら、従者は私1人充分と言いたいが、どうしても王や土門たちの世話をするのも限度というものが出てくる。それに、これからも家族は増えていく。これは絶対だと思う。

 何故なら、それが我らの王だからだ。人間なのに我々に名をくれた。

 

「なるほど……………」

 

「何卒、コノ子達ノタメニ………」

 

 土下座の姿勢を崩さずに自身の子のヤマビコと狐の魔化魍の心配をするヤマビコの姫。

 

「そうだね。いいよ貴女もその子達も私の家族にする………良いよね白?」

 

「それが王の考えなら」

 

「アリガトウゴザイマス………ヒグッ」

 

 ヤマビコの姫は涙を流しながら感謝してると王がヤマビコの姫に近付き頭を撫でる。

 

「辛かったでしょ。良いんだよ泣いて」

 

「グスッ……………ヒグッ………ウアアアアアァァァン」

 

 ヤマビコの姫の泣く声が坑道に響く。




今回はヤマビコとヤマビコの姫、そして謎の狐の魔化魍が登場しました。
狐の魔化魍の正体は次あたりに書きます。そして、主人公の存在を広めているのは後に出てきます。


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記録捌

今回は、白以外の魔化魍のSIDEを描いてみました。


 このヤマビコの姫も苦労していたんだな。

 今まで溜まった感情が爆発したかのように泣いたヤマビコの姫は泣き止んだと思ったら今度は顔を赤くして白の後ろに隠れてる。

 名前は館に帰る道の中で考えるとして、今はこの石灰石の山を館に持って帰ることを考えなきゃ。

 

「ねえ白。今あるリュックでこの石灰石持って帰れる?」

 

「少し無理だと思います」

 

「(そうだよね〜)」

 

 目の前にある顎が掘ってくれて山のようになっている石灰石。せっかく顎が掘ってくれたものだからできるだけ全部持ち帰りたい。

 すると、ヤマビコの姫の肩に乗っていたヤマビコが肩から降りて、石灰石の1つのを取ると、それを砕いた。

 

「何ヲスルンダ! 我ガ子!」

 

 ヤマビコの姫が止めようとするが、ヤマビコは石灰石を取って砕くを繰り返していた。だが、今気付いた元々ガラスを作る過程の際、石灰石はドロドロに溶かすのだ。なら、初めから砕いておけば作業も楽になる。

 

「白! 顎! あのヤマビコと同じように石灰石を砕いて」

 

「分かりました」

 

ギリギリギリギリ

 

 ヤマビコに続くように石灰石を砕き始める白と顎。

 

「あの子のお陰でこの石灰石を全部持って帰れるよ。ありがとう」

 

「勿体無イ………オ言葉デス」

 

 そして、石灰石を砕き続けて10分経った。顎に掘ってもらった石灰石を全部粉々にしリュックの中に詰め込んだ。

 

「じゃあ、睡樹たちの所に戻ろう」

 

「王、ソノ荷物ヲ貸シテクダサイ持チマス」

 

 背中に背負ったリュックをヤマビコの姫が持つと言った。

 

「(まあ、折角だし)お願いね」

 

 そう思って、リュックをヤマビコの姫に渡して、採掘場から睡樹たちのいる所に移動を始めた。

 

SIDE睡樹

 主………が荷物を任せ……てくれた。土門、鳴風………崩と一緒………に山ウドを見………てる。

 帰った………ら、この山草で………主が料理作って……くれる。楽し………みだなぁ。

 でも、石灰石を取り………に行くと言って………かなり経っ…た。

 土門と鳴風………は静かに………主の行った方角………を見て待ってい……る。崩は………岩に化け……て、僕たちを隠して…る。

 

 僕……………暗い所にい………た。白が………暗い所………から出して主……を教え………てくれた。初めて…見る……外は少し暗かった……けど、綺麗………だった。そのあと………主っと……会った。

 白は………お母さんみたいだ……ったけど、主は妹………みたいだっ……た。側……にいると………ポカポカして、守りたく……なる。

 早く帰……って来てよ………主。

 

「ただいま! みんな!」

 

 主の声………だ!

 

「睡樹………わあっ」 

 

SIDEOUT

 

 長い坑道を抜けて、睡樹たちの待つ山道に着くと 、睡樹が私に飛びかかって来た。

 どうやら私が居なくて寂しかったそうだ。今は白が以前と同じように正座させて、睡樹を説教してる。

 

「崩起きて」

 

ノォォォン

 

 大きな欠伸をして、崩は岩の擬態を解いて起き上がる。

 白も崩が起き上がると説教を辞めて、ヤマビコの姫を崩の上に乗せる。ヤマビコは鳴風の尻尾に捕まり、狐の魔化魍は鳴風の足に掴まってぶら下がってる。私は睡樹と共に崩の上に乗り。

 

「白、全員揃ってる?」

 

「はい。全員揃っています」

 

「じゃあ崩、館までお願いね」

 

ノォォォォォン 

 

 崩の声が武甲山の山道に響く。 




如何でしたか?
次回は死体を見つけた主人公達が色々やります。


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記録玖

今回は、最後あたりに主人公の名前を出そうかなと思います。


SIDE白

 はあ〜どうしてこうなったんでしょう。今の事態に私は頭を抱えている。

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

 

グルルルル

 

 王の命令で私は土門と一緒にこの少女を守っている。

 話は2時間前まで遡る。

 

SIDEOUT

 

「みんな、もう少しで館に着くから。館に着いたら山ウドで美味しい料理を作ってあげるから楽しみにしてね」

 

グルルルル  ピィィィィィ  ギリギリギリギリ  

ノォォォォォン  シュルルゥゥゥ  ウォォォォォォ

コォォォォォン

 

 土門たちも楽しみなのか声を上げる。

 崩に乗り、武甲山を出てかなり時間が経った。走っている崩の上から周りの景色を楽しながら帰ってから作る山ウドの料理を考えてた。

 天ぷらと味噌煮がいいかもね。そもそも魔化魍は人間を食べるけど、他の物が食べられない訳ではない、カッパという等身大の魔化魍は昔、植物を食べていた種もいたそうだが自然破壊の加速に繋がることで鬼に倒された。他にもバケネコという等身大の魔化魍がいるがこれは動物の血を吸う魔化魍である。

 なら何故、人間を襲うのかというので一度考えた事があるが多分。

 

 人間が他の食べ物より栄養があるからだと私は思う。と、そんな事を考えながら、周りの景色を見ると緑とは違う、不自然な赤いものが見えた。

 

「崩止めて!」

 

 それを見た私は崩に走るのを辞めさせて、崩から降りる。

 

「どうしましたか王?」

 

 白の質問に答えず、赤いものがある所に走る。

 そこで見たのは背中に幾つもの穴が空いた和服を着た女の死体だった。穴からは血が流れてて、少し固まりかかっている。血の色からして撃たれて、それほど時間が経ってない。

 白とヤマビコの姫も私の後ろに来て、状況を見る。

 

「これは!?」

 

「他ノ魔化魍ガヤッタノデショウカ?」

 

「いいや。これは人間の仕業だよ」

 

 まさか、こんな事が今の時代でもあるんですね。

 

「狐ちゃんこの死体を燃やして」

 

コォン

 

 良いの? という声で狐ちゃんが聞いてくる。

 

「死体をそのままにしておくと厄介だからね」

 

コォォン  

 

 分かった。という返事と共に口から小さな火の玉を吐いて、死体を燃やす。赤い炎が瞬く間に死体に広がり、死体は炎に包まれる。私は死体の側にあったものを見て、白に指示を出す。

 

「白、この女性の子供を土門と一緒に保護してあげて」

 

「子供ですか?」

 

「そう。この女性の持ってた服、大人が着るにしても小さすぎる」

 

 物は子供用の着物らしく七五三で見るような色合いの着物だった。

 

「本当デスネ。コレハ小サスギル」

 

「おそらく、子供を庇って死んだでしょう」

 

「ヤマビコの姫………いや今から黒と呼びます」

 

「ハイ!」

 

「黒! 鳴風! 顎! 崩! 睡樹! ヤマビコ君! 狐ちゃん! あなた達は私と一緒に来て」

 

「ハッ!!」

 

ピィィィィィィ  ギリギリギリギリ

ノォォォォォン  シュルルゥゥゥ

ウォォォォォォォ  コォォォォォン

 

「白! 土門! 子供をお願いね」

 

「分かりました」

 

グルルルル

 

 白と土門に子供の保護を頼み、私は黒達を連れて女性を殺した連中を探すことにした。

 

SIDE白

 王に言われて、死んだ女の子供を探すことになった。しかし何故、人間の子供を………ですが王の命令ですから探さないと。

 

グルルルル

 

 土門が私の肩に捕まり、遠くを見てると何かを見つけたという感じで声を出す。

 

「ううぅぅ………ママ……ひぐっ………」

 

 すると、林の奥から子供の声が聞こえた。声の聞こえる所まで走り、少し離れた木の側に隠れて見ると、赤い和服を着た少女がいた。

 

「(王の言っていた子供はこの少女ですね)」

 

「ぐすっ………ううう………お姉ちゃん誰………?」

 

「っ!!」

 

「お姉ちゃん………ひな傷付けない?」

 

 泣いてる声でこちらに質問を掛ける少女。だが、驚いたのはそれではない。少し離れた木で気配を消して見ていたのにこの少女は私に気がついた。

 観念して少女の前に姿を現わす。

 

「どうして分かったのですか?」

 

「ん…ひぎゅ………なんとなく」

 

 赤く腫らした目を擦りながら首を傾けて、こっちに顔を向ける少女。

 すると、少女は私の肩の土門を眺めるように見ていた。

 

「蜘蛛さんだ〜!」

 

グルッ

 

 少女に見つかり私の肩に捕まっていた土門はビクッと身体を揺らして、少女から逃げようとするが。

 

「蜘蛛さん捕まえた〜!」

 

 捕まった。見事に。必死に抵抗する土門だが、少女は楽しそうに土門の脚を弄っている。先ほどまで泣いていたのにもう笑ってる。不思議ですね人間の子供は。

 

SIDEOUT

 

 白と土門は子供を保護できたかな。そう思いながら私はほかのみんなを連れて、母親らしき女性を殺した奴らを探してる。

 あの死体のあった場所には幾つもの足跡があった。最低でも十数人はいると思う。それに銃を所持しているだろう。どういう理由であの死体の子供を追っているのかは不明だ。

 

「鳴風なにか見つけたの?」

 

ピィィィィィ

 

 上空を飛んでいた鳴風が私の肩に捕まり尻尾を私の左側に向けて方向を示す。

 その場所に向かう前に睡樹が全身をツタに変えて、私の服の下に防弾チョッキのようになる。それを確認した私は黒だけを残して、他の子達は隠れて奇襲できるように頼んだ。

 

「じゃあ黒行くよ」

 

「ハッ!」

 

 鳴風の示した左の方角に黒を連れて歩き始める。

 すると、黒服の男が誰かを探しているようだ。

 さてと、見る限りだとかなりの数の餌がいる。今日は私の作る料理があるからあまり食べないで欲しいけど、思う存分に喰べて良いよみんな。

 

SIDE黒服の男

「ガキは見つかったか?」

 

「いいえ、まだ見つかってません」

 

「クソ、あのアマに一杯食わされた結果がこれだ!」

 

「ですが、子供の足です。見つかるのは時間の問題です」

 

「そうだな」

 

「頭! 向こうを見てください!」

 

 部下の言った方を見ると、黒い服を着た少女と木こりのような格好をした女がこっちに向かって歩いてきた。

 

「おい嬢ちゃん! この辺で赤い和服を着たガキを見なかったか?」

 

「見てないよ。ね、黒」

 

「ハイ、主」

 

「(変わった嬢ちゃんだ。だが、さっきのガキと一緒に売れば高い金が手に入りそうだな。

 後ろの女も格好はアレだが、いい相手になりそうだ。さっさと縛って、お相手してもらおうかねぇぇ)」

 

 この男の心の声で分かるかもしれないが、彼らは俗に言う人身売買を生業としている犯罪グループだ。

 今までに数百人の人間を様々な国に売り、その報酬で暮らしいる。彼らは逃げ出した親子を捕まえ、海外に売ろうとしたが子供が逃げる際に誤って、数名の部下が発砲、子供は無事だったが、撃たれた母親は死亡した。

 そして、子供だけでも捕まえて金を手に入れようとするが、目の前に現れた少女と女を見て少女は逃げた少女と一緒にその方面の物好きな奴に売って、女は最近溜まっている夜のほうのために捕まえようとした。

 だが、男は勘違いを2つしていた。

 

 1つは、少女をただのガキと侮っていたこと。

 

 もう1つは、少女の後ろにいたのは、『人間では無かったこと』。

 

「嬢ちゃんと姉ちゃん、ちょっと人を探すの手伝ってくれねえか」

 

「どんな人?」

 

「赤い和服を着た、嬢ちゃんより年下の子供だよ」

 

「へえ〜」

 

「探すのを見つけてくれたらイイモノあげるからよ」

 

「いいよ」

 

 その返事を聞き、ポケットに隠しているスタンガンを持って男は少女に近付く。

 

「でも………」

 

 だが、少女は男に向かって笑いながら言った。それも–––

 

「オジサン達を片付けてからゆっくりその子を探すよ」

 

 口が三日月のように弧を描いて笑って言った。

 

「何言ってるんだじょ「がアアアアア」………どうした、なっ!!」

 

 男が聞こうとすると後ろから部下の叫び声が聞こえた。

 男が振り返って見たのは、部下の1人が赤い炎に包まれ、燃えていた。

 それを見た男はスタンガンを捨て、拳銃を取り出し少女に向ける。

 

「てめぇ、何しやがった!?」

 

「言ったでしょ、オジサン達を片付けるって」

 

「なんだとっ!!」

 

 男の部下が拳銃を取り出し、少女に向けるが–––

 

「主ニ何ヲ向ケル!!」

 

「ぐがあッ………………あぁぁぁぁ!」

 

 黒が部下の1人の腕をへし折り、指を喉元に食い込ませてクルミのようなモノを取り出す。

 

「あああああ」 

 

 すぐ近くにいた部下が少女に向けて、拳銃を撃つ。弾丸は少女の脳天に目掛けて撃たれるが、少女の服の下から植物のツタが出て来て弾丸を防ぐ。

 

「ありがとう睡樹」

 

 すると、服から出た植物のツタが勢いよく出て、やがてツタはだんだん人の形に変わる。

 

「なんだありゃ!」

 

 睡樹は元の姿に戻り、少女の側で守るように立つ。

 男達はもう訳の分からなかった、少女に近づいたら、部下の1人が炎に包まれるは、木こりの女は部下の喉からクルミのようなモノを取り出し、少女に撃った弾は少女の服の下から出てきたツタに防がれて、さらにツタが人型になり少女の傍に立っていた。

 いつの間にか木こりの女も少女の元に戻って、クルミのようなモノを少女に渡す。

 

「てめら! なんなんだ!」

 

「私ですか………私はこの子達、魔化魍の王 安倍 幽冥です!!」




如何でしたでしょうか?
今まで主人公と通してきましたが、名前を考えた方がいいかと思い、ついに名前を付けました。
次回は、そんな幽冥&魔化魍達VS人身売買グループの一方的な戦闘です。
少しグロくなると思います。


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記録拾

幽冥&魔化魍達VS人身売買グループの一方的な戦い。
少しグロいと思います。


 久々に言った名前と思いながら。目の前で拳銃を構えてるオジサン達を見る。

 1人1人違う感情が顔に現れている。ある者は恐怖、ある者は驚愕、そして怒り、殺意、絶望など色んな感情を表した顔を見る。

 そして、そんな顔をするオジサン達の後ろから来る家族に気付き、私は笑う。

 

「あははははは」

 

「何を笑ってる!!」

 

「はははは………ゲホッゲホッ………いや、私の事よりオジサンは仲間の心配をした方がいいよ」

 

「何を「「「「うわああああ、か、頭あぁぁぁ」」」」ハッ!!」

 

 オジサンが後ろを向くと穴に落ちる仲間達を見て、オジサンは仲間の手を掴もうとするも手を掴めず仲間達は穴に落ちる。顎の掘った二度と光を見ることの出来ない落とし穴の迷路に。

 

SIDE顎

 俺の掘った穴に何人もの人間が落ちてくる。王が館に戻ったらあの変な草(山ウド)で料理を作ってくれるみたいだからそこまで喰べれないが、存分に喰べて良いと言っていた。

 それにこいつらは王を殺そうとした、だからただ喰べるだけじゃ済まない。王に手を出した事を後悔させて身体をグズグズに溶かしてから喰らってやる。

 

「なんだここは」

 

「穴に落ちたようだな」

 

「どうやって抜けようか」

 

ギリギ………ギ……リ…………ギ…

 

「なんか聞こえないか?」

 

ギリギリギ…ギリギ…ギ………ギリ

 

「なんの音だ?」

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

 俺は顎を鳴らしながら人間の1人に近付く。暗い土の迷路の所為か人間は足元が見えていない。まずは、動きを止める為に俺は男の1人の脚を自慢の上顎で切り裂く。 

 

「があああああああ!!」

 

「なんだ!!」

 

「おいどうした!!」

 

「あ…脚がああ!!」

 

 脚を切った人間に集まる人間達を見て、また顎を鳴らす。

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

 人間は拳銃という武器を出して、片脚が無い男を守るように固まる。

 周りを見続ける人間は片脚の無い男を治療しようとするが、それは無駄だな。

 

「ギャアァァッァアアアアアア」

 

「おいどうした」

 

「脚が溶けていく」

 

 俺が奴の脚を切ると同時にもう片方の脚に蟻酸を吐いた。これで1人は確実に動けない。

 さて、どう料理してやろう。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE黒服の男

「てめえええええ」

 

 目の前のガキに対して、俺は怒りを感じていた。部下の何名かが穴の底に消え、少ししたら穴から悲鳴が聞こえた。

 恐らく、ガキの周りにいる奴の仲間が穴を作り、部下を襲っているのだと。

 ガキの近くにはハエトリ草の化け物と片言で喋る木こりの女がいた。そして、先ほどの急に燃えた現象と穴に落としたやつを考えると4体の化け物がガキを守っているようだ。

 

「(部下達にこのガキと化け物の隙を突かせて、とっとと逃げねえと)」

 

 男は自分の部下を囮にし、この場から逃げる事を考えていた。

 実はこの人攫いのリーダーのこの男は、何度もこういう手を使って、警察から逃げている。その度に新しい人間を集めては、ピンチの時には囮にして、そしてまた集めて、そんなことを繰り返していた。

 だが、忘れてはいけない。ガキと言われた安倍 幽冥の家族は揃っていない(・・・・・・・)

 

「(さて、どうやって逃げるか)」

 

「頭どうしやしょ?」

 

「ああ、とにかくあいつらから逃げる事が優先だ」

 

「穴に落ちた奴らは!?」

 

「こんな化け物に襲われて助かるはずがねぇ。見捨てるしかねえ」

 

「クソ!!」

 

「とにかく1、2の3であいつらから逃げるぞ」

 

「分かりました」

 

「1……2の……3!!」

 

 ダッとガキの向きの反対を走る。

 

SIDEOUT

 

「1……2の……3!!」

 

 あっ………逃げた。黒と睡樹が追いかけようとするが、私はそれ手で制して止める。

 

「王、追イカケナクテ良イノカ?」

 

シュルルゥゥゥ

 

 黒と睡樹は質問してきた。

 

「大丈夫だよ黒、睡樹。オジサン達は絶対に逃げられないよ」

 

 その理由は–––

 

SIDE黒服の男

「(なんとか逃げられたが、次はどうやってこいつらを囮にするか)」

 

「頭、早く車に」

 

「そうで………」 

 

 何かが風を切り、部下の頭に突き刺さり、勢いよく地面に叩きつけられ、首が捥げる。

 空から糸巻鱏と燕を足した生物 鳴風が降りてきた。尻尾が突き刺さってる首からポタポタと血が流れて地面を赤く染める。

 

「くそッ………がびゅぅ」 

 

 鳴風を撃とうとした男は鳴風の背中から降りてきた黒いのが首に指をめり込ませ、木こりの女と同じようにクルミのようなモノを取り出し、それを喰べる。

 喉元を抉られた男は倒れると服から火が付き、一瞬にして死体は灰と化して、その灰の近くに尾が二つある赤い狐が現れ、灰を吸い込む。

 

「まだいやがったのかよ」

 

 だが、男はチャンスが来たと思い車の置かれている場所まで走り去る。

 

「頭待ってく……ギャア」 

 

 後ろから部下の声が聞こえたが俺は自分の命が大事だ。まあ、お前らの分まで長生きしてやるよ。

 

「(良し、車だ!!)」

 

 俺は急いで車に乗り込み、逃げるためにエンジンを掛ける。

 

SIDEOUT

 

 黒と睡樹を連れて、鳴風とヤマビコ君と狐ちゃんのいる場所に来た。鳴風によって絞られた死体が2つと燃えた痕が幾つもあるから狐ちゃんがやったのだろう。

 

「自分で絞れるようになったんだね鳴風。えらいえらい」

 

ピィィィィィ

 

 自分だけで絞れるようになった鳴風の頭を撫でてると、足元が急に盛り上がり。

 足を退かすと盛り上がった所から顎が頭を出す。穴から身体を出すと全身に付いた土を振るい落とす。

 

ギリギリギリギリギリギリ

 

 顎の顎は少し赤く染まっており、それは穴に落としたオジサン達を全て喰らった、あるいはは殺したということだろう。

 

シュルルゥゥゥ

 

 顎を見た睡樹が顎をツタの腕で抱えて、私と同じように頭を撫でる。すると、顎は眠った。

 

「あのオジサン1人で逃げるつもりみたいだけど、黒………あの車の通る場所、崩に教えてあげた?」

 

「ハイ」

 

「じゃあ 崩が戻って来たら、白たちを探しに行くよ」

 

「分カリマシタ」

 

SIDE黒服の男

 追ってくる気配はないな。しかし、あの化け物が居なけりゃ、ガキを捕まえられて金になったのに。

だが、また部下を集めなければ、そしてあのガキを捕まえて今度こそ–––

 

「ん? 何の………」 

 

 男は幸福だったろう、部下達のように苦しみながら死んだわけでは無いのだから、だが他の者たちより惨く死んだ。

 崩が車の上に落下し、その重さによって車体は潰れた。車の窓ガラスとランプは粉微塵に砕け、タイヤは破裂し、ボンネットは上向きに曲がり、車の中に居た男は、グシャグシャの肉の塊に変わった。

 

ノォォォォォン

 

 崩が遠くに離れた王に向かって吠える。

 それは、逃げた男を殺した報告のように聞こえた。吠えるのを辞め、そして、崩は車体から身体を退かし、中にある男だった肉塊を喰った。




如何でしたでしょう。
まあ、ただの人身売買グループに魔化魍の相手は無理でしょう。
結果、グループは壊滅。
次回は保護した女の子如何するかと料理会にしようと思います。


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記録拾壱

今回は、魔化魍の王の一体が出てきます。
ひなの名字変更。
青木→立花


SIDE白

ノォォォォォン

 

 崩の声が聞こえたということは、この娘の母親を殺した者たちを喰らったのだろう。この娘を王の所に連れて行こうと思ったら。

 

「すうー」

 

グルルル

 

 土門と遊んで、疲れたのか土門を抱えて私の膝の上で眠ってしまった。つくづく私は可笑しな姫だと思う。

 この娘は人間なのに、鳴風や土門たちの餌にしたいと思わないのだ。少女が寝返りをしたのか、着物の胸元が少しはだけた。すると、着物の下にあったのかペンダントが出て来た。

 元に戻そうペンダントを持つと、ペンダントの先に付いてるものに気付く。

 

「こ、これは!!」

 

 驚いた。このペンダントの先に付いているのは、……いや、見間違いなのかも知れない。だけど、もしもこれがアレだとしたのなら、この娘を襲おうとしない理由も先ほど隠れた私に気付いたのも有り得る。

 

「ここに居たんだねー白」

 

SIDEOUT

 

「ここに居たんだねー白」

 

 崩と合流して、やっと白たちを見つけた。

 

「お、王。ご無事で何よりです」

 

 白が少女を抱えて、私に頭を下げようとする。

 

「無理にしなくていいよ白、その娘が起きちゃうでしょ」

 

「はい」

 

「それにしても白、お母さんみたいだね」

 

「お、お母さんですか」

 

「うん。寝た時の顔が白そっくりだよ」

 

「そ、そうですか////」

 

 少し白の顔が赤い、照れているようだ。

 

「それで、この娘は如何するのですか王?」

 

「それはこの娘次第だよ」

 

「そうですか」

 

 今度は、落ち込んでいる。

 

「ん………うん、ママ?」

 

 そうしてると、白が抱えていた少女が目を覚ます。

 

「起きたんですね」

 

「お姉ちゃん、誰?」

 

「私は安倍 幽冥、あなたを抱えてるお姉ちゃんの家族だよ」

 

「そうなのお姉ちゃん?」

 

「そうだよひなちゃん」

 

「ひなって言うんだ」

 

「うん。私、立花 ひな」

 

「えらいえらい、ちゃんと自己紹介できるのね」

 

 私より年下なのにしっかりしてるな〜。うん………この娘の持っているペンダント、何だろう懐かしく見えるのは何でだろう。

 すると、ペンダントから青い光が光り始めた。

 

「これは………うっ!!」

 

「如何シタンデスカ王!!」

 

 黒が私に近付き、心配しているようだが、頭が………

 

「ああああああ!!!」

 

SIDEひな

 お姉ちゃんの家族のお姉ちゃんが私のペンダントを見て、急に頭を押さえて、倒れた。

 まただ、また死んじゃうのかな。パパのように–––

 

「あっ」

 

 頭を押さえてたお姉ちゃんが急に私を抱きしめてくれた。突然だったからビックリしたけど暖かくて、安心する。

 

SIDEOUT

 

 ここは何処でしょう。あのペンダントを見て、頭にとてつもない痛みがきて、気付けば白い空間にいた。

 

(ぬし)が今の王なんかぁ」

 

 声が聞こえて、後ろを振り向くと、女性の鬼がいた。

 だが、音撃戦士のような感じがしない、どちらかと言うと魔化魍の鬼だ。

 長くて綺麗な白髪に赤紫色の和服、妖艶な雰囲気を醸し出す肢体、男を誘惑するかのようにある巨大な胸、頭頂部に生える細く長い2本の角、そして、額には私の右腕にあるのと同じ、青い龍の痣。

 おそらくだが、この魔化魍は–––

 

「そぉ。ウチが(ぬし)の前の魔化魍の王やったシュテンドウジや」

 

 しかし他の魔化魍の王って、人間に似た姿をしているのかな?

 

「別に魔化魍の王は人に近い姿してるのだけじゃないからなぁ」

 

 そうなんですか?

 

「そうやぁ。最初の魔化魍の王 オオマガドキはんやイツマデンはん、ダイダラボッチはん、イヌガミはん、キンマモンはんなどの王は人の姿ではなかったなぁ」

 

 王って、そんなにいるんですか?

 

「ウチを含めて8体はおるなぁ」

 

 8体も!?

 

「そうやぁ」

 

 それでここは何処なんですか?

 

「ここはなぁ、ウチの意識が封じられてる魔化水晶の中や、急に頭が痛くなったやろ」

 

 そうだ、あの娘のペンダントを見たら、頭が急に痛くなって………

 

「そう。あれなぁ、魔化水晶によって起きた、一時的なもの」

 

 そういえば、聞きたかったのですが。

 

「何や?」

 

 魔化水晶って何ですか?

 

「………………ほんまに知らんの?」

 

 はい。まったく何のことか分からないんです。

 

「………………そか、じゃあまず魔化水晶のことを説明しよかぁ」

 

 お願いします。

 こうして、私はシュテンドウジさんに魔化水晶について教えてもらった。

 

SIDE白

 王がひなちゃんを抱きしめて、その後、倒れた。

 黒にひなちゃんを任せて、急いで館に戻るよう崩に命じて。王を抱えた私とひなちゃんを抱えてる黒、睡樹、ヤマビコが乗るの確認した崩は館に向けて、全速力で走り出した。

 武甲山に行く時とは段違いな速さで館に着いた。

 すぐさま王を背中に移して、王の部屋の移動する。黒も一緒にひなちゃんを連れて、部屋に向かう。

 部屋に到着し、王をベッドに寝かせ。睡樹が持ってきたタオルを王の額にのせる。

 王が倒れてから3日経った。

 

 私は3日も寝ず。王にのせたタオルを冷やして再びのせるを繰り返してる。

 

「………タオルを変えなきゃ」

 

 土門と顎が持ってきたタライの水に入れて冷やし、再び額にのせる。すると、扉からノックの音が鳴る。

 

「どうぞ」

 

 入ってきたのは、木こりの姿から木こりのベストを羽織った黒のメイド服に変えた黒とひなちゃん、土門、睡樹だった。

 

「少シ休メ、白」

 

グルルゥ  シュルルゥゥゥ

 

 心配そうに言う黒と土門、睡樹。

 

「いいえ、もう少しさせてください」

 

「オ前ヲ心配シテイルノハ、私ダケデハナイ」 

 

 私の服を誰かが引っ張っているので、後ろを向くとひなちゃんがいた。

 

「お姉ちゃん、お願い休んで」

 

 目を潤ませ、私を見るひなちゃんに少しグッとくるが、だけど–––

 

「ここ………は?」

 

 今の声は!!

 

「王?」

 

「白?」

 

「王ウウウー!!」

 

 睡樹ではないが、私は目から涙を流しながら王に向かって飛びついてしまった。

 

「は、白……く……苦しい……」 

 

「あっ!! も、申し訳ございません王」

 

SIDEOUT

 

 シュテンドウジさんに魔化水晶について教えてもらった。シュテンドウジさん曰く、魔化水晶は初代魔化魍の王 オオマガドキの持っていた秘宝のようなもので、覇鬼という鬼に砕かれてからは、8人の鬼が代々守っているそうだ。

 

「にしても、あの小娘何者なんやろなぁ?」

 

 どう言うことですか?

 

「いやなぁ、さっきも言ったから分かっとると思うけどなぁ、魔化水晶は8人の鬼が守ってるって言ったやろ」

 

 あっ!!

 

(ぬし)にも言っとったように、魔化水晶は憎たらしい鬼たちに守られてるはずなんやぁ、なのに1つはあの小娘は持っとた。つまりぃ、あの小娘は8人の鬼の子孫ってことやろなぁ」

 

 確かにそれなら魔化水晶を持っていた理由も分かる。しかし、なぜ魔化魍の存在を知らないのだ、何か理……由が………

 

 あれ、だんだん暗く………

 

「時間切れみたいやなぁ、他の魔化水晶見たら同じことが起きるかもな、まあそん時までまたなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 う、ううん。

 

「ここ………は?」

 

 目が覚めて、見た景色はひなちゃんと会った森ではなく、館の中にある私の部屋だった。

 

「王?」

 

「白?」

 

 少し、顔色が悪そうな感じだけど。

 

「王ウウウー!!」

 

 白が涙を流しながら、私に飛びついた。腕を背中に回して、白の大きい胸が私の顔に当たる。って………

 

「は、白……く……苦しい……」 

 

 前世の兄さんが羨むかもしれないけど、真面目に息苦しい。

 

「あっ!! ………も、申し訳ございません王」

 

 私から離れた白は頭を下げる。

 

「どれくらい寝てたの?」

 

「3日くらい寝てたよお姉ちゃん」

 

「3日!!」

 

 シュテンドウジさん話を聞いてたのは、そこまで長くなかったけど、そんなに経ってたんだ。

 でも、館の修理が終わった後は、何をするかは決まった。

 8人の鬼を倒し、魔化水晶を完成させる。




料理の回は次回になりました。
すいませんでした。次回も楽しみにしていてください。


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記録拾弐

山ウド料理を作る幽冥の話です。
ほのぼのでラストに鬼を襲う魔化魍達を書きます。


 白たちにペンダントを見た後に何があったと聞かれ、ペンダントの中にいたシュテンドウジさんから魔化水晶の話を聞いていたと答えたら、白は顔を蒼褪め、黒は気絶、ひなちゃんはよく分からないという感じで頭を傾げる。

 

「シュテンドウジって誰なの幽冥お姉ちゃん」

 

「私の前の王様かな」

 

「王様!!」 

 

 すごい、ひなちゃんの目が星みたいに輝いてるように見える。

 今言っていることで分かるが、ひなちゃんはここで暮らすことになった。

 ひなちゃん本人がここで暮らしたいと言ったからだ、そして、ヤマビコは羅殴、キツネの魔化魍は飛火と名前を上げて嬉しそうに土門たちと遊んでいた。窓ガラスは黒が作り方を知っていたらしく、私が寝ている間に作り、館に付けたようだ。

 そして、3日経っちゃったけど、これでようやく山ウドの料理をみんなにご馳走できる。山ウドは新鮮なうちが良いと言った私の言葉を覚えていた睡樹が山ウドを地面に植えて、自分の栄養を一部だけ山ウドに与えていたらしく、新鮮な状態で料理が出来る。

 私は睡樹に山ウドを取ってもらい、一階の端の方にあったキッチンで料理を始めた。

 

SIDE睡樹

 主が………倒れ…た……って、白と黒が………言ってい……た。

 それから……ずっと白が付き………添って、主の………面…倒見て………いた。

 僕、思っ……た、主は……僕らを…置い…………てったりし……ない、きっと戻……ってくる…って、魔化魍の王………だったダイダラボッチ……様に主を起…こしてと………願った。

 

 それ………を3日間していた……ら、鳴風……から主が目………を覚ま…したと……言った、だから、主の部屋に………まで言ったら、白が…主に抱き……ついて…………いた。

 本当……なら、僕も主……に抱き…つきたい……けど、白は主……のことすごい…心配して…………たから、今回…は抱き……つかない。

 

 そして、白たちが……何が…あったか………と聞かれ…て、主………の言った名前………にビックリ…した。

 シュテンドウジ………様、主の前の……魔化魍………の王。

 主が3日……眠ってい………た理由…らしい。

 

 起きた主は……名前あげ ……てない2匹…に羅殴と…飛火と……名前あ……げて。

 ひなが家族に………なった……ことをみんな…に言った。

 

 僕は…嬉しい、ひな………は僕によく水を……くれる。

 主は館の…完成……祝いに、山ウドの……料理を振舞っ…………てあげると…言い、僕に預けた………山ウドを渡し……てと言い、山ウドを………地面…から抜いて……主に渡した。

 

 キッチン……に着き、僕の……渡した山ウド…を主が…………料理し始めた、僕……は料理につい…て詳しくない………けど、ただ一言で…言うなら………すごい。

 山ウドをどんどん……と料理して、次々と……新しい…料理が出来て………いく。

 

「睡樹、白と黒を呼んで来てくれる」

 

シュルルゥゥゥ(分かった)

 

 もう少し、主の……作って…いるのを見たい………けど、仕方……がないの…で白と黒…………を呼びに僕は……キッチンを…離れる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE黒

 シカシ、王ガ眠ッテイタ理由ガ、シュテンドウジ様ガ原因ダッタトハ、オ会イシタコトハ無イガ、聞イタ噂ニヨル数十人以上ノ鬼ヲ相手ニ無傷デ勝利シタト言ワレテル実力者ダッタガ、酒ガ大好物デ、ソノ弱点ヲ突カレ討伐サレタト言ワレテル。

 

「こら黒、手が止まっているぞ」

 

 アア、ソウダッタ。今、ひなノ服ヲ洗ッテイルンダッタ。

 

「鳴風コレヲ」

 

ピィィィィ

 

 ひなノ服ノ1ツヲ鳴風ニ渡スト。

 

ピィィィィ

 

 鳴風ガひなノ服ヲ尻尾デ締メ付ケルト、服ノ水分ガ尻尾カラ垂レテ、服ガカラカラニ乾ク。

 

シュルルゥゥゥ

 

「王ガ呼ンデイルンヨウダゾ白」

 

「え、王が! すぐに行きますよ黒」

 

「ハ、白、手ヲ引ッ張ラナイデェェェェェェェェ」

 

SIDEOUT

 

「刺身に酢の物、和え物、味噌煮、天ぷら準備良し」

 

 久々にいっぱい作ったと思うな。

 

「王よこの匂いは」 

 

「良イ匂イ」 

 

 2人共少しよだれが垂れている。だが、こんな反応するという事は他の子たちも大丈夫そうだね。

 

「白、黒来たね、料理を運ぶの手伝って欲しいの」

 

「分かりました」

 

 白と黒と共に、料理を館の外に置いた、テーブルに持って行く。

 館の扉近くまで行くと、睡樹が扉の側に立っており、私を見ると一礼し、扉を開ける。

 外には、ひなちゃんと土門、鳴風、顎、崩、羅殴、飛火がテーブルで待っていた。

 

「ご飯だー!!」

 

ウォォォォォ

 

 ひなちゃんと羅殴はお腹が空いてるようで、待ちきれないようだ。

 

グルルルル 

ノォォォォン 

 

 土門と崩はよだれが少し垂らしている。

 

「みんなお待たせ」

 

 私と白と黒が持って来た、山ウド料理をテーブルに置く。

 すると睡樹がコップを持って来ていた。1つを私に、もう1つをひなちゃんに渡し、コップに水を注ぐ。

 

「ありがとう睡樹」

 

「ありがとー」

 

シュルルゥゥゥ

 

「じゃあみんな、私の事を心配してくれてありがとう。では、みんな思う存分に食べて」

 

「いただきまーす」

 

「いただきます」

 

「イタダキマス」

 

グルルルルゥゥゥ  ピィィィィィィ

ギリギリギリギリギリギリ  ノォォォォォン

シュルルゥゥゥ  ウォォォォォォォ  コォォォォォン

 

 私の言葉を聞き、みんな自分の食べたいものに手や足を伸ばす。

 

「お、美味しいー」

 

「ウマイ」

 

「王よ、これは何という料理ですか?」

 

「白が食べてるのは、山ウドの酢の物だね」

 

 ひなちゃんと白、黒は気に入ってくれたみたいだ。他の子たちは・・・

 

グルルルル  ギリギリギリギリ

 

 土門と顎が天ぷらを取り合っていて。

 

「こらこら喧嘩しないの」

 

ウォォォ  コォォォン

 

 羅殴が小皿に和え物を移して、飛火と食べていた。

 

「行儀が良いね羅殴」

 

ピィィィィィィ  シュルルゥゥゥ

 

 睡樹は鳴風に箸で刺身を食べさせていた。睡樹って器用なんだね。

 

ノォォォォォン

 

 崩は味噌煮が気に入ったらしく、お代わりを求めてる。

 

「ちょっと待っててね、崩」

 

 そんな感じで食事は深夜まで続いた。

 誰かのために作る料理って、楽しんだね。機会があったら別の料理を作ってあげようかな。

 

SIDE◯◯

 山の暗い森の中をフラフラと歩く1人の男がいた。

 彼の身体はあらゆる所に切り傷があり、特に右腕は念入りかの如く、骨が見える程に切り刻まれていた。そして、左手にはボロボロになった変身音叉を持っていた。

 

「クソ!! 何なんだあの魔化魍!!」

 

 男は猛士からの指令で山奥に潜む魔化魍の討伐を命じられ、数人の鬼と共に山に入った。楽勝だろうと言って山に入って行った。

 だが結果は、今まで見たことのない魔化魍達の手により男を残して、他の鬼は全て殺された。

 決死の思いで、逃げるも–––

 

【弱すぎですね】

 

【最近の鬼は弱すぎるぜ】

 

【そんな事はどうでも良い、王の為に強くならなければ】

 

【そう。王の為にね】

 

「ひっいいい」

 

 男は謎の声が耳に入り、その場で腰を抜かす。

 

【無様な鬼、喰らう気にもなれん】

 

【では、私がいただきます】

 

「ぎゃあああああああああ!!!!」

 

 後日、猛士は行方不明になった鬼を探す為に、森に入った。

 そこには、身体中食い散らかされた男や他の鬼の死体があった。




如何でしたでしょう。
彼らの存在はそのうち書きます。
次はシュテンドウジに言われた魔化水晶を集める為に魔化魍一家を成長させる所を書こうともいます。


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記録拾参

今回初、オリジナルの魔化魍と鬼によるバトルを書きました。
幽冥は最初だけけかも。



「う、ん………うん?!」

 

 眠っていたようだ、昨日は楽しく山ウド料理を振舞って、みんな美味しそうに食べてくれていた。それを見た私は眠ってしまったようだ。

 体を起こそうとすると、何かが体にくっ付いており、起き上がれない。

よく見ると–––

 

「お姉ちゃん………むにゃむにゃ」

 

「王、ダメです」

 

 ひなちゃんと白が私の体を抱き枕のように抱きついていた。白はなんかアブナイ夢を見てる気がする。

 さらに、周りをよく見ると他の子達も身体を寄せ合って眠っていた。土門と鳴風はひっくり返ってるような状態になって眠っている。

 まっ、みんな眠っているみたいだし、もう少しこのまま眠ってますか。

 

SIDE練鬼

 あの後、武田さんと各支部の王たちと共に魔化魍の王の話をした。結局は魔化水晶がなぜ青く光るのかは不明でこの話は終わった。

 そして話は、活発化している魔化魍の話になった。

 

「みんな知ってる思うが、最近あらゆる所で魔化魍が活発化している」

 

「ええ、他の魔化魍の王たちと違い、これが王の能力なのかもしれないわね」

 

「だが、確証は無い」

 

「しかし、これがもしも新たな魔化魍の王の能力だとしたら」

 

「みどりさん決めつけるのは早すぎます」

 

「その通りです。でも、ここ最近の魔化魍の行動の多さは確かに異常だね」

 

 確かにここ最近、魔化魍の行動は活発化しているのだが、被害は猛士に関わりの持つ者が被害を受けている。そして、殺された鬼や猛士のメンバーの近くには三度笠を被った黒い狼の魔化魍がいたと言われている。

 

「そう言えば………ん」 

 

「入れ」

 

「報告です。四国地方高知支部が魔化魍の攻撃に遭い壊滅したと」

 

「何ですって!!」

 

「高知支部が」

 

「おい確か、高知には暴鬼が!!」

 

「報告によると暴鬼さんは『三度笠の狼の魔化魍』と『独眼蛇の魔化魍』との戦闘により………殉職したと」

 

「暴鬼さんが………クソッ!!」

 

「さらに魔化水晶が奪われたそうです」

 

「何だって!!」

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 王の為に、いやあの子の為に私は–––

 

「こっちに来たぞ」

 

「早く、暴鬼さんを呼ぶんだ」

 

 ディスクアニマルと呼ばれるものを人間達は使うが、無駄だ。

 

ジャラララララ

 

「何だ、あの魔化魍は………がああ」 

 

 ガシャには意味がない。ガシャの溶解液はあらゆる物質を溶かす。飛んで攻撃して来ていたディスクアニマルも溶け、動こうとすると、何か危ない感じがしてその場を離れると後ろのヤマビコ達に異変が起きる。

 その動きが止まり、苦しみ始める。

 

音撃鐘(おんげきしょう) 夢幻泡影(むげんほうよう)」 

 

ウォォォォォォ………   

 

 とてつもない清めの音が響く、すると離れた場所にいたヤマビコ達が木っ端微塵に吹き飛び、1人の鬼が現れた。

 体色は深緑で、鬼面の所に亀の面が付いており、甲羅の形をした鐘の肩当てを付けている。そして手には、先端に緑の鬼石を付けた従来の音撃棒よりも太い音撃棒を持っていた。

 

「ほーう、夢幻泡影(むげんほうよう)を躱すとは、お前が噂の三度笠の狼野郎だな」

 

【狼野郎ではない私はヤドウカイです!!】

 

「?! ………喋るとは驚きだな」

 

【ん………その腕輪に付いてるのは魔化結晶?! なるほど貴方は8人の鬼ですか?】

 

「確かに俺は8人の鬼の末裔 暴鬼だ!!」

 

【では、王の為に死んで下さい】 

 

SIDEOUT

 

 

SIDE暴鬼

【では、王の為に死んで下さい】 

 

 危ねえ、何だこの魔化魍。急に消えたと思ったら、いつの間にか俺の横にいやがった。

 しかし、早くこいつを倒して、他の奴らも倒さないと………ちっ!! 

 狼野郎だけじゃなく、蛇まで邪魔をして来やがった。

 

ジャラララララ

 

【溶けろ、そして骨を寄越せ】

 

「あんな図体で速すぎんだろと!」 

 

【てえなー、久々に喰らいがいのある鬼だ。ヤドウカイ、こいつ貰っていいか?】

 

【構いません。私はこの間、頂きましたので】

 

 ちっ、ふざけた事を言いやがって。だが、あいつはスピードがあるがそこまで身体は硬くないはずだ、奴の頭を叩いて地面にめり込ませその隙に音撃を叩き込めば、奴を倒せる。

 今だ!! 

 

「何だ、これは?」 

 

カッカッカッカッカッ

 

 蛇が咥えていた頭蓋骨が俺の足に噛み付いていた。

 

【惜しかったな、だがお前じゃ俺を倒せねえな】

 

ジャラララララララ 

 

ガシャドクロの吐いた溶解液が右腕に掛かる。

 

「があああああああああああ!!!!!」

 

 馬鹿な、鎧ごと腕が………………溶かされてるだと。

 暴鬼の右腕はもう、音撃を振ることの出来ないほどの重症だった。鎧の上から掛けられたのに、右腕全体は骨だけになってしまった。

 

「(クソッ!! 応援を呼ばないと)」

 

 暴鬼は右腰に付けてる茜鷹のディスクを空に向かって投げるが–––

 

【無駄です】 

 

 ヤドウカイによって茜鷹のディスクは粉々に噛み砕かれる。

 

【さあて、いい髑髏がこいつから作れそうだな】

 

 ガシャドクロは暴鬼の首に白骨化している自身の下半身を巻き付け、徐々に力を込める。

 暴鬼は首を締め付けられているが、それでも鬼としてのプライドかガシャドクロを睨む。

 

【いいね。いいね。その憎悪に満ちた顔、俺はなその顔を見るのがだーーーーい好きなのさ】

 

 どんどん目の前が暗くなっていく、そうかこれが死か。あの半端者を残していくのは心残りだ、だが、最後くらい鬼として意地を見せてやる。

 

 暴鬼はボロボロになった暴木を左手に持ち、自身の左肩に付いた鐘の肩当てに叩きつける。

 

音撃鐘(おんげきしょう) 夢幻泡影(むげんほうよう)」 

 

【ジャっ………てめ、えええ!!】

 

 首を締め付けられてる状態でまさか、音撃を使うとは思わなかったのかガシャドクロは苦しむが、暴鬼の最後の抵抗は–––

 

【耳ざわりです】 

 

「ぎゃああああああ」

 

【遊びはやめだ、これで死にな】

 

 ヤドウカイによって音撃を放っていた暴鬼の左腕を暴木ごと噛み砕かれた。

 ガシャドクロは今までのが遊びだったようでさらに力を込め、暴鬼の首を折った。

 ガシャドクロは暴鬼の首を捻り、首をもぎ取る。

 

【遊んでるからですガシャ】

 

【そお言うな、ジャラララララ これでまたコレクションが増える】

 

 そして、ガシャドクロは首のない暴鬼の死体に溶解液を掛けて、骨に変える。

 そして、骨になった暴鬼の身体を–––

 

【頂きます】

 

 喰らい始めた。ヤドウカイは落ちている魔化水晶の欠片を咥えて言った。

 

【後、6つで王は完全になる】

 

 ヤドウカイとガシャドクロそして、他の2体も王に会う日を楽しみに待っている。

 やがて、自分を見つけてくれる王を。




以下でしたでしょうか?
覇王龍さんのガシャドクロのアイデアを少しいじって、出させて頂きました。これからもアイデアをお願いします。
また、ガシャドクロの名前もそのまま採用させてもらいます。


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記録拾肆

今回は幽冥たちの日常的な話を書きました。
後半は魔化魍たちの会話ですが、誰が喋ってるのか分かりずらくなるので魔化魍の会話の時だけ誰が喋ってるのかをセリフの横に入れました。


 結局、二度寝してしまった。

 起きた後に、みんなを起こして。テーブルや皿を館の中に片付ける。

 長く時間が掛かったが、ようやく館が完成した。思えば、あんな生活から一転して、今は魔化魍たち(約1名人間だけど)と一緒に暮らしている。

 ひなちゃんの持っているペンダントはそのままひなちゃんに持たせている。

 ただ必要になったら代わりになるものと交換すると言う話になった。

 二度寝が終わった後に、みんな起こす時に気付いたのだが、土門と鳴風、顎、羅殴が大きなっていた。特に顎は、前はチワワみたいな大きさだったのに今じゃ、柴犬サイズまで成長していた。

 睡樹は等身大の魔化魍なのか白と黒のように変化はなかった。崩は餌が足りないのかまだ成長していない。飛火は不明だけどまだ大きくなっていない。

 

「でも、このまま成長し続けたら館には入れないね」

 

グルルルッ! ピィィィィィィ!

ギリギリギリギリ! ノォォォォォン!

ウォォォォ! コォォォォォン !

 

 私の言った言葉に睡樹を除く、大型魔化魍たちが目を見開き、後ろに雷が落ちたように固まる。

 

「どうしたのみんな?!」

 

 そういえば、睡樹を除いた大型魔化魍たちは成長しきったらこの館に入れることができなくなる。なんとか出来ないものかと考えてたら、あり得ないことを思いつき、小声で口に出してしまった。

 

「いっそのこと小さくなれれば良いんだけどね」

 

 本来、魔化魍は自身の大きさを変えることは出来ないのだが、もしかしたらと思い口に出してしまった。

 

グルルルッ! ピィィィィィィ!

ギリギリギリギリ! ノォォォォォン!

ウォォォォ! コォォォォォン!

 

 再び、土門たちの後ろに雷が落ち、固まる。

 すると、土門たちは集まって、ヒソヒソ話をするかのように話す。そして、暫くすると話が終わったのか崩が私の前に来て、前足で円を描き、その上で何かをすると身体が光り始めた。

 光りはだんだん強くなり、あまりもの眩しさに私は目を瞑ってしまう。

 

 やがて、光がだんだん小さくなると、先ほどまで目の前にいた大きな崩はゲームセンターに売っている大型のぬいぐるみくらいの大きさになった。

 そして崩や後ろの土門たちは何かが上手くいったのか凄く喜んでいるようだ。

 

SIDE崩

「いっそのこと小さくなれれば良いんだけどね」

 

グルルルッ! ピィィィィィィ!

ギリギリギリギリ! ノォォォォォン!

ウォォォォ! コォォォォォン!

 

 思いもしなかった。確かに我らの身体は大きくなる。

 しかも、この館より大きくなる個体も多くいる。でもそうしたら館の中には入れなくなってしまう。館の外は顎の掘った蟻酸落とし穴がいくつかあるので大丈夫だが、中にいるのは白と黒、睡樹それに戦うことの出来ないひなだけだ。

 主人を守るのは我らだ。だが後に大きくなる身体では主人を守れない。

 

【みんな集まってくれ】

 

 我の声でみんな集まる。

 

【さっき王が言ってたの覚えてるか?】

 

鳴風

【えっ、小さくがどうとかの?】

 

【それのことだ】

 

【それがどうしたんだよ】

 

【だから我らも主人たちのいる館に入れるように小さくなるのだ!】

 

崩以外

【【【【【はぁぁぁぁぁぁ!!!】】】】】

 

【みんな驚いてるみたいだが、これにはちゃんとした方法がある。

 我の祖父が作った術だ】

 

土門

【あなたの祖父は何者ですか?】

 

【先先代の王だったユキジョロウ様に仕えていたと父から聞いたことがある】

 

鳴風

【えっ………ユキジョロウ様!】

 

羅殴

【ユキジョロウ様って………】

 

飛火

【誰………?】

 

 羅殴と飛火は言われたのが誰なのかあまり分からないようだ、首を傾けている。

 

土門

【そうでした、あなた方は生まれて少ししか経ってませんもね】

 

 まあ我らのように育て親から聞かされていたものはまだしも、生まれて間もない者が知るはずがないか。

 

【ユキジョロウ様は今から400年前にいた魔化魍の王の名前だ】

 

土門

【敵味方を容赦なく氷の柱で串刺しにして、串刺しにした相手を笑いながら解体し、それを喰らったと言われる】

 

鳴風

【通称『尖氷の冷血女王』】

 

 この名は我ら魔化魍やあの憎き鬼たちにも伝わってる名前で、その話を聞いて倒そうとして挑んだ何人もの鬼や馬鹿な野良魔化魍が何十も犠牲になった。

 そんな者たちを生み出した氷の柱で串刺しにし、その肉を喰らう。

 それが7代目魔化魍の王 ユキジョロウだ。

 

飛火

【そんなの凄いに仕えてたの崩のおじいちゃんは?】

 

【まあ、それは置いといて、どんな術なんだ?】

 

【そうだったな。この術は唱えた対象を望んだサイズに小さくする術だ】

 

土門

【しかし、そんな術が我らに使えるのでしょうか?】

 

【この術は基本的にデメリットもない、やり方も簡単だ】

 

飛火

【どうやるのー】

 

 おお、飛火の目が光ってる。これは失敗する訳にはいかないの。

 我は主人の前に行き、まず前足で円を描く、そして、祖父から伝わる術を使う。

 すると、身体から光が発生する。だんだん光は強くなり、主人は目を閉じる。光が小さくなり、我の身体を見る。我の身体は小さくなっていた。

 ………成功だ。これで主人を守れる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 暗い………………誰か僕を見つけて。

 この暗闇から出して、ヒグッ………ウゥゥゥゥゥゥ




如何でしたでしょう。
今回ラストに出たのは次話かその次の話で出そうと思っているオリジナル魔化魍です。


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記録拾伍

今回はオリジナルの魔化魍が出てきます。


 崩や他の魔化魍たち(白や黒、睡樹を除く)が小さくなれる事が分かって、1週間が過ぎた。

 今では、家族全員色んな事をしている。

 白は私の世話係もといメイド。土門はひなちゃんの遊び相手。鳴風はふらっと空を飛び、何かを白に伝えている。顎はそれ以来、見かけるのが少ないが白によると地下の改築をしているらしい。崩は庭で寝る事が増えた。睡樹は黒が山から取ってきた植物のガーデニングをしている。

 黒は私とひなちゃんの着る服の洗濯係。羅殴は顎の手伝いやひなちゃんの遊び相手。飛火は私の所に来てご飯ねだりに来るなど色んな事をしている。

そして、今私がしているのは–––

 

「ここの奥に誰か居るんだね」

 

シュルルゥゥゥ

 

「白はなんかあると思う」

 

「この部屋は一度しか来てないのでハッキリ言えませんが、何かあるのは間違いないと思います」

 

 白が睡樹を見つけた隠し部屋を探検している。

 白は普段通りだが、睡樹は自分がここにいた時に散歩的な事をしていたので、何も知らない2人だけより、詳しく中を知っている者がいた方が良いだろうという事で白に連れてこられた。

 

「大丈夫なの睡樹?」

 

シュルルゥゥゥ

 

 ツタの腕でサムズアップするが、頭の蕗の葉が少し萎れている。

 白が睡樹から聞いた話によると睡樹はこの秘密部屋の奥にある研究室で洋館の男女らしき者が新種の植物の魔化魍を生み出す実験で生まれた魔化魍らしいが、当初の人間を餌にするという部分が目的のものとは違い、失敗作として植木鉢に封印されたが、館が揺れて封印の札が剥がれ、自由に動けるようになった。

 だが、生まれてすぐに封印されたのもあって、思考は赤ん坊に近かったらしく、秘密部屋にあった書物や巻物を読み知識を得たようだ。

 言葉が拙いのは産まれてから碌な会話をしたことが無いために声帯を司る部分が成長不足だったのが原因。

 そして全ての書物や巻物を読んでしまい、白が来るまでの2年間は何もない所でじっとしていたせいか苦手な部屋らしい。

 

「まあ、あまり無理しないでね」

 

シュルルゥゥゥ

 

「王!! こっちに来てください!!」

 

 白が少し奥の壁のところで呼んでいたので、向かうと何もない壁だった。

 

「何も無いけどどうしたの?」

 

「ここの壁に何か押せるものが付いてるんです」

 

 そう言われて壁を触ってると埃や暗さでよく分からないが確かに押せるやつがある。

 

「本当だ」

 

 確認出来たので早速押してみた。

 ガコンと音が鳴り、壁がどんどん形を変えて、重そうな黒い扉が現れる。

 

「王は少し下がってください、何があるか分からないので。睡樹、王をお願いします」

 

シュルルゥゥゥ

 

 そう言って白は黒い扉開ける。ギギギっと耳障りな音を出して、扉が開く。

 睡樹の後ろから扉の中を見てみたが、中には様々な道具や秘密部屋にあった書物や巻物より古そうな巻物がいくつかあった。

 

「大丈夫です」

 

「まるで、倉庫みたいだね」

 

 そう思いながら、部屋に入ると道具が乱雑に置かれてる中で目立つ傘を見つける。その傘に向かって歩き始める。

 

SIDE◯◯

 あああ、久々の光だ………だけど、結局気付かれず………またこの暗闇に残されるのか。

 僕を作った創造主たちは失敗したという理由で僕を封印してこの倉庫に閉じ込めた。それからはたまに開けられるが封印されてるので動くことも出来ずにただジッと眺めるしか出来ない………そう思ってた。

 

「何だろう? この傘?」

 

 えっ?

 

SIDEOUT

 

「何だろう? この傘?」

 

 道具の置かれた中で石突きにコウモリの頭を付け、親骨が土門とは違う蜘蛛の脚になっている傘を私は手に取る。よく見ると傘の柄のほうによく分からない赤い文字で書かれた白い札を見つける。何かは分からないが、札をベリっと剥がす。

 札を剥がした途端に傘が急にブルブル震え始め、おかしな様子に気が付いた白が傘を持ち、倉庫の外の部屋に向かって投げた。

 傘は徐々に形を変えて、落ちる頃にはその姿を変えていた。

 それは6つ目のコウモリの頭に蜘蛛の脚を模した翼を持ち、下半身はほぼコウモリの魔化魍だった。

 

カラララララ

 

 コウモリの魔化魍は自分の身体を見て、何もなかったのか嬉しそうに声を出す。

 

「あれは!」

 

「あの魔化魍が何なのか分かるの?」

 

「はい。あれはカラカサオバケです」

 

「カラカサオバケ………」

 

 白の話を聞きながら、カラカサオバケのことを思い出していた。

 

 カラカサオバケ。

 傘お化け、からかさ小僧、傘化け、一本足などと色んな名前を持つ傘のポピュラーな妖怪又は付喪神の一種。

 1つ目の付いた傘が1本足で飛び跳ねてる姿、傘から2本の腕を生やした姿、2本足や長い舌など文献によって姿が異なる。夜中に歩く人間を驚かすのが好きで特に実害は無い。

 

「唐傘………」

 

「であり………ん、何か言いましたか王」

 

「この子の名前だよ、そう唐傘」

 

 すると唐傘がこちらを向いた。

 

「おいで唐傘」

 

SIDE唐傘

「おいで唐傘」

 

 唐傘………………僕の名前。

 初めてだ、ずっとこの倉庫に置かれて何年も経った、いつかは僕を見つけてくれると何度も願い、その度にそんなものは来ないと諦めていた僕を笑顔で呼ぶのがいるなんて。しかも、ただの人間じゃない、気配でわかる人間だけど魔化魍の王が僕を呼んでくれている。

 僕は王の近くまで行き、頭を下げる。

 

「ふふ、いい子いい子」

 

 微笑みながら僕の頭を撫でてくれる温かい手に僕は久しく感じる眠りに付いた。

 

SIDEOUT

 

 唐傘の頭を撫でてるとやがて身体が変化しさっきの傘に戻る。

 

「王、大じょ………」

 

「シーー、今は眠ってるから静かにね白」

 

「分かりました」

 

 傘に戻った唐傘を撫でてると、後ろから何かに抱きつかれる。

 

「なあに睡樹?」

 

シュルルゥゥゥ………

 

 睡樹が寂しそうに声をあげた、まるで自分も撫でてと言うように。

 

「甘えん坊なのね、睡樹は」

 

 そう言いながらも私は睡樹の頭を撫でる 。

 羨ましいそうに見てる白を面白く思いながら、新しい家族が増えたことに私は喜んでいた。




如何でしたでしょう。
今回は茨木翡翠さんのカラカサオバケを出させてもらいました。アイディアありがとうございます。
次回は鬼のサイドを少し書いて、幽冥のサイドを書こうとも思います。


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記録拾陸

今回は襲撃後の高知支部の話しとヤドウカイと共に行動する他の魔化魍が出ます。


SIDE練鬼

 あの報告の後に会議に参加していた全員で四国地方高知支部に向かった、そこにあったのは–––

 

「高知支部が………」

 

「嘘だろ、ここがあの高知支部なのか?」

 

「………生存者を探します」

 

「そうね………」

 

 あかりさんとみどりさん、本部から連れられた医療班の歩がボロボロになった高知支部に入って行く。

 改めて、高知支部だった建物を見る。整備されていた壁は粉々に砕け、扉だったものは黒焦げてる。

 

 そして、意を決して建物の中に入る、まず目に入ったのは受付だった所、よく見ると後ろの壁に黒い人型があった。おそらく、超高温の火炎を真正面から受けたのだろう、逃げる暇もなく壁に残ったのだ。

 

 次は廊下で、そこにはいくつもの深い爪痕、飛び散った血痕、溶かされてる装飾、喰い散らかされた人間の腕など様々なものが落ちてたりした。

 高知支部の支部長の部屋に向かうと。

 

「うっ!!」

 

 激しい異臭が漂ってきて、その臭いに向かうと支部長室があった。

 支部長室の扉を開けると。

 

「っ!! おい! 晴雄」

 

 扉を開けて見たのは床に横たわっている高知支部支部長の道井 晴雄であった。それを見た、加藤さんが普段の怠そうな声ではなく、低い声が響く。

 

「晴雄! 晴…………クソッ!!」

 

 横たわってる道井さんの顔を見て、膝をつき拳を床に叩きつける。

 それだけで、既に道井さんは亡くなっているのが分かった。すると–––

 

「生存者がいました!!」

 

「本当か?」

 

「ですが、傷が深いので急いで手当てをしないと」

 

「すぐ向かおう。何処だ!!」

 

「こっちです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あかりさんに連れられて、僕達は建物の外に出ると、1人の鬼が担架に乗せられていた。

 

「お前は詩鬼!!」

 

「加藤……支部長…ガッ」

 

「急いで治療をしない」

 

 担架で運ぼうとする医療班の腕を掴んだ。

 

「待ってく………だ……加藤支部……長………」

 

「ああ、何だ」

 

「これを………」

 

 そう言い、詩鬼は先端に緑の鬼石が付いたはんば折れてボロボロの音撃棒 暴木を加藤さんに渡す。

 

「これは暴木………」

 

 この音撃棒は暴鬼さんの使っていた武器であるが、激しい戦闘があったのは武器が物語っていた。

 

「暴鬼………ううう……うああああああ!!」

 

 加藤さんが暴木を抱えてて泣き叫んだのを僕は黙って見てるしかなかった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヤドウカイ

 残り6つ………早く会いたい、王に。

 

【良い頭蓋骨だジャラララララ〜】

 

【ガシャ、今は仕舞っておきなさい】

 

【まあまあ固いことを言うなよ〜最近の鬼が弱すぎてコレクションに出来なくてストレスが溜まってたんだ】

 

【はあ、後2分待ってあげるからそれまでに仕舞なさい】

 

 ガシャの頭蓋骨好きは本当にどうしよもありませんね。

 

【ヤドウカイ、今戻った】

 

【あそこの様子を見て来たわ】

 

 私はガシャのことを考えてると、戻ってきた2体の魔化魍が私に話し掛ける。

 

【お帰りなさい、ヒトリ、ダラ】

 

 頭に炎を灯した二足歩行の蜥蜴の魔化魍 ヒトリマ。

 

 下半身が蛇、上半身は6本の腕を持つ裸体の女性姿の魔化魍 カンカンダラ。

 

 彼らには先ほど襲撃した猛士四国地方高知支部の様子を見に行ってもらった。

 そして、わざと(・・・)見つけやすくした生存者(・・・)を連中が見つけたら退くように言ったので、戻って来たのだ。

 

【そう言や、ヤドウカイあいつらは?】

 

【今は潜入して貰っています】

 

【なるほどなー】

 

【でも良かったのあの子はあの能力があれば、抜けれるだろうけど】

 

【問題ありません、あの子たち(・・・・・)は引き際はちゃんと分かっていますから】

 

 あの子たちに任せたのは、総本部にある魔化水晶を奪ってくること。

 さて、次の8人の鬼は誰を狙おうか? ……は〜、早く王に………幽冥お姉ちゃんに会いたい。

 

SIDEOUT

 

 そういえば、あの子はどうしたんだろう、いつも犬のように私の後ろについて来て、私のことを幽冥お姉ちゃんと呼んで一緒に遊んだあの子は–––

 

「また会いたいな〜朧」




如何でしたでしょう?
今回のオリジナル魔化魍は覇王龍さんのヒトリマと青薔薇の吸血鬼さんのカンカンダラを出させて頂きました。アイディアありがとうございます。


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記録拾漆

今回は幽冥達と鬼との初めての戦いです。




 土門たちの餌を早く手に入れないとまずいな。

 前に食べさせたのが1週間くらい前だから、かなりの餌が必要になる。白や黒に頼んで、たまに(人間)は取って来てもらうことがあるけど、皆、成長中の身体に栄養に回してるらしく満腹にはならずに腹が減るみたいだ。植物魔化魍故なのか睡樹だけは、水で問題ないらしい。

 

グルルルル

 

 土門が私の足元に来て、腹が減ったと訴えるように脚を伸ばす。

 こんな姿を見ていても私には何も出来ない。腹は満たされことはないが、少し落ち着くように土門の身体を撫でる。

 はあ〜この館に誰か近づいて来て、それを餌に出来れば良いんだけど。

 

「王、報告です」

 

 白が部屋の扉を勢いよく開けて中に入る。なんか慌ただしいけど。

 

「唐傘からの報告で………鬼が来たと」

 

 ここに暮らして1ヵ月くらい経つが、今まで鬼と戦った事は無かった。

 戦闘だとしてもひなちゃんを拐おうとしていたオジサン達だけなものだ。シュテンドウジさんが言っていたが、私はいずれ魔化水晶を集めなければならない、集めるためには鬼と戦わなければならない。

 今回のコレは鬼との戦闘を経験していないみんなに戦闘を経験させる良い機会ではないか。

 

「白……………鬼の数は?」

 

「唐傘の報告によると2人だそうです」

 

 2人か4人ずつで相手をすれば良いかもしれない。

 

「白、みんなを呼んで………鬼と戦うよ」

 

「分かりました」

 

SIDE白

「黒、そこのシーツを取ってください」

 

「コレカ?」

 

 黒は、洗濯カゴから洗いたてのシーツを取り出し、それを受け取る。受け取ったシーツを広げるように物干し竿に掛ける。

 今日は良い天気なので早く乾くでしょう。 

 

「うん?」

 

 何かが私の服をグイグイ引っ張るので後ろを向くと唐傘がいた。

 この子と出会って1週間くらい経つ、初めは王と私、土門、鳴風、顎しか居なかったのに今では、崩、睡樹、黒、羅殴、飛火、ひなちゃん、唐傘とどんどん増えていき、賑やかになったと思う。

 それよりも唐傘がなんか報告したいようですね。

 唐傘は超音波を使って、半径50mまでなら誰がいるのかを察知する能力を持ち、館に近付く侵入者の報告を私に言うように頼んでいる。

 普段はビクビクして、ハッキリしなさいと怒るたびに小さくなるように反省するのだが、今の唐傘は普段のビクビクした雰囲気ではなく緊急事態が発生して慌てる兵士に適確な指示を出す上官のような顔をしていた。

 

「何かあったんですか?」

 

カラララララ

 

「何ですって!?」

 

 唐傘からの報告を聞き、急いで王のいる部屋に向かって走る。そして、扉に着きノックもせずに勢いよく扉を開ける。

 

「王、報告です」

 

 部屋に入ると王が土門の身体を撫でていた。おおかた、土門が腹が減ったと王に餌の催促をしに来たが、あげるものも無かった王は空腹は紛らわすために身体を撫でてたのだろう。

 羨ましいな……………って、今は土門のいた理由を考えて羨ましがってる場合では無かった

 

「唐傘からの報告で………鬼が来たと」

 

 土門を撫でた手を止め、王の周りの空気が冷たくなってきた。

 

「白……………鬼の数は?」

 

「唐傘の報告によると2人だそうです」

 

 王はそれを聞き、土門を撫でていた手を顎に当てて何かを考え込む。少しすると手を顎から離して。

 

「白、みんなを呼んで………鬼と戦うよ」

 

「分かりました」

 

 私はみんなを呼ぶために王の部屋から出た。………というよりも王の顔が怖かった。

 いつも我らに微笑んだ顔を向ける王では無かった。王の両親と言っていた者を殺すときよりも殺したそうな顔をしていた。

 そして私は王に言われた通りにみんなを呼びに行った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 関東地方千葉支部に所属している歩の情報でここ最近、魔化魍を連れた少女がいろんな場所で目撃している情報が渡された。そのために千葉支部はその少女を保護して魔化魍を討伐しろと命令を出した。

 

「さっさと歩け、この愚図が」

 

 私の後ろで偉そうに命令しているのは同僚の角であり、千葉支部の支部長がいない時の代理支部長となった悪鬼。

 幼少の頃に両親を魔化魍に殺され、魔化魍に対しての恨みで猛士に入り、鬼となるが今の立場に酔いしれてるのか傲慢な性格となり、私の胃を困らせる人だ。

 正直言って、私は魔化魍に対しては悪い感情は持っていない。なぜなら、魔化魍は食べてるだけなんだからね。人間だって生きていくために牛とか、豚とか、鳥とか、魚とか、他の生物を食べて生きているんだから、魔化魍からしたらそれが人間だったってだけ。

 私は元々、千葉支部の銀だったんだけど8人の鬼の子孫なのだから鬼になれと言われ、角に移っただけなのだ。

 

「いいか、慧鬼。魔化魍を見つけたら即殺せ!!」

 

 はあ〜悪鬼のこの性格にはもうコリゴリだ。

 私は魔化魍の研究をしていたいだけなのに。

 

SIDEOUT

 

 館の外に出ると、みんな集めっているみたいだ。白と黒は後ろに立っている。

 

「みんな、今ここに鬼が近づいている」

 

ピィィィィィィ  ギリギリギリギリギリギリ

ノォォォォォン  シュルルゥゥゥ ウォォォォォォォ

コォォォォォン  カラララララ

 

 土門は知っているから吠えてないが、他の子たちはみんな殺気立っている。

 だけど、みんなを鎮めるように手をあげて、吠えるのを辞めさせる。

 

「みんなも分かってると思うけど、魔化魍は鬼の敵。それは長年続く歴史みたいなものだけど、今は私やみんながいる。各々協力して、鬼を無力化した後に私の元に連れて来て」

 

「土門、鳴風、崩、羅殴は男の鬼の方に行ってください。顎、睡樹、飛火、唐傘は女の鬼をお願いします。殺さずに王の元に連れて来てください。できれば生きて連れて来て欲しいのですが、連れてこれないなら喰べても結構です」

 

「デハ、行動ヲ開始シテ下サイ」

 

 黒の言葉で土門たちは行動を始めた。

 土門と羅殴は鳴風の上に乗って空を飛んで行き、崩は頭と手足をしまって甲羅の状態で滑っていく。

 顎は穴を掘って潜り、睡樹は顎の後ろからついて行き、飛火は傘になった唐傘の柄に掴まって、風に乗って空を飛んでいく。

 

SIDE慧鬼

「もうすぐ館だ。さっさと動け」

 

 はあ〜もうやだ。とっとと終わらせましょう。

 私は服の中に仕舞ってあった変身鬼笛 慧笛(けいてき)を取り出し、悪鬼は変身鬼弦 悪錠(あくじょう)の鎖を出して弦を弾く。

 

「悪鬼!」

 

「慧鬼!」

 

 悪鬼の身体に土が纏わり付くように姿を変えた。

 一般的な鬼より少し大きい鬼面、頭部が茶色で縁取りされていて真ん中に三日月状の角があり、身体に弦に似た線が肩から腰まで右に入っている鬼 悪鬼に姿を変える。

 

 私の身体の周りが吹雪いて、私の身体を変える。

 鬼面とは違う狐の面が右側頭部に付いており、頭部が水色で縁取りされていて後頭部に狐の尻尾を模した角が2本生えてる。胸元に面とは違った狐の顔が描かれた鬼 慧鬼に姿を変える。

 

「慧鬼後ろから援護しろよ」

 

「今、動くのは……………って話を聞いて下さい」

 

 すると、悪鬼の後ろから何かが迫ってくるのに気付く。

 

「悪鬼後ろ!!」

 

「なっ!!」

 

 悪鬼は当たる直前に躱して、襲撃者を見る。

 

ピィィィィィィ

 

 それは一般的なイッタンモメンと違い、少し小さいから幼体だと思う。そして背中に同じ幼体のツチグモとヤマビコが乗っている。

 その後ろからオトロシが来て、頭と手足を出して、私たちを睨む。悪鬼はそのままオトロシ達に向かっていく。

 

「魔化魍………魔化魍殺す殺す」

 

 私は先走る悪鬼を援護するために音撃管 慧射(けいしゃ)をイッタンモメンに向けて構えると、地面が盛り上がり慧射の弾がイッタンモメンから外れる。

 盛り上がった地面を見ると、オオアリが頭を出していた。オオアリに向けて撃とうとすると盛り上がった地面から植物のツタが出てきて私の四肢に絡み付く。

 そして、空からは奇妙な傘に掴まっている狐の魔化魍が私に向けて火を吹く。

 

 火! これは好都合。

 そう思って私の四肢に付いてるツタに当たるようにツタを掴んで火の軌道に合わせる。火はツタに着火し、燃え始める。すると、ツタが出てきた地面から蕗の葉を乗せたハエトリソウの顔をした魔化魍が出てきた。

 奇妙な傘に乗った狐の魔化魍は地面に降りると、奇妙な傘は6つ目のコウモリの頭に蜘蛛の脚を模した翼の魔化魍に姿を変える。

 魔化魍に気を取られてた所為か悪鬼は消えた。

 実質この魔化魍たちによって、私たちは分断されたようだ。魔化魍はここまで策略めいた行動はしない。おそらく最近噂されている『魔化魍の王』がこの魔化魍たちの統率者なのだろう。

 これは非常に厄介な戦いになりそうです。




如何でしたでしょうか?
話にもありましたが、鬼の1人が生き残ります。話の流れ的にどちらが生き残るのかは分かると思いますがあまり気にせずに次回まで待ってください。


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記録拾捌

今回は土門、鳴風、崩、羅殴VS悪鬼と顎、睡樹、飛火、唐傘VS慧鬼の戦闘回です。
微妙な戦闘描写かもしれませんが楽しんで読んでください。



SIDE悪鬼

「クソ、何なんだよ!」

 

 関東地方千葉支部からの命令で魔化魍を連れているガキの保護と魔化魍の抹殺が任務でこの館に来たが、来てみたら待ち伏せの如く魔化魍たちが襲って来た。

 魔化魍………両親の仇。魔化魍………殺すべき敵。

 今の俺はあん時とは違って力がある。魔化魍を殺すための力が–––

 

「当たれ、クソっ!」

 

 音撃弦 悪楽を振るも魔化魍たちには当たらない。

 ツチグモがちまちまと口から毒針を吐き、木の上からはヤマビコが毒音波を出して、こちらの動きを封じようとしている。イッタンモメンは翼から突風を出してオトロシはその突風に乗って、突進を掛けてくる。

 悪楽をオトロシに突き刺そうと構えるも、その瞬間を狙ってかツチグモとヤマビコが毒針と毒音波を放って来て構えも出来ない。

 ちまちまとした攻撃に俺は苛立つ。

 

音撃波(おんげきは) 直下地震(ちょっかじしん)

 

 苛立つ俺は動き続けるオトロシがいる足元に向かって音撃を放つ。この音撃は魔化魍にではなく、魔化魍が移動する足元に音撃を放ち対象の魔化魍の足を土で固定してまたは足に清めの音を叩き込んで動きを封じ、そのまま魔化魍に近付き、とどめを刺す。

 そして、思惑通りにオトロシは土に拘束されて身動きが取れない。そのまま近付き、オトロシに向けて悪楽を突き刺さる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE慧鬼

 この魔化魍たち………なかなかの連携が取れた動きをする。

 

カラララララ 

 

 6つ目のコウモリの魔化魍が蜘蛛の脚を模した翼から風を切るようにクナイを私に向けて飛ばしてくる。

 そして、背中を見せればハエトリソウの魔化魍が再び、ツタを絡み付かせようとツタの腕を伸ばす。だがツタの上を見るとオオアリが乗っており、口から蟻酸を吹く。

 それに気付き、躱すと後ろの樹に当たる。当たった樹を見ると、爛れるように樹皮が溶けていく。オオアリの蟻酸は人間を溶かすことが出来るがそれは成体の時の話だ。幼体の時からこの威力は普通可笑しい。

 だが、樹を見てる場合ではない、上から火の玉が落ちてくる。転がるように躱すと、私のいた所が燃える。樹の上を見ると狐の魔化魍がこちらを見て、火の玉を吹いた。

 私に向かって来る火の玉を慧射で撃ち落とす。

 

「厄介ですね」

 

コォォォォォン

 

 樹の上にいた狐の魔化魍は私の目の前に降りて来て、尻尾がゆらゆら動いてると狐の魔化魍の周りに青い火の玉が浮かぶ。

 青い火の玉に気を取られてると私の周りにツタの網が形成されていく、よく見ると狐の魔化魍の後ろにハエトリソウの魔化魍が地面に腕を突き刺していた。それに気付いた私は慧射を構えて、清めの音を吹く。

 

音撃射(おんげきしゃ) 一碧万頃(いっぺきばんけい)」 

 

 慧鬼はツタの網に向かって一碧万頃(いぺっきばんけい)を放つが、睡樹のツタの網は音撃を吸収して慧鬼に向かって音撃が跳ね返る。

 

「うああああああ」

 

 自身の放った音撃は跳ね返り、さらに追い討ち掛けるように飛火は青い火の玉を慧鬼に飛ばす。

 

「きゃあああああ!!!」

 

 青い火の玉は慧鬼の右足に当たり、動きを止めて、ツタの網からツタが伸びていき、慧鬼の身体に巻き付く。さらに地面から顔を出した顎が粘着質な唾液を軽く混ぜた土を慧鬼の両腕に拘束するように付けて、ダメ出しのように唐傘が口から糸を吐き慧鬼の両足を縛る。

 

「ヨクヤッタナ顎、睡樹、飛火、唐傘」

 

 ツタの網の空いてる穴から入って来た黒が労いの言葉を掛ける。

 そして、慧鬼の首に手刀を当て気絶させる。

 

「うっ」

 

「サア、主ノ所ニ戻ルゾ」

 

 黒は拘束された慧鬼を持ち上げ、自分達を待つ王の所に戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE白

 まったく、崩には少しお仕置きが必要みたいですね。

 

「き、貴様ーーー!!」

 

 白は崩に突き刺さりそうになった悪楽の刃を掴み、悪鬼の攻撃を防いでいた。

 

「崩、王は無事に戻って来ることがことが望みです。この様な鬼に殺されるのは許しません」

 

「許さねえって、てめら魔化魍は俺が全部殺すんだ」

 

 はあーーー。

 おそらく我ら魔化魍に家族か恋人を殺されて、復讐心を抱えたって所でしょう。ですが–––

 

「それが何ですか?」

 

「何?」

 

「貴方の家族か恋人が死のうと関係ない」

 

 悪楽を持つ悪鬼ごと持ち上げ、遠くに投げる。

 

「がっ」

 

 私は秘密部屋で見つけた扇を腰から取り出し、目の前の鬼に叩きつける。

 

グルルルルルル  ウォォォォォォォ

 

 そして、私の肩を踏み台にした土門と羅殴は鬼の目を突き刺し、毒音波を使って鼓膜を破壊する。

 

「がああああああああああaaaaaaaa!!!」

 

 目と耳からは血がダラダラと流れ、悪鬼は悪楽を手から落とし、目と耳を抑える。目と耳を抑える悪鬼の背後から鳴風と崩が迫る。

 崩は回転する身体で悪鬼に突撃する。

 

「ぐあああああああ」

 

 悪鬼は崩に撥ねられて無防備な空中に飛ばされる。そこに鳴風は尻尾を悪鬼の心臓に目掛けて突き出す。

 勢いよく突き出された尻尾は悪鬼の心臓を貫く。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE悪鬼

 目は見えねえ、耳も聞こえねえ。

 はっ……………調子に乗った挙句の結果がこれか。

 笑えねえなー。両親を殺され、復讐心で猛士に入って鬼になる為に修行して鬼になった。そして、その力を使って復讐の為に魔化魍を殺し続けた。何も満たされねえまま、魔化魍を殺し続けたらその実力を認められて、千葉支部の代理支部長になった。

 だが、慢心しきってた俺はこの様だ。

 悔いはねえと思っていたが–––

 

「ははっ。さ………最後にあいつに別れを………」

 

 意識……が遠のい………ていく。もう会……えねえのか……し……ぐれ………

 

 悪鬼は空中から落ち、赤い花が地面に咲いた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE白

 はあーーー。結局は殺してしまったか、王にはなんと説明すれば良いのだろうか?

 

「まあ、よくやりました土門、鳴風、崩、羅殴」

 

 さて、王の所に戻りますか。崩のお仕置きの内容を考えながら。

 

ノォォン!! 

 

 この時、崩は例えようのない悪寒に襲われたらしい。




如何でしたでしょうか?
今回はこの様な感じになりました。あと何話かしたら平成仮面ライダーの敵キャラ何名かをだして、家族にする話を考えています。
是非、お楽しみに


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記録拾玖

こんばんは。
今回は、鬼の処遇の中で驚きの事実が明かされる。
最後に少し感動っぽい感じを書きました。


 鬼との戦闘を終われせてみんな帰ってきた。ただ、白が崩に何か言って崩の茶色い顔が青くなっていた。

 そして、黒は厳重に拘束された鬼を1人連れて来た。

 あの時、みんなが行った後に白と黒にもしもの事があった場合のためにと、陰から隠れて守って貰って良かった。

 

「コノ鬼ハドウスルンデスカ?」

 

「取り敢えず、起こしてもらっていい」

 

「分カリマシタ。睡樹、コノ鬼ヲ起コシテクレ」

 

シュルルゥゥゥ

 

 睡樹は鬼に付けているツタの1つを掴み、引っ張る様に引く。すると、身体に巻き付いていたツタは収縮していき鬼の身体を締め付ける。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い、何ですか?!」

 

 あ、起きたみたい。

 

「ここは………ってツチグモ、イッタンモメン、オオアリ、オトロシ、ヤマビコ。他にも見たことのない魔化魍も、うわーこんなにいっぱいの魔化魍がいるなんて。此処は天国」 

 

 す、すごい起きてすぐの反応がこんなのなんて、私と同じくらいの魔化魍好きなのかな鬼のくせに。

 

「それで、私を連れて来た理由は………魔化魍の王様」

 

「!!」

 

 驚いた。まさか自己紹介する前に私が誰かを当てるなんて。

 

「なんで私が王だと思ったんですか?」

 

「そうですね………………まず、あなたの後ろにいるメイドの格好した姫ですかね。

 今の状況、普通なら姫は目の前にある貴女を襲って、自分の魔化魍の餌にする筈です。なのにそんな素振りをみせないこと。次にこんな大量の魔化魍がいるのに慌ててないこと。

 そして………」

 

 そういった後に鬼はマスクの部分が光り始めて、素顔があらわになる。三つ編みにした長い茶髪に赤の眼鏡を掛けた女性が顔を現す。

 私はその顔を見て、懐かしい気持ちになった。まるで昔に会ったといたという感じに。

 

「………………顔を見せても分からないよね、性別がそもそも違うんだから」

 

 鬼のいった言葉に驚き身体が固まった。性別が違う(・・)。まるで前世は男だった言うかのような言葉だった。そして、鬼が次に言った言葉に私はさらに驚く。

 

「いつかは妖怪博士(・・・・)になるんだって………子供の頃、よく言っていたよね」

 

 それは私が前世で家族の1人と親友の2人にしか言っていない将来の夢のことだった。

 これで分かった。この人を見て、何故懐かしい気持ちになったのかをそして、理解した。今、話をしているこの女性の正体を–––

 

「お兄ちゃん?」

 

「前世を含めたら30年ぶりだね幽。元気で良かったよ」

 

「お兄ちゃ〜ーーん」

 

 私は目の前にいるのは敵だと思っていたが、違う、敵ではない。会えるとは思わなかった。

 前世でいつも私の馬鹿な話に付き合ってくれて、困った時には助けてくれた大好きなお兄ちゃんがいた。

 

SIDE白

 私は今の状況に気絶しそうだが、気力と忠誠心を使って、気絶するのを防いだ。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」

 

「ふふふ、今世になっても私の前だと泣き虫ね」

 

 王が拘束して連れて来た鬼に抱き付き泣いている。

 顎と睡樹と唐傘は察したのか鬼の身体に巻き付いてるツタと両腕に付けてる土の枷、脚を縛る糸を外して、鬼は自由になった手で王の頭を撫でる。

 そして、ついさっきとんでもないことを鬼は言っていた。『前世(・・)を含めたら』や『今世(・・)になっても』と言った。

 今思えば、王には疑問に思った事が何個かあった。

 まず挙げられるのは中学生(王に教えてもらった)くらいの子供にしては大人びていること、猛士に所属する鬼でも無いのに知っている魔化魍の多大な知識、恐怖を感じずに私たち魔化魍に触れる事、実の両親を平気に餌に出来る冷酷さなど、挙げると疑問は何個もある。

 そう思い、私は疑問を口にした。

 

「王………今まで心の中で思った事を聞きます。

 王は………………一体何者なのですか?」

 

SIDEOUT

 

「王………今まで心の中で思った事を聞きます。

 王は………………一体何者なのですか?」

 

 いつか聞かれるかなと思ったけど、早く来たものだと思った。

 

「そうだね。いつか話そうと思ってたんだけど…………………黙ってても意味がないしね、私とお兄ちゃん………いや今はお姉ちゃんかな。私とお姉ちゃんは前世では兄妹だったんだよ」

 

「前世ですか?」

 

「そう前世、何でかは知らないけど、私は老衰で死んだはずだったんだけど、気が付いたら安倍 幽冥になっていたの。そして、安倍 幽冥として暮らして12年経ち、家出をした時に白たちに出会ったの………ビックリしたよ。

 前世ではね、白たちはテレビに出てくる空想の産物だったんだけどね。私はその空想が本当にあったらいいなと思った。それが今の世界ではあの時に実在すると分かった。

 私は魔化魍を家族にしたいという願いがあったの、こんな王でもいいのならこれからも私の家族として暮らしてくれないかな」

 

 何でこの事を話さなかったのを考えるとしたら。嫌われたくなかったからなのかな。あのような家族から逃げて初めて出会った魔化魍の家族。もう1ヵ月くらい経つが、話す機会はいくらでもあったのに話さなかった。

 私の話を聞き、白やみんなは顔を下に向けて、何も答えない。

 お姉ちゃんの足の糸を手で引き千切って、お姉ちゃんの肩を支えてここから離れようとすると、

 

「お待ちください王!!!!」

 

 普段の白が出さないような荒げた声で私に言った。

 

「確かに王は、我らに前世の秘密にしていましたが、それが何ですか」

 

「えっ?」

 

「例え、前世が有ろうと無かろうと王は王です。これからも我らを家族と言えるのは王だけです」

 

「ソウデス。私タチハ王ノ家族デス!」

 

「ふふ、良い家族じゃない幽」

 

 白と黒の言葉で涙を流してる私を肩を支えていたお姉ちゃんに押されて白の胸元に飛び込んでしまう。

 

「我らはこれからも王と共に」

 

ガルルルル  ピィィィィィィ  ギリギリギリギリ

ノォォォォォン シュルルゥゥゥ  ウォォォォォォォ

コォォォォォン  カラララララ

 

 白の言葉に合わせるかのように土門たちも声を上げる。

 

「ありがとう………みんな………………ううううう」

 

 私は白の胸元でみんなに見えないように顔を隠して泣いた。

 さっき、泣いたのにまた見られるのは嫌だったから。

 神はあまり信じないんだけど、今のこの生活をくれたのが神様ならこの世界に生まれさせてくれてありがとう。




如何でしたでしょうか?
はい。慧鬼の正体は前世のお兄さんでした。
崩のお仕置き描写を期待してる方が居たのでしたらすいません。それは次回の最初辺りに書こうと思います。


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記録弐拾

今回は5代目魔化魍の王が出ます。
そして、一部ビックリするかも?



 私に前世があり、鬼だったのは前世の兄だと言ってから2日経った。

 今は慧鬼と名乗っているお兄ち………………間違えた、お姉ちゃんはどうなったのかと言うと–––

 

「ねえ黒、聞きたいことがあるから、地下室来てもらって良い?」

 

「分カリマシタ」

 

 意外と馴染んでいた。

 それも鬼なのに白曰く、『王の姉だと分かって、追い出すわけにもいきませんので』と言って、他の子達も白の言葉に理解して、殺気を出すというか殺そうとするのはやめた。

 お姉ちゃんは昔から、こんな風によく話すから友達も多かった。俗に言う、コミュ力が高いのでしょう。

 だけど、お姉ちゃんのことは割と解決してきたがすごく謎なもの………いやよく知ってるのが目の前にある。

 

「2日も経ったのにまだその姿なの崩」

 

ノォォォン

 

 遠くに行く時によく乗らせてもらっている崩が全身を長いロープで手足を出せないようにグルグル巻きにされて館の側に置かれていた。

 私の前世話が終わった後に白に連れてかれ、気がついたらこのようになっていた。白に『崩がなにかしたの?』と聞いてみたら–––

 

「王にはあまり関係がないことです」

 

 とにっこりしてるけど、目が少しも笑っていない白に言われて、深く聞くのを辞めた。

 

「白ーー」

 

「何でしょうか我が王」

 

「そろそろ解いてあげたら?」

 

「そうですね。流石にこのままなのは可哀想ですからね」 

 

 そう言って、崩に巻いてるロープを何処からか取り出した扇で切り裂くと、ロープはボトッと音を出して落ちる。

 崩は手足を出して、足先を軸にくるくる回してストレッチ(?)をしている。

 

「お姉ーーちゃん何処!!」

 

 おっと、ひなちゃんと遊ぶ約束をしていたんだったけ。急いで行かないと土門が大変な目にあっちゃうから。

 そう思い、幽冥は館の中にあるひなの部屋に向った。

 

SIDE練鬼

 三度笠の狼の魔化魍たちによって高知支部が壊滅してから1週間経った。

 壊滅した高知支部唯一の生存者 詩鬼の意識が戻ったので、話を聞こうと思い。僕は病室に向かっていた。

 すると、病室の扉が少し開いていた、どうやら先客がいたようだ。

 

「お前だけでも無事で良かったよ詩鬼」

 

 先客は四国支部の王の加藤さんだった。どうやら、あの時の高知支部でのことを聞いてるようだと思い、僕は病室の開いてる扉の隙間から中の様子を見る。

 

「私が付いていながら、あの魔化魍にやられる暴鬼さんを………」

 

 詩鬼は顔を下げ、あの時のことを思い出し、布団の裾を強く握っている。勝は嫌なことを思い出したと思い、詩鬼の頭に手を置く。

 だが、病室から離れて見ていた練鬼にはその姿が少し演技っぽく見えていた。その理由は勝は顔を下げてるので詩鬼の顔を見れないだろうが、遠くから見ていた練鬼は顔が見えていた。

 その顔には悪意のある三日月のような笑みを浮かべていた。

 

「そろそろ時間か………またな詩鬼」

 

 練鬼は病室の扉から離れて、別の病室に隠れ、勝が出ていくのを待った後に詩鬼のいる病室に入った。

 

SIDEOUT

 

 ひなちゃんと遊んだ後に黒と話している慧鬼お姉ちゃんの所に行き、慧鬼お姉ちゃんの持っていた魔化水晶を渡して貰い、自分の部屋で眺めていたらまた頭痛がしてベッドに倒れた。

 そして、目を覚ますと前のような白い空間ではなく、神社のような場所だった。

 

「貴様が今代の王か?」

 

 低い声が聞こえて辺りを見回すと………居た。

 神社の手水舎の屋根に横たわっている大きな三度笠を被った狼の魔化魍がいた。

 不純な色が一切ない程の白くて美しい毛並み、青い宝石のような綺麗な目、ギラリと光っている大きな牙と鋭い爪、シュンとした長い二等辺三角形のような耳が2対、首には青いマフラー、そして大木のような大きさの3本の尻尾、そのうちの1本に私の右腕にあるのと同じ青い龍の痣があった。

 シュテンドウジさんの時と似てるからおそらく–––

 

「5代目魔化魍の王 イヌガミだ」

 

 手水舎から飛び上がり、私の前に着地する………ワッ

 イヌガミの着地した風圧で、幽冥は腰を付いてしまう。すると、腰を付いた幽冥を見てプルプルと小刻みに震えるイヌガミ。

 急いで、立とうとすると–––

 

「大丈夫?」

 

 ………………えっ?

 あれ、さっきと口調が……… っわ!?

 

「どこにも怪我はない、擦り傷とか打撲とか」

 

 と言いながら前脚と尻尾を器用に使って、私を持ち上げて、色々見るイヌガミさん。

 数分経った。

 

「どこにも怪我は無さそうだね」

 

 すごい優しそうな声で私に声を掛ける。

 あの〜

 

「な〜に〜」

 

 さっきの口調と違う気がするんですが。

 

「はっ!! ………………何のことだ」

 

 あ、戻った。すごい変わりようだ、でも、さっきは心配してくれてありがとうございます。

 

「れ、礼はいらん///」

 

 三度笠でよく見えないが少し照れてる。

 

「///………そうだ。貴様にはひとつ礼を言わねばならない」

 

 礼?

 

「そうだ。お前に私の娘は救われたありがとう」

 

 そうして、頭を下げるイヌガミさん………ん、娘?

 

「貴様が幼い時に会っていた狗威 朧は私の娘だ」

 

 狗威 朧って、………ええええええええええええええええええええ!!!!

 

SIDE練鬼

「襲撃の時に襲ってきた魔化魍を全部ですか?」

 

「覚えてる限りでもいいよ」

 

 僕が病室に入って、詩鬼さんにお悔やみの言葉を掛けて、話をしていると徹さんが入って来て、あの時に襲って来た魔化魍を教えてくれと言い今に至る。

 

「ですが、私が覚えているのはよくて4体くらいです」

 

「構わないよ」

 

 いい笑顔で言うが、傍から見たら二十代後半の女性に四十手前のおじさんが迫っている風にしか見えない。

 しかも、鼻息を荒くして言っているから余計に危なく見える。そんな徹さんの質問に答えるように詩鬼さんは上半身をベッドから上げる。

 

「先ずは、練鬼さんも徹さんも知っていると思いますが、『三度笠の狼の魔化魍』です」

 

 三度笠の狼の魔化魍。

 ここ最近の猛士のメンバーが襲われた場所には必ずと言っていいほど目撃されている神出鬼没の魔化魍。最初は犠牲者は少なかったが、その数はドンドン増えていき今では猛士のメンバーを50人以上喰らっていると言われている。

 しかもその中にはベテランと言われている鬼 半鬼も犠牲者の1人である。能力は一切不明で分かっているのは特徴的すぎる三度笠を被っているという事と見たこのない魔化魍を複数連れて、各支部の鬼を殺していること。

 

「次にですが、三度笠の狼の魔化魍に次ぐ被害を出している独眼蛇の魔化魍です」

 

「独眼蛇も出て来たのか?!」

 

「はい」

 

「何ですか徹さん、その独眼蛇って?」

 

「そういやお前は知るはずもないか、独眼蛇の魔化魍は四国地方を中心に被害を出した魔化魍だ。特徴は片目が無く、口に頭蓋骨を咥え、下半身が白骨化している蛇の魔化魍で大食漢、骨が好物らしく神社や寺によく現れていたらしい」

 

「そんな魔化魍が」

 

「ああ。おまけにこいつは猛士のメンバーだけでなく一般人を多く喰らっていたらしい」

 

「後の2体は特徴だけしか6本腕の上半身女性の蛇の魔化魍と二足歩行の頭に火を灯した蜥蜴の魔化魍って所です」

 

「ふんふん、情報あんがと、じゃあ」

 

 そう言って徹さんは病室を出ていった。

 僕も時間的にそろそろ出ないとマズイので、詩鬼さんに挨拶をして帰る支度をする。

 

「では詩鬼さんまた」

 

 そう言って僕も病室を出て行った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 はあーー。擬態(・・)してるけど次から次のようで疲れる。目的の物を奪って、早く合流しなければ。




如何でしたでしょうか?
今回はこんな風でした。次回は最後の◯◯の人物の正体と魔化水晶が奪われます。


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記録弐拾壱

今回は初、鬼SIDEのみの話です。
そして、オリジナル魔化魍と平成ライダーの敵の1人が出てきます。


SIDE◯◯

 他の総本部職員も帰宅し、静かになった猛士の総本部。

 その総本部にある個室病室にいる1人の女性が目を覚ました。ベッドから降り、病室の扉から顔をを出して、誰も居ないのを確認すると扉を閉め、ベッド近くに戻る。

 

「やっと動ける」

 

 そう言った彼女………いや詩鬼は備え付けのロッカーから鬼になるための変身音叉 俳叉と古びたパイプ、服を取り出し、白の病衣を脱ぎ捨て、服に着替える。

 服が着替え終わった詩鬼は俳叉を服に仕舞い、古びたパイプを手に持ち、パイプをコンコンと手で叩く、するとパイプの中から白い煙が出て来て詩鬼の前に留まる。

 そして、白い煙は灰色と白のツートンカラーの獏の魔化魍 エンエンラに姿を変えた。

 

【ふあ〜〜〜やっと出番?】

 

「はい。長く待たせてすいません」

 

【いいよ〜〜よく寝れたから〜】

 

「そうですか。では、魔化水晶の場所は分かりましたか?」

 

【うん。分かってるよ〜〜ふあ〜〜】

 

 そう言うと、エンエンラは身体を白い煙に変えて、地図のような形に変わる。

 そして、煙の地図を見た詩鬼は古びたパイプを出す。

 

「ご苦労様です」 

 

【じゃあ〜〜また〜】

 

 詩鬼は古びたパイプを再びコンコンと叩くと、エンエンラは吸い込まれていくようにパイプの中に戻っていった。

 詩鬼はパイプを服の中に仕舞い込み、病室を抜け、魔化水晶が保管されている総本部の封印倉庫に向かった。

 廊下の電灯は全て消えていて、静かな廊下に私の足音だけが聞こえる。曲がり角が見えてきて、その近くにある階段を降りて、ようやく着いた。

 封と書かれた札が幾つも貼られ、取っ手には鎖で開けられないようになっている大きな扉を見つける。

 

「ここですね」

 

 扉を確認した詩鬼は俳叉を取り出し、何か呟くように言うと、俳叉は音叉剣に変わり、鎖を斬り裂き、扉を開ける。

 中には猛士が長年集めた魔化魍に関する道具や資料、禍々しい物、ガラクタ、とにかく色んな物が置いてあった。

 目的の物を探すために色々漁っていると、大きな箱を見つけた。

 

「もしかして」

 

 ポケットから腕輪を出し、箱に近付けると箱の隙間から青い光が見える。

 

「これは間違いない魔化水晶」

 

「やっぱりそれが狙いだったんだね詩鬼ちゃん」

 

「!!」

 

 後ろに振り向くと扉に寄り掛かっている中部地方の王 飯塚 徹がいた。

 

「詩鬼ちゃんと握手した時に妙に冷たすぎてな、適当な話をしている時にサーモグラフィーが入ってるこのカメラを使って、詩鬼ちゃんの体温を見たんだ」

 

「………………」

 

「すると詩鬼ちゃんの身体体温がすげえ青くてな、驚いたぜ水に浸かって身体を冷やしてるんなら分かるが、ベッドの中にいたのに異常に低い温度だったんでね」

 

「壊れたんじゃないんですか」

 

「これ昨日買ったばっかでね、それは無いな」

 

「くっ!!」 

 

「で、調べるためにもう1度部屋に行こうとしたら、詩鬼ちゃんが部屋を出ていくのを見たんで尾いて来た訳」

 

 まさか、尾けられていたとは。だが、幸いにも気付いてるのはこいつだけの筈。

 

「どうするつもりですか?」

 

「縛りつけて総本部長や他の王の所に連れていく」

 

「やれるものやって見てください」

 

「へえ〜、じゃあ先ずはこうしますか」 

 

 徹は服から出した札を地面に叩きつけると、札は破けて強烈な光が起きる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE徹

 予め仕込んでいた『転移の札』で詩鬼と共に転移するのに成功した。

 光が収まり、詩鬼は目を開ける。開けた目の先には、俺が待機してとお願いした現猛士総本部長の武田 烈火に総本部直属の鬼 練鬼、四国地方の王 加藤 勝、四国地方の鬼が数名。

 

「詩鬼テメェ」

 

「詩鬼さん、何でこんなことを?」

 

「残念じゃ詩鬼、お前が魔化魍に組みしてたとは」

 

「さあてと、弁解はあるかい詩鬼」

 

 上から勝、練鬼、烈火総本部長、そして俺と詩鬼に呼び掛ける。

 だが、詩鬼は顔を下に向けたまま何も反応しない。

 

「おい! 詩「ふふふふふふ」鬼?」

 

「ふふふふふふふふふふ、あはははははははははははははははは」

 

 様子がおかしい、こんな状況なのに笑うなんて。普通に考えれば頭がおかしい、気が狂ったと言う所なのだが。

 

「何がおかしいんだ詩鬼」

 

 詩鬼は笑うのを辞めて顔をあげる。

 

「何がおかしいって、いつまでも私が詩鬼という人間だと思っている貴方達が可笑しくて」

 

 すると、詩鬼の身体が緑色に発光し、姿を変えていく。

 全身が緑色で目は鋭く、右手が丸い発光体のホタルに似た怪人が立っていた。

 

「邪気を感じるが魔化魍とは違う!」

 

 練鬼の言った言葉に周りは驚く。

 

「魔化魍じゃないだと!」

 

「ふふ、魔化魍の味方をしていますが、私は魔化魍ではありません」

 

「じゃあ何なんだお前は」

 

 そう聞くと、怪人はそうだったという感じで自分の正体を名乗った。

 

「私は遥か宇宙の彼方から地球に落ちた小隕石から生まれたワームのランピリスと申します」

 

「ワーム?」

 

「本当は貴方達とも戦ってみたいのですが、私はこれを届けるのが任務ですからね。では」

 

 手に持った箱を見せたランピリスワームは目に止まらない速さで動き俺たちの前から消えた。

 魔化魍とは違う種族どんなのがいるかは分からないが、魔化魍たちはますます手が付けられなくなるだろうと俺は思った。




如何でしたでしょうか?
はい。平成ライダーの敵は仮面ライダーカブトの第3話に登場したワームのランピリスワームでした。
次回は立て篭もり事件に巻きこまれた王を救出するために魔化魍達が・・・


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記録弐拾弐

今回は王が人質に・・・
白と黒が率いる魔化魍一家の王奪回作戦が開始する。


 何故、こんなことになったのでしょう。

 

「おい、お前ら早く逃走用の車を3台よこせ! さもないとこのガキの頭をぶち抜くぞ!」

 

 私の頭には黒い塊もとい拳銃を突きつけられ、廃工場の3階の窓近くで私を抱えた犯人が下にいる警察に向かって言う。

 正直言って、私って前世から運が非常に悪いんです。

 まあ、電王の彼よりは運はいい方だと思う。財布を急に取られたり、絡まれたり、ビー玉で転んだりは無いけど、拉致られたり、通り魔に刺されそうになったり、コンクリート漬けになりそうになったりって色々あったな。

 

 彼女は電王の彼よりは運が良いと言ってるが、実際は彼よりもタチの悪い方で運が悪い。

 電王の彼こと野上 良太郎の運の悪さは命に直結するような事が少なかったが、幽冥の場合、全てが死んでもおかしくない事が多い。

 そして、大抵こういう自体になった時は前世の彼女の親友、姉、兄がピンチの時に駆けつけ彼女を助けてくれるのだが、親友と姉はいるはずも無いし、兄だった姉の慧鬼は洋館の下の地下研究室を見て、三日三晩寝ずに調べてたせいか熱を出して、今はひなに看病されている。

 だが、彼女の前世はと言ったが、今世の家族はどういうもの達か忘れてはいないだろう。

 

ピィィィィィィ ギリギリギリギリ  カラララララ

 

 そう。彼女の『家族(魔化魍)』は『彼女()』を害そうとする人間たちに容赦無く喰らう為に行動を始めようとしていた。

 

SIDE白

 迂闊でした。慧鬼から聞かされた王の運の悪さがこれ程とは。

 

「ドウ攻メル白」

 

「もうすぐ鳴風と唐傘が戻ってきます。その報告で作戦をたてましょう」

 

「ソウダナ」

 

 隣にいる黒とどう王を救うかという話をしている。

 

ピィィィィィィ カラララララ

 

 鳴風と唐傘が戻ってきたみたいですね。

 

「如何でしたか?」

 

ピィィィ ピィ ピィィィ

 

「敵は19で入り口に見張り2人、王を監視する1人、後は各所に16人ですか」

 

カラララララ

 

「分かりました」

 

「助カルゾ鳴風、唐傘」

 

ピィィィィィィ カラララララ

 

 今回、王を救出する為に来たのは、白は当然の事で鳴風、顎、崩、黒、羅殴 、唐傘といった感じである。

 他の家族とも言える土門や睡樹、飛火の3体はひなの遊び相手兼護衛と慧鬼の看病の為に黒が頼んで残ってもらった。

 

「まず最初に王の側にいる見張りを羅殴が片付けてください」

 

ウォォ

 

「その後に入り口付近の見張りを唐傘が」

 

カラララララララ

 

「後は各々の判断で行動してください」

 

ピィィィィ ギリギリギリ  ノォォォン

 

 指示を聞いた鳴風たちは自分の役目を果たす為に行動を開始した。

 

「良カッタノカ?」

 

「何がですか?」

 

「私タチガ救出ニ迎エバ、スグニ終ワルト思ウガ」

 

「いつまでも育て役である我らがあの子達の手助けをしてはいけないんです」

 

「ソレモソウダガ」

 

「大丈夫です。以前の鬼との戦いの事をきっかけにあの子達は自分で修行していたんです」

 

 そう。あの鬼たちとの戦いの際、1対4で挑んだものの苦戦をした事が鳴風たちの向上心を上げるきっかけとなり皆、隠れては修行をしていて、最年長でもある崩からは術を学んでいるのだ。

 白と黒は話すのを辞めて、鳴風たちを待つことにした。きっと王を救出してくるという事を信じて。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE羅殴

 慧鬼さんから教えてもらった王の運の無さがこれ程とは、でもそんな王を守るのが我々なのだけど。

 

「チッ、なぜこんなガキを見てなきゃいけないんだ」

 

 あっ!! 王!!

 

「そうだ。こいつで少し相手を」

 

ウォォォォォォォ

 

 男はそう言ってズボンに手を掛け、王の着ている服を掴もうとする。それを見て、俺は男に飛びかかる。

 

「羅殴!!」

 

「なんだこの猿はク………がああ」 

 

 羅殴は幽冥の服を掴む男の首元に引っ付き、手を喉に食い込ませた手をグジュと掻き回し、手を抜くとクルミのようなものを取り出す。

 男はそのまま倒れる。羅殴の手によって喉からは血が流れている。死体を一瞥した羅殴は王を縛っている縄を引き千切る。

 

「羅殴ありがとうね」

 

 服は上が少し破れかかってたが、王の身体に怪我とかは一切無かった。

 羅殴は幽冥の肩に乗り、男から取ったクルミのようなものを食べ始めた。幽冥は羅殴の背中を撫でながら、家族たちが来るのを待っていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE男

 警察の連中が入ってこないように俺達は見張っている。

 今頃、少女を見張ってる男は少女で遊んでるんだろうと思った。だが、既にこの時に少女を見張っていた男は羅殴の手により既に殺されていた。

 そして、この男たちも直ぐに男と同じ運命を辿るのだろう。

 

「おい、あれは何だ?」

 

 隣にいる見張りが上を指して教えてくれ、その先を見ると、開いたままの傘がゆらゆらしながら落ちてくる。

 そんな、不可思議な現象に俺も隣の見張りも驚いて、落ちてくる傘をじっと見るが。

 

「がっ………」

 

 隣にいた見張りからおかしな声が聞こえて、隣を見ると頭にクナイが刺さって、死んでいた。

 

「!!」

 

 突然の死に驚き、男は辺りを見渡すも、誰もいなかった。そして男はある事に気付く。

 

「傘が消えてる」

 

 ゆらゆら降りてきた傘はいつの間にか男の前からその姿を消していた。

 男は恐怖を感じていた。得体の知れないナニカが自分の近くにいる、この場から早く逃げたい、その思いでいっぱいだった。

 服に仕舞っていたサイレンサー付きの拳銃を取り、構えながら辺りを見るも何もいない。すると–––

 

カラララララララ

 

 何か声が聞こえてきた。

 

カラララララララ

 

 遠くから聞こえるのにまるで自分の側で聞こえてくる。

 

カラララララララ 

 

 辺りに向かって撃つも。

 

カラララララララ

 

 声はドンドン大きく聞こえてくる。

 男の恐怖は絶頂に達し、その場から逃げようとするが–––

 

カラララララララ 

 

「があっ」 

 

 手足に何かが刺さり、男はアスファルトに顔を叩きつけるように転ぶ。

 男は刺さった何かを見るとクナイだった。男の恐怖は絶頂に達し、顔を上げようとした瞬間に男の頭にクナイが刺さり、男は物言わぬ死体へと変わった。

 

カラララララララ

 

 男の頭にクナイを振り下ろした唐傘は死体に向かって手を翳す。すると死体は忽然と姿を消した。

 死体が消えたのを確認した唐傘は自身の身体を傘に変えて空へと飛んでいく。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE鳴風

 私と顎、崩で15人の人間をどうするかを話していた。

 

鳴風

【崩さん、生きてる人間をそのまま捕獲する術はある?】

 

【どういう事だ鳴風?】

 

鳴風

【私たちの食事は人間です。またいつ人間食べれなくなるのかは分からないから、捕獲して保存食にするんだよ】

 

【なるほど。さすが鳴風】

 

【分かった。丁度いい術が1つあるが、一箇所に集まらんと使えん】

 

鳴風

【では、私たちがその場所に誘導するから、術の準備をお願い】

 

【じゃ、誘導の為に俺は動くぞ鳴風】

 

 顎はそう言うと、硬い床に蟻酸を垂らし床を溶かして下にある地面を掘り始め、地面の中に消える。

 

【術の支度をする誘導を頼むぞ】

 

 崩はそう言い、どこかに向かって歩き始める。

 それを見届けた鳴風は捕獲の為に人間のいる場所へ飛んで行った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE男

 何が起きてるんだ。

 俺は自分の目を疑った、切り裂かれる拳銃とナイフ、溶け散る銃弾、腹を押さえ蹲る部下。

 その惨状を作ったのは–––

 

ピィィィィィィ  ギリギリギリギリ

 

 燕と糸巻鱏を足したような生物 イッタンモメンの鳴風と柴犬くらいの大きさの8本脚の蟻 オオアリの顎だった。

 男達は銃を乱射するも顎の吐く蟻酸によって銃弾は全て溶かされ当たりもしない。顎にナイフを当てようと近付く男の後ろから鳴風が飛んで来て、ナイフの刃を翼で切断し、それと同時に尻尾で両腕を突き刺す。

 

「ああああああああ!!」

 

 両腕を貫通した男を鳴風は尻尾を使って、蹲る男に向かって投げつける。

 

「「があっ!!」」

 

 男は蹲る男の頭にぶつかり気絶させられる。

 

「(このままでは、捕まってもいい早く逃げねば)」

 

 男はこのままでは全滅してしまうと思い、生き残っている部下を集め、警察のいる方に向かおうとした。

 だが、目の前には犀と象亀を合わし岩の身体を持った魔化魍 オトロシの崩が待ち構えていた。

 

ピィィィィィィ

 

 男たちの後ろから物凄い突風が起き、散らばっていた男達はドンドン中央に寄せ集めるように集まっていく。

 それを見た崩は男たちが集まったのを見ると前足を床に叩きつけると男たちの周りに赤い円が発生して、円から強い光が起きると誰もいなかった。

 それを見た崩は鳴風と顎に頷く。それを見た2体は嬉しそうにその場で勝利を伝えるように吠えた。

 

ピィィィィィィィィィィィ  ギリギリギリギリギリギリ

ノォォォォォォォォォン

 

 3体の魔化魍の声は遠くで待っていた王と羅殴の耳に届き、離れて待っていた従者たちにも届いた。




如何でしたでしょうか?
王との再開は次回になります。
そろそろ北海道編を書こうと思います。


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記録弐拾参

今回は、ほのぼのな回です。
ひなの初めての◯◯を送ります。


 羅殴と共に白と黒、鳴風、顎、崩、唐傘が戻って来るのを待っていると–––

 

ピィィィィィィィィィィィ ギリギリギリギリギリギリ

ノォォォォォォォォォン

 

 鳴風、顎、崩の3体の吠える声が聞こえてきた。

 その数分後に白たちが幽冥の元に集まる。

 

「ご無事で何よりです王」

 

「本当デス」

 

「ありがとう白、黒、鳴風、顎、崩、羅殴、唐傘」

 

 幽冥の感謝の言葉を聞き、嬉しそうにするが。

 

「犯人に告ぐ、人質を速やかに解放し、投降しなさい」

 

 外から聞こえた声で私は慌てる。このままでは魔化魍の存在がバレて猛士から鬼が送り込まれてしまう。なんとしてでも逃げないとって………あれ?

 

「顎がいない」

 

「ソウイエバ」

 

「どこにもいません」

 

 白と黒も気付き周りを見渡していると、後ろからボコッと不自然な音が聞こえ、後ろを向くと硬い床から頭を出した顎がいた。

 顎は穴から出て来て、私の服の裾を顎で挟んで穴の方に連れて行こうとしていた………もしかして。

 

「逃げるための穴を掘ってたの?」

 

ギリギリギリギリギリ

 

 顎に聞くと裾を挟んだまま、そうっと言った返事をするように頭を下げる。

 

「みんな顎の掘ってくれた穴でここから逃げるよ!!」

 

「「はい(ハイ)」」

 

ピィィィィィィ  ノォォォォォン

ウォォォォォォォ  カラララララ

 

 私と白達は顎の案内で地下トンネルに入り、警察が来る前に逃げるのに成功した。

 崩が最後に入り、穴の入り口を壊していた。

 

SIDE警察

 何が起きたんだ。

 私の前には女の子を人質にしていた男の死体があった。喉元を何かで抉り取られたようで、そこからは大量の血が流れ、黒く変色して固まっていた。

 この廃工場に入ってから、この男の死体以外、何もなかった。

 女の子も男の仲間である18人の人間も何処にもいなかった。警察はこの事件を後に調査するも消えた人間たちは結局見つからずにこの捜査は打ち切られた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE白

 各々の判断に任せると言ったが、まさか16人の人間を捕獲するとは、唐傘も死体だが、2人を自分の巣に仕舞っていた。

 ですが、鳴風はいい判断をしてくれました。

 

「ぐうううっっっ!!」

 

 これくらいの数がいればしばらくはあの子達の腹は満たされる。唐傘は死体を喰うと言っていたので鳴風と顎、崩、羅殴に報酬としてこの人間をあげよう。

 

「まずはどこから切り落とそうかな」

 

「ううううううううううう!!!」

 

 中華包丁を手に持ち、白は目の前にいる口を猿轡されている人間の調理を始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE黒

 サッキ鳴風タチガ捕獲シタ人間ヲ厨房ノ後ロニアル解体部屋ニ持ッテイッタノデ、オソラク今日頑張ッタアノ子達ニ料理風ニシテ出スンダロウ。

 

「黒姉ちゃん手伝ってよ〜」

 

 ひなガ私ノ足ニシガミ付イテ手伝ッテト言ッテイル。慧鬼ノ頭ヲ冷ヤシテルタオルノ水ヲ交換シヨウトシタガ、タライガ重クテ持チアゲラレナクテ、私ヲ探シテイタラシイ。

 

「手伝ッテアゲルケド、最初ダケダひな」

 

「どうして?」

 

「ひな、出来ナイカラ他人ノ力を借リルノハ悪イ事デハナイガ、他人ニ頼ッテバカリハイケナイ。自分ノ力デ出来ルヨウニスル努力モ必要ダ、ひなハ駄目ナ大人ニナリタクナイダロ」

 

「うん」

 

「ソレナラ自分デ出来ルヨウニナラナキャイケナイ。ナニ、水場マデハ持ッテクノハ手伝ッテアゲルガ、水場カラ部屋マデひなガ1人デ持ッテ行クンダゾ」

 

「分かった」

 

「デハ行コウカ」

 

 ソウ言ッテ私ハひなト手ヲ繋ギ、タライヲ持ッテ水場ニ向カッタ。

 

 

 

 

 

 

 水場ニ着イタノデ、先ズハひなガ持テル量マデ水ヲ入レテ、ひなに落トサナイヨウニ持タセル。

 

「んん。重い」

 

 ひなガ私ニ顔ヲ向ケルガ、私ハ手伝ワナイト言ッタノデ、首ヲ横ニ振ル。

 ひなハ泣キソウニナルガ、タライヲ持ッテ、慧鬼ノイル部屋ニ向カオウト歩キ始メタ。

 

「んしょ、んしょ」

 

 足元ヲ少シフラツカセナガラひなハ、頑張ッテ慧鬼ノイル部屋ノ近クマデ、タライヲ持ッテ来タ。後少シデ、部屋ニ着ク。

 

「ひな頑張レ」

 

コォォン

 

 飛火ガイツノ間ニカイテ、私ト一緒ニひなヲ見守ッテイル。

 タライヲ床ニ置イテ扉ヲ開キ、慧鬼ガ眠ル部屋ニ着イタ。ソレヲ見タ私ハ、ココマデ運ンダひなヲ呼ブ。

 

「ひなヨク頑張ッタ」

 

コォォォォォン

 

 ひなヲ抱キシメテ背中ヲ軽ク撫デル。飛火モ自分ノコトノヨウニ尻尾ヲ振リ、ひなノ顔ヲ舐メル。

 抱キシメテルト、ひなカラ寝息ガ聞コエテキタ。オソラク、疲レテ眠ッタノダロウ。

 ひなヲ背中ニノセテ慧鬼ノ額ニタライノ水デ冷ヤシタタオルヲノセテ、私ハ眠ルひなヲ部屋ニ連レテイッタ。




如何でしたでしょうか?
はい。ひなの初めての努力でした、
そろそろ北海道編に入ります。


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北海道編
記録弐拾肆


今回から北海道編始動です。
北海道編を楽しみにしていた読者の皆様お待たせしました。


「ほ、北海道?」

 

「そう。そこに8人の鬼の1人 想鬼っていう鬼が魔化水晶を持っているの」

 

 今、私が持っている『魔化水晶』は全部で2つ、残り6つ集めないといけないらしい。

 元々の持ち主である初代を除いた歴代の魔化魍の王たちはこの魔化水晶を集め、完成させようとしていたが誰も出来なかったそうだ。

 だから、私が魔化水晶を元の形に戻してみせる。

 お姉ちゃんから聞いた話によると、北海道の想鬼、東北の雹鬼、関東の慧鬼、中部の狼鬼、近畿の覇鬼、中国の豊鬼、四国の暴鬼、九州の呑鬼の8人が持っているのだが、現在は私がひなちゃんのとお姉ちゃんので2つ、三度笠の狼の魔化魍が2つ持っているらしいが、ひなの持っていたのは何処の8人の鬼の魔化水晶かは不明。

 関東を除く、北海道、東北、中部、近畿、中国、九州の中にひなちゃんの魔化水晶がこれのどこかに含まれる。

 

「しかし、何故北海道なのですか王?」

 

「地下室の資料によるとね白、北海道は未だに見たことのない水棲系の魔化魍がたくさん居るみたいなんだよ」

 

「ナルホド、ソノ魔化魍ヲ館ニ連レテキタイトイウワケデゴザイマスネ」

 

「そういうこと。まあまずは北海道に行く支度をしよう」

 

「お出かけ〜〜」 

 

「そう。お出かけ、ひなちゃんも行く?」

 

「行くうぅ!!」

 

「じゃあ黒にお出かけの手伝いをしてもらって」

 

「はーーい。黒姉ちゃん行こう」

 

 お出かけに行くのが嬉しいのか、黒を引っ張っていくひなちゃん。

 さて、私も北海道に行く支度をしなきゃ。

 

SIDEヤドウカイ

【そろそろ王に会ってみるのは如何でしょうか?】

 

 私は目の前で眠る仲間たちに言う。

 

【やっとか】

 

【確かにそろそろ会ってみたい】

 

【会うのは構わないけど、王は何処にいるのか分かっているの?】

 

【北海道です】

 

【何で分かるんだよ】

 

「北海道か………寒いのは嫌いです」

 

【ランピリス。何故、その姿のままなんだ】

 

 ヒトリが隣にいるランピリスに聞く、確かにランピリスは先日に潜入させる際に殺した女の鬼の姿だった。

 彼女の種族ワームは相手の姿、記憶、性格、癖などを完全にコピーする『擬態』という固有能力を持っているらしい。

 この能力は1回使ったら使用出来ないという訳ではない。むしろ使おうと思えば、何度でも使える。

 だが、このワーム………ランピリスワームはヤドウカイ達と合流した後でも擬態する時に殺した詩鬼という鬼の姿で過ごしていた。

 

「私はこの姿が気に入ってるからです」

 

【そうですか】

 

【………では、北海道に行きましょう、ランピリス、エンエンラを起こして】

 

「分かりました」

 

 ランピリスは服から古びたパイプを取って、コンコンと叩くと。

 

フアアアアアア

 

 大きな欠伸に似た声を出し、エンエンラがパイプから出て来る。

 

【な〜に〜か用?】

 

【はい。北海道まで飛んで欲しいんです】

 

【いいよ〜〜〜】

 

 エンエンラは身体を白い煙に変えて、ヤドウカイ達の前に漂う。

 ヤドウカイ達は煙になったエンエンラの上に乗った。

 

【お願いしますエンエンラ】

 

【は〜い〜!!】

 

 ヤドウカイ達は筋斗雲のようになったエンエンラに乗り北海道を目指すのだった。

 もうすぐ会えるよ、幽冥お姉ちゃん。

 

SIDEOUT

 

「!!」

 

「如何したのですか王?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

「そうですか」

 

 白は私の纏めた荷物を持ち、部屋を出ていった。

 懐かしい声が聞こえた気がしたんだけど………気のせいだよね。

 

「でも、久しぶりに会いたいな朧」




如何でしたでしょうか?
遂に幽冥とヤドウカイが出会う場を作れました。
ヤドウカイ達はエンエンラ筋斗雲に乗って北海道へ、
幽冥たちは………

次回をお楽しみに


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記録弐拾伍

やっと始めりました北海道編。
今回はヤドウカイsideでオリジナルが出てきます。
どうぞ、お楽しみに。


 荷物を纏め、土門たちをぬいぐるみサイズまで小さくなってもらいキャリーバッグの中に入ってもらった。

 そして、白と黒、ひなちゃん、お姉ちゃんと一緒に札幌行きの新幹線の個室に入る。札幌まで行くのに時間は少し掛かるが、海を渡れる魔化魍(鳴風と唐傘は別)が居ない今の状態からすれば、確実な方法である。

 

「土門遊ぼ〜〜」

 

 ひなちゃんが小さくなった土門に遊んで欲しいのか、土門を持ち上げてる。

 それに土門は脚を動かして逃げようとするも脚が何処にも付かず動けないので、空をカリカリ引っ掻いているようにしか見えない。羅殴が椅子の端っこで手にある木を叩いて何かを作っている。

 

 ガタンっと音ともに少し車体が揺れる、新幹線が動き始めたようだ。

 さて北海道ではどんな魔化魍に出会えるのかな〜。

 

SIDEヤドウカイ

 何故、こんなことに–––

 

【王に会わして下さい】

 

【是非、我らをお供に】

 

 鯱の頭に虎の上半身の等身大魔化魍 スイコ。

 

 そのスイコの肩に乗る蛇の頭部に鰐の身体の大型魔化魍(?) ノヅチ。

 

 の2体が頭を下げて、私に話をしていた。

 そもそも如何してこうなったのかというと。

 

 エンエンラに乗った私達はエンエンラの休憩を兼ねて、札幌のふれあいの森という場所で、噂されている迷子案内する謎の玉の噂の正体が魔化魍ではないかと思い、探していた。

 だが、エンエンラの本体でもある、パイプをランピリスが落として、何かに当たったような音が聞こえ、その場に行くと目を回す全身がプルプルしている玉のような身体の大型魔化魍 ヌッペフオフがいて、そこにスイコとノヅチも現れて、気絶しているヌッペフオフを私達がいるところまで運び、私達の目的を話したらこうなった。

 

【何故、王の所に行きたいのですか?】

 

【それは………】

 

私が聞くと、言葉を濁そうとするスイコだが。

 

【黙ってても意味がない話すべき】

 

【ノヅチ………分かった。では、話す】

 

 スイコの肩に乗るノヅチに何か説得され、話す気になったスイコは私の方に向き、話し始めた。

 

【私とノヅチは8代目魔化魍の王 シュテンドウジ様に仕えてた魔化魍だ】

 

 その言葉を聞き驚いた。

 8代目魔化魍の王 シュテンドウジ様に仕えてた魔化魍は王自ら育てた強豪が多く。その力は王が在命していたのなら猛士を全滅出来る程と言われていたが、シュテンドウジ様が鬼に討たれ、怒りに燃えたシュテンドウジ様の魔化魍たちは総本部に奇襲をかけるも、全滅したと言われる。

 

【我らは王を守れなかった】

 

【守れなかった】

 

【だから王と誓った約束を果たすために王に会いたいのだ】

 

【王に会いたいという理由は、分かりました。今度こそ王を守れる魔化魍になってください】

 

【ありがとう………うう】

 

【よかった、よかった】

 

 泣くスイコを慰めるノヅチ、良い光景だなと思ったんだけど………………あれっ、何かを忘れてる気が–––

 

【旨いなこいつは、モグモグ】

 

【ええ、美味です】

 

 遠くから、ガシャとダラが何かを喰べてるような音が………って。

 

【何を食べてるんですかガシャ! ダラ!】

 

 そこを見たらガシャとダラがヌッペフオフを喰べていた。

 

【ん、いやなこいつを見てたら途轍もなく腹が減ってな】

 

【そしたら、ジッとしてるからつい】

 

【ついで喰べちゃダメですよ!!】

 

 ヌッペフオフの身体を2体から取り返して、地面に置く。

 身体の至る所が喰べられていて、黄色い液体が噛み口から垂れていた、如何見ても、瀕死の状態に見える。

 

 せめて、楽にしてあげようと思い身体に爪を当てると、ヌッペフオフの身体が急にウネウネ動き始めた。

 すると、身体中の至る所にあった傷が元に戻っていくではないか。やがて傷は全て無くなり、何事もなかったように起き上がるヌッペフオフ。

 

【はあー、またやっちゃったのか】

 

【また?】

 

【私、魔化魍の食欲を刺激する体質らしいんですよ】

 

【食欲………それで】

 

【まあ私、再生能力が高いので全身喰べられたとしても1ミリくらいの破片からでも再生できますし、もう慣れちゃいました】

 

 どこにあるか分かりずらい顔で笑っているらしいが、慣れたということは何度も何度も喰べられていたということだ。

 

【平気なのですか?】

 

【何が?】

 

【喰べられて平気なのかと】

 

【私って、意外と美味しいんだそうです】

 

【………】

 

【童子や姫のいない幼体の魔化魍に私の身体をあげると喜ぶんですよ。

 この身体のおかげで今まで色んな魔化魍の母親っぽいことをしてました。私、子供が好きですから。だから喰べられたとしても平気です】

 

【そうですか………………良ければなんですが、私と一緒に王に会って見ませんか?】

 

【えっ】

 

【王はあなたのような魔化魍を放っときませんよ、だって】

 

【だって?】

 

【それが王…………幽冥お姉ちゃんだから】

 

【ふふふ、そんな素敵な王なら会って見たいな】

 

【では!!】

 

【私を王の所に連れて行ってください】

 

【喜んで】

 

 この話が終わった後にエンエンラの休憩も終わらせて、私達は北海道に向かった。




如何でしたでしょうか?
絶体絶命なスコッチさんのヌッペフオフ、覇王龍さんのスイコとノヅチコンビのオリジナル魔化魍を出させていただきました。絶体絶命なスコッチさん、覇王龍さんアイデアありがとうございます。


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記録弐拾陸

お気に入りが100になりました。
これからも人間だけど私は魔化魍を育てています。を読んでください。
今回は白が慧鬼に相談と新勢力が出ます。


 新幹線に乗って、時間も掛かるという事で眠って筈なんだけど、目を覚まして目に入ったのは、神社………って、あれ。

 

 えーとー今、私、すごい見たことのある場所だなーと思ってると。

 

「当たり前やろ」

 

「貴様、私と話をした場所を忘れたのか?」

 

 神社の屋根から声が聞こえ、上を見上げると横たわってる5代目魔化魍の王 イヌガミとその背に座る8代目魔化魍の王 シュテンドウジがいた。和服の美女(魔化魍)が大きな白狼(魔化魍)に座っているのが絵になってる気がする。

 

「ほれ言った通りやろ」

 

「そんなことは如何でもいい。そもそも何故貴様がここにいる?」

 

「そらあなぁ、久々に会いとうなってなぁ」

 

「そんな理由で私の精神世界に入ってくるな!!」

 

 それより、如何したんですか? 新しい魔化水晶に触った訳でもないのに。

 

「今回ウチらが(ぬし)を呼んだのはな」

 

「貴様が我ら魔化魍の王としての力に少しずつだが、目覚めつつある」

 

 えっ!!

 

「今は普通の人間と変わらんが、徐々に私達と同じように魔化魍の王として目覚めるだろう」

 

「にしても人間が魔化魍の王になるとは思わんかったなぁ」

 

「ああ、だが貴様なら今までの王の中で最強の王になるだろう」

 

 そんな風に褒められると、なんか照れますね///

 

「頬赤らめて、可愛らしいなぁ」

 

「た、確かにまだ小さかったあの子に似てる」

 

 ………イヌガミさん素に戻ってますよ。

 その後、幽冥はイヌガミとシュテンドウジの王としての話を聞かせてもらっていた。

 

SIDE慧鬼

 新幹線に乗りしばらくすると、幽が私を枕のようにして眠ってしまった。昔と相変わらずな寝顔を見て、笑っていると。

 

「慧鬼………」

 

 向かいの席に座る幽の従者をする白が声を掛けてきた。膝には土門たちと遊び疲れて眠っているひなちゃんがいた。

 あ、そういえば。

 

「この間は、寝込んでる私の代わりに幽を助けてくれてありがとう」

 

「いいえ、助けたのはこの子達です」

 

 そう言って白は側にいる羅殴を撫で始める。羅殴は気持ちいいのか目を細める。

 

「幽を心配して、現場に行ってたんでしょう?」

 

「ですが、今回は私も黒も何もしていません。王の従者だというのに」

 

 白はその時の事を思い出し、下唇を噛んでいた。

 幽から聞いた話によると白は幽を見たときに我が子である鳴風の餌にしようと童子と共に幽を襲ったらしい。

 だが、童子は土門、鳴風、顎に喰われ、幽の正体に気付いて自害しようとしていたが、幽が止め、従者になってと頼み従者になったという。

 

 まったく、幽は困ってる人は見逃せないんだね。前世の時からそうだった、幽の親友だったあの2人もそんな感じで友達になったんだろう。

 自分は運が良いってよく言ってたけど、何を如何すれば野上 良太郎の運の悪さ以上の厄介ごとになるんだろう。

 

「白、少なくても貴女は従者としてちゃんとやれてるよ。幽の役に立ちたいっていうならこれから頑張ればいいんだよ。誰だって初めから完璧って訳じゃ無いんだから」

 

「王みたいな事を言うんですね慧鬼」

 

「あの子の姉なんだから当然でしょ〜」

 

「どういう理由ですか」

 

「やっと笑ったね」

 

「え?」

 

「最近の貴女、張り詰めたような顔してたから」

 

「そうなんですか!!」

 

 やっぱり、どんな人(妖姫)でも笑顔が一番だよ。

 そう思いながら、新幹線はもうすぐ目的地の札幌に着く。

 

「また、魔化魍が見れるかな」

 

 新しい魔化魍に会えるという幽冥と似た顔をした慧鬼を見て、あの()がいてこの()がいると密かに白は思った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 北海道西側の日本海から少し離れた、少し痛んでる古びた寺。

 その本堂に1人の尼がいた。正座しながら目の前の像に向けてお経を読んでいる。

 

「何か用ですかヤシャ、ハンニャ?」

 

 尼はお経を読むのを辞めて、後ろにいる和服を着る男と女に声をかける。

 

「はい。つい先程、ヤドウカイ達と9代目魔化魍の王がこの地に着いたとアズキアライから報告が」

 

「………………それとそろそろ夕餉の時間です」 

 

 女がそう言うと、ちょうど寺の鐘が鳴り始める。

 

「そうですね、ヤシャ、ハンニャ、アズキアライ達を呼んで来てください。夕餉にすると」

 

「「はい」」

 

 和服の男と女は尼の指示に従って、本堂から去った。

 

「………幽、早く会いたい」

 

 尼はそんな事を呟いて、本堂から離れていった。




如何でしたでしょうか?
今回は新勢力のオリジナル魔化魍に覇王龍さんのヤシャとアズキアライを出させていただきました。覇王さんアイデアありがとうございます。
アズキアライは次回かその次に出ます。


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記録弐拾漆

今回は尼の仲間達が集まります。なので尼さんSIDEオンリーです。。
幽冥とヤドウカイは次回になります。


 結局あの後、シュテンドウジさんとイヌガミさんは私の事を可愛いやら初々しい等と言って、気付いたらあの神社ではなく、新幹線の中だった。

 

「お姉ちゃん! 早く行こうよ!」

 

 ひなちゃんに手を引っ張られ駅から出たら–––

 

「うわぁ!」

 

 辺り一面は雪で覆われた幻想的な白景色だった。春が近くなって来て、東京だと少し暖かくなってきているがここはかなり寒い。

 

「王、コートを着てください」

 

 そう言って 、白は防寒コートを私に着せる。ひなちゃんには黒が防寒コートを着せていた。お姉ちゃんは既に着ている。

 キャリーケースを見るとブルブル震えていた。それそうだキャリーケースには身体を温めるものは一切入っていない。

 

「とにかくどこかホテルに行きましょ」

 

「はい」

 

「えーーーもっと雪で遊びたいーーー」

 

「ダメデス。後デ、一緒ニ遊ンデアゲルカラ、今ハダメ」

 

「ぶーーーー」

 

 ひなちゃんはもっと雪で遊びたいようだが、黒が説得してくれて、とりあえず遊ぶのは辞めた。

 さて、安いホテル探さないと。

 

SIDE◯◯

 古びた寺から少し離れた所にある方丈という場所に尼と和服の男女。

 

 手に小豆を入れたざるを持つ青い作務衣の蛙。

 

 全身に包帯を巻いた人型。

 

 黒いサングラスを掛けた黒コートの男。

 

 胸元が少しはだけてる紅のドレスを着て背中に蝙蝠の翼を生やす美女。

 

 ちゃぶ台の上にある竹の筒から頭を見せる白い狐。

 

 それら異形ともいうべきものが集まり、夕餉を済ましたのかちゃぶ台の上には皿がいくつも重ねられていた。

 

「………で、王は何処にいるのですか?」

 

 尼の隣で正座する和服の女が小豆を持った青い作務衣の蛙いや魔化魍 アズキアライに質問する。

 

【あっしの術で王をあの場所に着くようにしやした、問題はありやせん】

 

 アズキアライはそう答えるとざるに手を入れ小豆をとぎ始める。

 

「シャシャシャッ、それでどうするんだ美岬」

 

 不気味な笑い声を出した黒コートの男が尼に質問する。

 

「そうですね。王はいずれ会いに向かいますが、まずはヤドウカイ達と接触したいですね」

 

【#%$>€$#%%】

 

「王に接触する方が良いのでは? と聞いています」

 

 何を言ってるのか分からない全身に包帯を巻いた人型の言葉を和服の男が翻訳し、尼に伝える。

 

「ヤドウカイとの接触を最初にするのは、この北海道にある3つの猛士の支部の破壊と想鬼の持つ魔化水晶を奪う為に」

 

【ほーやっと戦えるのか】

 

【僕もこんなこともあろかといっぱい分体を作ったんだよ】

 

 紅のドレスを着た女は鋭い八重歯がギラリと光るように笑い、竹筒から顔を出す白い狐は自身の特殊能力で増やした自身の分体の事を尼に伝える。

 

「そうですか。ではヤドウカイ達と接触しましょう」

 

 尼の声でそれぞれが動き始めた。

 そして、今から10時間後に北海道に3つある猛士の支部が1つ消えた。三度笠の狼の魔化魍と下半身が海豚の人魚のような魔化魍とその仲間達によって。

 そして、幽冥も新たな魔化魍と出会う。




如何でしたでしょうか?
覇王龍さんのアズキアライが出てきました。和服の女と黒のサングラスに黒コートの男を除いて、全員アイディア魔化魍です。誰が誰か分かりやすかったかな〜


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記録弐拾捌

今回の話で投稿作品が30個目になります。
これからもご愛読をお願いいたします。


 わずかにブルブル震えているキャリーケースを持ち、ひなちゃんと白、黒、お姉ちゃんと共に土門たちがバレないような宿をあっちこっち探してたら、たまたま(・・・・)出会った男がちょうど空いた(・・・)という貸家に案内してくれて。その場所に泊まることにした。

 

 街から少し離れた場所にあるという貸家に向かって歩いている。

 日が沈み始めて、キラキラと反射していた雪の光は橙色に染まっている。

 

 東京の山の中では滅多に見られない景色に感動しながら歩いていると大きな木の家が見えてきた。

 丸太を組み合わせて作られた貸家は手入れがあまりされていないように見えた。この際、外見なんて気にしない。

 とりあえず、今は土門達が氷のように固まらない内にキャリーケースから出して温めてあげないと思い、扉を開けて中に入ると––––

 

「おおっ!!」

 

「コレハ!!」

 

「大っきいいーーーー!!」

 

 手入れされていなかった外とは違い、中はかなり綺麗だった。埃を被っていないペンダントライト、綺麗に並べられた椅子と長机、新品同様なコンロ、トイレも和式ではなく洋式で風呂も別々になっている。

 

「どうですか?」

 

 ここまで案内してくれた男が感想を聞いてきた。

 

「正直、びっくりしました」

 

「そうでしょう。ここは外見のせいで泊まる客は少ないのですが、一部の物好きな方は泊まっていかれるんです」

 

「しかし、本当に良いんですかここの料金は高いんですよね?」

 

 この貸家おそらくかなりの料金になるだろうと思い、男に聞くと。

 

「料金は既に支払われております」

 

「えええっ!!」

 

「ソレハドウイウ事デスカ?」

 

「3日前くらいに青い作務衣を着たお方が料金を払ってくれて、キャリーケースを持った、防寒コートを着た女の子2人と女性3人を見つけたら、ここに案内しろと言われましたので」

 

 どういう事だろうか。私達のこの格好、特に防寒コートは駅に降りてから着たものだ。それなのにまるでその格好で来ることが分かっていたかのような指定をしてここに泊まれるようにしてくれた。

 そして、今気付いたのだが、この男の目を見たら光が灯っていなかった。

 

「………安倍 幽冥様………いや9代目魔化魍の王」

 

「「「!!!!」」」

 

ガルルルル  ピィィィィィィ  ギリギリギリギリ

ノォォォォォン  シュルルゥゥゥ  コォォォォォン

ウォォォォ  カラララララ

 

 驚いた。話すのを突然辞めて、立っていた男が急に教えた筈もない私の名前を言って、さらに普通の人間が知る筈もない事を言い始めた。

 この男の異常性に気付いた白と黒は私の前に立ち、お姉ちゃんはひなちゃんの前に立って変身鬼笛を取り出して、キャリーケースを無理矢理開けて土門たちが飛び出し、男の周りを包囲した。

 だが、男はそんな事も気にせずに続けている。

 

「あっしはアズキアライと申しやす。この男に術を掛け、伝言を伝えさせてもらいやす。

 この伝言を聞かれたら、5日後に北海道の日本海側の海から少し離れた所にある寺に来てくだせい。あっしの主人、美岬様が貴方に会いたいとのことでやす」

 

 どうやらこの男は、それなりの力を持つ魔化魍の術で操られていたらしい。そして、美岬様と呼ぶ人いやおそらく魔化魍が私に会いたいようだ。

 だが、しかしこの男が言った言葉の中にはある妖怪の名前があった。

 

 アズキアライ。

 全国多数のあらゆる所で出没する。知名度の高い妖怪の1体である。

 川などで小豆をショキショキ言いながら洗っている背が低く法師の姿で笑いながら小豆を洗っているらしく茨城県や佐渡島だと娘を持つ女性が小豆を持って谷川でこの姿を目撃すると娘が早く縁付く–––

 

 アズキアライの事を思い出していたら男は急に倒れて、男の身体は足から砂に変わっていき死んだ。

 

「どうしますか王?」

 

「この伝言を受けてから5日後に日本海側の海の寺か」

 

「行クノデスカ?」

 

「せっかく招待されたんだし、行ってみようよ」

 

「分かりました」

 

 取り敢えず、この砂をどうにかしないと–––

 

「飛火?」

 

コォォォォォン

 

 飛火が男だった砂に近付き、吸い込み始めた。ものの数秒で砂は綺麗になくなり飛火は満足そうに尻尾を振っている。

 飛火はおそらく、人間を粉末の状態にして捕食する魔化魍なのだろう。まあ結果として砂は無くなったので、手招きして飛火を呼んで前脚の脇に手を入れて私の膝の上に乗せて背中を撫でる。

 

ガルルルル  ピィィィィィィ  ギリギリギリギリ

ノォォォォォン ウォォォォォ  カラララララ

 

 それを見た、土門たち(睡樹を除いて)も撫でて撫でてというかのように私の周りに集まる。睡樹は私の手伝いなのか撫でたいのか分からないが顎や崩を自分の側に寄せて撫でていた。

 

SIDEヤドウカイ

【ガシャ、ダラ、ヒトリ、ランピリス、エンエンラ、ヌッペさん、スイコ、ノヅチ・・・さて、北海道の猛士の支部の1つを潰そうか】

 

【【【【【【【「おおおお!!【おー】」】】】】】】

 

 ヤドウカイ達は夜の闇に紛れて行動を開始した。

 そして––––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

「では、みなさん行きますよ!!」

 

【@&¥¥】

 

【【「「「はっ!!」」」】】

 

「シャシャシャシャシャシャシャー」

 

 そして 、美岬達もヤドウカイ達とは離れた別の場所で同じ猛士の支部を襲撃する為に行動を開始した。




如何でしたでしょうか?
ヤドウカイと美岬の猛士襲撃を楽しみにしていた人は申し訳ございません。
それは次回になります。


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記録弐拾玖

ヤドウカイチーム&美岬チームVS北海道第2支部の鬼達による戦いが始まりました。
今回はかなり長いため3話掛けてお送りいたします。


SIDE◯◯

「クソ、魔化魍共め!!」 

 

 目の前の机に手を叩きつける髪の薄いこの男は上居 井留は現在の状況に苛立っていた。

 今、猛士の北海道第2支部は複数の魔化魍の襲撃を受けていた。

 ほとんどの人間が寝静まっている時間の急な襲撃により第2支部の半分の人間が魔化魍たちに喰われていった。

 

「第1支部と第3支部に増援の連絡を!!」

 

「ダメです。伝達用のディスクアニマルは全て破壊されました!!」

 

「クソっ!!」

 

 韋意はこの現状を解決するために第1支部と第3支部に増援を貰うためのディスクアニマルを送るも、襲撃してきた魔化魍達の攻撃によって破壊されてしまった。

 現在、この支部にいる鬼16名は魔化魍達に攻撃を仕掛けて分断に成功した。

 韋意は祈るように鬼たちの勝利を願った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヤドウカイ

「ぎがあああ!!」

 

「いやああ………」

 

「がああ………」

 

 牙や爪が人間()の血と肉片で赤く染まる。

 北海道にある猛士の支部は他の地方の支部より土地が大きいためか所属する人間や鬼の数がなり多い。

 現在、襲撃を掛けたこの第2支部はこれでも北海道内では最小と言われているが、既に100以上は仕留めたはずなのに、まだ出てくる。目の前で震えて人間を喰らって次の獲物を探そうとしたら–––

 

「てやああああああ!!」

 

 横から途轍もなく大きい音叉剣を持つ人間が私に攻撃してきた。

 

「そこまでだ魔化魍共、この北海道随一の冠鬼がお前達を倒してやる」

 

「冠鬼さん1人で突っ走んないでください!!」

 

 冠鬼の後ろからさらに8人の鬼が現れた。

 何の力も持たない人間の相手に飽きていた時に来ましたね………………少しは骨があるといいですね。9人の鬼は変身音叉や変身鬼笛、変身鬼弦を使い、自身の姿を鬼へと変えて、私達に向かってきた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEランピリス

「妹の仇!!」 

 

 私は現在、歌鬼という鬼と戦っていた。

 最初、女は私の姿を見て詩鬼と言っていのでおそらく、私が擬態した人間の事を言っているようだが、私は詩鬼では無くワームのランピリス。

 『詩鬼、詩鬼』と五月蝿かったので擬態を辞めて、元の姿に戻ると女は涙を流しながら変身音叉を使い、女の身体のまわりに風が包み姿を変える。

 頭部が桜色で縁取りされていて、額に短い一本角を生やし、桜の花びらを模した胸当てに植物の根に似た金属の輪を足に巻いた鬼 歌鬼に姿を変える。右手には音叉剣を持っていた。

 

「人間とはやはり分からない生き物ですね」

 

「………何ですって」

 

 歌鬼は動きを止めて、私の言葉に耳を傾ける。

 

「自分とは違う人が死んで、そこまで悲しむのか。理解に苦しみ………………話の邪魔はしないで欲しいんだけど」

 

 歌鬼は喋っているランピリスに音叉剣を振り下ろすが、右手の発光体で音叉剣を防ぐ、それと同時に歌鬼の腹に蹴りを入れて距離を離した。

 

「妹の声で喋るなああああ!!!」

 

 激昂した歌鬼は滅茶苦茶に音叉剣を振り回す。だが、ランピリスから見ればさっきまでの攻撃に比べれば、見切りやすく大振りな動きで凄く単調な攻撃だった。攻撃を右手の発光体で防ぎ続けてると、歌鬼は息を上がらせて音叉剣を杖の代わりにして立つのが精一杯だった。

 

「もうおしまいですか?」

 

「五月蝿い!!」

 

 また大振りで振るも、簡単に避けられて体勢を崩して、地面に倒れる。

 

「さて、そろそろ終わりにしますか」

 

 ランピリスの右手の発光体が緑の輝きを増していき、発光体の先から緑色の炎が浮き出て来る。

 

「では、さようなら歌鬼姉さん」

 

 緑色の炎が歌鬼に目掛けて放たれる。

 

「今だ!!」

 

「なっ!!!」 

 

 歌鬼は先程までの動きが嘘かのような俊敏な動きで炎を躱して、ランピリスに近付き、バックルに付いている音撃鼓 歌謡をランピリスの腹部に付ける。

 

音撃打(おんげきだ) 桜花絢爛(おうかけんらん)

 

 音撃棒を握り締め、ランピリスに必殺の清めの音を放ち続ける歌鬼。

 最後の一撃を音撃鼓に叩きつけようとする歌鬼だが–––

 

「な!? ガハッ」

 

 最後の一撃を放とうとする両腕をランピリスに掴まれ、最後の一撃を放つことができなかった。そして、清めの音を受けていた筈のランピリスは苦しむ様子もなく音撃鼓に発光体を当てて燃やす。

 その光景を見て、驚愕する歌鬼はランピリスに地面に叩きつけられて、動きを封じられる。

 

「な、なんで……魔化魍に…お、音撃が効かな…い、なんて」

 

 ボロボロになった歌鬼はランピリスに聞いた、しかし答えは彼女を絶望させるには充分な言葉だった。

 

「私はそもそも魔化魍ではありません」

 

 その言葉を聞いた歌鬼の心は折れ、絶望が支配した。

 

「では、今度こそ本当におしまいにしましょう」

 

 ランピリスは歌鬼を宙に投げてる。それと同時にランピリスは固有能力であるクロックアップを使い、空中にいる歌鬼に連続の攻撃を与える。

 上、下、右、左、斜めとあらゆる角度からの打撃を受けて、ヒビがはいっていく歌鬼の身体、そして攻撃が一旦止まったことにより、重力によって下に落ちていく歌鬼にランピリスは追いかけ、右手の発光体に炎を灯して、発光体を歌鬼の腹に叩き込む。

 歌鬼の身体はみるみる緑色の炎に包まれ、地面に落ちた時には既に全身を炎が包み込んでいた。

 ランピリスは燃える歌鬼の姿を見ながら詩鬼の姿に戻り、支部の襲撃のためにその場から離れていった。本人は気付かずに片目から涙を流していた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEガシャドクロ

 あああ、弱え、弱え。

 全く、たくさんの鬼がいるから頭蓋骨のコレクションが増えるかなと楽しみにしていたのに。

 

「が、ああ………あああ」

 

 ガシャドクロの前には四肢全てをあらぬ方向に曲げられて、腹から内臓の一部が垂れている鬼がいた。

 

 確か、磁鬼とかって言ったかこの鬼。

 初めは、驚くような攻撃ばっかしてくるから、久々に本気出せるかなと楽しみにしていたのに、空気中の静電気を集めて攻撃なんて、ショボい技を使いやがって。

 本気出す気も失せて、軽くやっただけでコレだ。

 

【まあ、久々の人間だゆっくり味わうとしますか】

 

 ガシャドクロはそう言って、白骨の尻尾を使って磁鬼の身体に巻きつけ。どこかに消えた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヒトリマ

 あああ、炎だ、炎。何もかもを燃やし尽くす炎。

 やっぱり良い、例えこの炎が鬼が作った炎だとしても、この炎は燃える。人を焼くことも、家を焼くことも、その気になれば水を焼くことも出来る。

 俺の身体に鬼が放った炎がどんどん俺を燃やそうとする。でも、意味がない。

 

「俺の炎を受けて、まだ生きているのか、ならば!!」

 

 鬼は音撃棒からさらに炎を俺に浴びせるが、意味がない。

 出来ればもうちょっとこの炎と戯れたいが、さっさと終わらせたいからな。

 

ボオオオオオオオオオ!!!

 

 俺が吠えるとさっきまで、俺を燃やそうとした炎が俺から離れて、一箇所に集まる。

 宙に浮かんでいる巨大な炎はやがて、その形を炎の龍へと変化させて、俺を中心に浮いている。

 普段は隠れて見えていない手を出し、鬼に向けて炎の龍を嗾ける。

 だが、鬼は炎の龍を音撃棒で十字に組んで防ぐ。

 

「なんと面妖な!!」

 

 防がれるのは想定内だ。手を思い切り握り締めると–––

 

「なっ!!」

 

 炎の龍の身体は分裂して炎の龍は5匹の炎の龍に変わり鬼に襲いかかる。

 音撃棒で2匹潰すが残った3匹は鬼の身体に纏わり付き、激しく燃える。炎の龍は火災旋風のように変わり、中心にいる鬼を燃やす。

 

 数十秒経ち、握り締めていた手を開いて、横に一閃すると、炎は消えて、黒く焼け焦げた変わり果てた姿となった鬼が立っていた。

 ヒトリマは鬼の身体をツンと指で突くと、鬼の身体はボロボロ崩れていく、ヒトリマの後ろから風が吹いてきて、崩れていく鬼の身体を風が空へと運んでいき、遂に鬼は灰に変わり、空へと消えていった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEカンカンダラ

「巨体の癖して速すぎる」

 

 それは針鬼さんが遅いだけです。しかも私はヤドウカイ達に比べたら3番目に遅い。

 カンカンダラは振られた音撃弦を2本の腕で防ぎ、残った4本の腕を針鬼の腹に叩き込む。衝撃によって音撃弦を離してしまい、針鬼は遠くに飛ばされる。

 

【これは良いですね………】

 

 遠くに吹き飛ばされた針鬼に目を向けずに、カンカンダラは手に持つ音撃弦 針陣を眺める。

 この魔化魍 カンカンダラは戦った鬼の持つ音撃棒、音撃管、音撃弦で、気に入ったものを奪い、自分の武器として使う変わった魔化魍なのである。

 カンカンダラは針鬼の方に目を向けず去った。

 

 いや、目を向ける必要も無いだろう2本の腕で音撃弦 針陣を見ていたカンカンダラだが、4本の腕には嘗て戦った鬼たちから奪った4つの音撃管があり、針鬼はその音撃管に全身を撃たれて死んでいた。

 魔化魍を倒すために使っていた武器が魔化魍に使われる、鬼にとっては言いようのない屈辱的な死に方だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヤドウカイ

 遠くから金属と金属の打ち合ってる音が響く。

 

「待て逃げるのか!!」

 

 後ろから冠鬼が追いかけて来るが、私は気にしないで音の方角に向かって走る。

 そこに居たのは、下半身が海豚の人魚のような魔化魍と鬼が刀を鍔迫り合っていた。




如何でしたでしょうか?
今回は戦い方が明らかになっていない魔化魍達での戦闘シーンを描いて見ました。


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記録参拾

今回で第2支部編の中編になりました。
今回は、新たな魔化魍の名と黒サングラスの黒コート男の正体が明らかに・・…


SIDE美岬

 全く、静かに侵入しましょうと言ったばかりだと言うのにミイラさんは、はあ〜〜〜〜。

 

【&@%£$$$!!】

 

 全身に包帯を巻いた人型が叫びながら、鬼たちに包帯の鞭を振るい攻撃をしている。

 竹筒からはいくつもの白い狐が鬼の周りにいる人間に向かってその牙を向く。

 

「ここは絶対に落させません」

 

 そう言う鉱鬼は自身の音撃弦 虹鉱を構えて、7人の鬼と共に猛士第2支部の裏口を守っていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE衣鬼

 風を裂いて、衣鬼は音叉鞭を全身に包帯を巻いた人型の魔化魍 ミイラに振るう。

 変身音叉を変形させた音叉鞭による激しい攻撃によってミイラの身体はどんどん削られ、包帯の下の黒い皮膚が見えてくる。

 音叉鞭はさらに激しさを増して、ミイラの左腕を切り裂く。

 

「とどめをさしてやる!! 音撃乱(おんげきらん) 暴風怒涛(ぼうふうどとう)!!」

 

【@¥&¥€%£+!!!】

 

 衣鬼は音叉鞭を弧を描くように空中で振り始める。やがて巨大な風に変わり、衣鬼はその風をミイラに投げつける。

 巨大な風の中に閉じ込められたミイラは包帯に巻かれている全身を削られていき、千切れた包帯が空に散っていく。やがて、黒い身体も風によってどんどん削られ塵に変わっていく。

 

「次の魔化魍を………」

 

【ふふふふふ、ふはははははははははははは!!】

 

「っ!!!」

 

【我を倒したつもりか鬼】

 

 倒した筈の魔化魍から声が聞こえてきたことに衣鬼は驚き、辺りを見回す。

 すると腕に謎の痛みが走り、衣鬼は自分の右腕を見ると、黒い何かが右腕の装甲を貫通して刺していた。

 潰そうと手で叩くが、黒い何かは右腕から離れて、空を飛んで逃げる。

 

【我に気付いたか鬼、ならば見せてやろう我の真の姿を】

 

 すると黒い何かの全身に同じ黒い何かが集まり始めて、徐々に人型に変わっていく。

 ヘラクレスオオカブトの頭部に黒い体躯、下半身を覆い隠す白い腰布、青と金色の装飾を全身に身に付け、手には太陽を模した長杖を持つ。

 

「なんで、音撃を受けた筈なのに」

 

【確かに音撃は受けたさ、だが、あれは我の本体ではない!!】

 

 そう言うと、ミイラは長杖をコツンと地面を突くと、ミイラから少し離れた死体に黒い何かが集まり、死体を覆い尽くす。

 黒い何かは徐々に数が減っていき、やがて黒い何かは完全にいなくなると同時に先程、倒したミイラと同じ姿の魔化魍が立っていた。

 

 これを見た衣鬼は顔を青褪める、つまり自分が戦って倒したのは魔化魍では無く魔化魍そっくりの偽者に作り変えられた人間だったといことに。

 衣鬼は口元を手で抑える。それを見ているミイラは。

 

【ハハハハ、やはりこれを見た人間は同じような行動に出る、死んだ人間は我らの餌かもしくは道具に過ぎぬ】

 

 再び、長杖を突くと、地面が急に盛り上がりそこから複数のミイラが現れる。

 衣鬼は突然現れたミイラ達を見て、さらに顔を青褪める。ミイラ達は衣鬼を囲み、呪詛のような声を出す。

 

「もうやめてーーーー!!」 

 

 耳を防いでも聞こえる声を聞き、衣鬼はそのまま倒れる。ミイラの本体が突き刺した毒が全身に回ったからだろう。

 

ハハハハハハハハハハハハハ

 

 ミイラの高笑いが響き、ミイラは衣鬼の腕を掴んで何処かに連れてった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE黒サングラスの黒コートの男

「シャシャシャ、やるな女」

 

「五月蝿え!!」 

 

 頭部を藍色で縁取りされていて、左右非対称の長さの角を生やし、胸元には猪を模した面が付いてる鬼 突鬼と戦っている黒サングラスの黒コートの男は突鬼の振るう音撃擦弦(バイオリン)の弓刀を変な笑い声と共に避ける。

 

「この当たれっ!!」

 

「断る!!」

 

 今度は音撃擦弦(バイオリン)のパイルバンカーのようになっている本体を男の身体目掛けて放つ。

 弓刀と本体を使った突鬼の激しい攻撃は男の動きを鈍らせるのに十分だった。やがて、パイルバンカーの本体が男の胸元に突き刺さり、轟音と共に打ち付けられるが、それと同時に高い金属音が響く。

 

「シャシャシャシャ」

 

 男はパイルバンカーの杭を引き抜き、突鬼を殴ろうとするが、突鬼は後ろに飛んで躱す。

 男の黒コートはパイルバンカーの直撃によって焼け焦げて胸元が見えていたが、突鬼はそれを見て、声を荒げる。

 

「何だ!! てめのその身体!!」

 

 突鬼は男のコートの下にある皮膚が人間と違った事に驚く、右は蛇の腹を思わせる皮膚だったが、左は機関銃についてる弾帯を模した機械が付いていた。

 

「シャシャシャ、これを見られたからには俺の本当の姿を見せてやる」

 

 男は顔を掴み、勢いよく剥がす。

 突鬼は突然の男の行動に驚くが、男の剥がれた顔から見えたのは赤い筋繊維では無く、蛇の顔だった。剥がれた顔に続いて、身体も蛇の脱皮のように剥けていく。

 

 やがて、男の姿は人間とは全く異なる姿に変わった。

 コブラの頭に鱗に覆われた左腕、身体の半分に付いた弾帯、腰から左足の上半分に巻き付く蛇、右足は鉄板で覆われている。そして、もっとも目立つのは右腕全体がマシンガンになっている。

 

 そう、この魔化魍………いや、この怪人の正体は嘗て、力と技のベルトを持つ昭和仮面ライダー3号こと仮面ライダーV3と戦った秘密結社デストロンの機械合成改造人間。

 

「俺の名はマシンガンスネークだっ!! シャシャシャシャシャシャ!!」

 

 マシンガンスネークは右腕のマシンガンを構えて、突鬼に向ける。

 

「シャシャシャ、行くぞっ!!」 

 

 マシンガンスネークの腕のマシンガンから大量の弾丸が突鬼に火を吹く。

 突鬼は音撃擦弦(バイオリン)の本体を盾にして弾丸を防ぐが、どんどん本体に皹が入り、今にも砕けそうになっている。

 

「意外と頑丈だな、だがどれくらい耐えられるかな」 

 

 そして、突鬼の音撃擦弦(バイオリン)は遂に砕けた。砕けた音撃擦弦(バイオリン)を見て、突鬼は戦意喪失する。

 マシンガンスネークは突鬼の頭にマシンガンの銃口当てるが、戦意喪失した突鬼はもはや戦う事は出来ない。

 

「ちっ、つまらん」

 

 マシンガンスネークは突鬼の首元に手刀を入れ、突鬼は意識を失い。鬼の姿から一糸纏わぬ人間に戻る。

 

「//////////!!」

 

 流石に目の前に、服を纏わぬ人間がいるのに放置するのはマシンガンスネークとしては気まずいらしく、人間の姿の時に来ていた黒コートで突鬼の服代わりとして着せる。

 そのまま、米の俵の様に担いでマシンガンスネークは突鬼を連れていった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヤシャ

 激しい金属音が響く、顔に鬼のような黒い面を掛けている和服姿の男の魔化魍 ヤシャと鬼。

 

【なかなかやりますね】

 

「魔化魍に褒められても嬉しくねえ!!」

 

【(はあ〜最近の鬼は弱すぎると、皆よく言いますね)】

 

 ヤシャはかなりの加減をしながら鬼と戦っていた。自分が本気を出すにしても今、別のところで戦っているハンニャの力を借りねばならない。

 

【(そろそろ飽きてきました)】

 

 この鬼は名持ちではないが決して弱い鬼ではない、この北海道にいる8人の鬼の想鬼に指導してもらい、北海道にいる魔化魍を50体以上は倒した実力を持つが、戦っている相手が悪すぎたのだ。

 

「喰らえええええ!!」

 

【ふん!!!!】 

 

 鬼は一瞬にして両断され、物言わぬ肉塊と化した。

 ヤシャは死体を一瞥して、刀の血を服の裾で拭き取る。そして、昔を思い出していた。

 

 ヤシャは嘗て、名のある武家に生まれた人間(・・)だったのだが、婚約していた(ハンニャ)を助けるために、上司を斬り、そして姫と共に逃げたが、上司の部下の待ち伏せで姫と共に殺された。

 だが、ヤシャは姫と共に世界を恨んだ、どうして好きな人間と一緒になれないのかと、だから願った、人間でなくていい、彼女と一緒に過ごせれば自分達は妖にでも悪魔にでもなってやると、その時に出会ったのが沖野 美岬ことヤオビクニだった。

 昔を懐かしく思いながら、ヤシャは愛する(ハンニャ)の元に向かった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE鬼

 気配を薄くしながら、鬼のような白い面を掛けている和服姿の女の魔化魍 ハンニャから姿を隠す。

 だが、気配を薄くしても何処からか飛んできた矢は左腕を掠って、何処かに飛んでいく。

 

「何処から撃ってきてるんだ!!」 

 

 そして、何処からかまた矢が飛んでくる。

 

「があああああああ!!!」

 

 今度は右脚を貫き、矢が地面に刺さる。矢には血がベットリと着いていて、地面を少し赤くした。

 鬼は貫通した脚を抑えて、近くの木の幹に隠れる。鬼の装甲すら貫通する矢に恐怖する。そして、傷口に布を巻き思いっきり締める。

 傷を塞いで、鬼は移動しようと立ち上がると共に矢が飛んできて頭を貫通して、木の幹に刺さる。 

 倒れる鬼にさらに矢が飛んできて物言わぬ死体の鬼の両腕、両足、首、腹は木に縫い付けられるように矢が刺さっていく。

 

 すると、空間が少し歪みそこから手に大弓を持ったハンニャが現れる。

 

【………所詮この程度】

 

【姫ー何処ですか!!】

 

 すると何処からかヤシャの声が聞こえ、ヤシャが現れる。

 

【姫、探しましたよ】

 

【………ごめんなさい】

 

【姫、私からあまり離れないでください。もう姫を失うのは嫌なんです】

 

【///////】 

 

 ハンニャはヤシャに抱きしめられて、顔を赤くしている。

 

【ふふははは、このような場所で発情するとはなハンニャ!!】

 

 笑鬼を縫い付けた木の枝にミイラが意識をなくしている女の鬼を背に乗せて、ハンニャ達を揶揄っていた。

 その光景を見られたハンニャは先ほどとは違う光の灯ってない目でミイラに矢を当てようと大弓を引き始めるが–––

 

【姫、今は私を見てください】

 

 ヤシャの言葉で大弓を引くのを辞めて、ハンニャとヤシャはイチャイチャな雰囲気をだす。

 それを見たミイラはいつの間にか消えていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 本来の姿に戻り、目の前の鬼と戦っていた。

 だが、戦って分かったが鉱鬼というこの鬼はかなり厄介だ 。初めは音撃弦を使い、何処かぎこちなかったが、音叉刀を使いはじめた瞬間に私と互角の腕を見せている。

 

 刀で鍔迫り合っていると、奥から何かが走ってくる音が聞こえ、目をそこに向けると三度笠の狼の魔化魍がコッチを見ていた。

 ここで、2つの魔化魍グループのトップは初めて、開合した。




如何でしたでしょうか?
今回は茨木翡翠さんのミイラと覇王龍さんのヤシャを出させて頂きました。
茨木翡翠さん、覇王龍さんこれからもアイディアよろしくお願いします。
そして、黒サングラスの黒コート男の正体はデストロンのマシンガンスネークでした。

また現在、活動報告にて、この作品の次に書く舞台の投票していますので、投票できる方は何番かを書いて、活動報告に投票してください。



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記録参拾壱

まず、謝罪させてください。以前、3話で済ませると言いましたが、4話になってしまいした。
今回はオリジナル設定を1つ入れてみました。


SIDEヤドウカイ

 目の前にいる海豚の下半身の人魚のような姿をした魔化魍はおそらくこの北海道を拠点とし動く、沖野 美岬………いやヤオビクニだろう。

 噂によると北海道地方に現れる特異的な魔化魍のほとんどはヤオビクニの配下と聞いた事がある。

 

【成る程、聞いた鬼の数が少なかったのは、貴方達がいたからですか】

 

「魔化魍覚悟!!」

 

 後ろから私を追ってきた冠鬼が音叉剣を振るってきたが、私は当たる寸前に避ける。

 

「くそっ!! 当たらなかったか!!」

 

【いい加減、しつこい!!】

 

 ヤドウカイは良い加減しつこい、冠鬼を殺すために普段は使わない術を使う為に何かを呟き始める。

すると、風が突然、吹き始め、樹が揺れる。そして、風がヤドウカイの身体の周りに纏われていく。

 風が止み、冠鬼はヤドウカイの姿を見ると–––

 

「なんだ、その姿は!!」

 

 今のヤドウカイの姿は風を纏われる前とは大きく異なっていた。

 トレードマークでもある三度笠はそのままだったが、眼は翡翠のように透き通った眼に変わり、黒い毛は深緑色に染まり、首元に赤いマフラーが巻かれ、前脚には風と書かれた手甲を着け、尻尾は4本に増えていた。

この姿こそ、ヤドウカイのもう1つの姿。

 この術はある一定の領域まで辿り着いた魔化魍がさらなる力を求めた魔化魍の為に2代目魔化魍の王 フグルマヨウヒが編み出した古の術 幻魔転身(げんまてんしん)

 そして、幻魔転身(げんまてんしん)をしたヤドウカイは目の前の冠鬼を睨んだ。

 

「!!!!」

 

 その瞬間、冠鬼はこの場からすぐ逃げたいという恐怖に支配された。ただ姿が変わった程度だと思っていたが、この魔化魍に睨まれただけでもう戦意を喪失していた。その姿は鬼ではない、彼らが普段喰らっているひ弱な人間とほぼ変わらない。

 

「ひいいいいい!!」

 

 ヤドウカイが脚を進めただけで冠鬼は怯えて、その場から逃げようとする。

 だが、逃げようとした目の前にはさっきまで後ろにいた筈のヤドウカイが大きな口を開いて冠鬼の前にいた。鋭い牙は冠鬼の頭に振るわれ首から上が無くなり、血が勢いよく出て、ヤドウカイの深緑の体躯を赤く染め、冠鬼の身体は地面に倒れる。 

 首の無くなった冠鬼の身体をヤドウカイは貪り喰う。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEエンエンラ

 はあ〜〜〜〜眠い。

 

「当たれ!!」

 

 まったく、戦うのは良いけど〜。

 

「この!!」

 

 せめて、もう少し寝させてくれれば。

 

「何で、当たらないの!!」

 

 この鬼を苦しめなかったのにな〜。

 

 エンエンラは身体を煙に変えて、鬼の周りに散り始める。

 煙になって空中に漂うエンエンラを見て鬼は離れようとするが、何かが脚を抑えつけて動かせようとしない。自分の脚を見ると、煙に包み込まれて動けなかった。

 

「!!」

 

 鬼は早く抜け出そうと力を込めるが、うんともすんともいわない自分の脚にさらに力を込めると。

 

「っ、動けた、え?」 

 

 異様な音とともに脚が動けたと思い、動こうとすると前に倒れる。自分の脚が妙に軽く感じて上半身を上げて、脚を見ると。

 

「え、なんで脚が」

 

 膝から下の脚が無かった、煙になったエンエンラを見ると、煙の一部が赤く染まっており、その中心には2本の脚が煙に包み込まれていた。

 脚は煙の中でどんどん小さくなり、やがて影も形も無くなった。

 鬼はおかしな感覚になっていた。自分の脚が千切れてるのに痛くない。

 

【大丈夫だよ、そのままこの煙に身を任せば良いよ】

 

 いつの間にかエンエンラは顔を鬼の前で現して、心が安らぐような声で鬼に語りかける。

 その声を聞き、鬼は抵抗するのを辞めて、煙の方に這いずりながら向かい、煙に包み込まれる。

 

 煙に入った瞬間に両腕が引き千切られる。咲鬼はそんなのを気にせずに煙に身を任せる。達磨と化した咲鬼の身体は圧縮されたように縮み小さくなっていく。

 煙に入って僅か数十秒でこの姿へと変わった咲鬼は四肢からダラダラ垂れる血に何も反応する事なく煙の中に心地よい気持ちに包まれていた。

 

 普段、エンエンラは嬉々として鬼の殺しに参加することはない、良くても重症にさせる程度である。そんなエンエンラが何故、このような事をしているのかというと。

 

 寝不足だったからだ。

 

 エンエンラは普段、パイプの中で眠っている。そして、一定の時間まで眠っている。

 だが、眠っているエンエンラは無理に起こされると残虐な性格へと変貌し、対象を殺す。しかもただ殺すのではなく、人間を幸福な状態にして殺す。

 そして、鬼は最も幸福な状態で首を捻られ死んだ。そして、死体は煙の中で小さくなり、形もなくなる。

 

「エンエンラ、戻りなさい」

 

 いつの間にかエンエンラのパイプを持っていたランピリスはパイプを叩き、エンエンラをパイプの中に眠らせた。

 

「まったくエンエンラは」

 

 そう言ったランピリスはやれやれと言った感じで古びたパイプを服の下に仕舞い、ヤドウカイ達と合流するために歩き始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEクダキツネ

 僕の分体が撃たれてどんどん数が減っていく。鬼は容赦なく僕を殺そうとしてる。

 殺されるのは嫌だ!! まだ、王様に会っていないし、美岬様の恩を返していない。

 だから、殺される前に殺す!!

 

「何だ!!」

 

 クダキツネは竹筒に身体を仕舞いこみ、分体も竹筒に集まり始める。

 

「何か分からねえがとにかくくたばれ」

 

 すると、竹筒が膨張して砕ける。

 砕けた竹筒の破片から身を守る鬼は腕で破片を防ぐ。

 そして、腕を降ろすとその先には細長い長い身体ではなく、山犬のように大きくなった身体に変化して、口が眼の近くまで裂けた白狐がおり、尾には長く鋭い竹槍を持っていた。

 

「虚仮威しが!!」

 

 鬼は音撃管を撃つが、弾はクダキツネに届く前に砕け散る。

 

「!!」

 

 さらに音撃管を連射するが、弾は1発も当たらず、クダキツネは一歩も動いていない。

 そして、クダキツネが動く。

 尻尾の竹槍を鬼に目掛けて構える。クダキツネはそのまま鬼に向かって走る。鬼は真っ直ぐ向かってくるクダキツネに目掛けて、音撃を放つ。

 

 クダキツネに目掛けて赤い炎の音撃が迫るが、クダキツネは尻尾の竹槍の穂先を鬼に向け、勢いよく投擲する。

 音撃管を貫き、竹槍は鬼の心臓を貫き、何処かに消えた。

 

 クダギツネが竹槍の消えた方角へ口笛を吹くと、奥から青い光がかなりのスピードでクダキツネの尻尾に迫る。

 青い光は消えると尻尾には竹槍が戻っていた。

 すると竹槍から竹が物凄い勢いで伸び、クダキツネの全身を包む、竹が小さくなっていくと竹槍はどこにも無く、竹から竹筒に変わり、クダキツネも身体は細長くなっていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEノヅチ

 弱い鬼だ!!

 

 これならシュテンドウジ様と戦っていた鬼の方が遥かに強かった。少なくても、あの時代の鬼は初見殺しとも言える私の攻撃を軽々と避けていたんだが–––

 

「があ…………あああ」

 

 下半身がほぼ私の胃に入っている鬼は必死に私の顔に音叉剣を突き立てるが、私の皮膚はシュテンドウジ様が直々に鍛えてくれた自慢の皮膚、あの時代の鬼なら少しの切り傷が出来るが、今の鬼にはかすり傷1つもつかない。

 

 どんどん呑み込まれていく鬼を侮蔑の目で見るノヅチはそのまま、頭だけになった鬼を呑み込む。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEスイコ

 ノヅチの相棒とも言える、スイコはノヅチからかなり離れた場所で鬼と戦っていた。

 拳と拳のぶつかり合いで、スイコも鬼もボロボロだった、スイコは左腕が使えず、鬼も顔の装甲や胸元にかなりのヒビが入っている。

 

【なかなかやるな】

 

「お前こそ」

 

 スイコはシュテンドウジに仕えていた頃から鬼と戦う時、自身の能力を使わずに身に付けた武術でしか戦わない。

 スイコは慢心してこういう事をしているわけでは無い、ただ能力を使うと、炎の属性を持つ鬼以外は倒すことは出来ないからである。

 正々堂々と戦うのがスイコのスタイル。

 そして、この鬼 拳鬼も自分の武術もとい音撃拳という遥か昔に廃れた音撃技で戦うとりわけ珍しい鬼なのだ。

 

【次で決める】

 

「良いだろう」

 

 お互い拳を構えて、その場で動きを止める。

 スイコはカウンターを得意とし、拳鬼は速さを活かした先制攻撃を得意とする。

 これはお互いの読みによって、どっちが勝つかは不明な戦い。

 先に動いたのは、先制攻撃を得意とする拳鬼だった。真っ直ぐとスイコの腹、目掛けて、音撃拳を放つ。

 

 2つの拳が互いに命中し、スイコの腹には音撃拳の拳痕がつきグラリと倒れそうになったスイコは脚に力を込め、意地でも倒れてなかった。一方、拳鬼の腹にはスイコの掌底が決まり、装甲全体にヒビが入った身体をグラつかせて、前のめりに倒れる。

 

「俺の……負けだ……」 

 

 そう言った拳鬼は意識を無くした。

 スイコは倒れている拳鬼に礼をしてその場を去った。




如何でしたでしょうか?
今回は茨木翡翠さんのフグルマヨウヒを2代目魔化魍の王として出させていただきました。
茨木翡翠さんアイディアありがとうございます。
次回で第2支部の戦いを終わらせます。楽しみにお待ちください。


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記録参拾弐

更新が遅れて申し訳ございません。
今回でヤドウカイ達とヤオビクニ達の襲撃編終了です。
最後に少し、主人公が出ます。


SIDEヌッペフオフ

 鬼に身体を切り裂かれる、バラバラの肉片から再生する。

 鬼に身体を引きちぎられる、引きちぎられた所をくっ付けて再生する。

 鬼に身体を焼かれる、焼かれた灰から再生する。

 

 私のこの身体は如何なる攻撃を受けたとしてもほんの僅かな肉片から直ぐ再生出来る。

 昔からまだ生まれて間もないはぐれ魔化魍を拾っては餌として()をよく上げて育てていたものだ。

 

「ぜーは、ぜーは」

 

 私を攻撃していた鬼はバテたのか肩で息をしながら音撃棒を落とす。

 それを見てチャンスと思い、鬼の周りにある肉片に再生しろと命令すると––––

 

「何だこ…………」 

 

 鬼の身体を無数の私の身体(・・)が包み込み、鬼がいる中心を圧縮する。

 動く事も出来ない鬼はなす術もなく無惨にそのまま潰れる。

 

 ヌッペフオフは無数の自分(・・)を呼び、身体を1つにした。

 

【また、あの子達が食べるのかな】

 

 少し大きくなった身体を見てヌッペフオフは、ヤドウカイ達の元に向かった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEドラキュリア

 私の作った血の蝙蝠が、鬼に襲いかかる。

 

「……………」 

 

 無言のまま、私の蝙蝠を撃ち落とす鬼。

 それにしてもかなりの腕だ。あの蝙蝠を出すと、大抵の鬼は死ぬのだが。

 

 蝙蝠を全て落としたのか、私に向けて音撃管を撃つ。

 咄嗟に腕から血を出して固め、壁のよう変えて音撃管の弾が当たるのを防ぐ。

 ドラキュリアは血の壁を捨てて、満月が良く見える夜の空に飛び、静止する。

 

「これはお巫山戯ではいられないな………」

 

 すると、ドラキュリアの黒い髪は紅く染まり、頭頂部に蝙蝠の耳が、背中からは蝙蝠の翼が生える。

 

【さあ、今宵は満月。直ぐに死なないでくれよ】

 

 そう言ったドラキュリアはその場から消え、鬼はドラキュリアの姿を見失う。見失った直後、横からの強烈な打撃によって、吹き飛ばされる。

 鬼が起き上がると、そこにはドラキュリアがいた。

 先程まで宙にいた筈のドラキュリアは一瞬にして、鬼の横に移動し、鬼を殴り飛ばしたという事実に鬼は驚く。

 

【まだ、本気では無いぞ】

 

 ドラキュリアはそう言うと、両手に赤い2本の長槍を出していた。

 鬼は音撃管を構え、ドラキュリアに撃とうとするが、又同じようにドラキュリアは消えていた。辺りを探すも何処にもドラキュリアは居らず鬼は音撃管を腰に戻し、音叉剣を出そうとした。

 

【遅い!!】

 

 だが、音叉剣を出そうとした右腕にはいつの間にか赤い長槍が突き刺さっていた。

 痛みに堪えながら長槍を投げられた先を見ると、ドラキュリアの後ろには無数の赤い長槍が空中に固定され、穂先は全て鬼に向けられていた。

 

【さらばだ名も知らぬ鬼よ】

 

 無情な一言を言ったドラキュリアが手を降ろすと、赤い長槍は一斉に鬼に飛んでいき、長槍は鬼の全身に刺さる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEアズキアライ

 一部が血に染まった青い作務衣を着た蛙の魔化魍 アズキアライは手に持つざるの中にある小豆を研いでいた。

 

【あっしを倒したいなら、少なくても小豆を研がせないほどの腕にならないとでやすよーー烈鬼】

 

「うううっ、黙、れ」

 

 アズキアライの正面には腕や脚に3ミリ位の穴が無数に空いていて、地面に横たわる鬼 烈鬼がいた。

 このアズキアライと烈鬼は因縁の相手とも言える関係である。アズキアライがヤオビクニの元に来るまでは、北海道の各地を出没しては2、3人程の人間を攫い、血を奪っていた。

 その攫われた人間の中に烈鬼の兄もいた。当時、猛士にいた烈鬼の兄は鬼になったばかりの新人で、アズキアライに勝負を挑むも返り討ちに遭い、アズキアライに攫われた。

 

 後日、捜索隊を組んだ猛士は烈鬼の兄を探した。そして捜索を開始して4日後に、烈鬼の兄が発見された。今の烈鬼とは違い、全身に穴が空いていて、干からびたミイラで発見された。

 

 烈鬼は兄の鬼の力を引き継ぎ、アズキアライを追いかけた。アズキアライと出会っては戦い、何度も負けた。

 

【まあ、腕は上がってるし、いつかあっしを倒せるといいでやすね】

 

 アズキアライは腰掛けた岩から立ち上がり、自慢の跳躍でその場を離れた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 刀が鍔迫り合い、金属音が響く。

 

 沖野 美岬こと魔化魍 ヤオビクニの持つ刀と猛士の北海道第2支部の鬼 鉱鬼の音叉刀が打ち合っている音だ。

 ヤオビクニの後ろには、ヤドウカイ達と自分の仲間の魔化魍たちが2人の戦いを眺めていた。

 

「己、魔化魍如きにこの第2支部は落とさせん」

 

【それは、私に勝ってから言ってください】

 

 ヤオビクニは何か呟くと尾に水が集まり、それがヤオビクニの持つ刀に纏わりつく、やがて刀に纏わりついている水は弾け飛び、先程までとは違う、刀が姿を現す。

 乱れ刃小丁子の刀身にサメの背鰭のような鍔、柄頭には尾鰭を思わせる物が付いてる刀に変わっていた。

 

【人間の鮫への恐怖心と溺死した人間の魂を集めて打った畏鮫(いさめ)! これを出したからには今まで通りだと思わないでください】

 

 ヤオビクニの海豚の下半身は鮫に変わっており、背中にも鮫の背鰭が生えていた。

 鉱鬼は音叉刀で構えるが、ヤオビクニは構える一瞬で畏鮫(いさめ)を使って、鉱鬼を斬り裂いた。斬り裂かれた鉱鬼の身体はまるで鮫に食い千切られたような痕になっていた。

 

「ガハッ」

 

 肩から腰に掛けて斜めに斬り裂かれた鉱鬼は最早、立ってるのが精一杯だった。

 そんな鉱鬼の首を斬り落とすヤオビクニは畏鮫(いさめ)を元の刀に戻して、腰にある鞘に戻し、沖野 美岬の姿に戻る。

 

【初めましてヤオビクニ】

 

【初めましてヤドウカイさん】

 

 ヤドウカイは右前脚を出し、ヤオビクニは左手を出して2体は握手を交わした。

 

SIDEOUT

 

「アタイを助けて」

 

 そして、幽冥は散歩に出掛けたて魔化魍と出会う。




如何でしたでしょうか?
幽冥の前に現れた新たな魔化魍は・・・

乞うご期待!!


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記録参拾参

今回から幽冥SIDEで書きます。
新しい魔化魍も出ます。


 北海道に着いて男に貸家を案内してもらったら、男はアズキアライという魔化魍の術で案内役をされた一般人で、私に伝言を伝えたら、砂になって死んだ。

 そんなことの起きた昨日の夜から朝になった。

 結局の所、泊まる所を探していた私たちからすれば、かなりいい所だったので、ありがたく使わせてもらっている。

 そして現在、白と飛火、唐傘を連れて散歩をしていた。白と飛火は見た目人間と狐だから問題無いが、唐傘はそのままだと明らかに猛士に存在を感知されてしまうので、普通の和傘(崩に頼んで)になってもらっている。

 

「綺麗ですね王」

 

「うん。綺麗だね」

 

コォォォン  カララララ

 

 2人と2体は貸家から少し離れた所にある海を見ていた。

 白や飛火、唐傘は魔化魍だが、人間である幽冥と一緒に暮らしてるからなのか綺麗なものを見れば感動はする程度の感覚を得ていた。

 

「そろそろ戻ろっか」

 

「はい」

 

コォォォン  カラララララ

 

 貸家で待たせてる黒やひなちゃん、お姉ちゃんもそろそろ起きるだろうと思い、白たちと貸家に帰ろうとすると。

 

ンキィ、ンキィ  ルルル、ルルル  ヒュルルルルル

 

 振り返ると魔化魍がいた。

 赤い甲羅に背中の一部にフジツボが付いている蟹の魔化魍 バケガニ。

 

 プニプニとした身体に無数の触手の中から2本の触手の先に赤と青の炎を灯して、浮遊している海月の魔化魍。

 

 大きな栄螺の殻、栄螺の足ともいえる蹠面から生える4本の触手に鯱の頭を生やした魔化魍

 

 そして、海月の魔化魍の頭に座るひなちゃん位の黒髪の女の子がいた。

 

「アンタが噂の魔化魍の王?」

 

 女の子が私に質問をしてきた。

 

「はい。私が魔化魍の王の安倍 幽冥です」

 

「ふーん。アンタが………………」

 

 女の子は品定めするかの様な眼で私を見る。

 

「貴方は何者ですか?」

 

 白が女の子に質問をかけた。

 

「ん? ………………あ、そっかアタイの事を教えてなかったね。アタイはアマビエだよ」

 

 女の子が光ると先程の姿は違う姿に変わっていた。

 黒い髪は淡いピンクに腰から下が薄緑の魚の下半身に変わり、尾の先が海老のようになっていて、側頭部に朱色の海星を付けている。

 しかし、気のせいなのかな人間の姿から魔化魍に変わったのを見たのは私の幻覚かな。

 

【………アンタ、なんで魔化魍から人間になれたのって思った?】

 

「!?」

 

 驚いた。何で私の考えてるのを当てられたんだろう。

 

「そういう事ですか」

 

 白は何かを思い出した様で声を出す。

 

「王、この世界には3大魔化魍と呼ばれる魔化魍の王に近い超常的な力を持つ魔化魍がいくつか存在します。目の前にいる魔化魍 アマビエも『東洋3大人魚魔化魍』の一角で、アマビエは近い未来を見て予知する能力を持つ極めて珍しい能力を持った魔化魍です」

 

 予知って事はさっきまでの先読みのような会話はその近い未来を見て言ったんだろう。たしかに未来を読まない限り、あのような会話は出来ない。

 

「ですが、その能力故か戦闘能力が成人男性以下しかない魔化魍としても有名です。ですから人間に化けて騙し討ちでもしない限り、餌を確保できない筈です」

 

【そこは言わなくても良いじゃないアタイ気にしてるんだから】

 

 白の説明で何かと気にしてる部分を聞き、落ち込んでいるアマビエ。

 

「ねえアマビエ、何で私に会いに来たの、そして後ろのバケガニ以外の魔化魍は何っていう種族なの?」

 

【ごめんね、みんな紹介するのを忘れていたよ】

 

 バケガニは鋏をチョキチョキしながら気にするなと言っている風に見える。海月の魔化魍は落ち込んでいる栄螺の魔化魍を慰めている。

 

【アンタはバケガニは知ってるみたいだからこの子達を紹介するよ】

 

 コホンと咳払いをしてアマビエは紹介を始めた。

 

【今、落ち込んでいるのがちょっとネガティブ思考なサザエオニ】

 

ヒュルルルルル

 

 落ち込みながらも4本の触手で挨拶するサザエオニ。それにしてもネガティブ思考って。

 

【で、落ち込んでいるサザエオニを慰めてるのが私達からだとお母さんみたいなクラゲビ】

 

ルルル、ルルル

 

 鼻歌を歌うかのような鳴き声で挨拶して、火を灯していない触手でサザエオニの殻を撫でるクラゲビ。お母さんみたいって。

 

【そして、バケガニだよ】

 

ンキィ、ンキィ

 

 鋏を鳴らして口から泡を吹くバケガニ。紹介が簡単すぎる気が–––

 

【後は此処には居ないけど、クラゲビの姫とアイツがいるよ】

 

 アイツとは誰かと聞こうとしたら。

 

【実はお願いがあって此処に来たんだよ】

 

 アマビエが急に私の手を掴み、幼い顔を近くに寄せる。

 

【アタイを助けて】

 

 ………………えっ?

 どういう事?アマビエの言葉に驚いてると、アマビエが私に抱きついて、鳴き始めた。

 

【アタイを………アタイを鬼から守って】

 

 此れはただ事では無いと思い、アマビエの話を聞くことにした。

 

SIDE白

【アタイを………アタイを鬼から守って】

 

 アマビエ。

 数ある3大魔化魍の中で東洋に住む人魚の姿をした『東洋3大人魚魔化魍』の1体で、通称 予知のアマビエ。

 3体の中で戦闘能力は皆無に等しいが、近い未来を見る能力を持ち、あらゆる危険を感知して、仲間(魔化魍)の危機を救った魔化魍。

 

 だが、猛士はアマビエのその能力を逆に利用しようと考えた。アマビエの能力を使って、近い未来に現れる強大な魔化魍を幼体のうちに潰す為にアマビエを狙い始めたのだ。

 

【アタイの能力を仲間を倒すのに使われんのは嫌なんだよ】

 

 王にアマビエは自身の状況を説明していた。

 おそらく今回も王は首を突っ込むのだろう。それを悪いと思わない、それが王の良いところの1つなのだが、慧鬼曰く、『そういう事に幽が首を突っ込んだら、大変な目に遭わないように周りがしっかり見張ってなさい』とおっしゃっていた。

 

「分かった。守ってあげるよアマビエ、いや波音」

 

 どうやら、考えてる間に話は終わっていたようだ。

 さて、帰ったら王はアマビエを守る為に動くにだろう。その事をみんなに伝えないと。 




如何でしたでしょうか?
茨木翡翠さんのアマビエとサザエオニを出させていただきました。茨木翡翠さんアイディアありがとうございます。
また、以前の話に書いたと思いますが現在、幽冥が行く次の世界をアンケートしています。
もし、これを見てアンケートしたいと思いましたら、活動報告の突然ですが、に票を入れてください。


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記録参拾肆

今回の幽冥は今までよりも残酷な気がします。


SIDE黒

 王ニハ困ッタモノダ。

 

「波音〜早く!早く!」

 

「待ってよひなーー!!」

 

ウォォォォォ コォォォォォン ヒュルルルルル

 

 ひなガ走ッテ、後ロカラ、波音ト羅殴ト飛火、サザエオニノ穿殻ガ追イカケテイル。

 最近、ひなヲ含メタ子供ノ世話ヲスルノガ増エタ気ガスル。

 王ハ波音ノ言ッテイタ隠レ家ニ向カッテ、留守ヲシテイルクラゲビノ妖姫ト仲間ノ迎エニ行ッタ。

 

「黒もこっち来てよーー」

 

 離レタ所カラひなガ手ヲ振ッテ私ヲ呼ンデイル。取リ敢エズ、ひなノ所ニ行カナイトナ。

 

「ドウシタひな?」

 

「これどう使うの?」

 

 ソウ言ッテひなガ私二見セタノハ、木製ノ独楽。

 コレヲ見タ私ハ羅殴ニ顔ヲ向ケルト、申シ訳ナイトイッタ感ジデ両手ヲ合ワシテ、謝ッテイル。

 

「ひな、コレハナコウスルンダ」

 

 ひなノ手カラ独楽ト巻キ糸ヲ受ケ取リ、糸ヲ巻キ始メル。

 巻キ終ワッタ独楽ヲ構エテ地面ニ投ゲルト–––

 

「すごーーーい!」 

 

 独楽ハ真ッ直グニ回リ、ソノ場デ回転ヲ続ケル。

 ソシテ、ヤリ方ヲ見セタ私ハ、ひなニ独楽ヲ渡シタ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE羅殴

 しんかんせんとやらに乗ってた時に遊び用として作ったんだが、独楽の遊び方を知らなかったみたいだ?

 ははははH、って!何この寒気、見上げると黒さんが俺に視線を向けている。

 

 ––––すいません、取り敢えず両手を合わせて、黒さんに謝った。

 黒さんは、ひなから独楽と巻き糸を受け取って、独楽に巻き付けて、独楽を回す。それを見てひなは黒さんから独楽を貰って、波音と一緒に独楽を回す。

 

 しかし、俺の作った物で遊んでくれるのは嬉しいもんだな。

 これからも色々作ってみようかな。

 

 羅殴は次に作る遊び道具を考えながら、ひな達が遊んでいるのを穿殻の殻の上から飛火と眺めていた。

 

SIDEOUT

 

 

 クラゲビの浮幽に案内を頼み、白とお姉ちゃん、土門、鳴風、顎、崩、睡樹、唐傘で向かっている。

 波音曰く、クラゲビの妖姫とアイツと呼んでいる奴は現在、私たちがいる浜辺の道から少し離れた洞穴に隠れて待っているとの事。

 そして、何故このような団体行動を取っているのかというと–––

 

~回想~

「魔化魍を使った生体実験!!」

 

波音

【そうなんだよ】

 

 まさか、魔化魍を生体実験にかけていたとは思わなかった。

 

波音

【それにアタイの仲間達も捕まって】

 

「なんですって!!」

 

 それを聞き、私は居ても立っても居られなくなり、急いで波音の仲間を救うためにひなと波音の護衛を残して、救出に向かった。

~回想終了~

 

 そして、後少しで洞穴に着くのだが、何かのぶつかり合う音が聞こえてきた。その音を聞き、おそらく戦闘が始まったのだろう。

 崩が手足を仕舞って、回転しながら戦闘音する方に向かう。

 そして、崩が何かを撥ねとばす。

 

ノォォォォォン

 

「助けに来ました」

 

 崩は手足を出して、鬼に威嚇をしていた。

 私の前には崩に吹き飛ばされた鬼とクラゲビの妖姫を背負い鬼と戦う、ピンクの帽子を被った蜂の異形がいた。

 

SIDE◯◯

 ああああ、あの馬鹿がいない間に敵が来ました。

 

 私の目の前にいるのは、鬼が2人、白衣を着た男が1人。そして、蛇のように細長く鱗が並んでいる身体に、頭に鹿の角、鼻先には犀の角を生やした龍がいた。

 この龍もとい魔化魍 シロウネリは、1ヶ月前に猛士の北海道第1支部の鬼たちに捕らわれて、何処かに連れて行かれたのですが。

 

フシュルルルルルル

 

 汚れもない純白のタオルように綺麗だった身体は色んな色の絵の具を滅茶苦茶に塗ったような色に変わり、頭の鹿の角は刃物になり何も無かった尻尾には鬼灯が実っていた。

 

「私も………戦い…ます」

 

 私の背中にいるクラゲビの妖姫が降りようとするが、辞めさせる。

 

「馬鹿、あなたは大人しくしてなさい」

 

 あの馬鹿が王に会い、助けを頼むと言って出た数分後にこの襲撃だ。

 

「あの妖姫共を捕らえれば我々の研究もさらなる結果を生む、さっさと捕まえなさい」

 

 鬼たちが武器を構えて、私達に迫る。

 私の持つレイピアで攻撃を逸らし、攻撃をするも手負いでもあるクラゲビの妖姫がいる為に、自分の能力が使えない。

 片方の鬼が私に音撃弦を突き刺そうとした瞬間、何かが鬼に衝突して鬼を吹き飛ばした。

 鬼を吹き飛ばした正体は–––

 

ノォォォォォン

 

 犀と象亀を合わした魔化魍だった。そして、鬼にたいして威嚇をする魔化魍の後ろから何かが近づいてくる。

 

「助けに来ました」

 

 どうやらあの馬鹿が王を呼ぶのに成功したらしい。

 たまにはやるものだねアマビエ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE慧鬼

 驚いた。

 そして私の妹 幽も驚いてるようだ。波音がアイツ(・・・)と呼んでいた者の正体に。

 

 ピンク色の帽子に頭頂部から突き出た触覚、右目には虫眼鏡のようなモノクル眼鏡、蜂をモチーフにした女怪人。本来、この世界には存在しない者。

 

 眼魔。

 異界からガンマホールで現世に現れ、人の魂を集めていた怪人。偉人の力を使って戦う仮面ライダーゴーストに戦いを挑み倒された。

 

 そして、あの眼魔は虫眼鏡をベースに誕生したインセクト眼魔だろう。

 

 しかし、この世界に転生して長いけど原作には居なかった魔化魍や、この世界に存在するはずもない眼魔がいる。やはり、この世界は響鬼に近い別の世界なのだろう。

 そう考えるのは世界の破壊者の話を見たからだろう。あれは無数の平行世界を旅する物語で響鬼も出て来た。だが、本来の響鬼は身体を鍛えるのが趣味に近い青年だったが、ディケイドの方は不真面目で鬼を引退すると言い、鬼の力が暴走して魔化魍となるが真面目で心優しい弟子だった少年が鬼の力を引き継いだ。

 

 このように違いがかなりある。

 だけど、今は女に変わったけど最愛の妹がいる。魔化魍の王として目覚めれば、人から魔化魍に変わると白が言っていた。けど、妹は妹、どんな姿に変わろうと本質は変わらない。

 私は妹の側に居続ける。例え、人間では無くなっても–––

 

 って、そうこう考えてるうちに崩や唐傘が鬼を捕まえ、白衣の男を幽が拷問している。

 カラフルな龍の魔化魍は睡樹に捕縛されていた。

 

SIDEOUT

 

「おじさん、あの子に何をしたの?」

 

「う、がああ、ああ」

 

ピィィィィィィ

 

 今、捕縛した男の脚に鳴風の尻尾が巻き付き、男の脚を搾っている。

 正直、こんな人間がどうなろうと構わない、今すぐこの外道を鳴風の尻尾でカラカラの死体に変えて、ビリビリに破いてやりたいけど、こいつが死んだら波音の仲間(家族)が何処にいるのか分からなくなる。だから、吐いてくれるまで私は鳴風に搾ってもらう。

 

「辞め、ぎゃあああ」

 

「ひぃいい、殺さ………」

 

 私が白衣の男を拷問してる間に後ろでは腹を空かせた私の家族が思うように鬼を喰らっていた。

 土門は白に切り落として貰った四肢を貰い、顎は鬼の腹に顔を突っ込み内臓を引き抜いて喰らい、唐傘が首に犬歯を突き刺して血を吸ってる。もう1人の鬼は崩に何時ぞやかのように脚を軸に回転しているおそらくペラペラの紙のようにして食うんだろう。

 

「ああ、分か……った、話す」

 

 ようやく、話す気になったようだ。鳴風の尻尾をポンポンと叩き、尻尾を緩ませる。

 

「もう一度聞くよ、おじさん。あの子に何をしたの?」

 

 そして、再び同じ質問を聞く。

 

「あの魔化魍はただ、清めの音を聞かせ続けただけだ」

 

 清めの音を聞かせ続けただと。

 

「お前ええ!!」

 

 私は怒りのままに目の前の男の顔を殴った。

 そのまま倒れる男に跨り、殴り続ける。手の皮が少し切れるが気にせず殴り続ける。

 

 清めの音または音撃。魔化魍を唯一倒す方法で、音撃を受けている魔化魍は苦しみ暴れて、やがて爆散して土に還る。

 この男は苦しむ魔化魍を見て、笑いながら実験をしていたのだろう。だが、おかしな事がある音撃を受ければ、魔化魍は土に、塵へと還る筈なのだが、この魔化魍 シロウネリはこのように本来の姿とは異なるが、生きている。

 

 そんな事を考えながら、殴り続ける私。やがて、後ろから腕が伸びて私の腕を掴む。

 振り向くとお姉ちゃんがいた。

 

「もういいよ、幽」

 

 再び、男を見ると額から陥没してるように拳の跡が付いていて。男は虫の息だった。頭や鼻から血がドクドク流れ、右目は黒い穴が空いたように何もなかった。

 私はこのシロウネリをどうにかする為に家族と共に猛士北海道第1支部の襲撃を決めた。




如何でしたでしょうか?
今回のオリジナル魔化魍 シロウネリは覇王龍さんのアイディアです。覇王龍さんアイディアありがとうございます。


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記録参拾伍

お待たせしました。
長く待たせて申し訳ございません。


SIDE◯◯

 いつ迄続くのだろうこんな身の毛のよだつ実験は。此処は魔化魍 ショウケラの実験を行う為に造られた部屋の1つ。

 

クルルウウウウウ

 

 目の前には色が異なる瞳を持つ蜥蜴の魔化魍 ショウケラが檻にいた。つい先程まで、シロウネリという魔化魍も同じ檻に居たが、新しい魔化魍を捕まえる為に今は此処には居ない。

 対大型魔化魍用の檻の中に自分の指を入れて目の前のショウケラに血を舐めさせる。

 

クルルウウウウウ

 

 元気が出たという感じで声を上げる。私はそれを見て、ショウケラに微笑む。 

 鉄製の大扉が勢いよく開き、男が入ってくる。またこの子の地獄が始める。

 

「また、ここに来ていたのか。はっ、所詮は下等な魔化魍だろうに」

 

「下等じゃありません!! この子達だって生きてるんですよ!!」

 

「五月蝿い!!」 

 

 私の頬を男がはたき、私はショウケラの入ってる檻に頭をぶつけて、血を流す。

 

クルルウウヴヴヴ

 

 ショウケラが男に向かって唸るが。

 

「や、やめてショウケラ、大、丈夫だから」

 

 私の声を聞き、唸るのを止める。

 

「はっ! 落ちこぼれと下等生物が傷の舐め合いか。笑わせるな」

 

 私の服の袖を掴み、大扉の外に私は追い出されて、廊下の壁に激突する。男はそれを見て大扉を閉めた。

 変身鬼弦さえあれば、あんな男に負けないのに、そう思いながら私は廊下に横たわり気絶した。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 あの後、ヤドウカイと合流した私達は、これからの話をする為に私達の住む古びた寺に来てもらった。

 しかし、ヤドウカイも幽との関係があったとは、本当に昔からそうだったよね。

 

【それで、北海道第1支部の方はどうします?】

 

「第1支部ね………」

 

 猛士北海道第1支部………通称 魔化魍の墓。表向きは他の猛士と変わらないが、裏では魔化魍の生体実験を行う最低最悪の猛士の支部。

 この実験は全て、北海道第1支部の支部長 志々田 謙介の独断で行われてる実験で、実験目的は人の手で魔化魍を創り出し、それで魔化魍を襲わせるという下衆な目的だ。

 その実験の為に何十体もの魔化魍が生体実験に掛けられ死んでいった。そして最近、アマビエという魔化魍の仲間が数体捕らえられている。

 

「そうですね。しかし、そこについては問題はありません」

 

【どういう事ですか?】

 

「そこに王が向かっているからです」

 

【………そうですか】

 

「ですが、王たちだけでは、些か不安です。なので………クダギツネ」

 

【なるほどそういう事ですか………ヒトリ】

 

 美岬はクダギツネをヤドウカイはヒトリマを呼んだ。

 

【分かった、王を守れば良いんだな?】

 

【分かりました】

 

 そして、ヒトリマはクダギツネの入った竹筒を口に咥えて、魔化魍の王の所へ向かった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE赤

 王から名を頂いたクラゲビの妖姫こと赤です。

 私を含め、アマビエこと波音やバケガニこと鋏刃、サザエオニこと穿殻、私の子供であるクラゲビこと浮幽、本来の姿とは違い理性が少し無いシロウネリこと昇布が王の新しい家族となった。

 

 私たちは現在、拷問して情報を聞いた王は同胞の救出の為に白と黒を女の子(ひな)と波音の護衛に付け、猛士北海道第1支部に向かっている。

 

「ねえおじさん本当に合ってるのこの道で?」

 

「本当です!!」

 

 王が拷問して道案内として引き摺られてる男に質問をする。

 男の両脚は鳴風によってミイラにされ、いつ引き千切れてもおかしく無い。

 

ルルル、ルルル

 

 浮幽が何かを見つけ炎を灯した触手を向けた先に屋敷があった。

 

「あそこです。私のいる第1支部は!!」

 

「ふーーーん」

 

 男が指をさして騒ぐが、王は無視して屋敷を睨んでいる。

 

「約束通り案内した儂を解放してくれ!!」

 

 王は男の襟を離すと、男は両腕を動かして、逃げようとするが–––

 

ンキィ、ンキィ ルルル、ルルル  ヒュルルルルルルル

 

 鋏刃の鋏が、浮幽の触手が、穿殻の鯱の頭の触手が男に襲いかかる。

 元々、研究員だった男、戦闘能力もなく両脚を鳴風にミイラにされ男は避けることも出来ず鋏刃たちの攻撃を受ける。

 

 鋏刃の鋏が男の身体を貫通し、浮幽の触手が両腕を捥ぎ取り、穿殻の鯱の頭の触手はミイラとなった両脚を喰い千切る。

 鋏刃が鋏で貫いた男を王に向ける。

 

「た、助けて、くれ、るって………」

 

「そう言って魔化魍を殺した貴方に慈悲があるわけ無いじゃないですか。鋏刃、浮幽、穿殻、戦う前にその男を()べていいよ」

 

 王はそう言って、鋏刃、浮幽、穿殻は男を喰い始める。

 

「そうそう。ゆっくり()べていいよ」

 

 王は微笑み、鋏刃たちの食事を眺めていた。




如何でしたでしょうか?
今回はこのような展開です。次回は遂に北海道第1支部の襲撃を書きます。


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記録参拾陸

はい。襲撃を始めます。
先ずは入口の制圧。
今回は・・・

ギリギリギリギリギリギリ
シュルルルル

この2体が活躍します。



「さて、どうやって中に入りますか」

 

 此処まで案内してくれた男を喰らっ(たべ)た鋏刃たちはまだ腹が空いてるのだろう。鋏刃たちだけでは無く、土門たちも腹を空かせてまだかまだかと待っている。

 そんな中、飛火と唐傘が居なくなっていた。何処に行ったのかと周りを見てると–––

 

コォォォォォン  カラララララ

 

 上から2体の声が聞こえて、上を見上げると唐傘の傘の柄にちょこんと乗っている飛火を見つける。飛火の首には小さな黒いカメラがあった。

 私の元まで来ると前脚を器用に使って、カメラを私に渡す飛火。

 

「………飛火、カメラ誰から貰ったの?」

 

コォォォォォン

 

 左前脚で羅殴を指す飛火。

 取り敢えず、カメラを持ってた羅殴と飛火、唐傘を呼んで、頭を撫でてあげる。

 

ウォォォォォ  コォォォン  カラララララ

 

 飛火たちは嬉しそうに声を上げる。

 飛火が撮ってきたカメラの写真によると今私達が居るのは、猛士の北海道第1支部の入り口の近くにある森にいる。

 そして、森を抜けて少しすれば第1支部の入り口があるのだが、その入り口には銃を構えてる男たちが立っている。

 赤によると男たちが持ってるのは対魔化魍用の音撃弾入りの銃らしい。1発自体に威力は無いが、数を揃えれば魔化魍を清めることが出来るらしい。

 

 先ずは此れをどうするか。考えてると顎と睡樹が私の側に来ていて、此処は任せろという感じで私を見ていた。

 

「分かった。顎、睡樹に入り口の見張りをお願い」

 

ギリギリギリギリ  シュルルルルゥゥゥ

 

 私の言葉を聞き、顎がその場で穴を掘り、睡樹が穴の中に入っていった。

 そして、顎と睡樹が見張りをどうにかする間に、私は次の作戦を考えた。

 

SIDE傭兵

 俺達は此処、猛士北海道第1支部に雇われてる傭兵。

 此処の見張りとたまに逃げる化け物、確か魔化魍を始末するだけで何十万もの金が入る。本当、楽な仕事だ。

 

「そろそろ見張りの交代だ」

 

「もうそんな時間か」

 

「おーーーい! ちょっと来てくれ!」

 

 仲間の声が聞こえたので、交代の前にその問題を片付けてから交代しようと思い、その場に向かった。

 向かった先には直径1mの大きな穴が空いていた。

 

「さっきまでは無かったのに急に出来たんだよ」

 

 見つけた男によると数分前に通った時には無かった筈の穴が出来ていたらしい。その程度で呼ぶなと思うが、穴を見てるとおかしなものが穴の中にある。

 それは–––

 

「おい! 誰か安田を見なかったか?!」

 

 仲間の1人 安田の履いていた靴が穴の中にあった。この穴は急に出来たのでは無い。

 

「注意しろ魔化魍が来るぞ!!」

 

 だが、気づくのが少し遅すぎた。 

 

「ぎゃああ」

 

 仲間の1人が首にツタが巻き付けられ穴の中に連れ去られる。

 男たちは仲間を連れ去ったツタが出た穴から急いで離れる。こっちには対魔化魍用の音撃弾がある。今まで逃げようとした魔化魍を殺した経験と自信があり、男たちは慢心していた。

 

 だが、この男たちは1つ重要な事を忘れている。この男たちが殺したのは音撃を受けて、弱って(・・・)いた魔化魍だという事。

 つまり–––

 

「ングっンンンン」 

 

 男が振り向くと、仲間の男の口にツタが巻き付けられていた。しかも足元に新しい穴があった。

 しかし、男は穴の中に連れ去られるわけでもなく、その場で縛られてる。男の仲間が助ける為にツタに向かって音撃弾を放つ。

 だが、穴から突如、白い影が飛び出た。

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

 顎だった。顎は迫り来る音撃弾に向かって蟻酸を吹き付ける。蟻酸に触れた音撃弾は先から溶けていき、ツタにあたる頃にはただの鉄の塊に変わっていた。

 そして、ツタも男に巻き付ける力を強める。巻き付けられているところから血が少しずつ流れていき、肉にどんどん食い込んでいく。

 

「んぐううううううううう………」

 

 ツタに巻き付けられた男の首は正面から後ろ向きになり身体は上と下に別れ、上の身体から内臓が落ちて、下の身体からは血と内臓が溢れる。

 

 その光景を見て、男たちは込み上げて来る吐き気を押さえようとするが、顎が蟻酸を霧のように吐き、男たちの周りに漂う。

 そして、男たちの身体に異変が起きる。

 

「痒い、痒い」

 

「痛い、痛い、痛い」

 

「うがあああああ」

 

 男たちは身体を急に搔きむしり始める。

 痛みは治らずさらに強く搔く。爪に皮や血がベットリと付くが、男たちは気にせずにさらに搔きむしる。

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ シュルルルルルルルルゥゥゥ

 

 男たちの近くには顎と睡樹が立っており、倒れた男たちの姿を眺めている。

 男たちの姿は全身、特に首から大量の血を流し、爪にはベットリと肉片を付け、倒れている………いや、死んでいた。

 

 それを見て、睡樹は死体に足から伸ばしたツタを巻き付ける。すると死体から血が出て来るのが遅くなり、やがて死体は干からびていく。

 睡樹がツタを取った後には男たちの死体はカラカラに乾いた骨と皮だけになっていた。

 睡樹は唐傘から覚えさせられた術を使い、男たちの死体を消した。

 

睡樹

【お………仕事……か……んりょ…う】

 

【ああ、王の所に戻るぞ】

 

 顎と睡樹は穴の中に潜り、王の元へと戻っていた。

 

【さっきのが、王の所にいる魔化魍】

 

【なるほど】

 

 少し離れた所から顎達を樹の上から観察していたヒトリマとクダギツネは樹から降りる。

 

【これ喰うか?】

 

 ヒトリマは先程、睡樹にバラバラにされた男の腕をクダギツネに喰うかと尋ねる。

 

【頂きます】

 

 王を見守る前に腹ごしらいをしていたヒトリマとクダギツネであった。




如何でしたでしょうか?
次回は第1支部に囚われた魔化魍SIDEです。


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記録参拾漆

やっと、此処まで来ました。
北海道編の中間になります。
この話が終わった後半が幽冥、ヤドウカイ、美岬の合流そして、第3支部にいる想鬼との戦いになります。


SIDE◯◯

 やめて、やめて、やめて、やめて、清めの音をやめて。

 私の身体にヒビが少しずつ入っていく。自慢の翼や尾はどんどん塵と化し崩れていく。

 意識がなくなりそうになった途端に–––

 

「音撃止め!!」

 

 白衣を着た男が下卑た笑みを浮かべて私を見る。

 

「くくくくくっ、良いぞ、良いぞ、その顔を私は見たいんだよ」

 

 笑い声が私の傷付いた身体に響く。

 今すぐ、その笑顔を苦痛で歪ませたい。だが、私の武器とも言える尾は今の実験でボロボロになり使うことが出来ない。

 

「暫くしたら実験を再開する。各自今の内に休憩しとけ」

 

 すると、白衣の男の隣のもう1人の男が休憩を告げる。

 白衣の男の声でデータを取っていた研究員、音撃を放っていた鬼たち、そして下卑た笑みを浮かべた白衣の男は、休憩の為に実験室から出る。

 やがて、部屋には休憩を告げた白衣の男と私しか居なかった。

 

「………………アカエイ大丈夫か」

 

【心配するんだったら、もう少し手加減する様に指示してよ】

 

「それは無理だ。少しでも手を抜けばあの男に怪しまれます」

 

【はーーー。で、脱出の準備は整ってるの?】

 

「問題無い。それにあと少しで王がやって来るそうです」

 

【王が?】

 

「おそらく王は今日、第1支部(ここ)を襲撃します。そのどさくさで王に保護してもらってください」

 

【ショウケラやジュボッコは?】

 

 私以外に此処に囚われた魔化魍が心配だった。

 

「あの人間がなんとかしてくれると思います」

 

 あの人間………………ああ、あの娘か。人間なのに私達、魔化魍の身を心配してくれる人間。

 

【そう】

 

「では、それまではいつも通り」

 

【また音撃を受けるのか………憂鬱】

 

「………私はこの間にあの男の部屋を探ってみます」

 

【まあ頑張りなさいジャック(・・・・)

 

SIDEOUT

 

 顎と睡樹が穴から戻ってきた。証拠のつもりか見張りの傭兵の脚とミイラの3人の死体を持って。

 

「良くやったね顎、睡樹」

 

ギリギリギリギリ  シュルルルルゥゥゥ

 

 私に撫でられ嬉しそうにする2体。そして、そのまま第1支部の入り口に全員で向かう。

 

 

 

 

 

 

 元々、今居た場所から第1支部の入り口はそこまで遠くなく、見張りも顎と睡樹が片付けたので、問題もなく第1支部の入り口に辿り着く。

 

「崩、あの扉を潰して」

 

ノォォォォォン

 

 小さなぬいぐるみのような姿から咆哮とともに本来の大きさに戻る崩。最初に会った時は中途半端のような大きさが今では立派な成体にまで成長した。

 因みに成体になったのは崩を含めて、土門、顎、羅殴の4体で、鳴風と飛火は後少しで、睡樹と唐傘、波音は等身大の為、大きくなることはなく、鋏刃や穿殻、浮幽、昇布は既に成体だった。

 

 崩は巨大な脚で第1支部の入り口の鉄扉を破壊する。巨大な鉄の扉はミシミシという音ともに踏み潰される。

そして、潰された鉄扉を見た私はみんなの方に振り向く。

 

「みんな、私達はこれから猛士と戦う。今までの様に平和に過ごすのは無理かもしれないけど、私に力を貸して」

 

「幽、言われなくてもみんなやる気満々だよ」

 

グルルルルルル  ピィィィィィィィィィ ギリギリギリギリギリギリ 

ノォォォォォン  シュルルルルゥゥゥ  ウォォォォォォォ  

コォォォォォォォン カラララララララララ ンキィ、ンキィ、ンキィ、ンキィ

ヒュルルルルルル  ルルル、ルルル

 

 お姉ちゃんの言葉を肯定する様に声を出すみんな。

 

「私の………いや魔化魍の王として命じます。猛士北海道第1支部を潰しなさい!!」

 

 私の声で魔化魍(家族)は自分の思うままに行動を始めた。




如何でしたでしょうか?
今回は茨木翡翠さんのアカエイを出させて頂きました。茨木翡翠さんアイディアありがとうございます。


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記録参拾捌

遅れて申し訳ありません。
今回は慧鬼の本名が出ます。


SIDE志々田

 まさか、直接魔化魍が襲撃を掛けるとは思わなかった。

 先程の音はおそらく、入り口が壊された音だろう。

 

「支部長! 分かってると思いますが………」

 

 慌ただしくドアを開けて入ってきたのは此処の研究員の1人だった。

 

「知っている。入り口の鉄扉が壊されたんだろう」

 

「そうです。緊急事態なのに何、呑気にお茶を淹れようとしてるんですか!!」

 

 私はその事に気にせずにお茶を淹れる。茶碗にコポコポと茶が注がれる。

 

「支部長如何しますか?」

 

「いつも通りに捕まえればいい。傭兵いっぱい居るし」

 

「………今回は、いつもの様に魔化魍単体での襲撃とは訳が違います」

 

「如何いう事だ?」

 

「王が居るんです」

 

「本当か?」

 

「間違いありません」

 

 それは良いことを聞いた、魔化魍の王は150年に1度しか現れない。それを捕まえてこの手で調べられれば、私の研究は格段と進む。

 

「良いか。絶対に魔化魍の王を捕まえろ! 他の実験体も使って構いません!」

 

「分かりました」

 

 部下たちが魔化魍の王を捕まえた報告を聞くのが楽しみだ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE土門

 顎と睡樹は王の為に動いて、結果を見せた。

 私も活躍しなければ。

 

「魔化魍だ撃て」 

 

 そう考える土門は北海道第1支部の通路で傭兵の相手をしていた。

 傭兵たちが土門の小さな身体に向けて音撃弾を撃ってくる。弾は土門を貫こうと迫るだが–––

 

土門

【(遅い)】

 

 土門は糸を壁に張り付けては某巨人世界の兵士のような立体機動で動いて音撃弾は当たらず、さらには通りすぎに糸を振るって弾を切り落とす。

 

「当たっていない」

 

「馬鹿な」

 

 目の前にいるのはざっと数人。これくらいの人数なら充分、これで戦える。

 

「怯むな撃て!」 

 

 はあーーー無駄だというのに。 

 

 土門が前脚を動かす度に音撃弾は土門に当たらずに切られて地面に落とされる。

 音撃弾を撃ち続けて、弾切れを起こした瞬間に土門は動く。

 

土門

【丁度良いところに】

 

 天井に向かって土門は跳び、リロードをしている傭兵の頭の上に移動する。リロードが終わり、土門に銃を向けるも天井にいた土門はいつの間にか傭兵の背中に飛び移り、背中に前脚を突き刺す。

 

「ぐぎゃあああ」

 

 背中から腹に貫通した土門の刺された前脚で苦しむ傭兵を見るも他の傭兵は構わずに銃を撃つが、土門は傭兵の背中から後ろの壁に向けて糸を吐き、傭兵の身体ごと壁に移動する。

 音撃弾は傭兵の身体に当たり、微かに息のある傭兵は大量の音撃弾を防ぐ盾にされてそのままこと切れた。

 

「此奴、盾にしやがったのか!!」 

 

 土門のやった事で傭兵たちは怒る。

 だが、次の瞬間にヒュッと何かが通ると2人の傭兵の首が床に落ちる。

 

グルルルル

 

 土門の唸り声が盾にされた傭兵から聞こえる。

 

 私が盾にした人間の背中から肩に向けて移動する。

 私の眼による睨みが人間たちを震えさせているみたいだ。

 私が再び前脚を動かすと、1人の人間を残して、数人の人間は斜めに身体を斬られて上半身と下半身に分かれる。その様子を見ていた傭兵は顔を青くする。

 

「うああああああああ」

 

 人間が私に音撃弾を撃つが私はジグザグに移動して音撃弾を避けて、人間の腕に糸を吹いて、その糸の上を綱渡りの様に移動し、人間と顔を合わせる。

 

「ひいいいいいい」

 

 顔の前にいる土門に恐怖で動けない男が最後に見たのは、自分に向けて前脚を振るう土門だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE慧鬼

 鬼の私が猛士に反逆をするとは世も末だね。だけど今回の幽の気持ちはよく分かる。

 前世の頃に私が見ていた仮面ライダー響鬼の魔化魍にハマって妖怪博士になると言っていた幽。けれど、そんな事は出来ないという事で普通のOLとして働き、時間がある時に妖怪を調べていた。しかし、夢は叶えられずに幽は老衰でこの世を去った。

 

 そんな幽は今じゃ魔化魍の王、世の中何があるか本当に分からないね。

 

「そう思わない、散鬼や無銘ども」

 

「う、うううううう」

 

「があああ………」

 

「ガフっ」

 

 今、慧鬼の足元には此処、北海道第1支部にいる鬼たちが体の至る所から血を流して倒れていた。

 こんな状況を起こしたのは言うまでもない。この慧鬼である。

 

 彼女が何故この様な状況を起こしたのか、それは彼女の逆鱗に触れたからだ。

 慧鬼いや安倍 春詠は前世の頃から幽に対してかなり甘い姉なのだ。それも他の兄弟が見てるだけで砂糖を吐き出したくなるほど。

 

 例えば、幽が前世の子供の頃、妖怪に会いたいと言った際には、ありとあらゆる心霊スポットに行き、妖怪を探すほどだ。結局は見つからずに幽が落ち込んで、願いを叶えることの出来ない情けない兄だと思って1週間も何も喉を通らなかった程だ。

 

 そんな姉の前でこの鬼たちはあることを言った、『魔化魍の王を捕まえ実験に掛ける』と–––

 

 その言葉を聞いた春詠は慧鬼に変身し、目の前にいる散鬼たちを一方的な攻撃で腕や脚を撃ち抜いたのだ。しかも僅か30秒でこの惨状を作り出したのだ。

 

 だが、1つ言うとしたらこの姉の起こした惨劇は他の兄弟に比べたら比較的に優しい方なのだ。

 

「そういえば白が、人間()が足りないって言ってたけ」

 

 ポンっと手を叩き、思い出す慧鬼は唐傘の使っていた空間倉庫の術を使い、散鬼たちを空間に保存した。

 

「これで少しは土門たちの腹の足しになるでしょう」

 

 慧鬼は春詠の姿に戻り、囚われの魔化魍の捜索に戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 急に第1支部内部が騒がしくなってきた。走り回っている研究員から話を聞いてみると、魔化魍の王が来たと言った。

 

「!!」

 

 この話を聞き、私はチャンスだと思った。今のこのタイミングなら保管庫に見張りはいない、私の変身鬼弦を取り戻せる。

 そう思った私は、保管庫に向かった。

 

 保管庫に向かって走り続けてると、赤い扉が見えて来た。

 だが、赤い扉の目の前には鬼が立っていた。この時、私の脳裏にあの男の下卑た笑みが横切った。しかし、今諦めたらショウケラやジュボッコ、アカエイ、アオサギビを助けられない。

 覚悟を決めて、もう一度扉を見ると………違和感に気付く。

 

 あの鬼、私を視認出来てる筈なのに攻撃してこない。あの男の方針で疑わしきは仲間でも殺せがモットーになりかけてる鬼なのに。

 そして、その理由が分かった。

 

「………これは」

 

 鬼は立ちながら死んでいた。しかも鬼の首は斬られてるようだが、斬った後に元の場所に戻すように首を置いた様な死体だった。

 何故この様な事になってるのか気になったが今は、変身鬼弦を取り戻すことが優先だ。

 

 死体を壁に寄りかからせて、私は扉を開ける。まず目に入ったのは。

 

「そろそろ来る頃だと思っていましたよ調鬼」

 

 あの男の隣によく立っていた男が積まれてる木箱の上に座っていた。




如何でしたでしょうか?
今回はこの様な話です。次週をお楽しみに


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記録参拾玖

どんどんいきますよ。
今回は囚われとは違う新たな魔化魍が・・・そして、調鬼推参。


SIDE調鬼

「そろそろ来る頃だと思っていましたよ調鬼」

 

 そう言うのは、この北海道第1支部のNo.2と言ってもおかしくない変わり者の南 瓜火だった。

 

「南さん、何故ここに」

 

 私は早く変身音弦を取り戻して、ショウケラ達を助けたいと思いながらも怪しまれないように目の前の男に聞く。

 

「貴女の探し物です」

 

 そう言って、私に何かを投げる南さん。そして、その何かは私の変身鬼弦 調音(ちょうおん)だった。

 

「何故これを探してると」

 

「ショウケラ達から貴女がそれを持っていればと言うのを何度も聞いたからです」

 

 私の質問を淡々と答える南さん………あれ、今聞き捨てならないことが聞こえた気が。

 

「聞いたって………誰から?」

 

「ん………ショウケラ達からですが」

 

 えっ………えええええええええええ。

 

「何で言葉が理解できるですか?!」

 

 調鬼が驚くのも無理はない。本来魔化魍は鳴き声の様な声しかあげない。それを聞いたと言ったこの男。

 例えるなら、グロンギの言葉を聞いて人間がグロンギ語で喋り返す程、可笑しい事なのだ。

 放心状態の調鬼の前に移動し、顔の前で手をパンと叩き、その音で意識を取り戻す調鬼。

 

「いや今は何でショウケラ達の言葉が分かるのかは置いときます。貴方は私の味方なんですか?」

 

 調鬼の言葉を聞き、うーーーんと声を出す南。数秒程、唸ってると口を開く。

 

「私はある者から頼まれて、此処に潜入しました………」

 

 すると、南の白衣が突然、燃え始める。突然の出来事に驚く調鬼。

 

「その目的は此処に囚われてる魔化魍の救出………」

 

 今度は、下のズボンが燃える。やがて肌が見えてきたが、それは人間の肌というより岩の様なゴツゴツとした肌だった。

 

「そして、救出した魔化魍を王に保護してもらう為」

 

 炎は南の全身を覆い、服は完全に燃え尽き、灰となって宙を舞う。

 そこに居たのは南 瓜火では無かった。

 

 その姿は溶岩の様に燃える岩の体躯、ボロボロな灰色の腰巻き、赤い罅が入ったゴツゴツした腕、そしてミラーボールくらいの大きさの南瓜の様な頭、ギザギザの様な口の奥には炎が見える。

 

 南 瓜火改め、5大五行魔化魍の1体、『炎の南瓜頭』または『提灯ジャック』、『中心の炎』の異名を持つジャック・オ・ランタンが調鬼の前に姿を現した。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE飛火

 今日はいつにも増して王様が怒ってた。

 まあ、いつかの時のように黒と羅殴が殺されそうになった時にキレて鬼を殺した私も王様のことをどうこう言うのは可笑しいけど。

 って、こんな事を考えてる場合じゃない、早く吸わなきゃ(・・・・・)

 

 飛火の足元にはいくつもの灰が重なるように落ちていた。だが、一部の灰には人間の指や焼けてる服の破片が混じっていた。

 察しのいいお方はもう分かるかもしれないが、この灰は全て、傭兵だった者の灰だ。

 

 飛火が廊下を歩いてる時に出会った傭兵5人を一瞬の内に灰へと変えた。

 

 飛火は灰を尻尾で掻き集めて、山のようにしてそれを吸い込む。

 全部吸い込んで、満足したのか尻尾がゆらゆらと動き、飛火は新たな灰を求めて移動を始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEショウケラ

 建物の周りが騒がしくなった。研究員が魔化魍が攻めてきたと叫び、部屋に置いてある資料を慌ててどっかに持って行っている。

 まあ、酷く滑稽に見える。散々、オレ達を実験していた連中が無様な姿を晒しているのが面白い。

 

クルルウウウウウウウ

 

 オレの声に研究員の1人が檻に近付く。

 

「魔化魍が何笑ってるんだ」

 

 つい先程の実験で聞かされた音撃によって弱っているオレの身体は唯の人間の道具でも僅かな傷になる。

 

「ははは。お前ら魔化魍は所詮、人間に実験される獣と同じだ」

 

 男の笑い声がオレの身体に響く。だが–––

 俺の耳にある足音が聞こえる。 

 

「あぐりです」

 

「如何した!!」

 

「急ぎの用事で兎に角、扉を開けてください」

 

「分かった」

 

 男が扉に近付き、扉の鍵を開ける。

 

「ありがとうございます」

 

 そして扉を開けた瞬間、男の身体は斜めに斬られた。

 

「はっ…………」 

 

 斜めに斬られた男は斬られた事に気付かずに死んだ。

 そこに立っていたのは1人の鬼だった。体色は山吹色で、右側の鬼面に罅があり、左肩から腰にかけて鳥の翼を模した鎧が着いている。

 手には先程、研究員を斬り裂いた彼女の武器、音撃三味線 調奏がにぎられている。

 

 他の研究員は驚いた。何せ同僚でもあり鬼でもある彼女が人間を殺したからだ。

 

「調鬼貴様ーー」

 

「五月蝿い」 

 

 音撃三味線の撥が研究員の首を掻っ切り、血が勢いよく飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 そして、数分経過した。

 辺りの床は血で汚れて、調鬼自身も血で濡れていたがそんな事を気にせずに調鬼はオレに近付く。檻を撥で斬り裂き、面のみを外して、微笑みながらオレに手を差し出す。

 

「助けに来たよショウケラ」

 

 顔を除いた身体は血に濡れていても、オレは綺麗だと思った。




如何でしたでしょうか?
次も早く書いて、次の第3支部も書かないと。


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記録肆拾

前回の投稿から5日ぶりです。
今回は、2体のオリジナル魔化魍が出ます。


SIDE◯◯

 困った、非常に困った。彼奴らに動けないようにと打ち込まれた対魔化魍拘束杭で身動きが一切出来ない。

 隣のアオサギビの場合は、反感する態度を示したせいか自分より危険な状態だ。連中がなんだか大騒ぎしてるのでこの機会にアオサギビを抱え脱出しようと思っているが、動けなければ意味がない。

 

 出来ることといえば、身体から伸ばした根をこの扉の向こうにいる誰かに助けを求めるだけ………ん?

 

 誰かが根を触っている。感触からして人間では無い。どちらかと言うと………魔化魍だ。先の尖ったものでツンツンとされている感じだ。

 

【誰かいるの?】

 

 扉の向こうから、根を触っている魔化魍から声を掛けられた。

 

【そうだ!! そこの扉を壊してくれ!! 仲間が危険なんだ!!】

 

 今のチャンスを逃したらまずいと自分は思い、声を張り上げる。

 

【!! 分かった!!】 

 

 すると、扉に何かが貫く音が何度も聞こえる。扉は数秒で穴だらけになりそこから魔化魍が勢いよく飛び出て、姿を現わす。

 王に仕える魔化魍であり家族 イッタンモメンの鳴風だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE鳴風

鳴風

【これは!!】

 

 鳴風が見たのは、全身に杭を突き刺されている2体の魔化魍だった。

 四肢に黒い杭を壁に突き刺されて拘束さられている睡樹に似た植物の魔化魍と全身に杭を打ち込まれている両翼に青い光を灯す鷺に似た魔化魍だった。

 おそらく、この2体が波音の言っていたジュボッコとアオサギビの2体だろう。

 今は杭を引き抜かないと思い、私は尻尾を使って、1本1本丁寧に杭を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 数分経ち、鳴風は2体に刺さっていた全部の杭を引き抜いた。改めて、2体の様子を見る。

 ジュボッコは植物の魔化魍のお蔭か、身体に空いてる穴は植物魔化魍特有の自己再生で直している。だが一方、アオサギビの場合はかなり危険な状態だった。嘴は罅だらけ、両翼は逃げられないようにと言うように杭が刺さっており、右翼は根本から千切れかかっている。胴にも杭によって空いた穴だらけで傷からドクドクと黄色い血が流れている。

 

鳴風

【兎に角、王の所に連れていくから着いて来て】

 

【分かった】

 

 私は少し大きくなってアオサギビを脚で掴む。ジュボッコも乗せようとするが–––

 

【自分は大丈夫だ。それに自分にはやる事がある】

 

 と言って、壁を脚の根で破壊して、何処かに消えた。

 ジュボッコが空けた穴から部屋を出て、私は王の元に向かう。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヒトリマ

 しまった。喰うのに夢中で王を見失ってしまった。困った、このままでは1ヶ月炎食禁止をヤドウカイに言い渡される。

 どうすっか。

 

【如何するの?】

 

 クダギツネの言葉でヒトリマは考える。

 もしも、王を影から護衛するのに失敗したら1ヶ月炎食禁止これはヒトリマにとっては死活問題なのだ、ヒトリマは人間を食べるが、人間よりも炎を喰らう方が栄養になるのだ。味気の無い人間より炎の方が美味いというのがヒトリマなのだ。

 そんなヒトリマは1日でも抜くだけでも地獄というのにそれを1ヶ月と言われたのだ。何としても王を見つけ、危機的状態の場合、王を守らなければいけない。

 

【兎に角、今は王の側に行くのが良いだろう】

 

【うん】

 

SIDEOUT

 

 

SIDEクダギツネ

 どうしよう、どうしよう、どうしよう

 

 ヒトリマが炎食禁止の事を考えてた時に、クダギツネも似たような事を考えていた。

 そう。クダギツネも実はヤオビクニこと沖野 美岬にある事を言われたのだ。それは–––

 

 特製油揚げの1ヶ月禁止

 

 そんな事と思うかもしれないが、クダギツネにとってはこれはヒトリマと同じような理由なのだ。

 それを言われたクダギツネは全力で王の護衛をするつもりだったが、結局はヒトリマと喰うのに夢中で王達を見失ったのだ。

 

【如何するの?】

 

 クダギツネは、ヒトリマにこの状況を如何するのかという事で聞いた。

 この時、ヒトリマも似たような事を考えていたとはクダギツネは知らない。

 そして、ヒトリマは口を開く。

 

【兎に角、今は王の側に行くのが良いだろう】

 

【うん】

 

 ヒトリマの言葉でその通りだと思い、クダギツネもそれに肯定する様に答え、ヒトリマはクダギツネの竹筒を咥えて王の所に向かった。




如何でしたでしょうか?
今回のオリジナル魔化魍は覇王龍さんのジュボッコ、アオサギビを出させて頂きました。覇王龍さんアイディアありがとうございます。
そろそろ終わりに近づいて来ました。
これが終われば、いよいよヤドウカイとヤオビクニに会います。


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記録肆拾壱

お待たせしました。
第1支部の話はこれを除いて、後1話の予定です。


 あああ、無力だ。私は無力だ瀕死の重症を負った魔化魍1体を助けられない程、無力だ。

 

 私の目の前には、鳴風に連れられたアオサギビという魔化魍が横たわっている。このアオサギビも波音の囚われた仲間の1体だ。

 アオサギビの周りには赤、鋏刃、浮幽、穿殻がアオサギビの怪我の手当てをしているが。

 

 私には何故か分かる。激しく呼吸するアオサギビ、このままではおそらく消える(死ぬ)

 そんなのは駄目だ。私が如何にかして………でも如何すれば?

 

 そんな私の頭に声が聞こえる。

 

【仕方ないなぁ、今回はウチが(ぬし)に力を貸したるわぁ】

 

 声が聞こえなくなると同時に私は意識を失った。

 

SIDE赤

 私は有り得ないものを見ている。私たちがアオサギビの怪我の手当てをしていると王が突然倒れ、少しすると立ち上がった。

 ただ………王の様子は明らかにおかしかった。

 

 そう思ってると、王の身体が光り始め、私や鋏刃たちはあまりの眩しさに目を塞ぐ。

 光が治り、其処には王がいたが、その姿は変わっていた。

 

 長い黒髪は不純の無い綺麗な白髪に、服は厚い防寒コートから赤紫色の和服に、肩には鬼瓦を模した肩当て、腰に薄茶色の瓢箪をぶら下げ、額には王の証の青い龍の痣、頭頂部に2本の角を生やした姿に変わる。

 その姿を見て、ある王を思い出す。

 

 その王は、鬼と似た姿をしているが魔化魍であり、人間の血と米を発酵させて作った酒を呑む。その酒は人間には猛毒だが、魔化魍に対しては癒しと快楽を与える。そんな酒を使った王は歴代の中でもただ1体。

 その王の名はシュテンドウジ………………現魔化魍の王 安倍 幽冥の先代ともいうべき8代目の魔化魍の王である。

 

【ふうーー懐かしき現世やなぁ】

 

 王が少し間の空いた声で喋り始めて、腰の瓢箪を口に付ける。

 

【んく。んく。ふうー。ちぃぃとその子見せなぁ】

 

「わああああ」 

 

 瓢箪を口から離すと消えて、いつの間にか私の目の前に王が立っていた。

 そしてアオサギビに近付き、アオサギビの罅割れた嘴に口を付け、何かをアオサギビの口に流し込む。

 アオサギビの身体を薄緑色の光に覆われて、その変化が直ぐアオサギビの身体に表れる。

 

 嘴の罅は消えて、千切れそうだった翼は内側から筋繊維の様なものが傷を繋ぎ初めて元に戻る。身体の穴も塞がって、激しかったアオサギビの呼吸は穏やかなものに変わる。

 それを見た鋏刃たちは安堵した顔をする。

 

「んく。んく。これで、大丈夫やぁ」

 

「待ってください!!」

 

 私の声で王はこちらを向く。

 

「貴女様は先代の王 シュテンドウジ様ですか?」

 

 私の言葉で、鋏刃たちは静かになる。

 

【せや、今は(ぬし)の身体を使ってんけどなぁ。ウチは先代の王 シュテンドウジやぁ】

 

 王の身体を借りたシュテンドウジ様の声が私たちの耳に響く。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEクダキツネ

 あの後、何とか王を見つけ出して、遠くから眺めてたらのあの言葉。もうビックリ。

 

【驚いたね】

 

【ああ】

 

 クダキツネの言葉に肯定するヒトリマ。それはそうだ。死んだはずの先代の王が現魔化魍の王の身体で現れたのだ。

 

【でも、何で先代の王が?】

 

【おそらく、王が何かしたのだろう】

 

 その言葉にクダキツネはヤオビクニが言っていた言葉を思い出す。

 魔化魍でも家族と言える人間。

 それを思い出していたクダキツネは気を失ったように倒れる王を見て、嫌な予感がして王の所に幾つもの分体を放とうとするが、その前に王の家族の魔化魍が王を支えていた。

 

 危なかった。危うく出て、見つかるところだったとクダギツネは思い。幽冥の監視に戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE調鬼

 ショウケラは助けたし、ジュボッコとアオサギビのいた部屋は大きな穴が空いていて、誰も居なかった。おそらく南さんが言っていた魔化魍の王の仲間が助けたのだろう。アカエイは南さんが助けると言っていたので、問題は無い。

 

 だから、私はこの子達の為に志々田支部長を殺す。ショウケラにも魔化魍の王の所に向かってと言っても追いかけてくるので、そのまま支部長室に向かった。

 

 やっと支部長室に着いたと思った瞬間に部屋の中から扉と何かが吹き飛び、私の方に向かってくるが、ショウケラが目の前に立ち、扉を爪で切り裂き、私は飛んでくる何かを受け止めると–––

 

ユレレレ……レレ

 

 ボロボロな姿のジュボッコだった。

 

「ジュボッコ!!」

 

 ボロボロなジュボッコを降ろして、身体を見ようとするが。

 

「何だ。落ちこぼれか。その下等生物を早く檻に戻せ」

 

 聞き覚えのある傲慢な喋り方に誰がいるのか分かった。

 扉の無い部屋から出て来たのは、ここ第1支部の支部長の志々田 謙介だった。

 

 だが、その右腕はまるで魔化魍のような異形のような腕だった。




如何でしでしょうか?
次回は調鬼&ショウケラ、ジュボッコVS志々田 謙介をお送りします。


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記録肆拾弐

大変待たせて申し訳ございません。

今回は調鬼&ショウケラ達VS志々田 謙介のつもりでしたが、その戦いの前に遂に王自身を戦闘に参加させます。


SIDE調鬼

 何ですかあの腕は!!

 

 私の視線の先にいる北海道第1支部支部長 志々田 謙介の右腕は人間の物では無かった。

 全体的に緑色で蛙のイボの様なブツブツが沢山ある不気味な腕で爪が人間の平均を上回るかの様に生えていた。

 まるで–––

 

「魔化魍のようだ………かな」

 

「っ!!」

 

 心を見透かしたかの様に吐いた台詞に私は驚く。

 

「私の研究目的を忘れたかな調鬼」

 

「っ!!」

 

 この男の言葉で思い出す。そう此処は魔化魍を人工的に作り出すのが目的。その副産物であの腕になったのだろうと私は推測した。

 

「本当は魔化魍の王を捕まえる為に使おうとしたんだが、予想以上にその下等植物がしつこくてな。使わざるおえなかったんだよ」

 

ユレレレレレ

 

 ジュボッコが自身の傷をツタで覆って治すが、明らかに疲労している。

 

「ジュボッコ、もう休んで」

 

 私の言葉を聞いてジュボッコは断る様に首を横に振るが、ショウケラがジュボッコの心臓近くの所を手刀で叩きつけると、ジュボッコは意識を失って倒れる。

 私はジュボッコを戦闘の被害の無い場所に移動させる。

 

「ふん。完全に裏切った様だな調鬼」

 

「そうです。もうこれ以上この子達にあんな事をさせない為にも!!」

 

「まあ良い。お前達を殺した後に魔化魍の王を捕まえればいいだけだ」

 

 すると、志々田は消える。いつの間にか私の右側にいて異形の右腕を振り下ろされる。

 

クルウウウウウウ

 

 が、ショウケラが爪で志々田の右腕を突き刺し、動きを止めている。

 

「ぐううう!!」

 

 人間じゃない腕でも痛覚がある様で痛みの声をあげる志々田。その隙に調鬼は音撃三味線の撥で右腕の肘から先を斬り落とす。

 

「があああああああああ!!」

 

 腕を斬り落とされ、かなりの声が響く。だが、志々田は服の中から緑色の液体の入った注射器を3本取り出す。

 そして、それを自分の身体に一気に刺して、中の液体を身体へ注入していく。

 

「………………」

 

 中身のない注射を抜き捨てると志々田の身体はガクリと下に向き。

 

「あはははははははははははははは」

 

 狂った笑い声をあげる。

 

「あギィイぎゅがあららばゔぁありああ!!!!!!!」

 

 そして笑い声から不気味な声に変わり、志々田の身体が変化する。

 上に羽織っていた白衣はビリビリと音が鳴り、背中に背鰭の様なものが複数生えて、身体が大きくなり人間の3倍はある大きさに変わる。

 切り落とされた腕と同じ異形の腕が斬られた断面から生えて、左腕や両脚も同じ様に変わっていく。ズボンからは刺々しい尻尾が姿を現わす。

 顔も人ではなく口を半開きにして涎をだらだら垂らす大山椒魚のような顔に変わっていた。

 

 志々田だったものは最早、理性の無い怪物だった。

 そして、焦点の合っていない眼が調鬼たちの眼に合うと、涎をブチまけながらこっちに向かって突進する。

 

 さっきまで人間だった化け物が突進してくるが調鬼は冷静に自身の武器 音撃三味線 調奏を構えて、弦に撥を掛ける。

 

ギィィィヤヤガガガガガガアアアアアアァァァァ

 

 迫り来る化け物が何か弾き飛ばされ、壁に激突した化け物は外へ弾き飛ばされた。

 そこに居たのは–––

 

カッカッカッカッ  ピァァァァァァ

 

 此処に潜入していた魔化魍 ジャック・オ・ランタンと囚われていた魔化魍 アカエイだった。

 

SIDEOUT

 

 目を覚ましたら、瀕死に近い傷だったアオサギビの怪我は完治して私の前でじっと私を見つめている。

 そして起き上がって気付いたが、私の服が防寒コートからシュテンドウジさんの着ていた赤紫の和服になり髪の色も黒から白に変わっていた。というかシュテンドウジさんと似た姿に変わっていた。

 

––––アアアアアアァァァァァ

 

 そんな自分の変化に驚いていると壁が割れる音と叫び声とともに猛士の北海道第1支部の建物の2階から何かが瓦礫と一緒に落っこちてきた。

 それは所々に破れた服が付いてる化け物だった。

 化け物は血走った眼で、私を見つめて咆哮をあげ、不気味な両脚を動かして私の方に向かってくる。

 

 私は迫り来る化け物を見て殺意が湧いた。何故か分からないけど分かる、この化け物がアオサギビや囚われてた魔化魍に実験をした張本人なのだと。

 そして、私は私の事を守ろうとする仲間(家族)を手で制し、動きを止めた。

 

SIDE赤

 得体の知れない化け物が王に向かってくる。

 私も含めて、土門や鳴風、顎たちも一斉に王を守る為に動こうとするが、王が手で制すと私達の身体が動かなくなった。

 

 そして、いつの間にか王の手には先程、アオサギビの傷を癒すのに使った瓢箪があり、それを呑み、瓢箪に吹き掛ける。

 すると瓢箪は形を変えて、柄に瓢箪の蓋が付いた巨大な太刀へと形を変える。

 

 王はそれを構えて、化け物に向かって走る。土門たちの話によると、王は今まで戦ったことがないと言っていたが、今の王は明らかに熟練の戦士の様な動きをしている。

 

 化け物にすれ違いざまに太刀を腹に食い込ませて、顔に蹴りを叩き込み、衝撃で飛ばされそうになると腹に食い込ませた太刀を掴み、引き抜く。

 化け物の腹から大量の緑色の血が流れる。化け物は激昂して、自身の爪を王に向かって振り続ける。

 その攻撃を太刀と少しの体制移動で躱す王。隙を見て、王は化け物の顔に拳を叩き込み。遠くに殴り飛ばした。

 

 戦闘が始まって数十分経った。

 初めは優勢だった王も少しずつ劣勢になっていく。

 それはそうだ。初めて戦ったにしては充分だ。そして、王の身体に化け物の爪が入り、白い肌の左腕から赤い血を流す。

 その痛みで王は手に持つ太刀を落とす。そして、ふたたび爪を王に振り下ろそうとする化け物だったが。

 

「はああああ!!!」

 

クルウウウウウウウ  ピァァァァァァ

カッカッカッカッ  ユレレレレレ

 

 王を守るかの様に上から落ちてきた1人の鬼と4体の魔化魍が化け物を弾き飛ばす。

 化け物は第1支部の壁に叩きつけられる。

 

 そこに立っていたのは、猛士の鬼と謎の魔化魍とそして私達の仲間のショウケラとアカエイ、ジュボッコだった。

 

「ぐがらうああああああああああああああ!!」

 

 化け物は攻撃を邪魔されたことが原因か壁から飛び出し、ショウケラ達の方に向かってくる。

 

ピァァァァァァ  カッカッカッカッカッカッカッカッ

 

 だが、アカエイが尻尾の先にある突起を銃弾のように飛ばし、化け物の右肩を貫き、謎の魔化魍のゴツゴツとした腕に炎が灯され、その炎を化け物に向かって放つ。炎は化け物の身体に勢いよく広がり全身を包み込む。

 

「ぐぎやああああああああああああああああ!!」

 

 悲鳴に似た叫び声が響く。

 次にショウケラが動いて化け物の近くに移動する。化け物はショウケラに向かって爪を振り下ろすが、爪はショウケラの身体に触れた瞬間に粉々に砕けて、化け物は動揺する。

 その隙にショウケラは尻尾の提灯を化け物の両眼に届く所に向ける。

 

クルウウウウウウウ

 

 尻尾の提灯から放たれた強烈な光が至近距離に浴びせられた化け物の両眼は焼く。

 

「ぐるあああああっあああああああああっあああああ!!」

 

 両眼を焼かれた化け物はゴロゴロと情けなく地面を転がるが、地面から出てきた無数の根が化け物の身体を拘束する。ショウケラの背後にはジュボッコが立っていて、根の脚がうねうねと地面の上で動いていた。化け物はそのまま直立させられ、身動きは止められていた。

 その近くには、鬼が立っていた。

 

音撃響斬(おんげききょうざん) 付和雷同(ふわらいどう)

 

 止めというばかりに調鬼の持つ音撃三味線から雷の清めの音が化け物の動きを完全に止める。そして撥を水平に持ち、化け物に向かって撥の連続切りを行う。

 化け物の身体は音撃三味線の撥によって、どんどん削られていき、虫の息となる。調鬼は撥に紫電を纏わせて化け物の首を勢いよく掻っ切る。

 化け物の首は身体から離れて、ゴロゴロと転がる。

 根で拘束された化け物の身体は塵のように変わって、同じように遠くに飛んだ首も塵となり空へ散っていた。

 

 あらゆる魔化魍を人体実験に掛けていた猛士北海道第1支部の支部長 志々田 謙介はその名を幽冥たちに知られることがなく塵となって消滅した。

 

 王はその姿を見た後に、倒れそうになるが王の姉である慧鬼さんがいつの間にか現れて、王を腕に抱えていた。よく見ればシュテンドウジ様の姿から元の王の姿に戻り、慧鬼さんの腕で王は安らかに眠っていた。

 

 そして、私たちはこの場にいる慧鬼さん以外の鬼に対して警戒をするが、ショウケラやアカエイ、ジュボッコに王に治療されるまで瀕死だったアオサギビまでもが鬼を庇うように前に立つ。

 鬼の全身が光り、鬼の人間としての姿を現す。男性が着るような大きな白衣を着て、額を隠す程度に伸びた黒の髪の女性が姿を現す。

 

「私はこの子達の面倒を見ていた鬼 調鬼と申します」

 

 ショウケラ達以外の魔化魍からは敵意の眼を向けられているのに臆することなく鬼は私達に挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 そして、そんな風に話をしていた所為で赤たちは気付かなかった。調鬼やショウケラ達と共に戦っていた謎の魔化魍ことジャック・オ・ランタンがいつの間にか姿を消していたことに。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEジャック・オ・ランタン

【まだ、挨拶は出来ませんが、いつか挨拶させて貰います今代の王】

 

 そう言って離れようとしたジャック・オ・ランタン目掛けて炎の龍が迫る。

 ジャック・オ・ランタンは避けずに右手を突き出して炎の龍の頭を掴み、そのまま握り潰した。

 

【お前は誰だ?】

 

【このままバイバイといった感じじゃ逃がさないよ】

 

 やっぱり居ましたか、ヤドウカイとヤオビクニの仲間が、っま問題はありませんが

 

【今はあまり私の存在を知られたく無いんです】

 

【関係無い、捕まれ!!】

 

【そうです】

 

 ヒトリマとクダキツネの炎と分体の攻撃が私に目掛けて来るが。

 

【【なっ!!】】

 

 ヒトリマとクダキツネの攻撃は私の目の前に発生した幕に飲み込まれて消えた。

 迎えが来たようですね。

 

【また何時かお会いしましょう】

 

 私はそう言って、幕に飛び込んだ。

 ジャック・オ・ランタンが幕に飛び込むと幕は消えて、ヒトリマとクダキツネはその光景を見ているだけだった。




如何でしたでしょうか?
長かった北海道第1支部の戦いが終わりました。さあ、次はいよいよヤドウカイ&ヤオビクニに王が会う!!


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記録肆拾参

はい。新話です。
今回は幽冥とクダキツネとヒトリマの会話にヤオビクニこと沖野 美岬に衣鬼とミイラの会話をお送りします。


「ありが…ひっぐ………とう、ありがとう……ひっぐ、ありがと……うううう」

 

 猛士の北海道第1支部から囚われた波音の仲間とともに帰って来た。

 波音(擬人態)は囚われていた仲間の姿を見て、私に飛びつき涙を流しながら感謝の言葉を言う。

 最初に会った頃とは違って、見た目通り(人間として見たら)な状態になっていた。

 

 私が波音をひなや白と黒に面倒を頼んだのはこの為だ。

 波音は無理してあんな風に喋っていたが、本当は幼い少女と変わらない。自分が無理しなきゃ仲間を救えないという考えで、幼い自分をの本心を閉じ込めて、大人のような態度をするようになった。

 

 だが、私という存在に会い、ひなのような同年代(人間として見たら)と遊び、仲間も全員救われて、もう無理する必要がないと思った波音はこのようになった。

 

「すーーー」

 

 泣き疲れたのか波音は抱きついたまま眠ってしまった。

 

「さてと、次は貴方達の用事を聞きましょうか?」

 

 そう言って、幽冥の振り向いた先には。

 

ボオオ  コン

 

 浮幽の無数の触手に拘束された頭に炎を灯した二足歩行の蜥蜴の魔化魍と土門と唐傘の吐いた糸でグルグル巻きにされている竹筒に入ってる細長い白狐の魔化魍がいた。

 

「貴方達は何で私達を見ていたんですか?」

 

 この魔化魍たちは、私が謎の化け物と戦っている時に視線を感じて、化け物が調鬼さんに倒された後に視線のあった所に向かうとこの2体がいた。その後、逃走しようとするも土門と唐傘、浮幽の手によって捕まり、この状態に至る。

 私の問いに困ったという感じで唸る蜥蜴の魔化魍。

 

【初めまして………というべきか、王よ】

 

 えっ? 今の声ってこの子から?

 そう考えてると–––

 

【喋ってるのは僕たちです王様】

 

 今度は、糸でグルグル巻きにされている竹筒から顔を申し訳ないようにひょこりと出してる白狐の魔化魍から声が聞こえた。

 

「喋れるんですか? 貴方達は?」

 

【ん? 喋れるよ王様】

 

【クダキツネ、普通は知らないぞ】

 

 何を当たり前な事をって感じで私に喋る白狐の魔化魍にツッコミを入れる蜥蜴の魔化魍。

 

【俺はヤドウカイの仲間のヒトリマ】

 

【僕は美岬様に仕えるクダキツネ】

 

 2体は私に自己紹介する。

 とりあえず私に対して何か攻撃をするという訳ではなさそうだ。土門と唐傘、浮幽たちに拘束を解いてもらった。

 

【王様王様。僕たち、王様をある所に案内したいの】

 

「ある所?」

 

【そう。僕の主 美岬様とヒトリマの仲間のいる所に】

 

SIDE美岬

 遅いですねクダキツネ。

 王に万が一の危険が迫った場合の為に、ヤドウカイの仲間のヒトリマと共に行かせたのですが。

 

 戻ってくる気配もない。

 これは罰としていた特製油揚げの1ヶ月禁止ではなく3ヶ月禁止にした方がいいかもしれません。そう考えてると–––

 

「………美岬様、報告です」

 

 私の後ろからハンニャが現れ、頼み事の報告に来ていた。

 

「それで、クダキツネ達は?」

 

「報告、クダキツネとヒトリマは王に見つかり拘束されたと」

 

 はあーー。

 何をしているんですかクダキツネは、見つからないようにと言っておいたのに王に見つかるとは、これは特製油揚げだけじゃなく特製団子も禁止に––––––

 

「それとクダキツネが王たちを連れてこちらに向かってます」

 

 ………………ん? あれ?

 

「んっ?」

 

 私がクダキツネの罰を考えてる時にハンニャから聞き逃せない内容が聞こえた。

 

「ハンニャ、もう1回同じこと言ってもらっていい」

 

「それとクダキツネが王たちを連れてこちらに向かってます」

 

「えええええええ!!」

 

 …………………嘘。

 クダキツネ何をやってるんですか!! こっちはまだ迎える準備もしてないのに、まず身体を洗って、髪を梳かして、アズキアライ達に料理を作ってもらわないと、それにあの子の好物も作って、あっ春詠さんの分も作らないと。それから………」

 

 そうやって考えてると

 

「………………美岬様、心で喋ってるつもりかもしれませんが聞こえてます」

 

「////////!!」

 

「王に会えるのが嬉しいのは分かりますが少し落ち着いてください」

 

 ハンニャの言葉を聞いて恥ずかしい気持ちになり手で顔を覆った美岬が元に戻ったのは、王が廃寺に辿り着く少し前だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 美岬ことヤオビクニがハンニャに恥ずかしい所を見られてる同時刻。

 廃寺から少し離れた所にある隠し扉で隠されてる地下に続く階段。ここはまだ寺に美岬たちが住む前にいた者たちが造った部屋である。

 辺り一面が暗く、光が一切入らない部屋で、その奥には2人の人間が壁から伸びる鎖に繋がれていた。

 

「う、ううう………此処は?」

 

 1人はマシンガンスネークと戦い、戦意喪失で敗北した猛士北海道第2支部の角こと突鬼。その服は囚人のような白黒の線の入った格好で、腕にはジャラジャラと手錠と鎖の音が鳴る。

 

「目が覚めたんですね突鬼」

 

「えっ?」

 

 突鬼は隣から聞こえる声で隣を向くと。

 

「衣鬼!! なっ!!」

 

 同じ猛士北海道第2支部の角 衣鬼だったが、その姿を見て突鬼は戸惑う。

 

「………衣鬼。その格好は?」

 

「言わないでください////////////!!」

 

 その格好は、突鬼の貧乏そうな囚人服とは違い、王族の妃に着せるような高価な服で、胸元には赤の宝石が埋め込められたペンダントを着けている。明らかな格差を感じた。

 

【フハハハハハハ、やはり似合うな】

 

 突然笑い声が聞こえ、衣鬼は憎悪の視線を部屋の入り口に向ける。突鬼はそれにつられて同じ方向を見る。

 そこには衣鬼と戦った魔化魍 ミイラが本体を現して立っていた。

 

【そろそろ決心してくれたか我の妃になるのを】

 

「き、妃!!」

 

 突鬼はミイラの言った言葉に驚き衣鬼を見る。

 

「何度言われても嫌です!!」

 

【フハハハハ、その割にはその服を気に入ってるようではないか】

 

「これは服が無いからその代わりです」

 

 ミイラは北海道第2支部を襲撃した際に戦った衣鬼を気に入り、そのまま連れて来たのだ。だが、鬼でもあるので変身音叉や札などの道具は全て美岬に回収されている。無論、突鬼の変身音叉もだ。

 そして、ミイラは衣鬼のいるこの部屋(突鬼も居るがミイラは気にしていない)に何度も訪れ、『妃になれ』と言う。ある程度会話をすると帰るというのを繰り返していた。

 

 実はミイラが本体を晒して外にいるのはかなり珍しい。

 ミイラは元々、古代エジプトにいた暴君のファラオが自分にもしもの事があった時の為に作られた『ファラオのスペア』といえる人造魔化魍なのだが。作り出した暴君のファラオに反逆した事で棺桶に閉じ込められた。

 そのファラオが死に、存在が明かされる事なくピラミッドの中で眠っていた。それから長い時を経て、墓荒らしによって、ミイラを入れていた棺桶が開かれ何百年の長い時から眠りを覚ましたミイラは墓荒らし達を喰らい、ピラミッドから出た。

 だが、そこには古代エジプトはなく信仰が廃れ科学の進んだ現代だった。

 自分の守ろうとした民は既に居ないことにショックを受けるが、ミイラはエジプトから離れて日本に訪れ、初めて出会ったのが美岬ことヤオビクニだった。そこから美岬を友と呼ぶようになり行動を共にしている。

 

【まあ良い、いずれお前を必ず我の物にしてやる】

 

 そう言ったミイラは長杖を地面に突くと足元から黒い何かが溢れ、姿を消した。

 

「魔化魍なのに………あっ! 突鬼大丈夫?」

 

「………………」

 

「あれ、突鬼?」

 

「きゅううーーーー」 

 

「ちょっ!! 突鬼ぃぃぃ!!」

 

 突鬼は突然なミイラと衣鬼の話についていけずにその場で気絶した。

 衣鬼は気絶した突鬼の介抱を始める。

 

【フハハハハハハ、絶対にお前を我の妃にしてやる】

 

 その光景をミイラ見られてたのに気付かず。




如何でしたでしょうか?
ミイラは衣鬼を自分の妃にしようとした話です。
今回のこの話は、ずっと考えてた案の1つです。出せてよかった。
次回もお楽しみに


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記録肆拾肆

今回はヤドウカイが幽冥に出会った話とガシャドクロの過去の話です。


SIDEヤドウカイ

 遅い、何時なら直ぐに帰ってくるあいつ(ヒトリマ)が帰ってこない。

 珍しいと思いながら、昔のことを思い出していた。

 

 私の母が猛士の鬼と戦って死に、四国に渡り、そこでガシャドクロに出会った。それからヒトリマ、カンカンダラ、ランピリスにエンエンラに会い、数百年が経った。

 ある時、何を思ったのか私はガシャドクロ達に何も言わずに人間に化けて、東京に向かった。その時に出会ったのが幽冥お姉ちゃんだった。

 そして、何日も続けて幽冥お姉ちゃんと遊んでる時に私は気付いた。幽冥お姉ちゃんの右腕にある魔化魍の王の痣に、母の痣を何度も見ていたのでそれを見て驚いた。

 私はある事を聞いてみた。『魔化魍(妖怪)は好きかと?』魔化魍と言う訳には行かず、自分達を別の風に解釈した妖怪として幽冥お姉ちゃんに聞いてみた。

 その時、幽冥お姉ちゃんが言った言葉は今でも忘れていない。

 その後に私は幽冥お姉ちゃんに何も言わずに四国に戻った。戻って早々にカンカンダラに説教された。説教が終わった後にある噂を流し始めた。

 『人間なのに魔化魍を家族と言う王の噂』を流した。

 

 そして、8人の鬼の1人だった暴鬼を仕留めて、魔化水晶を手に入れて、ランピリスとエンエンラのお陰で総本部の魔化水晶も手に入れた。

 持っている魔化水晶は全部、幽冥お姉ちゃんに会った時に渡そうと思っている。

 

【ヤドウカイ】

 

【何ですか? ガシャ?】

 

【ヤオビクニが言っていたんだが、後少しで王が来るぞ】

 

【………………えっ?】

 

 え、ええええええええええええええ!!

 嘘、王が幽冥お姉ちゃんが来るの!! こうしちゃいられない。

 

【て、ヤドウカイどこ行くんだよ! しかも人間に姿を変えて、おい!】

 

 後ろから聞こえて来るガシャの声を無視して、私は幽冥お姉ちゃんに会う時に着る服を取りに行った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEガシャドクロ

【行っちまった】

 

 はあ、あいつは王のことになるとすぐあれだ。だが、そんな奴について行く、俺も奴に文句を言う筋合いはねえな。

 思い出すな。あいつと出会ったあの頃を–––

 

〜回想〜

 喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない喰い足りない。

 幾ら人間を喰らってもこの飢えを満たせない。俺は孤独、孤独な独眼蛇。

 

 俺は純粋な魔化魍ではない。元はただの毒蛇。俺は物好きな人間に飼われていた。その人間は俺を家族のように接してくれた。

 だがある時、飼い主は死んだ。

 

 原因は俺を連れて散歩をしてる時に魔化魍に襲われた。俺は無力だった何も出来ずにただ喰われる飼い主を見ることしか出来なかった。俺は敵を取るかのように魔化魍に飛びかかった。

 

 だが、結果は言うまでもないただの毒蛇と魔化魍だ。俺の体は上と下に別れて、片目が潰れた。魔化魍に喰われ上半身しか残ってない飼い主の側にポトっと落ちた。

 すると、最後の力を振り絞ってか血に染まった腕で飼い主は俺を優しく撫でた。

 俺はその時、この人間と一緒に死ぬのも良いかもしれないと思うが、魔化魍が再び飼い主を喰おうと向かって来る。

 嫌だ。これ以上、この人が喰われるのを見たくない。その思いが叶ったのか、俺の身体は変化していた。潰れた眼はそのままで、別れた下半身の代わりに白骨化した下半身が生えて魔化魍 ガシャドクロに生まれ変わった。

 

 その後は、一方的な攻撃で魔化魍を殺して喰らった。魔化魍を喰らった後に、直ぐに飼い主の元に向かうが既に息をしておらず、俺を撫でるために伸ばした手がそのまま冷たくなっていた。

 俺は飼い主の存在を忘れないように飼い主の頭だけを残して、残った飼い主の肉を喰らった、残った頭は溶解液で溶かし、その頭蓋骨を持ってあてもなく動いた。

 

 それからはポッカリと空いた穴を埋めるように人間を襲い喰らった。

 その何ヵ月後に出会ったのが、ヤドウカイだった。

〜回想終了〜

 

 飼い主の頭蓋骨は戦闘用に使うやつではなく、ちゃんと大事にしまっている。

 今でもそれを眺めて魔化魍になる前の記憶を思い出すことを繰り返している。これをしている時はヤドウカイ達も何も言わない。

 

 それでもガシャドクロが思うのはもう1度あの名前を呼ばれたい。ガシャドクロと名乗る前の飼い主から付けられた名前を–––

 

 このガシャドクロの願いは、あることによって叶うがそれはまた別のお話。




如何でしたでしょうか?
次回はいよいよヤドウカイとヤオビクニに幽冥達が会います。


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記録肆拾伍

はい。遂に幽冥とヤドウカイの再会です。



 海岸をかなり歩いているが未だに着かない。

 一緒について来たひなや波音は疲れて、黒と赤の背で眠っている。私は何故か疲れが無いので歩いている。白は私を背負いたかったようだけど、断ったら少し落ち込んでいた。

 

【後もう少しですので、頑張ってください王様】

 

 ヒトリマに咥えられた竹筒から身体半分を出して、道案内をするクダギツネ。

 白から聞いた話によると北海道にはヤオビクニという魔化魍が北海道にいる魔化魍を纏めているらしい。そして、その魔化魍がクダキツネの主らしい。

 そうこう考えてると、古い寺が見えて来た。すると–––

 

【ヒトリマーーーーーーーーーーー!!】

 

 寺の方角から走って来た、三度笠を被った狼の魔化魍にヒトリマが襲われた。

 黒と赤はひなと波音を背負ってるため、遠くに離れるように移動し、私の周りにいる土門たちは、戦闘態勢に移っていた。

 私は状況的に問題ないと思い、土門たちの戦闘態勢を手で制して止める。

 ヒトリマの頭をひたすら噛む三度笠の狼の魔化魍は、私と目が合うとその動きを止めた。

 

【………幽冥お姉ちゃん】

 

 三度笠の狼の魔化魍は私に近付いてくる。私の目の前ギリギリで動きを止める。すると三度笠の狼の魔化魍は急に光りはじめる。

 光りが治るとそこには昔、あの今世の両親(くず)からの暴力がそこまでキツくなかった時に遊んでいた少女 朧がいた。いや、あの時に比べると少し、いやかなり大きくなっていた。

 

「朧なの?」

 

「幽冥お姉ちゃんーー!!」

 

 朧は私に飛びつき。朧に飛びつかれて体勢を崩し、そのまま後ろの砂浜に倒れる。顔をすりすりと擦り寄せる。

 

「幽冥お姉ちゃん………その、久しぶり」

 

「うん。あの時から大きくなったね」

 

「えーと、幽、その娘は?」

 

 私と朧の話についてこれないのかお姉ちゃんが質問してくる。誰なのかと知りたいらしく土門たちもお姉ちゃんの質問に肯定するように首を縦に振る。

 

「あ、そうだった。お姉ちゃんや土門たちは知らなかったね」

 

「幽冥お姉ちゃんの友達、朧。そして、私の本当の名は………」

 

 また光ると先程の三度笠を被った狼の魔化魍の姿に戻る。

 

【私は………ヤドウカイ。5代目の魔化魍の王 イヌガミの娘】

 

 その言葉に驚き、お姉ちゃんは顎が外れそうなくらいに口を開き、土門たちはその内容で驚いたのか固まっていた。私はこれより前にイヌガミさんから教えてもらっていたから驚くことはない。

 

「イヌガミ!! 『旋風の巨狼』と呼ばれた5代目魔化魍の王の娘」

 

グルルルル!!  ピィィィィィ!!

 

 みんな驚いてると、急に海の水面から何かが飛び出して、私の所に落ちてくる。

 さっきの朧と同じようにまた砂浜に倒れる。

 

【………やっと会えた】

 

 それは人魚の姿をした魔化魍だった。波音は子供または幼女の人魚だとしたら、今私に抱きついてるこの魔化魍は大人の色気を持つ女性の人魚。

 だが、その前にこの魔化魍は1つ気になることを言っていた。

 

 『やっと会えた(・・・・・・)』とこの魔化魍は言った。




如何でしたでしょうか?
次回は幽冥とヤオビクニの話です。
そして、ヤオビクニのやっと会えたの意味とは………

次回をお楽しみに!


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記録肆拾陸

今回はヤオビクニの正体、北海道最後の刺客、新たな勢力の3つをお送りします。


 『やっと会えた』?

 ………………この魔化魍 ヤオビクニはそう言った。

 だけど、おかしい。子供の頃に遊んでいたヤドウカイこと朧がやっと会えたというのは分かるが、私の記憶にはこのヤオビクニと出会った記憶は一切無い………………無いはずなんだけど。

 

 何でだろう。何故か懐かしい人物に会えたという感じがする。そうまるで、前世のお兄ちゃんがお姉ちゃんとなって私の目の前に現れた時と同じ感じが–––

 

【如何したの幽?】

 

 返事の無い私を心配しているのか、首を傾けるヤオビクニ。すると、ヤオビクニの胸元から胸の隙間に隠れていたのか翡翠の勾玉のペンダントが出てくる。

 

「!!」

 

 これを見て、思い出す。

 そうこれは、前世で1人の友人の誕生日に誕生日プレゼントとしてあげた物、それ以来彼は(・・)、交通事故で死ぬまで、肌身離さず持っていた物。

 そして、クダギツネが言っていた言葉で思い出すべきだった。

 

「美岬? 沖野 美岬なの」

 

「美岬? 美岬君か!!」

 

 その名前を聞いて、お姉ちゃんは驚き、目の前のヤオビクニも驚くがすぐに笑顔に変わる。

 

【本当に久しぶりだよ幽】

 

SIDE◯◯

 ヤドウカイやヤオビクニ達によって壊滅した猛士北海道第2支部の建物に4人の人間が集まっていた。

 

「これで全員です」

 

「やっと揃ったか」

 

「さっさと始めようぜ」

 

 此処にいる4人の人間はこの北海道で唯一残ったの猛士の支部 北海道第3支部の鬼。そして、この北海道でもかなりの実力を持つ数少ない精鋭の鬼たちだ。

 彼らは人間を守る為に魔化魍と戦っているわけではない。人間より強いもの(魔化魍)を倒す為だけに鬼となった。

 そして彼らが集まった理由は。

 

「噂の魔化魍の王との戦いを!!」

 

 そう。猛士でも噂となっている魔化魍の王と戦う為に彼らは自分の守る場所でもある第3支部を飛び出してここに集まった。しかも余計な茶々を入れられないようにと第3支部の支部長や人間を全員殺して。

 その結果、今の第3支部の人間はこの4人のみ。

 だが彼らは後悔しない。例え、北海道の人間を全てを殺しても後悔しない。闘争こそ己が喜び。

 

 そして彼らは王と戦う為に第2支部の崩れた建物から去った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE慧鬼

 まさか、美岬君が居るとは………………あ、今は美岬ちゃんか。

 しかし、今世は私も女性になっていたが、生まれたのは私よりも昔らしい。しかも魔化魍としての名前が名前だった。

 

 ヤオビクニ。

 ある男が、知らぬ男に誘われて家に招待される。男はそこで人魚が調理されるのを見てしまう。人魚の肉の料理をご馳走として出されるが男は気味悪がって食べず、家に持ち帰る。

 そしてそれを知らずに人魚の肉を喰らって不老長寿となった男の妻または娘。妖怪というより人魚として語られることが多い。何度も結婚しても夫は死に知り合いも死んでしまったので出家して比丘尼となった。

 杉や椿、松を全国で植えて、最後は若狭にたどり着き、入定する。齢800まで生きたという事で八百比丘尼と呼ばれている。

 

 だが、語られてる八百比丘尼の話とは違い、結婚してはいたが、それは最初の一度のみで、その後は結婚していない。

 出家はしたが、髪の毛は剃っていない。普段はバレないように尼頭巾の中に髪を纏めているらしい。

 

【それにしても春詠さんも私と似た様な状態になってるとは】

 

「やっぱり、そう思う」

 

 私達2人は元々、男だ。今では割り切っているが慣れるまで苦労したものだ。そもそも男と体の状態が違うからだ。

 最初の頃なんかトイレなんかに困ったもの………って、なんか寒気が!!

 

 春詠が振り向くとジト目で見る幽冥がいた。

 幽冥に見られたことで考えるのをやめた。そして幽冥たちはヤドウカイとヤオビクニに案内され廃寺に入っていった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 幽冥達がヤドウカイとヤオビクニに会っている同時刻。

 北海道から遠く離れた深い森の奥に6体の魔化魍と1人の人間と1人の異形がいた。

 その内の1体は猛士北海道第1支部に忍び込んでいたジャック・オ・ランタンだった。

 

【今代の王は本当に面白かったですよ】

 

【良いな、僕も見たかった】

 

「駄目ですよ。貴方はまだ術を覚えていないんだから」

 

【その通り】【アンタまだ幼体だし】【………我慢】

 

【良いじゃん。ジャックだけズルい】

 

「貴様は幼い、付いて行った所で役に立たん」

 

【ううううう】

 

【まあまあ、その辺にしてあげましょう】

 

【少し言い過ぎだぜ】

 

【そうそうみんな貴方が心配なんですよ】

 

 ジャックはその光景を微笑ましく見るが、それは1つの攻撃によってその気分をぶち壊された。

 そして、その下手人は–––

 

「皆!! こっちだ!!」

 

 猛士の鬼だった。

 鬼の声で続々と集まる鬼たち。

 

カッカッカッカッ  ユラユラ、ユラユラ  オギャァァァァ

シャアアアアアアアア  ポロポロポロポロ  カラン、カラン

 

「「………………」」

 

 ジャック・オ・ランタンを中心に集まっていた魔化魍たちは鬼たちを睨む。威嚇に使う様なただの睨みではなく殺気を込めた本気の睨みだ。

 その瞬間にこの鬼たちの運命は言わずとも分かるであろう。




如何でしたでしょうか?
長い話を掛けてヤオビクニの正体が明かされました。答えは友人の1人でした。
そして、新たな勢力の中にいる異形は平成仮面ライダーの敵の1人です。
ヒントは赤紫色の武器持ち昆虫型怪人です。


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記録肆拾漆

1週間ぶりです。
作者の創夜叉です。やっと北海道編の話の締めともいうべき幽冥VS鬼を書けそうです。
長く読んでくれてる皆様、これからも人間だけど私は魔化魍を育てています。を読んでください。


【幽冥お姉ちゃんに紹介するね私の仲間】

 

「幽に紹介するよ私の友人達を」

 

 廃寺に入ってすぐに朧と美岬(2人がこう呼んでという事で)がそう言った。

 美岬が木の戸を開けると、そこには–––

 

 片目の無い下半身が白骨化してる蛇の魔化魍がいた。

 

 炎を頭に灯した二足歩行の蜥蜴の魔化魍 ヒトリマがいた。

 

 6本の腕を持つ下半身が蛇の女の魔化魍がいた。

 

 女性の持つ古パイプから出ているツートンカラーの貘の魔化魍がいた。

 

 全身がプルプルしてる肌色の玉の魔化魍がいた。

 

 鯱の頭に虎の上半身の人型の魔化魍がいた。

 

 蛇の頭部に鰐の身体を持つ魔化魍がいた。

 

 青い作務衣を着た雨蛙の魔化魍がいた。

 

 全身に包帯を巻いた人型の魔化魍がいた。

 

 黒い面を着けた和服の男の魔化魍がいた。

 

 白い面を着けた和服の女の魔化魍がいた。

 

 赤い霧を身体に纏った蝙蝠耳と翼を持つ女の魔化魍がいた。

 

 竹筒に入った細長い体躯の白い狐の魔化魍 クダキツネがいた。

 

 黒のコートにサングラスを掛けた男と古パイプを持つ黄緑の服を着た女性がいた。

 

 朧と美岬を含めて15体の魔化魍と2人の人間(?)が部屋の中に揃っていた。

 

「シャシャシャ、こいつが魔化魍の王か」

 

「想像より少し幼いですね」

 

 黒のコートを着た男と黄緑の服を着た女性が私を見てそんな感想を述べる。

 

「司郎、幽を馬鹿にするのは許さないよ」

 

「落ち着け美岬。別に馬鹿にしてるわけじゃねえ、シャシャシャ」

 

 美岬が黒コートの男に注意するが、男は気にせずなんのそのといった感じだ。

 

【こ、こんにちわ//////】

 

飛火

【うん。こんにちわ】

 

 白い顔がリンゴのように赤くなっているクダギツネが飛火に挨拶していた。

 

【ほう。かなりプニプニしてるな】 

 

シュルルゥゥゥ////

 

 睡樹の脚から伸びる蔓をプニプニと揉む蝙蝠耳と翼を持つ女の魔化魍。

 

羅殴

【…………】

 

【…………】 

 

 羅殴と鯱の頭と虎の上半身を持つ人型の魔化魍が無言で握手している。

 

【ふあああああ、もう少し寝かせてランピリス】

 

「駄目です。もう最大睡眠時間は過ぎてるんです。いい加減起きなさい」

 

【ランピリス少し落ち着いて。こういう子は優しく起こすんだよ】

 

【う、美味そう】

 

 古パイプから出てるツートンカラーの貘の魔化魍を怒る黄緑の服を着た女性と全身プルプルの肌色の玉の魔化魍。そして、プルプルの魔化魍を見て涎と蟻酸をポタポタ同時垂らす顎。

 

「ねえ、蛇のお姉ちゃん抱っこして」

 

【ふふふ、いいわよ】

 

 6本の腕を持つ蛇の魔化魍に抱っこしてとお願いするひな。

 

【$=#$^^+£】

 

土門

【何ておっしゃっっているのですか?】

 

【えええと】

 

 全身に包帯を巻いた人型の魔化魍の良く分からない言葉を何と言ってるのかと、白い面を着けた和服の女の魔化魍に聞く土門。

 

【お久しぶりでございやす】

 

 私の家族達も実は喋れたという事実に驚いてる私に青い作務衣を着た雨蛙の魔化魍が私に声を掛ける。

 

「えっと貴方は………」

 

【おお、そうでございやした前は術で一方的に喋っただけでございやした】

 

 手を口に当ててゲコッと咳払いをすると。

 

【あっしは美岬様に仕えてる魔化魍 アズキアライと申しやす】

 

「そう。貴方があの貸家を」

 

【そうでございやす。お気に召してもらいやしたか?】

 

「うん。お陰で寒い外で野宿しなくて良かったよ」

 

【そうでございやすか。それは嬉しい限りでございやす】

 

 私の感想を聞いて、嬉しそうに笑うアズキアライ。 

 

ピィィィィィ カラララララ

 

 すると、鳴風と唐傘が私の服を掴んでいた。

 

【【王、猛士の鬼たちが近付いてる】】

 

「えっ?」

 

 唐傘の報告で賑やかな空気が張り詰めた空気に一瞬にして変わった。

 

SIDE◯◯

 廃寺から少し離れた、海岸には4人の鬼がいた。

 その内の3人は似た姿をしていた。一本角で白の身体に鈍色で縁取りされている。違いがあるとするならばそれぞれの胸元に描かれた松、竹、梅の絵だけ。

 彼らはこの北海道にいる3つ子の鬼であり、清めた魔化魍は3桁はいく。長男の松鬼、次男の竹鬼、三男の梅鬼この3人を合わせて、『松竹梅兄弟』と呼ばれている。

 

 そして、その兄弟の間にいる鬼こそ、この北海道にいる8人の鬼の1人。

 先端が丸みを帯びた一本角で、松竹梅兄弟の身体よりさらに白い身体、藍色で縁取りされていて左肩には鳥の翼を模した肩当てが付いている。

 そして、背には先祖から代々受け継がれている武器 音撃吟遊詩弦(リュート)を背負っている。

 その名は想鬼、又の名を白撃の想鬼。

 

「さあて、お三方準備はOKか?」

 

「もちろんです」

 

「ばっちりだぜ大将」

 

「いつでもいける」

 

「さっさと目的の魔化魍の王様と殺し合おう」

 

「「「おお!!!!」」」

 

 鬼達の雄叫びにも似た声が海岸に響く。

 

【そうはいかない!!】

 

 海から女の声が聞こえる。想鬼たちは武器を構えて辺りを見渡す。

 

「誰だ!! 出てこい!!」

 

 梅鬼が謎の声に対して問い掛ける。

 

【いいでしょう。じゃ………死になさい】

 

 すると、海面が勢いよく盛り上がり、そこから4つの影が飛び出す。

 そして、その影の1つは4人の鬼に無数の炎を放つ。

 

 当たる寸前に想鬼が音撃吟遊詩弦(リュート)のネック部分に収納されてる仕込み刀を抜き、鬼火を切り裂く。

 そして、海岸の砂浜に4つの影が降りてくる。

 

ルルル、ルルル フシュルルルルル ピァァァァァァ

 

 濡れた黒の尼服を着た人間態の美岬。

 

 無数の触手と赤と青の2色の炎を灯した海月 浮幽。

 

 複数の絵の具をグチャグチャにした色をしていたが王の手によって元の姿に戻った白龍 昇布。

 

 

 罅の入った身体から完治した鷹の翼を持つ赤鱏 兜。

 

 

 美岬達が姿を現わすと同時に『松竹梅兄弟』の影から黒い腕が伸びて『松竹梅兄弟』の身体を掴み、そのまま『松竹梅兄弟』と共に何処かに消えた。

 

「今のはてめえらの仕業か」

 

【ええ、あの兄弟の連携は厄介ですので分断させてもらいました。浮幽、昇布、兜、貴方達もあの兄弟の相手をして】

 

ルルル、ルルル フシュルルルルル ピァァァァァァ

 

 浮幽たちは声を出すと共に今度は浮幽たちの影から黒い腕が伸びて、浮幽たちの身体を掴み何処かへと消えた。

 

「お前1人で俺と戦うってか、ナメるなよ」

 

【ナメてませんよ。それに誰が1人で相手するといいましたか】

 

 海岸から黒い渦が発生して、2つの影が浮かび上がってくる。それは–––

 

アオオオオオオン

 

 遠吠えに似た鳴き声を上げる三度笠を被った黒の狼 朧と漆黒を思わせる黒髪に和服に似た服を着た現9代目魔化魍の王 安倍 幽冥だった。

 

 今、この北海道の地で現9代目魔化魍の王と8人の鬼の1人 想鬼との戦いが始まった




如何でしたでしょうか?
次は飛ばされた松竹梅兄弟の行方を送りします。


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記録肆拾捌

先ずはこの戦いをお送りします。
対戦はこのようになります。

赤、土門、飛火、羅欧、骸、葉隠、浮幽、拳牙、跳VS松竹梅兄弟 松鬼


SIDE松鬼

「ここは何処だ?」

 

 松竹梅兄弟の1人 松鬼は何処か分からない森の中にいた。隣にいた兄弟の梅鬼も竹鬼もいない。

 どうやら俺1人のようだ。そう考えてると突然–––

 

「っ!?」

 

 風を切るように飛んできた複数の何かが松鬼の身体目掛けて放たれた。咄嗟の事で避けるが肩の装甲を少し掠り、僅かに装甲が削れた。

 そして、松鬼が上を見ると木の上に複数の影があった。

 

「流石は『松竹梅兄弟』の長男。中々ですね」

 

 木の上に佇むのは波音を守る為に行動していた幽冥の新しい従者、クラゲビの妖姫 赤。

 

土門

【やっぱりそう簡単にはいきませんか】

 

 樹の幹に張り付いている巨大な全身虎縞の黄金蜘蛛の魔化魍 土門。

 

羅殴

【さて、やりますか】

 

 腕をぶんぶんと回すザンバラ髮の猿の魔化魍 羅殴。

 

飛火

【避けられちゃった】

 

 枝の上で犬のように座っている二本の尾を持つ赤い狐の魔化魍 飛火。

 

【ジャラララララ、こいつはどんな頭蓋骨かな】

 

 白骨化している下半身で樹に巻き付き、頭蓋骨を咥える独眼の蛇の魔化魍 骸。

 

拳牙

【今回は私も本気を出そう】 

 

 拳を重ね、身体の一部が液状化している鯱の頭で虎の上半身の人型の魔化魍 拳牙。

 

【あっしの新術の試し撃ちになってもらいやしょう】

 

 木の上で蝙蝠のようにぶら下がっている青い作務衣を着た雨蛙の魔化魍 跳。

 

コン、コン、コン、コン 、コン、コン

 

 鳴き声を上げる度にその分体を増やしていく竹筒に入った細長い白狐の魔化魍 葉隠。

 

ルルル、ルルル

 

 鳴き声を上げ、無数の触手と赤と青の2色の炎を灯す触手を持つ海月の魔化魍クラゲビ 浮幽。

 

 赤を中心に8体の魔化魍が樹の上から松鬼を見下ろす。

 そして、見下ろされている松鬼は–––

 

「ははははははっははははははっはははははっはははははっはははははっは」

 

赤たち

【【【【【【【【「!!??」】】】】】】】】

 

 突然、大声で笑い始める松鬼。

 

「最高だ! 最高だよ!! 今までこれ程の魔化魍と戦った事は無かった。これで俺はどれくらい強くなれるんだ!!」

 

 想鬼の引き連れた『松竹梅兄弟』が魔化魍と戦うのはそれぞれ目的ある。

 

 三男である梅鬼はどんな魔化魍にも負けない力。

 

 次男である竹鬼は師とも言える想鬼を超えること。

 

 そして長男の松鬼は果てしない闘争いや魔化魍との殺し合い。

 

 他の兄弟に比べると、長男は狂っていた。次男と三男はまともなのに長男だけがこのような考えに至ったのかは本人にしか分からない。

 ただ松鬼は目の前にいる魔化魍とただ殺し合いたいだけ………その為に行動している。

 

「さあ、始めようじゃねえか」

 

 松鬼はそう言うと、腰にぶら下げてる音撃管を取り外して赤達に照準を合わせる。

 

「こちらも行きますよ」

 

グルルルルル  ウォォォォォォォ コォォォォォン

ジャラララララ グガアアアアア  ショキ、ショキ

コン、コン、コン、コン、コン、コン ルルル、ルルル、ルルル、ルルル

 

「ほらくらいな!!」 

 

 松鬼の音撃管 落松から音撃の弾が放たれる。

 だが、各々その攻撃を避けて深い森の中に散りじりに隠れる。

 

「ちっ」 

 

 松鬼は舌打ちをして辺り構わずに落松を撃つ。

 

グルルルルルルルル 

 

 いつの間にか背後に回った土門が自身の身体から作り出した糸を前脚に絡ませ勢いよく振り下ろす。

 

「甘えよ」

 

 だが、糸は松鬼の身体に当たらず避けられる。

 

「そらよ」

 

 落松を土門に向けて撃つが–––

 

コン、コン、コン、コン、コン、コン、コン、コン

 

 樹の陰から飛び出す葉隠の大量の分体が土門を守るように囲み、音撃の弾は葉隠の分体を簡単に爆散させるが分体が全ていなくなる頃には既に土門の姿は無く、代わりにそこには大きな穴があった。

 

「くそっ!!」

 

ジャララララララララララ 

 

 土門の掘った穴から骸が飛び出し、松鬼に向けて溶解液を吹き出す。

 

「ちっ!!」

 

 骸の吐いた溶解液に松鬼は腰にぶら下げてるディスクアニマル 茜鷹を投げつけて、自身に掛かるはずだった溶解液を防ぐ。

 だがその結果、茜鷹のディスクは見るも無惨な姿に変わった。

 

ジャララララララララララ

 

 溶解液が通じないと見て、骸は咥えている頭蓋骨を離して、何か呟く。

 すると、地面に落ちていた頭蓋骨はカタカタと振動を起こして、宙に浮く。

 

【行け!!】

 

 骸の指示を受けた頭蓋骨は口を開いて松鬼に向かって突撃する。

 松鬼は、頭蓋骨に落松の音撃の弾を放つが頭蓋骨は物ともせずに松鬼にどんどん迫る。

 それを見た松鬼は普通の変身鬼笛とは違う変身鬼笛を落松の発射口の先に取り付け、再び落松を撃つ。 

 

【!!】

 

 先程の音に比べて少し重い音で発射された音撃の弾によって頭蓋骨は見事に砕ける。

 

【てめえ、俺のコレクションの頭蓋骨を!!】

 

 激昂して、松鬼に攻撃を仕掛けようとする骸の身体に何かが絡みつく。

 

ルルル、ルルル

 

 浮幽が触手で骸を拘束して、自分の元に寄せて樹の上へと消える。

 

「待ちやがれ!! くそ!!」

 

 骸と浮幽の去った樹の上を眺め、別の魔化魍が逃げた方に松鬼は向かった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE赤

「骸、大事な物だとは分かっていますが、あれが終わったら直ぐに樹に上がってと言ったでしょ」

 

 浮幽によって樹の上に連れてこられた骸は赤に怒られていた。ちなみに此処に連れてきた浮幽は触手で骸を縛ったままで、赤の方には飛火が座っている。

 

【だけどよ!!】

 

「だけどじゃありません。貴方が死んだら王は悲しみます」

 

【………………分かったよ】

 

「よろしい」

 

飛火

【ねえ、骸】

 

 赤の肩に座っている飛火が骸に話しかける。

 

飛火

【あの頭蓋骨、羅殴に頼めば直してもらえるかもよ】

 

【本当か!!】

 

 骸はその話を聞いて、浮幽に拘束されてるにもかかわらずものすごい勢いで飛火に詰め寄る。

 

飛火

【う、うん】

 

【そうか。後で集めとかないとな】

 

「では、葉隠。鬼の現在地は?」

 

 赤は骸の説教を辞めると浮幽の上にいて自身と同じ姿をした分体に紛れている葉隠に聞く。

 

葉隠

【鬼の現在地は………………跳の方に向かったよ】

 

 分体が何か呟いてるのをそのまま葉隠は伝える。

 

「では、みなさん次の行動に移ってください」

 

赤以外

【ああ【はーい】【ルルル】】

 

 赤の指示に従って樹の上から降りる骸達。

 骸達が消えた樹の上で赤は胸元から出したヤシの実のペンダントを見た後に握りしめて、上を見上げる。

 

「………王よ、貴方に救われたこの命は貴方の為に」

 

 赤はペンダントを仕舞って樹の上から降りた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE松鬼

【どうしやしたどうしやした。それではあっしに近付けやせんよ!!】

 

「ほざくな!!」 

 

 松鬼が向かった先には松鬼を待ち構えていた跳がいた。

 攻撃を仕掛けるが跳が謎の術を使って音撃の弾をあらぬ方向に飛ばし、それが続いて今のこの状況になっている。

 

「ぴょんぴょんと鬱陶しんだよ!!」 

 

 跳に向けて落松の音撃の弾を放つも、ぴょんぴょんと跳ねる跳には一直線にしか向かわない音撃の弾は跳弾するわけでもなくそのまま避けた後ろに樹に当たる。そして、跳は避ける度にあらゆる術を放つ。

 

 ある時は鬼火、ある時は氷塊、ある時は落雷、またある時は圧縮した空気、そして毒とランダムに放たれる術に松鬼はイライラを募らせる。

 それはそうだ。最初の放たれた術を防ごうとすると別の術がそれを防いでもまた別の術を鼬ごっこの様に繰り出す跳の攻撃は松鬼の様に敵がいた瞬間にすぐ攻撃を仕掛ける猪突猛進の様な鬼には辛い攻撃なのだ。

 だが–––

 

「だんだん慣れてきたぜ。てめえの術!!」

 

 腐っても北海道の最高戦力の1人。似た攻撃を何度も繰り返されれば、自然とその攻撃に対して対応できる様になる。

 しかし、ここまで来ると松鬼は1つの疑問を覚える。

 

 今戦ってる魔化魍以外の魔化魍と妖姫がいねえと。

 そうこの戦闘を始める前に確認した魔化魍と妖姫が跳と戦ってる所から姿を見せて居ないのだ。

 

「(俺が戦ってる魔化魍以外の魔化魍(奴ら)が何で攻撃を仕掛けねえ?)」

 

 そう。戦闘経験の豊富な跳でも北海道の最高戦力の鬼に1体で戦いを挑むのは無理ではない。しかしその戦闘が長く続くのは跳には厳しい。

 元々、跳の戦闘スタイルは敵を翻弄する様な戦い方ではなく時間を掛けない短期決戦を得意とする。

 だが、その疑問の答えはすぐに明かされる。なぜならば。

 

【(くくく、気付かずにこっちの計画通りでやす。では、次の動きといきやしょう)】

 

 跳は跳ねるのをやめて地面に手を置く。

 

「観念したのか蛙」

 

 地面に手を当てたままの跳に落松の照準を合わせる。

 だがその瞬間–––

 

【はっ!!!!】

 

 地面から大量の水が発生し、辺り一面、水によって地面が消えた。

 

「何だこりゃ!!」

 

 水に驚くも、再び照準を合わせる松鬼。だが照準を合わせた先には跳は消えていた。

 

「どこ行きやがった!!」

 

 落松をいつでも撃てるように構える松鬼は辺りを見回す。すると目の前の水の表面が急に膨張し、松鬼に向かって拳の形をした水が松鬼に迫る。突然の攻撃に避けられず拳の形をした水は松鬼の胸部に直撃する。

 

「がはっ」

 

 胸部に受けた衝撃で後ろの樹に飛ばされ、肺の中の空気が一気に出る。げほげほと咳き込みながら目の前水を見ると、水は形を変え松鬼の前に現れる。

 水から形を変えたのが原因か全身が水で濡れていて毛も下向きにシュッとなっている。

 

拳牙

【どうだ。私の一撃は?】

 

 拳を前に突き出す拳牙は、目の前で咳き込む松鬼に聞く。

 拳牙がいつの間にか松鬼の前に現れ、どうやって攻撃を仕掛けたのか、疑問の答えは簡単だ。

 

 拳牙は最初から松鬼の側を漂って(・・・)いたのだ。

 拳牙の能力は率直に言うと、自身の液体化。拳牙は自身を僅かな水分に変えて松鬼の周りを漂っていた。

 そしてある地点まで松鬼を跳が誘い込み、そこで跳が術を発動し水を発生させて、自身の能力をフルに発揮出来る状態にして能力を解除、自身の身体を構成させる時に攻撃を仕掛けたのだ。

 

「(くそ!! 今ので肋骨がもっていかれた。なんつう力だ)」

 

 胸を抑えながら立ち上がろうとする松鬼。すると何かが肩に乗っかり、肩を見ると。

 

ウォォォ

 

 羅殴が松鬼の肩に乗っかていた。そして息を大きく吸い込む。

 

ウォォォォォォォォォ

 

 松鬼の耳元で雄叫びに似た自身の声をぶつける。

 

「があああああああああ!!!!」

 

 羅殴の種族ヤマビコは声に毒をのせて広範囲を腐食させる能力を持つ。そんな声をゼロ距離に近い耳元で叫ばれれば、面越しとはいえ鼓膜は確実に破れる。

 

 羅殴は既に松鬼の肩から地面に降りていた。松鬼は耳を抑えながらも落松を羅殴に向けて撃とうとする瞬間–––

 

「はっ!!」

 

 いつの間にか現れた赤の持つ十字槍によって落松を持つ腕ごとバラバラにされた。

 

「ぐああああ!!」

 

 鼓膜の時とは違い、そこまで痛みを感じていないがそれは単にあまりもの痛みに神経が麻痺してしまったのが原因だろう。そして落松には自身の変身鬼笛が付いていた。それごとバラバラにされた結果、松鬼は変身が解除され元の人間の姿に戻っていた。

 そして、松鬼の身体に白い糸と、骨の尾、更には無数の触手が巻き付く。

 

グルルルルル  ジャララララ  ルルル、ルルル

 

 声を上げながら土門と骸、浮幽が近付いてくる。

 土門の背には跳と葉隠、骸の頭の上に飛火がいた。

 

「さあ遺言はありますか?」

 

「くたばれ魔化魍」 

 

 松鬼は身動きの取れないまま樹に叩きつけられた。

 

「が、あああ」

 

 人間の姿のまま頭を樹に叩きつけられた松鬼は頭から血を流して意識は朦朧としている。

 

「皆よくやりました。王からは戦った鬼を喰らっていいと言っておりました………なので仲良く8等分してください」

 

 明らかに笑顔で言うことでは無いことを喰われる本人の前で言う赤。

 そして、最後に松鬼が見たのは自身の身体を貪るように喰らう土門たちだった。




如何でしたでしょうか?
次回は白チームと竹鬼の戦いです。


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記録肆拾玖

松竹梅兄弟の戦い。
白、鳴風、唐傘、常闇、鋏刃、穿殻、昇布、兜、五位VS松竹梅兄弟 竹鬼


SIDE竹鬼

「逃げるなゴルァああああああああああ!!」 

 

 松鬼が戦闘を開始した同時刻。

 謎の黒い影に掴まれ、先程の海岸とは違う海岸に飛ばされた松竹梅兄弟の1人 竹鬼はそこにいた妖姫と戦っていた(・・・・・)いや………………遊ばれていた。

 

「鬼さん。こちら手の鳴る方へ」 

 

 魔化魍の王の最初の従者、白は竹鬼の音撃弦 竹林の攻撃を鉄扇でいなしながら器用に手を叩き、竹鬼を挑発している。

 

「ほらほら鬼さん私ばかりに構ってると大変な目に遭いますよ」

 

「? ………………!!」

 

 白の言われた言葉が気になって冷静に考えようとする刹那。 

 海から飛んできた物に気付き、竹鬼は頭を下げて躱し、飛んできた海の方を見ると–––

 

カラララララ

 

 太陽がギラギラと照らす空には蜘蛛の脚のような形の翼を羽ばたかせる唐傘。

 

ヒュルルルルルル

 

 何処までも続く海には鯱の頭の触手を動かす穿殻。

 

「にゃろおお!! ちっ!!」

 

 唐傘と穿殻に向かおうとする竹鬼は顔を下に向けると砂浜の砂に上に3つの影が地面に映り、長年の戦いの感でその場から離れると真っ赤な槍と槍の形状をした何かと途轍もなく長い尻尾が飛んできた。

 上空からの攻撃を躱した竹鬼は空を見上げると–––

 

常闇

【ほお、今のを躱すか】

 

 竹鬼の咄嗟の判断を感嘆するのは背にある蝙蝠の翼で空を羽ばたく常闇。

 

【次は外さないでよ鳴風】

 

 常闇の右脇で鷹の翼で羽ばたき尻尾先からシュウーと煙が上がっている兜。

 

鳴風

【うん。でもそっちも外さないでよ兜】

 

 常闇の左脇で燕の翼で羽ばたき砂の地面に尻尾を突き刺している鳴風。

 

「(流石にこれはまずい)」

 

 この状況を見て不利と感じた竹鬼は、下の砂を竹林を使って巻き上げて、その場から消えた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE白

 不利な状況で逃げた鬼を見て、白はその口を三日月のように歪める。

 

「予定通りにこの場から去りましたね」

 

鳴風

【うん。この数だと不利だと判断したからだと思う】

 

【流石は松竹梅兄弟、伊達に3桁以上の魔化魍清めてるわけじゃないね】

 

 竹鬼が逃走するのをまるで分かっていたように喋る白と鳴風と兜。

 

穿殻

【それで次は?】

 

 海から砂浜に上がった穿殻は白に次の行動をどうするかと聞いた。

 

「逃げた鬼の追跡は昇布と五位に任せてます」

 

唐傘

【鋏刃は?】

 

 この場にいない最後の存在が何処にいるのかを聞く唐傘。

 

「鋏刃には仕掛けを頼んでます。五位からの合図がきたらその場にあの鬼を誘導します。準備をしておいてください」

 

鳴風たち

【【【【【分かった【承知した】】】】】】

 

 白の指示を聞き鳴風、唐傘、常闇、兜は空へ、空を飛べない穿殻は鯱の頭の触手を使って砂の地面に潜った。

 その場に残った白は何もせずに砂の地面に座り込んだ。

 

「(鳴風も大きくなったものですね)」

 

 白は自身の子とも言える鳴風の成長を嬉しく思いながら座っていた。鬼の追跡に向かった五位が出す合図を待ちながら。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE昇布

 先程の砂浜からかなり離れた砂浜の上を飛ぶ2つの影。

 

昇布

【何処にいる鬼】

 

五位

【焦るな昇布。焦っても仕方ない】

 

 1つは、東洋龍の様な姿で空を泳ぐように飛ぶ昇布。もう1つは両翼に青い光を灯して昇布と並行して飛ぶ五位。

 

昇布

【分かっている。だが、俺は王に無様な姿を見せてしまった】

 

五位

【仕方がないさ。あの時のお前はあいつらに操られていたんだ】

 

昇布

【だが、王に攻撃しようとしたのも事実。あの時、睡樹が俺を拘束してくれなかったらきっと・・・】

 

五位

【そう言うな。俺が王に会った時なんて、俺は瀕死の姿だったんだぜ】

 

 昇布は少し前の自分の犯したことをこの戦いで返上しようとしていた。五位も同じである。

 どちらも普通なら死んでいてもおかしくなかった。だが、どちらも今代の王にその命を救われた。

 昇布は身体を蝕む苦痛から解放してくれ、五位は瀕死ともいえる身体を癒してくれた王に感謝の気持ちでいっぱいだった。

 王に対しての感謝を思い出していると、五位の目に目的の物が入る。

 

昇布

【見つけた。五位、合図を】

 

五位

【ああ】

 

 そう言うと五位は両翼の青い光を胸元に集めて1つにし空に向けて放った。

 それはある合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むこうですか」

 

 砂浜に座っていた白は合図のあった場所へと向かって走り出した。

 

鳴風

【合図がきた。唐傘】

 

唐傘

【うん。鋏刃のところに行くよ】

 

【私は白を拾ってくよ】

 

常闇

【そうか。では、行くか鳴風】

 

鳴風

【うん】

 

 空を飛ぶ4体の魔化魍は白に与えられた指示を実行する為に行動を始める。

 

穿殻

【しくしく。みんな何処?】

 

 だが、約1名は現在、砂の中で迷子になっていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE竹鬼

 魔化魍たちに囲まれて何とか巻いたと思って休んでいたら突然、空が青い光で覆われて俺は目を光から防ぐ為に腕を使って目を守る。だが、それがダメだった。

 

「かはっ」

 

 目を防いでいたのが原因で腹部に強烈な一撃を受ける。それを受けた竹鬼は離れた砂浜に打ち上げられている流木に叩きつけられる。

 そして、竹鬼は自分を叩きつけた犯人を見た。

 それは頭頂部に鹿の角、鼻の先に犀の角を生やした白龍だった。

 

フシュルルルル

 

 その正体は、先程まで五位の隣にいた昇布だった。

 なぜ昇布がかなり上空にいた五位の隣に居た昇布が一瞬にして竹鬼の腹部に攻撃出来たのか

 昇布の身体は龍に似た体躯をしていて重いイメージに見られがちだが実際は違う。

 昇布の身体は布の様に軽いが、その硬さは某アニメの特殊合金並に硬い。

 

 さて、そんな昇布に突撃された竹鬼は普通に立っている様に見えるが、その腹部に受けたダメージは内臓破裂。鬼の痩せ我慢で立っているに過ぎない。

 

「(くそっ。内臓が逝かれやがったが………)くそ、くたばれ魔化魍」

 

 怯んだと思った竹鬼の攻撃に昇布は驚き、隙を晒してしまった。

 

フシュルルルル

 

 突如、砂浜から飛び出した鯱の頭の触手が昇布に向け攻撃を仕掛けた竹鬼の右肩に喰い込む。そして、その巨体を砂浜から現す。

 巨大な栄螺の殻に蹠面から出る4本の内の1本の鯱の頭の触手を持つ穿殻が竹鬼の身体を持ち上げて、自身を回転させた遠心力を使い遠くに投げ飛ばす。

 

昇布

【すまない穿殻】

 

 助けてもらった穿殻にお礼を言う。

 

穿殻

【………………】

 

昇布

【ん? 穿殻?】

 

 だが、無反応な穿殻に疑問を覚える昇布。

 

穿殻

【しくしくしくしく】

 

昇布

【えっ】

 

穿殻

【みんなは空を飛べるからいいけど、僕は地中だよ、合図なんて分かるわけないじゃん!!】

 

 そう今回の戦いで、罠を仕掛けている鋏刃と指揮をする白を除いて、ほとんどの魔化魍は空を飛ぶ事が出来る。

 白は合図があるまで現状待機、鋏刃は仕掛けの準備の為、だが合図で行動する穿殻は地中にいる為に光は見えず、いつ出ればいいのか分からずに地中で過ごすが地上で感じた衝撃音に気付き、地上に上がったきたのだ。

 

五位

【まあ落ち着け………みんな来たようだぞ】

 

「ええ。いいタイミングです」

 

 兜の背に乗った白が地上に降りる。その隣に常闇が降りてくる。そして鋏刃を見て。

 

常闇

【準備は出来てるのか鋏刃】

 

鋏刃

【………】 

 

 常闇の声に身体を振って答える鋏刃。

 

「(準備だと)」

 

 常闇の声を聞き、明らか先程とは違う空気が漂う。

 すると、上空にいる鳴風と兜が翼を羽ばたかせて風を竹鬼の身体に浴びせる。2つの風はやがて1つになりそれは竜巻となって竹鬼の身体は竜巻によって浮かび上がり上空に錐揉みしながら飛ばされる。

 

 竜巻で上空に浮かび上がった竹鬼はやがて渦の中心に留められる。

 さらに唐傘は術を使って鎖を呼んで空中に固定され、穿殻の栄螺の殻の突起が吹き矢の様に発射されて竹鬼の身体の一部を貫き、五位は羽根をばら撒くと羽根は1つ1つが機雷のように変わって渦の中で竹鬼の身体に爆裂する。

 

 機雷の爆裂はどんどん激しくなり、その爆裂によって竹鬼の鎧は自身を縛る鎖と共に少しずつ砕けて、竜巻の頂上に飛ばされる。

 

 竜巻から飛び出た竹鬼は昇布が全身を使って拘束し、今度は逆方向に回転して飯綱落としのように落下していき、残った鎧はボロボロと砕けていく。

 そして地面にぶつかる手前で昇布は身体を離し、竹鬼はその真下にいる白の上に落下する。

 

「はあああああ!!」

 

 白の繰り出した鉄扇の一撃によって僅かに残っていた竹鬼の鎧は全て砕け散り、人間としての姿が露出し、鋏刃の元に飛ばされる。

 鋏刃が砂浜に右の鋏を突き刺すと、砂浜の地面は割れて少し深い穴に変わり、そこには大量の白い液体が詰め込まれていた。

 

 そうこれこそが、鋏刃の仕掛けたもの。

 自身の背中に群生する藤壺が噴出する溶解泡を大量に砂浜から作った穴に詰め込んだのだ、竹鬼はその泡の穴に落ちる。

 

「くそっ!!」

 

 落ちなかった。

 穴の周りにある淵を掴み落下を逃れたのだ。しかし、竜巻に巻きあげられ、爆裂に巻き込まれてボロボロになった竹鬼の音撃弦 竹林はくるくると回りながら白い泡の中に落ち、ジュウという音とともにその姿を消す。

 自分は助かったと思う竹鬼。

 

「………常闇」

 

常闇

【ああ、任せろ】

 

 白の言葉を聞いて何をすれば良いのか察した常闇は竹鬼に向けて自身の血で作った真紅の槍3本を竹鬼の淵を掴む右手以外の四肢に向けて放つ。

 

「がああああああ!!」

 

 鎧を着けていない生身の身体にはとても耐えられる痛みではなかった。竹鬼はそれでも落ちまいと必死に淵を掴む。

 だが、どんなに頑張っても自分の身体を右手のみで支えるのは無理があった。掴む力は徐々になくなりやがて穴に落ちていった。

 

 穴の中に落ちて溶けていく自分の身体を見て竹鬼はふと、上を見上げると自分と戦っていた白が薄気味悪い笑顔とともに見下げていた。

 

「松竹梅兄弟は強いと聞きましたが期待はずれでした」

 

 この時、ふざけるなと竹鬼は言いたかった。

 

「貴方より我が王の姉君であらせられる春詠さんの方がもっと強かったですよ」

 

 俺を他の鬼と比べるな。と言いたくても喋ることは出来なかった。

 溶解泡によって溶かされた喉に流れこんだ溶解泡が声帯を溶かしたのだ。

 

「所詮はそこら辺の鬼と変わらない鬼でした。ですが………」

 

 白は言葉を一旦止めて、溶けていく竹鬼に三日月のように歪んだ笑顔で言った。

 

「少しは楽しめましたよ。幼稚園の学芸会くらいには」

 

 白の言った言葉で心を壊された竹鬼。

 自身の今までの努力を否定され、挙げ句の果てには幼稚園の学芸会くらいには楽しめた。この言葉を最後に竹鬼の身体は白い溶解泡の中に消えていった。




如何でしたでしょうか?
次回は最後の従者 黒の率いる黒チームVS松竹梅兄弟 末っ子の梅鬼です。
さらにお留守番組の様子も描こうと思います。


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記録伍拾

お待たせしました。
松竹梅兄弟の戦い。
黒、顎、睡樹、暴炎、蛇姫、食香、荒夜、狂姫、命樹VS梅鬼と
ひな、波音の護衛お留守番組の話です。


SIDE梅鬼

 削っても削っても減らない。

 

「全く面倒臭いよ!!」

 

 梅鬼は両手に持つ音撃棒 梅欄を構えて目の前から迫るツタや火の玉、弓矢、木の根を自身に当たらないものは無視して、当たるやつのみをひたすら叩き落としていた。

 そして目の前にいる魔化魍たちを睨む。

 

シュルゥゥゥ

 

 ツタの腕を梅欄によって破壊されて、土から出る水分によって修復中の睡樹。

 

暴炎

【炎が、炎を、炎をくれ………………ありがとう蛇姫】

 

蛇姫

【どういたしまして】

 

 頭の炎が弱くなっている暴炎に炎の術で回復させている蛇姫。

 

【………………】

 

 次の矢を番えて梅鬼の頭を狙う狂姫。

 

ユレレレレレ

 

 睡樹と同じ様に破壊された根の脚を修復中の命樹。

 

「(見た感じ、回復にはそこまで時間が掛からないようですね)」

 

 梅鬼は目の前の植物の姿を持つ2体の魔化魍を見て、自己再生するのにどれくらい掛かるのかを確認し、それによって2体の魔化魍を倒す為に必要な時間を調べていた。

 だが、2体の植物魔化魍だけでなく、蛇の下半身を持つ女の魔化魍や頭と尻尾に炎を灯す2足歩行の蜥蜴の魔化魍も相手にしないといけない。

 

「(私は松鬼兄さんや竹鬼兄さんのようには………)」

 

 そう思った梅鬼はバックルに付いてる音撃鼓 梅雨を地面に置くと、梅雨は巨大化して梅鬼は–––

 

音撃打(おんげきだ) 積土成山(せきどせいざん)!!」

 

 梅雨に向かって梅蘭を叩きつける。

 

暴炎たち

【【【【?!】】】】

 

 睡樹たちは目の前の鬼に対して何をしていると思うが、それは直ぐに効果をあらわした。

 

シュルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ  ボオオオオオオオオオ

ヒュウウウウウウウウウウウ  ユレレレレレレレレレ

 

 離れた場所にいるのに睡樹たちの身体に音撃が響く。

 先程の梅蘭の攻撃で腕を修復した睡樹と脚を修復した命樹は身体に亀裂が入っていきブチブチと身体に張り付いてるツタや根が千切れていく。暴炎や蛇姫もその身体に罅に似たものが出来ていく。

 

 あと少しで音撃が叩き終わる。そう思い、梅蘭を握る力をさらに強くしてさらに勢いよく梅雨に叩きつける。

 締めの一撃を梅雨に叩きこもうとした瞬間–––

 

プ……ルル………ル

 

 何かの声が聞こえ、とどめを放とうとする梅蘭の動きを止める。

 

プル…ルル……ルル

 

 風を切る音ともに何かが梅鬼に接近している。

 

プルルルルルルルル

 

 そして、音はハッキリ聞こえるようになり、それは背中の方から聞こえてくる。梅鬼が後ろを振り向くと目と鼻の先にプルプルした肌色の玉が飛んできた。

 そして、梅鬼の顔にプルプルした肌色の玉が衝突する。

 

 梅鬼は衝突した衝撃で梅蘭を離してしまい、梅雨が元のサイズに戻ってしまう。

 

 プルプルした肌色の玉いやヌッペフオフの食香。

 梅鬼は梅蘭と梅雨を拾って、その場から離れるように飛び、食香が飛んできた方を見ると、野球のピッチャーのように腕を真っ直ぐ伸ばした木こり 黒がいた。

 梅鬼は邪魔された怒りで歯軋りをする。

 

「( 後、一撃で決まったのに、クソ!!)」

 

 梅鬼の放つ音撃打(おんげきだ) 積土成山(せきどせいざん)は従来の音撃打とは異なり、地脈を利用して魔化魍に音撃を浴びせる技である。

 その為、一度でも梅蘭で攻撃を当てれば、それを目印にして地脈に音撃を当てて目印にした魔化魍に攻撃する事が出来る。

 しかし、攻撃を受けていない暴炎と蛇姫が音撃を受けたのは理由がある。この音撃のもう1つの特徴は攻撃を受けなかったとしても周りに攻撃を受けた魔化魍がいればそれをを中心に音撃を当てる事が出来る。

 

 だが、この音撃には弱点がある。

 地脈に接する、つまり地面に接していれば音撃を当てられるが、地面から離れている木の上や地面に触れることのない空にいる魔化魍に対してはほぼ意味のない技なのだ。

 

 『松竹梅兄弟』が今まで魔化魍を倒してこれたのは状況に応じた連携にある。空の魔化魍には松鬼が地からは梅鬼、その両方を攻める竹鬼の連携があるからこそたくさんの魔化魍を清めてきた。

 

 だが、この場には松鬼も竹鬼もいない。空を飛ぶ魔化魍は居ないが、先程の黒に飛ばされてきた食香の事もあり迂闊に動く事が梅鬼は出来なかった。

 

 そんな隙があったからこそ梅鬼は気付かなかった。後ろから迫る黒い面を着けた人型の魔化魍 ヤシャの荒夜が刀を収めた状態で走り、いつでも刀を抜けるように鍔に指を掛けて向かってきていることに。

 

「っ!!」

 

 荒夜の存在に気付き、梅蘭を振るが、遠くから飛んできた矢が振るった腕の梅蘭を弾き、そのまま梅鬼は右の肩から先を荒夜に斬り落とされた。

 

「ぐあああああ!!」

 

 斬れた痛みでもう1つの梅蘭を落としそうになるが、荒夜の振るう刀を防ぐ為に梅蘭を振るって、梅鬼は梅蘭を刀にぶつけた反動を利用して遠くに跳躍する。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE狂姫

 嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼、早く早くその命を散らしなさい。

 

 そう思いながら次の矢を継がえて、愛しの人(荒夜様)が攻撃を仕掛ける鬼の武器に向けて、矢を放つ。

 矢は見事に武器に当たり、愛しの人(荒夜様)の持つ刀が鬼の右肩から先を斬り落とした。

 愛しの人(荒夜様)は再び、刀を振るが鬼はもう1つの武器で刀にぶつけ反動でその場から跳躍して逃げようとするが。

 

ヒュルゥゥゥゥゥゥゥ  ユレレレレレレレレレ

 

 その先に待ち構えていたのはツタの腕と根の脚を組み合わせたパチンコのような物を構えている睡樹と命樹。

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

 そのパチンコの中心で構えている顎だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE梅鬼

 顎が梅鬼の身体にパチンコの弾のように飛んでくる。そして、顎の上顎が梅鬼の腹部に突き刺さる。

 梅鬼は必死に顎を外そうと残った左腕を使うが、顎が上顎を食い込ませ梅鬼の身体の中に蟻酸を吹き込む。鎧の中の人間の身体はもちろん何も着けていないその結果は–––

 

「がああああああああああああああ!!」

 

 梅鬼の鎧の隙間から白い煙が出てくる。

 

「あぁぁぁぁぁ………ぁ、ぁぁ……」

 

 梅鬼の声はだんだんと小さくなって梅鬼の左腕の抵抗は弱くなり、鎧は少しずつ崩れていく。

梅鬼の身体の隙間から煙は無くなるが今度は隙間からドロッとした赤黒い液体が流れてくる。

 

「ぁぁぁ………」

 

 梅鬼の意識はどんどん薄れていき、顎はそのまま離れると梅鬼は鎧は崩れて、その鎧の中には梅鬼の身体はなく。空になっており、ドロドロと赤黒い液体が溢れるように流れ出ていた。

 

SIDEOUT

 

 

 

 

SIDEひな

 幽冥達が、想鬼と『松竹梅三兄弟』と戦いを始めた頃。

 

「王様ーー」

 

波音

【ミイラの王様】

 

屍王

【ハハハハハ、そうか我に民がいたとしたらこんな感じだったんだろうな】

 

 仮姿である全身に包帯を巻いた人型の魔化魍 ミイラの屍王。

 そんな屍王の身体の包帯をいじって遊ぶ、ひなと波音。彼は今代の王である幽冥に頼まれてひなと波音の護衛をしている。もちろん1体でではない。

 

 王の姉であり『8人の鬼』の慧鬼こと安倍 春詠。

 

 猛士北海道第1支部を裏切った調鬼の月村 あぐり。

 

 朧の友人の蛍の地球外生命体ランピリスワーム。

 

 美岬の用心棒をしていた機関銃を持った蛇のマシンガンスネーク。

 

 波音の側にいた実体のない幽霊蜂のインセクト眼魔。

 

 岩のような甲羅を持つ崩、古パイプに住むツートンカラーの貘の眠眠、あらゆる物を吸い込む大尊、尾の先に提灯を着けたオッドアイの蜥蜴の三尸と共に護衛をしている。

 

 いや、護衛は確かにしている。インセクト眼魔は自身の能力を使って無数の蜂を監視にして周囲を見張っている。さらには突然の奇襲に備えてか崩は大岩に化けて姿を隠している。

 だが–––

 

「ねえ、遊んでよお姉ちゃん」

 

波音

【遊んで、遊んで】

 

「うふふ。良いよ、おいで」

 

波音

【「わーい」】

 

 言うまでもないがひなは幼い人間で遊びたい年頃なのだ。だが、精神が成熟してる波音もこのような状態であるのかを言うと幽冥とひなのおかげだ。

 波音の見た目はひなと同い年にしか見えない。

 そんな波音はひなの遊び相手をよくしている。だが、幼いひなと遊んでいくうちに精神が少しずつ幼くなっていき見た目通りの精神になっていた。

 そして、民がいたらという事をひな達で考えてる屍王から離れて、少し離れた所にいたランピリスに声をかけている。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE慧鬼

「和みますね」

 

「そうですね」

 

 そんな光景をお茶を飲みながら眺めてるのは春詠とあぐりだった。

 この2人は実は同期の鬼で友人関係である。

 当時、あぐりが歩だった頃に幽冥という妹の存在を知る前の春詠と出会い魔化魍の話をよくしていた。また前世の話を最初にした相手でもある。

 

「しかし前に言っていた慧鬼の前世の妹さんが今代の魔化魍の王とは」

 

「私も聞いた時はビックリしたけど幽だったらなんかあり得るかなって思ったよ」

 

「何でですか?」

 

「幽ね、私が嫉妬するくらい妖怪が好きだったのそんな子がまあ、そうしちゃったのは私が原因なんだけどね」

 

「へえーー」

 

 本当、あの時に響鬼を見せなかったら今の幽はいなかったんだろうな。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE眠眠

 ふあああ〜。

 眠い、眠いけどあの子の相手は楽しい。

 

「楽しいい!!」

 

波音

【もくもく】

 

 自身の身体の一部を煙に変えてふわふわとひな達を浮かせている眠眠。そして、そんな姿を見て、微笑むランピリスに少しイラっとくるものはあるけど今はひな達の相手をしてあげないと。

 

 眠眠は自分でも気づいていないが、眠眠自体はかなりの子供好きである。その理由は後々明らかになる。

 

「ひなちゃーーん! 波音ちゃーーん! ご飯ですよ!!」

 

 春詠の声が聞こえて、ゆっくり煙からひな達を降ろす。もう少し遊んでという目で眠眠を見る。

 

眠眠

【ご飯を食べたら〜また遊んであげるから食べて来なさい】

 

波音

【「はーーーい」】

 

 ひな達は駆け足で廃寺の中に走っていた。

 

SIDEOUT

 

「さあ、行くよ」

 

「上等だ!!」

 

 北海道の戦いはついに最後の時を迎えた。




如何でしたでしょうか?
次回で長かった北海道編最後の戦いです。
お楽しみに


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記録伍拾壱

大変お待たせしました。楽しみにしていた方はどうぞ楽しんでください。
今回は幽冥&朧&美岬VS想鬼です。
長かった北海道編最後の戦いです。


 白、黒、赤と家族たちに松竹梅兄弟を任せて、私と朧、美岬と目の前にいる8人の鬼の1人 想鬼と戦う。

 この事に白達は反対したが、私の説得で納得してくれて今はそれぞれの転移先で松竹梅兄弟と戦っている。

 そして此処では–––

 

美岬

【ハアアアアアア!!】 

 

「デヤアアアアア!!」 

 

 美岬の魚呪刀 咬鱓(こうつぼ)と想鬼の音撃吟遊詩弦(リュート)の仕込み刀が鍔迫り合い火花を散らしている。

 

アオオオオオオオオン

 

 朧の遠吠えが衝撃波となって、砂浜の砂を削って想鬼に向かう。

 

「はっ。自動衝反結界!!」

 

 想鬼が音撃吟遊詩弦(リュート)の背面に貼っていた札を1枚剥がして、衝撃波の方に向かって投げ飛ばすと、札が破れて丸盾状の結界が宙に展開して、衝撃波を受けると衝撃波が朧の方に弾き返される。

 

【なっ!!】

 

「朧、上に飛んで!!」

 

 私の指示で朧は上に向かって飛び、衝撃波を躱す。衝撃波はそのまま漂着していた大木に当たり粉微塵になる。

 

美岬

自動衝反結界とは、かなりの術師ですね】

 

「ありとあらゆる戦いの状況に適応出来るように覚えた物の1つさ」 

 

美岬

【ああっ!!】

 

 美岬は咬鱓(こうつぼ)を横薙ぎに振るが、想鬼は唐竹割りで防ぎ、また火花が散る。

 その衝撃で、美岬は後ろに飛ばされるが、朧が尻尾で美岬を包み受け止める。

 

 先程からも激しい攻防の繰り返しで、どちらも一手足らずという状態だ。私は前のようにシュテンドウジさんの力を借りようとしたが、シュテンドウジ様はうんともすんとも言わずだった。

 その結果、私は朧と美岬に指示を与えて攻撃を任せていた。どう考えても後、一手が足りない。

 

「(何かないの。この状況をどうにかする何かが)」

 

 そう思っていると、私の服のポケットに入ってる4つある『魔化水晶』のかけらの1つが青く輝き始める。

 

【今回は私が力を貸そう。あの程度の鬼に負けるなよ9代目】

 

 私の頭にあの巨狼の声が聞こえる。

 その瞬間に私の身体は前と同じように変化が起きた。

 

SIDE想鬼

 想鬼は退屈していた。

 折角来たのに肝心の魔化魍の王とは戦えず、その周りにいた2体と戦っている。

 だが、個々で攻めていた時より、王の指示を受けて連携に変えた2体には少し危機を覚えた。的確な指示を与えて、動きを変えた2体は先程とは違う。

 王の指示だけでコレだ。

 王本人と戦えたら、この封じた闘争本能を解き放ってくれるかもしれねえ。だから、純粋に俺はこう思った、戦いてえと。

 

 すると突然、魔化魍の王が光に包まれる。光が起きるとその周りに複数の竜巻が起き、光を中心にして複数の竜巻が光を呑み込む。

 複数の竜巻は1つの大きな竜巻となり数秒留まった後に竜巻は勢いを無くして中心にいる幽冥は姿を変えて現れた。

 

 頭の半分を隠す三度笠に頭頂部には三度笠から突き出た立派な一対の狼の耳、黒の髪は白の三つ編みに変わり、首元には地面に届きそうな青いマフラー、袖のなくなった腕の指先には鋭い爪が生えて、短くなった着物の裾から見える脚は狼の脚に変化し、腰には3本の尻尾が生えて真ん中の尻尾には王の証の青い龍の痣があった。

 

 想鬼は感じた先程まで指示を出した人間ではない。俺を睨む空色の眼が獲物を喰い殺す為に放つ狼のような眼になっている。

 俺の願いを聞いたのかどうかは知らねえが、やっと本気(・・)になれる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE朧

 あの姿は…………お母さん?

 

 現在の幽冥の姿に亡き母に似た姿を見て、朧は無意識に脚を幽冥に向けようとするが–––

 

美岬

【朧、幽の所に行きたいのは分かるけど我慢しなさい】

 

 1つの声がその動きを止めた。

 

【美岬】

 

美岬

【今ではなく後にしなさい。多分これから私たちは手を出せないは】

 

【どういうこ………】

 

 朧と美岬の背後(うしろ)にいた筈の幽冥がいつの間にか前にいて爪を想鬼の音撃吟遊詩弦(リュート)の仕込み刀に攻撃して、衝撃が風となって朧と美岬に吹きつける。

 

 見えなかった。自分もかなりの速さで動くので速さには自信のあった朧は背後(うしろ)にいた幽冥が目の前にいるのに驚いていた。

 

 確かに私の眼で追いつけない速さで、幽冥お姉ちゃんの助けになることはない。

 だが、出来ることはある。

 

【ねえ、美岬。気付いてるさっきからこっちを見てる視線に】

 

美岬

【ええ………出て来なさい!!】

 

 そう言って姿を現したのは全身が黒で統一された醜悪な肉のような数十体の異形だった。

 その姿に見覚えのあった朧と美岬はその異形の正体に気付く。

 

【………北海道第1支部の実験体】

 

美岬

【さしずめ第1支部の置き土産というところでしょう】

 

 魔化魍を実験に掛けていた第1支部と想鬼は繋がっていたのだ。たまにその実験体を第1支部支部長 志々田 謙介に流してもらっていたのだ。

 そして、朧は思った。王の邪魔はさせないと。

 

【どっちが多く仕留めれるか、勝負しない?】

 

美岬

【いいですよ。勝った方が今日、幽と一緒に寝れるといのでどうでしょうか?】

 

【良いよ。絶対に負けないけど】

 

美岬

【それはこっちのセリフです】

 

 実験体の異形に振り向く2体。

 朧は自慢の牙と爪を光らせ、美岬は手に持つ咬鱓(こうつぼ)を構えて、実験体の異形に向かって朧は走り、美岬は宙を跳ぶ。

 こうして幽冥の知らぬ間に一緒に夜寝る為の勝負が始まった。

 

SIDEOUT

 

 上、右、左、上、下、斜め右–––

 

 凄いこの体になった瞬間に速さと動体視力が上がり、さっきとは違うスピードで攻撃する想鬼の攻撃が流れていくようにゆっくりと見える。

 こっちも避けながら爪を当てようとするが、向こうも似たように躱して、こっちに攻撃してくる。

 

「ははは、楽しいなあ魔化魍の王!!」

 

 相手はさらに勢いを増していき少し、追いつかなくなってきた。

 何か、今の攻撃をさらに速くする事ができれば。

 

【本当はお前の力で気付いて欲しかったが………仕方ない】

 

 イヌガミさんの声が頭に響くと………頭に何かが流れ込んでくる。

 幽冥はその何かにそって手を動かす。

 

 臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前!!」

 

 ボソボソ声は次第に大きくなり、やがて声が大気を震わせて、印を組んだ両腕を広げると黄緑色の小さな球が2つ、両掌に発生し、球はどんどん大きくなる。

 それを目の前で重ねると巨大な竜巻が生まれ、右腕で目の前の竜巻を勢いよく払った。

 

 風は砂浜の砂を巻き上げて、やがて巨大な砂嵐に変わって想鬼に向かっていく。

 想鬼は音撃吟遊詩弦(リュート)の仕込み刀をネックに戻して、弦の部分にバックルに付いていた音撃震を外して装着させて、手を勢いよく弦に振り下ろす。

 

音、撃波 奇々怪界(ききかいかい)」 

 

 振り下ろした手は弦を勢いよく弾くが、出て来た音は軽快で先程の勢いよく振り下ろしや音にしては軽すぎた。

 しかし、迫る砂嵐に音撃の音がぶつかると。

 

 軽快な音から打って変わってピアノを勢いよく弾いたような音が砂嵐を霧散させるように響く。

 砂嵐の勢いは徐々に弱まっていくが、それと同時に音撃の音も少しずつ小さくなっていく。そして、砂嵐になった砂が落ちていき竜巻も音撃のどちらも姿を無くす。

 

【ほおー。凶烈風を音撃で封じるとは】

 

「感心してる場合じゃないですよイヌガミさん。どうするんですか?」

 

【安心しろ。凶烈風は小手調べに近い技だ。だから………少し身体を借りるぞ】

 

「え!! イヌガミさ……n………」

 

SIDE美岬

 咬鱓(こうつぼ)だと少し面倒ですね。

 

 美岬は迫り来る異形を咬鱓(こうつぼ)で数十体は斬ったが、異形は以降に数を減らさずにどんどん増えてるように感じる。

 後ろで戦う朧の方を見ると、こちらも疲労が顔に表れている。

 

 咬鱓(こうつぼ)は1対1を想定した魚呪刀の為にこのような1対多の状況には向いていない刀なのだ。

 この刀を作ったイッポンダタラという魔化魍が美岬たちの元にいたが、彼は魔化魍の王と会う1ヶ月前に刀の鍛造を依頼されて美岬の元から去った。

 だが、彼の作った魚呪刀は何も2本だけではない。

 

美岬

【さあ初めて使いますからその力を見せてください斑鰒(まだらふぐ)!!】

 

 何もない空間から取り出したのは柄に斑模様が入った刀身が紫色の小太刀。

 そして、斑鰒(まだらふぐ)を振ると刀身から紫色の飛沫が飛び、異形に当たると–––

 

「グガガガガガッ」 

 

 当たった箇所から白い煙が発生し、醜悪な姿がドロドロと溶けていく。

 

美岬

【掛かって来なさい!! この斑鰒(まだらふぐ)の錆にしてあげる】

 

【美岬様だけじゃねいでありやす】

 

 宙から落ちて来た影の正体に気付き、普通に話しかける。

 

美岬

【貴方の出番はありませんよ跳】

 

【そうはいきやせん。皆はもう集まってやすから】

 

美岬

【え?!】

 

 跳の言葉を聞いて後ろに向くと屍王とマシンガンスネークを除く、美岬の仲間が集まっていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE朧

 美岬は新しい魚呪刀を使って、異形共を倒してるけど、こっちはそろそろ限界に近い。

 幻魔転身(げんまてんしん)を使いたくても、この数相手に使ったら体力が無くなる。

 

【あ、しまった!!】

 

 異形の相手で疲労した朧は遂に脚を踏み外して地面に倒れる。

 その隙を逃さない異形は朧に飛びかかるが–––

 

「グギョ、ぎょ、ぎょょょ」

 

 音撃管特有の高い音が響き、異形たちに当たると異形は爆散し、炎の龍が異形の腹を突き破って燃やす。

 

【な、何が】

 

【大丈夫か、朧】

 

【怪我はない】

 

 そう近づいて来たのは、朧の仲間。

 

【蛇姫! 暴炎!】

 

 2体の魔化魍だった。

 それでも朧を襲おうとした異形は–––

 

【行きなさい!!】

 

【ハッ!!】

 

 頭蓋骨が異形を喰い千切り、肌色の球の波が異形を呑み込み、獰猛な拳が異形を粉砕する。

 

【骸! 食香! 拳牙!】

 

 此処に眠眠と大尊を除いた朧の仲間達が合流した。

 

SIDEOUT

 

「久しぶりに蹂躙しようではないか、なあ………鬼よ」

 

 手を地面に付けて想鬼を睨みつける幽冥。突然雰囲気の変わった幽冥に驚くも想鬼は鎧の中で歪めた笑みをするが、この歪んだ笑みも絶望に染まるとは知らず。

 

 幽冥の意識は現在、イヌガミに変わっている。

 

「私の風を受けてみろ!!」

 

 両腕を組んで、勢いよく振るうと想鬼の足元に竜巻が起きる。

 

「?! があああああああ!!」 

 

 竜巻は勢いよく回り想鬼の右脚を捻り切る。

 

「どうだ!! 自慢の風の力は!!」

 

「はっ!! 隙ありだ!!」

 

 片脚を無くした想鬼はダラダラと血を流しながらも音撃吟遊詩弦(リュート)を構えて、音撃を放とうとするが–––

 

「何だ、こりゃ」

 

 音撃吟遊詩弦(リュート)に白い糸とツタが絡まって、想鬼から奪い取った。

 その先にいたのは–––

 

グルルルルルルル  シュルゥゥゥ

 

「ほお〜ツチグモともう1体は知らないが、いい腕だ」

 

 土門と睡樹だった。そして、一瞬にして音撃吟遊詩弦(リュート)を奪った腕前に感嘆の声をあげる。

 

「王、大丈夫ですか?」

 

 そう言って駆け寄って来たのは白だった。その後ろから仲間も白を追いかけて来ていた。

 

「俺の音撃吟遊詩弦(リュート)が………だが、俺にはまだアレが………」

 

【実験体だったら私たちが片付けました】

 

 そこには大量の異形の死骸が積み上げられて、その前に立つ朧と美岬とその仲間達だった。

 

「そんな……馬鹿な………いやまだ彼奴らが………」

 

「コイツラノ事カ?」

 

 そう言って黒は手に持つ風呂敷を解いて、中身を想鬼の前に投げる。

 頭の一部が陥没して両眼の無い松鬼の頭、ボロボロとガラクタのようになった竹鬼の鎧の破片、全体的に血で赤黒く染まった梅鬼の面が投げられた。

 この瞬間に想鬼は分かった。松竹梅兄弟は既に死んでいると。

 

 頭を下に下げてなにか考え込む想鬼。その想鬼を囲むように立つ仲間達。

 そして、幽冥が想鬼にとどめをさそうとすると–––

 

「ま、待て待て魔化魍の王。俺の降参だ。見逃してもらえねえか」

 

 まさかの言葉に幽冥の中にいるイヌガミは動きを止める。

 だが、それは罠だった。

 

「馬鹿が!!」

 

 そう言って、想鬼は右腕の隠し爪を幽冥に腹に突き刺す。

 

「がぼっ………」

 

 衝撃と共に腹に叩きつけられた一撃で幽冥の口から血が垂れる。

 

「王!!」

 

【幽冥お姉ちゃん!!】

 

美岬

【幽!!】

 

 白と朧と美岬の声が響く。

 

「ハハハハハは、隙ありだぜ。魔化魍の王様よ。こっちの演技に乗ってくれてありがとうよー、礼にてめえをすぐに殺してやるよ」 

 

「…………………」

 

 想鬼の声に何も反応しない幽冥。その様子につまらなそうにする想鬼だが、腕をさらに突き刺そうとすると手が動かない。

 よく見ると想鬼の腕を幽冥ががっしり掴んでいた。

 

「久々だよ、貴様のような外道は………貴様は今、私が引導を渡してやる」 

 

「がああああああ!! てめえ!!」

 

 幽冥の爪で腹に突き刺した腕を斬られた想鬼はもう片方の隠し爪を幽冥の頭に目掛けて攻撃するが–––

 

「見せてやる。この王の前世で見ていたものからヒントを得たこの技を受けてみろ」

 

 迫るもう片方の腕を弾いて、幽冥は想鬼の頭と腰を掴み、頭上に持ち上げる。

 

「何をしやがる!!」

 

「受けてみよ、超大嵐!!」

 

 そのまま、遠心力を加えて、想鬼を上空に投げ飛ばして、幽冥は両掌から風で作り出した球を想鬼に向けて投げ飛ばす。

 2つの風の球は想鬼の身体に当たると竜巻で全身を包まれて身体がブチブチと千切れていき、竜巻が消える頃には、汚い肉塊と青い水晶の破片が上空から落ちて来た。

 

 8人の鬼の末裔である鬼 想鬼は無惨な最後を遂げたのだった。




如何でしたでしょうか?
幽冥が最後に使った技はとある特撮ヒーローが敵に使った技をイヌガミがアレンジしたものです。技名を英語にしてある言葉を付けると元の技がわかります。
そして、次回には新たな魔化魍の王が2体登場します。
その後に幕間編とコラボ回です。
お楽しみに!!


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記録伍拾弐

次話更新完了
はい。北海道編が終わりましたが、まだ館には戻りません。



SIDE朧

 間違いないお母さんの風だ。

 

 小さい頃から何度も遊び(特訓)で浴びた懐かしい風だ。

 

 その風は鬼の身体をズタボロな赤い肉塊に変え、美岬は何かを見つけて肉塊の方に向かうが、私はそのまま、お母さんの元に走る。

 

【お母さん?】

 

「……………」

 

【お母さんなんでしょ!!】

 

「………久しぶりだね朧」

 

 顔は幽冥お姉ちゃんだけど微笑んだ顔がお母さんと同じだった。その顔を見た私の行動は早かった。

 お母さんの胸に飛びつく。

 

「ふふ。立派になったのにまだ抱きつくの?」

 

【だって……グス……】

 

「こうやるのも数百年ぶりだよ」

 

【お母さん…お母さん】

 

 私はお母さんの胸元で泣くが、お母さんは私の肩を掴んで私から離す。

 

【お母さん?】

 

「………朧、そろそろ時間なの」

 

【お母さん消えちゃうの……嫌だ…嫌だ、お母さんと別れるのは嫌だ】

 

「朧、今の私は9代目の身体を借りて喋る魂のような存在なの、だからこれ以上、身体を借りててはいけないの。

 でも、今日とは違う日にまた話す事が出来るは……その時まで待ってていられる?」

 

 優しく論しながら私にも頭を撫でて話すお母さん。

 お母さんと離れるは嫌だ。でも、それで幽冥お姉ちゃんが元に戻らないのも嫌だ。

 

【分かった。次に話すときは色んな話しを聞かせてあげ………わっ】

 

 幽冥に憑依したイヌガミは朧が喋ってる途中で抱きしめて笑顔で話す。

 

「その時を楽しみにしてるよ朧…………………あれ?」

 

 私を抱きしめながら別れの言葉を言って、お母さんは魔化水晶の破片の中に意識を戻して消え、幽冥お姉ちゃんの姿も元に戻り、今の状況がよく分かっていないのか戸惑っているようだ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 幽冥に憑依したイヌガミが朧と話しをしていた頃。

 

美岬

【この近くに落ちたはずなんだけど………】

 

 地面に落ちた肉塊周辺を何かを探す美岬。

 彼女が探してるのは8人の鬼が必ず1つ持っている物、魔化水晶の破片である。

 

 そして、上空から落ちてくる想鬼の肉塊と青く光る物を見つけた美岬は朧のこともあったので、その場から離れて魔化水晶の破片を探すことにした。

 数分経った頃に、その手には透き通った水晶を手に取る。

 

美岬

【間違えないこれは魔化水晶】

 

 目的の物を見つけた美岬は王の元へ戻った。

 そして、美岬が見たのは、朧を抱きしめているが状況に戸惑っている幽冥の姿だった。

 

 この状況を見た美岬の心は羨ましいと朧に対して思う。

 だが、美岬はその心に蓋をして落ち着いた頃に幽冥の方に歩き出す。

 

美岬

【幽、貴女に渡すものがあるんだけど】

 

「………あ、美岬。で、何を」

 

美岬

【あの鬼が持っていた魔化水晶の破片。受け取ってくれる?】

 

「うん。ありがとう」

 

 そう言うと幽は私の持つ魔化水晶に手を伸ばし、私はその手の上に魔化水晶を置くと。

 

朧、美岬

【【えっ!!】 】

 

 魔化水晶を受け取った幽は砂の地面に倒れた。

 それを見た幽冥の魔化魍たちは慌てず幽冥を跳が人間に化けて借りた貸家に移動した。

 

SIDEOUT

 

 ここは?

 私の周りには本を詰め込んだ本棚がズラリと並んでいた。

 

 8人の鬼の想鬼との戦いが終わり、朧に抱き着かれ、落ちて来た魔化水晶の破片を美岬から渡されて–––

 

「そこからは………私が、説明します」

 

 上から声が聞こえたので、上を見上げると………って、ええええええ!!

 上を見上げたら複数の巻物を持ち、札の様なものが大量に貼られ両肩に鈴が付いた漢服、紫の紐で結った赤紫色の髪、モノクルを掛けた女性が宙に浮いていた。

 そして、左眼に青い龍の痣に似た紋章が描かれていた。

 

 あ、貴方は?

 

「私は………2代目魔化魍の王 フグルマヨウヒです」

 

 フグルマヨウヒさんですか、シュテンドウジさんとイヌガミさんを入れて3回目ですね。

 

「シュテンドウジですか………はあー」

 

 どうしたんですか? そんな長い溜息なんかして。

 

「魔化水晶の中にいる王達は、水晶が集まる事に他の水晶の王の所に行き来出来るんですが、その……シュテンドウジは私の遠い子孫なので」

 

 え?

 えええええええええ!! ………イヌガミさんの娘が朧なのも驚いたけど、王の子供の中に王が産まれることってあるんですか?

 

「特殊といいますか、産まれるようです。ただ私がそれを聞いたのは、魔化水晶の中にいる時ですけど………」

 

 なんか、色々複雑なんですね。

 そして私はその後に子孫であるシュテンドウジさんのことについて壊れたラジオのように喋り続けるフグルマヨウヒさんの話を聞いていた。

 

SIDE赤

 王が想鬼と戦って、美岬が持ってきた魔化水晶を触ったら倒れた。

 王の姉、春詠様によると魔化水晶を触ると起こる現象で何日間眠って暫くすると起きるらしい。

 

 北海道で王が借りた貸家に全員で移動して、王が目覚めるのを待っている。

 

「王………」

 

睡樹

【心配……しなくても…大…丈夫………赤】

 

 そう言って話しかけるのは以前に私と似たような事をしていたという睡樹だった。

 

睡樹

【主………を心配するの…は僕にも………分かる…でも………そんな…顔し……たら主が………目覚めた…とき……悲しむ】

 

 そう言って、睡樹は私の頭を撫でる。

 

睡樹

【こう……すると…………落ち着くで…しょ】

 

 確かに少し落ち着く。そして、眠気が–––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE睡樹

 そ……れにしても………よく眠……る。

 

 自分の膝を枕のようにして眠る赤の頭を撫でながらそう思う。

 

 僕も前…はこん………な風に主…を心配……してい…たもの………だ。

 眠る………赤……を主のベッド……にのせ…て僕は白……達の所…………に戻る…ことにした。この……様子だ…とまだ、主は………眠ってそうだ…し、白に……報告…を頼ま……れたから。

 でも、少し……だけなら主…の頭を撫…でても…い…い…かな/////

 

 そう思った睡樹は幽冥の寝るベッドに近付きツタの腕を伸ばして、幽冥の頭を優しく撫で始める。

 

シュルルゥゥゥゥ

 

 睡樹はそのまま幽冥の頭を撫で続け、報告を待っていて様子を見に来た白にお仕置きされるのはまた別の話。




如何でしたでしょうか?
今回は新たな王の登場です。
茨木翡翠さんのアイディアのフグルマヨウヒが登場です。
前回は言葉だけでしたが今回はキャラを出して見ました。
次回をお楽しみに。


質問コーナー回答の欄
幽冥
「今回は悪維持さんの先代の魔化魍の王であるシュテンドウジさんとイヌガミさんの能力はどんなものかについての質問ですが、今回はおふたりをよく知ってるこの魔化魍達に答えてもらいます。どうぞ!!」


【イヌガミの娘 ヤドウカイの朧です】

拳牙
【スイコの拳牙だ】


【まずは私からお母さんの能力はズバリ、風を支配する能力だよ。お母さんは周囲にある空気を操作して風を作り出して、それを身体に纏わせたり、攻撃に使っていたんだよ】

拳牙
【次は私だな我が王シュテンドウジ様の能力は治癒能力鬼を体現する能力だ】

幽冥
「拳牙、鬼を体現する能力って」

拳牙
【シュテンドウジ様の鬼を体現する能力は正に鬼という言葉を表す能力です。その力は山を砕き、海ほどの酒を飲み干し、正々堂々の戦いを好み、あらゆる姿に化けれるといった鬼の事で有名な事が出来る能力です】

幽冥
「なるほど…………は、如何でしたでしょうか!! 貴方の疑問はこれで解決したでしょうか? 他にも気になる質問があったら活動報告に書いてください!!」


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記録伍拾参

お待たせしました。
今回は幽冥が目覚める前に王を驚かそうとする幽冥一家魔化魍の話でした。


SIDE跳

 現在、幽冥が寝てる貸家の外では跳と幽冥家の魔化魍たちや食香、拳牙、大尊、鋏刃、穿殻、浮幽が集まっていた。

 その理由は–––

 

【では、今からあんた達には人間になる為の術である擬人態の術を教えやす】

 

 そう。今、跳の前にいる魔化魍たちは人間に化ける術である擬人態の術を跳に伝授してもらうところだったのだ。

 

 以前、崩に伝授してもらった縮小の術は自身の身体を任意のサイズに変える術で土門たちはこれを使って、館の中に入れるようになったが、それでも行動出来ることが身体の形が人間とは異なる魔化魍では制限されることがあったので困っていた。

 そして、北海道でそのことを話すと最近の術については詳しい跳が術の方法を知っていたため、跳が伝授することのなったのだ。

 

【この術は自分の姿を人間にした姿に変わりやす、初めは上手くいかないかもしれやせんが頑張ってみるでやす】

 

 跳にそう言われて、各々は教えられた通りに術の発動を始める。

 

 すると最初に術が成功したのは土門と食香だった。

 土門の立っていた所には金と黒の打掛を着て、黄色のメッシュが入った黒の団子ないしのポニーテールにした女性に変わり、食香が立っていた所には少し膨よかな体型で肌色のエプロンを着けた包容力がある眼鏡を掛けた女性に変わった。

 

「これが人間の身体ですか」

 

「すごいですね」

 

 土門と食香は自分の手を見て、感想を述べる。

 これを見た他の者も次々と成功していき、魔化魍から人間に姿を変える。

 そして、跳を除いて全ての魔化魍が擬人態の術で人間に姿を変えていた。

 

「すげえ、これが王と同じ人間の身体」

 

「でも、空飛べない、あーあー」

 

「飛べたらおかしいだろ、馬鹿」

 

 ザンバラ髪の白い鉢巻を巻いた法被を着た少年になった羅殴は興奮気味に自分の姿のことを喋る。

 水色パーカーの水色の髪の幼女になった鳴風は自分の思ったことをそのまま口にして、少し落胆する。

 

 深緑の迷彩ベレー帽を被り左手に黒の指抜きグローブを着けた青年になった顎が人間の常識ではないことに対して毒のあるツッコミを鳴風に入れる。

 

 跳はその姿を見てうんうんと首を振り、満足そうに笑っている。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE衣鬼

 廃寺の地下に繋がれていた鬼の2人は今は貸家の側にあった物置小屋が監禁場所となっている。

 最初の頃と違って、突鬼の格好も貧乏そうな囚人服からジャージのような服装に変わっている。

 

「なあ衣鬼〜」

 

「何?」

 

 隣に繋がれている突鬼の言葉に反応する衣鬼。

 

「あいつの妃になるのいんじゃねえか」

 

「ええ!!」

 

 突鬼の突然の言葉に声を荒げる衣鬼。

 

「いやさ。もう魔化魍とかうんぬん抜きで、確実にあいつはお前にホの字だと思うぜ」

 

「で、でもやっぱり私は人間の方が………」

 

「うん? お前知らねえのか?」

 

「ん? 何を?」

 

「あーー知らねえのか。あの噂のことを」

 

「??」

 

「俺はつい最近、北海道に来たのはお前も知ってると思うけど、前にいた佐賀支部で聞いた話だ」

 

 その話を聞いた衣鬼は心当たりがあるのか記憶を思い出そうとする。

 佐賀支部は九州地方支部の1つで九州地方の中で少数精鋭に特化した支部で腕利きの鬼もいる。

 だが、おかしな噂があったはずだ。

 

「そこには魔化魍と結ばれた(・・・・)鬼がいるって話だが」

 

「!!!!」

 

 思い出した。かなり前に佐賀支部で広まった噂の事だった。

 魔化魍と結べばれた裏切り者の鬼がいて、さらにはその間には子供がいたという話だ。

 そんな会話をしてる2人は気づいていなかった。

 

屍王

【ほう。成る程、魔化魍との間に子は成せるのか】

 

 屍王の本体が2人の会話を聞いていた。

 屍王はこの話を聞いて、その後、さらに衣鬼を欲するようになったのは言うまでもない。




如何でしたでしょう?
幕間の次に話のためのお話を入れました。


質問コーナー回答の欄

「王が目覚めてませんので、今回は私が進行します」

鳴風
【進行補佐のイッタンモメンの鳴風だよ】

睡樹
【おな……じく、コロ…ポック……ルの…睡樹】


「今回は悪維持さんの公認中のカップルはいるかという質問ですが………」

睡樹
【今の…所はまだ…出…て来てない…けど】

鳴風
【話が進むに連れてこれはというような関係がいくつか出てくるよ】


「……………」

睡樹
【ど……うし……た…の白?】


「私も王に愛されたい!!」

白以外
【【…………】】


「なんで私の気持ちに気付いてくださらないのですか!!」

睡樹
【進行者の白……がトリップして…るのでここ……まで】

鳴風
【他にも気になったことがあったら質問コーナに書いてね。では】

白以外
【 またねーー】【ま…たね】


「はああ、王よ」


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記録伍拾肆

お待たせしました。
今回で魔化魍の王が4体目になります。歴代の王も後半分なりました。


SIDE鳴風

 王が魔化水晶を触って、眠ってしまい。2日目の朝になった。

 以前の私だったら慌ててたけど、今は気にしていない。何故なら王は必ず目覚めるから。

 

鳴風

【今日もいい風が吹いてる】

 

 そう口にしながら空を飛ぶ鳴風。

 

【鳴風ーー!!】

 

 そう声が聞こえて、後ろを向くと–––

 

【一緒に飛ぼうか】

 

鳴風

【いいよ】

 

 兜が一緒に空を飛ぼうと提案する。

 鳴風は迷いのない即答で答え、兜は嬉しそうに鳴風の隣を並行して飛び始める。

 兜の種族であるアカエイと鳴風の種族イッタンモメンとは人間でいう親戚のような関係に位置する種族だ。

 似た外見をしているが、食料と育つ環境が異なる。イッタンモメンは汁系のものを好んで湖で育ち、アカエイは干物系を好んで海で育つ。

 そんなわけで2体はすぐに意気投合して仲良くなった。

 

【ねえ鳴風】

 

鳴風

【どうしたの兜?】

 

【あなたは心配しないの王のこと】

 

鳴風

【心配してないって言ったら白とかが怒りそうだけど、私はそんなに心配してないよ】

 

【そう】

 

 兜はそれから喋らずに鳴風と並行して飛んでいた。

 そして、2体は飛び続けて雲の上に着いた時ちょうどに日が沈んでいくところだった。

 

鳴風

【やっぱり綺麗だな〜】

 

【そうだね。でも、1ヶ月に1回しかでない満月も綺麗だよ】

 

鳴風

【じゃあ、今度私にも見せてよ】

 

【ふふ。良いよ】

 

 鳴風と兜はそのまま日が沈むまでその場で滞空し、日が沈むと貸家の方に帰るために人間たちに見つからないように飛んだ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE羅殴

 王が眠られて4日経った。

 俺は貸家の部屋の1つで木を削っている。

 今回、俺が作ろうとしてるのはからくり箱または秘密箱と呼ばれているものだ。

 

 いくつもの仕掛けがあってそれが鍵がわりになりその仕掛けを解く事で箱を開く事ができる。完成品はひなと波音に渡す。そして2人の感想や改良点を聞いて、また新しいものを作る。

 

 部屋にコンコンと木槌で叩く音がリズムゲームのように響く。

 彼のザンバラ髪は部屋の湿気で少しグショグショになり、それが水滴となってポタポタと下に垂れていく。

 

 からくり箱の制作を始めて数時間が経った。

 仕掛けの取り付けも終わり、今は彫刻刀を使って、箱の表面を削っている。

 削り終わったひなの箱には蝶の彫刻が彫られており、今彫っているのは波音ので鯉の彫刻を彫っている。

 

 

 

 

 

 

 さらに数時間経った。

 羅殴の前には色が塗り終わり、鮮やかな色のからくり箱が2つとその上に紙が2枚置かれている。そして羅殴が現在悩んでいるのは、どのタイミングで渡すかだ。

 

 だが、既に夜遅くで今のタイミングで渡すのは酷と思い、からくり箱を持とうとするが羅殴は睡魔に襲われる。食事もせずにずっと作業していたからか羅殴は床に倒れてそのまま深く眠った。

 

 羅殴が眠って少しすると。

 羅殴のいる部屋の扉が開き、誰かが入る。そして、入って来た者は箱と紙の存在に気付き、紙の1つを読む。

 

「コレハ………ヨク頑張ッタナ」

 

 読み終わった者は眠る羅殴の頭を撫でた後に背中にのせて、からくり箱と紙を持って、部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 俺はいつの間にか眠っていた事に気付き、布団を退かそうと………布団!!

 羅殴は身体を上げて、今の状況を見る。

 

 部屋はいつの間にか作業部屋から寝室に変わっていた。

 そして、俺の寝る布団の反対側には。

 

「すーーー」

 

波音

【むにゃむにゃ】

 

 気持ちよさそうにくっ付いて寝るひなと波音が布団の中にいて、その枕の近くには俺の作ったからくり箱が2つとも置いてあった。

 そして、布団をよく見ると–––

 

羅殴

【(成る程、黒が)】

 

 黒の着る木こりのベストも一緒に掛かっていた。

 羅殴はひな達が目覚めないようにゆっくりと布団から出て、黒を探し始める。

 その後、羅殴が黒にお礼を言えたかは、当事者の羅殴と黒しか知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

「これ羅殴の新しいやつだ!!」

波音

【うん。でもどうやって開けるんだろう?】

 

 この後、からくり箱を開けるのに四苦八苦するひなと波音を見た美岬が開け方を教えると、2人は楽しんで開けたり閉めたりを繰り返していた。

 

SIDEOUT

 

 フグルマヨウヒさんの話を聞いてた途中で、景色が変わる。

 先程までいた本を詰め込んだ棚が沢山あった空間とは違い、そこは水晶のように透き通った氷の部屋だった。

 

「お前が9代目か」

 

 そして、後ろを振り向くと。

 今まで会った事がある人型の魔化魍の中ではダントツに高い身長の女性が氷の玉座から私を見下ろしていた。しかも右首筋に青い龍の痣がある。

 病的な程に白い肌に巫女服のような着物、青い髪には氷柱を模した複数の飾り簪を指し、赤の組紐が両腕に巻かれていて、シンデレラのガラスの靴のように透き通った氷の下駄を履き、金色の瞳で私をじっと見つめている。

 

「はよう答えんか!」

 

 はい。私が9代目と言われている者です。

 

「そうか…………はー、それにしてもまさか人間が王に選ばれるとは」

 

 少し溜め息を出し、やれやれというように首を振る魔化魍の王様の1体。

 そして–––

 

「そうだった妾の名を申してなかったな」

 

 こほんと咳払いをして私に目を合わせる魔化魍の王様。気のせいか部屋の低かった温度がさらに下がった気がする。

 

「妾の名はユキジョロウ。7代目魔化魍の王をしていたものじゃ」

 

 7代目ということはシュテンドウジさんの前の魔化魍の王か。

 今思うと、これで王に会うのは4回目だ。

 

「そうだ。今回の王はもう4つも魔化水晶を集めたのかとな」

 

 へっ…………それってどう言う事ですか?

 

「今までで魔化水晶を集められたのは多くても3個だったんだが、お前は王になって間もないのにもう4つ集めた。これは今までの王が成し得なかった事だ誇るが良い」

 

 急にそんなこと……言われて、も………

 

「今回はここまでか、まあ良いまた会えるだろう」

 

 幽冥が現実に戻ったことに気付いたユキジョロウはそのまま目を閉じた。




如何でしたでしょうか?
今回は7代目魔化魍の王ユキジョロウを出させていただきました。

質問コーナー回答の欄
シュテン
【今回はうちが9代目の代わりにうちらが答えたるわ】

イヌガミ
【今回は覇王龍さんの先代の我ら魔化魍の王についての質問だな。今回は後の楽しみという事で名前のみ教えようと思う】

シュテン
【先ずはオオマガドキやな。我らから見たら初代魔化魍の王で魔化魍の憧れやったお方や】

イヌガミ
【次はそこにいるシュテンドウジの先祖にもなる2代目の王 フグルマヨウヒだ】

シュテン
【次はイツマデンちゅう王やな3代目の王だった王やな】

イヌガミ
【4代目はダイダラボッチという王だ】

シュテン
【5代目はうちの側にいる朧の実母のイヌガミや】

イヌガミ
【…………あ、6代目はキンマモンという王だ】

ユキジョロウ
【7代目は妾。ユキジョロウじゃ】

イヌガミ
【貴様いつの間に!!】

ユキジョロウ
【まあさして気にする事ではあるまい】

シュテン
【8代目はうちシュテンドウジや】

イヌガミ
【これで全部の王を紹介できたな】

ユキジョロウ
【気になる事があれば質問コーナーに書くが良い】

シュテン
【では、さいなら】

イヌガミ
【では、また会おう】


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記録伍拾伍

お待たせしました。
今回は次回の悪維持さんのコラボに向けての話を少し入れます。


SIDE慧鬼

 幽冥が眠って1週間経った。

 相変わらずすやすやと眠る幽冥を見て、春詠は眠る幽冥の頭を撫でる。

 撫で終わって、部屋からでようとする。

 

「ん………お姉…ちゃん」

 

「おはよう幽」

 

 ベッドから起き上がる妹を見て、春詠は微笑みながらその言葉を言った。

 その数分後には幽冥を心配した魔化魍たちによって部屋の扉が壊れるとは幽冥は思っていなかった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE崩

 幽冥が目覚めた同時刻。

 貸家の外に崩、跳、狂姫、波音の4体の魔化魍が貸家の外に集まっていた。

 現在、崩たちがやってるのはこの貸家を王の暮らす館に転移させる術を地面に描いている。

 

 崩は今では失われていた古代の術を知ってる為に、その知識を跳に教え、狂姫と波音は転移する先の館の情報を跳に伝えて、それらの情報をまとめて跳は貸家を中心に術式を描いてる。

 

 何故このようなことをしているのかというと、全員で北海道から東京に移動する事が出来ないからだ。

 全員擬人態になれるようになったとはいえ、新幹線に乗るにしても大量の金が必要で、現在持ってる所持金と美岬が持ってるお金を合わせても足りず、ならば眠眠を気体化して全員で乗ればいいと案もあったが、眠眠曰く『そんな人数で乗られると身体が霧散しちゃう』と言って、この案も却下された。

 ならばと出されたのがこの案だった。

 

【これで完成でやす】

 

【我の知ってる中でもかなりの上位術だったんだが、よく描けたの】

 

【少し不安な所もありやすが、全力で術は描きやした。成功するはずでやす】

 

 集中していた汗を作務衣の裾で拭く跳。

 

波音

【後はお姉ちゃんが起きるのを待つだけ………あ、この後ひなと遊ぶんだった】

 

 そう言う、波音は擬人態に姿を変えて貸家の中に走っていく。

 

狂姫

【私も荒夜様の所に戻ります】

 

 狂姫も自分の夫でもある荒夜の所に向かうため、その場から一瞬にして姿を消した。

 

【術式に不具合があると困るからな我らはこのまま残ろう】

 

【そうでやすね】

 

 とくに予定のない2体はそのまま外で自分達の描いた術式を調べていた。

 

SIDEOUT

 

「私が起きて嬉しいのは良いんだけど、一気に入って来ようとしたら扉が壊れるに決まってるでしょ」

 

 現在私は目の前に正座させている擬人態となった土門たち(その中には姉である春詠も一緒)に説教している。

 

「取り敢えず今日はこれまでにしておきます」

 

 土門たちはそれを聞いて、安堵の溜息を吐くが–––

 

「でも、扉は壊したんだからその罰は後で全員きっちり受けてもらいますよ。という事でその時はお願いね白」

 

「分かりました」

 

 ふふふっと、白の少し気味悪い笑い声が溜息を吐いた土門たちの安心した顔から絶望に落とされた顔をしてお互いに抱き合った状態でブルブル震えている。

 ちなみにこの時、白が手に持っていたのは普通の縄だった。

 

 私はそのまま貸家の外に出ると、固まって何かを喋る白髪の物腰柔らかそうな老人と青い作務衣を着た短髪の青年が話をしていた。

 私の姿が見ると話をやめて此方に向かって来る。

 白によると私が1週間眠ってる間に跳から擬人態に変化する術を教わり、人間に変身できるようになったと聞いた。

 そして、説教した擬人態の家族で私が会っていないのは1体のみ。

 

「崩と跳だよね?」

 

 疑問形の言葉で聞く私の声に白髪の物腰柔らかそうな老人は少しビックリするもすぐにその顔を笑顔に変えて返事を返した。

 

「1週間ぶりです我らが王」

 

「お久しぶりでありやす」

 

 そう言って、2人は片膝をついて私の前で頭を下ろす。

 

「王よ。ご許可頂ければこの貸家を王の住む館の一部として転移させてもらいたいのです」

 

 突然、崩が私を驚かせる事を言ってきた。

 

「どうしてこの貸家を館に持っていこうとしてるの?」

 

「その理由はこの貸家が魔化魍になるからでありやす」

 

 跳の言葉に私は驚いた。

 この貸家が魔化魍になると跳は言った。つまり私の知らない魔化魍に変わる、そして家族が増える。

 その話を聞いた私は断る理由もないので、崩と跳に許可した。

 

「「ありがとうございます(やす)」」

 

 2人は下げている頭を上げて感謝の言葉を言う。

 

「では、崩に跳はそのまま準備をして、用意が完了したら私に連絡して」

 

「「分かりました(やした)」」

 

 私は2人の準備を待ちながら新しく生まれる魔化魍の名前を考えながら貸家の中に戻った。

 

SIDE◯◯

 とある空間に幽冥を見る1人の女性がいた。

 

「義姉さん何を見てるですか」

 

 女性の後ろから1人の青年が現われる。

 

「ちょっと転生者の気配を感じたから様子を見てたんだけどね、この娘凄いよ。

 人間なのにあの魔化魍を育てて、しかも家族って呼んでるんだから」

 

「!? あの魔化魍(・・・)を育てているんですか!?」

 

「そう。凄いと思わない」

 

「確かに、ですが僕としては義姉さんが転生者を褒めてることに驚いていますよ」

 

「そりゃ転生者(クズ)とは違うからね」

 

 女性はそう言うと幽冥の顔を見る。

 

「ねえ陽君」

 

「なんでしょうか義姉さん」

 

「あの娘たち、ここに招待しない」

 

「良いですよ義姉さんが招待したいなら」

 

 そう言って2人は空間から姿を消した。




如何でしたでしょうか?
次回はコラボ編になり、幕間を少しでひな編に入ります。


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コラボ編 魔化魍の王と煉獄の義姉弟
壱 転移


悪維持さんとのコラボ編です。



 おかしい、おかしい。

 あの後、準備が完了したということで貸家の中に全員(捕虜である突鬼と衣鬼は縛った状態で同じ場所に)集まり、崩と跳に転移の術を発動させた。

 

 結果、術は成功して北海道にいた私たちは東京にある館に無事転移出来たが、転移した直後にまた別の所に館ごと転移した。

 その場所はおそらく日本やアメリカなどの外国ではなく異世界。

 その理由は、転移直後に見た景色。地面は闇を表すような漆黒で、樹木は灰色で葉は1つも付いていない。そして生命体は1つも見ていない。

 

 だが、このままここでジッとしてもしょうがないので私は–––

 

「取り敢えず、お姉ちゃんと朧と美岬は着いてきて。ひなと波音はここから外に出ないでね。白と黒と赤はひなと波音をお願い。土門たちは館の防衛をお願い。

 もしも生命体がいて友好的なら私に報告して、もしも敵対の意思を見せたら全力で敵を滅ぼしなさい」

 

「分かった」

 

波音

【分かったお姉ちゃん】

 

【分かったよ幽冥お姉ちゃん】

 

美岬

【ふふふ分かったは幽】

 

「「「かしこまりました」」」

 

朧、美岬を除いた全員

【【【【【ハッ!!】】】】】

 

そして、幽冥たちは行動を始めた。

 

SIDE慧鬼

 幽たちと共に歩いて数分経つが、周りの景色は館の中から見た景色と変わらずで、同じ景色ばかり続いてる。

 幽は先程、朧に頼んでさらに先を走って見に行ってもらっている。

 

「何も無いですね。」

 

美岬

【幽。今は朧の報告を待ちましょう】

 

 人間態の姿では無く、本来のヤオビクニとしての姿に戻り、その手には布で包まれた斬馬刀のような魚呪刀 堅鯨(けんげい)を抱えていた。

 

「前世の頃だったら転生とかは信じなかったのに、まさか自分で経験するとはね」

 

美岬

【そうですね。私は魔化魍として、春詠さんは鬼として、幽は魔化魍の王として】

 

 美岬の言葉で思い出すが、幽は魔化水晶が集まるたびに少しずつ魔化魍の王として人間の身体が無くなっていく。

 どう足掻いても人間である私は寿命で死んでしまう。

 だから、館の地下室にあった資料などで人間を魔化魍にする研究を幽には秘密で行なっているが、今だに人間を魔化魍に変える方法は見つかっていない。

 

「幽冥お姉〜〜ちゃん!!」

 

 そうこう考えていると、朧が声をあげながら幽の胸元に飛びついた。

 

「おかえり朧。何か見つけたの?」

 

【うん。でも此処からかなり離れた所にあったから幽冥お姉ちゃん達を背に乗せて走った方がいいと思って。だから全員乗って】

 

 そう言って、朧は擬人態を解除して本来の姿に戻し、身体を屈めて、幽冥たちが乗りやすい体勢になった。

 

「朧、凄いサラサラだね」

 

「確かに幽の髪よりサラサラしてるかも」

 

美岬

【朧、後で手入れの方法教えて】

 

【いいよ。じゃ、みんな乗ったみたいなので、目的地まで走るから振り落とされないようにね】

 

 そう言って、走り出す朧。

 そして速度はどんどん増していき、遂には流れる景色が映像のように見えるほどの速さで走り出す朧。

 そんな風に走る朧の上に乗って数分。

 朧の走りは徐々にゆっくりしていき、やがてその脚を止めた。

 

【ほら、あれだよあれ!!】

 

 朧が何かを見つけた方向に幽冥たちは顔を向ける。

 

「「【!!!】」」

 

 それを見た瞬間に息を呑んだ。

 生命が一切存在しないと思われた世界でハッキリと生命が存在すると思われるものを朧は発見したと幽冥は思った。

 そこにあったのは、まるでおとぎ話の王子様の住むような大きな西洋の城だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

「流石は陽くん。此処、煉獄の園(パーガトリー・エデン)の統治者」

 

 さて、早く来ないかな〜〜

 その城の中に住まう女性は幽冥たちの来訪を楽しみに待っていた。




如何でしたでしょうか?
城を発見した幽冥たちはその城に向けて、歩みを進める。

そして、館に残った白たちに送られる使者と名乗る異形。

次回、人間だけど私は魔化魍を育てています。コラボ編 魔化魍の王と煉獄の義姉弟 弐 邂逅。
お楽しみにしてください。


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弐 邂逅

お待たせしました。
コラボ編第2話です。



 遠くに見えた西洋の城に近付き、門の前に辿り着く。

 

「館より大きいね幽」

 

「そうだねお姉ちゃん」

 

 普通の家だったら、呼び鈴でも押して、中に入らせて貰うだけど、こんな西洋の城の門に呼び鈴があるわけ無いし。

 そう思って、門の前で立ち往生していると–––

 

【てい!!】

 

 そんな軽い声で前脚を使って朧が門を押すと、門は音を立てながら大きく開く。

 

「朧………開けるときは開けるって言って」

 

【は〜い】

 

 朧にそう言って、開けてしまったものはしょうがないので、中に入るとあるものが目に入った。

 

「「「「「「ようこそ。煉獄の園(パーガトリー・エデン)へ」」」」」」

 

「「「あれは!」」」

 

【?】

 

 私とお姉ちゃんと美岬は驚き、朧はなぜ驚いてるのか分からないので頭を傾ける。

 朧が理解できないのも無理はない。何故なら目の前にいる複数の異形達の事を知っているのは前世の記憶を持つ私とお姉ちゃんと美岬だけだ。

 特にお姉ちゃんはその存在をよく知るだろう。

 

 異形達は特撮でいう戦闘員と呼ばれているもので、仮面ライダーやスーパー戦隊での敵組織や敵キャラの部下とも言える存在だ。

 そして、今いるのは3つの戦闘員だ。

 

 1つは、のっぽらぼうのように顔の無い真っ黒な顔に黒のパーカー、身体には人間の肋骨を思わせる服、そして腰に巻かれている眼をイメージしたベルトを着け、眼魔眼魂から生み出され、動きはゾンビのように緩慢で、集団で襲いかかる。

 英雄の魂を力に戦った仮面ライダーゴーストに出る眼魔世界から送り込まれた戦闘員 『眼魔コマンド』。

 

 1つは、黒のロングコートで黒のソフト帽を目深に被り、首には白のマフラーがなびくギャングファッションで、口元の薄ら笑いに似た模様、影から現れてステップを踏みながら、帽子のツバを片手で摘んで構える。

 創造力が力となる烈車戦隊トッキュウジャーに登場する光を嫌い、全ての世界を闇に変えようとしたシャドーラインの戦闘員 『クローズ』。

 

 1つは、戦国の足軽に似た身体で、青と黒の体色に正方形を正しく並べたような鎧姿、鬼面のような紋章の入った編笠を被り、手には種子島型の銃にもなる長い槍、封印の手裏剣から漏れ出た牙鬼幻月の妖気から生まれる。

 ラストニンジャを目指す孫たちが変身する手裏剣戦隊ニンニンジャーと戦った妖怪の恐れを集めるために人間を襲う牙鬼軍団の足軽戦闘員 『ヒトカラゲ』。

 

「ねえ、幽これって歓迎されてるんだよね?」

 

「多分」

 

 すると、その中の1体のクローズがお決まりのように帽子のツバを摘みながらこちらに歩いてくる。その姿に朧は戦闘態勢に移ろうとするが、幽冥が手で制した。

 

「安倍 幽冥様でよろしいでしょうか?」

 

 いきなりのクローズの言葉に幽冥は驚くが、それを内面にしまって、クローズの質問に答える。

 

「そうです。私が安倍 幽冥です」

 

「幽冥様が来たら案内を申しつけられたクローズAです。あるお方が貴方にお会いしたいと仰りまして、着いて来ていただけないでしょうか?」

 

 クローズAの言葉が事実なら館をこの場に転移させたのはそのあるお方なのだろう。

 取り敢えずはそのあるお方に会うために私達はクローズAに着いて行く事にした。

 ちなみに、他のクローズ達も眼魔コマンド達とヒトカラゲ達は私たちの背後から着いて来ている。

 

SIDE白

 王たちが外の調査に出られて、数時間経った。

 私は王が居ない時には、王の代わりに指揮権を行使できるので、まずは館の防衛用罠を顎や跳たちに製作させ、黒と食香にはひなと波音の世話と護衛をランピリスワームやマシンガンスネーク、インセクト眼魔には館の防衛を鳴風と唐傘、兜には上空からの索敵を頼んだ。

 

 白は館の1階にある部屋の1つでこの世界の情報を纏めていた。

そんな中に館の窓から水色のパーカーを着た水色のショートヘアの幼女の姿の鳴風が降りてきた。

 

「白、何かが館に近づいているよ」

 

 鳴風の報告で、白はこの場所にも生物に準ずる何かがいるのが分かったのは嬉しいと思うが、それが友好的なのか好戦的なのかが分からないいじょう何かがあってからでは遅い。

 そう思った白は目の前の鳴風に指示を出す。

 

「鳴風。全員を門の前に集合させて」

 

「分かった」

 

 鳴風はそのまま部屋の扉を開けて、部屋から走り去った。

 白も纏めた情報を机の上に置き、部屋の扉を閉めてから門の前に向かった。

 

 館の門の前には、朧と美岬を除く、王の愛する家族が集まっていた。

 白が近くに来たのに気付き、みんな静かになり白をジッと見る。

 

「みんなよく集まりました。王が外の調査で居ない間は私が代理で指揮を執ります」

 

 白の声に反論するものはなく白はそのまま話を続ける。

 

「鳴風たちの報告でこの館に向けて何かが向かって来ています。

 王が居ない今、館を守るのは我々しか居ません。王の指示の為、友好的なら館に招待しますが、我らに敵対するという愚かな生物は撃滅しなさい」

 

グルルルルルルルルル  ピィィィィィィィィィィ  ギリギリギリギリギリギリ

ノォォォォォォォォォン  シュルルゥゥゥゥゥゥ  ウォォォォォォォォォォォ

コォォォォォォォン  ジャラララララララ  カララララララララ  ボオオオオオオオオ

ヒュウウウウウウウウウ  フアアアアアアア  プルルルルルルル  グガアアアアアアア

キュウウウウウウウン  ショキ、ショキ、ショキ、ショキ  ハハハハハハハハハハハハハ

キキキキキキキキ  コン、コン、コン、コン  ンキィ、ンキィ、ンキィ、ンキィ

ヒュルルルルルルル  ルルル、ルルル、ルルル、ルルル  フシュルルルルルル

クルウウウウウウウ  ピァァァァァァァァァ  ユレレレレレレレ

チッチッチッ、チッチッチッ、チッチッチッ、チッチッチッ

 

 家族たちの肯定を表すような雄叫びが館に響く。

 

SIDEOUT

 

 クローズAに着いて行くと1つの部屋の前で止まる。そして、扉の前でいつもの格好になり私に話をする。

 

「幽冥様。こちらに幽冥様をお待ちしているお方がおります。

 私共の案内はここまでですので、では」

 

 そう言ってお辞儀し、他の戦闘員メンバーと共にクローズAは下がっていった。

 私は少し困惑しながらも扉をノックしようとしたら。

 

「ふふ、開いてるから入って大丈夫だよ」

 

 中にいる者からの声でノックするのをやめてそのまま取っ手に手をかけて扉を開ける。

 

「「「「お邪魔します」」」」

 

「いらっしゃい」

 

 そこには、真紅のように赤い長髪で海のような青い瞳のモデルのような女性がティーカップを持ちソファのような椅子に座っていた。

 

「初めまして。アタシは兵鬼 薫」

 

「初めまして。安倍 幽冥です」

 

「この子の姉の安倍 春詠です」

 

「お姉ちゃんの家族の朧」

 

「幽の友人の美岬です」

 

「まあ、立ってないでそこに座ってたらどう」

 

 互いに自己紹介をして、目の前の薫さんがソファに腰掛けるよう促す。

 

「それにしても………最近の転生者にしては凄い真っ当だね」

 

「「「!!」」」

 

 薫さんの言った言葉に朧を除いた私たちは驚く。

 

「何で私たちが転生者だと」

 

「私ね。転生者ハンターという仕事にしているの」

 

「転生者ハンター?」

 

「そう。だけど、私たちが狩るのは世界のバランスを乱すクズな転生者だけだから安心して」

 

 何を安心して良いのか………そういえば。

 

「薫さん」

 

「どうしたの春詠ちゃん?」

 

「先程、私たちがと言いましたが、ここには他に誰か住んでるんですか?」

 

「あ、そうだったね。今、幽冥ちゃんの家族の迎えに行ってもらってるから居ないけど、弟がいるよ」




如何でしたでしょうか?
次回は白たちの話を少し入れて、安倍家が煉獄の園に集結します。


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参 会話

新話です。コラボ編の真ん中あたりです。後、少しでコラボ編終了です。


 現在、薫さんが弟さんに頼んで私の家族達をこの城に呼びに行ったのだが、その間に私たちが暇したらいけないと言った薫さんはヒトカラゲ達にティーセットを頼み、私とお姉ちゃん、朧と美岬のプチ女子会を開いた。

 そして、その話の中で分かった事が何個かある。

 この世界は弟さんが支配する煉獄の園(パーガトリー・エデン)という世界。薫さんと弟さんは実の姉弟ではないが姉弟以上に仲が良い。

 ヴラド・スカーレットという育て親がいる。屑転生者を狩っていて、一部は捕獲して玩具(おもちゃ)にしている。

 

「それにしても転生者ってそんなにいるんですか?」

 

「いるよ。それはもうウーーーーンザリするくらい」

 

「転生者は私たちだけと思っていましたが、その話を聞くと私たちのいる世界にも転生者がいるのかもしれないですね」

 

「あーーーどうだろうね。アニメ世界やライトノベル世界にだと屑転生者が多いけど、特撮の世界で屑転生者が出たのは本当に少ないし、オマケに好き好んで魔化魍に襲われる世界に行く屑転生者はいないと思うし、幽冥ちゃん達もどちらかというと屑転生者たちのような神様転生ではなく、普通の転生だしね」

 

 薫さんの話で少しは安心した、もし屑転生者というのが私の家族を狙ったら、私は自分の使える能力と歴代の魔化魍の王の力をフルに使って、屑転生者を灰塵に変えてやる。

 

「ふふ、その顔を見るに幽冥ちゃんも屑転生者には容赦しない人と見た」

 

 薫さんの言葉で、今自分の考えていたことに驚いた。魔化魍の王になりつつある自分は少し、過激な思考も出来るんだと。

 だが、そんな私の考えは気にせずに薫さんは笑顔で私達に話を続ける。

 

SIDE白

 今の私は、いや私たち困惑という状態なのだろう。

 

 我々のいた館がいつの間にか城の庭の中央に移動していた。

 突然の事態に固まる私と家族、そんな中、ひなと波音はそんな状況を気にせずに、青と黒の長方形が並ばられた足軽の異形 ヒトカラゲに肩車してもらって遊んでいる。

 全部あの人間がやったのだろう。煉獄の園(パーガトリー・エデン)の主 鬼崎 陽太郎が–––

 

〜回想〜

 私は鳴風たちの報告で伝えられた近付いてくる何かの正体を見るために、鳴風、睡樹、蛇姫、拳牙、荒夜を連れて門の外で何かを待っていた。

 

鳴風

【あ!! あれだよあれ】

 

 そう言って、鳴風が尻尾で示した先に何か、いや黒いギャング姿の異形を引き連れた、白のワイシャツに黒のズボン、その上にはボタンを開けた学生上着を羽織った青年がいた。

 そして、青年と黒のギャングの異形が私たちの前で動きを止める。

 

「イッタンモメンの妖姫 白ですね」

 

「!!」

 

 いきなりの青年の言葉に驚くが、すぐに気持ちを落ち着かせて、目の前の青年話し掛ける。

 

「貴方は何者ですか? 見た所、人間だと思うのですが」

 

「そうでした。自己紹介がまだでしたね………僕は鬼崎 陽太郎。貴方たちが今いるこの世界、煉獄の園(パーガトリー・エデン)の主です」

 

「成る程。この世界の管理者というところでしょうか?」

 

「そうですね。そんな所です」

 

「それで、どの様なご用件でしょうか? 残念ながら我らの王はご不在なのですが」

 

「貴方たちの王と家族3人は今頃、僕の義姉さんとお茶会をしていると思います。

 まあ、目的を言うのでしたら貴方たちを僕の城に招待しますという所でしょう」

 

 白は、目の前にいる青年の話を聞き、王達は如何やら、青年の姉と共にいることがわかった。

 だが、これが罠だったらという考えもあるがそれは無いだろうと思い。

 

「分かりました。その招待状受けましょう」

 

「では、僕を貴方たちの館に案内してもらってよろしいでしょうか?」

 

「分かりました。では着いて来てください」

 

 そして、白は陽太郎を自分たちの家とも言える館に案内した。

 ちなみに、クローズ達は陽太郎に徒歩で帰れと命令されて、城の方に向かって歩いて帰った。

 

 そして、青年を館に入れて、少しすると急に何かを呟き、一瞬館が揺れたと思い、外に出たらさっきまでいた景色とは違い、城の中庭の中央に館が転移していた。

〜回想終了〜

 

 そして–––

 

「白!! みんな!!」

 

 愛しの王の声が聞こえた。

 振り向くとそこには、普段着とは違った服、例えるならお伽話のお姫様が着るような煌びやかな純白のドレスを身に纏った幽冥と舞踏会で着るドレスを着た春詠と朧、美岬がいた。

 これを見た、白は幽冥に見られない様に鼻を抑えた。

 もし、抑えている手を退かせば折角の王のドレスが自分の血で染まってしまうと。

 

 そんな白の気持ちは知らずに幽冥は、今の格好に少しむず痒い思いをするが、その内慣れるだろうと思い、館にいる家族の元に向かった。

 

SIDEOUT

 

 陽太郎さんの前には暴炎と荒夜、屍王が気にも似た似た何か昂ぶらせていた。

 

暴炎

【陽太郎、勝負】

 

荒夜

【陽太郎殿、行くぞ!!】

 

屍王

【ハハハハハ、ファラオの力を見せてやる陽太郎ぅぅぅ!!】

 

「良いですよ。王の魔化魍の力ーーー見せてください」 

 

 そして、薫さんの前にはいつでも戦えると言わんばかりの骸と狂姫、拳牙が立っていた。

 

【本当に良い頭蓋骨くれるんだな!!】

 

狂姫

【……………】

 

拳牙

【いざ尋常に】

 

「簡単に倒れないでね」

 

 私の家族と異世界の主の義姉弟の手合わせが始まろうとしていた。




如何でしたでしょうか?
次回はほぼ戦闘のみです。
楽しみにしていてください。
気になることがありましたら、活動報告の質問コーナーに書いてね、では、また次の投稿で


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肆 勝負前編

コラボ編で戦闘回です。
初めに陽太郎VS暴炎
   陽太郎VS荒夜
   陽太郎VS屍王
を送りします。


 それは唐突に始まった。

 

荒夜

【陽太郎殿、少々手合わせを願いたい】

 

 その言葉を言ったのは美岬の部下とも言えるヤシャの荒夜だった。陽太郎さんは最初は少し驚いていたが、その顔は獰猛な笑みに変わる。

 そして、それを見た薫さんも私の家族に–––

 

「誰か勝負しない私に勝ったら叶えられる願い叶えてあげるよ」

 

 その言葉に反応した骸と狂姫、拳牙は薫さんに詰め寄る。

 

【その話って】

 

狂姫

【本当に………】

 

拳牙

【本当に叶えてくれるのですか】

 

「う、うん。叶えてあげるよ………私に勝てたらね」

 

 そう言った後に薫さんは陽太郎さんに目を向けると、陽太郎さんはパチンと指を鳴らす。

 その瞬間に、城の中庭にいた私たちはコロシアムの様な場所に移動した。

 館は如何やら、城の中庭にあるらしい。

 

「挑戦者はコロシアムの中央に見学者はコロシアムの席に移動してください」

 

 私たちはそのまま、席の方に移動する。

 

SIDE陽太郎

「では私達、鬼崎義姉弟と挑戦者による試合を開始します!! 最初は陽君からだよ」

 

 コロシアムの中央にいる義姉さんの声がコロシアムの中で響き、見学者となっているクローズや眼魔コマンド、ヒトカラゲと魔化魍の王の家族の一部の声がコロシアムに響き渡る。

 

「まずは誰からやりますか」

 

暴炎

【俺と、勝負】

 

「良いですよ」 

 

 陽太郎が茶色の笛を吹くと空から2匹の蝙蝠が飛んで来る。

 そして陽太郎の手に止まると、光を放ち蝙蝠の姿から2丁の銃 『吸血蝙蝠の双銃(ヴァンバット・ツインガン)』に姿に変える。

 

「先ずは小手調べです」

 

 陽太郎はそう言うと、吸血蝙蝠の双銃(ヴァンバット・ツインガン)を暴炎に向けて構え、無数の銃弾を放つ。

 

暴炎

【………】

 

 暴炎は身体に密着して隠れている腕を出して、頭の炎を操り、銃弾を焼却する。頭の炎を元の位置に戻して、暴炎は陽太郎に向かって駆ける。

 

 陽太郎は走る暴炎に向かって撃つが、暴炎はギリギリの所で躱して、その距離をどんどん近付けるが陽太郎は–––

 

極刑の赤十字(カズィクル・ベイ)!!」

 

 吸血蝙蝠の双銃(ヴァンバット・ツインガン)の銃口から極大の真紅のレーザーが暴炎に迫る。

 

暴炎

【っ唸れ!!】

 

 ゆらゆらと暴炎の頭部で燃えてる炎は暴炎の声で勢いを増して、暴炎の身体全体を炎が包み込んで、極刑の赤十字(カズィクル・ベイ)を防ぐが、炎は少しずつ真紅のレーザーに呑まれていき、やがて炎ごと真紅のレーザーは呑み込み、陽太郎は吸血蝙蝠の双銃(ヴァンバット・ツインガン)をおろす。

 だが、そこには暴炎の姿が無かった。

 

「っ!!」

 

 陽太郎は後ろから迫る気配に気付き、振り向くと口から炎を吐こうとする暴炎がいた。

 だが、陽太郎は暴炎の下顎に向けて蹴りを入れ、炎を吐き出そうとする暴炎の口を無理矢理に閉じさせる。炎を吐き出せずに暴炎は目を見開く。

 陽太郎は吸血蝙蝠の双銃(ヴァンバット・ツインガン)を暴炎に撃ち、弾は暴炎の尾に当たる。

 

 陽太郎は暴炎を宙に蹴り上げて、再び銃口を暴炎に合わせる。

 

吸血竜姫の鎮魂歌(レクイエム・ドラキュリア)!!」

 

 宙に上げられた暴炎に特大の雷が当たる。雷はそのまま暴炎の身体に留まり、陽太郎が構えを解くと、少し黒焦げになった暴炎が落ちて来る。

 

「勝負あり」

 

 義姉の声が響き、陽太郎はハッとする。久々の屑転生者以外との戦闘で最後だけつい本気になってしまった。

 そして、暴炎の傷を治す為に近づこうとするが、いつの間にか暴炎は朧に咥えられて、幽冥の元に移動し、ドレスから赤紫の着物に姿を変えた幽冥が口移しで何かを暴炎に飲ませていた。

 徐々に傷が無くなっていく暴炎を見て、陽太郎は安堵する。吸血蝙蝠の双銃(ヴァンバット・ツインガン)を離すと、蝙蝠に変わり空へ消えていく。

 

「さて、次は誰がやりますか」

 

 陽太郎の視線は、残りの挑戦者の荒夜と屍王に向けられる。

 

「では次は私がお相手願います」

 

 荒夜は刀を帯に通して、陽太郎の前に立つ。

それを見た陽太郎は今度は口笛をピィーーと吹くと–––

 

アオオオオオン

 

 遠吠えと共に朧とは違う逞しい青い狼が陽太郎の元に現れる。

 

「いくよガル!!」

 

アオオオオオン

 

 ガルが遠吠えをすると少し明るかった空が黒く染まり、三日月が輝く夜に変わる。

 そして、ガルは青い剣 『蒼鋼狼の牙剣(ウルフファング・エッジ)』へと姿を変えて、陽太郎の手に収まる。

 

「同じ剣で勝負してくれてかたじけない」

 

 わざわざ自分と同じ武器を使ってくれた陽太郎に感謝の言葉を荒夜は送る。

 

「いいよ。それにガルは僕の相棒だし、それに貴方とは剣で勝負したいんです」

 

荒夜

【重ねて感謝する…………では、征くぞ】

 

 荒夜の姿は擬人態を解いて魔化魍としての姿に戻り刀を構える。

 陽太郎も剣を構えて、2人は隙を伺う。

 

SIDEOUT

 

 ………って、またいつの間にかこの姿になっていた。

 そして、私の膝の上には橙の髪の青年が静かに呼吸をしながら眠っていた。まあ、さっきの試合をしていた家族を考えて、この青年は暴炎だろう。

 

 そして、陽太郎さんに次に挑むのは荒夜のようだ。

 美岬の話によると、荒夜はとある武家の武士だったと聞く。居合を得意とし、その時代では居合を使った戦いにおいては負け無しだったといわれる。

 荒夜は刀を横に向けていつでも居合をできる体勢に変える。

 陽太郎さんは蒼い剣を担ぐと、数人の陽太郎さんに分身する。

 

「「「えええええ!!」」」

 

 突然の事に私たちは驚く。

 そんな私たちを薫さんが微笑んだ顔で見る。

 

SIDE荒夜

 突然の分身に私は驚くが、数が増えただけと思う。

 

「では、行きます瞬狼影斬(イリュージョン・ヴォルフ)

 

 分身した陽太郎殿が私に迫る。私は迫る刀身に合わせて刀を抜いて、剣戟を防ぐ。

 しかも、ただの分身では無いようだ攻撃を受けた手応えがどれも本物だった。おそらく、分身と言っても本物と大差ない分身なのだろう。

 だが、分身は分身だ。

 こっちにも1対多に対する剣技も持っている。

 

荒夜

閃居合流 絢爛

 

 刀を抜き、迫る陽太郎殿達の首、胴、腕、脚に連続の居合を浴びせる。

 分身の陽太郎殿は1人を残して、黒いモヤとなって消える。

 

「驚きましたね。私が本物だと気付いていたんですか?」

 

荒夜

【いいえ。ただ貴方程の実力者が避けれない筈がない】

 

「ははははははははは!! そうですか。僕がここまで笑ったのも久しぶりです。ですから、特別に私の技を1つ教えてあげます」

 

荒夜

【ほお、それは興味深いですね】

 

「今から1回だけ見せます。それを覚えて私に使ってみてください」

 

 陽太郎の剣は蒼炎に包まれる。そして–––

 

煉獄一閃

 

 蒼炎と共に振り下ろされる一撃はコロシアムの床を砕いて、燃やし尽くした。

 その光景を見た鬼面の下にある私の顔は歓喜に満ちた顔に変わっていただろう。なにせ、幾人もの転生者を屠った男の技を伝授して貰ったのだから。

 

「では、荒夜さん。どうぞ」

 

 陽太郎は荒夜の前に立ち、蒼鋼狼の牙剣(ウルフファング・エッジ)で技を受けるようだ。

 

荒夜

【陽太郎殿、貴殿の技を私なりに解釈して使わせて頂きます】

 

 荒夜は刀を旋風回転し始める。

 陽太郎はいきなり刀を回転させる荒夜に質問をしようと思うが、それは無用になった。

 荒夜の刀が徐々に赤くなり、やがて炎を灯す。更にその刀を鞘に納刀する。

 

 だが、なぜ荒夜がこのような方法で炎を生み出したのかというと、彼の魔化魍の属性は茶、地の属性だ。そして、彼は近接戦闘に特化している為か、術を使った攻撃や補助という術を使うことが出来ない為、このような方法を使って、炎を作り出したのだ。

 

荒夜

【では、参る!!】

 

 三日月の光が荒夜の姿を照らす。

 三日月の光に照らされながら荒夜は陽太郎に向かって走る。そして、陽太郎との距離がわずかというところで刀を抜く、刀は赤銅色に変わり陽太郎を倒す為に必殺の剣戟が迫る。

 

荒夜

煉獄一閃!!】

 

煉獄一閃!!」

 

 陽太郎も己の煉獄一閃で対抗する。そして、2つの剣がぶつかり合い、込められた熱同士の激突で爆発が起きる。

 立っていたのは–––

 

「凄いですね荒夜さん。此処までとは………」

 

 服が少しボロボロな陽太郎だった。

 荒夜は折れた刀を握りしめたまま倒れていて、折れた刀身が近くのコロシアムの床に突き刺さっていた。

 だが、陽太郎も無傷ではなかった。 ピシッと響く音で陽太郎は自身の剣を見ると、刀身に僅かな罅がはいっていた。

 

「荒夜さんは貴方は見事に私の煉獄一閃を習得しました。これはその腕を讃えてお贈りします」

 

 陽太郎は倒れる荒夜にそう言うと、彼の握っていた刀と離れた刀身を持って、その場で刀を造り出す。

 出来た刀を荒夜の手に握らせた。

 すると、荒夜と似た白の鬼面を着けた和服の女性 狂姫が現れて、倒れている荒夜を抱えて、陽太郎に顔を向ける。

 

狂姫

【荒夜様があそこまで楽しそうにしていたのは久しいです。陽太郎様、荒夜様のお相手有難うございます】

 

 言いたいことを言った狂姫はそのまま、幽冥の元に術を使って移動した。

 

「(いい奥さんですね荒夜さん)」

 

SIDEOUT

 

 

SIDE陽太郎

 そして–––

 三日月の夜が消えて、荒夜のいないコロシアムに仁王立ちで立つ屍王がいた。

 

屍王

【ハハハハハハハハハハハハハ、漸く我の出番か!!】

 

 どうやら先程の一戦を見て、本気を出す気になったのだろう。

 包帯を全身に巻いている仮姿から本来の姿に戻っていた。

 手に持っていた剣はいつの間にか消えており、水色の笛を吹くとコブラが飛んで来る。途中でコブラが光ると鎌へと姿を変えてグルグルと回りながらに陽太郎の手元に収まる。

 『冥蛇神の死鎌(デスサイズ・コブラ)』を構えて、陽太郎は屍王との戦いを始める。

 

冥緊縛(マミー・ロック)

 

 先まで戦った暴炎や荒夜の時とは違い、陽太郎は技を放つ。彼の長年の転生者との戦いの経験による感が屍王をただの魔化魍とは違うと思ったからだ。

 冥蛇神の死鎌(デスサイズ・コブラ)に群青のオーラが纏い、陽太郎が振ると光のループが屍王に飛ぶ。

 

 だが、屍王はその場を動かずに長杖を振る。屍王の長杖から光の光線が発射され、光のループを消し去る。

 消えたループを見て、眼を見開く陽太郎は自分に迫る光線に気付き、陽太郎は体を屈めて避ける。

 

屍王

【随分と軽い攻撃だな、そんな脆弱な攻撃ではなく本気を見せろ】

 

 屍王は体勢を崩さずに長杖を地面に突くと、地面から大量のミイラが飛び出て陽太郎に迫る。

 

「自分だけ高みの見物ですか?」

 

「王は座して戦うものというが、我はそのような王ではない」

 

 そう言った屍王は長杖の先を光らせて、術を放つ。

 突然の地割れ、空中からの落岩、飛んで来る石飛礫、死角をついた土の槍などといったあらゆる茶属性の地の術と屍王の身体から吹き出す黒い何かが陽太郎を襲う。

 だが、陽太郎もやられてるだけではすまない。迫るミイラ達の中から1体を蹴り飛ばして、他のミイラを巻き込んで転倒させる。

 

冥十字斬(アビス・クロスラッシュ)

 

 紫のオーラを纏った冥蛇神の死鎌(デスサイズ・コブラ)で、その場から動けないミイラ達、屍王の術、黒い何かを斬り裂き、ミイラ達は断面から黒い何かを出していき、元の人間の死体に戻っていき、邪魔なミイラたちが消えると屍王に向かって陽太郎は走る。

 屍王は杖を構えて、陽太郎の一撃を長杖で防ぐ。

 

屍王

【やるではないか。だが、我が術だけしか使えない王ではない!!】

 

 長杖を使った屍王の攻撃は軌道を読みづらく、陽太郎を苦しめる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE薫

 初めて見た陽くんがここまで追い詰められるなんて–––

 薫は此処まで追い詰められる義弟を見て、少し不安に思った。

 

美岬

【薫さん】

 

 美岬の声に気付き、薫は美岬の方に顔を向ける。

 その顔を見て、美岬は微笑んで薫を安心させるように喋る。

 

美岬

【大丈夫ですよ屍王も引き時は理解しています】

 

「………それにしてもあの魔化魍は何ですか」

 

美岬

【そうですね。彼は古代エジプトで造られた『人造魔化魍』です】

 

「人造魔化魍!?」

 

美岬

【そうです。とあるファラオのスペアとして造られました。

 ですが、その王は暴君とも言うべきファラオでした。彼は民を救う為に反旗を翻しましたが、創造主に刃向かった罰で封印されました。

 彼は思ったんでしょうもっと強ければ、民を救えたのではないかと………】

 

「………」

 

美岬

【ですから彼は仲間の力を借りて、今の強さになったんです。2度と大切な民を失わないように】

 

 薫は屍王の過去を聞き、彼の強さの理由が分かった気がした。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE陽太郎

 強い。

 おそらく、この場にいる魔化魍の中では明らかな上位に位置する強さなのだろう。

 だが–––

 

「(僕はこの煉獄の園(パーガトリー・エデン)の主!!  負けるわけにはいかない!!)」

 

 陽太郎は、心の中でその事を思い出し、屍王に強い視線を送る。

 

屍王

【そうだ! その眼だ! 我はその眼を見たかった!!】

 

 屍王は余裕にも似た陽太郎の眼が気に食わなかった。だが、荒夜との戦いの時に見えた眼を見て、屍王はもう1度見て見たかったのだ、彼の眼を、余裕という慢心を捨てた男の本気の眼を。

 歓喜に似た声を出す屍王は長杖を掲げる。

 

屍王

【ファラオの名の下に『太陽の長杖(シャムス)』よ。その力を解放せよ!!】

 

 杖を中心に発生した巨大な光の柱は屍王を包み込む。

 光が消えると、そこには先の姿とは違う、屍王がいた。

 

 黒かった体躯は金に染まり、頭部の角は鋭さを増し、手には太陽の長杖(シャムス)とケペシュに似た長剣を持ち、下半身を覆っていた白の腰布は金属の鎖で出来たものに変わり、背には昆虫の翅を模したマントを翻していた。

 

 この姿は太陽の長杖(シャムス)の力を解放した屍王のもう1つの姿 『太陽の死体(シャムス・ジュサ)』。

 通称 超ファラオモード(名付け親は跳)

 

 陽太郎は、冥蛇神の死鎌(デスサイズ・コブラ)に水色のオーラを纏わせる。

 屍王も太陽の長杖(シャムス)に金のオーラを纏わせる。

 

冥府への誘い(ファング・オブ・インパイト)!!」

 

屍王

偉大なる太陽(シャムス・イアジマ)

 

 片やピラミッドを模したエネルギー、片や太陽を模したエネルギーがぶつかり合い、鍔迫り合う。

 だが双方のエネルギー態は同等なせいなのかだんだんヒビが入っていく。このままでは大規模な爆発が起きてこのコロシアムは消滅してしまう。

 

 それに気付いた幽冥と薫は同時に立ち上がり、幽冥と薫はエネルギー態の方に向かう。

 そして、赤紫の和服から札が大量に貼られた漢服に姿を変えて、手に持つ数枚の札を持ち、薫は手に黒いオーラを纏わせる。

 

巨なる力よ減退せよ!!」

 

闇穴道(ブラックホール)!!」

 

 幽冥の手から離れた数枚の札はエネルギー態に付くと、エネルギー態の大きさを小さくしていき、やがてソフトボールサイズに縮小して薫の手から放たれる黒穴道(ブラックホール)に吸い込まれていった。

 

解放(リベレイション)!!」

 

 薫は空に向けて、エネルギー態を解放して、エネルギー態は空に昇っていき、やがて巨大な爆発と共に消滅した。

 幽冥と薫はそれを見て、安堵し屍王と陽太郎の方を見る。

 

屍王

【お、王よ何を………は、離せ!!】

 

「ね、義姉さ………ね、義姉さん勘弁して」 

 

 結果的に言うと、屍王と陽太郎の戦いは引き分けとなった。そのすぐ後に幽冥は屍王を、薫は陽太郎を何処かに連れて行った。

 そして、屍王と陽太郎はごめんなさい、ごめんなさいと言いながら正座した姿で見つかり、幽冥の家族達(春詠と美岬を除く)は幽冥を決して怒らせてはいけないという暗黙のルールができたのは言うまでもない。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 凄い、私たちもあの様なもの達に仕えたい。

 コロシアムにいた煉獄の園(パーガトリー・エデン)に暮らす戦闘員達は魔化魍の王達の存在を胸に刻んでいた。




如何でしたでしょうか?
今回、登場した屍王の姿は安倍家の魔化魍 変異態+幻魔転身集 壱の巻で追加しました。
次回は薫の戦いになります。


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伍 勝負後編

更新お待たせしました。
今回は薫VS骸
   薫VS狂姫
   薫VS拳牙の三試合をお送りします。


 薫さんと協力して、コロシアム消滅は間逃れた。

 まあ、その後に屍王にはO・HA・NA・SIをしたし、以後はあの様な事に成るのは無いと………願いたい。

 薫さんは現在、コロシアムの中央に立って、私の家族である骸、拳牙、狂姫が立っていた。

 

「さて、義弟との戦いで分かると思うけど、私も結構強いからね」

 

拳牙

【言わずとも分かる。王の話によると転生者という人間を弟と2人で狩っていると聞いた】

 

【だから俺たちは本気で挑むぜ………あ、殺しはしねえから大丈夫だぜ】

 

「それは嬉しいわね。じゃあ始めましょう。まずは誰から?」

 

【最初は俺からやらせて貰うぜ】

 

 骸は術で空間から複数の頭蓋骨を出して、それを地面に並べる。最後に1つだけ厳重に施錠された箱を取り出し、骸はそれを術で開けて、中にある綺麗な頭蓋骨を丁寧に取り出す。

 

【王よ!!】

 

 そう言って、骸は術を使って綺麗な頭蓋骨を幽冥に転移させる。

 

【王よ。その頭蓋骨は俺の1番大切な物だから。戦ってる時に出して、壊れたら嫌だからな】

 

「分かった。存分にその腕を振るいなさい骸!!」

 

【分かったぜ王よ】

 

 そう言った骸は頭蓋骨に向けて何かを呟く、頭蓋骨はカランカランと揺れて1つ、1つ宙に浮いていく。

 

【さて、四国を荒らした独眼蛇の屍闘術(しとうじゅつ)楽しみやがれ!!】

 

 

SIDE薫

 頭蓋骨は薫に向かって、その歯で齧り付こうとするが、薫は1つ1つを注意しながら観察して頭蓋骨を弾き飛ばす。

 

『Boost Boost Boost』

「さて、私も避けるのはやめましょうか…なと!!」

 

 薫は頭蓋骨の1つを蹴り砕く。

 

【!!】

 

 骸は驚愕した。生身の状態で頭蓋骨を砕いたことに、鬼が音撃棒や音撃管、音撃弦で砕かれたのなら理解できる。だが身た目がただの女性に砕けるものではない。

 そもそも、この頭蓋骨もただの頭蓋骨では無い。元は只の人間の頭蓋骨だが、骸が術を掛けて強化したもの。

 屍闘術は人間や動物の骨または死体を最大限に利用した戦法である。

 

 だが、骸には頭蓋骨を蹴り砕く前に何かが聞こえた。

 薫をよく見ると、右腕に先程まで見覚えのない物が装着されていた。

 

 緑色の宝玉のついた真っ赤な籠手。

 

 それはかつて薫が屑転生者から魔剣 常闇の力で奪い取ったもの、10秒経つごとにその力を倍加させる神をも殺す13個ある神滅具(ロンギヌス)と呼ばれるアイテムの1つ『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』である。

 

【その籠手だな、俺の頭蓋骨を砕けたのは】

 

「そう。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)と呼ばれるもので、能力はシンプル。10秒毎に力を倍加するというもの」

 

【さっきは脚力を倍加して俺の頭蓋骨を砕いたことか】

 

「ええ。でも、1度使うとまた貯めないといけないの」

 

【へえーー。それは良いことを聞いたな。なら】

 

 骸が再び呟くと頭蓋骨はカタカタと揺れて、コロシアムの下から複数の骨が頭蓋骨の下に集まる。

 

【ある話で聞いたことなんだが、竜牙兵って知ってるか】

 

「確かギリシャ神話に出てくる骨の怪物でしたっけ?」

 

【そう。で、俺はそれを自分なりに再現させたのがこれだ!!】

 

 やがて、そこには頭蓋骨を頭部にした骨の武器を持った7体の骨の怪物が出来上がった。

 3体は骨の剣を持ち、薫に殺意を向ける。3体は骨の槍を持ち、薫に穂先を向けている。最後の1体は骨が重なってできた大盾を持って身構えている。

 

【これが俺オリジナルの竜牙兵!! さあ、剣よ行け!!】

 

 剣を掲げた竜牙兵が薫に向かってガシャガシャと激しい音を立てながら走ってくる。槍と大盾の竜牙兵はその場に待機してる。

 薫も素手では厳しいと思い、空間から一振りの剣を取り出す。

 

 その名は魔剣 常闇。『神獄神の支配者』荒神 零夜が薫の為に作った魔剣である。

 

 剣を持つ竜牙兵が薫に剣を振り下ろすが、剣は常闇に防がれて振り下ろした竜牙兵はカウンターのように入れた肘打ちで砕け散る。

 頭蓋骨が砕けると、骨の身体はボロボロと崩れ、残ったのは砕かれた頭蓋骨だけだった。

 だが、その瞬間を狙ったかのように残りの2体の剣持ちが薫の背後から剣を振り下ろす。

 

『Boost Boost Boost Boost Boost』

 

 しかし、そこには薫はおらず、何処だという風に当たりを見渡すが、次の瞬間には2体は頭蓋骨を砕かれ、砕けた頭蓋骨を残して消滅した。

 

【ちぃい!! 瞬発力を倍加させて高速移動かよ】

 

「次は大盾狙わせてもらうよ!!」

 

【させるか!!】

 

 骸は骨の尻尾で薫の隙を突いて、腕を締め上げる。

 

「ぐっ」

『Boost Boost Boost Boost Boost』

 

 余りの痛さに薫は常闇を落としそうになるが、堪えて握り続ける。だが、骸の尻尾の締め付けはアナコンダが獲物を絞殺する際に締め付ける力の5倍もある。そのような締め付けを耐えられるのは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で耐久力を倍加したからだ。

 

【どうだ!! 逃げられねえだろ】

 

 だが、骸からすれば好都合、たださえ厄介な倍加の力を耐久力に回した薫には攻撃力がないと判断したからだ。

 

【竜牙兵大盾、斧に変更、槍とともに薫を攻撃!!】

 

 大盾の竜牙兵の大盾はその場で物騒な音を立てながら斧に形を変え、槍と共に締め付けられてる薫に突撃する。

 だが、何も常闇の能力で奪ったのは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だけでは無い。

 

「カートリッジロード!!」

 

 薫はそう叫ぶと、常闇の装甲が一部スライドしてまた元の位置に戻る。

 すると常闇の刀身にワインレッドの光が灯り、常闇を構える。

 

紫電…一閃!!」

 

 放たれた斬撃は斧と槍の2体の頭蓋骨を粉砕して、残り1体の竜牙兵も右腕を砕かれ、骸も締め付けていた骨の尻尾の一部を砕かれる。

 とある世界に古代の魔法技術である『ベルカ式の魔法』がある。長く続いた戦場で主に使用されていた為に身体能力向上、武器の強化などを主とした魔法だ。

 その技術の中に『カートリッジシステム』というものがある。

 魔力を込めた弾丸を武器の内部で解放して爆発的な威力を発揮するシステムである。

 本来は、『バリアジャケット』と呼ばれるものを身に付けて行うものだが、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)によって耐久力を強化した薫にはダメージはない。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE骸

【(尻尾の一部を砕かれて、残った竜牙兵も後、1体で右腕がないと来た)】

 

 骸は、残り竜牙兵でどうするべきかと考える。

 ふと、竜牙兵を見て、頭蓋骨の一部にあった特徴的な傷を思い出し、誰の頭蓋骨か思い出す。

 

【(そうか。あいつの骨か)】

 

 誰の頭蓋骨で出来たのか思い出した骸は蛇姫の方を向く。

 

【蛇姫!! 音撃弦を1本貸してくれ!!】

 

 骸は蛇姫に向かって叫ぶと、1本の音撃弦が降ってくる。

 それを右腕を修復した竜牙兵に握らせ、さらに骸はある術を掛ける。竜牙兵は急に頭をカクンと下げると首を横に振り始める。

 

【この術を使うことになるとはな、ちっとキツイぜ】

 

 骸はその術を使った直後その場で動かなくなるが、逆に竜牙兵は先程の動きとは違い、キレのある動きを始める。

 

「ねえ、何をしたの」

 

【こいつの骨に残った記憶を呼び覚まして憑依させただけだ】

 

 竜牙兵は薫を見ると、音撃弦を構えて走る。

 突然のことに薫は驚くが、常闇で竜牙兵の攻撃を防ぐが、防がれたと分かった竜牙兵は音撃弦の石突きに当たる部分を薫の腹に当てる。

 

「うっ!?」

 

 だが、薫も常闇で竜牙兵の頭蓋骨を狙うが、音撃弦の柄で防がれる。

 激しい攻防が繰り返す中で骸は決着を急いでいた。

 

 現在、骸が使用している術は使えば使うほどに意識がなくなっていく術の為に長時間の使用は出来ないのだ。

 だが、決着を急ぎすぎた骸はその隙を晒し、脚力を倍加した薫は骸の背後に回り、常闇で勢いよく叩きつけた。

 

【ガッ!! 後、少しだ…たのに……】 

 

 骸が気絶すると同時に竜牙兵は身体の骨が消失して元の頭蓋骨に戻って、音撃弦と共に地面に落下した。

 だが、骸は地面に身体が落下し無かった。その理由は–––

 

「よく頑張ったよ骸」

 

 気絶した骸を抱きかかえる我ら魔化魍の王が骸を支えていたからだ。

 幽冥はその後に骸を抱えて、コロシアムの見物席の所に跳んで席に戻る。

 

狂姫

【薫さん。私から提案があります】

 

 次の対戦相手とも言う狂姫が薫に提案を出そうとしていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE狂姫

狂姫

【私は1回だけ貴方を攻撃します。それを避けたり、叩き落としたら貴方の勝ち、当たったり掠ったりしたら私の勝ちで宜しいでしょうか】

 

「うーーーん」

 

 このような事を狂姫が言う理由は先程の戦闘で今、意識が無い荒夜にある。

 彼から離れる事自体が苦痛の狂姫はそれでも、願いを叶えたいと思い、この戦いを挑もうと思うが、それでも意識が無い荒夜から離れるのが嫌な狂姫はこの条件を出して試合に出ることにした。

 

「いいよ。その条件のんであげる。それに貴方とマトモに戦ったら私も無事じゃ無さそうだし」

 

狂姫

【ありがとうございます】

 

 そう言った狂姫は空間から大弓と1本の矢を取り出す。

 その矢は矢尻がかなり捻れている矢だった。

 

 矢を大弓に番えて、薫に狙いを付け………矢を放った。

 矢は真っ直ぐに薫に向かい、薫はそれを常闇で切り裂こうとするが、矢が近くまで寄った次の瞬間に矢は姿を消す。

 

「!!」

 

 それに驚愕した薫だが、先程まで矢が真っ直ぐ飛んできたのは分かってる為、避けるが–––

 

狂姫

【反転、そのまま直進】

 

 すると先程まで透明だった矢が姿を現して向きを反転し、再び薫に向かう。

 

「!!」

 

 薫は再び、驚愕する。

 そして、また薫の近くに来ると透明化する。

 だが、今度は常闇を回転させて風を起こし、空気の揺らぎで矢が何処にあるのか見えるようになる。

 

「これで透明な矢は怖くないわ」

 

狂姫

【分裂、回避、その後集結、そして反転】

 

 今度は矢が2つに別れて、薫の常闇の攻撃を回避して、少し離れると集結してその場で待機する。

 

「ねえ、あの矢なんなの?」

 

狂姫

【………あれは、私の荒夜様の愛で作った嫉妬の矢。対象が女性のみに使える技】

 

 薫はこの技を止める方法に気付き、勝負に出た。

 

狂姫

【加速、そのまま直進】

 

闇穴道(ブラックホール)!!」

 

 矢は地面に溢れる闇の引力に吸い込まれる。

 

「これで私の勝ちで宜しいでしょうか?」

 

狂姫

【引力には勝てませんよ。降参です】

 

 狂姫はそう言った後に、荒夜の元に戻ろうとするが–––

 

「狂姫さん」

 

 薫は狂姫に何かを投げ渡す。

 

「おそらく、貴方の願いは荒夜さんとの子供という願いですね」

 

狂姫

【!?】

 

「「「えええええええええええ!!」」」

 

 遠くから見ていた幽冥や春詠、美岬から驚きの叫びが響く。

 だが、他の魔化魍達は知っていたのか、驚いていない。

 

「今渡したのは貴方の願いの助けになるものよ」

 

狂姫

【あ、ありがとう……ございます】

 

 何処か顔が赤い狂姫はそのまま荒夜の元に戻った。

 

「(荒夜さん。ちゃんと奥さんを大事にするんですよ)」

 

SIDEOUT

 

 

SIDE薫

拳牙

【では、始めるか】

 

 振り向いた先には、拳を構え、可視化できる青いオーラを身に纏った拳牙が立っていた。

 

「この戦いに武器は無粋ですね」

 

 薫は常闇を空間に仕舞い、拳牙と同じように己の肉体で戦うことにした。

 拳牙はそれを見て、急に酔っぱらたかのように千鳥足を始める。

 

拳牙

【ういーヒック】

 

 急な事に目をパチクリする薫だが、次の瞬間に隙を見せて後悔した。

 

「ぐはっ!!」

 

 酔っているとは思えない動作で攻撃する拳牙。薫も負けじと拳牙にカウンターを決める。

 

拳牙

【さあ、どおしました〜ヒック】

 

 酒を飲んでいないはずなのに本当に酔っている風に見える拳牙に薫は少しイラっとする。

 だが、何も薫は何も考えなく、拳牙を殴った訳ではない。

 

『Divide Divide Divide Divide』

 

 その機械音と共に拳牙は自分の足で立つのが難しくなり、その場で倒れる。

 

 これも薫が常闇の力で奪った能力の1つで赤龍帝の籠手と対を成す神滅具白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイング)である。

 

「これは白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイング)という能力で能力は触れた相手の力を半減する」

 

拳牙

【成る程、このような能力があるのか。今後の戦いに役立つ事を教えくれて有難うな。だが………】

 

 その場から消えた拳牙を慌てて探すが、次の瞬間–––

 

拳牙

【こっちだ!!】

 

 上空から拳を振り上げる拳牙に気付き、薫は–––

 

解放(リベレイション)

 

 闇を広げて、その闇から勢いよく拳牙に向かってあるものが射出される。

 

拳牙

【これは!!】

 

 拳牙は正体に気付き、避けようとするが空中にいる為避ける動作がままならずに狂姫の嫉妬の矢は拳牙の腹部に突き刺さる。

 

「勝負ありですかね」

 

 薫はそのまま、試合を終了させようとするが–––

 

拳牙

【まだだ】

 

「!?」

 

拳牙

【まだ、終わってない】

 

 腹部に突き刺さった矢を抜き、腹から薄い赤の混じった液体が垂れいる拳牙が立っていた。

 

「その傷は早くしなければ致命傷な傷です。もう終わらせて幽冥ちゃんに直してもらいなさい」

 

拳牙

【真の武闘家を目指すものとして、この程度の傷で諦める私ではない!!】

 

 拳牙の眼に不屈の闘志を見た薫は次の一撃で今度こそ試合を終わらせるために構える。

 

 そして、拳牙と薫が同時に走り、互いの拳が重なりクロスカウンターのようになってお互いの顔を打ち抜いた。

 

「………」

 

拳牙

【………】

 

 静寂なコロシアムで拳牙と薫は同じ体勢のまま止まり、やがて片方が倒れた。

 

「あいたた、いい拳だったよ拳牙さん」

 

 薫は見事な拳を出した拳牙に賞賛の声を出し、ここに安倍家と鬼崎義姉弟の模擬戦は終止符が打たれた。




如何でしたでしょうか?
そろそろコラボ編も終わりが近づいてきました。
コラボ編終了後は幕間をやってひな編に突入します。


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陸 宴会前編

お待たせしました。コラボ編最後の話と……………思いきやなんか長くなりそうなので、
前編、中編、後編に分けさせてもらいます。



 私の家族と薫さんと陽太郎さんの戦いは凄かった。

 私もいつかあのくらい戦えるようになりたいと思ったら、ユキジョロウさんの声が頭に響き、一喝された。

 曰く、『中途半端な貴様にはまだ無理だ』だそうです。

 

 薫さんと陽太郎さんがコロシアムから戻ってきた。

 

「さて、自分の家族の戦いはどうだったかな」

 

「はい。普段は見れないもの見れて楽しかったです」

 

「それは良かったよ」

 

 陽太郎さんがヒトカラゲから何かを聞き、薫さんに近付く。

 

「義姉さん。そろそろ向こうの準備も出来たみたいだよ」

 

 陽太郎さんが薫さんに何かを伝えると微笑んだ顔でこちらに向く。

 

「幽冥ちゃん、これから宴会があるんだけどどう?」

 

「宴会ですか?」

 

「そう宴会。もちろん、貴方の家族のも用意させて貰ってるは」

 

「良いんですか?」

 

「いいも何も元々は私が陽くんに頼んで招待したんだからそれくらいはさせて」

 

「ありがとうございます」

 

そして、幽冥はこの報告を家族達(特に魔化魍たち)にするとかなり喜んでいた。

 

SIDE◯◯

「凄かったな異界の客人達」

 

「………確かに」

 

「我らもあのお方達に仕えてみたい」

 

 コロシアムから離れた城の中にある一室で模擬戦を見ていたヒトカラゲやクローズ、眼魔コマンドなどの戦闘員達がが話しをしていた話題はもちろん客として招待された幽冥たち安倍家の事だ。

 別に薫や陽太郎に不満があるわけではない。しかし、彼らは惹かれてしまったのだ。

 薫や陽太郎と戦った魔化魍が魅せる数々の戦い。

 そして、異形ともいえる怪物 魔化魍を家族というあの王という存在に–––

 

「やはりそうなりましたか」

 

「「「「!!」」」」

 

 突然聞こえた聞き覚え、いや何度も聞いたことのある声にヒトカラゲ達が驚き、見た方向にいたのは陽太郎だった。

 

「よ、陽太郎様。何故こちらに」

 

 1体のヒトカラゲが陽太郎に質問する。

 

「貴方達がお客の戦いを夢中になって見ていましたのでね」

 

 その言葉を聞き、また驚くが今度はクローズの1体が陽太郎にある事を言おうとする。

 

「陽太郎様!! 失礼を承知で申し上げさせて貰ってよろしいでしょうか?」

 

「良いですよ」

 

「「「「「「我ら戦闘員12名はこれより主 鬼崎 陽太郎様の元を離れ、魔化魍の王 安倍 幽冥ならびにその家族に仕えてよろしいでしょうか!!」」」」」」

 

 言い終えたヒトカラゲ達は頭を下げ、主である陽太郎の返事を待っていた。

 

「良いですよ。許可します」

 

「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」

 

 再び、感謝を表すように頭を下げるヒトカラゲ達を見て満足したのか陽太郎は宴会の場所に向かう。

 

「(あの戦闘員たちと他にもいくつか考えねばなりませんね)」

 

 幽冥たちに贈るものをどうしようかと考えながら、陽太郎は宴会を行う会場に向かった。

 

SIDEOUT

 

 コロシアムから城に案内されて着いた部屋の中に幽冥たちは感動した。

 そこはまるで絵画の中にあるパーティ会場がそのまま飛び出した一種の芸術のような部屋だった。

 天井を明るく照らす巨大なシャンデリア、赤を主体とした豪華なカーペット、汚れが1つもない純白のテーブルクロスを乗せた巨大な円卓があった。

 円卓を見ると私と妖姫の従者3人と春詠お姉ちゃん、ひな、あぐり、ランピリスワーム、マシンガンスネーク、インセクト眼魔、薫さん、陽太郎さんと書かれた紙が置かれていた。

 だがこれでは、上記の家族以外の家族は座れずに宴会に参加できないと思い、その事を聞こうとすると、薫さんが手をパンパンと鳴らし、注目を集めた。

 

「幽冥ちゃんの言いたいことは分かるけど、彼らには彼らの一番好きなご馳走ともいうべきものを用意させて貰ったは、なので土門さん達はそこにいるクローズに着いて行ってもらっていい?」

 

 薫さんの言葉で家族(魔化魍のみ)は少し考えたが、先に歩き始めたクローズの後ろを着いて行き、どこかに向かった。

 

「薫さん。なんで土門たちだけ別の場所に」

 

「落ち着いて幽………薫さんもさっき言ってたでしょ。魔化魍にとってのご馳走は何だっけ」

 

「あ!!」

 

 そうだった。魔化魍にとってのご馳走といえば人間。確かに私の家族の魔化魍は全部で32もいる。普段は食べる人間の量をセーブしているので、楽しんできてほしいな。

 

「さて、まずはみんな座って」

 

 薫さんの言葉を聞いて私達は座る。ひなは座りずらそうで、必死に座ろうとしても座れずに端にいた眼魔コマンドの1人がひなを持ち上げて椅子に座らせてくれる。

 

「ありがとう」

 

 ひなが眼魔コマンドにお礼を言うと、いえいえと首を振って、また端に戻る。

 クローズ達がグラスに飲み物を注ぎ、薫さんが立ち上がる。

 

「では、我ら鬼崎家と安倍家の交流の宴会を始めます。では乾ーーー杯ーーー!!」

 

「「「「「「「「「「「乾ーーー杯ーーー!!」」」」」」」」」」」

 

SIDE土門

 クローズといわれた異業に着いて行き、着いたのはプレートの貼られた3枚の扉だった。

 それぞれ、住宅街、森、海と書かれていた。

 

「この扉は貴方達、魔化魍のご馳走となる人間が大量にいる場所へと繋がる扉です。食事されたい場所が決まりましたらそのまま扉をあければ向かうことが出来ます」

 

土門

【質問よろしいでしょうか?】

 

「はい」

 

土門

【我らが満腹にならずに人間がいなくなったらどうするのですか?】

 

「そちらの心配はご無用です。我らが皆様方の様子を見ていますので、いなくなりましたら補充ということで増えていきます」

 

土門

【そうですか】

 

「他に質問はありますか」

 

鳴風

【ハイハーイ。好きなだけ食べていいんだよね】

 

「その通りです」

 

鳴風

【ヤッターー】

 

「では、皆様お好きな扉へどうぞ」

 

 土門たちはそのまま好きな扉に入っていき、案内係をしたクローズを除いて全員が扉に入って行った。

 

SIDEOUT

 

「そういえば幽冥さんあの館の名前は何というのですか?」

 

 私がスープを飲んでいる時に陽太郎さんが唐突にそんな事を言った。

 待っても返答しない私に陽太郎さんは首をかしげるがその理由はすぐ理解する。

 

「あれ、もしかして」

 

「はい。あの館に名前は存在しません」

 

 返答出来なかった私の代わりに海鮮サラダを食べてる白が答える。

 

「そうですか名前無いんですね」

 

 そう言って陽太郎は窓から外の庭にある館を見る。

 

「じゃあ、陽くんが名前つければいいじゃない」

 

「!!」

 

 箸で天ぷらをつまんでいる義姉の言葉にハッとなり後ろに雷が落ちる義弟。

 

SIDE◯◯

 ここは森と書かれた扉の繋がっている先である。

 そこにはひとかたまりになった何十人もの青年と女性がいた。

 

「何なんだよアレは!!」

 

 青年の1人が怒鳴り声で叫ぶ。

 

「落ち着いてください」

 

「そうだ。それにお前の声でヤツラに気付かれたらおしまいなんだぜ」

 

「俺には王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)があるんだヤツラなんか俺の宝具で片付けてやる」

 

無限の剣製(アンミリテッドブレイドワークス)の持ってた宝具を受けて無傷だったのを忘れたのか!!」

 

「他にもベルカ魔法、ミッド魔法、斬魄刀 氷輪丸、ドラゴンクエスト魔法、ゼロの使い魔の魔法、霊丸、かめはめ波etc、etc」

 

 彼らは話していてわかると思うが、かつて様々な世界に転生して自分勝手に生きていた屑転生者達の細胞から培養された本物と同じ記憶とガワを似せて劣化させた特典を持つクローンだ。

 彼らは陽太郎によって培養器から解放され、自分の連れていった場所のある目的地につけたのならまた転生させてやるという言葉を聞き、すぐさま自分勝手な事を言って、この場所に連れられた。

 

 目的地を探し始めて、数分経った頃に妙なことが起きた。

 自分たちの最後尾を歩いていた男が忽然と姿を消した。彼らは気にせずにそのまま進んだが、空から降ってきたからからの干からびた雑巾のような死体に誰もが驚き、警戒をするが地面から飛び出した白蟻のような生物に転生者の1人は頸動脈を切られ、さらにその地面から植物の根が頸動脈を切られた転生者の身体に巻きつき地面の中に白蟻と共に消えた。

 

 人間の肉の裂ける音と咀嚼の音が穴から聞こえ、ある者達は吐き気を覚えてうずくまり、ある者達はその場から逃げた。

 そして、今此処にいるのはその場から逃げた者達だ。彼らは逃げている最中に転生特典を使って異形に攻撃していたがどれも影響がなく、容赦無く肉を切られ、頭蓋骨を抜くために溶かされ、四肢をバラバラに引き裂かれたのだ。

 

「とにかく今の目的はある場所というのを探してあの化け物どもからとっとと逃げる事だ」

 

「ええ。早くしましょ」

 

「いつヤツラがこっちに来るか分からないからな」

 

 そうして行動を始めようとした転生者たちの耳に何かが聞こえて来る。

 

……ギ…ギ………ギ…ギ…ギリ……

 

「おい。何だあの音は」

 

ギ…ギ…ギリ…リギ…ギリギリ…リ

 

「確かに聞こえる」

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

「おい! アレは」

 

 青年の指差した方向には、穴があった。

 

「ま、まさか…もう」

 

 そう言った青年は樹の根を踏むと、根は三叉に分かれて青年の身体に根を突き刺す。

 

「あが、あああああ、ああ」

 

 根は青年の身体から何か吸い取っていき、青年の身体はドンドン干からびていく。

 そして、青年の身体がミイラのようになると根が集まり、仙人掌の頭を持った魔化魍 ジュッボコの命樹が姿を現わす。

 命樹は青年だった者を引き裂き、空間に仕舞った。

 

ユレレレレレ

 

「クソおおおおお!! メラゾーマ!」

 

 命樹の声に苛立った男は命樹にメラ系の最大呪文メラゾーマを放つが、炎は見当違いの方向に飛んでいく。

 炎は大口を開けた蛇の頭を持った鰐の魔化魍 ノヅチの大尊に吸い込まれる。炎を何事もなく吸い込んで、さらに吸い込みを強くして、メラゾーマを放った男を吸い込み始める。

 

「ぐぐ、ぐあああああああああ」

 

 男は足からドンドン飲み込めれていき、やがて首元に来ると大きく開いた口を閉じる。 

 閉口した顎の先には首だけの男がコロコロとその状況を見ていた転生者達の元に転がる。

 

「いやあああああああああ!」

 

 それを見て、悲鳴をあげる女の身体に肌色の何かが纏わりつき、巨大化していく。

 

「な、なにコレ……」

 

「待ってろ。今…………」 

 

「いや、た、助け…………」 

 

 身体の自由を奪われ、女は目の前の男に手を伸ばすが、男の身体は上半身と下半身に分かれ、それを見て声を上げようとした女も肌色の球の魔化魍 ヌッペフオフの食香に身体を圧壊される。

 

王の財h(ゲート・オ)………があああ!!」

 

 先程まで自慢の転生特典で倒すと言った男の喉元にはザンバラ髪の猿の魔化魍 ヤマビコの羅殴が喉元に腕をめり込ませて、引き抜くとその手にクルミのような取り出す。

 そして、急いで男から離れると上から高速回転しながら降りて来る甲羅によって青年は踏み潰され、されに回転で血飛沫が飛び散る。

 

 回転の止まった甲羅から顔を出した岩の甲羅の象亀と犀を合わした魔化魍 オトロシの崩が踏み潰して紙のようになった青年を喰らう。そして、甲羅の上で羅殴もクルミ状の何かを齧る。

 

 男は逃げる後ろから迫る脅威から、だが走っても走っても聞こえる声に男は狂いそうになる。

 だが、脚に何かが掛かると脚の力がふと消えて、倒れる。

 

 男は自分の足を見ると異様な光景を目にする。それは自分の脚が離れた位置に落ちてる。

 

「うわあああああ!!」

 

 男は脚の方に向かおうとすると何かが顔に垂れてきて、上を見上げると–––

 

ジャラララララララ

 

 下半身が白骨の独眼の蛇の魔化魍 ガシャドクロの骸が大口を開けていた。

 

「んんんんんんんんん」

 

 骸は男の上から大量の溶解液を吐いて、男は数十秒経つと骨だけになり、骸はおちた頭蓋骨を見ると–––

 

【チッ!! こいつもハズレだ。だが、骨は頂くか】 

 

 骸はお目当の頭蓋骨では無かったのか尻尾で砕こうとするが、それを口に運び飴を噛み砕いて食べるように骨を喰べていた。

 

 男は走っていた。そして、大きな樹の下に行って、後ろからなにも来ていないか確認すると安堵の溜息をだす。

 

「此処まで来れば」

 

「お兄さん」

 

「!?」

 

「こっちよ、こっち来なさい」

 

 男は何処からと探すと巫女服の女性が古い小屋の扉から顔を出して男を呼んだ。

 男はそのまま小屋に走り、扉を閉める。

 

「大丈夫でした、キャア」

 

「ありがとうよ姉ちゃん。ついでにものはあれなんだが少し身体貸してくれよ」

 

 この転生者は前世から生粋の性犯罪者で女を片っ端から襲って来た、そして遂にある世界のヒロインに手を出そうとした所を陽太郎に殺されたのだ。

 そして、男は禁欲とストレスで巫女を見た瞬間に襲ったのだ。普通の女性だったのならこの後は強姦されるんだろうだが、それは人間だったのなら話である。

 

「ふふふ、いい感じに引っかかって来れてありがとう」

 

「なんだと」

 

「ふふふふふふふ」

 

 男の両腕を抑えた巫女はその身体を大きくして脚は蛇の尻尾のように変わり、さらに4本の腕を生やした魔化魍 カンカンダラの蛇姫は男の脚や首に腕を置く。

 

蛇姫

【さあ〜苦痛の悲鳴を聞かして】

 

「ひっ!」

 

 何をするのか理解した男は逃げようともがくが、さらに力を込めて–––

 

「…………」 

 

蛇姫

【ふふふ。いい心臓ね】

 

◯◯

【ねえ。蛇姫は心臓しか食べないんでしょ】

 

 そう訊くのは、此処に男を呼び込んだ細長い白い狐の魔化魍 クダギツネの葉隠だった。

 

蛇姫

【そうよ】

 

葉隠

【じゃあ、その肉頂戴】

 

蛇姫

【いいよ。そもそも貴方が此処に誘い込んで来れたんだから】

 

葉隠

【ありがとう】

 

 葉隠は竹筒から数十の分体と共に男のバラバラに死体に群がり、中からはグチャ、ピチャと咀嚼音が響く。

 葉隠が竹筒に戻る頃には男の死体は何処にも無く。あったのは血だけだった。

 

SIDE昇布

フシュルルルル

 

「あああああ」

 

「うわああああ!!」

 

「だ、誰かああああ!!」

 

 鹿の角と犀の角を生やした白龍の魔化魍 シロウネリの昇布は逃げ惑っている3人を尻尾で巻き付いて自身の身体ごと捻るように絞っていく。

 もちろんそんな身体に3人は一緒に巻き込まれ、身体中の水分が一気に抜けていく。やがて干からびた3人を一纏めにして団子のように捏ねていき、それを一口で呑み込む。

 

昇布

【フシュー、やっぱり人間団子は美味い】

 

◯◯

【相変わらず好きだな人間団子】

 

 昇布は声の方に顔を向けると、僅かに湾曲した爪に突き刺した裸の人間を3人を担いだ、提灯の尻尾を垂らす赤と黄色のオッドアイの二足歩行の蜥蜴の魔化魍 ショウケラの三尸が現れる。

 三尸は3人の死体から血を吸って、ある程度残した段階で根元の爪を折って、地面に置く。

 組み木をして提灯の尾を組み木に近付けると組み木は炎をあげる。

 

三尸

【そろそろか】

 

 そう言って、三尸は組み木に人間を乗せる。

 それをクルクルと回しながら焼いていく。いい焼き加減と呟きながら三尸は火を消して、焼いた『人間串』を喰らう。

 その光景を見ていた昇布に三尸は人間串の1つを昇布に渡す。

 

三尸

【喰いなよ】

 

昇布

【すまんな】

 

 昇布も人間串に噛みつき、肉を噛みちぎって咀嚼する。

 

昇布

【……美味いな】

 

三尸

【そうだろう】

 

昇布

【偶にならこれもいいかもしれない】

 

 2体はそのままもう1本の人間串を半分に分けてまた獲物を探しにいった。

 まだまだ、宴会は続く。




如何でしたでしょうか?
今回は描かれてなかった魔化魍の捕食方法を乗せて見ました。

気になることがあったら、活動報告の作品質問コーナーに書いてください。
次回は海の食事を書こうと思います。


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漆 宴会中編

お久しぶりです。
波音の捕食方法を悩んでたら遅くなりました。


「僕が考えていいんですか。幽冥さん」

 

「いいとお思います。それに陽太郎さんならいい名前をつけてくれそうな気がします」

 

「そうですか。では、名前は此方で考えさせてもらいます。………あ、そうでした!」

 

 何かを考える動作をした後に、はじにいるヒトカラゲ達を見て何かを思い出す。

 

「館の名前は後になりますが、先にこちらの話を済ませますね」

 

 そう言った陽太郎の背後には眼魔コマンド、ヒトカラゲ、クローズがそれぞれ4人1組で現れる。

 すると–––

 

「彼らは貴方の家族の力と魅力で、貴方の部下になりたいという者達です」

 

 その言葉を理解するのに私はその場で固まっていた。

 

 その後、白や春詠お姉ちゃんの手で意識が戻った私は、そのことを考えていた。

 私は整列する眼魔コマンド達を見る。どの子も覚悟を決めているという眼をしている。

 

「陽太郎さん。私はまだ陽太郎さんのような立派な主ではありません」

 

 この言葉を聞き、眼魔コマンド達は少しショボンとした空気が出るが、私は気にせずに続きの言葉を出す。

 

「………ですが、まだ王として目覚めていないこんな私でも彼らの主にはなれるでしょうか?」

 

 その言葉を聞いて少し呆気にとられる陽太郎さんはすぐにその顔を笑みに変えて、眼魔コマンド達はショボンとした空気から感謝のような空気がでる。

 幽冥は眼魔コマンド、ヒトカラゲ、クローズの3種族の戦闘員を12名を部下にした。

 

SIDE眠眠

 ここは海と書かれた扉の繋がっている先である。

 太陽が照らす透き通った海と照り輝く砂浜にはいくつものバラバラの死体(・・・・・・・)があった。

 死体の一部はまるで体内から破裂したものや胸元に大きな穴を開けて干からびたもの、腹からでる臓物が一纏めにされて顔の皮を剥がされたもの等多種多様な死体が砂浜の白い砂を赤く染め上げる。

 

「がああああああ」

 

眠眠

【ねえ、よくも僕の好きなものを傷付けたね】

 

 煙の身体で男の身体を締め上げる眠眠はどんどん力を込めていく。

 締め上げられた箇所や顔、身体中の穴からどくどく血が流れていき、男は激しく抵抗するも–––

 

眠眠

【動くなよ(ゴミ)が!!】 

 

 抵抗にイラついた眠眠は自身の入っている古パイプを男の頭に突き刺す。

 痙攣する男の額にぐりぐりと古パイプを動かす。やがて、痙攣は止まり男は事切れる。

 

 眠眠は全身を煙に変えて男の死体を包み込み、死体は煙の中でどんどん小さくなっていき、やがて最後には形も残さずに消える。

 

眠眠

【………美味くない。こんな屑はやっぱり不味い】

 

【あなたって子供が好きなのね】

 

眠眠

【分からない。でも、あの屑が子供に手を出したのは間違いない】

 

 そう。砂浜に散らばるいくつかの死体はほとんどは眠眠がやったものだ。

 

【まあ食べたくないなら良いけど、いくつかは波音にあげてくれないかしら。あの娘、獲物を獲れないから】

 

眠眠

【分かった】

 

 眠眠は煙を操作して砂浜に散らばる死体を1つに纏めて、煙で圧縮して団子に変え、術で空間に仕舞う。

 それを見届けた兜は獲物を探すために飛び去った。

 

SIDEOUT

 

 兜は砂浜から飛び去った後に海に潜行して、獲物を探している。

 そうすると派手な爆発音が響き、その場所に向かってその巨体を動かす。

 

 そこには一隻の船とマストに鋏を食い込ませる鋏刃と船底の板に歯を食い込ませる穿殻、船員を触手で捕まえる浮幽がいた。

 

ンキィ、ンキィ

 

穿殻

【ご飯、ご飯】

 

ルルル、ルルル

 

 マストを折ろうとする鋏をハンマーで砕こうと船員は動くが、鋏刃の口から吐かれた溶解液で全身を溶かし、骨になった人間を余った左の鋏で口に運び、ガリゴリと嫌な音が響く。

 

 穿殻は触手の1本を獲物となる人間の頭に動かし、そこにいた人間の頭は綺麗になくなり、胴体のみの身体から大量の血が流れ出る。また胴体にも群がるように触手が飛びつき死体はなくなる。

 

 船員が浮幽の触手にカットラスで斬りかかるも触手の柔らかさに弾かれてその身体はどんどん干からびていき、ミイラとなると浮幽は次の獲物に触手を伸ばす。

 

「早く逃げるんだ。おめえら………がっ!!」 

 

 船長らしき人間の胸元に兜は自慢の尾を突き刺して、体液を吸い取り、船長はミイラになった。

 

「せ、船長!!」

 

「よくも船長を!!」

 

 カットラスを構えて、こっちに飛び乗ろうとするが、無駄だ。

 

「「ぎゃああ!!」」

 

 1人は穿殻の触手が喰いちぎり、残った胴体から臓物がボトボト溢れる。

 もう1人は浮幽の触手が胴体に絡まって青い炎を灯した触手から炎を放ち、捕まえたもう1人を焼き、空間に仕舞う。

 

ルルル、ルルル

 

穿殻

【波音のだよね】

 

ルルル、ルルル

 

 肯定という感じで触手を突き出す浮幽に穿殻は納得する。

 穿殻はそのまま船の竜骨を触手でへし折ろうと力を込めようとするが–––

 

鋏刃

【止めろ】

 

 突然発した鋏刃の声で折ろうとした竜骨から触手を外す。鋏刃もよく見るとマストに食い込ませていた鋏を外していた。

 

穿殻

【急にどうしたの何時もなら容赦無く沈めるのに】

 

 鋏刃と穿殻、浮幽、そして、この場にいない赤と今は亡き鋏刃と穿殻の親であったバケガニの童子とサザエオニの姫は波音に出会う前まで原因不明の遭難事故に見せかけて船を襲撃し、人間を喰らっていた過去がある。

 鋏刃は船に対して、いい感情を持っていない。幼少の頃に人間の船に轢かれそうになった鋏刃を助ける為に、バケガニの姫が身を呈して救ったが、バケガニの姫はその時の傷で死亡した。

 

 それ以来、鋏刃は船に憎悪を抱き、船を沈めてきた。だが、そんな鋏刃が今、穿殻に向けて『止めろ』と言った。

 これには長年の付き合いともいえる穿殻も浮幽も驚いていた。

 

鋏刃

【この船はあと少しで我らと同じになる】

 

 その言葉を聞き、穿殻も浮幽も船から触手を離す。

 我らと同じになる………つまり同胞が増えるという事だ。

 鋏刃は壊さないように船に鋏をかけて押して沖まで持って行った。

 

SIDE波音

 私は他のみんなのようにひとりで狩りが出来る訳ではない。

 東洋3大人魚魔化魍の一角に数えられるが、戦闘能力は人間の子供と変わらないひ弱なものだ。その力を補う為に私はある事を美岬に提案した。

 それは–––

 

波音

【はあー、はあー】

 

美岬

【少しは出来るようになったね。まあ、及第点って所かな】

 

 肩で息をしている波音を見て、まだまだ伸びを感じる美岬はそんな事を言う。

 そんな息を荒くしている波音の前には胸元に空いた一点の穴がある死体がある。

 

 波音の手には赤紫のレイピアに似た小太刀が握られていた。

 

 これは、美岬の持つ魚呪刀の1つで、その名は刺鱏(しえい)

 伸縮自在の刀身に先に塗られた神経系の毒を持つ魚呪刀だが、美岬は広範囲の攻撃を可能とする斑鰒(まだらふぐ)を使う為に似た能力を持つ刺鱏(しえい)をどうするか悩んでいた時に波音の話があった。

 波音の戦闘能力向上と使わない刀を持っていても仕方ないという理由で、刺鱏(しえい)を波音に渡し、大量の生きた(人間)がいるという事で波音は現在、3人の人間を刺鱏を使って仕留め、美岬は溢れた2人を仕留めた。

 

美岬

【そういえば、貴方はどういう風に食べるの?】

 

波音

【私はこういう風に】

 

 波音はそう言うと、尻尾の先が3つに別れて、その中央から牙がズラリと円状に並んだ口が見える。

 波音の尻尾は死体の1つに齧り付き、ブチチッと筋繊維が千切れる音とともに死体の上半身は波音の腹に収ま

 その様子を見ていた美岬は–––

 

美岬

【(わーークリオネみたい)】

 

 と思っていたらしい。

 ちなみに美岬はその様子を見ながら死体を腕の力で引き裂き、中から飛び出す臓物を啜って喰っていた。

 

SIDEOUT

 

「ねえ。陽太郎さんこの子達に名前送っていい」

 

 その言葉に眼魔コマンド達は驚愕する。今まで名前を持った戦闘員達のほとんどはなにかしらの功績を持ったものがほとんどだ。だが、彼らは生まれてからそれほど経っておらず功績を取ったことがない。

 そんな自分達が名前を貰っていいのかと–––

 

「まあ、名前と言ってもコードネームみたいなものだよ」

 

「それは良いですね。ねえ、義姉さん」

 

「そうね。良いじゃない。ちなみに名前は何って呼ぶの?」

 

「眼魔コマンド達は黒服、クローズは黒帽、ヒトカラゲは群青鎧と呼ぼうかと」

 

 その事を聞き、戦闘員達は歓喜に似た感情を覚えて、この事を喜んでいた。

 

「王様よ、ちっと話だが良いか?」

 

 そう言ったのは、人間に化けているマシンガンスネークだった。

 

「そいつらを俺たちに預けてもらえねえか」

 

 俺たちと言うのはマシンガンスネークを含めて、ランピリスワーム、インセクト眼魔の事だろう。

 

「(確かに、陽太郎さん曰く、戦闘経験がない戦闘員を育てるには戦闘経験が豊富な怪人がやった方が良いでしょう)」

 

 そう思った幽冥は首を縦にふる。

 

「シャシャシャ、そうか。じゃ戻ったら俺たちが鍛えてやる。安心しろ1人で鬼と対等に戦える位まで鍛えてやる」

 

 人間の姿なのに背後には大きく口を開ける蛇が見える。

 

SIDE鳴風

鳴風

【海は広いなー大きいなー】

 

 海の中を泳ぎながら歌う鳴風。その尾からは赤い線を描き、その線が出始めてる所には複数の絞られた死体が浮いていた。

 そして、泳いでると上に影を見つけ、顔を出すと人間の血を吸う唐傘がいた。

 

唐傘

【////////】

 

 唐傘は私に気付いたのか、翼で死体と自分の顔を隠す。

 

鳴風

【ごめん】

 

唐傘

【良いよ。普通に術で仕舞っておけばよかったと思うよ】

 

 唐傘は何故か理由は不明だが、人間を喰らう際には姿を消しているか自分の作った巣の中で喰らっている。

 だから鳴風は素直に謝る。

 

鳴風

【何で、姿をいつも隠すの?】

 

唐傘

【………】

 

鳴風

【言いたくないなら言わなくて良いよ】

 

唐傘

【いや、大した理由じゃないよ…………その恥ずかしいから】

 

鳴風

【へぇ!】

 

 まさかのそんな理由とは思わずに変な声をあげる鳴風。

 

鳴風

【でも、どうして恥ずかしいの】

 

唐傘

【そのね。みんなと一緒の食事って慣れてなくて………その………】

 

 鳴風は喋る唐傘の言葉で何故一緒の食事が苦手なのか理由が分かった。

 唐傘は館の男女に造られた人造魔化魍の一種で失敗したという理由で、封印を施され地下の倉庫に閉じ込められた。

 集団行動にあまり慣れないのはその為と判断した鳴風が取ったのは–––

 

鳴風

【これから少しずつ慣れていけば良いよ】

 

 母親の代わりのように唐傘の面倒を見る事を決めた鳴風だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE跳

 海のど真ん中にある島の森の中に血飛沫が飛び散る。

 身体から何かが貫通してその穴から血が出ていく。

 人間はチーズのように穴だらけになり死体が重なっていく。

 

ショキ、ショキ、ショキ、ショキ

 

 笊の上で研ぐ小豆の音と共に青い作務衣を着た雨蛙の魔化魍 アズキアライの跳は獲物の人間に得意の小豆の投擲を放つ。

 

【今回は良い苗が沢山手に入りそうでやす】

 

 そう言いながら次から次と死体を術で仕舞い、自分も僅かに残った肉片を舌で掻き集めて纏めて喰らう。

 

【そろそろあっちの苗は収穫出来そうでやす】

 

 人間の身体を貫通した小豆を再び、集めて笊に乗せていく。

 それを繰り返しているせいか笊は既に赤黒くなり、中の小豆も血に染まって赤く輝いている。

 

【誰でやす】 

 

 何かの気配に気付いた跳は小豆を投げつけるが、手応えがなかった。

 

【私ですよ跳】

 

 木を掻き分けて現れたのは、一部が液体化して跳の攻撃を無力化し、その手には首の骨が折られた人間を持った魔化魍 スイコの拳牙だった。

 

【すまねえでやす。どうにも作業中は神経質になりやすく】

 

拳牙

【何も言わずに近づいた私が悪いんです。気にしていません】

 

【それは、申し訳ないでやす。館に戻りやしたら良いおはぎをご馳走しやす】

 

拳牙

【それは楽しみです】

 

 そう言うと、拳牙は手に持つ人間を自身の身体を変質させた液体に包み込み、全体が包まれると水圧で圧縮して団子に変えて取り出し、自身の口に持っていき喰べ始めた。

 宴会はまだ少し続く。




如何でしたでしょうか?
次回は住宅街での魔化魍達の食事を書き、宴会を終わらせます。
最後あたりに館の名前を出します。

気になることがあったら活動報告の質問コーナーに書いてください。

では、また次回。


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捌 宴会後編

大変お待たせしました。
クロス編宴会の後編です。

前回はこの回で終わらせると言いましたが、もう1つ話を書いて、幕間の物語を書きます。


 崩壊していく家、何かの爪痕でボロボロなアスファルト、途方も無い力で折れた電柱、火花を上げて炎上を始める自動車、そこらかしこに散らばる人間だった肉片の数々。

 

 そこは人が生活していた場所だった。

 

 近所の人々が挨拶をして、子供たちは公園で遊びまわっていた。

 

 だが、今ではそんなものは赤と青の炎に燃やされ、大量の包帯を巻いた人型が人々を襲う阿鼻叫喚な世界へと変わった。

 

「はあ、はあここまで来れば安心だろう」

 

「あ、貴方本当に大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 崩れた家の瓦礫の隙間に隠れる夫婦。だが、そんなところに隠れても無駄だ。

 

アオオオオオン

 

「「ひい!!」」

 

 狼の嗅覚からは逃れられないのだから。

 

SIDE朧

 獲物(人間)の匂いのする方に行ってみたら、案の定いた。

 

「ぜ、絶対お前を守るぞ」

 

「貴方」

 

 男が背後の女を庇うように立つ姿に私は滑稽に思う。

 私はこの扉に入った後に獲物(人間)がどのようにしているか見たいという事で土門たちに待ってもらい影に潜んで、この街の様子を見て、私だけは1度扉から出て、土門たちには先に狩りを始めていいと言った。

 

 私は扉の外に居たクローズと呼ばれる者にある事を聞いた。

 それは………『転生者同士(・・・・・)』があの様に平和そうに暮らしているのか?

 

 薫さんの話によると屑転生者達は男ならハーレムを女なら逆ハーレムというものを目指してると聞いた。だが、あの扉の先にいる屑転生者とやらはそんな事をせずにただただ普通の人間と同じ日常を過ごしている。

 それに対して、クローズはこう答えた。

 

『あの扉の転生者たちは薫様に記憶を改竄されて転生者ではなく普通の人間と思っている』と答えた。

 

 今、私の前にいるのももちろん転生者だ。記憶を改竄されて自分たとが『偽の家族』として過ごしているということに気付かない哀れな役者。

 まあ、私にとっては獲物は獲物。そんな事を気にせずに喰らうだけ。

 そんな風に考えてたら男はそこに落ちていた廃材の棒を持って、私に向かってくる。

 

「うおおおおおお!!」

 

 相手にするのは本当にめんどくさいな。

 だから私は廃材が身体に当たる前に影に潜り込む。

 

「ど、何処だ!!」

 

 私の姿が見えず辺りを見渡す男。だけど貴方は大切なものを目の前で失ったら如何なるんでしょうね?

 そのまま私は女の影に移動して、その影に牙を喰い込ませる。

 

「ああああああああ!!」

 

「如何した?!」

 

 男の見た先には腹から中心に何かに喰い千切られた妻の姿だった。

 

「た、助けて…あ、貴…方」

 

 次々に身体が無くなっていく妻を見て、呆然とする男。

 やがて、妻の身体は無くなり、血に染まった地面から朧が姿を現わす。

 

【美味しかったですよ。貴方の奥さん】

 

 ペロリと舌で右前脚の先に着いた血を舐める朧。

 男は今の状況に理解できずに、ただ頭の中でグルグルとこれは夢だと決めつける。

 

【私も次の獲物を探したいので、貴方は私の腹の中で奥さんと再会してください】

 

 男が最後に見たのは自身をかみ砕こうとする朧の口だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE暴炎

「ぎゃああああ………」

 

「止めろ、止め…あああああ!!」

 

 炎を灯した二足歩行の蜥蜴の魔化魍 ヒトリマの暴炎が放った炎の龍は男2人を一瞬にして呑み込み、身体を灰に変える。

 

 その灰から出る僅かな炎を暴炎は吸い込み、口を歪ませる。

 

飛火

【五位ごめんね。こんな事を手伝わせて】

 

五位

【別に構わねえよ。俺も灰を貰うしよ、手伝いくらいさせてくれよ】

 

 その背後からは、赤い2本の尾を持つ狐の魔化魍 キツネビの飛火と両翼に青い光を灯した鷺の魔化魍 アオサギビの五位が暴炎の作った灰を掻き集めながら話をしていた。

 

 飛火と五位は人間を燃やした際に出る灰を好んで喰らう魔化魍で、炎を使って人間を燃やした時に出る僅かに残った炎を喰らう暴炎に着いていき灰を貰っていた。

 

五位

【しかし、いい腕だな暴炎】

 

暴炎

【その褒め言葉、感謝する】

 

五位

【そうだな感謝は素直に受け取っておくべきだ、彼奴なんか感謝されるのが嫌いつうかー】

 

飛火

【彼奴って?】

 

五位

【昇布だよ】

 

飛火

【昇布が、如何して?】

 

五位

【彼奴、昔からああ何だよ、自分の欲を出さねつうかー何つうかー】

 

飛火

【へえ〜……五位って、何だかんだ言って心配してるんだね】

 

五位

【なっ!!】

 

 図星なのか分からないが、両翼の炎が少しだけ大きくなる。

 

五位

【俺は心配してるだけだ、それに俺には…………】

 

 炎は大きくなるが、声は小さくなる五位を放っておいて、飛火は灰を再び集め始める。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE睡樹

 ある1つの家に複数のツタに覆われていた。

 

 それは家を少しずつ変形させて、中にある全てを押し潰そうとしていた。

 

 そして、それを行なっているのは縦に開いたハエトリグサの頭を持つ植物の人型魔化魍 コロポックルの睡樹だ。

 睡樹がこのような事をしている理由は、ツタに覆われている家にいる存在が理由である。

 

 睡樹がこの家を見つけたのは偶々である。獲物になる人間1人でも充分だと探していた時にある家の中から匂うあるものに気付き、家の中に入った。

 まず最初に睡樹が見たのは、首を横にザックリと切られた男。

 その次に見たのは、何回も何回も背中に刺されて死んでいた女だった。

 睡樹はその2つの死体に鋭利な根で突き刺して血を少し吸い、死体を根で覆った後に部屋の奥に入った。

 

 最後にそこで見たのは、下半身が半裸の男がひな位の全裸の女の子に覆い被さり、女の子に腰を振りながら狂気な笑みを浮かべている姿だった。

 それを見た睡樹はツタの腕で男を殴る。男は床に頭を叩きつけられて気絶する。

 

 睡樹は女の子の方に向かうが、女の子は首の骨を折られていて既に死んでいた。

 その目元にある恐怖で泣いた涙の痕を見て、睡樹は女の子を自身の根で丁寧に包み込む。それと同時に男をツタの腕を使って、四肢を固定して部屋の中央に置いて放置する。

 

 睡樹は根で覆った家族の死体を外に持ち出して寄り添わせるように一緒に置く。

 死体を置くと、睡樹は家全体をツタで覆い始めて、男を固定したツタと繋げる。

 

 睡樹がツタを引くと、家全体が軋み始めどんどん崩れていく。

 そして–––

 

「いぎゃあああああああああ!!」

 

 崩れていく家の中から男の悲鳴が響く。睡樹が引っ張るツタは部屋で男の四肢を拘束しているツタに繋がっている。ツタを引っ張り、家を崩す力が伝って男の四肢に向かう。

 

 そんな力で引っ張られ続ければ結果は言わずとも、男の四肢は千切れると同時に家は崩壊する。

 睡樹は崩れる家を一瞥して後に3人の死体を持って何処かに行った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE屍王

 アスファルトの地面を突き抜けて現れる屍王の分体達。

 しかも、某ハザードな映画のゾンビのようにミイラ達は異様に足が速く、逃げ惑う人々の首を鷲掴んで地面に転がす。

 

「いやああああ!!」 

 

「に、逃げ、R、お………」 

 

 地面に転がされた人間はミイラの分体によってその身体を喰われる。臓物や血が喰い散らばるが、心臓や目玉、または子宮などの臓器は喰らわずに彼らの主人である屍王に持っていく。

 

屍王

【フフフ、ハハハハハハハ!! 良い良いではないか。無様に逃げ惑う者よ全て我らの糧となれ】

 

 長杖を振るって、分体によって必要な物がなくなった死体に熱線を浴びせて焼き払う。

 分体たちはその手に持ったものを屍王に供物を捧げるように渡す。

 

屍王

【これは儀式用に、これは我が『臣下(・・)』の土産とするか】

 

 分体たちに渡される物を選別していく中である言葉を言ったが、その話は別の機会に話すとしよう。

 

 屍王は仮姿を解いて、本来の姿に戻り分体の持つ目玉を1つ取って、それを口に放り込んで喰らう。

 プチュ、プチュと柔らかいものを潰して咀嚼する音が響く。

 

屍王

【今日は貴様らも喰らうがいい。いい働きをした褒美だ】

 

 そう言って、五体が無事な死んでいる人間を分体たちの前に投げる。分体の身体から『黒いなにか』が溢れ出て、死体に群がる。

 群がられて姿の見えない所からブチッと千切れる音やブシャッと飛び散る音が聞こえるが、屍王は気にせずに立っていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE常闇

 紅い血の槍が乱雑に地面から生え、老若男女問わずにその槍に貫かれていた。槍に貫かれた死体からは血が流れ出て、死体をミイラに変える。流れ出た血は地面に垂れること無く常闇の頭の上の紅い球に集まっていく。

 

常闇

【案外しぶといな、転生者というものは】

 

「ハアー……ハアー………クソ!」

 

 常闇の前に転がっているのは、何故か記憶を取り戻した転生者だった。

 初めは血を奪うつもりだった。だが、その転生者の持っていた物が、転生特典が彼女の怒りに触れた。

 

 人間から魔化魍に生まれ変わった時に無力さを感じていたある時に常闇が出会った女性。その女性に亡霊と魔獣が蔓延る世界に強制的に連れてこられ、そこで常闇は修行をして強くなった。

 その名はスカサハ。影の国の女王であり、門番でもあり、『光の御子』と呼ばれる英雄クー・フーリンや数多くの英雄を生んだケルト神話に登場するスパルタ師匠である。

 彼女はそんなスパルタの師匠に鍛えられたお陰で美岬の所にいた時はNo.3の実力者になっていた。

 

 話を戻すが、彼女の怒りに触れたのは転生者の転生特典のとある魔槍だ。

 原典は北欧の主神が持つ槍で『破裂する槍』、『雷の投擲』とも呼ばれるその槍は彼女の兄弟子ともいうクー・フーリンにスカサハが授けたもの。その名は『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』。

 これが彼女の怒りの原因である。

 

常闇

【まともなケルト式鍛錬もしていない者が師匠の兄弟子の武器を使うな!】

 

 頭上に浮く紅い球から血を少し抜き出し、槍に変える。

 

「ガハッ………」

 

 槍は転生者の腕を貫き、肉を抉り、臓物を散らし、骨を砕く。

 

常闇

【この槍は貴様程度では宝の持ち腐れ】

 

 常闇は死んだ転生者の握られた手から刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)を奪い、スカサハから教えられたルーン魔術で身体の中に仕舞う。

 常闇は苛立ちを消すためにさらに槍を造って死体に放つ。

 死体は最早、原形を留めない肉塊に変わり、常闇は空へ飛ぶ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE荒夜

 激しい剣戟が響く。その地面にはいくつもの武具が斬り落とされていた。

 

 そこに居るのは、いつも通りに2人一緒で行動する荒夜と狂姫と白と黒の夫婦剣を持った黒い鎧のような服と赤い外套を纏った褐色肌の白髪の青年だった。

 

荒夜

【なかなかやりますね。自称、正義の味方】

 

狂姫

【はい。荒夜様とここまで打ち合えるとは】

 

「俺は自称じゃねえ! 俺は正義の味方だ!!」

 

 青年の正体は屑転生者とは違う意味でタチの悪い転生者で、貰った特典で誰でも救うと願い一方的に自分の正義を振りかざす転生者である。

 この青年の望んだ特典は見たものを魔力で具現化する魔術 投影を得意とする『無銘の英雄』エミヤの宝具 『無限の剣製(アンミリテッドブレイドワークス)』である。

 だが、行動に移す前に陽太郎に倒された。

 

 青年はその場から離れて、白と黒の夫婦剣を捨てて、弓矢を投影して荒夜に向けるが狂姫の放った矢が弓矢を破壊する。

 

狂姫

【そんな事はさせません】

 

 青年は再び、弓矢を投影するがその前に荒夜が接近して青年の腕を斬り裂く。

 青年は利き腕を斬られるが、矢を放つ。

 

 矢は真っ直ぐに荒夜ではなく狂姫に向かう。

 

狂姫

【!?】

 

 自分の方に向かう矢を見て、矢を番えようとするが矢は既に狂姫の前に–––

 

狂姫

【………? ………荒夜様!!】

 

 目を閉じるが、矢はいつまで経っても刺さらず目を開けた前にいるのは自分の代わりに矢の攻撃を受けた荒夜だった。

 

「ははは、所詮悪は正義に勝てないんだ!!」

 

 青年は攻撃を当てて荒夜が死んだと思ったのか、そんなことを言うが荒夜の身体に矢が貫いたのは彼の左腕だ。

 居合をするにあたって致命的だがその程度で荒夜は戦えないわけがない。

 さらに言えば、彼は触れてはいけない『龍の逆鱗』に触れたのだ。

 

荒夜

【貴様………】

 

「なに………!?」

 

荒夜

【姫にその矢を向けたな】

 

「それがどうした貴様らは悪だ!! 悪なら正義に殺さろ!!」

 

荒夜

【その口を閉じろ痴れ者!!】

 

 荒夜は左腕の矢を抜き取った後に、青年の方まで駆ける。

 青年は再び、矢を番えるがその前に移動した荒夜が弓矢ごと青年の身体を流れる川の様に斬り裂く。

 

荒夜

閃居合流 壮麗

 

 青年の身体の斬られた箇所から血が吹き出る。血は荒夜に掛かり、その姿を赤く染める。

 狂姫はその光景を美しく思いながら、荒夜の元に空間を操作して移動する。

 

狂姫

【荒夜様大丈夫ですか?】

 

荒夜

【問題ありません】

 

【流石だな。荒夜】

 

荒夜

【……? 常闇か】

 

 声のする上を見上げるとそこには血の球を浮かべ、蝙蝠の翼で羽ばたく常闇がいた。

 

常闇

【お主ら何も喰らってないだろう。これをやる】

 

 そう言って常闇は、荒夜達の前に切り分けられた肉を投げ渡す。

 

荒夜

【かたじけない………姫、先に召し上がってください】

 

狂姫

【いえ先に荒夜様が私はその後に……】

 

荒夜

【いえ姫から】

 

狂姫

【いいえ荒夜様から】

 

常闇

【(また始めたか。まあ良い)】

 

 常闇は2人の会話を聞きながら血の球から血を抜き出して、何処からか出したワイングラスに入れて飲み始める。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE土門

 住宅街の外れにある家の中。

 

 その家の中に居るのは肝試しのように怖いもの見たさで入った5人の人間。まだ明るく、幽霊なんて出ないだろうと笑いながら入った5人はそれを後悔する。

 

 家に入って数分で5人のうち2人は急に姿を消した。

 姿を消した2人を探す3人が見たのは、喰い散らかされた姿で発見された2人だった。

 

 既に2人は土門の腹の中に収まり、残りの3人の獲物を術で小さくした身体で密かに狙う。

 

「おい。無事か」

 

「無事じゃねえよ亮太。智子も優希も死んだんだぞ」

 

「でも、死んだ人は生き返らないんだよこう太」

 

「だけどよ……………おいかよ子。お前の肩のそれ何だ?」

 

「え? 肩に何か、ぐううううううう」

 

 肩に何かがついてると言われ、かよ子は見ようとした瞬間に首に白い糸が巻き付き、かよ子は天井に連れていかれる。

 

 グチュグチュ、ボリボリと上から聞こえる咀嚼音に残りの2人は顔を青褪めて、その場から逃げようと扉に向かう。

 

 ドアノブの手をかけようとした瞬間に上から落ちてきたものに2人の視線は向く。

 それはかや子の喰い千切られた腕だった。

 

 そして、腕が落ちてきた先を見ると、赤い6つの複眼で2人を見る虎縞模様の黄金蜘蛛の魔化魍 ツチグモの土門がいた。

 

「「うわああああああああああ!」」

 

 急いで扉で部屋から飛び出すが、こう太の足に糸が巻きついており、部屋の中に連れていかれそうになるが亮太がこう太の腕を掴み、扉の縁を掴んで引き摺り込まれない様にするが、徐々に力は強まる。

 

「亮太、逃げろ!」

 

 こう太は亮太を手で押して部屋の外に押し飛ばす。

 

「こう太。こう太!!」

 

 だが、部屋から聞こえるのは肉が引き裂かれる音と咀嚼音で亮太はその場から走って逃げる。

 

 そして、この家に入った扉を見つけた亮太は扉に目掛けて走るが、扉の届く少し手前で彼の身体には糸が絡まり、その場で動きを止める。

 

グルルルルルル

 

 いつの間にか後ろには土門が佇み、亮太の身体全体に糸を巻きつけてそのまま口に運ぶ。

 

土門

【かなり喰べたな。そろそろ王の元に戻るか】

 

 土門がその様なことを言った同時刻。

 人間を喰らった魔化魍達は各々の王の待つパーティ会場に向かって行った。

 

SIDEOUT

 

 美味しかった。

 ひなは満腹のせいか目を擦り眠そうにしている。

 春詠お姉ちゃんと月村さんは酒を呑んでたのか少し顔が赤い。

 怪人組は3人集まって何かを話している。

 

「ヒトカラゲ。デザートをお願い」

 

「デザート、食べる」

 

「ひな。デザートハ明日ニシロ。薫様ソノデザートヲ持チ帰レルヨウニシテモラッテ宜シイデショウカ?」

 

「良いですよ。ヒトカラゲ、1つだけ袋に入れてあげなさい」

 

 薫さんの声で後ろに控えていたヒトカラゲは全員のデザートを持って来る。

 デザートと聞いて、食べようと思ってるが、それでも眠気のせいか頭をフラフラさせるが黒に抱かれて、ひなを寝かしつける。

 黒はその後に薫にお願いしてひなのデザートを持ち帰れる様にしてもらった。

 

 宴会はそろそろ終わりを迎える。




如何でしたでしょうか?
お気付きの方はいたかもしれませんが常闇の槍の師匠はFateのスカサハでした。
後々の物語に安倍家対ケルト英雄を書いてみるかもしれません。


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玖 帰宅

クロス編今回で最終回です。
悪維持さん。コラボ企画ありがとうございます。


 楽しい宴会はお開きになった。

 ひなを除いて、全員デザートを食べ終える頃に私の家族達は帰ってきた。

 等身大はサイズはそのままだが、大型や中型の魔化魍は柴犬のサイズまで術で縮小してるか擬人態になって土門たちは私に向かって駆けてくる。

 

「(あらら、所々に喰べ残しを付けちゃって。後で拭いてあげないと………)わあ!」 

 

 幽冥がそんな事を思ってると土門が幽冥に飛びつき、それに続いて次々と幽冥の胸元に向かって家族達が飛んで来て、その重みに耐えられる筈もなく幽冥は椅子ごと後ろに倒れる。

 

「みんな重い、重いから少し退いて」

 

 幽冥の胸元には土門を筆頭に鳴風、顎、睡樹、唐傘、朧、美岬が乗っかており、その重さで苦しむ幽冥を見て慌てて身体を退かす土門たち。

 幽冥は身体を起き上がらせて、心配そうに見る土門たちに大丈夫という感じで微笑む。

 土門たちはそれを見て安心したと思ったら背後から強烈な視線を感じて、背後をそろりと見ると。

 

 空間が歪むほどの黒いオーラに包まれた白が土門たちを幽冥に気付かれないように睨みつけていた。

 土門たちはおそらく館に戻ったら、以前の件も含めめてお仕置きされるのだろうと思った。

 

SIDE薫

 幽冥ちゃん達を見ると少し羨ましく思う。

 人間でありながら魔化魍を家族といえるのはおそらく彼女だけだろう。

 

 陽くんと私は本当の血の繋がりのある家族ではない。だけど仲良くやっている。

 でも、あんな風な大家族には憧れる。

 

SIDEOUT

 

「では、今回は招待してくれてありがとうございました」

 

「楽しんでくれて何よりだよ。そういえば館の名前は決まったの陽くん?」

 

「決まったよ義姉さん」

 

 宴会の時から陽太郎さんが考えていた館の名前を聞くのを楽しみにしていた。

 考えてみれば、いつまでも洋館や館っていうのもどうかだと思っていた。でも、その館にずっと住むわけだし変な名前を付ける訳にはいかずに困っている時に薫さんが陽太郎さんにお願いして館の名前を考えてもらった。

 

妖世館(ようせかん)でどうでしょう?」

 

「妖世館?」

 

「そう。魔化魍は妖怪だからね。そして、世というのは世界のこと。妖怪の世界の館それらを捩って妖世館」

 

「妖世館ですか………良い名前です。その名前ありがたくいただきます」

 

「それは良かった。宴会の中ずっと考えて良かったです」

 

「じゃあ、妖世館に送ってあげる」 

 

 薫さんが指パッチンすると同時に周りの景色は変わり、我が家ともいう妖世館の中にいた。

 

「薫さん何をしたんですか?」

 

「『常闇』で奪った転生者の特典の1つ『ミッド式魔法』の転移を使ったのよ」

 

 薫さんの『常闇』の能力で殺した転生者の特典を奪い取って、それを自由に使う事が出来るらしい。

だが、転移したのは理解したが何かおかしい。

 まず私、家族達、従者にしてくれと言われて従者になった煉獄の園(パーガトリー・エデン)で暮らしていた戦闘員12名、春詠お姉ちゃんの友人の月村 あぐり、薫さん、陽太郎さん。此処まで居てもおかしくない。

 

 だけど、薫さんの後ろにある大きな箱群(・・・・・・)は何だ?

 

 あんな物は転移する前は無かった筈。

 それは大小様々な箱が重なってる状態で、まるでクリスマスのサンタのプレゼントのようになっていた。

 

「あ。気付いたみたいだね。あれは貴方達へのプレゼントだよ」

 

 プレゼントの中身が気になって開けようとするが–––

 

「おっと。プレゼントは向こうに着いた時に開いてね」

 

 プレゼントを開けようとする私の手を掴んで、プレゼントを開けるのを阻止する薫さん。

 

「………じゃあ、これから陽くんに元の世界に送って貰うからそのまま館の中でジッとしててね。

 陽くん、私達は外に出よう…………あ、それとヒトカラゲ、眼魔コマンド、クローズ。ちゃんと幽ちゃん達の役に立ちなさいよ」

 

「「「「「「「「「「「「承知しました」」」」」」」」」」」」

 

 薫と陽太郎は妖世館の外に出るために扉に手をかけると–––

 

「薫さん。今回は楽しかったですよ」

 

 幽冥の感謝の声が聞こえて、薫と陽太郎は笑顔を幽冥達に向けて、言葉を送る。

 

「また、いつか遊びに来てね。未来の王様」

 

「その時は私とも勝負してくだいね煉獄の義姉弟」

 

「ええ」

 

「義姉さんそろそろ送るから」

 

「分かった…………じゃあまたね!」

 

 別れを言って、そのまま外に出た薫たちは妖世館の外で、元の世界に戻るのを見ていた。

 陽太郎の手に魔法陣が浮かぶと妖世館の下にも同じ魔法陣が浮かび、やがて赤く輝くとそのまま妖世館はその場からまるで何も存在しなかった様に元の世界に戻った。




如何でしたでしょうか?
今回でクロス編は終了です。
プレゼントの中身は次回に出そうと思います。
幕間編をいくつかやって、その後にひな編に入ります。


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幕間
お土産と睡樹との買い物


今回から少しだけ幕間です。


 煉獄の園(パーガトリー・エデン)から元の世界に戻り、館に妖世館という名を戴き、眼魔コマンドとクローズ、ヒトカラゲの戦闘員を私の従者戦闘員として譲渡されて、それぞれに黒服、黒帽、群青鎧と名付けた。

 今はランピリスワーム、マシンガンスネーク、インセクト眼魔に(しご)かれている。

 そして–––

 

「全部で5個か」

 

 薫さんにプレゼントされた箱は全部で5つ。

 まぁ、取り敢えずは小さいものから開けていこうと思い、箱の中から一番小さいのを開ける。

 中から出て来たのは、見るからに怪しい薬が数個と説明書だった。

 

 白が安全の為にと説明書を先に読んでいくとその顔は少しずつ赤くなっていき中間辺りまで読むと、狂姫に説明書と手紙を渡す。今度は狂姫が説明書を読むと、薬の1つを持って遠くから様子を見ていた荒夜の肩を掴んで2階に連れ去っていった。

 何があったんだと気になって置かれた説明書を読もうとすると。

 

「王には少し早すぎますので、これは私が預かります」

 

 と言って。説明書を畳んで服の裾に仕舞いこんだ。

 そして、次に少し大きな箱を開けるとそこに入っていたのは、鬼たちが使う音撃菅を禍々しくものと先程と同じ説明書だった。

 説明書を読んでみると、薫さんが陽太郎さんに頼んで造らせた対清めの音対策の武器 『穢器(えき)』という武器らしく。人間に対して害悪な音を放ち、魔化魍に対しては身体能力向上の能力を持つ武器の様で私の為に作ってくれたようだ。

 

 私は穢器を魔化魍の王として日に日に魔化魍に近くなったおかげで使えるようになった術を使って穢器を仕舞った。

 

 次の箱を開ける。

 中に入っていたのは、透き通っている水晶それも色んな色で出来た多種多様な頭蓋骨だった。それを見た骸はいつの間にか私の持っていた頭蓋骨と頭蓋骨の入った箱を取ってそれを外から商品を眺める少女の様に目を輝かせながら見ていた。

 こっちは説明書ではなく手紙が入っていた。

 内容は薫さんが試合の時に破壊してしまった頭蓋骨の代わりにと骸に送った詫びのプレゼントだった。

 

 骸はそのまま術で1つまた1つと水晶の頭蓋骨を仕舞っていき、骸はそのまま外に移動した。

 

 次の箱に入っていたのは何かの術式を書いた紙が数枚だった。

 これは私が読んでも理解できないので、崩と跳に渡した。手紙には『今後に役立つ』と書かれていた。

 

 最後に一番大きな箱を開けて出て来たのは数えるのが面倒くさくなりそうな数のカプセルだった。説明書によるとこれは4桁の食糧となる人間(屑転生者)が入っている。

 翌日に白や黒、赤に頼んで早速調理してもらい土門たちにあげると嬉しそうに喰べていた。しばらくは白たちに食料調達を頼まなくて済む。

 

 そんな事があって1週間が経った。

 私は睡樹と昇布と共に野菜の種を買っていた。

 

SIDE睡樹

 別の世界か…ら戻って………きて1週間が経った。

 主…が妖世館の……植物の…管理を任せて…………くれた。

 

 そして、主………の言った野菜が…どういう………ものか…気になって…聞いて………みたら、人間が…食べれる……植物の一…種と…言った。

 

 僕の育…てた色んな…植物……がある…庭を広くし………たいと…考えたが、今……………の所…は植物に…興味がある…ひな……しかいないので……それはまた…別の機会……と思って……、主に野菜の…種を買いに………行くのに着いて……きても…らった。

 

 跳に…教わった……擬人態にな…り、主と…………主の護衛…として…昇布が一緒に…ホーム…センター……で買い物した。

 

 初めて見…たけど、色んな道具………が置いて…あって目移り………するけど、今回は…野菜の…種と肥料……を買う…………ので…またの……機会………に来よ…うと…思う。

 

「睡樹。どんな野菜を育てたい?」

 

 主が………どんな…のが欲し……いかと…聞いてきた。

 

「僕は………色んな…野菜が欲しい」

 

 どんな………野菜がある…かは知らな……いから取り…敢えずは……主に任せて…僕は渡さ……れた野菜………を育てるとい…う感じ……かな。

 

「色んな野菜か〜。先ずはこれと………これに………これかな」

 

 そう言って………主が取っ……たのは、緑色の細長い…野菜、赤く………て丸い野菜、白くて…太い野菜の絵……が描かれ…た袋だ。

 

「じゃあ買ってくるから睡樹と昇布は待ってて」

 

 主が……ここから離れ…て、昇布と2人………きりになった。正直………話す内容が思いつか…ない。

 昇布とは……北海道で…暴走していた時……に一度戦ったが…正直、かなり危なかった。

 電撃によって………かなり苦し…められた。何と……か捕縛……してその時は終…わったけど………

 

「あの時は止めてくれて感謝する睡樹」

 

 突然の…昇布の声に驚くも………僕は自然に…出た…笑顔で返事する。

 

「良いよ……僕たちは……今は仲間(家族)だよ……いちいち………感謝し……なくても良い……んだよ」

 

「そうか」

 

「睡樹! 昇布! 買ったから行くよーー!」

 

 主の声が…聴こえて……昇布と共…に主の元……に向かった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

「店畳むべきなのかな………」

 

 手に持つ杖を落として、緑の頭巾を被った女性は椅子に座り込んで、そう呟いた。




如何でしたでしょうか?
次回、新たな魔化魍が出ます。

質問コーナー回答の欄
美岬
【質問コーナー今回の担当は私、美岬と】


【あっしがやりやす】

美岬
【今回は覇王龍さんの私の持つ魚呪刀登場及び登場する予定の紹介です】


【美岬様が持つ魚呪刀は全部で8本ありやす】

美岬
【今回は8本の内4本を紹介します。先ずは私の愛刀である1本。畏鮫(いさめ)ですね】


【人間の鮫の恐怖心と溺死した人間の魂を集めて造られた刀でやす】

美岬
【これの造形はかなり気に入ってるの。2本目は咬鱓(こうつぼ)


【これは鱓の狡猾さと鬱な人間の魂を集めて造られた刀でやす】

美岬
【これは1対1だったら8本の中で最強と言ってもいい刀よ。3本目は斑鰒(まだらふぐ)


【鰒の毒と鰒を食らって死んだ人間の魂を集めて造られた刀でやす】

美岬
【毒を広範囲に飛ばす遠距離向きの刀。4本目は刺鱏(しえい)


【鱏の我慢強さと嫉妬心の強い人間の魂を集めて造られた刀でやす】

美岬
【これは斑鰒と似ていて今は波音に渡して鍛えてるの】


【今回はこの4本を紹介しやした。次回に残りの4本を紹介しやす】

美岬
【気になることがありましたら活動報告の質問コーナーに書いてください】


【それでや……】

美岬、跳
【【また次回〜】】


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路地裏の薬屋

お待たせしました。
本当は昨日投稿するつもりでしたが睡魔に負けてこの時間に投稿させてもらいました。


 睡樹の目的である野菜の種を買い終えて、妖世館に戻る道の時に見つけた路地裏。

 そこに何かあると感じた私はそのまま路地裏に入っていった。

 

 睡樹も昇布も路地裏に行く私に気付いて、着いてくる。

 すると、1つの店を見つける。

 

 こんな所に店なんて有ったんだと思い、近付いて見るとその店の状態に驚いた。

 

 壁一面には中傷的な言葉で書かれた紙が貼られ、窓は1枚残らず割られて僅かな欠片が窓枠についてる程度、扉は一度火がつけられたのか下の部分が焦げて黒くなっている。

 

「この店……入る…の主?」

 

「うん。少し気になってね」 

 

 睡樹にそう言って私は店の扉に手を掛けて扉を開ける。扉についてる鈴がチリンと鳴る。

 中は外とは違って、綺麗だった。だが、よく見ると僅かなガラスの破片が散らばっている。

 棚には色んな種類の薬瓶が均等に置いてあり、その下の嵌ってるプレートには効能が書いてあった。

 

 睡樹と昇布はこういう店に入るのが初めてなのか、置かれてる薬瓶を手に取り見ている。

 

「あ」 

 

 女性の声とガラスの割れる音が聞こえ、私は後ろに向くと緑の頭巾を被り、杖をついた女性が奥にある部屋から出てきていた。

 店員というよりはこの店の店長だろう。

 

「………いらっしゃいませ」

 

 女性は私が客だと気付いて、挨拶をしてレジの方に向かい椅子に座る。

 何でか知らないが、あの店長が気になってしまう。

 

「王よ。あの女、先程まで分かりませんでしたが魔化魍です」

 

「えっ!」

 

 昇布が耳打ちした内容に驚き、店長を見るが私には何も感じない。

 その様子を見て、再び昇布は私に耳打ちする。

 

「おそらく、薬か何かで誤魔化しているのでしょう。それで正体に気付かなかったんだと思います」

 

 そう言われて私は買っていこうと思う薬瓶を見ながら、後ろの店長がどんな魔化魍なのか考えてた。

 

SIDE◯◯

 私はあと3日でこの店を畳む。

 

 私の思い出の詰まったこの店を手放すのは嫌だけど、アイツらは店を手放せば、客には手を出さないと言ったがどうせ嘘だ。

 でも、私がこうすれば客に被害はない。

 それまでの残り僅かな時間を過ごそうと思い、今日作った薬を並べようとしたら、お客がいた。

 

 しかも普段来るような人間やお客とは違う、最近噂で聞いていた『魔化魍の王』とその仲間もとい家族だ。

 私は驚いて薬を落としてしまった。

 ですが例え、王であろうとお客はお客。私はこの店の店長です。売るときにはキチンと売る。

 いつも通りにレジの側にある椅子に座り、お客に私の作った商品を売る。

 

「貴女、魔化魍ですよね」

 

 いつの間にか数本の薬瓶を持って、王がレジの前に立っていた。

 

SIDEOUT

 

「貴女、魔化魍ですよね」

 

 買う商品を持って、店長に話し掛けた。店長は驚いた顔をしている。

 

「………何の事ですか?」

 

 動揺を隠すように喋るがどう見ても焦っている。

 

「別にどうこうする訳じゃないよ。少し話を聞きたいだけ」

 

「そうですか………王に反抗する訳じゃありませんし話します」

 

 すると、店長は術を解き、魔化魍としての姿を現す。

 その姿は緑の頭巾を被り、直立二足歩行する鼠の姿だった。

 

【私はキュウソという魔化魍です】

 

 キュウソ。

 長い年月を経て妖怪化した鼠の妖怪。『絵本百物語』や『翁草』などの江戸時代の古書や民間伝承にあるもので、主に人間に害を与えるものとして描かれるが子猫を育てるものとして描かれることがある。

 

【それで聞きたいこととは】

 

「話す前に擬人態に戻ったら誰が来るか分からないし」

 

【そうですね】

 

 キュウソはそのまま擬人態に戻って椅子に腰掛ける。

 

「王は何を聞きたいのですか?」

 

「この店の外の事についてです」

 

「あれですか。あれは………」 

 

「店長さん邪魔するぜ! へへっへ……なんだ客がいるのか」

 

 キュウソが話をしようとしたら時に店の扉が開き、スーツを着た男達が入って来た。

 

「いらっしゃいませ、羽田さん」

 

 キュウソは話すのを辞めて、入ってきた男達に挨拶する。

 

「どうも店長さん。回りくどいのは嫌いなんでちゃっちゃっと済ませましょう………今日こそはこの店畳んでもらいましょうか」

 

「この店は後3日待ってもらえる筈です!! 何で!!」

 

「こっちにも色々と事情があるんや。ほら、この書類にサインしてくれんかのー」

 

 成る程。つまりこの店の外の状態はこいつらが原因ということか。

 そうこう考えてる私を他所にキュウソと男は口論を続ける。男はカッとなったのか机に手を叩きつける。

 

「いい加減にしな店長!! こっちが下手に出たら舐めたこと抜かしおって………店長さん。あんたがこの書類書かない言うならそこのお客に痛い目にあってもらいましょうか」

 

「!!!」

 

「「あ゛あ゛!!」」

 

 羽田という男に腕を掴まれて引き寄せられ首に腕が締まっている。

 というか睡樹と昇布が出してはいけない声出してる。

 

「何だ兄ちゃんと嬢ちゃんはこの姉ちゃんの知り合いか」

 

「口を閉じろ下等生物!!」

 

「僕らの主に……手を出した………万死に…値する」

 

 睡樹と昇布がキレた口調で喋ってると……あれ、意識が………

 

「何だてめえら。歯向かうと「五月蝿いなぁ」……へっ……ぎゃああああ!!」

 

SIDEキュウソ

 突然、王の口調が変わったと思ったら、自身の首を絞める羽田さんの腕を掴み、そのまま腕をへし折った。

 

 王が羽田さんの腕を折ったことを皮切りに一方的な蹂躙が始まった。

 

 睡樹と呼ばれた魔化魍は腕をツタにして男の身体を突き刺すように伸ばして刺し殺した。

 

 昇布と呼ばれた魔化魍は両腕を布のよう変えて男たちの身体を両断した。

 

 王は手に持つ瓢箪から出る酒を口に含んで毒霧にして吹く。毒霧を浴びた羽田さんを含めた人間はドロドロに溶け、床の染みになった。

 

 ことが終わると店の中に静寂が訪れた。

 

「話の続きは大丈夫ですよ………それよりも私の家族にならないキュウソ」

 

 王の手が私の前に差し出された。




如何でしたでしょうか?
今回は新しくキュウソという魔化魍を出させてもらいました。
この魔化魍はひな編で

質問コーナー回答の欄
美岬
【質問コーナー。今回は前回の覇王龍さんの質問の続きである魚呪刀の残り4本の紹介をします。担当は私と】

屍王
【フッハハハハハハ。我だ!】

美岬
【では先ず、5本目の魚呪刀、突烏賊(とついか)

屍王
【烏賊の瞬発力とよく嗤う人間の魂を集めて造った槍に似た形状を持つ刀だ】

美岬
【これ、中距離の戦いなら無類の強さを発揮するの。6本目は幽蛸(ゆうだこ)

屍王
【蛸の擬態能力と存在感の薄い人間の魂を合わせて造った刀だ】

美岬
【ある特殊能力を持った刀で潜入や暗殺に向いてる刀。7本目は壊鯱(かいしゃち)

屍王
【好奇心旺盛な鯱と狂った人間の魂を合わせて造った刃がチェーンソーに似た刀だ】

美岬
【武器破壊に特化した刀で2番目に気に入ってる刀。最後の8本目は堅鯨(けんげい)

屍王
【鯨の耐久力とスポーツ選手の魂を合わせて造った刀だ】

美岬
【耐久性に特化した刀で峰打ちならぬ峰殴りが出来る】

美岬
【以上が全魚呪刀です】

屍王
【気になることがるなら活動報告の質問コーナーに書くがよい】

美岬
【では……】

美岬
【また次回〜】

屍王
【次回を楽しみに待て。フハハハハハハ】


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飛火と葉隠の外食

お待たせして申し訳ございません。
今回は最初は飛火の視点から始めり、その後に前回の続きとなっています。


SIDE飛火

 今日も楽しく散歩。今日は珍しく私以外に葉隠もいる。

 普段は魔化魍の姿で屋根の上や電柱の上で散歩していたけど跳に教わった擬人態の術のおかげで堂々と人間の街を歩ける。

 

 それに羅殴から貰ったこのカメラは凄い。撮りたい瞬間を一瞬で撮って保存できるのが。

 このカメラで撮った写真はもう一杯になりそう。

 

「飛火は写真が好きなの?」

 

「好きだよ。私たちの思い出は時が経つにつれて消えるけど写真はそれを残してくれる」

 

 飛火はそう言いながら首に掛けたカメラを構えて、また写真を撮り始める。

 

「「!!??」」

 

 ふと、2人の鼻にとても良い匂いが漂ってきた。

 あまり嗅いだことがないその匂いに飛火たちは釣られてそのまま匂いの方に歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 匂いに釣られて着いたのは人気の少ない道にある一軒の店だった。

 

「匂いはここからだね」

 

「そうだね」

 

「じゃあ入ろう」

 

 そう言って飛火はドアの取っ手に手を掛けてドアを開ける。

 中は少しの飾りを置き、デカい横テーブルがあり、奥にある厨房には石釜と炭が置かれてる網があった。

 そして、その側には頭に調理帽を被ったエプロンを着けた男と頭にタオルを鉢巻のように着け茶色の服の上に袖の無い青い服を着た男がいた。

 

「「いらっしゃい!!」」

 

 私と葉隠の2人は近くの椅子に座り、調理帽の男がメニュー表を持って近付く。

 

「お決まりになりましたら、お呼びください」

 

 メニューを見やすいように開き一礼する男を見た後に飛火は気付いた。

 お金を持っていない(・・・・・・)。王様から聞かされた話の1つで人間のお店で食べる時にはお金が必要だって。

 

「どうしたお客さん」

 

 いつになっても注文しない私たちに気付いたタオル鉢巻の男が私たちの様子に気付いて席に近付く。

少し私たちの顔をを見て、察したかの少しニヤついた声で言った。

 

「ははーん。お前達、金が無えんだな」

 

「「!!」」

 

「そうビクつくな。好きなものを1つずつ頼みな。

 この店は1回だけなら金払わなくて良いからよ」

 

 男の言葉に私たちは驚く、金が無いから1回だけなら払わなくて良いという。

 

「おやっさん! お客様の注文決まりましたか!」

 

「ほら注文決めな」

 

「じゃあ私はこのマルゲリータを1つ」

 

「僕は焼き鳥の盛り合わせを」

 

「あいよ。ちょっと待ってな」

 

 そう言って男は厨房に戻っていった。

 

 注文してから数分が経った。

 飛火と葉隠の前には美味しそうな料理が並べられた。

 飛火と葉隠は早速自分の頼んだ物を食べ始める。

 

 飛火はマルゲリータの切られた1枚を取って口に運ぶ。

 サクッとクリスピーの生地から鳴る音と共に口の中で蕩けるチーズと弾けるトマトの味に飛火は感動する。

 元々、燃やした人間の灰を主食とする飛火は幽冥の作った料理以外の料理を食べるのは初めてだ。

 

 葉隠が頼んだのは焼き鳥の盛り合わせで計9本の焼き鳥が乗っけられた皿から1本取って口に運ぶ。

 ジュワッと染み出す肉汁とそれと混ざり合うタレのハーモニーに葉隠は満面の笑みを浮かべる。

 

 2人が食べ終わってお礼を言おうとした時、ガチャとドアが開く音が聞こえた。

 

「野間さん。金の徴収に参りました」

 

 黒服の男達が入ってきた。

 

「またテメらか。とっとと帰りな」

 

「そうはいきませんよ。何せ金を受け取って無いんですから」

 

「断る!! テメエらにやる金は一文も無え!!」

 

「そうだ。此処は俺とおやっさんの店だ!」

 

「五月蝿え! さっさと払え!!」

 

「ぐあ」 

 

 店の男が黒服の男に殴られたのを見た飛火と葉隠は自分の座っていた椅子から立ち上がる。

 

「お前ら!!」

 

「許さない!!」

 

 あまりにも横暴な振る舞いの人間に我慢出来なくなった2人は擬人態の姿を解き本来の姿に戻る。

 

「「!!」」

 

「な、何だコイツら!!」

 

 店の男2人は飛火たちの姿を見て驚き、黒服の男達は服から銃を取り出して飛火たちに向ける。

 

飛火

【燃えろ!!】

 

葉隠

【喰い千切られろ!!】

 

 飛火の吹き出す炎と竹筒から無数の飛び出す分体の葉隠が黒服の男達に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 元の魔化魍の姿に戻った飛火と葉隠の前には先程の黒服の男達の死体と灰が転がっていた。

 

「すまねぇな」

 

「これからどうするおやっさん」

 

 調理帽の男はタオル鉢巻の男に質問する。

 

「店畳むしかねえのか」

 

 悲しそうに声を上げる2人を見た飛火たちは、互いに顔を合わせた後に店の外に足を向ける。

 

葉隠

【………おっちゃん。ちょっと待ってて】

 

飛火

【おじちゃん達も店も守ってあげる】

 

 そう言った飛火と葉隠はある所に向かって走っていった。自分達の王のいる場所へ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEキュウソ

 圧倒的な蹂躙によって私を困らせていた男たちはものの数秒で肉塊に変えられた。

 そして、そんな状態を作り出した魔化魍の王が『私の家族にならない』と仰った。

 

 噂は聞いたことがあるがまさか本当とは思わなかった。

 

 その答えを待つように私を見る王。

 その視線は逸れることなく私だけを見ている。

 

「私を貴方の家族にして下さい」

 

 いつの間にか膝をついて王に向けて私はそう言っていた。

 

「よろしくね蝕」

 

「蝕?」

 

「そう貴方の名前、家族なんだから種族名で呼ぶのもアレだし」

 

「そうですか………」

 

「もしかして気に入らなかった」

 

「いえ、そういうわけではないんです。キュウソと呼ばれ慣れてたので………」

 

「そっか。まあ慣れてくれば良いよ」

 

 王は私にそう言うと、私の店の天井の方を向くと。

 

「隠れてないで出てきたら飛火、葉隠」

 

 すると天井が少しズレてそこから2つの炎が灯った尾を揺らしながら首に小さなカメラをぶら下げた赤い狐の魔化魍とそれに咥えられた竹筒に入った白い狐の魔化魍が降りてきた。

 

飛火

【さっすが王様。いつから気づいてたの?】

 

「私が蝕と話してる頃から」

 

葉隠

【そんな前から】

 

 私が………いや、他の魔化魍も気付いてなかったらしいから気付いてたのは王だけのようだ。

 

「それで飛火、葉隠。貴方達どうしてこんな所に?」

 

飛火

【散歩の帰り道と】

 

葉隠

【お願いを王に言いたくて】

 

「お願い?……良いよ家族からお願いなんて今世では初めてだし」

 

飛火、葉隠

【【あるお店を助けて欲しいの!!】】

 

「ある店? どういう店なの」

 

葉隠

【僕らと同じ魔化魍を匿ってくれてる人達の店】

 

 それを聞き、王だけでなく私や他の魔化魍も驚いた。

 同じ存在(・・・・)とはおそらく魔化魍のことだろう。それを匿ってくれる人間がいる。私達の主食は主に人間だが、別に人間でなくても栄養を摂ることが出来る。ただ人間の方が高い栄養の為にそちらを喰らってるからだ。

 

飛火

【でも、そいつらと同じ奴がその店を壊そうとしたから私と葉隠が殺した】

 

 飛火が尻尾で指すのは幽冥達が殺した男達だった。

 

葉隠

【僕らはその店で一食の恩がある】

 

飛火

【だから、その店を壊させない為に!!】

 

 飛火と竹筒から全身を出した葉隠は頭を下げて王に頼む。

 

「そう………飛火、葉隠。忙しくない子とその魔化魍をここに呼んで。私の家族の害になるコイツらを排除するよ」

 

 王はそう言って先程殺した地上げ屋の死体を指差す。それを見た飛火と葉隠は頭を上げて嬉しそうに尻尾を振る。

 

飛火

【分かった!!】

 

葉隠

【少々お待ちください!!】

 

 そう言って、天井の穴に再び戻って穴を閉めて飛火と葉隠はその場から消えた。

 

「コイツらのいる場所は何処?」

 

 幽冥は微笑んだ顔で蝕に聞いた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE飛火

葉隠

【言わなくてよかったの飛火?】

 

 咥えられた竹筒の中から飛火に話し掛ける葉隠に飛火は–––

 

飛火

【王様は多分気付いてるよ、私たちが助けてって言った人たちが人間じゃ無いこと(・・・・・・・・・)

 

 そう答えた飛火は葉隠を咥えたまま妖世館に向かって走る。




如何でしたでしょうか?
今回の話は、次回は従者戦闘員の訓練と新たな魔化魍が2体出る話しを送りします。

飛火
【今回の質問コーナーの欄はお休みです】

葉隠
【気になった事があったら活動報告の質問コーナーに書いてね】

飛火・葉隠
【【また次回をお楽しみに】】


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援軍は戦闘員

おまたせしました。
新投稿です。
今回新しく登場する魔化魍はラストに出てきます。


SIDEマシンガンスネーク

 コイツら(従者戦闘員)の訓練を見ている。

 既に数時間も経過して疲れて倒れそうになる戦闘員に喝をいれる。

 

「いいか貴様らは1人1人だと弱い!! だが貴様らにはその弱さを埋める連携がある!! 

 いいか窮鼠猫を噛む。どんなに相手と力量が違ってもお前達はそれを連携で打開する事ができる」

 

 俺の声を聞いて倒れそうになった身体を起き上がらせて訓練に戻る戦闘員達。

 

「やってるみたいですね」

 

「インセクトか?」

 

 俺は声に反応して振り向いた先にいるのはインセクトだった。

 

「ええ。ちょうど暇していまして」

 

「そうか」

 

 マシンガンスネークとインセクト眼魔はどちらも組織によって生み出されたもの同士の為かよく話をしている。

 

「そろそろ次の段階に上げようと思うがどう思う」

 

「うーん。まだ少し早いと思うわね。特に私の同郷の眼魔コマンドが………」

 

 といっても、世間話や甘い恋愛の話とかではなく従者戦闘員の訓練のレベルを次に上げさせるべきかという話題である。

 そろそろ上げるべきかと考えているマシンガンスネークはまだ少し足りないというインセクト眼魔の言葉に悩んでいた。

 

「何かあいつらを鍛えさせるのにピッタリなことでも起きねえか」

 

「そんなのが直ぐに起きるわけないでしょ」

 

 確かにと思うが、それでも考えてしまう。そう思ってると–––

 

飛火

【ねえ!! これから人間(エサ)の駆除と狩りをやるんだけど………】

 

 遠くから聞こえた飛火の声に俺とインセクトはニヤリと笑いあった。

 

「シャシャ、おい飛火その話、詳しく聞かせろ」

 

 丁度ピッタリな話題を聞いた蛇と蜂はそれは見事な笑みを浮かべていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 飛火と葉隠が食事した店の前に2つの影が男達に話をしていた。

 

「本当に行くのか?」

 

【ああ。世話になったおっちゃん達の為だ】

 

【それにアイツらいい加減ウザいから】

 

「そうか。じゃあお前らが戻ってくる頃に出来るように焼き鳥と」

 

「ピザを作って待っているから」

 

【分かったぜおっちゃん】

 

【早く終わらせて帰って来るよ】

 

 そう言った2つの影は店の前から消えた。

 残ったのは2つの影と話をしていた2人の男だった。

 

「それにしてもあのお客さんとあの子達は同じだったんですね」

 

「ああ。だがそれがどうしたオイラ達だって似たような(・・・・・)もんだ気にする事じゃねえだろ」

 

「そうですね」

 

「取り敢えず、アイツらとお客さんの為に準備をするぞ」

 

「分かりました。おやっさん」

 

 影を見送った2人は店に入り、無事に帰ってくるのを祈りながら、準備を始めた。

 

SIDEOUT

 

 飛火と葉隠が術で戻ってきた。何も予定がなく着いてきたのは、従者戦闘員達とマシンガンスネークとインセクト眼魔だった。

 

「シャシャシャシャ、王様。今日は頼みがあるんだがいいか?」

 

「どんなお願いですか?」

 

「いやな。コイツらもそろそろ次の訓練に移すべきかどうかのテストとしてコイツらを使ってもらいたいだが」

 

 そう言って、綺麗な隊列を組む従者戦闘員達が立っていた。

 妖世館に来て既に1週間が経過した。マシンガンスネーク達に扱かれて傷んだ装飾品や武器が目立つ。

 

「飛火、葉隠。貴方達は従者戦闘員のサポートをしなさい」

 

飛火・葉隠

【【分かりました】】

 

「聞いたかテメエら。恥ずかしい所を王様に見せるなよ」

 

「「「「「「ハッ!!!」」」」」」

 

【待たせたな】

 

【王が居るのは此処ですか飛火、葉隠?】

 

 従者戦闘員の声の後に聞こえた2つの声が聞こえ。後ろを振り向くとそこに居たのは。

 

 鬼火を灯した尻尾にケルベロスの様な3つの首、巨大な鎌を咥える3つの頭、その内の左右の顔半分は白骨化している魔化魍 カマイタチ。

 

 宙に浮かぶ渦巻く形状をした青い火の玉の中央に狼の頭がある魔化魍 マビ。

 

 件の店に住まう2体の魔化魍は今世の魔化魍の王の前に現れた。




如何でしたでしょうか?
今回登場した魔化魍は原作の響鬼にも登場した魔化魍 カマイタチとオリジナル魔化魍 マビでした。


質問コーナー回答の欄
暴炎
【質問コーナー、今回は俺と】

蛇姫
【私が質問に答えるわ】

暴炎
【今回は、悪維持の朧が被ってる三度笠は母親から貰った大事なものかというものだ】

蛇姫
【この質問は本人に答えてもらった方がいいでしょうね】


【あいた! ……もう何かようなんですか蛇姫】

蛇姫
【今回の質問は貴女のその三度笠の事が質問でしたので】


【ん!! これか…………これねお父さんが作ってくれたものなの】

暴炎
【イヌガミ様ではないのか?】


【お母さん。こういうのは少し苦手でね。お母さんの三度笠もお父さんが作ってくれたもの】

蛇姫
【へえ。そうなんだ】


【質問の答えはこうなんだけど、そろそろ戻っていいかな】

蛇姫
【ええ。大丈夫よ】


【じゃあ】 

暴炎
【…………速いな】

蛇姫
【ええ…………それでは今回はこれでお終い】

暴炎
【気になる質問、活動報告の質問コーナー、書け】

蛇姫
【では、また次回に】


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地上げ屋の最期

大変お待たせしました。
最近、色々と忙しくて更新の話を書くのに遅れました。


 飛火と葉隠が出会ったという魔化魍は今、私の目の前にいる2体のことだろう。

 

 狼の頭の青い火の玉の魔化魍は何か知らないがもう片方の魔化魍は知っている。

 

 魔化魍 カマイタチ。

 洋館の男女が実験で生み出した本来のカマイタチの強化体。風を纏った高速移動と3本の鎌を使った連続攻撃、鎌から放つ竜巻などの風を使った攻撃を得意とし、威吹鬼を苦戦させたが響鬼と轟鬼が参戦した結果、形勢逆転さらには装甲(アームド)響鬼の音撃刃 鬼神覚声によって横一文字に切り裂かれて倒された。

 この世界だとこの姿が種としての姿らしい。

 

 これ程強力な魔化魍が住むという店に私は興味がわいた。

 だけど、先ずは–––

 

「貴方達が飛火と葉隠が言っていた魔化魍?」

 

【その通りです。初めまして今代の王。私はカマイタチ、こっちに居るのが】

 

【マビだぜ。よろしくな王様】

 

 マビか。そういえば日曜にやっていた某人気妖怪アニメにそんな妖怪がいたきがする。

 

「それじゃあ揃った所で、蝕。案内をお願い」

 

【分かりました王】

 

 店の中の片付けを済ました蝕に今回の目的の奴らがいる建物に向かって幽冥たちは歩き始めた。

 

SIDE地上げ屋

 蝕の店とカマイタチ達の居た店の丁度中間に位置するビル。

 そのビルの地上8階に位置する場所にある事務所、そこに蝕やカマイタチ達の居る店を困らせている地上げ屋がある。

 その部屋の中には黒い服を着た数十名の男たちと顔のいかつい男とでっぷりした体型の男がいた。

 

「で、店は畳ませられそうか」

 

「大丈夫ですよ。2つとも明日には店が無く、俺たちのものになる」

 

 下卑た笑みを浮かべながら話す2人だが、この2人の言っていた店に現れた社員は全員、肉片か灰に変えられている。

 そんなことも知らない2人は外からコンコンと扉を叩く音が聞こえた。

 

「うん? 今日は客の予定なんかあったか?」

 

「いいえ無かったはずです」

 

「まあ、いいか。おい、開けろ」

 

「はい」

 

 でっぷりとした体型の男の指示で扉に近い黒服の男が扉を開けた。

 扉が開くと入ってきたのは、頭に蕗の葉を乗せた少女、白のマフラーを巻いた青年、そして赤紫の着物を着た中学生くらいの少女だった。

 

 入ってきた3人を見て、でっぷりした男は面白い玩具(おもちゃ)が来たと思った。この男は自分より幼い少女を犯して壊す趣味を持つ外道なのだ。

 後ろにいる青年を殺した後に時間を掛けながらゆっくりと犯して、殺してと懇願するまでひたすら壊す。

 そんな考えを読み取ったいかつい顔の男が側にいた数名の男と共に青年に近づき口を開く。

 

「兄さん。ちょいと、話があるんだがいいか?」

 

 青年は少女の方に顔を向けて、少女が首を縦に振るといかつい顔の男の後ろを着いて行った。

 青年が消えるのを見た後にでっぷりとした男は扉の側にいた男に目で指示を送り、男が扉に鍵をかけるのを見た後に少女達に近付く。

 

「ねえお嬢ちゃん達、おじさんと楽しいことしないかい」

 

「楽しい………こと?」

 

 頭に蕗の葉を乗せた少女がたどたどしく喋って首を傾ける。

 

「そうだよ。楽しい(・・・)事だよ」

 

「………おじさん」

 

「うん。なんだい嬢ちゃん」

 

「それよりも楽しいことを知ってるよ」

 

「ん? どんな事だい?」

 

「それは…………貴方達が狩られる遊びだよ」 

 

 着物少女が口調が強くなり、パチンと指を鳴らすと同時に変化が起きる。

 少女2人とでっぷりした男と黒服の男たちが先程までいた筈の部屋から辺り一面が樹木だらけの森の中にいた。

 

「な、何だこれは。き、貴様ら何をした!!」

 

 突然の状況に少女に男は口を荒げて質問する。

 

「おじさん達を近くの森に飛ばさせてもらったの」

 

 着物の少女はフフフと笑みを浮かべる。

 だが、その眼は笑っておらず、ただフィルター越しに映像を見るような眼で男たちを見ていた。

 

「お、お前は何なんだ!」

 

「そうですね………」

 

 すると森がざわめき出し、風が吹く。

 男達は突然吹いた風によって、眼を塞いでしまう。

 

 眼を開けて男たちが見た着物の少女の姿は変わっていた。

 赤紫の着物から両肩に鈴のついた漢服、顔を除いた左半身全てを覆うように張り付いた大量の札、紫の紐で結った赤紫の髪、モノクルを掛けた女性へと着物の少女いや幽冥は姿を変えた。

 

「私は通りすがりの魔化魍の王です。あ、覚えなくていいですよ。どうせ死ぬんですから」

 

「お前らこのガキを撃て!!」

 

 男たちは服の下から拳銃を取り出し、構えて、幽冥に向かって銃弾が飛ぶ。

 だが、幽冥の前にたくさんの札が現れて、札1つ1つから小さな円形の壁が現れて銃弾を防ぐ。

 

「便利ですね。フグルマヨウヒさんの万能札

 

「お前らボサッとするなさっさと撃ち殺せ!!」

 

「私たちは今回は戦わないからね。睡樹お願いね」

 

「は〜い……」

 

 睡樹は自身のツタの腕からラッパを取り出してプウウウウウと吹き始める。

 すると、ラッパの音ともに空から12個の光が発生してその場に幽冥の従者戦闘員達が現れる。

 

「「「「「「「「「「「「従者戦闘員参上いたしました!!」」」」」」」」」」」」

 

「な、何なんだこいつらは!!」

 

SIDEOUT

 

「な、何なんだこいつらは!!」

 

 でっぷりとした男が私に質問する。

 

「この子達は煉獄の世界から私の従者となった戦闘員。貴方達を地獄に送る執行人」

 

「ふざけやがっ………ガハッ」

 

「おい、てめ………」

 

 黒服の男が私に拳銃を向けたがその瞬間に群青鎧の1人が槍を投擲して、心臓に近い胸部を貫き、いつのまにか背後から現れた黒服が男の背中を切り裂く。

 

「やす!! たつ!! 貴様…ガハッ」 

 

 男たちの仇を取ろうとした瞬間に別の男は黒帽の1人の放つ弾丸によって倒れる。

 

「じゃあ、みんな頑張ってね。おいで睡樹」

 

 幽冥はそう言うと睡樹を呼んで、抱えると札の1つを地面に叩きつけて、姿が消える。

 

SIDE黒帽A

 今回、マシンガンスネーク教官に言われた試験内容は『敵対者の殲滅』。

 

 そして、この試験の結果によっては、今の訓練の上の訓練を始めるそうだ。

 それを聞いた我らは各々武器を研ぎ初めて、準備をする。

 

 そして、合図のラッパの音が響き聞こえ、それと同時に我らは此処とは違う場所に飛ばされる。

 そこには王と睡樹さんが居た。

 

「「「「「「「「「「「「従者戦闘員参上いたしました」」」」」」」」」」」」

 

「な、何なんだこいつらは!!」

 

 敵対者の中で服装も外見も違う男が喚く。

 

「この子達は煉獄の世界から私の従者となった戦闘員。貴方達を地獄に送る執行人」

 

 王が我らの事をそう紹介していると男の1人が銃を撃とうとするのに気づいた群青鎧Bは男の胸部に手にする槍を投げつける。

 

「ふざけやがっ………ガハッ」 

 

「おい、てめ………」 

 

 そして、その男の隣に居た男が幽体になった黒服Dに背中を剣で斬り裂かれる。

 

「やす!! たつ!! 貴様…ガハッ」 

 

 そして私の放つ銃弾で死んだ仇を取ろうとした男を撃ち殺す。

 

「じゃあ、みんな頑張ってね。おいで睡樹」

 

 王はそう言って睡樹さんを抱えて、宙に浮く1つの札を叩きつけて、何処かに行かれた。

 

「くそ!! どこに行った?!」

 

 男は喚くように言うがそんなのは関係ない。我らに『頑張って』と仰った。我らがあの煉獄の園(パーガトリー・エデン)に居た頃には言われなかった言葉だ。

 やはり、我らはあの王に着いてきて正解だった。

 

 だから、我らは。

 

「この恩に報いる為に…………皆行きますよ!!」

 

「「「「「「「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」」」」」」」

 

 各々の武器を構えて、我らは蹂躙を開始した。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE昇布

 いかつい顔をした男に連れられている青年の正体は昇布である。

 昇布は、王の命令で飛火たちが救ってほしいという店にいる魔化魍達と共に男たちを始末する為に動いてる。

 だが、ビルの地下に連れられてからずっと歩き続けてるせいで、イライラが募る。そう思った昇布は目の前を歩く男に質問した。

 

「何処まで行くんだ?」

 

「此処でいいだろう。兄さんには恨みもないが死んでくれ!!」 

 

 男の部下が服から出したナイフを昇布に当てようとするが、突然男の首が切り落とされる。

 

「!!!」

 

【大丈夫ですか?】

 

 そこから現れたのは、風を纏って姿を消し、左の頭が持つ鎌が赤く染まったカマイタチだった。

 

「ば、化け物!! 撃て撃て!!」 

 

 黒服の男たちは拳銃を構えて、カマイタチに撃とうとするが、男たちの持つ拳銃はボオンと腕を巻き込んで内部から破裂する。

 

「があああ!」

 

「う、腕があああああ!」

 

 イカツイ男を残して、男たちの片腕は無くなり、激痛に悶える。

 拳銃の残骸と肉片は炎に包まれて地面に落ちている。

 

【どうだ俺の炎は】

 

 そこにはいくつもの火の玉を宙に浮かせたマビがいた。

 

「また化け物!」

 

 そろそろ正体を隠す必要もないな。そう思った昇布は擬人態の術を解き、本来の姿に戻った。

 

「お、おおお前も!!」

 

昇布

【まあ、そういうことだ。では、やるか!!】

 

 昇布の尻尾が伸び、腕を抑える男たちに巻きつく。

 

「た、助けて」

 

「ああああ」

 

「ぐうう」

 

 昇布は尻尾に力を込めて3人の身体から水分を抜き始める。巻きついた尻尾からはだくだくと液体が流れる。

 やがて、干からびた3つの死体が出来る。昇布はそれらを捏ね繰り回して3つの『人間団子』に変える。

 

昇布

【カマイタチ、これを喰いな!】

 

【はむっう】

 

 昇布がカマイタチの3つの口に目掛けて『人間団子』を器用に投げて、可愛らしい声と共にカマイタチは『人間団子』を咀嚼し始める。

 

【美味しい】

 

昇布

【だろう。材料(・・)はまだいっぱいあるからな、どんどん喰ってくれ】

 

 昇布の声を聞き、腕がない男たちは逃げようとするが昇布は尻尾で地下の入り口である扉を破壊したので、男たちは出ることが出来なかった。

 それは男たちの上司のイカツイ男もそうだった。

 これは夢だと現実逃避するも耳元に声が聞こえる。

 

【やっぱり人間は焼かないと】

 

 後ろを振り向くとマビがいて、イカツイ男の周りをぐるぐる回り始める。

 イカツイ男は突然、喉を抑え始め、やがて服に火がつく。

 

 火は炎に変わってマビの回転はさらに早くなり、炎は回転と共に渦巻き始める。

 

「があああああ…………」

 

 巨大な炎の渦によってイカツイ男はその中心で焼かれる。

 マビが回転を止めて、その中心にあったのは立ったまま黒く焼かれた人だったものだった。

 

【じゃ、頂きます】

 

 マビはそのまま焼かれた人間を身体のうねる炎を手のように使って口元に器用に運び喰らい始めた。

 

「こっちは終わったみたいだね」

 

 そう言って歩いてきたのは安倍 幽冥と幽冥に抱っこされた擬人態の睡樹だった。

 

昇布

【王よ。こちらの始末は終わりました】

 

「そう。良くやったよ昇布」

 

 すると、喰べるのをやめたカマイタチとマビが幽冥に近づき、頭を下げた。

 

【ありがとうございました王】

 

【あんたのおかげで店を守れた】

 

「いいよ。そんなかしこまらなくても」

 

 幽冥は満更でもなさそうな顔をしていた。そして、喰べ終わったのを確認した幽冥は札を再び、叩きつけて従者戦闘員達のいるところへ転移した。




如何でしたでしょうか?
今回は従者戦闘員の活躍を書いてみました。彼らはこれからちょくちょく活躍します。

睡樹
【次回は……王にお礼が………したいと…いうカマイタチ達が…………店に連れて行ってくれる…よ】


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風と炎の飼い主は人外

お待たせしました。
今回はカマイタチとマビを匿った2人の正体が明かされます。


 私と飛火、葉隠、睡樹、昇布、蝕はカマイタチとマビが世話になっているという店にいる。

 目の前には、カマイタチとマビを撫でる2人の人間(?)がいた。

 

 私はこの2人にあった時に感じたのは、まず人間ではない別の匂いだった。

 私の身体はだんだんと魔化魍に近くなっていることもあり、それに伴って視力、嗅覚、腕力、脚力など色々なものが上がった。それが理由なのか私は人間の匂いも分かるようになった。

 

 だから、分かったのだ。彼ら2人は人間ではない事に、理由をもう1つ付け加えるならマビを素手で撫でれるタオルを鉢巻のように巻いたおじさんが理由だ。

 何故ならマビは頭部を除いて、殆どが炎で出来た身体を持つ魔化魍。そんな魔化魍を撫でているのに熱がりもせず火傷する様子もない。

 

「お前さんがこいつらの言っていた王ってやつか?」

 

 おじさんが私に質問する。

 

昇布

【き、貴様我らの王に馴れ…王?】

 

 昇布が目の前のおじさんに尻尾を伸ばそうとするが、幽冥に手で制されて渋々と伸ばそうとした尻尾を元の位置に戻す。

 

「すまねぇな。どうも敬語っていうのは苦手でよ」

 

「おやっさんに敬語は似合わないですからね」

 

ビュウウウウウ

 

 頭をポリポリと掻きながら謝罪をするおじさん。そして、その様子を見てカマイタチの真ん中の頭を撫でながら返答する調理帽の男。

 カマイタチは気持ちいいのか目を細めながら男に撫でられている。そして、真ん中を除いた左右の頭は男の撫でる手をジッと羨ましそうに見ている。

 私はこの2人に聞く事にした。

 

「それで、おじさん達は何者なの?」

 

「「………」」

 

 2人はその事を聞くと笑っていた顔が能面のように表情がなくなった。

 やがて、2人はカマイタチとマビを撫でるのをやめて、私たちに顔を向ける。

 

「こいつらを助けてくれたお前さん達には見せても大丈夫だろう。なあ茂久」

 

「そうですねおやっさん」

 

 そう言うと2人の人間に変化が表われる。

 タオルを鉢巻のように巻いたおじさんは金属網のような面を着けた顔に全身が炭で覆われた身体、そして鬼と似た2本の角を生やした異形に変わった。

 調理帽の男は顔に模様が浮かび上がり、全身灰色の海豚に似た怪人に変身する。

 

 2人の正体はこれで分かった。

 マビを撫でていたおじさんの正体はこの世の邪気が器物の姿を似せるまたは器物そのものが変化して誕生する鬼を模した怪物。地球を守る精霊と共に戦う百獣戦隊ガオレンジャーの敵 オルグ魔人の炭火焼オルグ。

 

 カマイタチを撫でていた男の正体は1度死んだ人間が体内にある因子で覚醒し、蘇った元人間。王を守る為に開発されたベルトを使って変身する仮面ライダー555と戦ったオルフェノクのドルフィンオルフェノク。

 確かに人間じゃない匂いの理由もこれで分かった。何せかたや蝕む悪鬼、かたや人類の進化形態と呼ばれる者たちだ。

 

「お前さん驚かねえんだな」

 

炭火焼オルグが私に聞く。

 

「私はこれでもこの子達の王をしていますし、貴方達と似た者でもあるランピリスワームやマシンガンスネーク、インセクト眼魔とも暮らしてますから今さらオルグ魔人やオルフェノクが現れても驚ろきませんよ」

 

 私がそう答えると2人は少し肩を震わせて、何か堪えてる。

 

「?」

 

「「ハハハハハハハハハハハハ」」

 

 突然、2人は笑い出した。その様子に私も睡樹も昇布も飛火、葉隠、カマイタチ、マビはポカンとする。

 やがて、笑いは止まって人間の姿に戻った2人は私に向けて嬉しそうな顔で喋り始める。

 

「まさか、俺たちより年下の嬢ちゃんにこんな風に言われるとは」

 

「そうですね。おやっさん」

 

「まあ、お前さん達のお陰で店を畳まずに済んだ。礼として俺たちの料理をご馳走してやる」

 

 そう言って2人は厨房に入って料理を作り始めた。

 

SIDE飛火

 王様たちにお願いをして良かった。

 普段は人間の灰、王様の作った料理を喰べるけど、此処の料理はそれと同じくらいに美味しかった。

 

 あ〜あ〜カマイタチ達が頼めば妖世館に来てくれるかな〜

 

 王様はカマイタチ達を家族として向かい入れてくれる。それに乗じておじさん達の店を妖世館に移せないかな。崩おじいちゃんや跳に頼めば出来そうだけど。

 

 そうこう考えてるとおじさん達が料理を持ってきた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE睡樹

 すごく……美味しそう…な匂い。

 皿に盛られた………のはピザという…物と焼き鳥…………って言う食べ物。

 

 睡樹は椅子に座る幽冥たちの真似をして席に座る。

 席に座ったのを確認した2人はテーブル上に料理を置いていく。そして、睡樹の前に置かれたのはピザだった。

 

「いい…匂い」

 

 そう言って睡樹は目の前にあるピザの1ピースを手に取る。既に切られているのか軽く引っ張るだけでトロリとしたチーズが糸を引く。

 

「あち……熱い」

 

 睡樹は持ったピザが熱く危うく落としそうになるが皿を引き寄せてテーブルに落とすのを防いだ。

 

「危なか………った」

 

 改めて睡樹はピザを持ち口に運ぶ。

 

「!!!」

 

 初めて……ピザを喰べた…美味しい。

 トロリとしたのは………何か分から………ないけど……掛かっている…ものは……分かった…蜂蜜だ。

 主の話に…よるとピザは本来、トマ……トを潰し……た…ものを…使って………作るらしい。

 でも、僕は…こっち………の方が好きだ。

 

「(あの人達……妖世館に………来ないかな)」

 

 睡樹はゆっくりとピザを味わいながら飛火と同じことを考えていた。

 

SIDEOUT

 

 全員の食事が終わった。感想はかなり美味しかった。焼き鳥もピザもどちらも美味しかった。

 私は炭火焼オルグ達のある事を提案した。

 

「私の家族になりませんか」

 

「「!!!」」

 

 カマイタチやマビもそうだが、私はこの2人の料理を妖世館にいる家族達にも味わって欲しい。

 

「「…………」」

 

【俺らもおっちゃん達に来て欲しい】

 

【あのピザを毎日喰べたい】

 

 カマイタチもマビも2人と離れるのが嫌なのか説得をする。

 2人は暫くそのまま黙っていたが炭火焼オルグが口を開き始める。

 

「俺たちの答えは………」




如何でしたでしょうか?

答えは百獣戦隊ガオレンジャーの炭火焼オルグと仮面ライダー555のドルフィンオルフェノクでした。
次回からはひな編に入ろうと思います。

質問コーナー回答の欄
昇布
【質問コーナー………今回は俺だけのようだ】

昇布
【今回は覇王龍というものか…なるほど、人間団子の作り方か】

昇布
【人間団子は血を身体から3分の2吸い取って、吸い取り終わった後に肉を捏ねくり回して団子状にしたものだ。簡単そうに見えるが意外と難しい。中にある人間の骨ごと捏ねくり回してるからな】

昇布
【これが作り方だ。気になることが出来たら質問コーナーというものに書いてくれ】

昇布
【では、次回をお楽しみに】


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安倍家の魔化魍 壱 改

安倍家の魔化魍の改帳版です。
はじまり編、北海道編に登場する魔化魍の解説です。
友人からの助言でもう少し章分けして投稿します。
多大なネタバレが含まれてますので読む際はご注意ください。
新たにイメージCV追加。()はその声優が演じてるキャラクター。
更に髪や瞳、擬人態の容姿、戦闘法、特徴解説を追加及び改訂しました。
靴の情報のないキャラは白か黒、または解説キャラの髪色と同色の運動靴を履いてます。
灯籠の趣味の合成ジュース作りは穿殻の趣味に変えて、灯籠は100%天然野菜or果物ジュース作りに変えました。


2022年3月14日に二つ名追加。


ーはじまりー

 

◯白

名前:はく

種族:イッタンモメンの妖姫

属性:青

スタイル:突

一人称:私

容姿:黒の長髪、アッシュグレーカラーの瞳の三白眼、白と黒のヴィクトリアンメイド服を

   着て、左腕にたっぷりとした布を巻いて、茶色のブーツを履いた女性

特徴:初めは、幽冥を自身の子(鳴風)の餌としてイッタンモメンの怪童子と共に襲うが、

   イッタンモメンの怪童子が土門たちに捕食された後に幽冥が王と気付き、王を襲おう

   とした罪で自害しようとするも幽冥に説得されて従者となった。

   それがきっかけで幽冥に対しては同じ性別ながら恋愛感情を抱いてる。

   幽冥が居ない時は代理で指示することが出来るが、本職は幽冥専任のメイド。また、

   幽冥の指示をちゃんと実行出来なかった者に罰(お仕置き)を与えることもある。

   家族のために無茶する幽冥や家族を心配する優しさを持つがこれは家族たちだけに対

   してであり、敵対する者に対しては容赦が無く冷酷に冷徹に攻撃を行う。

   イッタンモメンの妖姫らしい伸縮自在の脚を使った中距離攻撃と鉄扇を使った近接戦

   闘を多用する。

   妖世館の幽冥専属メイド兼護衛を幽冥に指名された際は誰にも見られないところで狂

   喜乱舞していた(なおこの姿を不運にも目撃した従者戦闘員数名は数時間後に妖世館

   の一室でボロボロの状態で発見される)。

   幽冥の好物を姉の春詠から聞いて、作っては春詠から査定して貰っている。

戦闘:脚による中距離攻撃、鉄扇を使った近接攻撃

CV:原由実(アルベド)

 

〇土門

名前:どもん

種族:ツチグモ

属性:茶

スタイル:幻

分類:大型

鳴き声:グルルル

一人称:私

容姿:全身虎縞模様の黄金蜘蛛

二つ名:傀儡蜘蛛

特徴:家出をした幽冥と出会った最初の家族。

   鳴風、顎と共に幽冥を襲ったイッタンモメンの怪童子を喰らう。

   その後、土門と名を貰い家族となる。

   小さな幼体魔化魍の面倒見がよく雛の遊び相手をする事もあるが、本人は疲れるので

   あまり遊びたくない。妖世館の幽冥の部屋の屋根裏で過ごしている。

   糸を使って、人間の身体を自由に操る『傀儡操糸(マリオネット)』という技を持ち、他にもオリジナ

   ルの技を数多く持つ。

   その姿をみた猛士は『傀儡蜘蛛』と呼んでいる。

   本来のツチグモは大型魔化魍なのだが、扱う技の都合のせいか『縮小の術』で身体を

   小さくして暮らしている。

   非戦闘者や後方支援をする魔化魍の護衛や敵に紛れ込んでの同士討ちをする。

   土門の身体で生成される糸は、並ツチグモの糸と違い、耐久性や伸縮性が高く、擬人

   態に変化する魔化魍たちの新しい服類や様々な布製品に利用されている。

戦闘:糸による拘束、口から毒針、傀儡操糸(マリオネット)

擬人態:黄色のメッシュが入った黒髪にお団子ないしのポニーテール、黄土色の瞳、金と黒

    の打掛を着た裸足の女性

CV:千本木彩花(静謐のハサン)

 

〇鳴風

名前:なるかぜ

種族:イッタンモメン

属性:青

スタイル:駆

分類:大型

鳴き声:ピィィィィィィ

一人称:私

容姿:燕の翼に脚を持つ糸巻鱏

二つ名:風切鱏

特徴:家出をした幽冥と出会った最初の家族で、白は育て親。

   土門、顎と共に幽冥を襲ったイッタンモメンの怪童子を尻尾で突き刺し、磔にした。

   その後、鳴風と名を貰い家族となる。

   空を自由に飛ぶのが趣味で時折、雛や波音、潜砂などを乗せては『遊覧飛行』と言っ

   て空を飛んでいることがある。

   雲の上まで飛び日が沈む瞬間を見るのを楽しみにしており、日が沈む前には既に空を

   飛び回っている。近親種族でもある兜とはよく一緒に空を飛んでいる。

   尻尾を器用に使って洗濯物の乾燥をしており、黒の手伝いもしている。

   主に敵の偵察をすることが多いが、敵に隙があれば奇襲も行う。

   イッタンモメンという魔化魍の特性故に液体類の食物を好み、様々な食材を尻尾で搾

   ってジュースを作っている。余ったものを合成ジュースを作る穿殻やそれらを転売す

   る白蔵主にあげている(売上の一部は白蔵主がお小遣いということで鳴風に渡してい

   る)。

戦闘:尻尾による一撃離脱戦法、上空からの奇襲、翼からの突風、

   翼によるすれ違い切断突進

擬人態:水色のショートヘアー、薄縹色の瞳、白い服の上に水色のパーカーを着、灰色のミ

    ニスカートを履いた幼女

CV:今井由香(アイちゃん)

 

〇顎

名前:あぎと

種族:オオアリ

属性:茶

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:ギリギリギリギリ

一人称:俺

容姿:蜘蛛の複眼と脚を持つ白蟻

二つ名:白穴蟻

特徴:家出をした幽冥と出会った最初の家族。

   土門、鳴風と共に幽冥を襲ったイッタンモメンの怪童子を喰らう。

   その後、顎と名を貰い家族となる。

   睡樹や命樹などの植物系の魔化魍と行動を共にすることが多く、妖世館の地下の障害

   物を撤去する仕事を手伝ってもらっている。

   地下界が出来てからは地下の仕事がなくなり代わりに妖世館周囲防衛のトラップ製作

   を行なっている。

   製作するトラップは自身の蟻酸を利用した落とし穴で、家族には設置してある位置が

   分かるように仕掛けられている。

   敵の偵察や敵を掘った穴に落として顎を鳴らした音で敵を混乱させて奇襲を行う。

   蟲系魔化魍故かそれとも本人が嫌いなのかは不明だが、殺虫スプレーが嫌いで、それ

   の形を見た瞬間に身体全体が青くなり倦怠感に苛まれ、頭痛に襲われる。更に吹き掛

   けられたらその場でひっくり返り気絶する。数分ほど経てば、その場から退避しよう

   とする位までには回復する。

戦闘:上顎による切断、口から蟻酸、掘った穴からの奇襲

擬人態:深緑の迷彩のベレー帽を被り、そこから覗く黒の短髪、松の葉色の瞳、左手に黒の

    指抜きグローブ、迷彩柄の上下服を着て、黒の紐ブーツを履いた青年

CV:関智一(相良宗介)

 

〇崩

名前:くずれ

種族:オトロシ

属性:茶

スタイル:堅

分類:大型

鳴き声:ノォォォォォン

一人称:我

容姿:全体が岩のよう質感で側面に1つ目がある象亀の如き甲羅を持った犀

二つ名:岩躯犀

特徴:幽冥が父親を殺害した際に逃亡した母親を捕食するために現れた。崩が現れたことで

   ビビった母親を容赦な轢殺して喰らった。

   後に崩と名を貰い家族となる。

   祖父が先先代の6代目魔化魍の王 ユキジョロウに仕えていたとのことで様々な術を

   知っている。

   『縮小の術』や『空間倉庫の術』、『強化の術』など数々の術を睡樹や潜砂などの産

   まれて間もない若い魔化魍や幼体の魔化魍に伝授している。

   また何処かに外出しようとする魔化魍の付き添いなど自ずから行ったり面倒見が良い

   。

   頑丈な身体を活かした仲間の盾役や岩に化けての奇襲または自陣営の防衛などをする

   。

   何か(幽冥関連のなにか)を失敗する度に白から全身をロープで拘束されて放置され

   るお仕置きが苦手。

   擬人態の見た目と喋り方で年寄りっぽく感じるが、実際の年齢は産まれて200年し

   か経っていない(人間でいうところの15歳から20歳にあたる)。

戦闘:岩に擬態して奇襲、様々な術、某角川亀怪獣のような回転突進攻撃

擬人態:ほどよい長さの白髪、少し濁った白の瞳、白いローブを着て、茶色の皮ブーツを履

    いた物腰の柔らかそうな老人

CV:矢田耕司(デッカードラモン)

 

〇睡樹

名前:すいじゅ

種族:コロポックル

属性:緑

スタイル:献

分類:等身大

鳴き声:シュルルゥゥゥ

一人称:僕

容姿:蕗の葉を頭の上に乗せ、縦に開いたハエトリソウの頭、ツタの腕、全身がツタで覆わ

   れ、左脚に如雨露をツタで巻いてる人型

二つ名:眠呼草

特徴:白が見つけた館の隠し部屋の地下室で発見された人造魔化魍。

   その後、睡樹と名付けられて家族となる。名の由来は睡眠を呼ぶ樹を略した名。

   魔化魍でありながら人間を捕食することが少なくというか基本は、水を栄養源にして

   いる。

   だが、たまに幽冥や雛、捕まえた人間、捕虜から血を少し貰っているので、完全に水

   のみを栄養としているわけではない。

   自由在在に伸びるツタの腕を使って攻撃、防御、妨害などを行う。頭を撫でた人間の

   眠りを誘い眠らせることあるがこれは能力ではなく睡樹の特技のようなもの。

   山ウドを喰べたことで鑑賞植物育成や野菜栽培に目覚め、暇な時には保護者役の家族

   を1人付けて、デパートや花屋などで鑑賞植物や野菜の種を購入している。

   植物や野菜の健康度を知る能力を持ち、妖世館の鑑賞植物や野菜の管理をしており、

   妖世館で出す料理の野菜のほとんどは睡樹が作ったもの。

   白が居ない時では幽冥の護衛をしており身体をツタに変えて幽冥の服の下に潜んで不

   審者を縛り上げたり、突然の攻撃から守ったりしている。

   最近は、別世界の来訪者である万年竹から貰った『特製竹』の育成に勤しんでいる。

戦闘:口から溶解液、ツタによる吸血と拘束と防御、特殊系の術

擬人態:頭に蕗の葉をのせた黄緑色のおかっぱヘアー、光が少しない茶色の瞳、アイヌ民族

    服を着て、皮靴を履いた少女

CV:広橋涼(乱崎雹霞)

 

〇黒

名前:くろ

種族:ヤマビコの妖姫

属性:緑

スタイル:突

一人称:私

容姿:黒のポニーテール、コーヒーブラウンカラーの瞳、白地のシャツの上に木こりのベス

   トを羽織り、背中に斧を担いで、ベルボトムのジーンズ、地下足袋を履き上に灰色の

   巻脚絆を着けた女性

特徴:羅殴をヤマビコの怪童子と共に育てていたが鬼に見つかり怪童子が殺され、追いかけ

   てきた鬼に殺されかけるも突然現れた飛火が鬼を焼殺し、危機を脱する。

   魔化魍の王の噂を聞き幽冥の元に訪れ、従者にしてくれと頼み幽冥の従者となる。

   雛を誘拐しようとした人身売買グループとの戦いの前に黒という名前を貰う。

   小さい子の面倒見がよく、雛や波音などから慕われている。

   片言で喋るが、本人は普通に喋りたいので、直すために他の従者に協力してもらって

   いる普通に喋れるようにする特訓をしている。

   味方の補助や敵の後方部隊への攻撃といった敵の妨害を行う。

   妖世館では雛や波音などの小さい子や幼体の教育係兼護衛と妖世館住人の衣類の洗濯

   をしている。

   後に春詠も教育係に加わり2人体制での勉強を行なっているが、雛たちは勉強を嫌が

   って逃亡するので、どうすれば勉強と向き合ってくれるのかと悩んでいる。

戦闘:相手の力を利用したカウンター、斧を使った近接攻撃、口から超音波

CV:冬馬由美(芳川桔梗)

 

〇羅殴

名前:らおう

種族:ヤマビコ

属性:緑

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:ウォォォォォ

一人称:俺

容姿:ザンバラ髪をした猿

二つ名:乱髪猿

特徴:黒に育てられたヤマビコ。

   人身売買グループとの戦いの後に羅殴と名付けられた。

   気配を絶つのが上手く、気付けば敵の肩の上に乗って聴覚を『毒音波』で破壊するえ

   げつない攻撃や自身の餌となるクルミ状の何かを取るために喉に向けて貫手を行う。

   家族の中ではかなり機械をイジれる為、妖世館内の家電が壊れた際は修理をしている

   。

   手先が器用で妖世館の一部内装の家具や子供用の遊び道具を作っている。

   『擬人態の術』を覚えた後に、自身の腕がどの程度か確認するために田舎の村まで出

   て自作したおもちゃを無償で配り、感想を聞いていた。

   後に白蔵主が的屋の商売の手伝いとして店員として雇われ、食香と共に的屋を開いた

   ら大繁盛。それがキッカケで大人気の的屋となり田舎の小さな祭りでは引っ張りだこ

   の的屋となる。

戦闘:木の上からの奇襲、接近してからの関節破壊、毒音波による聴覚破壊

擬人態:白の鉢巻を付けたザンバラ髪、焦茶色の瞳、黒服の上に淡い青の法被を着、白の股

    引、雪駄を履いた少年

CV:梶裕貴(シトロン)

 

〇飛火

名前:ひか

種族:キツネビ

属性:赤

スタイル:幻

分類:大型

鳴き声:コォォォォォン

一人称:私

容姿:2本の尻尾を持つ赤い狐

二つ名:赤火狐

特徴:幼体でありながら黒と羅殴を襲った鬼を一瞬で焼殺した実力の持ち主。

   人身売買グループとの戦いの後に飛火と名付けられた。

   燃やした人間の灰を集め吸い込んで喰べる灰喰らいの魔化魍。

   行動基準が常に謎でその行動力は家族でもかなり上に位置する。気付いたら現れて、

   気付いたら消えてるために、とある事で行動を共にするようになった葉隠以外はだれ

   も何をしているのかは掴めていない。

   だが、幽冥からの指示だった場合の行動は指示通りに行ってるため、白に怒られたこ

   とがない。白も幽冥の指示をちゃんと実行しているため飛火には何も言っていない。

   葉隠に恋愛感情を向けられているがそのことに全く気付いていない超鈍感。

   赤属性の魔化魍だが、赤の魔化魍特有の水嫌いは無く普通に泳ぎ、僅かな間なら水中

   でも活動できる。

   羅殴に貰ったカメラをぶら下げて擬人態の姿で散歩するのが趣味。

戦闘:口から火炎、炎系の術、炎による撹乱戦法、炎を纏わせた尻尾による殴打

擬人態:黒いリボンで結った赤のツインテール、臙脂色の瞳、首からカメラをぶら下げ、襟

    に朱色のフリルが付いた白のブラウスに黒のネクタイをつけ、緑と白の吉原繋ぎ模

    様のミニスカート、腰から狐の尻尾を垂らして、黒ハイソックスで下駄を履いた少

    女

CV:津田美波(ジャガー)

 

〇朧

名前:おぼろ

種族:ヤドウカイ

属性:黒

スタイル:駆

分類:大型

鳴き声:アオオオオオオオオン

一人称:私

容姿:三度笠を被った黒い狼

二つ名:三度笠

特徴:ヤドウカイ王種である5代目魔化魍の王イヌガミの実娘。

   イヌガミが倒された後に四国に渡り、骸に出会い蛇姫やランピリス、眠眠と出会う。

   ある時にふらりと東京まで擬人態となって出掛けた時に幽冥と出会い、魔化魍だとい

   う正体を隠し友人となる。

   遊んでる時に幽冥の右腕の青い龍の痣(王の証)に気付き、何も言わずに幽冥の元から去って、

   幽冥の噂を流し始める。

   四国地方に戻ってからは四国地方の猛士各支部に現れてはベテランの鬼を殺しては喰

   らってきた。

   北海道編で想鬼との戦いで幽冥に憑依した実母であるイヌガミに会い再会の涙を流し

   た。

   幽冥と再会した後から擬人態で過ごすことが多く、幽冥によくくっ付いている。また

   その姿を白が嫉妬して眺めてる。

   従来のヤドウカイは『影踏み』という踏んだ影の持ち主の動きを止める能力を持つが

   、朧は希少な『影潜り』という影に潜む能力を持つ。

戦闘:影に潜り込んでからの奇襲、様々な術、俊足を活かした連続攻撃

擬人態:三度笠を被る黒のポニーテール、相思鼠色の瞳、白い帯を巻いた黒の和服を着て、

    草履を履いた女性

CV:石田ゆり子(サン)

 

〇骸

名前:むくろ

種族:ガシャドクロ

属性:紫

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:ジャラララララ

一人称:俺

容姿:下半身が白骨化している頭蓋骨を咥えた独眼の蛇

二つ名:独眼蛇

特徴:元々は物好きな人間に飼われていたただの毒蛇。

   無名の魔化魍に殺された飼い主の人間が喰われる姿を見たくないという想いで魔化魍

   となった。

   最初に喰らったのは飼い主の人間で、その頭蓋骨は大切に保管している。

   ガシャドクロ種の白骨化してる部分は個体によって場所が異なり、骸の白骨化してい

   る部分と独眼といわれる目の無いところは毒蛇だった頃に魔化魍に返り討ちにあった

   名残。

   朧と出会うまでは心に空いた隙間を埋める為に四国全土で暴れ、数多くの人間や魔化

   魍を喰らっていた。

   強者の頭蓋骨を集めるのが好きでその中には8人の鬼の末裔である『暴鬼』の頭蓋骨

   も入っている。集めた頭蓋骨は戦闘にも利用されており、主に骨を媒体として戦う特

   殊戦闘呪術『屍闘術(しとうじゅつ)』で使用されている。

   幽冥のことになると歯止めがきかない朧によく振り回される苦労人。

   ある世界で詫びの品として貰った色とりどりの『水晶頭蓋骨』を日が出ている明るい

   場所で磨くのが最近の趣味。

戦闘:口から溶解液、屍闘術(しとうじゅつ)、骨の尻尾による絞殺と拘束と高速連続攻撃

擬人態:ワインレッドの長髪をながし、ミカドイエローカラーの瞳で右眼に眼帯を着け、若

    者寄りのラフな服装をした女性

CV:沢城みゆき(モードレッド)

 

〇唐傘

名前:からかさ

種族:カラカサオバケ

属性:銀

スタイル:幻

分類:等身大

鳴き声:カラララララ

一人称:僕

容姿:仮姿/石突きに蝙蝠の頭、親骨が蜘蛛の脚の傘または和傘

   本姿/舌をダラリと垂らし、6つの複眼の蝙蝠の頭と下半身に蜘蛛の脚を模した翼を

      生やした人型

二つ名:傘蝙蝠

特徴:失敗したという理由で封印され地下室の奥の倉庫に閉じ込められていた人造魔化魍。

   仮姿で封印されていたので一見は和傘にしか見えず誰にも触れられて来なかったが幽

   冥が『封印の札』を剥がしたことで復活し、唐傘と名付けられて幽冥の家族となる。

   長年封印されてた影響のせいか周りに対してビクビクしているが、いざ戦闘になれば

   、ビクビクしていたのが嘘だと思うような行動(相手の恐怖心を上手く利用して暗殺

   )をする。

   妖世館では屋根の裏側に巣を作りそこで過ごしている。

   超音波で半径50mまでなら誰がいるのかを察知する能力を持ち、これによって半径

   50m内に侵入した侵入者の報告をしている。

   誰かに食事をするところを見られるのが苦手で、あまり彼の食事風景を見られること

   はない。理由は『恥ずかしい』とのこと。

   よく見ると身体の一部に別の札が貼られており、それがなんで貼られているかは不明

   だが、これが剥がれると何かが起きるのだろう。

戦闘:糸による拘束、身体を高速回転して物理的な遠距離攻撃無効化、強化と特殊系の術、

   超音波による索敵、翼から毒クナイ

擬人態:緑のリボンで後ろに結ったオレンジに近い金髪、黄緑色の瞳、口元をスカーフで隠

    して、全身にピッタリ密着する服を着て、サンダルに似た靴を履いた少年

CV:内田夕美(マーレ・ベロ・フィオーラ)

 

〇暴炎

名前:ぼうえん

種族:ヒトリマ

属性:赤

スタイル:幻

分類:中型

鳴き声:ボオオオオオ

一人称:俺

容姿:頭に炎を灯した二足歩行の蜥蜴

二つ名:火蜥蜴

特徴:人間の他に炎を喰らうことができる変わったヒトリマ種の中でも人間より炎を喰らう

   のが好きな偏食家ならぬ炎食家の魔化魍。

   食す炎も自分が出した炎よりも他者が術で作り出した炎や他者が発火させた炎、人が

   燃えることで生まれる脂混じりの炎を好む。

   腕は無いと思われるが実際は身体にピッタリと密着して隠していて、『操炎術(そうえんじゅつ)』を使

   う際に、密着させていた腕を使って炎を自由自在に操る。

   頭の炎は温度調節可能で最低で1500℃で最高は4500℃に達する。

   その身に炎を浴びれば浴びる程、頭部の炎が大きくなって気持ちが高ぶりパイロマニ

   アと化して敵味方問わずに燃やそうとする危険な一面を持つ。

   大抵は敵を燃やし尽くした後に少量の水(金盥一杯の水を3個分)を身体に掛ければ

   気持ちも落ち着き元に戻る。

   似た種族の三尸や爬虫類系の魔化魍と仲が良く『安倍家爬虫類家族の会』の会員で擬

   人態の姿になり妖世館の地下第5界で集っている。

戦闘:口から火炎、操炎術(そうえんじゅつ)、炎系の術、炎による高速治癒

擬人態:橙色の髪、朱色の瞳、黄緑のタンクトップの上に黒いジャケットを着、黒い短パン

    を履いた青年

CV:森久保祥太郎(奈良シカマル)

 

〇蛇姫

名前:へびひめ

種族:ラミア亜種 カンカンダラ

属性:黒

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:ヒュウウウウウ

一人称:私

容姿:蛇の下半身に6本の腕を持つ女性

二つ名:六腕蛇姫

特徴:元は人間の巫女だったが、村を苦しめる大蛇退治の時に蛇に下半身を喰われ、どうし

   よもないと思った村人が巫女の腕を切り落とし、腕の無い巫女を大蛇が飲み込んだ。

   だがそれは巫女の家が強大な力を持っていた巫女を恐れて思案した計画でそれに気付

   いた巫女が大蛇の中で怨みを募らせて魔化魍と化した。

   その後に巫女を陥れた巫女の家の人間3人とそれに協力した村の人間3人を殺害し、

   殺害した6人の左右どちらかの腕を奪って、自身にくっ付けた。

   それから少し時が経った時に朧と出会い行動を共にするようになる。

   今でこそ、その時の恨みは薄れつつあるが、ふとした拍子で当時の恨みを思い出して

   暴走することがあり、近くに人間がいると殺そうとする。

   鬼と戦った際に気に入った音撃武器があればそれを奪い取り、自分の武器にする。

   巫女だった頃の名残か自分の製作した札や厄払いの道具を雛や波音などの幼い子に持

   たせている。

戦闘:奪った音撃武器を使った攻撃、様々な術、6本の腕による拘束

擬人態:艶のある黒髪、オーキッドカラーの瞳、巫女服を着て、腕に蛇の刺青を入れ、緋袴

    を履き、草履を履いた女性

CV:三石琴乃(イオリ・リン子)

 

ー北海道編ー

 

〇眠眠

名前:みんみん

種族:ツクモガミ異常種 エンエンラ

属性:銀

スタイル:幻

分類:中型

鳴き声:フアアアアア

一人称:僕

容姿:古パイプの火皿から出る所々が気体化してる白と黒のツートンカラーの獏

二つ名:煙漠

特徴:とある家の奥にあった古パイプが時を経てツクモガミと化し、更に異常種に進化した

   。

   現在は、ランピリスを『所有者(マスター)』として行動を共にしている。

   1日の内、大半は古パイプの中で眠っているある意味、怠惰の化身。

   古パイプを叩くと中から某アニメのランプの魔人の様に下半身を煙の状態で姿を現わ

   し、戻す時には再び古パイプを叩くと中に戻って眠りだす。また『所有者』かそれに

   準ずる者でないと古パイプを叩いても現れないし、あまりしつこいと叩いた者を喰ら

   う。

   のほほんとした性格だが睡眠時間が足りないときに出ると性格が一変し、冷酷無比で

   残忍な性格へと変化する。古パイプに戻されると元の性格に戻り、眠り出す。

   『所有者』であるランピリスと共に建物に潜入し、身体を煙に変えて周囲を漂い情報

   を収集したり、建物の見取り図を煙で作ったりすることが出来る。

   本人は否定するがかなり子供好きで、人間の子供だろうと子供のピンチには助けてく

   れる。

戦闘:口から催眠ガス、幻術、全身を気体に変えて物理攻撃無効化、

   古パイプを使った近接攻撃、古パイプの柄から煙の吹き矢

擬人態:白と黒のツートンカラーのディアストーカー・ハットを被った灰色の長髪、ティー

    ルグリーンカラーの瞳のタレ目、口に古パイプを咥え、ハットと同じ柄のインバネ

    スコートを着て、黒の長ズボンを履き、黒ブーツを履いた女性

CV:川澄綾子(アティ)

 

〇食香

名前:しょっか

種族:ヌッペフオフ

属性:茶

スタイル:堅

分類:中型

鳴き声:プルルルル

一人称:私

容姿:全身がプルプルした肌色の玉

二つ名:茶玉団子

特徴:魔化魍の食欲を刺激する体質1ミリの破片からでも再生する驚異的な再生能力を

   持った魔化魍。

   朧と出会うまで札幌のふれあいの森で『迷子案内をする謎の玉』と噂されていた。

   札幌に来るまでは、あらゆる地方を旅して、その最中で親や妖姫と怪童子のいない孤

   独な幼体魔化魍を拾い、自分の体質を活かして再生する身体を幼体魔化魍の餌として

   与え、成体になるまで育てた過去を持つ。

   今でも各地方に育てられた魔化魍(乱風や世送も育てられた魔化魍)たちが行動して

   いて、たまに食香に顔を見せにくる。

   稀にその体質が原因で家族に勝手に捕食されることもある。

   再生能力をフルに使って生み出した分体の物量によるごり押し戦法を行う。分体に潰

   された敵は食香の身体に吸収され食香の身体の一部となる。

   母性本能が強いせいか母親を無くした雛や元々存在しなかった波音の母親のかわりを

   している。

   後に雛は実祖母の紫陽花と同じ部屋で暮らすようになりそのことを喜び、雛の分も含

   めて波音を可愛がっている。

戦闘:驚異的な再生能力による高速治癒、バラバラになった身体による物量攻撃

擬人態:黒混じりの茶色のボブカット、赤朽葉色の瞳、シンプルなデザインの丸眼鏡を掛け

    、白のワンピースの上に肌色のエプロンを着、無地のスリッパを履いて、包容力が

    ある少し膨よかな女性

CV:下屋則子(山田真耶)

 

〇拳牙

名前:けんが

種族:スイコ

属性:青

スタイル:突

分類:等身大

鳴き声:グガアアアアア

一人称:私

容姿:鯱の頭に虎の上半身で下半身が人間の人型

二つ名:水武虎

特徴:8代目魔化魍の王 シュテンドウジに仕えていた魔化魍で大尊の相棒。

   元はスイコ種固有の液体化の能力に頼った戦い方をしていたが、とある人間に武術で

   完敗。

   音撃にも頼らずに武術のみで自分を倒した人間の武術に興味を持ち、長い鍛錬とその

   時に戦った人間の協力で見事にその武術(酔拳)を極めた。

   そして武術を始めるときに己の慢心を防ぐためにスイコ種の最大の武器である能力を

   封じて、武術だけで戦うようになった。

   しかし、自身との戦いについていける者に対しては封じた能力を解禁して戦う。

   その経緯と覚悟を気に入ったシュテンドウジが自らスカウトし、シュテンドウジに仕

   えるようになる。その少し後に大尊と出会い、大尊の相棒となる。

   戦いの中で、将来に有望性のある鬼や天狗を殺さずに生かすことがあり、それが原因

   で何人かの鬼や天狗を殺さなかったことがある。

   そのことで大尊に注意されることが多いが、本人は気にしておらず、有望性のある敵

   を生かして、大尊に怒られる鼬ごっこを繰り返している。

   幽冥に武術を教えている。

戦闘:全身を液体に変えて物理攻撃無効化、中国武術、爪を鋲に変えた遠距離攻撃

擬人態:水色の弁髪、猛禽類の如き金の瞳、アフェランドラが描かれたチャイナドレスを着

    て、木製の靴を履いて、全身の所々に傷が見え隠れしてる女性

CV:緒方恵美(ティア・ハリベル)

 

〇大尊

名前:だいそん

種族:ノヅチ

属性:空

スタイル:射

分類:中型

鳴き声:キュウウウウウン

一人称:私

容姿:蛇の頭部を持つ鰐

二つ名:吸引鰐

特徴:8代目魔化魍の王 シュテンドウジに仕えていた魔化魍で拳牙の相棒。

   いつも拳牙の肩の上にのかっている。名の由来は某吸引力の変わらない掃除機。

   経緯は不明だがシュテンドウジに気に入られて強引に仕えるようになった魔化魍

   で、その後に拳牙と出会い相棒となる。

   寡黙で自分の事をあまり語らず、現在のサイズも『縮小の術』で小さくなってる

   為、本当のサイズは家族は誰も知らず、それを知るのはシュテンドウジのみであ

   る。

   そして、その秘密の理由はある悪魔魔化魍との関係があるらしい。

   ものすごい勢いで空気を吸って、吸った空気を圧縮して砲弾のように吐き出して

   戦う。また吸い込みで敵を引き寄せてそのまま捕食することもある。

   基本的には他の魔化魍と変わらず人間を喰らうが、雑食。そしてその雑食に目を

   付けた妖世館の清掃担当の赤によって掃除をして出たゴミや埃を食べて貰ってい

   る。

   出されたゴミや埃をスナック菓子感覚で喰べている。

戦闘:口からの空気砲弾、某吸引力の変わらない掃除機のような吸引攻撃

擬人態:黄色い帽子を被った青墨色の左のワンサイドアップ、縦に開いた瞳孔の曙色の

    瞳、背中に赤のリュックを背負った水色の園児服を着た少女

CV:茅野愛衣(喜界島もがな)

 

〇跳

名前:ちょう

種族:アズキアライ

属性:青

スタイル:射

分類:等身大

鳴き声:ショキ、ショキ

一人称:あっし/でやす

容姿:青い作務衣を着て片手に笊を持った雨蛙の人型

二つ名:呪術蛙

特徴:北海道地方で『呪術蛙』と恐れられた魔化魍。

   高い跳躍力と『吸血小豆』を使った遠距離攻撃、連続で放つ術などで敵を追い詰める

   。

   かなり荒れた性格だったが美岬の元に来てからは丸くなった。

   戦闘中に余裕があると手元の笊の中にある小豆を研ぎながらを戦う。水は空気中の水

   分を集めて作り出して小豆を研ぐ。

   研いでる小豆は武器にも食料にもなる『吸血小豆』で血を吸えば吸うほど糖度が増し

   、これを使っておはぎを作る。

   憑に頼んで、跳専用の『吸血小豆』の菜園を妖世館の地下第1界内の端に作ってもら

   った。

   妖世館の地下第1界で『吸血小豆』の管理、地下第5界で和菓子作り、地下第6界の

   大浴場の掃除も担当、王や幼体向けの術の教師もしており多忙な日々を送っている。

戦闘:吸血小豆を使った遠距離攻撃、様々な術、跳躍を活かした連続攻撃

擬人態:御召茶色の癖っ毛、薄花桜色の瞳、地肌の上に青い作務衣を着て、腰に小さな袋と

    笊を付け、草履を履いた青年

CV:阪口大介(志村新八)

 

〇美岬

名前:みさき

種族:ヤオビクニ

属性:青

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:なし

一人称:私

容姿:海豚の下半身の人魚

二つ名:呪刀人魚

特徴:『八百比丘尼伝説』の元になった魔化魍であり、東洋3大人魚魔化魍の1体で『呪刀

   のヤオビクニ』と呼ばれている。

   その正体は幽冥の前世の親友である沖野 美岬で幽冥の前世仲間では最古の転生者。

   鍛治魔化魍であるイッポンダタラ(後の単凍)の鍛造した10本の『魚呪刀』を持つ

   人魚剣士。

   前世は男で幽冥に対して恋心を抱いていたが、転生して1度はその気持ちを忘れるた

   めに結婚(平安時代の時)したが夫は流行病で亡くした。

   その後に跳、屍王、常闇、葉隠と出会い、殺された荒夜と狂姫を人間から魔化魍にし

   て北海道の誰も立ち入らない廃寺で暮らしていた。

   魔化魍の王の噂を聞き、魔化魍の王が前世の親友だった幽冥だと分かり、猛士の北海

   道第2支部を襲撃し、同日に襲撃を掛けた朧と組んで北海道第2支部を壊滅した。

   剣技は平安時代の頃に結婚した夫からの多少の手解きと前世での経験が合わさった独

   自の剣技。

   前世を含めて久しぶりに出会った幽冥を前にかつての恋心が戻り、正妻に興味がなく

   それを知った白と組んで幽冥を堕とす『恋同盟』を作った。

戦闘:強化と水系の術、様々な魚呪刀(ぎょじゅとう)を使った近接攻撃または遠距離攻撃、水による拘束

擬人態:尼頭巾を被り、ウィステリアカラーの瞳、胸元に翡翠の勾玉のペンダントを着け、

    黒い尼服を着て、右腕に紫の数珠を嵌め、ハイソックス状の足袋に下駄を履いた女

    性

CV:喜多村絵梨(美樹さやか)

 

〇屍王

名前:しおう

種族:ミイラ

属性:茶

スタイル:幻

分類:等身大

鳴き声:ハハハハハ

一人称:我

容姿:仮姿/全身に包帯を巻いた人型または数センチ程の黒い虫

   本姿/ヘラクレスオオカブトの頭部に黒い体躯、下半身を覆い隠す白い腰布、金と青

      の装飾を身に付け、太陽を模した長杖を持つ

二つ名:金兜王

特徴:古代エジプトにいた『暴君』と呼ばれたファラオが自分にもしもの事があった時に作

   られた世界最古の人造魔化魍。

   守るべき民の苦しむ姿を見てファラオに反逆したが、反逆の罪で棺桶に閉じ込められ

   てピラミッドの最奥に封印された。

   長き時が過ぎ、ピラミッドに侵入した盗掘者によって屍王の入っていた棺桶が開けら

   れて現世に復活する。

   盗掘者たちを喰らい、ピラミッドの外に出た屍王は古代エジプトが滅びて、守るべき

   民は存在しないことに気付き、エジプトを離れて日本へ訪れる。美岬と出会い友と呼

   ぶ間柄になった。

   猛士の北海道第2支部を襲撃した時に戦った衣鬼を気に入り、妃にする為に連れてき

   た。

   警戒心が高くいつもは仮姿で出歩くが、幽冥と衣鬼の前にだけは本姿で行動している

   。稀に雛たちにせがまれて本姿を出すこともある。

   『黒い何か』と呼ばれるものを操るがこれは屍王自体なんなのかは分かっていない。

   王としての在り方を教える帝王学を幽冥に教えている。

   妃とするために捕虜である衣鬼への貢ぎ物として手製のプレゼントや高価な服などを

   贈っている。

戦闘:死体を仮姿の分体に変えての物量攻撃、土と特殊系の術、長杖を使った近接攻撃、

   光を集めて長杖から放つ熱線

擬人態:茶色寄りの金のオールバック、緋色の瞳のつり目、太陽の長杖を持ち、金の装飾品

    を身に付けた裸足の褐色肌の青年

CV:子安武人(オジマンディアス)

 

〇荒夜

名前:あらや

種族:ヤシャ

属性:茶

スタイル:突

分類:等身大

鳴き声:なし

一人称:私

容姿:黒い鬼の面を着けた鎧を身に付けた人型

二つ名:居合黒鬼

特徴:名のある武家の家の武士だったが、婚約者(後の狂姫)を救うために上司を斬り、逃

   亡を図るが、上司の部下の待ち伏せを受けて婚約者共々殺される。

   殺されて間もなかったため、美岬によって救われ魔化魍として蘇る。

   狂姫を守るという意志のせいか数秒先の未来を見る能力を持ち、これに自身の剣技と

   合わせて戦う。

   人間だった頃は『閃居合流』という居合の免許皆伝の実力の持ち主だった。

   狂姫と常に一緒に行動しているが、離れ離れになるとどんな障害も跳ね除けて、狂姫

   の元に向かい、狂姫と再会すると『桃色ラブラブ空間』が形成されて、迂闊に近付く

   と本当に発火する。

   顔の傷は待ち伏せで殺された時の傷痕。 

   妖世館では家族の魔化魍や捕虜にした鬼を相手に戦闘訓練をしている。

   とある世界で戦った男から『煉獄一閃』という技を授けられて、その技を基に派生し

   た数々の技が後のさまざまな強敵を倒している。

戦闘:居合による近接攻撃、数秒先の攻撃を予知した反撃、閃居合流、

   独自開発した様々な剣技

擬人態:濃藍の総髪、淡黄色の瞳のつり目、顔に斜め切傷があり、灰緑色の和服の上に白い

    羽織を羽織り、白の足袋に草履を履いた青年

CV:小林裕介(ナツキ・スバル)

 

〇狂姫

名前:きょうき

種族:ハンニャ

属性:空

スタイル:射

分類:等身大

鳴き声:なし

一人称:私

容姿:白い鬼の面を着けた着物を着た女の人型

二つ名:狂弓姫

特徴:武家の武士(後の荒夜)の婚約者の姫が、殺された後に美岬に救われて魔化魍として

   蘇る。

   殺された後に蘇ったのが原因か人間に対して激しい憎悪を持ち、蘇って最初に行った

   のが待ち伏せで自分たちを殺した者を殺すことだった。

   その後にも度々問題を起こそうとするが荒夜に止められると落ち着きを取り戻した。

   荒夜と一緒に行動するが、離れ離れになって半日経つと、思考が幼児退行して荒夜に

   甘え始める。数時間ほど経つと『桃色ラブラブ空間』を形成して、幼児退行から元に

   戻る。また幼児退行したその間の記憶は覚えていないらしい。

   人間の頃は『先弓』と先読みの如き早撃ちを得意とする弓の達人で幽冥に弓術を教え

   ている。

   現在は、刺馬の上に乗せてもらって馬上弓の練習と荒夜との子供を欲している。

戦闘:大弓を使った遠距離攻撃、風と特殊系の術

擬人態:腰ギリギリまで伸びた竜胆色の長髪、薄紅梅色の瞳、首元に切傷があり、桃色の和

    服を着て、青寄りの黒の女袴を履いて、白い足袋に草履を履いた女性

CV:水瀬いのり(レム)

 

〇常闇

名前:とこやみ

種族:ドラキュリア異常種 ドラキュリア・ディウォーカー

属性:黒

スタイル:突

分類:等身大

鳴き声:キキキキキキ

一人称:私

容姿:全身から赤い霧が出ており、頭頂部に蝙蝠の耳と背中に巨大な蝙蝠の翼を生やした女

   性

二つ名:真紅霧姫

特徴:ルーマニアに住む吸血鬼のモデルとなった魔化魍。

   ドラキュラに血を吸われた少女が苦し紛れにドラキュラの血を全て吸ったことで産ま

   れた魔化魍。

   その後に美岬に救われ、助けられた恩を返すために修行中に通りすがりの『影の国の

   女王』に無理矢理『影の国』に連れてかれワンツーマンで槍の技や『ルーン魔術』を

   教えられる。修行後は美岬の元に戻った。

   人間の血を全て吸うことによって、眷属となる魔化魍 ヴァンパイアを生む事が出来

   るが、今の所候補となる人間は居ない。

   本来ドラキュラもドラキュリアも夜間にしか活動できない魔化魍だが、常闇は同系統

   の魔化魍であるドラキュラの血を体内に取り込んだことにより異常種であるドラキュ

   リア・ディウォーカーに変異したとされる。

   また自分がディウォーカーだとは知らないので、周りにはドラキュリアと言ってるが

   、日中を活動できるのはディウォーカーだけだと美岬たちは知っている。

戦闘:吸血、血装術(けっそうじゅつ)、翼から放つ弾幕、槍を使った中距離攻撃、

   ルーン魔術

擬人態:クリムゾンカラーのセミロング、アメジストカラーの瞳、胸元が少しはだけてる紅

    色のドレスを着て、蝙蝠の羽を模した飾りのついたサンダルを履いた女性

CV:能登麻美子(スカサハ)

 

◯葉隠

名前:はがくれ

種族:クダギツネ

属性:緑

スタイル:幻

分類:中型

鳴き声:コン、コン

一人称:僕

容姿:竹筒に入った細長い体躯の白い狐

二つ名:竹筒狐

特徴:元は美岬が可愛がっていた白狐だったが、偶然負傷した美岬の血を舐めたことで魔化

   魍となった。

   竹筒は魔化魍化するときに偶々近くにあったもので、その中に入るのを気に入って以

   来、竹筒の中で暮らしている。

   竹筒の中で分体を大量に作り出し、それを戦闘に利用している。しかし大量に生み出

   している分体はちょっとした衝撃に弱く、攻撃を受ければすぐ消えてしまう。

   また、溜め込んだ分体を竹筒の中で自分に取り込む事で(しん)クダギツネという姿に変化

   する。

   飛火に一目惚れしているが、なかなか気づいてもらえないので、竹筒の中に閉じこも

   って落ち込んでいることがあり、飼い主の美岬に慰められている。

   美岬の作る特製シリーズの料理の中で特に『特製油揚げ』が好きで1日3食全てこれ

   でいいという程の美味しさらしい。

戦闘:強化と妨害系の術、幻術、竹槍の投擲、分体による物量攻撃または撹乱

擬人態:目元を隠すほど伸ばした黄緑の髪、蜂蜜色の瞳、首に収まるように巻いた枯草色の

    マフラー、ダボダボな袖の青丹色の服を着て、紺のベルト付きハーフパンツを履き

    、紐靴を履いた少年

CV:悠木碧(新ケロロ)

 

〇波音

名前:なみね

種族:アマビエ

属性:青

スタイル:献

分類:等身大

鳴き声:なし

一人称:私

容姿:下半身は薄緑色の魚で尾先が海老の人魚で淡いピンク色の髪に側頭部に朱色の海星を

   着けてる

二つ名:知覚人魚

特徴:東洋3大人魚魔化魍の1体で『知覚のアマビエ』と呼ばれている。

   少し先の未来を見る事ができる珍しい能力を持った魔化魍で、その能力故に猛士に生

   きたまま捕獲しろという命令が猛士全支部に伝わっている。

   元は赤以外にも、バケガニの怪童子やサザエオニの妖姫、シロウネリの妖姫、ショウ

   ケラの怪童子、アカエイの怪童子と妖姫、ジュボッコの妖姫が居たが波音を守るため

   に猛士北海道第1支部と戦い、死亡してしまった。

   その戦いの中で負傷は負ったクラゲビの妖姫(後の赤)は唯一生き残った妖姫。

   仲間を失うことに恐怖して無理に大人びた言動をしていたが、猛士北海道第1支部か

   ら三尸たちが救出された事で無理をしなくていいと理解し、見た目相応の思考に戻っ

   た。

   雛編で紫陽花の住む屋敷を襲撃した楽鬼から雛を守る為に美岬から自衛のために譲渡

   された『魚呪刀(ぎょじゅとう)』 刺鱏(しえい)を使って、楽鬼と戦い楽鬼に勝利している。

   雛の親友でよく遊び、カードゲームではよく勝つが、テレビゲームでは惨敗する。

   勉強が嫌いな雛と潜砂の勉強を見るときは我儘な妹を窘める様に注意しながら勉強を

   教えている。

戦闘:様々な術、未来予知による味方の補助

擬人態:黒のウェービーヘアー、フォゲットミーノットカラーの瞳、白のブラウスの上に青

    に近い紺色のポンチョを羽織り、水色の波模様の靴下を履き、焦げ茶のストラップ

    シューズを履いた少女

CV:伊澤詩織(華風流)

 

◯鋏刃

名前:きょうば

種族:バケガニ

属性:青

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:ンキィ、ンキィ

一人称:私

容姿:背中に藤壺を付けた蟹

二つ名:巨鋏

特徴:猛士からバケガニの怪童子と共に波音を守っていた魔化魍。

   育て親であるバケガニの怪童子は戦いの最中で死亡。

   重そうな見た目とは思えない俊敏な動きで行動し、背後から強襲する。

   背中の藤壺はいつの間にか生えていて、戦闘に役立つのでそのままにしている。

   穿殻と浮幽で組むことが多く、穿殻が防御で、浮幽が場の撹乱を担当して、自身は攻

   撃を行う。

   喋ることがなく鳴き声をあげるか長鋏を振って返答する。『無口で何を考えてるかは

   分からない』と波音に言われている。

   幼体だった頃に船から自身を助けるためにバケガニの妖姫が身を挺して、船から守っ

   てくれたが、バケガニの妖姫はその事故で死亡。以降、船に対して憎悪を抱いている

   。

   だが、とある世界で沈めようとした船が魔化魍化することに気付き、沈めず妖世館に

   持って帰ってきた。

   妖世館の地下第2界で暮らしているが、地下第5界にある日本料理の料亭で擬人態の

   姿に割烹着を着て無口な女将をしている。

戦闘:口から溶解泡、鋏による近接攻撃、藤壺から溶解液

擬人態:右側頭部に蟹の鋏の髪留めを着けた朱色のポニーテール、パールグレーカラーの瞳

    、袖をタスキで縛った薄紅色の和服を着て、紺色の袴を履き、下には白い長靴下に

    雪駄を履いた女性

CV:榊原良子(クシャナ)

 

〇穿殻

名前:せんかく

種族:サザエオニ

属性:青

スタイル:堅

分類:大型

鳴き声:ヒュルルルル

一人称:僕

容姿:巨大な栄螺の殻に蹠面から生える4本の触手に鯱の頭が着いてる

二つ名:巻貝城

特徴:猛士からサザエオニの妖姫と共に波音を守っていた魔化魍。

   育て親であるサザエオニの妖姫は戦いの最中で死亡。

   硬い殻で味方を敵の攻撃から守り、4本の触手は斬られても再生する。

   鋏刃と浮幽と組むことが多く、鋏刃が攻撃、浮幽は場の撹乱を担当して、自身は防御

   を行う。

   自他共に認めるネガティヴとその巨体が嘘かのように存在感が薄い。

   竹鬼との戦いでは、他のメンバー殆どが空を飛べて、合図を確認できるのに自分だけ

   地中にいた為に地面の上から聞こえた衝撃音でやっと戦闘が再開したことに気付き、

   地面から出た後にシクシク泣いていた。

   妖世館では鋏刃同様に地下第2界で暮らしている。

   地下室の研究部屋で存在感を認識できる薬を作ろうとしているが、いつも失敗してい

   る。

   だが、幽冥や他の家族からすると失敗作の薬の方が役に立っている為、失敗作の薬を

   幽冥や他の家族に提供している。

   また薬品作りの一環でかファミレスで人間がよくやる合成ジュースを製作し試飲させ

   ている。主な被害者は従者戦闘員たちで、きちんと感想を聞き、次の合成ジュースの

   案を考える。

   ただし、『美味い』と言えるジュースができる確率は某人造人間を機動させようとし

   た時の確率と同じ位らしい。

戦闘:殻の棘による遠距離攻撃、殻による防御、口から水流、触手による連続攻撃、

   触手による拘束

擬人態:ゆるふわな水色のセミロング、白寄りの茶色の瞳、鼻眼鏡をして、焦茶の服の上に

    白衣を着、黄土色のミニスカートを履いた女性

CV:島本須美(泉かなた)

 

〇浮幽

名前:ふゆう

種族:クラゲビ

属性:赤

スタイル:射

分類:大型

鳴き声:ルルル、ルルル

一人称:私

容姿:プニプニとした身体で無数の触手の中から2本だけ赤と青の炎を灯す触手を持った浮

   遊する海月

二つ名:赤青火

特徴:猛士から赤と共に波音を守っていた魔化魍。

   波音を守っていた怪童子と妖姫たちと違い、育て親の赤は唯一の生き残り。

   無数の触手を使ったトリッキーな攻撃や炎を使った遠距離攻撃を得意とする。

   鋏刃と穿殻と組むことが多く、鋏刃が攻撃、穿殻は防御を担当して、自身は場の撹乱

   を行う。

   行動が母親のようで落ち込んでいる家族の元に向かい慰めてる姿がよく確認される。

   波音や育て親でもある赤からも『お母さんみたい』と言われている。

   上記の2人と違って、大気中の水分を取り込んでいる為に水が無くても長時間活動で

   きる。水を苦手とする赤の魔化魍では珍しく海の中で成長して成体になるという特殊

   な生態を持つ。

   普通のクラゲビは触手先の炎は両方とも赤だが浮幽は何故か片方が青い。

   基本的に鋏刃と同じ無口で、鳴き声や触手、行動で自分の意思を伝える。

   若干天然の気があり。

戦闘:幻術、触手から火球連続攻撃、触手による拘束または吸血、

   触手を擦り合わして炎を起こす

擬人態:赤と青のアシンメトリーヘアー、薄藍色の瞳、全体的にゆったりとした桃色の服を

    着て、白のブーティを履いた女性

CV:イヴ(福圓美里)

 

◯昇布

名前:しょうふ

種族:シロウネリ

戦闘:黄

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:フシュルルルルル

一人称:俺

容姿:蛇の様に細い鱗が並ぶ身体に頭部に鹿の角、鼻先に犀の角を生やした白龍

二つ名:白帯龍

特徴:猛士からシロウネリの妖姫と共に波音を守っていた魔化魍。

   育て親であるシロウネリの妖姫は戦いの最中で死亡した。

   波音を守る最中で猛士北海道第1支部に捕らわれて度重なる実験の結果、本来の姿と

   はかけ離れた禍々しい姿に変わり、猛士北海道第1支部の研究員に操られるが幽冥の

   活躍により元の姿に戻ることができた。

   意識がなかったとはいえ王に襲い掛かった事を後悔していて、波音たちに愚痴ってる

   。

   食生活は大尊と同じ雑食で更にいうなら汚水を好んで飲む。汚水から有害物質のみを

   取り出し、それを身体の中にある毒袋に溜め込んでいる。

   その気になると放射能に汚染された水でも吸収する事が出来る。その結果…………コ

   レは違う場所で紹介しましょう。

   妖世館の上空を飛んで侵入者の確認を行う見張りを担当している。

戦闘:全身による絞殺、口から有毒物質、地面に潜んでからの奇襲、角からの電撃

擬人態:赤香色の天然パーマ、スカイカラーの瞳、首に白のマフラーを着け、上下青ジャー

    ジを着て、スポーツシューズを履いた青年

CV:木内秀信(笹川了平)

 

◯赤

名前:あか

種族:クラゲビの妖姫

属性:赤

スタイル:突

一人称:私

容姿:赤のグラデーションがかかった茶髪、モスグレイカラーの瞳、首にはヤシの実を模し

   たペンダント、黄色のラインが入った赤パーカー、白の十時マークが描かれたオレン

   ジ色の巻きスカートを履き、サンダルを履いてる女性

特徴:猛士から浮幽と共に波音を守っていたクラゲビの妖姫。

   戦いの最中で怪我を負っていたが幽冥によって傷を手当てされて、その時にヤシの実

   を模したペンダントを貰い、赤と名付けられた。

   自分が本来の姿を表していても気にせずに手当てしてくれた王に対して恋心を抱いて

   いる。

   白はそのことに気がついており、顔を合わせるたびに口喧嘩が絶えない(幽冥が来る

   と仲良くしている風に見せている)。

   長年、波音を守って戦ってきたため、妖姫従者の中で戦闘能力は高く、本来の姿であ

   る妖姫の姿に戻っての戦闘においては白よりも強い。

   妖世館の掃除担当で一部を本来の姿である触手の腕に戻して掃除をしている。

   大尊や昇布、古樹などに掃除を手伝って貰っている。

   掃除は得意だが、掃除以外の家事に関しては申し訳程度の成果しか出せない。

戦闘:十字槍を使った中距離攻撃、左腕の触手による拘束と連続攻撃

CV:水橋かおり(巴マミ)

 

◯三尸

名前:さんし

種族:ショウケラ

属性:茶

スタイル:堅

分類:等身大

鳴き声:クルルウウウ

一人称:俺

容姿:尻尾の先に提灯を付けた赤と黄色のオッドアイの二足歩行する蜥蜴

二つ名:提灯蜥蜴

特徴:猛士からショウケラの怪童子と共に波音を守っていた魔化魍。

   育て親であるショウケラの怪童子は戦いの最中で死亡した。

   兜と組むことが多く、兜が攻撃を担当して自身は防御と敵の妨害を行う。

   波音を守る最中で猛士北海道第1支部に捕らわれて実験されていたが、世話係をして

   いた調鬼が三尸を庇っていたお陰で昇布よりは被害が少なかった。

   その時から自身が魔化魍だというのに面倒を見る調鬼に惚れている。

   化け物となった志々田との戦いで調鬼、兜、南瓜、命樹と組んで志々田を殺す。

   戦いの後に三尸と名を貰い、幽冥に直談判して調鬼の監視役を志願してその願いは受

   理され、調鬼こと月村 あぐりと監視という名目で同室で暮らしている。

   尻尾の提灯は季節によって色を変えて、春は桃色、夏は空色、秋は橙色、冬は白色と

   色を変える。春の時の色は恥ずかしいので布で隠しているが、調鬼と一緒の時には布

   を外している(調鬼がその色を気に入っているので隠せない)。

戦闘:尻尾の提灯による目眩し、爪による近接攻撃、皮膚の硬質化

擬人態:程よく後ろに纏めた橙色の髪、赤と黄色のオッドアイ、鬼灯の絵が背中に描かれた

    和服を着て、白い足袋に雪駄を履いた青年

CV:浅沼晋太郎(西尾錦)

 

◯兜

名前:かぶと

種族:アカエイ

属性:青

スタイル:射

分類:大型

鳴き声:ピァァァァァァ

一人称:私

容姿:鷹の翼と脚を持つ赤鱏

二つ名:尾砲鱏

特徴:猛士からアカエイの怪童子と妖姫と共に波音を守っていた魔化魍。

   育て親であるアカエイの怪童子と妖姫は戦いの最中で死亡した。

   三尸と組むことが多く、三尸が防御と敵の妨害を担当して自身は攻撃を行う。

   猛士北海道第1支部に捕らわれて音撃の耐久テストで実験されていた。その実験の時

   に正体を明かした南瓜と知り合う。

   化け物となった志々田との戦いで調鬼、三尸、南瓜、命樹と成り行きで組んで志々田

   を殺す。

   戦いの後に兜と名を貰う。

   鳴風と似た種族で、人間でいうと親戚のような関係を持つ。

   液体類を好むイッタンモメン種と異なり、アカエイ種の魔化魍は水分を限りなく抜い

   た乾物のようになった人間を餌としている。

   鳴風と似た趣味を持つが鳴風が日が沈む瞬間が好きなのに対して、兜は1ヶ月に1回

   しか見せない満月が浮かぶ夜を見るのが好きで、その時に美岬の作った『特製団子』

   を喰べながら月を見ている。

   最近は、鳴風と共に空を飛びお互いのお気に入りの景色を見ている。

戦闘:尻尾の一部を銃弾にした遠距離攻撃、翼からの突風、羽根による遠距離攻撃

擬人態:赤混じりの金のセミロング、桃色の瞳、右耳に羽を模したイヤリングを付け、紺色

    のセーラー服を着て、白の縦ラインの入ったミニスカートを履いた活発な女性

CV:釘宮理恵(アリサ・バニングス)

 

◯命樹

名前:みょうじゅ

種族:ジュボッコ

属性:緑

スタイル:突

分類:等身大

鳴き声:ユレレレレレ

一人称:自分

容姿:鋭い棘の仙人掌の頭部に古い樹木を思わせる身体と集まった根の脚の人型

二つ名:仙人掌人

特徴:猛士からジュボッコの妖姫と共に波音を守っていた魔化魍。

   育て親であるジュボッコの妖姫は戦いの最中で死亡した。

   五位と組むことが多く、五位が敵の妨害を担当して自身は攻撃を行う。

   波音を守る最中で猛士北海道第1支部に捕らわれて五位と共に実験されていた。

   拷問後に檻に閉じ込められるが、猛士北海道第1支部に襲撃を掛けていた鳴風に救出

   されて重症の五位を鳴風に任せて、自身は今までのお礼を兼ねて志々田の部屋に向か

   う。

   化け物となった志々田との戦いで調鬼、三尸、兜、南瓜と成り行きで組んで志々田を

   殺す。

   戦いの後に命樹と名を貰う。

   緑属性の魔化魍であるが、茶属性の魔化魍と似て砂漠地帯で育つ個体でもあり、頭の

   棘で大気中の水分を集めて、それを自分の身体の再生に利用している。

   また緑系の魔化魍が稀に持つ植物や野菜の成長を促す能力である『緑育』を持ち、妖

   世館の鑑賞植物や野菜の管理を睡樹と共に行っている。

戦闘:仙人掌の棘による中距離攻撃、根の脚による近接攻撃、妨害系の術

擬人態:髪の一部が白くなっている黄緑色の短髪、淡黄色の瞳、白のシャツにオーバーオー

    ルを着た少年

CV:宮下栄治(菅谷創介)

 

◯五位

名前:ごい

種族:アオサギビ

属性:赤

スタイル:射

分類:大型

鳴き声:チッチッチッ、チッチッチッ

一人称:俺

容姿:両翼に青い光を灯す鷺

二つ名:青光鳥

特徴:猛士から波音を守っていた魔化魍。

   他の波音を守っていた魔化魍たちと違い、波音を守り始めたのはつい最近。

   命樹と組みことが多く、命樹が攻撃を担当して自身は敵の妨害を行う。

   波音を守る最中で猛士北海道第1支部に命樹と共に捕らわれて実験されていた。

   命樹と違い、実験中の反抗的な態度に苛ついた研究員によって風前の灯火に近い重症

   を負わされて檻に閉じ込められるが、猛士北海道第1支部に襲撃を掛けていた鳴風に

   救出され、シュテンドウジに憑依された幽冥に治療されて完治した。

   波音と出会う前にヨスズメ(後の幻笛)という魔化魍と行動していたが、とある事情

   でヨスズメの元を去りその後で波音と出会った。

   翼に灯ってる光は五位の空腹具合を見ることが出来て、光が小さい程、空腹を表して

   いる。

   洞窟で暮らす魔化魍故か、宝石がある鉱山かない鉱山なのか判別する特技がある。

戦闘:口から鬼火、羽根を膜の様にばら撒き機雷に変える、両翼の光を使った目眩し

擬人態:ボサボサな灰色の髪、淡黄色の瞳、首元にゴーグルをぶら下げ、薄鈍色の作業服を

    上下に着て、右手に銅製のカンテラを持ち、安全靴を履いた青年

CV:松岡禎丞(ラバック)

 

ー幕間ー

 

◯蝕

名前:しょく

種族:キュウソ

属性:紫

スタイル:献

分類:等身大

鳴き声:チュッチュッ、チュッチュッ

一人称:私

容姿:頭に緑の頭巾を被った、二足歩行の鼠

二つ名:薬鼠

特徴:人の少ない路地裏で擬人態の姿で薬屋を営んでいる変わり者の魔化魍。

   比較的に大喰らいの多い鼠の姿をした魔化魍にしては少食で、人間の腕1本で満腹に

   なる。

   人間との共存を夢見る平和思考の持ち主だが、それでも人間を喰べないと生存できな

   い魔化魍という矛盾でどうすればいいのかと考えている。

   自分の店の薬屋を地上げ屋に狙われ、その時に幽冥と睡樹、昇布に助けられて妖世館

   に店を移して、そこを本店とし、元の店を支店にして『被疑人態の術』で姿を人間に

   変えた従者怪人組に交代で店番して貰っている。

   店によく来る男に惚れているが自分が魔化魍という事で中々好意を伝えられない。

   店を開いていない時には自室に篭り、自身の身体を検体として様々な薬を開発してい

   る。時折、研究が長引いて徹夜をすると思考が徐々に過激になる事があり、5徹夜に

   なると暴走して、開発した薬を目に映った者に打ち込もうと襲い掛かってくる。

   因みに薬の材料は家族の身体の一部や自然の毒物、人工毒物など様々。

   薬を作る際に、周囲に散らばると危険な毒も扱うことから習得の難しい特殊系な術を

   複数を何気に習得している秀才。

戦闘:強化と毒と特殊と妨害系の術、毒による広範囲攻撃

擬人態:緑の頭巾を巻いた栗色の髪、深緑色の瞳、質素な服の上に深緑色のブランケットを

    羽織り、杖を持ち、革靴を履いた女性

CV:金本寿子(アトラ・ミクスタ)

 

◯乱風

名前:らんふう

種族:カマイタチ

属性:空

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:ビュウウウウ

一人称:私

容姿:仮姿/青墨色の鼬

   本姿/ケルベロスのように3つの首を持ち、それぞれ口に鎌を咥えている。その内の

      左右の顔が半分が白骨化していて鬼火の灯った尾を持つ鼬

二つ名:暴風三首

特徴:食香に育てられた魔化魍の1体で、食香の事を『母上』と呼んでいる。

   野間 茂久と焼き鳥のおっちゃんの店を狙う地上げ屋から守っている魔化魍で茂久の

   作る『ピザを気に入って守っている』と言うが、実際は茂久に対して好意を抱いてい

   る。

   地上げ屋に店を狙われ、偶然居合わせた飛火と葉隠のお願いで動いた幽冥によって助

   けられて店を妖世館に移してもらい名を貰う。

   口に咥えてる鎌3本を週1で磨いている。そのうちの1本が最近、魔化魍に変異しそ

   うなので新しい鎌を買うか鍛造して貰うかと、どうするべきか悩んでいる。

   妖世館では茂久の手伝いをしながら、周囲の警戒、見張りなども行なっている。

   擬人態の際に首に掛けているペンダントは食香と出会う前に一緒に居た恩人の魔化魍

   の形見で、無くさないようにとペンダントに加工して肌身離さず持ち歩いている。

   このペンダントに迂闊触れると彼女の逆鱗に触れることとなり、母親代わりであり事

   情を知る食香もあまり関わらない。

戦闘:風系の術、風を身に纏って突進、鎌にを使った近接攻撃、突風の結界

擬人態:左右に白く染まった髪が紛れた青墨色のツインテール、朱色と白のオッドアイ、首

    に何かの小指の骨のペンダントを着け、草原のような緑色のデールを着て、木靴を

    履いた少女

CV:黒木華(雪)

 

◯憑

名前:より

種族:マビ

属性:赤

スタイル:幻

分類:中型

鳴き声:ボボボ、ボボボ

一人称:俺

容姿:狼の頭が付いた青い火の玉

二つ名:炎躯狼

特徴:野間 茂久と焼き鳥のおっちゃんの店に取り憑いてる魔化魍。

   過去に鬼に追われた時におっちゃんに助けて貰い、そこから行動を共にしている。

   店を狙う地上げ屋から守っており、報酬として焼き鳥のおっちゃんから焼き鳥と備長

   炭を貰っているが、実際は報酬の話は建前で、本当はおっちゃんと一緒にいられるだ

   けで嬉しい。

   地上げ屋に店を狙われ、偶然居合わせた飛火と葉隠のお願いで動いた幽冥によって助

   けられて店を妖世館に移してもらい名を貰う。

   思考を複数に分裂させて、複数思考であらゆる無機物に取り憑く能力と取り憑いた物

   を強化させて自由に操るという2つの能力を持っている。

   分体は水を浴びせられると消滅するが本体は少しの弱体化で済む。また、物に取り憑

   いていたとしても水を浴びせられると憑依が解除されて上記と同じ結果になる。

   現在は、妖世館に取り憑いて地下以外の部屋の空間を弄って部屋の増設や部屋の間隔

   を広げたり、おっちゃんの手伝いとして焼き鳥を焼くのを手伝っている。

   焼き鳥を焼くときには、おっちゃんの身体から取り出した備長炭を身体に溜め込み、

   焼くのに使っている。

戦闘:口から火炎、無機物に憑依し自由に操る

擬人態:肩にかかるくらいに伸びた白髪、シアンカラーの瞳、首元に黄色の蛍光色コードレ

    スヘッドホンをかけて、DJのような格好をして、厚底ブーツを履いてる女性

CV:東山奈央(エルフリーデ・“サカモト”・カブレラ)



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雛編
記録伍拾陸


1週間待ってくださってありがとうございます。
無事に安倍家の魔化魍 2の巻を更新できました。
ひな編開幕です。


SIDE◯◯

 竹が森のように生えた山の中に1つの屋敷があった。

 

 その屋敷の周りには猛士の角である鬼の死体が散乱していた。

 何かに噛みちぎられ落ちている腕、焼け焦げた黒い物、乱雑に並ぶ人間の石像、爛れてボトボトと落ちてる肉片、散らばる贓物などの様々な人間だったものが地面にあった。

 

 その周りには複数の異形……もとい魔化魍がいた。

 そして、その魔化魍の中には北海道で幽冥たちを助けたジャック・オ・ランタンの姿があった。

 

【これで今日は大丈夫でしょう】

 

【やっと】【終わった】【……休憩】

 

【最近、鬼が多すぎるよ〜僕も疲れた〜】

 

 魔化魍達はジャック・オ・ランタンの声を聞いて戦闘体勢を解いて、疲労に着いて語っていた。

 

「皆のものご苦労だった」

 

【いいえいいえ、仕事ですから】

 

 屋敷から現れた小袖姿の女性の言葉にジャック・オ・ランタンは返答した。

 

【しかし、最近鬼たちの行動が多いのって?】

 

「私の孫が原因だろう」

 

【孫ですか?】

 

「そうだ。私の孫………」

 

 小袖の女性は何かを語ろうとしたが顔は暗くなり話すのを辞めて1人歩いていった。

 

【ジャック追いかけなくていいの?】

 

【あの人も今はひとりがいいでしょう…………では、皆さんこれを集めますよ】

 

 ジャックの言葉を聞いた魔化魍たちはそのまま、散らばる人間だったものを集め始めた。

 

 

 

 

 

 

 ジャック・オ・ランタンの元から離れて屋敷の外れを1人歩く小袖の女性。

 しばらく歩いて着いたのは空の景色がよく見える場所だった。雲もなくただ広がる青空を見ながら小袖の女性はその場に座る。

 座った小袖の女性は袖から取り出した写真を懐かしく眺めながら遠い空を見上げて呟いた。

 

「会いたいのひな(・・)………」

 

 女性の声は風によって掻き消えて、女性はそのまま青空を眺めていた。

 

SIDEOUT

 

 現在、妖世館の外の庭で家族たちは盛り上がっていた。

 いつもは魔化魍の姿の家族たちは全員擬人態を使い、怪人たちも人間の姿になり、人間に変身できないが何故か食べれる怪人と従者戦闘員たちも出されている2つの料理を味わっている。

 

「おじさん。次の焼き鳥お願い!」

 

 縦長の皿を空けて次の皿のおかわりを頼む鳴風。

 

もぐもぐ…もぐもぐ(こっちも…おかわり)!!」

 

「大尊、口の物を無くしてから喋ってくれ…………こっちもピザの追加お願いします」

 

 拳牙は口に入ってる状態で次の皿を頼もうとする大尊を注意して、自身も口に付いたチーズに気付かずに料理の追加を注文する。

 

「あいよ! ちっと待ってな」

 

「追加のピザ焼けたよ! 乱風これをお願い」

 

「分かった」

 

 注文を受けた炭火焼オルグこと文左衛門は次の鳥を焼き始めて、ドルフィンオルフェノクこと野間 茂久は焼けたピザを擬人態の姿のカマイタチの乱風に頼んで、皿に乗ってるピザを空いてる皿のある所に持っていく。

 

 みんな美味しそうに焼き鳥とピザを食べている。

 あの後、2人は私の質問に対しての答えとしてOKを貰った。私と同じように説得していた憑も乱風も喜んでいた。

 そのすぐ後にカマイタチは乱風、マビには憑と名付けた。

 

 そして、2人にはどう呼べばいいかと聞いたら炭火焼オルグはおっちゃん、ドルフィンオルフェノクは茂久と呼んでくれと言った。

 そして、彼らの紹介を兼ねて土門たちを庭に呼び、焼き鳥とピザを2人に作って貰っている。

 

 その結果はこの通り。

 前に私が出した山菜料理からかなり経ってるので他の料理を食べたみんなはどうなのかと心配したがその心配は無用だったようだ。

 

 先に向こうで食べた飛火や葉隠、昇布、蝕は料理の手伝いをしていた。

 私は料理を眺めながら縛られてる為に動けない2人の捕虜と話してる。その内容は–––

 

「魔化魍と結ばれた人間(・・)ね〜」

 

「ああ。俺が佐賀支部に居た時に聞いた話だ」

 

 私が縛った鬼の突鬼から聞いてるのは九州地方佐賀支部に居た頃に聞いたという噂。

 帰ってきた私に屍王は『ひなの事を何か知ってるのかもしれない』という言葉を聞き、この2人に聞いてみたのだ。

 

 確かにひなには色々とおかしなところがあった。明らかに怪物と思われる魔化魍に恐怖を感じていないことや魔化水晶を持っていたこと、隠れていた白を見破る洞察力などあげたらいくつもある。

 

 そもそも魔化水晶を持つのは初代魔化魍の王 オオマガドキを倒した『8人の鬼』たちだ。

 それを持っていたひなは確実に『8人の鬼』に関係する者という事。

 

「佐賀か」

 

 取り敢えず、情報をくれた2人にピザと焼き鳥をあげた。

 ただ縛られて食べれなかったので黒と屍王に頼んで食べさせて貰っていた。

 

 私はひなの家族であるがそれはあくまで仮の家族。本当の家族に合わせるまで預かっているだけ。

 

 幽冥はひなの本当の家族がいる佐賀に向かう事を決意した。




如何でしたでしょうか?
今回は以前登場したジャック・オ・ランタンが再び登場しました。

荒夜
【すまないな。今回は質問コーナーは休みだ。楽しみにしていた者たちがいるかもしれないがすまない】

狂姫
【それでは次回をお楽しみに】


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記録伍拾漆

お待たせしました。
YouTubeの東映チャンネル仮面ライダー響鬼の放送が開始しました。
やっぱり最初の頃はすごいですね。

そして、今やってる映画も見に行きました。
全員大活躍でした。


 すっかりと日が昇り、窓から照らす光が私の目の近くに当たる。

 私の部屋から出て、下に降りると昨日の宴会を楽しんだのかみんな擬人態のままそこら中で眠っていた。

 その中には擬人態の食香に抱かれて眠るひなの姿があった。

 

「うう、ママ」

 

 ひなの言葉を聞き思い出したのはあの時の事だ。

 館の材料になる石灰石を採りに行った帰り道に発見したひなの母親らしい女性が殺されているのを目撃してひなを探し出して、人身売買組織を壊滅させた。

 

 死体は見つかると大変な事もあり、飛火に燃やしてもらい、女性の遺灰は骨壺に入れてもらった。いつかひなの親族に渡す為に私がそういう風に頼んだ。

 今は食香がひなの親の代わりをしている。

 

 改めて、今のひなには本当の親族が必要だと分かった。

 私は捕虜の鬼 突鬼の言っていた話を信じて、佐賀に行く事を決めた。

 

SIDEひな

 

「逃げてひな!!」

 

 ママの声でひなは怖いおじさん達から逃げた。

 

「このアマ!!」 

 

「うっ………ひ、な………」

 

 黒い物から出たものでママが倒れる。

 

「ガキを逃がすな!!」

 

 怖いおじさん達がひなを追いかけてくる。

 ひなは逃げた。走って逃げた。いつの間にかおじさん達が追いかけてこなくなっていた。

 

 大きな木の下でひなはママが来るのを待っていた。

 だけど、ひなは分かっていた。ママはもう居ない。パパと同じように遠い所へ行っちゃった。

 

「ひぐ…………ママ……うう、ひっぐ」

 

 ひなが木の下で泣いてると誰かが来た。

 

「ぐすっ………ううう………お姉ちゃん誰………?」

 

「っ!!」

 

「お姉ちゃん………ひな傷付けない?」

 

 現れたのは、変わった服のお姉ちゃん。

 

「どうして分かったのですか?」

 

 お姉ちゃんがひなに聞いてきた。

 

「ん。なんとなく」

 

 お姉ちゃんにそう答えると、お姉ちゃんの肩に乗る蜘蛛に気付いた。

 

「蜘蛛さんだ〜!」

 

グルッ

 

「蜘蛛さん捕まえた〜!」

 

 そしたら、辺りが暗くなった。

 

「……………」

 

 何処からか声が聞こえてくる。

 

「…………な」

 

 

「お………な」

 

「起きてひな」

 

 声に反応して、起き上がると頭にゴチンとぶつかる。

 

「あ、痛い」

 

「大丈夫ひな?」

 

 波音がいた。

 さっきまで見てたのは夢だったんだ。

 

「波音どうしたの?」

 

「シー!!」

 

 波音は人差し指を立てて静かにと声を出す。

 

「ひな、今みんな眠ってるいるから」

 

 波音がそう言って、周りを見ると土門や顎、朧、葉隠たちが普段は見せないような体勢で眠っていた。

 

「ひな、王が貴女に呼んできてと言われたから呼びに来たの。だから、静かに行こう」

 

「わかった」

 

 2人は静かに幽冥の待つ部屋に歩いていった。

 

SIDEOUT

 

「王、失礼します」

 

「幽冥お姉ちゃん、入るよ」

 

 私の部屋にひなと波音が入ってきた。

 まぁ、呼んでからだけど。

 

「幽冥お姉ちゃん。ひなに何かおはなしあるの?」

 

「…………ひな、家族に会いたくない?」

 

「「!?」」

 

 私の言葉に2人とも驚く。

 

「今になってなんでこんな話をするのかというとね…………波音、前の北海道で生け捕りにして捕虜になっている鬼がいるでしょ」

 

「うん。朧と美岬が北海道第2支部で捕まえた衣鬼と突鬼だよね」

 

「その中の突鬼がひなの家族に関するかもしれない話をしてくれたの…………でね、もしひなが家族に会いたいというのなら連れてってあげる」

 

「…………」

 

 私の話を聞いて、ひなは少し顔を下げて考え始めた。波音はそんなひなを心配しているのか少し落ち着きが無いようにそわそわしている。

 やがて、ひなは顔を上げて私の目を見る。

 

 覚悟を決めたような目が私の目と合う。

 

「幽冥お姉ちゃん……ひなを家族に合わせて!!」

 

「分かった。じゃあ波音、眠っている子達を起こして、佐賀に行く準備をさせて」

 

「わかりました」

 

 波音はそのまま扉を開けて下の階で眠る土門達を起こしに行った。

 私は佐賀に行く支度をするためにひなと一緒に部屋を出た。




如何でしたでしょうか?
今回はひなの夢からスタートしました。
次回は佐賀支部の鬼達を描いて、その後に幽冥達の方を書こうと思います。

質問コーナー回答の欄
鳴風
【質問コーナーだよ。今回は私に関する質問だから答えるよ】

鳴風
【悪維持さんからの私が普段だれと過ごしてるかって質問だね】

鳴風
【前は土門や顎と一緒だったけど今は唐傘や兜とかと行動してるね】

鳴風
【ということで、私が普段一緒に行動してる魔化魍の紹介でした。気になることがあったら質問コーナーに書いてね。それじゃ……マッタねー!!】


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記録伍拾捌

お待たせしました。今回は久々に鬼のSIDEをちょっと書いてから幽冥達の方になります。


SIDE◯◯

 猛士九州地方佐賀支部。その支部の建物の中には迷彩柄の少し派手な服装の人間達が銃器を持ち1人の男の前にいた。

 その男は灰色の三つ揃えを着て、左手には半透明な緑色の勾玉を持ち、縁が丸い眼鏡を掛けて、口元はニヒルに笑っていた。その後ろには3人の人間が仁王立ちで立っていた。

 

「諸君。仕事だ」

 

 男が勾玉を男たちに向けると、勾玉から青い波動が出て、銃器を持った男たちの頭にあたり、男たちはふらふらとその場から離れるように動いた。

 やがて男たちが消えると男は後ろに3人に声を掛ける。

 

「…………今回は君達も向かってもらいたい」

 

「………」

 

 3人から返答はないが肯定と男は思い、その場で解散させた。

 

「ふふふ、噂の子よ早く戻ってこないと大切なものをがなくなるぞ(・・・・・・・・・・・・)

 

 男はただ1人、誰も居ない部屋の中で誰にも分からない事を呟いて笑みを深めていた。

 

SIDEOUT

 

 ひなの願いを聞き、佐賀に行く事を決めた私はひなと共に荷物の準備が出来たのだが。

 

「貴方たちいつまで寝てるんですか!!」

 

 白の怒鳴り声が寝室(仮)にて正座させられてる土門たちの耳に響く。

 

「王が佐賀に行く準備をしている間、呑気に眠っているなど、なんたる事ですか!!」

 

 白が眠っていた子達を起こして、唐突に始まった説教は既に30分経過している。

 あまり慣れていない擬人態のせいか、正座をして数分でみんな足が痺れているが、その事を白に言えばさらに説教が長くなると思って、みんな黙っている。

 この調子だと後、数十分は話し続けるだろう白に正座をしている者たちは心の中で溜め息を吐き、諦めて説教に耳を傾けようとしていた。

 だが、そんな者たちに救いの手はあった。

 

「白。そろそろ話を終わりにして」

 

 先程から待っていた幽冥だった。

 そして、自分の愛す王の言葉に白は–––

 

「分かりました。では正座は解いていいですよ」

 

 すぐさま正座を辞めさせて定位置である幽冥の後ろに戻った。

 

「お、王〜止めるなら……早く言って、ください」

 

「あ、脚がし、し、痺れる」

 

「………動けない」

 

 脚が痺れてまともに立てず転ぶ者、その場でジッとして脚の痺れを取ろうとする者、脚の痺れを紛らわすために動かし続ける者といった風に各々が痺れを取るために動いていた。

 そして、痺れが取れてまともな状態に戻った全員と話を始めた。

 

「では先ずは、すでに知っている者もいると思いますがひなの親族らしい情報を手に入れました」

 

 幽冥の言った言葉にざわめきが起きるが、王が話しているということと白の視線でざわめきは少しずつおさまる。

 

「みんなに聞きたい。ここ最近のひなはどんな感じだったか」

 

 幽冥の言葉に最初に反応したのは、ひなの親代わりをしている食香と親友でもある波音だ。

 彼女たちはひなと一緒に居ることが多く、その変化に早く気付いた。

 

 その次に反応したのは羅殴だった。

 彼は自作のおもちゃをひなと波音に渡すが、最近のひなはおもちゃを貰ってもあまり嬉しそうな顔をしていなかった。普段は貰って使おうとするたびにどうするの?という風にひなが聞いてくるのが好きな羅殴はひなの元気がない理由を考えていた。

 

 それから次々とみんな、ひなの最近を思い出していった。

 全員が思い出したと判断した幽冥は再び話し始める。

 

「最近のひなは笑顔がなくなっている。いつも我々に向けている笑顔が………だから問う。

 ひなの家族の情報は鬼から教えられた情報です。もしかしたら私たちを滅ぼす為の罠かもしれない。だけど、ひなの笑顔が再び戻るのなら、例え罠でも私は佐賀に行く!! ………このことに反論はあるか!!」

 

 幽冥はそのまま、前にいる家族たちを見る、その眼は覚悟を決めた眼だった。

 

「我らはこれよりひなの笑顔のために佐賀に向かう!!」

 

 幽冥の声は妖世館の全体に響き、その声とともに中にいる家族たちは同等の声を上げた。




如何でしたでしょうか?
今回の佐賀支部も北海道第1支部のように通称があります。
次回はいよいよ佐賀へ。

質問コーナー回答の欄
幽冥
「今回の質問は私があの下駄を鳴らしてカランコロンと現れるゲゲゲの鬼太郎に会ったらどうあるかという覇王龍さんの質問ですが、彼は人間の味方ではなく、基本的には妖怪の味方です。まぁ妖怪が親しい人間も味方かもしれませんが………彼が人間に関わるのは妖怪ポストに手紙が届き、妖怪の仕業と分かると関わります。結果的に人間の助けをしていますが、彼は人間の助けの声に応じてるだけですので、私としては敵対を取ることはありませんね」

幽冥
「貴方の疑問は解決出来たでしょうか? また気になることがあったら活動報告の質問コーナーに書いてください。では、また次回にお会いしましょう」


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記録伍拾玖

はい。新話です。
今回はfull幽冥SIDEです。


 佐賀に向かう事を決めた私たちは現在、佐賀に向かう方法を考えていた。

 みんなあれやこれと案を出し合い結果。

 

 2つの案にまで絞り込めた。

 1つ目は成体になったことで広範囲を飛べるようになった鳴風や眠眠、昇布、兜などの空を飛べるものに乗って佐賀を目指す。

 2つ目は突鬼の記憶を術で探って崩、狂姫、跳、波音が佐賀に転移する術を作り使う。

 この2つの案のうちどれにするかと悩んでると–––

 

「はあーーー良いよ。俺の頭の中を見ても」

 

 先程浮かんだ案が理由で縄で縛られて連れてこられた突鬼は幽冥に言った。

 

「良いのですか?」

 

「てめえら魔化魍の為じゃねえ、そこの嬢ちゃんの為だ」

 

 縛られた手でひなを指差して、ひなの為だと言い、突鬼はその場で動かずにジッとする。

 

「本当に良いんですね」

 

「五月蝿え! やるなら早くしろ!」

 

 確認のためにもう一度聞いたら、怒り出した。

 まあ、本人がいいって言ってるからやるか。

 

「蛇姫ちょっと来て」

 

蛇姫

【王、私を呼ぶということは、あの札の事でよろしいですね?】

 

「そうだよ。なるべく早めに済ましてあげて下さい」

 

蛇姫

【承知しました】

 

「え? え? ちょちょ、何処へ?」

 

 蛇姫は右の3本の腕を使って突鬼を荷物のように抱えて、何処かへ行った。

 

〜数分後〜

蛇姫

【情報提供に感謝します】

 

「ど、どう…いたし…まして」

 

 某燃え尽きたボクサーのように真っ白な突鬼を抱えて戻って来た蛇姫は突鬼をたまたま近くにいた大尊に預けて、蛇姫は擬人態に姿を変えて、巫女服から札を5枚と筆を取り出して、何かを書く。

 

「これで良しと。んと、唐傘、跳、葉隠、蝕ちょっと来てください」

 

 書き終わると、蛇姫は手の空いてる4人を呼び、今度は呼んだ4人に札を渡して、残りの1つを自身の手に持って

 

「これを持って王を中心に五芒星を描ける位置に札を置いてください」

 

唐傘たち

【【【【分かった】】】】

 

 そう言って、蛇姫達は札を持って私を中心にして家族全員が入れそうな巨大な五芒星の陣になるように札を配置する。

 

「王。これで佐賀に向かうことが出来ます。後は………王の命令だけです」

 

「ありがとう蛇姫。さてこれから佐賀に向かおうと思うんだけど、その前に…………今回は妖世館に残る者を決めたいと思う」

 

魔化魍全員

【【【【!!?】】】】

 

「王。何故そのような事を………」

 

 白が絶望したような声を出して私に聞いてきた。

 

「何故急にこんな事を言ったのかというとね。私たちは家族全員で行動するけど、いざ何かがあった時の為の練習として今回は妖世館に残る者を決めようと思ったの。

 だから、残る者は朧たちで決めて。私はひなとお姉ちゃんと一緒に佐賀でどう動くか決めてるから」

 

朧、美岬

【【………ねえ、みんな】】

 

朧、美岬以外

【【【【!!!】】】】

 

朧、美岬

【【早く決めようか】】

 

朧、美岬以外

【【【【は、はいいい!!】】】】

 

 その時、朧と美岬以外の家族(魔化魍)は何故、全員で行こうという考えを出さなかったのかを理由を理解しながらも心の中で思った。

 そして–––

 

「蛇姫お願い」

 

「分かりました」

 

 蛇姫が服から札を出して、天に掲げると幽冥たちの周りの札から光が溢れて、幽冥たちを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が治り、妖世館の留守番組の目の先には幽冥たちと佐賀に向かう組は消えていた。

 やがて、札は自然と地面から剥がれて灰になった。

 

「無事二帰ッテ来テ下サイ」

 

 幽冥がいない間の指揮をとるために残った黒の声が静かに響いた。




如何でしたでしょうか?
佐賀に向かう組と残った組は次話で書きます。
ちなみに幽冥とひな以外の人間は姉の春詠と佐賀支部にいた突鬼です。

それでは次回もお楽しみに


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記録陸拾

新作です。
今回はオリジナルと原作の魔化魍が新たに登場します。
お楽しみください。


 蛇姫の術で着いた場所は霧が少し出てる森の中だった。

 

蛇姫

【ここが佐賀になります】

 

 蛇姫は妖世館に帰る為の術を知る者としてメンバーの1人として決められていた。

 今回の佐賀の遠征のメンバーとして選ばれたのは黒を除いた、従者である白と赤。ワームのランピリスワーム。

 人間は私の姉である春詠お姉ちゃん、捕虜の突鬼こと佐賀 錬。

 家族の魔化魍は土門と崩、羅殴、唐傘、蛇姫、眠眠、食香、美岬、常闇、波音、浮幽、蝕、乱風といった感じである。

 何でメンバーを決めたのか知らないが、遠征メンバーが決まり佐賀に来る際に、泣きそうな顔で私を見送った朧の顔が忘れられない。

 

「(帰ったら朧のお願い聞いてあげよう)」

 

 と、心に思いながら先ずは、現地の情報集めをする為にどうするか白を呼んで考えることにした。

 そして、一方–––

 

SIDE朧

 居残り組として妖世館に残った家族たちは–––

 

【朧、そんな泣くなよ】

 

暴炎

【そんなに泣くな】

 

【だって骸、うう、幽冥お姉ちゃーーん】

 

 佐賀に一緒に行きたかった朧を慰めていた。

 幽冥と出会う前からの付き合いである骸と暴炎はこの状態になった朧はしばらく泣き続けるだろうと判断してそのまま、放置することにした。

 

睡樹

【僕……王に……買っ…て貰った…………種を…植えて…くる………命樹手……伝って】

 

命樹

【分かった】

 

 睡樹は手にビニール袋とお気に入りの如雨露を持ってその後ろから命樹は掘る道具の入ったバケツを持って着いて行った。

 

飛火

【私もいつも通り散歩して来る】

 

葉隠

【僕も付いていくよ】

 

 飛火と葉隠は2人で日課の散歩と写真撮りに行った。

 

鳴風

【私たちも行こう】

 

【そうだね】

 

 飛火と葉隠の散歩を見たのか、鳴風も兜も翼を広げて空へ飛んで行き、個人個人自由に動くのを見て、各々が自分のやりたいことをする為に移動した。

 

【幽冥お姉ちゃん。寂しいよ。会いたいよ】

 

 幽冥が佐賀に行ってまだ30分も経っていないが朧は身体を丸めてシクシク泣いていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

【【いい加減しつこい】】

 

「…………」 

 

 幽冥たちのいるところから遠く離れたところに鰭の凍った1つ目の金魚の魔化魍が、ライフルを装備した傭兵たちと戦っていた。

 

【【(早く始末して、コソデノテ様のところに行かなければ)】】

 

 金魚の魔化魍は鰭の氷から無数の氷柱を放ち、それを避けようともせずに傭兵たちは喉元に氷柱が食い込む。

 喉元に食い込んだ氷柱から中心に傭兵たちの身体を氷が包み込み、傭兵たちは氷像に変えられた。

そして、地面から鍬形虫のように大きな顎を持った蠍の魔化魍が現れた。

 

【終わったの】

 

【【ええ、終わりました。申し訳無いのですが氷像(コレ)を屋敷に持って行って貰って宜しいでしょうか?】】

 

【うん。良いよ】

 

 大顎でいくつもの氷像を挟んで、蠍の魔化魍は歩るき始めて、金魚の魔化魍は別の方向に向かって飛んでいった。

 

SIDEOUT

 

「初めまして。魔化魍の王」

 

【初めまして】

 

 私を下げるようにして家族たちは目の前の謎の等身大魔化魍と謎の妖姫を睨んでいる。




如何でしたでしょうか?
今回はこんな感じです。

ちなみに朧が泣き止んだのはあれから12時間後です。



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記録陸拾壱

今回はひなの親族の正体が明らかに!


 それは突然現れた。

 ひなの家族の情報をどう集めるかと考えていた時。

 

【魔化魍の王ですか?】

 

 声が聞こえた。白たちは猛士の鬼の仕業かと思い辺りを見渡すが、何処にも鬼や人の匂いも気配もなかった。

 だが、その中で幽冥だけは1つの樹を見つめた。

 

 見た目はただの椿の樹のはずだが、なぜかその樹から何かを感じる。

 やがて、幽冥はその樹をジッと見始めた。

 何をしてるのか理解できないのか白と赤は声を掛けようとするがその前に春詠が白と赤を止める。

 

 樹を見つめてから3分経った。

 幽冥は樹から目を離そうとせず、ずっと見ている。

 すると–––

 

「フルツバキ………もう姿を見せたら。王は気付いてるよ」

 

 椿の樹の上からの声に幽冥たちは驚き、上を見上げる。

 そこに居たのは緑の長髪に、椿の刺繍が入った黒の着物、手には唐傘柄の手提げ袋を持つ女性が椿の太い枝の上に足をブラブラさせながら座っていた。

 

【はあ〜〜。私の負けだ、私を見るのを止めてくれぬか】

 

 今度は樹から声が聞こえて、椿の樹に変化が起こる。

 上に伸びていた花や葉を生やした枝は下の幹に集まっていき、幹から蔦が出て幹の上の枝全体を覆い球状の頭になる。

 下の幹からも手や足が伸びて、幹の身体の至るところから椿の花が咲き、椿の樹は完全にその姿を変えた。

 そして、枝に座っていた女性はいつの間にか姿を変えた椿の樹……いや等身大の魔化魍の隣にいた。

 

「幽、下がって」

 

 春詠お姉ちゃんが私を後ろに下げて、他の子達と一緒に目の前の女と魔化魍を睨み、変身鬼笛 慧笛をいつでも吹けるように構えていた。

 そんなみんなを睨みに怯えもせずに2人は頭を下げる。

 

「初めまして魔化魍の王」

 

【初めまして】

 

 地面に膝をつけ、頭を下げて、私に挨拶する2人。突然の挨拶に春詠お姉ちゃん達は困惑して、ひなはまだよく分からないのか首をコテンと傾ける。

 だけど、私は何となく挨拶をする理由が分かった気がする。

 今の私は土門たちが出会った頃の時に比べて、目に見えない何か(・・)オーラ的なものが身体から出てるらしく、それが目の前の膝をついて2人の頭を下げさせてる理由。

 

「初めまして……と言うべきなのかなこういう場合」

 

「まあ、そうなるね」

 

「それで、私に何か用なの?」

 

 目の前で頭を下げる2人に質問した。

 すると、女性……なんの魔化魍かは分からないが、妖姫が口を開く。

 

「……そこに居るひな様の家族のいる所に案内のために」

 

「えっ?」

 

SIDE春詠

【魔化魍の王ですか?】

 

 疑問系の質問が聞こえて、幽の家族たちは辺りを見渡す。

 だが、何処にも越えの主らしきものは居なかった。

 そんな中、幽が1つの椿の樹を見つめ始める。

 

「「お、王……」」

 

「ストップ。2人とも気になるのは分かるけど、後でね」

 

 白と赤が何をしているのか幽に聞こうとするが私はそれを止める。

 昔からああなったら納得するまでずっとそのままという幽の癖。某2人で1人の頭脳担当の探偵よりはマシだけどね。

 

「「……はい」」

 

「よろしい」

 

 2人は納得して、そのまま幽を見守っている。

 すると–––

 

「フルツバキ………もう姿を見せたら。王は気付いてるよ」

 

 椿の樹の上から聞こえてくる声に、上を向くと手提げ袋を持った黒の着物を着た女性が枝の上に座っていた。

 

【はあ〜〜。私の負けだ、私を見るのは止めてくれぬか】

 

 そして、幽の前にある椿の樹も急に喋り始めて、樹が変化する。

 蔦が集まって出来た丸い頭、古い樹を思わせる体躯に、至る所に椿の花を咲かしている魔化魍に姿を変える。

 

「幽、下がって」

 

 私は幽を後ろに下がらせて、服の中から自分の変身鬼笛 慧笛を取り出して警戒する。白と赤と他の子たちも目の前の2人を睨む。

 煉獄の園(パーガトリー・エデン)からこっちの世界に帰ってきて間もない頃に朧や美岬ちゃんに聞いた事なのだが、幽を魔化魍の王として認めているものと認めていないものがいるそうだ。

 王として認めているものは幽の家族となったりしているが、認めていないものは幽を消して、自分たちが魔化魍の王として名乗ろうとするものがいる。

 今、目の前にいるのはその魔化魍たちなのかもしれないと思って警戒するが。

 

「初めまして、魔化魍の王」

 

【初めまして】

 

 突然、膝をついて、頭を下げて挨拶する姿に警戒していた私たちはポカンとなる。

 

「初めまして……と言うべきなのかなこういう場合」

 

 幽もどう答えるべきか分からないらしく私に質問する。

 だが、どうやらこの魔化魍たちは幽が王と名乗っても何もしないようだ。

 

「まあ、そうなるね」

 

「それで、私に何か用なの?」

 

 幽が目の前の魔化魍に質問し返す。

 

「……そこに居るひな様の家族のいる所に案内のために」

 

「えっ?」

 

 ひなの声が困惑してる風に聞こえた私だけではないはずだ。

 

SIDEOUT

 

 驚いてるひなの声が聞こえて、直ぐに妖姫は私に話を続けた。

 

「ひなの家族」

 

 佐賀に転移して、行動しようとした時にこの情報だ。

 

「はい。ひな様の祖母にあたるコソデノテ様がひな様にお会いしたいと」

 

 だが、次に聞いた言葉に私は驚いた。

 

「コソデノテ? もしかして、ひなって!!」

 

 私の頭の中にはあり得ないと思う答えが浮かんでいた。

 

「はい。ひな様はここ佐賀の魔化魍を纏めているコソデノテ様のお孫さんになります」

 

 私の思ったことは姫の口から出された言葉で事実だと分かった。




如何でしたでしょうか?
ひなは実は人間と魔化魍の間から生まれた子供の子供、つまりクオーターという事でした。
某どっかの妖怪の3代目総大将と似てますね。


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記録陸拾弐

更新遅れて申し訳ございません。
面談やら何やらで書くのが少し遅くなりました。


目の前の妖姫からひなの正体を知らされる。

 

 コソデノテ。

 遊女の死後、死皮となった小袖を見て、友人たちがその遊女の在りし日を偲んで悲しむ一方、当の遊女は誰からも身請けされずに不自由な生活を強いられことを悲しみ、身請け金を求めるあまり小袖の袖口から手が伸びている。

 また遊女がこの小袖を着飾りたかった願いが叶わず、その怨みによって小袖から手を伸ばしたもの、または小袖を着ていた女性の生への執着が妖怪化したもの。

 創作系の作品では手先の悪いもの、スリの常習犯などの服の裾に取り憑いて悪さをする妖怪。

 

 ひなの家族に会うという目的で来たが、早々に関係者と会えるとは思わなかった。

 

「魔化魍の王、ひな様の2人をコソデノテ様のいる屋敷に案内してよろしいでしょうか?」

 

「………その格好は辛いでしょ、解いていいよ」

 

 そう言うと、2人は姿勢を解いて立ち上がる。

 今だに警戒している家族に警戒を解いて貰った。いつまでもあの状態だと話が進まないし。

 

【しかし、何故王の側に人間がそれも鬼?】

 

 椿の魔化魍が私のお姉ちゃんと突鬼を指差して、私に聞いた。

 答えようと口を開こうとしたら。

 

「私は幽の………魔化魍の王の姉だよ!!」

 

「俺は捕虜だよ。何かする気はねえぜ、コレ(・・)があるからな」

 

 春詠お姉ちゃんはそれが何か悪いのかと言うかのように答えて、突鬼こと錬さんは自分の片手を見せながら何もしないと宣言した。

 それもそうだ。何かする気が無いのは事実だろう。なにせ錬さんの片手に結ばれてる紐はただの紐ではない。紐を作ったのは元は人間(・・)で巫女をしていたという蛇姫だ。

 蛇姫はこれを『双方の呪紐』と呼び、錬さんと妖世館の一室で捕らえてるもう1人の鬼である衣鬼の黒風 愛衣さんに結びつけられてる。

 この紐は人間の感情を読み取り、反抗心を感じた瞬間に全身に激痛、呼吸困難、神経の麻痺、五感剥奪のいずれかが襲う。しかも、コレは同じものを結んだ者同士に効果があり、片方だけでも反抗心を考えば連帯責任として2人共同じ苦しみを味わう。

 故に突鬼と衣鬼は逃げることが出来し、反抗することもないのだ。

 春詠の言葉を聞き、錬のことを見て、椿の魔化魍は納得したのかしてないのか不明だが、幽冥の方に顔を向ける。

 

「ああ、そうでした。目的だけ話して、私は自己紹介していませんでした」

 

 突然、そんな事を言って椿の魔化魍を自分の側に連れて来る。

 

【私の名はフルツバキ、コソデノテ様を守っている者の1人です】

 

「私はフルツバキの育て親の姫です。貴女と同じお方に会うのはこれで9回目になります」

 

 2人の自己紹介を聞いてると何かおかしなことが聞こえた。

 フルツバキの方は守っている者の1人(・・・・・・・・・)と言い、姫はこれで9回目(・・・)と言った。

 前者の答えも気になるが、今は後者の方が気になる。

 

「9回目ってどういうことですか?」

 

「? ………ああ、その事ですね。実は私、貴女と同じ存在である歴代の王たちに会ったことがあるんです」

 

「「「「「え、えええええええ!!」」」」」

 

 幽冥と春詠、白、赤、そして何故か驚いてる錬の声は森の外にまで響き渡った。

 その様子を見る1つの影はふよふよと浮いていた。

 

SIDEジャック・オ・ランタン

 コソデノテの住む屋敷、日光浴をするには丁度いいような廊下に2体の魔化魍がいた。

 

【報告】【王と接触】

 

【………そうですか】

 

 全身が溶岩のような南瓜頭の魔化魍 ジャック・オ・ランタンに宙に浮く2つの首の魔化魍 マイクビが報告する。いつも一緒のもう1つの首は幽冥たちと接触するフルツバキとその姫の様子確認のため、この場にはいない。

 

【マイクビそのまま見ていて下さい。連中が襲って来てもおかしく無いんですから】

 

【分かった】【そう伝えとく】

 

 マイクビはそう言って、廊下から外へ出ていく。

 その様子を見ていた者に気付き、ジャック・オ・ランタンは声を掛ける。

 

【ヒャクメさん……ですよね? 話は終わったので出てきても大丈夫ですよ】

 

【【………】】

 

 そう言って姿を現わすのは鰭が凍った1つ目の複数の金魚の魔化魍 ヒャクメだった。

 

【ノツゴは如何でしたか?】

 

 ジャック・オ・ランタンはヒャクメと一緒に出たノツゴの事を聞く。ノツゴはジャック・オ・ランタンたちの中で一番幼い魔化魍で、みんなに可愛いがられてる。

 だが、最近まで戦闘の出来ない幼体だったので、今回のことを聞き、戦闘に参加させるかどうかの判断の為にヒャクメと一緒に戦いに行かせた。

 

【【補助は問題ありません。傭兵が相手でしたがあれなら問題なく戦えると思います】】

 

【そうですか。ノツゴは何処に】

 

【【氷像を運んでもらってます。後で氷菓子としてお出しします】】

 

【それはいいですね。私もあれは好きなんですよ】

 

【【そうですか。腕が鳴ります】】

 

 そう言うと、ヒャクメは金魚の絵が描かれた和服の少女に姿を変えて、屋敷の奥に行った。ジャック・オ・ランタンも姿を変えて、猛士北海道第1支部に潜入した際の姿、南 瓜火に変わる。

 

「会えるのが楽しみですよ。魔化魍の王」

 

 陽のあたる廊下で呟いた瓜火の声は誰にも聞こえずに風の中に消えた。




如何でしたでしょうか?
今回はオリジナルの魔化魍 マイクビが出てきました。
次回はひなにとってはキツい真実の話。少し、シリアス(?)かもしれません。


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記録陸拾参

ひなのシリアス(?)回でしたが、1話に纏めるのが難しかったので前後編に分けます。



 フルツバキの姫の驚愕の発言から数分経った。

 

 霧が出る森の中を歩く一団。

 フルツバキとフルツバキの姫を先頭に案内される幽冥一家(+捕虜)である。

 

 霧が出てるのを気にせずに前を普通に歩くフルツバキとその姫。だが幽冥たち、特に擬人態の姿になっている魔化魍たちは霧によって悩まされていた。

 擬人態の術は魔化魍としての本来の姿をほぼ人間に近い姿に変化することが出来る高等な術だ。それ故に本来の魔化魍として身体とは異なる人間の身体は等身大の魔化魍や人間としての身体の使い方を知っている蛇姫や美岬以外の家族のほとんどは人間の姿に慣れておらず樹に頭をぶつけたり、何もない所で転んだり、躓いたりする。

 

「後、少しで着きますので頑張ってください」

 

 霧は何のそのと歩くフルツバキとフルツバキの姫の2人に着いて行き、霧が少しずつ薄くなり、やがて大きな屋敷が見えてくる。

 

 入口の開いてる表門から見えるのは、木造建てで年代を感じる作りの大きな屋敷。石で出来た石灯籠が屋敷に並ぶ道に沿って、並べられてる。

 そして、表門を通り、少し歩くと屋敷が見えてきた。そんな屋敷の入り口の前には金魚の絵が描かれた着物を着て、頭に三角巾を付けた少女の姿をしたヒャクメが立っていた。

 

「初めまして魔化魍の王とその家族の皆様」

 

 幽冥たちにお辞儀をし、3秒で元の姿勢に戻し、幽冥達の中から誰かを探すように目を動かす。やがて探していたものが見つかったのか、その人物の側まで近づく。

 そして、その人物………ひなの前に立つとその手を掴む。

 

「!!」

 

「生きてた、生きてた。ひな様、お帰り、お帰りなさいませ」

 

 突然、涙を流しながらひなの手を掴むヒャクメ。

 ひなはこの光景に困惑しながら如何すれば良いのかというように幽冥と春詠に眼を向けるが、幽冥と春詠も如何すればいいのか分からなかった。

 

SIDEひな

 私のそばにまで急に手を掴むお姉ちゃん(?)。

 

「生きてた、生きてた。ひな様、お帰り、お帰りなさいませ」

 

 頭になつかしい声がひびく。

 幽冥お姉ちゃんに出会う前、この声をママやパパといっしょに聞いていた。

 そしたら、涙が流れてきた。そして、思い出した。

 

「ヒャクメお姉ちゃん?」

 

「!! 覚えてくださっていて嬉しいです」

 

ヒャクメお姉ちゃんは手をギュッと掴む。

 

「痛い、痛いよヒャクメお姉ちゃん」

 

「ああ、申し訳ありません」

 

 ヒャクメお姉ちゃんは手を離して、手をすりすりとなでる。私がケガをしたらいつもこうやってなでてくれた。

 

〜数分後〜

「大変すいませんでした、魔化魍の王」

 

 ヒャクメお姉ちゃんは幽冥お姉ちゃんに謝っていた。

 

「良いですよ。ひなの知っている人でしたから」

 

「それでは、此方に」

 

 ヒャクメは屋敷の引き戸を開けて中に案内した。

 

SIDEOUT

 

 ヒャクメという魔化魍に案内されて廊下を歩く、ギシ、ギシと歩くと鳴る木製の床は私が重いから鳴っているとは思いたくない。

 ヒャクメが立ち止まると、扉がなく暖簾のような大布を扉の入り口に付けた部屋にたどり着く。ヒャクメは入口の横に立った。

 

「此方に私の主人であるコソデノテ様がおります。魔化魍の王とひな様、そして信頼できる魔化魍を1人連れてお入りください。それとそちらのお2人の変身道具を私に渡してください」

 

 私とひな、そして信頼できる魔化魍(・・・)。確かに春詠お姉ちゃんや錬は人間でしかも鬼、万が一のこともある。

 そして、自分がここにいる事で何か怪しいことをすれば始末するというわけ。

 私の家族は全員信用できる…だが……1人しか連れていけない。そうなると–––

 

「美岬お願いね」

 

「分かった」

 

「お姉ちゃん、渡してあげて」

 

「まあ、しょうがないよね」

 

 春詠は服の下から変身鬼笛 慧笛を取り出し、錬の腰のベルトに付けてる変身音叉 突叉(とっさ)を取って、ヒャクメの手に渡す。ヒャクメはそれを裾から取り出した大きな布で包んで裾の中に仕舞う。

 

「では、此方に」

 

 ヒャクメは暖簾を持ち上げる。幽冥と美岬、ひなが暖簾を通るとヒャクメのは暖簾を下ろして、入り口に横に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 暖簾を超えた先には大きな和室だった。傷が少しあるが目立つ程ではない綺麗な畳。

 太めの達筆で書かれた紙を貼った壁掛け。古さを感じる年代物の壺。少し茶色のシミがついた行灯。その部屋の奥には大きな障子が外の景色が眺められる程度に開いており、その側に畳に着く程の長い黒髪を垂らし、紫陽花の描かれた小袖を着ている女性が障子の先にある景色を見ていた。

 

「随分、長いこと待ったな。再び会えるのをどれほど望んだか」

 

 女性はそのまま、向きを変えて此方に視線を合わせる。

 

「お帰りなさいひな。それと初めまして、魔化魍の王」

 

 女性の顔を見て、涙を流す。ひなはそのまま目の前の女性に近付く。

 

「おばあちゃん」

 

 ひなは女性に抱きつき、泣き始める。幽冥と美岬はひなの発言で目の前の女性の正体に気付く。

 そう。この女性こそ、佐賀の魔化魍を束ねる魔化魍 コソデノテだ。

 

SIDE◯◯

 幽冥たちの訪れた屋敷の表門に、低く響くエンジン音が木霊す。

 

「ん?」

 

 その単車に跨がる黒のライダースーツを着た者……男性ではあり得ない胸元の盛り上がり具合からして女性は、単車のスタンドを立て、被っているヘルメットを外す。

 金の長髪がヘルメットから解放されて広がるように下に落ちる。

 

「なんで、お袋の匂いがするんだ?」

 

 女性は単車を表門の近くに止めて、そのまま屋敷の中に入って行った。




如何でしたでしょうか?
遂にひなの家族ことオリジナル魔化魍 コソデノテ登場です。


質問コーナー回答の欄
常闇
【今回の質問は悪維持の美岬の持つ魚呪刀の能力の解説だ。前の時と同じように4本紹介させて貰う。補助として………】

葉隠
【葉隠です】

狂姫
【………狂姫です】

常闇
【この3人で紹介させて貰う。初めの1振り、畏鮫(いさめ)の能力だが、これの能力は自身のスピード強化。海の中だとさらに3倍強化される】

葉隠
【補助の術を受ければ、残像を使った攻撃が出来るようになる】

狂姫
【……2振り目は咬鱓(こうつぼ)です】

葉隠
【この刀の能力は傷の治癒阻害能力です】

常闇
【これはさらに術で強化すれば、治癒阻害から治癒不可能になる】

葉隠
【次は3本目、斑鰒(まだらふぐ)です】

狂姫
【……能力は毒液の貯蔵とそれの射出】

常闇
【この刀の毒液は海に住まう有毒生物の毒を吸い取り、それを貯蔵する。最大で50mプールと同じ量の毒を貯めれる】

葉隠
【最後は刺鱏(しえい)の能力は刀身の伸縮自在能力】

狂姫
【………伸縮自在に、神経毒付与が追加されてる。長さは何処まで伸びるか不明?】

常闇
【……気になる事解決したかの? 次話の投稿に残り4振りを紹介しよう】

葉隠
【気になる事があったら活動報告の質問コーナーに書いてください。また、今回の話を投稿にちなんで、出して欲しい特撮敵キャラがいたらそれも質問コーナーに書いてください】


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記録陸拾肆

先ずは、いつもより更新が遅れて申し訳ございません。

卒業出来るかどうかで、レポートを書くことになりました。いつもより投稿が遅れるかもしれませんがこれからもご愛読をよろしくお願いします。


SIDEあぐり

 春詠の妹で魔化魍の王の幽冥ちゃんが佐賀に行って数時間が経過した。

 

 朧は幽冥ちゃん達が転移した場所で丸くなって泣いている。そしてそれに同調するかのように周りの影がゆらゆらと蠢いて、少し怖い。

 しかも、さっきまで朧を慰めようとしていた骸も暴炎も影の手に捕まって地面に頭から埋め込まれて、犬神家のようになっている。

 

「何とか出来ないかな」

 

「無理だな。近づいた瞬間に骸や暴炎のようにされるだけだ」

 

 私の隣で喋る、鬼灯の絵が描かれた和服を着た赤と黄のオッドアイの青年の姿になった三尸は私にそう答えた。

 三尸は私と過ごすことが多い。あの北海道第1支部であの魔化魍モドキ(元支部長)を倒してからは一緒にいることが多い。私は春詠との仲もあり、捕虜ではない。

 だが、万が一という事もあり戦いには出してもらっていない。

 

 本当なら、戦いでも私は三尸と一緒にいたい。また、あのような姿を見たくない。

 だから、こうやって一緒に居れるときはずっと一緒に居たい。例え、魔化魍だろうと私は三尸が大好きだから。

 

SIDEOUT

 

 泣き続けるひなをコソデノテがなだめて、自分の隣に座れせた。

 

「さて、魔化魍の王………」

 

 コソデノテはそう言って、3本指を床に立てて頭を下げる。

 

「ひなを今まで守ってくれて感謝する」

 

「感謝は良いですよ。こっちもひながいるおかげで楽しんですから」

 

「そうか………所で、菊莉は何処におる」

 

 その言葉は楽しい雰囲気を一瞬で暗く変えた。さっきまで笑っていたひなの顔は影がさしたように暗くなった。

 

「………そうか。そういう事か」

 

 ひなの雰囲気で、コソデノテは察したのかそう呟いて、顔を天井に向ける。

 話し掛けないべきかと考える幽冥だったが、改めてひなとコソデノテ、そしてひなの持っていた『魔化水晶』を考える。

 ひなと初めて会った時に『魔化水晶』の存在を知り、今は4つの『魔化水晶』を持っている。その度に歴代の王と会って話している。その時にシュテンドウジノさんの言葉を思い出し、コソデノテに質問した。

 

「コソデノテ。あなたに聞きたいことがあるんです」

 

「なんだ王よ」

 

「ひなが持っていた魔化水晶の事です」

 

「………」

 

「貴女の孫ということはひなは少なくても4分の1は魔化魍の血を持つ人間です」

 

「………」

 

「ですが、魔化水晶は8人の鬼が持つもの。魔化魍の孫でもあるひなが何故、魔化水晶を持っていたのか、その理由を教えてください」

 

「………」

 

 コソデノテは沈黙し、そのまま数分が過ぎた。

 

「はーー。ひなの持っている魔化水晶は確かに8人の鬼である父が持っていたものだ」

 

「!!」

 

 ひなの父親は鬼! だが、そうするとひなの父親は–––

 

「ひなの父親 竹弥は8人の鬼である父親と魔化魍の私の間に生まれた息子だ」

 

 この言葉を聞き、私達は驚愕した。

 人間を喰らって生きる魔化魍とそれを清めて倒す鬼。交わるはずのない2つの存在から生まれた子供の子供、それがひなの正体だということだ。

 そして、ひなが『魔化水晶』を持っていた理由は分かった。

 だが、幽冥の隣で話を聞いていたひなの様子がおかしい。

 

「ひな、どうしたの?」

 

 幽冥がひなに質問するとひなはビクッと肩を震わせて、青褪めた顔を見て幽冥に向ける。

 やがて、青い顔のままひなは畳の床に倒れる。

 

「「「ひな(ちゃん)!!」」」

 

 3人の声が重なって、倒れるひなに呼びかけるが、ひなの意識は戻らなかった。




如何でしたでしょうか?
遂に明かされるひなの父親の正体。
ちなみに母親は普通の人間(鬼でも猛士でもありません)です。

次回は、人間ではないと知ったひなを慰めるため、フルツバキの姫が動く。

質問コーナー回答の欄

【跳でやす。皆さん久しぶりでやすね。今回の質問は前回の続きでやす】

荒夜
【補助は私、荒夜が行います】


【先ずは5振り目の突烏賊(とついか)でやす】

荒夜
【この刀の能力は視覚剥奪。刀身に10秒以上刺されると視覚を奪う能力です】


【この刀はあっしが美岬様と昔戦った時に使われたんでやす。おかげで1週間は目くらになってやした】

荒夜
【6振り目は幽蛸(ゆうだこ)


【気配や存在感を無くす能力を持ってるんでやす】

荒夜
【この刀を使って見つけられるのは、魔化魍の王や気配を操作するのに長けた魔化魍だけでしょう】


【7振り目は、壊鯱(かいしゃち)でやす】

荒夜
【その能力は触れた武器の完全破壊】


【この刀はさらにおまけに破壊した武器の特性を奪う能力も持ってやす】

荒夜
【最後の8振り目は堅鯨(けいげい)


【この能力は持ってる間、あらゆる物理攻撃を弾く】

荒夜
【刀が大きいのもあり、美岬様を含めて、5名までなら守ることも出来る】


【質問の回答は以上になりやす。気になることがありやしたらまた活動報告の質問コーナーに載せてくださいでやす】

荒夜
【では、また会おう】


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記録陸拾伍

更新完了しました。
待たせてすいませんでした。読み直して気付いたんですが陸拾陸と漆拾に矛盾点があったので直しました。
ですので、今回、三尸はお留守番組に変更しました。


SIDE◯◯

 猛士九州地方佐賀支部の地下の一室。

 その中には灰色の三つ揃えを着た男。猛士の狂開発者(マッドサイエンティスト)であり、ここ猛士九州地方佐賀支部の支部長。

 『Dr.ヘルシング』とも呼ばれる脳見 潘が立っていた。ニヒルな笑顔をいつも浮かべながら、目の前にある物を手に取った。

 

「くくく。完成だ!!」

 

 その手には、オカリナに似た音撃武器が片手に収まっていた。

 潘は自分の作り出したオカリナの音撃武器に頬ずりをする。頬ずりをしていてもその笑顔が崩れることはない。

 そうやって頬ずりをしていると部屋に誰かが入ってくる。

 

「Dr報告がーーーそれ、私の武器ですか?」

 

「そうだ。楽鬼ーー君の武器。その名も音撃気鳴笛(オカリナ)だ」

 

 頬ずりを止めて、そのまま目の前にいる佐賀支部の戦力である佐賀3人衆の1人、楽鬼に音撃気鳴笛(オカリナ)を渡す。

 

「ありがとうございますDr!!」

 

「ふふ。構わないよ。それで何の報告かな?」

 

「はい。例の子供が来たようです」

 

「ほお!!」

 

  潘の笑みは歪みを増して、顔の半分は笑みによって歪んだ口になっていた。そして、顎に手を当てて何かを考え込む。

 

「楽鬼。錫鬼と岸鬼を呼び、すぐに傭兵と共に子供を奪いに行きなさい」

 

「分かりました」

 

 そう言って、楽鬼は部屋から出て同僚である同じ『佐賀3人衆』の2人を呼びに行った。

 

「そうか来たか。ならば、アレを使おう!!」

 

 残った潘は誰もいない中で1人昂ぶる気持ちを抑えられずに叫んだ。

 

SIDEOUT

 

 ひなが倒れて、数時間経った。

 あの後、倒れて騒ぐ私たちのところにヒャクメが部屋に入り、ひなを寝かせられるように布団一式を持ってきてひなを布団に寝かそうとするが、その前にひなが目を覚ます。

 だが、ひなは直ぐに私たちの所から屋敷の何処かへ消えた。

 

 屋敷の和室で屋敷の主人たるコソデノテやヒャクメを除いて、幽冥の家族は全員擬人態の姿で集まっていた。

 

「ひなは自分が人間だと思ってたのかな?」

 

 以前、海で出会った時と同じ姿の波音がそう聞いてきた。

 

「いいえ。薄々は気付いていたのかもしれません。あの子は妙に鋭いですからーーーそれで、どうしますか王?」

 

 波音の言葉に答えた白はそのまま幽冥に聞く。

 

「確かにひなの事は驚いた。けど、その程度のことで揺らぐ程の付き合い?」

 

 幽冥の言葉を皆、否定するように首を振る。

 

「そうでしょ。それにひなの心配ならいらないよ」

 

 幽冥の言葉に全員驚くが、何かあると思った全員が1度ひなの事を置いて、話を続けた。

 

「(ひなの事はお願いね。フルツバキの妖姫)」

 

SIDEひな

 ひなは人間じゃない。なんとなく分かっていた。

 

 お父さんもお母さんも多分、ひなのせいで死んだ。

 

 ひなと関わったら幽冥姉ちゃんやヒャクメお姉ちゃん、波音もおばあちゃんも死んじゃう。だから–––

 

「ここに居たのですねひな様」

 

 ひなの後ろにはフルツバキの姫がいた。

 

「ひなに何の用?」

 

 不機嫌 ですよというオーラを醸し出しながらひなはフルツバキの姫に質問する。

 

「ひな様、少しだけ私に着いてきてもらって良いですか」

 

 ひなの手を掴んで、無理矢理歩き始める。

 

 フルツバキの姫に連れられ着いたのは少し広い庭で、ひながよく遊んでいた場所でもある。

 だが、その庭の真ん中で鍬形のような大顎を持つ蠍の魔化魍 ノツゴとノツゴの対照的な位置に立つのは赤紫色の身体で腰には巻かれた革のベルト、そして手には戦斧と上半身を隠せるような大きな盾を持った蠍の怪人がいた。

 

 ノツゴは自慢の尻尾を目の前の蠍の怪人に振り下ろすが怪人は盾を前に突き出すと、ノツゴの尻尾はまるで見えない空間の隙間に防がれるように尻尾を盾に突き刺せなかった。

 

 蠍の怪人は盾でノツゴの尻尾を弾き、ノツゴに接近して戦斧を振り下ろす。

 

 蠍の怪人の振り下ろした戦斧を鍬形の大顎で挟み、頭に振り下ろされるのを防いだ。

 だが、蠍の怪人はそれを待っていたように大顎に向かって蹴りを入れる。大顎を蹴られたノツゴはそのまま体勢を崩して倒れこむ。

 

「少しはマシになったな」

 

【もうちょっと手加減してよ!! 顎が少し曲がりそうになったよ!!】

 

「鍛えていないお前が悪い」

 

 蠍の怪人にぶーぶー文句をいうノツゴだが、フルツバキの姫の存在に気付くと、こっちに向かって走ってくる。ノツゴは走ってる途中で光に包まれてフルツバキの姫に飛びついたのは先程の姿ではなく黄色のパーカーを着た幼女だった。

 

「何か用なの?」

 

 これがひなとノツゴの出会いだった。




如何でしたでしょうか?
暗躍を始める佐賀支部、そして、ひなを慰められるのかノツゴ。
そして、ノツゴと戦っていた怪人は察しのいいお方にはすぐわかると思いますが、次回は少しだけその怪人の紹介も入れようと思います。


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記録陸拾陸

更新完了です。
今回はひなとノツゴの話とその前に少しだけ佐賀支部のオリジナル鬼が出てきます。
そして、蠍の怪人の正体は………まあ、言わなくてもわかると思いますが……

とりあえず、記録漆拾弐をお楽しみください。

それとお気に入りが200突破しました。これからもご愛読お願いします。


SIDE楽鬼

 猛士九州地方佐賀支部には『佐賀3人衆』という3人の鬼がいる。

 それぞれ楽鬼、錫鬼、岸鬼といい、Drと呼ばれる藩によって手塩にかけて育てられた鬼たちで、その実力は北海道地方第3支部にいた『松竹梅兄弟』と同等の力を持つ。

 

「岸鬼。遂に我々も動けるようだ」

 

 そう話すのは、僧の姿をした青年 錫鬼。

 

「そうか。ようやく暴れられるな」

 

 腕を回しながら喋るのは、ぼろぼろの革ジャンを着た青年 岸鬼。

 

「ほらほらお二人さん準備、準備」

 

 その2人に注意する3人衆の紅一点 楽鬼は楽しげな表情で笑っている。

 3人の鬼の後ろには能面のように表情のない人間たちが立っていた。

 

 今、新たな戦いの火ぶたが落とされつつある。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEひな

フルツバキの妖姫に飛びつく黄色のパーカーを着た幼女を見て、蠍の怪人はやれやれと首を振る。

 

「甘え癖をどうにかできないか妖姫」

 

「良いじゃないですかレイウルス。子供に厳しくだけは可哀想ですよ」

 

「………」

 

 蠍の怪人はフルツバキの姫の言葉を返そうとせずに戦斧と盾を頭上に現れた青い渦の中に仕舞い込み屋敷の中に戻っていった。

 ひなは何となく苦労していそうな雰囲気を見せる蠍の怪人が屋敷の奥に消えるのを見た後にフルツバキの姫に抱きつくノツゴと視線が合う。

 

「ねーねー名前なんて言うの?」

 

「え?」

 

「だから名前だよ。な・ま・え」

 

 名前を聞こうとするためかフルツバキの妖姫の肩越しにノツゴがひなに迫る。勢いのせいか少し引くが、ひなはその質問に答えるためかノツゴとは違うフルツバキの妖姫の反対側……つまり背中に登って、ノツゴの顔の近くに顔を寄せる。

 

「ひな。私の名前はひな」

 

「ひな……ね。そんな事より遊ぼう」

 

「ええ。ちょ、ちょっと」

 

SIDEOUT

 

 

SIDEフルツバキの姫

 ひなをノツゴに合わせて正解だった。この様子なら離れても問題なさそうだが、いつ佐賀支部の鬼たちが来るかわからない。だから、見える位置で座って見守っている。

 本来ならもう1人呼びたいところだけど、その心配はなさそうだ。

 なにせ–––

 

「貴方もこっちにいれば良いでしょうにレイウルス(・・・・・)

 

「あいつが何をやらかすか分からないから監視しているだけだ」

 

 屋敷の中に戻った筈の蠍の怪人……いやスコーピオンロードことレイウルス・アクティアがフルツバキの妖姫が座る場所とは違い庭側からでは見えにくい場所でひなとノツゴを見守っているからだ。

 

 察しのいいお方なら既に気付いてるだろうが、このスコーピオンロード–––––レイウルス・アクティアはもちろん魔化魍ではない。なら彼は何者かというと彼は天使である。

 

 冗談。いえ冗談ではなく、彼は神に仕える天使であり、さらに言うなら人間以外の生物の原型ともいえる。

 だが天使といっても良い天使では無い、彼らの種族の名は『マラーク』。人類を創造したといわれる神の如き存在 『闇の力』に仕える超越生命体。

 その『闇の力』とは違うもう1人の神の存在が人々に与えた力によってアギトに覚醒するのを恐れて、覚醒の兆しのある人間または超能力を持つ人間を『闇の力』の代わりに神罰を下すように人類では不可能な超常能力で殺す。

 人々はこれを『不可能犯罪』といい、警察は彼らを『アンノウン(・・・・・)』と呼んだ。

 

 さて、そんな彼が何故、ここにいるのかというと、ノツゴを心配しているからここにいる。

 何故、魔化魍であるノツゴを心配しているのかというと、彼は保護者としてノツゴを心配しているからだ。彼がノツゴの保護者をしているのは、ノツゴの本当の親であるノツゴの童子と姫に託されたからだ。

 

 レイウルスはかつてこことは違う世界で、『闇の力』からアギトになる可能性のある人間を殺していた。だが、アギトになった人間(津上 翔一)が変身する仮面ライダーアギトに倒されて、この世界で目覚めた。

 しかし、アギトに倒された時の傷はそのままで下手をすれば死ぬ傷だった。

 

 だがその時、死ぬはずだったレイウルスを救ったのが今は亡き、ノツゴの童子と姫だった。

 同じ蠍に似たモノの縁でレイウルスは傷を治すのに専念した。その時に生まれたのがノツゴだ。生まれたばかりということもあり童子と姫はノツゴの餌となる人間を探すために度々、レイウルスにノツゴを預けていた。

 不器用ながらもレイウルスは世話になった恩でノツゴの面倒を見ていた。

 

 ある時、何時ものようにノツゴの童子と姫はノツゴをレイウルスに預けて、人間を探していた。だが、運悪く猛士が派遣した鬼によって、瀕死の傷を負った。

 その死に際にノツゴの童子と姫はレイウルスにノツゴを託し、そのまま塵と変わった。

 

 レイウルスは、ノツゴの童子と姫を追ってきた鬼からノツゴを守るために戦った。それ以来は、猛士から追われながらノツゴを育てていた。

 そんな生活をしていて時に、ジャック・オ・ランタンに出会った。

 

 そこからは効率よくノツゴの餌を手に入れる為、レイウルスはジャック・オ・ランタンと行動を共にするようになった。

 

 フルツバキの姫がひなにノツゴを合わせたのは過去の境遇を気にせずに前向きに生きてるノツゴの持ち前の明るさでひなを元気付けようとしたからだ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEひな

 ひなはノツゴと遊んでいる。

 

 さっきまで考えていた事を忘れて、ひなは遊んだ。

 

 ひなはノツゴと遊んでいて、ひなは思い出した。

 ひなのことを人間でもなく、化け物でもなく、ひなとして見てくれる友人を、ひなにいろんなものをくれる者をひなを家族という者をひなは目尻に涙を浮かべて、その様子にどうしたかとノツゴが寄ってくる。

 

「どうしたの?」

 

「何でも……ない……何でも、ひっぐ、ないよ」

 

 泣くひなをノツゴは抱きしめて、背中をぽんぽんと叩く。

 今のひなの顔はさっきまでの暗い顔ではなく涙を浮かべてるが笑っている明るい顔が浮かんでいた。




如何でしたでしょうか?

今回はこのような感じです。次回は前半をお留守番組の様子、後半にはジャック・オ・ランタンと幽冥の再開。+食香のある者との再開を書こうと思います。

気になる質問がありましたら活動報告の質問コーナーに書いてください。
オリジナル魔化魍も絶賛募集中ですので、アイディア待ってます。


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記録陸拾漆

73話更新です。
今回は前回言った通りにしようと思いましたが、さらに猛士のSIDEも入れました。


SIDE潘

「戦いの準備は整ったかね楽鬼」

 

「はい。みんな殺る気満々ですよーーー」

 

 緊張感のない楽鬼の楽しそうな声が部屋に響く。錫鬼と岸鬼は仁王立ちの状態で潘の後ろに立っている。

 

「では…………諸君。これからやる事にやる気がないのなら降りてもらっても構わないよ」

 

 藩は目の前にいる傭兵たちに参加するのかしないのかと問うた。

 だが、その質問は意味のないもの。その理由は–––

 

「まあ、君たちに意識はないからね。聞いても仕方ないか」

 

 彼らの意識は藩の作った特殊な勾玉から発する力によって奪われていた。そこにいるのは自分の意思では動くことも喋ることもできない人間。しかも、藩たちは彼らを傭兵と呼ぶが、実際は違う。

 

 彼ら全員、戦闘のせの字も知らない一般人。だが、藩の持つ勾玉によって無理矢理知識を植え付けて、傭兵と呼んで使っているのだ。

 その事を勿論、『佐賀3人衆』も知っているいや、むしろ知らなかったらおかしい。この傭兵と呼ぶ、一般人をこの佐賀支部に連れてきたのは他ならぬ『佐賀3人衆』なのだから。

 

「では、佐賀3人衆!!」

 

「「「………」」」

 

「傭兵たちを引き連れて、目標を捕まろ。何を使っても構わない」

 

 藩の声を聞き、静かに待つ『佐賀3人衆』の手には各々の変身道具があった。

 

「諸君達の活躍で我らの夢が叶う。皆、身を塵に変えるまで戦え」

 

「「「応!!!」」」

 

 佐賀3人衆が答えると、傭兵たちも一斉に声を上げる。

 

「さあ、戦闘の始まりだ!!」

 

SIDEOUT

 

 

SIDE命樹

 睡樹と共に野菜の種を植え終わり、睡樹と水をあげている。

 如雨露といわれる人間の作った水を入れて植物に水をやる為の道具で、普段睡樹は自身の飲む水を入れて、身体に巻きつけている物。今はツタから外して、植えた種に水をあげている。

 

睡樹

【早く……実ら…ないか……な】

 

命樹

【王によるとそんなに直ぐ実るものではないらしい。気ままにやるしかないだろ】

 

睡樹

【そっ……か】

 

 直ぐ実らないと知って少し、悲しそうに顔を下げる睡樹。

 睡樹の悲しそうな顔を見て、命樹は脚から出てる根を先程、種を植えた場所に突き刺す。

 せっかく植えた種に何をするんだと睡樹は命樹の脚の根を抜こうとするが、命樹の根の先、地面からポッと小さな芽が出始める。それを見て、睡樹は根を抜こうとするのを止めて、そのまま眺める。

 

 すると芽はポンポンと次々に生えて、そのまま少しだけ茎を伸ばして少し成長する。

 

 ある程度、成長したと思った自分は、根を抜く。少しフラッとしたて倒れそうになるが、睡樹が自分を支えてくれた。

 

睡樹

【何を…やっ……たの?】

 

命樹

【出来るかどうかは分からなかったが、自分の養分を野菜に分けた】

 

 命樹の種族であるジュボッコは自身の体内にある養分を他の植物又は植物系魔化魍に分け与える能力を持つ。

 そして、今回はそれを使って野菜に養分を分けたのだが、もちろんいいことばかりの能力ではない。この能力で分ける養分はジュボッコの身体から生み出されている。その為、養分を与えるとジュボッコの体内の養分は減っていき、倒れる。下手をすれば命を削る力でもある。

 

睡樹

【………】

 

 睡樹は命樹を地面に寝かせて、如雨露の中に少し残しておいた水を命樹の脚の根に置いて、根を如雨露の中に突っ込む。

 

命樹

【これは、お主の水だろう】

 

睡樹

【野菜を…少し……育てて…くれたお…礼】

 

 そのまま睡樹は如雨露の中の水が切れるまで命樹の側で座りながら待っていた。

 そして、そこから少し離れた所には–––

 

五位

【ようやく彼奴にも春が来たのか、ううう】

 

 その光景を嬉しそうに見る相棒(五位)が居た。

 

SIDEOUT

 

 ひなの事をフルツバキの姫に頼み、家族でどうするかを話そうとした時、部屋の襖を勢いよく開く。

 開いた襖の奥から中に入ってきたのは白衣を着たボサボサな黒髪の男と複数の魔化魍たち、その中には先程、私たちを案内したフルツバキもいる。

 白衣の男が座ると同時に他の魔化魍も光りその姿を人間に変える。

 

「初めまして今代の王、いえお久しぶりというべきでしょうか」

 

 白衣の男が、私に挨拶するが少しおかしな挨拶だ。私は目の前の男と会ったことはない。さらに言えば、白衣の男と同じように座る他の魔化魍も知らない。

 春詠お姉ちゃんや美岬のように前世の友人というわけでもなさそうだ。

 

「うん? ああ、そうでしたね。この姿では会ったことがありませんでしたね」

 

 すると白衣の男の身体は光を放ち、その姿を変えた。

 その姿は動く溶岩だった。その姿を見て、何かを思い出しそうになるが、何かあっと一歩という感じで思い出せない。

 

「あ、あの王」

 

 擬人態となった唐傘が小さく手を挙げて、小さな声で私に声をかける。

 

「あの時に…会った魔化魍だと思う」

 

「あの時?」

 

「北海道で変なのと戦ってた時に」

 

 それを言われて思い出した。そうだ。

 北海道第1支部でシュテンドウジさんの力を借りて変なのと戦った時、私のピンチに助けてくれてそのまま消えた魔化魍。

 

「あ、あの時の」

 

【お久しぶりです。あの時は挨拶もせずに去り申し訳ございません。私はジャック・オ・ランタンと申します】

 

 ジャック・オ・ランタンは自己紹介が終わるとその左隣にいた左足に石枷を付けた幸薄の女性が立ち上がり、その姿を魔化魍(本来の姿)に変える。

 

 幸薄の女性がその姿を石灯籠が背中の甲羅と一体化した亀の魔化魍に変える。

 

【私の名前はバケトウロウです】

 

 バケトウロウの自己紹介が終わると、次は右隣にいた右腕全体と左脚が白骨化している普通の人間ではなさそうな姿の女性が頭部と尻尾が白骨化している蛇の魔化魍に変わる。

 

【私はテオイヘビ、宜しく王様】

 

 テオイヘビの隣に立っていた業平格子の着物を着た両把頭の女性がフルツバキに姿を変える。

 

【自己紹介するまでもありませんが、フルツバキです】

 

 バケトウロウの隣に居た黒の手提げ袋を持った女性が3つの女性の頭の魔化魍に姿を変えた。

 

【私たちは】【マイ】【クビ】

 

 同じ顔に見えるが抑揚が少し違う、マイクビは変わった自己紹介をした。

 

【そういえば、あの子は何処に?】

 

【あの子ならレイウルスと訓練してる筈】

 

 ここに居ない誰かを探すバケトウロウの質問にテオイヘビが答える。

 あの子というのとレイウルスという聞いたこともない妖怪(?)は誰かと思い、その事を聞こうと幽冥は質問しようとするが–––

 

 勢いよく閉められてた襖が開き、そこからヘルメットを抱えた黒のライダースーツを着た金髪の女性が入ってくる。

 

「あれ、お袋の匂いがしたから来たけど、お袋居ねえなぁ」

 

 先程、バケトウロウが言っていたあの子なのかと思い、ジャック・オ・ランタンたちの方を見てみると彼らも誰というような困惑した顔だった。

 そして、そんなこちらの考えを気にせずにライダースーツの女性は鼻でスンスンと匂いを嗅ぎながら、食香が座るところで止まる。

 

「スンスン。お袋の匂いがするな姉さん、あんた何者?」

 

「お袋…………その呼び方はあまりしないでと言いませんでしたか。ねえーー」

 

 目の前に立つライダースーツの女性に、何か論すよ喋りかける食香はライダースーツの女性に顔が合うように顔を上げる。

 

「オクリイヌ」

 

 ライダースーツの女性は驚き、もう一度食香の服にスンスンと匂いを嗅ぐ。

 

「お袋なのか?」

 

「久しぶりだね不良娘(オクリイヌ)

 

 目の前にいる者に対しての食香の喋り方は、まるで親しい者に言うような喋り方だった。




如何でしたでしょうか?
今回は遂にジャック・オ・ランタンとオリジナル魔化魍の一派とオクリイヌを出すことが出来ました。
次回は、戦闘にまでもっていきたいとおもいます。


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記録陸拾捌

オクリイヌの紹介回とついにジャック・オ・ランタンが………な回です。


 送り犬。

 東北から九州に至る各地にいる妖怪。姿は犬が多いが地方によっては狼の姿であったり、また地方によって行動も違う。基本的には夜中の山道を歩いてると後ろからピタリとついてくる犬が現れる。その時に転んだりすると、犬に食い殺される。だが、転んだとしても転んだ風に見せなければ襲われない。

 ここは各地共通だが、犬が体当たりして突き倒そうとしたり、転ぶと何処からか大量の犬が現れ襲ってきたりなどと地方によって違う。

 また、山を抜けたあとに「さよなら」や「お見送りありがとう」と言うと去ったりする。

 『小県郡民譚集』によると長野県の塩田(現・上田市)に住む女が、出産のために夫のもとを離れて実家に戻る途中、山道で産気づき、その場で子供を産み落とした。夜になって何匹もの送り犬が集まり、女は恐れつつ「食うなら食ってくれ」と言ったが、送り犬は襲いかかるどころか、山中の狼から母子を守っていた。やがて送り犬の1匹が、夫を引っぱって来た。夫は妻と子に再会し、送り犬に赤飯を振舞ったという。

 

 という話のある妖怪。

 前に朧が食香から聞いた話によると食香は私たちと出会う前に数々の親無し魔化魍を自分の子供のように自身の肉をあげて育てていたらしく、今は各地に散って、たまに会いにくるらしい。

 私の近くにいる乱風も食香に育てられた子供らしく、親離れした後に茂久と会ったそうだ。

 

 そして、食香が娘と言った目の前のオクリイヌ(擬人態)は現在、食香の前で正座して、食香のありがたい(?)お説教を受けていた。

 

「オクリイヌ。前に言いましたが、私をお袋と呼んで親しむのは嬉しいのですが、その口調は直しなさいとあれほど言った筈です」

 

「はい」

 

「少しは連絡として私に会いに来てくれてもいいじゃないですか。それを『ガキかよ』みたいな事を言って会いにきてくれませんし」

 

「はい。すいません」

 

 食香の説教でどんどん小さくなり、顔を下げて畳の床に顔が着きそうなライダースーツの女性。

 

「それn……」

 

 これ以上は流石に可哀想だし、止めるか。

 

「はいはい食香。この子も反省しているみたいだし、ね」

 

「む。そうですね8分の2は言えたので今日はこれくらいにしてあげます」

 

 ライダースーツの女性は顔を上げて、キラキラした目で幽冥に感謝の視線を送る。

 

「あ、でも今度説教の続きはさせてもらいます」 

 

 上げて落とすとはまさにこの事の如く、オクリイヌの表情は再びどん底に落ちたくらいに暗くなった。すると、乱風がオクリイヌの肩を叩いて、慰める。

 

「まあ、その時は私も付き合うよ」

 

「ありがとな」

 

 乱風の言葉で少しはましになったのか暗い顔は少し晴れていた。

 

「それで、ジャック・オ・ランタン。貴方は私に何のようですか?」

 

【そうでした、目的を言わずに話が終わりそうでした】

 

 するとジャック・オ・ランタンとその仲間はその姿を人間に変えて、片脚を付いた体勢に変えて、幽冥に顔を向ける。

 

「「「「「我らを王の家族にしてほしい!!」」」」」

 

 5人の願いの声が響く。

 部屋の音は何も聞こえなくなり、ただ静かな空間の中で5人の魔化魍は王である少女の答えを待っていた。

 幽冥の答えは勿論。

 

「私、9代目魔化魍の王が貴方たちを家族とします」

 

 その答えを聞き、部屋は騒がしいを超える歓声に包まれた。

 ある者はその答えに涙を流しながら喜び、ある者は新たな家族に喜び、ある者は帰る時に使う術の変更に困ったり、ある者は新たな恋敵が出来ないか警戒したりと多様な反応があった。

 

「………名前を考えないとね」

 

 実は幽冥、家族となった魔化魍に名前を付けるのは好きらしく、ちゃんとその種族と個性にあったような名前を考えるのが楽しいようだ。

 

SIDE錫鬼

 今回は遂に我らが動くことを認められて、少し興奮を隠せない。というか、既に戦闘前の高揚で口角は上がりっぱなしで、同僚の岸鬼の注意があって、口角を直すもすぐに上がってしまう。

 

「また笑ってるぞ錫鬼」

 

 再び注意されるが–––

 

「ダメです。高揚のせいでもう笑いを抑えられません」

 

 口角を直すのやめたらもう、にやけが止まらない。嗚呼、嗚呼、早く戦いたい。

 

 だが、ただ戦うのはつまらない。何か大切なものを弱みを使って、ひたすら戦う(遊ぶ)。そして、命乞いのように擦り寄って来た魔化魍を惨めに殺す。

 

 嗚呼、想像しただけで興奮が高揚が治らない。

 

 早く、この高揚を解き放たせてくれ。

 

SIDEOUT

 

 ジャック達の名前を考えてる時、また襖が開いた。

 また知らない人(魔化魍)が入ってきたのかと思ったら、入ってきたのは黄色いパーカーを着た幼女とその幼女に手を引っ張られて来たひなが入って来た。

 

「ほら、ひな言うことあるでしょ」

 

 幼女に背中を押されて、ひなは私の前に出てくる。

 

「お、お姉ちゃん。さっきはごめんなさい」

 

 ひなはそう言って頭を下げる。

 

「ふふ。別にひなに怒ることは何もないよ。それにそれはひなのお婆ちゃんに言った方が喜ぶと思うよ」

 

 私が怒っていないことが分かって、そのまま襖開けたまま、ひなは何処かに向かった。言うまでもなくコソデノテの所に行ったんだろうけど、心配してなのかひなが部屋を出てすぐに食香と波音と黄色いパーカーを着た幼女が後を追った。

 

SIDE楽鬼

 目的の場所に着き、傭兵達を指定した場所に配置させる。

 

 錫鬼は既に準備完了というか既に逝かれてるというようなテンションだ。岸鬼は自身の音撃武器を構えて、いつでも戦えるように構えてる。

 さて………

 

「みなさん、撃ち方始め!!」

 

 楽鬼の号令が傭兵たちに響いき、傭兵たちはその手に持つ対魔化魍炸裂式狙撃弾の入った銃を構えて、幽冥たちがいるコソデノテの屋敷に放たれた。




如何でしたでしょうか?
次回は遂にひな編の戦闘回に入ります。楽しみに待っていた皆様が期待できるような戦闘回を書きたいです。


【気になった事があったら活動報告の質問コーナーにどんどん送ってよね】


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記録陸拾玖

はい。ついに入りましたひな編の戦闘に…………といっても今回は役割分担の回です。
本格戦闘は次回になります。


SIDE波音

 ひなが心配で食香と共に後を追いかける。

 そして、ひなの近くを走る幼女はおそらく、ジャック・オ・ランタンが言っていたあの子なのだろう。ひなの祖母であるコソデノテがいる部屋に向かう途中、変な音が響く。花火を打ち上げた時に出るような音がどんどん近付き、それが屋敷の何処かにぶつかった瞬間–––

 

 屋敷全体を揺らす程の爆発と轟音が次々と起きる。

 ひなと幼女はその揺れで足のバランスを崩して、倒れそうになるが、食香が本来の姿に戻って、自身の身体を千切り、ひなの倒れそうな位置に投げる。千切れた破片は無数の分体に姿を変えて、ひなと幼女の倒れる位置に並ぶ、ひなと幼女が倒れるとブニュウと肉に沈み込んだような音が鳴り、ひなと幼女は怪我をせずに食香の分体のクッションに倒れた。

 

波音

【食香、王に知らせて敵が来たって】

 

食香

【分かった】

 

 私も本来の姿に戻って、ひなの元に行くと、ひなは気絶していた。幼女は少し頭をカクンカクン揺らしていたが問題はなさそう。王への報告とひなの護衛を呼ぶ為に食香を向かわせた。

 

 ひなの側を離れないようにして、そのまま手を握ってひなの側でひなの護衛を待つ。

 幼女はいまだに頭が揺れてる。

 

SIDEOUT

 

 ひなが部屋を出て少し経ってから屋敷全体を揺らし、響く爆発音。

 屋敷の一部が燃えたのか焦げ臭いにおいがこっちにくる。この状況から考えると–––

 

食香

【王、猛士の鬼たちの攻撃のようです】

 

 そう考えてると、擬人態の姿ではない本来の姿に戻った食香が開きっぱなしだった襖から飛び出して報告をいれる。その報告を聞くと、己の武器を服の下から取り出す白と赤、本来の姿に戻っている家族、片脚を着いていたジャック・オ・ランタン達が私からの命令を待つように静かに待っていた。そして、その代表かのように白が口を開く。

 

「王よ御命令を」

 

 私は服をシュテンドウジさんと同じ赤紫の着物に変えて、家族達の前に立つ。

 

「猛士が攻めて来た。ここには私たちの家族、ひなの本当の家族がいる。

 ひなに再び家族と別れさせるような事をさせてはいけない…………猛士(奴ら)を貫け、切り刻め、引き千切れ、焼き尽くせ、擦り潰せ、絡み取れ、そして屠れ。ありとあらゆる力を持って猛士(奴ら)を消せ!!」

 

グルルウウウウウウウウ ノォォォォォォォン ウォォォォォォォォォ カララララララ

ヒュウウウウウウウウウ フアアアアアアアアア プルルルルルルルル キキキキキキキ

ルルル、ルルル、ルルル、ルルル チュッチュッ、チュッチュッ、チュッチュッ、

ビュウウウウウウウウウ カッカッカッカッカッカッ ユラユラ、ユラユラ、ユラユラ

シャアアアアアアアアアアア ポロロロロロロロロロ カラン、カラン、カラン、カラン

 

 私の声を聞き、皆声を上げる。そして、先程の自己紹介の後に聞いた、ジャック・オ・ランタン達のそれぞれ能力と私の家族の能力で出来る役割をそれぞれ考えて、その役割を告げる。

 

「先ず、土門と羅殴、唐傘、フルツバキで気付かれないように樹の上に移動、奴らが次の弾を込めた瞬間に奇襲。

 この鬱陶しい音を止めて」

 

 先ずはあの攻撃を辞めさせるために奇襲に向いた者を送り込む。

 

土門、羅殴

【【かしこまりました】】

 

唐傘

【わ、わかった】

 

【任せて】

 

「白、赤は土門たちに指示を与えて、蛇姫は白達の補助を」

 

「「王の御命令のままに」」

 

蛇姫

【分かった。補助は任せろ】

 

「次に崩、食香、乱風、ジャック・オ・ランタン、バケトウロウは屋敷に侵入しようとする敵から屋敷を守って」

 

 次に崩達に屋敷の防衛を任せる。巨体を活かした妨害や無限増殖する食香、風の壁、溶岩、触れたものを石化させる右脚といった妨害に適した者たちに頼む。

 

【一歩も通すつもりはないわい】

 

食香

【ひなを泣かせないために】

 

乱風

【私の風の塵にしてやります】

 

【焼き尽くしてあげます】

 

【王の望むまま】

 

「それでも屋敷に侵入して来たら美岬、常闇、テオイヘビ、マイクビが対処して」

 

 防衛してくれていても万が一があるので、戦闘能力の高い美岬と常闇、テオイヘビとマイクビで万が一を防ぐ。

 

美岬

【分かったよ幽】

 

常闇

【任せろ】

 

【おうよ】

 

【分かった】【分かりました】【……分かった】

 

「春詠お姉ちゃん、ランピリス、眠眠、浮幽、蝕はコソデノテとヒャクメを見つけて守ってください」

 

 ひなの残された家族、それを失う訳にはいかないので、春詠お姉ちゃん達に護衛を任せる。

 

「眠眠、寝ないで起きてください」

 

眠眠

【後、少しだ「ダメです!!」ううう】

 

浮幽

【ルルル、ルルル】

 

【あの薬とこの薬を……ブツブツ】

 

「それと、私は突鬼の見張りだよね」

 

 春詠お姉ちゃんの側には突鬼が首に手を置いてあぐらで座っていた。

 

「だから、何もしねえよ」

 

 だが念には念を………もし、いざ裏切られてはたまったものではない。

 

「以上のように行動を開始してください。それと鬼と遭遇した場合は、1対1ではなく、複数で戦うようにーーーーでは、行動開始!!」

 

 

 

 

 

 現9代目魔化魍の王の家族は動いた。

 そして、食香の後ろを着いて行こうとしたオクリイヌを幽冥は呼びかける。

 

【何かようですか王様?】

 

「はい。貴女には少し頼みがあります」

 

 幽冥はオクリイヌの耳に顔を近付けて、何かを教えると………

 

【な〜るほど!! イイぜ。私1人か?】

 

「はい。頼みますよ」

 

【応よ!! じゃあひとっ走り行ってくる!!】

 

 オクリイヌはライダースーツの女性の姿に変えて、何処かに走っていった。




如何でしたでしょうか?
今回は内容の通りの役割で猛士佐賀支部と戦います。
そして、オクリイヌも活躍します。どんな活躍かは………それはひな編の戦闘中のいずれかで出ます。

作品質問コーナーの質問を募集中です。


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記録漆拾

お待たせしました。ひな編の戦闘回になります。
先ず最初に誰を出すかで悩みこういう編成になりました。
では、お楽しみください。


SIDE錫鬼

 屋敷から離れた森の中に数十人の傭兵を連れた錫鬼がいた。

 自身の音撃武器 音撃棒 錫浄を手で叩きながら、次をどうするか考えていた。岸鬼と楽鬼はこの場に居らず、目的のものを探すために傭兵を多数引き連れて、向かった。

 

「ふむ、あと2〜3回撃って。その後、各自の判断に任せて、我も向かうとしよう」

 

 傭兵たちに次の弾を込めろと指示を送り、発射させようとした瞬間、何かが動いた音が聞こえ、不意に上を見上げると樹の上から糸を垂らして身体を支えて自身の首を狙う為に糸の付いた前脚を振り上げるツチグモの土門の8つの複眼と目があう。見られたと気付き、土門は一気に前脚に付いてる糸を振り下ろす。

 

 糸が鉄にぶつかったとしても普通はこんな音が出ないが、金属同士のぶつかった音が響き、土門の攻撃は失敗した。土門は急いで樹の上に戻ろうとするが、それをさせるまいと錫鬼の投げた茜鷹のディスクアニマルで糸を切られて、土門は重力によって地面に落下する。追撃のチャンスとみた錫鬼はそのまま、音撃棒 錫浄で叩き潰そうと振り上げて、土門の腹部に目掛けて振り下ろす。

 

 ドゴンと音が響くがそこには土門が居らず、錫浄によって砕かれた地面と何かの一部の破片(・・・・・)しか無かった。そして、土門は上から伸びた蔓に掴まって某ゴリラに育てられた青年のように助けた羅殴の腕に掴まっていた。

 錫鬼は土門と羅殴に向かって、ディスクアニマルを追撃させる指示を出そうとした瞬間、地面から植物の蔓が出てきて、傭兵を一部巻き込んで、錫鬼の手足を縛る。更に頭上からはクナイが飛んでくる。

 だが、錫鬼は縛られてる右腕の蔓を先程飛ばした茜鷹のディスクアニマルが切り裂き、手に付いたままの蔓でクナイを薙ぎ払う。

 

 クナイは弾かれて、地面に落ちる。錫鬼は辺りを見渡すが、そこには土門も羅殴も見当たらず、錫鬼は少し苛立つ。

 

「ちっ!! まあ良いでしょう。あれらの相手はこの者どもに任せれば」

 

 錫鬼はそう言って、傭兵達に足止めに徹するように命じて、自分は屋敷の中に入るための場所を探しに行った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE白

羅殴

【大丈夫か土門?】

 

土門

【はい。幸い傷は浅い、むしろ羅殴に助けられなければ、もっと酷かったでしょう】

 

 そう言う土門の脚は俺が救助のタイミングがずれて、土門の4本の左脚の内2本が先から欠けるように無くなっていた。

 

「蛇姫、治療をお願いします」

 

 白の指示を受けて、蛇姫は土門の欠けた左脚に向けて、回復の術を使う。土門の欠けた脚は少しずつ元の形に戻っていく。

 

唐傘

【ど、どうする? お、鬼は消えたけど】

 

 唐傘の言葉を聞き、白と赤はどうするか考えた。

 鬼は消えたが、肝心の傭兵はまだいる。フルツバキの攻撃で人数は少し減ったが、その数はまだ多い。しかし、土門達は奇襲には失敗したが、王である幽冥から言われた鬱陶しい音を出す傭兵の攻撃は止めることが出来た。

 そして、白と赤はこの場にいる家族の力をどう使うかを考えた。煉獄の園(パーガトリー・エデン)から頂いた食糧によって、しばらくはご飯がいらなくなったと思うが、それは違う。あるものはいつかなくなる。しかも、成長期である幼体の魔化魍はよく喰べる。それこそ、頂いた食糧もいつか尽きるだろう。

 

 だからこそ、白と赤は幽冥からの指示が終わった後に自身が指示する家族に言った。『どんな残骸でも食糧になる』と、その為に基本的には形が少しでも残るように殲滅しろと命じた。

 

「土門、傷は治りましたか?」

 

土門

【はい。なんの支障もありません】

 

 土門はそう言って、自身の欠けていた左脚を私に見せる。

 

「では、土門と羅殴はフルツバキと一緒に傭兵の相手お願いします」

 

 白の指示を聞き、樹の上に移動して傭兵の元に向かった。

 

「唐傘、蛇姫は3人の仕留めた人間を空間倉庫に仕舞ってください」

 

唐傘

【わ、分かったよ】

 

蛇姫

【ふむ】

 

 蛇姫を唐傘の脚を手で掴み、空に飛んで行った。

 

「………」

 

「………」

 

 白と赤の沈黙が続く。だが、2人の視線は外れることなく相手である()の眼を見ている。

 

「………白」

 

「何でしょう?」

 

「私は絶対に貴女には負けませんよ」

 

「それはこっちのセリフです。王の正妃になるのは私です!!」

 

「いいや私が正妃になります」

 

 2人の妖姫は幽冥に対して、好意を持っている。どちらも王に救われたことと王に傷を治してもらったことから、今のようになっている。ちなみにこの正妃対戦もとい第1妃対戦の参加者は白と赤、それに朧と美岬も参加者である。

 

「1度、貴女と決着を着けたほうがいいかもしれませんね」

 

 白は服の中から鉄扇を取り出す。

 

「そうですね。1度上下関係をハッキリとしましょうか」

 

 赤はパーカーの後ろから十字槍を取り出して、左腕だけ妖姫の状態に変える。

 2人は己の獲物を構えて、幽冥の正妃の座を掛けた戦いを始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE朧

 

 一方。

 

【しくしく】

 

 朧はまだ泣いていた。だが、白と赤の戦いが始まろうとした–––

 

【しk……幽冥お姉ちゃんは私のものだよ!!】

 

【どうした急に!? って危な!!】

 

 突然、そんな声を上げる朧に側にいた骸は驚いて、磨いていた青水晶の頭蓋骨を落としそうになるが尻尾でなんとか落とさずに済んだ。

 

【幽冥お姉ちゃんの正妃を掛けた戦いが始まった気がするの】

 

【何だそりゃ?】

 

 骸は疑問をそのまま口に出して、朧に聞くが朧は空を見上げて、右前脚を握りこぶしにして悔しそうにしている。

 さらに一方–––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

美岬

【ああ、もう何でこんないるの!?】

 

 コソデノテの屋敷の側で崩たちの防衛の穴をついて少しずつ入ってくる傭兵の侵入を防ごうと魚呪刀 堅鯨(けいげい)を振るって、傭兵たちの進行を常闇たちとともに食い止めていた。

 堅鯨(けいげい)の能力を使って傭兵たちの攻撃を弾き、弾切れを起こした瞬間にまとめて叩き潰す。だが潰しても潰しても迫る傭兵たちに美岬は少しイラついていた。

 

美岬

【ん。(………これって!?)】

 

 そして、次の傭兵を狙いを定めようとした時………美岬は感じ取った。普段、幽冥の傍に立つ従者たちのぶつかり合う気配に、だが–––

 

美岬

【って、邪魔だよ!!】

 

 止まっているのチャンスと思ったのか攻撃をする傭兵に苛立ち、美岬は持っていた堅鯨(けいげい)を傭兵目掛けて投げつける。回転する堅鯨(けいげい)は傭兵を巻き込んで、地面に突き刺さる。

 しかし–––

 

美岬

【……あ、やっちゃった】

 

 美岬の魚呪刀 堅鯨(けいげい)持っている間のみ、あらゆる物理を無効化する能力をもつ魚呪刀。その力によって、傭兵たちの使う対魔化魍弾を無効化にしていた。

 だが、その堅鯨(けいげい)は今、投げてしまい。手元には無い。しかも、美岬は魚呪刀を別の刀に換える際は手元に換える為の魚呪刀が無ければいけない。

 

 結果、美岬は先程まで何ともなかった攻撃が通じてしまうのだ。その為に美岬は堅鯨(けいげい)のある位置まで移動しようとするも傭兵が撃つ対魔化魍弾が邪魔でなかなか進むことができない。

 

 そして、対魔化魍弾の弾丸が美岬に当たりそうになった時、美岬に当たりそうになった弾丸は両断されて、地面にパラパラと落ちる。

 

常闇

【私の友人に手出しはさせん】

 

【ダメだねーー】【………単純】

 

 そこには真紅のように真っ赤な小刀を持った常闇と櫛や鏡を口に咥えたマイクビがいた。

 マイクビの首の1つは髪の毛で数人の傭兵の全身を縛り付けて、どんどん締めていく。バキッ、ボキと身体から軋みながら鳴る音にマイクビの首の1つは楽しみながら口を歪める。

 

【そうそう。その顔いいね。最高だよあの時も、あいつらをこうしてやりたかった!!】

 

 マイクビの首の1つが言ったことに、残りの2つの首も顔を暗くする。なぜ、彼女たちが顔を暗くしたのかはまた違う機会で話すことになるだろう。

 そして、髪を解いて地面に落ちたのは、ぐにゃぐにゃといってもいいくらいに骨を粉砕された傭兵たちだった。

 マイクビの1つはそのまま、ぐにゃぐにゃの死体の1つに口を近づけて、吸うようにして死体を喰らう。それを見てか、2つの首も櫛と鏡を置いて、死体を吸うようにして喰べた。

 常闇は僅かに残った血を集めて、頭上に赤い球体を作り出す。

 

常闇

【テオイヘビ。血で良いのなら分けれるが】

 

【ああ、すまない】

 

 テオイヘビは口を開けて、そこに常闇が操作した血を流し込む。

 

【ぷはー。ありがとう】

 

 満足げに言うテオイヘビを見て、常闇はそのまま美岬の方に向かう。

 私の様子を見て、常闇は安堵の息をあげる。それにしても、何でこうも傭兵たちが来るのかと思った美岬は侵入を防ぐ為に外にいる崩達を心配した。




如何でしたでしょうか?
今回は傭兵の攻撃を止める土門班と侵入するものを防ぐ美岬班を書きました。
なぜ、崩達の所を突破できたのかは次回で書きます。


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記録漆拾壱

ひな編の戦闘回3作目になります。
今回は最初に食香たち防衛組、お願いされたオクリイヌ、捜索の眠眠達、そして波音が………


SIDE食香

 キリがないとしか言えない。

 倒しても倒しても現れる傭兵たちに食香は溜め息を吐きたくなるが、そんな事で減らないと分かるため、それをグッと抑える。

 食香は身体を千切って、無数の分体で傭兵の上に落として、圧死させる。だが、指示がないと動かない分体は傭兵の撃つ対魔化魍弾の攻撃で清められる。自身にも対魔化魍弾が迫るがそれを千切って生み出した小さな分体で防ぐ。

 

【むうん!!】

 

 崩が前脚を叩きつけて地面を操作し、傭兵たちの足元から地面を隆起させ、傭兵の身体を貫通させる。

 

ビュウウウウウウウ

 

 乱風の声と共に風は真空の刃となって、傭兵の身体を切り裂く。

 

【よ、っと!!】 

 

 ジャック・オ・ランタンは腕を地面に突っ込み、地面はグツグツと燃え上がって液状化し、それを傭兵に向けて掬い取って投げる。投げられた溶岩は傭兵の身体全体に掛かり、その肉を焦がす。

 

【固まれ!!】

 

 バケトウロウはその巨躯な脚で傭兵を蹴り飛ばす。しかも、触れたら石化する右脚の蹴り。蹴られた傭兵はその身体を灰色の石に変えて、地面にぶつかると同時に砕け散る。

 

 崩たちは淡々と処理していくも傭兵達たちは数を減らさずにどんどん現れる。

 錫鬼たちが猛士佐賀支部から連れた傭兵は全てで500人以上にもなる。土門たちが相手している遠距離攻撃部隊は総数で100位の人数で構成されている。

 そして、残りの400人はこのようにして屋敷の入り口から侵入して崩達と戦闘を行い、その僅かの隙を通って、美岬達の所に傭兵が向かったという事だ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEオクリイヌ

 屋敷から遠く離れた国道にヤマハFJR1300を走らせる1人の女性がいた。

 

 擬人態の姿で走るのは、食香の育てた娘の1人であるオクリイヌである。

 彼女が何故、屋敷から離れた国道を走っているのか。その理由は自分のお袋(食香)が仕えてる(?)今代の王である幽冥から頼まれたからだ。その内容は、手薄になった佐賀支部を襲撃しろ(・・・・・・・・・)という頼みだ。

 

 幽冥は屋敷を襲撃してきた戦力は佐賀支部の全戦力と考えた。

 そこで幽冥はバイクという機動力と食香の育てた魔化魍の中では3本の指に入る戦闘能力を誇ったオクリイヌを手薄になった猛士の佐賀支部に向かわせた。

 

「しかし、何で王様はあんな事言ったんだ?」

 

 ヤマハFJR1300を走らせながら、私は思った。

 王様が言った頼みは2つある。

 1つは手薄な佐賀支部の襲撃。もう1つは、支部長といわれる男の持つ怪しい道具の回収。

 

 前者の理由なら分かるが後者の理由がオクリイヌには理解できなかった。まあ、王様には何か考えがあるのだろうとオクリイヌは自分に言い聞かせながら愛車を走らせる。

 

「すんすん。こっちか!!」

 

 先程匂った僅かな匂いからオクリイヌは猛士の佐賀支部の場所を目指す。そしてーーー

 

「見つけたぜ」

 

 オクリイヌは匂いの終着点である猛士の佐賀支部に着いた。そして、扉の前には2人の見張りがいた。オクリイヌはそれを見つけると歩きながらら、見張りに近づく。

 

 見張りも突然現れたオクリイヌに驚くが、オクリイヌの人間の姿はライダースーツを着た巨乳の金髪女性。

 要するに男だとしたら誰でも思う。欲に駆られてオクリイヌに近付く。だが、オクリイヌはそんな見張りの背に気づかれないように足から出したもやを使って、見張りの背に集める。

 集まったもやは拳のように形を変える。そして影が作れるほどの大きさになった時、見張りは後ろのもやの存在に気づくが、オクリイヌは気にせずそのまま見張りに振り下ろす。

 

 グシャとトマトを潰すように見張り2人を肉塊に変えて、オクリイヌの顔と服には血と肉片が大量に飛びついた。

 

「ああ汚ねえな。まあ、これからもっと汚くなる(・・・・)から別にいいか」

 

 オクリイヌは擬人態を解き、その背から出るもやを集め、佐賀支部の入り口を破壊する。破壊すると同時にけたましい警報音が響く。そんな音に気にせずにオクリイヌは佐賀支部の中に入っていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEランピリス

 私達はこの屋敷の主人のコソデノテとその部下ともいうヒャクメを探していた。ただ、集団で無駄に広い屋敷を探しても意味がないので、丁度3つの道に別れたため、それぞれの探し方で探すことにした。

 王の姉である春詠は突鬼を見張るために私のそばに残り、浮幽は自作の体温を探知する炎を生み出して右の方に向かった、蝕は怪しげな粉末薬を吸い込んで、少しフラっとするが左の道に入った。そして、私は–––

 

「眠眠出番ですよ」

 

眠眠

【フアアアアアア、出番? 眠れたからいいけど】

 

 私の相棒こと眠眠で捜索。眠眠は身体を煙に変えて、コソデノテとヒャクメの居るであろう場所へ導く煙になって私達はそれを辿って探す。

 しばらく、歩くと–––

 

【【コソデノテ様ーーー】】

 

 重なった女性の声が聞こえてきた。

 その場所まで行くと、単眼の鰭が凍った無数の金魚の魔化魍 ヒャクメがいた。

 

【【このような時に襲撃とはーー側に居れなかった自分が不甲斐ない】】

 

 ヒャクメの話を聞く限り、どうやらコソデノテはここに居ないようだ。

 

眠眠

【連れてくる?】

 

「ええ。お願いします」

 

 眠眠は煙の状態でヒャクメに近付き、ヒャクメの後ろから声を掛けた。

 

眠眠

【おーい。ヒャクメさん】

 

【【あ、貴方は王の所の……いいえそれどころでは、コソデノテ様を見ませんでしたか?! あ!】】

 

 眠眠の存在に気付き、少し驚くも眠眠に近付いて、逆にコソデノテがどこに居るかと聞いた。そして、煙に一部変わっている眠眠に触ってしまい結果、鰭が乗っかった眠眠の両前脚と身体が分断された姿になった。

 

【【す、すいません!! コソデノテ様が心配でしたので、ですが身体切れるなんて!!】】

 

眠眠

【あー大丈夫、大丈夫】

 

 眠眠はそう言うと、別れた前両脚を煙に変えて、自分の身体にくっ付けると前両脚は元の場所に生えたように戻っていた。

 それを見てかヒャクメはへなへなと降りていき、ため息を吐く。そんな様子を気にせずに煙でヒャクメを包み込み、眠眠はそのままヒャクメを連れて来る。ヒャクメは煙から出ようとするが煙の心地よさで落ち着き、話を聞こうとすると–––

 

浮幽

【ルルル、ルル……ルルル!!】

 

 触手の先に捕まえた1匹のヒャクメを掲げて、こっちに来た浮幽は眠眠の煙の中に居る無数のヒャクメが居たことに驚いた。

 そして–––

 

【見つけました………あれ、こんなに居たっけ?】

 

 両手で抱えるようにヒャクメを連れてふらふらと入ってきた蝕はヒャクメ達に気付き、少し具合を悪そうに呟く。

 

【【すいません、コソデノテ様を探すために別れていたもので】】

 

 ヒャクメの言葉で微妙な空気になり、眠眠達は苦笑いを浮かべてコソデノテを探すため、屋敷の中を再び回り始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE波音

 ひなと幼女は気絶しているため、私1人でひな達を守らないといけなくなった。ひなを心配して現れたコソデノテがひなを保護してくれたお陰で、ひなをコソデノテに任せて、幼女だけを守ることに専念できる。

 だが–––

 

「意外と簡単だったね」

 

 音撃気鳴笛(オカリナ)を持って、嬉しそうな笑みを面の内側で浮かべる楽鬼。

 

「楽鬼、楽しみを奪うなよ」

 

 自身の楽しみを奪われて、少し不機嫌な岸鬼。

 

「ああ、弱いなーー」

 

 錫杖型の音撃棒 錫浄を肩に構えて、目の前の者達(・・)を興味なさげに見る錫鬼。

 

 現れた3人の鬼との戦いで初めは優勢だったが、だが鬼の1人が抱えているひなと幼女に気付き、攻撃が私とコソデノテからひなと幼女に移り、私達は不利になった。

 そして、楽鬼と岸鬼の攻撃で幼女を庇った為に私は下半身の一部を持っていかれ、コソデノテは錫鬼の攻撃からその身を使ってひなを守ったために全身火傷に負った。

 

「よく見たら、目的の姫が居ますね。これは楽に任務完了しそうだ」

 

「だが、また傭兵を作る為に俺たちが連れて来いって言われるんだ」

 

 楽鬼と岸鬼の声が聞こえて、コソデノテは全身火傷を負ったその身体を鞭打って、ひなを守ろうとする。だが、錫鬼が錫浄でコソデノテの身体に突いて、火傷を負った身体にぐりぐりと押す。その様子を見てか、楽鬼も岸鬼も見つけた幼女に対して、同じことをしようとする。

 

 波音が幼女を抱えて、2人の鬼からの踏みつけから幼女を守る。だが、音撃武器での攻撃ではないとはいえ、鬼の攻撃は確実に波音の身体をボロボロにしていた。

 そして、波音は意識を失おうとしたとき、周りの時が止まった。

 波音が何を起きたか理解出来ずに、唖然とするが声が聞こえる。

 

《力を望むか?》

 

 止まった時の世界で、何かの声が響く。




如何でしたでしょうか?
今回の回はこんな感じになりました。
次回は謎の声によって波音の覚悟が………そして、ひなと幼女のため、9代目魔化魍の王とノツゴを守る為に奸知のサソリが動く。



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記録漆拾弐

今回は遂に波音のパワーアップ回です。
シリアスっぽく出来たと思います。



SIDE波音

 幼女を守る為に鬼の踏みつけを耐えていた私は意識を失いそうになった時、突然、時が止まった。

 私を踏みつけていた2人の鬼も、コソデノテにぐりぐりと音撃武器を突き刺す鬼も私の庇っている幼女もその体勢のままピクリとも動かずにその空間に固定されているように動かなかった。

 

《力を望むか?》

 

 止められた空間から声が響く。

 私は声の主を探すが、今この場にいる者の中で声を出せるのは私以外、誰もいない。だが1つだけ声を出しているかもしれないと思ったものがあった。それは–––

 

 鬼の攻撃で落としてしまった。美岬から貰った魚呪刀 刺鱏(しえい)

 そして、私は美岬からこの刀を貰った時のこと思い出した。

 

〜回想〜

 煉獄の園(パーガトリー・エデン)の海と書かれた扉の先で美岬に刺鱏(しえい)の戦い方を実戦込みで教えて貰っていた。

 

波音

【魚呪刀の意思? そんなものが本当にあるの?】

 

 私はまさかと思い笑うが美岬は大真面目な顔で言っていた。

 

美岬

【本当よ。あまり信じられないかもしれないけどねーーーこの刀はとある鍛治師の魔化魍に頼んで鍛造してもらった刀。その鍛冶師は武器を鍛造する際に魂を使うの。

 それが原因かは分からないけど、その鍛治師の鍛造した武器は全て、意思を持つようになったの。ただ……】

 

波音

【ただ?】

 

美岬

【武器の意思は元々が何かの魂だったせいか。使用者を観察して、その結果次第で力を貸してくれるようになるの私が持つ魚呪刀でその意思に認められたのは畏鮫(いさめ)咬鱓(こうつぼ)突烏賊(とついか)だけ。

 他の刀にはまだ認められていないんです。特に貴女に言うのも何ですが、その刺鱏(しえい)はその意思が全くもって見えない刀です。もしも刺鱏(しえい)の意思と話す事が出来るとしたら一生に一度訪れるか訪れないというものだから。その時に貴女の覚悟をその刀に言いなさい】

 

波音

【覚悟】

 

美岬

【それじゃ、次は】

 

 その後に試し斬りになる人間が来たので、この話は終わった。

〜回想終了〜

 

 おそらく、この止まった世界は刺鱏(しえい)の意思によって止められた世界。そして、さっき聞こえた声の正体に確信した。

 

波音

刺鱏(しえい)。話がしたい姿を現して】

 

 私の声が静寂な空間に響く。

 すると–––

 

 静寂だった空間にカラン、コロンと下駄の音が響き渡る。どんどんその音は近くなり、現れたのは着物の上に紫のちゃんちゃんこを着て、高下駄を履き、左目を伸びた黒髪で隠し、腰の帯に刺鱏(しえい)を差し込んだ少年が現れた。

 

《いよ〜波音》

 

 妙な笑顔と友達にするような挨拶で近付く少年に私は聞いた。

 

波音

【貴方が刺鱏(しえい)の意思】

 

《そうだ。俺がお前の持ってる刺鱏(しえい)の意思だ》

 

波音

【美岬に聞いた頃はそんなまさかと思ってたけど、こんな事が起きたら本当の事なんだね】

 

《信じてもらえて何よりーーーさて、話を戻そう。力を望むか?》

 

 笑顔は消えて真剣な顔に変わり、私に質問する。

 そして、力を望むかと言うことに対して、【力を望む】と答えようとすると–––

 

《しかし、力を手にすれば、今までの記憶が消える》

 

波音

【……え?】

 

《当たり前だろう。何もなく力が手に入るなんてのは漫画やアニメだけだ。

 何事にもメリット、デメリットがあるんだ。望めば、強くなれるが記憶を失う。望まなければ、そのまま鬼に清められるという話さ。まあ、どちらを選ぶもお前次第。それと俺がお前の前に現れるのこれが最初で最期かもしれねえからな。よーーーく考えろよ》

 

 波音は刺鱏の意思に言われた言葉に驚愕するも何処か納得していた。強い力を持つからには何かしらの代償がある。それは自分自身が他の魔化魍が滅多に持つ事がない予知能力を持つ為に力は並の魔化魍いや下手したら幼体の魔化魍以下。

 

波音

【………決まった】

 

 だからこそ波音は欲した。

 

波音

【力を望む!!】

 

《今までの記憶が消えてもいいのか?》

 

波音

【ええ……良いわよ。ここでもしも力を望まなかったら。ひなを守れない!!】

 

《………》

 

波音

【ひなだけじゃない。幽冥姉ちゃんも鋏刃も穿殻も浮幽も赤も昇布も三尸も兜も命樹も五位もインセクトも守れない】

 

《………》

 

波音

【今までの記憶が消える。ええ、ひな達を守る力が手に入るなら喜んで捨てるよ!!】

 

 そう。もしも此処で力を望まないと言えば、待つのはひなが居なくなることと魔化魍である私たちの死。

 しかし力を望めば、ひなを助ける事が出来る。ひなとの思い出いや家族の思い出が無くなるのは嫌だが、会ってそれ程経っていないからこそ今までの記憶を消されたとしても私は構わない。また新しく楽しい記憶、思い出を作れば良い。

 それにひなの唯一の家族であるコソデノテを殺させない為に、目の前の鬼たちを殺す力を私は欲しい!!

 

《………お前の覚悟はよーーーく分かった。じゃ、目閉じてな》

 

 刺鱏の意思が近付き、私の頭の上に左手を置く。

 そして、何かが頭に流れ込んでくるのを感じて私は意識を失った。

 

 

 

 

 

《ふふふふ、まあ今回はその覚悟に免じてサービスしてやるか♪》

 

 意識を失った波音に対して、刺鱏(しえい)の意思はそう呟いた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE岸鬼

 弱い。弱い。弱すぎる。

 まあ、姫を手に入れられれば良い。その前に目の前の魔化魍を清めなければなぁ。

 

 岸鬼は背に背負った音撃弦 岸際(きしぎわ)を手に持ち、目の前の魔化魍と庇われてる子供に刃を向ける。

 刃を向け、突き刺し貫こうとした瞬間、岸際を動かそうにも全然動かない。岸鬼は自分の岸際を見ると子供を庇っていた魔化魍が岸際の刃先を掴んでいた。岸鬼はさらに力を込めて、貫こうとするが刃先はピクリとも動かず、岸鬼は仮面の下で顔を赤くしていた。

 

「くそ!! 離せ!!」

 

 魔化魍は岸際を掴むのを止めて、そのまま離すと込めていた力によって、岸鬼は倒れる。

 岸鬼が離れたのを確認した魔化魍は地面に落ちていたレイピアに似た小太刀を手に引きせて、庇っていた子供を自分の背に乗せ、小太刀を垂直に構える。

 

 やがて、小太刀から霧が発生し、魔化魍と子供の身体を包みこむ。

 異常に感じた俺と楽鬼で霧に攻撃するも当たった感触はなく、ただ霧を切っている感覚しかなかった。岸鬼は煩わしく思い、自身の音撃でこの霧ごと中にいる魔化魍と子供を吹き飛ばそうと岸際を構えると、突如、ブンブンと風を切りながら接近するものに気付き、岸鬼はその場から避けた。そこにあったのは1本の戦斧。

 離れた所にいた錫鬼も同じらしく、そこには無数の氷柱が突き刺さっていた。

 

「これは!!」

 

 そして、岸鬼たちはただならぬ殺気を纏って近付く気配が2つあった。

 1つは氷柱を模した簪を複数差し、透き通った青髪に病的な白い肌、巫女服のような服を着て、ガラスのような氷で出来た下駄を履く女性。

 もう1つは、左肩近くに金の金属羽根を着けた全身赤紫の蠍の人型。

 

 人間とは思えない冷酷な笑みを浮かべて、周囲の水分を集めて、頭上に氷柱を作る魔化魍の王。

 

 投げた戦斧を右手で引き抜き、斧の先を鬼たちに向けて殺意の篭った眼で奸知のサソリ(レイウルス・アクティス)は睨む。

 

 そして、魔化魍がいた霧はどんどん薄くなっていき、その姿を現わす。

 

 赤みがかかったピンクのツインテール、その両側頭部には銀色の海星が着き、身体には鱏の棘を模した肩当ての付いた紫の軽鎧、薄緑の尾先には鱏の棘を生やした人魚。その手には魚呪刀 刺鱏(しえい)を持っていた。

 その姿に魔化魍の王 幽冥は驚くも、直ぐに元の顔に戻り、敵である鬼に目を向けた。

 

 さざ波のように小さな音は、船をも飲み込む激しい渦に変わり、その力を今、目の前の鬼に手に持つ魚呪刀 刺鱏(しえい)を向けた。




如何でしたでしょうか?
波音のパワーアップの姿はいつか変異態と幻魔転身を纏めた安倍家の魔化魍 変異態+幻魔転身集に載せますので、楽しみにしていてください。

あの姿の波音の種族名はアマビエ激渦(げきか)といいます。
また何故、幽冥とレイウルスが同時に出て来たのかは次回の前半に書きます。


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記録漆拾参

更新完了です。
今回は前回の話の幽冥SIDEを書きました。


 コソデノテとヒャクメを捜索させていた春詠お姉ちゃん達がコソデノテを探していたヒャクメを連れて、私の元に来た。

 ヒャクメ曰く、『コソデノテ様は、ひな様を探しに行くと仰られて私が抑える間も無く消えてしまった』とのこと。それで、私は春詠お姉ちゃん達にヒャクメの護衛を任せて、私だけで探しに行った。

 

 屋敷の中を歩いてるとちょこちょこ現れる傭兵をシュテンドウジさんの力やイヌガミさんの力を使いながら進む。進んでいるとある部屋を見つける。そこは障子の扉の部屋だったが、その障子と壁の隙間に黒くなった人間の腕が挟まっていた。

 

 その腕を見て、私はその障子を開けて、中に入るとそこに居たのは、ワームや眼魔、オルフェノクやオルグのようにこの世界に存在しない者。

 

「…………」

 

 それは、傭兵の首をへし折って、そのまま畳の床に投げ捨てる。そして、頭に戦斧が叩きつけられて放置されてる死体に近付き、力任せに戦斧を引き抜き、戦斧を振り付いていた血が畳に染み込む。

 やがて、それは………アンノウンが私の方に目を向ける。

 

「………貴様がジャック達の言っていた王か?」

 

 同じアンノウンであるハイドロゾアロードと同じ声で喋るスコーピオンロード。そして、ジャック・オ・ランタンが言っていたレイウルスはどうやら魔化魍ではなく、目の前のアンノウンことだったらしい。

 重度の特撮オタクとも言われた弟が、平成怪人は個体名を持つが、人間からは通称で呼ばれてる怪人が存在する。アギトに出てくるアンノウンはマラークという種族で、それぞれラテン語の個体名を持つと言っていた。

 私は目の前のアンノウンの質問を返すために答えを述べる。

 

「そうです。私が今代の王です」

 

 スコーピオンロードは値踏みするような視線を幽冥にするが、直ぐに辞める。どうやら私をアギトなのかアギトになる資格を持つ者なのか見ていたようだが、何もしない所を見ると、私はどちらでも無いのだろう。

 

「私は大丈夫なようですね」

 

「………貴様はアギトでも無い。資格も持たない。だが、アギトに目覚めようとした時に殺す」

 

 スコーピオンロードの僅かな殺気は少し身体を震えさせたが、何時ぞやかの夢の中で会ったユキジョロウさんの全身凍結の時に比べれば、怖くはない。

 

「………だが、ここに私の創造主は居ない。貴様がアギトに目覚めても私の創造主に害を与えられるはずもない。だから私は貴様がアギトだとしても見逃す」

 

「ありがとうございます」

 

「それと、ノツゴを見てないか?」

 

「ノツゴ、ノツゴですか!!」

 

「!! そ、そうだ」

 

 私の声に驚き、少し身体をビクッとさせるが直ぐに元の状態に戻って肯定の返事をするスコーピオンロード。

 だが、私はそちらよりノツゴという名前の方に驚いた。

 

 ノツゴ。

 蠍のような身体に鍬形虫の大顎を持った魔化魍で10年に1度現れる大型魔化魍。元となった妖怪は間引きや堕胎、私生児を産んだ娘の子供の口を塞いで殺したなどの不遇な死を遂げた子供の霊が成仏できずにこの世を彷徨ったものとされる。

 防御力が非常に高く、腕の立つ鬼でも倒すのが困難で、弱点が獲物を喰らう際に開く口の中に攻撃を打ち込み、怯んだ隙に音撃を浴びせることでしか清められない。

 

 乱風と同じ様にかなり強い魔化魍。

 しかし、スコーピオンロードが何故、ノツゴを探してるのかが分からなかった。

 

「………あいつは恩人の形見だ。それに………」

 

 スコーピオンロードの最後の言葉は聞き取れなかったが、どうやらこのスコーピオンロードはノツゴの保護者をしている者みたいだ。

 だが、そんな風に思うことも出来なくなることが起きた。

 

「っ!! 何、これ」

 

 突然の頭痛とともに見せられる光景、そこには魔化魍としての姿になっている波音とコソデノテが、先程見た幼女と自身の家族の1人でもあるひなを鬼から守っている光景が浮かぶ。

 

【今回はこれだけだ】

 

 そんな光景が見えてる中で何かが私にそう言って、何かはそのまま何も答えずに消えた。

 

「大丈夫か」

 

 突然見せられた光景によって四つ這いの状態になった私にスコーピオンロードが質問する。

 

「大丈夫です。ですが、そんなことは言ってられません!! ひなと子供が!!」 

 

 そう。あの見せられた光景がもしも。今起きてることなら、急いで行かなければ。

 

「………その子供は黄色い服を着ていたか?」

 

 スコーピオンロードが質問した内容の子供は確かにいた。波音が庇っていて、今も気絶していると伝えると–––

 

「………」

 

 スコーピオンロードの持つ戦斧の柄がミシミシと音が鳴る。

 

「案内を頼む」

 

 私は、そのままスコーピオンロードを連れて、頭に浮かんだ光景の場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、私が体を踏まれてる波音やボロボロの状態でもなお、ひなを守るコソデノテを見た瞬間、怒りがこみ上げた。

 怒り、憎しみ、殺意など様々な感情が頭をぐるぐる廻る。自身の未だに半端な王の力を使って、ここいら周辺を荒地に変えようとした時–––

 

【少し頭を冷やせ】

 

 響くのは、氷のように冷徹な王の声、その声と共に私の湧き出た感情の波は治まっていき、段々と思考がクリアになっていく。そして、私の姿は以前、夢に見たユキジョロウさんと似た姿に変わっていた。

 シュテンドウジさんやイヌガミさん、フグルマヨウヒさんとと同じようにユキジョロウさんが力を貸してくれたようだ。ユキジョロウさんのお陰で冷静になった頭で、目の前の光景にどうするかと考えると–––

 

「くそ!! 離せ!!」

 

 鬼の1人が音撃弦を波音達に向けて、突き刺そうとするが波音が鬼の音撃弦を刃先から掴み、動きを封じていた。やがて、波音は音撃弦を離して、鬼はその反動で倒れ、波音は遠くに落ちているレオピアに似た小太刀を手に引き寄せると、剣から霧が出てきて、波音を包み込む。

 鬼は攻撃を波音のいる霧に向けて行うが、まるで雲を斬るように攻撃が当たっている感じがなかった。そして、鬼は苛立ったのか、霧に向けて音撃を放とうとすると、隣にいるスコーピオンロードが手に持つ戦斧を投げる。そして、私は空気中の水分を凍らせて作った氷柱でコソデノテに攻撃を仕掛ける鬼に放つ。

 

「これは!!」

 

 突然の攻撃に鬼は驚き、それと同時に霧が晴れて中から姿を変えた波音が現れる。




如何でしたでしょうか?
次回はスコーピオンロードとノツゴの岸鬼との戦闘回です。
お楽しみに


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記録漆拾肆

大変遅れて申し訳ございません。
今回はスコーピオンロードの戦闘やノツゴの戦闘を見直したりして、かなり遅くなりました。



SIDEノツゴ

「(……う…五月蝿い)」

 

 自分の近くから聞こえる音で気絶による睡眠から目を覚ます幼女(ノツゴ)。目を開けて、見えたのは–––

 

「いいね楽しいいよ!!」

 

波音

【巫山戯るな!!】

 

 自分を背に抱えて戦うひなの側にいた少女らしき魔化魍とオカリナを模した音撃武器を持つ女性の鬼が戦っており、小太刀のような武器で鬼の音撃武器の攻撃を斬り裂き、突きのように突き出すと刀身が伸びて、鬼の額に伸びるが、鬼はディスクアニマルのディスクを使って攻撃を逸らして、距離を取るように後ろに跳び、屋敷の側にあった森の中に隠れた。

 魔化魍が戦っていた鬼が居なくなったと分かり、追撃を掛けようとするが–––

 

波音

【ノツゴだっけ? 起きてるなら、降りてもらっていい?】

 

「え、えっとアマビエだよね?」

 

波音

【確かにアマビエだけど、私は波音。王の家族のひとり】

 

 そう言って、自分を背中から降ろした波音は、鬼の逃げた森の中に空中を泳ぐように追いかけて行った。ノツゴは今だに響く音で、迂闊に歩くのは危険と判断して、近くの岩に身を隠して、自分から見て右側を覗いてみると–––

 

「あぶな!! 貴様は遊んでいるつもりか?!」

 

【ただの人風情が妾と戦えてるだけ有難く思え、フュゥゥゥゥゥゥ】

 

 錫杖のような音撃棒を持つ鬼に王は冷気を吹きつける。冷気を避けた鬼は、その場所を見ると凍りついている地面を見て驚愕するが、音撃棒を構える。王は頭上に浮かべた氷柱を鬼向けて放つ。

 鬼は放たれた氷柱を砕くか避けるが、1本の氷柱が掠り、氷柱の掠った肩の鎧を見て、避けることに専念し始める。王は次々と頭上に氷柱を作り出して、鬼に発射を繰り返す。鬼の避けた場所は氷柱が突き刺り、地面はつるつると滑る氷のスケートリンクのように変わっていた。

 

 そして、王の居る場所から反対の左を見ると自身の育て親代わりであるレイウルスの戦斧と鬼の持つ音撃弦が鍔迫り合い、レイウルスと鬼は互いに睨み合う。だが、鬼は音撃弦を片手に持ち、腰にぶら下がっている角張ったディスクらしき物を見えないように握り込み、レイウルスの顔に向けて、その拳を叩き込んだ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE岸鬼

 目の前の魔化魍らしきなにかと戦う。片手に斧を持ち、俺の持つ音撃弦と拮抗する。

 だが、俺はこんな魔化魍かも分からない奴に邪魔されるわけにはいかない。10年だ。やっと見つけた。これで取り戻せる(・・・・・)。その為にも藩の言う、姫という娘を捕らえなけらば。

 

 隠し武器としているディスクウェポンを目の前の奴に見えないように隠し持ち、顔に目掛けて拳を叩き込んだ。

 

 顔に命中して動けなくなったところに音撃弦 岸際を使って攻撃しようと考えた岸鬼は、鎧の面に隠れたその目を見開く、そこに居たのはレイウルスではなく、鍬形虫の大顎のような腕を交差して岸鬼の攻撃を防ぐ幼女(ノツゴ)だった。

 

「余計な真似を………」

 

「ぶー!! 隠し武器の存在に気付いてなかったから守ったのに!!」

 

 魔化魍だった幼女はそのまま腕を横に振って、岸鬼を遠くに吹き飛ばす。

 

「気付いていたが、私に鬼の武器が通じないのは知っているだろう」

 

「それでもだよ!!」

 

 幼女の姿に変わっている魔化魍と異形の戦闘しているのにまるで、親子喧嘩にように会話する姿に岸鬼は苛つく。

 

「それに何であれ(・・)出さないの!!」

 

「あの程度の奴に出す必要は「慢心していただけでしょ!!」……むう」

 

 まるで手を抜いてると言わんばかりのその会話によって岸鬼はさらに苛つく。

 

「こんな所を創造主様とやらに見られてたらどうするつもりなの!!」

 

「!!」

 

 異形が魔化魍の言葉に怯む。

 

「絶対にガッカリさせるでしょうね!!」

 

 さらに異形が怯む。

 

「だから、本気であいつを殺さなきゃ!!」

 

 そう言って、岸鬼を幼女ことノツゴは右腕で指差すように突き出し、その身体を本来の姿に戻していく。

 巨大な黄色い蠍の体躯に、鍬形虫の大顎を持った魔化魍ーーー

 

オギャァァァァ

 

「(ノツゴ)」

 

 よりにもよってと岸鬼は心の中で思いながら逆にチャンスが訪れたと思った。

 

 岸鬼はかつて、当時、女性最強とも言われた茶鬼という鬼の弟子だった。

 孤児だった自分を拾って育ててくれた存在で、憧れであり、自身の好きだった女性。ある時、夜な夜なよく出掛けていた茶鬼に着いて行き、初めて魔化魍や猛士、鬼の存在を知り、茶鬼と同じ存在となる為に弟子になった。

 そこからはつらい修行があったが、茶鬼に認められる人になりたいと岸鬼は必死に努力して、弟子からようやく一人前の鬼に認められるという所まで来た。そして、一人前になった時に茶鬼に告白をしようとしていた。岸鬼は一人前、正式な鬼となり岸鬼という名を貰った。

 この事を茶鬼に報告しようと自分と茶鬼の住んでいた家に戻った。だが家には茶鬼は居らず、家の中のリビングには魔化魍討伐に呼べれた時に置く、紙が置いてあった。帰ってきたときに報告すれば驚くかなと岸鬼は待った。

 だが、岸鬼は告白することは出来なかった。何故なら、茶鬼は討伐にいった魔化魍に同僚である数人の鬼と共に殺されたからだ。そして、その時に茶鬼たちに討伐対象とされた魔化魍がノツゴ(・・・)だった。

 

 だからこそ目の前のノツゴと異形を殺し、姫を手に入れて、俺の願いを叶える。

 

 異形とノツゴは並び、俺を睨んでいる。

 異形は手に持っていた戦斧を地面に突き刺して、右の拳を左肩に持っていき、右手の指を全て開き、そこに人差し指と中指だけを伸ばした左手を持って、その左手で右手の甲にZを描く。

 

 そして、その頭上から青い円が発生して、異形はそこに腕を入れて、青い円から上半身を覆える盾を取り出して、地面に突き刺した戦斧を引き抜く。

 

 岸鬼は、先程とは違う雰囲気に気が付き、自身の音撃弦 岸際を構えて、異形に向かって走る。

 異形は焦ることなく、盾を前に突き出す。岸鬼はその盾に向かって岸際を突き刺すがーーー

 

 岸際は突き刺さることなく盾から少し離れた場所で固定されるかのように止まっていた。岸鬼はそれでも、見えない隙間に向けて突き刺そうとするが、一向に刺さる気配もない。

 

 突如、襲ってきた衝撃によって岸鬼は屋敷の壁に叩きつけられる。自分の立っていった場所には大顎をフルスイングしたような体勢のノツゴだった。壁に吹き飛ばされた岸鬼はディスクアニマル 瑠璃狼をノツゴと異形に投げつける。瑠璃狼のディスクは変形して、ノツゴ達の身体の周りを飛び跳ねるように攻撃を仕掛けるが、ノツゴはその強固な甲皮によって攻撃は通さずに逆に罅割れて、そのまま砕け散り、異形は的確に戦斧で瑠璃狼を粉砕していく。

 

 僅かに動けなかった隙を突いて、岸鬼はノツゴの方に向かって走り、岸際を槍投げのようにノツゴの尻尾に投げつける。ノツゴは岸際を尻尾で弾くが、弾かれた先には岸鬼がおり、弾かれた岸際を遠心力を利用するように振り回して、ノツゴの右大顎に岸際を叩きつける。

 

 岸際を叩きつけられたノツゴの大顎はやがて崩れるように砕け散る。

 

オギャァァァァァァァァ

 

 ノツゴの悲鳴にも似た鳴き声が響き、岸鬼は再び、攻撃を仕掛けよとするがーーー

 

「がはっ!」

 

 レイウルスの大盾によるシールドバッシュで岸鬼はノツゴから引き離すように弾き飛ばし、さらにレイウルスは戦斧を岸際を持っていた腕を斬り落とす。

 

「があああああああ!!」

 

 斬られた腕から吹き出る血でその身体を赤く染めるレイウルスはそのまま近付き、腕を抑えて倒れる岸鬼の残った腕や両脚を戦斧で斬り裂く。

 

「ぎやああああああああ!!」

 

 耳障りだと思うような叫びにレイウルスは淡々と戦斧を振り下ろし、岸鬼を細く小分けするように斬り裂く。

 そこに残ったのは、もはや形も不明なほどに切り刻まれた肉片と肉塊だけだった。




如何でしたでしょうか?
次回は波音と笑鬼の戦いを書こうと思います。

本来、ノツゴはあの程度の攻撃で大顎は砕けませんが、まだ少し幼体の為、砕けたことにしました。
そして、岸鬼は保護者の怒りを買って切り刻まれました。


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記録漆拾伍

お待たせしました。更新が遅れてしまい申し訳ございません。
波音と楽鬼の戦いをどう決着つけるかと悩んで、前後編に分けることにしました。
波音の話に入る前にテオイヘビと食香と乱風。佐賀支部襲撃のオクリイヌも入れました。

では、先ずは物語をどうぞ!!


SIDE食香

 レイウルスが岸鬼を冥府の斧で滅多斬りにしている同時刻。

 ヒャクメを守っていた春詠たちは屋敷の防衛にあたっていた崩たちとジャック・オ・ランタン達と合流して、その後、微妙に残っていた傭兵たちを再び、別れて殲滅していた。

 

【溶けちゃいな!!】

 

 テオイヘビの骨の尻尾からどくどくと流れ出る血を傭兵に目掛けて飛ばすと、血を浴びた傭兵たちは蒸気をあげながら溶けていき、そのまま肉が少し付いた骨が無数に積み上がっていく。

 傭兵が倒れるたびに増えていく骨は、周りに傭兵が居ないことを確認して、テオイヘビはそのまま骨に顔を近づけると、骨はテオイヘビの頭蓋骨に吸い込まれるようになくなり、どんどん数を減らしていく。

 やがて、骨はなくなりテオイヘビは満腹かのように腹を白骨の尾で摩る。すると、戦う前より、その玉のような身体をデカくした食香がテオイヘビに近くに寄る。

 

食香

【寝りたいなら、寝ると良いよ。満腹の食後で動いたら、思ったように動けないから】

 

 食香は、満腹のままだと動けないテオイヘビの側に寄る。食香はそのまま、自身のプルプルした身体をテオイヘビの下に潜らせて、触手のような手で肉の付いてる身体を撫でて、テオイヘビは頭蓋骨の頭をカツンカツンと鳴らしながら、頭を上下させ、そのまま眠った。

 

食香

【見てないで、貴女もこっちに来たらどうですか? 乱風】

 

 食香は後ろから近づく気配に気付き、その気配の主の名前を言う。

 

乱風

【やはり母上には気付かれますか】

 

食香

【一応、貴女の母親をやっていたんですから。分かりますよ】

 

乱風

【………】

 

 乱風はジッとテオイヘビを眺めているのに気付き、食香はその理由を察する。

 

食香

【貴女も私の身体に乗っかって寝たいんですか】

 

乱風

【なあ//////!!】

 

 3つの頭が同時に赤くなる。

 

乱風

【母上!! 私は子供じゃないですよ!!】

 

食香

【私からしたら貴女はいつまでも私にとっては子供ですよ】

 

乱風

【ですが、ですが………】

 

 乱風は幼体の頃は今のような感じではなく、『母上〜母上〜』と言いながら、食香の後ろをヒヨコのように着いて来ては甘えていた。成長するにつれて大人しくなっていき、昔のように甘えなくなった。

 あまりの羞恥心のせいか、必死に口では反論するが、それでも身体は正直で、少しずつだが食香の身体の近付きつつある。

 それを見て、食香はこっそりと乱風の後ろに潜ませた分体を使って、乱風をこっちに引き寄せる。

 

乱風

【わあ、は、は母上///////】

 

 急に自身が母上と慕う食香の身体に久々に触れたせいかだんだんと瞼が閉じていく。

 

食香

【昔はみんな仲良くこうやって眠ったよね】

 

 食香は幼かった頃の乱風たちのことを思い出し、今は何処にいるのだろうかと、自分の元から自立して離れていった子供達のことを思っていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEオクリイヌ

 幽冥に頼まれて単身で、佐賀支部に攻め込んでいるオクリイヌ。

 

【ちっ! 分かってたとはいえ本当に弱いな】

 

 もやを片刃の剣に変えて、迫る傭兵たちの身体に振るい両断する。

 やがて、他の扉よりも重厚で何かがあります感のある扉を見つけて、中に入る。

 

【これは………血か】

 

 入った部屋には、闘技場のような広さの部屋で反対側に入った扉と同じ扉があった。周りを見ると壁には何が染み込んだのか、赤黒く染まっている壁がある。

 赤黒く染まった匂いを嗅ぐと、鉄分が大量に含まれた匂いがした。つまりここで行われていたのは–––

 

【(胸糞わりい。人体実験かよ)】

 

 オクリイヌの嗅いだ臭いは人間の血だった。つまり、壁が染まるほどの人間がここで死んだ。しかも、その血を浴びたものの匂いが壁の奥から匂ってくる。

 

「ああ、あーーーー聞こえるかね不法侵入の魔化魍くん」

 

 部屋の四方に付けられたアンテナから声が流れてくる。この佐賀支部の支部長 脳見 藩の声だ。

 

「あーーー君はこの佐賀支部に甚大な被害を与えた。我らの苦労を泡に変えた。よって君を()の実験台にしようと思う。これに拒否権はないよ」

 

【(この声のやつの喉笛を噛みちぎってやる)】

 

 オクリイヌは一方的に話す藩の言葉に苛立ちながら、壁の向こうにいる存在に警戒する。壁は真ん中から線が入って左右に開いていく。

 

アーーアア、アアアアアアアアアアアアア!!

 

 開いた壁から現れたのは、異形だった。赤く脂ぎったような身体、ぎょろぎょろと血走った目、止めどなく溢れる涎を出す口、肥大化している左腕と3本の爪、それらを支える太くパンパンになった両脚、そして唯一の人間の右腕。

 オクリイヌはこの異形の正体に気付き、憐れみの目を送るが、憐れみの視線に何も感じない異形は壊れたマイクのような声を上げる。

 

「そいつの名はペイラーD。

 ペイラーD、今日の相手は目の前にいるやつだ」

 

 藩の声にぎょろぎょろと血走った目を動かしてオクリイヌを見つけて、扉の方にズッシ、ズッシと移動する。

 

「じっくりと楽しむがいい」

 

 アンテナから流れる藩の声が消えると、ペイラーDが扉を守るように肥大化している左腕の爪をオクリイヌに向ける。オクリイヌは目の前の魔化魍モドキに自身の武器である黒いもやを向けて、構えた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE波音

 鬼の逃げた森の中、静かに息を潜めて、僅かな風の動きや鬼の微かな呼吸音、振動、あらゆるものを予想と数ある見える未来から、次にどう動くかとい推理をしながら波音は楽鬼と戦っていた。

 

「音撃射 瞑想一点(めいそういってん)」 

 

 辺りに散らばった鬼石の弾丸から放たれる清めの音は波音に迫るが、波音は発生源である鬼石に刺鱏(しえい)から放たれる毒液を飛ばして、鬼石を溶かす。

 

 楽鬼の持つ音撃武器、音撃気鳴笛(オカリナ)は通常の音撃管のような弾丸ではなく、広範囲の敵を纏めて清めるために散弾のような弾と魔化魍に直接撃ち込むものではなく、辺りの地面や木の幹などに撃ち込み、清めの音を発する 

。 

 だがその分、射程距離というデメリットがあり、音撃弦のような中距離で戦う音撃武器である。その為、並みの鬼だったらまずその性能を十全に扱えずに魔化魍に殺されて喰われているだろうが、これを持っているのが楽鬼なら話は変わってくる。

 

 楽鬼は幼少の頃から藩に引き取られた孤児の1人で、藩の実験である人間を超えた人間を生み出す実験であらゆる部分が強化された。

 だが実験は激痛と苦痛を伴い、ほとんどの孤児が死に実験で生き残ったのは楽鬼ただ1人。そして、実験をされた影響か楽鬼は並みの人間と違い、常人離れの力と耐久性、運動性を持つ。

 

 一方、波音は刺鱏(しえい)を使って、広範囲に放たれる清めの音を切り払って、ちょこまかと動く楽鬼を倒す作戦を考えていた。波音は刺鱏(しえい)を持っていない手で頭に着いている海星を取り外して、手裏剣のように海星を楽鬼に投げる。

 

 海星は空気を裂きながら楽鬼に近付くが、楽鬼は焦ることなく海星を弾いて、波音付近の地面に鬼石を撃ち込む。波音は先の攻撃で音撃気鳴笛(オカリナ)の特徴を掴み、地面に撃ち込まれる前に刺鱏(しえい)で斬り落とす。

 

 だが、楽鬼は斬り落とされる前提で走り出して、波音に近付き、音撃気鳴笛(オカリナ)はもう1つの機能を使い、波音の腕に振るう。波音は能力の近未来予知を使って、攻撃する位置に刺鱏を置くように構えて防ぐが–––

 

波音

【っ、これは!?】

 

 高い音が武器同士から発せられて、突然の腕の痛みに波音は驚き、楽鬼を尻尾の棘で横薙ぎに振るって楽鬼を引き離し、痛みが起きた腕を見ると波音は刺鱏で防いだ筈の腕に亀裂状に入った罅に驚く。

 波音の近未来予知は本来、あらゆる状況で発動するが、この姿の波音はその近未来予知の精度が自身の危機の時のみにしか発動せず、おまけに何が危機なのかが分からないので、あらゆる事に警戒しないといけない。だが、今回は戦っている鬼は楽鬼1人で、しかも何が危機なのか明確に理解したのに傷を受けたことが波音を驚かせた。

 

「あははは!! ビックリしたこれが音撃気鳴笛(オカリナ)のもう1つの武器『衝撃徹』!!」

 

波音

【衝撃徹?!】

 

「そう。音撃を閉じ込めた特殊弾を使って、魔化魍に撃ち込むことで例え、武器や盾で防いだとしても通せる佐賀支部の作り出したオリジナル機構だよ」

 

 るんるん気分で言う楽鬼の言葉に波音は音撃気鳴笛(オカリナ)を見ると、笛の音の出る口がスライド式の機構が付いており、そこからシュウーーーと煙が上がってる。おそらくはそこから『衝撃徹』を撃ったのだろう。

 だが波音はーーー

 

波音

【ふふふ】

 

「?」

 

波音

【あはははははははははは】

 

「何を笑ってるんだ魔化魍!!」

 

 笑った。魔化魍である波音が笑ったことに苛立ったのか、楽鬼は声を荒げる。やがて、笑うのをやめた波音は刺鱏(しえい)の持ち方を変えて、楽鬼に目を向ける。

 

波音

【もう私に衝撃徹は通じないよ!!】

 

 自信満々の言葉に楽鬼はさらに苛立って、波音に音撃気鳴笛(オカリナ)の衝撃徹を撃ち込む為、波音に向かって走り出した。

そして、何かが砕けた。




如何でしたでしょうか?

乱風は実は甘えん坊だったんです。そして、オクリイヌはペイラーDと戦う。

波音も次回で楽鬼と決着がつきます。
何が砕けたんでしょうね?

因みにオクリイヌと戦うペイラーDの名の由来は、殺しの実験という意味のギリシャ語です。
モデルとして使ったのは、一度は見たことあるとあるゾンビゲームの敵キャラです。それを醜悪にしたイメージで作りました。


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記録漆拾陸

更新完了です。
今回は波音の前半と幽冥の後半でお送りします。


SIDE波音

 パリ、ピシッとひび割れたような音ともに何かが砕ける。砕けのは–––

 

「が、ぎゃああああ!!」

 

 楽鬼の肘近くの腕とその手にあった音撃気鳴笛(オカリナ)だった。

 

「な、何ですか!? それは!!」

 

 波音の持つそれ(・・)に楽鬼は驚く。

 何故なら、楽鬼の腕と音撃気鳴笛(オカリナ)を砕いたのは、波音の持つ手から楽鬼の腕のあった部分まで伸びる(・・・)刺鱏(しえい)だった。

 

 そう。これこそ刺鱏の本来の力、神経毒はあくまで刺鱏(しえい)の元となった生物の魂()の特徴の副次的なものに過ぎず、真の力は刀身の伸縮自在である。

 そして、音撃気鳴笛(オカリナ)共に楽鬼の腕が砕け散ったのは、音撃気鳴笛(オカリナ)衝撃徹弱点を突いた(・・・・・・)からだ。

 音撃気鳴笛(オカリナ)衝撃徹は、対象に対して、衝撃を送り込む際に機構の一部に僅かな隙間が出来る。波音がやったのはその隙間に向けて刺鱏(しえい)を突き刺して、衝撃を逆流させて、その衝撃で楽鬼の腕もろとも音撃気鳴笛(オカリナ)を破壊したのだ。

 

「まだ、負けてない!!」

 

 そう言って、自身の変身音叉を音叉刀に変えて、茜鷹と瑠璃狼のディスクを投げつける。

 ディスクからディスクアニマルになった数体の茜鷹と瑠璃狼が波音に襲いかかる。

 しかし本来、ディスクアニマルは魔化魍を捜索する為に使う事が多く、魔化魍に対しての攻撃能力はそこまで高くない。数があれば大型の魔化魍でも足止めすることは出来る。

 だが、波音のような等身大の魔化魍でも数十枚のディスクアニマルが必要なのに対して、楽鬼が持っていたのは2桁以下のディスクアニマル。波音は刺鱏を構えて、連続で突きを放ち、茜鷹と瑠璃狼を砕く。

 

「隙あり!!」

 

 ディスクアニマルによって出来た隙で楽鬼は波音に迫り、音叉刀を人間でいう心臓と同じ位置に目掛けて突き刺す。

 

波音

【惜しかったね】

 

 だが、音叉刀は波音の身体に刺さらず、刺鱏(しえい)の柄で音叉刀の刀身を受け止める。

 刺鱏(しえい)の刀身に赤紫のオーラが纏い、楽鬼は攻撃を避ける為に波音から離れようとするが–––

 

「ぐっ!」

 

 楽鬼の左脚には波音の尾の棘が突き刺さって、楽鬼は避けられず、赤紫のオーラを纏った刺鱏(しえい)が楽鬼を斬り裂く。

 

「うう、あ、ああああ」

 

 鎧の上から斬られても、刀身の毒は身体の中に入っていき楽鬼を蝕み、楽鬼は苦しそうに呻く。

 刺鱏(しえい)の副次効果である神経毒によって呼吸が乱れていき、腕と脚の神経が麻痺して持っていた音叉刀を落とし、さらに神経毒による身体の麻痺が悪化して、楽鬼は地面に倒れる。

 

 息も絶え絶えな状態で、楽鬼は波音を見上げるように見る。

 波音の深海のような深く青い瞳は楽鬼の姿を捉えて、ジッと見つめる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE楽鬼

 魔化魍が私を見下ろす。魔化魍に見下されて、私の心の中は怒りでも、憎悪でも、悲しみでもなく空っぽ(・・・)だった。

 それはそうだ。藩さんに拾われてから、私は自分の意思で行動したことなんて1度もない。常に藩さんの指示によって行動していた。私はそれに従い、ずっと流されるように過ごしてきた。

 

 私と同じ孤児と戦うのも。

 

 攫った人間を傭兵に変えるのも。

 

 魔化魍を倒すのも。

 

 実験体と闘うのも。

 

 私の意思はない。前の実験まで生きてた同じ孤児の話し相手曰く、『つまらない人生なんだな』と言われた。

 走馬灯のように思い出が過ぎ去りながら、だんだんと毒が原因なのか、目の前が暗くなっていく、魔化魍は小太刀をこちらに向けて、振り下ろした。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE波音

 初めて鬼と戦い、勝利を掴めた。

 刺鱏(しえい)の意思に認められたおかげで勝てた。まあ、予知能力は低下したけど非力な頃に比べれば–––

 

波音

【って、気付いたんだけど私、記憶消えてないよね!!】

 

 何で?

 確かに鬼を倒せるくらいの力を得れた、その対価として今までの記憶が消えるって言われた筈なのに、私の記憶は消えていなかった。

 しかし、記憶が消えるのを構わないって言っていた。今考えると結構私凄いこと言ったな–––

 

波音

【ありがとうね刺鱏(しえい)

 

 波音は自身の手にある刺鱏(しえい)に感謝の言葉を述べるのだった。

 

SIDEOUT

 

 何もない宙にピキピキと何かが凍っていく音が響き、そこからは連続して氷柱の弾幕が放たれる。それを放つのは、ユキジョロウの力を借りた幽冥。

 

 対するは、猛士佐賀支部の『佐賀3人衆』のリーダーともいうべき鬼、錫鬼。

 その手に持つ錫型の音撃棒 錫杖を回転させて氷柱の弾幕を砕いていき、弾幕の隙をついて錫杖に灯した炎を幽冥に向けて放つ。

 

 だが、幽冥が手を振るうと霧状の小さな氷が炎を包み込み、カチンコチンに凍らせる。

 炎だった氷は地面に落下して砕け散って、同じ攻防が続く。どちらも決め手になるような攻撃を当てていなかった。

 

「(ただ、氷柱を撃つだけじゃ、あの鬼に攻撃は当てられない)」

 

 そう考える幽冥は前世の知識で氷を使うヒーロー、敵キャラクター又はアニメキャラクターを思い出そうとしていた。

 その中で浮かんだのは、ダラけきった正義の元海軍大将、史上最年少の十番隊隊長、悪のカリスマの門番、裸になる氷の造形魔導士、恐竜を全滅させた仲良し3人組の1人、No.2ヒーローの2つの能力を持つ息子、皇帝に仕える四天王の豪将、幻想郷のおバカな氷精などといったキャラクター達が思い浮かび、幽冥はその中で何がユキジョロウとの戦闘スタイルに合うかを氷柱を放ちながら考えていた。

 

 ここで、幽冥の中にいる王たちの話になるが、魔化魍の王たちは幽冥が前世を持った人間だということは知っている。そして、その前世には個性的な友人達がいたおかげで、凡ゆる知識を幽冥は持っていた。

 妖怪好きのキッカケとなったオカルト好きな兄であり現姉の春詠、前世の世界ではその名を轟かせた料理人の姉、無類の歴史マニアな美岬、ロボットなどの機械系に詳しいゲーマーの妹、特撮マニアな弟、旅行好きで様々な経験を話す親友など様々な存在が幽冥に知識を与えた。

 その知識を幽冥に憑依している王たちは共有して、それを新たな自分の技として考えたりしていた。

 以前、北海道で戦った想鬼にイヌガミが使った『超大嵐』はとある特撮ヒーローの技をアレンジして生み出した技でもある。

 そして、幽冥の考えてる頭にユキジョロウの声が響く。

 

【こやつのコレなら、妾の新しい技として使えそうだ】

 

 そい言って見せられた物に幽冥は受ける鬼に対して、ご愁傷様と思うが、ボロボロになっていたコソデノテのことを思い出して、その考えを消した。

 

SIDE錫鬼

 先程まで、氷柱を撃ってきた女の魔化魍の動きが止まる。

 普通ならこのタイミングは絶好の攻撃のチャンスだが–––

 

「何だ?!」

 

 ふと、目に見えない何かを感じた錫鬼は錫杖を地面に突いて、結界を生み出す。

 そして、結界が張られると同時に世界は白に染まった。




如何でしたでしょうか?

今回はこんな感じになりました。
幽冥の考えていたキャラ達は色々な作品の氷系の能力の人たちです。

そして、ユキジョロウが参考にした技のキャラはとあるゲームのキャラです。
そのキャラのアレンジ技は次回の話で出ます。


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記録漆拾漆

更新完了です。
ひな編も残りわずかになりました。


 氷柱を撃つのをやめて、ユキジョロウさんの見せたあの技のイメージを固める。

 その技はありとあらゆる強化状態を消し去っておきながら状態異常は消し去らずという二重の意味で相手を苦しめる技。例え、攻撃力強化や守備力強化、呪文反射、ブレス耐性を行なってもこの技は防ぐことは出来ない。その技を受けた瞬間に、それらの強化状態を蝋燭の火を吹き消すように簡単に消し去る。

 

 この技を発動させるのに必要なものは2つ、極限まで溜めて冷気と魔化魍の王としてのオーラ。

 この2つを合わせるのに隙が出来ていたのだが、鬼は攻撃しようともせずにこちらを見ていた。そして、2つが歯車のように上手く合わさり、自然と右腕をまっすぐ突き出すように出して、その技を放つ。

 

 「凍衝波動(いてつくはどう)!!

 

 そう。此処とは違う世界アレフガルドの大地を生み出した精霊ルビスを石像に変えて封印し、アレフガルドを永遠の闇に包み込んだ大魔王が元祖ともいう冷気系の技。

 

 放たれた白い光は、目の前の錫鬼に目掛けて放たれる。だが、錫鬼は技が当たる寸前に結界を張った。だが、そんな結界は無意味だった。

 そこに居たのはーーー

 

「ぐがあ…あ、あああ」

 

 結界を張って防いだ筈の攻撃は結界を消し去り、無防備になった錫鬼の身体を凍て付かせた。鎧の上から凍らせた事もあり、身体の半分には氷が張り付き、身体の一部は重度の凍傷で壊死していた、特に結界を張るときに前に突き出していた右腕は鎧越しに凍り付いて根本からボキリと崩れそうになっていた。

 

 幽冥はその様子を見ながら、氷の下駄の音を鳴らしながら錫鬼に近付く。

 脚が氷に覆われて、地面に接着するように固められてる為に動けない錫鬼の首を左手で掴み、凍った脚を下駄で砕き、錫鬼の首を掴んだまま宙に浮かせる。

 空いた右手に空気中の水分を集めて、冷酷な眼で錫鬼を見ながら右手に出来上がった氷の槍を上に構える。

 

「じゃあね…………鬼!!」

 

 そのまま、氷の槍を錫鬼の心臓を貫き、錫鬼の背中から穂先が突き出て、地面に突き刺さる。

 背中から垂れていく血は氷の槍に垂れるが、槍の温度によって凍っていき、血のように真っ赤な槍に変わった。

 

【ふふふ、やはり人間の串刺しは良いものだ】

 

 頭の中で、高揚したユキジョロウさんの声が響く。

 朧から聞いた話によると、ユキジョロウさんは富士山頂上付近を根城にしており、そこにやって来た鬼や反逆した魔化魍を殺し、氷の槍で串刺しにしてそれを眺めながら喰らっていたらしい。

 

 だから…………なのだろうか?

 私は今、凄くこの鬼を喰らいたい(・・・・・)と思った。

 

 幽冥のこの状態は、魔化魍の王になる兆候である。幽冥の家族である魔化魍たちは最近では、人の食事にも興味を持ち、炭火焼オルグことおっちゃんや野間 茂久の料理などを喰べる事も増えただが、やっぱりどうしようとも人間を喰べたくなる。

 そして、幽冥は錫鬼の死体を眺め続け、その死体に近付き、死体を齧ろうと口を近づけると–––

 

「申し訳ございません」

 

「うっ」

 

 首に来た衝撃によって、幽冥はユキジョロウの力を借りた姿から元の着物姿に戻り、意識を落とした。

 

SIDE白

 隙をついて、赤に一撃を与えて、何とかあの場の正妃対戦は勝利し、赤をその場で置いて、私は王を探した。

 すると、鬼の死体を喰らおうとした王を見て、私は王に近付いて、首の後ろに当て身を当てる事で気絶させた。そのまま地面に横たわらせようとすると、王は目を開いて、私から勢いよく離れる。

 だが、王の瞳の色が白かった事で、今起きているのは王は王でも5代目の王であるユキジョロウ様だろう。

 

【何故、こやつの食事を邪魔した妖姫?】

 

 王と同じ声でも喋り方が違い、私を睨みつける王の身体を借りたユキジョロウ様に私は答える。

 

「王はまだ完全な魔化魍の王ではありません」

 

【知っておる。だから早めに人間の味を覚えて貰おうとしておったのに】

 

 それもそうだ。元が人間だったとはいえ、魔化魍の王になると言うのなら、人間を喰らわねければならない。王は人間を喰らう覚悟はあるだろう。何故なら王は既に2人の鬼を殺している。

 だが–––

 

「私は……いえ、私達は王が完全な魔化魍の王になるまでは人間を喰らわせないと」

 

 そう。完全なる魔化魍になるまで、その時までは絶対に私は、いや私たちは王に人間を喰わせない。

 

【分かった。今回はお前さんたちの覚悟に免じて何も言わん】

 

 すると、王の瞳の色が白から琥珀色に戻り、地面に倒れる。

 私は王に近付いて王の頭を膝に乗せて、頭を撫でる。

 

 気絶させた赤以外の他の正妃を目指す者が見たら、再び正妃対戦が始めるが今は居ないので、王を私の膝に乗せても問題ないでしょう。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE眠眠

 何で、何で………突然のことで僕は混乱している。

 僕の身体は気体と同等で、例え、爆発に巻き込まれたとしても、斬り刻まれても、死ぬことはない。なのに何で?

 

眠眠

【何で庇ったのランピリス!!】

 

 目の前で緑の血を流し、肉体の一部を失い、本来の姿から偽り(擬態)の姿で倒れているランピリス(主人)に声を荒げる。

 何でこんなことになった!!

 

〜回想中〜

 もう虫の息ともいう傭兵たち数名を残して、傭兵たちの殲滅は完了した。

 

眠眠

【えっ】

 

 だが、虫の息の傭兵たちは腰に携帯していた緑の筒状の物の上の出っ張りを押すと、側にいた僕に向かって走って来るが、それを見たランピリスが間に割り込むように入って、僕を押し飛ばしてランピリスは傭兵にぶつかった瞬間に炎に包まれた。

〜回想終了〜

 

 僕の所為で、ランピリスは–––

 

「自分を…責めてはダメ……だよ……」

 

 自責にかられる眠眠の頭に手を置いて撫でたのは、目の前の怪我人だった。

 

眠眠

【でもーーむっ】

 

「油断…は私もしていたんで…すから……おあいこです」

 

 そのままランピリスは眠るように意識を失い、眠眠はランピリスの傷を如何にかする為に離れた所にいる家族の元にランピリスを背負いながら向かっていった。




如何でしたでしょうか?
今回は幽冥の変化と焦る眠眠という感じで書いてみました。
次回にオクリイヌの戦いを書こうと思います。


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記録漆拾捌

更新完了。
今回は、オクリイヌ対ペイラーDの戦いです。



SIDEオクリイヌ

 幽冥たちが佐賀支部3人衆を倒した同時刻の猛士佐賀支部内の一室。

 そこでは、背中から黒いもやを発生させる柴犬の魔化魍 オクリイヌと佐賀支部支部長の藩に作られた異形 ペイラーDとの殺し合いが続いていた。

 

【硬えんだよ!!】

 

 もやを2つの巨大な拳に変えて、ペイラーDの身体にラッシュで叩き込むが、脂ぎった身体とは思えない身体の硬さにオクリイヌは毒を吐く。

 そのお返しといわんばかりにペイラーDは肥大な左腕の3本の爪をオクリイヌに振り下ろす。

 

 ガンと鈍い音と共にペイラーDの攻撃は先程まで、拳だった2つのもやを合わせてもやの大盾に変えて防いだ。

 

【舐めるなよ元人間如きが!!】

 

 オクリイヌは大盾で攻撃を弾いてペイラーDの身体を壁に吹き飛ばし、もやを口の周りに集めて黒い小刀を作り出し、咥えてからペイラーDに向かって走る。壁から立ち上がろうとするペイラーDを再び、壁に埋め込むように押し付けると同時に左腕を斬り落とす。

 そして、壁に押し込んだペイラーDの左胸元の心臓に向けて小刀を突き刺す。

 

 心臓に突き刺されたペイラーDは壁からズルッと滑るように床に倒れる。

 オクリイヌはそれを一瞥して、支部長である藩のいる部屋に繋がる扉を向かおうとすると–––

 

「おいおい、何をしてるのかね魔化魍くん」

 

 アンテナから藩の声が響き、チッと舌打ちをして4つのアナウンスにもやで作り出した槍を突き刺そうと瞬間。

 

「まだ、実験は終わってないよ」

 

 藩の言った言葉でオクリイヌはペイラーDの死体があった場所を見ると–––

 

アアアア………アアアアアアアアア!

 

 斬り落とした筈の左腕を切り口に当てて直し、左肩に左腕と似た腕、棘の生えた甲殻のような鎧が身体の所々に纏ったペイラーDだった。

 

「驚いたかねペイラーDは倒されれば倒される程、その身を再生させ、さらに強化する」

 

 アンテナから響く声に遂に我慢の限界がきたオクリイヌは4つのアンテナをもやの槍で粉砕する。

 ムカつく声が聞こえなくなっても、目の前の敵はいなくなるわけではないので、オクリイヌは溜め息を吐きながら、再びもやを武器に変えて、ペイラーDに目掛けて走り出す。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE藩

 ペイラーDが守る扉の先に繋がる部屋。そこには肘掛の付いた回転椅子に座る藩が目の前にあるモニターから魔化魍(オクリイヌ)実験体(ペイラーD)の闘いが映されていた。そして、私はペイラーDが左腕を斬り落とされ、心臓に突き刺す瞬間を見て、驚いた。

 昔のペイラーDならともかく、最近まで魔化魍との戦闘実験では死ぬことは無かった筈だが………そうこう考えてると、ペイラーDは重力によって床に倒れる。その光景を見た藩は–––

 

「まあいいか」

 

 と呟き。藩は目の前のモニターの隣に付いてるマイクを近づけて、喋り出す。

 

「おいおい、何をしてるのかね魔化魍くん」

 

 魔化魍くんがアンテナを潰そうと背中から出る黒い煙を槍に変えて、アンテナに当てようとする。それを見て藩は急いで、続きの言葉を出す。

 

「まだ、実験は終わってないよ」

 

 魔化魍くんからは見えてないから、親切心のつもりでペイラーDの事を教えてやろう。

 

アアアア………アアアアアアアアア!

 

 ペイラーDの声で魔化魍くんが後ろを向く、すると先程まで姿の違う姿に変わる。ペイラーDの姿が変化するのを見るのは久しぶりだ。何せ、この能力を使う前に大抵の魔化魍を倒していたからね。そして、口を開けて驚いてる魔化魍くんに再び、ペイラーDの事を教える

 

「驚いたかねペイラーDは倒されれば倒される程、その身を再生、さらに強化する」

 

 私の声を聞いて、オクリイヌは背中から出る黒い煙の槍を使って、アンテナを壊した。

 

「ふむ、アンテナが壊されたか」

 

 まあ、壊れたとしてもカメラから映像を見ることが出来るが、音が聞こえないのが残念だ。

 

「しかし、あの魔化魍くん…………次の実験の材料にしたいなあ、だが、奴ではバラバラにしそうだ」

 

 ペイラーDは対象が完全な生命活動停止をするまで攻撃を続ける。お陰でペイラーDと並行して生み出した他の実験体はペイラーDによって壊されてしまった。

 だから、藩はモニターに映る魔化魍(オクリイヌ)の死体が残るようにと思った。

 だが、そう思った藩の思った考えを否定するようにモニター一面に映る映像が炎に包まれた。そして、モニターが壊れる瞬間に映ったのは姿の違う魔化魍だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEオクリイヌ

 ああ、まったくムカつく。久々にムカつく。目の前のペイラーディーとかって奴とこいつを作り出したここの支部長が。

 

 人間が何しようが勝手だ。魔化魍である俺からしたら人間が人間に人体実験していたって別に気にしねえ。

 だが、さっきの気色悪りぃ姿から変わった奴と戦って分かった。

 

 あのペイラーディーって奴にはお袋の細胞(・・・・・)が使われてる。

 

 ああ成る程、それはそうだ。死なねえ筈だ。お袋は何をしても死なねえ。

 例え、バラバラにされようが。

 

 炭になるまで燃やされようが。

 

 風で塵にされようが。

 

 毒で身体を溶かされようが。

 

 絶対零度の氷に閉じ込められようが。

 

 植物の栄養源のように吸い取られようが。

 

 重力でぐじゃぐじゃに潰されようが。

 

 お袋は死なねえ。子供の頃から問題児のように扱われて、親なしや童子、姫に捨てられて育った俺たちを見捨てずに此処まで育ててくれた。

 だから、俺たちはお袋には恩がある。それこそ、今まで育ててくれたお礼としていろいろしてやりてぇ。

 

 だからこそ、俺は目の前のこいつと此処のクソ支部長を絶対に殺す。

 

【今は力を借りるぜ。親友(ダチ)!!】

 

 そう言った、オクリイヌはもやを身体に纏わせて、さらに鬼火をもやの上から被るように浴びる。

 炎に包まれたオクリイヌを見て、ペイラーDは身の危険を感じ、2つの左腕でもやと炎ごとオクリイヌを潰そうとするが–––

 

アアアアアアアアアアアアア

 

 悲鳴にも似たペイラーDの叫び声が響く。潰そうとした左腕を2つともオクリイヌの身体に纏わった炎で燃やされる。

 炎によって腕を燃やされたペイラーDはオクリイヌから離れるように転がる。

 

 オクリイヌを包む炎が大きく燃え上がり、部屋の天井に着く位まで燃えた瞬間、炎は部屋全体に散らばるように弾けた。そして、この時の炎の余波で藩の部屋でモニターを映していた隠しカメラが壊れたことはオクリイヌは知らない。

 

 炎の中から現れたオクリイヌの姿は変わっていた。

 淡黄色の着物を羽織り、それを押さえるように巻かれた注連縄、両前脚は肥大化した赤い骨の脚に変わり、下半身全体には赤い脈のように張り巡らされたラインが描かれた柴犬。

 だが何よりも変わったのはその背中から出るもやでは無いものだった。オクリイヌの背中から出ていたもやはその先に繋がる巨大な骨の拳に繋がっていた。

 

 オクリイヌがとある鬼(・・・・)と初めて会った時、オクリイヌは攻撃されて1度、呪いを受けた。

 しかし、オクリイヌを勘違いで攻撃したと気付き、とある鬼(・・・・)はオクリイヌに送った呪いを消した。後にそのとある鬼(・・・・)とは親友(ダチ)となる。だが、呪いは消えることなくそのまま残った。だが、呪いはオクリイヌにマイナス影響は与えず、むしろプラスな影響を与えた。

 

 そして、ペイラーDは再び、再生してその身を強化する。

 今度は身体全体が鉄のような金属に覆われて、その身を鈍い光沢が光る。

 

 オクリイヌは強化されたペイラーDを見るや、宙に浮く巨大な骨の拳でペイラーDを殴りつける。

 まるで鐘を殴った音がペイラーDから響き、そのまま拳を振り抜いて、ペイラーDは壁に叩きつけられる。

 オクリイヌはそれを見て、骨の拳を目の前に構えて、もう1つは自分の身体を押さえつけるように掴んで、床に固定する。

 

【喰らいな!! 必殺の羅生門(らしょうもん)!!】

 

 オクリイヌの目の前にある骨の拳はその手を開き、ペイラーDの身体に目掛けて飛ぶ。壁から立ち上がろうとしたペイラーDの見たものは自身に迫る巨大な骨の掌だった。

 

 ペイラーDは壁に縫い付けられるように叩きつけられ、骨の掌は徐々にペイラーDの身体を締め上げるように閉じていき、骨の掌はやがて完全に閉じるとペイラーDの内部から炎が吹き上がり、その身を爆炎と共に爆発した。

 

 

 

 

 

 

 爆炎が治ると元の姿に戻ったオクリイヌは、爆発によってひん曲がった扉に入り、扉の先にいる胸糞悪りぃ相手を送り込んだ藩の喉笛を喰い千切る為に向かった。

 

 長い地下階段を降りていくと、開きっぱなしの扉に着き、オクリイヌは片脚で開けて、中に入った。

 

 そこは先の戦いの爆発によって崩れて、滅茶苦茶になっていた。オクリイヌはここにいるであろう藩を探そうとしたが、とある1点を見ると、探すのをやめた。

 とてつもない爆発によって佐賀支部の建物が揺れて、藩はその揺れによって落ちた天井に踏み潰されていた。天井と床から流れてる血、そして潰れずに残された左腕はそれを物語っていた。

 

【ちっ……】

 

 それを見たオクリイヌは、藩の喉笛を喰い千切れなかったことに舌打ちをし、そのまま幽冥に頼まれたもう1つの仕事をする為に部屋を後にした。




如何でしたでしょうか?
今回は本来は予定上ありませんでしたが、オクリイヌの変異態を出しました。
ちなみに察しのいい人ならもうオクリイヌの親友(ダチ)の正体には気付いてるかもしれません。
次回を含めて、後2〜3話でひな編終了です。


ーおまけー
ペイラーDの設定です。
名前:ペイラーD
特徴:猛士の佐賀支部支部長 脳見 藩が生み出した実験体。
   その正体は人間で、ヌッペフオフこと食香の細胞を埋め込まれた存在で、実験を繰り
   返している内に人間の姿が徐々になくなり今の姿になった。
   元なった人間は傭兵とする為に拉致された男で、偶々目に入ったという理由で、実験
   体にされた。実験の最初の犠牲者は男の家族で、藩の命令を受け付けるように頭に埋
   め込まれた発信機で操られて家族を惨殺、その後に精神が狂い。実験にも進んで行っ
   ていた。
   実験によって、死んでも生き返り、さらに強化されることに気付いた藩によって佐賀
   3人衆に捕獲された魔化魍との殺し合いで、オクリイヌが出会った姿に変異していく
   。
   オクリイヌに左腕を斬り落とされて、心臓を刺されて死んだが、能力で強化して復活
   、オクリイヌを追い詰めるも、食香の細胞が使われていることに気付いたオクリイヌ
   が変異態に変異。
   オクリイヌの変異態であるオクリイヌ叢原火(そうげんび)羅生門(らしょうもん)によって身体が吹き飛ばされ
   た。


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記録漆拾玖

更新完了しました。
今回はいつにも増して、内容に苦労しました。
今回は幽冥SIDEとヒャクメSIDE、最後にコソデノテSIDEを書きました。
そして、ひな編は次回でラストです。


「…………だ…………」

 

「おき……だ………う」

 

「起きてください王」

 

 白の声が聞こえて、私は目を開ける。

 

「起きましたね王」

 

 私を覗き込むように見る白の顔………って!!

 

「ひな……つーーー痛い」

 

「痛いです王」

 

 ひな達のことを思い出した幽冥は起き上がろうとして、白の額に自分の頭をぶつける。

 幽冥の身体は魔化水晶を手にする度に魔化魍になりつつある身体、だが、魔化魍化しつつある自分の頭でも元々、妖姫である白の額にぶつければ痛いものは痛い。

 

「大丈夫? 幽お姉ちゃん」

 

 少し離れた所から聞こえる声に私は安心し、その声の主の方に向けて走る。

 

「ひな!!」

 

「うわ、幽お姉ちゃん苦しいよーー」

 

「ああ、ごめんね」

 

 抱きついて、ひなの無事を確認するも、苦しそうにするひなに私は慌てて離れる。

 少し涙目になったひなを抱きしめ、その頭を撫でる。

 撫でて少し経った後に、私はコソデノテを探すことにした。

 

 佐賀支部の攻撃によって一部が崩れた屋敷。

 その中に入り、幽冥はコソデノテを探す。部屋の1つ1つを確認して、襖の壊れた6部屋目に入るとヒャクメが作ったと思われる氷のベッドの上で寝かされてるコソデノテと自分の主人であるコソデノテを看病をするヒャクメがいた。

 

【【ああ、どうすれば、どうすれば】】

 

 無数のヒャクメ達が慌てて、コソデノテを治療しようとするが、魔化魍に人間用でもある普通の薬が効く筈もなく。尚更慌てる。

 私は部屋に入り、ヒャクメに近付くと–––

 

【【こ、これは王!!】】

 

 私を見て、一斉に畳に降りて凍った鰭を前に出して畳の上に付いた。

 

「コソデノテが心配なんでしょ。いちいちそんな事をしなくてもいいよ」

 

【【ですが、それは王に対して不敬です!!】】

 

 私が言っても姿勢を解こうとしないヒャクメに私は裾に仕舞ったある物である事を思いつく。

 

「じゃあ、ヒャクメ。この薬をコソデノテに塗ってあげて」

 

【【薬ですか?】】

 

 そう言って私が裾から取り出したのは、蝕が作った傷薬。

 いつかのようにシュテンドウジさんの力を借りれるか分からず、その為に蝕に作って貰った。基本は塗り薬だが、飲むことも出来る。だが、飲ませるよりは傷口に直に塗る方が効果が高い。

 

「これは家の家族が作った傷薬でね。丁度持っていたからこれをコソデノテに塗って治療してあげなさい。これは王の命令です」

 

【【あ、ありがとうございます王。では、早速使わせて頂きます】】

 

 そう言って、ヒャクメは鰭に薬を乗せて、コソデノテに塗る。その光景を見た私は部屋から静かに出た。

 

SIDEコソデノテ

 ひなを鬼から守り、私は意識を失った。そして、この暗い道を1人歩いている。

 私の怪我の具合から考えて、死んだのかもしれんな………さしずめ此処はあの世に繋がる一本道という所かの。だが、私はひなを1人にするわけにはいかない。あの子の家族はもう私だけ。

 

 私が死んだら。ひなはどうなる、唯一の家族である私は死ぬわけにはいかない。

 

【先ずは此処から抜け出さねば】

 

 そう口に出した私は、暗い道の反対を歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 あれからどれくらい経ったのだろう。数十分。数時間。いやもっと経ったのかもしれん。

 そして、どれくらい歩いたのだろうか。歩いても歩いても同じ暗い道。此処があの世だとしたら、この世の入り口になりそうな場所があってもおかしく無い筈なのだが。

 

 それから、さらに歩いた。だが、出口であるこの世の入り口らしきものは見つからない。

 此処までくると私は考えてしまった…………出口はそもそも無いと。

 

 歩くのに疲れ、暗い道の脇にあった岩に腰を下ろし、溜め息を吐く。すると–––

 

「何、しょぼくれた顔をしとる」

 

 後ろから懐かしい声が聞こえ、振り向くと。

 

「よっ!」

 

 そこに居たのは、本来は、魔を清める者()人を喰らう者(魔化魍)、そんな敵対関係だったのに偶然起きた事故で土砂崩れに巻き込まれ、閉じ込められた洞窟で私の人間の姿を見て、『惚れたから結婚してくれ』と言い、私は清めた事にした男。

 魔化魍である私だけを愛し、死ぬ時まで一緒だった男。その名は–––

 

「久しぶりだの紫陽花」

 

 立花 梅雄(ばいお)

 ひなの祖父であり、先先代の8人の鬼の1人である呑鬼。魔化魍である私が本気で愛した男。そして、紫陽花というのは私が人間の姿で名乗っていた名前だ。

 梅雄はそのまま私の隣にあぐらで座り、いつの間にか持っていた酒の一升瓶を猪口に注ぎ、そのまま一杯飲む。

 

「ぷはーーー。で、どうしたんだ」

 

 梅雄と話をする為に私は擬人態に姿を変える。

 

「やっぱり、いい女よのーー」

 

 どうやら死んでもこやつのスケベは直らないのか。だが、少しだけ暗い気持ちが和らいだ。そして、私は梅雄に実孫(ひな)の話をする事にした。

 

「梅雄。おまえが死んで少し経った年に孫が生まれたんだ」

 

「ほおーーあのバカ息子も嫁を見つけられたのか。それはめでたいの」

 

「ひなという名前でな。雛人形に愛らしい姿からその名を付けたんだ」

 

「人間の風習に興味は無いと言ってたお前が名前か」

 

「考えるのに苦労したよ。それからなーーー」

 

 私はそのまま暫く、ひなの話を続けた。

 その話を聞きながら梅雄は酒を猪口で飲む。息子の時とは違ったひなの赤子の頃の大変さを教えたり、悪戯をして叱れるひな、幼稚園で先生に褒められたことを嬉しそうに報告するひな。そこから、梅雄の知らないひなの話を続けた。

 最後の話が終わると、私は現状を思い出し、再び、この世の出口を探そうとした。

 

「紫陽花。此処で儂と過ごさんか」

 

 梅雄の言葉で、私の足は動きを止める。

 

「お前はもう充分生きた。再び戻ったとして、また同じことを繰り返して、ひなを悲しませるより、此処に残り儂と此処で過ごさんか。

 ひなは魔化魍の血が流れてるとはいえ、4分の3は人間だ。いずれ此処に来るだろう。そうすれば、儂たちと一緒に此処で暮らそう」

 

 梅雄の言うことも確かだ……私がひなを人質に取られて、再び、あの世とも言える此処に来るかもしれない。それならば、此処に残るのもいいかもしれない。だが–––

 

「私はひなの元に戻る」

 

 目の前の梅雄の目を見てはっきりと宣言する。

 

「いいのか? また同じことを繰り返すのかもしれんぞ」

 

「その時は、例え、ボロボロになったとしても必ずひなの元に戻る」

 

 私の覚悟を聞き、梅雄はあぐらを解く。そして私の手を掴み、何処かへ歩き出す。

 段々と暗かったはずの道が明るくなり、その明るさは強くなっていく。やがて、途轍もなく光るところに着くと梅雄は私の手を離し、そのまま私の方に振り返り、口を開く。

 

「此処から先に行けば、お前さんは本来の肉体に戻る…………此処でお別れかの。さあ、早よ戻って(ひな)を可愛がってやれ」

 

 そう言って、梅雄は元来た暗い道に向かっていこうとするが–––

 

「待て梅雄!!」

 

「ん。なん、むぐ」

 

 私は行く前の梅雄に感謝と別れを合わせた接吻をした。やはり慣れぬなと心の中で思いながら口を離すと、やられた梅雄は少し、目をパチクリとさせるが口は大きく開き笑う。

 

「はははははは。やっぱり、お前さんはいい女だの」

 

 そう言って、梅雄は私を強く光る後ろに押した。そして、最後に見えたのは満面の笑顔で笑う愛しの男だった。




如何でしたでしょうか?
今回はコソデノテSIDEに彼女の夫だった。ひなのおじいちゃん梅雄さんを出して見ました。
今回のみしか梅雄さんは出ませんが、もしかしたら別の話で出て来るかもしれません。


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記録捌拾

更新完了です。長くお待たせして申し訳ございません。
今回のこの話の投稿でひな編完結です。



SIDEコソデノテ

 梅雄に押されて、私は強い光のところへ落ちた。

 そして、ずんと来る体の重さで意識が戻り、私はあの世から戻って来たことを感じさせた。そして、目を開いて最初に見えたのは–––

 

【【こ、こここコソデノテ様あああああああ!!】】

 

 と言って私の身体に飛び付くヒャクメたち。その数によって起き上がった私の身体は再び、堅い氷のベッドに戻される。

 

 

 

 

 

 

【【すいませんコソデノテ様】】

 

 少し経って、ヒャクメは私から降りて一斉に頭を下げて、反省していた。

 頭を下げるのを止めさせて、私の身体にあった怪我はどうしたのか。私が倒れてる間に何があったのかヒャクメに聞いたところによると、ヒャクメが治療している時に王が現れて、傷薬を渡してくれて、そのまま去ったようだ。

 

 それを聞いて思ったことがあった。私がいたあの世とは意識なく倒れた私が想像で作り上げた空想だったのではないのかと。そして、そこに居た梅雄も自身の想像で作り上げられた偽物だったのではないのか。

 だが、この考えは否定した。その理由は–––

 

【(梅雄の奴め……ひなに会いたかったんだろう)】

 

 私の魔化魍の姿である後翅の小袖の裾に桜の花弁を模した飾りの付いた簪が入っていた。

 おそらく、梅雄が会えない孫のためにと思ってこの世に戻す際のどさくさに紛れこませたものだろう。だが、これのおかげであれは想像によって作られた空想ではなかった事が証明された。

 

【【それでは、コソデノテ様。早速ひな様を「大丈夫だよヒャクメお姉ちゃん」!!】】

 

 その声でヒャクメが後ろに振り向くと、ひながいた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEひな

 幽冥お姉ちゃんが部屋に戻ってきた。そして、ひなの手をつかみ、部屋の近くまで連れて、そのまま離れた部屋に入った。

 そして、その部屋から聞こえる声からおばあちゃんが中にいると分かり、そのまま入る。

 

 中にいたのは、いっぱいいる凍ったひれの一つ目のお魚と服のようなはねのアゲハチョウ。ひっそりと会話を聞いてると、一つ目きんぎょたちがヒャクメお姉ちゃんで、服のようなはねのアゲハチョウがおばあちゃんみたいだ。

 

【【それでは、コソデノテ様。早速ひな様を「大丈夫だよヒャクメお姉ちゃん」!!】】

 

 ヒャクメお姉ちゃんの声の上からしゃべると、ヒャクメお姉ちゃんとおばあちゃんはひなを見た。ひなはそのまま部屋に入る。

 そして、少し困っているヒャクメお姉ちゃんとおばあちゃんの前で座る。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 座ったひなと話しやすいようにと擬人態になって座ったコソデノテ達は喋らずに静かな沈黙が続く。長い沈黙の中でひなが最初に喋り始めた。

 

「おばあちゃん……怪我大丈夫?」

 

「大丈夫だよひな」

 

 ひなの心配な声に目の前の実祖母(コソデノテ)は笑顔で返答する。

 

「良かった。おばあちゃん、ひなを庇っていなくなっちゃうのかと思って」

 

 ひなの言葉にはコソデノテもヒャクメも理解している。

 何故なら、ひなの両親とひなの祖父である梅雄はすでに死んでおり、今、ひなに残された血の繋がりは祖母であるコソデノテだけである。

 

「安心してひな、私はもう家族を失わせはしない」

 

 コソデノテはそう言って、ひなを抱きしめる。ひなは自分を抱くコソデノテの手を離すように離れる。

 

「おばあちゃん。ごめんなさい」

 

 ひなはコソデノテに謝った。

 

「……なんで謝るのひな?」

 

 優しく聞くコソデノテにひなは答えた。

 

「ひな、おばあちゃんのことを怖いと思った。ずっといっしょだったのに、ひなはおばあちゃんが怖かった。ひながふつうじゃないのはおばあちゃんのせいだって思って」

 

 ひなが謝ったのは、コソデノテに抱いた恐怖のことだ。

 それもそうだ。産まれてから別れる時まで一緒に暮らしていた大好きな祖母が実は人間ではなかったこと。しかも、それを知ったのは両親が死んでまだ心の傷が癒えてない状態の時だ。さらに、普通の人間と違ったせいで、両親が死んだ(母親はそれとはあまり関係ないが)。

 

 だが、ひなはノツゴと話したことで、コソデノテは自分の大好きなおばあちゃんだということに気付いた。それに、ひながしばらく暮らしていたのはそのコソデノテと同じ種族でもある白たち。それによって、おばあちゃんが怖かった恐怖はいつの間にか無くなり、コソデノテに謝ろうと思ったのだ。

 

「………」

 

 それを聞いたコソデノテは薬指を折り曲げて、親指で抑えて、ひなの額に––––

 

「ぴっ!! ううーーー痛いよおばあちゃん」

 

 コツンとデコピンをした。

 

「ひな………私の所為でひなは普通とは違う子だ。普通の子供から見たら不気味に思われるかもしれない。だがな、それがどうした。

 ひなは私の孫だ。そんなに人と違う事を気にする奴がおったら私がひなの代わりにシバく」

 

「ぷ。ははははは」

 

 小袖の裾をめくって、腕を振り下ろす動作を見たひなはそれが可笑しかったのか、笑い始める。

 

「あははははははは」

 

 コソデノテは笑うひなを抱きしめて、自らも笑い始める。ヒャクメはひなが居なくなる前まで見られていた光景を見て、着物の裾で顔を覆い、静かに涙を流した。

 

SIDEOUT

 

ボソッ「良かったね。ひな」

 

ボソッ「うん………でも幽なんでこそこそするの?」

 

 ひな達のいる部屋の隣にある部屋で壁にコップを当てて、盗聴するのは幽冥と春詠だ。2人はひなとコソデノテの様子が気になり、隣の部屋に潜んでコップで盗聴していたのだ。

 

ボソッ「ひなとコソデノテが仲直りできるか心配だったの」

 

「(やっぱり)」

 

 春詠は前世から妹である幽冥のことをよく知っていた。

 野上 良太郎よりも不幸な目によくあうのに、親友の為にヤクザの事務所に乗り込んだり、自分の姉兄が怪我で入院や体調を崩して寝込めば、学校を放り出して見舞いや看病をして、弟妹が欲しいものがあれば自分の貯めた小遣いを使ってプレゼントしたりと色々する。

 要するに幽冥は自分の親友や家族にはとことん甘い。そして、ひなとコソデノテの話を隣の部屋で盗聴していたのは、何かあった時のために直ぐに壁を突き破ってでも、対応するため。

 

「何事もなくてよかったよ。じゃあ私は蛇姫たちと転移の話をしてくるよ」

 

 ほっと一息ついて、幽冥はこの佐賀から自分たちの住まう妖世館に転移する話をする為に部屋から出て行った。

 

SIDE食香

 幽冥がひなとコソデノテの会話を盗聴していた同時刻。

 食香は自分の育てた子供の1人、乱風と共に屋敷の外に出て、入り口である者を待っていた。

 

乱風

【それにしてもいつになったら帰ってくるのでしょうか?】

 

食香

【さあ、あの娘はいつも時間にルーズでしたしね】

 

 そう言って入り口で待っている2人の耳にある音が響く。道から響く機械の爆音はどんどん近付いてきて、食香の側に爆音を出したものは止まる。

 

「お、お袋。ただいま」

 

 背中に背負うように結んだ袋をそのまま下ろして、単車から降りるのは食香に育てられた魔化魍オクリイヌだ。

 

食香

【お帰りなさい】

 

 食香はオクリイヌの無事な姿を見れて、安堵する。

 

乱風

【佐賀支部は潰せたのですか?】

 

 乱風はオクリイヌに襲撃した佐賀支部をどうしたか聞いた。

 

「ああ、問題なく潰せた。雑魚ばっかだったし。それよりは王は何処にいるんだ?」

 

乱風

【全くあなたは………王でしたら蛇姫の所にいます】

 

 いつまでも口の悪さが変わらない、オクリイヌに乱風は溜め息を吐くが、王に何か用があるらしく、何処にいるのかを教える。

 

「そっか。じゃあ俺、王に渡す物あるんでな、また後で」

 

 オクリイヌはそのまま、屋敷の方に向かって歩いて行った。

 

食香

【全く、あの不良娘は】

 

 乱風との会話を横で聞いていた食香は少し呆れるが、昔のような光景が見れて懐かしく思い、乱風を連れて屋敷の中に戻った。




如何でしたでしょうか?
オクリイヌの持ち帰ったものは幕間で出てきます。

それと今回の投稿でしばらく、投稿をストップします。
現在、製作中の安倍家の魔化魍 参の巻が投稿次第、続きを書きます。続きが気になる方には申し訳ございませんが、これからも本作品をよろしくお願いします。


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幕間
目覚める家と艦


本編お待ちの読者の皆様、大変お待たせしました。
また、いつも通りの投稿スピードで投稿出来たらいいなと思っています。
安倍家の魔化魍参の巻を書いてる時に同時進行で書いていた奴が出来ましたので、投稿します。
では、どうぞ。


世送

【王様。これがあそこから集めた怪しそうなもの全部だな】

 

 背中に背負った風呂敷を降ろすオクリイヌもとい世送が猛士の佐賀支部から持って帰って来たものには色々なものがあった。

 まず、世送が取り出したのは少し大きな透き通った赤い勾玉だった。私がそれを手に取ろうとすると–––

 

「それは私の物です」

 

 襖を開けて入ってきたバケトウロウこと灯籠が私の手にあった勾玉をとると、突然、元の姿に戻る。そして、勾玉を背中の甲羅の窪みの部分に入れると、勾玉は形を変えて、小さな炎に変わり甲羅の周りを少し明るく灯す。

 

灯籠

【やっと、やっと戻ってきた。これを探すのにどれ程………】

 

「灯籠。貴女の物だってのは分かったけど、それって、何なの?」

 

灯籠

【ああ、王。突然、王の手から掻っ攫うように取ってしまいすいません。これは『火晶(かしょう)』。私らの種族であるバケトウロウは産まれてからこの『火晶(かしょう)』と共に過ごします。

 これに炎を蓄えて、いざという時にそれを代食としてますが、ある時に鬼に奪われたんです。私は自分の『火晶(かしょう)』を探す旅に出ました。そこでジャック達に出会い、旅を共にしていたんです…………ああ、そうだジャック達にこの事を伝えてきます。お礼はいつか絶対に返します】

 

 灯籠はそう言うと、再び擬人態に戻り、入ってきた襖から飛び出てった。

 

世送

【…………まあ、持ち主に戻って良かったんだよな】

 

「そ、そうだね。世送、次の出して」

 

世送

【じゃ、次はこれかなっと】

 

「これは!?」

 

 世送が取り出したのは、ダイヤル式の小さな金庫だった。

 

世送

【この金庫が怪しくて開けようとしたんだけど、開かないから。どうしようかと考えてたらそのまま持ってかればいいかと思って、そのまま金庫ごと持って帰ってきちまった】

 

 少し舌を出して、謝る世送。

 確かに私は怪しい道具を回収と言ったから、お願いは果たしてるが、まさか怪しそうなものが何か分からずにそのまま金庫ごと持ち帰るとは思わなかった。だから怒ろうにも怒ることは出来ず、取り敢えず彼女の母親である食香に後で伝えとこうと私は思った。

 

世送

【次で最後だぜ】

 

 そう言って、取り出したのは血脈のようなラインが入った小太刀だった。

 

「この剣……は………」

 

 この小太刀を見ていると何か懐かしい感覚が………って、あれ今、私意識が何かのまれそうになっていたような。

 

世送

【大丈夫か、顔色が変だったぜ王】

 

「大丈夫。何でもないよ」

 

 私は何も無かったように世送に答えて、幽冥は自身の手にある小太刀を眺めていた。

 

SIDEひな

 コソデノテこと紫陽花とひなの2人が再開で会えなかった今までの事を話していた。

 

「お家燃やしちゃうの」

 

「もう此処には住めないからの」

 

「ごめんなさい、ひなのせいで」

 

「謝らなくて良い。既に此処は奴らに知られていた。いつかは離れるつもりだった。ただ、それが早かっただけ…………そうだ! ひな。ひなに渡すものがあった」

 

 そう言って、紫陽花は立ち上がり、ひなの手を握って何処かへ向かって歩く。

 

 少し歩くと、錠で閉じられた小棚の前に着き、紫陽花が錠を外して扉を開くと中から黒塗りの箱を出す。

 

「ひな。これを開けてみなさい」

 

 そして、ひなの見える位置に箱を持っていき箱を開けさせる。中から出て来たのは、ひなの祖父である梅雄、父である竹弥が使っていた8人の鬼 呑鬼の変身音叉。鰐の頭を模しており他の鬼とは違った変身音叉 呑牙(どんが)

 

「おばあちゃん。これは?」

 

「ひなのお爺ちゃんとお父さんが使っていたものだ」

 

「おじいちゃんやお父さんが」

 

「それの使い方は私は教えらないが、ひなの近くにはそれを使うものがいるから、その人に教えてもらいなさい」

 

 そう言って、箱の中に呑牙を仕舞い、箱をひなに持たせて、紫陽花はひなの手を繋いで屋敷の外にいる灯籠たちの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猛士九州地方佐賀支部の攻撃によってボロボロになった屋敷の前に幽冥と蛇姫と一部の家族を除いた家族とジャック・オ・ランタンこと南瓜たちと屋敷の家主の紫陽花とヒャクメこと凍がいた。

 

灯籠

【宜しいですね?】

 

「ああ、これが最後の依頼かの」

 

灯籠

【では…………はっ!!】

 

 灯籠の甲羅にはめ込まれた火昌から小さな火が屋敷に飛んでいき、屋敷の壊れて突き出た木片に着火する。

 灯籠の放った小さな火は木造の屋敷を飲み込む大きな炎に変わり、屋敷を燃やしていく。

 

 紫陽花とひなは焼けくずれていく屋敷を静かに見ていた。

 それから数十分経ち、紫陽花と凍の住んでいた思い出の屋敷は燃え尽き、黒く焼け焦げたものに変わり果てた。

 

SIDEOUT

 

 紫陽花たちが屋敷の別れをしている間に蛇姫が転移の術に使う陣を作っていたようで、後は私の合図で転移するだけのようだ。

 

「じゃあ、蛇姫お願いね」

 

蛇姫

【はい。では、いきます!!】

 

 蛇姫が札を掲げると、光が幽冥たちを包み、その姿を消す。

 ひなの家族を探す今回の旅は無事に成功した。しかも新たな家族が出来たことに幽冥は満足していた。

 

 

 

 

 

 

 光が晴れて、最初に目に入ったのは、我が家である妖世館だ。

 

蛇姫

【転移完了です。私は少し疲れたので眠るとします】

 

「ありがとう蛇姫。ゆっくりおやすみ」

 

 術を使って疲れた蛇姫は、寝床に向かおうとしてるので、私はお礼を言って、蛇姫と別れてそのまま館に向かう。

 そして、私は妖世館の扉を開くと同時に抱き着かれる。

 

「ただい、うわぁ!!」

 

「お帰り幽姉ちゃん。はあーーー幽姉ちゃんの匂いだ。落ち着く」

 

 私に抱きついて来たのは、朧だった。しかも、初めて会った時と同じ姿になっている。

 どうやら余程寂しかったようだ。しかも抱きついてる手が万力のように力を込められて離せられない。

 

「寂しかったよ、寂しかったよおおお」

 

 朧の声が少し涙っぽく聞こえてきたので、離れてと言うわけにはいかずにそのままにすることにした。

 そして、朧は2日分幽冥と一緒じゃ無かった分を取り戻すかのように、幽冥に抱きつき甘えていた。

 

 

 

 

 

 

 そして、それを見ていた最初の妖姫の従者は。

 

「あ、あ、あ、あの雌犬があああ!!」

 

 朧が抱きついているのを羨ましそうに服の装飾である布を噛み締め。

 

 前世の親友で最古の転生者は。

 

「私も幽に抱きつきたいな」

 

 顔を少し赤めらせ。

 

 最初の妖姫と犬猿の仲な3番目の妖姫は。

 

「お、王が………そ、そこは、あああん♡」

 

 朧の位置を自分に置き換えて、邪な想像をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、朧の抱きつきからおよそ3時間くらい経った頃に、私は抱きついていた朧に離して貰い、外に放置したままの貸家と船の元に向かった。

 貸家は北海道で、船は『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』で見つけた物で、置く場所が無かったので、外に置いといた。そして貸家と船のある所に着くと、突如、貸家と船が奇妙な光を発して、全体的にうねうねと変形していき姿を変えていく。やがて2つはその姿が元のものからかなり変化したものに変わった。

 貸家は全身が霧に包まれて、宙にふわふわ浮く、後頭部に角を生やした竜の落とし子に変わり、船は蛸の足の四肢を生やした硨磲貝の人型が、動物と魚の骨で組み上げられた巨大な戦艦に乗ったものに変わった。

 

 幽冥は『魔化水晶』が集まってくるに連れて、その身に魔化魍の王の気ともいうものに覆われていた。その気によって、魔化魍に変化の兆しがあった貸家と船は魔化魍として、覚醒した。

 幽冥は白や黒たち、妖姫から物から産まれる魔化魍の事を教えられた。それは、長い月日を経た物が何かを拍子に魔化魍 ツクモガミに変異すると。

 幽冥は初めて、物から産まれると言われる魔化魍 ツクモガミの誕生に驚くも、新しい家族が増えることに嬉しそうな顔をした。




如何でしたでしょうか?
本編の方は何処か変なところがないか心配になりながら書いていました。


次回の話は、目覚めた2体の魔化魍の話です。
お楽しみにしてください。


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家と艦は家族になる

更新が大幅に遅れて申し訳ございせん。
今回は本当なら模擬戦の部分も書こうと思いましたが、かなり長くなるのと時間が掛かることに気付き、分けさせてもらいました。


 ツクモガミ。

 付喪神または九十九神。日本に伝わる、長い年月を経た道具などに神や精霊などが宿ったもの。

 

 本来、魔化魍は自然発生や交配によって産まれて産みの親、童子や姫に育てられるのだが、この魔化魍 ツクモガミは長い年月を経た道具が変化して産まれた最近現れるようになった新種の魔化魍で、育て親である童子も姫も存在せず1人で生きていく。

 

 そして、今、私の目の前にいる2体のツクモガミ。

 私の右側に居るのは、北海道から持って帰ってきた貸家が変化した全身が霧に包まれて宙に浮く竜の落とし子の姿をしたツクモガミ。

 

 向かって左に居るのは、陽太郎さんの『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』で鋏刃が持って来た船が変化した動物と魚の骨で出来た戦艦に乗る蛸の足を生やした硨磲貝の人型の姿をしたツクモガミ。

 

 2体は自分の今の姿に気付いていないのか、辺りをキョロキョロと見回す。そして、竜の落とし子のツクモガミ目が私と合った。

 

【………】

 

「………」

 

【………】

 

「………」

 

 竜の落とし子のツクモガミは、顔を下に向けてプルプル震え出す。

 様子がおかしいので、近付こうとしたら–––

 

主人(あるじ)ーーーーー!!】

 

 私の身体に飛びついて来た(本日2度目です)。

 だけど、地面にぶつかりそうになった瞬間に、竜の落とし子のツクモガミの周りにある霧が私の背中に集まって厚いクッションのようになり、地面に倒れずに宙に浮くベッドで横になった状態になった。

 

【やっと話せる。ずっと話したかったのに話せなかったから、でも主人(あるじ)のおかげで話せる】

 

 感謝の言葉を述べながら私の身体にすりすりと頭を擦り寄せる竜の落とし子のツクモガミ。

 

【えーと、あ、そうだった。僕はマヨイガ。主人(あるじ)これから宜しくねーーー】

 

 そして、すりすりとするのを止めて幽冥から離れて、思い出したかのように頭を下げて自己紹介する竜の落とし子のツクモガミことマヨイガ。

 

「じゃあ私も紹介するよ。私は安倍 幽冥。貴方達、魔化魍の王になる予定の人間よ」

 

 幽冥もマヨイガに向けて、自己紹介を返す。

 

【人間? まあいいや♪ 主人(あるじ)主人(あるじ)だし】

 

 マヨイガは霧から幽冥を下ろして、動かずに静かに佇んでいる骨の戦艦に乗った蛸足を生やした硨磲貝の人型のツクモガミに近付き、尾で人型を捕まえて、私の側に降ろす。

 

【ほらほら、主人(あるじ)に自己紹介しなよ〜】

 

【………はあーー】

 

 目が無いはず(私から見たら)なのにマヨイガを睨んでいるように見える硨磲貝の人型のツクモガミは溜め息を吐き、私の方に身体を向けて、立膝になる。

 

【初めまして王、私はユウレイセンと申します」

 

 幽冥に向けて、挨拶をすると同時にその姿を変える。

 白の巫女服を着て、青いスカートを履いた女性に姿を変える。そして、その背後にあった筈の骨の戦艦も消えていた。

 

「王。目覚めて早々に悪いのですが、会いたい人がいるので、そちらに向かって宜しいでしょうか?」

 

 私はユウレイセンの言葉を聞き、会いたい人というのに気になったが、私は立膝をしているユウレイセンに許可を与える。

 ユウレイセンは真顔に近い顔が少し喜んだ顔に変わったかと思えば、直ぐに真顔に戻り、そのまま立ち上がって会いたい人がいる場所に向かって歩いていった。

 

 歩いていったユウレイセンを見送った幽冥はマヨイガを呼び、他の家族に紹介するためにその場を後にした。

 

SIDE鋏刃

 妖世館は3階建ての洋館に睡樹や唐傘などがいた地下室があるが、この館の主人である幽冥の指示で地下室の下にさらに地下の部屋を造っていた。地下の部屋を造っている理由としては色々ある。

 

 まず1つは、家族である魔化魍達の本来の食事である人間を大量に保存する為の部屋。

 陽太郎さんから保存人間を貰ったり、料理人である炭火焼オルグことおっちゃんやドルフィンオルフェノクこと野間 茂久が料理を作ったりしているが、それでも人間の食事を必要としそれによって消耗する。

 だからこそ、まだ保存人間がある間にこの部屋を造ることによって定期的に人間をご飯として提供できる。

 

 2つ目は、今後も増えていくである新たな家族が暮らせる場所。

 あらゆる魔化魍が家族として暮らす妖世館は多種多様な魔化魍によっては住む環境が違い、その環境下でしか生活できない者もいる。そんな家族の為に環境にあった部屋を造る。

 これによって、少しでも生息環境に近い状態で暮らすことでストレスなどを減らしたりする。

 

 そして、地下室の部屋に掘られた穴の中に2体の魔化魍がいた。

 穴を掘っている顎とその背後からついてくる鋏刃である。

 

【ちっ! またか、鋏刃頼む】

 

 顎が掘った先には巨大な岩盤があり、顎の掘ろうとしている進行方向を見事に邪魔をしていた。

 背後にいた鋏刃に岩盤の前に移動する。

 

ンキィ、ンキィ

 

 顎の頼み事に鋏刃の鳴き声と鋏の音が響き、鋏刃は目の前にある岩盤に向けて、溶解泡を吹き付けて、更に背中を岩盤に向けると、背中に生えた藤壺からも溶解泡が吹き出し、先に吹き付けた泡と合わさり、岩盤を溶かしていた。

 

【すまねえな鋏刃】

 

 地下室の建設に関わっている顎が目の前の岩盤を溶かした鋏刃に感謝の言葉を述べ。鋏刃はそれに対して気にするなというように鋏をカチカチ鳴らす。

 何故、地下室の建設に鋏刃が関わっているのかというと、今溶かした岩盤が理由だ。

 この妖世館の下にある地面には理由は不明だが、土を掘ることに長けた魔化魍でも掘り壊す事が難しい岩盤が土の層が変わるところで、出ては掘る作業の邪魔をする。だが、この程度の岩盤なら顎の出す蟻酸でも溶かすことが出来るが、それでも溶けるのは僅かな部分だ。

 そこで顎の背後にいた鋏刃が出てくる。鋏刃の種族であるバケガニは人間を溶解泡で溶かして骨にした後に喰らう魔化魍である。更に鋏刃には背中に生えた藤壺があり、そこからも溶解泡を吹く。

 そして、鋏刃が出す泡と背中の藤壺から出る溶解泡を合わせると強力な溶解泡に変わる。その泡によって、顎の蟻酸でも溶かすことが出来ない巨大な岩盤をものの数秒で溶かす。

 

【こっからは、俺でも行けそうだ。上がって大丈夫だ】

 

 顎はそう言って、溶かした岩盤の先にある土に顔を突っ込み、そのまま巧みに顎を使って、土を退かしながら掘り進んで姿を消した。

 顎が見えなくなったの確認した鋏刃は顎の掘った方向とは逆の方に進み、掘った入り口である穴から、這い出る。

 

 穴から這い出た鋏刃はその巨体で部屋を壊さないようにその姿を変える。

 右側頭部に蟹の鋏を模した髪飾りを着けた朱色の髪に割烹着を着た女性に姿を変える。

 

 私はバケガニの鋏刃。魔化魍の王になられる幽冥様の家族。

 顎からの頼み事も終わったので、私は最近の日課になりつつある船の整備に向かうおうと、地下室の扉に手をかけようとすると。

 

 ガチャっと開けようと思った扉が開き、白い巫女服に青のスカートを履いた表情が無い女性が入ってくる。

 この妖世館に住んでいる家族で見たことも無い姿の者を見た鋏刃は、扉から入って来た女から距離を取るように離れて、片腕だけ本来の姿であるバケガニの腕に戻して、女の動向を見ていた。

 

「見つけました」

 

「!?」

 

 女は一瞬にして、距離が離れている鋏刃の前に現れ、突然現れた女に驚いた鋏刃は女に両腕を掴まれて、そのまま押し倒される。

 女はそのまま鋏刃の顔を見て、その口角を少しあげる。

 

「ようやく見つけました。この館が広いのは、貴女が言っていたから知っていましたが、探すのに少し時間が掛かりました」

 

 何に喜んでいるのか分からないが、この女はどうやら私に用があったようなのだが、私はあいにくこの女を知らない。

 だが、人間では無いことは確かだ。私の総体重は少なくても目の前の女が押し倒せる程に軽くはない。だから、考えられるのは、私と同じ同族である魔化魍の擬人態である。

 

「どうしましたか?」

 

「……すまんな。私はお前が誰なのか分からなくてな」

 

 女は少しショックを受けたような顔をするが、すぐに表情の無い顔に戻り、思い出したかのように口を開く。

 

「そうでした。この姿では貴女に会うのは初めてでした」

 

 鋏刃の上で馬乗りの体勢に変えて、身嗜みを少し整え、女は自己紹介をした。

 

「私は貴女に沈められずにそのままこの館に置いてくれた船のツクモガミのユウレイセンです。本当にあの時は沈めないで有難うございます」

 

 その言葉を聞き、鋏刃はあの世界から持って帰ってきた船を思い出し、女の正体が自分があの時に沈めるなと言った船が魔化魍になった存在だと知る。

 確かにあの時、鋏刃は船を沈めようとする穿殻や浮幽に言って船を沈めるなと言ったが、それが何故、今のようにユウレイセンがまるで娘が母親に甘えるように鋏刃の膝に頭を乗せるているのか鋏刃は理解できないが。

 

「(………まあいいか)」

 

 まるで気にしないと心の中で思った鋏刃はかつて自分を育ててくれた母のような存在であるバケガニの姫が生きていた時によくして貰っていたように膝に頭を乗せていたユウレイセンの頭を撫でた。

 

SIDEOUT

 

 今、手の空いていない家族を除いて、マヨイガを家族に紹介していたら。

 

ルルル、ルルル

 

【えっ! ちょ、ちょっとーーーーーー】

 

 突然、浮幽が触手でマヨイガを拘束して、妖世館の外に出て、私や他の家族も浮幽を追いかけて外に出る。

 

 外に出ると、マヨイガを投げ飛ばし、赤と青の炎を灯した触手をうねらせて浮幽はマヨイガに攻撃を仕掛けた。




如何でしたでしょうか?
オリジナル魔化魍のユウレイセンは茨木翡翠さんのアイディアです。茨木翡翠さんアイディアありがとうございます。
次回はマヨイガと浮幽の戦闘回と家族の中のある1人が誘拐される回です。


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決着と攫われた所有者

大変お待たせしました。大抵は1週間ちょっとを目安に投稿していますが、これからの投稿は不定期に近いような投稿になって行くかもしれません。
作品を消したり、未完にしたりはせずにちゃんと完結させます。
こんな作者でも付き合ってくださるのなら、これからも当作品のご愛読をお願いします。


 浮幽が突然、マヨイガを外に連れ出して、戦いを始めた。

 

 幽冥たちが出たのを確認した浮幽はそのまま赤い炎を灯した触手を前に突き出し、火球をマヨイガに向けて放つ。

 迫る火球にマヨイガは慌てて、避けようとするが、火球はマヨイガに直撃してその身を焼く。マヨイガは苦しそうに蠢いて、身体はボロボロと崩れていく。

 

「葉隠。離して、マヨイガが!!」

 

 それを見た幽冥はマヨイガの元に行こうとするが、葉隠が幽冥の身体に分体を大量に張り付けてマヨイガの所に行かないようにしていた。

 

「マヨイガ!! マヨイガ!!」

 

 幽冥の叫びも虚しく、マヨイガの身体は炎と共に小さくなっていき、炎が消えるとそこには小さな黒い物が転がっていた。

 それを見た幽冥は膝をつき、マヨイガだった物に手を伸ばそうとする。

 

葉隠

【大丈夫だよ王。マヨイガは死んでないよ】

 

 だが、葉隠の言葉を聞き、私は死んだ筈のマヨイガだった小さな黒い物を見る。

 

 浮幽は、その場から離れるように宙に飛ぶ。それと同時に浮幽がいた場所に氷の球が当たり、その場を少し凍らせた。

 浮幽が氷の球が飛んで来た場所を見ると、空間がぐわんぐわんと歪み、そこには傷が1つもなく宙に浮く、マヨイガがいた。

 

 そして、マヨイガが現れると同時に先程までマヨイガだと思っていたものが、何も無かったかのように消える。

 それを見て、『やはり』と呟く。

 

「やはりって葉隠」

 

葉隠

【マヨイガのあれは幻術だよ】

 

「幻術……」

 

葉隠

【そう。しかも、僕が使うような幻術とは比べ物にならない強力な幻術だよ。まさか、実体を持った幻覚(・・・・・・・・)なんて。

 あんな幻覚をどうして生まれたばかりの魔化魍が】

 

「(実体を持った幻覚? それってまさか!)」

 

 葉隠の言った言葉に幽冥は、あるヒットマンな赤ん坊の教師の作品に出る『六道輪廻』という特殊スキルを持つパイナップルヘアーの使っていた技を思い出す。

 

 有幻覚

 幻術と質の高い霧の炎を合わせる事で実体を持った幻覚を生み出すことができる。しかも、普通の幻覚とこの有幻覚を入れ替えて使うことにより幻惑性能が高まり、相対しているものが本物なのか? 有幻覚なのか? 分からなくなり、やられてしまう。

 

 空想の作品の技を平然と使っているマヨイガに驚くも、そもそも魔化魍という存在自体が空想の作品のキャラだと言うこととマヨイガが死んでいないった事に安堵して、その事をあまり気にしていなかった。

 

 五体無事な姿のマヨイガを見た浮幽は赤い炎を灯した触手を再び突き出して火球を放つ。

 火球はそのままマヨイガに命中…………したように見えたが、命中したのは幻術で作られたマヨイガで、命中すると同時に霧のように薄くなりその姿を消す。

 

 そして、マヨイガは分身したかのように有幻覚を作り出して、浮幽に術を放つ。

 炎の球、氷の弾丸、雷の槍、岩の鏃が雨あられのように浮幽に降り注ぐ。

 

ルルル、ルルル

 

 だが、浮幽は触手を使い、自分に当たる術のみを炎で焼き払い、後の術は触手で払いのけた。

 

 

 

 

 

 

 今、気付いたのだが、何故、浮幽はマヨイガにあのような事をしたのだろう。

 幽冥がそう思っていると。

 

「浮幽はあの子の実力を見せようとしているんですよ」

 

 赤の言葉に疑問を浮かべてると、今度は白が近づき幽冥に理由を話す。

 

「王も分かっていると思われますが、我らは王に仕える者達です。

 故にいざ、何かあった時には我らが盾になってでも王を守らないといけません。あのマヨイガとユウレイセンは産まれたばかりとはいえ、魔化魍です。

 しかも、新種といってもいい魔化魍です。ユウレイセンはその力を感じる事が出来たのですが、マヨイガは隠しているのか分からなかったのです。我らからすれば王を守れるかどうかも実力が未知の為にその力を分かりやすくするために浮幽がああしているのです」

 

 要するに、浮幽はマヨイガの隠している力に気付き、戦う事でその力がどんなものか確認して、マヨイガの実力を見ようとしていた。

 そして、私が説明を聞いていた間にかなりの攻防が繰り広げられて、今は互いに大技を繰り出すとしていた。

 

 浮幽は赤と青の炎を灯す触手を回転させ、炎の勢いを上げると炎はやがて形を変えて、赤と青の炎が混じった東洋龍に変え、そのまま触手に蜷局を巻いて、そのまま勢いよく触手を正拳突きの様に前に突き出すと炎の龍は前に螺旋を描きながら飛んで行く。

 

 浮幽の放った炎の龍は真っ直ぐとマヨイガに向かうが、マヨイガは霧を自分の目の前に集めて、巨大な霧の拳が出来上がり、尻尾でその固まりを打ち出した。

 浮幽の攻撃とマヨイガの攻撃は互いにぶつかって均衡し、更に2人は力を込める。だが、均衡していた2つの技は更に込められた力によって大爆発を起こし、そのままあたり一面が光に覆われる。

 光が治ると見えるのは地面に倒れている浮幽とマヨイガだった。

 

 大技……いや、どちらかというと必殺技クラスな攻撃を出してヘトヘトな2人。だが、浮幽は触手で器用にマヨイガのいる所まで移動して、マヨイガの顔の近くに顔を寄せて、何かを喋っている。

 伝えたい事を伝えたのか、浮幽はそのまま触手を前に出す。マヨイガはそれに対して、尻尾を出す。

 

【これからも宜しくね♪】

 

ルルル、ルルル

 

 マヨイガと浮幽はそのまま尻尾と炎を灯していない触手で仲直りの握手をして、その光景を幽冥たちは微笑ましく見ていた。

 その後、幽冥はマヨイガとユウレイセンを呼び、マヨイガに迷家。ユウレイセンに水底と名付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、浮幽と迷家の戦いから1週間経ったある日に話は進む。

 

SIDE眠眠

 殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。

 

 新宿のビルの後ろにある薄汚い路地裏に1つの古パイプが転がっていた。だが、その古パイプからドスの効いたような怨嗟の声と共に古パイプは小刻みに動く。

 

 あいつら、唯じゃ死なせない。僕が此処まで、此処までキレるのは何時ぶりだろう。

 しかも、あの時、いつだったか遥か昔の時にキレた時なんて比じゃない。

 

眠眠

【僕の主人(マスター)を、ランピリスを!!】

 

 怨嗟の声は路地裏に響き、古パイプは激しく震えて、眠眠は事の経緯を思い出していた。

 

〜回想〜

 久々にランピリスと2人で外に出ていた。ランピリスは前の戦いの傷が完治していないが、外へ出歩く程度なら問題もないだろう。だから外出したいという意思を尊重した。

 そして、人間達で言うところの新しい物が集まりやすい新宿に来た。

 

   眠眠

ボソッ【ねえ、本当に大丈夫なの? 怪我】

 

 僕の姿を見られると確実に人間達が騒ぐから僕の家とも身体の一部とも本体ともいえる古パイプの中から小声でランピリスに話しかける。

 

「だから、何度も言っているじゃないですか………ほらね」

 

 そう言って、ランピリスは包帯を巻いている腕をくるくると回す。

 しかし、僕には分かる。ランピリスの怪我はまだ治っていない。ランピリスがあの戦闘で受けた傷は予想以上に酷く、シュテンドウジ様の力を借りた王と蝕が居なければ、確実に死んでいた。しかし、2人の尽力もあり、なんとか一命をとりとめた。だが、代償は大きかった。

 怪我が完治するまでランピリスは本来の姿であるワームの姿に戻る事が出来なかった。

 

「しかし、これといって欲しい物はないですね」

 

 入った店には欲しい物は無かったようでそう言って、ランピリスは別の店に向かおうと歩き出す。そして、ビルとビルの間にある路地裏に通ろうとしたとき。

 

「コイツデイイダロウ」

 

 路地裏から飛び出した手に掴まれる。手を掴まれた瞬間にランピリスは手を出した者を見た。整ったスーツを着たアジア系の顔をした男だった。ランピリスは抵抗するが。

 

「ナニヲシテイル。オマエラモテツダエ!!」

 

 スーツの男の声で別のスーツを着た男達が増えて、さらにランピリスを掴む。ランピリスはどうにか逃げようとするも怪我のせいで振り切れずはずのことに振り切れず、スーツの男達に薄汚い路地裏に引き込まれる。

 

「離せ、この」

 

「ウルサイオンナダ、ホラハヤクシロ!!」

 

 スーツの男の指示で別のスーツの男は暴れるランピリスの首元に何かを当て、ビリリと音がするとランピリスは転がるように倒れて、スーツの男達はそのまま、ランピリスを背負って、そのまま走り去った。

 僕は何もする事が出来ずに、ランピリスが連れていかれた。

〜回想終了〜

 

 自身のキレた理由を再び思い出しながら眠眠は如何にかして、自分の身体を出すための方法を考えていた。

 眠眠の種族であるエンエンラは古パイプや煙管、ランプなどといった道具がツクモガミとなり、さらに変異した異常種の魔化魍である。

 エンエンラは元となった道具の中に入って、所有者となる者を待つ。所有者となれる者を見極めて、所有者になれるかを判断し、所有者になれなかった者を喰らい、所有者となったものを守る。

 そして、エンエンラはどの道具がエンエンラになろうとも必ずある事をしなければ、エンエンラを道具から呼び出すことができない。それは、所有者か所有者に準ずる者に元となった道具を2回叩いてもらうこと。

 それ故に、眠眠は所有者であるランピリスが居ないこの状況でどうやって、自分を外に出すのかを考えていた。

 

「あれ、眠眠何してるの?」

 

 眠眠の入った古パイプを持ち上げて、眠眠を出す合図をすると、眠眠は古パイプから飛び出してくる。

 

眠眠

【貴方は!】




如何でしたでしょうか?
浮幽が迷家に勝負を仕掛けた理由は少し強引でしたかな。
そして、次回はぶちキレた眠眠によるスーパー無双タイムです。

次回の更新も楽しみにお待ちください。


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黒煙は血に染まる

大変お待たせしました。
いやーーー眠眠をかなり残酷に書くのに手間取ってしまいました。

それでは、眠眠のスーパーKILLタイムをどうぞ!!


SIDE眠眠

 古パイプの吸い口から飛び出す白煙は姿を変えて、自身を出してくれたものの前にあらわれる。

 

眠眠

【貴方は!】

 

 眠眠を古パイプから出してくれたのは、緑の長髪で椿の刺繍の入った黒の着物を着て、右手には大量の荷物を抱えて、左手には眠眠の身体の一部ともいう古パイプを持った緑だった。

 

眠眠

【緑さん】

 

「はい。所で何故こんな所に………それにランピリスさんは一緒じゃなかったんですか?」

 

眠眠

【そうだ。緑さん。今すぐに妖世館に戻れますか?】

 

「ええ。買い物は終わりましたので……何かありましたか?」

 

眠眠

【それは妖世館に行く道中です説明します。一刻も早く!!】

 

「分かりました」

 

 そう言って、緑さんは私の古パイプを裾に仕舞い、私も見えないように小さくなって、緑さんの服の襟元に隠れる。そして、緑さんに説明しながら妖世館に戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE骸

 今日もいい天気だな。

 

 そんな事を思いながら、骸は妖世館の外で水晶頭蓋骨を磨いていた。

 基本的に骸は自分の武器にもなる頭蓋骨を磨く趣味を持ち、今は以前の詫びの品として貰った水晶で出来た頭蓋骨を磨いていた。この水晶頭蓋骨は太陽が照りつける程の天気のいい日にピカピカに磨くと、水晶独特の光で光り輝くのだ。

 

 その水晶頭蓋骨の輝きを見てからは、骸は太陽の出ている天気のいい日は外で水晶頭蓋骨を磨いている。

 

【おおーー! やっぱ、この頭蓋骨の輝きは堪んねえな】

 

 白骨化している尾で水晶頭蓋骨を器用に持ちながら、その輝きを見ていた。

 

【ーーーーーーーーーーー!!】

 

【何だ?】

 

 何かの声が聞こえて、辺りを見渡すも何も無く。骸は磨いた水晶頭蓋骨を仕舞い、別の水晶頭蓋骨を取り出すと–––

 

【むーーーくーーろーーー!!】

 

【んだよ。今、俺はこの水晶ずが】

 

 再び聞こえた声に返事を返そうとすると何かが、飛びつき骸を地面に叩きつける(水晶頭蓋骨は意地でも落とさないように尻尾で固定していた)。

 

眠眠

【骸!! ランピリスが!! ランピリスが!!】

 

【ああ? お前、眠眠。ってランピリスがどうしたって?】

 

眠眠

【ランピリスが拐われた!!】

 

【………ああ、分かった。俺は何を手伝えばいい?】

 

眠眠

【2人……呼んできて貰って宜しいでしょうか?】

 

【2人か………分かった。で、誰を呼べば良いんだ?】

 

眠眠

【それは…………】

 

 眠眠はその2人の名前を告げて、骸はそれを聞き、尻尾で落とさないようにしていた水晶頭蓋骨を仕舞い、そのまま妖世館に入って行った。

 因みに眠眠の一部である古パイプを持っていた緑は眠眠が骸と話している間に、眠眠の側の地面に置き、大量の荷物を抱えて妖世館に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【【成る程。理由は分かりました。しかし】】

 

睡樹

【何で…僕ら……なの?】

 

 眠眠が骸に呼んできた貰ったのはこの2人。

 そして、眠眠が2人を呼んだのにも理由がある。

 

 ランピリスを拐った人間達は古パイプの中にいたので分からない。だが、拐った人間達が狙っている者が何か分かった。

 妖世館に戻る前の現場に、ランピリス達を拐った犯人達が落としたのか数枚の写真とそれに挟まった紙を緑が拾い、それを眠眠に見せていた。その写真に写っていたのは幼い少年や少女の写真だった。

 

 これを見た眠眠はランピリスを拐った理由は不明だったが、どういう人間をターゲットにしているかは分かった。

 それは、子供だ。

 

 そして、それこそが睡樹と凍を呼んだ理由である。

 この2人の擬人態はどちらも写真に写っていた子供達の年齢に比較的に近い者達だ。

 睡樹は幼稚園から小学生の間にあるような幼さのあるその年相応な可愛さのある少女で、凍は外見的には幼いが、ピシッとした綺麗な姿勢をしていて美しさが目立つ和服姿の少女だ。

 他にもその外見に当てはまるものとして呼べるとしたら、鳴風や羅殴、飛火、唐傘、大尊、葉隠、波音、命樹、潜砂、乱風などとたくさん居るのだが、鳴風、羅殴、唐傘、命樹は今日は仕事をしている為、飛火と葉隠は日課の散歩に出ていて居ないことをあらかじめ知っていた為、大尊は眠眠自体もよく知らず頼んだとして応じてくれるか分からない為、波音はこの時間はひなと昼寝をしている為、潜砂は過保護なセコム(レイウルス)に何か言われる為、乱風は野間と買い物に出ている為という理由から用事もなく、特に大事なことをしていないだろうということで、この2人を眠眠は呼んできて貰った。

 

 そして、眠眠は2人に何をするかを説明して、行動を開始した。

 骸は2人を呼びに行った後に再び、趣味の水晶頭蓋骨磨きに戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE眠眠

 まずは自分を古パイプの中に戻し、眠眠は睡樹と凍に擬人態を化けてもらい、ランピリスが拐われた場所をウロウロしていた。

 それから、数十分歩いてると–––

 

「嬢チャン達、来テモラオウカ」

 

 男が現れた、眠眠はランピリスが拐われた時に聞いた声ではないが、仲間であると確信し、古パイプの中からプルプルと動き、それを持っている睡樹に合図を送る。

 

 睡樹と凍は何も言わずに男について行き、車に乗り、男が助手席に乗り、運転席にいる男に指示を出して車は動き出す。

 

 

 

 

 

 

 そこから数時間移動して、何処かに着くと、睡樹たちを車から下ろそうと男が降りようとするが、睡樹は腕だけ擬人態を解いて、そのまま運転席と助手席にいる男達の頭目掛けてツタを突き出して、男達は何も発することなく、頭をツタで貫通されて死んだ。

 

 睡樹と凍は降りて、眠眠を古パイプから出す。すると、眠眠は目の前の建物を見て。

 

眠眠

【間違いない。ランピリスはここにいる】

 

 それを聞いた2人は眠眠を古パイプに戻して、2人は建物の中に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 建物の中に入り、すぐ目の前にあった階段を登り、最初の部屋を見つける。

 睡樹は部屋に入ると。

 

「アアア、ダレダテメエ」

 

 子供を叩こうと手を挙げた男とそれを見ていた男がいた。それを見て、睡樹は古パイプを叩き、眠眠を呼び出す。古パイプから出てくる煙に男達は驚き、子供を壁に投げやって、懐からナイフを取り出す。

 

眠眠

【その子供に何をしようとした!!】

 

 変な生き物が突然、喋り、男達は固まる。

 眠眠を出した隙をついて、睡樹と凍はその姿を本来の姿に戻し、それぞれが動く。

 

「ごば!」

 

「ぎゃあ」

 

 眠眠と凍は一気に2人の男に近付き、何かをする前に手際よく仕留める。睡樹は子供の前に立ち、ツタを盾のようにして構えるも何もなく、そのまま後ろの子供に向けると。

 

「ひっ!!」

 

 子供は怯える。それは全く見たこのない生物が男達を殺す姿を見たら、自分も殺されると思うだろう。子供はそのまま後ろに後ずさる。

 睡樹もそれに合わせて進み、子供は壁にぶつかり動けなくなる。さらに睡樹が目の前に立ち、震える子供の目の位置までしゃがむと。

 

睡樹

【いい子…いい子……眠って】

 

 睡樹が子供の頭を撫でると、恐怖で泣いていた子供は安堵した表情で眠り、睡樹は自身のツタの一部を集めて千切、子供の上に掛ける。

 

【【今は、この子はここに居て貰いましょう】】

 

 そこからは眠眠と睡樹、凍の3人は部屋を1つずつ調べていき、男達がいたら眠眠と凍が殺し、子供がいたら睡樹が頭を撫でて眠らせ、ツタの布団を掛けていった。

 

 

 

 

 

 

 やがて、他の部屋より大きい部屋になり、眠眠たちはその部屋に入る。

 その部屋に入って眠眠が最初に目にしたのは、上半身が裸の男とスーツ姿の男達、そして………攫われる前の時より怪我が増え、体の一部が露出したランピリスの姿だった。

 

 それを見た眠眠は何かを呟くと、古パイプが宙を浮き、吸い口から多量の煙が噴き出ると、やがて身を包む煙が螺旋状に渦巻き、空気が重くなる。やがて、螺旋は勢いを増して、眠眠のツートンの身体が真っ白な毛で覆われ、その姿を現わす。

 白と黒のツートンの身体は真っ白な毛に変わり、その周りには無くなった黒の部分を表すような螺旋状に漂う黒煙となり、口には自身の一部である古パイプを咥えた獏がいた。

 寝ぼけた黒煙は今、所有者(マスター)である者を守る為に黒き煙を纏し鏖殺者となる。

 

眠眠

【よくも、僕の大切な所有者(マスター)を!!】

 

 眠眠はランピリスとその側にいた上半身裸の男を煙で引き寄せて、ランピリスを睡樹たちのいる所に優しく下ろし、男は首に黒煙を巻きつけて、目の前の男達の撃とうとする拳銃を防ぐ盾のように突き出す。

 男達は拳銃などを使って眠眠たちを撃つが、変異した眠眠は黒煙で銃弾を掴み、パラパラと地面に落とす。

 

「クソ!! バケモノメ!!」

 

 眠眠は捕まえた男の首を黒煙をさらに巻き付け、男の口の中に無理矢理、黒煙の一部をねじ込む。

 

「ぐがっ、があが」

 

眠眠

【さて、僕の所有者(マスター)を攫い、あまつさえ僕の好きな物を…………故に殺す! 惨たらしく殺す! 慈悲なんてない。今までのことを後悔する暇を与えない…………無惨に散れっ!!】

 

「んんん。んぐぐぐ、があ!!」

 

 眠眠の黒い煙はやがて男の身体を内側から突き破り、そのまま身体の周りに螺旋状に漂う黒煙に戻る。男達はその姿に恐怖し、銃を捨てて、己の身が可愛いのか逃げ始める。

 

眠眠

【睡樹……凍……ありがとう。2人はランピリスと子供達をお願いね】

 

 眠眠はランピリス達のことを頼み、自らは黒煙を刀身のように変えて、逃げる男達に迫る。

 

「「「ウワアアアア!!」」」

 

 眠眠の動きは男達よりも速く、男達の前に回り込み、刀身のような黒煙を男達の首に斬りつけ、男達の首は宙を舞った。

 

 首斬りを皮切りに眠眠の虐殺が始まった。

 逃げ惑う男に口からガスを吹き出し、男達に吹き付ける。

 

 突然、眠気に襲われた男達は動きが鈍くなり、思考が疎かになった。眠眠はゆっくりと男達に近付き、1人ずつ黒煙で包む。

 

 人体から鳴る様々な音とともに骨を砕き、目玉を抉り、筋繊維を剥ぎ、耳を削ぎ、臓物を引きずり出し、指を捻り取り、腕を細かく切り、皮膚を剥き、唇を削り、歯を抜き、悲鳴が響き、男の象徴を潰し、肉を少しずつ奪い、男達を1人また1人と肉塊に変えていった。

 

 肉塊と肉片に変えられた男は黒煙の中に消えて、眠眠はそのまま目に付く男達を殺していった。

 そして、その道中でランピリスを攫った張本人を眠眠は上記の者達よりも惨たらしく殺した。

 特に男の象徴と言える場所を少しずつ黒煙で削り、絶叫を上げて、気絶する度に眠眠が黒煙で殴り起こして、全身の骨をゆっくりと折っていき、最後は『殺してくれ』と懇願する男に、眠眠は黒煙を体内に突っ込み、そのまま臓物を引きずり出し、男は大量の血を吐きながら死んだ。

 そして、眠眠はその死体を喰べることなく放置した。

 

 ランピリスを攫った事でブチ切れた眠眠によって、男達の組織は壊滅した。




如何でしたでしょうか?
これが自分だと想像したらかなり怖いと思いながら書きました。

次回は、眠眠が子供達を◯◯するお話です。
お楽しみに!!


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もふもふさん

更新完了です。
今回で眠眠の話は終了です。


眠眠

【これで全員ですか?】

 

「ええ。この建物にいる子供達全員です」

 

睡樹

【うん、全員、だよ】

 

【【はい。私の分体を使いましたので、間違いありません】】

 

 眠眠が大暴れし、バラバラになった肉塊が転がる大部屋の中で、眠眠は質問をして、ランピリスと睡樹、凍の返事を聞き、子供の方に目を向ける。

 そこには、眠眠によって壊滅させられた中国マフィアによって誘拐された子供達がいた。眠眠たちは知らぬが世間では、連続児童失踪事件として行方不明になっている子供たちだ。

 睡樹の眠りの手から起きた子供達は様々な反応していた。泣く子供、気絶する子供、ランピリスの後ろに隠れて怯える子供がいた。

 

 眠眠が子供たちの方に浮きながら移動すると、子供の1人が立ち上がり、子供達の前に立ち塞がった。

 

「わたしが………どうなっても、良いから。この子たちは、みのがして!!」

 

 身体を震わして必死に後ろの子供を守るように立つ子供に眠眠は近付く。それを見て、後ろの子供達は目を閉じ、前に立つ子供は涙を流しながらも眠眠を見る。

 

 眠眠は黒煙を動かして、子供に巻きつけて自分の身体に寄せて、ふわふわな毛が生えた右前脚を子供の頭に乗せて撫でる。

 

眠眠

【大丈夫、何もしないよ。それよりも自分を犠牲にしてでも他の子を助けてって言うなんて、偉い子ね。ねえ、名前なんて言うの?】

 

「み、ミキ」

 

 まだ怖いのか少し怯えながら答える少女。

 

眠眠

【そう。ミキちゃんって名前なのね】

 

「もふもふさんはミキたちに何もしない?」

 

眠眠

【!!】

 

「どうしたのもふもふさん?」

 

眠眠

【な、何でもないよ。そうだミキちゃん。何かして欲しい事ある?】

 

「………」

 

 少女は何か考える仕草をして、眠眠をじっと見る。そして、思い出したかのようにして欲しいことを言う。

 

「みんなをお家にかえしてほしい!!」

 

 それを聞き、子供達はミキの周りに集まる。

 

「「「おねがい!! もふもふさん!!」」」

 

眠眠

【!!!!!】

 

 眠眠の気持ちを表すかのように黒煙がくねくねとうねり、真っ白な毛が一部、赤くなる。

 

眠眠

【………いいよ。みんなをお家にちゃんと送ってあげる】

 

 満面の笑顔でミキ達に答える眠眠にミキは子供達に目配せし

 

「「「ありがとうもふもふさん!!」」」

 

 『もふもふさん』そう子供達に呼ばれたのが、嬉しいのか眠眠は嬉しく舞い上がっていた。ただ、嬉しくて周りが見えてなかったのか–––

 

   睡樹

ボソッ【少し、だらしな、い】

 

ボソッ「よっぽど嬉しかったでしょうね」

 

   凍

ボソッ【【まあ、今は良いでしょう】】

 

 3人に見られていて、後々にこれが理由でイジられるようになるのだが、眠眠は気にしていなかった。

 

眠眠

【じゃあ、行くよーーー!!】

 

「「「「「「はーーーーーい!!」」」」」」

 

 子供達の返事を聞き、眠眠は黒煙に子供達とランピリス、睡樹、凍を乗せて月の輝く空を飛んだ。可愛い子供を親の元に返すために。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 神というのは、幸せに対して不公平に与えていると思う。

 俺の僅かなおこずかいが、排水溝に落ちるのも、俺が必死になって働いても、それは全て上司の先輩の評価にされるのもそれらは全て神が幸せをくれないせいだ。

 

 だが、そんなことよりももっと不幸な事が起きた。

 あの日は、昼の仕事をしている時だった。普段は仕事をしている時には掛けてこない電話を妻が掛けてきた。そして、娘が行方不明になったと聞かされた。

 直ぐに上司から早退の許可を貰い、家に戻った。家の前には数台のパトカーが止まっており、中に入ると警察が顔を抑えて泣く妻と話をしていた。

 俺は警察に話を聞くと、どうやら娘は世間を騒がしている児童連続失踪事件のように消えたらしい。改めて娘が居なくなったということを理解した。

 

 

 

 

 

 

 あれから、1週間も経った。

 俺は仕事に行き、普段通りに働いているつもりだった。だが、周りの社員からしたら俺は明らかにおかしく、その様子を見た、普段は嫌味や手柄の事しか言わない上司も心配してか、定時に帰してくれるようになった。

 

 そして、仕事が終わって妻に進展があったかと聞けば、首を横に振っていた。

 ピンポーンと家のチャイムが鳴る。

 

「こんな遅くに誰だ」

 

「また、マスコミかしら。もう、我慢ならない!!」

 

 妻は娘が行方不明になってから、来続けるマスコミに気が参り、ついにチャイムを鳴らしただろう者の元に向かおうと部屋を出た。俺は部屋から出て行く妻の気持ちも分かるので、放っとこうと思った時–––

 

「あああああああ!!」

 

 妻の悲鳴が聞こえた。

 妻の身に何かあったのかと急いで玄関に向かって走ると、妻は玄関の入り口で腰を抜かしたのか座り込み、その先を指差していた。その方向を見ると。

 

「ただいま」

 

 事件で行方不明になった娘が居た。

 

「ミキなのか!?」

 

「ミキ!! ミキ!!」

 

 妻は真っ先に、娘を抱き寄せて、会えなかった1週間分を取り戻すかのように。

 娘は苦しいのか、頭を動かすが、妻に抱かれた心地良さか、しばらくするとそのまま眠った。

 

 俺は神というのは信じないが、今だけは少し信じてもいいかと思った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE警察

 警察署は現在、署員全員を巻き込んでの大混乱が起きていた。

 ここ最近、起こっていた連続児童失踪事件。その失踪していた子供達が何と、自分の家に戻ってきていたという行方不明になった子供の親の1人が警察に連絡したからだ。

 翌日、刑事達は一軒ずつ失踪していた子供の元に行き、事情を聞いていった。そして、失踪した子供の中で最年長だった子供が事情を聞いていた刑事に1通の手紙を渡した。そして–––

 

「けいさつの人達、ぜんいんで見てくださいって、『もふもふさん』が」

 

 手紙を渡された刑事はその手紙を警察署に持ち帰り、子供の言う通りに署内の全員が事件の対策本部としていた部屋に集まり、手紙を確認した。

 それを見た、署員達はその手紙に恐怖する。ある刑事はそれに吐き気を覚え、またある刑事はその手紙を破こうとするが、同僚の刑事に抑えられて別の部屋に移された。

 その手紙は、紙自体は普通だったが、その文章に使われていた物が異常だったのだ。その赤黒い字に、何も知らぬ一般人だったら、ただの色付きボールペンなんかを2つ使って重ね書きで書いたものだろうと思うだろうが、此処にいるのは、文章に使われているものをよく見たりする事が多い人間達だ。だからこそ、文章に使った物の正体にすぐ気付く。

 

 それは、人間の身体に13分の1流れているもの。つまり………人間の血だった。

 そこにはこう書かれていた。

 

 「拝啓 日本警察の署員の皆様。

 

 このような手紙で挨拶して申し訳ございません。

 

 先ずは、私たちがこの手紙に使ってるのはお察しの通り、人間の血です。

 

 ただし、子供達には何もしていません。皆、五体満足で親御の元に返しました。

 

 この血は子供と私の家族を攫った愚か者供の血で書かせて頂きました。

 

 この血の持ち主である愚か者供は山奥に肉塊に変えて放置してあります。

 

 申し訳ございませんが、死体の処理をお願いいたします。

 

 子供の味方 もふもふさんより」

 

 読み終えた刑事はその手紙を置いて、パイプ椅子に深く座り顔を抑える。

 後日、警察はその『もふもふさん』と呼ばれたものが書いた場所に向かうと、書かれてた通りに達磨のように四肢がなく、全身をズタボロにされた肉塊に変わった死体が積み重ねられていた。

 警察は『もふもふさん』という存在を探したが見つからず、やがて事件も記憶から少しずつ薄れっていった。




如何でしたでしょうか?
今回はこのようになりました。

次回は久々に鬼SIDEオンリーの話を出そうと思います。


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壊れていく四国地方の王

今回は結構早めにかけたと思います。
こんな感じに幕間にはちょくちょくと猛士や鬼のSIDEを入れていこうと思います。
では、どうぞ!


SIDE練鬼

 総本部での緊急会議から四国地方高知支部の壊滅の知らせ、そして救出したと思った詩鬼が詩鬼ではなく謎の生命体が変身したと分かった事から1ヶ月以上経った。

 

 その間に我々、猛士は他の支部も被害を受けて、壊滅した。

 北海道支部は3支部全てを壊滅されて、8人の鬼である想鬼さんや松竹梅兄弟からの連絡は無く、既に殺されてるという判断となった。

 北海道の王であった水野さんは北海道に戻って無かった事で被害は間逃れたが、その報告を聞いて、意識をなくし今は総本部にある部屋で眠っている。

 そして、最近では、九州地方佐賀支部が壊滅させられたと聞いた。支部長の脳見 藩さんは瓦礫の下敷きで圧死したのか大量の藩さんの血液が潰れた瓦礫から染み出しており、生存は絶望的とのことだ。藩さんの部下である佐賀3人衆も佐賀支部から遠く離れた燃え崩れた屋敷で死体として発見された。

 

 

 

 

 

 

 これらの事があり、猛士は今まで以上の魔化魍に対する新兵器開発や新人の鬼の育成などが行われていた。特に新兵器開発は四国支部の王である加藤さんが中心となって、開発を行っていた。

 加藤さんは、高知支部がやられた時の事と部下だった詩鬼さんが実は本人ではなく異形。しかも魔化魍ではない謎の存在だという事があり、怠そうに喋っていた言葉遣いが一切無くなり、ただ淡々と言葉を発し、同じことをただひたすら続ける歯車の様に開発をしていた。

 

 普段は『男は…男は…』と嫌味を言う中国地方の王である若草さんはその姿を見て、何とも言えない程に顔を青くして、その場を立ち去った。

 そんな姿を見てられないと箱田さんや千葉さんなどからの頼みで、加藤さんと僕は話すことになった。そして、そんな僕が居るのは加藤さんが籠りっぱなしの総本部の開発研究室の扉の前。

 

「加藤さん」

 

「………」

 

「加藤さん!」

 

「………」

 

 目の前の扉をかなり強めに叩くも、中にいる加藤さんからは返事がない。

 

「加藤さん!!」

 

 もうラチが明かないと思い、練鬼は鬼として鍛えた力で扉の取っ手を引っ張り無理やり引き抜く。

 結果、取っ手は抜けて扉は開いた。

 

 中に入った練鬼は、中にいる筈の加藤を探す。そして、奥で溶接機の音が聞こえ、そこを見ると遮光マスクを着けた加藤が何かを作っていた。

 近くまで見ると練鬼は驚く。それは異形に近い人型だった。加藤さんは異形の人型の腕辺りに溶接機を当てて、溶接していく。その作業を見ていると、加藤さんは溶接機を止めて、こちらに顔を向ける。

 

「……お前か、練鬼」

 

 顔が見え無かったのか遮光マスクを外して、僕の顔を確認し、抑揚がない声で僕に質問する。以前の加藤さんとは何かが違うと…………直感的に僕は思った。

 

「開発の邪魔になるからとっとと部屋から出ろ」

 

「加藤さんは………それは、それはいったい何なんですか!!」

 

 そう言って加藤さんは、遮光マスクを着けて、異形の人型の溶接に戻ろうとするが、会話もせずに帰るわけにはいかないと、僕は目の前にある物が何か聞いた。

 

「………」

 

 加藤さんは何も答えずに、そのまま近くにあった作業台に移動して、そこに置いてあった紙を広げて、僕に見せ、そこに書いてあったものに驚愕した。

 

「加藤さん。これって!!」

 

「知っていたのか………いや、烈火さんが教えたのか? まあいい」

 

 その紙に書いてあったのは、昔に開発されたといわれる設計図だった。

 かつて、猛士四国地方愛媛支部で稀代の天才と謳われた愛媛支部支部長 代々木 蓬という者がいた。彼女は類い稀なその頭脳を活かして、様々な物を作った。そして、この設計図はそんな彼女が病で亡くなる3日前に考案したと言われる『対魔化魍戦闘自動人形』。

 

 年々、減っていく鬼の後継者に変わる戦力として考案されるも、この設計図を書き終えた直後に病で倒れ、そのまま病院に搬送されるも、この世を去った。

 

 

 

 

 

 

 練鬼はその設計図を見て、改めて部屋の周りを見ると、設計図に書いてあったものとは違う姿の未完成の自動人形が6体もあった。

 そして、その後ろには同じ姿をした人形がたくさん並べられていた。

 

「………練鬼」

 

「何ですか加藤さん」

 

「俺はこれらを持って明日に四国に戻る」

 

「如何してですか! このまま総本部にいれば完成出来るのに!」

 

「今日、お前が俺の所に来たのは箱田のおやっさんと千葉の爺に頼まれたからだろ」

 

 そのようなことを一言も言ってない筈の練鬼は驚く。だが、そんな練鬼に気にせずにさらに言葉を続ける。

 

「………今この時でも、魔化魍に襲われて悲しむ人達がいるんだろう。俺はそんな人が居なくなるようにと、そう思って猛士に入った。だが、どうだ今の状況は? 

 会議を開いてる間に俺の管轄の支部を1つやられ、挙句には俺の親友まで死んだ。しかもその間に他の支部が4つもやられた。

 もう、俺は机の上でダラダラと過ごすのは嫌になった。だが、俺は鬼じゃない……………練鬼。俺はな、お前が羨ましいよ。鬼の力を使って、人々を守る。俺も鬼の力を使って、人々を守りたかった」

 

 その言葉で、加藤さんの気持ちが分かった。猛士には親や親友を魔化魍に喰われて入った者が多くいる。そんな人たちと加藤さんはよく話をしていた。

 だからこそ、四国地方の王まで上り詰め、見つけた魔化魍を即清めて人々を守っていた。

 

 しかし、魔化魍の王が目覚めてから。猛士はかなりの被害を受けた。人を守るという事を誇りに思っていた加藤さんは悔しかったのだろう。鬼になれない自分の代わりにいや、これからも増えるかもしれない魔化魍に鬼の代わりに戦える者を求めた。それが、この自動人形たちなのだろう。

 

「………」

 

「……おっと、練鬼。今日はもう出てってくれ」

 

 そう言って、加藤さんは僕を部屋から追い出す。そして、取っ手の外れた扉を閉める。そして、僕は報告のために開発研究室を後にした。

 

 後日、開発研究室に向かうも、中にあった自動人形達と四国地方の王 加藤 勝は姿を消していた。




如何でしたでしょうか?
今回はこんな感じです。因みにこの自動人形達は正式な名称が有りますが、それはいつか公開します。
次回は妖世館にはるばるイギリスからやってきた外国魔化魍対狂姫大好き侍の戦いです。


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天馬と一角獣

大変長らくお待たせしました。
ちょくちょくと書いて、何とか完成しました。
今回は荒夜VS天馬の魔化魍。今回は、一角獣はあまり喋りません。


 眠眠のマスターであるランピリスが攫われて、その後に眠眠たちの活躍により攫った一味は壊滅した。しかし何故、眠眠は死体を回収せずに放置して来たのか理由を聞いてみようとしたのだが–––

 

「すいません王。この子、あの姿になると1週間はずっと寝てるんです」

 

 と言うランピリスの言葉で理由は聞けなかった。

 ランピリスの怪我は攫った一味から受けた傷と前の怪我も含めて、あと数日で完治するとの事で、それを聞きランピリスは喜んでいた。

 

 幽冥はランピリスの居た部屋から出て、自分の部屋に行こうとするが–––

 

「わ、わわわっっと」

 

 突然、妖世館全体を揺らすような衝撃が襲い、私はその衝撃で大勢を崩して、倒れそうになる。

 

「大丈夫ですか王?」

 

 だが、倒れそうになった瞬間に何処からか現れたのか白が現れ、私を倒れないように支えてくれた。

 

「ありがとう白」

 

 助けてくれた事に素直に感謝する幽冥だが。

 

「(嗚呼、今日も王からいい匂いがあああ!!)」

 

 こんな事を白が思っているとは、幽冥も思うまい。

 

「だけど、何が起きたの?」

 

「分かりません。もしかしたらまた鬼が来たのかもしれません」

 

「鬼か」

 

 幽冥は鬼が来た可能性は低いと考える。その理由は彼女の姉である春詠が関係している。

 彼女は幽冥と再会した翌日に連絡用のディスクアニマルにある物を付けて関東地方東京都第3支部に送った。ある物とは、春詠がこの場所に来るのに同行していた鬼、悪鬼の変身音錠 悪錠と春詠の血を染み込ませた書いた手紙と血を浴びた春詠の髪の一部である。

 その内容は、この地にいる魔化魍と相打ちになり、悪鬼は死亡。自身も瀕死の傷でもう風前の灯火。せめて魔化魍を倒した事と悪鬼の遺品を連絡用のディスクアニマルに持たせて、所属であった東京都第3支部に送った。

 

 これは猛士の『暗黙の了解』のようになっているものだが、もしも魔化魍を清めることが出来ても、自身も死ぬかもしれないという時には、自身の変身道具又はその者の所持品と魔化魍を清めた事を伝える短い報告書を書き、自身が所属していた支部に連絡用のディスクアニマルに持たせて送るのだ。

 しかし何故、春詠は自身の変身道具である慧笛を連絡用のディスクアニマルに持たせなかったのかというと、春詠の持つ変身鬼笛 慧笛は代々8人の鬼の1人だった慧鬼の子孫にしか扱えない特殊な変身道具で、現在の春詠にはそれを継がせた親も継ぐ子もおらず、いわばたった1人の慧鬼に変身できる者なのだが、上記のとおりに死んだという事で連絡する暗黙の了解によって春詠は猛士からは死んだ事にされている。

 さらには魔化魍は清められたという報告によって、再び鬼を送って調査することは『相当に切羽詰まった状況ではない限りありえない』と春詠は言っていた。

 

 自身の姉の言った言葉であり、おまけにその姉は嘘を付くのが超下手クソなので信憑性はかなりあった。

 その為に、白が言った鬼が来た可能性は低い。

 

「とにかく、今の衝撃の起こった場所に向かおう」

 

「そうですね」

 

 幽冥と白は衝撃の発生源であろう妖世館の外に向かった。

 

 

 

 

 

 

 外に出てみると、本来の姿に戻った荒夜と狂姫、迷家が衝撃を出したであろう犯人の魔化魍たちを睨んでいた。

 

SIDE荒夜

 姫といつものように館の外で軽い手合わせをしていた時にそれは起きた。

 何処からか飛んできた斬撃が妖世館に命中し、衝撃となって揺らす。

 

 斬撃が飛んできた方に向くと2体の魔化魍がいた。

 馬の頭部に翼の生えた甲冑を纏った人型の魔化魍と捻れた槍の角を持ち、前脚に装甲を付けた白馬の魔化魍がいた。

 

【俺の名はペガサス!! こっちは俺の相棒のユニコーンだ】

 

 人型の方がペガサスで、白馬の方がユニコーンという名前らしい。

 

荒夜

【これは自己紹介ありがとうございます。私は王に仕える魔化魍 ヤシャの荒夜と申します。本日はどのようなご用件で?】

 

【おう。紹介ありがとさん。要件はおめえさんがたの後ろにいる王に用がある】

 

 ペガサスの言葉で私は後ろを向くと王と白殿がいたことに気付くが、今はそんな場合では無いと判断して、そのままペガサスを見て次の質問をする。

 

荒夜

【……王にどのようなご用件でしょう?】

 

【なーに、そんな大したことじゃねえ…………ただ、俺と戦ってくれってところかな】

 

 ペガサスは荒夜に向けて長剣を振り下ろすが、そこには荒夜が居らず、少し離れた所で立っていた。

 

荒夜

【そうですか。ならば–––––】

 

 荒夜は腰に指した刀に手を掛ける。

 

荒夜

【私が相手をしましょう。…………陽太郎殿、貴方から頂いたこの刀、使わせて頂きます】

 

 ペガサスには聞こえない小さな声でそう呟くと、刀を僅かに抜き腰を落とす。

 この刀は以前、『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』で荒夜が陽太郎と戦った際に、折れた刀を造り直した刀。

 前の刀に比べて、扱いやすく、手によく馴染む。銘は心討(しんうち)

 

【へえーー。すげな今の避けるとは、だが!!】

 

 今度は長槍を空間から取り出して、荒夜に向ける。

 

【俺の連撃を避けれるか!!】

 

 ペガサスが翼を広げて、低空飛行で荒夜に迫り、長槍の連続刺突を繰り出す。

 荒夜は冷静に心討(しんうち)とその鞘を交互に動かして長槍の攻撃を防ぎ、時折くる長剣を躱す。

 

荒夜

閃居合流 桜蘭!!】

 

 逆に荒夜が攻める時はペガサスは槍の柄で居合の軌道をずらし、長剣で首を狙うも荒夜は鞘で剣撃を防ぐ。

 ペガサスは低空飛行をやめて、空に舞い上がる。

 荒夜は心討(しんうち)を鞘に収め、ペガサスが降りてくるタイミングを狙うように待った。ペガサスは槍を前に突き出して、荒夜目掛けて、流星のように落ちてくる。

 

 荒夜はペガサスが落ちてくる瞬間に跳び、心討(しんうち)を抜き、翼を斬ろうとするがペガサスは直前に翼を畳み、荒夜の刀は空振り、空をスパッと斬る。

 ペガサスはそのまま、回転し槍の峰を荒夜に叩きつける。

 

 荒夜の着物が少し破けて、荒夜は地面に叩きつけられる。だが、荒夜の身体に何も無く、そのまま立ち上がって、降りてくるペガサスの隙を掴もうとしていた。

 ペガサスは先からの戦闘で楽しくなったのか口が綻んでいた。

 

【これ程の力なら、『封印の誓い』を解いての相手に丁度いい!】

 

 ユニコーンは目を見開き、ペガサスの言っていた言葉に驚く。

 ペガサスは、目の前に長剣を突き刺して、長槍を横向きに構えて言葉を紡ぐ。

 

【俺とお前の1対1だという事】

 

 ペガサスが何かを言うと辺りに重いプレッシャーが掛かる。

 

【俺と同じように武器を持っている】

 

 次の言葉を言うと、更にプレッシャーが増し、身体に薄い白い光が覆う。

 

【俺の持てる限りの力を全て使い全力で屠る!!】

 

 最後の言葉を言うと同時にペガサスを包む白い光は辺りを覆うほどに輝く。

 

 光が治ると同時に開く眼でペガサスを見ると、ペガサスの姿は変わっていた。2足歩行の人間らしい脚だった下半身から4足歩行の馬のような下半身に変わり、その手に持っていた武器は腕全体を覆うような長槍と禍々しい長剣を持ち、馬の顔が爽やかな人間の顔と甲冑を纏い、背には巨大な翼を持った上半身に変わった。

 

 これはペガサス自身が言う『封印の誓い』を解いた姿–––––いや、ペガサス本来の姿である。

 

【さあて、行くぜ!!】

 

荒夜

【!!】

 

 一瞬にして荒夜の側にまで移動し、その長剣を振り下ろす。荒夜は瞬時に反応して心討(しんうち)の鍔で上手く防ぐが、腹に何かが突き刺さる。

 

荒夜

【ぐふっ】

 

狂姫

【荒夜様!!】

 

 近付こうとする狂姫を手で制して、荒夜は鞘に刀を戻し、構えを解いて、掴んだ刀の柄から手を離して目の前のペガサスを見る荒夜。

 

【どうした? 遂に王にやらせる気にでもなったのか】

 

 腹に刺した槍の傷はそこまで深くは無かったが、下手をすれば出血過多によって倒れるだろうと、ペガサスは荒夜からその後ろにいる幽冥に目線を向ける。

 

荒夜

【………確かに貴方は強いです。ですが–––––】

 

 カチンと鍔の音が鳴った瞬間に、幽冥に眼を向けた視線を荒夜に戻すが、ペガサスは頰に僅かな痛みを感じて、手を当てると頰が一文字に斬られてることに気がつく。

 

荒夜

【今のが見えなかった貴方は王に挑むつもりどころか、私が挑ませませんよ】

 

 心討(しんうち)を抜き、荒夜はそれを旋風のように回転し始める。回転はどんどん速くなり、刀身は鍛造中の刀のように赤くなっていき、やがて炎が生じる。

 

 ペガサスは己の直感で、大技が来る事を予想し、長槍と長剣を構えるが、荒夜は炎が生じた心討(しんうち)を鞘に仕舞う。鞘に仕舞うのは居合を得意とする荒夜の戦闘スタイルのため、気にしないつもりだったが、ペガサスは次の行動に怒る。

 

【お前、何故力を抜きやがる!!】

 

荒夜

【…………】

 

 ペガサスの問いに荒夜は答えず、更に深い脱力と深い呼吸をしてペガサスの頭で何かが切れた音が鳴る。

 

【巫山戯るなああああああ!!】

 

 ペガサスは怒り、荒夜の技を警戒して構えていた動きを解いて、荒夜に直進する。

 

荒夜

煉獄(れんごく)……重閃(じゅうせん)

 

 それはかつて陽太郎に戦闘の最中に直に教わり、会得した技を荒夜が再び、陽太郎と刀を交えるために鍛錬して編み出した技。

 居合は脱力すればする程に速さと破壊力の増す武術。強力な煉獄の如き炎を使って一撃で斬り伏せる煉獄一閃(れんごくいっせん)と荒夜が得意とした完璧な脱力をすることで多数の斬撃を居合で生み出す『閃居合流』をそれらが完璧に合致することで使える複合技である。

 

 煉獄の如きの炎を纏った無数の斬撃は迫るペガサスに防ぐ術はなく、咄嗟に前に出した2つの武器を同時に斬り落とし、そのままペガサスの身体を斬り裂く。そして、ペガサスが足の腱を斬られたのか地面に倒れ、顔を上げると荒夜が立っており、ペガサスの頭に心討(しんうち)を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペガサスが目を覚ますと、目に入ったのは天井だった。

 そこから顔を上げて辺りを見渡すと、あまり物が置かれていない質素な部屋で、足に何か乗っかっていることに気付き、そこを見るとユニコーンの頭がペガサスの足に乗かっていた。

 

【………ユニコーン起きろ】

 

【んんん…………ペガサス! 良かった】

 

 ユニコーンが安堵する声を聞き、ペガサスはその頭を軽く撫でるとユニコーンはブルルゥと可愛らしい声を上げる。

 

「イチャイチャしそうな所申し訳ないんだけど、話しさせてもらっていいかな?」

 

【【!!】】

 

 ペガサスとユニコーンは声の方に向くと、胸部に包帯を巻いた荒夜と狂姫を傍らに立たせている幽冥がいた。ペガサスは剣を抜こうとするが、剣が側にはなく良く見ると、荒夜が鞘に収めた状態で持っていた。それを見て、ペガサスは大人しくする事にした。

 

「まあ、知っているかどうかは不明だけど、私が今のところ魔化魍の王になる安倍 幽冥………それで、私に何の用があったの?」

 

【俺は王を倒して更なる力を得る為だ!!】

 

「私を倒して力を手に入れるね…………貴方のその力ってまだ、完全じゃないんでしょ? 力を使いこなせるようになりたいと言うのは本当だろうけど、本当の理由は–––」

 

 幽冥は言葉を一旦止めて、ユニコーンの方を見て、言葉を出した。

 

「その隣の子が関係しているのかな?」

 

 幽冥の言葉を聞いて、ペガサスはユニコーンを一瞥した後に、幽冥に話し始める。

 

【俺は………俺はこの力を完全に制御出来る力が欲しい!! ………隣にいるユニコーンは過去の俺が原因でこの傷を作っちまった。

 だが此処に居れば、荒夜や王の家族たちと鍛えていけば、俺は、俺は誰にも負けない力を得られる。だから、此処に居させてもらえねえだろうか?】

 

 ペガサスが『封印の誓い』で力をセーブしているのは、幽冥も言った通り、ユニコーンが関係している。だが、この話はまた別の機会で語るだろう。

 自分のことを言ったペガサスは王の言葉に耳を傾け、一字一句逃さないように聞いていた。

 

「………これからは貴方達も私の家族です。家族同士で切磋琢磨し、その力を高めなさい」

 

 私の言葉を聞き、先の模擬戦でボロボロのペガサスとユニコーンはイギリスで有名な円卓の騎士のように跪き、頭を下げ、誓いを口にする。

 

【【我ら2人は貴方を主君とし、時には槍に、時には盾となり、今代の魔化魍の王に仕えることを誓う(います)】】

 

 この日から、イギリスから来た流浪の2人の魔化魍はペガサスは劔、ユニコーンは刺馬と名付けられて新たな家族となった。




如何でしたでしょうか?
ペガサスがユニコーンに怪我をさせた経緯は別の幕間で書きます。
次回は雨の止まない山で出会う魔化魍の話です。


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止むことのない雨

はい。大変お待たせしました。
少しゴタゴタのために書くのが遅くなっていました。
今回は屍と出会ったある魔化魍の話です。


 それは唐突に聞かれた。

 

「止むことのない雨?」

 

美岬

【そう。幽ってこういう都市伝説とか真っ先に知ってそうだと思ったけど】

 

「……あーーー!! そうだ。私この世界に生まれたからそういうの全然見てなかった」

 

 そう。今、思い出したがあの両親が原因で私はそういう本を読む時間がなかった。

 何せ『本を読むくらいなら。とっとと飯を作れ、皿を洗え、掃除をしろ』と言われて、読めなかった。ああ、思い出すだけでーーーああムカつく。

 

「で、結局、何なのその止まない雨って」

 

美岬

【うん。神奈川県にある1つの山に雨がずっと降ってる場所があるの】

 

「でも、山だからって雨は流石に止むでしょ」

 

美岬

【普通ならね。でも、その雨は止むこともなくその場所から離れないかのようにずっと降るの。

 この都市伝説は信憑性が高くて、この10年本当に止んだことが1度もないからから近々、都市伝説じゃなくなるかもしれない】

 

「そうなの。あ、そうだ。美岬、今から本屋行くよ」

 

美岬

【本屋って………まさか幽…】

 

「そう。今まで読めなかったからその為に買いに行くよ」

 

美岬

【分かったよ幽。でも、私だけだと無理だから白も呼んでいい?】

 

「白も…………まあ、本を持つ人が増えるから良いけど」

 

美岬

【ありがとう。じゃあ白を呼んでくるから準備して待ってて」

 

 美岬は買い物に付き合うために擬人態に姿を変えて、白を呼ぶために部屋を出た。

 

SIDE美岬

 や、やったああああああ!!

 

 心の中の声のはずなのに、表情で何を思っているのか分かりそうなくらいに美岬は喜んでいた。

 

 恋愛などに対してかなりが付くほどの鈍感な幽冥は気付いてないが美岬は幽冥に恋心を抱いていた。それは前世から続く思いである。

 今世に生まれた時も幽冥の事を想っていたが、女として生まれたという事と幽冥自体が居ないという2つの理由で、その時代で自分の事を愛してくれる人間の男と結ばれた。

 ある時、その男が知り合いの漁師から貰った魚肉(・・)を食べた結果、私の身体は人間から魔化魍に変わった。それでも男は私を愛していたが、魚肉を食らった日を境に私は老いなくもなり、比較的に軽い怪我ならすぐ治った。そして、私は老いは無くなったが男は魚肉を食べなかったので、そのまま歳をとり私に看取られて亡くなった。

 男が死んだ後は、この場に住めないと思い、旅に出た。旅に出た先で別の男に声を掛けられることも多かったが、あのように自分だけ歳がとれずに死ぬ様を見たくないと思い。結婚する事をやめた。

 

 それから何年も何十年も時が経ち、飼っていた(葉隠)が魔化魍に変わり、屍王や跳、常闇に出会い荒夜や狂姫を人間から魔化魍に変えて、そしてマシンガンスネークと闘い………まあ、そこらへんはいつか話すとして、とにかく今は幽冥と一緒に買い物に行くことが先決。

 それと何故、白を一緒に言ったのかも理由がある。その理由は、白とは『幽冥を一緒に純愛で堕とすぞ同盟』の同志だからだ。

 最初の白は私の想いに気付き、敵意剥き出しの狂犬のような感じだったけど、私が別に正妃出なくても良いと言ったら、敵意を無くして今では幽冥のことで知らない部分のことを白に教える位の仲になった。

 

 その為に美岬は幽冥に『白も呼んでもいい?』と聞いたのだ。

 そして–––

 

「それじゃ、本を買いに行くよ!!」

 

「はい!!」

 

「じゃ、先ずは大手の本屋に行こうか」

 

 幽冥を先頭に白と美岬が後ろから歩き、幽冥の趣味の妖怪とオカルトの本を買いに出掛けた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE屍

 神奈川県某所。

 梅雨のくる少し前だというのに、鬱陶しい雨で私の頭は楽器のようにピチャピチャと鳴る。

 

 屍がこの雨が止まずに降り続けるという都市伝説の山に来たのは、尾から出る毒血液の元である動物の怨念を集めるのに適した山だったからだ。

 屍の尾から出る血は屍が動物の怨念を尻尾に集め、それが攻撃的に変異したものだ。その血を使って攻撃すればするほど、または放置しているだけで、集まった動物の怨念は減っていく。その為に屍は普段は古樹に術をかけてもらい、血の流出を防いでいる。

 今回は前の時の戦闘で使った分の血を補充する為に山に訪れた。

 

【しかし、最近の怨念は質がいいね。この質なら今まで以上のモノになりそう】

 

 屍の言う質とは勿論、怨念の怨みの質だ。

 最近の動物の怨念は昔よりも怨みは強くなっている。

 その原因として思い浮かぶのは、捨てられたペットや動物虐待などといったものが原因だろう。死したペットまたは動物が魂となった時に霊的な土地に縛られて、その場に留まりそのまま怨みを強める。屍はそういった怨みを持つ動物の怨念を尻尾に溜め込んで、血に変えている。怨みが強ければ強いほど勿論、血の攻撃力は上がる。

 

 

 

 

 

 

 それから3日が経ち、動物の怨念を集め終わり、いざ帰ろうとした時に屍は気付く。この近くに同族がいると、屍はそのまま気配のする方向の方に向かって進んでいくと–––

 

【お前、誰?】

 

 屍が見つけたのは青い傘を差し、レインコートを羽織ったペンギンの魔化魍だった。屍の声に気付き、ペンギンの魔化魍はこちらに顔を向ける。

 

【僕はアメフリコゾウだよ。この山にいるのは僕の住処みたいなもんだから】

 

【しかし、あなたこんなところになんで住んでる】

 

【………知ってるかどうか知らないけど、僕の種族アメフリコゾウは自分を中心とした場所に雨を降らす能力を持っているの、つまり僕が行くところには雨が必ず降るだよ。

 まあ、そういう能力だしね。

 昔は雨が降っている事をそんな気にするのは居なかったけど、今はいく先々で親の魔化魍や童子や姫なんかの育て親に子供の成長に悪いからって追い出されるんだよ。それで思ったんだよ。誰も迷惑にならない場所でひっそりと過ごそうって】

 

 魔化魍は本来、最も成長に適した環境がある。その環境の中には湿度というものがある。湿度が僅かにズレるだけでも魔化魍を成長させるのは難しくなる。だが、アメフリコゾウはその場に居るだけで雨を降らす。

 つまり折角、幼体の魔化魍を育てる環境が出来てもアメフリコゾウが原因で、その環境が壊されるのだ。

 

【…………】

 

【だから、僕はこの場所から動かないよ】

 

【あなたはそれで良いの?】

 

【良いんだよ。それで誰も迷惑にならないんだし】

 

 アメフリコゾウがそう言った次の瞬間、アメフリコゾウがいた場所には屍の尻尾があり、アメフリコゾウが座っていた倒れていた樹がへし折れる。

 

【何をするんだよ!!】

 

【気に食わないね。その目、今の自分を変えようしないで現状に甘えてるその目が気に食わない!!】

 

 屍が気に食わなかったのは、アメフリコゾウの目だった。

 それは、南瓜と出会う前の自分と同じ目だった。そもそも屍は純粋な魔化魍ではなく、動物の強烈な怨念によって姿が変わった元蛇である。

 屍が自意識を初めて持ち、尻尾から出る血の存在が何なのか分からず、同族に聞こうと思っても同族は居らず、自分が何なのか分からないと、ただ時を過ごしていた時に南瓜や古樹、緑と出会う。その出会いをキッカケに屍は徐々に自分がどういう存在か理解し、尻尾から流れる血も理解した。

 

 だから、山の中に逃げようとするアメフリコゾウを捕まえ、屍は動物の怨念を集め終わった際に使う予定だった蛇姫の作った試作の『転移の札』を地面に叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 光が治まって見えたのは、妖世館のホールの中。屍は転移したのを確認して、アメフリコゾウに巻きつけた尻尾を離して、そのままアメフリコゾウを見る。

 

【いたっ! ………ここ何処!?】

 

【此処は9代目の王が住まう妖世館】

 

【お、王のいる館!!】

 

 屍の言葉にアメフリコゾウは驚き、ホールの中を見回す。

 

【で、僕をどうするつもり?】

 

【あなたが雨を自由に降らせられるまで、ここに居てもらうからね!!】

 

【えええええ!!】

 

 妖世館を中心に降る雨の中でアメフリコゾウの声が木霊した。

 それからアメフリコゾウは–––

 

【確かに、天候の術もとい雨を操る術はありやすが、これはちっと扱いが難しいでやんす】

 

【うーーん。それはちょっと】

 

 術に詳しい跳に聞くも扱いの難しさに困ったり。

 

鳴風

【うんと、黒くてね水がピチャピチャしてて】

 

【いや感想じゃなくて、どうなっているのかを】

 

 雨を降らす雲の中どうなっているのかを鳴風に聞くが、本人はただ遊んでたり。

 

拳牙

【先ずはですね、水分を認識するところから始めますか】

 

【出来るわけないでしょ!!】

 

 雨を自由に降らせられるようにする為に屍に協力を頼まれた拳牙が空気中の周りの水分を視認する事を始めようとするも出来ないとハッキリ言ったり。

 

 

 

 

 

 

 屍にお願いされて色々な家族の協力を得て1ヶ月経った。

 アメフリコゾウは遂に雨を自由に降らせられる様になり、屍に半ば拉致の形で妖世館に連れてこられたアメフリコゾウは私物なども特に無く、身支度をせずに自分の居た山に帰ろうとしていたが–––

 

【待って!!】

 

【なんだい。僕は雨を自由に降らせられる様になったし、これで山に帰っていいよね】

 

 アメフリコゾウはこの王のいる館に連れて来た屍に言う。確かに屍がアメフリコゾウを妖世館から出さないと言ったのは、雨を自由に降らせられる様になるまで、その条件通りに言うならもうアメフリコゾウが妖世館で暮らす理由はない。

 

【………ねえ、ここに住みませんか。雨も自由に降らせられるようになってるし、此処にいるのは誰もそんな事を気にしない。それに雨を敵の上に降らせられるようにならないと、だから……】

 

 そう。アメフリコゾウが降らせられる雨はあくまで自分の周囲だけだった。だから、屍は敵の上に降らせられるようにということを言っているが、実際はアメフリコゾウが妖世館から居なくなるのが嫌だっていう理由だ。

 

【はあーーー分かったよ………此処にいれば良いんでしょ!! わあぁぁ!!】

 

 アメフリコゾウがそう言った瞬間に屍はアメフリコゾウに抱きつき、尻尾で拘束してその事を報告する為に王の元に向かった。

 

 ちなみに幽冥が買った本を読破して新たなオカルト本を買いに美岬や白を連れて出掛けている事を知らない屍は数時間探し続け、見つけたのは幽冥たちが買い物から帰ってきた時だった。




如何でしたでしょうか?
次からは覇王龍さんの作品であるレレレの零士とのコラボ回になります。

それと、今回の投稿でしばらく、投稿を中断させて貰います。
理由としてはコラボ回は大体の流れが出来たのですが、あるアニメを見て、これを足してみようと思った事で一部書き換えようと思ったことと、とある事情でしばらく、書くのが難しくなるからです。

時々、投稿中断をしますが、これからも「人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。」をよろしくお願いします。


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コラボ編  魔化魍の王とレレレの零士
壱 黒い渦から落ちてきたもの


更新再開お待たせしました!!
今回から覇王龍さんとのコラボであるレレレの零士編になります。


SIDEひな

 アメフリコゾウが幽冥の家族として小雨と名を貰い家族となって、数週間が経った。

 

「いい天気だねおばあちゃん!」

 

「そうだな」

 

【【いい天気ですね】】

 

 久しぶりのおばあちゃんと凍お姉ちゃんと一緒のさんぽ。

 

 紫陽花の手をしっかりと握り、ルンルンと鼻歌を歌いながら、ひなは紫陽花と凍の3人で妖世館の裏側にある山の森で散歩していた。

 

【【(こうしてお2人の散歩に付き添うのは何年ぶりでしょう)】】

 

 凍は数年ぶりに見る光景に懐かしさを覚えながら、2人の後ろから着いてくる。

 

 そのまま歩き続けると、山道から広い場所に出る。

 

「おばあちゃん!! こっち来てよ」

 

 紫陽花の手を引っ張りながらひなは崖の近くまで走り、崖の先から見える絶景ともいう景色を紫陽花と一緒に見ていた。

 凍は少し離れた場所から2人の様子を眺めているが、突如、2人の上空に黒い渦が現れる。

 

【【紫陽花様!! ひな様!!】】

 

 その声をいち早く聞いた紫陽花はひなを抱えて、一気に凍の居る場所まで飛び、ひなを後ろに隠す様に下ろし、黒い渦の方を睨む。

 

「おばあちゃん?」

 

「大丈夫だ。ひなを危険な目に合わせない」

 

 紫陽花はひなを背負い腕の一部を本来の姿の腕に戻し、凍は自身と同じ姿の分体を生み出していく。

 紫陽花たちの戦闘準備が終わると同時に黒い渦はさらに大きくなり、紫陽花たちは身構えるが、黒い渦から何かが落ちてくる。

 

 落ちてきたのは、白と青のメッシュが入った黒髪で顔の右半分を隠れ群青色のジャケットを纏い、下駄を履いた少年。

 

 法衣を着込んだ白狐。

 

 熱して灼けた鋼鉄や溶岩を想起させるようなメタリックオレンジカラーの蜥蜴。

 

 鯆の顔と背鰭を持ち裸体の上半身と大蛇のような下半身の女性。

 

 鷹の翼に鰐の尾を持った単眼のマンタ。

 

 布袋で顔全体を隠した茶色い肌色の4本腕の巨大な人型。

 

 小判の鱗を持った小柄な龍。

 

 鍋を被り老婆の着る着物を纏った狼。

 

 鬼のような顔付きで天狗の鼻を生やしゴリラのような体格で縞模様の入った人型。

 

 紫陽花たちの前には少年と8体の異形達が横たわり、それらを落とした黒い渦は少しずつ縮んでいき、何もなかったかのようにどこにも見えなくなった。

 最初に落ちてきた少年を除けば全ては魔化魍といってもおかしくない外見のものたちに紫陽花たちは警戒するもひなが紫陽花の背中から降りて、少年達の方に向かう。

 

「ああ、こら辞めなさいひな!!」

 

【【ひな様、お戻りください】】

 

 ひなの保護者ともいうべき2人の言葉を聞かずにひなは少年に近づき、少年の頬を突く。

 

「んん」

 

 ひなが突いた少年は息のように小さな声を聞き、凍に顔を向ける。

 

「凍お姉ちゃんこの人達を運んであげて!」

 

【【え!! しかし!!】】

 

「お願い!!」

 

【【……はい。かしこまりました】】

 

 凍はひなのウルウルとした瞳でお願いを言うため、凍はひなの指示に従い分体をさらに生み出していく。

 そして、凍の分体はそのまま倒れている者たちの下に身体を潜らせて、空飛ぶ絨毯の様に宙に浮かび、ひなは本来の姿に戻った紫陽花に抱えられて妖世館に戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 何処かの森の中に1つの影を追いかける複数の影があった。

 

「ほらほら、鬼さんら、こちらぁ」

 

 追いかけられている1つの影はパンパンと手を鳴らしながら、器用に走る赤黒の肌の鬼の少女。

 

「待て、酒呑童子!!」

 

 追いかける影の先頭を走るのは、左目に一文字の傷がありヒゲを少し生やした赤髪の青年。

 

「ごらっ!! 止まれ!!」

 

 薄い金のトゲトゲした髪で赤い三白眼の少年は苛ついた声で目の前の鬼少女に言う。そして、2人の影を追うように。

 

 身体に苔を生やし厚い緑のコートを纏い頭に鉢巻を巻いた緑の猪の人型。

 

 3匹の鮫の顔を持つ白蛇の下半身をした水色の着物に藍色のストレートヘアーを靡かせる女性。

 

 髭を蓄えサングラスを掛けた厳つい男。

 

 鎌を持ち、厚いパーカーを着て頭頂部にゴーグルを着けた男。

 

 黒の長髪に後頭部が少し盛り上がっている女性。

 

 両手を鋭い鎌に変えた黒衣の男。

 

 顔が茶色の体毛のイタチの棘の生えた甲羅を持つカッパっぽい生物。

 

 角を生やした子供の大きさの蜥蜴。

 

 カタツムリの頭部に蓑虫の簑と牡蠣の貝殻を合わせた身体に大木の根の脚を持つ生物。

 

 その生物の肩部分に乗ったロングヘアの一部をシニョンで纏めた灰色の髪の美少女。

 

「しつこいなぁ〜うん?」

 

 赤黒の肌の鬼の少女 酒呑童子が飽き飽きしていたところに突如黒い渦が出てきた。その黒い渦を見た酒呑童子は––––

 

「ほ〜〜これは」

 

 三日月の様に口を歪めて、その黒い渦を見つめた後にそのまま渦の中に飛び込んだ。

 

「「「「「「「「「「「「「なっ!!」」」」」」」」」」」」」

 

 追いかけていた者たちは酒呑童子の行動に呆気に取られるも––––

 

「逃すか酒呑童子!!」

 

 酒呑童子が入った数秒後に赤髪の青年も渦の中に飛び込み、彼の仲間も後に続くように飛び込んでいく。

 そして、黒い渦は何時の間にか消えて、そこには何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もなかった空間からズタボロなフードを纏った者が現れ、さっきまで黒い渦があった場所を見つめる。

 

「これでいい。これであの()の所はまた賑やかになる」

 

 そう呟くにように言ったフードを纏った者は黒い渦のようにその姿を消し、そこには本当に誰も居なくなり、ただ静かに風に揺られた枝の音が響く。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 此処は何処だ?

 ひなに発見された者の中の1人の少年が目を覚まし、先ずは自分の身体に掛かった布を退かす。そしてそのまま見渡すと近くには、少年の家族と悪友がいた。規則正しい呼吸をしていることからただ眠っているだけのようだ。

 

 少年は、それを確認して、安堵の息を漏らす。すると、少年の髪が突然モゾモゾと動き、髪の中から小さな手が出て、少年の髪の毛から姿をあらわす。

 顔全体が大きな青の瞳の目玉で、その下には普通はある筈のない着物を着た人間の身体をもつ何かが現れる。

 

「零士。此処は?」

 

「分かりません母さん」

 

 少年は母さんと呼ぶ何かを自分の手のひらに乗せて、質問に答える。

 

「しかし、いったい誰が僕たちを「私の家族ですよ」…!!」

 

 そこに居たのは、赤紫の着物を着た少女。少女の後ろには白のヴィクトリアメイド服を着て、左腕にたっぷりとした布を巻いた女性と三度笠を被った黒のポニーテールの黒の着物を着た女性が立っていた。

 そして、先頭にいる少女が少年達に向かって歩いてくる。少年とその手に乗る何かは身構える。

 

「初めまして、私は安倍 幽冥。貴方達はどんな魔化魍かな?」

 

「「え?」」

 

 少年と何かは場に似合わないような声を揃えて上げる。その声に少女もとい幽冥は首を傾けて、何かあったのというような顔で2人を見ていた。

 

 此処に世界の異なる者同士が会合した。この出会いの後に幽冥と少年達はある者の計画に巻き込まれるのだが、この時の幽冥と少年達は知る由もなかった。




如何でしたでしょうか?
久々の投稿でしたので、文がおかしくなっていないか心配です。

次回はコラボ側のキャラとの会話と幽冥の家族の1人の友人の話になります。


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弐 小雨のフレンド

大変長らくお待たせしました。
クロス編の2話投稿です。

今回は、少年達の正体と小雨の友人魔化魍の話です。


SIDE◯◯

 神奈川県某山中。

 

【居ない。居ない。どこに行ったんだよ!!】

 

 そこにはまるで誰かを探すように声を出しながら探す1体の魔化魍がいた。

 

【あいつの居るところには必ずあるアレ(・・)がないのはどういうことなんだよ!!】

 

 魔化魍は辺りを探すのを止めて、今度は地面に染みるように残っている水溜りに触手を突っ込み、暫くそのままでいると、水溜りから触手を抜き、遠くの方を魔化魍は見た。

 

【向こうに居るのか…………待っててよ……アメ】

 

 魔化魍はそう言うと見た方角の方にふわふわと浮きながら移動した。

 

SIDEOUT

 

 ひな達が何処からか連れてきた少年と魔化魍(?)に幽冥は自己紹介と共になんの魔化魍なのか聞いていた。

 

「「魔化魍?」」

 

「そう。君も君の手に居るのも背後で眠っているのも魔化魍なんでしょう? 君は多分、擬人態もしくは人間に近い姿の魔化魍なのかもね。それに君の手に居るのはヒトツメコゾウ? それともモクモクレン? いや〜〜眠眠や葉隠みたいな小さい身体の子はいるけど眼に身体を生やした魔化魍がいるとは思わなかったな〜」

 

 幽冥はまくし立てるように喋り、少年達はぽかんとしながら幽冥の話を聞いていた。

 

「ああ、いけないいけない脱線するところだった。まあ、改めて、なんの魔化魍なのですか?」

 

 幽冥はキラキラした目を少年達に向けて、少年の目の前に移動し回答の返事を待っていた。

 少年と少年の手に乗る彼の母親というものは、魔化魍というよく分からないものを聞いて困惑するも、少年は意を決して目の前の幽冥に話しかける。

 

「そ、その魔化魍というのは何なんだ?」

 

「む。だから魔化魍は魔化魍ですよ」

 

 幽冥は少年の言った言葉にそのまんまの答えを言うが、少年はそもそも魔化魍が何なのかが分からなかった。

 

「う〜〜ん………お嬢さん。私たちは本当に分からないのです。その魔化魍というものが」

 

「魔化魍が分からない………そんな筈は、どう見ても魔化魍らしいのに「幽冥お姉ちゃん」…ん。どうしたの朧?」

 

 少年の手に乗る何かが言った言葉に困り、自分の世界に入りそうになったが………朧の声が聞こえて、朧に顔を向けると。

 

「そいつらの言ってること多分、本当だよ。そいつら全然、魔化魍らしい匂いがしないんだもん」

 

 朧の言った言葉に幽冥は驚く。

 ひなが連れてきた者たちは、目の前の少年を除けばその近くで眠る異形はそれこそ魔化魍と呼ばれてもおかしくないからだ。だが、少年の手に乗る何かは魔化魍が分からないと言った。

 もしも、魔化魍の事で嘘をついているのだとしても、嘘をつくメリットが無いので、彼らの言うことは事実だろうし、何よりも朧が私に嘘を付くはずもない。そうすると考えるのは、彼らが何者なのかということだ。

 

 だが、幽冥は彼らの正体に気付く。そもそも魔化魍とはあるもの(・・・・)をモデルにして生まれた空想の産物。勿論、そのモデルも空想の産物かと思われるが、それは違う。科学がまだ進んでいない昔。

 

 それは人智を超えた現象を起こし。

 

 それは人を巧みに騙し、惑わし。

 

 それは人を魂ごと喰らい。

 

 それは人に恐怖を与えた。

 

 その正体を幽冥は確認するように口にした。

 

「妖怪?」

 

 それが幽冥の前にいるもの正体。その言葉を聞き、少年とその手に乗るものは首を縦に振った。

 

「そう。僕と母さんは違うけど、僕の仲間はみんな妖怪だよ」

 

 少年の答えに幽冥は驚きと困惑の混じった顔で、倒れそうになった所を白に支えてもらった。

 

「君にばかり自己紹介させるのもどうかと思うし、僕らも自己紹介させて貰うよ……僕の名前は零士」

 

「私はこの子の母親のハハマナコ」

 

 ハハマナコが言う言葉に幽冥だけではなく、白も朧も驚く。

 

「「「「ううう」」」」

 

 驚いてる幽冥達を置いて、零士の側にいた妖怪達も目を覚ましていく。そこから幽冥と妖怪達の自己紹介のしあいが始まった。

 

SIDE◯◯

 此処だ。此処にアメがいる。

 

 妖世館の入り口に1体の魔化魍がいた。ふわふわと漂いながら2本の触手を向けて少しずつ身体を回るように動くと、妖世館の庭の方角で触手が振動して魔化魍は触手が振動した方に向かう。

 

 ふわふわと浮くように飛んで、魔化魍は庭の方に着き、魔化魍が見た先には–––

 

小雨

【もう止めてってばーーー】

 

【ここ、ここが良いのかーーー】

 

 魔化魍が探していたレインコートを着たペンギンのような魔化魍 アメフリコゾウの小雨とその小雨にじゃれつくように小雨の身体にとぐろを巻いて引っ付く頭部と尻尾が白骨化した蛇の魔化魍 テオイヘビの屍。

 

 他人から見ると襲われているようにそれを見た魔化魍は何かがプチンと切れて、小雨にとぐろを巻く屍に接近する。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE屍

【僕の友達を離せ!!】

 

 上から突然声が聞こえて頭を上げると、触手を振り下ろそうとする魔化魍がいた。屍は小雨に巻きついてるからか避けられず、そのまま魔化魍の攻撃を受けて、妖世館の壁に叩きつけられる。

 

【っ〜痛いじゃない………って小雨、小雨】

 

 小雨ごと壁に叩きつけられた屍は身動きが出来なかった故に壁に頭を打ち、気絶した小雨を揺するが気絶している小雨が起きるはずもなく、屍は小雨の身体から離れて、自分を攻撃した魔化魍を見る。

 

 頭頂部が一周するように燃えていて、垂れ下がるかのように生える無数の触手の中に目立つ4本の長触手、まるで海の中にいるように思わせて宙を浮く小ぶりな鰹の烏帽子の魔化魍。

 

 その姿を見て、屍は王の家族の1人であるクラゲビの浮幽を思い浮かべる。それらの事を考えながら屍は相手の魔化魍をクラゲビ又はそれに連なる種族と予想した。

 

【念のために聞くけどあなた何の種族?】

 

【アメを襲った奴に教える気はないと言いたいけど、冥土の土産という事で教えてあげるよ。僕の名前はタクロウビ】

 

 タクロウビの言葉を聞くとどうやら小雨の友人らしい魔化魍に先ほどまで小雨にやっていた事を勘違いしているらしく、私は取り敢えず、タクロウビに誤解している事を言おうとするが、タクロウビから飛ばされた火球により、まずは話し合う前に動きを封じる事にした。

 

 飛んでくる火球を尻尾で振り払いながらタクロウビに徐々に近づく。だがタクロウビもただでは近づけさせず、触手を使って屍の身体の身体に攻撃する。だが、触手の攻撃はさほど気にするような威力でもなく、屍はどんどん近づく。

 

 おかしい。この程度の攻撃を本気でする筈はないと、得体の知れない核心のある屍は触手1つ1つを警戒しながら、尻尾で叩く。やがて、その核心は当たり、普通の触手とは違う長触手が伸びてきた。長触手は屍に刺さらず、地面に刺さると怪しい煙を出して溶解していた。

 

 タクロウビは長触手を屍、目掛けて突き刺そうとする。屍はそれを躱し、尻尾でタクロウビを地面にはたき落とす。だが、タクロウビはすぐさま起き上がり、屍に向かって飛ぶ。

 

【これでも喰らいなさい!!】

 

 屍の尻尾から大量の毒血液がタクロウビに向かって降りかかる。

 

【がああああああァァァァあ!!】

 

 タクロウビは屍の毒血液を正面からもろに浴び、絶叫の声を上げながら地面に落ちる。

 

【ああ、やり過ぎちゃったかな】

 

 屍は小雨の友人らしいタクロウビに話をしようとして成り行きで戦ったが、流石にやりすぎたと思いながら、肉体が一部溶けたのか身体から蒸気のような煙を出して倒れているタクロウビに近付く。

 

【甘いよ!!】

 

【何、あっ!】

 

 触手で蒸気の煙が消えると中からは、屍の毒血液を受けた筈なのに無傷なタクロウビが屍の身体に炎を纏わせた触手を叩き込み、屍は少し離れた所に飛ばされた。

 

【油断したね】

 

 屍の尻尾から流れる毒血液を浴びてもタクロウビが無傷だったのは、タクロウビが頭頂部の炎を巧みに操り、自身の体に迫る毒血液を炎で蒸発させたのだ。

 この毒血液は実は炎や熱に極端に弱く、マッチの火程度で蒸発してしまう。それを知ってか知らぬかの偶然でタクロウビは屍の毒血液を無効化したのだ。

 そして、身体から出ていた風に見えた蒸気の煙はタクロウビが毒血液を蒸発させた際に出た気体を触手で集め、あたかも自分の身体から出ているように見せていたのだ。

 そのまま屍に近付き、タクロウビは屍を見下ろす。

 

【うう、がふっ……】

 

 屍の攻撃を受けて無力化したと思った屍は油断でタクロウビの攻撃を受けて、丁度真ん中の蛇腹が炎で焼けて黒くなり、白骨化している頭の口からは血にも似た黒い液体が流れていた。

 

【これで終わり】

 

 タクロウビの頭頂部の炎が勢いを増し、頭頂部の炎はやがて触手に集まり、ボーリング玉と同じくらいの火球が作られ、その火球を触手で掴み、目の前に倒れる屍に叩きつけようとする。

 

小雨

【タク!! もう止めてよ!!】

 

 だが、倒れる屍を庇うように気絶していた小雨が両翼を広げて、屍の前に立っていた。

 

【アメ退いて。そいつにこれをぶつけられない】

 

小雨

【嫌だ!! 退かないよ】

 

【どうしてそいつを庇う】

 

小雨

【屍は僕の家族だよ!!】

 

 小雨の言葉を聞き、屍に叩きつけようとした触手に灯った炎がみるみる小さくなっていき、タクロウビはアメフリコゾウに疑問の混じった声で質問した。

 

【え? で、で、でも、アメがそいつに襲われてるのを!!】

 

小雨

【ああ。あれは……】

 

【どっちかというと、スキンシップかな】

 

【え?】

 

 小雨と屍の返答にタクロウビはぽかんとしたような状態になり、先程まで命の取り合いになりそうだった場の空気は一気になくなり、風がピュウーと吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクロウビは小雨の話と庭で騒いでいた事を家族から知らされた幽冥の話を聞き、自分が勘違いしていた事に気付き屍に謝罪し反省していた。

 

「どうしましょうか?」

 

 う〜んと唸るような声を出しながら幽冥が目の前のタクロウビをどうしようかと考えていると。

 

「家族になれば」

 

 零士の何気ない一言に雷に打たれたようにショックを受ける幽冥は千鳥足になりながらタクロウビに近づき、燃えている筈のタクロウビの頭部を両手で掴み、自分の顔の見える位置にタクロウビを移動させると。

 

「私の家族にならない?」

 

 タクロウビは自分の頭部を素手で触って、平然とする目の前の王に内心驚きながらも、その答えは決まっていたかのように口にする。

 

【僕をあなたの家族にしてください】

 

 タクロウビは幽冥に掴まれたまま、その言葉を言うと幽冥はさらにタクロウビの身体に抱きしめようとするが、タクロウビは長触手を使って幽冥に抱きしめられるのを阻止する。

 

【ちょっと、流石に抱きしめるのは危ないです!!】

 

 その様子を見ていた他の家族も幽冥がタクロウビに抱きしめようとするのは危ないと思い、近くにいた白たちが中心となって幽冥の引き離しを始めた。その後、幽冥をタクロウビから引き離すのしばらく時間が掛かったのは言うまでもない。




如何でしたでしょうか?
今回登場した魔化魍 タクロウビはこのクロス編でクロスさせてもらった覇王龍さんのアイディアの魔化魍です。
次回は零士達が来て少し経った後に現れるクロス編の敵が登場します。



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参 悪魔魔化魍襲来

大変遅れて申し訳ございません。
色々とどう詰め込むかと試行錯誤して気づいたらちょうど1ヶ月経っていました。
今回はこのクロス編の黒幕が登場します。


SIDE◯◯

 幽冥がタクロウビについての話をしている同時刻。

 潰れて数年の時が経った廃工場の中。年数が経ち、錆びた機材が数多く並ぶ中で不自然なほどに更地の様な場所の中に赤黒い何かで描かれた途轍もなく大きな魔法陣とその中心には赤黒い肉塊があった。

 

【あ〜あ〜ダ〜メだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダ〜メ〜だ!!!】

 

 そして、その魔法陣の中心の近くに居たのは、廃工場の中でも目立つようなフードのついた縁に金のラインが入った黒いローブを身に纏ったローブの何かが喚いていた。

 

【こんなじゃああああああ、ダ〜メだ。も〜っと、純度の〜あ〜るものでは〜ないと】

 

 ローブの何かは自分のローブの裾を噛みながら、中心にある肉塊を魔法陣の外に投げる。ベチョという音が鳴り、それを見向きもせずに何かはブツブツと呟きながら、目の前の魔法陣を見ていると。

 

「それ、手伝ってやろうか?」

 

【誰〜だ!!】

 

 間延びしたような声で何かは後ろを振り向くと、そこには、赤黒の肌をして妙に露出度の高い変わった服を着ている鬼の少女がいた。

 

【き〜さま、鬼か〜?】

 

「鬼? 確かにうちは鬼やけど。あんさんの思ってるような鬼とは違うよ。うちの名は酒呑童子」

 

【シュテンドウジだ〜と!!】

 

 その名前に聞き覚えと言うより、恨みを持つように答えるローブの何か。それを見た酒呑童子は。

 

「名前が似てるだけで、あんさんの知るシュテンドウジとは違いやすし、うちはあんさんを強くしてあげようと思ってるだけや」

 

【強〜く?】

 

「そや。これを飲めばあんさんは強くなる。少なくとも簡単な事で負けはせえへんよ」

 

 そう言って酒呑童子が取り出したのは、変哲なところはひとつもないお猪口とその中でなみなみと入っている赤ワインの色に似た赤紫色の液体。

 

【本〜当に強〜くな〜れる?】

 

「そう」

 

【も〜しも〜違った〜ら、お〜まえを〜コ〜ロス】

 

「御自由に、でも強くなれるさかい」

 

 ローブの何かはそれを聞き、お猪口を受け取り、中の液体を飲み干す。

 すると、ローブの何かは全身に強い痛みを感じ、その痛みは強さを増していき、床に倒れ、ごろごろと床を転げ回る。酒呑童子はそれを見ながら先程とは別のお猪口を出して同じものを呑んでいる。やがて、ローブの何かは転げ回るのをやめた。

 

「成功や」

 

【………こ〜れは!】

 

 床から立ち上がりローブの何かは確信したかのように廃工場の奥に行き、数秒で戻ってきた。その手に猿轡をされて両手足に黒い縄のようなもので拘束して意識の無い女を連れて、魔法陣の近くに着くとローブの何かは連れてきた女を乱雑に魔法陣の上に投げる。投げられて床にぶつかった衝撃で女は目を覚まし、あたりを見て目の前のローブの何かを見つけると猿轡をされているのにも関わらずに悲鳴をあげる。

 ローブの何かは特に気にすることもなく魔法陣に手を向けると魔法陣が陣に沿って光り始めて、女はさらに悲鳴をあげる。

 

「むむうううううううぅぅぅぅ……………」

 

 女の悲鳴を気にすることなく魔法陣の輝きが増し、輝きが増すに連れて悲鳴は小さくなり、その輝きが廃工場の中全体に輝いた時には消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ど〜うだ?】

 

 何かは輝きが消えて、煙で見えない魔法陣に目を向ける。だんだんと煙は晴れていき魔法陣が見えるようになった。そこに見えたのは置かれていた女の代わりに魔法陣の上に立つ黒い何かだった。そして、魔法陣の上に立つ黒い何かを見て、ローブの何かは、フードで隠れる頭に手を当てる。

 

【こ〜れで、我〜の〜悲願が〜叶う!! ふふふふ、ははははははは!!】

 

 ローブの何かは全身から薄気味悪い黒いオーラを出しながら魔法陣の上に立つ黒い何かに歓喜の高笑いし、酒呑童子はその様子を面白そうに眺めていた。

 

SIDEOUT

 

 ひなが発見した少年と魔化魍………いや零士とその母親であるハハマナコと家族の妖怪がこの妖世館に来て既に1週間経った。

 アメフリコゾウの小雨を探しに来たタクロウビ(現在は導という名前)が幽冥の家族になると言い少し経つと、続々と零士の家族の妖怪が目を覚ましていった。

 最初に目を覚ましたのは、鯆の顔と背鰭を持ち下半身は大蛇で上半身が裸体の女性という姿をした妖怪 濡れ女の濡川 雫と溶岩や溶けた鉄を想起させる暴炎とよく似た蜥蜴の妖怪 山蜥蜴。

 彼女達は目覚めて直ぐに零士とハハマナコの側に近寄り、雫はその手に鮃と鰈を思わせるデザインの2本の刀を取り出し、山蜥蜴は喧嘩口調でこっちに挑発を掛けて、家の好戦的な家族が何人かと喧嘩になりそうになるが、幽冥と零士の説得により雫と山蜥蜴は納得して、戦うことは間逃れた。

 

 次に目を覚ましたのは、鷲の翼と鰐の尻尾を持ち鳴風に似た単眼のマンタの妖怪 一目連のひとみと江戸時代の小判に似た鱗を持ち瞳は童話に出てくるあるキャラと似た赤い宝石の竜の妖怪 金魂のこがね。

 ひとみは零士を見た瞬間に『お父さん』と言って飛びついたので、その時はまさかの子連れという零士に驚き、この光景を見た一部の妖姫と魔化魍が同じように幽冥に飛びかかろうとしたらしいが、飛びかかる前に幽冥の姉である春詠が現れ、何かを耳打ちすると飛びかかろうとした者たちは何もせずに持ち場に戻った。

 この騒ぎの後に零士とこがねがひとみは卵だった頃に零士に拾われ育てられたので、ひとみからすると零士はお父さんで、その母であるハハマナコはお婆ちゃんという感じで慕われていると知り、幽冥は安堵の息を漏らしていた。

 

 その次に目覚めたのは、法服を着た金の瞳で何か企んでいるという顔をした白狐の妖怪 白蔵主と4本の腕を持つ茶色の肌で、他の妖怪達より大きく顔を布袋で隠した妖怪 土用坊主。

 目を覚まして早々に白蔵主は幽冥に近付き、算盤を取り出して、何かの計算を幽冥に見せていたが、後ろから土用坊主が白蔵主を4本の腕で捕まえると地面を盛り上げて作った四方に覆われた土の壁の中に白蔵主を閉じ込めていた。

 

 最後に目覚めのは、大鍋を頭に被った少し古い着物を身に付けた狼の妖怪 かじかばばあの鍋婆と天狗のような鼻をもった悪鬼のような顔付きにゴリラのような身体をした妖怪 ほうこう。

 彼らは、この状況で慌てることもなく事情を聞き、それに納得して、幽冥の家族と仲良くしている。鍋婆は、古樹や緑と一緒にいることが多く、何か語り合っていて、ほうこうは自慢の漬物を家族に振る舞い、一部の家族はその味を気に入っていた。

 

 そんな感じで、新しく家族になった導を含めて、幽冥は零士たちと仲良くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に過ごしている時に、幽冥は思い出したかのように唐突に言う。

 

「服を買いに行くよ!!」

 

 その言葉には、幽冥の家族の魔化魍たち(一時期人間の暮らしをしていた朧や前世の記憶を持つ美岬以外)は頭に?マークを浮かべるが、人間の暮らしに理解のある零士や仲間の妖怪達はその言葉の意味を理解する。

 

 幽冥は今世の暮らしではそもそも両親(クズ)たちが幽冥に対して、必要最低限の服しか買っておらず、現在住むこの妖世館に荷物を持っていく時、服類の数が少なく日用品の方が逆に多かった。その事を姉である春詠に幽冥が言った際は、眼の光が消えて、何かをぶつぶつ言いながら消え、数分後に頭から血を流して気絶していた。

 現在着ている服は妖世館の中にあったものを着ている。ひなは紫陽花が家族になった際に服をいくつか持ってきたが、ほとんどが数年前に着ていた服だっただけにサイズが合わず、幼児の擬人態になる家族に配られた。幽冥の姉である春詠は、元々男だったということもあるせいか、服は着れれば問題無いというスタンスの為にそこまで服を持っていない。

 後は捕虜となっている突鬼の佐賀 練と衣鬼の黒風 愛衣と協力者という関係の調鬼の月村 あぐり達も最低限の服はあるが、結果的に言えば服をあまり持っていない。

 

 つまり現在、妖世館で暮らす魔化魍以外の者達の服があまりにも少なかった事から、幽冥は服を買いに行くと言った。そして、幽冥は服を買いに行くメンバーを決めて久々の買い物に出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、選抜メンバー、もとい買い物メンバーである出掛け用の服に着替えた朧と替えの服を持たず、少し怪しく見える唐傘、食香、穿殻、昇布、三尸、潜砂、導と服に頓着しない姉の春詠、三尸の付き添いで着いてきたあぐりが買い物メンバーとなり、半日掛けて服屋を巡り歩き、今いるメンバーと家で留守番となっているメンバーの分の服をそれぞれで3セットずつ買った。

 

 最初は服を買うためのお金が無かった事に気付き、買い物は諦め掛けたが、春詠お姉ちゃんとあぐりさんがポケットマネーからお金を出してくれたおかげで、無事に買い物が終わり人の少ない夜になっていた。

 

 薄暗い夜道の中で皆、両手に大量の服を詰めた袋を持って歩いている。魔化魍の王として身体が変異しつつある幽冥は少し重いと思うが、さほど気にしていなかった。

 それに街を出て人目につかなくなったら唐傘には術で荷物を半分空間に仕舞ってもらい、潜砂には本来の姿に戻って貰ってその背中に残りの半分を乗せる予定だ。当初はその話を聞き潜砂はブーたれていたが、幽冥が『頑張ったらお菓子を作ってあげる』という話を聞き、やる気を出した。

 

「後少し歩いたら荷物をお願いね唐傘、潜砂」

 

「わ、わ、分かりました」

 

「良いよ。でも、約束はお願いね」

 

「はいはい」

 

 口元をスカーフで隠した少年の姿の唐傘が吃りながら答えて、黄色いパーカーを着た幼女の姿をした潜砂が幽冥に約束のことを再び言って、幽冥はそれに対して返答する。その様子を微笑ましく見ている他のメンバー。

 

 やがて、目的の場所に着き幽冥が荷物を唐傘と潜砂に頼もうとした瞬間。

 

 ガガガガガという音が響く。

 暫くは、聴いていなかったあの音、そう。魔化魍の敵、鬼の使う音撃管の空気の弾丸が幽冥たちに襲いかかる。

 飛んできた音撃管の弾丸を幽冥たちの前に出た朧が腕を振るうと風が起きて、空気の弾丸を消し去る。

 

【誰だ!!】

 

 弾丸を防ぎ、本来の姿に戻った朧の声に反応したかのように3つの影が近付いてくる。その影に向けて、三尸は尾の提灯から火を飛ばし導は触手から炎を放ち、その姿を確認した。

 

 1人は頭部が灰色に近い白で縁取りされていて、側頭部に後ろに沿った2本の角を生やし、こちらも灰色に近い白の体色の鎧を纏い、その手には先程攻撃したものであろう音撃管を持っており体格の細さと胸部の僅かな膨らみからおそらく女性の鬼。

 その鬼に着いてくる2人は似た姿をした鬼で、2人とも手には似た形の音撃弦を構えている。違う点を挙げるなら、右の鬼は黄色の体色で右肩に稲妻に似た肩飾りを付けており、左の鬼は緑色の体色で左肩に竜巻に似た肩飾りを付けている。体格も似ている事から何時ぞやかに戦った松竹梅兄弟のような双子の鬼なのかもしれない。

 

 鬼達はそれぞれの役割に準じた攻撃を仕掛けてくる。こちらを狙う音撃管の鬼の空気の弾を朧が風で防ぎ、迫る音撃弦の2人を食香と穿殻が身を使って防ぐ。

 

 そして残った、唐傘、昇布、三尸、潜砂、導が攻撃をするが、突如、上から複数の何かが現れて唐傘たちに何かを振り下ろす。唐傘は術を使って地面を盛り上げて攻撃を防ぎ、昇布は上からの攻撃をひらりと避け、三尸は身体を硬質化させて攻撃した何かを砕き、潜砂は両腕で防ぎ、導は炎を巧みに使って布状に変えて何かの攻撃軌道をズラした。

 

 唐傘たちを攻撃してきたものに幽冥は驚く。最初に攻撃したのが鬼だったので、猛士が何かの情報を掴み攻撃を仕掛けたのかと思ったが、唐傘たちを攻撃した存在が理由で猛士が攻撃したのではないと判断した。

 何故なら唐傘たちを攻撃したのは、直立した耳の犬の頭部をした黒い体躯の人型の魔化魍達が様々な武器を手に持ち、その場にいたのだ。

 

 幽冥は今の状況があり得ないと思っている。そもそも相容れぬ者同士である鬼と魔化魍が共同するかのように幽冥たちを襲ったこと自体が可笑しい。

 もしも猛士が魔化魍をコントロールする道具を作ったのなら分からなくもないが、魔化魍に強い恨みを持つ人間が多い猛士はそのような物を考えたとしても実行しないと考えていた。だが、次に幽冥が考えた事はあり得なくもないと思った考えだった。魔化魍に鬼が操られて(・・・・・・・・・・)いる。そう考えると幽冥は納得していた。

 

 そして、幽冥を無視するように突然現れた複数の魔化魍達は、背後の鬼の守るように立ち、攻撃をしようとした唐傘たちは幽冥のいる所にまで下がった。

 それを見た、魔化魍達は手にもつ武器を構え、3人の鬼は各々の音撃武器を構えてこちらに飛びかかろうとした瞬間。

 

【ぜ〜んた〜い、集合!】

 

 間延びしたような声が響き、声に反応して攻撃しようとしていた魔化魍達と3人の鬼は整列するように集まり、その間から黒いローブで顔を隠したものが近付いてくる。

 そして、黒い何かと鬼達はそのローブの何かの後ろで跪く。その様子を見て、ローブの何かは、顔を隠すフードに手を掛けて、その顔を出した。

 

【我〜が〜名はオセ。『偉大なる者』ゴエティア様に仕え〜るゴエティア72柱の悪魔〜魔化魍の1人で〜す!!】

 

 顔を隠すように着けていたフードを外し、その姿が露わになる。縁に金のラインが入った黒のローブを纏い額には横一文字の傷がある赤い瞳の豹の頭の魔化魍………いや、幽冥の前の代である歴代魔化魍の王とも何度も戦った魔化魍の王の座を狙う悪魔魔化魍 ゴエティアに仕える72の悪魔魔化魍の1人、順位は57、階級は総裁。オセは赤い瞳を幽冥に向けながら間延びした声で自分の名を名乗った。




如何でしたでしょうか?
黒幕の正体はオセ。
元ネタはかの有名なソロモン王の72の悪魔オセからきています。
ソロモンのオセは変身能力を持った豹の悪魔らしいですが、魔化魍のオセは能力が異なります。
次回は操られている鬼の1人と新しく家族になったタクロウビの導の話になります。


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肆 導と女

お待たせいたしました。
今回はオセが撤退し、その後の導の話になります。


 自分をまるで親の仇というかのように睨みつける魔化魍 オセ。

 聞いたこともない魔化魍もとい妖怪の名前に私は先ずは相手を見ることにした。外見から見ると豹の姿をした等身大の魔化魍ということ。額に横一文字の傷がある風に見えるがどちらかというと眼を閉じてるようにも見える。縁が金のローブはゲームの魔法使いのような服装にも見える。

 そして、オセはゴエティアという主人が居るようだが、私の知る限りではそのような妖怪は知らない。ただ、前世の頃にいた友人の1人が言っていた知識を1つ思い出す。

 当時は妖怪のことを主に調べていた私はあまり興味を持たなかったが、その友人曰く、『妖怪が好きなら絶対、こっちにもハマるよ』と笑顔で言っていた。友人が教えてくれたのはとある魔術書の話。

 その本は5つの魔術書を合冊した魔道書で、主に悪魔などを扱っており、その中でも有名なものが古代イスラエルの王であり『魔術王』とも呼ばれる男が使役し封じ込めた72の悪魔(・・・・・)を記載した『ゴエティア』と呼ばれる魔術書である。

 

 友人の知識を思い出したという事もあり、目の前の魔化魍が元なっているのが妖怪じゃない事が分かった。だが、分かったからといって今の状況が変わるかといったら変わらない。はあ〜せっかく買った荷物が汚れてしまうのが癪だけど、今のこの状況では気にしている余裕はなさそう。

 荷物を地面に落とし、私はシュテンドウジさんが使っている瓢箪を出す。

 そして、瓢箪の中の液体を少し口に含み、そのまま液体を瓢箪に吹き掛ける。すると、瓢箪の形は柄に瓢箪の蓋が付いた巨大な太刀に姿を変える。

 魔化水晶を手に入れてから私は寝る度に魔化水晶の中にいる王と対話することが増えて、夢という精神世界で戦闘技術を教えられる事が増えた。これは、その時にシュテンドウジさんから教わった。

 

 幽冥が太刀を構えると、オセは眼を見開き、わなわなと身体を震わせて腕を突き出して狂った様な声の号令を出す。

 

【ぜ〜ん〜い〜ん、あの王を〜殺せ!!】

 

 オセの指示で、犬の頭部の人型魔化魍達は動こうとするが、その隣に立つ3人の鬼たちは微動だにせずにそのまま立ったままだった。オセは鬼達に近づき。

 

 鬼の頭に目掛けて拳を叩きつける。鬼は立ったままの体勢の為に殴られ、受け身などもせずに地面に倒れる。殴られて倒れた鬼は何事もなく立ち上がりまた同じ体勢で立っていた。

 

ボソッ【ま〜だ〜ちょう〜せいが〜足りま〜せ〜んか】

 

 ボソッと喋ったオセの声は聞こえず、幽冥は迫る魔化魍達に向けて、太刀を振るいその攻撃を防ぐ。

 

【な〜にを〜手間ど〜ってい〜るの〜で〜すか!!】

 

 オセの声に反応して、魔化魍達は散らばり、幽冥を囲うように走り始める。

 そして、一斉に飛びかかるも幽冥は太刀の峰を使って攻撃を防ぎ、そのまま薙ぎ払うように太刀を振るう。

 

【ちっ! 仕か〜たあ〜りま〜せん。引き〜あ〜げる〜ぞ〜!!】

 

 犬頭の魔化魍の攻撃を防いだのを見たオセの反応は早かった。オセの声に反応して犬頭の魔化魍達と鬼はオセの周りに集まり、オセが地面に手を付けると魔法陣が地面に描かれる。

 何をしようとしているのか気付いた幽冥は、その手に持つ太刀を離して、手をかざすと無数の氷柱が宙に浮かび、オセ目掛けて飛んでいくが、オセの魔法陣は光、そのままオセ達は消えて、オセに向かって飛んだ氷柱は標的を失くして地面に落ちていった。

 

「逃しましたか」

 

 幽冥は離した太刀を持ち上げて、元の瓢箪に戻した。

 

「大丈夫ですか王」

 

「大丈夫ですよ白。それと関係のないところを触ろうとするのはやめて下さい」

 

 白が寄ってきて、私の身体を触るが、特に問題は無いのと触る手が少し怪しくなったので白の手を止める。

 そして、幽冥たちは辺りを警戒しながら自分たちの家である妖世館に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね幽。その魔化魍は知らないよ」

 

屍王

【ゴエティアか、いや知らんな】

 

「ごめんなさい王。私もその名は知りません」

 

古樹

【右に同じだの】

 

 妖世館に戻った幽冥は先ずは、年長ともいえる家族である美岬や屍王、緑、古樹からゴエティアという名前の魔化魍について聞いてみたが4人は知らないと答えた。

 

穿殻

【あのオセっていう魔化魍は何か不気味なものを感じた】

 

 そう呟いたのは、買い物メンバーとして一緒にいた穿殻だった。

 

「不気味とは……」

 

 確かに妙な力らしきものを使っていたが、それだけで不気味というのはおかしい。

 

穿殻

【何故か分からないのですが、あのオセはそこまで強くないと思うんです。むしろ、僕や鋏刃、浮幽と組んで戦っても余裕で勝てると思うけど、何か分からないけど不気味なんです】

 

 穿殻の言葉で、オセの事を思い出す。これは幽冥の考えた確証のない予想であるが、『力ある魔化魍は、何か知らぬ気を感じる』。幽冥は今まで、力のある魔化魍を見てきた。

 自身の前の王であり自身の体の中に住まうシュテンドウジやイヌガミ、ユキジョロウ、フグルマヨウ。この4体の中では見た印象は弱そうにも見えるフグルマヨウヒもよく見れば、その印象は全く変わって見える。

 だが、オセは前者の4人とは違い、このオセはそのような気も力も無かった。あったとすれば、そのような力を感じなかったものがどうやって鬼を操り、あの謎の犬頭の魔化魍達を従えていたのかが穿殻の言っていた不気味なところだろう。

 

潜砂

【でもでも、王だったらあんなのイチコロでしょ】

 

「油断は禁物ですよ潜砂。確かに王でしたら問題は無いと思いますが、万が一もあります。これからは王の側には最低でも3人は護衛としていて貰わないと」

 

「まあ、落ち着いて白。私のことは大丈夫だよ。取り敢えずは………これをどうにかしよ」

 

 幽冥が指を指したのはオセの襲撃によって汚れてしまった衣服類の山だった。

 そして、幽冥達は汚れた衣服の洗濯を始めるのだった。

 

SIDE導

 オセの襲撃から3日経ち、王である幽冥には白の提案で家族の3人の交代交代で護衛となり、護衛では無い家族はそれぞれの時間を過ごしていた。

 

 そんな中、導は人間の姿に変わって、都会の街の中を歩いていた。歩いてる途中で、下卑た視線を送ってゲヘヘと笑う男や表情が危険な女などがいたが、導は気にせずに歩いていた。

 

 そんな風に歩いていると導はあるものに目が入る。

 そこは人の出入りが多く、子供から大人まで色んな年齢の人間が自動で開く扉から中に入っていく。カラフルな電飾の看板に描かれた文字を読もうとするも、普通の日本語しか知らず基本的には山で過ごし世俗とは離れた生活していた導はその文字を読めなかった。

 

「何て読むんだろう?」

 

 文字を何と読むのか分からないが、人間が多く出入りしているということで何かあるのだろうと思った導はそのまま、その店に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 中に入った導は聞こえてきた大爆音に驚き、両耳に手を当てて、その音を防ごうとする。だが、それでも聞こえる音に導は耐えて、ようやく耳が慣れ始めてきたので手を耳から外し、改めて店の中を見た。

 

 透明なガラス張りの巨大な箱の中にある数多の景品を上から生えた手のような物で取ろうとするカップル。

 

 鬼の持つ音撃武器にも似た物でこれまた鬼の持つ武器と似たものを流れる音楽と共に叩く子供。

 

 横の入り口らしき場所が幕で覆われた巨大な箱の中から聞こえる少女の笑い声。

 

 巨大な箱に映し出された映像に黒い塊を向けている親子。

 

 箱が並び、ポチポチ押し、グイグイ棒を忙しなく動かし画面に映る何かを操って遊ぶ学生。

 

 歳の異なる人間がその場で何か熱中するように楽しんでいた。

 

 どのようなものがあるのかを見ながら歩いていると、最初に目に入った巨大な箱とそれに対して凝視するかのように見る女性が居た。導はどんなものかよく分からないので、近くによって見ていた。

 

「あああああ駄目だ。ううう、あともう少しなのに、はあーーー次で最後にしよう…………ね、そこの君?」

 

「?」

 

 導は女性の声を聞くも人間と関わらないようにしようと思い、そのまま立ち去ろうとしたが–––

 

「ちょっと、逃げようとしないでよ」

 

 立ち去ろうとしていたのに気付かれたのか、導を逃すまいと必死に手を掴む女性。

 

「やめて下さいよ。ていうか僕に何の用ですか?」

 

「これを君がやってみてくれないかな」

 

「はああ?!」

 

 突然、こんな事を言われたら誰でも、こんなリアクションは取るだろうが、そんな事もお構いましに女性は言葉を続ける。

 

「あともう少しでコレ取れるんだけど、私がやっても取れそうにないし、偶々目に入った君がやってくれたらなんか上手く行きそうな気がして」

 

 女性の言うものを見ると、それは2つで1つというような可愛らしくデフォルトされた犬と猫のストラップだった。だが、導はそんな事は知ったこっちゃないし、それに出来ない理由を言えば女性は諦めてくれると思った。

 

「知りませんよ。だいいち僕は、お金がありませんし、それをどうすればいいのか分かりません」

 

「え、やり方を知らないの。じゃあ、お金はこれを使ってそれにやり方を教えてあげるし。先ずは––––」

 

 そのまま女性からクレーンゲームというものの遊び方の説明を聞き、女性から無理矢理渡されたお金をゲームに入れると妙に明るい曲が流れ始める。

 何で自分はこんな事をしているんだろうと思いながら、導は目の前のクレーンゲームに集中していた。

 

「………」

 

「おお!! すごい!」

 

 女性が下手なのか導が上手いのか分からないが、導の操作するクレーンは女性の欲しがっていたものを見事に掴み、そのまま大きな穴に持って行き、穴の上に着くとクレーンは掴んだものを落とす。

 

 導は初めてやったクレーンゲームを面白いと思った。

 女性は箱の下にあるところから落ちた景品を取り、景品を眺めていた。導はどんなものかも分かり、そのまま店を出ようとするが。

 

「君、ありがとうね。いやーー欲しかったのよねこれ。ああ、私は紗由紀。君は?」

 

「導……」

 

「導か面白い名前だね。ああ、そうだ。この景品のお礼させてくれないかな」

 

 そう言うと女性もとい紗由紀は導の手を引き、側に寄せると紗由紀は辺りを見渡す。

 

「じゃあ、あそこで写真撮ろうよ」

 

「しゃしんって、ちょ、ちょっと」

 

 紗由紀に連れられて箱の中に入ると大きな画面に自分たちの姿が映っており、紗由紀は黒い穴のようなところに顔を向ける。

 

「ほらほら笑顔だよ笑顔。にいい」

 

「に、にいい」

 

 プリクラを撮り終え、横の小さな穴から出てきた物を取り出す。写真を取った紗由紀はそのまま、先程入った入り口から外に出ようと早歩きをする。

 紗由紀に引っ張られて、そのままゲーセンを出た導は紗由紀と共に色々なところに行った。流行りというカフェ店で少し甘めなカフェラテを2人で飲み。

 最近、注目されている新しいグッズを見たり。だが、そんな時間を楽しみながら導は自分の中に感じるあったかいものに戸惑いながらも紗由紀と楽しんでいた。やがて、そのあったかいものが何か気付いた導は、その気持ちをどうしようか悩んでいた。

 

 好意もとい誰かを好きになるというものを感じ、いつでも隣にいてくれると嬉しい者。それが紗由紀に対して思った導の気持ちだった。

 だが、導はその感情は感じてはいけないものと思った。紗由紀は人間で自分は魔化魍。喰う者と喰われる者。いくら好きなろうとも、超えられない壁を導は感じる。人間と恋愛をした末に孫まで産まれた紫陽花の例もあるが、それはあくまで魔化魍と鬼という敵対するもの同士という接点があったからだ。だが、紗由紀はただの人間。自分との接点はない。

 

「じゃあ、僕はこれで」

 

 導は自分の思いを胸の中に仕舞い紗由紀に別れを言い、そのまま去ろうとすると–––

 

「っ?!」

 

 頭に何かが落ちて、導は何かを取った。

 

「これは?」

 

 その手には何かを包んだ紙にがあり、振り向くとそこには笑顔で手を振る紗由紀がいた。導が紙を開くと中にはクレーンゲームの景品として手に入れたペアストラップの片割れと先程とったプリクラの写真が入っており、さらに紙に何か書かれていることに気づき、それを読む。

 

「またいつか……」

 

 ただ、短く書かれたその言葉に導は嬉しく思いながら妖世館に戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE紗由紀

 導を見送った紗由紀の後ろにはいつの間にかフードで顔を隠しているオセが立っており、そのフードの下からでも分かるような邪悪な笑みを浮かべ、導の後ろ姿を見ていた。

 

【お〜も〜しろ〜いも〜のが見〜れた】

 

 そんな事を言ったオセは紗由紀の頭に手を置くと、紗由紀はガクンと頭を下げ、数秒立つと何事も無かったかのように顔を上げるが、紗由紀の眼は生気を失った人形のような眼をしていた。

 

【魔化〜魍〜のお〜う。お〜ま〜えのたい〜せつな〜もの〜をぶち〜壊してや〜る〜よ】

 

 オセは笑いながら、宙に魔法陣を描き、魔法陣が光るとともにオセと紗由紀の姿はどこにも無かった。




如何でしたでしょうか?
さて、オセは何故、紗由紀の側にいたのでしょうか?
察しのいいお方ならもう分かっちゃうかもしれませんが……さて次回は、シュテンドウジ幽冥と酒呑童子の戦いの話です。
それでは、次回をお楽しみに


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伍 シュテンドウジ対酒呑童子

更新完了です。
今回は、シュテンドウジ幽冥VS酒呑童子です。
戦闘シーンを長く書くのに慣れてないので、誤字がございましたら報告願います。


SIDE赤

 王が出掛けた帰り現れた魔化魍 オセ。見たこともない複数の犬頭の人型魔化魍と3人の鬼を連れて、王たちに奇襲を仕掛けてきた日から1週間経った。

 

 あれから王の護衛を3人体制で行っている。今日は私と私の子ともいえる浮幽と灯籠の組み合わせだ。

 普段だったら、王の側にいると反応するあいつ()が羨ましがり喧嘩に発展するのだろうが今回の場合、もしもふざけてたら白だけじゃなく他の家族も冗談抜きで殺しにくるので、そのようなことはしない。

 

 とは言っても、この1週間。オセは現れずに沈黙していた。配下の鬼(?)や魔化魍達も現れず、幽冥たちは静かな平和の日常を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、王は妖世館で歴代の王たちの力の鍛錬をしている。

 以前の不気味な生命体、北海道の8人の鬼との戦いで苦戦した王は歴代の王から借りる力を十全に対応出来るようになる為に鍛錬を行なっていた。しかも王はそれぞれの王の持つ技に多少のアレンジを加えて、新しい技も考えていた。

 以前の北海道の8人の鬼の1人のとどめや紫陽花の屋敷の鬼を拘束した際に使ったのはそういう技の1つらしい。

 

 太刀による剛撃と酒を媒体に味方の回復をする『狂乱酒の魔人』(シュテンドウジ)

 

 神風の如き神速攻撃と風の術を使った中距離戦法をする『旋風の巨狼』(イヌガミ)

 

 氷の技と冷酷無比かつ無慈悲で正確な攻撃をする『尖氷の冷血女王』(ユキジョロウ)

 

 古の術とあらゆる術を組み合わせる多様な知識を持つ『創意工夫の司書』(フグルマヨウヒ)

 

 どの王も戦い方は全く異なる。だが、王はそれらを扱えるようになる為に今日も鍛錬相手の朧や美岬、常闇、屍王、南瓜、紫陽花などの戦闘経験が豊富な家族を相手に鍛錬していた。

 

 最初はイヌガミ様の力を使った鍛錬を朧と常闇と行なっていた。

 内容は常闇の繰り出す血の槍を避けながらの朧との組手で血の槍に当たったら擦ったりしたら鍛錬終了。

 最初は王もいい感じに避けて、朧と組手をするが、時間が経つにつれて少しずつ動きが遅くなり、やがて常闇の血の槍が王の脚を擦りこの鍛錬は終わった。

 

 次はユキジョロウ様の力を使った鍛錬で、相手は屍王。

 内容は屍王に向けての氷柱弾の命中精度上昇で、1つでも当たれば鍛錬終了。

 だが、屍王はかつて陽太郎さんと互角の力を見せた太陽の死体(シャムス・ジュサ)の姿になり、杖から放つ熱線で次々と氷柱弾を溶かし、隙を見た瞬間に左手のケペシュで王に攻撃してきた。

 初めは、突然の攻撃で王が驚き、抗議するも屍王が『相手が不意をついてきた時に余裕で躱せるようになれ』という言葉で、渋々納得して屍王の攻撃を避けながら、氷柱弾を撃ちまくり、そこから数十分の戦いの末にようやく屍王のケペシュを持つ手に氷柱弾が当たり鍛錬は終わった。

 

 少し休憩をはさみ、フグルマヨウヒ様の力の鍛錬を始めた。相手は南瓜と紫陽花。

 内容は南瓜と紫陽花の術をその術に有効な術で相殺するというもので、これは術の相性を見極めてその術に対して有効つまり、赤に青、青には黄、黄には茶、茶には緑、緑には赤という術の相性で相殺するというもの。

 簡単だと思われたが、実際は鬼というような鍛錬だった。紫陽花の撃った術を南瓜が細工して王に近づくギリギリで術の属性が分かるようにした為に、それに対応する王はてんやわんやだった。30分経つと、紫陽花は術を撃つの止めたので、鍛錬終了らしい。

 

 疲れた身体を回復してる王に私はスポーツドリンクを持っていき、それを渡す。こういう行動で少しずつ王に好意をもってらうのが、これをする目的なのだが。

 

「ありがとう赤」

 

 純粋に心配してくれているのだと思われているので、少し悲しいです。

 そして、休憩の終わった王はそのまま、残っていた最後の鍛錬。シュテンドウジ様の鍛錬になり、これは美岬が相手をするようだ。

 王の姿はシュテンドウジ様の姿に似た姿に変わり、その手には瓢箪の蓋が付いた柄の太刀を持ち、対する美岬の手には、チェーンソーのように刀身が回転する奇抜な刀を持っていた。

 

美岬

【幽。鍛錬だからって手を抜かないでよ】

 

「そっちこそ、本気でやらないと怒るからね」

 

 2人は笑いながら互いの獲物を構えた。

 

SIDEOUT

 

 太刀と刀による激しい剣戟。刀同士がぶつかる度に激しく火花が飛び散る。そんな火花も目にくれずに鍛錬ということを忘れるかのようにただ、振り続ける2人。しかし、その顔は斬り合ってるとは思えないほどに清々しい顔をしている。

 幽冥は手に持つシュテンドウジの太刀を振るいながら、昔のことを思い出していた。

 

「(昔はよくこういう風にやってたな〜)」

 

 前世の頃からの親友でもある美岬との鍛錬は幽冥にとって楽しい。別に他の家族との鍛錬がつまらないというわけではない。幽冥と美岬の最初の関係は近所の遊び相手という関係だった。そこから遊んでいるうちに親友となった。

 2人は小学生に上がった時に剣道を始めた。2人は飲み込みがよく、よく互いの腕を競い合っていた。だが幽冥と美岬が18の頃、あと数日で卒業式というある日に美岬は車に轢かれそうになった子供を助けて、この世を去った。幽冥は親友でもあり、競い相手でもあった美岬が居なくなった事で剣道をやめた。

 

 そんな2人はなんの因果か転生して、再び出会った。2人は久々に剣を交える事が楽しくなっていた。

 

 高揚してさらに激しい剣戟が繰り広げられる。そして、刀同士のぶつかる衝撃を利用して両者は相手の攻撃範囲から離れる。

 2人が再び刀を混じえようとしたその時、幽冥と美岬の間の空間が突然歪む。

 幽冥と美岬はすぐにその歪みから離れるように幽冥は赤たちの側に跳び、美岬は朧たちのいる所に跳ぶ。全員歪みに対して、警戒する。

 

「んん。やっと出られたは」

 

 歪みから出てきたのは、赤黒い肌に露出度の高い着物を着て鬼のように2本の角を頭に生やした少女だった。

 

「初めましたやなウチは酒呑童子。あんたが、まかもうの王やなぁ」

 

 幽冥と美岬の間に忽然と現れたそれは、幽冥の方に顔を向けると友達に気軽に話しかけるように挨拶する。

 

「まあ、挨拶はこんなもんにして…………ちょっと動かんでいてもらおうか」

 

 酒呑童子はそう言うと、朧たちの方にいつの間にか移動して、口から黄緑色の煙を吹き出す。

 まさかの煙を出してくるとは思わなかった朧たちはその煙を吸い込んでしまい、その場に倒れる。幽冥は毒だとマズイと思い朧たちのところに行こうとすると–––

 

「王。近づいてはいけません」

 

「だけど、朧たちが!!」

 

ルルル、ルルル

 

灯籠

【大丈夫です王】

 

 赤に止まられて浮幽と灯籠の視線の先には煙を吸い込み、その場で身体を僅かしか動かせない朧たちがいた。赤たちの言葉で幽冥は落ち着き。原因の酒呑童子を睨みつける。

 

「おお恐い恐い。そんな恐い顔しないで、気楽にしぃな」

 

 その原因を作った酒呑童子はあっけらかんとしていた。

 

ルルル、ルルル

 

 浮幽が触手をうねらせて火球を放つ。

 

「ぬるいなぁ〜」

 

 いつの間にか取り出した薙刀で、浮幽の火球は両断されて、見当違いな方角に飛んでいった。

 浮幽は火球が斬られたことに驚き、酒呑童子はその隙を突いて、浮幽の胴部分に薙刀の石突きでバットのように振り、浮幽は痺れている朧たちの元に吹き飛ばされて気絶した。

 

 次に灯籠が右前脚を勢いよく地面に振り降ろすと地面はどんどん変質して石になった。これは灯籠たちバケトウロウの持つ固有能力で右前脚で踏んだものまたは触れたものを石化させる能力で、バケトウロウ達はこれを使って獲物となる人間に当てて、石になった人間を砕いて捕食する。

 そして、その能力で石になったところを勢いよく左前脚で蹴り砕くと無数の尖った石が散弾のように酒呑童子に向かっていく。

 

「しゃらくさいわぁ〜」

 

 酒呑童子は薙刀をくるくる回転させると、竜巻が生まれ飛んでくる石の散弾を取り込み、そのまま鏡の反射のように石の散弾は灯籠に向かっていき、灯籠は自分の出した攻撃に苦しめられ、酒呑童子が一瞬にして近付き、灯籠の甲羅の石灯籠を砕く。

 

灯籠

【うああああああああ!!】

 

 攻撃する為の手段であり弱点でもある石灯籠を砕かれた灯籠は痛みによるショックで気絶し、そのまま地面に倒れ伏す。

 灯籠が倒れると同時に赤が走り出し、十字槍を酒呑童子に向けて突きつける。

 

「おお、危ない危ない」

 

「ちっ!!」

 

 酒呑童子は薙刀の柄で十字槍の刃元付近を抑えて身体に刺さるのを阻止し、そのまま赤に蹴りをいれる。

 

「ぐっ!」

 

 幽冥は飛んで来た赤を受け止め、そのまま横に下ろす。

 

「大丈夫、赤」

 

「すいません王」

 

「気にしないで」

 

 幽冥はそう言うと酒呑童子の方を見たあとに赤を見る。何かを決めたように幽冥は赤に耳打ちをする。

 

ボソッ「赤、私があいつの動きを封じる。その内に妖世館に向かって走って」

 

ボソッ「しかし、王!」

 

「いいから行って!! 白や零士たちを呼んで!!」

 

 私は赤を急いで向かわせるために太刀を瓢箪に変えて瓢箪の蓋を外し、酒呑童子に向けて瓢箪の中の酒気と酒を合わせて砲弾のように飛ばす。酒呑童子は驚くも軽々と避ける。

 

「………分かり、ました。すぐに戻ります。それまでどうかご無事で!」

 

 赤はそのまま妖世館の中に走っていき、残った私はシュテンドウジさんの瓢箪を太刀に変えて構える。

 

「びっくりしたわぁ。………ほー今度はあんたが相手するやな〜ほんなら、いい勝負が出来そうやぁ」

 

 薙刀の刃の近くの柄を持ち、酒呑童子は剣のように振るう、それを幽冥は太刀の峰を利用して防ぎ、シュテンドウジの能力である鬼を体現する力を使って、酒呑童子の溝に拳を叩き込む。

 

「ぐっ! やるな〜ほんなら、これをくらいなぁ」

 

 溝を殴られて怯むも酒呑童子は口を開くと黄緑色の煙が漏れ始めるが。

 

「くらいませんよ!!」

 

 太刀を一度瓢箪に戻して、中から出る液体を口に含み、そのまま毒霧にしてブシュウウと吹き出す。

 すると煙は毒霧に触れると何も無かったかのように跡形もなく消えた。

 

「あらま〜うちの毒を消すなんて、けったいな能力やわぁ」

 

 毒が効かないと判断した酒呑童子は薙刀を構えて、幽冥に向かって走り、その勢いのまま連続で突きを放つ。突きが終わると今度は大振りに振り、幽冥はなんとかその攻撃を去なす。

 激しい酒呑童子の攻撃をなんとか防ぎながら、僅かな隙を幽冥は攻撃するもあっさりと防がれてしまう。

 

【右から来る気をつけよ】

 

「(イヌガミさんが攻撃の動きを教えてくれるお陰でなんとか対処できてるけど、かなりキツくなってきた)」

 

「楽しい楽しい〜な〜!!」

 

 歪んだ笑い声と共に薙刀の動きもさらに上がり、徐々に押されていく。

 

「離れてください!!」

 

 激しい剣戟は続くかと思われたが、幽冥は酒呑童子を蹴り飛ばし、さらに距離を取るとその場で、幽冥の動きは止まる。

 幽冥は肩で息をするほどに疲労していた。それもそのはずだ。酒呑童子が現れたのは、よりにもよって多大な疲労を残す歴代の王の力を使った鍛錬。

 しかもシュテンドウジの力だけでなく、イヌガミやユキジョロウ、フグルマヨウヒの力も使っていた。ただでさえその力を行使した際の反動が強い歴代の王の力、その疲労は計り知れないだろう。

 おまけに先程の酒呑童子の攻撃もそうだ。ただひたすらに薙刀の激しい連撃に見える。だが幽冥からするとそれはゆっくりにしか見えない。だがそれは眼がその連撃に追いついていない為にゆっくり見えるのだ。はんば強制的に幽冥の思考にイヌガミが割り入ったおかげで、その攻撃を防いだり避けたりすることが出来たのだ。

 そして、魔化魍に近い身体になってきていたとしても、元々はやはり人間、肉体の限界というものがあり幽冥はその場で膝をついてしまう。

 

「はい。終わりやぁ」

 

 そんな隙を見逃すはずのない酒呑童子は薙刀を構えて、幽冥に迫る。だが、酒呑童子に目掛けて何かが飛んできて、幽冥に向かっていた酒呑童子はそのまま、その場で宙返りして避ける。

 

 そして、酒呑童子は飛んできた何かを見ると、ため息を吐く。幽冥は飛んできた何かを見るとそれは1本の刀だった。だが、その刀を見て思ったのは何処かで見たことがあるという既視感だった。

 酒呑童子は刀が飛んできた方角を見て、呆れのような声を出す。

 

「はあ〜ここでも邪魔するなんて、まったく空気の読めない男やなぁ〜」

 

「黙れ! 遂に見つけたぞ酒呑童子!!」

 

 そこに居たのは、12の異形を引き連れ、左眼に特徴的な傷を持つヒゲを少し生やした赤髪の青年だった。




如何でしたでしょうか?
今回はこんな感じです。次回は謎の助っ人が活躍します。

それと、まだ種族名を出しませんが、オセの引き連れた犬頭の魔化魍のヒントを3つ教えます。
1 頭文字がイの国から来てます。
2 最も古い伝承があるのは14世紀です。
3 ある神の眷属とされる。

こんな感じです。ヒントは割と簡単な気がします。
では、次回をお楽しみに待っていてください。


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陸 赤髪の助っ人

新暦 令和おめでとうございます。
1ヶ月以上も待たせてしまい誠に申し訳ございませんでした!!

令和になってからの初投稿です。
更新は少し遅いながらもこの小説を読んでくれている読者の皆様ありがとうございます。これからも、この小説のご愛読をよろしくお願いします。


 酒呑童子を追いかけて来たようなことを言う赤髪の男。そして、その後ろにはいくつもの異形が酒呑童子に向けて敵意を向ける。

 

「大丈夫か?」

 

 赤髪の男が私にそう質問した。

 

「だ、大丈夫です」

 

「そうか」

 

 赤髪の男はそう言うと目の前に刺さっている刀を引き抜き、刃先を酒呑童子に向けてギロリと睨みつける。

 

「さて、酒呑童子。あん時のお礼をしてやる」

 

「あああ面白いとこやったのに、本当にあんたは邪魔ばかり、ああ、そう言えばぁ〜お嫁はんは元気か?」

 

「っ!!」

 

 酒呑童子の言葉に赤髪の男はわなわなと震えながら、刀を構える。

 

「貴様のせいで、あいつは!!」

 

「落ち着け!!」

 

 酒呑童子に飛びかかりそうな赤髪の男を抑えたのは、側にいた異形だった。それは太陽のような橙色の体躯に孔雀の顔と首、鷹の翼、そしてコンドルの脚を持つ巨大な鳥の姿をした異形で、赤髪の男の身体をその脚で抑えていた。

 

「あいつのペースに乗せられたら逃げられるがオチだ。だから冷静になれ」

 

「くっ…………そうだな。すまんな片車輪」

 

 鳥の異形もとい青年の言葉から察するに片車輪の言葉を聞き、刀を下ろす青年は片車輪に感謝する。

 

「つまらんなぁ〜、まあどうでもえ、っ!! 危ないなあぁぁ」

 

 余裕そうに喋っていた酒呑童子も横から放たれた攻撃に焦りの声を上げる。

 攻撃をした方を向けば、そこには両腕が鋭利な刃物の黒衣の男とカッパのような姿だが頭がイタチの異形が腕を出していた。

 

ゲッ、ゲゲゲ

 

「俺らもお前には、お礼があるからなーー!」

 

 黒衣の男は片腕を上げて、風を集め、カッパのようなイタチの異形は手から水が溢れてくる。

 

「っ!!」

 

 それを見た酒呑童子は、苦虫を噛んだような顔をする。だが、酒呑童子は異形達のある一角を見て、ニヤリと口元が弧を描く。

 

「気をつけろ!! 何か仕掛けてくるぞ!!」

 

 青年の声で異形達は構えるが、それよりも早く酒呑童子は動き、異形の中にいた1人の女の首を絞める。そして、その女の側にいた2体の異形は酒呑童子に捕まった女を見て、酒呑童子に飛びかかるも、素早い動きで蹴りを胴に蹴り込まれ遠くに飛ばされる。

 

「酒呑童子!!」

 

「動かん方がええで、動くとこの子の首をポキッとしてしまうわ〜。さ〜あんたらには武器を捨ててもらおうかぁ〜」

 

 女の首を見せつけるように締めながら、酒呑童子は赤髪の男やその仲間の異形に向かって武器を捨てろという。

 赤髪の男は刀を捨て、武器を持ってる異形も武器を捨てる。

 

 それを見た酒呑童子はそのまま、赤髪の男に近付き、男の顔を蹴る。

 

「がはっ」

 

 顔を蹴られて、地面に横たわる赤髪の男を何度も蹴り上げ、赤髪の男が蹴られる様を見せつけられて動こうにも人質の女がいるせいで動けない異形達は、歯痒い思いしながらその様子を見せられていた。そして、酒呑童子が男にとどめを刺そうと薙刀を振り上げる。

 だが、酒呑童子は1つミスを犯していた。それは–––

 

「ぐふっ!」

 

 赤髪の男に振り下ろされる薙刀は宙で止まり、酒呑童子は自分の口から垂れる生暖かいものを指で拭うと、ベットリと赤い血が付いており、そのまま酒呑童子は後ろを見る。

 

「やっと、当てられたよ」

 

 そこに居たのは、フグルマヨウヒの札の力を使って気配と自身の姿を隠していた幽冥がシュテンドウジの持つ太刀を突き刺していた。

 

「くそがあああ!!」

 

 酒呑童子の激昂とともに薙刀を幽冥に振り下ろすが、振り下ろされた先にはフグルマヨウヒの札が宙を浮き、札が薙刀で切られると同時に凄まじい光を放ち、酒呑童子の動きを止める。それと同時に幽冥は人質の女の腕を掴んで、その場から離れるように跳ぶ。

 

 そして、人質だった女を助けたタイミングで妖世館の方から大きな音が響き、幽冥の側には妖世館で休んでいた家族全員と客人である零士たちもいた。そして、幽冥の姿を見た白と赤は自身の武器を持って酒呑童子にその切っ先を向ける。

 

「「王に手を出した罪をその身で贖え!!」」

 

 2人の声を皮切りに、幽冥の家族は擬人態の術を解き、本来の姿に戻り各々の武器を構え始める。その中には赤髪の男の仲間の異形達も混じっている。

 

「もう逃げられないよ!!」

 

「さあ覚悟しやがれ酒呑童子!!」

 

 そして、酒呑童子を囲むように幽冥とその家族と赤髪の男とその仲間の異形達。

 

「あ、ああ〜、ここまで、増えたら相手するのはしんどいし、うちが動きを止めたあれらも動けるようになったら面倒いしなぁ〜、今日はこの辺で帰らせてもらうは、ほなさいなら」

 

 確かに数十にも及ぶ幽冥の家族の魔化魍と僅かながら王の力を使って戦うことの出来る幽冥。

 また、酒呑童子によって動きを封じられた朧たちも徐々に動けるようになってきたのか少しずつ幽冥たちのいるところに移動している。他にも人質となっていた女が解放された事によりさらに怒りのオーラを放つ赤髪の男と異形。

 これらと相対して無事で済む筈がない。そう思った酒呑童子は口から黄緑色の煙を吹き出し、そのまま霞のように消えていた。

 

「くそ!! 逃げられたか!!」

 

 赤髪の男は刀を仕舞うと幽冥に気付き、そのまま幽冥のもとに歩いてくる。白や赤たちが私の盾になるかのように前に立つが、私は2人を後ろに下げて、同じように近付く。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は幽吾。あの酒呑童子を追っている旅人のようなもんさ」

 

「では、私も自己紹介を私はこの子達の王となる安倍 幽冥と申します」

 

 幽吾と幽冥のお互いの自己紹介が終わると、そのまま家族と幽吾の仲間の自己紹介が始まった。

 

「てめえ、強えんだってな」

 

屍王

【¥#%??】

 

「ちゃんと喋ろてめえ!!」

 

 久々に見た屍王のミイラ姿に話しかけるもとい喧嘩を売ろうとしているのは先程、幽吾を止めた片車輪。

 

蛇姫

【貴女は少し酒臭い】

 

「何、文句あるのー。酒は私の血だよー」

 

蛇姫

【それは少しおかしい!!】

 

 蛇姫が話し掛けているのは下半身は鮫の頭になっている3匹の蛇で、水色の着物を着た藍色のストレートヘアが特徴的な美女の妖怪 沼御前。酔っ払っているのかと思うが、全くの素面である。

 

三尸

【俺の尻尾に引っ付くな!!】

 

「「綺、麗。綺麗。綺麗」」

 

「確かに三尸の提灯は綺麗だよね」

 

三尸

【なあ//////// からかうな!! あぐり!!】

 

「「怒ったーーー!!」」

 

 三尸の尻尾の提灯を調鬼という名の鬼であるあぐりと一緒に揶揄っている人間の子供ほどの大きさの角を生やした蜥蜴の妖怪 家鳴り。

 

「それにしてもいい鎌だ。日頃からちゃんとした手入れが出来てる証拠だ」

 

ビュウウウウウ//////

 

 乱風の持つ鎌を磨いて褒めているのは、両腕が刃物で黒服を着た男の妖怪で、名前が乱風と同じかまいたち。

 

「こちらをどうぞ」

 

「コレハ、ゴ丁寧ニ」

 

 先程から幽冥の家族にちょくちょく贈り物を配っているのは、後頭部が妙に盛り上がった黒の長髪の女性の妖怪 二口女。

 

古樹

【この筍、えぐみも臭みも無く、そしてなんと濃厚な!!】

 

命樹

【こりゃ、ただの筍じゃねえ。いったいどうやって!!】

 

「なぜなら〜それは私が独自の育成を施した特製筍だからだ。欲しいならいくつか苗をやるぞ」

 

睡樹

【ほ…んと…う!!】

 

 どこからともなく出した焼き筍を睡樹と命樹、古樹に味見させて筍の話をしているのは竹のような身体と根が集まった脚で、腕と頭が蟷螂の妖怪 万年竹。

 

「凄い大きい!!」

 

「凄い模様だよ!!」

 

「少しヌメヌメしてるけどなんか面白い」

 

「…………」

 

 上から擬人態の波音と潜砂、ひながはしゃぎながら感想を言って、乗っかっているのは舌が蛇になっていて、背中に顔のような模様がついており、ナメクジのようにヌメヌメしている巨大なガマガエルの妖怪 大かむろ。

 

 そして、異形の中にいた数人は実は妖怪ではなく魔化魍だったようだ。酒呑童子に捕まっていたのが、ヌリカベの妖姫で、側にいたのがその子ともいう魔化魍 ヌリカベ。

 ヌリカベの妖姫は先程助けてくれたことに対してのお礼を頬を赤らめながら言っており、その様子を遠くから見た白と赤は『また、ライバルが増える』と言っていたが、いったいなんのライバルなんだろう。

 

 ヌリカベ達の次に話したのは、魔化魍 カッパに似た姿をしているが、トゲの甲羅を背負い、頭が茶色いイタチのカッパ。カッパ異常種 カワウソだ。

 カワウソは幽冥が魔化魍の王と知っているのか知らずなのかは不明だが、なぜか跪いていた。その姿を見て、幽吾の仲間達に誤解されたが、なんとか理解してもらい、跪くのをやめてもらった。

 

 最後に話したのは、身体に苔が生えていて、厚い緑のコートを纏い、鉢巻きを頭に巻いた隻眼の猪の人型。イッポンダタラという鍛治を得意とする魔化魍の亜種 イノササオウの然王。

 然王を見てからしばらく黙っていた美岬が然王に自分の魚呪刀を見せると然王は眼を見開き、美岬の側によって口を開く。

 

【これを何処で?!】

 

美岬

【昔行動を共にしていた者が私にこれを含めて8振りをくれました】

 

 然王は美岬から魚呪刀を受け取り、まじまじと見ながら周りにも聞こえない声で呟く。

 

【………そうか。あの馬鹿は……………おお、すまんなこれは返す】

 

 然王は暫く魚呪刀を見ていたが、少しすると美岬に返し、礼を言った。

 

 幽吾とその仲間達の自己紹介が終わり、酒呑童子と戦闘を行ったもの以外の家族と客人でもある零士たちは妖世館に戻り、残った者達で酒呑童子の話をしていた。

 

「奴はあれで、本気を出していない。少なくても本気を出せば、あの場にいた半数は奴に殺されていた」

 

「………対策を考えた方がいいかもしれません」

 

 白の言葉に美岬は腕を組んで、呟く。

 

「そうだね。あの酒呑童子は厄介だけど、どっちかというと力を感じないのに不気味なオセの方が問題な気がするよ」

 

 美岬の言葉のいう通り、確かに酒呑童子は前回の戦いの感じからして、油断は出来ない相手だというのは分かる。だが、それよりも得体の知れないオセをどうするかと幽冥が考えてると。

 

「力を感じないの不気味に感じた、だと………幽冥。それについて詳しく教えてくれ」

 

 オセの不気味さについて、何かが思い当たる幽吾は幽冥にそのオセについて教えてくれと頼まれて、前回の時のオセの事を説明し、その話を聞いた幽吾は難しい顔をしながら言った。

 

「………そのオセという奴の力の感じない不気味な力にはあいつが間違いなく絡んでいる筈だ。そして、力を得たオセは王だというお前を確実に狙う。やばい戦いはもう、迫ってるのかもしれない」

 

 幽吾があいつと言うのは、おそらく酒呑童子のことだろう。そして、その酒呑童子を追ってこの世界に来た幽吾は酒呑童子との戦いの経験を語る。そして、その話を聞いて改めてオセとの戦いは激化するだろうと幽冥は確信に似た何かを確かに感じていた。

 

SIDE酒呑童子

 幽冥の住まう妖世館に襲撃を掛けた酒呑童子が幽吾に邪魔されて、一時的な世話になっているオセの隠れ家に戻って3日経った。何もすることがなく、暇だったので、オセの呼び出した魔化魍達を鍛えていた。

 

「ほらほら、こっちやこっち」

 

 手拍子をしながら酒呑童子の前にいるオセの呼び出した犬頭の魔化魍達を煽り、煽って直情的になり読みやすくなった攻撃を避ける。そんなことを繰り返しながら、酒呑童子は犬頭の魔化魍で鍛えて(遊んで)いた。

 様子を見にきたオセが酒呑童子に向かって喋る。

 

【お〜前の〜お陰〜でさ〜らに力を〜得〜た。さ〜らにお前が〜そいつらを〜鍛え〜てくれ〜た。こ〜れで〜あ〜いつらに勝〜てる。だ〜から感〜謝す〜る】

 

「まあ、暇だったし、別にええよ」

 

 オセの感謝を表面的には聞いてるが、その心の中では別のこと酒呑童子は考えていた。それはいつ元の世界に帰るかということ。酒呑童子はこの世界に飽きて(・・・)きていた。

 神秘や怪異が薄まり、科学という神秘の力を模倣する技術によって成り立つ世界に酒呑童子のいた世界とさほど変わらないこの世界に酒呑童子は飽きていた。自身を脅かすほどの強者も、自身が興味も唆らせる弱者も、自身が敬愛する存在もいない世界に飽きていた。

 この世界で興味を持った『魔化魍の王』という存在もいたが、あれは確認する前に幽吾に邪魔されたこととちょっかいを掛けようと機会を伺っているが、幽吾が必ず邪魔するという事で魔化魍の王の事は諦めた。

 それがキッカケなのかは本人しか分からないが、酒呑童子はこの世界から自分のいた世界に帰ろうとしていた。だが、その為には自身をここに送ったあの黒い渦を探さなければならないが……しかし、この酒呑童子はその気になれば、単体で世界線の壁を越えることが出来る。後は帰る為のタイミングを考えていた。

 

 酒呑童子がそのようなことを考えている一方、オセは自分の視線の先にいるものを見ていた。それは幽冥を襲撃した際に出した犬の魔化魍と同じく、その時に出した3人の鬼。

 あの戦いの後に戦力の少なさと鬼の完全な洗脳の為に、以前、酒呑童子から貰い、自身の強化になった液体を再び酒呑童子に頼み、それを飲んだ後に魔法陣を使って、戦力となる魔化魍を増やし、洗脳している3人の鬼へ対しての洗脳の術を再び掛けていた。

 

「(お馬鹿な奴やな。あれは確かに強化する事は出来るけど、ウチとあのお方(・・・・)以外が飲めば寿命を削って力を得るもの。ほんと、こっちの魔化魍ちゅうもんは、ウチの世界の馬鹿妖怪のように扱いやすいわ)」

 

 酒呑童子はそんな事を心の中で言い、オセの姿を三日月のように歪んだ笑みを浮かべながらながら眺めていた。




如何でしたでしょうか?
次回は戦闘回が始まる前に少しだけ、異世界から来たもの達の話になります。
次回もお楽しみに!!



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漆 始まる戦い

先ずは、幽吾の話から始まります。
そして、お待たせしました。ついに始まるコラボ編での戦闘回。



SIDE幽吾

 酒呑童子を追い掛けてやってきたこの世界。

 俺のいた世界の妖怪とは違い、この世界には魔化魍という種族がおり、それらが妖怪として伝えられてきた世界のようだ。話によると、俺の仲間であるヌリカベとその保護者を名乗る妖姫、カワウソ、然王は魔化魍だと、この世界で出会った幽冥という名の少女が言っていた。

 

 妖世館の地下にある1つの部屋。中に入れば、香ばしいチーズと鳥の匂いが来て、来る者の食欲を刺激する。乱風と憑の保護者(?)をしていて、魔化魍とは違う異形の店主であるドルフィンオルフェノクの茂久と炭火焼オルグのおっちゃんの2人が店を移したこの場所は、元々は研究室のあった場所だったが、今では和風な飾りがされた食堂に変わっており、交代交代で店を開き、料理を提供している。

 今日はおっちゃんが店主のようで、鳥肉に串を刺しながら、憑の出す炎で焼き、目の前にいる幽吾ともう1人の客のハハマナコに焼き鳥を提供していた。

 

「………」

 

「………」

 

 2人は焼き鳥が置かれても沈黙が続いていた。やがて、その状況を変えようとしたのか、ハハマナコが口を開く。

 

「久しぶり……で良いのかな」

 

「あ、ああ。久しぶり」

 

 ハハマナコと幽吾。この2人は同じ世界から来たもの同士で、この妖世館で世話になっている零士。彼の父親は今、ハハマナコの側にいるこの青年、幽吾である。

 そもそも零士が父親である幽吾のことを知らないのは、零士が産まれた時に幽吾はその場に居らず、ハハマナコがその存在を教えなかったのが理由だ。

 そして、何故自分の子供が産まれる瞬間に幽吾が立ち会えなかったのは、酒呑童子が原因である。幽吾と酒呑童子の関係はこの話ではなく、また違う機会があれば話すことにしよう

 

 幽吾は零士に会った瞬間に、零士が自分の息子だと分かり、その肩に乗る妖怪も自分の妻だということに気付いた。ハハマナコも幽吾を見た時に、久しぶりに自分の夫に会えたことが嬉しかったが零士が居るためにその場で初対面という風に喋っていた。そして、零士がひとみや雫の相手をして疲れて眠ったのを確認して、この店に来たのだ。

 

「それにしても、その姿はどうしたんだ?」

 

「ああ、私はあの時(・・・・)のが原因で今はこの姿に………」

 

「そうか……すまんな、お前の側に居なきゃいけなかったのに」

 

「ううん。気にしてないよ。でも、あの時は私の側に居てくれると嬉しかったな」

 

「本当に…すまん」

 

 久しぶりの夫婦の会話をしている2人を見て、おっちゃんと憑は数本の焼き鳥を置いてからそっとその場から離れて店の中を2人きりにして、店の外に出て行った。

 

「しかし、その姿では昔のように触れれないな」

 

「………そんなことはありません。見ていてください」

 

 やがて、ハハマナコを覆うように吹いていた冷たい風が止み、幽吾が目を向けると、そこには––––

 

「どう幽吾さん?」

 

「零…華……?」

 

 幽吾の前に座っているのは、ユーモラスな姿をした小人ではなく、美女だった。

 この姿こそ今の姿になる前のハハマナコの姿であり、かつてその美しさから数多の妖怪に狙われた雪女 零華。そして、そんな零華を狙う妖怪達から守ったのが幽吾だった。

 

「最近やっとこの姿になれるようになったの」

 

 和服を着た瞳の小人から、氷のような光沢を見せる水色の長髪をなびかせる和服姿の血色がない色白の美女の姿になったハハマナコ改め零華は幽吾の方に身体を向けると。

 

「ちょ、ちょっと、幽吾さん///////」

 

 幽吾が零華を抱きしめる。突然抱きしめられた零華は、顔を赤くしながら幽吾を離そうとすると、幽吾の頬に触れた時に触ったもので、零華は離れようとするのをやめる。

 

「もう暫くはこのままにさせてくれ、零華」

 

「しょうがない人ね」

 

 零華は抱き寄せられて近くなった頭を撫で、幽吾は零華が何か辛いことがあるたびにしてくれた事に懐かしさを覚えていた。

 2人はそのまま、店仕舞いになるまで置かれていた焼き鳥と酒を肴に息子である零士の話をして、幽吾は今の息子の話を聞き嬉しく思いながらも父親と名乗らない方がいいと思い。零華に自分のことを秘密にしてくれと頼み、零華はそ

れを悲しげな顔をしながら納得した。

 

SIDEOUT

 

 幽吾たちが来て、数週間経った。

 あれから酒呑童子が現れる事もなく。平和な日常を過ごしていた。例えば––– 

 

 『空を飛びに行きたい』と言った、ひとみの為に似た姿をしている鳴風と兜が付き添って人目のつかないように空を飛ばせたり。

 

 家族に怪しいものを売りつけようとしていた白蔵主を零士と共にお仕置きしたり。

 

 ほうこうが新しく作った試作の漬け物をみんなで食べて感想を言ったり。

 

 幽吾がハハマナコを連れて、何処かに行こうとしたので、何処に行くのかというのを家族を連れて追跡したり。

 

 潜砂が家鳴りに頼んだ振動マッサージがかなり凄く。他の家族もそれの虜になったり。

 

 沼御前は持ってきた酒を全て呑んでしまい、それを見た灯籠が怪しい飲み物を勧めて、従者戦闘員を巻き込んだ事件になりかけたり。

 

 色々なことがあった。

 また今日も、何か起きるのだろうと私は思いながら、眠っていたベッドの中に潜り込んでいた白と朧、美岬を揺り起こそうとする。

 

【よ〜うや〜くだ】

 

 私のでも、眠っている3人の声ではない声が聞こえる。部屋一面を見渡しても、眠っている3人以外は誰も居らず、幻聴か気のせいだったのかと思おうとすると。

 

【お〜れは〜外に〜い〜る!! やか〜たの〜バル〜コニー〜か〜らみ〜てみろ〜!!】

 

 再び聞こえた声に幽冥は声の主の言う通りに館の外にあるバルコニーに出て、魔化魍の身体に近くなっていく影響で増えた視力で声の方向に向ける。

 

 妖世館のある山から5kmちかく離れた山にある広く拓けた場所。そこには先程の声の主である魔化魍 オセとお猪口に入れた酒をクイっと呑む酒呑童子。そして、その後ろには襲撃の時にいた3人の鬼と犬頭の魔化魍が数十体、そしてツチグモ、ヤマビコ、バケガニなどの大型魔化魍がオセの背後にある2つの魔法陣から続々と出てくる。

 

【さ〜あ、俺は〜ここ〜だ!! 魔化〜魍のお〜う!! あ〜の時〜の決〜着をつけ〜に、そ〜して、王〜のあ〜かしを〜頂〜く!!】

 

 オセの声と共に、魔法陣から召喚された魔化魍達が一斉に動き出し、まるで音楽隊の行進のように幽冥のいる妖世館に向けて進行を開始した。

 

 山から聞こえてくるオセの声に幽冥は、幽吾に言われた決戦の時が来たと確信した。さらにオセが幽冥に襲いかかった理由も分かった。それは幽冥の……いや、魔化魍の王としての証の1つともいえる魔化水晶。

 そして、オセの声が聞こえたのは幽冥だけではない。眠っていた筈なのにいつの間にか居なくなっていた白や朧、美岬を中心に妖世館に住む家族に広がり、数分経つ頃には、幽冥が家族と呼ぶ者達が集まっていた。そして、進撃を開始したオセの軍勢を見た、幽冥は集まった家族に身体を向けて言葉を出す。

 

「みんな、既に白、朧、美岬から聞いてるだろうけど、私達を襲った犯人ともいう魔化魍が来た。奴の狙いは私、いや魔化魍の王の証の1つともいうべき魔化水晶の破片。目的は不明だけど……でもこれが奪われれば、あの魔化魍はさらに強大な力を手にして、私達の平穏を奪うでしょう。

 ……………ですが、そんなことを私が許さない!! みんなと過ごすこの大切な日常を守るために…………9代目魔化魍の王 安倍 幽冥の名において命じます!! ゴエティア72柱の悪魔魔化魍オセとその軍団を殲滅せよ!!」

 

グルルルル ピィィィィィィ ギリギリギリギリ ノォォォォン シュルルゥゥゥ 

ウォォォォォォ コォォォォォン アオオオオオオオン ジャラララララ

カラララララ ボオオオオ ヒュウウウウウ フアアアアア プルルルル

グガアアアアア キュウウウウン ショキ、ショキ ハハハハハ キキキキキキ

コン、コン ンキィ、ンキィ ヒュルルルル ルルル、ルルル フシュルウウウウ

クルルウウウ ピァァァァァ カッカッカッカッ ユレレレレ 

チッチッチッ、チッチッチッ ユラユラ、ユラユラ オギャァァァ

シャアアアアア ポロポロポロポロ カラン、カラン チュッチュッ、チュッチュッ

ビュウウウウウ ボボボ、ボボボ ピチャ、ピチャ、ピチャ フフフ、フフフ

ワン、ワン キリギギギギ ブルルル ヒヒィィィィン ザアー、ザアー、ザアー

ポポポ、ポポポ

 

 次代の魔化魍の王になる幽冥の宣言を聞いた家族は雄叫びとともにぞろぞろと魔法陣から湧いて出てくる謎の魔化魍と野良魔化魍の軍勢めがけて進撃を始めた。

 ここに幽冥対オセの戦いの火蓋が切って落とされた。




如何でしたでしょうか?
次回の話でようやく、犬頭の魔化魍の正体を書きます。
ちなみに野良魔化魍が数十体居ますが、犬頭の魔化魍よりも早くやられます。


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捌 安倍家VSオセ軍団 前編

更新がかなり遅れてしまい申し訳ございません。
初めての2話連続投稿です。
今回は前後編に分かれており、前編はオセの召喚した魔化魍の正体と、野良魔化魍戦、そして、幽吾と仲間対酒呑童子となっております。



SIDE白

 王の声を聞き、敵に向かおうとした時––––

 

蛇姫、跳、迷家

【【【結界、展開!!】】】

 

 3体の魔化魍は互いの手(迷家は霧で作った手)を合わせ地面に当てると、半透明に近い水色の膜が3人を中心に広がっていき、やがてオセの居る山まで広がり、この山を含めて山全体が水色の膜に覆われた空間に変わる。

 

 空間が広がり終わると蛇姫と跳は座り込み、迷家は宙からふわふわと落ちて、地面で荒い呼吸をする。

 

【はあー、はあー、どうやら成功したようでやすね】

 

「何をしたのですか?」

 

 白の質問に答えるように蛇姫が喋り始める。

 

蛇姫

【うむ………古の術の1つである結界を張ったのだ。この結界を張った場所の特定した空間を切り取り、周囲の影響をなくして敵を閉じ込めた。出るには我ら3人を殺さぬ限り出れぬ】

 

迷家

【ハアー、ハアー、もしも誤って山が崩そうが、森を切り裂きまくろうが、山を丸焼けにしようが、間違って人間が入り込もうと結界によって何の影響もなく、結界内で壊れたものは結界を解除すれば元通り、みたいな】

 

 たしかに今回の王とオセとの戦いは、確実に地形を変えるような派手な戦いになるでしょう。王と敵対しようとする魔化魍達(愚か者)と戦うたびに地形が変わり、王の居場所を猛士に大声でバラすような事は避けたい。せっかく春詠ががやってくれた偽装もバレるし、そう考えると、この結界はかなり良いものだ。

 

【ですが、なにぶん初めてやったことでやすから、今はちいーっと動けないでやす】

 

蛇姫

【おまけに結界の維持もしないといけないので、ここで待機しております】

 

迷家

【だから、頑張ってねみんな。僕たちの分も主人(あるじ)の為に頑張って】

 

【我がその結界の中心の盾となろう】

 

眠眠

【じゃあ、護衛で、ふあああ……残るよ】

 

食香

【私もお供します】

 

「では、私は眠眠の側にいます」

 

常闇

【私も今回は守りに徹させてもらう】

 

「俺たちも手伝う。ここの守りは任してくれ。なあ、みんな」

 

「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」

 

 どうやらこの3人と崩と眠眠、食香、常闇、そして怪我が完治したが久々の戦闘のランピリス、そして客人である零士達は今回の戦いには参加せずにこの結界の維持を優先に護衛に徹するようだ。

 それにもしも敵がこの結界を消すために動こうとも術に特化した跳、多種多様な音撃武器を持つ蛇姫、有幻覚という実体を持つ幻術を使う迷家、防御に特化した崩、物量攻撃を得意とする食香、更には武闘派でもある常闇。

 彼らなら大丈夫と判断した白は他の家族に顔を向けた。すると–––

 

紫陽花

【すまぬが、私はひなを守る為に館に戻らさせてもらう」

 

【【私も紫陽花様とひな様の護衛ですので】】

 

波音

【私も、ひなが心配だから」

 

 紫陽花と波音は擬人態の姿に変わって、凍が分体で作った空中布団で寝るひなを背に乗せて波音の手を繋ぎ、凍は紫陽花の後ろに控えるように飛びながら妖世館に戻った。

 白は、身内を心配する紫陽花と友人を心配する波音の気持ちが分かるので何も言わずにそのまま見送った。

 

「じゃあ、俺は捕虜の見張りを戦闘員共としている。インセクト、レイウルス付き合え」

 

「いいわ」

 

「…………いいだろう」

 

 マシンガンスネークとインセクト眼魔、レイウルス・アクティアも戦闘員を引き連れて、突鬼と衣鬼の見張りの為に妖世館に戻った。

 

「俺たちは飯の支度をしている」

 

「とびきり美味いピザを焼いてあげるから、必ず戻ってきてくれよ」

 

ボボボ、ボボボ ビュウウウウウ

 

 そう言うと、おっちゃんは憑を茂久は乱風を撫でて、2体とも心地よさそうな声を上げる。

 そして、私は今居る家族でどこをどう守るかの位置決めを始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEオセ

 突如発生した半透明に近い水色の膜が山全体を包むように張られると、オセの仲間である野良魔化魍はこの現象が何なのか理解できないために、その膜に向けて攻撃するが、膜は何もなかったかのようになんの傷もなく、それを見ていた酒呑童子は困ったなというより野良魔化魍達の無知さに呆れていた。

 

【くそ!! 結界とは〜。ず〜いぶ〜ん古〜いも〜のを】

 

 オセは水色の膜の正体を知っていた。

 オセ………いや彼ら『ゴエティア72柱の悪魔魔化魍』は、主人であるゴエティアと共に歴代の魔化魍の王と戦ったことが何度もある。

 その時に、歴代のそばに仕えていた魔化魍達がこの術を使って、幾度も彼らを窮地に追い込んだ。

 

 だがオセは厄介に思うも、焦ることは無かった。何度も戦ったことがあり、術のことを知ってるからこそ。

 この術の対処法、そしてどうすれば解除することが出来るのかを知っている。故にオセは目の前にいる野良魔化魍以外の自分が産み出した魔化魍である一軍を見て、命令を下す。

 

【行〜け!! ブラックドッグ!! こ〜の結界を〜は〜るもの〜を〜コロ〜せ!!】

 

 ブラックドッグ。それがオセが生贄を使って産み出した犬頭の魔化魍の正体だった。

 

 ブラックドッグ。

 イギリス全土に伝わる妖怪……ではなく不吉な妖精のこと。

 ヘルハウンドまたは黒妖犬とも呼ばれいる。たいていの場合は夜中に古い道や十字路に現れ、燃えるような赤い目に黒い体の大きな犬の姿をしている。

 16世紀イギリスの劇作家シェイクスピアの『マクベス』の作中で魔女が言及する、魔女の女王である地獄の女神ヘカテーの猟犬たちがそのイメージの根源と考えられている。 ヘカテーはヨーロッパでは中世以降、松明を掲げて犬を従え、夜の三叉路に現れるとされ、魔女が信仰していると考えられていたという。

 

 指示を受けたブラックドッグ達は四方に散り、その後ろに野良魔化魍達が着いて行き、その場には指示を送ったオセと呑気に欠伸をする酒呑童子、そして、オセに操られた3人の鬼が残っていた。

 

【お前〜達に〜は別の〜し〜ごとが〜あり〜ます】

 

 オセはそう言うと、1枚の写真を出す。

 そこには笑顔な女性と苦笑を浮かべる少年の写った写真だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE野良魔化魍(ヤマビコ)

 結界の起点ともいう中心から北の位置にある雑木林。

 そこには、樹をベキベキと折るように進むヤマビコの野良魔化魍達がいた。

 

 彼らは幽冥が魔化魍の王であること………つまり、人間が魔化魍の王になる事が気に食わない者たちであり、オセの話を聞いてこの戦いに参加したのだ。

 

【ココを進めば、結界の中心だ】

 

【ようやく、あの人間殺せる】

 

【あんな人間より我らが王に相応しい】

 

【そうだ。人間よりは我ら魔化魍が王になるべきだ】

 

 数十の数のヤマビコがそんなことを言いながら結界の中心に進む。彼らは今回の戦いに参加した目的である幽冥がそこにいるとオセに言われて行動していた。

 だがそもそも、魔化魍の王とは、150年に1度、様々な種族の魔化魍の中から産まれる特殊な力を持つ魔化魍のさらにその中から産まれる存在。絶対の証ともいう『青い龍の痣』をその身の何処かに持ち、様々な経験を経て王へと覚醒する。

 故に既に産まれて何年も経ち、王の証を持たない魔化魍がなろうと思ってなれるものでもない。単純な彼等はオセにそう言われて行動していた。だが、だからこそ彼らは気づかなかった。

 

ギリギリギリギリギリギリ シュルルルルルゥゥゥゥゥゥ

フシュルルルルル オギャァァァァァァァァ 

 

 その会話を聞き、今にも飛びかかりそうになるも。

 

カッカッカッカッカッカッ

 

 飛びかかろうとした4体を抑えて、白から軍師という役目を貰った南瓜は各々に役目を伝えた。

 

ユレレレレレレ ユラユラ、ユラユラ

 

 それを聞き、四方に散った家族を見た南瓜は、飛びかかろうとせずに待機している家族に先程の4体とは別のことを伝えて、散開させる。そして、自分の役目を果たすために行動を始めた。

 

 ヤマビコ達は歩く。王である幽冥を殺し、『魔化魍の王』になる為。

 

【みんな、止まれ】

 

 数十体もいるヤマビコの後列にいる1体が急にそんな事を言った。ヤマビコが見ていたのは、1本の樹に絡まったツタだった。

 

【今、このツタ動いた】

 

【そんな馬鹿な事があるか】

 

【【【がははははははっ!!】】】

 

 このヤマビコは一瞬、このツタが動いたと言った。それを聞き、他のヤマビコは馬鹿にしたような笑い声をあげ、そのまま歩き出した。一方、ツタが動いていたというヤマビコはそのツタを見ていた。

 すると、ツタが揺れるように動き、それを見たヤマビコは前を行こうとするヤマビコ達を呼び止めようとすると–––

 

【んんんんん、んん】

 

 ツタはヤマビコの口元に巻き付いて、喋らせないようにして、さらに全身を覆うようにツタが絡みつく。やがて全身に絡みついたツタはどんどん収縮していき、ヤマビコの身体からバキボキという音が響く。

 

シュルルルゥゥゥゥ

 

 ツタのあった樹のそばから睡樹が現れ、ヤマビコ達の姿が見えなくなる位置に行ったのを確認すると、自身の腕のツタを思いっきり引っ張りヤマビコの身体は断裂したように全身の骨を砕かれ、そのまま崩れ落ちるように倒れる。

 虫の息ともいう状態のヤマビコを睡樹はツタで何処かに引っ張り、そのまま姿を消した。

 

 ヤマビコ達が歩いていると巨大な穴が道にポツンとあった。

 ヤマビコ達は、ただの穴と言いながらその穴に沿って進んでいく。意外と大きい穴なのもあって、その穴を通り過ぎると、そのままヤマビコ達は後列を置いて歩いていく。そして、最後尾のヤマビコとそのヤマビコを待っていた2体が穴から離れようとした時。

 

ギ…ギ…ギリ…リギ…ギリ オギ……ャア…ア

 

【何か聞こえたよな?】

 

【ああ】

 

【何処から?】

 

ギリギ…ギリギ…ギリギリ オ…ギャア…アアア

 

【この穴からだ】

 

 ヤマビコの1体が穴に近づき、覗き込もうとすると穴から何かが飛び出して、ヤマビコの首に張り付く。

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

 上顎を鳴らしながら縮小の術で身体を縮めている顎がその上顎をヤマビコの首筋に当て、切り裂いた。

 

【あががが、がはっ】

 

 首からピューーーと出る血が2体のヤマビコの隙を作った。 

 

 2体のヤマビコの顔には鍬形の大顎の様な腕が突き刺さっていた。

 そして、その腕の先には本来の大きさに戻った潜砂が穴から身を半分出すようにして現れていた。大顎による一撃は脳にまで貫通し、2体のヤマビコは即死だった。

 大顎を引き抜き、大顎についたヤマビコの血を舐めて綺麗にすると潜砂は大顎で2体の身体を掴み、顎の掘った穴の中に死体を持って消えると、何かを噛み砕き、咀嚼する音が鳴る。

 その音が消えるのを待っている顎は、後ろに近付く何かに気づくもあえて無視していた。その後ろには3体のヤマビコの様子を見に来たヤマビコの1体がその脚を振り上げていた。

 音が止むと、顎が仕留めた死体を穴に引き込むと同時に、顎を後ろから踏み潰そうとしたヤマビコは上空から来た何かに連れ去られ藪に消える。

 

 昇布は上空から見えるわずかな森の隙間から顎を確認すると、顎を踏み潰そうとするヤマビコに巻きつき、そのまま藪に突っ込む。

 ヤマビコは唯一動く右腕を振って暴れるが、昇布がヤマビコの顔に口を近付け、その口を開けるとぐちゃぐちゃに混ぜた絵の具のような色の不気味なガスを吹き出す。もろに受けたヤマビコはそれを大きく吸い込んでしまう。

 ガスを吸い込んだヤマビコは、昇布から離された直後に激しい痙攣を起こし、身体を掻き毟るように手を動かし、その場で暴れるが、数秒経つと、ヤマビコの穴という穴からどす黒くなった血を垂れ流し死んでいた。昇布はそれを見ると、再び空に飛んでいき、消えた。

 

 それから顎、睡樹、昇布、潜砂は変わる変わるでヤマビコ達を人知れずに暗殺する仕事人のように始末していき、ヤマビコの数を削っていた。

 

 そして、ヤマビコ達が異常に気付いたのは、11体目のヤマビコが消えてから少し歩いた後だった。

 最初のヤマビコがツタが動いたという話から仲間がどんどん消えていく。数十体という数も半分まで減れば異常と気付く。

 

 しかし、異常に気付いた時には、もう遅かった。

 

南瓜

【いやいや、まさか自分の計画がここまで上手くいくとは思わなかったよ】

 

【てめえか!!】

 

 自分に拍手をする南瓜がヤマビコ達の前に現れる。そして、仲間が消えていたのはこの魔化魍が原因と知り、ヤマビコの1体は南瓜に向かって拳を振り上げて走り出す。

 

カッカッカッカッカッカッカッ

 

【ぎゃああああああ】

 

 南瓜の口から吹き出された炎がヤマビコの全身を包み、そのまま地面に倒れる。

 

南瓜

【そろそろフィナーレだ。2人とも出番だよ!!】

 

古樹

【これを食らえ】

 

ユレレレレレレ

 

 燃えさかるヤマビコに気を取られ、南瓜の言葉で傍から飛び出した2体の魔化魍は動く。古樹の椿の花から吹き出る神経麻痺ガスを吸い込み、命樹の放った仙人掌の棘が脚を貫き、ヤマビコ達は倒れる。

 そして、そこに合流してきた顎達が倒れているヤマビコ達を攻撃する。

 

【ぎゃあああ!!】

 

【やめてくれ、やめてく、があ】

 

【んんんんんんん!!】

 

 悲鳴の中、この野良魔化魍たちの中心だったヤマビコは逃げようとしていた。

 

【お、おれはまか、もうのおうに……な、るんだ…】

 

 古樹の神経麻痺ガスを吸って、舌も身体も麻痺しているヤマビコは仲間が殺されているこの状況から逃げようと麻痺した身体を引きずるように動かす。

 

睡樹

【何処、行く、の?】

 

 そんな声が逃げようとするヤマビコの身体を硬直させる。振り向くと、自分を残すヤマビコは全て殺されていた。

 

 顔が原型を留めずに潰されているもの。

 

 上半身と下半身に泣き別れたもの。

 

 手を伸ばしたまま溶けていくもの。

 

 無理矢理に球状にされたヤマビコだったもの。

 

 全身を棘で突き刺され身体中から血を流すもの。

 

 首元を抑えながら苦悶の表情で絶命したもの。

 

 頭部を何かで貫かれグリグリとされたのか穴からピンク色の何かがはみ出てるもの。

 

 それを行なった7体の魔化魍の視線が生き残っている最後のヤマビコに向けられる。逃げようとした瞬間に四肢に命樹の頭の仙人掌の棘が突き刺さり地面に固定される。

 ヤマビコが最後に見たのは、睡樹が植物のツタが複雑に絡んだ槍を振り下ろす瞬間だった。

 王になるという欲望を持ったヤマビコ達は、南瓜の指示で動く睡樹たちの手によって、土の栄養に変えられたのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE野良魔化魍(バケガニ)withブラックドッグ

 南瓜たちがヤマビコ達を片付けている北の反対である南にある川では。

 

 鋏刃、憑、舞、そして水底の4体の魔化魍は目の前の光景に苛立ちを覚えていた。

 

ンキィ、ンキィ、ンキィ、ンキィ、ンキィ、ンキィ

 

 鋏刃たちの前には、鋏刃と同じ種族であるバケガニ達が鋏を開閉しながら、特に鋏刃を睨み、怨嗟の様に声を上げる。

 

【裏切者!!】 【童子と姫の育てが悪かったのだ!!】

 

【バケガニの恥知らず!!】 【魔化魍の誇りを忘れたのか!!】

 

【その鋏は飾りか!!】

 

鋏刃

【…………】

 

 同種族であるバケガニ達に責められ、口を開かずにジッとしている鋏刃。だが、責める声が響く中でその声に反応した者がいた。

 

 雷が近くで落ちたかの様な音が響き、鋏刃を責めていたバケガニの1体に当たり、その身体は弾けた。

 音撃を通しずらい硬い甲殻に覆われたバケガニ。それが弾けた事により、弾けたバケガニの硬い甲殻は対人兵器であるフレシェット弾の様に周囲にいたバケガニにばら撒かれ、その身体に突き刺さるまたは貫通していく。

 

【んんんん】

 

【あが、が】

 

ンキィ、ん、キィ

 

【ぎべ、あ】

 

 バケガニは貫かれひび割れた身体の至る所から、血を流し、蹲るように地に伏せている。

 そして、被害を受けなかったバケガニ達はこの惨劇の元凶を睨みつける。

 

 骨の組み合わさった砲身から白い煙が吹き、その近くにいた蛸の足を生やした硨磲貝の人型は、鋏刃の前にいるバケガニ達に怒りの目を向けて睨み返す。

 

水底

【次弾、装填。目標、正面】

 

 2つで1つという共同の身体を持つ水底は自身の半身である動物と魚の骨の艦は、新たな砲弾を詰め込み、その照準をバケガニたちに向けていた。

 そして、砲弾の装填が完了すると共に––––

 

水底

【撃て!!】

 

 砲弾は再び、バケガニに発射され、先程と同じように砕け散り、同じ様な被害を生みだす。

 だが、バケガニ達も馬鹿ではなく砲弾に命中しない様に岩場を利用して水底に近付こうとするが––––

 

【がびゃ】

 

 バケガニの身体に大量の髪の毛が巻きつきその動きを止める。

 

【水底だけ】【活躍させる訳には】【………排除】

 

 3つの首はそれぞれが喋り、髪の毛で縛ったバケガニに手鏡を咥えた舞は、鏡を太陽の反射する場所に向けると鏡から熱線が放たれて、縛られたバケガニはその熱線に呑まれ、塵に変えられた。

 

【そう。おやっさんの飯が待ってるんだ。とっとと消えろ!!】

 

 宙に浮かぶ憑がその口から炎を吹き出しバケガニを包み、その身を焼き尽くした。

 

 鋏刃を置いて暴れる3体を見て、自分も動こうとすると、背中に向かって何かが飛んでくることに気付いた鋏刃は背中にある藤壺から溶解液を吹き出して、飛んできたものを溶かす。一部が溶けてそのまま地面に落ちた。それは、中国の手裏剣の鏢だった。

 飛んできたその先には、シャーペイのブラックドッグが同じ鏢を指の隙間に挟むように持っており、次の鏢を投げていた。

 

 鋏刃は、口から泡を吹いて再び鏢を溶かす。だが、鏢は囮のようでシャーペイのブラックドッグは残った鏢を鋏刃に突き立てようと飛びかかるが。

 

【がっあ】

 

 鋏刃は冷静にシャーペイのブラックドッグの首に鋏で挟み込み、そのまま宙吊りにしていた。やがて鋏刃はシャーペイのブラックドッグの首元に挟んだ鋏を万力のように力を込めながら徐々に挟み込んでいき、その力が最大になった瞬間、シャーペイのブラックドッグの首は地面に転がり、鋏で宙吊りにされ、首と泣き別れした身体は重力に釣られてそのまま地面に落ちて、血の池を作った。

 

 シーリハムテリアのブラックドッグは苦戦していた。飛火と浮幽が放つ炎を防ぐと、大量の分体で攻撃してくる葉隠。逆に葉隠の攻撃を防ごうとすれば、飛火の火球や浮幽の触手が襲ってくる。実にやりずらい連携攻撃にシーリハムテリアのブラックドッグは苦しめられる。

 長々と戦う気がないのか、飛火たちは勝負を仕掛ける。

 

浮幽

【ルルル、ルルル】

 

 葉隠の入った竹筒を宙に投げて、浮幽はシーリハムテリアのブラックドッグの脚に触手を巻きつけてジャイアントスイングの要領で回転を掛けて宙へと投げる。

 

葉隠

【次は、僕】

 

 そう言った葉隠は竹筒から自身の分体を呼び出して。宙に投げられたシーリハムテリアのブラックドッグの周囲を球のように囲み始める。

 

飛火

【私でとどめ!!】

 

 そう言うと、葉隠で出来た球から竹筒に半身仕舞った葉隠の本体が飛び出していき、分体の球は残り、その球に向けて飛火は口から青い炎を吹き出して、球ごと中にいるシーリハムテリアのブラックドッグを燃やす。

 分体は燃えても球の形を維持するために動き続け、分体が炎で消えといくと欠けた隙間から黒い物体が降ってくる。

 それは、シーリハムテリアのブラックドッグだったものの哀れな姿だった。そして飛火と葉隠は落ちてきたそれを脚で踏み潰していく。

 

飛火

【じゃあこれは貰うね】

 

ルルル、ルルル

 

葉隠

【どうぞ//////】

 

 そう言って、嬉しそうに灰の山を吸い込む飛火を葉隠は少し顔を赤らめ、浮幽はそんな葉隠を和やかに見ていた。

 

 穿殻と灯籠はコモンドールのブラックドッグと戦っていた。

 コモンドールのブラックドッグは巨大な丸盾を持ち、その円の内側に投げナイフを仕込んでいた。コモンドールのブラックドッグはそれをちまちま投げながら隙を見て丸盾を使った体当たりを穿殻にするが相手が悪かった。

 

穿殻

【なんかした?】

 

 以前の波音を守っていた頃に比べて、栄養価の高いもの(人間)を喰べることが増えて、いくばか成長した穿殻は現在の幽冥の家族の中で5本の指に入る防御力を持つようになった。穿殻にはコモンドールのブラックドッグの攻撃は一切通じていなかった。

 

 丸盾を持ったまま怯むコモンドールのブラックドッグに灯籠が右脚を丸盾にぶつける。すると丸盾は徐々に石のような色に変わっていき、コモンドールのブラックドッグはその重さに耐えられず丸盾を落とし、丸盾は落ちた衝撃で粉々に砕けた。

 そして、蹠面から生える鯱の頭を生やした4本の触手に四肢を齧られて宙づりのように浮き、腕や脚をバタバタと動かして抵抗するコモンドールのブラックドッグ。

 

灯籠

【これでおしまいです】

 

 前右脚を地面に叩きつけると地面が石化するが、石化した地面は徐々に伸びていき1本の柱のようになる。穿殻は確認すると、コモンドールのブラックドッグをその柱の上に落とす。

 

 コモンドールのブラックドッグの身体は串焼きの肉、又は百舌の早贄のように柱に突き刺さり、刺さった場所が心臓の近くということもあり、貫通した柱の傷から血が流れ、その身体を痙攣させながらやがて、動きを止めた。そして、穿殻が石の柱の底部分を砕いて突き刺さったままのコモンドールのブラックドッグの死体を持って、灯籠と共にそのまま消えた。

 

 ウィペットのブラックドッグは拳牙と激しい近接戦闘(インファイト)を繰り広げており、相棒である大尊はいつもの拳牙に呆れながら、先程の戦闘で拾ってきた鋏刃たちにバラされたバケガニの脚をガジガジと喰らっていた。

 拳牙の戦っているウィペットのブラックドッグの得意とする武術はどうやら空手らしく、拳牙の攻撃を寸の所でずらして拳牙の身体に鋭い一撃を当てている。だが、拳牙も受けた一撃のお礼というかのように、鋭い突きを脇腹に当てる。一歩も引かない攻防は人間だったら歓声の嵐が起こっているだろうが、これは人間ではなく人外の戦い。

 そして、決着を着けるのかウィペットのブラックドッグはその手に赤いオーラを纏い、対して拳牙は水を纏わす。

 

 静寂ともいえる静かに世界で、互いを睨み合う両者は、キッカケを待った。

 

 ガリっと大尊がバケガニの脚を噛み砕くとともに両者は動く。

 ウィペットのブラックドッグは拳牙よりも速く動き、赤いオーラを拳牙の身体に当てた。だが––––

 

拳牙

【………すいません。普段は使わないのですが、今の私の身体に貴方の技は効きません】

 

 そう言った、ウィペットのブラックドッグは拳の先が拳牙の身体はまるで液体の中に手を突っ込んだ様な感覚になっており、腕を引き抜こうにもコンクリートで固定されたように動かせなかった。

 次の瞬間、水を纏った拳牙の拳の一撃は、ウィペットのブラックドッグの顔に当たり、その衝撃でスローモーションのようにゆっくりと頭が砕けていく。頭を失った身体は糸の切れた人形のように倒れ、大量の血飛沫が拳牙に降り注いだ。

 

 その後、血を拭った拳牙はウィペットのブラックドッグの死体を喰らうことなく、そのまま地面に埋めて黙祷する。その黙祷に何の意味があるのかと思う大尊だが、変わり者の何時もの相棒と思い、次のバケガニの脚を喰らい始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE野良魔化魍(ツチグモ)withブラックドッグ

 東には、黒と赤、緑を中心に12体の家族が野良魔化魍とブラックドッグ達を追い込んでいた。

 

羅殴

【ウォォォォォォ!!】

 

【グルルガァ】

 

 成体となり、結界のおかげで周囲に影響が出ないと知った羅殴は普段は縮小の術で縮めていた身体を元のサイズに戻した。

 巨大な腕を振り回し、毒音波で怯ませ、近付いたツチグモを地面に埋め込む様に殴る。さらに近付いてきたツチグモを掴むと、近くの幹に叩きつけ、頭を脚で踏み潰す。

 

ウォォォォォォォォォ

 

 羅殴の雄叫びが響くと同時に上空から脚が欠損したツチグモが2体落ちてくる。すると落ちてきたツチグモを追いかける様に2つの影が飛びかかる。1つは鳴風と似た姿をした兜で、尻尾の針をツチグモの胸部に突き刺して養分を吸うように尻尾からゴキュゴキュという音が響いてどんどん干からびていき、もう1つは両翼に青い光を灯す五位で地面に落ちた瞬間にツチグモの身体にその嘴で啄む様に突き、嘴にある小ぶりなツチグモの肉を喰らう。

 

 その様子を見せつけられるように全身を糸で拘束されて頭だけ出ているツチグモは、同種族でありながら人間だったという魔化魍の王に味方する土門に聞く。

 

【貴様、わかっているのか? これは我ら魔化魍の正しい姿にするためn、んぐんぐんぐぅぅぅ!!】

 

土門

【その悪臭の漂う口を閉じてください。あの方の事を何も知らない癖に、我が王を侮辱した事を後悔するがいい】

 

 そう言うと、土門はツチグモの身体中に更に糸を巻きつけて前脚を上げると勢いよく引っ張る。

 

【んんんんんんん】

 

 糸が締められた事でバラバラになったツチグモの肉片を土門が集めていると、その肉片に炎が着火し、肉片を燃やし始める。土門は危うく火がつきそうになり、原因の家族を睨みつける。

 

土門

【危ないですよ。火がつきそうになったじゃないですか!!】

 

暴炎

【すまん。我慢ができなくて】

 

 暴炎は謝罪をしながらもツチグモの肉片に近付き、肉片に着いた火を吸い込む。そして満面の笑みを浮かべ、再び、炎を吹き付けて火を付ける。

 土門はその様子を見て、他の死体も持ってくるべきだろうと思い、他の家族と戦って死んだツチグモを集めに行った。

 

三尸

【ちっ!! 弱すぎて腕が鈍る】

 

 そう言った三尸の手にはバラされた頭や脚だけになったツチグモの死体を折った爪に刺し、地面に乱雑に突き立てていた。

 

乱風

【はあー本当です。こんなに弱いとは】

 

世送

【溜息を吐きたいのはこっちだよ乱風】

 

 仲良く並んで溜息を吐くのは、乱風と世送の2体だった。この2体の言う様に芸もなくただ糸を吐き、噛み付いてくるだけのツチグモに遅れを取るはずもない。これならば同じツチグモでありながら糸を複雑に使う土門の方が遥かに強い。2体は次々とツチグモを屠っていたが、さらにそこに三尸が加わりそれはもう、酷いというレベルで殲滅され、今は三尸が死んでいるツチグモを生え変わる爪に突き刺していつかの時のような『人間串』ならぬ『蜘蛛串』なるものを作っていた。

 

 そして、そこから少し離れた場所では数多の色の水晶で出来た複数の頭蓋骨に食い千切られるツチグモとそれを見る骸がいた。

 

【ふふふ。あともう少し。いや〜あそこから貰った頭蓋骨にこんな力(・・・・)があったなんて、良いもんを貰えて良かったぜ】

 

 骸の言った言葉の意味はまた少し後で語るとしよう。その様子を見ながら、骸は後ろから近付く音に気付き顔を向ける。

 

【それで、暴炎の欲しがる死体は後どんくらいいるんだ?】

 

 顔の先には土門がおり、暴炎の炎食用の死体を貰いに骸の所に来た。

 

土門

【………理解が早くて助かります】

 

【あいつとは付き合いが長いからな】

 

土門

【それでは、2体ほどお願いします。……他の所でも貰いましたので】

 

 そう言って背中を見せる土門の背には、糸でグルグルに巻きつけたツチグモの死体と三尸の作った『蜘蛛串』があった。

 

【分かった。少し待ってろこいつらが喰い終わったら、俺も運ぶ】

 

土門

【そうですか。助かります】

 

 そして、土門は骸が頭蓋骨の食事が終わるのを待ち、終わった後に大量のツチグモを持って行き、それら全てを燃やして、炎を(しょく)せた暴炎は滅多に見れない顔を浮かべて喜んでいた。

 

 そして、土門と骸がツチグモの死体を運ぶ同時刻。蝕は鳴風と組んで、スキッパーキのブラックドッグと戦っていた。

 スキッパーキのブラックドッグはその手に鞭を持ち、縦横無尽に鞭を振るうも、空を飛ぶ鳴風とその背に乗る蝕には当たらず、逆に鳴風の羽ばたく翼から送られる強風に紛れて、蝕の粉薬が舞い、スキッパーキのブラックドッグはそれを吸い込むと、その場で静止して、そのまま足元からグズグズに溶けていく。

 蝕が使ったのは、あまり多用する事もない劇薬ともいうべき薬だった。空気中に撒かれ、それを吸った者を内部から破壊して、最後はグズグズの死体に変える薬。その様な薬を蝕が使ったのは、結界の事と組んでいた鳴風が理由だった。

 実は、この薬は空気中に撒かれてから数十秒経つと、薬の成分が徐々になくなり最後は効力を失ってただの粉になるものだったのだ。故に撒かれた薬を鳴風が羽ばたく風に数十秒乗せれば、薬は効力は失い。仲間に影響はないというわけだ。

 

 そして、そこから離れた所には、バセットハウンド、ブリアード、エアデールテリアのブラックドッグが倒れていた。ただし、ただ倒れていたのではなく、3人の妖姫従者の前で倒れていた。

 

 黒の前に倒れていたのは、バセットハウンドのブラックドッグで、頭にめり込む様に振り下ろされた斧が既に死体であるというのを物語っており、黒は斧を力任せに抜こうとしていた。

 

 赤の前に倒れていたブリアードのブラックドッグは、頭部がなく、首から下の死体の上に斬られた頭部が胸部で抱えるように置かれていた。

 

 緑の前に倒れていたエアデールテリアのブラックドッグは、内部から植物が生え、苦悶の表情を浮かべた不気味な死体で、黒い笑みを浮かべながら緑は十手を振るった。

 

 そして、3体から離れるように倒れているペキニーズのブラックドッグは誰にやられたのか不明だが、四肢が180度曲げられた状態で放置されていた。

 

「我らの王に歯向かった事を後悔しなさい犬っころ」

 

 四肢を折り曲げられて動けないペキニーズのブラックドッグは近付いてくる3人の姿が悪魔に見えたのか逃げようとするも四肢は動かせず、やがて赤に頭を掴まれると、どこかに連れていかれ、そのまま悲鳴だけが響いた。

 3人の戦った4体のブラックドッグは3人の従者達の手により解体され、その肉は12体の家族に均等に分けられた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE幽吾

 結界を守るために行動している幽冥の家族とは別に行動する一団があった。

 

「本当に居るのか?」

 

「間違いねえ。奴はいる!」

 

 もう1組の来訪者である幽吾とその仲間たちである。彼らが探しているのは、オセに妙な力を与えた酒呑童子である。

 長きに渡るいたちごっこのように繰り返されていた戦いで、幽吾は酒呑童子の気配を感じ取ることが出来るようになっていた。その為に幽吾は白たちに別行動をすると言って、そのまま酒呑童子の気配にある場所まで移動していたのだ。

 

「おやおや、こんな所に来おったという事はうちとやり合うって事んでええんよな」

 

 木の上から聞こえてきた声の方に幽吾たちは目を向けると、お猪口の中にあるものをクイっと呑む酒呑童子がいた。

 

「うち、そろそろあんさんの顔を見るの飽きたんやぁ、ほな死んでくれさかい」

 

「ああ、いい加減てめえの顔を見るのはウンザリしてんだ。さっさと」

 

「くたばれ!!」

 

 幽吾の言葉を奪うように片車輪はその翼から熱線を放つ。

 

「ほいと」

 

「がはっ」

 

 片車輪の熱線を軽く避けると、そのまま片車輪の頭の上に飛び、体重を掛けたかかと落としで片車輪を地面に落とす。

 

「テメェ!!」

 

 片車輪が落とされたのを見て、かまいたちは両腕の刃を振るって真空の刃を酒呑童子に浴びせる。

 

「ふあああああ」

 

 何処からか出した薙刀を回転させがらあくびをしていた。それを見たかまいたちは、酒呑童子に肉薄し、腕の刃を酒呑童子に振り下ろす。

 だが、薙刀の柄で刃の腕を抑えて、そのままかまいたちの腹に横蹴りを叩き込む。

 

「ぐは!!」

 

「ああん」

 

 かまいたちは二口女のいる場所に蹴り飛ばされて2人はそのままぶつかり、地面に横たわる。

 

「これで、3………ううん?」

 

 酒呑童子は突然の揺れに驚き、あたりを見ると。

 

「「「揺らせ、揺らせ」」」

 

 小さな子供の大きさの蜥蜴の妖怪 家鳴りがいくつも集まり地面を掴んで、揺らしていた。

 酒呑童子は揺れの原因が分かると薙刀を勢いよく振るうと、地を削りながら衝撃波が家鳴りの方に向かい。

 

「「「わあああああ!!」」」

 

 地面を揺らしていた家鳴り達は1体も残らず衝撃に吹き飛ばされて、元の1体に戻る。

 

ゲゲゲ、ッゲ、ゲゲゲ

 

 酒呑童子の顔に水玉がぶつかり、水は弾ける。

 

「水遊びかいな?」

 

 水玉を撃ってきたカワウソに酒呑童子が聴くと。

 

「ゲゲゲ、これならどうだ。親分お力を」

 

「おお」

 

 側にいた大かむろがカワウソの水玉に息を吹き込むと、水玉は毒々しい赤紫色の玉に変わり、カワウソはそれを野球の投球のように投げる。

 

「勿体無いけどな………ほいと」

 

 酒呑童子はその手に持っていたお猪口を投げつけて、カワウソの投げた赤紫色の玉はお猪口に当たり、お猪口は原形を残さずに溶け、そのままお猪口だった液体がその場に残った。

 そして、酒呑童子は薙刀を地面に突き刺すと、カワウソと大かむろの側に近付くと貫手を腹に食い込ませ、カワウソと大かむろは口から血を吹き、倒れる。

 

 倒れた2体を見てると酒呑童子の背には鮫の頭をした蛇が襲いかかる。

 

「ふん!!」

 

 蛇の頭を掴むと、その先には沼御前が歯ぎしりをするように酒呑童子をにらんでいた。

 

「お前のせいで零華は!!」

 

「知らんわ。まあ向こうで寝とき!!」

 

「ああああ!!」

 

 蛇の頭を引っ張り、酒呑童子は沼御前を引き寄せるとその顔に回し蹴りを叩き込み、かまいたちと二口女のいた場所に飛ばされる。

 

「酒呑童子!!」

 

 然王は、鱗の様に重なった刀身の刀を持ち、酒呑童子に振り下ろす。

 

「ほお〜〜連刀 連鰯(つれいわし)か」

 

「あの時のと同じやつだと思わんほうがいいぞ」

 

 然王が連刀を振るうと、刀身は節々で外れ、鞭の様に変わり、酒呑童子に振られる。

 酒呑童子は少し驚いたのか、避けるのに遅れて少しだけ服の裾が切られる。

 然王はさらに激しく振るうと今度は、髪の毛が数本ハラリと切れる。だが、酒呑童子の身体には当たらず、酒呑童子は薙刀を回転すると、連刀の節々にある刀身を接続する鎖が絡め取られ、酒呑童子はそれを勢いよく引き、連刀の刀身は酒呑童子の怪力に耐えられずにそのまま引き千切られ、引き千切った刀身を然王に投げ、刀身は然王の腹に深々と刺さる。

 

「がふっ。すまんな、零華」

 

 然王はそう呟くと、そのまま膝をつき倒れる。そして、砕けた連刀の柄を蹴り、背中に足を押さえつける様に乗せて、酒呑童子は薙刀を然王の頭部に狙いを定めた。

 

「あんさんの作ったこの薙刀はすごいな。まあ、自分の作った武器で死になはれ」

 

 そう。酒呑童子が言った通り、この薙刀も実は然王が作り出した物で、かつての戦いで酒呑童子に奪われてしまった物だ。その名も衝刀 激喝発(げきかつお)

 

「これを食らえ!!」

 

 然王の頭目掛けて薙刀を突き刺そうとした酒呑童子の身体に葉っぱのカッターが飛んできて、酒呑童子はその場から、遠ざかるように跳ねる。葉っぱのカッターはその後も投げられ続けるが、酒呑童子は軽く身を逸らすだけで簡単に避ける。

 

「あんさん戦う気あるんか?」

 

 当たらないように投げてきた万年竹に酒呑童子はそう問うと、万年竹は身を震わせる。

 

「ふふふ、心配しなくても問題ない。なぜなら〜………………私の攻撃は終わっていないからだ!!」

 

 酒呑童子が振り向くと、先程万年竹が飛ばした葉っぱのカッターがブーメランのように戻ってきていた。だが、酒呑童子は背を向けたまま薙刀を振るい、葉っぱを切り落とす。

 

「うちがそんなん気づかなあと思ったか?」

 

「っ!! がふっ」

 

 万年竹は再び、自分の葉っぱを取ろうとするが、酒呑童子の薙刀の石突が万年竹の腹に当たり、口元から黄緑色の血を吹く。

 

「ほな、さいならぁ」

 

 倒れる万年竹に薙刀を振り下ろす瞬間。

 

「やらせると思うか?」

 

 白いオーラを纏って薙刀を防いだ幽吾の腕があった。

 

「ようやくあんたとか」

 

「ああ。こいつらとの戦いはおしまいだ。次は俺だ!!」

 

 そして、幽吾は腰にある1つの刀に手を掛けて、それを抜く。

 抜くと刀身が光り輝き、見るものの目を奪う美しい刀が姿をあらわす。そして、その刀の名は–––

 

「麗刀 竜宮之遣(りゅうぐうのつかい)!!」

 

 イノササオウがかつて鍛造した最高位の3振りの刀の1つである。

 

「麗刀を抜くか。なら、うちもちょっと本気出したるは」

 

 薙刀を手元に戻すと、酒呑童子の動きは変わり、薙刀の届く絶妙な中距離の攻撃が嵐の様に迫る。だが、幽吾も麗刀と己の肉体を使って防ぐ、連続の突きを放たれれば逸らす様に刀を動かし、石突きで殴られそうになれば刀の柄を石突きに叩きつけ、横払いの一撃は蹴りで軌道を逸らす。怒涛の攻撃に対処し続けるもやがて限界がくる。幽吾は頭上からくる薙刀を麗刀の峰で何とか防ぐ。

 

「どやどや、これであんさんは動けないなあ」

 

 その姿を見た酒呑童子は勝利を確信していた。今まで邪魔をしてきていた幽吾の仲間はほとんどが戦闘不能。おまけに拮抗しているかのように見える鍔迫り合いは酒呑童子が有利だった。薙刀とはいえ、振るうのは最上位妖怪でもある酒呑童子。本気の半分(・・・・・)しか出していない酒呑童子に食らいつけている幽吾に勝ち目はないと思われた。

 

 幽吾と鍔迫り合っている酒呑童子は横からくる衝撃で吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされる最中に見たのは、先程から姿が見えず、酒呑童子が以前に殺そうとしたヌリカベの姫だった。

 

「ぐふっ」

 

 酒呑童子はヌリカベの姫の体当たりを受けて、腹の空気が押し出され、そのまま樹に叩きつけられる。

 樹にもたれてピクリともしない酒呑童子が幽吾達を確認しようと顔を上げると。

 

「あ、あれは!!」

 

 零士や幽吾、そして酒呑童子達をこの世界に落とした黒い渦が現れる。

 

「これは………ウチもついてるなあ」

 

 樹を掴みながらその身を上げて、幽吾達に告げる。

 

「そんじゃあ。また何処かでお会いしましょか。ほな、さいなら」

 

 そう言った、酒呑童子はもたれていた樹を踏み台に黒い渦の中に飛び込み、姿を消した。

 幽吾達は黒い渦の中に入った酒呑童子を追おうとするも黒い渦は何もなかったようにその場から消えた。幽吾達は黒い渦と酒呑童子が気にかかるも今の戦いのことに集中して、結界の中心に繋がるそれぞれの道に向かっていった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE導

 屍、小雨、導の3人は道中で襲撃してきた3人の鬼と戦っていた。

 屍と小雨は音撃弦を持った黄色と緑の兄弟らしき鬼と導は音撃管を持った灰色に近い白の女性の鬼と戦う。

 

 屍の尻尾から滴る毒の血液を緑の鬼に放つが緑の鬼は音撃弦から放つかまいたちで血液は弾け、周りに飛び散るが小雨は弾けた血液を雨で防ぐが、直ぐに黄色の鬼が音撃弦から放つ雷撃を受けて感電しそうになるが、屍が尻尾を地面に突き刺して、引き抜いた時に出る土塊で防ぐ。

 

 導は、音撃管の攻撃を頭頂部の炎で防ぎ、そのまま触手を鬼に向けると触手の内側からジワっと紫色の液体が溢れ、そのまま三角錐の形になり自動小銃のように連続で発射される。

 触手から放つ毒の弾幕は鬼の体勢を崩し、その隙に導は触手に集めた炎の塊を鬼に目掛けて投げた。

 

【え?】

 

 導の放った炎の塊は狙った鬼の面に当たり、面が砕かれて、その下にあった顔に導は驚愕する。

 

「………」

 

 人間の街で出会った、明るく自分を連れ回し、人間だけど好きになってしまった人 紗由紀が立っていた。

 

【ねえ、紗由紀。紗由紀なんでしょ!!」

 

 鬼の1人が紗由紀だった事に気付き、導は擬人態の姿に変わり、紗由紀に呼び掛ける。

 

「………」

 

 擬人態の姿の導を見て、少し動きが止まるがすぐに他の鬼と戦う屍と小雨に音撃管を向けると2体を庇うように、腕を広げて導は目の前の紗由紀にさらに呼び掛ける。

 

「もうやめてよ、紗由紀!!」

 

 そう言ったと同時に導は目をつぶった。自分の好きだった者に清められた(殺された)としても、恨まないと思いながら音撃管の攻撃が来るのを待った。

 いつまでも来ない音撃管の攻撃を確認するために導が目を開けると、震えた手で音撃管を持つ紗由紀が導を見ていた。

 

「………導?」

 

 確認するかのように呟いた言葉と共に徐々に紗由紀の目に光が戻り、導に向けていた音撃管を下ろした。

 

「導なの?」

 

「そうだよ……紗由、うわ、ちょっと苦しいよ」

 

「ごめんね、ごめんね」

 

 鬼にとっての大切な武器である音撃管を地面に落として、紗由紀はそのまま導を抱きしめる。

 だが、それはすぐに終わった。

 

 導を抱きしめている紗由紀は見た。自分の抱いている導を狙った緑の鬼 風鬼が自身の持つ音撃弦から音撃を放とうとする瞬間を、そして、離れた位置で黄色い鬼 雷鬼と戦っていた小雨が石に躓いて転び、その隙に音撃を放とうとしていた。

 

音撃響 一変狂風(いっぺんきょうふう)

 

音撃波 紫電一線(しでんいっせん)

 

 風鬼の風の音撃と雷鬼の紫電の音撃が小雨と導に放たれた瞬間。紗由紀は導を抱えたまま背を向け、屍は小雨に覆いかぶさるように身体を乗っけた。

 

「あああああああああ!!」

 

【がああああああああ!!】

 

小雨

【屍!?】

 

「紗由紀!!」

 

 2人の鬼の攻撃から小雨たちを庇った、2人はそのまま倒れそうになるが、小雨たちが倒れつつある身体に手を伸ばし、そして、2人を樹に寄りかからせるよう座らせて攻撃をした下手人の2人の鬼を怒りに染まった眼で睨む。導は擬人態から本来の姿に戻って、ゆらゆらと触手を上げる。

 

小雨、導

【【お前(貴様)を許さない!!】】

 

 小雨は傘を天にかざすと晴れていた空は一気に黒く染まり、大きな雨雲が小雨の真上に出来ると雨雲から滝のような雨が降りはじめて小雨を包み、導は触手を擦り合わせ続けると摩擦の熱で着いた炎が全身を包み込み。

 

【小さ、め?】

 

「し、るべ?」

 

 小雨と導を庇った屍と紗由鬼は、目を見開きその場に立っている2体の魔化魍の名を呼ぶ。

 ひとつは、青い傘から変わった青い番傘を肩に掛け、群青のレインコートを羽織り、両翼の真ん中に青い宝石が埋め込まれている腕輪を付けたコウテイペンギン。

 

 もうひとつは、側頭部にリボン状に炎を燃やし、無数に生えた触手の中で目立つ3本の捻れた長触手、体色が全体的に朱色が変わり、身体も少し大きくなった宙に浮く鰹の烏帽子。

 

 小さな雨は自分を庇った家族のために大雨の如き斬撃の雨に、道を示す炎は惚れた者を守るためにを熱を自在に操る炎へと変わり、下手人の2人の鬼に小雨は番傘を向け、導は異常に長い捻れた長触手を向けた。




如何でしたでしょうか?
それでは、次の後編をどうぞ!!
今回の『結界』は某白い魔王少女が出てくるアニメに出てくる結界と似た様なものです。


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玖 安倍家VSオセ軍団 後編

初めての2話同時投稿です。
後編は導と小雨、幽吾の仲間のヌリカベ、幽冥LOVERS、護衛組、幽冥&白VSオセwithブラックドッグSという感じです。

2023年1月11日追加 悪魔魔化魍の能力に名前付けました。


SIDE導

 雷鬼を小雨に任した導は風鬼に炎の弾幕を放つ。

 しかし、風鬼は自身の持つ音撃弦 風信(ふうしん)を振り回し、風の盾を作り、導の炎の弾幕は消え去る。

 

「………」

 

 ひたすら導の攻撃を避け続け、必殺のタイミングを見計らう風鬼は、導の疲労を狙っていた。やがて–––

 

【はあー、はあー】

 

音撃響 一変狂風(いっぺんきょうふう)

 

 慣れない戦闘による疲労が現れたのか、少しずつ高度が下がってくる導を見てチャンスと判断した風鬼は音撃弦 風信を構え、必殺の音撃を奏で始める。だが–––

 

「?………ちっ!!」

 

 彼の音撃は放たれなかった。そして、導は先程の疲労が嘘かのように数本ある捻れた長触手を風鬼の腕に突き刺す。

 突如の腕の痺れで、音撃弦を落としそうになるが、耐えてその場から離れるように風鬼は遠くに飛ぶ。

 

 ここで少し、彼……風鬼の音撃の事を説明しよう。

 彼の音撃である風の音撃は発動するにはとてつもない強風を必要とする。だが、風鬼は風を使った音撃を放とうにも放てなかった。

 何故なら、今、彼のいる場所は沿岸部で起こる『凪』と言われる無風状態にされているからだ。

 そもそも風は、場所による気圧の不均一を解消しようとして発生するものと言われている。そして、凪とは、風がおさまって波の穏やかな状態のことを指す。

 

 だが、何故風が吹いていない凪の状態にされているのか、そこで導が出てくる。

 彼の幻魔転身(げんまてんしん)によって得た力は、触手を振動させて熱を自在に操る。この力によって、導はその場を凪に近い空気温度に変えて、この場から風を消したのだ。

 

 つまり、風がない凪に近いこの場では、風鬼は音撃を使うことが出来ず、風によって切れ味を高めている音撃弦 風信も導にすれば、切れ味が少し良いだけのナイフと変わらない。

 

 そして、痺れが全身に回ったのか動きがどんどん遅くなり、まともに立てない風鬼を導は宙から見ていた。だが、導は先程の光景を思い出し、ほぼ攻撃も出来ず身動きが取れない風鬼を痛ぶり始める。

 ジワジワと炎や氷の弾幕を使ってボロボロにし、触手から放つ火炎放射と冷凍ガスを噴射し、風鬼は音撃弦を盾にして防ぐが急激な熱変動による金属疲労で音撃弦 風信は破壊される。

 武器を失った風鬼は、その場から這うように逃げようとするが、導が風鬼の首元に触手を巻きつける。

 

「ぐ、が、あああ…」

 

 首を絞められているので、空気を吸おうと必死になるが、導はさらにダメ押しで鎧の隙間から炎を流し込み、風鬼を内部から焼いた。

 

 隙間から炎を流されて、風鬼は首を絞められて時と同じ姿のまま固まっていた。だが、導が触手で鎧を叩けば、ボロッと崩れ、それに連鎖するように徐々に風鬼の身体は崩れていく。

 

 落下した鎧の隙間から出る灰は、導が温度を下げずにそのままにしていると風が吹き始め、その風によって、パラパラと空に飛ばされていった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE小雨

 導が風鬼と戦っている同時刻。

 

 雲1つもない晴空の中、聞こえるはずのない雷の音が森に響く。

 音の発生源は、風鬼とは左右非対称の黄色の鎧を纏った鬼 雷鬼である。彼が音撃弦 雷刻(らいこく)の弦を弾き続け呟く。

 

音撃波 雷降一閃(らいこういっせん)

 

 何もない空から雷に似た黄色い音撃が落ちる。そして、その音撃を受けるのは–––

 

小雨

【……………】

 

 番傘で雷を防ぐ小雨だ。

 小雨の身体は雷鬼の雷の音撃を何度も受けて、番傘と身体の一部が炭化していた。だが、小雨はそんな音撃を物ともせずに雷鬼を睨む。

 

 それを気に入らずか雷鬼は再び、弦を弾き始める。

 

 ピチャという音が鳴る。何かが降ってきて雷鬼が上を見上げると、小雨の頭上を中心に黒い雲が渦を巻きながらどんどん大きくなっていく。何かが起きると判断したのか、雷鬼はその場を離れて、雲を見る。すると小雨は番傘を雲に向けていう。

 

小雨

治癒の雨

 

 黒い雲から透き通った雨粒が降ってくる。その雨を受けた小雨に雷鬼は目を見開く。

 小雨の身体の炭化していた部位と番傘が何もなかったかのように傷が消えていたのだ。だが、雷鬼は気にせずに再び弦を弾き、音撃の雷を落とす。

 

 だが、雷の音撃を受けた小雨が再び雨を浴びると傷は消えていた。

 雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。雷を受ける。傷を治す。

 

 そんな鼬ごっこが何度も何度も続き、疲労が見えたのは、雷鬼だった。なにせ、雷鬼が音撃を放っても小雨は動かず、自分の上から降る雨で身体の傷を治す。音撃を出すために激しく動く雷鬼と治癒の雨を受けるだけで傷を治すだけの動かない小雨。どちらが早く疲れるのかは明白だった。

 

 そして、ただ音撃を受けていた小雨は番傘を構えると、雨粒が番傘を中心に集まり、渦巻く水の突撃槍(ランス)が出来る。小雨はそれを水平に構えて、雷鬼に向ける。小雨は背中に黒雲を作ると、雲から滝のような雨が吹き出し、小雨に当たると水平に持った突撃槍(ランス)を構えたまま突撃する。

 

 突然の加速に音撃を放とうと弦を弾く、雷鬼は攻撃を避けられず、その一撃で音撃弦は破壊される。

 音撃弦だったものを即座に捨て、腰に付いた変身音叉に術を掛けると、音叉の形をした刃の槍 音叉槍に変わり、突撃によって隙を晒す小雨に突き刺そうとする。

 

 しかし、振り向いた小雨の番傘の形は水を纏った突撃槍(ランス)ではなく、水を纏った直刀に変わっていた。小雨は番傘を両手で握りしめ、頭上まで上げた番傘を一気に下まで振り降ろすと、水は番傘を離れて、青い半月状の水刃になり、雷鬼に迫る。

 

 音叉槍を持つ雷鬼は小雨の番傘から放たれた水刃でその身を縦に一刀両断にされた。

 

小雨

【…………】

 

 静かに番傘に僅かに付いてる雨粒を振るって落とし雷鬼の死体から離れて、小雨は傷ついた屍と導を庇った鬼の女の元に戻っていた。

 小雨は静かな呼吸する2人を見て、治癒の雨を降らして身体を治癒し、屍を近付くと、変異態の姿から元の姿に戻った。そして、戦闘の反動が原因なのか、その場で倒れ深い眠りについた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヌリカベ

 小雨と導が2人の鬼を倒した同時刻。

 結界の中心たる蛇姫たちのいる場所から東の方角に少し離れ、拓けた場所に幽吾の仲間であるヌリカベが戦っていた。

 

 ヌリカベが戦っているのはシベリアン・ハスキーとバーニーズ・マウンテン・ドッグの頭の2体のブラックドッグ。

 1対2という状況なのに、ヌリカベはブラックドッグを相手に有利に戦っていた。

 

 その理由としては、ヌリカベの持つ強靭な盾とも言える胸部が理由だ。

 ヌリカベの胸部は貝殻の頑丈さと蓑虫の蓑のようなしなやかさという2つの特性を併せ持ち、これによって2体のブラックドッグが持つメス状の短刀や自身の爪と牙を使った攻撃はその胸部に弾かれ、逆にヌリカベは根のようにも見える貝の蹠面の足による連続攻撃を繰り出して、2体のブラックドッグを相手に有利に戦っていた。

 

【無駄、だ。そんなの、通じない】

 

 ヌリカベにダメージを与えられないことに苛立つシベリアン・ハスキーの頭のブラックドッグが自分の持つメス状の短刀を数本、ヌリカベの目に目掛けて投げる。

 

 ヌリカベの強靭な胸があったとしても伸びている目や根のようにも見える脚までは胸部の硬さほどでは無いにしろ、効果はあるだろうと考えて投げたのかは不明だが、ヌリカベの目にあと少し届くというところでヌリカベは足を伸ばして、一部を弾き、その内の2本を掴み、そのまま投げ返す。

 

【グガアアアアア】

 

 人間も犬も耳には血管と神経があり、そこを強く握れば痛いというのは分かるだろう。シベリアン・ハスキーのブラックドッグの行動によって、相方のバーニーズ・マウンテン・ドッグのブラックドッグの耳が半ば切り裂かれ、目にはそのまま短刀が突き刺さり、そこから壊れた蛇口のように勢いよく血が吹き出す。

 

 シベリアン・ハスキーのブラックドッグは、自身の武器で味方に傷を付けられたのに腹を立てたのか、耳と眼を抑えるために落とした相方の短刀を拾って、ジッとして動かないヌリカベに突き立てようと走り出す。

 だが、ヌリカベは別にただジッとしていたわけではない。ブラックドッグの短刀がヌリカベの胸部にある貝殻と蓑虫の蓑が合わさった胸部に当たった瞬間、胸部が勢いよくグパッという音とともに開き、そこから見えるのは、縦並びの2つのローラー。

 ブラックドッグは慌てて身体を止めようとするが、既に遅くローラーの中心に頭が入ると同時にヌリカベはローラーを内側に回転させ、それと同時にブラックドッグの身体は肉が千切れ骨が砕ける音とともにローラーの奥にあるヌリカベの口の中に消えていく。

 

 肉と骨が砕け、雑に咀嚼される音がバーニーズ・マウンテン・ドッグのブラックドッグの耳に響く。

 砕かれていく相方の姿に顔を青褪める。

 

 ローラーが止まると、そこには僅かな肉片と垂れていく血があり、先程までいたブラックドッグの最後を現していた。

 ヌリカベの見る先にいるのは、ヌリカベの攻撃を受けて、半ばに斬られた右耳と眼に傷を負ったバーニーズ・マウンテン・ドッグの頭を持つブラックドッグのみ。だが––––

 

【ぐぐ、ぐ、何ですか? こ、れ、は、私は、わたし、はブラックドッグ? 違う!! わ、たしは私は、アアアアアアアア!!!】

 

 ブラックドッグは突如、苦しみ出して、分からないことを呟きながら頭を抱え、喉が枯れるかと思うほどの声を上げる。やがてブラックドッグは倒れ、ヌリカベは倒れたブラックドッグに近づこうとすると––––

 

 ブラックドッグは目を覚まし、直ぐに身体を起こして、辺りをキョロキョロと見る。そして、ヌリカベを見た瞬間にブラックドッグは目に止まらぬ速さで立ち上がり、そのままヌリカベとは逆の方に向かって走り去っていた。

 急に逃げていったブラックドッグに困惑するもヌリカベは追わずに、『結界』の中心の3人を守るため、次の敵を探しに移動した。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 そこはまさに惨劇という言葉が似合う地獄とかしていた。

 バラバラになった四肢、噛みちぎられた首、溶けた下半身の死体、とてつもない圧力で潰れた肉塊、上半身と下半身が大きな穴で貫かれた死体、炭化した肉片、両断された身体から溢れる臓物、辺りから臭ってくる死臭。

 その惨劇を作り出しているのは–––

 

【あああ、ああああ】

 

 逃げようとするチャウチャウのブラックドッグの首を刎ねるのは、柄元から柄まで烏賊の触手が巻きついた槍に似た形をした魚呪刀(ぎょじゅとう) 突烏賊(とついか)を持つ美岬。

 

【がああ……】

 

 ブルドッグのブラックドッグの首を中心にその牙を食い込ませて、肉を喰らう朧。

 

【かぴゃ】

 

【あが】

 

 ビーグルとパグのブラックドッグは眉間に矢が刺さり、刺さった瞬間、矢に電撃が当たりブラックドッグの頭部はクラッカーのような音を鳴らして綺麗に弾ける。矢の放った先にいるのは、角先から電気が迸る刺馬とその上に跨る狂姫。

 

【ぐぐぐぐぐぐううう】

 

 全身に包帯を巻いた異形達が素手でボクサーのブラックドッグを生きたまま解体し、それを眺めて高笑いを上げる屍王。

 

屍王

【ふははははははは!!】

 

ブルルル

 

【アオオオオン】

 

 そして、すぐ隣には長剣でグレートデンのブラックドッグを右斜めに斬り捨てる劔。

 

アオオオオン

 

 次々にやれらる仲間の敵というようにチワワのブラックドッグが刃と柄が一体化したような槍で近くにいた朧と美岬に突撃してくる。

 

朧、美岬

【【邪魔!!】】

 

【アオ、お、】

 

 朧と美岬の同時攻撃によって、チワワのブラックドッグの身体は十字に切り裂かれて臓物が溢れると同時に重力でその肉体も地面に落下する。

 

 チワワのブラックドッグの肉塊の落ちる音を背に朧と美岬は、まだ残っているブラックドッグたちに視線を向ける。

 

【ああ、まだいる!! …………ああ、あの女郎!! 幽冥お姉ちゃんと一緒にだなんて!!】

 

美岬

【ああ幽。幽が、白と一緒だから大丈夫だと思うけど、でも、あああ邪魔だ。邪魔だ!! お前たちのせいで!!】

 

 朧と美岬はほぼ八つ当たり(美岬は病みかかっている)に近いことを言いながら目の前にいるブラックドッグ達を殲滅する。荒夜たちがそんな朧たちの暴走を防ぐために付き添っていた。だが、その八つ当たりで敵の数を減らしているので、強く言えずに、その光景を眺めていた荒夜だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE凍

 妖世館の前にある結界の中心。そこには、結界の維持の為にいる蛇姫たちとその護衛が警戒して––––

 

「うーーん。頭がキーンとする」

 

 警戒して––––

 

「また腕を上げたの。凍」

 

【【感謝の極み】】

 

 警戒しておらず、結界の中心でひなと擬人態の紫陽花が凍から渡されたかき氷を食していた。そして、結界を張った蛇姫やその護衛達も。

 

【美岬様以外のかき氷は初めてでやすが、良い冷やし具合でやす】

 

蛇姫

【久しぶりに食すが、美味いな】

 

迷家

【うーーーん。このひんやりがたまらないね〜】

 

食香

【これがかき氷ですか?】

 

眠眠

【初めて?】

 

食香

【はい。この食感が良いですね】

 

【我にはちと少ないが】

 

常闇

【人の姿になれば、主にはちょうど良いはずだろう?】

 

 結界を維持するためにジッとしているのは退屈だろうと判断した私はあたりの警戒も分体でしながら蛇姫たちにかき氷を提供したのだが、それを目を覚ましたひな様が欲しがり、紫陽花様からの指示で、この場にいる全員の分のかき氷を凍は作った。

 かき氷は好評だった。まあ、元々氷を使った氷菓子や料理は得意だったので、それに関しては問題なかった。そして、そろそろ食べ終わりおかわりの催促がありそうなので皿を集めることにした。

 

【【では、皿を預かりますね】】

 

 そう言いながら、私は皿を集め始める。

 

食香

【おかわりをお願いします。………しかし、このかき氷、イチゴのシロップとはいえ妙に赤かったですね】

 

【【………】】

 

 食香の言葉を聞き、私は一瞬身を震わせるが、何事も無かったように食香から皿を取ると。

 

【【…では、おかわりを作って来ますので少々、お待ちください】】

 

 私は出された皿を集めて、妖世館の中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【【フウーーー】】

 

 館の厨房で私はかき氷を食べた家族から受け取った皿を置き、一安心というように息を吹く。

 

【【危なかった。やはりイチゴのシロップをもう少し増やすべきでした、危うくバレる所でした】】

 

 凍はかき氷に使う為の凍らせた()を砕きながらそのような事を呟き、皿の上に削った氷を乗せて、蛇姫たちや戻ってきた家族に出すためにかき氷を作り続けていた。その皿には、イチゴシロップを掛けてないのに真っ赤な(・・・・)雪が積もっていた。

 

 そして、暗い厨房の為に見えずらかったが、凍っていた氷の中が蝋燭の薄明かりで見えてくる。

 それは恐怖で顔を歪ませているプードルのブラックドッグと既に氷が削られて上半身しか残っていないキャバリアのブラックドッグだった。この2体は妖世館の側にまで忍び込むも、あたりを監視していた凍の分体に見つかり、凍は物音も立てずに2体を氷漬けにして始末した。

 顔が恐怖で歪んでるのは、暴れさせないためと叫ばれないように四肢と口元を始めに凍らせて、徐々に全身を凍らせたからだ。

 凍が突然かき氷を出したのもこれが理由だ。凍は紫陽花の住まう家にいた頃もこうやって家に侵入して来た猛士の人間を凍らせてこうやって、かき氷や氷菓子として出していた。これを知っているのは当時、家を守っていた南瓜のみで、南瓜は畏怖を込めてこう呼んだ『氷結の仕事人』と。

 

 凍は、削り終えた雪の山にイチゴのシロップを(先程バレそうになった事を考えて)たっぷりかけて出来上がったかき氷を持ち、削った氷には中身を隠すために大布を掛け、そして、結界の中心へと戻っていった。

 

SIDEOUT

 

 オセとその部下ともいえる数体のブラックドッグと戦っている幽冥と白は、オセの放つ禍々しいオーラによって強化された魔術による攻撃とブラックドッグとの連携による攻撃で苦戦していた。

 

【ど〜うし〜た。どう〜した!!】

 

 宙に描かれた魔法陣から無数の魔術が飛び出し、幽冥と白の動きを止めようとする。それを幽冥は太刀で消し飛ばし、白は鉄扇を盾のようにして防ぐ。

 動きの止まった2人の真上には、武器を持ったブラックドッグ達が飛びかかる。しかし幽冥は–––

 

拒絶の壁よ!! そして、纏いしものよ敵を討て!!」

 

 裾に仕舞っていた数枚の札を取り出して、高らかに言うと、ダイヤモンドのような結晶の壁がブラックドッグ達の前に現れて、攻撃を防ぎ、更に数枚の札をオセに向かって投げ、先程と同じように言うと札は炎や水、雷を纏った鳥へ変わり、オセに命中する。

 

 オセに当たった時に起きた煙が晴れると、傷もない(・・・・)オセが立っていた。

 それを見た幽冥たちは驚く。明らかに術が直撃したオセの身体には傷というものは存在しなかった。だが–––

 

【アオ、オオオン】

 

 オセのいる反対側にいるブラックドッグが先程の戦闘でつけた傷なのか、腹部を抑えながら、武器を構えていた。幽冥はブラックドッグを気にせずに、オセの傷がない理由を考えていた。

 幽冥が思いついたのは、オセの纏うあのオーラだ。オーラを纏っている間、自分の身体を直していると考えた幽冥は、裾から新たな札を出して、その札に向けて喋り、喋り終えると白の耳元にその札を投げる。

 すると札はピッタリと白の耳にくっ付き、術式が現れて、白に何かを伝えていた。やがて、札は耳から剥がれて下の方から塵に変わり札は消え去った。

 そして、何をすべきか分かった白は札に封じられた伝言の通りに幽冥の合図を待った。

 

【な〜にをす〜るか〜分か〜りませ〜んが、無〜駄な〜こと〜です】

 

 オセは再び、魔法陣を作り出し、その魔法陣から先程とは大きさも違う魔術を放とうとしていた。

 それを見て、幽冥は視線を白に送る。幽冥からの視線を合図に白は鉄扇に風を集めて、ソフトボールほどの黄緑色の球を作り出す。

 

「今です!! 王!!」

 

 白の鉄扇から放った風の球はオセの魔法陣にぶつかり、魔法陣ごと弾ける。腕の傷と纏っていたオーラが消えているのを確認した幽冥は太刀をオセに目掛けて振り下ろす。

 

「これで!!」

 

【あ〜ま〜〜い!!】

 

 先程与えたダメージは暫くは腕が動かせなくなるほどのダメージだ。そんな腕を動かし、さらには幽冥の太刀を掴むのは不可能のはずだ。

 だが、幽冥は見た、太刀を余裕で掴むオセの腕には先程まであった傷がいつの間にか消えていた。

 

「傷が消えていたのは、オーラが理由じゃなかったの」

 

【? そ〜うか。そ〜れ〜で。まあ〜、そ〜うだ〜な。ど〜うせ〜殺すな〜ら。

 お〜れの力を〜おし〜えて〜や〜る。お〜れの〜力は〜傷を〜移すこ〜と。ど〜んな〜傷も〜状態〜異常も〜味方〜に〜移し〜て〜自分の〜身体〜を治して〜万〜全にす〜る】

 

「っ!!」

 

 怪我や状態異常を味方に移して自身を万全にする

 それが、オセの能力『傷写しの魔鏡(ペイン・ギフト)』の効果。

 幽冥と白の攻撃を受けても傷がなく、側にいたブラックドッグがボロボロになっていく理由。この能力はオセが味方と認識している者に自分の怪我を移し、自身の身体を怪我や状態異常の無い綺麗で万全な状態にする。

 

 オセの身体から漏れる禍々しいオーラが傷を回復させていたと思った幽冥は、その答えに驚き、動きが止まってしまい。故に油断した幽冥はその身体に目掛けてくるオセの魔術攻撃を防げれず、左腕にもろに食らってしまい、武器の太刀も遠くに飛んでいく。

 

 先程の攻撃は魔術の呪いだったらしく、幽冥の左腕は赤紫色の鎖のようなもので封印を掛けらたかのように動かせなかった。

 その隙を見逃すオセでもなく、オセは無数の魔術を幽冥と白に向けて放つ。

 

 幽冥を守るように鉄扇でオセの魔術を弾く白だが、数が多すぎて鉄扇で防げずに攻撃を受けてしまい白はその場で動きを止めてしまう。

 そして、邪魔な守りが居なくったと思ったらオセはその手にオーラを集めて、巨大な禍々しい爪を幽冥に向けて走り出す。

 

 左腕がマトモに動かせず、太刀は自分から離れた場所に突き刺さっている。身を守る手段もなく。ゆっくりとオセが迫ってくるのを見て、幽冥は自分の命はもう尽きるのかと思った。だが–––

 

「(まだ死にたくない!!)」

 

 幽冥の心の叫びに呼応するかのように幽冥の胸元からバレーボールサイズの光の球が出てきて、幽冥の前の宙に浮いていた。

 すると、幽冥の身体から出てきた光の球が輝き始め、後もう少しで当てられた攻撃をオセは止め、爪に集まっていたオーラは霧散する。

 

【何だ〜そ〜れは!!】

 

 幽冥の手にある輝く球に目を塞いだオセは幽冥から遠ざかるように離れる。

 すると、オセが空中に留まるかのように止まり、周りにいたブラックドッグも投げたメス状の短刀と共に動きが止まりモノクロのような世界になっていた。

 

「これは?」

 

【うちらがちっと介入して、それの説明するためにちょっと止まってもらったんや】

 

「シュテンドウジさん。でも止めたって」

 

【まあ、今はそんなことはどうでも良い。それはお前の王としての力】

 

「ユキジョロウさん。って私の王の力?」

 

【そうだな。まだ完全な王でも無いのに、力に目覚めるって凄いことだからな。しかも能力が能力だ。なんかお前らしい】

 

「お前らしいって、イヌガミさん。そんな凄いんですか。この力?」

 

 幽冥は目の前にいるイヌガミに向けて聞くと。

 

【凄いってもんじゃねえ。なんせその力は『進化させる力』だからな!!】

 

「進化させる、力?」

 

 いまいちピンとこないのか幽冥はどういう意味か考えようとすると。

 

【そうです。貴女が家族と想うもの達を進化させる力】

 

 動物。魚。鳥。昆虫。植物。地球上に存在するこれらは過酷な環境に適応するため、子孫繁栄のため、外敵から身を守るため、効率よく餌を捕まえるためといった事で何世代にも渡って自分の身体を変化させて、それらに対応できるように生物は進化してきた。まれに遺伝子が突然の変異によって進化するということもあるが、基本的には前者の方が多いだろう。

 そして、生物とは少し違う部分もあるかもしれない魔化魍も進化することが出来るが、生物の進化と同じいや、下手をするともっとかかる時間によって身体を変化せさる。

 つまり幽冥の持つそれは、時間が掛かる進化に必要な時間を限りなく短くして、対象を進化させる力なのだ。

 

「だけど、この力を私は上手く使えるの?」

 

 しかし、幽冥はその力が上手く使うことが出来るのか不安だった。そして、オセと戦っている状況を変えられると思わなかった。

 

【確かにウチらの力を見てたらと思うかもしれんけどな。それは立派な力や。その力をどう使うかは、あんたの使い方次第や】

 

「私、次第?」

 

【そうや……………しかし、『この力』なんて呼び方はなんか嫌やな。名前が欲しくないか】

 

【そうですね。それは同感です。…………あえて、名を付けるのでしたら、魔進輝(まじんき)ですかね】

 

「魔進、輝?」

 

【そうです。『魔を進ませる輝き』。貴女のその力から考えた名ですがどうでしょう?】

 

「気に入ったよその名前。ありがとうフグルマヨウヒさん」

 

 魔化水晶の破片の中にいる王たちが幽冥の魔化魍の王として持つ力を説明し、幽冥はその力を理解し、意識が戻る。

 

「受け取って白!!」

 

 そう叫ぶと、幽冥は動かせる右腕で白に光の球を投げ、白は自分に目掛けて飛んでくる輝く球を受け止める。すると球から辺り一面を覆う光が溢れて白の身体を包み込んだ。

 

 光が爆発するかのように弾けると中から球を受け取った白の姿が現れる。

 

 黒かった髪は自分の名と同じ真っ白な長髪に変わり、新たに追加された銀の装飾の付いた白と黒のヴィクトリアメイド服、奇妙な字が描かれた左腕全体を覆うたっぷりとした白の布、種族的特徴でもあるような鱏の鰭に似た飾りの付いたブーツを履き、そして、右手の甲に幽冥の持つ王の証にも似た龍の痣があった。

 

「こ、これは?」

 

「私の力で白が進化した!?」

 

「進、化?」

 

「そう。私のなk【チクショおおおおお!!】………?」

 

 幽冥の言葉を遮るように叫び、2人は声の主の方を見た。

 

【お〜の〜れ〜!!! 魔化魍〜のお〜うめ!! こ〜の土た〜ん場で王の〜力に〜目ざ〜め〜るとは………ほ〜かの〜奴ら〜に〜はわ〜るいが、こ〜こで〜殺して〜やる、殺し〜てやる、殺してヤ〜ル、殺しテヤル、殺シテヤル、こロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル】

 

 間延びしたような声ではなくなり抑揚が消えて、壊れたラジオのように同じ言葉を吐き続け、ゆらゆらと禍々しいオーラを出しながら幽冥達のいるところに歩き出す。

 

「今はあいつを倒すのが先決だね」

 

「そうですね」

 

【【【【アオオオ、オン】】】】

 

 オセのオーラに触れてブラックドッグ達もオーラに包まれて、オセに続くように歩き、武器を構える。

 それを見た幽冥はユキジョロウの力を使って氷の苦無を無数に作り、白は服の下から2つの鉄扇を取り出して広げる。

 

「行くよ白!!」

 

「はい我が王!!」

 

 そして、幽冥と超妖姫に進化した白の2人は目を血走らせて、禍々しいオーラを垂れ流すオセと同じオーラに包まれたブラックドッグ達との最後の戦いが始まった。

 

SIDE白

 身体が軽い。まるで自分の産まれた水の中にいるときのように。

 

 白はイッタンモメンの妖姫である。

 彼女は水の中で童子と共に産まれて、イッタンモメンを育てる。イッタンモメン自体が水辺付近で育つ魔化魍であるのが理由なのか、白も水辺付近での戦闘が得意だ。

 妖世館のある山にはそのような水辺はあるにはあるが、戦っているこの場からでは遠かった。だが、彼女の動きは水辺で戦う時と同じ、いやその倍の速さである。

 そして、その速さの理由は、幽冥の魔進輝(まじんき)の力によって変異(進化)した白が会得した能力である水分操作が理由だ。

 この能力によって空気中の水分を左腕に巻かれた布に集めて、その水分を武器や布、身体に纏わせて、彼女が水辺で戦っている環境と同じ状態にしていた。そして、この能力によって強化された状態だからこそ、歴代の魔化魍の王とも戦ったことのあるオセとも対等に闘えていた。

 

 白は幽冥からの援護を受けながらオセに攻撃して、幽冥は使えない左腕を放っておいて、急所を狙った的確な攻撃をオセに当てているが、オセは側にいるブラックドッグの身体に能力を使って傷を移して、傷を治す。

 

 能力がバレた事と白が超妖姫になってから隠すかのように使っていた力をオセは使う。攻撃を受けては傷を治し、万全な身体の状態で攻撃を繰り返す。イタチごっこのように終わりがない戦闘に思えた。だが–––

 

【ア、アオ、オオ…オ……ン

 

 傷を移され過ぎたのが原因か、ブラックドックの1体の身体が崩れていき、そのまま塵にかえる。

 だが、私はそれには目をくれず目の前の(オセ)に集中する。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEオセ

 魔化魍の王(幽冥)によって進化した白と戦うオセは焦り始めていた。

 

 オセは禍々しいオーラを腕や爪に纏わせて攻撃するが、白は水分を多く吸収した左腕にある布を盾のように使って防御し、その隙に鉄扇に水を纏わせて舞うように戦う白の攻撃を受ける。

 オセの持つ能力は、味方がいるということと味方が目に映らないと傷を写すことが出来ないのだ。それを知っていてか知らずなのか、白のオセの顔を執拗に狙った攻撃と幽冥の眼を狙った氷の苦無は、オセの傷を味方のブラックドッグに移させないようにしていた。

 距離を取ろうとした瞬間に幽冥から札が飛んできてオセの移動を妨害し、ブラックドッグを呼ぼうとすればブラックドッグの脚に札が当たり、脚をカチンコチンに凍らされて移動出来なかった。

 焦りによって、動きに無駄が生まれ、受けるはずのない攻撃をどんどんと受けて、その身の傷を増やしていく。

 

 そして、白の鉄扇に集まる大量の水を見て、オセは勝負を仕掛けに来たと判断し、自分の爪先にオーラを集める。水が集まった鉄扇は倍のサイズになり、オセの爪は集まったオーラによって、周りが歪んでいた。

 白の鉄扇からポタリと水が地面に落ちた瞬間に、2人は動く。

 

「はあああああああ!!」

 

【ハアアアアアア!!】

 

 白の水を纏った鉄扇とオセのオーラを纏った爪は激しくぶつかる。だが、拮抗した力によって両者の武器は少しずつひび割れていく。

 

 バキィンとオセの爪によって白の鉄扇が砕け散る。

 

【コレデオワリ!! ナッ!!】

 

 そのまま爪を白の体に突きつけようとするオセ。だが、白の脚に溜まる多量の水を見て、鉄扇による攻撃は囮だと気付いた全ては自分の攻撃を確実に当てる為の。

 焦り、それによって視野を狭め、判断力を鈍らせたオセは白の鉄扇という囮の攻撃に見事に引っかかった。そして、オセは迫る攻撃に耐えられるようにするために能力で傷を移そうとするも、傷を移す為に側にいたブラックドッグ達は居らず、少し離れた場所で幽冥にいつの間にか首を切り落とされて塵になっていた。

 そして、オセは傷を移せない為に白の渾身の一撃をその身に受けた。

 

撥水脚(はっすいきゃく)!!」

 

 内部に蹴撃と共に送り込まれる多量の水はオセの血管に浸透して全身に行き渡り身体を膨張させ、膨らんだ風船を針で刺して割るかのようにオセの身体はポンっと弾け飛んだ。

 オセの弾けた臓物が雨のようにボタボタと降ってくる。幽冥はそんな中にいる白に向かって走り、白を思いっきり抱きしめる。

 突然のことで、一瞬固まるも直ぐに状況を理解した白は一瞬で顔は真っ赤に染まり、幽冥を抱きしめ返してた。

 

 9代目魔化魍の王 安倍幽冥

 イッタンモメンの超妖姫 白

 VS

 ゴエティア72の悪魔魔化魍 オセ

 

 勝者 安倍 幽冥&白




如何でしたでしょうか?
今回は、妖姫も変異態を作ってみました。原作でも鎧やらスーパーにとかなっていたのでいいかなと思って出してみました。
これの次がコラボ編の最終回になります。


ーおまけー
オセの設定です。
種族名:混合種 オセ
属性:黒
スタイル:幻
分類:等身大
鳴き声:なし
容姿:縁に金のラインが入った黒のローブを纏い、額には横一文字の傷がある赤い瞳の豹の
   頭の人型
能力:『傷写しの魔鏡(ペイン・ギフト)』。
   能力は、味方に自分の怪我や状態異常を移して自身の状態を万全にする
   オセが味方と認識している者にオセの怪我、状態異常をその味方に移し、自身の身体
   を怪我や状態異常の無い身体に変える。怪我を移された味方は移される前のオセと同
   じ怪我にさせられ、状態異常が移されれば同じ状態異常になる。
   また怪我や状態異常が蓄積され続けると移された者はその身が塵と化す。
特徴:『ゴエティア72柱の悪魔魔化魍』に連なるもの。歪種。
   序列は57、階級は総裁。
   真名は『負を収集する形なき鏡(Speculum informe negativa colligit)』。
   幽冥もとい歴代の魔化魍の王に激しい殺意を持っており、その理由は彼の主人である
   ゴエティアが関わっており、ゴエティアと共に歴代の魔化魍の王と戦っていた過去を
   持つ。
   間延びした喋り方で、気に入らないことで癇癪を起こす。人間を生贄にした魔化魍召
   喚や術を使った後方支援や、ゴエティアに連なるある魔化魍と組んで能力を使った接
   近戦を行う。
   魔化魍の王の話を聞き、自分の手足となるブラックドッグを召喚しようとするも失敗
   。別世界からきた酒呑童子から強化されて、ブラックドッグの召喚に成功。
   ある程度召喚すると3人の鬼とブラックドッグを引き連れて、幽冥を殺そうとするも
   、鬼が指示に従わなかったので、退却。その後に酒呑童子からさらに強化を受けて、
   鬼の洗脳強化とブラックドッグをさらに召喚する。
   再び、3人の鬼とブラックドッグさらに幽冥を気に入らない野良魔化魍を引き連れて
   妖世館のある山で戦闘を開始。
   だが、野良魔化魍、3人の鬼(2人だけ)、数十のブラックドッグは幽冥の家族に殲
   滅され、幽冥と白を発見して戦う。能力と酒呑童子に強化された力を使って、2人に
   圧倒するも王の力『魔進輝』に目覚めた幽冥によって白が超妖姫に進化し、形勢が逆
   転。最後は白の『撥水脚』を受けて、内側から身体が爆散した。
戦闘:生贄召喚術、様々な術、自身の傷を味方に移しての自己回復
   爪を使った近接攻撃、魔法陣から放つ弾幕による遠距離攻撃
CV:広瀬正志(スティンガー)


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拾 別れの時、さらば赤髪の男

はい。お待たせしました。
今回で覇王龍さんとのコラボ編の話は終了です。
そろそろ夏が終わり、秋が近づいてきました。口笛を吹くとよく響く私の好きな季節です。今回は、最初は宴会、中盤はあるキャラの話、最後は別れです。
では、どうぞ。


 72柱の悪魔魔化魍 オセとの戦いが終わり、妖世館では。

 

「僭越ながら王の代わりにこの白がやらさせて頂きます。えーーーでは、我々の勝利を祝して乾杯!!」

 

家族全員

【【【【【【乾ーーー杯!!】】】】】】

 

「「「「「「乾ーーー杯!!」」」」」」

 

 猛士以外での初めての魔化魍同士の戦いでの勝利を祝った宴会が開かれていた。

 料理は勿論、みんなの勝利を信じていたおっちゃんと茂久さんが腕によりをかけて準備してくれたピザや焼き鳥、おつまみ。それと何処からか持ってきた大量の酒類と子供用のジュース。

 戦闘員達が配膳や切れた飲み物のお代わりなどもしていたが、途中から私が『宴会に参加しなよ』と言って宴会に参加した。今では–––

 

「「「「……………」」」」

 

「「ううう」」

 

「「呑み過ぎです」」

 

 酔い潰れたのか、ぐわンぐわんと頭を揺らしながら、4人並んで樹に寄りかかる眼魔コマンド。そのすぐ横には同じように酔い潰れて、呻き声をあげる2人のクローズとそれを介抱しているクローズ。

 

「あははははは、本当ですか?!」

 

【本当だ。この頭蓋骨で酌するとな美味いだよ!!】

 

 ヒトカラゲは様々な場所で呑んでおり、此処には骸と一緒に呑んでおり、陽太郎さんから貰った水晶の頭蓋骨の1つで飲む酒は美味いという話をしている。

 

「ああん? 私の酒が飲めねえってのか!!」

 

灯籠

【いえ、そういうわけじゃあ……】

 

「じゃあ、呑め!!」

 

灯籠

【えええ】

 

「まあまあ、ここは私が酌をさせて頂きます」

 

「おお悪いな!!」

 

ボソッ「早く、離れた方がいいですよ」

 

   灯籠

ボソッ【感謝します】

 

 灯籠は絡み酒をする沼御前から助けてくれたヒトカラゲに感謝しながらその場からヒソヒソと歩いて離れた。

 

「美味い、美味い」

 

「当たり前だ。なぜなら〜それは私の「はいはい。特製竹でしょ」……そうです」

 

「睡樹様、お代わり」

 

「それしても、この短時間でよくこんなのが作れたな、ええと?」

 

「睡樹……だよ」

 

「そうだそうだすまんな」

 

 残った2人のヒトカラゲと幽吾さんの仲間の万年竹と二口女が睡樹の作った竹の煮物を食べて、感想を語っていた。

 

「うん? 王、何処へ?」

 

 酒を呑んでいた白が急に立ち上がった幽冥に質問する。

 

「少し、風に当たりね」

 

「ならば、護衛として」

 

 白はそんな幽冥に着いていこうとするが酒の呑み過ぎなのか、足が縺れてそのまま、尻餅をつく。

 

「そんな酔っ払ってるのに無理しないで、1人でも大丈夫だよ」

 

「し、しかし〜」

 

「じゃあ王の命令。ここで待ってて」

 

「そ、そんな〜」

 

 幽冥は泣きそうな声を出す白を置いて、そのまま宴会場から離れる。

 

 幽冥は別に酒を呑んでいた訳ではないが、その酒気に当てられて酔ったような状態になったので、風を当たりに宴会から少し離れた場所に来た。そして、何もない地面に腰を下ろして、手で顔を仰ぎながら酔いを覚ましていた。

 

 すると、幽冥の前にバチバチと青い電光が迸り、空間が少しずつ歪んでいく。酔いが覚めていなくても異常だと分かる幽冥は以前戦ったオセとは別の悪魔魔化魍の攻撃かと思うが、結果は違った。

 歪んだ空間に現れたのは、光すらも呑み込む宇宙の黒い穴のような黒い渦だった。

 幽冥はそれを見て気付いた。それは零士と幽吾たちをこの世界に送り込んだ謎の黒い渦だった。黒い渦はゴゴゴという音を出しながらその場に存在していた。

 そして、黒い渦の中から風で飛ばされてきたかのようにひらひらと何かが落ちてきた。

 幽冥は落ちてきたものが何かと見ると、それは一通の封筒だった。落ちている封筒を手に取り、中の物を落とさないようにされていた封をピッと指で切り、中から丁寧に折りたたまれた手紙を読んだ。読んだ直後に手紙を綺麗にたたみ、そのまま宴会の会場にいる零士と幽吾たちの元に向かった。

 

「大変だよ。大変!!」

 

「おお。どうした幽冥。ちょっと悪いが、そこの酒を注いでくれないか?」

 

「ああ、それは後でやりますけど、今はこれを聞いてほしいの出来れば零士も一緒に」

 

「零士も? 分かった俺が連れてくるよ」

 

 そう言った幽吾は遠くで、家族と呑んでいる幽吾の襟を掴むと、無理矢理引っ張り、ぐへっという声と共に引きづられてそのまま幽冥のいる場所に戻ってくる。

 

「何をするんですか!?」

 

 無理矢理首を掴まれて引きづられればそれは文句の1つも上げたくなる。

 

「まあ、理由は幽冥が説明してくれと思うし、まあ、そのまま座ってろ」

 

 だが、幽冥からその理由を説明されると聞いて、渋々納得して幽冥の方に顔を向ける。幽吾のやった事で零士に苦笑するも、幽冥は折りたたまれていた手紙を広げて、目の前にいる零士と幽吾にその内容を伝えるために読み始める。

 

「言い、よく聞いてよ。『これは君達の居た世界に通じる入り口だ。渦に入れば、君たちがこの渦に入った時と同じ時間に戻れる。渦は明日の正午に消滅する渦に入らなければ、2度と元の世界に帰ることは出来ない』と………私はもしも元の世界に帰りたいと言うなら別に引き止めはしないし、考えは各々の自由。

 だけど、絶対に後悔をしない選択してください。私はその選択の意思を尊重します」

 

 幽冥は手紙に書かれていた文に書かれていることをそのまま零士や幽吾たちに聞かせ、読み終わると自分の考えを伝えた。それを聞いた零士と幽吾、そしてその家族と仲間はどうするかと悩んだ。そして、零士とその家族はそのままこの世界に残ることを決めた。一方、幽吾とその仲間は元の世界に帰ると言った。

 明日の正午。それが幽吾たちがこの世界に居られる時間だった。

 

SIDEヌリカベの妖姫

 明日で私は自分の居た元の世界に戻る。それまでに、この世界に留まるのかそれとも元の世界に戻るのかを決めねばならない。

 時間の少なさに焦りを覚え、フラフラと館の中をあっちへこっちへと歩く。

 

 フラフラと歩き続け、私は少し作りの違う扉を見つけて、その中に入った。

 そこは変わった部屋だった。部屋の中は、質素だった。適度に掃除されているのか埃は1つもないが、置かれている物も少なかった。簡素な布団、一般的な大きさの箪笥、ポツンと置かれた置き時計といったものが置かれている。

 そして、1つだけ、他とは違うように置かれている物があった。それは、南国に生えるヤシから生るヤシの実を小さくしたようなペンダントが赤い布の上に綺麗に置かれていた。私がそれに手を伸ばそうとすると–––

 

「人の部屋に許可なく入るのは不躾だと思いますよ」

 

 後ろから聞こえてきた声に驚き、後ろを見ると、扉に寄りかかるようにして立ち、私をジッと見つめるクラゲビの妖姫こと赤がいた。

 

「す、すいません勝手に入ってしまい」

 

「………はあー。いいよ鍵を閉めていなかった私が悪いし、今回のところは何も言わないわ」

 

「ありがとうございます」

 

 赤が扉を閉めて、そのままヌリカベの妖姫を引っ張り、床に無理矢理座らせる。

 

「それで、どんな悩みがあるの?」

 

「え?」

 

 突然の質問に驚き、ヌリカベの妖姫は驚きの声をあげる。だがそれに対して赤は。

 

「いや。そんな明らかに悩んでますって顔をされたら誰でもそう思うわよ」

 

 ヌリカベの妖姫は観念したというような感じで話し始める。

 

「私は貴方達の王。いや安倍 幽冥様に恋をしているんだと思います」

 

「ふ〜〜ん」

 

「………えっと、自分で言うのもなんですけど結構すごいこと言ったと思うんですけど」

 

「ああ別に凄いことにじゃないよ。だって私も王にはそういう気持ちがあるからね」

 

「ええええええ!!」

 

 赤の口から言われた事に驚くヌリカベの妖姫。次に赤の言ったことで更に驚く。

 

「それに王に恋しているのは私だけじゃないよ。少なくても他に3人はいるよ」

 

「3人もですか!?」

 

「ええ」

 

「………そうですか。やはり、王というからにはそれ程の魅力あるんでしょうね。その3人、いや赤さんも含めたら4人に比べたら私のような地味な姫には見向きもしないんだろうな。

 はあー、やっぱり私は幸薄な不幸な妖姫なんだろうな、それだったら元の世界に戻って幽吾さん達と旅を続ける方がいいかもしれませんね。ふふふふふふ」

 

 目に見えて落ち込み、明らかにヤバいオーラが出始めているヌリカベの姫に赤は見かねてか。

 

「…………じゃあ、そんな同じ人が好きな貴女に私から一言言わせてもらうわよ」

 

「ふふふ………え?」

 

 赤の言葉を聞きヌリカベの姫のオーラは自然と薄くなっていき赤はそんなヌリカベの姫に向けて言った。

 

「自分の胸の気持ちに正直になりなさい!!」

 

 赤のその言葉を聞いたヌリカベの姫はポツンと空いていた胸の穴にストンと何かがはまったような感じがした。

 

「………ありがとうございます」

 

 ヌリカベの姫は、そのまま礼を言うと扉を開けて何処かに向かって走り去った。

 おそらく、胸の内に決まった事を仲間に伝えに言ったのだろうと赤は考えた。そして、赤は走り去ったヌリカベの姫の背中を思い出しながら呟いた。

 

「あーあー、またライバルが増えちゃうんだろうな」

 

 だが、そんな事を呟いている赤の顔はどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、別れの時が来た。

 

SIDEOUT

 

 太陽は既に真上辺りまで昇った時間。妖世館の入り口の近くに現れた黒い渦は最初の時に比べると少し小さくなっていた。黒い渦の前には自分たちのいた世界に戻るために幽吾達がおり、それを見送るために一部の家族と零士たちがいた。

 

「元気で過ごしなさい」

 

「うん」

 

【大丈夫だ、それよりも、元気でな】

 

「…………ああ」

 

 沼御前はここに残る事を決めたヌリカベの姫に別れの言葉を言い、ヌリカベの姫の側にいたヌリカベは片車輪に別れの言葉を言い、沼御前と片車輪は黒い渦の中に入る。

 

睡樹

【こんなに…いっぱい……本当…にいい……の?】

 

「いいとも。なぜなら〜君の育てた竹を食べて思った。この竹は私が育てたものよりも美味い。この特製竹をさらに君が高めるとみた。これはその投資みたいなものだ」

 

睡樹

【あり……がとう!!】

 

 睡樹は万年竹から昨日作っていた竹料理に使った竹の苗を数本貰っていた。感謝の言葉を聞いた万年竹は、睡樹に手を振りながら渦の中に消えた。睡樹は早速、受け取った苗を埋めに畑の方に走っていった。

 

三尸

【最後の最後にやりやがったな!!】

 

「逃げろぉ!!」

 

 家鳴りは追いかけてくる三尸から逃げるために急いで渦の中に飛び込み、そのまま消えた。

 渦の方を睨むも、直ぐにやめて尻尾にある提灯を見る。そこには、油性で書かれたハートマークがあり、尻尾を見た三尸は溜め息を吐いた後にとぼとぼと妖世間の方に戻った。

 

「お世話になりました」

 

「いいや。世話になったのはこっちだ。店手伝ってくれてありがとうな」

 

【本当だよ。いや〜助かった】

 

 おっちゃんや憑と喋るのは、この妖世館にいる間、茂久とおっちゃんの店の手伝いをしてくれた二口女だ。

 

「良いんですよ。あ、それとお礼とかは要りませんからね」

 

「まあ、君はいいかもしれないけど僕達は君にお礼をしたいだよ。そこでだ。乱風」

 

乱風

【よっと、これはそのお礼です】

 

 茂久に呼ばれて来た乱風が咥えているのは、大きな風呂敷だ。乱風は二口女の側に立って、その風呂敷を二口女の前に突き出す様に出す。

 

「これは?」

 

「俺たちの作ったもんさ、向こうに着いた時に食いな」

 

「ですからお礼は要らないと」

 

「いいや。これはお礼じゃねえ。あんた達が向こうで食べれる様に作った弁当さ」

 

「弁当?」

 

「まあ、一般的な弁当とはちょっと違うけど。これなら君も断れないと思ってね。君個人だけじゃなく。君の仲間の分もあるんだから」

 

「はあーー。そこまで言うなら分かりました」

 

 二口女は風呂敷を乱風から受け取り、そのまま渦の中に消えていった。

 

【あやつが元気にやってることが分かって。良かった、すまんがこれをあいつに渡してやってくれ】

 

美岬

【これは?】

 

 美岬は然王から渡された少し汚い白い包帯の様な布で覆われた物を渡され、それについて質問すると。

 

【あやつに渡せば分かる。それまでよろしく頼む】

 

 然王は『あやつ』と言う誰かに渡せば、分かると言って、そのまま頭を下げる。

 美岬はその姿を見て、渡された物を置いた後に言う。

 

美岬

【分かりました。必ず渡させてもらいます】

 

【ありがとう】

 

 然王は美岬に礼を言って、渦の中に入った。

 

「世話になった。この刃は餞別に貰って欲しい」

 

荒夜

【しかし、その刃はかまいたち殿の身体の一部であり武器だ。それを貰うなんて】

 

 かまいたちが話していたのは、荒夜だ。彼とは、この妖世館で世話になっている際に新技の開発の手伝いをしていた。また、かまいたち自身も新たな技を身につけて、お互いに良い鍛錬になったと思っている。だが、かまいたちは自身の腕でもあり武器の刃を折り、荒夜に渡そうとしていた。

 

「心配するな。刃はまた生える。それにあの新技は2振りなければ使えない。なら、この刃を使って小太刀を作ってくれれば、それが君の力になる。新技が出来たのは君との鍛錬のお陰だ。だから受け取って欲しい」

 

荒夜

【そこまで言われては仕方ない。この刃はありがたく頂戴する】

 

 そう言った荒夜はかまいたちの刃を受け取り、それを見たかまいたちは風と共に渦の中に消えた。

 

【本当にありがとうございました!!】

 

【お役に立ったようで良かった。まあ、お陰でこの通りだけど】

 

 そう言ったカワウソの背中の甲羅は本来ならズラリと並んでいる大量の棘が1本も無くなっていた。これの理由は、蝕は薬作りの一環で、カワウソの背にある甲羅の棘を『薬になるかもしれない』と言って、砕いた粉末を『ある薬』に混ぜた結果、劇的な変化を起こした。その結果を知った蝕は交渉して可能な限りの棘を貰おうとして、結果的にはカワウソの甲羅の棘は全て蝕の薬の材料となった。

 

【す、すいません。ほんの少しだったのに結局全部抜いてしまい】

 

【まあ、ほどほどにね】

 

 そう言ったカワウソは何処か蝕から逃げるように渦の中に入り、消えた。

 

 大かむろは、のそのそと渦に近付こうとすると、その足を止めるように3つの影が現れる。

 

「蛙さん蛙さん」

 

「これ、プレゼント」

 

「みんなで集めたの」

 

 現れたのは、ひなと波音、潜砂の3人だ。彼女達が大かむろにプレゼントを渡す理由はこの妖世館にいる間、大かむろはこの3人の面倒をよく見てくれていた。

 それを見ていた黒が3人にお礼を渡してと言い、3人は妖世館の側にある山で花を見つけて、それを束にして花束を作った。代表のように色鮮やかな花束を持って大かむろの前に出るひなが大かむろに花束を差し出す。大かむろはひな達の側に寄り、花束を小さな手で持つと、ひなはその手を離し、3人揃って、嬉しそう顔をしていた。

 大かむろは、受け取った花束を大事に持ちながら渦の中に入った。

 

 仲間達が黒い渦に入って、最後の1人になった幽吾は渦に入る前に幽冥達の方に顔を向けた。

 

「世話になったな魔化魍の王。それから魔化魍達、ほんの少しだけだったが楽しかったぜ。そして、そこの少年」

 

「!?」

 

「次会う時は、もっと強くなってろよ」

 

「はい。強くなってみせます。貴方よりも」

 

「…………ふふふ、ははははは!! 俺よりも強くか大きくでたな。なら、その言葉を必ず実現しろよ。………じゃあな。またいつか会おうぜ」

 

 笑いながら幽冥たちに別れといつかの再会の言葉を言った幽吾は密かに零士の肩に座るハハマナコこと零華に別れの視線を送り、ハハマナコはそれに気付いて、手を振る。幽吾はそれを見て黒い渦に入った。渦は幽吾が入るのを待っていたかのように徐々に小さくなっていき、やがてその姿を完全に消した。

 こうして、赤い髪の青年とその仲間達は、仇の敵を追うために自分たちの世界に帰り、残った白髪の少年とその家族、赤髪の青年の仲間だったヌリカベの妖姫とヌリカベは、幽冥の新しい家族となった。




如何でしたでしょうか?
今回のこの話で覇王龍さんとのコラボ回は終了になります。
零士達とヌリカベ、ヌリカベの妖姫は幽冥の家族になりました。
そして、今回の投稿でしばらく投稿を休まさせてもらいます。次回の章の見直し及び加筆と安倍家の魔化魍 肆の巻と安倍家の魔化魍 変異態&幻魔転身集 壱の製作をしようと思います。次回の投稿は今の所未定です。時間はかかるかもしれませんが、必ず完結させます。
こんな作者ですが、これからも人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。をよろしくお願いします。


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九州地方編
記録捌拾壱


大変お待たせしました。
今回から新章、九州地方編になります。新たな魔化魍、活躍する家族達をどうぞお楽しみに!!


SIDE◯◯

 人気が全くない夜のように辺りが暗い山。その山の中で駆けていく影とそれを追う4つの影。

 

【はあー、はあー。くそしつこい奴らだ!!】 

 

 駆ける影は手に持つ長斧でいくつもの樹を切り倒して、後方にいる追跡者の影たちに樹を投げつける。樹が投げられて動けなくなる影たちを見て、追いかけられていた影はその場から急いで逃げる。

 

【くそっ!! なんて今日は運がないんだ!!】

 

 影はボヤきながら、山の奥に消えるように走り去った。

 

「魔化魍め。逃げられると思うな!!」

 

「落ち着け!! まずは樹を退ける。ジッとしてろ」

 

「大丈夫さ。この山は包囲されてる。そうそう逃げられないさ」

 

 影の2人いや鬼の2人は、そのまま樹に脚が挟まった鬼を助ける為に逃げた影いや、魔化魍をもう1人の鬼に任せた。

 

SIDEOUT

 

 幽吾たちが元の世界に戻って数週間が経った。

 この世界に残った零士たちとヌリカベこと砦、ヌリカベの妖姫こと灰は問題なくこの妖世館での家族たちとの生活に馴染んでいた。

 

 零士は荒夜から剣術を指南して貰っていた。

 元々、多少の剣術を母親のハハマナコから教わり、独学で今の剣術になった零士は、閃居合流だけでなくオリジナルの剣技を使う荒夜と話が合い、更には長年、鬼と戦っていた荒夜に剣術の指南を頼み、荒夜も『磨けば強者となる』と言い、喜んでその指南の申し出を受けた。零士がこのような修行を前の世界ではしなかった。

 木端妖怪は大抵、特殊な能力を使われない限り、一刀で仕留めた。だが、この世界に来る前に戦った大妖怪やこの世界に来て戦った荒夜や劔などとの戦いで受けた敗北が彼を成長させた。前の世界でしなかったことをこの世界でする。

 そして、強くなりこの世界から元の世界に戻った(幽吾)にいつか強くなった自分を見てもらいたいと、その思いを胸に零士は今日も剣技の指南を受けていた。

 

 ハハマナコは剣技の指南をしていて荒夜に話せない狂姫の話し相手をしていた。

 初めは警戒をしていた狂姫も裏表もなく、ただ話を掛けるだけのハハマナコに警戒は馬鹿らしくなり、話し始めたら。狂姫がかつて人間だった頃の母親を思い出し、その懐かしさに普段のパニックが起きることも無く。それ以来、荒夜が零士に指南をしている時はハハマナコと話すようになった。

 最近は、どうやったら荒夜との稚児を授かれるかと零士を産んだハハマナコに質問しており、その度にハハマナコは『時が来るのを待つだけ』と優しく言っていた。

 

 白蔵主は、悪知恵を活かして家族達を利用して何かをしようとするが、その前に零士や土用坊主に捕まって、土の中に埋めれたるといった日々を過ごしている。

 だが、1度だけ零士や土用坊主の隙を突いて、擬人態の姿の羅殴と食香を連れて何処かの祭りで的屋をやったら、かなりの客が店に入ってくれたらしく、その稼いだお金の一部を白に渡し、『適正的な価格で行うのならばやっても良い』と白が許してくれたおかげで、今では、地方の祭りの前には人間向きの様々な道具を羅殴や蛇姫、美岬といった者たちに作って貰い、それを的屋で出しているようだ。因みに、羅殴は的屋の店員で、食香は客寄せ、白蔵主は店長としてやっているらしい。

 

 山蜥蜴は、戦闘狂な家族である暴炎や拳牙、屍、世送と修行という名の喧嘩をしている。

 普段、館の防衛や戦闘がないという状況から戦えない戦闘狂達はここぞとばかりに戦い、度が過ぎた結果、白や食香、零士、ハハマナコと言ったメンバーにまとめてのされて、鎖で縛った山蜥蜴たちを白がいい笑顔で持っていき、ここ最近は山蜥蜴たちの姿を見ていない。

 ただ、唐傘、葉隠、凍といったメンバーが盆に載せた複数の料理を持ちながら何処かへと向かっていく姿が目撃されるようになった。

 

 濡れ女こと濡川 雫は、白や朧、美岬といった者たちとこそこそとどこかの部屋に向かう姿がよく目撃されており、たまたま通りがかり部屋で何を行なっているのか調べようとした戦闘員従者の群青鎧Bと黒帽子Cは、その時の記憶がなく、中で何があったのかは覚えていないらしく。

 ただ、白たちを見た際にブルブルと身体が震えている事から白たちが何かをしたのは間違いないと私は思っている。

 

 一目連ことひとみは、似た体付きをしている鳴風や兜から夜な夜な空に出ては、戦闘機のような複雑で戦闘に有効な飛び方や、上空から奇襲の仕方などを教えているらしく、『お父さんやみんなのために強くなりたい』と言って頑張っているようだ。

 それでもまだ成長途中の子供なので、キリの良いところでやめさせて、鳴風と兜が景色の良いところに連れて行き、おやっさんや茂久の作った弁当を喰べているようだ。

 

 土用坊主は、白蔵主のこと以外では、睡樹の畑の手伝いをしていることが多い。

 元々が土用(四季の終わりの18日間)の時期に現れる土の民間神で土の扱いには手慣れており、睡樹に農作物の知識を教えたり、畑の畝を作ったり、耕したりしている。布袋で隠している顔が気になって取ろうとしたものも居たが、零士やハハマナコ、ひとみにこがね、更には普段は仲の良くない白蔵主に止められて、取ろうとするものは居なくなった。

 

 金魂ことこがねは、小判の鱗や『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』で頂いた転生者を金に変えて、それら質屋に売って、そのお金でひとみや鳴風や睡樹、波音、潜砂といった子供に近い精神の家族に色々と買ってくれたりしている。買って貰った子達が『こがねお姉ちゃん』と呼んで、『お姉ちゃんと呼ぶな』と言うも、その頬は朱色に染まっていた。

 

 かじかばばあこと鍋婆は、妖怪でありながら機械を弄ることが出来る。

 最近では、発売されて間もないデジタル機械の操作を羅殴や迷家や従者の妖姫や戦闘員従者達に指導したりしている。

 因みに似た外見をしているヤドウカイの朧を見た際に『懐かしい』といっており、その理由も朧にだけなら教えてあげると言っていた。

 

 ほうこうは、館の端に小さな木の小屋を作って、そこで漬け物を作っている。

 出来上がった物をよく、おやっさんや茂久に試食してもらっている。この館が山奥にある場所のために気温が漬け物を漬けるのに適温と言って、豪快に笑っていた記憶が新しい。

 因みに野菜は睡樹が育てた野菜を使っているらしく、『今まで漬けた野菜の中で最高の物だ』と、ほうこうは喜び、睡樹はそれを聞いて、少し照れていた。

 

 灰と砦のヌリカベ親子の2人は、灰は手の足りないところに手伝いに行き、砦は顎の手伝いをしている。

 

 そして、そんな私が今何をしているのかというと。

 

「お邪魔するよ蛇姫」

 

「お、邪魔、しま、す」

 

カッカッカッカッカ

 

 今、訪れたのは蛇姫が術を使う札の開発の為に使っている仮の部屋。ちゃんとした部屋を用意したいけどまだ出来てない為に、迷家に頼んで、妖世館の一部の空間を弄って、蛇姫の部屋を作った。

 

蛇姫

【ようこそ王。少し散らかっていますがどうぞ】

 

「まあ、そんな長居するわけじゃないし大丈夫だよ。それで、札の開発は順調?」

 

蛇姫

【順調……とは言えないですね。仮で組んだ術式は出来たのですが】

 

「それって、これ」

 

 蛇姫の側にある机の上に並べられた札の1つを取って蛇姫に聞く。

 

蛇姫

【はい。そうなのですが…………王よあまり無闇に持たないでください。迂闊に触って何か事故があったら】

 

 事故があるんだと思いながら、触っている札のことで蛇姫から注意を聞いていると、あれ、意識が–––

 

【申し訳ございません。少し身体を借ります】

 

 そんな声が聞こえると、幽冥の意識は心の奥に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

蛇姫

【王よありがとうございます。王の助言のお陰で何とか作る事ができました】

 

「………………あれ、私何をしていたの? うわ、札の文字がいつの間にか増えてる!?」

 

 急に意識を失い、目を覚ますと先程取った札には無かった術式がいくつも増えていた。

 

蛇姫

【え? その札は王の助言があって出来たのですが】

 

「私が? ……………それは多分、歴代の王様の誰かが私の身体を使ってやったんだと思う」

 

 この現象はすでに何度か経験している。『魔化水晶』の中にいた王たちは時々、私の身体を勝手に使って何かをしている。だが、王たちが何かを終えた後に意識が戻り、何処にいるのか分からない状況の上に、記憶が共有されていないので、本当に何をしているのかといつも思っている。

 今度、夢の世界で会うことがあったら聞いてみようと私は思った。

 

蛇姫

【おそらく、2代目の王であるフグルマヨウヒ様が王の身体を借りて、助言をしてくれたんだと思います】

 

「フグルマヨウヒさんが?」

 

蛇姫

【そうです。フグルマヨウヒ様は歴代の王の中で術に対しての知識が豊富で、今の時代にある幾つかの術もフグルマヨウヒ様が編み出した術もあります】

 

 私は2人のフグルマヨウヒさんの話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 そうしてフグルマヨウヒさんの話を蛇姫から聞いた私は札を見ながら、蛇姫に質問した。

 

「そう言えば蛇姫。これってどうやって術が発動するの?」

 

蛇姫

【ああ、それは発動させるには、行きたい場所のイメージを持って札を地面に落とせば術が発動するのです】

 

「へええ、じゃあ私が魔化魍の居そうな場所に転移したいと思えば、そこに行けるの?」

 

 そうだとすれば、早速使って、新しい魔化魍に会いたいと思った。

 

蛇姫

【まあ、行けると思います……ただ、完成したばかりで、おまけにその札を使った実験をしてないので、まだ明確な転移が出来るのか分からないのです】

 

「そうなんだ…………あれ?」

 

蛇姫

【王、如何しました?】

 

 何も起きないなと蛇姫が言っていたが、突然、札が小刻みに震える。

 

「え?」

 

 震えた札が床に落ちると札は、落ちた場所を中心に凄まじい光が覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、光が治ると見えたのは、館の中ではなく何処かの森の中だった。

 

「ここ何処?!」

 

シュルゥゥゥゥ カッカッカッカッカ

 

 そんな幽冥の声を巻き込まれて一緒に転移した2人の家族は苦笑した様な鳴き声で返した。

 

SIDE蛇姫

 以前作った『転移の札』。あれの改良版を最近作ろうとしているが、なかなか上手くいかない。

 元々は転移の術式と目的とする場所を記して、それを術の素養のある者が贈る人数を囲える大きさの五芒星の陣の点の上に配置して術者が術を発動させるという割と高度な術で、それらの工程を全て札1枚に込めるのが難しい。原段階での完成率は5割くらい。これが7割くらいになれば、試作の『転移の札』が出来るだろうと私は思う。

 

 作ろうとしている理由は単純。

 王がそれを望んでいるから。

 

 我らの新たな王は人間だ。しかし、普通の人間とは違った。

 遥か昔から人を喰らい、恐れを生み出した我ら『魔化魍』を家族と言い、種族としての名前ではなく、1人1人に確固たる個としての名前を与えてくれている。歴代の王の中には家族のように接する王も居たが、それでも種族としての名前で呼ばれていた。だが、新たな王は種族の名ではなく、個としての名前で呼ぶ。それが我らは堪らなく嬉しい。

 

 そんな王が言った。

 『便利な術なのに、準備と必要な者が居なければ使えないのは勿体無い』と、確かにこの術は準備とそれを行使するのに必要な数がいる。それを簡単に誰でも使える様になれば、誰でも転移できるようになる。

 そうこう考えながら、難航している札の術式を弄っていると扉が開いた。

 

「お邪魔するよ蛇姫」

 

「お、邪魔、しま、す」

 

カッカッカッカッカ

 

 その王の後ろから続くのは今日の王の護衛として付いてる睡樹と南瓜だ。

 

蛇姫

【ようこそ王。少し散らかっていますがどうぞ】

 

「まあ、そんな長居するわけじゃないし大丈夫だよ。それで、札の開発は順調?」

 

蛇姫

【順調……とは言えないですね。仮ですが組んだ術式は出来たのですが】

 

「それって、これ」

 

蛇姫

【はい。そうなのですが…………王よあまり無闇に持たないでください。迂闊に触って何か事故があったら】

 

 蛇姫は札を持つ幽冥に注意する。しかし、幽冥は札を戻さずにそのまま札に描かれていた術式を見ていた。そして一言呟く。

 

「この札の術式を少し弄れば、『転移の札』は作れる」

 

蛇姫

【え?】

 

「先ずは、その仮の術式を消して、この札の四隅に東西南北と時計右回りに書いてください」

 

蛇姫

【は、はい!!】

 

 私は札の術式を消して、王の言う通りに札の四隅に書いた。

 

「では次に札の中央に鳥居を描き、その鳥居を一周する様に注連縄を描いてください」

 

蛇姫

【こうですか?】

 

「そうです。なかなか上手いですね。では、次からが難しいですよ」

 

蛇姫

【はい】

 

 それから私は王(?)からの助言を聞きながら札に術式を変える作業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 そうして、王からの数々の助言を受けて、30分。札の術式を変えていったら–––

 

蛇姫

【…出来た】

 

 そうついに完成した。『転移の札』が。

 

蛇姫

【王よありがとうございます。王の助言のお陰で何とか作る事ができました】

 

「ふふふ。いいえ。私も久々に楽しまさせて貰いました。やっぱりこういうのは良い、もの、ですね………………あれ、私何をしていたの?

 うわ、札の文字がいつの間にか増えてる!?」

 

 私が感謝の言葉を述べると、完成した札を見ながら笑みを浮かべていた王は先程までしていたことをまったく覚えておらず、手にある札に描かれた術式が増えていたことに驚いていた。

 

蛇姫

【え? その札は王の助言があって出来たのですが】

 

「私が? ……………それは多分、歴代の王様の誰かが私の身体を使ってやったんだと思う」

 

 王の言っていることによると、歴代の王たちは時折、王の身体を借りて何かをしていることがあるらしくその間は、記憶がないらしい。

 

蛇姫

【おそらく、2代目の王であるフグルマヨウヒ様が王の身体を借りて、助言をしてくれたんだと思います】

 

 その話を聞いた私はおそらく王の身体を借りていた王の正体を言う。

 

「フグルマヨウヒさんが?」

 

蛇姫

【そうです。フグルマヨウヒ様は歴代の王の中で術に対しての知識が豊富で、今の時代にある幾つかの術もフグルマヨウヒ様が編み出した術もあります】

 

 私はフグルマヨウヒ様のことを王に聞かせ始めた。

 そして、この時、話をしている蛇姫も話を聞いている幽冥も術の描かれた札を眺めていた睡樹も睡樹の見る札の解説をする南瓜も幽冥が握っていた『転移の札』に、幽冥の腕から出た黒いもやを札が吸収していた光景を見ていなかった。だが、何かが起きようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば蛇姫。これってどうやって術が発動するの?」

 

 まだ試作の段階だが完成した『転移の札』を見ながら王が私に聞く。

 

蛇姫

【ああ、それは発動させるには、行きたい場所のイメージを持って札を地面に落とせば術が発動するのです】

 

「へええ、じゃあ私が魔化魍の居そうな場所に転移したいと思えば、そこに行けるの?」

 

蛇姫

【まあ、行けると思います……ただ、完成したばかりで、おまけにその札を使った実験をしてないので、まだ明確な転移が出来るのか分からないのです】

 

「そうなんだ…………あれ?」

 

蛇姫

【王、如何しました?】

 

 何も起きないと思われていたが、突然、札がプルプルと震えて王はその振動で札を誤って地面に落とすと、札から光が溢れて王と睡眠と南瓜を包み込む。

 

「え?」

 

シュルゥゥゥゥ カッカッカッカッカ

 

 王と睡樹と南瓜のそんな声と共に試作として作った札は込められていた術が発動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、術の発動した札の衝撃で発生した煙で目を塞がれて王たちの姿が確認できない。

 煙が消えると同時に蛇姫は声を上げる。

 

蛇姫

【王、王!! 睡樹! 南瓜! 無事ですか!? これは!!】

 

 蛇姫が見つけたのは、効力を失ったのかボロボロになり、半分に破けた札が幽冥たちのいた場所に落ちていた。

 

蛇姫

【ああ、どうすれば………早く転移先を……王がどこに飛んだのかを調べねば。朧と美岬、それに白と赤に何をされるか!!】

 

 それを見て、何が起きたのか理解した蛇姫は術の効果が切れて、ボロボロの破けた紙になっている札を集めて、幽冥たちが何処に飛んでいったのかを調べ始めた。

 勿論、この後に蛇姫は突然の音で部屋にやってきた白や赤たちに幽冥たちに試作の『転移の札』を見せていたら暴発してしまい行方不明になったことが知られて、ドギツいお仕置きをされるのは言うまでもない。

 

SIDEOUT

 

 森の中で響く金属同士の音。そこには追いかけられていた影こと魔化魍とそれを追いかけていた鬼が互いの長斧と普通の音撃棒よりも機械寄りな音撃棒を振るって、火花を散らせる。

 お互いの持つ長斧と音撃棒を間に挟みながら両者は互いを睨み合う。

 

【(早くこの鬼を撒かねば)】

 

 長斧を持った鰐の姿をした人型の魔化魍は、目の前の鬼を相手にする暇はない。

 彼には任務があり、その任務を果たすためには、このような場所で足止めを食らう訳にはいかない。鰐の人型魔化魍は口を閉じるとそこに何かが溜まるように口全体が膨らんでいき、口を開いた瞬間、口の中に溜め込まれた水が水流となって鬼の面目掛けて、一直線に発射される。

 

「ウオ!!」

 

 面越しとはいえ突然水が顔を覆えば、誰でも目を瞑ってしまうだろう。そんな隙をついて、鰐の人型魔化魍は長斧の柄を使って鬼を殴り飛ばす。

 

 

 鰐の人型魔化魍は殴り飛ばした鬼を一瞥した後に残りの鬼に視線を向けると、先程まで3人いた筈の鬼は2人になっていた。

 2人の鬼に警戒しながら鬼を探していると、突然目の前の地面が盛り上がり、その盛り上がった地面から勢い良く飛び出た音撃弦が鰐の人型魔化魍の腹に突き刺さる。

 

【ガフッ!】

 

 鬼の持つ音撃弦の一撃が腹に響き、自身の武器である長斧を落とし、音撃弦に貫かれた傷を抑え、そのまま地面にうつ伏せに倒れ伏す。すぐ目の前にある長斧を掴もうと、手を伸ばすが––––

 

「さっきはよくもやってくれたな!!」

 

 先程殴り飛ばした鬼が長斧を遠くに蹴り飛ばし、長斧に伸ばしていた手を踏みつける。

 

【ぐうう!!】

 

 鬼達は集まって、地面に倒れる鰐の人型魔化魍に執拗な攻撃を加えた。

 

 

 

 

 

 

 それから鰐の人型魔化魍は鬼たちの攻撃を受け続け、少しずつヒビが入っていく。

 腹に受けた傷からは白い血を垂らし、鰐独特の鱗は剥がれたり、割れたりと元の姿からはかなり離れた姿に変わった鰐の人型魔化魍は、小さな呻き声を上げながら薄れそうな意識をなんとか保っていた。

 鬼たちは痛めつけるのに飽きたのか、肩で息をしながら隣にいる鬼に言う。

 

「はー、さっさと止めをさしちまえ」

 

「はー、はー、そうだな」

 

 ボロボロな姿になった鰐の人型の魔化魍の頭に足を置き、その手に持つ音撃棒を振り上げる。

 

【く、くそ。すまない】

 

「あばよ! 魔化も…なっ!!」

 

 勢いよく振り下ろそうとした音撃武器を止め、突然、鬼たちがその場を飛び離れるように離れると、数枚の札と硬球サイズの火球が飛んできてそれらが鬼達のいた場所にあたると札から炎が舞い上がり、その場所を燃やす。

 

「な、何者だ!!」

 

「何処だ!?」

 

「姿をあらわせ!!」

 

 鰐の人型の魔化魍にさそうとしたとどめを邪魔された鬼たちはあたりを見回すしてると。

 

【あ、貴女は!?】

 

 鰐の人型の魔化魍がボロボロの顔を上げて見た先には、何かを飛ばしたかのようにピンと伸ばした手を出す着物姿の少女と少女に付き従うようにツタを蠢かす植物の魔化魍と口からシューと白い煙を吹く、溶岩の魔化魍が立っていた。

 

 そう。そこに居たのは、蛇姫の試作した『転移の札』の力でこの場に転移してしまった幽冥と睡樹、南瓜の3人。その姿を見た鰐の人型魔化魍は鬼との戦闘で蓄積したダメージが原因で意識を離した。




如何でしたでしょうか?
今回は『転移の札』の事故で転移しちゃいます。
次回はいきなり戦闘からです。鰐の人型魔化魍も種族名が出てきます。


ーおまけー
迷家
【はいーはーーーい。おまけコーナー始まるよーーー!!】

水底
【迷家、何ですかコレは?】

迷家
【今回の話からおまけコーナーが始まるよー。進行は僕で、毎話ゲストとして家族を1人呼ぶっていう】

水底
【何故、そのようなものが。そして、何故最初のゲストは私なのですか?】

迷家
【なんか、変な人からこの紙もらっちゃってーーこのコーナーをお願いって頼まれちゃってさーーー。
 それと水底がゲストなのは僕たち同じタイミングで魔化魍になったから最初のゲストとしていいんじゃないかなってーー】

水底
【まあ、納得しました。それで何をするのですか?】

迷家
【うんとね。何をするかは僕に任せるって言ってたし、じゃあさ、水底ってさ、どっちが本体なの?】

水底
【どういう事ですか?】

迷家
【だってさ君の身体ってさ、骨の艦とさ蛸足の貝の2つあるじゃん。結局どっちが本体なのかなって?】

水底
【まあ、言っても問題はないですから良いですけど、私のこの身体はどちらも本体です。
 例え、片方が音撃を受けて清められようが、もう片方に何もなければ再生できます。コレでいいかしら?】

迷家
【なるほど! ありがとうね水底】

水底
【いいえ。では、私は鋏刃さんの手伝いをしています】

迷家
【まっ、こんな感じでおまけはやっていくよーー。それと、さっき変な人からこんな紙も貰ったから読むね。
 ええと、”こんな作者でごめんなさい!!”って、誰に言ってるんだろうね? 
 まっいっか。じゃあ、まったねーーーーー!!】


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記録捌拾弐

はい。お待たせしました。
ダウンタウンの笑ってはいけないを見ながら作りました。
新年もよろしくお願いします。




 攻撃を避けた鬼の2人とは違う鬼が鰐の人型魔化魍にトドメを刺そうと手にした音撃弦を振り下ろすが、身体に当たる寸前でその攻撃は止められる。

 

シュルゥゥゥゥ

 

 幽冥の側にいた睡樹はツタの腕を地面を這うように伸ばし、鰐の人型魔化魍の上に振り下ろされる音撃弦にツタの腕を絡み付けて止める。

 

「邪魔をするな!!」

 

 すると、鬼はツタの腕で絡みとられてる音撃弦の柄を引くと、柄から細い刀身の音撃武器が姿を現し、その音撃武器を鰐の人型魔化魍の頭に突き刺そうとするが、標的だった鰐の人型魔化魍の姿はそこから消えていた。

 

シュルゥゥゥゥ

 

 何処だと探す鬼だが、探していた魔化魍は睡樹の出した鳴き声で発見した。睡樹の方にむくとツタに掴まれて、地面に横たわる様に鰐の人型魔化魍が居た。鬼がさっきまで魔化魍がいた場所をよく見ると睡樹のいる場所まで引き摺った様な痕があり、睡樹が鰐の人型魔化魍をそうやって助けたと理解した。

 

 1度ならず2度もトドメを邪魔された鬼は音撃弦に絡まっているツタを音撃武器で破壊すると、そのまま音撃武器と音撃弦を持って睡樹に向かって走り出す。

 

「おい馬鹿! 戻れ!!」

 

 同僚の鬼が、走る鬼に言うが、怒りで頭に血が上った鬼は聞く気もなく。睡樹へ更に近付く。睡樹はその様子を見て、焦ることもなくただ樹のようにジッと立っていた。鬼は動こうとしない睡樹に更に怒り、その走りをさらに加速させる。

 だが––––

 

カッカッカッカッカ

 

 加速した鬼の前に現れたのは、歯をカチカチ鳴らしたような鳴き声を上げながら、炎を灯した右腕を自身の顔に目掛けて振り抜く南瓜の姿だった。

 

「!!」

 

 加速した自身の脚を止めようとするも既に止められる筈だった速度を超えて、止まる事ができなかった鬼は南瓜の炎を灯した拳を加速した速さ分をプラスして顔面から受けて、鬼の頭はスイカ割りのスイカのように打ち砕かれた。

 頭を失った鬼の身体は頭を砕かれた衝撃でくるくると回転して幽冥の後ろにある樹に潰れた音と共に赤い飛沫を飛び散らし、鎧に僅かに付着した炎がその身を包んで、首のない鬼の死体を激しく燃やす。

 

「たかと!! ちぃぃ魔化魍め!!」

 

 死んだ仲間の鬼の名前を叫び、仲間の仇を討とうと音撃管を構え、南瓜に撃とうとするが。

 

「なんだ………急に、眠気が………」

 

 急に眠気に襲われた鬼はふらつく音撃管をしっかりと狙いをつけようとするも、どんどん眠気が酷くなっていく。

 やがて、音撃管を落とし、足腰が安定せずに鬼は千鳥足の様にふらふらと動く。

 

シュルゥゥゥゥ

 

 睡樹が両腕を勢いよく地面に突き刺すと、荊のように鋭い棘となったツタの両腕が鬼の両脚を貫き、千鳥足でふらつく鬼の意識を戻した。

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

 ツタに貫かれた両脚からだらだらと血が流れ、睡樹はそれを見ると脚を貫いているツタをさらに伸ばして、鬼の身体に巻きつける。

 

「な!! ぐがあああああ!!」

 

 ドンドン強く巻き付くツタから逃れようと身体を動かそうとするが、ツタに貫かれたままの脚は動かず、そのまま鬼の動きを止めており、逃げる事ができなかった。つまり–––

 

「がああ、あ、がっ………」

 

 背骨を含めた各所の骨を粉々に折られた鬼の身体は、睡樹がツタを解くと、軟体生物のようにぐにゃぐにゃと地面に落ちて、そのまま鬼はこと切れた。

 

「なっ、晢!! くそっ!! ゲン!! こっちに来い!!」

 

 仲間の死に際を見た鬼は残りのもう1人の鬼を呼び掛ける。

 

「…………」

 

「おいゲン!!」

 

 だが、呼んでも仲間の鬼は来ず、その場に立っていた。

 

「…………」 

 

 鬼は倒れる。その背中にはいくつもの鋭い氷柱が突き刺さっており、その背から流す血を凍らせて、血を流さないようにしていた。そして、鬼の立っていた位置のそばには、手を突き伸ばした姿で立っているの着物姿の少女である幽冥がいた。

 

「ゲンも。よくもやりやがった!!」

 

「五月蝿い!!」

 

 幽冥は鬼を恨みのある眼で睨みつけながら口を開く。

 

「よくもやりやがった………それは、こっちのセリフだよ。1体の魔化魍相手に複数で襲うとは、鬼の風上に置けない下衆ですね。そんな奴はこの9代目魔化魍の王 安倍 幽冥が直々に殺してやる!!」

 

 幽冥はそう言うと、右腕を狼の如き鋭い爪の腕に両脚を狼の脚に変化させる。

 変化した幽冥を見て、鬼は腰元の音撃棒を構え、鬼石に鈍い朱色の炎を灯す。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ジリっとお互いに睨み続けながら、互いの動きを注視する。

 そして、近くの樹に燃え尽きていた鬼の死体がボロッと崩れると同時に2人は動く。

 

「うおおおおおおおおおおん!!」

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

 幽冥は狼のような咆哮を上げながら、鬼は雄叫びを上げながら、迫る。鬼の炎に包まれた音撃棒が幽冥の頭に目掛けて振り下ろされる。幽冥は変化させていない左手に氷柱を作り出して、音撃棒の炎に突き刺して音撃棒の鬼石を破壊し、鬼は鎧の中にある隠し爪を伸ばして、幽冥の胴に突き刺そうとし、幽冥は右腕に風を集めて、鬼の攻撃の軌道を逸らし、そのまま生み出した風を鬼の身体に向けて振るう。 

 

 そして、そのまま鬼の横を通り過ぎ、腕をそのまま振り切った幽冥は鬼に背を向けながら、そのまま睡樹と南瓜の居る場所に歩き始める。

 

「なんだ。何ともねえな。こけ脅しか?」

 

 呆れと馬鹿にしたかのような声で鬼は言い、腰にあるもう1つの音撃棒を幽冥に向ける。それに対して幽冥は呟くにように答える。

 

「哀れですね。斬られてるのに気付かないなんて」

 

「なっ………」

 

 幽冥が背を向けたまま言った言葉の通り、幽冥が生み出した(かまいたち)によって横一刀両断された鬼の身体はズプリという音と共に前にズレていき、そのまま上半身は地面に落下し、下半身も静かに倒れた。

 鬼が死んだのを確認した幽冥はそのまま腕と脚を元に戻した。

 

「2人ともその鬼たちの始末をお願い」

 

シュルゥゥゥゥ カッカッカッカッカ

 

 鬼の死体を睡樹と南瓜に任せた幽冥は睡樹がツタで釣った鰐の人型魔化魍の側に寄り、傷口を子犬を撫でるように触る。

 

「さて、この魔化魍の治療をしよっか」

 

シュルゥゥゥゥ カッカッカッカッカ

 

 私の声に反応した2人は睡樹のツタの腕で、南瓜の背中に籠を作り、南瓜は横たわっている鰐の人型魔化魍を乗せて、睡樹は転がる鬼の死体にツタを突き刺して、私達はその場所から離れた。

 

 謎の魔化魍を追いかけ、重症の傷を負わした4人の鬼は『転移の札』の事故に巻き込まれた幽冥たちによって殺され、幽冥は殺した鬼の死体肉のほとんどを南瓜に、僅かな血を睡樹に与えて、謎の魔化魍の怪我の治療に取りかかった。

 

SIDE◯◯

 鬼が追いかけてくる。俺を清める(殺す)為に。

 

 俺は止まるわけにいかない。あのお方に会うまで、友人のアイツの目的の為に。

 

 だが、鬼に追いつかれた。俺は反撃した。しかし多勢に無勢、俺は追い詰められて、痛めつけられていく。

 

 しかし、俺は救われた。あのお方に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のいる場所は全体が黒く染まったような空間だった。出口もないただの闇の広がる漆黒の世界。

 俺は出口を探す為に歩き始める。

 

 どれくらい歩いたか、時間感覚的には5分か、30分か、はたまたは1時間か、時間の分からない俺はただこの暗い世界から出れる出口を探す。

 

 ふと、歩みを止めて。周りを見る。何も無い。

 周りは歩き始めた時と同じ漆黒の空間だった。少しずつ息苦しい感じがしてきて尚更、出口を探す為に歩きをやめて走る。

 

 だが、走っても闇のような漆黒を抜けず、暗い空間が広がっていた。

 

 もう諦めようと思いかけていると、薄らと光が入るのが目に入った。出口らしき、光に向かって俺は走り出す。

 少しずつ暗い道が薄くなり光が強くなるのが分かる。そして、光にそばに立つと。

 

 光は俺の前に勢いよく広がり、暗かった空間は明かりに満ち始める。俺は更に光のあるそこに手を伸ばすと–––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ここはいったい? っう! これは】

 

 光に向けて手を伸ばして目を覚ました俺は、身体を起き上げると身体に巻かれた潰して伸ばしたツタのような包帯に気付く。誰かが治療をしてくれたと理解した。目に入ったのは焚火とその焚火で焼かれている木の枝に刺さった魚とその焚火を中心に火で身体を温めている3人の人間の姿だった。

 

「ようやく目を覚ましたね」

 

 焚火の近くで座っていた人間の1人、いやあのお方がこちらに顔を向けた。

 あのお方のことはあいつ(・・・)からよく聞かしてもらった。

 

 人間にして魔化魍の王にして、様々な種族の魔化魍を家族と呼ぶもの。

 

 北海道では、魔化魍の間でも悪名高い猛士北海道第1支部(魔化魍の墓)の支部長抹殺と支部破壊、更には北海道を縄張りとする8人の鬼の1人、想鬼の撃破。

 

 佐賀では、多数の人間と鬼を相手に見事な戦略によって排除。

 

 最近では、魔化魍の王に恨みを持つと言われている悪魔魔化魍の1柱を従者である妖姫と共に倒した。

 

 と、色々な話がある今世の王。

 

【自己紹介をさせて頂きます。俺の名はカツラオトコ。王よ、貴女に会いたかったのです】

 

 カツラオトコは、頭を王である幽冥に下げて、そのまま言葉を続ける。

 

【王よ。唐突で申し訳ないと重々承知しておりますが、お願いがございます……………貴女の、王の力をお貸しください】

 

 そして、カツラオトコは幽冥に向けて土下座をする。

 

「まずは土下座をやめて」

 

 王には俺の誠意が届かなかったのかと思ったが。

 

「違う違う。話を聞くのに土下座のままじゃ話しづらいでしょ。だから、まずは土下座をやめて。それとお腹空いてない。人間の肉は無いけど、睡樹と南瓜が獲ってくれた魚があるから。それを喰べない。話はそれからだよ」

 

 王の言葉を聞いて、土下座をやめた俺は届きやすいように王が突き出した焼き魚を受け取り、それを喰らった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE朧

 突然の音が蛇姫のいる部屋から聞こえて、大急ぎで駆けつけると、ボロボロになった札を拾う蛇姫がいた。

 

【何をしてるの蛇姫?】

 

蛇姫

【これはその何というか、ええと】

 

 そう言って、蛇姫はボロボロの札を背中に隠すように持っていくが、ふと、蛇姫が前に話してくれた改良版の『転移の札』のことを思い出した。

 

【蛇姫。それって前に言っていた『転移の札』ですよね。そして、幽冥お姉ちゃんの匂いがするのに何処にもいないのはどうして?】

 

 私がそう言うと、観念したのか蛇姫は頭を床に下ろして素直に喋った。

 

蛇姫

【すまない!! 王が、完成した『転移の札』を持っていたら、突然術が発動して、気付けば王達は何処かに】

 

 『転移の札』は、目的とする場所を札に書き込まないと発動できないが、改良された札は使用者のイメージによって発動するようになっていると蛇姫が前に説明してくれた。

 

【はあーーーー、分かった。白には私から伝えるから、蛇姫は早く幽冥お姉ちゃんの居場所を探して】

 

蛇姫

【分かった】

 

 そう言って蛇姫は急いでボロボロの札を持って机に向かった。札に残った僅かな幽冥お姉ちゃんの気を頼りに何処に向かったのか調べ始めた。

 さてと、私はおそらく先ほどの音を聞きつけた白に対しての説明と蛇姫が殺されないようにしなければ。白は幽冥お姉ちゃんのことに関したら、おそらく家族だろうと手を掛けれる人だ。幽冥お姉ちゃんが帰ってきて蛇姫が居ないとなったら、絶対に悲しむし、私の友人でもあるからなんとか落ち着いて貰わないとね。

 幽冥お姉ちゃんが何処にいるかは分からないけど、分かったらすぐに向かわないと。いくら睡樹と南瓜が護衛についてるとはいえ、何かがあったら嫌だし。それにもしも、何かあったら私自身が正気でいられる自信がない。

 白が来るのと蛇姫の報告を待つしかないか。

 

 あ、勿論、ことの原因である蛇姫に対してのお仕置きは幽冥お姉ちゃんを見つけたら必ず行うけどね。

 

蛇姫

【(あ、結局。お仕置きされる)】




如何でしたでしょうか?
謎の鰐の人型魔化魍の正体はカツラオトコでした。
次回はカツラオトコの友が出ます。


ーおまけー
迷家
【はーーーい。おまけコーナー始まるよーーー!!】

迷家
【今回は新年というやつでゲストは呼んでないよーー】

迷家
【だからーー今回はこのままお別れだよーー新年もよっ、ろしくねーーーー!!】

迷家
【ばいばーーーーい!!】


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記録捌拾参

大変長らくお待たせしてすいません!!
色々とやる事もあったり、小説のアイディアが少し枯渇したりとあったので、アイディア補充少ししながら書きました。
今回は前半は幽冥とカツラオトコの会話が少々と、新魔化魍の戦闘シーン(蹂躙)です。


【んぐ、んぐ、うむ、むむ】

 

 私との話の前にという事で勧めた焼き魚はカツラオトコが次々と喰べて、どんどん無くなっていき、逆に焼き魚を刺していた木の枝はどんどん積まれていく。

 一応勧める前に自分の分は確保しておいたが、もしも確保してなかったら今頃、自分の分の焼き魚は無かっただろう。

 

【ふうー、美味かった。ご馳走様】

 

 手を合わせ、人間の食材に対する感謝の言葉を述べて、カツラオトコは幽冥たちのいる方に身体を向ける。

 

【改めて、カツラオトコと申します】

 

「まあ、知ってるんだよね? 魔化魍の王になる予定の安倍 幽冥です。こっちが今日、私の護衛として一緒にいる家族の睡樹と南瓜です」

 

シュルゥゥゥゥ カッカッカッカッカ

 

 カツラオトコの自己紹介に対して、幽冥も向かい合い自分と睡樹と南瓜を紹介する。睡樹は手を上げ、南瓜は腕を組みながら静かにカツラオトコを見ている。

 

【存じております。王とその家族の噂は我らの所にも轟いております。我ら魔化魍にとって王とは絶対なる存在。しかし、『人間が魔化魍の王になるのはあり得ない』、『そんな馬鹿な』、『なぜ人間如きが』と声にする者もおります。

 ですが、それが何ですか!! 我らの王である魔化魍の王がこの時代に現れた。ならば、魔化魍たるもの王を崇めず、誰を崇めという。『そこら辺の上位の魔化魍を崇めろ』、『王の子孫である魔化魍を王にするべきだ』。はっ、下らないことを言うのなら、存在する王を崇めろというものを、第一に––––】

 

 某夢の国の青いランプの魔神の様なマシンガントークに少しの頭痛とすごく褒められているという状況に顔が赤くなるという状況になり、そんな私の状態を気にせずにさらに話を続けようとするカツラオトコ。

 

南瓜

【ああ、すまん。これ以上は話が脱線しかねない。それに貴方もそろそろ本題を言ってくれないか】

 

 そんな話がコロコロ変わるカツラオトコを南瓜が止める。

 

【それもそうであった。いや、すまない。噂だけとはいえ、今代の王に会えたのだ。話がコロコロ変わるのも仕方ないだろう。まあ、それは置いておくとしよう】

 

 ごほん、咳払いをして真剣な顔つきになったカツラオトコは口を開いた。

 

【9代目魔化魍の王 安倍 幽冥様。我が友の考案したある計画。その計画に協力をお願い申し上げる】

 

「計画ですか? それはどんな計画なの?」

 

【は、その計画とは–––––】

 

 そして、カツラオトコの口から出た言葉に私たちは驚くのだった。その言葉とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【九州地方の猛士殲滅作戦に御座います】

 

 九州地方に存在する猛士の支部の殲滅。それの協力を頼まれたのだった。

 

SIDE◯◯

 幽冥のいる場所からかなり離れた場所にある海。

 そこの砂浜には数十人の鬼が魔化魍と戦っていた。

 

「速い!?」

 

「もっとちゃんと狙え!!」

 

「無理だ!! 速すぎる!!」

 

ポオオオオオオオオオ

 

 汽笛のような音が魔化魍の口から響き、鬼の攻撃を避け、魔化魍の速さはさらに増す。

 鬼たちは持っていた音撃武器を使って攻撃するも、するりするりと魔化魍は避け、さらに速度を上げるかの様に魔化魍は無数の脚を動かす。

 だが、速さに慣れたのか音撃弦を持った鬼の1人が、魔化魍の頭部のくる位置に音撃弦を突き刺した。

 

ポオオオオオオオオオ

 

 鬼の音撃弦の攻撃に当たったかに思えた魔化魍の身体は節々の繋ぎ部分でバラバラに分かれて、鬼の攻撃を避け、先程の時と同じ速度で、数名の鬼を囲う様に走る。

 

「なっ!! がぁ」 「なんだよ!! あいつ!! ぐわあ」

 

「みんな、がはっ」 「ぎゃあ」 「ごばっ」

 

 分かれた魔化魍の攻撃に数名の鬼は巻き込まれて、上空に上げられては落ちて、落ちた先で再び上空に上げられ、それを繰り返して、地面に落下した数名の鬼目掛けて分かれていた身体を繋ぎ、そのまま突っ込んでくる魔化魍。

 何度も繰り返された攻撃で鬼の身体にはまともに残った骨はなくほとんどの骨が複雑骨折しており、避けることもできない鬼はそのまま突っ込んでくる魔化魍に轢かれた。

 

ポオオオオオオオオオ

 

 魔化魍の通った場所には全身から血肉をぶち撒けて、骨も臓物もぺちゃんこに潰れた死体が、轢殺された鬼の数だけ折り重なる様にあった。

 

「うわあああ!!」

 

「逃げろ!!」

 

「死にたくない!!」

 

 魔化魍の攻撃を避けられ、轢かれて潰れて、血肉をぶち撒ける仲間の死体を見た鬼の数十名はその場から走り去った。

 

ポオオオオオオオオオ

 

 汽笛の様な魔化魍の鳴き声が鬼の死体の散らばる砂浜に響き、魔化魍はそのまま鬼の死体を喰らい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汽車の様な鳴き声が遠く離れた陸地に響き、鬼達はその方角に目を向ける。

 

「あっちに魔化魍がいる様だな」

 

「ああ。あれが噂のやつの1体。『汽笛』に違いないだろう」

 

「だが、噂の魔化魍は全部で7体。その内の1体である『白蜥蜴』は別班が追い掛けてる様だから、正確には6体だろう」

 

「『縫いぐるみ』、『首長』、『鏡』、『鉄人』、そして正体が未だ不明とされている『不明』か。今までは『縫いぐるみ』と『首長』、『鏡』が主に行動していたが、今週に入ってからは『白蜥蜴』、『鉄人』、『汽笛』、『不明』も行動する様になった」

 

 猛士九州地方支部、いや、猛士において、魔化魍は種族名で呼ぶことが多いが、同じ魔化魍による被害が拡大すると、その魔化魍に対して通称を付ける。例えば、以前四国で暗躍していた朧には『三度笠の狼の魔化魍』、骸には『独眼蛇の魔化魍』と呼ばれていた。

 だが諸々の事情により魔化魍と付けるのを止めて、現在では『三度笠』や『独眼蛇』と呼ばれいる。そして、九州地方全体では上記の7体の魔化魍が多大な被害を出しており、『白蜥蜴』は今、幽冥と話をしているカツラオトコのことである。

 

「本部の噂によると『魔化魍の王』が目覚めたことで魔化魍達が活発化してきたという話らしい」

 

「それは俺も聞いた。何でも最初に『魔化魍の王』を倒した『8人の鬼』の末裔も既に4人死んだとか」

 

「本当か!?」

 

「ああ、本部にいる友人の話だから信憑性はある」

 

「糞っ!! 魔化魍たちが暴れるのも全てそいつが………」

 

 鬼の1人が『魔化魍の王』に対して怒り、近くにあった石を砕く。

 他の3人の鬼も何も言わないが、その面の下にはまだ見ぬ『魔化魍の王』に対しての怒りの顔に変わっていた。

 

ザ…アアア………アア…   パリ…、……ン、パ…ン、パリ…

 

「なんか聞こえなねえか?」

 

「いや、聞こえねよ」

 

「幻聴じゃねえのか?」

 

 鬼の1人が聞こえた声に聞こえなかった3人は幻聴と思った。

 

ザ…アアア…ア…アアア   パリ…、パ…ン、パ…ン、パリン

 

「幻聴じゃない、俺にも聞こえる!!」

 

「魔化魍だ、みんな円を組め!!」

 

「魔化魍め!! どっからでもきやがれ!!」

 

ザアアアアアアアアアア   パリン、パリン、パリン、パリン

 

 近くまで聞こえた魔化魍の声に四方八方を見渡す鬼たちの側の海から盛り上がった2つの影は4人の鬼を襲った。

 

「…………」

 

「がっ、がふっ、…………」

 

 1人は『首長』と呼ばれた魔化魍に頭を捥ぎ取られ、その頭が口の中に収まって、残った身体からはピュウウウと血が吹き出して、その血で鎧の面が汚れた鬼は『首長』の背にある無数の棘が矢の様に発射され、血で面が汚れ、前の見えない鬼の身体を貫いた。

 

「べがっ……」

 

「がああああ」

 

 『鏡』と呼ばれた魔化魍の触手が鬼の身体と顔を貫き、もう1人の鬼は特徴的でもある頭部の巨大な鏡から放たれた熱線で焼かれた。

 そして、鬼を仕留めた『首長』と『鏡』は今殺したばかりの鬼の死体を静かに喰らい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海から現れた2体の魔化魍による一瞬の攻撃で4人の鬼は殺され、その肉を喰らう2体の魔化魍の食事場所から少し離れた暗い砂浜では、1人の鬼が音撃棒を構えて、辺りを見渡していた。

 

 音の聞こえた方に音撃棒を砂浜にいる何かに向けるが、姿は一向に見えない。

 

 砂浜の砂の上に軽快な音を立てながら走る音に鬼は音撃棒を向けるが、やはり、そこには何もいない。

 

 再び鳴る音に鬼は辺りを見るも何も見えない。

 

 やがて、全体から聞こえるように鳴る音に気を取られすぎた鬼は迫りくる影に気付かず、隙を見せていた。その結果–––

 

ヌーーーーーイ

 

「ぐがっああああぁぁぁ……」

 

 熊に引っ掻かれた様な傷を喉元に作り、噴出する自身の血を見た鬼は、そのまま息絶えた。そんな血の池を作った鬼の死体の側に、くるりと回転して宙から着地した幼稚園児と同じ大きさの小柄な魔化魍 『縫いぐるみ』と呼ばれている魔化魍がいた。

 

ヌーーーーーイ

 

 『縫いぐるみ』からわずかに離れた所には、顎の下部分が物凄い力で抉られた死体。

 

 面越しに顔の中心に何かが貫通した様な大きな孔のある死体。

 

 四肢があり得ない程に捻られ芋虫の様に横たわった死体。

 

 自らの喉に音叉刀を突き刺した死体。

 

 腹を切り裂かれ垂れた大腸に錆びた様な色合いの五寸釘が虫の標本の様に地面に貼り付けられた死体。

 といった惨い死体のある中で『縫いぐるみ』は声を上げる。

 

 そんな、惨劇を作り出した『縫いぐるみ』の視線の先には、上記で死んでいった鬼達によって生き残った鬼が走っていた。『縫いぐるみ』は手に持つ針を逃げる鬼に向けるが–––

 

【◯◯◯◯◯、殺さなくて良いですよ】

 

 後ろから聞こえた声で、『縫いぐるみ』は投げようとした針を鬼の死体の頭に突き刺した。

 だが、『縫いぐるみ』は刺した針を鬼の頭から引き抜き、背中に仕舞い込む様に針を消し、後ろにいる魔化魍に『縫いぐるみ』は質問した。

 

【逃していいの?】

 

【ええ。その方が手間が省けます。おそらく、鬼たちは集合場所を定めてます。ですが、我々はその場所を知りません。ならば、その場所を知る案内人について行けばいい………既に、あの鬼には私の一部がついています。貴方には–––】

 

【分かってるよ。他のメンバーに伝えればいいんだよね】

 

【はいお願いします。その間は私が鬼の相手をします】

 

 そう言って、魔化魍と話していた『縫いぐるみ』はその場から消えて、その場に残っていた魔化魍は逃げた鬼の鎧の隙間に光る物を見て、そのまま歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 各場所で襲われて生き残った鬼たちは合流地点と定めていた場所に集まり始めていた。

 その数は数十人。集まった鬼たちは生き残った仲間を見て喜ぶ者や死んだ仲間の事を話し泣く者、仲間を殺した魔化魍に恨みを抱く者と様々だった。

 

ギギギギッギギギギギ

 

 だが、がらがらと何かが重なり合って響く大量の音と共に立て付けの悪い扉の様な音が響き、鬼達の耳に響く。

 

「なんだよ!! この音は!!」

 

「俺に聞くな!!」 「おい見ろ!!」

 

 鬼の1人が指差した方角から巨大な影がどんどん近づいてくる。

 

「アイツだ!! あの魔化魍が!! 『不明』が!! 他の魔化魍を指揮している奴だ!!」

 

 迫りくる巨大な影、もとい魔化魍 『不明』を見て鬼の1人が叫ぶ。

 この鬼は『不明』が『縫いぐるみ』を指示する姿を見ていた鬼で、他の仲間の時間稼ぎでなんとか逃げられた鬼だった。だが、この鬼を逃す代償として数人の鬼は『不明』の指示に従って行動していた『縫いぐるみ』によって殺された。

 

「アイツのせいで、アイツのせいで俺の仲間が!! うおおおおおお!!」

 

「おい! よせ!!」

 

 仲間の鬼の静止の声を無視して鬼は変身音叉を音叉刀に変えて、殺された仲間の恨みを晴らす為に『不明』に斬りかかる。

 

「死ね!! 魔化魍!!」

 

 だが、『不明』の身体に鬼の音叉刀が触れると音叉刀は真ん中かバキリと折れて、その刃が宙をくるくる回る。

 

「むぐっ、ぐぐぐ、がああ–––」

 

 音叉刀が折れて、動きの止まった鬼の頭を『不明』は巨大な腕で掴み、そのまま力を込めて、頭を握り潰す。頭を失くした鬼の身体はピクピクと僅かに動くも、直ぐに『不明』は鬼の死体を砂の上に投げ捨てる。

 

「くそ!! 奴に近付かずに音撃管で攻撃するぞ!!」 

 

「「おお!!」」 

 

 その様子を見た音撃管の音撃武器を持つ別の鬼は近場の攻撃では『不明』の巨大な腕に握り潰されると判断し、中距離から同じ音撃管を持つ複数の鬼と協力して攻撃を始める。

 

 しかし、『不明』は迫りくる音撃管の空気の弾丸に向けて、自身の身体にあった一部を取ると手裏剣のように投げつける。空気の弾丸は魔化魍が投げたものに当たり乾いた物が割れるような音ともに消えた。

 

「撃ち続けろ」 

 

 防がれた事を知った鬼はさらに音撃管を撃つが、『不明』は同じ動作で同じように攻撃を防ぎ、空いている腕を脚の一部に伸ばして引き剥がす様に脚にある栄螺の様な部分を取る。

 

ギギギギッギギギギギ

 

 『不明』の声と共に引き剥がした栄螺のパーツが槍の形状に変わり、『不明』はそれを勢いよく投げる。 

 

「がっあ……」

 

「がびゅ……」

 

 栄螺の槍は鬼の1人の身体を貫き、さらに後方にいた鬼の顔に突き刺さった。『不明』の槍の投擲から運良く逃れた鬼は、ベルトのバックルを外して、音撃管の先に付け、鬼の必殺技である清めの音を放つ––––

 

「がへあっ」

 

 てなかった。突如、暗闇から飛ばされてきた巨大な鉄球が音撃を放とうとした鬼の頭にめり込み、その命を散らせていた。

 顔の半分が鉄球で潰され、手には音撃を放とうとした音撃管が握られたままだったが、鉄球に繋がっている鎖が何かに引っ張られると、生き物の様に鉄球は外れて、音撃管はその衝撃で離れた砂場に落下し、鎖に繋がった鉄球は持ち主の手元に収まる。

 

 鉄球から伸びる鎖の音と共に暗闇から歩いてきたのは、鈍色の鎧に全身が覆われ、鎖骨から背中に掛けて伸びる2対のパイプ、腰には英語のdに見立てた金色の蛇が描かれたバックルの付いた赤いベルトを巻き、側頭部から伸びる湾曲した2本の角を持った異形 『鉄人』だった。

 

「ふん。つまらん」 

 

 『鉄人』は殺した鬼の持っていた音撃管を一瞥すると、脚を振り下ろして音撃管を踏み壊す。それを見た鬼の1人が手に持つ音撃弦にバックルを嵌めると、弦を弾く。

 

音撃斬(おんげきざん) 雷電爆震(らいでんばくしん)!!」

 

 弦を弾き、爆音が響くごとに『鉄人』の周りに黒雲が発生し、鬼が弦を勢いよく弾くと黒雲は『鉄人』を呑み込み、雲の中から激しい爆音の如き雷鳴が迸る。

 『鉄人』を仕留めたと思った鬼は次の音撃を放つ為に音撃弦を『不明』に向ける。だが–––

 

「…………やはり、あいつとは違う」

 

 黒雲の中から一切の傷が無い『鉄人』が歩いてきた。

 

「何故だ。間違いなく音撃は直撃した筈!!」

 

「………俺の知る男の使った電撃は身体の芯に響くものだった。こんなのが、今の仮面ライダー(・・・・・・)なのか? ………やはり、世界が違うとこうも違うのか(・・・・・・・・・・・・・)? まあ良い。死ね」

 

 そして、手にある鉄球を回し始める。ぶんぶんと空気を裂く音が響き、ヒュンという音と共に鬼の1人が鉄球の餌食になった。

 

 『不明』と『鉄人』の圧倒的な力に鬼たちは身を震わせ、戦う気力はどんどん下がっていく。

 統率をしていた鬼は即座に判断した。この場で戦って死ぬより、生きて情報を届け、後続の鬼たちの助けにするため。そう判断して鬼は撤退の命令を下そうとした。しかし、その判断は遅かった。

 

「全員に告げる、これより撤、がはっ………退を…」

 

 倒れた鬼の背中には無数の矢が突き刺さっており、鬼を統率していた鬼が死んだことにより、生き残った鬼たちは、己の生存を考えて、その場から逃げようとする。

 

ザアアアアア パリン、パリン ヌーーーーーイ

ポオオオオオオオオオ 

 

 弓を番えた妖姫に引き連れられた無数の魔化魍が鳴き声を上げながら、生き残った鬼たちを見つめる。

 

「「「「「「うわあああああああああ!!!」」」」」」

 

 その光景を見た鬼たちの悲鳴が夜の海の波音に呑まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な魔化魍とその仲間が立ち去った場所には粉々に砕かれた鬼の鎧の破片と赤黒く染まった砂浜、僅かな骨と小さな肉片が残っていた。




如何でしたでしょうか?
今回の魔化魍の内、『鉄人』のみは魔化魍ではなくあるライダーに出た怪人です。まあ、特徴を結構書いたとのですぐわかると思います。
それでは、次回は幽冥とカツラオトコの会話と幽冥の消えた妖世館での状況を書きたいと思います。


ーおまけー
迷家
【はいーはーーーい。第3回おまけコーナー始まるよーーー!!】

睡樹
【い……ええーー…い?】

迷家
【うんうん。いいノリだね】

睡樹
【こ………うした…方が………いいん…だよ…ね?】

迷家
【そうそう。そんな感じだよ。で、今回のゲストは眠り呼ぶ小さき植物魔化魍 コロポックルの睡樹だよ】

睡樹
【主と…一緒に……いたの…に何で…こんな…所にいる………の?】

迷家
【これが噂のご都合主義ってやつだって変な人が言ってたよ】

睡樹
【そう……なん…だ】

迷家
【まあ、そんことはほっといて、ねえねえ。睡樹は今どんな野菜を育ててるの?】

睡樹
【野菜? ああ……主…と昇布……と…買い………にい…った…物……だよね。
 この……間…までいた………万年…竹に………よると…胡瓜……トマ…ト………大根……それと…とく…せ…い竹だよ】

迷家
【成る程、ねえねえ睡樹の野菜で喰べれるのなんかある?】

睡樹
【そろ………そろ…トマト……が収…か…く……出来…る。それ……出来…たら……し…げ…久のピザ……に使っ……ても…らう………だ…から…そん………時…に…喰べ………させて…あ……げる】

迷家
【それは楽しみだね。おっと、そろそろお別れの時間だね】

迷家
【じゃ、ばいばーーーーい!!】

睡樹
【ばい…ば…い】


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記録捌拾肆

お待たせしました。
最近はコロナウィルスとか怖いですよね。
実はこの章にはウィルスを扱うゴエティア72柱の悪魔魔化魍を出そうと思ったのですが、コロナとかの話題的になんかアウトぽっさそうなので、やめました。
なので、予定していたストーリーの一部変更をします。


「九州の猛士壊滅計画ねぇ」

 

 春詠お姉ちゃんやお姉ちゃんの友人の調鬼こと月村 あぐり曰く、九州地方支部は以前戦った北海道第1支部のように魔化魍を使った実験や異常な魔化魍殲滅主義または極少数存在すると言われる魔化魍共存派というわけではない。だが、異様に鬼の素質を持つ者が多く、更には各地方の引退や魔化魍との戦いで戦死した鬼の代わりを派遣するという役目を持つ。

 さらに九州地方の王である千葉 武司はかつてはかなりの実力を持っていた鬼であり、今では王という位置にいるが、いざ戦いとなれば今でも現役の鬼と同格いや、それ以上の戦闘能力を持つと言われている。

 また現在、捕虜として妖世館にいる突鬼こと佐賀 練も元は九州支部に所属していた鬼で、北海道第2支部への援軍として送られた鬼だと本人が言っていた。

 彼らの目的はそんな九州支部を滅ぼして、他の支部に優秀な鬼を送られないようにして、猛士の戦力の弱体化を狙っている。

 

【その通りです】

 

 正座の姿勢で、こちらを見るカツラオトコの眼は真剣な眼差しだった。そして、王である私の言葉を待っている。

 

南瓜

【……王よ。この計画は参加するべきと思われます】

 

 考えている私に対して、南瓜が口を開いた。

 

「南瓜……貴方の考えを聞かせてくれる」

 

南瓜

【はっ。王もご存知かと思われますが私はかつて南 瓜火と名乗って猛士に数年程潜入していました。潜入していた当時は、我ら魔化魍も猛士に見つからぬように警戒しながら暮らしていました。そもそも私が猛士に潜入したのはその情報を流して、魔化魍を守る為です。

 そして、私はある魔化魍に頼まれて、あのムカつく場所(北海道第1支部)に潜入して王が兜たちを救出したのを見届けて、本来の依頼者の紫陽花のところに戻り………おっと、話がズレてしまいました。それでは話を戻します。王が目覚める前の猛士は鬼も数多く、どの支部にも必ず数十人の鬼が存在しました。

 しかし、王が目覚めたことによって我ら魔化魍は活動を活発化し、あらゆる地方に出現する魔化魍の対応に追われて猛士は鬼たちを使って、魔化魍たちを清めてきました。逆に我らも鬼の数を減らしていきましたが。

 その時に我ら魔化魍を清めていた大方の鬼の出身はこの地、九州地方支部出身の鬼たちです。このカツラオトコの言う通り、この計画が成功すれば、曲者が多いこの九州地方の鬼の数を減らせれば、猛士の鬼の弱体化は必然です】

 

 確かに、猛士の鬼の弱体化は願ってもみないチャンスだ。猛士以外にも、私を狙う存在が居る。

 ゴエティア72柱の悪魔魔化魍と呼ばれる者たち。以前はオセという魔化魍だけだったが、今度はいつ仕掛けてくるか分からない。そもそも1体じゃないかもしれない。複数で攻めてくるのかもしれない。そんな魔化魍達

たちを相手にしながら、猛士の力量のある鬼を相手にするのは疲れる。いやハッキリ言って面倒くさい。

 それなら、猛士を弱体化させて、悪魔魔化魍に備えるのもいいかもしれない。

 

南瓜

ボソッ【それに、計画を立案したカツラオトコが友という魔化魍やその仲間はもしかしたら王の知らない魔化魍かも知れませんよ】

 

 南瓜の言葉を聞いて私の答えが決まった。

 

「分かりました。それでは、9代目魔化魍の王として命じます。貴方の言う友人のいる場所に私達を案内しなさい。この計画に参加するかどうかはその者に会ってから話します」

 

【はっ!!】

 

「睡樹と南瓜もついてきなさい」

 

睡樹

【かし…こま…りまし…た!】

 

南瓜

【はっ!】

 

 カツラオトコはその命令に従い、私たちを友人の居る場所に案内を始めた。

 

SIDE白

 王が消えて、既に1日経った。

 あれから、蛇姫は『転移の札』によって転移した場所の特定をしている。その方法は、既に使えなくなった札に僅かに残っている王の気から行き先を判定するというものだ。

 王の気を判別するという集中力のいる作業をする蛇姫の眼の周りは隈が酷く、眼の光もほんの少し薄くなっている。

 

 おまけに『転移の札』の開発の際の徹夜と異変が起きた際に白に問い詰められた影響でほんの少し蛇姫の髪と鱗の艶がなくなり、肌も若干荒れ、動きが止まって頭がカクンとなるのも何度かあり、限界を迎えそうになっていた。それでも自分が作った物で起きた事故故か、その眠気を抑えながら、ひたすら作業を続けていた。

 しかし、その作業も–––

 

蛇姫

【あ、ああ眠っちゃ駄目、眠っちゃ、駄目、眠ったら、お、うが】

 

 限界を迎えた。

 

「そろそろ限界でしょうね」

 

 ぐわんぐわんと頭が揺れ始めてきた蛇姫を見ながら白はそう呟いた。

 だが、何も私は睡魔に耐えきれなくなるまで作業をするとは思わなかった。まあ、最初に朧から話を聞いた時は少し、ほんの少〜し殺意に芽生えて半殺し、いや10分の9殺しにしそうになったところでしたが、そこは王の家族です。王が戻ってきて時に蛇姫が居なかったら悲しまれる。

 それに、もしも王のいる場所が判明し、私が王捜索メンバーを編成した後にその場所に転移させるのは他ならぬ蛇姫だ。

 彼女は術を扱う者の中で転移の術に優れた家族だった。かつては、人間それも術を扱う巫女だった。だが、同じ人間に裏切られ、無名の蛇の魔化魍が喰いやすいようにと腕を切り落とされ、そのまま呑み込まれた。

 だが彼女は自身を喰らった無名の蛇の魔化魍と憎しみと恨みを同調させて無名の蛇の魔化魍の意識を奪い魔化魍 カンカンダラとなった。その後は、裏切った人間を殺し、殺した6人の人間の腕を片腕ずつ奪って自身の身体に付けた。

 

 そんな彼女が巫女の時に得意としたものこそ転移の術

 崩や跳、などといった術を得意とする家族の中でも完全なる転移の術を使えるのは、蛇姫だけだった。

 

 しかし、その蛇姫は徹夜と私のお話(?)が原因なのか寝ずに作業し、そのまま1日経った。

 私は何も眠らずに続けろと思わない。それは、蛇姫が無理をしてでも王は見つける為なら構わないと思うが、どのみち転移の術を使う蛇姫が肝心な時に転移させることが出来なければ意味がない。

 

「………居るんでしょ朧」

 

 床の影に向かって言うと、影が盛り上がり、そこから姿を現す。

 王の側の座を巡って、争う関係である朧。元々は、蛇姫と行動を共にしていた経歴を持つ。

 

【………それで、なんの用って言うまでもないか】

 

「話が早くて助かります。では、お願いします」

 

【いいよ。でも、代わりは?】

 

「跳にお願いしました」

 

【そう。じゃあ、眠ってもらいますか】

 

 そう言った朧は再び、影の中に潜り込み蛇姫の影の近くから顔を出す。

 

【お疲れ、蛇姫】

 

蛇姫

【……あ、朧。はい。お疲れ、さま、です】

 

 朧の言葉に蛇姫は少し間の開いた返事で返し、すぐに前を向いて作業に戻る。

 

【……蛇姫。幽冥お姉ちゃんを心配するのは分かるけど、眠ってくれないかな。蛇姫が倒れたら、誰が幽冥お姉ちゃんのいる場所に連れて行くの?】

 

蛇姫

【分かって、る。……ですが、私が、やらないと、私の、せいで……王に、もしも……】

 

【はあー。仕方ない。本当は自主的に眠って欲しかったけど………ごめんね】

 

 朧はそう言うと、前足に影を纏わせて、そのまま蛇姫の後頭部に振り下ろす。蛇姫の頭からゴンッと鈍い音がして、蛇姫はそのままずるずると机にもたれ掛かるように倒れた。

 

【取り敢えず、これでいいの?】

 

「ええ。ありがとうね朧」

 

【いいよ。蛇姫は友人だし】

 

【失礼しやす】

 

 朧が私の側に戻ってきた時と同じタイミングで扉が開き、魔化魍態の跳が入ってきた。跳を見た私は蛇姫の近くに行き、蛇姫の身体に手を忍ばせて持ち上げようとする。

 

「せーの んぐっ!!」

 

 女性である蛇姫にこう思うのは失礼なのだが、蛇姫は意外と重かった。しかも持ち上げた瞬間に両腕からビキッという音まで聞こえた。

 術を掛けていることもあって忘れていたが、蛇姫ことカンカンダラは本来、大型に分類される魔化魍である。この妖世館に住むにあたって、中型から大型の魔化魍は館をその大きさで破壊しないように自身に術を掛けて、その本来の大きさから身体を少し小さくしている。しかし、術を掛けているとはいえ、体重までは変わらない、その結果、見た目は等身大と思われがちだった蛇姫の身体を私は持ちあげる事が出来なかった。

 だからそれを見ていた朧も蛇姫の下半身の尾の太い部分を咥える。

 

【じゃ、あっしはこの札の作業をさせてもらいやす】

 

 そう言った跳は蛇姫がいた場所にある『転移の札』の作業を始めた。

 それを見た私は気絶している蛇姫を朧と共に部屋の隅に敷いておいた布団に寝かせ、軽い毛布を掛けた。毛布を掛けられた蛇姫は穏やかな寝息と共に深い眠りに入り、私と朧はその様子を見てから、そのまま部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 そして、ぐっすり眠れたのか、清々しい笑顔を見せて起きた蛇姫は作業をしていた跳と共に作業をし、幽冥達の特定が出来たのは数時間後だった。

 

SIDEOUT

 

【ようこそ魔化魍の王。私は貴女が来るのを待っていたのだ】

 

「貴方がカツラオトコの友人ですね」

 

【ああ。その通りだ】




如何でしたでしょうか?
今回はこんな感じです。次回は主人公がカツラオトコの友人『不明』が登場。


ーおまけー
迷家
【じゃあ、おまけコーナーは、じまるよーー!!♪】

迷家
【4回目の今回のゲストはーーこのおまけコーナーに来る前に会った放火魔こと暴炎だよーーー】

暴炎
【誰が放火魔だ!!】

迷家
【でも、燃やすの好きじゃん】

暴炎
【燃やすのが好きなんじゃねえよ。これは種族上の性だ】

迷家
【性って言ってもーー君のその種族上の性って、多分、他のヒトリマよりヤバいと思うよーー】

暴炎
【ぐっ、否定できない】

迷家
【まあ、僕は気にしないんだけどねーー♪】

暴炎
【あ、そう。で、俺への質問ってのは?】

迷家
【そうだねーーー。じゃあじゃあ、今まで喰べた炎で1番美味しかったのは何?】

暴炎
【1番美味かった炎? うーーんとな、お!! そうだ、あの炎が美味かったな?】

迷家
【どんな炎?】

暴炎
【ある魔化魍の生み出した炎だ。あれは凄かった、何せ、3日間ずっと燃えていたからな】

迷家
【3日も!?】

暴炎
【そうだ。そいつの炎は透き通る様な綺麗な青い炎だった。だが、綺麗さの中に激しい憎悪の込められた炎。
 あれ程の美味い炎を俺は喰った事がない】

迷家
【そっか。まあ教えてくれてありがとう。おっとそろそろお別れの時間だね。じゃ、まったねーーー♪】

暴炎
【また会おう】


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記録捌拾伍

はいお待たせしました。
コロナの外出自粛が大変ですが、こんな時こそ小説を書いたり、読んだりし、外出を控えて、コロナを乗り越えましょう。
今回はカツラオトコの友人である『不明』と協力者の『鉄人』が出てきます。


 カツラオトコに案内されて山から海の近くにあった洞穴にやってきた。洞穴の近くにある岩礁が洞穴の入り口を見えないように置かれている。

 おそらく、かなり近くまでこない限りは洞穴は見えないだろう。おまけに海の近くということもあり、潮が満ちると洞穴の穴は海水で隠されて見えなくなる。この隠れ場所を見つけたカツラオトコの友という魔化魍はかなりの知能を有する魔化魍なのだろう。普通の魔化魍でも隠れることはあるが、自然を利用した隠れ方をするのはコダマや私の家族でもある命樹や古樹といった植物系の魔化魍だ。

 カツラオトコはそのまま洞穴に入り、私達もカツラオトコに続いて洞穴に入った。

 洞穴は潮水に浸かっていたのが原因か所々に藻らしい物を生やし濡れていた。

 

 カツラオトコに続いて歩いてると道を塞ぐように大きな岩があり、カツラオトコは岩に近付くと

 

【カツラオトコだ!! 今戻った!!】

 

 すると目の前にある岩はズルズルとする音とともに擦れていきそこから誰かが出てくる。

 

「やっと戻ったかカツラオトコ」

 

 そして、現れた者に幽冥は驚く。それは魔化魍では無い存在だからだ。

 鈍色の鎧に全身が覆われた身体、鎖骨から背中に掛けて伸びる2対のパイプ、側頭部から伸びる湾曲した2本の角を持った異形。

 腰にある英語のdに見立てた金色の蛇が描かれたバックルの付いた赤いベルトはその異形の所属する組織の証。

 

 かつて、電気を武器とする仮面ライダーがいた。彼は組織の改造手術によって死んだ親友の仇を取る為に自らその組織の改造手術を受けて、電気人間となり、その力を組織を滅ぼす為に振るった。幾人もの改造人間を倒し、遂に組織の首領を倒し、平和が訪れたかに思えた。だが、そんな仮面ライダーの前に複数の怪人達が現れた。

 彼らはそれぞれが物語や伝説に登場した魔人の子孫とも言われる存在。人間を素体として改造する改造人間とは根本が違う存在。

 1人1人が核ミサイルと同じように周囲関係なく破壊する悪魔。そして、それらの怪人たちがいた組織の名は。

 

 デルザー軍団。後に全ての組織を生み出し裏から操っていた男直属の大幹部ともいうべき魔人たちの組織だ。

 そして、目の前にいる存在は正にそのデルザー軍団に所属していた改造魔人である。

 その祖はフィンランドにいたといわれる妖怪 黄金魔人。

 

「鋼鉄参謀」

 

「ほう。初対面の筈だが、俺の存在を知っている者がいて、しかもそれが人間とはな」

 

 鋼鉄参謀は自分の存在を知る私の言葉に反応してそんな感想を言う。

 

睡樹

【ただの…人間……じゃない…僕た…ちの……王だ】

 

南瓜

【我らの王を侮ってもらっては困る】

 

 睡樹はツタをゆらゆらと動かし、南瓜はその手に炎を灯して目の前の鋼鉄参謀に言う。

 

「………それは済まない。お前達の王を侮辱するつもりで言ったのではない。少し昔を思い出してな」

 

 おそらく、鋼鉄参謀の言う昔とはあの男のことを言ってるのだろう。親友を殺したブラックサタンと戦い、その後にデルザー軍団と戦った雷の男。7人目の昭和仮面ライダー 仮面ライダーストロンガーこと城 茂のことを懐かしそうに言っていた。

 それを聞き、睡樹も南瓜も鋼鉄参謀に向けていた敵意をなくす。

 

【王、こちらです】

 

 カツラオトコは鋼鉄参謀の奥にある道から半身出してる状態で、私を呼んでいた。私はそのまま、カツラオトコの呼んでいる道に行くと。

 

「何で、襖?」

 

 その道の奥には日本文化では何度か見ることがあろう。というかぶっちゃっけって言うと前世での私の家にもあった。

 

「あれって私の幻覚なのかな南瓜?」

 

南瓜

【大丈夫です王。私の目にもバッチリ見えていますから】

 

【俺だ】

 

【入って貰いなさい】

 

 カツラオトコは襖に近付き、襖を開けると、中は和室のような造りの部屋でその部屋の真ん中にちゃぶ台と魔化魍が胡座で座り込んでいた。

 

【ようこそ魔化魍の王。私は貴女が来るのを待っていたのだ】

 

「貴方がカツラオトコの友人ですね」

 

【ああ。その通りだ】

 

 その魔化魍の姿は今までの魔化魍とは少し違って、いやかなり異なった外見をしている。

 私の家の家族に迷家と水底がいる。2人はツクモガミという種族の魔化魍で、道具が時間を経て、私の王の気というものを浴びた結果、誕生した。

 そして、前にいる魔化魍の外見を簡単に言うなら、大量の藤壺と貝類、蛸壺で出来た人型。大量のそれらが奇妙なバランスを保ってるようで無理矢理人型にしたという感想も浮かぶ。

 

【私はセトタイショウという】

 

 セトタイショウがぎこちなく立ち上がろうとするがなかなか立てない。そしてその原因が目に入った。

 上半身と下半身を形成している中でも一際大きな壺。その壺の中心にヒビが入っている。そしてその壺は下半身と繋がっている為か、脚の動きがぎこちなくなっていた。

 

「その壺のヒビは?」

 

【ああ、これか。過去にある鬼と戦った際、死に際の一撃で受けた傷だ。当たりどころが悪かったのがあってか、治すことも出来ず、そのままになっているのだ】

 

「そうですか」

 

【セト。無理に立たなくていいぞ】

 

 そう言ったカツラオトコはセトタイショウに肩を貸して、ゆっくりと腰を落としながらセトタイショウを座らせる。

 

【済まない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、セトタイショウ。何故このような計画を考えたの?」

 

 カツラオトコから聞いたのは猛士九州地方支部の壊滅させるという話だけ、必ずその壊滅という目的にさせた理由があると私は睨んだ。

 

【私達は………九州地方の魔化魍の多くは争いごとを好まず人間と関わりを持たないように平和に過ごしていた】

 

 セトタイショウは昔話を語るように話し始めた。しかし、その一言に疑問を覚えた。

 

「人間と関わらない? ですが、魔化魍は人間を喰らって成長する種が多い筈です。人間を喰らわずに起きる飢えはどう凌いでいたのですか?」

 

【王は知ってるか不明だが、元々魔化魍は自然にあるものを喰らって生きてた。自然にある山の幸を海の幸をそれら喰らって我らは数世紀に渡って人間から隠れていた】

 

 確かに魔化魍は、人間を喰らわずに生きていける。テングやカッパ、バケネコといった魔化魍は動物の生き血や植物を喰らって生きていくことも出来る。

 だが、どうしても成長速度的な意味で言うのならば、人間を喰らった方がはるかに成長速度は速いし、何より強くなる。

 

【だが、ある時に隠れて暮らして魔化魍が猛士に見つかった。その魔化魍は鬼によって清められた。

 次の日、別の魔化魍が見つかり清められた。また次の日も、その次の日も。争いごとを好まないことと人間を喰らわなかった事で、我らはそこまで強くなかった】

 

 それはそうだ。成長しきっておらず、またそこまで力が強いわけではない。そんな魔化魍はおそらく、猛士からすれば絶好のカモ、もっと言えば、新たな鬼の実戦テストの相手として丁度いい相手。

 おそらくそれが猛士の鬼の質の向上に繋がっていたのだろう。それは弱い魔化魍といえども戦闘を重ねれば、実力は上がり、より戦闘能力の高い鬼も増やせる。

 

【だから、私達はこの九州地方を離れて暮らせる魔化魍を各地方に逃した。だが、地方に逃れた魔化魍もいくつかは鬼達の手によって清められた。その中で生き残った魔化魍も1月前に死んだ】

 

 そう言ったセトタイショウは今まで犠牲になった魔化魍を思い出したのか、手を顔に当てて、涙を抑えている。

 

【そして、私は思った。魔化魍のために行動しても結局は猛士の鬼たちがいれば、仲間はどんどん清められて滅びる。だからこそ、そのまず手始めにここの猛士、九州地方支部を壊滅させることを計画した】

 

 人間に何もせずにひたすら受けの姿勢を保ったセトタイショウは我慢の限界だった。清められていく魔化魍を見ていたセトタイショウは何もしない九州地方の魔化魍を滅ぼそうとする鬼を、猛士を、魔化魍の生存の為に猛士を滅ぼせばいいと考えた。

 

睡樹

【でも……鬼にも…僕た…ちの……事を…心配…するの…もい…る】

 

【確かに鬼にも話が分かるのはいるのかもしれない。王の元にいる数人の鬼の話もこちらは聞いてる。

 だが、所詮は人間だ。表ヅラは味方でも、中身まで分からない。何か猛士から命じられた作戦で仲良くしてるのかもしれない。

 いつ寝首を切られるのかも分からない。それでも王は鬼が我らの話を聞くものがいるというのか!!】

 

【おい】

 

 睡樹の言葉に激昂して荒々しく答えるセトタイショウにカツラオトコは落ち着けというように肩に手を置く。そして、落ち着いたのか先程までの穏やかな顔(?)に戻った。

 

【済まないな王の仲間。少しカッとなったしまった】

 

睡樹

【う…うん……気にし………て…ない】

 

【そうか。……では、話を戻そう………王は、どう思われているのかを聞きたい】

 

「………まず初めに言うとしたら、ここに来るまでの道中、私はこの計画に参加した場合のメリットとデメリットを考えた。

 メリットは魔化魍を救えるし、その救った魔化魍も私の家族となるかもしれない。逆にデメリットは猛士の反応です。今まで北海道の3支部、ここ九州地方の佐賀支部、後は私が関与してないけど四国地方の高知支部も壊滅した。

 今回のこの計画を実行した場合の猛士は我らを完全に滅ぼす為に行動するでしょう。

次に私は魔化魍からすれば半端者ともいうべき王です。人間を喰らう魔化魍を育てていながら、人間のそれも魔化魍の敵である鬼を館に住まわせてますから、他の魔化魍からすれば、キチガイや狂った王などと思うでしょうが………何故無理だと決め付けるのでしょう」

 

【【?】】

 

「………」

 

 私の言葉にカツラオトコとセトタイショウは頭をハテナマークを浮かばせ、いつの間にか部屋にいた鋼鉄参謀のことの成り行きを見守るかのように口を閉じていた。

 

「魔化魍だから人間と仲良くなってはならないと誰が決めたのでしょうか? 

 家にいる鬼は家族が愛している存在です。例えば、三尸と行動を共にしている調鬼こと月村 あぐり。彼女は北海道第1支部に居た鬼で、三尸や兜、命樹、五位の面倒を見て、第1支部の実験から彼らを守っていました。

 次に導と一緒にいる紗由鬼こと紗由紀はある魔化魍に洗脳されてましたが、戦いの前に導と知り合い友達となった。しかも、その後に洗脳で導と戦わされたけど、彼女は導を見て自ら洗脳を解き、鬼からの攻撃から導を庇った。

 そして、8人の鬼の1人 慧鬼こと安倍 春詠。私の姉です」

 

【【!!】】

 

「姉は元々、魔化魍を研究していたのですが8人の鬼の末裔という事で無理矢理、鬼の力を継承させられました。でも、そのお陰で私は姉と再会できた。

そして、再開後に私の家族を見て、大喜びしてました。更にここには居ませんが鬼と夫婦関係になり子供を産んで、孫が産まれて祖母になった魔化魍も居ます。

こんな風に鬼でも魔化魍を敵と見ないものもいます。それでも、今までの出来事で貴方達が信用できないのは分かりますが、それでも私の家族と暮らす鬼だけでも信用してほしい」

 

【【………】】

 

「私が何を言いたいのかと言うと、人間だからと言って、下に見たり、すぐに殺すのはやめて欲しい。勿論、食事として人間(家族以外)を喰らうのは構わない。

 でもこの計画が無事に終わったら、この計画に参加しているみんなを家族にするから。今の内に家族の人間は食べ物じゃないと理解しておいて欲しい」

 

【それでは!?】

 

 私の言いたいことが分かったのかセトタイショウは顔を上げて私の言葉を待った。

 

「9代目魔化魍の王 安倍 幽冥。その計画に力を貸しましょう」

 

【ありがとう王】

 

 私の言葉にセトタイショウは動きづらい身体を動かし、私の手を両手で掴むとそのまま感謝の声をあげた。

 睡樹と南瓜はその光景に拍手し、カツラオトコはその光景に涙ぐみ、どうなるか見ていた鋼鉄参謀は静かにその場から離れた。

 そして–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王のいる場所が分かりました。共に行くメンバーも既に決まっています。これからその者の名を呼びます。呼ばれた者は直ぐに蛇姫から札を貰いなさい。呼び終わり次第に『転移の札』を使い、王の元に向かいます!!」

 

 特定するのに時間が掛かったが、居場所を特定した王の家族が動き始めた。




はい。如何でしたでしょうか?
『不明』はセトタイショウ。『鉄人』は鋼鉄参謀でした。
いやー鋼鉄参謀って何気に好きなデルザー怪人なんですよね。特に漫画の『仮面ライダーSPIRITS』での鋼鉄参謀はカッコいいですよ。そのシーンは是非漫画や電子書籍でご覧ください。
因みに、鋼鉄参謀はその漫画版の記憶もあります。


ーおまけー
迷家
【うんうん。それは大変だねーーーん………あ、いけなーーい、いつものコーナーだ。
 ごめんねー話はまた今度、え? このまま出る。うーーんそうだね。ゲスト見つけてなかったから。いっか。じゃあそのまま待ってて、うん。
 ではでは、改めておまけコーナーは、じまるよーー!!♪♩】

迷家
【この企画が始まってーーなんと5回目。いやーー変な人から頼まれたこれも、結構楽しくて。
 おっと、ではさっきの話し相手もとい本日のゲストは!!ー】

刺馬
【劔の相棒の刺馬です】

迷家
【彼女ね。どうやったらーー劔が自分を番として見てくれるのかって、相談してきたんだよ♩】

刺馬
【あの、すいません。流石に相談内容を言われるのは–––】

迷家
【大丈夫、大丈夫。ここで話をした内容は、外に漏れる事はないし、誰も聞いてないから………あ!! でも僕は聞いてるけどね】

刺馬
【……そうなんですか?】

迷家
【そう!♩ だから例えば、ここで劔に対しての気持ちを君が叫んでも、問題ないよ】

刺馬
【でも/////】

迷家
【もう。君はさ、もうちょっとガンガン行けないのかなーーー】

刺馬
【ガンガン、ですか?】

迷家
【そう。ほら、荒夜や狂姫みたいな感じな】

刺馬
【ですが、あの2人は元々婚約者同士と……】

迷家
【ありゃ、まあそんな事はいいから、そのポジションを自分と劔に置き換えてみなよ】

刺馬
【劔と………】

〜刺馬妄想中〜

【刺馬。今日もいい毛並みだな】

刺馬
【劔のだって、いい毛並みだよ】


【いや、この毛並みは俺だけのものだ】

刺馬
【ひゃ、つ、劔、こんな所で!?】


【刺馬、こんな所で何だ?】

刺馬
【もっと、誰もいなさそうな場所に……】


【大丈夫だ。俺に任せろ】

刺馬
【ああ、あああ、ダメーーー!!】
〜妄想終了〜

刺馬
【劔、そこは、そこは駄目なの】

迷家
【あらら、余計なことを言っちゃったかな。みんな、ごめんね。今回のおまけコーナーはここまで、僕はこれから刺馬を元に戻してあげないと、じゃ、まったねーーー】

刺馬
【ああ、劔////】


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記録捌拾陸

今回の話には新しい魔化魍とその妖姫が出てきます。
白達の話は次回の予定です。ではどうぞ!!


 洞窟を出て擬人態の姿になっている睡樹と南瓜を連れて、あ、勿論、着ていた着物はセトタイショウの所に預けて、麦わら帽子や涼しい格好の服に着替えて白い砂浜を歩き私達はある場所を目指していた。

 ゴミもなく綺麗な白い砂浜を歩いているが、その砂に反射された太陽の日差しが肌を焼くように照らす。

 

 こんな風に肌が焼けるような感覚を味わうのは、前世の時に家族で海に行った時くらいだ。今世の親はそもそも私を学校や学校行事、買い物以外には外に出そうとしなかったし、義務教育である中学も中退させられてからは家に閉じ込められて、家事雑用をさせられ暴力を振るわれていた。

 まあ、そういう訳で久々の砂浜は熱いことを思い出し、目的地に向かう。

 

 しかし、目的地に向かう前に休憩を入れた方が良さそうだ。なぜなら、太陽の日差しで熱いと思う私よりもさらに肌が焼けそうで、身体をふらふらとさせている者がいた。睡樹である。

 溶岩のような身体をもち、炎(溶岩)を使った攻撃を得意とする赤の属性の南瓜には苦では無いだろう。むしろ日差しの熱は何のそのといった感じだ。

 だが、主食が水または血液で行動に水分を必要とする睡樹にはある意味、地獄だった。擬人態の姿の時に頭の上にポツンとのっている蕗の葉が少し萎れており、顔色も少し悪い。おまけに肌の色も赤くなっており、鍋で茹でた茹で蛸のように真っ赤だった。

 

「2人とも少し休もうか」

 

「はい」

 

「は〜い〜」

 

 休もうと言ったら、睡樹はペタリと砂浜に座り込み、怠そうな顔をしながら砂浜に擬人態を解いた腕を突き刺すと、砂浜から睡樹の腕と同じツタが伸び、それらが複雑に絡み合い、巨大な玉になる。それが出来ると睡樹は腕を引き抜いて、そのまま砂浜に倒れる。南瓜も擬人態を解いた腕を使って睡樹の作った玉の中心を抉るように取り出して中に空洞を作る。

 

 空洞の出来た玉を南瓜は持ち上げて、空洞を埋めないように砂浜に埋め込むと、擬人態に戻した腕で睡樹を抱えて、その中に入った。私はその玉の周りにフグルマヨウヒさんの力を借りて作った札を貼り付けてから玉の中に入った。

 

 玉の周りに貼ったのは、以前、オセとの戦いで使った結界を一時的に使うことのできる札で、これによって砂浜にある玉は姿形も消えて、外からの影響を受けなくなった。

 

 中に入った私はユキジョロウさんの能力で空中の水分を凝結して氷の塊を作り、熱をもった砂浜に顔から倒れた真っ赤な顔の睡樹の額の上、両肩、両脚、お腹に数個乗せる。氷が気持ちいいのか、睡樹の怠そうな顔は穏やかになり、寝息をたてる。

 そして、何故このような状況になったのかと言えば。

 

〜回想〜

【では王。計画に参加してくれたところ悪いのですが、仲間を呼んできてもらって宜しいでしょうか?】

 

「仲間?」

 

【はい。前の鬼との戦いの後から連絡がないので、おそらく獲物を蓄えてると思うのですが、それで、その仲間をここに連れてきて欲しいのです】

 

 セトタイショウの猛士九州地方支部壊滅計画に参加を宣言した私がセトタイショウに言われたのは仲間を呼ぶことだった。

〜回想終了〜

 

 セトタイショウの頼み事を思い出しながら睡樹を見ると、赤かった顔も白い肌に戻り、顔色の悪さもなく、頭の蕗の葉も水気を含んで綺麗な緑色に戻っていた。

 そして、あまりにも気持ちよさそうに眠るものだから私も眠くなってきた。

 

「南瓜、私もちょっと眠いから外の様子は、ふわ〜頼んだよ」

 

「かしこまりました」

 

「じゃあ、おね、がいね」

 

「良い夢を」

 

 眠る睡樹を抱き枕のように寄せて、そのまま寝息を立てる幽冥を見ながら、南瓜は入り口のそばで2人の眠る姿を見ていた。

 

SIDE◯◯

 セトタイショウに言われて幽冥たちが目指している場所、それはどこの海にも1つか2つはあるだろうもの。

 これから泳ぐ客、泳ぎ疲れた客。腹を空かした客。そんな客を相手する売店の一種。

 

 海の家 さざ波。

 一昨年に開いた海の家で小さな店ながら、普通の海の家同様に食事処、ピーチパラソルやボート、浮き輪のレンタル、ダイビングスポット紹介など、いろいろなサービスをしてくれる海の家で店主の女性が1人で運営している。

 しかし2ヶ月前に溺れた人を助ける際に腕の骨を折ってしまい、それがキッカケで常連を除き、一時期は客足は遠ざかっていたが、今は違う。

 

「あ、あ、あ、ありがとう、ご、ございました」

 

「ありがとうございました。ふう、少し休憩したらどう?」

 

「だ、だ、だ、だい、丈夫です」

 

「そう。それにしても貴女が入ってくれたお陰で助かったよ。いつも私だけでやるんだけど、このザマじゃね」

 

 そう言って、折れた腕に巻かれた包帯を見せる店主は隣のバイトの女性に言う。

 そう。このバイトの女性が折れた腕でできない事をカバーしてもらい、そのおかげで店の客足も元に戻った。元々、美人な店長と同じくらいの美人の女性が入ったことでむしろ前よりもお客が増えている。

 

「いえ、いえ、わ、わ、私も一食のご、ご、御恩があ、あ、ありますので」

 

「じゃあ、もう少ししたらちゃんと休みなさいよ。私、少し買い出ししてくるから。案内をするときは札を掛けてね」

 

「は、はい。い、い、いってらしゃい」

 

「はい。行ってきます」

 

 そう言って、店長は買い出しに出掛け、残ったバイトの女性はカウンターにある椅子に座り込む。

 

「それにしても、何でこうなった」

 

 思い出すのは鬼との戦いがあった日から1週間くらい遡る。

 

〜回想中〜

 あの子の餌を探しにこの海岸にやって来て、私は獲物となる人間を探していたときだった。

 私は猛烈な飢えに襲われて砂浜に倒れた。普段は餌として狩った人間の財布から金を取ってそれを使って食料を買うが、最近は、財布を持つ獲物が少なくてかれこれ1ヶ月は何も喰べていない。

 

 まだ昼で、餌である人間たちが沢山いて私のことを心配してるのか声を出す人が何人もいたが、誰も私に触れようとせずにその場で携帯で写真を撮ったりする人もいた。

 

「(誰でもいいから、何か食べ物を)」

 

 普段は餌と見る人間に救われるのは屈辱だが、背に腹もとい腹の飢えは治らないので心の中でそう思っていると。

 

「ほらほら邪魔だよ。全く誰も助けようとしないなんて、アンタら少しは助けようと思わないの?」

 

 当時、怪我してまだ少ししか経っておらず、腕に包帯を巻き三角巾を着けた女性もとい店長が私を助けてくれた。

 

「どうしたんだい」

 

ぐぎゅるるるるる

 

「ははは。そうか腹が減ったんだね。待ってて今美味い飯出してあげるから。ほらそこの兄ちゃん。この娘をウチの店まで運んでくれる」

 

「は、はい」

 

 店長に呼ばれた野次馬の男の1人が私を店にまで運んでくれ、店長の作ってくれたご飯で私の飢えは何とかなった。

 そして、私は1食の恩でこの店長の手伝いをしている。

〜回想終了〜

 

 そんなことを思い出しながら、私は机に置かれていた食器を片付け始める。

 すると–––

 

「い、い、い、いらっしゃいま、せ…………」

 

 入ってきたのは麦わら帽子を被った少女とその後ろからついてきた幼女と男が入ってきた。

 私は見て、真っ先に気付き、そのままカウンターまで歩いてくる。

 

「貴女がセトタイショウの言っていた仲間?」

 

 会って早々にセトタイショウのことを聞いてきた少女に私は返答ができなかった。

 王の噂はセトタイショウから聞かされていたのですぐに分かった。しかも、王を見た瞬間に胸元をキュッと締め付けるような痛みが起こる。なんの痛みかは分からないが、今は王に聞かれた事を返そうとした時–––

 

「おい。邪魔するぜ」 「姉ちゃん。ごめんなwww」

 

「ダイビングできる穴場に行きたいんだけど、教えてくれねえ」

 

 いつの間にか店に入ってきたダイビングスーツを着た4人の男が私と王の間に割って入り、私に案内を頼んだ。

 折角会えた王との初会話を邪魔されたのが凄くムカついた私はこの男たちが居なくなったところで問題のない人間と思い、そのままあの子(・・・)の居る場所に案内しようと思う。

 

 あ、ちゃんとお店にCLOSEの札掛とかなきゃ。

 

SIDEOUT

 

 少し眠ったお陰でスッキリして、睡樹も体調が戻り、札を剥がして、玉は南瓜に焼いてもらった。そして、再び歩き続けると人がちらほらと見えてきたのは。どうやら目的の海岸に辿り着いたようだ。

 セトタイショウが言っていた者がいる場所を探す。周りの人に聞いたおかげで場所が判明し、そのまま2人を連れて目的の場所に歩く。

 そして、目的の人物がいるという海の家に着き、そのまま店に入った。

 入った時に机で食器を片付けていた女性がセトタイショウの言っていた妖姫だということが分かり、質問したのだが、妖姫が答えようとした瞬間に4人組の男が『ダイビングスポットの穴場の場所を案内してくれ』と間に割って入り、妖姫に頼んでいた。その結果、彼女と話すことができなかった。

 案内がどれくらいで終わるのかが分からず、仕方がないので、私達もその案内について行くことにしたのだが。

 

「ねえ、ほんとにここが潜る穴場なの〜〜」

 

 海の家でダイビングの穴場に行きたいと言った男達の中にいたチャラチャラした男が文句を聞こえるように前で案内する妖姫に言うが、それよりも男の連れの下卑た視線が幽冥や案内する妖姫、睡樹を見ている。

 

「は、はい。この奥に良い、も、も、潜り場があ、あ、あるんですよ」

 

「まあ、いいけどさ」

 

 そう言う男の手は案内をする妖姫の臀部にスッと伸びていく。

 

「い、痛てっ。なにしやがる!!」

 

「いえ。何か怪しい手の動きだったので」

 

「痛い、痛い。離せ、離せ。何もしねえ。何もしねえ!!」

 

 南瓜は男の手を捻るように掴む。初めは文句を言うだけだったが、次第に捻り方が強くなると痛みで声を上げながら、妖姫に手を出さないと言わせて、南瓜は男の手を離した。

 男は捻られた腕に息をふーふーと吹きかけて、痛みを紛らわせるためか捻られた場所をさする。

 

「大丈夫か?」

 

ボソッ「糞、何で男が一緒なんだよ」

 

ボソッ「この先の穴場とやらで、あの男をどうにしかして」

 

 南瓜に腕を捻られた男は腕の心配をしている男とヒソヒソ話をするが、幽冥や南瓜たち魔化魍の聴力を持ってすればヒソヒソ話の内容は大声で喋ってるも同然、筒抜けだ。

 

「も、も、もうすぐ、つ、つつ着きます」

 

 妖姫が早口で指を指した場所には薄暗い洞窟が見え、そこから波のさざめきが聞こえてくる。

 

「ヘェ〜こんな所は俺も初めてだ。いいスポットじゃん」

 

 そう言って男の1人はダイビング用の道具の支度し始める。

 

「そ、それでは、わ、わ、私たちは、こ、こ、これで」

 

「おい!! ちょっと待てよ」

 

 案内された男の1人が帰ろうとする妖姫の腕を掴む。

 

「こんないい場所に案内してくれた礼として、いい感じにしてやるよ」

 

「お前らもこっちに来い、そこの男は来るなよ」

 

 下品な顔をしながら男たちはどこからか取り出したナイフを幽冥たちにいや、正確には後ろの南瓜に向ける。

 

「なあな、楽しもうぜ姉ちゃん」

 

「そこのガキは俺にやらせてくれよ」

 

「俺はそこの嬢ちゃんを」

 

 男が妖姫を自分の側にまで寄せて、胸を揉み続ける。

 幽冥としてもこんな光景は気分が良くないので止めたいのだが、妖姫が自分に任せてというような感じで幽冥を見るので、幽冥たちは手を出さず、どうなるかを見ることにしたのだ。

 

「ほらほら、興奮するだろう」

 

「や、や、や、や、やめてください」

 

 さらに胸を激しく揉む男を突き飛ばすように妖姫は手を出す。

 

「うおおおお」

 

 バシャーーンと水飛沫を立てて海に落とされた。

 

「お前馬鹿かよwww」

 

「ダッせえwww」

 

「おいおいおい何やってんだよwww あ?」

 

 妖姫に海に突き飛ばされた男を笑うが、1人がふとなにかに気づいた。

 

「おい? あれ何だよ?」

 

「は? うわあああ!!」

 

 幽冥たちと妖姫の後ろから見えたある物で男たちは表情を青くしてカチカチと歯を鳴らし、身体を震わせる。

 ザアアアアアという音が聞こえて幽冥たちが振り向くと。そこには、先程妖姫が海に突き飛ばした男の頭を咥えた鮫の頭をもつ首長竜の如き長い首が海から出ていた。

 

「おい。これって、ドッキリだろ。何処かにカメラあるんだろ!! おい、さっさと出てこいよ。アレも作り物なんだろう」

 

 状況が理解できていないのか男の1人はドッキリか悪戯と思っているようで、いないはずのカメラマンやドッキリでお馴染みの看板を持った人が出てこいや魔化魍に咥えられている首も作り物と言っている。

 

「…………ウミボウズ、や、や、やっちゃって」

 

 妖姫にウミボウズと呼ばれた魔化魍は咥えていた頭を噛み砕き、潰れた頭から飛び出た脳漿と血がドッキリと言う男の顔に飛び散り、そのまま頬から垂れる。

 

「へっ? これって、本物? あああ、うわああああああ–––ぐぐぐぐも」

 

 やっと、この状況に理解した男は叫び始めるが、海から出てきた無数の蛸の触手が男を伽藍締めに締め付け、そのまま身体に食い込んでいく触手で身体の骨がゴキっと砕かれる。

 

「ごぶっ、ああ」

 

 砕かれた骨が肺に突き刺さったのか口から血を溢した男はそのまま触手によって海に引き摺り込まれる。

 

「おい!! 何をしやがった!!」

 

「み、み、みな、さささんに、に、にには、ウミボウズの餌にな、ななってもらいます」

 

「ふざけんな!!」

 

 先程、妖姫にセクハラをしようとした男のパンチが妖姫の顔目掛けて真っ直ぐ伸びるが。

 

【無駄。無駄なことをよくするものだ】

 

 ウミボウズと呼ばれた魔化魍の甲羅にあった棘が甲羅から飛ばされると棘は男の顔に突き刺さり、その命を奪った。

 

「なんだよ。何だよ、これは!!」

 

 現実離れした光景に最後の1人が言うと、妖姫は男の側にまで近寄り、耳打ちをするように喋りかける。

 

「う、う、う、運があ、ありませんで、でしたね。わ、わ、私が王と、とと話そう、と、と、と、した時に、邪魔し、し、したのが」

 

 妖姫が喋り終わると男のダイビングスーツを掴み、そのまま片手で持ち上げる。

 

「ウ、ウミボウズ、さ、さ、最後の、のの、ご飯、よ、よ、よく味わって」

 

 そう言って、妖姫は柔道の投げのように男を魔化魍の口元に投げ飛ばす。

 男はそのまま魔化魍の口元に収まり、そのまま顎を閉じていく、口元に収まった男が両腕と背中についていたボンベで必死に顎を抑えようとするが。

 

 人間の力でどうにかなるようなものではなく、そのまま男は魔化魍にボンベごと噛み砕かれる。口元から溢れる肉と骨らしき物とボンベの破片が地面にボトボト落ちる。

 

 海から全身を現した魔化魍の姿は歪な姿をしていた。

 首長竜のような体躯をしており、背中は棘を生やした甲羅に覆われて、男を引き摺り込んだ蛸の触手はこの魔化魍の前鰭で、幾つもの触手が重なって前鰭のような形になっている。長首の先は竜ではなく鮫で、尾の先にも鮫とは違う鯱の頭を生やし、2つの頭が幽冥たちを見下ろしていた。

 幽冥は知らないが、この魔化魍こそ、南瓜ことジャック・オ・ランタンと同じ『5大五行魔化魍』の1体。

 『激流の化身』、『津波の申し子』、『左方の水』という異名を数多く持つ魔化魍 ウミボウズだった。

 

「ウ、ウミボウズ…あ、あ、アレをお、お、お願い」

 

 男達を喰らったウミボウズは妖姫に呼ばれると歪なヒレが解けて数本の蛸の触手となり触手の先に載せた焦げ茶のコートを妖姫に差し出すと、妖姫はウミボウズに差し出されたコートを水着の上から着始める。すると、さっきまでの弱腰がどうしたのかというように、妖姫の姿勢はピッとした姿勢に変わり、ふにゃふにゃして吃りの早口の泣き言を言いそうな顔もキリッとした顔付きに変わる。

 妖姫はコートを差し出したウミボウズに身体を預けるように寄りかかり、差し出された頭を撫でながら口を開く。

 

「はじめまして。私がセトタイショウの仲間………ウミボウズの妖姫」




如何でしたでしょうか?
はい。ついに登場しましたウミボウズとその妖姫。
妖姫はモデルとなる人物が2人おりますが、多分わかっちゃうと思います。


ーおまけー
迷家
【はーーい。おまけコーナー始まるよーーー♪】

穿殻
【しくしく、しくしく】

迷家
【あ、あらら、ちょっと、どうしたの!?】

穿殻
【しくしく、しくしく】

迷家
【あら〜どうしよう】

穿殻
【しくしく、しく、アレ、もう、始まってるの?】

迷家
【うん。君が泣いてるのみんなに見られてたよ】

穿殻
【はい。すいません。こんな地味な奴が、ウウ】

迷家
【あーーーもう!! 泣くのはやめて!! これじゃ質問ができないよ!!】

穿殻
【うう、すいません】

迷家
【ごめんね。この子〜久々の出番っていうので嬉しくて泣いてるんだよ】

穿殻
【やっぱり、存在感無いんですかね】

迷家
【大丈夫だよー。これからも色々と活躍するはずだよ♪】

穿殻
【そうでしょうか?】

迷家
【うん……………多分?】

穿殻
【今、多分て言いました】

迷家
【まあ、そんなことは置いといて、本当は質問しようと思ったけど、穿殻がこんな感じだから。
 次回のおまけコーナーも穿殻でやるよ。じゃ、バイバーイ】

穿殻
【さっき、多分って言ったよね。ねえーーーー!!】


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記録捌拾漆

初、2話連続投稿です。
はい。今回の話で幽冥は白たちと合流します。
少し胸糞(?)シーンが入っています。


SIDE◯◯

 幽冥たちがウミボウズとその妖姫の自己紹介を聞いてる同時刻。

 『転移の札』によって飛ばされた幽冥たちが転移した場所と同じ場所に光が集まり、光が破裂すると中から複数の人影が見えてくる。

 

「ここに王がいるのですね」

 

 ヴィクトリアメイド服の女性もとい白が言うと。

 

「間違いありません」

 

 白の言葉に巫女服の女性が答える。

 

「で、どうするの?」

 

 三度笠を被った和服の女性もとい朧は白にどうするか聞く。

 

「とにかく、今は王を見つけることを最優先とします。何人かに分かれて動きましょう」

 

「王を見つけ次第、この札を破いてください。そうすれば、破けた札を起点に我らにしか分からない音が発生します。その音を頼りにその場に集合してください」

 

 白の指示を聞き、擬人態の家族達は数班に分かれて、巫女服の女性もとい蛇姫の手にある数枚の札から1つ抜き取り、それぞれが王である幽冥を探す為に行動を始めた。

 

SIDEOUT

 

 ウミボウズとその妖姫は自己紹介をすると、そのまま片膝立ちになり頭を下げる。

 

「改めまして。私はウミボウズの妖姫」

 

【俺は5大五行魔化魍のウミボウズ。久しぶりだな我が友よ】

 

 ウミボウズが自己紹介に名乗った称号と友が誰なのかと私が聞こうとした時に––

 

南瓜

【久しぶりだねウミボウズ】

 

「南瓜?」

 

南瓜

【え? そういえば話しておりませんでした。王は知らないかもしれませんが私もウミボウズと同じ5大五行魔化魍なのです】

 

「そうなの?」

 

南瓜

【はい。私は炎の五行、ウミボウズは水の五行になります】

 

【こうやって話すのは数十年ぶりだ。他の奴らも集まれればいいが】

 

南瓜

【その話はまた今度にしようウミボウズ】

 

 南瓜がウミボウズとの話を中断して、私はセトタイショウの言っていた事をウミボウズの妖姫に言うと。

 

「そうだった。連絡忘れてた。まあ、大丈夫でしょう。ウミボウズのご飯のついでに大量に捕獲しましたので」

 

 セトタイショウはもしかしたら鬼にやられたのかもしれないと心配していたらしいが、先ほどの様子から見るに、その心配は無用のようだ。

 

睡樹

【王………これ……み……て……みて】

 

 そんな風に思ってると、ウミボウズの現れた場所から睡樹がツタの腕の先に魚を刺して、こちらに走ってくる。おそらく、会話してる間に暇を持て余して獲ったものだろう。

 しかし、魚が獲れて嬉しいのか、下の岩場をよく見ずに走ってるので不安だ。そして、その不安は的中した。

 

睡樹

【あう】

 

 足元の少し大きな岩場に足を引っ掛けた睡樹は顔から転ぶと魚を刺していない反対のツタの腕でコートの襟に引っ掛け、綱引きのように引っ張られボタンを閉じられていないコートはスルッと脱げて、水着姿のウミボウズの妖姫が姿をあらわす。そして、コートを脱がされた反動でウミボウズの妖姫は顔から地面に突っ込む。

 

「あう。あ、あ、あ、あのコ、コ、コ、コ、コートを」

 

 睡樹にコートを脱がされて、地面に倒れたウミボウズの妖姫はさっきまでのキリッとした表情やピシッとした姿勢が幻だったかのようにふにゃふにゃした状態に変わり、睡樹が持つ脱がしたコートを指差して、早口で吃りながら喋る。

 

睡樹

【こ、れ?】

 

「は、は、は、はい。あ、あ、あ、あの返して、く、く、く、ください」

 

睡樹

【…………】

 

 睡樹がツタの腕に持つコートを指差すと、ウミボウズの妖姫はそれですというように首を縦に振る。

 

睡樹

【は……い】

 

「あ、あ、あ、あ、ありがとうご、ご、ごございます」

 

 ウミボウズの妖姫はお礼を言うと睡樹からコートを受け取り、目にも止まらぬ速さで上に着る。すると、先程と同じようになる。

 

「ふう、すいません。変なのを見せた」

 

「別に大丈夫だけど、何でコートが脱げるだけでそんな性格というか喋り方が変わるの?」

 

「変なのは自覚してるのですが、やはり恥ずかしいから」

 

 なんとも言えない微妙な空気が漂い、気まずそうに顔を背けるウミボウズの妖姫を少し可愛いと思う私だった。

 とにかく、セトタイショウが言っていた仲間の姿も確認したので、セトタイショウがいる洞窟に戻ろうとすると–––

 

「王よお待ちを、洞窟に戻ってもセトタイショウはいない」

 

「どういうこと?」

 

「私たちは、猛士の目から逃れる為、拠点をいつも変えている。前は洞窟だったから今頃は隠れ家にいるはず」

 

「そうなんだ」

 

 確かに、いつまでも同じ場所にいたらいずれ猛士に場所を特定される恐れがある。その為に拠点を変えているのだろう。

 

「じゃあ、その隠れ家の場所はどこに?」

 

「それですが、隠れ家は私達の仲間がいずれかが居なければ辿り着かないようにされている」

 

 今の話を聞く限り強力な結界を使って、その場所を認識させないようにしたのだろう。跳から聞いた話だと、結界を張ることのできる魔化魍はその術の適正がないと不可能のようだ。だが、それだとセトタイショウと合流できないと思っていると。

 

「ですから、私が案内します。私が居れば結界を通れる」

 

 セトタイショウの仲間が居れば通れるのだから、ウミボウズの妖姫に案内してもらう方がいいだろう。

 

「ありがとう青」

 

「青?」

 

「貴女の名前。いつまでもウミボウズの妖姫じゃ、長いし。どう?」

 

「青? 良い。その名前ありがたく頂く」

 

 私がウミボウズの妖姫に青と名を送り、ウミボウズの妖姫、青はその名前を呟いて自身の名として胸に刻み込んでいた。ウミボウズは身体を海に潜らせていく。

 

「ウミボウズはどうするの?」

 

【ああ、王よ。俺は別のルートでセトタイショウの居る隠れ家に合流する。妖じゃなくて青を頼んだ】

 

 そう言ってウミボウズは海に潜って消えた。残ったのは私達と目の前の青だけ。

 

「取り敢えず、その隠れ家に行こうか」

 

「はい! ………と言いたいのですが……」

 

「どうしたの青?」

 

「案内は私がバイトが終わってからでおねがいします」

 

 そう、忘れてるかもしれないが彼女がこの洞窟に男たちを案内してたのはバイトの一環に過ぎず、まだバイトは終わっていなかった。

 そう言って、私たちは洞窟を抜け、青がバイトを終わるの待った。

 因みに青がバイトを早く上がれるように私たちも協力して、その日の海の家の売り上げはいつもの5倍もあったとかで、店主の女性が大喜びしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、青が海の家のバイトを終えて、そのままの服装で店から出て案内を始めた。

 

「では案内する着いてきて」

 

「じゃ、行こっか」

 

 そうして、青の案内を受けて、前の砂浜とは違い、山の中に入って歩いて数十分経ったとき。

 

「…………う………………!!」

 

「……………………うう…!!」

 

 何かを呼ぶような声が聞こえたような気がするが、気のせいと思っていると。

 

「王うううううううううう!!」

 

「「幽うううううううううう!!」」

 

「え? わああ」

 

 気のせいと思ったのは気のせいではなく3つの声が聞こえ、振り向うとした瞬間に声の主達は私の身体に飛びついていた。

 声の主は顔を見ないでもわかる。

 

「王よご無事でしたか!?」

 

 両眼から涙を流し、私を本当に心配していたというのがよくわかる私の最初の家族であり従者となった白。

 

「幽、怪我ない?」

 

 大人の見た目と違った幼女っぽい泣き声で聞く、私のこの世界の最初の友達で今は家族の朧。

 

「幽、良かったよ無事で、前の様に心臓を切り取られそうになった時の様になってなくて良かった」

 

 前世の頃に私が助けて貰った時と同じ状況じゃなくてよかったと安堵する前世からの親友の美岬。

 

「ああ、王よ。ご無事でご無事で何よりです」

 

 白が力を込めながら抱きついてる為に少し痛いが、心配させた罰として甘んじて受ける。

 

「あ、そうだ」

 

 美岬がそう言って私から離れて、懐にしまっていたに札を破るとピキーーーンと某機動戦士のあの効果音のような音が響く。

 

「何ですか? この音は?」

 

「合流の場所を知らせる札って蛇姫が言っていた。」

 

 そうして少し経って、最初に合流したのは暴炎と蛇姫、昇布だった。暴炎と昇布は私の姿を見て安堵の息を吐いていたが、蛇姫は今回の『転移の札』によって起きた事故で、白や朧に怒られ、私の居場所を特定するの時間が掛かった事で私に謝っていた。

 

 蛇姫を落ち着かせてる間にどんどん合流してくる。

 樹を避けるように宙を浮いて移動する浮幽とその頭の上に乗った大尊と迷家。

 

 三尸と蝕を自身の半身ともいうべき骨の艦に載せて樹々の間をすり抜けるように現れた水底。

 

 地面から現れたのは穿殻とその殻の上の突起に捕まっている羅殴と屍と波音。

 

 地響きに似た足音と共に現れた崩とその背の甲羅でぐったりしてる憑とそれを介抱する食香と蝕。

 

 そして、合流した白たちは妖世館に帰りましょうと言うが、まだ帰れないと言い、その理由であるセトタイショウの計画の話をしたら、みんなは既に計画に参加してるかのようになり、帰るのはセトタイショウの計画が終わってからということになった。

 白たちと合流した私達は青の案内を受けながらそのまま進む。

 

「–––––––––っ––––」

 

「–––––––––––––––」

 

 ふと、擦れるかのような小さな声だが、何かが耳に入った。

 先程のことも白たちの合流の時にも思ったがどうやら聴力がまた上がったらしい。

 

「みんな何か聞こえない?」

 

「何がですか?」

 

「聞こえ………た……?」

 

ルルル、ルルル

 

 白や睡樹、一部の家族は聞こえてないらしく首を傾げる。

 

「うん。何か聞こえる」

 

【ああ、俺にも聞こえる】

 

迷家

【なんか聞こえるよーー♪】

 

 だが、朧や屍や一部の家族には聞こえているみたい。

 取り敢えず何かあると不味いので私と朧、屍で声の主達の確認に向かう。

 

「目–––や––は––––かったがな」

 

「しかし、––––が––––の––ラッ–––った」

 

 そこには鬼がいた。しかも軍隊でいう小隊位の規模の人数の鬼がいた。

 彼らは何かを話し合いながら何かを積んでいた。幽冥たちは鬼たちが何をしているのか確認しようと近づこうとすると。

 

「魔化魍だ。魔化魍がいるぞ!!」

 

 突然の後ろからの声に驚き、振り向くと音叉刀を構える鬼がいた。

 

「くたばれえええ!!」

 

 魔化魍のいる中で私に向けて音叉刀を振り下ろす。まさか、半分は魔化魍に近くなったとはいえ、外見上はほぼ人間の私に振り下ろしてくるとは思わなかったので、動けなかった。

 鬼の音叉刀は私の身体目掛けて垂直に振り落とされるが、どこからともなく音すら発さずに現れた白が鉄扇で音叉刀を防ぐ。

 

「鬼風情が身の程を弁えろ!!」

 

 白が鬼の音叉刀を弾いて、その首に向けて一閃すると鬼の首は吹き飛び、そのまま身体は首を無くした事で血を吹き出しながら倒れた。

 

「ありがとう白。でも、首は飛ばさないで欲しかったな」

 

「申し訳ございません王」

 

「まあ、いいよ。本当は確認した後に1人ずつ殺るつもりだったけど、どうせ……」

 

「何者だ!! 出てこい!!」

 

「俺らの仲間をよくも殺しやがったな!!」

 

 殺された鬼の首を見て、激昂する鬼達の声があたり一面に喚くように聞こえる。

 

「ね。あんな感じ」

 

「誠に申し訳ございません」

 

「しょうがない。白はみんなを呼んできて、その間は私たちで相手をするから」

 

 そう言って、私と朧と屍で、鬼のいる場所に姿を現す。

 

「テメェか俺らの仲間を殺したんは!!」

 

「覚悟しやがれよ!!」

 

「人の頭に問答無用で刀を振り下ろしたんです。死体がバラバラじゃないだけありがたいと思ってください」

 

 まあ、身体のほうは白が家族を呼びにいくついでに誰かにあげるんだろうけど。それは言わなくて良いかと幽冥は思った。

 

「ふざけるな!! ぐがああ!!」

 

 キレた鬼は腰の音撃棒に手を伸ばすと、屍が振った尻尾から出た毒血液を顔に浴びて、悶え、影から伸びた黒い棘が鬼の身体を貫く。

 

【私らの王に手を出した、つまり死。むしろバラしたほうが良かった】

 

【そうそう。バラバラにしてもよかったんだよ。こんな風に】

 

 そう言うと朧は鬼に影を操って鬼に突き刺した黒い棘を複数の刃に変えて、そのまま鬼の死体をバラバラに切り裂く。

 

「カイ!! はっ、三津谷! 上だ!!」

 

「上? ぐはっ」

 

 ボトボトと肉片に変えられた仲間を見ていた鬼は上空から急に現れた昇布の攻撃を腕で防いだがそんなの関係なく昇布は鬼の身体を吹き飛ばす。

 白が呼んできた家族達が集まり、陣を組むように鬼を睨む。

 

「三津谷、大丈夫か」

 

「ああ、軽い打撲だ」

 

「くそ!! 魔化魍め。まだいやがったのか!! まあ、コイツらと同じようにすぐに清めてやる」

 

「(コイツら? すぐに清めてやる? ………まさか!!)」

 

 鬼の言葉に気付き、幽冥は鬼が積んでいた物を見る。

 そこにはまだ幼く、自力で餌を取ることもできない幼体の魔化魍(ヤマビコ、ツチグモ、テング)たちの惨たらしく清められた(殺された)死体がいくつも積み重なっていた。おそらく、セトタイショウが逃がそうとした魔化魍の一部だろう。幼体の身体はまだ残っているが、少し経てば、ボロボロとその体を崩して塵になるのだろう。

 だが、親または幼体を守る為にいる筈の成体の姿が無いのは、既に清められて(殺されて)肉体が塵になったのか。それとも鬼達が何か知らぬ技術を使って死体を持ち出したのか。

 出来れば、前者の方が良い。もしも、魔化魍の死体を猛士が何かに利用しようとしてるのなら、それは最悪な事態(・・・・・)を想定しないといけない。現に北海道ではその様な類とは1度遭遇してる幽冥としてもこの想定が外れているのを願う。

 だが、涙を流した様な跡のある幼体の死体を見て幽冥は怒りが沸く。

 

    ◯

「おま、【貴様ら––––】」

 

 そして、幽冥が怒りの声を上げようとした瞬間、幽冥の怒りの声を遮るように更に大きな怒りの声が響く。

 幽冥が振り向くと。

 

昇布

【貴様ら、貴様ら、貴様ら、貴様ら】

 

 普段は純白に近い白い身体を持つ昇布だった。

 だが、その身は真っ赤に染まり、ほんのり発光していた。

 

昇布

【貴様ら、よくも、よくも。まだ小さなその子達を殺したな】

 

 鬼たちは昇布の声に気分をよくしたのか、清めた(殺した)幼体を1つも持ち上げて、煽るように昇布に言い始めた。

 

「はっ。こんな幼体如きに時間はかけらねえんだよ!!」

 

「お前らのせいでな俺の親友や仲間が死んだ。いい気味だ!!」

 

「俺たちは間違ってねえ!! 魔化魍は駆逐されるべき存在だ!!」

 

 幼体の死体を持った鬼は幽冥たちのいる場所に投げ、さらに鬼の1人が積み重なっている死体の山を蹴ると幼体の魔化魍の身体は受けた音撃の影響でボロボロと崩れていく。

 昇布は蹴り上げた鬼を尾で吹き飛ばし、崩れていく幼体の魔化魍たちの小さな身体を自身の細い手で抱える。だが、抱えたからといって幼体の魔化魍たちの身体の崩壊は止まるわけでなく、昇布の手の中で1体、また1体と塵に変わっていく。

 

昇布

【ああ–––––ああ、あああ、あああああああぁぁぁぁぁぁ!!!】

 

 そして、自身の手から溢れていく幼体の魔化魍だった塵を見ながら昇布は吠える。

 昇布の眼からは赤く濁った涙が溢れるように流れ、怒りと殺意と慟哭の篭った声と共に真っ赤な昇布の身体から白い蒸気が噴き出す。

 

「何だ!! この煙は!!」

 

「距離をとれ!!」

 

 鬼たちは昇布の身体から吹き出した蒸気に驚き、昇布の攻撃と判断したのか全員が一斉に距離を取り、音撃管を持つ鬼が煙に向けて構える。

 

ブジュルルルルルゥゥゥ

 

 後に幽冥たちは言った鬼達は龍の逆鱗を踏みつけ、切り落としたと。

 白い蒸気に覆われた中から響いたのは、鬼の行為に怒り、幼体の魔化魍たちの仇を取らんと白龍の声だった。




如何でしたでしょうか?
次回はブチ切れた変異態の昇布による鏖殺劇です。


ーおまけー
迷家
【はーーーーい。おまけコーナーだよーー♪】

穿殻
【前回は申し訳ございません。はい。今日は泣いてませんよ】

迷家
ボソッ【ホントだよ。あの後にどれほど苦労したか】

穿殻
【はい。大変申し–––】

迷家
【ああーーーもう。泣かなくていいから!! 君宥めるの時間掛かるから!! もう泣かないで】

穿殻
【はい。失礼しました】

迷家
【もーーーう。では、今回のゲストは前回と同じゲスト。泣き虫サザエオニの穿殻だよーー。
 それじゃあ質問するよ。いつも穿殻ってさ王から頂いた部屋の1つに篭ってるみたいだけどそこで何をやってるの?】

穿殻
【うん。いつも薬を作ってる】

迷家
【薬?】

穿殻
【そう。存在感を高める薬】

迷家
【………存在感】

穿殻
【そう。前にも言ったけど、僕ってさ存在感ほぼ無いっていう位薄いでしょ】

迷家
【う、ん】

穿殻
【それで気付かれなかったり、忘れられたりするでしょ】

迷家
【………】

穿殻
【だから、どんな状況でも分かるような存在感を薬で高められないかなって】

迷家
【そう、だね……………あっ! そうだ! いつも気になってたんだけどさ】

穿殻
【はい】

迷家
【時々、君の部屋を通る度に見る部屋の前に倒れてる戦闘員と大量のダンボールって何?】

穿殻
【ああ!! あれは趣味に付き合って貰って倒れた人たちです】

迷家
【趣味? どんな?】

穿殻
【はい。合成ジュースです】

迷家
【合成、ジュース?】

穿殻
【そうです。王曰く、人間の子供がファミリーレストランという所で良くやってるみたいです】

迷家
【へ、へえ〜〜】

穿殻
【それをいつもあの人たちに頼んで試飲して貰ってるんです。美味いか不味いか】

迷家
【そ、そうなんだ】

穿殻
【あ、そうだ。前回迷惑掛けたんで、今回お詫びの合成ジュースを持ってきたんです。是非飲んでください】

迷家
【………】

穿殻
【どうぞ】ニコニコ

迷家
【じゃあ、一口】ゴクッ

穿殻
【どう?】

迷家
【…………ガハッ…………】ドサッ

穿殻
【………うーーん。やっぱり、梅干しの搾り汁とレモンの果汁と赤紫蘇のジュースはダメか】

迷家
【………】ピクピク

穿殻
【なんか迷家動けないから。今回はここまで。じゃあねーーー♪ ハッ!! 今、僕目立てた!!】


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記録捌拾捌

昇布の変異態(自動変身タイプ)の暴走鬼鏖殺回です。
ハッキリ言うとある特撮の怪獣2体がモデルで周りに害を与えるヤバい進化をした昇布です。
因みに害は人間に絶大な効果がある害です。魔化魍には、あまり影響がありません。一部魔化魍は有るかも(亜種か異常種又は変異態を生み出すという意味で)。


 大量の蒸気の中から現れた昇布の姿は元の姿から大きく離れていた。

 

 白かった身体は全体的に発光する赤に変わり、右側頭部に凶々しく鋭利な鹿の角を左側頭部には鼻先から左側頭部に移ったのか螺旋状に捻れた犀の角を生やし、ヘドロの如く濁った液体が長い尾の全体を覆い、そして、尻尾を覆っている物と同じ物を頭から爪先まで身体全体に滴らせている。

 体躯は東洋龍から人型に変わり、2本の脚で立つ昇布は赤く濁った涙を流しながらギラつくような十字の虹彩が目立つ赤い瞳を鬼達に向ける。

 

「なんだ、あれは」

 

「何という禍々しさ」

 

 鬼たちは昇布の変わりように驚き。

 

波音

【いけない。このままじゃ】

 

穿殻

【術の準備を】

 

波音

【お願い】

 

ルルル、ルルル

 

 波音は姿の変わった昇布を見て、そう呟く。まるで何か危険なような言い方に幽冥たちは疑問に思う。

 

ブジュルルルルルゥゥゥゥゥゥ

 

「ふん。姿が変わっただけだ。気にするな!!」

 

「姿が変わった程度で!! 音撃響(おんげききょう) 土柱岩棺(どちゅうがんかん)!!」

 

「ああ。これでもくらえ!! 音撃波(おんげきは) 暗斜火輪(あんしゃかりん)!!」

 

 濁った液体をぶち撒けながら咆哮する昇布に鬼たちは音撃を放つ。

 茶色の鬼は手に持つ音撃弦の刃先を地面に突き刺し、そのまま弦を弾くと地面が盛り上がり土の壁は鉄の如き硬さに変質して、変異した昇布の全身を壁で覆い尽くし。

 赤い鬼は手に持つ音撃管から炎に包まれた車輪の如き音撃が土の壁に覆い尽くされた昇布に地を回りながら迫る。

 炎の車輪状の音撃が土の壁にぶつかると炎が弾けるように土の壁を覆い尽くした。

 

「「音撃合奏(おんげきがっそう) 火葬岩棺(かそうがんかん)」」

 

 1人の鬼が対象の魔化魍を土の音撃で変質させた土の壁に閉じ込めて、もう1人の鬼が炎の車輪型の音撃を放って土の壁全体を燃やす。それが、この音撃合奏(おんげきがっそう) 火葬岩棺(かそうがんかん)だ。

 この2人の鬼は名持ちの鬼では無いが、同時に繰り出した音撃合奏技(おんげきがっそうぎ)によって数体の魔化魍を清めた(殺した)実績を持つ。

 今回も名持ちである『白蜥蜴』の討伐のために編成され、その音撃合奏技(おんげきがっそうぎ)を使って『白蜥蜴』を討伐しようと九州地方支部(長崎支部)は考えた。だが–––

 

ブ…ュ………ルルゥゥ……

 

 炎に覆われた土の壁の中から声が響く。

 2人の鬼はまさかと炎に覆われた土の壁を見る。

 

ブジュルルルルルゥゥゥ

 

 土の壁を突き破って、身体の一部が炎に包まれた昇布が飛び出す。

 2人の鬼は現れた昇布に再び、音撃合奏技(おんげきがっそうぎ)を浴びせようと音撃武器を構えるも。

 

ブジュルルルルルゥゥゥ

 

 昇布が腕を振るうと腕から滴る液体が音撃武器に触れた途端–––

 

「うお!」

 

「俺の音撃弦が!!」

 

 鬼の持っていた音撃管と音撃弦は白い煙を立てながら中の音撃を放つのに必要な機構を溶かし、形を残したまま音撃武器を破壊した。

 

「がっ、ぐああああああああ!!」

 

「あががあああああ!!」

 

 音撃武器を破壊した昇布は両手で鬼たちの顔を掴む。

 すると、鬼たちの面から蒸気が上がり、鬼たちは苦しいのか腕や脚を使って昇布から逃れようともがくが、少しずつ鬼たちの動きが鈍くなっていく。

 

ブジュルルルルルゥゥゥ

 

 昇布が声を上げると鬼たちの身体は勢いよく発火し、炎に包まれた。

 その光景は先程、昇布に仕掛けた音撃と似たような仕返しを鬼たちはされた。

 

「勇人!! 了!! くそーーーー!!」

 

 2人の鬼の名前を呼ぶも、返事はない。

 その意味を理解したのか、名前を呼んだ鬼は変身音叉を音叉状の刃先の槍、音叉槍に変えて、昇布に向かって走り出す。

 

「死ねぇぇぇぇ魔化魍!!」

 

 鬼の持つ音叉槍の刃先が昇布の身体に触れた瞬間–––

 

「なっ!! 音叉槍が!!」

 

 先程溶けた音撃武器とは異なるように、音叉槍は柄半分を残してドロっと融けた。

 そして、言うまでもないだろうが、音叉槍の元は変身音叉である。鬼に変わる為に必要なもの。それを失った鬼はどうなるか?

 

「しまった!! ぐっ、がああぁぁ」

 

「目が、目がああああああああ」

 

「があああああ、溶ける、痛い、痛い!!」

 

 鬼の変身は解け、その隙を見逃さない昇布がすかさずその身を横に振るうと、身体から滴る液体が四方八方に飛び散り、変身の解けた鬼の脚に当たって脚を溶かし、そこから離れた場所に立つ鬼の面に当たって面ごと眼を溶かし、音撃管で液体を撃った鬼は防げたと思うも逆に細かくなって避け辛くなった液体を浴びて、鎧の上から溶けて中を溶かしているのか、毟り掻くように全身を掻く。

 鬼たちにだけダメージがあるように思われるが、幽冥たちにも昇布が四方八方に飛び散らせた液体は飛んでくる。

 

穿殻

【避けてください!!】

 

「ぎゃあああああ!!」

 

暴炎

【そらぁ!!】

 

睡樹

【防…ぐ】

 

南瓜

【せい!!】

 

 しかし、幽冥の側にいた穿殻が触手から水流を放って幽冥に掛かりそうになった液体を飛ばし、水流の先にいた三津谷と呼ばれていた鬼に命中させた。勿論、液体の混じった水流を浴びた鬼は当たった箇所、頭から溶けて死んだ。

 

 暴炎も操炎術(そうえんじゅつ)で操った炎で液体を蒸発させて液体を防いでいた。

 

 他にも睡樹がツタを使って飛んでくる液体を防いだり、南瓜が土系の術で土を盛り上げて壁を作ったりと、このような家族連携によって幽冥たちには1つも被害がない。

 

「こうなったら全員であの魔化魍に音撃を仕掛けるんだ!! 音撃管は全員、音撃合奏技の準備を、残りは奴の足止めだ!!」

 

 鬼のリーダーらしき者の声で行動する鬼たち。

 音撃棒や音撃弦、音叉刀、音叉槍を持った鬼たちが昇布に攻撃を仕掛け、音撃管を持った鬼たちは集まって、最初に昇布が殺した鬼たちと同じことをしようと音撃管を昇布のみに向けて、タイミングを図る。

 

 昇布は迫る鬼たちに向けて今度は尻尾を振るう。

 身体から滴る液体と同じ物が鬼たちに向けて飛んでくる。鬼は液体を浴びて死んで仲間のこともあり、液体には何もしないで避けようとするが、液体は先程の液体と異なって広がるように飛んでいき鬼の2人は避けるが他の鬼たちは液体を浴びてしまう。

 液体を浴びた鬼たちは身体が溶けることを覚悟したが、溶ける様子もなく。こけおどしかと思い、鬼たちは昇布に攻撃する。しかし––––

 

ブジュルルルルルゥゥゥ

 

「おい、どうした」

 

「ぐっ、なんだ、これ…」

 

「脚が!!」

 

「動こかねえ!!」

 

 昇布まであと少しという所で、数人の鬼は動きが止まった。止まった鬼たちも何故動けないのか焦りを覚えながら、必死に身体を動かそうとする。

 

「いったい何が………アレは」

 

 身体を動かせる鬼の1人が動けない鬼たちをよく見ると、鎧の各所に黒い物が動かそうとする腕や脚を固める様に引っ付いていた。

 

「みんな!! その黒いやつを剥がせ!! それが動けない原因だ!!」

 

 原因は何なのかが分かったが、動けない鬼たちは身体自体動かせないので、剥がそうとしても、その剥がそうとする黒い物によって動きが阻害されている。

 

「おい、背後を見ろ!!」

 

 すると昇布の相手をしていた鬼が仲間の方を見ていた鬼に叫ぶ。

 鬼が振り向くと––––

 

ブジュルルルルルゥゥゥ

 

 昇布は口に何か集めるかの様に開き、その中心には橙色の光球が少しずつ大きくなっていく。

 

「何かヤバい。素鬼!! 戻ってこい!!」

 

「なら、撃たせなけりゃいい!! 視鬼! そいつらを守ってろ!!」

 

 素鬼は自身の音撃弦を垂直に持ち、昇布に向けて走る。

 昇布の口元の光球はどんどん大きくなりあたり一面を照らし、遂には口に収まるギリギリの大きさ変わる。光球の周りに紫電を迸らせながらいつでも撃てると言うように構える昇布。

 やがて、迫る鬼の音撃弦が昇布に当たりそうになった瞬間––––

 

ブジュルルルルルゥゥゥ

 

 咆哮と轟音と共に昇布の口からは放たれた橙色の巨光は自身に迫っていた素鬼と呼ばれた鬼を、動けない仲間を守る為に立った視鬼という鬼を、その後ろで動きを止められた鬼を、その後方にいた音撃を放とうとした鬼を呑み込み、その後ろにある山の山頂付近を擦り、空に広がる雲を消し去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が治り目を開けた幽冥たちの目には昇布の放った攻撃の破壊跡が大きく映った。

 地面が抉れるようにまっすぐ伸びた破壊跡をよく見ると所々にドロドロというのが生緩い様な醜く融けた鬼だった物があった。

 

ブジュルルルルルゥゥゥゥゥゥゥ

 

 だが、昇布はそれでも暴れ足りないのか、あたり一面に先程のよりは威力が低い口から吐く熱線によって辺りの樹は焼け、震えた身体から溢れる液体が下に垂れる度に落ちた先から白い煙が上がる。そして、幽冥たちの方に振り向き、口から鬼を殺したのと同じものを溜めて放とうとした瞬間–––

 

波音

【今よ!!】

 

 蛇姫と波音、穿殻の繰り出した水の術と水流が昇布の身体に命中する。

 命中した水の術や水流は昇布の身体に当たると蒸気を生み出し、視界を奪うようにどんどん増えていく。それでも波音たちは術を昇布に当て続ける。

 

ブ、ジュ……ルルル…ルルゥ…ゥゥ……

 

 すると昇布の赤く染まった身体をどんどん白くしていき、人型だった身体も元の龍の姿に戻っていく。水を浴び続ける昇布は力が抜けたように地面に横たわり、波音が昇布に近付き、更にその身体に付いた水を利用し、術で昇布の体を氷漬けにした。

 

波音

【これで大丈夫、のはず】

 

 自信のない波音の言葉を聞きながら幽冥たちは氷漬けになった昇布を見ていた。

 

「波音、昇布のアレはいったい?」

 

波音

【分からない。前にも昇布が鬼に怒りを覚えて、あれに変化した】

 

「そう言えば、何故マズいと」

 

波音

【過去にあの姿になった時、その場にいた猛士の人間は、昇布の放った攻撃と熱によって骨すら残さずドロドロに融かされたように死んだ】

 

波音

【そして、昇布もその熱にやられるようにどんどん融けていった】

 

「!?」

 

波音

【あの時、その場にいた全員で昇布の身体を冷やし続けたことで元に戻り、融けた身体も少しずつ元に戻っていった】

 

 氷漬けになった昇布の身体も先程、波音が言ったように一部が融けており、元々の白い身体でも目立つほど幽冥たちに痛痛しく映っていた。

 

「傷が癒えるのはどれくらい?」

 

穿殻

【前にあの姿になった際には、1週間ほど】

 

 幽冥の質問に答えた穿殻は触手で凍った昇布を持ち上げて、自身の殻の上に乗せた。

 

「みんな移動しよう。このまま居たらまた鬼が来る。その前にここから離れよう」

 

 幽冥は周りに影響を与えない結界も張れず、昇布によって起きた大きな被害を察知した鬼たちが再び現れることを考え、青の案内で目的の場所に移動することにした。

 場所は今回の計画の立案者のセトタイショウが用意した隠れ家。




如何でしたでしょうか?
今回は昇布の無双とオリジナル音撃技の音撃合奏技を出してみました。音撃合奏技のイメージは劇場版響鬼達のやった音撃連続攻撃や仮面ライダーディケイドの音撃同時演奏攻撃みたいなやつです。
因みに2人だと合奏、5人だと大合奏、8人以上だと超合奏となります。



ーおまけー
迷家
【はーーい。おまけコーナーだよ♪】

迷家
【今回はーーー昇布を止めた立役者の波音だよ♪】

波音
【立役者って、あ、波音です】

迷家
【いやーー立役者だよ〜♪ それでさ、昇布の……アレについての質問何だけどさ、アレって結局何なの?】

波音
【……王には言ったけど、アレについては何なのか実際不明。
 王達に出会う前にいつの間にかあの姿になれるようになっていたとしか言えない】

迷家
【うーーーん。ねえさ、昇布があの姿になれるようになる前、なんか変わった事なかった?】

波音
【………あ、関係あるか分からないけど、昇布は時折、散歩に出て行った時に何か入った物を持って帰っては、それをよく飲んでいた、それが原因?】

迷家
【………ねえ。その何かってさ、有害物質て奴じゃないのー?】

波音
【有害、物質?】

迷家
【そう。それが昇布に影響を及ぼしたんじゃないのーー?】

波音
【分からない。………でもあの昇布が再び現れることがないようにしたい】

迷家
【あ……そうだね。…………なんか変な感じだから今回はここまで。じゃあね】

波音
【………】


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記録捌拾玖

言い訳になるかもしれませんが言います。
Fate/Grand Orderの新たなサーヴァントの育成やポケモンの育成、AKFのイベントなど、ゲームをかなりやって、この作品の番外作品である『妖世館の地下第5空間の店には色んな客が来る』のプロローグとその次の話を書いていました。番外編はある程度の話数が溜まったら上げようと思います。因みにこの番外編は設定上、この話が終わり、様々な世界を行った後の話なので、まだ書いていない部分のキャラがたくさん出てきます。
そして、今回の話ですがこんなに待たせておきながら短めで展開が早い(?)です。
その分戦闘回の時はきっちり長めで書かせていただきます。


 幼体の魔化魍たちを殺した鬼たちを昇布が鏖殺し、その暴走を止める為に氷漬けにされ、昇布の破壊跡に猛士が気付く前にその場から離れて数時間経った。

 

 青の案内で、セトタイショウの隠れ家のある結界の前に着いた。

 

「この先にセトタイショウはいる」

 

 そう言った青の先には何も無い土の壁しかなくとても入り口と呼んでいいのか分からないものだった。そうしてジッと壁を見てると青が思い出したように喋る。

 

「そうだった。王たちには見えないんだ」

 

 青が土の壁に手を当てた瞬間、土の壁は消え去り、目の前に大きな洞穴が現れる。

 

「では、こちらへ」

 

 青が先頭を歩き、私たちはその後を付いて中に入っていく。

 じめっとしていて少し湿気ぽい中を歩いていく。こうも湿ってると足を滑らせて転びそうだが、洞穴の壁の至る所に蝋燭が灯されており、暗い道を薄く照らしているお陰で転ぶ心配はなかった。

 そうしてどんどん進んでいくと–––

 

【––––––––––––––】

 

【––––––––––––––】

 

 魔化魍の話し声らしき声と蝋燭の灯りよりもさらに明るい光が見えてきた。

 そこには–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セトタイショウと鋼鉄参謀、そしてセトタイショウの身体で隠れてるが小さな魔化魍が話し合っていた。

 

【––––––おお!! 王!! ここに来れたということは、無事に会うことができたということですね。そして、お前もやっと戻ってきたか。1週間ぶりか】

 

 私と青、そして後ろの私の家族に気付いて、鋼鉄参謀達との会話を止めたセトタイショウは私たちに話しかける。

 

「ああ。済まない。空腹で倒れてたところを人間に救って貰って、その礼で働いていた。だが、人間の肉も集めた。しばらくは保つと思う」

 

【そうか………ウミボウズは先程着いて、ツクモガミたちに肉を分けている】

 

【ねえーセトタイショウ。その人がボクたちの王?】

 

 少女のような声がセトタイショウから聞こえてくる。

 

【ああ。この方こそ我らの王だ】

 

 セトタイショウの肩の上からひょっこり現れたのは、熊のぬいぐるみだった。

 だが、ただの熊ぬいぐるみではないだろう。全身にある綻びを不気味に縫った跡、背中には特徴的なチャックが付いていて、脚には某猫の履いてそうな長靴。そして極め付けは手に持つ赤黒い物もとい人間の肉だった。

 熊のぬいぐるみは手に持つ肉を口に押し込んで、セトタイショウの肩からぴょんと跳んで、目の前に着地。そして流れるように片膝を着いた。

 

【初めてまして、私はツクモガミと申します】

 

「初めまして、私が9代目になる安倍 幽冥。よろしくツクモガミ」

 

 私はツクモガミに握手のつもりで手を差し出すと。

 

【あーーダメダメ! 今汚れてるからボクの身体!!】

 

 そう言うツクモガミの身体は先程まで喰べていた人間の肉から溢れた血で至る所に血が付き汚れている。だけど私は。

 

【あーー!! 汚れてるのに】

 

 ツクモガミの汚れてる身体を気にせずにそのまま、ツクモガミを本物のぬいぐるみのように抱き抱える。

 見た目とは裏腹に、凄くモフモフしていて、血が混じってるがフローラルな匂いが鼻腔に入ってくる。そして、慌てるツクモガミに言う。

 

「魔化魍が人間喰べるのは当たり前だから別に血で汚れていようと気にしないよ」

 

【でもでもーー】

 

【諦めろツクモガミ。王はその程度のことを気にする方ではない。安心して抱きしめられていろ】

 

【うーーーーー】

 

 いつの間にか私の側に立っていたカツラオトコもとい桂がツクモガミに説明して、ツクモガミは項垂れながらも素直に幽冥に抱きしめられる。実は、カツラオトコには桂というな名前を与えていた。カツラオトコの名前はセトタイショウのところに向かう途中で考えて、青のいる場所に向かう前にこの名前を与えた。セトタイショウに名前を与えなかったのは、まだ考えついてなかったからだ。

 

【王よ。無事にお戻りで何よりです】

 

 ツクモガミを抱きしめている時にいつの間にか側に桂が立っていたのは気にしてはいけないだろう。後ろから嫉妬じみた視線を4つほど感じるがそれも気にしてはいけないだろう。

 そんなことを考えながら私は桂とセトタイショウに話す。

 

「そうだ。桂、セトタイショウ。貴方達の仲間でまだ紹介していない子たちがいるでしょう。うちの家族の顔合わせと一緒に紹介してよ」

 

【では、私が呼んできますセトは王と話を】

 

【ああ、頼んだ】

 

 桂はその場から立ち上がり、奥にある襖に向かって、隣の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣の部屋に行って数分後、襖の奥から桂に連れられてきた魔化魍たちが私の前に集まった。

 

【先程ぶりだな王】

 

 洞窟で会った時よりも2回りほど小さくなったウミボウズが出てきた。私の家族もやっている術を使って身体を小さくしているのだろう。

 

「うん。無事に会えてよかったよ」

 

【俺は鬼に殺されるほどやわでは無い】

 

 まあ、南瓜と同じ強さかそれ以上のウミボウズはそうそう清められることもないだろう。そうしてウミボウズは南瓜と会話するために離れていった。

 次に目に入ったのは、なんというか変わった光景だった。

 

【仲、仲、仲間。嬉、嬉、嬉しい!!】

 

ルルル、ルルル

 

 同種族同士なのか? 同族に会えて嬉しそうに浮幽の周りをぐるぐる回り、変わった喋り方をするのは頭頂部に金と翡翠の装飾が施された豪華な鏡を着け、触手の先が金ピカな海月の魔化魍だった。

 

【あの魔化魍はウンガイキョウと言います。最近産まれたばかりですが強さは折り紙付きです】

 

 桂が浮幽の周りを飛ぶ魔化魍の名を教えてくれる。

 ウンガイキョウは浮幽の頭にべったりとくっ付き、浮幽が触手で引っ張っても離れようとしない。

 そして、最後に奥から出てきたのは、巨大な汽車を彷彿させ、身体の各所に電車のパーツを身につけた団子虫のような背甲を持つ灰色の百足の魔化魍だった。

 

【初めまして魔化魍の王。私はユウレイキカンシャと申します。セトタイショウの補佐をしております】

 

 ウミボウズと同じように術で身体を縮めているのだろうが、それでも大きいい。頭の先にある突起から白い煙がぽくぽく浮かんでいる。

 身体の所々に穴が空いており、そこをよく見ると席のような物が見える。

 ユウレイキカンシャという名の通り、おそらく中に入って座ることもできるのだろう。今回の計画が終わった際には、途中まで乗らせて貰いたい。

 

【? ああ、これですか良いですよ。今回の計画が終わった後には王には是非、乗ってもらいたいです】

 

「良いの?」

 

 私の視線に気付いたのか、自身の身体の中にある物に載せてくれるといった。以前、崩に乗せてもらった事があるが見るからに汽車のような外見を持つユウレイキカンシャに乗り心地はどうなのか、計画が終わった後が楽しみだ。

 

【はい。それに………魔化魍の王を乗せた魔化魍として名を広められそうですから】

 

 意外とちゃっかりしていると私は思った。そして、桂に呼んで貰ったのだからやるべき事をやろうと思う。

 

「では、セトタイショウ、ウミボウズ、ウンガイキョウ、ツクモガミ、ユウレイキカンシャは私の前にきてもらってよろしいですか」

 

 その指示に従って、セトタイショウ達は私の前に集まり、私が手を下ろすとそれに合わせて座り出す。名前を呼んでいない桂と青には理由を説明しているので、今は鋼鉄参謀と共に私の家族達と話していた。

 

「桂と青には名前があるのに貴方達に名前がないのはおかしいから。今から貴方達に名前を与えます。そして、私の家族になってもらいます」

 

 その言葉にどう反応すればいいのかセトタイショウ達は困惑している顔と嬉しい表情を混ざった顔を見せるが、私は気にせずに名前を与えることにする。

 まずは、青に育てられいるウミボウズから。といっても名前は決まってる。

 

「ウミボウズの名前は渦潮。青から聞いたんだけど主に渦潮を使って人間を喰らうんでしょ。そこから考えた名前」

 

渦潮

【ほおーー。渦潮、俺に相応しい名だな。感謝する】

 

「ウンガイキョウの名前は写鏡。安直だけど、どうかな?」

 

写鏡

【嬉、嬉、嬉しい!! 感、感、感謝!!】

 

「ツクモガミの貴女は、縫。ぬいぐるみのツクモガミの貴方にピッタリ名前でしょ」

 

【ありがとうございます】

 

「ユウレイキカンシャの君は穢流。君の元となった機関車で考えた名前。どう?」

 

穢流

【その名しかと胸に刻みました】

 

「最後にセトタイショウ。貴方の名前は鉄。極めて堅固な身体と仲間から頼られる貴方に相応しい名前だよ」

 

【ありがたく頂戴します】

 

 こうして桂、渦潮、青、写鏡、縫、穢流、鉄と名を貰った九州地方に住う魔化魍たちは幽冥の9代目魔化魍の王の家族として新たに加わった。

 

 そして、家族になったばかりの鉄を混えて、今回の話の大元である九州地方猛士壊滅計画の話を始める。

 まあ、始めると言っても実はある程度の話は白や朧、美岬、南瓜、青とこの場所に来る前に話してたのもあってそんなに時間がかからなかった。

 この場で出来た新しい家族たちの力を聞いたことによって、ある程度決まっていた組み分けに鉄たちを足す形で九州地方各支部の襲撃班が完成した。

 

「まず福島支部は私と鉄で、次に長崎支部は–––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––ね。これで以上。何か意見は?」

 

 襲撃場所に誰を送るかという話が終わり、意見があるかを尋ねる。誰も反論する気はないらしく静かに王である私の言葉を待っていた。そして、この計画で決まったことを私は目の前の家族に伝える。

 

「それじゃあ、今日から3日後。九州地方猛士壊滅計画を発動します。各自、戦いに備えて休息をとるも良し、共に襲撃するメンバーと作戦会議をするも良し、己を鍛えるも良し、セトタイショウいや鉄をこれ以上悲しませない為に、九州地方の支部を終わらせるよ!!」

 

 幽冥の指示を受けて、この場に揃う魔化魍たちは声を上げる。そして、幽冥の家族である魔化魍とこの計画の立案者である鉄たちはその場から離れて3日後の計画の為に各々休息を取ったり、支部襲撃の際のメンバー同士で会話を始めたり、襲撃に向けて己を鍛え始めた。




如何でしたでしょうか?
ラストに書いてた通りに次回は襲撃メンバー同士の会話や鍛錬、休息。そして、妖世館留守番組を書きます。
次回もよろしくお願いします。
更にその次は猛士九州地方支部の支部長同士の会話シーンを書こうと思います


ーおまけー
迷家
【はいはーい。始まりました。おまけコーナー。どんどんぱふぱふ】

「何ですか。そのセルフ効果音は?」

迷家
【気にしない気にしない。で、今回のゲストは何と驚き! 初めての人間だよ。
 じゃあ、ご紹介。三尸の未来の奥さん。調鬼こと月村 あぐりだよ!!】

「まだ、そこまで入ってません。…………おほん。何故か久しぶりな気がしますが、月村 あぐりです」

迷家
【じゃあ、早速質問。ぶっちゃけ三尸との進展はどう?】

「………………」

迷家
【あらーー? 予想してたの違う反応。どうしたの?】

「いえ、別に」

迷家
【そんな反応されると気になるじゃん! 如何したの?】

「最近なんというか、三尸が素っ気ないんですよ」

迷家
【素っ気ない?】

「私が側に近付くと慌てて何かを隠すんですよ」

迷家
【隠すの?】

「はい。私が何をしてるのか聞いても答えてくれなくて、そんなのが最近続いてて、私嫌われてたんですかね三尸に」

「それは違う!!」

「え? あ!!」

迷家
【え? 三尸!!】

「俺はお前を嫌ってない、むしろ大好きだ」

「じゃあ、何で私のことを避けてたんですか?」

「…………実はな、コレを」

「これは箱?」

「…………」

「開けていいですか?」

「ああ」

「これは、髪留めですか?」

「春詠からお前の誕生日を聞いて、ハハマナコから作り方を教わったんだ」

「誕生日?」

「ここに来てから髪を切ってないだろ、髪がかなり伸びてきたしなんか止められる奴がいいかなって」

「……………」

「それに春詠が言っていた。色々なことがあったから自分の誕生日を忘れてるかもしれないって、だから俺だけでもお前を祝ってやれたらなって」

「……………」

「誕生日おめでとうあぐり」

「ありがとう三尸」






迷家
【うんうん。良かった良かった♫ あの2人の仲違いなんて見たくないからね。
 うん。じゃあ、良い雰囲気のまま終わらせよっかな。じゃ次回もよろしく。バイバイ♪】


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記録玖拾

今回は久々の猛士視点と◯◯キャラの視点をお送りします。
ちょっとしたミスで話しはこちらが先になりました。
幽冥や家族の魔化魍側よりも短いかもしれませんが、読んでください。
それではどうぞ。



SIDE猛士九州地方支部

 幽冥と鉄による九州地方支部壊滅計画の会議がされている同時刻。

 

 福岡支部、長崎支部、熊本支部、大分支部、宮崎支部、鹿児島支部と名前の書かれたプレートに座る6人の老若男女が円卓に座っていた。 この6人こそ、鉄が壊滅を計画した猛士九州地方支部のそれぞれの支部を代表する支部長で、ここ九州地方支部の中心である福岡支部の最奥にある秘密会議室に集まっていた。

 

「みなも知っていると思うが藩が死んだ」

 

 福岡支部と書かれたプレートのある場所に座るのはここ九州地方福島支部の支部長であり、九州地方支部を纏める王である千葉 武司が空席になっている佐賀支部と書かれたプレートのある場所を見つめて言う。

 

「ええ。存じてます」

 

「その知らせは俺も聞いた。しかし、信じられねえな………あの藩がくたばるとは」

 

 最初に口を開いたのは、眼鏡を掛けた紺色のスーツ姿の女性で、手元にあるパソコンを操作しながら答える。彼女は大分支部の支部長 布都 ミタマ。

 その次に口を開いたのは、布都と同じスーツ姿だが着崩すようにシャツの出ている男。この中では支部長として任命されたばかりの鹿児島支部の支部長 臼井 功太。

 

「それも大事ですが、警察に何と申します?」

 

「すまぬが、いつものように記憶改竄を頼む花奈」

 

「師父の指示通りに」

 

 警察に対しての対応を聞くのは、喪服の如き黒い服を着た女性で宮崎支部の支部長 土浦 ふく。

 千葉の指示に答えたのは、顔が見えないようにフードを被った女性で、ここ猛士九州地方支部中で唯一警察と関わり、警察が魔化魍の情報を掴まないように記憶を操作する熊本支部の支部長 千野 花奈。

 

「そうだ。三ツ木、『白蜥蜴』や『不明』達を追いかけていたお前のところ鬼はどうした?」

 

「……………」

 

 腕を組んでいるボサボサな髪の男は何も答えない。いや、答えは既に雰囲気で千葉は察した。

 

「そうか…………遺族に報告は?」

 

「………してない。いや、出来ない」

 

 長崎支部の支部長 三ツ木 照広は静かに答える。

 

「あいつらには家族は居ない、いや魔化魍に殺されている」

 

 その答えに席に座る全員が理解する。

 猛士九州地方長崎支部。

 他の支部の構成員と違い、ほぼ全ての人間が魔化魍に家族を殺された孤児や人間で構成されている。

 この支部長 三ツ木も目の前で魔化魍に家族を喰い殺され、自身も喰われそうになった時に、当時は鬼として活躍していた千葉に助けられて猛士に入った経緯を持つ。

 魔化魍に対しての怨みも凄まじく、長崎支部の構成員はその怨みで集められた人間とも他の支部から言われている。

 また、セトタイショウこと鉄が猛士九州地方支部壊滅計画を考案させるキッカケとなった人物でもある。

 

「仇は俺が取る。武司さん良いですよね?」

 

 そう言って三ツ木が服から取り出したのは、年季が入ってるのか使い込まれた変身鬼笛。

 

「戦うのは嫌ですが、自分の安全のためです」

 

「………師父。私も自分の支部のピンチには使わさせて貰います」

 

 そう言って、パソコンを閉じた布都の腕には小型の変身鬼弦が巻かれており、千野も裾から覗く腕にも従来の形とは異なった変身鬼弦が巻かれていた。

 そう。九州地方支部長は臼井と土浦を除いて、全員が鬼として活躍していた者で、それぞれが名を挙げて鬼から支部長となった。

 

「うむ。みなも分かっておろうが、くれぐれも命を落とすようなことはするな」

 

「「「「「はい」」」」」

 

「うむ。では、次の議題は–––––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––––それでは、会議はこれで終了する。全員解散」

 

 そして、千葉と各支部長の数時間にも及ぶ話し合いは終わり、解散の号令を出す。

 

 それぞれが自分の支部に帰った中で円卓の椅子に座っている者が1人いた。

 ここ福岡支部の支部長 千葉 武司だ。

 

「わしもアイツと変わらんかったか」

 

 そう呟いた千葉が思い浮かべるのは親友を亡くして、魔化魍への憎悪を募らせて消えた四国地方の王の姿だった。

 千葉もまた家族を魔化魍に殺され猛士に入った人間。

 若い頃は九州だけに留まらず様々な地方で魔化魍を清めてきた。その結果が当時では滅多に無かった鬼から王になった最年少の王。当時の猛士では有名な話だ。

 あの時の加藤の眼を見た千葉は鬼を引退して以来、部屋の奥に仕舞った自身の変身音叉を持ち歩いている。そして、引退してから久しい鬼の鍛錬を行っている。全盛期だった頃に比べて劣るも、8割ほど以前の感覚を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千葉 武司。またの名を白鬼。

 かつて魔化魍の王に近い力を持った魔化魍 ヌエを部下である2人の鬼と引き連れた数十人の鬼と共に音叉刀を使った音撃で首を飛ばし、その身体を7つに分けて封印した生きる伝説。

 音撃を覚えらなかった鬼に音叉刀で魔化魍を清めるという音撃剣技を広めた男。

 

 安倍 幽冥率いる猛士九州地方支部壊滅軍VS千葉 武司率いる猛士九州地方支部。

 この2つの戦いが始まる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯◯

 某猛士佐賀支部跡地。

 幽冥の指示で世送が破壊した佐賀支部。ボロボロの壁には時間が経ってるせいで見えないが飛び散った血の跡があった。

 そして、壁の側にはローブを羽織った男がいた。

 

「そうか、そうだよね。……………うん。辛かったねえ」

 

 男は壁に向かって喋っている。

 正常な人が見たら、頭のおかしな人が壁に喋りかけていると思うだろうが、男の周りには誰もいない。

 

「そう。だから、僕が叶えてあげる」

 

 話すが相手がいないのに会話が成立してるように話す男。

 

「うん。じゃあ、契約は成立だね」

 

 何かが成立したのか男の話す壁から青白い火の玉が浮かび上がってきて、男の手がそれを掴むと、火の玉は一瞬にして姿をなくす。

 

「……はあああーーーー。ねえ、後どんくらい集めるの?」

 

 男はまた宙に向けて話し始める。

 

「あと11個? めんどくさいんだけど、はいはい、分かりました。やればいんでしょ。や・れ・ば…………えっ!? きてるの? ………分かった。じゃあ、そっちをやるよ。それだったら、そっちも文句ないでしょ」

 

 男は口を閉じると、星が見える夜の空を見上げながら呟く。

 

「これが終われば、会えるんだ。だから………頑張らないと」

 

 ローブの男はそう言うと、スッーーと消えていき、そこには何も無かったかのように静寂に包まれていた。




如何でしたでしょうか?
さりげなく、千葉さんの過去をぶっ込みました。音撃でしか魔化魍を倒せませんが、千葉さんは剣を振るった時の空気の振動を音撃に見立てて、魔化魍 ヌエを倒しました。
その功績を称えられて、当時の王としては最年少で王になった人でもあります。
また、九州地方支部の支部長達や前に登場した支部長達の格好ですが、出番が少なく、基本魔化魍に殺られることが多いので魔化魍側の擬人態姿とは違いシンプルなのが多いです。
最後の登場キャラは察しがよければ何かはすぐに気づきます。
次回は入れ替えた、家族たちと九州地方魔化魍の交流の話です。
ヌエの紹介は次回のおまけコーナーでやります。


ーおまけー
迷家
【はいはーーい。今日も元気におまけコーナーはっ、じまるよーーー!!】


【迷家。なんだ、この場所は?】

迷家
【うーーんとね。あんま気にしないで僕もいつの間にかこの場所にいるのはよくあるから】


【理解、した?】

迷家
【まあ、それはさておき砦にはどんな質問しようかなーー?】


【簡単な、質問で、頼む】

迷家
【そうだ。砦のお母さん灰をどう思っているのか?】


【灰の、ことか?】

迷家
【うん!!】


【そうだな。灰は、弱い】

迷家
【え?】


【とにかく弱い。人間を、捕まえようとして、失敗するし。周りに、気遣いすぎて、すぐミスる。自分の脚を、踏んで、転ぶ。起きた時、すぐに壁に、頭をぶつける。血を、長時間見ると、気絶する。俺が、居ないと、何も出来ない。
 妖姫としては、ダメダメな、ダメ妖姫】

迷家
【ありゃりゃ、思ってたのと違う答え】


【だが、灰は、努力家。失敗を、次には、成功させる。どんなことが、あっても、めげない、腐らない、前に進もうと、する。そんな灰が、好ましい】

迷家
【じゃあ、砦は灰が好きなの?】


【それは、違う。何故なら、灰は、王に惚れている。他にも、ライバルが、居るのは、知ってる。
 だが俺は、灰は、諦めないと、思ってる。俺は、灰の恋を、応援、してる】

迷家
【そっか。じゃあ今日はここまでバイバーーーイ!♪】


【また、会おう!!】












迷家
【だってさ、良かったね 】

「ありがとう砦」


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記録玖拾壱

この話で誰が何処を襲撃するのかが分かります。
襲撃メンバー同志が色々な交流をして、留守番組の様子を送ります。


SIDE白

 王の指示を受けて、各々が行動する中、私はある者のところに向かう。

 

「何?」

 

 王がこの九州地方で家族にしたウミボウズの姫の青だ。因みに猛士九州地方長崎支部襲撃のメンバーでもある。

 私がこの女に話しかけようとした理由はただ1つ。

 

「貴女。王に好意を抱いてるでしょ」

 

「ぶっ!? ////////」

 

 図星だったのか、青は口を付けていたコップの中身を吹き出して顔を赤らめる。

 この反応からして、おそらく青も王のことが好きなのだろう。

 

 予想通りというか、最近は王が姫を家族にしたら姫が王を好きになっちゃうのじゃないかと思っている。

 まあ、王に悪意があるわけじゃない。というかそういう下心ありでやっているとしたら、それはそれで凄い。けれど、王のあれは素だと。姉である春詠が言っていた。

 

「それで、何が言いたいの?」

 

「そんな難しいことじゃないわ。ただ、私に協力して欲しいだけ」

 

「協力?」

 

「そう。私たち、まあ此処には居ませんが他にも姫がいて、その者たちも王に惚れています。

 ただ、王はそこからへんの感情に鈍いのか私たちのそういった感情に気づいていないわ。そこで私と向こうにいる美岬と協力して王にそう言った感情に気付いてもらうの。

 そして、気付いてもらって夜の方にでも誘ってくれて、子供を孕めれば最高なのだけど」

 

「しかし、王は女性で我ら姫も女性。情欲は発散出来ても子は授かれない」

 

「ふふっ。そこは問題ないわ。それを解決する手段もあるし、この方法は私しか知らないわ」

 

「…………」

 

「どうかしら?」

 

 青がこの話に乗るかは不明だが、悪い話ではないと思う。

 正直、方法というのも、あの世界で貰ってきた薬のことだ。効能の書いてある紙を読んだ時には、驚いた。何故なら、薬を服用した者は鋼の如き理性を一時的に(薬が切れるまで)外して獣のように変え、子供ができやすくなる。複数服用すれば性別に影響するようで、男性は『女体化(・・・)』、女性の場合は『男のモノ(・・・・)が生えてくる』と書いてあった。

 参考の為に狂姫にもその紙を見せて、薬も数個渡して試したみたいなのだが、その夜は普段は初々しい感じらしい荒夜が獣のようだったと肌をツルツル光らせて頬を赤らめた狂姫が言っていた。

 しかし、油断はできない(うち)には薬学のプロでもある蝕、自身の存在感を上げる薬を開発しようとしている穿殻、姫の中でも最年長でありその手の術を知っていそうな緑などがいる。その3人が似たような薬を作らない保障はない。

 でも、青はその事を知らないので、この情報を言えばこちらに傾いてくれると思ってこの話をした。

 

「………分かった。それなら協力する」

 

 良かった。これで青はこっちの味方になった。

 あの雌狼()堕触手()には絶対負けたくない。

 そうして、私は青との王についての話で盛り上がり、そこから発展した淫らな妄想話で少し下の方が大変なことになったのは秘密だ。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE水底

 新たな家族、鉄のいる隠れ家は笑いなどの賑やかな雰囲気に包まれていた。

 此処に転移する前に白たちが万が一を考えて、おやっさんや茂久の作った多量の料理や水や酒などを持って来た。王の無事も分かり、猛士と戦うことになったのを知った白たちは、この計画に参加する魔化魍達の英気を養うために、此処にそれらを持って来た蛇姫や憑に頼み、出してもらった。

 

 その結果、少し騒がしいも賑やかな宴会のような空気感になった。

 そして、その空気感よりも少しピリピリした空気を出している場所がある。

 

 大尊と渦潮とそれを見ている水底のいる場所だ。3体は離れた所で何か話をする白や青と同じ長崎支部襲撃に編成されたメンバーだ。

 

 私は静かに見ていた。

 何かを合図に2体は動く。

 

 大尊は大きく息を吸い込み、口を開いたと同時に拳位の大きさの空気弾が放たれ、渦潮は犬が伸びをするような体勢になって背中からの棘を撃つ。

 

 2つは同時にぶつかり空気弾の空気が割れる音と棘が砕ける音が同時に鳴ると、2体は同時にその身体に飛びかかり互いを噛みつく。普通ならばこの様な大きな音が響けば、周りも話し合いや飲み合いをやめて、こちらを見るが、誰も気付いていないのかそれぞれの交流を楽しんでいる。

 

水底

【これが周りには食事の光景にしか見えないなんて】

 

 周りには、この音が聞こえていないし、見えてもいない。

 その理由は渦潮である。渦潮は今のこの戦闘している光景を別の光景に変えて見せている。そう幻術で。

 まあ、渦潮よりも力のある魔化魍や幻術を得意とする魔化魍には、この違う光景は本来の光景に見えているのだろうが、全員止める気はなさそうだ。

 しかし、何が原因でこうなったかは不明。王の指示を受けた後に、襲撃メンバーが集まった際には渦潮は大尊を睨んでいたし、大尊も渦潮を見ていた。

 

渦潮

【–––––––––––––】

 

大尊

【–––––––––––––】

 

 2体は戦いながら、何かを喋っていたが、幻術が原因か何を喋ってるのかは聞き取りずらかった。

 水底は2体の戦いを見ながら、別のことを考えていた。

 

水底

【(鋏刃さん)】

 

 水底が考えるのは、妖世館の留守番組の鋏刃のことだ。

 ユウレイセンとして目覚めた水底は、魔化魍となった際に、鋏刃に会いに行った。鋏刃に会った水底はお礼をした後に、鋏刃と少し話をしたが、あまり喋ろうとしない鋏刃に『何故喋らないのですか?』と聞くと、鋏刃は答えなかったが水底は喋るのが苦手なのだと判断した。

 水底は喋らない鋏刃を手伝うために『補佐にしてください』と自ら申し出てその意思の強さに折れた鋏刃の許可の元で補佐として行動を共にしている。

 今回の王救出メンバーに組み込まれた際は、鋏刃と離れ離れになるのは嫌だったが。海上の移動の際に私の半身が必要なのは分かる。だが、それとこれは別の話。断ろうとするもその考えを読んでいた鋏刃が説得したことによって納得して、この王救出メンバーとして与えられた役目を果たすことにした。

 鋏刃のことを考えていた水底はいつの間にか幻覚は解かれており、互いに睨み合ってるも大尊と渦潮に気付く。やがて少し軽い噛み痕のある渦潮が口を開く。

 

渦潮

【分かった。一先ずは納得してやる。あらためてよろしく大尊】

 

 それに対して、尻尾の先に棘が刺さってる大尊は答える。

 

大尊

【こちらも、よろしく渦潮】

 

 互いにそう言うと、私のそばに退避していた料理や酒を喰べ呑み始めた。

 水底は何故、2体が戦ってたのかは不明だったが、戦っていた渦潮から僅かに聞こえた単語だけが、何故か耳に残っていた。

 そう。『ウァサゴ』と。

 水底はそれが何かは知らないが、取り敢えずは大尊たちの元で自分も食事することにした。

 この言葉が何を意味するのか。そして、この2体の争いの原因はいずれ知ることになるとはこの頃の水底は知らなかった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE羅殴

 鹿児島支部襲撃メンバーは食事を終わり、新たな家族になったばかりの縫は何かを見ていた。

 

【かなりの出来だね】

 

羅殴

【おっ!! それかそれはなちょっと自信作なんだよ】

 

【器用ですね】

 

食香

【ほんと、前も結構売れててたし】

 

 蝕は作ってることを知ってるが実物を見るのは初めてなのかその作り込みに舌を巻き、的屋で客寄せをしていた食香は以前行った的屋で売れ行きを見ていたので、思い出す。

 

 食香はそう褒める。確かに売れたが、的屋にいたお客のほとんどはこういうのに興味を持つ大人の男や男の子で、女性客がいなかった。

 個人で言うのなら、俺の目指す的屋は男女平等で売れる的屋。とにかく金儲け目的の白蔵主は少し気に入らないが、商売に関しては確かにやり手だ。

 だが、どんな商品を売るにしてもそれを対象とした性別や年齢がある。片方に傾きすぎる商売はあまり上手くいかない。

 そのことを白蔵主も分かっているが、生憎、女性が喜びそうな工作といったら可愛らしい動物の木彫りや木工工作の置物くらいだ。しかし、これでは女の子が蔑ろになってしまう。

 そんな風に考えてると、俺の作ったものを見ていた縫はこう言った。

 

【この計画が終わったら僕も的屋に参加させて】

 

羅殴

【別にいいが、良いのか?】

 

【それにただ参加するだけじゃなくて、僕の作ったぬいぐるみを的屋の商品にして良いから】

 

羅殴

【本当か! それは助かる】

 

 なにぶん工作は得意だが、縫い物は苦手でな。的屋をやってる時に客だった女の子がぬいぐるみはないのかって聞かれたことがあるからな。

 男の子向けの物があっても女の子向けの物がなきゃ、客層が偏る。

 

羅殴

【そういう事なら是非頼む】

 

 そんな約束をした2体は、この計画が終わった後に一応的屋のオーナーをしている白蔵主に話したら、『金の匂いがする』と言って、加入を認め、とある地方の村の祭りで的屋をやったら。

 テレビで紹介させてくれと偶々居合わせたディレクターによって大々的に公表されて、的屋は大繁盛した。

 祭りが終わった後に村長が『来年も是非、此処でやってくれ』と言われ、そんな感じであっちこっちで引っ張りだこの有名的屋になるのは少し先の話。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE桂

 此処は、大分支部襲撃メンバーの交流している場所。

 既に襲撃の話は終えたのか、それぞれが呑み喰いしてる中、メンバーの中にいた桂は襲撃メンバーを見ていた。

 

 王の家族である者たちは流石と言わざるおえない。

 個々の実力は同世代の同種族と比べると明らかにレベルが違う。

 

 ヒトリマの暴炎殿は、炎の操作が上手い。

 少なくても炎を操る術を持ち思いのままに操るヒトリマは俺は見たことがない。

 

 テオイヘビの屍殿は、身に纏っている怨念の量が凄い。

 テオイヘビの怨念が此処までとは思わず、少し寒気がした。

 

 ショウケラの三尸殿は、これまた並のショウケラとは違った強さを持っている。

 観察してる中で気付いたが、両目の瞳の色が異なっていた事からおそらく、三尸殿は異常種へと進化する可能性があるということ。

 

 そんな風に観察する私を見て、三尸がコップを渡して、そこに酒を注ぐ。

 

三尸

【呑んでるか?】

 

【はい。呑んでおります】

 

三尸

【ならいいが、ング。ぷはっーー。…………はあーあぐり】

 

 三尸がコップの酒を飲み干すと不意に何かを呟く。

 

【あぐりとは確か、捕虜となっている鬼でしたか?】

 

三尸

【捕虜じゃねぇ!! あいつは俺の、俺の…………あ、あすまねえ】

 

【すまぬ。無作法だったな】

 

 桂は自分の非礼を詫びて、酒に口をつける。

 

暴炎

【おおーー呑んでるな。ほれほれコレも呑め】

 

【暴炎、呑みすぎだ】

 

 そこに酒のコップを持って笑い上戸な暴炎が混ざり、酒ではなく水を飲む屍が、暴炎を止めようとするも–––

 

暴炎

【ああーー、屍、それ水だろう。ほらコレを呑め!!】

 

【いや、お、むぐっ、んんん】

 

 屍の口元に瓶ごと酒を突っ込み無理矢理中のお酒を呑ませる。

 

 此処でなんで屍が酒を吞まなかったのか、その理由を説明しよう。

 屍自身が酒に弱いというのもあるが、何も個人的に弱いわけではない。種族上の苦手なのだ。

 彼女の種族テオイヘビは尾に流れる毒血液という武器を持つが、この毒血液、実はアルコール成分を吸収することによって、酸性が薄まり、本来の効力を発揮できなくなってしまう。

 その結果––––

 

【は、ひふへ、ほっほ】

 

 目をぐるぐる回しながら変な呂律になった屍はゴロゴロと転がる。

 

暴炎

【おかわり!!】

 

三尸

【ほら桂、注いでやるからよこせ】

 

【では頂こう】

 

 無理やり酒を呑まされた屍殿はいつの間にかグロッキーで横たわって放置されている。暴炎殿と三尸殿はまだまだ呑めると言うかのように酒を呑み続け、それに私もご同伴している。

 久しぶりにいい酒を呑んでいる気がする。この襲撃計画が終わった後でも、このメンバーで集まって呑むのも楽しいのかもしれないな。

 

 桂はそんなことを考えながら、酒を呑み干し、再び注ぐのだった。

 

 この4体は後に『安倍家爬虫類家族の会』を作るのは、少し先の話だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE宮崎支部襲撃メンバー

 他の襲撃メンバー交流の中でここ宮崎支部襲撃メンバーのいる場所は一段と笑いが五月蝿いだろう。

 

ルルル、ルルル

 

写鏡

【仲、仲、仲間。一、一、一緒♪】

 

【何かいいなこの光景】

 

迷家

【本当に親子みたいーー♪】

 

 この場所に来てから浮幽は見た目が似ているというより属性違いの同種族である写鏡に懐かれて追いかけられている。

 その光景を憑は迷家と酒を呑みながら笑って見ている。

 

 だが、写鏡がここまで浮幽に懐いてるのかは勿論理由がある。

 写鏡は産まれたとき、周りには両親も童子や姫もいなかった。魔化魍の属性違いの育児放棄はよくあることだが、写鏡の場合は違った。

 何故なら、写鏡の側には2つの塵が写鏡を守る様に積もっていた。それは見るものには分かるもの。つまり2つの塵は写鏡の両親だったもの。

 鬼の襲撃か他種族の魔化魍の襲撃かは不明だが、写鏡はひとりぼっちになった。

 

 ひとりぼっちの写鏡を発見したのはまだ下半身不随の怪我を負う前の鉄だった。

 その光景を見た鉄は写鏡を自身の隠れ家に連れて帰り、当時貯めていた人間の肉を与えて、種族が違うながらも懸命に育てたお陰で無事に育った。

 つまり長々と話して何が言いたいかというと、産まれてから1度も見たことない同種族に会えて、その喜びと嬉しさが許容オーバーしてひたすら甘えているという状態だ。

 

迷家

【赤が見たら孫ができたって言いそうだね】

 

【違いない!! あはははは!!】

 

写鏡

【温、温、温かい♪】

 

ルルル、ルルル

 

 追いかけられ続けて、もう観念したのか逃げるのをやめた浮幽は写鏡を炎を灯していない触手で撫でている。憑と迷家は微笑ましくも見える同種族同士の戯れを見ながら酒をまた呑み干した。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE熊本支部襲撃メンバー

穿殻

【–––ということで、よろしくお願いします】

 

穢流

【こちらこそ、よろしくお願いします】

 

【うむ。よろしく頼む】

 

 顔を向かい合わせて何か話し合っているのは熊本支部襲撃のメンバーである。

 真面目な性格をしてるので全員集まると襲撃する熊本支部の話を行い、集まってから数十分で話がまとまった。

 

穿殻

【えっーーと、取り敢えず喰べましょう】

 

【そうだな】

 

穢流

【では頂きます】

 

 そして、既に終わった熊本支部襲撃の話以外に会話しようにも何を話題にすればいいのか分からず取り敢えず食事を始める。

 

崩たち

【【【(気まずい(の)(です))】】】

 

 心の中でも同じことを思っていた。

 とにかく何か話題はないのかと必死に考える。

 そこで崩はある事を思い出す。

 

【そういえば穿殻、以前言っていた存在感を上げる薬の進行はどうだ?】

 

 触手の先にある口で肉を喰らっていた穿殻はピタッと止まり、肉を飲み込むまでの間、無言だった。

 肉を飲み込み終わると暗いトーンで喋る。

 

穿殻

【………正直言うと、全然上手くいかない。何でなんだろう?】

 

穢流

【その存在感を上げる薬とは?】

 

 妖世館の家族は知ってるが家族になったばかりの穢流は知るはずもなくその薬について聞く。

 

穿殻

【ああ、穢流は知らないよね。僕、存在感がなんでかないから存在感を上げる薬を作ってるの。でも、上手くいかなくて】

 

 折角、話題を上げたが触手が項垂れて穿殻の声は暗くなった。このまま話を続けるのは不味いと崩が思い話題を変えようとすると–––

 

穢流

【穿殻。少し気になるのでどんな薬があるのか教えてください】

 

穿殻

【目的のものとは異なった失敗作ばかりだけど、うん。教えてあげる】

 

 そして、穢流がどんな薬があるのか興味本位で聞いたお陰で穿殻は明るくなり、嬉々として今まで出来た薬を答えた。

 ただ、どういう風に薬を作っていたら存在感を上げる薬が水と化合することで王水並の危険な毒薬や吸い込むことによって三日三晩眠らせる粉末が出来るのだろうと崩たちは思ったが、口に出さずに穿殻の作った薬の話を聞きながら食事をしていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE南瓜

 周りが楽しく飲み食いしてる中、ここの空気は重かった。

 

蛇姫

【この度、誠に申し訳ございませんでした】

 

 睡樹と南瓜は蛇姫から謝罪を受けていた。しかも、さっきからこの調子で頭を下げて床にぶつけて、額は真っ赤になっていた。

 

南瓜

【蛇姫。もう大丈夫です、突然の転移にはそれは驚きましたが、もう気にしないでください】

 

睡樹

【気に…しな…いで】

 

 こう言っているが、おそらく蛇姫は謝罪に夢中で聞こえていないのだろう。大昔に人間に裏切られてその恨みで魔化魍になり裏切った人間を全員殺してその腕を1つずつ奪ったとは思えないほど、蛇姫は誠実だった。

 私たちの言葉を聞こえてるはずなのだが、本人は聞こえていないかの様にただ謝罪する。本人のせいではないとはいえ事故の原因が自身の作った札だから尚更だ。

 

蛇姫

【しかし、私の不注意で、この様な事態に、本当に、本当に申し訳ござ––––】

 

睡樹

【もう……眠って…】

 

 再び、頭を床に叩きつけそうだった蛇姫を見て睡樹は術を使って蛇姫を眠らせた。

 

南瓜

【ありがとう睡樹】

 

睡樹

【気にし………て…ない】

 

南瓜

【王が襲撃メンバーに我らを加えなかったのは、おそらく蛇姫のことを心配してだろうな】

 

睡樹

【う…ん】

 

 南瓜や睡樹の思った通りに睡樹や蛇姫、南瓜が襲撃メンバーに割り振られていないのは、蛇姫を思ってのことだ。

 事故によって王共々転移させてしまったという罪悪感で蛇姫は普段とは違う精神状態のため、この襲撃の際に負傷したら話にならないため、この襲撃メンバーから外し、待機させることにした。

 そして、その罪悪感を緩和または無くすために睡樹と南瓜と一緒に待機させることに幽冥は判断した。

 

睡樹

【まあ……今は……眠…ら…せよ……う】

 

南瓜

【そうですね】

 

 術によって眠らせた蛇姫の側で私と睡樹は軽い食事をした。

 

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SIDE波音

 波音は凍った昇布の側にいながら静かに水を飲んでいた。ふと、波音は床の影を見ると。

 

「あんたは呑まないの朧?」

 

 波音の影は不自然に盛り上がり、そこから姿を現すのは朧だった。

 

【そういう貴女だって呑んでないでしょ】

 

 私が呑まないのは、酒が嫌いだからだ。あの苦さはどうも好きに慣れない。最近では、甘い酒をあるらしいが、やはり呑む気にはなれない。

 

波音

【アタイって、やっぱり弱い魔化魍だよ】

 

 今日あった昇布の暴走のことを思い出す。

 アタイは実は未来予知で昇布があの姿になるのは知ってた。

 何が原因でなるかは知らなかったから警戒はしてたけど、結局、昇布は暴走してあの姿になった。対処の仕方を知ってたからこそ前よりも早く凍結に成功した。だけど、知ってたとしても止められなかったアタイがアタイ自身不甲斐ないと思った。

 

【…………】

 

波音

【この刀に認められて、少しは戦えるようになったと思ってたけど、アタイはやっぱり弱い。それに昇布があの姿になるのは知っていたけど、アタイ誰にも言わなかった。信用してないわけじゃないけど、絶対に当たる未来予知を覆すのは無理だった】

 

 アタイの未来予知は必ずと言っていいほど当たる。

 どんなに足掻いても当たる予知で私は今まで幾つものを命を失うのを見た。

 王に会う前にはいた鋏刃たちの童子や姫の死ぬ予知を見た時には何とかその未来を変えようとしただが、結局は予知の通りに童子や姫は死んでいった。

 

【波音。誰もすぐに強くなれるわけじゃないよ。私だって今の強さを得る為に色んな苦労もしたよ。

 それに波音を弱い魔化魍なんて誰も思ってない。もちろん幽だって。それと危ない未来の予知があったら1人で抱え込まずに教えて、その未来を私たち家族で変えるから。だから、もう少し家族を頼って欲しい】

 

波音

【…………】

 

【………波音。やっぱり酒を呑もう」

 

 そう言った朧は擬人態に姿を変えて、影から2つの杯と徳利を取り出し、杯を1つ波音に持たせて、その杯に徳利を傾けると中から少し濁った液体が杯に注がれる。

 

波音

【アタイ、本当にいらないんだけど】

 

「まあまあ、今日くらいは付き合ってよ」

 

 朧の言葉に乗って、久々に酒を呑むことにした。アタイはやっぱり酒のこの苦さには慣れないけど、何故か今はその苦さが良かった。

 波音は凍った昇布の氷を触りながら、朧と2人で静かに呑んでいた。

 

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SIDE留守番組

 幽冥たちの居る鉄の隠れ家での計画発動前の交流をしている時間と同じ頃。

 留守番組のいる妖世館。

 

「「いやああああああ!!」」

 

 その妖世館の庭で響く2つの声。

 

「ひな、早く逃げよう」

 

「うん」

 

 ひなと擬人態の姿の潜砂が何かに追われながら走り回っている。

 何かから必死に逃げる姿はゾンビ映画の主人公と似た何かを感じる。

 

「「うわああああ」」

 

 だが、追いかけている何かは2人の動きを読むかのように先回りして、その服の襟を掴み猫のように摘み上げる。

 

「捕まえたよ2人とも。さあ、覚悟しなさい」

 

 2人を捕まえたのは、幽冥の姉(元兄)こと春詠である。

 春詠はあることをする為に2人を捕まえたのだ。

 そして、そのある事が2人が逃げていた理由でもある。そう。子供によくある。アレ。下手すればこの話を読んでいる皆様も経験した事があるのかもしれないもの。

 

「「勉強やだああああああ!!」」

 

 そう俗に言う。『勉強やだ』である。

 実は前世の春詠は一時期とある大学で教師をしていた事がある。

 本人はあまりやる気がなかったが、報酬として出された物に飛びついてしまい。その報酬分は教師として働いていた。

 まあ、報酬分働いたら即刻教師を辞めたのだが…………因みに春詠が受け持った教室の生徒たちは春詠の授業のおかげで成績が上がったり、運動神経が唐突に上がって大会に優勝したり、コンクール受賞するなど様々なところで効果があったらしく、春詠が辞めようとしたさいは、生徒だけでなく、他クラス教師、生徒の親御さん、大学の理事長までもが春詠を引き留めようとした。

 さりげない春詠の過去をおいといて、話を勉強やだという2人に戻そう。

 

「勉強がいやじゃないよ。何で嫌なの?」

 

 春詠は2人の服から手を離して、地面に下ろし理由を問いかける。

 

「たいくつ!!」

 

「つまんない!!」

 

 2人は勉強の不満をブーブー言う。

 

「勉強がつまらないというのも分かる。でもね、世の中を生きていくにはそれらを学んでおかなきゃいけない。分かる?

 例えば、違う国の相手と会話するにはその国の言葉を勉強しないといけない。

 お店に行って買い物をする為にはお金の単位や使い方を知らないといけない。

 悪いことをしてお巡りさんに捕まらないようにする法律を知らないといけない。

 勉強はね知らないことを知るために学んで、その学んだ知識を色んなことに使えるの」

 

 春詠は、勉強する意味を2人に教える。

 2人は先程までブーブー文句を言っていたが、今は文句をいうことなく聞いている。それでも不満という表情が見える春詠は勉強という名の鞭があるなら、ご褒美という飴を与えることにした。

 

「じゃ、こうしよう。勉強頑張ったら、その後に幽の作った特製デザートを出してあげる」

 

「「デザート!!」」

 

 この言葉を聞いた2人の目には星がキラキラしているように見える。

 

「でも、勉強頑張ったらなんだから。ちゃんと勉強すること。分からなかったら聞いていいから。ねっ」

 

「「う〜〜分かった」」

 

「じゃ部屋に戻ろう」

 

 そう言って、春詠は2人を連れて、部屋に戻った。

 

「微笑マシイ」

 

「「「そうね(はい)(ええ)」」」

 

 そんな3人の様子を見ていたのは、留守番組となっている幽冥の従者である4人の姫達。

 それぞれが仕事の途中ながら、春詠はどう2人を説得するのか気になり、仕事の手を止めて、見物していた。

 

「ダガ、勉強ニナル。アアスレバひなヤ潜砂モ勉強スルト知レタ、私ノ勉強ノ際ニモ同ジコトヲシヨウト思ウ」

 

 綺麗に折り畳まれた掛布団を抱えた黒が春詠の勉強を進んでやらせる方法を知れて、今度のひな達の勉強の際に試そうとすると呟く。

 

「しかし、いつまでも同じ手が通じるとは限らん。違う方法を模索するのもまた勉強」

 

「確カニ」

 

 物干し竿に引っ掛けた布団をポンポンと叩く緑が黒に言い、納得する黒。

 

「よ、よとっと、あっ!?」

 

「おっと。足元気をつけなさい」

 

「あ。ありがとう赤」

 

 干すための布団を持ってフラフラしていた灰は自分の足で足を踏んで転びそうになるが、妖姫としての本来の腕で物干し竿に布団を広げていた赤が倒れる灰を抱えて注意する。

 すると布団を畳んでいた黒が口を開く。

 

「王ハ無事ニ見ツカッタノデショウカ?」

 

 黒の言葉に和んだ空気から暗い空気に変わった。

 

「見つかれば、すぐに戻ると思ったらのですが」

 

 赤の言葉にそれぞれが理由を考える。そして、考えてる中で灰は顔を青褪めながら考えていたことを口にする。

 

「も、もしかして、向こうで瀕死の状態になったとか?」

 

「灰考エスギダ」

 

 黒はその考えを否定する様答えるが、それに対して緑が口を開く。

 

「いいえ、灰の言うことも分かります。魔化魍の王とはいえ、まだ人間です。可能性は無いとは言い切れません」

 

「そうですよね」

 

 緑の言葉を受けて、灰はさらに暗い顔になり、黒も緑もつられて暗い顔になる。

 

「はいはい。もうやめよう。こんな暗いことのもしたらればを考えても仕方ないでしょ」

 

 赤が手を叩いて、暗くなる空気を明るい雰囲気に変える。

 

「それに、認めたくないけど、超妖姫っていうのに覚醒した白や朧、美岬、それに家族がいる。

 王が怪我をされていることはない。私たちはいつもの様に王の帰りを待ちましょう。そして、帰ってきたら私たちを心配させたぶん甘えましょう」

 

「「「アア(はい!!)(ええ!!)」」」

 

「それでは仕事に戻りましょう」

 

 赤や他の妖姫たちは自身の愛する王を思いながら己の仕事に戻った。




如何でしたでしょうか?
正妻、又は第1妃を目指す白は着実に味方を増やしていますが、同じ様に正妻を目指す赤も留守番中に妖世館内で味方を増やしてます。
因みに正妻戦争をする白達をグループ分けするとこうなります。

白グループ
美岬、青

朧グループ


赤グループ
黒、灰

といった風に分かれます。グループのトップが第1妃つまり正妃狙いです。グループメンバーはそれぞれは何番目でも構わない者です。


ーおまけー
迷家
【はーーーい。おまけコーナーだよ♪ はあー、って言っても今回は、変な人に頼まれて、ヌエっていう魔化魍の紹介なんだよねーー。
 なんかやる気がというかモチベーションが上がらないんだよね】


【ほおー、ここがおまけコーナーでやすか?】

迷家
【あれ? 跳どうしたの?】


【うん。急にこんな紙を渡されたんでやすが、とにかく『ここに来ればいい』と書いてありやすから、来たんでやすが、ヌエの解説と言ったでやすか?】

迷家
【うん】


【なら、その解説あっしがはりやしょう】

迷家
【え!? いいの?】


【勿論でやす】

迷家
【じゃあ、お願いねーー】


【はい。任されやした】

種族名:混合種 ヌエ
属性:黒・空
スタイル:幻
分類:等身大
鳴き声:なし
容姿:右眼が甲虫系の複眼の白毛の虎の頭部、右肩に3本の蟹の脚を生やした甲殻と藤壺に
   覆われた鋏の右腕、左手首に蟷螂の鎌を生やし蛇の鱗に覆われた細身な左腕、3本爪
   の鷹を思わせる右脚、左脚首に魚の鰭を生やし老齢の樹と魚の鱗が混じった表皮に覆
   われた左脚、臀部からは尾先が鰭になっている蛇の尾、左背面に蜻蛉の翅を右背面に
   烏の翼を生やし、首筋から突き出ているツタ状の仙人掌を全身に纏わせ、腹部に巨大
   な目玉模様のある人型
特徴:まだ、6代目魔化魍の王 キンマモンが在命していた頃に現れた魔化魍。
   何処で産まれたかは不明だが、その血筋はかなりおかしい。
   混合種同士から産まれた父親と同じ混合種同士から産まれた母親の間から産まれた。
   上記の通りに混血種同士が交わって産まれた混血種が更に同じ境遇のものと交わって
   産まれた魔化魍で、8種類の魔化魍の特徴が身体の各部位には現れており、それらが
   邪魔をせずに調和している。
   頭部の特徴から虎の魔化魍。
   右眼と背中の左翅、左手首の鎌の特徴からチントウ種の魔化魍。
   右肩から右腕の特徴からバケガニ種の魔化魍。
   鱗に覆われた左腕と尻尾の特徴から蛇の魔化魍。
   右脚と背中の右翼の特徴からテング種の魔化魍。
   首筋から突き出ている仙人掌の特徴からジュボッコ種の魔化魍。
   左脚首の鰭と尾先の鰭、腹部の目玉模様からヒャクメ種の魔化魍。
   左脚の特徴からコダマ種の魔化魍。
   陸海空どこでも活動可能で、神出鬼没、人間に変身する能力を持ち、自身の流した噂
   で慌てふためく人間を眺めるの至上の喜びとする。
   猛士に『ちょっかい』という名の支部破壊を行い、当時の東京都第5支部や島根支部
   、岡山支部、大阪第3支部を壊滅させたこともある。
   それ故に当時の猛士はヌエを魔化魍の王と同等の『絶対討伐指定魔化魍』に指定した
   。
   幽冥の産まれる30年前に現猛士九州地方支部支部長の千葉 武司こと白鬼と2人の
   鬼と名無しの鬼数十名と戦い、数十名の鬼を殺すも音撃の代わりとして白鬼の編み出
   した『音撃剣技』によって従来とは異なる音撃に対応できずに音撃を受けて、首を撥
   ね飛ばされた後に、残った身体を7つに分けられて各地方に封印された。
   このヌエの封印場所を知るのは千葉 武司と共に戦った2人の鬼と白鬼が厳選して選
   んだ鬼達のみ。
戦闘:尾鰭に纏わせた真空波、身体を活性化させるドーピングサボテンによる肉体強化、
   口から火炎放射と敵の動きを止める拘束咆哮、様々な術、自己再生による肉体治癒、
   尻尾を使ったなぎ払い、上空からの空中奇襲、人間に変身して情報工作と撹乱、
   左手首の鎌を使った近接攻撃、腹部の目玉模様から熱線、
   分身によるトリッキー戦法、右肩の蟹脚から溶解液、右腕の鋏を使った切断、
CV:梁田清之(パルパレーパ)



【っていう感じでやす。あっしも1度見てみたいでやす】

迷家
【……………】


【あれ? どうしたでやすか迷家?】

迷家
【パ、パタンキュ〜〜】


【ありゃりゃ、膨大な情報で思考が停止してしまったようでやす。あーー、迷家も倒れちゃったので、おまけコーナーはここまででやす】


【じゃあ、あっしは迷家をベッドに休めるでやす、じゃあ、さいなら〜♪】


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記録玖拾弐

遂にこの章も終わりが近づいてきました。
読んでる方は気づいたでしょうが、付喪神編から九州地方編に変更しました。
それでは幽冥が猛士九州地方支部壊滅計画を発動します。


 九州地方某県の森中。

 そこには、戦闘用の服に変えた幽冥と魔化魍としての本来の姿に変わっている鉄が側に立っている。

 

「時はきた!! みんな、まずはありがとう!! 計画を先走りすることもなく3日間よく待ってくれた。鉄たちも今まで殺された魔化魍のことを思って耐えてくれて、本当にありがとう!!

 3日、たった3日。だが、みんなその胸には惨たらしく清められ(殺され)た魔化魍達の怒りや哀しみや怨みもあった。怒りで襲撃を仕掛けようとした者もいることは知っている。だが、皆、耐えた。怒りに蓋をしてその心を大海のように穏やかにして耐えた!!」

 

 幽冥と鉄しか居ないのに演説の様に喋るのは、勿論家族に聞かせるためにだ。

 だが、鉄以外の家族は何処にも姿が見えない。しかし、幽冥の前には、ユキジョロウの力で作り出した水晶の様に透き通った氷の玉が宙に浮いていた。

 幽冥の前にある氷の玉は映像を他の氷の玉(端末)に送り、その姿を映像のように投影して声を伝えるものである。分かりやすく言うとしたら、某銀河騎士の映画に出てくるホログラム通信のようなもの。

 

 その声や姿はこの場に居ない家族に向けて流されている。

 そして、そんな家族が何処にいるか。

 

 答えるなら、襲撃を指定された家族は幽冥に指定された襲撃場所の付近で待機して、同じ氷の玉(端末)を宙に浮かせながら王である幽冥の言葉を聞いていた。

 

「そして、待つ時間は終わった。解放せよ、その身に溜めた怒りを、哀しみを、怨みを、奴らに向けて解放しなさい!! 

 その爪で引き裂け、その牙で噛み砕け、炎で燃やし尽くせ、潰せ、捻れ、壊せ、屠れ、抉れ、溶かせ、殺せ。奴らが手を出したものが如何なるものか。骨身の髄にいや、魂の奥底までに思い知らせろ!!」

 

 そして、幽冥は一呼吸置いて氷の玉から他の氷の玉(端末)に向けて離れた場にいる家族たちに王としての命令を下す。

 

「9代目魔化魍の王たる安倍 幽冥が命じる。力のない幼き魔化魍や逃げることしか出来なかった魔化魍を殺した猛士を! 九州地方支部を壊滅させなさい!!」

 

 その指示は聞いた家族は歓喜の声を、そして、猛士に対しての怨嗟の声を上げて動き始めた。

 幽冥の命令によって家族は猛士九州地方支部壊滅計画を開始した。

 

SIDE長崎支部襲撃メンバー

 海に面した場所の崖の近くにひっそりとある猛士長崎支部。

 そんな長崎支部のある近くの海に巨大な影が浮いていた。

 

 動物と魚の骨を幾重に重ねた艦の姿をした水底の半身の上には4つの影があった。

 

「では、行きましょう。そちらの準備は青?」

 

「ああ、問題ない」

 

 手に持つ氷の玉(端末)を砕き、肩に大尊を乗せた白が鉄扇を裾から取り出し、その側に立った魚のような外見を持った大弓を持つ青が先にある長崎支部を睨みつける。

 

大尊

【始める】

 

渦潮

【ああ、我らの怨讐を始めよう】

 

 白の肩に乗っかっていた大尊は術で縮小していた身体を大きくし、渦潮と共に海に飛び込む。

 

水底

【では、開戦の号砲でも撃たせて頂きます】

 

 舵輪を握った硨磲貝の人型の水底が半身である艦を操作し、砲身を長崎支部に向ける。

 

「撃てえぇ!!」

 

水底

【–––発射】

 

 白の号令とともに骨の砲身から放たれた3つの砲弾は長崎支部に直撃し、凄まじい爆発と炎を生み出し、建物の一部が崩れていく。

 建物から慌てて出てくる長崎支部の人間を視界に収めて、白たちは長崎支部襲撃を始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE大分支部襲撃メンバー

 猛士大分支部の建物がある場所から遥か下の地面の中、そこには大分支部に襲撃を掛けようとする幽冥の家族がいた。

 だが––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【うう、頭が痛い】

 

暴炎

【ああーーーーなんか、すまん】

 

【別にいいです。体質を変えようとしない私にも問題が、ううう】

 

三尸

【しかし、アルコールによる弱体化がここまでとは】

 

 頭を尻尾で抑えながら唸る屍と屍を介抱する暴炎たち。

 屍は暴炎に無理矢理呑まされた酒の影響がまだ抜けていなかった。

 

 少なくても人間だったら3日も経てば、酒のアルコール成分も抜けて普通になるだろうが、だが屍は人間ではなく魔化魍。それもとびきり酒に弱い種族であるテオイヘビだった。

 そんなことを知らずとはいえ、無理矢理呑ませて今の状態にしてしまった暴炎は後にその話を聞いた白にお仕置きされるのは言うまでもない。

 

【頭痛が治まるまでは屍殿は此処でしばらくは待機だな。何、少し遅れたとしても問題ないだろう】

 

【ありがとう………じゃあ、後は、よろしく】

 

 桂の言葉を聞いた屍はそのまま眠る。

 屍が眠るのを確認した一同はそのまま、地面の上を睨む。

 

【ああは言ったが、別に屍殿が起きる前に潰しても問題ないだろう】

 

暴炎

【そうだな。屍にはゆっくり眠ってもらって】

 

三尸

【俺たちで潰すとしよう】

 

 その先には、標的である猛士大分支部がある。

 3体の魔化魍は口元から牙を覗かせ、爪を研ぎ、斧を構え、炎を揺らめかせる。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE熊本支部襲撃メンバー

 猛士熊本支部の建物近くの森の中。

 乱雑に生える樹々の間をくねるように駆けるながら走る影があった。

 

ポオオオオオオオオオ

 

 その影の正体は、幽冥の新たな家族であるユウレイキカンシャの穢流だった。

 

穢流

【目標に接近。皆さん準備を】

 

「「おおーー(うむ)」」

 

 穢流の、いやユウレイキカンシャの身体は電車の客車のように天井から丸輪っかの吊革やピンク色の少しプニョっとした独特な座り心地の座席がある。

 そんなユウレイキカンシャの穢流の身体に乗ってるのは、擬人態の姿となっている崩と穿殻だ。

 何故、2人がこのようにしてるかと言うと、2人は肉体的にいえば既に成体になっており、本来の姿のままで行動すれば作戦発動前に猛士に見つかってしまう。

 

 そこで、穢流の提案により擬人態の姿で穢流の電車のような体内で待機し、王である幽冥の命令を待っていた。

 そして、幽冥の命令によって穢流たちは行動を始める。

 

穢流

【では、突撃!!】

 

 穢流はそのまま、熊本支部の壁に向けてさらにスピードを上げる。

 どんどん迫る壁に臆することもなく穢流は壁に最高速度に近い速度で体当たりする。

 

 

 

 

 

 

 穢流の激突によって壁は破壊され、砕けた壁の破片がそこらじゅうに散らばる。

 

「穿殻よ。大丈夫か?」

 

「だい、丈夫」

 

 そんな穢流の体内にいた2人は座席から滑り落ち、互いの状況を確認する。

 

「うむ。我は問題ない。さあ、始めるぞ」

 

 2人は立ち上がると穢流の身体の一部を押すと扉のように開き、そこから降りる。

 2人の降りた先には、猛士の人間がぞろぞろと壁に突撃した穢流の周りに集まり始めていた。

 

「何だ!!」

 

「敵襲!! 敵襲!」

 

 警笛に似た物を吹くと、周りから警報が鳴り響く。

 

「魔化魍だ。早く鬼を––」

 

穿殻

【五月蝿い!!】

 

「た、助け、べが」

 

 猛士の人間がディスクアニマルを使って鬼に報告する為に投げようとすると擬人態を解いた穿殻は触手の1つを唸らせて人間の首を締め上げて、残りの触手で人間の身体を食い千切る。

 

【潰れろ】

 

「ぎゃっ!!」

 

「がっ!!」

 

 擬人態を解いた崩はその脚で人間を踏み潰して、穢流の周りにある岩を尾で吹き飛ばす。

 さながら某ゾンビ映画やクリーチャー映画の怪物のように暴れる2体は、そのままズンズンと奥に進んでいく。

 

穢流

【せめて、出してから行ってください】

 

 壊れた壁に挟まる穢流を置いて。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE宮崎支部襲撃メンバー

「9代目魔化魍の王たる安倍 幽冥が命じる。力のない幼き魔化魍や逃げることしか出来なかった魔化魍を殺した猛士を! 九州地方支部を壊滅させなさい!!」

 

 王の命令が宙に浮かぶ浮幽たちに響く。

 浮幽たちがいるのは、宮崎支部のある建物のはるか上空。襲撃メンバー全員が空を飛べるまたは宙を自在に移動するという特徴を活かした待機だった。

 

 しかも、見張りとして放たれているディスクアニマル 茜鷹を破壊し、迷家の有幻覚を使って作った偽物を飛ばしてることで敵がまだいないと思わせる徹底ぶりの待機だ。

 

ルルル、ルルル

 

写鏡

【心、心、心配】

 

迷家

【大丈夫だよ写鏡。僕の幻覚は本物と同等。絶対にぜったーーーいにバレないよ!!】

 

【まあ、俺たちが宮崎支部に近づけるのも迷家のおかげだ】

 

迷家

【えっへん。まあ、手加減は此処までにして、そろそろ本気で行くよ】

 

 迷家は飛ばしていた茜鷹の幻覚を自身たちに被せて宮崎支部にゆっくりと近付く。浮幽たちのその姿はさながら隠密行動する某蛇の様だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE鹿児島支部襲撃メンバー

 人の住む住宅街から少し離れた場所にある猛士鹿児島支部。

 その支部に繋がる隠れた一本道を歩いていく4つの影。

 

羅殴

【さーーて、暴れるか】

 

【暴れよう】

 

 腕をぐるぐる回しながら歩く羅殴とまち針を取り出す縫。

 

食香

【では、準備を】

 

 食香がそう言うと、身体からポコポコと音が鳴り、食香の身体から小さな分体が増えていく。

 その様子を見ながら、最後列にいる蝕が口を開く。

 

【みなさん、先ずは私からですよ作戦通りに】

 

羅殴たち

【おう!!【【はい】】】

 

 異様なオーラを放つ液体の入った試験管を持った蝕が氷の玉(端末)を砕き、不気味に笑う。

 蝕によってこれから鹿児島支部は恐怖に陥る。

 

SIDEOUT

 

 各支部を襲撃する家族に配った氷の玉(端末)が消えていくのを感じ取り、そのまま私も目の前の氷の玉を握りつぶす。

 そして、私も鉄と共に転移の支度を始める。

 

【では、王。このまま目的の福岡支……何者だ!!】

 

 鉄が急に何もないところに向けて叫ぶと、空間が歪み、そこからローブを纏った男が片手に歪なナイフを持って飛び出し、私の目の前にまで一瞬にして動いて、私に向けてナイフを振り下ろした。

 

【させるか!!】

 

 ナイフは鉄の腕に阻まれて砕け散り、ローブの男はすぐにナイフを捨てると今度は鉄に殴りかかる。

 

【貴様!! 何が目的だ!?】

 

「王を殺す」

 

【させると思うか】

 

「邪魔だ!!」

 

【ぐっ】

 

 鉄の脇にローブの男の蹴りが入り、鉄は体勢を崩す。

 

「鉄!!」

 

「死ね魔化魍の王」

 

 鉄を振り切ったローブの男は隠し持っていたもう1つのナイフを取り出し、私に突き刺す。

 

【させるか!!】

 

 地面を割って飛び出した溶岩の様な腕がローブの男のナイフを止めた。

 

「南瓜!!」

 

 地面が盛り上がり姿を現すのは南瓜だった。

 

南瓜

【まんがいちを考えて、待機してよかった】

 

「ちっ!! 邪魔を、むん」

 

睡樹

【おか……げで…王……守れる】

 

「睡樹!!」

 

 南瓜の後ろから現れるのは南瓜と同じように待機を命じた睡樹がツタの腕で男の身体を拘束する。

 

蛇姫

【ありがとう睡樹。後は私が!!】

 

「蛇姫!!」

 

 そして、睡樹のツタの腕を掴み現れたのは、南瓜たちを待機させる要因となった蛇姫だった。その手には私をこの地に飛ばした原因の『転移の札』が握られていた。

 

蛇姫

【鉄。あなたは王をお願いします。この男は我ら3人で】

 

 そう言うと蛇姫の手にある『転移の札』が光り、蛇姫たちと睡樹のツタで拘束されたローブの男は遠くに転移した。

 

「睡樹!! 蛇姫!! 南瓜!!」

 

【王!! あの者が何者かは不明ですが彼らに任せ、我らは目的の福岡支部に】

 

 『転移の札』で消えた3人の名前を叫ぶ私を落ち着かせる様に鉄は声を掛ける。

 

「………分かった。行こう鉄」

 

 そう言った私は、蛇姫が渡した目的の福岡支部に転移する『転移の札』を地面に向けて振り下ろす。

 光に包まれた幽冥たちの居た場所には破けた『転移の札』が残っていた。




如何でしたでしょうか?


ーおまけー
迷家
【僕、復活!! 前回はながい話で頭が痛くなったけど、休んだら治った!!】

唐傘
【ど、どどうしたの急に?】

迷家
【気にしないで。じゃあおまけコーナー始っまーるよーーー!!】

唐傘
【は、は始まるよ】

迷家
【はい。というわけで今回の質問! 唐傘は人造魔化魍だけどさ、ツクモガミ種の魔化魍と似てるよね。
 それって偶然? それともなんか深いわけが?】

唐傘
【どうなんだろう?】

迷家
【えっ?】

唐傘
【ぼ、僕ね。う、産まれて直ぐに製作した奴らに封印されました。だ、だだからなんでこの姿かは知らない】

迷家
【何か聞いちゃまずかった?】

唐傘
【いいですよ別に…………ただ】

迷家
【ただ?】

唐傘
【僕を封印する際の製作者たち、なんか目に光がなかったな、それに肩が何かに喰いちぎられた痕や腕がぐにゃぐにゃになってたりしたなって】

迷家
【………………】

唐傘
【あっ、そうだ。僕、飛火と葉隠といっしょに空中散歩する約束があったので、これで失礼します】












迷家
【…………結局聞かなかったけど、あの札、何だったんだろう? まっ、いっか。じゃ、今日はここまでバイバーーーイ!♪】


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記録玖拾参

遅くなりなりました新話更新。
今回は、睡樹&蛇姫&南瓜VSローブの男(?)の戦いです。
この男の正体は察しの良い人は気付いてるのでしょうが、あるところからの刺客です。
今回はあるところにFateっぽいようなものを入れました。

2023年1月11日追加 悪魔魔化魍の能力に名前付けました。



SIDE蛇姫

 突如空間を歪めて現れ、『王を殺す』と言った謎の男の腕を掴み、私が持っていた予備の『転移の札』を使って睡樹と南瓜と共に王の居る場所からかなり離れた場所に転移した。

 

 転移してすぐに男を投げ飛ばし、空間倉庫から音撃管を4つ取り出す。

 蛇姫の4本の手に握られた音撃管から放たれた空気弾と南瓜の炎の塊は、目の前のローブを纏った人間に真っ直ぐ飛んでいく。

 だが–––

 

蛇姫

【なにっ!!】

 

 音撃管の空気弾に貫かれ、燃やされたのは男のローブだけで、穴だらけになったローブの破片と火の粉が地面にゆらゆらと落ちる。

 

【魔化魍が鬼の武器使うって、世も末っていうか、魔化魍としてどうなの?】

 

 声の聞こえたほうに蛇姫たちが顔を振り向けると1体の魔化魍が立っていた。

 その姿を分かりやすくいうのなら口元に猫科の髭を生やした鯰の姿をした人型魔化魍というべきだろう。

 馬の蹄に似た魚鱗を全身に覆うように生やし、天女の羽織る羽衣のようにひらひらする薄金色の薄い膜の鰭の両腕、龍宮の使いと同じ長い尾鰭を臀部から生やしている。

 そして、背後には数十個の人間の眼玉に似て、血管のような物をぶら下げているモノが宙に浮いている。

 

【僕はアロケル。ゴエティア72柱のひとりさ】

 

 名乗ったアロケルという魔化魍は宙に浮く眼玉を1つ手に持って、それを膜のような鰭の手でクニュクニュと弄る。

 

蛇姫

【前に戦ったオセの敵討ちか】

 

【違ーーうよー。だから言ったでしょ、僕は魔化魍の王を殺したいだけ】

  

南瓜

【あなた如きに王を殺させるわけがないでしょ】

 

睡樹

【それ……に僕た………ちが…さ…せ……ない】

 

 南瓜や睡樹の言う通り、そんなことをさせない。

 音撃管をアロケルに向ける。

 

【さっきも言ったけどさーーー。何で魔化魍が鬼の武器使ってのーー。おかしくない。っていうかそんな武器を家族と呼んでる魔化魍に使わせる普通。なんか今代の王は変だねーーー】

 

 私の向けた音撃管を指差しながら、文句を言うアロケル。

 確かに普通の魔化魍からすれば鬼の使う武器を使う魔化魍は普通は居ないだろう。だが、王は関係ない。

 そのことを反論する為に口を開こうとした瞬間。

 アロケルの持つ眼玉と目が合った。

 

蛇姫

【王はかんけ…………えっ】

 

 目の前にいたアロケルが消えた。いや、アロケルだけじゃない睡樹も南瓜もいない。

 しかも周りの景色も少し違う。どこか遠くへと転移した場所は何処にでもある平野。だが、周りは霧に包まれて昇っていた太陽の影も形も見えない。霧によって覆われた白世界。

 

蛇姫

【!!】

 

 何かの気配を感じ取った蛇姫はその方向に音撃管を撃った。

 どさりと何かが倒れる音が聞こえ、白い霧を散らしながら進んだ先には–––

 

蛇姫

【………えっ】

 

 そこにあったのは4つの音撃管で撃った空気弾によって身体中に穴の開いた幽冥の変わり果てた姿だった。

 

蛇姫

【嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ】

 

 なぜ、王が此処に?

 私は王を撃ってしまった? あああ、私はなんということを。

 王を間違ってこの地に飛ばしたどころか殺害するとは、私は王の家族として失格だ。せめて、この罪を。

 そう思った蛇姫は手に持つ音撃管の銃口を自身の頭に当て、引き金を引こうとした瞬間–––

 

蛇姫

【えっ?】

 

 目の前にあった霧と王の死体がいつの間にか消えていた。

 

南瓜

【何をしてるんですか!!】

 

 そんな声と共に頭に当てていた音撃管がはたき落とされる。

 

蛇姫

【南瓜? なんで、さっきまでそこに王の死体が?!】

 

睡樹

【王の……死…た…い? 何を…言って……いる…の? あれ…の…眼を…見て……から…へん…になった……から………あの…眼玉を……消し…た…ら………元…に戻った……の】

 

 どういうことだ。睡樹の今の話だと王は死体は消えたというよりなかったという風に聞こえる。

 南瓜や睡樹は私が王を殺した瞬間を見てなかったのか? 何故だ? 王を殺したのは間違いないはずだ。感触が残っている。何故?

 そんな疑問がどんどん浮かんでると–––

 

【あーーーああ。もう少しで、殺せたのに残念】

 

 心底、残念そうにいうアロケルが弄っていた眼玉を離す。

 

南瓜

【蛇姫に何をした】

 

【さあ、何だろうね? 知りたい? でも教えなーーーい! だって死人に口なしだし】

 

 アロケルが尾を振るうとそこから強風が吹き、蛇姫たちの動きを止め、さらにアロケルは自身の鱗を剥がしてそれを投げる。馬の蹄状の鱗はブーメランのようにくるくると不規則な動きで、私たちを襲う。

 アロケルの背に浮いていた眼玉はいつの間にか避けた先に移動し、蛇姫と南瓜は眼を合わせてしまった。つまり––––

 

【はーーーーい。残念でしたーーーー】

 

 そんな、アロケルの声とともに景色が変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきと同じ景色だ。

 しかし、違う点がある王の死体のあった場所にアロケルが立っていた。

 

【……………】

 

 アロケルは鱗を手に持ち、私に向けて投げると同時に鱗を逆さまに持ってこちらに走ってくる。

 

【死ね!!】

 

蛇姫

【はっ!!】

 

 音撃管を握っていたはずの手には音撃弦があった。何故武器が違うのか気にせずに飛んできた鱗と飛びかかってくるアロケルに音撃弦を振るう。

 

「がふっ」

 

蛇姫

【……白?】

 

 アロケルだったものはその姿を白に変えた。

 白が死んだ。横に一刀両断された白の身体から臓物が溢れる。私の足元に落ちていく。白の内側から溢れ落ちた臓物の隣には先程殺した王の死体があった。

 

 2つの死体の目線が私を責めるように見つめる。

 何故、死なない。お前もこっちに来いと言わんばかりの睨みが私に刺さる。

 手に持つ音撃弦の刃を首に当て引きそうになった瞬間–––

 頬にとてつもない痛みが走る。

 

蛇姫、南瓜

【【はっ!!】】

 

 目の前に見えていたものや消えて、持っていたはずだと思った音撃弦は音撃管のままだった。そして、私と同じように頬を押さえる南瓜がいた。

 

シュルゥゥゥゥ

 

 声の方に向けば、ツタの腕を鞭のように振るって、2人の目を覚まさせた睡樹はアロケルをジッと睨む。

 

【ちっ。ひ弱そうだから殺さないようにと思ってたけど、もういいよ】

 

 舌打ちと共にアロケルは眼玉を動かす。

 今度はさっきとは違い、蛇姫と南瓜だけではなく睡樹を覆うように眼玉で隙間なく壁を作り、どこを向いても眼玉と視線が合うように配置された。

 

 ぐるぐると動く壁になった眼玉の視線を合わせないように眼を瞬間的に瞑ろうとする。しかし瞑ろうとした瞬間、アロケルから鱗が飛んで、眼玉からは光弾が発射されて、その攻撃を避ける為に眼を開けてしまい、蛇姫たちは再び、幻覚を掛けられる。

 

 3度目の光景に見慣れた私。

 そんな見慣れた光景の前には死んだ王や白、他にもたくさんの家族たちの死体があった。

 

「なんで生きてるの?」 「みんな死んだんだよ」 「早く楽になろう」 「どうして王を殺した」

 

「君なんて死ねばいい」 「助けて」 「死にたくない」 「返して」 「裏切り者」

 

「必要ない」 「消えて」 「王が死んだのはお前のせいだ」

 

 響く怨嗟や私を否定する声が頭の中に直接語りかけるように聞こえる。

 しかし、私は騙されない。

 

 すると、響いていた声が聞こえなくなる。

 

 死体は存在しない。王は死んでいない。王だけじゃない家族と呼ぶみんなも死んでいない。

 蛇姫、いや同じように幻覚を掛けられた蛇姫たちは顔を上げる。

 

蛇姫たち

【【【私(僕)をなめるな!!】】】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【馬鹿な!!】

 

 アロケルはその光景に目を疑う。

 さっきまでの遊びでもふざけでも無い本気で能力を使った。

 

 アロケルの能力『死を見せる幻視(アイズ・オブ・パニック)』はアロケルの周りで宙に浮いている眼玉と目を合わせた者に親しいものが死ぬ幻覚を見せるという能力だ。蛇姫がみた幽冥の死体や白の死体もアロケルの能力で生み出された幻覚だ。

 それなのに目の前の3体の魔化魍は幻覚を見せていた己の周りに浮かぶ眼玉が次々と壊されていく。

 

 空間倉庫の術で仕舞い込んだ大きさの異なる音撃管を全ての手に持ち眼玉を撃ち落としてく蛇姫。

 

 植物である故に自身の腕を細く裂いて針のように眼玉に飛ばし腕を再生させるという荒技を繰り出す睡樹。

 

 溶岩のような粘性をもった炎を口から吹いて眼玉を燃やす南瓜。

 

 眼玉はどんどん数が減っていき、あっという間に最後の1つとなり、最後に宙に浮いていた眼玉が破壊される。

 その光景に狼狽るアロケルに睡樹と蛇姫、南瓜は動き出す。

 

【させるか!! なっ!!】

 

 動き出した睡樹と蛇姫に向けて、鱗を投げつけるが鱗は睡樹と蛇姫の傍から飛んできた溶岩にぶつかると弾けるように消える。

 

蛇姫

【はっ!!】

 

 お返しとばかりに蛇姫は右の手にある音撃管で撃ち、左の手で札を投げつける。

 アロケルは腕で音撃弾を防ぎ、尾で札を振り払った。だが、蛇姫も南瓜もニヤリと口を歪め、叫ぶ。

 

蛇姫、南瓜

【【睡樹!!】】

 

【な!!】

 

 2体の声によって気づいたアロケルが向いた先には、自身のツタの腕を幾重にも巻き付けた槍が握られていた。

 

睡樹

【これ…で…トド…メ!!】

 

 睡樹の手から風を切るように投擲されたツタの槍が宙に浮かぶアロケルの胸元に突き刺さる。

 

【こんなのに、怯む、ゴバアッ。かはっ。何、これ?】

 

 アロケルが自身の胸を見るとツタの槍はどんどん短く、いやアロケルの身体の中に侵入していく。

 

睡樹

【僕の…いま……出来る…技で………1番つ…よい技】

 

 睡樹の放ったツタの槍は勿論ただの槍ではない。

 彼女、睡樹は、妖世館では、畑を耕し野菜の栽培や、万年竹から貰った特製竹の育成などといった農業の真似事をやっている。

 しかし、それは王である幽冥が起きてる時に見ているもの。実は睡樹は王が眠った後に鍛錬をしている。

 この鍛錬にはかつて、こことは違う『影の国』という場所で数多くの英雄たちを鍛え生み出した神霊に鍛えられ、同じ中距離攻撃を得意とし槍の腕は妖世館の家族内随一の実力を持つ常闇に師事してもらっている。

 

 この槍はそんな鍛錬の最中に偶然生み出した技だった。

 これを受けた常闇は、『その技を恐ろしい』と言った。

 

 何故ならば、常闇は全身を霧のように変えて自身の身体に刺さった武器を無効にする吸血鬼を体現させるような能力を持つ。

 しかし、この槍が刺さった箇所は霧に変えることが出来ず、更には槍が短くなるにつれてツタが体内に侵入し霧に変わっていた筈の身体をどんどん蝕んで、遂には常闇は身体を霧に変えることが出来なくなり、更にはツタが身体から突き出て命の危機というところだった。

 だが、睡樹が槍に止まれと思念で命じると、侵食は止まった。

 その後は、偶々居合わせた蛇姫に手伝ってもらう、何とか除去して傷を治療することに成功した。

 ただ暫くは、常闇は睡樹に罰として常闇の考案していた数々の槍技のサンドバックにされた。

 

 そして、この技を受けた常闇はそのツタの槍を自身の持つ偉大な師匠や兄弟子の槍と同じようアイルランド語(ゲール語)身を蝕み糧とする緑槍(グラスリィ・パラサイツ)と名付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸元に突き刺さった身を蝕み糧とする緑槍(グラスリィ・パラサイツ)は柄の一部を残してアロケルの身体に侵入し、アロケルの血肉を糧としてツタは体内で根を張り血を吸い上げ、肉を貫きながらどんどん成長していく。

 

【ぐがあああああああああああ!!】

 

 胸元から全身に広がる痛みにアロケルは叫ぶ。

 肉をかき分け、血管に侵入し、神経に根を張り、張った根から生命を吸い上げて、ツタの成長エネルギーに変える。だが、成長が急に止まり、痛みが消えたアロケルはハッと自身の胸元を見る。そこには–––

 

【ぼ、僕の核!?】

 

 胸元に刺さった槍の穴が広がって出来た穴があり、そこからツタに絡まれて体外に出ても懸命に動かしているアロケルの核があった。

 アロケルの核に絡まるツタの一部が鋭く飛び出て、核を貫く。

 

【がはっ…あ、がぁ】

 

 どんな生物だろうと(心臓)を貫かれて無事な生物はいない。

 赤黒い塊のような血を吐き出し、宙に浮いていたアロケルの身体は重力に従って、そのまま落ちていく。落ちてくるアロケルに蛇姫は手に持つ全ての音撃管の照準をアロケルに合わせる。だが、不意に聞こえたアロケルの言葉にとどめを刺そうとした蛇姫と睡樹に届く。

 

【お母、さん】

 

 そんな声が敵から聞こえると同時に睡樹と蛇姫は動いていた。

 

SIDEアロケル

 羨ましかった。あの人間(魔化魍の王)が。

 

 羨ましかった。家族と一緒に居れるのが。

 

 羨ましかった。友達と一緒に遊べるのが。

 

 羨ましかった。自分のやりたい、ことを、出来るのが。

 

 僕には何もない。家族も友達も夢も。

 そんな僕にある意味。ふさわしい最後………………でも、最後に、もう一度、もう一度、会いたかった。

 これが、終わったらまた会える……そう、思っていた。けど、もう無理。

 

【お母、さん】

 

 不意に呟かれたアロケルの声に下にいた2体の魔化魍は反応する。

 

睡樹、蛇姫

【【!!】】

 

 宙から真っ逆さまに落ちる僕を蛇女の魔化魍(蛇姫)は、持っていた音撃管を捨てて6本の腕を使って受け止めて、優しく身に寄せる。植物の魔化魍(睡樹)は僕の胸に刺した根を生やす槍を抜き捨てて、地面に垂れた僕の腕を掴み、その腕を優しく撫でた。

 

【何のつもり、て、きに、対しての情けのつもり】

 

睡樹&蛇姫

【【………】】

 

 アロケルの質問に2体は答えずにアロケルを濡れた赤子を優しくタオルで包み込むように扱う。

 

南瓜

【……………】

 

 2体の背後で溶岩を纏わせて巨大化させた腕を振り下ろそうとしていた南瓜頭の魔化魍(南瓜)は腕を元に戻し、2体の魔化魍から離れていった。

 

 この2体は何をするつもりなんだ。死の間際とはいえ。僕は2体を殺すために眼を作り出そうとしたが……………やめた。僕を殺すためにしているのかと思ったが、本当にただ撫でているだけ。意味がわからない。理解できない。

 

 でも、不思議だ。懐かしい感じがする。

 

 それも、さっきまで戦っていた敵から。

 敵なのに、さっきまで、殺し合っていたのにそれなのに何で?

 

睡樹

【ーーーーー♪】

 

 腕をそっと撫でる睡樹が唄う子守唄がアロケルの遥か昔の思い出が蘇る。

 

 お母さん?

 

 アロケルが思い出したのは、産まれてまだ少ししか経っていない幼体の頃。

 自身を産んだ母親が幼体だったアロケルを産衣に包み、まだ短かかったアロケルの鰭の腕を撫でながら子守唄を唄っていた。

 

 アレと交わした契約は失敗。おまけに僕はもうすぐ死ぬ。

 

 お母さんとはもう会えないのに…………何でだろう? あの時のお母さんの様な温かさがある。

 

 僕の求めていたモノが、だから、せめて、僕はこの魔化魍達に言うべきだろう。

 

【ありがとう】

 

 その言葉を最後に止まっていた時間が進むようにアロケルの身体は崩壊は進んでいき、ボロボロと崩れていく。睡樹は崩れていくアロケルの腕を握り締めて、蛇姫は塵に変わる最後の瞬間までアロケルを抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睡樹

【もし…か…したら…僕は…あの魔化魍…の友人…になって…のかも】

 

蛇姫

【そうですね】

 

 そう言う蛇姫の身体の上には崩れて塵と化したアロケルだったものがあり、睡樹の手には崩壊が止まるも短く残ったアロケルの腕が残っていた。

 

 睡樹はアロケルの腕を蛇姫の術で仕舞ってもらい。蛇姫の身体の上に残ったアロケルだった塵は突如吹いた風で飛ばされる。

 

南瓜

【戻りましょう】

 

 飛んでいく塵を見ながら南瓜の言葉で3体は王の元へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アロケルが死んだ地から少し離れた場所。

 霧のような黒いもやが全身を覆って姿が見えないが、その手にはアロケルが回収した人間の魂が握られていた。

 

【…………死んだかアロケル。まあ、いい。魂は回収できた。次はもう少しマシなやつを送ってやろう。なあ、魔化魍の王】




如何でしたでしょうか?
今回登場した『ゴエティア72柱の悪魔魔化魍』はアロケルでした。
いつかの話に書いたと思いますが、本当はアロケルではなく別の『ゴエティア72柱の悪魔魔化魍』を出す予定でした。ですが、コロナという物が流行ってるのにウィルスを扱う奴を出すのはどうかと判断した結果、アロケルを出しました。
実際の悪魔のアロケルは立派な馬にまたがり燃えるような目を持つ真っ赤なライオンの頭を持った兵士という姿をして、その目を覗き込んだ者は自分の死に様が見せ、ショックでしばらく目が見えなくなると言われる。その話しぶりはしゃがれて大きい。天文学や教養学を教え、また優れた使い魔を与えてくれるという悪魔です。
ここでのアロケルは実際のアロケルの一部を容姿に散りばめています。
最後の人物は後々出てきます。ただし幽冥の家族にはなりません。
睡樹の持つツタの槍はFateの宝具っぽい感じで作ってみました。
グラスリィはアイルランド語で緑=グラスと槍=スリイを合わせて作った造語です。
こんな感じで幽冥の家族たちも宝具っぽい必殺技を作っていこうと思います。
次回の話のおまけに『身を蝕み糧とする緑槍』に宝具説明的な紹介を書こうと思います。
まあ、次回の話です。お楽しみに!


ーおまけー
迷家
【はいはーい。お待ちかねのおまけコーナーなんだけど、今回は睡樹と蛇姫と戦ったゴエティア72柱の悪魔魔化魍 アロケルの紹介だよ】

種族名:混合種 アロケル
属性:黒
スタイル:射
分類:中型
鳴き声:ジュルリ、ジュルリ
容姿:馬の蹄に似た魚の鱗を全身に生やし、龍宮の使いと同じ尾鰭を生やし、両腕がひらひ
   らした薄い膜のような薄金色の鰭で、背後に血管のような物をぶら下げた数十個の眼
   玉を周りに浮かし、口元に猫科の髭を生やした鯰の人型
能力:『死を見せる幻視(アイズ・オブ・パニック)
   能力は、宙に浮かぶ眼玉に目を合わせた相手の親しい者や家族が死ぬ幻覚を見せる
   アロケルの周りに浮く眼玉と眼を合わせた相手に親しい者や家族の死ぬリアルな幻覚
   を見せる精神攻撃特化の能力。
   目を合わせた瞬間に能力が発動するので、眼を閉じれば能力は不発するが、眼を閉じ
   てる間の隙を利用して攻撃をしてくる為、否が応でも目を開けてしまい能力を受けて
   しまう為、非常に嫌な能力ともいえる。
   能力によって見せられた幻覚は眼玉を破壊するか、幻覚を見ている者に強い衝撃与え
   ることで解けるが、解けた瞬間に再び能力を仕掛けるために、現実と幻覚の境が分か
   らなくなり、相手を自殺に追い込むことが出来る。
   ただし、幻覚と理解している相手や凄まじい精神の持ち主に対しては能力の効果が半
   減する。
特徴:『ゴエティア72柱の悪魔魔化魍』に連なるもの。歪種。
   序列は52。階級は公爵。
   真名は『 他者を嘲笑い身を震わす大眼玉(Oculus magnus, qui alios deridet et se excutit)』。
   歴代の魔化魍の王に対しては興味を持っていないが、たくさんの家族に囲まれて幸せ
   そうな幽冥に対しては激しい憎悪をもつ。
   空気を読まずに喋り、場の空気を乱すが、本人に自覚はない。無数の瞳を生み出し長
   距離からの攻撃を行い、能力を使った精神攻撃を行う。だが能力に頼りきった攻撃が
   多いためか接近戦を苦手とする。
   オセの次に現れた『ゴエティア72柱の悪魔魔化魍』。九州地方において、佐賀支部
   跡地に漂っていた魂に契約をし、ある目的の為に集めていたが、魔化魍の王が現れた
   ことを知り、ゴエティアの代わりに『ゴエティア72柱の悪魔魔化魍』を束ねる者の
   指示で、幽冥たちに攻撃を仕掛ける。
   王の身辺警護をした睡樹たちによって別の場所に転移させられて、睡樹と蛇姫と南瓜
   と戦う。
   能力を駆使して睡樹たちを苦しめるも能力を自力で解かれて能力に使う眼玉を破壊さ
   れ、狼狽える。
   最後は睡樹の『身を蝕み糧とする緑槍(グラスリィ・パラサイツ)』受けて、産まれた時に少しの間しか共に過ご
   せなかった母親のこと思い出しながら睡樹と蛇姫に看取られながらボロボロと身体が
   崩れ塵と化した。残った鰭の腕を睡樹が回収した。
   だが、集めていた魂は何処かに消えた。
戦闘:尾を使った突風による行動阻害、鱗を使った中距離攻撃、
   浮遊する数十個の眼を使った遠距離攻撃と幻術
CV:平田裕美(ギョロロ)

迷家
【どうだったかなー? アロケルの紹介。本当は蛇姫に来てもらおうと思ったんだけど、今は1人にしてほしいって言って来なかったのー。
 睡樹も以前来てくれたから呼びづらいし、南瓜はいつの間にか居なくなっていたから。しょんぼり。
 まあ、次回も戦闘回ってやつらしいから楽しみに待っててね。じゃ、まった次回もよろしくねーー♪】


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記録玖拾肆

今年もそろそろ終わりですね。
そんなこんなで今年最後の更新です。
今回は長崎支部襲撃の話、おまけでは前回登場した睡樹の槍の宝具風紹介になります。


SIDE長崎支部襲撃メンバー

 猛士九州地方長崎支部。

 家族や友人を魔化魍に殺され、恨みを抱く支部長 三ツ木 照弘を筆頭に魔化魍に対しての憎しみを抱えた鬼や人で構成されており、その憎しみを原動力として魔化魍と戦う。

 例え、腕がなくなろうが、足がなくなろうが、目を抉られようが魔化魍を殺すことに躊躇しない。

 

 そんな長崎支部は建物の一部に大きな穴が空き、そこから炎と黒煙が噴き上げていた。

 その建物の入り口前では、上陸した大尊や渦潮、水底の艦の操舵を担当する片割れが長崎支部から出てくる鬼と戦っていた。

 

「ふぎゃ!!」

 

大尊

【んぐっ………ぷはーー】

 

 渦潮が尾を振って当たった鬼は大尊の口元に飛ばされ、そのまま大尊は鬼の身体を一飲みする。

 

「くたばれ!! 魔化…」

 

 隙を見た鬼は渦潮に斬りかかろうとするも甲羅から飛んできた棘に貫かれて倒れる。

 

「何なんだよこいつ、ガア!!」

 

音撃波 雷、ぐはっ!」

 

 鬼に攻撃はさせないというかのように水で作られたカットラスで鬼を斬り殺すのは水底。音撃を使おうとした鬼の顎を触手で打ち抜き、気絶した鬼を引き寄せて別の鬼の音撃管から放たれる空気弾を防ぐ盾にする。

 空気弾が鬼の身体に命中し、とどめに脳天にカットラスを突き刺す。

 

「よくも仲間を!!」

 

「落ち着け。このままではやられる。を作れ!!」

 

 激昂し、水底に飛びかかろうとする鬼の肩に手を置いて落ち着かせるのは、銭鬼と呼ばれる長崎支部で実力のある鬼だ。

 

「「「「応!!」」」」

 

 鬼は集まりだし、渦潮たちを囲むように円を組む。

 

「さあ、始めるぞ!!」

 

 銭鬼の号令と共に、音撃弦を持った3人の鬼が飛びかかる。

 

水底

【単純な攻撃に、なっ!!】

 

「撃て!!」

 

 3人の鬼の背後には音撃管を構えた2人の鬼が立っており、音撃弦を振るう3人の隙間から空気弾を撃ってくる。

 

大尊

【水底!! ふん!! なっ!?】

 

「やれ!!」

 

 大尊は水底に向かってくる空気弾を自身の口から放った空気弾でかき消し、音撃管を持つ2人の鬼に迫るが音撃弦を持った銭鬼が大尊の空気弾を切り裂き、空気弾を斬られて隙を見せた大尊に銭鬼の指示で現れた鬼が音撃棒を大尊の頭に振り下ろす。

 

渦潮

【ちっ!!】

 

 しかし、渦潮の甲羅から放たれた棘が攻撃しようとする鬼を大尊から引き離す。

 大尊はその瞬間に3本の音撃弦に当たりそうな水底を吸い込み。自身の口に咥えた後に渦潮のいる場所に跳び、渦潮の側に降りると咥えていた水底を離す。

 

水底

【ありがとう大尊】

 

大尊

【うん。しかし厄介】

 

渦潮

【ここまで変わるのか】

 

 先程までの動きが嘘のように変わった鬼たちに翻弄される渦潮たち。

 

 銭鬼がと呼んだもの。

 それは、長崎支部支部長である三ツ木 照弘が生み出した対魔化魍集団戦闘技法である。魔化魍の行動に合わせて、流れるように動きを変え、司令となる鬼が指示をする一種のヒット&ウェイ戦法。

 元々は鬼に成り立ての新入りの生存を考えて生み出したものだったが、さらに攻撃性を高めた結果、魔化魍の討伐率が上がったので、魔化魍に憎しみを持つ三ツ木の指示で長崎支部の鬼のほとんどがを使える。

 三ツ木はこの技術を所属する鬼たちに覚えさせて、魔化魍の討伐を行なっていた。更には長崎支部から他支部に移動した鬼がこの技術を教えているので、長崎支部の鬼だけしか使えないというわけではない。

 また、この九州地方から逃げようとした魔化魍たちを清めて(殺して)いたのもこのが原因だ。

 

水底

【どうする?】

 

渦潮

【先ずは、敵の司令塔を消すか】

 

 渦潮が睨むのは、鬼の指示をする銭鬼。

 

大尊

【でも、周りが邪魔】

 

渦潮

【なら俺が仕留めよう。周りの鬼の足止めを頼む】

 

水底

【分かりました。ですが足止めではなく、纏めてやったほうがいいでしょう】

 

 水底が触手の1つを海に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長崎支部から離れた安全位置に浮かぶ水底の艦。

 操舵をする水底が居ないのに艦の2つの骨の砲塔がひとりでに動き出し、その照準を長崎支部の前に群がる鬼たちに向けられる。照準が終わると遠く離れた水底の合図と共に撃ち出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ?」

 

 鬼の1人が空を見上げると何かがこっちに近付いていた。

 

「避けろ、攻撃が」

 

 だが、気づいた時には遅かった。

 鬼の声をかき消すように6つの砲弾は警告しようとした鬼の身体を砕き、地面に着弾と同時に爆発した。

 

 爆風と衝撃によっては崩れ、更にはを組んでいた鬼の半分はやられ、その無惨な死体が各所に転がり、残りの半分の鬼も爆風で目がやられてたり、腕が千切れてたり、脚が焼失してたり、様々な怪我を負って地面に倒れている。

 

「銭鬼さーーん」

 

「どこですか!?」

 

 その中でも比較的軽症な2人の鬼が司令たる銭鬼を探していた。

 

「銭鬼さん、ぶじ、え?」

 

「そんな」

 

 2人の鬼が銭鬼の側によるとその状態に目を疑う。

 銭鬼は仲間を爆風から守るために前に立ち、爆風と飛んできた釘の如き破片でやられズタボロされた。特に利き腕の右腕が酷く、指は5本のうち4本は消え、肘から骨が突き出ていた。愛武器である音撃弦も同様で真ん中に空いた穴が原因で真っ二つに割れている。

 これでは、音撃を使うことも戦うことも出来ないと2人の鬼は悟った。

 

「俺のことはいい、早くを、な!!」

 

 戦意の消えていない銭鬼は崩れたを戻すように命令するが、その隙を逃さないのは–––

 

渦潮

【いい援護だ。終わりを見せてやる】

 

 渦潮だ。

 

ザアアアアアアアアアアアアアアア

 

 渦潮の雄叫びで、地面が揺れ始める。

 水底と大尊はなんとか踏ん張って耐えるが鬼の何人かは揺れで尻餅をつく。

 地面に亀裂が入り、そこから飛び出すのは海水。側にある海水を渦潮は呼び出し、呼び出された複数の海水は畝りながら渦潮の前に集まり渦巻き始める。渦潮はバラけて複数の触手となった前鰭で渦巻く海水を球状に圧縮する。

 不純物がない透明なはずの海水はその渦の勢いで白く見える。

 

「これが渦中球!!」

 

 渦潮の手元から離れた渦中球は真っ直ぐと銭鬼に迫る。

 

「「銭鬼さん、あぶ」」

 

「くそ、おぶ」

 

 銭鬼を守るために前に立った2人の鬼は渦中球を防ごうとするも2人の鬼を呑み込み、そのまま銭鬼の身体も呑み込んだ。

 

 渦潮が前鰭をぐるぐるすると渦の勢いが増した渦中球の白い水はどんどん赤く濁り、さらに回転が増すと粘度も増し、水の中で半減するもグチョ、ビキッ、ズチュと人間の肉で奏でられる音が響く。

 

 そして、渦潮がその場に留まる渦中球に尾を振るうと、球はパシャんと割れて、銭鬼と銭鬼を守るために入った2人の鬼の身体はバラバラの肉片にされ、割れた衝撃でその肉片をあたりに撒き散らす。偶然飛んできた銭鬼の頭を渦潮は首を動かしてそのまま頭を噛み砕き咀嚼する。

 の司令だった銭鬼が死ぬと鬼たちの攻撃も脆弱だった。なにせ、この場に出てる鬼の中でを使いこなしていたのは銭鬼だけ、他の鬼も使えないことはないが、どこか粗がある。おまけに水底の砲撃によってまともな戦いも出来ずにどんどん数を減らしていく。

 

 渦潮の海から呼び出された海水を渦に変えて鬼の身体を千切り、前鰭の触手を使って鬼の動きを止めて甲羅の棘で貫く。

 

 水底の水で生み出されたカットラスで鬼の首を刎ね、軌道の読めない触手を使って鬼の身体を捻る。

 

 そして、大尊が死体となった肉塊を某掃除機のように吸い込んで捕食していく。

 

 

 

 

 

 

 数十分経つ頃には、渦潮が喰らい、大尊が吸い込み、水底がお土産として死体のいくつかを空間倉庫に仕舞ったことで地面に染み込んだ血を除けば、何も残っていなかった。

 3体は中に侵入した白と青の帰りを待つために水底の艦に戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE白

 白と青は外を渦潮たちに任せて、建物内に侵入していた。

 勿論、建物の中にも人間や鬼がいる。当然、を使って攻撃を鬼たちは仕掛けるが。

 

「物足りないわね」

 

「集団は面倒だ」

 

 しかし、この2人はそんなを正面から打ち破った。

 撹乱の動きをする鬼は白が脚を鞭のようにしならせて動きを抑える。

 その隙に青が手に持っている元弭に目高の卵に似た飾り物の付いた大弓。 怨魚弓(えんぎょきゅう) 群鱂(むれめだか)を使い後ろで音撃管を構える後衛ごと矢で貫く。

 従来の妖姫と違い、この2人は鬼と戦い慣れている。一方、鬼たちは幼体の魔化魍を連れて逃げ回る妖姫しか相手にしたことがなく戦闘を行う妖姫と戦ったことがなかった。

 こうしてを苦労することなく破った2人はこの支部にいる支部長を探す。

 

 

 

 

 

 

 やがて2人が出たのは、だだっ広い部屋だった。だが、壁には大きな穴が空いている。おそらく最初の号砲で開けられた穴だろう。そして、その穴から漏れる光で照らされてるのは、ここ長崎支部の支部長である三ツ木 照弘と4人の鬼だった。

 

「お前らが侵入した妖姫か」

 

「そうだと、言ったら」

 

「ここで死ね!!」

 

 三ツ木は手に持つ変身鬼笛を吹く。

 

「妄鬼!!」

 

 三ツ木の頭の上に黒雲が生まれ、三ツ木の吹く笛音で大きくなりやがて滝の様な雨を降らせる。

 滝の様な雨を浴びて三ツ木の姿が見えない白と青は警戒する。そして、滝の中から両手が突き出て、その両手が滝の雨で出来た膜に手を掛けると力任せに引きちぎった。

 

 中から出てきたのは、青紫で縁取りされた頭部に左右非対称に側頭部から伸びる角、青に近い水色の体色の鎧を纏い、その手には音撃管が握られている。

 この鬼こそ九州地方長崎支部支部長 三ツ木 照弘が変身する鬼 妄鬼である。

 

を組め!! 一気に片付けるぞ!!」

 

 妄鬼の指示で4人の鬼は妄鬼を起点にして白と青を囲む。

 

「道中で戦った鬼たちの使っていたものですか? ですが、もう見破っていますよ」

 

「そうか。だけどなこっちはレベルが違うんだよ!!」

 

 妄鬼が口にした瞬間に妄鬼は反対の位置にいた音叉刀を持つ鬼と入れ替わっており、白と青の腕に切り傷が出来る。

 

「「っ!!」」

 

 見破ったからと言って、油断する2人ではないのだが、妄鬼の攻撃は目視できなかった。

 移動した妄鬼はまた移動し、今度は横の鬼と位置が入れ替わる。カードシャッフルの様に入れ替わる姿に白と青は冷や汗が垂れる。

 

「さっきの鬼たちとは大違いね」

 

「ああ。少し驚いた」

 

 長崎支部に侵入した際に戦った鬼たちとは比べものにするのが烏滸がましいほどに違う動きに白と青は認識を変える。

 白は鉄扇を使って、鬼の1人に接近すると、それを読んでたのかのように妄鬼とは違う音撃管を持った鬼が白の動きを止めるために空気弾を撃つ。

 

「っ!?」

 

 迫る空気弾を鉄扇で防ぐ白に音撃棒に風を纏わせた鬼が此方に向かってくる。

 

「ちっ!!」

 

 舌打ちをした鬼は音撃棒の鬼石のついた先を外すと中からアイスピックのような針が現れ、鉄扇の隙間を抜いて白に刺す。

 

「甘い!!」

 

 だが白はすかさずにもう1つの鉄扇を出して、その攻撃を防ぎ、蹴りを鬼の腹に叩き込んで距離を取る。

 

 一方、青は群鱂(むれめだか)を使って、司令する妄鬼に向けて矢を放ち続ける。

 矢は途中まで飛ぶとバラけるように複数の矢に分かれて、妄鬼に迫る。しかし、妄鬼の側にいた音叉槍を構えた鬼が音叉槍を回転させて飛んでくる矢を弾いていく。

 妄鬼は守られながら青に向けて音撃管 妄想から空気弾を撃ってくる。

 青は矢を放ち、自身に当たりそうな空気弾のみを撃ち抜く。

 

 青は流れを変えるために床に向けて矢を放つ。コンクリート製の床は簡単に壊れ、散った破片を更に細かく矢で砕いていく。

 砕けた破片は細かい塵となって視界を奪う。

 目障りな塵を散らすために妄鬼が動く。だが、妄鬼が動く瞬間に青は手に持つ群鱂(むれめだか)から節の所々に小さな鱗の付いた短弓の怨魚弓 変出世(かわりしゅっせ)に換える。

 変出世(かわりしゅっせ)に矢を番え、放った矢は妄鬼や他の鬼と離れた位置にいた鬼に真っ直ぐ飛んでいく。

 

「へ!! こんな矢に当たるわ……」

 

「避けろ!!」

 

 さっきまでの拡散する矢とは違いただ真っ直ぐ飛ぶ矢を叩き折ろうと音撃弦を構える鬼に妄鬼が注意の声を出すが––––

 

「へっ? がああああああ!! 眼が、眼が!!」

 

 鬼の前にまで接近した矢は突如爆発して鬼の視力を奪う。

 

「あ、ああ、妄鬼さん。どこですか、あ、ぐぼ」

 

 視力を失って無茶苦茶に音撃弦を振るう鬼の背後から白が閉じた鉄扇で身体を貫く。

 

「もう、きさん、か、かたきを–––」

 

「ふん!」

 

 白の鉄扇が開かれ内側から外側に広がった鉄扇で鬼の身体は分かれ、上半身はそのままドサッと地面に落ちる。

 

「イサキ!! ちっ、てめえ!!」

 

 音撃棒から音撃針に変わったものを持った鬼が白に迫ると、鉄扇を交差させて音撃針を受け止める。

 

「くそっ!! はなせ、はなせ!!」

 

 交差した鉄扇に挟まれた音撃針を動かそうともビクともしない。音撃棒の片方を離して、変身音叉を一瞬で音叉刀に変えて、白に斬りかかるが白は音叉刀を持つ腕に伸ばした右脚でぐるぐるに巻きつける。

 

「ぎがあああああ!!」

 

 そのまま白が脚に力を込めれば腕をぐしゃぐしゃに砕き、中で細かく折れた骨が腕から突き出る。

 白は巻いた脚を外して、鬼の背中に移動し、そのまま組んで鬼を後ろの床に向けて叩きつける。鬼の頭はひしゃげた車のように潰れる。

 

「榊さん!! おのれ、妖姫!!」

 

「待て、宍戸!!」

 

 激昂した妄鬼の隣に立っていた音叉槍を持った鬼が妄鬼の静止の声を無視して、白に槍を向けて突撃してくる。

 だが、青が白のそばに移動して矢を番えて放つ。

 

「っ!!」

 

 最初の鬼のように爆発する矢だと知った鬼は手持ちのディスクアニマルを矢に向けて投げる。

 投げられたディスクアニマルと矢を衝突した瞬間–––

 

「爆発しない!!」

 

 ディスクアニマルは矢に当たった筈なのに爆発せず地面に落下する。だが、ディスクアニマルをよく見ると全体が白いものに覆われて、動物の姿に変形する変形箇所が壊れていた。

 鬼は疑問に思うが、しかし、青は待つはずもなく矢を放つ。

 

「っ、なっ!!」

 

 鬼は自身に迫る矢を避ける。すると標的を失った矢は地面に刺さり、とてつもない電撃が地面に迸り、刺さった地面は少し赤く溶けていた。

 

「何なんだよ!! 爆発したり、凍らせたり、今度は電撃、何なんだよ!!」

 

 鬼の質問に答えるはずもなく今度は、2本番えて放つ。

 2本の矢はほぼ同じ速度で鬼に迫る。だが、鬼には今度はいったい何が起きると疑心暗鬼だった。

 

「くそっ、がはっ、しぶ、ちょ–––」

 

 矢の1本を切り落とすも、もう1本の矢が鬼の身体に刺さり刺さった箇所を中心に身体が抉られる。胸元近く、心臓の近くを抉られた鬼は血を吐きながら倒れる。

 

「宍戸さん!! がっ」

 

 倒れた宍戸の名を叫んだ音撃管を持っていた鬼の首は何かに切り落とされる。鬼の首を切り落としたのは白の鉄扇で、ブーメランのように回転しながら白の手元に戻ってくる。

 白は鉄扇についた血を払うと鉄扇を広げたまま妄鬼に鉄扇を使って挑発する。

 

「くそ妖姫!! なっ!!」

 

「これで終わり」

 

 最後の部下が殺され、白の挑発に乗せられた妄鬼の隙を突いた青は変出世(かわりしゅっせ)を使って矢を射る。

 1つ目は妄鬼の面を割り、2つ目は手に持つ音撃管 妄想を弾き、3つ目と4つ目は右肩と左脚に突き刺さり壁に張り付ける。

 

「くそっ!!」

 

 白は青の放った矢で壁に張り付けられている妄鬼に近付き、妄鬼の左脚を踏み砕く。

 

「がああああああああああ!!」

 

「どんな気分ですか? 格下と思う妖姫にやられる気分は?」

 

「……まえ………」

 

「何ですか? もう少し声を大きくしていただけませんか聞こえづらいので」

 

「お前たちが俺の家族や友を殺したのが原因だ!! お前たちが居るせいで悲しむ人がいる!! 全てお前たちのせいだ!! だからお前たちを清めた(殺した)。それが悲しみを断つための方法だからだ。そして、平和を取り戻した。

 だが、魔化魍の王。あんなのが産まれて、またお前らが動き出した。せっかくの平和を乱した。だから、殺す魔化魍の王を!!」

 

「……五月蝿い。その前にお前を殺す」

 

 青はとどめを刺そうと変出世に矢を番えようとすると––––

 

「……白。その手を離して殺せない」

 

「やめなさい青。殺したいのは分かるけど、もうすぐ時間よ。引き上げましょう」

 

 白が待ったをかけるように番えていた矢を止める。

 

「………そうだな。このままで良いか」

 

「ええ。ああ、それと貴方が王を殺す?

 ふふふふふふ。なんて愚かなんでしょうか」

 

「なんだと!!」

 

「ですから愚かと言ったのです。あなたの実力はハッキリ言って弱いとしか言えません。おそらく、魔化魍を清める際はこの支部の鬼と共同で清めていたのでしょう。集団として、連携をする貴方がたは確かに強かった。私たちの動きを的確に突いた攻撃、攻撃を防ぐ防御、こちらに隙を見せない動き、素晴らしかったです。ですが個々の力–––

 つまり個人としての戦闘能力はお粗末でした。何ですかあの動きは連携をしてた時とは大違い。まるで案山子。どうぞ当ててくださいというかのように、お陰で楽に始末することが出来ました。

 これならば以前戦った兄弟鬼たちの方が強かったです。まあ、そんなことも分からないから部下が死んだ。せいぜい部下の死を嘆きながら張り付いていなさい。

 では、さようなら鬼」

 

「待て!! 待てぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 

 静止の声を掛けるも白と青は矢で壁に張り付いた妄鬼を置いて、砲撃で穴の開いた壁から外に出て去った。

 

「コロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル」

 

 矢に刺さった傷を気にせずに怨嗟の声を吐きながら白と青の去ったほうに手を伸ばす妄鬼が最後に目にしたのは自身に目掛けて放たれた砲弾だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE水底

 銭鬼と戦いが終わり、自身の片割れのいる海に戻った水底たちは白からの指示である時間と共に砲撃を長崎支部に行う。

 そう指示された水底は大尊と渦潮と共に白と青の帰還を待っていた。

 

「戻ったわ」

 

「……戻った」

 

水底

【おかえりなさい】

 

「………時間ね。水底やりなさい」

 

水底

【かしこまりました】

 

 時間となったのを懐中時計で確認した白の指示を受けた水底は艦の主砲を長崎支部に向ける。

 主砲が長崎支部を捉えると、砲撃が始まる。

 

 次々と放たれる砲弾は一部健在だった長崎支部に吸い込まれるように命中し、その形を破壊していく。

 砲撃中に放たれた1つの砲弾が白と青が出た妄鬼が張り付けられている部屋の穴に入り込み、穴から炎と何かが飛び出す。

 

「(ん?)」

 

 何かに気付いた青は落ちた先の海をよく見ると、そこには砲撃を食らい、各所に火傷のような痕のあるバラバラ死体となり変身の解けた三ツ木の頭が浮いていた。

 

「(本当は私が殺したかったけど、まあ死んだし、いいか)」

 

 水底の放った終幕の号砲は長崎支部に命中し、爆発の轟音と長崎支部崩落の音とともに怨嗟を吐くイカれた復讐鬼を潰した。

 そして、海から王の指定した合流地点に戻った。




如何でしたでしょうか?
なんとか今年中に書けました。今年の投稿はこれがラストです。
本当は『陣』による戦闘をもう少し長くしようと考えましたがやめました。
来年も本作品をよろしくお願いします。


ーおまけー
迷家
【はいはーい。おまけコーナー。今回は、前回のあとがきに書いてあった睡樹の持つ槍の宝具風紹介だよーー♫ でも、僕は武器の紹介は苦手だから。
 紹介してくれるゲストを呼びました!!】

常闇
【それで何故、私なのだ】

迷家
【だって、アレの名付け親みたいなもんだから良いじゃん♫】

常闇
【そうだが】

迷家
【お願い】

常闇
【はあーー。仕方ない。その解説とやらをやってやろう】

迷家
【やったーーーーーー♬】

身を蝕み糧とする緑槍(グラスリィ・パラサイツ)
ランク:B
種別:対人
レンジ:40〜50
最大捕捉:1人
由来:睡樹が常闇との鍛錬で偶然生み出した睡樹のツタの腕を幾重にも巻いて出来た槍。
相手に向けて投擲し、命中すれば寄生するように柄の一部を残して体内に入り込み、内部から成長する。相手の血肉または水分を糧に成長したツタは内部から体外に出るように成長して皮膚を突き破る。また睡樹の意思でツタを操作して、特定の臓器を取り出す事もできる。
またこの槍は「身体を変化させて攻撃を避ける敵」に有効で、刺さった箇所から侵食していき変化させていた身体を元に戻して、最終的には「変化出来なくさせる」。
霧に身体を変えることができる常闇はこの槍で危うく死に掛けた。
しかし、自動追尾のような力は持たないので対象が身動きの取れない状況でなければ使えず、睡樹自身の腕もあって、相手が動いていた場合での命中率は半分以下。だが、相手が動いてなければ必中させられる。
名付け親は常闇で、グラスリィとはアイルランド語で緑=グラスと槍=スリイを合わせた造語。

常闇
【という感じだ】

迷家
【うんうん。ありがとうねーーー。じゃあ今日は此処までバイバイーー♪】


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記録玖拾伍

大変お待たせしました。
今回は鹿児島支部襲撃と熊本支部襲撃の回です。
某特撮のあるキャラのような喋り方の蝕と目立つために活躍する穿殻。
では、どうぞ!!


ー追伸ー
タイトルが投稿前のものだったので直しました。






SIDE鹿児島支部襲撃メンバー

 猛士九州地方鹿児島支部。

 五感の優れている鬼や人間が多く所属し、その五感を駆使した電撃作戦や集団作戦を得意とする。しかし、他の九州地方支部に比べると所属する構成員の数は少なく、他の九州地方支部と組んで魔化魍と戦うことが多い。

 

 そんな鹿児島支部。此処は襲撃されている他の支部と違い、静かだった。

 壁が無駄に破壊されてる訳でも、部屋が無茶苦茶にされてる訳でも、無駄に臓物を飛び散らせて死んでる死体でも、焼け焦げてその場に転がる物体がある訳でもない。

 ただただ、静かだった。

 

 しかし、静かなのは理由がある。

 1つの扉が開いてる部屋がある。そこには、ありえない向きに四肢を曲げられて、その上で紐のようなもので拘束されている人間たちがいた。声を出させない為か口に何かを詰められて喋れなくされてる。

 

 またある部屋では、紐で拘束されている者はいないが、指先を全て切り落とされ、両腕同士と両脚同士を繋ぐように突き刺さった5寸釘によって血を流し、口元は糸で縫い付けられていた。

 

 別の部屋には鬼がいた。しかし、どの鬼も顔の面が外れて、首筋には赤い点があり、そこからツーと少ない血が垂れている。しかも、涎を垂らしながら宙を切るように手を動かしていた。

 そして、そんな多くの部屋の前にはプルンと震えながら肌色の物体が拘束している人間たちの前にあった。

 

 肌色の物体の正体は、この鹿児島支部襲撃に参加している食香の生み出した分体だ。

 分体を生み出す能力を持つ魔化魍は一部だけだが、分体と意識を繋げることが出来るのがいる。意識を繋げた分体の視界は本体に共有されて、常に分体の状況を知ることができる。

 動けなくさせた人間のいる部屋の監視役として1つの分体を置いて監視しながら、食香は羅殴や蝕、縫によって動けなくさせられた猛士の人間たちの部屋に自身の新しい分体を作り監視している。

 

 そして、鹿児島支部内を周りつくした羅殴たちは支部の外にある中庭に集まっていた。

 

食香

【これで、全部捕まえたはず】

 

【それにしても、拍子抜けなくらい楽だったね】

 

羅殴

【まあ、蝕の作ってくれた薬のおかげだな】

 

 羅殴の視線の先には普段の姿とは異なる蝕の姿があった。

 蝕の姿は、骨をX字に組みその上に人間の頭蓋骨を乗せたマークの描かれた緑の頭巾を頭に巻き、黒糸で刺繍された網目模様の布を右斜めに身体に巻いている。尻尾も通常と異なり尾先が鋭利な針がある注射針に変わっており、その注射針の中をよく見ると薄気味悪い色の液体がたぷんと揺れている。

 そして、腰には人間の拳ほどの大きさの巾着が5個。巾着の1つから何かを取り出し、手に持つ試験管に取り出した何かを放り込んで試験管を振っている蝕。

 

 蝕のこの姿は勿論、変異した姿である。

 蝕がこの姿もとい変異態の姿を手に入れたキッカケはただの偶然だ。

 蝕は普段、あらゆる薬を自身に試し、その効能を調べている。一般的な人間の薬、天然物の薬、植物や生物の毒などと様々なもの配合して自身に試す。

 その効能実験の際に試した薬の1つが今回のこの変異態になるキッカケになった薬だった。

 

 この姿になった蝕は無味無臭の思考力低下と快楽物質を増加させて幻覚を見せる作用がある薬 壊楽(かいらく)を薄めて気化させ、この鹿児島支部にばら撒き、鹿児島支部の人間や鬼の思考能力を低下させ、そこに自身や羅殴や縫と共に戦闘手段を奪ってどんどん捕まえていった。

 そして、薬をばら撒いて約1時間半。

 既に鹿児島支部は墜ちたと言っても過言ではない。だが–––

 

羅殴

【なあ、蝕。ここの人間は全部捕まえたんだからさ。早く帰ろうぜ】

 

 羅殴はやる事がないと言っているが蝕は気にせずに試験管を振り続けている。

 先程、蝕が入れたものは赤い液体に変わっており、試験管をゆらゆらと振るたびに中でちゃぷんと音が鳴る。そして、蝕は茂みに向けて口を開く。

 

【いるのは分かってるんだから出てきたら】

 

 まるで誰かが茂みに隠れているかのように蝕が言う。しかし、茂みにいる誰かは答える気がないのか沈黙を保っていた。だが、蝕はその手の試験管を茂みに向かって投げると–––

 

「ちっ!!」

 

 そんな舌打ちと共に1つの影が茂みから飛び出て、投げられた試験管を手で受け止めて、そのまま投げ捨てた。

 捨てられた試験管が地面で割れると大きな爆炎を上げて、割れた場所を中心にデカい穴ぼこができていた。

 

「危ねえ変な匂いがするから捨てたけど、あれが当たってたら死んでた」

 

 茂みから現れたのは、1人の鬼だった。

 頭部が黒に近い灰色で縁取りされ、額から真っ直ぐ伸びている短い角、赤みがかった黒の鎧を纏い、従来の鬼の手甲に比べて一回り大きなものを両手に身につけた鬼だった。

 彼女こそ、此処、猛士九州地方鹿児島支部最強の鬼とも言われ、鉄から警戒されていた鬼の1人である。

 鹿児島支部所属の鬼だけあって五感、特に聴覚と嗅覚が優れた鬼で、猟犬のように魔化魍を清めるまで追い続け、1度匂いを覚えられたら逃れる事が不可能と言われている。鉄が逃そうとした幼体の魔化魍の一部を清めていた事もあり、鉄が『見つけたら即座に殺すまたは2度と戦えないようにしてくれ』と言っていた。

 それが目の前に現れた鬼、焙鬼である。

 

「てめえが此処の連中をあんな目に合わせた奴か?」

 

【だったらどうする?】

 

「てめえを殺す!!」

 

 腰にぶら下げた音撃棒 焙煎を手に持ち、焙鬼は蝕に向かって走り出す。

 蝕は焦ることなく巾着からピンク色の液体が入った試験管を2つ取り出して、最初に投げた試験管の後にもう1つを時間差で焙鬼の脚に向けて投げる。

 

 時間差で投げられた試験管を焙鬼はさっきと同じように割らないように手で掴み、そのまま蝕に投げ返す。

 事前に鉄から聞いた情報の通りに僅かな物音と匂いで、焙鬼は蝕の薬を危険かどうか判断して、投げ返してきた。

 

 だが、2つの内1つは試験管の割れることなく蝕の手元にすっぽり収まったが、もう1つは受け止めようとした瞬間、焙鬼がディスクアニマルのディスクを投げて、試験管を割った。

 蝕は中のピンクの液体を右半分に浴びるも、巾着に手を伸ばして透明な水のような液体の入った試験管を取り出し、すぐに浴びてしまったピンクの液体の上に掛けると、ピンクの液体は無かったかのようにその存在を消す。

 

「ちっ」

 

 それを見た焙鬼は聞こえる舌打ちをして、音撃棒 焙煎を構える。

 僅かな物音でも聞き漏らさず、僅かな臭気から危険を察知する焙鬼という鬼の聴覚と嗅覚は素直に称賛に値する。だが、それ故に。

 

【(あと少しで攻略のピースが揃いそうです。さて、実験を始めましょう)】

 

 蝕は普段は浮かべなさそうな嗜虐的な笑みを浮かべて、妖世館の自室にある薬倉庫から取り出した物を混ぜ、流し込んだ試験管を握りしめる。

 

【先ずは、事五苦(じごく)

 

 蝕は目の前の焙鬼の顔に目掛けて空間倉庫から取り出した薄気味悪い色の液体が入った試験管を投げる。

 勿論、焙鬼もただ受けるはずもなく、避けようとすると–––

 

ウオォォォォォォォ

 

 地を震わすような羅殴の雄叫びが焙鬼の動きを阻害するかのように響く。羅殴の雄叫びによって硬直した焙鬼の身体にチクッとした痛みを感じる。痛みの原因を見ると、小さなまち針が刺さっており、投げられたと思う場所には投擲した体勢の縫がいた。

 

「ちっ!! しまっ、がっ」

 

 パリンと割れて、中の液体をもろに浴びた焙鬼、そのまま浴びた液体を拭うが、粘度があるせいで全然落ちない。

 

【では、乾かしてあげます】

 

 蝕がそういうと、風の術によって生み出した風を焙鬼に当てる。液体は風でどんどん乾かされていき、焙鬼は風に耐えきれず吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がっていく。

 そして、これが焙鬼を倒すための蝕の前準備だということを羅殴たちは知らない。

 

 

 

 

 

 

 風の術で飛ばされた焙鬼が目を開けると、辺り一面が暗黒に染まったように見えなくなっていた。

 

「何処だ!! 魔化魍!!」

 

 焙鬼は立ってるのか、座ってるのかも分からず、暗闇で見えなくなった辺りを探しても何も見えず、更に魔化魍の移動する音も魔化魍の匂いも消えた。何処にいるのか分からない焙鬼はとにかく音撃棒 焙煎を振り回す。

 だが、焙鬼は勘違いをしている。蝕たちは消えていない。何故なら–––

 

【何やってるのアレ?】

 

 縫が言った先には、音撃棒を滅茶苦茶に振り回す焙鬼の姿だった。

 

羅殴

【何が起こってるんだ蝕?】

 

 あまりにも滑稽、無様という焙鬼の行動に羅殴はこの状況を作り出した蝕に聞く。

 

【慌てない。慌てない。既に私の薬によって五感を奪ったので、あの鬼には私達の姿を見ることも聞くことも出来ません。ましてや攻撃を当てることも……そして、勝利のレシピは整いました】

 

 蝕の放った事五苦は、人間の五感である触覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚の5つの感覚機能に影響を及ぼす薬を風の術で気化させて感覚機能を自覚出来なくする薬。この薬は魔化魍には影響がないが、人間には多大な影響を与える。それもその筈だ。人間は生まれてから五感と共に生きている。それが突然消えたら如何なるか?

 見えているものが突然見えなくなったら、聞こえているものが突然聞こえなくなったら、感じ取れたものが突然感じ取れなくなったら。

 その結果が、今の焙鬼だ。蝕の薬によって五感を奪われたとは気付かず、ただ暗闇の中に閉じ込めれたと勘違いしている。

 

 蝕が焙鬼の五感を奪ったのは、それが次の攻撃のためには必要なことだからだ。鹿児島支部の鬼の中では特に優れている焙鬼の聴覚、嗅覚が邪魔だったからだ。

 因みになのだが、蝕が薬の材料として使うのは、人間の生み出した薬品も少しはあるが、基本的には魔化魍の身体の一部(顎の蟻酸や食香の粘液、命樹の仙人掌の棘、凍の剥がれた鱗など)を蝕が加工し、薬に変えた物。

 そして、これから蝕が使うのは、自身が試した中でも強力でかなり危険な薬だった。

 

【羅殴、縫。あの鬼の腕を使えなくして】

 

羅殴

【おう!!】

 

【分かった!!】

 

【食香。掌サイズの分体を1つ私に渡して】

 

食香

【え? あ、はい】

 

 すると食香の身体からぷつんと肉が千切れる音とともに分体が生み出される。蝕はその分体を掴み––––

 

【そい!!】

 

食香

【ええええ!!】

 

 投げた。

 

「ぐふっ」

 

 闇雲に音撃棒 焙煎を振り回している焙鬼の腹部に蝕に投げられた分体が当たると、同時に蝕から少し離れた場所にいた羅殴が焙鬼の左腕に飛びついて関節が向かない方向に折り曲げ、縫が針を右腕に向かって投げた。

 

「ぎゃあああああああ!!」

 

 向かない方向に曲げられた左腕は青紫色の痣を浮かべて肘先からぶらんと揺れ、右腕は投げられた針が貫通して肩の骨に突き刺さっていた。

 

壊楽(かいらく)!! 葬嫉(そうしつ)!!】

 

 焙鬼の手が使い物にならなくなった瞬間、食香の分体を投げた直後に取り出した2つの試験管が同時に投げられ、焙鬼の顔に命中する。すると、割れた試験管から漏れた中の液体が無防備な焙鬼の顔を盛大に濡らすが、直ぐに薬は気化し始める。

 そして、面の隙間から入っていく気化した薬を止める術もなく、そして薬の効果で自覚出来なくなっている嗅覚もとい鼻から大量の気化した薬が鼻腔を通じて焙鬼の身体の中に取り込まれていく。

 

 壊楽と同時に投げられた葬嫉とは、言うならば理性によって抑えられる羞恥心という枷を壊して、人間社会の常識を狂わせる薬。

 簡単に言うならば、公共施設のど真ん中で唐突に全裸になって惜しげもなく、その痴態を嬉々として他人に見せつけるようになる薬。

 更には追いうちを掛けるように投げられた壊楽は鹿児島支部内で薄めてばら撒いて時とは違い、原液に近いそのままの濃度で焙鬼に投げた。

 本来なら壊楽は薄めて使わなければならず、本来の濃度でやった場合は薬の快楽物質が脳から身体全体に駆け回り、永遠に覚めることのない快楽地獄に陥る。

 空気が触れただけで全身に言いようもない快感の波に襲われ、常にショック死するかの様な強烈な絶頂が迸る。

 そんな原液と同じ濃度の壊楽葬嫉を受けた焙鬼は–––

 

「あ、ああ、えっへ、あははは、あーーー」

 

 鬼としていや、人として色々終わっていた姿を見せていた。

 鹿児島支部内で蝕の壊楽を吸っていた者たちよりもさらに酷かった。

 自身で解いたのか薬で解けたのかは謎だが、変身が解けたことで鎧がなくなり、俗にいう生まれたままの姿になっている焙鬼。

 女性として隠すべきものを隠さずにおっ広げるように汗で濡れた肢体や玉粒のような汗がまばらにある全身を晒し、大きくだらしなく開いた口から止めどなく粘度が少しある涎が垂れ続け、充血した目は焦点が定まっておらずぐるぐるとあっちこっちと回り、羅殴に折られた左腕や縫によって突き刺された針のある右肩が原因で右腕だけ挙がっていないが宙の何かを掴もうとし、脚は幼稚園児のようにバタバタと忙しなく動いている。

 焙鬼は蝕の受けた技の通りに壊楽(快楽)に溺れて、人間としての尊厳を葬嫉(喪失)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿児島支部においての最高戦力だった焙鬼が敗れ、薬を受けて2度と戻らないその痴態を食香が触手で運んで、蝕の薬の効果で薄れつつあった反抗心のあった猛士の人間に見せつけた。

 その姿を最初に見た鹿児島支部の支部長の臼井 功太は、焙鬼の姿に絶望して、自分も『ああなるくらいなら』と言った直後に隠し持っていた拳銃で自分の頭を撃ち抜いて死んだ。

 焙鬼と同じ鬼たちはまだ反抗心があったが縫の始めた簡素ながらえげつない拷問によって2人死に、次の鬼に手を出そうとした瞬間に鬼の1人が降伏を認め、焙鬼を含めて4人の鬼が生き残った。この拷問を始める前に何故か死んでいた鬼と拷問で死んだ鬼の死体を食香が喰らった。

 そして、鬼以外の人間は鬼たちに助けの声を上げながら生きたまま羅殴や蝕、縫に喰われた。

 

 食事を終えた羅殴たちは降伏して捕虜となった鬼と薬漬けの廃人となった焙鬼を連れて、鹿児島支部の中庭に集め、そこで術を解き、成体としての本来の大きさに戻った羅殴が鹿児島支部の建物を破壊する様を鬼たちに見せつけてた。

 捕虜となった鬼たちは自身のいた支部を破壊されていく様を見せつけられ、泣きながら『やめてくれ』や『壊さないで』と言う声を無視して羅殴は鹿児島支部を破壊した。

 羅殴が再び術で小さくなり、蝕の肩の上に座り込む。

 

【お疲れ様】

 

羅殴

【いやーー最後の最後で楽しかったよ】

 

【じゃあ、戻ろう】

 

 縫の言葉を受けて、蝕達は4人の鬼の捕虜を連れて、幽冥の定めた集合場所に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに鹿児島支部の建物から離れた場所にあった住宅街にいた人々は髪の毛を生やした謎の大猿(羅殴)ビル(鹿児島支部)を破壊する姿を見て、一時期は騒ぎになっていたのは言うまでもない。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE穿殻

 そのまま奥に進もうとした僕たちは結局、壁にハマった穢流を助けてから奥に進んだ。

 だけどよく考えたら、穢流は身体を分裂させれば壁から出られたと思うんだけど。

 

「早く逃げろ」

 

「しかし!」

 

「せめて、鬼が来るまで足止–––」

 

 敵の前で喋る2人の人間は上から落ちてきた崩に潰された。

 

【脆いの】

 

 崩が身体を退かすと、赤い花を咲かせたように潰れた2つの死体があった。

 

【はぐっ。うむ、少しはマシか】

 

 潰れた死体の1つを齧り、咀嚼する崩。

 

【喰うか?】

 

 僕と穢流に潰れているもう1つの死体を進めるが––––

 

穿殻

【いらない】

 

穢流

【私も結構です。どうぞ】

 

【ふむ。んぐ】

 

 先程までいた人間たちは既に鬼の救援を求めてか奥にある2つの通路に逃げ、周りは僕たちが殺した人間の死体しか残っていない。

 そのおかげで崩はゆっくりと食事をすることが出来た。

 

【では、我は向こうの通路に行く。そっちの通路を頼むぞ】

 

 そう言いながら、2つの死体を喰らった崩は食事が済むと新たな獲物を求める様に奥にある通路に向かった。

 

穢流

【それでは、私たちも向こうにいきましょうか】

 

穿殻

【ええ】

 

 そのまま2体は崩の向かった通路の反対の方の通路に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通路を通れる様に本来の大きさの半分くらいの大きさで穿殻と穢流は歩く。

 道中で見つけた人間はすぐに殺し、その死体をすぐに空間倉庫に仕舞い込む。

 

 そうやって進んでいると通路が終わり、1つの扉に着く。

 扉を壁ごと触手で砕き、中に入ると–––

 

穿殻

【うわ、眩しい】

 

 正面から光が照射されて顔を照らす。

 

「待っていましたよ魔化魍。うちの部下をよくもやってくれましたね」

 

 照明の発せられる部屋の奥から何かが歩いてきた。

 頭部と腕が水色に近い青で縁取りされ、右側頭部に湾曲して伸びてる角、藍色の鎧を纏い、腰には弦を弾く弓の形をした刀のようなものを携え、左腕には真ん中に窪みがある三角形の音撃弦盾を身に付けた鬼が歩いてくる。

 鬼はそのまま腰にある弓刀を引き抜き僕に向け、それの意図を察して僕は隣にいる穢流に話す。

 

穿殻

【穢流、あの鬼は僕ひとりで倒します】

 

穢流

【………そうですか。では、私は離れてます。気をつけてください】

 

 そう言って、穢流は素直に離れて部屋の隅に移動する。

 穢流が移動するのを見て、僕は鬼に顔を向ける。

 

穿殻

【これでいい?】

 

「はい。別に2体がかりでも構いませんが、素直に応じてくれてありがとうございます」

 

穿殻

【別に構わない。僕も鬼に通じるか試したいことがあったし。僕は穿殻。貴女は?】

 

「………予鬼です。あなたを清める名を覚えてください」

 

 予鬼と名乗った鬼は弓刀を構え、穿殻に向かって走る。

 走る予鬼に向けて触手が放たれる。

 予鬼は流れるように穿殻の触手を斬り落としながら穿殻の身体に迫る。

 

穿殻

【ふん】

 

 だが、穿殻が踏ん張ると殻の棘が一斉に放たれ、近付いていた予鬼は飛んでくる棘を弦盾で弾きながら避ける。

 再び近付こうと予鬼が走ると今度は残った触手の口から水流が勢いよく放たれる。

 予鬼は水流を弦盾で防いで、水流を防ぎながら腰に付いているディスクアニマルのディスクを2枚投げる。2枚のディスクアニマルは空中で形を変えて2匹の瑠璃狼に変わり、穿殻の触手に噛み付く。

 噛みつかれて触手からの水流の勢いが弱まり、予鬼は弓刀で触手を両断し、追撃をかけようとするが、穿殻は一部残っている触手で床を叩き、その反動で遠くに逃げる。

 

穿殻

【イタた、容赦ない。まあ普通だけど、これ邪魔】

 

 そう言う穿殻は触手を再生させながら、触手に噛み付いた2匹の瑠璃狼を床に叩きつけて破壊し目の前の鬼に言う。

 

「これが試したいこと? その割には単調」

 

 それもそうだ。なにせ穿殻がやったのは、触手攻撃、水流攻撃、棘による遠距離攻撃というサザエオニ種の魔化魍が基本的にやる攻撃手段と同じだからだ。これが試したいことならば、戦闘に参加したこのないど素人とも言えるだろう。だが–––

 

穿殻

【あーー。そうだね。じゃあ試したいことを試させてもらうよ】

 

 そう試したいというのはコレではない。

 そう言うと、部屋の空気が急に重くなり穿殻の周りに変化が起きる。

 

 人間の発音では不可能とも言うべき言葉を紡ぐ穿殻。その言葉で空気が揺らぎ、床が、地面が揺れるような感覚に予鬼は襲われる。

 揺らぎが強くなるにつれて景色が歪み、聞こえるはずがない空気が軋むような音が部屋中に響く。

 

 だが周りの変化は副産物に過ぎず、変化の中心は穿殻自身だ。

 いつの間にか触手は殻の中に収まり、少しずつ殻が大きくなってる風に見える。

 

 予鬼は殻に攻撃しようと思っても攻撃出来なかった。

 攻撃すれば中にいる穿殻は清められるのだろうが、それをすれば取り返しがつかない何かが起きると思ったからだ。

 

 やがて殻の成長が止まるように動きを止め、殻の頂上からひび割れていく。

 ヒビはどんどん広がり、殻全体を覆うとヒビによって殻が割れ、多量の水蒸気が殻を中心に包み込む。

 

 水蒸気の中で割れた殻は中から現れた影に纏われていく。

 床に散乱していた殻がなくなると水蒸気の中から黒い腕が飛び出し、水蒸気を払う。

 そこに立つのは–––

 

穿殻

【これが僕の新しい姿】

 

 大型の身体から等身大の身体へと変貌した穿殻だ。

 以前、朧に教わった秘術幻魔転身によって変異した穿殻の姿は大きく変わっていた。

 

 頭は栄螺の殻になっており、中間辺りの貝の溝に充血した山吹色の3つの目が並んでおり、身体には先程割れた殻の破片を無理矢理に繋ぎ合わせて鎧にしたようなものを纏っている。

 鎧の隙間から貝特有の黒い筋肉質な身体が見え、腰付近には通常時にもあった牙を生やした触手が左右対称に3対6本生えている。膝当て辺りには人間の握り拳ほどの大きさの白い田螺と黒い田螺が引っ付いている。

 その中で特に目立つのが、左手に持った円卓机のような大きさの栄螺の蓋の形をした大楯。

 

 この姿こそ、穿殻の言った試したいこと。

 

 鈍重な自身の身体を身軽に()える。

 

 仲間に対する優しさを敵である鬼の憎しみに()える。

 

 忘れやすい姿から覚えられやすい姿に変える。

 

 誰も傷付かせない傷つくのは自分だけで良い。

 

 そんな心中を形にしたのがこの姿。

 

 影の薄かった殻の大楯は守るだけでなく敵を圧殺する凶器へと変貌する。

 

 

 

 

 

 

 変異態へと変化した穿殻は、左手の大楯を水平に持ち、予鬼に向けてフリスビーのように投げる。

 予鬼は弦盾で大楯を防ぎ、大楯を払おうとした瞬間–––

 

「っ!!」

 

 目の前には、右手を握りしめて顔に目掛けて拳を振り上げる穿殻がいた。

 予鬼は、弦盾で受け止めていた大楯を下に流し、弓刀で拳の軌道をズラして、肘を穿殻の溝に打ち込むが。

 

「硬い!?」

 

 穿殻の鎧はひび割れたような外見とは思えない硬さを持ち、その硬さで肘が痺れる。

 予鬼が痺れてる間に穿殻が頭に目掛けて拳を振り下ろす。

 

「………痛くない」

 

 だが、もろに拳をくらった筈なのに衝撃だけでそこまで痛みはない予鬼はマスクの中で眼をパチクリさせる。

 パチクリさせてる間に身体に穿殻の拳を受けるが–––

 

「やっぱり痛くない」

 

 やはり衝撃だけ。そして、予鬼は予想を口にした。

 

「………もしかして、攻撃力がないの?」

 

 今度は穿殻の両拳の攻撃を受けて、予想は確信に変わる。

 

「姿が変わったことで弱くなったな!! 魔化魍!!」

 

 拳による攻撃に脅威はないと分かれば弓刀を使った連続攻撃で、穿殻を追い詰める。

 穿殻は弓刀の攻撃を腕で防ぎながら少しずつ後ろに下がっていく。予鬼は攻撃に夢中なのかその意図に気づかずひたすら弓刀を振るう。

 動くのを止めた穿殻は足元にあるモノに足を置いて、縁を思い切り踏むと、踏まれた反動でモノが宙に浮き、予鬼の攻撃を弾く、穿殻はそれに手を伸ばしてがっしりと掴む。

 予鬼は大楯の戻った穿殻を脅威と見なかった。先程までの攻撃で分かる。例え、大楯を持とうが威力はたかが知れてる。そんな予鬼の心中も知らず、穿殻は大楯を振るう。

 予鬼は大楯の攻撃に恐れることはないとカウンターのように弓刀を大楯に向けて突き出した。

 

「ぐはっ!!」

 

 しかし、大楯は止まらず、もろに一撃を顔で受けてしまう。

 大楯を使った振り払い攻撃はさっきまでの衝撃だけだった拳と威力が違った。面越しとはいえ、顔にもろに受けた一撃は、脳を揺らし、弓刀が上手く握れず、予鬼の意識はふらふらになる。

 

 拳による攻撃と大楯による攻撃がこうも違うのか、その理由は勿論、幻魔転身によって得た穿殻の能力が関わってくる。

 その能力はズバリ、自身の力を大楯の攻撃力に転ずるというものだ。

 つまり、穿殻の拳による攻撃が弱かったのは、拳の力を大楯の力に変えたことにより拳による攻撃力は低くなる。だが、大楯を用いた攻撃はその拳の力もプラスされているために攻撃力が上がっている。

 勿論デメリットもある。大楯に込めた力は変異を解くまで戻らない。つまり大楯を使った攻撃でしか相手に攻撃を与えることが出来ない。だが、穿殻は防御を得意とするサザエオニ種の魔化魍。

 盾ともなる殻を使った攻撃手段をいくつも持っている。つまり、この能力によるデメリットはあるが、本人はそこまで気にしていなかった。

 ふらふらと動き回る予鬼にゆっくりと近づいた穿殻が予鬼の頭を掴み、部屋の壁に叩きつけ始める。

 

 ガンガンと鎧と壁の衝突音は演奏のようにも聞こえる。

 やがて、壁にヒビが入り、予鬼を叩きつけるのをやめるとヒビに向けて大楯を振るって、壁を粉砕する。粉砕された先には外の光が入り、それ確認した穿殻は予鬼を宙に向けておもいっきり投げる。

 そして、投げられた鬼に続くように穿殻も壁から外に飛び出した。

 

穢流

【うん。崩の手伝いに向かいますか】

 

 壁から飛び出た穿殻と予鬼を見た穢流は別の場所にいる崩の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴンと熊本支部の壁を壊し、投げ飛ばされた予鬼とそれを追うように飛び出た穿殻は自身の腕の大楯を予鬼は弦盾を空中で構える。

 穿殻の構えられた大楯の縁からにゅるりと飛び出した鋭利な牙と槍の如き突起のある触手が予鬼を絡め取る、喰い千切る、突き刺そうと真っ直ぐに伸びる。

 

 予鬼は音撃弦盾の空洞部分に弓刀を突き刺すと空洞部分に嵌った弓刀の柄が伸び、音撃弦盾からカチッっと音が鳴ると盾の両縁から刃が出て、その形状を変える。

 

「ふっ!」

 

 軽そうな声とは思えない力強い回転は自身に迫っていた触手を切り落とす。

 これこそが弓刀と音撃弦盾の真の姿、音撃弦系の音撃武器の中でかなりの重量があり、その重量ゆえに扱える鬼は少ない。

 だが、その攻撃力は計り知れず、かつてこの音撃武器は当時、凶悪といわれたツチグモ種の亜種であるカエングモをたった1つの音撃で清めた鬼の話がこの音撃武器の伝説と言われる。

 音撃弦盾を要としているおかげで攻防一体の武器でもある。

 その名も音撃三角重弦(バラライカ) 銘は予斧。

 

穿殻

【なんかあると思った。それがその武器の真の姿?】

 

「…………」

 

 穿殻の質問に答えずに予鬼は音撃三角重弦(バラライカ)の刃先を穿殻に向け、穿殻は大楯を構える。

 予鬼は音撃三角重弦(バラライカ)振り上げて、穿殻に向けて走る。

 

 重量のある音撃三角重弦(バラライカ)を手足のように扱って、猛攻を繰り出す予鬼、それを大楯と触手を使って身体に当たらないように動かして、空いた拳を使って予鬼を攻撃する穿殻。

 

 攻撃力はあるがその重量で連続攻撃をそこまで出来ない予鬼と連続で打てるも能力の都合で攻撃力が低く衝撃しかない拳の穿殻。

 互いに決め手となるものがなくジリ貧でもあった。

 

 予鬼の頭には、目の前の魔化魍を早く清めて、支部内に入り込んだ他の2体を清めることでいっぱいだった。兎に角、穿殻を倒す為に予鬼は鬼としての切り札である。音撃を放つために、ベルトのバックルを音撃弦盾だった窪みのある場所に嵌め込む。

 バックルを嵌め込んだ瞬間に、ガシャと機械的な音が鳴り、バックルの弦がピンと張られる。音撃三角重弦(バラライカ)はいつでも音撃を放てる必殺の武器に変わる。

 しかし、予鬼の音撃はゼロ距離から放つ音撃のため、穿殻が変異してからの戦闘の中で穿殻の隙あるいは弱点になるものを探していた。

 そして、見つけた。

 

 穿殻の背中側の鎧に少し大きめな隙間があり、そこからは穿殻の身体の一部が見える。

 鎧があるとはいえ、肉体に直接刃を当てられれば音撃を身体に叩き込める。

 

 バックルを嵌めた時点で音撃を放つことを教えてるようなもの、警戒する穿殻に向けて予鬼は地面を蹴り飛ばすと、地面が削れて粘着性の土くずが穿殻の目に降りかかる。

 

穿殻

【眼、眼があああああ!!】

 

 蹴り削った土が穿殻の眼を塞ぎ、眼の痛みを訴えるように叫ぶ。目元を拭おうと必死に手を動かす隙ができた瞬間、予鬼は音撃三角重弦(バラライカ)の刃を穿殻の背にある鎧の隙間に食い込ませる。

 

音撃斬!! 裏、………嘘っ!!」

 

 必殺の音撃を放とうとする予鬼。だが、予鬼は音撃武器から感じる手応えに違和感を覚え、刃先を見るとその光景に驚く。

 土で目を塞がれた穿殻の隙を突き背後にあった鎧の隙間目掛けて放たれた攻撃を穿殻は防いでいた。しかも、ただ防いだのではない。

 鎧に覆われていた上半身ごと身体を180度回して予鬼の攻撃を手に持つ大楯と脚にいた田螺が防いでおり、土で見えないはずの3つの眼とは別の眼が開いており、予鬼を睨みつけていた。

 

 普通の鎧ならばそんなことは出来ない。が、穿殻の鎧は人間の着ていた鎧とは違う。

 穿殻の鎧は硬い。それはどの鎧にも共通して言えることだが、この鎧はただ硬いだけではなく服のような柔軟性と伸縮性を持つ。

 

 そして、穿殻の眼は3つだけではない。普段は3つの眼を使っているがそれ以外にも溝をよく見ると閉じた眼がいくつも並んでいて、その数は21個。殻の溝を1周するようにあった。つまり眼を潰しても他の眼がその眼の代わりとなり、敵の攻撃や行動を見過ごすことはない。

 

穿殻

【残念でした】

 

 隙を突いたはずの予鬼は無様にも隙を見せてしまった。

 その瞬間、穿殻の腰元の触手がウネり大楯と田螺たちに防がれた予鬼の音撃三角重弦(バラライカ)を持つ右腕を除いた左手首と両足首に喰らい付く。

 

「がっ!!」

 

 噛まれ痛みで音撃武器を離しかけた予鬼は歯を食いしばって落とすまいと必死に持つが攻撃を防いでいた2匹の田螺が予鬼の右腕に移動した次の瞬間–––

 

「ああああアアアアア!!」

 

 予鬼の右手から煙が噴き出る。予鬼が張り付いた2匹の田螺を見ると殻から薄紫色の粘液が溢れて、右手を覆っていた。覆われた部分は硫酸を掛けられたように溶けていき、落とすまいと持っていた音撃三角重弦(バラライカ)を落としてしまう。

 

 音撃三角重弦(バラライカ)が落ちた瞬間、大楯を離し、予鬼の身体に噛み付く触手を握り、ジャイアントスイングの要領で自身の身体を軸にして回転する。

 

 穿殻は能力の都合上、力はない。だが外部からくる力は話は別だ。遠心力を使うことで足りない力を補う。おまけに骨というものが基本的に存在しない軟体動物と同じ身体の穿殻の回転は止まることもなく、回転するごとに辺りの温度は上昇していく。

 予鬼の左手首と両足首からブチブチという音が耳に入った穿殻は回転速度をさらに上げる。予鬼の身体から鳴る断裂音が徐々に大きくなり、一際大きな断裂音が響いた瞬間に穿殻は回転していた向きとは逆の方向に触手をウネらせる。

 

「うぐっ!!」

 

 今まで動いていた回転の向きとは違う逆方向に加える力によって予鬼の左手首と両足首は穿殻の触手に喰い千切られ、予鬼の身体は熊本支部建物の壁に叩きつけられる。

 

「うっ、ぐ、あ、ああ」

 

 壁に叩きつけられた予鬼は喰い千切られた痛みと身体全体に襲う衝撃の痛みに耐えながら、地面に横たわる音撃三角重弦(バラライカ)が目に入る。

 目の前に魔化魍がいるのなら例え、四肢がもげようと清めろ(殺せ)という心情でまだ戦うという意思を見せる予鬼だが–––

 

穿殻

【残念だけど、もうおしまい】

 

 喰い千切った予鬼の身体を喰らう触手を放置する穿殻は壁に叩きつけられて怯む予鬼に向け、自身の手元に戻ってきた白い田螺に回転した際に発生した熱を纏わせ予鬼を振り回したように田螺をぐるぐる振り回し、力が溜まったと感じた穿殻は回転から解放し、白い田螺を投げつける。

 

「ぐはっ」

 

 熱を纏って放ったことによって白い田螺の殻全体に炎が生まれ、空気を燃やしながら音撃三角重弦(バラライカ)に向けて手を伸ばしていた予鬼に炎の灯った殻がぶつかる。砕けた鎧の破片と血、そしてそれに遅れるように壁の破片が舞い散る。

 

 穿殻

【ふーーー。今日は、かなり………目立て、た、よ………………すうーー」

 

 予鬼の姿も確認せずに穿殻は壁に背中を預ける。

 そして、変異態の姿から一気に通常形態に戻るが、通常状態では壁との相性が悪いので擬人態となりそのまま静かに寝息をたてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間が経ち、支部内の人間をあらかた片付けた崩を連れた穢流が穿殻を探していた。

 目に入ったのは、頭に血濡れた白い田螺をのせて擬人態の姿で眠る穿殻とその側で音撃三角重弦に引っ付く黒い田螺。そして、逆さまの状態で壁に張り付けられ、胸元に大きな穴が開き、そこから臓物を溢して死んでいる予鬼の姿があった。

 白と黒の田螺に溶かされた右腕を残して左手首と両足首が喰い千切られ、剥き出しになっている骨から血がポタポタと垂れていく。そして、右手首の変身鬼弦が砕けると同時に予鬼の鎧が光り始め、光の収まった場所には猛士熊本支部の支部長だった千野 花奈の血塗れの裸の惨殺死体が張り付いていた。

 

 白鬼が九州地方の王となった時に鬼として弟子となり、その数ある功績が認められて熊本支部支部長となった女は穿殻によって公開処刑の死体の様にその姿を晒された。

 

 寝息を立てる今回の立役者と白と黒の田螺、予鬼の持っていた音撃三角重弦(バラライカ)を抱えて崩は、本来の姿に戻った穢流の客車に似た身体の中に穿殻と共に入り、穢流の汽笛のような鳴き声とともに幽冥が指定した集合場所に向かった。




如何でしたでしょうか?
あの天っ才物理学者のような喋り方をする蝕と反則スレスレな軟体ボディと大楯と田螺を活かした穿殻の戦闘回でした。

ーおまけー
迷家
【はいはい。おまけコーナーだよ♪】

古樹
【今回は私がゲストとやらだ】

迷家
【今回のゲストは家族きっての知恵袋年y–––】

古樹
【迷家………今、何を言おうとした?】

迷家
【な、何でもないよ!! 本当に何も!!】

古樹
【では、質問とやらを聞こうか】

迷家
【うんと、古樹にはある事を聞きたいんだけど、怒らない?】

古樹
【内容によるの】

迷家
【前に主人(あるじ)から聞いたんだけど。今の王以外にも王に会ったことあるんだよね?】

古樹
【そのことか。確かに私は今の王以外の王に会ったことはある】

迷家
【ぶっちゃけ、王ってどんな感じだったの?】

古樹
【そうだな…………一言で言うのなら、変わり者かの】

迷家
【変わり者?】

古樹
【そうだ。………そうだな。朧の母君であるイヌガミを知っとるか?】

迷家
【ううん。知らない】

古樹
【産まれて少ししか経ってないから知らなくて当然か。
 イヌガミは5代目の魔化魍の王で、『旋風の巨狼』と恐れられた魔化魍だ。歯向かう鬼をその牙で喰い殺し、風でバラバラにした。
 だがな、やつは普段は冷静沈着で、物事を冷徹に考えてると思われているが実際は子供が心配で心配で後ろから見守っていた過保護だ】

迷家
【え、そうなの!!】

古樹
【他の王も。似たり寄ったりだな。シュテンドウジは自分を殺しにきた魔化魍を気に入って部下にしたり、フグルマヨウヒはあまり他者と喋るのが苦手なのか信頼した部下に耳打ちして自分の言葉を喋らせたり、ユキジョロウは触れば凍らすって感じだが酒を呑むと露出狂に変わる。
 あとは誰がどうだったか、確か…………苛立たせる放浪癖、弱虫泣虫法師、純情引き篭もり、理想家って感じだったかの】

迷家
【今の聴くと、王って変わり者ばかり?】

古樹
【まあ、私が生きてきた中で1番変わり者なのは、個としての名を与え、家族と呼ぶ今の王くらいさ】

迷家
【じゃあ、先代の王達のさ、秘密っていうか隠し事とかなんかない?】

古樹
【すまんの。知ってはおったが、もう覚えとらん】

迷家
【やっぱり、何千年も生きてれば、色々忘れるんだね…………あ!!】

古樹
【やはり、オマエには教育が必要だな。なにすぐ済む】

迷家
【ヤバい! みんなごめんね!! 僕これから逃げなきゃ。じゃ、まったーーーーーーねーーー!!】

古樹
【逃さん!!】ヒュン

迷家
【ぎゃあああああああああ!!】


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記録玖拾陸 

大変お待たせしました。
今回は大分支部と宮崎支部襲撃の回です。
二日酔いで苦しむ屍を寝かせて暴れる暴炎たちとあることが起きてブチ切れる浮幽。
猛士側のオリジナル設定やオリジナルアイテムが出ます。
では、どうぞ!!



SIDE大分支部

 快晴な空の下、大分支部の訓練所に多くの鬼や大分支部の人間が集まっていた。

 大分支部に配属されたばかりの鬼に成り立ての未熟者を鍛える訓練を行っていた時だった。

 

 地面が突然割れて、そこから3体の魔化魍が飛び出した。

 1つは、九州地方の各支部に攻撃を仕掛けた『白蜥蜴()』。

 斧を振るい、割れた地面の近くにいた鬼の首を刎ねる。

 

 また、1つは四国地方高知支部で暴れ、8人の鬼である暴鬼を殺した『三度笠()』の仲間の『火蜥蜴(暴炎)』。

 頭の炎を使って、遠くにいた大分支部の人間を焼き払う。

 

 最後に現れたのは、壊滅した北海道3支部で目撃された『提灯蜥蜴(三尸)』。

 尾の提灯を光らせて鬼の視力を奪い、脳天に爪を突き刺し、ぐりぐりと腕を動かして鬼を殺す。

 三尸に殺された鬼の仇と言わんばかりに若手の鬼が音叉刀を持って斬りかかるが–––

 

クルルウウウウ

 

「なっ!?」

 

 三尸の硬質化した皮膚によって音叉刀は根本から刃が折れ、刃先がくるくる途中を舞う。

 

クルルウウウウ

 

 そのまま、隙を見せた鬼の身体に爪を突き刺し、上に振り上げると鬼の身体は上半身だけ両断される。

 

「おのれ!! 音撃射(おんげきしゃ) 無銘疾風(むめいはやて)!!」

 

 殺された仲間に怒る鬼はバックルから量産型音撃鳴を量産型音撃管に取り付け、必殺の清めの一撃を吹く。

 しかし–––

 

クルルウウウウ

 

 三尸は音撃に焦ることもなく、今、両断した鬼の死体を音撃に向かって放り投げる。

 

「なっ!!」

 

 音撃は鬼の死体に当たり、風の音撃の影響か上半身を両断された死体の断面から血が噴き出て、辺りを赤く染めて鬼の面に降り掛かる。

 

「うお!! 前が!!」

 

 面を覆った血が音撃を中断させて、血を拭おうと必死に鬼は手を動かすが–––

 

【はっ!!】

 

 鬼の目前まで瞬時に移動した桂は長斧で鬼を袈裟斬りする。

 鬼の身体は斜めにズレてそのまま倒れる。長斧に付いた血を勢いよく振って飛ばし、違う敵の元に向かおうとする。

 

【ぐっ!!】

 

 突如、桂の肩に衝撃が走り、その衝撃で桂は膝をついた。

 

【これは!!】

 

 肩を見ると、そこにははんば砕けかかった音撃弦が桂の肩に突き刺さっていた。

 桂は音撃弦に手を掛けると–––

 

【ふっ!!】

 

 音撃弦は徐々に白い氷に覆われていき、凍りつくと同時に凍った音撃弦に力を込めて、音撃弦を砕く。

 砕けた音撃弦の残った刃を桂が抜き、地面に捨てる。

 

【味なことをする】

 

「そうですか。ですが、これで終わりじゃありません」

 

 桂が声の方に身体を向けると、死んだ鬼の傍らに立つ鬼がいた。

 頭部が薄い黄色で縁取りされ、左右からアシンメトリーに伸びるシャープな角、橙色の鎧を纏い、右肩に半透明な肩当てを着けた鬼がいた。

 

【その姿、お前が大分支部の閃鬼か】

 

 閃鬼とは、従来よりも持ち手が長くハルバードに近い形状をした音撃弦を持ち、大分支部の鬼の中で最も九州地方から逃げようとした魔化魍を清めた(殺した)鬼で、桂と同じ爬虫類系の魔化魍を多く清めた(殺した)

 

「でしたら、何ですか?」

 

 音撃弦 閃を構えて答える閃鬼に対して桂は–––

 

【………同胞の無念を晴らさせてもらう】

 

 素早く閃鬼の元に移動し長斧を振り下ろす。

 

「同胞の無念? それは、こちらのセリフです。私たちの仲間を仇を取らせてもらう!!」

 

 音撃弦の持ち手を盾のようにして桂の長斧の攻撃を防ぐ閃鬼は振り下ろされた長斧を強引に押して、桂との距離を離して音撃弦を横なぎに振るう。

 それに対して、桂は音撃弦の刃すれすれで身を曲げて避ける。

 

 桂は避けてすぐに口から冷凍ガスを閃鬼に吹き付ける。閃鬼は音撃弦を回転させながら桂へと距離を詰める。

 詰め寄ってくる閃鬼に焦ることもなく桂は冷凍ガスを吐きながら、長斧を投げる。

 

 突然投げられた長斧に驚いて回転が緩み、長斧は回転が緩んだ音撃弦にぶつかって閃鬼の手から滑り落ちる。

 桂は投げた長斧を掴み、勢いよく閃鬼の首元に振り下ろす。

 閃鬼は身体を屈めるて長斧から避けようとする。が–––

 

「っ!!」

 

 閃鬼の左脚がいつの間にか凍っており地面に固定されていた。

 先程音撃弦を落とした時、桂は口から冷凍ガスを吐きながら閃鬼に接近していた。身体の凍結ではなく、移動するための脚を凍らして回避行動を封じるために吐いていた。

 凍った左脚のせいで動けない閃鬼は迫る長斧に向けて右拳を突き出す。

 

【なっ!!】

 

「ぐっ」

 

 拳は長斧に当たり、長斧による攻撃をズラし、命の危機は回避した。

 しかし、首元を狙った一撃は閃鬼の面に当たり、面はひび割れる。

 面のヒビは徐々に広がり、やがて面は砕けて地面に落ちていく。

 砕けた面の下から現れた顔を見て、桂は驚く。

 

【女か】

 

「っ! うあああああああ!!」

 

 砕けた面の下から現れたのは、この大分支部の支部長 布都 ミタマ。

 しかし、布都は桂の言葉を聞き額に青筋を作り激昂する。

 布都は魔化魍によって家族を殺され、自身も殺されそうになった時に当時ではまだ少なかった女性の鬼である眩鬼に助けられ猛士に入った経緯を持つ。そして、鬼として戦う眩鬼に憧れて鬼になる修行を始めた。

 だが、当時猛士では女が鬼として戦うことに否定的だった。

 眩鬼はそんな否定的な中で鬼として名を馳せた人物であるが、布都が鬼になるまでは苦難の日々が続いた。

 『女が鬼になるな』、『女が戦えるのか?』、『女に背中を任せられるか』、『女性は戦わないべきだ』。女、女、女、自身の性別が女というだけで否定の言葉を何度も受けた。

 1度は心が折れかけたが、そんな布都を助けてくれたのも眩鬼だった。

 彼女のお陰で折れかけた心も持ち直し、同期の男に負けてたまるかという意思でやってきて、鬼として一人前となった。そこからは魔化魍を清めていき、その実力もあって、当時引退間近だった大分支部の支部長に認められて大分支部の支部長となった。

 まあ、長々と説明して何が言いたいのかと言うと、布都は『女』という言葉を聞くとキレるということ。

 閃鬼こと布都は凍った脚を無理矢理動かして、地面に刺さっている音撃弦 閃を拾うと桂に向かって走る。

 

 だが、桂はそんな布都の昔を知るはずもなく長斧で追撃する。

 それに対して、布都も音撃弦 閃を突き出して、桂の長斧と鍔迫る。

 

 布都の攻撃を桂は長斧で急所を狙う攻撃だけを逸らす。しかし、逸らした軌道を無理やり変える音撃弦による攻撃は桂に地味なダメージ少しずつ与えていた。

 長い攻防が続き、桂の長斧が音撃弦の攻撃をズラすのに失敗する。布都は遂に桂の右肩に音撃弦を突き刺す。

 そこから閃鬼は早かった。

 突き刺した音撃弦で桂の体勢を崩して地面に転がし、桂が転がされると同時にベルトのバックルに着く音撃震を取り外して音撃弦の窪みに嵌め込む。

 

音撃斬(おんげきざん) 光輝天城(こうきてんじょう)

 

 閃鬼が何故、閃鬼と呼ばれるようになったのか。

 閃鬼が音撃を放つ前準備の動きと音撃を放つ動き、その一連の動きがあまりにも速く、魔化魍に音撃弦を刺し、音撃を放って30秒で魔化魍を塵に変えたという当時、組んでいた鬼からの証言からその名を着けられた。しかし––––

 

「ぐっ! 脚が!!」

 

 音撃も終盤に入ろうとした時に左脚が悲鳴をあげる。凍らされているの無理に動かした左脚のダメージが今頃になってあらわれる。

 そして、そんな隙を見逃す桂ではない。

 音撃を放っていた音撃弦の持ち手を掴んで、音撃弦を凍らせていく。布都は急いで離れようとするが、桂が握り締めると音撃弦の持ち手は氷と共に砕ける。砕けた音撃弦を見て唖然とする布都の頭に長斧の峰を振り下ろす。

 

【残念だったな】

 

「く、お、のれ…」

 

 剥き出しになった頭に受けた衝撃で布都はそのまま地面に倒れて気絶する。

 音撃武器の破損と気絶によって戦闘不能になり地面に横たわる布都。桂は何を思ったのか布都を捕虜にすることにした。その為に先ずは倒れている布都を抵抗できないようにすると右腕に長斧を振り下ろして腕を落とす。

 

「ううううううううううううう!!」

 

 気絶していたのに腕を切り落とされればその激痛で目を覚ます。布都の口元には自殺防止のためか、五月蝿い声を黙らせるためなのかそこらへんで死んでいた大分支部の人間の服を千切って猿轡のようにして口に巻いていた。続いて左腕に長斧を振り下ろす。

 

「ううううううううっう、うう!!」

 

 そして、最後にダメ押しと言わんばかりに布都の脚に腕を押し付けて能力で氷漬けにする。このダメ押しが原因か抵抗する気力を無くした布都を米俵のように担いで桂は暴炎の元に向かった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE暴炎

 炎はいい。

 赤かったり、青かったり、緑色だったり、橙色だったり、いろんな色の炎がある。

 手の中でゆらりと揺れる炎を舌で舐める。

 

 やはり、炎は自分の炎を喰らうより燃やしたものから喰らうのが美味い。

 そう心中で語る暴炎の周りには自身の吹き出した炎によって、焼かれたものが黒い塊に変えられて、そこら中に転がっている。

 

 酸素がある限り燃え続ける万物の始まりたる炎。人間は炎を手にしたことで進化した。

 炎を手にして、食料を焼いたり、獣を追い払ったり、夜を照らす明かりにする術を見つけた。

 しかし–––

 

「ま、魔化魍を通すな、ぎゃああああ!!」

 

 炎を手にして進化したのは人間だけではない。

 人々を恐怖に陥れた魔化魍たちも炎を手にし、人間たちを苦しめた。当時の猛士は魔化魍の存在を隠しつつ、魔化魍の脅威を教える為に妖怪という言葉を作ったとされている。

 人は人智を超えた妖怪(魔化魍)を恐れた。人は妖怪(魔化魍)を退治するために侍や巫女(そういう扮装をした猛士の鬼)に頼み、退治してもらった。

 そして、妖怪として呼ばれていた魔化魍が猛士の活躍によって昔より遥かに数を減らしたことと科学が進んで妖怪という存在が空想だとされたことにより妖怪(魔化魍)は恐れられなくなった。

 

 あらゆる不思議や霊的現象が科学で解かれる時代ともいわれる現代だが、それでも人類が解明できたのは95%。つまり5%は人類が解明出来ていない未知の世界。

 その未知に属する魔化魍。人は未知を嫌悪し恐怖し受け入れられない。

 

 –––––話がズレた気がするので戻すが、そんな人類進化の象徴ともいえる炎を操る暴炎は、現在ハイになっていた。

 

ボオオオオオ

 

 あらゆるものを等しく燃やし、ゆらゆらと揺れる炎を眺めつつ敵対する猛士の人間を手から放った炎で燃やし、咆哮を上げる。

 ヒトリマ種の魔化魍は総じてパイロマニアである。自身の燃やした炎によって生まれた炎を喰らう。その中でも暴炎のパイロマニアぶりは従来のヒトリマ種の魔化魍よりも群を抜いていた。

 

 まずヒトリマ種は確かに炎を喰らうが、それ以外にも人間の僅かな肉も喰らう。だが、暴炎は違う。暴炎は完全なる炎喰らい、つまり炎のみを喰らうという偏食いや炎食家(時折、幽冥たちの作る料理を喰うが)なのだ。

 

 とにかく炎を喰いたいと、自身の本能と欲求のままに目に映った大分支部の人間を次々とその炎で燃やしていき、燃やした身体についた人の脂の混じった炎を食らっていく。

 

「そこまでだ!!」

 

 新たな獲物を探そうとする暴炎を止めたのは1人の鬼だった。

 頭部が濃い灰色で縁取りされ、両こめかみから沿って伸びた2本の角、黒に近い緑色の鎧を纏い、両肘と両膝から直線上に伸びた突起のある鬼がいた。

 右手には吹き矢に似た音撃管、音撃西洋篳篥(オーボエ)を持っている。

 

 その名は改鬼。

 猛士九州地方佐賀支部の生き残りの鬼で、現在は大分支部の鬼として行動している。

 

暴炎

【誰だ、てめえ?】

 

「私は改鬼。以前貴方達に壊滅させられた佐賀支部の鬼です」

 

暴炎

【佐賀? ああ、世送にやられたとこか】

 

「………その世送という魔化魍が私の敵ですね」

 

暴炎

【おいおい。俺を無視か? まあ、世送はここには居ねえがな】

 

「ならば探し出して清めるだけ」

 

暴炎

【出来るのか。それと、俺を倒してからそう言うのを言え】

 

「その必要ありません。既に終わっています」

 

暴炎

【ああ? 何だこりゃ?】

 

 暴炎の足元にはいつの間にか複数の石つぶて、いや鬼石が何かの紋章のように埋められていた。

 

音撃奏(おんげきそう) 灼火蓮華(しゃっかれんげ)

 

 口元に音撃西洋篳篥(オーボエ)を持って吹くと、鬼石が反応して炎を噴き出す。

 

暴炎

【うおおおおおお!!】

 

 突然の炎と衝撃に驚き混じりの声が響く。鬼石から発生した炎の音撃は蓮華のような形を保ち、中心に居る暴炎を焼き尽くす。

 音撃奏(おんげきそう) 灼火蓮華(しゃっかれんげ)とは、予め仕掛けた鬼石に向けて音撃を放ち、音撃に反応した鬼石が炎の音撃を放ち、その音撃が炎の蓮華を作り出すという範囲攻撃系の炎の音撃。

 中にいる魔化魍を焼き尽くすまで消えることのない炎の蓮華は曲に合わせて炎の勢いが増す。

 

「コレでおしまいです」

 

 音撃西洋篳篥(オーボエ)を口から離し、炎の音撃で出来た蓮華を見て、もう動けないだろうと判断した改鬼は後ろを振り向き、別の魔化魍のところに向かおうとすると––––

 

暴炎

【………あーあー。俺に炎を浴びせるとかやっちゃったなーーー】

 

 炎の中から聞こえた声に足を止めざるえなかった。

 

「馬鹿な炎とはいえ、音撃だぞ!!」

 

暴炎

【だから、それがダメなんだって。俺に炎は駄目だぜ。なにせ俺らヒトリマは炎ならば火事だろうが、火災旋風だろうが糧にできる。そして俺は音撃(・・)の炎だろうと吸収し、自分の糧に出来るんだからな】

 

 そう言いながら炎の音撃の華が吸い込まれるようにして消えて、中から現れたのは二足歩行の蜥蜴ではなく太古を支配した恐竜の中でも凶暴と謳われるTレックス。

 全身を赤く染め、山吹色の縦に開いた瞳孔の瞳、後頭部と尻尾には朱色混じりの炎をうねらせ、肩部には触れたものに傷を付けるギザギザな鱗、背中には動いてるようにも見える炎の形状をした背鰭を生やしている。

 

暴炎

【此処で炎を喰らってたところで追加の種火(音撃)だ。条件が揃ちまった】

 

 ぐっぱぐっぱと手を握ったり閉じたりしながら改鬼を睨む暴炎。そんな時–––

 

「改鬼さん無事ですか!!」

 

「魔化魍がいるぞ!!」

 

「動いてない今のうちに音撃で!!」

 

 大分支部の鬼たちがやって来て、改鬼を手伝うために音撃武器を構えて、全員が戦闘態勢に入る。それに対して暴炎は–––

 

暴炎

【おお。鴨がきたきた!!】

 

 喜ぶように声をあげて頭部にある炎を掴むと朱色の炎はその色を変えていき、蒼く揺らめく炎に変わる。

 その炎を持ちながら腕を振るう。蒼い炎は扇状に広がり、改鬼たちに襲いかかる。

 

「なっ!!」

 

 炎の音撃を扱うからこそ、蒼い炎の脅威に気付き横に転がるようにして炎から避ける。他の鬼たちは回避することもなく蒼い炎に呑み込まれ、鬼たちは断末の声を上げることもなく一瞬にして炎の中へ消えた。

 

「小尾、奈美、ゲン。なあ、返事をしてくれ!!」

 

 一瞬にして消えた鬼たちの名前を言うも無反応。だって、既に焼滅しているのだから。

 

暴炎

【あちゃーー火力が強すぎたか。これじゃ炎が喰えねなぁ】

 

 まるで、失敗失敗というような暴炎の言葉に改鬼の冷静さを奪う。

 

「よくも仲間を!!」

 

 音撃西洋篳篥(オーボエ)を口に着けて、先端に装填されてる鬼石を暴炎に撃ち込む。

 

「なっ!!」

 

 鬼石は暴炎の身体に張り付くことなく、ジュッと焼けるような音とともにその形を残さずに消えた。

 

暴炎

【俺のこの姿にさせてくれた礼として一撃で葬ってやるよ】

 

 頭部の炎を根こそぎ取るように掴むと、その炎をこねくり回し先程と同じように色は蒼くなっていくが、炎はこねくり回す際に一緒に練り込まれる空気によってその大きさはどんどん大きくなっていく。

 手を離せば、暴炎の全身を覆うほどに大きくなり龍の形状に変化した蒼い炎が蜷局を巻いて宙に浮いている。

 

「これは!!」

 

 蒼い炎の龍は炎の筈なのにまるで意思があるように改鬼を睨むように顔を向け、燃焼音に近く龍の唸り声にも似た声が聞こえる。

 

暴炎

【さあ終わりだ。 葬炎術(そうえんじゅつ) 青龍蒼炎波(せいりゅうそうえんは)!!】

 

 暴炎が腕を振るうと蒼い炎の龍は顎を開き、改鬼に向かって真っ直ぐ飛んでくる。

 

「魔化魍ううういいいうう…」

 

 蒼い炎の龍は改鬼を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴炎の炎の龍は放たれた先で暴れるように動き回り、炎の龍は満足したかのように落ち着いて、そのまま暴炎の頭部の炎に一体化する様に消えた。

 炎の龍が動き回った地面は炎の龍に呑み込まれた改鬼は影の形や塵すらも残さずにこの世から焼滅した。

 暴炎は、身体から勢いよく漏れ出ている炎を頭部に戻す。

 

暴炎

【ふううううううう。抑え、ろ。お、さ、え、ろ】

 

 炎を抑えると今度は手で押さえつけながら自身に暗示を掛けるように呟く。

 炎の勢いは少しずつ落ち着いていき、暴炎の姿も少しずつ元に戻っていく。

 

暴炎

【ふううううう。ふうううううう。はああああああ、ようやく、治った】

 

 その言葉を口にした暴炎は元の姿に戻り、膝が地面についた状態で息を深く吸いながら整えていた。

 息が整った暴炎は後ろから近づく気配に気づく。

 

暴炎

【おお、桂。終わったか? うん。それはなんだ?】

 

【ああ。こいつは捕虜だ。戦うことは2度と出来ない】

 

 その内容を聞いて納得したのか暴炎は何も言わず、先程の戦闘の余韻で興奮している身体を少しずつ冷ましていく。

 そして、数分経つ頃には戦闘の興奮を完全に抑えて、捕虜を抱えた桂と共に三尸の元に向かった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE三尸

 桂と暴炎が鬼と戦っている頃。

 

 三尸はひとり、大分支部の人間の殲滅を行なっていた。

 だが、その殲滅の途中に大量のディスクアニマルが三尸の行方を阻んだ。

 

 猛士九州地方大分支部。

 九州地方全体の魔化魍の発見と足止めを主だって行う支部で、鬼の数はそれこそ少ないが、その鬼たちを支える『天狗』が所属している。

 天狗とは鬼の後継者不足や鬼の死亡によって減った戦力を猛士の上層部が苦渋の末に生み出した鬼とは違う存在。

 そのほとんどが鬼の適正を持たない者で、ディスクアニマルを戦闘用に改造し大型化した『戦輪獣(せんりんじゅう)』を使って鬼と共に戦う。しかし、鬼と違い鎧を纏わない。いな、適正がないために纏えない。鎧がない故に魔化魍の攻撃1つで簡単に死んでしまう。

 

三尸

【ちっ!! 面倒だ!!】

 

 そう言いながら、三尸が爪を振り下ろしたのは瑠璃狼が元となった戦輪獣 瑠璃牙と黄赤獅子が元となった戦輪獣 黄赤爪。

 だが、その小型犬位の小ささと素早さもあってかなかなか爪が当たず、逆に死角となっている場所から走り出して三尸に噛みついたり、その鋭利な爪で傷を作っていく。

 

「魔化魍が戦輪獣にいいようにされてる」

 

「いい気味だ」

 

「瑠璃牙と黄赤爪の速さはこんなもんじゃない」

 

「……………」

 

「仲間の仇だ!!」

 

 そう言いながら5人の天狗は戦輪獣たちを操って三尸を攻撃する。戦輪獣専用の鬼笛こと『天狗笛』を吹いて、様々な指示を送って戦う天狗。

 

 勿論。三尸も戦輪獣を操る天狗を狙おうとするが、天狗たちも自身の非力さを理解している。

 5人の天狗の側には従来のよりも遥かに大きくなった、黄檗蟹が元となった戦輪獣 黄檗盾が天狗を守る壁として肥大化している右爪を構えている。

 よく見るとその爪には三尸の爪が無数に突き刺さっており、三尸の攻撃から天狗たちを守った証拠でもあった。

 

三尸

【(あのデカイのが邪魔で)】

 

 戦輪獣 黄檗盾によって攻撃を当てられない。おまけに瑠璃牙と黄赤爪の攻撃によって傷を増やしていく三尸。皮膚の硬質化をすれば良いと思われるがあらゆる死角から攻める戦輪獣たちの攻撃よって皮膚の硬質化は間に合わず、傷を作っていく。

 どうにかして、黄檗盾を潜り抜けて天狗を倒さないといけない。頭で考えてもどうすればいいかと三尸は思考する。

 

三尸

【(イチかバチか、やってみるか)】

 

 三尸は尾の提灯を持つと、提灯に自身の折った4本の爪を突っ込む。すると爪が少しずつ橙色に変色していく。

 変色した4本の爪を指で挟むように持つと同時に尾の提灯から光を放ち、遠くの位置にいた天狗たちの目を一時的に潰す。

 

「げべっ」

 

 走ると同時に4本中3本の爪を天狗たちに向けて投げつける。だが、黄檗盾が間に入ることによって1本は黄檗盾の右爪を削り、2本目は脚の1つに突き刺さる。しかし、3本目は黄檗盾から離れた位置に立っていた天狗の眉間に突き刺さる。

 偶然とはいえ天狗を1人始末出来たことで、イケると判断した三尸は残った1本を握りしめて黄檗盾まで走り、黄檗盾を袈裟斬りをする。しかし––

 

三尸

【熱が足りなかったか】

 

 急拵えで生み出した技によって付けた傷は浅かった。

 落石にも耐える強固な装甲を持っていたディスクアニマル 黄檗蟹を元とする戦輪獣 黄檗盾はその強固さ故に三尸の付けた傷は装甲の上部しか焼き切れなかった。

 

「やれ黄檗盾!!」

 

三尸

【しまっ、ぐっう!!】

 

 動きの止まった三尸は、眼を回復させた天狗の指示で動いた黄檗盾の右爪で首を挟まれ、ギチギチと電子音を鳴らしながら機械のように徐々に力を込めていく。

 

三尸

【おご、がああ!!】

 

「苦しめ、苦しめ。仲間を殺した罪だ。ゆっくり苦しめ」

 

「毛利遊ぶな、とっととトドメをさせ」

 

 三尸の苦しむ姿に気分を良くしたのか、天狗の1人が恨みのように呟きながら黄檗盾に指示を出すが、他の天狗は三尸にトドメをさせと言う。

               ◯

「チッ!! まあ良い、黄檗盾や【させるか!!】なっ!」

 

 黄檗盾の右爪の根本近くに何かが掛かり、そのまま蒸気をあげて挟んだ三尸ごと右爪が地面に落ちる。

 

三尸

【げほ、げほっ】

 

【大丈夫か三尸?】

 

 三尸が顔を上げた先にいたのは、地面の下で横になっていた筈の屍だった。

 

三尸

【助かった。だが、お前酔いが】

 

【まだ、覚めてないけどやれ「あああああああ!!」………うっ】

 

 屍の話は天狗の大声に遮られる。しかも、大声のせいで頭に響くのか屍は尾で頭を抑える。

 

「くそ! まだいたのか魔化魍が黄檗盾やれ!!」

 

 天狗の指示で黄檗盾の補助爪が頭を抑える屍に振り下ろされる。

 

【ああアアアアア、頭が痛えんだ。五月蝿え!!】

 

 人間も二日酔いの時に大声で喋られると頭が痛くなると思うが、屍の今の状態は正にそれ。酔いが完全に覚めてないのに響く天狗の大声が屍をブチ切れさせた。

 屍は封印が解けている尾を黄檗盾に向けて毒血液をぶち撒ける。狙いなどない無造作に撒かれた毒血液は黄檗盾の補助爪と右半身に当たる。

 ギチギチと電子音を出し、毒血液が掛かって溶けていく黄檗盾。

 

「黄檗盾が……はっ! ヤバい!!」

 

「瑠璃牙!!」

 

「戻れ黄赤爪!」

 

「………!!」

 

 その光景に呆然している天狗たちも屍の危険さに気付き、天狗笛を吹いて、瑠璃牙と黄赤爪を呼び寄せ、天狗の1人は別の戦輪獣を出そうとする。だが–––

 

【死に腐れ!! 人間ども!!】

 

 溜め込んだ怨念の質によってはダイヤモンドすらも数秒で溶かす屍の毒血液は、アルコールによって威力は落ちたといえど天狗とその戦輪獣が見るも無惨な姿に変えるのは容易かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三尸が天狗と戦っている間に大分支部の人間の3分の1は逃げられてしまった。

 だが、三尸の活躍–––––もとい最終的には屍の活躍によって大分支部は壊滅した。だが–––

 

三尸

【大丈夫か?】

 

 酔いは完全に覚めてないのにも関わらず、地面から現れた屍。再び、襲ってくる酔いによって苦しそうに声を上げる。

 

【うう、まだ気持ち悪い】

 

三尸

【ほら、肩貸してやるから休め】

 

 三尸はまだ酔いで気持ち悪くなっている屍を支えながら合流した布都を連れた桂と時折、身体をブルリと震わす暴炎と共に幽冥の定めた集合場所に向かった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE宮崎支部

 猛士九州地方宮崎支部。

 ベテランの鬼が数名所属し、長年の経験に基づいた戦いで新人の鬼を死なせることなく確実に魔化魍を清める。

 また8代目魔化魍の王 シュテンドウジの部下だった魔化魍を清めた鬼の子孫がおり、猛士としては将来性に期待されてる支部でもある。

 

 魔化魍を討伐する仕事が最近多い、宮崎支部の鬼たちは仕事のこない平和な日を過ごしていた。

 上空には魔化魍の侵入や監視の目的のために放たれた数十体のディスクアニマル 茜鷹が羽ばたいている。

 

「そろそろ交換だな」

 

 ディスクアニマルの管理をしている宮崎支部の人間が鬼笛を吹いて茜鷹に帰還の指示を出す。

 空からどんどん降りてくる茜鷹。

 鬼笛の持つ人間のそばまで来ると、その場で4体の茜鷹が滞空する。

 

「おかしいな。ディスクにならねえ」

 

 一向にディスク形態に変形しない茜鷹に不思議に思い、触れようとすると。

 

「があああああ!!」

 

 茜鷹の口から熱線が放たれ、茜鷹を掴もうとした男の顔を焼き尽くす。

 顔の表面は焼け焦げ、皮の下の焦げた表情筋が剥き出しになって倒れ息絶える。

 

「なんだ!!」

 

「茜鷹にあんな機能はないはずだ!!」

 

「魔化魍だ、魔化魍に違いない」

 

 一斉に慌ただしくなった場に、追い討ちをかけるように他の茜鷹も攻撃してくる。

 その時、茜鷹の1つが声を出す。

 

迷家

【じゃあ、みんなやるよ!!】

 

ルルルルル、ルルルルルル パリン、パリン、パリン ボボボ、ボボボ

 

 従来の茜鷹から聞こえなさそうな声とともに迷家の有幻覚解けたことにより茜鷹のガワを被せていた魔化魍たちの姿が現れる。

 熱線を浴びせたのは、ここ九州地方で暴れていた『(写鏡)』。そのまま頭を傾けて宮崎支部の人間に熱線を放つ。

 

ルルル、ルルル

 

「ケースが! ぎゃあああ!!」

 

 次に出たのは、『鏡』に似た魔化魍 クラゲビ(浮幽)。炎を灯した触手から放つ火炎で、待機状態のディスクアニマルのケースを燃やし、側にいた人間もついでと言わんばかりに燃やす。

 

 

 最後に出たのは渦巻く青い炎の中心に狼の頭がある魔化魍 マビ()。浮幽は燃やしたのとは別のディスクアニマルのケースにいや、中にあるものに取り憑く。

 

「ケースがひとりでに」

 

「茜鷹が!!」

 

 憑のついたのは茜鷹のディスク。

 ディスクは宙で茜鷹に変形し、翼に炎を灯す。そして、側にいた男に嘴で突く。

 

「やめろ! やめろ!」

 

 鬼笛を吹いて、目の前の憑が取り憑いた茜鷹を止めようとするも止まることもなく、後ろから滑空する別の茜鷹の翼で男の首の頸動脈を切られ、首元から血を流して死んだ。

 

【さあ、空中火の玉祭りを味あわせてやる!!】

 

 茜鷹から憑の声が響き、編隊飛行のように飛ぶ茜鷹が宮崎支部の人間に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷家

【さぁて、物色物色】

 

 そんな中、ただひとり戦闘に参加せずに宮崎支部に侵入する迷家がいた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE浮幽

 迷家の有幻覚によって奇襲に成功した私たちは宮崎支部の人間や鬼への攻撃を始めた。

 

【そらそら逃げろ!! 逃げろ!!】

 

「がはっ」

 

 鬼の武器となるディスクアニマルに取り憑いて、人間を攻撃する憑。

 炎の翼を纏わせた茜鷹がカッター状の翼で非戦闘員の人間の首を狙って飛ぶ。

 

「くそ!! 音撃s、ぎゃあああ!!」

 

写鏡

【燃、燃、燃やす】

 

 写鏡は頭頂部の鏡に太陽光を集め、集めた太陽光を熱線に変えて茜鷹に向けて音撃を放とうとした鬼を燃やす。

 

「うぐぐ!!」

 

「むぐぅ!!」

 

「ううううううう!!」

 

 浮幽は触手で数人の鬼と人間を捕らえ、その触手の先から炎を噴き出して焼き尽くす。ものの数秒で焼き尽くした浮幽はそのまま違う鬼に向けて触手を伸ばす。

 

 すると、浮幽の頭頂部を掠るように何かが飛んできて、伸ばした触手を止める。

 ツーと血を流す浮幽が焼き殺した死体を離し、飛んできた方を見ると音撃管を構えた1人の鬼が立っていた。

 

 頭部が朱色で縁取りされ、左側頭部から飾りのついた歪曲した角を生やし、胸部部分が少し膨らんだ橙色の鎧を纏い、腰にはひらひらした布のような装飾を付けた鬼がいた。

 鬼の名は踊鬼。

 かつて8代目魔化魍の王 シュテンドウジの部下だった魔化魍 ヨロイツチグモを清めた初代踊鬼の正当後継者。

 

「魔化魍。これ以上の蛮行はこの踊鬼が許さない!!」

 

ルルル、ルルル

 

「ちっ!! 死ね魔化魍!!」

 

 踊鬼は宙に浮かぶ浮幽に音撃管を撃つ。

 浮幽はふわりと海にいる海月のように空気弾を避ける。空気弾を避けた浮幽は反撃として触手を伸ばす。

 

 今度は触手に向けて音撃管を撃ち、迫る触手を防ぐ。しかし、浮幽は触手の攻撃をやめず、さらに触手の先から火炎を放ち踊鬼の攻撃速度を下げる。

 

 そんな踊鬼の音撃管と浮幽の触手と火炎による攻防の中、浮幽の触手による攻撃で踊鬼は体勢を崩し、隙が生まれた。

 浮幽は隙の生まれた踊鬼に向けて近付き、鬼との戦いを終わらせようとしていた。

 だが、いくつもの茜鷹に取り憑いて憑は鬼の行動に気付く。

 

【逃げろ浮幽!!】

 

 鬼が何かをしているのに気付いた憑は鬼に近付いていた私に叫ぶ。

 

「遅いわよ!! 死ね魔化魍!!」

 

 踊鬼が手に持つ音撃管には変身鬼笛と音撃鳴を合わせた物が付けられており、通常の音撃管から放たれる軽快な音とは違う重厚な音が音撃管から放たれる。

 

 私の不意を突いた鬼の攻撃に動くことが出来ず、棒立ちのように宙に浮いていた私を何かが押し退けた。そして、鬼の攻撃は押し退けたものに当たる。

 押し退けたものからパリンとガラスが砕ける音が響く。

 

 そう。私を庇って鬼の攻撃を受けた写鏡のトレードマークともいうべき頭頂部の鏡が割れる音が響いた。割れたガラス片が地面に落ちてさらに細かく砕ける。

 写鏡ことウンガイキョウの頭頂部の鏡は攻撃するための武器であり、人間を喰らえなかった時に太陽光を吸収して腹を満たす為の大事な部位である。

 落ちていく写鏡を受け止めると私は、茜鷹に取り憑いていた憑に写鏡を頼んだ。

 

【任せな】

 

 そして、茜鷹()に運ばれて離れていく傷付いた写鏡を見ながら、私の中で何かがブチっと切れた。

 

ルルルルル、ルルルルル

 

 浮幽は触手を擦り合わせて自らに炎を灯す。一瞬にして業火のように燃え上がり浮幽の全身を繭のように包みこみ、中からパチパチと火花の散る音が響く。

 

「何をしている?」

 

 炎の繭に包まれた浮幽を見た踊鬼は疑問の声を上げるが、炎の繭は一気に大きく膨らみ中から勢いよく飛び出た無数の触手が周りの炎の繭を引き裂き、中から姿を現した。

 

 浮幽の姿は劇的な変化というほどではないが、右半身が赤で左半身が青のアシンメトリーカラーで、プニプニそうでプルプルしている独特な質感を持った身体、頭頂部の肥大化した傘と先端から中間までに丸い球体状に膨らんでいる触手を3本持った海月の姿へと変わった。

 

 踊鬼は姿は変わったところでと思いながら音撃管から空気弾を発射する。すると、浮幽は特徴的な球体状に膨らんでいる触手の1本に普通の触手を伸ばし、そのまま勢いよく引き千切る。

 

「なっ!」

 

 千切った触手を踊鬼に投げつける。踊鬼は触手に何かあると思い、触手を撃つ。

 空気弾が触手に命中すると触手は膨らんで破裂し、爆発する。

 

「ぐっ」

 

 その衝撃と熱風が踊鬼の動きを封じる。

 浮幽は残っている2本の触手を引き千切り再び踊鬼に向けて投げつける。

 

 踊鬼も先程の光景から危険度は理解しているために触手を音撃管で撃ち落とす。

 同じように膨らんで爆発する触手。だが、踊鬼は先程の爆発範囲から離れた位置で撃ったため焦ることない。むしろ、爆発すると思われる触手を失った浮幽に向けて音撃管を放つ。

 

ルルル、ルルル

 

 踊鬼の音撃管から放たれる空気弾を少し鬱陶しくも思うが、自分の子供のように感じた同族を傷付けた鬼に対して浮幽は、その傷の千倍、万倍、いや億倍の傷を与える為に赤と青のアシメントリーカラーになった触手を動かし始めた。

 

 触手は地面に転がる無数の小石を拾い。そのまま踊鬼に投げつける。

 武器となる触手を失ってヤケクソになったかと思う踊鬼は、投げられてくる小石を気にせず浮幽に音撃管を撃とうとした瞬間、1つの小石が脇腹に当たり、小石は破裂して小さな爆発を起こす。

 

「ぶほっ!」

 

 踊鬼の脇腹周辺の鎧の一部を砕き、衝撃がそのまま伝わる。

 

「な、何が」

 

 踊鬼の言葉を聞き、浮幽は触手に持つ小石を1つ地面に投げつける。

 投げられた小石は地面にぶつかると爆発する。

 

「なっ!!」

 

 踊鬼は理解した。浮幽の力を、能力を。

 変異態へと変化した浮幽の力。それは爆弾。

 

 触れたものを爆弾に変える能力。

 某奇妙な冒険の殺人鬼の持つ能力と似ているがアレとの違いを上げるとするのなら、それは爆弾に変えるものの制限数がないということ。しかも触手1本で触るだけで変哲もないただの小石を簡単に爆弾に変える。見た目自体に変化がないが、その中身は紛れもない爆弾。

 

 その脅威にゾッとする踊鬼は触手を撃ち抜こうとするが無数に飛んでくる小石によって狙いを定めることも出来ず妨害される。

 おまけに小石は爆発しないものと爆発するものが混ざって投げられてもいるのでどれが爆発するのかわからない恐怖で全部をなんとか避けると、また違う小石が投げつけられる。

 恐怖によって焦り、本来のパフォーマンスなど関係なく動きが粗雑になる。つまり––––

 

「ぐああああああ!」

 

 罠に掛かったネズミ同然。

 小石に気を取られすぎて、受けた攻撃により肩の一部が抉れるように消えていた。

 そして、浮幽を見た踊鬼は驚いた。浮幽の身体をよく見ると千切れて無くなってはずの触手が生えている。そのことで踊鬼は理解した。千切れた触手は再生し、そのおまけのように投げられる小石の形をした爆弾。

 終わることのない永遠に続く爆撃によって踊鬼は絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分経ち、既に浮幽は勝利を確信、というかいつでも踊鬼を殺せるようなものだった。

 あれから鬼の武器となる音撃管は右手と変身鬼笛と共に粉々に爆破され、逃亡を防ぐために左脚の足首ごと吹き飛ばされた。浮幽は既にない右手を抑えて裸体を晒しながら床に転がっている踊鬼をどうしようかと悩む。

 

 捕虜として捕まえて九州地方に恨みを抱える鉄たちに頼んで徹底的に身体を破壊させるか、それとも残っている四肢を吹き飛ばしてオブジェのように飾って人としての尊厳を失わせるせか、はたまた蝕に頼んで薬漬けになるような新薬の実験台にさせるか。

 

 兎に角、苦しむ写鏡よりもさらに苦しめないと、頭の中にはどんどん嗜虐的な考えがポンポン浮かぶ。

 だが次の瞬間、浮幽は鬼の行動に驚く。

 

「鬼をや、めます、あなたの、手足になります。助けてください。命は、命だけは」

 

 土下座だ。

 人としての、偉大な父の後を継いだ鬼としてのプライドなど捨てたと言わんばかりな、恥もへったくれもない、みっともない命乞いの土下座をする踊鬼を見下ろす浮幽。

 写鏡を傷付けた癖に虫が良すぎると思いながらも、浮幽は目の前の鬼に侮蔑の視線を送る。踊鬼はそんな視線に気付かず、土下座を続ける。だからとっとと終わらせることにした。

 

ルルル、ルルル

 

 妙に明るい声が聞こえた。喋ることがない浮幽の声質から許されたと判断し、自分は助かったと踊鬼は感じた。

 

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 

 踊鬼は浮幽が止めを刺さなかったことに感謝の言葉を告げながら土下座の姿勢を解こうとすると、額にピタッと何かが張り付く。

 視線を上げると、額には浮幽の触手が張り付いていた。

 

「ひっ!! や、やめ–––」

 

 直後、ポンとコルクの抜けたワイン瓶のような音と共に踊鬼の頭は吹き飛ばされる。

 頭が無くなった身体はぐらりと前に倒れ、首無しの全裸死体が晒された。

 

ルルル、ルルルルルル

 

 容赦なく踊鬼の頭を吹き飛ばした浮幽はゆらゆらと揺らす触手と勝利の雄叫びをあげ、写鏡を手当てしている憑の元に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷家

【うーーーん。コレとコレに、コレ、あ、コレも良いなーーー♪】

 

 一方、戦闘に参加しないで宮崎支部の保管庫にいる迷家は保管されていた猛士の道具を物色し、それらの道具を空間倉庫の術で仕舞いながら盗んでいた。

 そして、そんな迷家の足元には紐のような物でぐるぐる巻きにされている宮崎支部の支部長 土浦 ふくが転がされていた。

 迷家が何故、宮崎支部の支部長を捕まえてるのか、ぶっちゃけると迷家が保管庫を探すためにたまたま会った人間が土浦だった。有幻覚で宮崎支部の人間に化けて、案内をさせて教えてもらった後に当身をかまして、そのまま捕獲した。

 

迷家

【うん。大体は盗んだし、捕虜も出来たしみんなと合流しよ♩】

 

 めぼしいものがなくなって、土浦を縛っている紐の端を持った迷家は合流のために動き始めた。

 後にこの盗んだ道具が猛士の鬼たちを苦しませて自分たちを喜ばせるものになるとは今の迷家は知る由もなかった。




如何でしたでしょうか?
自身の能力を活かした桂たちと初めて見た同族の傷付く姿を見てブチ切れた浮幽の回でした。
ちなみに量産型音撃管や量産型音撃鳴や、音撃射 無銘疾風はこの作品だけのオリジナル設定です。
量産型の音撃武器は若手の鬼に最初に支給されます。魔化魍の討伐数が50以上又は、名持ちの鬼になった時に自分に合った音撃武器を渡され、独自のカスタマイズができるようになります。
音撃射 無銘疾風も同様のオリジナル音撃。自分らしい音撃(師から継承される音撃)を持っていない鬼に最初に覚えさせられる音撃です。
音撃射には音撃射 無銘疾風と音撃射 無銘吹雪の2つがあります。打と斬も同様で、
音撃打の場合は、音撃打 無銘火焔と音撃打 無銘流水。
音撃斬の場合は、音撃斬 無銘電光と音撃斬 無銘土塊になります。
天狗や戦輪獣は次のおまけコーナーで紹介しようと思います。

ーおまけー

【ええと、今回のおまけコーナーは迷家が来れねえようでやすから、あっしが司会をやらせて頂きやす】


【…………と言いやしても、ゲストは誰を呼べばいいでやすかね?】

「何だ此処は?」


【うん? おお!! 白蔵主ではないでやすか】

「おう。それより何だ此処は?」


【此処はおまけコーナーでやす。アンタこそ何で此処に居るんでやす】

「それがよ。金の匂いがすると思って変な穴覗いたらいつの間にかココさ!!」


【そうでやしたか。じゃあ、此処に来たのもなんかの縁でやす】

「な、何だよ!?」


【なーーーに、ちょっと質問するだけでやす。それに答えるだけでやす】

「ふん。 断る。金にならない事はしたくねえんだよ俺は–––」


【そうでやすか。残念でやす】

「何が残念だ!!」


【いや。昔、金を大量に蓄える魔化魍の噂を聞いたことがありやして、なんでもその魔化魍が死した後もその金は手を付けられてなくて、それの––––】

「さあ、質問って、何を聞くんだ!!」


【早いでやすね】

「そんな事はいい。質問に答えたら。その金の場所を教えてくれんだろ。だったらさっさと質問しやがれ!!」


【まあ、せっかくやる気になったようでやすから。じゃあ、白蔵主】

「おお!! 何だ!!」


【あんたが金を集める理由は何ででやすか?】

「!!」


【気になってたんでやす】

「……………」


【あんたはいつも金に関する話をしてる。親友である零士に止められようと決してやめようとしない。
 何がアンタをそこまで、金を欲しがらせるのか】

「……………」


【あっしの経験からすると––––】

「やっぱいらねえ」


【うん?】

「いらねえよ。その魔化魍の金。やっぱ、自分で稼いでなんぼよ!!」


【そうでやすか。本当にいいんでやすか?】

「………これは、俺の誇り(プライド)だ。どうしても知りてえなら。100万用意しな」


【結局、金でやすか】

「そうさ。まあ、用意できたんなら答えてやってもいいぜ。じゃあな」


【いつか聞かせてもらいやすよ白蔵主】












「せっかくの金の話だったが………まあ、しゃねえか」

「あの時、俺が金持ちだったら–––––」

「ちっ!! 嫌なことを思い出しちまった。まあ良い。なんか金儲けのいい予感もするし。
 さっさとこんな空間からおさらばしてやる」


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記録玖拾漆

今回は、幽冥たちの最後の決戦の前に氷漬けにしたことで無防備な昇布のために留守番することになった家族たちの話です(昇布は出てきません)。
前までの話に比べて今回は短いです。
次回では確実に幽冥&鉄VS福岡支部を書きます。
今回のおまけコーナーは前回書いた通りに天狗と戦輪獣の解説になります。


SIDE留守番組

 幽冥たちが猛士九州地方支部壊滅計画実行中の同時刻。

 幽冥が襲撃計画が終了した際に集合場所として定めた場所である山中にある洞窟。

 そこは鉄が作り出した隠れ家の中でも最大の広さを誇る場所だが、他の隠れ家に比べれば少し見つかりやすいという難点がある。しかし、幽冥たちの襲撃によって、それどころではない九州地方支部のお陰で安全性より広さを考えたこの隠れ家が集合場所となった。

 

 そんな隠れ家の中で何も置かれて無い広い場所の1つ。そこに何かを持ったまま立っている影があった。

 普段の服装から稽古用の服装に着替えた美岬が額に大粒の汗を作りながら手に持つものに意識を集中していた。

 

「ふー、ふーーー」

 

 美岬の呼吸音だけが空間全体に響き、手に持つものに意識をさらに集中させる。

 美岬のその手に持つのは、自身が所有する魚呪刀の1つであり、それの形は今まで使っていた魚呪刀の中でも近代的または機械よりな特殊な形状をしていた。

 刀身全体に細かい鮫や鯱を彷彿させる細い歯が乱雑に生え、刀の鍔には重ね合わさった牙らしき装飾が付いた太刀。

 

「ふーーー」

 

 美岬の手にある魚呪刀は美岬の持つ7振りの魚呪刀の1振りである。

 その名は壊鯱(かいしゃち)

 

 美岬は手に持つ壊鯱を鞘に納めて、そのまま床に正座し、抑えていた呼吸をゆっくりと戻す。呼吸も穏やかになり、美岬は鞘に納めた壊鯱を見る。

 話が突然変わるが魚呪刀には鍛造の際に込められた魂によって能力が付与される。

 

 畏鮫(いさめ)持ち主の敏捷性を高め、更に雨天時においては3倍も高める

 

 咬鱓(こうつぼ)斬りつけた敵の傷の治癒阻害

 

 斑鰒(まだらふぐ)刀身に毒液の貯蔵と射出

 

 突烏賊(とついか)刀身を10秒刺した敵の視力剥奪

 

 堅鯨(けんげい)持ち主が持っている間は物理攻撃を無効化付与

 

 後は幽蛸(ゆうだこ)と今は登場してないのと波音に譲渡した刺鱏(しえい)などが存在するが、それは別の機会で話すとしよう。

 話は美岬の持つこの壊鯱に戻そう。多種多様な能力を持つ魚呪刀。その中でもこの壊鯱は最強であり最()で最()と言えるだろう。

 その能力は武器破壊この刀と連続で10度鍔迫り合った武器を完全に破壊するという異質な力。10回連続でこの刀に攻撃された武器はその形を残すことなく破壊される。それだけでも強力だというこの刀には副次能力があり、またその副次能力も強大だった。

 その副次能力は、能力によって破壊した武器の持つ優れた部分を3割引き継ぐ

 例えば、炎を操る能力を持った武器がある。その武器は身体に炎を纏わせ、遠くに炎を放つことが出来、持ち主に炎によるダメージを軽減させることが出来る。そんな武器をこの壊鯱で破壊すると優れた部分である炎を操る能力、その中のいずれかの力を引き継ぐ。

 何も能力を持った武器だけではなく普通の武器に対してもこの能力は発動する。

 切断力の高い刀を破壊すれば、その刀の切断力3割を壊鯱の切断力に加算し、無駄に硬い盾を破壊すれば、その盾の耐久性の3割を壊鯱の耐久性に加算する。

 つまり、武器を破壊すればするほど強化というより進化していく。

 この能力が壊鯱をより強大にさせた。魚呪刀を鍛造した鍛治魔化魍によると元々、壊鯱には武器破壊の能力しか無かったが鍛造の際に使った鯱の魂と狂った人間の魂がこの副次能力を持たせる要因となった。

 

 使われている鯱の魂の性質は好奇心。

 よくテレビでは鯱が子アザラシを襲って仲間に向かって投げ、また投げ返すという残虐な場面を見ることがあるが、元々、鯱は好奇心が強い動物だ。

 しかし、その好奇心の高さゆえに誤って人を殺すこともある。特にこの魂の持ち主の鯱はとりわけ好奇心が強かった。その高さで何人もの人間を殺した。故に人間の手でその鯱は殺された。

 もう1つの人間の魂。

 この魂の人間は俗に言うならば、狂った人間。だが、狂ったといっても色々あるだろう。

 

 気が狂う。

 

 金に狂う。

 

 欲に狂う。

 

 そして、愛に狂う。

 この魂の持ち主の人間は元は正義感の強い普通の青年だった。

 幼少の頃から一緒だった幼馴染と一緒に将来は一緒に暮らそうと言って日常を過ごしていた。しかし、ある日を境にその幼馴染は変わった。普段はしない服装と化粧をして口調も変化し、咽せるような甘い匂いを纏わせていた。

 だが、青年は気にしなかった。

 幼馴染との付き合いが減った数日後。家のポストに入っていた1つのDVD。何だと気にしながら再生し、青年は絶望する。

 青年の見た映像には、幼馴染が衣類を一切纏わずに複数の男と交わる姿だった。

 青年は知った。幼馴染の変化の理由をそれから数時間、変わり果てた幼馴染の姿を見せられ、最後に男達によって顔が白濁に染まった幼馴染が言った言葉で青年は壊れた。

 その幼馴染を思う一途な愛故に狂った。その結果、幼馴染を誑かして、快楽に溺れさせ、人間性を無くさせた人間たちは全員殺し、その後、幼馴染と共に焼身自殺した。

 

 鯱の魂と人間の魂。好奇心と一途だった愛。2つの魂が惹かれあい混ざりあった結果、壊鯱は2つの能力を持つ刀となった。まあ、この能力にも例外がある。

 例として挙げるのなら、酒呑童子が現れる前の時、美岬は幽冥の王の力を制御する鍛錬の際にこの刀を使って稽古したが、幽冥の持つ武器は壊れなかった。その理由は幽冥の持つ武器にあった。

 幽冥の使った武器はシュテンドウジの持っていた太刀。この太刀は刀身に薄い酒気で覆われており刀身や武器に対して発動する能力を防ぐ力がある。

 つまり、武器に触れなければ効果が発揮しないという弱点もある。

 

 話は美岬が何をしていたのかに戻すとしよう。

 美岬が行っていたのは壊鯱の奥に眠る壊鯱の意思との対話を行なっていた。

 対話によって魚呪刀の意思に認められれば、その力を完全に引き出すことができる。

 だが–––

 

「やはり認められませんか」

 

 美岬は手に持つ壊鯱を見ながら呟く。

 美岬が魚呪刀の意思に認められているのは、畏鮫咬鱓突烏賊の3振り。

 魚呪刀を鍛造した製作者の魔化魍曰く、『力を示せば認められるだろう。だが、他の刀の意思も力でははない何かで認められなければならない』と。

 

 確かに上記の3つは美岬がある魔化魍との戦いの際に見せた力のお陰で魚呪刀の意思に認められた。

 認められはしなかったものの斑鰒幽蛸堅鯨の魚呪刀の意思には対話によって会うことはできたが、波音に渡した刺鱏とこの壊鯱にはその意思に会ったことはない。

 

 美岬がこのように鍛錬するのは全て、幽冥のため。

 これから激化していくであろう猛士との戦い、幽冥を狙う悪魔魔化魍、幽冥という人間を単に気に入らない野良魔化魍。

 それらとの戦いにおいて、やはり所有する魚呪刀を全てを使わなかればならない時が必ず来るだろう。

 

 その日のために、認められていない魚呪刀の意思にどうすれば認められるかを模索する。

 だが、何がキッカケで意思に認められるのか。それは鍛造した魔化魍すら知らず知るのはその魚呪刀の意思のみ。

 

「悩んでても仕方ないし、もう1度やってみよう」

 

 そう言った美岬は立ち上がり、壊鯱を鞘から抜いて、再び、対話を始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE波音

 美岬が壊鯱との対話を再開した同時刻。

 

【何か最近、幽冥お姉ちゃんに避けられてる気がする】

 

波音

【急にどうしたの?】

 

 美岬の居る場所とはまた違う場所で、朧と波音はいた。

 

【最近は私を連れていくこと少ないから、幽冥お姉ちゃんが強くなりたいのは分かるんだけど…………何か幽冥お姉ちゃんに嫌われたのかな】

 

 朧の言っていることはなんとなくだが理解した。

 朧は確かに幽冥と共に戦うことは少なくなってきた。王として、魔化魍としての人間を超えた身体になりつつある王は自分1人で戦えるようになろうとしている。

 だが、それは何も朧だけでは無い白も同じ目にあっている。まあ、本人は王の意思を尊重するということであまり気にしていないらしい。

 

 つまり朧は、王に頼られていないまたは嫌われていると思っている。

 しかし、敢えてそれに対してノーといわせてもらう。

 

波音

【王は朧のことを嫌ってるじゃないよ】

 

【慰めの言葉だったらありがとう。でも……】

 

 王の鈍感っぷりもそうだけど、何で王に恋心を抱く連中はこうもメンタル弱いの。普段の王にベタベタする白がマシに思えてくる。

 

波音

【ああーーーもう。面倒くさいね。だから、王はアンタを嫌ってないよ】

 

【でも】

 

波音

【アンタは王を守るだけが使命とかみたいに思ってない!!】

 

朧           波音

【別に使命というわけじゃ【反論しない!!】……はい】

 

 言い訳を言う前にちゃんと王のことを伝えないと変になりそうだからハッキリ言おう。

 

波音

【良い!! アンタ、王の側に居られないだけでなにウジウジしてるの!!】

 

【ううう】

 

波音

【イヌガミの娘ともあろう魔化魍が王との会話が減っただけで、なんなのそのメンタル!!】

 

【ううっ】

 

波音

【王はね。アンタが思っているように、アンタを避けてるわけでも、アンタを嫌ってるわけでもない!!】

 

【じゃあ】

 

波音

【頼りにしてるんだよ!!】

 

 これは言うまでもないが、白や美岬、姉の春詠と同じくらいに朧は頼られている。

 本人は気付いてなかったみたいだけど。

 

【頼りに?】

 

波音

【そう。アンタは強い。この家族の中でも1、2を競う実力を持っている。もしも王が今回の時のように何処かへ消えたら。悪魔魔化魍みたい奴らと戦って王が怪我をしたら。そんな時に館にいるひなや幼体や非戦闘の家族を守るのはアンタや紫陽花たちや白たち従者だけ。

 中でもアンタは歴代最速の王の娘。その速さなら敵を直ぐに殲滅でき、影に侵入するその力で家族の危機を救える。

 そんなことが出来るのは5代目魔化魍の王の血を引く朧しか居ない!!】

 

 兎に角言いたいことは全部言えたけど、これで通じないんだったら王が帰ってきた際に、言ってもらった方がいいかも。ていうかそっちの方が効果ありそうだけど。

 

【………うん。そう考えると少しは気が楽になったよ。ありがとう波音】

 

波音

【ハアー、別に気にしなくていいよ。兎に角アタイたちは待っていよう。無事な姿の王を】

 

 波音は、王たちの帰還と昇布が無事に目覚めることを願った。




如何でしたでしょうか?
美岬の魚呪刀は元々8振りでしたが、波音に刺鱏を譲渡したことで7振りになりました。


ーおまけー
迷家
【ふう。おまけコーナー、始っまるーーーよ!!】

迷家
【……はーーー。けど、どうしよう】

迷家
【変な人のお願いで、今日は鬼たちに関わる天狗とその武器の解説しないといけないんだけど】

迷家
【産まれて間もない僕がそんなの知ってるわけないでしょ!!】

迷家
【あーーでも、どうにかしないと】

「痛っ!」

迷家
【うん。誰?】

「っててて、何ここ?」

迷家
【あーーーー!!】

「うわっ、ビックリした!! って、迷家?」

迷家
【春詠ーー!! 助かったよーーー!!】

「はっ?」

迷家
【天狗と戦輪獣の説明できる?】

「天狗と戦輪獣? ああ、あれね。まあ出来るけど、ていうかここ何処?」

迷家
【此処はおまけコーナー♫ まあそれは置いといて、説明。お願い!!】

「ええ〜」

迷家
【お願いっ!! 説明してくれたらあの2人(ひなと潜砂)の勉強の手伝いするから】

「うう、仕方ないですね。じゃあ、手伝ってね」

迷家
【うん。僕は約束はちゃんと守るよ】

「じゃあ天狗から説明するね。
 天狗っていうのは、鬼の素養持たない者が増えたことによる後継者不足や魔化魍との戦いによっての鬼の死亡で減った戦力を猛士の上層部が苦渋の末に生み出した鬼とは違う戦力。
 でも殆どが鬼の素養を持たない人間だから鎧を纏うことが出来ない。私が抜ける前は擬似鎧を制作するとか言ってたけど、いつ出来るのやら」

迷家
【つまり変身できない鬼モドキ?】

「まあ、そういう解釈で問題ないよ。次に戦輪獣だね。ディスクアニマルは分かるよね」

迷家
【うん。ちっこい円盤状の鬼の持ってるやつでしょ】

「そう。あれは本来、魔化魍を捜索したりする際に作り出した物でね。今では戦闘に使うこともあるけど、魔化魍を足止めする程度の力しかないし魔化魍の攻撃で簡単に壊れる」

迷家
【うん】

「そこで、本来の捜索目的の為に使うディスクアニマルを戦闘用に変えて、より大型化させたのが戦輪獣」

迷家
【戦輪獣】

「そう。私の知る範囲でならば、茜鷹を改良した茜羽、瑠璃狼を改良した瑠璃牙、黄檗蟹を改良した黄檗盾ってところかな。
 まあ、他にもディスクアニマルあるから多分そっちも戦輪獣として作ってるんだろうけど」

迷家
【………ねぇ、春詠ってさ猛士から送られた間者ってことはないよね?】

「どうしたの急に?」

迷家
【春詠は猛士では死んだ扱いらしいけど、やけに猛士の最近の事情に詳しい。まるで猛士からそういう情報を知らされてるかのように】

「私が間者? ハッハッハッ! 間者ね。確かに迷家達からすれば間者って言われてもおかしくないか」

迷家
【何で笑うの!】

「いやいや、失礼。やっぱり幽は昔と同じで周りから愛されてるなって思ってね」

迷家
【なんで主人(あるじ)が出てくるの?】

「幽のことを心配してるから聞いたんでしょ。もしも私が猛士の間者だったら幽から私の記憶を消して、私を始末できるように、迷家は記憶弄る術を持ってるんでしょ」

迷家
【……………】

「沈黙は肯定って判断するよ。私が最近の猛士の状況を知ってるのは、突鬼と衣鬼から情報を聞いたからね」

迷家
【あの2人が?】

「そう。捕虜としてもう少し丁重に扱って貰えるよう幽に頼んであげるって話をしたら、少しはマトモな扱いされたいのか、少しだけ話してくれたよ」

迷家
【確かにあの2人の扱いは少し変わってたけど、それが理由?】

「そう。幽にちょっとお願いしてね。幽も家族に害さえなければってねそのお願いを聞いてくれた。
 まあ変身道具は白たちが交代交代で管理してるし、万が一の逃走防止もあるからね。それと信用するかは別としてあえて言うけど私は猛士の間者じゃないよ」

迷家
【証拠はあるの?】

「………証拠ね。証拠になるようなものは持ってないから言葉で信じてもらうしかないから何とも言えないけど。
 私は元々ね人間と魔化魍で研究出来れば良かったのに、上が先祖が偉大な鬼だから鬼になれってね。はんば無理やり鬼にされたから正直言って、そんなに猛士に思い入れはないの」

迷家
【…………】

「それに私は幽の姉だけどそれと同時に幽の家族である貴方たちの姉でもあるんだから、間者なんってやるわけ無いでしょ」

迷家
【姉?】

「幽のお姉ちゃんだからね。幽の家族なら全員可愛い弟や妹みたいなもんだよ。でも1番は幽だけどね」

迷家
【そっか。可愛い弟。…………今はその言葉を信じるよ。でも、もしも主人(あるじ)を裏切っていたことがわかったら】

「その時は、この首を獲っていいよ」

迷家
【………おっと、そろそろお別れの時間だね。じゃ、バイバーーーーイ♫】

「また、会いましょう」


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記録玖拾捌

長らくお待たせしました更新完了です。
今回は幽冥&鉄による最後の九州地方支部である福岡支部の話です。
この話と次の話で九州地方編は終了となります。


SIDE福岡支部

 僅かな明かりしかない暗い一室に2人の男がいた。

 

「そうか。連絡は付かないか」

 

「はい。1時間前の定時連絡後から何処とも連絡は付きません」

 

 1時間前の九州地方支部同士の定時連絡の後、ある時間を境に各支部からの連絡が途絶えた。

 ひとつの支部だけならば連絡係の休憩とかを考えるが、同時にということはあり得ない。ましてや警察と関わることがある熊本支部の支部長である千野が連絡を怠るのはあり得ない。つまり、その状況が起きるのは–––

 

「佐賀支部と脳見支部長をやった魔化魍の王が来たのでしょうか?」

 

「そう考えるのが妥当だろう」

 

 2人の考えることは同じ。

 ここ最近、複数の支部を襲撃して猛士の構成員たる鬼や人間を殺した魔化魍の王とその部下が九州地方支部に襲撃を掛けた。他の支部も連絡がつかないことから残すはここ福岡支部のみ。

 

「………疾鬼」

 

「はい」

 

「支部のものを連れて此処から退避しろ」

 

「なっ!!」

 

「わしが時間を稼ぐ。なに、ただでは死なぬ。部下の魔化魍と可能なら王の首を斬ってやるわい。この老骨の身で若い命を救えるならの」

 

 その手に握られるのは白鬼に変身するための変身音叉 白夜。

 鬼として何十年も戦った男はまだ未来と可能性を持った若い者が死なぬように後先短い自身の命を使って、魔化魍の王と戦おうとしていた。

 しかし、千葉は油断していた。

 

「ご無礼を」

 

「ぬおっ!! は、や鬼……な…ぜ?」

 

 突然振りかけられた粉によって、意識が朦朧としてそのまま床に倒れそうになる千葉を疾鬼は支える。

 

「申し訳ございません武司さん。貴方は死んではいけない人です」

 

 支えられた千葉はやがて静かな寝息が漏れる。

 疾鬼が千葉に振りかけたのは対魔化魍捕獲眠粉。今は存在しない北海道第1支部支部長 志々田 謙介が開発したもので、幼体の魔化魍や1人前の鬼としての試験対象となる魔化魍を捕獲する際に用いられるもの。

 それを人間用に薄めた粉。元々が魔化魍用なだけに千葉の意識を容易に奪った。

 そして、千葉が眠るのを待っていたかのように部屋の外にいた同僚の鬼と天狗が入ってくる。

 

「いいか。魔化魍達に見つからずに総本部に武司さんを送るんだぞ」

 

「はっ!! 命に変えましても」

 

「師匠、今までありがとうございました」

 

「あとは頼んだぞ」

 

 鬼は疾鬼から支えられていた千葉を預かると疾鬼は裾から猛士創設期に開発された数少ない秘伝の1つ。巨大化するディスクアニマル 大茜鷹を取り出し、それを天狗に渡した。

 秘伝とも言われる巨大ディスクアニマルでも戦輪獣を操る天狗ならば魔化魍たちに見つかることもなく無事に本部まで千葉を運んでくれる。それに無銘とは言え、自身が直接指導した中でも期待している弟子の鬼には万が一のための時間稼ぎを頼んだ。

 見つかったとしても弟子のこの鬼ならば時間を稼いで、その隙に天狗が千葉さんを本部へ運ぶ。

 そして、地下室の隠し扉から千葉を運ぶ2人の姿を見送ると。

 

「はっ!!」

 

 変身音叉を音叉刀に変えて、隠し扉の扉の取手を破壊する。

 切断面を隠せば、隠し扉があった壁とは思えないただの壁になった。

 

「これで、ここの存在は気付くまい」

 

 隠し扉の破壊とはつまり脱出の手段を断つということ。

 だがそれで良い。さっきの話からすると、おそらく他の支部はもう壊滅したと考えた方がいい。

 それに、上にいる鬼や天狗たちとは既に話している。

 例え、最後の1人になろうとも魔化魍に一矢報いる。死んだ他の支部の人間、犠牲になった一般人、誇り高く戦って死んだ鬼や天狗たちのために。

 

「来たか」

 

 外から聞こえる喧騒を聞き、疾鬼は福岡支部の戦力を纏めて魔化魍たちへの迎撃準備を始めた。

 

SIDEOUT

 

 自身を襲撃してきたアロケルを蛇姫たちに任せた幽冥と鉄は目的地である福岡支部に転移した。

 転移した場所は既に福岡支部の敷地内。

 転移したのが福岡支部の人間の出入りが激しい交代時間だったらしく、大量の人間が転移した2人を見る。

 

「なんだアレは!!」 「魔化魍と女の子!!」

 

「あれは、女の子は人間じゃないぞ!!」 「おい、あの魔化魍、『不明』だぞ!!」

 

「鬼と天狗を呼べ!!」 「鬼たちが来るまで、俺たちで時間を稼ぐぞ!!」

 

 突然現れた、幽冥と鉄に福岡支部の人間たちが各々が声を上げながらも魔化魍が襲撃を掛けたことを理解し、鬼と天狗を呼びに行く者、時間稼ぎをしようとする者に分かれて幽冥たちの前に立つ。

 

【王よ。こんな奴らに貴女が力を振るう必要はない。私がやろう】

 

 そう言うと鉄は自身の身体に張り付く浅蜊貝を数枚剥がすように取りそれを手裏剣のように投げる。

 

「がっ」 「うぐっ」

 

「ぎゃあ!!」 「ぱがっ」

 

 くるくると軌道を描きながら目の前の人間たちに浅蜊貝が身体に刺さり、肉を抉り、首を刎ね、四肢のいずれかを落とす。

 一瞬にして時間稼ぎと鬼と天狗を呼ぼうとした人間の半数が死に、また半数も無事とは言えないが生き残った。

 

【まだ生きてますね。では、もう1度】

 

 再び、浅蜊貝を手に取り投げようとした瞬間–––

 

【なっ!!】

 

 鉄の手にある浅利貝は何かが当たって砕け、ぱらぱらと地面に破片が落ちた。

 

「全員下がれ、あとは俺たちがやる!!」 「早く避難を!!」

 

「魔化魍『不明』。同士の仇を取らせてもらう」

 

「魔化魍にこれ以上好き勝手にさせるか!!」

 

「仲間の仇が来たんだ、抜かるなよ!!」

 

 鉄の浅蜊貝を砕いたと思われる音撃管を構えた鬼や天狗たちが福岡支部の人間たちを庇うように現れて私や鉄を睨む。

 鬼と天狗に守られた人間たちは動けない仲間を連れて、支部の建物とは反対の森の方に逃げて行った。

 おそらく、街の方に逃げたのだろう。追いかけて情報を猛士に渡さないようにするべきだろうが、おそらく追いかけたところで情報は別の手段で報告されているだろうし。

 

 だから、人間は追いかけない。

 目の前の鬼と天狗という鬼の仲間たちを倒すことに専念する。

 

「魔化魍の王!! 何が目的でこの支部にやってきた!!」

 

 鬼の1人がそんな質問をしてきた本当は答えなくても良いけど、どうせ殺すし言って問題ないよね。

 

「うーーん。まあ答えてあげる。私たちの目的は九州地方全支部の壊滅」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「発案者は私の隣にいる鉄。私がこの地方に来たのは事故なんだけどね。鉄から話を聞いて、この計画に参加したの」

 

 私の言葉で何かに気付いたのか鬼の1人が口を開く。

 

「……じゃあ、他の支部から連絡がないのは?」

 

「多分、うちの家族が壊滅させたんだと思うよ。私の家族は優秀だから。今頃は此処を残して他の支部を壊滅させて私が帰ってくるのを待っているんだと思うよ。まっ、そういうわけで早く終わらさせて貰うよ」

 

 鬼の質問に自慢のように家族のことを言い、待たせるのも悪いから早々に終わらせようと口にすると、鬼たちは各々武器を構えて、私と鉄に向ける。

 

「許さん。許さんぞ!!」 「私たちの仲間をよくも!!」

 

「お前を殺し、他の魔化魍も殺す」 「王とはいえ、人間のようなお前など楽勝だ!!」

 

「魔化魍に子供がいたらきちんと殺さないと」 

 

「ああ、幼体がいたらきちんと殺さないとなwwww」

 

「他支部の仇を取る!!」

 

 鬼たちはそんなことを言うが、今言った言葉の中の1つが私の怒りのゲージを上げる。

 

「……………私ね。普段は怒ることがないって言われてる方なんだよ。例え、自分が死にそうになったとしてもその時まで生きていけたことに感謝するくらい。

 でもね………貴方たちのことにちょっと、いやかなりイラついてるんだよね!!」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「許さん? 仲間をよくも? 子供を殺す? 仇をとる? はっ。こっちからすれば同じことを言わせてもらうよ。

 此処の魔化魍たちはお前たちに何か被害を出したか? 遥か昔から此処の自然の一部として山と川と海の幸を喰らう魔化魍たちがお前たち人間を襲ったことがあったか?」

 

「魔化魍は害悪だ!! 存在そのものが許されない!! 此処の魔化魍が人間襲ったことがあるかだと、俺の同僚も魔化魍に喰われて死んだ!! 

 それに魔化魍は人間を喰らう畜生だ。人間を襲わない魔化魍など居るはずがない!!」

 

「へえ〜〜随分と短絡的な思考だね」

 

「何だと!!」

 

「その同僚を喰らったのって、お前らが鬼育成のために魔化魍退治を行って死んだ幼体の魔化魍や魔化魍の仇討ちでしょ。

 そもそも、お前らが小さな魔化魍たちを手を掛けなければその同僚は死ぬことがなかった。

 お前らが魔化魍に何もしなければ鉄が猛士の九州地方支部壊滅を計画することもなかった。

 お前らが魔化魍をそっとしておいてくれればこんなことにはならなかった…………つまり。

 全ては貴方たちの自業自得。因果応報ってこと、少しはその味の薄そうな脳みそで理解できた?」

 

「五月蝿い!! お前も害悪な魔化魍共の王なんだろう。ならお前も殺すだけだ!! 本宮!!」

 

 鬼が誰かの名前を呼ぶと、鬼が後ろから突如現れた。

 

音撃射(おんげきしゃ) 突破強風(とっぱきょうふう)

 

 不意打ちともいうべき、突然吹かれた風の音撃が私の身体を浮かして遠くに吹き飛ばす。

 

「そっちは任せたよ鉄」

 

 飛ばされる前に鉄にそこにいる鬼たちを任せた。

 

SIDE鉄

 鬼の突然の音撃により遠くに吹き飛ばされる王。

 

「そっちは任せたよ鉄」

 

 だが、飛ばされる直前に聞いた言葉で、鉄は王を助けるではなく。この場にいる鬼たちを殺すことにしたのだ。

 

「王は分断した、あの『不明』を倒して、王を倒し、各支部を襲撃している魔化魍も倒す!!」

 

 そう言うのは、不意打ちも同然で音撃を放った鬼だ。その鬼の言葉に賛同する様に鬼たちは音撃武器を取り、鉄に向ける。

 

【……任せたか。ふふふ、なら存分に暴れさせてもらおう】

 

 全部で7人。

 振り向くと同時に手にした浅蜊貝を鬼に投げる。

 

「ぐぶっ」

 

 突然の攻撃に対応出来ず、鬼の喉元に浅蜊貝が食い込み、面の下の口から血の混じった声を上げて倒れる。

 

「海野!! おのれっ!!」

 

 倒れた仲間に駆け寄るも、身体はピクリとも動かず、既に事切れたことが分かると、音撃弦を構えて鉄に向かって突撃する鬼。

 

【ふん!!】

 

「がべえっ」

 

 だが、鉄は右腕を伸ばし、右腕を形作る蛸壷の1つを水の術で生み出した水流で飛ばし、突撃する鬼の頭に命中する。

 鬼の頭は面ごと砕け、割れた面の下から潰れた顔の一部がピンク色の肉片と共に垂れ、そのまま倒れる。

 

「渡辺!! みんな迂闊に近づくな!! 距離をとってチャンスを窺うんだ!!」

 

 僅か数十秒で2人の鬼が死んだことで冷静になろうと、距離を取ることを伝えるが–––

 

「2人がやられて黙ってるわけないでしょ!!」

 

「おお。その通り。俺は右だ。左を頼む!!」

 

「ええ」

 

「瀬島! 樋野!! やめろ!!」

 

 仲間の鬼の声を無視して、2人の鬼は左右に分かれて、鉄に迫る。

 鉄は浅蜊貝を左右に投げて、牽制するも2人の鬼は音撃棒を使って浅蜊貝を割り、徐々に距離を詰める。

 

「「くらえっ!!」」

 

 左右からの音撃棒による挟撃、同時タイミングで繰り出された攻撃はどちらか防いだとしてもどちらかの音撃棒による攻撃が当たる。

 2人の鬼も攻撃が当たると確信した。だが––––

 

「「がはっ」」

 

 同時タイミングの攻撃、どちらの攻撃を防げないのなら、どちらも同時に倒せばいい。

 鉄の身体まで後僅かというところまで接近した2人の鬼の動きを止めたのは、鉄の身体を構成する無数の栄螺の殻から長く伸びた突起物。

 それが攻撃を仕掛けようと宙に飛んだ2人の鬼を貫き、標本のように刺されて止まっている。刺されてない腕や脚を見るとだらんとなっており2人の鬼はそのまま死んでいるのが分かる。死んだのを確認した鉄は伸ばした突起物を戻す。

 突起物が抜けてそのまま落ちる死体はべちゃりと鳴り、刺された傷口から血がどんどん流れていく。

 

「瀬島。樋野。うおおおおおおお!!」

 

 バックルから外した音撃震を音撃弦にはめ込み、音撃を放つために鉄に近付く。

 

「おおお!! 音撃斬 無銘土塊(むめいどっかい)!!」

 

 音撃を放つのに最適な距離に着いた鬼は音撃を放つために音撃震に指掛けると–––

 

【撃たせるわけないだろう!!】

 

 先程死んだ鬼の死体を掴んで、音撃を放とうとする鬼に向けて投げる。

 

「がっ!! くそ!! 動けない!!」

 

 音撃を放とうと動けなかった鬼に死体がぶつかり、鬼の死体の重さで後ろに倒れる。

 

「かぺ!」

 

 さほど離れてなかったからか鉄は倒れた鬼に一瞬で近付いて、その頭を踏み砕く。

 その光景を見せられた鬼は自分だけでも鉄に一泡吹かせてやろうと、後方にいる鬼に呼び掛ける。

 

「小林、援護を!! どうした、小ばや、し」

 

 だが呼び掛けに反応せず、振り向いて見た鬼の視線の先には浅蜊貝で斬られたのか転がっている四肢と心臓を栄螺の槍で貫かれて死んでいる鬼だった。

 

「小林!! そんな」

 

 自分を除いて、最後の仲間もいつの間にか殺されていたことを知った鬼はそれをやった鉄を探すが、何処にも居ない。

 地面が突然盛り上がり、2つの腕が鬼の身体がガシッと掴む。

 

「し、しま、があああ!!」

 

 まさか地面からとは思わずに油断した鬼は一瞬で捕まり、地面から鉄が現れる。

 鉄はそのまま、両手に力を込めて、掴んだ鬼の身体を握り潰す。

 

「がっ、ああ………殺して、やる、こロし」

 

【黙れ】

 

 腕や脚もぐしゃぐしゃになっても鬼は恨み言を垂れ流す、だがそんな言葉など耳に入らず、鉄は更に力を込めて虫の息の鬼にとどめを刺した。

 力を込めた手を離すと、元の原型から大幅に変わった鬼の圧死体が地面に横たわる。

 

【…………ふん。もっと醜い姿にしてやろう】

 

 今までの憎しみと恨みがまだある鉄は先程潰した鬼の死体を持ち上げて八つ当たりのように更に握り潰そうとすると–––

 

「やめろーーーーー!!」

 

 後ろから声が響き、鉄がそこへ振り向くと、1人の鬼が立っていた。

 頭部が濃い橙色で縁取りされ、右米神から生えた牛の如き角、白が主体の茶色の鎧を纏い、ベルトのバックルには通常の音撃鼓よりも大きな音撃鼓が着けている鬼がいた。

 

「………………みんなよく戦った。後は俺が戦う。安らかに眠ってくれ。『不明』!! 貴様を此処で滅してやる!!」

 

 腰に付けられた音撃棒を抜いて鬼は構える。

 鉄は音撃棒を構えた新手の鬼に浅蜊貝を数枚取り、投擲した。

 

SIDEOUT

 

 鉄のいる場所から随分遠くに飛ばされたと思う。

 少し腕に痛みがあるので、腕を見ると少しひび割れていた。音撃を受けた魔化魍の身体のようなヒビを見て、自分の身体の人間らしさも少しずつ無くなっていると理解したが、気にすることはない。

 

「貴様が魔化魍の王か?」

 

 後ろを振り向くと、鬼に似た鎧を纏い背中に円盤を背負った人間が6人立っていた。

 

「だとしたらって、言わなくても分かるよね。そう私が今代の王」

 

 その言葉を聞いた天狗たちは各々の怨みを叫ぶ。

 

「お前らのせいであいつは、あいつは!!」 「鬼だったあの人は魔化魍に!!」

 

「俺の弟も!!」 「私の姉ちゃんも!!」 「我が友も!!」

 

「お前らのせいで、いや、お前のせいで………ごぷっ」

 

「「「「「なっ!!」」」」」

 

 怨みを叫ぶ、天狗たちの言葉を止めたのは勿論、幽冥だった。言葉を止めた天狗の胸には空洞になった穴があり、口元から垂れる夥しい量の血が天狗が間もなく死ぬということを物語らせていた。

 

「ふうーー。で、話は終わり?」

 

 正直言っていることが先程の鬼たちと近しい内容なせいで、同じことを聞くのが面倒くさかった幽冥は怨みを叫んで隙だらけの天狗の1人を一瞬で殺す。

 そんな幽冥の手には札が握られているが、使用したことでぼろぼろと崩れていく。

 

「やりやがったな!」

 

 天狗の1人がそう言うと、天狗たちは背中に背負った円盤を投げ、一斉に天狗笛を吹く。

 すると、円盤はみるみる形を変えて、その姿を前世の世界で見たことのあるものに変える。

 

 

 緑色の猿の姿をした戦輪獣と鈍色の蛇の姿をした戦輪獣が天狗の側で天狗の指示を待っていた。

 

「行け緑大拳!!」

 

 天狗の指示と共に天狗笛が吹かれディスクアニマル 緑大猿がベースとして作られた戦輪獣 緑大拳たちが幽冥にその拳を振るう。

 

「当たったらこれは痛いね」

 

 そう言うと、幽冥の姿はシュテンドウジの力を借りた姿へと変わる。

 姿は変わっても緑大拳たちは動きを止めることもなく、その拳を振るう。

 幽冥はシュテンドウジの瓢箪を使って、緑大拳の攻撃を逸らしたり防いだりするも、緑大拳はかなりの力があるせいなのか、それとも拳の先にチラリと見えた綺麗な石が原因か少しずつ手先が痺れていく。

 

「(あの石ってあれだよね。多分)」

 

 ディスクアニマル 緑大猿をベースに作られた戦輪獣 緑大拳は、全戦輪獣の中で最も攻撃力強化に力を込められた戦輪獣。

 ヒット&ウェイを主体とした攻撃が主な戦輪獣に魔化魍に対しての継続戦闘能力を求めた。

 その結果、何種類もあるディスクアニマルの中で人に最も近い形をした緑大猿が採用され、魔化魍との接近戦用に改良されて戦輪獣 緑大拳が完成された。

 更に緑大拳は拳の一部に加工された鬼石を埋め込まれており、幽冥の手先が痺れつつあるのもそれが理由だ。

 考え事をしているせいか、ギリギリで当たっていないが、緑大拳の拳を掴んで、投げようとした瞬間、後方にいたもう1体の緑大拳の拳が幽冥の身体をくの字に曲げて吹き飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

 緑大拳の拳を受けて飛ばされた先にはいつの間にか移動していた6体の蛇型戦輪獣 鈍色尾が待ち構えており、それを待っていたと言わんばかりに避けた幽冥の全身に巻きつく。

 

「あら、動けないなあ〜」

 

 ディスクアニマル 鈍色蛇をベースに作られた戦輪獣 鈍色尾は他の戦輪獣と比べると戦闘能力は最低と言っても程だが、他の戦輪獣には無い拘束力を持った特殊な戦輪獣だ。

 1体だけでも並の大型魔化魍の動きを封じる強力な拘束力を持った鈍色尾が6体全てが幽冥の身体を拘束する。

 

「〜〜〜♪」

 

 普通だったらその拘束力で魔化魍は苦悶の声をあげるが、幽冥は何事もなくただ縛れているだけ。おまけに口笛を吹きながら余裕を見せる。

 

「舐めやがって!!」

 

「おい、やめろ!!」

 

 その姿に苛立った天狗の1人が仲間の声を無視して鈍色尾の側に立つ緑大拳に天狗笛で指示を出し、無防備な幽冥の顔に向けてその拳を振るう。

 

「なにっ!!」

 

 だが、緑大拳の拳はまるで鋼鉄を殴りつけたかのような音を響かせて振るった拳は砕け散る。

 そして、幽冥は鈍色尾で縛られていない右手を目の前の緑大拳に振り上げる。

 

 ギィーーという金切り音に似た音が響き、幽冥によって真っ二つに切り裂かれた緑大拳の身体は火花を散らしながら左右に分かれて中の機械部品をばら撒いて地面に倒れる。

 

「緑大拳が!!」

 

 天狗たちは驚く。

 見た目は鬼の如き角の生えただけの少女である幽冥が一瞬で緑大拳を切り裂いたということに。

 

「まだだ、緑大拳はもう1体いる!!」

 

 天狗笛でもう1体の緑大拳に指示を送り、再び幽冥に殴りかかる。

 だが、幽冥は身体を逸らして緑大拳の拳を自身の腕近くを縛る鈍色尾の1体に当てさせる。

 勿論、緑大拳の攻撃を受けた鈍色尾の頭は一瞬で潰れて、1体分の拘束が緩み腕が自由になったことで自身を縛る2体の鈍色尾の頭を掴み万力のように力を込めて、2体の鈍色尾の頭を砕く。

 それに続くように残った3体の鈍色尾の身体を纏めて掴むとその身体を纏めて引き千切る。

 さらに幽冥はバラバラとなった鈍色尾の一部を掴むと目の前の緑大拳と緑大拳をけしかけた天狗に投げる。

 

 ビュンという風が天狗たちの間を通る。

 幽冥の前で拳を突き伸ばした姿勢のまま腹に大きな穴を作った緑大拳は崩れ落ち、けしかけた天狗は顔を何かが貫通していて倒れる。投げられた一部は何処にもなく、何処かへ消えた。

 

 天狗たちは鈍色尾を6体、緑大拳1体を破壊し、指示を出した天狗を瞬く間に殺したことに驚愕する。

 幽冥がこのようなことが出来るのも勿論理由がある。

 シュテンドウジには鬼を体現するという能力があり、それは伝承や伝説として伝えられる鬼の出来ることを全て体現することが出来る力

 つまり、幽冥はその力で自身の身体能力を伝承や伝説の鬼と同じにして上記のことを可能にしたのだ。

 そして、戦輪獣のいない天狗はただの人間と変わらない。戦闘手段もない人間に幽冥は鬱陶しく思っていると。

 

【なら、うちがやらせてもらおうか、久しぶりに遊びたいからな〜。ちぃ〜と身体を借りんよ】

 

「(え、シュテンドウジさん?)」

 

 幽冥の意識は内側にいき外側に出たシュテンドウジは瓢箪を下に傾けると透明な酒が地面に溢れていき、地面に垂れるたびに酒はどんどん気化していき、色がほんのりついた煙が天狗ごと空間を包み込んでいく。

 

「何をしている?」

 

 天狗の1人が理解不能な幽冥、シュテンドウジの行動に疑問の声をあげるがすぐに変化が起きる。

 

「の、喉が、があああ!!」 「手が、手が融ける!」

 

「お姉ちゃん、助けて、助けてよぉおお!!」 「うぐ、ゲボッ、ああ……」

 

 天狗たちが悲鳴の声をあげていると幽冥に憑依しているシュテンドウジが唱う。

 

「さあ、さあ、逃れることのできひん酒宴へようこそ!!

 

 漂う酒気は歓迎。

 

 鼻腔を燻り、まずは一杯。

 

 思考を蕩かし止めどなく溢れる絶望と涙に身を捩らせ。

 

 身体を融かす悲鳴は我が身を悦に浸らせ、歓喜に振るわせる。

 

 死を満たし、蕩けた屍を晒し、累々の光景はうちの肴に。

 

 さあ、たっぷり堪能しぃ!

 

 神便鬼毒死屍累々宴(しんぺんきどくししるいるいえん)

 

 ごゆっくり」

 

 シュテンドウジの技の1つである神便鬼毒死屍累々宴(しんぺんきどくししるいるいえん)とは、空間全体をシュテンドウジの持つ瓢箪の中身の酒で覆うという単純な技だ。

 しかし、瀕死の重傷だった五位の傷を癒したシュテンドウジの酒が何故、人間は回復せず苦しむのか。

 

 シュテンドウジの持つ瓢箪の中身は一見はただの酒。だが、魔化魍と人間では効能が違う。

 魔化魍に対しては瀕死の重症だろうと、出来たばかりの欠損だろうとを異常治癒させる回復効果を持ち、人間に対しては匂いを嗅ぐだけで精神異常、吐き気、頭痛、倦怠感に襲われ、酒を呑む、又は気化したものを吸いこんでしまえば何か知らぬ幻覚を見せながら身体を内側から溶かしていく。

 

 その酒を空間全体に気化させて敵を溶かし、味方を回復させるのが神便鬼毒死屍累々宴(しんぺんきどくししるいるいえん)

 

 あたり一面は咽せるほどに濃い酒と血肉の匂いが充満し、天狗たちのいた場所にはピンク色の肉片が一部混じった液体が残っている。

 

「ほら、戻ってきい」

 

 瓢箪の口を上に向けてそう言うと、瓢箪が周りを吸い込むように吸い始めてものの数秒で吸い込むのをやめて、シュテンドウジは蓋を閉じる。

 本当は蕩かし溶かした人間を気化させた酒ごと回収して呑むのだが、シュテンドウジはまだ人間の部分を持つ幽冥には早いために気化した酒だけを回収した。

 すると少しずつ身体の操作がおぼつかなくなってきたことに気付く。おそらく幽冥の意識が戻りかかってるからだろう。シュテンドウジは内側に戻る前にほんの少しだけ瓢箪の中の酒を呑み、満足そうに幽冥の内側に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天狗たちを憑依したシュテンドウジが殺して意識が戻った幽冥は6代目魔化魍の王 イヌガミの力を借りて自身に風を纏わせ、更に追い風を利用し、分断されて鬼と戦う鉄の元へ駆ける。

 

 鉄の居る場所に着いた私が見たのは、様々な殺され方をしている鬼の死体が転がっている中で、双方睨み合う2つの影だった。

 片方は身体を構成している一部が砕け、その破片が身体や地面に散らばっている鉄。

 

 もう片方は鬼石の付いていた先が折られて、ただの木の棒と化した音撃棒を持っている(疾鬼)

 互いに睨み合っているが、鉄は私がいる事に気付き声を掛ける。

 

【王よ。ご無事でしたか】

 

「なに!?」

 

 その言葉を聞いて驚いた疾鬼がこちらに顔を向ける。

 

「(みんな、すまん)」

 

 そして、幽冥の状態を見て戦っていた天狗たちがどうなったのか理解し、疾鬼は心の中で死んだ同僚であり友だった天狗たちに謝罪する。

 だが、それと同時にその悲しみを糧に己が王を清める(殺す)ことが出来ずとも、その腕を1本でも奪ってやると思う。

 疾鬼は折れた音撃棒を捨て、バックルに着いた独特な音撃鼓を外す。

 

「『不明』よ。さっきまでの動きと同じと思うなよ」

 

 本来、音撃鼓は魔化魍に張り付け、そこに向けて音撃棒を振り下ろし音撃を放つのだが、疾鬼の音撃鼓はバックルから外れるとその大きさを変え、外縁に沿って刃が飛び出す。

 疾鬼は慣れた手つきでその音撃鼓(?)を持ち、構える。

 鉄は疾鬼の音撃武器を見て、目の前の鬼が何者か思い出す。

 

【その音撃武器。そうかお前が音撃攻手鼓(タンバリン)使いの疾鬼だな】

 

 音撃攻手鼓(タンバリン)

 本来は魔化魍に音撃を叩き込む際に使う補助的なものである音撃鼓を直接攻撃に転用出来ないかと考えたある鬼の手によって開発された異質な音撃武器だ。

 似た音撃武器でいうのなら響鬼の劇場版に登場した煌鬼の持つ音撃震張(シンバル)だろう。

 だが、音撃震張(シンバル)と違う点を挙げるのなら。音撃攻手鼓(タンバリン)は近接、近距離ではなく音撃弦や音撃管などの中距離から遠距離に分類される武器だ。

 鼓を叩くことで音撃を衝撃波に変えて撃ち出し、例え遮蔽物のある場所に隠れようと衝撃波は遮蔽物を貫通して隠れた魔化魍に命中させる。更には盾のように片手に固定して音撃棒や音撃弦などを装備して戦うことが可能で攻守に優れた音撃武器だった。

 しかし、この音撃武器には攻撃に関して重大な欠点があった。

 衝撃波の命中精度。衝撃波を狙った場所に撃ち当てるのが難しかった。これが音撃となるとさらに難易度は増し、まともな攻撃が出来なかった。当時はまだ沢山いた鬼たちがその音撃武器をどうにか使おうとしたが、まともに使えたの開発者とその友の2人の鬼だけだった。

 それ故に音撃攻手鼓(タンバリン)は大元となった初期型と幾つかの完成型のみしか存在しない。

 

「ここ数年は戦闘に出ることがなかった私を知っているとは驚いた」

 

 だが、この疾鬼はその音撃攻手鼓(タンバリン)を使いこなし、いくつもの魔化魍を清めたという実績を持つ。

 

「だが知ってるだけで私の実力を全て知ったと思ったら大間違いだ!!」

 

 疾鬼は音撃攻手鼓(タンバリン)を叩くと叩いた時に出た音が衝撃波となって鉄に襲い掛かる。

 

【ぐっう!!】

 

「鉄!!」

 

 鉄の身体を構成する蛸壷の1つが衝撃波によって砕かれる。

 そして、幽冥にも衝撃波が迫る。

 幽冥は裾から取り出した札を地面に貼りつけると地面から盛り上がった土が壁に変わり衝撃波を防ぐ盾へと変わる。

 

「ぐあっ!」

 

 だが、衝撃波は土の壁を貫通して、幽冥の顔や脚にごく小さなヒビを生み出す。

 先程と同じように音撃(清めの音)によって受けた傷は身体に響く。誰だって安全と思ってる場所で攻撃を受けたら、動きが鈍る。

 そして、そんな隙を見逃すはずのない疾鬼は音撃攻手鼓(タンバリン)を何度も叩き衝撃波を乱発する。

 音撃によるダメージを受けた幽冥は動き出すのに遅れて、そのまま呆然としてしまう。自分の身に来る衝撃波に目を閉じてしまう。

 

 しかし、衝撃波が自分の身体にこなかった。不思議に思った幽冥が目を開くと、覆い被さるように立った鉄がその身を挺して自分へ来る衝撃波を防いでくれていた。

 

「ちぃ、さっさとくたばれ!!」

 

 その光景が気に食わない疾鬼は音撃攻手鼓(タンバリン)を叩いては衝撃波を繰り返して撃ってくる。

 

「(鉄ありがとう)」

 

 自分の身体を顧みずに衝撃波から身を守ってくれる鉄に感謝しながら、音撃攻手鼓(タンバリン)の衝撃波をどうするのか幽冥は考える。

 衝撃波は今のところ、鉄が防いでくれてるがいつまでその身が保つか分からない。

 

【タンバリンなんて懐かしいな。私が王の頃にも1人いたが敵じゃなかったな】

 

 どうすれば良いかと思ってるとイヌガミさんの声が頭に響く。

 幽冥はイヌガミから聞いた言葉からして同じ音撃武器を持った鬼と戦い、勝ったということを知り、イヌガミに質問をする。

 

「イヌガミさん。もしかしてアレどうにか出来るの?」

 

【ああ。簡単だよ私の力を使えばな】

 

「どうすれば良いの?」

 

【まずはな–––】

 

 

 

 

 

 

【––という風にすれば良い】

 

「ありがとうイヌガミさん」

 

【ふっ。礼ならばあの鬼を早急に仕留めるがいい】

 

「はい!!」

 

 イヌガミさんがそう言うと、イヌガミさんの意思は私の奥底に戻った。

 そして、教えてもらった通りのことをするために先ずは、衝撃波を防いでくれてる鉄の腕を掴んでそのまま自分の後ろに移動させる。

 

【なっ! 王何を!?】

 

 鉄の疑問に答えずに、イヌガミさんの力で風を腕に纏わせていく。普通なら見えないはずの風が可視化できる程までに腕に集まる。集まった風の塊を私は横凪に振るう。

 

「なに!?」

 

 衝撃波は幽冥が振るった腕から放たれた風の塊とぶつかり、何事もなかったかのように消え、その光景を見た疾鬼は驚愕の声をあげる。

 

「何をした!!」

 

 自身の攻撃を無力化した私に鬼は声を荒げる。

 それに対して、私はイヌガミさんから教えて貰った通りのことを喋る。

 

「風を何重にも重ねて、衝撃波を無効化した」

 

 そもそも衝撃波とは音速を超える速度で移動する物体が空気を切り裂くことで生まれる爆発的な衝撃を伴った大気の変動のことを指す。まあ必ずしも音速を超える物体が必要というわけではなく、光や放射線などの電磁波や雷などにおいても衝撃波が発生することもある。

 小規模なものとして、鞭を振るったときに先端部が音速を超えて衝撃波が発生することもある。

 

 まあ、幽冥がやったのは簡単なことだ。上記に書いた通り衝撃波は爆発的な勢いを持った大気の変動。つまり、撃ち出された衝撃波に対して、それと同等の風の塊をぶつけて衝撃波を相殺、無効化したのだ。

 

「まぐれだ! くらえ!!」

 

 疾鬼は再び、音撃攻手鼓(タンバリン)から衝撃波を放つ。

 連続で放たれた3つの衝撃波が幽冥に目掛けて飛んでくる。しかし、幽冥は先程と同じように今度は両腕に風を集める。

 衝撃波が迫るぎりぎりまで溜めた風を同じように振るって風の塊を飛ばす。

 3つの衝撃波は同じように風の塊とぶつかり、そのまま消える。

 

「くそ!!」

 

 同じように防がれれば、それはもうまぐれでもなく現実だと疾鬼は気付く。

 音撃攻手鼓(タンバリン)の衝撃波を無効化すれば疾鬼の音撃武器は音撃以外はただのチャクラムもどき同様。疾鬼は音撃を放とうと準備しようとするが遅かった。

 幽冥の姿はイヌガミを憑依させた姿からユキジョロウを憑依させた姿へと変わり、適度に空気中に存在する水分を利用して氷柱を生み出して、それを疾鬼に向けて撃ち込む。

 

「っ!!」

 

 しかし、棒立ちしている訳ではない疾鬼はただの近接音撃武器となった音撃攻手鼓(タンバリン)を振るい、自身を狙う氷柱を砕いていく。

 

「じゃあ、これはどう?」

 

 幽冥が腕を振るうと猛烈な吹雪が疾鬼に襲いかかる。

 実体のあった氷柱と違い、実体のない吹雪は確実に疾鬼の動きを遅くし、動きがどんどん鈍くなっていく。

 

「はっ!!」

 

 幽冥は吹雪を放ちながら、空中に先程の氷柱よりも長く鋭い氷の槍を4本生み出し、動きが亀並みに鈍くなった疾鬼に向けて撃ち出す。

 

「うぐっがあ!!」

 

「これで動けないでしょ」

 

 幽冥が放った氷の槍は疾鬼の四肢を貫き、手に持っていた音撃攻手鼓(タンバリン)を落とす。そのまま氷の槍の勢いで後ろに倒れる疾鬼の身体を氷の槍が地面に固定する。それを見ると幽冥は鉄に指示を出す。

 

「やりなさい鉄!!」

 

【うおおおおおお!!】

 

 今まで殺された魔化魍たちの恨みや憎しみが鉄の拳に宿ったかのように黒いオーラを纏わせ、拳を振り上げて自身の身体に振り下ろす鉄の姿を疾鬼は見ることしか出来なかった。

 

「くそっ!!」

 

 四肢を幽冥の氷の槍で磔にされた疾鬼は避けることも出来ず、鉄の拳をもろに受けて、ゴキャという骨が砕ける音とブチャと臓物の潰れる音が疾鬼の身体から鳴る。

 

「ごぼっあ……あ」

 

 砕けた面から見える口から大きな血が噴き出る。幽冥はそんな疾鬼の姿を見て、鉄に告げる。

 

「あとは好きにすれば良いよ」

 

 幽冥からの言葉を聞いた鉄は殴りつけた拳を振り上げ、再び、振り下ろす。

 それを繰り返す。徐々に音は肉を鈍器で叩きつけている音しか鳴らなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【計画に参加していただきありがとうございます王】

 

 もう原型が残らないほどに叩き潰され、砕けた鎧の混じったミンチ肉に変えられた疾鬼から手を離し、幽冥に礼の言葉を言う。

 

「気にしないで、私も同じ立場なら思うことは一緒だったから」

 

 そう言いながら、幽冥は手に氷の球を作り出して、福岡支部の建物に向けて投げる。

 氷の球が建物にぶつかり砕けると同時に建物全体は水晶のように透き通った氷に覆われた。

 瓦礫や死んだ猛士の鬼や天狗、人間の死体も建物と一緒に凍りつき不気味でありながら幻想的な景色を生み出した。幽冥は凍った景色をしばらく眺め、鉄に声を掛ける。

 

「じゃあ、行こっか」

 

 音撃攻手鼓(タンバリン)を拾った幽冥の言葉を聞き、幽冥と共に仲間、いや家族たちの待つ集合場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから3日後に猛士は九州地方支部の支部長である千葉を連れた鬼と天狗と命からがら逃げた福岡支部の人間数名が総本部に報告した。

 猛士九州地方全支部は魔化魍の王と王率いる魔化魍の手によって壊滅したと。




如何でしたでしょうか?
今回で遂に九州地方編の戦闘回終了です。
千葉さんが戦うと思っていた読者の皆さんごめんなさい。千葉さんは別の話で戦うことになります。その時を楽しみにしてください。
戦闘回を考えるのが結構時間がかかりましたが、ですが作品を放棄する事なくこのまま作品の完結を目指していきたいと思います。
次の話で九州地方編は終了になります。その後に幕間を書いて、次の鳥獣蟲宴(ちょうじゅうちゅうえん)編に入りたいと思います。


ーおまけー
迷家
【いええーーーい!! おまけコーナーだよーーー♩】

迷家
【今日のゲストはこの魔化魍。では、どうぞどうぞ】

迷家
【………あれ? ちょ、ちょっと待ってね】

迷家
【あーーー!! やっぱり寝てる! 起きてよ!】


【うう、あと〜5時間】

迷家
【長いよ! それにさっきもそう言ってもう10時間寝てるでしょ!! 終わったら寝ていいから起きて!!】


【分かったよ〜〜ふあ〜〜じゃあ、やろっか】

迷家
【じゃ、あらためて、今回のゲスト魔化魍の】

眠眠
【眠眠だよ〜ふあああ〜〜よろしく〜〜】

迷家
【じゃ、今回の質問ね。ズバリ今の主のランピリスとは何処で出会ったの?】

眠眠
【ん〜ランピリスと、え〜と、確か〜〜】

眠眠
【あれ、何処で会ったんだっけ…………ていうかランピリスって誰?】

迷家
【え?】

眠眠
【え? あれ、ここは何処? おじいちゃんは何処なの?】

迷家
【おじいちゃん? どうしたの眠眠?】

眠眠
【眠眠? 誰? それよりもおじいちゃんは何処?】

迷家
【本当にどうしたの眠眠!?】

眠眠
【行かなくちゃ、おじいちゃんを守らなきゃ、大丈夫だよおじいちゃんは僕が守る
 何処、何処にいるの、おじいちゃん!!】

迷家
【あ、あわわ、明らかに聞くとまずい話だったどうしよう!?】

「大丈夫です」

コンコン

眠眠
【おじい………………すぴー、すやーー】

「すいません。あのままだと、あの子が危なかったので、無理やり眠らさせて貰いました」

迷家
【き、君は!!】

ー次回のおまけコーナーへ続くー


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記録玖拾玖

お待たせいたしました。
今回のこの話で九州地方編は完結となります。
前までの話に比べて短いです。
おまけコーナーは前回の続きになります。



 私が鉄と共に福岡支部を滅ぼし、集合場所の洞窟へ着くと。

 

鉄を除く全員

【【【【【【【【お帰りなさい王!!】】】】】】】】

 

 入り口付近で待っていた私の家族が一斉に喋る。

 聖徳太子じゃないから、そんな大人数とは話せないが、全員が私の無事や、計画の成功、戦果などを喋る。

 

「支部長を捕まえた!!」

 

迷家

【ふふんーー♪ どう、僕凄いでしょ!】

 

 そんな家族の話を聞いてる中で驚いたのが、捕虜という形になるのか、蝕や桂、迷家が捕まえた人物たち。

 蝕が捕まえたのは、鹿児島支部で主力だった焙鬼と名を持たぬ名無しの鬼こと無銘の3人の計4人の鬼。焙鬼と呼ばれた鬼は全身を布でぐるぐる巻きにされて放置されいるのだが、不気味な笑い声を上げている。3人の無銘は両手に長釘を突き刺され、脚には纏わりつくように張り付いた食香が足の自由を奪い、自由に動けないようにされていた。

 

 桂が捕まえたのは大分支部で主力であり支部長でもあった閃鬼こと布都 ミタマで、四肢を長斧で斬り落とされており反抗する気力がないのか無気力に洞窟を見ていた。

 

 そして、捕らえた人間で1番驚いたのは迷家が捕まえた宮崎支部の支部長 土浦 ふく。縄で全身を縛られてい蓑虫のように上から吊るされている。本人は命乞いをして騒ぐこともなく、状況に絶望するわけでもなく、静かにぶら下がっていた。

 更に迷家は宮崎支部から大量の鬼の道具などを盗んだらしい。

 そして、今しているのは–––

 

「捕虜で」

 

「はっ!?」

 

 流石に話すのにぶら下げたままだとということで、上から降ろされて身体だけ縄で縛った状態の宮崎支部の支部長 土浦 ふくと話をしていたのだが、驚くほど何もなく終わった。

 一応話をする前に鉄たちにこの支部長の身柄を渡そうとしたが、『我らの復讐は果たせた。後は王が決めたことに従う』と言い、縫たちを連れて、洞窟の別の部屋へ移動した。

 土浦と何の話をしていたかというと、私の名の下に5人の鬼と共に捕虜になるか、今この場にいる九州地方支部に恨みを持つ鉄たちに処刑されるか。

 鉄たちのことを考えれば、私は後者を選ぶべきだろうが、それでも少し残っている人間の心のせいか前者のことも考えてしまう。みっともない命乞いをひとつでもしたのなら、完全に鉄に任せようかなと思っていた。

 しかし、土浦はその2択を聞き悩むそぶりも見せずに『捕虜で』とすぐに答えた。

 あまりにも早い返答に言葉を詰まらせる私に不思議に思ったのか宮崎支部支部長(土浦 ふく)は首を傾けながら問う。

 

「うんと? 何か変なことを言ったかな?」

 

「いいや。そのこともそうだけど、屈辱とか思わないの?」

 

「全然!」

 

 演技かと疑うほどの即答ぶりだけど、本人の目を見ると嘘をついてるように見えない。本当に捕虜で良いと言っている。

 

「王様が不思議そうに思ってるから答えるよ。私はね別に猛士や魔化魍なんてどうでも良いの」

 

「はぁ!?」

 

 今度こそ本当に疑問だ。

 何でそんな思考をする人間が宮崎支部の支部長に選ばれているのかと。

 

「私は、一応宮崎支部の支部長だったけどね。なりたくてなったわけじゃないんだよね。

 宮崎支部の支部長は代々、前支部長からの指名と鬼数名から推薦がないとなれないっていうシステムでね。

 私は興味すら無かった。というか、思えば、何でこんなことしてるんだろうって思ってたよ」

 

 宮崎支部支部長(土浦 ふく)の言葉にどういう事かと首を傾けるとその答えが本人の口から出る。

 

「私はその時は知らなかったんだけど、猛士直営の事務所でバイトしてたんだよ。ある日、資料整理の際に偶然見つけた魔化魍の資料を見て、間違い箇所を訂正したら、何故かいつの間にか魔化魍の資料整理することになり、それで魔化魍の資料も改帳したりしてたらいつの間にか、前支部長こと上司に指名されて、私が資料整理したお陰で生き延びた鬼たちからの推薦もあったとかで、あの宮崎支部の支部長になってたんだよ。

 何で支部長になったのって最初は思ったけどお給料結構貰ってるし、仕事内容も前やってたころとあまり変わらなかったから気にすることもなかったし」

 

 想像だにしない答えだったために、この支部長にいや、猛士に対して私は呆れる。

 確かにお姉ちゃんから猛士の人材不足の話は何度か聞いたけど、いくら何でもなんの事情を知らない一般人に猛士の仕事をバイトでやらせて挙げ句の果てには責任やら何やらが付き纏う支部長に強制的にされて、本人はやってる内容がどんどん変わってる筈なのに気にしないっていうのもどうかと思う。

 

「だから、自分の命も他支部だけど部下達の命も考えるなら捕虜がいいってわけ」

 

 にこやかな笑顔で説明する宮崎支部支部長(土浦 ふく)の言葉で私含め話を聞いていた全員がなんとも言えない顔をしたのは言うまでもない。

 

 結局、捕虜という方向性で捕らえた猛士の人間たちを連れて行くことにした。

 まあ、前にお姉ちゃんが猛士の情報を教える代わりに自分達の扱いをもう少し良くしてくれという条件で交渉し捕虜の鬼2人(突鬼&衣鬼)から情報を貰ったので、約束は約束。

 ちゃんと、あの2人の扱いは少しはマシにしようと思う。そこにこの捕虜達も加われば、2人の精神的にも良いだろうし。

 そんなことを幽冥はたった今捕虜となった宮崎支部支部長(土浦 ふく)を見ながら思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕虜をどうするか決めた後、私と鉄は隠れ家の外にある山道に来た。

 

【王。ありがとうございます】

 

「いいよ別にお礼を言われることじゃないし」

 

 私はそう言いながら、鉄と石を積んでいく。その石の下にはこの九州地方脱出を行った際に亡くなった魔化魍の形が残った亡骸と清められた魔化魍の塵と灰が埋められている。

 本来なら墓石を1つ買い、それで墓を作ろうとしたが九州地方の壊滅を聞いた猛士が墓石を目にして破壊する可能性がある。それを避けるためケルンと呼ばれるものを作っている。

 ケルンは高地地帯や稜線、山頂付近で組み立てられる積み石のことで、山の頂上を特徴付けることと特定のルートを示す道標、そして埋葬場所を示し慰霊するものだ。これならば、猛士は石が積み上げられたものとしか認識しないだろう。

 この九州地方で死んでいった魔化魍たちの魂の安らぎになればいいと思い。

 

「それは?」

 

【………私の盟友コダマの遺したものです】

 

 鉄の手には樹木から流れる樹液を固めた長剣が握られていた。

 本体は古い樹木の姿をしており、不特定域に『コダマの森』と呼ばれる特殊空間を何もない場所に作り出す。そして森に迷い込んできた人間を捕えて、等身大の木の皮の人型の傀儡を使って襲い掛かるという魔化魍。

 

「しかし、コダマは巨大な樹が本体だった筈だけど?」

 

【そうです。コダマは本体が清められても傀儡である人型を使って鬼と戦っていました。度重なる鬼との戦いと今まで受けた音撃で負傷し、九州地方から逃がそうとした幼体の魔化魍たちの護衛として戦いましたが、幼体の魔化魍を逃す殿となって清められました】

 

 その話の通りなら従来のコダマよりも長く生きたコダマなのだろう。劇中においては装甲響鬼の最強音撃 音撃刃 鬼神覚声を防ぐ頑強さを誇った傀儡。しかし、本体が傷付けられたことで弱体化し、威吹鬼の音撃射 疾風一閃によって倒された。

 しかし、このコダマの傀儡が本体が無くなっても音撃を何度も受けたと鉄は言っていた。つまり、劇中のコダマよりも遥かに強大な力を持った傀儡だったのだろう。

 鉄は積み上げた石の上にその剣を突き刺し、手を合わせる。私も同じように手を合わせる。

 数秒又は数分か経ち、手を合わせるのを止めて、私は服の裾から札を取り出し、コダマの剣に貼り付ける。

 

「これで猛士からはこの剣はただの花にしか見えない」

 

 私が貼ったのは貼られてる間はその形が別のものに見えるようにする札。貼った私にはコダマの剣にしか見えないが。

 

【すごい。本当に花に変わっている】

 

 貼った者以外にはこれが花に見えている。当初はこれを買った墓石に貼る予定だったが、墓を認識できなくなるのはということからケルンに変え、目印となるものにこの札を貼るという話になった。そして、再びケルンに向けて手を合わせる。

 幽冥と鉄の死んだ魔化魍たちの魂の安らぎを願った黙祷は白と縫が迎えにくる時まで続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間経った。

 隠れ家だった洞窟の外には幽冥や家族たちがいた。

 そんな家族たちの視線の先に鉄がおり、先程まで居た隠れ家の洞窟の入り口を破壊していた。鉄曰く、『私たちは王の家族となった。九州地方支部も壊滅したことで安全だが、それでここに住んでは王たちがピンチの時に助けれない』と言い、有用な隠れ家1つを残して、全ての隠れ家の入り口を鉄たちは手分けして破壊していた。

 破壊活動が終わり鉄たちが集合場所に集まったのを確認すると幽冥たちは蛇姫の方へ目を向ける。

 

「蛇姫。分かっているでしょうけど」

 

 白が服から鉄扇を取り出し、蛇姫に脅しのような質問をすると。

 

蛇姫

【だ、だ、大丈夫です。ここに来る前に調整しましたので、問題はありません!!】

 

 鉄扇にビビりながらも蛇姫は万全を期して、正確に丁寧に調整した『転移の札』と答え、それを聞いて問題ないと思ったのか白は鉄扇をしまう。

 

「じゃあ、蛇姫お願いね」

 

蛇姫

【かしこまりました】

 

 私のお願いを聞いて、蛇姫は転移の準備に入る。

 新しい家族と捕まえた捕虜と共に帰ろう。私たちの家へ。

 蛇姫が『転移の札』を使うと、辺りを光が覆い、そこにいた幽冥たちの姿は影も形もなく消えていた。




如何でしたでしょうか?
九州地方編完結しました。
次回は、幕間となります。
今のところは猛士視点と妖世館にいる鬼視点、最初の家族VSある魔化魍を考えています。


ーおまけー
迷家
【き、君は!!】

迷家
【ランピリス!!】

「はい。ランピリスです」

迷家
【なんで君が?】

「これが理由です」

迷家
【それって、眠眠のパイプ】

「このパイプはあの子の身体の一部いや本体ともいうべきものです。
 眠眠の精神状態をこのパイプが教えてくれたんです」

「まあ、それは置いといて、私が聞きたいのは……………眠眠に何を言ったんですか?」

迷家
【んぐ!!】

「このパイプが先程の状態になるのは2つあるんですよ。
 1つは、あの子が怒りに支配されたとき。
 もう1つは、あの子の過去に関わる何かを聞いたとき」

迷家
【過去のこと?】

「ええ。詳しいことはあまり言いたく無いのですが、あの子は私の前の所有者である人間の想いで産まれたツクモガミなんです。ですが、ある事件が理由で」

迷家
【…………ごめん。僕のせいで】

「いいえ。これは話していなかった私も原因です。今はダメですが、いつか話す時がくるでしょう。
 それまでは、胸の奥にしまっておいてください」

迷家
【分かった…………………あ、ごめんねみんな。今日はここまでにしておくね。次回のお話で会おうね。じゃ、バイバイ】


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幕間
妖世館での鬼の1日 突鬼編


今回から幕間になります。
幕間の予定は、妖世館で囚われた捕虜や捕虜じゃない鬼の1日を3つ。

猛士のとある派閥視点。

最初の3匹VSある魔化魍軍団。
を予定しています。今回は捕虜たちの突鬼視点の話です。


 よお、久しぶりだな。え? 誰だって。

 俺の名前は佐賀 錬。鬼としての名は突鬼。

 北海道第1支部に居て魔化魍と戦っていたが、あの蛇野郎(マシンガンスネーク)にやられて捕虜になっちまった。

 ………って、誰に言ってるんだよ俺は、まあ、いっか。

 

 捕虜となって数ヶ月経った。

 最初の頃は囚人服のようなズタボロな服に動きの制限をする鎖、牢屋のようなスースーと風通しのある部屋であったが、蛇女(蛇姫)に付けられた腕輪(?)(双方の呪紐)で制限用の鎖は外されて、猛士の情報を話すと言う交渉でズタボロな服とあの牢屋から少しマシな程度の服と狭いながらも普通な部屋(外から鍵が掛かり地下にあるので窓は無い)に変わった。

 ほんと、あの服からこの服に部屋も変わったのは良かった。眠ろうとした時、寒く床で眠るせいで毎日身体中が痛かったので本当にありがたい。

 此処での生活に慣れ始めたと言っていいのだろうかと最近思う。

 

屍王

【ハハハ。今日も美しいな愛衣】

 

「はあーーー」

 

 今日もあのミイラが部屋に現れ、愛衣に愛の言葉を掛けている。

 同時期に捕虜となった愛衣に毎日欠かさず話している。最近では、反論するのも諦めたのか溜め息による返答が多くなった気がする。

 

屍王

【腕を出せ愛衣】

 

「はいはい」

 

 ミイラの言葉通りに腕を出す愛衣。

 その腕に何かを嵌めて、ミイラは笑う。

 

屍王

【どうだ】

 

「これは?」

 

 愛衣の腕には宝石の付いた金色の腕輪が着けられていた。

 

屍王

【我が自作した腕輪だ。お前のサイズに合うように作った】

 

「つ、作った!?」

 

屍王

【ああそうだ。お前は我が妻となる者だ。ファラオの妻となるからにはそれに合った装飾を作るのも夫たる我】

 

「ですから!! 私は貴方の妻になりません/////」

 

 ………愛衣。口ではそんなことを言っておきながら少し頬を赤らめていたら説得力がねえよ。

 ミイラから貰い物があった日にはミイラが部屋から出て少し経つと貰った物を眺めては恋する乙女のような顔をしているのを俺は知ってる。本人はそんな顔をしてる自覚も無いのか聞いてみたら必ず違うと反論する。

 しかし、本当にこの魔化魍のせいなのか日に日に、嫁になるのもいいかもしれないと思っている愛衣の姿に俺は何度心の中で驚いたことか。

 

屍王

【さあ往くぞ】

 

 いつの間にか愛衣の手を掴み部屋の外に出ようとするミイラ。

 

「ちょ、ちょっと待って。勝手に出たら厳罰をってあのメイドの妖姫が」

 

屍王

【心配はいらん。王から許可を貰い、我の部屋に連れて行くだけだからな】

 

「それもそれで、問題なのよ!!」

 

屍王

【いずれお前も住むことになるのだ今のうちに慣れると良かろう】

 

「そう言って、何度、ひゃっ!」

 

屍王

【ほう。そんな声も出せるのか、またお前のことを知れた。

 では往くぞ。ハッハッハッハッハッハッハハハ!!】

 

 ミイラは愛衣の腕を引いて身体を持ち上げて、童話の王子様のようにお姫様抱っこで抱え、恥ずかしい声を聞かれた愛衣は赤くなった顔を手で隠し、ミイラに連れられて部屋から出て行った。

 まあ、甲虫の王様が白馬の王子というのはおかしいと思うが。

 愛衣も居なくなり1人になった。特にやることもないし、このままもう一眠りでもとベッドに戻ろうとすると––––

 

【ふむお主だけか。だが問題はないか】

 

 そんな声が聞こえて、俺は眠ろうとしたベッドから降り、今日は大変だと思った。

 

 

 

 

 

 

 妖世館の地下に身体を動かしたい家族のためにお試しで造られた多目的訓練室。

 そんな部屋の中で突鬼と荒夜が戦っていた。

 突鬼は主武器であった音撃擦弦(バイオリン)が壊れたままなので、付属武器である弓刀を使い、荒夜は普段腰に差す刀ではなくシンプルな木刀を使っていた。

 突鬼は目の前から迫る剣閃を必死に防ぐ。対して剣閃を繰り出す荒夜は呼吸の乱れもなく静かに木刀を振るう。

 縦、横、斜めとあらゆる角度から迫りくる木刀による攻撃、殺し合いではなく鍛錬だからということで荒夜は刀を使わず、木刀を使っていた。だが、それでも当たり所が悪ければ骨が折れ、木刀の筈なのに切り傷が無数に出来る。

 一方的ともいえる荒夜の攻撃を受ける突鬼。どんどん体力も減り疲れが鎧越しに表れるようになっているのを見た荒夜は木刀を納める。

 

荒夜

【ふむ。ここまでにしよう】

 

「はーーー、はーーー」

 

 その言葉を聞き、仰向けに倒れた突鬼は荒くなった息を必死に整えようと激しく息を吸う。

 

荒夜

【やはり鬼と戦うのが経験になる。次も頼む】

 

 そう言うと和服男(荒夜)は去る。

 和服男(荒夜)が去り、息を少しずつ整えて体を起こそうとしたとき–––

 

「よう」

 

 低い声とともに顔にピトッと何か冷たいものが当てられる。

 

「また、お前か?」

 

 俺がこの生活する原因となった魔化魍とは違う異形の蛇野郎(マシンガンスネーク)だった。

 その手には俺の顔に当てていたボトルが握られていた。

 

「お前とはなんだ。少なくてもあいつとやり合ったお前を労おうとしてる俺に感謝するべきだろう」

 

「どうでもいいよ」

 

 そう言って、蛇野郎(マシンガンスネーク)の持ってきたボトルを掻っ攫い、そのまま飲み始める。

 疲れた身体に染み渡るスポドリを飲みながら目の前の異形に目を向ける。

 

「どうだ。此処での生活は慣れたか?」

 

「慣れたというより慣れるしかねえだろ」

 

「シャシャ、確かにな」

 

 そう慣れるしかない。

 鬼である俺と、いや俺たちを使って訓練しようとする魔化魍は此処には意外と多くいる。

 さきほどまで戦っていた和服男(荒夜)もそうだし。

 他にも蝙蝠女(常闇)鯱虎(拳牙)人魚剣士(美岬)柴犬(世送)馬野郎()鰐野郎()クソ餓鬼(零士)蠍野郎(レイウルス)といったメンツが週に何度か捕虜として捕らえている鬼から1人または2人選んで対鬼戦の訓練として戦わさせられている。

 大抵は鬼である俺たちが戦闘継続が不可能だと判断すると、訓練は終了する。稀に希望者が重なると日にちをズラすか、そのまま連戦することもある。

 ちなみに時折だが、捕虜ではない慧鬼や調鬼、紗由鬼といった鬼も鍛錬に付き合うこともある。

 

「ありがとうな」

 

「何がだ?」

 

 俺の言葉に疑問で口にする蛇野郎(マシンガンスネーク)に内心恥ずかしいが答える。

 

「こんな形だが生かされてることにさ。

 お前と戦い俺は負けた。だが負けたのは俺が弱かったからだ、それにお前の気まぐれか何かは知らねえがそれのお蔭で俺は生きてる。

 そこに対しては、感謝してるよ」

 

 俺は何を言ってるんだと思いながらグチャグチャな思考を戻すためにボトルの中身を一気に飲む。

 

「シャシャ、そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか居なくなっていた蛇野郎(マシンガンスネーク)を気にせずに自室である部屋に戻ろうとすると部屋の近くから声が聞こえてくる。王の家族の誰かが話してるのかと思いながら近付くと声の主の姿を見つける。

 この館の主人にして魔化魍の王となる少女(幽冥)と護衛の妖姫()と話す姿があった。

 

 この少女がこれから魔化魍の王となるとは俺にはとても思えなかった。

 見た目はそれこそ人間の少女だ。年齢も言うなら学生くらいだろう。学校を楽しみ、友達と遊び、青春を謳歌する筈だ。

 しかし、妖姫と魔化魍を家族と呼び、佐賀支部の『佐賀3人衆』の錫鬼を殺した姿を見たことがある俺はなるほどと思うこともある。

 

 そんな王になろうとする少女のお蔭で俺たちは生きている。

 魔化魍と戦う鬼の末路なんざ決まっている。魔化魍に喰われて終いだ。猛士と関わって、鬼となった人間にまともな死などない。俺自身もいつかは魔化魍に殺され、この身を喰われると思っていた。

 だが、今はどうだ?

 

 捕虜として囚われて、決まった部屋の中で暮らす。

 部屋の中でなら反抗の意思がないのなら何をしても構わない。時折くる王の魔化魍との訓練相手をするだけで良い。

 こんな姿を過激派に見られたら、『猛士のために魔化魍を道連れて死ね』と俺の身体に対魔化魍用音撃爆弾を括り付けて言うだろう。

 

 そんな考えごとをする俺を見つけた少女(幽冥)妖姫()を連れて俺に近付く。

 

「こんばんは。ええと突鬼でいいんだっけ?」

 

「ああ。でなんのようだよ」

 

「貴様、王に対してその「白いいよ」し、しかし」

 

「いいよ。白、ちょっと悪いけど、突鬼と話したいから少し向こうで待ってて」

 

「そ、そんな!!」

 

 妖姫()がガーンと擬音がつきそうな顔をして項垂れる。項垂れながら下に向く顔を私に向けると『何かしたら殺す』というような目つきで私を睨み、その場から離れた。そんな状況もあってか俺は少女(幽冥)に質問する。

 

「なあ、何でお前は俺たちを殺さないんだ」

 

 ずっと心の中で思っていたことを目の前の少女(幽冥)に聞く。

 

「うーーーん。あえて言うのなら、王の気まぐれってところかな」

 

「なんだそれ」

 

 そんな理由に今の俺はあんぐりと口を開いた滑稽な姿を晒してるだろう。

 

「まあ、貴女たちは私の家族が連れてきた捕虜。別に殺すのは構わないけど、無闇に殺しても意味がない。

 だったら反抗心をなくさせて、飼い殺しにすれば良いかなってね。あ、でも貴女たちが私の家族に手を出さないというのが確認できたらそれ(呪紐)もいつか外せるかもね」

 

「そ、そうか」

 

 少女(幽冥)の言葉を聞き考える。

 果たして、そんなことが出来る日が来るのだろうかと。

 

「大丈夫。貴女たちの身の安全は私がキッチリ家族に言っとくから安心して」

 

 その言葉を信じるとは言えないが、少なくてもこの少女(幽冥)が明確に俺たちを殺すつもりがないのは分かる。

 気まぐれと言うが、おそらく本当の理由は別だろう。その理由はおそらく––––

 

「おっと。もうこんな時間だね。私は部屋に戻るから、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

 そう言って、少女(幽冥)は先に待たせている妖姫の側に行き去っていった。

 

 部屋に入り、和服男(荒夜)との鍛錬で疲れた身体でベッドへと向かう。隣のベッドを見れば愛衣の姿はない。この時間になっても居ないということはおそらく今日はミイラのところで寝かされているのだろう。

 ひとりだと広く感じるのは愛衣がいない時のいつものことと考えながら俺はベッドに入り目を閉じた。




如何でしたでしょうか?
今回は捕まって捕虜となった猛士の鬼視点 突鬼編でした。
突鬼は大多数を占める過激派と少数存在する共存派とは違う傍観派に属する鬼です。上から命令されれば魔化魍を清めますが魔化魍を倒すのは積極的ではないです。
次回は捕虜ではなく主人公の姉(元兄)の慧鬼編です。


ーおまけー
迷家
【イエーーーーイ!♪ おまけコーナーの時間だよ】

迷家
【今日のゲストはこの人!!】

「おい。竜の落とし子」

迷家
【なに?】

「ここはいったい何処なんだよ!!」

迷家
【ここはおまけコーナー。変な人に頼まれて僕が司会をしてるんだ〜♪】

「へ、変な人?! って誰だよ!!」

迷家
【さあ〜、僕は知らな〜い。結構楽しくやらせてもらってるから〜
 あんま気にしてないんだよね〜♪】

「気にしろよ!!」

迷家
【まあまあ、気にしなーーい気にしなーーい。シワが増えるよ〜】

「お前のせいだろうが!!」

迷家
【じゃ、ツッコミは置いといて】

「置くな!!」

迷家
【突鬼への質問は、う〜〜ん。
 あ、そうだ。突鬼】

「な、なんだよ」

迷家
【突鬼って、(つがい)っている?】

(つがい)?……………はああああああああ!! なんでそんな質問が出るんだよ!!」

迷家
【だって、人間って(つが)って命を繋いでいくんでしょ?
 おまけに鬼って代々受け継いでいくみたいな感じじゃん。
 だったら産めよ増やせってなっててもおかしくないじゃん!!】

「お前ら魔化魍にそこらへんの事情がどう伝わってるのかはこの際、置いておいてやる。
 そんな質問に答えるのもバカバカしいと思うが、あえて言うなら俺に番もとい男は居ねえよ」

迷家
【なんで? 突鬼って言動はともかく綺麗だと思うんだけど】

「言動は余計なお世話だよ!! でも、まあ、ありがとう//」

迷家
【ん? なんか言った?】

「なんでもねえよ!!」

迷家
【で、なんで(つがい)が居ないの?】

「結局そこに戻るのかよ!! まあ、答えても問題ないから言うがな」

迷家
【うんうん】

「確かに猛士じゃあ、子を残せ、技を残せ、歴史を残せって上のアホどもが言っているが、そもそもな。いつ死ぬかも分からねえ仕事をやってて子孫残せると思うか?」

迷家
【無理だと思うよ〜】

「そう無理だ。
 俺は名持ちの鬼だからな。上が決めた見合いの席の話をよく上にされたが、正直言って余計なお世話って言ってやったよ」

迷家
【おお】

「何で赤の他人如きに自分の人生決められなければいけねえんだって、そん時特にウザかった上ぶん殴って北海道第2支部に飛ばされたんだよ」

迷家
【で、マシンガンスネークに負けて捕虜になったと】

「そうそう。って余計なこと言うな!!」

迷家
【でも事実だし♩】

「今ほど音叉がないのにムカついたことはねえよ」

迷家
【じゃ、時間的にお別れかな。じゃあ次のおまけコーナーで会おうね。
 バイバーーーーーイ♬】

「おい!! 何処いくんだよ。せめてこっから出せよ!!」


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妖世館での鬼の1日 慧鬼編

はい。新話になります
今回は妖世館で囚われた捕虜や捕虜じゃない鬼の1日。
家族ポジを確立してる慧鬼こと安倍 春詠の話です。


 朝7時。

 私はこの時間にきっかり起きるように心掛けている。

 側に置いてある赤い眼鏡を持って部屋を移動する。

 

 大きな三面鏡の前に立って私は顔を洗う。

 顔を洗う際に鏡に映る姿を見ていつも思う。目の前に映る女性が今の自分(・・・・・・・)なのだと。

 私の名前は安倍 春詠。この館の主たる安倍 幽冥の前世の兄で、現在は血の繋がりはないが姉をしており、そして不本意ではあるが初代魔化魍の王 オオマガドキを倒した『8人の鬼』の末裔で、その力を受け継いだ鬼でもある。

 

 しかし、転生したらまさか性別が変わっているとは予想外だった。

 男の頃だった昔とは異なり女性の身体に色々苦労させられた。特に女性の日に関しては女性はいつもこんな思いをしているのかと思った。

 前世の自身の身の回りの女性はその日の影響が比較的に軽いものが多く、ベッドから動けなくなるほどの重たいものを経験していた知り合いが居なかったということもあって軽く見ていたのが駄目だった。

 

 私はどうやら重い方だったらしく、それによる体調不良では調鬼もとい月村 あぐりに色々お世話になった。

 そんな前世の頃の違いを思いながらも身の支度を整えて普段着に着替えて、今日の支度を終えると共に部屋を出る。

 

「オハヨウ春詠サン」

 

「おはよう黒」

 

 部屋を出ると手にファイルを持った黒が立っていて、挨拶をしたので私も挨拶をする。

 当時は私が幽の姉(元兄)ということもあってか私にも様付けで呼ぼうとしていたが、正直、そういうのに興味がないので、なんとか、さん呼びにさせるのに苦労した。

 

「コレヲ」

 

 そう言って、黒が渡したのは一冊のファイル。

 このファイルは、私が幽に頼んで作って貰った私への仕事。

 私は猛士では死亡していることになっているため、自身に関わること以外では迂闊に外に出れない。かといって、この館でぐうたら過ごすのは違う。その為、幽に頼んで仕事を貰った。

 仕事といっても、家の手伝いや魔化魍や戦闘員との戦闘訓練、教育など多岐にわたるが難しいことではない。

 

「ジャア、マタ後デ」

 

 黒はそう言うと、仕事に戻り私も渡されたファイルの中身を確認する。

 

 

 

 

 

 

 今日の予定が書かれたファイルを黒から受け取り、別れてすぐに春詠は妖世館の外の広場に行った。

 ファイルに挟まれた紙の要請で向かった春詠は、そこで待っていた者たちから頼まれて慧鬼に変身し、その者たちと模擬戦を行っていた。

 

「はー、はー、はー」

 

 息を荒くしながら立つ慧鬼の前にはこの妖世館に所属する戦闘員である眼魔コマンドこと黒服たちとその上司ともいえるインセクト眼魔が同じように息を荒くして立っていた。

 

「ふー、………流石は8人の鬼と言うべきかしら」

 

「あまり、それを言わないでくれない。私に過去の栄光を押し付けようとした馬鹿を思い出すから」

 

「そう。それはごめんなさい」

 

「そろそろ時間だね………今日はここまででいいかな?」

 

「ええ。私はなかなか楽しめたし、黒服たちの訓練に戻るわ」

 

 そう言ったインセクト眼魔は身体を無数の蜂に変えて、黒服たちも揺らぐようにその場から消えた。

 それを見送った私は汗を拭き、消臭スプレーで汗の匂いを消してから着替え、次の場所に向かう。

 おそらく今日やること、もとい頼まれた仕事の中で一番疲れるだろう部屋に。

 

 

 

 

 

 

 着いたのは『勉強部屋』と呼んでいる妖世館2階の端にある部屋。

 この場で勉強させる子に合わせた長机で座って待つ3人。雛と波音と潜砂だ。

 幽からのお願いで前世では教育免許を持っていたこともある私に頼まれた仕事。週に一度この部屋で勉強を教えている。

 朝に別れた黒も補佐として入り、時折、黒が教えることもある。

 

「じゃあ勉強をしようか」

 

 春詠による勉強が始まって数分経った。

 

「「もう、いやだぁああああ!!」」

 

 また、いつものように勉強していた箇所が分からなくて、扉を破壊して2人は廊下に飛び出る。

 

「はあー。波音少し待ってて、黒は波音を見ていて」

 

「ハイ」

 

「うん。いってらしゃい」

 

 波音の返事を聞き、私は2人が壊した扉から出ていつものように2人を追いかけようとする。

 普段ならこれで、時間がかなり削られてこっちの体力があまりない状態にさせられてからなんとか捕まえ、そこから勉強を教える羽目に合うのだが、今回はいつもと違った。何故なら–––

 

迷家

【はーーーい。こっから先は行き止まりだよ♪】

 

 2人の逃亡者の先には幻術を使って、生み出して壁で2人の足止めをする迷家がいた。

 なんでこの場に迷家がいるのかと聞いてみたら。

 

迷家

【僕はね約束はちゃんと守るんだよ♫】

 

 そう言った。

 

「もう! 迷家邪魔しないで!!」

 

「勉強やだ。もうしたくない!!」

 

 不満文句を言うのはいつものこと。

 だが、まるで迷家には勝算があるのか妙な笑みを浮かべている。

 

迷家

【そっっか。残念だ〜なーー。

 僕ね。王からこんなもの預かってるんだ〜】

 

 そう言って迷家が取り出したのはラッピングされた小さな袋。それに見覚えのある私は迷家の笑みの意味がわかった。

 

「それって!!」

 

「幽冥お姉ちゃんのお菓子袋」

 

 幽が自作した自慢のお菓子。

 昔は私が勉強していた際に糖分補給やおやつとしてよく出してくれたのが懐かしい。……………今度時間があったら幽に頼んでみようか。

 

迷家

【そう!! 王が勉強を頑張った子のご褒美にって、お菓子を作ってくれたんだ〜♬

 で〜も〜頑張らない子にはあげられないし、真面目に勉強してる波音の分残して、残った2つは僕が食べちゃおかな。あーーーーん】

 

 器用に尻尾を使ってお菓子を入れた袋を口元に持っていこうとする迷家を見て2人は慌てる。

 

「あーーー駄目!! 頑張るから!! ねっ潜砂!!」

 

「……う〜勉強嫌だけど、ご褒美、お菓子、じゅるり。うーーー頑張る」

 

迷家

【じゃあーーー部屋に戻ろう。波音が寂しかがってるかもしれないからね。

 それに頑張ったら僕はちゃんとお菓子あげるからね】

 

「「はーーーい」」

 

 迷家はそう言って、2人を部屋に連れて行ってくれる。

 迷家がいつかの時に約束してくれたことを守ってくれるとは思わなかった。

 こう言うのは彼女(?)に失礼だが、正直約束のことを忘れるか、約束のことを放棄して2人の味方になると思っていた。だからこうして約束を守ってくれたのは嬉しい。少しだけ私の迷家への好感度が上がった。

 

 

 

 

 

 

 3人への勉強が終わり、迷家は約束通り勉強を頑張った3人に幽が作ったお菓子をプレゼントしていた。

 そして、私はある時間が迫っているので急いで『勉強部屋』を出て、その部屋に向かっていた。

 

 目的の場所に着いた私は軽く身だしなみを整えて、部屋に入る。そこに居るのは前世においては私の妹であり、今では魔化魍の王として日に日に魔化魍に近くなっていく幽がいた。

 映画とかでよく見る大きな机が部屋の主役と主張するように置かれおり、私を待っているかのように、いや実際は待っていた。

 

「遅かったねお姉ちゃん」

 

「いつものように勉強中に2人が逃げてね。それが理由で終了時間がズレちゃって」

 

「そっか。そろそろあの2人もNORMALにしたら。波音はそろそろHARDなんでしょ」

 

「うーーん。今のEASYの段階で逃げるのに、NORMALに変えたら絶対に2人は二度と勉強しないでしょ」

 

「…………そうだね」

 

 私の言葉にその光景が想像できたのか、幽はため息を吐く。

 この2人が言う、EASY、NORMALというのは、前世で春詠が考えた教育レベルのことである。

 EASY、NORMAL、HARD、LUNATIC、ULTIMATEという5つのランクに分けており、勉強させる子に合わせて徐々に上げていく。

 因みにこの教育レベルに基づいて春詠が勉強を教え、ULTIMATEまで行った生徒は卒業後に世界的な教授になったり、大会で新記録を打ち立てたり、ノーベル賞を受賞したり、無敗の弁護士になったりしていた。

 

 波音も当時は、EASYで勉強を嫌がっていたがNORMALになってから勉強に楽しさを見出したのか、今では積極的に勉強している。雛と潜砂は、もう少しEASYで様子を見なければ、NORMALには上げられない。

 

「まあ、勉強はお姉ちゃんたちに任せてるしね。何も言わないよ。じゃ、ご飯にしよう。もうお腹ペコペコ」

 

「そうだね。白お願いね」

 

「はい」

 

 そう。元々、幽の元に来たのは今日の報告もあるがもうひとつ理由がある。それは家族揃っての夕食のため。

 週に1度、私と幽が揃って夕食を食べる日がある。主に、食事をしながら私が猛士にいた頃の話や前世にはいなかった魔化魍の話、幽が私と会うまで今の家族(魔化魍のほう)と何をしていたかの話などをしている。

 

「本日は、睡樹と命樹の育てた新鮮野菜のシチューです」

 

 白が持ってきた2枚の皿には程よい大きさに切られた彩り豊かな野菜の入ったシチュー。温められた直後によそったために湯気が上がっている。

 

「「いただきます!!」」

 

 うん。スプーンに収まるサイズでちゃんと切ってる。前は大雑把に切っていたから、それに比べたら全然違う。そんなことを思いながら私は一口。

 

「うん。野菜の火の入りも良い、しょっぱくないし、盛り付けも良い、腕を上げたね」

 

 料理を力任せに作ろうとしていた頃に比べれば、本当に腕を上げたと思う。

 

「今日はどんな話をするお姉ちゃん」

 

「そうだね。じゃあ私が猛士で会ったね全裸で魔化魍と対話しようとしたある支部長の話をしようかな」

 

「何があったの!!」

 

「うん。そう思うよね。あれはね––––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––って感じだったかな」

 

 私の話す話に時折質問をはさみながら会話して食べてるとあっという間に私と幽の皿のシチューは無くなっていた。

 

「ごちそうさま」

 

「ごちそうさま。美味しかったよ白」

 

「ありがとうございます」

 

 幽には見えないように小さくガッツポーズをした白は、中身の無い皿を片付けようとテーブルに近付く。

 食べ終えた皿を回収する白に少し顔を寄せる。

 

ボソッ「今度、新しい料理を教えてあげる」

 

ボソッ「ありがとうございます」

 

 白に耳打ちのように小声で伝えると同じように白も小声でお礼を言う。

 白は花嫁修行として幽に知られないように私に料理を教わっている。実は幽との食事の裏で私は白の料理チェックも行っている。基準が満たせたら新しい料理を教えるという約束。

 

「じゃあ、明日もあるしおやすみ幽」

 

「おやすみお姉ちゃん」

 

 私はそのまま部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 食事が終わり自室に戻って寝巻きに着替え、ベッドに倒れる。

 幽には言っていないが、私は幽が魔化魍の王となったら人を捨てる覚悟がある。この話は白や美岬には話している。2人は否定するかと思ったが、むしろ逆で喜んでくれた。

 だから私は例え幽がどんな王になろうとも私は姉として、いや家族としてずっと側にいる。

 例え、世界を敵に回したとしても、幽がいない世界に未練は無い。そんな世界なんて破壊してやる。




如何でしたでしょうか?
内に秘めたる元兄の姉の話です。
そういえば主人公と姉である春詠の苗字が一緒なのは2人とも前世の苗字を名乗っているからです。
さりげなくおまけコーナーで約束していたことを守る迷家を入れてみました。


ーおまけー
迷家
【はいはーい。おまけコーナー始まり始まり】

迷家
【今日のゲストは悩んだんだけど、決まったよ♬
 ではご登場。この子です!!】

飛火
【ゲストっていうのはよく分かんないけど呼ばれた飛火だよ。
 迷家の質問に答えればいいんだよね?】

迷家
【そうそう。
 じゃあね〜〜〜今回の質問はズバリ。葉隠とはどういう関係?】

飛火
【葉隠? 友達だよ、いや散歩仲間?】

迷家
【あ、あらら期待してたのとなんか違うよ】

飛火
【ん。何を期待してたの?】

迷家
【ううん。なんでもないよーー】

飛火
【で、なんで葉隠が出てきたの?】

迷家
【んっとね。単純によくふたりで散歩してるからね。なんか、ね?】

飛火
【そうだね。最初は私ひとりで散歩してたんだけどね。いつからだったかな葉隠が散歩に一緒に来るようになったのは】

飛火
【このカメラ貰ってからだったかな。何気なく色んなところを撮ってたんだけどね。
 写真を見た葉隠がね。いい場所を教えるからって、あまり他の子には教えない場所に連れてってくれたんだよ】

飛火
【其処の景色がすごく綺麗でね。そんで何枚も写真を撮ったんだよ。
 そしたら葉隠が『また、いい場所を教えるよ』ってね】

飛火
【その言葉通り、散歩に行くたびにいろんな景色のところに連れてってもらって、それで今じゃ、ふたりで散歩する様になったんだよ】

迷家
【そうなんだ。じゃ、今日はここまでまったーーーねーー】

飛火
【あれ終わり? じゃあ、葉隠と散歩に行こうかな】

迷家
【…………】

迷家
【ウーーーン。これは強敵かもしれないよ葉隠】












葉隠
【僕は諦めないよ!!】


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妖世館での鬼の1日 無銘編

新作です。
妖世館で囚われた捕虜や捕虜じゃない鬼の1日のラストになります。
今回は捕虜側で最近捕虜になった3人の無銘と元宮崎支部支部長 土浦 ふくの話です。
因みに支部長は短いです。


 んん。……………今日も朝を迎えられた。

 

 え、お前は誰だ? …………そうだった俺は名前を名乗っていなかった。

 俺は鹿児島支部に所属していた無銘の鬼。名前は板垣 千種(ちぐさ)。五感の中で視力に優れており、弦系の音撃武器を使う。

 鼠の魔化魍()に捕まり、魔化魍の王とその仲間が住む館で捕虜になった………………って誰に言ってるのだ俺は?

 

 同僚がいる筈の隣を見れば、そこには何もなく既に労働に行ったのだろう。

 

「起きたか? お前の労働内容だ」

 

 起きた俺の前に立っているのは『首長(渦潮)』の育て親であるウミホウズの妖姫()。顔の下半分から全身が隠れる程の大きさのコートを着てるせいで視線しか表情が分からない。

 ぶかぶかな袖で見えないも伸ばしてる手に乗せられた紙を渡されると、そのまま部屋の外へ出て行った。

 

「はあ、頑張るか」

 

 労働は、俺たち猛士の捕虜へ課せられた仕事のようなものだ。雑用事に魔化魍や戦闘員と呼ばれる異形の訓練相手など色々ある。

 王と親密な関係にある(春詠)敵対心のない鬼(あぐり、練、愛衣)は軽い仕事だが、俺たちには容赦がなく重労働とも言えるものが多くあった。それでも2週に1度程の休みはある。

 

「取り敢えず着替えて、労働に行くか」

 

 そう言った俺は此処で渡された服に着替えて、労働に向かう。なにせ早く行かないと厳罰という名のお仕置きを執行されるからだ。

 

 

 

 

 

 

 そうして、俺はこの館のいろいろな労働を終わらせる。

 本日最初の労働はこの館に溜まった洗濯物の運搬と洗濯物を干すこと。クラゲビの妖姫()が洗い終わった洗濯物を外で待機してるイッタンモメン(鳴風)シロウネリ(昇布)に渡して、彼らが絞った洗濯物を広げて物干しに掛けていく。簡単に思われるだろうが意外と大変だ。見間違いでなかったのなら、今持ってきた大籠が向こうに5個くらいあった筈だからだ。

 両手で持つのがギリギリな大きさの大籠が後5個。つまり、往復を含めて後、10回位も同じ大きさのものを運び、絞られた洗濯物を干すという作業をやる。これが今日最初の労働。

 

 洗濯物が終わり、最後の大籠をクラゲビの妖姫()に返してから次の場所に向かう。

 次に着いたのは、家庭菜園以上畑未満という感じの農地。

 そこに居たのは2体の等身大植物魔化魍で、ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)が手に持つピンセットと白い濁った液体の入った霧吹きを渡してくる。

 ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)が道具を渡すと、もう1体の仙人掌頭の魔化魍(命樹)と共に野菜に向かう。

 俺はそのまま、野菜が実る場所に行き、葉っぱや茎、枝を注意深く観察する。するといるわいるわ野菜の外敵がうようよと。

 この労働は他の労働よりも注意する必要がある。なにせ、此処で育てられた野菜のいくつかが俺たちの食事に回されるのだから。もしもこの外敵を逃せば、俺たちの食事の量が減ってしまう。

 ピンセットで茎に発生する油虫を取っていく、ピンセットでも取れない小さいやつには霧吹きを吹きかけて流していく。そうして1時間位経った。

 全ての野菜に対して作業が終わっただろう。ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)が自身の腕で作った日陰場所で休んでると、ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)が近づいてくる。何か文句を言うのかと思ったら、グッと手を突き出してくる。

 その手には熟して真っ赤なトマトがあり、それを俺の顔に向けてトマトが潰れない力加減で顔に押し付けてくる。トマトを受け取ると、ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)がそのまま座り込むように俺を覗き込んだ。

 食っていいのかと質問すれば、向こうは頷いたので、お言葉に甘えて頂いた。

 程よい水分が口の中に広がり疲れた身体に染み渡る。美味しかった。それを伝えたら、俺の持っていた道具を持って、次の場所に向かえと指示を受けて、農地を離れた。

 

 それから『縫いぐるみ()』に追われて着せ替え人形のように振り回され、アズキアライ()の吸血小豆用の肥料として血を少し抜かれ、鼠の魔化魍()から変な薬品を飲まされて景色がぐるぐる回転したり、と散々な目にあった。

 そして、次が今日やる最後の労働だろう。

 部屋に入ると俺を待っていたのか仲間が俺のもとに走ってくる。

 

「遅い!!」

 

 捕られられた無銘の鬼の中での紅一点で、俺の幼馴染。

 浅見 千枝(ちえ)。五感の中で触覚に優れており、管系の音撃武器を使う。

 

「まあ、まあこれで2人でやらなくて済んだんだから」

 

 同じく捕らえられた無銘の鬼で、俺の親友。

 内海 千弘(ちひろ)。五感の中で嗅覚に優れており、鼓系の音撃武器を使う。

 

 そして、俺たちの視線の先にはバケガニ(鋏刃)サザエオニ(穿殻)クラゲビ(浮幽)が待っていた。

 

鋏刃

【…………】

 

ルルル〜、ルル、ルルル

 

穿殻

【よろしくね】

 

「「「鬼変化!!」」」

 

 無銘の鬼は名を持たぬ故に名前の代わりに『鬼変化』と言い、無銘の鬼に変身する。

 板垣たちは無銘の鬼に変身し、目の前の戦闘準備万端な魔化魍との戦闘が始まる。

 

「今回は連携を得意とするバケガニたち。うまく分断させよう」

 

「でも、そう簡単に分断させてくれるのか?」

 

「やるだけやってみますか」

 

 労働もといこの戦闘では、この館に住む様々な魔化魍が戦う。

 一昨日の時には顔と尾が白骨化した蛇の魔化魍()とレインコートを着た愛らしいペンギンの魔化魍(小雨)だったし、その前の時は小さい人魚の魔化魍(波音)だった。

 日によって戦う魔化魍の数も異なるし戦う魔化魍の戦闘方法も異なる。

 今回の相手は戦うのは2度目にもなるバケガニ(鋏刃)たちで、連携を活かした戦い方をする。

 攻めを担うバケガニ(鋏刃)、防御に徹するサザエオニ(穿殻)、場を掻き乱す妨害のクラゲビ(浮幽)。前の戦いもその連携によって敗北した。前回の悔しさもあるのか千枝は分断の提案を出す。

 しかし、相手は連携に戦い慣れている3体の魔化魍とはいえ、分断された戦いをしなかったことはないはずだ。

 そうこう話してると–––

 

穿殻

【ねえ?】

 

「はい。どうしました?」

 

穿殻

【今日は分かれて戦おうか?】

 

「え。いいんですか?」

 

 まさかの向こうから連携ではなく個々で戦おうかという提案に俺は驚く。

 

穿殻

【僕たちは連携だけじゃないってことを教えてあげる】

 

 サザエオニ(穿殻)がそう言うと、バケガニ(鋏刃)クラゲビ(浮幽)も動く。

 クラゲビ(浮幽)は千枝の腕に触手を巻きつけて遠くに投げ飛ばす。サザエオニは千弘に向かって突撃して千弘は音撃棒で交差して防ぐも勢いを止められずにそのままズルズルと動かされる。

 そして、俺の目の前にはバケガニ(鋏刃)が飛び出し、口から溶解泡を吹き付ける。

 

 バケガニ(鋏刃)の溶解泡を横に転がって避け、音撃弦をバケガニ(鋏刃)に向けて振るう。

 しかし、バケガニ(鋏刃)は右の鋏で音撃弦を挟み、空いている左の鋏を俺に向けて突き刺そうと突き出す。その攻撃に対して、俺は挟まれてることで固定されてる音撃弦を利用してそれを軸に回転して避けて、音撃弦を挟む右の鋏を蹴り飛ばす。

 蹴られた衝撃で鋏は外れて自由になった音撃弦をバケガニ(鋏刃)に向けて再び振るう。

 バケガニ(鋏刃)は身体を反転させて藤壺だらけの背の甲羅で音撃弦の攻撃を受け止める。

 自慢の視力で藤壺から泡を噴き出そうとするのを見た瞬間にその場から飛ぶように離れて距離を取る。距離を取った直後に藤壺から泡が噴き出て、それが地面に垂れると床を溶かして煙をあげる。

 距離を取るとバケガニ(鋏刃)は動かずに鋏をカチカチと鳴らしてこちらの動きを見ている。

 俺は他の2人がどうなってるかのか気になり2人の方に視線を向ける。

 

 サザエオニ(穿殻)と戦う千弘は迫る触手を音撃棒で振り払って、隙を見てはサザエオニ(穿殻)の殻に音撃棒を振り下ろすが、本人はその攻撃に動じることなく、違う触手で千弘の身体を噛みつこう迫る。

 しかし、嗅覚に優れた千弘は迫る触手の臭いに気付いて、迫る触手に音撃棒を叩きつける。触手が怯んだら、また殻を再び攻撃する。

 

 クラゲビ(浮幽)と戦う千枝は音撃管で撃ち続けるも、クラゲビ(浮幽)は遊ぶように宙を泳ぐように空気弾を避けて、2色の炎を灯す触手から放つ火炎弾で攻撃している。

 勿論、千枝はその火炎弾を避けてるが、避けた先で待ち構える触手に戸惑いはするも、あいつの自慢である触覚を駆使することで捕まらずに済んでいた。

 他の2人の戦いようを軽く見て、距離をとったバケガニ(鋏刃)に向けて俺は音撃弦で再び攻撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 戦いが始まって数十分経過していた。

 最初は手を抜いてたのだろう。だが徐々に手を抜くのをやめて、本来の強さで戦うバケガニ(鋏刃)たちの苛烈な攻撃に無銘の鬼たちは追い詰められる。

 

「がぼっ!」

 

 千弘はサザエオニ(穿殻)に首元を触手に巻きつかれて呼吸困難にさせられた後に頭から地面に叩きつけられて気絶、変身が解けたことで戦闘終了。

 

ルル、ルルルルル、ル

 

「ぐぅう、が!!」

 

 千枝はクラゲビ(浮幽)に触手で関節を極められて数秒後に鳴った音が聞こえると意識を無くして、変身が解けたことで戦闘終了。

 

ンキィ、ンキィ

 

「がぁああ!!」

 

 俺自身も一瞬の隙で斬られた腹から流れる血を感じながら意識が朦朧とする中でも音撃弦をバケガニ(鋏刃)に向ける。

 バケガニ(鋏刃)は口から溶解泡を吹き出し、俺はそれを避けようとするが脚がもつれて溶解泡を足先に受けてしまい、鎧が一部溶けて、当たった脚には火傷にも似たような傷が出来る。

 

「また、か……」

 

 痛みと朦朧する意識の中、最後に見たのは閉じた鋏を鈍器のように振り下ろすバケガニ(鋏刃)の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ませば、いつもの部屋にいた。俺たちが戦闘訓練の労働で怪我をした際にはここに運ばれる。因みにここの天井を見るのはこれで5度目だ。

 布団を捲れば、斬られた腹部と火傷らしい傷のある所には包帯が巻かれていた。

 隣を見ればベッドの上で上半身を上げて話す千枝たちが居る。

 

「また、負けた」

 

「まあ、勝つことはないでしょ。俺ら鬼になって間もない無銘だし」

 

「でも悔しい!!」

 

 千枝が声を荒げて答えるが、千枝の気持ちは分かるし、千弘の言っていることも分かる。鬼になったのだ、俺たちの家族を奪った魔化魍を倒せる存在になった筈だ。

 だが、魔化魍に負けて捕虜にされた。同じように捕まった土浦支部長が王との話によって俺たちは死ぬことはないらしい。だが、死なないだけであって、今日のような怪我は戦闘訓練の労働がある日にはよくある。

 そして、怪我をすれば鬼である自分たちを人を喰らう魔化魍たちが怪我を治療する。

 死んだ仲間が今の姿を見たらなんと言うのだろうか、恨み言か怒りか。

 

「寝るか」

 

 俺の声を聞いて口論するのをやめて布団を被る2人を見て、俺も再び寝ることにする。こうして、斬られた腕の回復のために俺たちは眠る。

 明日の昼辺りにはおそらく怪我は治っているだろう。まあ、腕が治るまでの休憩時間を貰えたと思えばいいかと考えながら。

 こうやって、俺たちの魔化魍に課せられた労働をするだけの1日が終わる。

 

SIDE土浦

 私が魔化魍の王の少女との話し合いによって死ぬことはなく、他支部の鬼と共に捕虜として過ごしている。

 しかし、何故だろう–––

 

「あ、それ。此処に入れた方がいいですよ」

 

「うん? おお、本当だ。お前が来てから整理が楽で助かる」

 

「いいえ。こんなことしか出来ませんし」

 

「次は、向こうだ。それを、持って、移動。残りは、俺たちが、持つ」

 

 やっていることが猛士でやっていたこととあまり変わらない。

 まあ、その理由は分かっている。なにせ私は元々ただのバイトだった。いつの間にか支部長になってたけど。

 私は魔化魍と戦う角でも、現地サポートをする飛車でも、情報収集をする歩でも、武器開発をする銀でもない。

 どちらかと言えばデスクワークを主とする金に近い支部長だろう。

 鬼から成り上がった支部長と違い、なんの力も持たない私に戦闘が発生する労働をまず論外。他の労働もやってみたが長い間のデスクワークのせいか体力はなく数分も持たず筋肉痛で倒れる羽目になった。

 こうもやる労働がないと向こうもどうするべきかと悩み、その結果がこの地下室の資料整理だった。

 監視役兼整理手伝いとして、魔化魍が2体常に監視でついている。

 

「しかし、本当に非力だの」

 

「他の、捕虜たちと、全然、違う」

 

「それ、は、そうですよ」

 

 擬人態の術というもので人間に変身しているフルツバキ(古樹)ヌリカベ()

 今も少し大きめな本を2冊持っただけで腕がプルプルして、後数分じっとしてたら多分、本を落として筋肉痛で倒れる。

 

「まあ良いか。お前のお陰で効率よく作業できる。手伝うと言いながら去ったどこかの馬鹿と違ってな」

 

「仕方ない。あれは、そういうもの、と、理解すれば、いい」

 

 誰のことかは分からないが、2人は苛立ちと諦めの混じった風な顔をしながら私よりも多く資料を運んでいく。

 

「(私も取り敢えずは与えられた労働を全うしよう。此処で生きていくにはそれしかないし。死にたくないしね)」

 

 そう心で思いながら土浦は労働に励むのであった。




如何でしたでしょうか?
コロナが流行る前の元のストーリーでは、本当は土浦 ふくは死亡する予定でしたが、なんか唐突に支部長の捕虜がいてもいいかという悪魔魔化魍の囁きに従って生存させてしまいました。
ですが、本編に登場する回数は無銘の鬼3人同様に極めて少ないです。
幕間で時折出るかもしれないという位です。
ちなみに千種が種族名と見た目呼びの理由は種族名を知っているのと知らない種族に分かれてるからです。
次回は猛士に存在するとある派閥の視点をお送りします。


ーおまけー
迷家
【イエーーイ、おまけコーナーの時間だよ!! シェキナ、ベイベー!!】


【ど、どうした突然!?】

迷家
【いつも同じだと飽きが来ると思ったから〜今日はこんな感じでやってくゼー!!】


【おい。その話し方をやめろ】

迷家
【今日のゲストは最近、暴炎たちとなにか話し込んでる桂だぜーーー!!】


【お前に何を言っても意味がないというのはよーーく分かった。
 やめないのなら帰るぞ】

迷家
【( 0w0)ウェィ!! …………分かったよ〜。いつも通りに喋るよ〜】


【それでいい。 …………で、なぜ俺なんだ】

迷家
【ふぇ。いや〜〜なんとなくっていうか。
 偶々見掛けたから〜っていうか…】


【…………】

迷家
【ちょっ!! 無言で帰ろうとしないで!!】


【馬鹿らしい。付き合ってられん】

迷家
【むぅ。堅物ヅラめぇ〜〜】


【ヅラじゃない。桂だ】

迷家
【帰ると言うのならぁ〜、桂のあだ名をずっとヅラって呼んでやる〜!!】


【ヅラじゃない。桂だ!! というかなんだそのあだ名は!!
 妙に頭に残るのが腹立たしい!!】

迷家
【唐突に思いついたの、それで質問に答えてくれる?】


【はーーー。変な名前で呼ばれるくらいなら質問に答えるのが賢明か。
 で、どんな質問だ?】

迷家
【うんとね。自己紹介の際にも言ったけどさ、暴炎たちと何をしてるんだろうと思って】


【ああ。アレか。
 別に知られたところで問題は無いから言うが、お前の思っているようなことでは無いぞ】

迷家
【じゃ、何やってるの?】


【アレはな。我らの同士が集える会を作ろうと思ってな】

迷家
【同士?】


【ああ。爬虫類魔化魍家族の会というのを作ろうと思ってな】

迷家
【へえ〜〜。メンバーは?】


【今は俺を含めて、暴炎、三尸、屍の4名だ】

迷家
【それで何をするの?】


【まあ、特に決まったことは考えていないな。そうだな親交を深める交流場と情報交換というところか】

迷家
【じゃあ、これからメンバー増えていくの?】


【増やしていきたいものだ】

迷家
【ふーーん。あ、そろそろ時間だ。じゃあ、また次の回で会おうね♬
ほらほら、ヅラも】


【ヅラじゃない!! 桂だぁあああああ!!】

迷家
【やばっ、逃げろ!!】


【待てぇぇぇぇ!!】


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暴走する鯱と刀鍛冶

前回の投稿して改めて安倍家読んでたらある魔化魍2体の話を書くのを忘れていたことに気付き、急遽書きました。
今回の話で各話の中で度々出てくる魔化魍(書き忘れた魔化魍と相棒の魔化魍)が出てきます。
それといつかの話でも書きましたが、安倍家の魔化魍を改帳して出そうと思っていますので、これの投稿が終わったら、一度安倍家の魔化魍を全部消そうと思います。


 魔化魍が捕虜となった鬼たちと戦う際に使用する部屋。

 普段は、戦闘好きな魔化魍や鍛錬を好む魔化魍が入り浸る部屋は静寂に包まれていた。

 

 その原因は擬人態の姿で部屋の中央に立つ美岬だ。美岬は壊鯱(かいしゃち)に宿る意思との対話を行なっていた。

 九州地方の猛士の戦いから戻ってから、時間がある時は美岬は壊鯱(かいしゃち)との対話をしていた。

 

「また失敗」

 

 そう呟くと閉じた目を開き、美岬は壊鯱(かいしゃち)を側に置いて、身体を休める。

 もう何度目かは分からない。何度も何度も、対話を行なっている。だが、壊鯱(かいしゃち)の意思のいのじも出ない時間が続く。

 だが、意思に会えないからなんだ。会えないからと諦めるような美岬ではなく、適度に休んで再挑戦しようとしていた。

 全ては、幽を守れる力を身に付けるため。

 

《本当にそれでいいの?》

 

「え?」

 

 何処からか声が聞こえた。

 

《君の大切なものを無くしてもいいの?》

 

 部屋には、誰もいないのに響く声。

 

「誰!? 姿を現れしたらどう!!」

 

 置いといた壊鯱(かいしゃち)を構え、いつでも戦えるように身構える。

 

《酷いなぁ。せっかく対話に応じたというのに》

 

 呆れにも似たその言葉で私は手に持つ壊鯱(かいしゃち)を見る。

 

《そう。僕は君が今、手に持つ壊鯱(かいしゃち)の意思だよ》

 

 今まで、対話をした際には魚呪刀の意思の空間に引き込まれていたので、声だけ対話に成功したという事実に気付くのに少し時間が掛かった。

 

「そうですか。…………貴方の力を貸して欲しい」

 

《嫌だ》

 

「え?」

 

《認めてない相手に力を貸すのは嫌だし》

 

 じゃあ、どうすればいいの。

 

《ねえ、なんで自分の手元に置かないの?》

 

 え?

 

《だから、大切なものをなんで自分の近くに置かないの。いや、大切なものを自分のものにしないの?》

 

 幽のこと?

 確かに幽は大事だよ。私のこの想いは(前世)から変わらない。でも他の子ましてや幽の気持ちを考えないなんて–––

 

《そんなんで、その子を守れるの?》

 

 それは–––

 

《その甘さで大切なものが無くなってもいいの?》

 

 ………幽が居なくなる? 嫌だ。そんなのは絶対嫌だ!!

 

《大切なものは自分の手の中になきゃ》

 

 ……… ソウダネ。

 

《そう。邪魔者は排除スレバイインダヨ》

 

 ソウダネ。ワタシト幽ヲジャマスルモノハスベテ、斬レバイインダネ。

 

《そうだよ僕を使って、今度こそ》

 

 そのままフラフラと美岬は抜き身の壊鯱(かいしゃち)を手に部屋を出た。

 それは、この後の騒動の始まりだった。

 

SIDE幽冥

 美岬が壊鯱(かいしゃち)との対話を行なっていた時間から少し後くらいの頃。

 この館の主である幽冥は美岬を探していた。理由は、九州地方支部壊滅計画の際に暴走で氷漬けになった昇布の護衛として残してしまった美岬への謝罪を含めて2人で出掛ける約束をしたからだ。

 因みにこの約束の話を美岬と話している時に白も一緒に行きたいと思ったが、自身は長崎支部壊滅に関わっていたので、自重して美岬に2人だけのお出掛けを許したという裏話があるとかないとか。

 

 そんなわけで幽冥は、廊下ですれ違う家族に美岬のことを聞いて美岬を探す。

 だが、誰も知らないようなので廊下から庭に出る。そして、長い付き合いという事で美岬の居るとこを知っていそうな荒夜と狂姫に質問してる最中–––

 

美岬

ア、幽ミツケタ

 

 件の探し相手がやって来た。

 しかし、出掛ける時の服装ではなく、鍛錬の際に着ている服装で魔化魍の姿へと戻っている美岬に幽冥は違和感を覚える。戦闘時でもないのに抜き身状態の壊鯱(かいしゃち)を持ち、ふらふらと亡霊のような歩きをする美岬。

 そして、そんな明らかにいつもとは違う美岬の様子に真っ先に気付いたのは、美岬の元で長く共に暮らしていた荒夜と狂姫だった。

 

荒夜

【美岬様………いやお前は誰だ!!】

 

狂姫

【美岬様の筈なのになんか違う】

 

美岬

ン。ジャマダヨ

 

 壊鯱(かいしゃち)を狂姫に向けて振るう。

 余りにも突然の攻撃に荒夜は対応出来ず、狂姫にその一閃が–––

 

【危ねえ!!】

 

 だが、空から乱入するように現れた何かが狂姫に向けられた一閃を防ぐ。

 

荒夜

【劔!!】

 

 その正体は劔だった。

 自身の武器である長剣と槍で重ねるように突き出して、美岬の壊鯱(かいしゃち)による攻撃を防いでいた。

 

【危なかった。ところでどうしたんだ美岬さんよ。家族に斬りかかるなんてな】

 

美岬

カゾク? ナンノコト? ソレヨリモワタシハ、幽ニイイタイコトガアルノダケド

 

荒夜

【やはり武器の意思に干渉されたのか】

 

「武器の意思?」

 

狂姫

【美岬様や波音の持つ魚呪刀には、武器の意思と呼ぶものがいるのです。

 おそらく、それが美岬様になにか干渉したのかと】

 

 そう言う狂姫は私を守るように手を広げながら少しずつ後ろに下がっていく。

 

美岬

ナニシテルノ、オマエ

 

 ギロリと向けられた美岬の目が私を守るために構える狂姫を捉える。

 普段の美岬ならばする筈がない、家族ではない何かを、自分の邪魔をするものを見る目。

 

美岬

ネエ幽ニフレテイイノハワタシダケダヨ!!

 

 劔を蹴飛ばし、一目散に私に触れる狂姫に向かう美岬。そして、再び凶刃が狂姫に迫ると–––

 

荒夜

【美岬様といえど、姫に手出しさせません。ハッ!!】

 

【俺もいるんだよ!!】

 

 荒夜が刀の鍔で壊鯱(かいしゃち)の刃を受け止め、残った鞘を鈍器のように振るい、背後からは蹴飛ばされた劔が槍を構えて突撃してくる。

 

美岬

アマイヨ!!

 

荒夜

【うぐっ……】

 

 美岬は荒夜の持つ鞘を()で叩き落とし、直ぐに鞘を拾うと後ろから飛んでくる劔に鞘を投げ飛ばす。荒夜に対しては持っていた壊鯱(かいしゃち)を手放し、空いた手で無防備な荒夜の首を掴む。

 そして、目の前に飛んで来た鞘を避けるために上昇するように回避した劔に向け、美岬は銃のように構えた指先から水流を放ち、飛翔する劔の両翼を的確に撃ち抜く。

 

【ぐっ】

 

美岬

セイッ!!

 

 翼を撃ち抜かれて上空から落ちてくる劔に向けて首を掴んでいる荒夜を投げ飛ばす。

 劔と荒夜の身体は空中で衝突し、地面に同時に落ちる。

 

狂姫

【荒夜様、うう!!】

 

美岬

スキダラケ。アア幽、モウスグダヨ

 

 愛する者(荒夜)を心配する狂姫の一瞬の隙をつき、狂姫の片腕を捻るように掴み、後ろにいる私に向けてそう言う。

 だが、狂姫も黙って腕を掴まれるつもりもなく、美岬に向けて隠し持っていた短刀を裾から抜き出して、美岬の身体に突き刺す。

 

美岬

キカナイヨ

 

 だが、狂姫の短刀は美岬が片腕で受け止めて、そのまま刃を砕く。

 そして、捻った狂姫の細腕を腕の構造状的に曲がらないギリギリの位置に留められていた細腕に更に力を込める。そして鈍く鳴る何かが折れた音。

 

狂姫

【ああああ………】

 

美岬

フン!!

 

 あまりものの腕の痛みで気絶したのか、そのまま投げ飛ばされる狂姫を離れた位置にいた荒夜が身を挺して受け止める。

 

荒夜

【ひ、姫。う……】

 

 だが、狂姫受け止めた際、その衝撃で壁にぶつかった荒夜は当たりどころが悪かったのか、狂姫を抱えた状態で気絶する。

 

美岬

幽、ツカマエ–––

 

迷家

【はいストップ!!】

 

 手を伸ばす美岬の上から突如、檻が降ってきて私を捕まえようと手を伸ばしていた美岬を捕らえる。

 そして、その檻の側には宙を浮く迷家がいた。

 

美岬

 

 迷家の生み出した檻の幻覚に美岬は一度動きを止めるが–––

 

美岬

ナニカシタ?

 

 なにこれ、いや何かしたというように幻術で生み出された檻を何事もなく通過する美岬。

 

迷家

【ウソっ!! 幻術が通じない!? なら––】

 

美岬

ムダ!!

 

迷家

【ぐぅう!!】

 

 美岬の刀は迷家の腹部を横一文字に斬り裂く。斬れた箇所から吹く血が美岬の頬を赤く染める。幽冥を守ろうとした家族が呻き声を上げながら地面に転がる。

 そして、そんな姿を気にせずに美岬は幽冥に近付く。

 

美岬

サア、幽、ワタシヲウケイレ、フタリ【そうはさせない!!】キ……ダレダ!! グッ!!】

 

 壁まで追い詰められ、もう後がないと思われた幽冥のピンチを救ったのは突如現れたなにかだった。

 それは美岬を背後から斬りつけると美岬はプツンと切れた糸に吊られた人形のように倒れ、斬りつけた者が倒れる美岬の背中に手を当てて倒れるのを防ぐ。

 

【間に合ったか】

 

 1つは手に七支刀に似た刀を持ち、ボロボロなコートを羽織り、首に白い編み込みマフラーを巻いて、白い水晶のような氷の義足を付けた猪の等身大魔化魍。

 

【間に合ったと言っていいのか?】

 

 もう1つは、足先がキャタピラで全身の各所に戦車に似た装甲を付け、右肩部から伸びる長い砲塔が目立つアルマジロに似た大型魔化魍。

 猪の等身大魔化魍に抱えられた美岬は糸が切れた人形のようにぐったりとしているが少し経つと意識が戻り、目を開けた。

 

美岬

【あ、あなたは!!】

 

【久しぶりだな美岬】

 

SIDEOUT

 

 あれ、なんで横にというか誰かに抱えられてるの?

 確か、壊鯱(かいしゃち)との対話を行なっていて、それで………って、え?

 

美岬

【あ、あなたは!!】

 

【久しぶりだな美岬】

 

 私を抱える魔化魍の正体に驚く。

 そうこの魔化魍こそ、私の魚呪刀(ぎょじゅとう)、青の怨魚弓(えんぎょきゅう)を鍛造したユキニュウドウと呼ばれる魔化魍だ。

 このユキニュウドウもとい彼らの種族は変わりものとも呼ばれている。

 その種の祖先は従来の魔化魍同様人を襲っていたが、ある時、その種族の1体が人の鍛治に心奪われてしまった。その1体が見様見真似で鍛治を初めたのが始まりだった。

 そして、それを見た他の個体が真似をしはじめ、最終的にはその種族全体が鍛治をやり始めた。

 各個体が各々様々な武器を造っては、等身大魔化魍や鬼、果てにはただの人間にも造った武器を渡したという異色な経歴を持つ種族。後にその魔化魍たちは鍛治魔化魍と呼ばれた。

 その種族の名はイッポンダタラ種。

 だが、鬼側いな猛士は結局魔化魍であるということには変わらないという理由で、数多くのイッポンダタラ種を清めていった。今では、各地にひっそりと隠れ住むイッポンダタラ種が鍛治をしながら過ごしている。

 

 そんなユキニュウドウが手に持つのは黒みがかった青の七支刀に似た魚呪刀解腔棘魚(かいしーらかんす)というものだ。

 この魚呪刀は他の魚呪刀には類を見ない特殊能力がある。

 それは、武器に宿る意思との強制対話武器に宿る意思による干渉を断つという2つの力。この魚呪刀は戦闘の為ではなく、ユキニュウドウ自身が造り出した武器へ対応出来る為に生み出した魚呪刀。

 何億年も姿を変えてない古代魚シーラカンスと交渉を行うネゴシエイターと精神の治療を行う精神科医の3つの魂を合わせて造られた。

 

「美岬。その魔化魍は?」

 

美岬

【幽は会うのは初めてだよね。彼は鍛治魔化魍のユキニュウドウ。私のこの刀を打った鍛治師だよ】

 

【はじめまして魔化魍の王。俺がユキニュウドウ】

 

【ワタシは彼と共に旅をするゴグマゴグだ】

 

美岬

【しかし、流浪の旅をしてるあなたが何故ここに?】

 

【ふむ。俺の武器のよくない気配を感じてな。

 急いで来てみれば、お前の暴走する姿、だから解腔棘魚(これ)で介入したのさ】

 

 刀を見せながら説明するユキニュウドウに私は迷惑をかけたという気持ちで申し訳なく思う。しかし–––

 

美岬

【対話もうまくいかず挙句に暴走か。壊鯱(これ)の意思に相当嫌われてるみたいだね私】

 

 今は鞘に収まる壊鯱(かいしゃち)を見て、蛇姫に封印を施してもらって使わないほうがいいのかと考えている。

 

【…………ひとつ方法がある】

 

 そう言ったユキニュウドウは手に持つ解腔棘魚(かいしーらかんす)を見せる。

 

【こいつの力を使って、お前の意識をこの壊鯱(かいしゃち)の中にいる武器の意思のいるところに飛ばし、強制的に対話することが出来る】

 

 ユキニュウドウの話を聞き、私は喜ぶ。

 対話がなかなかうまくいかない今の状況では助かるとも言える能力だ。成功すれば幽の力になれるのは間違いない。だが、いいことばかりではないようだ。

 

【だが、失敗すればお前の意識は壊鯱(かいしゃち)の意思に閉じ込められるかもしれない。そして再び、暴走するかもしれない。

 暴走した時には、また解腔棘魚(かいしーらかんす)を使うが、お前の意識が壊鯱(かいしゃち)の意思の側にいる状態で解腔棘魚(こいつ)の能力を使えばお前の意識と身体の繋がりを絶つことになるかもしれない。

 それは実質廃人と変わらん状態になるだろう】

 

 その言葉に周りは騒めくも私の答えは決まってる。

 

【頼むよユキニュウドウ】

 

【いいのか?】

 

 本当に良いのかと言う風に私を見るユキニュウドウ。確かに廃人になるかもしれないと言われれば怖い。でも、幽がピンチの時に助けられないことの方がもっと怖い。

 だから私はユキニュウドウに力強く肯定の言葉を答える。

 

美岬

【ユキニュウドウお願い!!】

 

【では、「反対」っ!!】

 

 ユキニュウドウが刀を振るおうとした時のひとつの声が刀を止めた。

 

「反対!! 嫌だよ、美岬がまた居なくなるのは」

 

 私の大切なひとである幽が涙を流しそうな顔で反対する。

 

美岬

【幽】

 

「また美岬が、あの時のように」

 

 幽冥の頭によぎるのはおそらく前世の私が死ぬ時のあの事故の光景だろう。

 

美岬

【心配しないで幽、私は必ず戻るから。あの時のようなことは2度としないよ。

 お願いユキニュウドウ】

 

【では往くぞ!】

 

 ユキニュウドウが解腔棘魚(かいしーらかんす)を天に向けて掲げ、私に振り下ろすと腕に小さな傷が出来る。すると、急な眠気に似た何かに襲われ、私の意識はどんどん遠のいていく。そして、身体が倒れそうになると–––

 

「…………美岬。必ず戻ってきてね」

 

 倒れる寸前に私を抱えた幽のそんな言葉を耳にして意識が落ちていった。

 そして、目を開ければ、真っ暗、漆黒、闇、暗闇、そんな黒という黒要素を詰め込み濃縮したような空間に立っていた。

 

《あと少しで、あの子を永遠にお前だけのものに出来たのに》

 

 声の方に向けば、黒い空間から声の主が歩いてきた。

 乱雑に生えたセミロングの銀髪、うっすらと笑う口から覗く鯱のような八重歯、男か女か判断に迷う中性的な見た目と中性的な和装、背には壊鯱を納めた鞘を背負う。

 だが、何より特徴的なのは目だった。白いはずの白目が黒で黒目は血のように真っ赤な赤い瞳。苛立ちを隠そうともせずに私に近付き、ある程度近くまで来ると歩みを止めて、口を開いた。

 

《言ったと思うけど、僕は認めないよ。僕のことは諦めて、他の意思のところに行ったらどう?》

 

 貴方のことは前にユキニュウドウから聞いた。でも不思議に思ったことがある。

 

《不思議? 何が不思議だって言うの?》

 

 魚呪刀は動物と人間の2つの魂を使って鍛造するらしいけど、普段私が貴方(壊鯱)を使っている時と今目の前にいるあなたの気配が違うってことに。

 それで思い出したんだけど、恋人と共に焼身自殺した男の魂を使ったとユキニュウドウは言っていた。でも貴方は男ではない、貴女は男と一緒に死んだ女性の魂なんでしょ。

 

《…………なんで気付いたの? あの刀鍛冶は僕を彼と認識してたみたいだけど》

 

 正確に言うなら、貴女は死んだ彼と魂が混じり合ってんでしょ。普段は男の魂の方が表だけど、私が対話を行なっている時だけ貴女は表に出て、私の対話を拒んでいた。違う?

 

《…………そう。私は彼との幼きころの約束を破り、彼を傷付け、彼を壊して、彼と死んだ愚かな女》

 

 なんで貴女は対話を拒むのか理由を教えて。

 

《理由ね…………まあいいよ教えてあげる。僕がお前を拒む理由は、お前が気に入らないから》

 

 き、気に入らないって。

 

《お前があの子に対して並々ならぬ感情を持っているのは僕はこの刀の中から見ていた。

 再開した時からずっと想いを胸に仕舞い込んで、(前世)の時のような友人関係であろうとした。

 でも、見ていて凄く鬱陶しかった、なんで自分に振り向かせようとしない、なんで自分の気持ちを隠す、なんで、素直に自分の気持ちを伝えようとしない!!》

 

《本当にそれで良いの? その想いを胸に抱いたままあの子が他の娘に獲られるさまを見たいのか?》

 

《お前は逃げてるんだ、自分の気持ちから、想いから、あの子に嫌われたくないから。

 だから僕はね、お前に力なんて貸したくないんだよ。想いを仕舞い込むだけの臆病者なんかに力を貸す気もないね》

 

 それって私に対して思っていることなんだよね?

 

《そうだよ。分かったならとっとこの空間から出ていけ、身体を乗っ取るつもりは無いし、お前の顔なんて見たくない!!》

 

 …………その話は確かに私に対して思っていることなんだろうけど、でも別の誰かと重ねて私に言ってない。

 

《っ! な、何を言ってるの》

 

 そして、その誰かは私の目の前にいる貴女自身のことなんじゃないの?

 

《……………》

 

 貴女はかつての過ちを後悔してるんでしょ。

 死の直前いやその前からもう気付いていて、でも過ちを彼に伝えることが出来なかった。言えば、彼に嫌われる。嫌われたくない。離れてほしくない。それで彼は壊れて、壊れても愛してることを忘れてない彼は貴女と一緒に死んだ。

 (前世)の私だったら同じだったかもしれないけど、私は幽にいつか告白するつもりだよ。

 

《いつかって、そのいつかの間に他の娘に––》

 

 ああ、それは大丈夫だよ。なにせ幽のことが好きな娘たちと同タイミングで告白するっていう約束ごとがあるからね。万が一、その前に告白するようなのがいるなら––––

 

《いるなら?》

 

ワタシガ、ジゴクヲミセテアゲル!!

 

《………訂正するお前は臆病じゃない。少なくても僕とは違って》

 

 ……話を戻そっか、改めて貴女の力を貸して欲しい!!

 

《……………》

 

 貴女が経験した過去の過ちと同じ悲劇を起こさないため!! 幽を守れる力の為なら貴方に身体を一部奪われても構わない!! そんなものを気にしてたら大切なものも守れない!! 自分が傷付いても大切なものを死んでも守る!! 

 それが私の覚悟。さあ、貴女の答えは!!

 

《………………いいよ。癪だけど、認めてあげる》

 

 壊鯱(かいしゃち)の意思がそう言うと、私の身体が宙に浮く。

 

《認めたからね。もう此処には来るな》

 

 どんどん宙に浮かぶ私の身体。

 他の3振りではこんなことがなかったから慌てる私を見る壊鯱(かいしゃち)の意思が最後の言葉を告げた。

 

《……………守るんだぞ。守れなかった()と同じようにならないでくれ》

 

 黒い白目で赤い黒目だった瞳は青い瞳に変わり白目になっている壊鯱(かいしゃち)の意思が私から振り向くとそのまま黒い空間に溶けるように消えて、私の身体は白い光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 目を開けると幽の姿が目に入る。

 

「美岬? 大丈夫?」

 

「うん。心配掛けてごめん、うわ、幽?」

 

 私が幽に謝ろうとすると、幽が僕に飛び付き、急なことだったために耐えきれず後ろに倒れる。

 

「馬鹿!! 美岬の馬鹿!! また、いなくなっちゃうのかと思ったよーーー!! うわああああん!!」

 

「ごめんね幽」

 

 前世のこともあり、私の胸元でそのことを思い出して泣く幽の頭を撫でながら謝罪の言葉を言う。

 その後に、話を聞き駆けつけた春詠さんによるO・HA・NA・SIを受けて、『お出掛けはあらためて行こうね』と幽が言い、私が怪我をさせてしまった家族に謝って話は終わった。

 

 

 

 

 

 

【蚊帳の外な気がするな】

 

【言うな】

 

 2体の魔化魍(知り合い)が隅でその様子を見ていたことに気付くのは、話が終わってから30分後だった。




如何でしたでしょうか?
実は壊鯱は3つの魂を持っていた魚呪刀になります。これが副次能力がついた理由になります。
魚呪刀の副次能力が発生する条件は魂の数(3つ以上)とその魂の質(魂の本質または強い心残り)と運(連続で三毛猫の雄が産まれる程)などで発生します。
解腔棘魚は能力を2つ持つ魚呪刀が出来る理由を知ることと武器の意思に何かできることが無いかということで試行錯誤と長い実験によって鍛造した最近出来たばかりの魚呪刀です。
斑鰒は毒液の貯蔵と射出ですが、これは貯蔵したものを外に出してる(射出)だけですので、1つしか能力を持っていません。
これにより、美岬は壊鯱に認められたので、残るは斑鰒、幽蛸、堅鯨の3振りとなります。
そして遂に魚呪刀と怨魚弓の製作者であるユキニュウドウが登場です。
因みにゴグマゴグは元は戦車だったツクモガミが異常種に進化した種です。



ーおまけー
迷家
【うう、酷いめにあったよ〜〜ぐすん】

美岬
【むしろ、それだけで済んで良かったというべきか、申し訳ないと言うか】

迷家
【別にいいよ。君があれに強制させられてやっていたのはみんな分かってるから】

美岬
【誠に申し訳ございません】

迷家
【だからいいって、アレ? あーーー!! もう始まってる!!】

美岬
【あれ? そういえば此処は?】

迷家
【説明は後でするからちょっと待ってて美岬!!】

美岬
【ああ、はい】

迷家
【ううん。じゃ、改めておまけコーナーの時間だよ〜♪】

美岬
【それで此処はいったい?】

迷家
【此処はね。変な人に頼まれてやってるおまけコーナー!!】

美岬
【変な人?】

迷家
【そう。毎度ゲストとして誰かひとり連れてきてぇ〜僕が質問するの】

美岬
【質問ですか?】

迷家
【うん!! じゃあ、美岬には対話のことを教えてよ】

美岬
【対話のことを】

迷家
【そう。それって結局なんなのかな〜って思ってね】

美岬
【分かった、対話のことを教えればいいんだね?】

迷家
【うん。あ、でも分かりやすくお願い】

美岬
【分かった。じゃあ先ずは対話のことだよね。
 対話は私の魚呪刀、青の持つ怨魚弓みたいな魂を込めて造られた武器に対して行う特殊技術】

迷家
【技術ってことは誰でも出来るの?】

美岬
【誰でもというわけじゃない。少なくて私や青の持っているような魂を込めた武器がないと出来ないかな。
 なにせ、対話はその武器の中で眠る意思と話すまたは認めてもらう事でその武器本来の力を解放するためにするものだから】

迷家
【意思って、意思を持ってるのその武器!?】

美岬
【やっぱりあまり知られてないのかな。波音に教えた時もそんなリアクションだったし】

迷家
【僕は産まれて少ししか経ってない魔化魍だから、知らなくてもおかしくないでしょ】

美岬
【そうだけど】

迷家
【それでその意思に認められるとどうなるの?】

美岬
【意思に認められれば、その武器の真の実力を引き出すことができるし、波音のように変異態に変異するキッカケにもなるんだよ】

迷家
【そっか。おっと、じゃあ今日は此処までかな〜
 じゃあ、また今度バイバーーーイ! 】


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魔化魍共存派

お待たせしました。
今回は久々の猛士サイドの話です。
いつもは過激派の話や猛士の王たちの話ですが、今回は3派閥の1つに視点を当てます。



追伸、魔化魍の王の現れるのは1000年から150年に変更しました。
歴史の年表を改めて見てみたら、気付いたので変更しました。


 猛士。

 その始まりは戦国時代まで遡り、当時、差別の対象であった彼ら鬼をサポートする組織を立ち上げようと提案したことが組織のルーツとされ、徹頭徹尾人類を守ることを主とする組織。

 しかし年を経つごとに魔化魍との戦いで減る優秀な鬼やその継承者。

 

 魔化魍に対処する鬼の不足によって増える被害者。

 

 権力にしがみついた老害。

 

 魔化魍によって家族を失い復讐に走る者。

 

 数々の問題によって徹頭徹尾人を守るという理念は薄れつつある。そんな状況下でも人を救うことを誇りとする鬼もいる。そんな鬼の存在が今の猛士を守っていると言ってもいいだろう。

 

 話を戻そう。そんな猛士には魔化魍に対しての考えによって分けられた3つの派閥がある。

 魔化魍によって家族を、親族を、恋人を、大切な人を失い魔化魍を滅ぼすことでその悲しみを断つために日夜魔化魍に対する怨嗟、憎悪を募らせる魔化魍殲滅派閥。通称、過激派。

 

 猛士としての理念を掲げ、鬼としての当たり前を行い魔化魍を討つ。しかし、魔化魍を殲滅するだけではなく研究を主とする魔化魍普遍派閥。通称、傍観派。

 

 そして、過去に魔化魍に命を救われ、魔化魍の歴史を知り、魔化魍を一方的に滅ぼすのではなく人類との共存という夢物語にも近い理想を掲げる猛士の異端派閥の魔化魍穏健派閥。通称、共存派。

 

 この3つの派閥、特に過激派と共存派は意見の食い違いによって何度も争ったのは言うまでもない。

 おまけに共存派の意見は猛士としても賛同できるものは少ない、何故なら今の猛士に所属する大半は魔化魍に大切な誰かを殺された者たちでそういった者たちは復讐のために過激派として活動するようになる。

 そして、共存派は過激派にとっては目の上のタンコブであり魔化魍との共存を望むものを人間ではないと言って、誰にも見られないところで共存派への暴行を行う者もいる。

 そんな少数意見に近い共存派は魔化魍の被害によって増える過激派との無駄な争いを避けるため秘密裏に会合をすることがあるのだが、しかし過激派のメンバーはかなり多く、会合はあまり出来ないことが多い。

 しかしある時、そんな過激派の監視いや共存派を除いた猛士のメンバーを騒然とさせる大事件もとい報告が入った。

 

 それは総本部に大茜鷹に乗った鬼と天狗、そして2人に連れられた九州地方の王である千葉 武司から伝えられた。その報告とは猛士九州地方全支部の壊滅。

 

 この報告によって1番驚いたのは過激派だった。

 長崎支部支部長の三ツ木 照弘。

 彼は勿論、長崎支部のほとんどが過激派のメンバーだった。おまけにそのメンバーのほとんどが魔化魍の被害者ということもあり、過激派を増長させた原因でもあった。

 魔化魍がいることによって出来た被害者の集まりともいえる長崎支部。この支部の存在によって魔化魍のことを知らず猛士に入って間もない人を過激派に加入させることができたのだから。

 だが、そんな長崎支部が消えたことで過激派へ入れるための説得力のある証拠ともいうものが無くなった。これによって過激派に過度ともいえる陣営集めをするのが難しくなっただろう。

 

 そんな猛士が特に過激派が大ごとと騒いでる最中、魔化魍穏健派閥こと共存派の秘密の会合が行われていた。

 

 総本部にいる共存派のメンバーからの連絡が共存派に属する各支部に伝わり、久々の共存派同士の会合が開かれていた。

 それぞれのモニターには東京第2支部、東京第5支部、大阪第2支部、埼玉支部、神奈川支部、沖縄支部と書かれたプレートとその支部の支部長たちが映っていた。

 

「こうやって揃うのは何ヶ月ぶりでしょうか?」

 

 会合で最初に口を開いたのは、黒の眼帯を着けたスキンヘッドのヤのつく稼業に見える男。猛士東京第5支部支部長 碇 長助。鬼の名は激鬼。

 

「過激派に毎度妨害されるからなぁ」

 

 次に口を開いたのは大雑把に纏めた長茶髪と胸元に実る果実が豊かな長身の女性。猛士大阪第2支部支部長 天城 カノン。鬼の名は撤鬼。

 

「でも、今回の事件のお陰でこうして開けるから」

 

 そんな2人を宥めるように言うのはホワホワした雰囲気を感じさせる温和そうな男。猛士沖縄支部の支部長 龍田 譲。鬼の名は赤鬼。

 

「にしても大騒ぎですねぇ〜過激派のみなさん。ある意味、いい気味ですねぇ」

 

 宥める龍田の上から被せるように喋るのは薄茶の鳥打帽を被った黒の短髪、閉じてるように見える細い糸目、口元はニヤニヤと笑みを浮かべる青年。神奈川支部支部長 那珂 乱歩。鬼の名は識鬼。

 

「静粛に!! ………はい。では、今回の内容を日向さんお願いします」

 

 まだ喋る他の支部長を鎮めるのは右寄りにまとめた黒髪、キッチリとした灰色のスーツ、胸元は天城に比べると慎ましい、残念? ともいうほど良い実を持った女性。猛士埼玉支部支部長 霧島 文。鬼の名は泡鬼。

 

「うん。ありがとう霧島」

 

 最後に口を開いたのは、花の刺繍が施された和装を身につけた大和撫子を体現した女性。猛士東京第2支部支部長 日向 美与。鬼の名は南鬼。

 この女性こそ魔化魍共存派を纏めるトップともいうべき女性で、戦国時代にいた凶暴な魔化魍 ヒトツミを倒した『7人の戦鬼』の1人 羽撃鬼の血を引く鬼でもある。

 

「今回の話は、魔化魍の王との接触をどうするかというものです」

 

「接触かぁ〜王もその家族も、神出鬼没。何処にいるか分からないからなぁ〜

 そういえば、以前話してた慧鬼をこちらに引き込むって話なかったっけ?」

 

 那珂が思い出したかのように口にすると、それに対して霧島が答える。

 

「彼女は任務先で死亡したことが報告されてます」

 

「ありゃりゃ、やっぱ拉致ってこっちに連れてきた方が良かったんじゃねえか?」

 

 強引にでも連れてくるべきだったという天城の言葉には納得出来るものもあるが、それは出来なかった。

 初代の王を倒した英雄でもある『8人の鬼』の直系の1人でもあった慧鬼こと安倍 春詠。

 そんな鬼がもしも共存派に加われば、過激派ほどはいかなくても傍観派並の勢力の人間を集めることが出来ただろう。勿論、過激派はそんなことを許さないので、実現できたとしても、その時には猛士同士の無意味な殺し合いになっていただろう。

 それが分かっていたからこそ、日向は何も出来なかった。

 

「惜しい人を亡くしました」

 

「ええ」

 

 久々の会合とはいえ、こうも湿っぽい話ばかりでは気分が滅入ると思った碇は話題を変えようと思い違う話題を上げた。

 

「そういえば、壊滅した北海道第1支部には、我らの同士候補だった調鬼がいたとか」

 

「北海道第1支部には死体が無かったそうなので、もしかすると–––」

 

 可能性を口にする霧島だが、その可能性は低いだろう。

 魔化魍にとってみれば猛士と鬼は敵。友好的かどうかなど向こうが分かるはずはない。

 

「せめて、もう少し同士がいればいいのですが」

 

 龍田が苦々しく言うのも無理がない。

 共存派に所属する戦える力を持つのは共存派筆頭である南鬼、その筆頭補佐の泡鬼、赤鬼、撤鬼、激鬼、識鬼。彼らの弟子である無銘の鬼が男4名、女3名の計7名。天狗11名。計24名が共存派に所属する戦うことができる者たちである。

 その他にも各支部の所属員50名ずつを合わせれば324名。他にも各支部に共存派ということを隠して行動する鬼や人員も含めれば350名程、これが魔化魍穏健派閥こと共存派に所属する者たちの総数である。

 

 まあ、この人数なのは仕方ないというべきなのだろうか。

 『魔化魍は人を喰らい人の幸せを奪う怪物』と、猛士からは教えられている。

 それなのに人を喰らう魔化魍と共存を目指すという共存派の考えは万人受けする筈がない。その考えに共感出来るのは、魔化魍に救われた過去を持つ者と底無しに心優しい者だけだろう。

 

「それについては今はいいよ。魔化魍の王との接触をどうするか」

 

「––––うむ可能性になるが、最近中部地方に我らの同志が飛ばされたことを聞いた。

 あそこはおそらく今回の事件もあって真っ先に動くだろう。魔化魍の王の噂が本当なら、もしかすれば」

 

「おいおい、中部は確か死んだ三ツ木と同じくらいの憎悪を抱いた過激派がいるとこじゃねえか。

 バレたらそいつお仕舞いだぞ!!」

 

 碇の言葉に反応した天城は声を荒げる。

 その理由は同志であるものが飛ばされた場所が理由である。

 猛士中部地方には王である飯塚 徹の他に鬼を纏め上げる存在がいる。その者は過激派のメンバーの1人で、亡くなった長崎支部支部長の三ツ木と同じように魔化魍に果てしない憎悪を抱く者だ。おまけにその者は『8人の鬼』の末裔である。

 その名は狼鬼。とある『名持ち』の魔化魍に親族、恋人を殺されて怨みを抱えた復讐の狼。

 

「霧島、同士には後で連絡をお願い」

 

「かしこまりました」

 

「では、魔化魍の王との接触は取り敢えず保留とし、次の内容に移りましょう」

 

 共存派たちの話は続く。時間に限りのある彼らの会合は猛士内の騒動が収まるまで話は続いた。

 魔化魍の王と出会い魔化魍との共存を目指すために。

 

SIDE◯◯

「そうか、同志三ツ木が死んだか。分かった。連絡ご苦労」

 

 黒電話の受話器を掛けて通話を切った男は机の上にある瓶の蓋を開けて、側のグラスに流し込む。

 

「次に会ったらこれを飲み干そうという約束、結局出来なかったな」

 

 グラスを持った男は窓に映る月に向けると、中の酒を一気に飲み込む。

 

「ぷは〜。……………まあ、向こうで待ってろよ三ツ木。

 向こうに行く際には奴ら(魔化魍)の頸をいっぺえ持っててやるよ」




如何でしたでしょうか?
実際の響鬼たち音撃戦士が何時代に誕生したかは不明ですが、当小説設定では、奈良時代としております。
魔化魍自体はその前の時代から一応存在していたことにしています。
人間を食すようになったのは、普段喰らってるものよりも美味いし、強くなれるからということで奈良時代から人を襲う魔化魍が増えてきたという感じです。
共存派の会合は3時間行われ、総本部にいる同士の連絡で会合は終わりました。


ーおまけー
迷家
【あれ、今日魔化魍全然出てきてないよね? こんなこともあるんだぁ〜】

迷家
【先ずは取り敢えず、こんばんは〜♬】

迷家
【今日のおまけコーナーはっじまるよーー!!】

迷家
【うんとね〜今日のゲストは悩んだけど。
 彼女を連れてきたよ。じゃあ、自己紹介お願いね】

浮幽
【ルルル、ルルル〜ル】

迷家
【あ〜、え〜と、名前だけでもいいから普通に喋れないの?】

浮幽
【ルルル、ルル〜ルル、ルルル、ル】

迷家
【もう、これじゃ質問しても答えられないじゃん】

浮幽
【…………ルルル】

迷家
【え、何これ?】

浮幽
【ルルル、ル】

迷家
【これを耳を付けるの】

浮幽
【ルル!】

迷家
【…付けたけど、これでどうなるの?】

浮幽
【どうなるもなにも、これで聞こえるでしょ?】

迷家
【ええ!!? ちゃんと聴こえる】

浮幽
【それはそうよ。そのための(まじな)いが掛けられてるからね】

迷家
【釈然としないけど、改めて自己紹介!】

浮幽
【はじめまして、というのはおかしいかな?
 私はクラゲビの浮幽。この場所でならどうやら普通に喋れるよ】

迷家
【なんで喋れるのにルルル〜としか言わないの?】

浮幽
【私はあれで普通に喋っているのよ。あれでも】

迷家
【じゃあ、なんで今は普通に聴こえるの?】

浮幽
【あなたの付けているそれは変な人とやらから貰った物でね。
 それのおかげで私の言葉は普通に聴こえるのよ】

迷家
【へぇ〜変な人さまさまだねぇ。
 じゃあ、質問するね。ズバリ、写鏡のことをどう思っているの?】

浮幽
【写鏡ね。あの子はいい子だよ。
 私の後ろに引っ付いては同じことを真似しようとしたり、赤のことを『おばあちゃん』とか言って凹ませたり、一緒にいると賑やかだね】

迷家
【浮幽てきにはあの子は子供みたいなもの?】

浮幽
【そうね。子供産んでない私が言えるのは、血の繋がりがなくてもあの子は自分の子供ってことを言うんだろうね】

迷家
【そっか】

写鏡
【発、発、発見。さ、さ、さびしかった】

浮幽
【ごめんね。ほら、よしよし】

写鏡
【も、も、もっと。暖、暖、暖かい】

浮幽
【そういうわけだから迷家。私は戻るけどいいよね?
 それと付けているそれ、後で変な人に返しなさいね】

写鏡
【い、い、いこう。楽、楽、楽しみ】

浮幽
【はいはい。じゃあね】

迷家
【あ、行っちゃった。
 まあいっか。聞きたいことは聞けたし、じゃあ今日はここまでバイバーーイ♫】


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敗北を知る家族

更新完了。
今回の話と次回の話で幕間は終了となります。
まあ、今回の内容はタイトル通りの内容です。
では、どうぞ!


SIDE◯

 どこかの森の中。

 人が住まずに年数が経ったボロボロな廃屋で1つの影が自分以外誰も居ない部屋で誰かと会話していた。

 

【本当か? 本当なんだな】

 

【ああ。あの魔化魍の王を殺せば、お前は魔化魍の王になれる】

 

【そして、お前が新たな魔化魍の王として正しい(・・・)魔化魍を率いれればいい】

 

【そうか。分かった。早速私の仲間にこのことを知らさねば】

 

 会話していた影は話が終わると直ぐに外に出ていき、部屋には誰もおらず静かだった。

 

【ククク、馬鹿ね。今の魔化魍の王を殺せば王になれる。そんなわけ無いでしょうに】

 

【ハハハ、確かに。だが奴が王と戦い、王を殺せば儲けもんだ。その時には奴には褒美を与えねばな】

 

 誰も居ないはずの部屋で響く声はやがて聞こえなくなり、今度こそ本当に部屋は静寂に包まれたのだった。

 

SIDEOUT

 

 美岬が壊鯱の意思によって暴走させられてから1週間経った。

 美岬曰く、『暴走する心配はないから大丈夫』と、正直心配だったけど、いつもと同じように過ごす美岬を見て、その言葉は嘘ではないと分かったので良かった。

 それで、美岬を見ていてお出掛けの約束を思い出した私は美岬と出掛けようと思い、美岬を探すのだった。

 

 それから美岬を探し始めて数分経った。

 歩きながら改めて感じたが、迷家の力によって外で見た外見からは想像がつかないほどに広くなった妖世館での人探しは大変だ。

 小さすぎるのは住む家族(魔化魍)のことを考えるとしょうがないけど、まさかここまで広くなっているとは思わなかった。今も内部を弄る迷家にしばらくは広げる大きさを抑えるように頼もうかな。

 そんな事を考えてて、ふと最近の白たちが頭に浮かんだ。

 

「そういえば、前にも増してよく私と出掛けたがるようになったような」

 

 考えていたことがそのまま口に出たが、誰も居ない廊下で言った一言にわざわざ反応するものはいないだろう。

 そう。あの、美岬の暴走が収まったあの後から白や赤を筆頭とした妖姫や朧などの魔化魍が私と一緒に出かけようとアピールするようになった。

 あまり自身のことを出さない黒や灰も同じように行動をすることに驚いてる。

 

 しかし、何故私と一緒に出かけたがるのだろうか?

 ハッキリ言って、私が今代の魔化魍の王だということを抜いたら何があるのだろうか?

 魔化魍の元となった妖怪や悪魔の知識。前世の家族や友人たちから学んだ各知識と一部の知識を除けば、この世界でも学べることだ。

 それに私は魔化魍に近くなりつつあると言っても元人間だ。そんな私と一緒に出掛けたがるのは、何か違う理由があるの?

 

 今までの一緒に出掛けた白たちの様子を思い浮かべる。

 普段とは違う服に替えて私に感想を求めたり、私と手を繋くと頬を赤らめてたり、私を見てぼーっとしたり、私の身体にくっ付くように歩いたり、楽しそうだったり、とまるで–––

 

「白たちは私が好きなのかな」

 

 そんなまさかとありえないと考える。

 前世から恋愛をしたことも、考えたこともない私が言うのもなんだけど。

 ………ま、まあ、そんなことは後で考えればいいと、私は行けなかったお出掛けをする為に美岬を探すのを再開するのだった。

 

SIDE白

【わっしはモモンジイ。真なる魔化魍の王】

 

 王と美岬が出掛けて数時間経った位に、それは突然現れた。

 

〜回想〜

 王と美岬が出掛けたのを見送った私は久々に妖姫としての仕事をこなす。

 元々、魔化魍を育てる『育て親』である私ら妖姫は魔化魍の健康状態を軽く知ることができる。

 

 人間風に言うのなら健康診断のようなものだ。

 勿論、王に出会った頃に比べて増えた魔化魍(家族)全員を1人で見るのは時間が掛かるので、他の妖姫である黒や赤、灰、青にも協力してもらっている。

 見終わった者から中に戻って、各々好きなことをしている。

 

「次、来なさい」

 

土門

【よろしくおねがいします】

 

 普段掛けている縮小の術を解いている土門が私の前で静かに身体を下ろす。

 術を解いて本来の大きさに戻った土門たちをこうやって改めて見ると本当に大きくなったなと嬉しく思う。

 そして、土門に問題ないと伝えようとすると–––

 

チャカカカカ

 

 聞き覚えのない声と共に地面が割れて、そこから1体の魔化魍が飛び出して来た。

 

チャカカカカカ

 

 突然現れたのは、三尸と似た姿をしている魔化魍だった。

 針鼠のような細長い針を首周りに生やし、ゴツゴツとした大小の岩のような鱗を全身に生やし、尾には何か掴むような3本の爪が生えてる二足歩行の襟巻き蜥蜴の魔化魍がいた。

 

チャカカカカカカカカカカカ

 

 その魔化魍が下に垂れた手を地面に振り下ろすと、地面が隆起し、あたりが激しく揺れ、とてつもない音が鳴る。

 魔化魍の突然の行動によって起きた衝撃によって私は気を失い、目を覚まして気付けば私たちは土で出来た手で拘束されていた。

〜回想終了〜

 

【王の魔化魍と妖姫はこれほどか? やはり、人間が王になるべきではなく、わっしのような正統なる魔化魍こそが王になるべきなのだ!!】

 

 地面に倒れて拘束される幽冥の家族の魔化魍たちにそう語る上機嫌な襟巻き蜥蜴の魔化魍ことモモンジイ。

 倒れながらも巫山戯るなと口論したいが、口や身体を抑える土の手によって喋ること動くことも出来ない。

 その中でも私や黒、赤などの妖姫たちに対しては念入りと言ってもいい程に土の手で身体の至る所を拘束されている。

 

【さぁあて、あの紛い物の絶望した顔を見るために数を少し減らしてやるわい】

 

 そう言ったモモンジイが地面に手を当てようとする。もうダメかと思った。

 

◯◯

【させると思うか!!】

 

◯◯

【白殿たちから離れろ!!】

 

 上空から降り注ぐ無数の赤い槍とその槍を掻い潜るようにモモンジイに迫る影がモモンジイをその場から離すことに成功する。

 

【まだいたのかい】

 

常闇

【簡単にやらせるわけなかろう】

 

荒夜

【その通りだ。次は私たちが相手をしよう】

 

 宙から降りてきて槍を構えた常闇と刀をいつでも抜ける姿勢を保つ荒夜が動けない私たちの前に立ち、モモンジイを睨む。

 そうやってモモンジイを睨んでる間に館の中で外の騒ぎを聞きつけた者たちが続々と外に集まってくる。流石に数の不利を感じた魔化魍は地面に転がる白たちの方に身体を向ける。

 

【ちぃい。邪魔が入ったのは仕方ない。

 今夜、わっしはもう一度此処に来る。紛い物の王を殺し、わっしこそが真の魔化魍の王となるために!! チャカカカ、チャッカカカカカカカカ】

 

 モモンジイはそう言うと、先程出現した際に出て来た穴に飛び込む姿を消す。

 

チャカカカカカカカカカカカ

 

 苛立つ笑い声がどんどん遠ざかっていく。遠ざかると同時に口や身体を抑えていた土の手は元の土に還る。

 

「負傷者に手当てを急げ!! 誰も死なせるな!! 王を悲しませないために!!」

 

 私の指示を受けて彼らはすぐに行動に移す。

 この時、不意打ちとはいえ幽冥の魔化魍たちは初めて敗北した。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE土門

 王が美岬と出掛けているタイミングの襲撃で良かった。

 少し外が荒れて怪我人も出たが、少しすれば片付くだろうし、目立たないように手当をしてくれるだろう。

 

 しかし、いきなり現れての不意打ちとはいえ傷を負ったのは不甲斐ない。

 私は前脚の一節の欠損、睡樹は右腕が岩に挟まって切断だけでまだマシというべきか、唐傘は右翼の翼膜の損傷、飛火を庇った葉隠は全身打撲、羅殴や写鏡を守った穿殻は攻撃を受けて割れた殻が内部のところどころに刺さって重症。

 他にも負傷を負った家族はいるが、蝕の薬や紫陽花の術、小雨の治癒の雨、縫の縫合で最悪の事態は回避した。

 

土門

【不意打ちとはいえ、あれは屈辱です】

 

鳴風

【うん。あれで勝った気になっているアイツ、ムカつく】

 

【……俺が下で工事してる間に、もっと早く気付けば】

 

 あの魔化魍が出現した際、健康診断を終えた顎は部屋の増設のために地下で同じく診断を終えた鋏刃、水底とともに穴を掘っていた。そのために被害が無かったのだが、自分の家族が傷ついていたのに気付かなかったことに自己嫌悪していた。

 

【気にするな。あの程度の負傷は怪我にもならん】

 

羅殴

【そうだな。だけど、ナメられたものだな】

 

 羅殴の言葉に一同は怒りが込み上げてくる。

 だが、その怒りは表に出さず、心の奥底に溜める。

 

【あの魔化魍に誰を敵に回したか。教えねばな】

 

鳴風

【………それと、王には内緒だよね】

 

 鳴風の言葉に一同は静かに頷く。

 

【王には知られてはならないな】

 

羅殴

【以前の悪魔魔化魍のような連中とは違うからな】

 

 そう。これは王に言うことでもないし、知られてはいけない。

 私たちを家族として迎えてくれたあの王には特に。

 魔化魍の王は、全ての魔化魍を支配できる存在と思われるが、それは違う。仮に支配できるのなら、以前に現れたオセと名乗った悪魔魔化魍や睡樹たちが倒したアロケルという悪魔魔化魍のような魔化魍は出てこないだろう。

 だからこそ明確な敵意を持っていた魔化魍に対しては歴代の魔化魍の王たちは自身の手でまたは配下の魔化魍に頼んでそういう輩を始末してきた。

 しかし、かつて自分を殺そうとした白を許し、自身の従者にした幽冥がそういうことを進んでやりはしない。

 歴代から見た幽冥は甘いと思われている。だからこそ、幽冥の家族である彼らがそういう魔化魍を始末する。それは、此処にいる土門たちだけでなく、安倍 幽冥の家族になった魔化魍や妖姫、怪人に戦闘員たちの総意である。

 

鳴風

【絶対に気付かれないように】

 

土門

【王を悲しませない為にも…………あの愚か者は私たちが始末します】

 

 だからこそ、私たちが王の代わりに愚かな奴らを片付ける。

 土門の言葉に大きく頷いた一同は、今日の夜に襲撃を予告した不届き者を始末する為の準備を始めた。




如何でしたでしょうか?
次に投稿する話で幕間は最後になります。
毎度勝ちばっかあれなので、初めての敗北を書いて見ました。ただし、幽冥がいない状況下での敗北ですので、幽冥を加えた敗北も後々書くと思います。
因みに前話の共存派の会議はこの話の始まる1週間の間に猛士であった話です。
幕間が終了したら、次の鳥獣蟲宴編になります。


ーおまけー
迷家
【はいはーーい。おまけコーナーの時間だよ♫
 このコーナーが始まってどれくらいやったんだろう? 正直、数えてないから分かんなだよね〜♪
 まぁあ、そんなことは気にせずに今日のゲスト紹介!!】

「なんだ、此処は?
 お! 迷家居たのか此処は何処なんだ?」

迷家
【はい。本日のゲストはおっちゃんこと、オルグ魔人 炭火焼オルグでーーす】

「おお、なんでい!! 急に俺の名前を呼んで!」

迷家
【ごめんね。此処は質問コーナー。いつも色んな人を呼んで質問をひとつして色々答えてもらう場所だよ】

「ほーーう。質問か。いいぜ。何を聞きたい?」

迷家
【おお。いつもはなあなあ気味に進んでるのに協力的で助かるよーー 
 じゃあ、そうだね。うーーーーーーん】

迷家
【お、そうだ!! 憑とは何処で出会ったの?】

「ほう。そいつを聞くか。
 …………まあ、対して面白い話じゃねえが教えてやるよ」

迷家
【うんうん】

「あいつと出会ったのは、今からざっと2年くらい前になるかな。雪が降る夜だったかな。
 そん時の俺は茂久とも会っておらずひとりで焼き鳥屋台をやってんだ」

迷家
【へえ〜】

「そんでな、いつものようにあっちへ、こっちへと焼き鳥を焼いては客に食ってもらってたんだ。
 もう店を閉めようとした時に空からあいつが降ってきた」

迷家
【降ってきた!?】

「そう降ってきたんだよ。俺の屋台の上に、突然のことにビックリしてな、俺も本来の姿に戻っちまったんだよ」

迷家
【ふむふむ】

「おまけにあいつ、鬼に追われててな。人間から変わる瞬間は見られてなかったから良かったが、本来の姿の俺を見て、魔化魍だって騒ぐからな。
 それで厄介ごとから逃れる為に屋台ごとあいつを連れて逃げたのが出会いだな」

迷家
【そうだったんだ。……………ねえ、なんか隠してることある?】

「………いいや。ねえよ」

迷家
【う〜ん。なんか隠してる気がするするけど、まぁ、いいか。
 聞きたいことも聞けたし、今日は此処でお別れだよ。バイバイ♫】

「俺も仕込みに戻るか」


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リベンジする家族

更新完了です。
普段なら前後編に分けるのですが、面倒くさく勢いで書いたら結構長くなってしまいました。
土門たちとモモンジイの戦いが始まります。
今回のお話で今年最後の投稿かもしれません。間に合えば、そのまま鳥獣蟲宴編の話を1話投稿しようと思います。


SIDE白

 あの魔化魍がやったことの片付けと負傷した魔化魍の手当てを終えて少ししたら王が美岬と共に帰ってきた。あと少し遅かったら、絶対に何があったのかと王が聞かれると思うので、その前に片付いてよかった。

 王と手を繋ぐ美岬に羨ましさを覚えますが、それは後でにしておきましょう。

 取り敢えず、王のことは何があったのかを伝えた美岬に任せている間に土門たちに支度を済ましてもらい、あの魔化魍が油断するだろう時間に合わせて土門たちに出てもらおう。

 

 

 

 

 

 

 そして時間は経ち、時刻は深夜になるかならないかという時間帯。

 妖世館裏口にあたる場所には白を含めた複数の影がいた。

 

土門

【王のことを願いします】

 

「ええ。王は任せてください。貴方たちはあの愚か者の処分をお願いします」

 

鳴風

【大丈夫だよ。あのムカつく笑みを苦痛に歪ませて見せるから】

 

 成体になったばかりでまだ思考が幼いと思っていた我が子こと鳴風。

 少し前までの鳴風ならば、そんな言葉を吐かなかっただろうが、よほどモモンジイに対しての怒りが強いのかこのようなことを言ったのだろうと白は判断する。

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ ノォォォォォン ウォォォォォ

 

 その背後には顎と崩、羅殴が王にバレない程度の小さな雄叫びをあげていた。

 

土門

【ではいきます!!】

 

鳴風たち

【【【【おお!】】】】

 

 土門、鳴風、顎、崩、羅殴が館から出る。あの魔化魍(モモンジイ)を始末するために。

 あとは王にバレないように「ねえ、白」っ!!

 

「お、王。い、いつからそこに」

 

「土門たちを見送るあたりから」

 

 こ、これは隠しようがないのかもしれない。

 だが、王を愛する白でも今回なにが起こったのかを説明したくないので、なんとか話を誤魔化そうと白は考え始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEモモンジイ

 妖世館から離れた場所にモモンジイとその仲間の野良魔化魍たちが集まっていた。

 

【王に会えなかったが、仲間の力は分かった。あの程度ならわっしらの敵ではない!!

 チャカカカカカカカカ!!】

 

【流石はモモンジイ殿】

 

【よっ、真の魔化魍の王!!】

 

【チャカカカカ!! 褒めるな、褒めるな】

 

 仲間に持ち上げられ上機嫌なモモンジイはまだ見ぬ王に対して、どの程度かと考えながらいつ襲ったのか分からないほど腐りかかっている人間の腐肉を齧る。

 

【モモンジイ様、あれを!!】

 

 仲間の声で空を見上げれば半透明に近い膜のようなものが広がっていくのが目に入る。

 

【なんだ! なんだ!】 【なんだあの膜は!!】

 

【魔化魍なのか!?】 【いや、王の攻撃か?!】 

 

【チャカ。落ち着け! 結界だろう。わっしの協力者から教えてもらった。術者を殺せばいい】

 

 モモンジイは上に張られていくものの正体をすぐ看破し、仲間に声を掛ける。

 

【チャカカカカ、慌てるな。奴らの力量は把握している。

 中心に向かい結界を張った奴らを探し出して惨たらしく殺せ!! 王へのいい見せしめになる】

 

【【【【【おおおお!!】】】】】

 

 モモンジイの指示に従い野良魔化魍たちは結界の中心にいるあの紛い者の王の家族である魔化魍を殺すために動き出した。

 だが、不意打ちで負傷させたことと仲間からの言葉でいい気分になってるモモンジイは気づかなかった。既にこの時点で蜘蛛の糸に引っかかていることに気付かず。

 

SIDEOUT

 

 結界の中心に佇む影が1つ。

 モモンジイたちが集まっているだろう場所に結界を張ったのは崩だ。

 

結界なら任せろ。我ひとりでも数時間は保つ】

 

 そもそも結界は術の素養と一定量の術を保つことが出来ればひとりでも使うことの出来る術だ。

 だが、オセの戦いの際には3体の魔化魍が結界を張っていたのだが、勿論これにも理由がある。

 結界は単体での使用の場合、相当な負荷を術者に掛ける。だがこれが複数で展開した場合、その負荷を分散することが出来る。故に、結界複数(・・)での展開が主な使用手段だ。

 しかし、単体での展開にも利点はある。複数展開の場合、結界を張った人数×50mと決まった広さまでしか展開出来ない。だが、単体展開は最小で25m、最大で100mを自由に展開出来る。

 

羅殴

【俺は崩の護衛をするぜ。な〜に、あのようなヘマはしねえ】

 

 そして、結界の維持で動けない崩を守るのは羅殴だ。

 羅殴は既に本来の大きさに戻っており、周りを警戒していた。

 

土門

【顎、貴方にモモンジイを頼みます】

 

【分かった】

 

鳴風

【ええ!! 私がやりたかったのに〜】

 

 自分が殺したかったと鳴風は文句を言うが、土門は気持ちは分かると思いながら、鳴風を宥めて、鳴風に頼むことを話す。

 

土門

【鳴風には、私と同じで周囲の雑魚をやります。むしろその方が楽しいと思いますよ】

 

鳴風

【……ううっ、仕方ない。じゃあ頼んだよ顎】

 

【任せておけ】

 

 顎はそう言うと足元の土に顔を突っ込み穴を掘って消える。

 そして、顎がモモンジイに向かったのを確認すると、ふたりは茂みの方を見る。

 

土門

【鳴風来ますね】

 

鳴風

【うん来たね】

 

 ふたりがそう言うと、目の前から数十もの種族が異なるモモンジイの仲間の野良魔化魍が現れる。

 ツチグモ種、ヤマビコ種、ヌリカベ種、ウワン種といった野良魔化魍たちが目の前にいる裏切り者(そう思っている)の土門と鳴風を睨む。

 

【あれが魔化魍の王の家族か?】 【おそらくそうだろう】 【弱そうだな】

 

【ツチグモの恥知らずが】 【モモンジイ様こそ真の魔化魍の王】 【楽勝、楽勝】

 

【油断するな】 【美味そう】 

 

土門

【まあ、雑魚の遠吠えはよく響く】

 

 土門の言葉が野良魔化魍たちの言葉を一斉に止める。

 

鳴風

【っぷ、ふふふ、土門。本当でも言っちゃうのは反則だよ〜!!】

 

 土門の言葉で大笑いする鳴風に野良魔化魍たちは一気に殺気をむき出しにする。

 

【はっ、紛い者の王など我らが殺してくれよう】

 

 言い返しのつもりか何気なく言った野良魔化魍のその一言が多少は慈悲でもと考えていた土門の考えを那由多の彼方まで吹き飛ばし、アッサリと殲滅する方向に思考が切り替わる。

 

土門

【まあ始めましょう。幻魔転身

 

ピィィィィィィィィィィィ

 

 土門の全身を糸が覆い始め、鳴風は翼からの風で生み出した渦巻く風の球体に飛び込む。

 

【はっ、所詮はコケ脅しだ!!】

 

 そう言ったウワンが鳴風の風の球体に近付くと–––

 

【ぎじゃああああ】

 

 球体を割くように放たれた線がウワンを燃やす。

 ウワンは一瞬にして灰に変えられて、その灰が宙に舞う。

 

【よくも!!】 【あいつの仇を!!】

 

 ウワンの仇と今度はツチグモとヌリカベが襲い掛かる。

 

【なっ!!】 【う、動けない】

 

 そこに壁が有るかのように動けないツチグモとヌリカベ。

 やがて、糸に覆われたドームが割れてそこからひとつの影が姿を現す。

 糸車に似た2つの突起物が両腰から生えて、背から生える3対の脚、2枚重ねの刃の鎌を両腕となった前脚の先端から生やし、頭には黒幕のようなものまたは黒子の頭巾のような布がその表情を隠すように垂れており、黒装束を纏った虎縞模様の黄金蜘蛛の人型。

 

 風を突き破るように飛び出たのは、身体よりも遥かに大きい2対の燕の翼、鷹の如き鋭利な爪を生やした燕の脚、全体的に空色がかっており、その中でも目に付くのが翼の中央にある菱形の水晶がある糸巻鱏。

 

 姿の変わった土門が腕をくいっとあげると動けないツチグモとヌリカベが互いに向き合いツチグモはヌリカベに向かって飛び掛かりヌリカベは胸部を開いて中のローラーを動かす。

 勿論結果は言うまでもないヌリカベの胸部に飛び込んだツチグモはそのまま頭から潰されていく。

 

【おい!! 何をしている仲間だぞ!】

 

【分かんねえよ。身体が勝手に】

 

 ヌリカベの行動を咎めるウワンに、当のヌリカベは身体が勝手に動くという。

 

土門

【ふふふ、良いものですね】

 

【貴様がやったのか!!】

 

 野良魔化魍たちは今の状況を作り出したのは目の前の土門だと気付く。しかし––

 

【なっ!!】 【これは!!】 【動けない】

 

【どうなっている!?】 【あ、脚が勝手に!!】 【腕が!!】

 

 土門の前にいた野良魔化魍たちの動きが一斉に止まり、間を置くと自分の意思に反して動く身体に恐怖する。

 

土門

【さあ、今宵の恐怖劇場(グランギニョール)を始めましょう】

 

 腕を下ろして一礼すると、土門の腕と背にある脚が動き始め、それにつられて野良魔化魍たちは動き出す。

 

【やめろぉ!!】

 

 あるものは、否定の言葉を叫びながら仲間の頭に向けて足を振り下ろして頭を潰し。

 

【あああ、ああ!!】

 

 あるものは、泣きながら仲間の身体を刻み、その身体に執拗に刻む。

 

【死体が死体が、があ!!】

 

 あるものは、すでに死んでる筈の死体が体を動かし、関節という可動域を超えためちゃくちゃな軌道を描いて首を分断される。

 

 まさに地獄絵図、そう言っても過言ではないこの現状は土門がやったことだ。

 傀儡操糸劇団(マリオネットパーティ)

 それは土門が王の役に立ちたい。そんな一心で土門は人間の技術を研究し、ひとつの技術を見つけた。

 人形劇。その中で『糸繰り人形』に土門は目をつけた。ツチグモたる彼女の武器は何と言っても『糸』だ。自身の糸を目に見えない細さに変えて敵の身体に巻いて、敵の身体を意のままに操る。最大で100体を同時に操ることができる。

 更にこの技の恐ろしい点は意識がある状態で操れるということ原型がある程度残っている死体も操ることができる。

 意識があるものは自らの手で仲間を殺していくことを強制的に見つけられて、死体の場合は仲間だった死体が動き出して襲う。

 まさに恐怖、それを淡々とこなす傀儡師(土門)はどんどん死体を作り出していく。そんな光景に黒布で隠された土門の表情はおそらく満面の笑みを浮かべているのだろう。

 

 土門の傀儡操糸劇団(マリオネットパーティ)による同士討ちの側で鳴風は土門から逃れて残った野良魔化魍の半分を相手していた。

 

ピィィィィィィィィ

 

 鳴風が口から熱線を撃つたびにそれを受けた野良魔化魍は灰へと変わる。

 

【うわああああ!!】 【なんとかしろお!!】

 

 土門のところとは違い無理矢理ではなく本能のままに生き残ろうと、仲間を盾にしてでも生き残ろうとする野良魔化魍たちを鳴風は侮蔑の目で蔑みながら熱線を放つ。

 

ピィィィィィィィィ

 

 鳴風の放つ熱線は、ただの熱線ではない。

 鳴風の各翼に付いている菱形の水晶はただの水晶ではない。日中絶え間なく空から降り注ぐ紫外線を吸収するためのものである。鳴風はそれをエネルギーに変換し、飛行速度の上昇、成層圏から中層圏まで飛ぶ飛翔力と耐久性、そして攻撃に変換している。

 そして、その攻撃こそが鳴風から口から撃ち出す熱線である。

 

 ここで話は少し変わるがオゾン層というものがある。

 太陽から放射される有害な紫外線から人間などの動物や植物を守ってくれているものだ。だがこのオゾン層はフロンという化学物質によって壊され、そこにやがてオゾンホールというものが出来上がり、その穴から有害な紫外線がもろに降り注ぐことになる。

 鳴風の熱線はいわば、()いたオゾンホールから直接降り注ぐ紫外線。

 紫外線だったエネルギーを体内で圧縮し何倍も威力を高めて放つ攻撃なのだ。生半可な防御など無意味。浴びせた敵を一瞬で灰に変える必殺の武器。

 名付けるのなら紫外線熱線(ウルトラヴァイオレットレイ)

 

【助けてくれ!!】 【逃げろ、にげ、】

 

【ぎゃああ!!】 【熱い、あつ、い……】

 

ピィィィィィィィィ

 

 空を飛ぶ手段を持たない野良魔化魍たちには空を駆けるように羽ばたく鳴風を止める事はできず、紫外線熱線の餌食となる。

 

 そこから作業ともいうような惨劇が広がる。

 土門が脚を動かすたびに野良魔化魍たちは互いを傷つけ合い、意識のある者も既に死んだ者も関係なく同士討ちによる殺し合いが展開され、鳴風の放つ紫外線熱線は瞬く間に浴びせた魔化魍たちを灰に変え、灰と共に一部の肉も飛び散る。

 阿鼻叫喚ともいうべき光景を見ていた崩と羅殴は野良魔化魍たちに同情する気はないがほんの僅かながら可哀想と思った。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、野良魔化魍たちとは違う場所を探すモモンジイ。

 

【チャガ、出てこい! 居るのは分かっている】

 

 そう言ったモモンジイからちょっと離れた場所からボコっと地面が盛り上がり、そこから姿を現すのは顎だ。

 

【お前がモモンジイか?】

 

【チャカカカカ。いかにもわっしがモモンジイ。真の魔化魍の王になる魔化魍。

 お前はあの王の魔化魍か。しかしあの時、あの場にいなかったぁ〜。お前は隠れてたのか?】

 

 自身の王を侮辱し、その場にいなかったことで挑発するモモンジイに対して、顎は静かに怒っていた。

 

【お前にはウチの家族が世話になったみたいだな】

 

 怒りを抑えながらモモンジイに聞くと。

 

【世話。チャカカカカカカカカ!!

 おお、わっしが世話してやったよ。誰か死んだか? あの紛い者の王は悲しんだか? 人間の分際で魔化魍の王を名乗るなど烏滸がましい!

 わっしが紛い者の王と偽りの家臣どもを殺して、真の魔化魍の王となるんだ!!】

 

ギリギリギリギリギリギリ

 

 手を上に掲げて自慢げに喋るモモンジイの言葉に抑えようとしていた怒りのゲージが一瞬にして振り切った顎は、上顎を擦り合わせ、口から白い煙を吹き出してその身全体に覆う。

 

【チャカカ? なんだもう逃げるのか。臆病者め、チャカカカカ……ちゃっ?】

 

 まさかの敵前逃亡かと、モモンジイは顎を馬鹿にしようとするが煙の中から何かを感じて、笑っていた声が中途半端に止まる。

 煙が晴れて現した姿は微々たる変化しかないが、その圧は先ほど感じたものとは違うとモモンジイは感じた。

 その姿は身体全体が紫に染まり、上顎は金色で鋭く鋭利なものへと変わっている。

 これこそ顎の新たな力。

 

 毒の特徴を持つ紫の属性の家族に自身に向けて毒を浴びせ続けてもらったことで生まれた顎の変異態。

 金属の王を融解させる毒を手にした顎門はその矛先を眼下の敵に向ける。

 

【チャカカカカ、それが切り札か? まあ、関係ない。真の魔化魍の王となるわっしの前には無意味!!】

 

 爪を伸ばしてモモンジイは一気に顎に近付く。

 顎は動かずにモモンジイを待ち、モモンジイの爪が遂に刺さりそうになると自慢の上顎でその爪を両断する。

 

チャカカカカ

 

 モモンジイは反対の爪を伸ばして顎の顔に突き刺そうとするが、顎は両前脚で爪を受け止める。

 顎は捻るように前脚を動かして爪を折り、捻った動きに合わせて身体を回転させて腹部でモモンジイを吹き飛ばす。

 

ギリギリギリギリギリギリ!!    チャガッ!

 

 腹部のスイングのような攻撃で怯んだモモンジイに顎は口から針のような形状した紫色の弾を撃ち出す。モモンジイはそれに対抗して口から砂のブレスを吹き出す。

 顎の弾をブレスで弾いたモモンジイは更にブレス吹き続けて、周囲が砂のカーテンで覆われる。

 

ギリギリギリギリ

 

 顎は砂で全く見えないなか、モモンジイを探すもどこにも見えない。

 

チャカカカカ

 

 モモンジイの声が砂で反響するせいか、そこら中から聞こえて顎は周囲を見渡す。すると–––

 

ギリギリッ!

 

 前脚に何かが突き刺さる。顎は何かの刺さった前脚を見るとモモンジイの首回りに生えている針が突き刺さっていた。

 

チャカカカカ

 

 また声が響くと今度は腹部が斬られ、着地したと思われる場所には地面に突き刺さっているモモンジイの爪だった。

 

チャカカカカ、チャカカカカカカカカ

 

 モモンジイの声が響けば顎の身体に針か爪の攻撃がくる。

 砂が晴れるとそこに身動きができない顎がいた。モモンジイの爪と針の攻撃によって顎の身体は地面に縫い付けるように抑えられてその場から動けないように固定された。

 

【チャカカ、どうだ動けんだろう。その場でゆっくりと貴様を解体して王の元にお前の死体を送ってやる!!】

 

 そう言いながら、更に爪を伸ばして顎に近付くモモンジイ。

 だが、モモンジイは忘れていた。自身を始末するために来たのは顎だけではないということを–––

 

【ん? なんだ】

 

 何かの音が耳に入り、周囲を見渡すモモンジイ。

 だが、音はどんどん大きくなっていき自身に近づいてくる。

 

ピィィィィィィィィ

 

【チャカカ!!】

 

 その音は遥か上空からモモンジイに向けて飛んだ鳴風。

 野良魔化魍たちを始末し、急いで顎のいる場所に飛んできたのだ。

 音に気付くも顎に身体を向けていたモモンジイが鳴風に対処出来るはずもなく、鳴風の翼に集まった真空の刃は容赦なくモモンジイの片腕を斬り落とす。

 

【チャガ、糞っ!! 卑怯者め、降りてこい!!】

 

 モモンジイは(そら)にいる鳴風に向けて馬鹿なことを喚く。

 戦っている相手の言葉を素直に聞くわけはなく、鳴風は宙を旋回するように飛ぶ。

 

【チャガ、おのれっ!!】

 

 モモンジイは宙の鳴風を睨む。モモンジイが喚くのはもちろん理由がある。

 モモンジイの操地流術(そうちりゅうじゅつ)の弱点。それは宙にいる敵に対して壊滅的といってもいいほど相性が悪い。

 別に攻撃出来るか出来ないかで言うのなら攻撃は可能だが、地に接していない宙はその攻撃の威力が大幅に減少する。おまけに鳴風によって腕を斬られたことで術を安定させることが困難になった。

 モモンジイは片腕でも構わないと、地に手を当てて上空を舞う鳴風に攻撃を仕掛けようとした瞬間–––

 

土門

【後ろがガラ空きです】

 

 そう言ってモモンジイの背後から現れたのは鳴風と同じように野良魔化魍を殲滅した土門だ。

 しかもモモンジイが襲撃でやったことと同じことを土門が行うという皮肉めいた登場だ。現れた土門は腕に絡めた糸を使って、地面に突き刺さっているのと顎に刺さっていたモモンジイの針と爪を抜いてモモンジイの身体に投げ飛ばす。

 

【チャガ!!】

 

 上空の鳴風へ攻撃しようとしたモモンジイの身体には土門が投げつけた針や爪が足や身体を貫き、さらには貫いた針先が地面に突き刺さりモモンジイの動きを止める。顎は動けないモモンジイに向けて駆ける。

 

ギリギリギリギリ

 

 顎は前脚でモモンジイの(あご)を上下に固定し、その開いた口に向けて顎はこの変異態の姿で最大の攻撃を放つ。

 顎の口から噴き出るのは絵の具のパレットでぐちゃぐちゃに混ぜた時のような色をした霧状になった毒。それを顎はモモンジイの口から体内に向けて猛烈な勢いで噴き出す。

 

【チャガ、ガガ、げほっ、チャげああ!!】

 

 流し込まれる物による苦しみから逃れるためモモンジイは顎からの攻撃の最中に顎の腹に蹴りを浴びせて、なんとか顎の攻撃から逃れる。モモンジイは反撃とばかりに首回り生える針に手を掛けようとした瞬間、異変に気づく。

 

【チャ、指が!!】

 

 針を掴もうとしたモモンジイの指がポロッと地面に転がる。落ちた地面で指はドロリと溶ける。

 指に続き今度は、皮膚が少し剥がれて同じように溶けていき、更に剥がれた所から身体が膿んでいき、膿んだそこから赤い液体がドロリと垂れていく。

 

【チャガアアアア!! わっしの身体が、身体がぁああ!!】

 

 顎がモモンジイの体内に向けて直接吹き込んだ儚散蟻酸(ぼうさんぎさん)は、顎が変異したことによって生まれた顎の切り札だ。

 顎の変異態であるオオアリ王水は、その体内には変異するためのキッカケとなった紫の属性の家族の強力な毒が存在し、それらが混ざり合い生まれた毒が顎を変異態へ変化させるキッカケとなった。

 そして、そんな顎の体内にある混ざり合った毒を更に体内で濃縮し完全なる攻撃用に転じたのが儚散蟻酸である。

 その効果は変異態の名にもある王水の名の通り、金属の王様 金すらも溶かす毒と同等いやそれ以上の強力な毒だ。しかもこの毒は空気中に毒霧のように吹けばその場に5日間以上も留まり、その場を通る者を全て溶かす。

 

【チャ、わっ、しは王に、ただしい、魔化、もうを】

 

 儚散蟻酸が全身に回ったモモンジイの身体は肉だった赤黒い液体を周囲に散らしながら僅かに残った頭と口で自身の抱いていた野望を呟く。

 その姿を煩わしく思った顎は残った頭を踏み潰そうと脚を振り上げるが–––

 

【何故止めるのだ土門?】

 

 モモンジイの頭を潰そうとした顎の脚を止めたのは土門だった。

 

土門

【……もうすぐ死ぬソイツには頭を潰しての楽な死なんて生ぬるい。誰に歯向かったのかと苦痛を味合わせてゆっくり死んでもらおう】

 

【そうだな】

 

【チャガ、か、お、お】

 

 薄れ消えゆく意識の中でモモンジイの身体はもはや液体に僅かな目玉と口が着いただけのものに変わっており、野望を呟いていた口は徐々に形が変わり、最後には肉の欠片など一切ない液体へと変わり果てた。

 幽冥を亡き者として王を目指そうとした愚かな魔化魍の成れ果てた姿を見ても誰もその光景を覚えないだろう。

 何故なら自分たちは王を守る矛であり、盾であり、王に愛された家族なのだから。

 

 

 

 

 

 

 モモンジイやその仲間の魔化魍の死骸を片付け、結界を解除した土門たちは静かに妖世館に戻った。

 時間帯としては深夜3時ほどの時間帯。館の灯りという灯りは既に落ちており、暗く静かな館に扉が開く音が鳴る。

 

土門

【…………ふう、王は眠っているようです。いs「お帰りなさい」…!!」

 

 土門たちの顔を向けた先には腕を組んで仁王立ちで待つ幽冥の姿があった。

 

土門

【!! 王、なぜ此処に?】

 

「白たちがなんか隠してるのは分かったし、土門たちが何処かに行くのも見てたし、おまけに少ししたら結界を張ったのを確認したら、白が教えてくれたよ。

 さあ、詳しく話してもらおうかな」

 

土門たち

【【【【【……はい】】】】】

 

 結局、幽冥にバレてしまい事情を説明することになった土門たちとそのことや負傷者がいたのを隠していた白たちは、普段怒ることがない幽冥によってこってりしぼられたのは言うまでもないだろう。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯

 顎によってモモンジイが始末される瞬間。

 その光景を遥か遠くから見ていた2つの影があった。

 

【やはり、ダメでしたねぇぇ。ねえ、25番】

 

【かまわん。我らの話を鵜呑みにして、行った者の末路など、どうでもいい。

 それと、その呼び方はやめろと言っただろう】

 

【いいじゃない。それだったら貴方もアタシを56番って呼べば良いじゃない。

 ………しかし、アレ(モモンジイ)はいい仕事をしました】

 

【ああ。そこには感謝してやってもいいなぁ】

 

 今、死んだモモンジイのことを語る2つの影の側に、新たな影が現れる。

 

【此処にいたのか】

 

【あら、40番じゃない。52番の集めたものを取りに行ってたんでしょ】

 

【ああ、奴が死んだのは惜しいが今、悲しむことじゃない】

 

【そうね〜。52番、母親に会いたいねぇ〜。

 クフフフ、馬っ鹿じゃない! その母親がどうなってるか知らずに】

 

 1つの影は死んだものに対して残念そうに言うが、もう1つの影は死んだものを嘲笑する。

 

【よせ。奴らに聞かれると面倒だ】

 

【クフフフ、安心しなさい。裏切り者や行方不明の8番や12番、15番、38番はさておき。

 30番と37番、53番は今居る場所から離れることはないからねぇ】

 

【それでもだ。それにお前の言う53番は侮れない奴だ】

 

【………まあ良い。帰るぞ】

 

【は〜い】

 

 そうして3つの影はその場から消える。




如何でしたでしょうか?
今回の話で幕間は終了です。最後のキャラたちは察しが良い方はおそらく直ぐに気づきます。
因みにそれぞれの変異態の名は、土門が、傀儡劇団のツチグモ。
               鳴風が、イッタンモメン陽射
               顎が、オオアリ王水となります。
次回からは鳥獣蟲宴編となります。

ーおまけー
迷家
【さあ、今日もおまけコーナーを【失礼】ふぇ!!】

【すまないね】

迷家
【だ、誰だよ君は!!】

【ふむ、私は…………そうだな。あえて言うならサーティセブン、と名乗ろう】

迷家
【サ、サーティセブン? そのサーティセブンが何のようだよ】

【君は、魔化魍の紹介が苦手だと言うのを聞いてね】

迷家
【うぐっ!】

【私はそんな君の代わりに紹介を任されたものだよ】

迷家
【誰に任されたの?】

【私をここに紹介したのは、君が変な人と呼ぶものだよ】

迷家
【う〜変な人の紹介じゃ仕方ない。お願いするよ】

【うむ。私に任せたまえ】

サーティセブン
【改めて私はサーティセブン。此度に登場した魔化魍モモンジイの解説をさせてもらう】

モモンジイの解説
種族:ヒトリマ亜種 モモンジイ
属性:茶
スタイル:堅
分類:中型
鳴き声:チャカカカカカ
容姿:針鼠のような針の襟巻きを首周りに生やし、ゴツゴツとした岩の鱗を全身に生やした
   二足歩行の襟巻き蜥蜴
特徴:幽冥の家族、暴炎ことヒトリマの亜種にあたる茶属性の魔化魍。
   主に草木も生えない岩場や狭い洞窟に生息している。
   従来のヒトリマは炎を喰らって生きる種族だが、亜種であるモモンジイは炎ではなく
   砂や岩などを喰らう。
   首回りに生えている針鼠の針のような襟巻きから獲物となる人間に向けて針を発射し
   、針に刺さって動けなくなった人間を生きたまま捕食する。
   ヒトリマは炎を操るが、モモンジイは地面、正確に言うなら地表を操作する。
   地表を隆起させたり陥没させたり、地面を割るなどの足場を不安定にして敵の行動を
   妨害または攻撃として使用する。
   人間なのに魔化魍の王として認められる(一部野良魔化魍の間)幽冥を魔化魍の王と
   は認めていない。
   ある存在に王を殺せば、王になれると吹き込まれて、自らこそが『真の魔化魍の王』
   であると証明するために仲間の魔化魍を引き連れて、幽冥と美岬が出掛けていた最中
   に宣戦布告する。
   最初は奇襲によって大勢の幽冥の家族に負傷を負わせ、幽冥が居なかったとはいえ、
   初めて家族たちに敗北を刻み込んだ魔化魍。
   再戦では、土門たちの奇襲によって予定を狂わされ、変異態となった顎と戦う。
   最初は自慢の『操地流術』や首回りの針を使った遠距離攻撃で顎を追い詰めるもの鳴
   風の不意打ちによる攻撃で『操地流術』で使う腕を片方を斬り落とされて形成逆転。
   地面に落ちていた針を土門がモモンジイに投げつけて動きを封じ、最後は顎の『儚散
   蟻酸』を口から吹き込まれて、内部から身体を溶かしてその一生を終えた。
戦闘:口から砂のブレス、首の針による遠距離攻撃、地面を使った操地流術(そうちりゅうじゅつ)
   爪を使った近接攻撃と射出による中距離攻撃
CV:伊藤健太郎(ニーズヘッグのファフナー)

サーティセブン
【どうだったかな?】

迷家
【うん。ありがとうね。僕が解説してたら多分、知恵熱で倒れたと思うし】

サーティセブン
【迷惑でないのならこれからも魔化魍の解説は私がやりましょうか?】

迷家
【いいの! じゃあお願いねサーティセブン】

サーティセブン
【ええ。任せてください】

迷家
【あ、こんな時間だ。じゃあ次のコーナーでじゃあね♪】

サーティセブン
【またお会いしましょう】


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安倍家の魔化魍 弐 改

安倍家の魔化魍の改帳版です。
本編より先にこっちが出来ましたのでこっちを先に投稿します。
雛編、コラボ編、九州地方編に登場する魔化魍の解説です。
友人からの助言でもう少し章分けして投稿します。
多大なネタバレが含まれたますので読む際はご注意ください。
またこれは安倍家に所属する魔化魍になります。途中に出てくる魔化魍 オセやアロケル、モモンジイは安倍家ではないので載っておりません。オセ達は登場話の後書きに書きますのでお楽しみに。
新たにイメージCV追加。()はその声優が演じてるキャラクター。
更に髪や瞳、擬人態の容姿、一人称、戦闘法、特徴解説を追加及び改訂しました。
靴の情報のないキャラは白か黒、または解説キャラの髪色と同色の運動靴を履いてます。


ー雛編ー

 

◯南瓜

名前:かぼちゃ

種族:ジャック・オ・ランタン

属性:赤

スタイル:突

分類:等身大

鳴き声:カッカッカッカッ

一人称:私

容姿:ミラーボールくらいの大きさの南瓜の頭にギザギザの口の奥には炎が灯され、溶岩の

   様なものが身体に流れるガッシリとした体躯、腰に灰色の腰巻き、赤い罅が入ったゴ

   ツゴツとした腕の人型

二つ名:灼南瓜

特徴:『炎の南瓜頭』、『提灯ランタン』、『中心の炎』という異名を数多く持つ5大五行

   魔化魍の1体。

   猛士北海道第1支部に南 瓜火と名乗って潜入して、猛士北海道第1支部に捕らわれ

   た魔化魍の救出の為に行動していた。

   波音の仲間の救出のために猛士北海道第1支部に襲撃を掛けた幽冥たちの行動によっ

   て潜入を止めて、調鬼に変身鬼弦を返却した。

   化け物となった志々田との戦いで調鬼、三尸、兜、命樹と成り行きで組んで志々田を

   殺す。その後に幽冥を監視していた暴炎と葉隠の攻撃を逃れて、緑たちと合流する。

   雛編では紫陽花の依頼で屋敷の護衛を頼まれ、その最中で幽冥たちと再会する。

   猛士に潜入した際に情報を色々と奪い、その情報を慧鬼や調鬼と相談しながら猛士の

   行動を予測する。

   交友関係にあたる魔化魍が数多く存在し、その交友関係は全てある目的のために知り

   合ったとのこと。

戦闘:南瓜爆弾を使った絨毯爆撃、口から火炎、炎の拳による近接攻撃、

   溶岩を盾にして防御

擬人態:程よく整えた黒髪、暗めな橙色の瞳、胸元のポケットにメモやペンを指した白衣を

    着て、紺色のズボンを履いた青年

CV:内田夕夜(ネブ博士)

 

◯古樹

名前:こじゅ

種族:フルツバキ

属性:緑

スタイル:射

分類:中型

鳴き声:ユラユラ、ユラユラ

一人称:私

容姿:蔦で覆われた球状の頭に身体の各所に椿の花を咲かしてる人型

二つ名:椿人→老椿人

特徴:南瓜と行動を共にする魔化魍 。

   幽冥の家族である魔化魍の中で唯一、幽冥以外の魔化魍の王に全てに会ったことがあ

   り、幽冥の家族の魔化魍の中では緑と共に最高齢の魔化魍である。

   また『最古の二つ名持ち』の魔化魍というこの時点で他の魔化魍とは一線違っている

   のが伺える。

   幽冥が雛の家族を探していた時に緑と共に現れて紫陽花の事を教え、道案内をした。

   屋敷での戦いの後に古樹と名を貰う。

   長生きしていたせいか『年寄り』や『年齢』に関することを言うと手がつけられない

   くらいに怒る(同じ時を生きる育て親の緑や旧知の仲である歴代の魔化魍の王たちの

   場合は笑って流す)。

   この状態になるとその言葉を言った者が心身ともにボロボロになるまで攻撃を続ける

   。

   今の所、崩、暴炎と灯籠が『年齢』の事を言ってしまい後にボロボロな状態で発見さ

   れた。暴炎に至っては属性相性上では不利の筈なのだが、一方的な攻撃でボロボロに

   したらしく、魔化魍でも女性に年齢のことはタブーだということが伝わる。

戦闘:植物系の術、椿の花弁を使った遠距離攻撃、椿の花から神経麻痺ガス

擬人態:前側に結った一房がある緑の髪、マホガニーカラーの瞳、やぶれ業平格子の浴衣を

    着て、下駄を履いた女性

CV:本田貴子(みたらしアンコ)

 

◯緑

名前:りょく

種族:フルツバキの妖姫

属性:緑

スタイル:駆

一人称:私

容姿:右側に椿の枝を模した簪を刺した緑の長髪、スプレイグリーンカラーの瞳、襟に椿の

   刺繍が入ってる黒の着物に赤い帯を巻いて、唐傘模様の手提げ袋を持ち、下駄を履い

   た女性

特徴:南瓜と行動を共にするフルツバキの妖姫で古樹の育て親。

   古樹同様に幽冥以外の歴代の魔化魍の王に会ったことがあり、幽冥に仕える従者の中

   では最年長になる。

   古樹と共に現れて紫陽花の事を教え、紫陽花の住む屋敷へ道案内をしてくれる。

   自分の正体を知って落ち込んでいた雛を慰めるために比較的に精神年齢の近い潜砂を

   雛に合わせた。

   屋敷での戦いの後に緑と名を貰う。

   母親というより年上のお姉さんのような対応をしているためか一部の家族には『緑お

   姉さん』と呼ばれている。

   武器として使う十手は、2代目魔化魍の王フグルマヨウヒから授けられたものでとあ

   る魔化魍の身体の一部を加工して鍛造した特別な十手。

   経緯は明かさないがこの緑も幽冥に恋愛感情を抱いている。しかし、第1妃などには

   興味がなくただ幽冥の側に居て、幽冥と自身の間に産まれた子を欲しがっている。

   捕虜である鬼用と家族である魔化魍用の食料調達を担当しているため、妖姫従者の中

   で1番外出が多い。

戦闘:煙玉による撹乱と逃走、強化と植物と妨害系の術、十手を使った近接攻撃、

   ツタ腕による拘束と捕獲

CV:能登麻美子(閻魔あい)

 

◯潜砂

名前:せんさ

種族:ノツゴ

属性:茶

スタイル:堅

分類:大型

鳴き声:オギャァァァ

一人称:僕

容姿:鍬形虫のような大顎を持つ蠍

二つ名:徹攻蠍

特徴:南瓜と行動を共にする魔化魍の中で最年少。

   生まれて間もない時に育て親であるノツゴの怪童子と妖姫が鬼にやられて死亡。以降

   は、レイウルス・アクティアに育てられた。その為かレイウルスを父親の様に慕って

   いる。

   言動が幼く、少し我儘で遊びたい盛りのためか緑に雛を紹介された時にはその持ち前

   の子供らしさで雛を励ました。

   屋敷の戦いでレイウルスと協力して岸鬼を倒す。

   戦いの後に潜砂と名を貰う。

   擬人態で行動する際の勉強を春詠や黒から教えられてるが、『つまらない』とい理由

   で勉強部屋から雛と共に逃走することが多く、上記の2人をよく困らせている。

   その不満が一度爆発して勉強時間短縮を賭けて『大カルタ対決』を行い、その際に対

   戦相手である春詠に論されて勉強の大切さを改めて教わり、春詠に正式な勉強を頼み

   、そこからは逃げることなく勉強をするようになる。

   またこの時に春詠に恋心抱くようになりレイウルスは静かな応援、他の恋心をもつ家

   族は普通に応援するようになった。

戦闘:大顎による切断と叩きつけ、尾の毒針による一撃離脱戦法、口から糸を吐き拘束

擬人態:黄土色のショートヘアー、蜂蜜色の瞳、フード付きの黄色のパーカーを着て、カー

    キカラーの短パンを履いた裸足の幼女

CV:小林由美子(ジンジャー・ブレッド)

 

◯屍

名前:かばね

種族:テオイヘビ

属性:紫

スタイル:駆

分類:大型

鳴き声:シャアアアアアアアア

一人称:私

容姿:頭部と尾が白骨化していて尾先から血を流す蛇

二つ名:頭尾骨蛇

特徴:南瓜と行動を共にする魔化魍。

   尾先から『強酸性の血(毒血液)』を無意識に垂らす為、普段は古樹に頼んで術を掛けてもらい

   血によって起きる被害を防いでいるが、戦闘の際には術を解除して使用する。

   屋敷の戦いではこの力を使ったことで複数の傭兵を一瞬で殺した。

   戦いの後に屍と名を貰う。

   骸と同じ種族の魔化魍と思われるが、実際は全くの別種。

   その理由は骸とは生まれた経緯が異なり、屍は人間に虐待された動物の怨念によって

   変化した蛇の魔化魍。

   『毒血液』はその怨念が攻撃的に変化したもので、虐待された動物たちの怨みが世を

   呪う為、無意識で溢れ出てくる。

   だが、怨念が切れると『毒血液』は出なくなり、戦闘能力が低下する為、怨念を集め

   るために3日間、神奈川県の某所で怨念を溜めるために過ごし、補充が終わると戻っ

   てくる。

   またアルコールを呑むと『毒血液』の酸性が薄くなり攻撃力が低下、おまけに屍自身

   も二日酔いの症状で苦しむ。

   後に爬虫類系魔化魍の家族で作り出した『安倍家爬虫類家族の会』の副会長を務めて

   いる。

戦闘:口から猛毒ガス、毒血液による広範囲攻撃、毒と妨害系の術

擬人態:赤のメッシュが入った短い白髪、暗めな山吹色の瞳、暗めなスーツを着て、右腕全

    体と左脚が白骨化しており隠すように厳重に包帯を巻き、ヒールを履いた女性

CV:小林ゆう(墨須)

 

◯灯籠

名前:とうろう

種族:バケトウロウ

属性:茶

スタイル:射

分類:中型

鳴き声:ポロポロポロポロ

一人称:私

容姿:仮姿/笠の部分が亀の甲羅で、火袋に目が浮いていて、中台に亀の脚がある石灯篭

   本姿/石灯篭が一体化した甲羅の亀

二つ名:石籠亀

特徴:かつて戦った鬼に奪われた自分の身体の一部である『火晶(かしょう)』を猛士から取り戻す為に

   南瓜と行動を共にしている。

   『火晶』には炎を溜め込む性質があり、暗がりでの明かりや人間を喰らえなかった代

   食としてそこに溜め込んだ炎を喰らう。

   猛士では鬼の強化アイテムとされており、ある時にはそれが理由で大量のバケトウロ

   ウが猛士に襲われ、清められたことがある。

   右脚で踏んだものを石化させる能力を持ち、これを使って近接と中距離に対応した攻

   撃を行う。

   屋敷の戦いで顎と組み、傭兵を踏み潰してフレッシュな血のジュースに変えた。

   戦いの後に灯籠と名を貰う。

   穿殻の合成ジュース作りを見て、自身も100%野菜や果実を使ったジュース作りを

   しており、こちらは従者戦闘員たちからは好評で、味見目的で灯籠の済む部屋に行く

   従者戦闘員が多い。

   その光景を見て穿殻の合成ジュースの被害者が増えるのは言うまでもない。

戦闘:土系の術、灯篭から火球、触れたものを石化させる右脚による妨害攻撃

擬人態:所々に埃が付いたボロボロな灰色の長髪、山吹色の瞳、生地の薄い白の上下服を着

    て、左脚に石の枷を付けた裸足の幸薄そうな女性

CV:小松未可子(白銀つむぎ)

 

◯舞

名前:まい

種族:マイクビ

属性:黒

スタイル:突

分類:中型

鳴き声:カラン、カラン

一人称:私たち

容姿:3つの首だけの女性で、それぞれ口に簪、手鏡、櫛を咥えている

二つ名:三つ首

特徴:没落武家の処刑された三姉妹の切り離された頭が長い年月を経て、溜まった怨みによ

   って魔化魍と化した。魔化魍として目覚めて数日後に南瓜たちと出会い、行動を共に

   するようになる。

   元々は1つの頭だけの魔化魍だが、稀に複数の頭が本体の個体が産まれる。その為、

   舞を倒す場合は3つの頭を同時に倒さないと倒せない。

   攻撃方法が3つの首全て異なり、見分けはそれぞれの口に咥える簪、手鏡、櫛で、こ

   れで見分けをしている。

   簪は物理的な近距離から中距離攻撃、手鏡は遠距離攻撃、櫛は妨害と戦いの役割が異

   なる。

   屋敷の戦いでは数人の傭兵を痛ぶりながら捕食するというサディストな一面を見せる

   が、これは処刑された時の恨みからくる行動らしい。

   戦いの後に舞と名を貰う。

   擬人態になる時は主人格となる首を中心にして人間に化ける為、見た目は一緒だが性

   格が違い、見分けられるのは今のところは唐傘と潜砂、乱風だけである。

戦闘:簪は髪の毛による近接攻撃と中距離攻撃、風と強化と特殊系の術

   手鏡は太陽光の反射による熱線

   櫛は髪による拘束と妨害、幻術、妨害系の術

擬人態:編み目に結んだ黒髪を肩から垂らし、藤紫色の瞳の半目、若草色の着物を着て、黒

    の手提げ袋を持ち、白い足袋に下駄を履いた女性

CV:阿部彬名(百貌のハサン)

 

◯凍

名前:いて

種族:ヒャクメ

属性:白

スタイル:幻

分類:中型

鳴き声:ピチャ、ピチャ、ピチャ

一人称:私

容姿:鰭が凍っている単眼の金魚

二つ名:凍鰭魚

特徴:紫陽花に救って貰い、その恩で屋敷のお手伝いとして住んでいる魔化魍。

   葉隠と同じように自分に似た分体を作る能力を持ち、それらを使って屋敷の家事全て

   担っている。また数週間に1回に襲撃を行う猛士九州地方佐賀支部の刺客の始末も任

   されていた。

   本体はひとつだが、普段の手伝いのために常に2体以上の分体と共に行動しているの

   で、喋っている声が三重に重なって聞こえる。

   戦いの後に凍と名を貰う。

   王である幽冥に対しては『恩人を救ってくれた者でありまた、私たちの王』と思って

   いるが、基本的には紫陽花の命令や雛のお願いを優先としている。

   始末した人間や魔化魍を使って氷菓子を作り、紫陽花や家族に出したりしている。そ

   の姿を見た南瓜は密かに『氷結の仕事人』と名付けた。

   妖世館では紫陽花の孫でもある雛の護衛と後に出来る地下第3界で司書を担当してい

   る。

戦闘:氷系の術、氷を身に纏って突進、鰭から水の手裏剣、分体による物量攻撃

擬人態:整えられた長さで前髪の一部に白に近い水色が混じった黒髪、藍色の瞳、金魚の絵

    が描かれた和服を着て、草履を履いた少女

CV:寿美菜子(カリーナ・ライル)

 

◯紫陽花

名前:あじさい

種族:ツクモガミ異常種 コソデノテ

属性:銀

スタイル:幻

分類:中型

鳴き声:フフフ、フフフ

一人称:私

容姿:仮姿/紫陽花が描かれた小袖

   本姿/小袖の袖のような後翅で前翅近くの袖口から黒い腕を出してる揚羽蝶

二つ名:戻蝶

特徴:元は明治時代にとある令嬢に贈られる為に織られた小袖が長い月日でツクモガミと化

   し、更に異常種へと進化した。

   立花 雛の実の祖母。

   雛の祖父である先先代の呑鬼と戦っていた関係だったが、戦いの最中起きた土砂崩れ

   に巻き込まれ、閉じ込められた洞窟で擬人態の姿を見た先先代の呑鬼が『惚れたから

   結婚してくれ』と言い、猛士には清めたということにして結婚する。

   結婚後に魔化魍である自分と人間の血を引くハーフの息子が生まれ、その息子と妻の

   間に産まれたのが雛である。

   猛士九州地方佐賀支部の支部長 脳見 潘に雛の正体がバレて、雛を逃がす為に息子

   は死亡し、死の間際に息子から預けられた呑鬼の変身鬼笛をいつか自分の元に戻る雛

   の為に屋敷に隠した。

   屋敷での戦いで、雛を守る為に戦うが錫鬼の攻撃で雛を庇って負傷、ユキジョロウが

   憑依した幽冥に助けられる。

   戦いの後に自身の住んでいた屋敷を燃やし、幽冥の妖世館で雛と同じ部屋で暮らす。

   雛との久々の暮らしのせいか、かなり雛に甘くお願いを頼まれては断れないことが多

   い。

   擬人態の姿では、立花 紫陽花と名乗っている。

戦闘:相手の武器を強奪、様々な術、長腕による拘束と連続攻撃、鱗粉による粉塵爆発

擬人態:地面に付くほど長い黒髪、灰色の瞳、仮姿と同じ小袖を着て、草履を履いた女性

CV:林原めぐみ(シェリー)

 

◯世送

名前:よおくり

種族:オクリイヌ

属性:赤

スタイル:駆

分類:中型

鳴き声:ワン、ワン

一人称:俺

容姿:背中に黒いもやが漂う柴犬

二つ名:送狼

特徴:食香に育てられた魔化魍の1体で、食香のことを『お袋』と呼んでいる。

   成体になった後に人間のバイクに興味を持ち、愛車の『ヤマハFJR1300』に乗

   り、日本各地を旅していた。

   バイク旅の最中で食香の匂いを感じ取り紫陽花の屋敷に訪れて食香と14年振りの再

   会をする。

   食香からは反抗的な態度が多かったせいか『不良娘』と呼ばれている。また食香と同

   じ時に育てられた魔化魍でもある乱風とはお互いの考え方の違いで衝突することもあ

   るが、戦闘においては、背中を預けられる仲である。

   食香の話を聞いて、安倍家にお世話になる事を決めて、世送という名を貰う。

   羅殴や憑に頼んで、妖世館の端にバイク専用のガレージを作って貰い、愛車はそこに

   仕舞っている。

   擬人態の時でももやを出し、愛車に纏わせたり戦闘を行うこともある。

   バイク旅をしていた時に鬼なのだが違う鬼と友人関係となり、その鬼の使う特殊な炎

   を習得する。

   因みに愛車の名前は『43(よみ)号』といい、最高の速さを求めて、様々なカスタムパーツ

   を組み込んで改造を行っている。

戦闘:鬼火による遠距離攻撃、背中のもやによる万能戦闘

擬人態:イエローゴールドのウェーブの掛かった長髪、澄んだ薄紫色の瞳、黒のライダース

    ーツを着て、赤いラインの入った黒シューズを履いた女性

CV:沢城みゆき(セルティ・ストゥルルソン)

 

ー幕間ー

 

◯迷家

名前:めいけ

種族:ツクモガミ異常種 マヨイガ

属性:銀

スタイル:献

分類:大型

鳴き声:なし

一人称:僕

容姿:全身が霧に包まれ、上向きに生えた角を後頭部に生やし、尾先が煙突の竜の落とし子

二つ名:霧竜の子

特徴:幽冥が北海道で住んだ貸家が長い年月と幽冥の『魔化魍の王の気』で生まれた魔化魍

   。

   ある意味では幽冥が生みだした初めての魔化魍であり、ツクモガミ異常種の新種でも

   ある。

   貸家の頃から自我意識を持っていたがそれを言葉にする方法がなく過ごしていたが幽

   冥のおかげで喋れるようになって感謝している。その後に迷家と名付けられた。

   生まれたばかりだが、戦闘能力を幽冥たちに見せようとした浮幽との模擬戦では引き

   分けに持ち込む程の戦闘能力と某家庭教師暗殺者の幻術士の『有幻覚』を使うことが

   出来ると判明する。

   だが、戦闘行為自体はあまり好きでは無い。

   マヨイガの固有能力で取り憑いた家を自由に改築する能力を持つ。

   幽冥からはその能力から妖世館に取り憑いてもらい地下の改築を任している。

   擬人態は存在するようだが、妖世館に取り憑いてる都合上で、外出することができな

   いので、擬人態に変わらない。だが、館内で時折、不思議な格好の少女(?)が彷徨

   く噂があり、それが迷家の擬人態ではと言われている。

   おまけコーナーにて『謎の存在(変な人)』からおまけコーナーの司会進行を任されて毎話のお

   まけコーナーで、ゲストとして呼んだ家族とお喋りしてる。

戦闘:空間湾曲、口から幻覚ガス、特殊と妨害系の術、憑依した家を中心に結界を作る、

   有幻覚による実体と幻覚を駆使した翻弄と連続攻撃

擬人態:不明

CV:大久保瑠美(アストルフォ)

 

◯水底

名前:みなそこ

種族:ツクモガミ異常種 ユウレイセン

属性:銀

スタイル:堅

分類:大型

鳴き声:キリギギギギギギ

一人称:私

容姿:仮姿/戦艦加賀に似た不気味な黒い戦艦

   本姿/四肢が蛸の足の硨磲貝の人型が操舵する動物と魚の骨で出来た戦艦

二つ名:怨骨戦艦

特徴:鋏刃が『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』で持ち帰った船が幽冥の『魔化魍の王の気』で生まれた魔化魍

   。

   ある意味では幽冥が生み出した初めての魔化魍であり、ツクモガミ種の新種。

   産まれて早々に鋏刃の元に向かって、船の時に沈めずに助けてくれたお礼を言う。そ

   の後に幽冥から水底という名前を貰った。

   上に乗って操舵しているものと下の戦艦は一心同体で片方が消えてももう片方が残っ

   ていれば時間が必要だが再生する事も出来る。

   硨磲貝の人型は艦の半身が離れた位置にいたとしても位置を把握し、遠隔操作で半身

   の船を操り砲撃することが出来る。

   基本は鋏刃の一歩後ろの下がった所から着いて来て、行動を共にしている。

   擬人態姿の言葉を喋らない鋏刃の補佐をしており、料亭の料理の手伝いや鋏刃の変わ

   りに喋る。

   また彼女を害そうとする存在、ちょっかいを掛ける者に対しては半身である船にある

   砲塔全てを使って『徹甲弾一斉斉射』を行う。

戦闘:霧を使った妨害、蛸の足による中距離攻撃と船の操舵、骨の盾を使った防御、

   骨を組み合わせた砲弾を使った遠距離攻撃、水系の術、

   水で出来たカットラスを使った近接攻撃

擬人態:ウェーブのかかった真珠色の長髪、紅紫色の瞳、白の巫女服に青いスカートを履き

    、木製の下駄を履いた女性

CV:井口裕香(加賀)

 

◯劔

名前:つるぎ

種族:ペガサス

属性:空

スタイル:突

分類:等身大

鳴き声:ブルルル

一人称:俺

容姿:馬の頭部、右手に長槍、左手に長刀を持ち、背に白い翼を生やし甲冑を纏った人型

二つ名:武装馬人

特徴:刺馬と共に流浪の旅を続けるイギリス出身の魔化魍。

   旅の途中で聞いた魔化魍の王の噂を聞き、妖世館に道場破りが如く侵入し、王に挑も

   うとするも荒夜に論されて荒夜と戦い、真の姿を解放するも敗北。

   己の未熟さを恥じて、幽冥に修行として妖世館に住まわせてくれと頼み、刺馬と共に

   妖世館で暮らす。名前はその時に授けられた。

   空を飛び戦闘を行うこともできるが、地に足をつけての真っ向勝負の騎士のような戦

   いを好むが、荒夜や常闇との修行によって多少の卑怯な手も使うようになった。

   実際の戦闘能力は荒夜と互角どころか上なのだが、かつて強大な力を持つ魔化魍と戦

   った際の余波が原因で刺馬に怪我を負わせたことが原因で、自身に『封印の誓い』を

   掛けて本来の姿から今の姿へと変わっている。

   だが、3つの誓いを満たす条件をクリアすればその力を解放できる。

戦闘:翼を盾にした防御、上空からの滑空攻撃、長槍と長刀を使った連続攻撃

擬人態:金の短髪、シアンカラーの瞳、イギリスの礼服を着て、焦げ茶の革靴を履いた男

CV:中井和哉(ソーマ・シックザール)

 

◯刺馬

名前:しば

種族:ユニコーン

属性:黄

スタイル:駆

分類:大型

鳴き声:ヒヒィィィン

一人称:私

容姿:捻れた槍の角を持ち腹部に火傷痕があり装甲が一体化した前脚を持つ白馬

二つ名:捻槍角馬

特徴:劔と共に流浪の旅を続けるイギリス出身の魔化魍。

   幼体の頃に育て親のユニコーンの怪童子と妖姫が死に1人だった所を劔が見つけて育

   てられた過去を持つ。

   それからも劔と共に旅を続けて世界各国を回った。

   腹部の火傷痕はかつて劔と共に挑んだ強大な力を持った魔化魍との戦いの際に劔が本

   気になりその時の戦いの余波によって受けた傷痕。

   この怪我がキッカケで劔は『封印の誓い』を自身に掛けた。

   だが、自分の失敗で負ってしまった怪我故に『封印の誓い』を掛けて力を封じた劔に

   負い目を感じている。

   幽冥の噂を確かめる為に妖世館に劔と共に侵入し、荒夜と劔の勝負を見届ける。

   敗北後に劔が妖世館に残る理由が自分の為と知り、妖世館に暮らすことになる。その

   後に名前を授かる。

   幼体の頃から劔に恋心を抱いており、そのことで狂姫に相談している。

   従来のユニコーンは角は捻れておらず太い直線的な槍だが刺馬の角は捻れている細め

   の槍になっている。

   背中に誰かを乗せて移動することも出来るが認めた者しか乗せない、高いプライドも

   持つ。

   今の所、刺馬に認められて乗れるのは魔化魍の王である幽冥と美岬、荒夜、狂姫、赤

   、緑だけである。

   『いつかは劔も背に乗せたい』と思っているがなかなか言い出せず、心の奥底に仕舞

   い込んでる。

戦闘:雷系の術、角から放電、角による突進攻撃、認めた誰かを乗せて行う馬上連携攻撃

擬人態:シクラメンピンクのウェービーロングヘアで、髪の間から覗かせる小さな角を額に

    生やし、オパールグリーンカラーの瞳、純白のドレスを着て、白い花飾りの付いた

    サンダルを履く女性

CV:野田順子(たしぎ)

 

◯小雨

名前:こさめ

種族:アメフリコゾウ

属性:青

スタイル:幻

分類:等身大

鳴き声:ザアー、ザアー

一人称:僕

容姿:青い傘を差したレインコートを着たペンギン

二つ名:雨呼鳥

特徴:その場にいるだけで半径25Kmに雨を降らす特殊な能力を持った魔化魍。

   神奈川県のとある山にある都市伝説『止むことのない雨』の正体。その都市伝説が原

   因か不明だが、100年間ずっとその山で暮らしていた。

   怨念を身体に蓄える為に山に訪れた屍に気に入られて妖世館に連れて来られ、『あな

   たが雨を自由に降らせられるまで、ここに居てもらうからね!!』と言われて、雨を

   自由に降らせられるようになる訓練を行わされた。

   幽冥の家族の協力で、雨を自由に降らせられる事が出来るようになったが、今度は別

   の理由を出して妖世館に留めさようとする屍に折れて、妖世館で暮らすことになる。

   そのすぐ後に幽冥から小雨という名前を貰う。

   それ以来は屍と行動を共にする事が多くなっている。

   雨を自在に降らせられるようになったことで、睡樹から畑の水やりを時々頼まれてい

   る。

   また雨だけなく雷も落とせるようになり攻撃能力が上昇している(従来のアメフリコ

   ゾウに雷の落とす能力はない)。

   後に妖世館の地下第2界の界護管理者となり地下空間内の水場の管理を行なっている

   。

戦闘:雨雲を呼び雷を落とす、傘から放つ衝撃波と水流

擬人態:青のメッシュの入った黒髪、ダックブルーカラーの瞳、白服の上に不透明なレイン

    コートを着、青い子供傘を持ち、ちょっとブカブカなビニール長靴を履いた男の娘

CV:折笠愛(ジーニアス・セイジ)

 

ーコラボ編 魔化魍の王とレレレの零士ー

 

◯砦

名前:とりで

種族:ヌリカベ

属性:緑

スタイル:堅

分類:大型

鳴き声:クワチョ、クワチョ

一人称:俺

容姿:蝸牛の頭部、蓑虫の蓑と牡蠣の貝殻を合わせた体、大木の根のような脚をもつ

二つ名:樹壁

特徴:灰に育てられた魔化魍で、灰を母親のように慕ってるが毒舌で灰のミスに注意をして

   いる。だが、灰のピンチには即座に駆けつけて、大暴れする。

   樹木に化ける能力を持ち、それを使って獲物となる人間を襲い、胸元の身体の一部で

   あるローラーで潰して捕食する。

   元々は零士たちのいる世界出身の魔化魍で、母である灰が惚れたのは魔化魍の王であ

   り、人間という矛盾な人物ということで警戒するが幽冥の人なりに触れて灰を任せら

   れる者と認める(自己解釈)。

   幽吾たちが元の世界に戻る際に悩む灰を心配するも、灰自身の問題であると思って何

   も言わなかった。そして、灰が残ることを決めて、それによって自分も灰を守るため

   に残ることを決めて幽冥の家族となった。

   庶務の仕事を偶に失敗する灰のフォローに回ることがしばしば。

戦闘:甲羅を使ったローラー攻撃、催眠性の花粉を使った妨害、樹木に化けて奇襲、

   根の足による拘束と連続攻撃

擬人態:短めな灰色の髪、垂れ目気味の焦茶の瞳、白の服の上に灰色のジャケットを着、ジ

    ーンズを履き、緑と白のスニーカーを履いた背の高い青年

CV:橋詰知久(ベルトルト・フーパー)

 

◯灰

名前:はい

種族:ヌリカベの妖姫

属性:緑

スタイル:献

一人称:私

容姿:灰色のロングヘアで左耳の上にシニヨン状に纏め、黄土色の瞳、灰色のワンピースを

   着て、蝸牛の殻の絵が縁を回るように描かれたスカートを履き、木製の靴を履いた美

   少女

特徴:人間に対して残忍な性格の多い妖姫従者たちの中で、心優しく非戦闘的で餌以外の目

   的で人間をあまり殺したがらないという類を見ない妖姫で、砦の育て親。

   そして、餌の捕獲で人間を襲う時も色々なことで失敗する事がよくあるらしい。

   例としては、後ろから頭を叩こうとしたらスカートの裾を踏んで自分の頭に鉄パイプ

   を落としたり、餌の人間の血が顔中に掛かって気絶したり等と。

   元々は零士たちのいる世界出身の妖姫で、幽霊族の幽吾と仲間達と行動を共にしてい

   たが、こちらの世界にきた時に幽冥に救われて惚れてしまう。

   幽吾たちが元の世界に帰ろうとした時に、戻るべきか幽冥の元に残るか悩むが、赤に

   『自分の胸の気持ちに正直になりなさい』という言葉で吹っ切れて、幽冥の元に砦と

   共に残り、従者となる。また、後の妖姫従者を含めても外見が1番幼く見えるが緑と

   後のある従者に次ぐ年長者でもある。

   妖世館では、足りない場所を手伝う者を的確に派遣する又は自ら行う庶務をしている

   。

   尚、人間を襲うことは苦手だが、それ以外のことは大抵上手くいくことが多い。

戦闘:強化系の術、全身を使った体当たり、鉄パイプを使った近接攻撃

CV:本泉莉奈(キュアアンジュ)

 

◯導

名前:しるべ

種族:クラゲビ異常種 タクロウビ

属性:赤

スタイル:幻

分類:大型

鳴き声:ポポ、ポポ、ポポ

一人称:僕

容姿:頭頂部が1周するように燃えていて、無数の触手の中に紫の4本の長触手を持った浮

   遊する小ぶりな鰹の烏帽子

二つ名:火廻海月

特徴:自身の身体にある炎を限界まで抽出し、その炎を体内に取り込む。これを1ヶ月繰り

   返したクラゲビが稀に変異する異常種。

   小雨の数少ない友人ともいうべき魔化魍で、小雨が居なくなった事で僅かな気配を頼

   りに小雨を探し出して妖世館で小雨を発見する。

   その時にたまたま小雨に引っ付いていた屍を見て襲われていると勘違いして、屍に戦

   いを挑む。後に小雨から勘違いと聞かされて気まずい空気を味わっている。

   その実力を見た零士も幽冥に『家族になれば』と言って、なんだかんだで家族になる

   。その際に自身の燃えている頭に触れる幽冥に悲鳴をあげている。

   ゴエティア72柱の悪魔魔化魍 オセとの戦いで洗脳された鬼の紗由鬼の洗脳を解く

   も、風鬼の攻撃から庇われて負傷した紗由鬼を見て激昂し、負傷の原因である風鬼と

   戦い勝利する。

   同族である浮幽や同じ赤の魔化魍達とよく会話していて、擬人態の姿で外に出かけて

   は『大きなお友達』に襲われそうになり、たまたま外出している家族や紗由鬼こと三

   枝 紗由紀などに助けて貰っている。

戦闘:触手から炎の弾幕、毒の棘の触手による刺突、炎系の術、炎で出来た布を使った防御

擬人態:黒にカーミンカラーのグラデーションの掛かったショートパーマ、アリスブルーカ

    ラーの瞳、頬に煤汚れが付いて、女の子寄りの可愛らしい上下服を着ている男の娘

CV:加藤英美里(ロシェ・フレイン・ユグドミレニア)

 

ー九州地方編ー

 

◯桂

名前:かつら

種族:カツラオトコ

属性:白

スタイル:堅

分類:等身大

鳴き声:なし

一人称:俺

容姿:長斧を持った裾の長い白の和服姿の鰐の人型

二つ名:白蜥蜴

特徴:単身で各地の猛士支部に現れては主力の鬼を殺して喰らっていた過去を持つ。

   その後に鉄の用心棒として雇われ、以後は鉄たちと行動を共にしていた。

   鉄の猛士九州地方支部の壊滅の為に魔化魍の王との交渉役として出陣した際に鬼に

   見つかり、やむなく交戦し、重症を負うが『転移の札』の事故で九州地方にやって

   来た幽冥たちに助けられて、傷の手当てをされる。

   幽冥たちに計画の協力を頼み、傷が癒えて直ぐに鉄のいる場所に案内をしてその時

   に名前を貰う。

   猛士九州地方大分支部での戦いで支部長であり鬼の閃鬼こと布都 ミタマを撃退し

   て四肢を斬り落として捕虜にした。

   暴炎と三尸と屍と共に『安倍家爬虫類家族の会』を作った1人。

   猛士から付けられた『白蜥蜴』という二つ名に不満を持っており、その名で呼ばれ

   た時、『蜥蜴じゃない鰐だ!』と反論している。

   二つ名の『白蜥蜴』の由来は、遠目から姿を確認した鬼が蜥蜴と勘違いしたことか

   ら付いたようだ。

   また、名前でも迷家の言った『ヅラ』というあだ名が広まり、その度に『ヅラじゃ

   ない桂だ!』と言っている。

戦闘:口から水流、長斧を使った近接攻撃、触れたものを凍結させる両腕の妨害攻撃

擬人態:腰近くまで伸びた黒の長髪、白に近い水色の瞳、白の着物を着て、青袴を履き、

    草履を履いた男

CV:石田彰(桂小太郎)

 

◯渦潮

名前:うずしお

種族:ウミボウズ

属性:青

スタイル:駆

分類:大型

鳴き声:ザアアアアアア

一人称:俺

容姿:プレシオサウルスに似た体躯に背中に刺々しい甲羅を付け、蛸の触手がいくつも重な

   った前鰭、頭部が鮫で尻尾の先には鯱の頭を生やしている

二つ名:首長→渦首長竜

特徴:南瓜と同じ5大五行魔化魍の1体。『激流の化身』、『津波の申し子』、『左方の水

   』という異名を数多く持つ。

   長崎県周辺の海で青と共に暮らしていた魔化魍。餌は青が誘い込んだ人間。

   鉄の猛士九州地方支部壊滅の計画に参加し、元々いた海の近くにあった猛士九州地方

   長崎支部の襲撃を割り振られる。

   人間を下等と侮らず、『常に全力』をモットーに本気で喰らいかかる。

   猛士九州地方長崎支部の戦いで大尊、水底と共に銭鬼と戦い勝利している。

   普段は妖世館の地下第2界に居るが、たまに擬人態を使って街に出て、横笛の演奏会

   を公民館や区民館などで開いてる。

   同じ5大五行魔化魍の南瓜とは旧知の仲で、知り合った経緯は南瓜のある目的に関係

   している。

   大尊とは過去に何度か戦ったことがあり、その理由はのちに明かされるだろう。

   ちなみに名の由来は人間を捕食するさいに渦に巻き込ませて身体をバラバラにして喰

   らう姿から付けられた。

戦闘:渦中球、口から螺旋水流、幻術、様々な術、電撃を纏った尻尾による連続攻撃

擬人態:烏帽子を被った緑寄りの青の切り揃えたショートボブ、青緑色の瞳の切れ目、顎下

    の見えにくい位置に鰓があり、黒と青の左右非対称のツートンカラーの洋服のよう

    な和服を着て、横笛を持った青年

CV:島﨑信長(エドモン・ダンテス)

 

◯青

名前:あお

種族:ウミボウズの妖姫

属性:青

スタイル:射

一人称:私

容姿:青に緑のグラデーションの掛かったポニーテールで、薄紫色の瞳、ビキニ水着の上

   に焦げ茶の厚いコートを着、右腕に紫の宝石の付いたアンクレットを着け、茶色の

   ビーチサンダルを履いた女性

特徴:渦潮の餌となる人間(主に男)を海辺へ誘い込み、渦潮の餌にしていた。

   餌の人間を探してる最中で鉄に出会い、事情を聞き猛士九州地方支部壊滅の計画に

   参加する。

   鬼との戦いの後に飢えて倒れたところを海の家を営む女性に助けられて、一食の恩

   でその店でバイトするようになる。

   幽冥の従者となり九州地方から離れる際に、世話になった海の家で世話になったお

   礼を言うと、女性は『また次の夏もお願いね』と言われ、毎年の夏の一定日はこの

   海の家でバイトするようになる。

   幽冥とはバイト中の時に出会い、その時に一目惚れした(その時にナンパしてきた

   男たちがいたが全員渦潮の餌にされた)。

   猛士九州地方長崎支部の戦いで白と協力して妄鬼と戦い勝利した。

   普段は普通だが、コートを無くすか、脱がされるとヘタレて泣き虫の弱々な性格に

   変わる。コートを着ると元に戻る。コートがない場合は仮面と身を隠せる大きな布

   で代用する。

   因みにバイト中の場合は例外なのか店主である女性の側では上の性格は形を潜める

   のか普通になる。

   妖世館では妖世館内の内装を担当している。

戦闘:様々な怨魚弓(えんぎょきゅう)を使った遠距離攻撃、札を使った援護

CV:山村響(ハルナ)

 

◯写鏡

名前:しゃきょう

種族:クラゲビ亜種 ウンガイキョウ

属性:銀

スタイル:幻

分類:中型

鳴き声:パリン、パリン

一人称:なし

容姿:仮姿:金と翡翠色の装飾を付けた丸鏡

   本姿:頭頂部に仮姿の鏡を付けた触手の先が金色の海月

二つ名:鏡→鏡面海月

特徴:鉄の率いる仲間の中では生まれたのがごく最近のクラゲビ種の亜種の魔化魍。

   当時、怪我を負う前に偶然見つけた鉄が隠れ家に連れて帰り、違う種族でありながら

   育てて貰った過去を持つ。

   浮幽を見た時に初めて同族にあった喜びで浮幽に飛びつき、甘えてくる猫のように浮

   幽にくっ付いていた。

   頭頂部の鏡は人間を喰らえ無かった時の代わりに太陽の光を吸収して自身の腹を満た

   している。それのせいか弱点でもあり、これを砕かれると再生に時間を費やす為に3

   日間行動不能に陥る。

   猛士九州地方宮崎支部の戦いで踊鬼の攻撃から浮幽を庇い行動不能に陥るもその光景

   を見てブチ切れた浮幽が踊鬼を倒した。

   ツクモガミ種の魔化魍ではないが自身の頭頂部にある鏡に姿を変えることが出来るが

   、何故変えられるのかは不明。

   同族でもある浮幽の後ろをアヒルの子供の様に着いて行く姿がよく目撃されている。

   赤はその光景を見て、『仲のいい親子みたい』と言い、赤から孫の様に接されている

   。

戦闘:鏡の反射を利用した熱線、空気中の水分を利用して雷雲発生、幻術、様々な術

擬人態:水色の勾玉の髪留めを着けた黄髪、ビリジャンカラーの瞳、袖の無い縁が山吹色の

    巫女服を着て、仮姿と同じ丸鏡を抱え、服と同じ山吹色のスカートを履き、木製の

    下駄を履いた少女

CV:寺崎裕香(ミーシャ=クロイツェフ)

 

◯縫

名前:ぬい

種族:ツクモガミ

属性:銀

スタイル:突

分類:中型

鳴き声:ヌーーイ

一人称:ボク

容姿:背中にチャックが付き、全身に縫った跡のある長靴を履いた熊のぬいぐるみ

二つ名:縫いぐるみ

特徴:道具から生まれるツクモガミと呼ばれる魔化魍の1体で、このツクモガミは熊のぬい

   ぐるみが魔化魍化したもの。

   魔化魍になる前の元のボロボロのぬいぐるみを拾って直してくれた少女にお礼を言い

   たいという気持ちが本来は生まれるのに時間が掛かる筈のツクモガミへと姿を変えた

   。

   少女から成長した女性と出会って、女性には最初は驚かれるもしばらくは一緒に暮ら

   していた。

   女性が結婚詐欺師に騙されて多額の借金を抱えてそれを苦に自殺するが、その女性の

   魂を『死霊術』で自分の身体に取り込んで結婚詐欺師を殺し、その魂を八つ裂きにし

   て喰らった。

   その後に鉄の元に訪れて行動を共にする。

   猛士九州地方鹿児島支部の戦いで羅殴、食香、蝕と共に焙鬼と戦い勝利している。

   女性の魂は憑代が見つかるまで自分の身体に入れており、たまに女性の魂が縫の身体

   を借りて行動することがある。

   擬人態で白蔵主の羅殴と食香の的屋の看板娘もやっていて、景品の中にあるぬいぐる

   みは全て彼女の自作した手製である。その縫いぐるみのお陰で売り上げが上がり白蔵

   主が喜び、縫いぐるみのさらなる量産を願うが『一定量しか作らない』と断っている

   。

戦闘:熊の爪による近接攻撃、死霊術、

   背中のチャックから取り出す様々な武器を使った万能戦闘、

   まち針を使った遠距離攻撃

擬人態:白の縦縞の入った水色のドアキャップを被った桃色の長髪、ゆったりとした桃色の

    の服の上に薄桃色の服を着、本来の姿に似た熊のぬいぐるみを抱えた裸足の女の子

CV:間宮くるみ(ヌイイ)

 

◯穢流

名前:える

種族:ツクモガミ異常種 ユウレイキカンシャ

属性:銀

スタイル:堅

分類:大型

鳴き声:ポオオオオオオオオオオ

一人称:私

容姿:各箇所に列車っぽいパーツのある団子虫の背甲を持つ灰色の百足

二つ名:汽笛→汽笛百足

特徴:古くから鉄と行動を共にする魔化魍。

   運行が止まった電車が動き続けたいという想いでツクモガミとなり、長い月日で今の

   異常種の姿へとなった。

   生まれて間もない頃に鉄と出会い、鉄と共に古き魔化魍と同じ暮らしをしていた。

   鉄が猛士九州地方支部との戦いを決意した際に、すぐに彼の補佐となり鉄の戦いのサ

   ポートをしていた。しかしある戦いの際に鉄が怪我を負い、動くことが厳しくなった

   鉄の代わりに戦闘に出るようになる。

   身体の節々で分離して攻撃するトリッキーな戦法を得意とする。

   戦闘が無い時には擬人態になって車椅子に乗っている鉄の補助をしている。

   猛士九州地方熊本支部の戦いで支部内で縦横無尽に暴れて局員の大半を殺している。

   穢流の身体の中は空洞で席がいくつもあり、その席に座ることが出来る。また成長す

   ると後ろに客車に似た部位が出来て、そこに乗せる事も出来る。

   鉄を補佐することが減り、現在は存在間が薄いことで悩む穿殻の『存在感を強くする

   薬の研究』の手伝いをしている。

戦闘:身体を分離して連続攻撃、口から黒い煙、鞭状の尻尾による連続攻撃

擬人態:車掌帽を被った灰色に近い白の短髪、少し白っぽい茶色の瞳、口にパイプ煙草を咥

    え、車掌の服を着て、黒の紐ブーツを履いた青年

CV:井上剛(小野篁)

 

◯鉄

名前:くろがね

種族:セトタイショウ

属性:青

スタイル:突

分類:大型

鳴き声:ギギギギッギギ

一人称:私

容姿:下半身に大きな皹が入った大壺を支点に大量の藤壺と貝類と蛸壺で形成された巨人

二つ名:不明→貝塚巨人

特徴:道具から生まれた魔化魍 ツクモガミや似た種族と共に行動する魔化魍であり、魔化

   魍根絶を目的とする猛士九州地方支部の壊滅を目的として動いてる。

   元々は争いを好まず人間とも接触せずに自然の恵みを喰らい静かに生きてきていたが

   、魔化魍という理由で仲間を次々と殺されていったことで仲間たちを守るために戦う

   ことを決意する。鋼鉄参謀とは丁度そんな時期に知り合い、協力してくれるようにな

   った。

   過去での猛士九州地方支部との戦いの際に下半身の動きに関わるパーツの大壺に皹が

   入った為に歩くのが不自由になり基本は擬人態の姿で過ごし車椅子に座っている。

   猛士九州地方福岡支部の戦いで幽冥と協力して疾鬼と戦い勝利して猛士九州地方支部

   全ての壊滅に成功して妖世館に暮らすようになった。

   戦闘では、下半身の怪我の都合上あまり動くことをせず、カウンターに似た攻撃や身

   体を構成するパーツを利用して戦う。

   擬人態の時に学んだ建築学を活かして煉獄の義姉弟に貰った紙の正体に気付き、妖世

   館の地下界開発担当主任となった。

   地下界が完成してからは妖世館の増築、改築を行う建築部隊 匠の長となる。

戦闘:浅蜊型の手裏剣を使った遠距離攻撃、栄螺型の槍を使った中距離攻撃と投擲、

   蛸壺爆弾を使った絨毯爆撃、手から水流、水系の術

擬人態:銀寄りの白のオールバック、金春色の瞳、青めの病衣の上に薄い灰色のカーディガ

    ンを着、車椅子に乗った青年

CV:及川いぞう(アイスバーグ)

 

ー幕間ー

 

◯単凍

名前:たんいて

種族:イッポンダタラ亜種 ユキニュウドウ

属性:白

スタイル:突

分類:等身大

鳴き声:ビュウウウウウウ

一人称:俺

容姿:右脚が氷の義足で所々がボロボロな白のコートを纏い、マフラーを首に巻いた白毛の

   猪の人型

二つ名:白鍛治猪

特徴:美岬の持つ『魚呪刀』、青の持つ『怨魚弓』を造り上げた流浪の鍛治魔化魍。

   あらゆる魔化魍に自身の造り出した武器を与えている。戦闘能力が高く、行く先々に

   出会い戦った鬼を殺してその肉を喰らっている。

   後に紹介する焼腕は父親違いの兄弟で焼腕は単凍の弟にあたる。焼腕は拳による近接

   戦闘を行うが、単凍は足技による近接戦闘を得意とする。

   壊鯱の意思によって暴走する美岬の前に突然現れて、美岬と壊鯱の意思の『対話』を

   手伝った。

   そのままの流れで妖世館に住み、幽冥の家族となる。名前を考えてる幽冥に『単凍と

   呼べ』と言ってそのまま呼ばれるようになり、幽冥の付けた名前ではない最初の家族

   でもある。

   因みに名前が与えられた場合、凍蹴(いっしゅう)という名前だった。

   氷の義足に触れたものは凍り、それが蓄積されるとそこは凍結する。

   幽冥に頼み3階に鍛治部屋を作って、常に何か武器を造っている。武器を造っている

   時に迂闊に近付くと、武器の試し斬りにされるので誰も近付かない。

   時折、不動と共に武器の材料となる『魂』を集めに各地に出ることがある。また彼の

   手によって作られた武器のほとんどには能力が付与されている。

戦闘:氷と特殊系の術、氷の義足による近接戦闘、氷柱の弾幕、氷球術

擬人態:水色がかった白の髪で左目を隠し、サフラン色の瞳、水色よりの白マフラーを首に

    巻き、黒の道着の上に両袖が棘装飾のボロボロな白のコートを羽織り、青袴を履き

    、片脚が純白で下駄を履いた青年

CV:小西克幸(ヨハン・トリニティ)

 

◯不動

名前:ふどう

種族:ツクモガミ異常種 ゴグマゴグ

属性:銀

スタイル:射

分類:大型

鳴き声:ギュルルルルルル

一人称:ワタシ

容姿:キャタピラのような脚で肩部に大砲を装備し、所々に装甲を纏った二足歩行するアル

   マジロ

二つ名:纏戦車

特徴:旧日本陸軍の大破して放置されてた九七式中戦車がまだ動けるという強い想いによっ

   てツクモガミと化し、更にその想いで異常種へと進化した。

   魔化魍に成り立ての頃、急激な身体の変化と大破の傷で動けなかった所を偶然通りが

   かった単凍に鉄板の継ぎ足しや治療をしてもらい回復。その感謝として行動を共にし

   ている。

   肩部の大砲は榴弾、徹甲弾、焼夷弾の3つを装填可能で自分の意思で砲弾を装填し発

   射出来る。ただし1度撃つと再装填に30秒掛かる。

   砲弾は自身の蓄えた人間の血肉(鉄分)を内部で集めて砲弾に造り替える。人間の血肉(鉄分)が無く

   なった際は、土の中にある僅かな鉄分を集めて砲弾を作り出す(従来の方法に比べて

   かなり効率が悪い)。

   元が戦車の為か原因なのか思考が軍人に似ており、物事の分別や公私の切り分けが凄

   い。

戦闘:キャタピラの脚による踏みつけ、肩部にある大砲を使った砲撃、

   装甲を剥がして放つ甲散弾

擬人態:腰近くまである艶のある黒の長髪、楝色の瞳、旧日本陸軍の制服を着て、腰のベル

    トに軍刀を帯刀し、黒のブーツを履いた女性

CV:柚木涼香(鬼龍院皐月)



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鳥獣蟲宴編
記録百


今回の話で番外やコラボ編を除けば100話目です。
そして、鳥獣蟲宴編が始まります。
現在、安倍家の魔化魍のリメイクを急いで書いてます。今月中にはリメイク版の壱をなんとか出したいです。


 某中部地方の何処かの森の中。

 そこにはいくつもの死体が散らばっていた。

 

 人間の死体はひとつもない。あるのは異形ともいえる魔化魍の死体のみ。

 

 塵に変わりいくツチグモ。

 

 バラバラにされたのか腕や足が散乱してるヤマビコ。

 

 首から下の身体が塵と化して生首のようになったカッパ。

 

 身体中穴だらけのウワン。

 

 他にも色々な魔化魍の死体があるが、そんな死体がある中である魔化魍だけが死体となっても攻撃を続けられていた。

 四肢を斬り落とされ、既に死んでるのに死体に跨り、短剣にしては長く槍にしては短い中途半端な長さの音撃武器 音撃縦笛(リコーダー)を振り下ろすひとりの鬼がいる。

 

 頭部が浅葱色で縁取りされていて、麹塵の体色の鎧を纏い、鬼面にある狼の面、3本の爪が重なったような肩当てを着け、臀部付近には狼の尾が垂れる鬼。

 その名は狼鬼。『8人の鬼』の末裔にして猛士魔化魍殲滅派閥こと過激派に属する鬼である。

 そして、そんな鬼が突き刺すのはバケネコの死体だった。

 

「クソ! クソ! クソ!」

 

 何度も何度も音撃縦笛(リコーダー)を振り下ろして突き刺し続ける狼鬼。その顔は面から分からないがもしも面が無いのなら憎悪で歪んだ恐ろしい表情を浮かべてるのだろう。

 刺され続けたバケネコの身体は徐々に塵に変わり、それでも刺すのを止めない狼鬼。死体が残ることもなく塵に変わったのを見た狼鬼は治らない怒りをぶつけるようにバケネコがいた場所を踏み続ける。

 

「チッ!! 引き上げだ!! 死体は回収しておけ」

 

 狼鬼の指示に従い動く猛士の鬼と死体の回収の為かクーラーボックスに似たものを持ち歩く白い服を着た歩たちが散らばる死体を回収していく。

 

「……………」

 

「何を突っ立っているいくぞ」

 

 その中で1人の鬼が死体を見て、拳を握りしめていたが、他の鬼に呼ばれて死体を後にした。

 

SIDE狼鬼

 魔化魍の殲滅が終わり、労いと感謝の言葉を狼鬼が述べる。

 

「諸君ご苦労だった。これでまた悪しき魔化魍が減り、平和への道がまたひとつ築かれた」

 

 狼鬼たちが倒した魔化魍のほとんどは幼体から成長してばかりの成体の魔化魍だ。

 

「だが、平和の道はまだ遠い。それも我が同志たる三ツ木が魔化魍の王に殺されたからだ!!

 俺は奴ほど魔化魍を倒すことに躊躇のない男は知らない。彼が居れば今の日本に巣食うあの畜生どもを半分以上も殲滅できた」

 

 そのことを聞いた鬼たちは悔しさと怒りで拳を握るもの、歯を食いしばるものと様々な反応が見られる。

 

「しかし、我らの目標は奴だ(・・)。最近は魔化魍の王と上は五月蝿いが関係ねえ。奴を清めることが出来れば魔化魍の王なんて目じゃねえ。

 我ら殲滅派の地位を固める事ができ、さらなる同志を増やして憎き魔化魍どもを駆逐する足がかりとするのだ!!」

 

「「「「「おおおおおおお!!」」」」」

 

 狼鬼の言葉に雄叫びをあげる鬼たち。だが、狼鬼が手で制すと一瞬で静かになる。

 

「だが、その為にも誰かに奴を誘き出して貰わねば」

 

「その役目、私にやらせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 そう言って挙手するのは、つい最近この中部地方支部に飛ばされてきた鬼だ。名前は確か?

 

「あ〜確か、診鬼だったか?」

 

「診鬼です」

 

「あ〜そうそう。そうだったなぁ〜」

 

 見た目は地味に見えるがよく見れば出るところは出て引っ込むとこは引っ込んでる。奴が喜びそうな女だ。

 

「よし。奴への誘い出しはお前に任せる。期待しといてやる」

 

「ありがとうございます」

 

 診鬼は一礼すると後ろの扉から出ていった。

 まあ、ああ言ったが、本当に奴が誘い出されるかはあの女の動き次第だ。もしも、役に立たなかったら俺の発散相手になってもらおう。

 

「では、次のことだが『砂鮫』と『魔笛雀』の討伐を命じる」

 

 内心そう考えなら狼鬼は目の前の部下たちに次の魔化魍の討伐指令を下していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狼鬼と中部地方の鬼たちの話している部屋から離れた一角。

 そこには先程、奴、もといある魔化魍の誘い出す囮を買って出た鬼、診鬼こと神通 希美がいた。

 

「ふう〜なんとか接触(・・)するキッカケが出来たかな」

 

 彼女が立候補したのは理由がある。

 彼女は魔化魍穏健(・・)派閥こと共存派に所属する鬼だ。表向きとしては普遍派として通しているが、裏では様々な地方支部に飛んでは魔化魍を清めるふりをしながら、魔化魍を逃す逃し屋のようなことをしている。

 今回の彼女の目的も勿論、標的にされている魔化魍を逃すことともうひとつ共存派のトップたる日向から頼まれた重要な事である。

 

 それは共存派としては是非とも逢いたい魔化魍の王との接触だ。

 過激派の2大看板とも言うべき猛士九州地方長崎支部支部長こと三ツ木 照弘。彼が死んだことで同じ2大看板である狼鬼が動くだろうと察知した日向が騒動の中心になるだろう中部地方に彼女を送り込んだ。

 

「今までの行動から魔化魍の王は絶対にここに来る。それに助けれる魔化魍はなんとか救わないと」

 

 そう口にする診鬼は、志願した任務を遂行するために行動を始めた。

 そして、その上司(日向)の読みは意外な形で実現するにだった。




如何でしたでしょうか?
今回は最初に猛士サイドから始まります。
気付いている方もいるかも知れませんが、魔化魍は音撃もとい清めの音によって塵に還るわけですが、当作品の魔化魍は音撃を受けても、死体が残る場合があります。
残った死体の一部を猛士が回収して、研究更なる魔化魍の討伐への知識となる訳です。
さて、次回は安倍家魔化魍のひとりの視点から始まります。
では、おまけコーナーに移ります。

ーおまけー
迷家
【イエイ! こんばんはー! おまけコーナーはっじまるよーーー!!】

灯籠
【えっと、何処ですか此処?】

迷家
【ここはおまけコーナー。君は、今日のゲスト!!】

灯籠
【よ、よく分かりませんが此処では何を?】

迷家
【僕の質問に答えてくれればいいんだよ 
 まあ、早速だけどさ灯籠の火晶って、あるじゃん】

灯籠
【ええ、ありますよ。というか私らの種族はこれと共に産まれるので】

迷家
【僕ってさ、産まれたばっかの魔化魍だからあまり知らないんだけど、灯籠のように火晶と共に産まれてくる魔化魍って居るの?】

灯籠
【私も自分以外の種族はさほど詳しくないのですが、私が知ってるので、3種だけなら知っています】

迷家
【意外と少ないんだね】

灯籠
【この3種は私らの種族とも交流があるので知っています。
 ひとつは私らバケトウロウの白の属性を持つ亜種 グワゴゼという魔化魍で、私らの火晶とは正反対の性質を持つ『白晶(はくしょう)』という物です】

迷家
【名前からして、冷気とか氷を溜め込むのかな?】

灯籠
【そうです。私らの炎とは異なり、氷や雪、冷気を溜め込む特殊な石です。
 ふたつめはライジュウと呼ばれる魔化魍で、南瓜さんと同じ『5大5行魔化魍』の1体で、蓄電能力を持ち、自身のエネルギーに変える『稲光珠(いなびかりのたま)』】

迷家
【電気ってことは、黄色の属性の魔化魍か】

灯籠
【ええ。詳しい話は私よりも南瓜さんに聞いた方が早いでしょう。
 最後のはリュウという種族の異常種の魔化魍セイリュウ。たしか『龍魂(りゅうこん)』という石を持っています。これで私の知ってるのは全部かな】

迷家
【へえ〜、あっ! もう時間だ。じゃ、今日は此処まで。
 まった、ね〜♬】

灯籠
【またいつか】


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記録百壱

こんばんは。
今回はある家族が王には何も言わずに私情による独断行動を始めます。
そして、今回のおまけコーナーは悪維持さんの兵鬼 薫がゲスト登場します。
では、どうぞ!!


SIDE跳

 土門たちがあの魔化魍(モモンジイ)と戦ってから数日経ちやした。

 あっしは今、妖世館の外にいる。

 

「王、ご慈悲を」 「もうダメ〜」 「お、お許しを」

 

「足の感覚が!!」 「限界がぁぁぁ」 

 

「まだ喋れると言うことは余裕があるということだね。

 じゃあ、あと2枚追加♪」

 

「「「「「ひぃいいいいいいいい!!」」」」」

 

 あっしの隣にいる王が目の前に居るモモンジイと戦ったことを隠していた土門たちに王直々に課せた罰またはお仕置きをしていやす。

 擬人態の姿になってる土門たちに三角形が並んだ木の板の上に正座させて、その足の上に石を数枚載せていやす。そして、王は言葉通りに石を2枚ずつ土門たちに載せた。

 

 王曰く、『これは江戸時代にあった拷問』らしい。

 本来は4枚の石を一気に載せるらしいのでやすが王は土門たちは魔化魍だからと、一気に8枚も載せた。

 しかも王が載せた石はただの石ではない。巫女だったことから(まじな)いを込めた道具作成に優れた蛇姫の手製で従来の3倍の重さの石で、更にあっしや紫陽花が石に術を掛けて土門たちに載せてる間は足を動かせなくなる特別仕様。

 試しにどれほどの重さか持たせてもらいやしたが、正直に言ってあれを10枚(現在土門たちに載せてる数)も載せて数時間ジッとしているのは地獄でやす。

 

 もちろん、実行犯ではないが土門たちの行動を隠していたあっしらにも(隠してることを知らない例外にはありやせんでしたが)罰はありやしたが、あの罰に比べれば優しかったでやす。

 

「も、う、無理ぃぃぃ」

 

 罰を受けるメンバー内で擬人態の姿が比較的に小さい鳴風は色々と限界なのかブルブルと身体が震えている。

 

「ほら、あとちょっとだから」

 

 そう言うと王は土門たちに載せている石を2枚ずつ外す。

 

「うん………頑張る」

 

 多少は楽になったのか、鳴風がそう答えると、土門たちも姿勢を正し、呼吸を整えたりしている。

 それから何も言わずただひたすら静かに罰が終わるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。お仕置き終わり。跳、術を解いてあげて」

 

 お仕置きが終わり王があっしに石に掛けている術の解除を頼む。

 これがあっしが王の側にいた理由。お仕置きが終わった後の術の解除でやす。

 あっし以外にも紫陽花が術を掛けているので解くことが出来るのでやすが雛の面倒で長時間のお仕置きに付き合うわけにいかず結果的にもうひとりの術者であるあっしがここに残ることになった。

 

「分かりやした」

 

 軽く手を振れば、石に掛かっていた術は消え、石はただの重い石となり土門たちの足から滑ってその場に散乱する。

 

「お、終わった」 「た、立てない」 「動けない」 

 

「痺れる」 「あああ、脚が」

 

 しかし、長時間正座していたのと載せられた石が原因で土門たちは足を痺れさせてまな板に乗せられた魚のようにはねて、ゴロゴロと転がる。

 

「まあ、仕方ないか。葉隠、凍」

 

葉隠

【はーーい!】

 

【【何でしょうか?】】

 

 動けない土門たちを見た王がふたりの名前を言うとどこからか現れた葉隠と凍が王の背後に佇む。

 

「土門たちを部屋に連れてって、終わったら自由にしていいよ。

 跳もお疲れさま。いつもの楽しみに待ってるよ」

 

葉隠、凍

【【【分かった】【かしこまりました】】】

 

 すると葉隠と凍は大量の分体を生み出して痺れて身体を動かせない土門たちの身体の下に潜り込んで身体を浮かせると部屋に連れて行った。

 

「さて、これを放っておくと邪魔だから片付けよっか。ん、ヨイショっと」

 

 王もお仕置きに使っていた石を全て(・・)持ち妖世館へ片付けに行った。

 

「あの石自体相当重いはずなんでやすが」

 

「それはつまり王は俺らと同じになりつつある証拠ってわけだな」

 

「うん?」

 

 そこにはボサボサな灰色の髪に首にゴーグルをぶら下げ、薄鈍色の作業服を上下に着て、右手に銅製のカンテラを持ち、安全靴を履いた青年が立っていた。

 

「五位でやすか、珍しものでやすね擬人態で過ごしているとは」

 

「俺だって人間の姿で動く時もあるさ」

 

 そう言うと、五位はさっきまで王のいた場所まで来るとそこに座り込む。カンテラを地面に置き、五位は懐から何か取り出す。

 

「ん、それは?」

 

「あ? ああ、これはお守りだ」

 

 五位は恥ずかしそうに答えながら手にあるものをあっしに見せてくれる。

 

「お守り?」

 

 五位の手には時間が経ってなのか所々に綻びがあるも手入れがされてのか綺麗な朱色の護符があった。

 

「波音のところに来る前に一緒にいた魔化魍から貰った俺のお守りさ」

 

 懐かしむように護符を眺める五位。

 ……あっしの見たところ。かなりの力が籠った護符でやすね。しかも、持ち主の危機に一度だけ反応する術式も刻まれてる。これほどの護符を作れる魔化魍はそういないだろう。

 まあ、あっしらのところには蛇姫がいやすが、それにしても見事な出来でやす。1度この護符の製作者に御指南願いたいものでやすなぁ〜。

 

「大切なものなんでやすね」

 

「ああ」

 

 五位が手にした護符を懐に仕舞おうとしたその時–––

 

「え?」

 

 護符に結ばれていた紐が千切れ、重力に従ってカンテラの側に落ちる。

 

「…………まさか、あいつの身に何か」

 

 紐の千切れた護符を拾い、五位は何かを呟く。

 声が小さかったのでよく聞こえなかったが、雰囲気からして只事ではない。人間の姿から本来のアオサギビの姿に戻る五位。

 

五位

【すまんが、可及的速やかに向かわねえとならない用事ができた。

 しばらく留守にする】

 

 そのまま空を飛ぼうとする五位の脚を掴んで、その場に留める。

 

「ちょい待ち、王に報告しないんでやすか?」

 

五位

【王には申し訳ないが、俺個人の私情に付き合ってもらうわけにはいかない】

 

「まあ、落ち着くでやす。

 あっしらは種は異なれど家族でやす。そんな家族をひとりで行かせて死なせたとなっちゃ王に申し訳がない」

 

五位

【そ、それはそうだが】

 

「だから行くならあっしも連れて行くでやす」

 

五位

【跳】

 

「それに着いて行きそうなのはあっしだけじゃないみたいでやすね」

 

 あっしがそう言うと、壁から身をより出している数名の影が見えた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE五位

 俺と跳の話を聞いていた者たちも呼び話の続きをしていた。

 

五位

【本当にいいのか?】

 

命樹

【なに水臭いことを言っている】

 

三尸

【お前の大切な奴のピンチなんだろ? なら、お前の家族の俺たちのピンチだ】

 

 命樹と三尸がそう言うと、俺は反対の方にいる者にも言う。

 

五位

【無理に付き合わなくていいんだぞ】

 

【五位が困ってるしね】

 

昇布

【ああ、お前には世話になってるからな。礼くらいは返したい】

 

 ふたりはそう言うが北海道にいた頃には俺の方が何度も世話になった。礼を言いたいのこっちの方だ。

 

五位

【命樹、三尸、兜、昇布ありがとう。だが、お前らが来るのは意外だったな】

 

 そう意外だったのは拳牙と大尊と単凍と不動だ。

 正直、俺とはそんな接点がないし、何なら会話した回数も少ない。

 かたや何を考えてるのか分からない筆頭とその相棒、かたや家族になって日の浅い鍛治師とその護衛。

 

大尊

【………私は拳牙の見張り】

 

不動

【ワタシは単凍の護衛だ】

 

拳牙

【なっ!! み、見張り!? なんか私がしたのか!?】

 

単凍

【俺は魂集めと試作の試しに丁度いいと思ったからな】

 

 俺たちが王に秘密で行動するというのも既に話している。それでも俺のために着いていくとあいつらは言った。

 少し目頭が熱くなるが、そんなことよりも善は急げだ。

 

五位

【みんな感謝する。

 跳、よろしく頼む】

 

【任されやした。

 じゃあいきやしょう!!】

 

 擬人態を解いた跳は最近完成した『転移の札』を使い、俺を含めて9名は俺が思った目指す場所に向けて飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この時の俺たちは知るよしもなかった。これから向かう場所で始まる戦いで新たな家族がまた増えるということも俺の目指す場所で何が起きているのかを。

 

 そう。彼らの飛んだ場所にいるのは友の仇と家族の復讐に燃える鬼を率いた狼がいる中部地方だ。




如何でしたでしょうか?
今回は跳視点から始めてみました。
家族のお仕置きは幽冥と春詠の2人が考えたいくつものお仕置きを蛇姫作成の『お仕置きくじ』から出たランダムなお仕置きを実行しています。
そして、五位の独断行動に跳や他の家族が付き合って一足早く『転移の札』で中部地方に飛びます。
次回は中部地方の魔化魍から始まります。では、お楽しみに。

ーおまけー
迷家
【イエイ!! 今日もやってきたよおまけコーナー!!】

迷家
【変な人に最初頼まれた時はちょっとメンドって思ったけど今じゃ、楽しんでやってるよ!】

迷家
【さ〜て、今日のゲストは〜「私がゲストでいいかしら?」……へっ?】

「こんばんは」

迷家
【うおおおお! 君、誰!?】

「あれ? アタシのこと覚えて、ってよく見たら君はあの時いなかったね。なら、自己紹介をしようか。
 アタシは薫………兵鬼 薫。貴方の王である幽冥ちゃんの友達よ」

迷家
【友達って、君どう見ても人間でしょ。春詠や捕虜の鬼ならまだしも、ただの人間が主人(あるじ)の友達って?】

「事実よ。それに貴方のところにいる戦闘員たちいるでしょ?」

迷家
【え? 黒服とか群青鎧とか黒帽のこと?】

「あの戦闘員たちは前にアタシとアタシの弟の世界で働いてたんだけどね。幽冥ちゃんのところに働きたいって言ってね。アタシらのところから幽冥ちゃんのところに移って働いてるんだよ」

迷家
【ええええええ!!】

「戦闘員たちちゃんと働いてる?」

迷家
【うん。いつもマシンガンスネークやインセクトに扱かれてるよ】

「そっか」

迷家
【で、君に質問していいの?】

「もちろん♪ 此処はそういうところなんでしょ?」

迷家
【まあ、そうだけど。
 う〜〜ん。でも、どうしようかな〜?】

「じゃあ、アタシが貴方に質問していい?」

迷家
【僕に?】

「そう。貴方はアタシに質問するにしてもアタシのことをよく知らないだろうし、だったらアタシが貴方に聞きたいことを聞いてもいいでしょ」

迷家
【そっか。そう言えば僕は此処では司会のような物だから質問をすることはあっても貰うことは無いんだっけ】

迷家
【うん。そうだね。
 せっかくの機会だし、僕への質問をお願いするね♩】

「分かった。うーーーーん…………………そうだね。
 じゃあ、今いる戦闘員たちをさらに増やせたらどうする?」

迷家
【戦闘員たちを?】

「そう。君はどうする?」

迷家
【そうだね。僕的には増えてもいいと思う】

「どうして?」

迷家
【そりゃねぇ〜。いっぱい居たほうが楽しそうだし、主人(あるじ)を守ってくれる仲間、ていうか家族が増えるし。
 僕はね、愉快なこと、楽しいことは全力でっていうのがモットーなんだよ♬ ………こんな感じでいいかなぁ?】

「………そう。ありがとう」

迷家
【ふーーー 初めて答える側になったから、ちょっと緊張しちゃったなぁ。
 ………あ、もう終わりだ。ありがとうね薫。楽しかったよ♬ バイバイ♩】












「楽しいことは全力で、ね。
 今度そっちに行く時にはあの子たちだけじゃなく、色んな(・・・)子を連れていこうかな。
 幽冥ちゃん驚くだろうなぁ〜。ふふ、楽しみ」


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記録百弐

今回は中部地方の魔化魍視点から始まります。
では、どうぞ!!


SIDE?

 某中部地方のとある森の中にポツンとある廃屋。その中では複数の影が集っていた。

 

 全身の至る所に包帯を巻き、解けた包帯から重度の火傷跡が目立つボサボサした茶色の短髪の少女。

 

 従来とは異なる蜻蛉の羽を生やし、首に数珠を掛けている濃い紫の蟷螂。

 

 背中に小さな苔を生やした半透明に近い身体をした小さな山椒魚。

 

 そんな一団に向かってひとつの影が太陽を背に飛んでくる。

 それを見た少女は降りてきた影のそばに寄る。

 

「どうだった?」

 

 降りてきたのは骨を支点に複雑に絡んだ枯れ木の枝と木の葉の羽の翼で、片面が黒の布に覆われた黒緑色の雀。

 

【………駄目でした。遅かった】

 

 雀の魔化魍ことヨスズメは静かに首を振り、先程見た場所の話をする。

 

「そっか。これで6グループもやられたね」

 

 少女の姿になっている魔化魍 ヒダルガミがヨスズメからの報告と今までの被害に顔を曇らせる。

 

【そういえば他のはどこに行ったの?】

 

 ヨスズメの報告を聞いた山椒魚の魔化魍ことシュチュウがこの場にいない仲間のことを聞く。

 

【ワイラは残ったグループの逃亡援助、イッポンダタラとライチョウと姫の方はこないだ襲ってきた鬼を返り討ちにしたので隠れ家を探してる。

 クダンは知らん。タンコロリンはいつものだろう。フラリビは潜入中だ】

 

 シュチュウの質問を蟷螂の魔化魍ことチントウが応答する。

 

「潜入って、あの鬼たちのところに居るんだよね? フラリビ、大丈夫かな?」

 

 少女が潜入中だと聞いた仲間の心配にチントウが答える。

 

【奴に関しては問題無いだろう。ネコショウから聞いたはな……ん? っ!!! 伏せろ!?】

 

 突然のチントウの言葉に驚くも全員一斉に身を屈めると、廃屋の壁が突然吹き飛ぶ。

 

「見つけたぞ魔化魍ども!!」

 

 吹き飛んだ壁の向こうには4人の無銘の鬼と2人の天狗。

 そしてそれらを引き連れているのは、頭部と腕が橙色に縁取りされており牛に似た2本の角を生やし、緑の体色の鎧を纏い、その手には楽器の数だけある音撃武器の中でも異質な音撃二連鉄琴(アゴゴ)を持った軼鬼が立っている。

 

「戦輪獣展開」 「『魔笛雀』、『壊音鎌』、『酒臭魚』を確認」 

 

「子供がいるがおそらく魔化魍だ」 「まとめてやっちまえ!!」

 

「魔化魍覚、ごばぁ」

 

 鬼たちの姿を確認したチントウは即座に動き、端に居る鬼の首をその鎌で切り落とす。

 

【俺が殿を務める。シュチュウはヒダルガミを連れて逃げろ。

 ヨスズメ、術を頼む】

 

 死んだ鬼の身体を鎌で突き刺し、側にいた量産型音撃管を持った鬼の攻撃を防ぐ盾に変えてチントウはヨスズメに補助を頼む。

 

【はい】

 

 ヨスズメは尾翼に仕舞い込んだ横笛を取り出し、曲を奏でる。

 

「耳障りな音を止めろ」

 

 ヨスズメの笛の音を気に食わない鬼が量産型音撃弦を手にヨスズメに飛びかかる。

 

【させるか!!】

 

 突然、ヨスズメに飛びかかった鬼が量産型音撃弦を落として頭を抱え始める。ヨスズメの近くにはチントウがおり、その両鎌を擦り合わせてなんとも言えない不快な音が鬼の頭の中に直接響く。

 

「う、あ、あ、あ、あ」

 

 更に音が激しくなり、鬼は頭から全身が痙攣するようになり、チントウが最後かのように両鎌を擦り合わせた瞬間–––

 

「あ、あ、あば、ば、あべぇ!」

 

 鬼の身体は風船のように膨らみ音が切れた途端に破裂するようにその身体を爆散させる。

 

「通彦!! 己っ! 魔化魍!」

 

「通彦と実誠のいや、三ツ木さん達の仇だ!! 覚悟しろ魔化魍ども!!」

 

 軼鬼たちは死んだ鬼の名を言いながら音撃武器を構えて、チントウたちに攻撃するのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヨスズメ

「通彦と実誠のいや、三ツ木さん達の仇だ!! 覚悟しろ魔化魍ども!!」

 

 その名を風の噂で聞いたことがある。

 なんでも此処にいる『8人の鬼』と同じ過激派と呼ばれる鬼たちの仲間で、王に仕える魔化魍の手に掛かり死んだとか。

 それが原因なのか、ここ最近は中部地方全域で鬼の姿をよく確認するし、それが原因で中部地方に住う魔化魍たちが次々とその手に掛かっている。

 拙が此処に戻る前に確認したグループの惨状は今も覚えている。

 

 雑に死体回収したせいか所々に魔化魍の一部が転がり、清められたことで塵と化した魔化魍が山のように積み重なり、幼体の魔化魍だった塵に向かって手を伸ばした親らしき魔化魍が串刺しにされ、身体の至る所を解体して持っていかれていた。

 

 あの光景を思い出していて動かぬヨスズメに鬼は攻撃を仕掛ける。

 

「死ね!! 魔化魍!!」

 

 量産型音撃棒を持ってヨスズメに向かって駆ける鬼に対し、近くにいたチントウは動かなかった。

 徐々に迫る鬼を見てもチントウは焦ることもなく相対してる天狗の3体の戦輪獣を相手していた。

 

【はっ!!】

 

 眼前の鬼の音撃棒の攻撃を防ぐと同時に術で強化した横笛でヨスズメは鬼の鎧ごと首を掻っ切る。

 鬼は飛び出る血を抑えようとするも血は止まらず、そのまま倒れて事切れた。ヨスズメはそのまま鬼を一瞥することもなく横笛を口に当てて笛を奏で、チントウに強化の術を掛ける。

 

「今だトオル攻撃しろ!!

 

 軼鬼は残った最後の鬼にヨスズメへの攻撃を命令する。

 

「何をしてるやつは隙だらけだぞ!! トオル、何故攻撃しない!!」

 

 笛を吹くだけで隙だらけのヨスズメに何もせずに音撃管を下に向けて突っ立っている部下の鬼に軼鬼は呼びかける。

 

「おいトオル!!」

 

【無駄です。チントウに術を掛けると同時にそちらの鬼には幻術を掛けさせてもらいました】

 

「なにぃ!」

 

 幻術を掛けられた鬼に向けてヨスズメは翼の内羽毛(落ち葉)に仕込んだ手裏剣を投げる。

 

「かぺっ」

 

 手裏剣は頭に吸い込まれる様に当たり、血を撒き散らしながら無銘の鬼が死ぬ。残るは指揮する鬼と天狗の2人のみだ。

 

「『魔笛雀』。狼鬼の命と今死んだ仲間の為に貴様の命を頂戴する!!」

 

 鬼が奇妙な音撃武器を構え、大きい物と小さい物が繋がっている場所を外すと中からワイヤーが出てくっついていた1つから2つの音撃武器に変わった。

 

 武器の数は増えたとはいえ、接近戦用の音撃武器だろうと判断していた拙を鬼は驚愕させる。

 

「ふん!!」

 

 なんと持っていた片方を軼鬼はヨスズメに向けて投げた。

 驚愕はしたもののヨスズメは自身の翼で飛ばされて来た音撃二連鉄琴(アゴゴ)の大三角錐を弾き飛ばす。軼鬼はその場から移動せずに音撃二連鉄琴(アゴゴ)の内部にあるワイヤーで飛ばした片方をすぐに回収する。

 だが、ヨスズメに異変が襲う。

 

【翼が、動かない!!】

 

「ふふ、効くか」

 

 音撃二連鉄琴(アゴゴ)は、従来の音撃武器とは異なる特殊な音撃武器だ。

 その形状は大小異なる三角錐がU字に繋がっている両手剣のような音撃武器だ。繋がっている中心箇所を外せば中に通っている特殊ワイヤーで繋がった双刀に変わる。

 中距離程度の離れた敵に向けて投擲も出来る。また投擲したとしても片手に残っているもう一つで中の特殊ワイヤーが巻き戻り、自身の手元に戻ってくる。

 そんな近中距離に対応出来る音撃二連鉄琴(アゴゴ)には以前、波音が戦った楽鬼の持つ音撃気鳴笛(オカリナ)のように特殊機構が付いている。その機構こそ『痺反音』。

 それは音撃二連鉄琴(アゴゴ)の大の方に付いており、振るたびに中に仕込まれた鬼石の音が中で反響し、魔化魍の身体に当たると内部で反響された音撃が魔化魍の接触箇所に解放されて、魔化魍の身体にダメージあるいは身体麻痺を起こす。

 そんな機構があるとは知らないヨスズメはそれを翼で弾いた。その結果、ヨスズメの翼は麻痺して動かすこと、つまり飛ぶことは出来ず、その場から動けなかった。そして、そんなチャンスを見逃す軼鬼ではなかった。

 

【はやく逃げろヨスズメ!!】

 

 翼を必死に動かすも拙の身体は地面に固定されてるかのように動けない。

 

「これで仕舞いだ『魔笛雀』!!」

 

【くっ】

 

 軼鬼は音撃二連鉄琴(アゴゴ)を勢いよく回し、ヨスズメを狙う。

 

【今、助け、邪魔だ!!】

 

 ヨスズメを助けようとするチントウだったが–––

 

「邪魔はさせんぞ『壊音鎌』!!」 「そこで『魔笛雀』が死ぬ様を眺めてろ!」

 

【ヨスズメ!!】

 

 2人の天狗が操る戦輪獣 緑大拳と戦輪獣 黄檗盾、戦輪獣 紫角の妨害でチントウはその場から動けずヨスズメの元に向かえない。どんどん迫る軼鬼の音撃二連鉄琴(アゴゴ)にヨスズメは自身の終わりを悟ったように眼を閉じ、心残りを呟く。

 

【嗚呼、拙はもう1度、あのひとに会いたかった】

 

 ヨスズメの首を正確に捉えた攻撃はヨスズメの頭を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拙の首を確実に捉えた一撃は来ず、自身の終わりと思い閉じた眼を開き見えたのは–––

 

【あ、嗚呼】

 

 死の間際の拙が望んだ幻の景色かと思ったがそれはすぐ否定された。

 

五位

【無事かヨスズメ】

 

 嗚呼、拙が待ち続けた愛しい彼がそこに居た。




如何でしたでしょうか?
今回は微妙な戦闘でしたが次回はヨスズメを助けにきた五位たちが鬼と戦います。
追記ですが、魔化魍に亜種、異常種、混合種の個体設定に新たに派生特種を追加しました。詳しくは魔化魍のオリジナルに追加しましたので、気になったら見てください。

ーおまけー
迷家
【お待たせしました。おまけコーナーがはっじまるよーー♩】

迷家
【今日のゲストは彼だよ!!】

「ふむ。ここは何処だ?」

迷家
【ハローー!! 鋼鉄参謀】

「うん? 貴様か」

迷家
【貴様じゃないよ、僕は迷家だよ】

「ふん。どうでもいい、それよりここは何処なのだ」

迷家
【むーーーー。名前で呼んでよ〜】

「はぁー。ならここは何処だ迷家?」

迷家
【むふぅ〜ここはね、おまけコーナー】

「おまけコーナー?」

迷家
【そう。僕がね、質問する誰かをここに連れてきて質問するための場所】

「貴様が連れてきた?」

迷家
【そう。今日は鋼鉄参謀をゲストとして、ってどうしたの?
 そんな鉄球を持って?】

「なに俺の許可もなくこのような場所に連れてきたものを潰そうと思ってな」

迷家
【それって、まさか僕!!】

「なにすぐ済むさ、貴様を潰せばいいのだからな!!」ブンブン

迷家
【これはとてもじゃないけど今日は質問出来そうにないから次回に、おわ!!
 危ないじゃん!!】

「動くな!! 貴様を潰せないだろ!!」ビュン

迷家
【あわわ、これは逃げるが勝ち! みんなごめんね!!
 僕はこれから逃げるので、じゃあね!! のわっ!!】

「待て!!」

ー次回のおまけコーナーへ続くー


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記録百参

ヨスズメの危機を救った五位と仲間VS軼鬼&天狗+伏兵との戦いです。
ただし、基本は五位VS軼鬼なので、仲間VS天狗+伏兵は戦闘描写なしになります。彼らの活躍はのちの戦いで。
では、どうぞ!!


SIDE五位

 転移した場所が見覚えのある場所の近くで良かった。

 更には、近くに感じた気配のお陰で場所はすぐに分かった。だが、その場所にいざ着いて見えた光景に俺はヨスズメの盾となるべくその場に向けて飛ぶ。

 

【五位! ちっ、硬化!!】

 

 飛び出した五位を見た跳が咄嗟に掛けた強化術 硬化は対象の防御力を上げる強化術だ。その術によって五位の翼は鋼の如き硬さに変わり、軼鬼の音撃二連鉄琴(アゴゴ)による一撃を防ぎ、命の危機だったヨスズメの命を救った。

 

五位

【無事かヨスズメ】

 

 俺は後ろに居るヨスズメに無事か尋ねるがヨスズメは幻を見たかのように驚いて言葉を出す。

 

【嗚呼、幻なのでしょうか、拙が待ち続けた方が目の前に】

 

五位

【相変わらずだな】

 

【えっ? ………本当に、あなたなのですか】

 

五位

【待たせちまったな、もう何十年も】

 

【嗚呼、アオサギビ、ずっと、ずっと待っていました】

 

 涙を流すヨスズメを見て安堵したいが、今は––––

 

「魔化魍如きがいちゃいちゃするな!!」

 

 抑えられている音撃二連鉄琴(アゴゴ)を持った手の反対の手に持った音叉刀を持ち、五位の胴体に向けて斬りかかる。

 

五位

【甘い!!】

 

 斬りかかる鬼の音叉刀を翼で防いでいた音撃二連鉄琴(アゴゴ)をズラすことで攻撃を防ぎ、そのまま羽根をばら撒く。

 

「っ!!」

 

 軼鬼も羽根を見て、音撃二連鉄琴(アゴゴ)を地面に叩きつけてその場から飛んで離れる。

 軼鬼が離れた瞬間、羽根が弾けるように壊れ、壊れた羽根を中心にドーム状に炸裂して辺りを照らす。

 

五位

【知っていたのか? 俺の攻撃】

 

「貴様ら魔化魍の攻撃手段は全て頭に入れている。どんな攻撃が来よと、俺には通じねえぞ!」

 

 アオサギビ種の魔化魍のことを少し話そう。

 大自然を巣とすることの多い鳥型の魔化魍の中で彼らは洞窟内に巣を作り縄張りとする珍しい鳥型の魔化魍だ。同じように洞窟などを巣とするオオアリ種の魔化魍の天敵でもある。

 本来、洞窟や暗い場所を住処とする生き物は大抵目が退化していく傾向にあるが、アオサギビには両翼にある光によって視力低下することもなく暗がりのある洞窟内を明るく照らしながら暮らし、獲物である人間を捕まえるために外に出たとしても他の鳥型魔化魍同様に行動することが出来る。

 そんな彼らの武器は一見何の変哲もない羽根だ。だが、この羽根を地面や宙にばら撒き、アオサギビの意思を羽根が感知すると急激に熱を持ち、やがて自壊する。そして、自壊した羽根は周囲にその熱エネルギーを放出する。つまりアオサギビの羽根は設置型のリモコン式熱爆弾のようなものだ。

 しかし、そんな強力な力を持ったアオサギビは攻撃手段の乏しさと洞窟という住処が災いして、当時の鬼たちにアッサリと攻略されたことよって清められて、今ではその数は明確にはされてないが数十体ほどしかいない魔化魍だった。

 

 そして、ここでこの鬼、軼鬼の話をしよう。

 彼は至って普通な一般家庭で産まれた人間で、何不自由なく父と母、そして可愛い妹と暮らしてた。しかし彼が9歳のときにその幸せは崩れた。

 家族に連れられ、この中部地方に旅行に来た軼鬼たちは魔化魍に襲われ、父親は惨殺され、母親は生きたまま体を裂かれて喰われ、妹は連れ去られて数日後に見るも無惨な姿で発見された。

 軼鬼が無事だった理由は不明だ。魔化魍が無視したのか。それとも魔化魍が気付かなかったのか。

 天涯孤独の身となった軼鬼を先代の軼鬼が引き取り、猛士のこと、魔化魍のことを教えてもらい。復讐のために弟子入りし、実力をつけていったことで先代に認められて軼鬼を継承したのだ。

 

 話は戻り、軼鬼は過激派に属する鬼だけに最愛の家族を殺した憎き相手である魔化魍の情報は古い文献だろうとも読み漁り、読み漁った知識を活かして魔化魍を清めてきた。

 現代においてはそれほどの数を見られない五位ことアオサギビの攻撃手段を知っていたからこそ、回避行動に移ったのだ。

 

「お前の攻撃方法は全て分かっている。何をしようと避けてみせるさっ!!」

 

五位

【……全て、ねえ〜。いいぜ。見せてやるよ俺の本気を!!】

 

「無駄だ。大人しく俺に清められろ!!」

 

五位

【無駄かどうかは受けてから判断しなぁ。

 それにな、俺の大事なものの手を出したんだ。キッチリ片付けてやる幻魔転身!!】

 

 翼から発した光が五位の身体全体を包み込む。軼鬼は眼を腕で庇い、猛烈な光を防ぐ。

 そして、ものの数秒にも満たない時間で光は徐々に弱まり中から五位が姿を現す。

 

チッチッチッ、チッチッチッ、チッチッチッ

 

 全体的なフォルムで言うのならやや鋭利になった体躯に、金属的質感のある青銅色の両翼、その両翼端に青白い光球を浮かべ、剣山の如き鋭さを持った鋼の尾羽、首回りと右脚には独特の紋様が彫られた装甲を着けた姿へと変わった五位。

 自身の大切なものを殺そうとした鬼を葬るために光熱を携えた鋼翼の鷺はその翼を盛大に広げる。

 

五位

【待たせたな。この姿でさっきまでの余裕なんて一瞬で吹き飛ぶぞ】

 

「所詮は魔化魍だ。多少変わったところでなんだ? 俺のやることは変わらない。

 お前を清め、後ろのお前の仲間、『魔笛雀』、『壊音鎌』も纏めて清めてやるっ!!」

 

五位

【やれるもんなら、やってみやがれ!!】

 

 幻魔転身をした五位の変異した姿は両翼端の光球と身体の所々の装甲、尾翼などと以前の姿に比べて変化点は少ない。軼鬼はさほど変わったように見えない五位を嘲笑う。だが、五位はそんな言葉を気にせずに眼前の鬼を睨みつけた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE跳

 五位が幻魔転身したことで勝利は確信でやすね。あっしらの出る幕は無いでありやしょう。

 そして、五位とは違う場所に眼を向ければ–––

 

昇布

【過剰というか敵でありながら天狗どもが哀れだな】

 

【ええ、数分で終わりそうね】

 

 2人の天狗もとい3体の戦輪獣を相手に戦う拳牙と単凍に更に援護に向かった大尊と不動の姿で天狗の勝利はないも等しいとふたりは呟く。

 

命樹

【五位やあそこの加勢は必要ないだろうが……】

 

三尸

【ああ、居るな】

 

【さあて、あっちの相手はあっしらでやりやすか】

 

 跳たちの視線の先には援軍として集まった中部地方の5人の鬼がいた。

 

「魔化魍だ!」 「退路を固めろ」 「殺す殺す」 

 

「仲間の仇を逃すな」 「仕事だ。早く片付けるぞ」

 

 この中部地方での運動相手には丁度いいでやす。

 跳はそう思いながら、作務衣に引っ掛けたざるをとり、裾に仕舞った『吸血小豆』をざるに移して他の家族同様に戦闘態勢に入った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE軼鬼

 姿の変わったアオサギビとの戦いは確かにあのアオサギビの言う通り、余裕は一瞬で吹き飛んだ。

 先ず、攻撃手段が先程の羽根爆弾だけでは無くなった。両翼端にある光球から弾幕、熱線、光の矢と放たれるたびに妙に眩しく手元の武器をマトモに当てられない。

 翼を羽ばたかせれば突風が起きてこちらの動きを阻害し、動けない中で先程の光球からの攻撃だ。

 

五位

【どうした、どうした。手も足も出ないのか!!】

 

 アオサギビの声にイラつきを覚えるが、言っていることは事実だ。手も足も出ない。

 初めてだ。今までどんな魔化魍を相手にしたとしても無傷とは言わないが軽症程度で魔化魍を清めてきた。だが、姿が少し変わっただけのアオサギビを相手に苦戦し、更には攻撃もできない。これほどの屈辱は初めてだ。

 

 音叉刀で何度か光球からの攻撃を防いだが、下手すれば折れて変身が解けるという理由で今は双刀状態の音撃二連鉄琴(アゴゴ)を使い、攻撃を防いでいる。

 

「(このままじゃやられる。なら!!)」

 

 軼鬼は守りから攻勢へと切り替える。今まで防いでいた攻撃で自身の身体の急所に当たる攻撃だけ弾き、それ以外は無視して五位に向かって接近する。

 突然の接近に焦ることなくに光球から放たれる攻撃を止めない五位に面の下でうすら笑みを浮かべて手の音撃二連鉄琴(アゴゴ)とある物を強く握りしめる。

 

五位

【なにっ!?】

 

 軼鬼の行動に初めて驚愕の声を上げる五位に軼鬼はしてやったりと言わんばかりに手にしていた音撃二連鉄琴(アゴゴ) 大三角錐と死んだ仲間の音撃棒を投げつける。

 戦いの最中にどさくさに拾った音撃棒は五位の不意を確かについたが、だが普段投げていた音撃武器とは重さも長さも異なる音撃棒は狙っていた場所から少しズレて、狙っていた顔から翼に当たった。

 それによって僅かに体勢が崩れた五位の身体に本命だった音撃二連鉄琴(アゴゴ)は当たることもなく外れてしまう。そんな馬鹿なと軼鬼は狼狽し、行動が少し遅れる。

 急いでワイヤーを起動して回収しようとするが、光球から放たれたひとつの熱線が音撃二連鉄琴(アゴゴ)の特殊ワイヤーを焼き切り、回収しようとした大三角錐が地面に突き刺さる。

 

「しまった!! があぁあ!!」

 

 片割れを失い防御もやめて攻撃に転じていた軼鬼に情け容赦のない五位からの攻撃が牙を剥く。肩には光の矢が刺さり、鎧に無数の弾幕がぶつかり、熱線が膝を貫いて脚を焼く。

 満身創痍と言ってもおかしくない軼鬼。しかし、その闘志は消えることなく手の小三角錐を構えて、五位を睨みつける。

 

五位

【そろそろ終いにしようか】

 

 軼鬼を見た五位がそう言うと、両翼端の光球が今までにない輝きを起こし、それに合わせて翼を羽ばたかせて目の前に風の球を作り出す。

 そして激しく輝いたことで徐々に熱を持った光球は周りにある気体の分子を解離して原子に変え、さらに原子核のまわりを回っていた電子が原子から離れて,正イオンと電子に分かれて電離が起こり、そして電離によって生じたプラズマを目の前の風の球に溜め込んでいく。

 どんどん大きくなりプラズマを迸らせる巨大な風の球に五位は翼を勢いよく打ちつける。

 風の球から猛烈な竜巻が放たれる。視界を埋め尽くすプラズマを帯びた竜巻が敵である軼鬼に向かって迫ってくる。

 この場に、かつて睡樹の作った武器に名付けをした常闇がいたらその技をこう名付けただろう……………光熱翼の籠風(ライトニングサイクロン)と。

 

 軼鬼は迫る光熱翼の籠風(ライトニングサイクロン)を迎え撃つ為に限界に近い身体を無理やり動かして、遠くに飛んだ音撃二連鉄琴(アゴゴ)の片割れの大三角錐を拾い、ボロボロの身体に鞭を打って体勢を整えて必殺の音撃を放つ。

 

音撃響(おんげききょう) 二天良響(にてんりょうきょう)

 

 双刀状態の音撃二連鉄琴(アゴゴ)をリズム良く猛烈に叩きつけて迫る竜巻に清めの音を放つ。

 

 今までどんな魔化魍だろうとこの音撃で仕留めてきた。そんな軼鬼の絶対の自信を持っていた音撃は––––

 

「馬鹿な!!」

 

 光熱翼の籠風(ライトニングサイクロン)によって跡形もなく消え去り、むしろ音撃を吸収してその竜巻をさらに大きくしながら軼鬼に迫る。

 それでも足掻きで何度も光熱翼の籠風(ライトニングサイクロン)に向けて音撃を放つ。だが竜巻は止まらない。もうリズムなど関係ないとも言わんばかり音撃とは思えない無茶苦茶な音を鳴らす軼鬼。

 だがそんな中、竜巻の中に見えたものが軼鬼の動きを止める。

 

「(父さん? 母さん? りな!)」

 

 それは魔化魍によって殺された自分の家族の姿だ。死んだあの頃と同じ姿の家族の幻影は軼鬼の方に向けて手を伸ばし、全員微笑んでいる。

 

「(ああ、今、そっちに逝くから)」

 

 亡き家族の幻影に手を伸ばした軼鬼は迫るプラズマが迸る竜巻に呑まれて、その意識は消滅した。

 竜巻が通り過ぎた跡に残ったのは僅かな右足首と幻影へと向けて伸ばした右腕のみだった。

 

 亡き家族の為に戦った鬼の僅かな肉はその後、五位に喰われてその存在を残す物は何も無くなった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE単凍

 たまたま通りがかった時に聞いた話でこの中部まで来た。

 俺の新しい武器の検証と武器の材料となる魂を集めるため。早速出てきた天狗に武器を試そうと思ったが–––

 

「がふっ、た、す、k………」

 

単凍

【つまらん。試し斬りにもならなかった】

 

不動

【所詮は鬼のなり損ない。これら(・・・)もワタシ達の敵ではない】

 

 倒れた天狗にとどめを刺すように試作の武器を背に突き刺した単凍と戦輪獣 黄檗盾と戦輪獣 紫角だった残骸を踏み潰す不動。

 

拳牙

【脆いですね。大尊これを喰う…………大尊、せめて腕は残しておいてくれるか。私も喰いたい】

 

大尊

【はぐはぐ、もむ、ごっくん、分かった】

 

 その隣には戦輪獣 緑大拳の捥ぎ取った腕を持った拳牙と仕留めた天狗を相棒(大尊)にいるかと質問しようとしたが、視線の先で既に半分も喰らっていた相棒(大尊)の姿を見て、自分用の肉を残してと頼むのだった。

 

 そして、そんな単凍から少し離れたこっちでは–––

 

【あっけない】

 

昇布

【がぶっ、所詮は無銘(・・)。こんなものだろう。

 三尸喰うか?】

 

 呟く兜の下には面を貫通されて息絶えた鬼の死体が転がり、兜の呟きに答える昇布の尾には『人間団子』にされた鬼があり、一口と咀嚼する。咀嚼した一部を喰べ終わると三尸に喰うかと尋ねる。

 

三尸

【いやいい。俺の分はあるからな。

 命樹、それ(臓物)はなるべく傷つけないように血抜きして解体(バラ)してくれ】

 

 そう言う三尸の手には自身の生え変わる爪と赤い肉を持ち、爪に肉を突き刺している。

 

命樹

【血なら自分の栄養になる。ありがたく貰う】

 

【すいやせんが、血は少し分けてくだせぇ。

 この小豆に血を吸わせてえでやんす】

 

 三尸の隣にいる命樹は殺した2人の鬼の血を抜くように吸いながら()解体(バラ)している。

 鬼の伏兵はものの数分で全滅した。昇布は無銘と言ったが、決して彼らは弱い無銘の鬼では無い。五位と戦っていた軼鬼と同様に過激派の実力もある名持ちの鬼たちだ。遠中近どの距離の音撃武器にも対応する柔軟な思考と身体、相対した魔化魍の的確な弱点看破、魔化魍たちに対する怒りと怨みによる底知れぬ精神力、優れた才能を持ちし鬼たちだ。

 だが、伊達に何十年も波音を守っていた兜たちは強かった。跳は兜たちと違うが、こちらも数年に渡り鬼を数名拐い、その血を『吸血小豆』に与えていた過去を持つ。

 つまり戦いの経歴が違ったのだ。鬼たちは確かに経験はあった。だが、その経験を跳たちは上回っていた。

 経験故に跳たちを侮り、そのままこの世を去った鬼たちを跳たちは『愚かな無銘たち』としか記憶しないだろう。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEヨスズメ

 それほど時間は経ってないはず。だけど目の前の光景は今も信じられない。

 拙達を苦しめていた中部地方の鬼を瞬く間に倒した光景が。鬼の死体を喰らったあのひと(五位)とその仲間を連れて、さっき鬼に壊された廃屋に戻った。

 

【先程は拙を助けて頂きありがとうございます】

 

【俺からも礼を言わせてくれアンタらのお陰で助かったよ】

 

五位

【いや礼を言うのならこっちだ。あいつ(ヨスズメ)を守ってくれてありがとう】

 

 そう言って頭を下げるあのひと(五位)の姿に拙は今も幻を見てるのかに思えた。

 あのひと(五位)やチントウにも見えないように自分の身体をつねったら痛かったので幻でも夢でもないということが証明される。

 

【しかし、いい面構えにいい覚悟した奴じゃねえか。

 おめえさんを助けるために来たんだろう?】

 

 拙があのひと(五位)と別れる際に渡した護符。

 どうやら、その護符を繋げる紐が切れたことで拙に何かあったと思い、噂の魔化魍の王には内緒でご家族のひと(跳たち)を連れて、この中部に飛んできたとあのひと(五位)ご家族のひと()が言っていた。

 

ボソッ【はい。拙の大好きな方です//////】

 

【ほぉ〜。それはそれは、ならちゃっちゃっとやることをやるんだな】

 

【何をですか?】

 

ボソッ【あれ(五位)を押し倒して、さっさと子供でも作って離れられないようにしちまいな】

 

 下世話に近いチントウの言葉に拙の顔は赤くなるが、あのひと(五位)を見てすぐに意識を切り替えてあのひと(五位)の方に近付く。

 

【拙と一緒に会って欲しい方がいるんです】

 

 さっきまで赤らめていた顔が嘘だったかのようにヨスズメは五位に話し始めるのだった。




如何でしたでしょうか?
五位とヨスズメの再会と五位の変異態による軼鬼との戦いを書かせて頂きました。
もうちょっと軼鬼はマトモに戦う予定だった気がしますが一方的にやられる痛さと怖さを五位に叩きつけられました。
前書きに書いた通り五位以外の家族の本格戦闘はこの後の戦いで書きますので、今回は戦闘後と言う形になりました。
次回は鬼サイドか、五位たちが居なくなったことに気付く幽冥たち、もしくは両方まとめてで書こうと思います。
それでは、次回をお楽しみにしてください。
では、おまけコーナー、前回の話の続きになります。

ーおまけー
迷家
【みんな、こんばんは…………うう、ひ、酷い目にあった】

「貴様が俺を此処に無理矢理連れてこなければ、こんなことはしなかった」

迷家
【だからって、5度も鉄球で潰さなくていいじゃん!!
 僕、死にかけたよ!!】

「なに、まだ潰され足りないようだな。ならばもう5回ほど潰して」

迷家
【あー、わかったわかった。十分分かったから、質問に入らさせてよ】

「ふん。分かればいい。で、何が聞きたい?」

迷家
【うん。前に王から聞いたんだけどさ、鋼鉄参謀ってさ。
 デルザーっていう組織にいた大幹部だったんだよね?】

「そうだ。俺は誇り高きデルザーの改造魔人だ。で、それが何だ?」

迷家
【そのデルザーってどういう組織なの?】

「ふむ。……どういう組織か、端的に言うのなら完全実力主義の猛者の集った少数精鋭軍団で大首領直属の大幹部だな。
 それぞれが人間の世界でいう伝承の魔性または妖怪、いや此処ではお前たち魔化魍か。それらを祖にもつ子孫の集団とも言える」

迷家
【ふーーーん。ていうことは鋼鉄参謀も何か祖先がいるの?】

「ああ、俺はフィンランドに伝わる黄金魔神が祖になる」

迷家
【ねえ、うちの家族に似たデルザーもいるの?】

「そうだな。屍王と同じミイラの祖のマシーン大元帥、元は違うが朧と似たオオカミ長官、また同じようにもとは違うが屍の場合は蛇女か、いや髑髏の頭という部分的にはドクロ少佐とも言えるかもしれんな」

迷家
【やっぱり強いの?】

「ああ、全員強いな」

迷家
【そっか。………おっと、もうこんな経ったのか、じゃあ今日はここまで、次回のおまけコーナーで会おっか。
 じゃあ、バイバイ】

「さらばだ……………ところでいつ、元の場所に返してくれるのだ」

迷家
【あ、すぐに帰れるようにするから、鉄球は勘弁してぇぇぇ!!】


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記録百肆

今回は前回の後書き通りに幽冥側と猛士側の2つのお話です。
どちらのSIDEも短いです。
では、どうぞ!!


 土門たちが私に隠してモモンジイという魔化魍と戦った日から数日経った今日。天気は快晴で、気温は快適。空から降り注ぐ陽光が眩しい。

 視線の先には洗濯日和と洗濯物を干す黒と捕虜の無銘の鬼たちがいて、その反対側では雛と波音と潜砂が仲良く眠っていて、凍と紫陽花が3人に布団を掛けている。

 

 そんな今日は跳に色々と術を教えて貰う約束をしている。

 私自身も魔化魍の王として恥ずかしくないように歴代の王たちの力だけでなく私自身の訓練をしている。これには白たち従者だけでなく他の家族も喜んで協力してくれている。

 剣術を美岬と荒夜、槍術を劔、弓術を狂姫、武術を拳牙、帝王学を屍王、古の術知識を崩、術による戦闘訓練を紫陽花と跳、魔化魍の種族知識を緑と古樹、猛士の情報を春詠お姉ちゃんと調鬼ことあぐりさん、代わる代わるで教えてくれている。

 今回は跳で、跳は基礎の術から基礎の術をアレンジしたオリジナルの術などを教えてくれるので楽しみに待っていたんだけど、時間になっても跳は現れない。

 

「おかしいな?」

 

 普段の跳なら約束に遅れることはない。もしも遅れるとしても、家族の誰かに伝言を頼む。

 流石におかしいと思ったので館周辺を家族にも協力して貰って跳を探したが何処にも姿がない。だが居ないのは跳だけじゃないみたいだ。

 睡樹は野菜の手入れの手伝いを頼んだ命樹、鳴風は空の散歩の約束をしていた兜、あぐりさんはお出掛け(デート)の約束をしていた三尸、黒は洗濯の手伝いを頼んだ筈の昇布、顎は地下工事の手伝いを頼んだ五位と仕事を頼まれてた筈の家族もいない。

 

「あとは拳牙と大尊、それに単凍と不動も居ません」

 

 それにプラスして白は現状仕事がないのに行方の分からない家族の名前を挙げた。

 

「うーーーん。何か心当たりない?」

 

 私の言葉に全員頭を悩ます。そもそも何故居ないのか。

 まあ、時折消える大尊と拳牙や武器の材料である魂を取りに行く単凍と不動が居ないのは分かるので、心配しなくてもいいはず。

 しかし跳たちが居ないのが分からない。考えられるのは食糧調達位だろうが私に断りもなく出掛ける跳でもないし、食糧である人間はまだ沢山ある。

 それに食糧調達をするのならそんな大人数で出る必要はない。術が使える跳と空輸として五位と兜だけでも十分だ。だが居ない家族の中には食糧調達として出ることのない命樹や昇布、三尸がいる。

 そんなふうに考えてる中ひとつの言葉が私の耳に入る。

 

「ふわぁぁ、五位と跳がなんか喋ってたような〜?」

 

 その言葉の方に全員が顔を向けると昼寝から起きたばかりで眠いのか目を擦る潜砂がいた。

 

「潜砂、今の話本当?」

 

「うん。雛と波音と遊んでる時にたまたま聞こえんだけど、でも何を話してるのかは途切れ途切れで分かんなかったけど」

 

「なんて言っていたか覚えてる?」

 

「うんとね。確か、用事がどうとかって言ってたような〜」

 

 眠気でボンヤリしてる頭を動かして思い出そうとする潜砂の頭を撫でる。

 

「ありがとうね。潜砂のお陰で跳たちは私に黙って何処かに向かったのは間違いないね」

 

 まだ眠いのか、頭をかくんとする潜砂をあぐりさんに任せる。

 私の雰囲気を察してか白は側に立っており、他の家族も私の指示を待っている。まずは行動だ。

 

「白、みんなを集めて跳たちを探すよ。場所が特定できたら向かうから。

 一緒に行くメンバーを決めて」

 

「かしこまりました」

 

 跳たちが居ないのは只事ではないと悟った幽冥は白に命令して、跳たちの捜索を始めるのだった。

 

SIDE診鬼

 五位が軼鬼と戦っている時刻から少し経った頃。

 猛士中部地方静岡支部の一室。ミニマリストと言っても良いほどにあまり物が置かれてない部屋。まあ、外部から派遣されて此処に居る(表向きは)ので、そんなにものに執着してる訳ではないのでそんなに気にしていない。

 強いてあるものを言うのならどの部屋にも共通して置かれてる寝具と机と椅子。そして、窓の側には赤い鸚鵡を入れた鳥籠があるくらいだ。

 

「はい。神通です」

 

 そして、そんな部屋にいるのは、自身の所属を普遍派と偽り敵対派閥である過激派に潜入している共存派の角 神通 希美こと診鬼。

 

「ええ。大丈夫です。周りにカメラも盗聴器もありませんでした。

 おまけに此処は他の過激派の支部に比べればだいぶ緩いので…………ええ」

 

 連絡相手は私たち共存派のトップである日向さんだ。

 

「はい。いいえ。狼鬼が標的としてるのはどうやら『快楽猫姫』と『快楽猫姫』に協力する二つ名持ちの魔化魍のようです」

 

 神通が語る『快楽猫姫』とは、関東地方と中部地方に出没するあるバケネコ種の異常種の魔化魍に付けられた二つ名だ。

 その名の通りに老若男女問わずに快楽で溺れさせて自身に依存させて捕食する魔化魍で、狼鬼はこの魔化魍に幼き頃に家族を数年前に恋人を奪われ喰われたそうだ。

 その復讐のためか狼鬼が部下を率いて行く場所には大抵バケネコ種の魔化魍がおり、人を喰らってようと喰らってなくても問答無用で清め。死体が残ってればその死体を損壊させるほどに攻撃を繰り返している。

 過激派の2大看板と言われる狼鬼の実力は嘘ではないと言うのがよくわかる。

 狼鬼の標的の話を伝え、私はこの後の行動についてを聞こうとした時–––

 

「っ!! 誰か来ます。連絡の続きはまた後で」

 

 何かの走る音が聞こえ、急いで電話を切った瞬間、部屋の扉が蹴り飛ばされて扉だった破片がそこらに散らばる。

 扉を蹴破って入ってきたのはこの静岡支部に所属する過激派の角 崗鬼だ。

 

「診鬼、報告だ!!

『魔笛雀』討伐に向かった軼鬼と無銘数名、天狗数名がやられた!! これから会議だ。お前もすぐに来い!」

 

 命令にも近い一方的な言葉を言い終わると部屋の外に飛び出て違う部屋に向かったようだ。同じように扉の蹴破った音が聞こえた。

 過激派の戦力がひとつ減ったのは喜ばしいことだが、それを顔に出すような真似はしない。この部屋にカメラや盗聴器が無かったとしても、何処で誰が見張っているのか分からないのだから、警戒するに越したことはない。

 

 しかし、軼鬼はあれでも過激派では上の下ほどの強さをもつ鬼だ。『魔笛雀』と二つ名を付けられたヨスズメでも精々、撃退が関の山だろうし、おまけに連れられた無銘たちも過激派の洗脳に近い戦闘訓練のお陰で無銘とは言えない強さだし、天狗は明らかに普通の天狗と違う。到底『魔笛雀』だけで相手にするのは不可能だ。

 だが軼鬼と無銘と天狗が全滅したということは二つ名持ちの他の魔化魍にやられたのか、それとも外部から来た勢力、魔化魍の王の魔化魍にやられたのかもしれない。

 そうだとするのならなんとしてもこの機会を逃す手はない。上手くいけば王に会うことが出来るかもしれない。

 

 神通はそう考えながらも、今は普遍派の診鬼として魔化魍対策会議が開かれるであろう部屋へと向かった。

 そして、部屋の主である神通が居なくなった部屋で声がする。

 

【ヨスズメは無事そうで良かったよ。まあ、オイラはオイラの仕事をやらないと】

 

 神通の部屋の窓際の鳥籠の中にいた鸚鵡(・・)は静かに呟くのだった。




如何でしたでしょうか?
幽冥の本格的な魔化魍の王としての訓練と消えた家族のことと過激派潜入中の診鬼を書きました。
次回は、ヨスズメとチントウに連れられた五位たちにある魔化魍との接触になります。

ーおまけー
迷家
【なんか、騒がしいね? なんかあったんだろうな?】

迷家
【おろっ? あ、もう始まってる?】

迷家
【おっと、いけないいけない。じゃ、おまけコーナーはっじまるよ♬】

迷家
【今回のゲストはこの方!】

紫陽花
【此処がおまけコーナーという場所か?
 ゲストの紫陽花だ】

迷家
【今回のゲストは、安倍家のかっわいい天使 立花 雛の祖母。
 立花 紫陽花ことコソデノテの紫陽花!!】

紫陽花
【ふふ、天使か。
 確かに雛は可愛いからの】

迷家
【そうだよねぇ〜。まあ、雛の話はこれくらいにして。
 じゃあ、質問させてもらうよ】

紫陽花
【ふむ。それでなにを聞きたいのだ?】

迷家
【紫陽花は、元は小袖っていう着物だったんだよね?】

紫陽花
【ああ。そうだ】

迷家
【紫陽花が魔化魍として目覚める前。
 まあつまり、紫陽花が小袖だった頃に最後に着たのはどういう人だったの?】

紫陽花
【最後に着たひとか……】

迷家
【うん。どういう人だったの?】

紫陽花
【………今から数百年前、当時は明治と呼ばれていた頃だったか】

迷家
【え? 明治?】

紫陽花
【そうだ。私はその時代のとある令嬢への贈り物として織られた小袖だ】

迷家
【え? ちょっと待って!!
 もしかして紫陽花って、小袖として織られた時に意識を持っていたの!!】

紫陽花
【ああ。なんだなにかおかしいことを言ったか?
 お主も私と同じツクモガミだったのなら、道具だった頃から意識はあった筈だが】

迷家
【……………紫陽花。言いにくいんだけど】

紫陽花
【なんだ?】

迷家
【僕は確かにツクモガミ種の魔化魍だけど、僕が意識を持ったのって今から3年前なんだけど】

紫陽花
【……………なに? 待て、お主確か、築数十年(・・・)経っていると言っていたな】

迷家
【うん。言ったね】

紫陽花
【だが、お主が意識をもったのは3年前(・・・)だと】

迷家
【そう。僕だけじゃなく、水底も縫も道具として誕生した頃から時を経てから意識をもったんだよ】

紫陽花
【つまり】

迷家
【紫陽花はかなり珍しいタイプだったんだね。
 道具として誕生した頃から意識をもっていたツクモガミはなかなかいないみたいだから】

紫陽花
【そ、そうなのか】

迷家
【うん。なんかごめん】

紫陽花
【いや、良いんだ。
 お主も私と同じだと思っていたからな。おあいこだ】

迷家
【…………それで、話は続ける?】

紫陽花
【…………少し休ませてくれ】

迷家
【奥の方に小部屋あるから、そこで休んだらどう?】

紫陽花
【ああ、すまんな】

迷家
【……つ、続きは次回で、じゃあ】

ー次回のおまけコーナーへ続くー


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記録百伍

こんばんは。
今回のお話はヨスズメとチントウに連れられた五位たちとある魔化魍のお話です。


私事ですがシン・ウルトラマン観てきました。


SIDE五位

 幽冥たちが家から消えた五位たちの捜索を始めた同時刻。

 ヨスズメとチントウという名の魔化魍に案内されて着いたのは、王の住まいである妖世館に似た洋館だ。

 しかし、最近リフォームに近いことをした妖世館と比べればこっちは所々、破損しておりそれが相まってお化け屋敷といってもいい雰囲気がある。まあ、魔化魍はお化けみたいな存在だから気にすることも無いだろう。

 

 ヨスズメとチントウは擬人態の術で姿を変えて、館の少しガタついた扉を開く。

 素の姿だと館に、というより扉を通れないので人型に近い拳牙、命樹、跳、単凍と常に自身に縮小の術を掛けている大尊を除いて、五位たちは擬人態の術を掛け、人の姿になって中に入っていく。

 

 館の中は外から見た外見通り荒れている。だが、逆にそれが良いのだろう。

 外は荒れているのに中が綺麗だったら間違いなく誰か住んでいると気付く、そこを怪しまれたらおしまいだ。それにこういう荒れた建物には昔でも今でも怖いもの見たさに入ってこようとするバカ(人間)はいる。

 此処の魔化魍の獲物はまさにそういう人間だろうが、いきなり全員消えては猛士に怪しまれて気付かれる。

 おそらくは術か能力で人間を操って何もせずに返し、その人間の中で消えても問題ない人間を何人も連れて来て餌としているのだろう。

 

 そうやって考えながら歩いてるとヨスズメたちは急に立ち止まり、何も無い壁の方に身体を向ける。

 

「着きました」

 

「ヨスズメ。着いたって、此処には何も…………ああ、そういうことか」

 

「ええ。アオサギビなら直ぐに気付くと思ってました」

 

【どういうことでやすか?】

 

「ヨスズメの笛には幻覚を見せる効果があってな。まあ、言うよりも実際見てもらった方が早いだろう」

 

 俺がそう言うとヨスズメは笛を取り出し、そのまま笛を吹き始める。

 昔は本来の姿に戻ってからじゃないと笛を上手く吹けなかったのに、今では人間の姿で笛を吹いている。ヨスズメの長い年月の末の成長の成果を見た気持ちで俺は嬉しく思う。

 そんな幻想的な笛の音を聞いてると、やがて壁の周りが歪み始めて、そこに大きな扉が現れる。

 

「この先に俺らの主人がいる」

 

「では、開けます」

 

 ヨスズメとチントウのふたりが開けた扉の先は洋館という印象をぶち壊す和風な大部屋だ。

 所々に宙に浮く蝋燭があり、壁には水墨画の猫、雀、蟷螂、山椒魚、幼虫、蠍、鷲、仔牛、女、猪、蟹などの様々な生物が描かれている。

 

【ようこそ!! ニャンたちの『鳥獣蟲同盟』へニャ!】

 

 声のする方に向くとに座布団の上に座る魔化魍といつの間にか移動してるヨスズメとチントウとその周りに佇む複数の魔化魍と女の子だ。

 彼らこそ、中部地方の鬼たちを相手に力を持たぬ魔化魍を助ける鳥、獣、蟲系の魔化魍で構成された『鳥獣蟲同盟』の魔化魍たちだ。

 そして、声の主である魔化魍の姿はほとんど人間の女性に近いだろう、老若男女を魅了するような艶めかしい雰囲気を持った顔で、赤と白の着物を纏い、左手に稲穂を持ち、首にはよく飼い猫などに見られるような鈴の付いた首輪を着けている。

 だがそれ以外の特徴が女性を魔化魍だと示している。元が三毛柄のバケネコだったと証明するように頭頂部に猫耳、着物から空いた穴から飛び出てる少し長い尻尾を生やし、両手両足は人間の四肢を模した猫のような四肢だ。

 

【初めましてだニャ。王である家族の皆様。ニャンは『鳥獣蟲同盟』の長 ネコショウだニャ】

 

五位

【初めましてネコショウ。俺はアオサギビの五位】

 

 本来の姿に戻っても問題なさそうな広さの部屋だから術を解いて、本来の姿に戻る。

 

【おお。お前がヨスズメの言っていたアオサギビだったかニャ】

 

五位

【知ってるのか】

 

【知ってるもニャにも、いつもヨスズメ【嗚呼あああ、ネコショウさん】が…………なんで止めるニャ】

 

【そのことはアオサギビには黙っておいてください!!】

 

【ニャ〜。つまんないニャ。

 まあ、このことは後でお前に教えてやるニャ。じゃあ、ニャン以外の紹介ニャ】

 

 ネコショウがぱんぱんと手を叩くと、佇んでいる中から1体の魔化魍が前に出る。

 

【ヨスズメとチントウ助けて頂き、ありがとうございます。

 『鳥獣蟲同盟』のシュチュウです】

 

 お礼と自己紹介を言うのは、背中に苔のようなもの生やし、全身が半透明な身体の小さな山椒魚の魔化魍 シュチュウ。

 

【オラも礼が言いてえ。こいつら助けてくれて有難うな。オラはタンコロリンだ】

 

 そう話すのは、背甲に柿と栗を生やして苔に覆われた左鋏を持った蟹の魔化魍 タンコロリンだ。

 

昇布

【いや、俺は何もしていない。やったのは全部五位たちだ】

 

【だがあんたたちのおかげでヨスズメたちは助かり過激派の鬼をひとり消せたんだ。これで死んだ魔化魍たちの魂が安らぐことを願うものだ】

 

 タンコロリンは鋏を鳴らしながら先程のこと嬉しそうに言い、天井を見上げて何処か遠いところを見ていた。

 つられて一緒に天井を見上げそうだった跳は壁を見て疑問を覚える。

 

【………気になったんでやすが、あの絵はなんでやすか?】

 

 跳の視線の先にある壁には別の色で描かれた蜘蛛、蟻、蟹、犬、猫といった5つの赤い水墨画とお供えのように花が絵の下に飾られてる。

 水墨画の壁もよく見れば黒く塗り潰されたのが5つある。

 

【…………あの絵は、その「その絵は中部の鬼と戦い亡くなってしまった同志の絵です」っ!!】

 

 答えにくそうなシュチュウに変わって答えたのは今だに魔化魍の姿を晒していない少女だ。

 

【ヒダルガミ、別に話さなくても】

 

「こう言うのはちゃんと伝えておかないと後で怖いから。

 それに知られたところで問題はないはずだよ」

 

 そして、少女は絵を指差しながら絵の魔化魍を教える。

 

「蜘蛛はジョロウグモ。いつも周りを気遣って自分のことを二の次にしていたお人好し」

 

 蜘蛛の絵を指すと種族名とどんな性格だったのかを言い、次の絵に指を指す。

 

「蟻はオンボノヤス。周りを楽しませるムードメーカーでお調子者」

 

「蟹はバケガニ。タンコロリンの自称部下、で負けず嫌い」

 

「犬はオクリイヌ。ドすけべで……変態だったけど、誰よりも、な、仲間思いの熱い心の持ち、主」

 

「……猫は、バケネコ。………私の、友達で……すっ、鬼、ずっ……から、私を庇って、それで、ぐぅ、ひう」

 

 絵の魔化魍を紹介していくたびに少女の声は嗚咽混じりになっていき、その姿を見て質問するべきではなかったと跳は後悔する。

 

拳牙

【え、っとお嬢さんも魔化魍なんだよね?】

 

 嗚咽混じりに泣く少女に聞くことではないだろ場の空気も読まずにいう拳牙に拳牙以外の幽冥の魔化魍たちは思った。

 

大尊

【ハアーーーなに雰囲気ブチ壊して質問するの。

 そして、なに当たり前のことを聞いてるの】

 

 そんな的外れな質問をする相棒に溜め息を吐きながら大尊は冷たく答える。だが–––

 

拳牙

【だって気にならないの大尊は?】

 

大尊

【だーかーらー!!

 それは今聞くことのなのかって言ってるの!! このバカ!!】

 

拳牙

【っ! バカとは何ですか! バカとは、せめてなら武術バカって言ってください!!】

 

大尊

【そういうところがバカって言ってる!!】

 

「ぷっ、ふ、ふふ、あははははは」

 

 少女は漫才のようなやり取りをするふたりに笑う。

 そして、その顔には暗さはなく少女らしい笑顔に戻っていた。

 

「ははは、ふふ、ありがとうございます。少し落ち着きました。

 それに、そう聞きたくなるのは無理もありません。何故なら私は、人間でもあり、魔化魍でもあるからな

 

五位たち

【【【【!?】】】】

 

 しゃべる少女の顔半分が突然ピンク色の肉のようなものに覆われ、その肉片から少女の声に重なるように低い声が出る。

 

コイツ(・・・)も含めて自己紹介しよう。コイツ(・・・)は曙美。

 そして、俺の名はヒダルガミ。人間の身体に寄生し共生(・・)するしがない蟲魔化魍だ】

 

 少女の半身を覆ったピンクの肉は少女の方を曙美と名乗り、肉の部分はヒダルガミと名乗る。

 まさかのことに何と言えばいいのか分からない五位たちを救うかのように–––

 

拳牙

【つまり、曙美でもありヒダルガミでもあるってことですね】

 

 理解したのかしてないのかよく分からないが拳牙が答える。

 

【そう思ってもらって構わないな】

 

拳牙

【ほーーー】

 

 さっきは馬鹿なことに何を言ってるんだと思った相棒はその馬鹿に救われたことになんとも言えない気持ちになりながらもその気持ちをグッと呑み込むのだった。

 

 『鳥獣蟲同盟』の魔化魍たちが自己紹介する中で全く空気感が違うように感じる場所がありそこには2体の魔化魍がいた。

 一つは魔化魍の王たる幽冥の家族であるイッポンダタラ亜種 ユキニュウドウの単凍。

 もう一つは単凍と似た姿をしており赤い厚いコートを羽織り、頭に日の丸が描かれた鉢巻を巻いた猪の人型魔化魍 イッポンダタラ。

 

単凍

【…………】

 

【…………】

 

 色や姿は微妙に違えど、厚いコートと猪の人型魔化魍とイッポンダタラ種の魔化魍の特徴を持つ2体の魔化魍はただなにも喋らず互いを見ていた。

 

単凍

【…………久しぶりだな弟よ】

 

【…………兄貴こそ、生きてるなら連絡くらいしろよな】

 

 そうこの2体は実の兄弟である。

 単凍が兄でイッポンダタラの彼は弟である。単凍は弟と共に旅をしていたが、ある事故によって離れ離れとなり、今日に至る。

 

【でも良かった…………兄貴に会えた】

 

単凍

【おいおい、泣くのは辞めたんじゃなかったのか?】

 

【う゛………五月蝿えっ。これは……目に、目にゴミが入っただけだ】

 

単凍

【そうだな】

 

 懐かしき再会に涙混じりの声を上げながら喜びの抱擁を交わす2人を止めるような無粋者は居らず、その光景に少し涙する不動と兜と命樹ペアだった。

 

【まだ此処にはいない子もいるんだけどニャ、まあしょうがないニャ。

 じゃあ来て早々悪いんだけどニャ、早速話をしようかニャ】

 

 ある程度の自己紹介が終わったと判断したネコショウは五位たちと話を始めるのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯

 五位たちとネコショウたちとの会合から変わって猛士中部地方静岡支部のとある一室。

 そこには猛士静岡支部支部長 井伊宮 宮子。静岡支部の過激派の角 崗鬼。潜入中の角 診鬼こと神通 希美。他にも名持ちや無銘、天狗などが集まっていた。

 

「報告のとおり、私たちの仲間の軼鬼、無銘9名、天狗2名が戦死しました」

 

 井伊宮はすでに周知ながらも改めてその報告を伝える。

 怒りに燃える者、悲しむ者、そのことを信じられない者、反応は様々だが、全員(診鬼を除き)共通しているある感情がある。

 殺された仲間の復讐というドス黒い感情だ。

 

「彼らを殺したのは『魔笛雀』だと推定していたのですが無銘2名は『壊音鎌』の仕業でした。ですが軼鬼を始め他の死体の状態がこの中部地方に挙げられる名持ちの魔化魍のやり方と異なり、そのことから確認されてない新たな魔化魍か他地方からやって来た魔化魍の仕業と断定されました」

 

 そして、そんな感情を心に灯しながら井伊宮の報告を聞く。

 

「おいおい。別のやつが此処にきたって言うのか?」

 

「おそらくは、ですがどういう魔化魍か、名持ちなのかということは分かりません?

 何せ生存者が居なかっただけでなく、ディスクアニマルも全て破壊されてましたし」

 

「ちっ!!」

 

 その言葉に舌打ちをする崗鬼。

 それはそうだ。どんな魔化魍がやったのかが分からない。おまけにそれが名持ちかも分からない。

 名持ちの魔化魍は全国に存在し、その数は幽冥が家族として育てる魔化魍を含めても100以上の数にもなる。おまけに名持ちの魔化魍は殺し方が似たようなものをいくつか存在する。

 ディスクアニマルがあれば、その特定に必要な情報を記録出来る。だが全てのディスクアニマルが破壊されてるということは特定に必要な情報が一切残されていないということ。

 

「(まさか、ディスクアニマルが無いとは、これでは王の魔化魍なのか判断出来ない)」

 

 そのことに困ったのは診鬼こと神通も同じだ。

 過激派に比べて数が少ない共存派だが、こと魔化魍の王に関する情報なら他の派閥よりも数多く持っている。勿論その中には、幽冥の家族であろう名持ちの魔化魍の情報もある。

 だからこそ僅かでもディスクアニマルで情報があればと望んだが、よっぽど用心深いのかディスクアニマルは全て破壊されていた。

 

「で、どうするんですか支部長? 情報がないのなら手出しは難しいです」

 

 集まった無銘の1人が質問する。

 

「今は情報を集めることを優先しましょう。

 相楽、茜鷹を長野支部に飛ばしてくれ」

 

「はっ、承知しました」

 

 井伊宮の言葉に従い座っている天狗の1人が立ち上がりそのまま部屋を出ていく。

 

「狼鬼さんに報告はしないのですか?」

 

「連絡は後でも可能です。それよりも今すべき事は」

 

 崗鬼の質問に答えを返す井伊宮。

 そんな話をする部屋の隅に人の頭ほどの大きさの火の玉が浮かんでいる。

 

「ですが狼鬼さんに報告した方が確実に!!」

 

「いいえ!! 彼には休みが必要です。

 もしも、彼になにかあればどうするのですか!」

 

 普通ならばそのような大きさの火の玉を見れば、敵襲と考えるだろう。だが、誰も部屋の隅に浮く火の玉に気づいておらず井伊宮と崗鬼は言い争う。

 そんな火の玉を出した主は現在、鳥籠の中(・・・・)で会議の内容を盗み聞きしていた。そう診鬼の連れた赤い鸚鵡は勿論ただの鸚鵡ではない。

 ネコショウが率いる『鳥獣蟲同盟』に所属する魔化魍 フラリビだ。

 

「[いいえ!! 彼には休みが必要です。

 もしも、彼になにかあればどうするのですか!]」

 

 オイラの名前はフラリビ。

 ネコショウに頼まれて潜入している魔化魍だ。今やってるのは術を掛けて不可視化したオイラの炎で会議の内容を盗聴している。でも、正直あの(井伊宮)と鬼の言い争いが続いてるみたいだし、そろそろ盗聴を止めようと思ってる。

 

 オイラは正直、最初は面倒だった。いくらネコショウのお願いでもオイラたちを殺す鬼にあまり近づきたくなかった。

 でも偶然、その話の後に出会ったあの人、診鬼こと神通に一目惚れしちゃったんだ。それでネコショウの話を承諾して、神通の目の前で怪我した鸚鵡として神通に保護され、この猛士で情報を収集している。

 

 そうして神通の元にいると神通の正体に驚いた。猛士には魔化魍との共存を望む共存派という一派がいると知り合いに聞いた事がある。

 正直、オイラの仲間を殺した鬼たちにそんなの居るはずがないと思っていた。

 でもある時、神通が機械(携帯電話)で話す内容から神通が共存派の鬼だと知った。オイラは嬉しかった。出来ればオイラの正体を神通に教えたかったけど、それだと神通が困るだろうから時が来るまで黙ってることにした。

 神通が此処に来たのは清めたフリをして魔化魍を逃すためと魔化魍の王が来るかもしれないという理由で共存派のトップから指令で此処にきたんだ。共存派のトップにオイラは感謝してるよ。

 オイラに神通に会わせてくれて、いつ会えるか分からないけどお礼したいな。

 

「[–––では会議は終了します。

 各自持ち場に戻ってください!]」

 

 おっと、いつの間にか会議は終わったようだ。盗聴用の炎を消して、神通を待ってよっと。

 

「ただいま」

 

 そうこうしてると神通が帰って来た。鬼が壊した扉はさっき事務員が直して、他の部屋のも直さなきゃってボヤいていた。

 神通はオイラを入れてる鳥籠の戸を開き、扉のそばに手を置く。オイラはその手に向かって飛び、神通の指に爪で傷付けないように慎重に掴まる

 

「聞いてよ。会議って言っておきながら後半はほぼ支部長と崗鬼の言い合いだったよ。

 なんか会議にいるのが馬鹿らしかったよ」

 

 神通はこうしてオイラに愚痴を言うことがある。でも神通の気持ちはあの場を盗聴していたオイラも分かる。

 だからオイラは神通の言葉に頷いて、神通のストレスが減ったらいいなと思った。

 

「‥‥……ねえ、君は魔化魍なのかな?」

 

 突然の神通のその言葉にドキリとするも、今はただの鸚鵡だから首を傾げて分からないふりをする。

 

「ごめんね。変なことを言っちゃって」

 

 そう言ってオイラの頭を優しく撫でる手が堪らない。

 ああ、こんな日々が続くといいな。

 

 そうしてフラリビは神通といるこの状況に幸せを感じながら敵である猛士の情報を集めるのだった。




如何でしたでしょうか?
『鳥獣蟲同盟』のメンバーはまだ居ます。ちょっとヒダルガミの涙描写下手だったかな? 実は拳牙は某館の門番と某特撮のプロテインの貴公子が混ざった感じの性格ですので、時折おバカ発言します。
フラリビでの「[]」の部分は盗聴して聞こえた言葉の部分です。
次回は五位からの事後報告を受けて幽冥たちはネコショウたちのいる場所に転移、そして–––
次回をお楽しみに。
では、おまけコーナーは前回の続きになります。どうぞ!

ーおまけー
紫陽花
【ふうぅぅ。すまんな迷家。
 ゆっくり休ませてもらった】

迷家
【いや、紫陽花が元気になったのなら良かったよ。
 もしも、あのまま紫陽花を返したら雛と凍になんて言われるか】

紫陽花
【まあ、はんば私のせいでもあるし、そう気にしなくていいだろう】

迷家
【そう言ってもらうと助かるよ】

紫陽花
【それで、質問の続きを話せばよいのか?】

迷家
【う〜〜ん。初めてだけど質問は変えるよ】

紫陽花
【別に前の質問でも良いぞ】

迷家
【いや、なんか申し訳ないから】

紫陽花
【そうか】

迷家
【まあ、改めて質問なんだけど、〜ん。どうしよっか?】

紫陽花
【ふむ。なら私の夫の話はどうだ?】

迷家
【えっ。その人って確か、梅雄さんだっけ?】

紫陽花
【ああ、雛の祖父であり私の夫で、先先代の呑鬼だ】

迷家
【8人の鬼の呑鬼ってどんな鬼だったの?】

紫陽花
【梅雄は、私のいた時代では8人の鬼の中で最強と言われた覇鬼の次に強かった鬼だ。
 音撃編簓(びんざさら)という輪刀に似た音撃武器を持っている】

迷家
【へえ〜………って、あれ?
 そういえば紫陽花って梅雄さんと戦ってる最中で崖崩れに巻き込まれて、その時に擬人態の姿を見た梅雄さんが求婚したんだよね?】

紫陽花
【嗚呼そうだ。当時の私は、今とは違いかなり派手に暴れていてな。
 当時の猛士からすれば魔化魍の王ほどではないにせよ。相当危険視されていてな。送られてきた鬼を返り討ちにしてのがキッカケであやつが私の討伐任務を指令されんだ】

紫陽花
【そして、その後は知っての通り梅雄と結ばれて竹弥を授かり、孫の雛が産まれた】

迷家
【そっか。梅雄さんになんか言いたいことってある?】

紫陽花
【なんだ急に?】

迷家
【いや、気になっちゃって】

紫陽花
【………あえて言うとしたら】

迷家
【言うとしたら?】

紫陽花
【魔化魍の私をただひとりの女として見てくれて、息子や雛に合わせてくれてありがとう】

迷家
【…………】

紫陽花
【さて、雛の所に戻るとするか】












迷家
【……………………本当に良かったの?
 せっかく変な人に頼んで、ここに来てもらったのに】

「いいんだよ。あいつの心には俺がいるっていうのを改めて知れたからな。
 それだけでも十分感謝してる。それにな」

迷家
【それに?】

「俺の方こそありがとうって言いてぇ。
 実の家族に疎まれていた人間味の薄い俺に愛を教えてくれて、温かい家庭を見せてくれてな」

迷家
【…………そっか。あ、今日はここまでじゃ、バイバーーイ♬】

「また、いつか会う日まで俺はお前を見守っているぞ紫陽花」


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記録百陸

こんばんは。
すいません。本来ならネコショウの話を聞いて、王に連絡する五位を書く予定でしたが前回の話が長くなりそうだったので、半分にしてネコショウの話と連絡の話を一緒にしてコンパクトにまとめられたと思います。


SIDE五位

 自己紹介を終えた『鳥獣蟲同盟』のメンバーは長たるネコショウとヨスズメを残して何処かへ行った。

 俺たちの方も各々好きに動いて残っているのは俺と跳だけだ。

 

【では、あらためて自己紹介させてもらうニャ。

 『鳥獣蟲同盟』の長。ネコショウだニャ。ニャンの仲間であるヨスズメとチントウを助けて頂きありがとうだニャ】

 

【頭は上げてほしいでやす】

 

五位

【ああそうだ。それより話というのを聞きたい】

 

【そうだったニャ。ニャッホン。

 ニャンがお前たちに話したいのは、ココの猛士の壊滅。いや猛士の壊滅ではなくある鬼の抹殺に協力してほしいのニャ】

 

【抹殺でやすか?】

 

五位

【只事ではないというのは薄々感じていたが。

 ある鬼の抹殺という事は、その鬼が此処の猛士の鬼たちの過剰な反応の原因ということか?】

 

【そうだニャ。その鬼の名は狼鬼。

 此処中部地方を中心に動く『8人の鬼』のひとりだニャ】

 

五位、跳

【【っ!?】】

 

 俺たちはまさかの名前に驚く。

 『8人の鬼』という事は間違いなく『魔化水晶』のカケラを持っている。

 しかし、いくら過去に初代魔化魍の王 オオマガドキを倒した末裔である『8人の鬼』といえどもたかが1人の鬼が猛士を過剰にさせることができるのかと思う。だが–––

 

【お前たちは猛士の派閥って知ってるかニャ?】

 

五位

【派閥?】

 

【なんでやすかそれは?】

 

【実は猛士にはニャンたちに対する考え方が異なる3つの派閥があるんだニャ。

 ひとつは、ニャンたち魔化魍との共存を考える魔化魍穏健派閥こと共存派】

 

【あっしらとの共存!?】

 

五位

【そんな考えをする人間が猛士に居るのか!?】

 

 ネコショウから語られた言葉に驚愕する。

 それはそうだ。今まで彼らが戦った鬼たちにそんな考えをするような鬼はひとりも居なかった。そんな鬼たちに自分達との共存を望む者が居る。この話は間違いなく王がかなり喜ぶ内容だろう。

 

【最初はニャンも信じられなかったけどあることでその存在を知ったんだニャ。

 ふたつめは、猛士の理念である『人を守る』を掲げた魔化魍普遍派閥こと傍観派】

 

 これに対しては特に思う事はないつまりは普通の鬼なのだろう。

 まあ、敵対すれば消すことには変わらないが、もしかしたら捕虜として捕らえることになるのかもしれないが、その時はその時だろう。

 

【まあ、傍観派は魔化魍に対してはあまり警戒する必要は低いかもしれないニャ。

 そしてみっつめ、これがかなり厄介なところだと思うニャ。なにせニャンたち、魔化魍に怒りと恨みを抱え、殲滅を主とする魔化魍殲滅派閥こと過激派】

 

 過激派いや、正確に言うのなら殲滅派閥。

 名称の時点でかなりヤバいことが伝わる。しかし、ネコショウはなぜ突然、派閥の話を始めたのだろうか。

 そして、直ぐに理解した。

 

五位

【まさか、その狼鬼と過激派は関係しているのか!?】

 

【その通りだニャン。過激派のメンバーのほとんどはニャンたち魔化魍の被害者だニャ。狼鬼は過激派として魔化魍を清めてきた功績から猛士内でも発言力が高く、猛士に入って間もない人間を過激派のメンバーにしているんだニャ】

 

 話は分かってきた。つまりその派閥の1つの鬼が、派閥仲間を連れて俺たちを殺すために躍起になっているということか。

 おまけにその鬼も厄介だ。『8人の鬼』というネームバリューと魔化魍討伐による功績は味方だとしたら頼もしさを感じる。まあ、俺たちからすれば頼もしさよりも恐ろしさだろう。

 被害については此処に来る前にヨスズメから聞かせてもらった。

 鬼の分類としては王を含めて家族全てが嫌う魔化魍絶滅主義者だろう。オマケにこの鬼は九州地方で白たちが戦った鬼、確か妄鬼という同士の鬼の仇と殲滅派閥の仲間に広げて、魔化魍への徹底的な攻撃を繰り返しているようだ。

 

【改めて言うニャ。

 この地に住まう魔化魍の為に狼鬼の討伐の協力をお願いするニャ】

 

 かつての仲間のピンチだと知り、この地に来てみれば、まさか抹殺を依頼されるとは思わなかった。だが、これは放置する問題ではない。魔化魍を愛する王の為にも件の鬼は必ず討たねばならない。

 それにヨスズメやチントウを助けておいて、ネコショウの話を断り、王たちのいる家に帰ったら間違いなく後悔する。つまり答えは決まっているようなものだ。

 

【………あっしは喜んで協力させていただきやす。それにここの鬼共が苛烈化したのはあっしらも原因でやす】

 

五位

【ヨスズメが安全ならと思っていたが、こんな状況だ。力は貸すさ】

 

【あ、アオサギビ//////】

 

【感謝するニャ】

 

 ヨスズメは布で隠れていない顔を赤らめ、ネコショウは感謝の言葉と一緒に頭を下げる。

 

五位

【でっ、どうする?】

 

【早速、行動といきたいでやすが………】

 

 跳は言い淀む。そうネコショウのこの状況をどうにかするのには五位たちの戦力では足りなかった。確かに並大抵の魔化魍とは比べるまでもなく五位たちは強いが、それでもこの地にいる猛士の戦力を考えると五位とネコショウたちの力を合わせたとしても犠牲無くしての勝利は不可能だろう。

 

 ならどうするか? 簡単だ。

 戦力は増やせばいい、それもただの戦力ではない。鬼との戦闘経験が豊富な自分たちの家族。だがしかし、ここで問題が起きる。

 

 ヨスズメの危機を察知して独断でこの地に来た五位たちはどうしてこうなったのかと言う説明を王にしなければならない。

 魔化魍を家族という幽冥でも信賞必罰。怒る時はそれはもう怒る。その光景はまさにこの地に来る前に土門たちの受けていた『お仕置き』の光景で容易に想像がつく。

 

 確実に王からの罰はあるだろうなと思った五位と跳は今の状況を説明するために向こうに置いてきたある物に繋げて幽冥に連絡する準備を始めた。

 

SIDEOUT

 

 五位たちが居ないことに気付き、数時間が経過した。

 家族が揃い、五位たちがどこへ向かったのかと話し合いは続いている。

 そんな中–––

 

「ん? 何か鳴ってるけどなんの音?」

 

 話してる最中、私の耳に何か音が聞こえてくる。

 私の声で一斉に静まった家族たちも耳を澄ませば、音が聞こえてくる。

 

迷家

【あれ? 主人(あるじ)、机の下になんか着いてるよ】

 

「え?」

 

 そう言う迷家の言葉の通りに机の下を除けば、何かが着いていた。

 そのまま手を伸ばして、剥がすとその正体が分かる。

 

「これって術の札?」

 

 机の下にあったのは術用の札だ。術を使用する為に私や家族たちも使う物だ。何かしらの術式が描かれてるのが理由か、札は淡い光に包まれ、電話の待機音のよう音が鳴っている。

 

蛇姫

【これは連絡用の術式ですね。少々お待ちください】

 

 札を覗き込んだ蛇姫が札の表面をなぞると、カチャリと何かが外れる音と共に札から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

【あー。あー。もしもしでやす】

 

「跳!?」

 

【おっ、王でやすか?】

 

 そこから聞こえたのは、現在行方不明とされている跳の声だ。

 

「ええ。貴方たちが行方不明になったのかと心配して探していた王です」

 

【それは、誠に申し訳ございやせん】

 

「その感じからして無事だということは分かるんだけど………それで、なぜ急に消えたの? 他の子も巻き込んで」

 

【それを報告する為にこうして連絡を取らせてもらいやした。

 心配させた身で言うのもなんでやすが王の耳に入れて頂きたい話がありやす】

 

 そうして、跳は口にする。跳たちが消えて何があったのか報告する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【–––というわけでやす】

 

 跳から聞かされた話に私は考える。

 『五位の大切なものの救出』、『猛士による魔化魍の殺戮』、『ネコショウ率いる鳥獣蟲同盟』と報告を聞かされた私の思いは五位たちが無事のことの安堵と新しい魔化魍の話による僅かな興奮、そして、殺戮を行う猛士の鬼たちに対する怒りと殺意である。

 

「………うん。状況は理解した。では跳、そこに居るネコショウに伝えて。

 9代目魔化魍の王 安倍 幽冥が『鳥獣蟲同盟』に協力すると」

 

 その言葉を聞いてか、跳は待ってましたという雰囲気が声で伝わる。

 

【感謝しやす王】

 

「…………でもね跳。これが終わったら跳はお仕置きだからね。勿論着いていった全員もお仕置きだから、覚悟しておいてね」

 

【………はいでやす】

 

 死刑宣告に等しい幽冥の言葉を聞き、意気消沈という状態の跳の声に同情するものは少なかった。

 やがて札は黒く染まりボロボロと崩れて跡形もなく蛇姫の手元から消えた。

 

「みんな、聞いた通りだから。

 取り敢えずは跳たちのところに行くよ!!」

 

家族たち

【【【【おおお!!!】】】】




如何でしたでしょうか?
今回の回で初めて家族側で猛士の派閥を知ります。そして、次回の回にて転移してきた幽冥たちとあの鬼の視点を書こうと思います。
では、おまけコーナーの迷家頼んだよ!!

ーおまけー
迷家
【分かった! ……………って、アレっ? 誰に返事したの僕?】

迷家
【まあ気にせずに始めちゃおっか。
 ではでは、おまけコーナー始まり、始まり】

「むぐーむぐーむーーーー」

迷家
【おっと、このままだと酸欠になるのかな。
 まあ、喋ってもらいたいから外すね】

「ぷはっ、おいテメエ。此処はどこなんだよ!!」

迷家
【今回のゲストは妖怪 山蜥蜴だよ!!】

「聞けよ!!」

迷家
【まあまあ、此処はおまけコーナー。
 変な人に頼まれてやってるところだよ】

「おまけコーナー?
 なんだそりゃ?」

迷家
【気にしない。気にしない。じゃあ取り敢えず質問かな】

「なんだよ。変なことなら答えねえぞ」

迷家
【変なことは聞かないよ。えっとね。
 山蜥蜴って妖怪なんだよね?】

「あっ? そうだが、それが何なんだよ」

迷家
【うちにさ暴炎っているじゃん】

「ああ、いるな。オレに似た感じのパイオニアが」

迷家
【…………(多分パイロマニアって言いたかったんだろうけど、気づかなかったにしとこ)
 そう。その暴炎】

「アイツがどうしたんだよ?」

迷家
【単純に気になったことなんだけど、暴炎と山蜥蜴ってどっちが熱いの?】

「熱いだぁ。それは勿論、俺に決まってるだろ」

迷家
【お、そう言うって事はなんか理由あるの?】

「あ? 特にねえよ」

迷家
【え!? ないの?】

「おお、特にねえな」

迷家
【ええ………なんでそんな自信満々なの?】

「そんなの決まってんだろ。俺はな最初から最後までクライマックスだからな」

迷家
【……………】

「おい。タツノコ? なんだ?
 動かなくなっちまったな。しかし、どっちが熱いか?」

「よぉし。だったらあの蜥蜴野郎と戦ってみるか。そうと、決まれば。早速動かねえとなぁ」

迷家
【…………………ハッ!
 ヤバイ、山蜥蜴を止めないと! ああ、そうだった。今日はここまでまた次回ね!!
 ちょっと、待ってえええ!!】


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記録百漆

こんばんは。
今回は五位の連絡を受けて中部地方に飛ぶ支度を始める幽冥たちとあの鬼に視点を当てた話になります。


 跳の残した『連絡の札』で伝えられた情報により幽冥たちは、跳たちは無事だということを知る。だけど、跳たちの状況を知った家族たちも今回の相手も前に戦った猛士九州地方支部と同じ連中だと知り、怒りを覚えて、怒りや殺意といった感情が漏れ出している。

 

「先程の話の通りにこれから私達は跳たちのいる中部地方に行きます。

 白! 黒!」

 

「「はい!!(ハイ!!)」」

 

「一緒に向かう家族の編成を頼みます。私は少し、鬼のところに向かいます」

 

「「っ!?」」

 

 幽冥の言葉に側に控えていた白と黒、そして会議で集まっていた家族たちも驚愕の顔をしてざわめき始める。

 それはそうだ。今までの戦いの中、鬼で連れて行ったのは姉である春詠とひなの家族を探すために一時的に協力して貰った突鬼こと錬くらいだ。

 

「なんでって思うかもしれないけど、今回の戦いには鬼を1人連れて行った方が良さそうなんだよ」

 

「その根拠は?」

 

「勘!!」

 

 自信満々に答える幽冥に家族たちはガクッと身体が崩れる。

 そんな中で口を開いたのは姉の春詠だった。

 

「まっ。幽の決めたことだし。こうなったら幽は梃子でも動かないから」

 

美岬

【はあーーそうですね。白、黒、諦めてメンバーを決めようか】

 

 美岬もやれやれと言うように春詠に同意する。

 流石は前世の兄もとい姉と親友。こうなった私は少し頑固なのだ。

 

「じゃっ、時間は有限。白たちは編成を急いで、私は鬼を1人連れてくる」

 

「「かしこまりました(カシコマリマシタ)」」

 

 白たちに準備を頼んだ、幽冥はただ1人で捕らえている捕虜の鬼たちのいる部屋に向けて歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖世館地下の隅にある部屋。そこには幽冥と家族たちが捕虜とした捕らえた鬼たちのいる部屋がある。

 全部で四部屋あり、一つ目は北海道で捕らえた練鬼こと佐賀 錬、衣鬼こと黒風 愛衣の2人がいる部屋。

 

 二つ目は鹿児島支部で捕らえた無銘の鬼こと浅見 千枝、板垣 千種、内海 千弘の3人の部屋。

 

 三つ目は大分支部支部長 布都 ミタマと四肢のない布都の介護も任され同室となっている宮崎支部支部長 土浦 ふくの2人がいる部屋。

 

 そして、最後の四つ目。

 此処に今回の旅で連れていこうと考える鬼がいる。私はその部屋の前に立ち、ノックをする。

 

「どうぞ」

 

 中の声に従って、私は中に入る。部屋の中はつい最近の捕虜ということもあり、それほど物は置いていない。精々、椅子と机と寝具くらいだ。

 その寝具に腰掛けている者こそ、連れて行こうと思う鬼である。

 名は火野 薫子。鬼としての名は焙鬼。猛士鹿児島支部で最強と言われた鬼だ。

 

「どうされましたか王?」

 

「うん。今回、家族の事情でね中部に行くことになったんだけどね。

 それで貴女を連れていこうと思ってね」

 

「私をですか?」

 

「そう」

 

「…………良いのですか? 私を連れていくのは危険だと思いますが」

 

「まあ正直、鉄たちは反対しそうだけどね」

 

 そう。九州地方の戦いが終わり、捕虜の話をしていた際に、焙鬼こと火野は鉄たち九州出身の魔化魍に殺されてもおかしく無かった。

 そこに待ったを掛けたのが、焙鬼を捕まえた蝕だった。蝕は優秀だった鬼に対しての薬品実験のために焙鬼を殺さないように幽冥に頼んで、彼女の殺害を防いだのだ。

 しかし、捕獲の際に用いた薬の効果で廃人に近い火野を会話可能レベルにまで戻すのは、いくら薬品に精通した蝕でも難しかった。

 その中で特に問題だったのは原液のままぶっ掛けられた壊楽(かいらく)葬嫉(そうしつ)によるダブルコンボだ。身体を回る快楽物質でやること全てに快感を覚える。つい最近まではマトモに食事することも出来ず前まで同じ部屋だった土浦が無理をして飲み食べ、なんだったら下の手伝いもしていた。

 四肢のない布都の介護もあるというのにそれに追加して火野の世話は不味いと思った蝕は急いで解毒薬を作ろうとしたが、解毒薬は出来ず、効果を抑える薬は出来た。しかし、薬の影響で廃人状態の火野を元に戻すことは出来なかった。

 そこで蝕は廃人から元に戻すのではなく、人格を作り変えることにした。その結果が今、幽冥の前で話す彼女だ。

 

「………分かりました。此処では王の言葉が全て、着いていかせて頂きます」

 

「じゃあ、家族のところに行くから着いてきてね」

 

 因みに姉である春詠と三尸の恋人の月村 あぐり、導の恋人の三枝 紗由紀は捕虜の鬼たちとは別の部屋に共同で暮らしており、捕虜の鬼たちよりもいい暮らしなのは言うまでも無いだろう。

 そうこうして、薫子を連れた幽冥は中部に向けて飛ぶメンバーの居る外に向けて歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、外に着けば編成によって呼ばれた家族たちが王である幽冥を待っていた。幽冥の連れてきた鬼が焙鬼だと分かると、九州にいた家族たちは一気に顔を顰める。だが幽冥が連れてきたのもあるので、いつまでも顰めているわけにいかず、徐々に顔を普通に戻していく。

 編成された家族の名を聞き続けていく中、その編成に幽冥は驚きの声を上げるのだった。

 

「ええ!! 白は来ないの!」

 

「はい。今回、私は留守を預からさせていただきます」

 

 そう白だ。いつもは幽冥の側にいることが多い、最初の妖姫従者だ。

 

「またどうして?」

 

「いつも王に着いて行ってはいざという時に行動できないといけませんので」

 

 その言葉に幽冥は納得する。

 確かに今までの戦いで白は幽冥の傍らにいることが多く、妖世館で留守を任された事はない。常に幽冥の側にいる白は留守を任される他の妖姫従者と違い、館の中の全てをまだ把握しきれていない。

 そのことから今回は留守に回り、館の把握に努めるのだろうと幽冥は判断した。

 

 此処で他の方々も気付いてるだろうが白が留守をすると言ったのは別の理由(・・)がある。勿論、白の言っていることに嘘はない。館の把握が足りないのは本当だ。だがそれは留守をする理由の2割に過ぎない。

 話は少し変わるが白は最初の妖姫従者ということもあってか常に幽冥の側に居るべきだと一種の使命感に似た何かを持っていた。初めは自分を含めて土門と鳴風、顎たちしかいなかった。だが家族が増えていき、黒や赤、緑、灰、青といった他の妖姫従者も増えていった。それでも白は幽冥の傍らに、幽冥を守るのは自分だと思っていた。しかし、幽冥のことで恋愛相談を受ける姉の春詠はそこに待ったを掛ける。

 春詠は白にマンネリ(・・・・)のことを教えた。

 同じ行動や形式に固執し、惰性のように繰り返されることで、新鮮さや独創性が感じられなくなることつまり『退屈』や『つまらなくなる』ということを春詠は前世では彼女こそ居なかったがたまに友人の恋愛相談に乗っていたこともあってそう言う話を聞かされたことが多々あると。

 

 それを聞いた白は顔を青褪める。想像してしまったのだろう。

 白はその目に涙を浮かべて春詠にどうすれば良いのかと聞いた。それに対して春詠はこう答えた。『いつもとは違うことをすれば良い』と。

 

 こうして白はいつもとは違うことの実行をした。そう留守役である。

 これには幽冥は驚いていた。いつもは着いてくる白が留守をすることに、この幽冥のリアクションを見た白は早速効果があったと内心で思う。

 編成メンバーであり幽冥の傍に立っている赤に白は苛立つも、これもマンネリを防ぐためと心に言い聞かせて耐える。堕触手()に任せるのは本当に本当に癪だがと心の中で赤を罵る。それでもマンネリでもしも幽冥に飽きられたら、嫌われでもしたらという恐怖で白は今回は大人しく妖世館で留守を務めることにしたのだ。

 

「いってらっしゃいませ」

 

「ありがとう白。………じゃあ行くよ!!」

 

 白の言葉を聞いた幽冥は礼を言うと、『転移の札』を地面に叩きつけると光が起き、その場にいた幽冥たちを包み込んだ。

 そして、光の収まった場所に誰も居らず、見送りで残った白たちは王と家族の無事の帰還を願うのだった。

 

SIDE◯鬼

 幽冥たちが『転移の札』で中部に向かう同時刻。

 場所は変わって猛士中部地方静岡支部。

 

 長々とした会議が終わって、猛士の人間は会議室から自室に戻るなり、己を鍛えにいくなり、身体を休めるなりと各々が違う行動をしながら部屋を出ていく。

 そんな中で1人の男が立ち上がり部屋を出ていく。

 

 山伏に似た服装をする彼の名は岡本 岩雄。鬼の名は崗鬼。

 猛士中部地方静岡支部に配属されている過激派の鬼であり、自称、『狼鬼の理解者』と言っているが、他の過激派の鬼や敵である魔化魍からはこう呼ばれている『狼鬼の狂犬』と。

 

 俺の名は崗鬼。

 狼鬼さんの理解者であり、魔化魍を殲滅するあの人のために戦う鬼だ。

 

 俺は狼鬼さんに助けられて鬼になった。俺のいる過激派は所属する鬼の大半は家族や親友、恋人を殺されてその仇を討つために鬼になるケースが多い。

 しかし、俺が鬼になったのは復讐や仇討ちではない。狼鬼さんへの恩義いや独りよがりというべきものだろう。

 狼鬼さんの力になりたいと思った俺は猛士に入り、鬼になるために先代の崗鬼の元で血反吐を吐くような修行をして鬼となった。

 

 初めて狼鬼さんと一緒に魔化魍を討伐した日は今でも覚えている。

 まだ先代から力を受け継いで間もない時にカッパが大量発生し、その討伐のために向かった中に狼鬼さんがいた。

 大量のカッパを相手に縦横無尽に動いて翻弄し、音撃縦笛(リコーダー)でカッパを蹂躙していた。

 

 そんな狼鬼さんの姿を見て、早くあの人の役に立ちたいと思い、それから狼鬼さんと一緒の任務は無かったが、名持ちの鬼としての多くの魔化魍を清めてきた。だが、俺は分かっている。

 鬼としての俺はおそらくいや、間違いなく弱い部類に入るのだろう。新しく入った新人の鬼が怪我をすることなく魔化魍を清めることが出来るのに対して、俺は幾度も怪我を負い、身体を壊している。怪我が治り次第に鍛えるもいくら鍛えても、結局は怪我を負う。

 

 進歩しない自分自身が嫌になりある時に俺は許されざる行いをした。それをしたおかげで俺は怪我を負うことなく魔化魍を討伐出来るようになった。しかし、俺はこの行いを止める事は出来ない。これを辞めたらあの人(狼鬼)の側に立てなくなる。

 これをやって俺の身が滅びようとも構わない。俺はあの人(狼鬼)のためなら喜んで命を懸ける。

 それが例え、過激派としての根底を歪めるようなことだろうと–––

 

「………そろそろか」

 

 崗鬼は自室とは違う部屋に大きな袋を持ってなにかを待っていた。

 すると突然、目の前が光り始める。そして光ると同時に何かが描かれていく。描くものは何もないはずなのにどんどん描かれていく、そしてそれは円のようになり魔法陣へと変わる。

 そして、その魔法陣から何かが飛び出るように現れる。

 

【クケルゥゥゥゥ。今回は長かったなァァ】

 

「………待たせたな。今回の『契約』の対価だ」

 

 俺の目の前に居るのは()のために『契約』した悪魔魔化魍(・・・・・)だ。ヤツは月に1度に『契約』の対価を貰いに現れる。

 そんなヤツに俺は『契約』の対価を渡す。

 

【クケルゥゥゥゥ。オマエは変わり者だな。

 力を得るためにオレサマなんかと『契約』して。まあ、オレサマは上のヤツらと違って簡単に呼べるからなァ。それが過激派の鬼でもな】

 

「五月蝿い!! それよりもさっさとしろ」

 

【クケルゥゥゥゥ。まあ『契約』は『契約』だ。ちゃんと守ってやるさ。ホラっ!!】

 

 影から放たれた光は崗鬼の身体に入り込み、崗鬼は全身に激痛が走る。

 それを見ながらニヨニヨと口元歪めながら影は嗤う。

 

「ぐう、あああああ!!」

 

【じゃあ、オレサマは帰るぜ。また用意できたら呼びな!!

 クケルゥゥゥゥ!!】

 

 そう言ってヤツは自分の出てきた魔法陣に飛び込み姿を消し、ヤツが居なくなると同時に魔法陣も跡形もなく消える。

 滅ぼすべき敵と呼ばれる奴らから貰った許されぬ力だろうと、俺はあの人の側で、あの人と共に戦いたい。




如何でしたでしょうか?
今回の話では、中部に飛んで幽冥とあの鬼こと崗鬼と謎の魔化魍の話でした。
火野こと焙鬼の以前の性格は俺口調のオラオラ系な女性でしたが、蝕によって私口調のノーマル女性へと変わりました。
謎の魔化魍はまあ、分かると思いますがあの陣営に連なる魔化魍です。
ヒントは『UMA』です。この魔化魍のモデルは某特撮の幹部にも、某カードゲームのモンスターにもなっています。

ーおまけー
迷家
【おまけコーナーの時間だよ♪
 うんうん。なんだかんで結構続いてるよね〜このコーナー】

常闇
【それも変な人とやらが頑張ってるからであろうな】


【そうでやんすね。……………ところでなんでやすが?
 彼方さんはどちら様でやんす?】

迷家
【あ、そういえば跳も常闇は知らないよね。
 魔化魍の解説を担当してるサーティセブンだよ】

サーティセブン
【初めましてサーティセブンと申します。
 貴方たちが迷家の代理進行役の跳と宝具風技及び武器解説の常闇ですね】

常闇
【ああ、まだ1度しかしていないがなこの場の技と武器解説を担当している。
 しかし、宝具か】


【何、黄昏てるんでやんすか。まあ、常闇の解説はその内やるでありやしょう。まあ、初めまして跳でやんす】

迷家
【そう言えば、もうおまけコーナー始まっちゃてるけどさ、なんで僕たち集められてるの?】


【確かにおかしいでやんすね。そもそもあっしが此処に出るのは迷家がいない時の筈でありやすし】

常闇
【それを言うのなら私だってそうだ。サーティセブン、お前はどうなんだ?】

サーティセブン
【さあ、私にも分かりませんが、此処に集められた理由には心当たりがあります】

迷家
【え! なになに、どんな心当たり?】

サーティセブン
【此処に呼び出される前に変な人に呼ばれましてね。
 新しい解説者を連れて行ってくれと頼まれましてね】

迷家、跳、常闇
【【【新しい解説者!?】】】

サーティセブン
【ええ、多分紹介も含めてで此処に皆さん集められたのでしょう】

常闇
【ほう。ならその者を早く紹介してもらおうか】

サーティセブン
【ええ言われなくてもそこで待ってもらってますよ。
 では、入ってください】

ー次回のおまけコーナーへ続くー


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記録百捌

こんばんわ。
今年のFGOの水着が全然出なかった。この作品を読んでる読者の内何人がFGOやってるのかたまに気になる作者です。
ガチャショックで意気消沈気味ながらも書きました。




 今回のメンバーは私と従者の赤、緑の2人、捕虜の焙鬼、唐傘、骸、美岬、荒夜、狂姫、常闇、古樹、潜砂、舞、劔、刺馬。

 今回は殲滅特化の人選と言えるだろう。

 

 戦闘能力が高く、鬼との戦闘経験が豊富な美岬、荒夜、常闇、劔。

 

 索敵と状況把握に優れた唐傘、狂姫、古樹、舞。

 

 逃亡者追跡に特化した骸と潜砂、刺馬。

 

 正直、欲を言うのならもう少し連れて行きたかった。朧や暴炎、乱風、屍王、水底、紫陽花、渦潮、鉄といった戦闘能力という意味で挙げたメンバー並みに強い家族にも声を掛けたらしいが、私が留守の間に鬼に攻められた場合の防衛力と各々の用事と地形の相性という理由で来ていない。

 

 そんなメンバーを連れ、跳の残した札から辿って転移して着いたのは私たちの家である妖世館に近い見た目の廃墟の洋館。

 そんな廃洋館の前には五位と跳、そして見たことのない魔化魍が2体が並んでいた。私の姿が見えて跳が反応する。

 

【来やした!】

 

五位

【王、今回の件。責任は全て俺にあります。

 跳たちの罰は軽くお願いします】

 

 跳が私に気付き、次に五位が私の側まで来ると、勢いよく頭を下げて今回のことでの謝罪と責任についての話をする。

 

「謝って済む問題じゃないでしょ。

 今回のことで王がどれほど心配し「いいよ赤」え!? ですがしかし」

 

 赤は五位の言葉に怒るが私は言葉で制する。

 

「いいの。結果論になっちゃうけど、こうして無事だし、五位が助けたい子は助けられたんでしょ?」

 

五位

【はい。ですが、あと少し遅れてたら】

 

「王としての立場なら本来は怒らないとなんだけど、先に家族として今は言わせてもらうね。

 良くやった!!」

 

五位

【ああ、ありがとう、ございます】

 

「でも、今回の件で心配したのは本当だから。帰ったらキッチリ罰は与えるから覚悟しておいてね」

 

五位

【はい!!】

 

 そんな話をしてると此方を見ていた1体が私の近くまで来る。

 

【初めましてニャ。ニャンが『鳥獣蟲同盟』の長。ネコショウだニャ】

 

 そう言って自己紹介するのは協力を求めてきた件の魔化魍ことネコショウ。

 なんと言うか、今までで色んな魔化魍にあった私がいうのもなんだけども、ここ迄キャラが濃く独特な魔化魍はいただろうか。

 

「初めまして。魔化魍の王 安倍 幽冥です。

 ウチの家族がそちらに迷惑は掛けませんでしたか?」

 

【迷惑なんて無いニャ。むしろコッチは仲間を助けてもらったニャ。

 感謝してるんだニャ♬】

 

 やっぱり濃い。

 こんな風にキャピキャピしてる魔化魍は初めてだ。私の家族にも個性的な家族はチラホラといるにはいるが、美人、猫耳、鈴の付いた首輪、猫の尻尾、巨というより爆な実、猫のような四肢、花魁のような艶やかな和服姿、一人称がニャン、語尾はニャと、更に跳から聞いた話によると老若男女問わずに快楽に陥れる生粋のドSで、両刀(バイ)らしい、ここ迄属性てんこ盛りな魔化魍は多分居ないだろう。

 

【どうしたニャ?】

 

「ううん。何でもない」

 

 ネコショウが首を傾けて聞いてくるが、心の中のことを一旦置いてネコショウに答えた。

 

【は、初めまして、魔化魍の王。

 拙はアオサギビが、あ、五位と行動を共にしていたことがあるヨスズメです】

 

 ネコショウの背後にいて五位の側にいた雀の魔化魍ことヨスズメが幽冥に声を掛ける。

 

「ああ、跳から話は聞いたよ。そっか貴女がヨスズメね」

 

【はい】

 

 幽冥はヨスズメを見て、跳から聞かされていた事を思い出す。

 

ボソッ「ヨスズメって五位が好きなんでしょ」

 

【え? ……はわわ///////!?】

 

 跳から聞いた話から推測して、ヨスズメがアオサギビの五位に恋してるのはすぐに分かった。もっと言えば跳から聞かされた五位の反応からして五位もヨスズメに恋心を抱いてるのは分かっている。

 盲目的で一方的な愛は許容しないが、両方想いあってるのなら話は別だ。

 これでも自慢ではないが、前世で恋愛相談で何人ものカップルを成立させゴールインさせたこともある。そんなこともあってか一時期は恋愛コンサルタントの会社を運営していた友人の手伝いをしていたこともある。

 

「ふふ、私は貴女の恋を応援してるよ♩」

 

【あ、ありがとうございます】

 

「はあーーー」

 

 そんな話を聞き、他人の恋ごとには敏感なくせに自身のことは鈍感だと将来の義姉予定の人に聞かされていた赤は幽冥のその姿を見てため息を吐き、自身のこの気持ちに気付いてほしいなと犬猿の仲な最初の従者と同じことを思っていた。

 

 ヨスズメの恋の応援の後に再びネコショウとの話に戻った幽冥はある事をネコショウとヨスズメに聞いた。

 

「あ、そうだ。ネコショウとそのヨスズメに聞きたいんだけど」

 

【何だニャ?】

 

「私の家族のならない?」

 

【にゃああ?】

 

【え?】

 

 幽冥の言葉でフリーズしたパソコン画面のように固まるネコショウとヨスズメ。

 

「どうしたの?」

 

【…………にゃ、ニャンたちを家族にしてくれるのかニャ!?】

 

「うん。えっと、なにか問題あった?」

 

【全然だニャ! むしろニャンたちは嬉しいニャ!】

 

 ネコショウの言葉を肯定するようにヨスズメも首を縦に振る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、とんとん拍子に話は進み。

 

【ニャンたち、『鳥獣蟲同盟』は9代目魔化魍の王の矛として盾として、そして家族になることを宣言します】

 

 ネコショウの宣言に私の家族も『鳥獣蟲同盟』の魔化魍も関係なく歓喜の雄叫びをあげる。

 

【オラたちも王の家族だか。嬉しいなあヒダルガミ】

 

アア。本当に喜ばしいことだな………………人間でも、魔化魍でもない私も家族ですか。アレ(・・)に遭ってから数十年。

 もう出来ないと思っていた家族を作れるとは夢にも思いませんでしたよ」

 

 タンコロリンは噂の魔化魍の王の家族になったことの嬉しさを隣にいたヒダルガミの姿から戻った曙美に言い、曙美も過去のあることが理由でもう作れないと思っていたものが作れて巻かれた包帯で隠れた顔で少し分かりずらいがその顔は優しく微笑んでいた。

 

【そうだなぁ。…………だけんど、アイツらも一緒が良かったなあ】

 

「…………」

 

 だが、タンコロリンは素直に喜ぶことは出来なかった。中部の鬼との戦いで死んだ仲間たちがいないことを残念に思う。

 

 誰よりも他人を気遣うお人好しのジョロウグモも。

 

 周りを盛り上げたお調子ムードメーカーのオンボノヤスも。

 

 部下と自称した負けず嫌いのバケガニも。

 

 仲間思いのド変態のオクリイヌも。

 

 ちょっと天然お馬鹿のバケネコももう居ない。

 この喜びをもう2度と共有することが出来ないことに寂しい気持ちを口にし、それに曙美は答えられず、壁画に描かれた仲間たちの絵を見るのだった。

 悲しい雰囲気に包まれるタンコロリンたちと違って一方、コチラでは–––

 

五位

【またよろしくなヨスズメ】

 

【はい!! せ、拙も嬉しいです/////】

 

 翼を大きく広げながら喜ぶ五位と離れてからかなり時が経ったのを感じさせないナチュラルな五位に頬を赤らめながらも答えるヨスズメ。

 

【これで兄貴とまた一緒だな!】

 

単凍

【ああ、弟よ。また昔のように武器を打とうではないか!!】

 

【ああ!!】

 

不動

【良かったな】

 

 2人の兄弟は肩を組みながら、昔のように武器を造る喜びの声を上げ、その姿に少し嬉し涙を流しながら眺める不動。

 

【めでたいなぁ。お、そうだシュチュウ。

 アレ(・・)出したらどうだ?】

 

【アレ? あーーアレですね。

 そうですね。丁度新しく作った物が頃合いですので、それを出しましょう】

 

【ああ、楽しみだな】

 

 チントウとシュチュウは何かコソコソと話しているが何を話しているのかは分からない。

 

 ネコショウの言葉で喜ぶ家族や『鳥獣蟲同盟』の姿を見た幽冥はネコショウの隣に立ち、目の前の家族に向けて声を掛ける。

 

「これでネコショウたちは私たちの家族となりました。これにより私たちはネコショウたちを守るために、そして今も命を落とすこの地の魔化魍のためにこの地の猛士に鉄槌を下さねばならない!!」

 

 幽冥の言葉で先ほどの喜びを心に仕舞い、幽冥の言葉に耳を傾ける家族。その姿に幽冥は宣言をする。

 

「さあ!! この地の、中部地方の猛士に、鬼どもに我らの力を見せつけよう!! 魔化魍の王の家族の力を!!」

 

 幽冥の言葉に先ほどとは比べ物にもないない雄叫びが廃墟の洋館中に響き渡る。

 ここに9代目魔化魍の王 安倍 幽冥と『鳥獣蟲同盟』ネコショウとの同盟は締結され、ネコショウたちは家族となった、そしてその同盟もとい新たな家族となったネコショウたちに王の家族の力を中部地方の鬼たちに見せるために幽冥とネコショウはふたつの支部の襲撃を決定する。

 ひとつは中部地方の『8人の鬼』狼鬼の弟子であり、支部長でもある浜 なたねの居る長野支部。

 もうひとつの場所は–––

 

「今日も癒してくれてありがとね」

 

「ありがとう、ありがとう」

 

 猛士の動きを探るために猛士の鬼のペットとして行動するフラリビとその飼い主である魔化魍穏健派閥、共存派の鬼である診鬼が潜入先としている猛士中部地方静岡支部だ。




如何でしたでしょうか?
幽冥とネコショウは同盟を結び、そのまま家族に、そして家族としての最初の攻撃先は長野支部と診鬼とフラリビのいる静岡支部になります。さあて、次回は『鳥獣蟲同盟』の残りのメンバーも出てきてからの戦闘回。
長野と静岡、どっちが先になるかはまだ未定ですが前後編っぽくなります。
では次回もお楽しみに!!

ーおまけー
迷家
【で、どんな魔化魍(ひと(?))なの?】

サーティセブン
【ふむ。では紹介させてもらいましょう?
 ドクター! 出番ですよ】


【ん? もう出番ですか?
 もう少し遅いと思っていたのですが】


【………珍しいお方が来やしたね】


【おや? 私を知ってるですか?】

常闇
【ある意味、大物がきたな】

迷家
【えっと、ふたりは理解してるというか知ってそうなんだけど、どちら様?】


【そうでやしたね。迷家が知らないのは仕方ないでやすね。
 そこのお方は魔化魍きっての名医と謳われるお医者さんでやす】

常闇
【あらゆる医学に精通していて、魔化魍だけでなく人もなんなら鬼ですらも対価次第では治療してくれる変わり者だがな】


【これは手厳しいですね。
 しかし、医療は常に苦しむものを救う技術です。たとえ殺されるようなことがあったとしても私はこの意思を変えるつもりは御座いません】

迷家
【うんと、名医っていうのは分かったけど、なんて呼べばいいの?】


【ドクターで構いません。親しい者からもそう呼ばれてますから】

迷家
【分かった。
 それでドクターは変な人にどんな解説を頼まれたの?】

ドクター
【私の担当は魔化魍の亜種や異常種、派生特種の進化の条件または進化過程の解説ですね】

迷家
【えっと、どういうこと?】

ドクター
【まあ、メタいことを言うのなら◯ケモンの特殊進化やリージョンフォームですね】

迷家
【それなら分かる!!】


【いや確かにメタいでやすね。というかなんで迷家は◯ケモン(ソレ)を知ってるんでやす!?】

迷家
【前にねぇ、雛に教えてもらった。因みに好きなのは水色の竜の落とし子。
 なんか親近感湧くんだよね♩】


【そ、そうでやすか】

ドクター
【まあ、そんな訳でお世話になります。
 折角ですので、次回のおまけは私が担当で宜しいでしょうか?】

迷家
【うん。いいよ!!
 僕もどんなのか聞きたいから出るけど良いよね?】

常闇
【ああ】


【是非ともお願いでやす】

迷家
【じゃ、今日はここまで、次回はドクターのコーナーだからよろしくね♫
 じゃあーーーね♩】


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記録百玖

こんばんは。
今回の話は残った『鳥獣蟲同盟』の登場とふたつの襲撃される支部の長野支部での戦闘回(前半)です。
そして、幽冥のちょっとした話も出ます。


「ただいま戻った!!」

 

 そんな声とともに扉が勢いよく開き、中に入ってくる複数の人影。

 だが、扉を潜るとその姿を本来の魔化魍の姿へと変える。

 

 最初に姿を現したのは、触肢先が魚の鰭の形をした鎌で鮫の顔と背鰭を持った暗緑色の蠍の魔化魍だ。

 

【お帰りワイラ。幼体の子供たちは無事に逃がせたかニャ?】

 

【ああ、追手の鬼はそこまでいなかったからな。

 軽く蹴散らして、逃げ切れたよ】

 

 次に出てきたのは、稲妻の形をした特徴的な嘴に電気を纏った大きな翼を持つ鷲の魔化魍がその翼を羽ばたかせながらネコショウの元に飛んでいく。

 

【ネコショウ〜僕も無銘だけど鬼をかなり倒したよ】

 

【そうかニャ。ライチョウ、良くやったニャ】

 

 頬を撫でられて褒められたライチョウは、ネコショウから離れて後ろから歩いてきた人影の方へと飛び、その肩に止まる。

 山吹色の三つ編みの上にキャップを被り、首には銀のホイッスルをぶら下げ、傷んだような印象をもたせるダメージシャツの上に、無理矢理引きちぎったような片方の袖がない長袖の上ジャージを着て、上と同じ印象のあるダメージジーンズのような下ジャージを履き、赤のラインが入ったスポーツシューズを履いた女性。

 

「ネコショウ。今帰ったよ」

 

【お帰りだニャ】

 

 まあ、魔化魍の餌とかではなくライチョウの育ての親であるライチョウの妖姫だろう。今まで見てきた妖姫の中で最もアウトドアタイプというイメージだ。因みに黒は2番目くらいかな。

 

【ただいま〜………………え〜私には挨拶なし。差別だね、うん。クダン委員会に言いつけるよ〜】

 

 そんな妖姫の腕に抱えられて喋るのは某低予算勇者ドラマに出てきそうな顔をした仔牛の魔化魍。

 

【なに、そのクダン委員会って? 勝手に変な言葉作るな!!】

 

【あ、返事きた。私嬉しい。無視されなかったからクダン委員会へ言いつけるのは止めるよ〜】

 

【はいはい。はあ〜、面倒臭い】

 

 シュチュウは心底面倒臭いと言わんばかりのため息を吐く。

 

【王にも紹介出来てなかった仲間を紹介するニャ。

 右からワイラ、ライチョウ、ライチョウの姫、クダンだニャ】

 

 ネコショウの紹介が終わると仔牛の魔化魍の目線が私と合う。

 

【お? おお〜貴女が王ですね!!

 私はクダン。うん。宜しく】

 

 妖姫の腕から飛び出して私の側まで来ると自己紹介をする。

 

【初めましてワイラです。噂の王に会えて嬉しいです】

 

【僕はライチョウ。こんにちは王様】

 

「私はライチョウの妖姫です」

 

 クダンの挨拶を皮切りに残りの魔化魍と妖姫も自己紹介する。

 

 

 

 

 

 

 自己紹介も終わり『鳥獣蟲同盟』の魔化魍が揃ったことで改めて今回襲撃を掛ける猛士の支部への編成を私は考えるのだった。

 しかし、幽冥は悩んでいた。

 

 自分の家族の力は良く知っているし、『鳥獣蟲同盟』の魔化魍たちからもどのようなことが出来るのかも聞いている。だからこそ悩んでいる。

 

 幽冥が編成で悩むのは珍しいことだ。普段は謎の直感が働き、それで決めている。この世界に転生してからこの直感には何度も助けられている。

 

 狗威 朧ことヤドウカイと出会った時も。

 

 この世界の両親から逃げて今の家族に会う時も。

 

 この世界では姉へと変わった前世の兄の時も。

 

 猛士九州地方支部襲撃の編成を決めた時も。

 

 全てこの謎の直感に従って行動した結果で幽冥にとって良いことが起きている。

 しかし、その直感は何故かここ最近働かないのだ。何が原因なのかと考えても仕方ない。だからこそ今までの戦いの経験から編成を考えていた。

 

【悩んでる、悩んでますね王よ。戦いの編成をそこで、如何でしょう。

 私がその編成の『お告げ』をしちゃいましょうか?】

 

 いつから居たのか目の前にいたクダンがそう言うと、その言葉を聞いた『鳥獣蟲同盟』からは何かどんよりとした暗い空気が流れてくる。

 

【えっと、王。クダンの『お告げ』はやめた方がいいですよ】

 

 そんな空気の中で忠告するかのようにワイラが口を開く。

 

「でも、その『お告げ』は興味があるし、『お告げ』お願いしようかな」

 

【はいはい。ではでは〜】

 

 私の言葉に嬉しそうな様子を見せて移動するクダンと、ますますどんよりした空気を流す『鳥獣蟲同盟』の魔化魍たち。

 クダンの『お告げ』が気になった本当のことだし、いつもの直感が働かない初めての編成の不安もある。それにクダンの言う『お告げ』は、おそらく私の世界でも件の伝承として言われる『予知』のことの筈だ。

 ここのクダンはどういう魔化魍かは知らないが、私の知る件のようにその数はかなり少ないのだろう。緑や古樹は会ったことがあるらしいが、このクダンとは別のクダンだったらしい。

 

【うーーーーーん】

 

 クダンは丸く座り込んで、唸り始める。

 

【始まったよ〜】

 

 その様子を見たライチョウがウンザリと言いそうな声であげるが聞こえていないのかクダンは口を開き、『お告げ』を告げる。

 

【え〜〜。編成はね。うん。うん。

 武器を使える者を長野へ、特殊な力を使える者を静岡へ連れて行った方がいいよ。うん。

 長野ではね人魚は嫌な再会をするかもね〜。

 あ、でもね。でもねえ〜王はね静岡に行くべき、うん。クダン的に言うとね、そこでね出会いがあるからね。あ! でも男女の出会いじゃないからね。

 この先のあることでの出会い、行くなら断然静岡。

 それと猫はお留守番。実力は今見せちゃダメだね〜。支部で見せると、展開的に危ないね。爆発3秒前って感じ、だから猫は留守番。そうだね角馬と蠍2匹、傘、若い樹木、古い樹木、布の龍、蟷螂、電気鳥と捕虜と留守番すればヨシ!!

 うん………ええっとこんな感じ】

 

「………あ、ありがとうねクダン」

 

 クダンのありがたい『お告げ』(?)も聞き幽冥は感謝の言葉をクダンに告げて、『お告げ』の内容を加味して襲撃メンバーの編成をするのだった。

 

SIDE長野支部

 猛士中部地方長野支部。

 中部地方支部の中でも狼鬼のいる岐阜支部に次ぐ魔化魍討伐率が高い支部だ。

 過激派の2大看板ともいえる狼鬼の弟子の1人が支部長を務めている。

 

「平和ですね〜」

 

 そんな支部の中でのんびりとお茶を飲むこの女性こそ狼鬼の弟子でありこの長野支部の支部長である浜 なたね。腕には変身鬼弦が巻かれており、そのことから鬼でもあることが分かる。

 そんな彼女は久々のお茶に心を安らげていた。一定の魔化魍を討伐した際に自分のご褒美として飲むもので、師である狼鬼から贈られた静岡産の最高級茶葉から淹れたお茶。日頃の鬼として、支部長としてのストレスから解放される彼女の唯一の楽しみと言っても過言ではない。

 だが、そんなのんびりとしたお茶の時間も–––

 

「…………」

 

 たったひとつの轟音と衝撃によって終わるのだった。

 落としてしまった愛用の茶器は机の上で砕け、中身は彼女の顔に掛かり、ポタポタと垂れていく。

 

「支部長!! 魔化魍の襲撃で、し、支部長大丈夫ですか!?」

 

 慌てて入ってきた長野支部の角である蒸鬼は支部長の状況に心配そうな声を出すが、部下の声を無視して浜は側に置いてある手拭いで自分の顔にぶち撒けられたお茶を拭き、拭いた手拭いを無造作に机の上に放り投げる。

 

「……ぐ………あ……」

 

「え? ひぃ」

 

 浜の声が聞こえなかった蒸鬼はなにを言ったのか聞こうとしたが、それを止める。

 

「ビチグソどもがぁああ!!」

 

 それは先程まで穏やかな顔をしていた女性とは思えないほど歪んだ顔と言葉だった。

 

「蒸鬼、長野支部の総力を持ってクズ(魔化魍)の殲滅を始めなさい。

 塵ひとつ、奴らの痕跡を残さずに消し去れぇぇぇ!!」

 

「は、はい!!」

 

 唯一の楽しみを邪魔された浜は日頃のストレスと今の状況によってストレスが爆発してしまった。

 支部長である浜の言葉を聞いた蒸鬼は扉から急いで出て行き、連絡用のディスクアニマルを使い長野支部にいる全ての戦力に魔化魍殲滅の指示を飛ばす。

 そんな外では–––

 

 

 

 

 

 

 長野支部の建物に続く大門。いや、今では門らしき残骸がある場所では、クダンこと予言の『お告げ』を基に幽冥が襲撃を編成した家族が大門で門番をしていた無銘の鬼と天狗と戦っていた。

 

 既に無銘の鬼は何人かは流れた血で出来た血の池に倒れていた。

 

「ぐばっ……」

 

 無銘を斬り伏せる2つの影。

 

単凍

【話にならないな】

 

焼腕

【もう少し歯応えというか斬り甲斐のある奴はいないものか】

 

 単凍と焼腕という名を王から授かったイッポンダタラの兄弟コンビだ。

 

「背後からなら」 「ああ、仲間の仇を……」

 

 そんな単凍たちを狙う無銘の鬼の2人は横からきた轟音とともにバラバラの肉塊に変わる。

 

不動

【2人の邪魔はさせん】

 

 不動の砲撃、単凍と焼腕のコンビネーションによって、ものの数分で大門周辺の敵勢力を排除され、単凍たちは次の行動に移る。

 『お告げ』を聞いた幽冥が考えた3班に分かれて長野支部に向かうのだった。

 

 正面から敵に向かう班の単凍、不動、焼腕、黄。

 

 対奇襲撃退班の常闇、劔、緑。

 

 長野支部への侵入班の美岬、荒夜、狂姫。

 

 『お告げ』と今までの経験で決めた班に分かれた3つの班は行動を始める。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE単凍

 長野支部へ続く一本道。

 そこを堂々と歩く4つの影があった。

 

単凍

【気付いてるか?】

 

不動

【ああ】

 

「ええ。相当な人数が居ますね」

 

焼腕

【油断もせずに容赦なくいこうか!!】

 

 単凍たちの視線の先には多くの鬼と天狗、天狗の操る戦輪獣。

 そして、その中央で仁王立ちする者がいた。

 

「待っていたよ魔化魍!!」

 

 その者こそこの長野支部の支部長こと浜 なたね。

 

「貴様らがどんな目的でのこの長野支部に来たのか理由は興味ない。

 魔化魍はただ殲滅するのみ。貴様らクズども一片の欠けらも残さずに滅ぼしてくれる」

 

 浜はそう言うと、手に巻く変身鬼弦 植時を掻き鳴らす。

 

「植鬼!!」

 

 その音ともに浜の身体を地面から伸びた蔓が覆い隠し、蔓から飛び出たひとつの腕が蔓を薙ぎ払う。

 

 そこから出たのは浜 なたねの鬼としての姿。

 蔓が巻かれた特徴的な鬼面、新緑色に縁取りされた頭部、鬼面のように蔓が巻かれた一本角が額から伸び、腕や脚にも蔓の巻かれた鎧を持った鬼 植鬼へと姿を変える。

 姿を変えた植鬼の背後に控えていた鬼が植鬼の音撃武器を手渡し、戦闘準備完了とばかりにその手の音撃武器の刃先を単凍たちに向ける。

 

単凍

【これだけの人数が居るのなら試し(・・)に丁度いいな】

 

焼腕

【黄、以前渡したヤツのテストは?】

 

「まだだね。性能テストにはピッタリだね」

 

不動

【では、邪魔な天狗と戦輪獣はワタシが相手しよう】

 

 それを見た単凍たちは各々の武器を目の前の植鬼率いる鬼&天狗軍団に向ける。

 

単凍、焼腕

【【さあ、掛かってこい!!】】

 

 その言葉とともに戦いが始まった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE劔

 俺が王の家族となってから初めての大規模な戦いだ。

 荒夜との戦いで負けたあの日から俺は自らを鍛え続けた。

 

 本気の姿になって荒夜に負けたのは、己の弱さもあるだろう。だが、あの時の敗因の何よりの理由は慢心だ。

 心のどこかで俺は慢心していた。

 

 この日本に来る前は、刺馬と共に故郷のイギリスで己と同じ強さの魔化魍とも何度も戦ってきた。

 その経験が自信が俺の慢心へと変わった。

 

 そんな慢心を捨てるために俺は自らの武器を封じて、様々な鍛錬を知る常闇に師事して貰い、己にあらゆる修行を課した。

 

 そんな中での今回の事件で、常闇は『己の力量を見る良い機会だ』と言い、『本来の姿は禁止』と言い渡され、更には今回の鬼との戦いにおいては手を出さないと言った。

 さて、そんな俺たちの目的は正面から堂々と敵陣に向かう単凍たちを不意打ちしようとする輩の妨害または排除だ。

 

 普段だったら俺は騎士道に反すると言うだろうが、『戦争に綺麗も汚いもなかろう』と常闇の一言が刺さった。

 

 そうだ。己の生存の懸かった戦いに卑怯もない。

 此処で死ねば誰があの子(刺馬)を守るのだ。

 

 そして、劔は背中の翼を広げて己の眼に映る単凍たちに不意打ちを掛けようとする鬼たちに攻撃を仕掛ける。

 

「うぐっ」 「ぎえぴっ」

 

 上空からの劔の攻撃に対応できず無銘の鬼の首が宙に舞う。

 

【不意打ちを掛けるということは、逆に自分たちが不意打ちされる事も理解しているよな】

 

 翼を羽ばたかせながら上から残った鬼たちに言葉を掛ける。

 

「魔化魍如きに不意打ちで殺されるのはそいつらが未熟だからだ」

 

 だが、鬼は劔の言葉に対し、死んだのは死んだ鬼の未熟と答える。その鬼の答えに他の鬼たちも嘲笑で答える。

 これには劔も驚く。人間は他者を思いやる心を持つと昔、ある魔化魍から教えられた。だが、鬼たちはそんなことをせず死者を嘲笑う。

 しかし、劔はその解答でやはり心の何処かに僅かに残っていた自身の騎士道に反する考えを振り払った。

 

【良かったよ】

 

「ああ?」

 

【貴様らのような外道に俺の騎士道は必要ないな。外道はその身に相応しい地獄に送ってやるよ】

 

 愛剣を構えた劔は外道()の首を斬るために天を駆けた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 単凍の班と劔の班が交戦した同時刻。

 美岬たちは狂姫の術を利用して長野支部のある建物の裏口側に到着する。

 

狂姫

【美岬様着きました】

 

美岬

【ありがとう狂姫】

 

荒夜

【やけに静かですね】

 

美岬

【それはつまり、単凍たちが上手く敵を引き寄せたんでしょうね】

 

 美岬の言う通り、今この長野支部の鬼や天狗などのほとんどの戦力が単凍や劔のいる場所に向かったので、支部内には戦力はないと言ってもいいだろう。美岬は裏口の扉に手を掛けるが–––

 

美岬

【流石に鍵は掛かってるよね】

 

荒夜

【美岬様、離れてください】

 

 荒夜がそう言うと刀を抜き、扉鍵部分の斬り落として扉を開ける。

 

美岬

【ありがとう荒夜。じゃあいくよ】

 

荒夜、狂姫

【【はい!】】

 

 美岬は荒夜と狂姫を連れて長野支部の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 誰も居ない長野支部は明かりは落とされて全体的に暗くなっている。

 そんな無人の長野支部に侵入した美岬たちは長野支部の地下へ通じる入り口を探していた。

 

 幸いにも地下の入り口自体はそんな時間を掛けることもなくすぐ見つかった。そして、そのまま美岬たちは地下へ向かう。

 

 上よりもさらに暗い階段を降りていく美岬たちは無人のはずでする必要もない警戒をしながら歩く。

 そして、階段からやがて大きな扉のある空間になり、美岬は何の迷いもなく扉を開け、中に入る。

 さて何故、美岬や荒夜、狂姫が無人と化し、戦力が居ないとされるこの侵入班にされた地下などへ向かうのか。その理由は–––

 

「おやおや、この場所に何か用かね? 魔化魍くん」

 

 入った部屋の奥にひとつの影が立っている。

 灰色の三つ揃えを着て、丸縁の眼鏡を掛けた少し膨よかな男が立っている。

 

美岬

【やはり、生きていたのか脳見 潘!!】

 

 元猛士九州地方佐賀支部支部長 脳見 潘。

 かつてコソデノテの孫である雛の誘拐を目論み、世送が佐賀支部襲撃の際に死んだとされる男が美岬たちの前に立っていた。そして、クダンこと予言の『お告げ』が嫌な方向で的中したことに美岬は苦虫を噛み潰したよう顔をした。

 

「おお、その声はヤオビクニくんではないか。元気にしていたか?」

 

美岬

【乱風が死んだと言っていたけど、お前がそんな簡単に死ぬ筈はないと思っていた】

 

「信用されているようで私は嬉しいよヤオビクニくん」

 

美岬

【お前に喜ばれても私は全然嬉しくないよ】

 

 潘はまるで美岬を知っているかのように話すが、勿論理由がある。

 何故なら、脳見 潘が猛士に入るキッカケになったのは他でもない美岬が関わっている。この話は語ると長くなるため2人が知り合う理由については別の機会で話すとしよう。

 

「ヤオビクニくんは王の家族となった聞いているし、なら、この支部の壊滅は間違いなさそうだな。

 此処にいて死ぬのはごめんだから、私は引き上げさせて貰うよ」

 

美岬

【私たちが逃すと思う】

 

「もちろん逃がさせて貰うよ。それに迎えも来た」

 

狂姫

【迎え?】

 

荒夜

【!? 姫!!】

 

 荒夜は声を荒げて、狂姫の側に寄ると空を刀で斬り裂く。何もないはずの宙からツーと血が流れてくる。そこから姿を現すのは、黒いローブで姿を隠した何か。

 

【俺に気付くとは、中々やるな】

 

 だが、人間でないのは明白だ。その斬られたローブの中から見えるのは銀に近い白い毛に覆われた腕だったからだ。つまり現れたのは魔化魍だ。

 

「おお、来たか同志よ」

 

美岬

【同志!!】

 

 この男の言った言葉に美岬は驚く。なんとこの男は敵である筈の魔化魍に対して同志と言ったのだ。

 魔化魍を敵対視する筈の猛士では考えられないセリフだ。だが、潘のことを多少なりとも知っていた美岬は気付いた。この男は猛士としての魔化魍からの脅威から人々を守る気などハナから無いのだ。

 自分の好奇心の為に動く、人道を外れたバケモノ。それが脳見 潘なのだ。

 

「では私は行くよ。おっと、君たちの相手はコイツらに頼むとしよう」

 

 潘が指をパチンとすると潘の背後から3つの異形が飛び出す。

 

「エリュトロンD、メランC、Sカトプトロン、そいつらと遊んでいたまえ」

 

【さっさと、行くぞ】

 

「おお、そうだな………ではまた会うのを楽しみにしているよ」

 

 そう言うと潘は現れた魔化魍に捕まり、その場から消える。

 

美岬

【待て!! クソ!!】

 

荒夜

【美岬様、今はヤツらを】

 

 美岬は藩を逃したことで顔を歪めるが、荒夜の言葉で意識を藩の残した実験体に向ける。

 此処で長野支部内で潘の残した3体の実験体と美岬たちの戦いが始まった。




如何でしたでしょうか?
さらにキャラの濃いメンバーの登場、そしてこれで長野支部の戦いが始まり、脳見 潘は生きていたと言う話でした。実は脳見 潘が生きているという話は前々から考えていてどこで出そうかな考えてたら、此処で出すことにしました。
次回の話で長野支部壊滅と静岡支部(前編)をやろうと思います。

ーおまけー
迷家
【えーーー。皆さんおまけコーナーの時間ですー♫】

ドクター
【では、早速解説といきたいとこですが………】


【どうしたんでやすか?】

ドクター
【どの個体の解説をするべきかと悩んでおりまして】

常闇
【確かにな】

サーティセブン
【でしたら、解説のお題を皆様に聞いてみては如何でしょう?】

ドクター
【そうですね。では、御三方。
 どのような魔化魍の過程を聞きたいですか?】

迷家
【僕はね〜ツクモガミ種以外なら何でも良いよ】

常闇
【ふむ、ならば私とは違う人型の魔化魍を聞きたい】


【そうでやすね。あっしと似た術を得意とする魔化魍を聞きたいでやす】

ドクター
【なるほど、ツクモガミ種以外の術を得意とする人型魔化魍ですか】

迷家
【えっと、難しかった?】

ドクター
【いいえ、何を解説するか決まりました】

常闇
【で、何を紹介するんだ?】

ドクター
【今回のお題で紹介するのは………
 ヤマビコ派生特種 サルユメです】

迷家
【サルユメ? 跳知ってる?】


【いや、あっしも知らないでやすね】

常闇
【私も知らん】

ドクター
【そうですよね。それがサルユメの特徴ともいうべきところでしょうか】

迷家
【どうゆうこと?】

ドクター
【そうですね。では皆さんは夢を見ますか?】

迷家
【僕はね、寝てると時々見るかな】

常闇
【あまり見たくないな。昔を思い出すからな】


【あっしもたまに見る程度でやすが、それがどうしたんでやすか?】

ドクター
【サルユメは夢の中でしか活動できない魔化魍なのです】

迷家
【え!! 夢の中だけ!!】


【何故、夢の中だけなんでやすか?】

ドクター
【まあ、夢の中だけと言いましたが正確に言うのなら9割は人の夢で1割は現実で過ごす魔化魍です】

迷家
【完全な夢の中というわけじゃないんだね】

ドクター
【そうです。と言ってもサルユメが現実で過ごすのは3ヶ月に1度だけで、時間も1時間だけです。因みにサルユメの姿は黒い霧に覆われて手に何かしらの拷問道具を持ち、梟の眼と翼を生やし、車掌帽を被って車掌服を着ているオラウータンの姿をした等身大魔化魍です。
 そもそもサルユメは黒の属性のヤマビコ亜種 ヤンボシという魔化魍の派生特種です】


【ヤンボシでやすか! それはまた珍しい名がでやしたね】

常闇
【ヤンボシ?】

ドクター
【ヤンボシは全身が黒い毛に覆われ口元に嘴を生やしたチンパンジーの魔化魍です。
 ヤンボシの条件はたしかは丑三つ時に山を出歩く妊婦を数名喰らった子を宿したヤマビコが富士の樹海の奥地にあるとされる廃村に赴き、そこで産まれる魔化魍です】

常闇
【何なのだその条件は?】

ドクター
【さあ、私も偶々ヤンボシが産まれる瞬間に立ち会った際に、そのヤンボシを産んだヤマビコから聞いた話を言っていますので、そのヤマビコ曰く、『子の安全を願って』とおっしゃっていました】


【子の安全でやすか】

ドクター
【では、話はサルユメに戻しましょう。
 亜種の魔化魍は条件を満たすか、偶然条件を満たすか、はたまたは突然変異かで産まれます。
 多くの亜種は突然変異で産まれるために、『属性違い』による育児放棄(ネグレクト)が有りますが、中には意図的に亜種として産む魔化魍もいます。そういう魔化魍は基本的に『子を想って』産むそうです。
 産まれた亜種も派生特種へと進化するのにも同じように条件を満たすか突然変異しなければなりません。サルユメはヤマビコの派生特種の中でも最も条件が厳しいでしょう】

迷家
【それでその条件って?】

ドクター                      迷家
【以前、私の治療所に来たサルユメから聞いた話によりm【ちょっと待って!!】、どうしました?】

迷家
【会ったことあるのサルユメに】

ドクター
【ええ。数年くらい前になりますか。ある病に罹ってしまい。その治療のために】


【ある病とは?】

ドクター
【そこは患者の個人情報になりますので話すことはできません。
 では、話を戻して条件の話に戻りましょう】

ドクター
【そういえばヤマビコたちはサルユメに至る方法を『夢入りの儀』というそうです。
 まずヤンボシひとりで黒の属性にあたる魔化魍5体、5つの決まった方法で殺します。どの黒の魔化魍でも良いらしいですが種が被るのは駄目で必ず異なる5種になります】


【いきなり物騒な条件でやすね】

常闇
【その5つの方法とは?】

ドクター
【『活け造り』、『抉り出し』、『吊し上げ』、『串刺し』、『挽肉』。これらの順番で魔化魍を殺し、その肉を全て喰らいます】

ドクター
【それぞれを説明しますと『活け造り』は魔化魍を死なないように解体して、足から上に向かって身体を喰べます。この際に心臓にたどり着くまでその魔化魍を死なせてはならない条件がつきます。
 『抉り出し』は生きてる魔化魍の臓器を抜き出して臓器を全て喰べ、臓器を喰べた後に残った身体を喰べます。
 『吊し上げ』は人工物を用いず、自然のものあるいは術で生み出した縄で魔化魍を吊るして首元を切り裂き、出てきた血を全て呑んでから身体を喰べます。
 『串刺し』はこれは生きていても死体でもどちらでも良いらしく、術で生み出した棘に魔化魍を突き刺し三日三晩掛けてその身体を喰べます。
 最後の『挽肉』は名の通りに魔化魍の身体を原型を残さないほどに粉々の挽肉(ミンチ)に変えて、その肉を用いた料理を喰べます。
 これが『夢入りの儀』の第一段階】

迷家
【『活け造り』って、最初だけ難しくない】

ドクター
【私にそう言われましても、おほん。
 で、次に人に化けたヤンボシは電車に乗ります】

迷家
【電車に乗るだけ?】

ドクター
【ええ乗ります。正確には電車に乗るのは儀の一部です。
 電車に乗ったヤンボシはどす黒く汚れた心を持った人間を男女比1:1で82名集めます】


【随分な数でやすね。それ程の人数ならば鬼に気づかれそうでやすが】

ドクター
【ヤンボシは認識阻害の能力を持っています。
 相当なヘマをしない限りは気付かれないでしょう。集めた人間の脳と心臓、生殖器を抜き取り、それらをひとつに纏めて作った肉団子を持ち、ヤンボシが産まれる富士の樹海奥地の廃村に向かいます。
 これが第二段階】


【抜き取られた人間の死体はどうなるんでやすか?】

ドクター
【死体は細かくバラした後に富士の樹海周辺に住まう魔化魍へと配られるそうです】

常闇
【何故死体を配る?】

ドクター
【富士の樹海周辺の魔化魍は遥か昔から生きた魔化魍が割と多くて、争いを避けるために人間の肉を配るんです。
 私もあそこに行く際には人間を幾つか用意しないと入れないんですよ】

常闇
【ほほう】

ドクター
【そして、最終段階。
 作った肉団子を廃村の奥にあるとされる奇妙な祭壇に置き、その祭壇の前でヤンボシはサルユメに至る為の(まじな)いを唱える。
 この(まじな)いを唱えてる最中に何が起きても絶対に祭壇から眼を逸らしてはならない】

迷家
【えっと、何で?】

ドクター
【祭壇は遥か昔にその廃村で崇められていたとされる魔化魍の作った祭壇で、村が廃れた後も祭壇はその場に残り、その魔化魍の帰りを待っているとされているのだが、もしも、この祭壇を用いた儀式の途中に祭壇から眼を離せば、祭壇に宿る『ナニカ』によって、儀式を行う者を殺すそうだ】

迷家
【え!! 眼を逸らしただけで!!】

ドクター
【眼を逸らす、つまり意識を別のことに向ける。
 それは祭壇で崇められたとされる魔化魍を否定すると、祭壇に宿る『ナニカ』は判断して不届き者を処断するのでしょう。
 オマケに祭壇はその間に儀式を行う者の覚悟を見るためにあらゆる方法で眼を逸らさせようとするそうです】


【その(まじな)いはどれくらい掛かるのでやすか?】

ドクター
【半日ほど】


【半日も祭壇を見続けながらの(まじな)い。あっしは到底出来そうにないでやす】

ドクター
【そして、半日(まじな)いを唱えた後に祭壇に捧げた肉団子を喰べて、その身をサルユメへと変化します。
 これがヤンボシがサルユメへと進化するための儀式『夢入りの儀』になります】

ドクター
【どうでしたか?】

迷家
【うんと? 難しいのはあんまり分からないけどスゴイということは分かった】


【あっしもまだまだ知らない魔化魍がいるということがよく分かったでやす。
 これからも色々な魔化魍の紹介をよろしく頼みやす】

常闇
【私もだいぶ興味深い話が聞けた。次も楽しみにしている】

サーティセブン
【ではドクターの解説は今日はここまでになります。
 彼女も不定期で来るそうですので次はいつかは分かりませんが楽しみにしていてください】

迷家
【じゃ、まったねーー】


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記録百拾

こんばんは。
実は最近、父方の祖母が亡くなり、その葬儀で忙しく更新が遅れたことをお詫びします。
さて、長野支部との戦い(後編)の予定でしたが、長くなりそうなので、3班のうち劔と美岬の2班の話、つまり長野支部戦中編です。


SIDE劔

 鬼との戦いを始めた俺だが–––

 

「てめえ、俺の邪魔をするな」 「邪魔はテメエだ!!」 「俺の前からどけ!!」

 

「お前こそどけ!!」 「俺の指示通りに動け!」 「誰がてめえの命令を聞くか!」

 

 戦闘開始から僅か数十分でコレ(・・)だ。

 1人の鬼の撃った音撃管の空気弾が味方に当たりそうになったり、振るった音撃弦が何もない空を薙いだり、互いに足を引っ張り合い、敵を前にして仲間との聞くに堪えない罵倒の掛け合い。

 正直言うと、この程度の鬼たちに魔化魍がやられたのは信じられない。

 

 俺はそんな光景を無視して、鬼の数と手元を確認する。音撃棒1、音撃管8、音撃弦1の計10名。

 確認が終わると同時に手に持つ槍を音撃管を持つ2人の鬼に目掛けて投擲する。

 

「なんだ? ぐばぁ…」 「なっ! がふっ!」

 

 口論に夢中だった2人の鬼の身体に槍は真っ直ぐと突き刺さり、その勢いのまま樹に磔になる。残り8。

 

「てめえ卑怯だぞ!!」

 

【敵を前にして何が卑怯だ。ただの注意力散漫だろう】

 

 劔の言葉に罵詈雑言を浴びせ合っていた音撃管を持った鬼たちは一糸乱れずに劔に向けて照準を合わせ一斉に鬼石の弾丸を撃ち始める。

 しかし、劔は手に持つ刀に翼を羽ばたかせた風を纏わせ、塊となった風を鬼石の弾丸に向けて振り下ろす。

 

「がは」 「ぎゃあ」 「がふっ」

 

 風の塊は迫る鬼石を吹き飛ばし、撃った鬼たちに降り注ぐ。内3名の鬼の身体に吹き飛ばされた鬼石の弾丸が急所に当たりその3名は倒れ、流れる血の上で痙攣している。残り5。

 

「テメエ!! よくもやりやがったな、コイツをくらいな!!」

 

 音撃棒を持った鬼が声を荒げながら手に持ったディスクアニマルを劔に投げる。投げられたディスクは空中で変形し、その姿を蟻のような姿へと変形させる。

 

【(牽制か? いやあれは)っ!?】

 

 投げられたディスクアニマルの正体に気付いた劔は両翼で身体を覆った瞬間、ディスクアニマルは劔の手前で爆発。

 その爆発に劔は飲み込まれる。

 

「ぎゃあははは。まんまと引っ掛かったなクソ魔化魍!! 橙蟻の爆発でお陀仏よ! ぎゃははははは」

 

 ディスクアニマル 橙蟻。

 戦輪獣も含めれば数十にも及ぶディスクアニマルの中で唯一の『自爆』という機能を持った特攻武器で、東南アジアに生息する自爆する蟻をモデルに作られたディスクアニマルだ。

 戦輪獣が開発される前に生み出されたこのディスクアニマルは、最低限の変形と数十秒という極端に短すぎる稼働時間、相手に組み付いて爆発という単純な機能故に他のディスクアニマルに比べて僅かな費用で量産出来る革命的なディスクアニマルだった。

 当時は鬼の弟子の護身具とされていたものだが、今ではその量産のしやすさで弟子のみならず猛士に所属する者は数枚持ち歩く者もいる。

 

 そんな橙蟻の爆発に巻き込まれた劔を見た鬼は笑いながら宙にいる常闇と緑の方に向く。

 

「次はテメエらだ。女っぽい身体なんだ手足を落としてゆっくり楽しまさせてもらうぜ!!」

 

「待ってたぜ!! 俺の下がさっきからビンビンなんだよ!!」

 

「俺は右の女にヌいて貰いてえなあ!!」 「俺は左だ。さぞ揉み心地が良いだろうな!!」

 

「充分楽しませてくれたら殺す!!」 

 

 普通の人間の女性よりも魅力的な姿の常闇と緑を見た鬼たちは卑猥な願望を口から垂れ流す。しかし–––

 

常闇

【呆れたものだ。まだ終わってないというのに】

 

「なんだと!!」

 

 常闇の言葉に鬼が反応した瞬間–––

 

「ぐっ」 「ぎゃふ」 「ざぶっ」 「どふ」

 

 4人の鬼の首が宙を舞い、頭を失くした身体が一斉に倒れる。

 

「なっ!!」

 

 転がる首を見た鬼は後ろを振り向くと、刀を振り上げる劔の姿があった。

 何故、橙蟻の爆発を受けた劔が無事なのか。それは、知識があったからだ。

 

 猛士九州地方宮崎支部を襲撃した際に迷家が支部内の全てのディスクアニマルと戦輪獣を奪ったのを覚えているだろうか。

 迷家は戦利品という意味で奪ったつもりだが、身内が鬼ということで幽冥は奪ったディスクアニマルと戦輪獣を姉である春詠に託し、全ての家族にそれらの解説を頼んだ。どのような特徴なのか、どう運用するのか、弱点は、知る限りの知識を春詠は家族全員に教えた。

 勿論、覚えの良い者や悪い者もいる訳だが、その中で劔は覚えの良い方だった。

 その結果、変形したディスクアニマルを与えられた知識から直ぐに橙蟻と判断した劔は自身の身を翼で覆うと同時に術で生み出した風を纏わせて防御に徹し、爆発と爆風から身を守ったのだ。

 

【残り1…………お前で最後だ。己の弱さを痛感しながら死ね!】

 

 劔の振り下ろした刀が鬼の身体を右袈裟に斬り裂き、その身から血と臓物を垂れ流しながら死んだ。

 翼から羽を1本抜き取り刀にべっとりと付いた血を拭い、鬼を磔状態にする槍を回収する。

 戦いが終わって常闇と緑が宙から降りてくる。

 

「お疲れ様です」

 

常闇

【良かったぞ劔。正直あの程度で手を貸すようなことになっていたら首を刎ねているところだったぞ】

 

 その通りだった。常闇の言いつけ故に常闇や緑の手も借りてはならなかったが、ハッキリ言ってあの程度の鬼たち相手に手を借りてたら恥だ。いや常闇の場合、恥を感じる前に首を刎ねそうだが。

 刀や槍を仕舞い込み、空を飛んでいく。背後からしか攻撃出来ない卑怯な輩の首を斬るために劔は天を駆けるのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 死んだと思われた猛士佐賀支部支部長の脳見 潘が謎の魔化魍と共に逃げる際に送り込んだ3体の怪物。

 頭から前脚近くまでの上半身が裂け、裂けた間には鋭い歯を生やした口があるエリュトロンD。

 

 背骨から直接生えたような翼、爛れた肌に黒い羽毛のようなものが混じった醜悪な身体、首には縫った跡のあるテングの頭を無理矢理付けた人型のメランC。

 

 全身がプリズムで、三角柱の形状をした特徴的な頭部と三角錐状の手足を持った人型のSカトプトロン。

 

 それら3体の中央の口の牙、羽根に覆われた拳、プリズムの三角錐の槍が一斉に狂姫に襲い掛かる。

 突然襲い掛かられた狂姫は反撃を考えずに目を閉じてしまうが、いつまでも来ない攻撃に目を開けると–––

 

狂姫

【っ! ……………美岬様! 荒夜様】

 

 愛する男(荒夜)敬愛する主人(美岬)の2人が自身の武器を交差させて3体の攻撃を防ぐ。

 

美岬

【ウチの子になに手を出してんの!!】

 

荒夜

【姫! 術を!】

 

 荒夜はメランCを刀の柄で殴り、美岬はSカトプトロンを蹴り飛ばして、残ったエリュトロンDは荒夜の言葉で術を使った狂姫の生み出した突風で遠くの壁に吹き飛ばされる。

 

美岬

【荒夜、狂姫。そこの2体の相手をお願いします。私はあの結晶人間の相手をします】

 

 そう言った美岬の前に立つSカトプトロンが腕を交差させ身体が光ると、何かが美岬に向かって飛んでくる。

 美岬は直感的に堅鯨(けいげい)を取り出し、能力を使うと、美岬の身体に当たった何かがパリンと割れて、美岬の足元に落ちていく。

 

 私は堅鯨(けいげい)を盾のように構えながら下に溜まっている何かを拾い上げる。

 拾い上げたそれは、砕けてしまっているが結晶人間の身体と同じ結晶のかけら。そしてやはり、この結晶人間の相手は私で正解だった。

 

 荒夜の刀ではあの身体に傷を付けるのは難しいだろうし、遠距離攻撃を主体とする狂姫ではこの攻撃を防ぎながらの攻撃はキツイだろう。

 そう考えた美岬は堅鯨(けいげい)を横持ちのまま結晶人間ことSカトプトロンに突撃する。一方–––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE狂姫

 風系の術を使ってエリュトロンDを壁まで吹き飛ばした狂姫。

 自身の武器である弓矢を取り出して、エリュトロンDに向けて矢を放つ。

 

ヴヴヴヴヴヴ

 

 エリュトロンDは中央の口から涎を垂らしながら砂嵐の起きたテレビ画面のような唸り声を上げながら、狂姫の矢を縦横無尽に避けては狂姫の身体に噛みつこうと飛び掛かる。

 

狂姫

【…うう、狙いが】

 

 勿論、狂姫はそれを避け、再び矢を番えては撃つが、同じようにエリュトロンDには当たらない。

 狂姫が人間だった頃、狂姫は『先弓』という異名を持った弓の名手だった。それは魔化魍となった今でも健在なのだが、相手が悪かった。

 

 狂姫と相対するこのエリュトロンD。

 それは複数の犬と無名の獣の魔化魍を合成させて誕生した脳見 潘の実験体のひとつだ。嗅覚に優れた犬と危機感知に特化した獣の魔化魍の特徴を持ったこの実験体は、狂姫の放った矢の僅かな空気の流れを体毛で感じ取り、矢を避けているのだ。

 

狂姫

【どうにかして動きを封じなければ】

 

 狂姫には嫉妬の矢という不可避の矢があるが、あれは対象が女性(・・)のみに使用できる矢で、エリュトロンDは実際は不明だが、おそらく性別はオスだろう。

 故に狂姫は嫉妬の矢とは別のなにかでエリュトロンDの自慢の回避力を削って攻撃出来るなにかが必要だった。

 

ヴヴヴヴヴヴ

 

 エリュトロンDは狂姫に考える時間は与えないと言わんばかりに、その背から大量の赤い触手を生やし狂姫を捕まえようと勢いよく伸ばす。

 それに対して狂姫は矢の1本を振って、迫る触手を矢で切り裂いていく。

 

 だがエリュトロンDは斬られた触手を再生させて更に手数を増やし、狂姫を捕まえようとする。

 狂姫は触手を斬り裂きながら思う。自分を捕まえて良いのは愛する者(荒夜)だけだ。犬畜生モドキにこの身体を触れさせない(・・・・・・)

 

 すると、狂姫の持つ矢が鈍く光り始める。

 それを見た狂姫は思い出す。自分が嫉妬の矢を手に入れた経緯を、あの時は荒夜に無理矢理迫る勘違いのメスをどうにかしようとした時、嫉妬の矢が生れた。

 

狂姫

【(これに賭ける!!)】

 

 その時のことを思い出した狂姫は手に持つ矢を弓に番え、構える。狙うはエリュトロンD………ではなく、その上空に向けて矢を放つ。

 

 天井に向けて勢いよく跳ぶ矢に目もくれずエリュトロンDは狂姫を噛みつこうと飛び掛かる。すると–––

 

ヴヴヴヴヴヴッッ

 

 飛び掛かろうとしたエリュトロンDの裂けた右の頭部に矢が刺さる。

 

ヴヴヴヴヴヴ

 

 背中の触手を使い、エリュトロンDは刺さった矢を抜こうとすると、今度は違う別の矢がエリュトロンDの後脚に刺さる。

 そして、エリュトロンDが上に目を向けると、大量の矢が自分目掛けて飛んでくる光景だった。

 

 愛する者(荒夜)以外に触れられたく無いという狂姫の拒絶の願いから生まれたこの矢。

 さしずめ、拒絶の矢は、狙って撃つ矢ではなく、上空に向けて放つ。すると矢を中心とした半径10M内で数十もの矢に分裂し、一気に敵に雨のように降り注ぐ矢。

 

 エリュトロンDはそれを見て避けようとするも、狂姫が別の矢を撃ち、エリュトロンDの回避力を潰す。

 上空から降り注ぐ矢と直線で迫る矢によって空気の流れを探知出来なくなり、次々とエリュトロンDのその身体に矢が突き刺さっていく。

 

狂姫

【勝った………!!】

 

 やがて矢の雨は止み、矢で串刺しとなり活動を停止したエリュトロンDを狂姫が見ると–––

 

狂姫

【溶けていく】

 

 エリュトロンDの矢の突き刺さった身体の至る所から白煙を上げながらその身を溶かし、その姿は影も形もなくなり、残った矢も床に刺さると塵のように消えていき、1本の矢だけが残った。

 憎い敵の生み出した化け物でも哀れに思ったのか狂姫はエリュトロンDのいた場所に手を合わせ、死んだエリュトロンDの良き来世を願った。

 狂姫がエリュトロンDに勝利した中、荒夜のところでは–––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE荒夜

 美岬と狂姫のいる地下とは違う部屋で戦う荒夜は、人にテングの首を無理矢理縫い合わせたメランCと戦っていた。

 

カカカカカー

 

荒夜

【はっ!!】

 

 荒夜の愛刀とメランCの拳がぶつかり合う。

 羽根で覆われたメランCの拳は荒夜の刀と斬り合っても斬れず、むしろ刀を折ろうと刀に連続で拳を打ち続ける。

 

荒夜

【チッ!!】

 

 刀に夢中なメランCの腹に荒夜は腰の鞘を振るう。

 

カカカカッ

 

 腹への強打にメランCは拳を引っ込ませて当てられた部分を摩るが痛みで摩るというよりまるで汚れを払うかのように摩っている。

 荒夜は何度か打ち合っている中でメランCの異常な頑丈さに目がいった。

 

 荒夜の持つ刀 心討(しんうち)は『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』の主である鬼崎 陽太郎が荒夜の折れた刀を基に生み出した刀だ。

 本来なら脳見 潘の生み出した実験体などすぐさま切り捨てることが出来るのだが–––

 

荒夜

【(あの異様なほどの硬さ……‥まさか!?)】

 

 荒夜は何かを確認するかのようにメランCに刀を振り下ろす。

 だが刀はメランCの羽根に覆われた身体に阻まれる。

 

荒夜

【はっ!!】

 

 荒夜は刀を羽根の一部を撫でるように斬り裂き、斬れた羽根を掴み、その羽根を近くで見たことにより、メランCの頑丈さの理由が分かった。

 

荒夜

【(やはりグヒンか!)】

 

 グヒン。

 狼のような体躯でありながら毛ではなく羽根を生やし、マズル部分が嘴になっている狼の魔化魍。

 ヤドウカイの空属性の亜種であるハクロウテングから進化した派生特種で、ヤドウカイ種のような素早さと空を飛ぶ飛翔能力、そして物理に対する防御能力が極めて高い魔化魍だ。

 その理由は、『風遊び』という能力が関係している。

 『風遊び』とはグヒンの固有能力である風を操る能力によって自身の羽根に風を纏わせて、纏わせた風が空気の層を形成し、物理的な攻撃をその空気の層が軽減し、たとえ空気の層が割れたとしても周りにある大量の空気を再び取り込んで空気の層を作り直す。

 それ故にグヒンは音撃弦系統の武器や貫通能力を持った魔化魍や武具でしか倒すことが出来ない強力な魔化魍だ。

 

 つまり頑丈さの理由はどうやったのか不明だが、グヒンの『風遊び』が羽根に使われており、羽根によって斬撃による傷を軽減しているという事だ。だがそれならば倒す術はある。

 

 あれを試してみるか。

 荒夜はそう考えると腰にある鞘ではなくもうひとつの小太刀を抜く。

 

 その小太刀は異世界からの来訪者である幽霊族の末裔 幽吾の仲間のかまいたちから貰った刃を単凍に頼んで加工してもらい鍛造したもの。

 本来、単凍の造る武器には魂を用いるのだが、この小太刀には魂は無い。だが、それの代わりになるものがあるお陰でこの小太刀も単凍の造り出した他の武器同様に能力を持っている。

 魚呪刀とは違う小太刀。その名も風鼬(かざいたち)刀身から風を生む能力を持つ荒夜専用の小太刀だ。

 爽やかな風を思わせる黄緑色の細直刃の風鼬(かざいたち)の刀身に風が風巻(しま)き、反対の心討(しんうち)を回転させて熱を持った心討(しんうち)を鞘に納める。

 メランCは拳を握り、勢いよく走り出して荒夜の顔にストレートを放つ。

 

荒夜

煉獄旋閃(れんごくせんせん)

 

 熱を帯びた心討(しんうち)から繰り出される煉獄一閃(れんごくいっせん)と共に刀身が風に包まれた風鼬(かざいたち)の一閃が重なり、その一閃はメランCのストレートを繰り出す腕を斬り、そのまま腹部に横一文字の深い裂傷を作りだす。

 

カカカカカ

 

 腕が斬られ、腹部に深い傷もある筈のメランCは荒夜を嘲笑う声を上げる。

 脳見 潘の手によって生み出されたメランCは極端に痛覚が鈍くなるようにされている。

 打撃や斬撃による物理的な傷を軽減させるグヒンの羽根の身体によって相手に疲労を蓄積させる継戦能力を持つメランCは荒夜の攻撃による傷は蚊に刺されたようなものだ。

 メランCは斬られてない反対の拳を握り締め、荒夜に向かって走った瞬間–––

 

カカ、カカーーーー

 

 裂傷から炎が噴き出る。メランCは突然の現象に驚き、急いで手で消そうとするが。

 

カカーーーーー

 

 炎が風に吹かれたかのように勢いがつき、そのまま腹から全身に炎が回る。

 

 煉獄旋閃

 煉獄重閃(れんごくじゅうせん)同様にいつか再び相間見えるだろう陽太郎との戦いの為に編み出した技。

 だがこの技は幽吾の仲間のかまいたちとの訓練で偶然生み出した技だ。荒夜の煉獄一閃とかまいたちの風の斬撃が合わさり火災旋風にも似た状況を生み出した。

 その光景から新たな技になると判断した荒夜がかまいたちとの協力の末に技を体得するが、この技を使用するには刀が2振り必要だった。

 だが、かまいたちが元の世界に戻る際に自身の刃を託し、それを譲り受けた荒夜は単凍に頼んで小太刀にして貰った。

 

 そんな経緯で生み出されたこの技によってメランCの身体は徐々に端から炭化していく。

 

カ、カカ………

 

 何かに手を伸ばすかのように燃えながらメランCの身体は前のめりに倒れ、それでも何かに伸ばしていた手はボロっと崩れ、身体も所々が崩れ落ちていく。

 

荒夜

【…………かまいたち殿。貴殿のお陰で勝利できた。

 此処から届くが分からないが、感謝する】

 

 荒夜はメランCを一瞥すると手にした風鼬を眺め、元の世界に戻ったかまいたちに届くか分からないが感謝の言葉を述べた。

 荒夜がメランCは消し炭にした最中–––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 美岬は、結晶人間と呼称するSカトプトロンの猛攻を防いでいた。

 一定の離れた距離では結晶の散弾、近付けばその鋭い三角錐状の腕と脚による連続刺突攻撃。それらの攻撃を美岬は堅鯨(けいげい)を巧みに操って致命的な傷を防ぐ。

 

ギギ

 

 堅鯨(けいげい)は斬馬刀の形状をした美岬の持つ魚呪刀の中ではトップクラスのサイズと重量を誇る魚呪刀だ。

 扱いの難しさもあるが、そもそも単体の敵に対して使う刀ではない。だが他の魚呪刀には無いその能力故に美岬は刀を変えることが出来なかった。

 その力は、刀を所持してる間、物理的なダメージを無効化するという物理的な攻撃に対しては絶対的な防御力を発揮する。

 

 だがその力はこの刀を手にしている間のみであり、この刀とは違う刀に換装した瞬間、能力の効果は切れ、Sカトプトロンの攻撃を防ぐ術を失う。

 それが分かっているからこそ、美岬は刀を変えずに不利な戦いを強いられてるのだ。

 

 脳見 潘。

 あの男の存在は過去の私を殴り飛ばしたいと思う汚点。いや黒歴史とも言えるだろう。何故なら、あの男が猛士に入ったキッカケは他ならぬ()だからだ。世送から死んだと聞かされたが、それはありえないと思った。

 それは、私はあの男を既に2回も殺しているからだ。

 

 2回だ。1回ではなく2回。本来ならひとつだけの筈の人間の命。

 だが、あの男は私が最初に殺した3日後に無傷の状態で現れた。それに恐怖した私はあの男の首を斬り落とした。最初は違ったが、首を落とせば生物なら死ぬ筈だ。

 だがあの男は最初に殺した時と同じように3日後に落としたはずの首を付けて現れた。

 

 私は今度こそあの男を殺そうとしたが、それを遮るように複数の実験体が盾となってあの男は逃げた。

 

 そして今日、私はあの男と会った。

 最初に会った時から変わらない灰色の三つ揃えと丸縁の眼鏡を掛けて。

 

 そんな過去を思い出しながらも私は目の前の結晶人間の相手をする。

 その姿から元が人間とはとても思えない。あの男の実験体の素体は大抵人間、稀にただの動物も有るが基本は人間だ。

 ホームレスから上級家庭の金持ちの人間、障害持ちから健康的な肉体、赤ん坊から老人の老若男女問わずにあの男は自分の駒となるように洗脳し、才能があれば鬼として育て、才能のないものは素体として実験に掛けられる。

 

 物理の無効化と言っても、何が起きるか分からない戦いにおいて、油断は自らを殺す。

 結晶人間が飛び掛かるように両腕を突き出し、私はそれに合わせて峰で流し、そのまま峰を奴の頭に向けてスイングする。

 

 ヒビの入った音と共にSカトプトロンは壁に叩きつけられ、そのまま壁に沿ってズルっと倒れる。

 だが、あの男の実験体は確実に倒したという確証がない限り油断はできない。

 

ギギギギギ

 

 すると、声を上げながら壁に手を付けながら起き上がり、壁から手を離す。

 ヒビの入った特徴的な頭が目立つも、そこ以外に傷はなく、その身体を私に向けて腕を交差させる。

 また結晶の散弾かと、堅鯨(けいげい)を構え身構えるも、急に糸の切れた人形のように動きを止め、腕を下におろす。怪訝な表情を浮かべ、敵を注視してると–––

 

「ギギ………オレヲ…」

 

美岬

【!?】

 

「オレヲ、コロ、シテクレ!!」

 

 美岬の峰の一撃が偶然頭に当たり、それが原因か結晶人間ことSカトプトロンは消えた筈の人間としての意識を取り戻した。だが、それはほんの少しの間の奇跡のようなもの。それが分かっているのかSカトプトロンは意識のある内に自身の殺害を目の前の美岬に懇願する。

 

 元は普通の日常を生きてきたただの人間なのだろう。

 だがあの()に目を付けられて、その日常はなくなった。だからせめて–––

 

美岬

【その願い聞き届けた………ならば、人としてお前を殺して(救って)あげる】

 

 美岬は手にした堅鯨(けいげい)を天に向けて構える。

 堅鯨(けいげい)の刀身から迸る強大なエネルギーは刀身を包み鯨の如き巨大な刃へと変わる。

 

美岬

巨鯨轢圧斬(きょげいれきあつざん)!!】

 

 美岬の放った斬撃は残された僅かな人間としての意識で動きを止めるSカトプトロンの身体へ振り下ろされる。

 

ギ、ギギ、ギギ

 

 美岬の渾身の一太刀を受けたSカトプトロンの身体はひび割れ、端からガラガラと崩れていくSカトプトロン。

 崩れていく中でSカトプトロンと視線が合う。既に身体の半分も崩れ、言葉を話せないSカトプトロン。だが、美岬の見開かれたその目には確かに見えた。

 『ありがとう』と感謝の言葉を告げる青年の姿が、その姿が消えると残りの半分も砕けて、床には砕けた大量の結晶が積み重なっていた。

 

美岬

【……………】

 

 それを見た美岬は手を合わせ潘の消えた場所を一瞥し、荒夜と狂姫を連れて他の班へと合流する為に地上へ繋がる階段を歩くのだった。




如何でしたでしょうか?
最後の1班は次の静岡支部との話に併せて出します。
エリュトロンDは赤の犬、Sカトプトロンは銀の鏡を英語とギリシャ語で考え、でメランCは黒い鴉をギリシャ語で訳しました。
モデルとしてはエリュトロンDは某ゾンビゲームの頭と上半身が半分になるヤツ、メランCは某運命の亜種特異点に出てくる72柱、Sカトプトロンは某筋肉男の王位争奪戦の結晶男(あの必殺技を撃たない)です。
それと大変個人的なことですが、感想ください。

ーおまけー
迷家
【お。お。お待たせ。おまけコーナーの時間だゼ!】

迷家
【早速本日のゲストの紹介だゼ!!】

「迷家? ドウシタンデス。ソノ喋リ方ハ?」

迷家
【今日のゲストはヤマビコの妖姫で羅殴の親、黒だゼ。質問の答えは今日の気分だゼ!!】

「気分? マア、ソコハイイデショウ。デ、此処ハドコ?」

迷家
【おっと、そうだったゼ。此処はおまけコーナー。
 僕がゲストに質問するとこだゼ】

「質問カ? デ、何ガ聞キタイノ?」

迷家
【話が早いから助けるゼ。そうだな……………お、そうだ。
 最近、春詠やあぐりと一緒に何かしてるみたいだが、何してるんだゼ?】

「? …………アア、アレカ。イヤ、大シタコトジャナイノデスガ……」

迷家
【いいから。いいから教えてくれだゼ】

「……ハアー。春詠トあぐりニハ私ノ言葉ノ勉強ニ協力シテ貰ッテイル」

迷家
【なんでだゼ?】

「……………笑ワナイデスカ?」

迷家
【ちょっとやそっとじゃ僕は笑わないゼ。教えてくれだゼ】

「………王ト」

迷家
【王と?】

「普通ニ喋リタインダ」

迷家
【普通に喋るって、黒は王と喋ってるゼ。どういう意味だゼ】

「私ハ人ノ名前ト漢字ダケ普通ニ発音出来ルガ、ソレ以外ハ片言ニナッテイル」

迷家
【おお、そういえば】

「ソレガ、偶ニ王ニハ聞キ取リズライミタイデ、私ハ王ト普通ノ会話出来ルヨウニナリタイ。
 ダカラ、春詠ヤあぐりニ頼ンデ正シイ会話ガ出来ルヨウ勉強シテル」

迷家
【ほお〜。なあ、その勉強でどれくらい喋れるようになったんだゼ? 僕は聞きたいゼ】

「少シダケナラ。ウ、ウ。ウウン。
 こんな感ジで、少シは喋レるようニナッた」

迷家
【おお!! 凄いゼ。途中途中ちょっと片言が混じってたけど、喋れてたゼ】

「デモ、マダマダ練習ヲシナイト」

迷家
【大丈夫だゼ。黒ならきっと普通に喋れるようになる筈だゼ】

「アリガトウ」

迷家
【おっと、そろそろ時間だゼ。
 じゃ、次回のおまけコーナーもよろしくだゼ!! ばいばいだゼ】

「ソレデハ」

迷家
【…………………はあ〜駄目。もう無理この喋り方、やっぱり普通に喋った方が楽だよ♫】


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記録百拾壱

こんばんは。
今回の話は前回の長野支部の続きと静岡支部の話になります。そして、診鬼は–––
それではどうぞ!


SIDE不動

ギュルルルルルル

 

 単凍たちから離れ、キャタピラの音と共に鳴き声を響かせながら天狗たちとその天狗たちの操る戦輪獣と戦う不動。

 

不動

【………発射(Fire)

 

「がはっ」 「あばっ…」

 

 戦輪獣 緑大拳と戦輪獣 黄檗盾も鈍重そうな見た目の不動の高速機動に付いていけず、次の瞬間にはその肩に載る砲台から放たれた砲弾がその身体を撃ち砕き、更にその後ろにいた天狗2人を巻き込み肉塊に変える。

 

「黄檗盾を破壊しただと!!」

 

 戦輪獣の中でも頑丈さが取り柄ともいうべき黄檗盾が砕ける光景に天狗は驚愕する。

 更に天狗が悪態をついてる間に不動のキャタピラの脚に踏まれた戦輪獣 紫角は高速で動く無限軌道によって身体は削れていき、外装だけでなく内部の機構も削っていく。身体の半分が削られた頃にはその機能が停止した。

 

「クソッタレ!!」

 

 天狗が背から取り出したゴテゴテした戦輪を地面に叩きつけ天狗笛を吹くと、その戦輪はその姿を変える。

 それは黄檗盾に似ているが、黄檗盾よりもさらに大きく、左右非対称だった鋏は左右対称の厚みがある巨大鋏となり、装甲にも似たものが各所に追加されている。

 

「ふふふ。これが最近開発された戦輪獣(あらため) 黄檗大楯さ!!」

 

 天狗が両手を広げながら笑い、ギチギチと電子音と鳴らしながら黄檗大楯はその両腕をあげ、威嚇する。

 それを見た不動は–––

 

不動

【第一射。徹甲弾装填、目標天狗…………発射(Fire)!!】

 

 驚きも焦りもなく、いつも通りと言わんばかりに砲弾を込めて、黄檗大楯の背後にいる五月蝿い天狗に向けて撃つ。だが–––

 

不動

【………硬いな】

 

 天狗に向けて撃たれた砲弾は黄檗大楯の装甲に止められ、おまけに装甲には傷ひとつなく、砲弾に気にした様子もなく黄檗大楯は不動に急接近して鋏を振り下ろす。

 

不動

【ちぃ!!】

 

 不動はキャタピラの脚を後方に向けて回転させ、回避行動を行う。それと同時に牽制で自身の装甲の一部を剥ぎ、散弾のように甲散弾をばら撒く。

 砲弾よりも威力の低い甲散弾だが、人間からすれば一溜りもないそれは天狗に黄檗大楯を下げる指示を出させるのに十分だった。

 

 それのお陰で黄檗大楯から離れた不動は次の攻撃準備に移る。

 本来、不動が撃つ砲弾は榴弾、徹甲弾、焼夷弾の3種類のみだ。それは元が戦車のツクモガミだったことが理由なのだが、不動は異常種たるゴグマゴグに進化したことにより、もう1つの弾を持っていた。

 それが不動の切り札、『とっておき』ともいえる特別な砲弾だ。

 

不動

【第二射。HEIAP装填、目標黄檗大楯及び天狗…………発射(Fire)!!】

 

 轟音と共に放たれたHEIAPは真っ直ぐ黄檗大楯に向かっていき、砲弾が着弾する同時に大爆発が起きる。

 

 HEIAPとは『High Explosive Incendiary/Armor Piercing Ammunition』の略称で、榴弾、徹甲弾、焼夷弾の3つが合わさった弾頭。

 この弾頭の主な使用目的は装甲目標の破壊であり、直撃したときにのみ、その特殊な効果が発揮される。着弾時に先端部が焼夷剤に火をつけ、爆薬の起爆を誘発させ、第2の焼夷弾薬であるジルコニウム粉にも火をつける。

 ジルコニウム粉は非常に高い温度で燃えて簡単に消えないという特徴を持ちつつ、約30秒間燃え続ける焼夷弾薬であり、高い焼夷効果を発揮する。さらに砲弾内部のタングステン弾芯が標的の装甲を貫通し内蔵されている炸薬に点火し被害を拡大させるというものである。

 まあ、分かりやすいやつを言うのなら、『元婦警の吸血鬼』の対戦車長距離砲で第二射に装填されたやつを思い浮かべればいいだろう。

 

 そんな『とっておき』ことHEIAPによる一発は盾になるべく立ち塞がった黄檗大楯とその背後にいた天狗ごと吹き飛ばし、更には天狗のいた場所を火の海に変えた。

 よく見れば砕けた黄檗大楯の右腕と弾けた天狗の身体の一部が転がっている。

 

不動

【敵戦力壊滅を確認、状況終了】

 

 敵が居ないと判断した不動はその場を後にするのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE単凍

 不動と分かれた俺は無銘の鬼を相手に左右の短刀を振るう。

 

「クソ! こいつ強い!」

 

 鬼がそう言うが、それは当たり前だ。

 こちとら武器を打っては試し、打っては試し。それを繰り返したおかげか俺はかなり強い。

 

「っ痛!!」

 

 鬼の隙をついてその腕を斬り裂く。さて、どうなるかな。

 

 鬼の腕を斬り裂いた短刀は勿論、俺が新しく造った魚呪刀だ。この刀はちょっと他とは違うあることを試す為に造り出した。その名も早鯖(はやさば)

 足の早い鯖の魂と短気な人間の魂を合わせて造られた魚呪刀で、見た目は刀身に青いラインが入っていて、持ち手の柄頭に鯖の尾鰭を模した飾りが着いてる。

 そして、この早鯖(はやさば)の能力は刀身先端に触れたもの、斬ったものの腐食。つまり–––

 

「ぐっ、う、う、腕がああああ!!」

 

 鬼の斬られた箇所を中心に腐食、つまり肉が腐っていき鬼の腕が千切れそうに垂れ下がる。

 

単凍

【五月蝿い】

 

「あっびゅ」

 

 五月蝿い鬼の額に早鯖(はやさば)を投げつける。額に吸い込まれるように刀身が深く刺さり、能力によって頭部が崩れるように腐っていく。

 

「己、魔化、もう」

 

 その光景を見て激昂する鬼の心臓付近目掛けて早鯖(はやさば)を投げる。

 

「はっ!! 武器が無いならどうしよねえな!!」

 

 量産型音撃弦を持った鬼が単凍の身体に向けて音撃弦を突き刺す。

 

単凍

【甘い!】

 

 そう呟く単凍の手には2人の鬼に投げた筈の早鯖(はやさば)が握られ、音撃弦の刃を抑え込んでいる。

 

「馬鹿な、何故それが手元にある!」

 

単凍

【俺は早鯖(こいつ)が2つしか無いと言ってはいない】

 

 魚呪刀 早鯖(はやさば)。この刀が他とは違うある事とは、同じ能力(・・・・)を持っていること。

 単凍の造る武器には同じ能力の武器は無い。そもそも材料として使う人間の魂に必ず同じものがあるかと言われれば、答えはNoだ。

 いかに似た人間の魂を使おうとも、必ずどこか違う能力になる。

 

 そこで、単凍は試しにと使用する魂の基準を大幅に変えた。

 その結果、同じ能力を持つ武器を造り出すことに単凍は成功した。そうして造られたのがこの早鯖(はやさば)ということだ。

 

「背後がガラ空きだぜ!! 魔化魍!!」

 

 単凍の背後には音撃棒を構えた無銘の鬼が急接近し、無防備な背中に叩き込もうとする。

 しかし、単凍は冷静に早鯖(はやさば)で正面の鬼の音撃弦の柄を斬ると同時に術で取り出した早鯖(はやさば)を背後の無銘に向けてノールックで投げる。

 

「がばっ!」 「がへっ」

 

 早鯖(はやさば)は背後にいた鬼の喉元に突き刺さり、正面の鬼の持つ音撃弦は早鯖(はやさば)で斬られた箇所が落ちて、呆然とした無銘の頭に早鯖(はやさば)を突き刺す。

 早鯖(はやさば)が突き刺さった2人の鬼はその部分を腐らせて倒れる。

 

 新たな早鯖(はやさば)を出し、そのまま複数の鬼の元に走り出す。

 

「ぎゃあ!」

 

 ある鬼は首に横一文字の一閃。

 

「ぐふ…」

 

 ある鬼は投げられた早鯖(はやさば)が眼に深く突き刺さる。

 

「があああ!! がっ……」

 

 ある鬼は脚の腱を腐食され、倒れた瞬間に背後から早鯖(はやさば)が刺さる。

 

「ああ………」

 

 ある鬼は恐怖から逃げ出そうとした瞬間にその頭に早鯖(はやさば)が刺さる。

 

 単凍は6人の無銘の鬼を瞬殺する。

 倒れてる鬼以外、周りに鬼の姿はなく、落ちてる早鯖(はやさば)を拾おうとした瞬間–––

 

「死に晒せ!!」

 

 音撃管特有の射撃音が響き、単凍は左腕に3発鬼石がめり込む。

 

単凍

【っうう。そこか!!】

 

 手にある早鯖(はやさば)を鬼石の飛んできた方に向けて投げれば、何も無い筈のところで早鯖(はやさば)はなにかに弾かれたかのように地面に落ちる。

 弾かれた空間からまるで何か纏っていたものを脱ぐように1人の鬼が姿を現す。

 頭部が鼠色で縁取りされ、左右対称にこめかみから生える2本の角、縁取りと同じ鼠色の鎧を纏い、左肩に一周するような煙を模した肩当てを着けた鬼が音撃管を構えて立っていた。

 

「まさか、気付く魔化魍がいるとは」

 

 現れた鬼は面で顔が隠れてるので分からないが、驚いているようだ。

 

単凍

【普通なら、そのままお陀仏というところだが、生憎俺は似たような経験があるからな】

 

「ほお。私と同じ芸当が出来る鬼ということは、栃木支部にいた燻鬼さんですね……………3年前に亡くなりましたが」

 

単凍

【知り合いか?】

 

「いえいえ。名前だけしか知りません。親しいわけでもありません。おっと自己紹介がまだでしたね。私の名は蒸鬼です」

 

単凍

【そうか…………なら、ひとつ聞かせてくれ。

 俺の早鯖(はやさば)に触れた筈なのに何故腐食しない?】

 

「簡単ですよ。その武器に触れて腐食したのは先端に斬られたか刺された時のみです。

 つまり、先端から下の刃に触れたとしても腐食することはありません」

 

 単凍は驚く。

 先程の無銘の鬼との攻防で、蒸鬼はこの早鯖(はやさば)の弱点に気付いてることに。

 蒸鬼の言うとおり、この早鯖(はやさば)刃先(・・)に触れたものを腐食させる。つまり、刃先以外の場所に触れたとしても腐食することはない。同じ能力を持たせる為に魂の基準を変えたのは説明しただろう。

 早鯖を造る為に使った魂は、鯖の場合は、同じ親から生まれた兄弟魚の魂を使い、短気の人間の場合は、忍耐力のない人間、せっかちな人間、ヒステリックな人間といった短気な人間の魂を利用した。

 そして、刀の鍛造の際にそれらの魂を全て纏めて(・・・・・)ひとつの魂にして造る本数分に魂を分割した。

 だが、普段とは違う方法で使った魂で造ったのが原因なのか、本来なら刀身(・・)に触れたもの、斬ったものを腐食させる能力の筈が、刃先(・・)に触れたもの、斬ったものを腐食させる能力へとなり、魂を3つ以上使っているのに第2能力が発現しなかったのだ。

 

 だが、単凍は能力が分かったことは別にどうでも良かった。

 それならば、違う武器(・・)に替えるまでのこと。

 

「何ですかその武器は!?」

 

 そうして、早鯖(はやさば)から替えるように出したのは、鮫そのものを鞘にしてみたと言わんばかりの歪な鞘に収まった刀だ。

 単凍はその鞘の尾鰭の形状をした柄を握りしめ、中に納められた刀を抜く、歪な鞘に収まって刀は、ファルシオンに似た刀で刃の部分が鋸のようになっている。

 その名は魚呪刀 適鮫(てきさめ)

 ノコギリ状の吻を使って獲物を切り裂く特異な性質を持つ鋸鮫(ノコギリザメ)の魂と数字大好きな数学者の人間の魂を使って造られた魚呪刀だ。

 

単凍

【こいつは適鮫(てきさめ)。お前のような鬼に有効な武器さ】

 

「ではどう有効なのか見せてもらいましょうか!!」

 

 蒸鬼がそう言うと、その姿は揺らぎ、また姿が消える。

 蒸鬼は炎の音撃と水の音撃を併用して使う変わった鬼だ。それら2つの属性の鬼術を音撃管を通して同時に使うことで、姿を視覚出来なくし、魔化魍に透明に近い鬼石の弾を使ってチクチクとダメージを与えてトドメを刺す。

 この方法で何体もの上級魔化魍を仕留めた蒸鬼は、ゆっくりと動きながら単凍の背後に回り込む。

 

「(背後はガラ空き、いくら王の魔化魍といえど、この俺の姿は見えまい)」

 

 そうして背後に回り込んだ蒸鬼は音撃管を撃つ。

 

「(な!!)」

 

 すると単凍は振り向かずに適鮫(てきさめ)を振って、鬼石を斬り落とす。

 

「(馬鹿な、まぐれだ!!)」

 

 蒸鬼は射線がバレないように位置を変え、音撃管を放つも、再び、鬼石は斬り落とされる。

 それから蒸鬼がどんなに撃っても鬼石の弾は単凍に当たることなく斬られていき、残骸となった鬼石が散乱する。

 

「(どういうことだ。何故こうも完璧なタイミングで鬼石を斬れる!!)」

 

 適鮫(てきさめ)あるもの(・・・・)を視覚化する。それは弱点。

 その能力はあらゆるものの弱点を視覚化するという能力だ。

 どんなに最強の武器だろうと、どんなに最硬の防具だろうと、どんなに万能な肉体だろうとも、それらには必ず弱点が存在する。適鮫(てきさめ)はそんな弱点を視覚化することが出来る。それは透明に近い鬼石だろうと弱点があることは間違いなく、飛んでくる鬼石の弱点が表示される単凍はそれをタイミングよく斬るだけだ。

 勿論、そんな適鮫(てきさめ)にも弱点はある。それは–––

 

「(何ですか、あの血は?)」

 

 それは単凍の鼻から垂れる血だ。

 

「(アレに変えてから攻撃に当たっていない筈、なのにあの出血。

 !! そうか、なるほどあの刀のデメリットか)」

 

 蒸鬼の考えはほぼ正解だった。

 適鮫(てきさめ)の弱点の視覚化。それは脳に膨大な情報が一気に押し寄せ、そこから正確な弱点の情報を視覚化する。それによって脳と眼に多大な負荷を掛ける。

 そんな適鮫(てきさめ)の弱点に気付いた蒸鬼はニヤリと笑う。

 

「(つまりアレは使い続けるほど不利になるに違いない。なら好機や)」

 

 既に両眼や鼻からも血が垂れている単凍。

 それを見て蒸鬼は単凍の頭に狙いをつける。

 

「(さあ、往生しな!!)」

 

 音撃管の引き金を引こうとした瞬間–––

 

単凍

【はっ!!】

 

「(なに!!)」

 

 単凍は姿が見えない筈の蒸鬼のいる場所を見抜き、そのまま姿を消す為に使う音撃管を斬り裂く。

 音撃管が斬られたことでその姿が現れ、唖然とする蒸鬼。

 

 単凍が何故姿が見えない蒸鬼の音撃管を正確に斬れたのか、勿論、適鮫(てきさめ)の能力によるものだ。

 単凍は適鮫(てきさめ)の能力を使い、周辺の弱点を視覚化し、その中で周りとは明らかに違うおかしな部分を探し出す。

 いくら同じ風に見せようとも、視覚化される弱点によってそこは違うものと分かる。そうして蒸鬼を見つけ、音撃管を破壊した。

 

単凍

【じゃあな】

 

 そう言った単凍の繰り出した適鮫(てきさめ)の一閃は人間共通の弱点である蒸鬼の首を斬り落とすのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE焼腕

 兄貴とその連れの不動によって鬼数人と天狗が向こうに離され、俺たちの相手は残った2人の鬼と此処の支部長でもある鬼だ。

 まあ、誰だろうと構わない。俺たちの使う武器の性能テストに丁度いい。

 

 そう思いながら、焼腕が出したのは、柄の中間に狼の尾に似た飾りの付いた長い柄の斧。隣の黄が出したのは柄頭に猫の頭を模した飾りのある片刃の長剣を出し、動かずに構える。

 

「魔化魍が武器だと笑わせるな。矢彦、挟撃で叩くぞ!!」

 

「おう!!」

 

 それを見た2人の鬼が馬鹿にする笑みと共に同時に仕掛ける2人の首に音撃棒を振るう。

 

「なっ!!」

 

 黄が前に出て、片刃の長剣を横にして2人の攻撃を止めると同時に長剣を滑らせるように動かして、2人の音撃棒を弾き、右にいた鬼の身体を逆袈裟で斬り捨てる。

 

「曽根崎!! はっ!」

 

焼腕

【………】

 

 仲間の死ぬ姿で動きを止めた鬼に焼腕は斧を振り下ろし、防御姿勢の間に合わなかった鬼の身体を一刀両断する。

 

焼腕

【切れ味は申し分なしだな】

 

「こちらも同じだね」

 

 使った武器の性能の感想を言う2人。

 その姿に気味の悪さを覚えた植鬼はその感情を振り払うために自身の音撃武器である音撃弦 植蔓を構えて突撃する。

 

焼腕

【さて、次は変形動作(・・・・)といこうか】

 

「変形動作?」

 

 植鬼は何のことだ面越しから目の前の焼腕を睨みつける。

 しかし、焼腕はそんな視線は気にしないと言わんばかり、斧を縦横に振るう。

 

「くっ!」

 

 師である狼鬼の鍛錬で使い慣れてる筈の音撃弦が重い。

 実際に重いのではなく、目の前の魔化魍の斧の攻撃が重いのだ。見た目はただの斧の筈なのに攻撃が重く、それを受ける音撃弦はミシリと嫌な音が鳴る。

 これ以上は不味いと判断した植鬼は斧の攻撃を受けると同時に力を抜く。

 

焼腕

【む!】

 

 斧は重力に従って下に向かい、植鬼は音撃弦を地面に突き刺すと、その柄を握り込み、ポールダンスのように一回転して、その勢いのまま焼腕の腹に蹴りを浴びせる。

 

焼腕

【ぐふっ………】

 

 蹴りをモロに受けた焼腕は腹を押さえながら後ろに下がり、植鬼は突き刺した音撃弦を抜くとその刃先を焼腕に向けた。

 

焼腕

【やはり、そこら辺の鬼では試す前に死ぬからな。戦い甲斐のあるやつをテストに出来るのは良いものだな!!】

 

 腹を抑えていた手を外し、こちらを見る目は血走り、牙が見える口元は弧を描いている。

 幽冥がこの場に居て、この光景を見たら、『あの(単凍)がいてこの(焼腕)あり』と言うのだろう。片方だけの血の繋がりとはいえ、間違いなく兄弟同士だと思わせるものだった。

 焼腕は武器の柄を握りしめると共に武器を上に掲げる。

 

 突然、話は変わるが焼腕と黄の持つ武器の名は双獣器(そうじゅうき)。勿論、焼腕の造った武器だ。

 この武器は単凍の造る武器とは違い、魂を使わないので能力を持たないが、特殊な機構が組み込まれている。

 それは–––

 

焼腕

【ふん!!】

 

 焼腕が手に持つ双獣器 血まみれの狼(bloody wolf)を振るうと長い柄が縮み、狼の飾りに収まっていて刃が斧の刃と合わさり大剣へと変わる。

 

「なっ!!」

 

 それは変形機構が組み込まれた武器。男ならば誰もが夢見るロマン武器。それが焼腕の造る武器の特徴だ。

 魂を内包した武器を最初に造り出した兄の単凍と違い焼腕の最初の武器は、至ってシンプルかつ丈夫な刀剣類だった。それが、何故ロマン武器を造るのに至ったのか、それはある時に()で出会った狩人(・・)が理由なのだが、その話はいずれさせて貰おう。

 

 いきなり武器が変わったことに驚いた植鬼は驚き、一瞬足が止まる。

 その隙を突くかのように焼腕は血まみれの狼(bloody wolf)を頭に振り下ろす。が、足の止まった植鬼は咄嗟に音撃弦 植蔓の刃を振り上げる。

 互いの武器がぶつかり合いその力によってぶつかり合った武器は互いに弾かれ、それに釣られて2人の身体も弾かれたように動く。

 

 血まみれの狼(bloody wolf)による攻撃。

 植鬼は勿論、音撃弦 植蔓を構えて真正面から迎え撃とうとする。しかし、焼腕の後方で仲間の蒸鬼が単凍に殺される姿を見たことで、植鬼は構えも忘れる程に動揺し、隙が生じた。

 隙だらけの植鬼が、すぐ近くまで来た焼腕の姿に気づいた時には横っ腹に血まみれの狼(bloody wolf)を叩きつけられ内臓が飛び出るかのような感覚に襲われる。

 

「ぐぅう!」

 

 強烈な一撃で身体を上空へと飛ばされる植鬼。空中ということもあり体勢も立て直せず、おまけに先程の一撃もあってか身体を思うように動かせない。

 それを見た黄は双獣器 寂しがりな猫(lonely cat)を振るうと柄から刃が離れワイヤーで繋がれた等間隔の刃が上空に飛ぶ植鬼の面の半分、音撃弦 植蔓、それを持つ右腕、左手首、腹部の鎧、右脚を一瞬にして斬り落とす。

 

「ぎゃああああ!!」

 

 バラバラになった武器と肉が一斉に転がり、それと同時に斬られた植鬼は受け身を取ることも出来ずに地面に頭から落下する。

 

焼腕

【うむ。変形動作も問題なしだな】

 

「うん。でも私はこれよりも前に渡してもらった杖の方が使いやすいな」

 

焼腕

【アレか。そうだな次の機会に】

 

 焼腕、黄は武器のテストを終えて、その場から去ろうとすると–––

 

焼腕

【………まだ息があるのか、最近の鬼にしては頑丈だな】

 

 あの高さ、おまけに頭から落下したので、既に死んだのだろうと思っていた。

 だが、そこには戦う術を失い、満身創痍の身体、身を守る鎧も最低限しか残っておらず僅かに残った左腕で立ち上がろうとする植鬼の姿があった。しかし植鬼はまともに立つこともできずに前のめりに倒れる。

 それでもまともに動く頭を動かして、離れた位置にいる2人に向けて憎悪の視線を送る。

 

焼腕

【言い残すことはあるか?】

 

「ぐふっ、…………ろ、狼鬼さんが必ず、貴様らをこ、殺す。あの世でその様をゆっ……」

 

「聞く必要もなかったか」

 

 黄が寂しがりな猫(lonely cat)を振るうと伸びた刃の鞭が植鬼の首を刎ねる。

 

「無駄な時間でしたね」

 

焼腕

【所詮は復讐心で眼の曇った鬼だ。気にするだけ無駄だ】

 

 黄の言葉に同意するように焼腕は答えると–––

 

単凍

【やっと終わったか?】

 

不動

【そのようだな】

 

 そう答える2人の背後から声が届く。

 

狂姫

【荒夜様……重くないですか?】

 

荒夜

【いいえ。姫。むしろ軽いくらいです】

 

狂姫

【/////////】

 

美岬

【はいはい狂姫。そういうのは帰ってからだよ。終わったみたいですね】

 

 顔を赤らめた狂姫を背に乗せた荒夜の2人を見た美岬はナチュラルにイチャつきそうな2人の注意して、黄と焼腕の様子を確認していた。

 

【そのようだな】

 

常闇

【ふむ、では戻るとするか】

 

「いえ、その前に貰えそうなものを頂きましょう」

 

 緑の提案に賛成した一同は、無人となった長野支部から目ぼしいものを奪っていき、全員の空間倉庫に仕舞い込んだのちに帰路につくのだった。

 こうして長野支部は壊滅し、その事実に狼鬼たちが気付くのは、同じように襲撃を掛けられた静岡支部の様子を見に行った鬼たちの連絡で知るのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE静岡支部

 単凍達が長野支部を襲撃した同時刻。

 猛士中部地方静岡支部。

 

 ある一室にこの支部の支部長 井伊宮 宮子、崗鬼、名持ちの鬼や無銘の鬼、天狗たちが集まり、部屋にいる人物を逃げられないように扉や窓の前に立ち逃げ道を塞いでいた。

 

「………いったい何の用ですか? こんなに集まられて」

 

 そう問いかけるのは、この部屋の主である診鬼こと神通 希美だ。

 

「用だと? 分かっている筈だ」

 

 1人の無銘が敵意を剥き出しに答える。

 

「ですから、な「惚けても無駄だ!!」……」

 

 神通の言葉を遮る様に荒げた声が響く。

 

「診鬼。いや神通 希美。………貴女、どうやら共存(・・)派の鬼のようですね」

 

 井伊宮の言葉に神通は驚く。

 どうしてバレた。この部屋に最初に案内された際に隅から隅まで調べて監視カメラや盗聴器などが無いことを確認した。

 

「何故って顔ね。確かにこの支部は他の同志のいる支部と違い、盗聴器も監視カメラもありません。ですが」

 

 井伊宮の言葉を聞き、天狗の1人が天狗笛を吹くと、天井の隅の電灯から何かが天狗に向かって飛んでくる。

 それが天狗の手に止まるとその正体に神通は苦虫を噛んだ顔を浮かべる。

 

「(ディスクアニマル 竜胆蝙蝠)っ!!」

 

 ディスクアニマル 竜胆蝙蝠。

 蝙蝠をベースに造られたディスクアニマルで、主に夜行性の魔化魍の探索や追跡を行う。

 何よりも特徴的なのは、他のディスクアニマルと比べても圧倒的とも言える連続稼働時間と録音と録画可能容量だ。その時間はなんと連続稼働時間は240時間、録音及び録画可能容量は230時間だ。この竜胆蝙蝠が開発される前だと瑠璃狼の後継機である黄金狼が最大だったが、それをはるかに上回る性能だ。

 だが、その連続稼働時間と本来なら出来なかった録音と録画機能の両立を実現させるのに必要な物の数が少なかったことが理由でこのディスクアニマルは100機ほどしか存在せず、おまけにその大半は過激派が所有している。

 希少でもある為、一般の鬼はその姿形を知ることは少なく、こんな支部に置いてあるはずがないという油断が仇となった。

 

「そうさ。竜胆蝙蝠(こいつ)がこの支部の監視カメラであり、盗聴器でもあるんだ。なぜか映像(・・)は無理だったが、お前の場合は音だけでも聞ければ十分ってことさ」

 

「そういうわけよ診鬼。さあ、たっぷりと話しを聞かせてもらおうじゃない。連れて行きなさい」

 

「はっ!」

 

 井伊宮の指示で無銘の1人が神通の腕を掴む。

 

「っ、離せ!!」

 

「観念しろ裏切り者!!」

 

 神通は袖元の変身音叉を出そうとするも、無銘が腕を掴んでいるのが原因で出すことも出来ないし、無銘の腕を振り払おうとしても振り払えない。鬼とはいえ、人間で男女の差は必ずどこか出てしまう。女である神通も例外ではなく、その力の差は明らかだった。

 王との接触という目的を果たしておらず、此処でお仕舞いかと神通が思った次の瞬間–––

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 神通を捕まていた無銘の顔が火だるまになる。

 急に顔が燃えたことで神通の手を離してしまい、炎はやがて全身を覆い、無銘を黒焦げの死体に変える。

 

「誰だ!!」

 

ヂヂヂヂヂヂヂ

 

 崗鬼の声に反応するかのように上からバサバサと羽ばたく羽音と火が付かないガスストーブのような鳴き声が響く。

 崗鬼の視線にいるのは、18個の炎を宙に浮かせる両翼と尾翼が緑色の炎に包まれた鸚鵡の魔化魍が飛んでいた。

 

【………オイラはフラリビ。オイラがいる限り神通には指一本触れさせない!!】

 

 好きな者(神通)を守るために本性を表したフラリビは目の前の崗鬼たちをいつでも攻撃できるように炎に包まれた翼を大きく広げた。




如何でしたでしょうか?
焼腕の作る武器はロマン変形武器でした、今回はポピュラーな変形武器にしました。まあ何方も件の狩人とは違う作品ですが、変形武器ということで出しました。
そして、戦輪獣の後期型の改シリーズも登場です。ものの数分くらいで破壊されましたが、改の名前の元ネタは生きてる繊維のヤバい制服です。
因みに今回の話と記録百参にも出た戦輪獣 紫角とは本作のオリジナルディスクアニマル 紫兜の戦輪獣です。
ディスクアニマル 紫兜は魔化魍の顔周辺を飛び回り鬼の攻撃を悟らせない撹乱目的や住処を作る魔化魍の棲家探索などに用いられるディスクアニマル。
一方、戦輪獣 紫角は大きさは黄檗盾の半分ほどの大きさで飛翔能力は無いが、その代わりに角の先端に鬼石と音撃弦系の音撃武器に使われる刃を合成した『鬼刃石』が搭載され、更にはパワーもそこそこ上げられている。
使用用途としては、角による攻撃、巨体を活かした押さえ込みなどが主な使われ方である。
さて、次回は幽冥たちが参戦します。
………感想ください。

ーおまけー
迷家
【はいはーい! やってきました。おまけコーナーの時間です】

迷家
【今日のゲストは王の最初の家族のひとり。ツチグモの土門!!】

土門
【はじめまして。
 そして、此処がおまけコーナーですか?】

迷家
【そう! って、なんで知ってるの!?】

土門
【睡樹から聞いたから】

迷家
【ありゃりゃ、まあしょうがないっか】

土門
【それで何を聞きたい?】

迷家
【話が早いのは良いけど、う〜ん。お!
 土門って成体だよね。なんで成体なのに身体が小さいままなの?】

土門
【確かに私の身体は一般的でいうと成体になる。そして、何故小さいままなのかと言うと】

迷家
【言うと】

土門
縮小の術は知っているよね】

迷家
【確か、生物や物体を小さくするだけの術だっけ?】

土門
【そう。私は常にその術を自分の身体に掛けているの】

迷家
【なんで?】

土門
【恥ずかしい話だけど、私は種族としてのツチグモのサイズでいるのが嫌で】

迷家
【なんで、デカい方がいいじゃん】

土門
【私の戦闘手段をお忘れ?】

迷家
【戦闘手段? ん、んんん。あ! そうだ!】

土門
【思い出した? そう。私の戦闘は基本、糸を使った身体操作。
 デカいだけの本来の姿だと私の戦闘手段は確立しない】

迷家
【なっるほど♩
 確かにあの大きさじゃ出来ないね】

土門
【納得できた?】

迷家
【うん! いや〜やっぱり疑問は聞いてみるものだね。
 おっと、そろそろお開きかな。じゃ、バイバーーーイ】

土門
【またいつか】


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記録百拾弐

こんばんは。
今回は静岡支部の戦闘回です。
例の如く、今回も前後編で戦闘回をお送りします。


 美岬たちの猛士中部地方長野支部への攻撃が始まった同時刻。

 猛士中部地方静岡支部へ続く道を歩く集団がひとつ。

 

「王。もう少しで静岡支部に到着します」

 

 集団の先頭を歩くのは擬人態の姿に変わった幻笛と名前を貰ったヨスズメ。

 そんな幻笛の言葉を聞き、幽冥は背後の家族たちに身体を向ける。

 その身体の先には予言ことクダンから授けられた『お告げ』を聞いて決めた幽冥の静岡支部襲撃のメンバーが擬人態の姿で集まっていた。

 

「みんな。静岡支部に着いてすぐに行動できるようにしてね」

 

「「「「「「「「「「「「「「はい!!】】】】】】】】】】】】】】

 

 幽冥の言葉を聞き、返事に答えた魔化魍たちは擬人態の姿から本来の魔化魍へと変わる。

 その中には『鳥獣蟲同盟』の魔化魍もいる。勿論名前はもう考えて、出掛ける前には名前を授けた。

 今この場にいる家族と新たな家族は骸、拳牙、大尊、兜、三尸、跳、舞、幻笛。ヒダルガミこと乾。シュチュウこと盃。タンコロリンこと樹裂。そしてクダンこと予言。

 

 静岡支部に向かう前に僅かながら交流することが出来たおかげか、ある程度会話する位の仲にすることは出来た。

 今回の目的は静岡支部の壊滅と静岡支部に侵入した仲間とある鬼の救出(・・)だ。

 

 鬼の救出は鈴音と名を授けたネコショウからのお願いである。

 『なんで鬼の救出を!!』……って赤や家族の一部は憤慨していたが、鈴音から聞かされた話で私は納得した。

 

 猛士の中にある魔化魍に対して異なる考えを持つ3つの派閥。

 魔化魍殲滅を目的とした過激派、猛士の理念を掲げた傍観派、そして人類と魔化魍の共存を夢見る共存派。

 

 最初にこの話を五位から聞き、改めて鈴音からの説明で幽冥が驚いたのは言うまでも無いだろう。

 兄だった姉の春詠からそのような話を一度も聞かされたことがなかったからだ。だが勿論それには理由がある。

 

 彼女の姉である春詠は『8人の鬼』の1人である。

 鬼を継承する前は、銀で魔化魍の研究を主とした変わり者だった。珍しい魔化魍の噂を聞けば討伐ではなく研究という名目で捕獲し、人知れず組織に気づかれないように魔化魍を逃していた。まあ、その事がバレたのと『8人の鬼』の血縁という理由で角に移らされた。

 『8人の鬼』の影響力は馬鹿にできるものではない。その影響力ゆえに3つの派閥で過激派のメンバーは3つの派閥内でかなりの数が所属している。

 そんな彼女がもしも共存派に所属することになれば魔化魍を殲滅を目的とした過激派からすれば、せっかく集めた仲間が傍観派に、いや最悪なことに共存派に所属するようになってしまっては堪ったものではない。

 故に猛士過激派に所属する上層部や鬼、天狗はあの手のこの手で、共存派の情報を春詠に隠していた。

 だからこそ、共存派の情報を春詠は知らなかったので、猛士の話を聞いてもそのような話が幽冥の耳に入ることがなかった。

 

 そんなわけで私は鈴音の話を承諾し、目的の静岡支部に私たちは向かうのだった。

 

SIDE診鬼

 私の腕を掴んだ鬼の顔が急に燃え、鬼が手を離せば炎は全身に周り鬼を焼死させた。そして、私の前には–––

 

【………オイラはフラリビ。オイラがいる限り神通には指一本触れさせない!!】

 

 緑の炎に包まれた両翼と尾翼の鸚鵡の姿をした魔化魍が周りに18個の火の玉を浮かべて宙を羽ばたいていた。

 その姿に見覚えのあった私は鳥籠を見ると、焼け溶けた鳥籠があった。つまり目の前に飛ぶ魔化魍の正体はあの子だ。

 

「魔化魍だと!! いつの間何処から!!」 「診鬼を守っているぞ!!」

 

「まさか、魔化魍とも内通していたとは!!」 「裏切り者を殺せ!!」

 

 鬼や天狗はいつの間にか現れた魔化魍 フラリビに驚き、その原因が神通の仕業と思った。

 元々普遍派と偽って過激派に入り込んだ神通に重い罰を科すつもりだった静岡支部の面々は魔化魍を内部に引き入れた裏切り者として神通を殺そうと無銘の鬼たちは量産型音撃管で神通に向けて空気弾を放つ。だが–––

 

【言ったはずだよオイラがいる限り神通には指一本触れさせないって!!】

 

 フラリビが私の前に行き、宙に浮かんだ火の玉を使って火の盾を作り出し、無銘の空気弾を防ぐ。

 

【ごめんね。オイラがもっと早く神通の元から離れていれば、こんな目に合わなかっただろうに】

 

「君は、魔化魍だったんだね」

 

【大丈夫。オイラは神通の味方だよ】

 

 フラリビは空気弾を防ぎながら、盾から一部の火の玉を離し、無銘の鬼たちに撃ち込む。

 

「「「「がああああああ!!」」」」

 

 一瞬にして無銘たちは炎に包まれてそのまま床に倒れる。

 次にフラリビは盾から槌に変え、窓付近の壁を叩き、壁を破壊する。

 

【早く逃げて、オイラが神通を守るから】

 

 私を守るように翼を広げ、火の玉で私を部屋の外に追い出す。

 

【もう直ぐ魔化魍の王とその家族がここに来るから、王たちに保護してもらって】

 

 魔化魍の王が来る。それは私の、共存派としての最優先事項だ。共存派の存在を王に伝えるチャンスだ。だが、フラリビを置いていくわけにはいかない。

 フラリビは宙に浮かぶ槌を再び火の玉に変えて一斉にばら撒き、鬼や天狗を攻撃する。

 

「待ってフラリビも…【早く逃げて!! オイラは大丈夫だから!!】っ!!」

 

 フラリビはそう言うが、静岡支部の全戦闘員が集まっているこの状況はどう考えても、フラリビが不利だ。

 なら私は–––

 

「私は魔化魍共存派 神通 希美またの名を診鬼!!

 魔化魍と共存を望む者、過激派の多勢に無勢のこの状況下で私だけ逃げるわけにはいかない!!」

 

 私はフラリビを助ける。それで死んでしまったら元も子もないかも知れない。だけど、私を助けてくれようとしたフラリビを置いて逃げるわけにはいかない。

 だが、神通の宣言を聞き、自分の周りに浮かべていた火の玉が無くなっていた事が原因で身を守る術が無いフラリビ。

 それは熟練の鬼から見れば隙だった。

 

「隙あり!!」

 

【ぐう!!】

 

 そんな隙を見抜いた崗鬼の音撃弦 光崗から放たれた音撃の雷がフラリビの片翼を貫き、フラリビは地に倒れる。その光景を見て、私は直ぐにフラリビの元へ駆ける。

 フラリビを狙う鬼の攻撃からフラリビを守るために私は彼を抱えて、迫る攻撃に目を瞑った。

 

「がぶっ」 「あべゃ」 「ぴゃ」

 

 変な声が聞こえ、私が目を開くと音撃武器を構えた鬼たちが死んでいた。

 ひとりは面が無くなっていてその顔は赤く恍惚とした表情を浮かべて死んでおり、その首近くには背中に苔を生やした半透明の山椒魚がいた。

 

 その右隣の鬼は背中の複数の手裏剣が突き刺さって死んでおり、死体の上を木の葉の羽で空を飛び片面を黒布で隠す暗緑色の雀が羽ばたいてる。

 

 また左隣の鬼は腹に大きな穴が出来、その腹を貫くのは水で覆われた拳を構えた鯱の頭部を持ち、虎の如き身体を持った人型が立っていた。

 

 3体の魔化魍が神通とフラリビを守るように立ち、追撃を掛けようとした崗鬼たちを牽制する。

 そして、その間を通り抜けるように複数の札が飛んできて、井伊宮支部長や鬼、天狗の一部がいる地面の下に張り付く。

 

跳、予言

【【強制転移】】

 

 新たに現れた2体の魔化魍が叫ぶと、地面が光りそこに向かって幾つの影が飛び込むと同時に井伊宮支部長と大半の鬼と天狗を巻き込んで消えた。

 

「支部長、みんな!! おのれ!!」

 

 光から逃れた崗鬼と一部の鬼と天狗がその場に残って、札の飛んできた方向を睨む。

 そこには鷹の翼と脚を持つ赤鱏の魔化魍。

 

 尾先に提灯を灯した二足歩行する蜥蜴の魔化魍。

 

 蛇の頭を持った鰐の身体の魔化魍。

 

 胃のような色合いをした虫の幼虫の魔化魍。

 

 作務衣を着た青蛙の魔化魍。

 

 人面の仔牛の魔化魍。

 

 そして、青蛙の魔化魍と仔牛の魔化魍の間に立つのは紫の紐で赤紫の髪を結い、片眼鏡を掛け、左半身全体が札で覆われ、両肩に鈴の付いた漢服を着た少女が立っていた。

 

「魔化魍、の王」

 

 フラリビを庇う診鬼の姿を見た少女いや、魔化魍の王こと安倍 幽冥は微笑みを浮かべて答える。

 

「そう。私が魔化魍の王、名前は、まあ、話はこれが終わったらゆっくりしようか」

 

 優しそうな微笑みは消え、身体が凍るような視線を崗鬼たちに向ける。

 

「お前が魔化魍の王か、お前を殺せば魔化魍根絶の夢が一歩近くなる」

 

 それに対して音撃武器を構える崗鬼と鬼と天狗たち。

 幽冥が札を構え、兜が尻尾を収縮し、三尸が爪を鋭く尖らせ、大尊が息を大きく吸い込んで、乾は背中の触手をうねらせ、肩に予言を乗せた跳が手を合わせ印を結び、崗鬼に向かう。

 一方–––

 

SIDEOUT

 

SIDE骸

 俺は猛士の支部を攻撃するのは賛成だ。奴らのせいで家族が死ぬような事があれば、俺は荒れていた頃よりも更に危険なことをするだろう。

 だが、鈴音(ネコショウ)の願いは聞きたくなかった。

 

 鬼を助ける。

 

 あの鬼だぞ。遥か昔から敵対してるあの鬼を助ける。

 仲間が死んでいくの見ていって頭がおかしくなったのかと思った。だが、王がその理由を説明したので、一応納得はしたさ。

 

 魔化魍穏健派閥共存派。眉唾みてえな話だが、俺たちとの共存を夢見る人間の集まりみてえだ。

 助けようとしている鬼がそこに所属する鬼らしい。王もその鬼に興味があるらしく、助ける気満々だ。まあ、王がそれを望むのならそれに答えるのが家族であり臣下の俺たちの役目だ。

 

 そして、王の手で張られた札を軸に跳と予言(ウシ)の術を使い、あの場にいた偉そうな女と鬼や天狗の戦力の大半を俺たちと一緒に飛ばしてもらった。場所は何処かの平野。

 骸と舞、樹裂は静岡支部支部長 井伊宮 宮子と静岡支部の鬼、天狗混成部隊を相手にしていた。

 

【ジャララララ、雑魚が束になったところで俺に敵うわけねえだろう!!】

 

樹裂

【動きが遅えな】

 

 骸が動いた一瞬で3人の鬼と天狗の首が宙を舞い、樹裂が鋏を振るって天狗の身体を切り裂く。

 その光景を見た1人の鬼が叫ぶ。

 

「支部長逃げてください!!」

 

「私だけ逃げろと言うのですか」

 

「支部長はここから逃げて狼鬼さんにこの魔化魍たちのことを報告してください」

 

「くっ、でも」

              

「私たちだけでも時間を稼いでみ【現実はそう甘くねえんだよ】っ、がぶっ、う……」

 

 俺から目を背けていた天狗の背には胸から貫いた俺の尻尾が飛び出し、俺が器用に首に回すとそのままゴキリと首を折って天狗を殺す。

 さっきから気になっていたが、あの女。どうやら、マトモな戦闘経験が無いのだろう。だから、俺がいる前で油断しているんだ。

 

「クソ!! 死ね魔化m、ぶぎゃ」

 

 俺に向かおうとした鬼の顔に樹裂のストレートのように伸ばした鋏が鬼の面ごと下顎の肉ごと抉り、続いて振られた鋏が身体を横に両断した。

 

【恐れよ!】【怯えろ!!】【………絶望しろ】

 

 舞たちも髪を使って鬼や天狗の身体をバキバキと折り曲げている。

 鬼や天狗はまだ居るが、この感じだとそんなに時間は掛からねえな。

 

 

 

 

 

 

 そして、俺の思った通りに鬼たちはすぐに殺せた。

 味方が全滅して鬼の力も持たない女はその場から逃げようとする。

 

「ひいぃぃ!!」

 

 だが逃げようとして井伊宮の首にはいつの間にか接近した樹裂の鋏が食い込み、そのまま挟むと井伊宮の首は宙を舞う。

 首を無くした身体はそのまま倒れ、首は落下する途中で骸は尻尾で受け止めると、どんな死に顔か眺めようと井伊宮の首を見る。すると–––

 

「(私、首を切られてるのに、生きてる!)」

 

 首だけになった井伊宮は何故か生きており、その異様な光景に鎌首をもたげる骸に樹裂が答える。

 

樹裂

【これはオラの力さ。鋏で切ったものを()めるというタネも仕掛けもない力だ】

 

 留めるとは、動いているものを動かないようにする。

 

 継続しているものを継続できなくさせる。途絶えさせる。

 

 固定する。離れないようにする。やめさせる。制止する。

 

 関心を向ける。注意する。その場にとどめ置く。

 

 やめる。あとに残す。

 

 と色々な意味があるが、樹裂の言う『留める』とは、固定する力だ。

 

 樹裂ことタンコロリンいや、バケガニ種の魔化魍は鋏を基点とした能力を持つことが多い。

 元種であるバケガニは鋏から斬撃を放つ鋏から溶解泡を噴き出す

 バケガニ異常種 カルキノスは鋏で切った者の魂を奪うという能力を持つ。

 鋏刃はまだそういう能力を持っていないが、樹裂と出会えば数ヶ月後あるいは数年後には何かしらの能力を持つことになるだろう。

 

 話は樹裂の能力に戻そう。

 井伊宮が首を切られて何故生きているのか、それに樹裂の能力が関係する。

 樹裂が井伊宮の首を切った瞬間に首があった時と同じ状態に固定(・・)したのだ。

 メタいことを言うのなら某奇妙な冒険のギャングの1人が持つ拳で触れた対象にジッパーを取り付けるスタンド能力で胴体を首を分断された同じ組織の構成員と似た状態だ。

 だが上記と違うのは、例え身体が無くなったとしても首だけ無事ならその者は生きているということ。

 つまり、井伊宮は首さえ無事なら身体がどうなろうと生存するのだ。そう身体がどうなろうと(・・・・・)………

 

【へえ〜、なら、ゆっくりとこいつの身体を喰らう様を見せつけるとするか】

 

【いいね】【賛成】【…………味わう】

 

樹裂

【身体も生きてるから、新鮮そのもの】

 

【じゃあ先ずは俺から頂くぜ!】

 

 骸がそう言うと、地面に倒れる首の無い井伊宮の右腕に噛みつき、そのまま顎に力を込めると細腕は肉と骨ごと噛み砕かれ、血が噴き出て骸の口元が赤く汚れる。

 

 樹裂は鋏で井伊宮の左脚を挟み、そのまま脚を捻り切る。捻れた脚から血が溢れ、樹裂はそのままもう片方の鋏で肉を削り口元に運ぶ。

 

 舞が髪の毛を振るうと残った左腕と右脚は根本から切断され、髪で掴んだ舞たちはその腕や脚に口付けし肉を吸う。

 

 腕を喰い終わった骸は今度は一般的なサイズはある井伊宮の両胸に噛みつき、そのまま噛みちぎる。骸の口元から溢れる赤い血肉と白い脂が地面にボタボタと落ちていく。

 

 片脚を喰い終わった樹裂は今度は井伊宮の腹部に鋏を突き立てそのまま鋏を開くと真一文字に裂かれた腹から臓器が溢れて、樹裂は腹から垂れる腸を鋏で掴み、スルルと啜るように腸を喰らう。

 

 骨と皮だけになった腕と脚を捨て舞は樹裂が切り裂いた腹に髪の毛を侵入させて露出する腸の上にある臓器を一つずつ抜き取り、それぞれの首が吸うように喰らう。

 

「(やめて食べないで、私の身体を、やめて)」

 

 声帯のある喉から上を切られた故に喋ることが出来ず、身体が無くなっていく感覚はあるのに痛覚がない井伊宮は骸と樹裂、舞たちに解体するかのように喰われる自分の身体を見せつけられる。

 

「(助けて、狼鬼さん)」

 

 かつて自分を助けてくれた時のことを思い出しながら、この場にいない狼鬼に喋れない喉で助けを求める井伊宮だが、現実は無情で魔化魍に喰われる自分の身体を見て、涙を流す。

 こうして静岡支部支部長 井伊宮 宮子は骸と樹裂、舞に身体が喰い終わるまでその光景を見せつけられ、そして身体が骸と樹裂、舞の腹に納まった。

 

 そして、最後に残った首を骸が尾で拾い、その顔を見る。

 

「あ、ああ、あ」

 

 光の無くした瞳で涙を流しながら空を見る様は正に無様と言わんばかりに骸は首を宙に投げる。

 そして、落ちてくる井伊宮の首が最後に見たのは、赤黒く汚れた骨の口を開いて待つ骸の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、静岡支部支部長 井伊宮 宮子が骸たちの腹に収まった同時刻。

 

「さあ、そろそろに終いにしやしょう!!」

 

 もうひとつの戦いの決着が着こうとしていた。




如何でしたでしょうか?
愛する者を守りたいという気持ちでフラリビは頑張りました。
次回は後編と過激派サイドの話にしようかなと思っています。
では、次回もお楽しみにしてください。あと、感想欲しいな………

ーおまけー
迷家
【どうも、みなさん。おまけ、コーナーの時間で〜す】

迷家
【今日のゲストは、この〜方〜】


【テオイヘビの屍です。それでなんですかその喋り方は?】

迷家
【では、早速質問を〜させて貰います】


【……無視ですか?】

迷家
【最近見た〜あるカメラマンと、同じ〜喋り方です。
 では〜質問で〜す。】


【はあー、何を聞きたいの?】

迷家
【あなたは〜骸と〜同じ、種族〜なのですか〜?】


【骸と?】

迷家
【はい。私、とても、気になって〜いるのです】


【まあ、隠してることでも無いから言うけど、簡潔に言うと私と骸は似ているけど別の種族だね】

迷家
【違うん、ですか〜】


【外見という意味合いでは確かに似ているかもしれないけどね。そもそも私と骸は産まれ方が異なるから】

迷家
【産まれ方?】


【骸の方は個人のことになるからそこまで言えないけど、骸は『想いの力』で魔化魍になったの対して、私は『怨みの力』で魔化魍となった】

迷家
【怨み、ですか?】


【そう。それもただの怨みではなく『動物たちの怨み』。
 捨てられたり、虐待された動物が今まで向けていた人に対しての愛情が憎しみに変わり、その果てしない憎しみ、いや憎悪こそが私をテオイヘビに変えた。
 まあ、端的に言うなら骸は内的要因による魔化魍化、私は外的要因による魔化魍化というところ、これで質問の答えにはなった?】

迷家
【とても、勉強に〜なりました。おっと、そろそろ〜終わりですね】


【そう。じゃあ、小雨のところに帰らせてもらうよ】

迷家
【まあ、挨拶だけでも〜お願い、しますよ。
 では〜みなさん〜また〜お会い〜しましょう】


【さようなら】


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記録百拾参

こんばんは。
今回の話は静岡支部戦後編と弟子の1人を失い、同志である過激派の支部を2つも潰された狼鬼の視点です。
シン・仮面ライダー観ました。あれはあれで良いものでした。


 強制転移で支部長や鬼、天狗を飛ばした幽冥たちは残った静岡支部の鬼や天狗と戦っていた。

 そんな中で異質な光景が広がる所があった。

 

「焼ける!! 焼けるように痒い!! 痒い痒い痒い痒い痒いカユイカユイかゆい痒い痒い!!」

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」 「ううう、やめてくれ、やめてくれ!!」 「ああ、そこにいたんだな」

 

「……………」 「蟲が蟲が俺の身体の上で這いずってる。取ってくれ!! 取ってくれえええ!!」

 

 それは鬼や天狗たちがそれぞれ違うことを言って転がる光景だ。

 ある鬼は身体が焼かれるように痒いと言いながら全身を掻きむしり。

 

 ある天狗は焦点の合わない目で大笑いし。

 

 ある天狗は自分の戦輪獣を使って自分の身体を痛めつけておいて止めろと叫び。

 

 ある鬼は虚空に手を伸ばして涙を流し。

 

 ある鬼は面の中から噴き出た血の中に沈み。

 

 ある天狗は居るはずのない蟲が全身を這いずり回ってると言い必死に自分の体から退かそうと踠き暴れる。

 

 そして、これらの光景を生み出したものがいる。それが–––

 

予言

【どう、凄いでしょ。私以外と戦えるんですよね。うん。ザコじゃないのよね。うん。

 ザコっと思って、油断したね。それがこの結果、どう、あ!! 分かるわけないか〜ね〜】

 

 そう胡散臭い雰囲気があり、煽るように、捲し立てるように言うこの予言こそ、この光景を生み出した張本人。

 

【アレ、なに?】

 

 予言に伸縮自在の尾で指差す兜が予言を知る盃に聞く。

 

【クダンいや予言の……なんだっけ? ちょっと待って思い出すから!

 あークダン光? 違う! えっと、件フラッシュ! 違う! うーーん思い出せない】

 

予言

件ビーム! も〜う忘れるなんてヒッドーーーイ! 全世界の予言ファンが怒ってるよ!】

 

【知るか! ていうか名前貰ったばかりでお前の名前知ってるヤツ居るはずないでしょ!!】

 

 荒れる盃の代わりに説明しよう。

 予言の放った件ビームは簡単に言うなら、命中した相手にあらゆる状態異常をランダムに付与するという変わった技(?)だ。

 鬼や天狗たちの異常は雑魚魔化魍と侮ったばっかりにこのような目に遭ってのだ。

 何が起きるかは件ビームを受けない限りは分からない。まさに胡散臭さの塊ともいえる魔化魍の攻撃だ。

 因みに予言は件ビームと言っているが、実際はクダン種のほとんどの魔化魍が使うことが出来るのだが予言は名前を付けて特別感に浸りたいだけだったりする。

 

「よくも仲間を!!」

 

 無銘の鬼がそう叫び、予言と会話する盃に量産型音撃棒を振り下ろす。

 

【それ効かないよ】

 

 盃の言葉通りに音撃棒による攻撃は盃の肌に触れるとぬるんと滑り、音撃棒は狙ってない地面を叩く。

 

「なっ?!」

 

【効かないって言ったじゃん。まあ、これでおしまい】

 

「ぐっ、毒か!」

 

 盃が口から色の無い煙を鬼に向けて吹き付ける。

 鬼は煙を吸わないように面の口元を抑えるが–––

 

「あれぇ、なぁんで急に眩暈が、ううきもぢ悪い、うう…」

 

大尊

【頂きます】

 

 頭はぐわんぐわん、身体がふらふらと揺れたと思ったら倒れた鬼の身体を大尊は捉え、そのまま丸呑みにした。

 

大尊

【なんか、酔っ払いそうな味】

 

 大尊がそう感想を言うのも無理は無い。何故なら、大尊が喰らった鬼の死因は急性アルコール中毒。

 それはそうだろう。身体の中にある血液全てを酒に変えられた(・・・・・・・・・・・・)のだから。

 

 盃ことシュチュウは、『2大変水魔化魍』といわれている。

 あらゆる液体を油に変える魔化魍 アブラスマシ。

 

 あらゆる液体を酒に変える魔化魍 シュチュウ。

 

 そう液体(・・)()に変える。

 人間の身体は70%が水分で出来ている。その70%を酒に変えられたら、それもアルコール度数が驚異の96度の酒スピリタスに変えられたら。

 ただでさえもガソリンと同等の第4類危険物としても扱われる酒が全身を周り、肉体のあらゆる機能が一気に麻痺し、その麻痺によって脳機能も麻痺し最終的に鬼を死に至らしめた。

 

大尊

【もうちょっと、この酔っ払い感がなくなったらいいかも】

 

【ええええ………】

 

 そんな酒浸りな死体を喰らっておいてこんな感想が言う大尊に軽くひく盃。

 

【うーーーん】

 

 そんな光景の隣では跳が術で仕留めた鬼と天狗の死体の前で唸り声をあげていた。

 

【どうした?】

 

【乾でやすか。いや、丁度良さそうな死体がありやしたが、ちと空間倉庫の空きが足りなくて、血だけだったら入るんでやすが】

 

 跳の手には満杯に詰まった血の入った瓶があり、鬼や天狗の身体を見れば、一部に身体の中まで見える穴が空いており、そこから血だけ抜き取ったのだろう。

 話は変わるが、幽冥の家族の何名かは覚えている空間倉庫の術は、術者の側の空間に穴を開け倉庫のように物を出し入れする事ができる術なのだが、その中に仕舞える収納量は決して無限では無い。鍛錬を積むことによってその収納量を多少増やすことは可能だが、術者によって収納可能な量は異なる。

 そんな跳の空間倉庫の中は『吸血小豆』や『死体肥料』、『血液肥料』などのものが多く仕舞われており、今その収納限界が来てしまい如何するかと悩んでいた。

 

【軽くなればその死体は入るのか?】

 

【………まあ、多少軽くなればギリギリというところでやすね】

 

 血の瓶を仕舞い、顎に手を当て少し考えた跳が答える。

 

【なら、少し待て】

 

 乾がそう言うと、鬼と天狗の死体に近付き、背に生えた無数の触手が死体に触れる。すると–––

 

【なっ!!】

 

 触手の触れた鬼と天狗の死体が見る見るうちに乾いていく。

 寄生タイプ蟲系魔化魍として真っ先に名が上がるヒダルガミ種。道行く人間に寄生してその栄養を宿主の人間に気付かれないように奪って成長する魔化魍。その特徴の1つとして触れたものの水分または栄養を奪う固有能力が挙げられる。宿主の人間から栄養供給が望めない時、宿主が突然死んでしまった時に宿主の身体の中でその全ての栄養または水分を奪い、その宿主の身体から出て次の宿主を探す。それを繰り返して成長する魔化魍がヒダルガミだ。

 そんなヒダルガミの触手が触れた死体は数十秒も経たぬ間に水分がほぼ無くなりミイラと化してその場に転がっていた。

 

【こんなもんか?】

 

【はい。充分でやす】

 

 死体を確認した跳は空間倉庫の中へと死体を仕舞い込んだ。

 

気になるんだが……その死体はどうするんですか?」

 

【ええと、曙美で良かったでやすか?】

 

「はい」

 

【まあ、死体はこの『吸血小豆』に使う新しい肥料にしようと思いやしてね】

 

「ああ、なるほど……………それでその小豆は美味しいのですか?」

 

 曙美が跳の顔に近付き、ジッと跳の顔を見る。

 

【おお、う、美味いでやすよ】

 

「では、空間倉庫の中の死体を全部出して貰っていいですか。乾が乾燥させてくれますから」

 

【気にならないのでやすか?】

 

「何がですか?」

 

【死体を利用してるとはいえ人間を肥料にして育ててるんでやすよ。乾の宿主といえ人間を喰ってるようなもんでやすよ】

 

「別に気にしませんよ」

 

【なっ!!】

 

 目の前の少女の解答に跳は驚愕する。

 寄生タイプの魔化魍は人間に寄生してる際に人間を喰らうことはない。それを行えば、直ぐに猛士に気付かれるのと寄生した宿主の精神が崩壊するためだ。

 寄生タイプの魔化魍は寄生した宿主の精神的影響を多少受けることがある。過度な精神的影響によって自身の成長が阻害され、下手をすればそれが理由で寄生タイプの魔化魍が死亡する場合もある。故に寄生タイプの魔化魍、特にヒダルガミのような魔化魍にとって宿主を介して人間を喰うことはない。

 

「ご飯が満足に食べれなかった頃に比べたら、死体を使って育てた食材に不満はありませんよ。それに………おっと、それ以上はダメだな。喋らせねえよ

 

 曙美が何かを喋ろうとした時に突然、乾の姿に変わり少女の意識は奥底へと引っ込んでしまった。

 

【すまんな。こいつ(曙美)はちょっと………色々あってな】

 

【………いや、ただ少し変わっているなと】

 

【ああ、間違いなく曙美は変わり者だよ……………さて、死体を出してくれ】

 

【そうでやした】

 

 跳は空間倉庫から新たな死体を出して、乾がその死体の水分を奪う作業を始めた。

 因みにそれを遠くで見た大尊と盃、予言は殺した死体を持っていたことで水分を奪う死体が増えてしまい乾はしばらくの間、干物を見て顔をしかめる事が増えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 場所は再び変わり。

 胸元に穴の空いた死体や身体に無数の手裏剣が突き刺さった死体、無数の穴で身体が四散した無惨な死体などが転がっている。

 

「はああ、がべぇ…」

 

拳牙

【…ふん。温い! ハッ!!】

 

「あぎゃ」

 

 拳牙の拳が鬼の身体を貫き、その身から拳を引き抜き、離れた位置にいる鬼の身体を真横からの蹴りで真っ二つにする。

 

チュン、チュン

 

「ああああああああぁぁぁぁぁ」

 

 幻笛の奏でる横笛の音が鬼の頭に響き、その音に苦しみながら頭を抑えて鬼は事切れる。

 

ピアアアアアアア

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 兜の尾から機関銃のように連続で放たれる尻尾先が盾のように前に聳え立った戦輪獣ごと天狗を貫く。

 そして、フグルマヨウヒの札を使って暴れる幽冥は自分に向かってくる戦輪獣に向けて札を飛ばす。

 

白く凍てつけ

 

 幽冥の飛ばした札は戦輪獣 瑠璃牙に貼り付くと一瞬の光と共にその身を凍結され機能を停止する。

 

「る、瑠璃牙が…これは!「赤く燃え上がれ」があああああああ!!」

 

 自分の戦輪獣が一瞬で機能停止した事実についていけない天狗は幽冥の札に気付いた時には、幽冥の(まじな)いを聞いた札が発火し、その身は炎に包まれ黒焦げの死体へと変わる。

 

「クソっ!! 止めろおおおお!!」

 

 鬼面を中心に数珠のような飾りが鉢巻のように一週した濃い茶色で縁取りされた頭部にその後ろに斜めに生える2本の角、両腕にも紫色の数珠飾りが付いている鬼、崗鬼が惨劇を生み出す幽冥たちに向かおうとするも–––

 

クルルウウウウウ

 

 橙色に変色した2本の爪を指に挟んで振るう三尸が崗鬼の行動を妨害する。

 

「ちっ! またそれか!!」

 

クルルルウウウウ

 

 三尸は徐々に白くなる2本の爪を崗鬼に投擲する。投擲された爪を崗鬼は音撃弦 光崗を振るって叩き割る。

 それを見て三尸は新たな爪を伸ばして折り、尾の提灯に爪を当てて、爪を橙色に染める。

 

「崗鬼、クソッ! 戦輪獣さえあれば!!」

 

 その様子を歯痒い思いで眺める者がいた。

 自身の戦輪獣を失い、三尸と崗鬼の戦いを見ることしかできない天狗の相良は何かないかと見回すと、爪を熱している三尸の側に光るものを見つけ、それが何かと気付くとそこに向かって走りだす。

 

「何を、はっ! やめろ相良!!」

 

 突然駆け出した相良の姿とその先に見つけた物で相良が何をしようとするのかを気付いた崗鬼は声を荒げ、止めようとする。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 だが、相良は止まらず光るもの否、落ちていた音叉刀を拾い、垂直に構え三尸の身体へ突き刺した。

 

三尸

【……危なかった。あと一歩遅れてたらヤバかった】

 

「がぶっ……」

 

 だが、相良の音叉刀は三尸の硬質化した皮膚に阻まれて刃先は砕け、相良の身体には三尸の2本の爪が深く食い込んでいた。

 

「崗、鬼さん………」

 

 そのまま相良は三尸の腕の上で倒れるように事切れて、三尸は爪を引き抜くと相良は地面に崩れ落ちる。三尸は爪に付いた血を崗鬼に見せつけるようにベロリと舐めとる。

 

「貴様ああああ!!」

 

 『お前のせいで仲間が死んだぞ』と言わんばかりの明らかな挑発に崗鬼は激昂した。

 激昂の怒りを力に変えて三尸に音撃弦を振るうと重い金属同士の衝突音が響く。

 

「なっ!!」

 

「私の家族をやらせるわけないでしょ!!」

 

 目の前には、崗鬼以外の鬼と天狗を仕留めた幽冥がシュテンドウジの太刀を使い崗鬼の音撃弦による攻撃を峰で防いでいた。

 

「貴様、よくも仲間を!!」

 

「仲間って、無抵抗の魔化魍を残酷に殺してきた鬼が仲間なんて笑わせることを言うなっ!!」

 

 幽冥が太刀を横薙ぎに振るった衝撃が目の前の崗鬼に当たり、後方に吹き飛ばす。

 

「がはっ……ちっ!」

 

 転がる崗鬼に容赦なく追い討ちを掛ける幽冥に舌打ちを打つ崗鬼は音撃弦にバックルに収まっている音撃震 花崗を音撃弦 光崗に嵌め込むと音撃弦の真横に黄色い刃が飛び出し、幽冥の太刀に向かって音撃弦を打ち込む。

 

 幽冥の太刀と崗鬼の音撃弦がぶつかると音撃震 花崗から山吹色の光が迸り、幽冥の持つ太刀にまで電撃が流れる。

 

「ぐうっ! ハアアアアア!!」

 

 崗鬼の持つ音撃震 花崗の内部には周囲の静電気を蓄積し、音撃弦 光崗に嵌め込むことによって溜めた静電気を電気に変換、増幅させてそれを攻撃や音撃に転じる特殊機構が付いている。

 幽冥たちがこの静岡支部に着く前にフラリビの翼を負傷させたのはこれだ。

 

 そんなことを知る筈もない幽冥は太刀を崗鬼に振い続けるもさっきと同じように太刀が音撃弦に触れるたびに電撃が流れる。

 流石に同じことが続いたことで迂闊に音撃弦に触れるわけにはいかなくなった幽冥は考える。

 

「(流石にこれ以上の戦いは不味いし、あれを使うしかないか)」

 

 このまま戦いを続けるのは、もし他の中部地方からの増援や後の『8人の鬼』との戦いに影響すると判断した幽冥は最近編み出した技を使うことにした。

 

刃よ銀に染まれ肥大せよ万全たれ風と化せ、さらに風よ集え!!」

 

 幽冥が(まじな)いを唱えながらシュテンドウジの太刀に札を貼り付けていく。

 幽冥が使ったのは、強化に部類されるフグルマヨウヒの札だ。

 刃よ銀に染まれは刀身を持つ武器の威力と強度を上げ、肥大せよは貼り付けた対象を巨大化させ、万全たれは貼り付けた者の身体強化、風と化せは貼り付けた者の敏捷性を上げ、さらにイヌガミの力で風を身体や太刀に鎧のように纏わせる崗鬼の音撃弦対策だ。

 

 これが幽冥の編み出した技。主軸として使う王の力とは別の王の力を同時に使う。

 自身の身体の中に王の意識があり、自身の肉体を媒体にその能力を行使することができる幽冥にしか、9代目魔化魍の王にしか出来ない荒技。

 『魔進輝(まじんき)』に次ぐ、幽冥の新たな力。その名は、『魔歴王闘法(まれきおうとうほう)』。

 

「この一撃で終わらせる!」

 

 重ね掛けした強化の札によって大型魔化魍に匹敵するほどの大きさへと変化した太刀を構え、札とイヌガミの力で強化された幽冥は崗鬼に向かって一気に急接近し、それを振り下ろす。

 

「っ!! ぐおおおおおおおお!!」

 

 振り下ろされた太刀から身を守るために崗鬼は音撃弦 光崗を頭上に構えて巨大太刀を受け止める。しかし–––

 

「はあああああああああああ!!」

 

「おおおおおおおおおおおお!! がはっ!」

 

 受け止めるために使った音撃弦は真っ二つに割れて、そのまま太刀による一閃が崗鬼の身体に刻まれる。

 崗鬼の身体から吹き出る血が幽冥の上に血の雨として降り注ぎ、斬られた崗鬼はそのまま倒れる。

 

「がはっ」

 

 幽冥の攻撃は間違いなく崗鬼の命を奪うはずだったが、崗鬼の最後の足掻きか身体を捻ったことで致命傷となることを防いだ。だが、動くことはもう出来ないだろう。

 

「言い残すことはなにかある?」

 

 全力の攻撃で札の効果が切れたとはいえ、素の状態だったとしても鬼は軽く両断することが出来る太刀を突き出され直ぐにでも命を奪えるように首には刃が当てられている崗鬼。

 だが、過激派に属する鬼は命乞いを言うことはなかった。

 

「…………く、くたばれ、魔化魍!!」

 

「………そう。じゃあ、さようなら」

 

 幽冥が太刀を振り上げた瞬間。

 崗鬼が突然光りはじめ、何かが起きると判断した幽冥は太刀を振り下ろす。だが–––

 

「なっ!!」

 

 幽冥の振り下ろした太刀の先には崗鬼は居なかった。

 

クケルゥゥゥゥゥゥ

 

 声の方に身体を向けると、そこに殺そうとした崗鬼を抱えた魔化魍が立っていた。

 全身を覆うほどに透明度が高い大きな抜け殻で出来た服を羽織り、赤と藍色のオッドアイ、濃紫色の肌を持ち、尾先に橙色の火の灯った蝋燭の尾を持ち、二足歩行する角蜥蜴の魔化魍が唸っていた。

 

【クケルゥゥゥ。悪いな『契約者』を殺されるのはオレサマも困るんだよ】

 

「契約者? 魔化魍だというのは分かるけど何者?」

 

 太刀を向ける幽冥に魔化魍は口を開く。

 

【オレサマは悪魔魔化魍 チュパカブラ。

 魔化魍の王とその仲間たち。オレサマはコイツと一緒に逃げさせてもらうぜ】

 

 チュパカブラが名乗ると、幽冥の後ろには後処理を終えた家族たちが集まっていた。

 

【悪魔魔化魍って、オセやアロケルの仲間でやすか!!】

 

【クケルゥゥゥ。それをオレサマが答えると思うか?】

 

三尸

【なら、実力行使だ!!】

 

【覚悟っ!!】

 

 そう言って、三尸と兜が動こうとした瞬間–––

 

【クケルゥゥゥ。甘いな!!】

 

 チュパカブラは抜け殻に手を突っ込み、何かを此方に振り撒き、撒いたものに向けて更に術で生み出した風を使って広範囲にばら撒く。

 粉は太陽の光を反射させて、凄まじい光が辺りを照らす。

 

三尸、兜

【【ぐうぅ!】】

 

 光が収まると、そこには崗鬼もチュパカブラも居らず、光の中に紛れて消えたということしか分からなかった。

 

「三尸、兜、大丈夫!!」

 

三尸

【目が、くそ! 見えない】

 

【うう、痛い!】

 

 目を抑える三尸とゴロゴロと転がる兜。

 

治癒!!】

 

 跳が2人に近付き、術を掛ける。

 痛みが引いたのか、三尸は手を離し、兜は動きを止める。

 

治癒を掛けやしたので失明も無いでしょうが、回復のため、安静にしたほうがいいでやす】

 

三尸

【すまんな跳】

 

【ありがとう】

 

 跳の治癒のおかげで幸い、失明する心配はないようだが、跳の言う通り安静のため三尸と兜は次の戦闘は休んでもらおう。

 しかし、鬼の1人には逃げられたものの、支部長、鬼や天狗のほとんどは死んでおり、静岡支部を壊滅させたと言えるだろう。

 そして、私は静岡支部内の物を物色して、めぼしい物を頂き、家族とフラリビ、そして共存派の鬼で神通 希美と共に跳の術で『鳥獣蟲同盟』の住処(すみか)に帰るのだった。

 

SIDEチュパカブラ

 どこかの森の中。

 そんな雑木林が目立つ森の中で光輝き、その光の中からチュパカブラと抱えられた崗鬼が現れる。

 

【クケルゥゥゥ。ここなら大丈夫だろう】

 

 オレサマはあの場から攫った崗鬼を樹に寄り掛からせる。

 

「……う、ぐう〜、何故、俺を助けた?」

 

 目を覚ました崗鬼はそんなことを聞いてくる。

 

【クケルゥゥゥ、『契約』のためさ】

 

「契約、だと」

 

【クケルゥゥゥ。そう『契約』のため、オマエが死んだら。オレサマは強くなれないからな】

 

 悪魔魔化魍は従来の魔化魍と違い、従来の食事よりも『契約』を介した食事を行うことによって強くなる傾向にある。

 それはどの悪魔魔化魍も同じであり、『契約』を介しての食事を行ったとあるツチグモ種の悪魔魔化魍は他の悪魔魔化魍とは一線を越した力を持っていた。

 故に悪魔魔化魍にとって『契約』は絶対であり、『契約』を交わした者を『契約』による対価以外で死なせることはない。

 

「や、はり魔化魍は魔化魍だな………」

 

【クケルゥゥゥ。今は眠りな】

 

 チュパカブラはそう言って、抜け殻の隙間から取り出した眠り粉を崗鬼に振りかけると、崗鬼の頭は樹に寄り掛かるように倒れて、眠るのだった。

 

 契約のためとコイツ(崗鬼)には言ったが……………本当は違う。

 オレサマはコイツ(崗鬼)を助けたかった。気に入っているしな。

 

 最初は驚いたぜ。まさかあの過激派の鬼から『契約』を持ちかけられるとはな。

 そっからオレサマの気まぐれでコイツと『契約』を結んで、はや半年。

 

 いつからか、コイツ(崗鬼)に『契約』に呼ばれるのを楽しみに待ち、コイツ(崗鬼)に会いたいと思うようになってた。

 

 …………ん? 待て。オレサマは今、何を思った。

 オレサマがコイツ(崗鬼)に会いたい? オレサマが? ………いやいや、そんな訳ない。

 あり得ない。あり得てはならない。オレサマは魔化魍。やつは鬼。相容れぬ者同士、『契約』を結んだ関係なだけだ。否定せねば。

 でも、何でだ。否定しようと考えると胸がズキンと痛くなる。

 

 …………こんな気持ちは初めてだ。今度、お母様に聞いてみよう。

 

 そうしてチュパカブラは眠る崗鬼を連れて、魔法陣を使って、何処かに消えた。

 

SIDE狼鬼

 場所は変わり、此処は猛士岐阜支部。

『8人の鬼』のひとり狼鬼の所属する支部だ。

 

 そんな支部の会議室のひとつに1人の男が座っていた。

 その周りは何かが暴れたかのように散らかっていて、男の座る椅子と机を除いて、ほとんどの家具が壊れていた。

 そして、その机の上も綺麗とは言えない。雑に注いだせいで机の上はびちゃびちゃに濡れており、その側には原因のお猪口に酒が並々に注がれている。

 

「……………」

 

 男、いや狼鬼はお猪口の中の酒を一気に呑み込む。

 そして、お猪口を雑に机に置いて、狼鬼は自身の変身鬼笛 狼鳴を出す。

 

「クソ!!」

 

 そして、狼鳴を机に叩きつけ、音を立てながら勢いよく床に落ちる。

 此処までこの男が荒れているのは、ある報告(・・)が入ったからだ。

 

 そう幽冥たちが襲撃を掛けた猛士長野支部と猛士静岡支部の壊滅の報告だ。

 

 狼鬼が猛士に所属し修行の末に正式に『8人の鬼』と認められ、この中部地方岐阜支部で戦うようになって5年。

 魔化魍の王が目覚めたことで活発化し始めた魔化魍たちによって壊滅する支部が他の地方支部で起きる中、中部地方を魔化魍から守ってきたと自負するこの男は、初めて聞かされた自分のいる地方支部での壊滅の知らせは狼鬼の心に深く傷を残した。

 

 俺は強くなった。俺の手にかかれば数百年に1度しか現れない伝説の魔化魍だろうと1人で戦える。

 この5年間魔化魍からこの地を、支部本部を守った。だが、壊滅しなかっただけで被害が無かった訳ではない。此処にきて一番酷かったのは5年前。 

 俺が此処に配属された時、この岐阜支部に襲撃を掛けたツチグモの異常種によって支部内のメンバーの半分が死に、死に間際の悪足掻きで猛士と関係の無い民間人は何十人も死んだ。その時に誓った。『魔化魍を見つけ次第すぐに殺す、犠牲者を出さないために』と、それを胸に刻みながら魔化魍を殺し続けて5年。この中部地方は守れてると思っていた。

 

 でも、死んだ。

 一緒に魔化魍を清めた戦友も。

 

 新人の頃に世話になった先輩も。

 

 酒を呑んで笑い合った後輩も。

 

 俺を心配し怒鳴ってた支部長も。

 

 魔化魍を討ち滅ぼす誓いを立てた同志も。

 

 俺の手で育てた次世代の弟子も。

 

 みんな死んだ。

 

 目に入ったお猪口に再び酒を注ごうとすると–––

 

「おやめください。体に障りますよ」

 

 後ろから伸びた手がお猪口と瓶を持っていく。

 

「五月蝿え。俺がどうしようと勝手だろう吹舞鬼」

 

 狼鬼の振り向いた先には取り上げたお猪口と瓶を持つ青年 吹舞鬼が立っていた。

 

「やけ酒はいけません。今、魔化魍から襲撃を掛けられたら狼鬼さん死にますよ」

 

「へっ、俺がこの程度の酒で殺せるわけねえだろ。それを返せ」

 

「いけません。ただでさえもこの間、お医者様から酒を控えるようにと言われたばかりなのですから」

 

「俺の酒をどうしようが勝手だろう!! さっさと返せ!!」

 

「いけません………これ以上呑むと仰るのなら実力で止めさせて頂きます」

 

 吹舞鬼は服から変身音叉を取り出すといつでも鬼へ変われるように構え、それを見た狼鬼も地面に転がる狼鳴を拾い、変身できるように口元に持っていく。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 互いに睨み合う沈黙の中、先に声を上げたのは–––

 

「……分かった。降参だ。もう呑まねえよ」

 

 狼鬼だった。

 その言葉を聞いて吹舞鬼も変身音叉を仕舞い、笑みを浮かべる。

 

「良かったです。では、これを片付けますね」

 

 そう言って吹舞鬼はお猪口と瓶を持って部屋から出て行った。

 それを見た狼鬼は倒れてる椅子を戻して、それに座る。

 

「全く、余計な世話だっつの」

 

 口でそう言いながらも、少し笑みを浮かべて狼鬼は思い出す。

 

 あのお節介好きな鬼、吹舞鬼がこの支部に来てもう3年になる。

 初めは随分変わった鬼が来たと思った。そりゃそうだ。

 

 夏だというのに首にマフラーを巻く(・・・・・・・・・)鬼。

 当時はなんて変わり者が来たと思った。此処に来る前は大阪第4支部、北海道第1支部、佐賀支部と転属を繰り返し、この岐阜支部にやって来た。

 最初は使えなければ、何処か別の支部に飛ばす予定だったが魔化魍との戦闘を行った際にその気持ちは無くなった。

 単純にこの男は強かった。これほどの強さを持つ鬼がまだいたという喜びで、俺の片腕として側に起き、過激派の中では上位に食い込むほどの実力となった。

 

 俺と吹舞鬼の力があればヤツ(・・)を殺せる。

 俺が狙うあの魔化魍を殺して初めて、俺は今までの犠牲が無駄では無かったと胸を張って言えるようになる。




如何でしたでしょうか?
後半も無事決着。静岡支部壊滅、崗鬼はチュパカブラに攫われました。そして、ようやく幽冥と共存派が接触することが出来ました。長かった……
次回はそんな共存派の話を書こうかなと思っています。
では、次回もお楽しみに!

ーおまけー
ドクター
【ふむ。今回は私が担当ですか】


【あっしもいるでやすよ】

ドクター
【跳ですか。おや、そちらの方々は?】


【あっしと同じ王に仕える魔化魍とその妖姫でやす】


【初め、まして。俺は、砦】

「は、灰でしゅ、うう〜しひゃ()噛んでゃ()

ドクター
【既に知ってるかもしれませんが、此処ではドクターと呼ばれています】


【有名な、変わり者と、聞いた】

「こら砦、失礼なこと言わないの」

ドクター
【まあ、私自身変わり者は自覚しています。さして気にしていません。
 それでは、今日のリクエストはそちらの御二方から聞きましょう】


【リクエスト? 迷家と、違うのか?】


【そうでやす。ドクターの解説は此方からのどんな魔化魍の解説を聞きたいのかと要望に答えるスタイルでやす】


【ならば、頑丈であり、敏捷性の、高い大型魔化魍】


【今日はあっしは解説を聴く方に回りやす】

「でしたら、砦と同じヌリカベ種の解説をお願いします」

ドクター
【ヌリカベ種で、頑丈で敏捷性が高い大型、ふむ一部違いますが、決まりました。
 今日紹介させて貰うのは、ヌリカベ異常種 アシモギババアです】

「アシモギ、ババア?」


【種族名から、メスのヌリカベが、進化した、異常種か?】

ドクター
【その通り。アシモギババアは、雌のヌリカベ種が『脚収集行脚』という行動をすることで進化する異常種】

「え、えと脚しゅう、ぎ、ううう、まひゃ()、しひゃ()が〜」

ドクター
【言いづらいのでしたら無理に言わなくても大丈夫ですよ。
 『脚収集行脚』とは、ヌリカベ種を除いた魔化魍25種と人間25人の脚を集める単純(シンプル)なことをします】

いひゃいひゃ(いやいや)じぇん(ぜん)ぜん、しんふりゅ(ぷる)じゃにゃ()い」


【質問、脚だけ、なのか?】

ドクター
【ええ。脚だけです。それも生きている者の脚。
 なので、脚を奪ったあとには、傷口を塞いだりしていますね死んだら駄目なので、まあ、人間の場合はそのまま喰らっても問題ないようですが】

ドクター
【アシモギババアの姿はある一点を除いて基本的には同じ姿です】


【一点でやすか?】

ドクター
【そう。海牛のような頭部に、表面が少し(ぬめ)っている大樹の如き身体に、その身体を蓑虫の蓑と藁、メカブやワカメなどの海藻類が混じったような特徴的な体表に覆われています。そして此処が他と違う点です。
 その身体を支えるのは25種の魔化魍と25人の人間から奪った脚。それがアシモギババア最大の特徴であり、他のアシモギババアとは違う点ですね】


【なるほど、確かに、それなら、違う点、といえる】

「確かに同じ脚を奪うとは限らないからね」

ドクター
【そうです。アシモギババアの脚は必ず同じ物ではないのです。私が知る限りでは50本の脚全てがある種族で統一された魔化魍の脚だったり、その逆の全て人間の脚のアシモギババアもいました】

「25ずつじゃないんですか!?」

ドクター
【基本的は25ずつらしいのですが、正確に言うとしたら50の人間か魔化魍の脚が必要ということでしょう】


【いいかげんでやすね】


【50という、数は、確実か】

ドクター
【そうですね。
 では、解説に戻りましょう。アシモギババアの特徴で挙げられるのは先ず、速さ、敏捷さです】

ドクター
【アシモギババアの脚は解説した通り、50本の脚があります。
 その50本の脚を全て動かしてるのではなく、10本ずつに分け、それらの脚を交代交代で動かしています】


【最大、活動、時間は?】

ドクター
【以前の私のところに治療に来たアシモギババアは最大168時間は休みなしで動けると言っていりましたが、正直当てにはならないでしょうね】

「どうしてですか?」

ドクター
【そのアシモギババア以外にも質問してみたことがあるのですが、あるものは144時間、あるものは72時間、またあるものは192時間と、それぞれ言った時間が異なるのです。それでもどのアシモギババアも72時間以上は走れるということは分かっています】

「72時間も走れる。羨ましいなあ」


【いやいや、そんなに走ってどうするんでやすか?!】


【………灰、まあ、頑張れ】

「ありがとう砦」

ドクター
【次の特徴ですが、頑丈な身体と言いたいですが、アシモギババアは頑丈ではありません】

「え、頑丈じゃないんですか!?」


【しかし、頑丈な、体質に、似たなにかが、ある?】

ドクター
【砦の言う通り、アシモギババアの体質は頑丈というより硬軟です】

「硬軟?」


【硬くて、軟らかい、読んで、字の如し】

ドクター
【アシモギババアの身体は太い幹の大木のように硬いようで、軟体類のように妙な軟らかさがあり、おまけに身体の至るところから体内の水分を逃さないように粘液と体表で覆っている為に、ヌメヌメしています。
 そして、その特徴的な体質によってアシモギババアは音撃武器に対して僅かながら耐性があります】

「鬼の音撃武器が効かないんですか?」


【それは違いやすね灰。効かないのではなく耐性といっておりやすから】

ドクター
【跳の言う通り、より正確に言うのならば、粘液と体表によって音撃棒や音撃弦は当てられたとしても滑って攻撃がまともに入りづらく、音撃管の空気弾は硬軟体質の身体でダメージがありません】


【なるほど、だが、弱点は、見えた】

「え、そんな凄そうな身体なのに弱点あるの!?」

ドクター
【では、その弱点とは?】


【おそらく、乾燥だろう。あとは、鬼の鬼炎術とかか】


【追加で言うのなら、あっしら魔化魍の場合は、赤の属性の魔化魍とそれに連なる炎系の術ってところでやしょう】

ドクター
【そのとおり。アシモギババアは乾燥、そして炎系の術とそれに連なる技が弱点です。
 炎によって粘液と体表が乾かされ、さらに体内の水分も減らされるので、アシモギババアは著しく弱体化します】

「そんな強そうな魔化魍でも弱点ってあるんだね」

ドクター
【弱点はどの魔化魍に必ず存在します………………………… 絶対的な無敵なんてあり得ない

「え?」

ドクター
【いえ、なんでもありません。で、どうでした解説は?】


【参考と、なった。俺は、性別的に、無理だが】

「私もアシモギババアのように強くならないとって思った」


【ドクターの話は色々と学ばせてもらってやす。次も楽しみでやす】

ドクター
【それは良かったです。では、今日は此処までです。またの機会にお会いしましょう】


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記録百拾肆

こんばんは。
前回の話で中部地方の主力を集め、幽冥たちを殺そうとする狼鬼たちとの戦いが始まります。


SIDE狼鬼

 猛士中部地方岐阜支部にある会議室。

 昨日荒れた部屋で流石に会議は出来ないので違う部屋で行っているが、長いこと使ってなかったせいで少し埃っぽい。

 まあ、そんなことを気にする暇もないのでそのまま会議を進める。

 

 俺の目の前には、壊滅した長野支部と静岡支部を除いた中部地方支部の支部長と支部長の代わりに代表として派遣された鬼たちが集まっている。

 

「早速で悪いが情報はもう回ってるだろうから報告の意味はねえかもしれないが伝えておく。

 昨日、魔化魍共の襲撃を受けて、長野支部と静岡支部が壊滅した」

 

「くそっ!! 魔化魍共め!」

 

 苛立ちの言葉と共に机に勢いよく拳を叩きつけるのは、猛士中部地方山梨支部の代表 飛沫鬼だ。

 

「落ち着いてください飛沫鬼さん」

 

 飛沫鬼を宥めるのは手に多量の紙束を抱えた猛士中部地方愛知支部支部長の葉栄 灯子。

 

「だが飛沫鬼の怒る気持ちは分かる」

 

 猛士中部地方新潟支部の代表 芯鬼は飛沫鬼の行動に同意の言葉を述べる。

 

「俺も分かるぜ。隣のアホとは違うからなあ」

 

 猛士中部地方石川支部の代表 言鬼は隣に座る男を煽る。

 

「おう、ヤルか言鬼!!」

 

 猛士中部地方富山支部の代表 喧鬼は言鬼の喧嘩を買おうとその胸ぐらを掴もうとする。

 

「はあーー。喧嘩は辞めてください。ほら、灯子さんからの資料を受け取ってください」

 

 喧鬼の手を掴んでいるのは猛士中部地方三重支部の代表 労鬼はため息を吐きながら喧鬼を宥めつつ、全員に資料を配る。

 

「日に日に魔化魍の討伐率が減っていますね」

 

 その資料を真っ先に開いて中を確認するのは猛士中部地方福井支部の代表 掃鬼で、討伐出来た魔化魍の数が減っている事実に難しい顔をする。

 

「ここ最近あやつらの動きは戦いではなく逃走だったからの。おそらく他の地方に逃がされたのだろうなあ」

 

 この中では最高齢の猛士中部地方岐阜支部支部長の吾妻 与助はその原因を述べた。

 会議でのいつもの光景を見た俺は灯子に声をかける。

 

「灯子。リストは纏まったのか?」

 

「はい狼鬼さん。『鳥獣蟲同盟』の魔化魍のリストは出来ています。資料の付随にしてる別紙に詳細は書いてあります」

 

 そう言って、狼鬼は葉栄の資料を流し読みして、あるページで動きを止める。

 

「『鳥獣蟲同盟』…………あのクソ猫がトップのふざけた魔化魍たちの集まり」

 

 狼鬼は歯を食いしばりながら憎悪に満ちた顔で手に持つ別紙を机に叩きつける。

 その別紙には、鈴音ことネコショウの写真や天鏢ことチントウの写真、他にも『鳥獣蟲同盟』の魔化魍たちが撮られた写真が貼られていた。

 

「それで襲撃のあった支部のカメラと竜胆蝙蝠からなんとか確認出来た『名持ち』なのですが……正直に言うとヤバい奴らばかりです」

 

 暗い顔を浮かべてそう言った灯子の配られた資料を進めると、そこに書かれた魔化魍たちに狼鬼たちは目を見開く。

 

「『独眼蛇』、『水武虎』、『吸引鰐』、『呪術蛙』、『呪刀人魚』だと、おいおいなんかの冗談か?

 明らかにそこらの奴らとは格が違う奴らばかりいるじゃねえか!!」

 

 喧鬼は明らかにそこらの魔化魍とは違う強さを誇る『名持ち』に声を荒げる。

 それもそうだ。中部地方に配属されてからあまり動かなくなった俺でも知る大物の『名持ち』ばかりだ。

 俺と同じ『8人の鬼』暴鬼の殺害に関与している『独眼蛇』。

 

 かつて北海道地方の猛士で恐怖をばら撒いた『呪術蛙』。

 

 8代目魔化魍の王 シュテンドウジに仕えていた『水武虎』と『吸引鰐』。

 

 東洋3大人魚魔化魍随一の戦闘能力を持った『呪刀人魚』。

 

「これ程の連中が相手です。最悪を想定すべきかと」

 

 労鬼のその言葉には全員納得だ。

 俺ひとりで戦って勝率はギリギリのような奴らだ。そんな魔化魍を相手にわざわざ若い者たちや弟子たちを悪戯に減らすわけにはいかない。どうするかと考えようとした時–––

 

「若いものや、鬼と天狗以外の者たちには避難してもらおうか。

 じきに戦地になるこの地に止めて無駄に命を散らすわけにはいかないしの」

 

 与助の爺さんの言葉に全員が首を縦に振る。

 

「そうだな。

 よし、角と天狗以外の連中は全員他支部に退避だ。灯子、与助の爺さんには受け入れ先の支部に連絡を入れてください。無理なら総本部に逃げてもらうしかねえが」

 

 勿論退避させるのには弟子クラスも含まれている。負けるわけはないと言いたいが、相手も相手だ。万が一も考えるのが上の役目だ。

 

「いつ仕掛けますか?」

 

 飛沫鬼の言葉に支部長と他の鬼たちの視線が狼鬼に集まる。

 

「1週間後だ。それまでに退避が完了したのなら、その時に、奴等に仕掛ける!!

 ………今の内に遺書を書くなり、家族との別れは済ませておけよ!! では解散!」

 

 狼鬼の号令に従い、各支部の支部長や鬼たちは部屋から出ていく。

 狼鬼は、部屋から出ていく同志を見ながら思い出す。あの日の、あの光景を–––

 

 

 

 

 

 

 当時の俺はまだ猛士のことも知らない一般人だった。

 家は至って普通な家だ。俺が居て、普通の会社員の父、在宅勤務の母、一個上の兄の4人家族。

 

 まあ、時々父が何処かへ出掛て怪我をして帰ってきたり、母も古めかしい書類を抱えて絶対に開けるなと言って部屋に閉じこもったり、兄は玩具のような円盤を弄ってたりと、ちょっとおかしな所はあったが、それでも仲の良い家族だった。

 彼女もいた。幼い頃から一緒に育った幼馴染で、明るく美人で、少し子供っぽいところもあったが自慢の彼女だった。

 

 あれは俺が大学卒業間近で、久々に家族全員と彼女でお祝いをしようと話が出た。

 俺はその話に喜び、祝い事によく行った馴染みの寿司屋で俺は寿司を買いに行った。それが家族と彼女の生きていた最後の姿だった。

 

 寿司屋に着けば、馴染みのおじさんが電話で予約した特上寿司の入った袋を持って待っていて、世間話をして家に戻った。

 そして、家に着いて中に入ると違和感を覚えた。

 

 家族が祝い事の準備をしてる時は賑やかな話し声が玄関まで聞こえるのだが、そんな声は聞こえず異様な静けさがその場を支配していた。

 買い物に出るのなら連絡が来るだろうし、そもそも家の鍵を開けっぱなし出掛けたりするのはおかしい。

 

 そして、リビングの扉を開けて目に入ったのは地獄だった。

 

「え」

 

 そこには血だらけになって血の海に沈む家族と幼馴染に接吻と同時に何か吸い込むネコのような女が居た。

 父は首を何か鋭利なモノで切られ、夥しい血を流し、手に何か握ったまま死んでいた。

 

 母は一見は何も無かったかに見えたが腹部が異常に凹んでいて、恍惚とした表情を浮かべて死んでいた。

 

 兄は顔が執拗に傷つけられ、胸部には格子になるほどまで深く切り刻まれた痕があり、その周りにはバラバラになった玩具と真っ二つになった笛のようなものが散らばっていた。

 

 そして、女に接吻をされている幼馴染は母と同じ恍惚な表情を浮かべてるが、その腹がどんどん凹んでいく異常な光景が目に入る。

 

 直感的に悟った。母と幼馴染の腹は女に内臓を吸われ内臓がなくなったことで腹が凹んだのだと。

 俺は手に持っていた袋を落としてしまった。ガシャという音に幼馴染に集中していた目が俺の方に向けられた。

 

 その目は暗い部屋の中でも光ってるような印象を持たせ、底冷えするような冷たい眼差し、縦に開かれた瞳孔が俺を捉え、新しい獲物と目が物語っていた。

 

 そして俺に気付いた女は幼馴染を投げ捨て、女が俺に向かって手を伸ばす。恐怖が身体の動きを止め、徐々に迫る手を見て、もうダメだと思った次の瞬間–––

 

「俺の客に手を出すんじゃねえよ魔化魍が!!」

 

 俺を凄い力で引き寄せて誰かが何かを振るうと女は紙一重でその何かを避けた。

 

「大丈夫か! 坊主!」

 

フシャァァァァァァァァ

 

 そこに居たのは先ほどの寿司屋の店主であるおじさんだった。

 女はおじさんを見るなり猫の威嚇するような声を上げて、鋭利な爪を生やした腕を振り下ろす。

 おじさんは手に持つ包丁に似たモノ(後に独自の音叉刀と知る)で女の爪を防ぐ。金属同士がぶつかった高い音が響き、おじさんは包丁を振るうと女はそれを避けてくるくると宙で回転して窓ガラス近くに着地する。

 

 普段とは違うおじさんが俺を守りながら遠くにいる女を牽制する。女はなにを思ったのか、窓ガラスを割って外に逃げた。

 そして、俺はその光景を最後に意識を失い、そこからは何も覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 そして、気付けば寿司屋のおじさんの所にいた。

 寿司屋のおじさんから色々教えてもらった。家族のこと、猛士のこと、魔化魍のこと。

 その話を聞いた俺はおじさんに土下座し、猛士に入りたいと泣きながら言った。おじさんも初めは渋っていたが、俺の目を見て俺を弟子として育ててくれた。

 過酷な修行で鍛え、魔化魍の知識を覚え、おじさんから独立を認められ、経験を得て、俺の親父の遺品であり先祖代々から受け継がれた変身鬼笛 狼鳴を授かり、俺は狼鬼となった。

 

 気付けば部屋には既に誰も()らず、俺1人だけが椅子に座っていた。

 思えば、奴こそが猛士に入るキッカケであり、俺が強くならなきゃいけない理由だった。

 あのクソ猫がいるのは分かっている。何年も探していた仇をやっと見つけられた。他の奴らにも、吹舞鬼にも任せられねえ。だからこそ、俺の手で奴を、あのクソ猫を殺す。

 

SIDEOUT

 

 猛士中部地方長野支部と静岡支部の襲撃の翌日。

 今、私は鈴音(ネコショウ)から聞かされた鬼と相対している。

 

 彼女の名前は診鬼。本名、神通 希美。

 猛士魔化魍穏健派閥、通称 共存派に属する鬼。そんな鬼が–––

 

「えええと……」

 

 私の前で家族の魔化魍がするように片膝をついて頭を下げていた。

 『魔化魍の王』になるつもりとはいえ、家族や魔化魍以外から、しかも鬼からこんな風に(かしこま)られるとは思わなかった。

 それを見た家族たちも驚いたり、王への礼儀を理解してるなと言っている。

 

「初めまして魔化魍の王。私は神通 希美。猛士魔化魍穏健派閥共存派の末端の者です」

 

 鈴音から説明を受けていたが、改めて本人の口から聞くと驚くものだ。そして、その隣には律儀に正座して待つ魔化魍(フラリビ)がいる。

 

【オイラの名はフラリビ。ネコショウ、あっ違った。鈴音と同じ『鳥獣蟲同盟』の魔化魍さ】

 

 前世の海賊な戦隊に出てきた機械の鸚鵡と似た喋り方をするこの魔化魍が鈴音が猛士に潜入させていた仲間の魔化魍。

 

「フラリビ。その軽々しい口を今すぐ辞めなさい」

 

 フラリビの喋りに気に障ったのか赤は口調を正せと言う。

 

【えーー。なんでだよ】

 

「お前、王にそのような口の聞き方を「いいよ赤!」、で、ですが」

 

「いいよ。今はそんなお固い話をするような状況じゃないでしょ。それに神通さんも普通にしていいよ」

 

「え、でも良いんですか?」

 

 神通さんは困った顔で言うが、正直に言うといつまでも(かしこ)まられるのは私は好きではない。

 勿論、王として目覚めた後ならそこら辺はキッチリしていかなきゃいけないだろうけど、まだ王じゃないから少し緩くても問題はない。

 

「で、では」

 

 そうして姿勢を崩して、床に座る神通さんを見て赤は神通さんに質問した。

 

「それで魔化魍共存派の神通 希美。

 貴女は何故、王との話し合いを望んだのですか?」

 

「はい。我ら魔化魍共存派が魔化魍の王にあるお願いがございます」

 

「お願い?」

 

「そのお願いとは?」

 

 少し語気が強めて赤は神通さんに聞く。

 

「我ら魔化魍共存派と同盟を結んで欲しいのです!!」

 

「同盟!?」

 

 赤がまさかの言葉を聞いて声を大にして言った。

 この言葉はこの場にいる家族の全員の耳に入った。家族たちの反応もそれぞれ違う。

 

 共存派と言われるが猛士との同盟に懐疑的や否定的なもの、捕虜である鬼とも仲が良いのか嬉しい反応するもの、共存派の内情も知っているのかやはりと納得するもの。

 

「その同盟に対して、此方に利はあるのですか?」

 

「我ら共存派の持つ名持ちの魔化魍の所在地と猛士の過激派の危険人物の情報の提供。

 幼体の魔化魍の保護、猛士が隠し持つ魔化魍の道具の回収などの支援です」

 

「はっ?」

 

 質問の答えに赤は口を半開きにして驚く。

 同盟と言っていたが、此方に対して過剰とも言えるような利益ばかりに、懐疑的や否定的な家族は赤と同じように口を開けて驚いていた。

 

「何故、共存派はそこまでするのですか?」

 

 赤の質問に対して神通さんは答える。

 

「我ら共存派は子供の頃に魔化魍に救われたものの集まりです。

 私も小さい頃、両親に山で捨てられ、飢えで苦しんで死にそうになった時に助けてくれたのが魔化魍です」

 

【えええ!! そうだったの!!】

 

 フラリビも知らなかった彼女の過去に私も含め、家族は驚いた。

 

「その時助けてくれた魔化魍は?」

 

「私を助けてくれた後に人気の少ない民家にまで運んでくれて、何処かへと消えました。

 その後は孤児院で育ち、高校の卒業と同時に猛士に入ったのです。共存派に入ったのはそれから暫くした後です」

 

「末端の私が言うのも烏滸がましいのですが、何卒、我ら共存派との同盟をお願い申し上げます」

 

「ちょ、神通、あ、頭を上げてください」

 

 頭を床に付けるように下げる神通さん。その姿から此方を騙す意思もないことが伝わったのか赤が下げた頭を上げさせようとする。

 だけど、そんなことをされずとも私の答えは決まっている。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 同盟の提案を受け入れた。

 

「ありがとうございます……ありがとうございます!!」

 

 私の言葉で頭を上げた彼女の眼からはツーと涙を流れていた。それを見てフラリビは神通さんを慰めている。

 私は神通さんとフラリビの様子を見つつ、九州地方で作った氷の玉を作り出して、跳から教えられた転送の術で妖世館で留守番する家族の元に氷の玉を送った。

 

 そして、向こうの白たちにも事情を説明した後に、この場にいる家族全員(留守番組は白に頼んで)を集めてもらった。

 

「次期魔化魍の王 安倍 幽冥の名の元に宣言する。

 この日より、猛士魔化魍穏健派閥共存派との同盟を宣言する。これにより神通たち共存派の鬼や構成員と戦うのは固く禁ずる。この宣言に反対の意のあるものはいるか!!」

 

 私の宣言に反対するものは居なかった。

 事情を説明してなかったら色々と騒がれたかもしれないが、これでも(前世)は家族の喧嘩の仲裁をよくしたせいか、こういう会話に慣れている。その光景をさっきと同じように涙を流しながら見ていた神通さんはその光景を手に持つ茜鷹に少し似たディスクアニマルで録画しており、フラリビも録画する神通の頭を炎で燃えていない翼で優しく撫でていた。

 そして、そのディスクアニマルと私が書いた書状を持たせ、共存派のトップの元に飛ばしたのを見届けた後に宴が開かれた。

 

 新たな出会いに嬉しくなった私たちは上も下も人間も魔化魍も関係ないと大騒ぎして、盃が提供してくれた酒と食事でどんちゃん騒ぎして、翌日はこの世界で初めての二日酔いに倒れるのは言うまでもないだろう。




如何でしたでしょうか?
狼鬼の過去を入れてみました。まあ、ご察しの方もいらしたと思いますが、狼鬼の仇はネコショウこと鈴音です。
そして、幽冥も共存派との話でテンションが上がっております。因みに『名持ち』は別作品で言うところの異名や二つ名みたいなものです。安倍の家の魔化魍の欄にも追加してありますので読んでみてください。
次の話は軽く留守番組の話を考えております。
では、次回もお、楽しみに!

ーおまけー
迷家
【こんばんは。おまけコーナーの時間です。今日のゲストはこちら!!】


【オオアリの顎だ……………ところでここは何だ?】

迷家
【まあ、あまり気にしない気にしない。じゃあ質問するよ】


【ああ】

迷家
【顎ってさ、なんで殺虫スプレーを吹きつけられると気絶するの?】


【う!!】

迷家
【ありゃ、顎?】


【あああ、殺虫スプレー、恐ろしい! あれが恐ろしい!】ブルブル

迷家
【いやほんとにどうしたの!?】


【アレは忘れもしない。
 土門や鳴風と知り合う前、童子と姫が()らず空腹だった俺はある家に忍び込んだ】


【幼体だった俺はまだ蟻酸もそこまで強くなく、人間を殺すことが難しかった。
 だから、人間の身体に噛み付いて少し血を吸って生きてきた】


【そして、俺がベッドで眠る人間に噛みついて血を吸っていた時、人間が急に目を覚まし、目に入った俺をはたき落とした】


【そして人間はベッド脇から………ああ、あの、さ、さ殺虫スプレーを取り出して、俺に吹き付けた】ブルブル


【人間の生み出した物が魔化魍に通じるわけがないと、俺は思った。
 だが突然、呼吸が苦しくなり、目がチカチカし始め、倦怠感に襲われた】


【そんな馬鹿なと、あんなもので思ったが、どんどん調子が悪くなる。
 このままで不味いと俺は必死にそこから逃げ出した】


【そして、逃げるのに成功した俺だったが、巣まで戻ることは出来ず、そのまま気絶した】


【外が騒がしいと思い目を開ければ、ツチグモとイッタンモメンの幼体、いや土門と鳴風が俺を見下ろしていた】

迷家
【その時に知り合ったの!?】


【ああ。当時あの2人の狩場が近くにあったらしく、偶然俺を見つけた鳴風に助けられて、そのまま看病されたんだ】

迷家
【じゃあ、そっから行動を共に?】


【いや、その時は一旦別れたんだ】

迷家
【なんで?】


【あの頃は土門には育て親の童子と姫も居てな、知ってるか知らんがツチグモとオオアリの童子と姫は犬猿の仲と言うほど仲が悪い。
 もしも、俺を見たら土門の童子と姫に潰されてかもしれなかったからな】

迷家
【なんでそんな仲悪いの?】


【遠い昔にあったことが理由らしいが俺は知らない。まあ、色々あって土門と鳴風はそれなりに付き合いが長いのだ】

迷家
【へえ〜。で、結局のところ殺虫スプレーを吹きつけられたら気絶するのって、その時のトラウマ?】


【簡潔に言えばそうだ。だから俺の前であれを出すなよ】

迷家
【分かった。おっと、いい感じだね。じゃっ、マッタねーーー♪】


【………はあーー今日は早く寝よう】


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記録百拾伍

こんばんは宣言通りに留守番組の話になります。
それとちょっとだけ、共存派のとある鬼の様子を入れようと思います。では。どうぞ!!

よく読んだらキャラの一部が居たらおかしいことに気づいて、2023年7月23日にその部分を変更しました。


SIDE迷家

 イエイ、ハーーーイ迷家だよ。

 今、僕は妖世館のとある一室をちょっと弄っている最中だよ〜。

 

 え? なんでそんなことをしているのかって?

 ヨシッ。では説明しよう。

 

 あれは主人(あるじ)たちが中部地方へ向かって直ぐ後のことだった。主人(あるじ)たちが転移で行ったのを確認して僕はいつも通りふらふらと家の中を浮いてたら。

 そしたらある子から声を掛けられた。

 

波音

【ねえ、迷家。少しお願いがあるんだけど】

 

 そう波音だ。

 波音が僕に声をかけたのは、雛と睡樹の3人で術の練習をしたいとのことだ。

 

迷家

【あれ? 雛って人間だよね。術使えるの?】

 

波音

【正確に言うと人間の血がほとんどだけど4分の1は魔化魍だから。

 それに最近は紫陽花が自衛のために簡単な術は教えてるみたいだし】

 

迷家

【そうなんだ】

 

 術。

 魔化魍の不可思議な力のひとつで、魔化魍はこれらを使って攻撃や防御、回復、人間の捕獲といった様々な目的で使う。だが、ひとつ言うのなら術は魔化魍にしか使えない。

 鬼にも『鬼幻術』と言う技があるが、思い出して欲しい。

 世界の破壊者の彼が訪れたヒビキの世界。その世界でのヒビキがどうなったかを、力を求めるあまり鬼としての力を制御できなくなり、力に飲み込まれて本当の化け物(魔化魍)、ギュウキへと変貌してしまった。

 つまり鬼と魔化魍とは表裏一体の存在であり鬼になるということは一時的に人を捨て、魔の者、魔化魍になる事に等しいということだ。

 

 マヨイガである僕の力、というか能力には取り憑いた家を自由に改築するというものがある。そう主人(あるじ)の家であるこの妖世館に僕は取り憑いている。

 前でこそは顎や鋏刃、命樹などが地下を掘り進めてそこに部屋を作っていたが、今は僕のこの力でそんなことをする必要もなく、安全に必要に応じた時に部屋を増やしたり、空き部屋を改築したりしている。

 そんな僕のこの力を使っても問題なさそうな1つの空き部屋の空間の広さを変えていた。

 

「ありがとう迷家」

 

 お礼を言う雛に悪い気はしないけど–––

 

迷家

【気にしなくていいよ。僕もね自分の力が鈍らないようにこういうことをひっそりとやってるから】

 

 言ったように僕はこの妖世館の誰もいない部屋のひとつを使って能力の鍛錬をしている。部屋を増やす時も改築する時も基本は家族が増えたり、捕虜が出来た時なので。それ以外では部屋を増やすことがない為に、部屋を勝手に作るわけにはいかない。だから堂々と部屋を弄れるこういう時はありがたいのだ。

 

「まだ……掛か…る?」

 

 待つのに飽きたのか睡樹が疑問を声を出す。

 

迷家

【大丈夫。もう直ぐ終わるよ〜】

 

 そして、部屋の改築が終わって弄った部屋から尾を離す。

 改築された部屋は前の部屋同様に何も無かったが、その広さは前の部屋とは比較にならない程に大きくなっていた。

 

「すごい!!」

 

波音

【建物を自由に改築するって言ってけど、ここ迄とは】

 

「じゃあ………はじ…め…よう】

 

 広くなった部屋を見て、睡樹も擬人態から本来の姿であるコロポックルに戻り、波音たちと術の練習を始めた。

 

 

 

 

 

 

 そんな、波音たちの術の練習を見ていた迷家は驚いた。

 

「ふっ、よっ、どう出来てる?」

 

 とくに手のひらの上に術で生んだ水の玉を風の術を使って保っている雛の姿に驚いていた。

 

睡樹

【すごい……………雛。僕も…負けて……られ………ない】

 

波音

【紫陽花から教えられてるのは聞いたけど、上手だね】

 

 そう。崩から術を教わっている睡樹や長く生きてる為に基礎練習を繰り返す波音とは違い、数ヶ月前までただの人間として育てられていた雛。

 波音と比べるわけにはいかないが、それでも雛の術の操作性は潜砂よりも上手い。

 

迷家

【(確かに上手い。これも紫陽花の孫だからなのかな)】 

 

 雛の実祖母である紫陽花ことコソデノテは中距離攻撃と術を使った戦闘スタイルを持ち、最も得意とするのが術だった。

 そんな術に興味を持った雛に術を教えている紫陽花は水を吸収するスポンジのように上手くなっていく孫の姿に嬉しくなって、近々に本格的な術の練習を教えようとしていることを雛は知らない。

 

睡樹

【む、むむ……出来…た!】

 

「砂のお城!! あ、落としちゃった」

 

 そんな思考をしていたらいつの間にか睡樹が術で作った砂を操作して大きな城を作り上げていた。

 雛は純粋な目でそのお城に目を輝かせるが、それに気を取られて手のひらに浮かべた水の玉を落としてしまった。

 少し泣きそうな顔になる雛に睡樹が近付くと–––

 

睡樹

【どんまい………どんま…い】

 

 雛の頭にツタの腕を乗せてヨシヨシとひなを慰める。

 人造魔化魍として産まれたコロポックルこと睡樹が術を学ぶのは、王である幽冥を守る為でもあるが、術の威力を弱めれば他のことにも利用できると知ってからは、術を日常的な様々な場面で活用できるようにする為に学んでいる。

 

波音

【ふうーーー】

 

 波音は手のひらから出した水流を左右上下に激しく動かしていた。

 雛としていることは似ているが、それよりも難しい。波音は水を落として、一息つくと迷家のほうに顔を向ける。

 

波音

【迷家。術で狙う的を出せる】

 

迷家

【的? じゃあ、作ったあげるよ】

 

 迷家は幻術を使って3つの的を波音たちの近くに置く。

 

波音

【じゃあ次はあの的を術で狙って】

 

「分かった」

 

睡樹

【オー…………ケー】

 

波音

【はあ!! 水流波!】

 

睡樹

水礫

 

「ええい」

 

 波音が突き出した指先から水流が、睡樹のツタの腕先から無数の小さな水球が、雛の手からも波音よりは勢いはないが水流がそれぞれの的に向かって放たれる。

 

「あ?」

 

波音、睡樹

【【あ!?】】

 

 だが、的へ向かう途中で偶然混ざり合ったそれぞれの術は狙う的から大幅にズレ、近くに浮いていた迷家に命中してしまった。

 

「的からズレちゃった」

 

 そこには水系の術によってびしょ濡れになった迷家が水を滴らせながら宙に浮いていた。

 

迷家

【……なにか言うことない】

 

「ごめんなさい」

 

波音、睡樹

【【ごめん】】

 

迷家

【うん。謝れるのは偉いけど、へくしゅん!】

 

「迷家、大丈夫」

 

 雛が紫陽花から教えられた風系の術を使って、僕の身体の水を飛ばしたけど–––

 

迷家

【ありが………ふ、ぶえっくっしゅうん!!】

 

 すっかり身体の冷えた迷家のくしゃみが妖世館に響くのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE?

 奈良県吉野郡の八経ヶ岳にある魔化魍から人類を守る組織 猛士の総本部。

 魔化魍の敵の総本山ともいうべき本部の中にある一室–––

 

「おい。そこに纏めてある資料を第2作戦室に持ってとけ!」

 

 分厚い紙束を持った男が事務作業をする1人の女の机に置く。

 

「……はい」

 

 女は作業をやめて、男の指示にあった資料を持ち上げて、そのまま部屋を出た。

 

 紙束を持った女は資料の重さで微妙にフラフラしながら通路を歩く。

 

「おい」

 

 それを見た1人の男が隣にいる男の肩を叩き、それを見たもう1人の男は顔を見合わせて口を歪める。そして、男が女の前に足を軽く出す。

 

 資料で目の前が見えないため、簡単に足に引っ掛かり、そのまま資料を撒き散らして派手に女は転ぶ。

 

「いや〜すまんすまんw」

 

「わざとじゃねえぞw」

 

 声からして悪意のあることがすぐに分かる。

 だが、この男たちが女にこのような事をするのには理由がある。

 

「でも、敵の友達(・・・・)に謝る必要はねええか」

 

「それもそうだな。ぎゃははっはは!!」

 

 『敵の友達』。

 この言葉は猛士ではある者たちのことを指す蔑称。そう『猛士魔化魍穏健派閥共存派』に属する人間たちだ。

 ………以前の説明ではあまり語れなかった共存派の話を改めて説明しよう。

 

 人類を魔化魍の魔の手から守る非政府組織 猛士。

 そんな猛士にある3つ派閥の1つである魔化魍穏健派閥 共存派。そこは人間と魔化魍との共存を志向する猛士の派閥だ。

 そのメンバーのほとんどが『魔化魍に命を救われた者』や『魔化魍の良識研究者』、『無駄な殺生を嫌う者といった者』たちばかりだ。普段は『共存派』ということは言わずに他派閥である穏健派と偽ったり、逆に堂々と共存派と名乗る者もいる。

 だが、ここで勘違いしてはいけないのは、魔化魍との共存を目指す一派であるが、猛士本来の目的である人を守るという本質は変わってはいない。

 

 猛士に属する共存派にも勿論、魔化魍討伐の指令は総本部から下される。

 穏健派や過激派はどんな魔化魍だろうと討伐に入るが、共存派は魔化魍の研究という名目で捕獲を主とする。そして、研究中に死んだということにして魔化魍を秘密裏に逃している。

 では共存派はどの様な魔化魍を討伐するのか、共存派が討伐する魔化魍は人類との共存を望めない魔化魍である。

 そういった魔化魍の多くは、一定の実力を持った者でない限り振られることの強大な魔化魍であることが多い。

 

 だが、共存派の鬼たちは、いや鬼だけでなく天狗はそんな強大な魔化魍たちを何十体も討伐している。

 

 数も勝り魔化魍を多く清めている過激派だが、強大な魔化魍の前では多大な犠牲を出して討伐したのに対し、少人数で多少の怪我はあれど死者を出さずに討伐する共存派。

 この事実には過激派に属する者たちは声を荒げた。なぜ、魔化魍を倒すことに心血注ぐ自分たちよりも強大な魔化魍を倒せるのかと。

 

 勿論、共存派が少人数でそんなことが出来るのは、討伐までの下準備にあった。

 共存派が討伐指令を受けた際にまずするのが情報収集。それも徹底的な情報収集だ。討伐指令の度に書庫に保管される魔化魍のデータを全て広げ、討伐対象の魔化魍を調べる。この時にその魔化魍の情報によって討伐するのか、保護か討伐偽装するのかと話し合い、共存派のトップである日向の判断によって行動を決める。

 行動が決まれば、今度は縁のある魔化魍から情報を聞く(・・・・・・・・・・)

 そう餅は餅屋、要するに魔化魍のことなら魔化魍から聞くという従来の猛士からは考えられない方法で情報を手に入れ、それらの情報を駆使し討伐魔化魍について調べ上げたうえで、その場所へ向かう。

 保護や討伐偽装の場合は、魔化魍と話し合った上で軽度な戦闘を行い討伐したという偽報告を行って、情報提供をしてくれた魔化魍の協力で魔化魍を逃す。逆に討伐が認定されれば徹底的な弱点攻めによってその魔化魍を討伐する。

 そして、魔化魍の討伐報告によって共存派は猛士として活躍したということになる。

 

 つまり、過激派は共存派の実力に嫉妬している。いやそれだけでなく憤慨している。

 

 それほどの力を持っておきながら、多くの魔化魍を倒せる実力を持っていながら、やっていることが魔化魍との共存の模索や保護。

 親類や友人を殺された復讐心から所属することの多い過激派からすれば腹立たしいことだった。

 

 だが、腹立たしいのは過激派だけではない。普遍派閥こと傍観派も共存派を攻撃する事がある。その理由は過激派と似たような理由だ。

 つまりこの女性がこのような目にあうのは人間の醜い嫉妬心によって衝動的に起こされる嫌がらせだった。

 

「手ェ貸してやろうか?」

 

「ほら、資料拾ってやるよ」

 

 女に近付いて、手を伸ばす男たち。もちろん善意ではなく更なる嫌がらせをしようという魂胆がその笑みで察せる。

 

「………いえいえ。すいませんでした。私もよく見えていませんでした」

 

「「ひっ」」

 

 男たちは上げられた女の顔を見て短い悲鳴をあげる。そして、ちょっかいを掛けた数分前の己を恨んだ。

 その顔のあるところに本来収まっているはずのものがそこには無く、暗い孔があった。

 

「あら、いけないいけない。無くしてしまうところでした」

 

 女がそう言って拾った丸いもの。それは目だった。

 

「ありがとうございます。資料に埋まっていたのに気づいて、資料を退かしてくれて」

 

「そ、それはよかったな、なあ」

 

「あ、ああ。じゃあ、俺たちはこれで!!」

 

 先程までの嘲笑は消え、青白い顔を浮かべる男たちは目の前の女に一刻も関わりたくないので、その場を逃げるように走り去った。

 男たちがいなくなり、その場には片目が外れて、その眼を見せる姿勢の女だけになった。

 

【大丈夫?】

 

 女だけしかいない場所から声が聞こえる。

 

「ええ大丈夫です」

 

【ホント? もしも仕返しする気があるならボクがさっきのヤツらを–––】

 

「良いんです。あの程度のことでアナタが力を振るう必要は無いんです」

 

【でも】

 

「心配してくれてありがとう」

 

 そう言いながら、持っていた義眼を空いた孔に戻して散らばった資料の紙を集める。

 

【…………あの時、ボクのせいで伊八は………】

 

「いいえ。あの時のことがあったからこそ、アナタと出会えた。鬼の力は取り上げ(・・・・)られましたが、後悔はありません」

 

 そう言う女こと伊八 暦は声の主に返答する。

 伊八が総本部に居るのは、『共存派』とバレたことと声の主である魔化魍を庇ったことだ。

 上記のことで『共存派』の鬼とバレた伊八は『鬼の力』を上層部に取り上げられて、此処、猛士総本部で監視付きの雑務を命じられている。

 声の主である魔化魍はその時には無事に逃げられたが、『鬼の力』を取り上げられて総本部で雑務を行う伊八の身が心配で陰から伊八を守っているのだ。

 

【……………分かった】

 

 声の主は納得したのか、声は消えて、伊八は散らばった資料を集め終わり、もともと言われていた第2作戦室へと向かうのだった。




如何でしたでしょうか?
総本部で働く共存派を出してみました。ついでに猛士での共存派がどういう感じかというのも入れてみました。因みに伊八と話すこの存在は他の共存派に知られています。
総本部にもしも共存派がいるとしたらどういう状況なのかを考えてみた結果、追放や処刑とかではなく手元に置いての監視という考えになりました。他にも総本部には共存派に属する人は居ますが、それぞれが出会わないように徹底的に監視のもと、猛士総本部での雑用をさせられています。
因みに共存派のトップである日向の場合は共存派であることを言っていますが『鬼の力』は奪われていません。理由は今までの実績です。日向は数々の強大な魔化魍をひとりで討伐した実績がある為、『鬼の力』を奪うよりはその力を利用するという総本部の決定で奪われていません。

ーおまけー
迷家
【へ、へ、ぶえくっしゅん!!】

鳴風
【! もうびっくりした〜】

迷家
【ごめんごめん。あ〜怠い、怠いよ〜】

鳴風
【大丈夫? つめたい風いる?】

迷家
【あ〜大丈夫大丈夫。じゃあ、早速、今日のおまけコーナーはっじ………】ドサッ

鳴風
【え!! ちょ、迷家!! 迷家!!】

迷家
【ううぅぅぅ……】

鳴風
【えええっと、そうだ! 白、白ううう!!】

ー次回のおまけコーナーへ続くー


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記録百拾陸

お待たせ致しました。
幽冥with家族&鳥獣蟲同盟VS猛士中部地方戦の話になります。
先ずは猛士サイドから始まります。
今回は前の月も出せなかったので2つ出させてもらいます。まあ、こっちの話が短すぎたからという理由もありますが、ではどうぞ!!


SIDE狼鬼

 俺たちは、会議の決定通りに先ずは若い者や非戦闘員、鬼見習いの弟子などを他所(他支部)への避難を始めた。

 最初は、『逃げずに戦う』と殲滅派に所属する同志らしく嬉しいことを言っていたが、与助の爺さんの説得で渋々納得してもらった。

 そして、避難先となる場所は会議が終わった後にすぐに行動に移した灯子が受け入れ先を見つけてくれたお陰で早急に行動に移せた。

 

 受け入れ先は俺と同じ『8人の鬼』の1人である雹鬼が守る東北地方支部の各支部と同志である四国地方の王 加藤 勝のいる四国地方支部だ。

 正直言うと、俺は加藤さんのいる四国地方支部に全員を避難させたかった。だが、俺と同じ『8人の鬼』暴鬼のいた高知支部が『独眼蛇』たちによって壊滅させられ、親友だった高知支部支部長を殺された加藤さんへの負担と向こうの受け入れ人数を考慮した結果、近辺の東北支部も避難先として灯子が打診したようだ。

 

 万が一、魔化魍の襲撃のあった場合に備え、四国への避難組には言鬼と喧鬼を護衛に、東北への避難組には鬼だった与助の爺さんと飛沫鬼を護衛にし、そこに天狗を10名それぞれの避難組に付けている。

 

 そうして会議から2日後には避難が終わった。

 残っているのは、俺の他だと、右腕としている吹舞鬼、通信係として立候補した灯子、労鬼や芯鬼、掃鬼、それぞれの支部から集められた鬼数十名(名持ち候補の無銘含め)と天狗たちだ。

 

 その翌日に行ったのは、『鳥獣蟲同盟』の魔化魍(クソ)共の本拠地の捜索だ。

 俺たちが避難に専念していた故に連中も、幼体の魔化魍を他地方へ逃すため中部地方のあらゆる場所で目撃されている。だがそのせいか、俺たちが避難が終わった後に魔化魍を捜索したが、影も形もなく完全に行方をくらましていた。

 

 1週間後に攻める予定だったが、連中は見つからず、避難完了から2週間経ったある時、遂に連中の居場所を突き止めた。

 キッカケは行方不明者が出ると言われる場所付近に配置したばかりのディスクアニマル 竜胆蝙蝠が『鳥獣蟲同盟』の魔化魍である『魔笛雀』の映像を収めた。

 これにより『鳥獣蟲同盟』の魔化魍と名持ちの魔化魍は、この洋館に潜伏していると判断し、然るべき準備と対策、装備を整えた翌日にそこへ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 そうして翌日。

 目の前にはこの戦いで残った鬼や天狗、灯子などの見知った顔や戦友、同志が集まっていた。

 

「今日、俺たちは奴らに奇襲を掛ける。

 幼体(ザコ)を逃して、奴らは隠れたつもりだろうが、竜胆蝙蝠が映した映像を元に解析したお陰で奴らの居場所が判明した。

 俺たちは隠れているつもりの奴らを奇襲し、我らの仲間を家族を親友を恋人を殺したあの糞ったれ共を滅ぼすのだ!!!」

 

「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」」

 

「仲間の仇を!!」 「妻の無念を!!」 「死んだ弟のために!!」

 

「あいつの死を無駄にしないために!!」 「亡き師匠のため!!」

 

 雄叫びと共に魔化魍の対する怨嗟の声を上げる同志たち。

 

「では、行くぞ!! 魔化魍に死を!!」

 

「「「「「「「「魔化魍に死を!!」」」」」」」」」

 

 狼鬼たちは行動を始めた。

 目的は勿論、魔化魍討伐。

 

 

 

 

 

 

 仲間を連れて、目的の廃洋館に到着した。

 作戦はいつものように奇襲。それも正面からだけでなく東西南北四方八方から魔化魍を逃げられないようにする為に班を5つに分けた奇襲だ。

 東には掃鬼、芯鬼、芯鬼と同じ新潟支部所属の噴鬼、無銘と天狗6人。

 西には愛知支部所属の牧鬼、同じく愛知支部所属の流鬼、山梨支部所属の坂鬼、無銘10人。

 裏口があると思われる北口には労鬼、富山支部所属の騒鬼、天狗4人。

 正面である南口に俺と俺の右腕ともいうべき吹舞鬼、石川支部所属の幹鬼、富山支部所属の指鬼、無銘5人と天狗2人

 最後の班は灯子と護衛として残した三重支部の鬼である抜鬼と天狗を合わせて6人だ。灯子には、もしも俺たちがやられた場合に、名持ちの情報を収取して総本部に届ける為の班だ。戦闘能力ではなく、殿を担う抜鬼と天狗1人と戦線離脱に特化した戦輪獣を扱う天狗を4人と徹底的な逃げのための班だ。なので、あの班だけは戦闘地点である廃洋館から離れた場所で情報収集を命じている。

 そうして各班が配置に着いたと連絡を受けて、攻撃の命令を下そうとした時–––

 

【ふむ、本当に来たの】

 

 そんな声と共に上から無数の何かが降ってくる。

 

「全員退がれ!!」

 

 俺の声に反応した鬼や天狗は後ろに退がると、さっきまでいた場所に真っ赤な槍が無数に突き刺さっていた。

 

【ここの鬼たちは優秀だな。いつもならそこに3人位は突き刺さっているのだが】

 

「それだけ、優秀なのでは人間としては」

 

【なかなかの腕前の持ち主たちだな。さてさてどのような魂を持っているのか】

 

【ようやく死んだ仲間の分まで切り刻める】

 

 空から降ってくるように現れたのは、日中でも活動できるドラキュリア・ディウォーカー(常闇)、見た目の服装から推測して水棲系の魔化魍の妖姫()、鍛治魔化魍とも言われるイッポンダタラの亜種ユキニュウドウ(単凍)、『鳥獣蟲同盟』の魔化魍であり『壊音鎌』という名持ちのチントウ(天鏢)

 

 強大な力を持つ魔化魍たちが現れた中、狼鬼は違和感を覚える。

 

 数が少ない。他の『鳥獣蟲同盟』の魔化魍や名持ちの姿もない。明らかにおかしい。

 すると攻撃の指示を送るために持っていた通信用のディスクアニマル錫鴉がぶるぶると震える。

 

「狼鬼さん、狼鬼さん。報告です!!」

 

 起動すれば、灯子の声が響く。しかも声は焦っており、急を要する連絡なのは間違いない。

 

「東と西、北口で攻撃待機していた同志たちが攻撃を受けました。敵はこちらの動きを把握してたようです!!」

 

 馬鹿な。

 何故、対応出来た。

 『鳥獣蟲同盟』に仕掛ける奇襲作戦はこれで3度目だ。1度目の際にジョロウグモとオンボノヤスを仕留め、2度目の奇襲によってバケガニとオクリイヌ、バケネコを仕留めた。

 2度目の奇襲の際に魔化魍に1体逃げられたが、その逃げた魔化魍から奇襲のやり方を知らされたとしても、いつ攻撃が来るのかを把握するのは不可能なはず。

 すると、ある魔化魍の声が耳に入る。

 

予言

【ね。ね。ね。言った通りでしょ。うん。やっぱり、私の『お告げ』はよく当たるでしょ。私の『お告げ』で蝙蝠の場所が分かったお陰で王の作戦のヒントになったんだよ〜♩ 褒めてもいいんだよ。クダン表彰ものだよ】

 

 いつの間にか妖姫の肩に乗っかている何故か、腹立たしく思えるウザい顔の仔牛の魔化魍(予言)が言った言葉で理解した。

 

 俺たちは(ハメ)められた。

 しかも、あの魔化魍の言っていることが事実なら俺たちが竜胆蝙蝠を放ち、『魔笛雀』の姿を映させ、さらには何処から攻めるのかということを知っていたという事になる。

 そして、思い出した。あの魔化魍はクダンだ。総本部の地下深くに捕らえているハクタクという魔化魍の原種だ。なるほど、奇襲がバレた理由が分かった。

 クダンの能力は確か、占いによる予知という能力だったはずだ。その内容を理解出来れば確実に的中すると言ってもいい程の精度を持つが、しかしそれは予知の内容が理解出来なければ意味がない。何を予知したのかというのを知るには共存派(・・・)に所属しているクダン種専門の翻訳家に協力を得られないと内容が分からないのだ。

 だがあのクダンのよく分からない予知の内容が理解できるということは、厄介だ。奇襲を仕掛けようにもクダンの予知でバレてしまい奇襲の意味もなくなる。この情報は間違いなく総本部に送らねばならない。

 

 灯子にこのことを伝えようと錫鴉を使おうとした時、2つの影が魔化魍たちの間を通ってこちらに歩いてくる。

 ひとつは見た目は普通の少女と変わらない筈なのに、その気配は人間ではなく魔化魍とほぼ同じという不気味な少女。

 そして、もうひとつの影を見た瞬間に俺は激情に駆られる。

 

 そう何年も探していた仇が、あの日のことは忘れるはずも無い。

 俺の家族と俺の恋人を殺したあの憎き魔化魍が、写真でも動画でもない本物が目の前に現れた。

 

「やっと、やっと会えたなああ!! ネコショウウウウウ!!」

 

 バケネコ異常種 ネコショウ。目の前に居るのは記録によると江戸時代終期に確認された名持ち個体。そんな奴に付けられた名は『快楽猫姫』。

 老若男女問わずに、その肢体と身体を使って誘惑し、先ずは快楽を持って人を堕落させ、飽きればその人間を解放するが、解放された人間はその時の出来事を忘れられずに再び、奴の元に向かう。そして、自分の元にやってきた人間を喰らう魔化魍だ。

 被害者の数は判明してないものも含めれば数千人も昇る。

 

「さあ、開戦です!!」 

 

鈴音

【開戦だニャ!!】

 

 家族(魔化魍)を引き連れた王である少女(幽冥)と相対する鬼の復讐対象である魔化魍(鈴音)の声が響き、東西南北に分かれた猛士中部地方に属する敵に向かって各々が動き出すのだった。




如何でしたでしょうか?
今回はもう1つの話もありますので、そちらに後書きを書かせていただきます。
でも、おまけコーナーはやります。ではどうぞ!!

ーおまけー

【おまけコーナーの時間でやすが、迷家は熱を出してしまいやして、今日は迷家に代わりにあっしが進めさせてもらいやす】

「はあ〜迷家には困ったものです」


【おっと、お戻りでやすか白?】

「ええ、鳴風や凍に頼んで迷家の看病を任せました。
 …………ところで何故貴方が此処に? 貴方は王の所にいるはずでしょ?」


【気にするなとしか言えないでやすね】

「はあーー。で、何を聞きたいのですか?」


【流石は王に仕えた最初の妖姫でやすね。
 そうでやすね。鳴風のことをどう思っているか聞きたいでやすね】

「鳴風のこと?」


【あっしは童子と妖姫が親でやしたが、あっしが生まれて間もない頃に鬼にやられやしてね。
 なのであまり親との思い出がないんでやすよ】

「…………」


【そんなこともあってかあっしはひとりで生きていかねばならなくて、色々とやらかしやしたが、美岬に出会いやして、少し丸くなったと思いやす】

「そう」


【まあ、あっしのことよりも今は質問の答えを聞かせて欲しいでやす】

「そうね。あの子は私が育てた子供の中では最弱と言えるでしょうね」


【へっ? 最弱? あの鳴風が? というか鳴風以外にも居たんでやすか子供!?】

「まあ、私はこう見えてもわりと長く生きてるからね。流石に緑ほど長生きじゃないけど……あ、このことは王には絶対に話さないように、もし喋ったら」


【わ、分かりやした。しかし、鳴風が最弱というのは驚きでやす】

「あの子はね王と出会うまでは、尻尾の扱いも下手だったし、飛んでもすぐに落っこちてたのよ」


【あっしがあった時には割と飛び回ってやしたし、なんだったら尻尾による攻撃も上手かったんでやすが】

「そうね。今でこそひとりで狩りも出来るようになったし、雲の上まで飛べるようになり、尻尾の扱いも上手くなった」


【しかし、なんでそこまで上達したんでやすか?】

「王の部下いや、家族になったからよ」


【え?】

「あの子は王の最初の家族になったことがきっかけね。
 王の話を聞いて、これからどんどん増える家族を守れるように」

「あの子は最弱だった自分を変えて、強くなっていった。私が育てた中では最弱だったけど、今では最高の子供と私は誇って言えるわね」


【そうでやすか。おっと、そろそろ次の話に繋げやせんと、ではまた次のおまけコーナーで!!】


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記録百拾漆

こちらの回は幽冥の視点と西口での戦闘回です。
そして、今回のおまけコーナーは悪維持さんの鬼崎 陽太郎がゲスト登場します。
では、どうぞ!!


 本当に『お告げ』通りに現れた。

 ネコショウもとい鈴音から聞かされた予言の能力。

 

 予言たちクダン種の魔化魍は、魔化魍とは関わり合いの無い普通の牛から産まれる突然変異で誕生する珍しい魔化魍だ。

 しかし、突然変異の末で誕生するクダン種の魔化魍は産まれて間も無く死ぬことが多く、無事に成体まで成長する事は極めて難しいとされる。他の魔化魍に比べて、その肉体は脆弱、鬼ではなく木の棒を持った子供に殺されるほどの弱さだ。

 だが、そんな彼らの持つ固有能力、その能力だけは魔化魍種全体で見たら間違いなく高位に位置するほどの能力だ。

 占いによる予知……人間を捕まることもできず、他の魔化魍に獲物である人間を捕まえて貰えなければ碌に飯も喰えず、あまりにも弱すぎる脆弱な肉体を持った魔化魍の誇るべき力だ。

 アマビエこと波音も少し先の未来を見るという似た能力を持つが、違いを言うのなら波音は『未来視』で、クダン種は『占い』というくらいだろう。

 

 そして、予言の『お告げ』で次の猛士の奇襲を聞き、それに合わせて家族を分けてその場に向かってもらった。

 ただ、前回の静岡支部の襲撃の際に悪魔魔化魍のチュパカブラによって目をやられた三尸と兜は跳の協力で作った『転移の札』を使い、目の療養と今の状況、そして共存派との同盟の話を改めて留守番組に伝えるために先に妖世館に帰ってもらった。

 

 目の前には此処、中部地方の『8人の鬼』である狼鬼とその背後にいる鬼と天狗を合わせて11人の猛士がいる。

 その中で此処、中部地方の『8人の鬼』の狼鬼が私と鈴音の姿を見てわなわなと震え始める。

 

「やっと、やっと会えたなああ!! ネコショウウウウウ!!」

 

 怨みの籠った声を上げる鬼。

 どうやら、鈴音と過去に何かあったようだ。

 しかし、私には関係のない話。何故なら、私は目の前にいる魔化魍根絶を企む鬼共を絶対に許さない。

 

 鈴音から聞かされた。

 魔化魍殲滅派閥こと過激派のことを、この地での猛士の行いを、幼体魔化魍の無意味な大虐殺、成体魔化魍への実験など、似た話は北海道に行った時も聞いたけど、そこよりもタチが悪い。

 

「さあ、開戦です!!」 

 

鈴音

【開戦だニャ!!】

 

 さあ、始めよう。復讐という感情に支配された人の皮を被った愚か者どもに裁きを–––

 

SIDE坂鬼

 狼鬼さんの指示で俺たちは魔化魍の潜む廃洋館の西口に待機している。

 正直、魔化魍たちは入り口のある南口や出口のある北口から逃げるだろうから西口とか東口はそんな心配しなくて良いだろう。

 

「坂鬼さん。魔化魍の奴らこっちに来ますかね」

 

「ああ。どっちだって良いよ」

 

 正直どっちだって良い。俺は女の見た目をした魔化魍や妖姫を犯したくて仕方がねえからな。

 過激派に入ったのだってそれが理由さ。コイツら家族の復讐だの恋人の仇って言ってりゃ、俺が魔化魍を犯しても誰も文句も言わねえし、何だったら肯定もしてくれるから嬉しいもんだぜ。

 おまけに死ねば、何も残らねし、便利なもんだ。

 

「(メスの魔化魍でも逃げて来ねえかな〜)」

 

 だが、そんな考えごと中におかしな空気が漂ってきた。

 

「おい、テメエら。なんかおかしい、辺りを警戒しな!」

 

 そんな空気を感じてか、辺りを警戒に促した瞬間–––

 

ジャラララララララ

 

「え? うあああああああ」

 

 地面から突然飛び出した骨の尾が近くにいた無銘の身体に巻きつき、地面に引き摺り込まれる。

 

「唯彦!! ぐはっ、こ、この腕は………」

 

 地面に引き摺り込まれた無銘の腕を掴もうとした無銘の身体に地面から飛び出た鮫の鰭に似た鎌が突き刺さっている。

 

「クソ、『砂鮫』め! なあ、ギャアアア」

 

 無銘が『砂鮫』の鎌を撃とうとした瞬間、地面から飛び出た大顎が無銘の身体を挟んでその身体を両断する。

 

 おいおい、こりゃ奇襲失敗じゃねえか。しかもいきなり3人もヤられた。

 魔化魍が逃げては来ないだろうと、高を括っていたが、まさか逆に奇襲を受けるとは思わなかった。

 

「死にたくないなら、急いでそこから離れろ!!」

 

 流鬼がカスタムした音撃管から放たれる重厚のある音と共に放たれる空気の弾丸の嵐は無銘を殺した地面に向けてばら撒かれる。

 

「おいお前、葉栄支部長に連絡を入れろ」

 

「は、はい! 葉栄支部長。こちら西奇襲班。現在、魔化魍から攻げ、ぃ………」

 

 牧鬼の指示で錫鴉を使って葉栄支部長に連絡を取ろうとした無銘の頭に1本の矢が突き刺さり、そのまま倒れる。

 

 ご丁寧に錫鴉も壊しやがって、だが、あの矢の脅威は俺からすればそこまで脅威じゃねえな。なら–––

 

「おい牧鬼ぃ! オメエは『砂鮫』を追え! 流鬼は無銘たちを連れて、あの骨の尻尾の魔化魍を探しな!! 飛んでくる矢は俺が弾いてやるよ!」

 

 そう言った瞬間に俺に向かって矢が飛んでくる。

 どうやら矢を撃つ魔化魍はそこまで気が長くないようだな。俺に矢が集中してる間に他のメンツは指示通りに向かった。すると先程まで来た矢が急に来なくなった。

 

 廃洋館の方からこっちに向かって何かが歩いてきやがる。

 そうして歩いてくるものを見て納得した。

 

 なるほど、どうやらの俺のお相手は目の前にいるヤシャ(荒夜)ハンニャ(狂姫)のようだな。

 重なっていた音撃像板(カスタネット)を取り外し、構えるのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE砂灸

 ようやく見つけた。

 猛士中部地方愛知支部所属の牧鬼。それが私の父と母を惨たらしく殺した鬼の名だ。

 あの時の私は幼体で、突如来た牧鬼に父は殺され、母は戦うことが出来ない私を庇いながら戦ったが、徐々に母は身体の一部を切り落とすようにバラされていった。母は最後の力を振り絞って私を遠くに投げ飛ばし、私だけ助かった。

 今でもその光景が悪夢として出てくる。でもそれも今日まで–––

 

砂灸

【あの時に殺された父と母の仇を討たせてもらう】

 

 偶然なのか私を追いかけて来たのは、牧草のような色合いで縁取りされた面に、棘の生えた音叉鞭を持った仇の鬼である牧鬼がいた。

 

「へっそ。まあ俺も正直そこまで覚えて無いし、どうでも良いんだよ!!」

 

 振るわれた音叉鞭を砂灸は避ける。だが、牧鬼は音叉鞭を軽く捻ると、鞭先は避けた砂灸を追いかけるように動く。

 

砂灸

【なっ!】

 

 避けた筈の攻撃が自身に迫るのに驚く砂灸は地面に潜ろうとするが、穴を掘るよりも速くに鞭が砂灸に迫る。

 

【危ないなあ】

 

 だが、砂灸を狙った鞭は地面から飛び出た大顎に掴まれる。

 

「おいおい。当てられると思ったんだが」

 

潜砂

【偶然出ようとしたら鞭があったから掴んじゃった】

 

 そう言って出てきたのは潜砂だった。

 

「じゃあ、離せよ!」

 

 牧鬼は潜砂に掴まれていた筈の音叉鞭を腕の力だけで引っ張って自分の手元に戻す。

 

潜砂

【ありゃりゃ、割と強く掴んでたのに】

 

「まあ、そんなのはどうでも、いんだよ」

 

 音叉鞭を潜砂の大顎に巻き付けると、鞭の反動を利用して潜砂の方に跳び、腰に付けた音撃棒を取り外す。

 上空から降ってくる牧鬼はその勢いのまま音撃棒を潜砂の大顎に叩きつける。

 

オギャアアアアアアアア

 

 鈍く砕ける音が響くと、潜砂の右大顎の先端が砕ける。

 

ウエエエエエエエエエン

 

 それを見た砂灸が牧鬼に鰭の鎌を振り下ろすが、牧鬼は潜砂の砕けた大顎の破片を余った鞭で宙に浮かせると、脚で破片を蹴り飛ばす。

 破片は振り下ろされる鎌の軌道を逸らし、いつの間にか解いた音叉鞭を砂灸に振るう。

 

ウエエエエエエエエエン 

 

 振るわれた音叉鞭は砂灸の目元付近を切り裂く。

 苦悶の声を上げる砂灸に音撃棒を振ろうとした瞬間、地面から飛び出た潜砂の大顎が砂灸の身体を掴むと地面に引き摺り込まれて消える。

 

「あらら逃げるの? 別にいいけど」

 

 牧鬼は音撃棒を腰に戻して消えた潜砂たちを追い掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして、少し離れた場所で飛び出た砂灸を抱えて飛び出した潜砂。

 

潜砂

【大丈夫?】

 

 潜砂はそう聞くが、砂灸から返事はない。

 

砂灸

【な…で、邪……した】

 

潜砂

【え?】

 

砂灸

【なんで、邪魔をした!!】

 

潜砂

【ええ!!】

 

 潜砂は助けたと思ったら相手にまさかこんなことを言われるとは思わず、驚く。

 

砂灸

【奴は私の両親を殺した鬼だ。私は奴を殺すことで本当の意味で前に進める】

 

潜砂

【…………】

 

砂灸

【手出しは無用だ。私ひとりで奴を】

 

 え? 顔が痛い。

 

 砂灸が顔を上げるとそこには大顎を振った潜砂の姿が目に入る。

 

潜砂

【はあーーーもう。なんで僕って自分ひとりで何でもしようとするのと組まされるの】

 

 と、ため息を吐きながら言う潜砂。

 そして、大顎で私の顔を抑えて、私の顔を見ながら言う。

 

潜砂

【あのね。砂灸があの鬼に対して復讐したいとか、今はどうでも良いの!】

 

砂灸

【はあ!?】

 

潜砂

【勘違いしないで欲しいけど、復讐を否定してるじゃない。

 ひとりであの鬼を殺すことに拘ってるその思考がどうでも良いの】

 

砂灸

【しかし、私は…】

 

潜砂

【もう一回言うよ。ひとりで鬼を殺すことに拘ってないで僕に頼れって言ってるの】

 

砂灸

【え?】

 

潜砂

【良い。僕たちはもう魔化魍の王の家族なんだよ。

 なら、家族である砂灸のやりたいことは家族である僕が手伝う。ひとりで出来ることなんてたかが知れてるんだから】

 

 私の頭を音撃棒が叩いたような衝撃がくる。

 父と母が死んだ私はひとりで生きることになった。幼体の獲れる獲物なんてたいしたものは無く、酷い時は何もない時があった。それからある時に鈴音に助けられて、『鳥獣蟲同盟』の魔化魍たちに鍛えられて今の私がいる。

 ずっと、奴をひとりで殺すことを考えていた私は関係もない誰かに頼るのは嫌だった。だが、潜砂は言った。

 家族と、そうだ関係のない誰かではない。会って間もない自分を心配してくれる同種に私は嬉しかった。

 

砂灸

【なら、お前の力を借りたい。協力してくれ潜砂】

 

潜砂

【いいよ。それに丁度来たみたいだよ】

 

 そう言った潜砂の視線の先には–––

 

「見つけた。さあ続けようじゃねえか」

 

 痕跡を辿って潜砂たちを探し出した牧鬼が現れる。

 

潜砂

【やろうか。砂灸!】

 

砂灸

【ああ。潜砂!】

 

 潜砂と砂灸は互いの大顎と鰭の鎌を重ね、地面に触る。

 

「ああ?」

 

潜砂

【むううううう】

 

砂灸

【はあああああ】

 

「何をおっ始めるつもりだ?」

 

 ふたりの何かを溜めるような動作に牧鬼は音叉鞭を構えながら注視する。

 

潜砂、砂灸

【【砂大津波!!】】

 

 ふたりの叫びと共に、重なった大顎と鰭の鎌の触れる地面が徐々に砂へと変わり、砂はどんどん波立ち、小さな波へと変わって、やがて、幾つもの砂の波が生まれ、さらに互いにぶつかり合い、大きな波へと変わる。

 潜砂と砂灸の互いの意識が完全に同調し、術で作り出した砂の波は互いを取り込み、巨大なる砂の大津波へと変わり敵である牧鬼を呑み込もうとする。

 

「ちぃいいい!!」

 

 牧鬼は音叉鞭を振り回して砂を削るも、下の砂が削れた箇所を補い、削れた砂は下の砂に吸収され補う砂に変換される。

 いくら攻撃しても、無限に再生する砂で牧鬼は忘れていた。

 

「奴らは何処に!!」

 

 そう術の使用者である潜砂と砂灸がいつの間にか消えていたことに、だが牧鬼は直ぐにふたりを見つけた。

 

オギャアアアアアアアア ウエエエエエエエエエン

 

「津波の中だと!!」

 

 そう砂の大津波の中を泳ぐように移動する潜砂と砂灸。

 

「だが、場所が分かればどうでも良いなあ!」

 

 牧鬼が音叉鞭を砂大津波の中を泳ぐように移動する潜砂たちを狙うが–––

 

オギャアアアアアアアア ウエエエエエエエエエン

 

 だが潜砂と砂灸は砂大津波の中に潜って、音叉鞭を避ける。

 

「くそおおおおお!!」

 

 もはやなりふり構わず牧鬼は無茶苦茶に音叉鞭を振るう。

 そして、牧鬼の近くまで到達すると、砂大津波が盛り上がり、そこから勢いよく交互に潜砂たちが飛び出す。

 最初に飛び出した潜砂に牧鬼は音叉鞭を振るうも、潜砂は身体を僅かに傾かせて、音叉鞭を紙一重に避け、牧鬼の横をすれ違うと同時に音叉鞭を持った腕を折り砕く。

 

「ぐがああああああああ!!」

 

 次発として飛び出した砂灸は、鰭の鎌を前に突き出し身体に回転を始める。徐々に回転が上がり暗緑色の弾丸と化した砂灸が衝突し、牧鬼の身体をバラバラに四散し、砂灸は先に着地した潜砂の側に鰭の鎌を突き刺して着地する。

 バラバラになった牧鬼の上半身が着地した潜砂と砂灸の前に落ちてくる。

 

潜砂

【言い残すことある?】

 

「が、げほげほ、へ、魔化魍にやられるとは俺も焼きがまわ、た………」

 

 そう言いながら牧鬼は事切れた。

 

潜砂

【この鬼、喰べる?】

 

砂灸

【いらんさ。こいつの死体なぞケモノの餌で十分さ】

 

潜砂

【そう。じゃあ荒夜と狂姫のところにいこう!!】

 

 そう言って、潜砂は走り出す。見た目は成体で、さっきはあんな事を言っていたが、中身はまだまだお子ちゃまのようだ。

 しかし、この子とは何処かで会ったことがあるような気がする?

 

 そんなことを思いながら砂灸はどたどた先を走る潜砂の後を追いかけるのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE骸

 お、来た来た。

 俺を追って来たのは、愛知の流鬼とあの場にいた無銘が全員か。

 

【おお!! あの場にいた無銘を全員こっちに付けて、俺を脅威と判断したのか?】

 

「貴様が『独眼蛇』のガシャドクロか?」

 

【へえ〜。俺の名前も結構売れたもんだなぁ。やっぱ、あの鬼を殺したのが理由かねえ〜】

 

「へえ、ということは四国の暴鬼を殺したのはお前か!」

 

【ああ? ああ、あの鬼か。あいつの骨は良いものだった。

 あの時、襲撃した支部の鬼は殆ど弱くてなあ、あの中で唯一マトモな骨だったのは、あの鬼のだけだったな】

 

「…………」

 

【そうそう。見るか?】

 

「見るだと」

 

 コレクションを人間に見せびらかす趣味はないが、いい感じに冷静さを保てなくさせるという目的で見せるんだけどな。

 

【こいつが、その鬼の骨さ】

 

 空間倉庫から取り出された頭蓋骨は見て、俺は思う。

 鬼の強さとしてのレベルが骨に表れているのだとしたら間違いなく、この骨は俺の持つ骨でもトップクラスだ。まあ、あそこで貰ったお詫びの品として渡された水晶頭蓋骨の方が間違いなく凄いが………まあ、人間じゃ無さそうなものも混じってるから当たり前か。

 

「それが暴鬼さん?」

 

【ああ、あの鬼を殺した後に頭をもぎ取って、骨を残すように溶かした後に残った骨は喰らった】

 

 俺の言った言葉に無銘共は、口元を抑えたり、恐怖で震えてたりしてる。だが、流鬼は違った。

 

「ああ、暴鬼さん。暴鬼さん。今、救ってあげます」

 

 予備動作などもなく急に音撃管を撃ってきやがった。慌てて、頭蓋骨を仕舞い、地面を抉るように持ち上げて流鬼の空気弾を防ぐ。

 

「流鬼さん。どうしたんですか!!」

 

「死ね死ね死ね死ね死ね」

 

 ヤベっ、どうやらあの鬼の何かに触れちまったか。冷静さを失わせることは出来たんだろうが、こりゃ、ミスっちまったか。

 

「流鬼さんのことは気にするな。固定砲台と思って、俺たちは流鬼さんのフォローすればいいんだよ」

 

 無銘の1人がそんなことを言い、他の5人もそれに納得したのか音撃武器を構え始めた。

 ヤバいな。見たところ無銘の音撃武器は音撃管が3人、音撃弦3人か。音撃弦は問題ないが、あの鬼と共に撃たれたらこっちもマトモに防げねえな。なら–––

 

【あいつから借りて良かったぜ】

 

 俺が取り出したのは、この中部に来る前に蛇姫から借りてきた音撃武器 音撃金棒 戰。

 そして、空間倉庫から取り出したのは、さっきの暴鬼の頭蓋骨じゃねえ。別の鬼の頭蓋骨だ。

 

屍闘術(しとうじゅつ) 骨刻残思(こつこくざんし)(ほう)

 

 出した頭蓋骨に宿る記憶を呼び覚まして憑依させた竜牙兵を操る俺が独自に生み出した屍闘術(しとうじゅつ)

 ただこれを使ってる間は、俺自身動けなくなるので、術を使って地面を隆起させて壁を作った。しつこい流鬼の攻撃はこれで防いでる。

 

「なんだあれ!」 「魔化魍の術か!?」 「さっきとは違う骨だったぞ」

 

「あははははははっはははははっは、死ね死ね死ね死ね」

 

 いい感じに出てきた竜牙兵に驚く無銘たち。だが、流鬼はそんなことに構わず俺を攻撃する。あの様子じゃ、仲間の事はすでに眼中にないだろう。

 だったら、ちゃっちゃと周りの無銘を片付ける。

 

 音撃金棒 戰を持った竜牙兵は音撃管を持った無銘たちに一気に近付く。

 

「は、速いがびゃ」 「ぎゃああ」 「がべっ」

 

 先ずは、流鬼を除いた遠距離要員を潰す。

 

「クソ!!」

 

 音撃弦を持った無銘の1人が竜牙兵の身体に音撃弦を振るうが、竜牙兵は音撃金棒を盾に音撃弦の攻撃を防ぎ、隙むき出しの身体に重たい一撃を振るう。

 

「がばっ……」

 

「イヤアアアア!」 「シャアアアア!」

 

 くの字に折れ曲がって遠くに飛ばされる無銘を見た瞬間、残った2人の無銘が喊声(かんせい)を発する。

 だが、竜牙兵はイナバウアーのように身体をのけ反らせて、無銘の大振りの一撃を避け、地面に手を付いた瞬間に竜牙兵は2人の無銘の腹に向けて強烈な蹴りを入れて無銘たちを吹き飛ばして、その勢いに追走させて音撃金棒を飛んでる無銘2名に振り下ろして撲殺する。

 

「がば」 「あが」

 

 残りは、無銘がやられてるっていうのに土の壁の中にいる俺に向けてずっと撃ち続ける流鬼のみだ。

 

「なあ、そこから出てきて戦え。自分だけ引きこもって恥ずかしくないのかよ!!」

 

 流鬼があんなことを言っているが、あの音撃管は独自にカスタマイズされているな。

 大方、空気弾自体が音撃と似た性質を持たせてるんだろうな。だから、俺に出てこいと言ってるんだろう。

 

「はやく。ハリー、ハリー、速く殺させろおおおおおお!!」

 

 流鬼は我慢できないのか更に音撃管の横にあるダイアルを回すと、空気弾の勢いはそのままだが、弾の大きさが変化し、威力が増して壁の破壊を急かす。

 

【このままじゃマズいな。

 さて。外にある竜牙兵じゃやられるなぁ。なら】

 

 そう言って骸が空間倉庫から取り出したのは鬼崎 陽太郎からプレゼントされた水晶頭蓋骨のひとつ。

 黄水晶の頭蓋骨。これは人間の頭蓋骨ではない水晶頭蓋骨のひとつで、王に見せて貰った図鑑によると太古に存在した肉食恐竜に似た頭蓋骨だ。

 これに竜牙兵を作る時のように骨の身体を作り出す。

 

「何をする気か知らないが、どんなものがこようが蜂の巣にしてやる!!」

 

 そうして生み出されたのは黄水晶の頭蓋骨を頭部とし、頭部と同じ黄水晶に染まった巨大な骨の肉食恐竜が生まれる。

 

【初めてやるから遊びはナシで、速攻で決めてやる】

 

 黄水晶恐竜は、流鬼を視認する(目はねえが)とその大きな口を開きながら流鬼に向かって爆走する。

 

「な!? 壊れろ壊れろ壊れろ、壊れろっつんだよおおお!!」

 

 音撃管の空気弾を黄水晶恐竜に向けて撃つも、従来の黄水晶とは異なる硬度を持った身体の恐竜にはまるで意味がなく、どんどん迫る。煩わしいく思ったのか黄水晶恐竜は太い骨の尻尾を振り回して、流鬼を空中に飛ばすと宙で動けない流鬼の身体にその牙を食い込ませる。

 

「がああああああ、うう、暴鬼さん、助けて、助けてえ………」

 

 死んでるはずの鬼の名を叫んだ流鬼は黄水晶恐竜によって噛み砕かれ、なき別れた肉が地面に汚い音を鳴らしながら落ちていく。

 骸はそれを見て、戦闘が終わったと確認して黄水晶の頭蓋骨と鬼の頭蓋骨を回収するのだった。

 

 

 

 

 

 

 結局、何が原因であの鬼が暴走したのか知りたくはねえが、めんどくさかった。

 おまけに骨はいまいちな奴らばっかだな。まあ、悪いことばかりじゃねえしな。

 

 骸が尾で持ち上げたのは先程の戦闘で使った黄水晶の頭蓋骨だ。あの時、流鬼の身体を噛み砕き、僅かに口元に残った血や肉片を黄水晶に吸収された。すると、黄水晶の輝きが少しだけ増したのだ。

 この水晶頭蓋骨だけがそうなのか、それとも他の水晶頭蓋骨もそうなのかは分からないが、次の機会があったら別の水晶頭蓋骨を使うのも良いかもしれないと骸は思うのだった。

 

 さてと、他のところの手助けにでも行くか。

 

SIDEOUT

 

SIDE坂鬼

 目の前にいるのはヤシャとハンニャか。確か、魔化魍の血を飲んだ瀕死の人間が成り果てた魔化魍だったか。

 しかし–––

 

 坂鬼の見る視線の先にはハンニャこと狂姫がいる。

 そして、ある点を見て面の下で薄汚い笑みを浮かべる。

 

狂姫

【援護します荒夜様】

 

 矢を番えて、坂鬼に向けようとした狂姫を荒夜は手で制す。

 

荒夜

【……姫、此処は私にお任せを………】

 

 そう言って、ヤシャがハンニャを後ろにさがらせて刀の鍔に指を掛ける。

 

「へえ〜居合か? 変わったヤシャだな」

 

荒夜

【…………】

 

「おいおい。人間と話す口を持たねえってか?」

 

荒夜

【…………フン!!】

 

 って、一言も喋らずに首を落としにきやがった。

 

「ちょ、危ねえな。加減してくれよ〜。それでも元人間かよお!!」

 

 だが、坂鬼はその一閃を身を屈めて避け、荒夜の喉元に向けて音撃像板(カスタネット)を振るう。

 荒夜は腰に差した鞘を抜いて、音撃像板(カスタネット)を弾いて、後ろに跳ぶ。

 

「おー、逃げんのかよ」

 

荒夜

【…………】

 

 煽ってみるも、驚くほど何の反応も無しで、すぐさま居合でまた首を狙ってきやがった。しかも連続でひたすら首を斬ろうとしてくる。

 

 だが、坂鬼は風に揺れる木の葉のように荒夜の居合を軽々と避ける。

 しかも坂鬼は避けると同時に何度も音撃像板(カスタネット)を荒夜の身体を切り裂く。

 

荒夜

【っ……】

 

 音撃像板(カスタネット)

 音撃振張よりも小型化した小型の丸刀のような音撃武器なのだが–––

 

「ちっ。じゃあこんなのはどうだ!」

 

 坂鬼は音撃像板(カスタネット)を重ね、荒夜の前に突き出す。

 

音撃響(おんげききょう) 合掌爆裂(がっしょうばくれつ)

 

 坂鬼が音撃像板(カスタネット)を叩くと音撃像板(カスタネット)の内側に付けられた鬼石同士がぶつかり合い、その衝撃が荒夜の周囲が一瞬で爆裂し、辺りに黒い煙を生み出す。

 さらに坂鬼はリズム良く叩くたびに爆発していく。

 

狂姫

【荒夜様!!】

 

「どうよ。俺の音撃はビックリしたろう。この音撃はそうそう避けれんからな跡形もなく吹っ飛んだか」

 

狂姫

【荒夜様! 荒夜様!!】

 

 涙を流しながら煙の方を見るハンニャの姿に俺のムスコはもう大興奮。

 さて、手脚を落としてから、たっぷり可愛がってやろうかな。と、その前に心を折っとくか。

 

「無駄無駄、どうせ死んでるんだ。それよりもお前、む!」

 

 刹那、その続きは言わせないと言わんばかりに猛烈な殺気を出す荒夜が広がる煙の中から静かに歩いてくる。

 

狂姫

【荒夜様!!】

 

「何故だ!! あの爆発でどうやって!?」

 

荒夜

【…………こいつのお陰だ】

 

 そう言った荒夜の手に握られていたのは先程までの心討(しんうち)ではなく黄緑色の刀身の小太刀 風鼬(かざいたち)が握られていた。

 あの爆発の瞬間に荒夜の腰にあったはずの風鼬(かぜいたち)は手にあった心討(しんうち)と入れ替わるように荒夜の手元に現れた。そして、何故か自身の手元にある風鼬(かぜいたち)を使い、瞬時に風を作り出し、その風を自身の周りに発生させることで音撃の爆発から身を守ったのだ。

 

 荒夜は風鼬(かぜいたち)を腰の鞘に戻し、心討(しんうち)の鞘に手を置く。

 

荒夜

【坂鬼ですね】

 

「あ?」

 

荒夜

【貴様の名を聞いてる?】

 

「ああそうさ。俺が坂鬼だ。何だ俺の名を知ってのか?」

 

荒夜

【ああ、鈴音から聞かされてな。よーーく聞かせてもらった】

 

 荒夜は最初に相対した際に、坂鬼が狂姫に劣情を抱いていたのに気付いていた。

 だからこそ、徹底的に首を狙ってさっさと殺そうとしたのだが、今だに生きている鬼にまさかと思い名前を聞いたのだ。

 そして名前を聞いて、ますます荒夜は殺気立つ。

 

 『魔化魍に劣情する畜生』と、鈴音から聞かされた荒夜。

 何でも妖姫や女性の特徴を持つ魔化魍を重点的に狙い、動けなくなったところで凌辱し、飽きれば殺すという鬼だという。

 一般的な思考を持つ猛士では考えられない考えだが、彼のいる過激派は魔化魍が苦しむ姿が見れるのなら何でも良いのだ。そこに倫理なんてものは無い。

 だからこそ、下半身と直結してる脳ミソの鬼を殺そうと荒夜はある技の使用を決断した。

 

「むぅ?」

 

 心討(しんうち)を抜いて刀を回転させ、熱を帯びた刀を鞘に再び収め、荒夜は深く構えるとそのまま、動きを止める。

 

「今までと違う大技か。だが、動け無いなら、良い的に………」

 

 再び、音撃像板(カスタネット)の音撃を撃とうとした坂鬼の動きも荒夜と同じように止まる。

 

 待て待て、何を躊躇う。

 動きを止めた奴に音撃を当てるのは簡単だ。だが、それで奴は死ぬのか?

 

 1度音撃が通じなかったことを見た坂鬼は音撃では荒夜を殺せないと思った。

 なら、どうするのか?

 

 坂鬼は音撃像板(カスタネット)を2つにして、荒夜に向かって歩き始める。

 そこまで離れていなかったこともあり、徐々に一歩、また一歩と坂鬼は近付くが荒夜は動かない。だが、構えを解かない。

 そして、荒夜の身体に音撃像板(カスタネット)を当てることのできる距離に入った瞬間–––

 

荒夜

煉獄繚乱閃(れんごくりょうらんせん)

 

 赤銅色に染まった刀身がヤシャの鞘から抜かれ、刀が振るわれる。ぎりぎりまで俺を引きつけての一閃。

 先程までの攻防で分かっている。あのヤシャは居合を用いての近接戦闘しか出来ない。

 刀が振り切った瞬間に俺の音撃像板(カスタネット)であの腕をへし折り、それと同時に脚を斬り裂く、そしてなぶり殺し。もしくは、あのヤシャの前であのハンニャを犯すのも良いな。

 

 しかし、坂鬼は振るわれたのは一振りの斬撃ではなく、三振り(・・・)の斬撃だった。

 一振りだった攻撃が急に三つに増えたように見えた坂鬼はそのまま3方向から身体を斬られ複数の肉塊へと変わるのだった。

 そして、刀を戻した瞬間–––

 

荒夜

【ぐああああああ!】

 

狂姫

【荒夜様!! 荒夜様、大丈夫ですか!!】

 

 突然叫び声を上げた荒夜が心配で側に駆け寄った狂姫は荒夜に声を掛ける。

 

狂姫

【荒夜様! 腕が!!】

 

荒夜

【ぐぅ…………大丈夫です姫】

 

 狂姫の視線の先には刀を握ったまま腕全体が赤紫に染まった腕だった。

 

荒夜

【大丈夫です姫。1週間刀を振れないくらいです。

 この技はまだ未完成でしたから】

 

狂姫

【荒夜様、なんでそんな無茶を!!】

 

荒夜

【姫、あの鬼は姫に邪な視線を向けて、劣情を抱いておりました。私はそれが許せなかった】

 

 狂姫の荒夜の言葉を聞いて、顔を赤くした。

 狂姫は自身の身を案じて未完成である技を使った。その事実が狂姫には嬉しかった。

 そして偶然にも荒夜の顔と狂姫の顔は近く、周りには誰も居ないと思った狂姫は愛する男(荒夜)の唇に自分の唇を合わせようとすると–––

 

【ヒューヒュー。お熱いねお二人さん】

 

荒夜、狂姫

【【っ!?】】

 

 2人が声の方に顔を向けると、草むらの陰で微妙に隠れてるようで隠れてない身体で荒夜たちの様子を見ていた骸たちだった。

 

砂灸

【こ、こら潜砂。こういうのは静かに見ないと】

 

潜砂

【でも砂灸だって、そこでキスしないでどうするってさっき言ってたじゃん】

 

砂灸

【それとこれは違うでしょ】

 

【おいオメエら、そこまで五月蝿いと【五月蝿いと?】……】

 

 声が聞こえて骸たちが顔を上げると–––

 

狂姫

【どうなのか教えて下さいみなさん】

 

 口元は天女の如き笑みを浮かべてるのに、目が明らかに笑っていない狂姫が立っていた。

 それを見た一同の行動は–––

 

【一抜け!!】

 

潜砂

【あ、ズルい!!】

 

砂灸

【逃げろ!!】

 

狂姫

【逃しませんよ!!】

 

荒夜

【く、はははははは!】

 

 走って逃げる骸たちを追い掛ける狂姫の姿を見て笑いながら、荒夜は王の勝利を信じて待つのだった。




如何でしたでしょうか?
前の月に出せなかったので、今回は前の話を含めて2話投稿してみました。
最近は暑さにダウンして、色々と体調が良くなかったのですが、頑張って書きました。
それと前話に登場したオリジナルディスクアニマル 錫鴉の説明をちょっとさせてもらいます。
錫鴉は錫色の鴉の形をしたディスクアニマルで魔化魍の探索ではなく味方の通信のために使われる少し特殊なディスクアニマルです。
猛士版トランシーバーと考えて下さい。通信距離は50kmで条件次第では100kmまで届きます。ただし、通信能力に特化してる為に攻撃力はなく、茜鷹よりも長く飛べません。
骸には水晶頭蓋骨を使った新技を出してみました。
次回は灯子たちのいる班と北口での戦闘回です。次回もよろしくお願いします。
それと、上に書いた通りにおまけコーナーは、悪維持さんの鬼崎 陽太郎がゲスト登場します。

ーおまけー
迷家
【は〜い。おまけコーナーの時間だよぉ〜】

迷家
【前の話の時は跳が代わりにやってくれたんだね。
 もう〜少し寝たら治ったって言ったのに〜】

迷家
【まあ、そんなことはさておき、早速本日2人目のゲストを呼ぼうかなあ〜。さあ、カモン!!】

迷家
【あれ? おーーーい出番だよ!】

「おっと、すまないね。ゲストとして呼んでる彼は来ないよ」

迷家
【な!! 誰だ!!】

「ふむ。義姉さんが僕のことを紹介してくれてると思ったんだけど」

迷家
【義姉さんって、誰のことだよ!!】

「ああ、それじゃ分からないよね。僕の姉さんは兵鬼 薫だよ」

迷家
【え? ………ええええええええ!! 薫の弟!!】

「そこまで驚くことかな?」

迷家
【じゃあ、前に薫が言っていた黒服たちの前の主人?】

「義姉さんはどんな紹介をしたんだろう。そう。僕は鬼崎 陽太郎。
 『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』の主人さ」

迷家
【で、荒夜はどうしたの?
 僕は彼を呼んだつもりなんだけど】

「すまないね。荒夜と屍王とは再戦の時まであまり顔を合わせるわけにはいかないから。
 まあ、代わりに彼女を連れてこさてもらったよ」 パチン

常闇
【むっ、此処は………おお、お前は鬼崎か!!】

「お久しぶりですね常闇さん」

迷家
【本当に知り合いなんだね】

常闇
【ああ、知り合いだ。この場所は質問コーナーだったな。
 私が来たということは宝具風紹介をすればいいのか?】

迷家
【ホントは、その技を使った荒夜は呼ぼうとしたのに、この人がぁぁぁ!!】

常闇
【荒夜? ああ。そうか鬼崎は荒夜と戦ったことがあったな。
 なるほど、お前の教えた技がどうなったのかを知りたかったのだな】

「はい。僕も彼や屍王との再戦のために鍛えていますが、彼らもどうなってるか気になって」

常闇
【なるほど。まあ、荒夜はお前との再戦の為に幾つも技を考えてるからな。
 まあ、ひとつくらいなら教えても問題なかろう】

迷家
【いいの勝手に教えて?】

常闇
【秘匿すべき情報ではないだろうし、荒夜もおそらく気にしないだろう】

煉獄繚乱閃(れんごくりょうらんせん)
ランク:A
種別:対人
レンジ:1〜9
最大補足:1人
由来:荒夜が人間だった頃に最も得意とした刀技 『閃居合流』と『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』の主人である鬼
崎 陽太郎が伝授した『煉獄一閃』を合わせた『煉獄重閃』を更に発展させた荒夜の新奥義。
元となった『煉獄重閃』は一定の距離を超えた相手の攻撃に合わせて無数の斬撃を浴びせていた。
此方はギリギリまで相手を引きつけ、相手の攻撃が自身に当たる直前に抜刀、全く同時に放たれる円弧を描いた3つの斬撃を浴びせるという某運命の世界の『セイバー無銘』と言われたある剣豪と似た「多重次元屈折現象」を引き起こしている。
魔化魍の身になったとはいえ、不可能を可能にした代償は大きく、この技を使用した直後、荒夜は「1週間刀を振れなくなる」。
荒夜は「この技はまだ未完成」と述べている。
この技がどのように発展していくのかは不明である。

常闇
【ふむ。このような感じかの】

「へえ〜僕の技でここまで出来るようになったんだ」

常闇
【しかし、1度振えば、1週間は闘えないということはまだまだこの技を使い切れていないということだな。
 本人も未完成と言っておるしな】

「ええ。ですが、彼ならばこの技も極めて更に新たな技を生み出すのでしょう。再戦のその時が楽しみですよ」

迷家
【……………じゃあ、今回はここまで、また次回のおまけコーナーで、バイバイ】

常闇
【また会おう】

「では、皆さんさようなら」


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記録百拾捌

こんばんは〜。
大変お待たせ致しました。
今回は、葉栄班と北口襲撃班との戦闘回の予定でしたが、あまりにも葉栄班が長くなりそうなので、葉栄班オンリーです。
では、どうぞ!


SIDE葉栄

 幽冥の家族と狼鬼率いる過激派との戦いの場からかなり離れた場所、そこに7人の男女がいた。

 

「支部長! 北口奇襲班から魔化魍に奇襲されたと報告が!!」 

 

「支部長!! 西奇襲班からの連絡が途絶えました!!」

 

「チッ! 東奇襲班から掃鬼さんと噴鬼さんが魔化魍と戦闘開始!」

 

 側にいる錫鴉からの連絡を聞いた天狗たちの報告が耳に入る。

 しかもこの報告は同時に入った。つまり奇襲は失敗。これは此方が向こうを甘く見ていたことが原因だろう。先ずは–––

 

「東と西、北口で攻撃待機していた同志たちが攻撃を受けました。敵はこちらの動きを把握してたようです!!」

 

 手に持った狼鬼さんに繋がる錫鴉に天狗たちから聞いた情報を報告する。

 だが、報告が返ってこないところからすると、向こうも襲撃にあったのだろう。

 

「支部長!! これは作戦予想外です!! 早く撤退を!」

 

「馬鹿か! これ程の名持ちや名持ちに匹敵する力の魔化魍の情報を収集し総本部にこの情報を送らねばならない。

 最悪の場合は、支部長だけでも逃がさればいい。俺たちで足止めするだけだ!!」

 

 そう言って抜鬼は腕に嵌めた音撃擦弦(バイオリン)の本体から弓刀を引き抜くと同時に、弓刀を振るう。

 風で構成された音の斬撃が近くの茂みへ飛んでいく。

 

 茂みが斬られる瞬間に茂みから複数の影が飛び上がり、影たちは抜鬼たちの前に姿を現す。

 

 刺々しい針が無数に生えた特徴的な仙人掌の頭を持った人型 ジュボッコ(命樹)

 

 手に小豆らしきものを入れた笊を持つ作務衣を着こなした『呪術蛙』という二つ名を持つ蛙の人型 アズキアライ()

 

 背中に翼の生えた甲冑を身に纏い両手に長槍と長刀を持った馬の人型 ペガサス()

 

 捻れた一本角に前脚に装甲を纏った白馬 ユニコーン(刺馬)

 

 全体的に椿の装飾や飾りが目立った和装の女、おそらく植物系の妖姫でも長寿と言われるフルツバキの妖姫()

 

 妖姫と同じように全身に椿を生やし蔦が集まって球状の頭の『椿人』いや最近『老椿人』という二つ名に変わった人型 フルツバキ(古樹)

 

 苔の生えた背中に半透明な全身をもつ2大変水魔化魍であり『酒臭魚』という二つ名を持つ山椒魚 シュチュウ()

 

 正常な人間の胃のような色合いをして背に幾つもの触手を生やす虫の幼虫 ヒダルガミ()

 

 中部地方で暴れる二つ名持ちだけでなく他地方でもその名が挙がる二つ名持ちの魔化魍も混じった一団を見た一部の天狗は絶望に顔を青褪める。

 この作戦に参加する天狗の中で、この葉栄のいる班の逃亡を担当する天狗たちは普段、戦輪獣を使って物資運搬を担う運び屋のような裏方職の天狗だ。そういった天狗のほとんどは実戦経験が無い。

 

 実戦を経験したことのある抜鬼や戦闘担当の天狗、情報収集のために魔化魍のいる地に出ることの多い葉栄は経験から追撃に来る魔化魍は少ない(・・・)と予想し、いずれ戦いの場に出るかもしれない天狗たちに実戦の雰囲気を経験させようと連れてきたのだが、それが裏目に出てしまった。

 予想の数よりも明らかに多い魔化魍の数に、戦闘可能な者が2人しか居ないこの班に送り込むとは想定外だった。

 

「支部長。ここは我らが殿を務める。直ぐにこの場からお逃げを!!」

 

「さあ、お前らの相手はこっちだ!!」

 

 戦闘担当の天狗が背に担いだ3枚の円盤を投げ、天狗笛を吹くと円盤形態から戦闘モードへと変わる。

 天狗が出したのは黄檗盾の改良型の黄檗大盾、素早い攻撃に特化したディスクアニマル 青鍬形をベースにした戦輪獣 青大顎とディスクアニマル 山吹蛸をベースにした山吹長腕の3体の戦輪獣と抜鬼が魔化魍たちに仕掛ける。

 

 抜鬼はペガサスと戦いを始め、3体の戦輪獣は他の魔化魍たちに攻撃を始める。

 その流れに乗じて私は震えてる天狗たちに声を掛ける。

 

「抜鬼たちが戦ってる間に私たちは逃げますよ!!」

 

「でも、支部長。抜鬼さんや先輩を置いて……」

 

 甘いことを言おうとした天狗の頬をひっぱたく。

 

「何のために彼らが身を張ってると思ってるの!! 私だけじゃなく貴方たちのことを守るために彼らは戦っているのよ!!

 彼らの覚悟を無駄にするつもり!!」

 

 私の言葉にハッとしたのか天狗たちは背中の戦輪獣を下ろし、茜羽へと変え、その背に天狗たちは乗る。

 

「支部長此方に!!」

 

【逃がすと思うか?】

 

 茜羽の上から私に手を伸ばす天狗の首元にいつの間にか付いていたヒダルガミ()が天狗の首に触手をピトリと当てる。

 

「がああああああああ!!!」

 

 天狗の身体は急激に干からびていき、茜羽から転げ落ち、落ちた衝撃で彼の脚は折れ、左手首の先が砕ける。だが–––

 

「し、しぶひょ、う、ををたにょ……」

 

 天狗はそう言うと懐からあるディスクアニマルを取り出し、起動する。何を出したのかが見えた天狗のひとりが私を引っ張り茜羽の上に乗せて、宙へと羽ばたいた。

 それと同時に天狗の身体は首のヒダルガミ()を巻き込んで突然爆発する。

 

「……橙蟻」

 

 そう。自爆機能を持った唯一のディスクアニマル。

 自身の死を悟った天狗が魔化魍を道連れにと、自爆したのだ。

 

 1人の天狗の犠牲によって魔化魍が減ったことで逃げやすくなったと考えながら、葉栄を乗せた茜羽は遠くを飛ぶ。

 

SIDEOUT

 

SIDE劔

 突然の爆発に俺たちは動きを一瞬だが止めてしまい、その隙をついて目の前の鬼が俺の首めがけ弓刀を振るう。

 

「ちっ! 貴様」

 

 攻撃を防がれたことに苛立つ鬼の言葉を無視しながら、爆発のあった場所を見る。

 

【まさか自爆するとはな、けほっ】

 

 爆発の煙から出て来た乾の身体は背中の触手の幾つかが千切れ煤けているが大きな怪我はないようだ。

 

【無事か!?】

 

【無事とはいえ…、ちっ!】

 

 背後の何かに気付いた乾はその場から跳ねて、背後からの攻撃を避ける。

 

「ちっ! 潰れなかったか!」

 

 乾が見ると、そこには天狗の操る山吹長腕が乾のいた場所に触腕を振り下ろしていた。

 その背後で悔しがる天狗をどうにかしようと思うが、戦輪獣を操る天狗の位置が遠いことと目の前で攻撃する鬼が邪魔で近付けない。しかし、このままじゃ埒が明かねえ。

 

 劔が背中の翼を大きく広げて抜鬼に向けて翼を羽ばたかせると、強風が吹き、抜鬼を遠くへ飛ばす。

 

【こっちでやろうじゃねえか!】

 

 劔は吹き飛んだ抜鬼を追いかけて、宙で飛ばされる抜鬼に長刀を振り下ろす。

 

「舐めるなああああ!!」

 

 抜鬼も弓刀を前に出して、振り下ろされた長刀の力を利用して地面に降り、劔に向かって突撃する。

 

 鬼が勢いよく迫り、俺は長刀で防ぐ。だが、鬼は防がれると弓刀による連撃を繰り出す。

 だんだん弓刀を振るう速度が上がり、俺は長刀だけじゃなく、長槍も使って交互に振るい攻撃の軌道を逸らす。

 そうして打ち合っていると、僅かながらの鬼の隙を見つける。

 

 劔は抜鬼が弓刀を振るう際の一瞬の隙を突いて、長刀で弓刀を弾き飛ばす。

 

【覚悟しなっ!! なっ!!】

 

 だが、劔が目にしたのは音撃擦弦(バイオリン)を自身の身体に向けて突き刺そうとする抜鬼の姿だった。

 そう。劔が隙と思っていたのは抜鬼が撒いた罠だった。迫る撃擦弦(バイオリン)のバンカーに対して、劔が取った行動は–––

 

【(やるしかねえ)】

 

 そう。もう一つの武器である長槍を撃擦弦(バイオリン)に向けて突き出した。

 音撃擦弦(バイオリン)に仕込まれたバンカーと劔の長槍が互いにぶつかり合うと、2つの衝撃がぶつかり合い、衝撃波となってふたりを吹き飛ばす。

 

 ……ってて。

 くそ、脚も、翼が動かねえ。打ち所が悪かったのか? おまけに武器が無い。衝撃でどっかに落としたんだろう。顔を動かせば、木の幹にぶつかってた鬼が立ち上がろうとしてる。

 せめて、長槍さえあれば………ん? これは。へっ、ついてるじゃねえか。目の前にある物を拾って背に隠す。

 向こうも完全に立ち上がって、変身音叉を取り出していた。音叉は無骨な音叉刀に変わる。さっき俺が弾いたのが原因で弓刀が無いからな。

 音叉刀を持った鬼がゆっくり近付いてくる。俺に確実なとどめを刺すためにだ。だが、コレは予想してなかっただろう。

 

「さあ、往生だ!!」

 

 目の前に立つ鬼は武器の無い俺を完全に下に見ているのは、目に見えて分かる。

 俺に音叉刀を向け、俺の心臓位置に狙いを定めて、音叉刀を突き出す。

 

【そりゃ、テメエの方だ!!】

 

 俺は鬼から見えないように持っていたコレ(・・)を鬼に突き刺す。

 

「がはっ、な、ナゼ魔化魍が、俺の弓、と……」

 

 まさか、俺がコレ(・・)を使うとは思わなかったのだろう。吹き飛ばされた先にたまたま落ちていた弓刀(・・)

 深々と刺さる自分の武器を見た、鬼は面の下で目を見開いてることだろう。

 そのまま引き抜くと、多量の血が噴き出て、弓刀や俺の身体を赤く染めながら、地面に倒れる。

 

「ゲホッ、ゲホッ、ち、ちくしょ、う」

 

 そのまま奴は俺の手にある弓刀に手を伸ばすも、伸ばした手は地面に落ち、奴は力尽きた。

 

【貴様には必要がなさそうだからな。俺が貰うぞ】

 

 劔はそう言って、抜鬼の腕に嵌る音撃擦弦(バイオリン)を持ち上げると音撃擦弦(バイオリン)を壊れないように抜鬼の腕から外して、弓刀を音撃擦弦(バイオリン)の中に戻し、動けるようになった翼を使って、天狗と戦う家族の援護に向かうのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE跳

 劔が鬼を吹き飛ばしたのを確認したあっしは術を使って乾を救出した。

 

【大丈夫でやすか?】

 

【お陰でな。だが、俺は戦輪獣とは相性が悪い】

 

 そりゃそうでやす。

 触れたものの水分または栄養を奪うといっても、それは生物に対して通じる能力でやす。天狗相手ではなく無機物な機械で動くディスクアニマルや戦輪獣には全く通じないもの。

 

【そこで休んでるんでやす。あっしらが奴らを相手しやす】

 

【すまねえ。俺は傷を治してるよ】

 

 すると、乾の身体を黄緑色の光が覆う。すると、ゆっくりだが千切れていた触手が少しずつ再生していく様子に跳は感嘆する。

 

 回復手段を持ってるとは以外でやすね。あの様子でやしたら暫くは戦闘に参加しないでやすね。

 じゃあ、早速でやすが–––

 

【こいつをくらえでやす!!】

 

 跳が掌に水分を集めて生み出した水球を遠くで指示を出す天狗に投げつける。

 

「むっ!」

 

 だが、天狗もそれを黙ってみてるわけではなかった。天狗のそばに控えていた黄檗大楯が腕を突き出して水球から自分の身を守った。

 

「不意打ちか? だが俺には通じんぞ!!」

 

 天狗が笛を吹けば、黄檗大楯はその図体から思えない速度で動き、跳の首を落とそうと鋏を突き出す。だが–––

 

【させるかっ!!】

 

【邪魔じゃの!!】

 

 地面から突き出た拳と脚が黄檗大楯の体勢を崩し、跳の首を狙った鋏は見当違いな方向へ向けられた。

 

「魔化魍め、いつの間に!!」

 

 天狗は地面から飛び出る拳と脚の持ち主である魔化魍に黄檗大楯を差し向ける。

 そして、地面をぶち破って現れたのは、再び黄檗大楯の身体を殴りつける命樹と蹴りとばす古樹だった。

 

命樹

【いや、隙だらけだったしな】

 

古樹

【そうじゃの】

 

 黄檗大楯の装甲は多少凹んだくらいで動きに問題はなく。

 天狗を守るように立ちはだかる。すると–––

 

【いやーーーーーー!!】

 

 盃の悲鳴が辺りに響く。

 盃の悲鳴を聞いて、天狗は嬉しそうに顔を歪める。

 

「おいおい。仲間の心配をしないで良いのか?」

 

 行かせる気は無いくせにと、内心毒付く跳に命樹は口を開く。

 

命樹

【此処は任せろ。お前は盃のところに行け】

 

【しかし!!】

 

古樹

【いってこい。この程度でやられる程、柔じゃない】

 

【………分かったでやす】

 

 2人の言葉を聞いた跳はそのまま盃の元へ向かおうとすると–––

 

「行かせると思うか!!」

 

 黄檗大楯が跳の背後を狙って鋏を突き出す。

 

SIDEOUT

 

SIDE命樹

命樹

【邪魔するな!!】

 

ユラユラ、ユラユラ

 

 命樹は頭の棘を抜き、その隣の古樹は身体に生える椿の花弁を抜いて目の前の黄檗大楯に投げる。

 棘と花弁は黄檗大楯の鋏の可動部分に突き刺さり、動きを止める。

 

「ちっ!! 黄檗大楯、とっととその魔化魍どもを片付けろ!!」

 

 天狗はそう言いうと、命樹たちに背を向けて何処かへ走り出した。

 黄檗大楯は天狗の指示を受けて、命樹と古樹へ向かって鋏を振り下ろす。

 

 命樹は再び、棘を抜いて黄檗大楯に投げる。

 しかし、黄檗大楯は鋏を振るって棘を弾き飛ばして、命樹に鋏を振るう。

 

命樹

【っ!?】

 

 弾き飛ばされたことに一瞬驚くも、命樹は振られた鋏の上に手を置いて、自身の身体を持ち上げて攻撃を避ける。

 

古樹

【ふむ。ならこれはどうだ!!】

 

 古樹が4枚の花弁を合わせて十字手裏剣のようにして、黄檗大楯の鋏にではなく、センサーとなる眼に向かって投げる。

 黄檗大楯は鋏で振り払おうとするも、鋏をすり抜けて、センサーに突き刺さる。

 

 片方のセンサーがやられて動きがぎこちなくなった黄檗大楯に2人は攻め込む。

 古樹は先ほどと同じ花弁の十字手裏剣を無数に生み出し、黄檗大楯の残ったセンサーや、脚の関節部分に向けて投げ続ける。黄檗大楯はセンサーは守ろうと、鋏で残ったセンサーを守るが、その間に脚の関節には花弁十字手裏剣は1つ、また1つと刺さっていく。

 

 その間に命樹は古樹の後ろで両腕を地面に突き刺す。数秒経つと同時に両腕を地面から引き抜いた。引き抜かれた両腕は肥大化して腕全体が棘で覆われた巨腕に変化する。

 

 そして、古樹はそれを確認すると、今度は古樹が地面に手を当てる。

 

古樹

蔓樹縛

 

 術名を云うと、黄檗大楯の四方の地面から植物の蔓が飛び出し、黄檗大楯の身体に巻き付いていく。

 黄檗大楯は身体を激しく動かし、蔓樹縛から逃れようとするが、古樹が黄檗大楯の脚の関節に無数に突き刺さした花弁十字手裏剣が阻害して、動きはひどく鈍重になっており、いつの間にか鋏も蔓で縛られて、黄檗大楯はその動きを完全に封じられた。

 

命樹

【さて、屑鉄に変えてやるよ】

 

 巨腕になった腕を構えて命樹は黄檗大楯に飛び掛かる。そして、その装甲に向けて巨腕な拳を連続で殴り始める。

 装甲に覆われている黄檗大楯の身体から装甲を砕く音とそれに付随して中の機械も滅茶苦茶になる音が響く。そして、装甲が割れて、中が剥き出しになった黄檗大楯に向かって命樹は巨大な右腕を掲げる。

 すると、左腕が少しずつ萎んでいくと同時に右腕が更に肥大化していき、黄檗大楯と同等ほどの大きさになった腕を黄檗大楯の身体に向けて横凪に振るう。

 

命樹

棘棘式投げ縄打ち(ニードル・ラリアット)!!】

 

 肥大化した右腕の一撃は剥き出しの中身を晒す黄檗大楯の身体に食い込む。

 

命樹

【ぬぬぬ!! うおらあああああああ!!】

 

 命樹の叫びと共に黄檗大楯の身体がメキメキと砕けていき、その身体は上下に両断される。

 両断され砕けた機械の破片が雨のように降ってくる中、命樹と古樹は拳を突き合わせる。

 

命樹

【さて、跳と盃も心配だし、探すか】

 

古樹

【ああ、私は向こうを、命樹は反対の方を頼む】

 

命樹

【おお】

 

 そう言って2人は盃と跳を探すために別れるのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE跳

 一方、盃の悲鳴の元へ向かった跳が見たのは–––

 

【しつこいんだけどおおおお!!】

 

 顎に挟まれまいと小さな身体で逃げる盃の姿だった。

 

【この、盃から離れるでやす】

 

 跳は盃を追いかける青大顎の身体目掛けて、一条の電流を撃つ。

 盃を追いかけていた青大顎はそれを目視すると、蜻蛉返りのようにその場で回転し、跳の術を避けて、盃を挟もうと迫る。

 

【離れろと言ったはずでやす!!】

 

 跳は両手から術で作り出した無数の氷柱を撃つ。氷柱は背を向けた青大顎を突き刺そうと飛んでいく。

 

「青大顎後ろだ!!」

 

 突然の怒号に反応した青大顎は盃から離れて、飛んでくる氷柱を顎を左右に振って砕いていく。

 

【っ!?】

 

 跳は怒号の方に顔を向ければ、そこには先ほど、命樹と古樹の前から消えた天狗が立っていた。

 

「ちっ!! 魔化魍どもめ、さっさと死ね!!」

 

 天狗笛を吹くと、戦輪獣は狙いを盃からあっしに替えた。

 戦輪獣は顎を大きく開いて、あっしの身体を挟む。は、早い!

 

【いつの間に!! て、離せでやす!!】

 

「ははははっはは、どうだ。青大顎は戦輪獣の中で1、2を争うスピードを持ってるんだ。

 そのまま、その腹裂いてやる。やれ!!」

 

 あっしを挟む戦輪獣の顎がどんどん閉まっていくにつれて、腹のあたりから嫌な音が聞こえてくるでやす。

 

【がああああああああ!!】

 

 跳の身体を挟む青大顎は前肢を使って跳の腕を抑えているため、跳は腕を使って顎を掴むことも出来ない。徐々に閉まる顎に跳は苦悶の声を上げ、跳の作務衣に赤い染みが滲みだす。

 

「たっぷり苦しんで死ね魔化魍!!」

 

【誰かを忘れてないかな!!】

 

「!!?」

 

 突然の声に天狗は辺りを見回すが、誰もいない。

 だが、跳を挟んでいた青大顎の顎が徐々に開いていく、そんな指示を出すはずもないと天狗が見ると、小さな手で顎を開いていく盃がいた。

 

「なんだと!!」

 

【むむむ、小さいからって、みくびってもらっちゃ困るよ!】

 

 盃が青大顎の顎を開いたことで隙間ができた跳は青大顎の下部に蹴りあげて、青大顎の前肢の拘束から逃れる。

 

【助かったでやす。ありがとうございやす盃】

 

【気にしないで、さっき追いかけられた仕返しみたいなもんだから】

 

「コケにしやがって! 青大顎、スピードで撹乱しながら攻撃するんだ!! 来い山吹長腕!!」

 

 見た目は完全に小さな山椒魚の姿である盃によって青大顎の顎が外されるとは思わなかった天狗は盃を睨むが、盃は気にせず目の前の青大顎に集中していた。

 天狗笛を吹いて、青大顎に指示を飛ばした天狗は山吹長腕を側に呼び寄せる。すると天狗は山吹長腕に向けて不思議な旋律を天狗笛で吹き始める。

 

「(魔化魍どもめ今に見てろ!!)」

 

 そんな天狗の行動を知らず、跳と盃は青大顎のスピードを活かした攻撃に苦戦していた。

 術を飛ばしても当たらず、機械に対して能力は通じないと、相性も有るのだろうがとにかく2人は苦戦していた。

 

【撃っても当たらないんじゃ、意味がないでやすね】

 

 そう言いながらも青大顎を近づけさせないために跳は術を撃ち続ける。

 だが、向こうはこっちの攻撃を軽々避けて、いつでもこちらの頸を落とせると言わんばかり、ギリギリまで近付いて、こちらの身体に切り傷を幾つも作っていく。

 以前、春詠から聞かされやしたが、戦輪獣にはディスクアニマルの時よりも高性能なパーツをいくつも使用しており、天狗笛からの指示がなくともある程度は、自己判断出来ると言ってやした。その自己判断の設定は所有している天狗が設定出来るみたいなんでやすが、よっぽど陰湿な天狗なんでやす。

 

【嗚呼、もう!! 跳、広範囲に水を出せる?】

 

【出せやすが、何をするんでやす?】

 

【避けられるのなら、避けられることのない量で対抗するのよ】

 

【………なるほど。そういうことでやすね。分かりやした、タイミングはあっしが?】

 

【ええ。水系の術なら大抵は分かるから、いつでも良いよ】

 

【じゃ、早速!! 拡散水礫

 

 ひとつ、ひとつがバスケットボール大ほどの水の塊が散らばるように放たれ青大顎に迫る。

 

 戦輪獣は隙間を見抜いてギザギザ移動で飛びながらあっしに近付いてくる。でやすが–––

 

【残念でやすね。そっちは囮でやす、本命はこっちでやすよ】

 

 先ほどの盃との会話は、あの戦輪獣を油断させるためにわざと大きめの声で言ったのだ。

 あっしは指先から水流を出して、頸を狙って迫る戦輪獣に命中させる。水流の勢いで戦輪獣は地面に堕ちる。あっしの出した水流でずぶ濡れになった戦輪獣は距離をとろうと背中の羽根を動かしてあっしから離れようとする。

 

【おっと、逃がさないよ】

 

 青大顎の背にいつの間にか飛び乗った盃が青大顎の身体にかかった水流の水に触れる。

 すると、無味無臭のはずだった水流の水が一気にアルコールの匂いへと変わり、周囲に充満する。

 

【さあ、やっちゃって!!】

 

 盃は青大顎の身体からあっしの近くに飛び降りると同時にあっしの手から放たれた火炎が青大顎の身体に命中する。

 

【即席火焔地獄でやす!!】

 

 青大顎の身体は盃の力で発火性の高い酒に変えられた術の水で全身を濡らしている。そんな状態に炎を浴びせたらどうなるのか。

 言うまでもない、液体に炎が着火し、どんどん炎は広がる。

 

 やがて青大顎の身体を橙に染まった炎が包み込む。

 

ギイイイ、ギイ、ギ・・・

 

 機械故に苦しむはずのない戦輪獣は奇声のような機械音を上げながら、のたうちまわり、その機能を停止した。

 

 青大顎から視線を外した跳は残った戦輪獣と天狗を見る。だが此処で跳は長年の戦闘経験による直感が働く。

 何かが起きると、その直感に従い、跳は下にいる盃を抱えるとその場から急いで離脱する。そして、跳の直感は正しかった。

 

「発射あああ!!」

 

 天狗の掛け声と共に山吹長腕の攻撃に使う4本の触腕から衝撃が跳と盃のいた場所を通過する。

 通過した場所の地面は軽く抉れていてが、跳はそんな事よりも気になることがあった。

 

 今の攻撃に見覚え、いや既視感(デジャヴ)を感じたからだ。いや、コレは跳だけじゃなく盃も同じように感じた。

 

 そして、山吹長腕から放たれたものの正体に気付いた跳と抱えられた盃は驚愕の表情を浮かべる。

 そう。それの正体は、全ての魔化魍の共通の弱点である『清めの音』つまり、音撃を放ったのだ。

 

【馬鹿な、音撃を放つ戦輪獣でやすか!!】

 

【嘘…でしょ】

 

 戦輪獣 山吹長腕。山吹蛸というディスクアニマルを元に生み出されたこの戦輪獣は他の戦輪獣には無い機構が搭載されていた。それが『音撃機構』。

 それは鬼が音撃を放つ際に使用する音撃武器全てに搭載されている特殊機構で、それを大型化し、初めて搭載されたのがこの山吹長腕だ。

 つまりこの戦輪獣は、『音撃機構』搭載の次世代形戦輪獣なのである。山吹長腕はそのプロトタイプとして開発された戦輪獣だ。

 攻撃として使う四つの腕に音撃管などの管型音撃武器と同じ『音撃機構』が組み付けられ、背面に存在する空気孔から空気を取り込み、その空気を腕にある機構に送り、音撃を放つ。

 プロトタイプ故か、オリジナルの音撃とは異なり、その威力はオリジナルの音撃の半分程の威力だが、それを触腕の数でカバーし、オリジナルに近い威力にすることに成功した。

 今のところは管系の音撃しか撃てないが、音撃棒や音撃弦、後々には特殊な音撃武器の音撃を撃つ戦輪獣を猛士は開発しようとしている。

 

「どうだ驚いたか魔化魍共! 猛士は日々お前たち魔化魍を滅ぼすための武器を開発してる。

 コレはそんな武器の初期型さ。今にコイツよりも高性能の戦輪獣が次々と産み出され、俺たち天狗がお前ら滅ぼせるようになる!!」

 

【(まさか、ここまでの物を作り出したとは、思いもしやせんでした。ですが–––)】

 

 だが、跳は思った。

 それがどうしたと、鬼と戦う魔化魍は常に音撃に警戒している。その対象が鬼の他に戦輪獣というものが増えただけだ。

 跳は盃を地面に下ろして、単身で天狗と山吹長腕の元へ歩き出す。

 

【確かにその戦輪獣が音撃を放てるようになったのは脅威でやす】

 

「そうだろう。コイツを使って俺は…」

 

【でやすが】

 

「ああ?」

 

【使っている者が愚かじゃ、その高性能さはただの肥やしでやすね】

 

「なんだと!!」

 

 跳は盛大に煽った。

 分かりやすいほどに煽った。

 

「じゃあ、そんな俺にヤラレたらお前は肥やし以下って訳だ!!」

 

 天狗はそう叫ぶと山吹長腕の触腕を跳に向け、音撃を放つ。

 一直線に放たれる音撃は跳のみを狙う。滅茶苦茶に撃つ、音撃を涼しい顔で避け、なんなら更に煽るかのように笊を持って小豆を研ぎ始める。

 

ショキ、ショキ、ショキ、ショキ

 

 小豆を研ぎながら戦う跳の姿に、天狗は更に激昂する。

 

「キサマ、真面目に戦え!!」

 

ぽあ(じゃあ)ぽっくら(ちょっくら)酔いましょうか!!】

 

「しまった! ぐうう」

 

 跳のみに集中していた天狗は近くまで来ていた盃の存在に気付かず盃の口から吐き出された煙をモロに浴びてしまう。

 

「おにょれ、みゃかもう!」

 

 そこには呂律の回らない舌で喋る天狗がいた。

 盃ことシュチュウはあらゆる液体を酒に変えるにそうあらゆる液体を、それが例え、自身の口元に溜まったヨダレだろうと、盃は跳に下ろして貰った後に天狗への攻撃のために、口の中に多量のヨダレを溜めた。

 跳が盛大に天狗を煽り、天狗が跳だけを注視してる間に溜めたヨダレを酒に変え、さらに気化させて天狗の隙を窺う。

 そして、隙を見せた天狗に酔いどれブレスを噴き出した。

 

 結果、天狗は急性アルコール中毒による酩酊状態になったのだ。

 そして、盃が天狗から離れたの確認した跳は宙へと飛び上がる。

 

多攻呪術(たこうじゅじゅつ)参型(さんのかた) 四面楚歌(しめんそか)

 

 宙にいる跳が手を合わせると、その周りを様々な術が浮かび、術が完成すると天狗に向かって飛んでいく。

 術が次々と生み出されては、天狗に向かって飛んでいき、また生み出すを繰り返している。しかも生み出される術の属性はランダムなのに、色は全て統一され対応した術だと思い攻撃すれば、さっきの術とは正反対の属性の術に天狗は困惑する。

 

 天狗も負けじと狼鬼から持たされた量産型音撃管で術を撃ち落とし、操る山吹長腕を使って触腕先から音撃を放つが、それでも次から次へと放たれる術によってことごとくかき消されていき、オマケに先程、多量に浴びせられた盃の酔いどれブレスが天狗の五感を乱し、酩酊状態にされたこともあり、次第に空気弾や音撃をすり抜けて幾つもの術が天狗と山吹長腕に迫る。

 

 天狗は避けるも酩酊してる状態でいつまでも避けれる筈はなかった。脚をもつれさせて、その場に倒れる。倒れた拍子に音撃管も天狗笛も落としてしまい、天狗はなす術もなかった。

 

「しにゅみゃえに、ちゅたえときゃよかったなあ」

 

 自身の死を悟った天狗はそんなことを呂律の回っていない口で言い、跳の放ったそれぞれの属性を持った幾つもの術が天狗に降り注ぎ、地面を砕きながら辺り一面に土埃が舞う。

 

【終わりやした】

 

 そう言った跳の先には、ガラクタの塊と化した山吹超腕と肉塊と化した天狗が残っていた。

 この場にいないのは、逃げた天狗たちを追いかけてる2人と鬼と戦っている劔でやすね。

 

【おい。無事か!!】

 

 おっと、噂をすれば影とやらでやすね。まあ、あの2人の心配は必要なさそうでやすね。

 耳をすませば、聞こえてくる落雷の音に跳は歪んだ笑みを浮かべるのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE緑

 抜鬼と天狗が劔たちと戦っている最中–––

 乱雑に生えた樹々を避けながら飛行する3つの影。

 

 1人の天狗の自爆によって、逃げられた葉栄と3人の天狗の操る茜羽だ。

 

「後井さん。くそ」

 

 天狗の1人が自爆した天狗の名を言いながら涙を流すが、それでも茜羽を操れているのは流石としか言えないだろう。

 しかし、彼らは悲しんでる暇はなかった。急いでこの場から離脱して、葉栄を総本部に送らなければならないのだから。

 

ヒヒィィィィィン

 

 だが、そんな彼らの耳に追っ手の魔化魍の鳴き声が聞こえくる。

 声の向きに顔を向ければ、蹄から電気を迸らせながら駆ける刺馬の姿が見えた。そして、刺馬が角を此方へ向けると、角先から電撃を放ってくる。

 

「「「っ!!」」」

 

 此方へ放たれた電撃を天狗たちは各々の判断で躱す。それを見た刺馬も駆けながら電撃を放ち続ける。

 

「っ! 見たところ電撃は真っ直ぐしかいかないようだ。あれに注意すれ「逃がすわけないでしょ」!!」

 

 いきなり天狗の真横から現れたのは、近くの樹の太い枝を踏みながら跳ぶ緑だった。

 そして、緑は手提げ袋から十手を取り出し、茜羽の上の天狗に振り下ろす。

 

「うお!!」

 

 天狗は茜羽を傾かせて、緑の十手を避けると、茜羽を動かして翼の羽ばたきを緑にぶつけて、上へ飛ぶ。

 

 茜羽によって上から落ちてくる緑の下には刺馬が立っており、緑が近くまで来ると緑を乗せるように後ろ脚を出した。

 刺馬の行動を理解した緑は刺馬の脚を踏み台にして再び宙に舞い戻り、少し離れた位置で飛ぶ2体の茜羽を視界に収めると、十手の持ち手の巻いた紐を緩め、緩めた紐を指に通して十手を右側に飛ぶ茜羽に向けて飛ばす。

 

「なっ!!」

 

 飛ばされた十手は茜羽の身体に深く刺さり、それを起点にして緑は紐を握りしめて某野生児のように宙を振り子のように移動すると十手が突き刺さっていない葉栄を乗せた茜羽の近くまで移動するとその茜羽の翼を勢いよく蹴りつける。

 勢いを合わせられた蹴りによって茜羽の翼は真ん中から砕かれ、その衝撃で葉栄は空中に放り出され、天狗は茜羽と共に森の奥に落下した。

 

「支部長!! え?」

 

 十手の突き刺さった茜羽に乗った天狗は落ちていく葉栄を助けようとするが、いつの間にか茜羽の上に置かれていたものに理解できず、その一瞬の間によって天狗は茜羽の上に置かれていた爆弾で吹き飛ばされ、千切れ飛ぶ腕と砕けた破片が落ちていった。

 そんな爆風の中から飛び出た緑は落ちていく葉栄の姿を確認すると近くの幹へと着地する。

 

「うわああああああああ!!」

 

 そして、空中に放り出された葉栄はそのまま地面の染みになろうとした瞬間–––

 

「支部長!! 手を!!」

 

 攻撃から逃れた最後の茜羽に乗った天狗が落ちる葉栄の手を掴んで、地面ギリギリの場所から拾い上げる。

 

「しっかり捕まってください!!」

 

 葉栄を背に寄せた天狗は天狗笛を吹く。茜羽は笛の音に応えるようにその翼を大きく羽ばたかせて森の奥へと消える。

 緑は逃げる茜羽に十手を当てようとしたが、すでに射程距離外にいる茜羽に当てることは出来ず、刺馬の側に降りてくる。

 

「逃げられた!!」

 

 緑は悔しいそうに顔を歪めて、葉栄を乗せた茜羽の消えた森の奥を睨む。

 すると、隣にいた刺馬が緑に話し掛ける。

 

刺馬

【私の背中に乗って】

 

「え? 背中って、貴女確か認めた者以外背には乗せないって」

 

刺馬

【今はそんなことにこだわってる場合じゃありません。このまま逃げられてしまえば私たちのこれからの戦いが不利になります。なんとしてもあの情報をもった人間を片付けませんと】

 

 ユニコーン種の魔化魍は総じて誇り高い種族である。

 自分の背に乗せる相手を見極め、その誇りに見合った者を乗せる。そんな種族としての誇りを捨て、緑を乗せようとする刺馬の覚悟を理解した緑もその覚悟に応える。

 

「分かりました」

 

 そして、緑は刺馬の上に乗ると刺馬が口を開く。

 

刺馬

【私の上から落ちないように身体を固定してもらえますか】

 

「分かりました」

 

 言われた通りに緑は刺馬の身体から落ちないように腕の一部を本来の姿である妖姫の腕に戻し、身体に腕を巻きつけ身体を固定した瞬間–––

 

刺馬

(いかづち)よ!!】

 

 刺馬の声に反応し、晴天だった空が急に暗雲に変わり、その暗雲から幾つもの雷が刺馬の角先に落ちる。角は雷を吸収していき徐々に輝きを持ち始め、それと同時に刺馬の身体も山吹色に発光する。

 やがて雷を落とす暗雲は消え、雷の力をその身に宿した刺馬が逃走する最後の茜羽に乗る葉栄と天狗の姿を捉える。

 

刺馬

【振り落とされないようにしてください】

 

 その言葉と共に音が響く。

 まるで地面に雷が落ちたような轟音が響くと緑と刺馬の姿は消え、重く踏み抜かれて陥没した地面だけがあった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、葉栄を茜羽に乗せた天狗は後方を気にかけながらも守るべき存在の安否を確認する。

 

「支部長。大丈夫ですか?」

 

「たたた、お陰様でね。もう少し優しく拾い上げて欲しかったよ」

 

 苦言をこぼすも支部長の無事を確認した天狗は、茜羽の飛翔速度を上げる。

 だが、天狗の耳に何か音が聞こえてくる。

 

ヒヒィィィィィン

 

 蹄が大地を削りながら駆ける刺馬とその背に跨って十手を構えた緑の姿が天狗と葉栄の目に入る。

 あれほど離れたのにと天狗は内心で思いながら、隣の葉栄を見る。このままでは追いつかれると思った天狗は手に持つ天狗笛を葉栄に渡す。

 

「支部長、天狗笛の使い方分かりますよね?」

 

「え? 多少は吹けるけど」

 

「じゃあ、俺が時間を稼ぎます。その間に支部長は逃げてください!!」

 

 天狗の顔を見て葉栄は彼が何をしようとするかの察する。

 

「酒井くん!?」

 

「支部長! 情報を必ず持ち帰ってください!!」

 

 葉栄にもう少しと追いつく瞬間、茜羽から天狗が飛び降り、手を大きく広げて刺馬の前に立ちはだかる。

 葉栄を守るために僅かな時間でも足止めをと言わんばかりの覚悟を決めた天狗。だが現実は無情にも電気を迸らせた刺馬の捻れた角が眼前の天狗の腹を貫く。

 

「ぐがあああ!!」

 

 天狗が腹を貫かれると同時に角に溜め込め込まれた電気が天狗の体内で解放され、内側から天狗の身体を焼く。

 

 天狗の身体はものの数秒で黒焦げの死体へと変わり、刺馬がぶるりと首を振るうと炭化した死体の身体が崩れて、まるで死体など無かったかのようにそこには何も無かった。

 邪魔するものがない刺馬は更に加速し、刺馬に乗る緑もその加速に耐えながら、目前の茜羽に十手の照準を合わせる。

 

「ハッ!!」

 

 十手は緑の手を離れ茜羽の翼を貫き、緑は茜羽に飛び移ると同時に茜羽のボディに蹴りつける。やがて茜羽の身体を中心にひび割れていき、空中で茜羽は無惨に砕け散り、乗っていた葉栄は地面に転がり、緑は側の樹の幹を足場にして地面に着地する。

 そして、転がり落ちた葉栄に緑は十手を構えながら近付く。

 

「舐めるなああああ!! ぐぶっ………があ、ああ」

 

 最後の反抗かその手には砕けた茜羽の翼片が握られ、緑の首筋に突き刺さろうとする。

 

「これで、お仕舞い」

 

 だが油断のしていない緑は十手で翼片を砕き、そのまま流れるように葉栄の腹に深々と十手を突き刺す。

 

「ん?」

 

 刹那、何故か違和感を感じた緑だったが、そのまま十手を引き抜くと、引き抜かれた腹から大量の血を流しながら葉栄はその場に倒れ、痙攣を始める。

 

「葉栄支部長!!」

 

 声の方向を見れば、先程叩き落とした筈の天狗がいた。だが、さっきの攻撃で乗っている戦輪獣の翼は歪に曲がりまともな飛行が出来ていない。

 だが、天狗は背にある戦輪獣の円盤を緑たちに投げつける。

 

「はっ!」

 

 緑は飛んでくる円盤のひとつを明後日の方向に蹴り飛ばし、もうひとつに容赦なく十手を振り下ろした。

 十手を叩き込まれた円盤は一部は欠けるも、そのまま変形し緑大拳となる。

 

「よくも葉栄支部長を!!」

 

 怒りでわなわなと震える天狗はそのまま天狗笛を吹いて、戦輪獣に攻撃の指示を送る。

 しかし、葉栄を殺した緑にばかり目を向けた天狗は、自分に迫る影に気付かなかった。

 

ヒヒィィィィィン

 

 刺馬の鳴き声に呼応するかの如く、角は強烈な光を放ち、辺りを光に包み込む。

 

「がああああ!! くそ! 目が! 己、魔化魍ぶち殺してやるぅ!!」

 

 無論それを直視した天狗の目は焼かれ、失明した天狗は目を抑えながら、緑大拳で辺りを無茶苦茶に殴りつける。見当違いな方角を殴り続けて樹を叩き折り、地面を陥没させる緑大拳に脅威を感じない刺馬はそのまま角を天狗に向ける。

 すると刺馬の角に電気が迸り、角の先端に球状になにかが作らられていく。

 

刺馬

電磁捻角砲(パルスキャノン)!!】

 

 角の先端に集まった電気エネルギーの塊は真っ直ぐ、天狗に放たれる。

 それは天狗の身体を貫いて、遥か彼方へと消えた。

 

「がふっ……、なにが…」

 

 目が見えないために自分の身体に何が起きたのか理解できない天狗は腹に空いた穴を確かめることもなく倒れ、そのまま事切れた。

 

刺馬

【緑、見つかりましたか?】

 

「いえ、まだ探しています。ん? これですね」

 

 そう言って緑が痙攣も止まり既に死んでいる葉栄の身体を弄って、服の下に隠されたディスクを見つける。

 緑が手に取ったのは竜胆蝙蝠のディスクだった。そのディスクを手提げ袋に仕舞い、緑は踵を返そうとすると–––

 

刺馬

【コレをどうしますか?】

 

 刺馬に呼び止められる。

 コレと言うのは、おそらくこの支部長と天狗の死体のことだろう。普段なら持ち帰ると言いたいところなのだが–––

 

「放置でいいでしょう。私たちは空間倉庫の術習得していませんし、それにその内、土に還ります。さあ、戻りましょう」

 

 緑の言葉に納得した刺馬は、緑の側に寄って服を噛み、緑の動きを止める。

 

「何でしょうか?」

 

刺馬

【歩くよりも私に乗ったほうが早く帰れます】

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 そう言う刺馬の言葉に甘えて、緑は刺馬の背に跨り、そのまま緑と刺馬は家族の元へ駆けるのだった。




如何でしたでしょうか?
灯子班だけ戦力過剰だったのは予言の予知内容でこの班のことを聞いたからです。家族を大事に思う幽冥は未来でのもしもを考えて、たった7人に対して、過剰な戦力で灯子たちにぶつけました。まあ、そりゃ情報を持って逃げようとしたら、それは潰さないといけませんよね。情報ほど怖いものはありませんからね。今の世の中もそうですけど。
因みに劔が抜鬼の音撃擦弦(バイオリン)を奪ったのは、捕虜の突鬼に渡して、万全の状態で戦いたいという理由です。
次回は北口襲撃班の話です。ではおまけコーナーに続きます。

〜おまけ〜
迷家
【イエーーーーイ! おまけコーナーの時間だよ♪】

舞(櫛)
【………何処?】

迷家
【お、来た来た。今回のゲストはマイクビの舞の櫛ちゃんだよ〜】

舞(櫛)
【………姉様たちは?】

迷家
【うんとね。変な人に頼んで君だけ此処に来て貰ったから居ないよ】

舞(櫛)
【………此処は?】

迷家
【おまけコーナーの特別空間。僕が君に質問する場所だよ】

舞(櫛)
【………質問?】

迷家
【そ! じゃあ、早速質問ね。君のその櫛って生前使ってた物なの?】

舞(櫛)
【………そう】

迷家
【へえ〜。誰かからのプレゼント?】

舞(櫛)
【………母様が】

迷家
【お母さんが?】

舞(櫛)
【………誕生日に】

迷家
【そっか、じゃあ他の簪ちゃんも、鏡ちゃんもプレゼントなの?】

舞(櫛)
【………そう】

迷家
【因みにどっちが長女なの?】

舞(櫛)
【………簪の姉様】

迷家
【へえ〜。じゃあ、鏡ちゃんが次女で櫛ちゃんが三女ってことか】

舞(櫛)
【………そう】

迷家
【なるほどね。おっと、そろそろお別れの時間だね。
 じゃ、また次のおまけコーナーでバイバイ!!】

舞(櫛)
【………さようなら】


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記録百拾玖

大変お待たせしました。
引っ越しに伴い、使っていたWi-Fiを別のに切り替えたのが原因で電波が付いたり切れたりを繰り返して書くのが大幅に遅れましました。
そんなこんなで北口奇襲班との戦いに入ります。


SIDE労鬼

 それは突然だった。

 奇襲によって逃亡する魔化魍を1匹残らずに討伐する任務を任された私たちを出迎えたのは、一発の砲弾だった。

 

「「「「っ!!」」」」

 

 突然の攻撃に反応できたのは労鬼と騒鬼、天狗2人の4人だけだった。

 反応できなかった2人の天狗の内、ひとりは砲弾の直撃で身体が吹き飛び、もう1人は砲弾の爆風に飛ばされ岩に身体を打ちつけ変な方向に腰から曲がっているもはや死体と変わらない。

 

「危なかった」

 

「今の魔化魍の攻撃か!?」

 

「しかし、今のは砲弾でしたよ。魔化魍が人間の武器を使うとは」

 

「いやツクモガミ種の魔化魍かもしれねえ」

 

【正解だ】

 

 そう言って奥から現れたのは脚の先に着いたキャタピラで移動する体の各所に装甲を纏い、肩に大砲を載せたアルマジロの魔化魍(不動)だった。

 騒鬼の言った通り、おそらくツクモガミ種で、しかも異常種だろう。

 数多く存在するツクモガミ種の異常種は大元となった道具の特徴がその身体に表れていることが多く、そこからその異常種を特定するのがツクモガミ種の異常種の魔化魍の判断方法だ。

 そして、キャタピラの脚と装甲、そして肩部の大砲からして戦車のツクモガミだというのは間違いない。そして、戦車のツクモガミの異常種は一種しかいない–––

  

「(ゴグマゴグ)……くっ!」

 

 戦車や戦闘機、潜水艦などの兵器のツクモガミが進化することで産まれる異常種だ。

 兵器から産まれたツクモガミ種の特徴としては好戦的で凶悪凶暴なものが多く、本能の赴くままに戦いを楽しみ、あたりを焼け野原にかえる。おまけに数あるツクモガミ異常種の中でもゴグマゴグは極めて戦闘能力が高く、その強さは5本の指に入るほどだ。

 そして、戦車のゴグマゴグは大砲による高い攻撃力、キャタピラの脚による高速移動と不整地走破、そして身体の装甲とアルマジロ特有の背甲を合わせた極めて高い防御力が特徴だ。

 

「騒鬼!! 貴方ならゴグマゴグの装甲など関係なく内部に音撃を極めれば勝てます。貴方はゴグマゴグの相手を!!」

 

「確かに硬いのが取り柄の魔化魍なら俺向きだな!!」

 

 騒鬼は肩に担いだ音撃弦 騒々(そうぞう)を下ろして、ゴグマゴグに向かって駆ける。

 

「ちょ、連携を!! ああ、もう!」

 

 あの人は、独断専行しやすく傍に誰かが居ないといけない。それが原因で何度も危機に陥っている。

 そんな騒鬼を援護するべく音撃管 社逐(しゃちく)をゴグマゴグに向けて構えようとした時、地面に映る何かの影に気付き私は横っ飛びで回避に移る。

 

拳牙

【ありゃ、気付かれた? まあいっか】

 

唐傘

【ダメですよ。でもその方が楽しいのかな?】

 

 私のいた所には拳を振り下ろしている魔化魍と地面に突き刺さっている苦無を投げた魔化魍が飛んでいた。

 あれま、マジですか。『水武虎』がいるなんて。

 

 『水武虎』、正確にはスイコという魔化魍だった筈ですが、この個体は今の魔化魍の王の前に先代の王であるシュテンドウジに仕えていた魔化魍だ。

 もう1体はどのような魔化魍か知らないが外見から考えてツクモガミ種の異常種(?)の魔化魍だろう。

 

「魔化魍覚悟!!」

 

 私の撃った空気弾が『水武虎』に当たって『水武虎』の身体には幾つもの穴が空く。

 だが、『水武虎』は何事もなかったかのように歩き出し始める。すると『水武虎』の身体に空いた穴が消えていく。数秒経てば穴も無い綺麗な身体になっていた。そして『水武虎』は拳を握りしめると私に向かって駆ける。

 

 私は社逐で『水武虎』を撃つも『水武虎』は握った拳で空気弾を弾いて徐々に距離を詰めてくる。

 それに対して私は社逐を地面に向けて撃つ。撃たれた地面はパラパラと土埃を巻き上げて、『水武虎』の動きを止める。

 

拳牙

【はあ!!】

 

 『水武虎』が勢いよく腕を振るうと、それによって発生した風が土埃を吹き飛ばし、体勢を立て直そうとした労鬼の姿が見えてくる。

 

カラカラカラカラ

 

 労鬼を捉えた唐傘は口から糸を吐き出す。

 

「うわっと、危な!」

 

 労鬼は吐き出された糸をディスクアニマルのディスクで防いでそのまま捨てる。そのまま流れるように音撃管を唐傘に向けて撃つ。

 

カラカラカラカラ

 

 だが、撃たれた空気弾は唐傘が自身を高速回転させて弾き飛ばして霧散させる。

 労鬼はツクモガミ異常種(?)をゴグマゴグ並に厄介な相手と判断して再び音撃管を構えた。

 

SIDEOUT

 

SIDE不動

 一方、労鬼から少し離れた森の中。

 こちらは労鬼の話を聞いて不動に突撃した騒鬼のほうでは、激しい爆発音が響いていた。

 

「おっと、危ねえな!!」

 

 そう言いながら走るのは音撃弦 騒々を持った鬼、騒鬼だ。

 そんな鬼を攻撃するのは、脚のキャタピラを使って縦横に動き回る不動だ。

 

「ちょこまか、うぜえなあ!!」

 

 音撃弦を振り回しながら迫る騒鬼に向けて大砲を構えるも–––

 

「むっ、おらあああああ!!」

 

 騒鬼は音撃弦で土を持ち上げて、雑に不動に投げつける。

 

【っ!!】

 

 不動は土を見ると、構えを解いてキャタピラで横にズレるように土を躱す。

 

「そらあああ!!」

 

 そして、土を投げつけると同時に迫る騒鬼。

 そんな騒鬼から距離を取るために不動は騒鬼の足元に向けて先程の砲弾を撃ち、響く爆発音と共に地面の砂は巻き上げられた砂が辺りを覆う。

 そして、それを確認した不動はキャタピラで後退する。

 

不動

【装填までもう少しか】

 

 不動の砲弾は体内に溜め込んだ屑鉄と自身が喰らった人間の血肉から抽出した鉄分、そして火薬を混ぜ込んで作られる。

 それらを体内で混ぜ合わせて、弾種を決め、肩部の大砲に装填されるのに30秒掛かる。

 

「おらああああ!!」

 

 騒鬼は音撃弦を回転させて風を起こして、打ち上げられた砂を払っていく。

 それを見た不動は装甲の一部を剥ぎ握りつぶして、細かくなった装甲の破片を勢いよく投げつける。

 

 騒鬼は音撃弦を地面に突き刺すと、柄を握りしめて自分の身体を宙に浮かして迫る破片の散弾を避ける。

 騒鬼は体勢を空中で立て直して地面に降りて走り出す。

 

 不動は走る騒鬼に向けて、装填の済んだ砲弾を放つ。

 自身に迫る砲弾を見た騒鬼は、その場で止まると音撃弦を構える。

 

「うおしゃああああ!!」

 

不動

【なっ!?】

 

 不動は驚愕する。なんと騒鬼は、飛んできた砲弾を音撃弦の峰で受け止めて、そのまま野球の球のように不動に向けて打ち返した。

 打ち返された砲弾は不動の足元に着弾して爆発する。

 

不動

【むう!】

 

「ここだあああ!!」

 

 砲弾を撃ち返すと同時に駆けた騒鬼が不動に向かって真っ直ぐと音撃弦 騒々で突き刺す。

 

不動

【はっ!】

 

「バカな!!」

 

 だが今度は騒鬼が驚愕する。

 伸ばした音撃弦の先に不動はおらず、上を見上げれば宙に飛び跳ねた不動がいた。戦車は鈍重という認識を持っていた騒鬼は油断した。そして、上から落ちてきた不動が着地したのは騒鬼の両脚の上だった

 

「があああああああああ!!」

 

 上から降ってきた不動に両脚を踏み潰された騒鬼は音撃弦を振り回して不動を攻撃するも、不動は装甲をうまく使って攻撃を防ぐ。

 そして騒鬼の攻勢が緩まった次の瞬間、不動の脚のキャタピラが勢いよく回転して潰した騒鬼の両脚を抉るように滅茶苦茶にする。

 

 騒鬼の絶叫が響き、数秒後には不動は勢いよく飛び跳ねて騒鬼から離れる。踏み潰されキャタピラに轢かれた騒鬼の両脚はズタボロでほぼ原型を留めていない。痛みで呼吸は滅茶苦茶、まともに立つことも出来ない。

 戦うこともその場から逃げることもできない騒鬼は手にある音撃弦 騒々を握りしめる。だが、騒鬼はそんな状況の中–––

 

「へへ、来いよ魔化魍。俺はまだ死んでねぞ!! まだ動けるんだ、テメエの喉元にこれを突き刺してやるよ!!」

 

 面の下で笑った。

 既にマトモに戦えないと思った鬼が、脚もまともに動かせない筈の鬼に気押される。不動は知らぬ間に騒鬼から離れるように脚を一歩後ずさってしまう。

 今まで感じたこともないそんな感情を押し隠すように不動は大砲に焼夷弾を装填し、騒鬼に照準を合わせる。

 

 それを見た騒鬼は脚を動かせないと分かっている。騒鬼は手にある音撃弦を見る。

 不動の肩の大砲はゆっくりと動き、騒鬼に照準を合わせる。

 

 それを見て騒鬼は手にある音撃弦 騒々を見ると、不動に向かって槍投げのように音撃弦を投げる。

 そして、それは丁度、砲弾を装填し発射しようとしたタイミングで投げられた音撃弦は不動の大砲の中にある砲弾に接触し、そのまま大爆発する。

 

不動

【ぐうううううう!!】

 

 鬼が自分の武器を利用してダメージを与えるとは予想だにしなかった不動は内側から吹き飛んで身体の色々なところに刺さった肩部の大砲の破片と音撃弦の破片によって動きが止まってしまう。

 そして、それは騒鬼のチャンスだった。

 

「死ね魔化魍うううううう!!」

 

 潰れた脚ではなく、両腕を使って這って近付く騒鬼。不動は迎撃のために自身の装甲を剥ぐも間近で受けた大爆発で感覚が狂っていた不動は装甲を落としてしまう。迎撃できないことを知った騒鬼はこれ幸いと言わんばかりに不動に向かって飛び掛かる。

 騒鬼の腕を見れば爪が伸びている。鬼の使う鬼闘術(きとうじゅつ) 鬼爪(おにつめ)によって伸びた爪を先の爆発によって剥き出しになっている装甲の下の肉に突き刺さろうとしたその時–––

 

【やらせない!!】

 

 突然、現れた腕が不動に飛び掛かった騒鬼の動きを止め、不動から引き剥がす。不動は現れたものに驚きの声をあげる。

 

不動

【焼腕か!?】

 

 そこに現れたのは焼腕だった。

 

焼腕

【ああ、何か胸騒ぎを感じて、向こうを樹裂に任せて俺がこっちにきた】

 

「魔化魍め、邪魔をしやがって!!」

 

 焼腕に掴まれている騒鬼は爪を振り回して暴れるが、焼腕は騒鬼の腕に力を込めて腕は握り潰す。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

焼腕

【黙れ!】

 

「がぶふ、ごぷっ……」

 

 腕を潰されて悲鳴を上げる騒鬼を頭から地面に思い切り叩きつけた。

 頭を守ることも出来ずに叩きつけられた頭から多量の血を撒き散らして騒鬼は死んだ。

 

不動

【鬼にしてやられるとは、助かった焼腕】

 

焼腕

【……良かった………俺は仲間を、いや家族を今度こそ、守れた】

 

不動

【焼腕?】

 

 突然、涙を流す焼腕にギョッとする不動。

 

 何故、焼腕が涙を流したのかその理由を教えよう。

 焼腕は『鳥獣蟲同盟』が猛士中部地方支部の最初の奇襲を受けた時、同盟メンバーの食糧調達のために外出していた。

 食糧調達を終えて戻ってきた際に見た光景に愕然とした。同盟メンバーの全員がどこかに怪我を作っていた。そして、いる筈の魔化魍がふたり居ないことを尋ねれば、何があったのかを聞かされて内容に焼腕は放心して倒れた。

 目を覚ました時、改めて仲間が居ないことを受け止めた焼腕は同じことを起きないようにと仲間の警護をするようになった。

 だが、猛士中部地方支部の2度目の奇襲の際に陽動を使って仲間から引き離された焼腕が陽動を蹴散らして、仲間の元に向かえば今度はさんにんも仲間を失った。唯一の救いは奇襲で狙われた幻笛を助けられたこと。仲間が身を挺して作った時間によって幻笛はその場から逃げて焼腕に保護された。

 そんな焼腕は間に合った。ピンチだった不動を助けて仲間を守ることが出来た。

 

 不動は焼腕の涙の理由は知らない。だが、かつて戦車だった頃、自分に乗っていた男が仲間の死に泣いていたことを覚えていた不動はなんとなく察し、何も言わずに焼腕の涙が止まるのを待った。

 

焼腕

【すまん。情けないところを見せた】

 

不動

【……そうか。では戻るとしよう】

 

 こうして騒鬼を仕留めた2体の魔化魍は家族の元へ移動するのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE労鬼

 2体の魔化魍との戦いで気づけば、いつの間にか騒鬼が何処にも居なかった。

 おそらく、騒鬼と戦っていたゴグマゴグによって分断されたのだろう。

 

 耳を澄ませば、物凄い音が奥の森から断続的に聞こえてくるから騒鬼はまだ生きてるのだろう。

 だが、助けに行きたいのは山々だが今は無理だ。その理由は–––

 

拳牙

【ほらほら、どんどんいくよ!!】

 

 目の前の『水武虎』が原因だ。

 音撃管などの管系の武器を持つ鬼は総じて、近接戦闘が苦手な者が多い。それは私も例外じゃ無い。

 

 水を纏った『水武虎』の拳の連続攻撃に私は手も足も出ない。

 なんとか鬼闘術 鬼爪で生やした爪で相手の拳に対抗して隙を見て距離を取ろうとした瞬間には–––

 

カラカラカラカラ

 

 ツクモガミ異常種(?)の魔化魍が糸や苦無を使って私の移動を妨害して脚が止まった瞬間に『水武虎』が接近して攻撃を仕掛けてくる。

 おまけに『水武虎』は酔拳を得意とする為か、攻撃の軌道が不規則でこちらの隙に捩じ込むように拳を出す。

 

 そんな攻防で既に鬼闘術 鬼爪で生やした爪もほぼ無く、鎧の一部も砕けている。

 戦闘で邪魔になると思った音撃管は腰にぶら下がってるが、油断も隙もない『水武虎』には当たらないだろう。

 しかし、ただやられてるばかりじゃ無い。

 

「すうーーーーー」

 

 『水武虎』の攻撃をなんと防ぎながら息を大きく吸い込む。すると面の口元が開き、そこから猛烈な勢いの風が噴き出る。

 それは魔化魍たちの使う術の鬼版こと鬼幻術(きげんじゅつ) 鬼風(おにかぜ)が拳牙を吹き飛ばそうと吹き(すさ)ぶ。

 

拳牙

【うぐ、ああああ!】

 

カラカラカラカラ!

 

 しばらくは風に耐えていた拳牙はやがて身体が浮いて、宙に浮かぶ唐傘にぶつかり2体揃って地面に落ちる。

 労鬼はそれと同時に地面に落ちた魔化魍たちに向けて音撃管の空気弾をばら撒くように撃ち続ける。そうして時間を稼ぐように撃ち続けた音撃管の攻撃を止めて、忘れていた存在に声を掛ける。

 

「さよ! 拝!! 2人とも逃げなさい!!」

 

 労鬼が声掛けをしたのはゴグマゴグの攻撃を避けた天狗の2人だ。

 なんとか生き残った2人の天狗が心配だった労鬼は声を掛けたが、反応がないことに労鬼は声を荒げる。

 

「2人とも早く逃げ、な……」

 

 天狗の2人から返答は無く、労鬼が顔を向けれた。

 しかしそこで労鬼が目にしたのは–––

 

樹裂

【こいつらにようか?】

 

 樹裂の鋏の先には天狗の片腕が挟まれ、その下には身体を両断され片腕の無い女の天狗と切断されて首の無い男の天狗が転がっていた。

 

 そう2人の天狗は死んでいた。

 騒鬼が不動に攻撃を仕掛け、労鬼が拳牙と唐傘の攻撃を受けた時、2人はそれぞれ戦う騒鬼と労鬼の援護に入ろうとしたが、その場に乱入するように現れた樹裂が2人の天狗の邪魔をした。

 天狗は早急に目の前の魔化魍を倒して2人の援護に向かおうとしたが、戦闘手段である戦輪獣を破壊されて抵抗も虚しく天狗の2人は樹裂の餌食となった。

 

「クソ!!!」

 

 労鬼は音撃管 社逐を樹裂に向けて撃つも、樹裂は肩にある毬栗をばら撒いて空気弾を防ぐ。

 

拳牙

【隙だらけですよ!!】

 

カラカラカラカラ

 

 拳を振り抜く拳牙と迫る唐傘に気付いた労鬼は身体を屈めて、ふたつの攻撃を避ける。

 

拳牙、唐傘

【【っ!?】】

 

 その行動に驚いて固まる拳牙の腕を掴み、労鬼は唐傘を巻き込むように2体を遠くに投げ飛ばす。

 

「これでどうです!!」

 

 投げ飛ばした先に向けて、社逐を突き出し、空気弾ではなく鬼石の弾丸を撃ち込む。

 さっき、『水武虎』は身体を液体化させて弾丸を避けたが、今の状況では絶対『水武虎』は弾丸を避けれない。

 

拳牙

【ぐうう!】

 

唐傘

【拳牙!!】

 

 そう。液体化したら一緒に投げ飛ばしたツクモガミ異常種(?)に鬼石が当たるからだ。

 それに『水武虎』は話によると自身の怪我に対しては頓着しないが味方の怪我は嫌がるという話を聞いたことがある。もしやと思ってやったら、まさかあの話が本当だったとは。

 これならまとめて倒せる!!

 

音撃射(おんげきしゃ) 怒釈迦鳴(どっしゃかめい)

 

 音撃管から放たれた水色の音撃が『水武虎』とカラカサオバケに当たる。

 

拳牙

【ぐうううううう!!】

 

唐傘

【ああああああああ!!】

 

 労鬼の放つ音撃射 怒釈迦鳴は対象となる魔化魍の身体にある鬼石を中心に周りにいる魔化魍も巻き込んでまとめて清めることの出来る音撃だ。北海道で戦った松竹梅兄弟の梅鬼も似た音撃をしたがアレは地脈を利用した音撃で、労鬼の場合は鬼石を起点にしたという違いがあるだろう。

 こんなことが出来るのは、労鬼が自らカスタマイズした音撃管に理由がある。

 労鬼は元々、音撃武器の開発を担う銀だったのだが、実弟の初代労鬼が魔化魍との戦いで相打ちになり、継承する者が居なかったことと亡き実弟の形見と思い、労鬼の力を引き継いだ。

 しかし、労鬼は遅くに鬼になった為に正規の鬼の修行もままならない状態で鬼の力を継承した。そして労鬼は攻撃が下手で特に音撃の出来が酷かった。

 鬼としては致命的な弱点に当初、周りは『鬼の力を別の者に継承させるべき』と言ったが労鬼はその声に耳を貸すことなく自身の欠点をどう補うかと考えた。そして、銀だった頃の知識や経験を使って、音撃管を自分専用にカスタマイズした。

 その結果出来上がったのが、攻撃の自動照準補正と音撃補助システム、そして音撃を吸収して周囲に拡散させる特殊な鬼石を組み込んだカスタム音撃管……それが社逐だ。これによって攻撃が下手な労鬼の攻撃は当たるようになり、初めて挑んだ実戦では苦もなく魔化魍を清めることに成功した。

 拳牙も唐傘もその音撃によって身体の至るところに罅が入っていき、頭を抑えながら地面に崩れ落ちる。

 労鬼は息をさらに送り込み、威力を上げていく。

 

拳牙

【いい加減にしてください!!】

 

 拳牙が勢いよく腕を振るうとそこから何かが飛んでくる。

 音撃を中断し、労鬼は回避すると飛んできた何かは樹の幹にめり込む。

 

拳牙

【はあーーー。はあーーー】

 

 荒い呼吸をする拳牙に警戒しながら飛んできたものを確認すると労鬼がそれを見て驚く。

 そこにあったのは先程、拳牙の身体に打ち込んだ鬼石だった。何故、鬼石が拳牙の身体から出たのか、それは彼女の能力が関係してる。

 彼女ことスイコ種の魔化魍は液体化という能力を持ってるのはご存知だろう。身体を液体に出来るのは何も全身だけではない身体の一部や体内のみの液体化なども出来る。つまり皮膚に留まる鬼石の周りを液体に変えて体内を経由して腕に持っていき、タイミングを図って腕を振るい、体外に排出したのだ。地面に崩れ落ちたのは、音撃を発生させる鬼石を体内で移動させたのが予想よりもダメージがあったからだ。

 

拳牙

【はあーー、唐傘、今です!!】

 

「なっ!!」

 

カラカラカラカラ

 

 荒い呼吸を吐く、『水武虎』の指示に驚き、周りを確認するといつの間にか宙を飛んでいたツクモガミ異常種(?)が翼先から苦無を放ってくる。苦無を落とすよりも早く苦無は私の腕に深々と刺さり、その痛みで私は音撃管 社逐を落としてしまう。急いで拾おうとするが–––

 

「…か、身体が動かない………」

 

 カラカサオバケの放った苦無に付いた毒に神経がやられたのだろう。腕どころか身体すら動かせなくなりその場に倒れる。

 まともに動かせるのは頭だけ。そんな頭を少しあげれば罅が入った箇所を抑えながら『水武虎』が近づいてくる。とどめを刺すためだろう。

 『水武虎』が私の頭を潰せるほどにまで近付く。そして、私のことをジロジロと品定めをするかのように見てくる。

 

拳牙

【…………惜しいですね】

 

 は? 今、なんて言った?

 

拳牙

【ふむ。やはり惜しいですね。鍛えればもっと強くなりそうだけど…………あ、そうだ連れて行きましょう!!】

 

 何を言ってるのですかこの魔化魍は!?

 

拳牙

【ということでしばらく寝ててください】

 

 そんな言葉を言った『水武虎』の手刀によって私の意識は真っ暗になった。




如何でしたでしょうか?
北口奇襲班は捕虜として労鬼を捕らえました。まあ、生存させた理由は神のみぞ知る(サイコロの目)って奴です。
最近知ったサイコロWEBアプリを使って1〜3、5〜6が出たら労鬼は騒鬼を庇って死亡する。4が出たら生存という感じで振ったら4が出ました。
因みにゴグマゴグは兵器がツクモガミ化して進化した魔化魍ですので、某機動戦士のようなモビルスーツやモビルアーマーもゴグマゴグへと変化することが出来ますが。ですが最低でも50年〜100年以上形を残した機体じゃない限りツクモガミ化しません。あれ、そういえば某火星の機体や厄災戦の天使って300年位前の機体だったような?
まあ、次回は東口での戦闘回です。

ーおまけー
迷家
【なんか、しばらくぶり〜って感じするけど………ま、いっか。
 ということでおまけコーナーはっ、じまるよ〜! ………まあ今日はゲストいないけど】


【で、なんであっしらがここにいるんでやすか?】

迷家
【さあ? 変な人が急に現れてここに連れてきたから】

常闇
【私は気付けばここに居た】

サーティセブン
【私もだ】

ドクター
【診察中だというのに、はあー】

「いや〜ゴメンゴメン」

迷家たち
【【【【【っ!!?】】】】】

「こういうの初めてでね〜」

迷家
【………誰かと思ったら、何のようで僕たちを呼んだの変な人】

「うん。本題に入る前にちょっと相談なんだけどね。いい加減、変な人という名前に少々飽きてきたからね。新しい名前にしようと思うけど何かないかな?」


【知らんでやすよ。にしても迷家やサーティセブンから聞かされていやしたが、ホントに変な姿でやすね】

常闇
【ふむ。ただ変というわけではないな。認識阻害干渉阻害幻術ルーン魔術、他にも様々な術を使って姿を誤魔化してるな】

「流石は影の国の女王に鍛えられたことはあるね。分かっちゃう?」

常闇
【まあ、師匠ならそれ程の腕を持つのなら是非とも戦いたいと言いそうだな】

「あ〜そういえばそんなこと言ってたな。戦いたくないからひたすら逃げたけど」

常闇
【っ!! 師匠から逃げただと!!】

「そう。いや〜ホント大変だったよ。ルーンが飛び交うは、ゲイ・ボルクが迫るは、オマケに弟子の彼や名だたるケルト英雄だけじゃなく、他の戦闘狂な英霊も来るはで、生きた心地がしなかったよ〜」

常闇
【それは確かに生きた心地がしないだろうな】

「あん時はマスターちゃんのおかげでね。何とか助かったけどさ〜、それでも一回だけ付き合ったら。再戦したくて狙われて、はあー。まあ、そんなことは置いていて、なんか思い浮かんだ?」


【正直、あっしらにそんなことを聞くのはどうかと思いやすが、まあ言うだけならタダでやすし、じゃあ、ノーネーム】

「う〜ん。変な人よりはマシだけど何でそれ?」


【いや、なぜか分かりやせんが頭にポッと浮かびやして】

「………保留で、じゃあ常闇ちゃんは?」

常闇
【ちゃ、ちゃんだと!!】

「ありゃ、ダメだった?」

常闇
【いや。ダメというわけでは無いが、う、うーん。呼ばれ慣れないせいか身体がむず痒い。
 それはさておき、ふむ………………ナイトメアは?】

サーティセブン
【悪夢ですか? では私からはルナティックと】

ドクター
【私からはトリックスター】

「ええ〜と、私って、そんなにヤバく見える」


【ヤバく見える。じゃないでやすよ!!】

サーティセブン
【正直に申しますと、あなたはそういう名前が多いじゃないですか】

ドクター
【私たちはあなたの正体に薄々気付いてるんですよ】

常闇
【もし、お前が古の魔化魍たちが語った存在(・・・・・)だとするのならば色々と納得出来るものがある】

「へえ〜。私って有名人?」


【ええ有名人でやす………………ありゃ、そういや迷家はなにをしてるんでやすか?】

迷家
【………………ナイちゃん】


【ん? なんでやすか?】

迷家
【だから、ナイちゃん!】

「へ?」


【もしかして名前考えていたんでやすか?】

迷家
【うん。みんなどうしたの? そんな深刻な顔して】

ドクター
【少し色々とありまして】

「いやいや、それよりも何で、そんな名前にしたの!?」

迷家
【え? だって変な人、顔は無いし、姿はボヤけて見えないし、名前もないし、だから無い無いだらけのナイちゃん!】

「ナイちゃん………………気に入りました」

跳たち(迷家除く)
【【【【はああ!!】】】】

「迷家の名前、ありがたく使わさせてもらいます。今日から変な人改め、ナイちゃんで宜しくネ!」

   跳
ボソッ【どう思いやすか?】

   サーティセブン
ボソッ【気に入ってのでしたら良いのでは?】

   ドクター
ボソッ【しかし、ナイちゃんですか】

   常闇
ボソッ【迷家の偶然か、かの者の気まぐれか、真名を掠りかけた(・・・・・・・・)名前をヨシとするとは】

迷家
【じゃあ、今日はここまでバイバイ、ん? あ本題は!!】

「あ!?」


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記録百弐拾

こんばんは。
正月はとっくに過ぎて1月も終わりに近いですが新年あけましておめでとうございます。今年最初の投稿になります。今年も何卒よろしくお願いします。
今回は東口での戦闘回です。それではどうぞ!!


SIDE鳴雷

 王が聞いた予言の『お告げ』で振られた編成によってボクたちが東の方に向かったら鬼と無銘、天狗たちがいた。

 何かを話し合ってたり、樹に寄りかかってボクたちを襲撃するための道を見てたり、ディスクアニマルを持って情報を確認をしてたりと色々しているみたいだ。

 

 攻撃を仕掛ける側が逆に襲われるなんて思わないだろう。

 すると隣を飛ぶボクの育て親であるライチョウの妖姫()から攻撃の指示を送られる。え〜と指示は?

 

 なるほど。じゃあ一丁いってみよー!!

 

ビリリリリリリリ

 

 鳴雷が黄から受けた指示は『徹底的にやれ』。

 鳴雷の鳴き声と共に両翼に電気が迸り、辺りが少し黄色く明るくなっていく。

 突然明るくなったことに気づいた鬼や無銘、天狗たちが上を見上げるがもう遅い。

 

ビリリリリリリリ

 

 鳴雷の電気音のような鳴き声と共に翼に蓄えられた電気が弾ける。

 翼から降り注ぐ無数の落雷はいくら鬼といえども当たればタダでは済まない。名持ちの鬼たちは鳴雷の攻撃に気付き、いち早く回避するが無銘と天狗たちは落雷を避けられずに鎧ごと落雷によって黒焦げ死体とかした。

 

 一瞬にして無銘と天狗は全滅した。

 残ったのは、鳴雷の攻撃を察知して瞬時に回避行動に移った3人の鬼だけだった。

 

「全員やられちゃったね」

 

「いいんだ姉さん。弱え奴が悪いんだ気にすんな」

 

「ええそうですね。しかし、まさか空から攻撃を仕掛けられるとは」

 

 そう。この班の襲撃を仕掛けたのは全員、飛翔能力もとい空を飛ぶことが出来る魔化魍と妖姫だ。

 鬼たちは、宙を飛ぶ鳴雷たちの姿を捉えながら各々の獲物である音撃武器を持って構える。

 すると臨戦体勢に入った鬼たちの姿を見た鳴雷たちは一斉にその翼を羽ばたかせて、猛烈な風を鬼たちに浴びせる。

 

「きゃああああああ!!」

 

「うおおおおお!!」 

 

 鬼の1人が飛ばされると同時に音撃管から放たれたナニカが風を起こす魔化魍たちの身体を掠める。それによって風は止み、その場に吹き飛ばされなかった2人の鬼がいた。

 

幻笛

【あれは? 気を付けてください。あの2人、噴鬼と芯鬼です】

 

五位

【あれがか?】

 

 幻笛の言葉を聞いた五位の視線の先には風で飛ばされなかった2人の鬼が立っている。

 頭部と腕が赤紫色で縁取りされ、目元を一周するように配置された赤紫色の隈の入った面、腰に先端が鋭く長い棒状の物を吊るした2本角の黒い鬼と白で縁取りされた頭部で右腕に湾曲した腕飾りを付け、左腕に鬼爪の変わりとも言わんばかりの鋭い長針を生やした1本角の灰色の鬼が立っていた。

 

 この2人の鬼こそ新潟支部において空を飛ぶ魔化魍の討伐率トップの噴鬼と芯鬼だ。

 2人共、従来の鬼が使えないようなカスタマイズされた特殊な音撃管を使って魔化魍を清めてきた。その功績が認められて芯鬼は支部長がいない時の新潟支部代表となり噴鬼は代表補佐となった。

 

鳴雷

【……あれ。揺火は?】

 

「さっき飛ばされた鬼の方に向かった」

 

幻笛

【では拙たちの相手は】

 

五位

【あの鬼たちってことになるな。じゃあ早速!!】

 

 言うや否や五位が羽をばら撒く。

 

「「っ!?」」

 

 それを見た鬼たちは面越しにギョッとする。

 以前にも話したが、五位ことアオサギビの羽根は機雷のようなものである。

 

 宙にばら撒かれた羽根は鬼たちの眼前までくると、1つ1つが自壊するかのように壊れ、壊れると同時にそこから熱エネルギーが広がる。

 鬼の2人はその熱エネルギーに当たらないように左右に分かれる。

 

ビリリリリリリ

 

 さらに追い撃ちを掛けるように鳴雷は雷を広範囲に落とす。

 あたりに激しく降る雷によって残った2人の鬼は分断される。

 

「そっちはまかせた」

 

 分断された鬼の1人に向けて黄が電撃を放って、さらに違う場所へ誘導した。

 そして残ったのは、芯鬼だった。

 

「くそ! まさか俺たちを分断するとは」

 

鳴雷

【お前の相手はボクたちだよ!】

 

「確か『雷纏翼』と『青光鳥』だったな。名持ちが2体か」

 

鳴雷

【ねえ〜その、『雷纏翼』って名前どうにかなんない? ボク、凄いその名前不満なんだけど】

 

「知るか! そういう文句は総本部に文句を言え。まあ、それは出来ないがな」

 

五位

【?】

 

「なぜなら、俺に倒されるからな!!」

 

 芯鬼が真っ直ぐとボクたちに近付いて、その長い針を突き刺してくる。

 

鳴雷

【危な!!】

 

 だが、鳴雷は芯鬼の攻撃を直ぐに避ける。

 

五位

【隙あり!!】

 

「ねえよ!!」

 

 攻撃後の隙を狙ったつもりの五位だったが、芯鬼は五位の方に向くと右腕を向ける。

 何も無いかと思えたが、そこには従来の音撃管よりも小さな音撃管 縮射(しゅくしゃ)が握られ、その銃口は五位を捉えていた。

 

鳴雷

【させないよ!!】

 

 近くで芯鬼を見ていた鳴雷は翼から電撃を放つ。

 

「ちっ!」

 

 芯鬼は舌打ちと共に腕を振って長針で電撃を掻き消して、右腕に握られた音撃管の空気弾をばら撒くように撃つ。

 

五位

【てっ………小型化したからか威力はそこまで高くないがあの連射力が厄介だな】

 

 五位の言う通り、芯鬼の音撃管は不意打ちと牽制に特化するようにカスタマイズした音撃管だ。

 芯鬼は従来の音撃管を使う鬼とは違い、近接戦闘を好む鬼だった。だが武器適正があったのは音撃管だった。そこで芯鬼は鬼の基本武装のひとつでもある鬼闘術 鬼爪に目を向けた。

 鬼爪の形状を爪から針へと変えて、鬼爪の戦闘の邪魔にならないように音撃管を従来のサイズの半分以下のサイズへとカスタマイズしたのだ。

 

 芯鬼は音撃管で撃ちながらは左腕の長針をフェンシングのように連続刺突を繰り出して五位や鳴雷を攻撃してくる。

 五位も鳴雷も芯鬼の緩急のあるヒットアンドアウェイ攻撃で僅かな疲労を感じ、動きが少し鈍くなっていく。

 

音撃射(おんげきしゃ) 溶融岩石(ようゆうがんせき)!!」

 

 五位と鳴雷の疲労の瞬間を待っていた芯鬼は、直ぐに離れるとカスタム音撃管に音撃鳴を取り付けると清めの音を吹き始める。

 芯鬼の小型カスタム音撃管の口から小型から放たれたとは思えない膨大な炎の塊の音撃が五位と鳴雷に迫り、逃げる隙すら与えずに一瞬にして2体の魔化魍は炎の音撃に呑まれた。

 

「これで片付いた」

 

 音撃管から口を離し、炎の音撃に包まれた五位と鳴雷はやがて消し炭となるだろうと判断した芯鬼は、分断された姉である噴鬼の元に向かおうとする。

 

五位

【これ程とは、流石は鳥類系魔化魍でも最上位に位置する魔化魍の力だな】

 

鳴雷

【これでも使ってるのは半分くらいなんだけどね。戦いの前に頼んで良かったよ。お陰で咄嗟の攻撃に対応出来たからね】

 

 音撃によって消し炭になったと思った筈の2体の魔化魍の声に芯鬼は振り返る。

 炎が消えるとそこには全身を覆うように展開された電撃のドームの中に2体の魔化魍がいた。

 

「無傷だと、馬鹿な!!」

 

 渾身の一撃とも言うべき音撃を受けて無傷の五位と鳴雷の姿に芯鬼は驚く。

 

 ライチョウ種。

 それは鳥類型の魔化魍の中でも上位に位置する強さを誇る強大な魔化魍だ。

 だが幼体の頃はその強さとは無縁の最弱の魔化魍でもある。幼体の頃は、親であるライチョウまたは怪童子や妖姫から主食である人間と電気を喰らって成長する。

 幼体から成体になると今度は自らの力で電気を集めるようになる。自ら雷の起きそうな暗雲を探して、暗雲を見つければその中に飛び込んで雷を自分の身体に浴びせて電気を集めるのだ。成体になったライチョウの羽は1枚1枚が蓄電池のような役割を持ち、身体に浴びせた雷を蓄え、それを電気エネルギーに変換して攻撃や防御に転じている。

 芯鬼の音撃を防いだのは、その蓄えた電気をドーム状に展開し音撃が入り込まないように電気を使い続けて防ぎきったのだ。

 

「クソ、クソ!!」

 

 芯鬼は五位と鳴雷の無傷な姿に腹立てて、音撃管を撃ち続ける。

 鳴雷は電撃のドームを解除せずに何かをし始める。すると黒いもやが鳴雷の周りに漂いはじめる。

 

 鳴雷は先程の高威力の音撃を受けて、さっさと決着を付けるために己の中に溜め込んだ全電力を使って芯鬼を仕留めることを思いつく。黒いもやは暗雲に変わり、鳴雷は暗雲に身体を押し込んで電撃を暗雲の中に向けて放つ。電撃を浴びた暗雲はどんどん大きくなっていく。

 

鳴雷

【(これやると暫く電撃や雷を撃つことができなくけど、後で黄に術を頼んで失った分の電気を回復できるから問題はないかな)】

 

 鳴雷がそんなことを思ってる間に暗雲から迸る電気が徐々に太くなっていく。すると音撃管を撃つ芯鬼の頭上に鳴雷の周りにある暗雲と同じ暗雲が形作られていく。そして暗雲が出来上がると同時に–––

 

「があああああああああああああ!!」

 

 暗雲から閃光と共に放たれた一筋の雷が芯鬼の頭上に落ちる。

 無銘の鬼とはいえ鎧ごと焼死体に変えれる鳴雷。そんな鳴雷が身体中にある電気を一点に集めて放った雷を受けた芯鬼の身体は左半身が焼滅し、残ったのは右半身のみだった。

 そして、芯鬼が倒れたのと同時だった。そこに何処からか吹き飛ばされてきた噴鬼が芯鬼の前に現れた。

 

SIDEOUT

 

SIDE黄

 少し時が遡る。五位と鳴雷の攻撃で上手く鬼の2人を分散した。

 目の前には、従来の音撃管とは少し形の異なるカスタム音撃管 深込(ふかごめ)を持った噴鬼が立っていた。

 

「『魔笛雀』は何処にいったの?」

 

「それを答えるわけないでしょ」

 

 幻笛には戦闘に入る前に頼んだあるお願いが理由でこの場にはいない。

 鬼の質問に答える気はなく戦闘が始まる前から取り出した血まみれの狼(bloody wolf)を構えて目の前の鬼の動きに注視する。

 すると早速–––

 

「挨拶がわりだよ!!」

 

 音撃管から空気弾を撃つ。

 私は飛んでくる空気弾を血まみれの狼(bloody wolf)で切り裂いていく。

 伊達に数十年生きてきた訳ではない。音撃管を持った鬼との戦いは『鳥獣蟲同盟』に所属してからも数多く経験している。空気弾は確かに連射力もあり、何度も受ければ怪童子や私のような妖姫も倒されるが威力自体はそこまで高くない。

 

 鬼は私に近づかれないような距離を保ちつつ何度も空気弾を撃ってくるのだが、どこか違和感を感じる。ある程度撃ったのが理由か、今度はタイミングを変えて撃ってくる。

 

 その攻防の時間が経つ毎に空気弾による攻撃が徐々に嫌らしくなってくる。私への攻撃というより、私の持つ血まみれの狼(bloody wolf)に向けて、まるで何かを探るかのように撃ってくる。

 

 そして、何百発目かの空気弾を撃った鬼は動きを止めて腰にぶら下げる棒状の物を外すと素早く音撃管に装填した。

 どうやらあの音撃管は装填したものを発射できるように改造された物のようだ。

 そして、直ぐに鬼は私に向けてそれを発射した。真っ直ぐ一直線にこちらに向かって飛んでくるそれを空気弾と同じように切ろうとした。

 

「な!?」

 

 だがそれは振り下ろした血まみれの狼(bloody wolf)の峰をスレスレに通り抜けて私の脇腹に深く突き刺さった。

 

「ああっ!!」

 

 数年ぶりの痛みで血まみれの狼(bloody wolf)を落としてしまう。だが、今はそれよりもこれを抜かなければ、何か良くないものを感じる。

 

「ぐう、抜けない。それにこの痛み……まさか!? がはっ……」

 

 脇腹に突き刺さったそれを抜こうとするが抜けず、刺さってから続く継続的な痛みに気を取られていた私はいつの間にか近付いていた噴鬼に腹を蹴られ地面に倒れる。

 

「どう? 特殊弾の味は?」

 

 噴鬼のカスタム音撃管 深込が発射するのはただの棒ではない。鬼の音撃武器の要である鬼石を砕き、ツクモガミ種の魔化魍の身体を粉々に砕き、砕いた鬼石と混ぜ合わせて作り上げた特殊弾だ。

 従来の鬼石の弾よりも頑丈でさらに先端にかえしが付いたそれは魔化魍の肉体に突き刺されば抜くのが難しく、動きの阻害や戦闘中に外れる心配も無い。おまけに清めの音に反応する従来の鬼石の弾と違い、僅かな動きで生じる風だけでも極小規模の音撃によるダメージを与えられる。つまり撃ち込まれれば撃ち込まれる程、身体に響く極小の音撃は強力な音撃へと変わり魔化魍を倒す際に用いる音撃を使わずとも魔化魍を倒せるのだ。

 だが、その強力さ故に従来の音撃管で1発でもこの特殊弾で撃てば音撃管に多大な負荷が掛かり、音撃管は壊れてしまう。

 そんなマトモに撃つことができないそれを撃てるように改造を施し、実戦で用いるのが噴鬼だ。

 

「どう、痛い?」

 

 黄の身体に深く突き刺さった特殊弾を噴鬼は押し込むように蹴る。

 

「ぐうううううう!!」

 

 痛みに苦悶の表情を浮かべる黄に気分が良くなり、黄の髪を掴んで特殊弾に脚を掛けるとぐりぐりと踏む。

 

「あああああああ!!」

 

「いい悲鳴だね!! 父さんも母さんもお前たちにそうやって殺されたんだ。同じことをされたんだ同じ仕返しをしなきゃねえ!」

 

「ぐあああああああ!!」

 

 黄の髪を持ち上げて体を浮かせて視線を合わせる噴鬼。

 踏まれ続けた特殊弾はかえしを無視して背中に突き出るが、それに気付いてか気付かずか噴鬼は黄の身体を蹴り続ける。

 

「かひゅ、うう、あ」

 

 執拗な噴鬼の攻撃は顔や腕、脚など身体以外の場所も蹴られ、蹴られ続けた箇所は青紫色に変色し、全身を襲う痛みでまともな呼吸をするのが難しく、黄は虫の息ともいうべき状態だった。

 そして、蹴り飽きたのか急に髪の毛を手を離して、腰元にある特殊弾を音撃管に装填し始める。

 

「じゃあ、とっと死んで」

 

 特殊弾の装填された音撃管の照準が地面に仰向けに倒れる黄の頭に定まる。そして、噴鬼は引き金を引いた。

 

「あ……」

 

 撃たれた特殊弾は正確に黄の頭に突き刺さり、そのまま動くこともない黄。

 特殊弾の突き刺さった死体からは白い血が流れていく。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 これでまた両親を殺した妖姫がひとり減った。

 次は『魔笛雀』。芯鬼のところにいる『雷纏翼』や『青光鳥』、『増火鳥』を仕留めてやる。そう思いながら噴鬼がその場から離れようとした。その時–––

 

幻笛

【どうでしたか。拙の仕込みは?】

 

「流石ね。お願いしといて良かったよ」

 

「ハハ、は?」

 

 誰もいないはずの場から聞こえた声で噴鬼の笑い声は止まり、声の方に振り向けば噴鬼は驚愕する。

 

「『魔笛雀』!! それに妖姫まで! さっき間違いなく殺したはず!!」

 

 そこにいたのはいつの間にか消えていた幻笛と先程、自分が殺したはずの黄だった。

 

幻笛

【さっきまで貴女が戦っていたのは拙の作った幻術で作られた幻です】

 

「な、幻術。 そんな馬鹿な。だって、そこに死体が!! っ!!」

 

 噴鬼が黄の死体がある所に指を刺すが、そこには地面に突き刺さった特殊弾しかなく死体はどこにも無かった。

 

「貴女と対峙する前に少し離れた場所から幻笛が人の耳には聞き取りづらい極小音の音で幻術を掛けた。貴女はそれに気付かずに私にその音撃管の攻撃手段を見せてくれた。色々と助かったよ」

 

 そう言った黄の手には熊の爪のような飾りが両端に着いた巨大な戦鎚の双獣器 荒れる熊(raging bear)空間倉庫から取り出されていた。

 

「また、お前を倒すだけだ!!」

 

 噴鬼が構えると同時に黄に向けて放たれる特殊弾。

 だが、先程まで噴鬼を見ていた黄は–––

 

「はあ!!」

 

 タイミングよく特殊弾を容易く弾き飛ばす。確かに特殊弾は厄介だ。だが、それは刺さらなければ意味がない。

 それを見た噴鬼は急いで腰にぶら下げた特殊弾を外して音撃管に装填をするが、装填を終えた時には既に目と鼻の先に黄がいた。

 荒れる熊(raging bear)を水平に構え荒れる熊(raging bear)の柄からギチギチと軋む音が鳴る。そして、次の瞬間–––

 

「せやあ!!」

 

 勢いよく振られた荒れる熊(raging bear)が最初に当たった噴鬼の左腕と共に身体に深くめり込む。

 

「ごぶはっ…ぶべっ」

 

 荒れる熊(raging bear)による渾身の一撃によって噴鬼の身体からは骨の軋む音と肉がブチブチと千切れる音、臓物が潰れる音が鳴ると同時に噴鬼の面の口元から多量の血が吹き出て身体がくの字に曲がる。

 

 そのままゴロゴロと地面を跳ねるように吹き飛ばされた噴鬼の前には鳴雷の雷を受けて倒れた芯鬼がいた。

 

「………アサ、ごふっ」 「ね、えさん、ねえ、さん」

 

 互いに気付いた鬼たちは互いを呼びながら身体を近付けようとする。

 だが、身体の動かない2人は手を伸ばす。まともに残った右腕を伸ばす芯鬼と折れていながらも真っ直ぐ左腕を伸ばす噴鬼。そんな姿をなぜか邪魔しないで眺める黄たち。

 

「…さん、ねえ……さ」 「あ、アサヒ、いま、そっちに」

 

 そして芯鬼と噴鬼の互いに伸ばし腕がもう少しで届きそうとなった時、2人はそのまま力尽き、息絶えた。

 

「…………」

 

 黄は2人の亡骸を見ると、左手にある猛る熊(raging bear)に電気を集める。

 死んだ2人の身体を滅茶苦茶にして原型も跡形も残らないように焼き潰そうとするが–––

 

五位

【……おい、やめろ】

 

 五位が電撃を纏った猛る熊(raging bear)を抑えて動かさないように止める。

 

「………離してください」

 

五位

【気持ちは分かるがやめておけ】

 

 気持ちが分かる?

 仲間を失ったことのない貴方にそんなことが分かるわけがない。

 

「……………」

 

五位

【今はそれよりも優先することがある】

 

鳴雷

【そうだよ。早く、揺火探さないと!!】

 

 何を優先と思ったが、そういえばさっき飛ばされた鬼の方に飛んでいった揺火を忘れていた。

 そうだ。あの子は戦闘慣れしてない子だ。いつも戦いの時に付き添いの私がいた鳴雷とは違う。もしも、鬼と戦って揺火が死んだら。もうこれ以上死んだ誰かを見送りたくない。

 

「揺火を探しましょう」

 

 私は荒れる熊(raging bear)に集めた電気を自分の中に戻した。

 そして、鬼の亡骸を置いて私たちは揺火を探すために空を飛んでいくのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE揺火

 また時は遡る。

 風で飛ばされた掃鬼とそれを追いかけるように飛んでいった揺火。

 やがて風はだんだん弱くなっていき、拓けた場所に鬼は転がり落ちる。

 

「いたた、もう許さないから!!」

 

 打った腰を摩りながら言う様子になんとも言えない何かを覚えるが今は関係ない。

 

揺火

【………一掃の掃鬼】

 

 藍色で縁取りされた頭部、首と胸元の間に小さな鬼面を付けた群青色の鎧、腰には淡い水色の腰布を巻き付けて、その背には従来の音撃弦よりも刃が細長い薙刀に似た音撃弦を持つ鬼、掃鬼がいた。

 一掃という名の由来は、かつて負傷した鬼を守りながら5体の魔化魍を纏めて清めたことがある。そして、その戦い方はまるで掃除してるような様から一掃と呼ばれるようになった。そして、その功績から福井支部の代表にもなった鬼だ。

 

「フラリビ種の魔化魍ですか。相手にするのは初めてですね」

 

 そんな掃鬼の言葉にムカついてオイラの周りの火の玉を一気に放つ。

 

「はあ!!」

 

 自身に迫る火の玉に掃鬼は背にあるカスタム音撃弦 掃出(そうで)に手を掛けると勢いよく振るい火の玉をひとはらいで一掃する。

 

揺火

【むう。じゃあ、これはどうだい!!】

 

 揺火は火の玉をバラバラのタイミングで掃鬼に向けて撃つ。だが掃鬼は手に持つ音撃弦を振るって火の玉を容易く両断し、火の玉を消し去っていく。そして掃鬼はその場から動かずに揺火の行動を注視する。

 

揺火

【(やっぱり、これじゃあダメか)】

 

 揺火は内心で相手する掃鬼の戦い方は自分とは相性が悪いことを悟る。

 揺火は自身の周りにある火の玉と赤系の術による中距離からの攻撃を主とした固定砲台のような戦い方をする一方、掃鬼は自ら動かず相手の攻撃に合わせてのカウンターや魔化魍の疲弊のタイミングで攻撃を仕掛ける後行攻撃型。

 

 揺火がいくら攻撃しようともひたすら火の玉を斬り裂く掃鬼。そんな掃鬼の隙を生むためにひたすら火の玉で攻撃を続ける揺火。いくら撃っても掃鬼はその場から動かずに音撃弦で切り払う。そのまま揺火が疲れ果てた同時に直接攻撃を仕掛けるつもりの掃鬼はその場から動かず揺火が疲れるのを待つ。

 

揺火

【これでもまだ動かないかな!!】

 

 そう言って揺火が火の玉を放ったのは、掃鬼にではなくその足元だ。

 

「ぐう、はあ!!」

 

 いくら動かないとはいえ、流石に足元を燃やされれば動かない訳にはいかない。

 掃鬼は音撃弦を足元に突き刺して燃える地面から飛び跳ねるように避ける。宙で身動きが取れない掃鬼に向けて火の玉を放つ。

 

「はっ!!」

 

 だが、掃鬼はそれに動じずに身体を捻ると同時に音撃弦を勢いよく回して火の玉を切り裂いて、そのまま地面に降り立つ。

 

揺火

【面倒だなぁ】

 

 オイラの呟きに掃鬼は何にも反応せず音撃弦を構えてる。

 あの鬼の狙いがオイラの疲労なんだろうけど、そこまで付き合うつもりはオイラには無い。

 神通から教えて貰ったアレで–––

 

ヂヂヂヂヂヂヂ

 

 揺火の声に反応して周りにある火の玉は揺火の前で一箇所に集まり始める。さらに収束させた火の玉は小さな太陽のような光球に変わる。

 

「むぅ。させません」

 

 その光球を撃たせてわならないという直感した掃鬼はバックルに嵌った音撃震 清掃(きよはき)をカスタム音撃弦 掃出に嵌め込み必殺の清めの音を掻き鳴らす。

 

音撃斬(おんげきざん) 広即一掃(こうそくいっそう)!!」

 

 激しく弦を弾く掃鬼の行動を見るだけの揺火。

 掃鬼は疑問を覚える。魔化魍ならば、鬼の音撃に対して何もしないのはありえない。音撃の成功は自身の死を意味するからだ。なのに動かない揺火。

 

 そのまま掃鬼は音撃の最後を弾くと共に勢いよく音撃弦 掃出を振るうと扇状の衝撃波が揺火に向かっていく。

 

 ジリジリと地表を削りながら迫る音撃が揺火の近くまで来ると、その場で浮いていた光球がくるくる回転を始める。それはどんどん回転を早めて、回転速度が上がるたびに光の輝きが増していく。

 そして、光球が激しく光ると同時に光球から光が放たれる。それは迫る音撃に向かっていき、音撃にぶつかると火花を散らせながら拮抗する。だが、音撃の衝撃波にピシッと割れるような音が聞こえ始める。それからものの数秒で衝撃波を貫通する。

 音撃の衝撃を貫いた光はそのまま、音撃弦と掃鬼の身体を貫く。

 

「……がはっ、音撃が破られるなんて」

 

 光はそのまま何処かへと消え、光球は崩れて元の火の玉に戻って揺火の周りを漂う。

 掃鬼の手からズルっと音撃弦が落ち、掃鬼の身体はグラリと傾く。音撃の発生源でもある音撃弦が破壊されたことで音撃はいつの間にか消え、面越しから多量の血を吐きながら掃鬼は地に倒れ伏す。

 胸元に空いた空洞ともいうべき穴は焼かれているせいで血は流れなかったが、心臓の半分を焼かれているせいで呼吸が荒くなっていく。それで己の死を悟ったのか抵抗することもない掃鬼。

 

「ひゅー、ひゅー、あう………」

 

 オイラは鬼に手を出さずに苦しむ様を見る。

 

「………あっけない、人生でした、ね………」

 

 そう呟いた鬼はそのまま事切れた。

 すると、幻笛たちが飛んで来た。みんな少し傷があるけど重傷はいないようだ。

 

鳴雷

【揺火、怪我はない?】

 

揺火

【うん。オイラは大丈夫】

 

「そうですか無事で何よりだよ揺火」

 

五位

【どうした揺火】

 

揺火

【いや、呆気なかったなって思っちゃって】

 

 オイラの言葉に五位以外が顔を顰める。

 オイラたち中部の魔化魍を散々苦しめ、『鳥獣蟲同盟』の仲間を殺した鬼たちの死に本来は喜ぶところなのだろう。だが、実に呆気なく死んだ鬼たちにオイラたちはなんとも言えない気分になった。

 

五位

【………行こう、我らの王の元へ】

 

揺火

【………そうだね】

 

 五位の言葉でオイラたちはなんとも言えない気持ちを心の内側に入れ、翼を広げて、王の元へ向かうべく空へ羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

【奴の迎えに来てみたら、ククク良いものを見させてもらいました】

 

 黄たちが飛び去って放置された掃鬼たちの死体以外なにも存在しない場所で声が聞こえてくる。何処か見下すような声質の声だ。

 

【これならば、彼奴への土産になるな】

 

 謎の声が止むと同時に掃鬼たちの死体は消えていた。まるで初めからそこに無かったかのように。




如何でしたでしょうか?
今回はこんな感じです。戦闘描写をどうするかに悩んだり、新作のゲームやアプリゲームのイベントに遠回りしたりして遅くなりました。
次話はいよいよ、幽冥と鈴音たちのいる狼鬼との戦闘回です。
次回もお楽しみに。

〜おまけ〜
「そうだった。そうだった危うく名前の話だけで終わるところだったよ」

迷家
【うっかりさんなの?】

「手厳しいね………まあ、それは置いといて」

「おほん。君たちはサーヴァントまた英霊という存在を知ってるかい?」

迷家
【さーゔぁんと?】


【聞いたことない言葉でやすね】

サーティセブン
【英霊…………ああ境界記録帯(ゴーストライナー)のことですか】

ドクター
【そういえば、先生たちもそう呼ばれてたような】

常闇
【はあーあの時、よく生きてたな私】

迷家
【えっと、常闇たちは知ってるの? そのエイレイっていうのを?】

「まあ、常闇ちゃんは師匠が英霊だし、迷家や跳くんが知らないのは分かるけど、なんで君たちは知ってるの?」

サーティセブン
【知人が英霊だからですね】

ドクター
【悪魔魔化魍になる前の私に医療を教えてくれたのが英霊でしたので】

「えっと、因みに誰に?」

サーティセブン
【『引き篭もりのオタク姫』、『聖処女』、『太陽を落とした女』、『大江山の鬼』、『キングメーカー』ほか多数】

ドクター
【………『太陽神の息子』と『錬金術師の祖』と『クリミアの天使』ですね】

「ああ………あの人たちですね」

ドクター
【まあ、おかげで今の私がいますのでなんの文句もありません…………まあ、『クリミアの天使』から徹底的な教えを受けたあの子は思考が似ちゃいましたが】

「えっと、あの子って?」

ドクター
【私と同じように医療知識を叩き込まれたある妖姫です】

「妖姫が?」

ドクター
【その子、過去に人間の子供に助けられたことがあるんですよ。本当の姿を晒してのにそんなことを気にせずに自分の怪我の手当てをしてくれたんですよ。ですがその子供がある病に罹って、どうにか子供を助けられないかって願った時にかの英霊を召喚したんです】

「はああああ!! 召喚できたの妖姫が!! 人間じゃ無いのに!!」

サーティセブン
【いや、召喚できるのはたしか人間だけじゃ無い。知人曰く、死徒と言われる吸血鬼や合成生物にも英霊は応えたことがあると聞いたことがあります】

ドクター
【そして、召喚した英霊、まあ『クリミアの天使』にその子が子供のことを頼んだら治してくれたんですよ。子供も病気が治ったあとは老衰で亡くなるまで何事もありませんでした。
 まあ、それがキッカケで医術を学びたいと『クリミアの天使』に頼んで医術を学び始めたんですよ。あの子の直向きさを気に入って、教えられる知識を叩き込んだって言っていましたよ】

「ええ…………よりにもよってあの人に教えを乞うって………もしかして、それで!?」

ドクター
【そうですね。結果で言うのなら2代目『クリミアの天使』ってところですかね。ですが医者として彼女は優秀ですよ…………時々、暴走しますが】

「へえ〜合わないことを祈りたいですね」

迷家
【それで、そのエイレイがどうしたのナイちゃん?】

「あらら、また本題からズレるところでした。実は私、その英霊たちと共にある旅に出たことがあるのですが、その時に出会ったんですよ」


【なに出会ったんでやすか?】

「あなたたちですよ」

迷家たち
【【【【【え?】】】】】

「だから、英霊となったあなたたちに会ったんですよ」

迷家たち
【【【【【えええええええええ!!】】】】】

「五月蝿いですね」

迷家
【いやいや、僕たちのエイレイに会ったの!?】

サーティセブン
【そんな馬鹿な、私たちは魔化魍だぞ。そんな私たちが何故、英霊に!!】

「う〜ん。よくわかりませんが、貴方たちの王が関係してるみたいですよ」


【王が、でやすか?】

「そうそう。でね、私はそんな英霊となった貴方たちを紹介したいんですよ」

常闇
【ふむ、私たちが英霊か………面白そうだな】


【はい?】

サーティセブン
【まあ、気にならないかと聞かれれば気になるとしかいえませんね】

ドクター
【私が英霊ですか】

「興味を持ってくれて嬉しいですよ」

迷家
【はいはーーい。それっていつやるの?】

「あ、それはですね。本当はすぐにやりたいのですが、何かと色々とありましてね。まあ、私が暇になりましたらこっちに来ますので気長にお待ちください。おっと、そろそろ時間だね。じゃあ、また会いましょう」


【行ってしまいやしたね】

迷家
【エイレイか、まあ今度教えてくれるみたいだし、楽しみに待ってよかな】

ドクター
【迷家、そろそろ時間ですよ】

迷家
【おっと、じゃあここ迄だね。じゃ、まったね〜】


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記録百弐拾壱

こんばんは。
はい。中部地方支部との戦いも大詰め。今回は幽冥たちのいる狼鬼たちの南口での戦闘回です。
そして、申し訳ございません。あまりにも長くなりそうになったのでこの話と次話の前後編にさせていただきます。
では、どうぞ!!


「さあ、開戦です!!」 

 

鈴音

【開戦だニャ!!】

 

 幽冥と鈴音の号令により背後に控えるように待っていた魔化魍たちが一斉に動き出して、狼鬼以外の周りの鬼や天狗、無銘たちを連れていく。

 

「なっ! くそ!!」

 

 狼鬼は連れてかれた仲間を心配するも視線をすぐにこっちに戻す。

 

「舐めた真似してくれたじゃねえかクソ魔化魍ども!!」

 

 狼鬼は腰にある音撃縦笛(リコーダー)を持って構える。

 

「クソ猫と噂の魔化魍の王か。丁度いいな、テメエらを殺せば少しは魔化魍共が大人しくなるかもしれねえな。大人しく首を差し出せば優しく殺してやるよ」

 

 それを聞いた幽冥はプッと吹き出す。

 

「あ? 何がおかしい!?」

 

「ふふ、それってジョークですか? あまり強がらない方がいいですよ。弱く見えますから」

 

鈴音

【ニャンの仲間たちをよくも殺してきたニャ。みんなの仇を討たせてもらうニャ】

 

「仇だ? オメエら魔化魍だって仲間を殺し、何十、いや何百もの人間を喰ってるじゃねえか。たったか数体のクソ魔化魍が死んだくらいでガタガタ抜かすんじゃねえ!!」

 

 この発言を聞いた私は抑えようと思っていた怒りがどんどん膨らんでいくの感じた。目の前にいる狼鬼について、この戦いの前に同盟を結んだ共存派の鬼である診鬼こと神通さんから色々聞かせてもらった。

 恋人と家族を鈴音に殺されてその復讐に燃える鬼。幼体の魔化魍を人質に妖姫を坂鬼という鬼や無銘に辱めさせたり、マトモに動けない無抵抗の魔化魍を惨殺、使えないと分かった人を囮にした非道な作戦。聞けば聞くほど魔化魍よりも悪逆無道な鬼だと思った。

 もう、この鬼とは口を聞きたくない。今すぐにでもその舌を斬り落として、その汚い言葉を吐く口をニ度と開けないようにしてやる。

 

 隣の鈴音に視線を送れば、鈴音はそれに気付き頷く。

 

「もう口を開かないでください。あなたはいや、お前はここで殺す!!」

 

鈴音

【そうニャ。その口2度と開かせないニャ】

 

「上等だ!! やれるモンならやってみやがれ!!」

 

 幽冥と鈴音の言葉に反応して狼鬼が駆ける。その姿を見た幽冥と鈴音も臨戦態勢に入る。

 そして今、幽冥と鈴音の狼狩りが始まった。

 

SIDE赤

 王の指示と共に昇布と共に飛び出し、狼鬼の背後にいた鬼の1人を連れていく。

 昇布が鬼を捕まえると同時に私は昇布の身体に掴まり、そのまま空へ昇っていく。

 

「つ、離せ!!」

 

 鬼は背にある音撃弦を短く持つと、その刃で昇布の腕を斬りつける。

 

フシュルルルルルゥゥゥ

 

 深くはないが浅く腕を斬られて、昇布は鬼を離してしまう。

 鬼は下へ落下していく。それを見た私も昇布の身体を掴んでいた手を離して、鬼を追いかける。

 

 昇布から逃げた鬼は既に着地しており、音撃弦を落ちてくる赤に向けて突き上げる。

 

「はあ!!」

 

 赤はそれに合わせて十字槍を音撃弦に向けて突き、それぞれの獲物はぶつかり合い火花を散らせる。

 

「はあああ!!」 「ふん!!」

 

 互いの攻撃の衝撃を利用して離れた赤と鬼。

 赤の背後には空から降りてきた昇布が身体をうねらせながら飛んでいる。

 

「水棲系の魔化魍の妖姫とシロウネリですか……………確か、北海道でアマビエを守っていましたよね」

 

昇布

【っ!?】

 

「お、その反応ということはビンゴですね。いやいや魔化魍は多いので覚えるのが大変なんですよね。ははははは」

 

 まるで親しい友達に話しかけるように軽い口調で話しかける鬼に私は心で悪態をつく。

 この日本全国に存在する魔化魍の情報は数多い。それの中から見た魔化魍が何処で何をしていたのかと答えるこの鬼は明らかに危険だった。そして、鈴音から教えられた情報から目の前の鬼の名前を思い出す。

 

「鈴音から聞きました。確か記憶力が凄い鬼がいると名前は幹鬼」

 

「お、俺の名前を知ってるってことはネコショウに教えられたのか?」

 

 猛士中部地方石川支部所属の幹鬼。

 音撃弦を使って魔化魍と戦うベテランに位置する鬼。特筆すべきことは記憶力である。

 全国に発生した魔化魍の事件、それに関わった魔化魍の情報を暗記してその情報を元に魔化魍を特定する鬼だ。

 

 鈴音曰く、長期戦になればなるほど厄介な鬼だそうだ。

 ならば、やることは簡単だ。

 

「(速攻でこの鬼を倒す)」

 

 赤は十字槍を構えて、幹鬼に迫る。

 

「へえ、俺と槍で戦うの? じゃあ情報不足だね」

 

 幹鬼も音撃弦を水平に持ち、そのまま赤に向かって突っ込んでくる。

 そのまま迫りつつある両者。だが、赤は音撃弦が届くギリギリの距離に着くと、十字槍で地面を薙ぐ。

 十字槍は地面を削り、その破片が幹鬼の面を覆う。

 

「ぬお!! ぐほっ!」

 

 突然、目の前が真っ暗になり動きを止めた幹鬼の胴に十字槍の石突がめり込む。

 だが、幹鬼は胴に入った十字槍の柄を掴む。離れようとした赤はそれによって動きが止められ、幹鬼は音撃弦を大きく振るう。

 

「ぐう!」

 

 面に覆われた土でよく見えないはずの幹鬼に赤は浅く腹を斬られる。

 柄をまだ掴む幹鬼は追撃のために再び音撃弦を振るう。

 

フシュルルルルルゥゥゥ

 

「なっ!! ちぃいいい!!」

 

 だが、それは失敗する。

 この場にいるのは赤だけじゃなく、昇布もいる。共に波音を守ってきた仲の2人。

 そんな赤のピンチから救うために昇布は幹鬼の身体に体当たりするが、鳴き声が近くに聞こえたことで昇布の接近を察した幹鬼は十字槍の柄を離して、後ろへバックステップする。

 

昇布

【大丈夫か赤?】

 

「ええ。ありがとう昇布」

 

 昇布の視線の先には面を拭って土を落とす幹鬼がいた。

 

「まさか、あそこで急に土で目隠しを行うとは、これは妖姫たちの脅威度を修正するべきですか?」

 

「そうね。次があるのだったらそれで良いんじゃない。次があるのならね!!」

 

「ええ。そうさせてもらいますよ。あなたたちを倒してからね!!」

 

 幹鬼はバックルに嵌めていた音撃震を音撃弦の窪みに嵌め込む。

 それを見た赤は昇布に目を合わせる。

 

フシュルルルルル

 

 昇布は赤の考えを察し、赤の目の前に移動してまるで壁のようにその場で立ち塞がる。

 

「いい的じゃないですか! 音撃斬(おんげきざん) 段段波嶺(だんだんばたけ)!!」

 

 幹鬼が音撃震を鳴らすとそれに合わせて、鳴った音が宙で球を生み出していく。

 それはどんどん増えていき、増えていくにつれて幹鬼は激しく弾いていく。そして、演奏の終わりともいわんばかりに激しい音が鳴ると、宙に浮かんでいた無数の球は不規則な軌道を描きながら昇布の身体目掛けて飛んでくる。

 

 

 幹鬼の音撃は音撃震を鳴らした振動で発生した清めの音を球状にして宙に停滞させ、無数の清めの音の球を魔化魍に放つというものだ。それ自体に大した威力はなく。せいぜい魔化魍の足止めなどに多用され、仲間が本命の音撃を魔化魍に浴びせる。

 しかし、どんなに小さな傷でもそれが積もれば大きな傷となり無視することはできなくなる。

 

 そんな幹鬼の音撃を何度も受けている昇布の白い身体は既に傷だらけ。だが、昇布はその音撃を避けずにその身で耐え続ける。何かを待つように。

 

フシュ、ルルルル……

 

「ありがとう昇布。後は私に任せて、上に行きなさい」

 

 昇布の背後で準備を終えた赤は、昇布にそう告げると昇布はその指示に従って上へ飛んでいく。

 そして、昇布が居なくなった後に見えるのは、真っ赤な炎に包まれた穂先の十字槍を構えた赤だった。

 

 ここで思い出してほしい。赤はクラゲビの妖姫だ。

 クラゲビ自体、触手の先に炎を灯しているが、実はクラゲビの妖姫も触手から炎を放つことができる。

 そんな赤が昇布に頼んだのは、時間稼ぎだ。赤の武器である十字槍を自身の炎で強化するために赤は危険な時間稼ぎを昇布に頼んだ。もしもこれで断られたとしても文句はなく別の技を使おうとしたが、昇布の任せろという眼を見た赤はそれに答えるために時間稼ぎを昇布に任せた。

 

「さあ、この槍を受け止められるなら、受け止めてみなさい!!」

 

 赤は十字槍の柄を強く握りしめ、前にいる幹鬼に合わせる。

 

「なめるなああああああ!!」

 

 音撃弦を構え、必殺の音撃が再び掻き鳴らされる。

 さっきまでいた昇布は既に居ない。妖姫とはいえ音撃を受ければひとたまりもない。だが、赤は焦ることなく、槍の穂先を幹鬼に合わせることに集中していた。そして–––

 

「はああああ!!」

 

 狙いが定まった赤は勢いよく十字槍を幹鬼に向けて投擲する。

 途中、幹鬼の音撃の球が飛んできていたがそれらを貫いて破壊していく。

 そして、灼熱に染まって投擲された十字槍は幹鬼の中心を穿ち、十字槍はそのまま地面に落ちて深く突き刺さる。

 

「がふっ、す、すみません狼鬼さん」

 

 胸に大きな穴を作った幹鬼はそのまま前のめりに倒れてそのまま事切れる。

 それを見た昇布はそのまま地面に降りて、赤は十字槍の方へ歩いていく。

 

「昇布、すみません。無茶をさせて」

 

 謝罪の言葉を述べながら赤は地面に刺さった十字槍を引き抜いて仕舞い込む。

 

昇布

【気にするな。お前のおかげで鬼を倒せたんだ。このくらいの傷はそう大したことじゃない】

 

「ありがとう昇布……………では、戻りましょう。私たちの王のもとへ」

 

 赤は昇布の背に乗ると昇布は身体をうねらせながらそのまま空へと昇っていく。

 王の安否の確認のためにその場から去るのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE美岬

 幽の発令で動いて私たちが連れ出したのは狼鬼の傍にいた鬼1人(吹舞鬼)と無銘5人と天狗2人だ。

 幽のいる場所から離れた場所に連れ出しそのまま家族ごとに分かれて鬼たちの相手をする。

 

美岬

【せやあああ!!】

 

 私を認めた壊鯱(かいしゃち)を使いながら目の前の鬼に斬りかかる。

 

「魔化魍は清める」

 

 鬼は素早くサイドステップで後ろへと逃げ、音撃管を撃つが壊鯱(かいしゃち)でその攻撃を防ぐ。

 壊鯱(かいしゃち)の中にいる意思に認められての初めて実戦。そしてこの壊鯱(かいしゃち)はかなり凄い。

 単純な攻撃力だけでなく、10度打ち合えばその武器を壊し、壊した武器の一部の能力をその刀身に宿すという反則に近い能力を持つ。おまけにその能力はストックするのではなく刀自体に宿るため許容がない。無限に強化される刀だ。

 

 だが私の目の前で戦う鬼は音撃管を使う鬼だ。

 管系の音撃武器の放つ空気弾は壊鯱(かいしゃち)で斬っても能力が発動しないので壊鯱(かいしゃち)で戦う意味はあまりない。

 だが、認められた武器の力を試したくなるのは刀を使う者の(さが)というべきか。

 

 ふと、周りがどうなったのか気になった私はチラリと他を見ると他の家族の姿が見える。

 左には上半身と下半身が氷に覆われて砕かれた無銘とその近くに氷で作り出した台の上に座る単凍。

 

 奥にはバラバラにされて血の海に沈む2人の無銘とその死体を踏みながら鎌についた血肉を掃除するように舐めて肉片を喰らう天鏢。

 

 そのすぐ後ろでは大尊が口をもぐもぐと動かしている。その口から覗くのは血に染まった無銘の腕だ。だがそれもどんどん大尊の口の中へと消えていく。

 

 その上にいる簪を咥えた舞は髪で2人の天狗の首を絞めている。いや、1人の天狗の首は明らかに人体を超えた曲がり方をしている。そして、もう1人の天狗の首も今、捻るように折られた。簪の舞から少し離れたところで手鏡と櫛の舞たちは天狗の持っていた戦輪獣をそれぞれが解体するかのように滅茶苦茶に壊している。

 

 既に私が戦う目の前の鬼以外は全滅している。

 確かにこの戦いに参加する覚悟は持っていたのだろう。だが無謀だった。相手の力量が分からずにいたずらに命を落としたとしか言えない。

 しかし–––

 

「魔化魍は清める。魔化魍は清める。魔化魍は清める。魔化魍は清める」

 

 私の姿を視認するなり同じことを壊れたラジオのように繰り返し呟く鬼。

 音撃管の空気弾を撃ち続けているという長距離からの音撃管を使った手本のような戦い方をする鬼。だが、私の眼にはその様子がチグハグに映る。

 まるで、無理やりその戦い方を強要させて本来の戦い方とは異なるように見える。

 

美岬

【………】

 

「魔化魍は清める。魔かも……」

 

 しかし、戦いを長引かせて幽の身に何かあってはいけない。

 早急に終わらせるために音撃管を撃つ鬼に接近して壊鯱(かいしゃち)を横薙ぎに振るい同じことを繰り返して喋る鬼の首を斬り捨てる。鬼の首はそのまま地面に転がり、身体も静かに崩れ落ちる。それを見た私は壊鯱(かいしゃち)を鞘に収める。

 そのまま幽の元へ向かおうとすると、いつの間にかそばに居た単凍が私の肩を掴み動きを止めた。

 

美岬

【どうしたの? 早く幽を助けに行かないといけないのに】

 

単凍

【美岬、こいつ生きてるぞ】

 

美岬

【え?】

 

 私が死体と化したはずの鬼を見ると、おかしな光景が見える。

 首を胴から斬り落としたはずなのに首は呼吸をして、胴はその呼吸に合わせて体を上下させる。

 普通の人間ならあり得ない光景だ。

 

美岬

【魔化魍、しかもクビナシだったとはね】

 

 美岬は倒れる吹舞鬼の正体に気付く。

 デュラハンという首がない人型魔化魍の異常種の魔化魍がいる。

 首と胴が離れたこと以外、見た目はほぼ人間と変わらない人型の魔化魍で、目視が難しい中距離攻撃、どんな状況だろうと対応できる状況適応力とそして数多く存在する魔化魍の種の中でも数少ない音撃に対する絶対耐性を持つ魔化魍だ。

 

 そう音撃が効かない魔化魍。魔化魍に対する絶対的な弱点である音撃が通じないという魔化魍なのである。

 まあ、完璧に弱点がないというわけでも無いが、それは別の機会に話そう。

 

 倒れてるクビナシを見て、思い浮かんだのはあの男の顔だ。

 おそらく、いや確実にあの男が関わってるのだろう。それならば–––

 

美岬

【単凍、何か縛れるもの無い?】

 

 クビナシは間違いなくあの男によって何かされた筈だ。それを解くことが出来れば幽の家族を増やせるし、幽が喜ぶかもしれない。

 

単凍

【じゃあ、こいつでどうだ?】

 

 単凍がそう言って空間倉庫から取り出したのは、刀なのかと疑問を浮かべるような武器だった。

 

単凍

【拘束、捕獲といった獲物を傷付けず捕らえる為に造ったものだ。銘は待狆穴子(まちんあなご)

 

 それは柄だけを見れば刀と判断出来るが肝心の刃部分が異常だった。

 どうやって鞘に収めてたのかは分からないほどの長さと薄布のように薄い刀身。メタいことを言うなら前世で見ていた某鬼狩りの柱の1人が使っていた刀と似てると言えるだろう。

 

単凍

【うん? どうした?】

 

美岬

【いや、なんでもないよ】

 

単凍

【じゃあ、こいつを縛るか】

 

 単凍はそう言うと、待狆穴子(まちんあなご)を振り回し始める。

 ビュンビュンと空気を切る音が鳴り、単凍が大きく腕を振るうと伸びた刀身が地面に転がるクビナシに向かう。

 

美岬

【どうなってるの? それ?】

 

 そう言ってしまうのはしょうがないと思う。

 どういう原理か不明だが、伸びた刀身はクビナシの身体にグルグルと巻き付いていて、もしもクビナシが目を覚ましたとしても身体は完全に動かすことはできないだろう。

 取り敢えず、クビナシの身柄を確保したのを確認した私はクビナシを単凍たちに任せて幽の元に向かうのだった。

 そして、私は気づかなかったがひとつの影がその場から離れてある場所に向かっていた。

 

SIDEOUT

 

SIDE常闇

「さあ、開戦です!!」 

 

鈴音

【開戦だニャ!!】

 

 

「何これ、む」

 

 そんな号令と共に何処からともなく赤い霧が発生して鬼の1人に纏わりつくと、鬼の身体を宙へと持ち上げて何処かへ連れ去る。

 赤い霧に連れ去られる鬼は赤い霧の中で霧から逃れようと音撃棒を振るうも実体のない霧を散らせることしか出来ず、それでも音撃棒を振るって足掻く。やがて鬼の身体が地面に降りると赤い霧が鬼の周りから離れていく。そして遠くの場所で赤い霧が一ヶ所に集まっていく。

 

 赤い霧の中から巨大な蝙蝠の翼が飛び出て、それが霧を中に包み込むように閉じる。

 そして、翼が開くと中から出てきたのは頭頂部に蝙蝠の耳を生やし、全身タイツにも似た真紅の衣装とほのかに赤い霧を身に纏い、手に長槍を携えた常闇が現れる。

 

 王と鈴音が狼鬼の相手をすると聞かされ、周りの鬼たちを相手することになり、私が連れて行ったのはかなり変わった姿の鬼だ。 

 左右対称の音符マークが描かれた鬼面、音符の符尾を模した捻れた角を左側面に生やし、音楽の演奏で立つ男性指揮者が着るような服に似た黒い鎧、腰には金の刺繍がされたロインクロスが巻かれた鬼だ。

 確か名前は–––

 

常闇

【指鬼だったか?】

 

「そう。僕が指鬼だ、よっ!!」

 

 鬼が自己紹介と同時に音撃棒で刺突を行う。

 

常闇

【はっ!】

 

 常闇もそれに合わせて槍を前に出して、指鬼の刺突に合わせる。

 音撃棒と槍は互いにぶつかり火花を散らす。

 

 指鬼は音撃棒を引くと水平に構えながら連続で刺突攻撃を繰り出す。

 常闇は赤い霧を何も持っていない片手に集めると霧は短槍へと変わり、指鬼の刺突を短槍で巧みに防ぎ、もう片方の長槍で指鬼を攻撃する。それに対して、指鬼は片手から伸ばした鬼爪を使い、致命となる傷のみを防ぐも常闇の攻撃によって少しずつ身体を削られていく。

 

 数度の短い攻防の中、常闇はあることに気づく。

 そう。鬼が持つ音撃棒の形状ともう1つある筈の音撃棒がないということに。

 

 猛士中部地方富山支部所属の指鬼の使う音撃棒は従来の音撃棒とは違う。

 本来の音撃棒は太鼓のバチを模した打撃と斬撃を可能とする双剣のような武器だ。だが、指鬼の音撃棒は指揮者の持つ指揮棒を模した刺突剣(レイピア)のような音撃武器だ。

 従来の音撃棒との区別のためにこちらは音撃指揮棒(タクト)と呼ばれている。

 これは刀身を通る空気の振動を清めの音に変え、それを刀身に纏わせることで斬りつけた魔化魍に清めの音による裂傷を与える。さらに刀身に纏われた清めの音を演奏のように振れば音符型の音撃へと変わり中距離からなら音撃として攻撃できる。

 

 常闇は長槍を防御に変えて短槍の攻撃に切り替える。

 刺突だけでなく薙ぎ払いも混じり、指鬼の鬼爪はその攻防で根本からボキリと折れて、根本からは血が流れる。

 

 指鬼も負けじと音撃指揮棒(タクト)で攻撃を繰り出すも常闇の槍に阻まれて傷を負わせることも出来ず指鬼の身体の至る所から短槍によって受けた傷が出来、そこから血が流れていく。

 

「ぐぅ!!」

 

 指鬼の限界に気付いた常闇は防御に使っていた長槍も攻撃に回し、攻めの勢いを増す。

 1つの槍ですら負傷していた指鬼は2本の槍の猛攻によってどんどん怪我を増やしていく。

 

「うっ! があああああ!!」

 

 常闇は短槍を指鬼の脚に向けて投げると、短槍は指鬼の脛を貫いて地面に縫い付ける。それで体勢を崩した指鬼は持っていた音撃指揮棒(タクト)を落としてしまう。

 

「あああああああ!!」

 

 急いで拾おうとした瞬間、指鬼の手には赤い短刀が突き刺さり指鬼は痛みに悲鳴を上げる。

 痛みに耐えながら指鬼が視線を向けると長槍を持った常闇がゆっくりと近づいてくる。

 

 そして、指鬼の近くに立つととどめを刺そうと長槍を向け、そのまま指鬼の心臓を貫こうとしたその時–––

 

【待って!!】

 

 ひとつの影が常闇の動きを止めた。常闇は声の主の方に顔を向けると意外な家族がそこにいた。

 

常闇

【大尊か?】

 

大尊

【そいつ……を、ふーー殺すの、はーーちょっと待って】

 

 現れたのは美岬のいた場所から駆けてきたのか少し疲れながらも常闇が鬼を殺すのを止める大尊だった。

 突然、現れた常闇は長槍を指鬼に向けたまま大尊に話しかける。

 

常闇

【なぜ止める。過激派の鬼は生かしてはおけん】

 

大尊

【ちょ、っと待って。その鬼と、ふー、ふー話がしたいの】

 

常闇

【なに?】

 

 大尊の言葉に常闇は眉を顰める。

 なぜ、そのようなことを言うのか? それよりもこの鬼をさっさと始末しようと長槍に力を込めようとすると次の大尊の発言に常闇は完全に動きを止める。

 

大尊

【下手すると、王が死ぬかもしれないんだよ!!】

 

 その言葉は完全に常闇の動きを止める。

 

常闇

【どういう意味だ?】

 

 指鬼に向けていた筈の長槍が大尊に向けられる。

 大尊はそれに気にせずに喋る。

 

大尊

【もしも、そいつが私の予想してる通りことになってるのなら、そいつを殺しちゃいけない。だから殺すの待って】

 

 普段、自身のこともあまり語らず秘密が多いこいつがここまで言うのはかなり珍しい。ならば–––

 

常闇

【よかろう。少しだけ話してもよい。もし、その鬼がお前の杞憂ではなければ即殺す。それで構わないか?】

 

大尊

【うん。ありがとう常闇】

 

 私の許可を得て、大尊は鬼に近付いていく、鬼は先ほど落とした音撃武器を拾い、近づく大尊に向ける。

 

大尊

【………お前、契約してるんだろ。その様子からして20か53のいずれかってところ】

 

「あの方を知ってるんですかっ!?」

 

 大尊の言葉に鬼は驚き、その質問に答える。

 

大尊

【あの方ってことは…………53か、あいつとは知り合いみたいなもんだよ】

 

「そうですか。それでは何故止めたのですか? あのままでしたらあなたのお仲間に貫かれて憎き敵を殺せるというのに」

 

 鬼の言うことも最もだ。

 だが、大尊の様子からしてそれがマズいのだろう。

 

大尊

【ただの鬼だったらそれで良かったけど。お前は別、53は契約者を殺されたりすると全力で殺した相手を殺しにくる。おまけにそれと親しいものも巻き込むことが多い、それで王が巻き込まれる訳にはいかないし、何よりあいつとはなるべく戦いたくないんだよ】

 

 なるほど。

 私がもしも、あの鬼を殺せばその報復として私を殺しにきて、それに王が巻き込まれるかもしれないという訳か。それならば大尊が必死に私を止めようとするわけだ。

 

「それでどうするつもりですか?」

 

 鬼は音撃武器を既に下ろして大尊に質問する。

 

大尊

【……………見てるだろ53。私も常闇もお前の契約者には手を出さない!! どうせ部下に監視させてるんだろう。さっさと契約者を回収しにこい!!】

 

 突然、大尊が顔を上に上げながらそう叫ぶ。

 私も鬼もその行動に唖然としていると–––

 

【困りますね】

 

 何処から声が響く。

 

常闇 

【っ!!】

 

 いつ間にか鬼の側に全身を追い隠せる黒のローブを羽織ったモノが立っていた。

 

【あまり、主人(あるじ)のことをベラベラ喋られては、貴方だって隠しておきたいものが色々とある筈なのでは?】

 

大尊

【五月蝿い、やっぱりいたか。久しぶりといえばいいの?】

 

【お久しぶりに………なりますかね。しかし貴女が今の王のところにいるのはどういうことですか? 貴女はあの戦いの後、忽然と姿を消した。当時の主人(あるじ)は悲しかったそうです。話し相手が減ったと、そしてある時主人(あるじ)に文が届いた。

 そこに書かれたのは貴女の生存と9代目と契約を交わしたということ】

 

主人(あるじ)は契約なら仕方がないとおっしゃいましたが、せめて連絡はたまにでも良いので送って欲しかったです】

 

大尊

【あれ、もしかして寂しかった?】

 

【いえ別に。ただ、貴女の子飼いが煩かったのですよ】

 

大尊

【それはごめん】

 

【兎に角、貴女の生存を知ってるのは主人(あるじ)と私を含め、貴女の子飼いだったあの子たちだけです】

 

大尊

【そう。だったら早くそいつを連れてってよ。誤魔化しも忘れずに】

 

【ええ。では、またいつかお会いしましょう。Au revoir】

 

 黒ローブが倒れている鬼を抱えると霞のようにその場から消える。そして、その場には鬼の持ち物であろう折れた変身音叉が落ちていた。消えていくのと誤魔化しを確認した大尊は何事もなかったかのようにのしのしと歩き始める。

 

常闇

【おい】

 

 だが、そんな大尊を常闇が呼び止める。

 呼び止めると同時に大尊の喉元には常闇が向けた長槍の穂先がギリギリ届く位置に置かれる。

 

常闇

【お前、何を隠している?】

 

大尊

【……………】

 

 今、思えばこの魔化魍には謎が多すぎる。

 先ず、普段から掛けている縮小の術。日常的に掛けているのは土門も一緒だが、あやつの場合は身体を小さくする理由がある。だが、こいつは日によって身体の大きさはバラバラだ。

 次に以前の九州地方で家族となった渦潮との何かの話し合い。その戦いは幻術で誤魔化されていたそうだがある程度の実力を持つ者たち、側で食事をしていた水底は幻術に騙されずその光景を見ていたが、何も言わなかったようだ。

 そして、今のやりとりだ。今現れた魔化魍とはまるで親しい友人と話すような雰囲気を感じた。あの黒フードは大尊が生きていることを知っているのは、と言っていた。

 過去のことに関してとやかく言うつもりはないが、流石に王に害する可能性もある。もしも、そうだったのなら。

 

大尊

【……………今は話せない】

 

常闇

【なに?】

 

大尊

【いつかは話す。でも私は王の敵には絶対にならない】

 

常闇

【それを信じろと?】

 

大尊

【別に信じなくてもいい。私はシュテンドウジとの契約があるから】

 

常闇

【契約だと?】

 

 契約と言った。ということは奴の正体は!?

 

常闇

【お前、まさか!?】

 

大尊

【常闇……それ以上は】

 

 …………ふむ。これ以上言っても何も喋らないだろう。このことは一応、白たちに話すべきだろうか。

 いや、辞めておこう。知ってる者は少ない方が良さそうだな。

 

常闇

【では戻るか】

 

大尊

【うん】

 

 そう言った私は長槍を消して、大尊と共に王のいる場所に向かう。




如何でしたでしょうか?
前書きにも書きましたが本当はこの回で南口戦闘回を終わらせようと思いましたが、次話まで伸びちゃいました。次の話の後に1、2話を入れて鳥獣蟲宴編を終了しようと思います。因みに待狆穴子のモデルは某鬼狩りの恋柱の刀を常闇の姿は師匠の服装の真紅ヴァージョンをイメージしてます。
大尊の正体は察しがいいお方は多分気づいてますよね。
次回もお楽しみにして下さい。

ーおまけー
迷家
【僕の名前は迷家。今、新しい家族に質問しようとしている非戦闘系補助タイプの王の家族です】

鈴音
【なんニャ。その自己紹介的な挨拶は?】

迷家
【なんか、電波ていうかバグというか、そんなのが頭に送られてきて】

鈴音
【そうかニャ】

迷家
【じゃあ、改めておまけコーナー始まるよ〜】

鈴音
【始まるニャ】

迷家
【では早速質問しようかな】

鈴音
【どうぞニャ】

迷家
【じゃあね。鈴音が外道を狙うようになった理由を聞きたいな】

鈴音
【……………】

迷家
【あれ? もしかして聞くの不味かった?】

鈴音
【あ、ああ。大丈夫ニャ。ちょっと昔を思い出しただけニャ】

迷家
【無理そうなら話さなくても大丈夫だよ】

鈴音
【大丈夫ニャ……………ニャンは昔、とある花魁の飼い猫だったのニャ】

迷家
【へえ〜鈴音は、そっちの生まれなんだ?】

鈴音
【…………あまり言いたくないけど、それはあまり言わない方がいいニャ】

迷家
【分かってるよ。鈴音ならあまり気にしなさそうだからね】

鈴音
【とにかくニャ。ニャンは花魁に飼われてた猫だったニャ。ニャンの飼い主の花魁はそれは美しく、女だろうと魅了する魔性の女ともいうべき人だったニャ】

鈴音
【ある時、花魁に身請けの話がきたニャ】

迷家
【みうけ?】

鈴音
【まあ簡単に言うなら、男が遊女を選んでその遊女に見合う金と借金を払って自分のものにすることニャ。だけど、花魁はその話を断るニャ】

迷家
【なんで? みうけされれば少なくても遊郭からはに出れるんでしょ】

鈴音
【花魁には好きな幼なじみがいたのニャ。だからちゃんと働いたお金で遊郭から出ようとしたのニャ】

鈴音
【花魁はいつも仕事を終えるとニャンに幼なじみのことを話してくれたニャ。あの笑顔は忘れないものニャ。そして、ある時–––】

鈴音
【花魁は殺されたニャ。あと少しでお勤めを終えて、幼なじみと結ばれるところまで来た時だったニャ】

鈴音
【花魁を殺したのは、花魁を身請けしようとした商人の息子だったニャ。自分の身請けを断った腹いせに殺されたのニャ】

鈴音
【ニャンはその光景を見てたニャ。そして、ニャンを見つけた花魁はニャンを逃してくれたのニャ】

鈴音
【その直ぐ後に花魁の死が幼なじみの耳に入ったニャ。それで部屋から移された花魁の死体を見て駆け寄り花魁の死体を抱えて泣いてたニャ】

鈴音
【ニャンはその時、自分を恨んだニャ。下手人が分かってるのにそれを伝える術がないと、ニャンはその場を離れて花魁がいた部屋に向かったニャ】

鈴音
【花魁の持ち物だった着物の前に行くと、突然の睡魔に襲われたニャ。ニャンは眠気に抗えず、そのまま眠ってしまったニャ】

鈴音
【次に目を覚ました時、ニャンはこの姿になっていたニャ】

迷家
【え? ちょっと待って。鈴音ってバケネコの姿を飛ばしてその姿だったの!?】

鈴音
【そうニャ。続きは話したいところだけど、今回はここまでにするニャ】

迷家
【えええええ!! ここまで聞かせておいて!? 続き聞かせてよ〜】

鈴音
【長い話だからニャ。続きは次のコーナーの時に話すニャ】

迷家
【ぶううう。ちぇ、分かったよー。続きは次のおまけコーナーで話してもらうからね】

鈴音
【分かったニャ】

ー次回のおまけコーナーへ続くー


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