Fate/hollow order (神凪颯)
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第1話「仮初の街」

全て妄想です。
発投稿です。
何番煎じかもわかりません。が、暖かい目で見てくれると嬉しいです。
設定ミスは笑ってやり過ごしてください


 

人理継続保障機関カルデア

2016年における人類史焼却を巡る戦いは、ちっぽけな/強大な マスターによって打ち倒し、人類は2017年へと手を伸ばした。

これは魔術協会からの監査が近々迫る中に起きた、ほんの小さな/大きな もしもの話である。

 

「先輩。起きてください、先輩ーーー」

まどろみの中から聞こえてくる、聞き慣れた声。

芯の強い真っ直ぐな、大切な後輩の声だ。

そんなことを考えながらも、彼/彼女 藤丸立香の意識は覚醒へと促された。とても人類史を守ったマスターには見えない。

 

「あぁ…おはよう、マシュ」

寝ぼけた頭を掻きながら答える。少し寝癖もついているようだ。後でなおしておかねば。

寝ぼけても常にマイペースな立香の傍らに、少し腰を落として顔を眺めている彼女 マシュ・キリエライトは若干の呆れと同時に、いつもの先輩だと安心していた。

だが、彼女が立香を起こしに来るのは日常茶飯事のことだが、なにもわざわざ寝起きを見に来たわけでもドッキリなどを仕掛けに来たわけでもない。

 

「先輩、ダ・ヴィンチちゃんからブリーフィングの呼び出しが来ています。すぐに向かいましょう。」

ブリーフィングと言われ、立香の微睡む意識はすぐに覚醒した。今までは、数々の特異点ということで彼女と幾度と旅をしてきたわけである。その独特の緊張感は、何度考えても、慣れることは出来ても、緊張しないわけではない。

わかった。と短く返し、立香はすぐに身支度を整え自室を後にする。

マシュと何度も一緒に歩いたカルデアの通路は、もはや目を瞑っても歩けるのではないかと錯覚するくらい歩いたし、また、この僅かな時間こそ、立香とマシュの囁かな時間でもあった。人類史が守られ、2017年と時を進めた今、こうして共に歩く機会も少なくなってくると考えると、どうにも寂しく感じる。

 

管制室のドアが開くと、数名の作業員の声が聞こえてくる。そして目の前に飛び込んでくる巨大な地球儀、のようなもの。観測レンズ「シヴァ」を元に生成されたリアルタイムに映し出される地球の姿。通称「カルデアス」。

かつては真っ赤に染まっていたカルデアスだが、今は元の綺麗な青色を保っている。

 

「やぁやぁ、よく来たねぇ?でも、5分2秒の遅刻だよ?

ちょっとの油断が命取り、となりかねないよ?

まぁ、今となってはそんな心配もないわけだがね」

立香がカルデアスに目が行っているのを引き寄せるかのように、声が聞こえた。

レオナルド・ダ・ヴィンチ。通称ダ・ヴィンチちゃん。

カルデア召喚英霊第2号にして今まで幾度となく助けてもらった恩は、忘れられるはずもない。

そしてそのダ・ヴィンチちゃんの隣に常にいた寂しくも優しい表情を向けてくれた医療部門トップの彼の姿はもういない。

俺/私 はそれに寂しく感じながら 前をみて/振り返りながら 進もうと決めている。彼と同じように、ロマン/浪漫 を追い求めたいと思うからだ。

 

「ダ・ヴィンチちゃん。先輩をお連れしました」

マシュが隣に立っている。彼女は自分を呼ぶよう伝えられただけで、事の内容は聞かされてないようだ。もちろん自分も知らない。

ダ・ヴィンチちゃんは少し困ったような顔をしながらも

 

「うん。まず言わせてもらうと、新たな特異点が観測された、と言うべきだね」

特異点。かつて聖杯を探して、マシュと共に過去の世界を飛び、様々な冒険をしたところだ。今でもその記憶は鮮明に浮かぶ。語れと言われればいくらでも語ろう。だが、今新たな特異点と言われても……またエリザベートあたりが聖杯を持ち出したのかと考えたくもなる。だが、ダ・ヴィンチちゃんの表情を見る限りは違うようだ。彼/彼女 の顔は困ってはいるものの、真剣だからである。

 

「場所は特異点F、冬木の街だ。此処に聖杯が出現したと観測されている。もはや何度目かはわからないけど、この冬木にレイシフトして、聖杯を回収してほしい。」

冬木ーー特異点Fとして初めてマシュと共に旅をした場所である。その後も別の特異点として、その時には諸葛孔明も加えて旅をした。今回またレイシフトするとしたら、3回目になる。

 

「また…歪みとか、そういったものなのでしょうか?

以前、冬木に行った時も、特異点Fとは違うものでしたし…今回もまた、違う歪みが発生しているということでしょうか?」

「そういうことだね。マシュは物分りが早くて助かるよ。」

少し考え込むように考えるマシュに対して、素直にすごいと思った。

時代における歪みとなれば、確かに特異点になり得る可能性もある。それがまた、聖杯が関係しているとなれば尚更だ。

 

「今回の冬木の歪みは、今までに見たものと何かが大きく異なると思われる。

でも、今回は私がきっちりサポートしてやるから大船に乗ったつもりでいたまえっ!」

自信満々に答える。いかにも飄々とはしているが、頼りになること間違いない。キャメロットでは本当に助けられた。

 

「では、今回はその歪みの特定、及び修正をして、聖杯の確保をする。歪みがなにかは気になりますが、やることはいつもと同じ、ということでいいのでしょうか?」

「そうその通り!存分に活躍してくれたまえ!」

いつも通り…たしかにいつも通りだ。どれも一筋縄では行かなかったが、今回も存分に苦労するのだろうと少し落胆はしてしまう。だけどーー

「マシュと一緒なら大丈夫です」

素直に思ったことを口にした。今までどんな困難にも立ち塞がれてきたが、マシュと共に駆け抜けた日々は忘れることはないし、常に支えてくれたからこそ、今の自分はあるのだと思える。

 

「せ、先輩……」

彼女が顔を赤くなっているような気もしたが、俯いて長い前髪でよく見えない。もしかしたら照れているのかもしれないが、あまり意識するとこちらも照れてしまう…ので考えるのはやめておこう。

 

「それじゃあ決まりだ。立香とマシュは冬木にレイシフトし、聖杯の回収に当たってくれ。なにかあったらすぐ連絡するように。こちらからも常に連絡はするようにしておくからさ。」

 

 

そうして、レイシフトが開始される。体と意識が切り離されるような感覚。自分がどこにいるのか見失う、そんな感覚。何度も経験しているが、やはり慣れない。

そうして何度もその感覚を味わいながらも、しかしそれは一瞬で終わる。体のあやふやな感覚が消え、うっすらと目を覚ます。

 

そこはーーー街だった

 

かつてレイシフトした特異点F冬木は街中が業火に焼かれ、見る影もなかった。その次の冬木は、街や人々はちゃんと存在していても、どこか薄気味が悪かった。

だが、今回の冬木は、それすらも感じない。穏やかな空気と、栄える街並みだった。

「先輩…これは…」

近くにいたマシュも驚いていた。それはそうだろう。彼女にとって、近代的で繁栄した街並みを見るのは初めてなことだし、ましてや脅威を一切感じない空間に飛び込めば、本当に特異点なのかと怪しくもなる。

 

「街です…本当にここに聖杯があるのでしょうか?」

「わからない…けど、ここが特異点であることには間違いないし、とりあえず探索してみよう」

捜査は足で。という昔観た刑事ドラマの言葉を思い返しながらも、探索を始めようとした。

しかし、立香はなんとなく気づいた。いや、気づいてしまった。

 

「せ、先輩…」

助けを求めるようなマシュの声を聞けばわかる。気づいてしまったと。

 

『な、なんだ?』

『なにも無いところから人が…』

『すごい!何かの撮影かな?』

『あの2人すごい格好だな』

 

一般の人に見られてしまった…!!

 




しょうもないオチですいません
ゆっくりと作っていこうとおもいます
誤字脱字あれば教えていただきたいです


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第2話「始まりの日」

第2話です
感想をくれた方ありがとうございます
本編とは大分離れた進行になると思いますが、幾分大筋からは離れないよう進めようと思います。


魔術の秘匿

それは魔術というものが確立されてから、暗黙の了解として魔術師たちに課せられたルールである。

 

魔術は人に見られてはならない

 

そのルールは魔術協会からも厳しく管理され、その掟を破るものならば、魔術師としての生はおろか、その代で魔術師の家系が滅びる可能性まである。

また、神秘の価値を失う可能性もあるということで魔術師の間で魔術の秘匿は義務付けられている。

かつて、とある聖杯戦争に参加したマスターは、自らのサーヴァントと共に、大量虐殺を行い、魔術の行使すら人目を気にせず行った。その結果、聖杯戦争の監督役から抹殺の指示が出され、マスターとサーヴァント共々討ち倒されたという。

 

ならば、このような場合はどうだろうか

 

魔法クラスの大魔術で、時間移動に匹敵する空間転移を行った結果、一般人の衆目の中でその姿を晒してしまった場合はーーー

 

「マシュ、逃げるぞ!!」

「は、はい!!」

 

難しくはない。人々の記録に残ってしまう前に逃げる。王道かつ最もかつ最適な手段である。

彼らは全力で走り抜けた。アメリカ大陸を横断する体力の持ち主であり、ギリシャの大英雄と鬼ごっこをした彼らにとって、衆目の中を走り抜けるというのは難しくはなかった。

 

それから走り続け、街を二分する大きな橋の近くまで来たところで視線を避けたことを確認し、その足を止めた。周りに人がいないことを確認したところでようやく息が切れた。

 

「う、迂闊でした…まさか、あのような状態でレイシフトしてしまうとは…」

 

今までのレイシフトは誰もいないところにそっと出現して活動していた。しかし、今回は一般人の目の前に出現してしまったということもあり、マシュも動揺を隠せないようだ。体に疲れはないが、精神的疲労が大きなダメージとなっている。

 

『うーん。座標はちゃんと合っているんだけどねぇ

これも歪みなのかなぁ?』

 

腕につけているカルデアの通信機からダ・ヴィンチちゃんの気の抜けるような声が聞こえてくる。彼/彼女 がそんな声を出す時には、脅威や異常を観測されてない時に出る声なので、出現するタイミングは失敗しても、ちゃんとレイシフトは成功しているということを意味している。

ダ・ヴィンチちゃんによると、冬木の街に観測される魔力反応は複数。しかし、どれも敵対するのか、味方になってくれるのかは不明だとのこと。やはり、自分たちに協力してくれるかもしれない人を探すしかない。

だが、冬木の街はそれなりに広さはある。魔力反応が点在するとはいえ、一つ一つしらみつぶしに探すのでは効率が悪すぎる。

 

「ですが、たとえ手当り次第でも手がかりを探さなければ…」

 

敵意を感じないからだろうか。マシュは普段の服装に戻っている。詳しい経緯はよくわからないが、約束された短い寿命から解放された今のマシュは、今までよりも生き生きしている。なんとなくそれがとても嬉しく感じている。

 

「そんなことより、その眼鏡似合ってるね。マシュ。」

 

ふとそんな言葉が出た。サーヴァント状態の時とは違い、普段の彼女はメガネをかけている。デミ・サーヴァントとしての格好ももちろん似合っているが、メガネをかけているときにはまた別の魅力もある。

そのようなことを考えてる内に自然に声が出てしまった。訂正や否定をするつもりはない。だって事実なのだから

 

「あ、ありがとうございます…先輩…」

 

顔を赤くしながらもこちらに視線を真っ直ぐに/逸らして 返してくれる彼女に俺/私 はどう接したらよいだろうか、たまに考えてしまう。今のマシュはデミ・サーヴァントとはいえ、中身は至って普通の女の子だ。楽しいことをたくさんしたいし、美しいものをたくさん見せてあげたい。それは藤丸立香にとって本心であり願いでもあった。

 

『はいはいそこ!ラブコメは今は後だよ』

 

ダ・ヴィンチちゃんからの通信で我に返る。こんなことをしている場合ではなかった。いや、本当はもう少ししていたい気もあるが、今は特異点の探索のほうが先である。

マシュもその気持ちがあったのかもしれない。まだ顔が少し赤いように見える。本当に気の合う後輩だ。

 

『もう少し調べて見たけど、その橋を渡った向こう側に1箇所、魔力反応が集中している場所がある。そこが少し怪しいからね。危険ではあるけど、同時に重要な手がかりになると思う。まずはそこから向かってみればいいんじゃないかな?』

 

ダ・ヴィンチちゃんの提案は最もだ。話がわかる人に出会うことが出来れば、こちらとて特異点探索が少しは進むからだ。立ち止まっても仕方ない。まずは、その魔力反応が集まっている場所に向かおう。

 

マシュと共に大橋をわたる。大きな橋の割には車などの通行人は少なく、見晴らしはよかった。

ぞくり…

ふと、背中に感じた殺気に思わず立香は振り返る。

 

何もない

誰もいない

 

だけど今の気配は、完全に人を殺す気配だった。

 

「先輩…?」

 

マシュが心配そうに見ている。気付かぬ内に冷や汗をかいていたのかもしれない。いつの間にか殺気も消えている。もしかしたら気の所為なのかもしれないと思い、マシュに大丈夫と告げて大橋を渡る。

ようやく渡りきったときには殺気などの気配はまるで何も無かったかのように街に足を踏み入れる。

標識を見るに、ここは冬木市深山町というらしい。先ほどの街中は新都と言うらしい。この冬木市は新都と深山町で主に分けられているようだ。

 

閑静な住宅街。そう言い表せるほど、ありふれた街並みであった。少し坂道が多い気もするが、近くに山が見えることから、そういう地形なのだろう。あの山には以前にも行った覚えがある。でも、魔力の反応はそこからではなかった。

山の中にある龍脈の震源。柳洞寺から離れた住宅地の中にある一つの屋敷である。

坂道を歩き続け、その屋敷にたどり着いた。

この土地の主はお金持ちなのだろうか。塀伝いに歩いてもかなりの広さがあった。過去2回のレイシフトでは訪れなかった場所なので戸惑いはあったが、ダ・ヴィンチちゃんのナビもありたどり着くことができた。

そして今、マシュと立香はその屋敷の門前に立っている。

 

「先輩…やっぱりここは、正面からお邪魔した方がいいでしょうか?」

 

特異点とはいえ、今のところは異状は見当たらないし、まずは正攻法で行こうと思う。だからここは正面突破、もとい正面からお宅訪問である。

門を叩こうとしたが、マシュに止められ自分が行くという。こういうときもサーヴァントに任せてくださいと。

立香からすれば、当たり前のことかもしれないが少し過保護すぎると思ってしまう。

門を叩こうとした時、ふと横に視線を向けるとーーー

 

「あれあれ?お客さんかな?家に何のようかしら?」

 

茶色の髪、虎のようなボーダーの服、一切の悪意を感じない活発そうなその声。間違いない。

 

ジャガーマンである

 

「じ、ジャガーマンさん!?」

 

マシュが驚きの声を顕にする。立香も驚いている。特異点とはいえ、ウルクにいたあの英霊がなぜこんなところに…!

 

「ノー!私はジャガーではなくタイガー!!

冬木の美人教師藤村大河とは私のことよ!!」

「タイガー…?」

「タイガー言うなっ!!」

 

タイガー。ジャガーではなくタイガーマンだった。

そこまでにしておけよ藤村

という言葉が頭をよぎったが驚くことはそこではない。彼女からはサーヴァント反応どころか魔力の反応すら感じられない。どうやら本当に人間のようだ。こっそりダ・ヴィンチちゃんに確認するも、ジャガーマンと瓜二つの人間のようだ。

 

「し、失礼しました!」

 

マシュにつられて立香も頭を下げる。人違いならぬ英霊違いをしてしまった。彼女は人間だが

 

「あー、いいのいいの。

それで、お2人さんどうしたの?うちに何か用?」

 

英霊違いをされたにも大河は特に気にしている様子もなく話を戻してくれた。意外と話がわかる人なのかもしれない。マシュは魔術や特異点のことは話さず、大河にこの屋敷の主に会いたいということを説明した。

 

「んーわかったわ!すぐに呼んでくるわね!

お2人さん、寒いから入って入って!」

 

大河もここの家の住人なのだろう。躊躇いなく屋敷に入っていき、立香とマシュもそれに続く。

広い庭に、石製の倉、大きな本殿と思われる屋敷があり、相当なお金持ちかもしれないと緊張してしまう。

遠慮がちに歩を進めると玄関先で待って、大河は「ただいまー!」と元気に入っていってしまった。家主と交渉してくれるのだろう。

 

それからすぐ、玄関が開いて人が現れた

 

「はい。えと…どちらさまで?」

 

赤みがかった茶色の髪、若そうだが歳は立香やマシュとあまり変わらないくらいだろうか。その面持ちは、カルデアに召喚された英霊に似ているが、誰だっただろうか

 

「突然の訪問失礼します。私はマシュ・キリエライト、こちらの人は藤丸立香。あなたが、この家の家主さんですか?」

 

「え?えぇ、まぁ…一応、この家の家主…ってことになるのか?

衛宮士郎です」

 

エミヤ…シロウ…!?

この特異点に来て驚かされてばかりである。衛宮士郎と名乗るこの少年は、カルデアにいるアーチャーやアサシンのエミヤと同じ名前である。

 

「な、なんですか…人の顔じろじろと…」

 

気付かぬ間に顔を凝視してしまったようだ。

動揺するもまた謝罪し、マシュは続ける。

 

「し、失礼しました。

さらに無礼な質問をすることをお許しください。ミスター衛宮

あなたは…魔術師ですね?」

 

「……なんだあんたら…」

 

士郎の警戒が一気に強まる。無理もない。いきなり自宅を訪問されて、魔術師かどうか聞かれて警戒しない方がどうかしている。

 

「私たちは、人理継続保障機関カルデア…この時代における特異点の探索のため、この街に来ました。

この時代に詳しい魔術師、またはサーヴァントを探しています。この屋敷から、多数の魔力反応を感知しました。あなたが魔術師であるのならば、ぜひお話を聞いてほしいのです!」

 

自分たちの目的、理由、正体を簡潔に説明するマシュ

士郎は怪訝そうな顔をしながらも、何かを思い当たったのか、訝しげな顔をしながらも話を聞いてくれた。

 

「……あんた達が何者なのかはわかった。けど、簡単には信用出来ない。詳しい話を聞かせてもらおう

とりあえず、中に入ってくれ。」

 

訝しげな顔をされながらも屋敷に足を踏み入れる。ダ・ヴィンチちゃんから小声で彼が魔術師と言われてなければ、お手上げだった。

家の中に上がり、広い部屋に通された。広い和室に、大きな机が置いてあり座布団が敷いてある。奥に見えるのはキッチンだろうか。綺麗に整理されている。

 

「遠坂、悪いけど…」

「席は外さないわ、私もここで聞かせてもらうわ。少しばかり興味もあるしね?」

 

「えっ…」

 

マシュがまたも声を漏らす。当然だ。目の前にあの金星の女神、イシュタルがいるのだから

だけど、先ほどのジャガーマンの件もある。おそらく彼女も人間なのであろう。

 

マシュと立香はお互い正座して通された席に座る。マシュからも緊張している雰囲気が伝わってくる。

一応お茶を出されたが、手をつけられるような空気ではない。向かいには士郎と、イシュタル似の女性が座っている。

 

「私は遠坂凛。

あなたたち、どこの人間?カルデアなんて聞いたことないわ。

それに、どうして衛宮君を魔術師だなんて思ったわけ?」

 

当然といえば当然の質問をされる。こういう説明は立香はあまり得意ではない。マシュが任せてほしいという目を向けてくるので、任せることにしよう。

 

「突然の無礼、失礼しました。ミス遠坂。

私はマシュ・キリエライト。隣にいるのは藤丸立香。

私はこの方のサーヴァントであり、こちらの方はマスターです。」

 

「……」

 

薄々気づいてはいるのだろう。凛は警戒しながらも話を聞いてくれている。

 

「私たちは、人理継続保障機関カルデアから、この特異点を調査するために派遣されました。

私たちからすれば、ここは過去の世界。この世界にレイシフト…もとい、一時的なタイムスリップにより、こうしてやってきました。

私たちはこの特異点において、原因不明の歪みの調査、及び解決を求めてやってきました。そこで、この時代に詳しいお2人に、ぜひ協力してほしいと思い、交渉に来ました…!」

 

凛は口元に手を当てて何かを考えている。いきなり自分たちの住む世界が歪んでいるなどと言われて信用してもらえるのかは不明だが、彼らが魔術師であるのならば、何かしら思うところもあるのだろうか。

 

「どう思う?衛宮君」

「俺は…その話に乗ろうとおもう。

完全に信用しているわけじゃない。だけど、彼らが冗談を言いに来たというわけじゃないのは、遠坂もわかるだろ?」

「……そうね

でも、私は事が起きるまでは衛宮君に任せるわ。

私だって信用しているわけじゃないもの

確証がない限りは、私は関与しないわ。私は私なりに調査する、っていえばいいかしらね」

「わかった。遠坂がそういうなら、それでいい」

 

どうやら凛は参加しない、もとい別行動ということらしいが、士郎は協力してもらえるということだ。自分たちから押しかけて置いてなんだが、ここまで話を解ってもらえたというだけでも上出来だろう。

2人にお礼を言い、衛宮邸を後にしようとする。

 

「待ちなさい。二人とも、泊まるところあるの?」

 

言われてみて気づいた。二人とも文無しである。

最初から野宿する気ではあったのだが…

 

「行くとこないならここにしばらく泊まっていきなさいな」

「はぁ!?と、遠坂!」

 

士郎はもちろん反対、のようだが、凛に言いくるめられているようだ。確かに、どこの誰かとわからない人たちを見逃すよりかは、手の届く監視下に置いた方がいいのかもしれない、というところなのだろう。

泊めてもらえるというのであればこちらとて願ったり叶ったりな状況ではある

 

「…わかった…部屋は空いてるし、そこを使ってくれていい」

「ありがとうございます…!」

 

マシュと共にお礼をする。この恩のためにも、一刻も早く特異点を修正しなければと改めて決意した。




最後まで読んでくださった方ありがとうございます

マシュと立香を士郎たちとどのタイミングで接触するか、ということですごく悩みました。
昼に会うのか、夜に会うのかで内容が大きく変わるからです
ですが、FGOの通例どおり、序盤のタイミングでナビゲーターが現れるというのであればなるべく早く会わせたかったというのもありますので、このようなまさかのお宅訪問になってしまいました。申し訳ありません
次回は一日目の夜を描きたいと思います。
よろしくお願い致します


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第3話「夜」

第3話です。
一応世界観を説明しますと、特異点ということもあり、ホロウ時空とはいえ、時間軸は多少バラバラになっています。
ですので、序盤ですでに凛がいるということになっています。

今回は少し短いですが、多少流血もありますので、承知の上ご覧ください。


 聖杯戦争

 どんな願いも叶えるといわれる聖杯を求め、7騎のサーヴァントと、それを使役する7人のマスターによるバトルロワイヤルである。

 

 ()()()()()()()()

 

 ことカルデアに記録されている過去の聖杯戦争は、1度しか行われておらず、その勝者ははっきりとしている。

 その者らが望んだ願望も叶えられ、聖杯は伝承通り願望機として役割を果たしている。

 

 では、()()聖杯戦争はどうだろうか。

 ある聖杯戦争では、マスターが全員倒されたどころか、街一つが滅んだ。

 ある聖杯戦争では、サーヴァントがサーヴァントを召喚し争った。

 ある聖杯戦争では、サーヴァントの殆どが倒れ、マスターのみの争いになった。

 ある聖杯戦争では、7騎対7騎によるサーヴァントの大戦が行われた。

 

 それらの記録はどこにも存在しない。だが、どこかに1人、誰か1人でも、それを知っているのであれば…聖杯戦争を体験しているのであれば、それは誰の記憶にも何の記録にも残らないが、確かに存在していたと言える。

 

 そう、例えば……

 誰も知らないところで息絶えた/生き続ける マスターの、たったひとりの戦いもーーー。

 

 

 色々バタバタしていると時間が経つのは早いもので、気がついたら日が沈んでいた。

 衛宮邸で居候という名の軟禁状態である。立香は一人部屋。マシュは凛に連れていかれてしまった。おそらく同じ部屋なのだろうが、不安というか、妙に落ち着かない。この気持ちはなんなのだろうか。

 だけど、特異点調査というこちらの目的がある以上、何もせず動かないわけにもいかない。

 少なくとも今は夜。手がかりが特に見つからない以上、街に出て探索に出るしかない。

 まずはマシュと合流して夜の冬木を探索しよう、そう思った。

 和室の引き戸を開けて周りを確認する。人の気配はない。

 マシュがどの部屋に連れていかれたかもわからないので無闇に動くことも出来ない。いっそのこと1人で探索に行ったほうが、まだ効率がいいのかもしれない。最悪令呪による強制召喚もやむなしなのかもしれないが、後でものすごく怒られそうだ。

 簡単に外に出て、何か異常が見つかったらすぐに戻ってこよう。夜になってからダ・ヴィンチちゃんと連絡もとれなくなっている。向こうで障害かなにかが起きているのかもしれない。

 だが、じっとしているわけにもいかないので、立香はこっそりと部屋を抜け出し屋敷の外に出る。

 

 「すごく、静かだ…」

 

 思わず言葉が漏れた。夜の深山町はとても静かで、風の音が少し聞こえるくらいだ。少し靄のような霞がかってはいるが、何も見えないほどではないので衛宮邸を後にする。

 少し、肌寒いと感じた。

 気温のせいだろうか。そう考えたが、違う。

 街の雰囲気がなにかおかしい。

 静かなのは夜のせいだけではないと、直感で思った。

 では、何が違う?

 

  目の前の坂の下で黒い影が通り過ぎた

 

  異常はない(ここはだめだ)

 

 坂を降りたところで辺りを見回す。

 昼に通った道と同じ/違う 道であるが、まっすぐに歩く。そこで、ふと気がついた。人の気配どころから、人が生活している気配すら見当たらなかった。

 それはまるで、文明が過ぎた後の遺跡にいるような、誰も存在しないという、孤独感に似たなにかである。

 

  曲がり角から黒い影が現れ民家に入っていく

 

  異常はない(すぐ戻らないと)

 

 体に走る悪寒が強くなる。

 

 ここは安全だ(嫌な予感がする)

 

 大丈夫、まだいける(だめだ、帰ろう)

 

 

 

 街の中を歩いていくと大橋の近くに来た。

 昼にも通ったところだが、なにかがおかしい気がした。

 街灯が灯っているが、人気のないこの空間では不気味とさえ感じる。

 

  自分ダケーー

 

 「今日は…このあたりにしようかな」

 

 住宅街に異常はなかった。あまり遠くに行くには1人では危ないかもしれない。次に探索に出る時なマシュも連れていこう。

 

  マタ、自分ダケーー

 

 帰ろうとして振り返ると、目の前が眩んだ。

 

 次に気がついた時に、立香は黒い影に覆われていた。

 

 

 「なっ…!」

 

 声にならない情けない声をあげたのかもしれない。

 黒い影はシャドウサーヴァントとも違い、まるで獣のようだった。

 

  ジブンダケ、助カルツモリカーーー

 

 「これは一体…!!」

 

 本能が逃げろと叫んでいる。

 怖くない(恐ろしい)

 なんとか体を動かし、黒い影からの襲撃を躱しながら走り抜ける。動きはそんなに早くはない。

 

 だがそれはーー()()()1()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 衛宮士郎は魔術師である。

 冬木の大火災と言われる大惨事を生き延びた人間であり、瓦礫の中で息絶えそうになったところを、後の養父となる衛宮切嗣に助けられた。

 士郎は、自分を助けてくれた切嗣を正義の味方と信じ、彼の死後も、自分は正義の味方(切嗣の呪い)であるという目標を持っている。士郎はその目標を持ち、己が死ぬまで/死んだ後も 正義の味方でいようと思っている。

 基本的に使える魔術は大きくわけて2つ。「強化」と「投影」である。それ以外の魔術は使えず、使い方すらわからない。

 そんな彼が、この冬木の地で起きた聖杯戦争の勝者、というのはどれほどの奇跡であっただろうか。

 

 士郎は今、冬木で感じている異変を探していた。なんとなく、気味が悪いからである。

 今は夜。簡単に支度を整え、初めての/何度目かの 夜を探索する。こうして夜の街を探索するのが、今の彼の日課になってきている。

 今日はどこを探索しようかと薄暗い夜道を歩き、慣れた足取りで住宅地を歩いていく。すれ違う人はなく、人の明かりも存在しない。

 

 これは異常だ(いつものことだ)

 

 大橋公園に出た。冬木大橋が深山町から新都へと繋がっている。

 ノイズ混じりの記憶がふと蘇る。

 

『貴方はまだ、ここに来るのは早かったようですね』

 

 気に入らない。その声を思い出すだけで無性に腹が立つ。理由はわからない。きっと、気に入らないとか、気が合わないとか、そういうものだろう。

 その声を聞くのも、日付さえ間違わなければ()()()1()()()()だからだ。

 この公園に用はない。この公園に踏み入っても、()()()()()()()()()()()()()

 

 まだ大橋と、その向こうの新都を調べていない。

 公園を素通りし、大橋を渡ろうとする。目障りな獣の声は、今日は聞こえない。ここに来るまで遭遇もしなかった。避けているのか、それとも毎日出現するわけではないのか。それはわからない。

 だが、いないなら都合はいい。

 

 「暗いな…やっぱり夜だから…ってのもあるんだろうな」

 

 大橋の中間くらいまで来た。もう少しで新都だ。

 そう思ったときーーー

 

 新都のビルの屋上でなにかが光った。

 

 「な……に……っ…!」

 

 気づいた時には、体の胴の半分が消えていた。

 一瞬で身体が熱くなる。身体が危機を感じているのと、無くなった胴から溢れる自らの血液でだ。

 

 衛宮士郎はここに来るにはまだ早かった。

 普段出来ることが出来ていないと思った。

 なにかが足りていないと思った。

 それを見つけられなければ、衛宮士郎はこの橋を渡ることは出来ない。

 何が足りないのか、そう考えを巡らせる間もなく、再び発せられた光とともに、彼の首から上は吹き飛ばされ、衛宮士郎は命を落とした。

 

 

 

 

 そして世界(虚構)はーーーまた廻る

 

 

 

 

 それはいつだっただろう。

 いつの間に起きてしまったのだろう。

 黒い影は、立香の周りを取り囲んでいた。獣のように呻きながら、立香をじっと見ながら、獲物を捉える獣のようにこちらを伺っている。

 どこから出てきたのか。いつからそこにいたのか。

 考えてもわからなかったが、直感でそう思った。

 

 この黒い影は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「すぐに…戻らないと…!」

 

 

 辺りを見回してなんとか突破しようとした瞬間、目眩がした。立ちくらみなんてものではない。世界そのものが目の前で揺れているかのような錯覚。

 まるで世界がぐるっと廻っているかのようだ。実際の時を刻むということではなく、それはまるでローテーションする世界の修正力や抑止力を無視して、そこだけ切り離されて廻り続けるかのように……

 立香その目眩とともに動けなくなり、やがて黒い影に飲みこまれた。

 身を引き裂かれながらも、痛くは感じなかった。なぜなのかはわからない。だが、もしかしたらこの影は、自分と同じなのではないのだろうかーーー。

 手足が切られ、喉が裂かれ、頭と身体が別離したとき、立香の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 Re:turn to 1st Day...

 




読んでいただきありがとうございます。
今回は夜のお話ということで、昼と夜を交互にやっていこうと思います。
また、設定と致しまして、この特異点に存在する限り、立香もホロウの冬木の人間という扱いになりますので、他のキャラとともに同じ時間を共に過ごすことになります。

次回は昼の話です。
感想、誤字脱字などがあれば、遠慮なくお願いします。


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