Nogame God only knows (榛猫(筆休め中))
しおりを挟む

Nogame God only knows

都市伝説とは人々の一種の願望である……。

 

__例えばそれは、『人類は月に行っていない』という都市伝説。

 

__例えばそれは、ドル紙幣に隠されたフリーメイソンの陰謀。

 

__例えばそれは、フィラデルフィア計画による時間移動実験。

 

千代田線核シェルター説、エリア51、ロズウェル事件にetc...etc...

 

枚挙にいとまがないこれらの都市伝説を眺めれば、明確な法則性が見えてくる。

 

即ち……『そうだったら面白いのに』という願望によって構成される。火のないところに煙は立たぬと言う。

 

だが、尾ひれがつくと、終いには魚より肥大化して伝聞する。

 

『噂』の性質を考えればこの都市伝説の形成される過程も見えてくるというものだ。

 

身も蓋もなく言えば、デタラメ、つまりはガセが大半を占めると言うわけだ。

 

 

 

___さて。

 

そんな天上を照らすほどの、数多の都市伝説の中には『事実だが都市伝説とされている』ものが含まれているのは、あまり知られていない。

 

__誤解なきよう、前記した都市伝説達が真実であると言うつもりはない。

 

発生した原理が異なる都市伝説が存在する、ということだ。

 

 

 

__例えばそれは、あまりに非現実的過ぎる『噂』が、『都市伝説』化した事例だ。

 

その中でこんな『噂』がここに二つ。

 

こんな噂を聞いた事はあるだろうか……。

 

インターネット上でまことしやかに囁かれる『  』というゲーマーの噂だ。

 

曰く__二八〇を越えるゲームのオンラインランキングで不倒の記録を打ち立て、世界ランクの頂点を総ナメしている。プレイヤー名が〃空白〃のゲーマーがいる……と。

 

そして、ネットゲームには上がってこないが、世界で唯一『  』を越えるゲーマー。圧倒的な実力であらゆるゲームを制覇する。プレイヤー名が〃落とし神〃という謎のゲーマーがいる……と。

 

「そんなはずはない」とお思いだろうか。

 

まさしくそう、誰もが思った。

 

そうした仮説は、単純だった。

 

片や、とうのゲーム開発スタッフが、身元がバレないようランキングに『空白入力』したのがいつしかブームになり、様式美となったもので、実在はしていないプレイヤーであると__。

 

片や、ネットのあるサイトに落とし神という攻略サイトの管理人が上げるゲームの攻略速度が異常なほど早いが故に勝てる相手がいないだろうと言う妄想が作り出したであろう、あるプレイヤーであると__。

 

だが、『  』には奇妙なことに、対戦したことがあるという者が後を絶たない。

 

曰く……無敵。

 

曰く……グランドマスターすら破ったチェスプログラムを完封した。

 

曰く……上記を逸したプレイスタイルであり、手を読むことができない。

 

曰く……ツールアシスト、チートコードを使っても任された。

 

曰く……曰く……曰く……

 

 

 

そんな噂に少しでも興味を持った者は、更に探りを入れる。

 

なに……話は簡単だからだ。

 

コンシューマーゲームやパソコンゲーム、ソーシャルゲームのネットランキングで一位を取っているのなら、そのゲームのアカウントは当然存在しているはずなのだ。

 

だがそんな者がいるはずもなく__。

 

 

__と、鼻で笑って調べれば__それが罠である。

 

何故なら『  』名義のユーザーは間違いなくどのゲーム機、どのSNSにも確かにアカウントとして存在しており、また誰でもその実績を閲覧できるそこに並ぶのは……。

 

文字どおり『無数』の数の実績(トロフィー)

 

 

ただひとつの黒星もない対戦成績であるからだ。

 

__そうして謎は更に深まり。

 

事実があるにも関わらず『噂』は逆に非現実味を帯びていく。

 

『敗北実績を消しているハッカーである』

 

『ハイレベルプレイヤーが誘われるゲーマーグループがある』__などなどと。

 

__だが、この場合『  』という、噂を生み出した本人にも責任があるだろう。

 

何故なら彼はアカウントを有し、発言の場を与えられているのにも関わらず。

 

一言も発さず交流を持つこともなく。

 

一切の情報も発信も行わない為、辛うじて日本人だということ以外全てが謎なのだ。

 

素顔を知るものがいない__それが都市伝説化を加速させる要因でもある。

 

__ただ一人を除いては……。

 

__なので。

 

__紹介しよう。

 

コレが、紛れも無く。

 

二八〇を越えるゲームで世界ランキングでさの頂点を飾り続け。

 

破られることのない記録を今なお打ち立て続ける伝説のゲーマー。

 

『  』__その素顔である___っ!

 

 

 

 

 

 

「……ぁー……なんとか勝てたぁ…ぁぁ…つか妹よ、空白名義のメインアカウント。足で操作するのやめてくれません?」

 

四画面あるパソコンのディスプレイの前にある椅子に座ったまま軽く延びをして話す男は空…。

齢、十八歳、童貞、コミュ障、ニート、ゲーム廃人のゲーマー。

 

 

「……お腹、空いたから」

 

そう返す少女は白…。

空の妹であり

齢、十一歳、不登校、ボッチ、いじめられっ子、対人恐怖症、そして兄と同じくゲーム廃人。

同じく四画面ディスプレイのパソコンを弄り倒している。

 

白は一つの菓子箱を空に差し出し言う。

 

 

「にぃも食べる…?」

 

 

「……いただきます」

 

空はそれを受取り開封すると口に運ぶ。

 

 

「しかし白がこんなブルジョワな兵糧買うとはな」

 

 

「……栄養、大事」

 

そう話ながらも二人は各四画面ディスプレイのパソコンを操作する。

 

 

「妹よ、人間の脳はブドウ糖さえあれば機能する。よって食パンがコスパ的に最強」

 

 

「……効率厨乙…でもその他の栄養もなきゃ、おっきくなれない…」

 

マウスを器用に足で操作しながら空の問いに答える白。

 

その言葉は白の切なる願望そのものである。

 

 

「白はもう完全無欠の美人さんだから気にする必要ないだろ……つか今何時だ?」

 

 

「えっと……夜中の、午前八時」

 

 

「何日の?」

 

白の意味不明な時刻説明に違和感を感じることなく平然と返す空。

 

 

「ニートに関係ある…?」

 

それだけ言って白は床に寝転がる。

 

 

「あるだろ!ネトゲのイベント開催日とかランク大会とか!って!ちょ、待て!五徹したのは分かるが今お前に落ちられたら回復担当がっっ!!」

 

 

「けいにぃ…に、頼んだ、ら?」

 

その言葉に空は少し難しい顔をして考え込む。

 

 

「アイツに頼むのか…つかアイツ今いるのか?」

 

 

「……多分、自分の部屋でゲーム、やってる」

 

そう、この家には空と白以外にもう一人兄弟がいる。

 

その名は桂馬。空の弟にして白の兄。

 

そして、冒頭でも話に出てきた謎のプレイヤー『落とし神』本人である。

 

 

「ん~…桂馬に頼んでもいいんだが、アイツが素直に引き受けてくれるかどうか……」

 

 

「ん……多分、無理、だね」

 

 

「だよなぁ、なあ、白さん?もう少し頑張ってはもらえません?」

 

 

「……も、ムリ……げん……かい…」

 

そう言って自分が操作していたマウスを空の足に握らせると眠そうに話す。

 

 

「……にぃなら出来る」

 

 

「おい、まさか両手両足で四キャラ操作しろって?」

 

 

「ふぁい……と♪」

 

それを最後に白は完全に眠りの体勢に入ってしまった。

 

 

「待て!いや待ってください!白さん!?あなたが寝ちゃうと皆!っつか主に俺一人が死んじゃ!あ……」

 

叫んでいる間にも進んでいくゲーム画面……。

 

 

「うおぉぉぉぉおやったろーじゃねえかぁ!」

 

慌てたように白に声をかける空。

 

妹が積み上げたカップ麺の空容器が五つを数えて頃。

 

即ち五日目の徹夜の、そんな兄弟のやりとりが部屋に響く。

 

そんな兄の悲痛な、だが覚悟の叫びを他所に、ゲーム機を枕に寝ようとする妹の耳に。

 

 

【テロンッ】

 

パソコンから新着メールを告げる音が届く。

 

 

「……にぃ、メール」

 

 

「四画面四キャラ操作してた兄ちゃんに何を要求してるか知らんが、そんな余裕はねえっ」

 

両手両足で、器用に四つのマウスを操作し。

 

一人四人パーティを操り獅子奮迅の活躍を見せていた兄は余裕なさげにそう答える。

 

 

「……友達……から、かも」

 

その妹の言葉でビシリと音を立てて固まる

 

「__誰の?」

 

 

「……にぃ、の」

 

そこで自分の名前を言わない辺り、妹は自身の境遇をよく理解しているようだ。

 

 

「たっはは~♪おっかしいなぁ妹に胸を抉られる皮肉を言われた気がする♪はぁ……つか、それ以前に俺に友人からメールが来るわけないだろ?ずっと家にいるのに……アイツならあるかもしれんが……」

 

 

「……けいにぃ、のこと?」

 

妹の問いに兄は頷き答える。

 

 

「あぁ、アイツだけだからな。いまだに学校通ってるの…友人がいるのか分からんけど」

 

そう、弟の桂馬はこの兄妹の中で唯一ヒキコモリではないゲーマーである。

 

空や白と同じく苛められることはあるようなのだが桂馬自身は『僕はゲームのセカイの人間だ。リアルが何をしてこようと興味がない』と言って何一つ気にした風もなく過ごしている。

 

まあ、そんなことはさておき……

 

 

「……うぅ……めんど、くさい」

 

そう言いながらもメールが届いたタブPCを弄りメールを確認する。

 

 

【新着一件__件名:『  』達へ】

 

 

「……?」

 

こく、と首をかしげる妹。

 

『  』__即ち「空と白」に届くメールはさして珍しくはない。

 

対戦依頼、取材依頼、挑発的な挑戦状__いくらでもあるのだが、これは。

 

 

「……にい」

 

 

「なにかな?寝るといって兄ちゃん一人にゲームを放り出して、結局寝てない上に兄ちゃん一人に物理的な縛りプレイさせた、愛しい鬼畜妹よ」

 

 

「……これ……」

 

兄の皮肉など聞こえていないかのように、画面写るメールを兄に見せる。

 

 

「うん?__なんだこれ」

 

兄もそのメールの特殊性に気づいたのか。

 

 

「セーブよーし、ドロップ確認よーし」

 

間違いなく、確実にセーブされたのを確認して、五日ぶりに画面を閉じ。

 

パソコンからメーラーにアクセスする。そして訝しげに。

 

 

「……なんで『  』(空白)が兄妹だってしってんだ」

 

 

【君ら兄妹は、生まれる世界を間違えたと感じたことはないかい?】

 

少し、いや、かなり不気味な文面。

 

そして、見たことのないURL。

 

URLの末尾に、「.JP」などの国を表す文字列はない。

 

 

「……どうする?」

 

 

「……駆け引きのつもりか?ま、乗ってみるのも一興か」

 

そう言ってURLをクリックする。

 

ウイルスの類なども警戒し、セキュリティソフトを走らせながらURLを踏んでみた。

 

が……現れたのは、なんとも簡素な。至ってシンプルなオンラインチェスの盤面だった。

 

 

「……あ……チェス?」

 

 

「おや、すみ……」

 

一気に興味が失せたらしく、眠りに戻ろうとする妹を慌てて引き留める兄。

 

 

「待て待て!高度なチェスプログラムとかだったら俺一人じゃ手に負えないって!」

 

 

「……いまさら……チェスとか……」

 

 

「うん……いや、気持ちは分かるけどさ」

 

世界最高のチェス打ち__グランドマスターを完封したプログラム。

 

そのプログラム相手に妹は、二十連勝して興味が失せて久しい。

 

ヤル気がないのもわかる、が。

 

 

「せめて、相手の実力がわかるまで、起きててくれ 。『 』(くうはく)に負けは認められない。アイツ以外にはな……」

 

 

「……うぅぅ……わかった」

 

そうして席を交代し白と変わる。

 

チェスは二人零和有限確定完全情報ゲーム。

 

運が改竄する余地のないこのゲームは原理上。明確な必勝法がある。

 

ただし、十の百二十乗。無量大数以上の局面をすべて把握できればだ。

 

 

「……チェスなんて、ただの……マルバツゲーム」

 

しばらく白が打っていると、盤面に動きがあった。

 

 

「っ!……味方の……退路を絶った」

 

 

「待て白、プログラムは常に最善の手を打つ、だからこそお前は勝てる。だが、コイツは敢えて悪手で誘ってる。人間だ」

 

 

「……うぅ」

 

 

「落ち着け、白が技量で負けるはずない。揺さぶり、誘いは俺が読む。空と白、二人で空白だ。アイツ以外に勝てるやつがいるか…見せてもらおうじゃねえか!」

 

こうして二人は謎の挑戦者相手に戦いを挑むのだった。

 

 

sideout

 

 

 

side桂馬

 

僕の名前は桂k...おっと、間違えた。今の僕はただの桂馬だったな。

 

好きなものはゲーム女子、嫌いなものリアル(現実)だ。

 

僕は元々ゲームのセカイの人間だから元からリアルは嫌いだ。

 

そして、信じられないかもしれないが、僕は転生者だ。

 

だが、俗に言う神様転生というものではない。気がついたらこの体で赤ん坊になってたのだ。

 

最初は驚いた、けど、今となっては馴れものだ。

 

何せこっちには駆け魂はいないよって僕の邪魔をするバグ魔も悪魔も女神もいないのだ!

 

まあ、それはさておき……。

 

僕はいつも通りギャルゲーをやっていた。

 

すると、僕のPFPがメールを受信した。

 

 

【メールだよ♪メールだよ♪】

 

なんだ?メールか、こんな時間に珍しいな。

 

僕はやっていたギャルゲを中断してPFPを起動してメールを見る。

 

するとそこにかかれていたのは…。

 

 

【新着一件__『落とし神』へ】

 

なんだ?このメール。

 

僕はそのメールを開く。

 

 

【やあ、落とし神。僕から君に挑戦状を渡そうと思うんだ。この女性を落としてみせてくれないかい?】

 

なんだこれは?

 

前にもこんな事があったな…。

 

確かあの時はURLをクリックしたらあのバグ魔が現れてギロチン首輪を着けてきたんだったか…。

 

まあ、そんなことはさておき。

 

それにしても、この挑発するようなメールはいったいなんなんだ……。

 

しばらくメールを読み進めていくと、下の方に見たことのないURLが貼られていた。

 

 

「なんだ?このURLは……」

 

一応、使っていないパソコンを起動しそこからメーラーにアクセスする。

 

 

【やりたくなければやらなくても結構だからね?】

 

これは僕に喧嘩を売っているな?

 

いいだろう、落とし神の実力。見せてやろうじゃないか!

 

 

 

「神は逃げない」

 

僕は迷わずそのURLをクリックした。

 

すると現れたのはよくあるギャルゲーのタイトル画面だった。

 

 

「なるほどな、このゲームのヒロインを落とせば良いというわけか」

 

そうとわかればやることは一つだ!

 

僕は画面の向こうで待っている彼女達を救い出さなければならないのだから!

 

そう意気込んで僕はそのゲームを開始した。

 

 

 

 

___

 

 

 

ゲームを初めてから十分後……。

 

 

『わたし、あなたのこと…好き!』

 

ヒロインが僕に告白していた。

 

 

「ふぅ、なんとも簡単な内容だったな。まあ、ゲーム自体は悪くなかったからいいか」

 

そんな感想を述べているとまたメールが届いた。

 

 

【早いね!?でもおみごとだよ。それほどまでの腕前、さぞ世界に生きにくくないかい?】

 

 

「なん……だと?」

 

生きにくいか、だと?

 

そんなもの当たり前じゃないか。

 

ゲームのセカイの人間がリアルに馴染めるはずがないのだ……。

 

まだ前世の経験で兄や妹に比べればなんとかやれてはいるが……。

 

続けざまにメールがくる。

 

 

【君はその世界をどう思う?楽しいかい?生きやすいかい?】

 

僕はキーボードを叩いて即座に返信する。

 

 

『生きやすい訳がないだろ。リアルなんてクソゲーだ。これは常識と言ってもいい』

 

 

すると、すぐに返信が帰ってきた。

 

 

【クソゲーか、面白いことを言うね。じゃあもし、単純な全てがゲームで決まる世界があったら…目的も、ルールも明確な盤上の世界があったら、どう思うかな?】

 

盤上の世界…?

 

コイツの言っていることを読み解くと、相手は僕と同じゲームのセカイの人間、もしくはそれに近いナニカだ。

 

だが、全てがゲームで決まる…か、それは僕にとっては理想のセカイに近いじゃないか。

 

 

『そうだな、そんなセカイがあるとしたら僕はそんなセカイに生まれたかったな』

 

と、返信する。すると……。

 

___ 刹那。

 

パソコンの画面に僅かなノイズが走り、同時にブレーカーが落ちたように、バツンっと音をたてて部屋の全てが止まる。

 

唯一__メールが表示されていた、その画面を除いて。

 

 

「な、なんだっ!?何が起きてる!」

 

部屋全体にノイズが走り始める。

 

家が軋むような、放電するような音。

 

僕は慌てて辺りを見回す。

 

その間にもノイズは激しくなっていき、ついにはテレビのあの砂嵐のようになった。

 

そして、スピーカーから…いや、間違いなく画面から。

 

今度は文章ではない『音声』が帰ってきた。

 

 

『僕もそう思う。君はまさしく、生まれる世界を間違えた』

 

画面以外の部屋全てが砂嵐に飲まれる中。唐突に白い腕が画面から生えてくる。

 

伸びてきた腕は、僕の腕をつかむと物凄い力で僕を引きずり込んだ。

 

あろうことか画面の中へ__。

 

 

『ならば僕が生まれ直させてえげよう__君が…いや、君達が生まれるべきだったセカイへっ!』

 

 

 

白く染まる視界。

 

目を開けるとそこは……。

 

 

「うおわぁぁぁぁッッ!!」

 

 

「「な、なんだこれええぇぇぇっ!!」」

 

他にも声が聞こえそちらを見るとそこには見知った顔の兄と妹が僕と同様落ちていた。

 

妹の白が僕に気づいて声をかけてくる。

 

 

「……けいにぃ?……どうしてけいにぃがここ……にいる、の?」

 

 

「そんなの僕が聞きたいわ!!なんなんだこれは!!」

 

白にツッコんでいると上から別の声が聞こえてくる。

 

 

「ようこそ!僕の世界へ!

ここが君達が夢見る理想郷【盤上の世界・ディスボード】ッ!この世の全てが単純なゲームで決まる世界ッ!そう……人の命も、国境線さえもッ!」

 

そこに現れたのは白より少し大きいくらいの少年だった。

 

 

「……誰だ?」

 

僕は落ちてることも忘れて問いかける。

 

 

「僕?僕はテト。あそこに住んでる神様♪」

 

キャハ♪とでもいいそうな仕草で遠くの大きなチェスの駒を指す少年。

 

ほう、神を名乗るか、面白い。

 

僕が興味津々で話を聞いていたところ。

 

 

「それよりオイ!コレどうすんだよッ!もう地面が!地面があぁぁぁぁッ!」

 

あぁ、このまま叩きつけられたらヤバそうだなどと僕が考えていると、不意に肩を捕まれ引き寄せられた。

 

僕がなにかと困惑していると、空が笑顔でいった。

 

 

「お前らのことは兄ちゃんが死んでも守るからな」

 

そう言って僕と白を強く抱き締めると、自分が地面に寝転がるように背を向けた。

 

僕たちを庇うように……。

 

しかし、僕たちは地面に叩きつけられることはなかった。

 

何故なら、僕たちは地面に激突する直前空気の層のようなもので受け止められたからだ。

 

ゆっくりと地面下ろされた僕たちのところにあの少年がやって来て一言呟いた。

 

 

「また会えることを期待してるよ。きっと、そう遠くないうちに、ね」

 

その声を最後に僕たちの意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

____________

 

 

 

 

「ったく…どこだここは…」

 

あれから意識を取り戻した僕は辺りを見回して悲観にくれていた。

 

過去に飛ばされたのならまだいい。

 

だが、これはそうじゃない。

 

周りにはコンビニどころか家、いや建物すらない。

 

正確には僕たちは今、影の上にいる。

 

 

「ぅ……うーん……」

 

そんなうめき声が聞こえ、そちらを見ると空か起き上がっていた。

 

 

「ようやくお目覚めか?空」

 

そう声をかけると、空は僕が起きていることに気がつきこちらをみてくる。

 

 

「なあ、桂馬…ありゃいったいなんだったんだ?」

 

と、そこで白が空に遅れて目を覚ます。

 

 

「……うぅ……変な夢」

 

そううめきながら起き上がる白に僕は真実を告げる。

 

 

「いや、残念だが白。どうやらこれは夢じゃない、現実だ。周りを見てみろ」

 

 

「周り…?うをああああ!」

 

僕の言葉を聞いて空は立ち上がると自分の状況を理解して慌てて後ずさった。

 

白にいたってはその場で固まって動かない。

 

そう、崖から一望できる景色、そこには、ありえない景色が広がっていた。

 

……いや、訂正しよう。

 

空に島。龍。そして地平線の山々の向こうに、落下しているときにも見た大きなチェスのコマ。

 

つまりコレは夢などではないということだ。

 

と、そこで現実逃避気味に空が口を開く。

 

 

「なあ、妹よ」

 

 

「……ん」

 

 

「“人生”なんて、無理ゲーだ、マゾゲーだと、何度となく思ったが」

 

 

「……うん……」

 

そこで二人息ピッタリにハモらせて言う。

 

 

「「ついに”バグった“……もうなにこれ、超クソゲぇ……」」

 

 

「今さら何を言ってる……そんなの最初から分かりきってることじゃないか」

 

 

「いや、お前はどうしてそこまで落ち着いてるんだよ!そして、こんなときでもゲームか!おまえは!」

 

僕の言葉に即座に反応した空がツッコミを入れてくる。

 

 

「当たり前だ、ゲームは僕のエネルギーなんだ。それに、こんなところで慌てて無駄に体力を消費しても良いことは何一つないだろ」

 

 

「そりゃそうだが……」

 

 

「とにかく、ひとまず移動するぞ、ここでじっとしてても助けがくる訳じゃない。まずは人のいる場所を探すんだ。……白にはちょっと厳しいかもしれないが」

 

 

「……ん……平気」

 

白が頷くのを確認すると僕は再度話す。

 

 

「よし、それじゃあ移動しよう、こんなところで干からびるなんてごめんだからな」

 

 

「なぁ、桂馬…なんか兄ちゃんの扱い雑くね?」

 

 

「気のせいだろ?行くぞ」

 

こうして僕達は人のいる場所をめざして歩き始めるのだった

 

 

 

 

________

 

 

 

崖から離れ、舗装もされていない道に出たところで僕たちは座り込んだ。

 

 

「……にぃ、けいにぃも、どうして、ここ?」

 

 

「知らん、空にでも聞いてくれ」

 

 

「お前なら俺の意図も汲み取ってると思ったよ…いや、RPGだとこういう道って『街道』だろ?誰か通り掛からないかなって……」

 

まあ、空のゲーム知識がどこまで通用するか知らないが。ともあれ。

 

 

「__さて、こう言うときはまず、所持品の確認からだな」

 

そう言うと二人はポケットから所持品を取り出していく二人。

 

結果、出てきたのは__

 

空、白、それぞれのスマホ、二台。

 

DSP(ポータブルゲーム機)、二台。

 

マルチスペアバッテリー二つ、太陽光発電充電器(ソーラーチャージャー)二つ、充電用のマルチケーブル。

 

そして、結局白が手に持ったままだった、タブレットPC__

 

……なんとも微妙な持ち合わせだ。

 

かくいう僕はといえばPFP(ポータブルゲーム機)数台、予備バッテリー、太陽光発電充電器(ソーラーチャージャー)のみだ。

 

それを見て空が苦笑して話す。

 

 

「……お前、そんなにゲーム機持ってきてどうすんだよ」

 

 

「……重く、ない、の?」

 

 

「まあ、少し重いが問題はない、寧ろこのくらいなければ安心出来ないからな」

 

 

「……まあ、桂馬がそれでいいならいいか、それで……よし、白と桂馬のケータイとタブPCは電源を切って陽が出てるうちに太陽光発電充電器(ソーラーチャージャー)をタブPCと二人のケータイに繋いで充電しとけ。タブPCにはクイズゲームの勉強用に入れといた電子書籍も入ってるし、最悪サバイバルマニュアルが必要になるかもしれん」

 

 

「……らじゃー」

 

 

「了解だ」

 

空の指示通り携帯の電源を落とし、ソーラーチャージャーを接続する。

 

後は空のケータイ次第だが本当に人が通るのかが問題だ……。

 

しかししばらくすると、遠くから複数の人間が街道(らしき道)を歩いてくるのが目にはいった。

 

 

「おーっ!よっしゃ冴え渡るぜ俺のRPG歴ッ!」

 

 

「……にぃ、様子、へん」

 

 

「安心しろ白、空はいつでも変だからな」

 

 

「さっきから辛辣だな弟よ……」

 

叫ぶ空は放っておき、僕はその人影をみる。

 

と、現れた集団が唐突に足を早め、僕たち三人を囲むようにして広がる。

 

その格好は緑色の装束に走りやすそうな靴。

 

 

「……うっわ、盗賊じゃねえか」

 

隣で空が天を仰いで愚痴を溢している。

 

 

 

「へへ……ココを通りたきゃ__俺らとゲームしな」

 

…………。

 

なるほど、さすがはゲーム世界。こういうところもゲームで解決してしまえるのか。

 

僕が納得している横で空と白が顔を見合わせて言う。

 

 

「__そうか、『全てがゲームで決まる世界』って言ってたな_あのガキ」

 

 

「……コレが、こっちの盗賊?」

 

そう話し合って笑みを浮かべる二人。

 

まあ、ここは二人に任せればいいだろう、僕の出る幕じゃない。

 

そう判断して、僕は再びPFPの電源を入れる。

 

そうして僕は周りから意識を外し、ゲームに集中するのだった。

 

 

 

 

__________

 

 

 

「ふう、こんなところか」

 

セーブをして再び周りに意識を向けるとそこには盗賊がふんどし一丁で正座させられていた。

 

その向かいには盗賊達から剥ぎ取ったものであろうローブを身に付けた二人が岩の上に座っている。

 

どうやら勝利したようだ。

 

 

「おー、桂馬どうだったよ俺らの戦い」

 

こちらに気づいた空が声をかけてくる。

 

 

「どうだもなにも、見ていなかったのになんと言えばいい」

 

 

「はっ……俺らのゲームは見るに値しないと言うことか、流石、落とし神様は言うことが違う」

 

 

「……けいにぃ、いつか、絶対、倒、す」

 

こんな事を言ってはいるが僕たち兄妹の仲は悪くはない。寧ろ良すぎるくらいだ……。

 

空と白の仲の良さはそれをぶっちぎりで凌駕しているが……。

 

 

「ところで…なんとか!ズボン一枚くらい残していって頂くわけには……」

 

不意に盗賊の一人が口を開く。

 

 

「その六、盟約に誓って行われた賭けは絶対遵守される。俺たちは命を含むこの体全てを賭ける代わりにあんたらは持ち物すべてを賭けた。だろ?」

 

 

「そらあ…そうですが!こんな格好でココに放り出されては!」

 

 

「行くぞ白、桂馬」

 

 

「「了解」」

 

何食わぬ顔で歩き出す空達の後を追って僕も歩き出す。

 

後ろで盗賊たちがなにか騒いでるが気にする必用はないだろう。

 

 

「あぁ、そうだ桂馬、ほれ」

 

空が一枚のローブを差し出してくる。

 

訝しげにそれを受けとると空は説明してくれた。

 

 

「異世界人の格好じゃなにかと目立って不便だろ?それでも羽織って誤魔化せ」

 

なるほど、そういうことか。

 

僕は言われた通りローブを羽織る。

 

 

僕が羽織ったのを確認すると空は話し出した。

 

 

 

「どうやら盗賊でも、殺傷、略奪の類いは出来ないんだな」

 

 

「……多分、したくても、出来ない」

 

 

「つまり……」

 

 

 

「全てがゲーム次第…ということか」

 

 

「弟よ…兄ちゃんの台詞取るの止めてくれません?」

 

 

「知らん」

 

そんなことを話ながらしばらく僕たちは歩き通し、やっとのことで町にたどり着いた。

 

その町の少し外れにある酒場を兼ねている宿屋とあう、如何にもRPGにありそうな建物の一階。多くの観衆に囲まれ、テーブルを挟みゲームをしている一組の少女たちがいた。

 

一人は十代中頃と思しき赤い毛の、仕草や服装に上品さを感じられる少女。

 

そしてもう一人は__。

 

赤毛の少女と同い年ほどだろうが、その雰囲気と服装から随分年上に感じられた。

 

葬式のような黒いベールとケープに身を包んだ__黒髪の少女。

 

行われているゲームは……ポーカーらしい。

 

二人の表情は対照的で、赤毛の少女は焦りからか真剣そのもの。

 

一方、黒髪の少女は死人を思わせる無表情の中にも、余裕が窺えた。

 

理由は明白___黒髪の少女の前には大量の、赤毛の少女の前には、僅かな、金貨。

 

つまり__赤毛の少女が完璧に負け混んでいるのだろう。

 

 

「……ねえ、早くしてくれない?」

 

 

「や、やかましいですわね。今考えてるんですのよっ」

 

__そこは酒場、昼間っから呑んだくれている観衆たちが下品に囃し立て、赤毛の少女の表情は更に苦悩の色へと染まっていく。

 

……何はともあれ、随分盛り上がっている様子だった。

 

僕たちはその様子を酒場の外、つまりテラス席のテーブルからその様子を見ていた。

 

空が近くにいた女に話を聞いている。

 

 

「次期国王選定ギャンブル大会?」

 

 

「そ、全国王の遺言でさ、次期国王は人類最強のギャンブラーに戴冠させるってね」

 

 

「へえ、国王までゲームで決めるわけか」

 

 

「赤毛の方はステファニー・ドーラ。前国王の孫娘なんだけど、その遺言もあって王位も継げず、あぁやってギャンブル大会に出てるわけ」

 

耳だけをそばだてていると、白が眠そうに崩れそうになるのを見て、僕は慌てて抱き抱える。

 

 

「……大丈夫か?」

 

 

「……平気、ありがとう……けいにぃ」

 

それを見ていた空は女の手元に在る『ある物』に注目する。

 

 

「……?何よ、惚れた?」

 

女が何を勘違いしたのか筋違いなことを言ってくる。

 

空はそれを軽く受け流して言う。

 

 

「いや、あんたは出ないのかな~って思って」

 

 

「あたし?あたしはこっちがあれば充分だからね。それに……」

 

手元の袋を指して言うと視線を酒場の方へ向ける。

 

 

「あの相手のクラミーって子が馬鹿好きでさ。強すぎて他の連中は殆どが辞退しちゃったのよ」

 

 

 

「つまり怖じ気づいたって訳か……」

 

 

「なんだって……?」

 

空の言葉に女が眉ねを寄せる。

 

 

「まあ、ここで負けたと言う事実さえなければ、後からいくらでも言い様はあるからな、実は勝てたんだが見逃してやっただとか」

 

 

「……ふぅん、面白いじゃない。やる?ボウヤ」

 

カードに手をかける女。

 

アレはもう空の罠に嵌まっているな……。

 

 

「……けいにぃ、降ろし、て」

 

言われたとおり、白を地面に降ろす。

 

 

「……ん、ありがと」

 

そう言うと空の方に歩いていく白。

 

僕は興味が失せ、酒場の方へと再び目を向ける。

 

状況はさして変わっていない。

 

しかしここで、僕はある違和感に気がついた。

 

 

「……イカサマか?」

 

あのクラミーと呼ばれた少女はイカサマを使っている。だが。

 

方法が読めない……。

 

するとここで、もう一つの違和感に気がついた。

 

それは酒場の奥。カウンターの側のローブをふかく羽織った者。

 

その者は顔を隠しながらも眼だけはしっかりと二人の少女を見ていた。

 

その目の輝きを見て僕は悟ってしまった。

 

 

「そうか、まさかとは思っていたがこの世界……」

 

魔法が使えるものがいる。ということだ。

 

それも、人間じゃない種族がだ……。

 

僕がそのローブの人物を見ていると、不意に肩を叩かれた。

 

驚いて振り向くと、そこには兄の空の姿があった。

 

 

「桂馬、今日の宿代確保したから行こうぜ」

 

 

「……けいにぃ、いこ?」

 

 

「あ、あぁ……」

 

歩き出す二人の後を追ってついていく。

 

 

酒場に入ると、空は酒場のマスターに交渉に向かった。

 

僕と白は二人の様子を伺う。

 

 

「白、お前はこの勝負、どっちが勝つと思う?」

 

 

「……あっちの、黒髪、だね」

 

まあ、そうだろう。アイツは方法は分からないがイカサマを使っているのだから。

 

あの赤毛の……ステファニー…だったか?ステファニーはまず、間違いなく負けるだろう。

 

 

「……ッ!」

 

 

「ん?白、どうした?」

 

 

「……けいにぃ、アレ、気づいた?」

 

白が言うのは恐らくイカサマの事だろう。

 

僕は小さく頷く。

 

 

「あぁ、だが、どんな手を使っているのか全く読めない。白にはわかるか?」

 

僕の言葉に白は力なくフルフルと首を降る。

 

 

やはりそうか、まあ、予想はしていた。

 

 

「……けいにぃにも、読めないなんて、いったい、何をしてる、の?」

 

白が考え込んでいると、空が不意に現れ声をかけてくる。

 

 

「待たせたな。白に桂馬。部屋がとれたから行こうぜ」

 

 

「……」

 

 

「……あの人、負ける」

 

白の言葉で空も対戦の様子を見て言う。

 

 

「そりゃそうだ、相手みたいにポーカーフェイスって言葉を知ら……」

 

そこで空が言葉を区切る。

 

どうやら空も気づいたようだ。

 

 

「……イカサマか?」

 

 

「……間違い、ない……でも……方法が分からない」

 

 

「分からない?桂馬にもか?」

 

 

「あぁ、どれだけ考えても全く読めん」

 

 

「……なるほど、まさかとは思うがこの世界……」

 

そう言って空が一人の人物に目を向ける。

 

そう、先程僕が注目していたローブの人物にだ……。

 

 

「マジかよ……うわ、そういうことか……こえぇ……」

 

 

「そういうことだ」

 

 

「……ん」

 

そう話ながらも部屋に向かって歩き出す。

 

そしてすれ違い様に。

 

ステファニーにボソッと空が呟く。

 

 

「……おたく、イカサマされてるよ?」

 

 

「___へ?」

 

青い瞳を丸くしてキョトンとする少女。

 

空は言うだけ言って部屋へと歩いていってしまった。

 

僕は出ていき様に振り向いてローブの人物を見る。すると。

 

 

【ニコッ】

 

その人物と目が合いニコリと微笑まれてしまった。

 

僕は軽く会釈だけして直ぐ様二人の後を追うのだった。

 

 

鍵を回し、心許ない金具が軋む音をたてて開かれた扉の奥。

 

部屋は__オブ⚫ビオンやスカイ⚫ムで見たような、安っぽい木造の部屋だった。

 

キシキシ足音がなる床に、小さな部屋。隅には申し訳程度の椅子とテーブル。後はベッドが二つと、窓があるだけという、なんとも簡素な内装。

 

 

部屋に入り、空が鍵をかけるとようやくフードをとる。

 

Tシャツ一枚にジーンズ、スニーカーだけの、ボサボサの黒髪の兄__空。

 

純白で癖ッ毛の長い髪に隠れた、赤い瞳にセーラー服の妹__白。

 

 

そして、短い黒髪にアホ毛に眼鏡、Yシャツにジーパンの僕__桂馬。

 

この世界では見受けられない格好を、目立たせないように拝借していたローブを脱ぎ捨て、やっとすっきりした様子で二つあるベッドの片方に突っ伏す空。

 

僕も同じくもう片方のベッドに座り、PFPを起動する。

 

と、そこに隣に座ってくる影があった。白だ、

 

 

「……何してる?白」

 

 

「……けいにぃの、隣に、座ってる」

 

そんなこと見ればわかる。どうしてそこに座るのかを聞いているんだが……。

 

 

「僕じゃなくてアイツのところに座ればいいだろ」

 

 

「……ここが、いい」

 

なんでだ……。いつも空といるんだからそうすればいいだろうに……。

 

ほら、空が凄い顔でこっちを見てるじゃないか……。

 

しかし、その顔もすぐに変わり、話し出す空。

 

 

「___『目標』宿の確保……『達成』__と。もう言ってもいいよな?」

 

 

「あぁ、大丈夫だと思うぞ」

 

 

「……ん。いいと、おもう」

 

僕たち二人の同意を得てから、空はずっと溜め込んでいただろう万感の思いを込めて、溢す。

 

 

 

「ああああああっつっかれたあああああああああああああああああああああ…………」

 

それはもう……。

 

決してここまでは言うまいと決めていたのだろうセリフ。

 

そして、一度堰を切ったらもう止まらないとばかりに愚痴をこぼし始める空。

 

 

 

「ないわーありえないわー、久し振りに外に出てこんな距離歩かされるとかないわぁ……」

 

同じく隣の白もようやく脱げたローブに、セーラー服のシワを整え。窓を開けて景色を確認している。

 

僕も窓を覗きこむとそこからは、自分達がいた崖が__遥か遠くに辛うじて見えた。

 

 

「……にんげん、やれば、出来る、ね」

 

 

「あぁ、やる気が起きなきゃできない__俺らという現実を表すいい言葉だ」

 

そんな後ろ向きな解釈に__しかしコクリと、肯定の意思を示す白。

 

いや、それでいいのか?と思ってしまう僕だが、敢えてなにも言わないでおく。

 

 

「しっかし、桂馬はともかく俺らはもっと足腰弱ってると思ってたが。結構歩けるもんだな」

 

 

「……両足で、マウス、使ってた、から?」

 

 

「おーなるほど!一芸も極めれば万事に通ずってホントだな!」……ほんらい、想定されてない……通じ、方」

 

そんな掛け合い漫才も流石に限界なのか、白が僕の膝を枕に寝転がってくる。

 

表情にこそ出さないが、明らかに疲労から来る辛さが呼吸から感じられた。

 

__それも当然だろう。

 

いかに天才少女と言えど、僅か十一才の少女なのだ。

 

どれだけ徹夜していたのかはしらないが休んだのは上空一万メートルからの落下時の気絶だけなのだ。疲労の蓄積も相当なもののはずだ。

 

僕や空ですら辛い大移動に(途中から空がおぶっていたとはいえ)

文句一つ溢すことなくついてこれただけで、驚嘆に値する。

 

だからこそ、空もここまで愚痴は言うまいと決めていたのだろう。

 

 

「頑張ったな。偉いぞーさすが兄ちゃんの自慢の妹」

 

僕のベッドまで来ると白の髪をように梳くように撫でて言う。

 

 

「……ん。寝るとこ、確保……できた」

 

 

「あぁ、盗賊に襲われたときは全くどうなるかと思ったがな」

 

 

「この世界じゃなかったらあの場で三人とも屍になってただろうからな……」

 

 

「恐い事言うなって…こうして生きてるだけ儲けものだと思おうぜ」

 

 

「……そうだな」

 

そう言って僕は膝で眠る妹を見る。

 

スヤスヤト寝息をたてて気持ち良さそうに眠る妹。

 

その姿に苦笑してから空に言う。

 

 

「空、そっちに持っていってくれ。お前の方が手慣れてるだろ?」

 

 

「あーはいはい、たまには可愛い妹を甘やかしてやる気にはなないものかね、うちの弟は……」

 

そう言いながらも空は白を抱き上げて持っていってくれる。

 

僕はそれを確認するとベッドに潜り込み目を閉じるのだった。

 

 

 

________________

 

 

 

僕たちが眠りについて時間は夜……。

 

 

【コンコン】

 

そんな控えめなノックの音に僕は目を覚ました。

 

ふと横のベッドを見ると空も目を覚ましていた。

 

空がドアを開けようとしてあることに気がつく。

 

 

「あー…桂馬。悪いけど扉開けてくんない?」

 

その言葉に僕は空の膝元を見る。

 

そこには空にガッチリと抱きついて離れない妹の姿があった。

 

 

「やれやれ……仕方ないな」

 

僕はため息をひとつ溢すとドアへと向かう。

 

 

「誰だ?」

 

 

『ステファニー・ドーラというものですわ…夜分遅くに申し訳ありません』

 

ステファニー?あぁ、あの酒場でポーカーをしていたあの赤毛か……。

 

僕はそう思い至り扉を開けた。

 

そこには昼間着ていた服とは違い、薄汚れたシーツに身をくるんだ赤毛の女がたっていた。

 

 

「……入らせて、頂けます?」

 

 

「あ、あぁ……」

 

その変わりように困惑しながら僕はステファニーを部屋に通すのだった。

 

 

 

________

 

 

 

 

 

「……どういう…ことですの?」

 

先程まで僕が寝ていたベッドに腰を下ろしてステファニーが空に問う。

 

僕は壁に背を預け、PFPを起動してゲームをしながらその会話を聞く。

 

 

「___何が?あ、俺ら兄妹だから、これは別に__」

 

 

「……うぇ…にぃに、フラれたぁ……」

 

半分、いや八割寝ている妹にのし掛かられている兄……。

 

 

「………どうでもいいですわそんなこと、それより何故イカサマと分かってて内容を教えてくれなかったんですの!それをバラせば勝てましたのに!」

 

 

「たしか、『十の盟約』その八、ゲーム中の不正発覚は敗北と見なす、だったか?」

 

 

「……やっぱり……まけた?」

 

僕と白の態度にカチンときたのか、ステファニーは立ち上がって叫ぶ。

 

 

「__そうですわ!おかげで敗北!国王選定からも外れなにもかも終わりですわ!」

 

まあ、あんな正体不明のイカサマ使われてたら負けもするか……。

 

 

「なるほど、つまり……」

 

 

「……負けて悔しいから……八つ当たりに、きた?」

 

 

「ッ!!」

 

ステファニーが白のその言葉に反応したことに空が『かかった!』というかのように口角をつり上げていたのを僕は見逃さなかった。

 

 

「なるほど、あの程度のイカサマも見破れず身ぐるみ剥がされて挙げ句に八つ当たりか、全く話にならん!」

 

 

「なんですって!!」

 

 

「しかも子供に図星を突かれて一々怒りを顔に出す。単純、沸点が低い、感情抑制もできない上にリスクを恐れる保身的思考、はっきり言って論外」

 

 

「ッ!!」

 

 

「これが愚王の血筋なら、敗けが込むのも当然だな。だろ?桂馬」

 

 

何故そこで僕に話を振る?

 

まあいいか、今は空の思惑に乗ってやるとしよう。

 

 

「あぁ、本当に王家の血筋なのかも怪しいところだ。民を導いてこそすれ窮地に陥れるのは王としては論外だ」

 

 

「…………撤回……しなさい」

 

 

「ん?」

 

 

「私はともかく、お爺様まで愚弄するのは許せませんわ!今すぐ撤回しなさい!」

 

 

「僕は真実を言っただけだ。なにも間違ったことはいってない」

 

 

「……まあ、そうだな。それに、怒るってことはまた図星か?さすが愚王の孫娘」

 

 

「ッッ!!言わせておけば!」

 

空に掴みかからんばかりに詰め寄るステファニーは大きく手を振り上げる。

 

やれやれ、これは騒がしくなりそうだ……。外でゲームするか。

 

この先の展開を読んだ僕は、我関せずと言った風に部屋を出てゲームをやっているのだった。

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

 

『認められるわけないでしょおおおおおっ!』

 

 

「うおっ!な、なんだ?」

 

部屋を出てかやしばらく廊下でゲームをしていたら突如部屋から聞こえてくる女性の叫び声。

 

その少し後にドサッという声と共に男女の慌てた声が聞こえてくる。

 

まあ、恐らく空とステファニーだろう。

 

何をやってるのか知らないが、外にまで丸聞こえだ……。

 

僕は気にしないことにして再びゲームに意識を戻した。

 

 

 

しかし、そのすぐ後に今度は唐突に扉が開かれ中から何かが飛び出てきた。

 

視線を上げ、その何かが飛んでいった方を見るとそこには廊下の隅で頭を抱えて震えている『兄』がいた。

 

 

はぁ、またアレ(・・)か……。

 

僕は空に近づいて声をかける。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいすみませんすみませんすみませんゆるしてください…」

 

 

「……おい、なにしてるんだ?『兄さん』」

 

 

「すみませんすみませんだってこの機会逃したらもう一生おっぱい触るチャンスないと思ったんです僕だって男の子ですし彼女の一人くらい欲しいですし雑念も入ると言うかいや分かってますからそんな軽蔑の目で見ないでくださいええ最低ですはい変態ですえぇわかってますすみませんホントすみません」

 

……駄目だ、こりゃ完全に聞こえてないな。

 

 

「ほら行くぞ『兄さん』こんなところにいたら迷惑だ」

 

僕は頭を抱える空を引き摺って部屋まで連れていく。

 

その途中部屋の扉が開かれ女性のが出てくる。

 

 

「そ、ソラ!大丈夫って……」

 

 

「あぁ、ステファニーか、悪いがもう少し扉を開けてくれ。白がこっちから見えるように」

 

 

「え、あ、はぁ……」

 

言われるままにステファニーは扉を開ける。

 

すると、ベッドの上でガクガクと震えている白がいた。

 

 

「ほら、『兄さん』白がいるぞ?行ってやらなくていいのか?」

 

そう言って空から白が見えるようにしてやる。すると……

 

 

「ッッ!!にぃ!」

 

 

「しーろおォォォォ…」

 

白の元に走り寄りひしと抱き合う二人。まさしく馬鹿である。

 

 

「なんなんですの?この兄妹……」

 

 

「まあ、慣れるしかない…いつものことだからな」

 

ステファニーに近づいて声をかける。

 

ステファニーもそれに気がついてこちらを見てくる。

 

 

「あなたも大変ですのね……えっと……」

 

 

「僕の名前か?僕は桂g...じゃなかった…僕は桂馬だ」

 

 

「ケーマっていうんですのね、改めまして、ステファニー・ドーラですわ気軽にステフって呼んでください」

 

 

「ステフか、分かった。おい、二人とも、そろそろ寝るぞ」

 

 

「ん?あぁ、そうだな、んじゃ寝るとするか」

 

 

「ちょっと待ちなさいな!私はどこで寝ればいいんですの?」

 

 

「どこって桂馬と一緒に寝ればいいだろ?」

 

 

「はぁっ!?」

 

何を言い出すんだ…この愚兄は……。

 

 

「なんのつもりか知らんが余計なこと言うとまた白から引き剥がすぞ?」

 

 

「いやそれだけはマジで勘弁してください!」

 

綺麗に土下座する愚兄。

 

 

「はぁ…まあいい、ステフはそのベッドを使ってくれ僕はそこら辺でいい」

 

 

「え?ケーマはいいんですの?」

 

 

「構わない、ゲームしていれば十撤くらいなら余裕だ」

 

そう言ってゲームを起動する。

 

 

「まあ、桂馬がそう言うんならいいんじゃないか?」

 

 

「……けいにぃ……眠く、ないの?」

 

 

「そうだな、強いて言えばあまり眠くはない」

 

 

「……そっか……おや、すみ」

 

その言葉を最後に僕は完璧に意識をゲームに移し、集中するのだった。

 

その後、ステフが何か言っていた気がしたが、僕の耳には何も聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

翌朝、僕は空白とは別行動で町に来ていた。

 

空と白はステフの家に行っている。先程僕も案内され道は覚えてきた。

 

そして僕が別行動をしている理由。それは昨日酒場で見たあのフードの人物の事だ。

 

あの体格と微笑み方からしてあれは恐らく女性。そして、フードを被らなければならないということは別の種族である可能性が高い。

 

それならば、僕の攻略の対象となる。

 

今僕がやっていることはその情報収集だ、しかし、成果はゼロ……。

 

それも当然だろう、まず第一にこっちの文字が読めない。

 

そして次にあの人物の目撃証言が殆んどないのだ。

 

これでは攻略どころの話ではない……。

 

さて、どうするか……

 

 

「お困りみたいだね?落とし神くん」

 

そんな声に振り向いてみればそこにいたのは見覚えのある顔だった。

 

 

「……なんだ、自称神か」

 

 

「リアクション薄くない!?というか、僕は自称じゃなくて本物の神様だってば」

 

 

「それで?その自称神が僕にいったい何の用なんだ?」

 

すると、自称神はニコリと笑って言った。

 

 

「ねえ、僕とゲームしない?」

 

ゲームだと?何故いきなりそうなる?

 

 

 

「……いったいどういう風の吹き回しだ?」

 

 

「どうってそうだね、面白そうだからかな?」

 

ほう、面白い…僕に勝負を挑むか……。

 

 

「いいだろう、その勝負受けてたつ!」

 

 

「そう来なくっちゃ!」

 

 

「で、ゲームは何をするんだ?」

 

 

「盟約その五、ゲームには挑まれた方が決定権を有する。だよ?だから君が決めていいんだよ?」

 

 

「それじゃあ面白くないからな、決定権はお前に譲る」

 

 

「そう?じゃあクイズにしようか!」

 

 

「クイズ?」

 

そんなものもゲームのうちに入るのか?

 

 

「そう、ボクが問題を出すから君はその問題に答えるんだ」

 

 

「ふむ…問題の数は?」

 

 

「う~ん、そうだね…三つにしようかな♪」

 

三問クイズか、少し不利だがまあなんとかなるだろう。

 

 

「分かった、賭けるものは?」

 

 

「そうだね、ボクが勝ったら君に自称って言ったことを訂正してもらおうかな?」

 

 

「なら、僕が勝った場合は?」

 

 

「そうだね、君に協力してあげるよ、前世の妹みたいにね♪」

 

なっ!?どうしてコイツがその事をしっている?

 

 

「どうしてそんなことをしっているのか分からんが分かった。それで受けよう」

 

 

「それじゃあいくよ?盟約に誓って……」

 

 

「盟約に誓って……」

 

手を上に掲げて二人同時に言う。

 

 

「「アッシェンテ!!」」

 

 

「じゃあまず一問目!『この世界の人間達の住む町の名は?』」

 

 

この町の名前?たしか……

 

 

「エルキアだ」

 

 

「ピンポーン♪正解!じゃあ次の問題!

この世界におけるルールは全部でいくつ?」

 

 

「……十個だ」

 

 

「ピンポンピンポーン♪またまた正解♪それじゃあ最後だよ?」

 

僕はそれに少しばかり警戒する。

 

 

「君たちが昨日会ったステファニー・ドーラと前国王の関係は?」

 

これも確か酒場で聞いたな……。確かステフは……

 

 

「前国王の孫娘だったか?」

 

そこまで答えると、自称神は嬉しそうに笑って言った。

 

 

「ピンポンピンポンピンポーン!大正解!流石にちょっと簡単すぎたかな?」

 

それに僕は首を横に振って話す。

 

 

「いや、これがまた別の問題だったら僕は答えられていなかった。僕はまだこの世界にきて日が浅いからな」

 

 

「クスッ…やっぱり、面白いね君♪よーし、それじゃあ約束通り君に協力してあげる♪あ、でもあの二人には内緒だよ?」 

 

 

「…?なんでだ?」

 

 

「あの子達には自力で僕のところまで上がってきて欲しいからさ」

 

そう言うことか、どうやらコイツは余程退屈しているらしい……。

 

 

「分かった、ならあいつらには言わないでおく。その分しっかり働いてもらうぞ」

 

 

「お安い御用さ♪さて、それじゃあ何が知りたいのかな?」

 

どうやらやる気十分は充分みたいだな。

 

 

「そう焦るな、まずは情報あの人物の情報収集からだ。それについては帰りながら聞く、一旦出直すぞ」

 

 

「はーい♪」

 

僕たちは教えられた王宮へと足を運ぶのだった。

 

 

 

_______

 

 

 

 

なんとか王宮に辿り着り着くと、使用人にある一室に案内された。

 

案内された先は大浴場だった。

 

自称神…『テトだってば!』テトには姿を消してもらっている。見られたら面倒なことになるだろうからな……。

 

そして、そこにいて先客は僕の兄妹の空と白、そしてステフだった。

 

空がこちらに気づいて声をかけてくる。

 

 

 

「おー、桂馬ようやく来たか、丁度白の入浴が済んだところだ俺らもチャチャッと汚れ落としちまおうぜ」

 

……確かに結構歩いたせいで服が結構汚れてるな。

 

 

「そうだな、と、その前にステフ、小さな袋はあるか?」

 

 

「え?ありますけれど、そんなもの何に使うんですの?」

 

 

「ゲームを入れるためだ」

 

 

「おーい、お前風呂ん中にまでゲーム持ってく気か?」

 

 

「当然だろ?僕はどこにいくにもゲームは欠かさない」

 

 

「……お前のその行動力には恐れ入るよホント」

 

そう言うわりには呆れられている気がするんだが……

 

そのあと、軽く体を洗いステフが用意してくれた服を来て、ある部屋に連れてこられた。

 

 

「なんかちょっと堅苦しいけど、コスプレみたいで面白いなっ!しろとけいまも似合ってるぞ、それ」

 

 

「……ヒラヒラ多い。動きにくい……」

 

そう、僕たちは今執事服__いわゆる『燕尾服』というものを着ている。

 

 

〔中々似合ってるね落とし神くん♪〕

 

 

〔おい、今話しかけてくるな……〕

 

と、小声でからかってくるテトを小さく一括していると、ステフが壁にガンガンと頭を叩きつけていた。

 

 

「……なにやってるんだ?あれ」

 

 

「さあ?」

 

 

「……多分、自分と……戦ってる」

 

 

と、そこでステフがいきなり発狂しだした。

 

 

「WRYYYYYY!!!お、お茶を淹れてきますわぁぁぁぁっ!」

 

それだけ言うと部屋を走り去ってしまった。

 

後に残された僕たちはと言えば……。

 

 

「……なんだあれ?」

 

 

「……にぃ、女心分かってない」

 

 

「ステフも大変だな……」

 

と、各々感想をのべて部屋の書物を物色し始めた。

 

 

〔ねえねえ、落とし神くん文字を覚えるならコレなんかどう?〕

 

そう言ってテトが渡してきたのは一冊の本だった。

 

見ると、それは童話のような物だった。

 

それを受け取り読んでみるが案の定文字は読めない。

 

それは空と白も同じようで渋い顔をしていた。

 

 

「国王選定戦が行われている割りにはなんか寂しいな…活気がないというか……あれ?これ日本語じゃないのか」

 

 

「あぁ、どうやら違うらしい……」

 

 

「……たぶん」

 

白が口を開いたところに遮るように現れたステフが説明をくれる。

 

 

人類語(イマニティ語)ですわ。これでもエルキアはイマニティ最大の国でしたの」

 

 

「イマニティってのは?」

 

 

「人類種のことですわ」

 

 

「人類種?」

 

 

「この世界には人類以外にも種族がいるらしい……あのローブの奴もたぶんその一人だ」

 

 

「……?何の話か分かりませんが…えぇ、居ますわね。かつてイマニティの国は世界に幾つもあったんですの。でも、お爺様が国王に即位したときには既にジリ貧でエルキアを残すのみ……領土を取り戻すには国取りギャンブルに挑むしかない状況でしたの……」

 

 

「ってことは、さっき桂馬が言ってた他の種族相手にってことだったんだな」

 

 

「えぇ、その通りですわ」

 

 

「人類以外には何がいるんだ?」

 

そう言えばそれは一番気になるところだ......。

 

 

「そうですわね、神が十の盟約に適用した知性ある種族は全部で十六。それを損傷して私たちは十六種族(イクシード)と呼んでいますわ。唯一神に敗れた一位の神霊種(オールドデウス)、二位の幻想種(ファンタズマ)、三位の精霊種(エレメンタル)、魔法が得意でエルブンガルドを世界一位の大国に押し上げた。第七位の森精種(エルフ)、下の方だと、十四位の獣人種(ワービースト)、十五位の海精種(セイレーン)......」

 

 

「待て待て、その一位二位ってのはなんだ?」

 

 

「位階序列ですわ」

 

聞いたことのない単語に僕は小声でテトに問う。

 

 

〔テト、ステフが言ってる位階序列というのはどういうことだ?〕

 

 

〔簡単に説明すると、この世界における魔法適性の高さをランク付けしたものかな〕

 

なるほど、なら差し詰め、僕たち人類は最下位ってところか......。

 

 

「仕方ありませんわ...魔法適性値ゼロですもの...」

 

 

「ゼロ?魔法が使えないってことか?」

 

 

「えぇ...そもそも精霊回廊、魔法の源に接続する回路がイマニティにはないんですの......

使えないどころか、使われたことに気づくことすらできませんわ......」

 

そうか、この世界の人類は魔法が使えないことをコンプレックスに勝てるわけがないと思い込んでる訳か......。

 

だがそんなものは大きな間違いだ。

 

 

「......だから勝ち目がない、とでも思ってたら...そりゃ負けが込むだろうよ......」

 

どうやら空も同じようなことを考えていたのだろう。

 

そう呟いていたのを僕は聞き逃さなかった。

 

 

「え?」

 

ステフはどうやら聞き逃していたみたいだが......。

 

 

「ステフ、ここに図書館はないか?」

 

 

「え?えぇ、本でしたら書斎に...ただ......」

 

そう話すステフは含みのある言い方をしたまま書斎へと案内してくれた。

 

案内した先で見た本に書かれていた内容は......。

 

 

「...人類語(イマニティ語)か...覚えるしかないか」

 

 

「......にぃ___おぼえた」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「おぉー!さっすが我が妹」

 

 

「......けいにぃ、どう?」

 

 

「ん?あぁ、中々のスピードだな」

 

 

「そういうってことはお前まさか......!?」

 

 

「あぁ、覚えたぞ?」

 

 

「......けいにぃ......ホントに、人間?」

 

失礼な奴だ...僕はきちんとした人間だ。

 

 

「えっちょ...いったいどういうことですの?」

 

 

「あぁ、ステフは知らないっけか、うちの弟こと桂馬は俺よりも駆け引きがそして白よりも知能指数が高いんだ...いわば本物の化け者って奴だよ

どうせ今だってそこまで時間をかけずに覚えきったんだろ?」

 

よくわかってるじゃないか、まあ前世の頃より格段に頭の回転が速くなったという事は確かだな。

 

 

「......にぃは、まだなの?」

 

 

「妹よ、人間全員がお前や桂馬みたいに滅茶苦茶な頭脳をしている訳じゃないんだ...俺はもうちょいかかりそうだ」

 

 

「......にぃ、遅い」

 

 

「ふふふ、男は早いより遅い方がいいんだぞ?」

 

 

「十一歳に何を教えてるんだお前は......」

 

 

「......大丈夫、けいにぃ......にぃ、小さい」

 

 

「ち、ちちちち小さくないわっっ!!な、何を根拠に___ん?ステフ、どうした?」

 

 

「あの...聞き間違いですの?言語をひとつおぼえた(・・・・・・・・・・)____って言ったんですの?」

 

 

「あぁ、そうだが?」

 

 

「......ん......」

 

 

「ありえませんわ!こんな短時間で!」

 

 

「......音声言語が一致しているから、簡単...けいにぃも、でしょ?」

 

 

「ん?まあ、概ね同じだな」

 

そう言うとポカーンととしているステフを横目に僕はこの世界の情報を漁るのだった。

 

 

〔ねえ、僕すっごく暇なんだけど......〕

 

 

〔じゃあ、あのローブ人物の動向でも探っておいてくれ〕

 

 

〔おぉ‼それ面白そう!分かった何か分かったら教えるね!〕

 

そう言うとテトは窓からピョンッと飛び出していくのだった。

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

言語を覚えた僕は空達と別れて王宮の廊下を歩いていた。

 

この世界の情報収拾については『  』に任せておけばいいだろう。

 

しばらく歩いていると、不意に聞き覚えのある小声が聞こえてきた。

 

 

〔お待たせ!彼女の情報手に入れてきたよ〕

 

 

〔随分早かったな…ちゃんとした情報なんだろうな?〕

 

 

〔バッチリだよ!期待していいよ♪〕

 

と、そんな風に話し合っていた時、僕は驚愕した。

 

何故なら目の前には攻略対象であるローブの女性が歩いていたのだから……

 

どうする?まだ動くのは早いか…?いや、今はそんなことを考えている場合じゃなさそうだ!

 

 

〔テト、アイツを追うぞ!〕

 

 

〔オッケー!じゃあ行こう!〕

 

僕たちは急いでローブの女性を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

あの後、なんとか女性に追い付き

 

 

「ち、ちょっと待ってくれ……」

 

 

「はい?どうかしたのですかぁ~?」

 

 

「……はぁ…はぁ…話があるんだ」

 

 

「お話しですかぁ?なんでしょう?」

 

 

「あぁ…好きだ、付き合ってくれ」

 

会って間もないその女性に僕はいきなり告白した。

 

 

〔おぉ~!落とし神くんってば大胆♪〕

 

テトが何か言っているが無視だ。

 

 

「あらあらぁ…告白ですかぁ?残念ですけど、お気持ちだけ頂いておきますねぇ」

 

そうにこやかに微笑むと何処かへ歩き去ってしまった。

 

……断られるのは分かっていたが、なるほど、これは中々難しそうだ……。

 

 

〔あ~ぁ…フラれちゃって……これからどうするの?〕

 

 

〔とりあえず追うぞ。テト、僕の姿を消すことは出来るか?〕

 

 

〔出来るよ、やる?〕

 

 

〔あぁ、頼む……〕

 

 

〔分かったよ、それ!〕

 

そうして姿を消した僕達は女性の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

___________

 

 

 

女性を追いながら、僕はテトから情報を聞いていた。

 

 

〔フィール・ニルバレン 52歳 クラミー・ツェルの主人……これがあの子の情報だよ〕

 

 

〔……まあ、年齢については置いておくとして、なんとも簡素な情報だな。もっと詳しく分からないのか?〕

 

 

〔知ってるけど、それを教えちゃったら面白くないからね〕

 

この堕神が…バグ魔よりよっぽど質が悪いじゃないか……。

 

 

〔まあいい、とりあえず名前が分かっただけでもよしとしよう〕

 

それに、あの喋り方からして属性はおっとりだろうからな。

 

青山美生の時と同じような感じで攻めてしまったが、少しやり方を変えるか?

 

あれはツンデレに対しては効果抜群たが、他の属性に関してはそこまでの効き目はない……。

 

そう思案しながら僕は女性…フィールの後を追う。

 

しばらく気配を消してフィールの後を追っていると、女性はある森の中に入っていった。

 

僕たちはフィールが入っていった森の中を覗き込む。

 

そこにはフードを取った女性フィールと同じくローブを脱ぎ去ったクラミーがいた。

 

そして何よりも驚いたのはフィールの正体だった。

 

 

〔あれは、エルフか?〕

 

 

〔良く分かったね、そう、あの子はエルフ。そしてエルブンガルドの上院議員代理さ〕

 

そういうことはもっと早く教えてほしかったんだが……。

 

と、そこで中から二人の声が聞こえてきた

 

 

『大丈夫だって言ってるじゃない!』

 

 

『でも、私は心配なのですよ…クラミーにもしもの事があったら……』

 

 

『余計なお世話よ!もう放っておいて!』

 

そう叫ぶとクラミーはこちらに向かって来ていた。

 

僕は慌てて何処かに身を潜めようと辺りを見回す。

 

すると、テトはもう姿を消しており僕だけが取り残されていた。

 

僕は見つからないように息を潜めてやり過ごす。

 

 

「ふんっ!」

 

クラミーは周りが見えていなかったのか僕に気づかず行ってしまった。

 

それにホウ…と溜め息を吐く……が。

 

 

「クラミー!待って!……え?」

 

と、後から出てきたフィールと目があってしまった。

 

 

「あら、あなたはさっき告白してきた……ッ!?」

 

そこまで口にしてから自分がどんな状況にあるのかを把握したフィールはサッとその場でフードを被り直す。

 

 

「うふふ、ゴメンあそばせなのですよ~♪」

 

そう言うとフィールはクラミーが去っていった方に小走りで走り去ってしまった。

 

 

「あの子はクラミー・ツェルとの関係に困ってるみたいだね」

 

 

「……自分だけ逃げやがって」

 

僕はテトにジト目を向ける。

 

 

「あはは♪ごめんごめん、僕は君以上に見つかるわけにはいかないからね」

 

まあ、この世界の唯一神だというし当然と言えば当然なんだが……。

 

 

「とりあえず、戻るか」

 

そうして僕たちは王宮にむけて足を運ぶのだった。

 

 

 

 

________

 

 

 

 

「やっぱり覗き見してたと思われちゃったかなぁ?」

 

 

「100%イエス」

 

 

「あちゃぁ…これはいきなり悪印象になっちゃったね」

 

 

「いや、これは大きな前進だ……」

 

 

「え?どういうこと?」

 

 

「良い言葉を教えてやろう…『遠すぎる二人の秘密がピッタンコ』フィールが森精種(エルフ)だということはクラミーを除いてエルキアの誰も知らない。つまり、僕と彼女(おまけにクラミーもだが)だけの事実だ。秘密の共有これは協力な絆になる」

 

 

「覗き見で知った秘密でも?」

 

 

「安心しろ、悪印象と好印象は変換可能なんだ」

 

 

「そうなの?でもそれってデジタルゲームの中の話でしょ?」

 

 

「僕はリアルの話はしないからな…人間!決戦の場に向かうときに敢えて慣れない武器を持っていくだろうか!答えは否だ!決めたぞ!僕は今回もゲーム理論を信じて戦う!」

 

生前もそれでどうにかなってきたんだしな。

 

 

「あはは…まあ、君がそれでいいなら僕はそれに従うだけだよ……ハァ……それで、とりあえずこれからどうするの?」

 

 

「まずは、彼女に僕の存在を知ってもらうところからだな、まあ今は王宮に戻るぞ」

 

こうして僕の森精種(エルフ)攻略は始まるのだった。

 

 

sideout

 

 

______________

 

 

 

sideフィール

 

 

昨日の一件から一日が経ちました……。

 

 

 

「クラミー…大丈夫なのでしょうか……」

 

昨日から……いえ、もっと前からクラミーとの関係は上手く行ってないのです……。

 

 

「今は買い物を終わらせることにするのですよ」

 

 

「それならば私がエスコートしましょう。お嬢さん」

 

そんな声に振り向くと、昨日、私に告白してきて覗き見をしていたお猿さん(イマニティ)がそこに立っていたのです。

 

 

「あなたは昨日の……」

 

 

「女性お一人で街に出るのは危険と判断しました。なので、私がボディーガードとして馳せ参じました」

 

私にそんな心配は無用なのですけれど、折角この方が気を遣ってそう言ってくれてるのに無下にするのも酷ですし……。

 

 

「それじゃあお願いするのですよぉ♪しっかりエスコートしてくださいね?」

 

 

「畏まりました…。では、行きましょう」

 

この方、そんなに私の事が好きなのかしら?

 

私がお猿さん(イマニティ)なんか相手にしませんのに……。

 

でも、しばらくは付き合ってあげてもいいかもしれませんね……。

 

 

sideout

 

 

 

__________

 

 

 

 

side桂馬

 

 

攻略三日目

 

今日もフィールをボディーガード兼荷物持ちをしている。

 

 

「いつもいつもありがとうなのですよ」

 

 

「いえ、これが私の勤めですので……」

 

 

「うふふ、謙虚なのですね~」

 

少しはフィールの警戒も取れたようだ。

 

買い物中もよく話し掛けてきてくれるようになった。

 

このまま上手くいってくれればいいが……。

 

 

sideout

 

 

 

_____________

 

 

 

sideフィール

 

 

ケーマが来てから四日が経ちました。

 

ケーマは私とクラミーの事や私の正体を誰にも話してないみたいです。

 

私としてはとても助かるのですけどどうしてそこまで力を貸してくれるのでしょう?

 

 

「フィールさん?どうかさないましたか?」

 

 

「いいえ~なんにもないのですよ~」

 

 

「……?そうですか、では、行きましょう。早くしないとクラミーさんが帰ってきてしまいます」

 

 

「そうですね~」

 

この人なら信用しても……良いのでしょうか…。

 

 

 

sideout

 

 

____________

 

 

 

side桂馬

 

 

攻略五日目……。

 

 

〔落とし神くん、最近頑張ってるみたいだけど体の方は大丈夫なの?〕

 

 

〔正直なところ、かなりキツい……だが、もうそろそろ動いてもいい頃合いだからな、もうすこし何か………〕

 

と、テトとのやり取りを聞こえない程度の小声で話し合いながら王宮内を空達と歩いていると……。

 

 

「クラミー…。いよいよ、戴冠式…ですのね」

 

 

「ステファニー・ドーラ、あなた私に負けてからずっとそんな格好なの?」

 

そう言って手に持った女物の服を見せびらかすように持ち上げて言う。

 

 

「この服、あなたの素敵なお祖父様から送られたものなんですってね、返してあげるわ」

 

 

「…………」

 

悔しそうな表情のままその服を受け取ろうとするステフ。

 

だが、その手が届く前に服は地面に落とされてしまう……

 

 

「……ッ!」

 

驚くを他所にクラミーはステフに近寄り、告げる。

 

 

「いい?あなたは負けたの。その服をくれた愚王と同じ過ちは繰り返さないことね……」

 

 

「ッッ!」

 

瞳に涙を溜めながら落ちた服を拾おうとステフは手を伸ばす。

 

そこにひとつの声がかけられた。空だ。

 

 

「だから愚王の孫娘だと言われるんだ」

 

 

「……?」

 

クラミーやステフが一斉に空の方をみる。

 

 

空は落ちた服に近づいて拾い上げながらいう。

 

 

「駆け引きってのはもう始まってるんだよ…『盟約その六、盟約に誓って行われた賭けは絶対遵守される。』これはお前の物だ。今はまだ……な」

 

そう言いながら服をクラミーに渡す。

 

 

「……流石、愚王の孫娘、その使用人も愚かなものね」

 

そう皮肉げに返すとクラミーは服を受け取り歩き去ってしまった。

 

取り残された僕たちはクラミーが見えなくなるまで見送った。

 

そして見えなくなると、空が不意に口を開いた。

 

 

「なあ、弟に妹よ……」

 

 

「なんだ?」

 

 

「……ん……」

 

 

「兄ちゃんが何をしようと着いてきてくれるか?」

 

その言葉に白は即答する。

 

 

「……ん……約束通り、どこへでも」

 

 

「即答か……桂馬は?」

 

 

「はぁ……まあ、『兄さん』達のやりたいようにやってくれればいい、僕はそれについていくだけだ」

 

 

「即答に呆れられながら……か、こっちは結構覚悟s...「……うそ…にぃ、楽しそう」」

 

空の言葉を遮って白が言う。

 

 

「ま、あっちの世界よりは楽しいとこに連れてってやれるか、ステフ、いつまで座ってんだ。あの服、さっさと取り返したいんだろ?」

 

 

「……ステフ、早く……」

 

 

「早くしないと置いてくぞ」

 

 

「……え?行くって……」

 

 

「『お前の爺さんが正しかった』と、証明しにいくぞ」

 

そう言って空は歩き出す。僕と白もそれに着いていく。

 

歩き出してから空が不意に足を止めて振り返り言う。

 

 

「あ、そうだ。クッキーすげえうまかったサンキュ」

 

 

「……きゅ……」

 

その言葉にステフの顔が明るくなる。

 

 

「ッ!遅いですわよ」

 

そう言ってステフは立ち上がるとトテトテと同じく着いて歩き出した。

 

 

これだ、国王選定ギャンブル大会……。

 

 

〔テト〕

 

 

〔ん?なぁに?〕

 

 

〔エンディングが……見えたぞ〕

 

 

〔え?エンディング?〕

 

さて、いよいよ大詰めだ。気を引き締めていかないとな……。

 

 

sideout

 

 

 

_____________

 

 

 

sideフィール

 

 

 

今日はクラミーの戴冠式なのです。

 

私はローブを羽織ってエルキア王城の大広間にいます。

 

ケーマはいません、なぜか今日は一度も顔を見てないのです。

 

 

「___さて、この者___クラミー・ツェルが選定の闘いを、最後まで勝ち抜いた訳であるが…………彼女に挑む者は、もうおらぬか?」

 

しかし広間はざわつくだけで挑もうとする者はいない……。

 

それもそのはずです…。ここまで全戦全勝しているクラミーに、今更勝てると思える者はいるはずないのですから……。

 

その事実に目を閉じ、無表情な顔に一層深い無感動な影を落とすクラミー。

 

その様子に、老人は……

 

 

「__では、全国王の遺言に従いクラミー様を__エルキア新国王として戴冠させる。意義のあるものは申し立てよ、さもなくば沈黙をもって之を__」

 

 

「意義あり!ありありでーす!」

 

突如、老人の言葉を遮るように意義を申し立てる声がかけられる。

 

何事かとそちらを見れば赤毛の少女と二人の男女がそこに立っていた。

 

 

「フィールさん、ここにいらっしゃいましたか」

 

と、立て続けに今度は背後から声をかけられ振り向くとそこにはケーマの姿があった。

 

 

「あら、ケーマ。今日は遅かったのですね~」

 

 

「はい、少々野暮用がございまして、来るのが遅れてしまいました……」

 

そう言うと軽く頭を下げるケーマ。

 

 

「別にいいのですよ~今日はそこまでのことはしてないですからね~」

 

と、そんな会話を小さくしている間にも場は進んでいきます。

 

 

「でも、ポーカー勝負ならそこの協力者、追い出した方がいいよ?」

 

 

「し、失礼いたしますわ」

 

そう言うと、いつの間にか側に来ていた赤毛の少女にフードを取り去れてしまいました。

 

 

「……!?フィー……」

 

周りがざわつき始める。すると、私の手を握ってくる者がいました。ケーマです。

 

 

「行きましょう……」

 

そのまま私はケーマさんに手を引かれその場を後にするのでした。

 

 

sideout

 

 

 

__________

 

 

 

side桂馬

 

 

 

大広間からフィールを連れ出した僕は庭に来ていた。

 

 

「……あれはケーマが言ったのですか~?」

 

フィールは少し顔をしかめて問いかけてくる。

 

 

「いえ、恐らく私以外に秘密を知っていた人がいたのでしょう」

 

勿論、僕は一言も誰にも話していない。それこそ、フィールに会ってある事も全て…。

 

テトが話していると言う可能性もあるが自身のことを知られたくないと言っているのにわざわざそんなことはしないだろう。

 

となれば、あれは『  』が自力で勘づいたということになる。

 

 

「本当なのですか~?でも、これじゃあクラミーを助けてあげることが難しくなってしまうのですよ……」

 

それでも無理って言わないところは流石はエルフと言ったところか……。

 

 

「もう、止めませんか?そんなことをして、どうなるんです?」

 

 

「でも…クラミーは私がいないと……ケーマも分かっていると思うのですよ?」

 

 

「……もう、充分ですよ。クラミーさんもきっと分かってらっしゃいます」

 

 

「……ッ!」

 

 

「クラミーさんを戴冠させるために、こっそり力を貸してあげていること力になってあげたかったんだよね。だから影からそっと見守って魔法で助けてきた。でも、それはもう止めるべきだ」

 

 

「…………でも、あの子は…私がいないと……」

 

 

「目を覚ますんだ!あの子はもう子供じゃない!まだどこか危ないところはあれどあの子だってちゃんと成長してるんだ!それに、僕はあなたの笑顔を見ていたい……」

 

 

「ケー…マ……」

 

 

「僕は、あなたの心に住みたい。僕が嫌ならそのままでいればいい……あなたは選ばなければいけない!あなた自身の意思で!これからのあなたの生きるべき道を!」

 

 

「クラミー……ッ」

 

僕は泣きそうな顔のフィールに顔を近づけ、唇を重ねた……。

 

 

「「…………」」

 

しばらくして離れる唇。

 

顔が真っ赤になってるフィール。

 

顔が暑いってことは僕の顔も真っ赤になっているだろう……。

 

やはり、キスはいつしても慣れないな……ここがいくらゲームの世界でも、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

思えばこの体に転生してからキスはこれが初めてだったな……。

 

……まあ、はじめての相手が人間じゃなく、森精種(エルフ)だということで納得しておくか……。

 

 

「ケーマさん…あなたを信じていいのですね?」

 

 

「……あぁ、僕は何があってもあなたの味方だ」

 

 

「……ッッ!ありがとう……」

 

ポロポロと涙を流すフィールを泣き止むまで僕は優しく抱き締めているのだった。

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

その後、フィールはクラミーに協力することを止めクラミーは正真正銘、自分自身の力で『  』と闘い、そして敗北した。

 

そして、エルキアの新国王は空と白。二人で『  』が勤めることとなった。

 

僕はといえば、ステフやフィールの相手をしつつ毎日ゲームをして暮らしている。

 

この先、更に壮絶な運命が僕たちを待っていることなど知る由もなく……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Nogame God only knows II



三年ぶりに...続いちゃいました...


side桂馬

 

 

 

ボクの名前は桂g...おっと、間違えた。今の僕はただの桂馬だったな......。

 

好きなものはゲーム女子、嫌いなものは...現実(リアル)だ。

 

まあ、ボクは元々ゲームのセカイの人間だから、元から現実(リアル)は嫌いなんだが。

 

だが、何の因果か、ボクは今ゲームのセカイにいる!!夢にまで見て帰りたかったボクのセカイだ!!

 

 

「待って待って...!!ここは盤上(ゲーム)の世界だけどキミの世界じゃないよ!?ボクだよ!!ボクの世界だからね!?」

 

......チッ、煩いのが出てきてしまった......

 

 

「煩いって言った!?ボクに向かって煩いって言った!?」

 

静かにしろ、ボクはな、ゲームをする時は、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ......。独りで静かで豊かで......

 

 

「え、えっと...?なんか凄い何かを悟ったような顔で何を言ってるの...?」

 

さて、ゲームするかな......

 

 

「無視...!?ねぇねぇ...無視しないでよ...ボク唯一神だよ?ここで偉いんだよ...?」

 

............ ピコピコッ

 

 

「遂に返事すらしてくれなくなった!?...ってヤバ!?」

 

......ん?急に消えたな、なんだ?

 

 

「おーい、桂馬、街に繰り出すぞー」

 

この声は...空か。

 

 

「何しに行くんだ?というか、何故街になんかいく...ん...だ...」

 

そこでボクの口が止まる。更には思考も止まっていた。

 

そうなってしまうのも無理はない...なぜならそこには......

 

 

「ううぅ...ケーマ、お願いですからそんな目で見ないでくださいですわ......」

 

妹の白に首輪とヒモを付けられ、垂れた犬耳とチワワのような尻尾を付けたステファニー・ドーラこと、ステフの姿があったのだから......

 

 

「......一応聞くが、これはどっちの趣味だ?」

 

 

「......もち、ろん...にぃ...だ、よ?」

 

 

「ちょっちょっと白さん!?あなたも案外ノリノリでいらっしゃいませんでしたか!?」

 

なるほど、大体想像出来たが、やはりか......

 

 

「空、ステフで遊ぶのはいいが程々にしとけよ...?見苦しいから」

 

 

「待ってくださいまし!!何故(わたくし)はケーマに罵倒されなければならないんですの!?」

 

一々やかましい奴らだ...何故ボクの周りの奴らこうも騒がしい奴らばかりなんだ......

 

 

『それはもう、キミがそういう星の元に生まれたからしかないんじゃない?』

 

うるさいぞバグ神...会話に割り込んでくるな......

 

そうして、仕方なく、誠に不本意だが、ボクは同行することにした

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「......でっか......」

 

王宮から街へ繰り出すこと数時間、ボク達は、馬車に揺られながらエルキア都心から少し離れた郊外にある、とある建物へとやってきていた。

 

そんな郊外にやってきた理由は、エルキアの有して()()大図書館に用があったからである。

 

空がそういうのも無理はない......

 

何せ目の前にある建物はワンシントンDCにあるアメリカ議会図書館のような巨大な建物なのだから。

 

何故こんな図書館の前に来ているかと問われると、時は街に繰り出した頃まで遡らなければならない......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

外に出て、街へ繰り出したのはいいが、空達がしていたのはゲームでしかなかった。

 

何故かステフが()()にやたらとゲームを仕掛けては負けて身ぐるみ剥がされて行っているのだ......

 

さすがに下着すらも取られた時は白の容赦の無さに戦慄を覚えた程だ......。

 

姿を消して着いてくるバグ神『唯一神だってば!!』と、そんな光景を見せられ、引きながらも後を着いていっていた時だった。

 

上空に、地殻を抉りとったかのような──巨大な岩盤が漂っていた。

 

空が思わずネタに走ってしまうくらいには非現実的な光景がそこにはあった......

 

空の話ではあの漂う岩盤の島には、十六種族(イクシード)の位階序列・六位───天翼種(フリューゲル)と呼ばれる種族が住んでいるという。

 

空はその天翼種(フリューゲル)を味方に引き込みたいと言っていたが、コンタクトを取ろうにも手段がないとボヤいていた。

 

そんな時だ、ステフの口からとんでもない言葉が飛び出した。

 

 

天翼種(フリューゲル)に何か用でしたら、近くに一人、いますわよ?」

 

・・・・・・なんだと?

 

これにはさすがの空も固まっていた。

 

ステフの話を聞いたところによれば、五年ほど前、国内最大の図書館だった『国立エルキア大図書館』に天翼種(フリューゲル)が一体が現れ、ゲームを仕掛け、図書館ごと全蔵書を巻き上げたのだと言う......

 

いや、何をしているんだ......

 

これを聞いて空は大激怒...。何故唯一の武器を賭け皿に出したのかとそれを仕出かした輩の頭は大丈夫かと心配ずらし始めた......。

 

そんな空を落ち着かせ、理由を聞けば、やったのは前任の国王、つまりはステフの祖父だったらしい。

 

その時の対価を聞けば、コチラ(イマニティ)側が勝てば、その天翼種(フリューゲル)が味方になるということだった。

 

どうやらそれは、空もやろうとしていたことだったらしい......。

 

その考えは悪くない...悪くはないが、それで持ち得る知識を奪われていては元も子もないが......

 

その後、ステフからの情報で、天翼種(フリューゲル)のやるゲームは伝統的に一つなんだそうだ。

 

それを聞いた空はその場でこれからの予定を決めていた。

 

空が入力したスケジューラーには、こう書かれていた。

 

 

人類(イマニティ)の知識を返してもらう】

 

そしてその下に......

 

 

天翼種(フリューゲル)を一体手に入れる】......と。

 

 

なるほど、これは中々面白くなってきたじゃないか





書くつもりがなかったので一話は長いのですがこちらは短めです......

少しずつ続けていきますので良ければお付き合いください...


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。