諸行有常記 (sakeu)
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序章 始り
第1話 ある日の青年


小説初投稿の新参者です。至らぬ点が数多くあると思います。誤字脱字の指摘、アドバイスをどんどんくれると嬉しいです。
今回は東方要素は全く無いです。すいません(>_<)


人は様々な欲求を持つ。食欲、睡眠欲などの生きていくうえでは必要な欲求や獲得、保存などの社会的に認められたい欲求がある。無論、俺も持っている。自分は時折、無償に人を「攻撃」したくなる。いつからだろうか。よく覚えてない。でも、今、こうして欲求を「解消」している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名前は「碓氷 勇人」。高校1年生だ。名前は「勇まし人」なのに実際はそうでもないと思う。まぁ、今はそんなことよりも重大であろうことが今、目の前にある。

国語 42点

数学 69点

英語 41点

物理 60点

はっきり言ってこの点数は良くない。うちの学校(進学校なので平均点もかなり高い)は40点未満が赤点なので、かなり危うい。後ろの良く話す方の人も良くなさそうだ。俺、勉強しなさすぎたかなぁ。得意なはずの数学もあまりとれてねぇ。まぁ、いいか。色々考えてたら、後ろから

 

「お前、点数悪かったのか?」

 

と言われた。

 

「なんでそう思う?」

「いや、お前さっきからイライラしているっぽいし。」

「どうだろうか。」

「やっぱ、悪かったのか。大丈夫か〜」

「ほっとけ」

 

「冷た〜」とかなんやかんや言っているやつをほっといて、少し考えこむ。テストのことではない。いま、かなり欲求不満ってやつだ。あぁ、思春期的なやつではない。少し特殊なものだ。今日解消しよう、と心に決め、部活へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の時刻は夜中の2時ぐらいである。なぜここにいるのかって?欲求を解消するためだ。まぁ、俺の「特殊な欲求」は「異常なまでの攻撃欲」だ。2ヶ月に1度位にその欲求は高まる。こうして、夜に出向いて、チンピラにわざと絡まれて、喧嘩(一方的な暴力)をするのだ。お前で勝てるのか?って?まぁ、確かに身長は170弱、体重も55ぐらいで華奢な方だろう。(でも、身長には希望があると思う。だって、牛乳毎日飲んでるんだぞ?)しかし、俺はじいちゃんから喧嘩の極意を教わっている。(じいちゃんは別にヤのつく人ではない)その辺のチンピラ相手に負ける気はしない。(見た目もあって、相手が油断するのもあるが)

この欲求は誰にも伝えてないと思う。

無論、家族にもだ。いや、誰かに言った気がする。いや、言ってないか。まぁ、そこは置いといて、このことは絶対にバレないようにしている。親が知ったらどうなることやら。学校に知れ渡って白い目で見られ、肩身の狭い思いをするのはごめんだ。そのため、普段は人積極的に関わらないようにしている。まぁ、普通に話す人も数人いるが。あと、目立ちたくないので成績「国語、英語は本気」をあえて抑えてる。数学は本当に得意だ。数学を面白いと思ったり、思わなかったり。さっき返されたテストも数学は満点余裕だと思う。っと、話がずれてきたな、まぁそーゆーことで、

 

「いつも通りやるか」

 

 

 

だが、この日だけは違った。



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第2話 いつもと違う日の青年

今日も真っ暗な夜の中、喧嘩の相手となりそうな相手を探しながら歩いた。警察にでも見つかったら補導されるだろうが、今通っている道は車も通ってない。この時間は両親も弟や妹も眠ってるだろう(弟1人妹1人の3人兄弟です。)。

そんな中、普通は虫の鳴き声しか聞こえないはずなのに人の声が聞こえた気がした。

 

「気のせいか」

 

と呟いたら

「ーーさい」

 

かすかに聞こえた。人の声だった。

 

「離してください」

 

確かに聞こえた。声のするところへ行くと、同い年ぐらいか?暗くてよく見えん。

まぁ、そのぐらいの少女がチンピラ2人に絡まれていた。なんでまた、こんな時間に出歩いるんだ?(←お前もな)普通ならば、助けに行くべきだろう、だが助けに行けば、面倒なことになる。もしかしたら、今出歩いてることがバレるかもしれない。それはごめんだ。でも、助けに行かないのも後味わりーな。とか考えてると。

 

「そこの貴方助けてください!」

 

呼ばれちまった。これで助けに行かないのはないだろう。すると、

 

「兄さん、今回のことは見なかったことにしてや、な?さもねーと...」

「さもないと?」

 

ボフッ!

 

腹に膝蹴りされた。少々痛い。まぁ、予期してて腹に力いれたので、なんともねーが。

「わかったろ」

 

と2人は笑う。

 

「ッククク.....フフッ....クハハハハハハ!!」

 

俺は笑う。いつものことだ。絡まれるとき俺は必ず1発喰らうことにしている。そうすることで、躊躇うことなく殴れるからだ。そのとき、思わず笑ってしまう。自分でも気持ち悪い笑い方だ。まぁ、だからといって無我夢中になることはない。

呆気にされてるチンピラの片方に腹に拳を入れる。

 

「グヘッ」

 

まさに、カエルの潰れた声を出してその場に崩れ落ちた。それで正気に戻ったもう片方が

 

「この野郎!」

 

と殴りかかってきた。とはいっても、ただがむしゃらに殴っているので避けるのは簡単だ。ヒョイっと横に避け、

 

「ほらよっと」

 

腹に蹴りを入れる。完璧に入ったな。今度は声も出なかったようだ。しばらく、この2人をサンドバッグにさせてもらった。

 

 

 

 

 

 

ある程度殴って、欲求を解消したところで

 

「フースッとしたぜ」

 

このセリフ一度言ってみたかったのだ。あのキャラは意外とすきである。と感慨にふけてると

 

「あの...ありがとうございます?」

 

そうだった。女の子がいたのだった。

 

「あー、もう大丈夫だから早く帰れ」

「貴方、碓氷?」

「は?なぜ俺の名前を?っておまっ、蓮子?」

 

宇佐見蓮子、中学校で同級生だった女の子だ。中学生の時はずっと学年1位で、運動もでき、生徒会会長であり、男子から人気もある、才色兼備の少女である。少々、性格が変わってるが。まぁ、俺も生徒会役員だったので交流はある。

 

「相変わらず、その性格治ってないのね」

「なんで知って....あーこれデジャヴだ」

 

そう、デジャヴである。実は中3の1学期終わりに同様に蓮子は絡まれていたのである。その時も今回と同じようにチンピラをぼこしたが。

 

「で、なんでこんな夜中に?」

 

予想はつくが聞いておく。

 

「星を見に」

 

やっぱり。

 

「あんまり、夜中に出歩くなよ。」

 

と言い、踵を返し家に帰ろうとする

 

「あんたもね」

 

と言われたが俺は防衛手段があるので大丈夫だ。とは言わない。

 

 

 

この日は少々いつもと違ったがかまわんだろう。そんな事を思っていたが、少々違ったはずなのに大きな問題が生じるのを知る由もなかった。




今回も短かったです。すいません。文字数増やせるように頑張ります。
少しながら東方の要素を出せたので良かった。


アドバイス、誤字脱字の指摘よろしくお願いします。


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第3話 過去の日の青年

碓氷勇人の昔の話です。いつ、幻想入りするんでしょうねー。


宇佐見蓮子を助けた後、ベットに戻ると弟が起きていた。真っ暗中、声をかけられたので柄にも無く

 

「ヘアッ?!」

 

と変な声が出てしまった。両親が目覚めなかっただろうか。

 

「今日も喧嘩しに行っていたのか?」

「あぁ、でも、人助けもしたぞ」

「??」

「まぁ、いい。はよ寝ろ。」

 

と言うと弟は寝た。俺も寝るとするか。と思ったが、そういえばこの事知ってる奴であの3人だっけな?と考え始めた。

 

 

蓮子は前回言った通りだ。弟は小4の時に一緒に帰っている時、たまたま自分は欲求がたまっており、所謂、いじめっ子という奴に絡まれてつい、ぼかしてしまった。弟はしっかりと見ており、当初俺はバレてしまうと思ったが、意外にも弟は両親に言わなかった。

あの時は本当にビビった。今なら、吉良さんの気持ちが分かるかもしれない。あと1人だが、これはじいちゃんだ。いつだっけ?えーっとあーー、そうだ、小2の頃だ。ちょうど、攻撃欲が出始めた頃だ。その時、どうしたら良いか分からずじいちゃんに当たってしまった。小2の力ぐらいじゃ痛く無かっただろうが。

その時、じいちゃんの顔は何故だかものすごく申し訳そうな顔をしていたと記憶している。で、小3になると、じいちゃんは

 

「お前のその性格をどうにかする方法を教えよう」

 

と喧嘩の仕方を教えてもらった。そして、顔を隠して、相手の顔には攻撃せず、胴体を狙うようにしなさいとも教えられた。まぁ、つまり、証拠が極力残さないようにしろってことだな。とんでもねぇ、ジジィだと思う人がいるかもしれないが、俺としては唯一俺のこの事を理解してくれた人だと思う。

だけど、そのじいちゃんは俺が小6の時に死んだ。原因は事故で車で川に突っ込んだそうだ。でも、この事故は所々不可解なところがある。もう、事故で処理されてしまったが。その遺品として、俺はじいちゃんの箱を持っている。なんせ、箱の中の手紙に俺に渡せと書いてあったそうだ。

まるで、自分が死ぬのがわかってたみたいだ。その箱は、中々大きく、じいちゃんは釣りが好きだったから、釣り具を入れる箱かと思ったが中には手紙とリストバンドになんか装置みたいなのが引っ付いているものしかなかった。あと蓋の中央に宝石みたいなのがあった。手紙の内容はというと勇人へとは書いてあるが、それ以外何も書いたいなかった。じいちゃんも変な事するんだなぁと思いつつ、その箱はベッドの下に置いた。

 

 

とかなんやかんや考えてたら眠くなってきた。明日は朝補習あるから早くおきないとなぁ。

 

 

 

 

 

その明日がいつもどうりにはいかなかった。




アドバイス、誤字脱字の指摘よろしくお願いします。


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第4話 幻想入りした日の青年

今日の授業はだるかった。数学2時限もあるなんて、最後の古典にいたっては、殺しに来てた。

なんなの、あの先生。もう、寝らせるき満々じゃないか。体育もなかったし、一段とだるかった。

 

あぁ、今から部活かー。あ、ちなみに俺はソフトテニス部だ。まぁ、この部活は部活と言えるのかというぐらい自由だ。でも、今日に限って先輩たちやる気があるんだよなー。こっちは寝不足(自業自得)だというのに。きっちり、7時までしやがってあんまりだーと泣きたくなるよ。とか文句を心中で言いながら、帰ろうとした。ふと、胸元に異物がある気がした。あー、そうだったこれはだな今朝のことだが…

 

 

朝ふと、じいちゃんの形見である箱が気になってなんとなく箱はをひっくり返した。すると底が落ちてなんと、ナイフが落ちて来た。なるほど、底が二重になっていたのか、違う違う、そうじゃない、なんだこのナイフは?あまり知識はないが、両刃なので、ダガーナイフだろうか、刃の根元の部分に青い宝石がついてる箱のと同じのようだ。ダガーというのはナイフではなかったけか?まぁ、どうでもいいや。ともたもたしてると

 

「勇人ー、ごはんよー」

 

と母から呼ばれた。急いで鞘におさめ、どうしようかと考え、とりあえず学ランの内側のポケットに入れた。

 

 

 

 

 

「そうだった」

 

と思いながらリュックを背負い、セカンドバックを自転車のカゴに入れ、乗るのだった。帰りは近道をしようとして違う道を通ることにした。それが、大きな違いを生むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあの車」

 

近道をしていると後ろの車がついて来ていた。明らかに怪しい。不審者か?早く大きな道路に出ようと、自転車をこぐスピードを速くしようとした瞬間、前からも車が現れた。

 

「おいおい、マジかよこの道狭いだぞ」

 

と場所を開けるために横にずれて、通り過ぎるまで止まることにしだ。だが、車は止まった。何してんの?アホなの?早く帰りたいんだよと思うと車から人が降りて来た。もしかして、心読まれた?ふと、後ろからも車の扉が開く音が聞こえた。マジで、不審者か?逃げ場が無く、突っ立っていると、あっという間に囲まれた。6人ぐらいか。

 

「あのー、何の用ですか?お金は少ししかありませんよ。」

 

とか言ってみたものの、効果はいまひとつのようだ。6人の顔をよく見ると2人知っている奴がいた。あの時のやつだ、俺がボコボコにしたから、復讐しにきたのか。わざわざ、尾行までして。

 

「そうだなぁ、用ならあるぜ。この前の仕返しをなぁ!」

 

やばい。これはやばい。多勢に無勢、しかも大人だったのか。ヤクザか?とりあえず逃げること優先だ。だが逃げ道は無い。ならつくるまで。俺は全力で走った。相手が殴り掛かるのを見計らって、急ブレーキをした。予想通り空振って前のめりになった。そして、俺はそいつの上を飛び越え走った。

よし、このまま行けば、大きな道路に着く。

その時、俺は油断した。車の影にもう1人いることに気づかなかった。気づいた時には遅く、その男が何かで殴り掛かってきたのを避けれなかった。

 

ガツンッ!

 

頭に衝撃が来て、視界歪んで見えた。平衡感覚を失いたおれてしまう。人が集まってきて、おれを殴った。お腹に1発喰らった瞬間視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつどうすんだ?」

「あぁ、こいつか。川にでも捨てておけってよ。」

 

 

っく、頭がまだガンガンする。今どうなってるんだ。

 

「よしここでいいだろう」

「荷物はどうするんだ?」

「リュック以外自転車と一緒川に落とせ」

「リュックは?」

「こいつに背負わせる」

 

あぁ、そいうことか。事故に偽装てか。わかったところで体が動きそうにも無い。畜生、このタイミングで目覚めるのは最悪だ。リュックを背負わされ持ち上げられる。もうダメなのか。お父さん、お母さん、本当にごめん。

 

 

体が宙に浮いた感じがしたのと同時に

バッシャーン!

水の中から見える空は真っ暗でよくわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーと、ーうと、勇人!」

「なんだ、じいちゃん。………じいちゃん!?そうか、ここは」

「いや、まだお前さんは生きとるよ。」

「え?どういうこと?」

「起きれば分かるさ、箱の秘密もな…」

「は?急になんだよ?わけがわからないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っは!」

 

なんだあの夢は。

 

「あれ、ここは?誰かの家か?もしかして誰か助けてくれたのか?」

と家の中を見回す。床が畳だ。てか、つくりが昔の家って感じがする。じいちゃんの家みたいだ。

「あら、目覚めたのね。」

 

おそらく助けてくれた人だろうか。お礼を言わないと。声のする方を見るとそこには中国にありそうな、道士服を着た女性がいた。よく見ない格好だ。てか、初めてあんな格好している人を見た。ただ、今まで見てきた女性の中で一番美しい女性だと思う。まさに、大人っぽい魅力というやつか。まぁ、そこは置いといてやるべき事がある。

 

「貴女が、助けてくださったのですか。ありがとうございます。」

 

もちろん、お礼だ。

 

「別にいいのよ、私の気まぐれで連れてきたのだから。」

 

と彼女は微笑んだ。普通の男ならイチコロだろう。だが、俺はそのことより「気まぐれ」という言葉に引っかかった。気まぐれ?どいうことだ?

 

「別に貴方は知らなくてもいいわ。今から、食べられるのだから」

 

…………………は?今なんと?食べる?eat?have?ドユコト?すると彼女は扇子をかざし何か光るものをこっちに放った。何かやばい!

反射で避けると、うしろから轟音が聞こえた。

 

「どうなってんだよ!ふざけるんじゃーねーぜ!!」

 

俺は無意識に構えをとった。




ついに、幻想入りしました!さて、勇人の運命は?





アドバイス、誤字脱字の指摘をよろしくお願いします。
よければ、感想もあるとうれしいです。


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第1章 信仰なき青年と現人神と
第5話 逃走した日の青年


やっと、東方要素入れれた……


お父さん、お母さん、俺は生きているよ。でも、今もうダメかもしれない。とか考えていると、また光る弾が放たれた。今度は数発撃ってきやがった。相手はまるで遊んでいるようだ。

 

「くそったれが、近づけねぇ!」

 

徐々に弾を撃つ量も増やしていやがる。じわじわと殺す気か。避けるのが辛くなってきた。すると、左肩に弾が掠ってしまった。

 

「っつ!」

 

クソッ、痛い。火傷のような痛みだ。だが、同時に

 

「ックク、フフフフッ、フハハハ!」

 

もう迷いはねぇ。女だからって殴るのを躊躇っていたが、そんなことしったこっちゃねぇな。今、あいつは絶対油断している、だから一撃で仕留める。弾幕が途切れたのを見計らって、俺はその女の元に一直線に向かった。

 

「!?」

 

相手は面食らったようだ。今がチャンスだ!女は弾を撃ってきたが下に避け、そのまま接近し、上がるのと同時に思いっきりアッパーパンチを喰らわせた。

ベキッ!

 

 

 

 

 

 

「ック、ぐあぁぁぁ!、」

 

パンチは完全に決まった。角度、力の入り方どれも完璧だった。だが、

 

「アァァァ!」

 

俺の右手は折れていた、血も出ている。まるで鉄の壁を殴ったみたいだ。あいつは人間なのか?痛みやなんやで俺の頭はこんがらがっていた。

 

「中々やるじゃない。面白いわ。でも、次で終わりよ。」

 

そういうと、彼女は自分下に何か開いた。彼女はそこに入るとそれは閉じた。

 

「どこに行きやがった。」

 

見回すがいない。後ろから何か来た!同じ様に床から何か開いてそこからで出て来ていた。

 

「それでは、ごきげんよう」

 

俺の視界は光でいっぱいになったのと同時に吹き飛ばされた。

 

「ぐぁぁ…」

 

全身が痛い、もうダメか。いや、まだだ、二回も諦めてたまるか、なにか打開策があるはずだ。すると、ポケットにナイフがあることを思い出した。なんとなくだが、これでどうにかなる気がする。俺はダガーナイフを取り出した。血で汚れてしまったが、気にしてる暇はない。迷わず俺はナイフをあの女に投げた。なぜか、ナイフについている宝石が光っている気がした。

 

「あらあら、無駄なことを」

 

女はまた空間に何か開いた。あぁ、最後の望みもダメか……と思った次の瞬間、ナイフは開かれた空間を突き破ってそのままあの女の腹を貫通した。

 

「きゃっ!なんで……」

 

と女は腹から血を出しながら倒れた。

 

「なんなんだ……そうじゃない早くここから出ないと」

 

痛む体に鞭打ちながら外に出ようとする。多分あいつは人間じゃねぇ。死んでねぇだろう。起き上がるまで逃げないと。ナイフは拾っておこう。逃げ道を探していると、リュックを見つけた、一応持って行こう。外にでればなんとご丁寧にも自転車とセカンドバックがあった。怪しいがかまってる暇はねぇ。ありがたく自転車を使わせてもらおう。俺はがむしゃらに自転車をこいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫様、紫様、お目覚めなられてるのでしょう」

「バレちゃったー?」

「当たり前です。なぜ、あの程度の人間を逃したのですか?」

「あの程度ねぇ。まぁ、面白そうだから?」

「ちゃんとした理由を言ってください!」

「分かったから、怒らないでよ、藍。まぁ、理由はあの子ちょっといいやかなり特殊な子よ」

「どこがですか?確かに格闘においては心得があるようですが。」

「あの子の投げたナイフ、私のスキマを破って来たのよ」

「なぜです?」

「さあ〜、分からないわ、まぁ、あの子自分でこの屋敷から抜け出したけど」

「本当ですか?あの子は一体…」

「能力はもっているわね。なんなのかは分からないけど。久々にたのしめそうだわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、ここはとこだ?」

 

勢いよく逃げ出したのはいいが、今どこにいるのかさっぱりわからない。無我夢中でこいでいるうちに森にきたようだ。斜面もあるから山か。

 

「うわっ!」

 

ガッシャーン!

 

「ってて、クソッ」

 

木の根っこによって転倒してしまった。右手が折れてハンドルを握れないので当然片手運転である。よって、アンバンランスで少しの段差で倒れてしまった。

 

「おいおい、嘘だろ…」

 

前を見れば巨大な熊がいた。それにしてはデカすぎるし、なんか思った熊と違う。あれか、熊の妖怪か。ありえねえ。とりあえず、バレないように逃げないと。後ろに一歩下がると、

 

パキッ

 

枝を踏んでしまった。えぇ、漫画のように。

 

グォォォー!

 

やっぱり、こっち来るか…でも、こうして生き延びたんだ。絶対生き延びてみせる。

こういう、単純な野郎は、動きを見極めれば避けるのは容易い。

 

「よっと」

 

ズガーン!!

派手に木にぶつかりやがった。だが、ピンピンしていやがる。どうすっかなぁ。ふと後ろを見ると斜面になっていた。そこには、いつしか倒れただろう大きな木があった。

 

「よし。」

 

俺は意を決して、相手の突進を待った。

 

「まだだ…まだだ…まだ…今だ!」

 

俺はギリギリのところを避けた。一方、あの巨大熊は止まらずそのまま斜面の方へ突っ込み倒れた木の断面に突き刺さった。

 

「派手にささったなぁ。」

 

様子を見ると見事に顔面からいってた。あれはグロイ。さすがに死んだろ。

 

「フゥ〜」

 

緊張が解けたせいか、喉が渇いた。確かセカンドバックに水筒があったな。バックから水筒を取り出しお茶を飲むと急に眠気が襲ってきた。

 

「ふぁ〜、少し寝るか」

 

あっという間に意識は深くへ落ちた。



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第6話 救われた日の青年と失った日の少女

外界からスタートです。


兄さんが行方不明だと連絡が入った。家族は大慌てで大混乱だ。僕も混乱している。どっかの川で兄さんのハンカチが見つかった。この事によって、みんなは死んでしまっただろう、と言い始めた。ただ、事故なのか?それとも、殺人なのか?分からない。でも、兄さんは強い。だから、簡単に死ぬはずがない、そんな自信もだんだん無くなってきた。これから、どうしたらいいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇人が行方不明だそうだ。だが、ハンカチが川で見つかったそうだった。だから、川を捜索し始めたそうだ。なにそれ、もう勇人が死んだみたいじゃない。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学校に入学した時のあいつの印象はと聞かれると困る。なぜなら、あいつは人と積極的に関わろうとしない。だからといって、話しかけられたら、きちんと返す。成績は確かいい方で順位は一桁だったじゃないかな。だから、進学校である〇〇高校を受けてた。それは、置いといて中1と中2のときはあいつとはほとんど関わることがなかった。

中2の3学期ぐらいになると私は、生徒会長になり、あいつも生徒会役員になっていた。そこでの印象は、仕事はそつなくこなす。そんぐらい。

でも、あの日を境にあいつと深く関わるようになった。

私は、小さい頃から星を見るだけでいまの時刻が分かり、月を見るだけでいまの場所が分かる。親に言うと

 

「変なことは言わないの」

 

と返され、友達に言うと気味が悪がられた。その時以来、このことは誰にも話したことはない。でも、たまに星を見に、夜、出歩いていた。中3の1学期の終わりだろうか。その日も私は、いつも通り星を見に夜、出歩いた。ただ、帰り道に変な人に絡まれてしまった。

 

「嬢ちゃん、どこにいくの?」

「家に」

「俺たちが送ってやろうか?」

「大丈夫です。1人でかえれますから。」

「そんな釣れないこと言わないでさ〜、ちょっと付き合ってもいいじやんか。」

「やめてください!」

「しょうがねぇ、こうなりゃ力づくでも…」

「おい、あそこに誰かいるぞ。」

「え?」

 

振り返ると、なぜかあいつがいた。

 

「なんでいるのよ?」

「欲求不満解消しにちょっとな」

「はぁ?」

「おいおい、兄さんや、こっちはお取り込み中だから、帰ってくんないかな?」

「ちょうどいいや、あんた俺につきあってよ。」

「はぁ?訳わからんこと言うんじゃねぇ」

 

と男はあいつに殴りかかった。

 

「きゃぁ!」

 

思わず目をつむってしまった。

 

「ぐぇぇ…」

「え?」

「こ、この野郎!」

 

ベキッ!バタッ

 

「ふんっ、思ったよりよえーな。っと、お前大丈夫か?って宇佐見!?」

「ありがと……って碓氷!?」

「ヤッベ、見られた…お前この事秘密にしてくんねーかな?」

「え、えぇ…」

 

その日からだった。

私はことある事に彼を呼ぶ事にした。夏休みも過ぎると彼は部活を引退した。確かあいつ部長やってた気が…まぁ、いいわ。

私はよくあいつを入試勉強手伝ってあげると言う事で、よく行きつけのカフェに誘って勉強していた。そこのカフェはマスターは無愛想だが、腕は確かでコーヒーがとても美味しい。彼も

 

「美味いな…」

 

と呟いてた。

一緒に勉強しててわかったのだが、彼はわざと手を抜いてテストを解いてた。なぜか、聞きたかったが、聞かない方がいい気がした。数学にいたっては、もう高校生の内容を解いていて逆に私が教えて貰っていた。

ある日、私は意を決して彼に訊ねた。

 

「どうしてあの日あなたはそこにいたのか、どうして喧嘩が強いのか?」

 

彼は少し躊躇ったが教えてくれた。

彼は人を攻撃したくなる欲があること、それを解消するために夜、出歩いて喧嘩する相手を探していること。また、喧嘩の強さは祖父から教えて貰ったこと。そして、最後に

 

「俺って、ホント変な奴だよな。」

 

と言った。

 

「違う!!」

 

思わず叫んでしまった。そして、そのまま流れで私の能力について話した。変な奴と思われると思ったが彼は、

 

「全然いい能力じゃん。ロマンあるじゃねぇか。」

 

彼は私の能力、目をほめてくれた。初めてそんなこと言われた。

 

「俺なんか、害にしかならないからなぁ」

 

彼は自嘲するように言った。

 

「でも、初めてこの本当の姿を見せれたかな。」

 

と彼は微笑んだ。初めて彼が心から感情をこめた表情を見た。

普段はそんな表情しないのに。でも、私だけその表情が見れたということでなんだか嬉しかった。

高校は違うところを受けたので会う機会は減った。

ある日、私は彼に会えるかもしれないと思い、夜出歩いた。だが、会えず、がっかりして帰ってるとまた人に絡まれた。もぅ、ヤダと思うと同時に心のどこかで彼が助けてくれるんじゃないかと期待していた。その期待は当たった。彼は来てくれた。前と同じ様に、、

少ししか話せなかったが、とても嬉しくて帰ってから少し舞い上がってた。

そんな中だ、勇人が行方不明になった、もう、死んでるかもしれないという連絡が来たのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の事でした。私はいつも通り信仰を集めに村に行き、その帰りのことでした。ふと下を見ると人が倒れているではありませんか!助けに行かないと!

倒れていたのは男性でした。格好からして外界の人でしょう。学ランを着てるので私と同い年ぐらいでしょうか?少し体が小柄ですが。ただ、彼の全身はボロボロで左肩からは出血していて右手はいびつに曲がっています。彼の荷物らしき物が近くにあり、自転車もありました。自転車かぁ、懐かしいなぁ。って違う違う!急いで手当てしないと!ふと近くを見ると熊の妖怪が死んでました。あれはひどかったです。夢に出そう…

ということは、彼はあの妖怪を倒したのでしょうか?それは後で聞くとして取り敢えず永遠亭に運びましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運ぶ時ですが、彼は意外と軽かったです。むしろ荷物が重かった…これを背負ってるなんて意外たくましいかもしれません。

 

 

 

 

永遠亭に着き、永琳さんに診てもらいました。命に別状は無いそうです。よかった…彼をどうするかといことで守谷神社で引き取ることになりました。博麗神社も出ましたが、あそこは預けたらダメな気がします。あと、永琳さんからもしものために、急速に身体を治す薬を貰いました。最初から使えばいいのにと言ったら、使うと激痛を伴うから使いたくないのと言われました。なるほど。

後は、彼が起きるのを待つだけです。彼には聞きたいことがたくさんあります。どうやってあの妖怪を倒したのか、今の外界はどうなっているのか?あぁ、ジョジョはどこまでいったのでしょう!気になって早く聞きたいです!




アドバイス、誤字脱字の指摘をよろしくお願いします。
また、質問もじゃんじゃんしてください。できるだけ答えれる様にします。


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第7話 常識を打ち破った日の青年

「起きろー、起きろー」

 

誰だ?俺はまだ眠いからほっといてくれ。

 

「起きないなー、こうなったら」

 

ん?足音が少し遠ざかったぞ?

 

ドッドッドッ タッ

 

なんだこの音と思った瞬間

 

「起きろー!」

 

ゴフッ!

 

「ぐはっ!な、何しやがる!」

 

「おー、起きたかー」

 

目の前には奇妙な帽子を被った女の子がいた。年は妹くらいか?少し下か?どっちにしろ、なぜ腹にダイブした?

 

「いてて…」

 

「おい、気をつけろよー、君は大怪我してるからな」

 

その怪我人にダイブしたのはどこのガキだ!

 

「やっとお目覚めになられましたか。」

 

と扉から少女が現れた。髪は緑色で蛇と蛙をもよおした髪飾りをつけてる。格好は巫女服?にしては露出が高い気がする。身長は俺の方が高いか、良かった。ただ、左肩はズキズキするし、右手なんかぐるぐる巻きで使えねぇ。

 

「はぁ…どうすっかこれ…」

「あ、安心してください。とりあえず私たちが看護することになっています。」

「それはどうも…あぁ、自己紹介がまだだったな、えーっと、俺の名前は碓氷勇人だ。よろしく。」

「これは丁寧に。私は東風谷早苗です。よろしくお願いします。」

と彼女は微笑みながら自己紹介してくれた。かなりの美人でスタイルも良い、さぞかしモテるのだろうなぁ。ただ、ここで美人っていうのは危ない気がするので、一応聞いておく

「俺を食べる気はねーよな?」

「え?私は人間ですよ。人は食べませんよ。」

 

良かった。命は助かりそうだ。それはしてもこの娘は礼儀正しいな。責任感も強そうだし。とりあえず、任せても大丈夫そうだ。

 

「私名前は洩矢諏訪子だよー。後私は神様だよー」

 

子供の、戯言か。

 

「これは本当ですよ。」

 

へー。エァ?どう見ても俺より年下…

 

「あんたよりはずっと年上だね。」

 

なんだ、なんか川に落ちてから俺の常識が…

そんなことよりだ、

 

「ここはどこですか?」

「あ!ここはですね、守谷神社です。」

 

守谷神社?聞いたことのない神社だ。

 

「多分、貴方は聞いたことがないと思います。だって、貴方、外界から来たのでしょう?」

 

外界?

 

「あ!外界と言っても分かりませんね。まずここの世界は幻想郷と言います。貴方はここの世界の外から入って来たのです。」

 

幻想郷?どういうこっちゃ。

話を聞くとここの世界は忘れ去られた物はが来るそうだ。だから、妖怪もいる、神もいる。なんて世界だ。道理で自分の常識が通用しない訳だ。

 

「俺は所謂外界に帰れるのか?」

「えぇ、かえ「無理よ」

「!!」

「お、オメェは」

「こんにちは、幻想入りしたばかりの時以来かしら」

「俺を食いにきたのか?」

「いいえ、教えにきたのよ、貴方が忘れ去られた物だと」

「はぁ?」

「もう貴方は、外界では死んだことになっているわ。言いたいのはそれだけ。これからの新しい生活でも楽しみなさい。それはそうと、自己紹介がまだだったわね。私の名は八雲紫。以後、よろしくね。」

「…………碓氷勇人だ。」

「それじゃぁ、また今度お会いしましょう」

「おい、待て!ってもう行ったか。ッチ」

「碓氷さん、紫さんとは何かあったのですか?」

「あいつに食われかけて、死にかけた」

「え!でもどうして生きているのですか?」

「あいつに一泡吹かせたからかな?」

「す、すごいです!あの方は妖怪の中でも最強クラスですよ!!」

そ、そうか。てか、近い近い俺はパーソナルスペースは広くとるタイプなんだ。

「あ、すいません少し興奮してました。ところで外界の世界について聞きたいのですが。」

「全然いいよ。俺が答えれるなら」

 

そこから、外界の話をした。彼女も少し前まで外界に居たそうだ。

ただ、ジョジョ好きなのは驚いたなぁ。まぁ、俺も弟の影響でジョジョを5部まで読んだなぁ。あ、好きなキャラはエシディシと吉良吉影です。東風谷さんは承太郎って言ってたなぁ。まぁ、カッコいいしな。どこまで進んだのですか?と聞かれ8部まではいったよといった時の彼女反応は面白かった。かなり感情が豊かだなぁ。

 

「ところでここはどんなことがあるんだ?あの、あの八雲っていう奴のあの能力はなんだ?」

「そうですね…紫さんは境界を操る能力を持っています」

「どんな能力なんだ?」

「えーっと、貴方も見たと思いますが、あれはスキマと言って、遠距離を繋いだり、幻と実体の境界も操れます。」

「そんなに強い奴だったのかよ」

 

命があって本当に良かった。

 

「なら、東風谷さんも能力を持っているのか?」

「えぇ、奇跡を起こす能力です!」

 

これまた、チートな能力を…奇跡は偶然で起こすはずなのに必然的に起こせるとは…

 

「ただいまー」

「あ、神奈子様だ」

 

と言うと彼女は声のする方へ言った。

 

「どうすっかな…俺…」

「神奈子様、彼が碓氷さんです」

「そうか、宜しく、碓氷」

「はぁ、よろしくお願いします…」

「八坂神奈子だ」

「よろしくお願いします、八坂様」

「そんなに固くなくていいよ」

「はぁ…」

 

こちらは、さっきのロリ神とは違い威厳があり、神様っぽい。

 

「で、俺の顔に何かついてます?」

「あぁ、すまない、紫のやつが面白い奴だと言ってたもんでな。案外普通の顔だな。」

 

さいですか。

 

「ところで碓氷」

「はい?」

「ここにすぐに身体が治る薬があるのだが…飲むか?」

 

そりゃぁ、早く治したいので

 

「えぇ、飲みます」

「ちょっと、神奈子様…」

 

ゴクッ

 

うへぇ、変な味。良薬口に苦しか。

 

「……………………!?」

 

いてぇ!身体中いてえ!特に左肩、右手なんかもげそうだ!

 

「ぐぐぐぐ…はぁーはぁー、ック」

 

やばい、脂汗まで出てきた。

 

「アハハハ!言い忘れてたが、それ飲むと身体中痛くなるぞ」

 

先に言ってクレェェェ!!

 

 

 

ー10分後ー

 

 

 

 

「フゥーフゥー、死ぬかと思ったら」

 

だが、身体はしっかり治った。前より身体が軽い気がする。まさに最高にハイッて(ry

 

「とりあえず今日は泊まっていってください」

 

なんか悪い気がするが、あても無いので、

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。お世話になります。」

「それでは、夕飯の支度をしてきます」

「俺も手伝おうか?」

「大丈夫です、しっかり身体を休めてください」

さいですか。

「俺の荷物はどこかにあるのか?」

「それなら、あそこに」

「どうも」

 

東風谷さんは夕飯の準備をしにいった。うーむ、暇だなぁ。そうだ、荷物の中は…

リュックには筆箱、教科書、ノート、財布など…

セカンドバックには部活用の練習着とジャージとウィンドブレーカー(ズボンのみ、上は着ない主義だ)

スマホもあるが、充電できる訳なさそうなので使わないようにしておく。くぅー、音楽聴きてぇ。まぁ、あーだ言ってもしょうがないので、

 

「勉強すっか」

 

何が楽しくて勉強かて?楽しくねぇよ。でも、習慣てのは怖いもんで、なんかしないといけない気がする。とりあえず、数学の円の方程式でも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「碓氷さーん、夕飯ができましたよー。」

 

と呼びましたが返事がありません。どうしたのでしょうか?寝ていらっしゃるのでしょうか?客間を見ると、

カリカリカリ……

ものすごい勢いで何か書いています。とても集中しているようです。私には気づいていないようです。何か数字や見たことのない文字がいっぱい並んで……うーん、頭が痛くなりそうです。

 

「そうか、ここはこうゆうことか。ん?どうかしたか?」

「あ、夕飯ができました、一緒に食べましょう。」

「了解です」

 

そういえば、神奈子様と諏訪子様以外の人に食べてもらうのは、初めてな気がします。お口に合うでしょうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、俺は一旦集中すると周りが見えなくなるらしい。東風谷さんが近くにいることに気がつかなかった。後、今更ながらものすごく腹が減った。あの時からどれぐらいたったのやら…

とりあえず、夕飯だそうなので東風谷さんについて行こう。

 

「おっ、碓氷」

「八坂さん、それと洩矢さん?」

 

なんか、洩矢さんって年上のはずなのに呼び方に違和感が…

 

「なんで、私だけ疑問形にした?」

「まぁまぁ、いいじゃないか。それより君は少々他人行儀すぎる。別に呼び捨てでもかまわんよ」

 

そうは言っても、神様を呼び捨てだななんて少し抵抗が…

 

「それでは俺も東風谷さんと同じように神奈子様と諏訪子様で…」

「うーん、まだ、堅苦しいが、まぁいいか」

「私も呼び捨てでかまいませんよ」

「じゃあ、東風谷でいいかな?」

「上の名前じゃあ、違和感があるので下の名前でお願いできますか?」

 

うーん、参ったなぁ。俺は基本、人は苗字で呼んでいる。だから、あまり下の名前で呼ぶのは慣れてない。

 

「こch…」

 

あぁ、そんな目で見ないでくれ!しょうがない、意を決して俺は

 

「改めて、よろしく、早苗」

 

うん、慣れねぇ。なんか、恥ずかしい。

 

「はい、勇人さん」

 

うむ、照れ臭い。

そんな事もありながらも俺らは食事を始めた。

ただ、カレーが出できたのは、驚いた。てっきり、和風なものかと。でも、かなり美味しかった。久々、腹一杯食った気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、あんたは何か能力を持っているのかい?」

 

と夕飯を食べ終わってゆっくりとしてたら、諏訪子様から聞かれた。

 

「多分、俺は能力なんて持ってないですよ。」

「ふーん…じゃあ、そんな不思議な力に興味はあるかい?」

「…ないと言えば嘘になりますかね…」

「じゃあ、霊力でも使えるように修行すれば?」

 

へぇー、霊力なんてあるんだ…は?

 

「俺がそんな力使えるんですか?」

「多分、使えるよ。君には霊力が感じられる。他の人よりは、才能があるかもしれないよ。」

「マジか……」

 

てか、どうやってわかるんだ?あれか、気みたいなやつなのか?

 

「うまく使えば、空も飛べるようになるよ」

 

え!?マジかよ!ひみつ道具なんか必要無くなるじゃんか。

 

「まぁ、ここの世界において、力ある奴はみんな飛べるけどねぇ、早苗だって飛べるぞ」

「………」

 

なんなの?空が飛べるのが自転車に乗れる感覚でできるなんて…科学者が聞いたら泣くぞ。

 

「どうだい、修行してみるかい?」

 

そりゃぁ、答えは

 

「えぇ、もちろんです!」

「勇人さーん、お風呂いいですよー」

おぉ、お風呂にも入れさせて貰えるのか。感謝しきれない。

「着替えどうします?」

「うーん、一応着替えはあるから大丈夫」

 

もちろん、着替えはジャージだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ、生き返る〜」

 

それにしても、ここの風呂は広い。家の風呂よりは広い。くつろぎながら、色々あったおかげで溜まった疲れをとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今何時だろう、……10時か」

 

俺は腕につけてた時計を見た。ここには、時計が見当たらないのでつけといてよかったと思う。もう、こんな時間か。

 

「ふぁぁ、眠い」

 

俺は早寝遅起き型だ。睡眠は大事。いつも、この時間には寝る。なんか、やっとまともに寝れる気が…いいや、早くねよう。

 

「これでようやく今夜も熟睡して寝れる……」

 

そんな、呑気なことを言いながら、早苗たちに寝ることを告げ、準備して貰った布団で眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー」

 

やっと片付けが終わりました。今日はいつもと違ったのでつい、料理を作り過ぎたのですが、彼は食べてしまいました。あの体にどこへ入っていったのでしょう。それで、あの体型とは…羨ましいです。彼もとい勇人さんはお風呂に入るとすぐに寝てしまいました。まぁ、色々あったので疲れたのでしょう。それにしても、お風呂の時間は短かったです。早風呂派なのでしょうか。

ちょっと、彼のことについて考えてみます。容姿は、いい方だと思います。だからと言って、目を引き付けさせるほどではないかもしれませんが。鼻筋がしっかり通っていますが、目は少し瞼が下がっていて視線が悪い感じがします。そのせいでしょうか、目が死んでるように見えます(ちょっと失礼ですね)。髪は黒で、てっぺんが少々元気な感じがします。体格は小柄なほうです。男ですから、私よりは背が高いです。

ただ、何より不思議なのは、特に変わったところはなく、いたって普通の青年のはずですが、あの紫さんに一泡吹かせた人なのです。もしかして、何か能力があるのかも…気になりますね…

 

「早苗〜」

 

あ、諏訪子様が私を呼んでます。

 

「何でしょうか?諏訪子様」

「突然で申し訳ないけど、明日からあの勇人君に霊力の使い方教えあげられないかな?」

「えぇ、かまいませんよ。でも、どうして?」

「彼にはちょっと才能がありそうだからねぇ…」

やはり、彼には何か力を持っているのでしょうか?

「明日からで良いのですね?」

「あぁ、よろしく頼むよ」

「任せてください」

 

ちょっと明日が楽しみです。




アドバイス、誤字脱字の指摘をよろしくお願いします。
また、質問、リクエストもどんどんください!


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第8話 修行の日の青年

「ーてください!、おきてください!」

 

うーん、何だ?今日は学校も部活もないからまだ起きなくていいんだぞ?

 

「……もうちょっと」

 

ガバッ!

 

「おきてください!」

「分かったから…」

「そう言いながら寝ないでください!」

 

まだ眠くボケ気味の俺を引きずりだすように早苗は起こした。

 

「なんで、早起きなんか…」

 

まだ7時だぞ?休日は10時まで眠るとゆうのに。

 

「今日から霊力が使えるように私が鍛えてあげます!」

「…………は?」

 

あぁ、確かに昨日の夜そんな事を言った気が…てか、もう始まるのかよ…

「まず、貴方の霊力がどれだけのものか調べさせてもらいます」

 

そう言うと、彼女は、変な機械を持ってきた。ちょっとぐらい、待ってくれよ。てか、なんだ、あれ。

 

「霊力測定器です!にとりさんに作って貰っててよかった」

 

なんか、胡散臭い機械をもってきたなぁ。はい、どう見てもスカウターです。てか、にとりってだれだ?

 

「とりあえず、ここに立ってください」

 

急だなぁ…

 

「はぁ」

 

ピッピッピッ……

 

「!!すごいですよ!勇人さん!」

 

そ、そうか。こっちは「ふんっ、霊力はたったの3か、クズめ」と言われそうで少し焦ってた。

 

「どのくらい俺はあるんだ?」

「100ぐらいです。普通の人は5くらいですので、とてもすごいですよ!」

 

まじか!53じゃね?と思ったが杞憂だった。てか、俺にそんな隠れた才能が…

 

「ところで早苗はどのくらいなのか?」

「わたしは、50万ほどです」

「アッ、ハイ…」

 

やはり、早苗は普通のコジャナイノカ…

 

「私よりは上の人はたくさんいますよ」

 

あぁ、俺のプライドが……

 

「でも、大丈夫ですよ!私が鍛えますから!今は弱いかもしれませんが、勇人さんなら強くなると思いますよ」

 

この娘は少し天然のようだ。イマハヨワイダナンテ…

傷心の中、俺は修行を始めるのだった。

 

「とりあえず、瞑想から始めましょう」

 

とゆうことで、俺は瞑想を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暇だ…もうかれこれ、3時間はこのままだ。これ、効果あるのか?早苗曰く

 

「霊力を高めるにはまず五感を鍛えることからです!自然の音や空気の流れを感じて、五感を鍛えてください」

 

自然の音ねぇ…俺はとりあえず耳を澄ませた。

…………………………………………………………………………………

ザァーザァー

これは木の揺れる音か?今日は少し風が強いようだ。

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、とりあえずお昼にしましょう」

「そうだな、朝ごはんも食ってないし」

 

はぁー…修行は大変そうだ。朝飯抜きでやるなんて…なかなか、ハードだな。

 

「あっ!朝ごはん食べてませんでしたね、ごめんなさい。わすれてました」

 

そこまで、ハードでは無かったようだ。朝ごはんを忘れるのか…やはりこの娘は天然か…

昼飯も食べ、また俺は瞑想に入った。

とりあえず、基本的に瞑想をしておくようだ。

…………………………………………………………………………………

うむ、集中力が切れてきた、もう終わってしまうか。

 

「あ!もう終了してもいいですよー」

 

早く言ってくれ…

俺が借りてる部屋に戻ると、ど真ん中にダンボールがあった。なんだ?誰か入ってんのか?

 

「いいえ、違うわよ。貴方の荷物よ」

「おわっふ!?」

 

変な声が出てしまった。振り返るとスキマから女性が出できていた。えっと…名前はたしか…

 

「紫よ、ゆかりんでもいいわよ♡」

「あぁ、八雲さんでしたね、この前は本当にお世話になりましたよ」

 

皮肉を込めて言ったつもりだが、相手はどこ吹く風、全く気にしてないようだ。てかなんだよ、ゆかりんって、まるで年増のおばさんが若作りしてみるみたいじ…

 

「あまり、失礼なことは考えないのよ」

 

心読まれたのか?ちょっと、殺気を感じた。もしかして、年齢をきにして…

 

「まぁ、そんなことより荷物の中を見なさい」

 

ふむ、そうしよう。

ダンボールの中は基本的に服だな…よかった、下着もある。さすがに3日連続で同じものを着るのは少し嫌だったからな。あとは…おぉ!これは!

 

「抱き枕も持ってきてくれたのか!」

 

俺は抱き枕がないと少々寝れんのだ。これはありがたい。

 

「ん?これは…」

 

じいちゃんから貰った箱だ。中にはもう、何も無いとおもうが…

 

「それぐらいでいいかしら?」

「あぁ」

 

ただ、少々引っかかることがある。

 

「俺を食う気は無いのか?」

 

そう、初めて会った時は殺しにきてたじゃぁないか。

 

「無いわよ、貴方、おもしろそうだからね…」

「てか、この前、外界では俺は死んだことになっているとか言ってたな。だとしても、俺が戻っても問題ないんじゃ無いのか?」

「残念ながらそうはいかないわ」

「何故?」

「いつか、分かるわよ。とりあえず、ここのお世話になりなさいな」

 

いつまでも、お世話になるのは良く無いと思う。どうにかしないとなぁ…

 

「それじゃぁ、また会いましょう」

「あぁ」

 

彼女はスキマの向こうに行って消えた。食えねぇやつだ。

とりあえずは欲しかったものが来たので良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこともありながら、瞑想の修行しながら3日経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飽きた」

 

さすがにずっと同じ修行は飽きる。もうそろそろ、他の修行は無いのかなぁ。本当に俺に霊力があるのか不安になってきた。

あぁ、暇だ暇だ…

あっ、鳥があの木から飛んでった。今日も参拝客が来てるのか…

…………………………………………………………………………………

ん?誰か来たな。早苗かな?違うな、これは

 

「諏訪子様?」

「そうだよ、よく分かったね、もう、修行の成果が出てるじゃないか」

「え?」

「だって、後ろも見ずに誰か当たるなんて普通はできないだろう?」

 

そう言えばそうだ。いつから、分かるようになったけ?てか、鳥の場所から、参拝客が来てるか分かるのってすごいんじゃね?いや、普通かも。とりあえず、諏訪子様に言ってみた。

 

「ほほう、そこまでいったのか…やっぱり才能あるね…」

 

やったぜ。

 

「うむ、明日からさ新しい修行に入るように早苗に言っとくか」

でも、本当に霊力があるのか?俺に。実感が未だに湧かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諏訪子様から聞きました。さすがです!たったの3日でそこまでいくなんて…少し羨ましいです…」

「そうか、で、次の修行は?」

「とりあえず、弾幕を撃ってみましょう」

 

は?弾幕って、俺が八雲と戦ったとき、八雲が撃ってたやつか?少し早過ぎるんじゃね?

 

「指先にエネルギーを溜める感覚で力を溜めてください」

 

こうか?

 

「……何も起こらんぞ」

やはり、俺には早過ぎたのだ。

「おかしいですねぇ、貴方くらいなら出てもいいはずなのですが…」

 

とりあえず、思いっきり力を込めた

 

「ふんっ!」

「あ!」

「あ」

 

何か出できた。すげー!俺も撃てたぞ!でも、なんか体がだるい。

 

「すごいです!初めてで、これだけの弾幕とは…」

「そうか、ただ疲れたな…」

「初めてですからね。まだ、効率良く出さないと思います。この弾幕は少々荒く出されてます。勇人さんの霊力は少々攻撃的のようです。ほら」

 

と早苗は俺の出した弾幕に大きめの石を近づけ触れさせた。

バキッ

 

「!?」

 

石が粉砕された!

 

「普通の霊力なら綺麗に割れるのですが、勇人さんのはこのように粉々にしてしまいます、でも、悪い訳ではないですよ、攻撃するにはこっちの方が都合がいいですし」

 

そうか、本当に俺に霊力があるとは…

 

「霊力を効率良く出せるように特訓しましょう!」

 

この日から霊力を出す特訓が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊力を出す特訓をし始め3日目、だんだん俺は連続して出せるようになった。これ、指先から出したら完全に浦飯◯助だよなー。まぁ、まだ早苗のようにはいかんな。この世界には弾幕ごっこという遊びが、あるらしい。なんて、恐ろしい遊びだ。一度早苗にその様子を見せてもらったがあれだけの量を出せる気がしねぇ。

 

「まぁ、勇人さんは、数よりも一撃一撃が重いタイプですからね」

 

あとその時に本当に早苗が飛んでるのを見た。もう、科学なんか知りませんってやつだなぁ。

 

「大丈夫です、明日から教えますよ」

 

俺もそんな世界に入っていくのか…ヤベェ、少しワクワクしてきた。久々だなぁ、この感情は。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、俺は珍しく11時になっても眠くならなかった。あー、どうしよう。なんとなく俺はじいちゃんから貰った箱を取り出した。

やはり箱の中にはあのナイフとは真っ白な紙だけだ。紙に仕掛けがないかじっくり見てみる。やはり、なんの仕掛けもないか。炙り出しか?うーん、少し霊力をその紙に込めてみた。本当になんとなくだ。すると紙から文字が浮かび上がってきた。

 

「……?!なんだ?これは…」

 

 

 

 

「選ばれた子なる血をその輝く石に垂らすせば、神によりて作られし神器を手に入れれむ」

 

 

 

 

 

古文で書かれてるぞ。古文は学校の授業で習った。大丈夫だ、読めるさ。えっと…って、これそんなに難しくないじゃないか。俺が選ばれた子なのかは知らんがこの箱の宝石に血を垂らせばいいのか。

俺はナイフを取り出し、指を少し切った。その血を宝石につけると、

 

「眩っ!!」

 

箱が光った!玉手箱か?ジジィにはなりたくない!

 

「うん?」

 

光がなくなったかと思えば箱の中が変わってる。なんだ?

恐る恐る手を入れると…

 

「なんだ?これは?手が入ってくぞ!」

 

箱の中はまるで四次元ポケットのようになっていた。少し漁ってみると、手に何か当たった。

 

「これは…また、紙か、いや、何か書いてるぞ」

 

 

 

 

「勇人へ

この手紙を見つけたということは、わしはすでに

この世にはおらず、お前さんもその世界にはいなく

なったのであろう。本当はこの手紙を読む機会がな

いことを願うばかりだが、今こうして読んでるので

あればしょうがない。

この手紙を読んでいるということは、お前さんは

霊力をつけたということであろう。それであれば、

身の危険も回避することができることだろう。

さて、本題だが、何故この事が分かるのか?と思

っているだろう。そうなってしまったのにはわしに

責任がある。わしは元々人間ではない。元々は道具

を司る神だった。道具に神力を宿らせたり、付喪神

を宿らせたりしておった。ただ、わしは人間に憧れ

るようになり、ある時わしは他の神々からの反対を

押し切ってわしたちの世界では禁忌である『天降り』

をしてしまった。多分、他の神々はさぞかし怒ったで

あろう。だが、わしはその決意を捨てず、神の力を

失い、ただの人間になった。そして、人間のように

恋をし、家庭を持ち、子や孫にまで恵まれた。だから、

このことは、全く後悔しておらんかった。お前さんが

まだ小さかった頃、急にわしを殴り始めた時があった

ろう。その時、わしはお前さんの中に霊力があるのを

感じた。それも、ただならぬ量を。あまりに多すぎて

感情の方に流れ込み攻撃的な気分にさせたのだろう。

わしはこの時初めて後悔した。わしは完全に力を消せ

てなかったのだ!幸いと言うべきでだろうか、この力

が受け継がれたのはお前さんだけだった。本当にすま

ない。

そして、運が悪い事にわしの存在がバレたらしい。天か

らわしを追う者が出始めた。このままにすれば、わしは

捕らえられるであろう。もし、お前さんが見つかったら

どうなるか?確実に消されてしまうだろう。人間が神の

力受け継ぐ訳にはいかないのだ。だが、わしの可愛い孫

見殺しにするなんてできん!わしは古くからの友人の妖

怪に匿って貰うように頼んだ。お前さんの力が一番高く

なるだろうという時期に。

ナイフは見つけたか?そのナイフにはわしが神力を宿ら

せておる。また、箱の中には銃が入っているだろう。1

つはわしが神力を宿らせておる。もう二丁はただの銃だ。

わしが神力を宿らせた銃は霊力によって弾をうてる。後

のはお前さん自身で改造し霊力の弾を撃てるようにして

くれ。そのための、道具はこの箱の中に入っておる。器用

なお前さんのことだ。きっと、できる。

最後だが、お前さんが霊力を持っている。それは分かっ

たであろう。ただ、お前さんには特殊な能力がある。それ

が何なのかはわしにも分からん。だが、お前さんの中に

流れているその血が鍵となるだろう。

わしの娘や孫たちの成長が見れんのは残念だ。だが、わし

は妻や娘、孫には幸せになってほしい。しかし、お前さん

はわしのせいで家族といられない。本当にすまない。許し

てくれとは言わん。だが、わしはお前さんたちを愛してお

る。それだけは、忘れないでくれ。

汝に幸あらんことを… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

俺は箱から銃を取り出した。

 

「安心してくれよ、じいちゃん、俺は大丈夫だ」

 

恨んだりはしないよ、むしろ感謝しきれない。俺のためにこんなことしてくれているのに恨めるわけがないじゃないか。家族と一緒にいられないのは寂しいが、ここの世界で幸せに生きてみせるよ、じいちゃん…




衝撃の事実!これから勇人の運命は?





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リクエストや質問がありましたら、どんどんしてください!


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第9話 決心した日の青年

あの晩が過ぎ、朝を迎えた俺はあの箱の中にあったものについて整理していた。まずは、最初から入ってたもの。

 

 

ダガーナイフ

霊力により文字が出た紙

何か装置がついたリストバンド

 

 

次は、昨日の夜に見つけたもの

 

 

回転式拳銃(ピースメーカーみたいだが、グリップに何か装飾が施されている)

自動拳銃二丁(ベレッタ92か?よく分からん、2丁拳銃は現実的には実用性が薄いて聞いたことがあるなぁ)

工具らしきもの(ただ1つ1つの道具に装飾が施されている。これで改造すんのか?)

 

 

「ふぅ、なかなか物騒な光景だよなぁ」

 

銃やナイフ並べてるなんて、日本なら捕まってしまうだろな。まぁ、ここは幻想郷なので問題ない。友達に銃が好きな子がいたから銃の知識は少しある(こうして手に取るとは思わなかったが)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人さーん、起きてますかー?」

 

もうこんな時間か、そういえば今日空を飛び方を教えてくれるんだっけ?もう、あの猫型ロボットは必要ないな。早く朝ごはん食ってしまって教えてもらおう。銃はこっそり練習することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし、始めていこう。

 

「よろしく頼むよ、早苗」

「えぇ、もちろです!空の飛び方はですね…」

 

なんか、だんだん声が尻すぼみに…

 

「うーん…なんて言えばいいんでしょうか?」

 

なるほど、表現しにくいのか。そりゃそうだ、こっちは想像もつかん。

 

「弾幕は手の方に力を込めましたよね、飛ぶ場合は全身に力をこめるのです!」

「どんな感じに?」

「えっと、こうブワッと」

 

なるほど、分からん。ブワッとってどうすんの?自分で考えてみるか。弾幕のときは目標に向かって力を込めてた訳だから、空を飛ぶには……そうか!弾幕を放つ際、少しだけ反動があったから、地面の方向に力を込めれば……

 

「んぐぐぐっ…」

「あ!浮いてますよ!」

「まじか!?っておっと、」

 

気を抜いたらダメなようだ。だが、確かに浮いた。ただ、制御が難しい。

 

「もう一回!」

 

おぉ!さっきよりも高く浮いてるぞ!少し前に進んでみよう。

 

「……おぁ!?」

 

バランスを崩してしまった。やばい、調子乗って少し高く浮いてしまった。

 

「危ない!!」

ガシッ!

 

「大丈夫ですか?でも、すごいですよ!たった、数分でこんなにもできるなんて!」

「お、おぅ」

 

近い近い!もう大丈夫なので離してほしい。ほら、早苗は女の子だから、こう……

 

「って、顔赤いですよ!熱でもあるんですか!?」

「だ、ダイジョウブタヨー、ゼンゼン、ゲンキダヨ」

「本当に大丈夫ですか?!言葉がおかしいですよ!?」

 

顔が近い近い!俺は女子とふれあう機会なんてほとんどなかった(泣)だから、少々免疫がねぇ、ないんですよ……

 

「ホントウニダイジョウブタカラ!」

 

と俺は後ろに飛んだ。

 

「あれ?」

 

後ろにとんだ?

 

「移動ができたぞー!」

 

やったぞ、と思った瞬間

「あ」

「あ!」

 

バタッ

 

「大丈夫ですか?ケガは?」

「あー、大丈夫大丈夫、ほら」

 

俺は元気だと伝えるためもう一回浮く。どうやら、まだ少し浮いて、ちょっと移動するだけしかできないようだ。まぁ、練習すれば上達するだろう。

 

「良かったです。それにしても本当に勇人さんはすごいですね!」

「う、うんまぁな」

 

ちょっと、照れ臭い。

 

「ふふ、じゃあ少し休憩にしましょう」

「賛成」

 

ということで少しお茶を飲んで落ち着いた。

 

 

 

「ふぅ、お茶がうまいな」

 

ちょっと、今回は霊力を全身で使ったせいか眠いなぁ。日の暖かさがより眠気を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人さん、修行またしますか?って、寝ちゃってますね…」

 

やはり、空を飛ぶ練習はきつかったのでしょう。ぐっすり寝てしまってます。彼は本当にすごいです。才能の塊って言うのでしょうか。私より呑み込みが早く、実践に移す能力が高いです。まるで、霊夢さんみたいだなぁ。少し羨ましいです。

はっ!現人神である私が弱気になってはいけません。今、私は彼の「師」なのですから。

 

「……うーん」

 

起こしてしまったでしょうか?彼は寝返りをうちました。寝顔を覗くのは良くないと思いますが、ちょっと覗いてみましょう。

普段は、表情の変化があまりないのでこうして、穏やかに眠っている表情はちょっとレアかもしれません。彼はどんな夢を見てるのでしょうか。

最初、彼を見つけた時は驚きました。なんせ、妖怪の山の中で怪我して倒れてたのですから。助けに行ってもっと驚きました。大型の妖怪が近くで死んでいるのです!彼も妖怪なのでは?と疑いましたが、格好や周りの荷物から外来人だとすぐに分かりました。また、学ランを着ていたので年齢もどのくらいかすぐに分かりました。

彼の怪我が治って(永琳さんのお薬を飲んですぐに治りましたが)、彼をどうするか考えてたら紫さんがやってきてすごく驚きました。勇人さんから話を聞いた時はもっと驚きました。

彼が寝てしまった後、紫さんがまた現れました。

 

「紫さん、どうしましたか?」

「彼をここに住まわせてはあげられないかしら?」

「別に構いませんけど…なぜです?」

 

大妖怪がお願いするなんて珍しいです。

 

「昔からの友人の頼みでね…」

 

そう言う彼女は遠い過去を思い出すような憂いを帯びた顔をしてました。昔、何かあったのでしょうか。

 

「ということで、よろしくね」

「あ、はい!任せてください!」

「一応、神奈子と諏訪子には許可とってるわ」

「ところで彼は…」

「ただの事故でこっちに来てしまった外来人よ」

 

どこか、裏がありそうでしたがそれ以上聞くのをやめました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁ…よく寝たって何時だ?」

 

外を見れば空が真っ赤だ。どうやら、あのまま寝過ごしたらしい。やっちまった。

 

「あ、起きた」

「うぉい!」

 

近くに諏訪子様がいた向こうには神奈子様もいる。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」

 

死角から出てこないでほしい…心臓に悪い。

 

「まぁ、それはいいとして、修行着々と進んでるそうじゃないか、早苗が褒めてたぞ」

「あぁ、私もすごいと思うぞ、短期間でここまで上達するなんてな」

 

二柱神に褒められ少し恐縮してしまう。それを誤魔化すためにお茶を飲んだ。

 

「これで、早苗のお婿について悩まなくてもいいね」

「!?ゲホッゲホッゲホッゲホッ…ふー、何言ってるんですか!?」

 

危うく吹き出しかけた。むせたが。

 

「うむ、そうだな」

 

神奈子様まで…

 

「いや、いい人は他にいますって、それより早苗の意見を主張しないと…」

 

そうだ、恋愛は個人の主張が尊重されるべきだ。

 

「早苗もいいと思ってるよきっと」

 

そんなバハマ

 

「おーい、早苗ー」

 

え?なんで、早苗を呼んで…まさか!

 

「何でしょうか?神奈子様?」

 

早苗!こっちに来るんじゃぁない!

 

「早苗もいい年な訳だが、勇人を婿にしたらどうた?」

「!?」

 

あぁ、言ってしまった…

 

「えっ、いや…その…ちょっとすいません!」

 

そういうと、彼女は部屋を走って出た。あーあ。

 

「脈ありだね」

「どこがですか?はぁ」

 

少々、ここに居づらくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

急に呼ばれたと思ったら、あんな話をされるなんて…思わず逃げてしまいました。神奈子様も、意地の悪いことを…でも、少し考えてしまいます。確かに勇人さんは悪い人ではないと思います。少々、無愛想ですが、料理を手伝ってくれますし、優しさはあるでしょう。好きか嫌いかと聞かれると好きな方に入るでしょう。…ってなにを考えているのでしょう、私。ちょっと、頬が暑いです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の夕飯はなかなか面白かったな。勇人はどこか魂が抜けた顔をして食べてたし、早苗は顔を赤くして時折、勇人の方を見るし。神奈子も面白がってるな。こいつが来てから、早苗もよくなったと思う。やはり、外界から急にここに来たわけだから、少々寂しい思いをしてたのだろう。ここに来て、知人も増えたようだが、やはり同じ世界出身というのは大きかったのか、前よりもっと明るくなったと思う。早苗には本当に申し訳ないと思っている。急にここなら引っ越すことになったからな。

でも、この娘は嫌な顔せず、ここまでついて来てくれた。本当によく出来た娘だ。

彼に婿になってほしいと本気で思っている。彼の事情は紫から聞いている。彼も急にここに来た。最初の頃は、どこか固い感じがしたが、今は打ち解けてくれてると思う。昨日の夜にきっと事実を知ったのだろう。今日の彼の様子から、幻想郷で生きていく決意をしたようだ。あのような子は絶対強くなる。早苗を守ってやれる存在になれるだろう。早苗だって、勇人に対して悪い印象は無いはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし」

 

俺は今外にいる。早苗には散歩しに行くと言った。守谷神社の保護範囲外には出ないでくださいと言われたが出る気は毛頭ない。

目的はこれだ。

 

「どう、霊力を込めればいいんだ?」

 

じいちゃんが俺に残してくれた銃である。ただ、使い方は書いていなかったので感覚で使うしかない。

えっと…シリンダーって言うんだっけ?そこに霊力を込める。

 

「お?」

 

弾倉に霊力による弾が、装填された。スムーズにできたな。じいちゃんの能力のお陰だろうか?

で、次にハンマー?を引き起こして、20メートル先の木に狙いをさだめ、引き金を引く。

 

パンッ

 

乾いた音が響く。音は思ったより大きくない。火薬を使ってないからか。反動もそんなにない。片手で撃っても問題なさそうだ。

 

パンッパンッパンッパンッパンッ

 

全6弾全て撃った。これは武器として相当使えるぞ。撃った木を確認すると6弾全て貫通していた。威力ヤベェ。弾も残らないしいいな、これ。リロードはシリンダーに霊力込めればいいのでそんなに時間がかからない。強い。他のも確認してみよう。

次は自動拳銃だ。ただ、これは何もされてないらしい。マガジンに霊力を込めても何も起こらなかった。これは自分で改造するしかないか。あと、リストバンドらしきものは全部で4つもあった何コレェ。試しにつけたが、何も起こらない。うーむ、とりあえず霊力流せばなんとかなるっしょ。

パシュッ!

 

「うぉっ!」

 

何か飛び出たぞ!これは、針?裁縫道具の針ぐらいだな。あれ?糸がついてる。リストバンドに繋がってるぞ。これで登れるのか?と思ったが地面に刺さった針は簡単に抜けた。なんだこれ?てか、針戻らんぞ。もう一度霊力を込めると針は戻った。

 

「もう一回!」

 

パシュッ!

今度は針に霊力を伝えるように霊力を込める。

 

「お?」

 

針が取れなくなった。霊力を込めるのをやめると簡単に抜けた。4つ全て試したが、1個だけ針が無かった。糸だけ出るのだ。とりあえず保留だな。

次はナイフだがこれは霊力を込めようが何も起こらなかった。あの時、宝石が輝いて見えたのは気のせいか?ナイフをよく観察すると持ち手の一番下の部分に穴が開いてる。はっ!もしかしてこれは…

 

「これをこうして…ほいっ、できた」

 

穴にさっき唯一針の無かったものの糸を通して結んだ。これで投げて…

 

「そりゃっ」

 

ドスッ

 

で回収したい時に

 

シュルシュル…

 

おぉ、これでナイフを投げて失くすことは無さそうだ。

 

 

「よしっ、これで一通り確認できたな」

 

自動拳銃の改造は明日からだな。とりあえず、今日は休もう。明日こそ空を自由に飛んでみせるぜ。

そんなことを考えながら夜の道を歩いた。




アドバイス、誤字脱字の指摘をよろしくお願いします。
また、リクエストや質問もどんどんしてください!


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第10話 修行完了の日の青年

うーむ…俺は今、猛烈に悩んでる。目の前には二丁の拳銃とよくわからん工具。全く使い方が分からん。これでどうしろと?じいちゃん、教えてくれぇ…あぁ、もうダメだ、寝よう。明日は空を自由に飛べるようにするために特訓すると決めてるんだ。あまり、体に疲労は残したくない。

 

 

次の日、

 

「よし、はっ……」

 

今、絶賛特訓中だ。浮くまでならなんとかなるが、そこからがなかなかできない。すぐに、バランスを崩してしまう。

 

「うわっ」

 

まただ…

 

「うーん、どうしたら良いのでしょうか…」

 

早苗も必死に考えてくれてる。こりゃあ、是が非でも飛べるようにならないと。ちなみに、昨日は諏訪子様が爆弾を投下してくれたわけだがとりあえず、問題は無かった。はぁ、本当に昨日は焦った。そんなことはおいといて、だ。

 

「全然、うまくならねーな…」

 

浮いてから、横に移動するのがなかなか難しい。バランスが取れない。

 

「一旦、助走つけてから飛んだらどうでしょう?」

「なるほど、やってみるか」

 

この際、どんなアイデアも取り入れるしかないな。

 

「碓氷、いっきまーす」

 

ダダダダダッ

 

「ほっ、おぉ!?」

 

あれ?俺、どうなってる?進んでるぞ!

 

「うぉぉ!スゲー!」

 

旋回もしっかりできる、ヤベェ楽しい。風が気持ちいいぞ。

 

「勇人さん!ついに飛べるように!」

「あぁ!スゲー楽しいよ!これ」

「そうでしょう!」

 

早苗が俺の横に並んだ。

 

「とりあえず、山の周りを一周しましょう、ついてきてください!」

「おう!」

 

 

少女&青年飛行中……

 

 

 

「もう、大丈夫ですね!これで勇人さんもこちらの世界の仲間入りですよ!」

「おうよ!そうだ、最後の直線、競争しようぜ!」

「いいですよ!負けませんから!」

「ヨーイ、ドン!」

 

俺は足元を中心に霊力を込めた。速いぞ。風がかなりすごいことに。

 

「勇人さーん!ちょっと速過ぎますよ!習得したばかりなのに…」

 

うん?早苗が何か言った気がするが、いいか。そうだ、着地どうしよう、あ、教わってなかった。

 

「やばい!」

 

どうする!このままだと、俺は酷いことになってしまう。とりあえず、反対方向に霊力を集中させ、スピードを落とした。が、ちょっと遅かったようだ。減速しきれない。

 

「っく、こうなったら!」

 

俺は高度を下げ落ちても問題ない高さになったところで、霊力を止めた。あとは、運動エネルギーしかないので、地面を転がるように着地する。

 

ゴロゴロ…………

 

そのまま、立ち上がる。

 

「ふぅ…うまくいった」

「勇人さーん」

「おう、早苗俺の勝ちだな」

「そうですね悔しいです」

 

だが、早苗はなんの問題もなく着地した。

 

「……」

「どうしましたか?」

「いやぁ、俺はどうやら飛び始めと着地が下手だからどうしようか、もうこのままでいいか…」

 

早苗は飛び方として、ヘリコプターのような感じか?速くない代わりに繊細な動きができる。あと、助走もいらないし、着地も上からストンとできる。対して俺はジェット機か?直線においての速さはあるが、小回りが利きにくく、助走も必要で着地も少し距離がいる。まぁ、いいか。それは個性ということで。

 

「もう飛べるようになりましたから、教えることは肉体強化とかくらいですかね….勇人さんは向いてそうですし…多分、すぐにできるようになると思います」

「そうだなぁ、それまで終わったらどうするか…いつまでもお世話になったらいけないし、もうそろそろ独り立ちしきれないとな…迷惑だろう?」

「そんなことありませんよ!」

「!?、お、おう…」

「勇人さんをここに住まわせているのは私たちが好きでやってるので、全然問題無いですよ!」

「そうか…でも何もしないのも悪いからな…仕事でも見つけた方がいいかな」

「うーん、とりあえず明日人里に行ってみます?」

「おっ、それはいいねぇ、うん、そうしよう」

「じゃぁ、勇人さんの挨拶も兼ねて行きましょう」

 

そうか、確かにここに来て早苗たちや八雲以外に人に会ってすらねぇからな。うまく話せるかなぁ。そう言えば、あまり人と話すのは得意じゃねぇなぁ。まぁ、早苗もいるだろうし、大丈夫だろう。

 

「よし、仕事みつけるぞー!」

 

「あ、ちょっと俺、やりたいことがあるから、部屋に戻っていいか?」

「いいですよ、何するんですか?」

「秘密だ」

「むー、教えてくれてもいいじゃないですか」

 

頬を膨らませる顔も可愛いな。やっぱり、美人な人は何やっても可愛いのか。だからと言って、教えない。

 

「ダメだ、俺にも知られたくないプライベートな事があるんだ」

「…分かりました」

 

そして、俺は自分の部屋に戻った。

 

 

ー30分後ー

 

 

 

 

「あー、だめだー、さっぱりだ」

 

やりたいことはこれ、銃の改造だ。1つもできていないが。道具の使い方が全く分んねぇ。説明書はないのか?俺は箱の中を漁った。

「うん?これは…」

 

説明書じゃねぇか!道具の使い方書いてんじゃん!あー、無駄だったのか、畜生。まぁいい、これで改造できるぞ。

 

「ふむふむ、これで霊力を込めれるようになるのか」

「ん?あーもぅ!これ違うじゃん!」

「これで霊力が撃てるようになるのか」

「リロードはどんな風にするか…マガジンを一々だして霊力を込めるのか、グリップから直接、霊力を込めるか…」

 

実用性なら後者だろう。だが!マガジンの出し入れはロマンがある!それを求めるには前者だ!まぁ、そんなロマン求めてないので、後者にしよう。

お昼も挟んで、取り組んだこれは、完成した時にはは、もう外は日が暮れ始めてた。試し撃ちしてくるか。

 

「早苗ー、ちょっと散歩してくるー」

「こんな時間にですか?昨日もしましたよね?」

「ちょっと、気分転換に」

「……分かりました、気をつけてください」

「了解、じゃあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、私は勇人さんを尾行しています。こんな時間に散歩なんておかしいです。どこへ行くのてしょうか?実は妖怪?まさか、あり得ません。とりあえず、ついていきます。

あ、立ち止まりました。何か箱をとりだしました。箱の中から何かを取り出しました。何でしょうか?少し周りが暗くなってきたのでよく見えません。黒い物ですね…2つあるようです。あ、構えました。

パンッ!パンッ!

何の音でしょうか?あの黒い物から弾幕が出たように見えます。ただ、ものすごいスピードで飛んでいきました。木々も貫通しているようです。いつの間に、あんな技を…やはり、勇人さんは只者じゃないです。

 

「あれ?早苗?」

 

あ、バレてしまいました。

 

「ごめんなさい、つい気になって」

「あー、別にかまわないよ、いつか見せる予定だったし」

 

そう言い、彼は手に持ってるものを見せてくれました。驚きました!なんと、あれは銃です!しかも、霊力を弾にするのです!さらには、普通の拳銃から霊力が撃てるよにするなんて…器用すぎます!やはり、才能でしょうか…少し自信が無くなります…

 

「これで俺も戦えるかな?」

「えぇ、十分戦えますよ」

「そういえば、この世界では弾幕ごっことかいう遊びがあるんだっけ?」

「えぇ、基本的にこの世界での戦いは全てスペルカードルールに基づいた弾幕ごっこによっておこなわれてますよ?勇人さんも興味あります?」

「うーん、どうだろう、俺は基本的ルール無しの野戦が得意だからなぁ。でも、一応教えてくれ」

「えぇ、いいですよ」

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

 

 

「ほう、それなら妖怪とも対等に戦えるな」

「折角ですし、勇人さんも何か考えてみては?」

「そうだね、必殺技があるのはカッコいいからなぁ」

必殺技は男のロマンである。

「よし、いくつか考えてみよう」

 

 

 

 

青年思考中……

 

 

 

 

 

「よし、いくつかリストアップしたぞ」

 

 

・銃火「ギブアガンファイヤ」

・早撃「クイックドロウ」

・弾痕「バレットホウル」

・薙払「オールアットワンススウィープ」

・欺刃「カッティングズレッド」

 

スペルカードの説明としては名前のまんまだ。早苗に練習相手になって貰って実践までした。銃火「ギブアガンファイヤ」は自動拳銃によりただ撃ちまくるのみ。早撃「クイックドロウ」は回転式拳銃によるただの早撃ちだ。ファニングってゆう、西部劇でよく見るような早撃ちを練習した。やっぱり、難しかった。弾痕「バレットホウル」は回転式拳銃により追尾弾を撃つ。薙払「オールアットワンススウィープ」は自動拳銃により弾を撃ちまくるまでは最初のと変わらないが止まることなくグリップに霊力を込め続けて最初のもの以上に撃ちまくる。ただ、これは霊力の消耗が半端じゃない。欺刃「カッティングズレッド」はナイフを投げるが糸をつけておき、躱されても霊力を流した糸によりダメージを与える技だ。

 

「まだ5つしかないな」

「いいんじゃないですか、これで勇人さんも戦いに参加できますよ」

「そうならない方がいいな、野戦なら歓迎だが」

「妖怪相手なら死んでしまう可能性もありますよ?」

「なんとかなるさ、とりあえずは明日だ、よろしく頼むぜ、早苗」

「えぇ、案内はどんと任せてください」

 

と彼女は胸を張る。今、思った。早苗ってかなりスタイルがいいんだな。

それはいいとして、明日仕事をみつけるぞー、これで俺は脱ニートだぁぁぁぁぁ!




アドバイスや誤字脱字の指摘よろしくお願いします。
リクエストや質問もどんどんしてください!
また、勇人のスペルカードについていい名前がありましたら教えてください!


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第11話 お仕事探しの日の青年

ーチュンチュン

 

「うーん…今何時だ?まだ7時か…」

 

スヤー

 

「勇人さん!朝ですよ!」

「今日、部活無いから早起きしなくていいの…」

「何言ってるんですか?今日、人里に行くんですよ」

 

あぁ、そうか…だが今の優先順位は睡眠だ…もう少し夢の世界へ…

ガバッ

 

「うぉっ!寒っ!」

「はいはい、起きてください」

「んー、分かったよ…」

 

もう少し寝てもいいじゃぁ無いか。

文句言っても仕方ないので、井戸に行って水を汲む。そして、顔を洗ってやっと、目が覚める。

 

「ふぁぁ…うん…ん…」

 

少し伸びをする。俺もここに慣れてきたな…最初の頃は驚いたもんだった。電気もねぇ、水道もねぇと今まで当たり前だったものが、ここではほとんど無かったからだ。井戸で水を汲むなんて初めてだったな…

 

「朝ご飯、できましたよー」

「あぁ、今行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モグモグ…

 

「やっぱり、早苗は料理が上手いな」

 

本当にそう思う。俺と年は変わらなさそうなのに…俺のいた学校には頭でっかちの女ばっかりだったからなぁ…勉強はできるのだが…家庭の調理実習の時とか、こっちがヒヤヒヤする様だったからな。俺は、たまに自炊はするのでできなくは無い。てか、母さんが一人暮らしになった時にできないといけないからって、無理矢理教えられたのだが。まぁ、無駄では無いだろう。

 

「だろう?うちの早苗は家事はどれもしっかりこなすからね」

 

貴女も手伝いなさいよ…俺は手伝ってるぞ。

 

「まぁ、勇人もここにすっかり馴染んできたからね…」

「もう、勇人をおむ「そうでした!今日は勇人さんと人里にいってきます!」

 

お、おう。珍しく早苗が声を張った。てか、諏訪子様はまた、爆弾を投下しようと…

 

「うむ、なんで行こうと?」

「それはですね、神奈子様。さすがにお世話になってるだけじゃいけないので、仕事を探して働こうかと」

 

ニートはダメだよ、ニートは。

 

「はぁ、お前も意外としっかりしたんだな」

 

意外って…どういうことですか…俺、そんなにちゃらんぽらんに見えるんですか?

 

「これで、あんたたちもふう「この卵焼き貰いますよ」あ!それは私のだ!」

 

ふぅ…油断も隙もない。

格好はどうするか…普段はカッターシャツと制服のズボンで過ごしているのだが…面接に行く訳だし、学ランも着て、正装で行くべきか。

 

「そういえば、あんた、格好はどうするんだい?」

 

考えている時にその話をするとは…さすが神奈子様。分かってらっしゃる。

 

「うちは女物の服しかないからねぇ」

 

え?なんで、服借りる前提なの?ありますよ!

 

「いや、だいじょ「確かに…でも、こいつは体はそんなに大きくないからなぁ、女物でも入るだろう」

 

体が大きくない…俺にはまだ希望があるはずだ170は越して欲しい(切実)って、そうじゃない。

 

「いや、ですから俺服もって「でも、案外似合うと思いますよ、勇人さん」

 

グホッ、やめてくれ…それって、俺が女っぽいってことじゃあないか。悪意が無いから余計に…

 

「なら、ちょっと試着させてみるか…」

「大丈夫ですから!俺、服持ってますから!」

「そうか…残念だ…」

 

どうしてです、神奈子様…

 

「ちぇっ、面白そうだったのになぁ」

 

何してくれようてしてんですか…諏訪子様

 

「似合うと思うのですが…」

 

なんで、早苗までがっかりしてんの?そんなに俺の女装が見たいか?男が女装しても気持ち悪いだけだ。中学校の頃、文化祭で生徒会の出し物から男女格好を入れ替えるということになった。女性陣は問題ない(蓮子に至っては女子からきゃっきゃっ言われてたなぁ)、問題は男性陣だ。あれはひどい。むさ苦しいったらありゃしない。そして、ノリノリだった。うぅ…思い出しただけでもキモい。ん?俺ってか?ふふ、俺はオープニングの映像とエンディングのスライド作りに専念して、舞台すら立ってないぜ。あの時は危なかった…男性陣より女性陣の目が怖かった。

っと回想はここまでにして、

 

「服は準備してくれなくても大丈夫です!」

 

学ランで大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、俺は空を飛んでる。横には早苗がいる。もう、空飛ぶのには慣れたなぁ。自転車の様だ。乗れるまでは大変だが、慣れるともう当たり前の様に乗れる。まぁ、着地は下手だし、未だに助走はいるが。

 

「あ、見えました、あそこです」

「あぁ、あれか」

 

確かに人里だ。そう、時代劇で見る様な感じだ。やはり、外界とは全然違うのか…タイムスリップした気分だ…

 

「あそこら辺に降りましょう」

「了解」

 

 

 

 

「で、とりあえず、どこに行くんだ?」

「それはですね、人里の守護者でもある慧音さんと、里の長に会いに行きましょう。多分、この時間は一緒にいらっしゃると思います」

「慧音?どんな人なんだ?」

「あぁ、そうでした。名前は上白沢慧音と言って、この村の守護者であり、ここで寺子屋を開いている先生でもあります」

「守護者って、その人強いのか?」

「えぇ、その人は半妖ですから。確か、ワーハクタクの半妖と聞いてます」

「そんな妖怪初めて聞いたな」

「中国の方に伝わる妖怪だそうです、って話してたら着きましたね」

 

確かにみんなが集まりそうな建物に着いた。

 

 

 

 

「すいませーん、ちょっと用事があるのですが」

「はい、って早苗じゃないかどうしたんだ?」

「あ!慧音さん、里長もいらっしゃいますか?」

「あぁ、いるよ、用事とは何なのかな?」

「はい、慧音さんと里長さんに紹介したい人が」

「ふむ、まぁとりあえず奥に上がってくれ」

「勇人さん、いいですって」

「おう」

 

 

 

 

 

「お前さんが早苗の紹介したい人か」

「あ、はい、名前は碓氷勇人と言います」

 

えっと、話しかけてきたのが多分、この里の長だろう。随分と年をとってる様だが長らしい思慮深さを感じる。

 

「ふむ、しっかりしている人の様だ」

「あ、ありがとうございます」

「私は上白沢慧音だ。ここで寺子屋を開いて、一応教師をしている」

 

不思議な帽子を被っていて、服は青を基調に…髪は白と青が、混ざっている…この世界の人は服装や髪の色が不思議な感じだなぁ。

あ、とりあえず、挨拶しないと。

 

「よろしくお願いします、上白沢さん」

「おいおい、そんなに固くなくていい、別に下の名前で呼んでもかまわないから」

「はぁ、では改めてよろしくお願いします、慧音さん」

「うん、よろしく頼むぞ、で、用事とは紹介だけでは無いのだろう」

「あ、はい。、実は…」

 

 

青年&少女説明中……

 

 

 

「ふむ、仕事を探しておると…じゃがのぅ、今はどの仕事も人手は足りておるからのぅ」

「そうですか…」

「お前さんは外の世界のお方じゃろう」

「えぇ、そうですが」

「生活はどうしておるのかね」

「あー、今は守谷神社に居候させて貰ってます、ですが、お世話になりっぱなしも悪いのでこうして、仕事を探してるのですが…」

「ふむ、どうかしてやりたいがのぅ」

「なら、私の寺子屋で働くか?」

「え!いいんですか?」

「うん、今は1人でやっていて、大変だからな、人手が増えるのは嬉しい。ところで君はどの様な勉学が得意かな」

「えっと…数学ですかね」

「数学?和算のことか?」

「まぁ、そういったところです」

「そうか!なら、丁度いい。是非、うちで働いてくれっとその前に一回、試験をさせてくれ」

「いいですよ」

「大丈夫ですか?勇人さん」

「安心しろ、多分解けないことは無い」

「少し問題を作るから待っていてくれ」

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな問題を作るのでしょうか」

「そんなに難しいのは出ないだろ、それより、やっと仕事だ!これで迷惑が少し減らせるぞ」

「だから、迷惑じゃありませんよ」

「はい、お茶ですよ」

「「ありがとうございます」」

 

里長の奥さんだろうか、お茶を出してくれた、ありがたく飲む。

 

「礼儀正しいねぇ、この子がここに来ても問題なさそうじゃが」

「いえ、大丈夫ですよ、私たち守谷神社がお世話しているので」

 

情けない話である。女の子に養われてる男なんてヒモ男じゃねぇか。やはり、仕事が見つかって良かった。

 

「おやおや、この子は早苗ちゃんの彼氏かね」

「「!?」」

「ゴホッ、ゲホッゲホッ…」

 

なんだ、このデジャヴ。何を聞いてくれるんですか、この奥様は。

 

「おう、そうじゃったな、お主らの関係を聞いておらんかったわい、で、お主らは付き合ってあるのか?」

「い、い、いやややや、まだそんな関係じゃじゃ、無いですよよ!」

 

おい!その言い方は!

 

「まだですって、じいさんや」

「ホッホッホ、若いのぅ」

 

 

 

しばらく、2人は顔真っ赤にして互いを見れなかった。

 

 

 

 

「よし、待たせたな、問題ができたぞ。って、どうしたんだ、2人とも顔が赤いぞ」

「あ、あ、だ、大丈夫です。早く問題を解きましょう!」

「…?そうだな、はい、解けたら持ってきてくれ」

「はい」

 

 

 

 

青年回答中……

 

 

 

 

 

 

「うん、できた」

「…!早いな、どれどれ…」

 

問題はそこまで難しくなく、すぐ解けたし、見直しもしてどこも問題無いはずだ。しかし、こう丸つけされるのは、なかなか緊張するんだよなぁ。もしかして、間違ってるのかも。

 

「素晴らしい、全問正解だ!」

「よしっ!」

「さすがです!勇人さん!」

「だが、この文字がよくわからんのだが…数字が合ってるからいいのだが、これは何だ?」

 

あぁ、XとYか。この世界では使われてないのか。

 

「えっと、それはですねぇ…」

 

 

 

 

青年説明中……

 

 

 

 

 

 

「なるほど、これは解きやすくなるな!是非、これも子供達に教えてやってくれ!」

「ということは…」

「あぁ、君を採用させてもらうよ、時間は追い追い伝える」

「やったー!これで仕事ができる!」

「良かったですね、勇人さん!」

「あぁ、早苗のお陰だよ!」

 

つい、興奮してしまい、早苗の手を握った。

 

「……!あ、ありがとうございます//」

「あらあら…」

「ほほう…」

「そういうことか…」

「……!?あ!ご、ごめん、つ、つい…」

「だ、大丈夫です、それより本当に良かったですね」

「あぁ」

「とりあえず、三日後からたのめるか?」

「もちろんです」

「じゃあ、用事も済んだのでこれで…」

「あぁ、これから頼むぞ、勇人君」

「よろしくお願いします、里長さん、慧音さん」

「あぁ、よろしく」

 

こうして、人里を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは帰りましょうか」

「あぁ、そうだな」

 

そういえば、この辺の地理をよく知って無いな。

 

「やっぱ、先に帰ってくれ、ちょっとやりたいことがある」

「一緒に帰った方がいいとおもいますが…」

「ごめん、どうしてもやりたいんだ」

「そうですか、遅くならないようにしてくださいね」

「安心しろ、一応銃は持ってきてる」

 

俺はできたばかりの自動拳銃をみせた。

 

「だとしても、です」

「分かった、分かった。じゃあ、後でな」

「はい、気をつけてくださいね…」

 

 

 

 

青年探索中……

 

 

 

 

「はぁー…」

 

意外と守谷神社のある山は広い。空を飛び続けると、すぐに霊力が空になるので、なるべく歩いてる。一応、銃もリロード済みだ。

「それにしても、静か過ぎるな…ま、いいか。探索はこのぐらいにして、帰るか」

 

と、帰ろうとしたら、

 

「待ちなさい」

 

と後ろから呼ばれた。




アドバイス、誤字脱字の指摘をよろしくお願いします。
リクエストや質問もどんどんしてください!


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第12話 初陣の日の青年

「待ちなさい」

 

後ろから声をかけられた。

何だ何だ、ここに人がいるのか?恐る恐る振り返ると…

 

「は?」

 

何の冗談だ?格好は上半身が白を基調とし、下は黒と赤を基調としたスカートを着ている。頭には頭襟と言うんだっけ?とりあえず、山伏が被っていそうなものを身につけている。ここまでなら何とか理解できる。俺が理解できないのは、頭にある耳だ。犬耳だろうか?あ、尻尾もある。酔狂なコスプレか?俺はあまりそういう人と関わりたく無い。というわけで、俺は

 

スタスタスタ………

 

「ま、待ちなさい!」

「何だ?コスプレの勧誘ならお断りだ」

「…?何を言ってるのですか?……そんなことよりここは、妖怪の山、人間は立ち入り禁止です!」

「と言われても今から帰るだけだし…」

「なら、さっさと立ち去りなさい!」

「へいへい…」

「って、どこへ行ってるんですか!?」

「だーかーら、帰ってるの!」

「だから、立ち入り禁止といっているでしょう!」

 

埒があかない。

 

「あ!あそこにも侵入者が!」

「え?本当に?」

 

振り返った、チャーンス!

 

「よし、ここに隠れれば…」

「どこにいくんですか?」

「ウェイッ!」

 

なんで?

 

「私は千里先まで見通せます。あなたがどこに行こうが丸見えです」

 

これまた、厄介な能力を…でも、こいつ自体は馬鹿真面目な性格のようだ。

 

「そうか…なら、自力で通らせてもらうぜ!」

 

俺は自動拳銃を片方のみ取り出し、撃った。

 

「きゃっ!?」

 

さすがに不意打ちだったろう、怯んだな、

 

「いくぜ!」

「….っく!」

 

必殺!

 

「逃げるんだよ〜」

「え?」

 

今は戦いたいという気分じゃ無い。てか、さっさと帰りたい。ので、逃げさせてもらいます。ビビりだって?戦略的撤退というやつだよ。あの星の痣をもつ血筋の人達だってそうしてただろう?

 

「もう、怒りました!」

 

後ろから気配が…振り返ると

 

「うわっ!」

 

まじか!剣を取り出したぞ!危なかった…

 

「もう、貴方を排除させてもらいます!」

 

殺る気まんまんじゃないですかーやだー。

 

「そうか…あまり戦いたくないが、目的の為なら戦わざるおえないな…」

 

俺はもう1つ銃を取り出して構えた。

 

「覚悟!」

「うっしゃー!バチこーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、って勇人は?」

「勇人さんは用事があるそうです」

「一緒に帰らなかったのかい?」

「はい…」

 

あら?早苗がご機嫌斜めだ。勇人と何かあったのだろうか?

 

「あいつ、仕事見つかったのか?」

「えぇ、無事見つかりましたよ」

「へぇ〜、どんな仕事かい?」

「寺子屋の先生をやるそうです」

「あいつが先生ねぇ…」

 

ちょっと、思いつかないな。あいつが仕事始めたらからかってみるか。

 

「勇人は何の用事があるんだい?」

「知りません」

「そ、そうかい…」

 

本当、どうしたんだ?

 

「諏訪子、早苗機嫌悪くないか?」

 

小声で神奈子が聞いてきた。

 

「さぁ、私にも分からない。勇人が原因かもしれないが」

あいつは何をしたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のわっ!うわっ!」

 

現在、回避中である。何なの、この娘?人間ではないことは分かった。前に、早苗から妖怪の山を管理しているのは天狗っていう話を聞いた。多分、この娘は監視役かなんかだろう。妖怪の下っ端だとしても、人間の俺には十分脅威で、

 

「危なっ!」

 

防戦一方である。

 

「すばしっこいやつですね!これで終わりです!」

「!?」

 

弾幕撃ってきやがった!

 

「くそっ!」

 

もう、いい!相手が飽きるまでと思ったが、こっちの方が面倒だ。こっちからも行かせてもらう!

 

「ほらよ!」

 

パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ

 

牽制がてらに6発。

 

「!?」

 

ふんっ、怯んだな、隙ができた。普通の弾幕よりはるかに速く撃てるからな。

「おらぁ!」

 

急接近して、脇腹へ蹴りを1発。霊力も込めてある。これで脚が折れることはない。が、

 

ガシッ!

 

「なめないでください」

 

掴まれた!やばい!

 

「グググ…」

 

人間と妖怪じゃあ、力勝負では妖怪の方が圧倒的に有利だ。

 

パンッ!パンッ!

 

「もうそれは読み切ってます!」

 

カンッ!カンッ!

 

盾でガードされた!貫通力はあるが破壊力は無いのか。

 

「こうなったら!」

 

俺は上に飛んだ。

 

「え!?」

 

空を飛べるとは思わなかっただろう。あいつの拘束から逃れた。こっからどうするか…あの盾が邪魔だ…

 

「人間ごときが妖怪に勝てません!力でも知能でも!今、貴方はこの盾を外す方法でも考えているのでしょう!」

「!?」

「動揺しましたね!つまり、その通りなのでしょう」

「だ、だから何だ!」

 

パンッ、パンッ、パンッ、パンッ

 

「無駄です!」

 

カンッ、カンッ、カンッ、カンッ

 

盾でガードしたところを狙って俺は盾を蹴り飛ばそうとした。

 

「オラァ!」

「やはり、そうきましたか!」

 

スッ

 

「避けられた!」

「隙あり!」

 

ガンッ!

 

「うぐっ!」

 

盾で殴られた、かろうじて腕でガードできたが、相当痛い。霊力込めてなきゃ、折れてたな。

 

「…チィ!」

 

一旦、距離を置こう。

 

「戦いというのは、将棋です!一手二手読んだくらいじゃあ勝てません!相手の数手先まで読まなくては勝てません!」

「そうかい!なら、これはどうだ!」

「…っ、接近しても無駄です!近距離なら銃より剣が強いです!」

「それはどうかな?」

 

俺は銃のグリップに霊力を大きく込めた、そして、

 

ダァンッ!ダァンッ!

 

「きゃっ!」

 

装填された弾を全て1発にしてまとめて撃った。至近距離だ盾だけでは衝撃を防ぎきれまい。

 

「ソラァッ!」

 

盾を蹴り上げ、

グリップに霊力を込めリロード、スライドを引いて、

 

パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ

 

盾に向け発砲し、盾は空方へ飛んだ。

 

「ほらほら、どうした?」

「っく、はぁぁぁぁぁ!」

 

突っ込んできた!

 

「ヤケクソか?これでもくらえ!」

 

パッパッパッパッパッパッパッパッパッパンッ!

 

「ふん!」

 

カキンッ!カキンッ!カキンッ!カキンッ!

 

剣で弾いた!?やばい、接近された。

 

「ウォォォォォ!」

「っく!」

 

ガキンッ!

 

「…っ、クゥ…!」

 

腕にすごい衝撃が!

 

「せいっ!」

 

カキンッ、カキンッ

 

「しまった!」

 

銃を手から離された!

 

「これで終わりです」

「……フフ」

「何笑ってるのです!」

「あんたは、戦いは数手先読んだ方が勝ちと言ったな」

「えぇ、そうです、今こうして私が貴方が撃つことを予期し、剣でさばき、それに驚く貴方に剣で斬りつけ、銃を離させた。私が完全に読み切った上での勝ちです」

「どうやら、読み切れてないことがあるようだが?」

「無駄な、悪あがきをやめなさい。貴方の負けです」

「7、6、「聞いてるのです!?貴方の負けです!」3、2、1…」

「…0」

 

ヒュー…

 

「ん?上から…」

 

ガンッ!

 

「きゃっ!」

 

バタッ

 

「上から盾が落ちてくるのは読めなかったようだなっと、言っても気絶してるから聞こえないか」

 

あの妖怪は完全に気絶したようだ。まぁ、あれだけの高さから、落ちてきた盾を頭に受けて気絶で済むのは、さすが妖怪といったところか。

 

「どうするかなぁ…この娘」

 

守谷神社に、連れて行くか。ここに置いておくのも悪い。

 

「よいっしょと、あんまり、重くないのな」

 

どっから、力湧いてんだ?

俺は妖怪を背負って守谷神社に戻った。

 

 

 

青年&少女(気絶中)移動中……

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「おぅ、おかえり、勇人ってその娘は?まさか…」

「何を考えてるかは知りませんが、違います」

「って、椛じゃないか」

「知り合いですか?」

「まぁね、どうして、椛が気絶してるのかい?」

「えっと…実は…」

 

 

 

 

 

青年説明中……

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、そういうことか。そうだった、天狗の方にこいつのこと伝え忘れてた」

「頼みますよ〜、諏訪子様」

「まぁ、いいじゃないか、それにしても、やはり勇人はすごいな。下っ端とはいえ、妖怪にスペルカードルールなしで勝つなんて」

「まぁ、頭で負ける気はしませんからねぇ」

「結局のところ、あんたは早苗と一緒に帰るべきだったね」

「うっ、つい山の中を探索したくて…」

「勇人さん、帰ってきたんですか…は!何で女の子を背負って…まさか、勇人さん…」

「違います」

「実はね、早苗、かくかくしかじか…」

「……やっぱり、一緒に帰った方が良かったじゃないですか!」

「悪かったって…」

 

助けを求め、諏訪子様を見る。

 

「私はちょっと天狗たちに連絡してくる」

 

あぁ、待ってくれぇ…

 

「せっかく、2人きりになったというのに…って聞いてますか!?」

「んぁ?あ、あぁ、聞いてるよ。でも、まずこの椛っていう娘を降ろさせてくれ」

「…分かりました」

「ん…うん…………はっ!」

「おっ、目覚めたか」

「…!貴方は!ってここは」

「大丈夫ですか?椛さん?」

「貴女は…早苗さん!?ということはここは守谷神社!?どいうことですか!」

「あぁ、そうだな。だけど、手を離してくれないかな?降ろせん」

「……!は、はい!」

「どこか痛むところはありませんか?」

「いえ、大丈夫です。それよりもなぜ、ここに彼が?」

「それはだな…」

 

 

 

 

 

青年説明中……

 

 

 

 

 

 

 

「それでしたら、早く言って下さいよ…」

「すまない、だが、攻撃してくるのもどうかと…」

「しょうがないです!仕事ですから!」

「分かった、分かったから。次からはかまわんだろう?」

「いいですけど、あまり天狗の領域に入らないで下さいよ…」

「善処する、それよりも自己紹介させてくれ。俺の名前は碓氷勇人だ」

「私は犬走椛です」

「そういえばあんたの『戦いは将棋です』というセリフかっこよかったぜ〜」

「……//、忘れてください!」

 

椛は俺の胸を、ポカポカ叩いてきた。本気ではないようだから、痛くない。出されたら困るけど。

 

「いや、別にその通りだと思うぜ」

「え?」

 

俺は、脳筋プレイより、頭脳プレイが好みだ。

 

「まぁ、俺の方が数手先読めてたけどな」

「うっ…次は負けません!」

「はいはい」

 

ふと、早苗を見ると、なんか機嫌が悪そうだ。どうしたんだ?

 

「早苗?体調でも悪いのか?」

「全然大丈夫です」

「本当に?」

「本当です」

「そうか、なら良かった」

「お茶持ってきます」

 

スタスタスタ…

 

本当にどうしたのだろうか?

 

「そこは読めないんですね…」

「……?」

「勇人〜、椛〜、ちょっと来てくれ」

「何でしょう?」

「とりあえず、行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あやややや、このお方が例の彼ですか」

「そうだよー」

 

外に出ると、諏訪子様と知らない少女がいた。セミロングの髪型に椛と同じ頭襟を身に付け、白い半袖シャツに、黒いフリルがついたスカートを着ている。ただ、背中に黒い翼らしきものが…こっちの方が天狗っぽいと言われれば天狗っぽいかもしれない。

 

「初めまして、射命丸文と言います」

「どうも、碓氷勇人です」

 

なぜだろうか…椛の顔が若干凍りついてる。

 

「椛じゃないですか、聞きましたよ〜、彼に負けたんでしょう?」

「う、うるさい!あんたには関係無いだろう!」

「はいはい、ところで勇人さんに取材をさせていただきたいのですが…」

「取材?」

「はい、私、記者をやってまして、是非勇人さんのことについて記事を!」

「俺でいいのなら、構いませんよ」

「なら、早速ですがインタビューを!」

「お、おう…」

 

ものすごい、スピードだ…

こうして、俺は彼女のインタビューに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

何でしょうか、今日の私は…

椛さんと話してる姿を見て、何故か苛立ちを覚えました…はぁ…何でしょうかねぇ…

 

「早苗ー」

 

ビクッ!

 

「か、神奈子様?」

「そこまで、驚かなくてもいいじゃ無いか」

「すいません…」

「どうしたのかい?」

 

神奈子様に全て言ってみましょうか。

「実は…

 

 

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはー!そんなことか!」

「そんなことじゃないです!」

「簡単な答えだろ?好きなんだよ」

「す、好き!?」

「違うのかい?」

 

どう何でしょうか…嫌いではないです。ただ、じっくり考えたことも無いので…

 

「分かりません」

「まだ、分からんでいいさ、いつか分かるさ」

「はぁ…」

 

いつか、分かるのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…疲れた」

 

あの射命丸っていう天狗は遠慮が無いな。プライベートなことまで聞こうとするなんて、悪い奴じゃなさそうだが。明日の新聞の記事にするって言ってたな。仕事が早いことで。てか、あの天狗飛ぶスピードも半端じゃなかったなぁ。あぁ、今日はいろいろあり過ぎた、寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

その新聞がまた、彼の生活を大きく変える。

 




これで、第1章は終了です!次の章も、是非読んでください!


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第2章 ティーチャー青年とロリータ吸血鬼
第13話 先生となった日の青年


今回から、第2章です。主に紅魔郷メンバーを出せたらいいなぁ。


「これにX=7を代入することで……」

 

今、俺は授業をしている。受けているのではない、しているのだ。つい、この前まで授業を受ける側のはずだったが、今は教える側だ。人生どうなるか分かんないな。

俺の授業は基本、数学すなわちここで言う和算をやっている。ただ、ここに来るのは、慧音さんの和算の授業では物足りない人が来るのだが、外界の数学が不思議なのか、来る人が多い。たまに、慧音さんも受けるってから驚きもんだ。

今日の授業を終え、明日の授業の内容を考えてたら、

 

「勇人、少し頼みたいことがあるのだが…」

「はい、何でしょうか?」

「お前に担任してもらいたい組があるのだが…」

「全然いいですよ」

「そうか!なら、今から挨拶しに行ってくれないか」

「了解です」

 

 

 

 

 

 

「担任か…ますます先生っぽくなってるぞ」

 

人里に行くと知っている子供達から

 

「碓氷先生〜!」

 

と呼ばれる。だから、周りの大人の人たちも

 

「こんにちは、碓氷先生」

 

と声をかけてくれる。なかなか、むず痒い。

さて、どんなクラスかな?と思いながら扉を開けると…

 

「あ!慧音先生じゃぁ無いのか…」

 

悪かったな!慧音さんじゃなくて。

 

「えっと、今日からここを担当する碓氷だ。よろしく」

 

これ、先生っぽくね!?

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

「よろしくなのだ〜」

「よろしくしてあげるよ」

 

問題発生。生徒が人間ではありません。

 

「ちょっと、待っててください」

 

タッタッタッ…

 

「慧音さん!どう言うことですか!」

「ん?何か問題あったか?」

「問題しかありません!どう見ても人間じゃないでしょ!」

「あぁ、そのことか」

「そ、そのことかって…」

「実はな…」

 

 

 

けーね説明中……

 

 

 

 

「はぁ…」

 

溜息つきながら、あの部屋へ戻る。

慧音さん曰く、この里自体、妖怪がよく来るらしい。何かの約束事で妖怪は襲えないから問題ないらしい。その中で、寺子屋に興味を持つ者が出たようだ。それで、慧音さんは人外のクラスを作ってたのだが、人間のクラスで大変な上にそれよりもタチが悪い人外も持つのは大変だったらしい。それでは、断れない。

 

「遅くなりました。すいません。それでは自分の名前と種族を言ってください。じゃあ、君から順に」

「あ、はい。私は…大妖精と呼んでください。えと…種族は名前の通り妖精です…」

 

うむ、個人的な名前を持たないようだ。髪は緑色、青い服を着ている。まぁ、背中にある羽が人間ではないことを示している。だが、しっかりしている娘のようだ。良かった、人と変わらんかもな…

 

「あたいはチルノ!サイキョーだからよく覚えてなさい!」

 

前言撤回、大変そうだ。種族も言えと言ったのに言わないあたり、大物(⑨的な意味で)だ。全身青色という印象を受けるな。まぁ、背中には当たり前のように…あれは羽か?氷の結晶みたいだ。まぁ、大妖精と同じ妖精だろう。あの娘は絶対問題の種になるな…

 

「私はルーミアなのだー、妖怪なのだー」

 

この娘もチルノと同じ匂いがする。種族を言うあたりまともだと言えるか。

 

「お前、食べれるのかー?」

「食べれません、ハイ次」

 

物騒なこと言うなよ…

 

「私はリグル・ナイトバグです。種族は妖蟲です」

 

あ、女の子でしたか。まぁ、触覚が生えてるあたり、人間じゃない。一瞬Gか?と思ってしまったが違うようだ。すまん。

 

「ミスティア・ローレライです。種族は夜雀です。あと、屋台もやってますので、良かった来てください」

 

この娘もまともそうだ。羽があるあたりにんげ(ry

 

「私の名前はフランドール・スカーレットだよ。種族は吸血鬼」

「………!」

 

はぁ!?フランドールってあのフランドールか?早苗から聞いたのだが、かなり危険な奴と聞いているが、ここにいて大丈夫か?

銃を持っていて正解だった…自動拳銃は椛との戦いの時におかしくなったので、修理中だ。

 

「そういえば、碓氷先生の種族はなんですか?」

 

と大妖精が

 

「そうだ、私も気になった」

 

とリグルが

 

「ん?俺か、人間だが?」

「「「え?」」」

「じゃあ、食べていいのかー」

「ダメだ」

「じゃあ、あんたは弱いのね!ありがたく思いなさい!このサイキョーな私がついてるわ!」

「いえ、結構」

「えー、強い人が来るって聞いたのに…壊していいかな?」

「もちろん、ダメだ、あれか、人間で残念か?」

「「うん」」

 

おい。

 

「私は大丈夫ですよ…」

 

さすが、この中の良心である、大妖精。あれ?目から汗が…

リグルとミスティアもいいようだ。

ただ、問題は…

この⑨とこの両手広げてる娘とサイコパス少女だ。

てか、慧音さんはなんと言う紹介をしとるのだ。強い人って、俺が戦ってるところなんか知らないはずだが?

 

「とりあえず、今日は自由にしてくれと、慧音先生から言われてます。何かしたいことは?」

「「弾幕ごっこ!」」

 

⑨とサイコパ(ryが言った。

 

「ダメです、寺子屋に被害が出る」

「いや、構わんよ」

「あ、いいそうです…って、慧音さん!?」

「安心しろ、ここはなフランドールを参加させる代わりに結界を張ってもらってる。いくら、暴れても傷はつかんぞ」

「やったー!」

「Oh,shit!」

 

ダメだ、つい汚ない言葉を。

 

「碓氷先生勝負しよう!」

「いや、チルノとしたらどうだ?」

「チルノは弱いもん」

 

ひどい言い草だ。

 

「むー、誰が弱いって!あたいはサイキョーだぞ!」

「ふんっ、なら私に勝ってみなさいよ!」

「よし、勝負だ!」

 

よし、対象がそれたな。

 

「すまない、勇人、私では少々荷が重いのだ」

 

俺もですよ。

 

「ほら、お前、妖怪を軽くひねったのだろう?」

「……は?」

「ほら、この新聞に」

 

文々。新聞?あぁ、この前のインタビューか、ん?これ、膨張や虚偽のことまで書かれてあるぞ!

 

「お前なら大丈夫だと思うが、もしかして、スペルカードもってないのか?」

「もってます…」

 

もう、どうにでもなれ…

ピチューン

 

「ん?」

「あーあ、つまんないの」

 

もう終わったのか!?あの⑨も力あったと思うが…

 

「ねぇ、碓氷先生しようよ」

 

こうなったら、腹をくくるしかないか…

 

「……一回だけだ」

 

銃一つだけで吸血鬼相手にすんのか…

 

「頑張ってくれ」

 

その哀れみを含んだ目で見ないでください…

諏訪子様、神奈子様…この碓氷死地に参ります…

 

「先生、人間だから、ハンデあげる、1発でも当てたら勝ちでいいよ」

 

ぐ!どうする?ここにきてプライドが!

 

「……そ、それでや、や、や、ろう」

 

くそっ、俺のプライドが…こんなロリ容姿にハンデだなんて…だが、命には変えられない。1発当てればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、いくよー」

 

俺の場合、逝くですが。

先手必勝!

 

「早撃 『クイックドロウ』!」

 

ダッダッダッダッダッダン!

 

「きゃっ!」

 

当たるか?残念当たらなかったようだ…精密をあげないと…バックの中からナイフと例のリストバンドがあったのでそれも装備している。が、残りスペルカードは2つだ。ははははははは…はぁ…

 

「すごい!楽しめそうだね!」

 

無邪気な笑顔は素晴らしいだろうが、今はただ、狂気しか感じない」

 

「こっちもいくよー、それ!」

「ぬぁっ!」

 

なんという量!一つ一つ荒く出してるが量が多すぎる。仕方ねぇ、飛ぶか。

 

ダッダッダッダッバッ

 

「ほらー!」

 

本当にホラーだよ!

くそっ、リロードする暇がねぇ、このままじゃあ体力的にこっちが分が悪い。

 

 

 

 

ーー10分後ーー

 

 

 

 

 

 

「はぁー、はぁー…」

 

こっちはもう息が上がってんのに、あっちは全然余裕そうだ。残りスペルカード2つでどうするか…

 

「もぅ、飽きてきた…これで終わらせる…禁忌『フォーオブアカインド』」

「!?」

 

分身しやがった!とりあえず、スペルカード宣言で弾幕が薄くなったのでリロードする。しょうがねえ、一気にカタをつける!

 

「欺刃『カッティングズレッド』」

「…?そんな遅いナイフ当たらないわ」

 

まぁ、当たる気0だし。ナイフは簡単に避けられて後ろの壁に刺さる。

 

「そこからだぜ!」

 

俺はフランドールの周りを飛ぶ。

 

「!?」

 

分身の1つが真っ二つになった。

種明かしをするとナイフには糸がついていて霊力を流すことによって、切断できるようになる。これで、一気に!

 

「何かあるのね!」

 

本体は避けられたか、だが!

 

「弾痕『バレットホウル』!」

 

バンッバンッ!

 

「ふんっ、もうそんなのには引っかかるもんですか!」

 

2つの弾が避けられるが、俺は反転して歩く。

 

「!?終わってないわよ!禁忌!きゃっ!」

 

2つとも命中か…前回、説明した通り、弾痕「バレットホウル」は自動追跡をする。これで俺のプライドも少しは救われたかな。

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

「どうした?フランドール」

「……勝手なことして怒ってる?」

 

あぁ、そういうことか。うむ、彼女は寂しかったのか。それを紛らわすために弾幕ごっこをしてたのか。彼女は姉から監禁されてたと聞いている。こうして、負けた今また友人を無くすと思ってるのか。

 

「俺は別にそのことに怒ってはない、ただ1つやるべきことはあるだろう?」

 

と俺はチルノの方を見た。

 

「おーい、チルノ!」

「ん?なんだー?」

「フランドールが話があるようだが」

「……!」

「どうした?フラン?」

「……あ、あなたのこと………ば、馬鹿にしてごめん……許してくれる……?」

「なーに、言ってんの、あたいとあんたは友達だから許すに決まってんじゃん!」

「本当?」

「もちのろんよ!ねぇ、みんな!」

「そうですよ!フランちゃんは友達です!」

「よろしくなのだー!」

「これからもよろしく、フランちゃん」

「よろしく、フランちゃん」

「みんな…」

うむ、友情というのは美しいもんだ…

「というわけで、今から授業だ!」

「えー!?」

「遊ぼうよ」

「もうさっき遊んだろ!今から楽しい和算教室だ!」

「楽しくないのだー」

「ほら、部屋に戻った、戻った」

 

なんやかんや言いながら楽しそうだ。

まぁ、授業ではチルノは惜しみなく才能(⑨的な意味で)を発揮してくれ、ルーミアは寝てしまう(霊力を込めたチョークを額に投げたが)。

他のみんな真面目に受けてくれる、いたって問題なく授業できてる。休み時間もみんな仲良しで微笑ましい。

 

「勇人」

「はい?」

「ありがとう、お前のおかげでフランは馴染めたようだ。私ではできなかったよ」

「いや、褒めるべきなのはまわりの娘達でしょう。あの娘達のおかげです、ってこらぁ!俺のカバンを凍らせるな!」

「やばっ、バレたぞ!逃げろー」

「はぁ…まぁ、いいか」

 

あとであいつらはチョークの刑だ。 その前に、

 

「おらぁ!」

 

コンッ!

 

「きゃっ!」

 

ガサガサ…ドサッ!

 

「イテテ…何をするんですか!」

「あぁ、あんたに用があったんだ、あの新聞よく書かれてるよ…」

「そうでしょう、うまく脚色できたと思います…あ」

「そうかそうか、死ねぃ!」

 

スカァーン!

 

「痛い!チョークなのにこの威力!でも、私のジャーナリスト魂は止まりません!早速、さっきのことを記事に!」

「待て!ゴラァ!」

「幻想郷最速には勝てませんよ!」

「くそっ」

 

本当、速いな。あとでしばくとして、今は授業をしますか。

こうして、俺の先生としての生活も始まった。

 

次の日の新聞には

 

「外来から来た男、碓氷今度は吸血鬼も倒す!幻想郷最強候補か!?」

 

と書かれてた。




ヘタッピな戦闘シーンですいません。アドバイスをいただけるとありがたいです…


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第14話 図書館に行った日の青年

「ふーん…面白い人間もいるものね…」

 

そう言う、彼女は見た目は非常に幼く見えるが、背中にある翼が人間ではないこと示している。

 

「そうでしょうか、ただの人間だと思いますが…」

 

最初、いなかったはずなのにいつの間にか、メイドの格好した女性が立っていた。そのことに、少女は驚かず、

 

「いいえ、この人間は霊夢以来の面白い人間だと思うわ…」

 

彼女の目線の先にはデカデカと書かれた、「幻想郷最強候補の碓氷勇人」と書かれた新聞があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ…」

 

俺は今寝起きだ。自分で早起きしている。昔の俺なら到底不可能なことだったろうが、今は違う。やはり、仕事を持つと変わるのか。

 

「あ、おはようございます」

「おぅ、おはよう」

 

早苗が朝食を準備していた。

 

「お!おはよう、勇人。あんた、最近自分で起きれるようになったんだねぇ」

 

と諏訪子様が

 

「そりゃあ、仕事を持てば変わるさ」

 

と神奈子様が

 

「おはようございます、諏訪子様、神奈子様」

 

いつもと変わらない朝だ。俺も守谷神社にすっかり慣れたな。独り暮らしをした方がいいんじゃないかと相談したが、早苗からものすごい剣幕で反対された。やはり、俺はまだ弱い分類だろうか。でも、人里なら問題無いと思うが…

 

 

 

 

朝食を済ませ、学ランを着、道具を準備する。そして、両腕にはリストバンド、学ランの下には回転式拳銃とナイフ、ズボンには自動拳銃をつけて行く。あの新聞以降、襲ってくる妖怪が増えたからだ。迷惑この上ない、本当にあいつをはっ倒してやろうかと思うが、あいつ、逃げ足が速い。空を飛ぶスピードじゃあ、全然勝てない。

そんなこと考えてたら、準備が終わった。よし、行くか。

 

「いってきます」

「あ!勇人さん!弁当忘れてます!」

「お!ごめん、ごめん」

「気をつけてくださいね」

「了解」

「朝っぱらか、夫婦みたいだねぇ」

「なっ!」

「照れなくてもいいじゃないか」

「……いってきます」

 

俺は恥ずかしさのあまり、逃げ出すように出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人さーん、もしもーし、聞こえてますかー?」

 

今、俺はこのパパラッチに話しかけられている。

 

「…………」

「無視しないでくださいよぅ」

「…………」

 

こいつに下手に物事を言わない方がいい。

 

「そっちがそうくるのでしたら、捏造させていただきますよ」

 

俺は黙って拳銃を額に突きつけた。

 

「わ、わかりましたからぁ、そんな物騒なものは下ろしてください、ね?」

 

だが、俺はおろさない。

 

「…今日のところは諦めます…」

 

うむ、それで良い。そして、永遠にくるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、慧音さん」

「おぉ、おはよう、勇人。今日もよろしく頼むぞ」

「もちろんです」

「あ、そうだ、今日はもう1人参加するかもしれん」

「へぇ〜、どんな人ですか?」

「フランドールの友人らしい」

 

あ、あの娘にもしっかり友人がいたのか良かった、良かった…

 

「まぁ、大丈夫ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

「あ!先生だ!おはよう!」

「おはようなのだ〜」

「「「「おはようございます」」」」

 

ん?見慣れない人が、って慧音さんがいってた人か。

外人さながらな長い金髪に、大きな黒い三角帽子、黒いドレスに白いエプロンと魔法使いのような格好している。基本的に幻想郷の格好は不思議だ。あ、でも俺の格好も少数派だから変か。

 

「ふーん…お前が例の…」

 

品定めをするように見ないでください。

 

「どうも、俺の名前は碓氷勇人、貴女は?」

「ん?私か?私の名前は霧雨魔理沙だぜ。職業は魔法使いだ」

 

見たまんまだな。もう、こういうことに驚かなくなってきた。少々男っぽい口調だな。

 

「で、ここに何しに?」

「フランがここに面白い奴がいるって言ってたから見にきたんだぜ」

「さいですか…まぁ、今から授業するからお前も受けたらいい」

「そうするぜ」

 

 

 

 

 

「長方形の面積の求め方を…チルノ」

「えーっと…そうだ!タテカケルヨコだ!」

「よし!正解だ」

 

うむ、チルノも分かってきたようだ…言い方が怪しいのは置いといて。

 

「じゃあ、この縦6センチ、横3センチの長方形の面積が分かる人…フランドール」

「18平方センチメートルです!」

「正解!」

 

フランドールは、吸収がとても速いな…大妖精も中々理解が速い。チルノとルーミアは…まぁ、全然ってわけではない。ミスティアとリグルもよく理解している。ミスティアは屋台経営しているせいか、少々数字に強いようだ。

 

「マジか!?フラン、そんなの分かるのか!」

「魔理沙さん、静かに、授業中だ」

「わ、わるい」

 

 

 

「よし、授業終了、休み時間だ」

「やったぞー!」

「おい、勇人」

「なんだ?何か用でも?」

「さっきの授業なんだが…」

 

ははーん

 

「ほら、こっち来い、教えてやる」

「おぉ!ありがたいぜ!」

 

 

 

 

 

青年説明中……

 

 

 

 

 

 

「なるほど!」

「こんぐらい、余裕だ」

 

だって、小4の内容だ。

 

「むむ、少し悔しいな、でも、お前ただの人間だろう?」

「そりゃあ、そうだ。種族は人間、職業は先生だ」

「ふーん、じゃあ、弾幕ごっこはできないだろう?」

「違うよ〜、先生は私に勝ったよ」

「!?フランに勝ったのか!?」

「一応」

 

ハンデがあったて言うのはプライドが……

 

「じゃあ、私と「ダメだ」えぇー、いいじゃんか」

「今はそんな気分じゃない」

「ちぇっ、じゃあどんな弾幕を撃つのかだけ見せてよ」

「嫌だ」

「もしかして、弱いから見せれないのじゃあ…」

…!!

「撃つだけだぞ」

「そうこなくっちゃ」

 

俺は回転式拳銃を取り出す。そして、

 

パァン!

 

「これで満足か?」

「マジかよ…ものすごい速さだな…それはなんだ?」

「これは拳銃だ、改造されてるがな」

「少し見せてくれ!」

「ちゃんと、返せよ」

「分かった、分かった。どれどれ…んー、私のミニ八卦炉とは仕組みが違うな…」

 

あー、こりゃ自分の世界に入ったな。しょうがない、持ってきた本でも読むか…

 

 

 

「よし、どうも、ってお前本が好きなのか?」

「まぁ、好きだが」

「そうなの!?うちに本がたくさんある場所があるよ!」

「そうだぜ、大きな図書館があるぜ」

 

お?それは興味あるな…

 

「うむ、今日の授業が終わったら連れて行ってくれないか?」

「いいよ!」

 

少し楽しみができたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、今日の授業はこれで終わりだ」

「やっと終わったー」

「よし、みんなで遊ぼうー!」

「ごめん、チルノちゃん、今から私屋台の準備が」

「全然大丈夫だよー」

 

こうして見ると、人間と変わらんところもあるな。昔を思い出す…あ、昔から、俺人付き合い下手だった、グスッ。

 

「碓氷先生ー、うちに来るんでしょう?」

「おぉ、そうだった」

「お前、飛べるのか?」

「ああ」

「どうやって、飛べる様になったんだぜ?」

「どうやってて…早苗に教えてもらった」

「あぁ!お前が噂の守谷神社に最近住み始めた人間か!」

 

そんなに噂なのか?

 

「妖怪の中では少し有名だぞ」

「嬉しくないな」

「てか、お前外来人だろ?ここに来てどんくらいだ?」

「うーん、1ヶ月過ぎたくらいか…な?」

「そんな短期間で、そこまで習得してんのかよ…」

「なんか言ったか?」

「いいや、よし早く図書館へ行こうぜ」

「行こう、行こう!」

「よし行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

青年&少女移動中

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

なんだここは、デカすぎだろ。

 

「ここが紅魔館だぜ」

「私の家だよー」

 

お嬢様でしたか、はい…

紅魔館と呼ばれているこの館は名前の通り真っ赤だ。ただ、窓が1つもない。ああ、吸血鬼は日の光に弱いからか…あれ?

 

「フランドール、お前、日に当たって大丈夫なのか?」

「うん、パチュリーが魔法かけてくれたから!」

 

なんだろう、妙に説得力がある。

 

「あ!おかえりなさいませ、妹様」

「美鈴!ただいまー!」

 

誰だろうか、門番か?

 

「!…魔理沙さん、何の用ですか!」

「あー、今日は違うんだぜ」

 

と言うと俺の方を指した。

 

「えーっと、俺は碓氷勇人、一応教師をやっている」

「あぁ!貴女が、いつも妹様から話を聞いています、今日は一体どのようなご用件で?」

「先生はねー、本を読みに来たんだよ!」

「図書館ですね、多分、パチュリー様ならお許しをくださると思いますが…」

 

ん?なんだ、魔理沙の方を見て、

 

「貴女はダメです」

「は?いいだろ、今日は借りる気ないんだぜ」

 

彼女は前科もちのようだ。

 

「本当ですね?」

「安心しろ、今日は本当だ」

「……分かりました、では、どうぞ…」

「先生、魔理沙!早く行こう!」

「分かった、分かったから落ち着こう」

 

俺はフランドールに案内されながら行くのだった。

 

 

 

 

 

青年&少女移動中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだよー」

「おぉ!」

 

広い!その辺の図書館よりはかなり大きい。本はいたるところにある。

 

「あら、フランじゃないの」

「あ、パチュリー!」

 

あの娘がパチュリーと言う娘なのか。紫を基調としたパジャマみたいな服装をしている。ただ、病弱そうな面持ちだ。

 

「で、魔理沙と貴方は?」

「碓氷勇人だ。ここにある本を読ませて欲しいのだが」

「そう、貴方があの……汚したり、傷つけたりしなければ読んでもいいわ、魔理沙、貴女はダメよ」

「私は今日は借りに来たんじゃないぜ」

「返しにも来てないのでしょう」

「いつか、返すさ」

 

うーん、そのセリフを言う奴ほど返さないんだよなー。俺の銃も危なかったのか。まぁ、そこは置いといて、

 

「少し本を探してくるよ」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フラン、彼ってどんな人?」

 

ん?パチュリーが本以外に興味を持つとは。

 

「んー…強くて優しい人!かな?」

 

優しい?あいつはどちらかというと冷たい奴だと思うが。強さもよく分からないしな。フランの方がつよいだろう。

 

「そう…魔理沙、貴女はどう思う?」

「私か?無愛想で冷たい奴だな。だが、話を聞くとたった数日で飛べるようになったりとどこか、天才気質な感じがするぜ。頭でっかちかな。まぁ、霊夢に似ているかもな」

「数日で飛べる様に…」

「あと、自分で魔法道具みたいなのを作ってたぜ」

 

そう、あの銃は霊力を撃ち出せる様になっていた。他にも様々工夫が施されてた。あいつは本当に普通の人間か?

 

「……面白そうな人間ね」

 

ほぅ、珍しいこともあるんだな。本しか興味ないはずのパチュリーが人を面白そうなと言うなんて。で、その『面白そうな人間』は何をしてるのかな?

早速、本を読んでやがる。ちょっと近づいてみるか。

 

 

 

 

 

 

「おーい、勇人」

 

なんだ、こいつ返事しねぇ。集中し過ぎだろ。何を読んでんだ?少し覗くか。

 

ペラッ、ペラッ、ペラッ、ペラッ

 

早っ!こいつ本当に読んでるのか?こっちは全く読む暇もない。

 

「ふぅー、なかなか興味深かった、で、魔理沙は何の用だ?」

 

気づいてたのか。

 

「何読んでんのかなーって思っただけだぜ」

「あぁ、これか」

 

えっと、これは霊力に関する本か。主に肉体強化のことが書かれてるな。

 

「もう、読んだのか?」

「あぁ、多分そこに書いてあることはできるだろう」

「そうか、じゃあいくぞ!」

 

ちょっと、イタズラだ。後ろから本を頭に振り下ろす。

 

ゴンッ!

 

「よし、上手く強化できてるようだ」

 

マジか…本当に習得してやがる…全然平気そうだ。

 

「魔理沙!本を傷つけないでちょうだい!」

「あ、あぁ、すまない」

「ところで貴方」

「ん?」

「貴方、いつでもここの図書館使ったもいいわよ」

「お!それはありがたい」

「何故なんだぜ!私は!?」

「別に彼は盗むわけでもないなら、構わないわ。本を大切に扱ってくれるだろうし。別に借りてもいいわよ」

「いや、大丈夫だ、すぐに読めるから」

「そう、…やっぱり、おもしろいわね…」

「ん?なんか言ったか?」

「いいえ」

「美鈴に伝えておくから次回から来ても問題ないわ」

「本当にありがとう、じゃあ、今日のところはこれで」

 

私と勇人は図書館を後にした。

 

「さよなら!先生!」

「あぁ、また明日、魔理沙もさようならだ」

「お、おう…」

 

彼は飛んで行った。あいつは謎が多いな。

 

「じゃあね!魔理沙」

「あぁ、じゃあな、フラン」

 

私はそのまま博麗神社に向かうことにした。

 

 

 

 

 

少女移動中…

 

 

 

 

 

 

 

「霊夢ー」

「ん?何よこんな時間に」

「相変わらずだなー、お客だぞ?」

「お賽銭もくれないのにお客な訳ないじゃないの」

 

相変わらず、つれないんだぜ。

 

「で、何の用よ?」

「あぁ、そうだな…」

 

私は碓氷勇人のことを話した。

 

 

 

「そう、で?」

「いや、聞いたことあるかなって」

「別にないわ。でも、彼は守谷神社に住んでるのでしょう?多分いつか会うんじゃない?」

 

そうか、神社ぐるみで会うかもな。

 

「大丈夫よ、すぐに会うから」

 

急にスキマが現れた。

 

「何よ、紫」

「ちょっと、お知らせ、ここで彼の歓迎会でも開こうと思うわ」

「なんでよ、私と碓氷って人は関係ないじゃないの」

 

そうだ、なぜわざわざ歓迎会なんてするんだぜ。

 

「貴女は知らないでしょうけど、彼、妖怪の間では随分と有名人よ?」

 

あの新聞のせいだろ。確か天狗に勝ったとか、吸血鬼に勝ったとか。

 

「でね、歓迎会を機に紹介してあげようかと」

「なら、守谷神社でいいじゃないの」

「でも、食べ物とかお酒とか持ってくると思うけど…」

「いや、是非博麗神社でやらせてもらうわ!」

 

すごい手のひら返しである。

 

「魔理沙も参加するでしょう」

「まぁな、あいつと知り合いになったわけだし」

「ねぇ、紫、そのこと守谷神社に伝えてるの?」

「この後、伝えるわ」

「碓氷勇人ねぇ….」

 

 

 

 

こうして、本人が知らぬ間に歓迎会の話が進んでいくのだった…




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第15話 勧誘された日の青年





「俺の歓迎会?」

「えぇ、そうよ」

 

ただいま、勧誘されてます。なんでも、俺の歓迎会をやりたいそうで。

 

「いやいや、わざわざ俺の歓迎会なんてしなくてもいいですよ」

「大丈夫よ、貴方、結構有名だから」

 

くそっ!あの鴉のせいだな!

 

「あら、何処へ行くの?」

「鴉退治に」

「少し落ち着きなさい」

「でも、どうして勇人さんの歓迎会を?」

 

そうだよ、さすが早苗俺の聞きたいことをよく聞いてくれた。

 

「彼は幻想郷に受け入れられているわ。でもね…」

「何か問題が?」

「妖怪たちに受け入られたわけじゃないわ。普通なら別に問題ないのだけれど、この前、貴方が天狗や吸血鬼を倒したということが広まってね、妖怪と人間のパワーバランスが崩れるかもしれないと言われてるのよ」

「あぁ、それで、俺がただの人間であることを示すんですね」

「違うわ、貴方はただの人間じゃないでしょう」

 

そうでした。じいちゃんは神様だったけ?力を受け継いでると言われた。確かに霊力はあるがそれだけだ、人間やめている感はない。

あれ…なんで紫さんはこれを…

 

「えぇ、そうよ"神のお孫さん"」

「ヘァッ!?貴女が…」

「貴方の祖父の友達よ、まぁ、本当にあの人そっくりだわ」

 

確かにじいちゃんと似ていると言われたことはある。

 

「それはいいとして、歓迎会で貴方のことを妖怪たちに認めてもらわないといけないわ、そうしないと潰そうとする者が現れるわ。あの人との約束だからね貴方を見殺しにはできないわ」

「はぁ…」

「ということで、貴方は主役なのだから強制参加で、貴女達はどうするのかしら?」

「私も行かせてもらいます!」

「そういえば、久々の宴会だねぇ」

「久々に博麗神社に行くのもいいか」

「全員参加でいいかしら?」

「あぁ、かまわないよ」

「それじゃあ、他のところも誘ってくるわ、じゃあね〜」

 

そう言うとスキマに消えてった。

 

「歓迎会って何するのでしょう?」

「うーん、酒飲んだり、酒飲んだり…」

 

へいへい、酒しか飲んでないぞ。俺は未成年だから飲まんぞ。

 

「まぁ、行ってみたら分かるさ」

 

まぁ、二週間後にと言われたから大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、パチュリー」

「何かしら、レミィ」

「最近、図書館に魔理沙以外の人間が来てるそうね」

「あぁ、彼のことかしら、えぇ、来てるわよ」

「珍しいわね、魔理沙以外の人間を、入れるなんて」

「別にいいじゃない、本を読むだけならかまわないのよ。まぁ、ここにくる人間なんでそうそうにいないけど」

「それもそうね、そいつの名前は?」

「あら、貴女も珍しいじゃない、人間に興味持つなんて」

「そんな時もあるわよ。で、名前は?」

「確か、碓氷勇人と言ってたわ」

「碓氷…勇人…!」

「あら、知ってたのかしら」

「まぁね、ますます面白そうな人間」

「貴女がその人間をどうしようかは知らないけど図書館で大騒ぎはしないでね」

「あら、別にその人間をどうしようかなんて言ってないわ」

「その顔をする時は決まって何かするのよ貴女は」

「そう…あながち間違ってはいないわね…ところでその人間はいつ来てるのかしら」

「確か寺子屋で教師をしているから、その仕事が終わってからね」

「ふーん、そういえば最近フランが楽しそうなのをよく見かけるけど関係あるのかしら?」

「そうね、貴女がフランに外出を許可して最初はあんまり楽しそうじゃなかったけど、最近はやけに楽しそうね…早く寺子屋に行きたいからって、私に日光対策の魔法を掛けるよう催促されるようになったわ。この前は彼と来たわね」

「ふーん…あのフランがねぇ…その仕事が終わるのはどのぐらいかしら?」

「そうねぇ、もう来てる時間だと思うわ」

「あら、来てるのね…咲夜」

「はい、お嬢様」

「図書館に今、人間がいるだろうから紅茶を出してあげて。そして、3日後の私とのお茶会に招待すると言っておいて」

「承知しました」

 

 

 

「何を企んでいるのかしら?」

「ちょっと、お茶会に誘うだけよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー…ここは落ち着くなぁ」

 

誰もいないから集中して、本を読めるし、次の授業も考えれる。もっとも、集中し過ぎて、あっという間に終わってしまったが。

 

「うむ、何か飲み物が欲しいな」

 

本を汚すなと言われているので飲み物を持ってくるのは気が引けて持って来ていない。

 

「はい、紅茶をどうぞ…」

「!?」

 

い、いつの間に!気配を感じなかったぞ!紅茶をくれた人を見ると、メイドのようだ。やはり、ここはそれなりに力を持っているのだろうか…それにしても、幻想郷は美人揃いだな。メイドさんもかなりの美人だ。ただ、機械のような無表情な顔をしており、無駄が全くない。まさに完璧と言うのだろうか。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

そういえば、紅茶は飲んだことがない。親が生粋のコーヒー派なので俺もコーヒーしか飲まない。あぁ、砂糖とミルクは入れない主義だ。

えっと、確か紅茶はまず匂いを楽しんでから飲むべきなんだっけ?

……柑橘の香りがするな 、飲んでみるか

 

「…!」

 

「美味しい…」

 

意外と渋みが少ない、淹れ方が良いのだろうか。

 

「アールグレイと言う紅茶です」

 

へー、分からん。でも、美味しい。

 

「それと、お嬢様からの伝言です」

 

お嬢様?あぁ、フランドールの姉か。俺に用があるのか?まさか、紫の言う通り、俺を潰そうと…!

 

「いつも妹様がお世話になっていますので、そのお礼をしたくてお茶会に招待したい、と」

 

杞憂だったか。俺がお茶会ねぇ、すごく滑稽だな。だが、断るのも悪いしなぁ…

 

「いつあるのですか?」

「3日後にと」

 

ふむ、その日は寺子屋も休みだし、いいか。

 

「なら、大丈夫です、是非参加させてください」

「承知しました、それでは」

 

と彼女は消えた……消えた!?いつの間にかコップも無くなっている!幽霊か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、是非参加させてくださいとのことです」

「分かったわ、3日後が楽しみね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「あ、お帰りなさい」

「おー、おかえりー」

「今日はどうでしたか?」

「あぁ、チルノがイタズラしたりと大変だったよ、でも、別にいつも通りかな」

「そうですか」

「あ」

「なんだい?」

「そういえば、紅魔館のお嬢さんからお茶会のお誘い受けた」

「「!?」」

「どうしてです!?」

「いやぁ、生徒にその妹さんがいてだな、そのつてで今まで図書館を使わせて貰って「紅魔館に行ってたのですか!?」アッハイ…」

「よく、食われてないね」

「姉の方は知らんが、少なくともフランドールはそんなに悪い娘でも無さそうだよ。少々気がふれるが。それでいつもお世話になってるからと言うわけでお誘いされた」

「で、そのお誘いは…」

「受けたが?」

「ダメですよ!どうして受けたんですか!?」

「いやぁ、断るのも悪いかなって」

「はぁ…いつあるのですか?」

「3日後だが」

「3日後ですね。私も一緒に行きます!」

「え、でも…」

「でもじゃありません!」

「早苗は心配してんだよ」

「……!諏訪子様!?」

「はぁ…問題あるのかなぁ」

「本当に大丈夫なのかね…」

「私も行きますから」

「分かったよ…」

 

 

こうして、この日の夜は一悶着ありながらも過ぎるのであった…




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第16話 お茶会の日の青年






「はーい、それでは和算のテストを返すぞー、順番に来い」

「ふふ…あたいはきっとサイキョーだから大丈夫よ!」

 

そうであってほしいものだ…

 

「まずは、大妖精…よく頑張ったな!」

「あぁ…よかった…」

 

94点

大妖精は安定の点数だ。授業もよく分かっている。他の教科も高得点だ。さすが、このクラスの良心だ…

 

「ミスティアも…よく頑張ったな!」

「やったー!最高得点だ!」

 

89点

やはり、数字に強いなだけある。少しケアレスミスが目立つが、しっかり理解している。

 

「リグルは…もう少し頑張ろうな」

「あ…はい…」

 

48点

リグルはさっぱりって訳ではないのだろうが…勉強不足か?まぁ、俺も数学以外はさっぱりだったので、人の事言えないな。

 

「フランドールは…素晴らしい!満点だ!」

「イェーイ!」

 

100点

うむ、彼女は算数に関して言えばとても理解できている。個人的にもっと先のところを教えるほどだ。他の教科もこんぐらい頑張ってほしいものだが…ん?俺か?人の事言えませんね…

 

「ルーミアは…分かってるのか?分かってないなら聞けよ?」

「そうなのかー」

 

18点

うむ、赤点だな。課題を出さなくては…どこが分かっていないのだろう?教えるのは難しいな…

 

「チルノは…お前も分からないのなら聞きなさい…」

「ん?あたいはサイキョーだから分かってるよ!」

 

9点

あはは…これで分かってるってか?9点て…どう教えたら良いのだろうか…

 

「とりあえず、2人には課題を出しておく」

「「えぇー」」

「えぇーじゃない、期限内に出さなかったらデコにチョークを投げるからな」

「……!分かった」

「よろしい、大妖精とかにも教えて貰いなさい…」

「大ちゃーん、教えてー」

「大妖精、答えは教えるなよ?解き方を教えてやってくれ」

「分かりました」

 

んー、どうしたら分かってくれるだろうか…ここが分かりにくいのか?

 

「先生ー、碓氷先生ー!」

「は!ど、どうした、フランドール?」

 

少し考え過ぎてたようだ。

 

「今日はお姉様からお茶会に誘われてるのでしょ?早くいこう!」

「そうだったな…悪いが先に行っててくれないか?少し用事があるのでな…」

「分かった、でも早く来てね!」

「了解、遅刻はしない主義だ」

 

まぁ、用事ってのは早苗を待つ事なのだがな…2人で行って迷惑でわないだろうか…でも、早苗にしては珍しくものすごい剣幕で言われたからな…

 

「勇人さーん?あ、いました!」

「お、来たか、それじゃあ行くとするか」

 

「……」

「勇人さん?」

 

明日の授業は三角形の面積なのだが…このままで進めてもいいのだろうか。

 

「勇人さーん」

 

チルノとルーミアのためにも一回、四角形の面積の復習しとくべきか?

 

「ゆ・う・とさーん!」

「うぉっ!ど、どうした?」

「どうした?じゃありませんよ…」

「すまん…」

「最近の勇人さんは授業のことを考え過ぎです。他の事にも目を向けましょう」

「そうだな、考え過ぎるのもよくないな。そういえば授業の事以外何もしてないな…運動不足になるのはよくないな」

「それでは今度少し幻想郷を見て回りましょう!」

「そういえば、俺、幻想郷に来てからと言うものの全然地理のこと理解してないからな。見て回るのもありかな」

「私が案内してあげますね!」

「あぁ、頼むよ」

 

お?話してたら着いたな。あそこに門番の美鈴さんが…寝てる…大丈夫かなぁ…この門番は…勝手に入るのも悪いので起こすか。

 

「美鈴さーん、起きてくださーい」

 

だめだ、こりゃ。そういえば、フランドールから起こす方法教えて貰ったな。試してみるか。

 

「すぅー…さく「起きてますよー!」

 

効果は抜群だ!これはヒドイ…

 

「って、勇人さんじゃないですか!今日も図書館に用が?」

「いや、今日は違う。少しそっちのお嬢さんにお茶会のお誘いを受けてだな」

「お嬢様が人間をお誘いなさるなんて…そっちの早苗さんもですか?」

「あぁ」

「そうですか、では中に入ってください。多分、咲夜さんが案内すると思います」

「どうも、それじゃあサボらないように門番の仕事、頑張ってくれ」

「……!は、はい」

 

「本当にここに来てたんですね…」

「信じてなかったのか?」

「だって、吸血鬼を恐れない人間なんてそうそうにいませんよ…」

「そうか?」

「そうですよ」

 

「お待ちしておりました、勇人様」

「ヘァッ!あ、さ、咲夜さんでしたか…」

 

未だにこの人が急に現れることに慣れない。フランドールからはただの人間だって聞いているが…時間を止めれる時点でただの人間じゃないだろ…

 

「あら?早苗も来てるのね…」

「え、えぇ。私も一緒にいいですか?」

「少し待ってなさい」

 

あ、また消えた。って

 

「知ってんのか?」

「えぇ、ここの人達とは顔を何回か合わせてますので」

「そうか、なら、ここの家主の事も知ってるのか?」

「レミリアさんのことですね」

 

 

少女説明中……

 

 

「中々やばい奴なのか…」

総じて我儘な奴と言ったところか。日光遮るために異変起こすのか…確かに吸血鬼は日光が弱点なんだろうけど…その霊夢って奴も中々やばそうだがな。魔理沙も関係したのか…

知らんことが多過ぎて今までしてきたことの恐ろしさがようやく分かったぜ。でも、図書館を使うのはやめる気全然無い。

 

「貴女もいいとお嬢様がお許しをくださったわ」

「ありがとうございます」

 

はぁ…まただ。声には出さなかったがまた、びっくりした。いい加減慣れろよ、俺。

 

「では、こちらへ」

 

そういえば、このメイドさんは空間もいじれるのだっけ?確か、この紅魔館も広くしてあると。はは、チートだわ。

ただなぁ、吸血鬼に時止めにと…なんだろうな、どうしてもあいつを連想してしまう…wryyyyyyyyy!

 

「では、ごゆっくり…」

 

は!いかんいかん。変な事考えてた。

 

「こんにちは、私の名はレミリア・スカーレットよ」

「ご丁寧に、俺の名は碓氷勇人だ。一応、教師をしている」

「知ってるわ、フランからいつも話を聞いているわ」

「それはどうも」

「噂通り、面白そうな人間ね…」

「?なんか言ったか?」

「いいえ、貴方のお陰でフランは楽しそうだわ、姉として感謝するわ」

「まぁ、教師だからな、当たり前のことだ。何より楽しんでもらえてこちらがありがたい」

「面白い人間ね」

「そうか?つまんない方だと思うが」

「そういえば、貴方、妖怪を倒したと…さらにはフランに弾幕ごっこで勝ったそうじゃない」

「……!」

 

これは…殺気か?あの小さな体からとてつもない威圧感が。だが、俺も負けじと返す。

 

「レミリアさん!」

「あら、早苗もいたのね、ごめんなさい。少し噂が本当か調べたくてね」

「勇人さんに手は出させませんよ!」

 

早苗がここまで敵意を出すのは初めて見た。力強いな。さっきの言葉は。ただ、俺のプライドがぁ…女性に守ってもらうような発言されるなんて、情けない。

 

「大丈夫よ、今回はお茶会のお誘いなのだから」

 

そう言う彼女の笑みはどこか不敵なものがあった。

 

 

やはり、面白い。この碓氷と言う人間は。私が普通の人間なら恐怖に陥るほどの妖気を出したのにもかかわらず、怯むどころか返してきた。いくら、威圧しても彼には効かないだろう。ますます気に入った。ただ、早苗だっかしら?守谷神社とか言うところの巫女だったからしらね。その娘まで来るのは計算外だったわ。でも、問題無いわ、霊夢なら話は別だけど、この娘ならどうにかできるわ。

ふふ…彼を配下にしたいわね…血も吸ってみたいわ…ふふ…

 

「紅茶でございます」

「あ、ありがとう」

 

うーん、お茶会とか初めてだからどうしたらいいのか分からん。早苗は普通に飲んでいるが、飲んでいいのか?

 

「別に固くならないでいいわよ」

「いやぁ、こういうのには慣れてないので…」

「すぐに慣れるわよ…」

 

なんだろう、嫌な感じがする。とりあえず、このクッキーでもたべるか。……美味い、今までその辺で売ってたやつとは大違いだ。紅茶ともすごく合う。

 

「貴方はどうして幻想郷に?その格好じゃあ外界のひとでしょう?」

「あー、分かります?まぁ、実は色々ありまして…」

 

 

青年説明中…

 

 

「あら、大変だったのね」

「確かに寂しいこともありますが、ここでの暮らしも悪く無いと思います」

「やはり、寂しかったのですね…」

「あ、大丈夫だぜ?早苗」

「ふふ…ところでお茶の味はいかがかしら?」

「美味しいですよ」

 

俺もそう思う。紅茶をよく飲まない俺ですらこれは美味しいと分かる。

 

「そうでしょう、うちの咲夜は完璧だから」

「ありがとうございます、お嬢様」

 

いたのか…急に出でこないで欲しい。

ん?腕に、違和感と思ったら、リストバンドつけてたな。あ、銃も学ランの内側に入れっぱなしだ…ありゃ、ナイフまで。これは失礼だろう。外すか。

 

「うーん…」

「早苗?どうした、ここで寝るのは行儀が悪いぞ…」

 

あれ?なんで、視界がボヤけてるんだ?疲れ溜まってのんかなぁ。だんだん、眠く…

 

バタッ

 

「寝たわね、咲夜」

「何でしょうか、早苗を客室の部屋に」

「承知しました、この青年はお嬢様が?」

「えぇ、今夜は面白くなりそうだわ」

そう言う彼女は見た目に似合わぬ不敵なえみを見せるのだった。









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第17話 紅き日の青年






「ん…ふぁぁ…あれ?俺寝てしまったか?」

 

お茶会で寝てしまうとは…

相当、失礼なことだよな…どうしようか、謝った方が良いよな。

あれ?でも、早苗も寝てたよな。少々天然とはいえ、基本的にはしっかりしているから、寝るなんてしないはずだが…

そもそも、同時に寝てしまうなんてあるか?じゃあ、なぜそんなことに…

考えてもしょうがねぇ、今の状況を整理しよう。ん?腕が自由に…

 

「!?」

 

どういうことだ?なんで、鎖で俺の腕は繋がれている?よく見たら、牢獄のような部屋じゃないか。

 

「は?は?」

 

なぜだ?意味が分からん。

そうだ、武器は?

 

「よかった…ある」

 

だが、余計に謎が深まるだけだ。

とりあえず、俺は監禁されている。しかし、武器は取られていない。

急に眠くなって、寝たらここにいた。急に眠くなるには、薬を用いるか、なんかの術のどちらかだろう。疲労では、あり得ないな。毎日たっぷり7時間以上は寝ているからな。

術を使うといっても、そんなのがかけられた感覚はないし、第一にそんな怪しいことしている奴がいればすぐに気がつく。

ということなら、薬かな。でも、この場合は使われている可能性は1つだけだ。弁当は早苗が作ってくれたものだからあり得ない。となると、それ以外で口にしたのは…

 

「あのお菓子とお茶だけだよなぁ」

 

これだと、犯人はレミリア確定ではないか。じゃあ、なぜだ?ワケワカメ。

 

「…とりあえず脱出するか…」

 

武器は取り上げられてないわけだから、どうにかなるでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜、はぁ〜………は!」

 

私、何をしてたのでしょうか?そういえば、急に眠たくなって…

 

「あれ!?勇人さんは?」

 

どこにいったのでしょう!?

とりあえず、ここは客室のようですが…部屋から出ましょう。

 

ガチャ

 

「あら早苗」

「あ!咲夜さん」

「貴女、大丈夫かしら?急に眠るもんですから、体調悪いんじゃない?」

「いいえ、私はいたって元気です。それより、勇人さんは?」

「あぁ、彼ならまだお嬢様といるわ、それより、貴女もう少し休みなさいな」

「大丈夫です、それより勇人さんの元へ…」

「今は2人で話したいそうよ」

 

おかしいです。なんでしょうか…嫌でも私を勇人とレミリアさんの元へ行かせたくないようです。

 

「咲夜さん、少しおかしいですよ。まるで、勇人さん達に会わせたくないじゃないですか」

「おかしくなんかないわ。私はいたって正常よ?貴女は少し寝てなさい」

「!!」

 

気づくと彼女もう前に…

 

「もう少し寝てなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これをここに通して…よし!」

 

今、脱出のために鎖を取ろうとしてます。え?方法?ナイフだと切れ味が落ちてしまうので使いません。銃だと音がどうしても…だから、糸で切ろうとしてます。

糸では切れないだろうって?大丈夫、霊力で強化してある。余裕よ、こんなの。

 

「せーの、ふんっ!」

 

よし、切れたな。あとはこの部屋をだが…扉は1つだけ、窓は無しと…

扉から出るしかないな。鍵は開いてないに…

 

ガチャ

 

開いてんのかよ。ホントに意味わからん。何がしたいんだね。あーもう、メンドくさい。

牢獄みたいな部屋から出ると廊下に出た。俺は銃を取り出しリロードしておく。あぁ、自動拳銃も持ってくるんだった。

廊下をしばらく歩くと他の扉とは明らかに違う少し大きめの扉があった。

 

「ここには誰も…」

 

いるな。扉を開けた先には玉座に座った吸血鬼の姿が。目が紅く光っている。

 

「なぁ、少し聞きたいのだが」

「えぇ、かまわないわよ」

 

なんだ、あの目は獲物を見つけたような目をしてやがる。

 

「なんで、俺はあの部屋にいた?早苗はどこだ?」

「安心なさい、あの巫女にはあっちから攻撃してこない限り、危害は加えないわ」

 

と言うと、彼女は笑みを浮かべながら

 

「だって…目的は貴方ですもの」

「はぁ、俺も人気者になったものだねぇ」

 

俺は銃を構え

 

「早く出してくれよ、面倒ごとは嫌いなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し寝てなさい」

 

ガッ!

 

「!!」

「時間止めて、後ろから奇襲と言うのは定番ですよね」

「あら、防がれたわ…」

「さぁ、答えてください!勇人さんはどこです!」

「お嬢様の命令で言わないように言われているの。あと、何もしてこなかったら、危害は与えないわ。でも、攻撃してくるのなら、迎撃してもかまわないと言われているわ」

「そうですか」

「そうよ、分ったなら帰りなさい」

「レミリアさんは勇人さんをどうするつもりなのですか」

「さぁ、食料にするのじゃないかしら。彼は外界の人間だし、襲ってもなんの問題ないわ」

「大アリです!こうなれば力づくでも」

「あら、私と戦うのかしら?」

「そうです!」

 

確かに咲夜さんは強いですが、逃げ出すにはいけません!絶対に勇人さんを連れ戻します!

 

「いいわ、すぐに終わらせるわ」

「!!」

 

消えたと思ったら四方八方からナイフが!でも、慌てません!風によってナイフを吹き飛ばします。

 

「あら、これも防がれるとは」

「その技もう、知っていますので」

 

時を止めるキャラの攻撃と言ったらこれでしょう!

 

「ならこれはどうかしら?」

 

格闘戦ですか、得意では無いですが応戦するしかありません!

 

「はっ、はっ」

「くっ…くっ」

 

やはり、得意では無いせいか、少しずつ押されて…

 

「隙だらけよ」

「うぐっ!?」

「まだまだね」

「けほっ、けほっ、でも!」

 

私は負けられないのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!パァン!パァン!

 

「その位のスピードだと、避けるのは簡単よ?」

 

くそっ、吸血鬼は身体能力が高いと聞いてたが、ここまでとは…俺の撃つ弾が簡単に避けられてしまう。

 

「こっちからもいくわよ」

「!?」

 

な、なんだ!?あれは、槍のようだが、俺の思う槍より大きいぞ!

 

「神槍『スピア・ザ・グングニル』」

「しまっ」

 

速い!避けられ…

 

ドゴーン!

 

「あら、もう終わり?大したことなかったのね…」

「へぇ、そうかい」

「!いつの間に後ろに…」

「射程距離内だ!早撃『クイックドロウ』!」

 

バッバッバッバッバッバン!

 

「きやっ!」

「全弾命中!」

 

ふう、助かった…このリストバンドはフックとしても使えるのな…とっさに上に逃げて正解だった。

銃弾は弾幕ごっこ用ではなく、一応、殺傷能力が高くなるように、本来の銃弾同様高速回転させてある。さすがに吸血鬼の嬢ちゃんもキツイだろう。

さて、早苗を探しに…

 

「あら、どこに行くのかしら?」

「!?チィ!」

 

リロードしないと!

 

「そんなことさせないわ」

「残念だな!既にリロード済みだ!」

 

バッバッバッバッバン!

 

「同じ手は喰らわないわよ」

「!?」

 

姿が蝙蝠となり、散り散りに…って、ぼーっとしてる場合じゃねぇ!

 

「後ろよ」

「なっ!」

 

しまった、もう一回…

 

「ふんっ!」

 

ザシュッ!

 

「グワッ!」

 

左肩が抉られた!なんとか避けて、致命傷では無いが…血が止まらない!

 

「フフッ…やっぱりなかなか面白いわ!ますます貴方を気に入ったわ」

「そ、そうかい。でも、こっちは全然面白く無いのですがね!」

 

と強がってみるはものの、左肩から下にかけて感覚が無い。これでは戦いにくい…どうすっかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

少々身体がきついです。でも、相手も同じなのでしょう。肩で息をしてます。

 

「はぁ、はぁ、やるじゃない…はぁ、でも次で最後よ!」

「えぇ!次で最後です!」

とっておきの技を喰らわせてやりますよ!

 

「幻世『ザ・ワールド』!」

「奇跡『ミラクルフルーツ』!」

 

「やっぱり、どう考えてもそれ、DIOのパクリじゃないですか!」

「知らないわよ!それよりも貴女のネーミングセンスの方がぶっ飛んでるわ!」

 

ドゴーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガーン!

 

「うわっ!」

「どうしたかしら?もう終わりかしら?」

 

はぁ、はぁ、畜生…さっきから逃げることしかできねぇ。牽制にと撃つものの、全く無意味だ。血が出すぎている…少々頭がふらつく、貧血か?どうすっか…打開策は…

 

「 隠れても無駄よ」

 

ドガーン!

 

「ガハッ」

 

吹き飛ばされた、意識が…

はっ!いかんいかん。あれ?銃は…

あ…もう!よりによって、あいつの近くに!この状態じゃあ近づけねぇ…ナイフで頑張るしかないのか…

 

「もう、満身創痍ね…この際だから教えてあげる。私の能力は運命を操る程度の能力よ」

「へぇ、そうかい。それで?」

「貴方は私の配下になるのだから知ってもらうだけよ…貴方は何か能力を持っているのかしら?」

「生憎、持ってるか、どうかすら分かってないんだ」

 

そういえば、俺の能力はなんだろうか…じいちゃんはあると、言ってたが…ん?あの時の手紙に俺の血が鍵になるって言ってたな…

紫さんと戦った時、スキマを無視してナイフが紫さんを貫いたな…その時、確か…確かめる価値はあるな。

 

「今から宣言してやる!俺はこのナイフでお前を倒す!」

「そのナイフで?アッハッハ!頭でもトチ狂ったからしら?」

「残念だが、いたって正常。俺は本気だぜ!」

「面白いわ、やってみなさいよ…これを避けれたらね」

 

また、あの槍か…だが、俺はこれに賭ける。ナイフには血が滴っている。

 

「おらぁ!いっけー!」

「神槍『スピア・ザ・グングニル』」

 

サイズも威力もあの槍が上だろう。だが、俺の考えが正しければ勝算はある!

「もう、終わりね…」

 

ナイフと槍が衝突する…

ドガーン!

 

「!?」

「よし!」

 

やはり、間違ってはなかった!ナイフは宝石から光を放ちながら槍を貫いた。そして、そのまま彼女を貫いた。

 

「グフッ!」

「そのまましばらく再起不能になってもらう!」

 

貫通しただけではすぐに治ってしまうだろう。だから、

 

「ふんっ!」

「人間に負けるとでも!」

「あぁ!これで終わりだ」

 

ナイフには糸がついている、そこにありったけの霊力を流す。

 

「きゃああ!」

「しばらく、寝てな」

 

体内に直接、霊力を流せばひとたまりもないだろう。それと、俺の霊力の性質が合わさるからな。

 

「ガハッ…」

「俺も能力を教えとくぜ、俺の能力は…」

 

彼女は目を見開いて倒れた。

 

「はぁ、はぁ、キツかった…ま、俺の能力が分かったしいいか。もう少し研究する必要があるが、これであながち間違っては無いだろう」

 

「それはいいとして…早苗を…」

 

ドゴーン!

 

「!?」

 

爆発音が…向こうからか…もしかして早苗が…急ごう!

 

「イタタタ…」

 

肩が痛いが我慢するしか無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴーン…

 

「はぁ、はぁ…やっとこれでね、お嬢様のところへ…」

 

「まだです…」

「はぁ、立つので精一杯じゃない。なぜそこまでするのかしら?別に死んだからって、貴女には問題無いじゃない」

「問題大アリです。だって…」

 

あれ?身体に力が…

 

「やっぱり、限界じゃない」

 

こんな時に、限界だなんて…

嫌です!勇人さんを助けないと…

 

ガバッ

 

誰でしょうか?倒れそうな私を抱えてくれてます…

 

「お疲れ、早苗。後は俺に任せろ」

「勇…人さん!」

「!?お、お嬢様は?」

「向こうでぐっすり眠ってるさ、それより、もう帰っていいかな?」

「ゆ、許しません!」

「はぁ…俺も疲れてんだ」

 

お嬢様が負けたとでもいうのかしらこの人間は。たかが、人間にお嬢様が負けるわけないじゃない!

銃を構えたところで無駄よ。私は時を止めれる。こいつを仕留めて、お嬢様の仇をうたないと…

 

「お前もしばらく寝とけ」

 

パァン!

 

「無駄よ」

 

周りの時間が止まる。これで…

 

ビシッ!

 

「え!?」

 

なんで…他は止まっているのに…弾だけ動くの…

 

バタッ

 

「フゥ…」

 

急に咲夜が倒れたようにみえたが、時でも止めたのだろう。だが、俺も能力には目覚めてんだ。残念だが意味がないのだよ。

 

「帰るか…」

 

早苗は寝てしまったようだ。本当に申し訳ない。忠告をきちんと聞くべきだったな。

 

帰ったらしっかり謝ろう…

そう言いながら、胸の中で眠る早苗を抱えながら、守谷神社にむかうのだった。



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第18話 宴会の日の青年

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

あれ?こんなに守谷神社で遠かったっけ?霊力は空を飛んでる途中で尽きてしまった。だから、歩いているのだが…

 

「はぁ、はぁ、人里によればよかったかな…でも、もうここからなら、守谷神社の方が近いよな…」

 

遠ーい、遠すぎる。くそ、早苗は思ったよりも軽いが、さすがに背負って山を登るのはきつい。左肩にいたってはもう動かないし、感覚もない。

 

「ふぅ、ふぅ…」

 

 

「ん?誰でしょう?」

 

また侵入者でしょうか…よく見てみましょう。

 

「…!あ、あれは勇人さんと早苗さん!」

 

何があったのでしょうか?早苗さんは気を失っているようです。勇人さんが背負っていますが、その彼は左肩に大きな傷が、足もおぼついていません。

 

「助けに行かないと!」

 

 

 

「はぁ、はぁ…遠い!遠すぎるぞ!」

 

文句を言っても距離は縮まらない。だが、身体ははっきり言って限界だ。

 

「勇人さん!」

「あ?あぁ、椛か…丁度いいところに…早苗を神社まで運んでやってくれ…」

「勇人さんも怪我してるじゃないですか!?」

「いいから…早く…」

 

バタッ

 

「勇人さん!勇人さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…はっ!ゆ、勇人さんは!」

「あ!早苗!目覚めたのかい!」

「諏訪子様!ゆ、勇人さんは?」

「あぁ、彼なら安心しな、神奈子が永遠亭に連れてってたから。それより何があったんだ?」

「よかった…無事なのですね…えっと…この事ですよね…」

 

 

少女説明中……

 

 

「そうか…あのロリ吸血鬼め…これは戦争だね…」

「ちょっと、落ち着いてください!」

「落ち着けるものか!こうなったら、紅魔館と守谷神社との戦争だよ!全力で潰してやる!」

「そ、それはダメですよ!」

 

「それより、どうやってここまで?」

「あぁ、それは椛が運んできたんだよ。山ん中で見つけたらしい」

「あれ?確か…私はあの時、気絶して…」

「どうやら、山までは勇人が背負って来たらしい」

「勇人さんは大丈夫なのですか?」

「左肩を大きく損傷、いたるところにも怪我をしている。霊力もほとんど使い果たしていたが、命には問題無いようだよ」

「そうですか…大怪我だったのに…私をここまで運んで…」

「椛にも感謝するべきだろうが、とりあえず勇人に感謝しに行きな」

「は、はい!」

 

急いで、永遠亭に行きましょう!

 

「あ!椛さん!」

「早苗さん!身体は大丈夫ですか?」

「おかげさまで、大丈夫です。椛さんが連れて来てくれたのでしょう?ありがとうございます」

「いいよ、いいよ。それより、勇人さんに言うべきでしょ?」

「椛さんに助けてもらったのも事実です。本当にありがとうございます」

 

 

「今はお礼はできませんがいつか必ず、お礼、させていただきますね」

「別に、いいのに…ほら、勇人さんに会いに行くのでしょう?早く行ってあげなさいよ」

「そうさせてもらいます」

 

 

少女移動中……

 

 

「あ!永琳さん!」

「あら、早苗じゃない、彼に会いに来たのかしら?」

「はい、今、会えますか?」

「今、彼は寝ているから静かにね」

「はい!」

 

 

「スー…スー」

「勇人さん…」

 

肩に包帯が巻かれています…私より酷い怪我だったのに…

 

「…ヒグッ、ごめんなさい…」

 

涙が止まりません。彼が汚れてしまいます。

 

…ん、頭に何か

 

「勇人さん?」

「あぁ、無事なようだな。どうした?泣いたりなんかして」

「うっ…ウワァァァーン!」

「お、おい…大丈夫か?」

 

何故でしょうか、涙が止まりません。

 

「すまなかったな…」

 

彼は私を優しく抱きしめてくれました。

 

 

 

 

「…もう大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です…」

 

あれから、しばらく泣いていました。ちょっと、恥ずかしいです。でも、言わないといけないことが、

 

「ありがとう」

「ん?それは、こっちのセリフだ。忠告も聞かずに行った結果だ。お前は俺を守ろうとしてくれたんだろう?本当にありがとう」

「……//、そ、そんなことよりも、怪我は大丈夫なのですか?」

「うーん、分かんないな…」

 

「安心なさい、3日もすれば、退院していいわよ。別にすぐに直す方法もあるけど」

「い、いや、結構です。3日間安静にしておきます…」

「そう、ならしっかり療養しなさい」

「ありがとうございます」

 

 

「ふぅ、3日間か…寺子屋、どうすっかな…」

「それなら、私が伝えておきます」

「ありがとう」

「いえ、大丈夫です」

 

入院生活か…3日間だけだが、暇だなぁ…

 

と思ってた時期も私にはありました。

慧音さんがわざわざ見舞いに来てくれた。本当にありがたい。寺子屋のクラスたちも見舞いに来てくれた。相変わらずのようで良かった。

ただ、フランドールに本当のことを言うのはやめておいた。いざこざが起こるのは良くない。

まぁ、チルノ達が賑やかにしてくれたし、暇じゃなくて良かった、良かった。

 

 

っと、3日間はあっという間に過ぎて、普通の生活に戻れた。完治というわけではないが生活するには問題無い。

授業も平常通り行え、守谷神社でもいつもの生活に戻った。

 

「平常って、いいなぁ」

「あら、良かったじゃないの」

「あぁ、紫さんですか」

「もう、驚かないのね」

「ええ、慣れてしまいました」

「そう、で明日のことなんだけど…」

「あぁ、歓迎会でしたっけ?別に問題無く参加できますよ」

「そのことじゃないわ、招待しているメンバーに紅魔館の人達もいるのだけど…」

「別に問題無いんじゃないんですか?」

「あら、てっきり、拒否するものかと」

「これを機にしっかりお話できますし、相手も下手に出れないでしょう」

「それもそうね」

 

「それと…」

「何でしょうか」

「貴方…自分の能力分かったみたいじゃないの」

「ええ、分かりましたよ」

「どんな能力かしら?」

「それは歓迎会にて言いますのでそれまでは内緒です」

「あら、残念ね」

「で、用事はそれだけですか?」

「ええ、そうよ、それじゃあ」

 

スキマに消えてってしまった。

 

「つかめない人だなぁ、あっ、人じゃないか。HAHAHAHA…」

 

「どうかしたのかね、あの子は…」

「少し頭打ったんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー…ようやく終わった…」

 

今日は久々に授業やったが…まぁ、変わらずと言ったところか。

そうだ、今日は俺の歓迎会があるんだった。さっさと帰って準備するか…

 

「勇人」

「はい、どうしましたか?」

「今日、お前の歓迎会があるのだろう?」

「ええ、慧音さんも参加するんですか?」

「ああ、参加させてもらうよ」

「そういえば、結構な頻度で宴会があっていると聞いたんですが…」

 

何でも、どんちゃん騒ぎでとても大変だそうだ。まぁ、歓迎会でそんなことになるとは思わないが、

 

「ああ、あってたな。ただ、最近はあまりやってないな」

「そうですか」

「ところで、お前はお酒飲めるのか?」

「え?飲んだことすら無いですよ。そもそも、未成年なので飲んではいけません」

「飲んだことがないのか!?そうか…今回を機に飲めるようになった方がいいぞ」

「はぁ」

 

慧音さんも変なこと言うんだなあ。未成年はお酒はダメなはずなのに…

 

「もう帰るのだろう?また今夜会おう」

「はい」

 

そう言い、寺子屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「博麗神社であるんだよな」

「ええ、そうですが、緊張しているのですか?」

「え、い、いや、き、緊張なんかしてないさ」

 

すいません、緊張してます。元々人の前に立つのは苦手だ。ましてや、話すなんて。あぁ、心臓が飛び出そうだ…

 

「大丈夫ですよ、きっとみんな歓迎してくれますよ」

「あぁ、そうだな」

 

 

「酒だー!酒をよこせー!」

「あ!この料理食べたの誰よ!」

 

\ワー、キャー、ギャー、ガチャン/

 

「何じゃ、こりゃ」

 

宴会じゃあねぇか。外界の宴会より酷いんじゃないのか?人と妖怪が入り混じって、大騒ぎだ。

あ、魔理沙だ。てか、酒飲んでいるぞ!あいつも未成年だろう?早苗は…うわっ、絡まれている。あぁ、無理矢理飲まされて…潰れてしまったようだ。

 

「逃げよう」

「どこに行くのかしら?」

「あ、いや…その…ちょっと…」

「主役がいないといけないでしょ?」

「いや、俺の存在無視されてるから、別にいいかと…」

「ダメよ、私に任せなさい」

 

や、やめてくれぇ、死地に向かいたくない…

 

「みなさーん、こちらに集中して」

 

と紫さんが言うが、

 

\ガヤ、ガヤ…/

 

聞く気、ナッシングですか、そうですか。

 

「あら、ダメね。勇人、貴方がどうにかしなさい」

「えぇぇー…」

 

しょうがない、腹を括るしかない。

銃を取り出してっと…音を鳴らすように霊力を込めて…空に向けて…

 

バァン! バァン! バァン!

 

3発鳴らすと、ああ、うるせー。ただ、効果はあった様だ。みんな静かになって、こっちを見ている…や、やばい、き、緊張してきた….

 

「はーい、みなさーん、こちらが例の外来人の」

「う、碓氷、ゆ、勇人です!よしろしくお願いします!」

\よろしくー!/

 

よ、良かった、どうにかなったぞ。と言うことでおさらばさせ…

 

「へー、君があの噂の…」

 

あ、絡まれた…何だ?見た目は完全に小さな女の子だが、頭に生えている2つの角が人間ではないことを教えている。

う、酒臭ぇ、相当飲んでるな。

 

「君も酒を飲みなよ」

「え、いや、結構です」

「んあー?私の酒が飲めねぇのか?」

 

典型的な酔っ払いのセリフですね。

 

「一杯だけですよ…ん、ゴクッ、ゴクッ、ふー…」

「おお!いい飲みっぷりだねぇ」

 

味はよく分からん。これでいいだろう。

 

「ほら、もう一杯」

「いや、いいです!」

「ああ!?飲みなさいよ!」

 

むむ、どうするか…

 

「なら、賭けでもしましょう!」

「賭けだぁー?」

「えぇ、では、このナイフをあの木に刺しますので抜けた方が勝ちとしましょう」

「ああ、いいだろう!もし私が勝ったらどうするんだい?」

「貴女が飽きるまでお酒につきあいます、俺が勝ったら貴女のお酒は飲まない。どうでしょう?」

「ああ!鬼の力、舐めんなよ!」

 

あ、鬼でしたか。そりゃ、力に自慢があると…ま、負ける気しないが。

 

「刺しましたよー」

「よし、こんなのすぐに終わるな…勇人とか言う奴、飲む準備でもしとけよ!」

 

周りもこちらに注目し始めたな…

 

「こんなの片手で…ふんっ…って、あれ?」

 

ふふ…抜けるわけがない。ちょいと、ナイフに小細工をした。いくら、力があっても抜けない。

 

「ぐぬぬ…」

「おい、鬼の力でも抜けないぞ」

 

「ギブですか?」

「まだだ……ぐぬぬ…何だ?これ、ビクともしないじゃないか」

「変わってくれますか?」

「あぁ、お前で抜けんのか?」

「ほい」

 

スッ

 

「!!」

「私の勝ちですね」

「は、ど、どうして…」

「ちょっと、このナイフに細工を…」

「小細工で取れるわけがない!」

「まぁ、細工というよりか、能力を使わせてもらいました、ちょうどいいです。俺の能力を教えましょう。俺の能力は…」

 

 

 

「物事を不変にする程度の能力です!」

 

ふふ…決まった。

 

「な、何だ?その能力?」

 

ありゃ、分かりやすいと思うのだが、まぁいい、これまで調べてきたことを教えてやる。

 

「まぁ、詳しく言うと、物体に俺の血をつけることで、物体を不変化させます。具体的に不変化された物は絶対に壊れませんし、傷がついたり、変形したりすることもありません。また、その物が何かの動きも不変化できます。さっき、ナイフが動かなかったのは、俺がこっそり血をつけて、ナイフがあの木に留まることを不変化したからです。この不変化の効果は、次元や時間からも干渉されることは無いです!つまり!不変化した物に対し前に飛んでいくことを不変化させれば、次元を変えようが、時間を止めようが、衝撃を与えようが、この次元において、物が前に進む事を止めることはできません!あ、生物に対しては能力は発動しません」

 

ふぅー、長い。これで、理解してくれたかな?

 

「なるほど、それで…」

紫さんは納得してくれたようです。

 

「んー、まぁ…とりあえず、この会を楽しみましょう!」

 

\ワー!、キャー!/

 

「ふぅー、これでも俺は帰っても「ダメよ〜」ア、ハイ…」

「とりあえず貴方、お酒を貰って回りなさい」

「はい…」

 

どこから、まわろう…

 

「先生ー!」

「え?フランドールじゃないか?」

「先生、こっち来てー!」

 

お?レミリアに咲夜さんにパチュリーさんにと…紅魔組ですか…

 

「あぁ、この前はどうも」

「え、えぇ」

 

ふふ…この前のことで随分と焦ってるな。

 

「ほい、これ」

「え?あ、ありがとう」

 

と俺は赤い液体の入った試験管を渡した。

 

「それで、これからは、俺を襲うなんてことはもうしないでくれ。フランドールのこともあるからな。その量でじゅうぶんだろう。」

「あの事はいいの?」

「許した訳ではないが、いつまでも引きずるのは良くないからな、チャラにしよう。これからも、お茶会に誘ってくれ、襲うのは無しだ。いいな?」

「え、えぇ、いいでしょう」

「フ、フフフ…」

「な、パチェ!何が面白いのよ!」

「べ、別に…フフフ…」

「先生も飲もうよ!」

「あ、ああ」

 

そうか、俺よりもずっと年上だった。そりゃ、お酒も飲めるよな。ただ、犯罪の匂いしかしねぇ。

 

「咲夜、彼にもワインを」

「承知しました、勇人さんどうぞ」

「あ、どうも…」

 

は、初めてだな、ワインって美味しいのか?

 

「…ん、ゴクッ」

 

わ、分からん…

 

「ありがとう、次に行ってくる、それでは」

 

 

「あ!永琳さん!」

「勇人じゃない」

「へぇ、彼がねぇ、どうも私の名前は蓬莱山輝夜よ」

「姫、彼に興味でも?」

「えぇ、だって不変をあやつるのでしょう?私達みたいじゃない」

「まぁ、そうですねぇ」

「へ?」

「言ったことが無かったかしら?私たちは蓬莱人といって、不老不死なのよ」

「は、初耳です…」

「いつか、永遠亭に来なさいよ」

「いや、既に何回か…」

「患者としてではなく、客としてよ」

「あ、ハイ…」

「とりあえず、飲みなさい、紫から飲んで回ってこいとか言われているのでしょう?」

本日、三杯目のお酒を飲むのだった…

 

 

 

 




勇人の能力は分かったでしょうか?わからない点があれば質問してください。
宴会はもう少し続きます。


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第19話 続・宴会の日の青年





さて、未成年飲酒禁止法を存分に破ったところ(良い子のみんなは真似するなよ!)で

 

「おーい、勇人!」

 

声をかけられた、次は誰かね…

 

「慧音さん!?」

「こっちに来い、一緒に飲もう」

 

酔ってるのかな?意外だなぁ。普段はしっかり者なのだが、今は頬を赤く染めすっかり出来上がっている模様。

あと、一緒にいる娘は誰だろう?とても長い白髪に、モンペのようなズボンを履いている。

 

「それじゃあ、失礼します」

「ほら、どんどん飲め」

「あ、ありがとうございます…」

 

本日、四杯目。まだ、大丈夫の様だ。自分が酒に強いかどうかは分かってないので慎重に飲みたいのだが…

 

「ほい」

「あ、ありがとうございます…」

 

少し勧め過ぎやせんかね…

 

「慧音、こいつが例のか?」

「んぁ?そうだよ。いつも世話になっている。本当にありがたいよ」

「へぇ〜、私は学問に関してはもうさっぱりだからな…あ、自己紹介もせず、喋ってしまった様だ。私は藤原妹紅。よろしく」

「碓氷勇人です…よろしくお願いします」

 

サバサバした人だ。そういえば、輝夜という名前に藤原…そして、不死身…まるで、竹取物語みたいだな…あぁ、国語の授業で冒頭部分を覚えさせられてたっけ…

 

「君は"物事を不変にする程度の能力"なんだろ?少し私の能力と似てるな」

「妹紅さんは?」

「私は、"老いる事も死ぬ事も無い程度の能力"だ。要するに不老不死っといったところだ」

「妹紅さんもですか」

「私もって、あぁ、あいつに会ったのか…」

「?」

「いや、何でもない。それよりもさん付けで呼ばないでくれ、呼び捨てでいい、あと敬語もなしだ」

「はあ、了解」

「妹紅、勇人だはな…すごく頭がいいんだぞ!私の知らない数式をたくさん知っている。そして、強い。中々いい男だろ?」

「はいはい、確かに頭は良さそうだが、強いのか?」

「下級妖怪よりは強いと思うぞ」

 

自信持って言えるな。あ?情けないだと?ここの世界が少々おかし過ぎるのだよ。

 

「それでは、他のところも回って来ます」

「おう、いつかまた会おう」

「また、明日ー」

 

珍しい物が見れたな。慧音さんはかなり酔っ払うタイプだとは…ギャップがすごい。

 

「まだ、酔いはきてないなぁぁぁぁぁ!」

 

足元が!?

 

ドスンッ!

 

「いてて…急に」

「あら、お取り込み中だったかしら?」

「紫さんと誰です?」

何人いる?1…2…3…な、なんだ?あのふわふわしたものは?

 

「ふむ、これが例の…」

「本当にそっくりね…」

「……」

 

そんな、ジロジロ見ないでください。恥ずかしいです。

 

「私の名前は八雲藍だ。紫様の式だ」

 

うわぁ…すごい尻尾だぁ。モフモフしてみたい…じゃないじゃない

 

「私は西行寺幽々子よ。よろしくね〜」

 

フワフワした人だなぁ。おっとりという言葉が似合う。

 

「魂魄妖夢です。幽々子様に仕えています」

 

俺的には彼女よりも、その近くにある魂みたいなのがすっごい気になる。

 

「ど、どうも…みなさんはもう知ってらっしゃると思いますが、もう一度自己紹介させてもらいます。名前は碓氷勇人、一応、教師をしています」

 

「ほう、何を教えているんだ?」

「和算を」

「和算か、私も得意だ。そうか、いくつか問題を出そう」

「え?あ、いいですけど…」

 

少女出題中・青年回答中……

 

「全部正解とは…やるな」

「ま、まぁ、教師やってるので…」

 

あの問題はメネラウスの定理とかチェバの定理ですぐだったからなぁ。

 

「ねぇ、紫」

「何かしら?幽々子?」

「本当にあの人の孫なのよね…」

「えぇ、そうよ」

「あの人が若返ったのかと思ったわ…」

「確かに瓜二つだからねぇ…」

 

そこまで似てんすか…

 

「で、何の用で?」

「あら、お酒を一緒に飲もうと思っただけよ」

「あ、はい」

「はい、どうぞ」

「ど、どうも」

 

本日、六杯目。まだ、セーフの様だ。

 

「ところで幽々子さんの種族は?」

「私はね、亡霊なのよ」

 

へ〜、亡霊かぁ。あれ?あんまり驚いてない!?慣れてしまったのかなぁ。

 

「妖夢と白玉楼に住んでいるのだけど、今度来てみない?」

「幽々子?」

「大丈夫よ、死に誘うわけじゃないわ、純粋に誘ってるだけよ」

 

ワッツ!?死に誘うって…やっぱ、やばいぜ…

 

「なんなら、妖夢に修行させてもらったら?」

「いや…霊力の修行ならしっかりしましたので、大丈夫です」

「なら、剣術なんてどう?妖夢は私の剣術の指南役もしているのよ」

「へぇ〜、剣術ですか…でも、俺には銃がありますし」

「…!」

 

な、なんだろう…あの妖夢って娘からすごい睨まれてる…

 

「あら、そう…剣と銃ならどちらが強いと思う?」

「そりゃあ…銃でしょう。剣より遠くから攻撃できますし」

「剣に決まっています!銃なんかでは人間ならともかく妖怪相手じゃ通じません!」

「お、おう、そ、そうだな…」

「あ、すいません…」

 

驚いたなぁ、急に出て来たな、あの妖夢って娘は…

 

「でも、白玉楼に行ってみるのも悪くはないですね」

「そうでしょう、いつか来なさいな」

「はい」

 

「それじゃあ、他のところも回って来なさい」

「ふぇ?」

 

ウァァァァァァァ!

 

「イタタ…急にスキマに落とすのはやめて欲しいな…」

「お?勇人じゃん!」

「あ、諏訪子様に神奈子様、それと…」

「いやー、久し振りですね!勇人さん!今、この御二方に紅魔館での貴方の話を聞いていたのですが、本人から是非聞かせてください!」

「断る」

「そういわずに…」

 

カチャ

 

「わ、分かりましたよ、だ、だから、その物騒な物仕舞いましょう、ね?」

「分かればよろしい」

「そんなことより、勇人も飲め飲め」

「あ、どうも…」

 

本日、七杯目。未だに酒の良さが分かっていない。

 

「ところで、勇人」

「何でしょうか?」

「早苗とはどうだい?」

「…!?」

「そんな驚かなくていいじゃないか、で、どうなんだい?」

「い、いつも通り、仲良くさせてもらってます!」

「ありゃ、まだ付き合ってないのかい、あんたも案外ヘタレだねぇ」

「何を言っているんですか!?」

「ほら、向こうで早苗達がいるから、行きなさい」

「はい、行って来ますよ…」

 

 

「あ!勇人さんじゃないれすか〜」

「うお!?早苗飲み過ぎじゃないか!」

 

少々、呂律が回ってないぞ!

 

「お!勇人か!お前も一緒に飲もうぜ!」

「魔理沙!お前も中々飲んでるな…」

「あら、貴方が噂の」

「ん?あぁ、初めてだな。俺の名前は碓氷勇人、教師をやってる」

「どうも、博麗霊夢よ。見ての通り巫女よ」

 

ふと思ったのだが、ここら辺の巫女は脇を出すような服なのか?

 

「あ、咲夜さんもいるんですね」

「えぇ、この前は悪かったわね…」

「もう、チャラと言ったので気にしなくても構いません」

「む〜、勇人さん、他の人と話ひ過ぎです!」

「ぬおっ!抱き着くな!」

「いいじゃないれすか!」

「お!?こりゃあ、熱いねぇ」

 

そんなこと言わないで助けてください。ほら、こう、あ、当たってるのですよ!俺も男ですよ!確かに、これまで女の子と積極的に関わらなかったけど…って違う違う!

 

「早苗!一回落ち着こうな!な?」

「勇人さんも飲みますか〜?」

「の、飲むから、ほら、どいてくれないと飲めないだろう?」

「む〜、霊夢さん!お酒ください!」

「はいよ、早苗」

「グビッ、グビッ…」

「えぇ…」

 

結局、貴女が飲むのね…

 

ガッ!

 

「な!?」

 

なんで顔を掴んで…

 

「……!?」

 

なんで、早苗の顔が近くに!?

唇に柔らかい感触が…ん?口ん中に酒が流れ込んでくる…

あれぇ、俺、もしかして、口移しでお酒飲まされて…あれ?これってキスジャナイデスカネ…アラ、アタマガボーットシテ…

 

ボフッ!

 

「あれぇ、勇人さん、寝ちゃったのですかー?」

「アハハ!勇人、気絶してやんの!アハハ!」

「本当にこいつ、強いのかしら?」

「意外にウブなのね…」

 

こうして、宴会は終わりを告げた。



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第20話 平日の青年






「…ん…ふぁ…あ、頭が…飲み過ぎましたね…」

 

頭がガンガンします。どうにも、私はお酒に弱く、すぐに酔っ払ってしまうようです。

それにしても、この抱き枕、暖かいですね…また、眠く…

 

「え?…」

 

博麗神社に抱き枕?そんなのあるわけ無いじゃないですか。ただでさえ、金欠だと聞いているのに…

 

「…スー…スー…」

「ゆ、勇人さん!?」

 

ど、どうして、ゆ、勇人さんと!?も、もしかして…

 

「あら、早苗、起きたのね」

「れ、霊夢さん!き、昨日は何が…」

「…覚えてないのね、まぁ、昨日はあんたいつもより、酔っ払ってたからね…」

「そうだぜ、なかなかお熱かったぜ、な?」

「魔理沙…まだ、帰ってないの…確かに熱かったわ。ホント、他所でやって貰いたいわ」

「え、ええ?一体、私は何を…」

「ハハ!昨日お前ら、堂々とキスしてたぞ!」

「き、キス!?」

「あぁ、そうさ。お前の方からな。まさか、お酒を口移しで飲ませるとは…」

 

ど、どうしましょう!は、初めてのキスがゆ、勇人さんなんて…

い、いや、別に嫌ではなく、寧ろ… で、でも、勇人さんも多分、ふぁ、ファーストキスですよね!こ、これは…

 

「ん…ふぁぁ…体が痛い…」

「あら、起きたのね」

「あれ?なんでここで寝て…」

「あら、あの時のことを覚えてないの?」

「…?なんの話だ?」

「え、昨日…「なな、ナンデモナイデスヨー!」

「そ、そうか」

「貴方は二日酔いしてないの?」

「ん?全然大丈夫だが?」

 

そういえば、七杯飲んだはずだが、全くそういうのは無いな。寧ろ、布団もひかずに寝たせいで体が痛い…でも、寒くは無かった気が…まぁ、いいか…

 

「そういえば、今何時だ?」

「んー、お昼前ぐらいかしら?」

「何!?授業始まってしまってんじゃんか!ちょっと、片付けは手伝えない、すまん!」

 

「あら、行っちゃったわね」

「あいつ、飛ぶの速いなー」

「お、覚えてないようですね…」

 

良かったのでしょうが、なんだか、残念な気もします。

 

「あら、そういえば、慧音から明日は休みだと伝えてくれと言われたわね…」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォォォォォォ!完全に遅刻じゃあねぇぇかぁぁ!」

 

只今、人生で一番早く飛んでいます。もう、霊力使い果たしそうな勢いで。

 

「みんな!遅れすまない!って、アルェ?」

だーれもいない。どいうこと?理解不能、理解不能……

 

「も、もしかして…もう、終わったのか?」

 

や、やってしまった…あぁ、俺も慧音さんの頭突きを喰らってしまうのか…

 

「おや?勇人じゃないか」

「あ…け、慧音さん…」

 

終わった…

 

「す、すいませんでしたぁぁぁぁぁ!」

「な、何だね、急に!」

「え?だって、授業に遅れるどころか….終わってしまって…」

「何を言ってんだ?今日は休みだぞ?霊夢から聞いてないのか?」

「いや…」

「まったく…あの巫女は…すまない、直接伝えるべきだったな、さすがに宴会の次の日に授業はキツイだろうから、今日は休みだ、ゆっくりしなさい」

「は、はい…」

 

もう、ゆっくりできてない…

 

「そうだ、これを機にこの里を見て回るがいい」

「そうさせて貰います」

 

たまには、ゆっくり出掛けるのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

只今、片付けをしております。宴会がある度にここは散らかるので、いつも、私と霊夢さんと魔理沙さんで片付けをしています。今回は咲夜さんも手伝ってくれてます。この前の事は、もう和解しました。勇人さんが許したのなら、私がグダグダ言っても仕方ないです。

 

「今回も結局大騒ぎでしたね」

「そうね、久々にやったせいかしら、まぁ、お酒と食料を持ってきてくれるからいいけど」

「相変わらず、貧乏なのな」

「うるさいわね、あんたが来る度にお賽銭くれれば、苦労せずに済むの」

「へいへい」

「ところで早苗」

「何でしょうか?」

「勇人とはどんな関係なの?」

「あー、それ私も思ったんだぜ」

「えぇ!」

「もしかして、付き合ってるとか?」

「い、いや…あの…何というか…同居人というか…」

「それだけ?」

「えっと…確かに頼もしくて…でも、どこか抜けてて…顔は無愛想ですけど…実際はとても、優しくて…」

「こりゃあ、ダメだな」

「結局、あいつのことは悪い方には捉えてないわね…」

「ふーん…」

「結論から、言うといい人です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん!この団子うめぇな!」

今、ゆっくりとしています。団子屋にて団子を食べております。こういうのも、いいなぁ。お茶も美味い。こんな、何ともない感じがいいねぇ。

だけど、ここは本当に妖怪がよく来るのね…あの人なんか…うさ耳が、生えとる。どう見ても、おかしいはずなのだが…

あれは、藍さんだ、尻尾の存在感が…モフッてみたいな…ん?油揚げばっかり買ってないか?ま、いいか。団子うめぇ。

 

「お隣いいですか?」

「あ、どうぞ、どうぞ」

「って、貴方は!」

「へ?あ!貴女は…」

 

アルェ?名前が出てこん。確か幽々子さんと一緒にいた娘で…

 

「魂魄妖夢です。覚えてくださってないのですね…」

「え?いや、そ、そんな事はないですよ?それより、団子食べましょう?ほら、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。それでは、言葉に甘えて」

 

モグモグ…あぁ、うめぇ。こういうのが、幸せと言うのだろうか…

 

「あの、昨日の事なのですが…」

「ん?あぁ、白玉楼へのお誘いか?いつか、行かせてもらうよ」

「それもそうなのですが…剣か銃のどちらが強いかという話なのですが…」

「え?あ、あぁ。剣もいいと思うぞ」

「そうですか!なら、是非、剣術を学びに!」

「お、おう。でも、刃物ならこのナイフが…」

 

と俺はナイフを取りだす。なぜ持ってんのかて?入れっぱだっただけ。

 

「拝見させて貰います…ふむ、悪くないですね…」

「だろ?だから、じゅう「ですが!」ア、ハイ」

「やはり、剣を学ぶのは心も鍛える事です!教師なら心も強くあるべきです!やっぱり、剣術を学びにましょう!」

「あ、じゃあ、い、いつか…ね」

「それでは、明日にしましょう!」

「でも、授業が…」

「安心してください!慧音さんに頼んで生徒さんも連れて行ってもらうようにします!」

「なるほど、課外授業か…いいかもな…」

「なら、決まりです!それでは、早速!」

「え?ちょっと…あぁ、行ってしまった」

 

剣の事になるとやや暴走してしまうようだ。それにしても、あの団子の量は…まぁ、課外授業も悪くない。だからと言っても、俺は銃は剣より強し派だが。

 

「あ!勇人さんじゃないですか!」

「げっ、文だと!?」

「げっとは何ですか!失礼ですね!」

「で、なんだ?」

「それはですね、是非、取材を!」

「あぁ、構わんよ」

「そうですよね…って、えぇ!」

「今は機嫌がいいんだ、気が変わらんうちに取材するんだな」

「えぇ、是非是非!」

 

「それでは、紅魔館での事件を詳しく!」

「どこで知ったんだ?」

「企業秘密です、さぁ!」

「そうだな…」

 

 

青年説明中……

 

 

「な、なるほど!その時に能力が、分かったのですね!これはいい記事が書けそうです…」

「脚色した場合、お前を潰しにいくからな」

「しませんよ…では、次に貴方のプロフィールを!」

「まだ、すんのかよ…」

「では、いきますよ!まず、趣味は?」

「読書」

「好きな食べ物は?」

「うーん…蜜柑?」

こんなんでいいのか?

 

「では、嫌いな食べ物は?」

「キノコ」

「身長は?」

「…172…」

「本当は?」

「くっ…168……」

 

まだ、希望はあるのだ!

 

「年齢は?」

「16」

「誕生日は?」

「5月5日だ」

 

ふっ…俺の誕生日は絶対休みなんだよ。あと、工藤監督と同じ誕生日だぜ…今年も優勝してくれっかなー?

 

「早苗さんとの関係は?」

「…!?ま、まぁ、住む場所を貸してくれる人?」

「えー、なんか無いんですか?」

「無い!やましい事なんか何1つ無い!」

「そうですか」

 

となんやかんやで取材は終了っと。

 

「ありがとうございましたー」

「脚色したら、容赦無く倒すからなー」

 

そういえば、身長伸びたんじゃね?いつか、測ろう。

もう、日が落ちてきたな、帰るか。

そうして、今日も終わりを迎えるのだった…





はい、これにて第2章終了です!
ソフトバンク、優勝してくれませんでしたね(泣

次回も是非読んでいただけるとありがたいです!


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第3章 2人の孫と2人の祖父
第21話 課外授業の日の青年


今回から第3章です。




「みんな、準備はできたか?」

「もちろんよ!」

「はい!」

「早く、行こう!」

 

今、俺は課外授業だという事で白玉楼に向かおうとしている。結局、妖夢は慧音さんから許可を貰ったらしい。

 

「これで、剣の良さを伝えることができます!」

 

とかなり意気込んでた。だが、俺は白玉楼なんて場所は知らない。てか、話によると、幽霊や亡霊しか行かないとか聞いたが…まぁ、気にしてもしょうがないな。

 

「白玉楼に行って何をするんですか?」

「それはですね!剣術を教えるのですよ!」

「ウェ!いつの間に来たんだよ…」

「剣術?それって強いのか?」

「えぇ、もちろん!使えるようになれば最強になれますよ」

「サイキョーになれるのか!?」

 

チルノ…お前、そこにしか反応せんのか…

 

「確かに興味はありますね…」

「剣術か…かっこいいなぁ」

「でしょ!でしょ!早速行きましょう!」

「そうだな、道案内、頼む」

「さぁ!こっちです!」

「少しは落ち着いてくれよ…」

 

 

 

「先生も剣術習うの?」

「ん?俺か…別に俺にはじゅ「もちろん、受けるに決まってます!」ア、ハイ…」

「へぇー、十分強いのにね」

いやいや、フランドールも十分過ぎるほど強いだろ…

剣術か…面白そうではあるが…でもなぁ、やっぱ、剣より銃だよなぁ。ちょっとした、反抗精神で銃を持って来ている。昨日、調整し終えたばかりの自動拳銃2丁だ。早く試し撃ちしたいな…

 

「今日は俺じゃなくて、妖夢先生の言うことを聞くんだぞ」

「「「「「「はぁーい!」」」」」」

「妖夢先生ですか…いい響きです…」

 

この娘も重症のようだ。

 

青年&少女達移動中……

 

 

「さぁ!着きましたよ!」

「…はぁ、はぁ、なんで、わざわざ階段を?飛べただろう?」

「これも鍛錬のうちの1つです!」

 

よくよく考えたらこんなかで人間なのは俺だけだ。他のみんなはピンピンしていやがる。俺、運動すべきかなぁ。

 

「お、おぉ…」

 

ものすごい、屋敷だなぁ。その辺の知識は無いが、すごいということはわかる。ここでやるのか?

 

「では、こちらに」

 

生徒達も見とれてたのだろう、反応が少し遅かった。

 

「どこでするんだ?」

「庭がありますのでそこで」

「じゃあ、あの人は?」

「え?誰もいないはず…って、エェ!」

 

その教える場所である庭に1人老人と思われしき人がいた。少々、妖夢に格好が似ている。あと、白髪に白髭か…元気にも剣を振るっている。

 

「おじいちゃん!」

「え?」

「こら!師匠と呼ばんかい!」

「あ!すいません、お師匠様」

 

おじいちゃん?お師匠様?

 

「あらあら、久々の再会なのにね…」

「少々、孫に厳しくないか?」

 

幽々子さんに、誰だ?この声、聞いたことはある気が…

 

「じ、じいちゃん!」

「え?」

「おぉ、勇人!見ない間に大きくなりおって」

 

な、なんだ、このデジャヴ。

そ、それよりも

 

「なんで、いるんだ!?」

「せ、先生?」

 

生徒達も動揺しているようだが、俺もそれ以上に動揺している。

 

「まぁまぁ、落ち着きなさい。少しお話をしましょう、ね?そこの子達も来ていいわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、久々じゃの」

「あ、あぁ、そ、そうだな…」

 

「妖夢、鍛錬は怠ってないだろうな?」

「はい!もちろんです!」

 

な、なんだ。これは…

 

「ふむ…お主が…そっくりじゃのう…」

「ど、どうも…と、ところで、なんで、じいちゃんが?」

「それはだな…わしが死んだ後、天界の者達はわしの魂を取り逃がしおってな、しばらく、外界の方をふらついとったら、こっちの世界に来てしまったわい。こっちでも、ふらついとったら、紫にあってだな、とりあえずここにいることにしたのだが、霊体だったから、白玉楼に居させてもらうことにしたわい。まぁ、久々に紫や幽々子、妖忌にも会えたわい。お前さんにも会えたからのう。紫は約束を守ってくれたようだ」

「は、はぁ…」

「では、お師匠様は?」

「ワシはしばらく、修行に行っておった。妖夢に任せてよい時期だと思ったからじゃ。ただ、しばらく修行してたらだな、こいつが死んだと聞いてだな…もしかして、魂が白玉楼に行くじゃないかと思ってだな、からかいに行ってやろうと思って来ただけじゃ」

「ガハハ…素直にわしと妖夢が心配だったといえばよかろうに」

「お主も死んでからも変わらんようじゃな」

 

生徒達には、悪いがしばらく思い出話をしていた。妖忌さんは中々、厳格な人のようだ。やはり、剣術の腕も相当な者なのだろう。じいちゃんは、変わってないようだ。ただ、俺が成長したせいか、食えない感じがする。

 

「ところで、お前さんはここで何をしておる?」

「あぁ、教師をしている」

「そうか、お前さんはわしに似て、賢いからのぅ。やはり、似るもんじゃな」

「ふん、ところでなぜここに来たのだ?何か訳があるのだろう?」

 

あ、そうだった、課外授業だったの忘れてた。

 

「えっと、授業の一環として、この子達と剣術を学びに来たのです」

「ほほーう…なぜ故?」

「妖夢から提案されたのと、剣術は心も鍛えれるということで、生徒達にもいい機会だと…」

「そうなのか?妖夢」

「はい!今回を機に剣術の良さを知ってもらえるかと」

「お前の孫もそっくりじゃのう」

「ふんっ、そうか、なら、ワシが教えてやろう」

「え?あ…よろしくお願いします…」

 

だ、大丈夫かな…

 

「剣術はまず心からだ、心を鍛えることで剣術を鍛えることができる」

「「「「「「はい!」」」」」」

 

うん、問題無さそうだ。これは本当にいい機会なんじゃないのかなぁ。

 

「勇人さんは、受けないのですか?」

「そうじゃ、お前も受けないか」

「え、今回は引率として、来たので、ちょっと…」

「遠慮することは無い、来ないか」

「ア、ハイ、よろしくお願いします…」

「先生も頑張りましょう」

「そ、そうだな…」

 

 

青年&少女達鍛錬中…

 

 

「これで、剣術の鍛錬は終了だ」

「「「「「「「ありがとうございました」」」」」」」

「はい、みなさん!お疲れでしょうから、おにぎりを持って来ました!」

「うぉー!」

「腹ペコなのだー」

「順番に行けよ」

 

ふう、中々大変だったな、でも得るものはあったな。

 

「お主、中々才能があるようじゃが…どうだ?ワシの弟子にならんか?」

「ありがたい話ですが結構です。俺には教師の仕事がありますし」

「あら、残念ねぇ、こっちに住めたのに」

「うわっ!て幽々子さん、だ、大丈夫ですよ、今は守谷神社にお世話になっておきます」

「でも、珍しいわね、妖忌が気に入るなんて」

「はは、わしの孫だ。そんなことする訳なかろう」

「そうかね、ワシから見ると、孫の方がしっかりしておるわい。無論、ワシの妖夢には敵わんだろうが」

「何を行っとるんじゃ、お主の孫は少々抜けとるではないか、わしの孫の方は頭も切れるからのぅ」

 

ああ、ちょっと雰囲気が険悪に

 

「妖夢〜、勇人〜」

「何でしょうか?幽々子様?」

「何ですか?幽々子さん」

「2人ちょっと手合わせしたら?」

「いえ、理由も無く戦いはしたくないので」

「えぇ、そうですよ、幽々子様」

「あら、そう…じゃあ4人に聞くわ」

 

何だろうか?

 

「剣と銃どちらが強いと思うかしら?」

 

「剣です!」

「剣に決まっております」

「銃じゃな」

「銃です」

 

「「「「あ?」」」」

 

「銃なんぞは臆病者の使う者じゃ」

「お主は知らぬのか?銃は剣よりも強しと言うじゃろうが」

「この前も剣が強いといいましたよね?」

「あぁ、そうだが。でも、銃の方が強いと思うぞ」

 

「こうなったら、妖夢!勇人と手合わせして剣が強いことを証明したまえ!」

「もちろんです!」

「ガハハハ!銃が強いことはこいつが証明してくれるわい!」

「まぁ、この銃の試し撃ちもしたかったし、丁度いいか」

 

「先生、戦うの?」

「ま、そうだな」

「えぇ?妖夢さんとですか?」

「そうだが」

「私は応援してるよ!」

「ありがとう、フランドール」

「私もです!」

 

こりゃ、下手な試合はできないな…

 

「ところで、お前さんは銃持っとるのか?」

「あぁ、ここに」

「おぉ!自分で改造したのだな!」

「まぁ、そうだが」

「さすが、わしの孫じゃ」

 

ふむ、それじゃあ行きますか。







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第22話 一騎打ちの日の青年

前回のあらすじ

勇人と妖夢のじいちゃんがいた

銃と剣どちらが強いか?

戦闘


ただいま、妖夢と向き合って立って入る。両手には自動拳銃、もちろん、リロード済み。それ以外は一切持ってない。

「勝利条件は胸にあるお皿を割った方が勝ちよ〜」

 

始まりは幽々子さんが行ってくれるようだ。

 

「先生ー!がんばれー!」

「妖夢さんもがんばってください!」

 

うむ、生徒達の前で恥ずかしい試合はできない。小細工無しで全力で勝負だ!

 

「準備はいいかしら?」

「大丈夫です」

 

そう言い、俺は銃を構える。

 

「いつでもかまいません」

 

妖夢も剣をかまえる。あれ?2つあるのに片方しか使わないのか?もしかして、なめられてる?

 

「それじゃあ、始め!」

 

「ふっ!」

 

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 

開始とともに4発ぶち込む。遠距離ならではだな。明らかにこっちが有利だ。

 

「は!は!」

 

避けずに剣でさばいたな…近づいてくるか…

 

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 

「くっ!」

 

さすがに厳しいだろう、この銃は装填数15発ずつ計30発だ。リロードもグリップに霊力込めて、スライドを引くだけ。あまり隙はない。

距離を取るようだ、意味無いが。

 

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 

むむ…中々近づけません…何発まで撃てるのでしょうか…必ず装填するはずなのでそこを狙うのみです!今はこの銃弾をさばきましょう。

 

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 

「ほらほら、妖夢どうした?」

「くっ…今は我慢です…」

 

あー、これはリロード待ちだな。うむ…早くリロードして返り討ちにするか…皿は左胸にあるな…この銃はまだ調整すべきだな、ちと精度な悪い。まぁ、近ければ問題ない。残りは10発と…

 

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 

ほら、お望みのリロードだ…来い…

 

…!装填するようです!今がチャンスです!

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

よし、来た!ふふ…驚くなよ!スライドをひいて…はい!完了っと。

 

パンッ!パンッ!

 

「……!?」

 

は、早い!予想より早い!

 

あ、危なかった…

 

さばきやがったか…ただ、隙だらけだ。

 

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 

「きゃっ!」

「よし!」

 

終わりだな。よし、風呂入ってくる。

 

「まだ、ですよ!」

「あ…外してる…」

 

あちゃー、どうやら弾は皿には当たってないようだ。弾も皿を割ることのみを目的としているので威力も高くない。

 

「どうやら、30発撃てるようですね…」

「で?リロードには時間がかからんから問題ないんだぜ」

 

いえ…それだけでも十分です…

 

ジリ貧になるだけだな…少し弾を変えるか…その前に少し牽制だ。

 

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 

さすがに見切ってくるなぁ…よし、弾を変えるか…

 

「……!」

 

装填に入るようです!一瞬をつくにはあの技です!

 

ん?来るようだな…だが、その距離だと…リロードが早いな…

 

「妄執剣『修羅の血』!」

「は…!」

 

どこいった?消え…

 

「隙あり!」

「な!」

 

ヤバっ!

 

「ぐ…」

 

なんとか…避けれた…

 

「終わりではないですよ!」

「しまっ…

 

決まりました!

 

「ゴフッ…」

「安心してください…峰打ちですから」

 

 

「さすがじゃな、やはり、銃よりも剣、お主の孫よりもワシの妖夢の方が強かったのぅ」

「やっぱり、お主の孫じゃな、あれで終わりと?」

「完全に決まったろぅ、勝負ありじゃ」

 

「な、なーんちゃって…」

「…!」

「さ、皿は割れてないぞ、イタタ…峰打ちでも痛い」

「ですが、私が有利です!」

 

パンッ!パンッ!

 

「もう、見切ってます!」

「さぁねぇ、それはどうかな!」

 

「これぐらい、剣で!」

「斬らない方がいいと思うけどねぇ…」

「ふん!」

 

ピカッ!

 

「きゃっ!」

「ぬぅ!な、何があった!」

 

パンッ! パリンッ

 

「あ!」

「俺の勝ちだな」

 

「ま、負けた…」

「いやぁ、危なかった、危なかった」

 

「さすがわしの孫よ!」

「なん…じゃと…」

 

「やっぱり、ここよ、ここよ」

 

と俺は頭を指す、

 

「うう、ぐやじいでず…」

「おい、泣かなくてもいいだろう…」

 

「むぅ…敵ながら天晴れじゃ…そもそも、皿を割らなければならないというルールを逆手にとって、体にわざと当たるとは…普通ならもう斬られてるが…」

「峰打ちすると読んでと…やはり、わしに似て頭が切れる」

「頭が切れるだけでは無いな。あの閃光の間はあいつも見えないはずじゃが…」

「あ、それなら、気配を、探っただけです」

「何!?気配のみで皿に当てるとは…」

 

「先生すごい!」

「さすがあたいの先生だ!」

「なんで、チルノが偉そうなのだー?」

「はは!そうだろう?」

 

「すいません…お師匠様…」

「何を謝っておる?お前も随分と成長したじゃないか…」

「おじいちゃん…」

「じゃが、油断はいかんぞ!それと、少々お前は真っ直ぐ過ぎる、勇人に読まれていた。じゃが、『修羅の血』はとても良かったぞ。これからも精進せい!」

「は、はい!」

 

「おい、勇人!」

「んぁ?どうした、じいちゃん」

「さすがじゃ!」

「あったりまえよ!頭の切れなら妖夢に負ける気がしねーぜ!」

「それもじゃが、その銃、随分とうまくできておるではないか」

「あぁ、まだ調整が必要だが、いい感じに仕上がってきている」

「もう1つも、もっておるか?」

「あ、それは置いてきた。やっぱり、じいちゃんのは使いやすい」

「そうじゃろ!わしが教えてやってもいいぞ!」

「マジか!?是非おしえてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

こうして、課外授業は終わりとなった…







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第23話 それぞれの話し合いの日の青年

「そう言えば、お前さんの能力は何じゃ?」

 

妖夢との一騎打ちの後、雑談していたらじいちゃんから聞かれた。

 

「あぁ、俺の能力はだな…」

 

青年説明中……

 

「ほう、これまたものすごい孫を持ってしまったのぅ…」

「そうかな?」

「そうじゃ、今はまだ生物にはできないが…十分恐ろしい能力よ…なんせ、諸行無常の理に反するものじゃからな…この世に存在する物は

一瞬たりとも同じではなく、変化し続ける…じゃが、お前さんの能力はそれに対して、変わることが無くなる、常にその状態になるということじゃ…」

「はぁ」

 

やはり、中々恐ろしい能力だな、理から外れているなんて…

 

「そうじゃ、お前さんの能力をうまく使うように自分で研究してみぃ、わしも手伝うぞ」

「うん、それもそうだな、イマイチ分かってないところがある」

「それなら、お前さんが仕事終わったらここに来い」

「え?白玉楼に?」

「わしはこっから出られんぞ、なんせ霊体じゃから」

「あ、そうか…」

 

でも、幽々子さんは出てますのよねぇ…とツッコムのは野暮だろうか?

 

「それなら、ちょうどいい、勇人、妖夢の相手も時折してやってくれ」

「お師匠様!?」

「この娘はちと頭が硬過ぎる、真面目であるのがこの娘のいいところなんじゃが、それが仇になっている時もあるからのぅ…」

「恥ずかしい限りです…」

「なぁに、恥ずかしがることはない、だが、頭の使い方を勇人から盗め」

「はい!勇人さん、その頭、盗ましてもらいます!」

「お、おう…」

 

頭を盗むって…首でも刎ねるのかねぇ…

 

「あ、もう帰らないと…」

「おお、そうか、また明日来い」

「あぁ、そうする、それじゃあな、妖夢。あと、幽々子さん、妖忌さん今日はありがとうございました」

 

「おーい!帰るぞー!みんな、礼を言いなさい」

「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ…」

「どうした?お主にしては珍しく考え込んでるではないか」

「あぁ、勇人のことじゃ…」

「あいつか?まぁ、あいつは中々やりよるからのぅ、ワシもあいつと手合わせしてみるか…」

「あいつの能力なのじゃが…」

 

 

 

「ふむ…こりゃあ、危ないな…」

「そうじゃろ、あの子の能力が天界どもにでもバレたりでもしたら、速攻で消しにかかるだろう」

「そうじゃな…『蓬莱の薬』と似ているようだが、違う…あっちは不老不死、少なくとも周りからの影響は受ける。ただ、それは月での産物であって、ここの世界の物ではない」

「あの子は変わることがない、周りからの影響は一切受けなくなることを他の物に付与する。あの子の血だけで。しかも、この世界で生まれた…能力は才能と近いものがあるが…いくら、元神であるわしの孫とはいえ…」

「まぁ、安心せい、ここは幻想郷、天界から干渉することはできぬ」

「そうじゃな」

 

「もう少し彼の能力を聞かせてくれないかしら?」

「おお、紫か、久しぶりじゃな」

「そうね、すっかり爺さんになってしまって」

「ハハ…もう死んだがな、あんたは昔と変わらんようじゃな」

「ふふ…妖怪ですもの、ところで聞かせてくれらかしら?」

「そうね〜私も聞きたいわ」

「そうじゃな、今はただの憶測だが、話そう」

 

「今はまだ、生物を不変にすることはできないようじゃ」

「それは言ってたわ」

「だが、まだというわけであって今後できないというわけじゃない、むしろ、できるようになる可能性の方が高いじゃろう」

「できるようになったら、相当なものになるわね。蓬莱人とは違って、傷1つもつかない体になるでしょうからね…」

「なんじゃい、聞いとったんか」

「まぁ、ね」

「それはいいとして、生物も不変化できるようになったら、守ることにも使えるから悪いとは限らん、ただ…厄介なのは…」

「厄介なのは…?」

「完全に意のまま行動を不変化できるようになってしまった場合じゃな」

「…!?」

「そ、そんなことができてしまうの…?」

「まだ、可能性の段階だ、わしの孫は簡単に道を外したりはせん」

「でも、そうなったら大変ね…」

「えぇ…滅ぶということを不変化でもしたら、どうしようもないわね…」

「安心せい、わしの孫はそんなことはせん」

「それもそうね」

「ところで、彼は人間なのかしら?」

「厳密にいえば神なのかもしれんが、わしが人間になった後じゃから、人間だろう、ただ、彼の寿命は分からん。人並みか、あるいは妖怪ほどか、もしかしたら神のように不老不死の可能性もある」

「今のところは分からない、と言ったところかしら」

「そうじゃな、まぁ、わしは勇人の幸せを願うのみじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハクシュッ!ん…風邪かな?」

「大丈夫ですか?健康には気をつけてくださいね」

「いや、誰かが噂話してるかもよ…」

「まさか、そんなわけないですよ」

「そうかな?お前はもう有名人だぞ?あの宴会で存分に名を轟かせたんじゃないか」

 

「早苗、これじゃあ、ライバル増えちまうぞ」

「!!諏訪子様!な、何を言って…」

「もうバレバレだよ、宴会ではあんなに熱いキスしてたくせに…」

「諏訪子様も見てたのですか!?」

「あそこにいた人はほとんど見たと思うよ」

「あぁ//どうしましょう…」

「そんなことはいいながら、まんざらでもないくせに…」

 

「あぁ、そういえば、今日は帰りが遅かったじゃないか。何かあったか?」

「今日は課外授業で白玉楼に行ってました」

「白玉楼に!?それまたなぜ?」

「宴会の次の日に妖夢に会いまして、話をしてたら、授業で剣術を学ぶことになって」

「そうか…妖夢も必死だな」

「白玉楼に行ったら、行ったで、すごいことになりましたよ」

「ほほう、どんなことだ?」

「えっとですね、まず俺のじいちゃんがいました」

「は?お前のじいさんがか?ん…そういえば、紫から聞いたな…お前のじいさん相当有名な神様だったな…」

「それと、妖夢のじいさんの妖忌さんもいましたね」

「確か…相当な剣術の腕を持っていると聞いている」

「まぁ、妖忌さんに稽古してもらうことになりましたが、いい経験になったと思います」

「そうか、それはいいことだ」

「あと、話してたら、剣と銃どっちが強いかな話になって、それぞれの強さを証明するために妖夢と試合になりましたね」

「どっちが勝ったんだ?」

「あぁ、一応俺が」

「やっぱり、お前はすごいな…」

「いやいや、お二人には負けますって」

「分からんぞ?まぁ、でもこれで守谷神社は安泰だな」

「はぁ…あ!それと、明日からもじいちゃんに会いに白玉楼に寄りますので遅くなるかもしれません」

「そうか、これまた何故?」

「銃の改造と能力の研究のために」

「分かった…だが、なるべく早く帰ってくるようにしろよ?」

「了解です」

「で、早苗と諏訪子はいつまでヒソヒソ話してんだ?」

「ん?なんでもないよ、な?」

「え?あ、えぇそうですよね、諏訪子様」

「じゃあ、勇人が明日から帰りが遅くなるのも聞いたのだな?」

「えぇ、もちろん…えぇ!?本当ですか?勇人さん?」

「あぁ、白玉楼に寄るようになるから、なるべく早く帰るようにするよ」

「白玉楼には勇人のじいさんがいるそうだ」

 

「早苗、本当にいいのかい?ライバル出現かもよ?相手は妖夢かね…」

「……」

「ところで、お前のじいさんと紫の関係は?」

「古くからの友人だと聞いてますね、あと幽々子さんとも。あ、妖忌さんもですね」

 

「早苗、こりゃあ大変だぞ!相手は親類ぐるみで関係があるぞ」

「は、はい…」

 

「何をはなしているのでしょうか?」

「はぁ…さぁ、どうだろうか。諏訪子は結構変なことを考えることがあるからな…」

「変とはなんだ!変とは!」

「それよりも、勇人、先に風呂に入っていいぞ」

「あ、そうさせてもらいます」

 

 

 

 

「行ったな…で、諏訪子、さっきの会話聞いてたか?」

「あぁ」

「早苗もか?」

「は、はい」

「白玉楼か…これは予想外だったねぇ」

「そうだな、まさか、勇人のじいさんがいるとは…」

「それに、白玉楼のメンバーと友人ね…」

「早苗、取られないようにしろよ?」

「え?な、な、な、何を?」

「もう、いいから、そんなことしてると取られちゃうぞ?」

「そ、それもそうですね…」

「そうだ、ちょうどいい、この機会だ。勇人の昔話をしよう」

「え?勇人さんの昔話ですか?」

「あぁ」

 

 

少女昔話中……

 

 

「そ、そうだったんですか…全然知りませんでしてた…」

「私達も最近、紫から教えられたからな…あいつが神の孫なんてな…」

「はは!よかったね、早苗!」

「え?」

「現人神と神の孫、ぴったりじゃないか!」

「あぁ、そうだな」

「わ、わ、わ、私とゆ、ゆ、ゆ、勇人さんが…はわわわわ…」

「やっぱり好きじゃないか…」

「だが、油断してると妖夢に取られるかもね」

「はー…………//」

「ダメだこりゃ、完全に自分の世界に入っちまってる」

「そういえばだが、神奈子」

「ん?なんだ?」

「勇人のじいさんのこと聞いたことあるか?」

「あるに決まってるだろ、神様の中でも有名過ぎる話だ」

「そうだな」

 

力は最上位クラスでかつ慈悲深き神様

 

紫や幽々子などの数々の力のある妖怪との知り合いも多く

 

人からも妖怪からも親しまれてた

紫が幻想郷を作る時も助力し、誰からも信頼されてた神様

 

だが、ある日禁忌である天降りをし、追われる身となった元神様

 

「数少ない天降りの中でも、最も有名な話だな」

「あぁ、その神様の孫とはな…」

「でも、彼は人間であることを誇りに思ってるからいいんじゃない?」

「そうだな、これで早苗と結ばれてくれれば、こちらとしてもありがたいな…」

 

「ゆ、勇人さん…」

「ほら、自分の世界から戻ってこい」

「ふぁい!あ、す、すいません」

 

「お風呂上がりましたー!」

「お、上がったようだ」

「早いな」

「勇人さんは早風呂ですから」

「お風呂、次入ってもいいですよ」

「分かった」

「それじゃあ、俺はもう眠いんで」

「あぁ、おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

「あぁ、おやすみなさい」

 

 

 

 

こんな平凡な日が続けばいいな…



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第24話 研究日の青年

「それじゃあ、いってきます」

「いってらしゃい」

 

いつも通りだな、さて、今日はどこを教えるんだっけ…面積が終わったから…次は立方体と直方体の体積か…うまく、教えれるだろうか…

 

 

 

 

 

 

「慧音さん、おはようございます」

「あぁ、おはよう、今日も頼むぞ」

「本当に教師をしてんだな…」

「あ、妹紅もいたのか」

「ちょっとな、お前の授業も見てみたいな」

「いいですけど…」

「おお、そうか。なら遠慮なく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃあ、今日は新しいことを教えるぞ」

「さあ、どーんときなさい!」

 

威勢がいいのはいいが、しっかり理解してほしいもんだ…面積ですら、少々怪しいのに。だが、いつまでも復習している訳にはいかないので先に進めます。

 

「今日はこの箱の大きさを数字で調べれるようになってもらう。そこで、前に習った面積を使うからしっかり思い出しとけよ」

 

ふふ…頑張って、大きな箱とこの1㎤の箱を使って教える方法を考えたんだ。きっと、分かりやすいに違いない…

 

 

教師授業中……

 

 

「…ということだ、分かったか?」

「はい!とても分かりやすいです!」

「へー、そうやって求めるのか…」

 

うんうん、分かってくれてるようだ。

 

「……?」

 

…そのポカンとした顔をやめてくれ。うむ、これで分からんとはな…

 

「勇人…」

「どうした?妹紅?」

「どういうことなんだ?」

 

あ、貴女もそっち側ですか…

 

「後でしっかり教えましょうか?」

「んー…いや、いい。私はあんまり賢く無いからな」

 

自分で言っちゃうのね…

 

「まぁ、とりあえず問題でも解こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、こんな時間か、今日はこれで終わりだ」

「「「「「「ありがとうございました」」」」」」

 

「ねぇ、大ちゃん、これドユコト?」

「それはね、チルノちゃん…」

「分かんないのだー」

 

と、とりあえず、じいちゃんに会いに行くか…

 

 

青年移動中……

 

 

「おーっす、じいちゃんいるか?」

「あぁ、いるぞ」

「よし、じゃあ、銃の改造の仕方教えてくれ」

「まぁ、慌てるな。まず、お前さんの銃を見せてくれ」

「分かった……はい」

「どれ……ふむ、なるほど…グリップに霊力を込めてスライドを引けば、撃てるのか…スライドを引く動作は省略できるじゃろう?」

「できるけど、したくないね、ロマンを感じない」

「わ、分かった…グリップに対して霊力の伝わり方にばらつきがあるな、だから、弾はアンバランスに形成されて、撃った時にズレが生じる」

「なるほど…じゃあ、グリップの霊力の伝わり方を均等にすればいいんだな?」

「そうじゃ」

「よし、ならば…」

 

 

青年改造中……

 

 

「よし!こんなもんだろう」

「実際に撃ってみぃ」

「あぁ」

 

パンッ!パンッ!

 

 

「おお!これはいいぞ!しっかり狙ったところに!それに威力も増したな」

「さすがじゃ、たった数十分で改造してしまうとは…やはり、わしに似たんじゃのう」

「おうよ!じゃあ、次は能力についてだな」

「そうじゃな」

 

「まず、お前さんはどのくらいの範囲で能力が使えるんじゃ?」

「まぁ、今は無生物であることと、俺の血がつけば不変化できる」

「そうか…やはり、鍵はお前さんの血じゃな」

「そうだな」

「よし、血を出せ」

「ええ!?少しストレート過ぎるよ」

「そうしないと分からんじゃろうが」

「わ、分かったよ……なかなか血を出すとか怖いんだぜ?」

 

「ふ、ふぅ〜、…ん、くっ…」

指を軽く切って、数滴血を垂らす。

 

「よし、それじゃあ、このボールにつけい」

「ん?ただの野球ボールじゃんか」

「いいから、はよ」

「ほい」

「よし、このボールはもう、お前さんによって、運動や存在を不変化できるようになったわけじゃな」

「そうだが?」

「今まではどのように考えて、動きを不変にしおった?」

「あー、どうだったけ?」

 

えーっと、これを実際に使ったのはレミリアの時と、伊吹さんの時か…あ、そういえば、紫さんにも使ったような…まだ、分かってなかったな、あの時は。

うーん、確か…

 

「レミリアの時は真っ直ぐ飛んでけ!っと、伊吹さんの時はそこにあれ!っと」

「うむ、随分と単純じゃな」

「む、悪かったな」

「なら、あれに当ててみぃ」

 

あ、あんなところに的が。なんて、準備のいい。

 

「よし」

 

真っ直ぐに飛んでけよ…

 

「ふん!」

 

「あ…」

 

あれ、外れた。確かに真っ直ぐには飛んでいったが、離した時のボールの角度が的の方に向いてなかったのか…じゃあ、次は…って、これじゃあ、逆に当てにくいな…

 

「どこにいくかを意識してみぃ」

「どこにいくか…」

 

あの的に…

 

「は!」

 

パコーン

 

「あ、当たった…」

「はは!分かったろ?至極簡単なことじゃ」

 

ほほう、つまり、目標地点を立てて投げれば必ずそこにいくと…

多分見える範囲でだろうが。

 

それじゃあ、軌道は?

 

「………………」

「おい、勇人?ありゃ、完全に自分の世界に入ってしまうとる」

 

 

1時間後……

 

 

「………!!びりっとキタァぁぁぁぁぁ!」

「うわ!なんじゃい!急に!」

「ふふふ…ははは…アハハハハハ!!」

「!!頭が狂ってしまったか」

「いや、違う、これはすごいぞ!」

「何のことじゃ?」

「ふふ、今から教えるよ…」

 

「とりあえず、見てくれ」

 

まず1球目、

 

ビシュッ!

 

「ん、真っ直ぐいっとらんぞ」

 

パコーン

 

「おお!曲げて当てることか!?」

 

ヒュー

 

「んあ!?急にこっちにボールが向かってきおったぞ!」

「ふふ…次」

 

ビシュッ!

 

「ぬぁ?なんじゃ?ボールが円を描いて回っておるぞ!」

 

「どうだ?すごいだろ?」

「そうじゃな」

「後は、実践で使えるように…」

 

これで、ある程度、物の行動を不変化できた。まぁ、目標物に当たったら戻る、円を描いて回る事ぐらいだけだが。

 

「…これ、銃でも応用出来るのかね?」

「んー…やった事ないからわっかんない」

「どうにかして、銃に応用してみたら、どうじゃ?」

 

うーん、確かに野球ボールじゃあ大したダメージにはならないかな…行動を不変化させたら、存在を不変化にすることが出来ない。逆も然り。

霊力にも応用か…てか、霊力にどうやって血をつけんだ?

しっかりと形になるのは撃ち出されるときだから…

 

 

 

 

 

そうだ!銃口の中に血を垂らしたら…これでどうにかなるか?

 

「どうした?何か思いついたか?」

「あぁ、見といてくれよ!」

 

パンッ!

 

「おお!弾が弧を描いたぞ!」

 

パンッ!

 

「次は円を描いて回っとるぞ!」

「よっしゃ、大成功!」

「どうやったんじゃ!」

「ふふ、簡単なことだよ、銃口に血を垂らした、それだけだ」

「ほぉー、よく思いついたな」

「ついでに、スペルカードも考えたぞ」

「なんじゃ?」

 

 

不変「イミュテーボル・バレット」

直線にしか進まないが、存在を不変化にしているので絶対に破壊されない弾。

 

絶対「アブソルト・パズー」

標的を追い続ける、いわゆる追跡弾。これは時間を止めても、空間を変わろうとも追跡は続く。

 

不変「イリュージョン・オブ・フィクシィティ」

いくつもの弾を撃ち、円状に回る弾幕。

 

 

「どうだ?かっこいいだろう?」

「そ、そうじゃな…(カタカナばかりで分からん)」

 

よし、これでまともに弾幕ごっこできるな…

 

「勇人さん!」

「ふふ…これで…ふふ…」

「うわ…じゃないじゃない!勇人さん!」

「んあ?あ、はいはい。なんでしょうか」

「もう、今日は研究し終えたのですよね?」

「あぁ、妖夢も見たいのか?」

「確かに、見たいですが…それよりも、私と稽古してください!」

「あ、あぁ、いいけど…明日からにしてくれない?」

「え?私は今でも構いませんよ?」

「妖夢はいいかもしれないが…俺は今日、頭の使い過ぎで疲れた」

 

そうだ、今すぐにでも糖分補給したい。もう、頭がイマイチ回らん。

 

「そ、そうですか…、それでは明日よろしくお願いします!」

「了解…」

 

明日からも大変かな…

 



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第25話 妖夢の特訓(勇人式)の日の青年






 

「うーん…」

 

パチッ

 

ただいま、俺は将棋をしております。誰とかって?

 

「ふふ…じゃあ…」

 

この、白狼天狗と。つか、仕事は?

ん?なんでかって?そうだな…あれは今から36万…いや1万4000年前だったか。いや、1時間前の出来事だ。

 

「ふぁ…あー、眠い…」

「眠いって、もう9時ですよ。少し起きるのが遅過ぎませんか?」

「まだ、9時か…することねぇー」

「今日ぐらいゆっくりしたらいいと思いますよ」

「そうだな、なら、もう一度寝るか…」

「ダメです」

「えー、ゆっくりしていいと言ったじゃんかー」

「だからといって、怠惰に過ごすのはいけません」

「はあ…分かったよ、なら、少し散歩してくる…」

「いいですが…くれぐれも気をつけてくださいね」

「了解」

 

そうだったな、仕事が休みだからダラダラ過ごそうと思ったのに…

 

「あややや、こんなとこに勇人さんがいるとは珍しい」

「今日は機嫌悪いから、取材はNGだ」

「えー…せっかく、白玉楼に通っている理由を聞こうと思ったのに…」

「あ?なんで知ったんだ?」

「ふふ…でも、今回の記事は……中々、脚色しやすいですね…」

「……」

「す、すいませんでしたから、そ、その銃を黙ってこっちな向けないでください!」

 

「あー、暇だ…」

「暇なら、しゅざ スチャ すいません、なら、椛でもからかいにいきましょう」

「あんた、やっぱり性格悪いな…」

 

 

 

「あれ?ここにもいない…なら、あそこですね…」

「あんた、椛の生活を把握してんのかね…」

 

 

「ふふ…これで、王手です!」

「なに!……あぁ…参ったよ…椛、最近強くなってないか?」

「いやー、それほどでも…」

「随分と楽しそうですね、椛」

「!?な、なんで、ここに文さんが?」

「俺もいるぞ」

「え、ええ?」

「また、将棋をしてるのね…」

「わ、悪いですか!?」

「いやぁ、別に将棋することは悪くないけどねぇ、今は仕事中でしょう?」

「え?い、いや、別に…」

 

うむ、結局、文がただ、椛をいじってるだけだな…暇だ…

 

「へー…君が…」

「な、なんですかい?」

「いや、別に。そうだ、自己紹介をしよう。私は河城にとり」

「俺の名前は碓氷勇人だ」

「ああ、噂は椛から聞いてるよ、なんせ、すごく頭が切れるそうで」

「あはは…なんとことやら…ところで俺の聞いた話によると…君は河童だね?」

「そうだよ、エンジニアとして、外の世界の物には興味があるのだが、君は外の世界の人間かな?」

「ああ」

「そうか、なら君を盟友と呼ばせてもらうよ!」

「め、盟友?」

「ところで、盟友。君は何か、外の世界の機械を持ってるかい?」

「今は持ってない、次持ってくるよ」

 

スマホでいいかな…ここにきてもう、バッテリーはお亡くなりになっている。

「で、あの2人はまだやってんのかね…」

「いつも通りさ」

 

それにしても、将棋か…よく中学校の頃やったなぁ。校内大会で優勝したしなぁ…あのおかげで、知名度が少し上がった。それまで、「えっ、君、生徒会だったの?」とか言われたし。

 

「お、盟友。将棋、したいのか?」

「まぁ、そうだな。暇だし一局」

「!!なら、私と!」

「え?」

「あの日から負けっぱなしでは悔しいので勝負です!」

「あ、あぁ」

「椛は結構強いぞ?」

「とりあえず、指してみるか…」

 

 

というわけだ。

 

「む…これでどうだ?」

 

パチッ

 

それにしても、椛は本当に強いようだ。多分、相当先の手まで考えてる…俺の布陣がボロボロに…っていうのは計画通りで、俺の布陣は着々と完成しているのだ。

 

「それじゃあ…ここで」

 

パチッ

 

うむ、勝利を確信してきた顔だな…クク…だが、もうすでに君は俺の策略にはまっている。

 

「ほい、王手」

「ぬぁ!?」

 

まぁ、この王手は全然防げるけどな。ただ、問題は…

 

「ああ…飛車が…」

 

飛車の犠牲が必須というところかな。角行はやはりバレにくい。いつの間にか、いたということはよくある。

 

「んでほい」

「むむ…」

 

椛の左側の陣が壊滅した。いつの間にか、成金が大量にある。

これで、椛は防御に出始めて、攻めるどころではない。

徐々に右に逃れるが…残念、そこは香車と飛車で抑えてる。

 

「はい、王手」

「!?……ま、参りました…」

「はー….椛が負けるとは…」

「ま、椛も強いけど、少々セオリー過ぎて分かりやすい。戦略は読むことも大事だが、バレないようにもしないとな」

「本当に頭が切れるのですね…」

「なんだ?俺がアホだと思ってたのか?」

「悔しいです」

「まぁ、頑張れよ、俺は少し用事があることを思い出したから行かせてもらうよ」

「次もお手合わせお願いします!」

「それじゃあなー、盟友!」

「ああ、じゃあ」

「私には!?」

「んー、次、捏造記事書いたらコロス」

「ええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

んで、その用事は妖夢との稽古だ。

 

 

 

「おーっす」

「あ!勇人さん!」

「ああ、勇人かどうした?」

「えっと、妖夢から一緒に稽古して欲しいと…」

「そうなのか?妖夢」

「そうです!勇人さんの頭の使い方を学ぶためです」

「そうか…ふむ、面白い!それなら、目標があった方がいいな…よし、1週間後にもう一度、勇人と妖夢で一騎打ちをせい!」

「!それはいいですね!」

「ファッ!な、なんでまた…」

「それじゃあ、早速始めましょう!」

「戦う相手に教えを乞うのか…」

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、妖夢の問題点を言うぞ」

「はい、容赦無くどうぞ」

「まず、攻撃が基本的な動き過ぎる、実力はあるのだが、応用されずありがちな攻撃ばっかりで読みやすい。確かに基本は大事だが、応用されなきゃ意味がないんだぜ?」

「た、確かに…」

「あと、大きな技を出したあと、隙が大き過ぎるし、油断もしてるだろう?」

「う…」

「総じて言うと、実力はあるが、一皮剥けず半人前みたいだ」

「まさにその通りじゃな」

「お、お師匠様まで…」

「あと、考えは柔らかくだな」

「問題点がしっかり分かりました!」

「ああ、応用は自分で考えるように、後、戦略もしっかりと練ることも大事だぜ?臨機応変もいいが、しっかり見通しも立てとけば、騙し打ちもできるし、色々幅が増えるぞ」

「なるほど…それじゃあ、早速!」

「よし、相手はワシが練習相手になるぞ」

「そうだな、剣なら妖忌さんの方がいいだろう」

 

 

「あら、勇人今日も、来たのね〜」

「あ、お邪魔してます」

「いいわよ〜、妖夢も楽しそうだし、ところで、妖夢にあんなに教えていいの?」

「大丈夫です。頭で負ける気はやはりしませんので」

「随分と自信あるのね〜」

「まぁ、それぐらいしか実力では匹敵しませんからねぇ」

「そんなことはないと思うけど…」

「まぁ、こうやって暮らしていければそれでいいです」

「それじゃあ、もう外の世界に未練は無いのね」

「………それは……」

「あるようね」

「……」

「まぁ、そんなことは置いといて、今日はここに泊まりなさいな」

「はい…って、え?」

「はいって言ったね」

「いや、ちょっとさすがにそれは…」

「あら?問題は無いわよ〜、ちゃーんと守谷神社の方にも連絡は入れたわ」

「え?もう、入れたんですか?」

「ええ、渋々だったけどいいってよ〜」

「でも、やっぱり…」

「あら、人の好意を無下にするのかしら?」

「いや、そんなことは…」

 

人じゃないでしょとはつっこまない。

 

「それじゃあ、決まりね〜」

「ア、ハイ…」

 

連絡入れてるそうだから大丈夫でしょう。

 

「それじゃあ、1週間よろしくね〜」

「よろしく…ええ?1週間!?」

「そう伝えてるから大丈夫よ」

「マジかよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、守谷神社では…

 

「うーん…」

「どうした、諏訪子?」

「いや…ちょっとした問題が…」

「なんだ?信仰か?」

「いや、勇人のことなんだが…」

「まさか、勇人が!」

「無事だよ…ただ」

「なんだ?歯切れの悪い」

「勇人が白玉楼に1週間泊まることになった」

「は、はあああああ!?」

「いや、最初は断ろうとしたんだよ?」

「な、なんで、承諾したんだ!?」

「ほら、じいさんとの再会があったわけでしょ…ね?やっぱり久々に会ったから、少しぐらい一緒に居させても…」

「本当は?」

「あーうー…このお酒を…」

「はぁ?お酒でつられたのか?」

「だって、これなかなか珍しい物だよ?」

「だからって…お前…早苗にどう言うんだよ…」

「う…で、でも、妖夢とすぐに仲良くなるわけじゃあないんだし…」

「もし、妖夢も惹かれたら?」

「だ、大丈夫だよ、早苗の方が魅力的でしょ?妖夢はね?少し貧相だろ?」

「お前もな…だが、勇人がそっち派ならどうする」

「きっと、勇人はそっち派じゃないよ、ハハハハハ…」

「はー…まったく…」

 

 

「ただいま、戻りましたー!」

「「!?」」

「か、神奈子、お前が言ってくれないか?」

「はぁ!?原因はお前だろ!お前が自分で言え!」

「だ、だって、しょうがないじゃないか!あんなお酒を見せられたら…」

 

「神奈子様、諏訪子様…ど、どうなさったのですか?」

「ん?諏訪子がな、勇人を1週間白玉楼に泊まることを許可したんだよ!」

「え?」

「「あ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、さ、寒気が…」

「風邪か?」

「い、いや、何か恐ろしいものを…」



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第26話 妖夢の特訓(妖忌式)の日の青年






 

 

「なぁー、早苗、私が悪かったて…」

「……」

「お願いだから、無視をしないで…」

「……」

「神奈子ー、どうしたらいいんだ?」

「お前が悪いんだ、私は知らん」

「そんな、冷たいことを…」

「はぁ…早苗、とりあえず話を聞いてくれ」

「……」

「たった1週間だぞ?お前とはもう2ヶ月以上一緒に居るじゃないか、そう簡単にくっつかないって」

「……そうでしょうか…」

「うんうん!そうだよ!それにあんな半人前よりも、早苗の方が魅力的だって!」

「そ、そうでしょうか?」

「あぁ、だから、大丈夫だよ、勇人もじいさんと一緒に過ごしたいだけだって」

「そうですよね!簡単に妖夢の方に転がるわけがありませんよね!」

「お、おう…(だ、大丈夫かなぁ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?ま、また寒気が…」

「風邪じゃないの?」

「そうでしょうか…別にどこも悪い所は無いんですが…」

 

 

「妖夢、ワシはここを出てから様々ことを学んで来た。今日はその1つを教えよう」

「はい、お願いします!」

「勇人!お主も参加せい」

「え?俺も?」

「お主が教えただけじゃ、不平等じゃろ」

「じゃあ、お願いします…」

 

「普段、お主らは必ず視覚を用いて、物事を見ているじゃろう」

「そうだな」

「じゃが、視覚は後ろなど、死角や錯覚を生み出してしまう………だから、その視覚を閉ざすのじゃ!」

ま、まさか、ワムウが如く目を潰せと?

 

「視覚を閉ざして、聴覚や触覚を鍛えるのじゃ」

「ん?それって瞑想か?」

「それもいい方法じゃが、別の方法がある」

 

「まず、これで目隠しをせい」

 

な…こ、これは布か…

 

「これでいいですか?」

「な!?」

 

な、何だこれ…はたから見れば…少し、いかがわしい感じに…

は!ダメだ、そんな邪なことを考えるな…

 

「俺もつけましたよ」

「そうか……じゃあ、それ!」

 

「ぬぉ!」

「きゃっ!」

 

「うむ、勇人は避けたか…」

 

な、何を投げやがった!隣でこんって音が…

 

「ぐぅ…」

「勇人はそれなりに鋭い感覚を持っているようじゃな」

「で、また投げるのか?」

「いや、今度はその状態で庭を一周してみろ、2人で回るんじゃぞ」

「は、はい…」

「あ、色々な仕掛けがあるから気をつけるんじゃぞ」

「「え?」」

 

「妖夢、行くぞ」

「は、はい」

えーっと…前方には何も無しと…

 

「妖夢」

「何でしょうか」

「裾を握らないでくれるかな」

「え!?それでは進めません…」

「それじゃあ、特訓にならないだろう、とにかく集中するんだ、そしたら、空気の流れとか、いろんな音が聞こえてくるようになる」

「わ、分かりました…でも、置いていかないでくださいね?」

「了解、ってぬぉ!」

「どうしましたか?」

 

な、何だ。ただの段差か…少し集中を切らしてしまったらしい。

 

「大丈夫、つまづいただけだ…とりあえず、進むぞ」

「は、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしとるんだ、あの子たちは…」

「特訓じゃよ」

「あれでか?はたから見れば阿保にしか見えんぞ」

「ふん、あれをやるとな、感覚が研ぎ澄まされるのよ」

「そうかい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい進んだか?今の所仕掛けらしい仕掛けも無いが…

 

「ゆ、勇人さん!先に行かないでください!」

「ん、俺の場所が分かるのか」

「あ、本当です!勇人さんが今どこにいるか、分かります!」

「よし、それなら、もう大丈夫だな…」

 

「それはどうかね?」

 

ヒュー…

 

ビシッ!

 

「いでっ!」

「きゃっ!」

 

な、何だ!高速で何か飛んできてる。

 

「ほらほら、もっといくぞ!」

 

ヒュー、ヒュー、ヒュー、ヒュー

 

バシッ!ビシッ!ビシッ!バシッ!

 

「いたい、いたい!」

 

な、何だよ!

 

 

 

 

「お、おい、少々やりすぎじゃ無いか?」

「なぁに、これぐらいがちょうど良いわ」

(いくら何でも、弓矢で射るかね…まぁ、先端は柔らかい布にしとるとはいえ…)

 

 

「こんのぉ!」

 

パシッ

 

「お、掴みよったか」

 

「わっ、ほわっ」

 

「妖夢は避けるで精一杯か…」

 

「ほらほらほらほら!」

 

パシッ、パシッ、パシッ

 

「はっ!」

 

パシッ

 

「お?妖夢も掴んだか」

 

「よぉし!次は近くにある台に登れ!」

 

え!?近くに台…あ、あれか?平均台みたいだが、うむ、平均台じゃね?

 

「先に行きますよ!」

 

「それを渡りきったら修行完了じゃ!落ちたら、やり直しぞ!」

 

「や、やばっ」

 

これは、きつい。集中力が必要だな…「ほれ」

 

ビシッ

 

「ぬぉぉぉ!」

 

バタッ

 

ビシッ

 

「きゃっ!」

 

バタッ

 

く、クソッ。あの状態でもかよ…

 

「お主、鬼畜じゃぞ…」

「強くなるためにはこんくらいせんとな!」

「やはり、昔とあまり変わっとらんのぅ…」

 

 

 

ー15分後…ー

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

ダメだ集中力が…もう、台の場所も探れねぇ…妖夢も同じのようだ…

 

「何じゃ?もう、お終いか?」

「まだまだだ!いくぞ、妖夢!」

「はい!」

 

「…そこだ!」

 

パシッ

 

「はっ!」

 

パシッ

 

「お?行くか?」

 

「ほっほっほっほ………終わったぁぁぁぁぁ!」

「やりました!」

 

「ほお!本当にやりおったわい!」

「さすがじゃ!」

 

「やったな!妖夢!」

「やりましたね!って、きゃっ!」

「おわっ!」

 

バタッ

 

「イタタ…大丈夫か?」

「は…い!?」

 

「な!何をしとる!?」

「あらあら…若いわね〜」

 

「はわわわわ…」

「なんだ?」

 

ひとまず落ち着いて考えよう。今、妖夢が倒れたんだな…うん、で、俺も倒れたと…で、今、体の上に何か乗ってると…

 

「ホワッツ!?と、とりあえず、妖夢、どこうか、ね?」

 

シュー …

 

「え?」

 

ちょっと、メルトダウンしないで!俺も少々メルトダウン寸前だから!てか、周りの人たちもどうにかしてくれよ!

 

「なんじゃい、お前の孫はウブかい」

「お主のとこだって、男のくせにあんだけで赤面しよって」

 

と、とりあえず目隠しをとろう…あ、妖夢だ…

 

「お、おーい」

 

「はははははい?」

 

と、とりあえず妖夢の目隠しを取るか…こ、これはな、なんだか、あ、あれだな…

 

「ほら、とりあえず、どこうぜ?」

「こ、こ、この…」

「ん?聞こえないよ?」

「も、も、もう少し、こ、このまま…で……….も」

 

プシューっとでもいいそうなんですが。てか、さっきなんて?もう少しこのまま?

 

「ふぇ?」

 

「あら、意外と妖夢も積極的に…」

「な!こら!勇人!今すぐ、妖夢と離れい!」

 

「あ!は、はい!妖夢!ちょっと、俺立つぞ!」

「あ…」

 

「これでよしと…」

「妖夢もしっかりせい!」

「あ、ふぁい!」

 

「はぁ…」

「妖忌、妖夢もいい年よ?」

「それもそうですが…」

「いつまでも、貴方の元には居られないわよ?」

「うっ」

「ね?貴方もそう思うでしょ?」

「わ、わしか?まぁ、妖夢も子供じゃあ無いしな…」

「あら、勇人ももういい年なんじゃない?」

「ま、まだ16ぞ!」

「もう、その年齢なら色沙汰もねぇ…」

「なんじゃと…」

 

「ほら、妖夢、しっかりしろよ」

「あ、す、すいません…」

「ま、まぁ、いいじゃないか、これで特訓終了だし、な?」

「そ、そうですね!」

 

「ね?」

「じゃが…」

「なら、どんな男ならいいのかしら?」

「それは…妖夢をしっかり支えてくれるような…」

「なら、勇人でいいじゃない、実力もあるし、頭も良く、仕事もちゃんとしてるしね」

「じゃがのう、こいつの孫だと思うと…」

「なんじゃい、わしが悪いってか?」

「あら、貴方はどうかしら?」

「わしはだな、そういうことに首を突っ込む気は無い。勇人が決めることじゃからのう…」

「なら、妖夢だとしたら?」

「勇人が決めたなら何もいうまい」

「だ、そうよ?」

「うっ、た、確かに勇人なら任せられるが…」

「勇人は1週間泊まるからそれでじっくり勇人のことを見ればいいじゃない」

「え?いつの間に…じゃが、それもそうじゃな…」

「いつからこんな話になったんじゃ…」

 

 

「妖夢〜、こっちいらっしゃーい」

「はい」

「ん?俺は?」

「貴方は来ないでいいわ〜」

「了解です」

 

「なんでしょうか、幽々子様」

「今日から1週間彼、泊まるから〜」

「え?何故?」

「ほら〜、勇人とあの人、久々の再会でしょ?だから、一緒にいる時間が必要なのよ」

「そうですね」

「まぁ、それは、守谷神社への建前だけどね」

「え?それは良く無いですよ!ほら、早苗さんが……」

「早苗と彼は別にくっついて無いでしょ〜」

「それも、そうですが…」

「つ、ま、り、貴女もチャンスあるわよ〜」

「な、な、な、な、な、な、な、何を!?」

「あら、嫌なの?」

「そ、そんなことは…」

「もう、妖夢ったら、分かり易いわよ〜」

「え?ど、どこがですか!?」

「まぁ、それはいいとして、頑張ってね〜」

 

「あ…ちゃ、チャンスですか…そ、そうですよね…まだ、早苗さんと付き合ってるとは聞いたことが無いですしね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、授業、どうしよう」

 

 



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第27話 平日(白玉楼編)の青年

今回、イチャ成分有りです。嫌な方はお気をつけてください。




 

「ふぁ…ん…そうだ…寺子屋に行かないと…今日の授業は…」

「おはようございます、勇人さん」

「ん…おはよう…妖夢…」

「朝ごはんはできてますので」

「ん…ありがとう…」

 

んー…ん?あ、そうか、白玉楼にいるんだった…どおりで服装が違うのか…いつもは学校のジャージで寝てるもんだから…あ、じゃあ、今日は何を着たら…荷物、全然持ってきてない…

「おはよう、勇人」

「おはよう」

「おはようございます、じいちゃん、妖忌さん」

「あら、おはよう」

「おはようございます、幽々子さん」

「みなさん、お揃いでしょうか…幽々子様!?起きてらっしゃるのですか!?いつもはまだ寝てるはずなのに…」

「今日は少し早く目覚めたのよ」

「そ、そうですか、それじゃあ、みなさんで朝食を食べましょう」

「「「「「いただきます」」」」」

 

カチャカチャ……

 

「…ふぁぁ」

「あら、貴方、眠そうね」

「朝には弱いんです…頭もイマイチ回りません…あ、そういえば、寺子屋に行かないと…」

「行かなくてもいいわよ、1週間、休むって伝えたから」

「え?それじゃあ、慧音さんに悪いですよ…」

「大丈夫よ、理由を言ったら納得してくれたわ」

「はぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慧音先生ー、勇人先生はー?」

「ああ、今日から1週間、勇人先生は休むそうだ」

「えー、なんで?」

「それはだな…修行だそうだ」

「え?でも、勇人先生、十分強いじゃない?」

「私も思ったが、まだまだ足りないらしい、向上心があるのはいいことだ。お前達も先生のこと見習えよ!」

「「「「「「はーい」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…それじゃあ、何をしようか…暇だよな…」

「なら、妖夢の手伝いをしてあげたら?あの娘、1人で家事とかしてるのよ」

「た、大変ですね…」

 

凄いな…てか、3人は何してんだ?

 

「そうですね、妖夢の手伝いでもしますか」

 

 

「妖夢ー」

「なんでしょうか?」

「俺に何か手伝えることないか?」

「いや、大丈夫ですよ」

「何もしないのは悪いし、暇だからな、なんでも言ってくれ!」

「そうですね…とりあえず洗濯物を手伝ってください」

「おう!任せとけ!」

 

「えっと、俺がじいちゃん達のをするか」

「そうですね」

 

さすがに女性のはね…俺は真っ当な青年を目指してるので。

え?真っ当な青年こそ変態だ?知らんな。

 

「それにしても、多いな…あ、学ランはまだ、洗わないでと」

「え?洗わなくていいんですか?」

「いや、一昨日洗ったばっかだからな」

 

そういえば、これ、何回も穴が空いたりしてるよな…早苗が、縫ってくれてるんだっけ?お礼言わないとな。

 

「勇人さんは外の世界では何をしてたんですか?」

「学生だったよ」

「え?まだ、学問を学んでたのですか?」

「うん?俺ぐらいの歳なら普通だぞ」

「どおりで、頭がいいのですね…」

「そ、そうかな…」

 

成績優秀ではなかったよな…てか、目立たないようにしてたせいか、あんまり思い出が無い。中学校の時はそれなりにあったが。

 

「もう、外の世界には未練は無いのですか?」

「………」

 

無いわけがない。両親には何も言えず、弟にも、蓮子にも…何も言えず、ここに来たからな、せめて、別れの言葉を言いたかった…

 

「あ…すいません、聞かない方が良かったですね…」

「いや、大丈夫だよ、未練が無いと言ったら嘘になるけど…まぁ、ここも悪いところじゃ無いしね」

「そうですか…」

 

 

「終わったー!」

「ありがとうございます」

「で、次は?」

「昼食を作りましょう」

「え?早くないか?」

「幽々子様が相当食べるので」

 

そんなにか?まぁ、この世には2種類の女性がいるって聞いたことがある。食べる女と食べない女。前者だろうか。

 

「え?こ、こんなに?」

 

ちょ、これは…大食い選手権でもするのか…俺も食べる方かなと思うけどこれは…

 

「さて、作りましょう」

「おう…」

 

よ、妖夢、スゲーな…これを毎日だと…

 

トントントントントントン…

 

「勇人さん、手慣れてますね」

「まぁ、家ではやらされてたし、早苗のを手伝ったりしてたからな」

 

俺の母は一人暮らしになったら、自炊ぐらいできないと、ということで料理の仕方は少し教えられてる。

両親が家に居ない時は自分で、作ってたしな。まぁ、メニューがほぼ炒飯なんですが…だって、簡単だもん!

 

「妖夢も、相当上手いな…」

「従者ですから」

「はは、家事のスキルはバッチリだな」

「ええ、あとは剣術も鍛えないと…」

 

さすが、向上心の塊だな…まっすぐ過ぎるが、そうやって突き進めるところ、羨ましいな…

 

 

 

 

「ふう…出来た…本当にお昼になっちゃったよ」

 

「みなさーん!お昼ですよ!」

「待ってたわ〜」

「少しまっとくれ」

「今、いいとこなんじゃ」

 

お二人は囲碁ですか…幽々子さんは既にスタンバッてると….

 

「はい、終わりです!お昼にしますよ!」

「ぬぉぉ…」

「むぅぅ…」

 

さすがに、この時は妖夢が強いか。

 

「あら、勇人も作ったのかしら?」

「ええ、妖夢には劣りますが」

「いえ、なかなか上手でしたよ」

「どうも」

「あら、2人で共同作業ね…」

「な…幽々子様!?」

「そうですね」

「勇人さん!?」

 

ん?別に一緒に作ったから、共同作業だろ?違うのか?

 

「まぁ、とりあえず食べましょう」

「は、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

さっき、女は2種類あると言ったが、あれは嘘だ。幽々子様は食べる方というレベルじゃない。平気な顔をして、どんどん食べてく…ど、どこに入ってんだ?足りなくなって追加で作るはめに…こんだけ食べられると、こっちが満腹に…

栄養は何処へ?確かに…スタイルは抜群だが…太っているわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幽々子さんはどんだけ食べるんだ?」

「まぁ、初めて見ると驚きますよね…」

「だからかな…」

「何がですか?」

「ほら、なんというか…育ちがいいというか…俺も背ぐらい欲しいな…」

 

きっと、伸びて170は越すよな!え?もう、諦めろ?いやいや、伸びるに決まってる!そうだろ!?

 

「ゆ、勇人さんは幽々子様みたいなスタイルがいい人が好みなんでしょうか?」

「んー、俺は…」

 

んー、女性とはあんまり縁がなかったからなぁ。でも、さすがにこの歳になると、思春期な話題は出たよな。巨乳派とか貧乳派とか…俺はなんだろう…巨乳派から良さをめっさ伝えられたが…とりま、

 

「スレンダーな人が良かったりするかな…まぁ、女性を触れ合う機会が外の世界では少なかったからな。よく分かんない」

「そ、そうですか…(わ、私にもチャンスが!)」

 

 

んで、午後は妖忌による修行が、みっちりと。あの人もなかなか、鬼畜だよな…

それと、新しいスペカの練習っと。最近、霊力が上がった気がする。

そのあとは、夕飯作り。やはり、あの量を…妖夢はよくやれるよな…聞いたが、

 

「従者ですから」

 

と言われた。従者ってスゲー。そしたら、幽々子さんが

 

「貴方がいれば妖夢も楽なのにね」

 

でも、俺の分も増えるわけで、その分返せてるかと言われると、イエスとは言えない。それに寺子屋もあるしね。でも、どうして妖夢は顔を赤くしてるんだろうか?

 

「はぁ…幽々子さんはよく食べますね…」

「だって、妖夢の料理は美味しいんだもの、ね?」

「まぁ、確かに美味しいですが…」

「貴方が作ったものもなかなか美味しいわよ?」

「ありがとうございます…やっぱり妖夢には負けます、本当に美味しいですね」

「なら、妖夢と結婚すれば毎日食べれるわよ?」

「ははは…ご冗談を、妖夢にはきっと別の素敵な人がいますって。何より、妖夢の意思を尊重しないと」

「あら、そう…」

 

そうだ、意思は大事だ。あ、これ、テスト出るからね?

 

そんな日が6日間続いた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇人さんはすごいです。料理もできますし、洗濯もやってきたというのがよく分かります。そして、修行では私よりも飲み込みが早くて羨ましいです。スペカの練習なんかは日に日に上達したいって、文句なしの出来上がりです。

ただ、朝には本当に弱いらしく、幽々子様と同じくらい寝坊助です。でも、いつも私が起こしに行くときに寝顔を見れるのでいいですが…いつもは少し何を考えているか掴めないポーカーフェイスですが、寝顔は幸せそうな顔をしてます。

後は、毎日牛乳を飲んでます。なんでも背を伸ばすためとか…確かにおじいちゃんよりも低いですし、男性としては大きくない方なんでしょうが…わ、私も牛乳を飲むようにしようかな…

 

ある日、幽々子様が

 

「あら、まだ何もしてないの?チャンスは何回も無いわよ〜」

「え!?いや、何もって何をしたら…」

 

何回かアピールはしたんです!でも、効果が…彼は基本的に人との間をしっかり取るタイプのようでして…

 

「このまま終わっちゃうわよ?また、守谷神社に戻っちゃうわよ〜」

「な、な、何をすれば!?」

「一緒に寝るとか?」

「え、えぇぇぇぇぇ!」

「まぁ、頑張ってね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー6日目の夜ー

 

「勇人、明日は妖夢との一騎打ちじゃぞ」

「あ、そうだった」

「明日の試合はいろんな人たちを呼んでるからね〜」

「え?な、なぜ!?」

「明日はね、元々ここで宴会をする予定なのよ、それでついでに試合観戦も兼ねようかとね?」

「そ、それでどなたをお呼びで…」

「まずは、紫でしょ、紅魔館の方でしょ、永遠亭は無理と言われたわね…あ、守谷神社もね、後はまぁ、色々」

「は、はい」

 

人前でか…緊張するな…早苗達も来るのか…こりゃあ、下手な試合は…でも、妖夢は相当強くなってそうだしな…

 

「あ、ルールはね、特に無し、気絶させるか、参ったというまでよ?」

「や、野戦スタイルですか…」

 

なんでもありということは、俺も戦いやすいが…"あれ"も使えるんだな…

 

「まぁ、とりあえず今日はしっかり休みなさい」

「そうですね…確かにもう眠い…」

 

今日は修行がキツかったからな…早く寝てしまおう…

 

「妖夢」

「は、はい」

「今日が最後のチャンスよ」

「……」

 

 

 

 

 

スーッ

 

もう寝てしまってますね、幽々子様曰く、彼は一旦寝たら中々目覚めないと…こ、これはチャンスです!明日で勇人さんはもどってしまいますから…

 

そろり、そろり…

 

「ん?誰だ…」

「!?」

 

ど、どうしましょう!?

 

「わ、私です、妖夢です」

「…どうした…」

「す、少し、こ、怖い夢を」

 

あー!もっとマシな言い訳ができないのでしょうか!?

 

「…そうか…」

「い、一緒に寝ても?」

 

な、何を!?わ、私は…

 

「……いいんじゃね?……」

 

え?も、もしかして寝ぼけてる?で、でも、チャンスです!

 

「そ、それではし、失礼します…」

 

あ、暖かいです。勇人さんは小柄だと言ってますが、やはり男性です。大きく感じます。

 

「…スゥー…スゥー…」

 

ま、また、夢の中へ戻ったようです…勇人さんはあっちの方に向いてますが、で、でも、う、嬉しいです…

そ、そういえば、彼はいつももう1つ枕を抱くようにして寝てるのですが…

今日は無いようです。

 

「…ん…」

 

ガサッ

 

こ、こ、こ、こ、こっちをむ、向いて…

 

「!?」

 

な、な、な、な、な、な!わ、わ、私は今!?

こ、これは抱きしめられてます!?

よ、より勇人さんの体温が…心臓の鼓動まで…普通ですね…

 

こ、これは良かったのでしょう!?このまま…寝ても…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら…若いわね〜」

 

 



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第28話 再試合の日の青年





「ふぁ…あ…朝ごはん作らないと…」

 

それにしても、この暖かさはなんでしょうか。まだ、眠っていたいです…

 

「スー…スー…」

「はっ!」

 

そ、そうでした!あ、あの晩………

 

ま、まだ、起きる気配は無いようです。

この暖かさの名残を惜しみつつ、私は起きて朝食作りにかかります。

今日は、勇人さんとの再試合です。今度こそ勝って……

と、とりあえず、成長したことをみんなに見せつけるのです!もう半人前とは呼ばせません!

「昨晩はお楽しみだったわね〜」

「!?ゆ、幽々子様!?」

「妖夢と積極的ねぇ、まさか、布団に入り込むとはねぇ…」

「い、言わないでください!」

「あら、でも、嬉しかったでしょう?」

「そ、それは…そうですが…」

「それは置いといて、今日は試合ね、頑張ってちょうだい」

「もちろんです!」

 

絶対に負けませんからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー妖夢が闘志に火がついた頃、勇人は…ー

 

「スー…スー…スー…はっ!な、なんだ夢か…今何時だ…まだ寝よう…」

 

二度寝に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日じゃの」

「ああ、そうじゃな」

「次こそは妖夢が勝つだろう」

「何を言っとんじや、勇人に決まっておる」

「妖夢はたった6日間で見違えるほどに強くなっておる」

「それは勇人にも言えるじゃろ」

「じゃがな、人間と半霊とでは純粋な力では半霊が強いに決まっとるからの…」

「人間か…勇人が人間であればいいのじゃが…」

「何?勇人は人間だと言ったのはお主であろう」

「そうじゃな」

「ところで妖夢は?」

「妖夢なら、朝食作り終えたら修行始めたわい、さすが我が孫よ、じゃが、勇人は見当たらぬが?」

「あ、あいつなら…寝とる…」

「ハハハハ!試合の日にまだ寝とるとは!流石のよう!」

「きゅ、休息も大事じゃぞ!」

「そうか、そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー寺子屋ー

 

「今日は勇人先生が試合をするそうだから、みんなで応援にいくぞ!」

「またですか?」

「なんでも、修行の成果を確認するためとか」

「ふふ…あたいの先生だから勝つに決まってるわ!」

「そーなのかー!」

「そうだよね!先生が負けるわけないもん!」

「やっと、先生に会えるんだね!」

「そうだね!もう1週間も会ってないだもの!」

 

(ここまで、生徒達に懐かれてるとは…さすがだな、勇人)

 

 

 

 

 

 

 

ー守谷神社ー

 

「諏訪子様!神奈子様!今日ですよ!」

「そうだね、一体どのくらい強くなったのかねぇ」

「私達を超えたかもよ」

「やっと、勇人さんに…」

「早苗…」

「これはお前の責任だからな?」

「すいません…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー場所は戻って白玉楼ー

 

「ほら、起きなさい、勇人」

「ん?幽々子様が起こしに来てる…まだ、夢か…」

「起きなさい」

 

ベシッ!

 

「痛っ!ほ、本当に起こしに来てるだと…!」

「あら、失礼ね〜、ところで貴方今日試合よ?」

「分かってますよ」

「緊張してないのね」

「いえ、してますよ。もう心臓がバクバクしてもうはち切れそうです」

「そうには見えないけど…」

「いや、自分あがり症なんですよ」

「そう、とりあえず、朝食食べたら?」

「そうですね…」

 

 

「おはようございます」

「うむ、おはよう」

「あれ?妖夢は?」

「妖夢なら、もう食べてしまって今、修行しとるわい。お主も調整しなくていいのか?」

「ふん、随分と余裕そうだな」

「まぁ、調整はある程度…試合の前に疲れてもね…」

「とりあえず、飯を食わんか」

「そうします」

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

よし、後は武器の確認っと…

 

まずは自動拳銃二丁と…うん、しっかり調整できてる。

予備に回転式銃と…これは使う機会あるかな?

ナイフもとりあえず、それと多分今回のキーとなる、このリストバンドみたいな、フックもどきだな、片方は針、もう片方はナイフだ。さらに…少しいじらせてもらって、靴にも仕込んだ。後は、"これ"だな。それにしても、銃の呼び名あったほうがいいかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…はっ!」

 

今日はかなり調子がいいです!目を瞑ってもどこに何があるかしっかり分かります。お師匠様の特訓のお陰で剣術にも磨きがかかってると思います!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーそして時間は試合の時間へ…ー

 

「あ!勇人先生だ!先生ー!」

「お?みんな来てくれたのか?」

「もちろんだ、頑張れよ」

「頑張ってね」

「ああ、しっかり見とけよ!」

 

 

「勇人さん!」

「ん?早苗、1週間振りだな」

「どうでしたか?何もされてませんよね?」

「だ、大丈夫だぜ?むしろ、しっかり鍛えられて…」

「よかった…とにかく、今日は頑張ってくださいね!」

「そうだよ、早苗の為にも勝てよー」

「諏訪子は…まぁ、とりあえず精一杯頑張ってくれ」

「ありがとうございます」

 

 

「あれ?紅魔館の方々まで」

「少し気になっのでね…」

「まぁ、ありがとうございます」

「あれから、また強くなったのかしら?」

「なっていればイイですがね…」

 

 

これまた、たくさんの人(ほとんど人じゃない件について)が来てるな…魔理沙もいたし、あまり接点のない、霊夢さんまで…

あ、紫さん達だ…

うーん…緊張してきた…足が震えてきた…

 

「準備はいいかしら?」

 

もう、開始か…久々にここまで緊張した…

 

「大丈夫です!」

 

うわぁ、やる気満々だよ…

 

「だ、大丈夫だよ?」

 

なぜ、疑問形にした?だよ?じゃねぇよ!

 

「それじゃあ、始め!」

 

 

「有無を言わせず、先手必勝!」

「ハッ!」

 

ピカッ!

 

「!?」

「くらえ!」

 

パンッパンッパンッ!

 

「よし…って!?」

 

あら!?いつの間に接近しやがった!?

 

「同じ手は喰らいません!」

「ワフッ!」

 

ヒュッ

 

あ、危ない…初っ端、閃光弾でいけると思ったが…見切られてたようだ…

 

「 近距離ならこちらが有利です!」

 

シュッ

 

「オワッ!ウェイ!」

 

避けるので精一杯だ…

 

「はぁぁ!」

「やべっ!」

 

ガチッ!

 

な、なんとか銃で受け止めれた…

 

「ぐぐぐ…」

「む…」

 

てか?妖夢力強くね!?押されてるだと?

 

「オラァ!」

 

このままでは押し切られるので蹴りを

 

「!」

 

避けるよねー、でも

 

パシュッ!

 

「な!?」

 

ふふ…靴に仕込んどいて良かったぜ。

 

「このぐらい!」

 

カキンッ!

 

跳ね返すか…だが、間は開いた。

 

「銃火『ギブアガンファイヤ』!」

 

弾幕ごっこではないので、わざわざ言う必要は無いが、言う。あれと、一緒だ。ヒーローの必殺技と。

 

バッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッ…

 

装填された弾をマシンガンの如く全て撃つ。

 

「うっ!」

 

カンッキンッカンッカンッキンッ!

 

煙が…だが、これだけの量を撃ち込んだ。ダメージは入ったろ。

 

「うおー…すげー!」

 

「……………!?」

 

な!?後ろ!?

 

「人符『現世斬』」

ズサッ!

 

「ガフッ…ぐ…絶対『アブソルト・パズー』」

「ハッ」

 

手応えは十分です!苦し紛れに何発か撃ってきましたが、弾速が他のより遅いので避けるに容易いです。

 

「はっ!?」

 

後ろから、弾幕が!?追っかけてきます!

 

「っく…」

 

距離を取らざるえませんね…

ですが

 

「はっ、はっ」

 

カンッ、キンッ

 

「さあ、もう終わりですか?」

「これならどうだ?」

 

パンッ!

 

「そんな弾避ける必要もありません」

「ふふ…それはどうか?」

「剣で捌くだけで十分です!」

 

ガキッ!

 

く!?捌けない!?

 

「不変『イミュテーボル・バレット』」

「きゃっ!」

 

押し切ったな。

 

 

「なんだ!?あの弾は?剣でも壊れなかったぞ?」

「あれも能力の一種かしら?」

 

 

「く…」

 

ダメージはそこまでですが…距離が…

「不変『イリュージョン・オブ・フィクシィティ』」

 

バッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッ…

 

「な!?」

 

あれは勇人さんの大技!弾が勇人さんを囲うように回っていってます、徐々に広がって…こ、これでは、避けれません。

 

「かくなる上は!四生剣『衆生無情の響き』!」

 

こちらもただでは済みませんが…

 

バシッバシッバシッ…

 

「くぅ…は、はあああああああ!」

 

い、いました!弾幕を制御しているので隙だらけです!

 

「な、な!」

 

ズサッ!

 

「ガハッ…んにゃろう…」

「これで終わりじゃ無いですよ」

「!?」

 

同時に弾幕を展開してあります。剣術だけでは無いのです。

 

「しまっ…」

 

ドオーン…

 

「ふぅ…」

終わったのでしょうか?

 

「…!」

 

「はぁ…はぁ…」

「もう、ボロボロじゃないですか!これで勝負ありです!」

 

立つのが精一杯のようです。目の焦点もあってません。

 

「ッククク…フフ…」

「!?」

 

わ、笑ってます!?頭がおかしくなってしまったのでしょうか?

 

「別に…頭は正常だよ」

「え!?」

「顔見たらわかるよ、何を考えてるか」

「でも、もう、貴方は立つだけで…」

「だが、男として『参った』は言えんだろ?」

「なら、気絶させるまで!」

 

「ふー…さぁ…正真正銘の必殺技!」

 

何を!?何か液体らしきものが入ったものをいくつか宙に投げて…

 

バンッ!バンッ!バンッ!パリンッ!パリンッ!パリンッ!

 

「血!?」

 

な、何故?

 

「は!」

 

血が霧状に拡散して…これは!?

 

「永華『百世不易の血華』!」

 

糸が血に濡れてはっきりと…

 

バリバリッ!

 

「!?」

 

な、何が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…わ、私は!」

「おう、目覚めたか」

「勇人さん、それにお師匠様と幽々子様…」

「妖夢」

「お師匠様…すいません…」

「何を言っとる、素晴らしかったぞ、お主の剣技見事じゃった」

「お師匠様…」

「そうよ、前よりとっても強くなったわよ」

「幽々子様…」

「本当だよ、マジで負けるかと思った…あの技が、決まらなかったら負けたな」

「その技なのですが、あれはどういった原理で?」

「永華『百世不易の血華』か?あれはだな、前々から考えてた技だ。もっとも、使ったのはあれが初めてだが。

まぁ、原理は俺の血にある。と言っても永琳さんから聞いたんだけどな。あの人いつの間にか採血して調べてんだもん」

「血と何の関係が?」

「俺の能力は血によって作動するのは知ってるよな?」

「はい」

「それと、もう1つ性質があって、霊力を流しやすいらしい。そんでもって、お前と戦ってら間に糸を張り巡らせといて、俺の血を巻いて…糸に霊力を流す。そうすっと、血を被ったお前は糸から流された霊力を浴びて気絶っというわけ」

 

は、はぁ…

 

「でも、糸はいつ?」

「まず、足から撃ったやつが1つ」

「それは見ました」

「で、それは、ぐるっと回っていて、適当なこところに刺さって、もう1つは初めに閃光弾撃った時にもう1つの足から自分のいる場所に、両手のは弾幕を張った時に」

 

全て、私が見えてない時に…

 

「で、血を被ったことで糸は空中にあることを不変化して霊力を流すっと」

「それで、急に糸が出現したように…」

「それにしても、あの弾幕は美しかったわ」

「そうですか?」

「だって、貴方の霊力目に見えるくらいに流れて、赤い霧の中を青い稲妻が走っているように見えたわ、あと、レミリアとフランがすごく興奮してたわね」

「カオスだと思うんですが…」

 

でも、勝てなかったのですね…

 

「何を落ち込んどる?落ち込んどる暇があったらもっと強くなろうと思え!」

「そ、そうですよね!もっともっと修行しないと!」

「そう言えば、貴方はいつの間にあの血を?」

「寝る前に少しずつ、まぁ、多用は出来ませんね」

「ずっと準備をしてたわけですか…」

 

結局、彼の考えには追いついていなかったのですね…

 

「でも、今度こそ!勝ってみせます!」

「そうね、これからも頑張りなさい、ま、そんなことは置いといて、これから、白玉楼主催の宴会よ!」

 

そっちの方が楽しみですか…

 

「そうだな、俺も白玉楼での生活終了ってわけだ」

「そ、そうですね…」

 

もう、帰るのでしたね…

 

「さあ、みんな待ってるわよ」

「よし、行くか!」

「は、はい!」

 

精一杯楽しんでしまいましょう!

 

 

 

 

 

 

 




よければですが、勇人の武器の銃でいい呼び名を教えてください。


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第29話 修羅場?の日の青年





今、思うんですが、ここの人は宴会ばかりしてませんかね?

俺的には宴会よりも休みたい…と思っても、参加しないなんてのは野暮なんで参加しますが。ただ、お酒の良さがまだ分かってない、今日この頃。

 

「とりあえず、貴方たち着替えなさい」

 

それもそうだな、俺の服は所々破れてしまってる。妖夢に至っては、俺の血のせいで、殺人鬼みたいになってる。やり過ぎたかな?

 

「妖夢、すまない、血で汚しちまって」

「あ、大丈夫です……」

 

「妖夢はお風呂に入らないとね…」

「ええ、そうします」

「で、宴会はいつからですか?」

「2時間後によ」

 

まぁまぁ、時間があるな。仮眠ぐらいしてもいいだろう。

「お?勇人」

「ああ、じいちゃん、どうした?」

「いや、お前さんを労いにな、良かったぞー、さすがじゃ!」

「どーも、しっかし、今更なんだが、教師の俺が強くなる意味はあるのかね?」

「幻想郷に生きてる限り強くないと食われちまうぞ」

「へいへい…」

 

そうだった…ここでは常識なんて通用しないのだった…

 

「ふぁ…寝みぃ、少し仮眠取ってくる」

「そうか、宴会には遅れるなよ」

「了解」

 

早く寝てしまおう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても…しっかり汚れちゃって…」

「そうですね…髪も血で…」

 

でも…勇人さんのだと思うと…

 

「あら、顔赤いわよ〜」

「ふぁっ!?そ、そんなことは…」

 

いけません、少し不純なことを…でも、吸血鬼でも無いのに血で少し気分が高揚してしまうとは…

 

「早く洗ってしまいなさい」

「そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人さんはどこでしょう?」

「休憩してるじゃないのか?」

「そうだな、どうせ、宴会で会うだろう」

「いえ!今、会いに行くです!」

「と言ってもね〜、早苗、どこかさっぱりじゃないか」

「おや?あそこに人が…」

 

「すいませーん!」

「い、いつの間に…」

 

「なんじゃ?」

「すいません、勇人さんはご存知ですか?」

「ああ、わしの孫じゃが?」

「「「何!?」」」

「そ、そうですか!わ、私は東風谷早苗と言います」

「あー!あの守谷神社の!いつもわしの孫が世話になっとる」

「いえいえ、そんなことは……」

「で、お主たちは?」

「私は洩矢諏訪子さ」

「八坂神奈子だ」

「あー、どこかで聞いたことがあるのう」

「それは光栄なことで、貴方の話はよく聞いてます」

「ありゃ、わしのこと知っとるのか」

「ええ、有名なので」

「そうか…まさか、わしを連れ出す気は無いじゃろ?」

「………!?だ、大丈夫ですよ、別にそんな気は無い」

「そうか、なら良かった、ところで勇人のことじゃったな。あいつは疲れて向こうで寝とる。あまり起こさんでくれ」

「ありがとうございます!」

「これからも、勇人と仲良くしてくれ」

「はい!」

「それじゃあの」

 

 

「神奈子…」

「ああ、分かってる」

「どうしましたか」

「勇人のじいさんだが、やはり本物のようだ」

「何がです?」

「あいつは天降りをした神様で有名なんだよーーそれも、相当な実力者なのに。少し私がカマをかけたが、威圧されてしまったよ。久々にビビってしまったよ」

「神奈子様が…」

「まぁ、手を出してくることは無いだろう、ほら、勇人のところへ向かわなくていいのか?」

「そうでした!早く生きましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー…さっぱりしました…」

 

血はすぐにとれました。少し勇人さんに会いに行きますか…

多分、寝室で寝てるでしょう。眠そうでしたし。

「妖夢」

「あ、お師匠様。何かご用で?」

「そうじゃ、お主ももういい歳だからの……その……身を固める気はあるか?」

「え?それは……その……えっと……」

「あるようじゃな、相手じゃが……」

 

え?もしかして、縁談の話が……わ、私は……

 

「幽々子様と話し合ってだな……勇人にしたらと」

「!?」

「べ、別に強制はせん。ただ、候補としてどうかと、あいつも勇人が決めたら構わないと言っておったからのう…」

「わ、私は……べ、別に、構いません…むしろ…」

「そ、そうか、なら良かった(く…もう妖夢も子供じゃないのか…)」

「と、とりあえず、勇人さんと会って来ます…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スー…スー…」

 

「勇人さん……って、やはり寝てますか…」

 

「ここにいるのかな?って、妖夢?」

 

「早苗さんじゃありませんか。何かご用で?」

「いえ、少し勇人さんに会いに」

「そうですか、ですが、今はお休みなので後で…」

「なら、妖夢さんも後にした方が…」

 

「「むむ……」」

 

「うん…」

 

(とりあえず、今はお引き取りください!)

(そう言う貴方こそ!)

(私は勇人さんを見守る役割が!)

(それなら、私がやりますから、大丈夫です!)

(それに私は勇人さんと大切な話があるのです!)

(私にもあります!)

(わ、私は祖父との話し合いで、え、えん…)

(何です!?)

(と、とりあえず、大切な話があるのです!)

(むむ…)

(むむ…)

 

「ふぁ…よく寝た…もう時間かな?」

 

「「!?」」

 

「あ、妖夢に早苗じゃん。どうした?」

「わ、私は勇人さんと大切な話が…」

 

「みんな〜、宴会始めるわよ〜」

「お?ジャストだな。とりあえず、宴会に行こうぜ?」

「はい…」

「とりあえず、久々に会いますので、一緒に飲みましょう!」

「い、いいぜ(な、なんだ、なんか恐怖が…)」

 

 

 

 

「今回は人数減ったから、そこまでおおさわg「先生ー!」ゴフッ!」

 

グオォォ…は、腹に…

 

「ど、どうした…フランドール…」

「先生、みんなで食べよう!」

「そ、そうだな…」

 

「「むむ…」」

 

「ちょっとすまない、生徒達の所に行ってくる」

「は、はい…(今は我慢です!)」

 

 

「あー、先生だー!」

「先生、お疲れ様です」

「でも、なんか顔色悪くないですか?」

「とりあえず、飯なのだー」

「だ、大丈夫だ…それよりも、今日はわざわざ来てくれありがとな」

「なぁに、それよりもお前の戦い素晴らしかったぞ!」

「やっぱり、先生はサイキョーね!」

「どうも」

「そうだね、とてもカッコ良かったですよ!」

「ははは、そう言ってもらえると嬉しいぜ」

 

「お?勇人じゃん」

「あ、魔理沙と…霊夢さんですね?」

「別に呼び捨てでいいわ」

「そうか」

「それにしても、お前すごかったな、妖夢も強くなってたしな」

「そうね、前よりは強くなったわね」

「でも、霊夢よりは弱いかな」

 

はは…霊夢ってそこまで強いのか…男としては負けられないが…

 

「分からないわ、だって、貴方、手加減してたでしょ?」

「まさか、本気だ」

「ふーん…」

「で、あんたの弾幕には足りないものがあるぜ」

「なんだ?」

 

速さか?

 

「パワーが足りてないぜ!」

「いや、パワーあって当たらなかったら意味がない。しっかりと当たる方が確実だと思うが?」

「何言ってんだ!パワーが最強にきまってんだろ!」

「こいつ、酔ってます?」

「ええ」

「誰か、サイキョーって言ったか?」

「そうさ、チルノ!パワーは最強だぞ!」

「いや、違うね、頭使った方が強いね」

「どっちなのか?」

「チルノに頭使うは無理なのだー」

「そんなこと言うなよ…」

 

「ま、とりあえず、今日はお疲れさん」

「ありがとうございます、慧音さん、みんな。明日からちゃんと授業くるからな!」

「やったー!」

 

 

 

 

 

 

「ふー…このジュース久々だな…」

 

少し1人でジュースを飲んでる。なんでも、紫さんが輸入したそうだ。スキマってスゲー。

 

「あら、1人かしら?」

「どうも、レミリアさん」

「貴方、なかなかやるじゃない」

「褒め言葉、光栄です」

「私の従者になってみる気はない?」

「残念ですが、教師という職務があるので」

「あら、そう」

「まぁ、また、紅魔館に行かせてもらいますのでその時はよろしく」

「いつでも、構わないわ」

 

っと、紅魔館からの勧誘もあったところで、そろそろじいちゃん達のところに行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー!勇人ー!」

「お?じいちゃん、酔ってる?」

「何言ったんじゃ、まだまだじゃ、な?」

「そうじゃ、お主には話さないといけないことがあるからのう」

「そ、そうですよ!」

「妖夢も酔ってる?」

「そうよ〜」

 

犯人は貴女ですか…

 

「私達も話があるんだが…勇人とじいさんと」

「そうです!」

 

「?わしにか?」

「とりあえず、勇人に聞く!」

「はい?」

「お前は早苗のことはどう思っている!」

「ん?」

 

なんだ?みんな静かになって….うわっ、早苗めっちゃ見てる…

 

「んー、命の恩人として、居候させてもらってさらにお世話もしてもらって、感謝しきれない人ですかね」

「それだけか?」

「え?」

 

なんで、みんな残念そうな顔を……早苗…そんな顔で見ないで…

 

「そうじゃ、勇人」

「なんだ、じいちゃん」

「お主もいい歳じゃろ?身を固めたらどうじゃ?」

「まだ16ですが…」

「そこでじゃな…」

 

話聞け。

 

「妖忌と話してだな…」

「うん、ごくっ」

 

「妖夢とどうじゃ?」

「!?ゲホッガハッゲホッゲホッ…オエッ」

「ワシの妖夢じゃダメか?」

「私は…構いませんよ?」

 

「…………!?」

 

「な!?」

「ちょっと待った!」

「なんじゃ?」

「その相手に早苗じゃあダメか?」

「しかし……」

「わ、私なら勇人さんと長く一緒に暮らしてますし、それに勇人さんのことが好きですから!!」

「!?」

 

この娘とんでもないこと言わなかったか?

 

「しかし…勇人は普通の人間であるとは言い切れん。おそらく、寿命は妖怪並みじゃろう」

 

え?マジで?だからか!身長があまり伸びないのは!

 

「わ、私だって、ゆ、勇人さんのこと…好きですよ!」

 

な、なんだってー!

 

「じゃあ、聞こう。どうして、わしの孫を好きになった?」

 

おい、やめてくれ…頭がショート寸前だ。何がなんだか……

 

「わ、私は最初、助けてあげてから、一緒に暮らしていると……勇人さんはいつも手伝いをしてくれたり、私のために何かできないかと言ってくれたりと心遣いができる人でその優しさに惹かれたのと、私自身、ここに来て日が浅い方なので、外から来た勇人さんのおかげで精神的にも助けられました!」

 

お、おお…

 

「そうさ!同じ外の世界出身者同士結ばれるのがいいさ!」

 

「それはどうじゃか」

「わ、私は…当初は剣と銃ということで、剣の素晴らしさを教えるつもりが、勇人さんの強さに見惚れました!それでもって、はたから見れば何も考えてないようですが、誰よりも負けず嫌いで、自分の信条を貫く勇人さんの姿にいつの間にか、惚れていました!」

「そうじゃ、武器は違えども向上心の高さは同じ、2人して互いに高められる関係なんて素晴らしいじゃろう」

 

あ、ああ。

 

(じいちゃん、これどうすれば…)

(これはお前さんの問題だ、自分でしっかり考えなさい)

(そ、そうだよな……)

 

 

「お、俺は!………」

 

頼む、2人ともそんな目で見ないでくれ…

 

「少し時間をくれ」

 

ど、どうすれば?こ、これは、世に言う告白ってやつですよね?しかも、2人も!?やばい、全然意識してなかった…冗談ってことは……

 

「「……」」

 

無いようです。

 

ガシッ!

 

「わ、私じゃダメでしょうか?」

「ヘアッ!?」

 

さ、早苗何を!?あ、あ、あ

ぎゅ

 

「あ、あた、あた…」

「私の方が妖夢さんよりスタイルがいいと思います!」

 

ガシッ

 

「アヒャ!?」

「ゆ、勇人さんはスレンダーな女性が好みなんですよね?」

 

ああ…お、俺の許容量を超してる!

 

「わ、私は勇人さんとキスしましたよ!」

シュー…「は!?」

「私だって、お、同じ布団で寝ました!」

「は!?は?」

 

は?は?何?理解不能、理解不能。そんなことは記憶に……無い!探したけど無い!

 

「そ、そんなことはしt「「したんです!」」ア、ハイ…」

「む…かくなる上は、勇人さん!」

「はい!」

 

チュウ

 

「!?」

 

え?え?あら?今……

 

「よ、妖夢さん!」

 

「な!よ、妖夢、お主……」

 

「…ん…ん」

 

ふぇ?く、口ん中に舌入れてんのか!?

 

「プハッ……こ、これで、私の方が……」

 

シュー…ボフッ

 

「ゆ、勇人さん?」

「は、はは…」

 

バタッ

 

「ゆ、勇人さんとキスしてしまった…」

 

プシュー…

 

「妖夢!?」

 

「わ、私もって勇人さんは!?」

「あれ?どこ、行った!?」

「よ、妖夢しっかりせい!」

「はうあ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュー…ボスッ

 

「うーん…」

 

シュー…シュー…

 

「ほら、勇人、いい加減にしっかりしなさい」

「グフゥ……」

「ダメね、藍、水を」

「はい」

 

バシャッ

 

「は!?わ、私は!?」

「あら、まだ治ってないわ」

 

バシャッ

 

「ふー…俺は…」

「妖夢とキスして失神寸前。見た目によらず初心ね」

「ぬぁ!き、き」

「はいはい、落ち着いて」

「はー…スー…はー…よし…で、なんで紫さんが?」

「本当はあのままほっといて良かったのだけれど、どうしても、貴女に聞かなければならないことがあってね…」

「結婚はまだ考えてませんよ!?」

「違うわ、外の世界のこと」

「え!?」

「貴方、まだ外の世界に未練があるのでしょう?」

「そ、それは……」

「幻想郷は貴方を既に受け入れてるわ、でも、貴方は心のどこかでまだ外の世界に未練を残してるせいで、幻想郷を受け入れてない」

「うっ……」

「それに、今はあの2人のどちらかと結ばれるのだから、外の世界の女の子に未練残したままじゃね?」

「ホワッツ!?そ、そんなことはないっすよ…」

「と言うわけで、貴方に1週間外の世界に、里帰りしてもらうわ」

「へ?」

「だから、里帰り」

里帰りね…帰省ね…

 

「へ?」

「スキマ送りにするわよ」

「は、はい、里帰りですね!?」

「詳しくは後日連絡するわ、それじゃあ、また、楽しんできなさい」

「ぬおおおお!」

 

 

 

 

 

 

ボスッ

 

「……ツテテ……」

「あ、勇人ひゃん!」

「よ、妖夢!?」

 

ギュッ…

 

前から抱きつかないでおくれ…

「勇人!どこに行っておったのじゃ!」

「妖忌さん!?」

「全く…これからワシの義理の息子になるというのに…」

「ちょ、まだ答えは……」

「私ではダメですか?」

「うっ……」

 

「あ!勇人さん!そこにいたのですね!」

う、後ろからだと!だ、だから…あ、あた、あたた…

 

「ほら、勇人も男だろ?」

「そうだ、守谷神社の婿としてしっかりしてくれ」

「だ、だから、答えは!」

 

は!周りの視線が!

 

「ヒュー、よ!色男!」

 

おい、魔理沙。

 

「先生モテモテだなー」

「え!先生は私のだよ!」

「そうだー、そうだー!」

 

何を言ってるんだ?

 

「はは、さすがだな勇人」

 

言ってる場合ですか。 どうしよう…これでは、俺の容量だとすぐにいっぱいに…

 

「もう一度キスをしましょう!」

「pardon?」

「いえ、今度は私と!」

「勢いでするのは後悔するzむぐっ!?」

 

「プハッ…二回もしてしまいました」

「あ、あ…」

「私だって!」

 

チュウ

 

シュー…ドフンッ!

 

 

「あはは!また、気絶してんよ!」

「なんで、慧音隠したんだー」

「お前達には早い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人……強くなれよ…」

 

 



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第30話 未練の日の青年






 

「ぐおお……頭が……」

 

ち、畜生……キスで気絶してしまうとは……はああ……勢いでしたら後悔すると思うのに……

 

「よっこらしょ…おろ?」

 

あるぇ?立てない。

 

「……ほら、早苗に妖夢、起きろ」

 

すごいパワーだ……男の俺が全く動かせん。でも、これでは両手が……ん?両手に花だなって?あんたはだーっとれい!

 

「起きてくれ……ほら」

 

どうするか……

 

「そうだなー、今日は授業も無いって慧音さんが言ってたなー…1人で人里に行こうかなー…」

 

かばっ!「「私と一緒にいきましょう!」」

 

しめた!

 

「ほっ」

「「あ」」

「冗談だ、今日は授業あるから」

「だ、騙しましたね!」

「狸寝入りしてた奴らには言われたくない」

「うっ……、で、でも、昨日の答えはまだ聞いてません!私と妖夢どちらがいいのですか!?」

「そ、そうです!」

「だ、だから…」

 

「今の彼じゃ決められないわよ〜」

 

「ゆ、紫さん!」

 

いつもは場をかき乱すが今回は助け舟を……

 

「彼には外の世界に好きな娘がいるからね」

 

残念だったな…助け舟じゃなくタイタニック号だった……

 

「「え!?」」

「だからね……」

 

「ほ、本当なのですか!?」

「あ、いや、その、えーっと……」

「本当なんですね…」

「それじゃあ、外の世界に帰る気が…」

「安心なさい、それは無いわ」

「え?」

「もう、彼は立派なここの住人よ?ただ、未練タラタラでここにいられてもね…」

「うっ……」

「というわけで彼、一旦里帰りするから〜」

 

「「ふぁ!?」」

 

「あ、それで思ったんですがいつですか?」

「明日よ」

「え?いや、明日は早すぎますって、また、授業に参加できない…」

「慧音には言ってるわ」

「いや、でも……」

「あら、貴方にしては珍しく怖気付いてるのね」

 

「くっ…勇人さんには思いの人がいるとは…」

 

「これで、分かったかしらね?彼は外の世界に行って未練断ち切ってくるから、帰ってきたら十分にアピールしなさい」

「「はい!」」

 

 

 

 

 

「そ、外の世界に……って」

 

いつからだ?自分がいた世界がまるで異世界みたいな感覚になっている…

そのこと、どこかで嫌がっている……自分がそこにいたことがもう無かったことになる様な気がして、なぜか不安に……

ここで生きてくと決めたはずなんだが……

 

 

「勇人?」

「あ、す、すいません…」

「いえ、大丈夫よ…」

「それじゃあ、授業が終わった後詳しく話すから」

「分かりました」

 

考えても仕方がない。とりあえず、寺子屋に行くか。

 

「それじゃあ、寺子屋に」

「「はい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ったわね……」

 

「負けませんからね!」

「わ、私も負けませんから!」

「ちょっと、お二人さん」

「な、なんでしょうか?」

「勇人のことについてなのだけど…」

「「?」」

「今から話す事は真面目な事だから聞きなさい」

「は、はい」

 

「彼は外の世界に行って、様々な事に区切りをつけてくるでしょう。それは外の世界で完全に忘れ去られる事。彼がいたこと、した事、全てが無かったことになるわ」

 

 

「ここは幻想郷ーーつまり、忘れ去られたものが集まるところ、彼がここに馴染む事は、外の世界で忘れ去られる事と同じ」

 

 

「外の世界で区切りをつける事は外の世界でのことを全て捨てることになる。それが簡単に済まされることでは無いわ。多分、相当傷つくことになる」

 

 

「でも、彼のことだから、きっと表には出さないでしょう。なんだって、あの人の孫だもの……彼もそうなることをどこかで分かってたのよ」

 

 

「それで、貴女たちはそんなことになるだろう彼を支えれる自信があるかしら?彼をこの幻想郷で再び生きていこうと立ち直らせることができるかしら?その自信があってこそ、彼の隣にふさわしいんじゃない?」

 

「「……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人」

「なんでしょうか?慧音さん」

「お前は明日、一旦里帰りをするのだろう?」

「そうです」

「そうか……けじめをつけるんだな?」

「……はい」

「なら、しっかりつけてこい!そして、ここに戻ってこい!安心しろ、みんないるからな!」

「あ、ありがとうございます!」

 

け、慧音さんは全てお見通しだった様だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

「どうした?早苗?」

「諏訪子様……」

 

「わ、私は本当に勇人さんと一緒にいる人にふさわしいんでしょうか?」

「ど、どうしたんだい?急に…」

「実は……」

 

 

少女説明中……

 

 

「そういうことか…勇人も苦労してたのか…」

「私は勇人さんを支えれるでしょうか?私は勇人さんほど心も強くありません…」

 

「何言ってんだい!」

「す、諏訪子様!?」

「支えれるか、だって?支えるんだよ!勇人のこと思ってんのなら、どんなに下手でも精一杯支えるのが大事じゃないのか?」

「……そうですよね!やってみせます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「妖夢」

「なんでしょうか?」

「お主、何か悩みがあるだろう?」

「いえ…ありませんが…」

「誤魔化さんでいい、バレバレじゃ、そんなにため息つかれると」

「す、すいません……実は……」

 

 

少女説明中……

 

 

「そうか、勇人が傷ついてしまって帰ってきたら、それを癒してあげれる自信が無いと」

「面目ないです…」

「いや、これは難しいことじゃ、ワシは少なくともできておらん」

「?」

「勇人の祖父である、あいつとは昔からの付き合いであり、いがみ合ってはいるが、大切な友として師としてあいつを尊敬している」

「師としてですか?」

「ああ、あいつはワシよりも随分年上だからのう……幼き頃はあいつからしばかれたわい」

「師匠が…」

「まぁ、そんなあいつだが、天降りをしたということを聞いた時は驚きはしなかった。前々から聞いてたからな。で、天界の者たちにより死んでここに来たという知らせを聞いてここに戻って来た…」

 

「あいつは飄々としてるようだが、自分の死よりも、勇人がここに来たことにショックを受けておる」

「え?」

「勇人がここに来たことは多分、天界にバレてしまったことと同じ。そして、まだ若い彼に今までのことを捨てさせることは相当心にきたようでの…友であるワシは何もできとらん……」

「師匠……」

「じゃが、お主は違う、まだ若い故にどうにかすることができる、ワシからもあいつの友として頼む、勇人を支えってやってくれんか?」

「もちろんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日か……」



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第4章 現代入り
第31話 帰省の日の青年







 

 

「……寝れん…」

 

もう、12時過ぎただろうか?普段なら夢の中にいるはずなんだが……今日はまったく眠くならない。にしても、久々に守谷神社に戻って来たな…

 

明日、持っていく荷物はもう必要最低限準備している。どこで寝泊まりするのかとか色々聞きたかったが、明日で全て説明すると言われた。流石に銃やナイフは持ってかない。

 

それにしても、一旦とはいえ戻るのか…もう、ここに来てから半年は経ったのではないのだろうか。光陰矢の如し、まさにその通りにあっという間だったな……みんなは俺のこと覚えてんのかな…もう、忘れてしまった人の方が多いかもしれないな。

 

「ふぁ…眠い…」

 

やっと、睡魔が来たようだ。とりあえず、今は寝てしまおう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん〜…」

 

もう、朝か……自分で早起きするとは、もう末期だな。

 

「おはよう」

「あ、おはようございます、勇人さん。自分で早起きするとは珍しいですね」

「まぁ、今日は久々の里帰りだからな」

「そうですね…」

「とりあえず、1週間またいなくなるがよろしくな」

「はい!」

 

本当に早苗たちにはお世話になっているな。ここに来た時からずっと。いつかは、恩返しをしないとな。

 

「それじゃあ、朝ごはん食べましょう」

「あれ?神奈子様と諏訪子様は?」

「昨日からお出掛けです」

「そうか……」

 

 

「「…………」」

 

 

 

な、なんだろう…この空気。すごく気まずい…いつもは、うるさい諏訪子様がいないせいか…

 

「ゆ、勇人さんは向こうで何をする気なんですか?」

「あ、ああ…そういえば、何も考えてなかったな…とりあえず、みんなの顔が見れればいいかな」

「そうですね」

「そうだな」

 

もう少しましな返答はできないのか…俺…

 

そんな空気のまま、朝ごはんは食べ終え、約束の時間になった。

集合場所は博麗神社と聞いている。

 

「勇人〜?」

「は、はい、ここにいますよ、紫さん」

「あら、準備完了ね」

「もちろんです」

「それじゃあ、外の世界に行く前にいくつか説明をしておくわ」

「はい」

 

「まず、こちらの世界と向こうの世界では時間軸がずれてるわ」

「と言うと?」

「まぁ、簡単にいえば軽く浦島太郎状態ね」

「ど、どのくらい……」

「もう、向こうじゃ、3,4年は経ってるんじゃない?それに応じて貴方も3,4年すぎた体になるわ」

 

は、はあ…よかった……100年単位だったら泣くところだった。

 

「それと、向こうの世界での貴方は本来もう"存在しない"人なの。つまり、それを無理矢理捻じ曲げて向こうに行くことになるわ」

「何か、問題が?」

「あまり、言いたくないけど…向こうに行ったら、貴方は認識されないわ」

「?」

「うーん…なんて言えばいいかしらね…人としてそこにいるにはいるのだけど…貴方と認識されないわ」

「つまり、石ころみたいな?」

「んー、そんな感じかしら?だから、家族も例外じゃないから、別れの言葉を直接、伝えれないわ…」

「そ、そうですか…でも、手紙とかで間接的にはできるのですよね?」

「ええ、あと、期間は1週間、宿は私がとってあるわ」

「そうですか、何から何までありがとうございます」

「いいの、それよりもしっかりとけじめをつけるのよ」

「はい」

「それじゃあ、開くわよ」

 

空間からスキマができる。ついに行くのか…

 

「あ、そうそう、これを渡しておくわ」

「これは?」

 

お札が何か?

 

「それは、連絡用のお札よ。もしものことがあったら、それで伝えれるわ。使い方は霊力を込めるだけ、いい?」

「了解です」

 

「それじゃあ、いってきます」

「ええ、いってらっしゃい……」

 

 

 

 

 

「これでいいのかしら?」

「ああ、これでいい…あいつには本当に悪いが…だが、このままでいるのが、一番あいつに悪いことじゃろう…」

「すっかり、おじいちゃんね」

「そうじゃな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに来たか…」

 

周りには幻想郷とは程遠い、自然控えめの景色だ。だが、俺にはひどく懐かしく感じてしまう。あまり、かわってないようだが…自分の家も変わってないだろう。鍵は一応持っている。

 

 

「あった、かわってねーな…」

 

懐かしき我が家である。車も変わってない。この時間的に登校時間と出勤時間じゃないか?両親は共働きでみんな一斉に外に出る。

 

「あ……」

 

弟か…3,4年過ぎてるだろうと言ってたから、もう高2ぐらいか…身長も大きくなって、俺よりも大きいな……は?俺も3,4年すぎた体になるはずじゃなかったけ?ま、まさか…俺は成長しないのか…?

 

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 

あんまり、変わってないや……

 

「あ、おはようございます」

「お、おはようございます……」

 

紫さんが言ってたのは本当か……他人のように挨拶をされた。そうだよな…

 

「私も仕事に行くか…」

 

お母さんも出るようだ。ということはもう家には誰もいなくなる。

 

お母さんが家を出たのを見計らって、あれは家の中に入った。

 

「本当に変わんないな……」

 

物の配置が全く変わってない。あ、でも…

 

「やっぱり、死んだことになってるよな…」

 

仏壇に遺影が…もちろん、俺だ…それにしても、ヘッタクソな笑顔だな。目が笑ってない。

そうだ、自分の部屋は?

 

「おう……」

 

半ば弟の物置と化してる。クローゼットの中は…

 

「……」

 

俺の物ばかりだ…律儀に整頓されてる…これは…写真か…

確か…みんなで旅行に行った時のだな、たのしかったな…

 

あれ?なんでかな…雨が…ダメだ…大切な写真が濡れてしまう…

 

「……っ……なんでだ?……っ…」

 

そうか……泣いてるのか…俺は泣いてるのか…

 

ひとしきり泣いた後、俺は写真をそっと置いて、家を出た。

 

もう、大丈夫だ。元気に暮らしてる。それだけで大満足だ。寂しいけど、みんなが不幸になっていないなら、それでいい…

 

「時間、すごく余ったな…」

 

目的もほとんど終わってしまったな…この様子じゃ、俺が分かる人は1人もいないだろう。蓮子も、友達もみんなダメだろう。

少しぶらぶらするか…

俺くらいならもう大学生か…ただ、俺の体は一向に成長しないのか?いや、まだ希望は…あるはず…170越さないのはやめてほしい。

 

「ん?ここは…」

 

ああ、蓮子に連れて行ってもらったカフェか。ここのコーヒーは美味しかったな…お金もある程度貰ったしここでゆっくりするか…

 

「いらっしゃいませ…」

 

相変わらず、無愛想だな。別にひどいものを出すわけではないのでいいが。

えーっと…いつもの席は…あった。

蓮子に教えて貰ってから、ここに結構行ってたりする。で、お気に入りの席もしっかりとある。隅っこの席だ。

 

「コーヒーをひとつ」

「分かりました」

 

ふー、やっぱり落ち着く…と、俺は懐からキーホールダーを出す。これは、誕生日に弟から貰ったやつだ。けっちぃなとか言ったが、少し嬉しかったりして…

 

「あ、そこ私のお気に入りの席…」

 

おや?ここをお気に入りとか言う人が…随分と物好きな…

 

「!?」

 

れ、蓮子?ま、まぁ、俺のこと分からないだろうが。

 

「すいません…席、変わりますか?」

「あ、どうも…すいません……!?」

 

ど、どうした?顔をじーっと見て…やめてください。人に見られて興奮しませんから、むしろ、やめろ。

 

「……勇人…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?」



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第32話 再会の日の青年

秘封倶楽部の原作の時代は都合上、無視しております。また、舞台は京都ってわけではないです(かと言って決まってもいない)。そのところ十分にご注意ください。




今日は、サークルの活動を話し合うためにカフェに集合することになった。まぁ、2人しかいないけど。

 

「……いらっしゃいませ」

 

相変わらず、無愛想だわ……ここのコーヒー好きだからいいけど。

とりあえず、いつもの席っと……

 

「あ、そこ私のお気に入りの席……」

 

いつもはあそこに座る人なんて見たことが無い。1人を除いて。まぁ、もうその人はいないから、かなり物好きな人なのかしら。

 

「すいません、席変わりますか?」

 

気を遣わせてしまったようだ。申し訳ない……

 

「あ、どうも……すいません……!?」

 

え!?その顔……その声……

 

 

 

 

 

 

「勇人……?」

 

 

「……へ?」

 

 

「貴方、勇人よね?碓氷勇人?」

 

間違いないわ、この人絶対勇人だ。勇人は死んだとか言ってるけど、あの事故は不可解過ぎる。

 

「い、いや、人違いですよ」

「でも、そっくりじゃない、むしろ瓜二つ」

「そ、そうなんですか、ほ、ほら、言うじゃないですか。世界には似ている人が3人はいると」

「ふーん……」

 

確かにそうかも……

 

「そ、それじゃあ、これで……」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「い、いや、なんで?」

「絶対、勇人だわ。その振る舞い、顔、声、勇人じゃない」

 

いや、こんなにそっくりな訳が無い。

 

「似てるだけですって、それじゃあ……」

 

こうなったら……

 

 

「待ちなさい!チビ!」

「…………あ?」

 

確信したわ。この反応は……

 

「やっぱり、勇人じゃない」

「……!?な、何を?」

 

やっと、動揺を見せたわ。

 

「はい」

「あ、どうも……」

 

このタイミングでコーヒーを出さないでよ……

ん?一緒にクロワッサンも……クロワッサンはメニューには書いてないし、その頼み方を知ってるのわ私と……

 

「ねぇ、なんで、クロワッサンが裏メニューにあること、知ってるのかしら?」

「!?い、い、いや……それは……」

「そのこと知ってるのは私と勇人のだけなんだけど……」

「ご馳走様でした!」

「もう、行かせないわ!」

「くっ……」

 

さあ、観念なさい……

 

「はぁ…そうだ…俺は碓氷勇人だ…これで満足か?それじゃあ、帰るぜ」

「待ちなさい!」

「なんだ?」

「なんだ?じゃないでしょ!何よ!3年間も行方不明になって!もう、みんなは死んだっていうじゃない!」

「……」

「なんで……勝手に……消えるのよ……」

 

涙が止まらない。だって、本当に死んじゃったかもと思ったんだもん……

 

「すまん……」

 

勇人が抱き締めてくれる……確かな暖かさ、存在している証拠……

 

「馬鹿、この大馬鹿」

「わ、悪かったって、それに理由は山よりも高く谷よりも深いわけが……」

「そう……なら、そこで話してよ……」

 

久々にそこで話してよ……

 

「了解」

 

 

「で、泣くのは済んだか?」

「ええ、それじゃあ理由は?」

「……」

「言うのじゃないの?」

「今から言うことは信じれるか?」

「え?」

「今から話すこと全てお前は信じれるか?って聞いてる」

「……ええ、信じるわ」

「分かった、それじゃあ……」

 

 

 

ー青年説明中…ー

 

 

 

 

 

なんてことなの?異世界に行ったの?今はそこで暮らしてる?もう、勇人がここで認識されることは無い?それなのに私は認識できる?

 

「どうだ?って、信じれるかと聞いたが、信じるわけ無いよな…」

「いいえ……信じるわ」

「そうだよな……こんな阿呆なことって、信じるのか?」

「ええ」

 

そんな不思議なこと、すでに体験済みよ!何より、ちょうどいいわ……

 

「信じるに決まってるわ、なんせ、私は秘封倶楽部なのよ!」

 

「はぁ?秘封倶楽部だぁ?なんだ、オカルトサークルか?」

 

さすがね、名前だけでそこまで察するとは……

 

「ただのオカルトサークルじゃないわ。結界を暴こうとしているの」

「これまた、大層な……メンバーは?」

「そうね……一応2人だけだわ」

「ふーん……まぁ、頑張ってくれ」

「貴方も手伝うのよ?」

「はぁ?勘弁してくれ」

 

「蓮子はいるかしら?」

 

「ん?誰だ?」

「あ、メリーね、こっちよ!」

「あら、そこにいたのね……って、そこの彼は……」

「ああ、それはね、少しこっちで話すわ」

「ふぅ……相変わらず、美味いな……」

 

 

 

 

ー少女説明中……ー

 

 

 

 

 

「へー……彼が貴方の話す人ね……」

「ええ、そうよ。多分、勇人は私達が探してる結界について何か役立つかも」

「でも、何の能力もないんでしょ?」

「うっ、そうだけど……頭はすごく切れるわよ?」

「貴方が人を褒めるとはね……よっぽど、お気に入りなのね?」

「え?ちょ……それは」

「もう、バレバレだから」

「うっ……でも、手がかりにはなるでしょ?」

「それもそうね」

 

 

 

 

 

 

 

「ん?終わったか?」

「ええ」

「こんにちわ、勇人さん。私はマエリベリー・ハーンよ。メリーでいいわ」

「そうか、まぁ、一応自己紹介を。ご存知、碓氷勇人だ、よろしく」

 

「何か、分かった?」

「そうね、確かに微かな結界のようなものが見えるわーまるで、無理矢理こっちに来たみたい、」

 

「何を話してるんだ?」

「いいえ、何も」

「そうか、あんたもなんか特殊な能力を?」

「あら、よく分かったわね」

「そりゃあ、蓮子と一緒にいるなんて、普通のやつじゃないよ」

「なによ、失礼ね」

「ええ、そうよ。私は結界の境目が見えるの。貴方にも見えるわ」

「そりゃあな、もうここの住民じゃない」

「そう……それじゃあ、向こうでの話聞かせて頂戴?」

「ああ、構わんよーそうだな、向こうでは……」

 

 

 

ー青年&少女達会話中…ー

 

 

 

 

「どうだ?面白かったか?」

「ええ、妖怪や神様が普通にいるのね……」

「って、あんたも普通じゃないの!?」

「ああ、俺も少々変のようだ」

「あら、なら、ちょうどいいわ、秘封倶楽部にでも入らない?」

「ああ……それなんだが、ここには1週間までしかいられない」

「え?……あ、ああ、そう」

「ま、協力できるなら、させて貰うよ」

「ええ、よろしく」

「ああ」

 

「もう、勉強とかしてないの?」

「ああ、それか、あっちで教師をしてる」

「あんたが?アハハハハハ!あんたが教師って!」

「悪かったな!俺が教師でそんなに意外か!」

「だって、人付き合いの苦手な、コミュ障君が教師だなんて……」

「はぁ…もう、今日はこれまでだ、それじゃあ、宿探すからこれで」

「あら、もう?」

「だから、宿が無いから…」

「なら、私の家に来たらいいじゃない」

「「え?」」

「蓮子ったら……」

「冗談はよしてくれ、親がいるだろ?」

「今は両親ともに海外に出張よ?」

「大学の勉強だってあるだろう?」

「私は頭いいから大丈夫よ」

「そもそも、年頃の男女が、1つ屋根の下に一緒にいるなんて良く無いだろ?」

「あんた、襲うとかできないでしょ?変なところでビビリだし」

「はー……、メリーさんも何か言ってください」

「いいんじゃないかしら?」

「ほら、メリーさんも……って、はぁ?」

「いいじゃない、久々の再会でしょ?しっかり語ればいいじゃない」

「だってよ?」

「む……分かった、言葉に甘えさせてもらうよ」

「それじゃあ決まりね!」

 

「本当に変わらないな…」

「あんたも変わってないわよ」

「そうかい…」

「そうよ」

 

 

 

 

本当に変わってないわ、あの頃と全く同じよ……相変わらず、変なところで鋭くって、肝心な時に鈍いのだから……



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第33話 飲み会の日の青年

「はぁ…」

「何よ、溜息ついて」

「さぁ、なんでだろうな?」

 

本当に何なんだ?俺はもう認識されないとか言ってたのになんで認識しちゃってんの?

 

「あ、ちょっと、トイレ……」

「早くしなさいよ」

 

とりあえず、紫さんに連絡だ。えっと……荷物の中にお札が……あった。確か、このお札に霊力を込めて……

 

「はーい、ゆかりんよ〜」

「あ、紫さんですね、お話したいことが」

「何かしら?」

「俺を認識できる人がいるのですが……」

「え?本当かしら?」

「ええ」

「おかしいわね……その人って人間?」

「もちろんですが?」

「うーん……まぁ、大丈夫なんじゃない?」

「さいですか……」

 

まぁ、確かに蓮子なら問題無いか…

 

 

「すまん」

「早く行くわよ」

「あれ?メリーさんも?」

「ええ、今夜は飲み会よ?」

「あ……はい……」

 

飲み会……お酒……うっ、頭が……

 

「久し振りに勇人がいるんだし、飲むわよ!」

「お願いだから、お酒には飲まれるなよ……」

「とか、言ってたら着いたわね」

「変わって無いな」

「当たり前よ」

「あら?前に来たことあるのかしら?」

「ああ、一度だけな」

「ほら、入りなさい」

「お邪魔しまーす」

 

さすが、女子大生と言ったところか……両親がいないのに綺麗に整頓されてるな……

 

「まだ、飲むには時間が早すぎるな」

「そうね、何をしましょうか?」

「私はもっと貴方の話を聞きたいのだけど?」

「いや、遠ry「そうね!いいわね!」ア、ハイ……」

 

あんまり、面白い話なんて無いからな?

 

「貴方は元々○○高校よね?あそこは一応、進学校だからそれなりに頭はいいんでしょ?」

「いや、勇人はそんなにいいほうじゃ無いでしょ、学年順位は」

「まぁ、ギリ半分より下だな」

「あら?でも、蓮子は彼が頭いいって」

「学力で言ったら、そんなにいいってわけじゃ無いわ、数学は別だけど」

「お前が何で言うんだよ……」

「いいじゃない、まぁ、賢いと言う方がいいのかしらね。時折、想像つかないこと考えてるし」

「そりゃあ、どうも」

「本当に仲良いわね」

「せいぜい、中学校で同じだっただけだろ」

「そうよ」

「ふーん……そうね」

「まぁ、彼の中学校での姿は面白いわよ」

「へー、どんな感じかしら?」

「休み時間は読書か机に突っ伏しているのどちらか。人と一緒にいる確率がかなり低いーー所謂、コミュ障ってやつね。勇人、目つき悪いから、怖いって評判だったよ」

「そりゃあ、ありがたいな。おかげで余計な神経使わずにすんだよ」

「向こうでもコミュ障なのかしら?」

「いや、そういうわけでもない。むしろ、話す人はかなり多いかも?」

「え、マジ?どんな人?」

「うーん……露出多めの巫女さんに白髪の少女剣士とか」

「普通の人じゃないの?」

 

人じゃないのもいるが。

 

「てか、女の子なの?勇人が女の子と話す?……アハハハハハ!!」

「はぁ?何で笑うんだ?」

「ハハ……だってよ、あの勇人がだよ?中学校では女嫌いとまでの評判だった勇人がだよ?」

「悪かったな!だがな、向こうじゃ、しっかり話せてんだぜ!」

 

「あれ?ほとんど女の子じゃね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?もうこんな時間に……」

「あ?もう、7時じゃん」

「そうね、じゃあ始めましょう」

「勇人はお酒飲めるの?」

「まぁ……人並みには」

 

そういえば、お酒を飲む機会がある度に気絶してる気が……まぁ、お酒でぶっ倒れたわけじゃないが…蓮子達は節度のある飲み方をしてくれるだろう。一気飲みはいかんよ、一気飲みは。

 

 

「はい、ビール」

「あ、どうも」

 

なんか、久々だな。缶だなんて。ビールは初めて飲むかな?まぁ、いいか。

 

ゴクッ

 

「うん…」

 

何だろうか…あんまり、美味しく感じないな。

 

「あれ〜?勇人はお酒ダメなのかな?」

「何を、少しずつ呑むのが俺のスタイルだ」

「こう飲まないと!」

 

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ…

 

「プハッ〜、ほら、あんたも」

「い、いや、いいよ……」

「私も」

 

メリーさんは節度のある飲み方をしてくれるだろう。

 

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……

 

「……ふぅー、勇人さん、貴方は?」

 

俺が一口飲んだら、2人は1缶開けたと……

 

「だから、少しずつ飲むのが俺の正義なので……」

「なによ?男らしくないわよ!それとも〜お子ちゃまなのかな〜?」

「な!?そう言うなら!」

 

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……

 

「プハ〜、ほら?飲んでやったぞ!」

「よし!ようやく興に乗ってきたわね!じゃんじゃん飲むわよ!」

「あの〜、メリーさん、蓮子ってお酒に……」

「弱いし、飲んだら面倒になるタイプね」

「ですよねー」

 

もう、真っ赤だぜ?あ、また、飲んだ。

 

「あなたはまだ余裕そうじゃない?」

「まだ、1缶だけですし」

 

「何よー、2人して私を省るつもり?」

「わ、悪かった、ほら、飲むぞ?」

「あんたも飲みなさいよ」

「だから、少しずつ飲むのが俺のジャスティスなんだよ!」

「なら、口移しで飲ましてあげるわ!」

「!?」

 

それはダメだ!

 

「ちょ、超遠慮します!」

「ぶー、つれないわよ」

「まぁ、いいじゃない。ほら、飲むわよ?」

「でも、勇人と飲みたい!」

「分かった、分かった。飲むから、な?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく潰れたか……」

「まぁ、蓮子はすぐに酔うけどそっからがね…」

 

スゥー…スゥー…

 

「でも、貴方は顔色ひとつも変わってないわよ」

「そうか?」

 

結構飲んだと思うが……後ろには大量の空き缶が……俺も5缶ぐらいは飲んだかな?

 

「久々、こんなに飲んだわ」

 

まぁ、ほんのり頰が赤いな。

 

「しっかし、蓮子は黙っていれば可愛いのに……」

「ふふ……これでも、貴方がいない間は寂しがってたわよ?そもそも、このサークルを開いたは貴方にも一因があるのだから」

「え?そうなのか?てっきり、能力を活用しようとしてるのかと」

「それもあるわね…でも、蓮子は貴方がいなくなった時、ずっと神隠しだって思ってたのよ?」

「まぁ、実際、それに近いですけどね」

「そうよね、だって、遺体も無ければ、残ったのはハンカチぐらい、神隠しと思って当然ね」

「ははは……」

「それでも、彼女は明るく振る舞っている。私も親友として、彼女はとても強い子だと思うわ」

「そうだな……」

「あら?そうなのは貴方のお陰よ?」

「いやいや、俺があった時から元気だったと思うが」

「それは、外面的にでしょ?知らないわけじゃないでしょ?彼女の目には不思議な能力があること、無論、私にもね」

「そうだが……」

「あの目を、最初に肯定してくれたのは貴方だって聞いたわよ?」

「まぁ、褒めたことはあるが」

「そうそうにいないわよ、貴方みたいな人。普通は不気味がるもんでしょう?」

「そうかな?だと言っても、俺の方が異常だったと言えるし」

「そうね、少し変な人だと思ってたわ」

「ははは……まぁ、確かに俺もこいつに救われた感じもありますし」

 

「でも、貴方だと言っても、蓮子を傷つけるのは許さないわよ」

「……分かってる」

「もう、お開きにしましょう」

「そうですね、後片付けもしないと」

 

 

 

 

 

「空き缶だけだからすぐに終わったな」

「そうね、後は蓮子かしらね?」

 

あー、確かに……ここで寝かせるのは良くないな……

 

「貴方が寝室まで運びなさい」

「了解」

 

どう、運べばいいんだ?

 

「何してるのよ……」

「どう持とうかと」

「お姫様抱っこでいいじゃない」

「ああ、そうだな」

 

「よいしょっと」

 

やっぱり、女って軽いもんなのかな?

 

「えっと、寝室は……」

「2階よ」

「どうも」

「それじゃあ、私は帰るわ」

「ああ、さようなら」

「さようなら」

 

「よし、運ぶか」

「……ん」

 

首に掛かる力が強くなったな…

 

「ほら、ベッドに着いたぞ、腕離してくれ」

「……いや」

「は?離してくれないと俺、寝れない」

「一緒に寝ればいいじゃない」

「それはだな……」

「今まで、いなかった罰」

「わ、分かったよ……」

 

んー…これは緊張してしまう……妖夢曰く一緒に寝たとか言ってるが、こうやって意識してる状態は、初めてだ。

 

「こっち、向いてよ」

「それは遠慮しておく」

「なによ、男らしくないわよ」

「……それでも、遠慮する」

「なら」

 

「!?」

「これで、妥協してあげる」

「な、何を」

 

抱きつかないで……くっ、女性ってこんなに柔らかいのか?む、蓮子の匂いが……

いかんいかん!ここは無だ、無だ、無だ、無だ、無だ、無駄、無駄、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄……

 

 

「スゥー…」

「意気地なし……」

 

ギュッ……

 

 

 

 

 



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第34話 サークル活動の日の青年

 

「ふぁ……結局何もしなかったわね…」

 

やっぱり、普通じゃないわ。男女同じベッドの中にいるのに何もしてこないだなんて、本当に男かしら?あ、そうだ、いつか女装させようかな……文化祭でしてくれなかったし。

 

「それにしても、よく寝るわね」

 

まだ、身長気にしてるのかしら?確かに伸びてないけど……寝る子は育つからって……

熟睡だわ……少しいたずらしてしまおう。

 

「スゥー…スゥー…」

 

「勇人の寝顔もなかなかレアね……」

 

あの、無愛想な顔と違って、いかにも幸せそうな顔してる。

 

「えいっ」

 

ムニ、ムニ

 

ちょっと、頰をつねる。

 

「……スゥー…スゥー…」

 

今、こうして見ると、勇人は顔は悪くない方かな。やっぱり、鼻筋が通ってるのが大きいのかな?まぁ、体は大きくないが。

 

「今、何してもバレないよね……」

 

勇人は無防備だ。こ、これなら、き、キスも可能かしら?

や、やってしまおう。

 

か、顔が…息がかかる。

 

「ん…… ガサッ スゥー…スゥー…」

「あ……」

 

もう、何よ!なんでそこで寝返りうつかなぁ。

 

「はぁ…朝ごはん作ろう……」

 

勇人は起こさない限り寝てるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら!起きなさい!」

 

うーん……まだ、眠い……

 

「もう少し……」

「何言ってんの!今日から早速活動に参加してもらうんだから!」

「今、何時?」

「7時よ」

「まだ、寝る……」

「起きな……さい!」

「ぐへっ!」

 

グオォォ……腹にダイブすな!

 

「お目覚めかしら?」

「お陰様でな……」

 

もう少し寝かせてくれたっていいだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、活動って何すんだ?」

「そうね、今日は気になる神社があるからそこに行くわ」

「そうか。ところで、お前料理できたのな」

 

意外と美味い。いや〜、蓮子ってなんとなく不器用そうなイメージがある。

 

「失礼ね、私だって女よ?」

「そうだな」

「そうだ、服どうする?女物着て行く?」

「ノーセンキューだ、ちゃんと持って来てる」

「あら、似合うと思ったのに」

「嫌だね、プライドが許さない」

「相変わらず、変なプライドだけは高いわね、背は高くないくせに」

「な、なんだと!」

「はいはい、食べてしまったなら、早く行くわよ」

 

口ではもう、蓮子に勝てない気がする。

それにしても、神社か……まぁ、有りがちな感じだな。

 

「ほら、準備できたなら早く来なさい!」

「へいへい……」

 

ピンポーン

 

「あ、ちょうどね」

「ん?誰だ?」

「ちょっと、待ってねー」

 

ガチャ…

 

「おはよう、蓮子」

「おはよう、メリー」

「勇人さんも、おはよう」

「ああ、おはよう、メリーさん」

 

わざわざ来たのか……時間もピッタリだな……

 

「よし、行くとしますか!」

「ええ」

 

 

 

 

ー青年&少女達移動中ー

 

 

 

 

 

 

 

「着いたわ」

「うわ……」

 

ボロッボロの神社じゃねぇか。本当になんかあんのかね……

 

「メリー、何か見える?」

「んー…もう少し見ないと分かんないわ」

 

俺ができることってあるか?はっきり言ってここでの俺は完全に役立たずな気がする。

 

 

 

 

 

 

「結局、何もないな」

「そうね、ハズレね」

「残念、時間余ったけど、どうする?」

「そうね……そうだ!勇人、あんた向こうの世界で不思議な力手に入れたんでしょう?ちょっと見せてよ!」

 

ん?どっちだ?霊力か?それとも不変にする方か?

 

霊力でいいか。どう見せるか……スーパーサイヤ人風にすればいいかな?

 

「分かった、少し離れてくれ」

 

 

「はぁー…」

 

全身に霊力を流すのはなかなか苦労するが、見た目も派手になるし、使うことも無いだろうしいいだろう。

 

ツツツ……バチッ!

 

「ん!?あれが?」

「まるで、電気みたいだわ……」

 

バチバチバチバチバチバチバチ!

 

「ふぅー…これでいいか?」

「すごいじゃない!なんなのあれ?」

「霊力って言うやつだ、こんな使い方はしないがな」

 

はっきり言って、霊力の無駄使いだ。ただ、また霊力が上昇している気がする。

 

「それって普通の人には見えるのかしら?」

「わっかんない」

「そう」

「本来はどう使うの?」

「まぁ、弾として撃ったり、はたまたは相手に流して気絶させたり、飛んだり、肉体強化したりと」

「へー…は?飛べんの!?」

「ああ、ここでは飛ばないが」

「えー、なんでよ」

「どう考えても目立っちまうだろ?それだけは避けないといかんのだ!」

「ぶー……」

「それって、結界にも使えるのかしら?」

「使えるのだろうけど、俺が使えるかは分かんないな」

「まぁ、勇人も普通じゃないことが証明されたところで、お昼近いしどっかでご飯食べに行こう?」

「なら、私たちの通ってる大学の学食でどうかしら?」

「お、いいねぇ、そういえば、どこにいってるか知らないな」

「それなら、早くいきましょ!」

 

 

 

 

 

ー青年&少女達移動中…ー

 

 

 

 

 

 

 

「ここよ」

「はー、ここってなかなか頭いいとこだよな?」

「そうよ、もし、貴方が神隠しに会わなければ無理やりここに受けさせただろうけど」

「何それ、怖い」

「冗談よ?」

「へいへい、とりあえず、学食に行こうぜ」

「そうね、少しお腹空いたわ」

「あんたお金は持ってるの?」

「もちろんだ、ほら」

「そこんところはしっかりしてるわね」

「女に奢ってもらうのはなんか、嫌だからな」

「あっそう」

 

 

 

俺は無難にうどんを蓮子はカレーをメリーさんは普通に定食を頼んだ。

 

「あんたって、うどん好きだっけ?」

「麺類では一番だな」

「ふーん、一口頂戴」

「ほら」

 

ズルズル……

 

「私のも上げるわ」

「ん、サンキュー」

 

パクッ

 

 

「ふふ……」

「ん?どうしたの?メリー」

「1人で笑うなんて少々不気味だぞ?」

 

って、周りの人の視線を感じる。ていうか、めっちゃ見てる。なんだ?女性はきゃっきゃ言ってるし、男性陣はすごい形相で睨んでる。

 

「いやだって、ねぇ?2人とも仲がよろしいことで」

「「?」」

「本当に面白いわね。だって、貴女達、あーんし合っちゃって、熱いわね」

「ぬあ!?」

 

シュワット!こ、これって間接キスになるんじゃあ……

 

「べ、別にいいじゃない!」

「ええ、いいわよ」

 

「はぁ」

 

 

「あ、蓮子じゃん」

 

「あ……須藤…」

「ん?知り合いか?」

 

ん?メリーさんどうした?裾引っ張って。

 

(なんですか?)

(あいつのことなんだけど)

 

んー、あれだな。世間一般で言うイケメンってやつか?茶髪の頭に人気俳優が如くのルックス、背も高い……ぐっ、背が高いだなんて。

それに、周りの女性もきゃーきゃー言ってる。

 

(あのイケメン君ですか?)

(まぁ、そうだけど、注意しなさいよ?)

(?)

 

どういうことかな?

 

「一緒に食べてもいいかな?」

「い、いや、今はサークルでの集まりで……」

「そうよ、ちょっと話し合いしてるの、後にしてくれるかしら?」

 

な、なんだ?メリーさんがすごく冷たい態度を……

 

「へー……でも、彼はいいんだ?」

「彼はサークルのメンバーだから」

「ここでは見たこと無いけど」

「そりゃあ、別の大学の子だし」

「じゃあなんでここに?」

「サークルのメンバーだからよ」

「別の大学なのに?」

「蓮子の中学校からの知り合いだからよ」

 

さ、さすが、メリーさん。質問をどんどん返してく。

 

「ふーん……そうだ自己紹介するよ、僕の名前は須藤光二郎。よろしく」

「どうも、俺の名前はう…」

 

は!本名は言っちゃダメだな、下の名前は他の人に聞かれてる可能性があるので苗字だけでも偽装しないと……何かないか?

 

「……吉良勇人です…よろしく…」

 

これはひどい。でも、しょうがないよね!?とっさになぜか吉良さんが浮いたんだもん。カッコいいじゃん!

 

「そう、勇人君だね。それじゃあ、また、後で」

「あ、どうも…」

 

 

 

 

「ふー……人と触れ合うのは苦手だ」

 

変な気を使ってしまう。

 

「で、どうしたんだ?2人とも顔が怖いのだが」

「ちょっと、ね」

「はぁ…私が話すわ。名前は聞いての通り、須藤光二郎。頭も良く、運動も格闘術に秀でて、かつあのルックス、物腰も柔らかいそして、お金持ち。と絵に描いたような人気者ね」

「ふーん……で、蓮子に関係あんのか?」

「そうね、蓮子はあいつから告白されたのよ」

「!?」

「もちろん、蓮子は振ったけど、相手もなかなかしつこくてね、あんな感じに何回もアプローチしてんのよ」

「そうよ!私には……とがいるし…」

「それが問題か?」

「そうね、そのアプローチがだんだんエスカレートしてるのよね、集団の力も使い始めたわ、お似合いのカップルだと周りに言わせたりとかね」

「……。ま、とりあえず、トイレ行ってくる」

「はぁ…早く行って来なさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、蓮子!今の勇人君って子知り合いなんだよね?」

「付き合ったりしてんの?」

「まさか、蓮子は光二郎君とお似合いだって」

「……」

 

なんなのよ、もう。面倒臭いったらありゃしない。

 

「そうよね、確かにあの子、地味だし」

 

む…何も知らないくせに。

 

「でも、私は意外とタイプかも」

「え?まじで?」

「だって、どことなくミステリアスな感じがするじゃん?」

「あー、分かる」

 

分かってねーよ。

 

「紹介とかしてくれない?」

「いや、無理ね。彼、ここには帰省として来てるからその間だけ」

「あー、残念」

 

 

 

「ただいまっと、お取り込み中か?」

「いいえ、とりあえず、戻りましょう?」

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、私買いたのがあったわ、少しコンビニに行ってくるわ」

「俺もあるわ、蓮子、先に帰っててくれるかな?」

「ええ、分かったわ」

 

 

 

 

「はぁ…」

 

なんなのよ、本当に。あの時、思い切って私の彼氏ですとか言ってしまったら良かったかしら?須藤のアプローチもひどくなってる。はぁ、本当に面倒臭いったらありゃしないわ。

 

「おーい、蓮子!」

 

噂をすればなんとやら。

 

「何かしら?須藤君」

「今1人で帰ってる?」

「いや、少し待ち人が」

「あの勇人って子かい?」

「そうだけど何か?」

「別に。そんなことより、この前のことだが、考え直してくれるか?」

「いいえ、変わらないわ」

「でも、僕らはお似合いだと思うだろ?」

「全然」

「もしかして、あの勇人って言う地味な奴がいいのか?」

「あんたには関係ないでしょ?」

「僕の方があいつよりも幸せにできるぞ」

「そんなの分からないわ」

「何を言ってるんだ!俺の方がいいに決まってる!」

 

な!口調が変わった!?も、もしかして。

 

「俺とお前は結ばれる運命だ!」

「きゃっ!」

 

腕を掴んできた?本性が現れたわね……でも、どうしよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん!」

「どうしたの?蓮子に身の危険が!」

「え?」

「いや、不安だったから、蓮子に霊力を纏わせてセンサーみたいにしている」

「そう、なら早く行ってちょうだい!」

「ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、離してよ!」

「嫌だね!君がOKしてくれるまで離さない!」

「私には別の人が!」

「どうせ、勇人ってやつなんだろ!」

「だったら、悪い?」

「ああ、運命に逆らうべきじゃない!」

「知らないわよ!そんな運命!」

「こうなったら……体に教えてやる!」

「!?は、話して!」

 

い、嫌だ、こんな男とだなんて!わ、私は勇人が!た、助けて!勇人!

 

「助けて!勇人!ふぐっ!」

「静かにしろ!」

 

助けて…勇人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分の思い通りにならないからって襲うのは良くないな」

 

「ああ!?」

「勇人!」

 

やっぱり、来てくれた!で、でも、勇人の様子がいつもと違う。

 

 

 

 

 

「そういうの犯罪って言うんだよ?」



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第35話 「怒」の日の青年





 

「て、テメェは!」

「どうも、さっきぶりだね?」

「勇人!」

 

ほ、本当に来てくれた…

 

「何の用だ!?」

「用って、蓮子にあるけど?」

「ああ?今はお取り込み中だ!どっかに消え失せろ!」

「確かに面倒な事は嫌いだが、そういうわけにもいかんのだよ」

「どういうわけだ?」

 

 

「いや、だって、蓮子は俺の"彼女"だから」

「!?」

 

うぇ?か、彼女!?

 

「はぁ?何言ってんだ?お前みたいな冴えない奴が蓮子と付き合ってるわけがないだろ!」

「あんたがなんて言おうが、この事実は変わらん」

 

「な、近づくんじゃねぇ!」

「近づかないと蓮子と帰れないんでね」

「野郎!舐めんじゃねぇぞ!」

 

ぶんっ!

 

「ほっ」

「ぬあ!?」

 

ズシャァ…

 

「盛大にこけたねぇ…ま、いいか。ほら、蓮子帰るぞ?」

「あ、うん……」

 

し、芝居なのよね?

 

「や、野郎!」

「あーだこーだ言われてもね?付き合ってるもんはしょうがないでしょ、な?」

「う、うん……」

 

か、肩を抱き寄せて……これじゃあ、本当にカップルみたいじゃない!芝居が上手いせいか、勇人の言ってる事も本当のようだ。

 

「み、認めねーぞ!」

「別にあんたの承認なんていらんでしょ?」

「ふ、ふざけるな!お前みたいなひょろっちぃ奴が蓮子と似合うわけがない」

「だから、あんたが何言ったて関係ないだろ?アホの妄言はやめて、さっさと帰れば?」

「な!?も、妄言だと?それはお前の方だろ!?」

「あー、ダメだな、無視して帰ろう、な?」

「う、うん」

 

わ、私まで動揺しちゃってる……何でこいつは飄々としてんのよ?恥ずかしくないの?ま、まさか、逆にそういう対象で見られてない?

 

(蓮子)

(な、何?)

(もう少し芝居続けるぞ)

(わ、分かったわ、じゃあ、手を繋ぎましょう)

(ヘァ!?)

(こ、恋人なら当たり前よ?)

(そ、そうか)

(もちろん、恋人繋ぎよ?)

(りょ、了解)

 

うん?ちょっと、恥ずかしくがってる?なーんだ、ウブじゃない。

 

「な!」

 

「それじゃあな」

「それじゃあね」

 

「ま、待て!俺と勝負しろ!」

 

「無視よ」

「分かってる」

 

「ビビってんのか?」

「「……」」

 

「それでも男か!?」

「「……」」

 

う、少し勇人が反応した。

 

「調子に乗ってんじゃあねよ!このクソチビ!」

「…!」

「勇人!」

 

もう!まだ、そのワードに反応すんの!本当、変わってないわね!

 

「ああ!?今、なんて言った!」

「へへ……聞こえなかったか?チビ!それに顔もよく見たら女っぽいんじゃねーのか!?全然、男らしくないぜ!」

「勇人、落ち着いて!」

 

あ、ダメだ、この顔は……目にハイライトが消えてる……こいつ、怒ると顔の表情筋が固まるのよ…ああ、中学校の頃一度だけあのワード言われて、ブチ切れだとき、無表情で相手を殴り続けてたわ……

で、でも、相手は素人じゃないのよね……格闘技はかなり秀でてるって聞いたけど。

 

「はは!ほら、来いよ?男だろ?男らしく拳で証明してみせろよ!」

「……」

 

何も言わなくなったわね……本格的にキレたわね。

 

「来ないのなら、こっちから行くぞ!」

 

ベキッ

 

「ゆ、勇人!」

 

え?何で交わさないのよ!

 

「……」

「ほら、もう1発!」

 

ゴスッ!

 

「……っ!」

「ふん、トドメだ!」

 

バゴッ!

 

バサッ……

 

「勇人!?」

「ほら!こいつ、ダメダメじゃん!」

 

おかしい、普通ならかわすのに、何で受けてるの?かわす気が全くないみたい……

 

「分かっただろ?」

「い、いえ、全然!」

「チッ!強い者が上なんだよ!」

「知らないわ!」

 

「はぁ……」

 

「な、なんだ、まだ気絶してねえのかよ」

 

「俺はだな、面倒な事は嫌いだ。昔は喧嘩をしたいという欲求があったが、今はもう無い。だから、喧嘩も面倒な事でしか無い」

「ああ!?何を言ってんだ?」

「でも、面倒だからやらないってわけにもいかないよな?」

「はぁ?まだやるのか?」

「まぁ、優越感に浸ってる奴に急に敗北させる事で絶望させるのも嫌いじゃないしな」

「ふんっ、そんな事自分の状態を見てから言えよ。フラフラじゃないか?」

「だから?早く来いよ、強い奴が上なんだろ?」

 

「言われなくてもやるさ!」

「……」

「勇人!」

 

また、動かない気!?

 

「遅い」

 

ヒュッ

 

「な!?」

 

「オラァ!」

 

ボゴッ!

 

「グヘッ!」

 

は、速い!前よりも早い!あんなギリギリまで待って腹に1発とは……

 

「終わりじゃないだよな〜」

 

バチバチバチバチバチ!

 

え?腕に霊力が……

 

「オラァ!」

 

バンッ!

 

「ゴフッ……」

 

バタッ…

 

「うー……ゲホッゲホッ…オエッ」

 

「ふぅー、この新技いいかもな。手加減してやったから安心しろ」

 

な、なんなの?殴った拳から衝撃波みたいなものが……

 

「つい、カッとしちまったな」

「だ、大丈夫?」

「あの程度でくたばったら、向こうの世界では生きていけないぜ」

「そ、そう」

 

随分たくましくなったのね……

 

「ゴホッ…まだ、終わってないぞ……」

「はぁ…確かにあんたは強いっちゃあ強いが……相手が悪かったな」

「待ちやがれ、この野郎!」

「……!」

 

ヒュッ!

 

「きゃっ!」

 

ゴスッ!

 

い、痛い!な、何よ!レンガ!?腕が……

 

「しまった……こ、これもお前が悪いんだ!全部お前が悪いん……だ?」

「……」

 

ベキッ!

 

「グゲッ!」

「え?」

 

ゆ、勇人?

 

「痛い!は、歯が……え?」

「……」

「ゆ、許してくれ!少し血迷ったんだ!」

 

ベキッ、バキッ!

 

「は、はっは……や、やめてくれ……」

 

バキッ!ベキッ!

「う……もう、やめてくれ……もう、ボロボロだ……な?追い討ちは男らしくないぜ?な?」

 

ベキッ!バキッ!

 

「お、お願いだから……許してくれ……」

 

「勇人!」

 

「……!」

 

「はっはっ……」

 

あのままだと死ぬまで殴り続けてしまう。

 

「次は無いと思え」

「ヒ、ヒィィ!すいませんでしたー!」

 

 

 

 

 

「す、すまん……腕は大丈夫か?」

「え?ええ……」

「少し見せろ」

「うん……っ!」

「骨は折れてないようだ……打撲か……」

「大丈夫よ、このくらい……」

「いや、このくらいなら俺でも治せる」

 

バチバチバチバチ……

 

「少しビリってくるが我慢しろよ?」

「……ん…」

 

「大丈夫か?」

「う、うん……」

 

全く痛みが無い……不思議ね……

 

「俺の事怖いか?」

「え?」

「いや、あんな風になっちまったから……」

 

確かにあの顔は見たことが無い。でも、

 

「大丈夫よ!別にあんたのことが嫌いになったわけじゃないわ!」

「そうか……」

 

まだ、引きずってんのかしら?こうなったら

 

「それにしても"彼女"ねぇ……」

「あ……それはだな……あの場をしのぐにはそれしかないかなって……嫌だったか?」

「別に!このまま芝居続けちゃおう!」

「え!?」

「あら、あいつがいないとも限らないのよ?ほら、手を出しなさいよ」

「ふっ…了解」

 

少しはあいつに感謝しないとね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

「どうした?早苗?」

「いや、なんか、勇人さんが別の女の子といる気が……」

「考え過ぎだって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……む!」

「どうした、妖夢?」

「勇人さんが他の女の子と仲良くしている気が……」

「雑念はいかんぞ、今は勇人のことは忘れておけ」

「すいません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

「どうした?」

「い、いや、寒気が……」

「風邪じゃないわよね?」

「あら?勇人と蓮子じゃない」

「め、メリー!」

「あらあら、お熱いことで……」

「こ、これはあれよ?あいつに対する芝居よ?」

「そ、そうだぜ?」

「そうゆうことにしておくわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

「どうした、霊夢?」

「いや、なぜかここに霊力を感じる……」

「はぁ…で?」

「それだけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!あいつのせいで!いつか復讐しないとな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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第36話 それぞれの日の青年&少女(前編)





結局、昨日は軽くしばいた後、何もなかった。

いや、何も無いってわけでもなかったかな?

確か、あの後……

 

 

 

 

「もう、いいんじゃないか?」

「ま、まだよ」

「そうかい……」

 

ずっと、腕を組んでる状態なのだが……ま、いいか。

 

「あなたは本当によく分からないわね……」

「俺もよく分かりません」

「はぁ…」

「?」

 

なぜため息つかれんだ?

 

「ねぇ」

「なんだ?」

「さ、さっきは、ありがと……」

「なぁに、あんぐらいどーってこと無いって」

「そう……」

「なんだ?らしくないぜ?」

「べ、別に!」

「はいはい……」

 

「それじゃあ、私はここで」

「うん、じゃあね、メリー」

「さようなら、メリーさん」

「それじゃあ、勇人、蓮子を襲っちゃダメよ?」

「何言ってんだ?」

「ふふ…じゃあ、バイバイ」

「なんだよ……」

 

うーん……分からん人だなぁ。

 

「さぁ、私達も帰るわよ!」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

「明日も手伝ってもらうからくたばらないでよ」

「へいへい……」

 

「勇人って、ご飯が先?それともお風呂?」

「飯が先だ」

「そう、なら夕飯作るの手伝って」

「了解」

「あんた、了解ばっかり言ってるわね……」

「そうか?」

「まぁ、いいわ。ところで料理はできるのよね?」

「人並みには」

「器用だもんね」

「それ、理由になるか?」

「いいから、手伝いなさい」

「了解、何を作るんだ?」

「肉じゃがで」

「そう、ならじゃがいもと人参の皮剥きを……って、ピーラーは?」

「はい」

「どうも」

「あと、切っといてね」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、あとはしばらく煮るだけね…」

「結構、早く終わったな」

「そりゃあ、2人でやったもの」

「それもそうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、良さそうね。勇人、準備して」

「はいはい……」

 

 

 

 

 

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

「うん、しっかりできてるわ」

「悪くは無いな」

「何よ、その微妙なコメントは」

「いいじゃないか」

「あっそう」

 

 

モグモグ……

 

 

「ねぇ」

「なんだ?」

「向こうの世界でさ」

「うん」

「か、彼女とか作ってないよね?」

「!?ゴホッ!にゃにを!?」

「ぷっ……にゃにを……」

「ぬぁ!噛んだ!」

「で、どうなの?」

「うーん……いる」

 

 

「はぁ!?」

「ハハ!冗談だぜ」

「…!そ、そうよね!コミュ障のあんたができるわけないわね」

「失礼だな!」

「だって、中学生の頃は私以外でまともに目を合わせて話す女子なんていなかったじゃない」

「い、いや、それはだな……」

「男子とすら、まともに話すやつ少なかったんじゃないの?」

「お、俺は1人が好きなのだよ!」

「のくせ、生徒会に入り、部長をやると……」

「しょうがないだろ?やれって言われたから」

「そういうことにしておくわ」

「そういうことなんだよ」

 

「あんたはもしここにずっといたなら、どうなってたと思う?」

「さぁな、未来の事は預言者でも無いから分かんないな」

「まぁ、でも、ずっと変わらないと思うぞ、俺は」

「そうね、あんたが人懐こい人にはならなさそうね」

「逆になったら、なったで気持ち悪いがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさん」

「風呂に入る?」

「先に入らないのか?」

「先に入っていいわよ」

「どうも」

「そうだ、寝巻きはこれを着る?」

「はぁ!?なんで、女物を着らなきゃいけないんだよ!ちゃんとあるわ!」

「ええー、絶対、似合うって」

「嫌だね」

「似合うから!」

「そ、そうなのか?」

「ええ!もちろん!さ、着ましょう!」

 

「だが、断る」

 

「ええ……」

「そんなもん着るのはプライドが、許さん」

「つれないわよ」

「そんなこと言っても着らんぞ」

「はいはい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…、ああー……」

 

やっぱ、風呂は気持ちいいな……眠くなってきた……まぁ、俺、早風呂派なんですが……

 

「ふぅ、さっぱりした……」

「お?上がったわね」

「ああ、って何してんだ?」

「ゲーム」

「もう寝ろよ」

「まだ、11時じゃない」

「もう、11時だろ」

「でも、これパワ●ロよ?」

「な、なに!?」

「やりたくないの?」

 

う、や、やりたいな……久々に文明的な娯楽だもんな……だが、寝る子は育つのだ……寝るべきだ、寝るべきなんだ……

 

「でも、やりてぇー!」

「はい、やってなさいな」

「ううー……」

 

くそ、欲望には勝てなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\カキーン! 入った!ホームラン!/

 

「よっしゃ!流石だぜ!」

「あら、そのチーム」

「おお、上がってたか?やっぱり、ソフトバンクは最強だぜ!俺がいない間もきっと……」

「残念、去年は2位よ」

「ガッデム!はぁ?まさか?」

「はいはい、いいから、もう時間よ?」

「そうだな、寝るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベッドは1つしか無いわ」

「だろうな、リビングで寝る」

「でも、あんた、結構寝るときこだわりあるじゃない」

「背に腹はかれられぬ、しょうがないからここで寝る、何か抱くものがあればいいんだが……」

 

そうすれば、熟睡できるのだが……

 

「別に昨日のようにすればいいじゃない」

「what!?」

「えらく流暢に言ったわね……」

「年頃の男女が同じベッドは良くないぞ!健全では無い!」

「むしろ、あんたが健全な男子じゃないでしょ」

「は、はぁ?どこがだよ」

「逆に男の子が、そんなことに興味ない方がおかしいわよ」

「な!……そ、それは置いといてだな、一緒に寝るのは良くないから遠慮する」

「別にあんたが襲わらなければいいじゃない」

「うっ……」

「ね?今日も少し冷えるしね?」

「むぅ……」

「決まりね」

「あ、ちょっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…どうしてこうなった……」

「勇人、抱き枕はいらないの?」

「欲しいが、お前持ってないだろ?」

「持ってないけど、代わりになる物はあるわ」

「おお!そうか、どこだ?」

「ん」

「は?」

「だから、ん」

「お前……?」

「そうよ」

「頭打ったか?」

「あなたこそ打ったんじゃないの?」

「いや、俺は正常だ」

「私もよ」

「そうか、正常な君は君を抱き枕にしろと?」

「そ、そうよ」

 

「じゃあ、い、いくぞ?」

「どうぞ」

 

ギュ……

 

「ん……」

「……」

 

や、柔らかい……やっぱり、女なんだな。そして、暖かい……意外と寝れるかも……

 

「スゥー……」

「なんでこの状態で寝ちゃうのよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

「最近、ため息多いぞ、早苗」

「そうだよ、幸せが逃げちゃうよ?」

「だって……最近はあまり勇人さんと一緒に居れてないですし……」

「そうだな……1週間は白玉楼にいて、1日ここに居たと思ったら、1週間外の世界に里帰りだもんな」

「ば、バカ!神奈子!」

「ん?」

「うっ……そうですよね……私は一緒に居れない運命ですかね……」

「い、いや、大丈夫だぞ?きっと帰ってきたらここに戻って来るからな?」

「そうだよ」

「そういうわけにもいかないわ〜」

「おいおい……急に出てこないでくれよ……縁起悪いよ」

「何よ、私が不吉の象徴みたいな言い方は……」

「実際、あんたろくでもないことをするだろ?」

「そうかしら?まぁ、そこは置いといて、彼、帰ってきたら一人暮らしさせる予定だから」

「え!?」

「な、なんでです!?」

「もう彼も独り立ちしたいお年頃でしょ?」

「そ、そうですけど……」

「それに彼を襲う妖怪がいても簡単に倒されるようなやわな人間じゃないわよね?」

「そうですけど……」

「あと、これから妖夢と競うわけでしょ?対等にならないとね?」

「む、絶対に負けませんよ!」

「どの辺に住むのだ?」

「安心なさい、妖怪の山の麓よ」

「そうかい……」

「負けられませんよ…」

「そうだよ!早苗、あのまな板半人前には負けられないからね!」

「ええ!」

「あとは……特に無いかしら」

「なら早くどっかに行ってくれると嬉しいがな」

「あら、冷たいわ〜、そんなんだから、男運が無いのよ〜」

「はぁ!?」

「じゃあね」

「ま、待ちやがれ!」

「行っちゃった」

「チッ、なんなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンッ、ブンッ、ブンッ……

 

「ふぅ〜、もう少し続けますか…」

「その辺にしておけ」

「ですが、師匠……」

「やりすぎも良く無い、ちょうどよくやるのが肝心じゃ」

「分かりました……」

「しょうがないわ〜、素振りでもしないと勇人のこと考えちゃうんですって〜」

「な!?何を!?幽々子様!?」

「確かにあいつが婿として来るのは嬉しいが……雑念の元になってしまうのはな……」

「何行ってんのよ、妖夢も年頃の女の子よ?恋だってするわ」

「そ、そうじゃな……もう、あの小さい時の妖夢じゃないんじゃな……」

「お主は少々孫を可愛がり過ぎじゃないか?」

「な、何を!?」

「まぁ、その気持ちはわからんでもないが……」

「そうじゃろ?」

「2人揃って親バカ、もといじじバカね」

「幽々子様、その言い方は……」

「そうそう、紫がね、勇人が帰ってきた時、一人暮らしさせるんですって」

「「「!?」」」

「理由は勇人もこの幻想郷のパワーバランスの一角となってもらうため、やっぱり、年頃だからとかの理由なんだけど……まぁ、これで妖夢も早苗と対等に勇人に会えるんじゃない?」

「そ、そうですね!」

「そうか……勇人も大きくなったんじゃな……もう、一人暮らしできる歳なのか」

「それとて、妖夢、日々の鍛錬に支障をきたすようなことは許さんぞ?」

「分かってます!でも、絶対に早苗さんには負けませんよ!」

「頑張ってね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊夢はいるかしら?」

「いるわよ」

「いるぜ」

「相変わらずね、勇人を見習って仕事ぐらいしなさいよ」

「してるわよ」

「その結果がね……」

「まぁ、貧乏巫女だからな」

「それより、紫は何の用かしら?」

「勇人のことなのだけど、彼もこの幻想郷のパワーバランスの一角を背負ってもらうわ」

「まじか!?流石だな!勇人は」

「それだけ?」

「いいえ、ちょっとこのお札を見て欲しかったのよ」

「それ、勇人との連絡用のお札じゃない」

「そうよ」

「何か、問題あるのかぜ?」

「ええ、今日ね急に大きな霊力が流れたのよ」

「へー、どのくらい?」

「そうね、少し私の肌が焼けちゃったわ」

「それは相当な霊力ね、見せてちょうだい」

「何か分かったかしら?」

「んー……この霊力……どっがで感じたことあるわ……」

「それって、午前中に無かったか?」

「そうだったわね、それと同じだわ」

「さすが霊夢、すぐに忘れる」

「そう……どの辺かしら?」

「あそこかしら?」

「あそこじゃあ分からないわよ」

「メンドくさいわ……」

「いいから教えなさい」

「はいはい……ちょっと来なさい」

 

 

「ここよ」

「そう、確かに同じ霊力を感じるわね……何故かしら?」

「分からないわよ」

「そう……後で調べますか」

「用が済んだら戻りなさいよ」

「そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……あの場所は外の世界と何か関係ありそうなね……」



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第37話 それぞれの日の青年&少女(後編《現代》)

起床からスタートが多い気がするが……しょうがないね!





「……ん、ふぁ……」

 

うーん……今何時だろう……そうだ、今日は休日だから早起きしなくてよかったっけ?サークルの活動もそんなに早くないから、うん、まだ寝よう……それにしても、朝なのにすっごい暖かい……

 

「スゥー……」

「……」

 

そうだったわ……それにしても、すっかり熟睡ね。本当に男かしら?まぁ、でもこうしていられるならいいか……

 

「二度寝しちゃおう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ……朝か……」

 

もう少し寝たいな……あー……なんだろう、暖かいな……余計に眠気を……

 

「……!?」

 

うわっ!そうだった……はぁ、蓮子は俺のこと女と認識してんじゃないのか?流石にそれはダメージが……

 

「あー……」

 

目が覚めちまった。二度寝する気がおきん。そうだ、俺が朝飯作ろうっと。

 

「っと、その前に」

 

着替えよう。もう、向こうから女装の勧めをされるのは勘弁だ。何が楽しくて女装なんか……ぜーったい、しないからな!

 

「流石に学ランは無いよな……」

 

昨日と同じく、ジーパンとパーカーでいいか……上は灰色、下は黒だ。目立たないのがいいのだ。え?オシャレ?知らない子ですね。

 

 

 

「おう……」

 

寝癖が……直そう……

 

「む……」

 

こやつ、中々曲者だ。元気にはねよって……

 

「はっ……」

 

ビンッ

 

「……」

 

ビンッ

 

「ぬぁ!」

 

元気過ぎるぜ!あーもう、いいや。さ、朝飯作ろうっと。

 

「冷蔵庫の中は……これでいいか」

 

目玉焼きとウィンナーでいいや。え?簡単だろって?朝飯はそんなに凝らなくてもいいんだよ。

 

「……」

 

ジュー……

 

「ふぁ……勇人、おはよう……」

「おはよう、朝飯作ってるぞ」

「え?あんたが自発的に行動するなんて……」

「たまたま、早起きしただけだ」

「熱あんじゃない?」

「健康そのものだ、ほら、顔洗ってこい」

「分かった……」

 

あいつは俺をなんだと思ってる?そんなに自発的に行動するのがおかしいか?確かに積極的なタイプでは無いが……

 

 

「ほら、食べるぞ」

「はいはい、いただきまーす」

「いただきます」

 

モグモグ……

 

「今日は何するんだ?」

「そうね……あんたはあと何日ここに居られるの」

「そうだな……今日も含めたら……4日後には帰るからな……」

「そう……なら、3日はサークルに協力してもらえるわね」

「別にフルでも構わないが?」

「少し別のことしてもらうわ」

「そうか」

 

「で、他にどんな活動すんだ?」

「うーん……まぁ、流れでね?」

「計画性無しか……」

 

 

 

 

ーサークル活動1日目ー

 

「で、今日は?」

「見ての通りよ」

「廃ビルね」

「そりゃあ、見れば分かるよ……」

 

これまた、オンボロな……

 

「ここでは、幽霊が多発してるとかしないとか」

「信憑性薄すぎだな」

「でも、他にあては無いしね」

「面倒臭いな……」

「もしかして、幽霊が怖いとか?」

「なんで、今更幽霊に驚かならんのだ?」

 

もう、そんなもん経験済みだっつの。

 

「それじゃあ……レッツゴー!」

「はぁ……よく慣れてますね」

「そりゃあ、あなたが居ない間のパートナーですもの」

「はぁ……」

 

 

「うわぁ……」

 

ひでぇな……本当にボロボロじゃねぇか、どこも今にも崩れそうだぜ。

 

「てか、ここに入っていいのか?」

「勇人、こんな言葉があるのよ」

「なんだ、急に」

「バレなきゃ犯罪じゃないのよ?」

 

反射的に手が額に行く。無許可ならそう言え。

 

「ということで、メリー何か見える?」

「特に……」

 

「なーんにも無いな、霊力も感じない……」

 

ガツッ!

 

「ブベラ!?」

 

なんでここは少し低いんだ?デコぶつけたじゃねぇか……

 

「どうした?」

「いやべt カッ…… ぬぁ!」

 

バタッ!

 

「プ……アハハハハハ!!こけた!アハハハハハ……」

「ぐっ、こ、こんな屈辱……」

 

ち、畜生、なんでつまづいたんだよ!?

 

「はぁー、帰ろうぜ?」

「もう少し探検しましょう」

「分かった……」

 

 

「あ、メリーさん、そこで何を?」

「これ見てよ」

「うわぁ……」

 

見事に天井に穴が……これまた大きいな……

 

「ちょっと、登ってみますね」

「気をつけなさいよ」

「心配なk……ん?」

 

ゴンッ!

 

「ゲブ!?」

 

なんで、石が……

 

「あっ……」

 

ズドーン!

 

「トト!?」

「だ、大丈夫かしら?」

「大丈夫ですよ……そんなにやわじゃ無いです……」

 

いた〜、なんでピンポイントでくるかなー。

 

「はぁ……なんかおかしいな……」

 

チュー……

 

「ネズミか……それ以外に生物はいなさそうだな」

「不潔ね」

「まぁ、これだけ荒廃していればね……」

「チュー!」

 

すっ

 

「クヌム!?せ、背中に!?」

 

な、なんで?

 

「うわ、ちょ…くすぐってー!メリーさん取って!」

「ちょっと動かないで!」

「そう言われても、くすぐったくて!」

 

カッ

 

「あ」

「え?ちょっと、って、キャッ!」

 

バタンッ!

 

とりま、メリーさんを下敷きにするのは防げた……

 

「すんません……」

「大丈夫よ……それより、どいt「あー!」あー」

「な、何してるのよ!」

「これはだな……」

「バカ!」

「アヌビス!?」

「ちょっと、落ち着きなさいな、ただの事故よ」

「そ、そうなの?ごめん」

「俺には?」

「次行くわよ」

「もう勘弁してくれ……」

 

以下ダイジェスト

 

「床に穴があるわね、ちょっと見てきて」

「了解」

 

暗くて見えんな……

 

バサッ!

 

「ぬぉ!?コウモリ……か……?」

 

あ……

 

バタッ!

 

「バステト!?」

 

 

 

「ふぅ……くそっ」

 

あそこにドアが。

 

「はぁ」

 

バンッ!

 

「セト!?」

 

「勇人、大丈夫!?って、何してんのよ」

「もう帰ろうぜ……」

 

 

 

 

「今日はこれで終了よ」

「ああ……」

「なんであんただけボロボロなのよ……」

「もう嫌だ、お家帰る……」

「なんか呪われてるようだったわね、別に変わったのは無かったけど……」

「単にこいつの運が無いだけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーサークル活動2日目ー

 

「今日は大学でか?」

「特にすることが無いからね」

「まあ、勇人君も少しここのことが知りたいでしょ?」

「そうですね」

「それにしても、昨日からよく立て直したわね」

「はは……」

「ふふ……」

 

 

 

「ふーん……」

 

色々な部活があるのな。

 

「勇人、こっち来てみて!」

「ん?なんだ?」

 

「こんにちは、ファション部です!」

 

はー……珍しい部活だな。

 

「へー……でも、なんでここに?」

「部長と知り合いなのよ」

「で?」

「でね、ちょっと、モデル頼まれたのよ」

「ほほう、蓮子とメリーさんか、確かにスタイルはいいよな」

「私たちはしないわよ」

「あ!あなたが蓮子とお知り合いで今回モデルをやってくれる……」

「ん?ちょっと、蓮子、どいうことだ?俺がモデルだなんて」

 

そうだ!俺じゃあ身長が足りない……シクシク……くそったれ!

 

「お、俺じゃあ向いてないんじゃぁ、他に適任がいるだろ?俺よりも背が高いやつとか……」

「そういうわけにもいかないんですよ」

「なぜに?」

「そうね、"女装"だからね」

「……!?」

 

ダッ!

 

「おっと行かせないわよ?」

「ググ……男の女装なんか見たく無いだろ、ね?メリーさん?」

「あなたの女装は興味あるわ」

「うぇ?」

「大丈夫ですよ、サイズは大丈夫です!」

 

グハッ!俺が小さいと言うのか……

 

「ね?モデル、やってちょうだい?」

「ことw「それじゃあ、こちらに」やめろ!」

 

 

ー青年着替え中ー

 

 

「さ、出てきてください!」

「い、嫌だ!」

 

「ほら!」

「ぐぅ」

 

屈辱だ……スカートを履かせられるなんて……カツラにパッドって……

 

「「……」」

 

「うぅ……」

「やっぱりね……」

「そうね」

 

ぶわっ

 

 

シクシクシクシク……

 

「本当に似合うわね」

「そうでしょ?」

「多分、女の子といってもバレないんじゃないかしら?」

「そうね」

 

「俺は男、俺は男、俺は男、俺は男……」

「勇人」

「何?」

「今日はずっとその格好ね」

「はぁ?やめてくれ……」

 

散々な日だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーサークル活動3日目ー

 

「あー……」

 

心身共に疲労困憊だ……なんなのだろうか、サークルって……もう、わけが分からん。

 

「んー、その様子だと今日はダメそうね」

「誰のせいだよ」

「今日は休みなさい、その代わり明日してもらいたいことがあるの」

「何だ?」

「それは……後で……」

「はぁ……もうプライドは傷つけないでくれよ」

「大丈夫よ」

「安心できねぇ」

 

初めてだよ、こんなに屈辱的な気分にさせられたのは、敗北感(?)まで感じるよ……

 

「とりあえず、今日は休んでてね?」

「そうする……」

「それじゃあ」

「いってらっしゃい」

「いってきます」

 

がちゃん

 

「はぁ……寝るか……」

 

もう身も心もボロボロだ……全く厄いな……



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第38話 それぞれの日の青年&少女(後編《幻想郷》)

「みなさん、集まりましたね?それでは、勇人さんが帰ってきた時に何をするかの話し合いを……」

「ちょっと待て」

「何ですか?」

「何ですか?じゃねえよ!何で私達もなんだよ!?守谷神社か白玉楼でやればいいだろう?」

 

なぜなんだぜ?早苗と妖夢とでやればいいのぜ。なんで、私と霊夢と咲夜まで呼んでんだ……よりによって博麗神社でとか……

 

「そうよ、面倒臭いわ」

「私、そんなに暇じゃないんだけど……」

 

「なら、この菓子はいらないですね?」

「さ!早速話しましょう!」

「霊夢……」

 

これはひどい……

 

「咲夜さんも大丈夫です!ちゃんとレミリアさんにはいってますから!」

「あら、ならいいわ」

 

なんで、今回の早苗は手際がいいんだ?妖夢はずっと黙ったままだな……

 

「それでは改めまして……勇人さんが帰ってきた時に何をしましょうか?」

「宴会でいいんじゃない?」

「それではいつもと変わらない気が……」

 

やっと、妖夢が喋った。もう、何も言わないかと思ったぜ。

 

「勇人さんはとても大きなけじめをつけるのですよ?生半可なものでは余計に傷つけるだけです」

「そんなに勇人はやわじゃないでしょ?」

 

咲夜の言う通りだな、あいつはなんやかんやでどうにかなる気がするぜ。

 

「いや、今回は家族や友人などの大切な人との完全なお別れでもありますから」

「あと、勇人の好きな人であろう人もね」

「うわっ!?なんで、紫がいる!?」

「ちょっと、勇人のことを少し監視したらね、面白いのが見れちゃったのよ」

「え!?」

「な、なんですか!?ま、まさか、例の女性と……」

 

早苗と妖夢の食いつき方が半端じゃねぇぜ……

 

「まぁ、いい感じではあるわね」

「そうですか……」

 

興奮したり、落ち込んだりと忙しいやつらだぜ。

 

「とりあえず、この写真見てよ」

 

ん?何だ、ただの女の子じゃねぇか。なんか、顔真っ赤にしていかにも不機嫌な顔してるな……まぁ、可愛い方かな?

 

「ふーん、それにしても、勇人に似てるわね、妹とか姉とか?」

「確かに似てるような……」

「誰なんです?」

「ふふ……」

 

「これ、勇人本人よ?」

「「「え、えぇーー!?」」」

「ふーん」

「あら、今度メイド服でも着てもらおうかしら」

 

な、あいつか?まぁ、確かに中性的な感じではあったが……はぁ……似合うもんだな……

てか、咲夜地味に問題発言。

 

「やはり、勇人さんは女物が似合う……やっぱり、巫女服着てもらおう……」

「わ、私はいつものかっこいい勇人さんの方がいいです!」

「はいはい……分かったから……」

 

「で、紫はそれだけ?」

「そうよ、これのコピー欲しいなら今のうちにね?」

「私いります!」

「私も」

「うっ……私も……」

 

早苗は迷わず……妖夢、お前さっきかっこいい方がいいとか言ってなかったか?って

 

「咲夜!?」

「お嬢様に見せるだけよ、面白いじゃない」

「お前、なかなかひどいな……」

 

まぁ、勇人、頑張ってくれ……

 

「それじゃあね〜」

 

 

 

 

 

「本当にあれだけなのか……」

「いつも何考えてんのやら……」

「で、結局勇人のことはどうするのかしら?」

 

さすがだ、咲夜。話を元に戻すとは……

 

「てか、私、そんなに勇人のこと知らないけど……」

「そうだよな、全部宴会でしかあってないんじゃないか?」

「そうよね」

「なら、みなさんで勇人さんのことを話しましょう!」

 

また、突拍子なことを……やはり、早苗は天然だぜ……てか、なんかガールズトークみたいなノリだな……

 

「順番はどうしますか?」

「適当で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー東風谷早苗の場合ー

 

「やはり、勇人さんといえばあのクールさでしょう!」

「確かに騒がしいタイプでは無さそうね」

「何事にも冷静沈着でどんなことにも動じないところはかっこいいですね!」

 

何事にも冷静沈着?……宴会のあの時は思いっきし焦ってたぜ?

 

「あと、勉学においても寺子屋で教師をしていて、博学ですし」

「まぁ、時々うちの図書館にも来るわね」

「ああ、結構いるよな、あいつ」

 

あいつの本を読むスピードは異常だぜ。本当に読んでんのか?と思うが、全てしっかり頭に入っているという……

 

「でも、頭良くてもここではあんまり意味がない気がするけどね……」

「うっ……」

 

まぁ、弱い奴は死あるのみだからな。

 

「でも、勇人さんの霊力の量はご存知でしょう?」

「まぁ、人よりはかなりあるわね」

「さらに、使い方もあっという間に慣れてしまってますし」

「まぁ、私はほぼ勘でやってるけどね」

「まぁ、霊夢さんはセンスと勘でどうにかしてるからな」

「勇人さんもセンスはありますが、勘では無く、計算づくめで戦っている感じですね」

「その辺は真逆だな」

 

「総括して言うと、勇人さんはかっこいいです!」

 

それが言いたいだけなんだな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー十六夜咲夜の場合ー

 

「私が言うの?」

「ええ」

「確かに接点が無いわけじゃ無いけど……」

「え?」

「いや、言ったでしょう?彼、よく図書館に来るって」

「ああ」

 

そりゃあ、いくらかはあるだろうな

 

「私から見た感じは特に無いかしら?なんて言うのかしらね、普通の人間に見えるわ。なんの能力も持たない。実際はかなり恐ろしい能力を持っているんだけど」

「そうだよな、いつもはぼーっとしてるか、考え込んでるのかのどちらかだぜ」

「だから、最初、お嬢様が興味を持ったとか言い始めた時は驚いたわね」

「あのことですか……」

 

ん?なんだ?

 

「少しね、お嬢様が勇人にちょっかいを出したのよ」

「ふーん……」

「まぁ、最初はただの気まぐれだと思ってたわ。すぐに殺されると思ってたわね」

「む……」

「ま、物の見事にお嬢様は勇人にやられちゃったけど」

「そうですね……肩から血を流しながら戻ってきた時の勇人さんを見た時驚きましたよ……」

「私が敵討ちと思ったら、時を止めても銃弾は動いたし、何よりあいつの目が恐ろしかったわね」

「物凄い威圧感なのかしら?」

「違うわね、無ね。何も無い、どんな意思を持ってるのかも分からない、ただ霊力がバカみたいに高くなってたけど」

 

「まぁ、あの後、お嬢様に血を渡してきた時はこれまた驚かされたわね」

「よく分からない子なのね」

「そうね、まぁ、彼の女装にはかなり興味があるわ」

「それはやめとけ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー魂魄妖夢の場合ー

 

「わ、私から見た勇人さんはですね……やはり、何を考えているのかは分かりませんが、でもしっかりとした信念はお持ちの方ですね」

「そうか?無さそうだが」

「いや、ありますよ。勇人さんは男としての誇りを持ってますし、意外と負けず嫌いですよ?」

「ヘェ〜……あいつが負けず嫌いねぇ」

「まぁ、基本的には平和主義と言ってますが……」

「弾幕ごっこもしたがらないのか?」

「面倒臭いとか言ってましたね」

「どっちなんだぜ」

「あと、身長を気にしてますね」

「大きくないが小さくも無いんじゃないか?」

「里の人の男性は外の世界より全体的に大きいようですからより一層気にしてるのでは?」

「本当に良くわかんないやつだな」

「あ、でも、一番強い武器での話は合いませんね」

「まぁ、銃と剣だからな」

「それでも、勇人さんの確かな信念と時折見せる優しさは素晴らしいところだと思います!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー霧雨魔理沙の場合ー

 

「私か?」

「そうです」

「んー……」

 

なんだろう……何かあるか?

 

「あ、あいつとは弾幕談議で合わないことが分かったな。弾幕はパワーってんのに、確実性だとか言いやがって……男ならパワーだぜ!」

「勇人さんはそういうタイプではないと思うんですが……」

「でも、パワーが一番だろ?ま、そこは置いといてだな……」

 

んー……他にねぇ……

 

「あ、これ疑問になるんだけど、勇人って結局人間なのか?」

 

神の孫とか言われてるけど……

 

「一応、人間ですけど……寿命は人よりは長くなる可能性はあるそうです」

「ふーん……そういえばあの短期間であんだけ霊力が上がったのも疑問だな」

 

人間ではありえない早さで上がってるよな……

 

「なんか、人間じゃなくなって暴走しそうだよな!」

「「「「……」」」」

 

あれ?冗談のつもりなのだが……

 

「確かに可能性はあるわね」

「今度、おじいさんに聞きましょう」

「な、無いですって!」

「そうなったら、私が討伐するだけよ」

「だから、なりませんって!」

 

ありゃ、爆弾投下しちまったか。

 

「ま、大丈夫だろ、起こったら起こってたでどうにかなるぜ」

「変わらないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、最終的には勇人はよく分からない子ということね」

「適当だぜ……」

「まぁ、霊夢と共通点は多いけど真逆なところも多い感じね」

「確かに、能力もどちらも理から外れるものですし、どんなものからも影響を受けなくなりますしね」

 

あ、確かに似てるな……

 

「まぁ、霊夢はただ本体が干渉されなくなるけど、勇人は物や行動が干渉されなくなるという具合に違うけどね」

 

似てるようで似てないか……

 

「戦闘スタイルは勘と計算……でも、どちらも有り余るセンスの持ち主」

 

「まぁ、私にお賽銭くれるならいいけど」

「あいつはしっかり働いてんのにな……」

「私も働いてるわよ」

「あっそう」

 

よく言うぜ、常にゴロゴロしてるくせに。

 

「で、勇人が帰ってきた時はどうするのかしら?」

 

「「「「あ」」」」



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第39話 デートの日の青年

男性は17歳、女性は16歳でデートの経験が50%超えるらしい……
ハハハ……畜生……








「ただいまーっと」

 

スヤー……

 

「あら、寝てるのね」

 

まぁ、色々させてもらったしね、さすがに疲れたかしら?

 

「スー……スー……スー……」

 

寝る時は本当に幸せそうな顔するわね……明日の事はまた、後で話すことにしよう。

 

「んー……女装は勘弁してくれ……」

「プッ……夢でも女装させられてるのね」

 

本当に似合ってたわ、写真もちゃっかり撮ってある。

 

 

今日も含め5日間はとても楽しい時間だった……やっぱり、勇人と出会えて良かったと本当に思う。メリーとも会えて良かったわ。でも、今の自分は勇人の存在がとても大きかったわ。初めて、この目を褒めてくれた、知ってからも接し方は変わらなかった。それが本当に嬉しかった。

でも、明後日には勇人はいなくなる。死ぬわけでは無いけどもう会えなくなる……だから、明日は絶対に忘れない思い出を作るのよ!そして、想いを伝える。叶わないけど、言わないよりマシよ。

 

「覚悟しなさいよ、勇人。明日は絶対忘れない思い出、作ってもらうからね!」

 

とりあえず、明日に備えて風呂に入ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んー……よく寝た……」

 

疲れが吹っ飛んだぜ。身体が最近丈夫になってきた気がするぜ。今ならどんな怪我も寝れば治りそうだ!

 

「とりあえず、顔を洗おう……」

 

どうも、寝起きは頭が回らない。それにコンタクト外してるからよく見えない……ん?お前、目が悪かったのか?って?そうだよ、ずっとコンタクトつけてましたよ?幻想郷では紫さんから持ってきて貰っていた。寝る時は外さないとな?

 

「ふぁ……」

 

とりあえず、洗面所に……

ガラッ

 

「ん?」

「え?」

 

……は?なんで、蓮子が……

 

「な、何してんのよー!」

 

お、おい!何を投げた?

 

スコーン!

 

「ぬおお!イッタイメガー!」

 

なんと言うコントロール……

 

「この馬鹿!変態!」

「こ、これは事故だ!」

 

そ、そうか……洗面所と脱衣所は同じところにあったか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「まだこうしないといけないのか?」

 

ずーっと正座させられてるのだが……痺れてきた……

 

「黙りなさい、変態」

「あい……」

 

だから、事故だと……

 

「ゆ、勇人は私の身体を見たわよね?」

「それは事故なn「黙りなさい」アッハイ……」

 

言い訳ぐらい聞いてくれよ……

 

「そ、それでどうだった?」

「は?」

 

この御仁は何を?

 

「だから!私の身体を見てどうだったと聞いてるのよ!」

「それは……コンタクトつけてなかったから見えてない……」

「はぁ!?」

「ほら、良かっただろ?これでお前は何も失ってない、これで解決だよな?」

「そ、そんなわけないでしょ?罰として、あ、明日……」

 

こればっかりは俺に非があるので拒否できない……

 

「で、明日が?」

「あ、明日、私とデートしなさい!」

「はぁ……」

「なによ、反応薄いわね」

「構わないが、俺、デートしたことないぞ?」

「私もそうよ」

「別に楽しくないかもしれんぞ?」

「わ、私は勇人と一緒にいれればそれでいい……」

「ん?」

「な、なんでもない!兎に角、明日は絶対にデートに連れてくこと!分かった?」

「了解」

「あ、あと、ちゃんとオシャレしてよね」

「オシャレって言われても……」

「そうね……あんたってそのところ全然だったわね、デートの時に私がコーディネートしてあげるわ」

「女装は勘弁な?」

「しないわよ」

「ならばよし」

 

 

明日か……そういえば、明後日には幻想郷に帰るんだよな……未練残さないようにしないとな……明日、しっかり言うべきかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

ー次の日までキングクリムゾンー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何処に行くんだ?」

 

今日は珍しく早起きした。いやー、行事があると早起きしちゃうタイプなもんで……

 

「そうね、とりあえず、あんたの服を選びに行きましょう」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ショッピングモールの場所は変わってないな」

「中は結構変わってると思うわよ?」

「数年もすれば変わるだろうな」

「とりあえず、メンズの服を売ってる店に……」

 

 

 

 

 

「こんな店前は無かったよな?」

「前からあったわよ」

「ありゃ?」

 

うーん……こんな店とか行かないからな……

 

「勇人は派手な色は似合わないわね……好きな色は?」

「青もしくは黒」

「そうよね……部活の格好なんか青一色だったしね……」

 

青色好きなんだもん。

 

「んー、地味に手脚長いわね……うわっ、身体細っ」

「む……」

 

そんなに痩せてないだろ?

 

「この黒のジャケット似合いそうね……ズボンはデニムで……下にはこのカッターシャツを活用しますかね……」

「え?なんで俺のシャツ持ってきてんだよ?」

「いいの、とりあえずこれ着てきて」

「了解……」

 

 

 

 

 

 

 

「どジャアア~~~ン」

「なんなのよ、その決め台詞」

「似合うか?」

「いいわね、買いましょう!」

「そうだな、金は俺が出す」

「別に私が出してもいいけど」

「自分の物になるのだから、自分で買うさ」

「そう」

 

 

 

 

「ありがとうございました」

「よし、次は何するか?」

「お昼には早過ぎるわね、そうだプリクラでも撮りましょう!」

「それって、ゲームセンターに行くのか?」

「そうよって、あんた騒がしいのが嫌いだったわね」

「いや、今日はお前の言うこと聞くよ、さっ、行こうぜ?」

「ええ!」

 

 

 

 

「大丈夫?」

「あ?ああ……大丈夫だ、問題無い」

「そう、さっさとプリクラ撮っちゃいましょうよ!」

 

 

「これか?」

「そうよ?もしかして、初めてとか?」

「そうだ」

「操作は私が知ってるから任せなさい!」

 

「おおう……こんな感じか……」

「よし!撮るわよ!笑顔よ?」

「了解」

 

\ハイ、チーズ!カシャッ!/

 

「ハハハハ!顔引きつってるわよ!」

「写真撮られるの苦手なんだよ……」

「ほら、もう一回!」

「え?」

 

顔が近い……

 

\ハイ、チーズ!カシャッ!/

 

「さ、これに色々描けるわよ?」

「はぁー……すげぇな……」

 

「あとは待つのみ!」

「お?出たぞ」

「よし……はい」

「おう……なんだこれ……目でっか!」

 

な、なんじゃこりゃあ!

 

「プッ……ハハハ!」

「わ、笑うな!」

「ヒヒヒ……次……行きましょう?」

「息絶え絶じゃねぇか……」

 

こんにゃろう……

 

「勇人は何処行きたい?」

「んー……本屋かな?」

「そうね、そういえば、あんたの好きな作家の本いくつか出てるわよ?」

「マジか!?なら、早く行こうぜ!」

 

ガシッ

 

「……!?え、ええ」

 

 

 

「おお……もうこのシリーズ完結したのか……新しいシリーズも!」

「相変わらずね」

「いや〜、だってこの人の本好きだもん……」

 

周りの人はラノベばっかだもんなぁ……ラノベも嫌いじゃ無いけど……

 

「全部推理小説ね……」

「面白いからいいんだ!」

「今日一番楽しそうね」

 

 

 

 

 

「いい買い物だった……」

「時間もちょうどいいわね、お昼はカフェがあるからそこでとりましょ?」

「了解」

 

 

 

 

 

「ご注文は?」

「私はサンドイッチにしようかしら?」

「俺はナポリタンで……」

「かしこまりました」

「あんた、麺類好きね……」

「いいだろ?別に」

「まぁ、いいけど」

 

「ここのコーヒーってあのカフェより美味しいかな?」

「さぁ……てか、今日はサークル休みなのか?」

「ええ」

「まさか、無理矢理休みにしたとか?」

「ちゃんとした休みよ」

「そうか、ならいいよ」

「……勇人はサークルの活動楽しかったかしら?」

「もちろん、楽しかったさ。まぁ、色々大変だったし、関係ないこともやらされたがな」

「そう……楽しかったのなら良かったわ……」

 

「お待たせしました」

「おお……美味しそうだな」

「ええ」

 

「一口頂戴?」

「ああ、ほら」

「ん、美味しいわね。ほら、私のも」

「ふむ……悪くないな」

「あんたは気にしないの?」

「ん?」

「間接キス……」

「少しは気にするが……べ、別に嫌ってわけじゃないし……」

「そう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、美味しかったな、コーヒーはやっぱりあっちの方が美味しいが」

「そうね」

「次は何処に行く?」

「ん?あのアンティークショップはどうだ?」

「いいわね」

 

 

 

 

 

 

 

「お客さん少ないね」

「いや、少ない方が良いものがある気がする」

「おお、いらっしゃい」

 

あ、店の人かな?おじさんだな。

 

「とりあえず、見て回ろうぜ」

「そうね」

「本当に色々あるわね……」

「そりゃあ、アンティークって、古くて価値があるものを指すわけだからジャンルは問わない」

「この置物可愛い」

「……!、これってナイフ……」

「ありゃ!?仕舞い忘れていた!」

「おお……このナイフ……いいな……」

 

持ってもしっくりくるな。あれ?でも、銃刀法で……

 

「青年よ、それをあげるから黙ってもらえるかな?」

「もとから言う気はありませんよ、それにしてもいいナイフですね」

「そうじゃろう!お主は見る目があるのよう」

「いやいや……ん?」

 

なんだ?このネックレス……つい目がこっちに……

 

「これなんだ?」

「それか?それはだな……ああ、デュランダルという剣を模したネックレスだな」

ああ、確か『ローランの詩』に出た剣だっけな?確か『不滅の刃』という意味だっけ?『不滅』か……

 

「これ、いくらだ?」

「それは3万と言いたいところだが、お主はまけて1万円にしておくよ」

「おお!ありがとう!」

「なぁに、お主は見る目があるからいいんだ」

 

「おじさん、ちょっと来てくれないかしら?」

「私か?」

「俺は?」

「勇人は来ないで」

「分かった……」

 

 

2人でコソコソと何してんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさん、これっていくらかしら?」

「これは……エメラルドのネックレスじゃな。なかなか高いぞ?」

「いいから、いくら?」

「5万くらいかな……」

「うっ……でも……」

「ん?ははーん……いくらもってるんだ?」

「えっと……2万円……」

「5000、5000円でいい、彼に送るんじゃろ?」

「え?いいの?」

「恋する乙女に支援するのは当然のことだ、彼にバレないようにだろ?」

「さ、さすが……」

 

 

 

 

 

 

「一万円ね、まいどあり」

「ありがとう、おじさん」

「いいってことよ」

 

 

 

 

「何を買ったの?」

「これか?お前のプレゼントにと……」

「え!本当!?」

「あ、ああ、ほら」

「これは?」

「デュランダルという剣だな」

「女の子に剣って……」

「いいだろ?それにそれは『不滅の刃』って意味で、まぁ、俺はいなくなるけどお前との思い出は不滅と言うことで……」

「そう……嬉しいわ」

「なら、良かった。俺が付けてやるよ」

「え?」

 

顔が近い……

 

「これでいいな」

「う、うん……」

「帰るか」

「そうね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったわ」

「なら良かったぜ、俺もだよ」

「そう……明日には帰っちゃうのよね?」

「……そうだな、ずっとはいられない」

 

もう居なくなってしまうのよね……言ってしまおう!

 

「勇人!」

「ん?」

「わ、私……」

 

ブーン!

 

「な!?車!」

「え?」

「危ない!」

「キャッ!」

 

ガッシャーン!

 

「ゆ、勇人!?」

 

え?なんで?は?

 

「ほら、こっちに来い!」

「お、お前は!?」

 

須藤!?なんで?それよりも勇人は!?

 

「どいて!勇人が!」

「黙って車に乗れ!」

「離して!」

「この!」

「んん!」

 

口を塞がれた!?腕も拘束された!人は複数いたの?

 

「よし……乗ったな……行け!」

「んん!んー!」

 

勇人……

 

「ハハハハハ……あの野郎が無事だとしてもついて来れないな、安心しろよ、蓮子」

 



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第40話 狂瀾怒濤の日の青年





 

「んん!んー!」

「ヒヒヒ……足掻いても無駄だ、あいつ、まともに車に当たったからタダじゃすまないだろう、それに俺らがどこに行ってるのかも分からまい」

 

くっ、 こいつ……!でも、本当にそうだから、余計に腹が立つ。勇人は携帯を持たない、連絡手段が無い。それに大怪我してるに決まってる……

本当にこの男、最低!

 

「そんな目で見るなよ、安心しろ、俺が養ってあげるからよ〜」

 

それなら、死んだ方がマシよ!でも、何もできない。

 

どうしたらいいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮子は上手くやってるかしら?」

 

今日は、勇人とデートに行くんだとか張り切っちゃって……まぁ、たのしんでるでしょうね。

やっと、蓮子は積極的なタイプだけど、変なところで引っ込まんだから……

最初は、死んだ人を生きてると言ってた時は変な人と思ってたけど、今までの不思議な体験によって本当にそうなんじゃないのか?とおもいはじめたわ。実際、生きてたけど。

蓮子の好きな人にしては随分と地味でそういうことには無縁な人に見えたけど、違う世界にいるとか霊力を扱えるとか、普通な人から見たら、頭がぶっ飛んでる人に見えるだろうけど、不思議と本当の事だと思えた。いや、本当なのよ。ますます、面白いわよね。なんとなく、蓮子が惹かれてる理由もわかる気がするわ。

 

 

 

「あら?何かしら?」

 

少し考え過ぎてたかしら?目の前に人が大勢集まってるわ。事故かしら?

 

「すいません、何があったのですか?」

「ん?事故みたいだ、どうやらひき逃げらしい」

 

ここでね……確かに人通りは少ないからね……今は別だけど。あ、見えるわ、誰か……し……ら?

 

「え!?」

「どうした?お嬢さん?」

「勇人!?」

「お知り合いか!?おい!知り合いがいるぞ!」

「何!そうか、君こっちに来てくれ!」

 

「ちょっと!勇人!?大丈夫なの?」

 

頭から血が出てる……

 

「ん……は!」

「目が覚めたぞー!」

「れ、蓮子は?あいつは!?」

「とにかく、落ち着いて!」

「とりあえず、病院に行くぞ!」

「そんな場合じゃない!」

「ちょっと、勇人!どこに行くの?」

「蓮子を探しにだ!」

「兄さん!怪我してるから安静にしなきゃ!」

「こんぐらい、何でもない!」

「わ、私が連れて行きますから!もう大丈夫です!」

「そ、そうか、頼むよ嬢ちゃん……」

 

 

 

「ほら!こっちに来なさい!」

「病院には行かんぞ!早く蓮子を……」

「蓮子がどうしたの?」

「あいつだよ……あの大学生のやつ」

「須藤ね……そいつが?」

「車で俺らに突っ込んで来て……俺が轢かれて、その後……蓮子の叫び声が」

「あの野郎ね……」

 

バチッ!バチバチバチバチバチバチバチ!

 

「はぁ……はぁ……あのクソッタレが……」

 

キレてるわね……霊力が漏れてるわよ……

 

「少し待ってくれ……蓮子の居場所を特定する……」

「例の結界?」

「いや、結界だと限界がある……蓮子にネックレスを渡したんだが、その時にそいつを媒介に霊力による守護霊を宿らせた……あの本読んでて良かったぜ……」

「で、どうやって?」

「そいつが発する霊力を、探知する」

「できるの?」

「この範囲は初めてだが、できるかじゃない、するだよ!」

「……分かったわ」

 

ここは勇人を、信じるしかないわ。こんな時、私は無力だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、降りろ」

「……」

「ヒヒヒ……あいつはこの場所は知らない、もうゲームオーバーだ」

「……」

「だが、念のためというものがある。ゴロツキをたくさん雇ってある、警備させるか……」

 

「俺らは奥の部屋に行くぞ、ほら」

「……」

「そんな目で見るんじゃねぇよ、あんな男より俺の方がいいことを教えてやるからよ……」

 

ここは……?移動時間的にそんなに遠くないはず。

 

「ここはだな、俺の家だよ、知らなかっただろう?いつも、人を呼んでる家は別の家だ」

「そして、ここはセーフティルームだ、この頑丈なドアの向こう側に行くんだ」

 

くっ……計画してたわね……準備が良すぎるわ……

 

「あいつには借りがあるからな、この顔だってあいつのせいだ、だから、お前をもって返してもらうぜ、さぁ、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……、はぁ……、どこだ?」

「冷静になって、焦りは禁物よ?」

 

本当に大丈夫なのかしら?汗がすごいわ……血と汗が混じってポタポタ落ちていく……

 

「クソ!」

「落ち着きなさい!蓮子を助けたいなら、冷静にならなきゃ!」

「……!そ、そうだな」

「深呼吸して、もう一度」

「スー……ハー……スー……ハー……」

 

再び勇人は目を閉じる……霊力も漏れてない。

 

「……!いた!」

「本当!?」

「ああ……そこまで遠くに行ってないな……ただ、守護霊と言ってもしっかりとできなかったから一回限りしか守れねぇ……」

「どうやって行くのかしら?」

「ん?そうだな……"飛ぶ"か」

「え?飛ぶ?」

「そっちの方が速い」

「わ、私も行くわよ!」

「え?危ないぞ?」

「私は蓮子の親友よ?黙って見てろと言うの?」

「……分かった、なら背中に乗ってくれ」

「分かったわ」

 

「酔うなよ?」

「乗り物酔いには強い方よ?」

「よし、待ってろよ、蓮子……」

 

そう言うと、走り出して、

 

「ほら!」

 

タンッ……

 

「よし……飛ばすぞ!」

「え、ええ」

 

本当に飛んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッピッ……

 

「扉のロック完了……扉の内側にもゴロツキを配置してと……さらに奥の部屋に行くぞ」

 

 

 

「ほら」

 

ボスッ

 

「口のテープ剥がしてやるよ」

 

ベリッ……

 

「……」

「そう不貞腐れるなよ」

「お前なんか勇人にまた、吹っ飛ばされるわ」

「はいはい、それより、あいつとキスしたのか?」

「……」

「してないんだな?ファーストキスは俺がもらってやるよ」

「いやよ!あんたみたいなやつとしたくないわ!」

 

ガシッ!

 

「……!このネックレスはあいつからもらったやつだな?趣味悪いやつだな。俺が新しいのをやろう」

「触らないで!」

「こんなボロボロなネックレス、外した方がいいぜ、ほら?外してやるよ」

「触るなって言ってんじゃない!」

 

ドンッ!

 

「ガハッ!」

「え?」

「ボウギョカンリョウ」

 

喋った?何が起こったの?

 

「レイリョクブソクニヨリ、ツギノボウギョハデキマセン」

「な、なんなの?」

「クソが……」

「あ、あれ?」

 

ま、また、普通に戻った……そうだ!今の内に!

 

ダッダッ……

 

「な!?待ちやがれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!霊力の反応が消えた?一回防御したのか!」

「え?場所は大丈夫なの?」

「それは大丈夫だが、今の蓮子には防御する手立てが無い!急がないと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……、はぁ……」

 

「くそっ!どこ行きやがった!」

 

行ったわね……

それにしても、どんだけ広いのよ!入り口が全く見つからないわ!腕を縛られてるせいで走りにくいし。とりあえず、隠れてるしか無いわ……大丈夫よ!勇人が来てくれる……

 

ガチャッ……

 

「……!」

「どこだ?蓮子、出てこいよ」

 

ど、どうしよう?そ、そうだ、小銭が……あった。

 

タイミングを見計らって……あっちを向いたわね!

 

ドアの向こうに小銭を投げた。

 

チャリーン……

 

「な!?向こうに行ったのか!あの女!」

 

ダダダダダ……

 

「はぁーー……危なかった」

 

早く来てよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこだ!」

「あの家?」

「ああ……ご丁寧に警備を配置してやがる、バカなのか?俺らに場所を教えてるようなもんだろう」

 

スタッ……

 

「で、どう行くのかしら?」

「正面突破だ」

「それは……ちょっと……」

「4,5人ぐらいしかいないから、余裕だ」

「あ!まちなさいよ!……もう……」

 

「これだけで金がもらえるとかラッキーだよな!」

「本当だぜ」

「見張るだけでな」

「何も起こらなさそうだしな」

「へー、そうなんだ」

「そうだ」

 

「「「「は?」」」」

 

「寝とけ」

 

バキッ!

 

「アガッ……」

「て、テメェ!」

 

ベキッ!

バキッ!

ゴスッ!

 

バタッ、バタッ、バタッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういいぞ」

「本当にあっという間ね……」

「この先だな……」

「えらく頑丈そうな扉ね……パスワード制のロック……どうしますかね?」

「はぁ……オラァ!」

 

ドゴーン!

 

「ふぅ……」

 

バチバチバチ……

 

「あ……何なのよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴーン!

 

「ん?」

 

なんの音?何が破壊された音よね?

 

「まさか?勇人?」

 

なら、急いで行かなくちゃ!音のした方は……あっちね!

 

「はっはっはっ……」

 

居た!メリーもいる!

 

「勇人ー!メリー!」

「!?れ、蓮子!」

「……!?蓮子、後ろ!」

「え?」

 

ガシッ

 

「キャッ!」

「ほーら、捕まえた〜、ここまで、ご苦労さんだな」

「須藤!」

「このクソカスが!」

「ハハ!言っとけ!だが、勝者は俺だ!野郎ども!こいつを始末せよ!倒したやつは金をもっとやるぞ!」

 

「テメェーだけは許さねぇぜ……」

「ふんっ、ここまでこれたらいいがな?ほら、蓮子!ついて来い!」

「いやよ!離しなさいよ!」

 

「蓮子!」

「おっと、先には行かせないぜ?」

「ヒヒヒ……」

「ククク……」

 

「メリー」

「何?」

「とりあえず、下がっててくれ」

「分かったわ」

 

バチバチバチ……

 

また、キレたわね……今度こそ本気でプッツンしたってところかしら?

 

 

 

 

 

「金をもらうのは俺だぜー!」

 

ベキッ!

 

「グハッ……」

 

1発でノックアウトね……ただ、少し多くないかしら?

 

「全員でいけぇー!」

「ヒャッハー!」

「グハハ!」

 

「スー……はっ!」

 

ドンッ!

 

「!?」

 

「グギャ!」

「ガハッ!」

 

え?勇人を中心に衝撃波みたいなのが……

 

「な!?怯むな!いけぇー!」

「オラァ!」

 

バキッ!

 

「ゴフッ……」

「ドラァァ!」

「勇人!後ろ!」

「な!?」

 

ガコーン!

 

「仕留めたぜ!」

 

金属バット!?あれではひとたまりも……

 

「俺が…… バキッィ! ウギィ!?」

「はぁ……クッソが……頭殴りやがって……」

「大丈夫なの!?」

「大丈夫だ……」

 

血だらけでよく言うわよ……

 

「さぁ、もっと来やがれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボスッ

 

「くっ!」

「そう、怖い顔すんなって、可愛い顔が台無しだぜ?」

「あんたに言われても嬉しくないわよ」

「ありゃ、厳しいねぇ〜、関係ないが」

「!?触らないで!」

「あ?どうせ、俺のもんになるのだからいいだろう?意外と胸あんじゃん」

「だから、触らないで!!」

 

ドスッ!

 

「痛っ!何すんだ!これはお仕置きが必要だな」

 

ガシッ

 

「安心しろ、俺が居ないといけないようにしてやるから……」

「やめて……」

「ヒヒヒ……」

 

スッ……

 

「触るんじゃあねぇぜ、その汚ねぇ手で」

「!!」

 

ガシッ!

 

「なにぃ〜!?」

 

「蓮子……少し遅れたな……だが……間に合ったようだな……」

「勇人!」

 

ダラダラ……ズルッ……

 

「たまげたな……その傷でこっちまで来るとはな……でも、別の見方をすればそのままやられてしまった方が幸福だったのにな……」

 

チラッ

 

「いい時計だな、さすが金持ちか……だが もう時間が見れないようにぶっ壊してやるぜ……」

「……」

「きさまのその自慢の顔の方をな……」

「……ハハ、なかなか面白いやつだな……お前の名前は確か勇人だったか?お前のこと色々知りたいところだが蓮子とやるべきことがあるのだよ」

 

「ムダ話をしている暇はもう ないんだ」

 

「うぐっ……」

 

ガクッ

 

「…………今のお前のパンチだが……すごく『パワー』が弱かったぞ……ピッチャーフライ取るみたいにかんたんに受け止められたぜ」

 

「さっさとくたばれ!」

 

ゴッ!

 

「オラァ!」

 

バコォッ!

 

「!?えっ!!え!?なん……ッ?はぐっ!?は……速い…なんだ?全然弱ってねぇじゃねぇか……」

「よく見たら別に趣味の悪い時計だっだな……だが そんなことは もう気にする必要はないか……」

「ヒィ!?」

「もっと 趣味が悪くなるんだからな……顔の形の方が……」

 

「オラァ!」

 

ドゴ!

 

「オグぁぁぁぁぁ!」

「オラァ!」

 

グシャッ!

 

「ぶげあああっ!」

「オラァッ!」

 

ボゴォーン!

 

「グバッ!」

 

ガッシャアアアン!

 

「待たせたな……蓮子……」

「もう……遅すぎよ……」

 

ギュッ……

 

「ハハ……少し痛い……」

「我慢しなさいよ」

 

「いたいた……もう、あの人数相手にしてよく立っていられるわね……」

「これぐらい頑丈じゃないとな……」

 

「キャッ!?」

「ぐはははははははーっ バカめェェェ〜〜っ」

「め、メリー!」

「……」

「今 この女は人質だ!このナイフを見ろ!動くんじゃねーっ勇人!」

 

「今から このナイフでてめーの背中をブスリと突き刺してやる!下手な動きをしてみろ!メリーにナイフが刺さることになるぜーっ!そんなわけにはいかねーよなあ〜〜」

「はぁー……いいぜ、突いてみろ」

 

くるっ

 

「あっ!?」

「おい!わからねーのか?動くなと言ったは……はず はず……」

 

「……え、え!?」

「どうした…ブスリと刺すんじゃあねーのか?」

 

「か…体が動かない…なっなぜ〜〜?」

 

「ふ、服か?服が一ミリも動かねえー!?空中に引っ付かられたかのように動かねえー!」

「知らないよな……俺は『不変にする』と言う能力があって、物の存在や行動を固定できるんだぜ……もっとも、血をつけなきゃいけないが、今はダラダラ流れてるからな……勝手に着いたぜ……」

「わっ……許してくれーっ!」

「はぁ……前にもそのセリフ聞いたぜ……だが、今回ははじめっからお前を許す気は無いんだよ」

「か、金だ!金ならたくさんある……それをやるよ」

 

「はぁ……あんた正真正銘の史上最低な男ね……」

「本当だな……この"つけ"は……」

「ヒィ!」

「金では払えねーんだよ!」

 

バチバチバチ……

 

「オラァッ!」

 

ドコーーンッ!

 

「うげっグアッーー!!」

 

 

 

「戻るか……蓮子」

「そうね、行きましょう、メリー」

「はぁ……やれやれね」









ジョジョパロ多すぎましたかね?


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第41話 別離の日の青年






 

「イデッ……」

「大丈夫なの?」

「ハハ……大丈夫に決まってんだろ……」

 

ふらっ……ガシッ

 

「全然、大丈夫じゃないじゃん……」

「寝れば治るさ……」

「何言ってんのよ……しこたま攻撃喰らっといてよく言うわよ。ほら、肩を貸すから、ね?蓮子も手伝って」

「分かったわ」

 

 

 

 

 

「それにしても、よく場所が分かったわね」

「ああ……それはだな……俺のあげたネックレスにちと細工させてもらっただけだ」

「そう……ありがと」

「いいってことよ」

「でも、本当に大丈夫なの?」

「さすがに金属バットは効いたかなぁ……あの時は星がみえた……」

「あんた……人間なのかしら?」

「さぁ……俺も分からなくなってきた……でも、俺っていうことには変わらねーだろ?」

「そうね」

「そういえば思ったのだけど」

「何?メリー」

「貴方が使ってる霊力っていうのは私達も使えるのかしら?」

「使えないことは無いだろうけど……それが?」

「いいえ……少し興味を持っただけよ」

 

 

「……と話してたら着いたわね」

「ほら、あと少しよ」

「ん?ああ……」

「段差に気を付けなさいよ」

「了解」

「とりあえず、血をどうにかね……」

「風呂入ってくる」

「お湯で洗っちゃダメだからね!」

「分かってる」

 

「ふぅー……今日は色々あったわね……」

 

デートのつもりがこんなことになるなんて……でも、勇人が助けに来てくれたからいいか。

 

「で、蓮子 今日はどうだった?」

「え?な、何が?」

「その調子だと言ってないわね……彼、明日には居なくなるのでしょう?しっかり伝えなきゃ、絶対 後悔するわよ」

「わ、分かってる……色々あったもんだから……」

「そうね……でも、さすがにこれであいつは懲りたでしょ」

「完膚なきまでに叩きのめされたからね」

「本当に彼って面白いわよね……空も飛んだし……」

「え?本当に空飛んだの?」

「ええ、すごかったわね」

「本当にあいつは人間なのかしら?」

「でも、彼ということには変わりないでしょう?」

「そうね……あいつだから、いいのよね」

「よし、私はお邪魔になるだろうし帰らせてもらうわ ……あ、貴女に伝えることが……」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

「く、ク〜〜……し、しみる……冷たいし……」

 

頭の傷どうなるかな……ハゲにはなりたく無いな……それにしても……俺の体、頑丈過ぎないか?俺もこっちの世界の人間じゃ無いのか……

 

「うわ…….ひっでー顔だな」

 

唇の端は青くなってるし、額にまで傷がついてる。口ん中も切れてるようだ……口内炎になりそうだな……痛いんだよな……口内炎……

 

「もう、流したー?」

「おお、もう上がるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー……ひどい顔してるわよ」

「ひどいのは顔じゃ無い、疲れだ」

「それはいいとして、私が処置してあげるから、こっち来なさい」

「了解」

 

「イデッ、もう少し優しく……」

「男ならそれくらい我慢しなさい」

「そう イデッ 言われても イデッ 痛いもんは イデッ 痛いんだよ」

「はい、完了っと」

「ありがとな」

「どういたしまして、あ、そうだ、これ」

「ん?俺にか?」

「そうよ、あんたって誕生日は5月でしょ?だから、エメラルドのネックレス」

「え!?エメラルド?高くなかったか?」

「大丈夫、大丈夫!ほら、つけてよ」

「おう、に、似合うか……?」

「いいじゃない、さすが私が選んだだけはあるわね」

「自画自賛ですか……」

 

「もう時間ね、ご飯作らないと……」

「俺も手伝おうか?」

「あんたはけが人だから大人しくしてなさい」

「あい……」

 

 

ピッピッ……

 

「ん?なんの音だ?俺からか?」

 

ガサゴソ……

 

「あ、これか」

 

紫さんから渡されたお札か……確か連絡用だっけか。

 

「はい、どうしましたか?」

「は〜い、勇人?お久しぶりね、元気してる?」

「お陰様で」

「なら、いいわ。 分かってるかもしれないけど明日、幻想郷に戻って来てもらうわよ」

「……はい、分かってます」

「それなら、いいわ。……しっかりと自分の想いのけじめつけたかしら?」

「あ、当たり前です!そのためにここに戻って来たんですから」

「そう……明日の場所だけど、近くに古い神社があるでしょ?」

 

ああ……前に行ったところか

 

「そこに来てちょうだい」

「分かりました……今回はありがとうございました」

「あら、感謝されるとわね」

「まぁ、一応」

「みんな、貴方のこと待ってるわよ」

「ありがたい限りです」

「それじゃあ、また明日」

「ええ」

 

 

もう、今日で最後か……あっという間だったな。本当に時が流れるのは早い。蓮子には感謝しないとな。

 

 

 

 

 

 

「ほら、できたよ!」

「ん?分かった」

 

これが勇人と一緒に食べる最後のご飯ね……いつもと変わらない料理だけど、何か違う気がする……

 

「「いただきます」」

 

「やっぱり、蓮子の料理は美味いな」

「そうでしょ?私だってしっかりしてんだから!」

「そうだな、もう心配することもねぇーな」

「……」

 

言わないと……

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

言えなかった……はぁ……でも、チャンスはまだある!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ……眠いな……」

「寝ましょうか」

「そうする、じゃあ、リビングで……」

「今日も一緒に寝てよ」

「……だいj「絶対よ?」アッハイ……」

 

「お前も物好きだな……」

「いいじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

「こっち向いてよ」

「今日はさすがに……な?」

「むぅ……」

 

ギュ……

 

「!?ちょ、ちょっと……」

 

 

 

 

 

「私はあんたのことが好き……ずっと前から……好きよ」

「……そ、そうか」

「あんたは……私のこと、どう思ってる?」

 

スッ……

 

暗くてよく見えないけど、勇人が、こっちを向いた。

 

「……俺も……その……好きだ」

「なんで?」

「分からない、ずっと一緒に過ごしてたらいつの間にか……」

「私と一緒ね」

 

「でも、俺は蓮子の想いに応えられれない」

「分かってるわよ」

「……すまない」

「なんで謝るのよ?私が勝手に好きになっただけよ」

「……」

 

 

「でも、今……今だけは私のものになって?」

「…………了解」

「目を瞑って……」

 

そう言って、私は彼に唇を重ねる。

 

「んっ……」

 

は、初めてだから、よく分からない……で 、でも、もう一度……

 

「はぁ……私を抱き締めて」

「りゃ、了解」

 

噛んじゃって、勇人もウブね。私も言えたことじゃないけど。

 

ギュ……

 

暖かい、彼の鼓動がよく分かる。でも、この温もりも明日には無くなってしまう。彼の声、鼓動、手……今、感じ取ってるもの全部が無くなる。明日には全て無くなってしまうんだ……

 

「!?……ん!?」

 

ゆ、勇人からき、キスしてくるなんて……でも、やっぱりウブなせいか、どこか遠慮がちだ。ちょっと、イタズラを……

 

「!!」

 

舌を入れると、勇人は少しビクッとしたが、彼も舌を絡めてきた……は、恥ずかしいわね……

こんな時間が長いように感じられた……

 

「はあ、はあ、えらく積極的じゃねぇか……」

「そう?好きな人にこれぐらいは当たり前でしょ?」

「そ、そうか」

 

また、照れた。わ、私もきっと照れてんだと思う。暗いので分からないだろうが、多分両方、顔真っ赤だ。

 

「ねぇ、もう一回……」

「わ、分かった……」

 

好きな人のさとの深いキスは甘酸っぱいとか聞いたけど、そんなこと考える余裕はなかったわ。せめて、言うなら、血の味?でも、それが幸せでまた寂しく感じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、行くのね……」

「ああ……今までありがとな」

「当たり前でしょ? これが惚れた弱みというのかしら?」

「そうかもな」

 

 

「もう、行くよ」

「そう……じゃあね」

「ああ、幸せにな」

「貴方もね」

 

 

 

 

 

じゃあな、蓮子、そして、俺のいた世界。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、お久しぶりです 紫さん」

「お久しぶり、随分と精悍な顔つきになったわね」

「そうですか?ひどい顔してると思いますが」

「あら?けじめはつけたんじゃなくて」

「そうですよ、でも、後ろ髪引っ張られそうなんですよ」

「なら、早くしないとね」

「ええ」

 

スキマが開く。ここに入ればこの世界での自分とは完全にお別れだ。自然とネックレスに手がいく……

グダグダするんじゃない!俺!決めたのだから、しっかり貫き通さないと!

 

「勇人!」

 

蓮子の呼ぶ声がする。ダメだ、決めたんだから!きっと幻聴だ!

 

「勇人!」

「え?」

 

蓮子?なんで?

 

「あらあら……」

 

 

「勇人!私はゼッータイ、あんたのこと諦めないから!あんたのいる世界への行き方見つけて絶対あんたのところに行くから!だから……だから……絶対に私のこと忘れないでよ!待ってなさいよ!」

「……ああ、待ってるぜ!」

 

「じゃあ、行くわよ」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は不思議な女性と一緒に謎の空間に消えてった……

 

「これでいいのよね?メリー?」

「私たち秘封倶楽部でしょ?絶対に彼の元に行くんでしょ?」

「そうよね……」

「ええ」

「でも、今は泣いていいのよね?」

「いいわよ、思いっきり泣きなさい」

「う、ウアアアアアア!」

「私も手伝うから」

「うう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれで良かったの?」

「大丈夫です、けじめはつけました」

「でも、彼女はああ言ったわよ?」

「そうですね……嬉しい限りです でも、無理でしょう?」

「そうね……彼女たちが幻想郷を見つけるのはほぼ不可能ね」

「そうですね、ハハハ……でも、忘れないのはありですよね?」

「ええ……もちろん」

「それじゃあ、行きましょう」

「なら、涙を拭いてからにして頂戴」

「泣くわけないじゃないですか……男なら泣いちゃあダメなんですよ………」

「そう、そうなら それでいいわ」

 

ポタッ、ポタッ

 

「あれ、なんでかな……泣かないと決めたのに……」

 

いや、これは雨だ……雨なんだよきっと。決めたじゃないか……そういうことならそういうことでいいんだよ……

 

 

 

こうして、俺は完全に幻想郷に、受け入れられた。



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第5章 幻想郷武道大会
第42話 始まりは終わり、終わりは始まりの日の青年







 

「はあ……戻ってきたと言うのかな?」

 

戻ってきたでいいか。……ここに骨を埋めるんだからな。寂しくないと言えば嘘になる。友達は少ない方だが、家族や蓮子のような人たちのおかげで、あそこで生きていたくないとは一度も思ったことはない。

でも、運命には逆らえないか……

ヘコタレてる場合じゃないよな!もう、ここで生きて行くことにしたんだから!

 

 

 

「「勇人さん!」」

 

「ん?おお、早苗と妖夢じゃないか、わざわざ迎えにとは」

「当たり前じゃないですか!」

「1週間、勇人さんに会えないのを我慢してたんですよ!?」

「ハハハ……」

 

戻ってきたのだから言うべきセリフがあるな。

 

「ただいま、そして これからよろしくな」

 

一瞬、不思議そうな顔をしたがすぐに満面の笑みで

 

「「おかえりなさい、勇人さん」」

 

ここにも俺の居場所はあるんだよな……なんやかんやで、俺は幸せ者だな。

 

 

「感動の再会は終わったかしら〜?」

「紫さん!?」

「驚かないでよ〜、慣れたもんでしょ?」

「いや、久々なもんで……」

「ふふ……それより、貴方の住む場所だけど……」

「ああ……また、早苗たちにお世話になるんですね?迷惑かな……」

「違うわ、一人暮らしをしてもらうわよ?」

「一人暮らしねぇ……は? 一人暮らし?」

「そうよ、萃香に頼んで家を作ってもらったわ」

「萃香って、あの飲兵衛の?」

「その通り あとでお礼言いなさい」

「は、はぁ……」

 

1週間で建てたのか?うーん……酷くこざっぱりしてなきゃいいんだが。柱とかが結構ゆるゆるなんてシャレになんねぇからな……

 

「場所はどこですか?」

「妖怪の山の麓よ」

「へぇ……よく、天狗たちが許可しましたね」

「まぁ、貴方なら襲うこともないだろうし、襲われても問題ないでしょうからね」

「素直に喜んでいいのか……?」

「荷物は既に運んであるからあとは貴方だけよ」

「そこまで……重ね重ねありがとうございます……」

 

お世話になりっぱなしだなぁ……あ、萃香さんにお礼をしないとな……お礼の品は酒かな?

 

 

 

「もう、話はいいですよね?」

「ええ、いいわよ」

 

うーん……酒っても何がいいのか、さっぱりだ……

 

「なら、これまで溜めてきた分をここで……」

「そうですね……」

 

ああ、寺子屋のこともあったな……慧音さんに任せっぱなしだからなぁ……何かするべきかな……

 

「勇人さん?」

 

授業はどのようにするかな?ああ……チルノの対策も講じないとな……

 

「完全に自分の世界に入っちゃってますね……」

 

一人暮らしを、するんだっけ?うーん……家事はある程度できるが、めんどくさがって掃除とかあんまりしないからなあ……

 

「久々の再会なのに……」

「こうなったら……勇人さん!」

 

ガバッ!

 

「ぬぁ!?どうした妖夢?」

「久しぶりに帰ってきたのですから、こっちのことも見てくださいよ!」

「ああ……そうだな」

 

急に抱きつくもんだから驚いたなあ。まぁ、確かに今考えてもしょうがないな。それにしても、妖夢の頭ってこんな低いところにあったけ?撫でるにはちょうどいい高さだな。

 

「あ……ん……」

 

あ、無意識に撫でてしまってた。まぁ、妖夢も気持ちよさそうだしいいかな?

 

「むぅ……妖夢さんだけずるいです……こうなったら私も……」

 

ギュ……

 

「ヘヤァ!?ど、どうした?早苗?」

「妖夢さんだけずるいです、わ、私も頭撫でてくださいよ!」

「分かったから」

 

これじゃあ、サンドイッチじゃないか……

 

 

 

 

 

「あらあら、モテモテね」

「わしの孫じゃからのう、そりゃあモテるわい」

「貴方ってモテるタイプだっけ?」

「そ、そ、そうじゃだぞ!昔なんて人気すぎて大変じゃったわい!」

「そう……貴方はこれでよかったと思うかしら?」

「さあ……これが良いっとはっきり分かるなら苦労せん。じゃが、これしか方法はないのじゃろ?よかったとか悪いとか言ってもしょうがない。とにかくその道を進むだけじゃ」

「そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

早苗と妖夢との再会のあと、とりあえず、守谷神社と白玉楼に行って、挨拶した。ただ、その度に

 

「お?少し男らしい顔になったんじゃない?」

「そうだな、少し成長したみたいだな」

 

 

「あら、すっかりイケメンになっちゃって」

「ふむ……一皮向けたようじゃな」

 

 

そんなに変わりましたかねぇ……3年分成長したとはいえ、急激に変わるもんじゃないでしょうに

そうそう、家のことだが不安でたまらなかったが杞憂だったようだ。ていうか、よくあの短期間でできたなぁと思う。平屋の家だが、一人暮らしには十分すぎる大きさだ。風呂や台所はしっかり完備されている。てか、かなり現代的じゃね?電球があり、古いけど洗濯機がある。電気通ってんの?と思ったが紫さんいわく、

 

「全部霊力で動くわよ〜、お礼は河童にね」

 

河童の科学ってスゲー。こりゃあ、きゅうり一箱ぐらい送らないとな。

とりあえず、その日は新しい家で過ごした。

 

 

 

 

 

翌日の朝は驚くほど普通だった。自分で起き、飯作って、着替えて寺子屋へ。あら?まるでずっと一人暮らしをしてたみたいだな。

そもそも、自分で起きれたのが驚きだ。

 

 

 

「お久しぶりです、慧音さん」

「おお!勇人か!久しぶりにだな!」

「はい、みんなは元気ですか?」

「ああ、元気過ぎて大変だったよ」

「俺のいない間は本当にありがとうございます」

「なぁに、これぐらい大丈夫さ。ということは、今日からもだな?」

「ええ、頑張りますよ!」

 

久々にみんなに会うか……

 

「そうだ、2人新しく、学びに来た子がいるからな」

「2人ですか」

 

どんな子だろうか?はっきり分かるのは人外ということだけだな。

 

「おーっす、みんな久しぶりだな 君たちは初めましてかな?」

「あ!勇人先生だ!」

「お久しぶりです!」

「久しぶりなのかー」

「へー、この人がフランちゃんたちが言う先生なの?」

「は、初めましてです!」

 

「自己紹介は出欠を取った後にな」

 

えっと……チルノ、大妖精、ルーミア、リグル、ミスティア、フランドールでここからが新入生だな、えとえと、古明地こいし、八雲橙、この子は……藍さんの子供?違うか……狐と猫だもんな……なんか、関係はあるだろうな。

 

「……!?」

 

1人余分にいるぞ!?誰だ?あの子は?って

 

「萃香さん!?」

「おー、勇人だな。あの時以来か?」

 

全然気づかなかった……違和感が……ねぇ?

 

「今失礼なこと考えてたでしょ?」

「いや、まさか……あ、家の件ありがとうございます」

「そう、そのことでここにいるんだ」

「あー、お酒でいいですか?」

「それも悪かないが、これに参加してもらおうとな!」

 

なんだ?幻想郷武道大会?

 

「どうだ、勇人?ってなんでお前が……」

「おお、慧音、ちょうどいいところに!」

「子供達がいるのだから酒はやめてくれ」

「悪りぃ悪りぃ、それよりもこれ参加してくれるか?」

「なんだ?幻想郷武道大会?私はそう言うタイプじゃないから遠慮するよ」

「俺も遠慮しときます……」

「んー?まさか、家の恩を忘れたと言うのかい?」

 

な!?ここでそれを出すとは……

ふむふむ……チーム制か……4人出場?

 

「いや、俺、出れないじゃないですか?」

「ん?だから、ここに来てんじゃないか」

「だからって、生徒たちを巻き込まないでくださいよ……」

「えー……お前だって暴れたいだろ?」

「うん!最近弾幕ごっこもしてないし!」

「こ、こら!何言ってる!」

「慧音も勇人が1人で参加する羽目になるよ〜」

「な……それじゃあ流石にボロボロに……」

 

こ、こいつ、脅すとは……

 

「わ、分かった……メンバーはあとで言う」

「そうこなくっちゃ!勇人、楽しみにしてるよ!」

 

消えた!?はぁ……ここはなんでもありだったな。

 

「慧音さん、本当、すいません……」

「しょうがないさ、流石に1人じゃきついだろ?体育の一環ということにしておこう」

「本当すいません……」

「そんなことより、新しい子の紹介だ」

「そうですね……」

 

 

 

「私は古明地こいしだよー、よろしくねー」

「ああ、えっと……地霊殿?に住んでるのか?」

「うん、そうだよ!お姉ちゃんと可愛いペットと住んでるんだよ!」

「そうか、よろしくな」

「わ、私はや、八雲橙です!」

「えっと……紫さんとか藍さんとかに、関係あるのかな?」

「はい!私は藍しゃまの式です!」

「そういうことな……よろしくな!」

 

「えー、俺は碓氷勇人だ。これからよろしく頼む」

「勇人先生って強い人間なんでしょ?」

「えっ、それは分からないな……」

「フランちゃんたちが強いって言ってたよ!」

「そうだよ、あたいの先生はサイキョーね!」

「確かにお強いですよ!」

 

お、おお……

 

「それに頭もいいって藍しゃまが言ってました!」

「あ、ありがたい話だな」

 

か、過大評価じゃないすかねー……

 

「そういえば、萃香さんと何を話してたんですか?」

「あ、ああ……」

「私が話すよ、今度だな、萃香が、主催で武道大会を開くらしい。それで寺子屋チームとして参加して欲しいそうだ」

 

そういえばルールは……なし!?ありとあらゆる手段でこい!?

 

「4人必要なのだが……2人は我々教師が、そこであと2人なのだが……」

「はい!私が出る!」

「フランか、他には?」

「あたいが……」

「だ、だめだよ!強すぎる人がわんさかいるんだよ?」

「あたいはサイキョーだから問題ない!」

「流石に危ないって……」

「なら、私がー」

「こいしか、この2人なら申し分ないな」

 

「あ!もう、大ちゃんのせいで参加できなかったじゃない!」

(だって、紅魔館の人や霊夢さんたちまで出るって聞いたんだもん……)

 

「決まったな、よしこの話は終了だ、あとは授業だ 久々の勇人の授業だからしっかり聞けよ!」

 

 

武道大会ねぇ……はぁ……ゆっくりはできなさそうだな……身体鍛えとくか……

 

ま、今は授業だな!

 

「よし、今から授業始まるぞ!」

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

 

 

「勇人の参加も決まったな……面白くなりそうだ……な?霊夢?」

「勝手に私も参加させないでよ……」

「でも、あいつとは戦ってみたいんだろ?」

「さぁ……」

「私は戦ってみたいね、あ、勇儀んところも、誘うかな」

「やめなさいよ……」

 

いいねぇ、こりゃあ本当に、楽しみだ!



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第43話 エントリーの日の青年





 

シャーーー……

 

はい、今、通勤中です。ん?なんで、今更自転車かって?運動の一環だよ。一環。いやー、自転車と一緒に幻想入りしてたのすっかり忘れてた。早苗が回収してたみたいだが、なんせ、半年ぐらい放置してたせいか、音がひどかった。今は油さしてスムーズだ。

 

 

んー……意外と遠いな……チャリ通勤長続きするかなぁ……

 

 

 

 

キーッ!

 

「やっと着いた……もうやめようかな……」

 

空を飛べるって便利だからな……自転車はどうしてもめんどくさく感じる。

まぁ、今日も授業始めますか。

 

 

 

 

 

 

「……と、…うと!、勇人!!」

「ふぁい!どうしましたか?慧音さん?」

「どうしたも、最近ぼーっとすること多くないか?」

「そうでしょうか?」

「そうだ、この前なんて、授業中にぼーっとしてたって大妖精が言ってたぞ。何か悩みあるのか?」

「い、いいえ、最近身体鍛え始めたので疲れてるだけです」

「そうか……ほどほどにしておけよ?」

「はい」

 

 

 

「うーん……」

 

勇人の様子が少しおかしいな……復帰して数日経ったが、やけにぼーっとしている。前も考え事をすると周りの声が聞こえなくなることがよくあったが、今回は違う。どう違うのかと聞かれるとよくわからないのだが……早苗にでも聞いてもらうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い、…せい!、先生!」

「はっ……あ、すまない、授業進めようか」

「先生、変だぞー」

「どうしたのだー?」

「疲れてるだけだ、問題ない、続けるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、大ちゃん最近先生の様子がおかしくない?」

「そうだね、ぼーっとしてることがたまにあるよね……」

「その時の顔ってどっか遠くを眺めてるよね」

「どうしたんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタスタスタ……

 

「あ、勇人さんだ」

「……」

「勇人さん?」

 

なんでしょうか?反応がないです。考え事でしょうか?

 

「……」

「勇人さん!」

「おっ!おお……妖夢か、どうした?」

 

やっぱり、少し変です。

 

「いえ、少し勇人さんの様子が変だったので」

「あー……またぼーっとしてた?」

「はい」

「少し疲れてるのかな?まぁ、寝れば治るさ」

「そうですね……体は大事にしてください」

「ああ」

 

うーん……勇人さんらしくないですね……負のオーラが出てる気が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……俺も案外、ヘタレかなぁ」

 

うーん……未だに引きずってんのかなぁ……割り切ったはずなんだが、どうも無意識に外の世界のことを考えてしまう……そのせいでいまいち集中できないし、周りに迷惑がかかってる。どうにかしないといけないと分かってるのだが……

 

「おかえりなさい」

「あぁ、ただいま……」

 

はぁ……忘れてしまった方が早いのかな……そういうわけにもいかない。約束したからな……

 

「って、なんで早苗がいるんだ!?」

 

あまりにも自然だったからすぐ気づかなかった。

 

「慧音さんから最近勇人さんの様子がおかしいって聞いたので」

「疲れてるだけだ、問題ない」

「いいえ、勇人さんはしっかり睡眠を取るタイプなのでそこまで疲労は溜まらないと思います」

「うっ……いや、ほら!近々幻想郷武道大会があるだろ?俺も出るからな、身体を鍛えてるんだよ」

「本当のことを言ってください!」

「いや……これが本……」

 

うっ……そんな目で見ないでくれ。

はぁ……バレバレかな?言った方がいいのか?でも、これは自分の問題だから自分で解決しないと……

 

「私ってそんなに信用がありませんか?」

「そ、そんなことはない」

「なら、私に言ってください!」

「そこまで大きい問題じゃないから大丈夫」

「いいえ、勇人さんがここまで悩むのですから勇人さんに、とっては大きなことでしょう?」

「早苗はなんでもお見通しか……流石だな」

「いえ、誰でも分かりますよ、遠くをぼんやりと眺めていたら」

「ハハ……でも、これは自分でどうにかしたいんだ。だから、もう少し待ってくれるか?自分でじゃどうにもできないと分かった時に頼ってもいいかな?」

「ええ、その時は任せてください!」

「ありがとう……」

 

本当に早苗にはお世話になりっぱなしだ……少しずつでも返さないとな。

 

「それはそうと……勇人さん、幻想郷武道大会に出るのですよね?」

「ん?ああ、寺子屋チームとして出るよ……早苗もでるのかって、人数的に……」

「いいえ、出ますよ、なんでも妖怪の山で2チーム出すそうです」

「お、おお……」

 

はやぁ……妖怪の山からねぇ……無理ゲーじゃね?

 

「確か今日でエントリー終了だそうですね、明日、発表されるそうです」

「そうか……そういえば景品とかあるのか?」

 

何か目標がないとなぁ、やる気が出ないよ。

 

「えっと、確か……お金やお酒とかもらえるそうです」

「ハハ……どちらもあんまりいらないな……」

お酒は飲まないしお金もあったところでねぇ……

 

「確か男性の参加者って勇人さんだけでしたよ」

「えっ……」

 

なんじゃそりゃ……男はどうした?最近だらしねーな?

 

「あ、妖忌さんもでるとか言ってましたね」

「勝てんのかね……」

「とりあえず、お互い頑張りましょう!」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりしないとな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分数というのはだな、割り切れない数字が出るだろ?その時に使うのがこのぶn「おーい!出場するチームが決まったよ!」……今は授業中だ!」

「いいじゃないか」

「お引き取りください」

「そうだよ!どんな人たちが出るの?」

「そうだな」

「……」

 

チョークぶつけたろか!はぁ……

 

「……分かった、発表してくれ……」

「もちのろんだよ!ほれ!これを見よ!」

 

 

 

〜幻想郷武道大会出場チーム一覧〜

 

寺子屋チーム

 

碓氷勇人

上白沢 慧音

古明地こいし

フランドール・スカーレット

 

 

白玉楼チーム

 

碓氷勇人の祖父

魂魄妖忌

魂魄妖夢

西行寺幽々子

 

 

妖怪の山チーム

 

犬走椛

鍵山雛

河城にとり

姫海棠はたて

 

 

守谷神社チーム

 

東風谷早苗

射命丸文

洩矢諏訪子

八坂神奈子

 

 

博麗神社チーム

 

アリス・マーガトロイド

伊吹萃香

霧雨魔理沙

博麗霊夢

 

紅魔館チーム

十六夜咲夜

パチュリー・ノーレッジ

紅美鈴

レミリア・スカーレット

 

 

救護 安心安全の永遠亭一同

 

※6チーム総当たり戦です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……知らない人も多いな……てか、俺のじいちゃんの名前知らないのか?」

「ああ、教えてくれなかったんだよ、教えてくれるかい?」

「ああ、じいちゃんの名前は碓氷「おー!ここにいたか!」誰だ……」

「お?勇儀じゃないか!もう、エントリーは終了しちまったよ」

「それはいいんだ、ほら、お前なオススメの男が気になってだな」

「こいつのことかい?」

 

……俺よりも背が高い……そうじゃない、この人は?まぁ、額に立派な角があるあたり鬼かな?

 

「ほー……こいつが……自己紹介するよ。星熊勇儀だ、あんたのことは萃香から聞いてるよ」

「よろしくお願いします」

「にしても、萃香が言うからどんなやつかと思ったが……ヒョロッちぃな、本当に強いのかい?」

「紫曰く幻想郷のパワーバランスを担えるレベルだってよ」

「ふーん……このチビがねぇ」

「ああ!?誰がチビだって?」

「お?いい目するじゃない、てっきり死んだ目かと」

「とりあえず!早く授業進まなくてはいけないのでさっさと出てください!」

「あら、機嫌損ねたかな?そんなに身長気にしてんのかい?」

「いいえ!別に!」

「わかりやすいね〜、男らしくないぞ」

「最後の警告です、さっさと出て行ってください!」

「ところで萃香いい酒が手に入ったんだが……」

「そうか!」

 

がっ……こ、こいつら……

 

「俺は警告したよな?」

「あ!先生が、チョークを……」

 

「ん?霊力を感じるね……あんたか?」

「さっさと出てけー!」

 

バチバチバチ…….

 

「あ、前よりもパワーアップしてる」

 

ヒュンッ!ヒュンッ!

 

「「!?」」

 

スパァーン!

 

「あいでっ!」

「ほう……」

「いってー!なんだ!これチョークか?」

「噂通りみたいだな、よしお邪魔虫は出て行くよ、ほら行くぞ?」

「綺麗に額に当たるとは……」

 

 

 

「やっと行ったか……にしても、鬼はやっぱり強いな……」

 

気絶させるつもりで投げたのに、勇儀さんには取られたし、当たった萃香さんも痛がるだけ……

 

「さ、授業始まるぞ」

「は、はい(チョーク投げが進化してる……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてて……で、あいつの感想は?」

「ふふ……あいつなら久々に思いっきり戦える気がするよ」

「そうだろ?とりあえず今度の大会で戦いっぷりを見たらいい」

「ああ、そうする」

 

本当に待ちきれないな!



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第44話 1戦目(妖怪の山チーム)の日の青年





 

「始まりました!第1回幻想郷武道大会!実況は私射命丸文が、解説は幻想郷の創始者八雲紫さんです!よろしくお願いします、紫さん!」

「よろしくね、ところで文も出るんじゃないの?」

「ええ、私が試合の時ははたてにでもやってもらいますよ」

 

 

「そう、それじゃあ私がルールを説明しちゃうわよ〜。まず、試合方式は6チームの総当たりね、もちろん1番勝ったチームが優勝よ。試合は1チームにつき3試合ずつ、1対1、2対2、1対1という具合に試合が進むわ。試合中のルールだけど、特に無し武器オッケー、弾幕可とりあえずなんでもありよー、え?死んでしまいます?安心なさい私がご都合の結界を張ったから死なないわよ」

「流石便利能力!」

「いやーん、照れちゃうわ〜」

「その歳でその反応は……」

「ナニカイッタカシラ?」

「イイエトクニ……」

 

「それでは最初の当たりを発表しましょう!最初は白玉楼チーム対紅魔館チーム!」

「これは楽しみね、まずあの人の戦闘なんて久しぶりね」

「その次が、寺子屋チーム対妖怪の山チーム!」

「これも見所ね」

「んで、最後が守谷神社チーム対博麗神社チーム!」

「あら、いきなり神社ぐるみの戦争ね」

「それでは白玉楼チームと紅魔館チームは準備してください!」

 

 

 

「はぁ……始まってしまった……」

「気を落とすな、とりあえずは頑張ろう、な?」

「そうですね……やるからには勝つつもりでいきますよ」

「そうだよ!絶対勝つからね、ね?こいしちゃん!」

「そうだよー!先生のかっこいいところ見てみたい!」

「ハハ……善処するよ」

「最初の試合の順番だが、先鋒は私が務めさせてもらう、その次にフランとこいしでいいかな?」

「「うん!」」

「じゃあ、俺が最後だな?」

「そうなる、いいかな?」

「大丈夫です」

 

「お?最初の試合が始まりそうだな、見なくていいのか?」

「そうですね……見ておきますか……」

 

 

 

「それでは白玉楼チーム対紅魔館チーム 第1戦 魂魄妖忌対十六夜咲夜!いざ、尋常に……始め!」

 

いきなり妖忌さんかよ……相手は咲夜さん……どうなるんだ?

 

 

 

 

 

 

「いきなりですが……」

周りの時間が止まる……

 

「貴方との長期戦は嫌なのでこれで終わらせます」

 

妖忌の周りにナイフを投げる、だが、妖忌は気づかない、いや、気づけない。

 

「終わりです」

「ほう……じゃが!」

 

カキンッ、カキンッ、カキンッ!

 

「むぅ……全部さばくとは……」

「時間止めるとはな……こりゃあ、手強い」

(おかしい……剣なら近づかないと攻撃できないのに一向に間を詰めようとしない……近づかない方がいいわね)

「近づかんな……何か感じたようじゃな……」

「しかし、射程範囲ね、こちらから一方的にやらせてもらうわ!」

 

シュッ!

 

「!?は、速い……」

カキンッ、カキンッ……

 

「きつそうね……もう終わりにしてあげるわ……」

「お主、ワシが攻撃できんと思っておろう?じゃがな……」

(くる!?来てみなさい……時を止めてジ・エンドよ」

「……」

「固まった?(今のうちに……)はっ!」

 

大量のナイフを妖忌に向ける……

 

「かぁ!」

「え?」

 

音は無い……だが、妖忌は既に咲夜の後ろに、投げたナイフは全て払い落されている。

 

 

ガクッ……

 

「勝負あり!勝者魂魄妖忌!」

「紫さん、今何があったのでしょう?」

「そうね……妖忌が斬ったとしか分からないわ、速すぎて私も見えなかったわ……」

 

「さて、次の試合は 西行寺幽々子&碓氷勇人の祖父対レミリア・スカーレット&パチュリー・ノーレッジ!」

 

 

 

 

 

「おお……妖忌さんすげぇ……瞬間移動したみたいだ……やっぱり、妖夢の師匠なだけあるな」

 

俺、この中に入って大丈夫か?なんか、フルボッコにされそう……てか、じいちゃんの名前言いそびれてたな、ま、いいや。

 

「勇人先生、準備しておこう?」

「ああ……そうだな、準備体操しておくか……」

 

妖夢の試合も見たいが……自分も試合、あるしな……すまん、妖夢。

 

 

 

 

 

 

 

「先生、今日は銃持って来てないの?」

「ん?あるぞ、この服の中にな、ほら」

「おおー」

「だが、今日は格闘メインで行こうかな……糸はあるし、どうにかなるか」

 

「無茶はするなよ?」

「大丈夫だよ、ね?こいしちゃん!」

「そうだよ、フランちゃん強いもんね!」

「こいしちゃんだって強いじゃーん」

そうだった、この娘たち人間じゃないんだった……

 

 

 

 

 

 

 

「お?勇人、準備はいいか?」

「はい、もう試合終わったのか?じいちゃん?」

「ハハ!もちろん!わしたちの大勝利よ!」

「妖夢も頑張ったわよ〜、後で褒めてあげてね」

「は、はい……」

 

今は……妖忌さんから何か話されてるな……

 

 

 

「な、なんなのよ……強過ぎじゃない?」

「年寄りかと思ったら……最高クラスの強さじゃない……」

「妖夢さん……確実に強くなってますね……剣の動きが鋭くなっている……」

「時を止める間もなかったわ……」

「ぐぐ……紅魔館の主でたる私でさえ手足も出なかったわ……」

「幽々子が手強いってことはわかってたけど……あのじいさんも恐ろしいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「寺子屋チーム対妖怪の山チーム 第1戦 上白沢慧音対河城にとり いざ尋常に……始め!」

 

 

ああ……始まってしまった……緊張してきた……とりあえず、慧音さんを応援しないと……

 

「ふふ……この日のためにこれを開発したのさ!」

「!?」

 

な、なんだ?胴体に機関銃のようなものを引っ付けてる……

 

「河童の科学は世界一ィィィ!我が河童の最高知能の結晶であり誇りであるゥゥゥ!!つまり すべての妖怪を越えたのだアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

バアァァァ

 

「はぁ……」

 

妙にテンション高いなぁ、あれか好きなものになると性格が変わるタイプか。

 

「くらえ!慧音 1分間に600発の妖力弾を発射可能!1発1発の弾幕がお前の体力をけずりとるのだ!!」

 

600発!?それじゃあ、慧音さんもひとたまりもない……

 

ドドドドドドバババババ……

 

「ぐっ!」

「先生!」

 

やばいな……砂煙でよく見えんが流石にきびいかな。

 

「ははは!どうだ!河童はすごいんだぞ!」

「ああ、すごいな、だが、そのようなものは子供達に見せるのは良くないな」

「ぬぁ!?」

 

がしっ!

 

「あ、あの体勢は!」

 

あ、にとり終わったな。

 

「よって、頭突きの刑だ!」

 

ガコンッ!

 

「アヒャ、星が見える……」

 

バタッ

 

「勝負あり!勝者上白沢慧音!」

 

「流石、先生の頭突き!」

「ああ、流石に最初は驚いたが、直線にか撃たなかったからな、隙だらけだったよ」

「ほら、次はお前たちだ、頑張れよ!」

「「うん!」」

 

「お疲れ様です、慧音さん」

「ああ、久々に動いたが、定期的に運動はするべきだな」

「そうですね」

 

ドガーン!バゴーン!

 

「ちょ!」

「きゃあ!」

 

「勝者 フランドール・スカーレット&古明地こいし!

 

「は?」

 

は、早っ……え?ちょ、強過ぎじゃないか……

 

「来るんじゃなかったわ……」

「イタタ、攻撃する間もないなんて……」

 

「はたて、手も足も出ず!」

「あのマスゴミ……そそのかされて参加するんじゃなかったわ……」

 

「お疲れ……」

「うーん……つまんなかった」

「そうだね……」

「次もあるからな、な?」

「そうだね!次は先生だよ、頑張って!」

「ああ」

 

「第3戦 碓氷勇人対犬走椛!」

 

「注目はやはり勇人さんでしょうか?」

「そうね、人間だともう最高レベルの強さだと思うわ、妖怪だとしても最高クラスになる有望株ね」

「そうですね!相手の椛は1度勇人さんに敗北しており、リベンジでもあります!」

 

 

「よろしくお願いします、勇人さん」

「ああ、よろしく」

「今回は負けませんから」

「そうか、俺もだが」

 

「それでは尋常に……始め!」

 

「はっ!」

 

いきなりくるか……

 

ヒョイ

 

「予想通りです」

 

ドッ

 

「!?」

 

盾で突進してきやがった!避けれん!

 

ゴスッ

 

「グゥ……」

「終わりじゃないです!」

 

ベキッ!

 

「がっ!」

 

また、盾で……やばいな、ガードが崩れた……

 

「はぁ!」

「しょうがねぇ!ふんっ!」

 

バンッ!

 

「!?」

 

何が起こったか分かってないな……この霊力の衝撃波いいな、使い勝手がいい。動揺したな、もうここからは俺のターンだな。

 

「はっ!はっ!」

「……」

 

ヒョイ、ヒョイ

 

 

むぅ……なんでしょうか……全部お見通しのような動きです。斬撃が当たる気がしない。でも、負けっぱなしはいやです!

 

間をとりましたね……弾幕を展開です!

 

「!?」

 

予想してなかったようです!動けてない!いける!

 

ドーン!

 

弾幕の集中砲火を、くらったのでひとたまりもないでしょう。

 

「よし!」

 

砂煙が引いて……勇人さんが……倒れて……いない?あ、あれは勇人さんがきている服?なんで宙に浮いてるんですか!?

 

「あぶねー……学ランで良かった、こっちの方が防御の範囲が広い」

「なら、もう一度!」

「させねーよ?」

 

クイッ

 

「きゃっ!」

「次にお前は『い、いつの間に!?』と言う」

「い、いつの間に!?はっ!」

「種明かしは後でだ、とういうことで」

 

バチバチバチバチバチ!

 

「きゃあ!」

 

 

「勝負あり!勝者碓氷勇人!」

 

「大丈夫か?って、気絶してるか」

 

 

 

「何があったのでしょうか?紫さん」

「そうね、多分、きている服にあらかじめ血を付けたのね。それで存在を不変化した。不変化したものはいかなるものでも変えることはできない、すなわち絶対的な盾になるわね」

「はぁ、それに糸はどうしたんでしょうか?」

「足にも確か糸のついた針を発射する装置を、付けてるから避けている時に地面に発射しといて絡めたんでしょう」

「なるほど、つまり椛は全て勇人の作戦の中で踊らされたと」

「そうね、そういうことかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

「流石だな、勇人」

「まぁ、先生らしく頭で勝てたので良かったですよ」

「先生アッタマいい!」

「すごいね!」

「ハハ、ありがとう」

 

いやー、必要最低限の霊力消費で良かった、良かった。

はっきり言って、この後のために温存はしておきたいからな。

 

「この後も頑張っていこー!」

「おー!」

 

あの娘たちも楽しそうだからいいか。



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第45話 第2戦(紅魔館チーム)の日の青年

「ぐぐ……紅魔の主人たるもの、このまま負ける訳にはいかないわね……」

「しかしながら、流石に先ほどの白玉楼の人たちは皆、強者ばかりです。相手が悪過ぎます……」

「でも!悔しいのよ!次は寺子屋チームだったよね?」

「そうですね、勇人さんの格闘術は少し興味があります。是非闘ったみたいですね」

「そう、なら美「いいえ、私が」……咲夜?」

「も、申し訳ありません……しかし、私は1度彼に敗北しています……相手が万全な状態での敗北なら少しは納得できますが、手負いの状態なのに敗北してしまいました。このままでは私の面目が立ちません」

「……そう、私も彼に負けたけど今回は貴方にリベンジのチャンスをあげるわ……分かってるわよね?」

「ええ、必ず勝利してみせます」

 

ふふ……咲夜がこれほどやる気を出すとは……楽しみね。なら、私が先鋒でいこうかしら。相手はフランでくるでしょう。確かにあの娘は恐ろしい戦闘能力を持ってるけど頭が追いついてない。勝機は十分にあるわ。その次はあの半妖とさとり妖怪。パチュリーと美鈴なら勝てる相手ね。最後は咲夜と勇人……これは見ものね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、勇人さん」

「ん?ああ、妖夢もお疲れ。美鈴との試合良かったぞ?ますます腕を上げたな」

「いえ……//ゆ、勇人も流石の策略でした!」

「ああ、椛は少し頭が固いからな、あんな単純なものでも案外引っかかるものだ」

「そうですね、私もまだ柔軟に思考はできてません……」

「なぁに、戦っていくうちに分かるようになるさ」

「そうですね」

 

でも、勇人さんにはどう頑張っても敵わない気がします。勇人さんは何を考えてるか全く分かりません。それどころか、考えてるかどうかも分かりません。分かった時には既に勇人さんの術中の中です。

 

「ああ!ここにいた!」

「本当だ!」

「おお、どうした?フランドール、こいし?」

「慧音先生が次の試合も最後を頼むって!」

「おう!任せとけ!」

「それでね!私が最初なの!」

「そうか!期待して観てるぞ!」

「うん!頑張る!」

「こいしも頑張れよ!」

「うん!」

 

 

ジーーッ……

 

「ど、どうしたんだ?こいし。そんなに見て……」

「ん?先生はこの人とどんな関係なの?」

「「!?」」

「そうだね、勇人先生って妖夢と一緒にいる時多いよね」

「え!あ……いや……その……」

「あ!もしかして彼女さん?」

「え?そうなの?先生?」

「そ、そうでは……」

「……」

 

黙ってこっちを見ないで!付き合った記憶はないだろ?

 

「わ、私たちはそんな関係に見えますか?」

「うん、だって仲よさそうだもん」

「た、確かによくさせてもらってますが……」

「そうだね、いつも堅苦しい顔をしてるのに先生と話すときは楽しそうだもんね」

 

な、なんという観察力……子供はあなどれないな……あ、俺よりも年上か……そ、そこが問題じゃない!

 

「で、どうなんですか?」

「そ、そうですね、わ、私たちはつ、つ、つきa「おーい!次試合だぞ!」

「ほら!慧音さんが呼んでるぞ!行くぞ!」

「え、でも答え聞いてない……」

「後で聞けるだろ?とりあえず、試合だ!」

 

ダッ!

 

「あ……もう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…ただいま到着しました……」

「そんなに急がなくてもよかったのだが……」

「それより、次の試合の相手の確認をしましょう」

「そうだな。相手は紅魔館チーム、全員手強いな」

「レミリアも出てるんだろ?」

「そうだよ!でも、絶対負けないから!目指すは優勝!」

「おー!」

「ハハ、そうだな、優勝目指して頑張ろう!」

 

「お?前の試合が終わったようだ」

 

 

 

「あうー……霊夢、張り切り過ぎじゃない?」

「ああ、日頃の怠惰な様子と大違いだ」

「むぅ……アリスさんに勝てませんでした……」

「流石、鬼だな、魔理沙はほぼ飾りに等しかったな」

「鬼とは戦いたく無かったのですが……」

「ああ、すまないな、烏天狗」

「いえ、これも勇人さんの裏情報ゲットのためです!」

 

「お疲れ様です、神奈子様、諏訪子様」

「あ!勇人じゃないか、いやー、負けてしまったよ」

「ドンマイです、次頑張りましょう!」

「ああ、お前も頑張れよ?」

「……」

「どうしたんだ?早苗?」

「……妖夢さんは勝ったのに私は負けてしまいました……」

「ハハ!そんなことか!」

「そんなことかじゃないです」

「負けたからって早苗のことが嫌いにはならないぞ?勝敗だけで物事を決めつけるのはアホのすることだ」

「そ、そうですか……」

「ああ、そうさ。ま、とりあえずお疲れ様」

「はい!勇人さんも頑張ってください」

「おうよ!」

 

「ねぇ、フランちゃん。先生ってモテるの?」

「うーん……分かんない。でも、私は好きだよ?」

「ふーん……面白い人だなー」

 

 

 

「続いての試合は、紅魔館チーム対寺子屋チーム!」

 

「ふふ……次こそ勝利して見せるわ」

 

 

「まず、第1戦目 フランドール・スカーレット対レミリア・スカーレット!」

 

「お嬢様!頑張ってください!」

「ご武運を……」

「ええ、必ず勝利して見せるわ。姉より優れた妹など存在しないのだから……」

 

「フランちゃん!頑張ってー!」

「フラン、怪我には気をつけろよ?」

「思いっきり戦ってこい!」

「うん!」

 

うーん……姉妹勝負か……フランドールは力はあるがうまく使いこなせていない感じがするからなぁ……ま、どうにかなるか。

 

 

 

 

「それでは、尋常に……始め!」

 

「いくよ!」

 

そういうと、いきなり弾幕を展開した。吸血鬼なだけあってとんでもねぇ量だな。俺と戦った時よりも増えてないか?

 

「我武者羅に撃っても当たらないわよ?」

 

流石紅魔館の主人なだけあるな、冷静に弾幕をかわしていく。ただ、フランドールもどんどん弾幕を撃ちまくる。もう、景色が弾幕一色に。

 

「こっちもいくわよ」

 

あ、あれは……俺と戦った時にも出した、槍だ。グングニルとか言うらしい。あれって投げたら自動的に相手に向かって飛んでいくんだっけ?あの小さな体とは不釣り合いの大きさの槍を投げる。

 

「ん!?」

 

弾幕に関係なく一直線にフランドールに飛んでく……おい!弾幕に集中し過ぎだ!

 

 

ドガーン!

 

「きゃ!」

 

弾幕に集中していたフランドールを避けれず当たる……んー……もうちょっと周りが見えるようにならないとな……

 

「ふふ……こんなものかしら?」

 

「まだだよ」

「!?な、なんで?」

「先生が言ってたんだ、戦いは油断したら負け。つまり、相手を油断させればいいって」

 

おお!後ろに回り込んでたみたいだ。どうやったのだろうか?もしかして、弾幕を展開してたのは分身か?なかなかやるな、フランドール。

 

「だから……今がチャンスだよね!」

 

一本の真紅のレーザーを放つ。後ろにはもう1人の分身が。なるほど、逃げ場が無いな。よく考えてる。

レーザーと弾幕によって一面が真っ赤に染まる……

 

ドガーン!

 

「やったか……な?」

 

煙でよく見えないな……ただ、あれじゃあひとたまりも無いか。

 

「流石ね、我が妹。でも、まだ私に勝つのは早いわ」

 

な!こ、蝙蝠?

 

「少しダメージを喰らってしまったわ」

 

たくさんの蝙蝠が集まり段々とレミリアになっていく。

 

「でも、ここまでよ?」

 

手にグングニルを持ちそのまま薙ぎ払う。

 

「うぐっ!」

 

辛うじてガードしたようだが、厳しいな……

 

「まだよ!」

 

ここにきて、4人に分身か、数で押そうとするのは焦ってる証拠だな……

 

「無駄よ」

 

弾幕によってあっという間に分身が消される。

 

「うおおお!」

 

肉弾戦に持ち込むようだ。我武者羅に腕を振る。だが、それでは単調な動きのため簡単に避けられる。

空振りした隙に腹に蹴りがはいる。

 

「グフッ!」

 

それでも、立ち上がるが……

 

「もう貴女の負けよ?」

「ぐっ……」

 

グングニルをつけたからてなす術なし……か。

 

「……参ったよ、お姉様」

 

「勝者、レミリア・スカーレット!」

 

 

「うう……負けちゃった……」

「いい試合だったぞ?」

「そうだよ!ナイスファイト!」

「でも、悔しい〜!」

「次は私たちだな」

「うん!フランちゃんのためにも勝つからね!」

「頑張ってね!」

 

「続いての試合は上白沢慧音&古明地こいし対紅美鈴&パチュリー・ノーレッジ!」

 

相手は結構チグハグな組み合わせだな。魔法使いと格闘家。どんな戦いをするのだろうか?

 

 

「尋常に……始め!」

 

「それじゃあいきますよ!パチュリーさん!」

「さっさと終わらせるわよ」

 

美鈴が前にパチュリーが後ろでサポートするような形か。なかなか嫌らしい戦い方だな。

 

「うっ!」

 

美鈴が慧音さんに攻撃をする。やはり、格闘なら慧音さんだと分が悪いな。

 

「先生、今いくよ!」

「そうはさせないわよ」

 

こいしが慧音さんに加勢しようとするがパチュリーさんが弾幕で牽制を入れるせいでできないようだ。

 

「ぐ……」

 

慧音さんも限界が近いようだ。あの距離だと弾幕も撃てないか……

 

「むー……攻めれないよ……」

 

こいしもかなり苦戦してるようだな……パチュリーさんはどうも体の調子がいいみたいだ。弾幕の張り方に隙がない。

 

「……とりあえず、あのハクタクから仕留めようかしら」

 

む、弾幕が慧音さんにも放たれる。同時に2人を狙うとかかなり器用だな。

 

「!?」

 

弾幕が慧音さんに当たる。同時に美鈴の蹴りもはいる。

 

「ふう……あとはあの娘だけですね」

 

「先生!」

「人の心配をしてる場合じゃないわよ?」

 

あちゃー……これは……こいし1人じゃあ厳しいぞ?

 

「それじゃあ、いきますよ!」

「あ!」

 

美鈴の後ろから弾幕が放たれる。

 

「な!まだ立てるんですか?」

「ハハ……流石に生徒たちの前で恥ずかしい姿はみせられんだろう?」

「なかなかやるわね……てっきり平和ボケしてるかと……」

「確かに運動不足は実感してるさ……」

 

ボロボロでも立ち上がるとは……流石です!慧音さん!

 

「でも、寝てもらいますよ!」

「早く終わらせたいしね」

 

2人が慧音さんにめがけて攻撃をする。だが、その2人に弾幕が放たれる。

 

「え?」

「きゃ!」

 

ど、どこから放たれたんだ?あ、あれ?

 

「やっほ〜、ここだよ」

「い、いつの間に、気配を感じませんでした」

「ゴホッゴホッ……や、やるわね」

 

ガシッ

 

「へ?」

 

慧音さんが美鈴の肩を掴む。そして、頭を大きく仰け反らせ……

 

ゴンッ!

 

お、おう……1発KOだと……?

 

「美鈴!?」

「こっちだよ〜」

「はっ!しm」

 

後ろからこいしが弾幕を撃つ。避けれなかったようだ。

 

「む、むきゅー……」

 

なにやら、奇妙な声を出したようだが……でも

 

「勝者 上白沢慧音&古明地こいし!」

 

「やった〜!」

「久々にここまでダメージを喰らったな……」

 

「すごかったよー!流石だね!こいしちゃん!」

「そうでしょう?」

「慧音さん大丈夫ですか?とりあえず救護班のところに」

「ああ……そうさせてもらうよ。次はお前だろ?頑張ってくれ」

「ええ!任せてください」

 

慧音さんは救護班のところに向かう。あ、あの娘は……確か……藤原妹紅だっけ?少し怒ってるようだ。それに慧音さんは笑って返す。

 

 

「先生!次だよ!」

「絶対勝ってね!」

「おう!ま、任せとけ!」

 

次は咲夜さんだろ?うーん……

 

 

「次は碓氷勇人対十六夜咲夜!この試合の勝敗でチームの勝敗が決まります!」

 

 

「頑張って来なさい、咲夜」

「必ず勝利してみせます」

 

「頑張って〜!」

「あ、ああ!」

 

は〜、ヤベェ!勝てるか?

 

「それでは尋常に……始め!」

 

 

 

「始まったね」

「ああ、なんやかんやで私たちは勇人の戦ってるところを見たことが無いからな。今回はじっくり観戦させてもらうさ。ま、早苗が観戦しようと譲らなかったからな」

「その早苗は……食いつくように見てるね……」

 

 

勇人さんはどのような試合をするのでしょうか?紫曰く、

 

「彼、相当パワーアップしてるからね〜」

 

だそうです。彼の悩みも気になりますがこちらもとても気になります!

 

 

「とりま、先手必勝!」

「!!」

 

勇人さんはいきなり銃を撃ちます。服から銃を取り出して撃つまでが早いです!

 

スッ

 

「流石だな、少し動いただけでかわすなんて」

 

「なら、これではどうだッ!」

 

ドンドンドンドン!

 

「このくらい……」

 

集中して撃ってもかわされてます……あの弾幕は相当速いのですが……流石咲夜さんです。冷静にかわしています。

 

「チッ!」

「こっちからいくわよ?」

 

咲夜さんは瞬間移動したかのようにいつの間にか勇人さんの目の前に!

 

「う!?時か!」

 

咲夜さんの蹴りが勇人さんの腹に入ります……

 

「ぐっ!」

 

そこまでダメージが無かったのか勇人さんは上に飛んで距離をとります。

 

「逃がさないわ!」

 

ナイフを投げて追撃しようとしますが難なくかわしていきます。ただ、勇人さんから攻撃を仕掛けようとしません。どうしたのでしょうか?

 

「逃げ回ってばかりね!」

「そろそろかな?」

 

勇人さんが止まりました。なにをする気なのでしょうか?

 

「ほら!来やがれ!」

「そう言うセリフを言うってことは大体貴方の近くに何か仕掛けてるのかしら?」

「流石がメイドさん勘がいいな。しょうがねえ、これでも喰らえ!」

 

ドンドンドンドン!

 

「フン、無駄なことよ」

 

スッ……スタッ

 

バチバチ!

 

「ぐっ!?これは……?」

 

な、なんでしょうか?咲夜さんが避けたらバチバチっと音が……どうやら、咲夜さんに霊力を流し込んだのでしょうか?咲夜さんが動くたびに流れていきます。

 

「もしかして、勇人の『糸』!」

 

バチバチ!

 

「ぐっ!糸の結界!」

 

「チッ!いたるところに!」

「どうだ?触れれば霊力が電気のように流される糸の結界は?まぁ、結界が張られてるのをバレないように霊力は抑えめだから、気絶させるほどないが、お前の体力を削るには十分!」

 

「すでにお前の周り半径20メートル!お前の動きも手に取るように探知できる!そして、くらいやがれ!」

 

勇人さんの体から膨大な霊力が、あれを流し込まれたらタダじゃすみませんね……

 

「知るがいいわ……私の能力を!」

 

「『私の世界』!!」

 

 

 

「これが…私の能力よ。もっとも『時間の止まっている』貴方には見えもせず感じもしないでしょうけど……」

 

プツンップツンッ……

 

「これで終わりよ!勇人!」

 

ザクッザクッザクッザクッ

 

「貴方は自分が負けたことにさえ気づかないわ」

 

「何が起こったのかもわかるはずがないわ」

 

「安心なさい、ここでは死ぬことはないわ。永琳にでも、治療受けなさい」

 

「!?」

 

ブシュッ!

 

「こ、これはっ!」

 

ゆ、勇人さんがナイフでメッタ刺しにされてます!と、時を止めたのでしょうか?

 

「と、時を止めたんだな?」

 

で、でも、勇人さんはまだ立ってます!じ、自分でナイフを抜くとは……

 

「でも、貴方はほぼ満身創痍よ?」

 

咲夜さんが勇人さんの近くに!蹴りを入れる気です!

 

ピタッ

 

「ど……どうした?蹴りを入れないのか…咲夜…」

 

「連続して自分の体に霊力を流し…ガードしているわね」

 

「霊力入り『糸』を高圧電線のように体に巻きつけているのでしょう?」

 

「流石、策士ね」

「それはお互いのようだな……まさか見破ってうっかり触らなかったとは用心深いやつ……」

 

勇人さんの襟から霊力が流れてる糸が見えます。まさか、咲夜さんはあれを見破って蹴らなかったのでしょうか?

 

「まぁ、お前は『時を止める』といってもほんの短い時間しか止めていられないようだな」

「だからどうだというのかしら?」

 

 

「そんなこと知ったところで無駄よ」

 

ビシュッ

 

「これで貴方は負けよ!」

 

ドスッ

 

「!!うぐっグアア!」

 

ドバアッ!

 

「ふふ……リベンジ成功かしら?」

「ぐっ……ハハ、そう言うのは……周りをよく見てから言うんだぜ?」

 

ゆ、勇人さんにナイフが!ち、血が……

 

「!?糸!?切ったはずよ?」

「お前、少し俺の能力、忘れてないか?血さえあれば『不変』化できるんだぜ?」

 

あ!咲夜さんの周りに糸が!血によってはっきりと見えます!咲夜さんを囲うように糸がはられてます!

 

「時よ、止まれ!」

 

「糸を切るしか……」

 

ガチンッ!

 

「!?糸が切れない!?それにビクともしない!?」

 

「時を止めたようだが今は無いぜ」

 

「喰らえ!最大火力の霊力を!」

 

バチバチバチバチ!

 

「きゃぁ!」

 

「あ……が……っ」

 

「グフゥ……俺も少し限界だな……」

 

「勝負あり!勝者 碓氷勇人!」

 

「いてて……ナイフ刺さりすぎ……」

 

 

 

 

 

「先生、お疲れ!」

 

ガバッ!

 

「!!あ、ああ(死ぬほど痛い!)」

「凄いよ!」

 

ガバッ!

 

「……ぐ、そ、そうだろ?」

「こらこら、勇人は怪我してるだろ?ほら、永琳のところに行かせてやれ!

「そうだね」

「なら、フランが連れてく!」

「ああ、頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません……」

「いや、貴女はよく頑張ったわ。あいつが上手すぎたわね」

「能力のことは分かってたはずなのですが……」

「そう悲観にならなくてもいいわ」

「はい……」

「咲夜でも敵わないとわね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いでっ!」

「動かないで、治らないわよ?」

「いや、傷口に直で薬塗るのですか?」

「そっちの方がすぐに効果が出るもの。刺し傷はあと6箇所ね」

「痛い!」

 

 



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第46話 第3戦(守谷神社チーム)の日の青年

「よし、治療完了!」

 

バシィ!

 

「痛い!叩かないでください!」

「大丈夫よ、もう刺し傷は治るわ」

「はい……」

 

この人はよく分からない……まぁ、腕は確かなんだろうが。実際に傷はすっかり治ってる。ただ、どうしても強烈な苦痛が伴うんだよな……すっごく痛い……なるべく怪我しないようにしないとな……

 

「治療費は貴方の血液でいいわ」

「いや、治療費いるんですか!?」

「タダで済むと思ってたの?」

「他の人は何も請求してないようですが?」

「いいから、ほら、採血するわよ」

「えぇ……」

「貴方の血液は面白いからね」

「普通の人の血液でしょう?」

「いいえ、かなり特殊よ?」

「はぁ……」

「というわけで」

「ヒィッ!」

 

注射器持って笑顔で近づかないで!

 

「ご協力よろしくね」

 

アッーーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ひどい目にあった……」

 

試験管2本分て……取りすぎや……貧血用の薬貰ったが、そういう問題じゃないんだよ……てか、俺にだけ治療費請求したろ、絶対。

 

「お?先生発見!直ちに突撃せよ〜!」

「おお!」

 

ガバッ!

 

「ぬぉ!?ふ、フランドール!?どうした?」

「皆が応援しに来てくれたよ!」

 

「お疲れ様です」

「先生はサイキョーだからもちろん全勝でしょ?」

「そうなのだー!」

「あ、ああ……(こりゃあ期待が重いな……)」

「先生、治療は済んだの?」

「ああ、ほらこの通りきれいに治ったさ」

「すごいね!あんなにナイフが刺さっても立ってたなんて!」

「ま、まぁ、一応急所は外れてたからな」

 

だが、もう刺さるのはゴメンだ。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「戦うときは紫さんの都合のいい結界があるから大丈夫だ」

 

本当に便利能力だな。当の本人はつかめないような人だからな。

 

ボー……

 

ん?フランドールの様子が少しおかしいな。頰も赤くなってる。熱でもあるのか?妖怪は人より頑丈だとは言うが病気をしないわけじゃやいだろう。

 

「フランドール?どうした?熱でもあるのか?」

「はっ!い、いや、な、なんでもないよ!」

 

ここまで分かりやすく反応されてしまうとは……

 

「うーん……とりあえず永琳さんのところに行くか」

「だ、大丈夫だよ!」

「そうには見えないが?」

「大丈夫だって!」

「そうだよ」

「ん?こいしまでそんなことを……」

「多分ね、先生から血の匂いがプンプンしてるからだと思うよ?」

「え?」

 

そういえば、服は血だらけだな。ああ……フランドールは吸血鬼だったな。

 

「うむ、なら服を変えないといけないのだが……」

「試合まで時間はあるから取ってきたら?」

「そうだな、そうする」

 

「……ありがとう、こいしちゃん」

「しょうがないよ、先生、かなり血の匂いがしてたからね」

「我慢できないどころだったよ」

「ハハ……(先生、本当に危なかったよ……)」

 

 

 

「あ!慧音だ!」

「慧音先生!」

「おお!皆来てくれたのか?」

「うん!フランちゃんたちから聞いたよ!得意の頭突きが決まったて」

「あ、ああ。ところで勇人は?次の試合は先鋒をお願いしたいのだが」

「勇人先生なら着替えに行ったよ」

「そうか、まぁ、時間はあるから大丈夫か」

 

 

〜試合ダイジェスト〜

 

「守谷神社チーム対妖怪の山チーム」

 

第1戦 射命丸文対犬走椛

勝者 射命丸文

 

「あややや、椛さんその程度ですか?そんなんじゃあ勇人さんにも勝てませんよ?」

「ぐぐ……なんでこの人は強いんですか……」

 

第2戦 洩矢諏訪子&東風谷早苗対鍵山雛&河城にとり

 

「ちょいとばかしギクシャクするがァァァ、この妖力式機関銃は修理完了ォォォ!」

「ちょっと、にとり落ち着いてよ……」

「そして くらえッ!」

 

ドドドド!

 

「前回負けたのに……うぬぼれが強すぎるよ……」

 

「がっ……妖力を使い果たした……」

「え!?な、何してるの!?」

 

「もう終わったかい?」

「全然当たってない!」

「うろたえるんじゃあないッ!河童はうろたえないッ!」

 

「はいはい、分かったから……」

「げ、元気でいいですね……」

 

チュドーン!

 

勝者 洩矢諏訪子&東風谷早苗

 

よって、守谷神社チームの勝利

 

 

 

「博麗神社チーム対白玉楼チーム」

 

第1戦 博麗霊夢対魂魄妖夢

 

ブンッ

 

「くっ……全部避けられてしまいます」

「こっちからいくわよ!」

「あっ!しm」

 

ドゴーン!

 

「貴女には勝利への執着が足りなかったようね」

「ぐぐ……」

 

 

「いや、霊夢の場合は金への執着だろ」

 

勝者 博麗霊夢

 

第2戦 伊吹萃香&霧雨魔理沙対魂魄妖忌&西行寺幽々子

 

「妖夢ぅ……お腹空いたわ〜」

「い、今は試合が優先ですよ!?」

「力が出ないわ〜」

「幽々子様、ワシ一人では厳しいですぞ!」

 

「あのジジイすげぇな」

「流石だね、妖忌は。だけど、1対1が得意な君は少々厳しいかな?」

「何を、このくらい……」

「後ろだよ?」

「な!?しまった!」

 

ドゴォッ!

 

「グフッ!」

「あの状態で受け身を取るなんて流石だね、まぁ、あとは魔理沙に」

 

「マスタースパーク!」

 

「幽々子様!後ろ!」

「え?」

 

 

 

勝者 伊吹萃香&霧雨魔理沙

 

 

 

 

 

 

「やっと戻ってこれた……」

 

何を着てこようか考えたら意外に時間がかかった。流石にジャージはないと思って服を探したが……蓮子の考えてくれたものが1番しっくりくるようだ。

 

「おーい!勇人、次試合だぞー!」

「はい!今行きます!」

 

「お?そういえばお前の私服は初めてかな?しっかりと決まってるじゃないか」

「あ、ありがとうございます」

「先生、かっこいい!」

「そ、そうか?」

「戻って来て早々で悪いが先鋒、頼めるか?」

「あ、いいですよ」

 

もうそろそろ、疲労が来そうだがそうも言ってられない。チルノたちも来てるのだから、頑張らないとな。

 

「寺子屋チームと守谷神社チームは準備をしてください」

 

よし、次も頑張りますか!

 

 

 

 

 

「第1戦目は碓氷勇人対八坂神奈子!」

 

Oh……神奈子様ですか……俺的には文が良かったのだが……遠慮なく戦えるし……

 

「お前か……別に手加減はいらないからな?」

「はい……精一杯戦いますよ」

「それでだが……この戦いで1つ賭けをしてくれないか?」

「はぁ……入信ですか?構いませんが」

「そうじゃない、この戦いで私が勝ったら……」

「勝ったら?」

 

 

 

 

「早苗と結婚してくれ」

 

 

 

 

 

「…………」

 

え、今なんと?

 

「は、はあああああ!?」

「いいな?私が勝ったら、早苗と結婚だからな?」

 

 

 

 

 

 

「諏訪子様、神奈子様と勇人さんは何を話してるんでしょうか?」

「さ、さあ……」

「?」

 

 

 

「そ、それは……少し……「始め!」オイッ!」

 

「いくぞ!」

「なっ!くそっ!とりあえずは戦いに集中だ!」

 

ドッゴーン!

 

「うわっ!」

 

そ、そういえば、神奈子様は御柱を使うんだった!くそっ、当たったらひとたまりもないぞ!

 

「こっちもいくぜ!」

 

銃を……

 

ドッゴーン!

 

「うっ!」

 

やべっ!銃を離してしまった!

 

「ああっ しまっ…」

 

ガシッ!

 

「あっあぶねーっ トリガーガードにひっかかってくれた!ツキもあるっ!」

「その銃はなかなか厄介なものだったな……まぁ、最初からそうくると分かっていた」

 

ニヤリ

 

「ふふ……神奈子、笑ってる。何かあるようだね」

 

「よしっ!運もある!いけるぞ!」

 

この距離なら弾速的にもこちらが有利!狙いを定めて……

 

「あの距離だと勇人さんが有利ですね……神奈子様も用心してるのか御柱をガードに使おうとしてますね」

「まぁ、どちらも飛び道具だからな、いかに距離などによって自分の武器を活かすか…そのかけひきがあるね……」

 

「フルバーストで撃つ!」

 

「撃つか……なら、こっちはあえて『近づく』!」

「これで仕留め……る?」

 

ダッ!

 

「は、速い!?あ、あんな重装備で!?」

「距離があると思って完全に油断したな」

「や、やべっ!撃たないと!」

「遅いっ!」

 

ドゴーン!

 

「うっ!」

 

ズザザザーッ

 

た、態勢が……!

 

「次にどうする?」

 

すかさず御柱かよ!

 

「このまま御柱の餌食になるか、左右どちらかに避けるか」

 

「さぁ!どう動くか!どちらにせよ私の策中の中!」

 

「左右どちらかに身をかわしても弾幕で追い討ちをかけるだろうね」

「ゆ、勇人さんはどうするのでしょうか?」

 

「はぁ…はぁ…」

 

なら、あそこだけだな!よく見て……チャンスは一度だけだ……

 

 

「!?」

「まっすぐ走った!?」

 

「ああっ!」

 

ダダダッ!

 

「お、御柱の上を走ったー!?」

 

「そして このまま撃つ!」

 

「!?」

 

「い、いない!?」

 

「フフ…やっぱり神奈子の方が発想が一枚上手のようね」

 

「なっ!?上?」

 

そ、そうだった……神奈子様は神様だ。空だって飛べるんだった!

くっ!弾幕か!

 

「ふ、服のガードを!」

「遅い」

 

ぐらっ

 

「ぬぉ!?」

 

ドガーン!

 

「あ、あぶねー!」

 

「あいつ、御柱から滑り落ちやがった!」

「ここにきて強運ですね」

 

「この勝負…『運』がある!運も『実力』のうち!」

 

「そして!今は無防備!これでも喰らえ!」

 

ガラッ

 

「御柱は勇人の後ろにある、すなわち挟み撃ちにできるわけだな」

 

ゴオッ!

 

がっ……!三方向から!

 

「終わりだ」

 

グッシャアッ!

 

「グアッ……」

 

ガシャッ……

 

「流石、勇人だったね。二転三転とする面白い戦いだったよ。まぁ、流石に神奈子には敵わないか」

 

「次は早苗たちだろ?準備をしたらどうだい?」

「す、諏訪子様、み、見てください!」

 

「か、神奈子様の腕に!御柱に!」

 

「『糸』が絡められてます!れ、霊力のせいか腕にダメージが!」

「それに、か、神奈子様の様子も変です!」

 

ブツブツ……

 

「な、何が!?」

 

 

「は、ハハハ……また、やらせてもらったぜ……」

 

「お、御柱をまともにくらったはずなのに!い、いつの間に糸を!」

「ゆ、勇人さんが立ってた場所に針が……」

「も、もしかして……御柱を避けるたびに絡ませていたのか!それで、衝撃を減らしたのか!だが、腕はなぜ?」

 

ハハ……腕にも糸を発射する装置はついてんだぜ?針に血さえつけといて発射した後に能力を発動して、こっちに戻るようにすれば……勝手に絡まる!

 

「神奈子様は御柱を中心に戦う。そりゃあ、撃ったまま放置っていうのは……後ろから攻撃するために決まってる!俺としてはその上をいかないとな!」

 

「ま、まさか……こ、こんなこと……」

 

「うーん……神奈子、相当ショックを受けてるな……何千何万と生きてきた神奈子にとって、たった十何歳の人間に知略で上をいかされたからな……」

「だ、大丈夫なのでしょうか?」

「問題ないさ、それだけでメンタルが粉砕するようじゃ神様なんて務まらないさ」

 

「……フフ、人間に虚をつかれるとは……」

 

「だが、神様としてまた、早苗との婚約の約束としてはお前に負けれない!」

 

「こっちだって、生徒を前に負けられねーよ!」

 

糸はまだ絡まったままだ!このまま霊力で!

 

「私からも神力を送ってやろう!」

 

バリバリ!

 

「!?」

 

俺の糸を使ってこっちに流してきやがった!切るしかない!

 

プツンッ

 

「ようやく糸が外れたな」

 

また、御柱か!

 

「そんなの遅くて当たらねーぞ!」

 

「フフ……わかってるさ」

 

ドゴーン!

 

ふん、こんなの……ドゴォッ!

 

「横か……ら?」

 

糸で封じてあるはず……

 

「御柱に気が回ってなかったようだな、能力が解除されてたよ」

 

「戦いながら、能力が解除されるのを待っていた。もっとも、お前は避けるのでいっぱいいっぱいだったようだな」

 

ぐっ……意識してないと発動しないのか……こ、呼吸が……銃は……くそっ、さっきの反動で飛んで行きやがった。レボルバーを取り出すしか……

 

「お前はここから逆転を狙ってくるからな気絶してもらう」

 

ば、バレないように……ち、血は……口から出てるか……

近づいてきた!

 

「今だ!」

「な!?まだ銃を!」

 

「 グフッ!」

 

ぐらっ

 

バーン!

 

「とんでもない方向に飛んでいったね。最後まで諦めないのは流石だけど、やっぱり厳しかったかな?」

 

 

「いくぞ!勇人!」

「ハハハ……行動は不変……俺の思い描いた動きをする……」

「?」

 

バシッ!

 

「う、後ろから?」

「明後日の方向から来るとは考えてなかったろ?」

 

「ゼェーハァーこれで最後だッ!」

「全てを利用して勝利を掴む!」

 

ありったけの弾を撃ち込む。

 

「なっ……!」

 

周りには御柱と弾幕、それも相当な数の。

 

ビシィビシィビシィ

 

「ぐっ……ヤケクソに撃ったな、いくぞ!『ライジングオンバシラ』」

 

ドゴーン!

 

「ハァ ハァ、これで終わりか……」

 

「や、やっと終わったね」

「いえ!あれを!」

 

「ハァ ハァ うぐっ……全部は防げないか……」

「!?」

「またまたやらせてもらったぜ……服の『ガード』だ」

 

「そして!これで終わりだ!」

 

「懐に飛び込んだ!?」

 

右手に霊力を込めて!

 

「オラァァッ!」

 

ドグゥゥッ!

 

「ぐっ……ハ……」

「これで……俺の……勝ちだな……」

 

ガクッ

 

「勝者 碓氷勇人!」

 



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第47話 第4戦(白玉楼チーム)の日の青年

少し投稿が遅れました。WBCの試合を観るとか部活とかで大変で……あい、すみません。


「勝者!碓氷勇人!」

 

「ハァ、ハァ……やったぜ」

 

バタッ

 

「先生ー!」

「勇人!」

 

 

「だ、大丈夫です。疲れただけですから……」

「だが、とりあえず、永琳のところに行け」

「ハハ……そうします……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ……神奈子が負けるとはね、流石勇人だ」

「前よりも霊力が強くなってる気がします」

「やっぱり?まだ成長してるようだね」

 

もうかなりの実力者なのではないのでしょうか?神様である神奈子様まで倒してしまったのですから。確かに純粋なパワーでは神奈子様の方が圧倒的に高いと思いますが……それを覆すだけの知略を勇人さんは兼ね備えてるようです。神奈子様も裏をかくような戦い方をしてましたが、さらにその上をいってましたね。

 

「ハァ……負けてしまったか……」

「お、神奈子 お疲れ」

「お疲れ様です」

「ああ……不甲斐ない試合で申し訳ない」

「そんなことないさ、あれは勇人が相当成長していたから、しょうがないさ」

「成長はしているな、霊力なんか相手を感電させるかのようなダメージを与えるし、肉体強化にも使ってるようだ」

「ほぇ……器用な奴だな」

 

肉体強化は最後のパンチでしょうか?普通のパンチで神奈子様がKOされることは無いでしょうから。どこでそんなことを覚えたのでしょうか?

 

「ただ、早苗との婚約を賭けたのにな……まぁ、ますます早苗のお婿に来て欲しいもんだ」

「そうだねぇ」

「え!?何、勝手に賭けをしてるのですか!」

「別に勇人婚約しても構わんだろう?むしろ、大歓迎だろ?」

「そ、それは……そうですけど……」

 

た、確かに戦っている時の勇人さんはカッコよかったですよ?普段無表情が多い分、戦っている時の必死な顔はいいものです……

 

「ま、あの半霊には負けないようにね」

「え、あ、そ、そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……体がいてー……」

 

神奈子様はやはり強かった。弾幕の量に至っては真っ向策で避けれる気がしない。服でガードしても少々被弾してしまった。それに、知略も長けていて、終始考えていなければならず、とても疲れた。あー……

 

 

「あら?また来たの?」

「ええ……少し寝させて貰えますか?」

「構わないわよ、寝てる間に治療代は貰うから」

「取りすぎないでくださいよ……まだ試合はあるんですから」

「安心なさい」

 

安心できないから言ったんだよ……でも、やはり睡魔には勝てない……横になるとすぐに眠気が……糖分も取っておきたいが、起きてからにしよう。今は寝よう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生いるー?」

「あら、吸血鬼の娘にさとり妖怪の娘じゃない」

「先生は?」

「今は寝てるわよ、静かにね?」

「えー……せっかく試合に勝って褒めてもらおうと思ったのに……」

「彼は度重なる試合で疲れてるのよ、それは後にしなさい」

「じゃあ、先生の所に行っていい?」

「うるさくしないならね」

 

 

「スー……スー……」

「あ、いたいた」

「静かにね、フランちゃん」

「分かってるって」

 

「スー……ん……スー……」

「先生もこんな顔するんだ」

「そうだね、いつもは眠そうな顔してるのにね」

 

「……ふぁぁ」

「フランちゃんも眠いの?」

「うん……眠いかも……私も寝よう」

 

ガサガサ……

 

「え?ちょ、ちょっと、どこで寝ようとしてるの?」

「……?ベッドだよ?」

「そうじゃなくて、先生いるよ?」

「先生、あったかいんだもん、それに落ち着くのよ……」

「でも、先生の、胸の上には……」

「いいの……おやすみ……」

「あー……どうしよう……」

 

「……ふぁぁ、私も眠いや……寝よう……」

 

ガサガサ……

 

「「スー……スー……」」

「ん……うっ……スー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「静かにしてるかしら?って、寝ちゃってるわね……あらあら……仲良く添い寝だなんて、モテモテね」

 

まるで、兄妹ね。これを早苗とかが見たらどうなるのかしら?んー……お疲れだから、バレないようにしてあげないといけないかしら?

 

「すいません、勇人さんはいますか?」

 

とか言ってたら、例の娘が来ちゃったわね……噂をすればなんとやら……ここはご退場願おうかしらね。

 

「いないわよ、他を当たったらどうかしら?」

「そうですか?」

「そうよ」

「いえ、ここに勇人さんがいる気がします」

 

な、何なのよ。どうしてこんなに勘がいいのかしら?

 

「さっきまではいたわよ、でももう出てしまったわ」

「本当ですか?」

「本当よ」

「……」

 

「失礼します、ここに勇人さんはいるでしょうか?」

「……」

 

半霊の剣士まで……何で、この娘達は勇人に関しての事に鋭いのよ?ここで暴れられても困るわ。

 

「いないわよ、他を当たってちょうだい」

「いえ、います」

 

この娘、断言しちゃったわよ。

 

「どうして、そう言えるのかしら?」

「勇人さんの気配がします、向こうですね」

「……あそこで寝てる人がいるのよ、だから入れられないわ」

「その寝てる人は勇人さんですね!」

 

何でそうなるのよ?剣士といい、この巫女といい……

 

「それでは」

「わ、私もっ」

「待ちなさい」

「何か問題が?」

「お疲れなのよ?少しは休ませてあげなさい」

「それなら、私が癒してあげます!」

「いいえ、私が!」

 

「ちょ、ちょっと、待ちなさい!」

 

入ったらダメ……

 

「「……」」

 

「「「スー……スー……スー……」」」

「あぁ……」

 

「……ふっ」

 

少し昔なら、取り乱してしまってたでしょう。しかし、この早苗、慌てません。何故なら、相手は勇人さんよりも年上ではありますが、見た目は完全に幼女。勇人さんに特殊な嗜好は無いはずですから、問題無いです。それにこの娘達の勇人さんに対する感情はきっと異性と言うより、兄や親のような感情でしょう。よって、添い寝も問題ありません。それに、勇人さんの左側は空いています!今がチャンスです!

 

「……何をする気ですか?妖夢さん」

「そのポジションは譲れません」

 

む……妖夢さんも冷静なようです。勇人さんの左側を狙っているとは……

 

「「……」」

 

睨み合いが続きます……少しでも集中を切らしたら私のポジションはありません。

 

 

「……先生、大好き」

「「……」」

 

ん?この娘、さっきなんて?大好き?き、きっと、loveじゃなくてlikeですよね。ま、まさか……ねぇ?

 

「は、ハハ……」

「こ、子供の戯言ですよ」

「そ、そうですよね」

 

「でも、左側は渡しませんよ」

 

くっ、この隙にと思ったのに……流石は妖夢さんです。

 

「ぐぐ……」

「むぅー……」

 

 

「ふぁ……、胸の辺りが重い……って、フランドール?」

 

な、何で?俺が寝てる間に何が?こいしまで……

 

「スヤァ……」

 

気持ち良さそうに寝て……

 

「あれ?早苗に妖夢じゃないか?」

「何をしてるんですか?」

「え?何を言ってるんだ?」

 

ふ、2人とも物凄い黒いオーラを出して……こ、こんなオーラ出せたっけ?

 

「手元を見てくださいよ」

「ん?……フランドールの頭を撫でてるだけだな」

 

いつも被っている帽子は今回は被ってない。綺麗な金髪は指通りもよく、何と言うか……すごく撫でやすい。つい、無意識に……気のせいかもしれないが、フランドールも気持ち良さそうだ。

 

「それが問題なんです!」

「……は?」

「わ、私だってしてもらいたいのに……」

「なんて言った?」

「何でも無いです!」

 

急に怒られたんだけど……妖夢、機嫌が悪いのか?

 

「それよりも、何でフランやこいしと寝てるんですか!?」

「俺も知らない、寝てる時は1人のはずだったが……目覚めたらこうなってた」

「他意は無いんですか?」

「ねーよ」

「……これでロリコンの可能性は無いと……」

 

早苗も早苗でおかしいな……ブツブツと何言ってんだろうか?

 

「もう戻らないとな、ほら起きろ、フランドール、こいし」

「んん……まだ寝てる……」

「私も……」

 

「いつまで頭を撫でてるつもりなんですか?」

「お、そうだな」

「あ……」

「ほら、戻るぞ?」

「むー、なら抱っこして運んで!」

 

「「!?」」

 

「私はおんぶ!」

 

「「!?」」

 

「はぁー……分かった、なら起きるよな?」

「うん、抱っこしたら!」

 

そう言うと、首元に抱き付いてくる。子供って可愛いな。あ、性的な意味は無いからその辺はよろしく。

幼稚園訪問とかあったが、全く懐いてくれなかったり、しまいには泣かれたりしてしまったからな。こう慕ってくれると素直に嬉しい。ん?もっと人と触れ合う努力をしろって?ハハ、そんなことで解決できるなら苦労しなかったよ。

 

「おんぶ!」

「はいはい……」

 

そう言って立ち上がる。2人とも重くは無いから問題ない。むしろ、

 

「勇人さんが抱っこ、勇人さんが抱っこ、勇人さんが抱っこ……」

「パルパルパルパルパルパルパルパル……」

 

この2人だ。黒いオーラがより一層、黒く……このまま呪われそうだ……あと何?パルパルって?

 

「そ、それじゃあ……次は妖夢のチームとの試合だよな?よろしく」

「そうですね」

何だろうか、対応が冷たい。何かしたか?後ろに不穏な空気を感じながら慧音さんの元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慧音さん!」

「ん?勇人か、休憩は済んだか?」

「ええ、お陰で体が軽いですよ!」

「そうか、次の試合結果次第で決勝戦にいけるかどうかが決まるからな」

 

今のところは全勝か……せっかくだし、決勝戦までいきたいな。

 

「で、次はどの順番で出る?」

「フランは先生と出る!」

「だそうだが?」

「構いませんよ」

「なら、それでお願いするよ」

「私は1番に出る!」

「分かった、なら、こいし→勇人&フラン→私の順番でいいか?」

「はい」

「よし、頑張っていこう!」

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「あら、妖夢ちゃん機嫌悪いの?」

「……いいえ、機嫌は悪く無いです」

「もしかして、ちっちゃい娘に嫉妬しちゃったの?」

「そ、そんな訳無いですよ!も、問題無いです!あの娘達は恋愛なんて知りませんから!」

「そうかしら?貴女だって最近まで知らなかった訳でしょ?それに、あの娘達はあんな姿してもう数百年は生きてるわよ?興味無いとは言い切れないわよ?」

「……と、ともかく!次の試合で勝ちましょう!」

「ふふ、そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて!次の試合は寺子屋チーム対白玉楼チーム!この試合の見所はどこでしょうか?紫さん!」

「そうね、あの人と勇人の祖父対孫の試合が見所ね、それに妖忌と組むからどんな感じでくるか楽しみね」

「そうですね!それではまず第1戦目 古明地こいし対魂魄妖夢の試合です!」

 

 

 

 

 

「よろしくね〜」

「よろしくお願いします」

 

この娘は古明地こいしさんと言いましたね。戦闘を拝見したのですが、弾幕は結構強力そうです。ただ、いつの間にか後ろにいるということがあってより一層油断できない相手です。ただ、どうやって気付かれずに後ろにいるのでしょうか?とにかく、彼女の存在を見失わないようにしないといけません。

 

 

 

「それでは、いざ尋常に……はじめ!」

 

 

「いっくよー!」

 

やはり、弾幕からきますか。でも、当てるよりは牽制目的のようです。ここは最低限の防御で一気に攻めます!

 

弾幕が途切れたのを見計らって……!

 

「はっ!」

 

このまま……斬る!

 

「うわっ!」

 

避けられましたか……流石妖怪。運動能力は半端では無いですね。でも……ここから!体勢が崩れた今は畳み掛けるチャンスです!

 

「はあああ!勇人さんにおんぶしてもらうなんて、羨ましいです!」

「え、え!?」

 

私だって!してもらいたいのに!

 

ブンッ

 

「……っ、あれ?いない?」

 

どこへ?少しも彼女を見失ってないはずです!なのに、どこに?

 

「ヤッホー」

「え?後ろ!?」

 

ブンッ

 

い、いない?どこにも気配を感じない?

 

「もしもーし」

「また?」

 

あれ?また、いない……?

 

「ほら、いっくよー」

「わっ!」

 

弾幕!?一体どこから?さっきからこいしさんを認識できない!

 

「ここだよ?」

「え……?」

 

ま、真正面……?気付いた時には遅く、目の前に光る弾幕が一面に……

 

ピチューン!

 

 

「慧音さん、毎度思うんですが急に消えては出てきてとする彼女ですが何の能力なんです?」

「ああ、確か『無意識を操る程度の能力』でな、なんでも自分のことを認識させなくできるらしい」

 

お、おう……ここの生徒はえらく恐ろしい能力をお持ちで……

 

 

 

 

「勝者!古明地こいし!」

「イェーイ!」

「流石!こいしちゃん!」

 

うむ……認識できないということは気配を探るのも無理か……強すぎね?

 

 

 

 

 

 

「く……っ、全くこいしさんを認識できなかった……」

「流石にしょうがないな……」

「師匠……」

「次はワシに任せろ」

「孫と戦うとはのう……まだ若いもんに負けられんな!戦いの年季の違いをおしえてやるわ!」

「『あれ』を頼むぞ」

「ああ、任せとけ」

 

 

「続いての試合は今回の大目玉、勇人さん対その祖父の対決です!」

 

 

「なぁ、勇人」

「なんでしょうか?」

「お前の祖父なんだが、どんな能力なんだ?」

「あー……『神力を宿らせる程度の能力』って聞いてます」

「どんな能力なんだ?」

「うーん……なんでも、神力、まぁ、『神の力』を授けることができるみたいです。されるのはなんでもいいらしくて武器にすればあっという間に神の武器となり、道具にすれば神器となり、人や妖怪にすれば神に匹敵する力を得られるそうです。具体的にどのぐらいまで上がるかは分かりませんが、相当強くなるって聞いてます」

 

ただ、自分1人の場合は恐ろしく弱いらしい。複数の人がいて実力を発揮するそうだ。宿らせる時は意識が少し宿らされる側に集中するらしい。1人だけなので影響は少なさそうだ。まぁ、よく口癖で「わしは1番じゃなくて2番が丁度いいんじゃ」とか言ってたし。

 

 

「それでは第2戦目 碓氷勇人&フランドール・スカーレット対魂魄妖忌&碓氷勇人の祖父の試合をいざ尋常に……」

「おい!俺のじいちゃんの名前は「始め!」おい!」

 

「いくぞ!妖忌!」

「おう!」

 

じいちゃんの手に光が……そのまま妖忌さんに触れる。その瞬間一帯が光で埋め尽くされる。

 

「まぶっ!」

「きゃっ!」

 

「準備完了じゃ」

「ああ」

 

んー?何も変わってないようだが……強いて言うならじいちゃんの手によく分からん文字で埋め尽くされてるぐらい。妖忌さんはあの構えは……居合かな?刀を抜かず、柄に手をかけたままジッとしてる。目は閉じてる。

 

「勇人」

「何ですか、妖忌さん」

 

戦闘態勢は崩さず、返事をする。

 

「ワシはな、今まで修行をしてきた、今回それをお主に見せてやろう。あやつの力を借りて数倍増しでな」

「そうですか、いくら妖忌さん達でも負けませんから!」

「あと1つ教えてやろう、今あやつは久々に能力を使うせいで、能力の使用でいっぱいいっぱいじゃ、まともに攻撃できんだろう」

「そんなこと言っちゃっていいんですか?」

「言ったところでお主らは勝てんからな」

「言ってくれるねえ」

「ところでこの試合、ワシが勝ったら、ワシの弟子になれ。そして妖夢と婚約せよ」

「は、はぁ?」

「わしも許可しとるからな?」

「おい、ちょっと待てよ!」

「こっちから行ってあげる!」

 

フランドールが勢いよく妖忌さんへ弾幕を撃つ。

 

「……」

 

動かない?当たっちまうぞ?

その時、弾幕が急に爆ぜた。何かにぶつかった訳でも無い。空中で爆ぜたのだ。

 

「え?」

 

う、動いてないのに、弾幕が勝手に?

 

「むー……ならもっと!」

 

さっきよりも多い量を浴びせるが、さっきと同じく全て途中で爆ぜる。

 

「うー……」

「な、なんだ?あまり安易に近づかない方がいいな……」

「なら、突撃だー!」

「おい!」

 

ニヤ

 

妖忌さんが笑った!?何かある!近づくのはマズイ!

 

「フランドール戻れ!」

 

チィッ!遅いか!なら!少し悪いが糸で!

 

パシュッ!パシュッ!

 

糸がフランドールの両腕に絡まる、そして

 

「ふん……っ!」

「きゃっ!」

 

思いっきり引っ張る。結果、フランドールは後ろに尻餅をついた。

 

「イテテ……何するの?先生!?」

「不用意に近づくな、胸元見てみろ」

「あ……リボンが切れてる?」

 

ようやく分かった。あれは全部『居合斬り』だ。速すぎて見えるどころか、斬ったかすら分からない。さらにさっき、フランドールがギリギリ斬られなかったところから見て射程は4〜5メートルはある。多分、神力の影響だろうか?普通の居合斬りより射程が長いし、速い。

 

「ふっ、その顔は勘付いたな?」

「ああ」

 

勘付かれても、動じない辺り相当な自信があるようだ。確かにあの速さなら絶対的な防御力を誇るかもしれない。いわゆる『絶対領域』か。下手に突っ込むと斬られるし、何もしないという訳にもいかない。遠距離から撃っても意味が無さそうだ。

 

「フランドール、下がってろ」

「え?あ、うん……」

 

「こっちに来るか……」

 

だが、この居合の餌食になるだけじゃ。これまで伊達に修行してきた訳じゃ無い。この居合は射程距離と範囲がネックだったが、あやつのお陰で神力を刀に纏わせることで解消させた。元々は狭いところ限定だったがここでも使えるものとなった。よって死角なし!今はまだ目に頼らず、気配を感じていこう。

 

さぁ、こい。

 

ダッダッ……

 

残り5歩…4歩…3歩…2歩………1歩!

 

「今じゃ!」

 

……斬った感触が無い?いや、残りの1歩足りていない!?

 

「オラァ!」

 

な!?接近を許した!?

 

ドゴォ!

 

「ぐっ……」

 

一見、勇人が妖忌に1発喰らわせたようにみえる。が、勇人は必ず殴る時は霊力を纏わせ、急所に入れることで1発で仕留める。しかし、さっきは仕留め切れていない。それどころか、急所に入っては無く、霊力もうまく流せていない。よって、少ししかダメージを喰らわせていない。普段はしっかり決まるはずなのに今回は外した、力がうまく入らなかったつまり、

 

「ヤベッ、ビビったな……」

 

とりあえず、距離を取る。全然ダメだったな。まぁ、妖忌さんの射程距離が俺の予想してた通りで良かった。実は最初のたち位置に足から糸を出しておいて、最後の1歩を踏む前に糸を戻して、体を後ろに少し戻す。よって、1歩踏んだけど進んではいない。それにより居合を外し動揺してる間に一撃とのはずだが、不発だったな。

 

 

「大丈夫か?妖忌」

「問題ない、むしろ気が引き締まったわい」

「そうか、なら引き続き宿らせるぞ」

「ああ」

 

 

「フランドールっ!こっちに来てくれ!」

「分かった!」

「頼みたいことがある」

「何?」

 

ゴニョゴニョ……

 

「呑気に話しおって……」

「安心せい、ワシの居合は領域に入った者は必ず仕留める」

「分かっておる」

 

わしだってこやつの居合を見た時はたまげたわい。さらに神力を宿らせておる。さて、どんな奇策で来るか?

 

「さぁ!フランドールやってしまえ!」

「いくよ!」

 

ドガーン!

 

目の前の床に弾幕を撃ち砂煙が舞う。

 

バン!バン!バン!バン!バン!バン!

 

「ふんっ!見えなくたって弾幕は捌けるわい!」

「そんなの計算済みだ!」

 

何かがおかしいのぅ……砂煙なんて無意味、ただ乱射してくるのみ。やけくそになるタイプではないから、何があるのじゃろうか?

 

待て!あの小娘は!?

 

「きゅっとして……」

「なっ!『上』じゃと!?」

「な、カバーできん!」

「あんたの居合の弱点は『真上』だな、まぁ、じいちゃんが弾幕でカバーする予定だっただろうが……気付かなかったようだな」

「ドカーン!」

 

ドカーン!

 

「ぬぐぅ!」

「ぐぬぬ……弾幕を展開じゃ!」

「あはは!」

「ここにもいるよ?」

「な!?分身じゃと!?」

「3対1だね、もう無理だね?」

「ゴホッ、ゴホッ……まだじゃ」

 

スチャッ

 

「流石に詰みだな」

 

妖忌さんに銃をゼロ距離で向ける。じいちゃんはフランドールの分身に囲まれている。

 

「……はぁ、参った……ここまでやるとは……流石策士のよう」

「妖忌の居合を看破するとは……」

 

 

「勝者!勇人&フランドール!」

 





感想やアドバイス、リクエストなどあれば言ってくださるとありがたいです。


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第48話 休憩の日の青年

主人公の確認

碓氷 勇人(16)※諸事情で3年分成長したが事実上は16。てか、見た目があんまり変わってない。

★おうし座 ★O型 ★身長…169センチ(本人は170はあると主張) ★体重…53キロ ★見た目…前述より男性としてはやや小柄。本人もかなり気にしてる。また顔は鼻筋はしっかり通っていて悪く無いはずだが、瞼が少々落ちており死んだ目になっている
★学歴…高校中退(向こうでは死亡のため)
★両親はともに一般人だが祖父は天降りをした元神様 ★瞳の色…黒 ★趣味…読書、睡眠
★好きなスポーツ選手……長谷川勇也(てか、作者のこのry)
★好きなミュージシャン…BUMP OF CHICKEN(これも作者のこのry) ★好きな本…推理小説系 ★好きな色…青や黒
★性格…みんなとワイワイと言うよりは1人で静かに過ごす方が好き。そのせいか、元いた世界では極端に友達が少なかった。本人はそれを少々気にしてた模様。時折、人と喧嘩したくなるようなサガを、持っていたが今ではそうでもない。(前までは影で喧嘩してた) パーソナルスペースは広く取りたい派(おかげで触れられるなどは慣れていない)感情の起伏が無いと思われがちだが、それなりにあると本人は主張。(小さいなどの身体的特徴でいじるとキレる)
★好きな女性のタイプ…スレンダーな方が良い。だが、よくは分からない(積極的な女性とは相性がいい模様)
★能力…物事を不変化する程度の能力




 

様々な難敵達を倒して、我ら寺子屋チームは全勝でこれた。ホント、大変だった……永琳さんがいなかったら確実に死んでる。治療を受けるたびに採血するのはやめてほしいが。

ま、無事決勝進出というわけだから、良かった良かった。決勝戦の前にしばらく休憩時間を取ってくれるそうだ。この間にそれぞれの行動をとるみたいだ。

例えば紫さんや幽々子さん、じいちゃんなどのねんpゲフンゲフン……まぁ、お姉様方はお話をしてるようだ。また、こいしはチルノと達と遊んでいるようだ。爆発や弾幕が見えるのは気のせい気のせい。キットワタシツカレテンダヨ。後は……萃香さんが酒を飲んでまだ暴れてるとかかな?

まぁ、とにかく賑やかだ。疲れないのか?ま、それが幻想郷のいいところなのかなと思いつつある。

……だが、これは少々問題があると思う。

 

「……な、なぁ、妖夢……?」

「何でしょうか?」

 

別に俺が問題を起こしたわけでもない。また、レミリアが俺の血を求めようとしてるわけでもない。そう、何の問題も無いはずなのだ。

なのに、俺には緊張が走る。周りからの視線が妙に熱っぽい。

冷や汗をかきながら、俺の左腕に右腕を絡ませて引っ付く妖夢に言う。

 

「は、離れてくれないか?」

「嫌です」

 

休憩時間なのにちっともゆっくりできない、それどころか常に緊張していて逆に疲れる。休憩なのに疲れるとはこれいかに。

ドウシテコウナッタ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原因は妖忌さんとじいちゃんの試合が終わった後にある。俺とフランドールが勝利をおさめた直後である。

 

「勝った!勝ったよ!先生!」

「ああ!よく頑張ったな!すごかったぞ?」

 

本当によく頑張ってくれた。弾幕によって砂煙をあげた後に俺が注意を惹きつけている間に上空から奇襲すると言う作戦をしっかり理解して実行できた。本当に素晴らしいと思う。

 

「うーむ……負けてしまうとは……」

「ハハ……流石我が孫じゃ!」

「やはりこれは限定的すぎるのがいかんのぅ……まだまだ鍛錬せんとな」

「いえ……見えないほど速い斬撃だけでも十分恐ろしいと思いますが……」

「私もまだ鍛錬が足りないようです……」

「なーに、2人揃って鍛錬ができるとはいいことじゃないか」

「ふっ、そうじゃな」

「まぁ、頑張れよ、妖夢」

「もちろんです!そこに勇人さんが加わってくれると嬉しいのですが……」

「ん?なんて?」

「い、いいえ……」

 

「まどろっこしいのぅ……」

 

 

「むぅー……先生!フラン頑張ったんだよ?もっと褒めて!」

「うん?あ、ああ、本当に良かったぞ?」

「言葉じゃなくて、行動で褒めて!」

「!?」

「そうか……分かった」

 

俺はフランドールの頭を撫でる。

 

「よく頑張った」

「えへへ……」

 

本当に可愛いな……娘とはこんな感じなのだろうか?従姉妹の娘も小さく人懐こくて可愛かった記憶がある。それと近い感じだな。

 

「ーーっ……!」

 

ただ、なぜか物凄い寒いオーラが……あれ?今はほのぼのとしているはずなのに……

 

「次は休憩だったな、チルノ達に会いに行ったらどうだ?」

「うん」

 

その時、フランドールの体が傾く。咄嗟に俺が支えるがフランドールの、顔色が良くない。

 

「おい大丈夫か?」

「ちょっと疲れただけだよ……」

「うーむ……流石に戦い続けて疲れたかな?永琳さんのところに行くか」

「うん、行ってくる……」

「おいおい、無茶するな俺が連れて行くさ」

 

と言い、フランドールを抱き上げる。

 

「あっ?」

「ーーーーっ!」

 

急に抱き上げたせいか少し驚いたようだが、すぐに安心したようだ。俺自体そんなに柔じゃないと思うが、フランドールは物凄く軽い。あんな戦いをしてるとは思えない重さだ。

 

「それじゃあ、フランドールを永琳さんのところまで運んできます。じゃあーーどうした?妖夢?」

「私もまだそんなことしてもらったことが無いのに……そもそも勇人さんから触れられたことなんてほとんど無いのに……しかも、フランさんのような幼い姿の吸血鬼に……やはり、勇人さんはロリコン……いえ、そんなはずは……でも、スレンダーな方が好みだと……」

 

妖夢の方を見ると、妖夢が俯いて何やらブツブツとつぶやいていた。前髪で表情は見えんが刀を持つ手には何故か力が相当入っていた。

一方、妖忌さん達は何か感じ取ったのか、

 

「よ、妖夢?」

「ゆ、勇人、早く運んであげなさい」

 

物凄く動揺していた。

 

「……ギロッ」

「ぬぅ……」

 

珍しく妖忌さんが怯んだ気がした。

フランドールを永琳さんの下まで運んだ後、特にすることが無く、ブラブラとしていた。途中で宿題の丸つけをしてしまおうと思い移動していた途中で、

 

「勇人さんフランさんはもう大丈夫なのですか?」

「ん?妖夢か、特に何の問題も無い」

「今から何をするんですか?」

「宿題の丸つけをしてしまおうとな」

「それなら私も手伝います!」

「おお!それは助かる!」

「それでは行きましょう」

 

さっきの不穏な空気は無い模様。いつも通りの真面目な顔で俺の隣に並ぶ。

どういうわけか、俺の横にピッタリとくっついて。

 

「……………………………んー?」

 

いつも通りなのは顔だけか?行動が明らかにおかしい。妖夢の方をみると、何か問題が?とでも言っているような瞳があった。むしろ問題しかない。

 

「早く行かないと休憩時間終わってしまいますよ?」

「あ、ああ」

 

あれ?俺がおかしいのか?妖夢がおかしいのか?でも、妖夢に限ってそんな……あれ?気のせいか?

混乱しながら移動をした。道中誰にも会わなかったのが幸いだった。

 

1人1人の宿題を見ながらつけ間違いが無いように丸つけをする。少しサボってしまっていたため、溜まっている。最近、チルノのに丸がつく回数が増えたのが少し嬉しい。1人1人の成長を喜びながら丸つけをする俺の左腕に妖夢の右腕が絡まる……

 

「おかしくないか!?」

「勇人さん、急に立つと腕組みにくいですよ」

「それがおかしいんだよ!離れてくれ!丸つけがし辛い!」

「嫌です」

 

即答で拒否された。試合の後にあった不穏な空気がまた出てきた気がした。そして、そのまま今に至るのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くもって何があったんだよ……」

 

丸つけが終わってしまったのだが、未だに妖夢は左腕に絡めている。反対の手で額に手をやる。事態がまだ呑み込めていない。

妖夢の顔を伺うが何も変わっていない。ただ、不満そうな雰囲気を醸し出している。

 

「なぁ……何か気に入らないことでもしたか?」

「……そこだけは分かるんですね」

「流石にそんなオーラを、出しているなら気づくさ」

「なら、自分で考えてください」

 

分からないから聞いたのだが……どうしたらいいのやら。ふと、後ろから声をかけられる。

 

「勇人に妖夢じゃないか!何をしているんだ…ぜ?」

「魔理沙、これは違うんだ。これはだな……あ、あれなんだ!」

「ほほう……ここまでの仲になってるとは……ま、頑張ってくれだぜ」

「だから、違うと!」

「安心しなって、お祝いの品はちゃんとやるからさ」

「一体何を勘違いしとるのだ!」

「じゃあな」

「ま、待て!行くな!」

「……ぐいっ」

「お、おい!引っ張るな妖夢!」

 

弁明も許されず、魔理沙はどこかへ行ってしまった……。

 

「これはマズイ……」

 

魔理沙ですら完全に勘違いをした。数少ない常識人であろう人がだ。他の奴らは絶対勘違いをする。それはどうにか避けなくては……妖夢の奇行ばかり考えていると。

 

「あややや、こんなところに勇人さんと妖夢さんが」

「!?」

 

こ、ここに来て1番会いたくない人に会うなんて……!会いたくない妖怪、射命丸文は俺らの姿を見ると最初は驚いたが、すぐにいいネタを見つけたと言わんばかりに近寄って来た。

 

「あの…だな?…これはだな?」

「ほほう……ついに勇人さんにも進展が……相手は妖夢さんですか……」

「何を言ってるんだ?」

「今はお取り込み中ですね、お邪魔虫は退散させてもらいます」

 

そう言い、どこかへ行こうとする時、振り返って

 

「あ、このこと早苗さんに伝えて来ますね。いや、皆さんに伝えておきますか?」

「おい!それはダメだ!」

 

それではと言いどこかへ飛び立った。ああ……なんということだ……

 

「このままだと皆さんが来てしまいますね」

「の割にはえらく冷静だな」

「まあ、自分が招いたことなので」

「そのせいで俺がピンチなのだが」

 

「……勇人さん、来ましたよ」

「へぇー……早苗を差し置いてねぇ」

「妖夢さん、何をしてるのでしょうか?」

 

戦う時よりも死を間近に感じるとは……泣きたくなってきた。

早苗は明らかに怒っている。諏訪子様も不気味な笑みを浮かべてこっちに向かってくる。

 

「何って、見ての通りですよ」

「それがどういうことかと聞いてるのです!」

「妖夢は奥手だから行動を起こさないと思ってたのにね」

「……何もしないではダメなんです」

 

そう呟くと妖夢はより強く俺の腕を引き寄せる。体は早苗とかに比べると貧相かもしれないがそれでも女性である。女性特有の柔らかさが腕に伝わり、俺の理性をゴリゴリ削る。

 

「あ……ちょ……あかんて!」

「それはずるいです!」

「勇人が変な声出してるじゃない」

「むしろ、そちらの方が好都合です!」

「へ、平然と言うーー

「それに早苗さんは勇人さんと家が近いからいつでもできるじゃないですか!」

「だ、だからって!」

 

「おーい!諏訪子、早苗、こっちに来てくれ!」

 

遠くから神奈子様の声がした。ここに来て救世主が……

 

「こ、今回は譲りますが次からは譲りませんからね!」

 

そう言い、早苗と諏訪子様は神奈子様の元へ行った。

ようやく、静かになったのだが、妖夢は力を緩める気はゼロのようだ。俺だって男である。その悲しいサガかな。いやでも、左腕に神経が集中してしまう。ああ……柔らかいし、温かいな……それにいい匂いもする……はっ!いかんいかん!限界が近いのだろうか?だが、我慢しなければならんのだ!

 

「妖夢、もういいんじゃないかな?俺だって男だぜ?それ以上はあかーー

「おかしくなりそうですか?それでも構いませんよ」

 

トンデモ発言をする妖夢。だが、それは甘い物と言うよりはどこか諦めのあるような感じだった。

 

「何かあったのか?少しぐらい話してくれてもいいだろ?」

「……勇人さんは私と腕を組むのは嫌ですか?」

「??」

「フランさんはいいのに私はダメなんですか?やっぱりロリコンなんですか?」

 

何、訳の分からんことをと言いかけて呑み込んだ。妖夢の目は本気だった。それをテキトーに返すのは良くないだろう。

 

「フランって、試合終わった後のことか?」

「……はい」

「あれはしょうがないだろ?流石に倒れかけているのにほっとくのは教師として許さない」

「分かっています、分かってるんです……」

 

今の妖夢は妖夢らしくない。彼女は真面目でとても真っ直ぐだ。何事にもスパッと迷わず決めれる人だ。真面目過ぎるのがたまにキズだが、それを含めていいことだと思う。でも、今の妖夢は歯切れが悪い。何がそうさせるのだろうか?

 

「ごめんなさい、ワガママをして……」

 

……何がそうさせるのだろうかって……明々白々じゃないか。『俺』じゃないか。彼女は俺にはっきりと好意を伝えた。早苗も然り。しかし、俺はなんやかんやではっきりと答えていない。だが、俺にもはっきりと答えらない訳がある。

だが、妖夢をここまでさせたのは紛れも無い自分だ。

 

「ずっと勇人さんのことを想っています。それは今でも変わりません。それは早苗さんもだと思います。でも、勇人さんはまだ心が向こうに残ったままです。全然こちらには向きません。それがずっと続いてしまう気がするんです」

「妖夢……」

「だから、我慢の限界が来たんです……ですが、いつまでもワガママを言っている場合ではありません。誤解も解いてきます」

 

そう言い、彼女は絡めた腕を解く。だが、俺はその解かれた左腕で妖夢の頭を抱き寄せる。

 

「……え?」

「すまない……ワガママを言っているのは俺の方だ。未だに向こうに未練を残したまま、グダグダしている。多分、これからも俺のワガママは続くかもしれない。だから、このくらいのワガママは許されるさ」

「……誤解されますよ?」

「そうだな」

 

「ただいま戻りましたよって、あああああ!」

「どうした、早苗って……おいっ!」

「あややや!これはスクープですっ!」

「妖夢〜、勇人と進展したって聞いたわよ〜って、アツアツじゃない」

「うむ、妖夢の未来は明るいようじゃ」

「慧音先生!見えないよ!」

「お前達にはまだ早い!」

 

いつの間にかほとんどの人が集合してしまっていたが、その声は様々。少々恥ずかしくなってきた。

 

「勇人さん、顔赤いですよ?」

 

と言う妖夢も赤かったが、その笑顔は優しかった。





勇人の祖父の名前を募集します。日本的な名前でお願いします。


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第49話 決勝戦(博麗チーム)の日の青年(前編)





休憩の時間の一件後、早苗に同じことを要求され、右腕に抱きつかれて妖夢も対抗してより一層抱きつく力を強くさせられたりと大変だった。俺試合があるのに……休みたかった……

ろくに休憩できないまま、決勝戦ってなわけですが、お相手は全勝の博麗チーム。どの試合も圧倒的だったという。なんでも、霊夢さんがやる気MAXでほぼオーバーキル気味に倒してたらしい。萃香さんは鬼な上にその中でも力を持つらしい。魔理沙は実際に見たことが無いので分からん。アリスさんだっけ?そもそも知らないです。

……無理じゃね?いや……戦いますよ?勝つ気で行きますけど……無理じゃね?

 

「先生!絶対優勝するよね!?」

 

や、やめてくれ、その期待の目を、向けないで……

 

「お、おう!あったりまえだ!」

「無理、しなくても良いからな?」

「してませんよ!HAHAHAHA……!」

「……頑張ってくれ」

 

「それでは決勝戦の人達は準備をしてください!」

 

 

「逝くか……」

「うん!行こう!」

「ゆ、勇人さん!頑張ってください!」

「応援してますよ!」

「あ、ありがとう……」

 

プレッシャー……撥ね退けてこそ、漢よ!じいちゃん、見ていてください!漢・勇人、いきます!

 

「決勝戦の試合方式ですが勝ち抜き戦です!全滅させた方が勝利です!」

 

「……は?」

 

勝ち抜き戦……だと……?い、いや……どうにかなるよな……まさかね、1人目で俺の番が回ってくる訳がねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

とか言ってた俺をぶん殴りたい……わっかりやすいフラグじゃないか!露骨に"まさか"とか言いおって……

魔理沙、強すぎだろ……魔法使いとか言ってたけどよ……それでも人間なんだろ?何か補正でもかかってんですかね……

 

まず、慧音さんが行ったのだが……魔理沙は相当弾幕ごっこをやってるようだ。慣れの差で負けた感じがする。ただ、善戦はしてくれたと思う。……ここからが問題だ。2連戦のはずなのに疲れを見せずこいしを倒してしまった。さらにフランにさえもだ。あいつ、本当に人間か?動きは単調なはずなのだが……最後の"マスタースパーク"と叫んで撃つ極太のレーザーの様な物によって負けている。ありゃあ、物凄い火力だな。脳筋なのか?

 

 

「よしっ!このまま私1人で倒すぜ!」

「流石にやられる訳にはいかんな……」

 

着実に戦うとするか。魔理沙の技はどれもタメが大きいものばかりだからな。

 

「始めっ!」

 

「さぁ、いくぜ!」

 

そう言うなり、弾幕を放ってくる。星を基調としていて輝かしいが当たったらひとたまりもない。てか、キラキラしすぎや、目が痛いっす。

地面に着弾すると同時に凄まじい轟音と衝撃が起こる。そのせいで舞い上がった砂煙が視界を悪くする。

魔理沙は空から攻撃する様だ。ま、当たり前っちゃ当たり前か……自分は今まで空を飛びながら戦うというのはあんまり経験が無い。基本的に地面で戦っている。そのせいで空を飛びながら攻撃するのはまだ慣れてない。だが、戦況からして地面にいるのは圧倒的に不利だな……

 

「ほらほら!どんどんいくぜ!」

「くぅっ……!」

 

飛びたいのだが、その暇が無いほど弾幕を撃ってきやがる。着実に当てる気は無いのか?テキトーに撃ってるのだろうが、余計にタチが悪い。予測できないのだ。

あの3人相手しといてどこから元気が出るんだ?ずっと至近距離で轟音を聞いてるせいか耳がおかしくなりそうだ。それに、さっきから何発か掠り始めた。

走っても走っても、避けても避けても弾幕の合間を縫う事はできない。

 

「……っ!しつ……けーな!」

 

雨の様に降りかかる弾幕を避けながら、振り向きざまに銃を撃つ。が、その苦し紛れの銃弾は大幅に外す。流石にその場にじっとしてる訳無いか……

後ろ、見なきゃよかった……物凄い数の弾幕に一瞬心が折れかけた。

その後も何発も撃ったが当たる気配無し。うーん……どうしたらいいのやら……

とか考えてると目の前にレーザーが迫っていた。間一髪で避けたと思ったが、考え過ぎて少し反応が遅れたらしい。軽く肩に当たった。あのマスタースパークでは無い様でそれに比べたら威力は低い様だがかなり痛い。

 

「……チッ!」

 

少しずつ俺を狙う精度が高くなってんのか?幾度も紙一重で避けることが増えてきた。まずいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ!すばしっこい奴だぜ!」

 

一体どんな反射神経してんだ?さっきから全力で弾幕を放ってるのに当たる気がしない。何発か掠ってる様だが決定打に欠ける。少し疲れが来始めたぜ……早く決着をつけないとな!

 

「……っ!」

 

銃弾が頰すぐ近くを通った!?あんなところからか!?少しずつ狙いが定まってきてる様だ。よく撃てるな、あの体勢で。私だってその場に留まっているわけでは無いのだが……

 

あれからどのぐらい経った?未だに勇人は避け続けてる。時折、撃ってるから注意しなければならない。と、考えてたら、勇人の前に弾幕が着弾して砂煙が舞う。動きが止まった!逃すか!一気に集中砲火をする。凄まじい轟音が鳴り、爆風によって勇人が吹き飛ばされた。これで最後だな。

 

「喰らえ!マスタースパーク!」

 

今、あいつは態勢を立て直すので精一杯だ、避けられれないに決まっている!

 

 

避けられれないはずだった、だが、あいつは避けた。あの体勢で。無理なはずなのにと思っていたが、腕に糸が見えた。ああ、糸で引っ張られて避けたのか……それに気づいた時には既に勇人が銃口をこちらに向けていた。避けないと……!

左に避けようとする。が、まるでそうなると分かってたかの様に銃弾は私が避けようとした方向に飛んできた。何発撃った?だが、全て当たっ……た。

 

「勝者!勇人!」

 

「よしっ!とりま1勝!」

 

「大丈夫?魔理沙?」

「んぁ?大丈夫だぜ……アリス」

「そう……あの勇人って人、やっぱり強いわね」

「ああ……」

「しょうがないわよ、流石に4連戦はきついわ」

「ハハ……そうだな」

 

負けた……のか?はぁ…よく見たらまだ勇人はピンピンしてやがる。次の試合の温存していた様だ……手加減されてたのかな……?まだ、勇人ってこういう経験って少ないはずだよな……紫があいつは才能あるって言ってたが本当だな。その辺霊夢にそっくりだな……あー、悔しい!

 

 

「よーし!次もかかってきなさーい!」

「次は私よ」

「……えっと?」

「アリス。アリス・マーガトロイドよ。噂は聞いてるわ、碓氷勇人よね?」

「え?まぁ……そうです。よろしく、アリスさん」

「ええ」

 

……どうしようか。相手は知らない人か。どんな感じなのだろうか。今の所は名前しか分からないからなぁ……

 

「始め!」

 

最初は様子見で!

 

 

「…………!?」

 

に、人形?それもまぁまぁな数。可愛らしい人形であるが、それぞれにスピアや剣をもたせてるあたり物騒だ。もしかして、全部操作するわけじゃ無いよな?

全部操作する様だ。あっという間に囲まれてしまった……

 

「これで終わりじゃ無いわよね?先生?」

「先生って……生徒じゃないでしょうに」

「いいじゃない、ほらここからどうする?」

 

彼の名前は結構知れ渡っている。私も魔理沙や里の人達を通して既に知っていた。相手が私を知っているわけでは無さそうだけど。

魔理沙曰く、

 

「霊夢に似た様な奴」

 

だそうだが、全然似てないと思う。あっちは毎日ダラダラしていてまともに巫女としての仕事をしてるのは数えれる程しか見たことがない。それに対してこっちは教師という役職についてしっかりと仕事をしている。里の子供達に聞いたが、彼の授業は分かりやすいそうだ。あとは、レミリアを倒したとか、妖夢と一騎打ちで勝ったとか戦いの面でも評価が高い。

ただ、はっきり言って本当に強いのかが分からない。頭は切れるのだろうが純粋な力が本当に強いのかと疑問に思う。だから、これを機に確認したいわ。という訳で、一斉攻撃。

 

「……っ!?」

「ふふ……」

 

さて、どうするかしら?彼のお得意の糸はまだ使ってない。

 

「……はっ!」

 

彼が声を出すと同時に周りの人形が全て吹き飛んだ。ふーん……霊力を衝撃波にしたのね……

 

「撃ち抜かせて貰うぜ!」

 

あれが噂の銃……霊力を銃弾にしてるのよね。

と思ったら、乾いた音と同時に1つの人形の腹に小さな穴が空いた。あ、危なかったわ……相当速いわね。銃弾が飛んできた方の穴は小さいが貫通した後の方の穴は大きくなってるってことは相当回転もしてるのね。殺傷能力も十分と……

もう、これくらいでいいかしらね。彼のことはある程度分かったし。霊夢よりは弱いと思うわね。やっぱり、頭でっかちかしら?

 

「……なぁ、手加減してるだろ?」

「あら、どうしてそんなことを?」

「わざわざ間を持って攻撃してくるとか普通しないだろ?それだけ自信あんのか?」

「どうかしらね……」

 

な、なかなか鋭いじゃない。ま、まぁ、もう手加減はしてあげないけどね!

 

「……今本気出すのかよ」

 

人形による攻撃を止め処なく続ける。うまくさばいてる様に見えるけど、必死に作戦を考えてるのでしょうね。攻撃に転ずる気配を見せない。

と1つの人形が彼の足を掬った。態勢を崩したわね。畳み掛けてしまいましょう。

一斉に彼に攻撃する。が、その攻撃した時の音はとても人に攻撃したとは思えない固いもの同士をぶつけた高い音が鳴った。

ど、どういうことかしら?よく見ると、人形達が持っている武器全てが壊れてた。まるで固いものを殴って壊したかの様に。対して勇人は態勢を崩しかけた姿勢のままだ。崩しかけた姿勢のまま?あんな態勢取れる訳ないでしょ?こける途中の姿勢を止めれない様に、態勢を崩す途中で止めることなんてできるわけがない。でも、彼は止まっている。宙につらされたかのように。

はっ!こ、これが彼の……『能力』……!

で、でも、あの人形全てに火薬が入っている爆破すれば……ん?勇人は何をしているの?試験管なんか持って……なんなのあの赤い液体は……銃口に流し込んで……撃ってくる!?爆破させるしかないわね!

彼は天に向かって銃を撃つ。な、何がしたいの?とりあえず、爆破……を……?爆破でき……ない……?いや、爆発音はしたはず……でも、人形の様子は全く変わらない。あれ?

 

「あれ?と思っただろ?」

「ふぇ?」

 

え?いつの間に!?額に銃を突きつけられる。

 

「チェックメイトだ、そもそもお前も動けんがな」

「え?あ……」

 

動けない……!な、何をしたの?厳密に言うと服が動かない。柔らかいはずなのに鋼鉄の様に硬くなってる?

 

「降参だろ?」

「……っ、分かったわ、降参よ。……何したのよ?」

「服をよく見ろ」

 

え?服をよく見ろ?あ……霧状のものを被ったかの様に赤い液体が付着してる……人形達も同じ様だ。こ、これが噂の『不変にする程度の能力』なの?

 

「あちゃー……アリスも負けたか」

「ご、ごめんなさい」

「まぁ、霊夢がいるしもう勝つだろう」

「そ、そうね」

 

もしかして、彼もまだ本気を出したことが無いんじゃあ……



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第50話 決勝戦(博麗チーム)の日の青年(中編)

「……はぁ、やっと2人か」

 

なかなか体力がきつくなってきた。2連戦でもこの疲労。あと半分持つのか?

 

「次は私ね」

 

ーーー紅いリボン、紅白を基調とした衣装、その衣装はなぜか脇の部分は開いており、袖がどうくっついてるのか分からない。そして、手にはお祓い棒を持った巫女ーーー博麗霊夢が次の相手だ。

 

「お手柔らかに頼みますよ?」

「女の子にそういう要求するの?」

 

普通の女の子にならしないな。普通の女の子にはな。だが、目の前に立つ巫女さんはこのカオスな幻想郷でもパワーバランスを保つ存在、数々の異変を解決もしている。どこに"普通"という要素があるのやら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

今は集中だ。周りの人達の歓声やざわめきが少しずつ聞こえなくなる。今は目の前に立つ霊夢だけを見据える。

 

 

 

「なぁ、今回やけに霊夢やる気あるんじゃない?」

「ああ、優勝したあかつきには大金が手に入ると言ってあるからね」

「現金なやつだぜ」

「むしろ、やる気が無くては困るよ。私だって今回の戦いには興味があるんだから」

「むぅ……そうなのかぜ」

 

 

 

 

 

「さて、次の試合はどう思いますか?紫さん」

「さぁ〜、私にも分からないわ。でも、面白くなることだけは確かね」

 

 

 

 

うーん……この娘はよく分からない。臨戦態勢をとってるのは分かる。が、どこか違和感を感じる。なんていうのか……この娘には闘志とか敵意とかいうのを全く感じない。いつも通りの自然体なのだ。どんな人でも戦う時は殺意やら敵意やらを持つのだが、霊夢からは一切感じない。むしろ、無気力にも見える。

 

「……めっ!」

 

んぁ?なんか聞こえた……

 

「ぼーっとしてる場合?」

 

やべっ!考え過ぎた!

が、気づいた時にはもう遅かった様だ。霊夢が術を発動したことに反応が遅れた。

 

「神技『八方鬼縛陣』」

 

うっ……う、動けない……雁字絡めに拘束されて微動だにできない。ああ……やっちまった。集中したのが仇になるとは……やはり、その辺は流石に見逃さずに拘束、確実に倒しにきてるな。

 

「宝貝『陰陽鬼神玉』」

 

と宣言すると同時に詠唱を始める。霊夢の上に巨大な陰陽玉が生成され始めた。成る程、動けない間にため系の大技で確実にと……やるじゃない(震え声

あの技は本来は隙の大きい技だろう。多分、弾速も速くないはず。とは言っても、今は身動き1つできやしない。まさに八方ふさがり、どうしようもないな。まさに将棋でいう、王将のみの状態。完全に詰みだろう。

 

ま、普通の王将ならな。なら、その王将が全ての方向に無限に進めるなら?どこにでも自由に動けるなら?それなら、少しは勝機があるはずだよな?俺は普通の王将でいるつもりはない。

 

 

霊夢が詠唱を終えた様だ。見ればこれまで見た弾幕の中で比べようがない程の巨大な陰陽玉が投擲された。はたから見ればほぼ絶望的。だが、打開策が俺にはある。タイミングさえ合えば絶対に打開できる……!

 

目の前に陰陽玉が迫る。5メートル……4メートル……3メートル……2メートル……1メートル!

 

「カァッ!」

「!?」

 

迫る陰陽玉を勇人は凝視する。

 

ドゴーン!

 

「おお!これは勝ったのぜ!」

「あら、意外とあっさりね」

 

「……まだよ」

「は?何を言って……」

 

魔理沙は慌てた。なぜなら、目の前には全くもって無傷の勇人がいたからだ。

 

「お、おかしいぜ!あいつは拘束されて微動だにできないし、糸も仕掛けてない!能力だって、どこにも血をつけてないはずだぜ!?」

「ねぇ、必ず"血"をつけないとダメなのかしら?」

「え?あいつはそうだっていってたし、実際に今まで能力を発動する時は必ず血をつけてたぜ」

 

「ど、どういうことなのでしょうか?紫さん!?」

「そうねぇ……よく分からないけど彼も成長したってことじゃないかしら?」

 

 

「貴方の半径1メートルぐらいに何か発動させてるのかしら?」

「ご名答、ホント勘が鋭いですね」

「勘も何も、貴方の周りの地面だけなんでも無いならそう疑うでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「能力なのかしら?」

「そうだ」

「"血"は必要無いのかしら?」

「俺も少しは成長したんでな……俺の半径1メートルぐらいまでなら空間ごと『不変化』できる。その空間では俺の許可したものが不変化され、それ以外は消滅、外部からの干渉は不可、物理的にも精神的にもだ(もっとも、せいぜい2秒ぐらいしかこの空間を生み出せないがな)」

「ふーん……でも、長続きがするわけでは無いのかしら?」

「……さぁ」

「表情が変わらないわね」

 

先程の空間で拘束していた『八方鬼縛陣』は消滅している。つまり、動ける。そして、懐から二丁の自動拳銃を取り出し霊夢に向ける。

そして、銃に許容の限界まで霊力を込める。これにより、グレネードランチャーの如くの威力をもつ弾幕を高速で放てる。

 

だからと言って霊夢も突っ立てる程馬鹿じゃない。持ち前の勘で危機を感じ取ったのか結界を咄嗟に作り出す。

 

それに構わず、霊夢に狙いを定め……

 

ドンッ!ドンッ!

 

今までの乾いた軽い音では無く、野太い音が鳴る。それだけの威力を持っているのだ。無論、勇人にも反動があるわけで

 

「……くぅ!」

 

腕に相当きたのだろうか、震えている。

撃ち出された、弾幕は高速に飛んでいき、それでもって高速回転もしている。1発目が当たるといとも容易く、結界は破壊され、もう1発の弾幕が霊夢に目掛けて飛んでいき……

 

ドゴーン!

 

強烈な轟音とともに霊夢に直撃した。

 

「おいおい……あの弾幕相当強力じゃないか……人に着実性が大事とか言っといて……」

「あ、あいつ、そ、相当な霊力持ってるんじゃないの?」

 

「おーっと!これは決着がついたのでしょうか!?」

「能力だけじゃないのね……成長したのは」

「これは勇人さんの勝利でしょうか?どう思います、紫さん?」

「そうねぇ……確かに勇人は成長したけど……」

 

そう言うと、視線をある所に向ける。そこには……

 

「あっ!」

「!?」

 

傷1つ付いていない霊夢がいた。その姿は半透明になっている。

 

「おお!そうだったぜ!霊夢には『夢想天生』があったのぜ!」

「にしても、相変わらず勇人の顔は変わらないわね。焦ってもいない」

「ホントだぜ」

 

「……冗談だろ?」

 

当の本人は相当驚いている。が、いたって頭は冷静だ。

 

 

「ね?伊達に博麗の巫女をやってないわよ、あの娘は」

「さ、流石ですッ!」

 

 

「どうかしら?貴方が私に能力を教えてくれたから、一応貴方にも話すわ」

「そうかい、ありがたい話だ……」

「今の私は現世の理から完全に『浮いて』いるわ、すなわち、どんなことも無視してすり抜けられるのよ」

「ハハ……ほぼ無敵じゃねぇか……」

「こっちもお金をかけてるからね、本気でいくわよ」

 

「さぁ……どうするかしら?霊夢は貴方と同じように理から外れる者。貴方の場合は『絶対』ということで、霊夢の場合は『浮く』事で外れる。どう対抗するかしら?」

 

 

「(無敵かよ……これじゃあ策も通じないんじゃぁないのか?…………どうする?)」

 

悩む勇人に対して霊夢は再び詠唱を始める。すると、霊夢の背丈程の陰陽玉が無数に生み出され、勇人に目掛けて放たれる。

 

「おいおい!シャレになんねぇよ!」

 

遂に地上だけでは限界と感じたのか、勇人は空へと逃げる。膨大な量の弾幕を掻い潜るながら避ける。が、多過ぎる、多過ぎるのだ!

 

シュッ……

 

「……っく!」

 

脚を掠ったようだ。掠っただけなのに鋭く熱い痛みが!ふざけんじゃぁねぇぜ!1つ1つ狙いが正確でこの量!しかし、今は目を閉じて悠長に構えてやがる……っ!つまり、チャンスでもあるんだな!

あの弾幕、常に放たれているわけでは無い!『切れ目』があるッ!そこをつくしか無い!そして、それは……

 

「今だ!」

 

勇人は陰陽玉を掠りながらも霊夢へ突っ込む。

 

「喰らえッ!」

 

先程と同等の威力の弾幕を撃つ。

 

ガッ!

 

「……は?」

 

だが、それは爆発も貫通する事もなかった。無論、霊夢もなんとも無い。放たれた弾丸は霊夢の手で掴まれていた。

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

う、受け止めたあ!?あの弾丸は高速スピンもしてんだぞ?それを素手で受け取れるのか!?ありえねぇ!ありえねぇ!

 

 

「お、あいつ動揺してるぜ」

「流石に素手でキャッチされたらねぇ……」

「こりゃあ、珍しいぜ」

 

 

「は?は?な、ナンデ!?」

 

お、落ち着け!ま、まだ、敗北が決まったわけじゃ無い!冷静に!クレバーにいくんだッ!とりあえず、接近だ!話はそれからだ!

 

「来るわね」

 

勇人は向かって来るようね。動揺はしていたがすぐに平静を保ったようね。真っ直ぐ向かって来るようだが、必ず策があるわ。とは言っても、何も意味ないけど。どうせなら、肉弾戦に持ち込もうかしら。

 

「!?」

 

れ、霊夢も向かって来やがった……近距離に自信があんのか?だが、とりあえず、先手は俺がもらう!

 

「オラァ!」

 

青く光る霊力を右腕に纏いながら、霊夢に殴りかかる。

 

スッ

 

「やっぱりか……」

 

空振りしたな……予想通りか……反撃がくるから下に降りて……

 

「!?」

 

ガアァン!

 

「あ、危ねぇ!」

 

お、音も無く拳が来たぞ!?そ、それに、地面がこんなに抉れる程のパンチって……どこにそんな力があるんだよ!

 

霊夢は空振りしたもののすぐに次への攻撃をする。それに対し、勇人は避ける一方である。

 

 

 

「紫さん、勇人さんは避けるだけですが、それでも避けるのさえ一苦労な感じがしますがどういう事でしょう?」

「そうねぇ……勇人って、攻撃を『読む』でしょ?つまりは相手の考えを『読む』という事。それに対して霊夢はただ『勘』で攻撃してるのだから、読めないんでしょうね。だから、その場の反射で避けるしかない」

 

 

 

「……ッ!……くぅ!」

 

少しずつ限界が……

 

「隙あり!」

「しまっ……」

 

ベキィィ!

 

「グガァ……」

 

か、辛うじてガードできたが……なんだ?この威力は……!痛みで気を失いそうだ。

 

ガヅンッ!

 

重い衝撃が勇人の脳天を貫く。霊夢の踵が勇人の後頭部を捉えていた。

 

「ガッ……」

 

景色が歪む。平衡感覚が失われ、真っ直ぐ立てない。の、脳震盪起こしたか?

 

 

「よしっ!勇人に攻撃が入った!」

「流石にあれはきついわね……」

 

「「先生ー!」」

「勇人さん!」

 

 

「あ……ガッ……ァァア……」

「まだよ?」

 

ドギャッ!

 

「グフッ……!」

 

は、腹に……ち、力入れてなかった……こ、このままだと、意識が……飛ぶ……

 

そのまま、勇人は膝をつき……

 

「勝負あり、ね?その辺の妖怪よりは骨があったわ」

「ナイスだぜ!霊夢!」

 

「GUGAAAAAAAAAAAAAA!」

 

「なっ!まだ立てるの……よ!?」

「な、何してるん……だぜ!?」

 

「せ、先生……」

 

周りがどよめく。なぜなら、勇人は自分自身の右手をナイフで突き刺していた!そして、わざわざナイフを動かして痛みを増幅させている!

 

「はぁー、はぁー……こうしてないとい、意識が飛ぶんでね……」

「頭がおかしくなったのかしら?」

「オラァ!」

 

ナイフをで刺した右手で霊夢に殴りかかる。それを霊夢はかわさず、『掴んだ』。

 

「いい加減やめたら?それとも頭が狂っちゃったかしら?」

「ハハ……俺の頭は平常だ。なんなら、証明してやろうか?」

 

「あんたが弾丸を素手で受け止めれたのは、外部からの『エネルギー』を受けないからだ。だから、相当な運動エネルギーを持つ弾丸も簡単に受け止めれる。また、そのパワーは反作用を受けないからだ。もの同士の衝突には必ず作用と反作用があるが、あんたの場合はそれが無いからな、見た目以上のパワーを出せるわけだ」

「……そう、だから?」

「はっ、ということはあんたはほぼ無敵だな。その状態のあんたには敵わないよ」

「なら降参?」

「ハハハハ!降参?面白い冗談だな」

「やっぱり頭がおかしくなったわね」

 

「……別にその状態のあんたには勝てないだけであって、その状態では無いなら、十分に勝機がある」

 

「今、あんたは俺に触れている。あんたの方から触れている」

「だから?」

「あんたの手を見てみろよ」

「はぁ?何を言って……!!」

 

ま、まさか、狙いは!

 

「ようやく気付いたようだが……もう遅い!」

 

「ああっ!」

「れ、霊夢の身体の色が……」

 

半透明だった霊夢の色が元に戻る……それはすなわち『夢想天生』が解除されたことを示す。

 

「『外部』からの干渉は不可能だ。だが、『あんた』の方から触ったからな、『あんた』の方から『血』に触れたからな!」

 

「それにッ!ここでいう『外部』とは理の事!俺の能力は理から外れている。つまり、あんたと同じ土俵ということ!だから、俺の能力はあんたに干渉できるッ!」

 

「な、な!」

 

「そして!あんたが理から浮いている存在なのなら、無理矢理その逆である存在に引っ張ればいいーーーつまり、あんたが『理にある存在』であることを不変化すればいい。今、あんたは理から浮いた存在では無い」

「な、何を……!」

「次にあんたは『それでも今のあんたに負ける気はしないわ!』と言う!」

「それでも今のあんたに負ける気はしないわ!……はっ!」

「分かんねーのか?既にあんたは俺の術中なんだぜッ!」

「う、動けない?服には血がついていないはずよ?」

「忘れたか?半径1メートルは血が無くても不変化できるってもっとも時間がかなり伸びたがな」

「くっ……」

「それでも限界なんでな!これで終わらせる!」

 

掴まれた右手から大量の霊力を流し込む!

 

ビリビリッ!

 

「キャアア!」

 

霊夢はプスプスと煙を出しながら倒れる。

 

「流石にここまでは勘が回らなかったようだな……策士っていうのはどんな時でも常に策を練ってるんだぜ……」

 

 

 




少々無理矢理な理論を挟みましたがご了承ください。


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第51話 決勝戦(博麗チーム)の日の青年(後編)

「はぁ……はぁ……」

 

れ、霊夢をなんとか倒せた……が、はっきり言ってもう限界が近い。しかし、次のお相手は伊吹萃香。ただでさえ、鬼という規格外の力を持つ相手である。その上、『山の四天王』とまで言われ恐れられた存在だ。もう、勝てる要素が無いんじゃないか?生徒に申し訳ないがもう無理だ。

 

「おっと……」

 

足元もふらふらだ。霊夢の攻撃が相当きている。特に踵落としがきいていて未だにグワングワンしていて気持ち悪い。吐きそう……

 

「いや〜、さっきの戦いは素晴らしかったよ」

「ど、どうも……」

「もう限界だろ?」

「そう……ですね」

「しかしなぁ〜、私もねさっきの戦いでさ、あんたともっと戦いたくなったんだよ」

「も、もう無理……」

「見たら分かるよ。立っているので精一杯だろ?流石に満身創痍の者を痛めつける趣味は持っていない」

「な、なら降参して……も……いい……だろ……?」

「残念ながら降参は受け入れれない」

「な、何言ってんだ……?」

「そこでだ!この永琳特製の薬をやる。それを飲めばどんな傷でも1発で治り疲労もぶっ飛ぶってやつだ」

「い、いや、休みたい……」

「ほら飲め」

「ちょ……」

 

どうにか薬を飲むのを避けようとするが、相手は鬼。パワーでは勝てないわけで……

 

「ほら、水が無いな……酒でいいか」

「ゴボッ!……ゴクン……ゲホッゲホッ!」

「よし!これで治ったろ?」

「冗談じゃねぇぞ!」

「うんうん、効果はバッチリのようだ」

 

確かに身体が軽くなって痛みも消えたがそういう問題じゃ無いんだ……肉体的な疲労じゃなくて、精神的にもうキツイんだよ!

 

「よし、それじゃあ早速始めようか……!」

「あぁ!もう!ならやってやろうじゃないか!!」

 

お!やる気になったかな?ヤケクソに近いようだがむしろそっちの方が都合がいい。さぁ、どんな風に楽しませてくれるかな?

と思ったが別にヤケクソでは無いようだな。演技か?あいつの足が一歩下がる。鬼を騙すのはまだ百万年は早いッ!

 

「さぁ、いくぞ!」

「弾痕『バレットホウル』!」

 

こちらから向かうとすぐに弾幕を張った。避けるが、弾幕は向きを変えてこちらへ向かってくる。成る程、自動追尾か。

肝心の勇人は背を向けて距離を取ろうとしている。

 

面白いね……大技でも繰り出す気かい?でもね……

 

「こんな弱っちぃ弾幕、私には効かないよ!」

 

追跡してくる弾幕を私が霧へと変化することでかわす。弾幕同士ぶつかって爆ぜる。そして、私はあいつの真上で再び実体化。

 

「なっ……!」

「酔夢『施餓鬼縛りの術』!」

 

空中で驚く勇人に向けて一気に鎖を伸ばし、投げつける。

 

「!?」

 

すぐさまガード態勢をとる勇人だが、狙いは攻撃じゃ無いんだよ。

 

「うおっ!?」

 

鎖は勇人の右腕に絡みつき、ゴキリと鈍い音と共に右腕を縛り上げる。

 

「……くっ!」

 

そのまま、勢いに任せて勇人ごと鎖を振り回そうとする。勇人も力を込めて対抗しようとするが、鬼が力勝負で人間に負けるわけがない。勇人を地面に叩きつける。

 

「グガァ……!……くっ!」

 

叩きつけられながらもまだ私の姿を捉えている。腕に力を込め始めたようだ。

 

「残念ながら『施餓鬼縛りの術』は霊力吸収の効果があってね、お得意の霊力の流し込みはできないよ」

 

今の攻撃で右腕を潰した。さらに霊力もある程度奪われた。さてさてこっからどうくるのかい?

 

「鬼符『ミッシングパワー』!」

 

そう言うと同時に私の体は巨大化する。周りの被害も考えてそこまで巨大化できないが十分だ。

握った拳は勇人の背丈に匹敵しそうなぐらいだ。

 

「さぁ!どうする!?このまま潰れてしまうかーーぁ!」

 

その拳を振り上げ、振り下ろし、勇人の目の前まで迫る瞬間、俯いていた勇人の顔が上がり、目を見開いた瞬間

 

ガゴーン!

 

その拳は勇人にぶつかることは無かった。拳は勇人の1メートル程目の前で止まっていた。まるで壁ができたかのように。

 

「ガアアア!」

 

反作用によって右手が……!こ、このぐらいなら、すぐに直せる!

 

「こっちを見ろーッ!」

 

勇人がこちらに銃を向け、既に引き金が引かれていた。そのまま、弾丸は眉間にめり込み……

 

「目閉じないと知らないぜ」

 

ピカァ!

 

目の前が光一色に……!

 

「ぐぅ……!」

 

何も見えないッ!くそッ!どうにか霧に変化して、飛んできているだろう弾幕をかわす。鬼が一方的にやれているとわねぇ……でも、流石にメンツというのがあるからな!

未だに霞む目を無理矢理見開いて、勇人の姿を捉える。その辺だな、そして、口に酒を含み……

 

ボワッ!

 

辺り一面が炎の海に包まれる。避けれる場所など無い。

 

 

 

 

姿を元に戻す。辺り一面、焦げてしまっている。

 

「いやぁ、流石だね」

 

一箇所全く燃えた形跡が無い。そこには服が宙に浮いており、そこからどこも火傷した形跡な無い勇人が現れる。

 

「人間がここまで楽しませてくれたのは霊夢以来か?」

 

問いかけてみるが全く反応しない。何か仕掛けてるのか?

と、その時、勇人はポケットから素早く銃を取り出し連続で撃つ。

 

「危なっ!」

 

間一髪で霧に変化し、弾丸を避ける。不意打ちとは、そういうのは好きじゃないね。

霧の状態のまま、弾幕を放つ。霧の状態では

向こうからは全く攻撃ができない。

兎に角逃げ回る勇人。何か策でもあるのかい?

 

「また、『糸』を張っているな?残念ながら既に切らしてもらったよ」

 

腕と足元を確認する勇人、糸が切れてることに気づいたらしい、驚いた顔をする。

 

「何度も同じ手は喰らわないさ!」

 

逃げ惑うだけか?もう終わりか?と、懐から何やら試験管みたいなものを取り出す。また、同じ手でも使う気か?

 

「グビッ……」

「は、はぁぁ!?」

 

あ、あいつ、血を血を……飲みやがった!?な、何を考えたんだ?すると、勇人は上空にいき、口に入れた血を私がいる霧に向けて吹き出した!な、何を考え……て……!

 

「喰らえ!」

 

ま、まさか!狙いは!

 

ボッ……バグォォォォン!

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……流石に今のは効いただろ。元々『血』って霊力を流しやすいからな。それを霧状にして、ばら撒いて霊力による爆発を行えば一気に粉塵爆発が起きるわけよ。さらにあんたは、霧状になっていて広範囲に存在しているが故に全ての爆発を受けてしまう。ひとたまりも無いよな」

 

鬼であってもきついだろう。これで終わりか?と思っていたら、目の前に霧が集まり萃香が実体として出てきた。その姿はボロボロである。が、その間に宿る闘争心は全く衰えるどころかむしろ増したようだ。

 

「流石鬼って言ったとこ……」

 

頭に鋭い衝撃が駆け抜ける。

 

「ゴフッ……」

 

なんとか踏み止まる。額に痛みが走る。そして、生暖かい感触が……血がながれている。

萃香の方を見ると手には鎖が伸びていた。

 

普段なら反撃に転じただろう。だが、それができない。動くこともできない。策を弄することすらできない。

 

萃香は睨むのみ。

 

それなのに俺は何もできない。

 

膝が笑う。歯が噛み合わない。何もされていないはずなのに貼り付けられたかのように動けない。

 

ま、まさか、今、俺は『恐怖』してるのか?俺がか?

 

 

「ふ……今、あんた、『恐怖』しているな」

「何を言ってやがる……」

「別に恥ずかしがることは無いさ。今の人間が忘れてしまった鬼に対する『恐怖』を思い出しただけだよ。弱き者が強き者を恐れる、当たり前のことだろ?」

「……俺は弱者と言いたいのか?」

「別にそうは言っていないさ、でも、そう思うのならそうなんじゃないの?」

 

 

今、勇人は精神的に追い詰められているな……やはり、男。自尊心が高くそして脆い。

 

「どうするまだ続けるか?」

「……ふっ」

 

笑った?なんで笑う?

 

「続けるに決まってるだろ?」

 

「男がおとなしく女に降参するわけねぇーだろ!」

「はは!そうでなくちゃ面白くない!」

「今度は拳でいく!」

「ああ!来いッ!」

 

「オラァ!」

 

いいねぇ!その目!その勢い!その拳!今まで冷静だった勇人がここまで闘争心を剥き出しにするとは!

真っ直ぐ額を狙ってくる!

私は動かない。笑みを崩さず立つ。

 

ガンッ!

 

硬質的な音が響く。

私は首を少し捻っただけだ。それで角で勇人の拳を受け止める。

 

「今度はこっちがいくぞ!」

 

身体を少し捻り、右拳に力を込める。

 

「ハァァァァ!」

 

ホゴォ!

 

右拳が勇人の腹部を捉える。痛みで身体を折る勇人の顔に右拳を入れる。

 

ベギィッ!

 

人間とは比べ物にならない衝撃が2発勇人を貫く。

 

そのまま、勇人の身体は宙を浮き、背中から落下する。

 

血飛沫を撒き散らし、動かなくなる。そこにあるのは沈黙。

 

「なかなか面白かったよ、勇人」

 

そう言い、勇人に背中を向けて立ち去ろうとする。

 

「……まだ立てるのか?」

 

これはたまげた。まだ立てるとは。

 

「もう限界だ……ろう?」

 

目の前に勇人の拳が迫る。まだ、こんなに動けたのか!?

 

「このぐらいなら避けれる!」

 

だが、拳はこちらまでこなかった。振り下ろされた拳は私の目の前で広げられていた。

何がしたい?そう聞こうと思った時違和感に気づいた。

付近の蝶が止まっている。空中で。空気の動きを感じない。

 

いや、私も動かない!?私がいる一帯が動いていない!?

 

 

「!? いかん!今すぐ勇人を止めろ!」

「ど、どうしたんでしょう?」

 

 

周りがざわつき始める。何かが起こっているのか?

 

「!?」

 

お、おい!蝶がき、消え始めてる!?よく見たら、一帯が色が薄くなってる!?

 

ブシュッ!

 

勇人を見ると目や鼻から血が流れている。その目に光は無い。右腕から血が吹き出す。

 

あ、動ける!色も元どおりに!

 

バタッ

 

勇人が倒れたようだ。何が起こった?

 

「萃香!大丈夫か!?」

「あ、ああ、何があったんだ?紫?」

「勇人の能力を知ってるわよね?」

「ああ、知ってるさ」

「その能力なんだけど……必ずしも『存在』させるわけでは無いのよ」

「は?」

「『滅びる』事も不変にできるのよ……」

「は、はぁぁ!?わ、私はさっき……」

「あの一帯ごと滅びかかってたわ」

 

な、なんだと……!?な、なぜそんなことに?

 

「どうする?場合によってはあの子……」

「……そうじゃな、今のを見るに気を失ってから発動しておる。無意識に発動したのじゃろう。それにあれを発動した時に身体が追いついて無くて身体がボロボロになった。まだ、安全だと思うが……」

「成長次第では脅威になるわよ」

「じゃが、使いこなせる場合もある」

「危険と判断した時は容赦なしよ?」

「分かってる……」

 

「萃香」

「ひゃい!」

「この事は他の人に伝えないでね?」

「あ、ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぅぅ、いだっ」

「あ、先生起きた!」

「あぁ……俺、寝てたか?」

「ああ、もう日付が変わってしまったぞ」

「あちゃー……すみません、負けちゃいましたね」

「謝ることは無い、元々生徒たちの希望だ」

「大丈夫?」

「多分、大丈b「大丈夫じゃないわ」ア、ハイ」

「紫の都合のいい結界が無かったら死んでたわよ」

「そんなにひどかったんですか?」

「萃香の殴打で内臓損傷と肋骨や頬骨を骨折、右腕に至っては内側からグチャグチャよ」

「……oh」

「まぁ、この薬飲んだらすぐ治るわ。死ぬ程の痛みを味わう事になるけど」

「ゆっくり治療します……」

「ああ、そうしてくれ」

「すみません……復帰したばかりなのにまた慧音さんに負担がかかって」

「気にすることは無い、それよりも後の娘達に無事を伝えてくれ」

「……? はい……」

「それじゃあ、お大事に」

「バイバイ、先生」

「じゃあ」

 

本当に慧音さんには申し訳ない……早く治さなければ。そのために、今は寝よう……

 

「「勇人さん!」」

 

物凄い勢いでドアが開いた。なんだ?びっくりしたじゃないか。永琳さんまでビクッてしたぞ。

 

「お怪我は大丈夫ですか!」

「永琳さんには何もされてませんか!」

「あー……大丈夫、安静にしとけば治る」

 

物凄い形相で迫ってくるあたり、少々恐怖を覚える。別に危篤では無かろうに。

 

「あまり動かさないでね、まぁまぁひどいから」

「私が看護をします!」

「いえ、私が!」

「今は寝かせてくれ……」

 

尚、優勝した博麗チームには大量のお酒が渡されたそうな。



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第6章 マッドな医者と事件と
第52話 生活改善の日の青年


 

1人の青年が立っている。

 

背は170は超えているだろう。ボロボロな着流しを着ているあたり、貧しい様子がうかがえる。

 

その青年の前には複数の妖怪。知能が低いのだろう。ただ唸り、睨み、獲物を捕らえんと今にも飛びかかりそうである。

 

青年は動かない。ただ、突っ立っている。それだけ。それは、恐怖によるものだろうか。何か理由があるのだろうか。危険な事には変わりはないが。

 

一匹の妖怪が青年に飛びつく。それを皮切りに他の妖怪も飛びかかる。涎を撒き散らし、ただ本能のまま飛びつく。

 

それでも、青年は動かない。

 

それを御構い無しに妖怪は飛びつき、青年に襲いかかるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人の青年が立っている。

 

周りにはたくさんの妖怪が倒れている。青年は動いていない。

 

少し時間が経つと、青年は笑う。

 

 

 

「今日も大量……次は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頭痛い……」

「病気ですか?それなら、永遠亭に」

「そういう意味での頭痛じゃない……」

 

その日、俺は幻想郷生活を始まって以来もっとも悩ましい事を抱えていた。

生きていく上で健康は確かに大事である。どんなに頭が良く天才であろうが、どんなに運動神経が良かろうが、病気にかかってしまって、挙げ句の果てに死んでしまっては全くもって意味を成さない。

さらに健康を維持していく上で生活は大切になってくる。まぁ、俺は生活能力が高いとは言い難い。しかし、独り暮らしを始めていくうちに慣れ、家事もしっかりこなせるようになっている。

ただ、『慣れ』とは恐ろしいものですぐに面倒となってしまい、段々疎かになってしまった。さらに、寺子屋に参加したいと言う人が増え、嬉しい事に仕事が大幅に増えた。寺子屋で捌きれなくなり、ついには家にまで仕事を持ち込んでやるようになってしまった。一度やり始めると最後までやりたいと言う性により、意地になって仕事をするようになった。

その結果、生活リズムは当然ながら崩れた。まともに飯を食べず、睡眠時間を削ると言うもはや、最終手段まで取るようになり、部屋は荒れ、俺も荒れると言うダメ人間になっていた。

もちろん、そんな生活が長続きするはずも無く、1週間続けたところで倒れてしまった。

 

あの時、早苗が来てくれなかったら本当に危なかった……結局、また永琳さんのお世話になり生活についてご指摘を貰い、とりあえず1日入院して、妖夢や慧音さんが見舞いに来たり、なんやかんやあったりで退院した。

 

今回ばかりは完全に俺のせいであろう。これを反省し、きちんとして生活をしていこうと早苗や妖夢に家事のコツを聞こうとした。

それで、2人とも家に来てくれた。ここまではまだいい。俺が頼んだからな。だから、2人の指摘やアドバイスに反論する気はさらさら無い。

だかな……

 

「俺の家でずっと家事をしてもらう訳にはいかんだろ」

 

流石にこれはダメだと思う。

これからは私達が交代で勇人さんのところでの家事をします!

ーー俺に家事を教えてくれるために来てくれた2人の最終的な考えである。

確かに今回の事は完全に俺が悪いし、教えて貰った後、長続きするかどうかは分からない。だから、2人が家事をする。確かに理に適っているだろう。

しかし、俺にもプライドはある。2人に家事を任せきってしまうダメ男にはなりたくない。

 

「別にそんな事をせずにコツだけを教えてくれればいいのだが……」

「いえ、コツを教えるだけではすぐに怠けて、同じ事が起こる未来が見えます」

「そ、そんな事は無い……と思うぞ?それに、お前達も忙しいだろ?」

「大丈夫です、その旨を伝えましたら、師匠が白玉楼の家事をしてくださると」

「私も神奈子様と諏訪子様に伝えたら大丈夫と」

「…………」

 

何が大丈夫なんだよ……俺はダメ男にはなりたく無い。2人とも家事のスキルが高いから尚更ダメ男になりそうだ……。

 

「や、やっぱり、俺が頑張るからさ……教えるだけで?」

「「ダメです」」

「…………」

 

「お、お前達に利があるとはとても思えないのだが……?」

「勇人さんと一緒にいられるだけで十分です」

「……どうしてもか?」

「くどいですよ」

 

逃げ場なんて無かった、いいね?

 

「それでは明日からやらせてもらいます」

「私は明後日なのでよろしくお願いしますね」

 

こうして、ダメ男への階段を登る事になるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、起きてください」

「今日は寺子屋無いから、まだ寝る……」

「朝ですよ?起きてください」

「もう少し……」

 

「…………………………!?ん!?ん〜〜!!」

「あ、やっと起きましたね?」

「プハッ……ハァハァ……鼻と口を塞がないでくれよ……」

「起きない方が悪いんです、朝ごはん出来てますよ」

「ああ、ありがと。とりあえず顔を洗ってくる」

 

 

「あれ?勇人さん、眼鏡なんですか?」

「いつもはコンタクトなんだが、休日は基本的に眼鏡だ」

(き、貴重な眼鏡姿……!しゃ、写真撮りたいです)

「なぁ、今変な事考えてないか?」

「い、いえ!」

「そうか、ところで朝ごはんは?」

「はい、味噌汁と焼き魚とご飯です」

「おお、美味しそうだ」

実際、食べると味噌汁は丁度いい濃さで、魚も塩加減が絶妙である。それにご飯は少し硬めで炊いていて俺好みだ。久々に早苗の料理を食べたがやはり上手だ。

 

「美味しい……」

「ありがとうございます」

「これだけ料理が上手いとお嫁にいっても問題無いんだろうな」

「そうですね、いつでも勇人さんのお嫁さんになれますよ」

「…………」

 

 

 

 

 

 

「えっと……」

 

只今、勇人さんは買いたいものがあると言って、里に行って留守の間に洗濯しよう思っているのですが……

 

「こ、これは……//」

 

少々問題が……し、下着なんですが……う、上は問題無いんです。勇人さんはいつもアンダーシャツを着てますし。ただ……ぱ、パンツは……

 

「さ、さっさと洗濯してしまいましょう!」

 

邪な事を考えてはいけません!邪念退散邪念退散邪念退散邪念退散……あ、アンダーシャツです。ゆ、勇人さんのに、匂いが……

 

「…………」

 

はっ!わ、私は何を?せ、洗濯してしまいましょう!そういえば、幻想郷で洗濯機を見るとは思いませんでしたね。どうやって動いてるかと聞いたら霊力だそうです。流石、河童の技術です!

 

さて、洗濯機に入れてしまいましたし、今度は部屋の掃除をしましょう。

 

「〜〜♫〜〜♬」

 

先程の洗濯機もそうですがこの掃除機もとても便利ですよね!こんな便利な道具を持っていながらどうして面倒になるのでしょうか?

そういえば、諏訪子様が

 

「ベッドの下を見るといいよ、ベットの下にはね……勇人の秘密があるはずだから……」

 

と言ってました。なんでしょうかね、秘密とは。しかし、勝手に秘密を覗くのは良く無いですよね。

 

「…………」

 

き、気になってしまいますね……ダメです!秘密を探るなんて……

 

「…………」

 

わ、私、気になります!す、少しだけ……

 

「……!あ、ありました」

 

何でしょうか、これは雑誌?

 

ガラガラ

 

「ただいま〜」

ジィーー

 

「はっ!」

「ゆ、勇人さんこれは?」

「あ、ああ……それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自動車雑誌だよ、最近見ないなと思ったらそんなところにあったのか」

「勇人さん、車が好きなんですか?」

「まぁな」

「これが勇人さんの秘密……?」

「ん?なんか言ったか?」

「い、いえ!何でも無いです!」

「そうか、そういえば途中で野菜分けて貰ったんだが……」

「そうですか、それじゃあ夕飯に使いましょう」

「ああ、早苗が作る料理は美味しいから楽しみだ」

「ウフフ……それじゃあお腹空かせて待ってくださいね」

「ああ」

 

 

「これは……側から見たら完全に新婚さんですよね……」

 

カァー//

 

「ゆ、勇人さんと結婚したらこんな感じなんですね、キャー//」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Next day〜

 

 

「ふぁ〜……」

「おはようございます、勇人さん」

「おわっ!い、いたのか」

「はい、起こそうとしたのですが……」

「今日は仕事があるからな」

「そうですか……(寝顔を見たかったのに……)」

「?」

 

 

 

 

「朝ごはんはおにぎりと豚汁か」

 

「やっぱり、美味い……俺が作ってもこんなに美味しくならないのになぁ。隠し味とかあるのか?」

「隠し味ですか……」

 

「あ、愛情……」 ボソッ

「ん?」

「ひ、秘密です!」

「おう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃあ いってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 

 

 

 

「はぁ……ついてないです」

 

早苗さんは勇人が休日の時だったのに私は仕事の時ですか……勇人さんといたかったのに……

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

「おかえりなさい」

 

勇人さん、すごく疲れているみたいです。何かできないでしょうか……

 

「…………」

「…………」

 

モグモグ……

 

食事も黙ったまま……何か話題を……

 

「…………」

「…………」

 

 

 

 

 

「もう少し仕事があるから、帰っていいよ」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで丸つけは終了……」

 

丸つけは終了。"丸つけ"は。次は宿題を作らなきゃならん。幻想郷にドリルや問題集が無ければ、コピー機も無い。全部手書きだ。担任は妖怪達のクラスだが、和算の授業には人間のクラスにも出る。さらに最近は寺子屋に参加する人が増えたので尚更量が増える。そのせいで満身創痍なんだが。

 

「喉が渇いたな……」

 

と周りを見渡すとベッドが目に入る。

 

「…………」

 

だめだ……ベッドが目に入った途端睡魔が。しかし、宿題を作らなければ。

ああ、暖かいベッド……

何を甘えてるんだ!俺にはやるべき事が!

 

「よし、やってやんぜ!」

 

自分で自分を奮い立たせる。

 

「の前にコーヒー淹れるか」

 

そして、このザマである。

 

「勇人さん、お茶を……」

「よ、妖夢!?」

 

あれ?帰ってなかったのか?

 

「どうしてここに……」

「だから、お茶を持ってきました」

「大丈夫だよ、悪いけどコーヒーが飲みたくて」

「いえ!お茶には疲労回復効果があるのでそのこーひーと言うものよりは最適です!」

「あ、ああ……」

 

とりあえず、お茶を啜る。程よい熱さが胸に染みる。

 

「ふぅ……ありがと」

「いえ、肩を揉みましょうか?」

「いや、そこまでしなくても」

「遠慮なさずに」

「ね、眠いだろ?」

「眠そうに見えますか?」

「…………」

「決まりですね、前を向いてください」

「ああ……」

 

お茶を飲む俺の肩に妖夢の指が食い込む。

 

「かなりカチカチですよ?そこまで仕事してるのですね」

「そこまでか……運動しないとな……」

「そうですよ、休息も大事ですけど」

「でもなぁ、時間が無いんだよな」

「たまには休みを求めてもいいと思いますよ。こんなに頑張ってるんですから」

 

 

 

「勇人さん、気持ちいいですか?」

「ああ、だがもう少し強くてもいいかな」

「このくらいでしょうか?」

「あ、ああ……そのくらい……」

 

気持ち良さすぎて思わず気の抜けた声が漏れる。なんか、ダメ男の階段を一歩登ったような……

 

「こんな感じでしょうか、どうですか?」

「完璧だよ、ものすごく肩が軽くなった」

「ふふっ、よかったです。耳掃除もしてあげましょうか?」

「そのくらいは自分でできるさ」

 

ジィーー……

 

正座して、手には耳掻きを持ち、こちらを凝視してくる。

 

「……分かった、頼むよ」

「任せてください!」

 

俺は横に倒れて妖夢の脚の上に頭をのせる。

柔らかいし、いい匂いがするしで、強烈に眠くなってきた。

 

「あまり無いようですが……奥が溜まってますね」

「……そうか」

 

そして、耳掃除が始まる。丁寧にしてくれるお陰で気持ちいい……ただでさえ、ものすごく眠いのにさらにこれで……は……

 

スゥー……

 

「寝ちゃいましたか、朝寝顔を見れなかった分、堪能させてもらいます」

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、文々。新聞で『寺子屋の教師、結婚か!?』という見出しが出たことはまたこの後の話。

 

 

その新聞にはもう1つ小さく『妖怪の怪奇死』というのもあった。



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第53話 不穏な日の青年

「当麻くん……あのォ……当麻くん!」

「……?」

「ねぇ、当麻くん一緒に寺子屋行こう?」

「寺子屋?なんで?そんな歳じゃ無いだろ?」

「いや、なんでも新しい先生の授業を受けるとすっごく頭良くなれるんだって」

「へぇ……」

「その先生はね、"碓氷 勇人"って言うらしいんだけど見た目は私達と変わんないのに頭も良くて、そしてとても強くて、力を持つ"妖怪"とも仲がいいんだって」

「……妖怪?」

「うん、生徒としても来てるみたいよ?でさ一緒に行ってみる?」

「ごめん……遠慮しておくよ、僕にはそんな暇が無いからね、じゃあ」

 

「…………」

「やめとけ!やめとけ!あいつ、付き合い悪いんだぜ」

「『どこかに行こうぜ』って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか……」

「しょうがないさ、家族みんな妖怪に殺されちゃって傷ついたまんまなんだよ、そっとしてやるのがいいさ」

 

「"当麻 琥太郎" 16歳 今は自分で働いて稼いでいてどんな事もそつなくこなすけど今ひとつ情熱に欠ける」

「まぁ、背もまぁまぁ高くて、顔も悪くないから女の子からはモテるよな」

「ああ、でもどんな人でも対応は変わらずなんか冷たい感じがするよなぁ……」

「やっぱりあの日以来かな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「("碓氷 勇人"か……力を持つ"妖怪"と仲がいい……か。使えるかもな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「何を読んでるのですか?」

「ん?新聞だが……気になる記事があってね……」

「どんな事ですか?あ、コーヒーです」

「ん、ありがと……最近、妖怪の死体がよく見つかってるらしい」ら「そうなんですか」

「それもただの死に方じゃあ無い。外傷は全く無い、内部の損傷も無い、全く"無傷"の状態だそうだ。だいたいの死因が餓死らしい」

「?餓死?全部ですか?」

「ああ、人間を食べないはずの妖怪も餓死だ、なんかおかしいよな」

「そうですね……もしかして、生徒達が心配なんですか?」

「まぁな……とは言っても寺子屋にくる娘は力を持っている方だ。今は下級の妖怪の死体しか見つかってない。杞憂だと思うが」

 

まぁ、大丈夫か。あまり心配しても意味が無いか。心配すべきなのは、今、当たり前のように早苗が家にいる事だ。あの日の後、交渉を重ね、朝だけにする事に成功した。流石にあのままだとダメ男になりかねん。こうして今も全て早苗に任せっきりでこっちが不安になるくらいだ。

 

「あら〜、朝からいい夫婦してるじゃない」

「グフッ!?……!ゲホッゲホッ!きゅ、急に出てこないでください!」

「そ、そんないい夫婦だなんて……//」

「顔を赤らめない、そんな事より何の用ですか?」

「最近、妖怪の怪奇死が多発してるのは知ってるかしら?」

「ええ、さっきその話をしてたところです」

「なら、話が早いわ、その事件、あなたが解決してちょうだい?」

「丁重にお断りします、そんな暇じゃないんで。そもそも、そういう仕事は霊夢がするのが普通だろ?」

「それがねぇ……あの娘、自分には何の問題も無いからする意味が無いってーー泣いちゃうわもう」

「これはひどい……」

「で、引き受けてくれる?」

「暇があったらやりますけど、期待はしない方がいいですよ」

「やっぱり引き受けてくれたわね、このツンデレめっ!」

「ぶっ飛ばしますよ?」

「じゃあねぇ〜」

「…………はぁ」

 

思わず額に手を当てる。本当に喰えない奴だ……

 

「引き受けちゃっていいんですか?」

「もう遅いさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬱蒼と生い茂る竹林の中、隠れるようにひっそり佇む和風の屋敷。大昔からあるような建物のはずなのに真新しくも見える。

『永遠亭』そう呼ばれる屋敷に住む人たちは、

 

「ふふっ……これで新薬完成ね、やっぱりあの血はいいわね」

 

「ほら!起きてください!」

「ん〜〜、あと1時間……」

 

「よいしょっと……これでまた落とし穴完成〜」

 

……なかなか濃い人達のようである。そんな人達も最近多発する怪奇死事件については少々耳にし、気になるのか話題に上がったようである。というか、見つかった死体のほとんどが迷いの竹林で見つかっている。

 

「ねぇ〜、この事どう思う?鈴仙」

「どう思うと言われましても……」

「あんまり関係無いのでは?」

「分からないわよ?もしかしたら月の使者が私達を捜索がてらにやってるかもよ?」

「な、何ですって!?」

「んなわけないじゃない〜、冗談を間に受けないの」

「そ、そうですか……そうですよね!」

「ま、私達が最初に疑われるかもしれないけど」

「問題無いですね」

「そうね、やってない事だからね」

 

その頃、勇人はまだその事件が迷いの竹林で多発してることを知らないので候補にすら挙がらないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここの里は本当に素晴らしいよな……飢饉に見舞われたこともなく、豊かに暮らしていける。それにみんなは親切で両親を失った僕をいつも気遣ってくれる」

 

「ただ1つ問題があるよな。どうして、この素晴らしい里に『妖怪』がいるんだ?おかしいよな?『妖怪』は人間の敵だろ?なんで仲良くしてる?」

 

「だよな、"先生"……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、新しく寺子屋で習いたい人が増えたんですか?」

「ああ、すまないが……」

「い、いえいえ、だ、大丈夫ですよ」

「そうか……だが、無理はするなよ?前みたいに倒れたら困るからな?」

「は、はい……善処します……」

 

 

 

 

 

「えっと……今回君達が……」

「はい!山田です」

「田中です」

「佐藤です」

「……当麻です」

「そうか、てか俺と歳変わらないよな?嫌じゃないか?」

「いいえ!是非とも勇人先生の授業を受けたくって!」

「お、おう……それじゃあよろしく頼むよ」

「「「はい!」」」

「…………」

 

 

「ねぇ、先生かっこいいよね?」

「うんうん!同い年とは思えないくらい大人びてるよね!」

「の割に身長高くないけどな」

「それでも全然ストライクゾーンだよ!」

「あ、でも彼女とかいるって噂を聞いたよ」

「えー……」

 

「(碓氷勇人……ぱっと見、ただの人間だな……もう少し観察するか……)」

 

 

 

 

 

 

「はい、今日の授業はここまで。宿題は必ず提出するように」

 

 

「すごい……こ、こんな考え方があるなんて……」

「思わずへぇーって言っちゃった」

「本当に同い年かよ……」

 

「(……授業中も特に変わったところは無しと。後をつけてみるか……)」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「(本当に何も無いな、ただ歩くだけ……噂はデマか?)」

 

「…………」

 

「(どこまで歩くつもりだ?もう人里を出てしまうぞ?)」

 

「…………よっと」

 

「(な、なにぃ!空を飛びやがっただと!?これじゃあもう後をつけれない!)」

 

「(は!?)」

 

ガルル……

 

「(よ、妖怪……もう人里を出てたのか……)」

 

「(数もそれなりにいそうだ……仕方ない、"あれ"をやるしか無い)」

 

「(さぁ……こい)」

 

バンバンバンバンバンバン!

 

「え!?」

「なぁにしてんだ?もうここは人里じゃないんだぜ?」

「え、いや、え?(あれだけの量を一瞬で?)」

「本当に何したいんだ?ずっと俺の後を尾けてさ?」

「!?(尾行してたのがバレてる!?)」

「そ、その……先生がどこに住んでるのかを知りたくて……」

「はぁ?物好きがいたもんだ。俺の家は人里にないから、妖怪に襲われるぞ?」

「すいません……」

「ほら、一緒に帰ってやるから、次はこんなことするなよ?」

「はい……」

 

 

「せ、先生」

「あー……歳そんなに変わんないからさ、先生って呼ばないでさ、呼び捨てでいいよ」

「流石にそれは……なら勇人さんで」

「まだ固いけどいいか、でなんだ?」

「勇人さんはどこの方なんですか?その服装はこの辺では見かけませんが……」

「あー……それ聞くんだ。まぁ、外来人なんだ、俺」

「そうなんですか(外来人か……道理で頭がいい)」

「後……なんでそんなに強いんですか?さっき妖怪をあっという間に倒してしまいましたけど……」

「んー……霊力を扱う修行したぐらい?」

「れ、霊力ですか(さっきも霊力で倒したのか)」

「それにしても……お前、背高いな」

「ハハ……取り柄はそれぐらいですよ(まぁ、確かにこいつの背は低いな)」

「じゃあさ、俺も聞くがよ、なんで妖怪に囲まれた時、動かなかったんだ?」

「!?」

「あの時のお前、悲鳴もあげずただ突っ立てただけだよな?なんでだ?」

「い、いや……きょ、恐怖のあまり声も出せなかったんですよ(チィ……鋭いな)」

「ふーん……そうか」

「そうですよ」

「最近だな、妖怪がな死んだんだけど知ってるか?」

「……何を言ってるんですか?いきなり(な、こ、こいつ……!)」

「すまん……変なこと聞いたな。ここまでくれば安心だろう、じゃあな」

「はい、ありがとうございました」

 

 

 

「(恐ろしく鋭い上に少ししか見れなかったが十分だ。あいつは強い。そして、絶対にもっと格上の妖怪を知ってるはずだ……!)」

 

「(あいつは使えるぞ……少々リスクが高いかもしれんが僕の計画のためにはあいつを利用することが必要不可欠だ!)」

 

「(だが、早まっちゃあダメだ。じっくり、時機を見分けるんだ……)」

 

「ハハ……絶対に成功させてやるッ!」



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第54話 前兆の日の青年

「うーん……」

 

紫さんから妖怪の怪奇死を暴くように言われてから早1週間。何1つ掴めてはいない。それもしょうがないだろう。まともな証拠も無ければ、目撃情報も無い。逆にどうやって見つけろと?

 

「うーん……怪奇死の発見場所は主に迷いの竹林付近……その他の場所にもちらほらと……」

 

"迷いの竹林"ねーー迷いの竹林と言えば永遠亭……か……まぁ、真っ先に永琳さんが犯人候補に挙がるが……ただ、その線は考えにくい。

 

確かに永琳さんなら実験台に妖怪を使うとかは考えれるが、それだとなんでわざわざ何もせずにそのまま放置というのはおかしい。それに永琳さんなら証拠を残すようなアホなことはしないだろう。

でも、何か情報があるかもな。訪ねてみるか。

 

「あー……折角の休日が……」

 

嘆いていてもしょうがないな……さっさと行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ふむ……ここが霧の湖か。噂通り霧で覆われてよく見えないな……)」

 

「(ここにも妖怪が住んでると聞いたのだが……今のところは何も居ないようだ……が……)」

 

 

 

「あっ!」

「フランちゃん!」

「チルノと大ちゃんじゃん、どうしたの?」

「今から遊ぶんだよ、フランちゃんこそ何してるの?」

「先生のところに行こうかなーって、そうだ!チルノ達も来る?」

「先生とこに?行く行く!」

「でも、急に行っていいのかなぁ?」

「大丈夫よ!さ、早く行きましょ!」

 

「(先生……?ああ、あの人か。妖怪にも教えているそうだが……その教えられているのはこいつらのようだな)」

 

「(ふむ……後をつけてみるか)」

 

カサ……

 

「……?」

「どうした?チルノ?」

「うーん……なんでも無いよ」

「変なの、ま、とりあえず寺子屋にあるかどうか確認しよう」

「そうね、サイキョーのあたいについて行きなさい!」

 

「(あのチルノとやらは頭が弱いらしいな……)」

 

 

 

「ね、ねぇ、あれ何?」

「ん?なになに?遠くてよく見えないよ」

「ちょっと近くに行ってみようよ!」

「やめておこうよ……何か嫌な予感がする」

「ビビってんの?大ちゃん?安心なさい!サイキョーのあたいがいるんだから!」

 

 

「(ちょっと待て……どこに向かってる?そ、その場所は!)」

 

 

「こ、これって……」

「し、『死体』?」

「もしかして……先生の言ってたのかな?」

 

「(チィ……道中でやった奴が……まぁ、見られても問題無いか)」

 

「何か無いかな?」

「ち、チルノちゃん!何してるの?」

「ん?何か無いかなーって」

「それよりも先生に報告しようよ!」

 

「(それよりもあの教師が探ってるのか……今後、気をつけるべきか)」

 

「うん?何これ?」

「紙切れ?」

 

「(なんだと?はっ!無い!あの"紙"が無い!あの紙には今まで倒した妖怪のメモが……!)」

 

「何が書いてるのかなー?」

「ちょっと待って!先生に見せるまで開けないでおこうよ」

「えー……」

 

「(あいつら!紙を持って行きやがった!まずい……あの『紙』に書かれてることを見られたら……)」

 

「(あの教師なら書かれてる『字面』からこの俺まで辿って来るのは時間の問題だ……あの教師は僕の字面を知っている……)」

 

「(この『当麻琥太郎』……今までは『手掛かり』ひとつ残したことがないが……どうやら慢心してたようだ……よりやってあの教師の教え子に持っていかれるとは……)」

 

「(どうするか!?)」

 

「(しかし……あいつらと会話するのは避けたい……ひったくるしかないか……それも気づかれずにくすね取るのがベストだが……)」

 

 

 

 

 

 

「(よし、里の中に入った……ここなら、普通に歩いていても問題あるまい)」

 

「(あと少し……)」

 

「チルノ!寺子屋はそっちじゃない!」

「お?」

 

「(く……ッ!)」

 

「もー、寺子屋の場所くらい覚えなさいよ、このバカ!」

「ば、バカって言ったわね!バカって言う方がバカなのよ!」

「はいはい、ほら早く行くよ」

「むー……わかったよーー

 

ドン!

 

「イタタ……もう!どこ見てるのよ!気をつけなさいよ!」

「す、すまない」

 

「(クソッ、さっきはチャンスだったな……)」

 

「(まずいな……寺子屋についてしまったぞ……間違いなく数分のうちに『紙』はあの教師のもとへいく……俺は今日、寺子屋に来る日では無い。他の生徒に怪しがられるだろう。まずいぞ……)」

 

「非常に……まずいぞ……」

 

 

 

 

「先生ー」

「おや、チルノ達じゃないか、どうした?」

「慧音先生、勇人先生はいる?」

「あー、今日は生憎居ないんだ。多分家に居るだろう」

「先生の家ってどこだっけ?」

「そうか、知らなかったな、教えるよ」

「お願いします」

 

スッ……

 

「チルノ!何見ようとしてるの!」

「し、してないわよ!」

「はぁ……とりあえずそこに置いといて」

「わかったよ……」

「とりあえずあっちで教えよう」

「はい」

 

 

 

「危なかった……最悪見られたら『始末』することを考えてたよ……」

 

「さっさと回収するか」

 

タッタッ……

 

「流石に置きっ放しはダメね!」

「!?」

「あんた、誰?」

「あ、いや、ここの生徒だが?(クソッ、チルノとか言う奴が戻って来るとは!)」

「ふーん……あ、その紙、返してちょーだい」

「え、いや、その……」

「返しなさい!」

「あっ(しまった!)」

「ふんっ」

 

「(あと少し、あと少しだったのに!ここにあの教師がいなかったのが幸い。いっそ3人とも始末してしまうか?)」

 

「勇人の家だが……」

「こんな所に住んでるんですね……普通の人なら住めない……」

「ま、勇人先生強いし大丈夫よ」

「え、どこ?」

 

 

「(今はあの教師の家を調べることに集中してるようだ……紙は……フフ……あそこならどうにか腕を伸ばして届きそうだ……)」

 

「(よし!あと少し……)」

 

ヒュー

 

パサァ

 

「(風だと!?紙が落ちてしまった!)」

 

「ん?」

 

「(し、しまった!気づいたぞ!しかも少しめくれて書いてあることがチラリと見えてるじゃあないか!)」

 

「……」

 

「チルノ!先生の話を聞きなさいよ!」

「だって、紙が落ちたんだもん!」

「そんなの後でいいでしょ?」

「喧嘩は止めようよ……」

「むー……」

「先生の話を聞くよ」

 

「(今だ!)」

 

「(フッフッフッ!冷や汗をかいたが……ついに回収したぞっ!)」

 

 

「よし先生のお家も分かったところで、行きましょう!」

「ああっ〜っ!か、紙が!ど、どこにいった!?」

「え?」

「もう、フランが後でって言うからよ!」

「うっ、そ、そんなことより探さないと!」

 

「(クックックッ……もめろもめろ)」

 

「とりあえず、あっちに行ってみるわよ!」

 

「(…………)」

 

 

「(バタバタしたが……無事このハードな状況を乗り越えてみせたぞッ!)」

 

「さっさと帰るか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ちなさい!」

「さっきからあんた怪しいと思ってたけど、あんた今、何してるのかしら?」

「…………」

「ここの生徒って言ってたけどもうすぐ授業が始まるって言うのになんでその"紙"を持ってコソコソ動き回ってるのかしら?」

「…………」

 

「ひょっとして、僕に話しかけてるのかな?嬢ちゃん?」

「その紙を返しなさい!」

「何を言ってるのか分からないよ……これは僕がメモに使った紙だよ?」

「違うわ!その紙はあんたのじゃないわ。あんたには分からないでしょうけどあたいには分かるのよ!」

「だ・か・ら、これは僕のなんだよ、分かる?」

「あー!もういいわ!こうなったら力ずくよ!」

 

ピシィ……!

 

「な、なんだ!?こ、これは……!?」

「ほら!」

 

パシッ

 

「これで取り返したわね……ん?」

 

「こ、これって……先生の言ってた事件じゃない!」

「なんということだ……見てしまったか……そして、これは……」

 

「足を凍らされてると言ったところか……」

「や、やったわ!犯人はあんたね!」

「はぁ……君、1人だよね?さっきの友達も……どっかに行ったようだ……」

「彼女たちも人間じゃないんだろ?」

「あんたッ!動くんじゃないわッ!」

「…………」

「少しでも動いたらカチコチに凍らすわよ!」

「…………」

「変な奴ね……」

「僕の名は『当麻琥太郎』 年齢16歳 自宅はこの里の西部にある。仕事はいくつかしていて、必ず8時には帰る。両親は居ない。死んだのだよ。"妖怪"によってね。妹もいたが同じく死んだ。今は1人で暮らしていて、全ての家事を自分でしている。周りの人がよくしてくれてるおかげで平凡で充実した日々を送ってるよ」

「何を話してるの?あんた?」

「だかな、僕は毎日熟睡することはできない。僕には『心の平穏』は無い」

「?」

「僕は妖怪が憎い。僕の家族を殺した妖怪が憎い。今、こうしてこの里に妖怪がいるだけでも震えるくらい腹が立つ」

 

「いつか、僕のことをよくしてくれた人達も妖怪に殺されてしまうと思うとね夜も寝れないんだよ」

 

「全ての妖怪を駆逐しない限り、僕に『心の平穏』は永遠に訪れない」

 

「つまりチルノちゃん……君も憎しみの対象であり、僕の計画の邪魔でもあるんだ」

「はぁ?ただの人間がサイキョーのあたいに勝てるっていうの?」

「ただの人間ねぇ…………まぁいい、君を始末させてもらう」

「うっ……動くなってあたいは言ったわよ!」

 

「あたいを舐めないでよーッ!」

 

ビシビシ……

 

「ぐ……ッ、さらに凍っていく……」

「それ以上動くと完全に凍らせるわよ!あたいはサイキョーなんだからねッ!」

「なるほど……妖怪ってのは不思議な能力を持ってるんだな……」

「いろんな人が持ってるのよ!ま、1番サイキョーなのはあたいだけどね!」

「ン〜〜『能力』ねェ〜〜」

 

「ところで……僕もちょっとした特殊な能力を持っていてね……」

 

キラッ……

 

「な、何を持っているのよ!」

 

バシッ

 

「なーんだ、ただの小銭じゃない」

「いや……僕の『能力』を教えようとね……どーせ君は既に僕の『能力』で始末されてしまってるからね」

 

「僕の『能力』……それは『触れたものから力を奪い取る』」

 

「たとえ小銭だろーと……なんであろーとね……」

「はっ!」

 

ドシュッ

 

「これで計画が一歩進む……」

「うっ……うっ……」

「お?まだ『力』が残ってるのか?流石だな」

「な、何されたの?ち、力が……」

「僕の『能力』は触れたものから力を奪える……もちろんエネルギーもだ。霊力、妖力、魔力、生命エネルギーもね……ああ、養分もだな」

 

「もっとも君の場合は小銭を媒介にしたせいで奪いきれなかったけどね」

 

「これから全ての力を奪う前にちょっと確認しておく事を思い出した。『能力』ってのはあの2人も持ってるのか?どんな『能力』なんだ?」

「た、助けて……!」

「ダメだね、君には死んでもらわないと……まだ途中なんだよ。今バレたら困る」

 

「そうだな、あの『碓氷勇人』とかいう教師も能力を教えて欲しいな」

「知ら……ない」

「知らないことは無いだろ?さもないとあの2人も始末するよ」

「なんだ……と!大ちゃん達……も!?」

「早くしてくれ、授業が終わる、ほら!」

「な、何言ってるの……?あ、あんたみたいな奴先生がぶっ倒してくれるもん!先生があんたを探してるもん!」

 

「氷符『アイシクルマシンガン』!」

「!?まだ動けるのか!?」

 

「イテテ……クソッ、いくつか刺さった……ムッ!?」

 

「どこへ行きやがった!?」

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、みんなに伝えなくっちゃ……」

 

「大ちゃん達を守るもん!あたいが……!守る!」

 

「フランなら……あいつをたおせる……!なんでも破壊できる、フランなら……!」

 

「い、いた……!慧音先生もいる!」

 

「…………!!」

「あの教師も俺を探してるのか……」

 

「しかし、誰にも僕を追い詰めることができない。君が死んでしまったらね」

 

スッ

 

「僕は既に襖に触ってる」

「え!?」

 

ドシュッ!!

 

「大ちゃーーッん!!」

 

スーッ

 

 

 

 

 

「うむ……他の妖怪は死んでも消えなかったのにこいつは消えてしまったぞ。まぁ、こっちの方が都合がいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、今誰かが私を呼んだ気が……」

「うん、誰か呼んでたわね」

「ん?これは?氷?」

「あれ?このリボンってチルノちゃんのじゃないの?」

「え?」

「うむ、そうだな。ん?この氷、何か入ってるぞ?なんだ?紙か?」

「!?」

 

「ちょ、ちょっとおかしくない?」

「チルノちゃんを探そう!」

「あ、ああ……何かがあったようだな。勇人にも連絡する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、紙も取り返した……し?」

 

「ち、千切れてる?何かの拍子に破れたのか?ま、いいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこにもいない……」

「ね、ねぇ、妖精って死なないんでしょ?」

「う、うん、自然がある限り妖精は存在するから……」

「じゃ、じゃあ、どっかでやられたら復活するの?」

「そうだよ」

「死なないのよね?」

「うん」

「もしかしてだけど……チルノは犯人と会ったのかも……」

「!?本当ッ!?」

「多分……とりあえずこの紙を先生に渡そう」

「うん」

 

 

「(絶対にそいつをぶっ壊してやる……!)」

 



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第55話 誤解の日の青年

「えっと……ここが『迷いの竹林』か?」

 

はい、ただいま迷いの竹林に来ております。永遠亭に行って何か証言が無いかなぁーって思って来たのだが……

 

「どこから……入ればいいんだ?」

 

見渡す限りの竹、竹、竹竹竹竹竹……ずーっと見てるとなんか気持ち悪くなってきた……

 

「と、とりあえず進むか」

 

そういえば、早苗とかはどうやって永遠亭に行ったんだ?ああ、こうなるんだったら道のりを聞いておくんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人は誰?」

 

こんなところで生身の人間が来るなんて、妖怪にでも食べられるわ。それにしても珍しい。どんな馬鹿野郎なのかしら?

 

 

「…………むか」

 

 

ん?なんて言ったのかしら?

 

 

「さっさと……って、永琳さんに…………妖怪を殺した……」

 

 

!?あ、あいつ今なんて?

 

 

「……く見つけて……を捕まえないと……」

 

 

つ、捕まえる!?ま、まさか!あいつは師匠達を……!?

そ、そんなことはさせないわ。私はあの八意永琳の弟子、鈴仙・優曇華・イナバよ!師匠の手を借りずともあの程度の奴を追い払ってみせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっさと永遠亭に行って、永琳さんに聞かないとな、妖怪を殺した犯人について何か知ってるかを」

 

何か1つぐらい知ってるだろう。

それにしても、今どこだ?モタモタしてられないのに。

 

「早く見つけて、犯人を捕まえないと」

 

 

 

「待ちなさい」

「んぁ?」

 

なんだなんだ?こんなところに人……が……いるなんて?ありゃ?人じゃない?

白いブラウスに赤いネクタイをつけ、その上に茶色のブレザー。それに膝下ぐらいまでのミニスカート。所謂バリバリの女子高生って感じだ。スカート短過ぎないか?寒くないのかな?いや、そんなことよりも頭についているあれ。なんだよ、あれは。うさ耳なんぞつけよってコスプレか?

 

「かなり怪しいわ、ここに何しに来たのかしら?」

「一応、永遠亭に用があってだな……(怪しいって、あんたも十分怪しい格好してるだろ)」

「何故?怪我をしてなければ病気でも無いようだけど?」

「まぁ、いたって元気ですけど」

「尚更怪しいわ。そもそも、ただの人間のがここに来るなんて」

「え、あ……いや、その……」

「何よ、何か言うことでもあるのかしら?」

「え、永琳さんとは少し顔見知りだからさ……」

「はぁ?そんなこと言われても信じるわけがないじゃない」

「じゃあ、どうしろと?」

「今すぐここから立ち去ることね」

「そういうわけにもいかないんだよ……」

「やっぱりね……姫達を捕まえようとしても無理なことよ」

「……?は?」

「とぼけようとしても無駄よ」

「いや、ちょっと待て、話を聞け」

「話って、ここ最近で多発してる妖怪の怪奇死のこと?」

「おお!分かるのなら話が早い!」

「そうね、だって犯人はあなたでしょ?」

「…………は?」

「もう立ち去る必要も無いかしら」

「えっ、ちょ……」

「最近、戦える相手が居なかったのよね。ちょうどいいわ、見せてあげるわ、『月の狂気』を!」

 

 

「……え?ドユコト?」

 

な、なんなんだこのうさ耳の娘は?犯人が俺とか言って、月の狂気とやらなんやらと……

 

「ちょっと待て、君はとんでもない誤解をしてるよう……だ……が……?」

 

な、なんだ……視界が急にグニャッと歪んで見える……平衡感覚が……

 

「もう、月の兎の罠に嵌っているのに気づかないの?右、左も上、下も……あなたはもう全て狂って見えるわ。私の目を見てもっと狂うがいいわ!」

 

おえ……なんか酔ってきた……さっさと解除してもらわないと……本気で吐きそう……

 

「ウプッ……と、とりあえず、実力行使でいくぞ……」

 

銃を取り出す。今回は回転式拳銃で。

 

「やっと本性を現したわねーーでも、無駄よ。あなたは私に当たることが出来ない」

 

よーく、定めて……ありゃ?歪んで見えるせいでしっかりと狙いがつけられない。か、勘で……

 

パァン!

 

「どこを狙ってるのかしら?それじゃあ私には当たらないわよ?」

 

見当違いなところに当たったようだ。どうしたらいいんだろ……うっ、またこみ上げてきた……

 

「……あれ?」

 

あのうさ耳はどこいった?まだ景色が歪んでるあたりいるんだろうけど……

 

すると、足が宙に浮く感じがした。

 

「え?」

「ガラ空きよ」

 

足払いかよ!体勢が崩れ……る。前のめりに倒れかけたとき、視界に膝がすぐそばまで……

 

バギィ!

 

「グ……ッ!」

「流石に簡単にはやられないわね」

 

咄嗟にガードできたものの腕がビリビリする……なんだ?あの重さは?しかも、体勢はまだ崩れたまま、相手は回し蹴りをする。

咄嗟に頭を守るようにガードするが……

 

ドゴッ

 

「カハッ……!」

 

頭を守ろうとしたせいで腹がガラ空きだった……息が……

 

「ゴホッ、ゴホッ……」

 

おかしい、少女なのになんでこんなにも一撃が重いんだ?それにあの蹴りだと近接格闘の概念を持っている。

 

ん?そういえば、月の兎とか言ってたな……

 

「……お前……人間じゃないのか……」

「何をいまさら」

「そうか……」

 

久々だけどあれをやろうか……じいちゃんに教えてもらったんだが……

 

「腕は顔にぴったりつけてガードして……」

「何言ってるの?」

「足は肩幅に開き、腕は垂直に、重心はケツに……」

「……?ま、いいわ。とどめ刺してあげる」

 

相手の拳がくる!それを避けて……

 

「な!?」

「前足をワンステップ前に拳に体重が乗るように肩から押し出す感じで……」

 

ついでに霊力で強化して……

 

シュッ!

 

「きゃっ!」

 

スカッ

 

「あるぇ?」

 

空振り……おう……渾身のストレートが盛大に外しちまった。

 

「あ、あ……」

 

うーん……やっぱり歪んでるせいか……

 

「ふ、ふん、大したことないのね(な、なんなの?あれ、当たったら絶対無事じゃなかったわ!)」

 

「こっちもいくわよ(近接は危ないから、弾幕で片付けてしまおう……)」

「ウプッ……ああ……いいよ、こいよ……」

 

とにかく、この状態をどうにかしないと。もうそろそろ朝ごはんが出てくる。上から。さぁ、どこからくる?

と、思ったが急にあのうさ耳は指を銃の形にした。そして、人差し指から銃弾形の弾が打ち出された。

 

「!?」

 

なんとか避けれたが頰を掠ったようだ。少し血が滲んでる。

それにしても……銃弾形とは……相手は銃を使っていないがなんか負けたくないな……少し俺と似てるからか?

 

「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)」

 

ここにきてスペカ宣言!?わざわざそんなことする必要性とは……別に弾幕ごっこじゃないのに。

 

「よし、かかってこ……い……」

 

うっはー……ものすごい量の弾幕が放射状に配置されてる。

 

「さぁ……もっと狂うがいいわ」

 

あのうさ耳……中々強いぞ……そして、うさ耳の眼は真紅に輝いている。その眼を見た瞬間、さらに景色が歪んで見え始めた。

 

「どうなってんだ……?」

 

あの大量の弾幕もどこかに消え失せていた。それにうさ耳の姿も見えない。

 

「ど、どこに行きやがった?」

 

うさ耳を探してると、周りにいつの間にか弾幕が高速で迫っていた。

 

「えっ」

 

よ、避けれない……!視界が弾幕で埋め尽くされ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー……これでもう安心ね」

 

よくこの程度の実力で師匠達を捕らえようとしたわね。確かにあのパンチは中々の勢いだったけど結局終始狂わせられた状態で何にもできなかったようね。

 

「とりあえず、師匠に連絡しておこう」

「そうか、それなら俺も連れてってくれよ」

「え!?」

 

な、なんでまだ立ってるの?よく見たら傷1つない……

 

「おっと動くな」

「ぐ……ッ」

 

背中に銃を突き付けられる。

 

「さっきから気になったんだが……お前の能力はなんだ?できるなら解除して欲しいのだが。気分が悪くなってしょうがない」

「……分かったわ」

「そうか、ありがたい。あと、俺は別にお前達に危害を加えにきたんじゃない」

「……そう」

「ついでで申し訳ないんだが永遠亭の場所を教えてくれないか?」

「……いいわよ」

「おお!ありがとう!」

 

背中から銃が離れる。その隙に!

 

「もう一度狂いなさい!」

「ウェ!?」

 

ふっ、見たわね。完全に私の眼を見たわね。そのまま狂いなさい!

 

「何してんだ?」

「あ、あれ?あれあれ?」

 

波長が変わらない?いや、あいつの周りの波長も変わってない?

 

「やっぱりその眼なんだな?」

「は、は?」

「なんなのかはよく分からないがその眼を見たことで景色がおかしくなったのか」

「な、なぜ狂わないの?」

「そっちは何にも教えてくれないからこっちも教えない」

 

「その眼を見なければいいんだな……」

 

そう言うとあいつは眼を閉じた。眼を閉じるなんて……それじゃあまともに戦えないでしょうに。

 

「さぁ、こいよ。撃ち抜いてやるから」

 

眼を閉じてしまったから狂わせることは出来ない。が、だからと言って眼を閉じてる相手に負けるわけがない。

こっちが撃ち抜いてやる!人差し指をあいつの眉間に定めて……

 

パァン!

 

「きゃっ!」

 

手に銃弾が掠った!?な、なんなのよ!?眼を閉じても正確に狙ってきてる!

 

「外したか……まぁいい」

「な、舐めたことを!」

 

パァン!パァン!パァン!

 

「く……ッ!」

 

私の行動をある程度予測して撃っている!

 

「分かる……分かるぜ……どこにいるか……」

 

なんなのよ?眼で見ない方が見えてんじゃないの?

 

パァン!パァン!

 

カチャ……

 

相手はリロードが必要……これは付け入る隙があるわね……6発ずつと……次6発撃ったら畳み掛けてやるわ!

 

パァン!パァン!

 

「1……2……」

 

少しずつ避けるのが難しくなってるが……あと4発よ。

 

パパァン!

 

シュッ

 

「…………ッ!」

 

連射……少し掠ったわ……でも、あと2発!

 

パァン!

 

あと1発!次避けたら撃ち込む!

 

パァン!

 

ドシュッ

 

「ぐ……ッ」

 

1発もらったけど……どうでもいいわ!擊ちまくる!

 

「ぬぁ!」

 

反応が一歩遅い!よし!このまま……擊ちこむのみ!

 

カチャ

 

は?あの体勢でリロード!?か、構うものか!

 

パァン!

 

この角度なら当たらない!

 

ピカッ

 

「!?」

 

視界が光で埋め尽くされる。眼が……眼がァ!

ぼやける視界の中、あいつが近づいてくる!

 

弾幕を放つ。それはいくつかはあいつに当たるが構わず近づいてくる。血が出てもなお近づいてくる。

 

「…………ッ!」

「悪いがしばらく寝ててくれ」

 

腹に貫かれるような衝撃が来たと同時に意識が刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

姫を捕まえに来たのだろとか、色々訳わかめなことを言ってたが……とりあえず、永遠亭の者で間違いないだろう。それにしてもあの眼は脅威的だな……あのままだったら絶対吐いてた。未だに少し気持ち悪い。さっきから生あくびを連発してる。

 

「ん?おいそこで何してる!」

「うぉ!?」

「あれ?勇人じゃないか。ここで何してんだ?」

「ああ、妹紅か……そのだな、永琳さんに用があって永遠亭に行こうとしたのだが……このうさ耳に永遠亭の道のりを聞こうとしたのだが襲いかかって来てね……ご覧の通りさ」

「そいつ、鈴仙じゃん」

「知り合いか?」

「ああ、そいつは永琳の弟子だ」

「やっぱり、永遠亭に関係してたか」

「鈴仙は真面目で誠実なんだが……いかんせんそれによって勘違いしやすいし行き過ぎた行動もするからな。それはそうと、お前の方がひどい状態に見えるが?」

「そ、そうですよね〜」

 

何発か喰らって貫通してしまったものまである。所々血が流れ出てる。

 

「よし、私が永遠亭の道案内してやる」

「本当か!ありがと!」

「いいってことだ。それにこれも私の仕事だからな。ほら、ついて来い」

「ちょっと待って、この鈴仙とか言う娘も連れてかないと」

「はぁ……ま、いいや。どうやって運ぶ気だ?」

「抱っこしかないだろ?」

「………………私は知らないぞ」

「??」

 

何が言いたいのかは分からないがようやく永遠亭に行けそうだ。



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第56話 入院の日の青年

「貴方がここに無傷で来る日は来るのかしら?」

「そうですね……今回は無傷で来る予定だったのですが……」

 

なんやかんや言いながら治療をしてくれる永琳さん。まぁ、当たり前のように採血されたけどね。もう、慣れよ、慣れ。

 

右肩に1つ、左肩にも1つ、顔も少々掠っており血が滲んでる。あと、腹部にも打撲痕や弾幕による傷など、傷だらけである。ーーそれらは全てあそこで寝ているうさ耳によってである。

 

俺が永琳さんに話を聞こうと迷いの竹林に足を踏み入れたまだ数十分前のこと。うさ耳、もとい鈴仙・優曇華院・イナバに何やら勘違いされ戦闘に。あの真紅に輝く眼によって色々手こずった。気分が悪くなるわ、弾幕が急に消えるわ、鈴仙まで消えるわでもう大変だった。それに近接格闘も相当手馴れてるらしく、一撃一撃の打撃が重かった。特に、腹部へのキックあれは中々キツかった。しかし、向こうは俺の能力を把握してなかったようで、なんとか勝てた。ま、最終的に眼を瞑ると言う荒技に出たが。

 

眼を瞑ったままでは流石に弾幕を避けきれず今の傷となった。お陰で話を聞くだけのはずが、こうやって治療を受ける羽目に。だからと言って、事情が分かってない相手を無闇に傷を負わせるわけにもいかない。申し訳ないが腹パンで寝てもらった。あとでどの様に説明しようか……

 

「鈴仙さん?でしたっけ?その娘は大丈夫ですか?」

「安心なさい。貴方の技術で気絶だけで済んでるわ。右手に少々擦り傷があるけど、こうやってまだ意識のある貴方の方がよっぽどひどいわ」

「そうですか……」

「……勇人、別に貴方は悪くないわ。ただ、私に話を聞きに来たのだけだから。何も聞かずに早とちりして攻撃を仕掛けたウドンゲの方が悪い。師匠である、私からも謝るわ。ごめんなさい。ちゃんと貴方のことを説明しておくわ」

「しかし、説明不足もあったわけーー

「やめて頂戴。私の謝罪が虚しくなっちゃうじゃない。今回は私達が完全に悪い、いいね?」

「は、はい」

 

なんだかな〜……永琳さんには敵わない気がする。流石月の頭脳。ここまで一方的に言いくるめられるとは。

 

「あ、でも治療に対してはきちんと礼を言わせてもらいます。ありがとうございます、永琳さん」

「別にいいのよ。こうして、血を提供してもらえるのだから」

「ハハ……ソウデスネ……」

「それにしても、最初貴方が鈴仙をお姫様抱っこして来た時は驚いたわ」

「そ、それは……」

「逢い引きかと一瞬思ったわよ。まぁ、鈴仙の相手が貴方なら任せられるし、それに……」

 

「常に貴方の血が採血できるからね」

「え……」

「冗談よ、冗談。そんなことしたら、あの2人が黙ってないわ」

「ハハ……」

 

「そういえば、鈴仙さんが言ってたんですが……貴女達を捕まえに来たとか言われたんですが、どういうことですか?」

 

鈴仙が勘違いしていたことだ。なんで捕まえに来たと勘違いしたのだろうか?

 

「そうね……」

「む、無理して言わなくても大丈夫です」

「いいえ、貴方には話すわ」

 

 

〜説明中〜

 

 

「…………」

 

永琳さんと輝夜さんが月の民であることは知っていたが……

 

輝夜さんは月では禁忌とされていた"蓬莱の薬"を飲むということで地上へ流刑とされ、その迎えに行った永琳さんは地上にいたいと言う輝夜さんと共にする事にして一緒にいた月の使者を皆殺しにしてここに来たと言う経緯を持つ。そして、鈴仙は元々月の兵で戦争が始まると言うことを聞いて逃げ出し永琳さん達の元に転がり込んだという経緯を持ってる。

 

この話を聞いて思ったことは……

 

「それ、俺に話していいんですか?」

「構わないわ、別に貴方はそういう人じゃないってぐらい知ってるわ」

「随分と信用してくれてるんですね……」

「まぁ、それなりにね。ああ、そうそう貴方、2日ぐらい入院ね」

「はい……って、エェェェ!?」

「当たり前じゃない、どうせ生活に戻ったら無理に動いて傷が広がるに決まってるわ」

「信用してくれてるんじゃないんですか……」

「それとこれとでは話が別、まぁ、ゆっくり話ができるからいいじゃない」

 

ああ……またか、もう何度入院したらいいのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーートントン

 

「ん……?誰かな?」

 

こんな時間に来客か?まだ早苗や妖夢達には伝えてないはずだが……とりあえず、返事をする。

 

「入るわよー」

 

そう言い腰より長い艶やかな黒髪を持つ女性、蓬莱山輝夜さんが入って来た。

 

「随分と暇そうね」

「いんー……暇っちゃ暇ですね」

 

まぁ、本来は永遠亭にはそんなに居るつもりは無かったのだが……2日居る羽目になった。

 

「ごめんなさいねー、うちの鈴仙が」

「ああ、もういいですよ」

「そう言ってもらえるとありがたいわ」

 

「そうそう1つ注文があるのだけど」

「俺に難題はやめてくださいよ。今は捜査もしている身ですから」

「そうじゃないわ、その話し方よ。堅っ苦しくてしょうがないわ」

「い、いや、流石に姫様にタメ口は……」

「そんなに偉くないってほら、私達は似た者同士なんだからッ」

「え?似た者同士?」

 

どこがだ?俺は普通の教師で輝夜さんはお姫様。性格も似てるとはとても思えない。

 

「そうそう、だって貴方『物事を不変にする程度の能力』なんでしょ?」

「まぁ、そうですが……」

「私はね『永遠と須臾を操る程度の能力』なのよ」

「へ、へぇ……」

「で、『永遠』というのが鍵でね、それは『不変』と言うことなのよ」

「!?」

 

あれ?俺、能力被った?

 

「貴方と私は最初全く同じだって思ったんだけど永琳が違うって言うのよ、だから、似た者同士よ」

「は、はぁ……」

 

どんな感じで違うのかが物凄い気になる……

 

「姫、どう違うかは説明しましたよ」

「あら、永琳いたのね」

「ええ、彼に痛み止めを」

「あ、ありがとうございます」

 

ああ、どんな風に違うかメッチャ聞きたい……

 

「姫と貴方の違い教えましょうか?」

「是非!」

 

「そうね、まず姫の方から説明するけど、永遠つまり不変ということなのだけれど未来永劫全ての変化を拒否するーーーつまり、歴史を持たないの。その事によって、寿命や変化が無くなるーーー食べ物は腐らないし、割れ物は割れないのよ。その能力がかかった世界では時が止まったに等しいのよ」

「ほー……」

「で、次に勇人ね。これは紫から聞いた事を私なりに解釈したのだけれど……貴方も同じく変化する事を拒む。それは姫と同じよ」

「そうですよね」

「だけど、貴方の場合も食べ物は腐らないし、割れ物は割れない。けどね、極端な話、逆に食べ物は必ず腐るし、割れ物は必ず割れるという事も言えるのよ」

「ん??」

「貴方は『物事』を不変にするのでしょ?つまりは変化する事を不変にできるのよ。貴方の『不変』は『歴史』を持つのよ。そして、貴方はその『歴史』がどうなるかは自由に決めれるし、未来の歴史も決めることができ、そして必ずその歴史は起きる。その歴史が起きる中でその歴史とは違うことは排除され、干渉することは出来ない」

 

「時が止まった事に等しいに対して、貴方は時の流れの中で自分が決めた流れを作り出せる。まぁ、貴方はまだ完全に使いきれてないようだけど。っと言った感じかしら?」

「……成る程」

「え?分かったの?私にはいつ聞いてもさっぱりよ」

「ええ、流石永琳さんですね」

「分かってくれたのね、姫が全く分からないって言うから自分の説明に自信が無くなるとこだったわ」

「ま、でも似た者同士には違いないんでしょ?」

「……それでいいです」

「ということで私には敬語禁止ね」

「どういうことですか……」

「ほら!敬語禁止!」

「はい、分かりm……分かった」

「うんうん!それでいいのよ」

 

それにしても永琳さんはすごいなぁ……自分よりも深く能力について考察できるなんて……にしても、ここの人達も凄いんだな。

 

「あ、そういえば、鈴仙さんの能力も知りたいですね」

「そうね、ウドンゲは『狂気を操る程度の能力』もとい『波長を操る程度の能力』よ」

 

「それはーーー(以下割愛)」

 

「ふむふむ……どうりで景色が気持ち悪くなったり、弾幕が消えたりしたのか……」

「まぁ、貴方には無効だけどね」

「ソウデスネ……」

「ま、あの娘とも仲良くしてあげて頂戴。ああ見えて寂しがり屋なのよ」

「俺でいいなら、仲良くさせてもらいますよ」

「よろしくね」

「私からもよろしく」

「ええ」

 

ふぅ……今日は中々有意義な時間だったな……自分の能力についてここまで根を掘り下げて考えるとは……でも、自分を突き詰める事も大事だな。

 

あ、肝心の怪奇死について聞きそびれた……ま、明日聞こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーートン、トン

 

「ん?また、誰か来たのかな?」

 

永琳さんか、輝夜さんかなって思ったけど、弱々しいノックの音で違うなと思った。じゃあ、誰だ?んー……遠慮してるのかな?とりあえず、大きな声で返事をした。すると、恐る恐るといった感じでドアが開いた。

 

「失礼します……」

「えっと……鈴仙……さんですよね?」

 

半開きのドアから覗く薄紫の髪。伏せがちの赤い瞳でこちらを見つめたまま動かない。

 

「あのー……何をしに……」

「ほ、包帯の交換をしに……やっぱり、私では嫌ですよね……師匠と変わってきます」

「そ、そういう意味じゃ無いですから!な、何の問題も有りませんら!」

「は、はい……」

 

完全に萎縮してしまってる……包帯の交換をする時もどこかよそよそしい感じが……ただ、静まり返り、痛々しい程の沈黙が降りるのみ。

 

こういう時に気の利いた言葉をかければいいのだが……生憎、俺の性格ではそういうハイスペックな事は出来ない。何か話題と、あれこれ思案する。

 

そんな中、鈴仙の指が傷口に触れ、

 

「痛っ……」

「あっ、すいません!すいませんすいませんすいませんすいません……」

「だ、大丈夫だよ!そんなに謝らなくてもいいから」

「はい……すいません……」

 

もうどうすれば……

 

そうして、また気まずい雰囲気に……これが続くかなと思ったら意外にも、鈴仙により止められた。

 

「あの……あの時の事は本当にすいませんでした……」

 

消え入るような声、されども彼女の精一杯の謝罪ーーーほぼ無傷の鈴仙に対し、傷だらけの俺。その事も気にしてだろうか?

 

「私が勝手に勘違いした上に貴方を怪我させて……なのに私はこうした無傷だなんて……」

「いやだから、謝らなくても……」

「いいえ……臆病で自分勝手な事ばかりするから私は……」

 

なんというネガティブ思考……思わず額に手をやる。

 

「も、もしかして、お気に召したでしょうか」

「いや、そういうわけじゃ無い」

 

「あのね、俺は全然君を責めてなんかいない。もう謝罪もしなくてもいいって言った」

「……はい」

「確かに君は臆病者だ。今も責められるのを恐れてペコペコしてるし、君が月から逃亡して来たという事も永琳さんから聞いてる」

「そ、そうですよね……」

「だが、憶病者が悪いとは思わない。ただ、何事にも恐れず突っ走って、死んでしまうような奴の方がよっぽど悪い。それにそんな奴は自分が居なくなったら周りの奴が悲しむという事も知らない自分勝手な奴だ。だから、あんたは自分勝手じゃない」

「で、でもーーー

「そもそも自分勝手な奴が永琳さん達を守ろうとはしないし、こんな風に丁寧に包帯を巻いてくれないよ。それに今回の事は誰も君を責めていない。そんなことぐらい分かるだろ?」

 

俺の問いに対し、鈴仙は俯く。あの永琳さんの弟子だ。そんなことは自分が1番分かってるはずだ。

 

永琳さん曰く、ずっと逃げて来た事を負い目に思ってたらしく、いつの日か吹っ切れたとか言ってたらしいが、やはり心の何処かで引っかかってたのだろう。

 

「まぁ、今こうして世話をしてもらってる訳だからそれでおあいこな?」

「それで……いいのですか?」

「ああ、勿論。それでも納得しないのなら……」

「えっ、え!?」

 

俺は驚く鈴仙の右腕を掴み上げる。その右手には包帯が巻かれてある。この傷は間違いなく俺によるものだ。

 

「この綺麗な手に傷をつけてしまった事も含めておあいこだな?」

「き、綺麗!?」

「それに君は永琳さんの手伝いをして、貢献してるのだろ?」

「そ、それは師匠が素晴らしいので私はそんなに……」

「そんなに謙遜しなくてもいいさ。人の命を救うとは簡単な事じゃ無い。俺よりもよっぽど誇れるぞ」

 

これも永琳さんから聞いた。永琳さんは少々マッドの気があるが、なんやかんやで鈴仙に気をかけている。

 

「君を頼りにする人はたくさんいるさ。だから、胸を張ってやってくれないと。まぁ、俺もここのお世話になる事が多いからな、俺も頼りにしてるさ」

「〜〜〜ッ!」

「って、あっつ!」

 

な、なんだ?急に鈴仙の手が熱くなったぞ?それに鈴仙の顔を見たら物凄く赤い。あれ?熱があるのでは?

 

「た、体調が悪いなら早く言え!後は自分でできるから、休め!」

「いえ!そういうわけではっ!」

「そ、そうか、でも無理はダメだぞ?」

「あ、あの、勇人さんっ!」

 

鈴仙はここに来て初めて俺の名前を大きな声で呼んだ。先程のような相手の顔色を伺うような眼ではなく何か決心をしたような眼になった。そう、ダイヤモンドのようなーーーいや、いい。まぁ、その眼には俺が映し出されている。

 

「ゆ、勇人さんがさっき言った事は……こんな憶病者の私でも必要としてくれるんですか?」

「まぁ、そういう事になる。俺も怪我が多いからなぁ……だから、頼むよ、鈴仙」

「は、はいっ!」

 

いつの間にか呼び捨てになってるが、まぁ見た目的にも同世代ぐらいだからな。それに鈴仙の表情も暗黒のオーラを纏って入って来た時よりも随分と明るく、大きな声になったな。表情も微笑んでいる。うん、女性は笑顔が1番似合うな。

 

……しかし、俺は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人さんは私が必要……私が必要……私も勇人さんが……つまり、そういうことよね……ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

 

 



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第57話 ゴースルーヘルの日の青年

「んー……ごめんけどその事は何も分からないわ」

「そうですよね……」

 

あー……永琳さんも知らないか……なんやかんやで忘れかけていた妖怪の怪奇死事件。結局尻尾も掴めてない。ここにある情報はやられた妖怪の死に方と場所のみ。それ以外何もない。

 

「んー……どうしようか」

「ごめんなさいね、力になれなくて」

「いえ、何か変わった事があれば言ってください」

 

本当にどうしようか……今は怪我で動けないし、何もできない。あー、こっそり出てもバレないかな?

 

「入院中に何処かへ行こうとか思ってないわよね?」

「え、エエ、ゼンゼンオモッテマセンヨ」

 

幻想郷の皆さんは勘が鋭いようです。

 

「あら、もうこんな時間ね、とりあえずもう一回包帯を取り替えましょうか。ウドンゲ〜!」

 

本当だ、もう日が落ち始めている。とか、考えてるとあっという間に鈴仙がやってきた。

 

「はいっ!なんでしょうか?」

「勇人の包帯の付け替え頼むわ」

「はいっ!喜んで!」

「あ、あの……もう、そのくらい自分で……」

「わ、私、必要無いんですか……?」

「いやいやいや!必要だよッ!?めっちゃ必要!」

 

く……ッ!涙目で上目使いとは……此奴できるッ!クソゥ……あんな可哀想なウサギのような顔をされちゃぁな……

 

「そうですか!じゃあ、変えますね♪」

「あ、ああ……頼むよ……」

 

打って変わって上機嫌に……包帯を取り替えるだけなのだが、それが鈴仙には楽しいようで鼻歌まで歌ってる。仕事が楽しそうなのはいい事だ。

 

「はい、終わりました。それでは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1つ貴方に聞いていい?」

「はい、なんでしょうか?」

「ウドンゲと何かあったかしら?」

「ええ、これの前に包帯を取り替えてもらいましたが」

「それは知ってるわ。私が頼んだから。そうじゃなくて、ウドンゲがあんなに積極的に取り替えるなんて……本当に何も無かった?」

「ええ、特に……お話とかはしましたが」

 

本当に何も無かったと思うが……

 

「どんな話をしたの?」

「それはーーー

 

 

〜青年説明中〜

 

 

「はぁ……なんと言うか……無自覚でそれを言うあたりがタチ悪いわね」

「え、え?何か問題がッ!?」

「無いわ、無いのだけど……徳があり過ぎるのも問題よ?」

「??」

「どうして戦闘においては相当な切れ者なのに、そういうことは疎いのかなぁ……」

「どういうことですか?」

「分からないのなら、分からないでいいわ。でも、覚悟はしなさいよ?」

「覚悟?はて?」

「まぁ、ウドンゲとくっついてずっと勇人がここにいるのも悪く無いわね……」

「はぁ……?」

 

よく分からんが……とりあえず仲良くしろよって事?

 

 

「すいません、勇人さんはいま……すか?」

「あら、貴方のお客さんよ?2名ね」

 

何故だろう。俺の本能が警告を鳴らしている。後ろを振り向くなと……

背中に強烈な暗黒のオーラを痛い程感じる。あ、あれぇ?ここって地獄だっけ?

 

「「勇人さん」」

 

ギギギッと油がきれた機械のように頭を動かし後ろを見る。

 

「や、やぁ。元気か?」

「そんな風に見えます?」

 

こ、この俺が恐怖してるだと?いや、誰でもこれは恐怖するって。いや、笑ってはいるんだよ?でも、眼が笑ってネェんですわ。寧ろ、人を射殺すような眼なんですわ。

狂気とかそんなチャチなもんじゃねぇ、恐ろしい地獄の片鱗を味わったようだぜ……

 

「こ、これはだな、調査をだな……」

「へぇ……お一人でですか?」

「ええ……」

 

早苗、怖い!早苗さん、本当すいませんでしたから……

 

「それではその傷は?」

「あ、ああ、これはだな?色々あってだな?」

「色々じゃ分かりません」

 

うう……妖夢さんも怖い。

 

「いや、落ち着こう、な?」

「勇人さん、お薬で……あら、妖夢と早苗じゃない」

「れ、鈴仙さん?お、お薬もらうよ……」

「その前に話すことがあるでしょ?」

「あは、あはははは……」

「これではダメですね……鈴仙さん!」

「何?妖夢?」

「勇人さんがなんで怪我したのか知ってます?」

「ええ、私のせいよ」

「「なっ!?」」

「本当に申し訳なかったわ……」

「ま、まぁ、謝罪もしてくれたから、いいよ」

「やっぱり、勇人さんは優しいですね。それに私を"必要"としてくださってるのでしょう?」

「ウェ?」

 

な、何を?

 

「どういうことでしょうかね?」

「……お、俺にもさっぱり……」

「何を言ってるのですか?あの時、私が必要と言ってくれたじゃないですか……ああ……お互いに必要としているから結ばれるしかないですよね?」

「ふぁッ!?」

 

そう言いながら自分で体を抱きしめくねらせる鈴仙。それに対し、暗黒のオーラがさらに強化されもはや、近づくだけで死にそうなオーラを纏う、早苗と妖夢。

 

「……どういうことですか?私達はダメなのに……鈴仙さんはいいんですか?」

「そういうわけじゃ……」

「え?私は必要無いんですか?」

「お前の場合言い方に語弊が……」

「でも、必要なんですよね?」

「アアアアアア!」

 

「みんな仲良くしてくれるのはいいのだけど、彼はけが人よ?」

 

ここに来て、救世主登場。ああ、流石、永琳さん。

 

「は、はい……」

「すいません、少し熱くなり過ぎました」

「す、すいません、師匠」

「まぁ、お見舞いに来たのなら別に泊まっていっても構わないわ」

「え!チョッ!」

「もちろん、そうさせてもらいます」

「ええ、勇人さん成分が枯渇しかけたので……」

「いつからそんな成分できたんだよ……」

「因みに、無くなると発狂します♪」

「私もです」

「oh……」

 

もうヤダ……お家帰る……あ、帰れないのか。いや、帰っても変わらんか……

 

「はい、お薬です」

「どうも……あれ?いつもより多くないか?」

「気のせいですよ」

「ふむ……そうか」

「それじゃあ、私はリンゴを剥きますね」

「そこまで重傷じゃあないからそんな事しなくても……」

「リンゴを剥きますね?」

「アッハイ……」

 

妖夢まで怖い……あの眼を直視できる気がしない。

 

「はい」

「ああ、ありがとう」

 

切られたリンゴに手を伸ばそうとすると妖夢がそれを手で制した。え?と小首を傾げると、妖夢はフォークにリンゴを刺してこちらに向けていた。

 

「大丈夫だ、自分で食べれる」

 

と言ったが妖夢も引くつもりが無いらしい。ただリンゴをこちらに向ける。顔を真っ赤にしながら。

 

「あーんしてください……」

 

はぁ……恥ずかしいならやらなければいいのに……フォークがプルプル震えている。これで食べないのは流石に酷なので……

 

パクッ

 

シャリシャリと咀嚼をする。まぁ、旬では無いのでそれほど甘みは無いがまぁ、美味い。

ただなぁ、2人の視線が……そんな恨めしそうな眼で見ないで……

 

「ほ、ほら、もう時間だろ?お、俺は寝るよ……」

「それにしては早過ぎませんか?」

「さ、最近睡眠時間が足りないから……」

「ふーん……分かりました。それじゃあ帰ります。さ、行きましょ?妖夢さん」

「え?あ、はい……」

 

あ、あれ?随分と簡単に引き下がるんだな……粘るかと……

ま、まぁ、こうして平和が訪れたのだ……と思っていた時代が俺にもありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、いつもならもう寝付いてる時間なのに全く眠くならなかった。むしろ、眼がギンギンしてるくらいだ。まぁ、寝る事も出来ないので適当に本を読んでいたら

 

「勇人さん、今お時間いいですか?」

 

思わぬ来客に少々驚く。やはり、夜遅くまで仕事してるのかな?人の命を救うというのも大変だな。

 

「今は暇だから構わない。どうした?鈴仙」

「少し用事が。そんなに時間は取りません」

 

まっすぐな眼差しでこちらを見る鈴仙。前は大分卑屈な感じがしたが、今ではいい眼差しに変わった。俺がきっかけで変わったのならそれはそれで嬉しい。だから、そんな真剣な表情を無下にするのはよく無いので

 

「ああ、俺にできるなら」

「あ、ありがとうございます!」

 

あまり深く考えずに答えた。鈴仙の役に立つならいいというぐらいしか。

 

「…………ふふっ」

 

鈴仙が笑った。普通の人から見たら可愛らしい娘が微笑んでると思うだろう。しかし、俺はその微笑から深い闇を感じ取った。

危機を察知し、動こうと思った矢先体に異変を感じる。急な倦怠感を感じ、体がまるで鉛でできたかのように重い。

 

「お、お前何を……?」

 

鈴仙が薬を盛ったのか……?はっ!そういえばあの時少々薬が多かったような……

 

「時間もぴったり。効果は抜群ですね」

「お、お前……!」

 

鈴仙の暴走は止まらない。動こうにも体が言うことを聞かない俺ににじり寄ってくる。

 

「な、なんで……こんなことを…」

「理由なんて、いります?」

「??理由も無しにこんなことを?」

「そうですよ?」

 

何か問題が?とでも言ってるような様子で首を傾げる。そして、赤い瞳に深い闇を宿して……

 

「勇人さんには私が必要で、私には勇人さんが必要なんですから……」

 

まるで機械のような声音に背中に冷たいものを感じる。本能が俺に告げる。こいつはやばいと。だが、いくら警鐘を鳴らしても体はイマイチ反応してくれない。

そして、鈴仙はベッドの上に上がり、俺の上に跨る。

 

「勇人さん……勇人さんは私が必要だと言ってくれましたよね……?」

「頼りにしてるとは言ったが……」

 

重いを体を無理矢理動かし、後ろに下がる。しかし、鈴仙も合わせて寄ってくる。

 

「私にも勇人さんが必要なんですよ……だから、2人が一緒にいるのは当然ですよね?」

「だ、だからか?」

 

鈴仙は返事の代わりにもっと寄ってくる。俺も下がるが、背中に壁が当たる。だが、鈴仙は止まらない。

もう少し近づけば唇が当たる距離にまで迫る。そこでまた体の異変に気付く。

 

「はぁ、はぁ、お前薬に何を?」

「筋肉弛緩剤と……媚薬です」

「はぁ?」

 

どうりで体も熱い訳だ。息も荒くなってくる。

鈴仙の吐息を嫌でも感じてしまう。しかし俺は恍惚とした表情で俺を見つめる鈴仙から眼を逸らすことはできなかった。

 

「もっと、私を必要としてくださいね。……勇人さん、勇人さん、勇人さん、勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん……」

 

壊れた再生機のように俺の名前を繰り返す鈴仙。早く不変の空間を作らないとと思うが、鈴仙の狂気と官能の匂いに加え媚薬のせいで思考が混濁していく。

気付けば、鈴仙の整った顔がもうすぐそこまでに迫って……

 

「こんな時間にすいません。やはり、勇人さんが気になっ……」

 

突然やってきた妖夢と鈴仙の眼が合う。しかし、それはすぐに終わり、白刃が煌めく。

 

あれからも修行を重ねたのだろう。始めて戦った時とは比べ物にならない程の速さで鈴仙に迫る。

しかし、鈴仙も突っ立ているだけでは無い。鈴仙も格闘においてはかなりのものを持っている。

瞬く間に妖夢の手首を掴み、そのまま懐に入り込み軽々と妖夢を投げる。しかし妖夢は空中で体勢を整え俺の目の前に着地する。

 

「何があったのですか?」

「お、俺にもサッパリだ……」

 

そう言い、妖夢は再び構える。幼さが見える顔ながら、そこには確かな信念がありそれによって凛々しさを感じさせる……その、白髪も……はっ!お、俺は何を?さっきから理性が……!

ああ、幼さと大人らしさが混在した……

 

「違うッ!そうじゃぁないッ!」

「ゆ、勇人さんっ!?いきなり頭を壁に打ちつけたりして!?」

「HANASE!お、俺は媚薬なんぞに理性を失われてたまるかッ!」

「ゆ、勇人さん!正気が失われてしまいますッ!」

 

「妖夢さん……貴女……勇人さんに何をしてるのかしら?」

「それはこっちのセリフです」

「互いに必要としているから一緒に居るだけよ?だから、共にいるのは当たり前でしょ?」

「話が飛躍しすぎです。貴女はただ、一方的に求めているだけです」

「理屈なんていらないわ!私には頼りにしてくれる人が必要なの!」

「勇人さんはどちら側に立つんですか?」

 

鈴仙の気持ちは分からんでもない……月から逃げて来て臆病者のレッテルを貼られた屈辱。それを負い目に暮らす日々。精神に相当な負担があっただろう。

しかし、それはただの鈴仙の言い分に過ぎない。冷静に見れば妖夢が正しいということは明々白々だ。

しかし……

 

「俺が……どちらかに立つと言うのは答えられん……」

「ふふ……優しいのですね」

「ただのヘタレだ……」

「それでは私は私の立場を貫き通させてもらいます」

 

再び妖夢と鈴仙が交差する。

妖夢の斬撃は圧巻の言葉に尽きる。しかしとて、鈴仙はそれを受け流す。その攻防戦は流石としか言いようがない。

しかし、戦いには必ず終わりがあり……

 

妖夢が脚を狙うが、鈴仙はそれを跳んでかわし、そのまま妖夢の側頭部にめがけて回し蹴りをする。すかさず、もう1つの刀でそれを受け止め、間合いを取る。

 

「「ハァァァァ!」」

 

一気に間合いを詰める2人。これで終わらせる気なのだろう。

 

しかし、その終わりはどちらかが勝ったわけではない。

突如現れた弾幕によりそれは終わりを告げた。

 

「さ、早苗!」

「無事……では無いようですね……酷い格好をしてますよ」

「はは……」

 

「弾幕をすでに張っていますから動かない方がいいですよ」

 

普段はのほほんとした彼女だが、珍しく今回は明確な敵意を向けていた。

 

「ふぅ、助かった……どうして、ここに?」

「いや〜、勇人さんと2人きりになれるかなって」

「…………」

「ところでこれはどう言うことですか?鈴仙さん」

「……ッ!」

 

流石に妖夢と早苗では分が悪過ぎる。

追い詰めるように歩を進める早苗。だが、俺はそんな彼女を引き止めた。

 

「勇人さん?」

「ここは俺に任せてくれないか?」

「……いいですけど」

 

俺を見つめる赤い瞳は先ほどのような深い闇を宿していなかった。不安、動揺、執着……様々な感情が入り混じってるようだ。

 

「安心しろ、誰もお前がいらないなんて思っていない。もちろん俺もだ」

「…………」

「前も言った通り、お前のことは頼りにしてる。これはまぎれもない本心だ」

「……いいんですか?私みたいな臆病者で、弱虫で、そのくせ自分勝手な私なのにいいんですか?」

「そんなことを思ってるのはお前だけだ。みーんな、お前のことを頼りにしている。だから、そう卑屈になるな。それとも、俺のことが信用ならんか?」

「そんなことは……」

「なら、もう決まりだな。今後こんなことをしないなら、今回のことは水に流そう、な?」

「は、はい……」

 

「妖夢と早苗、ありがとな」

「当然のことをしただけです。私としても、勇人さんがたらしだということが分かったので」

「た、たらし?」

「そうですね、どうぞ鈴仙さんとご自由に」

 

あ、あれぇ?2人のご機嫌が相当斜めなんだが……

 

「ゆ、勇人さん……」

「ん?なんだ?少し外を歩きたいのだが……」

 

体はある程度動くようになったのだが……未だに体が火照ってる。雑念が入る前にどうにかしたいのだが……そうでもしないと理性がな?

 

「私を抱きしめてください!」

「ぬぁ?」

「「え?」」

 

これは試練だ!耐えるのだ!

 

「わ、私も!」

「え!ちょっ!」

 

まぁ、ここでの騒ぎはひと段落したことで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌァァ……俺、頑張った……」

 

はは、やってみせたぞ……ただでさえ魅力的な女性を抱きしめて、理性がマッハで削れている上に媚薬の効果。何度頭を叩きつけた事やら。おかげで頭にはガーゼを当ててる。夜?寝れませんでしたよ。

 

「勇人!!」

「ん?」

「勇人!探したぞ!」

「慧音さんじゃないですか、どうしたんですか?」

「例の妖怪の怪奇死のことだが……犯人の尻尾を掴んだ」

「え!?本当ですか!?」

「ああ……だが……な、チルノが……」

「チルノがどうしたんです?」

「チルノが犯人にやられた」

「え?」

「チルノは妖精だからすぐに復活する安心しろ……勇人?」

 

バチ、バチ、バチバチバチバチバチバチバチ!

 

「早く教えてください……!」



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第58話 発見の日の青年

「早く教えてください……!」

「お、落ち着け!焦っても意味が無いぞ!」

「ん……!そ、そうですね、つい熱く……で、その犯人は?」

「まだ分かったわけでは無いが……証拠らしき物は見つかった。フランとチルノと大妖精が見つけたそうだ」

「それで……チルノが……」

「すまない……教師なのにこんなことに……」

「いえ……慧音さんは悪く無いです」

「そう言ってくれると助かる。フランと大妖精はチルノの迎えに行ってから来るそうだから、その娘達の迎えに行ってやってくれ」

「はい、では、慧音さんは?」

「この紙から手がかりがないか調べる」

「了解です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?慧音さんじゃあないですか」

「ん?早苗と妖夢か……ここになんでいるんだ?」

「勇人さんのお見舞いに……」

「?勇人はここに調べに来たのではないのか?」

「そうなんですが……実は色々あって怪我しちゃったんです」

「その色々は聞かんが……まぁ、災難な奴だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

単調な風景、非常に成長の早い竹、地面の僅かな傾斜で斜めに生えた竹による平衡感覚の異常、などが原因で非常に迷いやすい『迷いの竹林』。その中を迷ってるいるような様子もなく進む青年が1人。

 

「(チルノがやられた、か……チルノはそんなに弱いはずが無い……普通の人間では無いと見るのが妥当か……)」

 

「………………」

 

「(誰か後ろからついて来ている……それで、気配を消したつもりか?妖力がダダ漏れだ)」

 

迷いの竹林の出口とは真反対のところに向かう青年。

 

「……………」

 

「(こいつ妖怪なのか?人間にしては妖力が大きいし……妖怪にしては殺意が全く感じない。襲う気配も全く無いぞ)」

 

走り出す青年、それについて来るかのように追いかける影1つ。

 

「(走ってもついて来るか……こいつ……例の犯人か?……確かめる価値はあるな)」

 

走る青年。追いかける影。青年が竹林の中に消えていき、影も追いかけるが見てみれば青年はいない。

 

「…………!」

「俺を探してんのか?」

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……この文字は……んー……」

「あら、だいぶ悩んでいるようね」

「永琳か……文字だけが手がかりだからな、だが、チルノが必死にもぎ取ったものだ。是が非でも犯人を見つけないと……!」

「まぁ、程々に、頑張りなさいなって、紙が落ちてるわよ」

「ああ、すまない。生徒の宿題を落としたようだ…………ちょっと待て……こいつの字……」

「どうしたのかしら?」

「この字……似ている!この字も!こいつか!分かったぞ!しかし、生徒が犯人だとは……つまり、勇人も危ない!早く伝えないと!」

「貴女も落ち着きなさいな……って言っちゃったわね」

 

落とした宿題には『当麻琥太郎』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさぁ……ずっとつけてるの分かってんだからな?何をした……いんだ……?」

 

ずっとつけて来た影を見てら青年は驚く。無理もない。その影は寺子屋で見た顔だからだ。

 

「お、お前は……寺子屋に最近来始めた……『当麻』じゃないか……!?(人違いか?でも、妖力はこいつから感じている……!何故?今まではそんな様子は無かったぞ?)」

「…………フッ」

「今までの事件はあんたがやったのか?」

「だから?知ったところで……意味はない。……お前は死ぬんだからなッ!」

 

当麻の鋭い蹴りが勇人に迫る。その蹴りは素人の蹴りそのものだった。だが、速さが人間のそれではない。

 

「……ッ!」

 

その蹴りは勇人の腹を掠めたがダメージにまでは至らなかった。

 

「あんた……人間か?その速さ……パワー……人間じゃあ無いぞ?」

「ハハ……凄いよな?あの青い奴って凄いパワー持ってんだな」

「……は?」

「いやー、あいつを倒すには苦労したよ。だって、凍らせてくるんだもん。まぁ、俺の前では無意味だがな」

「……やっぱり、あんたか……生徒だから少し躊躇いがあったけど……もういらないな」

「あっそう。だからッ!?」

 

バッ

 

金槌のような、速く、重い拳が勇人の顔付近を通る。

 

「……クッ!(やっぱり、こいつ人間じゃねぇ!この拳が当たったら吹き飛ぶぞ!)」

 

バッ、バッ

 

「(チィ……戦い慣れしてやがる……全部見切ってるようだな……だかな……あの青い奴のおかげで相当な量のパワーを奪い手に入れた!もはや、ただの人間なんか相手にならんッ!)」

 

シュッ

 

「クッ!!」

 

当麻の拳が勇人の頰を掠める。

 

「(あ、あぶねぇー!あと少し遅かったら……)」

「うーん、惜しかったなぁ。やっぱり、噂通りの強さだな」

「あんたに聞くが何故こんなことを?」

「あ?お前に教える義理はねぇよ」

「なら、吐いてもらうまでだな」

「ふんっ、お前もあの青い奴と同じようにしてやる。そうだ、お前を倒したら、金髪の娘や緑髪の娘も同じようにしてやるか」

「……なんだと?」

 

「もう一度言ってみやがれ」

「ああ、何度でも言うさ、あの2人もぶっ殺してや……バッ

 

勇人の拳が当麻のすぐ目の前までに迫っていた。

 

「さ、流石だな(な、なんだあの速さは?見えなかったぞ?)」

「不意打ちは男として情けないからな……」

 

そう言い勇人は構えを取る。

 

「(腕は顔の横……重心は……)」

「そうか……(なんだ?あの構え?まぁ、関係ない。今の俺はあいつより速く、殴れる。それに、リーチもこちらの方が長い。もし当たったとしても、今までの妖怪で奪って来たパワーにより強化されたこの身体なら……肉を差し出し骨を頂く……あいつの拳を耐え、そのまま俺の拳を叩き込むのみ!)」

 

タッ

 

勇人が地を蹴る。そのまま当麻の元へ一直線に進み、近づいたところで拳を向ける。

 

「オラァ!」

 

勇人の拳が当麻に迫る。しかし、同時に当麻の拳も勇人に迫っていた。勇人の腕より長い当麻の腕は勇人の拳より先に迫る。

 

「もらった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズサッ

 

迷いの竹林に人影2つ。1つは立っており、1つは横たわっている。

 

「な、何故だ……!」

 

倒れているのは当麻。

 

「タイミングは完全に俺の方が速かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もらった!!」

 

当麻の拳が勇人の顔に迫る。だが、勇人は当たる直前に

 

クルッ

 

「なっ!?」

 

顔を捻り、そのまま、後方に旋回し、そのまま肘打ちを当麻の顔へ

 

ゴォン!

 

「グゲェ……!」

 

まともに喰らった当麻は、糸が切れた人形のように崩れた。

 

「バックスピンエルボー……って、言っても分かんないか」

「な、何故だ……?この身体は……」

 

あの膝打ちはただの肘打ちじゃない。なんと、肘に霊力を集中し、強化されていた。上級妖怪でも堪える攻撃だ。ましてや、少々強化したぐらいの人間では1発KOだ。

 

「ぐ、グゾォォ!」

 

さっきの攻撃により、頰の骨が折れたようだ。

 

「本当は俺がぶっ殺したいところだが……紫さんには捕まえるって言われたからな、生け捕りだ」

 

勇人はそのまま当麻の首根っこを『触る』。

 

「ハハ!『触った』な!?」

「ん!?」

 

異変を感じ取り、離れようとする勇人。だが、遅い。勇人は知らなかった。当麻の能力を。『力を奪う程度の能力』をッ!

 

ドシュッ!

 

「うげっ!グッ!!」

「ハハ……ハハハハ!バカが!俺のことはよく知っておくんだったな!」

 

「さぁ……霊力をくれェ〜〜〜ッ、お前の霊力をくれェ〜〜〜!」

「ど…….どんどん『霊力』が抜けてく!」

「霊力だけじゃねぇ、生命エネルギーもくれェ〜〜〜!」

「ゴフッ……!ふ、不変の結界を……!」

 

「張れないッ!?」

「ハハ!流石だな!今までの比ではないぐらいにパワーが上がったぞ!」

 

 

 

 

 

「先生ー!どこにいるのー!」

 

「ふ、フラン!?」

 

「あれー?確かに先生の声がして来たんだけどなー……」

 

「(な、何故フランがッ?不幸か幸いか……)」

 

 

「この辺から……って、いた!先生!」

 

当麻はフランからは見えないように勇人に触れたまま竹林に隠れた。

 

「なぁ、先生……フランって奴を呼べ」

 

「先生!何してるの?大丈夫?」

 

「『こっちに来てくれ』って言えよ……お前があいつを呼べば生命エネルギーを少し残して命を助けてやる。代わりにあいつの力を全てもらう。なぁ、協力しろよ」

「………………」

「命だけは助けてやるよ……早く呼べよ」

 

「先生、顔色悪いよ?何かあった?」

 

少しずつフランは勇人に近づく。

 

「早く言えよ!怪しんで近づいてこねぇじゃないか!」

「ふ……フランを差し出せば……本当に命は助かるのか?」

 

ニタァ

 

「ああ、約束するよ〜〜っ、奴の力との引き換えにだ。呼べ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが断る」

「はぁ!?」

「俺は教師だ。教師である俺が生徒をわざわざ危険な目に会わせるわけがないだろ!」

 

「逃げろッ!フランドールッ!これ以上近づいたら危険だっ!」

「えっ?」

「お、お前!」

「そこに誰かいるんだねッ!私が壊してあげる!」

「く、来るな!触られたら、フランドールでも勝てんぞ!」

 

ピタッ

 

「やった!触ったぞ!こいつの力もいただき!」

 

ドシュッ!

 

「きゃっ!ち、力が!」

「オラァ!」

 

勇人の血がフランに、着く。すなわち、

 

「あ?奪えないぞ?」

「フランドール!お前を不変化した!今の内に逃げろ!」

 

「え?え?」

「落ち着いて聞くんだ!こいつは触れない限り、力を奪えない!今は不利だ!この狭い中じゃ不利だ!早く広いところに行け!」

「うるさいんだよ!こいつ!」

 

ドギュゥ!

 

「ガッ……!」

「先生!」

「い、今は逃げろ!俺は大……」

「うっ、分かったよ!ごめんなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チィ……!逃げられたか……」

「まぁ、いい……こいつは凄いぞ!このパワー!今までとは比べ物にならないぞ!」

 

倒れている勇人は目を開けない。

 

「ふー、手こずったが……1番の問題を解決だな……こいつの能力も気になったが……もう用無しだ」

 

「もう、隠れる必要は無いな!」

 

迷いの竹林の中で不快な笑いが響く。

 



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第59話 正義の日の青年

迷いの竹林の上空を飛ぶフラン。太陽の下で吸血鬼が活動しているのはおかしいと思われるが、魔法のおかげか普通に飛んでいる。

 

その顔を涙で濡らしながら。

 

「(また、私のせいだ……チルノと同じように先生も……!)」

 

「(早く皆を呼ばないと、先生が死んじゃう……ッ、それだけは嫌だ!絶対に嫌だ!)」

 

そうしてるうちに目的地ーー永遠亭が見える、永遠亭の入り口の前に降り、入ろうとした時

 

 

「やぁ……嬢ちゃん」

「え!?なんであんたが!?」

「あの教師から力を得てからというもの……空まで飛べたぞ!元々鼻がきくからな、ここに来ることは予想したさ」

「……だから?お前なんか……ブッコワシテアゲル!」

「おーっと、動くな!あの教師はまだ死んじゃぁいない、少し生命エネルギーを残してやってる。俺の能力は離れていても発動するからな……」

「……ッ!卑怯よ!」

「ハハ!関係ないね!これが俺の『正義』だ!」

「(どうしたら、いいの?知らせないと……でも、勇人先生が、殺される……ッ!どうしたらいいの!)」

「動くんじゃぁねぇぞ……」

「…………ッ」

 

当麻の手がフランに触れる。

 

「ハハ……残念だがお前もあいつらと同じようになる」

「ねぇ……その能力って……1人にしか使えないのよね?」

「!?」

「そうよね、だって、私に触るためだけにわざわざ先生を人質に取るんだから……」

「な……ッ!」

 

フランは右手をパーにし当麻に向けて、

 

「ギュッとして……」

 

手を握り締めた。

 

ドガーン!

 

「やった……」

 

先程の爆発により辺りが煙に覆われる。

 

「先生のとこに……」

 

ドシュッ

 

「きゃっ!?」

 

「グッ……危ねぇ……あと少しで跡形も無く吹き飛んでた……」

「なんで!?」

「焦りすぎじゃねぇのか?よく狙ってからやるんだな」

 

フランは永遠亭へと走る。

 

「おっと……まだ能力は解除して無いぞ?」

 

ドシュッ

 

「え、永遠亭までたかが数メートルよ!こんな距離!」

「タフだな、だが限界だろ?」

「うッ!あと少し……!」

 

あと数メートルが届かない。フランは倒れる。

 

「ほらほら!もう無理だろ?」

「絶対……みんなに知らせるッ!絶対にみんなに知らせて……あんたをぶちのめして……」

 

ガクッ

 

「絶対に……永遠亭……に」

「はー……見上げた根性だぜ」

 

「大丈夫か〜〜?最近は当たりが多いからな……あの青い奴の力をもらってからパワーがみなぎってたんだが……あの教師とお前でさらに強化されたよ」

「ハー……ゼェー……うぐっ……」

「お?まだ動くか?」

 

バタッ

 

「(やった……こいつも始末できれば、もう怖いものなんて無いぞ!)」

「お、お前……なんか……先生が……みんなが……倒すんだから……お前なんか……より全然強いんだから!」

「…………うるせぇ、早く死ねよ」

 

当麻の右足がフランの顔に迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!

 

「!?」

「その足をどかしやがれ……」

「な……何だーッ!?」

 

そこにいたのは始末したはずの人間ーー碓氷勇人がいた。

 

「バカなッ!な、何で立てるんだ!?干からびせたはずだぞッ!何で立ち上がれんだよ!?」

「理由か?」

 

「わしじゃ」

「!?だ、誰だ!?」

「ホッホッ……こいつの祖父だよ」

「あー……本当に運が良かったぜ……」

「そうじゃの、わしが永琳の所へな睡眠薬をもらいに来たからの。この歳になるとな、寝付けんのじゃよ」

「あ!?それだからって立てるわけが無いッ!」

「わしの事知らんかのぅ……『神力を宿らせる程度の能力』なのじゃが……」

「ああ、おかげで力は回復させてもらった!」

 

「だからなんだ!お前、フラフラじゃねぇか!強化された俺に敵うわけが無い!」

 

「フッ!」

 

腰を使わず腕の瞬発力だけで繰り出す軽めの殴打……だが、これにより

 

「グッ!?」

 

隙が生じた。この隙を逃すわけもなく……

 

「オラァ!」

 

今度は体重を乗せた拳が当麻の腹に

 

ドゴッ

 

「グフッ!?」

 

声も出すことができずにその場に膝をつく。

 

「アガっ……ゴボッ!」

 

息が詰まったようだ。空気を求めるかのように口をパクパクさせる。

 

「ゴホッ、ゴホッ!フフ……なら、お前をもう一度……」

「あ、あんたの能力を使おうたって無駄だ」

「……!?」

「忘れたのか?今の俺は誰からも干渉されないからな?」

「な!?」

「ということで……チルノの仇もあるからな……」

 

当麻の額に銃口を向ける。

 

「ぐ、グゴァァァアアア!」

 

 

 

 

 

 

 

パァン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ…………ッ!?ど、どういうつもりだ!?」

「本当はぶっ殺したいんだが……生け捕りにしろと言われてるし………………何よりもあんたが何でこんなことをしたのかを俺は知りたい」

「はぁ!?」

「お前の過去は知っている。生徒から聞いたからな」

「そんなことはどうでもいい!早く仇を討てよ!」

「あんたの過去を知っといて殺すなんて出来やしない」

「ふ、ふざけるな!」

「それに……あんたは生徒だ。教師である俺が生徒を殺すなんて言語両断だろ?」

「そうだとしても……俺は妖怪を殺すのはやめない!」

 

その目には憎悪の感情がどす黒く渦巻いていた。

 

「俺が言うの何だが、お前の気持ちは分かる。なんせ、家族を殺されたのだからな。妖怪を恨むのも仕様がない」

「なら、なぜ止めようとする!?」

「だがな、妖怪の中にもいい奴がいることを忘れないでほしい」

「はぁ!?そんなわけが無い!里にいる妖怪だっていつか、里のみんなを襲うに決まってる!」

「なぁ……それなら、人間は全員、『いい奴』なのか?」

「な……!?」

「ここにはたくさんの人がいる。その中にはいい人はいる。だがな、同時に『悪い奴』だって存在する。全員が全員『いい奴』なんてありえないだろう?でも、俺らはその中で生きている」

「ぐ……ッ」

「逆に人間が全員、『悪い奴』ならやっていけないだろ?それは妖怪にだって言える。全員『悪い奴』じゃない。優しい妖怪だって絶対に存在する」

「で、でも、もし!もし、悪い妖怪が俺らを襲ったらどうするんだよ?また、あの時と同じように黙って見てろと言うのか?」

「はぁ……何で、慧音さんがいるだろう?俺だっている。幻想郷のパワーバランスの一角、舐めんな。全て、俺がぶっ倒す」

 

 

「俺は『悪い奴』なのか……?」

「悪い奴なら、里のためにとかなんて言わない。お前は打ち立てた『正義』がすこし違う向きに向いてしまっただけだ。空を正しい向きに向ければ絶対に里を守れる」

「俺は……俺は……」

「無理に妖怪と仲良くしろとは言わない。でも、人間の味方の妖怪だっていることは忘れないでほしい」

「うぐっ……ヒグッ……」

 

迷いの竹林の中で事件の全貌が明らかとなった瞬間であった。

 

「フッ……流石勇人ね」

「じゃろ?」

「あら、随分と久しいわね。すっかり老けちゃって」

「はー……お主はわしよりもずっと歳上のはずなのじゃが……変わらんのぅ……それに、わしがここに来るように言ったのはお主じゃろ?」

「そうよ」

「はぁ……相変わらず食えない奴じゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの事件のことを伝えておく。あの一件以来、当たり前だが妖怪の怪奇死は無くなった。その犯人である、当麻はあれ以降表面は変わらないが、寺子屋に来て同世代の子達と話すようになったようだ。妖怪に対してはやはり憎しみは残ってるようだが、前程でも無く、ある程度良くなったそうだ。1つ問題を挙げるなら、

 

「はぁ!?弟子にしろって?」

「はい、お願いします!」

「いや、待て。俺とあんたは同世代だろ?」

「でも、あなたはこの世界のパワーバランスを担うと同時に人里を守ってくれてるのでしょう?それに教師までも。少しでも負担を減らせるように僕は強くなって、この人里を守れるようにします!」

「その決意は素晴らしいが……俺は弟子とらんぞ?」

「そこをなんとか!」

 

と言う具合に真っ直ぐになってくれたが……真っ直ぐ過ぎる所だ。

 

 

後、色々お世話になった永遠亭では……鈴仙と一悶着あり、なんやかんやで一件落着してたかに思われてたが……

 

「勇人……この宿題の採点を」

「あ、はい」

 

今日もとて、仕事の量は半端なく忙しなく丸つけをする、いつもの時間だが……

しかし、若干の異変を慧音さんは感じ取ったようだ。

 

「ところでだな……勇人……」

「……はい」

「分かってるかもしれないが……」

「………………」

「あそこから鈴仙がずっとお前を凝視してるのだが……」

「じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 

ええ、分かってます。あれ以来、寺子屋の外側にある木からずっと俺を凝視するようになった。何かをするわけでは無く、ただ俺を熱烈な眼差しで見続ける。

 

「………………」

 

ホラー以外のなんでもない。

 

「慧音さん…………」

「はー……徳を持つのはいいことだが……持ち過ぎも問題だな……」

「それ、永琳さんにも言われました……」

 

とりあえず、日常に戻ったと見て問題無いかな?



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第7章 変わらない者と変わる者(鬼の半妖さんとコラボ企画‼︎)
第60話 襲来の日の青年


俺は今、とても悩ましい事に直面している。

場所は永遠亭。周りには妖夢、早苗にじいちゃん。当たり前だが、永琳さんと鈴仙。

 

「さて、今回来てもらったわけわね……」

 

悩ましい事の原因でもある紫さんが口を開く。ああ……どうしてこんな事に……俺の平和は何処へ……

そう思いながら、忌々しいあの空に浮かぶ城ーーラピュタ……じゃないが見るのだった。

 

 

 

 

話をしよう。俺は事件解決以来平穏な日々を堪能していた。

 

仕事がある日は朝6時に起床し、顔を洗い、朝食を取る。そして、コーヒーを飲みながら、その日の授業の確認をする。まぁ、この一連の流れには必ず、妖夢か早苗がいるのだが。

生徒が増えた今、クラスが増え、教師2人のみの中、馬車馬の如く働いている。俺は主に和算、慧音さんは歴史という具合に分配している。

 

あと、チルノやフランドールなどの『人間』ではない娘達の担当は俺がしており、楽しい日々を過ごさせて貰っている。チルノ、フランドール、大妖精、ミスティア、リグルそして、新参者のこいしと橙。こういった一癖二癖もある個性的な生徒達と過ごせて、中々いい仕事だと思う。あ、ロリコンでは無いから悪しからず。

 

ま、午前10時から午後3時までは授業をし、間の時間で宿題の丸つけをや採点、時にはテストの作成などをしている。この時、たまに外を見ると鈴仙がこちらを相変わらずの熱烈な眼差しで見てくれてるが気にしない。

そして、授業が終われば紅魔館の図書館で本を読む。そこの図書館は様々なものがあり、そこから体術や霊力の扱い方をより応用できるようにした。

 

そして、夕方には妖怪の山の麓にある家に帰り、ダラダラ過ごす。

 

そういった、平凡でかつ変哲も無い、一見したら面白味の無い生活に見えるような暮らしをしている。だが、俺からしたら、元の世界で何の目標も無く、ただぼんやりしたまま高校に行き、人との付き合いも深くせずーー灰色のような生き方をしていたのと、比べれば今は人里を守ることや、生徒に教えることや、妖夢や早苗達のように気兼ねなく話せるようなこの環境は幸せ以外の何者でも無いと感じる。まぁ、平凡な物こそ得難いと言うこともあるけどね。

 

っと、回想はここまでにして、本題に。何故こんな事になったのか?そうだな……あれは今から36万……いや1時間前だったか……

 

 

その日の俺は寺子屋が休みのため、休日を寝て暮らす事にしていた。死ぬ程働いた後(お陰で格好は昨日のカッターシャツに制服のズボン)のベッドは呪いの如く睡魔へ誘うのだが……それを邪魔する者が現れた。

 

「失礼するわ〜」

 

突如空間にスキマが生じ、不気味なところから上半身だけ出る女性ーー幻想郷で会いたくない相手No.2の賢者 八雲紫。無論、No.1は射命丸文だ。

 

「失礼と思うなら来ないでください」

「あら、冷たいわね」

 

ヒドイわと嘘泣きをする、スキマ妖怪をほっときながら、ベッドの呪いに身を任せようとした時、

 

「貴方にね少し頼みごとがあるの」

「そういうのは霊夢に頼んでください」

「いいじゃないのだって……

「「霊夢がめんどくさいって」」

「あら、分かってるじゃない」

 

人を何だと思っているのか、このお方は。あの事件もこの妖怪に押し付けられ、さっきと同じ理由を並べやがった。

 

「俺は教師です。決して便利屋では無いんですよ?」

「ええ〜、ケチねぇ。いいじゃないの少しぐらい」

「前回の事件では色々大変でしたからね、今回もまともなやつなわけがないです」

「そこを何とかね?ね?」

 

上目遣いしても何もならんぞ。美人なのかもしれないがはっきり言ってしまうと、年増の女性が若く装おうとしている風にしか見えない。

 

「貴方、失礼な事を考えてたでしょ」

「べ、ベツニ……」

 

幻想郷のお方は勘が鋭いーーここ大事よ。

 

「と、兎に角、俺は休みたいんです。だから、お引き取りください」

「もしかしたら、人里、いや幻想郷全体の問題にもなるかもしれないのよ?」

 

思わず反応してしまう。その反応を紫さんは見逃さなかった。

 

「それでいいのなら、突っぱねてもいいわ」

「わざと人里って言いましたね……」

 

この人……あの言葉聞いてたのか……はぁ……流石『賢者』、いや、食えないやつか。

 

「貴方も大概よ?」

「人の心を読まんといてください」

「それじゃあ、協力してくれるわね?」

「はぁ……次からは霊夢に頼んでくださいよ」

「ウフフ……やっぱりツンデレね、この野郎!」

 

拳銃に手が伸びるが何とか思い留まる。

 

「で、その内容は?」

「そうね、場所が悪いから……それっ!」

「は?ハァォァアアアアアア!?」

 

床が急になくなった感覚がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズトンッ

 

「イテテ……」

 

派手にケツから落ちた。

 

「あ、勇人さん!」

「ん?早苗か……ここは……ああ、永遠亭か……」

 

すぐに分かってしまう当たり、どれだけ永遠亭にお世話になったか分かる。多分1番お世話になってるんじゃないか?

 

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ……問題無いさ……」

 

妖夢の気遣いに心が洗われるのを感じながら立つと周りにはじいちゃんまでいた。

 

「え?何でじいちゃんも?」

「ハッハッ!わしも紫に呼ばれての!」

「そうよ、私が呼んだわ」

 

いつもの着流しを着た真っ白な白髪の好々爺のように見える老人。それが俺の祖父だ。名前は……

 

「勇人さん!私に会いに来てくれたのですね!?」

「………………」

「も、もしかして、結婚ですか!?きゃー!//」

「………………」

「少々早い気がしますが……私はいつでも構いませんよ//」

「………………(白目)」

「子供は2人は最低でも欲しいですね……」

「永琳さん…………」

「私はいつでも歓迎よ?」

「oh……」

 

この妄想全開の兎さんは……純粋な好意は嬉しいのだが……少々重い。

 

「ゆ、勇人さんは渡しませんよッ!」

 

違う……俺は早苗の物ではありません。そして、服の裾を掴まないでください、妖夢さん。

 

「ハッハッ!わしの孫はモテモテのよぉ!」

 

このジジィ……!

 

「はいはい、勇人の所有権については後にしなさいな」

「おい待て」

 

そして、今に戻り……

 

「さて、今回来てもらったわけわね……」

 

無視ですか……

 

「お気付きの人も多いでしょうけど空に浮かぶ城が現れたわ」

「ええ、知ってますよ」

「私もです」

「同じく」

「わしもじゃ」

「え、何それ知らない」

 

初耳なのだが……

 

「そこで!あの城を調べて欲しいのよ」

「いや、めんど……

「そうですね、不気味ですし」

「何か異形の者が現れるかもしれませんしね」

「それに少し面白そうよね」

「調べる価値はあるな」

「………………」

 

何でみんな乗り気なの?

 

「それじゃあ決まりね!」

「いや、めんど「決まりねッ!」…………」

 

俺に拒否権なんてなかった、いいね!?

 

「ああ……俺の休日……」

 

はぁ……とっとと終わらせよう……と言いたいがこう言って早く終わった試しが無い。

 

「それじゃあ、早速行ってきて頂戴」

「「「はい!」」」

「うう……」

「ほら、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

「ため息ばっかりですと幸せが逃げますよ?」

「残念だが……先程幸せをむしり取られたばかりだ」

 

本来ならフカフカのベッドでぐっすりのはずだったのに……

 

「フフ……勇人さんと一緒……」

 

「お前さん……いつの間に……」

「勘違いしないでくれじいちゃん……」

「ぬぅ……そこは聞かんでおこう……そうじゃ、最近の妖夢じゃが……不機嫌な時が多い。お前さんからも白玉楼に来てくれ」

「あー……分かった」

 

「ん?人影が見えますよ?」

「え?どこだ?」

「ほら、あそこに」

「むー……どれだ……あ、いたいた……咲夜も一緒?」

 

んー……背は……170はあるな……クソッタレ!で……年は同じくらいか?だが……右目が赤色、左目が紺色のオッドアイだ。

 

「怪しいですね……」

 

妖夢の言う通りだ。まず、目の色が普通の人では無いよな……それにただの人間が迷いの竹林に入るはずがない。ましてや、あの事件も相まって余計に不審に感じる。何よりも……あの羽根が普通では無いと教えてくれてる。

 

「んー……あいつの波長は危ない気がするわ……」

「前回のこともありますし、ここは牽制でも入れるべきでは?」

 

確かに早苗の案は正しいかもしれないが……あいつを見るとどこか引っかかるものがある。んー……なんだろうか?

 

「いきなり攻撃も良くないと思うが……」

「大丈夫です、牽制だけですから」

 

そう言い、俺らはその人達の元へ降りる。やはり、俺よりは背が高い模様……チッ

 

そんなことに嫉妬してたら、早苗と妖夢と鈴仙はもう弾幕を撃っていた。

 

ただ、そこには目を疑う景色があった。

 

羽根だけでも十分に変だと言うのに何と腕から刃物が出ていた!そして、

 

「ハァァアアアア!!!」

「「「「「!!?」」」」」

 

全ての弾幕は斬り捨てられ、肝心の本体はこちらに向かっていた!さらには咲夜まで!

 

こちらとて、戦いに慣れてないわけでは無い。すかさず戦闘態勢に皆はいる。俺も2丁拳銃を取り出し構える。

 

ああ!なんでこう面倒ごとが起こるのだ!

 




はい、今回初コラボです。声をかけて頂きました!まさに感無量!初めてのことですが精一杯頑張りたいと思います!

今回のコラボさせて頂く、鬼の半妖さんの小説『悪と正義の波紋&幽波紋(スタンド)使い、変化する者の幻想入り』を是非読んでくださいッ!

次回もお楽しみ!


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第61話 平穏に暮らしたい日の青年

戦いの火蓋は俺たちが牽制を入れることで切られた。あいつ……只者じゃない……直感なのでは無い。裏づけがあった上での確信だ。

 

牽制と言えども、幻想郷でも指折りの実力を持つ、早苗と妖夢と鈴仙の3人の弾幕をいとも容易く斬り捨てた。右手に刃物を出して。

これを見て、逆に普通だという奴はおかしい。しかし、俺はそれ以外にも引っかかるものがあった。

あいつといる、咲夜である。レミリアの従者のはずだが……どういうわけかあいつと一緒にこちらと戦う気満々である。咲夜とは面識が無いはずがない。紅魔館にはちょくちょく訪れるし、その度に咲夜とは会っている。顔見知りのはずだ。

だが、今の彼女にはそういった様子もなくただこちらに向かってくる。

 

「勇人さんッ!来ますッ!」

「ああ!分かってる!」

 

今回は相手が得体の知れない者なので早苗達には申し訳ないが後衛に回らせてもらう。半径5メートルなら、不変化できる。もしもに備えておこう。

 

そう思った矢先ーー

 

「『ザ・ワールド《世界》』!」

 

「グフゥッ!?」

 

腹にまるで車が突っ込んだような衝撃が走る。身体は後ろへ吹っ飛ぶ。何をされた!?例のあいつは俺とは離れている。

 

「ほほう……少しはタフなようだな……」

 

背筋が凍るような冷たく残虐性を秘めた声。しかし、俺は恐怖の前に今起こったことの整理を優先した。

 

「…………!?」

 

早苗と妖夢と鈴仙は俺と同じように吹き飛ばされていた。

 

「フッ、青ざめたな?」

 

何もかも見下すような冷酷な眼差し。まるで、俺の動揺、恐怖を見透かすように言葉を繋ぐ。

しかし、俺も今まで呆けて生きてきたわけでは無い。すぐに動揺を直し、相手の威圧に呑まれないように睨む。そして、右足を踏み出しあいつへ向かう。

 

「ほほう……向かってくるか……」

「向かわなきゃ、あんたをぶっ飛ばされないからなッ!」

「……勇気と無謀は違うぞ?」

 

後7メートル……6、5、4……

 

「『ザ・ワールド《世界》』」

 

先程と同じ言葉を繰り返す。思い出したぜ……その言葉……

 

「時を操れる者のみが認識でき、動ける時間……!?」

「動揺したのはお前の方だったな……」

 

景色が灰色に変わっている中、俺と俺の周囲は色を保っている。『不変の世界』ーー俺が許可した事柄や物質のみが存在や行動を許される世界。この世界には外側からの干渉は不可能だ。時が流れるのは不変であり、止めることはできない。そのまま、敵へ突っ込む。

 

「無駄ァ!」

 

リーチの長い脚が俺の顔面に向かう。

 

「……少し焦ってないか?」

 

相手が人間かは定かでは無いが、人は焦ると勝負を早く決めたくなる傾向にある。焦ってはいけないと思えど体は勝負を決したがる。その結果、こいつは1発で仕留めようと俺の頭を狙い蹴りを喰らわせようとしている。

つまりだな……こちらは非常に動きを読みやすい。

 

その蹴りを下へ躱し、懐に潜り込む。そして、そのまま右手に霊力を込め、拳を顎にめがけて振り上げる。

 

「オラァ!」

 

ガゴンッ!

 

相手の体はそのまま後ろへ飛ぶ。感覚は最高だ。霊力もいい感じに入った。軽い脳震盪は起こすんじゃないか?

 

「勇気と無謀は違う……か。確かにそうだな。無謀は何も考えず敵に立ち向かうアホ……しかしだな……俺には考えはあったんだぜ。裏づけがあったこそ、突っ込んだんだ」

 

地面に倒れてる者に言う。咲夜が何もしてこないのが少々気になるが、それは後回しで早苗と妖夢と鈴仙を運ばなければ……

 

「ハハ!流石のよう!孫よ!2人はわしが運ぶ。お前さんは妖夢を頼む」

 

見た目によらず元気に2人を担ぐ老人。はたから見ればさぞかし滑稽に見えるだろう。

 

「ペッ……」

 

先程のダメージで血が出てたようだ。

 

「よいしょっと……やっぱり、女って軽いな」

「ング……はっ!わ、私は!?」

「おお、目覚めたか、じっとしとけ、すぐに運ぶ」

「え、え?い、今私……お、お、お姫様抱っこを……!?」

「いやそうしない……「勇人!!避けろ!」ん?」

 

何を言って……

 

ドゴォ!

 

「ガハッ!」

 

背中に先程とは比べ物にならない衝撃が走る。意識が刈り取られそうになる。

 

「勇人さん!」

「グフゥ……だ、大丈夫……」

 

なんとか、妖夢に被害が及ぶのは防げたようだ。だが、痛みはとてつもなく、痛みのせいで目眩がおき、立つのもやっとになる。

 

「トドメは刺しておくものだぞ?」

「て、テメェ……」

「しかし、これ程のダメージで尚立っているとはな、賞賛に値する。それに先程の拳……生身にしては相当な物だ。この俺が拳を受けるとはな」

 

「だが、流石にもう限界だろ?スタンド使いでは無いにしては健闘したぞ?」

「スタンド……使い……さっきの『ザ・ワールド《世界》』という言葉といい……なんでジョジョの単語が出てくるんだ?っと、問いたいが………………信じたくねぇが……スタンド使い……存在するのか?」

「Exactly(その通り)」

「そうか……だが……テメェみたいな奴は野放しにはできないな」

「それと、名推理をした君にもう1つ教えてやろう」

 

さっきから、威圧感を消さずに話しかけるあたり、精神的にも抑えようてか?だがな

 

「テメェみたいな高圧的な奴は大っ嫌いだ。それに…………俺の平穏を脅かす奴はもっと嫌いだ」

「……ハハ!そういう強気な態度は嫌いじゃないぞ!俺のスタンドは『変化者《チェンジャー》』。君がどれ程のスタンドを知ってるかは俺も知らんが少なくとも君が知っている数以上のスタンドの能力に変化させれる。変化は強い……意味が分かるか?」

「………………」

 

変化……今、こいつは確かに変化と言った。変わる者……皮肉なもんだな……俺は変わらない者なのに。不変と変化……

 

「フフ……」

「おや?ここにきて笑みを浮かべるとは……何か考えでもあるのか?」

「さぁな、どう逃げるのかを考えてるんじゃねぇの?」

 

「京谷、やるべきことは別にあるわ、さっさと終わらせましょう」

「ふむ……こいつはまだ泳がせたいのだがな……そうも言ってられないか」

 

ハハ、言ってくれるぜ……俺が泳がせられるのか?

 

「……勇人さん、下ろしてください。私も戦います」

「無理しなくても……」

「それは自分を見てから言ってください」

「うっ……」

「ハハ!わしも忘れるんじゃないぞ?サポートは任せろ!」

「鈴仙と早苗はどうするんだ?」

「ん?とっくに目を覚ましておる」

「私達も戦います!」

「そうですよ!この戦いが終わったら私達……けっk「それはダメだ」なんでですか!」

「理由は2つ、まず俺の同意が無い、次にそれはフラグとなってしまうから言うな。結婚するんだと言って生きて帰ってきた奴はいない」

「そうですか……」

 

「いつまでお喋りするつもりだッ!」

 

振り向けば拳が迫っていた。

 

「そうはさせません!」

 

と目にも止まらぬ速さで妖夢が現れ拳を剣で受け止めていた。

鍛錬の成果が最近見て取れるがここまでとは……俺も頑張らないとなぁ……

妖夢が作ってくれた隙を逃さぬよう拳銃を構えて

 

「こっちを見ろ」

 

パァンと乾いた音を響かせ、霊力による弾丸は眉間へ進むが直前でピタッと止まる。

 

「こんな欠伸の出るようなスピードじゃあ避ける必要も無いな」

「妖夢!目を閉じろ!」

 

辺り一面に閃光が広がる。

 

「……ッ!」

 

「ここは距離を取らせてもらう。さぁ、ここからが本番だろ?」

「フフ……やはり貴様は面白いな」

「京谷、私も参戦するわ、いいね?」

「勇人さん、背中はお任せを」

 

「私達も……」

「待て、今は2人に任せるんじゃ」

「で、でも」

「勇人の性格を知ってるなら分かるじゃろ?ここはあの子たちに任せるんじゃ」

「「…………はい」」

 

 

 

 

 

変わる者……どうくるかは知らないが……俺は俺らしく頭を使って戦わせてもらう。スタンド使いだろうがなんだろうが撃ち抜いてやるッ!



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第62話 才悩の日の青年

頭を使って戦うとは言ったものの、相手はあの『スタンド使い』。相手がどのような能力なのかは勿論、どこにいるのかすらも分からない。流石にunknownな相手に何か策が思いつくわけも無い。

 

何か相手の特徴を考えていると、いつの間にか相手の様子が大きく変わっていた。赤と紺のオッドアイだったのが金色に変わり額には星のマークが出現していた。ーー冗談が過ぎるぞ!!ただでさえ実態を掴めていないのにさらにややこしくしよって!

 

さらに、そのunknownな相手は翼に触れた。すると、どうだろうか。翼が消え失せた。あたかも『元から無かったように』。

 

その行為は俺たちを驚かすには十分なものだった。周りを見れば妖夢と早苗、鈴仙も目を見開いて驚いている。しかし、咲夜は驚かない。そもそも『知っている』ようだ。あの2人の関係はなんだ?

 

頭をフル回転させて事柄を整理しようとする。しかし、そこから導かれる答えはどれも『理解不能』である。

 

 

「『チェンジャー・オーバーヘブン』」

 

相手は呟くようにスタンドの名らしき言葉を言う。え?このスタンド知らない。オーバーヘブン?天国を超える?

 

頭ん中にはてなマークが大量発生している俺に対し、じいちゃんはある一点を見つめている。見えてるのか?じいちゃんは?

 

「お主…………その守護霊は何ぞ?」

 

見えてるようだ……ここは是非、どこにいるのか教えてもらいたいものだ。

 

「…………見えて、いるのか………………関係無いがな。貴様らは、我が【真実】を破る事は絶対に有り得ないのだからな」

「ふむ……【真実】とな?どういう訳か、教えてもらえると助かるのじゃが?」

「貴様らは俺に絶対勝てない。この俺の前ではなぁ」

 

そう言うと、こちらを見る。何かが来るようだ。しかし、俺らは見えない。ただ身構えるのみである。今更なのだが、学ランを着てこれば良かったと後悔する。あれがあれば絶対的なガードを作れるのだが……

 

しかし、無いものをねだってもしょうがないので、牽制がてらに銃弾を3発撃つ。

 

弾丸は標的には届かず、消滅した。効かないだろうと予想はしていたが、消えるとは……

 

「無駄ァ!」

「ガハッ!!!」

 

妖夢の体が突然吹き飛ぶ。その華奢な体は竹林に衝突し、そのまま倒れる。

 

「妖夢ッ!」

 

起き上がる様子が無い。意識を失ったようだ。妖夢も鍛錬を相当重ねた者である。一撃で気を失うのは相当な威力だろう。

 

「声をかけても無駄な事よ。その娘は既に戦闘不能になった、今したがな」

「ッ‼︎テメェ…!‼︎」

 

もう、頭にきた!絶対にこいつを仕留める!永琳さんに採血されてその時に一部を試験管に移し渡してもらったのがある。それを開け、銃口につける。不変とするのはこの弾丸が『進む』こと。

 

5発相手に撃つ。高速回転する弾丸が相手に迫る。しかし、相手は動こうとしない。よし、スタンドで弾くつもりだな?そのまま、貫けッ!

 

「「何ッ!!?」」

 

しかし、俺の思惑とは裏腹に弾丸が貫通することなく弾かれる。相手も多少はよろけたようだが……不変とされた物が……

 

だ、だが、あと3発あるッ!それに、相手は体勢を崩している!あのままガードはできないッ!喰らわせろッ!

 

ただ、俺は完全に失念していたことがあった。そもそも、今の戦況はどうだ?1対1だったか?2対2だったろ?そう、咲夜の存在を完全に忘れていた。予想だにしないことの連続で完全に忘れていた。

 

残りの弾丸3発が弾かれる。体勢を崩したあのスタンド使いがそれをできるわけが無い。だが、咲夜なら可能。

 

ただ、何も無いところで弾かれたのを見ると、咲夜もスタンド使いなのか?もしかして、隠してた?

 

その咲夜は、服が少々破けている。ダメージが入らないわけでは無いようだ。良かった、あれでもダメージが入らないのなら完全に『詰み』だった。

 

あの2人は何か話しているようだ。『能力』と言うワードが出てると言う事は咲夜もスタンド使いと見て正しいようだ。ただ、『相殺』というワードが出たことで相手は『不変』に対抗できる『何か』の能力を持っているらしい。

 

「では、始めようか……」

 

話し合いが済んだようだ。

 

接近戦に持ち込む気のようで2人はこちらに向かって来る。

 

ただでさえ銃は近距離に弱い。俺にだって体術はできるが2人も捌けるほどの技術は持ち合わせていない。

 

すなわち、近づかれる前に『撃ち抜く』だ。装填された弾丸を全て撃ち込む。頼むッ!これで終わってくれ!

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!!!」

 

所謂、『ラッシュ』というにより弾丸は弾かれる。

 

それでさえ驚愕に値するのに咲夜が弾丸を『摘んだ』。素手でだ。

 

しかし、この光景はどこかで『見た』。咲夜以外に弾丸を受け止めた者はいた。そう、ありとあらゆるモノの影響を受けない『巫女』がいた。そいつだって『同じような事』をして見せた。

 

フフ……ようやく閃きがでたぜ……。一旦頭が冴えてしまえば他のことにもすぐに気づく。スタンドというのは所謂『精神エネルギー』だ。つまり、何らかの力を持っている。幽霊とかに近いのかな?まぁ、つまりだな……見えなくても『感じ取る』事はできる。妖忌さんの修行のおかげで力に関してはかなり敏感に感じ取れる。ーーだから、2人が『何かを纏っている』事ぐらいは感じ取る!つまり、あれが原因で影響を受けないのだ。

 

いつの間にか、眼の色が戻っている相手が迫って来る。

 

「我が流法!!【輝彩滑刀の流法】を特と味わうが良い!!」

 

あ、これは知っている。骨と皮膚を硬質化させた物に無数の細かいエッジがそれに沿って高速で移動している、だっけ?

 

みるみる2人はこちらに迫る。この戦況において、空へ逃げるのは『愚策』だ。俺は空中戦に慣れてないし、そもそも空では格好の的である。

 

だか、俺はあえてそうする。『あえて』だ。

 

空へ逃げると、相手も向かって来る……動きがおかしいが……そう、まるで無重力にいるかのようにーーまるで重力の影響を受けないかのように。

 

これで、確信した。あの纏った『何か』であらゆる影響を受けないようになってる。

 

後は何をするかーー霊夢と同じように『こちらから干渉できないのなら、向こうから干渉してもらえばいい』つまり、相手が血に触れればいい。そうすれば、『影響を受けない』という事は無理矢理消す事が可能。

 

ただ、どうやって血をつけるのだが……試験管投げつけて血を浴びせる余裕は無い。なら…………

 

「ガブハァ!!!」

 

斬られればいい。必然的に相手には血がつき、咲夜も手刀をしてきて血がつく。

 

「「勇人さんッ!!!」」

 

まぁ、代償が少々でかいが。普通に痛い。俺は人間だからな。

 

そのまま地面に叩きつけられる。俺は思いっきり体勢が崩れている。なら、相手がする事は?

 

1人は踵に刃物を生やし踵落としを、1人は拳をーーつまりは、追撃である。

 

相手は『影響を受けない』という事をまだ信じている。だから、確実に倒すために近接に持ち込む。こんな事は簡単に思い付く。後は自分の周りの位置を『不変化』する事で相手を巻き込み動きを封じる。その後にトドメをさす!

 

刃が、拳が近づく。まだだ……まだ………………

 

と、急にスキマが現れ、そこから紫さんがでてきた。

 

「ごっめ~ん、言い忘れてた~♪この世界の幻想郷で協力してくれる人たちの名前言うのすっかり忘れて………」

 

は?は?協力してくれる人?は?何で彼らを見ている?あれ?

 

………………これは……『早とちり』?……一方的に悪者扱いしてたという事か?

 

やっべ……めっちゃ恥ずかしい……俺は相手の顔を見れなかった。

 

とりあえず、後ろを向いて、

 

「…………ごめん」

 

謝罪をした。恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい……

じいちゃんも早苗も鈴仙もぽかんとしている。と、とりあえず、永遠亭に行こう……なんせ、『無駄』な戦いにより『無駄』な傷を負ったから。

 

 

その後、永遠亭に行ったら永琳さんに「またか」という顔をされたのはまた後の話。




勇人はいつになったら永遠亭に無傷でいけるのか……

次回もお楽しみに。


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第63話 災悩の日の青年

迷いの竹林の中に数人の人がーー1人はばつが悪そうな顔をし、1人は気絶して倒れていて、1人はスキマから上半身のみを出し、2人は攻撃を途中で止めていて、3人はポカンとしている。

 

………………要約すると、すごく奇妙な図になっている。

 

ばつが悪そうな顔をしている者ーーすなわち、俺は何も言えない。

 

相手の事をよく見ず、早とちりして攻撃を仕掛けた。どう考えても落ち度はこちらにある。謝罪はしたが……それで許してくれるのやら……あー……どうしようか……

 

そんな微妙な雰囲気の中、そんな事を御構い無しにスキマから上半身のみを出している者ーー八雲紫はぬけぬけと

 

「あら、お取り込み中だったかしら?」

 

とか言っておる。誰のせいでと言葉が出掛かったが飲み込む。こちらにも落ち度があるから。

 

「それでここの世界で協力してくれる人ってのはね、この2人、五十嵐京谷君と十六夜咲夜ちゃんよ。それと『ここの世界』って言ったけど、2人は違う世界の人達なのよ。つまり〜、並行世界?」

 

ぶりっ子しても痛い感じしかしないぞ。見た目をわきまえんか。

 

「そう…………だから、咲夜はスタンド使いなんだな?」

「そゆこと」

 

なんて、ご都合な……まぁ、そんな事は今に始まった事ではないが。

 

で、攻撃を途中で止めている2人ーー咲夜と……京谷だっけ?その2人を見る。

 

「えー……まぁ、よろしく……碓氷勇人です……」

「ん、よろしく。ご紹介された通り、五十嵐京谷だ」

「こちらの世界の方の私なら知ってるかもしれないけど十六夜咲夜よ」

 

あー……何を話そう……言葉を選ぶのに必死になり沈黙が続く。

 

「よし!とりあえず、永遠亭に戻りましょ?そこでゆっくりと自己紹介をしましょう」

 

珍しく紫さんは気の利いたセリフを言ってくれた。日頃からそんな風にすればいいのに。ただ、『永遠亭』というワードに2人が少し反応したのが気になるが。

 

「それに、その傷じゃねぇ?」

「ああ、俺のせいだな。すまない」

 

胸の辺りにザックリと切り傷がある。

 

「え……いや……問題無い……こういうの……慣れてるから……」

 

言葉が切れ切れになって出てきておかしいのを自分でも感じる。アルェ?俺ってこんなに人と接するの下手だった?

 

「えーっと、勇人だったよな?とりあえず、妖夢も運んで永遠亭に行こうぜ?」

「あ、ありがと」

 

ん?あの威圧感が無くなっている。それに彼の対応の仕方から見るにとても悪い奴には見えない。むしろ、いい人だ。断定には少し早すぎるような気もするが。

 

「それじゃあ、永遠亭に直行ね」

 

と言い、紫さんはスキマを開いて中に入るように促す。ここに来てポカンとしている3人ーー早苗と鈴仙、じいちゃんは事態を飲み込めたようだ。

俺は気絶している者ーー妖夢を抱える。

 

「ありゃ、中々大胆な奴だな」

「??こっちの方が運びやすいだろ?」

「わ、私にしてくれてもいいのよ?京谷?」

 

な、なんだこの咲夜さん……完璧超人のメイドは向こうの世界では少々違うようだ。

 

「勇人さん、妖夢さんは私が運びます」

「そうですよ、勇人さんは怪我人なんですよ?」

「いや、大丈b「「運びます!」」アッハイ」

 

や、やはり、この2人には"凄み"があるッ!!そのまま、押し切られてしまった。

 

「苦労してんだな……」

 

京谷がポンっと肩に手を置く。

 

「苦労……かな?」

「…………こいつ、ダメじゃね?」

「ええ、まさか天然型女たらしなんて」

「ごめん、意味分かんない」

 

確かに俺に落ち度があったが……その言い方はないだろ?なんだよ『天然型女たらし』って。

 

「はいはい、そんな事はみんな知ってるから行くわよ」

「え?俺はそんな奴じゃない……」

 

紫さんに言いくるめられてスキマへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼するわよ〜」

「失礼と思うなら入らないで頂戴」

「貴女も酷いわね、全く同じ事を勇人が言ったわ」

 

「ただいま戻りました。師匠」

「あら?みんな戻って来ちゃったの?早いわね」

「いや……そういうわけじゃないんです……」

 

城にも到達してないからね。しかも、迷いの竹林すら出ていないという。

 

「そんなの分かってるわよ。皮肉よ、皮肉」

 

しっかし、先程から京谷が随分と永琳さんを警戒しているような……咲夜に至ってはナイフを取り出して臨戦状態だ。

まぁ、永琳さんが気付かないわけもなく

 

「ねぇ、そこの2人は誰なのかしら?」

「違う世界からの助っ人よ。勇人1人じゃあ、きついかなってね」

「ふーん……それにしては向けるべき敵意が違うんじゃないの?」

 

と、咲夜たちの方を見る。

 

「永琳さんの言う通りだな。なんで警戒してんだ?」

「永琳が飛び付いてくるかなーって……」

「そんな事をしたら絶対に許さないわ」

 

飛び付く?永琳さんがかぁ?そんな様子を察したのか

 

「いやぁ……こっちの永琳はだな……俺を見るなり抱き着いてくるんだ」

「え、永琳さんがか?向こうの方は色々違うんだな……まぁ、こっちはそんな事はしないと思うけど……」

「そうか、なら安心だ」

 

安心……なのか?

 

「で、本当に何しに来たの?」

「この2人とは初対面なので落ち着いて自己紹介ができるようにと……」

「その傷の治療ね。毎度毎度怪我してくるなんて物好きね」

「いや、好きでやってないです……」

「はいはい、えっと……これまた綺麗に斬られたわね。縫わないといけないかしら?」

「また……」

「入院ね」

 

また、入院かよ…………待てよ?入院という事は……

 

「それだと俺はあの城にはいけないよな!」

 

やった!休めるぞ……!ついに休暇を!

 

「あら?その必要は無いんじゃない?"あれ"があるでしょう?永琳?」

「確かにあるわよ」

 

あれ?なんだよあれ……って……ま、まさか……!

 

「あ、あれだけは勘弁ですよ!」

 

滝のように汗が出る。あれだけは勘弁だ!

 

「ん?あれってなんだ?」

「さぁ……」

 

先程から"あれ"ってしか言ってないので事情を知らない2人は置いてけぼりだ。しかし、そんな事に構っている暇は無い。

 

「あれってのはね、飲んだら1発で身体の傷が治療できる魔法のお薬よ」

「1発で?そりゃあスゲーな。それってどんな傷でもか?」

「ええ、私の最高傑作の内の1つになるわね」

「へぇ……だったら飲めばいいだろ?なんでそこまで拒否るんだ?」

「飲んだ事が無いからそんな事が言えるんだ……お、俺はゆっくりと治癒した方がいいと思う」

「そんな訳にもいかないわ、だってねぇ……あの城に行ってもらわないと」

「お、俺がいなくても問題無いだろ?」

「あら、まさか事もあろうにこの2人に投げやるつもり?」

「………………ッ!」

 

口では勝てない……!

 

「ほら、薬を飲みなさい。はい、あーん」

「の、飲みたく無いッ!」

「あら、強情ね。そこの2人、抑えといて」

「お、おう……」

「まるで子供ね……」

 

2人して俺の身体を固定する。

 

「HANASE!嫌だッ!」

「はいッ!」

「ムグゥ……!」

 

無理矢理薬を飲まされる。するとだんだん傷の辺りがウズウズし始める。

 

「ク…………ッ!」

 

「おいおい、これって大丈夫なのか?」

「安心なさい。毒では無いわ。服用するとどんな傷でも瞬時治す」

「副作用は無いのか?」

「あるわよ。タダで治るわけないじゃない。無理矢理治す訳だから激痛を伴うわ。タンスの角に足の小指をぶつけるよりは痛いわ」

「そ、そんなにか……」

 

「ギャァァァ……!」

 

「フフ、相変わらずいい反応ね」

「こ、こっちの永琳もなかなかだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、自己紹介を始めましょうか」

「あのー……私、目覚めたばかりなのですが何がなんなのか……」

「そんな事は後から分かるわ。取り敢えずしっかりとした自己紹介をしましょう」

 

「まずは助っ人の方からよろしくね」

 

 

「一度言ったがもう一度言う。俺は五十嵐京谷だ。戦いの中で分かったかもしれないがスタンド使いだ。スタンドの名前は『変化者《チェンジャー》』能力は主に『変化する能力』と『共鳴する能力』。まぁ、能力の説明を簡潔に言うと見たスタンドの能力、大きさや性質をそのままそっくりに、変化できる。また、スタンドによるものではない能力も得ることができる。条件はあるがな」

 

「私は京谷の彼女である十六夜咲夜よ。多分、大体はここの私とは変わらないわ。スタンド使いであると言う点では違うけど。私のスタンドは『J・T・R』能力は『殺す能力』よ。この能力は物理的にもだけど事象とかも殺すことができるわ。」

 

「へー……スタンド使いって実在するんですねぇ……てっきり漫画の世界だけかと……それに、あんなに堂々と彼女宣言できるなんて……あ、私は東風谷早苗です」

「ああ、知ってるよ。こちらの方でもお世話になってるからな」

「そうですか!では、向こうの私はどんな感じでしょうか?」

「…………スタンド使いだ」

「ほ、本当ですか!わ、私がスタンド使いだなんて……!」

「まぁ、こちらではスタンド使いになってる奴は多いがな」

 

「えっと……鈴仙・優曇華院・イナバよ……よろしく……」

 

「(なぁ……こいつって人見知りか?)」

「(そうね、まぁ、勇人の事について尋ねればウドンゲは元気になるわよ)」

「(えっと……それって、付き合ってるのか?)」

「(まさか、全然よ)」

「(ええ……)」

 

「れ、鈴仙は勇人とどんな関係なんだ?」

「「「!?」」」

「そ、そうですね……私は将来の勇人さんのお嫁さんです!キャッ!」

「寝言は寝てから言いましょう。鈴仙さん?」

「そうですよ……いつそんな事が決まったんです?」

「お、落ち着こうぜ!ほら!次の自己紹介を!」

 

「はぁ……魂魄妖夢です。幽々子様の剣術指南役。また、白玉楼の庭師です」

「うん、こちらの方とあまり変わりは無いようだな。しかし、スタンド使いでも無いのにあの動きはすごいな」

「師匠の指南のお陰です。とは言ってもまだまだです。師匠のようにはいきませんから」

 

「ここまではこちらにもいたが……次からは全く知らないな」

 

「うむ、わしはあっちで白目剥いとる者の祖父じゃ。まぁ、今はただのジジイじゃが元は神様じゃ」

「それまたなんで人間に?」

「人間に憧れた、それだけじゃ。能力は『神力を宿らせる程度の能力』。その名の通り神の力を与えるぞ。ま、わし自身の戦闘はさっぱりじゃが」

 

「で、最後なんだが……」

「肝心のあの子はぐっすりだけど?」

「そうね……叩き起こすって言う手もあるけど流石に酷かしらね。私が紹介するからそれで勘弁して頂戴。あの子、昨日までずっと仕事でお疲れちゃんなのよ」

「お、おう……」

 

「それじゃあ、あの子の名は碓氷勇人。教師をしてるわ。それとここの幻想郷のパワーバランスの一角を担ってもらってるわ。能力は『物事を不変にする程度の能力』」

「不変にする……」

「難しく考えなくていいわ。そのまんまの意味よ。変わらない、それだけ。落ちるという事が絶対に起こり、それ以外の事が起こり得ない。そんだけよ」

「それでか……」

 

「っとこのぐらいかしら?それじゃあ、あの城については貴方の方が詳しいだろうし、案内してあげて頂戴」

「あいつ寝てるが?」

「大丈夫、誰かが運ぶから」

「あんた、鬼畜だな……」

 

この後、勇人が目覚めるのは永遠亭ではなく別のところになっており、休みを取れずに嘆くのであった。



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第64話 前哨の日の青年

はぁー……なんだろうか、この浮遊感。それに程よい風……いや、強いか?

それにしても、心地いいな……もう少し睡魔に身を委ねようか……

 

んー……流石にいつまでも寝ちゃあいけないか……はぁ……

 

「…………んぅ?いつつ…………」

 

胸の傷が少し痛んだ……気がした。傷は永琳さんの魔法のお薬で綺麗さっぱり治っている。だが、何となく痛んだ気がした。

 

目を開けると、空を飛んでる事に気付く。なるほど、浮遊感の正体はこれか。てか、実際に浮遊している。しかし、何故飛んでる?

 

「起きたか?勇人」

「あ?あ、あぁ。ここは………ってじいちゃん!?何で!?」

 

お、俺はじいちゃんに抱えられていたのか?そ、それにお、お姫様抱っこだと……?

 

「いやぁ、あの娘たちが勇人の取り合いをしておってな。それじゃと勇人もおちおち寝てられんじゃろ」

 

俺を取り合いって……物じゃないんだから……まぁ、寝させてくれる心遣いは嬉しいが。何なら、そのまま休ませてくれてもいいのだが。

 

「それもそうだ」

 

「さてっと、そこの爺さんとあの娘たちには話したんだが勇人にも話しておかなきゃならない話があるんだが………聞いてくれるよな?」

 

話か……あの城のことだろう。確かに興味があるが……聞いて損はないと思うので聞こう。

流石に抱っこされたままでいるのも示しがつかないので降ろしてもらい宙に浮く。

 

「わっぷ!!………んで?話って?」

 

京谷の羽にぶつかり変な声が出る。つくづく締まらんなぁ……

 

「ん、おっけ。んじゃあ先ずは………」

 

京谷は空に浮かぶ天空の城ラpy……このボケはいい加減飽きたか。まぁ、空に浮かぶ城を指差す。

 

「あれか?」

「そう、あれ。あの天空城の事」

 

ズバリ予想通り。ホント何なのだろうか?俺の休暇を奪いよってからに…………

 

「それがどうかしたのか?ヤバそうなのは分かるが」

 

ただでさえ、急に城が現れた事が一大事だってんのに宙に浮く城ときたらねぇ……尋常な事じゃないよな。

 

「………あの城の名前は『ヘブン・クラウド』って言って、本来は『別世界のDIO』と『その仲間』が居た城なんだ」

 

「‼︎⁇」

 

『別世界のDIO』?これまた面倒な……もはや別世界という事に対しては何も言うまい。ここでは何でもありだ。

 

「驚くのも無理は無いね。そもそも君たちから見ればDIOは空想上の人物、存在しない人物だ」

 

そりゃそーだ。漫画のお話だとずっと思ってたからね。その上に別世界だなんて。

 

「でも、私たちは戦った。あの恐ろしくも妖しい雰囲気を放った………あの怪物とね」

 

と言う咲夜はどこか怯えてるようで少しふるえていた。それを京谷が抱き寄せる。ふむ、人がおるのになんて大胆な。しっかし、何処と無く熱い視線を感じるがキニシナイキニシナイ。

 

「それでだ、俺だな。………どうやら、俺を狙って来ていたそうだ」

「京谷を!?………でも、何で………?」

「俺が………DIOの生まれ変わりだったからだ」

「んなっ!!?DIO!?」

「あぁ………いや、正確には『DIO』と『ジョナサン・ジョースター』の生まれ変わりなのさ。そして、命を狙われた。でも、俺たちは勝てた………その筈だった」

「そして、あのヘブン・クラウドとやらがこの幻想郷に現れた………そういう事じゃ勇人」

 

という事は本来なら俺らは無関係と……しっかし、また何でここに……こちとらからしたら迷惑極まりない事なのだが。

 

「だからこそ、この件は早く終わらせたいんだ。もしかしたら………だけど、あの城からはオーラを感じられない。ダミーの可能性はあるんだけど」

 

早く終わらせたいという事には激しく同意である。サッサと終わらせて寝たい。また、明日も仕事なんだよ。

ただ、ダミーという言葉は聞き捨てならない。偽物の可能性もあるだと?これが偽物か?なら、本物はどんだけなんだよ。

 

 

そんな中、例の城『ヘブン・クラウド』に近づくと城から『レーザー』が発射された。

 

「「「ッ!!!?」」」

 

それほど速くなかったので反応が少し遅れたがかわせた。他も大丈夫のようだ。

ふむ、防衛機能があるか。

 

京谷と咲夜が散開しているが俺とじいちゃんは京谷の元へ行く。

 

「おい京谷!!何か撃ってきたぞ!?あれもヘブン・クラウドとやらの攻撃なのか!?」

「いや、俺たちの時は攻撃してこなかった。恐らくあれは偽物。誰か………俺たちの世界の能力者が出した物だと推測出来る」

「偽物!?あのデカイ城が!?しかも、能力者!?一体誰が!?」

「そこは分からない。俺たちの知らない能力者なのか、はたまた俺たちの世界の事情を知っている別世界の能力者なのか。兎も角、迎撃しながら侵入するから攻撃の用意をして!!」

「わ、分かった」

 

全くもって謎ばかりである。空に浮かぶ城。神の御枝か、悪魔の仕業か。

 

 

京谷達は例の如く、"スタンド"で迎撃。俺は見る事が出来ず感じる事しかできないが。妖夢達も剣や弾幕で迎撃をする。

俺自身も銃で迎撃する。そうしながら徐々に接近していく。

 

「こっちに入り口がありました!!皆さん来てください!!」

 

おお!!ナイスだ!妖夢!

妖夢の指示に従い入り口に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆無事か?」

「な、何とか平気だ………」

「う~む、丁度良い運動になったわい」

「私もそこまで」

「「妖夢(さん)と同じく」」

 

み、皆元気だな……

 

ただ、それにしても城の内部は……どうなってんだ?見渡すといくつもの道のりがある。つまりは迷路のような造りになっている。なんて、面倒な造りしてんだ……

 

兎に角、グダクダ言ってもしょうがないのでちゃっちゃと終わらせましょうか!



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第65話 謎の日の青年

「計画は進んでいるのか?」

 

1人の男が玉座に座り、問う。凍りつく眼差し、黄金色の頭髪、透き通るような白い肌、男とは思えないような妖しい色気ーーまさに玉座に相応しい姿である。

 

「ええ、魔力も後もう少しです」

 

それに応える、痩せた初老の男。物腰が柔らかく優しいおじさん、の様な男性である。

 

「しかし、この城に侵入者がいるようだが?」

 

赤毛寄り茶髪ポニテの眼光が鋭い女ーー一眼見れば美しい女性として目を引きそうな姿である。

 

「フンッ、ただの人間だろ?それならあの実験台でどうにかなるだろ」

 

尊大な口調で話すフードを被った男が言う。

 

「貴様の失敗作ならただの人間くらいは倒せるか」

「あ!?なんだと!?」

「はいはい、落ち着きなさい。彼が魔物化させた人間をいきなりぶつけず、あの山賊どもに始末させればいいでしょ?」

「しかし、侵入者がいるフロアには誘拐した実験用の子供達がいるぞ?」

「そんなに心配なら貴様が行けばいいだろ?」

「チッ……」

 

「フッ……お前らには感謝しないとな…………お前達のお陰でこんな力が手に入ったのだからな…………"ソネ"、"シアン"、"ハキム"よ……」

「「「はっ……"DIO様"…………」」」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

勇人達の居なくなった人里では騒ぎが起きていた。

 

「慧音さんッ!うちの息子が……息子がいないんです!」

「俺の娘もッ!」

「私の息子もッ!」

「わ、分かっている!原因は分かっている!」

 

人里では子供達がたった一晩で"いなくなった"。それも10歳いくかいかないかの幼い子達ばかりが、だ。

 

「なら、何処なんです!」

「ああ……あそこに空が浮かんでいるだろ?そこに向かう子供達を目撃したとの情報がある……」

「それなら、早く助けに!」

「早まるんじゃない!貴方達が行っても無駄死にをするだけだ!今、勇人を探しているから待ってくれ!」

「勇人、勇人先生なら助けてくれるんですか!?」

「ああ!必ず彼は助けてくれる!だから、待っててくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

「慧音さん……これはどういう事なのでしょうか……」

「里長……私にもさっぱり……何故"子供達"なのか……それとあの城はなんなのか……」

「やはり……勇人さんとは連絡つきませんか……?」

「はい……家を訪ねたのですが、いませんでした……」

「兎に角、今日は村の者に一晩中警護させます。何が起こるのか分からないので」

「ええ、私も手伝います」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「それにしても……不気味な場所だな……」

 

明かりという明かりも無く、かと言って真っ暗でも無い……何かいそうなのだが……気配は感じない。

 

「ああ……俺らの時とは大分違うな……」

「ええ……それにしても……嫌な感じね……」

「…………兎に角、進もう。ここにいてもしょうがないからな」

「そうですね……」

 

薄暗い迷路の中進もうとすると、服の裾を握られる。振り返ると、

 

「……………………」

 

妖夢が涙目で掴んでいた。

 

「…………怖いのか?」

「い、いいえ……」

 

ここで意地悪を言うのも場違いなのでそのままにしておく。

 

「誰がこんな事をしたんだ?」

「俺にも分からない。初めはDIOが原因かと考えたが……俺らの時とは全く違うからそうじゃないと思ってる」

「しかし、この城は使い勝手が悪そうですよね。入り口は見る限りあそこしかありませんでしたし、こんな迷いそうな道だと」

 

確かに早苗の言う通りである。わざわざこんな複雑過ぎる造りするのだろうか?

 

「…………!待て!」

「あ?どうした、勇人?敵か?」

 

俺はその辺にある石ころを拾って"床"に投げた。

 

ガシャンッ!

 

「は!?これって…………」

「"トラバサミ"だな。ここだけ魔力を感じた。魔力で隠してたんだろうな」

「これまた原始的だな……」

「それに引っかかりかけたんだがな。死にはせんが……歩行不能にはなるだろうな」

 

それにしても、このトラバサミ古い気がする。そんなこと言ったらこの城自体、古い外観だ。中世ヨーロッパにありそうな城だ。

 

さらに歩を進めると

 

「おいおい……また、何かあるぞ?」

「またか?厳重だな」

「鈴仙、その辺の床の波長はどうだ?」

「そうね……少し周りと違うわね。少し波長を変えてみるわ」

 

すると、何でもない床から円板状の物があった。

 

「なぁ……これって……」

「"地雷"だな。爆発させてしまう手もあるが……音で敵が来るかもしれん。避けて通ろう」

 

うーん……古典的な罠から一転、現代的な罠に……

 

「ところでさ、帰り道、分かる?」

「…………」

 

あっ……

 

「さ、咲夜は?」

「え……あ……」

 

「大丈夫ですよ、印、つけてきましたから」

「ほ、本当か?早苗?」

「ええ!迷宮で帰り道の確保は常識です!」

 

常識…………なのか?まぁ、そこは置いといて、ナイスだ!

 

「ふぅ……最悪、城に穴を開けなきゃならんとこだった」

 

あ、別に出れないことは無かったのか。

 

「!?……静かにしてください!」

「ん?」

「向こうに4人程誰かいます」

 

む、確かにいるな……だが、普通の人間のようだ。

 

「どんな奴だ?」

「ただの人間だ。別に警戒しなくてもいいな。だが、他の奴らに喋られても困る……から」

 

と説明しようとしたら4人とも気絶していた。

 

「静かに気絶させろって?そんなの赤子の手を捻るより簡単だ」

「そうだったな……時を止めれるんだったな……」

 

「それにしても、やっと人が現れたわね。目標に近づいてるのかしら?」

「んー、そうだな。何かを守ろうとするときは必然的に近くに守らせたいからな」

 

まぁ、京谷たちの言う通りだな。道のりは間違っては無いようだ。

 

 

 

俺たちはドンドン道を進んでいった。正直、この城の空間がおかしい気しかしなかった。見た目の割に広いのだ、どう考えたって。まぁ、道中何人か警護なのか知らんがいたので目標には近づいてるのだろう。

 

 

 

 

 

 

そして、その目標らしき場所に着いたようである。近くから会話が聞こえる。

 

 

 

 

「なぁ、兄貴、子供達が攫うっていう命令に従って良かったのか?」

「あ?何言ってんだ?ハキムさんが言うんだ。絶対に決まってんだろ?」

「しかしヨォ、そのハキムさんから何人か貸してくれって言われてからさそいつら戻ってきてないぜ?」

「フンッ、きっとハキムさんのところで活躍してんだ!」

 

子供達を攫う……?こいつら何を?

 

「勇人、どうだ?」

「!!そ、そこを通るなッ!」

 

そ、そこにも何か隠されてる!しかし、言うのが遅く

 

カチッ

 

「え?」

「何か起こる……!」

 

リンリンリン!!

 

「ん?これは侵入者だ!」

「兄貴!すぐそこにいますぜ!」

 

バレたか……

 

「へー……あんたらここまで来れるとは……褒めてやるぜ」

 

ここのリーダー格だろうか?しっかし………………小物臭がプンプンするな。

 

「フッ……俺の名は源地震太郎。この辺の山賊の親分だ」

 

「なぁ、勇人、お前がいくか?」

「まぁ、京谷が出る幕も無いだろう」

「私がいきましょうか?」

「んー……鍛錬の足しにもならなさそうですね」

「いっそわしがいくか?」

 

この言いようである。実際、全員ただの人間では無いからな。

 

「こ、この野郎!舐めた口聞きやがって!野郎共!こいつらをぶちのめせ!」

 

と襲い掛かってくる……

 

 

 

 

 

が、悲しいかな、実力差は否めない。ほぼ瞬殺である。見せ場無し。残念だったな。

 

「こ、この俺が?負けた?ち、畜生!覚えとけ!」

「お、おいこら!待て!」

 

最後まで小物な男だな。

 

 

…………シクシク…………お父さん…………お母さん…………

 

「ん!?何か聞こえた!向こうの部屋からか?」

 

あの……しんのすけだったけ?まぁ、山賊達がいた部屋の隣から声が聞こえたので見に行ってみると

 

「おーい、誰かいる……か?」

「ヒィ……!」

 

子供達がいた。それも多勢。

 

「な……なんで?」

 

よくみると里でも見た子達がいる。生徒の子だっている。

 

「ヒクッ……だ、誰?」

「あ、安心しろ、助けに来た」

「ほ、本当に?」

「ああ」

 

「早苗、鈴仙」

「どうしまし……こ、子供?」

「多分里の子達だ、2人でこの城から連れ出してくれないか?」

「わ、分かりましたが、勇人さんは?」

「あの山賊共に話を聞く」

「……分かりました」

 

 

子供達を2人に託し、山賊共が逃げた先に行こうとする。

 

「おい待て」

「なんだ?京谷?」

「少し落ち着け。この先嫌な予感がする」

「安心しろ、簡単にやられるような柔じゃ無い」

「いいから落ち着け。怒りに身をまかせるな」

「………………すまない。しかし、先には行く」

「俺もついて行く」

「私もよ」

「私もご一緒します」

「わしも行くぞ」

「そうか……すまないが早苗と鈴仙は子供達を」

「ええ!任せてください!」

「き、気をつけてね?」

 

5人で先進む……

 

 

 

意外にもさっきの奴はすぐそこにいた。ただ、隣にフードを被った男も一緒だった。

 

「ふふ……ここまで来たのが運の尽きだったな。なんせ、このハキムさんがお前達をぶちのめしてくれるからな!」

「……源地君、少しは役に立て。俺を頼ろうとするんじゃない」

「え?ハキムさ ドスッ

 

「「「「「!?」」」」」

 

フードを被った男があの山賊を刺した?

 

「な、なんで……」

「お前!何をしてるんだ!?」

「あ?役立たずを少しは使えるようにしただけだ」

 

「ぐ、グギャアアアアア!」

 

山賊が徐々に異形の者へ変化していく。顔は醜く変わり、右手は大きなハサミに左手は触手のように、身体は先程とは程遠い体格へと変貌し、面影を全く残さない魔物へと変貌した。

 

「フンッ、俺は忙しいんだ。こいつと遊んどけ」

 

フードを被った男は影へと消える。

 

「ま、待て!」

「ギャァァァ!」

 

触手が行く手を塞ぐ。銃を取り出し、眉間を狙い、弾丸を放つ。

 

「ギギャアアア!?」

 

狙い通り眉間を貫通……したが何事もなかったように再生した。

 

「『チェンジャー・オーバーヘブン』」

 

京谷が前に出て、魔物を吹っ飛ばす。

 

「ギャァァァ……」

 

魔物はだんだん元の人間に戻る。

 

「真実を上書きして『普通の人間』にした」

 

真実を上書き?それも聞きたいが他にも疑問はある。あのハキムとか言う奴は?何故子供達が?

 

「分からない……」

「分からないなら進むしか無いな?」

 

そう言いながら京谷は上に続く階段を指差していた。そうだな、分からないなら進むしか無いな。

この城……ほっといてはいけない気がする。兎に角真相を!



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第66話 2F(不死者の波)の日の青年

 

「ん?ハキムさんじゃないですか、てっきり一階に行ってるものだと…………」

「ああ……行ったさ」

 

「まさか、お前でもあろう者が人間如きに尻尾巻いて逃げて来たのでは無いのだろうな?」

「黙れ、シアン。あんなの俺が戦うまでも無い。適当な山賊を魔物化させて戦わせてある」

「フッ……なら、どうして、子供達が城の外に出たのだ?それとその人間達は先程2階に上がったぞ?」

「は、はぁ……!?馬鹿な!?嘘を言うんじゃねぇ!」

「嘘も何も、さっきから虫を数匹監視に行かせたが……お前の言う魔物はいない上に子供達もいない。肝心の人間はピンピンとしたままだ。やはり、無能だな」

「だ、黙れッ!たまたまだ!」

「フンッ、どうやら……」

「あぁ!?なんだと!?」

「これこれ……シアンさんとハキムさん、落ち着いて」

 

「チッ!ソネさんに免じてここはなかったことにしてやる…………」

「フンッ…………」

 

「とりあえず、二階には"あいつ"を送りましたから……そう簡単には突破できないでしょう」

「あのサイコ野郎か……」

「DIOに心酔してる阿呆か?」

「そんな事は言わず、兎に角にも今は私達のリーダーなんですから」

「フンッ…………」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜2F〜

 

ハキムを追いかようと威勢良く進んだものの、その肝心のハキムは見つからず、延々と階段を登っていてる。

 

それにしても長い。上を見ても見えるのは階段のみ。気が滅入りそうだ。階段の事ばかり考えてると心が折れそうなので今回の事柄を纏めるとする。

 

 

まず事の発端は今いる城ーー『ヘブン・クラウド』の出現である。その調査の為にこの城に侵入したのだが……いざ入ると、城としては実用的では無い造り。そこに誘拐されてきた子供達。しかし、警備はそこまで頑丈では無かった。そして、ハキムとか言う怪しげな男の登場。その男は山賊を魔物に変化させた。その魔物と交戦。

 

 

 

 

そして、魔物を倒した後ハキムを追ってここまで来たと…………

 

これらから出てくる感情は『疑問』である。確かに子供達を攫う事に対して『怒り』も出てくるのだが……何故こういう事をするのかが全くもって分からない。……こういう時は己の無能さに嘆いてしまう。もっと強く、賢くあればこんな事もすぐに解決し、そもそもこんな事も起こさずに済んだのかもしれない。

 

無いものをねだっても仕方が無い…………とか考えてると二階に到着したようだ。

 

 

 

 

 

 

一階とは違い、まず強烈な異臭が鼻をつく。生ゴミのような……何が腐った臭いがこのフロアに充満していた。

 

臭いの根源はすぐに分かった。肉が爛れ、骨まで見える箇所もある人影ーー"元"人間であろう者が居た。

 

これまで様々な妖怪を見て来たが…………このゾンビ達はまだ見た事が無かった。見たいとも思わなかったが。

 

 

「ふぅ…………」

 

京谷はこいつらの事を見飽きたかのように息を吐く。うーむ、俺とは全然違う経験をしたんだな。

 

「あれは………?一体………」

 

妖夢は存在も知らなかったようだ。俺とて本物なんて見た事が無かったがな。

 

「ゾンビが1匹、ゾンビが2匹………やめましょう数えるのは。頭がどうにかなりそう」

「だろうな」

 

と言うなり、京谷と咲夜は前衛にでた。

 

「京谷?お前、何を?」

「あのネクロマンサーを3名で叩け。ゾンビ共は何とかする」

「!!?しかし、あの数を相手にするのは危険なのでは!?」

「大声を出すな妖夢。ゾンビは音に反応するんだからよ」

「し、失礼しました………」

「兎に角っと『アヌビス神』『サムライ・スピリット』」

 

と京谷は両手からそれぞれ異なる刀を出現させた。便利だなその能力。

 

「ほぉ………これが………しかし、どちらも刀なのだが?」

「勿論、銃のスタンドも存在するぜ。ただ、使い時ってあるだろ?じいさん」

「………………」

 

京谷がこちらを見る。確かに銃は使うが…………別に銃が俺のアイデンティティでは無いから……え?それ以外には何があるのだ?か、格闘術とかナイフも一応……

 

「綺麗か?勇人。この『サムライ・スピリット』の刀身」

「率直に言えばな」

 

綺麗だと思ったが同時に羨望の感情も湧き出る。相手は『変わる者』。このように状況に応じて変化する事で柔軟な対応も取れる。対して俺は『変わらない者』どんな事が起こっても同じ様な対応しかできない。

 

「そうかい………作戦はさっき話した通り、良いな?」

 

という事で俺はネクロマンサーの額に狙いを定める。銃を扱うにおいて、体を隠さずに堂々と構えるなんてありえないのだが、こちらには京谷や咲夜、妖夢がいる。

 

そして、京谷と咲夜が宣言通り前衛に出てゾンビ達を薙ぎ倒す。

 

2人は息ぴったりでそれぞれの隙を互いにカバーしている。そんな様子に感心してると…………

 

「「!?」」

 

キスをしおった。この戦場のど真ん中で。これに関しては羨望の感情は出てこない。寧ろ、馬鹿ップルを見せつけなくていいという最早呆れの感情しか出てこない。

 

そんな様子に呆れてると時を止めたのか20体以上のゾンビがやられていた。

 

「勇人!!今がチャンスだ!!ネクロマンサーを狙え!!」

 

あらかじめ狙いを定めていたのでほぼ条件反射で引き金を引く。弾丸は吸い込まれる様にネクロマンサーの額に向かう。

ゾンビを使って防ごうとした様だが妖夢が楼観剣を投げ、倒す。大事な刀を投げていいのか?

高速回転をする弾丸はそのままネクロマンサーの脳天を撃ち抜いた。同時に数多のゾンビは腐敗し消滅した。

 

俺達は京谷達の元へ駆け寄る。

 

「よぉ、お疲れ」

 

京谷に労いの言葉をかける。

 

「そっちこそ」

 

コツンと互いの拳をぶつける。自然とやったのだがこういうのは初めてだ。

 

「イチャイチャしおって………若いとは良いもんじゃのぉ」

「貶したいのか羨ましがりたいのか、どちらかにしてくださいませんか?」

「ふふっ♪どちらでも構いませんわよ♪ねぇ京谷♪」

「だな♪」

 

互いに見合った笑う2人。あー…………ブラックコーヒー飲みたい。

 

「勇人もあのぐらい恥ずかしげなくイチャつけばよかろうに」

 

小声で俺に言うじいちゃん。

 

「やめてくれ。恋愛においては節度が大事だ」

「堅いのぉ、少しは積極的になれ」

「それは俺の柄じゃ無い」

 

 

 

 

 

 

「………これは、また派手にやりましたねぇ」

 

どこからともなく声がする。その聞こえた方を見ると、痩せた初老の、じいさんが立っていた。ぱっと見、好々爺のようだが何か裏を感じずにはいられなかった。

 

「成る程………恐ろしく強いですなぁ。特に、そこのお二人はねぇ」

 

と俺達を指差す。こいつはハキムの仲間か?

 

「まぁ待ちな。テメエ一体何モンだ?」

「こんな老体の名前を聞きたいのか?つくづく可笑しい奴じゃなぁ」

「答えなきゃ、お前を本にして見るだけだ」

「おぉ、何と物騒な。まぁ良いでしょう。私の名はソネというものです。それ以外の何者でも御座いません」

「そうかい」

 

京谷が一気に間を詰める。

 

しかし、ソネというじいさんは落ち着いた様子で魔物を出現させた。ハキムの時と同じ様な魔物を出すっていう事は仲間か?

 

京谷は急に出て来た魔物に首を掴まれる。

 

「ガッ!!?」

「「京谷!!」」

「では、私はこれにて」

「!!?待ちやがれ!!!」

 

急いで引き金を引くがソネには当たらず、そのままソネは消え失せた。

 

掴まった京谷は足から刃物を出し魔物の胴体を斬り裂いた。

 

「平気か!?京谷!!」

「何とかな、それより上に進むぞ。もうこの階層に用は無くなったしよ」

「そ、そうか………」

 

やはり、こいつは凄い。こいつは多分誰かを守る事なんて苦労しなかったのだろうか。俺もその位の強さが欲しい。

 

 

誰かを守るのは難しい。それ故に力を求める。それ故にどんな手段でも力を手に入れようとする。どんなに犠牲を払ってでも。そんな負のスパイラルにハマりかけてる事に勇人は気付いていない。



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第67話 3F(黒い津波)の日の青年

『人里』

 

人里の皆さん明るくて元気でとても優しい人達です。でも、今はどの人も怯え、家からも出ようとせず活気に溢れていた人里はもうありません。

子供達の誘拐事件、墓場が荒らされる…………そして、あの空に浮かぶ不気味な城『ヘブン・クラウド』により、人里は一気に恐怖の底に叩き落とされました。

 

私が子供達を連れて帰るために勇人さん達と別れ城を出た後、鈴仙さんと一緒に子供達を人里に返しました。

その時の親御さん達の喜ぶ姿はまさに感動的でした。しかし、その喜びも長続きしませんでした。新たに事件が発生した事もありますが根本的な問題として『ヘブン・クラウド』がやはり人々の不安の種となっているのでしょう。それと、慧音さんから『ヘブン・クラウド』について何か教えて欲しいと頼まれたので慧音さんの家に行く事になっています。

 

その『ヘブン・クラウド』は勇人さん達が調査をしています。私も外から何か協力できればいいのですが…………

 

「早苗、ボーッとしないで行くわよ」

「あ、すいません。鈴仙さん」

 

 

 

 

 

 

 

「さ、上がってくれ」

「「失礼します」」

 

そういえば慧音さんのお家に上がるのは初めてですね…………やっぱり几帳面な性格なのかキッチリと整理整頓された部屋です。

 

「いきなりで悪いんだが……教えてくれるか?あの城について」

「分かりました、少し分かりにくいかもしれませんが」

 

 

〜少女説明中〜

 

 

「……とここまでが私達がわかる範囲です。後はもう勇人さん達にしかわからないと思います…………」

「…………そうか。『ヘブン・クラウド』か…………」

「何か分かりましたか?」

「西欧の歴史に今回と同じく『空に浮かぶ城』の話があったな…………少し待ってくれ、少し本を探してくる」

 

西欧ですか…………確かに山賊が化け物にされた時、使われた魔術はこの辺では見ない様なものでしたね。

 

「あったぞ。西欧の歴史書はあまり無いからなすぐに見つかった。えっと…………」

 

どんな事が書かれているのでしょうか?

 

「これだ。『古代帝国の末期、皇帝は国中で民衆を脅かしている魔物を討伐することで国をまとめ上げようとしていた。危機感を持った魔物たちは帝国に対抗すべく、互いに手を組もうとする。

そこで、バラバラだった自分たちをまとめるリーダーとして「魔王」を生み出そうと考え、その誕生のためマナラインから吸い上げた魔力を魔王となる者に供給する装置「魔王城」を建造しようとした。

しかし、誰を魔王に据えるかで揉めるうちに、古代帝国は魔物討伐に国力を割きすぎたせいで他国からの侵略行為に対処しきれず滅亡してしまう。こうして、魔物たちの一時的な協力関係も終わりを迎え、その時代に魔王が誕生することはなかった』とあるな」

 

「え?それじゃあ『魔王城』は完成しなかったのですか?」

「いや、ここには完成までして後は魔力を溜めるだけだったらしい。でも、魔王城がどこにいったかは謎のままだ」

「そうなんですか…………」

 

これは確かめる価値はありますね…………『魔王城』ですか…………

 

 

 

 

 

「慧音さんッ!!大変です!!」

 

玄関の方から男性の怒鳴り声が聞こえました。若い男性の方の様です。

 

「どうした?今は警備をしていないのか?」

「いえ……警備をしてたら……外にとんでもないものが!」

 

何があったのでしょうか?

 

「と、兎に角、外に出てください!」

「わ、分かった」

 

私達3人は男性に言われた通りに外に出ました。

 

 

 

 

「な…………!?」

「……なんなのよ?あれ?」

「…………!?」

 

外で見たものーーそれは"黒い波"

 

その波は空を覆いある一点に向かっていました。その一点は『ヘブン・クラウド』です。

 

「慧音さん…………この世界はどうなちまったのですか?」

「……分からない」

「……あれ……"虫"よ。いろんな虫が群れを成してあの城に向かってる……」

「兎に角、里に皆には屋内にいるように伝えてくれ」

「分かりました」

 

あれ1つ1つが虫……

 

「虫と言ったら…………」

「リグルね、彼女に話を聞いてみましょう」

「それなら、私も同行する。いいか?」

「ええ」

 

あの城では一体何が起こってるのでしょうか?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 3F〜

 

今、再び階段を登っている。ハキムに続き、ソネとか言う奴が現れ、ますます実態が掴めない。

 

 

それにしても……………………ここの城の空間はどうなってんだ?と愚痴りたくなるぐらい階段が長い。感覚的にはもう最上階まで上がった気分なのだが。

 

「ほら、着いたぜ。これでもまだ3階だと言うのだから驚きだな」

 

全くもって同感である。もう日付感覚が分かんない。もう日を跨いだのか?

 

 

 

カサカサ…………

 

 

「…………ギャアアアアアア!!」

「どうした!妖夢……って、ウワッ!」

 

妖夢の足元には黒い稲妻…………もとい、かなり大物な"G"がいた。流石に俺でも触りたく無い。いや、触れない。

 

「ハハ!ゴキブリ如きでビビってんじゃねぇぞ」

「……なら、京谷。こいつを掴んでその辺に投げてくれよ」

「え、つ、掴む必要は無いだろ?」

 

お前もビビってんじゃねぇか。

 

カサカサ…………

 

やっぱり気持ち悪い動きをする…………な…………。って…………あ、あれは……?

 

カサカサ、カサカサカサカサ!

 

「な、なんだありゃ!ば、馬鹿みたいにでかいぞ!」

「ゆ、勇人!お前がやれ!」

「は、はぁ?お前のスタンドでやれ!」

あ、あんな、人ぐらいのサイズのゴキブリだなんてゴメンだ!

 

と、ゴキブリの頭部にいくつものナイフが刺さった。

 

「これでいいかしら?」

「「は、はい……」」

 

男が揃いに揃ってビビるとは…………情けない話である。でも、ゴキブリは無理だ。てか、少しピクピクしてるぞ、あれ。

 

「ふむ……これは魔術によるものじゃな」

「勘弁してくれよ…………ただでさえキモいのが巨大化って…………」

「そんなお主に悲報じゃ」

 

カサカサ、カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ……

 

「このフロア中にいるぞ」

「oh…………shit…………!」

「英語で言っても変わらんぞ」

 

なら、まだゾンビの方がマシだ。

 

「どうやら、ゴキブリだけじゃないみたいね。コオロギに蜘蛛…………選り取り見取りよ」

「勇人……」

「分かってる……でも、進むしかないんだ……」

 

そう言っている間にも天井や壁からも迫ってくる。

 

「『変化者 魔術師の赤(マジシャンズレッド)《チェンジャー 魔術師の赤(マジシャンズレッド)》』」

 

 

「虫と言ったら火だな。とっとと燃えてしまえ!」

 

前方を埋め尽くす虫達に火がつく。また、燃えなかった虫達も炎に怯えてるのか後退していく。

 

「やっぱり火を怯えるか…………よし、この辺の木材の切れ端で……ほれ、松明の完成っと。ほら、これを持て」

「ああ」

 

成る程、火さえ持てば相手は近づかないな。

 

「こ、これでもう虫は寄り付かないんですね?」

「ああ、これで大丈夫だ」

 

実際に前に進むと虫達はそれに応じて後退していく。これで順調に進める。そのまま俺達は歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………!」

「どうした?勇人、急に止まって…………ってこれは…………」

「酷いわね……」

 

そこには無残にも食い散らかされた人の姿があった。ほとんど食われ、右半身はほとんど消失。左半身も骨ばかりで所々に肉が付いているだけである。衣服から察するにあの山賊の一味だろうか?

 

「あのゴキブリが食ったとは思えないわね…………」

「そうだな…………ゴキブリなら残さずに食いそうだからな…………」

「俺達もこうならないようにしないと…………」

 

 

ブンブン…………

 

 

「なんだあれ?」

「ちっさい虫の大群じゃねぇか」

 

それにしても……こちらに向かってきてるような…………

 

ブンブンブンブン!

 

「!?」

「こ、こいつら火を恐れないぞ!」

 

ボワッ!

 

「た、松明に突っ込んできた!?」

 

松明に突っ込んだ虫は焼死したが同時に火も消えた。

 

「こ、こいつら、自らを犠牲に火を消しやがった!」

「きょ、京谷!走るぞッ!」

 

火がない今、虫達は恐れることなくこちらに向かってくる。今までどこに隠れてたのかと言うぐらい大量の巨大な虫が迫る。

しかし、虫にしてはかなり利口な動きだ。誰かが統治してるのか?

 

兎に角、今は逃げる事を先決だ。前から向かってくる虫は咲夜と京谷とじいちゃんが捌き、俺は後ろに向かって発砲しながら牽制をする。

妖夢は…………泣きながら逃げるので精一杯だ。

 

 

「キャッ!」

 

妖夢がつまづきこける。

 

「…………ッ!!」

「勇人!!」

「先に行け!俺は妖夢を運ぶ!!」

 

俺はUターンし妖夢の元に駆けつける。倒れた妖夢を抱きかかえ走ろうとした時

 

「勇人!!後ろッ!!」

「…………なッ!」

 

もう直ぐそこまで虫達は迫っていた。

 

「はぁ!!」

 

霊力の衝撃波で近くにいた虫達を吹き飛ばす。しかし、後ろにはまだ迫ってきている。

 

「ウォォォォオ!」

 

走るでは遅いので、飛ぶ。霊力を最大出力で出し飛ばす。止まったら確実に死ぬ。

 

「勇人!こっちだ!」

 

京谷達が部屋を見つけたようで既に中に入って待機している。

 

後、50メートル…………40……30……20………………後少し!!

 

「ほら!入れ!」

 

その時、部屋の入り口に柵が降りた。

 

「「「「!!??」」」」

 

「クソッ!なんで!?」

「『変化者 スタープラチナ《チェンジャー スタープラチナ》』!!」

 

「『スタープラチナ ザ・ワールド』!!」

 

「オラオラオラオラ!!壊れろ!壊れろっつてんだよ!!」

 

しかし、京谷の努力も虚しく柵は壊れる気配が無い。

 

「勇人!!」

「ゆ、勇人さん、ごめんなさい…………私が…………」

 

迫り来る黒き津波。俺はこのまま死ぬのか?…………いや、まだ終わりじゃ無い!策はある!

 

 

 

 

「じいちゃん!俺に神力を!」

「わ、分かったぞ!!」

 

じいちゃんの右手が光り、俺にかざす。

 

「勇人、何を!?」

「向こうを突破して別のルートを探す!」

「そんなの無茶よ!」

「それしか方法は無いっ!また、後で落ち合おう!」

 

神力により力がみなぎる。そして、自分と妖夢の出来るだけ最小の範囲の空間を不変化にする。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜勇人&妖夢side〜

 

 

「ウォォォォオ!」

 

勇人さんは私を抱えたまま黒い津波に突っ込んでいきます。

しかし、不変化の空間により相手は触れる事すら出来ないようです。

 

「よ、妖夢!他に道は!?」

「は、はい!…………あっちに道が!」

「よし!そっちに向かうぞ!」

 

わ、私が…………不甲斐ないばかりに…………

 

「キッシャー!」

 

ザクッ

 

「グ……ッ!!」

「ゆ、勇人さん!」

 

勇人さんの肩に大型の蜘蛛の牙が掠ったようです。

もしかして、勇人さんに限界が!?

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「勇人さん……」

 

勇人さんの目から血が…………不変化のタイムリミットをオーバーし始めているようです…………不変化の範囲も狭まってきているようです。

 

「む、向こうに部屋が!」

「あ、ああ!」

 

こんな時に私は…………

 

 

 

「ウォォオ!」

 

部屋に飛び入り、扉を閉めます。そして、勇人さんはすかさず血を付け不変化にします。

 

「はぁ、はぁ…………」

「ゆ、勇人さん、大丈夫ですか!?」

「はぁ、はぁ…………だ、大丈夫だ」

 

 

「すいません…………私のせいで…………」

「ハハ…………妖夢のせいじゃ無い。今こうして助かったんだ…………」

 

 

 

「助かった…………か」

 

別の人の声が!

 

「だ、誰です!!」

 

 

松明の炎を消した虫と同じ虫が大量に出てきて一箇所に集まります。そして、人型の者となり、赤毛寄り茶髪のポニテで眼光が鋭い女性となりました。

 

「言ったところでどうなる。貴様らは私の魔力の足しになってもらう」

 

すると、右半身を虫の大群に変えました。

 

「先程、山賊を食らったのだが腹の足しにもならかったからな、貴様らなら山賊よりはマシだろう」

 

楼観剣を抜き、構えます。

 

「言っておくが私の体の虫は今は約270万匹で構成している」

「…………!?だとしても全て斬ります!」

「馬鹿だな…………ん?お前は…………」

 

ふと後ろを見ると勇人さんがボロボロながらも銃を構えて相手を睨んでいます。

 

「…………その目……お前、何者だ?」

「ただの人間だ」

 

 

ボワッ!

 

「!?」

 

どこからか炎が放たれます。

 

「お、お前!よ、よくも俺達の仲間を!」

 

あの山賊と同じ格好をした人達が4人。

 

「ふっ、丁度いい。そこの男、よく見ておけ」

 

勇人さんを見ながら言います。何をする気なのでしょう?

 

「こ、こいつは炎があれば何も出来ねぇ!火を絶やすなよ!」

「わ、わかってるさ!その為に薪を集めたんだ!火矢も撃て!」

 

地面に焚き火を燃やし続けて虫を寄せ付けないようにしているようです。

 

「その目で見ておけ"人間"と"魔物"差を」

 

すると、虫の塊をいくつか作り、その1つを焚き火に特攻させました。そして、その火は消え、山賊達に襲いかかります。

 

「う、ウワアアアア!」

「く、来るなぁぁぁぁぁ!」

 

バキバキバキバキ…………ガリガリガリガリ…………

 

「「!?」」

 

瞬く間に山賊達は貪られ先程見たのと同じ様になりました。

 

「どうだ?これが"魔物"だ」

「なっ!?」

 

いつの間にか勇人さんの背後まで迫り、首回りを虫で覆います。

 

「こんな風に貴様だって簡単に殺せる、が、お前は才能がありそうだ」

「…………ッ!」

 

あの状態では私も下手に動けません!

 

「『変化者 ザ・ハンド《チェンジャー ザ・ハンド》』」

 

ガゴンッ

 

「「えっ!?」」

 

私と勇人さんの体が引き寄せられます。

 

「危なかったな、間一髪ってとこか?」

「勇人、無事じゃったか…………」

 

京谷さん達によって助けられたようです。

 

「テメェ……今まで何人食ってきた?」

「なら、貴様は今まで食べたパンの枚数でも覚えてるのかしら?」

「…………!テメェ…………!」

 

 

 

「名を教えてやろう。私はシアンだ」

「それはご丁寧に、なら私が殺してあげるわ」

「貴様のような人間には興味が無い。それではまた会おう、"勇人"」

 

シアンと名乗った怪物はまた虫の群れとなり消えて行きました。

 

「勇人、大丈夫か?」

 

「……………………(俺は今、何て思った?あのおぞましい光景を…………素晴らしいと思ったのか?あの虫達の統率力、圧倒的な力を羨ましく思ったのか?)」

 

「おい!勇人!」

「はっ!?あ、ああ、大丈夫だ。少し疲れただけだ…………」

「そうか……無事で何よりだ」

「お主が死んだらわしはもう…………」

「大丈夫だってじいちゃん」

 

勇人さんは本当に大丈夫なのでしょうか?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あの人間に興味を持つなんて、貴女にしては珍しいですね」

「…………ほっとけ」

「まぁ、分からないでもありませんよ。あの人達はみんな普通じゃありませんからね」

「別にあいつ以外には興味が無い」

「そうですか?私的にはあの守護霊の様なものを操る2人に関してはとても興味がありますがね」

「そんなのはどうでもいい。私は魔物達の平和があればいい」

「…………そうですね」

 

 

 

 

 



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第68話 4F(天空城の決戦)の日の青年

〜『人里』〜

 

私達は今、リグルさんにお話を伺おうとリグルさんを探しています。

もうすでにあの"黒い津波"は無くなりましたがそれでも、何かあっている事だけは確かです。

 

「それにしてもあの城…………幻想郷とはかなり不釣り合いよね」

「ああ…………西欧風の城だからな」

「幻想郷に出現したのはもう忘れられた存在だから、と見ても問題ないでしょうか?」

「多分、そうだろう」

 

と話しているとリグルさんを見つけました。

 

「あ、先生じゃないですか」

「おお、リグル。いきなりで悪いのだが少し聞きたい事がある」

「そうですか。でも、その前に今問題があるんですよ」

「なんだ?」

「虫が全く私の言う事を聞かないんです。そもそも、皆んなどっかに行っちゃいました」

 

蟲を操る能力があるリグルさんが操らなくなっているだなんて…………

 

「それで聞きたい事は?」

「いや…………その虫の事を聞こうとしたのだが…………」

「す、すいません…………」

「いや、君は悪くない。何か異変があったらすぐに教えてくれ」

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、有益な情報は得られなかったわね」

「うむ…………色んな所から聞き出すしか無いようだ」

「そうですね…………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 4F〜

 

迫り来る『黒い津波』から何とか逃れた俺らはさらに上へと向かおうとしていた。

そして、歩を進めようとした時

 

「勇人、妖夢……少しだけ待ってくれ」

 

京谷に呼び止められた。何かあったのか?

 

「?どうした?」

 

振り向くと、京谷は咲夜の助けを借りて壁にもたれ掛かり、座っていた。流石に疲労がきたのか?

 

「お前らに……話さなきゃいけねぇ事があってな」

 

真面目なトーンで言い、空気が変わる。

 

「……先ず、俺の正体からだな……俺の名は『五十嵐京谷』……だが、普通の人間じゃあない……『DIO』と『ジョナサン・ジョースター』の『生まれ変わり』だ」

「!!?」

 

『普通の人間』では無いと言う事には驚きはしない。この幻想郷においてそんな事で一々驚いては話にならない。しかし、『DIO』と『ジョナサン・ジョースター』の生まれ変わりという事には驚かざるえない。

 

「驚いたろ?でも、まだ本題じゃねぇ。俺が勇人の能力に対し使った能力の事についてだ。俺が話してぇ事は」

 

と言いながらも、京谷の息づかいは荒い。ここまで息が荒くなると、疲労では無さそうだ。

 

「勇人よ。京谷と対峙した時の不思議な現象、覚えておるじゃろ?」

「!?じいさん……」

 

そんな様子の京谷を察してか、じいちゃんが代弁する。

 

「あ、あぁ。覚えてる」

「京谷から聞いた。あの時の能力は【真実を上書きする能力】、その状態の自分か、あの守護霊の手や拳に触れれば、望む通りの真実に変える事ができるのじゃ」

「な、成る程……だからあの時、俺の能力が効かなかったのか……でも、それだと」

「うむ、勿論代償も大きい。何せ『本来使うには魂を使わなければならない』のじゃからな」

「!!!?」

 

『魂を使う』だと…………?確かに強力な能力ほど代償がでかいという事が多い。俺とて不変化の能力を使い過ぎると体が能力の使用の負担に耐え切れなくなり崩壊し始める。しかし、それは命を削っているわけでは無い。少々崩壊してもケガというレベルで済ます事が出来る。

 

「そして、魂の磨り減った状態がこれじゃ。本来であれば動く事なんぞ出来わせん。わしが神力を与え、何とか持たせておるだけで精一杯なのじゃ。証拠に途中で倒れて血反吐を吐きおったからの」

「説明ご苦労さん……血反吐はねぇと思ったがな」

「確かに……なッ!!っとと」

 

咲夜の助けを借りながら立つ京谷。最早限界のようだ。

 

「………京谷」

「……どうした?さっさと行「お前は下りてくれ」……」

「勇人さん…………」

「多分、俺との戦いで……使いすぎちまったんだろ?だったら、これは俺の責任だ。お前が行く必要は無い、これ以上魂を磨り減らすな」

 

そもそも、この問題はこの幻想郷に住む俺らの問題だ。全く以って関係のない者が命をすり減らしてまで解決しようとする必要は無い。

 

「勇人……お前……」

「頼む……下りてく「バカかお前」……へっ?」

 

唐突な罵倒に驚く。

 

「このヘブン・クラウドは俺たちが1度経験した物。だったら、その関係者が行かねぇのは色々と不味いだろぉが」

 

そんな理由、こじつけでしか無い。何故ゆえここまで協力しようとするのか?自分の命を優先すべきだ。

 

「だ、だけどよ!!俺はお前に「それ以上はよしてくれ」ッ……!!」

 

言葉を遮られ、唇を噛む。

 

「これは俺が選んだ道だ。んで、これは俺の末路でもある。だったら、待ち構えてる因縁放ってゆっくりなんぞ暮らせるか」

「因縁……とは?」

「……ここに来て漸く疼いたのさ、俺たちの因縁がな」

 

そう言い、京谷は襟の後ろを引っ張り、首元にある"星の痣"を見せた。

 

「俺は行くぜ。あの別世界の彼奴を殺しに行く」

 

京谷は咲夜の助けを借りながら階段を上って行った。

 

 

 

「…………分からない」

「勇人さん?」

「どうして…………あそこまで…………命を削ってまで向かおうとするんだ?そもそも、関係のない事のはず…………」

「勇人」

 

何故だ?どうして、其処まで強いんだ?自分より心も力も強い…………

 

「勇人!!」

「!?」

 

じいちゃんに一喝され我に戻る。

 

「…………お主、何で京谷があそこまでするのかはとっくに分かっているはずじゃ」

「…………全然」

「はぁ…………お主は京谷が"強い"からあそこまで出来ると思ってるのじゃろ?」

「…………」

「そんな理由じゃったら誰だってあんな事出来るわい」

「確かに"強さ"は重要じゃ。しかし、命を削るのに強さだけでは成しえない。確かな信念を持つ事が出来るから出来るのじゃ」

「信念…………俺には…………」

「ありますッ!勇人さんには確かに『信念』があります!」

「妖夢…………」

「勇人さんには皆んなを守るという信念を持ってるんじゃないんですか!?」

「……………『信念』だけでは成しえないこともある」

「はぁ…………お主は自分を過小評価しすぎじゃ。それともあれか?力が無いからという理由で守ろうともせずただ指を咥えて見てるだけか?」

「!?」

「もう、分かったじゃろ。ほれ、行くぞ」

「あ、ああ…………」

 

でも、信念があっても守れなかったらどうする?どうするんだ?

 

 

 

 

 

 

京谷達を追いかけ次の階に出ると、そこには二階と三階で見た、ゾンビや虫がゾロゾロいた。

しかし、それとは比べ物にならない存在感を放つ者が奥にいた。ーーあいつが京谷の因縁か…………

 

兎に角、俺はその道のりにいる魔物達を撃ち抜く。後ろからゾンビが飛び掛かってくるが見もせず撃ち抜く。妖夢も魔物達を斬っていく。

今は京谷の進む道を作るのみだ。

 

数え切れない量の魔物達を倒していくにつれて、霊力も底が見え始める。それに銃の調子も悪くなってきた。弾のブレが生じてきた。

 

やっとの思いで禍々しい存在感を放つ者のいる部屋の前までの通路を確保できた。そして、遅れて京谷が来る。

京谷達と共に通路を進み大きな部屋に出た。

 

「ほぉ……ここまで来るか」

 

今回の元凶であろう者がいた。漫画では見る事なんて何ともなかったのだが…………今こうしてリアルで見ると…………直視できない。直視したら引き込まれるーーそんな錯覚に陥る。

そんな禍々しい、かつ人を魅了するような存在感を放つ者ーーDIOがいた。

 

「……そこのメイドと、ジョースターの血縁の者には効かぬらしいなぁ」

「ご生憎様、俺は………!!!」

 

と京谷からもDIOと同じようなオーラに変わる。

 

「貴様……このDIOと同じ気質を持つとは……何者だ?」

「ただのスタンド使いだ」

「フッ……ただのスタンド使いが、このDIOと同じ気質を扱える時点で普通の意味を持たぬがな」

「言えてるねぇ、んなこたぁどうでも良いがよ」

 

俺らが介入出来そうもない。いや、してはいけないのだ。この因縁には俺達は介入してはいけないのだ。

 

「「無駄ァ!!」」

 

何も無いところから風圧が生まれる。スタンド同士の戦いが始まったか。そして、2人は何か話しているようだがこちらからは聞こえない。

 

話が終わると

 

「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!」」

 

凄まじい衝撃波が生じ、地が震える。さらに、2人の体は少しずつ宙を浮いていった。

 

「ぐっ!!!」

「ぬぅ!!!」

 

互いの拳が互いの拳で防いだのか、2人は反動で仰け反る。しかし、京谷は相当きてるのか体勢を崩す。

 

「厄介な……消しておくべきか……」

 

体勢をさの崩れたままの京谷に近づくDIO。そんな相手に近づく事すらできない俺は…………

 

すると、ポケットから常備している血液の入った試験管が出てきた。そして、そのまま京谷の元へ行く。ーーなるほど、そういう事だな。

 

「残念だが、テメエの敗北だ」

 

そう言い、京谷は試験管を投げる。しかし、それはあまりにも遅すぎるものでDIOにあっさりと避けられる。

 

「はっ!!最後の悪あがきにしては、随分と幼稚なのだな」

「そうじゃねぇんだよ」

「何………ッ!!グオッ!?」

 

避けたはずの試験管がDIOに刺さっていた。

 

「なッ!?ば、バカな!!何故投げられた試験管がッ!!?」

「クレイジーダイヤモンドの能力で『直した』んだよ、試験管の本体は俺の持ってる蓋に引き寄せられる。俺の左手の直線上に居るテメエを撃ち抜いてよぉ!!」

 

そして、同時にDIOに血がつく事となる。すなわち、それは

 

「ば、バカなッ!!動けんッ!!」

 

DIOがその場所にいる事が不変化ーー逆を言えばそこにいる事以外の行動をする事ができない。

 

「その状態だと、もう時を止める事も出来ねぇな。何せ、『止まった時の中を動けねぇ』からなぁ!!」

 

「無駄ァ!!!」

 

そして、拳が当たる直前に不変化を解除する。そして、拳はそのままDIOの胸を突き破る。

 

さらに、京谷は懐から"矢"を取り出し、スタンドがあろう場所に突き刺す。すると、眩い光で包まれる。

 

その光から出てきた京谷は額に星のマークを、下瞼にはそれぞれ【DIODIO】【JOJO】と続いており、目と髪は金に染まっていた。

 

「チェンジャー・オーバーヘブン・レクイエム。俺はすべてを越えた」

「!!!!」

「失せろ!!」

 

胸を貫かれたDIOがさらに吹き飛ばされる。もう再起は不可能だろう。

 

 

…………これで、終わりか?一連の事柄から最後はこれか?

 

呆気なさすぎる。この事件はこれで本当に終わりなのか?



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第69話 5F(高貴なる吸血鬼)の日の青年 前編

今回は敵側、すなわち裏側の話だと思って読むといいかもです。、


「くそッ!!まさか………このDIOがッ!!こんな無様な姿を晒すなんぞッ!!!」

「こんな所で何をされておられるのかな?」

「くっ!!……ソネか……貴様!!あのガキ共を始末しろ!!俺は体を休めて!!「ザクッ」グボァ!!?」

「何を世迷い言を。ただの実験台の癖に、よくもまぁ言えますね。負けたのに……まぁ、これで実験は終わりました。この【魔王の魂】は返してもらいますね」

「ガフッ!!ガアァァァ…………」

「………こんな骨1つでも、良いデータが採れました。後は魔王復活を行うのみ………」

 

 

 

 

「ソネ!…………何だ終わっていたのか」

「この男、人間どもと戦って随分と弱ってましたからね。『魔王の魂』は回収しました」

「決して無能ではなかったが魔王候補となると魔物達に対してのカリスマに致命的に欠けていたからな。もっとも、人間に対しては絶大なカリスマがあるようだがな。で、こいつ食ってもいいか?」

「貴女もゲテモノ好きですねぇ…………」

 

「しかし、もうじき人間が来ますよ。さっさと上に行きましょう」

「ハキムはどうした?」

「彼ならもう先に行きましたよ…………ところで貴女はやはり決めてないんですか?」

「いや…………今さっき決めた」

「そうですか…………なら、上にて発表するとしましょう」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「フンッ、ようやく来たか」

「すいませんね、少し遅くなって」

「そのぐらい我慢しろ、ハキム」

「ああ!?文句あるのか?」

「…………これだから、低知能は」

「聞こえてるぞ!」

 

「(どうして、人間であるこの源地震太郎がこの魔物達の輪に呼ばれてるんだ?は……!まさか、お、俺の強さに……!)」

 

「まぁ、まぁ、落ち着いて、早く本題に入らないと」

「あ、その聞きたい事がある……」

「なんだよ、人間が如きが」

「ヒィ……!(や、やっぱり怖い!)」

「いいじゃありませんか、ハキムさん。何か質問でも?」

「あ、あのDIOとか言う奴はあんたらのリーダーじゃなかったのか?」

「元々は人間から吸血鬼となった者です。まぁ、守護霊の様な面白い能力も持っていた様です。この『魔王の魂』を入れる事でより強大な力を得ていたのです」

「へぇ…………」

「『魔王の魂』の働きを調べるための実験台だったんですが予想以上に強くなってしまったので、リーダーに祭り上げて従うふりをしていたのです」

「(ふむふむ…………ところでなんだ?『魔王の魂』って?)」

「さて、『魔王の魂』は回収しました。次は誰に使うか、ですね」

 

「DIOの一件により、魔王にはそれ相当のカリスマが必要だ。それに、DIOは"元人間"であり、純粋な魔族じゃ無い」

「ほう……それではハキムさんは魔王になるには純粋な魔族の出身者である者が相応しいと?」

「ああ。よって吸血鬼が相応しい」

「(え?吸血鬼ってDIOもじゃん)」

 

 

「ふむ、私はハキムと反対の意見だな。私はあえて"人間"を推薦する」

「はぁ!?お前、前まで推薦する奴なんかいねぇとか言ってたじゃないか!しかも、よりによって人間だと!?馬鹿言うんじゃねぇ!」

「(人間って…………まさか俺!?)」

「私が推薦する者は真面目な奴と見ている。上に立つ者として規律を守る様な奴がいいだろう。それにそいつは誰よりも力を欲している。そんな"飢え"も必要だろう」

「俺は反対だ!」

「どうせ魔王になれば強大な力が身に備わるのだ。しかも、私の推薦する人間は只者じゃない。元が人間だとしても問題無い」

「だがな、強大な魔力を操った経験があると無いでは大違いだ」

 

「吸血鬼の上位者ともなれば権謀術数にも長けているはず」

「私は別の候補を考えてますね。他人を引っ張るには何よりも欲望がなくては」

「なら、私の推薦する人間がいいだろう」

「いえ、その人間はまだ己の欲求に忠実とまではいかないんでしょう?私の推薦する者は実はライカン(狼男)なんですが、なかなか面白い魔族でしてね」

 

「……ちょっと待てよ。なんで俺を呼んだんだ?」

「私達3人じゃ、いくら話し合っても結論が出ないんですよ。それで、ここは古代共和国の流儀にのっとり、投票で決めようかと」

「え……?それじゃあ、俺の一票で決まっちまうじゃねぇか」

「あ、それも面白くありませんね。やっぱり、個人で差をつけましょう。私は1000年以上は生きてますので1000票と言う事で」

「それなら、私は1万回殺されても死なないから1万票だな」

「そんなの言った者勝ちじゃぁねぇか!俺だってスカベラなんだから足が6本にかけて6000票は貰うぞ!」

「む!私が1番少ないじゃないですか!それにハキム、6000票では私と貴方の票をあわせてもシアンに負けてしまいますよ!そこはハッタリで6万票と言わないと」

「あの…………俺の票は?」

「「「1票」」」

「(古代共和国が滅んだのってこれじゃね?)」

 

「もう勝手にやれ!どうせなら3人とも魔王にしちまえばいいだろ!」

「「!!」」

 

「おお、それはいい意見ですね。まさしく、ナイスアイデア」

「(どこまでマジなんだ?)」

 

 

「そうと決まれば、さっさと魔王にしてしまいましょう。誰から行きます?」

「なら、吸血鬼の『ジオット』からで構わんだろう?もう、既にこの城に入ってもらっている。後は交渉のみだ」

「それではお願いします、ハキムさん」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 5F〜

 

「やぁ、随分と待たせるんだね。詳しく話も聞かせないで…………」

と言う、彼は彫りの深い顔に、男にしては女性の様に艶やかな髪を少々長めに切り揃えている。しかし、目は赤く、肌は死人の様に白い。

 

「ああ、すまない…………」

「ところでこの服どう?」

 

と彼の着ている服は現代のスーツ一式である。

 

「これまた、奇妙な服を…………」

「スーツとネクタイとワイシャツと言うらしいね。少しこの城の外を回ってきたんだけど、その時に面白い人間がいてね、そいつから記憶を吸い取って、再構成してみたんだ」

「城の外に?なるべく騒ぎは起こしたくないのだが…………」

「その点は安心していいよ。ここら辺に住む吸血鬼と会って、その帰り道に迷っていた人間を捕まえただけだからね。彼はどうやら異世界の人だったらしくなかなか面白い話をしてくれたよ」

「それでは今もいるのか?」

「いいや、飽きたから殺したよ。それより、今日は話があるんだろ?」

「ああ。単刀直入に言う。魔王になってくれ」

「……………………」

「どうだ?」

「はぁ…………、そういうの困るんだよなぁ。吸血鬼といのはさ、何事も本気でやると馬鹿にされるわけ」

 

 

「わかる?世界征服だとか魔王だとか言いだしたらボクの個人的な評価がガタ落ちだよ」

「はぁ…………」

「だいたいね。どうしてあんた達の誰かが魔王にならないわけ?最後まで責任とりなさいよ」

「いや、それがですね…………」

 

 

〜5年前〜

 

 

「これが『魔王の魂』か」

「伝承通り存在しましたね。次はこの城を浮かばせるだけですね」

「それなら、誰が使うか決めねーと」

「それならソネだろう。1番年長だし、経験も豊富だ」

「やめてくださいよ。私は側近の立場が落ち着くんです。気楽に意見できますからね。それよりも貴女ならどうです?そもそもこの魔王の計画には貴女が1番熱心じゃないですか」

「自分が英雄ではない事は、何より私が理解している。それに私のような特異的な魔物だと魔力が増しても、魔王としての威厳が備わらないかもしれない」

「確かに、下手をすると操る虫の種類が増えるだけとかおかしな事になるかもしれませんね。じゃあ、ハキム、貴方は?」

「え?あ、いや……俺は……俺も性格的にだな……」

「ふむ……せっかく『魔王の魂』を手に入れたのにこれでは困りますね。とりあえず適当な者に使ってみてこいつの働きを確かめますか」

 

 

〜回想終了〜

 

 

「要するに、2人を差し置いて自分が魔王になる事に気が引けたと?」

「まぁ……そんな事になるな……」

「呆れた人達ですねぇ……そんな計画に乗ったら、ますます私が馬鹿みたいじゃないですか」

「……………………」

「というわけで、ボクは魔王になってあげても構いませんよ」

「え?」

「ボクは天邪鬼なんでね」

「そ、そうか…………あ、ありがとう。俺はあいつらに報告してくる」

 

 

 

 

 

 

「ジオット様。本当に魔王になられるおつもりで?」

「あの連中、どうやら全部をボクに言ってるわけじゃなさそうだ。面白いでしょ?このボクを騙すつもりなんだよ。このジオットをね」

 

「それに、色々と面白そうじゃない?厄介ごとは最高の遊びだよ…………」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜紅魔館〜

 

「…………」

「まだ、お考えですか。お嬢様」

「……いいえ、答えは決まってるわ」

「なのでしたら…………」

「だからこそ、考えてるのよ。なんせ、相手が悪すぎるのよ」

「『ジオット』…………ですか?」

 

 

〜半日前〜

 

「やぁ、初めまして。ボクは最近この辺に来たジオットだ」

「紅魔館の主、レミリアよ」

 

レミリアは2人の客を迎えていた。1人は同族のジオットと名乗る者。もう1人は護衛なのかただ、ジオットの近くに立つだけである。

 

「それで、ここに何の用かしら?」

「挨拶をしに来ただけさ。ところでボクの事を知ってる?」

「ええ、若手ながらも『カウンシル』の上位に立っている。かなりの評判のようね」

「嬉しいね、名が知れていて。どうだい?君も入ったら。君ならすぐに上位に入れると思うよ」

「光栄な事だけれども、生憎、そういうのには興味が無いわ」

「あら、残念。まぁ、そっちはどうでもいいんだけどね。挨拶をしに来ただけとか言ってたけど、本当は君を誘いに来たんだ」

「何にかしら?」

「今度ね、人間が来るのだけどそいつらを使って面白い事をしようと思ってるんだ。ボクの事を知っているなら『人間ドミノ』っていうの知ってよね?」

「!?」

「そう、2回目もやろうと思ってるんだ。どうだい?参加しないかい?」

「…………少し考えさせてもらえないかしら?」

「ああ。興味があるのなら是非あの空飛ぶ城に来てくれ。要件はそれだけ。じゃあね」

 

 

 

〜回想終了〜

 

「お嬢様、『ジオット』というのはどんな吸血鬼なのです?それに『カウンシル』とは?」

 

「彼は私よりも年下なのにもかかわらず、天性のカリスマを持ってるわ。それはヴァンパイア達への影響をもたらす程よ。彼自身もかなりの有能で人を見極める力は相当なモノって聞いてるわ。だから、彼の下には有能な者達ばかりと聞くわ。ただ、それと同時にさっき彼が私を誘った『人間ドミノ』という、人間を一方的に惨殺する、残虐極まりない宴を開くなどと非情で残忍かつ狂気に満ちた奴よ」

「そんな奴が…………」

「後は『カウンシル』ね。長過ぎる生に飽いた高位のヴァンパイアが貴族社会を模して暇潰し半分に立ち上げたものよ。ヴァンパイア達の階級別社会構造を表していると言える大規模な組織と言えるわね。普通なら年功序列で長く生きた者が上位に立つのだけど彼は例外的に上位に上がってるわ」

「何故幻想郷に…………」

「私には分からないわ。紫にでも聞かないと」

 

「それにあの城の事も…………」

 

夜の『ヘブン・クラウド』はより怪しく浮かんでいるのだった。



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第70話 5F(高貴なる吸血鬼)の日の青年 後編

「京谷!」

 

京谷はDIOが吹き飛ばされたであろう場所まで歩いていた。もう元凶は潰えた。終わりだろう。

 

「……………………」

 

しかし、京谷は返事をしない。

「京谷!京谷!オイッ!」

「……DIOがいない」

「え?」

「DIOがいない!この後に及んで逃げやがった!」

「だ、大丈夫だ!血を引きずった跡がある。そこを追いかければいずれDIOの元に着く」

 

血を引きずった跡は上への階段へと続いていた。

 

「なら、さっさと行くぞ!」

「ま、待て。お前、体は大丈夫なのか?」

「そ、そうよ!さっきまで立つのもやっとだったじゃない!」

「あれ?そういえば……体が随分と軽いなぁ。むしろ、エネルギーが溢れかえってる気分だ」

 

何があったんだよ……さっきまで死にかけてたのにヨォ……まぁ、どうともなくて良かったが。

 

「じいちゃん、なんかしたか?」

「いや……神力をやってるからって使われた魂を戻す事はできんぞ」

「と、兎に角、今はこうしてピンピンしてるわけだ!さっさと行こう!」

「い、いや……俺、結構疲れてんだけど……」

「ほら!行くぞ!敵は待ってくれないぞ?」

 

こっちは疲れてんのに向こうは元気になるなんて……少し腹がたつ。それに、こちとら、2丁拳銃の調子もおかしくなってきたというのに。

 

「勇人!置いてくぞ!」

「はいはい……行くから行くから……」

 

全く……心配かけやがって…………やっぱり、腹がたつ。

 

 

 

 

 

血を引きずった跡はそう長くは続いていなかった。意外にもすぐに跡は途切れていた。…………本体はいないが。

 

 

「チッ……逃げ切りやがったか」

「いや、違う……DIOはここまでしか来ていない」

「これまた、よく断定できるな」

「ああ、よく観察すればすぐに分かる。そうだ、当てたらなんか奢ってやる」

「へぇ……言ったな?絶対何か奢れよ?」

「ああ」

 

実際、すぐに分かるだろう。

 

「……………………」

 

 

〜5分後〜

 

 

「……………………分からん」

「へぇ……さっきまで自信たっぷりだったのに」

「いや、ただ血があるだけだろ?何が分かるんだよ?な、咲夜?」

「分かったわよ」

「そうだよな、分かるはずが……は?」

「簡単よ?」

「え…………?よ、妖夢も?」

「はい。何があったまで推測できると思います」

「じ、じいさんは……」

「分かっておる」

「なん……だと……?」

 

これは、全く分かってないな。答えを教えてやるか。

 

「なぁ、ここら辺一帯どうなってる?」

「どうなってるって……血があるだけだろ?」

「ああ、血だらけだな。まるで飛び散ったかのように血の跡が付いているな」

「…………は!ま、まさか!」

「そうだな、多分ここでDIOは殺られた」

「いや……分かりにくいだろ?」

「もっとも、ここにDIOの衣服がある時点でそうだと言えると思うけどな。本体は消滅したのか?」

「……………………」

 

あ、ちょっと、不機嫌になった。少しからかいすぎたか?

 

「ま、まぁ……本当の黒幕はDIOではないという事が分かっただろ?多分、道中にあった3人が怪しいがな」

「…………そうだな」

 

と、俺らはまた階段を登るのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ジオット様、人間がこのフロアに入ったようです」

「へぇ……人間が?」

「厳密に言いますと2人程違いますが、後の3人は人間です」

「そうか、せっかくのお客だから盛大に"おもてなし"をしてあげて」

「しかし、相手は相当な手練れと聞いています」

「ハハ……さては戦いたいんだろ?マゼンダ……」

「さしがましい事ですが……是非とも戦いです」

「いいよ。せっかくだからね」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

「久々に面白い人間に会えるようだね…………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふぁぁ…………」

「欠伸するなんて余裕だな、勇人」

「しょうがないだろ、もう1日以上経ってるだろうはずなのに一睡もしてないんだぜ?逆になんで眠くならないんだ?」

 

俺としては早く夢の世界に行きたいのだが。もう、頭がぼんやりしつつもある。

 

「確かにぶっ続けていくのもキツイな…………次のフロアを通り抜けたら一旦休みを取ろう」

「そうと決まればさっさと行こう」

 

と、先程から見えていた5階に乗り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………京谷、ここの道、通ったよな?」

「え?そうなのか?」

「というか、さっきから同じところをグルグル回ってる気がするわ」

「わ、私は分かりません…………」

 

はい、完全に迷っています。景色が単調なため、どこを歩いてるのかが見当もつかない。ああ……休憩は少しお預けのようだ。

 

「うーん…………どこを行けばいいのやら…………」

「はぁ……道中にゾンビがいたけどもう見なくなってきたし……やっぱり、同じ道を通ってるんだろう」

「途中途中の部屋も全部そこで行き止まりだったし、誰かの術のせいじゃないのかしら?」

「はぁ…………もうここで休めばいいんじゃないか?」

「そういう訳にもいかな…………」

「どうした?京谷」

 

と京谷の向く方向を見ると、ゾンビが壁から出てきていた。そういうタイプかよ…………

出てきたゾンビはすぐに始末して、ゾンビが出てきた壁を確認する。

 

「おお〜、すり抜けられるぞ」

 

と京谷は壁に腕を出し入れする。

 

そして、その壁の向こうに入ってみると少し広めの部屋に出た。

 

「これまた…………空間どうなってるんだ?」

「さぁな…………あいつに聞いたらいいんじゃないか?」

 

と京谷は指差しながら言う。その指す先を見るとフードを深く着込んだ者がいた。顔も見えないため男か女かも分からない。

 

「なぁ、あんたがこんな事を?」

「……………………」

 

京谷が問いかけるが相手は反応しない。俺は回転式拳銃に手を伸ばす。相手の腰には剣が携えてある。

 

「少しは反応してからもいいだろう?」

 

京谷が近づく。しかし、相手は動かない。もう、京谷が腕を伸ばせば届く距離まで来た瞬間

 

カキィ!

 

「……!」

 

気づいた時には既に相手は剣を抜いていた。

 

「あ、あぶねぇ……!」

 

京谷は辛うじてガードしたようだ。

 

「やるって言うのなら、手加減はしないぜ!」

 

しかし、相手は剣をしまった。そして、指をさした。

 

「え?わ、私!?」

 

指をさされたのは妖夢だ。

自分を指差す妖夢に対して相手は頷く。

 

「だとよ、どうする?」

「お、同じ剣士としては是非お手合わせしたいとは思いますが……」

「なら、いいんじゃないか?一騎打ちしてこいよ」

 

 

「京谷、今の内に奥に行け」

「え?」

「多分、こいつは誰かの配下だ。お前はその頭を討ってきてくれ」

「ああ、任せとけ」

 

と京谷はパッと消える。時でも止めたのだろう。後は妖夢に任せるか…………

 

 

妖夢は剣を抜き一歩前に出る。それに応じて相手も刀を抜き、鞘を捨てる。

 

「それでは私がお相手をさせていただきます」

「……………………」

 

フードから覗く爛々と光る眼は俺達ではなく、完全に妖夢の方を捉えていた。その右手には長い諸刃の剣。

その刹那、奴の姿は既に妖夢のすぐ近くまで迫っていた。そして、手にした獲物を下段から振り上げた。

 

「…………ッ!」

 

妖夢も楼観剣を抜き、上段から振り下ろしこれを防ぐ。

刃同士が激突し火花を散らす。同時に妖夢はもう片方の手で白楼剣を抜き、相手の側頭部を狙うが、相手は反射的にこれを体を逸らして避ける。しかし、避ける事で剣への力が弱まり、妖夢は距離を取る事を選択する。

再び、妖夢は奴と真っ向から対峙する。

 

「何者です」

「…………マゼンダ」

 

ここに来てようやく声を聞けたが……声からして、多分女だろう。しかし、マゼンダと名乗る彼女はそれだけ言い、妖夢の喉元への打突を繰り出した。それを妖夢は半身になって避け、カウンターとして胴への斬撃を繰り出す。ーー完璧なカウンターだ。この斬撃は避けられまい。

しかし、相手は楼観剣の刀身の横っ腹を柄頭で叩きつける。

 

「クッ……!」

 

その衝撃は刀身を伝わり妖夢の手へと伝わる。それによって、握力を奪われ楼観剣を落とす。

 

「妖夢ッ!」

「来ないでください!」

 

いつもとは違う強い口調により、構えた拳銃を降ろす。

妖夢は足元に転がっていた相手の鞘を蹴り上げ、動きを一瞬封じる。その間に楼観剣を回収し再び間合いを取る。

 

 

「じ、じいちゃん……相手はなかなかやるんじゃないのか?」

「ああ……あのカウンターを躱すどころか返してしもうたわい」

 

「ふぅ…………」

 

妖夢は大きく息を吐く。そして、背中に携えていた鞘に刀をしまい腰まで持っていくーー所謂、居合の構えである。

 

「フッ…………」

 

口元に微笑を浮かべる相手は両手をだらりと垂らし、剣先は地面についている。

そして、相手は地面を蹴り妖夢に迫る。

 

居合は長刀が近距離にも対応できるようになるものであるが、それ故攻撃範囲は限られる。範囲内に入る瞬間をどう見極められるか…………

 

カッ!

 

「なっ…………!?」

 

相手は地面に落ちていた己の鞘を妖夢に蹴っていた。

 

妖夢はそれを躱すが既に相手はすぐそこまで迫っていた。

相手の横薙ぎが妖夢の胴までに迫る。

 

カキィ!

 

「クッ…………!」

 

辛うじて妖夢は受け止めるが、体勢は大きく崩された。

そこから相手の猛攻が始まる。上段、中段、下段――多彩な攻撃が多角的な軌道を描いて妖夢に襲いかかる。突きが急に斬撃へ代わり、肩口を狙う刃が突如小手を取りに行く。次の手はもちろん、直後の軌道すら読めない。これは…………

 

「無形…………?」

「ああ…………構えが無い、型無いんじゃな」

 

 

徐々に妖夢は追い詰められていく。

 

「こんなものか……」

 

相手はあれ程猛攻しているにもかかわらず、まだ喋る余裕すらある。

 

「……お前の力はそれだけなのか?まだ先はあるだろう?」

 

妖夢も反撃に出ようとしているが相手がそれを防いでいる。

 

「お前が剣を振るう理由はなんだ?ただ強くなるだけなのか?」

「……!」

 

すると、妖夢が相手の一撃を弾く。同時に押されていた気配が変わる。

 

「私は……私は!守るために!勇人さんや幽々子様やみんなを守るためにこの刃を振るいます!」

 

「勇人さんより弱いかもしれないけど!それでも勇人さんを守ってみせます!この人の前なら私は絶対に負けません!」

 

そして、妖夢の防戦一方だったのが共に激しい攻防を繰り広げるようになった。

 

「……………………」

「強いのぉ……妖夢は」

「ああ……俺なんかよりずっと強い……」

 

 

しかし、2人の戦いは意外な形で終わる。

 

「……!?」

「ん?」

 

相手の手が止まる。しまいには膝をついた。

 

「はぁ、はぁ……」

「な、何が!?」

「フフ……どうやら、ジオット様がやられたようだな……」

 

京谷達はうまくやったらしい。

 

「で、でも、どうして!?」

「私は強大な力を手に入れる代わりにジオットに魂を売った。それにより、ジオット様がいる限り私は復活し続けた……だが、ジオット様がやられた今、共に滅ぶしか無い」

「な、なんでそんな事を…………」

「お前と一緒だ。大切な物を守りたかった。それだけだ…………でも、お前はできるようだな…………」

「簡単に手に入る力なんぞは自分の身を滅ぼしかねんという事ぐらいわかってたんじゃろ?」

「あ、ああ…………でもな、人間っていうのはわかっててもすぐに傾いちまうもんだ…………」

「マゼンダさん…………」

「でも、最期に君と剣を交えれてよかったと思うよ。忘れかけてたものを思い出した……君はまだまだ強くなれる」

「はい!」

 

マゼンダの体はだんだん薄くなっていく…………

 

「君の名前は妖夢って言ったね…………」

「はい、そうです」

「できるなら、あの男を支えてやってくれ。あいつの心は今ぐらついている」

「え?勇人さんは…………大丈夫なはずです」

「ああいう奴ほど自分で抱え込んで私のようになる…………もう私から言えるのはそれだけだ」

「はい…………」

 

 

マゼンダの体は完全に消失した。

 

「勇人さん、私はいつでもそばにいますからね」

「ああ、ありがとな。妖夢は大丈夫か?」

「ええ、問題無しです!京谷さん達の元へ行きましょう!」

 

何を話したかは分からんがどうやらまた1つ成長したらしい。

 

そして、小さな逞しい背中を追いかけるのだった。



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第71話 6F(弱肉強食)の日の青年

「チッ…………!ジオットがやられるとは…………!」

「んー……魔王の魂とは相性が合わなかったようですね……あ、ちゃんと回収しましたか?」

「ああ、回収はしたが……あそこまで戦闘の才能が無いとは……」

「確かに頭の回転が速い人でしたが、戦闘においてはDIO以下でしたね」

「所詮、ハキムの推薦する奴だ。大した奴ではない事は分かりきってた事だろう」

「だ、黙れ!」

「実際そうだろう?」

「ぐ…………」

「それでは次は私の推薦する人ですね。彼なら何かの成果は出ると思いますよ」

「まぁ、ハキムよりはマシな結果になるだろうな」

「言わせておけば…………!」

「喧嘩はよしてくださいよ?私はグントラムさんに会ってきますから」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 6F〜

 

「お頭、会いたいと言う奴が来ましたぜ」

「通せ」

「相変わらず凄まじい肉体ですねぇ…………」

「おお、ソネか。例の件についてか?」

「ええ、これが"魔王の魂"。これがあれば今までに無い力を得ることができますよ」

「ハハ!ライカンになってからというもの、これ程のパワーを得て、そして、人間の頃よりも忠実な部下を持った。昔の俺ならこんな充実した人生は予測しなかっただろうな!それに加えて、王になれるというとはな!」

「貴方に聞きますが、もし魔王になったらどうするおつもりで?」

「なぁに、世界を支配すると決めている!」

「流石!お頭!」

「ハハ!そうだろう!」

「それはそうと、人間がこちらに向かって来てます」

「人間がか?」

「あまり舐めない方がいいですよ。この城の5階まで突破してますから相当な手練れでしょう」

「いいや、寧ろそっちの方がいい。敵は強くなきゃあ面白くない」

「ふむ、流石元軍人なだけありますね」

 

 

「このぐらいの向上心があるなら、問題無さそうですね…………」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 5F〜

 

 

「京谷!!………!?」

「京谷さん!!咲夜さん!!無事でした……か……!?」

 

妖夢とマゼンダの一騎討ちは主人の死によって終わりを告げ、京谷達のいるところに向かったのだが…………

 

「……勇人、妖夢、じいさん。終わったのか」

「京谷、咲夜……これは……何だ?」

「この部屋に居た吸血鬼の元配下よ。さっきまで死にながら生きてたけど」

「……急に湿っぽくなったな。悪い」

「そうか……まだ階段が続いてる。少し休んで行くか」

 

京谷が死体を焼却処理している間、マゼンダの言った言葉を噛み締める。大切な物を守りたかったーーーー何かは分からないが、命を売ってまで守りたかった物だったんだろう。力と言うのはどんなものだろうか?純粋な腕力などのパワー?剣術や体術などの技術?何事にも揺れない強い心?

少々考え過ぎか…………京谷の方を見ると腕から刃物を出して、それを見て呆けていた。

 

「京谷~、お~い」

「……ん、あぁ。わり」

「大丈夫?京谷」

「……んまぁ平気だ。心配すんな」

「本当かしら?……それじゃあねぇ」

 

と咲夜は京谷の顔に近づく。…………はぁ、仲がよろしいようで。

 

「うおっ!?」

 

おっと、不意打ちで首にキスをしたぞ!

 

「何時もの仕返しよ♪」

「仕返しって……それやると俺だって」

 

おっと、京谷が仕返しにキスをしたぞ!

しかも、ディープだぞ!

それに俺らがいるのにも関わらずにだぞ!

 

君たちには羞恥心は無いのかな?放っておくといつまでもしてそうなので軽く咳払いをする。

 

「うぉっほんッ!!!」

「「!!!!!!」」

「……イチャイチャするのは良いけどよ、時と場合を考えろよ。見てる俺たちが恥ずかしいわ」

「「……ごめん」」

 

妖夢はもはや気絶寸前である。彼女が彼らに感化されない事を願うばかりである。

 

はぁ、疲労がどっと来た…………仮眠とろ……………

 

 

〜30分後〜

 

んー…………なんなのだろうか、この感触…………久々に感じるな…………あー…………快適だ…………

 

 

ん?枕?異変に気づき、瞼を開ける。すると、妖夢の顔が映った。

成る程、膝枕か…………

フフ、俺はもう驚かないぞ。寝ていたらーーとかと言うシュチュエーションはもう慣れっこなのさ!

兎にも角にも、体を起こし、体を伸ばす。少し寝ただけでも大分違うな。

京谷達も俺が目覚めたのに合わせて、準備運動を始める。

それらが終わった後、次の階へ歩を進めるのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 6F〜

 

辿り着いた先には下の階よりも広い部屋となっていた。

 

まぁ、たくさんの『狼男』がゾロゾロといるせいで全く広く感じないが。

その中に一際体の大きい個体がこちらを睨んでいた。

 

「やぁ~ん、京谷~こわ~い!!」

「嘘こけ」

「はいはい、分かったから。今敵の前だから」

 

この2人の茶番にはもう慣れてしまった。おかげでスルースキルが向上したよ。

 

「はっ!!貴様ら、ここまで辿り着けたとはな……褒めてやるぞ、人間ども」

 

一際体の大きい個体が話しかける。こいつがリーダーと見て問題無さそうだな。

 

「頭!!その人間と、そこのメイドからは何の恐怖すらも感じられません!!寧ろ状況に感化されていません!!」

「黙れ童」

 

不意に喋った仲間の首を簡単にへし折った。こいつのパワーはなかなかにあるな…………鬼と張り合えるではないのでは?

 

「……悪いな、俺はどうにも短気なものでな。コイツらを見てくると無性に腹がたつ」

「か、頭!?何故その様な事を!?」

「……はんッ。それよりも奴等を倒すことを命ずる。お前達は人間を殺して食っておけ」

『へ、ヘイッ!!!』

 

数で来るか…………俺はすかさず銃を構える。この銃は調子がおかしいがリボルバーを使う程の暇は無い。

しかし、京谷は俺達よりも先に動いていた。京谷は狼男の群れに飛び込み

 

「俺とッ!!スタンドで道切り開くからッ!!!お前らはそこのデカブツをッ!!頼んだぜ!!」

「……あぁ!!分かった!!」

 

京谷の言う通りにリーダーと思わしき者と対峙する。

 

「貴様らが相手をするのか……だが、それも良かろうて!!」

 

その一回り大きな狼男は腰を低く落とし、右腕と右脚を前に出し、左腕と左脚を下げる構えを取る。

 

「我が名はグントラム!!このライカン共を統べる王なり!!この戦いの中に一切の言葉は無用!!全ては血風の中で語り合おうぞ!!」

 

その言葉を皮切りに戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

京谷達が手下を処理している間にこいつを始末しないとな。

 

「さぁ、かかってこいよ。デカブツ」

「フンッ!なら、お望み通りにしてやろうッ!!」

 

このグントラムとか言う奴は馬鹿正直にこちらに真っ直ぐ突っ込んで来た。

それなら、こっちは銃で撃ち抜くだけだ。

素早く引き金を引き、グントラムに弾丸を浴びせる。が、弾丸は狙った所とずれ、掠るだけとなった。

 

「馬鹿者が!どこを狙っている!?」

「しまっーー

 

軽自動車ぐらいはあるような巨体が俺の体へ近づく。そして、全身に強烈な衝撃が走り

 

「ウグッ!?」

「勇人さん!」

 

軽々吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。その拍子に銃を手放してしまった。

 

「弱い、弱過ぎるぞ!その程度か?」

「く…………ッ!」

 

肋が何本か折れたか?口には鉄の味がする。

 

「ほら!さらにいくぞ!」

 

再び巨体がこちらに迫る。俺はそれを辛うじて避ける。

そして、構えを取る。

 

「ほう…………人間風情が素手で俺に向かおうとするとはな…………」

「……ほら、早くこいよ?」

「なら、後悔しないようになッ!」

 

巨体に見合わない速さで俺に摑みかかるが、腕を掻い潜り、顎に強烈なアッパーを食らわせる。

しかし、相手は仰け反ることなく受け止め、

 

「ガハハ!良い拳だ!」

「な!?」

「が、ちとパワーが足りん」

 

両手で体を掴まれる。そのパワーにより骨がミシミシと悲鳴をあげる。

 

「グアァァァ!」

「勇人さんを離せ!」

 

すかさず妖夢が飛びかかるが、足によって薙ぎ払われる。

 

「このまま、お前を握り潰すのもいいが…………この状況においてのその目…………敵を滅さんという目…………それにあの拳…………気に入ったぞ!お前を俺の配下としてやろう!」

「ふっ…………そんなのは…………死んでも…………ごめんだぜ…………」

「そんなのは関係ない。俺が咬めばもう俺の配下だ」

 

グントラムの牙が首に近づく瞬間、弾幕がグントラムを襲った。

 

「勝手にわしの孫を配下にしようとするんじゃないぞ」

「チッ…………だが、こいつは圧倒的なパワーに憧れているのだろう?」

 

「ふっ、魔族はいい。昔、俺は軍人だった。軍人になった理由は何かを守りたかったのではない。ただ、純粋に強くなりたかった。誰よりも強く、頂点に立ちたかった。そう思いながら必死に鍛え、地位を上げ、優秀な軍人とまで言われるようになった。だかな、それでも頂点には立てなかった。俺よりも強い奴はうじゃうじゃいた。いくら鍛えても鍛えても追いつく事は出来なかった。そんな時だ。俺がライカン(狼男)に咬まれたのは。最初は怖かった。仲間にも殺されかけた。しかしだな、ライカンになると、圧倒的なパワーを手に入れ、今まで全く敵わなかった相手に簡単に勝てた。今まで強いと思ってた奴があっさりと打ち破る事が出来た。その上、たくさんの部下を手に入れ今はこうしてライカンの王として君臨している。終いには魔王になろうとしている」

 

「だから?単純な力だけでは頂点に立てない」

「いや、立てる。力がある者が全てだ。力が無ければ何も守れない」

「…………!!」

「力だけでは何も守れないという奴は力が無い者の言い訳に過ぎん。所詮、力が無ければ何も守れん」

「そ、そんな訳がない!」

「フンッ!ならそれを証明してやる!」

 

再びグントラムはこちらに迫る。

 

「じいちゃん!妖夢!」

「な!?」

 

脇から妖夢もじいちゃんがグントラムを抑えつける。その隙に銃を拾い上げる。

 

「は、離しやがれ!」

 

暴れるグントラムに狙いを定め、

 

「『ようこそ、男の世界へ』」

 

2丁拳銃に霊力を最大まで込め、トリガーを引く。

その最大霊力により放たれた銃弾はバイソンと呼ばれる動物の様に荒々しく、男が持つ決闘美を象徴するかの様に速く、グントラムの眉間を貫いた。

 

「…………やっぱり、そうだろ?力がある者が全てだ…………これも所詮力の差…………お前は…………弱肉強食の原理こそがこの世の真実である事を…………証明した事に過ぎん…………」

 

そう言い残し、グントラムは倒れた…………力こそが全て…………そうかもしれんな。



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第72話 7F(黒き煙の侵食)の日の青年

 

〜人里〜

 

謎の城『ヘブン・クラウド』が現れてから早数日。人里では大きな事件も無く元の平穏な日々が戻りかけようとしていた。

 

「慧音さん、もうある程度は外出を許可しても良かろう?」

「そうだな…………虫の大群以来、大きな事件も無い。とりあえず、夜間以外の外出を許可してもいいでしょうね」

「ふぅ…………これで、里の者も仕事を始められる」

 

里長と慧音さんの話し合いにより、警戒がある程度解除された。肝心の城は未だに浮いたままだが。

里長との話し合いの後、慧音はもう一度西欧の歴史書を読み返していた。

 

「ここに置いての魔王城は魔力を"供給する装置"か…………ん?"供給"?それだと、何処に魔力を溜めてるのだ?ここには魔王城に魔力を溜めていたとは書いていない…………しかし、そもそも作り話の可能性もあるな…………」

 

魔王城の謎を考えている慧音の元に訪問者が。

 

「お邪魔します。慧音さんはいますか?」

「ああ、こっちだ。何か分かったのか?」

「いいえ、さっぱりです。神奈子様や諏訪子様に聞いてみてもそんなのは知らないと。慧音さんは?」

「確信では無いが…………可能性としてこれもありうると言う事なんだがな、この歴史書に置いては魔王城はただの魔力を供給する装置で溜めておく物では無いだろう、という事がわかるのだが…………この歴史書に書かれてある事自体、作り話の可能性もある」

「でも、確かめてみる価値はあるんじゃ無いでしょうか?」

「そうなんだが…………仮に魔力を溜めている装置を見つけて破壊するとする。だが、あの城はどうやって浮いている?可能性としては魔力を使って浮いていると考えた方がいい。魔力を失った場合、城は墜落する」

「あ!城の中には勇人さん達が!」

「そうだ。急に落ちたりでもしたらただじゃ済まない」

「それでは…………どうしたらいいのでしょうか?」

「早苗の言う通り、確かめる価値はあると思うぞ。それに完全に破壊するのでは無く、城が浮く程度の魔力を残すようにすればいい。まぁ、あの城の意味はまだ分からないがな」

「それは勇人さん達が解明してくれますよ!!」

「フフ……そうだな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 6F〜

 

「はぁ〜〜、疲れた…………」

 

情けない声と共にその場にへたり込む。今のショットで2丁拳銃は完全にイかれた。もう、霊力を撃ち出す事でさえできまい。

 

「イタタ…………急に動くのは良くなかったようじゃの…………歳はとりたく無い者じゃ」

「その割にはとても機敏でしたよ」

 

2人はまだまだ大丈夫なようだ。まぁ、そもそも人間では無いからな。俺よりは頑丈だと思うぞ。もう、俺はついに肋骨が折れて、内臓も傷ついてほぼ満身創痍だ。

 

「終わったようだな…………」

「ああ、京谷か。周りの奴らは?」

「生き残りはああなっちまったよ」

 

と京谷が指差す先には

 

 

「お頭!目ェを開けてくださせェ!」

「いつもの様に強き者が絶対だと教えてくだせぇ!」

『お頭!』

 

 

「人望も厚かったようだな」

「誰よりも野心家で、豪快な奴だったからな。慕う理由も分からんでもない」

 

ライカンにさえならなければきっと素晴らしいリーダーとなれたのかもしれない。しかし、当の本人はライカンになった事を後悔していないらしい。いつの時代にも力は魅力的な者なんだろうな。

 

「イテテ…………」

 

立とうとすると、怪我した場所に痛みが走る。

 

「お前、怪我してんのか?見せろ」

「別に大した怪我じゃないさ」

「大した怪我じゃよ。肋折れて内臓も傷ついて何を言っておる」

「少し動くなよ」

 

と京谷は俺の怪我した場所に触れる。

 

「あれ?痛みが…………」

「もう怪我なら治してやったぜ」

「それもスタンドか…………」

 

全くもって便利だな。

怪我も治った所で次に行こうとした矢先

 

「待ちやがれ!」

 

1人のライカンが声を荒げた。

 

「お頭の……お頭の!カタを取ってやる!」

『そうだ!』

 

1人に呼応し、残ったライカンがこちらに向かおうとする。

それに合わせ、俺らは構える。が、

 

「待て!お前らはお頭の信念を知って、カタを取ろうとしてるのか!?」

「…………!」

 

1人のライカンが周りのライカンを制した。

 

「お頭は常に言ってただろう!強者こそが絶対と!お頭に勝ったこいつらは強者だ。俺らがカタを取る理由なんて無い…………」

「ぐ…………ッ!」

「とっと行きやがれ!俺らの気が変わらねぇ内に!」

 

 

「……そうさせてもらう」

 

 

 

歯を食いしばり、拳をワナワナと震わせるライカン達を後に次の階へ進むのだった。

 

「今回の敵は誰よりもカッコよかったのかもな…………」

「そうだな。お?もしかして憧れちゃったり?」

「…………さぁな」

 

確かに京谷は強い。咲夜も強い。妖夢だってそうだ。でも、果たして、俺は彼らの言う強者なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「お頭ぁ……」

「泣くな!お頭の前で……泣くな!」

「お前だって……泣いてんじゃねぇか……」

「泣いて……なんか……いない!」

「……俺らは、どうしたらいいんだ?」

「受け継ぐしか無い。お頭が目指した帝国を俺らで作るんだ!」

「お頭がいねぇんじゃ、何も出来ねぇよ……」

「居なくてもやるしか無い!強者が絶対だと俺らが示すしか無いんだよ!」

「……そうだ!やるしか無い!」

 

 

「…………終わってたか」

 

 

「誰だ!また戻って…………シアンさん!?」

「ん?誰だ?シアンって」

「ソネさんの仲間だよ」

「ああ…………そういえば、お頭と知り合いだったな」

 

「グントラムは死んだのか?」

「ええ……お頭は……」

「そうか、ソネが残念がるな。お前らも相当悲しいだろ?」

「そうです……でも、俺らはお頭の意思を受け継ぐと決めました!」

「どうするつもりだ?」

「兎に角、この城を出て外で一からやり直します!」

「…………それは出来ないな」

「え?」

「お前らは全員ここで死ぬからな」

 

ザーッ

 

「な、なんだ?部屋がだんだん黒く…………」

「あれは…………色が変わってるんじゃ無い!虫の大群だ!」

「ウアァァァァ!!」

「虫!?人を食う虫だと?!」

「こいつ!これでもくらえ!」

 

ザクッ

 

「ひっ!?な、なんだ?お前の体は!?」

 

バリゴキグシャグシャバリバリガツガツ…………

 

「逃げろ!退却だ!退却!」

 

「何処に行くつもりだ?」

「お、お前は!は、ハキ ガブッ!

 

ベキバキボキボキ…………

 

「……………………」

「おい、ソネは食わないのか?こいつら、普通の人間よりも歯応えあってうまいぞ、まぁ、毛が多いが」

「ははは、いや、私は結構。死体はある程度残してください。何かに使えるかもしれません」

「いや…………それは…………無理かもな」

「シアン、がっつきすぎですよ」

「…………勇人はどこに行った?」

「上ですよ、魔王の魂ならここに」

 

ザーッ

 

「相変わらず食欲旺盛ですね…………」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 7F〜

 

 

「何もねえ!!」

「確かにそうだが…………そのテンション、どうにかならんのか?」

「だって、何故か力がみなぎってんだよ!それなのに何もねぇ!」

「はぁ…………」

「げ、元気なのはいいと思いますよ?」

「限度があるだろうに…………」

 

それに、咲夜と腕を組んで歩いている。イチャイチャっぷりを見せつけられても困るのだが…………

 

「お前さんもすれば良かろうに」

「はぁ?」

「わ、私は構いませんよ…………//」

「お?ついに勇人もイチャつくのか?」

「そうよ、むしろ奥手すぎてこっちが砂糖吐きそうだわ」

 

まさかの味方無しだと!?無言で迫る妖夢、囃し立てる周り。

 

「……………………!」

「え?もしかして、怒っ パァン! う、撃つなよ!」

 

 

「ふむ?躊躇いのない、いい狙撃だ。私の体が5匹は死んだな」

 

 

「え!?」

「お、お前はシアン!」

「京谷!火だ!虫には火だ!」

 

しかし、すぐに群れと化し距離を取られる。

 

「やれやれ。これでは落ち着いて話もできん」

「お前らの目的は何だ?どうして、俺らを襲う?」

「貴様は家族はいるのか?」

「質問を質問で返すなよ」

「ああ…………そうだったな。貴様を魔王にする」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

「勇人が魔王?冗談にしてはキツイぜ」

「勇人さんがそんな事する訳ないです!」

 

「守るべき人々、友人…………大事にしていたものが、目の前で壊されるのは辛いぞ。それに対して、何も出来ない無力さにお前は、耐えられるかな?」

「はぁ……そんなやり方で俺を脅しても、もし俺が魔王になれば最初にその力でお前を殺すぞ」

「むしろ、そうであってほしいね。そして、その力を一度手に入れればもう捨てる事は出来ない」

「自ら命を絶つかもしれないし、どこか山奥に閉じこもるかもしれないぞ?」

「それは無理だな。お前は私と同じで責任感がある。自分に何か出来ると知れば、世界に対して何かをやらずにはいられない」

「お前と同じにしないでくれ、バケモノ」

 

「とっと燃えやがれ!」

 

強烈な熱気がシアンを襲う。しかし、虫の大群となり回避される。

 

「ところで、ネズミ算というのを知ってるか?」

「「??」」

「私が魔族になってそれなりの年月は経っている。最初は数千匹だった体も、今では随分と増えた」

「だから?全て殺してしまえばいいだろ?」

「ほら、後ろを見たまえ」

 

ザーッザーッ

 

俺の後ろに黒い煙がたつ。いや、黒い煙に見えているのは全て"虫"だ。

 

「だいたい270万匹と言ったところか?」

 

「勇人!そっから逃げろ!」

 

京谷が叫んだ時には遅く、俺は虫の大群に囲まれてしまった。

 

「勇人さん!」

「くそッ!数が多すぎる!処理しきれねぇぞ!」

 

回転式拳銃で応戦するが、焼け石に水。全くもって数を減らす事が出来ない。

 

「こうなったら!」

 

自分の周りに不変の空間を作る。そして、群れの中からどうにか脱出する。

 

「ほら!ここだ!早く来い!」

 

京谷が炎のバリケードを張っている所に向かう。そして、何とか辿り着く。

 

「よし!大丈夫か?勇人…………?」

「ゴフッ…………」

「勇人さん!」

 

俺の胸にはぽっかりと穴が開いていた。虫で食い破られて。どうやら、俺は着く寸前に油断して能力を解除してしまったらしい。

しかし、京谷はすぐに穴を直した。

 

「だ、大丈夫か?勇人?」

「も、問題無い…………!?」

 

傷は治った。でも、体がおかしい。何故か胸が苦しい。頭が割れるように痛い。

 

「安心しろ、貴様には魔王の魂を入れてやった」

「何だと!?なら、今すぐ取り出せば…………」

「やめといた方がいい。心臓の一部を食い破ってそこに取り付けたからな。魔王の魂はもはや、心臓の一部だ」

「ウゥ……お、俺は大丈夫だ……」

「まだ、意識はあるか…………それは記憶を侵食出来る。もう時期、私達が作り上げた記憶に擦り変わる」

「「「!?」」」

 

「勇人!自分を保つんじゃ!」

「…………ス」

「ど、どうしたんじゃ?勇人」

「コロス、コロスコロスコロスコロス!」

「勇人さん!」

「……!!お、俺は?」

「そうだ!真実を上書きすれば!」

 

ザーッ

 

「な?虫!?火があるはずだぞ?」

「こ、これは!ボール状に固まって突入してきとる!外側の虫だけしか死んでおらん!」

「ひとまず引くぞ!」

「勇人さん!」

「どうした、勇人…………!?」

 

「意外にもここまで精神的にもタフとはな…………」

「勇人を離しやがれ!」

「こいつは魔族の平和に必要だ」

「ま、待ちやがれ!」

 

ザーッザーッ

 

「勇人!くそッ!邪魔だ!」

 

 

「…………京谷…………妖夢…………じいちゃん…………!」

「まだ意識があるとはな。まぁ、お前には才能があるからじきに馴染む」

 

薄れていく意識の中、ただ妖夢達を見ることしかできなかった。

 



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第73話 8F(魔王の黎明)の日の青年

〜勇人side〜

 

「………………うぅ」

 

勇人は目を覚ます。体をゆっくりと起こし、辺りを見回す。飾り気のない無骨な部屋。

 

「そうだ…………早く妖夢達の元に…………」

 

鉛のように重くなった体を引きずるように歩く。

 

 

ーーーージョースター家 波紋 石仮面

 

 

「!?」

 

刹那、頭の中に経験のした事がないビジョンが浮かぶ。

 

「な、なんだ!?さっきのは…………」

 

 

ーーーースタンド 『世界』 征服

 

 

経験した事がないーーはずなのにまるで自分が経験したかのような錯覚に陥る。

そして、その記憶には今まで自分が抱いた事のないような感情までそれが自分が抱いできたかのようにすら感じ始める。

 

 

「う…………ッ」

 

強烈な偏頭痛に襲われる。まるで勇人の頭を蝕むかのように。

あまりにの痛みにその場に座り込む。

 

 

「あぐッ!?ぐ、グアァァァ!」

 

その痛みは激痛へと変わり、勇人は悶える。

 

 

ーーーー急に止まる心臓、撃ち抜かれる脳天ーーーー人間ドミノ、ライカンの王…………

 

 

様々な情報が無理矢理頭の中に流れ込む。

 

「はぁ……はぁ……これは……知ってる……この『記憶』は知ってる……ッ!」

 

それもそのはず、この『記憶』は勇人達が闘ったジオットやグントラム、そしてDIOの記憶なのだから…………

 

 

「で、でも、この記憶は…………俺が経験したものでは無い…………」

 

 

「目覚めていたか」

「!?」

 

勇人の目の前に黒い煙が突然現れる。その煙は少しずつ人の形に成していき、1人の女へとなった。

 

勇人は瞬時に銃を取り出そうとするが見つからない。

 

「探し物はこれか?」

 

1人の女ーーもとい、勇人をここに連れてきた張本人のシアンは勇人の回転式拳銃をその手に持っていた。

 

「…………ッ!」

「残念ながら今は渡せないな」

 

 

それならばと掴みかかろうとする。

が、周りにを見れば黒い煙ーー虫達によって囲まれていた。あの虫達の脅威は十二分に知っている。

まさに絶対絶命のピンチ。

 

そこで問題だ!こんな状況をどのように切り抜けるか?

3択ー1つだけ選びなさい

 

答え①策士の勇人は突如反撃のアイデアが閃く。

答え②京谷達が助けに来てくれる。

答え③虫に食われる。現実は非情である。

 

「(ここでのベストは答え②だが…………多分、京谷達は俺がどこにいるのかは把握していない。そんな都合よく助けに来てくれない…………)」

 

「(なら!答えは①だ………ッ!」

 

勇人は不変の空間を自分の周りに作り出し、逃げるのではなくシアンの元へ駆ける。

 

「(数百万匹の虫で構成されてるようだが…………あれだけ統率された動きをするのなら、司令塔がどこかにいるはず…………ッ!その可能性があるのはあのシアンだ!)」

 

「ふむ…………その能力はよく分からないが…………こちらからは触れないようだ…………しかし…………」

 

あと少し、あと数歩でシアンに届こうとした時

 

「自分の体力はしっかり把握しておくべきだぞ?」

「…………なッ!?」

 

不変の空間は既に保たれてなかった。

 

「(時間が短くなってる!こ、これは…………!)」

 

…… 答え③

 

 

…… 答え③

 

 

「…………答えは③か。もう、これ以上の策もねぇ」

 

視界が黒く染まり、死を覚悟する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん?」

 

しかし、勇人の体が蝕まれる事は無かった。

 

「どうやら、馴染んで来たようだな」

 

人は自分自身を鏡など無しで見る事は出来ない。よって、勇人も自分自身を見れない。つまり、外見の異常に気付く事が出来ない。

今の彼は微小でありながら異変が起こっていた。目が瞳が青く光っていたーー普段は黒く、死んだ魚の目みたいだとまで揶揄される目が。

 

「体はもう侵食したようだな…………後は…………心だけか?」

「はぁ…………?」

「聡明な君の事だ。もう何が起こったかは把握済みだろ?」

 

そう、勇人は既に分かっている。今彼の心中には

 

「(俺のものにしたい…………この世界を…………!人間共を葬り去りたい…………この手で…………嬲り殺して…………!)」

 

汗が頰を伝う。両手に力が入る。普段はそんなに開かない瞼も大きく見開く。

 

「なんの…………ことか…………さっぱりだ」

「フフ……無理なんかしなくていい。もう、分かっている」

 

シアンは既に勇人のすぐ近くまで来て頰を撫でている。

しかし、勇人は動かない。腹の底の化け物を抑えるのが精一杯で。

 

「(人を嬲り殺すのが……自分の本能だ……前々から人を嬲りたかったはずだ…………ッ!)」

「ち、違う…………ッ!」

 

化け物に反抗するが食道まで上がり、歯に手を掛け外に這い出ようとする。

 

「さぁ、お前の本性を曝け出せ、その手で全てを手に入れろ」

 

シアンが耳元で囁く。

 

「違う…………違う……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!」

 

声に出す事で理性を保とうとするが…………

 

 

「( 嬲 り 殺 せ)」

 

化け物は既に勇人の体から出て来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「これで器は完成だ…………魔力を注ぎ込めば魔王の誕生だ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ハッハァ!!!これで漸く魔王の復活です!!これで支配も思いのまま!!」

「………ッ!?残念だがソネ、どうやら復活は延期だ」

「この場合だと、先に地上に戻った2人がどうにかしてくれたな。計算外の事が起こったなぁ!!テメエら!!」

 

 

この時、外では……………………

 

 

 

「これでいいでしょうか?慧音さん?」

「ああ、全部は破壊してないだろうな?」

「ええ、いくつかは残しておいたわよ」

 

早苗、鈴仙、慧音の3人の頭上には『ヘブン・クラウド』そして、足元には魔法陣が。

その魔法陣のいくつかは消され効力を失っている。

 

「本当にあるとわね…………やっぱり、これはあの『歴史書』に書かれてたのと同じじゃないかしら?」

「…………そうなると、この城の中では魔王の誕生が画策されていたということになるな」

「そう考えると…………私達がやった事はとても重要ですね…………」

「ああ、下手をすればこの城から魔王が出て来て幻想郷が大混乱に陥るからな」

「後は勇人さんに任せればいいのね。…………そして、私と結婚するのよ…………」

「そ、それはダメですッ!」

 

しかし、その勇人が危機に瀕している事を気づく事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

そして、場所は戻り『ヘブン・クラウド』の中へ。

 

「はぁ…………物事とはやはりうまくいかないものですねぇ…………」

「仕方がないだろ、ソネ」

「…………フフ」

「シアン…………何が可笑しい?今は笑うとこじゃないだろ?」

 

張り詰めた空気の中対峙する6人。それぞれが臨戦態勢の中、シアンのみがただ突っ立ているのみである。

 

「まぁ、そんな事もある。しかし、それは予想の範囲内だろ?ソネ」

「確かにそうですが…………」

 

「なんだなんだ?まさか、『こんな事もあろうかと秘密兵器を用意してのだ!』とかじゃないだろうな?」

「ええ、そうですよ。まぁ、私は何なのかはシアンに聞かないと分かりませんがね」

 

まさか、その通りだとは思わなかったのか京谷は少々驚く。

 

「へ、へぇ……じゃぁ、見せてみろよその『秘密兵器』とか言う奴を!」

 

「そんな無駄口いつまで言えるのやら…………まぁ、強かに足掻くといい」

「で、シアンその秘密兵器とやらは?」

 

と周りを見るソネ。しかし、何処にも"秘密兵器"は居ない。

 

「…………既に居る。ハキム、お前の後ろにな」

「ぬぁ!?い、いつの間に!?」

 

ハキムの後ろに居るのは京谷よりやや背が低めの人。影になっているためしっかりとは見えない。

 

「ま、まさか!?そ、そやつは…………」

 

 

影から現れた人物ーーそれは勇人だった。

 

 

「ゆ、勇人さん!?」

 

 

「まだ、魔王とまでは言えないがある程度の魔力の供給は終えてる。実験がてら貴様らと戦わせてやる」

 

 

「ゆ、許しませんッ!」

 

怒りに冷静さを欠いた妖夢は地を蹴り、シアンの元へ一直線に向かう。

 

「ま、待てッ、妖夢!早まるな!」

 

京谷の忠告も妖夢の耳には届かない。そのまま、シアンを斬りつけにかかる。しかし、シアンはいつもの如く虫の群れには変わらず突っ立てるのみ。

 

 

「ゆ、勇人さん…………!?」

 

 

シアンと妖夢の間に勇人が現れる。しかし、妖夢が気づいた時には勇人の脚が妖夢の腹を捉えていた。

骨の軋む音が聞こえ、妖夢の体は壁へとぶち込まれる。

 

 

「お、おい!何をしてるんだッ!」

「だ、大丈夫!?妖夢!」

「は、はい…………大丈夫です」

 

実際の所、妖夢は腹に受けたダメージより勇人に明確な殺意を持って攻撃された事の方がショックであった。

 

「合格点だな。人間より遥かに強大なパワーを得ている」

 

「勇人!目を覚ませッ!」

「無駄よ。こいつの記憶は魔王の魂によって上書きさせた。それに今は私の虫を寄生させて、私の命令にしか言うことを聞かない」

 

「そして、こいつに命令にしたのは…………貴様らを全員始末しろ、だ」

 

それと同時に勇人は京谷へと迫る。それに迎撃する形で京谷はスタンドで殴りかかる。

「無駄ァ!」

 

京谷の渾身の拳は勇人の片手で受け止められる。

 

「な…………ッ!?」

 

そして、京谷の手の甲は裂け、血が噴き出していた。

「ぐ…………ッ!」

 

物体には衝突する際、反作用が発生する。即ち、硬いものを殴れば痛い。当たり前の事だ。

勇人は自分の手の平の部分に不変の空間を生み出していた。不変の空間ーーそれは絶対に干渉する事の出来ない世界。言い換えれば絶対に壊れない壁。それを京谷は全力で殴った事により拳へのダメージが入る。しかし、京谷を驚かせたのはそこでは無い。

 

「お前…………スタンドが見えてるのか…………?」

「……………………」

 

あの受け止め方はどう見てもスタンドが見えてるとしか言いようがない。

再び勇人は地を蹴り、弾丸の如く京谷へと突っ込む。

 

「…………ッ!」

 

勇人の右ストレートを京谷の右拳が受け止める。

 

「無駄ァ!」

 

ギギギギ…………

 

人間の域ではない重い一撃ににより、京谷の肩に痛みが走るが、なんとか振り切り手刀を繰り出す。

しかし、勇人は射程範囲外に流れ、手刀は空を切る。

 

「!?」

 

勇人の体は急に京谷の元に移動する。所謂"瞬間移動"と言うのだろうか?

 

「射程距離に入った!」

 

スタンドの左ストレートが勇人の腹部へと決まる。

 

「…………ッ!」

 

勇人の表情が少し歪む。だが、次の瞬間勇人は京谷の頭を掴んでいた。

 

「なッ!?」

 

そして、そのまま京谷の顔に膝蹴りを叩き込む。

 

ガギィィン!

 

ギリギリの所を京谷はスタンドでガードしていた。そして、そのまま勇人の右脚を右拳が強打する。

 

バギィィ!

 

勇人の右脚が奇妙な形に変形し、血が噴き出す。

 

「…………ッ!」

 

ここまでダメージを受けて尚、声一つ出さない勇人は一旦距離を取る。しかし、右脚が使えずその場に倒れる。

 

「その脚は後で治してやるから…………今は寝といてくれよな!」

 

京谷が追撃をしようとした瞬間、勇人は地面を拳で砕き、その破片を京谷に投げつけた。

 

「ぐ…………ッ!」

 

ただの破片なら京谷は傷一つつかないだろう。しかし、勇人が投げた破片は不変化され、『勇人が投げた方向に進む』と言う事が絶対に遂行されるようになった。簡単に言うと…………

 

「うぐ…………ッ!」

 

破片は京谷の体を貫通していた。腹部にはいくつもの穴が空き血が噴き出す。

勇人にとっては破片のように細かい物は凶器にへと変えれる。

 

右脚を庇いながら勇人は立ち、京谷と対峙する。

 

勇人の目はいつものような黒い目ではなかった。青色に変わり、京谷を冷たく射抜くような視線へと変わっていた。

 

 

「勇人!!いつものようなお主はどうした?お前のような優しい奴がどうして簡単に魔王の魂の記憶の侵食を許したんじゃ?」

 

勇人の祖父は訴えるかのように叫ぶ。

 

「そうです‼︎早くいつものような勇人さんに戻ってください‼︎」

 

それに続いて妖夢も叫ぶ。

 

「……………………ッ!?」

 

勇人の顔が歪む。いや、勇人の中に潜んでいた化け物の顔が歪む。

 

「フフ…………ハハハハハ!」

 

張り詰めた空気の中、場違いな笑いが響く。

 

「テメェ…………何が可笑しい!?」

「フフ、すまない。しかし、彼の事は老いぼれ……貴様が1番分かってるだろう?」

「…………さて?」

「優しい?魔王の魂を通してこいつの記憶を少し覗いたのだが…………」

「それ以上言うんじゃないッ!」

 

今まで聞いた事のない大きな声をじいさんは発していた。しかし、シアンはそれを無視する。

 

「こいつはだな、とてつもない程の暴力衝動を持っている」

「…………は?」

「なかなか面白かったぞ?昔、夜な夜な出かけては人をボコボコにし、昼間は平気な顔して生活する」

「本当なのか…………?」

「……………………」

 

京谷の問いにじいさんは黙り込む。

 

「まぁ、今じゃすっかり抑え込んでコントロールしてたようだがな…………私はそれをちょっといじっただけだ。そうしたら、あっという間に衝動に歯止めが効かなくなったよ。私がこうやってコントロールしてなかったら誰振り構わず殺してただろうよ」

 

「じいさん…………もう一度聞く、本当なのか?」

「……ああ、そうじゃ。勇人はずっとその衝動をどのように抑えるかでずっと悩んできた。じゃが!それはもう昔の話のはず!今はそんな衝動なんてもう無くなったはずじゃ!」

「無くなった?誰かを守ると言う事に集中して誤魔化してただけじゃ無いのか?その守ると言う事が心を揺らがず物の原因になった」

 

「…………だから?」

 

京谷はその一言だけで片付ける。

 

「確かにちょっとは引いたが…………俺は勇人が悪い奴とは思わないぜ?」

「そうね、根っからの悪人ならそんな事で悩むはずが無いもの」

「ゆ、勇人さんはいつも人の為に動いて…………自分が傷つくのを御構い無しに…………そんな勇人が優しくないわけが無いです!」

 

「なら、勇人が魔王の魂を受け入れた理由はなんだ?」

 

 

「勇人は受け入れてなんかいないぜ」

 

 

勇人ーーいや、化け物の顔が酷く歪んでいた。まるで化け物に勇人が対抗しているかの如く。

 

「なッ!?完全に記憶は…………ッ!」

 

「後は俺たちが手を差し伸べるだけだな!」

 

京谷は勇人を取り返す為に化け物へと迫ったーー



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第74話 8F(陰々滅々な心)の日の青年

大分遅くなりました。すいません




ーーーー

ーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーー…………ヒィ!く、来るな!

 

…………な、なんなんだ!?こいつ!ば、化け物か…………!?

…………や、野郎!

 

ーーーベキィと鈍い音とともに男が倒れる。

目の前には血だらけになった男達がいる。

ある者は折れた鼻を押さえて呻き、ある者は腹を抱えて蹲っている。

 

ーーーうおお!この化け物がぁぁぁぁぁ!

 

ーーー獲物が…………もう1人…………ーーー

 

ボソッと呟き、その細い体から大の男の腹に拳を入れる。

痛みに蹲る男の頭を掴み、再び拳を叩き込む。

 

 

その時の勇人の顔は笑顔でも憤怒の表情でも無くただ

 

ーーー無表情で殴り続けていた。

 

 

 

 

 

ーーーー

ーーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

……兄さん……

……今日もやったの…………?

……いつまでやるの…………?……しょうがないだろ?それはおかしいよ……

……やっぱり、悪い事だろ……?

 

ーー手についた血を洗い流しながら弟の言葉を聞く。

 

分かってる。

 

分かってはいるんだ。

 

 

ーーーー

ーーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

…………もう、どっかに行ってよ!化け物!

 

ーー喧嘩した日に言われたこの言葉。

 

…………あっ…………

 

ーーーー化け物…………やっぱり、俺は異常者なのか?弟の言う通り、化け物なのか?

 

ーーーーそうに決まってる……自分でも分かっている。これはおかしいと言う事なんて自分が1番分かっている。

 

 

ーーーーでも、抑えられない。人を見ると急に殴りたくなる…………

 

ーーーー幻想郷に来てからはどうだ?

そんな衝動…………数えるほどしか起きていない。

 

ーーーー俺はまともになってきてるのか?

 

 

ーーーー…………違う…………俺は…………人を守るという事を理由にこの衝動を誤魔化してただけじゃないのか?…………一人前に助けると言っておきながら本当は誰かに暴力を振るう事で誤魔化してたのではないのか?

 

 

ーーーーやっぱり、俺は化け物なのか?ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京谷達の声が聞こえる。

 

 

ーー俺は化け物じゃないのか?

 

 

そんな想いが出て来る。でも、すぐにそれを自分で否定する。なぜなら…………

 

 

今、物凄く京谷達に暴力を振るいたいと思ってしまっているから。

 

 

 

 

 

 

不意に京谷が突っ込んで来る。

今では何故かはっきりと見えるスタンドーー黒い筋肉質な体に逆立った髪の毛。そして、青く光る目。

 

そのスタンドの拳を避け、後ろに逃れる。今、気づいたのだが右脚は既に治っている。これもあの魔王の魂のおかげか…………

 

 

 

距離をとった京谷からとてつもないオーラが発せられる。

ビリビリとした感触を肌に感じる。

 

それはまさに"恐怖"の象徴であり、常人なら簡単に気絶するだろう。しかし、自分が恐怖しているとは全く感じない。表情筋も、固定されたかの様に動かない。

 

 

『殺せ』

 

 

自分の中の化け物がそう言う。さらに化け物は俺の気配をドス黒く塗り固めていく。

 

 

「そう言えば、この銃を預かったままだったな。返してやろう。その代わり…………」

 

 

「全員始末しろ」

 

 

シアンから銃を受け取り、返事もせずに構える。

 

無機質な部屋の中で、2対4という形で対峙し殺気が充満する。

 

「もう我慢の限界よ!貴方はまだ、そうやってうじうじしている訳?妖夢はとっくに決意を決めてるわよ!」

 

「……………………」

 

静寂の中、咲夜の叫び声が響く。でも、もう俺には響かない。

決意?そんなの出来てたら今の状況なんか起きない。

 

「まだ無言を貫くのかしら?」

 

 

返事をするかわりに殺気を増加させる。

 

「…………そう、もういいわ…………この『臆病者』」

 

咲夜の手には既にいくつかのナイフが握られていた。

そして、次の瞬間にはそのナイフは手から無くなっていた。

 

「!!」

 

そのナイフは既に俺の背中に突き刺さっていた。だが、全く痛みを感じない。ドクドクと血は流れ出ているのに全く痛みを感じない。

刺さったナイフを無視して俺は銃を撃つ。

 

パァン!

 

乾いた音が咲夜の眉間に向かう。

 

「無駄ァ!」

 

京谷がスタンドで弾丸を弾こうとする。その瞬間

 

 

ピカアァァァ…………!

 

 

 

「なッ!?」

 

2人の動きが止まる。その間に京谷に蹴りを入れ吹き飛ばす。

 

「グッ…………!」

 

すかさず咲夜が時を止めて反撃に転じようとするがその寸前に不変化の空間を生み出し、時の流れを守る。

 

「ーーッ!?」

 

右手を咲夜の目の前にかざし能力を発動させようとする。徐々に咲夜の体の動きが固まっていく。

 

「無駄ァ!」

 

バギィィ!

 

京谷のスタンドが俺の右腕をへし折る。

余った左腕で銃の引き金を引き京谷に打ち込む。

 

パァン!パァン!

 

「無駄無駄ァ!」

 

今、思う。俺の能力は強化されたと。何故なら"血"なんかつけずに"不変化"できるのだから。

 

 

銃弾はいとも容易く京谷の腕を貫く。

 

「…………チッ!」

 

そして、化け物は言う、トドメだと。それに従うかの様に京谷の眉間に銃口を定め引き金に指を掛ける。

 

そこに白刃が一閃する。間一髪避け後ろに後退する。

 

 

「何かが勇人さんを迷わせているなら、それを私が斬ります!」

 

 

「す、すまねぇ……妖夢。助かった」

「いえ、それよりも今は勇人さんを」

 

 

妖夢の言葉を聞くなり京谷はこちらに突っ込んでくる。

 

もう一度標準を京谷に合わせ、引き金を引こうとする。もちろん、狙うは眉間ーーー

 

 

ドスッ ドスッ

 

 

「!?」

 

左腕にナイフが刺さった。飛んできた方向を見ると咲夜がいた。

 

 

「無駄ァ!」

 

 

ドゴォオ!

 

 

スタンドの拳が頰にめり込む。ミシミシと嫌な音をたて、体が揺れる。

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァア!」

 

 

 

ラッシュを叩き込まれ、あちらこちらの骨が折れる音が聞こえる。

流石にダメージを食らい過ぎたのか、意識が朦朧とする。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、体は立ち上がる。もう体はボロボロのはず……………………

そんな中、京谷の声が聞こえる。

 

 

 

「勇人、もうこんな事、終わりにしようぜ…………お前が悩むのは1人でどうにかしようとしてるからだろ?」

 

 

ーーー1人で…………解決しようとしたから?

 

 

「まぁ、確かにそんな衝動は人に打ち明け難いかもしれないが…………だからといって、妖夢達に言えないぐらいなのか?お前は妖夢達を信じれないのか?」

 

 

ーーーそんな訳が…………ない…………

 

 

「咲夜の言う通りお前は『臆病者』だ。本当は自分の衝動が大事な人に向かうのが怖いんじゃなくて、それを知られた時に相手が自分を恐れる事が怖かったんじゃないのか?」

 

 

ーーー俺は…………俺は…………

 

 

「俺は分かってる。お前は悪い奴じゃないと。お前が撃つたびに間がある。それは大事な奴は撃ってはいけないという事が衝動の中にも働いてるからじゃないのか?」

 

 

「俺らはお前を受け止める準備はできてる。あとはお前だけだ」

 

 

ーーー俺は結局逃げてたのか…………化け物という事にして逃げてたのか。あー…………しっかりと向き合ってたと思ってたのにな…………そうじゃなかったのか…………別に頼ってもいいのか…………

 

なら、後は俺が信じるだけか…………

 

 

「そんなの、ただの戯言だ」

 

 

ーーーえ?俺はなんて言った?

 

 

「人を殴った時に『衝動で殴った』と言ったらどう思う?異常者だと思うに決まってる」

 

 

ーーーなんで、俺は話している!?俺は何を言っている?

 

 

「殺す側にとって殺される者に大事だとかは関係ない。それはお前らも同じだ」

 

 

ーーー違う!違うんだ!

 

 

「ゆ、勇人さん…………」

 

 

ーーー違うんだ…………妖夢…………

 

 

俺の中の化け物は既に口から出てきていて、俺として存在していた。

 

意思に反し再び銃を構える。

しかし、京谷は立ったまま。

 

 

「……………………」

 

 

ーーーな、何をしてるんだ!お、俺はもう…………!

 

 

引き金にかかる指の力が強くなっていく。

 

ーーーやめろ…………やめろ……やめろォォォオ!

 

 

 

パァン!



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第75話 8F(Ray of hope)の日の青年

乾いた音が鳴り響く。高速回転しながら飛び出した弾丸は京谷の目へと命中した。しかし、弾丸は京谷の頭を貫かなかった。

 

 

 

 

カランカランと何かが落ちる音がする。その何かは先程、京谷に命中した弾丸と命中された眼球であった。

普通なら発狂してしまいそうな悍ましい光景だが、状況が状況でよかったと安心する。と言っても未だに体は言う事を聞かない。

 

 

「……………フッ」

 

 

京谷が笑う。相手を見下すような笑い方。

 

 

「フフフフ………ククク………ハァ………」

 

「アーハッハッハッハッハッ!!!」

 

 

今度は高笑いを始める。少しながら不謹慎だ。

今、思ったのだが、俺は魔王の魂の記憶によって新たな人格が作成されていて、二つの人格が混在している状態にあるようだ。何故、分かるのかっていうと…………意識を共有してるからだ。もう1人の人格が何をしようかなどこちらには筒抜けである。だからと言って動く事は出来ないが。

 

 

「『このDIO以外に能力は使えない時間』を決めた」

 

「ハッ!!抜かせ雑魚が」

 

「ッ!!?お、お前……誰だ?誰なんだ!?」

 

「先程も言った。この『DIO』に同じ言葉を2度も繰り返そうとするな。ハキムよ」

 

「んなっ!?」

 

 

急いでもう一つの人格は不変化を発動しようとする。

 

 

「この人間の能力が発動する前に能力を使えば良い。謂わば先着順というヤツだな」

 

 

そんなセリフと共に頭を掴まれる。ーーなるほど、確かに発動しなければ俺はただの人間だ。無論、今の状態で人間とはとても言えないが。

 

俺の体は容易く宙に投げられ、腹部に蹴りを入れられる。体は天井を突き破り、上の階の部屋に投げ出される。

 

 

 

「がはっ…………!」

 

 

 

くそっ…………痛いな…………内臓が傷ついたか?

 

 

…………痛い?痛い!?

 

 

「えっ!?しゃ、喋れるッ!」

 

 

俺の体の使用権は俺に移ったようだ。そうとなれば、京谷達の元に…………

 

 

『(…………人間よ)』

 

「なっ!?だ、誰だ!?」

 

『(我はお前の中にいる…………)』

 

「こ、こいつ…………直接脳内に…………!」

 

『(必要な能力は全て持っている。我は生まれながらの王ゆえ当然の事。いや、足りぬな…………体がな)』

 

「便利だな、必要な能力全て持ってるなんて。まぁ、1番大事な体が無いのは致命的だがな…………俺の体はもう使わせねぇぞ」

 

『(万物の王たる我がどんな姿をしてようとなんの不都合もない)』

 

『(この城に有り余る魔力を胸に我は城下へと飛び立つだろう。我が下では数多くの人間は魔族となり、我に従うだろう)』

 

「…………人間を魔物に変える魔法か、だが、そんな事はさせないぞ。お前の思惑は俺に筒抜けだ。今すぐにでもお前の人格を消し去ってやる」

 

『(ふむ…………我を倒すという訳か。では、一つお前に問おう)』

 

『(我を消し去るという事はそれ相応の理由があるのだろう。だが、肉体を持たずとも生まれたばかりである我になんの罪がある?)』

 

「…………お前の力は強すぎる。強いていうなら、お前みたいな魔王が存在している事こそ罪だ」

 

『(ククク…………そう言う答えこそ聞きたかったぞ)』

 

「??」

 

『(深く考えずともよい。我には我の正義があるようにお前にも正義がある。たったそれだけの事だ)』

 

 

 

『(我の人格は存在が不安定だ。あの京谷という奴との戦いでまともに存在しておれん。直に我が人格は消え失せるだろう)』

 

『(我が命、かくも短く終わろうとは予想だにしなかった…………ぞ)』

 

「…………すまない」

 

『(謝る必要は無い、人間よ…………いや勇人よ。お前も我も期待された役目を果たすために努力したに過ぎん)』

 

 

 

 

 

 

過去よりも未来を

 

 

謝罪よりも約束を

 

 

 

 

 

 

 

「約束?」

 

『(我に約束せよ、勇人。より良き世界を作る…………と。我の生みの親である3人が目指した世界も同じ。しかし、その3人もいずれ死ぬだろう。だからこそ約束せよ。そのために我が力をお前に残す)』

 

「…………ああ、約束する。魔王に頼らずといい世界が必ず来る。」

 

『(そうであるとよいな…………生みの親よりも先に眠りにつく事になるとは…………だが、安心したぞ…………勇人…………)』

 

 

 

自分の中に何かが消えていくのを感じる。正義とは難しいな…………

正義の反対は悪なんかじゃないんだな…………別の正義だからより難しい。

だが、約束はしてしまったからな…………

 

 

"謝罪よりも約束を"か…………

 



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第76話 儚い蟲達の夢の日の青年

魔王は消滅した。即ち、今回の目標は粗方達成という事である。いや、そもそもただの調査のはずだった様な気がするが…………まぁ、いいっか。

 

 

早く京谷と達の元へ行って俺は大丈夫だと教えないとな。それに、消滅した魔王様との約束もある訳だし。

 

 

俺が突き破って来た床の所へと向かう。ふと思ったのだが俺の体は大丈夫だよな?ーーーお腹がまだ痛い様な気がするがそこは我慢我慢。

 

 

「よっ…………と」

 

下の階へとジャンプし、着地する。

しかし、それと同時に拳がすぐそこまで迫る。

 

「ぬぁ!?」

 

「チッ、まだ寝てなかったか…………今度こそ寝てろ」

 

「ちょ、ちょっと待て!勇人だ!俺は勇人だ!」

 

「あ?もう少しはまともな嘘をつきやがれ!」

 

う、うーむ…………簡単には信じてくれなさそうだ。それもそうか…………とか考えてたら、スタンドの攻撃が迫る。

信じてもらうには…………

 

 

ベキィ!

 

 

 

「ッ!?」

 

「グゥ…………い、痛い…………これで信じるか?」

 

手荒だが何もせず攻撃の意思が無いことを示すしかあるまい。

 

「本当に勇人だな?」

 

「あ、ああ…………嘘じゃない。勇人、嘘つかない」

 

「その様だな…………手間のかかる奴だ」

 

「ハハ…………すまない。もう大丈夫だ」

 

 

よし、大丈夫と言えたぞ…………後は妖夢にも…………

 

 

「勇人さん!」

 

「お、妖夢。色々迷惑かけたな…………」

 

「勇人さんなんですよね?本物の勇人さんですよね?」

 

「ああ、正真正銘俺は勇人だ」

 

 

すると、妖夢は俺に抱き付く。

 

 

「よかった…………本当に…………」

 

「…………すまない」

 

「謝らないでください。気づけなかった私も悪いんです…………」

 

「いや、勝手に抱え込んでた俺の方が…………」

 

 

「はい、そこまでじゃ。どっちかが悪いとか言っておったら日が暮れるわい」

 

「そ、そうだな…………ところであの3人は?」

 

「それなら、もう京谷が始末してしまったわよ」

 

「ああ、無限の回転エネルギーを撃ち込んでやった」

 

「容赦無いな…………」

 

 

よりによって絶対殺すマンとは…………

 

 

 

「ぅぅ…………こ、こんなところでぇぇ!」

 

「まだ、死なないとは…………しぶとい奴だ」

 

ハキムは内部が切り裂かれながらもこちらに向かおうとしていた。

 

「まだ、まだ、やられるわけには…………!」

 

すると、ハキムの姿が変わり、巨大な昆虫へと変化した。

 

「スカベラか…………だが、無限回転エネルギーからは逃げられない」

 

「…………そうですねぇ、この回転という奴はどう足掻いても私達を殺す様ですね。まぁ、これを止める方法とすれば逆の同じ回転をまた撃ち込んでもらうしか無さそうですね…………」

 

「へぇ…………そこまで分かるのか」

 

「伊達に長生きしてませんよ…………」

 

「それが分かったところで取引でもするつもりか?」

 

「そうですねぇ…………これだけ長生きしたのですから生き延びるコツは知っているつもりですよ」

 

「何事にも本気を出さず責任を取る立場にならない事。気軽に意見を言える側近の立場でいざとなったら逃げるか裏切る。それが生き延びるコツです…………今回の事も面白半分で参加したのですがね…………」

 

「こんな大層な事をしておいて面白半分だと?」

 

「はっきり言ってしまうと、魔王が現れたからって世界が必ずしも大きく変わるとは思ってないのですよ」

 

「なら、なんでこんな事を?さっさと逃げ出せば良かったものを」

 

「でもねぇ、なんと言うか…………グフッ」

 

 

ソネの口から血が出る。飄々としているが実際は瀕死なのだろう。

 

 

「ただ生き延びてるだけでは生きてるとは言えないと思いまして…………まぁ、たまには私もカッコつけたくなったんですよ。ハキムやシアンの様にね…………」

 

「不器用な奴らだな」

 

「ハハ…………まったくです。だから、ただでは死にませんよ!」

 

 

ソネの体は巨大なサソリとなりその巨大な尻尾にある毒針を撃ち出す。

俺は素早くそれを躱し、銃弾を数発撃ち込む。

 

全ての弾は命中し、ソネは力尽きる。

 

 

「ハハハ…………やはり、真面目にやるとロクな結末になりませんねぇ。でも、こういうのが生きているという感覚なんでしょうね…………」

 

 

そして、ソネは穴に引きずり込まれる。

 

 

「お前らァァア!」

 

 

ハキムは内部が切り裂かれながらも攻撃をしようとするが、

 

 

「無駄ァ!」

 

 

京谷の一撃でハキムも穴に引きずり込まれる。

 

 

2人の引きずり込まれた穴から怨念の様な魂が出てくる。

 

 

「おい、京谷もう1人のあれは偽物じゃないか?」

「は?…………あれは…………ゾンビか?」

 

 

そもそも、シアンの体は虫の群れである。その場合は回転エネルギーは群れ全体に効果があるのだろうか?ともかく、仕上げをしないと…………

 

 

「ゴホッ、ゴホッ…………」

 

 

暗闇の向こうから既にボロボロの状態のシアンが出てくる。

 

 

「シアン、後はお前だけだぜ」

 

「ソネとハキムがやられたか…………魔王誕生計画は大失敗だな…………」

 

「どうする?降参するか?」

 

「ハハハハハ!降参?ふざけないでくれ。私は魔族の未来の為に最期まで計画は続ける!」

 

「また、虫の大群でくるか?そうだとしても全て燃やし尽くしてやる」

 

「舐めないでくれ、魔族は進化するのだ。貴様ら蠱毒の儀式と言うのを知ってるか?」

 

「「コドク?」」

 

「東洋の呪術だよ。大量の虫を狭い部屋に閉じ込めて共食いさせる。最後に残った一匹には死んだ全ての虫の怨念と魔力が結集する」

 

「何を言ってるんだ?」

 

 

ま、まさか?

 

 

「私の体を構成する数百万の虫で蠱毒の儀式をとりおこなった。さらにはハキムとソネの分まである」

 

「今の私は虫の群れではない!…………最強最後の一匹のみ、だ」

 

 

シアンは巨大な蝶となる。赤を基調とした蝶は大きさも相まってか、美しいと言うより恐ろしい姿となっている。

 

 

「グッ…………凄い風圧だな…………」

「あいつの相手は俺がする」

「そうか、じゃあ任せたぞ勇人」

 

 

俺は一歩前に踏み出し、シアンと対峙する。

 

 

「よし…………魔王の力、早速使わせて貰うぜ」

 

 

「魔族の力を思い知れ!」

 

 

羽から紫色の鱗粉がばら撒かれる。恐らくは毒素を含んでいるのだろう。しかし、鱗粉が俺より後ろに回ることは無い。

俺は魔王の魂の力を借り、意識をシアンの方へ集中する。

 

 

「これから起こるのは"絶対"であり、それ以外は起こりえない…………」

 

「ハァァァァ!」

 

 

鱗粉を突風に乗せて嵐の様に放つ。しかし、それも無意味だ。

 

 

「お前の羽は5秒後に両方とももげる」

 

「は?何をいってる?」

 

「後3秒…………2秒…………1秒…………」

 

 

すると、メリメリと羽がいきなりもげて落ちる。

 

 

「グァァァ!?は、羽が!?」

 

 

飛ぶ手段を失ったシアンは地へと叩きつけられる。

 

 

「な、何が起こった?」

 

「急に羽が取れたわ!」

 

「ゆ、勇人さんは動いてませんよ?」

 

 

フフ…………どうだ、凄いだろ?この仕組みは後で教えるとしよう。

 

 

「羽がないと何もできないな」

 

「ウグ…………やはり、私ではどうしようもないか…………」

 

「ああ、そうだな」

 

「フッ…………すっかり忘れてたつもりだったが…………お前はあいつにそっくりだ…………」

 

「あいつ?」

 

「私は元は人間だった。普通に暮らしていた。普通に恋愛をした。普通だとしても私はその相手をとても大事だと思っていた。そして、結婚へと至った。あの時は嬉しかったよ。だがな、村が傭兵どもに襲われた。結婚式の日にだ。傭兵が襲った理由が国家が金を払わなかったからだと。目の前で家族が村の人たちが私の大切な人達が殺されたよ。もちろん、夫となる人も…………私はその日には死ななかった。数日間生きながら虫に食われ続けた。そして、気づいたら私は魔族になっていた」

 

「…………そうか」

 

「同情はいらない。魔族になって私はハキムやソネの様な者に出会えたのだからな」

 

「お前は…………いや、何も言うまい」

 

「そうしてくれ…………さぁ、その手で終わらせてくれ。私は少し疲れた…………」

 

 

俺は再びシアンに意識を集中させる。

 

 

「後、5秒後にお前の体は消滅する…………」

 

「…………」

 

 

シアンの体は次第に半透明になり、やがて消えた。

 

 

 

「はぁ…………終わったァァア!」

 

本当、長かった…………

 

「ようやく、ね」

 

「いや、まだ真のラスボスがいるかもしれないぜ?」

 

「それはもう勘弁な」

 

「ハハ、冗談だ。ほら、とっとと戻ろうぜ?」

 

「ああ、早く布団に戻りたいぜ」

 

 

俺らは帰路へと歩を進めた。



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第77話 宴楽の日の青年

 

〜あれから一週間後〜

 

光陰矢の如しーーー『ヘブン・クラウド』の件からもう一週間も経ったと言うのだからこの言葉を実感させられる。

 

ヘブン・クラウドを出てからは兎に角、死んだ様に眠った。日付感覚が狂いそうなぐらいヘブン・クラウドの中にいたのだからしょうがないと思う。

しかし、いつまでも眠っているわけにはいかないだろうと後処理を手伝おうとしたのだが慧音さんに引き止められてしまった。

 

 

「気分転換でもしてきたらどうだ?」

 

 

と言われ、その言葉通りに眠っていようと思ったのだが…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃあ皆さん!!乾ぱーい!!!」

 

『乾ぱーい!!!』

 

 

この有様である。

 

別にみんなでガヤガヤするのが嫌いなのではない。事前に言ってくれればちゃんと楽しむ。しかしだな、急にスキマ送りはよろしくない。とても心臓に悪いのですよ。とか文句を垂れてもしょうがないのでここは素直に楽しもう。

 

あ、因みにじいちゃんと妖夢、早苗、鈴仙はきちんと招待されて紅魔館に来たらしい。俺もそうしてくれ…………

 

 

グラスとグラスがぶつかり、響く音。俺は何故か赤ワインを注がれていた。京谷は日本酒の様だ。未成年飲酒は………………と突っ込むのは幻想郷においては無意味なのでしない。

 

 

京谷の方の幻想郷では思った程の違いは無いらしい。みんな、賑やかで明るい幻想郷らしい雰囲気だ。

 

 

俺も俺らしくゆっくりと楽しむか…………

 

 

 

 

 

 

 

と出来たら本当に良かった。やはり、同じだと言う事では無いらしい。

 

先ずはあのシャーベットとか言う美味しそうな名前の奴は京谷から話を聞いた途端暴れ始め、ブロウとか言う喋る鳥は妖夢や早苗、鈴仙を罵倒するわと中々濃い面子であった。

 

そうそう、京谷が父だと紹介してきた人物があの『エンリコ・プッチ』でかなり驚いた。

 

しかし、これも超える衝撃だったのはこちらでは凄腕マッド薬師の永琳さんが物凄い勢いで京谷に飛びつき、簡単に躱され地面に衝突していた事だったな、うん。もうあれは衝撃的過ぎて一瞬ポカンとしてしまった。

 

さらにお酒が入ればみんなのボルテージはうなぎ登り上がっていくわけでして…………う、頭が…………

 

もう、みんな酔ってたんだ。だから、しょうがない、ね?俺を揉みくちゃにしようが殴りかかろうがお酒のせい、ね?

 

そんな最中、急に浮遊感を覚えたかと思えば

 

 

「イテッ!!」

 

「うひゃあ!!」

 

「ぐえっ!!」

 

 

例の如く、スキマにより屋上まで運ばれた様だ。妖夢が俺の上に落ちてきたので少々涙目になってしまったのはご愛嬌。

 

 

「おーい、御二人さん平気か?」

 

「な、何とか……ってあれ?これは……」

 

「痛たぁ……あれ?この感じは……」

 

 

そうです。俺の上に落ちてますよ。

 

それに気づいた妖夢はギギっと音が鳴りそうな感じで首を動かす。

 

目と目が合うーーーあー、こう言うシチュエーションってあるよな。恋愛ものだとだいたいこれか恋愛に発展するよな(錯乱

 

いつまでも妖夢は俺の上にいるわけでもなくすぐに飛び退く。

 

 

「全くよぉ……紫さん、一言言ってくれりゃあ良いのに」

 

「やっぱか……でも、何で俺たちだけ?」

 

「色々と活躍した者たち代表だったりして♪」

 

「それだとお祖父さんェ……んまぁ、紫さんが設けてくれた場所でのんびり話しますか」

 

「それも……そうですね」

 

「あら妖夢、まだ顔赤いわよ?まだ勇人の温もりが忘れられないのかしら?♪」

 

「「んなっ!!?」」

 

 

こ、この御仁は何を仰っているのか?

 

京谷は少し溜息をついた後、

 

 

「なぁお前ら」

 

「?どうしたよ京谷」

 

「何でしょうか?」

 

「どーしたのっかなぁ~?♪」

 

「……こんな事言うのも不謹慎だけどさ、楽しかったな」

 

「あぁ……あの時のか。……確かに、何か楽しいって感情しか沸き上がってこないや」

 

「楽しい……ですか。あの出来事があったのに楽しいって思えてるんですね、2人とも」

 

「それは私も同意よ。でもやっぱり京谷と一緒の方がどんな事よりも楽しい♪」

 

「それは俺も同じ気持ちさ。咲夜」

 

「きょーや……」

 

「咲夜……」

 

 

あー、はいはい、ごちそうさんごちそうさん。これ程接吻を交わすのを間近で見せられるのはそう多くあるまい。

 

「あー……御二人さん?楽しむのは良いけどよ、流石に人の目が入る場所ではしないでくれるか?」

 

「おっと、ここでヘタレ属性が出てきたぞぉ」

 

「誰がヘタレだ!?」

 

「勇人、アンタはヘタレよ。あんなに女の子に囲まれているのに1人に絞れないなんてヘタレ以外の何者でも無いわ」

 

 

し、しかし、教師である以上子供達の教育に良くない事はしてはいけなのでして…………

 

 

「どーせなら妖夢にキスしてみれば?それで吹っ切れる筈だからさ」

 

「京谷!?お、オオオおまっ!!何を言って!?」

 

「わ……私なら……その……構いませんよ?」

 

「What !?」

 

「「そーれキース!!キース!!キース!!キース!!」」

 

「お前らなぁ!!!」

 

 

ま、全くもってけしからん!そ、そんな簡単にキスなんかして言い訳がないじゃろが!

 

しかし、何故かな京谷達が笑うのを見ると自然とこちらも笑ってしまう。こう言うのも悪くないな…………

 

 

「ハハハハッ!!!はぁ……さて、お前ら」

 

「「「???」」」

 

「少しあれだがよ」

 

 

と京谷は立ち上がり、日本酒の入った杯を月に向けて腕を伸ばす。

 

 

「この1杯に誓おう。俺たちはもう仲間だ。俺たちは互いに支えあって生きていこう。辛く苦しい時も、楽しい日々も全部体験して。そして願おう、お互いの幸せを」

 

 

京谷は杯に入っていた日本酒をイッキ飲みし、夜空に向かって叫んだ。

 

 

「俺たちに幸あれ!!HAIL TO US!!」

 

 

 

 

 

こうして、終宴を迎えた。

 

今回の出来事は人知れず去っていった者たちがいる。

 

しかし、俺らは真っ直ぐにまだ見ぬ世界へと歩を進めるしかない。

 

 

 

 

 

過去よりも未来を

 

 

 




はい、今回にてコラボ企画終了でございます。

コラボしてくださった鬼の半妖さん、またここまで見てくださった方々ありがとうございました。



あ、これからも"諸行有常記"は続きます。次回もお楽しみに。


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第8章 青年、童心に返る(物理
第78話 勘違いの日の閻魔


私、四季映姫は閻魔です。日々、死者を裁き、罪人達へ刑罰を下すーーそれが私の仕事。

その職柄上、畏怖の対象とされがちですが私とて鬼ではありません。

刑罰を少しでも軽くするために私は暇があれば幻想郷へ赴き、善行を積むようにと教え回ります。

時折、嫌な顔をされたりもしますがこれは相手の為であり、やめようとは思いません。

さて、今日も幻想郷の方へと向かいましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、何しにここに来たのかしら?」

 

 

最初、向かったのは博麗神社。もちろん、お目当はここの巫女である博麗霊夢です。

 

 

「先程も言ったでしょう。貴女がしっかりと善行を積めているか見に来ました」

 

「そんなもの見に来なくていいわよ。ちゃんと積んでるから」

 

「その割には毎日怠惰な生活を送っているようですが?妖怪退治もろくに行なっていないようですし」

 

 

この博麗霊夢は善行を積む気があるのでしょうか?こちらは浄瑠璃の鏡で全てお見通しだと言うのに平気で嘘をつく。少しは反省でもしてもらいたいものです。

 

 

「私、もうそろそろお暇したいのですが…………」

 

 

そう言うのは守谷神社の巫女である東風谷早苗です。この巫女コンビは揃いに揃って肩を大きく露出した装い。全くもって寒々しいです。

 

 

「兎に角!貴女はその怠惰な生活を直しなさい!それが貴女の積める善行です!」

 

「はいはい分かったわよ」

 

「本当に分かってるのですか?全く…………碓氷勇人を見習って欲しいものです…………」

 

「え?映姫さんは勇人さんを知ってるのですか?」

 

「ええ、もちろん。教師として毎日仕事を勤勉にこなし、時には異変解決も行う。もちろん、あの城の事件の活躍も知っています」

 

「彼のお陰では異変解決しなくて楽なのよね」

 

「貴女は自発的に行動しなさい」

 

「はいはい…………」

 

「あっ」

 

「どうしたのよ?」

 

「そういえば最近勇人さんを見かけませんね…………私が家に尋ねる機会もなかった訳ですが…………寺子屋でも見ませんでしたね…………」

 

「ふむ…………」

 

「また、例の如く働き過ぎて倒れてるのじゃない?」

 

「!!それなら早く行かないと!」

 

「待ちなさい」

 

「え?」

 

「その役目私が引き受けましょう」

 

「い、いえ私がしますから…………」

 

「貴女はこれから人里に用があるのでしょう?」

 

「そ、そうですが…………」

 

「大丈夫です。最初から彼の元に訪問する予定でしたから」

 

「し、しかし」

 

「大丈夫と言ってるでしょう。彼の家は把握済みです。貴女は自分の仕事をしっかりとこなしなさい。それが貴女の積める善行です」

 

「は、はい…………」

 

 

渋々ですが了解してくれたようです。早苗の彼に対する好意も把握済みですが今回は1対1で話したいと思っているので、彼女には悪いですが私だけで訪問させてもらいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、碓氷勇人の家ですが妖怪の山の麓にポツンと家を建ててるようです。どこかの怠惰な巫女とは違い、この幻想郷では指折りの若さながらも自立した生活をし、また教師として子供達に教え、はたまた人里を守るために奮闘する。まさに善行のオンパレードです。

 

しかしながら、彼にも悪い所はあります。少々1人で抱え込みがちな所です。先程の霊夢の発言にもあったように仕事をやり過ぎて倒れたりと人を頼らず、自分だけで苦しんでしまいます。

 

そこで私が彼に教えてあげようと彼の元に向かっている訳です。さあ、彼の家が見えて来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、私四季映姫は非常に困っています。

常日頃から不測の事態や未曾有の危機などを想定し最悪に備えている私ですが…………これは流石に想定外です。

 

 

 

「うーん…………」

 

「…………」

 

 

私を見つめる目がそこに。いえ、睨み尽きてるのでしょうか?

私よりも低い位置にある瞳。相手は男性です。私もそこまで大きくないと思いますが…………

 

 

流石にこのサイズは小さ過ぎます。

 

 

なんせ、私が見下ろしてしまうぐらいに。

 

 

 

 

 

「…………えっと、ここは碓氷勇人の家でしょうか?」

 

 

と、とりあえず、確認をとりましょう。もしかしたら、間違えたのかもしれません。

 

 

「ええ、そうですよ(まぁ、なんて言ったって"俺"の家だし)」

 

 

あってるようです…………という事は、この子は…………………………………………は!

 

 

「(はぁ…………永琳さんの訳の分からん薬のせいでこの体になってしまって2日目か…………)」

 

 

ま、まさかとは思いますが…………しかし、それ以外は考えられません。

 

 

「(混乱を避けるためにこの事を知られないように人との接触を避けたいんだがなぁ…………)」

 

 

碓氷勇人の顔は一応確認しています。その顔の特徴としては目が挙げられるでしょう。基本的に瞼が落ち気味であるせいで瞳に光入らないーー所謂、死んだ目が特徴的です。

そして、この子は…………その特徴をそのまま持っています。。というか、ほとんど瓜二つです。

 

 

「(早苗とかが来たら困るし早く帰ってくれないかなぁ…………)」

 

 

そこから得られる答えは…………ズバリ、勇人の子であるという事です!

 

そうとなれば、母親は誰でしょうか?あまりにも彼に似過ぎて誰が母親なのかが全く推測できません。

まぁ、兎も角本命は彼の子供ではなく、彼自身であるので不在かどうか聞いてみましょう。

 

 

「えっと、今ご両親は?」

 

「ああ…………(幻想郷に)いないよ」

 

「そうですか…………(留守で)いないのですね…………」

 

 

 

「確かにお父さんは忙しそうですからね」

 

「え?」

 

「え?」

 

「は、はぁ…………確かに忙しそうでしたからね…………(な、何故このお方は俺の親父の事情を!?)」

 

 

「あ、申し遅れましたね。私は四季映姫、閻魔です。今日は幻想郷に善行を積んでいるのか見に回っています」

 

 

「そうですか…………と、とりあえずどうしますか?家に上がるか、お帰りになるか…………」

 

 

ふむ…………ここはあえて息子の視点からの勇人の姿を聞いてみるのもいいかもしれません。お邪魔になるとしましょう。

 

 

「上がらせていただきます。それにしても貴方はまだ幼いのにしっかりとしているのですね」

 

「あ、ありがとうございます…………(あ、俺、今は小学低学年並の容姿だったな…………)」

 

 

 

 

 

 

流石、彼の息子と言ったところでしょうか?お茶とお茶受け用の菓子類を取り出し、キチンと接待をしています。勇人という人は礼儀をしっかりとするタイプでしょう。忙しく準備する甚平姿の子はとても愛くるしいものです。

 

 

「それで、善行についてのお話をするのでしょうか?」

 

「いいえ、今回は貴方のお父さんのお話を聞きたいのです」

 

「お、俺の…………?」

 

「ええ、貴方から見てお父さんはどんな人ですか?」

 

「(親父か…………いつも仕事ばかりで平日だなんてほとんど顔を合わせた事がなかったなぁ…………でも、休日は休みたいはずなのに家族と過ごす事を優先してくれてたなぁ…………)…………まぁ、尊敬できる人、ですかね」

 

「そうですか…………それはいい事です」

 

 

息子から尊敬される父とは素晴らしいものです。もう、彼には説教は必要ないかもしれません。

 

 

「…………母は誰なんでしょう?」

 

「え?」

 

「あ、独り言です。貴方の父は素晴らしい人です。これからも貴方の父を尊敬しなさい。これが貴方の積める善行です」

 

「…………そうですね」

 

「それでは、私は貴方の父に会って来ます」

 

 

「え?」

 

「え?」

 

 

「ちょっと待ってください。俺の父に会うのですか?」

 

「ええ、彼の功績を労うのと同時に説教を…………」

 

「いや、俺の父は幻想郷にいませんよ?」

 

 

「えっ!?」

 

「え?」

 

 

「もしかして、まだ宴会から帰って来ていない?」

 

 

「え?」

 

「え?」

 

 

「すいません、少し整理しましょう」

 

 

何かがおかしいです。話が噛み合ってないような…………

 

 

「貴方の父は幻想郷にはいないと?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「そもそも、幻想郷に住んでは…………?」

 

「住んでませんよ」

 

 

「ええっ!?」

 

「え?」

 

 

「それでは寺子屋で教師をし、幻想郷の異変を解決して来たというのに幻想郷に住んでないと?」

 

「ちょっと待ってください」

 

「ふぇ?」

 

「貴方が言う、俺の父の名前は?」

 

「碓氷勇人ですが?」

 

 

 

 

「あー…………その碓氷勇人って言うのは…………俺ですよ」

 

 

「え?」

 

「え?」

 

 

「貴方が碓氷勇人なのですか…………?」

 

「はい」

 

 

「えええ!?」



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第79話 悪戯の日の姫と兎

〜前回のあらすじ〜

 

口うるさい閻魔様の事、四季映姫は今日も説教せんと幻想郷を回り、そのついでにと勇人の功績を労うを彼の元へ向かう。しかし、そこにいたのは…………小さくなっていた勇人だった。

 

どうしてこうなったって?…………幻想郷ではよくある事だ。

 

というわけで、諸行有常記ー第79話ーのはじまりはじまり〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………一応、聞き直しますが、貴方が碓氷勇人ですね?」

 

「ええ、正真正銘碓氷勇人ですが」

 

「息子さんでは…………」

 

「無いです。そもそも、歳を考えたらおかしいと思いますが…………それに俺は幻想郷に来てまだ日が浅いんですからね?」

 

「ですよね…………少し思考が安直過ぎましたね」

 

「で、用件は?」

 

「ああ、そうでした」

 

 

とポンと手を打つ。まぁ、こんな姿なら間違われてもしょうがないと言えばそうなるな。

 

それにしても…………閻魔様が俺に何の用なのか。いきなり、「貴方は地獄行きです」とか言われたらビビるぞ。

 

 

「碓氷勇人、貴方は日々仕事に熱心に勤め、身を削ってまで人里はたまた幻想郷の平和への貢献しています。まさに貴方は善行を積めていると言えるでしょう」

 

「は、はぁ…………」

 

「この幻想郷では貴方のような人程熱心に善行を積み重ねている人はいません…………これからも善行を積み重ねてください」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

げ、幻想郷の人達はみんな自由だからな…………閻魔様の説教なんて聞いてまい。

 

 

「しかし、貴方は少々1人で物事を背負いがちです。もっと、人を頼りなさい。そうすれば貴方はより善行を行えます」

 

「肝に銘じておきます…………」

 

 

うーん…………これでも人を頼っているつもりなのだがな…………それでも背負いこんでいるように見えるのか。

 

 

「説教はこれで。さて、次は貴方の番です」

 

「え、俺の番?」

 

 

え、閻魔様に説教をしろと?いやいや、相手の素性すら分かってないのにどうしろと?

 

 

「その体についてですよ。どうして小さくなったのか、それが聞きたいのです」

 

「あ、ああ…………この体の事ですか…………」

 

 

まぁ、別に言っても減るもんじゃないし言ってもいいか。

 

 

「そうですね、これは2日前の話なのですが…………」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜2日前ー永遠亭ー〜

 

 

「うー…………気持ち悪りぃ…………」

 

 

俺は今、人生初の二日酔いになっている。

 

 

『ヘブン・クラウド』の件はその後、『浮遊城』の出現による怪奇事件としてまとめられ終わりを告げた。

 

そして、京谷たちの世界にお呼ばれされ宴会が開かれどんちゃん騒ぎをしてきたのだが…………戻ってきたら戻ってきたでこちらでも宴会が開かれた。

 

異変解決の功労者としてもてなされたわけなのだが…………二夜連続の宴会である。向こうでも嫌という程酒を飲み、こちらでもみんなから酒を勧められ断れなかった。

 

多分、俺は酒が強い方なのだと思うのだが…………それでも限度と言うのはある。結果、今のような状態に陥ったわけだ。せめての救いは飲んだ記憶がある事か。

 

 

「あ゛ー…………」

 

 

頭がスプーンでグチャグチャに混ぜられているようだ…………そういえば、脳には痛覚がないらしい。まぁ、実際にやって「痛いですかー?」と聞いて返事でもしたのならそいつは人間じゃない。

 

兎に角、頭が痛い。吐き気がする。何も胃に入れる気がしない。されど、喉は渇く。…………これはヒドイ。

 

流石に今の状態ではいけないと、永遠亭に何か薬を貰いに覚束ない足で来たわけである。

 

 

「ウプッ…………って、もう出るもん無いかアァァァ!?」

 

 

足元が陥没した!?と思った頃には尻餅をついていた。

 

 

「……ッ、もうなんだよ」

 

「あ!ようやく、落とし穴に引っかかったマヌケが来たようね」

 

 

二日酔いのせいかこんな原始的な罠にまで引っかかってしまうとは…………よくここまで生きて来れたな。

 

さっさと出r…………案外深いじゃねぇか…………霊力は今使いたくないのだが…………ここでくたばる方がよっぽど嫌なので浮いて脱出する。

 

 

「あー…………頭が割れそう…………」

 

「おマヌケさんは誰かなー…………って、勇人!?」

 

「んぁ?やっぱり、あんたか…………てゐ」

 

 

幸運の畜生兎こと、因幡てゐ。見ての通り人を欺く事を好む兎だ。永遠亭に行く度に罠を仕掛けられたのだが…………いかんせん、原始的な方法ばかりなので看破するのは簡単だった。しかし、今は二日酔いの状態である。そんなの意識している暇などない。

 

 

「まさか…………あなたが引っかかるなんて…………」

 

「今は二日酔いなんだ。ほっといてくれ…………」

 

「へぇ〜…………二日酔い、ね」

 

「ああ、そうだ。今も頭ん中が蜘蛛の巣だからのような感じだから」

 

「あ、そう。それじゃあ」

 

 

脱兎のごとく竹林に消えていった。追いかける気力も体力もないので構わず永遠亭に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二日酔い、ね。なら、あの薬ね」

 

「ありがとうございます…………」

 

「これは相当飲まされたようね。ウドンゲも潰れて帰って来たし、酔いの勢いで大人の階段の一つや二つ上ったのかしら?むしろ、すっ飛ばしたかしら?」

 

 

このお方は何を言っている?まだ、そんな階段上ってません。

 

 

「安心してください。悪酔いはしてないので。記憶もしっかりありますし」

 

「あら、面白くないわね。ま、薬を取ってくるから少し待ちなさいな」

 

「はい」

 

 

と言い、永琳さんは席を外した。彼女入れ替わる形で輝夜が診察室に入って来た。

 

 

「気分は?」

 

「最悪だ…………吐き気がするし、頭が痛いし、てゐの罠にも引っかかるし」

 

「あら、災難ね」

 

「そもそもあんたは…………って、輝夜か」

 

「これは重症ね。いつも、騙す前に見破ってしまうくせに今回は落とし穴にすら引っかかるなんて」

 

「だから、最悪なのだよ…………あー、吐きそう」

 

「女の子の前で吐かないでよね」

 

「分かっている…………」

 

「(本当に今日の勇人は隙だらけね。私の後ろにいるてゐにも気づかないだなんて)」

 

「(そう言ったでしょ?姫様)」

 

「(で、この試験管を投げればいいの?)」

 

「(そうです。その薬は鈴仙の部屋から出て来た媚薬です)」

 

「(鈴仙は何やってんのやら…………ま、いつも騙されない勇人には悪戯を、ね?)」

 

「(姫様も悪ですね〜).」

 

「(あんたもね)」

 

 

「勇人〜」

 

「んぁ?なんd「おーっと手が!」

 

パシッ!

 

「な!?キャッチした!?」

 

「なんだ?これは…………」

 

「おーっと、足が滑った!」

 

ドスッ!

 

「ゴフゥ!と、飛び蹴り!?」

 

 

い、いや、なんで輝夜は試験管を投げ、てゐは飛び蹴りを!?

ただでさえフラフラなのに飛び蹴りを腹に食らった俺は試験管なんかに注意を払うわけもなく…………

 

 

スルッ

 

 

手から滑り落ち、位置エネルギーによって地面へと叩きつけられる。

 

 

パリーン!!

 

 

「ゴホッゴホッ!?け、煙!?」

 

「あ、あれ?媚薬じゃないの?」

 

「わ、分からない…………」

 

「ゴホッゴホッ…………何をした?」

 

「い、いやぁ…………うっかり手が滑って、ね?」

 

「わ、わたしも足が、ね?」

 

「言ってる事とやってる事が一致してねぇぞ」

 

 

全く…………煙はいつまで出るんだ?

 

あ、ようやく引き始めた…………

 

 

「勇人、二日酔いの薬…………よ?」

 

「あ、ありがとうござ…………あれぇ?」

 

 

永琳さんってこんなに背が高かったか?こんな見上げるぐらいに…………あれ?俺よりも小さいはずの輝夜よりも小さいぞ?いや、てゐと同じ目線にあるのか?

 

 

「な、なんじゃこりゃああ!!」

 

 

ダボダボのカッターシャツに、ずり落ちたズボン。そして、目線が低くなっている。すなわち

 

 

「小さくなってんじゃねええかあああ!」

 

 

「あらまぁ…………」

 

「テヘッ♫」

 

「テヘッ♫じゃねぇよ、輝夜」

 

「悪りぃ、悪りぃ」

 

「お前ら…………」

 

 

久々にここまで腹がたったぞ。

 

 

「次から次へと…………俺には平穏な日が来ないのか!?」

 

「それで、永琳、いつになったら戻るの?」

 

「分かりませんよ。これは私が作ったものではですから。成分の分析をしてから解毒剤を作るから…………しばらくはかかるわね」

 

「っというわけでしばらくはその体ね」

 

「Oh,Jesus!!」

 

「ま、その体だから見えるものがあるかもしれないわよ」

 

「それは永琳さんのいう通りかもしれませんね…………」

 

「そうよ!私達のお陰よ?」

 

「感謝してくれてもいいのよ?」

 

「おう、2人ともくたばれや」

 

 

何が感謝してくれてもいいのよ、だ。少しは反省しやがれ。

 

 

「あー、服はどうするか…………」

 

「それなら、鈴仙の部屋から子供用の服があったわよ、ほら」

 

「え?」

 

「そういえば、この薬は?」

 

「鈴仙の部屋からよ」

 

 

 

「「「「……………………」」」」

 

 

 

「さ、さっさと着替えて家に戻りなさい」

 

「お、おう。そうするぜ…………」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「…………というわけです」

 

「これまた…………災難でしたね。ところで鈴仙はなn「それ以上は言わないでください」そ、そうですね」

 

 

はぁ…………思い出しただけで腹がたってきた。だいたい何をもってしてあの薬を投げたのやら…………

 

と玄関から戸を叩く音がする。

 

 

「はいはい、ちょっと待ってくれ…………」

 

 

ちょっとした距離も少々長く感じてしまう。この体のせいで眠くなる時間も早いし、運動能力も低いし…………

 

 

「どちら様で…………す……………………か」

 

「…………え?」

 

 

扉を開けた先には早苗がいた。



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第80話 混乱の日の少女

〜玄関にて〜

 

 

「「……………………」」

 

 

ぐっ…………視線が痛い…………てか、なんで早苗は無言で俺を見ているのだ?確かに小さくなってしまったのだが…………何か反応を示して欲しい。このままではこの空気に耐えきれない。

 

 

「……………………」

 

 

な、何か言ってくれよ!え、映姫さんのようにさ、「ゆ、勇人さんの子供!?」的な感じで。

 

もう、この空気には耐えきれないのでこちらから声をかけよう。

 

 

「お、俺は勇人の息子じゃなくて本人だぞ?」

 

「……………………」

 

 

スタスタ…………

 

 

む、無言で近づかないでくれ!こ、こえーよ!

 

俺の目の前まで近づくと顔を近づけてきて…………

 

 

ヒョイ

 

「What!?」

 

「…………」ジー

 

 

あ、あのー…………どうして俺は抱えられて見つめられているのだ?

 

 

「あ、あのな早苗、これには田沢湖よりも深いわけがあってだな…………」

 

「…………」ギュー

 

「フゴォッ!?」

 

 

いきなり俺を抱きしめ始める早苗。

お陰で視界は早苗の白い巫女服で埋め尽くされ、なんと言いますか…………こう…………ね?2つの…………ね?柔らかいので呼吸が困難なんだ。

 

 

「ギ、ギブ!ギブだから!」

 

「あ!ご、ごめんなさい…………」

 

 

軽く酸欠状態になったところで早苗は離してくれた。ちょいと残念とか思ってないから!

 

 

「ふー…………助かった。で、早苗何の用だ?」

 

「…………は!そうでした、最近勇人さんが姿を見せなくて心配で…………」

 

 

成る程、ズバリ的中だな。どっかの蓬莱ニートとウ詐欺さんらがやってくれたからな。許すまじ。

 

 

「でも、杞憂だったようですね!むしろ、こんなに可愛らしくなって…………フフ」

 

「か、可愛いだと?おいおい、冗談はやめてくれよ嬢ちゃん」

 

「いえいえ!とっても愛くるしいですよ!」

 

 

勇人は精神ダメージを999食らった!

 

 

「お、俺が愛くるしい…………だと?」

 

「はい!」

 

 

Over kill!

 

 

「ハハ…………オレッテカワイイノカ…………」

 

 

あれ?雨が降ってる?おかしいなぁ…………屋内のはずなのに…………

 

 

「あら?早苗ではありませんか。結局、家に来たのですね」

 

「映姫さん!」

 

「トニカク、アガッテクレ…………」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

〜居間〜

 

 

俺のメンタルがきっちりOver killされた後、早苗に俺がこうなってしまった過程を話した。まぁ、終始俺は早苗の膝の上に乗せられていたのだが…………

 

 

「それにしても…………5、6歳ぐらいに戻るとは思わなかった…………たまに童心に帰りたいと思うが…………ここまでは求めないぞ」

 

「いいじゃないですか、勇人さんがその姿の間は私がしっかりサポートしますから。気を落とさないでください!」

 

 

ありがとう…………早苗…………それしか言う言葉が見つからない…………でもな、気を落としたのは君が俺のメンタルを完膚なきまでに粉砕したからなのだよ。

 

 

「ふむ…………それにしても、貴方は体格が小さいですね。キチンとご飯を食べてたのですか?」

 

「小さいと言わんといてください。泣いちゃいますよ」グスッ

 

「と言いながら泣かない」

 

 

だ、だって、小さいて…………今まで気にしてた事なのに…………5、6歳の時はだな、周りのことも比べてもとても小さくて、背の順に並ぶとか屈辱以外の何者でもない。

 

 

「ゆ、勇人さん大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ」ウルッ

 

「…………ッ!!」ギュー

 

「イデデデデ!」

 

「あ!ごめんなさい!可愛くてつい」

 

「可愛いて言わないで……………………そうだ、もう永琳さんなら元に戻る薬を作ったかもしれんな。行ってみるか」

 

「え、まだこのままでもいいのに…………」

 

 

せめて、本心は心の中にしまって欲しかったな。もうチビという屈辱は受けたくないのだよ。

 

あ?大きくなっても変わらんだろ?あんたはだーっとれい!

 

 

「でも、1人で行くのは危ないのでは?」

 

 

と映姫さんが冷静な意見を言う。

 

 

「大丈夫ですよ、俺には愛用のこの銃が」

 

 

と常に携帯している銃を取り出すと早苗に取り上げられた。

 

 

「そんな、危ない物を持ってはいけません!今の勇人さんはか弱いのですから、銃を使って怪我でもしたらいけません!」

 

「そ、そんな…………」

 

「永遠亭までは私が連れて行ってあげますから、ね?」

 

「ふむ、それなら安心でしょう。用も済んだことですし私はこれで」

 

「じゃあ、私達は永遠亭へ」

 

 

俺は言われるがままにするしかできなかった。子供って無力だなぁ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………もうヤダ」

 

「だ、大丈夫ですよ!一週間だけですから!」

 

 

永琳さん曰く「あと一週間はかかるわ」だそうです。

もう、何にも言えねぇ…………不幸中の幸いと言うのなら鈴仙がいなかったことか。この根本的な原因は鈴仙が薬を作ったからだ。出くわして何をされるのかは想像もしたくない。

 

しかし、輝夜とてゐの煽りには怒ってもいいと思う。わざわざ赤ちゃん言葉で話しかけてくるあたり俺をストレスで殺しにかかってると思う。本当にあいつらは人をイラつかせるのが上手い。

元に戻った時があいつらの命日だな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

〜勇人宅〜

 

 

我が家に戻ってきた。行きも帰りも早苗が手を繋いでいたのは少々気がかりだがこの際どうでもいい。今の問題はそんな事ではない。

 

 

「あー…………どうすっかなぁ…………仕事。最近はずっと休んでばっかだしなぁ」

 

 

皆さんご存知のように人里で慧音さんが開いている寺子屋で教師として働いている。明日からには流石に行かないとなと思う反面、こんな姿で教師が務まるのか疑問である。

 

 

「教師なら知識さえあればどうにかなるのではないのでしょうか?多分、勇人さんのような人なら姿が変わっても授業を聞いてくれると思いますよ」

 

「それもそうだな…………あと、もう膝から降りてもいいかな?」

 

 

家に帰ってくるなら俺を抱き抱えて膝の上に乗せてきた。その速さといったら、「お、俺は部屋に入ったと思っていたらいつの間にか早苗の膝の上に座っていた!な、何をいってるか(ry」状態になってしまうレベルである。

 

 

「もう少しだけ…………」

 

「…………分かった」

 

 

早苗曰く「ちょうどいいサイズです!」だそうだ。冷蔵庫に牛乳あったかなぁ…………

 

 

「よし!明日からキチンと仕事に行くか!姿が変わろうともサボりは良くないからな!」

 

「あ、でも今の勇人さんは運動能力が低く、霊力もかなり少ないので妖怪格好の的ですよ」

 

「…………仕方がない、ここは封印していた自転車を…………」

 

「あの大きさだと勇人さん乗れませんよね?」

 

「……………………空を飛んで」

 

「だから、霊力は少ないと。むしろ空を飛ぶと目立ってかえって危険です」

 

「…………どうしよう」

 

「安心してください!私が護衛しますから!」

 

「そ、そうか…………しかし、早苗も忙しいだろ?」

 

「そこは諏訪子様になんとかしてもらいますから大丈夫です!さぁ!肩車で送ってあげましょう!」

 

「いいから!そこまでしなくてもいいから!」

 

「遠慮せず、さぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

「…………//」

 

「フフ…………幸せです♫」

 

 

いい歳して(見た目は幼いのでそれ相応に見える)肩車とか…………恥ずかしい…………

 

 

「どうですか?こう言うのも幼いからこそ出来るのですよ?」

 

「これ、人里の人達に見られたらめっちゃ恥ずかしいって…………」

 

「大丈夫です!はたから見れば、姉弟にしか見えませんから!いえ、母と息子ですね!」

 

「やめてくれ…………元に戻った時に問題が発生するから…………」

 

「私はいつでも構いませんよ?」

 

「俺が構うの!はぁ…………もうそろそろ降ろして」

 

「お邪魔します!勇人さん!」

 

 

ガラッ

 

 

「えっ!?さ、早苗さん…………そ、その子は…………?」

 

「よ、妖夢さん!?」

 

「ああ…………どうしてこのタイミングで…………」

 

「え?え?いつの間に早苗さんは勇人さんとの子を…………?」

 

 

と妖夢は背中にある刀に手をかけている。

 

 

「せ、折角あちらの咲夜さんにアドバイスを貰って良いところまで来たのに…………もう、子供ができてしまってはチャンスが…………幽々子様も師匠も応援してくださったのに…………わ、私はどどどどどうすれば?」

 

 

大量の冷や汗とともにガクガクと震える妖夢。様々な感情が入り混じり身動き取れずにいるのだろう。しかし、こっちからしたら手にかけた刀が脅威である。

 

 

「お、落ち着け!俺は碓氷勇人だ!こんな姿だが勇人だ!だから落ち着け!」

 

「そ、そうですよ!妖夢さん!落ち着きましょう!」

 

「あ、ああ、私は…………私はどうしたらいいの?そ、そうだ、私も勇人さんとの子供を…………!」

 

 

ヤバイヤバイ!目をグルグルに回しながらついにはぶっ飛んだことまで言い始めたぞ!

 

 

「だ〜か〜ら!俺は碓氷勇人だ!早苗の息子ではない!少しは話を聞け!」

 

「はっ!そ、そうなのですか?」

 

「そうですよ、妖夢さん。そもそも、仮に息子だとしても勇人さんは幻想郷に来てまだ1年近くぐらいしかいませんからありえませんよ」

 

「そ、そうですね、はぁーー…………」

 

 

ど、どうやら落ち着いてくれたようだ…………しっかし、この体になってからはまともな事が起こらねぇ…………やっぱり、輝夜とてゐは許さん。

 

ともかく、妖夢は事情を話してから、今後の事について考えるか。



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第81話 自尊心崩壊の日の少年

〜勇人宅ー夕方ー〜

 

 

妖夢が俺の姿を見て発狂寸前となり、刀のサビとなりかけたがどうにか説得し事なきを得た。

いや、マジで斬りかかりそうなぐらいのオーラを妖夢は出していたと思う。

 

 

「…………す、すいません。早とちりしてしまって」

 

「いや、いいんだ。悪いのはあのニートと詐欺師だからな」

 

「そうですよ。私もとても慌てましたし」

 

 

早苗の場合は無言で抱きついて来たのだがな。小さくなった俺としては軽くトラウマになりそうだ。

 

 

「しかし、なんと言うか…………勇人さんは昔からその……目が……」

 

「死んでるってか?多分、本来ならまだ無垢な目だろうが、生憎中身は変わってないからな。昔っからの目を細めて物を見ようとする癖が出てるんだろう」

 

 

7、8ぐらいの時に目が悪くなり始めて…………放置してたら癖がついてしまった。そのせいか通常時でも瞼はそんなに開いていない。今ではあんまり気にしてないが。

 

 

「それでも、小さい頃の勇人さんは可愛かったのですね」

 

「…………まぁ、皆んな小さい頃は可愛いもんだろ」

 

 

ふっ…………流石に耐性はつく。可愛いと言われようが最早俺のメンタルは傷つかん!

 

 

「でも、どうして勇人さんは早苗さんの膝の上にいるのです?」

 

「俺も分からん」

 

「いやぁ…………なんと言いますか…………丁度いいんですよ。それに頭を撫でられますしね」サスサス

 

「んっ…………急に撫でないでくれ…………」

 

 

あんまり頭を撫でられた事が無いもんだから、慣れていない。そのせいか、なんだか力が抜けて自然とダランとなってしまう。気持ちよく無いと言ったら嘘になる…………すいません、普通に気持ちいいです。

 

 

「なら、やめますね」

 

 

と撫でる手を止める早苗。それに思わず

 

 

「あっ…………」

 

「あれ?もしかして、またして欲しいんですか?」

 

しまった…………完全に失言だ。

 

 

「気持ちよかったのですね?まだしてあげてもいいですよ?」

 

 

からかうような口調で言う早苗。しかし、実際に気持ちよかったしもう一度やって欲しいと言う思いもある。まぁ、それはプライドという物によって口に出せないのだがな。

 

 

「…………別に」

 

「遠慮しなくてもいいんですよ?」

 

「…………頼む」

 

 

所詮、プライドとは貧弱なものである…………

 

 

「うーん、でも人に物を頼む時はそれ相応の対価がひつようですよね…………?」

 

「な…………!?」

 

「どうしましょうかねぇ…………」

 

 

よ、余計な事を言わなければ良かった…………お金はある程度溜まってるからどうにかなるか…………

 

 

「ここは『早苗お姉ちゃん、頭撫でて〜』と言ってください!」

 

「なななにを言わせる気だ!?」

 

 

そんな事、俺のプライドが許さんッ!言わないからな!

 

 

「でも、言わないと頭を撫でませんよ?」

 

「クッ…………!」

 

 

 

 

 

 

「さ…………さ……」

 

「…………!!」

 

「早苗お姉ちゃん、頭撫でて〜//」

 

「「…………ッ//!?」」

 

「はいッ!!姉ちゃん撫でちゃいますよォォ!!」ワシャワシャ

 

「むぅ…………//」

 

 

ヤバい、恥ずかしくて死ぬ。クッ、頭を撫でてもらうためにこの屈辱を受けようとは…………しかし、頭を撫でてもらうとこれでいいのでは無いのか?と思ってしまう。

 

 

「さ、早苗さんだけズルいです!勇人さん!私にも『妖夢お姉ちゃん』と呼んでください!」

 

「これを言う度に俺はプライドを破壊しなければならないのだぞ?」

 

「しかし、早苗さんだけでは不公平です!」

 

「何が!?」

 

「一度!一度だけでもいいですから!」

 

 

土下座せんとばかりに食らいつく妖夢。…………仕様がない。

 

 

「よ、妖夢お姉ちゃん…………?」

 

「…………ッ//!!!」

 

「これで気がすn ガバッ

 

「ぬぉ!?」

 

 

気がつけば俺は早苗の膝の上から妖夢の腕の中にいた。お前ら速すぎんよ!

 

 

「はっ!勇人さんは?」

 

「可愛いですッ!」ギュウ……

 

「むぅ…………少し苦しいぞ」

 

「すいません…………でも、もう少し…………」

 

「ちょ、ちょっと妖夢さんッ!?」

 

「いいじゃないですか!早苗さんだって昼間は満喫してたのでしょう?」

 

「あー、交代制にしたらどうだ?」

 

「なら、後30分はこのままで」

 

「な、長すぎますよッ!」

 

「早苗さんはもっと長かったじゃないですか!」

 

「ぐっ…………」

 

「どう言うわけで後30分ですね♫」

 

 

うむ、俺の意見は無しか。知ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜30分後〜

 

 

「スゥー…………スゥー…………」

 

「寝ちゃいましたね…………」

 

「そうですね、寝顔も可愛いです……」

 

「布団で寝かせましょうか」

 

「なら、私が用意するので妖夢さんはしばらく待っててください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

「朝ですよ〜、起きて下さ〜い」

 

「…………ん、まだ寝る」

 

「今日は寺子屋に行くんですよ」

 

「…………そうだった」

 

 

うーん、体が小さいとすぐに眠たくなってしまうな…………待て、なんでこの家にまだ早苗がいる?

 

 

「早苗、昨日は守谷神社に帰ったか?」

 

「いいえ、泊まらせていただきました。寝顔、可愛かったですよ〜。写真に撮りたいぐらいです」

 

「それはやめてくれ、しかし何処で寝たんだ?」

 

 

俺の家には布団は一式しかないわけだから床で寝てたのか?

 

 

「それは…………勇人さんと一緒に…………」

 

「…………何もしてないよな?」

 

「もちろんですよ!」

 

 

今回は早苗の言葉を信じよう。それよりも寺子屋に行く準備をしないとな。

 

 

「朝食はもう作ってありますよ」

 

「そうか、ありがとな」

 

 

とりあえず、顔を洗ってから朝食を取った。顔を洗う時なのだが…………台が無いと届かず少々苦労した。

朝食の時はほっぺにご飯粒を付けたりと完全に子供の様な行動を取ってしまっている。

 

ともあれ、準備が完了し寺子屋へ向かおうというわけなのだが…………

 

 

「やっぱり早苗も一緒にか?」

 

「もちろんです。勇人さんに万が一があったらいけませんから」

 

「…………銃さえあれば大丈夫なのだが」

 

「その体で銃は危険です!あ、ナイフも没収しときましたからね」

 

「…………了解」

 

 

もう、ここは俺が折れるしか無いな。確かに反動で腕が折れてしまう可能性もあるわけだし…………

 

 

「それじゃあ行きましょう!」ギュ

 

「ちょ…………なんで俺を抱える必要が?」

 

「なんでって…………空を飛ぶからですよ?」

 

「それもそうか」

 

 

てっきり歩くのかと…………それにしては遠すぎるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜少年&少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、人里に着きましたよ」

 

「あの事件の影響は…………もう無さそうだな」

 

 

と人里を見渡す。あの事件前と同じように活気溢れる里に戻った様だ。うんうん。平和が1番だよ。

 

 

「…………肩車の必要あるか?」

 

「必要です!」

 

 

即答ですかいそうですかい。周りの視線が痛いかと思ったがそうでも無い。それ相応に見えてるのだろう。

 

 

「おっ、早苗ちゃんその子は?」

 

 

と早速里人のおっちゃんに声をかけられる。すると周りの人達もこちらに注目する。

 

 

「見ない顔の子だねぇ…………もしかして、ついに先生との子供が?」

 

 

とおばさんが。

 

 

 

「ちちち違いますよッ!まだ私達はそこまで…………」

 

 

おい、墓穴を掘るな。そんな事を言ったら…………

 

 

「あら、"まだ"ってよ」

 

「そう、お熱い事ね〜」

 

「あ…………」

 

「…………早苗お姉ちゃん、早く行こ?」

 

「……!!そそそうね!」

 

「うん?なんだい、親戚か?」

 

「はい、勇人さんの親戚の子です!」

 

 

その理由はキツい気が…………

 

 

「そうかい、どうりで先生に似てるわけだ」

 

 

うむ、案外通る物なのか。

 

 

「それでは私は用事があるので…………」

 

「おう、早苗ちゃんも頑張ってな!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…………近所のおばさん程怖いものは無いな」

 

 

ああいう人程恋沙汰などに敏感で鋭いものなのだ。

 

 

「…………『早苗お姉ちゃん』って、可愛かったですよ〜。もう一度言ってくれませんか?」

 

「拒否する。あれは俺のプライドを削って言っているんだ。言い過ぎるとプライドが無くなって死んでしまう」

 

「むー…………そんなにプライドは大事ですか?」

 

「ああ、男は無駄にプライドが高いものなんだ」

 

 

そうそうべ○ータとかさ高いよな。ん?べ○ータって背が低かった気が…………

 

 

「はい、寺子屋に着きましたよ!」

 

「おお、よし降ろしてくれ」

 

「はい、よいしょっと」

 

 

やっと地面に足が着いたよ。よし、慧音さんを呼ぼう。

 

 

「慧音さん!」

 

「はいはい、誰…………だ?」

 

 

俺の姿を確認するなり固まる慧音さん。そりゃあそうなるか。いつも働いている俺が急に小さくなればな。

 

 

「…………早苗、もしかして勇人と?」

 

「あー…………違いますね。この子は勇人さん本人です」

 

「え?勇人なのか?こんなに小さいのがか?」

 

「ええ、実は永遠亭で……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………というわけなんです」

 

「成る程…………勇人も苦労してるのだな」

 

「いえ…………もうなんか…………慣れました」

 

「ハハ…………それでそんな姿でどうして寺子屋に?」

 

「最近はまともに寺子屋に来れてないので…………」

 

「別に無理しなくてもいいのだが…………」

 

 

やっぱり、この体じゃあ教師は務まらんよな…………小学生に勉強を教えてもらうなんて俺だったら嫌だもん。

 

 

「しかし、ここまで来てくれたのだからな…………」

 

 

 

「そうだ!いつもは教師として寺子屋に来ているのだからこの機会に生徒として寺子屋に参加したらどうだ?それに私の授業を君に受けてもらいたかったしな!」

 

「それはいい案ですね!」

 

 

視点が変わるとはこういう事か。確かに慧音さんの授業には興味があるし、ちょうどいい。

 

 

「そうとなれば今日の授業は気合を入れてやらないとな!」

 

「ええ、楽しみにしてます」

 

 

 

こうして、生徒として寺子屋に参加する事が決まったのであった。



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第82話 授業の日の教師

人に教えるという事はとても難しい。それは教師をやっていく中で痛感せざるおえなかった。

 

幻想郷に来る以前は寧ろ教えられる側であり、教える機会があるとするならば弟に教える事ぐらいだった。弟はまだ物覚えのいい方だったので教えるのに苦労はしなかったが、いざ幻想郷に来て、教師としてたくさんの人達に教えるという事になると上手くいかないものである。

 

基本的に算術いわゆる算数を主に教えているのだが、基本的には楽しく授業を受けてくれてるらしい。

 

だからと言って全員が完全に理解していると言うわけでもない。また、少々難しい所になれば授業中に寝てしまう子達までいる。テストをしてみれば理解していない事が浮き彫りになる。

 

そういう時は自分の授業に自信が持てなくなる。また、寝ている子を見ると少々傷つくものである。

 

それは慧音さんも同じのようで

 

 

「どうやら私の授業は難しくて面白くないらしい…………」

 

 

と嘆いていた事も何回か聞いた。

 

歴史の編纂を使命とする慧音さんは歴史はとても大切な物であり、それ故歴史を知る大切さは誰よりも知っている。

 

俺こそ数学や算数に命をかける程の熱意はあるわけでもなく、得意だからという理由で教えてるのだが、それでも生徒達がつまらなさそうに受けていると傷つく。それなら、慧音さんはより落胆してしまうのだろう。

 

当たり前だが幻想郷には教育免許状を取る必要は無い。という事は先生となる為に勉強する機関が無いのだ。この寺子屋がある以前ではそもそも教育機関が無かったのだ。この寺子屋もできてまだそれほどの年月が経っていないらしい。そんな中でやってきたのだからしょうがないと言えばしょうがない。

 

"教うるは学ぶのなかば"という言葉があるように教える事の半分は自分にとっても勉強になっているわけだ。こちらも勉強しながら、生徒と教師の双方が向上すればよい。

 

とここまで教える側の事について考えてたわけなのだが…………今回は"教えられる側"として寺子屋にいる。というわけでしっかりと慧音さんの授業を受けてどのようにしていけばいいか学ぼうじゃないか。

 

 

「で、俺はどの授業に出ればいいんですか?」

 

「ああ、この後の授業は…………しまった、後はチルノ達の所の授業しかない。そこでいいか?」

 

「ええ、問題ないです」

 

「よし、それなら教科書は貸そう。後は書くものか…………」

 

「それならいつものノートと筆記用具があるので大丈夫です」

 

「そうか、なら後5分後には始めるから準備してくるといい」

 

「はい」

 

 

慧音さんから教科書を借り、教室へと向かう。今回ばかりはこの体に感謝するか。もう、教えられる側には立てないだろうと思っていたからこの機会は貴重だ。しかし、あの2人には感謝しない。

 

 

「…………早苗もついてくるのか?」

 

「え?もちろんです!」

 

「…………そうか」

 

 

授業参観か何かか?もう俺の保護者みたいじゃないか…………

 

扉を開け、教室に入るとそこにはいつものメンバーがいた。

 

授業が近いせいかみんな着席しており、隣同士でペチャクチャ話している。

 

そして、俺の姿を確認すると一同は急に静かになり

 

 

「あれ?新しい子かな?」

 

「でも、人間だよ?」

 

「話しかけたら?」

 

 

とコソコソと話し始めた。すると、その中から代表してチルノがこちらに歩み寄り

 

 

「あんた、新しい子ね!あたいはチルノ!サイキョーだからしっかり覚えてなさい!あんたの名前は?」

 

「お、おう…………俺はゆu…………」

 

 

あれ?これって俺が碓氷勇人である事を言ってもいいのか?別にいいか。もう、慧音さんには話してあるし…………

 

とその慧音さんが教室に入ってきた。すると、チルノはすぐに自分の席に戻ってしまった。

 

アルェ?俺の授業の時は注意するまで騒いでいるのに…………てか、みんなちゃんと着席している事が俺の授業ではあまり無かったぞ。

 

 

「よし、全員いるな。よし、授業を始めると言いたい所だがまずはみんなが気になっているだろう新しい子の紹介をしよう。君、前に来なさい」

 

「は、はい」

 

 

と呼ばれたので前に出る。すると慧音さんは俺に

 

 

「今回は君が勇人である事を伏せといてくれ。彼女らが君が勇人だと分かったら授業に集中できないかもしれないからな」

 

 

と耳打ちをした。確かに授業に支障をきたすのはよくない。

 

 

「彼の名前は…………ハヤトだ。みんな仲良くしてやってくれ」

 

 

成る程、勇人(ゆうと)だから、勇人(はやと)か。

 

 

「よろしくお願いします」

 

「ハヤトって人間なの?」

 

 

といきなりフランが質問する。そうそう、今までフランドールと呼んでいたのだがお気に召さなかったようでフランと呼んでくれと頼まれた。

 

 

「そうだが?」

 

「じゃあ、たb「ダメだ」

 

 

とルーミアが出しかけた言葉を遮るように慧音さんは却下した。ルーミアは人間だったら食べてもいいと思ってるのか?

 

フランの質問を皮切りにみんな段々と騒がしくなってゆく。

 

 

「静かに。もう十分だろ?今から授業を始める」

 

 

そう一喝しただけで教室はしんと静まりかえる。俺の時とは全然違う。うーむ…………流石慧音さん。

 

 

「じゃあ、今日はこの時代について話すぞ」

 

 

こうして、慧音さんによる歴史の授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまで。きちんと復習をしとくのだぞ?」

 

『はーい』

 

 

ふぅ…………もう終わりか…………慧音さんの授業は退屈ではなく、寧ろとても興味深いものだった。

 

まぁ、授業を受けているのと同時にチルノ達の様子を見させてもらったのだが…………こちらは退屈だったらしい。チルノとルーミアは爆睡。フランも時折ウトウトし、他の子達も皆眠そうに授業を受けていた。

 

 

「んー…………××年に起こったのがこれだっけ?」

 

「違うよそれは⚪︎⚪︎年だよ」

 

「ち、チルノちゃん、今日は何を習ったか覚えてる?」

 

「え?なんだっけ?」

 

 

子供達は先程の授業の復習をしているようだが…………様子から見るに難しかったらしい。皆んなうーんと唸りながら復習をしている。

 

 

「どうだったか?やはり、私の授業は難解だったか?」

 

 

と慧音さんが聞いてくる。多分、チルノ達の会話を聞いたのだろう。教師としてあまり、理解させてやれなかったのが悔しいのだろうか。

 

 

「いえ、難しくなったですよ。寧ろ丁寧に説明していて分かりやすかったです」

 

 

元いた学校の歴史の先生よりずっと分かりやすかったと思う。年順も整理しやすくてとてもいい授業だったと思う。

 

 

「そうか、少し君の学習帳を見せてくれないか?」

 

「そんなに綺麗にまとめれてないですよ?」

 

 

と慧音さんにノートを渡す。

 

 

「いや、とても綺麗にまとめているじゃないか。それにしても…………たくさんの色を使っているが…………」

 

「まぁ、それぞれ人物とか出来事を種類分けをするために使っているんですけどね」

 

「見返しても分かりやすいな…………しかし、どうして子供達は頭を抱えてしまうのだろうか…………」

 

「うーん…………少し事細やかに説明し過ぎな気がしますね…………」

 

 

確かに慧音さんは丁寧で分かりやすいのだが…………細か過ぎる。子供達には与える情報量が多過ぎるのかな。俺ぐらいの歳なら楽しく受けれるのだが…………

 

 

「相手は子供達ですし、もう少しその辺を考慮すれば…………」

 

「成る程、ありがとう。次回から少し情報量を減らしてみよう」

 

 

はっきり言って俺よりも全然授業をするのが上手い。俺も見習うべき所が多々あった。

 

 

「へぇ…………勇人さんってとても字が綺麗なんですね…………」

 

「ん?まぁ、汚い字のノートを読み返す気はしないからな。あ、そうそう、早苗は慧音さんの授業を聞いてどうだった?」

 

「とても分かりやすかったですよ。流石慧音さんって感じでしたね」

 

「そうか…………」

 

 

うん、やっぱり俺の思った事は間違いないらしい。現に早苗は分かりやすいと言った。ただ、子供向けではなかっただけ。

 

 

「ねぇねぇ、君"ハヤト"って言うんだよね?」

 

「ん?あ、ああ。そうだよ」

 

 

急に声をかけられた。振り返るとかけた主はフランだった。

 

 

「私はフラン。よろしくね!」

 

「よ、よろしく…………」

 

 

う、うむ。なんだか新鮮だな。フランと同じ目線にあるだけでこんなに景色が違うものなのか。

 

あ、俺の方が小さい…………いやいや、そこはいいとして、俺もここは子供らしく振る舞わないと。

 

 

「ねぇ、これからチルノ達とお花畑に行くんだけど…………一緒に行く?」

 

 

お花畑…………うん、女の子らしくていいが…………俺は男だぞ?しかし、普段フラン達がどのような事をしてるか知るいい機会だし…………早苗に聞いてみるか。

 

 

「早苗…………ゲフンゲフン、早苗姉ちゃん。フランちゃん達と一緒にお花畑言ってもいい?」

 

「ひゃい!?え、ええ、もちろんいいですよ。でも、気を付けてね」

 

「はーい」

 

 

もう、俺に羞恥心なんてものは無い!

 

 

「じゃあ、決まりだね!ついてきて!」

 

フランに手を引かれ花畑へと行くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

後に慧音さんの授業は子供達にも分かりやすくなり好評となった。その事によって、より一層寺子屋の人気が上がるのだった。



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第83話 戦闘の日の花師

フラン達に花畑に行かないかと誘われて承諾したのはいいものの…………

 

 

「ゼェ……ゼェ……ま、待ってくれ……」

 

「むー…………ハヤト君おっそーい!」

 

 

この有様である。いや、だって空飛べなくなってたんだもん!

霊力は出るんですよ?でもね、その量が雀の涙程でして、俺の体を浮かせるには全くもって足らないのです。

 

つまり、空飛ぶ皆んなを走って追いかけているわけなんですが、この体での体力は高が知れているわけでして、この有様になってるんです。

 

 

「い、急がなくても、私がついてますよ?」

 

「あ、ありがとう…………」

 

 

大妖精の優しさが心に染みる…………皆んなもこのぐらい気遣いができてもいいだろうに。

 

 

「それなら…………」ガシッ

 

「ふぁっ!?」

 

 

フランが後ろから迫ってきたかと思えば肩を掴み、

 

 

「それ!」

 

「お、おお?」

 

 

そのまま宙に浮いてしまった。た、確かにフランは吸血鬼なので俺ぐらいの大きさなら持ち上げるのは造作にもない事だろう。

 

 

「んー…………君軽いね!」

 

「そ、そうか…………」

 

 

そうさ…………彼女は吸血鬼なんだ…………だから、軽いって言うんだよ。俺が軽いんじゃない…………

 

 

「そういえばさー、あんたって勇人せんせーにそっくりだよね。それにそのリストバンド勇人せんせーのとそっくり」

 

 

し、しまった…………護身用の銃やナイフ全て早苗に没収されたからせめてこの仕込みリストバンドだけでもっと思ったのだが…………

 

 

「ふぇっ?し、知らないなー勇人って人は…………」

 

「別にあんたが勇人せんせーを知ってるか知らないかは聞いてないわ」

 

「おぅ…………」

 

 

や、やけに今日のチルノは鋭いな…………周りからは頭が弱い子扱いされているが時折こうやって核心をついた事を言う。

 

 

「ん?もしかして…………」

 

 

き、気づいたか?俺が勇人だと言う事を…………

 

 

「兄弟ね!きっと、勇人せんせーの弟なんだわ!あたいったらサイキョーね!」

 

 

気づいてないようだ。鋭くても詰めが甘かったか。

 

 

「そんなわけないじゃん。勇人先生は外来人なのよ?」

 

「え?そうだっけ?」

 

「ねぇ、お花畑ってどんなのかな?」

 

「んー…………えっとね…………一面黄色のお花畑よ!」

 

「え?向日葵畑はまだ咲いてないよ…………それに…………幽香さんもいるだろうし…………」

 

 

向日葵って…………季節は夏だろ。今はまだ咲かないだろ…………

 

 

「え?でも、昨日見に行った時は咲いてたよ?」

 

「み、見に行ったの!?よ、よく無事だったね…………」

 

「フフ…………なんたってあたいはサイキョーだからね!」

 

「何がサイキョーよ、半殺しにされて私がいなかったらやばかったじゃない」

 

「そ、それでまた行くつもりなのか?」

 

 

半殺しにされといて懲りずに行くつもりなのか?

 

 

「今回こそあたいがやっつけるから大丈夫よ!」

 

「フッ、本当は勇人先生を頼ろうとしたくせに」

 

「い、いなくても大丈夫だもん!」

 

「む、無理はしないでね?」

 

 

幽香…………ああ、風見幽香か。噂で聞いた事がある。

 

なんでも、純粋な身体能力と妖力はトップクラスでその圧倒的な力を使い問答無用で滅ぼしにかかるとか人間ではまず倒す事は出来ないからどんなに腕の覚えのある者でも戦ってはいけないとか花が大好きとか…………最後のは可愛い噂だが…………総じて幻想郷でも最強クラスに分類されるようだ。

 

いや、ちょっと待て

 

 

「お、俺ってついて行って大丈夫なのか?」

 

「まぁ、フランちゃんがいるし大丈夫かな?」

 

「え?私任せ?チルノがやりなさいよ!」

 

「あたいはリベンジしないといけないの!」

 

「じゃあ…………大妖精?」

 

「えぇ!?わ、私!?」

 

 

いざとなったらこの仕込みリストバンドでどうにか…………ならんか。せいぜい糸と針を発射するだけの物だからな。緊急脱出用ぐらいにしか使えないか…………

 

そもそも、俺をそんな地獄に連れて行こうとしないで欲しかった…………

 

 

「お?向日葵畑が見えたきたわ!」

 

「お、おお…………本当に一面黄色だ…………」

 

 

とお目当の向日葵畑が見えてきた刹那、どこからともなく花の弾幕が高速で通過した。ヒュンと風切り音がする。

 

いやいや、なんで!?

 

 

「ほら、チルノ!あんたのお目当が来たわよ!私はハヤト君を下すから先に戦っておきなさい!」

 

「ま、任せなさい!」

 

 

と、漸く地に足がつきフランは大妖精に俺の護衛を頼むとチルノと共に弾幕の放たれた方へ向いた。

 

 

「はぁ…………また貴女達?懲りないわねぇ…………」

 

 

声をする方を見れば、弾幕を放った主が現れた。

 

白のカッターシャツにチェック柄のベストにロングスカートを身に纏い、首には黄色いリボンをつけ、日傘をさした緑髪の少女。

 

幻想郷の女性は美人が多いのだがこの人もとても美人だ。

が、その顔は笑顔なのだが…………目が笑ってねぇ…………笑顔が多い人は怖いと言うのは本当のようだな…………

 

 

「フフ、今回はフランちゃんもいるんだからね!絶対にあんたに負けないわ!」

 

「1人でやるんじゃなかったの…………」

 

「ふーん…………あの吸血鬼の妹…………ね。貴女の言ってた『先生』と言う人は来てないのかしら?」

 

 

『先生』と言うワードが出てきて一瞬ドキッとする。チルノ何を話しているんだ!

 

 

「今はいないわよ」

 

「あら、噂じゃあ相当な手練れだって聞いてたから楽しみにしてたのに…………残念ね」

 

 

いやぁ…………本当、この体でよかった…………今回ばかりはあの2人に感謝しといてやるか。

 

 

「先生じゃなくて、私がコワシテアゲルヨ」

 

「あらあら、怖い怖い」

 

 

口ではそう言うものの、怖がるそぶりを見せない。フランも相当強いはずなんだろうけどなー…………

 

 

「じゃあ、いくよ!」

 

 

と開幕早々、チルノとフランは弾幕を展開する。フランが物凄い量の弾幕を放てるのは知っていたが…………チルノも負けず大量の弾幕を展開する。

 

それにしても、弾幕ごっこだなんて久し振りに見るな。いやぁ…………それにしても美しいもんだねぇ…………他人事だから言えるのだけど。

 

 

「それだけ?」

 

 

と幽香が言い、全ての弾幕が幽香の弾幕により相殺され消える。

 

こりゃあ、噂通りの強さだなぁ…………元の体でも勝てる気がしないぞ。

 

 

「んー、こっちからいくわよ?」

 

 

と先程とは比べ物にならない量の弾幕が展開される。

 

 

「「!?」」

 

 

一気に2人は劣勢となり防戦一方の弾幕ごっことなる。

それに対し幽香は…………笑顔で容赦無く弾幕を放つ。

 

その笑顔()()を見れば、男なら惚れてしまいそうなぐらいだ。しかしだな、今の2人を攻める姿を見てこの笑顔を見ればサドっ気溢れる表情でしかない。

 

それにしてもフランまで劣勢を強いられるとは…………やはり、フラワーマスターの名は伊達じゃないか。名前だけ聞けば可愛いのにな。

 

 

「さっきの勢いはどこにいったかしら?逃げ回ってるだけじゃ勝てないわよ?」

 

「ぐっ…………」

 

「むぅ…………!」

 

 

しばらく経っても2人は近づく事すら叶わず、ジリ貧の戦闘となる。次第に二人の息も合わなくなり、チグハグな動きが目立つ。

 

そして、糸が切れたかのように連携がもつれ、

 

 

ドンッ!

 

 

「きゃッ!?」

 

「ちょっ!?」

 

 

二人はぶつかってしまい、動きが止まる。そして、そのまま地面に落ちる。

 

 

「これで終わりね」

 

 

傘を閉じ、先を二人に向ける。

俺は直感的にヤバイと感じとり、仕込みリストバンドから針を発射し向こう側の木に刺す。

そして、糸を巻き取る事によって高速でチルノとフランの二人に迫り

 

 

「「きゃっ!?」」

 

 

二人の体を掴み倒れこむように着地する。

 

 

ドゴォン!

 

 

その後すぐに極太のレーザーが通過し、地面に大きなクレーターを作る。

 

 

「あ、危ねぇ…………大丈夫か?」

 

「え、え?だ、大丈夫だけど…………え?」

 

「う、うーん…………」

 

「チルノは気絶したか…………大妖精!チルノを頼む!フランは牽制しながら退避しろ!俺もなんとかする!」

 

「うぇ!?わ、分かったわ!」

 

「あら?貴方…………」

 

 

俺の姿を見るなり動きを止める幽香。なんだなんだ?顔に何か付いているのか?

 

 

「これでもくらいなさい!」

 

 

弾幕が止んだのを機に一気に弾幕を放ちつつ近づくフラン。

しかし、それは幽香の傘によって簡単に薙ぎ払われる。

そして、その傘でフランの脇腹を殴る。

 

 

「なかなかやるようだけど…………まだまだ青いわね。ま、もう少し痛ぶられてちょうだいな」

 

「うぐぐ…………」

 

 

や、やばい!あのままじゃあ消し炭にされる!何か策は…………何か…………

 

 

「こっちを見ろ!」

 

 

そこらへんにあった石ころを拾い投げつける。が、幽香は首を少し動かすだけで避ける。

 

今の俺の姿は遠吠えする負け犬のように滑稽に見えるだろうな。

さりとて、俺には銃もねぇナイフもねぇ、あるのは仕込みリストバンドのみ。

 

 

「んー…………見間違いのようね…………人間の子供には興味が無いの。とっとと消えなさい」

 

「あー…………そうするさ…………フランを助けたらなッ!」

 

 

仕込みリストバンドの糸を巻き取る。すると、先ほど投げた石が戻ってきて…………

 

 

バゴッ!

 

 

「…………ッ!」

 

 

投げた石には糸を巻きつけといていたのさ。あとは微量ながらも霊力を込めてある。軽く目眩なら起こってるはずだ。

後はフランを抱えてっと。

 

 

「よし、逃げる…………ッ!?」

 

 

ドゴォン!

 

 

「また、外したわ。そこの子供…………ただの子じゃ無いわね…………」

 

「危ねぇ…………フラン、大丈夫か?」

 

「え、ええ…………」

 

「さ、逃げるぞ!」

 

 

と逃げようと思った瞬間、再び弾幕が飛んでくる。辛うじて避けるが元の体よりも反応が遅い。こりゃあ、厳しいな…………

 

 

「ねぇ、貴方って『碓氷勇人』でしょ?」

 

「は、はぁ!?」

 

「何言ってるのよ、この子が先生な訳ないじゃない!」

 

 

それが碓氷勇人なんすよ…………ここでは言わないが。

 

 

「でも、噂だと死んだ魚のような目で、切れ者って聞いてるわ。まさに貴方じゃない」

 

「HAHAHAHA!俺はまだまだガキだぜ?」

 

「それにしてはこの状況に対して怖がらないじゃない。普通の子供なら今頃泣いているのに。こんな状況に慣れてるんじゃない?」

 

「そういえば…………先生と同じようなリストバンドしているし…………糸が出てきたところも一緒…………」

 

「で、でも、子供じゃないよな?勇人って」

 

「永遠亭とかの薬でも使って小さくなったんじゃないのかしら?」

 

「ギクッ…………そ、ソンナワケナイヨー…………」

 

「そうなの?」

 

 

こ、これは…………もうダメですね★

 

 

「ああ…………永遠亭の薬でこうなったんだよ。正真正銘碓氷勇人だ」

 

「あら、本当だったの?テキトーに言ったのに」

 

「え!?これが子供の先生?」

 

「なら、お手合わせ…………「待て」何かしら?」

 

「今の俺は銃もナイフもない丸腰の状態だ。それに体も小さいから実力なんてほとんど出せない」

 

「それで?」

 

「そんな状態の俺と戦っても楽しくないだろ?だから、元に戻ったら存分に戦ってやる。だから、待ってくれないか?」

 

「そうね…………子供のを虐める趣味もないし…………いいわ、待ってあげる。その代わりに戻ったらすぐにここに来るのよ?」

 

「ああ、約束する」

 

 

こうして、フラワーマスターこと風見幽香との戦いを約束によって危機を乗り越えた。

 

やはり、この体は不便だ。先ほどはあの二人に感謝すると言ったな…………あれは嘘だ。絶対に許すまじ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

後に戻った時にはそんな事を忘れていたのだが、いち早く幽香が駆けつけて戦いになったのは別の話。



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第84話 会話の日の人形

目が覚める。軽い吐き気と頭痛がする。周りを見てみれば一面紫色の花弁によって埋め尽くされていた。

 

ぬぅ…………何があったんだ?

えーっと…………

 

 

 

〜回想〜

 

「大丈夫か?フラン、立てるか?」

 

 

倒れているフランに声をかけ、手を差し伸べた。もうこの時にはチルノ達は居なかったけな…………

 

 

「う、うん…………」

 

 

若干戸惑いながらもその手をつかむ…………そうそう、掴み上げた後フランよりも目線が低くて軽くショックを受けたな。

 

 

「ほ、本当に勇人先生なの?」

 

「ああ、さっき言った通り、薬のせいでこの有様だ」

 

「本当に小さいねぇ…………」

 

 

自分よりも小さい俺が新鮮なのか、頭を撫でるフラン。そんなに頭を撫でるのが楽しいか?

 

 

「えへへ、弟ができたみたい」

 

「ハハ、やっぱり俺って小さいか」

 

「うん!」

 

 

満面の笑みでそう言われてるとなぁ…………

 

 

「それじゃあ、帰ろう?先生」

 

「ああ、帰ろうか」

 

 

とフランは俺の手を握る。あまりにも自然な動きだったのでそのまま帰るところだった。

 

 

「…………なぁ、手を繋がないとダメか?」

 

「え?いいじゃない!」

 

「お、おう…………」

 

 

結局は繋ぐことになったんだけどな。で、そのまましばらく歩いたら…………

 

 

「なぁ、こんな所通ったけ?」

 

 

そう、一面黄色だった場所から一転、一面紫色の草原と変わっていた。

 

 

「う、うーん、迷子かも…………」

 

「マジか?そもそも、歩かずとも空を飛んだ方が速かろうに…………」

 

 

さっきの幽香との戦いのせいか物凄く眠い。小さい体はすぐ眠くなるからなぁ…………

 

 

「ちょっと疲れたかな…………何だかとても…………眠…………い…………」

 

 

バタッ

 

 

「先生?先生!……せい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで記憶は途切れている。何で倒れたんだ?

 

 

「あ、本当に目覚めた。人間の子のなのにスーさんの真ん中で目覚めるなんてタフね」

 

 

目の先にはフランと同じ金髪のウェーブのかかったショートボブの女の子が。頭には赤い蝶リボン、服は赤と黒を基調としている。

 

んー…………どうなったんだ?

 

 

「あー…………ここはどこかな?」

 

 

兎に角場所を聞くことにした。はっきり言って今どこであるのか皆目見当もつかない。

 

 

「スーさんの咲いているお花畑よ」

 

「スーさん?」

 

 

まさか、俺は釣りバカの世界にでも迷い込んだのか?釣りの仕方知らないぞ?

 

そんな、アホな事を考えてるのがバレたのか

 

 

「スーさんってのは鈴蘭の事よ」

 

「あぁ…………成る程ね」

 

 

何とも子供らしい事だな。

 

とりあえず、立って周りを確認する。今気づいたのだが彼女はとても小さいようだ。今の状態の俺よりも背が低いからな。

 

周りを見れば、一面鈴蘭…………そういえば鈴蘭には毒があったな。確かコンバロトキシンだったかな?

 

先程の発言が気になるがこの毒は摂取さえしなければ問題ないはずだ。

 

 

「ところで貴方はなんて言うの?」

 

「碓氷勇人だ。貴女は?」

 

「私はメディスン・メランコリー!貴方は何処から来たの?」

 

「ん?それは向日葵ば…………」

 

 

今思い出した、フランは!?どこに?

 

 

「ふ、フランはどこだ!?」

 

「あの娘の事?」

 

 

と指差す先にはフランが倒れていた。

 

 

「ふ、フラン!」

 

「しっ!今は寝てるのよ?」

 

「お、おう…………悪りぃ」

 

 

それなら良かった。

 

 

「で、貴方はこれからどうするの?」

 

「ああ…………」

 

 

今の場所が分からないこの状態では…………元の体なら空を飛んでどうにかなるだろうが…………防衛の手段が無い今、フランを抱えて歩くのは無謀だ。

 

 

「うーん、どうしたものか…………ところで君はどこに住んでるんだ?」

 

 

質問を質問で返す。テストなら0点の回答だな。

 

 

「ここに住んでるわ」

 

「ここに…………?」

 

 

いや、ちょっと待て。こんな所に住んでいる、それに格好が里の人達とは違うし…………それに俺の事を"人間の子"と呼んだ。と言うことは…………

 

 

「君は人間か?」

 

「人間と一緒にしないでくれる?私は妖怪よ?」

 

「はぁ…………。俺を喰う気は?」

 

「?何で貴方を食べないといけないの?」

 

「何でも無い。さっきの言葉は忘れてくれ」

 

「変なの。でも、いいわ。どうせなら私とお話しましょ?」

 

 

うーん、できればお話の前に人里に戻る方法を教えて欲しいのだが…………然りとて、今の俺では彼女に勝てない。ここは素直に言う事を聞くとしよう。

 

 

「ああ、いいぞ」

 

「やったー!スーさん以外とお話しするのは久し振りね」

 

 

と言うことはずっとここに1人なのか…………

 

 

 

 

 

 

 

「…………でね、人形の地位向上をしようとしたんだけど閻魔様に『人形が解放されたら、誰が人形を創る?貴方以外の人形が、貴方の小さな心に付いてくると思っています?そう、貴方は少し視野が狭すぎる』って言われちゃって。それだと典型的な人間と同じだって。だから、たまにここから離れて視野を広げようとしてるんだけどよく分からないわ。貴方なら分かる?」

 

 

メディスンの経歴や俺が来る前に起こった異変の事云々…………

メディスンは元々は捨てられた人形だったらしい。

それにしても閻魔様はこの娘に中々小難しい事を言うんだな…………

あ、ちなみに彼女が積める善行は『人間に対する憎しみの念を消す』らしい。

 

 

「俺もよく分からないが…………まぁ、よく知らず勝手に人を判断すべきでは無いと言う事なんだよな?」

 

「そうなの?」

 

「君の話を聞くと確かに人間を恨む気持ちも分かる、が、君が人間を判断する材料はその捨てた人間のみなんだろ?人間が全員その捨てた人間のようなわけが無い。もっと人間の事を知ってから判断すべきなんじゃ無いかなぁ、と思うけど」

 

 

「へぇ…………貴方、意外と頭いいの?」

 

「さぁな。それにしても人間を恨んでるとか言ってる割には俺を襲わないんだな?」

 

「だって、知らない人を急に攻撃するのも…………」

 

「なんだ、分かってるじゃないか」

 

「そう、なの?」

 

「ああ」

 

「そうなんだ…………エヘヘ」

 

 

こうやって喜ぶ姿は妖怪と言えども普通の子供と同じだな。

 

 

「それじゃあ、私の事は話したんだから今度は貴方の番ね」

 

「俺か?別段面白い話は無いぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、こうなってしまったと言うわけだ」

 

「へぇ…………先生だったんだ。だから、なんか難しい言葉を使うのね」

 

「ありゃ、難しかったか?」

 

「うーん…………でも面白かったわ」

 

 

なら、話した甲斐があったと言うもんだ。

すると、先程まで寝ていたフランが目を覚ました。

 

 

「ふぁあ…………先生は…………?」

 

 

目を擦りながら俺を探すフラン。ここだと言うと目はすぐに開かれ

 

 

「先生!起きたんだね!良かった〜…………」

 

「ハハ…………迷惑かけたな」

 

「本当だよ!急に倒れるからビックリしたんだから!」

 

 

と俺の左腕を掴み胸へと引き寄せる。

 

 

「帰りましょ?先生」

 

 

すると右腕も引き寄せられる。その方を向けばメディスンが引っ張っていた。

 

 

「ねぇ、もうちょっとお話しましょ?勇人"先生"?」

 

 

今の構図的には人形を取り合う子供の様なのだが…………2人とも人外である。つまり、2人がその気になれば俺の体は引き裂かれる事は必須である。

 

 

「先生は私とこれから帰らなきゃいけないの!」

 

「まだ先生と話し足りないのよ!」

 

「「ぐぬぬ!」」

 

 

や、やめてくれ!このままでは本当に引き裂かれてしまう!

 

 

 

 

 

 

「あら、小さくなってもモテモテね。勇人」

 

「え、永琳さん!」

 

 

な、なんと言う事でしょう。火に油を注ぐ事には定評のある永琳さんじゃないですか!

 

 

「あ、永琳。また、毒を?」

 

「ええ、そうよ。まぁ、彼の為に必要なのよ」

 

「そうなの?ならいいわよ」

 

 

解毒剤かな?ならありがたいな。永琳さんのお陰か2人の拘束も解けているし。

 

 

「もう貴方がここにいるならここで完成させちゃいましょうかね」

 

「じゃあ、元に戻れるのですか?」

 

「ええ、それよりも貴方がこの場所に平気でいられる事に疑問があるけど…………これも私の実験の成果かしら?」

 

「良かった…………これで元の体に……………………は?」

 

 

今、実験の成果とか言わなかったか?

 

 

「はい、この毒でいいのかしら?」

 

「ええ、これで完成するわ。ちょっと待ってなさい」

 

「それじゃあ、もう少しお話できるね!」

 

「うぅ…………」

 

 

なんとまぁ正反対の反応をするなこの2人は。

 

 

「それにしても永琳さんと知り合いとはな」

 

「永琳には毒をあげてるの」

 

「ふーん…………ふぁっ!?毒をあげる?!?」

 

「うん、私はね『毒を操る程度の能力』を持ってるの。後ねここはスーさんの毒が蔓延してて普通の人間なら死んじゃうはずだけど、勇人先生なら大丈夫ね」

 

 

いやいや、勇人先生は大丈夫じゃないです。毒!?じゃあ倒れた原因は明々白々じゃねぇか!毒にやられてんじゃん!

 

 

「そうよ、彼は私のじっk…………自信作の薬によって色んな耐性がついているから」

 

 

言い直しても滲み出るマッドな医者臭は消せてない。人の体に何してくれとんじゃ。

 

 

「それなら、鈴仙の薬の耐性がついてたら良かったんですけどね」

 

「そうなんだけど、ウドンゲ意外と成長してるのよ。よし、できたわ。ほら、これを飲んだら元の体に元どおりよ」

 

「やっと戻れるのだな…………」

 

 

永琳さんから試験管を受け取り一気に飲み干す。

 

 

「うぇ…………マズッ…………」

 

「"良薬は口に苦し"よ。文句なんか言わないの」

 

 

と体から煙が…………出て…………

 

 

PON!

 

 

「よし、これで戻った…………はず…………だが?」

 

「あれ?先生小さいままだよ?」

 

「あら、効かなかった?」

 

 

え?え?ええ!?元に戻ってない!?ありゃりゃ、ナンデ!?

 

 

「…………鈴仙の薬は相当強力だったのね。いつの間にここまで上達して…………師匠としては鼻が高いわね」

 

「そんな事で弟子に感心しないでください…………」

 

 

ああ、折角元に戻れると思ったのに…………

 

 

「私の毒役に立たなかった?」

 

「そんな事は無いわ。今回の事でさっきの毒じゃダメだって分かったんですもの。大きな進歩よ。また、別の毒を頂戴ね?」

 

「はい!」

 

「そうなればいつまでもここにいられないな…………妖怪に襲われたりでもしたら…………どうすることもできん」

 

「なら、早く帰りましょ?」

 

「おう」

 

 

帰ろうとしたが振り返るとメディスンが寂しそうに俺の事を見つめていた。

俺はメディスンの元に駆け寄り、頭を撫でた。

 

 

「体が元に戻ったら、ここにまた訪れてもいいか?」

 

「え?う、うん!また、お話しよう!」

 

「ああ、次会う時は元の体に驚くなよ?」

 

「うん!楽しみにしてるね!」

 

 

こうして、鈴蘭の咲き誇る丘を後にした。

 

 

 

 

帰ったら帰ったで、早苗が泣きながら抱きついて来て

 

 

「何時まで遊んでたんですか!心配したんですよ!?」

 

 

と言われた。完全に子供扱いである。ご飯も用意され、さらにはお風呂まで一緒に入ろうとして来たが流石にこれは拒否した。

 

 

「もう、これでいつ子供ができても大丈夫ですね…………」

 

 

とか言ってた気がするが多分空耳だろう。



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第85話 過労の日の少年

 

なんという事だ…………俺は軽く絶望した。

 

釈明する事は出来ない失態である。

 

そもそも、俺が悪いのではなく環境が悪いんだ。環境が。だいたい俺のような真面目な子が初っ端からやらかすような事に追い込められたんだから、その環境の酷さがわかる。あ?お前が真面目じゃないだろ?細かい事はいいんだよ。

 

まぁ、真面目だろうがじゃないだろうが緊急事態である。

 

その緊急事態に気づいたのは、つい先刻の事だ。

 

 

 

 

今夜は宿題の丸つけと作成の日である。

 

机の上にはチルノ達などの人外用の宿題や里人用の宿題が山をなし、半分も終わっていない。宿題の問題は粗方考えたが人数分の作成を終えていない。

 

時刻はすでに夜11時。いや、朝までまだ10時間もあるじゃないか。俺は漸く半分終えたところで横になり溜息をついて天井を眺めた。

 

すると、意識は徐々に薄くなり…………

 

 

 

 

「…………はっ!」

 

 

いかんいかん、寝てる場合じゃなかった!

 

時計に目をやり、時間を確認した瞬間戦慄した。

 

しまった!

 

時計は無慈悲にも5時を示していた。

 

慌ててさらに2度確認するが時間が戻るわけもなく、刻々と時は過ぎていく。今日の授業は8時からなので単純計算で残り3時間。

 

 

「マジかよ…………寝過ごしちまった…………」

 

 

まさに血を吐くような思いで言葉が漏れる。

 

 

昨日の朝からずっとやってたんだ。この小さい体でも鞭打って、早苗にも時々手伝ってもらいながら。しかし、2日サボったツケを1日で取り返すのは大変である。時間感覚が狂い、食事したかどうかまであやふやになるような状態で必死に丸つけや作成をしているうちに夜の11時…………。挙げ句の果てには寝過ごし朝の5時。

 

時計を一瞥した後、ギリギリまで粘ろう、いや生徒達に謝って明日にしようかと迷いながら右往左往していると朝日が窓から漏れる。

 

なんと気持ちのいい朝…………なんて思うわけもなく、眼前の宿題の山を睨みつけて、零した。

 

 

「しょうがねぇ…………」

 

 

絶望した時にはいっそ笑みが漏れると言うがまさにその通りの状態となり

 

 

「やってやろうじゃねぇカァァ!」

 

 

言うまでもない事だが、間に合う事はなかった。

 

 

 

 

補足をしよう。

 

俺は体が小さくなってから既に一週間過ぎている。そう、一週間過ぎている。大事な事なので二回言った。

 

本来なら俺の体は既に元に戻っているはずである。実際に一週間経ったら永遠亭に行き永琳さんから薬を貰ったのだ。しかし、その薬は効かなかった。

 

 

「あら、本当に強力ね、この薬…………これはその薬を解析しないと解毒剤は作れないわ」

 

 

その声を聞いた途端俺は気絶したと言う。その間にも鈴仙に会う事が無かったのが幸いか…………

 

まぁ、永琳さんの言葉を要約すれば鈴仙からどのように薬を作ったのか聞けという話である。

 

体は元に戻らない。しかし、仕事は待ってくれないのである。戻らないのならその状態で仕事をするしかないと思った矢先軽く熱が出て2日ほど寝たきりだったのだ。

 

早苗が看病してくれたので良かったものの…………ご覧のように仕事が溜まったわけである。

 

さて、再び宿題の丸つけに取りかかれば、いつもながら回答は色々である。答えは1つしか無いのに。

 

単純な計算ミスや、公式をしっかり覚えていない、そもそも解く気がない、あたいったらサイキョーね!…………などなど。

 

 

いくら大きな里だと言えども現代の日本などに比べれば過疎に近い地域のはずなのに、どこにこれだけの子供がいるのか疑いたくなる。妖怪も混じってはいるが…………それでもどこから出てくるのだ?と変な妄想をしてしまう始末である。

 

それくらいに丸つけの量が多いのだ。

 

その多い生徒を俺と慧音さんの2人だけで対処している。

 

無茶だと思うだろ?

 

無茶なんだよ。

 

その無茶をどうにかして切り回しているのが今の寺子屋の現状である。

 

別に寺子屋が人気になっている事を恨んではいない。寧ろ、喜ばしい事である。俺が先生として入ってきたばかりの時よりも生徒は増え素直に誇らしい。

 

しかし、今の体では厳しのだ。それでもやらなくてもならない。

 

まぁ、それが世の中だと言われればそうなのだろう。

 

そう考えながら丸つけをする。

 

 

マルマルマルマルマルマルマル…………いや、ここはバツ。マルマルマルマルマルマル…………

 

マルマルマルマルマルマル……………………

 

 

「勇人さん、何をブツブツ言ってるのですか。もう時間ですよ」

 

 

不意に台所から早苗の声がした。いつの間に…………ってもう7時か。それにしても自然に俺の家に入る辺りもう当たり前のようになっている。実際に朝ごはんを作ってくれるし、寺子屋に連れて行ってくれてありがたい話だが…………

 

 

「ああ、いつもありがとな」

 

 

と言い、リビングに行けば朝ごはんが準備されていた。

 

 

「お仕事も大切ですけど体も大切にしてくださいね。体が小さい上に病み上がりなんですから」

 

「んー…………しかしだな、やらないと生徒達が困るし何よりも中途半端にしたく無いからな…………」

 

 

こればかりは自分の性分が許さないのだ。何事もやり切る。たとえ不恰好でもやり切りたいのが自分の性分なのだ。

 

 

「そういうところは勇人さんの美点ですが…………体が壊れてしまっては本末転倒ですよ?」

 

「ハハ…………そうだな、気をつけるよ」

 

「そうしてくださいね。あ、ほっぺにご飯粒が」

 

 

と俺の頰からご飯粒をとり食べる早苗。はたから見れば親と子もしくは年の離れた姉弟か。

 

朝ごはんを食べ終え、支度し早苗と共に寺子屋へ向かう。

 

丸つけを終える事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

疲れた…………

 

職員室の机の上で突っ伏して時計を見れば3時過ぎ。あと一コマの授業がひかえている。

 

今日は生徒への謝罪から始まる授業だった。しかし、見た目というのは大事なものである。この状態になって授業をするとそれを痛感せざるおえない。

 

この姿だと中々生徒は言う事を聞かないのだ。それ故に労力の量は増え、比例するかのように疲労も溜まる。

 

労力(=x)と疲労(=y)の関係を式にするならy=xか?いや、今回は通常の二倍ぐらい疲れがたまっているからy=2xか。いや、そもそも今日は朝から疲労が溜まっていたから、朝の分(=b)を考慮すると…………y=2x+bか。あ、労力がマイナスになる事は無いからxの範囲は x>0か。だと…………y=2x+b(x>0)だな。

 

 

「さっきから君は何をブツブツと呟いているんだ?」

 

 

ふいに声がかけられる。首だけ動かして見ると慧音さんがいた。

 

 

「自分の疲労の公式を立てたところです…………俺の疲労はy=2x+b(x>0)で溜まっていくんですよ…………」

 

「そ、そうか…………すまないな。いつも無理をさせて…………」

 

「いえ、元凶は蓬莱ニートですので」

 

「無遠慮に人を貶す辺り相当疲れているようだな」

 

 

と慧音さんのは俺の机の上に湯呑みを置く。

 

ありがたくそれを頂戴し、一口飲む。

 

緑茶の香りが疲労した脳をリラックスさせる。早苗や妖夢はお茶を淹れるのが上手だが、慧音さんもとても上手い。自分ではどうにも美味しくならない。

 

 

「まぁ、君の授業はとても楽しいと評判だからな。それに何か新しい授業を始めたそうじゃないか」

 

「ええ、理科という授業を…………」

 

 

とりあえず、電気についてから始めた。外の世界から流れ着いたガラクタから手回し発電機と銅線、豆電球を引っ張り出し実際に実験して見せた。

 

ここは電気を使う文化は無いのでみんな興味津々にみていた。

 

 

「今日も後1つだ。頑張ってくれ」

 

「…………はい」

 

残りの緑茶を一息に飲み干して、俺は授業へと向かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

教材を両手で抱え教室へと向かう。

 

 

「こんにちは勇人先生」

 

 

と礼儀正しく大妖精が。

 

 

「今日は何をするのだー?」

 

 

と両手を広げているルーミア。何故あのポーズをとるのかは謎である。

 

 

「まだ小さいままなんですね…………」

 

 

と憐れみの目で見るミスティア。

 

 

「私達じゃどうしようもないしね…………」

 

 

と残念そうに語るリグル。彼女はどうにか解決案を考えてくれてたようだ。ありがたい話である。

 

 

「紫しゃまもお気の毒ねと言ってましたよ」

 

 

とやや舌足らずの橙。多分、紫さんに関しては気の毒という思いよりも面白がっていると言った方が正しいだろう。

 

 

「別にこのままでいいんじゃない?面白そうだし」

 

 

とみんなが気遣ってくれる中空気の読めない発言をするチルノ。

 

 

「ダメッ!絶ッッ対にダメ!戻ってもらわないと!」

 

 

と全力でチルノの発言を否定してくれるフラン。

 

 

「えー、可愛いからこのままでもいいと思うよ」

 

 

と無意識に俺のプライドを破壊するこいし。

 

…………と彼女らの教師を勤めているわけだ。

 

とは言っても彼女らは皆俺よりも圧倒的に年上だから驚きだ。そもそも彼女らは人間じゃないが。

 

このような癖の強い彼女らに授業を始めるのだった。ここだけ疲労の公式をy=3x+b(x>0)にしておくか。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が空に映える。

 

景色が示すようにもう夕方だ。先程の2つの疲労の公式通りに俺の疲労は相当な量と化した。

 

今は妖怪の山の八合目辺り。視界には赤い夕日と緑の森が広がっている。

 

そう、今は守谷神社にいる。

 

 

八坂神奈子様と洩矢諏訪子様を祭神とする神社で早苗が風祝をしている。山にある神社ではあるが境内は広く本殿も大きい。俺もかつてお世話になった。

 

何故そこにいるのかと言うと家と寺子屋の移動は早苗が俺を抱えて行うため早苗の存在が今は必要不可欠であるが、その途中で早苗に少々用事があると言うことでここに寄った次第である。

 

 

「久しぶりだね、見ない間にすっかり変わっちまって」

 

 

と振り返ればその祭神である諏訪子様がいた。

 

 

「お久しぶりです。が、この体は薬によって…………」

 

「はいはい、分かってるさ。早苗から聞いたよ」

 

「さいですか」

 

「しっかし、小さくなっても相変わらず忙しいみたいだね」

 

「ええ、お陰で寺子屋は大人気。ほぼ毎日授業ですよ」

 

「ま、それが君らしいといえば君らしいね」

 

「諏訪子様も相変わらずのようですが」

 

「まぁまぁだね。人間とは違って人生が長いからねぇ。気楽にやってるよ。と言うわけで早苗とは結婚しないのか?」

 

「まだ、そんな歳じゃないですよ」

 

「ありゃ?えらく冷静に返すねぇ。だとしても今の早苗はもう通い妻状態じゃないか。いっそ事実婚にするか?」

 

「ふぁ…………そんな事を簡単に言わないで…………くださいよ」

 

「君も罪な男だねぇ…………ま、兎に角頑張りたまえ」

 

「ふぁい…………」

 

 

諏訪子様の言葉も徐々に頭に入らなくなっていくほど眠くなってきた。早苗まだかなぁ…………

 

 

 

 

「お待たせしました!勇人さ……ん?」

 

「おお、早苗。やっと戻ってきたか。彼なら寝ちゃったよ」

 

「すみません…………おんぶしてもらって…………」

 

「いや、いいさ。こういうのも新鮮だしね」

 

「幸せそうに寝てますねぇ…………」

 

「そうだね。早苗に子供ができればこんな事も出来るんだろうな」

 

「……ッ//!?こ、子供!?ゆ、勇人さんとの子供!?」

 

「やっぱり勇人一択なんだね…………」

 

 

 

 

 

「ありがとな…………早苗…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回 元凶現る

 



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第86話 解決の日の月兎

忙しい日々の中で急に休日が来ると何をすればいいのか分からない、何もしなくてもいいのか、と所謂ワーカホリック日本語で言えば仕事中毒という言葉がある。その名の通り仕事に熱中し過ぎるあまりに自分の生活に顧みらない状態である。

 

日本の社会問題の1つだとかよく言われるものであるが…………どうやら俺も軽くその状態らしい。

 

確かにここ最近の寺子屋での仕事は忙しい。前は寝ない日もざらにあったが流石に今の体でオールナイトは厳しい。しかし、それでも俺の疲労は解消されず蓄積しているようで慧音さんからは

 

 

「大丈夫か?顔色がだいぶ悪いぞ?」

 

 

と言われ即休日を言い渡されたばかりである。

 

そういう事なので休日だから何をしようかと考えたのだが…………どうにも思いつかないのだ。睡眠なら昨日早寝し、遅起きしたので十分にとった。問題はこれからの過ごし方であるが…………読書、ランニング…………

 

持参した本は全て読んでしまっており、既に何回か読み直している。紅魔館の図書館に借りに行くという手があるが今の状態では紅魔館にまで行けやしない。よって、読書は却下。

 

ランニングは…………これは論外だな。この体で妖怪の山を走る事なんて自殺行為同然だ。よって、これも却下。

 

なら、部屋の掃除は…………早苗がしてくれてるのでこちらがする余地もない。

 

無論、休日は今日のみである。しかし、余裕のある日がいつ次が来るかは分からない。

 

こういう日を慌てて過ごすなどは愚の骨頂である。自分の部屋で、コーヒーを味わう時間があってもいいだろう。…………今はココアだが。味覚も子供になってるらしい。

 

早苗は何やら博麗の方で用事があるらしいので来ていない。妖夢は妖忌さんとの修行で来れない。つまりは1人だ。

 

ひと気のない部屋で椅子に腰を下ろし、のんびりと一息ついたところで、いきなり玄関から戸を叩く音が響いた。ため息交じりに立ち上がり、カップを置き玄関へと向かう。

 

だいたいこの時間に誰だ?可能性としては文の可能性が高い。

 

玄関に着き、戸に手をかけ開ける。

 

「すまんが、新聞は必要無いぞ」

 

「おはようございます、勇人さん」

 

 

バタン

 

 

俺は相当疲れているらしい。俺の家を知らないはずの鈴仙が見えたんだからな。やはり、休暇は大事なようだ。

 

だと、あの幻覚は誰だ?確認の為にもう一度戸を開ける。

 

 

「おはようございます、勇人さん」

 

「お、おはよう、鈴仙」

 

 

バタン

 

 

熟睡しているところを叩き起こされた衝撃である。リアルで鈴仙だった…………

 

しかし、いくら衝撃を受けようが幻想郷の洗礼を受けた俺が慌てる事は無い。このくらいの事で動揺はせん。

 

だからと言って、これっぽっちもこの状況を変える事は無いが。

 

俺は向きを180度変え、飲み残したココアを取りに行こうとした。

 

 

「おはようございます、勇人さん」

 

「ああ、おはよう、鈴仙」

 

「朝ごはんは食べましたか?」

 

「一応、ココアをだな…………」

 

「それだと体に悪いです!私が作りましょう!」

 

「そうか、ありがと…………な……………………鈴仙!?」

 

 

え?え?確かに外にいて戸は閉めたはず…………どうやって中に入った!?

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

体の幼児退行。

 

現実ではとても考えにくい事だ。しかし、ここは幻想郷。不可能では無い。そう、気が付けば鈴仙が部屋に入るのも幻想郷ならあり得る話だ。

 

鈴仙は台所で朝食を作ってくれている。

 

しかし、それが少々問題だ。彼女の事だから何やらかの薬が入っている可能性が無いとは言い切れない。されとて、確認する手立てがあるわけでも無い。

 

そんな事を考えればブレザー姿が目に入る。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとう…………」

 

 

机の上にはご飯と味噌汁と焼き魚。見た目からして問題もない。食材も全て俺の家にあったものだ。だが、見た目で薬が入っているかどうかは分からない。

 

とりあえず、1番薬が入っている可能性のある味噌汁から俺は手をつけた。

 

 

「…………美味しい」

 

「フフ、そうですか?」

 

 

どうにも俺の周りの女性陣は家事が上手だ。俺とて最低限の事は出来るがここまで美味しくは出来ない。

 

味からして薬の入っている感じはしない。俺とて体は色々な耐性がついている(永琳さん談)らしいので少量なら効かないだろう。

 

だから、鈴仙の作った朝食をありがたくいただこう…………と思うのだが…………

 

目の前には両手で頬杖をし、こちらをじっと見る紅い眼。その目はどこか恍惚の感情が含まれている。

 

 

「…………なぁ、俺の顔に何か付いているか?」

 

「いえ、付いてませんよ」

 

「そ、そうか…………」

 

 

何というか…………じっと見られると落ち着かない。それに鈴仙には聞かないといけない事がある。

 

言うまでもないが幼児退行化させる薬の件についてだ。いい加減に元の体に戻らないと迷惑がかかってしまう(現在もだが)。

 

 

「れ、鈴仙、とりあえず朝食ありがとな。感謝するよ」

 

「礼には及びませんよ。好きでやってますから…………それに毎日作って欲しいなら私は全然構いませんよ…………//」

 

「お、おう…………考えておくよ…………ところで、話が変わるのだが…………」

 

「何です?」

 

「そ、その…………だな、この体にさせたあの薬の事なのだが…………」

 

「あ!そうでした!解毒剤ですね?」

 

「え?」

 

「勇人さんが小さくなってしまったというお話を聞いて解毒剤を必死に作ってました!」

 

「おお!そうか!なら早速…………」

 

「でも、この解毒剤作るの大変だったんですよね…………」

 

「ん?」

 

「最近はまともに寝られない日も多かったです…………」

 

「そ、そうか…………それは大変だったな…………」

 

「なのに師匠は相変わらず人使いが荒いです…………」

 

「…………」

 

「そんな中でこの薬を完成させたんですよ…………」

 

「…………何をして欲しいんだ?」

 

「今日1日私に甘えてください!」

 

「は?」

 

 

何ともマヌケな声が出たと思う。しかし、この兎さんは何を申すのか?

 

 

「ですから、私に甘えてください!」

 

「しかし…………」

 

「聞きました。早苗がずっと勇人さんの世話をしていた事を…………肩車とか抱っことか挙げ句の果てには膝の上に座らせたりとか…………羨ましい!」

 

「だがな…………」

 

「そして、今日は勇人さん1日暇なのでしょう?いいじゃないですか!」

 

 

しかし、人に甘えるというのは…………気が引けるというか、何というか…………慣れてない?

 

 

「たまには人に甘える事を覚えた方がいいですよ?」

 

「だか…………」

 

「大丈夫です!いつも頑張ってるのですから甘えたってバチは当たりません。さぁ、永遠亭へ行きましょう!」

 

「そうだな、言葉に甘え…………永遠亭?」

 

 

気づいた時には既に鈴仙に抱きかかえられていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに…………ついに、無傷の状態で永遠亭に来た…………

 

永遠亭に来て早々そんな事を考えてしまう。しかし、過去永遠亭に訪れてまともな状態で来た事が無いのだ。

 

様々な怪我を負いこの永遠亭に来、永琳さんに採血または訳のわからない薬を投与されたりと散々だ。

 

とつまらない事を考えていたら永琳亭の中に入っていた。無論、まだ鈴仙の肩の上だが。

 

 

「あら、また怪我でもしたのかしら?」

 

「いえ、今回は…………今回こそは怪我以外のみの用件です」

 

 

永琳さんの第一声がアレなのだからいかに俺が怪我してたのかが分かる。もう少し自分の体を労わるようにしよう。

 

 

「あれ?鈴仙から解毒剤を貰ってないのかしら?」

 

「その為にここに来たんです」

 

「ふーん…………ああ、成る程。結婚するのね?」

 

 

いきなりぶっ飛んだ事をこの医者は言いやがった。

 

どの過程を踏んだらそうなるのだ。

 

 

「そういう事では無いです」

 

「あら、てっきりウドンゲに解毒剤を渡して欲しいのなら条件として結婚を提示されたかと…………」

 

「だいたい当たってます」

 

「ま、そんな事はいいわ」

 

 

そんな事という言葉で片付けられたよ、チクショー。

 

とりあえず、俺は鈴仙に降ろしてもらった。

 

 

「あ、勇人じゃん、元気か?」

 

「この体を見てそう思えるのか君は?」

 

 

何処からともなく全ての原因の輝夜が現れた。もう、こいつのせいでどれだけ苦労してる事か…………!

 

 

「フッ、元に戻った時は覚えとけよ!」

 

「はいはい、怖い怖い」

 

「そう言いながら頭を撫でるんじゃねぇ!」

 

「いいじゃんいいじゃん、減るもんないし」

 

「本当に覚えとけよ…………ッ!」

 

「で、鈴仙は勇人を連れて来てどうするつもりなの?まさか、食べる気?」

 

 

食べるの意味は深くは聞かない。ていうか聞きたくない。

 

 

「そ、そんな訳無いじゃないですか!…………確かに食べちゃいたいくらいには可愛いですけど…………す、少し勇人さんに構ってもらうだけです!」

 

「…………そ、そう。それじゃあ勇人頑張ってね〜」

 

 

頑張ってねって何をだよ。

 

 

「と、とりあえず私の部屋に行きましょう!」

 

「え、ちょっ…………」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあ…………可愛いですね〜」

 

 

今、ただ鈴仙の膝の上に乗せられひたすら頭を撫でられている。気持ちよくなんかないから…………別に気持ちよくなんか…………

 

 

「こんな見た目なんですから本当の昔の勇人さんは性格も可愛かったんでしょうね」

 

「まさか、ただのクソガキだったと思うぞ」

 

「ええ、そんな訳無いですよ」

 

 

小学校の時から可愛げが無いとか何を考えてるのか分からないとか色々と言われた事があるが可愛いとか言われた事がない。

 

小学校以前は…………んー…………何かあったけ?

 

怪訝な顔をする俺に

 

 

「どうしたんですか?」

 

「いやー、昔の事を思い出そうとしたんだけど…………中々思い出せなくて」

 

「そう時もありますよ。でも、そんな顔したら可愛い顔が台無しですよ!」

 

「うん、その言葉は男に送る言葉じゃない」

 

 

可愛い可愛いとか言ってたら、もう泣くぞ!?

 

 

「ふぁ〜、もう眠い…………」

 

「眠いんですか?なら、私の膝を枕に」

 

「それは…………悪…………いよ」

 

「今日は私に甘えると言う約束ですから、存分に甘えちゃってください」

 

「…………そうする」

 

 

あっという間に意識は深い闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜後日談〜

 

鈴仙はちゃんと約束を果たし、解毒剤を渡してくれて元に戻った。その時に何人か残念がったとか無かったとか。

後、寺子屋は週に2日は休みが取れるように調整したらと提言した結果、週2日の休みを手にする事ができた。



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第9章 教師、出張也
第87話 災害の日の青年


妖怪の山の遥か上空に、古くから『天界』と呼ばれる世界がある。

 

そこは修行を積み欲を捨てた天人という者たちが住む所らしい。危険もなくただ歌って、踊って、遊んだけの世界。理想的な世界のようにも見える。しかし、俺は理想を目指しその過程で様々な苦労などを経験してこそ生き甲斐を感じるのであって大袈裟に言えば理想は叶わなくても良いのである。そのような世界に住みたいとは思わない。無論、叶う方がいいと思うが。

 

まぁ、そんな世界に住む人たちはきっと俺には想像すらできないような苦労をしてきた人たちなのだろう。

 

天界の事を考え、空を見上げてもその世界は見えず、ただ曇り空が広がるのみ。雨が降りそうだな…………洗濯物を取り込まないとな。

 

たまにこうやって空を見上げて色々考える時、ふと思い出す名文がある。

 

 

"運命は神が考えるものだ。人間は人間らしく働けばそれで結構だ"

 

 

そう記したのは皆ぞ知る、文豪、夏目漱石である。

 

この言葉を教えてくれたのは熱心な文学青年であった。彼は典型的な文学オタクだったが特に夏目漱石を心酔し、周りからは少々変人扱いを受けていた。

 

もっとも、俺こと碓氷勇人も人の事を言えず、人を寄せ付けないオーラから変人扱いを受けていた。しかし、中身は立派な現代人であるし、『孤高の存在』とか言って強がってみても人と付き合うのが苦手ーー所謂コミュ障気味の青年に過ぎない。まぁ、そのコミュ障は解消されたと思っているが。

 

当たり前だが、夏目漱石とはなんの縁もなく、日々教師として仕事に勤しむ1人の青年である。

 

ふと、後ろに着地をした音がする。

 

 

「おはようございます、先生。例の件の答えを聞きに来ました」

 

「はぁ…………空はこんなにも青いのに」

 

「いえ、今日は曇りです。午後からは雨が降ります」

 

「…………洗濯物を取り込んで正解、か。天気予報どうも」

 

「どういたしまして。では、答えを…………」

 

「それは最初言った時と変わりません」

 

「そうですか………流れ的にいけると思ったのですが…………」

 

「どういう流れなのかは聞かないのでお引き取りを…………」

 

「残念です。貴方は義理堅いお方で受けた恩を仇で返さないような人と思ってたのですが」

 

「うっ…………」

 

 

普段ならとっくに寺子屋に行き授業をしているはずの俺が今こうして空を見てくだらない事を考える事が出来るぐらいに暇を手に入れたのは後ろにいるであろう女性に出会ったせい、だと俺は思っている。

 

 

「確かにその事に関しては感謝しているが…………」

 

「感謝しているのなら行動で示して欲しいものです」

 

 

言い返す言葉が浮かばないのでとりあえず振り向きその女性と対する。

 

全体的な特徴としてはその圧倒的なフリル。中でも彼女の特徴となるのはその帽子と羽衣。それはどっかの深海魚を彷彿とさせる。

 

また、非常に背が高く日本男児である俺と変わらない、もしくは少々彼女の方が高い。

 

そんでもって鈴仙曰く『何かパッツンパッツン』と言うようにスタイルもよろしと。

 

そんな彼女は竜神からの重要な言葉を人間に伝える役目を持つ。そう、彼女の名は…………名は……………………

 

 

「永江衣玖です。まだ、私の名前を覚えてくださってないのですね」

 

「そんなわけないさ、パッと出なかっただけ」

 

「では今ので覚えましたね。それでは貴方は恩を仇で返すような悪童なんでしょうか?」

 

「だから…………別の方法なら考えるのだが、それだけは許可できん」

 

「たかが"総領娘様の教師役"をしてもらうだけですよ」

 

 

俺は彼女の事が苦手なのかもしれない。

 

 

事の発端はあの日からだった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

俺が週2の休日を提案し取り入れられての初の休暇を迎えた。生徒達には課題を出さず丸2日休める状態であった。

 

慧音さんもやりたい事があるらしく、この制度は早速役に立ったというわけだ。現代世界では当たり前のことなのだが。

 

無論、俺の休日の過ごし方は決まっている。足りない睡眠時間を補充するのだ。早起きしなくて良いという至福の2日間を満喫するとしよう。

 

しかし、そのような日に限って朝早くに来訪者が来るのである。玄関から戸を叩く恨めしい音が響く。

 

戸を叩く場合は早苗と妖夢の線は無い。2人とも勝手にというかなぜかうちの鍵を持っているのだ。つまり、戸を叩かず勝手に家に入って来る。別に盗みをするとは思っていないので咎めやしないが。

 

後の可能性としたら鈴仙、もしくは射命丸文である。前者はあまり無いので無いと考え、後者は…………かなり頻繁にある。

 

新聞をとらないかとか、取材とか…………俺には新聞を読む習慣が無ければ、誇張に表現される新聞に載ろうとも思わない。だから、いつもお引き取りを願っている(というか無視している)。

 

しかし、その日は非常に疲れていたのでボケていたのだろう。わざわざ起き上がり、全くもって機能しない思考回路を引っさげて玄関に向かったのだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久し振りの下界。

 

少し時が経ったからと言っても下界が大きく変わっていません。それは天界にも言えますが。

 

私は、相変わらず竜宮の使いとして人々に龍神様からの言葉を伝えつつ、総領娘様のお目付役も勝手ながらにやらせてもらっています。

 

しかし、総領娘様のわがままには最近目に余るものがあります。私では手に負えないくらいにわがままの度は高まっています。その尻拭いをしているのは誰が総領娘様には考えて欲しいものです。

 

誰か総領娘様の教育者となるような人がいませんでしょうか…………

 

 

 

 

「…………という訳で地震が起きます」

 

「あやや、これまた急にですね。いつでしょうか?規模は?」

 

「それは分かりません。ので備えは早めに」

 

「え、あ、ちょっと!」

 

 

と呼び止められますが構っている暇はありません。なんせ、幻想郷中に伝えなくてはいけませんから。一人一人に詳しく説明していたらあっという間に地震が起きてしまいます。

 

 

 

やはり、下界ではあまり変わっていませんね。こっちは地震の事を伝えようとしているのに何故か戦闘に発展させようとするものですから苦労が絶えません。

 

総領娘様に

 

 

「説明が端的すぎるのよ。もうちょっと説明したらいいのに」

 

 

とか言われましたが十分な説明だと思っているのですが…………

 

とか考えてますと妖怪の山に一軒の家が見えます。あんな所に家なんてあったでしょうか?もしかしたら妖怪が建てたかもしれません。念のためにこの家の方にも伝えるとしましょう。

 

 

 

 

改めて家に近づくとごく普通の家です。玄関の戸を軽く叩くと、暫くの間があってから

 

 

「…………どちら様ですか」

 

 

といかにも寝起きですというような人間が出てきました…………人間!?ここは妖怪の山のはず…………人が住むような場所じゃないです。

とは言ってもどこに住むのかは私があーだこーだ言う資格は無いので地震の事を伝えてしまいましょう。

 

 

「私は竜宮の使いの永江衣玖です。近々地震が起きますのでお知らせを」

 

 

と彼に目をやると目を瞑って寝てしまっているようです。他人事ですが大丈夫なのでしょうか?

 

 

「…………はっ、すまない。少し意識が飛んでいた。なんて言った?」

 

「だから、近々地震が起きますので備えといてください」

 

「地震?幻想郷でもあるんだ…………」

 

「そりゃあ、ありますよ。ところで貴方は人間なのでしょうか?」

 

「ああ、つまらん人間だよ」

 

 

彼の渾身のボケでしょうが流れからしてつっこんでも得るものは無いのでスルーさせて貰います。

 

 

「なら、何故この妖怪の山に?失礼ですが貴方みたいな腑抜けた人間がここにいては自殺行為同然だと…………」

 

 

これは素直な疑問です。いくらマヌケだとしても妖怪の山に住もうなどとは思いません。ただの人間がこの山で生きていけるはずが無いのです。

 

 

「自分でつまらんと言ったが腑抜けたと言われるとはなぁ…………」

 

 

と頭を掻く姿はやはり普通の青年です。

 

 

「……………………」

 

 

ふと彼は黙りこちらを凝視し始めました。その目つきはお世辞にもいいとは言えず、周りからは良い印象を与えないでしょう。

 

顔に何か付いているなら口で伝えて欲しいものです。

 

 

「…………はっ、すまんすまん、余りにも綺麗だからつい見とれてたよ」

 

「き、きれっ!?」

 

 

な、何を言い出すのでしょうか!?空気を読めるので相手の下心も丸分かりなのですが彼にはそういった下心が全く無かった。だから、つい慌ててしまった。

 

 

「冗談だ、軽く意識が飛んでただけだ。最近は忙しかったからな。まさか本気にしてないだろ?」

 

「あ、当たり前です!伝えることは伝えましたからねっ!」

 

 

空気を読む私がまるで見透かされているかのように彼は薄く笑っています。この人は一体々…………

 

顔が熱くなるのを感じながら逃げるようにその場から飛び立ちました。

 

 

 

 

 

 

「ふぁ…………眠っ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからというもの、彼にしてやれたままでは何か癪なのでもう一度会う事にしてみました。

 

地震自体そこまで規模は大きくもなく、事前に伝えた事もあってか被害もそこまで無いようでした。

 

そして、妖怪の山にある一軒家に訪れると、戸の鍵は開いており叩いても反応しないので勝手に上がらせて貰いました。

 

 

「ごめんください…………って、これは…………」

 

 

中は地震の影響か本やらタンスやらが散乱していました。私の話を聞いてたのでしょうか…………

 

この考えは的中してたようで散らかった部屋の中に埋もれて白目剥いて倒れている彼を見つけたのでした。

 

 

 

 

 

 

「何をしているのですか!?私は伝えましたよね!?そのままだといつ妖怪に襲われてもおかしく無かったんですよ!?」

 

「…………そ、そうか。確かに助かったが、しかし、勝手にうちに入ってくるのもどうかと…………」

 

「それは関係ありません!」

 

「お、おお…………だが、俺の記憶には君の事も、君が伝えにきたという事も無いぞ?そもそも君は誰だ?」

 

「な…………私は確かに貴方に伝えましたよ!!」

 

「そ、そうなのか…………俺、朝はどーにも弱くて…………」

 

 

私は珍しく怒っていたと思います。そして、同時に彼は総領娘様と同じく誰かがいないとダメなタイプです。とその時はそう思っていました。

 

 

「ま、落ち着いて。兎に角自己紹介をしよう、な?」

 

「わ、分かりました…………私も少し熱くなりすぎました」

 

「俺は碓氷勇人だ。教師をやっている」

 

2()()()自己紹介ですが竜宮の使いの永江衣玖です」

 

「リュウグウノツカイ?」

 

「いえ、竜宮の使いです。竜神様の言葉を聞き人々に伝える役目のことです」

 

「よく俺が違うイメージしているのが分かったね」

 

「貴方のイントネーションが明らかに違ったので」

 

 

しかし、こうしてしっかり目が覚めた状態でも彼は目つきは悪いです。しかし、あの時とは違い見透かされている感じはせずいたって普通の青年という印象です。では、あの時の敗北感は?

 

しかし、そんな疑問もこの後の彼の本当の姿を見る事で解決するのでした。

 



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第88話 迷惑な日の天人

今日も天気は曇り空、雨は降ってはいません。

 

ジメジメした空気がより一層気分を下げます。

 

 

「失礼だと思うが、竜宮の使いさんはいつまでここにいるつもりで?」

 

 

頭に大きなコブを作って平然と言うその姿は些か滑稽なものです。

 

時折、そのコブに触っては「痛っ」と呟き涙目になります。私としてはそのコブをよりも散らかった部屋に気をかけた方がいいと思うのですが。

 

 

「そうですね、貴方に幾つか質問をしてから帰らせて貰います」

 

「んー…………俺の事を知っても何の役にも立ちやせんと思うが、いいぞ」

 

 

「では、まずなんでここに住んでるのですか?」

 

 

なんでそんな事を聞くのか?とでも言いたげな目をする彼から出た言葉は

 

 

「んー…………特に理由は無いな…………そもそも、どこかに住むのに規定とかあるのか?」

 

 

質問の答えとしては質問で返しているのでいいとは言えませんが言っていることは確かにそうです。しかし、紅白の巫女や白黒の魔法使いならまだここに住むのは分かりますがただの青年がここに住むのは…………

 

 

「別に防衛手段はあるんだから問題無いと思うが」

 

 

と彼は懐から何やら見慣れない黒い何かを取り出します。飛び道具でしょうか?

 

 

「で、他に質問は?無いなら帰ってくれ。片付けをしなきゃならないからな」

 

「なら手伝いましょう」

 

 

この言葉に彼は驚いた様だが1番驚いたのは私自身である。

 

基本的に私は他の人の行動にあまり興味を持たない。しかし、彼の態度、竜宮の使いである私と面して物怖じするどころかいたって普通の態度、この妖怪の巣窟の山に住んでいるというのに余裕な態度。彼の死んだ目の奥には何が宿っているのか。珍しくも私はそんな事に興味をひかれてしまったのです。

 

 

「いや、悪いし手伝わなk「手伝いましょう」…………言葉に甘えさせて貰います…………」

 

 

なぜここの女性は強引なのか。物好きもいるもんだなぁ。とぼやく彼。きっと、彼が好きになった人は苦労するでしょう。

 

しかし、この後私は彼にとっても予想だにしなかった事態に遭遇します。

 

まぁ、私にとっては転機の一事でありますが。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

片付けが一通り終わり一息ついている時でした。

 

碓氷さんにお茶と菓子類を出して貰いありがたく頂戴している時に玄関から大声が聞こえたのです。

 

「勇人!」と叫ぶ声が聞こえ、続いて戸をバンバンと叩く音が響きます。

 

 

「ちょっと、そんなに叩くと…………」

 

 

と、言い終わらぬうちにバターンと戸が派手に外れて1人の影が入り込みます。

 

 

「ああ…………」

 

 

額に手をやる彼、駆け寄るのは人里に住む半妖です。

 

 

「ど、どうしたんですか慧音さん。そんなに慌てて」

 

「勇人、大変だ。すぐに来てくれ!」

 

 

常日頃、冷静沈着な半妖が珍しくも慌てふためきながら叫びました。

 

 

「寺子屋が…………!」

 

 

彼の死んだ目がこの時は見開かれ、絶句しました。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「寺子屋」に移動するとそこには崩壊した瓦礫と化してました。

 

半妖ーー上白沢慧音の話では再び地震が起き寺子屋が崩壊したと聞きましたが…………これは…………

 

そして、その地面を見た時私は思わず手を額にやりました。寺子屋は人里でも端の方に位置し周りには建物がほとんど無い為か寺子屋のみが被害を受けた状態でした。

 

こんな、局所的に地震が起きたとは考えにくいはずなのですが…………心当たりがあり、言うべきか迷います。

 

 

「寺子屋には誰もいませんでしたか?」

 

「私だけだ。しかし、これでは…………」

 

「それにしても妙ですね…………ここだけ被害を受けるなんて…………」

 

 

ここにきて冷静な判断をするあたり緊急事態には慣れている様です。しかし、どうしましょう…………

 

 

「どうしますか…………萃香さんにでも頼んで建て直して貰いますか?」

 

「しかし、その萃香を探し出すのは大変だぞ?人里の人達に頼むしかあるまい」

 

「そうなると…………しばらくお休みですね」

 

「ああ、連絡はすでにしてある」

 

「となると()()()()()探さないとですね」

 

「誰がしたか?人為的な原因なのか?」

 

「そうでしょう。最初寺子屋に来る前に人里の真ん中の方を通ったのですが何の被害も無かったんですが…………ここだけ被害が出るのはおかしいです」

 

 

するとそのタイミングで、何処からともなく声を掛けられます。

 

誰だ?と彼はその声がする方へと向きます。

 

 

「天にして大地を制し、地にして要を除き、人の緋色の心を映し出せ」

 

 

そう言い立つのは青いロングヘアに真紅の瞳を持つ少女です。少女と一口に言えど、目には自信を通り過ぎて過信に満ち溢れ、どこか人を小馬鹿にする様な顔を彼に向け

 

 

「最近有名な教師ね?漸く見つけたわ」

 

 

いきなり、桃の実と葉のついた帽子を被った少女に話しかけられたものですから、彼は些か面食らって黙っている内に、天人くずれは御構い無しに付け加えます。

 

 

「私は天界に住む比那名居天子。毎日、歌、歌、酒、踊り、歌の繰り返し。天界の生活はほんと、のんびりしているわ」

 

 

何と言えばいいのでしょうか…………タイミングははっきり言って最悪です。なんせ、この様なことを起こせるのは彼女。つまり、人為的な原因なのなら犯人は十中八九比那名居天子こと総領娘様です。

そんな彼女に碓氷勇人はギロリと睨みながら

 

 

「何だ?忙しい俺に当てつけか?」

 

「何言ってるのよ。退屈だって言ってるの!だから、貴方が地上で色々な妖怪相手に遊んでいるのを見てきたわ。それに霊夢とも」

 

「遊んでいる?何言ってんだ?」

 

「それを見て、ちょっと貴方に興味が出たの。まぁ、衣玖が珍しく人に気をかけているからちょっかい出そうと…………って、衣玖もいたのね」

 

「ええ。しかし、また勝手に地震を起こされると困るのですが…………」

 

「別にいいじゃない。被害はここだけなんだし」

 

「そういう問題じゃあ…………」

 

「あー!もう、うるさいわね!今は暇つぶしにこいつと遊ぶんだから!」

 

 

「…………じゃあ、あんたがこれをやったんだな?」

 

 

先程よりトーンが低くなり、彼の方を見れば、感情というものが剥がれ落ちた様な無表情な顔がそこにありました。

 

 

「ふ、ふふ。そうよ?」

 

 

一瞬、総領娘様は怯みますがすぐに立て直し、自分への自信と相手を見下した、いつもよ総領娘様の姿に戻ります。

 

 

「(寺子屋を壊し、あいつを怒らせて戦いに持ち込む作戦成功かしら?)」

 

 

「はぁ…………仕方がない…………」

 

 

と彼は言うと総領娘様に近づき、鞄から何かを取り出そうとします。

 

 

「ん?もしかして、噂の貴方の自慢の銃かしら?」

 

 

総領娘様の予測は外れて、取り出したの一枚の紙でした。

 

 

「へ?」

 

「ほら、この原稿用紙一枚分に反省文を書け。それで今回の事は許してやろう」

 

「じょ、冗談はよしてよ!()()()()!?」

 

「文句を言わずに書け。これでも相当頭にきてるんだぞ?これで許してもらえるだけありがたいと思え」

 

「へぇ〜、まるで自分が私より上みたいな言い方ね?()()()()?」

 

「天人というのは、こんなに腹が立つ様なやつなのか?」

 

「いいえ、総領娘様ぐらいしかいませんよ」

 

 

やはり、甘やかされ過ぎです。寺子屋を破壊して尚ここまでの態度をとるのはもはや、総領娘様にしか出来ない芸当でしょう。

 

 

「一体、どんな教育を受けたらこんなになるんだ…………」

 

「そういう貴方は自分がまともだと思えるのかしら?()()?」

 

「少なくともあんたよりは人格者だと思うよ。それに先生と呼ぶのを止めろ。そもそも生徒じゃないんだから呼ぶ必要は無い」

 

「別にいいじゃない。嫌なのかしら?先生?」

 

「お前の場合は先生、先生と言われるたびに阿呆、阿呆と聞こえてくるから不愉快だ」

 

「は、はぁ?」

 

「それに、俺を戦わせようとしているかもしれないがあんたがの煽りには簡単に乗っかるほど俺は阿呆じゃないんでな。その紙を持ってとっとと書いてこい」

 

 

と彼は総領娘様に背中を向けて立ち去ろうとしました。血の気の多い幻想郷では幾らかばかりか冷静な人の様です。

 

 

「ムキー!何よ!こうなったら!」

 

「総領娘様!?」

 

 

緋想の剣をどこからか取り出して、彼の背後から斬りかかろうとした瞬間、パァン!と乾いた音が鳴り響きました。

 

その時には総領娘様の手には緋想の剣は彼方へと飛ばされ、ただ、え?と言うのみ。何が起こったのでしょうか…………

 

 

「次、眉間だからな」

 

「ひぃっ!?」

 

 

し、信じられませんが…………私の目には総領娘様が、怯えている様に見えます。あの、唯我独尊の総領娘様が、怖いもの知らずの総領娘様が、怖がっているのです!

 

総領娘様の身体はとても頑丈で人間では傷すらつける事は叶いません。つまり、眉間を撃とうが総領娘様なら大丈夫なはずなのですが…………彼の目には本気で撃ち抜くーー明確な殺意が満ちています。

 

ーー本当に撃ち抜かれる、明確な根拠が無いのにそう思わずにはいられないのです。

 

今まで死さえも恐れない(恐る必要が無い)総領娘様が初めて恐怖というのを彼に抱いたのです。

 

 

「分ったなら、さっさと書いてこい」

 

「わ、分かりました!」

 

「総領娘様!?」

 

「い、衣玖!私、先に帰るから!」

 

 

脱兎の如く総領娘様は空へと飛びました。

 

 

「済んだか?勇人」

 

「本来ならフルボッコにしたいぐらいに頭にきてますが…………教師に悪評たったら生徒も来なくなりますし…………」

 

「そうか。しかし、あの天人にも困ったものだ…………」

 

「す、すいません。本当にすいません。後で総領娘様にはきつく言っておきますので…………」

 

「んー…………あいつの場合だと、きつく言っても効果が無いような…………」

 

 

うっ、まさにその通りなのです。誰が注意しても総領娘様は素行を改めようとはしません。

 

 

「一回恐怖を覚えさせた方がいいんじゃないか?」

 

「え?」

 

「まぁ、あいつの事よりも寺子屋の再建を萃香さんに頼まないと…………」

 

 

恐怖、それなら!私は今にも鬼を探しに行こうとする彼に向かって

 

 

「碓氷さん!」

 

「はい?」

 

「私から頼みたい事があります」

 

「頼みたい事?」

 

「どうか、総領娘様の教師となっていただけませんか!?」

 

「はぁ!?流石に無理だ!あんな奴の教師はごめんだ!」

 

 

やはり、断られますか…………しかし、ここで引き下がれば、再び総領娘様は我儘なまま。ここはどんな手でも!

 

 

「そうですか…………しかし、貴方、私に恩がありますよね?」

 

「へ?」

 

「ま・さ・か、教師でもあろう方が恩を返さないなんて事、しませんよね?」

 

「はぁ?ちょっと…………」

 

「それではいい答えを待ってます」

 

「お、おい!待て!」

 

 

人の良心を利用するのは気が引けますがそんな事言ってられません!きっと、彼なら総領娘様を更生させてくれるでしょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、思い出すと君、強引だよね?」

 

「そうでしょうか?人は誰でも見返りを求めるものでしょう」

 

「……………………」

 

 

俺はただ黙って時間が解決する事を祈るのだった。

 

 





気がついたらUA10000突破していました。ご愛読ありがとうございます。ちょうど節目としていくつかアンケートを取りたいと思いますのでよろしければ活動報告にて回答お願いします。


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第89話 策略の日の竜宮の使い

最近やたら雨が降るかと思えば、今度はその分蒸発させんといわんばかりの快晴の日が続く。ただいるだけで汗だくになるような気候の中、インドア派の俺とは違いアウトドア派の里の人々は今日も里を賑やかせている。

 

巨大な木材を運ぶ大工さん、元気に声を出し商品を勧める八百屋や魚屋など、中には妖怪までいる。流石、妖怪にも寛容で有名な里なだけある。

 

俺はと言うと、どこぞの天人様が寺子屋を見事に破壊してくれたお陰で、今は甘味処にて団子を片手にお茶を啜りながらその様子を眺めている。

 

パッツンパッツンの竜宮の使いからは今でも熱烈な教師の依頼を受けている。しかし、今からどんどん暑くなっていくこの時期に仕事を増やすのは御免である。ただでさえ、運動不足気味で体力が落ちている中、仕事を無理に増やしてまたぶっ倒れるのはもうしたくない。

 

という理由で断っているのだが、それでも深海魚さんは諦めず交渉を持ちかけてくる。流石に玄関でずっと待機していたのは驚いた。

 

とか考えていたら団子はあっという間に無くなり、お茶も飲み干してしまった。

 

次の団子を頼むか…………もう、家に帰ってしまうか…………

 

とか悩んでいるが、簡単に言えば何もする事が無くて暇である。

 

それなら、天人くずれの世話役を受ければいいじゃないかとか言われるかもしれないが…………折角、こんなにも暇な時間を得ているのだ。しっかりとその暇な時間を堪能したいと言うのが俺の本音である。

 

一応、俺の元いた世界から持ってきたものを引っ張り出して整理したりした。本とか服とか…………ああ、アルバムも何故かあったから見てみたが…………それには小学生からの写真しかなかったなぁ。じいちゃんが持ってたりするかな。ああ、する事がねぇ…………

 

ふと何故かは分からないが守谷神社を思い浮かべだので守谷神社に向かうとしよう。

 

 

「おばちゃん、ご馳走様。お金はここに置いておくよ」

 

「あいよ。また、来ておくれ」

 

 

甘味処を後にして守谷神社へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

人々で賑わう人里とは対照的に、守谷神社のある妖怪の山は静まり返っている。境内も同様で、清浄な空気が満ちている。

 

 

「あっ、勇人さん!」

 

 

お、石畳の参道で箒を片手に掃除している早苗を発見。

 

早苗はこちらを確認するなり、鳥居の下にいる俺のそばまで駆け寄る。

 

 

「珍しいですね、勇人さんの方からここに来るなんて」

 

「少し暇だったんでな。少し寄ろうと思ったのだが…………邪魔なら帰るが…………」

 

「いえいえ!寧ろ嬉しいです!」

 

「そ、そうか。最近、やけに暑い日が続くが体調は大丈夫か?熱中症には気をつけないとな」

 

「そうですね…………諏訪子様も暑過ぎて元気が無いぐらいですからね。そう言う勇人さんも気をつけてくださいよ?」

 

「ああ、気をつけるよ」

 

 

 

「本当に暑いな…………そのせいか、宴会の話も全く無くなったな」

 

「流石に厳しいんじゃないでしょうか?萃香さんなら兎も角…………他の人たちは外にも出たがらないですしね」

 

「まぁ、頻繁に行われても困るだけだしな。どんちゃん騒ぎも悪くは無いが、静かに景色を眺めている方が俺は好きだな」

 

「それなら、この山は紅葉したらとても素晴らしい景色になるんですよ」

 

ニッコリとそう告げる。

 

「へぇ、緑の妖怪の山しか知らないから秋が楽しみだな」

 

「それなら、いつか一緒に見ませんか?」

 

「そうだな、是が非でも見に来ないとな」

 

「はい」

 

 

早苗は明るい笑顔で答える。

 

 

「そう言えば、今日は寺子屋でのお仕事は大丈夫なんですか?」

 

「ハハ…………なぁ、早苗。比那名居天子っていう娘知ってるか?」

 

「ええ。物凄く我儘で有名な天人さんですよね?会ったんですか?」

 

「会ったは会ったのだが…………まぁ、そいつのせいで今は暇なんだ」

 

「なんとなく想像できます」

 

 

やはり、相当我儘なんだな。誰かが喝を入れてやらないとダメなパターンだな。

 

 

ふと、何かの気配を察知して振り返ると真っ白になった髪をした爺さんとパッツンパッツンの衣装を着こなした女性が見えた。何とも珍しい組み合わせである。

 

まぁ、俺の祖父と竜宮の使いの永江衣玖のようだ。よし、名前はしっかりと覚えてた。

 

 

「じいちゃん」

 

 

俺の声に、じいちゃんは笑みを浮かべる。

 

 

「おや、久し振りに会うのぅ」

 

「そうだなぁ…………最近顔見せれてなかったな」

 

 

そうじゃな、と頷くじいちゃんに、早苗は頭を下げた。

 

 

「お久しぶりです。おじいさん」

 

「うむ。元気そうで何よりじゃ。相変わらず仲がよろしいようじゃのう。こりゃあ、妖夢も嫉妬するわけじゃ」

 

 

穏やかな声に、早苗は顔を赤くしてもう一回頭を下げた。

 

 

「あら、早苗さんが彼の噂の彼女さんでしたか」

 

 

と極めて自然に会話に入って着たのは、竜宮の使いである。

 

 

「初めまして、では無いですよね?早苗さん」

 

「そうですね、えっと永江衣玖さんですよね?」

 

「ええ、そうです。彼とは違って覚えてもらって嬉しいです」

 

「な、何のことやら…………」

 

 

それにしても、じいちゃんと来るなんて…………意味のわからない組み合わせである。接点はほぼゼロに等しいのだが…………

 

 

「そうそう、お前さん地震のときこの永江さんにお世話になったそうじゃないか。しっかりとお礼はしたのか?」

 

 

成る程、そう言うことか…………こりゃあ、外堀を埋めてきやがったな。

 

 

「え?お世話って…………」

 

「安心しろ、早苗。片付けを手伝ってもらっただけだ」

 

「ええ、そうですよ。ただ、人の忠告もまともに聞かず、地震の対策を取らないでいた結果、倒れてきた家具で押し潰された挙句、頭もぶつけて気絶した所に私が来て助けてあげただけですから」

 

「ええ!だ、大丈夫だったんですか!?」

 

「特に問題は無いさ。その後に起きた事の方がよっぽど問題ある」

 

「そうですね。未だに恩を返してもらってませんし…………人々からは良い人だと聞いてたんですが…………ただの演技だったのでしょうか?」

 

「そんな事ありません!勇人さんは誰よりも優しくて、義理堅い性格なんですから!そうですよね!?勇人さん!」

 

 

どうやら相手はこちらの城を完全に落とす気でいるらしい。あっという間に外堀が埋まった。

 

 

「そうじゃそうじゃ。わしに似て恩を仇で返すような輩じゃないわい」

 

 

なんてこったい。内堀まで埋まってしまった。我が城は落城寸前ぞ。

 

 

「そうなんですか?なら、何故私の依頼を受けてくれないのでしょうか?やっぱり、日頃の素行は演技…………」

 

「演技じゃねぇ!」

 

 

我が城、落城なり。

 

 

 

「分かった。天子のお目付役の件、引き受けるよ。これで満足か?」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 

澄ました顔でそう言われると余計に頭にくる。

 

 

「それでは行きましょうか」

 

「は?」

 

「受けてくださるのでしょう?だから、今から…………」

 

「いやいや、俺にも準備とかあるから…………」

 

「大丈夫です。噂通りの貴方なら問題無いでしょう」

 

「誰の噂だ!」

 

「この新聞に…………」

 

「あいつ、懲りずに…………」

 

 

ふと、心配そうな早苗の眼とぶつかる。

 

 

「が、頑張ってくださいね、勇人さん」

 

 

そう笑顔で言われちゃうとなぁ…………

 

 

「ああ、任せとけ」

 

 

唯々諾々として従うしかあるまい。見上げれば空はことごとく徒らに快晴である。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「驚きましたよ、勇人さん、飛べたんですね」

 

 

言葉とは裏腹に、落ち着いた声で告げる竜宮の使いの前で、俺はおもむろに最近使い始めた頭痛薬を取り出して、二錠まとめて飲み込んだ。もちろん、薬は安心安全の永遠亭製である。

 

 

「ただの人間が人里に住まずに妖怪の山に住んでるものでしたから心配してましたが、そうでもなさそうですね」

 

「はぁ…………早苗から教えてもらった」

 

 

「早苗さん?ああ、成る程…………」と何やら意味深長な顔をするが、放っておこう。

 

 

「しかし、いつの間に俺のじいちゃんと知り合ってんだよ」

 

「たまたま会ってお話ししてただけです。私はそれよりもすんなりと依頼を受けてくれたのが驚きです」

 

 

さほど驚いているようには見えない。依頼を受けざる得ない状況に追い込んでおきながらぬけぬけと…………

クスクスと笑みを浮かべて、俺の方が一方的にからかわれているような気分だ。

 

 

「あの天子とか言うお嬢ちゃんはかなり我儘そうだな…………俺の手では負えんかもしれないぞ?」

 

「いえ、傍若無人な総領娘様には慇懃無礼な貴方が適任かと」

 

「人を馬鹿にした事は無いが…………」

 

 

「的確な評価だと思いますけど…………」とか言う永江衣玖を制して

 

 

「だいたい厳しい修行をして、欲を無くしたはずの天人が、何故あんなにも我儘なんだ?もっと、お淑やかであるはずだろうに」

 

「総領娘様は修行して天人になったのでは無いので…………」

 

 

と微笑を苦笑にかえて、軽く肩をすくめた。

 

わけあり、というわけだな。なんやかんやでこの人も苦労してんだな。

 

 

「はぁ…………まぁ、教師をするからにはきちんとやらせてもらうが…………うまくいくかどうかは分からんぞ?」

 

「いえ、そもそもその様な役を引き受けてくださる人がいなかったので…………やってくださるだけでもありがたいですよ?なんなら、天人になる修行でもしたらどうですか?」

 

「天人?おいおいバカはよしてくれ。苦労のない人生なんて何の張り合いもないから楽しくないさ。それに俺はただの人間でさえあればいいんだ」

 

 

俺の言動に、衣玖さんは軽く目を見開いてから、微笑した。

 

 

「フフ、面白い人ですね」

 

「そうか?つまんない男だと周りからは酷評されていたが…………」

 

「少なくともこの幻想郷ではつまんない男だとは思われてませんよ。寧ろ、外界から来た人にしては馴染み過ぎな気もします」

 

 

フッと思わず小さく笑ってしまう。

 

 

「まぁ、そのぐらいが丁度いいさ。無理に意地を通そうとすれば窮屈になるからな」

 

 

曖昧な記憶にあった誰かの言葉を思い出しながら呟く。

 

すると、目的の有頂天が見えてくる、

 

 

「教師の到来を心から歓迎しますよ、勇人さん」

 

 

 

 

「ようこそ、天界へ」



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第90話 フィーバーの日の青年

最近運動不足だからと言って、相手が手加減してくれる様になるわけではない。

 

運動不足の恐るべき所は、自分が思った以上に動けない事である。チルノやフラン達が「一緒に遊ぼう!」などと度々期待の眼差しで俺を弾幕ごっこに誘われたりするがあーだこーだとテキトーな理由をつけて断っている。そんな中で彼女らの弾幕ごっこを眺めたりするのだが、やっぱり人間じゃないんだなぁと痛感せざるおえない。

 

『弾幕ごっこ』などと兎に角『ごっこ』をつければ可愛らしくなると思っているらしい。まぁ、これは一部の人間と妖怪が対等な条件の元で行われる"遊び"である。一口に遊びとは言っても普通に死んでしまう事だってあるし、ただの人間がやれば即死間違いなしだ。

 

随分乱暴な遊びだが、幻想郷における異変の多くは、この『弾幕ごっこ』という常軌を逸したもので解決される。今の所、この遊びが廃止され本気の殺し合いになるとかいう話は聞いた事はないし、一般的な人々なら全くもって関係のない事柄なのだから多分ずっと続くだろう。

 

俺とてこんな狂気の沙汰ではないこの遊びをしたいとはあまり思わない。が、何故か俺をこの遊びに誘う輩が多すぎる。特に最近では色々な成果を上げたせいか、徹夜で疲労困憊の上に慢性的な運動不足の俺に弾幕ごっこを申し込んでくるものだから大変である。幻想郷中の妖怪達がこぞって俺を血祭りにあげようと、虎視眈々様子を伺っている様な気分にすらなる。俺は俺で、仕事が忙しいとかで理由をつけたり、最悪逃げたりと自分の身を守ることに汲々としているのが現状である。

 

どうして、ここの人達はこんなにも血の気が盛んなのだろうか…………などと心の中でぼやいた直後に

 

 

「何ぼーっとしてるのよ!」

 

 

ハッと顔を上げると目の前にはその血の気が盛んな人の筆頭格が仁王立ちしている。

 

あぁ、俺は教育者として比那名居天子会いに来たはずなのに当の本人は戦う気満々である。何でも、俺が彼女の教師として相応しいか彼女自身が直々に見定めるらしい。戦いで。

 

 

「随分顔色が悪いですよ。勇人先生」

 

 

いきなり肩越しに、声が聞こえ、思わず「うおっ!?」と言ってしまった。

 

振り返ると、いつの間にか衣玖さんが立っていた。

 

 

「そんなに驚かなくてもいいでしょう…………」

 

「なら気配を消して側に立たなでくれ」

 

「空気を読んだ結果なのですが…………」

 

「どんな空気だ…………それ」

 

「それよりも、魂が抜けた様な顔をしてますよ」

 

 

誰のせいで、という言葉が喉までくるが何とか飲み込む。

 

 

「まぁ、私もこうなるとは思いませんでしたが…………貴方なら大丈夫でしょう」

 

「何を根拠に?」

 

「そうそう、1つ教えておきましょう」

 

「無視ですか…………」

 

「ここの天界の桃って食べると体が勝手に鍛えられるんですよ」

 

「は?」

 

「どのぐらい鍛えられるかと言われますと…………ナイフが刺さらなくなるぐらいには鍛えられますよ」

 

「ナイフが刺さらなくなる!?」

 

「あと、総領娘様自身もそれなりの実力は持ち合わせてますので、お気をつけて」

 

「え、ちょっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

自称『空気を読む程度の能力』の衣玖さんが空気の読めない発言をし、そのままどこかへ飛び立ってしまった。

 

 

「貴方…………勇人とかいったわね?ひどい顔をしてるわ」

 

 

ひどい顔、ねぇ…………確かに困惑や呆れや様々な感情が渦巻いた結果の顔だろう。そりゃあ、ひどい顔にもなるさ。

 

 

「ひどいのは今の状況だ。どうしても戦わないとダメなのか?」

 

「当たり前よ。私の先生がひ弱だなんて絶対に嫌よ」

 

 

何ともまぁ我儘な発言で。先生には強さも必要ですかそうですか。

 

 

「そうか…………なら、さっさと始めようぜ」

 

「ええ、そうさせてもらうわ!」

 

 

威勢良く言ったのはいいものの、まさか戦闘になるとは思ってなかったので持ってきているのはいつもの二丁拳銃だけだ。

 

兎に角、狙いを脚に定め2つの引き金を引く。

 

 

パァン、パァン!

 

 

「あら、随分と貧弱な弾丸ね」

 

「あれれ!?」

 

 

霊力の弾丸は天子の脚を貫かず、弾かれる様に消滅した。心なしか威力が低い気がする。あと、1発しか当たってないので、勘も鈍っている様だ。あれ?やばくね?

 

あっという間に接近を許し、ビームソードみたいな剣が振り下ろされる。

 

 

「ウォッ!?」

 

「え!?」

 

 

咄嗟に不変の結界を生み出しガードしたが…………範囲が狭い。剣と俺の顔の間は数センチしか空いてない。前はもっと広く展開できたはずなんだが…………

 

 

「な、何なのよ!貴方、能力持ってるの!?」

 

「そうだが?」

 

「何の能力か教えなさい!」

 

「おいおい、人に物を聞くときは礼儀ってもんが…………」

 

「いいから言いなさい!」

 

 

こりゃあ、筋金入りの我儘だな…………

 

 

「断る。そもそも戦闘において不利になる情報をわざわざ教えるわけがないだろ、このマヌケ」

 

「マヌッ…………!いいわ!後で泣いて許しを乞うことね!」

 

 

今度は横薙ぎに剣を振る。妖夢とは違い洗練された動きなんかじゃなくて、ただ力任せに振ってるだけだ。

 

 

ガキンッ!

 

 

「ック…………!」

 

「受け止めた!?」

 

 

右腕に電流が流れるような痛みがくる。霊力で肉体強化したが…………相当霊力が落ちてるな…………

だが、間はできた。左手に霊力を込めて…………

 

 

「オラァ!!」

 

ドゴォ

 

 

「ッ…………中々やるじゃない」

 

「効いてない!?」

 

 

まるで鋼鉄の壁を殴ったような感触…………頑丈っていうレベルじゃねぇぞ!?

 

 

「これなら!」

 

 

パァンパァンパァンパァン!

 

 

すかさず、銃弾を喰らわせるが…………全て弾かれる。

 

 

「なっ…………!?」

 

「こんなんじゃあ、痒くも無いわよ?」

 

「なら、これならどうだッ!」

 

 

体の真ん中に霊力を圧縮して、爆発させる感覚で…………

 

 

「アグッ!?」

 

 

天子は後方に吹き飛ばされる。衝撃波もダメージ控えめのようだ。

 

外からがダメなら…………

 

 

「案外やるじゃない。全然痛くないけど…………」

 

「そうか…………」

 

 

バチバチ…………バチバチバチバチバチバチバチバチィィィィイ!

 

 

「「!?」」

 

「次はどうかな?」

 

 

パァン

 

 

「だ・か・ら!それはもう効かな…………」

 

 

ピカッ

 

 

「!?何よ!みえないじゃ…………ハッ!?」

 

「やぁ」

 

「!?」

 

 

目眩しの後のスニーキングキル。常套手段だよな?

 

 

バリバリバリバリバリバリィイ!

 

 

「アババババ…………!」

 

 

 

「ふぅ…………やっぱり、運動はしとくもんだな」

 

「アヒャアヒャ…………」

 

 

プスプスと煙をたててるが…………死にやせんだろう。問題ない問題ない。

 

 

「流石ですね。まさか、霊力を扱うとは」

 

 

と、また気配を消して後ろから衣玖さんが声をかける。

 

 

「妖怪の山に住んでいるくらいですからね。これくらいできないと」

 

「総領娘様の教師役、合格ですね」

 

「不合格でもいいのだが…………」

 

「いえ、合格よ」

 

「おい、もう起きたのか」

 

 

さっき煙を出して寝てただろ。全く…………どうして復活が早いんだ。

 

 

「貴方の事気に入ったわ。私の教師役をさせてあげるわ。光栄に思うことね」

 

「敗者がよくぬけぬけとそんな事が言えるな(はいはい、分かりましたよ)」

 

「勇人先生、本音と建前が逆になってますよ」

 

「おっと、失敬失敬」

 

「で、何を私に教えてくれるのかしら?」

 

「そうだなぁ…………和算とか…………あとは常識を教えてやる」

 

「えぇ…………つまんなさそうね」

 

 

勝手に人を教師にしといてよくもまぁ…………込み上がる怒りを飲み込むしかあるまい。

 

 

「なら、何になら興味を示す?」

 

「貴方の昔話となら興味あるわ」

 

「そうですね。私も聞いてみたいです」

 

 

さらっと会話に入り込む衣玖さん。

 

 

「俺の昔話って…………くだらん話しか無いぞ?聞くに値しないと思うが…………」

 

「そんな事は関係ありません。貴方の話は幻想郷に入ってからしかありませんから。貴方は基本的に自分の事話したがらなさそうですし」

 

「当たり前だ。つまらん自分の過去を徒らに宣伝するくらいなら和算を教えてる方がよっぽど建設的だ」

 

「はいはい、でも私は和算よりはよっぽど魅力的ね」

 

「さいですか。だが、まずはその我儘な性格をどうにかしないとな」

 

「我儘?それって私のこと?」

 

「お前以外に誰がいるんだ」

 

「衣玖、私って我儘言ったことあるかしら?」

 

「今までの言動を思い返してください。多分、ほぼ全部該当しますから」

 

「…………衣玖がひどい」

 

「自業自得だ」

 

「それで、具体的にはどのようなご指導をするのでしょうか?」

 

「んー…………明日までには考えておこう」

 

「そう、ならもう帰るのかしら?なんなら、ここの桃食べていいわよ」

 

「心遣い感謝するが、生憎俺は桃は好きじゃない」

 

「あら、残念。美味しいのに」

 

 

まぁ、食べるだけで肉体が強化されるドーピングみたいな桃を食べたいとは普通思わないと思うが、いいか。本当に桃好きじゃないし。

 

 

「もう帰ってもいいだろ?」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

 

と衣玖さんに引き止められてしまった。

 

 

「何だ?」

 

「全身に霊力を漲らせてバチバチと漏れ出してたときがあったじゃないですか」

 

「ああ」

 

「そのときにビビっときたんですけど…………」

 

 

だから、あのとき少し反応してたのか。

 

 

「"決めポーズ"のイメージが湧いたんです!」

 

「…………はぁ?」

 

「何でしょうか…………本当にビビっときたんですよ。だから、そのポージングをしてもらえませんでしょうか?」

 

「何それ意味がわかんないんだが…………」

 

「とりあえず、私の言う通りにしてください」

 

「お、おう…………」

 

 

 

 

 

「まず、脚を少し広めに開いてください」

 

「このぐらいか?」

 

「いえ、もう少し」

 

「このぐらい?」

 

「はい。で、左腕を腰に」

 

「こうか?」

 

 

あれ?何でこんなことしてるんだ?

 

 

「右手は人差し指と親指だけたてて腕を上に伸ばしてください」

 

「ほうほう、何の意味があるんだ?」

 

「腕をもう少し伸ばしてください」

 

「アッハイ」

 

「少しそのままでいてください」

 

 

流れでやったのはいいものの…………なんだこれ。なーんかこんなポージング見たことがある気が…………

 

 

「もう少し腰をこんな感じに」

 

 

と実際にポージングをとってみせる。\キャーイクサーン/とかが聞こえたのは幻聴だろうか。

 

 

「こ、こうか?」

 

「はい、そうです。いい感じにフィーバーできてますよ」

 

「フィーバー!?」

 

「では、体勢を元に戻して、私が合図したらそのポージングをとってください」

 

「は、はい」

 

 

「キャーユウサーン」

 

「!?」

 

 

な、なんだその合図は!?反射でポージングをとってみたが…………

 

 

「うーん、腰つきがなってませんよ。もう一度」

 

「アッハイ」

 

 

ご不満のようです。

 

 

「では…………キャーユウサーン」

 

「…………」

 

「完璧です!理想的なフィーバーができてます!そこにあの霊力の放出があればもう大フィーバーです!」

 

「お、おう…………」

 

「今度はキャーユウサーンと言われたら条件反射でできるまでしましょう!」

 

「え?ちょっ!ええ!?」

 

 

この後、メチャクチャフィーバーした。



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第91話 一局の日の青年

宿題を見るときに答えを写したかどうかは案外分かるものである。特に複雑な計算問題なら尚更顕著に出てくる。複雑になればなるほど、解く過程というのは大事になり、自然と問題の隅っこなどに計算の跡が残る。

 

しかし、今見ている宿題は最初から最後まで答えのみしか書かれておらず、尚且つ全て正解である。もし、その生徒が和算において優秀な成績を修めていたなら納得しただろう。だが、この宿題の持ち主の生徒は成績は芳しくない。

 

生徒は俺よりもずっと歳上な天人の少女で1週間ほど前に諸事情があって寺子屋に参加し始めたばかりであった。

 

ここで寺子屋について補足すると、萃香さんが案外早く見つかり宴会を必ず催すという条件であっという間に建ててくれた。尚、宴会については早苗に頼んで守谷神社で行う予定である。

 

 

「写してなんかないわよ」

 

 

教室に入るなり、天子の無い胸を意味もなくそらして答えた。まぁ、宿題を出すようになったのは成長と見てもいいが…………(最初は堂々とやらずに慧音さんの頭突きを何回か頂戴した模様)

 

 

「だが、答えだけなのはおかしくないか?」

 

「はっ、それでも私は写してないわよ。貴方の言う通りに、出された宿題を出しただけよ」

 

 

ちょっと不機嫌そうだ。このクラスの生徒は基本的に小さくて天子が大きく見えるがそれでも幼さが目立つ。不機嫌な顔も何処と無く愛嬌があるような無いような。無論、可愛いという理由で許すわけがないが。

 

天子は最初こそは慧音さんの頭突きなどもあり順調に進んでいたが、ここ最近はまた我儘が出てきた。もう日にちが経ったのを考えれば、寺子屋にも飽きがきて宿題も面倒臭くなったと考えざるを得ない。だが、これを証明するのはなかなか難しい。理系なのに。

 

 

「本当に写してないのか?」

 

「写してないわ」

 

 

そっぽを向いてはっきり答える。

 

 

「そうそう、俺も能力を持ってるのは知ってるよな?」

 

 

とりあえず外の景色なんぞを眺めつつ、

 

 

「俺の能力を使えばこの宿題からお前がどのように解いたのか丸分かりなんだ」

 

 

何気ない俺の言葉に、天子は僅かに頬をひきつらせた。

 

 

「これを媒介にして、お前の思考も分かるっていうわけだ。まぁ、何も考えてないのならすぐに写したと分かるぞ」

 

 

ちらりと横目で見ると、完全に動揺した天子が映る。そんなに慧音さんの頭突きがトラウマか。

 

 

「…………ほ、本当なの?」

 

「冗談だ」

 

 

真顔で答えた。

 

天子が、くっと言葉につまり、何か言い返そうとしているようだが、言葉が出ない。

 

 

「…………慧音には秘密に」

 

「その前に言うべき事は?」

 

「むっ…………悪かったわ…………」

 

「はぁ…………違うだろ。前にも言ったよな?失敗したらまずは謝罪からだと」

 

「うっ…………ごめん」

 

「お前がやりたいと言ったから寺子屋に参加させたんだ。やるからには最後まできちっとしろ」

 

 

それっぽいセリフを言ってから教室を後にした。これでも天子はずいぶん成長したのである。そもそも、謝罪ができなかったのがこちらから要求したとは言え、謝罪したのだ。大きな一歩だろう。

 

まぁ、俺自体少々甘いのもあるが。慧音さんなら宿題を忘れあの様な態度をとろうもんなら頭突きをし、星を見せるに違いない。

 

廊下に出ると永江衣玖さんがいることに気がついた。

 

軽く会釈をし、通り過ぎようとすると、

 

 

「キャーユウサーン」ボソッ

 

「何を言ってるんですか…………」

 

「いえ、そのポージング、決まってますよ」

 

「えっ?ああ、これは…………!」

 

 

なんと言うことだ…………衣玖さんの日々の洗脳によって、無意識にあのポージングを取るようになってしまった。

 

とりあえず、体勢を戻して、

 

 

「コホン、それで、何の用です?」

 

「いえ、総領娘様の様子を見にきたんですが…………貴方に教師役を頼んで大正解でしたね」

 

 

外の景色を眺めながら、天子の成長具合でも報告するとしよう。

 

 

「まぁ、なかなかに我儘ですが、聞き分けがないというわけでもなさそうですし、大丈夫だと思いますよ。でも、一番怖いのは慣れてきた時ですかね」

 

 

と衣玖さんの方に視線を戻すと、

 

 

「「「キャーイクサーン!」」」

 

 

フランやチルノ達の前で見事なまでにポージングを決めていた。いや、自分のポージングなら俺にさせないでくれ。

 

 

「衣玖さん?」

 

「あっ、すいません。空気を読んだ結果なのですが…………」

 

 

だから、どんな空気なんだよっ。

 

 

「まぁ、今から休憩なので」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

「ん?」

 

「まだ、昼前ですよ」

 

 

衣玖さんの意味ありげな一言に、足が止まる。

 

すると、どこから取り出したのか何やら板状のものを取り出し

 

 

「お話のついでに、一局どうですか?」

 

 

あまりにも急なことだったので思わず目を見開いてしまった。

 

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。椛さんから聞いたんですよ。将棋、お強いんですよね?」

 

「いや…………もう大分、ご無沙汰ですよ?」

 

「将棋がメインじゃないので大丈夫です」

 

 

「あ、私に勝てないと思いなら、諦めますよ?」

 

「そこまで言われたなら断れませんね。1時間もあれば終わるでしょう」

 

「ついでに総領娘様のお話も聞かせてください」

 

「ああ、30分後が楽しみです」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

30分後である。

 

 

「何が楽しみなんでしょうか?」

 

 

衣玖さんの涼しげなそんでもって小馬鹿にしたような声が響く。

 

時折、フランやチルノ達が興味を示し、覗きに来たが飽きてしまったのか誰もいない。

 

将棋盤を見れば、整然たる陣形を保った衣玖さんの軍勢と、総崩れで王がただ逃げ回るだけの無残たる我が軍勢が向かい合っている。

 

 

「これまた久々に完膚なきまでに…………少しぐらい、労りの気持ちを込めて手加減してくれてもいいのですが…………」

 

「世の中そんなに甘くないんですよ?」

 

「能力を使ってるくせに」ボソッ

 

「何か?」

 

 

ちっと舌打ちをして天井を仰ぐ。

 

せめて、一矢報いようとしたが、まるで一手一手が読まれてるかのごとく、惨憺たる有様となった。

 

今まで逃亡に徹した王将に寝返った角将が首を取ろうと虎視眈々と控えている。

 

 

「参った」

 

「意外とあっけないですね。粘ってくれもいいんですよ?」

 

「『空気を読む程度の能力』を使われちゃあ、どんな策も意味ないですよ」

 

 

と時間を見れば1時間も経っていない、もう一度軽く舌打ちをしてから再び衣玖さんと向き合い、言葉を続けた。

 

 

「で、何が聞きたいんです?」

 

「…………どういう意味でしょう?」

 

 

衣玖さんが駒を片付けようと伸ばした腕を止める。衣玖さんの目を見ると、伺うような光がある。

 

 

「わざわざ、天子の事を聞きに来るためだけに将棋に誘ったわけじゃないんでしょ?俺は何か別の事を聞かれるのかと思って将棋の誘いに乗ったんですが」

 

「空気を読む側が空気を読まれてしまうとは…………」

 

 

再び駒を片付けながら続けた。

 

 

「そうですよ。貴方にどうしても聞きたい事があるんです」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

将棋のようなボードゲームというのは不思議なもんで、ゲームの内容は覚えてなくても、その最中の状況というのは鮮明に覚えている。

 

今でも覚えているのは小学2年の頃に、じいちゃんが将棋に興味を示した俺に将棋を教えてくれた時であった。

 

 

確か、8月の中旬、もちろん小学生は夏休み真っ只中。

 

夏休みとは言えども一緒に海とかに遊びに行くような友はおらず、普段はじいちゃんの家に遊びに行くのが夏休みの日課だったと記憶している。

 

毎朝9時には家を出て、田んぼだらけの道を通り、じいちゃんの家に遊びに行き、勝手に書斎に入っては本を取り出し意味もわからず読むのが俺の夏の風物詩だった。

 

そんな中、じいちゃんが知り合いと将棋を指しているのを見てじっと見ていたら

 

 

「おお!勇人かどうした?」

 

「それ、なに?」

 

「これか?『将棋』と言うんだよ。この『駒』と呼ばれるものを使ってだな王様を取った方が勝ち、っていうゲームだよ」

 

「じゃあ、どっちが勝ってるの?」

 

「はっはっ!これを見てどう思う?」

 

「おじちゃんが勝ってる」

 

 

当時、よくルールが分かっていないのにどちらが優勢が分かるのだから相当ひどかったのだろう。

 

 

「勇人くん、馬鹿にしちゃダメだよ。これはね、隙だらけに見せる事で相手を困惑させるこの爺さんの得意技なんだよ」

 

「そうだ。お前がよく読む三国志の諸葛亮も使ったんだぞ?」

 

「おお!すごいんだね!?」

 

 

子供特有の無邪気な声が響いた後、

 

 

「参った」

 

「おや、もういいのか?手はまだあるだろ?」

 

「はっはっ!158敗目に1敗加わっただけだ。それよりも、可愛い孫の相手をしてやらんといかんだろ?」

 

「そうだな」

 

 

「どうだ?勇人もやるか?」

 

「うん!」

 

「お前より私が教えた方がいいだろ?」

 

「なぁに言ってんだ?わしの孫に教えるのはわしに決まっておろう!」

 

「お前の空城の計は勇人くんには難しいんじゃないか?」

 

「フフ、わしの孫にかかればあっという間に習得してしまうから問題ない!」

 

 

明るく野太い声が、広々とした部屋に響き渡った。友がいない俺でも夏休みはこうして楽しく過ごす事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

久々の対局を負けで飾った俺は衣玖さんの言葉が頭から離れなかった。

 

 

「貴方は本当に人間なのですか?」

 

 

言わずとも俺は人間だ。確かにじいちゃんは神様だが、それは"元"である。両親だって普通の人間だ。現代世界で普通に産まれて、普通に成長し、普通に生きてきた。疑う余地なんてない。

 

 

「では、何故、そんなにも強いんです?どうして、それほどの霊力を持ち合わせているのです?」

 

 

修行の成果、としか言いようが無い。魔王の魂たるものがあるかもしれんがはっきり言ってあれは何処ぞの奇妙な世界の石仮面のような代物ではない。人間をやめてなんかいない。

 

 

「なんでそんな事を聞くんです?」

 

「いえ、人間が能力をお持ちなので」

 

「そんな事を言ったら、霊夢や魔理沙、早苗とか咲夜とかどうなるんですか?」

 

「霊夢さんや早苗さんは巫女という人間の中でも特殊な分類故に能力は持ち得ます。それに魔理沙さんはあくまで魔法が使える人間です」

 

「じゃあ、咲夜さんは?」

 

「彼女はあらゆる事が謎、ですからね。なんとも言い難いです」

 

「なら、俺だってじいちゃんは元とは言えども神様です。能力を持ってもおかしくはないでしょ?」

 

「…………貴方の空気が他の人とは違うんです」

 

「…………は?」

 

「詳しく表現できないのですが、でも貴方は他の人とは違うんです」

 

「そう言われても、確かに普通の人として産まれて生きてますし…………どこもおかしいとは言われたこともないし…………」

 

「それ、証明できますか?」

 

「え…………戸籍もあったし、何より親がいるのに違うと言われても…………」

 

 

 

 

 

「これまでの記憶を振り返って、それを証明できますか?」

 

 

この言葉が頭から離れない。俺が人間である事は揺るぎない事実のはずである。でも、一方で衣玖さんの言う通りに証明ができない。

 

思い出せないのだ。昔の記憶が。まぁ、アルバムとかを見れば1発なのだが、その思い出せない感じが少しおかしいのだ。

 

なんというか、こうスパッと記憶が無い。小学校の入学式は記憶にあるのだが、卒園式の記憶が無い。そもそも、保育園だったのか幼稚園だったのかすら分からない。また、家族の口からその時期の話を聞いた事が無い。

 

そこがどうにも引っかかるのだが…………まぁ、アルバムを見ればすぐに解決するか。最悪、じいちゃんにでも話を聞けばいい。

 

そう高を括って、家への帰路についた。

 

 

 



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第92話 疑問の日の青年

衣玖さんと別れ、彼女の「本当に人間なのか?」という問いに対し、絶対的な答えを持っているはずなのにモヤモヤしたまま、家までついてしまった。

 

 

「はぁ…………」

 

 

玄関の戸に手をかけ、思わずため息が出てしまう。はっきり言えるはずだろう。「俺は人間だ」と。はっきりと言えるはずなのに疑っている自分がいるような気がする。

 

 

「はぁ…………」

 

 

もう一度ため息をついてから戸を開いたところで、俺は思わず目を見張った。

 

見慣れたはずの部屋なのに、着物姿の女性が佇んでいたからだ。

 

紅の着物を見に包んだ人影は、殺風景な部屋に紅葉が訪れたような、それで幻想的な姿であった。一瞬、家を間違えたのかと思い外に出て確認したが紛れもなく我が家だった。振り返ったのは、早苗だった。

 

 

「お、おかえりなさい」

 

 

肩越しに振り向く姿も美しい早苗が、驚いて唖然としている俺を見るとすぐに頰も真っ赤に染めた。

 

 

「ど、どうした?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「いやいや、謝る事はないよ。よく似合ってるし…………綺麗だよ」

 

「き、綺麗!?」

 

 

思わず口から出た言葉に、さらに早苗は紅くなる。

 

照れを隠すように足元の小物や小箱を片付けながら、早苗は答えた。

 

 

「ゆ、勇人さんのおじいさんに何回か会ってお話をしてもらったりしてたんです」

 

 

早苗が話すには、俺が天子の教師役を引き受けた日から度々、じいちゃんに会い思い出話をしていたと言う。無論、俺のことも話してたそうだ。

 

 

「ふむ…………俺は最近じいちゃんと過ごす時間がなかったからなぁ。俺の代わりに仲良くしてくれてありがとな」

 

「いえいえ、おじいさんが勇人さんのいろんな話をしてくれるものですから、ついつい楽しくなっちゃったんです。その中でこの着物のお話もしてくださったんですが…………」

 

 

早苗は言いながら帯を解こうとする。

 

 

「せっかく着たんだから、慌てて片付けなくてもいいよ。それにしてもいい着物だな」

 

「これ、勇人さんのおばあさんのものなんですよ?なんでも向こうでは忘れられたものになったらしく、ここに流れ着いておじいさんが仕舞ってたそうです」

 

「…………そうか」

 

「あ、ごめんなさい…………」

 

「いや、いいんだ。それに着物は着るからこそ長持ちするんだ」

 

「そう、ですか…………でも、無理しなくてもいいんですよ?」

 

 

確かにおばあちゃんに成長した姿を見せることなく、ここに来てそのまま見せる事が永遠に叶わなくなってしまった。悲しくないわけがない。

 

だからこそ、見えないところでも頑張っていかなきゃダメなんだ。

 

 

「元の世界に帰りたくなったんですか?勇人さん」

 

 

そんな心情が伝わってしまったのか気遣うように俺に聞く。俺は笑顔を作って、

 

 

「俺に帰る場所はここだ。ここ以外に居場所なんてないさ」

 

「会う、だけでもいいんじゃないんですか?」

 

「もう戻らない、って決めたんだ。今更変える気はない」

 

「相変わらず自分には厳しいですね」

 

「そうでもないさ」

 

「でも、1人で抱え込むのはなしですからね?」

 

「ああ、善処する」

 

 

すると、玄関の方から声が聞こえる。

 

 

「勇人さん、いますか?」

 

 

言うまでもなく、妖夢だ(勝手に入ってくるから)。

 

「お邪魔します」と一声言ってから、部屋の戸が開き、妖夢が顔を出した。すぐに目の前の早苗を見、目を丸くする。

 

 

「さ、早苗さん、その格好は?」

 

「勇人さんのおじいさんにもらいました」

 

「とてもお似合いですよ!私も欲しかったな…………

 

「で、要件は?」

 

「あ!最近、またお忙しいそうなので夕餉を作りに」

 

「わざわざ来てくれたのか…………」

 

 

にこりと笑う妖夢に若干申し訳ない気持ちが…………

 

その後ろにはうさ耳が特徴な鈴仙が立っていた。

 

 

「途中で会って、一緒に行くことになりまして…………」

 

「来てくれるのは嬉しいが、そんなにおもてなしはできないぞ?」

 

「いえ!勇人さんに会いたいだけでしたので」

 

「お、おお…………」

 

 

はっきりと言う鈴仙は早苗さんの姿を凝視する。

 

 

「この着物が気になるのか?」

 

「い、いえ、別に…………」

 

「羨ましいんですよ。私だって着てみたいんですから」

 

 

なるほど、女性というのは着物に憧れるものなのか。

 

 

 

「まぁ、2人とも可愛いんだから着物はきっと似合うんだろうな」

 

「かわっ!?」

 

「えへへ…………可愛いって…………」

 

「はいはい、私は食事の支度をしますね」

 

「いや、俺がするよ。いつも悪いからな」

 

「なら、2人で…………」

 

「わ、私も手伝います!」

 

「わ、私も!」

 

「…………」

 

 

結局、3人に任せることとなった。

 

 

「あ、そうそう。妖夢」

 

「なんでしょうか?」

 

「明日、白玉楼に行こうと思うんだが」

 

「! ええ、是非!」

 

「そこでなんだが、じいちゃんに聞きたい事があるから白玉楼にいてくれた伝えてくれ」

 

「聞きたい事ですか?どんな事ですか?」

 

「それは男の秘密だ」

 

「どうしてもですか?」

 

「ああ」

 

「分かりました。伝えておきますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

俺は白玉楼の縁側にてじいちゃんと将棋を指していた。俺はじいちゃんに今まで一度も勝ったことがない。とは言っても小学生の頃しか対局したことがないのだが。

 

 

「珍しい日もあるんじゃな。お前さんからわしのところに来るなんてな」

 

 

パチっと音を立て、駒を進める。

 

 

「理由は妖夢に聞いてるだろ?」

 

 

奪った歩兵たちを手の中で弄びながら言う。

 

 

「そうじゃの。それにしても、お前さんもここまで強いとはな。わしの連勝街道に土をつけられそうだわい」

 

 

俺は顔を上げずに盤上を見つめる。そして、そのままの姿勢で呟くように言った。

 

 

「…………俺って普通の人間なのか?」

 

「どういうことじゃ?」

 

 

やっと顔を上げじいちゃんを見つめる。いつものような飄々とした面持ちだが、その目の奥には奇妙な陰りが見えた。

 

嫌な予感がする中、続けた。

 

 

「衣玖さんに言われたんだ」

 

 

 

 

 

「俺が他の人とは違う空気だって」

 

 

その時、微かにじいちゃんの眉が動いた。

 

 

「俺は普通の人間だって言ったんだ。そうしたら、記憶で証明できるか?ってさ。で、調べたんだけど俺の持ってるアルバム、小学生からしかないんだ。記憶も小学生からしかない。そこでじいちゃんに聞こうと思って」

 

「…………何を言ってるんじゃ?お前さんは正真正銘、普通の人間じゃろ」

 

「なら、なんでこんなにも霊力があるんだ?なんで能力があるんだ?普通の人間がこんなことあるのか?」

 

「…………幻想郷では普通の人間からでもありえない話ではない」

 

「俺は幻想郷の人間じゃない」

 

「……………」

 

「だから…………」

 

 

 

 

「じいちゃんが証明して欲しいんだ。写真くらいあるだろ?なんなら思い出話も…………」

 

 

じいちゃんの手が静かに駒を進める。

 

 

「安心しろ。お前さんが人間ということはわしが保証する」

 

「無いの?」

 

 

その一言にじいちゃんは黙り込んだ。

 

 

「なら、お前さんを人間以外になんという?わしは…………」

 

「王手」

 

 

俺の手が駒を進めた。今までの中で最高の一手だった。わずかに動揺したじいちゃんはすぐさま、王を逃す。

 

 

「わしはお前さんが人間以外のものとはとても考えられない」

 

「王手」

 

 

考えられない、それが本心なのか偽りの言葉なのかすら分からない。

 

 

「勇人、お前さんは人間じゃ」

 

 

きっぱりとそう言った。

 

 

「すまんが、写真とかはこの幻想郷には持ってきてなくての。だが、お前さんは確かにお母さんから産まれ、育った」

 

 

「だけど、俺には記憶がない」と、言おうとしたが、口からは出なかった。飛車を握る指が微かに震えた。

 

 

「安心したよ」

 

「勇人…………」

 

 

じいちゃんの肩が緩む。

 

 

「俺もまだ捨てたもんじゃないね」

 

 

飛車をじいちゃんの王の前に置いた。

 

 

「俺だってじいちゃんに勝てるらしい」

 

 

王手、と言い、2度目の渾身の一手を放つ。じいちゃんと指した中で、本当に最高の一手、勝負を決める一手だった。

 

 

「本当に安心したよ」

 

 

 

 

「前より不手際な将棋を指すじいちゃんじゃあ、心もとないが…………」

 

「勇人…………」

 

「だけど、本当に安心したよ…………」

 

 

証明できるものはこの幻想郷には何もない。だから、じいちゃんの言うことを信じるしかない。

 

今まで背中を追いかけてきた人だ。きっと、まだ追いかけても問題あるまい。

 

 

俺はその場を去り、家に帰ろうとした。だが、一歩を踏み出そうとした瞬間

 

 

「ぬぉ!?」

 

 

地面が消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の一室で、幽々子さんと紫さんが将棋盤を囲んでいる。

 

俺は紫さんのスキマによってここに召喚されてしまった。

 

古びた将棋盤を挟み、妖怪の賢者と亡霊が向かい合っている様はなかなか奇妙なものである。

 

「勇人くん、いつもお疲れさん」

 

 

クスクスと扇子で口元を隠しながら幽々子さんが言う。

 

ちらりと将棋盤を覗き込んで、また当惑した。

 

 

「挟み将棋?」

 

「ええ」

 

 

盤上には18枚の歩が入り乱れている。

 

 

「最近、将棋が流行ってるじゃない?だから、私たちも、ね?」

 

「そうよね、幽々子。かれこれ五千戦くらいかしら?」

 

「何を言ってるのよ。今回が初めてじゃない」

 

 

苦手な人トップ3のうちの2人を真面目に関わると疲れるので話題を変える。

 

 

「で、なんでここに?」

 

「もうそろそろ、故郷が恋しくなってくる時期でしょうから、少し気を利かせてあげようとね?」

 

 

細い指で歩を進めながら、

 

 

「少しくらいその気持ちをどうにかしてあげようと思ってるのよ」

 

「嬉しい限りですが、もう戻る気はありませんよ?」

 

「違うわよ。貴方をもう幻想郷から出す気は無いわよ」

 

「は、はい…………」

 

「昔のことを思い出せるように、写真を取り寄せたのよ。ありがたく思いなさいな」

 

 

とアルバムを渡される。開いて見てみると、そこには赤ん坊の写真や幼児の写真があった。これ、全て俺か!?

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「別にそのくらいは造作にも無いわ」

 

「本当にありがとうございます!」

 

 

アルバムと紫さんの姿を交互に見ながら言う。

 

 

「それじゃあ、用はこれでおしまい。じゃあね〜」

 

 

再び地面が消失する。

 

ズドンと、尻から落ち痛みに涙が滲むがそんなことよりこのアルバムだ。

 

 

「…………やっぱり、人間じゃないか!ちゃんとお母さんから産まれて育ってる!」

 

 

なんだか、今まで悩んでたことがバカらしくなってきた。だが、もうこれで安心だな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幽々子、これでいいのかしら?」

 

「ええ、あの人はそれでいいって言ったから」

 

「はぁ、あの人は何を考えてるのやら…………わざわざこんなの作って勇人に渡せって」

 

「私にも分からないわ。勇人が何者なのか、もね」

 



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第93話 萌芽の日の青年

縁側で1人の老人がポツンと座っている。膝元には勝敗が決した後の将棋盤がある。

 

老人は将棋盤を片付けようともせず、ただ将棋盤上の駒を眺めるのみ。

 

かつて王がいたところの周りには、飛車や成金たちが並び王の周りを囲っていた。

 

角行、銀将、桂馬…………。多くの自軍の駒が敵に渡ったものだな、としわがれた声で呟く。

 

 

「まったく…………勇人も成長したのよう…………」

 

 

孫の成長を喜ぶ姿はまさに普通の老人。だが、同時に老人の表情はどこか懐かしみを含んでいた。

 

1人の女性が縁側に足を踏み入れ、その老人と向かい合うように座る。

 

 

「おぉ、幽々子か。見てくれ、孫と一局やったのじゃが…………完敗じゃったわい」

 

「ふふ…………楽しそうでなによりね」

 

「無論じゃ。孫と過ごす時間が楽しく無いわけがないわい」

 

「…………孫、ね」

 

 

そう意味深長に幽々子は呟く。その呟きを聞き、老人は目の色を変える。

 

 

「…………なんじゃ?」

 

「いいえ、わざわざ作ったアルバムを孫に渡すことを不可解に思ってないわ」

 

「はて?作った、とは?」

 

「だって、貴方、ここに来た時はアルバムどころか何一つ持たずに幻想郷に来たじゃない。それに外界に出たのも一度もないわよね?」

 

 

そう言い、微笑を隠すかのように扇子を広げる。しかし、眼は何かを探るかのような眼をしている。

 

 

「…………はは!なぁに、昔を思い出せん孫にわしの記憶を使って思い出を思い出させようとしただけじゃ」

 

「あら、そう。なら良かったわ」

 

 

と再び微笑する。しかし、すぐにその微笑はなくなり、

 

 

「でも、隠し事は長く隠し通せないものよ?必ずボロが出るわ」

 

「何が言いたい?」

 

 

そこにいる老人は先程の孫思いの老人の面影はなくなり、かつての神であった時の威厳が滲み出ていた。

 

 

「最近、紫と話したのよ。勇人について」

 

「…………」

 

「妙なのよね。彼の雰囲気が。本人は至って普通のつもりでしょうけど」

 

 

「誰かと雰囲気が似てるのよ…………そうそう!諏訪子とか神奈子とか…………昔の貴方とかね?」

 

「ほうほう、つまりはこう言いたいんじゃな?勇人も『神様』じゃないのか、と?」

 

「違うわ、確かに貴方達と似てるとは言ったけど…………何かが違うのよ。決定的な何かが」

 

「よく分からんのう。なんせ、わしがすでに人間となった後に出来た孫だからな」

 

「まぁ、いいわ。今はこちらにも証拠となる切り札が無いのよね。何か企んでるなら、紫がただじゃおかないわよ?例え、貴方でもね?」

 

「…………そうかいそうかい。じゃが、身に覚えが無いから心配は必要なさそうじゃな」

 

「…………そう」

 

 

と言い、幽々子は立ち去った。それでも老人はその場からは動こうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「フッ、フヒッ、ヒヒヒヒ…………」

 

 

なーんだ?この変な笑い方は?…………俺なんだがな。

 

今、飛びながらアルバムを見ているのだが…………あまりにも面白くてつい、笑ってしまう。

 

いやぁ…………変な笑い方だとは自覚はしている。癖なのか笑う時には口を閉じて笑ってしまうためこのような笑い方になってしまうのだ。

 

一度みんなの前でこの笑い方をしてしまい思いっきり引かれた。普段でさえ、無口で根暗そうな子なのにそんな笑い方をしたらねぇ…………それ以来、笑う時は意識して口を開けるようにしている。

 

だが、1人の時は気にしなくてもいいのでこんな笑い方になる。誰かに見られたら恥ずかしいな。

 

 

「気持ち悪い笑い方ですね」

 

 

ここ最近聞き慣れた声が降ってきて、俺は上を向く。衣玖さんである。

 

 

「…………いつからいたんですか」

 

「アルバムを開いたところからですかね?」

 

「…………この笑い方は内緒に」

 

「ええ。一つの貸しとしましょう」

 

 

本当に空気を読んでるのか?と言いたくなるが空気を読み、分かった上でやってるんだからタチが悪い。

 

 

「あ、このアルバムで俺にはちゃんと人間だったということが証明されましたね」

 

「そういうことにしておきましょう」

 

 

しておくって…………まぁ、負け惜しみだな。

 

 

「まぁ、これからも総領娘様のことお願いしますね」

 

「それなりに頑張るよ」

 

 

そう言うと、衣玖さんは方向を変え、彼方へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

また、宿題の答えを写しているかもしれない。

 

その疑いをかけているのはもちろん天子である。

 

最近、真面目にやっているなぁ、と感心していた矢先だった。とりあえず、俺は天子に問い詰めるために天界へと向かった。

 

だが、天界では天子の姿は確認できず、しばらく探し回ると衣玖さんに出会い、

 

 

「総領娘様はまだ帰ってきてませんよ」

 

 

と言われたので、寺子屋に戻った。寺子屋の中では話し声が飛び交うがその中に天子の声が聞こえたので、その声のする教室で天子を見つけて、俺は軽く目を見開いた。

 

いつも我儘な天子が、チルノと大妖精と差し向かい、宿題をしていたのだ。天子とチルノの宿題は同じなのだが、天子は自分のをやらず、チルノと何やら話している。

 

疑問の目を向ける俺に、慧音さんがそっと囁くように言った。

 

 

「最近、天子も馴染んでチルノ達と仲良くなったんだ…………」

 

 

これまた、面白い組み合わせだな…………

 

 

「どういうきっかけなんです?」

 

「チルノと大妖精はいつもここに残って宿題をしているんだが、それをたまたま天子が見てだな、そこから一緒に宿題をするようになったんだ」

 

「どうりでチルノの宿題の答えがちゃんとし始めたのか…………」

 

「そうだな、私の授業もしっかり理解し始めたようだしな。天子は意外と教え上手らしい。大妖精も言ってたよ」

 

 

理解し始めてるとは言ってもまだ、見た感じ、チルノの宿題はまだ半分も終わっていない。ついには筆を置いてしまった。

 

天子の声が聞こえる。

 

 

「ほらもう少し頑張りなさい。先生の話を思い出して」

 

「うう…………」

 

 

再び考え始め唸るチルノを見て、天子はおもむろに何やらメモが書かれた紙を取り出し、チルノに渡した。

 

 

「今日の授業のポイントよ」

 

 

ここはこうでと説明し始める姿に、チルノは真面目に聞く。それから、置いた筆を再びとって問題を解き始めた。

 

 

「どう?解けそう?」

 

「うん」

 

 

しかし、数問解いて、すぐに筆が止まる。すると、今度は、何か書き始めた。

 

 

「ここはこんな風に解くのよ。簡単でしょ?」

 

 

いつものような人を馬鹿にした顔ではなく、教える側としての真面目な顔である。

 

 

「おお!てんしって頭いいんだな!」

 

 

そう言いさらにチルノは筆を進めた。

 

そんなチルノの姿を、天子は微笑みながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「意外だな」

 

 

教室から出てきた天子は、俺の声に大げさなほどビクッと肩を震わせ驚いた。

 

 

「教えながら解いたのなら、そりゃあ、計算の跡も無いわけだ」

 

 

俺の声に、天子は決まりが悪そうな顔をする。

 

 

「な、何よ」

 

 

チルノに教えてたような顔ではなくなったが前のような雰囲気もなくなった。

 

 

「別に。少し驚いただけだ。小さい子とか好きなのか?」

 

「か、可愛いとは思うわ。そ、それだけよ!」

 

「の、割には随分と丁寧に教えるんだな。というか俺の授業をしっかり聞いてたのが驚きだ」

 

「…………貴方の授業が面白いのよ

 

「ありがとさん」

 

「な!べ、別に、貴方の授業なんか面白く無いわよ!」

 

「はいはい」

 

 

一度口を閉じた、天子が思い切ったように言った。

 

 

「ほっとけないのよ」

 

 

これまた意外な言葉が出てきた。

 

これまでの傍若無人な態度からは考えられない。が、よくよく考えてみれば天界で暮らし、頼られる事のない彼女にとってこういう事は新鮮だったのかもしれない。

 

 

「私って天界に住んでるから、苦労する事なんて無いのよ」

 

「…………羨ましい事だな」

 

「私からしたら貴方が羨ましいわ」

 

「俺が?ただ忙しいだけだぞ?」

 

「そうね。この呑気な人里で貴方は一人アホみたいに仕事して、疲労でひどい顔になって…………でも、色んな人に信頼されて、忙しそうなくせにどこか楽しそうなのよ」

 

 

俺はすぐには返答できなかった。

 

 

「誰かに頼られるのも悪く無いわね」

 

「そうだな。こりゃあ、俺がお前の先生をしなくても良さそうだな」

 

 

そんな事を言うと、天子は、にわかにしょんぼりと肩を落とした。

 

 

「ま、ここに来るかどうかはお前の自由だがな」

 

「…………!!」

 

「でも、寺子屋を壊すのは無しだからな」

 

 

と言い、教室を出た。

 

 

「ありがとう」

 

 

そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

慧音さんの淹れてくれたお茶を飲み込み、ふぅと息を吐いた。

 

寺子屋の日誌を書きながらも、天子の意外な側面を見れて嬉しかったりする。根まで悪童ではなかった。寧ろ、良い子の可能性すらある。

 

これを機にチルノの点数が伸びる事を祈りつつ、ふと慧音さんの日誌が視界に入り、何気なくその日誌を開いた。寺子屋が始まった時からの記録が、慧音さんらしい生真面目さで、詳細にわたって書かれていた。

 

寺子屋が始まったばかりは上手くいかなかったようで、その時の悩みが書き連ねられている。一時期は生徒すらいないと言う状態に陥っていたようだが、少しずつ生徒が増えていったらしい。

 

しばらく日が経つと、自分の授業がつまらないらしい、とか、寝ている生徒が多いなどの悩みが増えて来ていたが、ある日を境に生徒が増えた、とか楽しいと言ってくれるようになったとか明るい情報が増え始めていた。その日が、俺が教師として来た時期だったので思わず苦笑が漏れた。

 

 

「人のを勝手に読むのは感心しないぞ」

 

 

不意に肩越しに、慧音さんから声をかけられた。

 

 

「読まれるのも恥ずかしいんだぞ?」

 

「いえ、やっぱり慧音さんは生徒さん達をしっかり見ているんだなぁって思ったところです」

 

 

俺の減らず口にも、穏やかな笑顔で隣に腰を下ろした。

 

 

「お前だってよく見れているじゃないか。お前の日誌には一人一人の生徒の得意不得意な所の情報、性格とかが事細やかに書いていた。大したもんだよ」

 

「慧音さんこそ勝手に呼んでるじゃないですか」

 

「フフ、そうだな。これでおあいこだ」

 

 

と言いながら、慧音さんは自分の日誌にまた今日の事を書き込んでいた。

 

俺はその横顔を見ながら、呟くように言った。

 

 

「でも、生徒の知らない所もたくさんあります」

 

「そうだな、生徒の事をよく知る事は大事だが、全て知る必要は無いさ」

 

 

「人には他人が知らない自分、自分すら知らない自分がいる。それを全部知るのは不可能だ。でも、生徒が大切なのには変わりは無い」

 

 

と芯の強い声が答える。俺は返す言葉がなく、ただ敬服するのみだ。

 

 

「生徒さんが大事なのは俺も同じです。でも、自分自身も大切にできませんとね」

 

「はは、それもそうだな」

 

「ということで、自分を労わるためにも今日は帰ります。お疲れ様です、慧音さん」

 

「ああ、お疲れ様」

 

 

立ち上がり、扉へと向かおうとした矢先、視界が右へと傾いた。まるでスローモーションかのように、視界がゆっくりと傾いていく。

 

 

「勇人…………?」

 

 

声が聞こえた、気がした。

 

 

「…………!」

 

 

倒れたと気づく頃には視界が黒くなり始めていた。



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第94話 予兆の日の青年

少し投稿が遅くなってしまいました。すいません。




俺が倒れた。

 

誰もが予想だにしなかった。俺も予想してなかった。

 

夕方の寺子屋で突然倒れたものだから、大騒ぎである。

 

慧音さん曰く、ひどい熱で、意識は朦朧としていた状態であったそうだ。いつの間にそんな熱が出ていたのか、自分自身一向に気づかなかった。

 

兎に角、俺は永遠亭に運ばれ、永琳さんに薬を処方してもらって、何とか落ち着きを取り戻したのが夜遅く。鈴仙が泣きそうな顔で看病してくれたのが記憶に残っている。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

 

永遠亭で一晩過ごした後の朝、俺は何もする事かなく、ただ天井を眺めていた。

 

すると、ドアのノックする音が聞こえ、入っていいかしら、という声が聞こえた。

 

 

「いいですよ」

 

「失礼するわ」

 

「ただの過労ですか?」

 

「そうね。体力が落ちた時に、風邪をこじらせたという感じね。とりあえず、1日2日は入院しなさい」

 

「んー、最近はそんなに無理してないと思うんですがね…………」

 

 

週2日の休みが入ってからは割と負担が少なかったと思うんだが。

 

 

「気づかないうちに疲労は溜まっているものなのよ。それに鏡見てから無理してないと言いなさい」

 

 

と鏡を渡される。そこには死人の様に真っ青な顔の自分が映っていた。

 

 

「うわっ…………幽霊みたいな顔に…………」

 

「分かったかしら?貴方は相当疲労が溜まっているのよ」

 

「うーん…………」

 

 

風邪をひいたにしては、それ程倦怠感を感じていないし、頭痛や鼻水などの風邪らしい症状がない。せめて、熱ぐらいか。ていうか、今も普段とあまり変わらない様なぐらい体調の悪さを感じない。

 

 

「取り敢えず、解熱剤を処方しておくわね」

 

「分かりました。でも、変な薬は飲ませないでくださいよ?」

 

「病人にそんな事は流石にしないわ。元気な時にしかしないわよ」

 

 

医者、もとい薬剤師とは思えないような暴言を微笑を交えながら、

 

 

「ま、本当に無理はしないでね。鈴仙が心配するわ」

 

 

と俺の頭をぽんぽんと叩き、去って行った。

 

それと入れ替わる形で入ってきたのは、まさかのじいちゃんだった。

 

どこからか連絡を受けて駆けつけたらしい。いつも、ニコニコしている顔は今回ばかりはいくらか血の気がない。

 

 

「大丈夫か?」

 

「ああ。過労、だってよ。そんなに疲れてないはずなんだけどなぁ…………」

 

「じゃが、ゆっくりするのだぞ?」

 

「分かってる、分かってる。下手に動いたら永琳さんに何をされるか分からないし」

 

 

これは冗談抜きで何をされるか分からない。入院期間が延びるのは確実だが。

 

 

「………………」

 

 

しかし、今回のじいちゃんはどこかおかしい。基本的に楽天家なじいちゃんなのだが、今日ばかりはその面影はなく、どこか思いつめたような、影のある顔だ。

 

 

「じいちゃん」

 

「………………」

 

「じいちゃん!」

 

「ぬぉ!?おぉ…………すまん、すまん。ついボーッとしておったわい」

 

「何かあったのか?今日のじいちゃん、変だぞ?」

 

「何かあったも何も、孫が倒れて平気なジジイがおるか」

 

 

 

 

「わしはずっと心配してたんだぞ」

 

 

じいちゃんの手が伸びて、俺の頭を撫でる。

 

 

「事情があったとはいえ、人との交流が苦手なお前さんを残して逝ってしまう事を。別にお前さんの両親を信用していないわけじゃないぞ。でも、わしはお前さんが成長する過程を見ておきたかった」

 

「もともと、たくさんの人とワイワイ過ごすより少人数で静かに過ごしたい性分だ。別に人と交流が得意じゃなくても問題ないよ。それに友達が壊滅的にいないわけでもなかったし」

 

 

我ながら苦しい言い訳にじいちゃんは少しながら微笑んだ。

 

 

「そうだ、今度守矢神社で宴会をやる予定なんだ。せっかくだからじいちゃんも参加してよ」

 

 

「本当の事を言うと、お前さんがここに来てくれて嬉しい」

 

 

 

「お前さんが外の世界で死んだ者として、ここにいる事を決めた事が嬉しい。本来なら祖父ならばそう思ってはいけないのじゃろうが。なんせ、孫が死んで嬉しいと言っているようなものじゃからな」

 

 

すっかり白くなった髪を掻きながら、告げた。

 

 

「お前さんとは何年も会えずここにいた。じゃが、今じゃこんな風にゆっくりとお前さんと過ごせる」

 

 

 

「皮肉なもんじゃな…………こんな幸せな時間がお前さんの死によって得るなんて…………」

 

 

その声はどこか、寂寥が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、起きてるの?」

 

 

ベッドの上で身を起こしボーッとしていた俺に、永琳さんが声をかけた。

 

 

「いやぁ、じいちゃんの言葉が少々…………」

 

 

俺は何て気楽でいたのだろう。

 

まだ、外の世界にいた時のじいちゃんは見上げていたのが、ここに来ると、同じぐらいの目線になっている。

 

俺の事をずっと考えてくれてたじいちゃんに対して俺はどうだ?ここにいると決めた時、あまりにも短絡的に考えていたのではないか?残された人の事を考えてたか?

 

今の俺は幸せなのかもしれない。でも、それは不幸によって生まれた皮肉な幸福だ。その不幸自体、自業自得に近いものがある。しかし、自分自身の不幸だけではない、周りの不幸も踏まえて今、幸せなのだ。それって、幸せなのか?

 

 

「俺って幸せでいいんですかね…………」

 

「?」

 

「幻想郷に来てからは外の世界の時よりも、人と話せますし、やりがいのある仕事もある。ちょっと、幸せ過ぎませんかね…………外で親が家族が友人がどんな思いをしたのかも知らずに」

 

「そうね、私も月の都から逃げて、こんな所にいるもの。弟子を残してね」

 

「えっ」

 

「正直、申し訳ないとは思ってるわ」

 

「…………やっぱり、そうですよね」

 

「でも、それは自分が幸せになってはいけないという理由にはならないわ」

 

「!!」

 

「言いたいのはそれだけ。早く寝なさいな」

 

 

そう言い残し、永琳さんは病室から出た。

 

俺は外の景色を眺めた。夜空には月と静寂があった。

 

そんな中、俺は永琳さんの言葉が脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 

「あれ?景色が霞んで見えるなぁ…………」

 

 

泣いているのかな?目を拭うが涙は出ていなかった。やっぱり、疲れてるみたいだ。少し、眠ろう…………

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

 

「スゥー…………スゥー…………」

 

 

目が覚めると、俺のベッドて妖夢がうつ伏せとなって寝ていた。

 

周りを見れば、早苗や鈴仙も椅子に座ったまま寝ていた。みんなわざわざ…………

 

すると、ドアが開き、永琳さんが顔を出した。

 

 

「あ、おはようござ「やっと起きたわね…………」え?」

 

 

やっと起きた?ドウイウコッチャ?

 

 

「体調は?どこかおかしなところは?」

 

「別に…………いつも通りですが」

 

「…………本当に?」

 

「はい」

 

「なら、良かったわ。てっきり、死んじゃうかと」

 

 

……………………んん?

 

 

「それじゃあ、私は」

 

「え、あ!ちょっと!」パタン

 

 

言い終わらぬうちに出て行ってしまった。そんな俺の声で目覚めたのか、妖夢が可愛らしい欠伸とともに目を覚ました。

 

 

「ふあぁ…………」

 

「おはよう、妖夢」

 

「おはようございます…………勇人さ…………ん!?」

 

 

一瞬、妖夢は驚いたような顔をしたかと思えば、いきなり

 

 

「勇人さん!!」

 

 

と思いっきり抱きついてきた。

 

 

「うぉ!?ど、どうした?妖夢」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

 

もはや、半泣きの状態で妖夢は聞いた。

 

 

「大丈夫もなんも…………この通り、元気だが…………」

 

「本当に大丈夫なんですね!?死んじゃわないですね!?」

 

「おお、お、落ち着け!まだ、死ぬには若いから!」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「本当だ、本当。ただの過労だって」

 

「だ、だって、勇人さん3日間、目を覚まさなかったんですよ?」

 

「え?」

 

 

永琳さん曰く、突然、高熱に襲われ危険な状態に陥ったと言う。あまりにも突然で鈴仙が夜俺を訪れなければ最悪死んだ可能性もあると言われた。しかしながら、当の本人である俺は今はピンピンしてるし、高熱が出たとは思えないくらいに元気だ。いや、寧ろ力が湧いてくる気が…………

 

 

「ああ…………本当に良かった…………」

 

「う、うむ…………心配かけたな」

 

「あ!勇人さん!」

 

「え?ああ!目が覚めたのね!?」

 

 

早苗と鈴仙も目を覚まし、俺に飛びついてくる。

 

 

「大丈夫だったんですね!」

 

「フガッ!?」

 

 

早苗が頭を掴み抱きしめる。そのせいで…………その、あの、こう豊満な…………

 

 

「ムグッ!?」

 

 

こ、これは幸せなのか…………だが、命の危機が…………

 

 

「さ、早苗さん!勇人さんが窒息しかけてます!」

 

「ああ!ごめんなさい!」

 

 

幻想郷はやはり朝から賑やかだ。でも、そういうのが幸せ、なんだろうなぁ…………

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「あらぁ、月の賢者さんもあろう方が悩んでるのかしら?」

 

「…………紫ね。何の用かしら?」

 

「勇人君が危険な状態だって聞いたからお見舞いに来ただけよ」

 

「なら、部屋を間違えてるわ。ここには彼はいないわよ」

 

「知ってるわ。今、彼お取り込み中だもの。そんな時に難しいかおしてる貴女を見つけて、ね?」

 

「なんで、悩んでるのかは知ってるのでしょう?」

 

「ええ…………勇人の事でしょう?」

 

「言わずとも、ね。本当に彼、人間なの?」

 

「さぁ…………私には判断しかねるわ」

 

「そもそもがおかしいのよ。ただの人があれだけの霊力を持ち、姫様に匹敵、それ以上の能力を持つなんて」

 

「それに、あれだけの熱を3日間も出しときながら、突然ケロッとしてるなんて、化け物か何かかしら?普通の人間であれ程の熱を出した者はみんな死んだわよ」

 

「そうね。みんな、忘れてたかもしれないけど人間って基本的に弱いのよね」

 

「強い人間ーー霊夢は博麗の巫女という例外的な人間。魔理沙は魔法を使えるけどそれ以外は普通。早苗は諏訪子子孫だったりするし、咲夜はそもそもが謎、ね」

 

「でも、勇人はどこを取っても本来ならば普通の人間って言いたいのかしら?」

 

「ええ、でも、稀に見る霊力を備え、規格外の能力も持つ。おかしな話よね」

 

「でも、あの爺さんが何かしたのならありえる、とでも言いたいのかしら?」

 

「話が早くて助かるわ〜、後はもう何も言わなくてもいいわね?」

 

「ええ、貴女が何を企んでるかは大体分かったわ」

 



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第95話 復帰の日の青年


贔屓の野球チームが連勝して、ご機嫌です。

後、広島の呉市に行ってまして少し投稿が遅れました(精一杯の言い訳)

いやぁ…………46cm砲は本当、大きかったです。


寺子屋から賑やかな声が聞こえる。

 

今は昼頃だろう。

 

人里自体賑やかなのだが、ここの寺子屋も負けずと賑やかである。

 

寺子屋の外観は、まさに江戸時代などにありそうな木造建築で、知らぬ人は時代劇のセットと勘違いしそうである。

 

廊下から授業を行う部屋に行けば、机を囲む形で、フランと天子とチルノの姿が見えた。

 

 

「あ!先生だ!」

 

 

真っ先に明るい声を発したのは、フランである。その後に続く様にチルノと天子がこちらに目をやった。

 

机の方に目をやると、将棋盤が目に入った。驚いた事に天子とフランが指しているようだ。

 

 

「ふっ。随分とやられている様だが、天子」

 

 

そんな俺の声に、天子は盤上を睨みつけた。

 

 

「わ、私は大人だから子供には手加減してあげてるのよ!でも、意外だわ。フランが将棋が指せるなんて」

 

「いや、お前も指せるのは意外だぞ」

 

「ふふ、私は先生に教えてもらったからね!」

 

 

確かにフランに少し教えたが…………ここまで強いとは…………子供は吸収が早いと聞くが、フランは中でも別格だろう。

 

 

「でも、天子は最初っから、手なんて抜いてなさそうだったけど?」

 

 

とチルノが悪気のない顔で、フォローのしようのないセリフを吐いた。天子はバツの悪そうな顔になり、盤上をさらに睨みつけた。

 

まぁ、チルノが将棋のルールを理解しているのかは怪しいがみんな、仲良く過ごせている様で何よりだ。…………なんだか、自分がおっさん臭く見えてきた。まだ、未成年なのに。

 

不意に、フランは立ち上がり

 

 

「慧音先生に勇人先生が戻ってきたって伝えてくる!」

 

「あら?敵前逃亡かしら?これだと、私の勝ちよ?」

 

「なら、天子が勝ちでいいよ。勇人先生が戻ってきたことを伝える方が大事だもん」

 

 

と満面の笑みとともにそんな事を言って、パタパタと駆け出していった。一方の天子は戸惑いがちに盤上を見つめて、やがて、フランのいた場所を指差した。

 

 

「しょうがないわ。貴方が代わりに相手なさい。フランに教えた貴方に勝てばフランに勝ったのも同然よ!」

 

 

いささか、強引な介錯だが、俺は言われるままに腰を下ろした途端、

 

 

「身体は大丈夫なのかしら?」

 

 

不意の言葉が降ってきた。思わず、顔を向ければ、天子は相変わらず盤上に目をやったままである。驚きで何も言えない俺に

 

 

「人間は脆いんだから、気をつけなさいよね」

 

「そ、そうだな。それにしても、お前が人の心配をするとは…………明日は地震か?」

 

 

気がつけば、チルノは横でスヤスヤと眠っていた。天子もそのチルノを見、

 

 

「私は心配はしてないわ。チルノ達が心配しているのよ」

 

「はは……………………先生失格、だな」

 

 

おれが苦笑まじりに言うと、天子は歩を進めながら言った。

 

 

「珍しいのよ?妖怪が人間にここまで信頼しているのは」

 

 

駒を進めようとした手が、思わず止まる。

 

 

「自分達のせいで、貴方が倒れてしまったなんて思ってるのよ?このままだといつか死んじゃうんじゃないかって」

 

「……………………」

 

「言っておくと、貴方はこの中では最年少よ?妖怪と人間じゃあ、色々とわけが違うのよ」

 

「……………………」

 

「時間切れよ」

 

 

と言い、天子は勝手に俺の飛車を前に進めた。

 

呆気にとられてた俺の前で、その前に出した飛車を角行で奪い取った。

 

それからようやく顔を上げ、ニヤリと笑った。

 

 

「そんなんじゃ、いつまでも心配させたままよ?」

 

「…………随分と言う様になったな」

 

「今までのお返しよ」

 

 

肩の荷が下りた様な気がした。

 

天子はさらにニヤニヤと笑っている。

 

 

「折角、休んでもいいと言われているのに、いつまでも全力疾走してるのが今の貴方よ。時折、他人の言う事を聞いて手を抜かないと長く持たないわ」

 

「お前に正論を言われるとはな…………まぁ、いつも手を抜いてるお前は逆に全力疾走を覚えないとな」

 

 

俺が皮肉を込めて言えば、再びニヤリを笑う。今回ばかりは天子のペースに飲まれているらしい。

 

 

「大丈夫よ。貴方から教わったから」

 

「へぇ…………俺から、ねぇ…………」

 

「そんな事を言ってる場合かしら?見なさい、王手よ」

 

 

天子が強引に桂馬を進めた。無論、桂馬の単独突撃は意味を成さず、俺はその桂馬を粉砕した。

 

今思えば、休日2日と言えども、寺子屋は全部バカ真面目に授業をしていた気がする。休日の日も頭の中にあるのは、授業の事であって、さらに天子の加入によってさらに考え込む様になった。今日も今日で頭の中を占めているのは、休んだ分の授業をどうするかという事なのだから、笑えない話である。

 

 

「天子、ありがとうな」

 

「ん?何か言った?」

 

「さぁ…………」

 

 

王手、と歩を進めた。

 

 

「感謝してくてる割には、容赦ない一手ね」

 

「聞こえてたのか」

 

「よく聞こえなかったのよ。もう一度言って」

 

「くだらない事を言わないで、早く王を逃がしてやれ」

 

 

アホな問答をしていたら、いつの間にか衣玖さんがおりこちらを眺めていた。

 

 

「ふふ、すっかり、勇人先生の色に染まりましたね。総領娘様」

 

 

相変わらず、空気を読んでるのか読んでないのか分からないタイミングで出てくる。

 

 

「どんな色、とは聞きませんが、何をしに?」

 

「様子見ですよ」

 

「それは結構な事で。でも、一方的な試合展開の将棋しかやってませんよ?」

 

 

と王を避難させた天子の飛車を取る。あっ、と天子は若干悔しそうな声を出す。すかさず、俺から奪い取った飛車を置き、こちらの玉将を狙う。

 

 

「それでも見る価値があるんですよ。前の総領娘様なら、将棋で負けそうな時はすぐに放り出してどこかに行ってたんですから」

 

「何よ、私が負けるとでも言いたいの?」

 

 

角行を取られている天子がそんな事を言ってもイマイチ説得力がない。

 

 

「それにしても、容赦ないですね」

 

「天子曰く、俺は常に全力疾走なので」

 

 

「まぁ、手を抜く事も大事だと言われちゃったんでね。明日は授業を無しにしようかと」

 

 

再び桂馬を強引に前に進める天子だが、今度はそれを無視して奪い取った角行で

 

 

「王手」

 

「ふーん、じゃあ明日は何をするの?」

 

「チルノ達がしたい事をやらせるさ」

 

「弾幕ごっこかもよ?」

 

「構わん。兎に角、俺が授業の事を頭から無くせばいいんだから。それに身体が鈍ってるから久しぶりに弾幕ごっこをするのも、悪くない」

 

「なら、総領娘様のリベンジマッチでもしたらどうでしょう?」

 

「成る程、いい案ね」

 

 

と王を逃がしたが、俺は飛車を置き

 

 

「王手。まぁ、2つのリベンジになるな」

 

「え?…………ああ!もう!」

 

「その様ですね」

 

「いいわ!明日、貴方を打ち負かせてあげるわ!覚悟なさい!」

 

 

と言い、部屋から出て行った。苦笑する俺に衣玖さんは一礼した後、天子に続く様に出て行った。

 

取り残された俺は夕焼けの空をただ眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

 

 

次の日の朝、俺は珍しく自力で目覚めた。時計に目をやれば、まだ7時。

 

普段、朝は滅法弱く、目覚めても身体がだるい日が多い。頭の回転も悪く、ひどい時は何をしてたかさえ忘れてしまうぐらいに。だが、今日はやけにスッキリとした目覚めである。

 

身体は軽く、頭もスッキリとして、今からでも数学の問題を解きまくれそうな気がする。

 

ベッドからでて、洗面所に向かい顔を洗う。そして、普段は時間に余裕がないせいで無頓着な寝癖をしっかりと直す。

 

簡単に朝食を作り、一息ついたところであることに気づく。

 

 

「あれ?俺、もしかして1人で全部やった?」

 

 

何をバカな事を、と思うかもしれない。だが、普段の朝は早苗や妖夢におんぶに抱っこの俺が自力で目覚め、自分で朝食を作ったのである。自分のやった事に自分が一番驚いている。

 

 

「お邪魔します」

 

 

すると、玄関の方から早苗の声が聞こえる。いつもの様に俺を起こしにきた様だ。よくよく考えたら年頃の女の子が男の子の家に勝手に入れる事なんてそうはないだろう。

 

 

「おはよう、早苗」

 

「おはようございます、勇人さ…………ん!?」

 

 

流れる様に挨拶するかと思えば、驚いた様な声を出す。

 

 

「どうした?そんなに驚いて」

 

「い、いえ…………いつもはまだ寝ているはずなのでつい…………」

 

「うむ…………やはり、早起きをしっかりと習慣にする様にするか」

 

「えっ、それだと寝顔を見るチャンスが…………」

 

「ん?」

 

「い、いえいえ!何でもないですよ!早起きは大事ですからね!」

 

「お、おう…………」

 

 

今日は早苗の様子が少し変だ。しかし、早起きが珍しがられるのも良くないな。

 

 

「それにしても、今日は身体が軽いな…………」

 

 

所謂、絶好調と言うのだろうか。調子が良くない事は多々あったのだが、ここまで調子が良いのは初めてだ。病明けだと言うのに。

 

 

「そうですね。思いの外、雰囲気も普段より明るいですし」

 

「明るい…………?」

 

「ええ。いつもは明るいと言うよりは寧ろ、暗い雰囲気が…………目の隈も合わせてさらに…………」

 

「うっ…………やはり、そう言う印象を与えてしまったか…………」

 

「で、でも、勇人さんを知ってる人なら大丈夫ですよ!!」

 

「あ、ありがとう…………それにしても、本当に絶好調だ。身体が軽いと気分もいいな。今なら弾幕ごっこだってしてもいいぐらいだ!」

 

「程々にしといてくださいよ?」

 

「問題ない。その辺はちゃんと見極めるさ。よし、時間も時間だし、早速寺子屋に行くか!」

 

「行ってらっしゃい、勇人さん」

 

「おう!いってくる!」

 

 

と戸を勢いよく開け、寺子屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます!勇人さん!」

 

 

空を気持ちよく飛んでいると上から声が聞こえた。声の主からして射命丸文だろうか。

 

 

「おはよう。何の用だ?」

 

「いえ、少し取材を…………」

 

「いいぞ」

 

「そうですか。今回もダメですか…………えっ?」

 

 

勝手に落ち込んだかと思えば間の抜けた顔をこちらに向けた。

 

 

「え、いいんですか?」

 

「ああ」

 

「本当ですか?」

 

「くどい。取材を受けないぞ?」

 

「い、いや、普段は拒否するので…………どんな心変わりで?」

 

「今日は機嫌がいいんだ。その機嫌が変わらないうちにしないと、知らないぞ」

 

「あやややや、これは珍しい。最近、良い事が?」

 

「それは取材か?」

 

「ええ、で何かあったんですか?もしかして…………早苗さんともう、大人に…………」

 

 

ふざけた事を抜かす文に軽く頭を叩いた。あいたっ、といった後

 

 

「それは、まだ、と言う事ですね」

 

「そもそも、お前は何を書いてんだ?」

 

「そうですね…………最近は勇人さんの性事情を、と思ってたんですが…………何もないんですよね」

 

「……………………」

 

「ヒィ!ごめんなさい!ごめんなさい!謝りますからその銃をしまってください!や

 

「はぁ…………何を書いてくれようとしてんだ」

 

「あれは嘘ですから。本当は勇人さんの好みを」

 

「ほう…………」

 

「えーっと、最初はロリがお好み「ちょっと待て」なんですか?」

 

「俺はロリコンではない」

 

「はい、だから"最初は"と。貴方がフランやチルノを見る姿はロリコンというよりかは父性的ですからね。その線は消しておきました。で、妖夢さんからの取材で、貧乳がお好みと」

 

「オイ!」

 

「あれ?違いますか?」

 

「い、いや、その…………確かにスレンダーな方が好みとはいったが…………」

 

「じゃあ、貧乳が好きなんですね」

 

「まず、その話題をやめろ!」

 

「うーん、でも、早苗さんからは大きい方が好きなんじゃないかと聞きましたし…………」

 

「早苗まで何を…………」

 

「大丈夫ですよ!勇人さんだって男の子ですから!」

 

「いい加減に…………」

 

「で、どっちが好みで?」

 

「は?」

 

「貧乳か巨乳か」

 

「は?」

 

「だから、きょ「分かってる!」…………なら答えてくださいよ」

 

「も、黙秘権を…………「取材を受けると言ってくれましたよね?」…………お、俺は…………」

 

 

 

 

 

「やっぱり、ダメだ!」

 

 

と、俺は全速力で寺子屋へと向かった。

 

 

「あ!逃げるのは無しですよ!」

 

 

ガシッ!

 

 

「ぬぉ!?」

 

「速さで私に敵おうだなんて、人間では一生無理ですよ?」

 

「むぅ…………」

 

「さ、答えを!」

 

「ぐっ…………俺は…………」

 

 

 

 

 

 

次の日の文々。新聞は様々な人が注目したとかしなかったとか。白髪の剣士が大いに喜び、緑髪の巫女が衝撃を受けたとか受けなかったとか。



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第96話 リベンジの日の天人崩れ

自分の行動を振り返って、あまりにの恥ずかしさに後悔する。

 

そういう経験は誰でもあるだろう。まだ、物を知らない時に悪意なく言ってしまった言葉とか酔っ払った勢いでの行動とか。

 

そういうのは大分経ってから突然フラッシュバックし、あまりにの恥ずかしさに悶絶するものである。

 

もちろん、俺にだってその様な経験はいくらでもある。大勢の目の前で転けたとか、ノリでふざけた事とか……………………文のインタビューで失言した事とか……………………

 

もう、不安しかねぇ。いくら機嫌がいいとはいえ、文の質問に馬鹿正直に答えるんじゃなかった…………

 

しかし、俺とて男だからそういうのに興味がないわけでは…………ああ、なんで言い訳をしてるんだ、俺は。

 

今日という日は、いい目覚めで始まり順調に進む物だと思っていたが…………そんな事はないらしい。ああ、明日の新聞が不安で仕方ない。

 

そんな事に絶賛後悔しながら、俺は寺子屋に到着していた。

 

戸を開け、部屋の中を見ればいつもは賑やかな教室がだれもいなかった。

 

 

「おや?なんでここに勇人がいるんだ?」

 

「うぉ!?」

 

 

後ろから急に慧音さんから声をかけられ上ずった声が出てしまった。とりあえず、落ち着いて俺は慧音さんと向かい合った。

 

 

「なんでって、今日は授業があるからですが…………」

 

「??天子からは外で授業があると聞いたぞ?」

 

「そんな事は…………」

 

 

ああ、成る程。昨日は授業をしないとか言ってたな。弾幕ごっこもやっていいんじゃないかという節の事を言ってたので、もしかしたら弾幕ごっこをしてるかもしれん。

 

 

「天子が、勝手なチルノ達を連れてどこかに行ったのでしょう」

 

 

慧音さんは、俺を見たが何も言わなかった。

 

 

「まぁ、今回は好きな事をやらせようと思ってましたし…………どこかに行ったか知ってますか?」

 

 

 

苦笑交じりに俺がそう言うと、

 

 

「霧の湖だそうだ。早く行ってやってくれ」

 

 

と言い、詮索もせず、苦笑交じりに言った。それに俺は会釈する事で感謝を示し、すぐさま霧の湖へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

霧の湖に着くと、すぐにチルノ達がいるところが分かった。いくら、霧に包まれてると言えども、盛況に弾幕ごっこをしていれば嫌でも目に入る。

 

近づいて様子を見ると、どうやらチルノとフランがまた戦っているらしい。なんやかんやで仲がいいんだな。

 

と物思いに耽っていると、天子がこちらの姿確認し手招きしていた。

 

 

「遅いじゃない。とっくに始めさせてもらってるわよ」

 

「はぁ、確かに昨日は授業を休もうかと言ってはいたが勝手にしてもらっちゃ困る」

 

「細かい事はいいの。貴方だって久々なんだからうずうずしてるんじゃないの?」

 

「まさか。そんな戦闘狂じゃない」

 

 

と口では否定しつつ、ちゃっかり昨晩はしっかりと銃の手入れをしていたりする。

 

 

「ほんと、久しぶりねぇ。私の緋想の剣が泣いてるわ。前回はしてやられたけど、今回はそうはいかないわよ?」

 

「ハハ、負けても泣くなよ?」

 

「言っておきなさい。今までの私とは違うのよ!」

 

 

はいはい、と聞き流しつつ俺はもう一度銃の点検をした。

 

 

「「先生」」

 

 

チルノとフランがボロボロな状態で駆けつけてきた。

 

 

「私たちは終わったよ!」

 

「そうか。どっちが勝ったんだ?」

 

「私よ!」

 

 

とフランが誇らしげに言った。

 

 

「ちぇ…………今回は勝てると思ったのに…………」

 

「でも、惜しかったわよ?」

 

 

悔しがるチルノを天子は慰めた。すっかり、お姉さんポジを確立している。だが、天子の言うことも一理あり、フランにもダメージが及んでいるあたり、確実に強くなっていると言えるだろう。

 

フランの能力が脅威なのは言うまでもないが、チルノの能力だって脅威である。絶対零度まで下げられるもんなら、たまったもんじゃない。

 

 

「2人が終わったから次は私たちの番ね?」

 

「ああ、腕がなる」

 

 

と二丁の銃を持ち、天子と対峙する。

 

二丁拳銃のメリットは言うまでもなく一丁の拳銃よりも単純に2倍の速射となる事。つまりは下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる理論だ。

 

まぁ、実際問題としては装填時に一度片方を仕舞わないといけないとか、片手では狙いをつけにくいとか…………etc。

 

だがしかし!俺の自動拳銃は何も本物の弾丸を使ってはいない!俺の霊力を使っているのだ!だから、リロードはグリップに霊力を込めればいいのでいちいちしまう必要はなし。反動も軽減されるので狙いもブレにくい!(とは言っても左の命中率は悪い)

 

つまりはデメリットは控えめなのだ!だから、俺は二丁拳銃なのだ。まぁ、本当の理由はかっこいいからだけど。

 

 

「その飛び道具で私に勝てるかしら?」

 

「前回の敗北した奴が言うか、天子」

 

「ふふ、その余裕はいつまでもつかしら?チルノ!合図をして頂戴!」

 

「え?よ、よーい…………ドン!」

 

 

チルノの気が抜ける合図と共に天子は地を蹴り、こちらに近づいていた。

 

咄嗟に銃を構え、1発ずつ発砲する。序盤は基本様子見だろう。そう考え、控えめに撃った。

 

 

「ふんっ!」

 

 

2発の弾は真っ直ぐに天子へと高速で迫るが、天子が2発を軽くなぎ払った。

 

 

「なっ!?」

 

 

俺は思わず驚きの声を出す。弾丸が弾かれた事ではない。牽制の発砲があったのに、構わずこちらに直進してきたのだ。

 

すぐさま、銃を乱射するが天子は全て剣で弾いた。

 

 

「ッ!?」

 

 

今度は弾丸が弾かれた事に驚く。距離が近くなっているはずなのに超高速で進む弾丸を簡単に弾き飛ばした。

 

 

「前は私が油断したけど…………今回は貴方が油断したわね?」

 

 

俺は来るであろう攻撃に備え、腕を十字に組みガード態勢をとった。

 

 

「天符『天道是非の剣』!!」

 

 

天子は剣を上方からではなく下方から突き出し、

 

 

「うぐっ!?」

 

 

腹へと突き立て、そのまま上空へと突き上げた。

 

俺は上空へ飛ばされ、軽く意識が飛びかける。

 

 

「まだまだよ!地符『不譲土壌の剣』!」

 

 

と天子は声高くスペルカードを宣言する。そして、剣を地に突き刺す。

 

 

ドゴォ!

 

 

重力に従い、落ちる俺の目の前にはその落下地点が突如隆起していた。

 

隆起した地面にど突かれ、もう一度飛ばされる。しかし、隆起は一ヵ所ではなく、数ヵ所起こり、連続して攻撃を食らう。

 

 

「あーはっはっは!その程度かしら?」

 

 

高らかに笑う天子の声が響く。

 

 

「あー…………いってぇ…………」

 

「ん?まだ、立てるのね?勝負はまだまだよ?」

 

 

最初の攻撃が腹に決まって、相当痛い。一瞬息ができなかったぞ。それ以降は霊力で肉体を強化してどうにかダメージを和らげた。

 

しっかし…………慢心しすぎたなぁ。気をしっかり引き締めていかないと。

 

 

「よし、こちらからも行くぞ!弾痕『バレットホウル』!」

 

 

装填された弾を全て撃つ。その弾は普通の弾丸よりも遅い。

 

 

「その飛び道具の性能はもう分かってるのよ!」

 

 

と、横に避ける。しかし、弾丸はその動きについて行くように方向を変えた。

 

 

「え!?」

 

 

1つの銃につき15発、それが二丁なので計30発の弾丸全てが自動追尾弾だ。いくら、遅いと言えど比較的なので、避けるのは難しいだろう。

 

 

「きゃあ!!」

 

 

真っ直ぐにしか進まないと思っていたのか、天子はまともにガードも出来ず、弾丸を喰らう。

 

が、天界の桃のお陰がそれ程ダメージになっていないらしい。本当にあのドーピング桃はどんだけすごいんだよ。

 

 

「ちょっと驚いたわ。でも、やっぱり大して痛くないわね」

 

「そうかい、ならもう一度喰らうか?」

 

「嫌よ。そんな攻撃くらって喜ぶタチでもないし」

 

「なら、せいぜい避けるんだな」

 

 

霊力を込め、装填したところで再び引き金を引く。

 

 

「天気『緋想天促』」

 

 

すると、天子の両手から赤い弾幕が展開された。

 

 

「お前、弾幕撃てたのか?」

 

「あったりまえじゃない!」

 

 

ずっと、近距離で攻撃して来るもんだから出来ないかと…………

 

兎に角、俺は天子の弾幕を不変の空間で防御した。空間に衝突すると同時に弾幕は霧散した。

 

 

「ねぇ、貴方のその能力は何なのかしら?」

 

「ん?知りたいか?」

 

「ええ」

 

「教えてやってもいいけど…………勝負が終わったらな」

 

 

と全力で霊力を込め、弾丸を放つ。

 

それを天子は剣で弾く。う、うーん…………結構、力込めたつもりなんだが…………

 

 

「全然力が足りんな…………」

 

「人間が力勝負挑むのはアホだと思うけど?」

 

「いや…………まぁ、そうなんだけど…………」

 

 

と、ポツポツと雨が降ってきた。次第に雨脚が強くなったかと思えば、ザーッと大雨となった。

 

 

「あ!洗濯物とりこんでねぇ!」

 

「そんな事どうでもいいじゃない。ほら、さっさと来なさいよ!」

 

「どうでもいいわけないだろ!カッターシャツは2枚しかないんだぞ!?」

 

「あぁ!もう、うるさいわね!」

 

 

ともう一度、弾幕を放つ。それをガードする。その時、弾幕によって視界が塞がれるのだが…………視界が晴れた時には天子の姿はなかった。

 

どこに消えやがった…………

 

 

「…………!?」

 

「要石『天地開闢プレス』よッ!!」

 

「はぁぁぁあ!?」

 

 

なんと天子は空からどこから持って来たのか巨大な要石を抱えて落ちて来ていた。

 

 

「殺す気カァァ!!」

 

「ぶっつぶれなさい!!」

 

 

ドゴォォオン!

 

 

「や、やったわ…………わ、私が!」

 

 

ピシッ

 

 

「ん?」

 

 

ガゴォン!

 

 

「え!?要石が砕けた!?」

 

「全く…………流石にこれは死ぬかと思ったぞ」

 

「え!?な、なんで!?死んだはずじゃ…………」

 

「残念だったな。とr、ゲフンゲフン、能力を使ったのさ。ていうか、殺す気だったのか?」

 

 

本当に恐ろしい…………要石が迫った時は走馬灯のようなものが見えた。

 

 

「へへ…………やるじゃない。そうこなくっちゃ!」

 

 

と、攻撃を再開しようとする天子だが、自分の異変に気付いた。

 

 

「あ、あれ?動かない?体が動かない?これも貴方の能力?」

 

「イエス。俺の新しいスペルカードにしようかなと思っている技。名前はそうだなぁ…………不変『千古不易の才悩』なんてどうだ?」

 

 

不変『千古不易の才悩』ーー簡単に言えば近くの物体をその場所にあるという事象を不変化させる。そのことによって、"そこにある"という事以外の事象をさせなくする。つまりは動けなくなる。

 

 

「まぁ、後、10秒持つのがいいところだな。あとは分かるよな?どちらが先に仕留めるか。勝負だ」

 

「ふ、ふふ…………いいわ…………この天気の気質ならあれを出せるわ」

 

 

気質?まぁ、そんな事はいい。兎に角、精一杯の弾丸を放つだけだ。

 

 

「3…………2…………1…………今だ!」

 

 

効果が切れたと同時にありったけの霊力を銃に送り、止め処なく銃を乱射する。一方の天子は何も出来ずただ喰らうのみ。

 

この勝負もらった!

 

 

「はぁ…………はぁ、流石に効いただろ」

 

「くぅ…………やるじゃない。流石に痛いわ」

 

「は!?」

 

 

嘘だろ?あれだけの弾丸を…………そもそも、1つも貫通していない。

 

 

「気符『天啓気象の剣』」

 

 

剣に何かが集まり、赤く光る。

 

 

「さぁ、これで終わりよ!」

 

 

すると、その剣をそのまま投げた。人外の力で投げられた剣はまるで一筋の光の如く、俺を貫いた。

 

 

「…………ブフッ」

 

 

ま、マジかよ…………天子、俺、人間だって…………人間は…………脆いって…………言ったのはお前だろ…………

 

 

「…………あ」

 

 

腹部から止め処なく血が流れ、口からも血が漏れる。

 

も、もう、ダメだ…………おばあちゃん、今、行きますよ…………

 

 

バタッ

 

 

「ゆ、勇人ッ!?ご、ごめんなさい!」

 

 

「ち、チルノ!え、永遠亭はどこ!」

 

「え、あ、えっと…………」

 

「私知ってるよ!」

 

「ふ、フラン!なら、教えて!」

 

「わ、分かったわ。先生はどうしたの?倒れたけど…………」

 

「いいから、早く!」

 

 

「あ、ああ!どうしよう…………人間なのに…………私、ほ、本気でやるなんて…………」

 

 

「し、死んじゃ嫌よ!?」

 

 

「…………え?お、お腹の傷、塞がってる?」



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第97話 炉辺談話の日の青年

久し振りの投稿です。

運動って大事っすね。久々に走ったら思った以上に体が動きませんでした。

後、ついにソフトバンク優勝!もう、これはテンションアゲアゲですわ。


「…………え?お、お腹の傷、塞がってる?」

 

 

「え?そもそも、傷なんて無いじゃない…………」

 

 

「どういう事なのよ!」

 

「説明しよう!」

 

「ファッ!?」

 

「ハハハハ、なんだ?その死んだはずなのに蘇った奴を見るような顔は?」

 

 

俺がそう問うがまだ金魚みたいに口をパクパクさせている。

 

 

「え?ちょっ…………ええ!?」

 

 

未だに混乱している天子のためにも説明してあげた方がいいかもしれない。

 

 

「なんで…………勇人は確かにここに倒れてる…………はず…………?」

 

 

と指を差すが、俺がここにいるのだから当然の如く指差す先には誰もいない。

 

 

「あ、あれ?た、確かにいたのに…………」

 

「幻覚でも見たんじゃないか?」

 

「そ、そんな訳ないじゃない!確かに、この手で貴方を触ったわ!」

 

 

と手を見ながら言う天子。

 

 

「これも能力の1つ、と言えば分かるかな?」

 

「能力?実体のある幻覚を見せる能力とでも言うの?」

 

「うーん、あながち間違ってはいないな」

 

「何よ、もったいぶらないでさっさっと教えなさい」

 

「はいはい、俺の能力は『物事を不変にする程度の能力』だ」

 

「ふーん…………不変、と言うのは文字通り変わらないと捉えればいいのね?」

 

「ああ、お前を動けなくしたのは能力で"その場所にいる"という事を不変にしたからな」

 

「へぇ、じゃあ、さっきの幻覚はなんなのよ?」

 

「うーん…………なんて言ったらいいかな。…………天子、攻撃する時にどのように攻撃をするかイメージするか?」

 

「えぇ、逆に考えずに攻撃なんかするの?」

 

「まぁ、そうなんだが…………さっきの幻覚は"そのイメージを不変化した"ものなんだ」

 

「はぁ?それなら、貴方は攻撃を受けたはずじゃない」

 

「あぁ、言葉が足りなかった。"お前の中にだけ"、イメージを不変化した。つまりは、お前の中ではイメージした通りに攻撃が行われ、イメージ通りにダメージを与えた事になっている」

 

「んー、それって、結局幻覚を見せられたという事?」

 

「ああ、だからあながち間違ってはいないと言ったんだ」

 

「ふーん…………結構な応用力ね」

 

「基礎的な力は圧倒的に劣るんでね。まぁ、お前が何もない所で勝手に焦って、チルノに助けを求める姿は中々に滑稽だっだぞ?」

 

「く…………ッ!まだ、続けるのね?」

 

「いや、もう降参だ。はっきり言ってさっきの技ができたのはまぐれだし、体も限界に近いんでね」

 

「という事は…………私が勝ちなのね!?」

 

「ああ、霊力も尽きたし、お前の勝ちだな」

 

「勝った気はしないけど…………でも、私の勝ちね!ふふふ!」

 

「はいはい、おめでとう。俺はとりあえず帰るから、お前たちはこの後は好きにしていいぞ」

 

「そう、何かあるのかしら?」

 

「萃香との約束を果たすための準備をしに。とは言っても、守矢神社で宴会を開くだけなんだが、お前も来るか?」

 

「もちろん!参加させてもらうわ!」

 

「そうか、なら宴会は明日の夜だ。衣玖さんも誘ってくれ」

 

「ええ、楽しみにしてるわ」

 

「ああ」

 

 

そう言い、俺は天子達を後にした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

守谷神社に向かう途中、俺は色々な考え事に耽っていた。

 

宴会での懸念もあるが、考えの中で最も占めている事は天子の変わりようである。

 

もちろん、いい意味での変化であるがあそこまで変わるとこちらもかなり驚く。普通、問題児をどうにかする事は容易なものではない。

 

まぁ、教師はかなり大変なものだろう。もっとも、自分自身がそんな仕事をするとは思いもしなかったが。

 

と、今までの寺子屋の教師としての生活を振り返って、思わず苦笑した。

 

 

「気味が悪い男だねぇ、何を1人でニヤニヤしてるんだい?」

 

 

不意に声をかけられ、辺りを見渡すがそれらしい人は見当たらない。

 

 

「大の男がニヤニヤしながら飛んでいるのは気持ち悪いわ。何を考えてんのかなぁ?」

 

 

目の前、霧が集まったかと思えば、小さい女の子の形となり俺の前に姿を現した。

 

酒の入った瓢箪を手に、すでに酔っ払っている伊吹萃香はこちらもニヤニヤしながら俺の方に視線を向けていた。

 

 

「酔っ払っいながら、飛んでる方も些か奇妙なものだと思うが?」

 

 

軽く悪態をつくも、萃香は意に介した様子もなく水の如く酒を煽っている。

 

どう見ても子供にしか見えないこの酔っ払いは、人間よりも遥かに力を持つ鬼で、幻想郷でもトップクラスの力の持ち主だ。変人の多い幻想郷の中でも、一際変人だが、俺には彼女に借りがある。

 

 

「それはいいが、約束はちゃんと覚えてるんだろうね?」

 

「もちろんだ。明日の夜に守谷神社でちゃんと宴会を催す」

 

「なら、いいよ。鬼は嘘が嫌いだからね」

 

「だが、鬼は気楽そうだな。仕事が無い者の余裕か?」

 

「そうやっかまないで。鬼にだって苦労はあるんだ」

 

 

と再び瓢箪に口をつけ、傾ける。

 

 

「まぁ、鬼はお前達人間と色々と出来が違うんだ。ほんと、人間にも鬼くらい酒が強ければ飲み甲斐があるってもんなんだけどなぁ」

 

「そんながぶ飲みしたら、うまい酒も味わいを楽しめないじゃないか。ゆっくりと飲むのがいいんじゃないか」

 

「別に人間の飲み方にケチをつけるつもりはないよ。あんた達のようなおかしな人間達と一緒にいるだけでも楽しいさ」

 

「ちょっと待て。なぜ、俺も『おかしな人間』でひとくくりにされるんだ?霊夢や魔理沙とは兎も角」

 

「ん?照れてるのか?私とやり合えただけでも十分『おかしな人間』よ。それに、私と酒を飲んだ仲じゃないか」

 

 

アハハ、と陽気に笑う萃香の横で俺は額に手を当てた。そもそも、一緒に酒を一緒に飲んだ記憶がない。

 

 

「お気楽と言うけど、あんたはむしろ堅すぎるんだよ。秀才ぶってないでもっと、パァーッといったらいいじゃない」

 

 

実際、この幻想郷においては頭でっかちな天才君よりも、脳筋な運動神経抜群の元気な子の方がいい。現代世界と幻想郷では話が違うのだ。

 

 

「実力もあり、背は他の人間の男より少し小さいが容姿も悪くわない。おまけに可愛い娘達にも好かれてる。後はもっと積極的になればいいのに」

 

「色々と反論したいが、今は早く守谷神社に行かないといけないんでな」

 

「そんな事言いながら、実は早苗に会いたいだけだろ?」

 

「あやや!そんな事を考えてるんですか?」

 

 

どっから湧いて出てきたのか文が現れた。

 

 

「早苗さんは可愛いですからね。里の人達にも大人気ですし。彼女の笑顔は男性にとっては犯罪ものでしょう」

 

「犯罪はお前の存在そのものだ、文」

 

「あやや、そう言っても早苗さんと一緒にいる時の勇人さんの顔は楽しそうでしたよ?」

 

 

文の言葉に、いつ見ていたと思い、

 

 

「お前は人の私生活を無断に監視してるのか?いい加減にしないと弾丸をぶち込むぞ?」

 

「ヘえ〜、あんたもやっぱり男だねぇ…………」

 

 

意味深な顔をしながらニヤニヤとこちらを見る萃香。

 

 

「まぁ、甲斐性なしって事は確かですね。美少女に囲まれたるのに手を出さないだなんて…………据え膳食わぬは男の恥、ですよ?」

 

 

容赦ない文の言葉に思わず絶句してしまった。少し間が空いた後、

 

 

「文、お前こそ人のプライベートばかり覗いてないで、まともな記事を書いたらどうだ?最近は売り上げがイマイチとか聞いてるぞ」

 

「いつの話をしてるんですか?確かに少し前は伸び悩みましたけど今は順調ですよ」

 

 

俺の渾身の反撃を、あっさりと弾かれて、再び絶句してしまった。

 

 

「やっぱり面白いねぇ…………」

 

 

とぼそりと呟いたのは、少し黙っていた萃香だった。

 

 

「やっぱり、あんたは面白いよ。あんたの周りは面白い事ばかりだ」

 

「ですが、あまり妖怪の山には入らないでいただけると助かるんですが…………」

 

 

と遠慮がちに文は言った。

 

 

「俺からしたら迷惑千万な話だ」

 

「いいじゃないですか。男女の話題はいつだって、最大のネタですから」

 

 

ふふふと文は意味深な顔を向ける。

 

 

「あんた、今まで女の1人や2人いなかったのか?」

 

「そんな風に見えるか?萃香」

 

「だって、あんたくらいの男ならいそうだと思うけど?」

 

「残念、幻想郷と違って外は俺みたいな奴はそういう目では見られにくいんだよ」

 

 

またまた〜、と文がニヤニヤしながらつつき、意味ありげな萃香の忍笑いによって、軽く頭痛がしてきた。

 

宴会ではこういう輩が沢山来ると思うと、げんなりとしてしまう。

 

すると、目的地である守谷神社が見え、鳥居の下で早苗が手を振っているのが見えた。

 

 

「お邪魔虫は退散するよ、2人でのお楽しみがあるだろうからね」

 

 

振り返れば、既に文の姿はなく、萃香も霧と化していた。

 

 

「明日の宴、楽しみにしてるからね」

 

「ああ、任せとけ」

 

 

頷いた後、俺は守谷神社へと降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

明日の宴会のために早苗はやはり忙しそうだった。依頼したのは自分なので、ここまでしてくれると申し訳ない気持ちになる。

 

しかし、明日の料理の下準備のために包丁を握る早苗はどことなく嬉しそうだった。

 

無論、俺も傍観してるわけではなく料理を手伝っている。久々に包丁を持つので手が少し震えているが。

 

よくよく考えれば互いにこの夏は多忙を極めていた。輝夜により、小さくなったり、天子の加入があったり。早苗も早苗で神社の仕事が忙しそうだった。

 

 

「早苗、神社の方は忙しいか?」

 

 

俺の声に、早苗は包丁を動かしながら応じた。

 

 

「はい。夏でも参拝客は多いです。でも、勇人さんよりは楽だと思います」

 

「まぁ、寺子屋はいつもお祭り騒ぎだからな。なにせメンバーがな」

 

「そこに天子さんも加わってさらに、ですね」

 

「ああ、個性派ぞろいで、俺まで変人扱いされて大変だよ」

 

「勇人さんだって、なかなか個性的だと思いますよ?」

 

「うむ、俺も幻想郷にかなり影響されてしまったかな?」

 

 

そう言う俺に、早苗はクスクスと笑った。

 

まぁ、口では言わないが、早苗の事は結構尊敬している。

 

普通の人間でありながら現人神信仰を受け、さらには神奈子様や諏訪子様の為に、外の世界を捨て幻想郷に移住をしており、それでも弱い所を見せる事なく、明るい笑顔で接してくれる。参拝客が多いのも納得だ。

 

すごい人達と交友があるんだ、と時折実感させられる。

 

 

「…………はぁ」

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

「本当ですか?」

 

「少し考えてただけ。やっぱり、幻想郷の人達はすごいなぁ、って。あの我儘な天子だって、ねぇ。早苗も風祝だし」

 

「勇人さんだって、とてもすごい人ですよ!」

 

「すごい、人かぁ…………自分で言うのもなんだけど、そんな立派な人じゃないと思うんだけどなぁ…………」

 

「ふふ」

 

「ん?何か面白かったか?」

 

「いえ、前、勇人さんのおじいさんに『勇人は頭がいい割には阿呆だ』と言われまして、今納得した所です」

 

「ハハ…………早苗も言うようになったなぁ」

 

 

早苗に阿呆と、言われる日がこうとは。

 

 

「まぁ、兎に角、明日は宴を楽しみましょう!」

 

「程々にな」

 

「いえ、明日は沢山飲みますよ!」

 

 

おいおいと笑いながら言いつつ、俺と早苗は明日の宴会の準備を進めた。



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第98話 酒宴の日の青年

まさかの連日投稿。3日連続はないと思います。



鬱蒼と生い茂る木々の中を通り過ぎる者が1人。

 

その姿は真っ白な神御衣に長い黒髪を揺らしている。

 

"あやつ、どこへ行きよった…………"

 

そう呟きながら、人では考えられないようなスピードで駆け抜けていく。

 

そして、その男はひらけた場所に出、探していた者を見つける。その者は、大きな岩の上でスヤスヤと寝ていた。

 

 

「はぁ…………また、ここで寝ておったか…………」

 

 

神御衣の人物は寝ている者の前で、ため息まじりに呟く。

 

 

「いい加減、起きんか!お主はそれでも神か?」

 

 

白い神御衣の者とは対照的にボロボロな直垂にボサボサの髪をした男は頭を掻きながら目を開けた。その目は青く、潤んでいる。

 

 

「お主はまたどっかに消えたかと思えば、また人間の里に行っておったのか!?」

 

「別にいいじゃないか…………」

 

「良いわけがないに決まっておろう!我々神は信仰される者として威厳がなくてはならん!それなのにお主ときたら…………そんな格好で人里を歩く…………!」

 

 

そう言われても尚、直垂の男は「ふぁぁあ…………」と大きな欠伸をし、鬱陶しそうな顔をする。

 

 

「信仰、信仰言うけど、俺はお前と違って信仰されなくても生きていけるからいいじゃんか。それに退屈な神様の仕事よりも、人間の世界の方が面白い」

 

「神はお主だけではないということを分かってるのか?お主のせいで他の神達の信仰が無くなったらどうしてくれる!?」

 

「分かってる、分かってる。だから、ちゃんと変装もしてバレないようにやってるじゃないか。何の問題もない」

 

 

また、何か言いかけようとする神御衣の男を遮るように、男はある物を取り出した。

 

 

「ん?それは何だ?」

 

「さぁ…………人間達が武器として使ってる物らしい。中々かっこいいだろ?気に入ったから、1つ貰って少し改造したんだ」

 

 

その武器は日本刀なのだが、刃が一般的な物よりもかなり長くなっていた。所謂、太刀と呼ばれる刀だろうか。

 

その刀を片手に男はヒョイと立ち、神御衣の男と向かい合った。そこから分かるのだが、直垂の男の背は神御衣の男よりも頭一つぐらい小さく、とても長い刀とは不釣り合いに見える。

 

 

「兎も角、お主は人里に近付くな」

 

「んー…………そうするかなぁ。しばらくはこの武器をもうちょっと改造したいし」

 

「そもそも、お主は本来の仕事を…………って、お主、今何と!?」

 

「だから、しばらくは自重する。流石に今の時期は迷惑をかけられないしね」

 

「…………お主も知っておったか」

 

 

神御衣の男は少し俯く。直垂の男はため息まじりに言った。

 

 

「伊達に人里をうろついていないさ。信仰心が薄れてるんだろ?あいつが元気がないのは見れば分かる」

 

「…………薄れてる、だけなら良いのだが」

 

「例の集まり、か。まぁ、最悪俺が始末でもするさ」

 

「それは本当に最悪の場合のみだ。神が直々に人間を殺めるなどあってはならんのだぞ?」

 

「まぁ、兎に角あいつの状態を見る限り、まだ信仰してくれる人は多い」

 

「…………そうだな」

 

「…………後はあの野郎の悩みか?」

 

 

直垂の男の突然の問いに神御衣の男は少し驚いた顔をする。

 

 

「やはり、お主は鋭いな」

 

「どれくらい一緒にいると思ってんだ?おかしな所はすぐに気づく」

 

「ああ、またあの野郎が彼女に婚礼を迫っておる。こんな大変な時に…………」

 

「大変な時、だからだろ」

 

「はぁ…………本当に大切に思っておるのなら、もう少し待つだろうに…………それに彼女には心に決めた奴がおる」

 

「驚いたな」

 

 

直垂の男の言葉に、神御衣の男は眉をひそめた。

 

 

「珍しくお前が怒ってる」

 

「はぁ?いつも、お主に怒っておろう」

 

「ふっ…………それとは違う。本気で怒ってる」

 

 

「まぁ、俺ら3人がいれば大丈夫さ。これまでそうだったろ?」

 

「…………ふっ、お主って奴は…………」

 

 

この男はやはり我が友だ、と神御衣の男は胸の内で静かに頭を下げた。

 

 

「だが、人里にはもう行くなよ?」

 

 

そう言われ、直垂の男はああ、とだけ言い刀に視線を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の俺の目覚めは酷いものだった。

 

昨夜まで早苗と宴会の準備に勤しみ、寝床に着いたのが1時過ぎ。そんな中の朝のことだった。

 

天子との戦いと準備の疲れで爆睡していた俺を、萃香のボディブローによって強制的に起こされた。

 

無防備な腹を、強烈な一撃によって失神寸前まで追いやった。

 

 

「おい、宴会はまだかい?」

 

 

悶絶している俺を他所に萃香はヌケヌケとそんな事を言う。

 

 

「くぅ…………宴会は夜にやると言っただろ…………」

 

「あら、そうだったんだ。なら、すまないねぇ」

 

 

こうして、酷い目覚めがあったわけなんだが…………

 

 

「何で、まだいる」

 

「いいじゃないか。そんな事を言いながらも朝ごはんを準備してくれるあたり、優しい奴じゃないか」

 

「はぁ…………朝から酒臭い奴に出くわすなんて」

 

 

萃香は瓢箪に口をつけながら、

 

 

「宴会の準備はどうだい?」

 

「早苗の手伝いもあって、順調だ。後は酒を用意するだけ」

 

「そう。それが聞けて安心したよ」

 

「はぁ…………鬼にも肝機能障害が起こればいいのに…………」

 

 

俺の言葉に萃香は意に介した様子もなく、

 

 

「いやぁ、楽しみだねぇ…………久々の宴だ」

 

「永琳さんから肝臓を強化してくれる薬貰えないかなぁ…………」

 

 

あ、飲まなきゃいいんだ、と萃香に聞こえないように呟く。不健康生活を送る俺にお酒が入れば体がボロボロになってしまう。

 

 

「勇人はそんなに弱っちいのか?」

 

「普通の人間なら、そんなもんだ」

 

 

アル中で永遠亭に入院など勘弁してほしい。そもそも、俺の出費が食料の次に永遠亭の入院費に消えてるのが可笑しい。

 

 

「まぁ、今回の宴会は存分に楽しむといいさ」

 

「はいはい…………飲む、食うだけで済めばいいが」

 

「それじゃあ、私は消えるとするよ。朝食ごちそうさん」

 

 

そう言い、萃香は例の如く霧となって消えた。

 

俺は宴会の準備のために守谷神社へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守谷神社は昼下がりもあって、参拝客が多かった。

 

早苗は参拝客の対応の為、宴会の準備ができない為俺1人で準備を進めた。

 

そんな参拝客も日が暮れていくうちにいなくなり、宴会に誘った人達が集まり始めた。

 

 

「あら、勇人じゃない」

 

「ん、ああ、霊夢か。宴会はまだだよ」

 

「そう、タダで酒が飲めるならいいわ」

 

「ハハ…………今回は全部俺負担だ。存分に飲んだり食ったりすればいいさ」

 

「ええ、言われなくてもそうするつもりよ」

 

 

ブレない霊夢に思わず苦笑が漏れる。

 

 

「そう言えば、あんたの爺さん最近怪しい動きがあると聞いたけど?」

 

 

思いもよらぬ言葉に俺はかなり驚いた。

 

 

「初耳だ。だが、じいちゃんが何か企んでるとは考えにくい」

 

「そう、何か起こせば退治するだけだしどうでもいいけどね」

 

 

後、たまにはお賽銭を入れに来て頂戴、と言い残し霊夢は宴会のある方へと向かった。

 

 

「で、覗き見なんてして、どうしたんですか?諏訪子様」

 

「いいや。珍しい組み合わせもあるんだと思って、ね」

 

「まぁ、彼女とは中々顔を合わせませんし」

 

「まぁ、本当はそんな事どうでもいいんだけどね。私的にはあんたのじいさんが気がかりだ」

 

「はぁ…………最近はそんなにじいちゃんが怪しいんですかね?」

 

「さぁ…………ただ、妙なのは確かだ。ま、今さらあいつが神と繋がってるとは考えにくいけどね」

 

「どちらにしても、ほんの覗き見の一場面で、判断するのは良くないですよ」

 

「あら、人間にお説教を食らうとは」

 

「そんなつもりは…………」

 

「分かってるよ。ああ、暇があればじいさんに何故、最近無縁塚によく行くのか聞いてくれ」

 

「はぁ…………?」

 

 

無縁塚に行っている?何か探しものでもしてるのかな?

 

 

「後、式は私達がとり持つから安心してくれ」

 

「はい…………はい?」

 

 

ニシシ、と笑いながらとんでもない言葉を残して、諏訪子様は去って行った。

 

向こうの方からどんちゃん騒ぎが聞こえてくるあたり、誰かがフライングしているのかもしれない。早く行って、始めるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、今k「ヒャッハー!酒を持ってこい!」…………今回はお集まりくださっt「こら!私の分も残しなさいよ!」…………今回はお集まりくださってありがとうg「おい、勇人も飲めよ!」ああ!始まりの挨拶ぐらいさせろ!」

 

「そんなもん、いらないぜ!さっさと始めようぜ!」

 

 

さっさと始めようとか言いながら既に始まってるんですが。やっぱり、手当たり次第に誘うんじゃなかった。

 

 

「もう、いい!ほら、今日は俺の奢りだ!存分に楽しめ!」

 

「言われなくても、そうするわ!」

 

 

既にどんちゃん騒ぎの宴会はさらに熱を浴びた。

 

 

「すいません、食材とお酒を全部負担してもらって…………」

 

「場所も設けてもらったし、手伝いもしてもらったからからくらいしないとな。それに、あまりお金使わないからね」

 

「おうおう?宴会の輪に入ってないかと思えば、2人してイチャイチャしてるのぜ?」

 

 

と、既に出来上がってしまっている魔理沙が絡んで来た。

 

 

「久し振り会って早々で悪いんだが、あまり近づかないでくれるか?酒臭くてかなわん」

 

 

俺の悪態が聞こえてないのか、グビグビと酒を飲む魔理沙。本当に俺と歳が近いのだろうか?

 

 

「最近のお前は仕事ばかりで、ダメなんだぜ。たまには、弾幕ごっこでもするのぜ」

 

「後半の事は同意しかねるが、確かに仕事ばかりだな。たまには幻想郷中を回るのもいいかもしれないな」

 

「それはいいとして…………飲むのぜ!」

 

 

と言うなり、魔理沙は酒の入った瓶を俺に突き出して来た。思わず、俺は反射的に躱した。俺の後ろには早苗がいるのだが…………

 

 

「「あっ」」

 

 

物の見事に、瓶は早苗の口に命中し、

 

 

「ゴクゴクゴクゴク…………」

 

 

みるみる、瓶の中の酒は無くなっていき、早苗の顔色も変わってきた。これは良くない。ここはさっさと立ち去るとしよう。

 

 

「…………勇人ひゃん」

 

 

服の裾を掴まれた。振り返ると、頰を赤く染め、上目遣いにこちらを見る早苗が…………

 

 

「お、俺、今から料理を…………ほ、ほら、幽々子さんがもう食べ尽くしてる頃合いだし…………」

 

「…………ヒック、私だって…………ヒック、我慢ひてるんでしゅよ?」

 

 

「わたひは!勇人ひゃんに!甘えたいんでしゅ!」

 

 

と、これまた瓶を掴み一気に飲み干した。

 

 

「ちょっと、落ち着け…………もう、酔っ払っちゃってるじゃんか…………」

 

「わたひが、ヒック…………酔ってる、ヒック…………様に見えますか?ヒック」

 

「おい!魔理沙…………」

 

 

元凶を探せば、霊夢達の所で「ほら!もっと飲むんだぜ!」と騒いでいる。

 

 

「魔理沙ひゃんに構わないで、わたひに構ってくだひゃい!」

 

「分かった!分かったから、料理を運んできたら、な?料理を運んできたら早苗に構うから、な?」

 

「本当でしゅか?」

 

「ああ、約束するから」

 

「なら、信じてあげましゅ!」

 

 

意外にもあっさりと引いた早苗は、再び酒を煽った。肝臓に異変が起きなければいいのだが。

 

兎に角、俺は台所へ向かい、料理を作るか。

 

 

 

 

「あら、貴方は飲まなくてもいいの?」

 

 

調理をしてる最中に後ろから声をかけられた。声の主はどうやら、幽々子さんのようだ。

 

 

「今回は主催者なので、自分はもてなす方に回らないと」

 

「と言いつつ、逃げてきただけなんでしょ?」

 

「幽々子さんが食べすぎるのでその分を俺が作ってるだけです」

 

「あら。なら、私が食べなかったら妖夢達と飲むのかしら?」

 

「なっ…………!」

 

「フフ、冗談よ、冗談。でも、作り終わったら妖夢に構ってあげて」

 

「早苗が先客なのでその後でも?」

 

「あら、先客いたの。ま、構わないわ」

 

 

その後は会話は続かず、料理を黙々と作るのみだった。

 

 

「貴方のおじいさんどう思う?」

 

 

不意に、そう言われ調理する手が止まった。

 

 

「どう思う、とは?」

 

「聞いてないわけじゃないでしょ?」

 

「…………そうですが、今は何も言えません」

 

「そう…………なら、あのじいさんの昔話とか興味、ない?」

 

「人には知られたくもない過去もありますから、興味があるない云々なしに聞こうと思いません」

 

「あら、真面目。これだっから…………妖夢が悶々とするわけね」

 

「はい、料理ができましたから、運ぶの手伝ってください」

 

「はいはい。美味しそうねぇ」

 

 

と幽々子さんにも手伝ってもらい料理を運んだ。

 

 

「ま、これからも頑張りなさいな。はい、お酒」

 

 

運び終わった後、幽々子さんが酌をしてくれ、ありがたくこれを頂戴した。

 

 

「準備お疲れ様」

 

 

と、この日は珍しく幽々子さんが優しいのでこれに甘え、盃を掲げて

 

 

「「乾杯」」

 

 

どんちゃん騒ぎの中、静かに俺は酒を口に運んだ。



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第99話 月夜の日の青年

今宵の宴は、外の世界とは違いかなり、盛大なものであった。

 

これでもかというほどに盛られた料理は、川魚や山菜などの山の幸が並ぶ。幻想郷に海がない為、仕方がないことだが、それに加え紅魔館の方からも料理まである。

 

かかるご馳走を取り囲むのは幻想郷の少女達だ。顔見知りのはずの面々だが、普段見ない組み合わせのせいか、いささか目新しいものがある。

 

幻想郷の宴会は、堅苦しいものとは、縁がない。それは俺の形すら叶わなかった挨拶で証明されている。

 

酒は萃香が選んだ、上々なものばかり。自分が作っておいて言うのもなんだが、料理も悪くないだろう。おまけに、守谷神社で行なっているお陰で、見上げれば満天の星空が広がり、絶景である。互いに注がれる酒を飲めば、たちまち賑やかに盛り上がった。

 

途中、萃香が呼んだのか、星熊勇儀が宴に加わり、場は一層盛り上がった。いや、盛り上がりすぎて、もはや、暴走に近い。

 

 

「久々の宴というのも、悪くないですね」

 

 

頰を赤く染めた衣玖さんが盃を傾けながら、言った。

 

天子は?と問う間も無く、

 

 

「総領娘様は、あそこで飲んでいます。すごく楽しみにしてましたよ?」

 

 

衣玖さんの指す方向を見れば、天子は霊夢や魔理沙達と絡み、馬鹿騒ぎをしていた。

 

苦笑しつつもコップを傾ける。中身は酒ではなく、レミリアが持ってきたブドウジュースだ。今回は主催者であり、主役ではないので自重した。

 

 

「早苗さんはどうしたんですか?」

 

 

そう問われ、衣玖さんは小さく笑い、向こうで妖夢と飲む早苗に目を向けた。2人して、ベロンベロンに酔い、泣きながら話している。

再び、衣玖さんに目線を戻せば何やらニヤニヤしている。

 

「どうした?意味ありげに…………」

 

「勇人さんは、女性なんて興味のない、仕事好きの人間かと思っていました」

 

「そんな、強い精神力の持ち主じゃない。並の男くらいにそういうことには興味がある」

 

「その割には、貴方はそういう感情をあまり外に出しませんね」

 

 

衣玖さんは再び盃を傾け、口を開く。

 

 

「貴方の周りは絶世の美女達ばかりなのですから、1人や2人抱いていてもおかしくないと思うんですが…………」

 

 

突然の衣玖さんの暴論に思わず、俺はジュースを吹き出してしまった。

 

はい、と衣玖さんから手ぬぐいを渡され、口元を拭く。

 

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「だ、大丈夫だが…………さっきの発言は控えてほしい」

 

「そういうことには並の男くらいに興味がある、と言ったのは貴方でしょう」

 

 

反論しようとするが、衣玖さんは続けて、

 

 

「それに、行動までとは言いませんが男ならそれくらいの度量を見せてほしいものです」

 

 

なんとも難解な事を言う。

 

とりあえず、口直しにブドウジュースを飲み干す。カッターシャツに染み付いたジュースを見て、額に手をやった。

 

 

「はぁ…………ちょっと着替えるから…………って、衣玖さん?」

 

 

シミのついたシャツを見つめたまま、問うが返答はない。

 

顔をあげれば、いつの間にやら妖夢と早苗がこちらまで来ており、さっきまで騒いでいた少女達は、ことごとく静まり返り、ニヤニヤとした顔をこちらに向けていた。

 

たじろいで、どうした、と声を発するより先に、早苗がすくっと立ち上がり、一歩近づいた。

 

訝しげな顔をするが、急に俺の顔を両手で掴んだ。

 

唇に温もりを感じたのと同時に、周りが再び騒ぎ始めた。

 

 

「さ、早苗…………にゃにを!?」

 

 

されたのは口付けだと言うことを理解するのはかなり遅れた後だった。

 

口付けと酒の匂いのせいか、脳内がこんがらがって、一歩下がろうとした。

 

 

「あら、手が滑ったわ」

 

 

と、わざとらしく幽々子さんが俺の背中をどん、と押す。しっかり、踏ん張っていなかった俺はバランスを崩し、妖夢を巻き込んで倒れてしまった。

 

妖夢に覆い被さるような形となってしまい、必然的に顔が近くなってしまう。

 

 

「す、すまない、ようm…………!」

 

 

もう一度、唇に温もりを感じ、目を見開くがそこには顔を紅潮させた妖夢の顔が映る。

 

 

「す、す、すまない、妖夢!」

 

 

急いで後ろに後退する。全くもって、驚く暇もない。

 

ショート寸前の俺に、今度は2人してにじり寄って来た。

 

これは良くない流れだ。

 

かなり良くない流れだ。

 

ただ、酔っ払うのなら多少は問題ない。しかし、それが暴走するのなら…………

 

俺は近くにあった徳利を手に取り、そのまま口に流し込んだ。今日は本当に酒をあまり飲まないようにと思っていた。しかし、今はやむを得ない。こんな状況下の中、素面で過ごせる程、俺の精神は強くない。

 

とんと徳利を戻すが、たちまち萃香が次の一杯を注いだ。かと思えば、早苗がもう一度、瓶を飲み干していた。

 

あとは騒乱の宴の再開である。

 

 

「勇人さん!私は勇人さんが好きだと言う事を伝えています!でも、勇人さんからのお返事はいただいてません!」

 

「い、いやぁ…………好きだと言われるのは嬉しいが…………」

 

「そうですよぉ!わたひも…………ヒック、好きなんれすよ!」

 

「お、おい…………飲みすぎだ」

 

 

うむ…………男としてここは、はっきりと言うべきなのだろうが…………

 

 

「ハハハ!なんだ?男のくせに情けない奴だねぇ。ここはもう、抱くしかないだろ?」

 

「は、はぁ!?そ、そんな、不純な事は俺には早い!」

 

「早いも何も、もう立派な男だろ?据え膳食わぬは男の恥、ならあれか?男が好きなのか?」

 

「そんな訳がないだろう!」

 

 

幼き姿とは裏腹に不純な言葉を繰り返す。すると、早苗は俺の腕に絡みつき、

 

 

「勇人ひゃん…………私、スタイルには自信があるんですよ?」

 

 

急に呂律が回ったかと思えば…………しかし、悲しいかな。男はそういう事には拒絶しようにも、誘惑の方向へと傾く。酒の匂いと官能的な言葉に惑わされ、意識が…………

 

 

「勇人さん、私はいいんですよ?」

 

「そ、そういうのは、ちゃんと経済的にも将来的にもちゃんと決めてから…………」

 

「勇人さんはぼーっとしていればいいんです。あとは全部済みますから…………」

 

「お、おう…………」

 

 

 

「勇人さん!!」

 

「はっ!?お、俺は何を!?」

 

「早苗さん、いい加減にしてください!」

 

「チッ、あともう少しだったのに…………」

 

「す、すまん、妖夢。危うく過ちを犯すところだった」

 

 

ほ、本当に危うかった…………

 

 

「勇人さんもはっきりと言ってください!」

 

「お、おう…………そうだな」

 

「勇人さんは早苗さんみたいなスタイルよりも私のような少し控えめな身体の方が好きなんです!」

 

「うんうん、そうだn…………は?何を言ってる?」

 

「だから、勇人さんは早苗さんよりも私の方を襲いたくなるはずです!」

 

「いやいや、ないからな?」

 

 

ダメだ…………どちらともかなり酔ってる。

 

 

「な、何を根拠に言ってるんですか?」

 

「早苗さんも見たでしょう?あの新聞を」

 

「うっ…………」

 

「そうですよね?勇人さん」

 

「そうなんですか?勇人さん」

 

「お、おう…………その件についてはノーコメントで…………」

 

 

この時、俺は2度と萃香に依頼などはしまいと心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

結局、事が鎮圧するのは2人が酔潰れるまでであった。宴の果てに、片付けを始めたのが何時であるか、判然しなかった。

 

ただ、皆が眠る中、俺1人が片付けをしている最中に、不意に紫さんがどこからともなく出てきて、俺に声をかけた。

 

 

「私と一杯付き合ってくれないかしら?」

 

 

断る理由もあるはずもない。

 

周りの気を配って、移動するがどの人も熟睡しており起きる気配はない。俺はただ黙って紫さんが開いたスキマへと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫さんが俺を招き入れたのは、かつて俺が幻想入りを果たした最初の場所である、紫さんの屋敷だった。

 

今日の夜は月がとても美しい。

 

一昔前の様な外観に、月明かりがそれを照らす。

 

こんな屋敷だったんだ、と疲れ切った頭で嘆息した。

 

半ば夢心地の状態で、紫さんに縁側へと手招きされた。

 

紫に勧められるがままに縁側で腰を下ろし、ぼーっとしていたら、藍さんが酒器と酒杯を控えていた。

 

 

「久し振り、ですね。いつも、橙がお世話になっています」

 

「そうだったわね、橙は元気にやってるのかしら?」

 

「まぁ、ありがたい話ですが楽しそうですよ」

 

 

その言葉に紫さんは笑う。いつもの何か裏のある笑いではない。

 

 

「まぁ、飲みなさいな」

 

 

差し出された酒杯をありがたく受け取り、すぐに紫さんの細い腕が酒を注ぐ。俺も紫さんに注ぎ返しつつ、

 

 

「こんな時にお酒に付き合えだなんて、なにかあるんですか?」

 

「あら、いつも私が悪巧みしている様な言い方ね」

 

 

こんな夜でも、食えない性格は変わらない。場をかき乱す、その胡散臭さは幻想郷の賢者の姿である。

 

 

「乾杯」といつもの様な調子で静かな酒宴は始まった。

 

当然、俺は酒の良し悪しは分らない。

 

 

「萃香にオススメされたの。なかなかいいでしょ?」

 

 

その言葉に俺は首を縦に振り賛同する。酒の良さが分らない俺でも、この酒はいいものだと分かった。

 

 

「久々に飲むのもいいわね」

 

 

そんな、年寄りめいたことを言いながら、杯を傾ける。

 

一方で気になるのは俺をここに招いた真意である。

 

そんな思いを知ってるのか知らないのか、紫さんのペースは異常に速い。それに加え、絶妙なタイミングで藍さんがつぎの一本を持ってくる。

 

杯を重ねるにつれ、時はあっという間に過ぎていく。

 

 

「それで、何か話でもあるんでしょうか?」

 

「あら、一杯付き合って、と言ったのに話しが必要なのかしら?」

 

「そう言う時は普通、何か相談事とかがあるんですよ」

 

「ま、鋭いこと。でも、まだ時間はあるわ」

 

「妖怪と人間とでは時間の流れの感じ方に違いがありますから気をつけて下さいよ?」

 

 

紫さんは扇子を開き、フフと笑った。すると、不意に

 

 

「貴方こそ悩みは無いのかしら?」

 

 

口元の笑みを扇子で隠しながら言った。

 

 

「まぁ、どうせ女の子悩み、なんでしょ?問題ないわよ。少し優柔不断なだけでは貴方を嫌わないわ」

 

「…………俺は外の世界で育ちました」

 

 

急に語る俺に対し、紫さんは何も言わずにじっと俺を見つめた。

 

 

「そして、縁あってこの幻想郷に来ました。幻想郷の人はみんな優しく、厳しく、そして残酷です」

 

 

「外の世界は、平等です。幻想郷とは違って、弱き者も救われる。いや、救われなければならないと言う世界です。その平等さを求めるのは異常なくらいです。でも、ここは平等、と言うわけにはいかない。必ず上があり下がある」

 

「なら、貴方はここの人達は不平等な中、生きてると言いたいの?」

 

「まさか、食物連鎖の如く、力の上下関係はなければならないと思いますよ。だからと言って、差別とかを肯定するわけでもないです」

 

「…………何を言いたいのかしら?」

 

「平等に執着しすぎなんですよ。例えば、目の前で困窮している者がいればどうします?多分、幻想郷の人達ならその者に手を差し伸べる。でも、外の世界はそういうわけにはいかないんですよ。助けるのなら、目の前の人、1人だけじゃない。全体に平等に助けようとして準備する。でも、それっておかしいですよね」

 

「なんでそう思うの?」

 

「質問を質問で返すことになりますが、助けようと思った理由なんです?」

 

「…………()()()()()()()()()()()()()()、ね」

 

「そうです。目の前の人を哀れに思ったから助けようとする。なのに、外の世界は1人だけだと不平等だからと周りの人たちも助けようとする。そもそも、1人の事を考えれないのに、何百万、何千万の人を救おうとするなんておかしい話です」

 

 

「そう言いながらも、自分も結局そう言う考えなんですよ。片方だけ、と言うのは不平等だと思うから、こうやってはぐらし続ける。向こうは俺の事をこんなにも想ってくれてるのに」

 

 

はぁ、とため息をつき、酒杯を傾ける。

 

 

「ひとつだけ、貴方に言っておくわ」

 

 

紫さんはすぐには口にせず、俺の酒杯に酒を注いだ。

 

 

「幻想郷はなんでも受け入れるわ」

 

 

「貴方がいくら外の世界の思想を持ってようが、ヘタレだろうが、幻想郷ではどうでもいいの。そんな事ひっくるめて、幻想郷は受け入れるの」

 

 

「それにあの人の孫である貴方よ?私はなんの心配もしてないわ」

 

「嬉しい言葉です。しかし…………まるで俺のじいちゃんの事を知ってるみたいですね」

 

 

紫さんは俺の問いにすぐには答えず、酒杯を傾けた。

 

 

「貴方のおじいさんのお話はまた今度の機会に、ね?」

 

 

そう言う姿は紛れも無い、幻想郷をこよなく愛する妖怪の賢者そのものだった。

 

 

 

 

「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」

 

 

 



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第10章 NEWORDER:NO.?? 寺子屋教師碓氷勇人の抹殺依頼
第100話 前触の日の青年


お陰様で100話目となりました。ありがとうございます。

これからも応援よろしくお願いします。


〜宴会から4日後〜

 

 

宴も終われば、次に来るのは再び日常である。と、言いたいのだが…………そう言う訳にもいかないようだ。

 

最近は大きな異変もなく、せいぜい天子が寺子屋を破壊したぐらいしかない。もっとも、その天子は今でも寺子屋を訪れては俺の授業を聞きに来る。

 

そう考えれば、非日常的な事が日常レベルで起こる幻想郷としては、かなり平和だ。

 

 

「平和なのも、貴方のお陰よ?」

 

 

と紫さんに言われたが、実体としてはやはり、霊夢のおかげだろう。そもそも、俺の本職は教師であって、異変解決ではないのを忘れないでもらいたい。

 

 

まぁ、話が逸れたが、簡単な話、問題が発生したわけだ。

 

 

この幻想郷には俺のように時折、外の世界の者が迷い込む事があるそうだ。基本的には博麗神社で保護され、元の世界に戻されるらしい。最悪な場合、妖怪に食われるそうだ。そう考えると、俺も運がよかったな。

 

こんな話をするのだから、発生した問題は外の世界の者の事だ。問題となっているのは、その者は偶然、幻想郷入りを果たしたのではなく、どうやってか、紫さんと霊夢とで張られた2つの結界を破って侵入してきた事だ。さらには、堂々と紫さんの元に現れたのだと言う。

 

俺は紫さんの事だからすぐにとっ捕まえたと思ったのだが…………

 

 

「ごめんねー、私、怖くて…………逃げられちゃった」

 

 

紫さんに怖い者は無かろうに…………それに、ぶりっ子で言われても…………年相応ってものがあるんじゃないのか?

 

要するに、何者かが幻想郷に侵入。その者はそれなりの実力者であろうから、気をつけるべし、と言ったところか。

 

まぁ、霊夢が捜索するって事だから、俺はいつも通りに生活するだけだ。日頃より少し用心するだけ。

 

明日から、また授業をしないとなぁ…………

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

〜宴会から2日後〜

 

 

森の路地の中に老人が通る。その老人は車椅子姿であり、メイド服姿の女性がその車椅子を押している。

 

黒い山高帽にカラーのついた黒の上下という古風な服装をした白髪の老人はメイドに手で合図をし、車椅子から手を離させる。

 

 

「お気をつけくださいませ、御主人様(マスター)

 

 

と、メイドはお辞儀し、老人は車椅子を動かす。老人の背後でメイドは粒子となり、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と勝手な事をしてくれたわね」

 

 

虚空から突如、スキマが現れ老人の行く手を阻んだ。

 

 

「この幻想郷に不法に入る者は消えてもらう事になってるの。だから、さっさと消え失せてくれないかしら?」

 

「不法?ここに法なんてあるのかね?嬢ちゃん」

 

「嬢ちゃん、だなんて。確かに貴方は人間からしたら腐れきった老人(ロートル)かもしれないけど、私からしたらくそ子供(ガキ)よ?」

 

「そうかい、なら右も左も分からんこの子供(ガキ)に教えてくれないか?」

 

「いいわ。幻想郷の創造者の私が教えてあげる。ここの法はこの幻想郷よ。幻想郷に従わない者、勝手に入る者はみな排除よ?」

 

 

そう言い、紫は扇子を老人の首元に突きつける。

 

 

「猶予をあげるからさっさと消え失せてなさい。さもないと…………殺すわよ」

 

「ハハハハハ!」

 

 

紫の人外な威圧があるのにも構わず、老人は高笑いをする。

 

 

「何がおかしいのかしら?」

 

「冗談が過ぎるな。私を()るつもりか?」

 

「ええ、貴方みたいな老人なんて、一握りでお終いよ」

 

「私を()った、ところで無駄だ。いくら()っても、私の任務は遂行される」

 

 

「何故か、分かるか?」

 

「さぁ、でも、遊びは終わりよ?」

 

「まだ遊べるさ。夜は長い」

 

子供(ガキ)は寝る時間よ」

 

 

紫はクスリと笑い、その老人の首を握り潰そうとする。すると、その腕を1つの弾丸が貫いた。

 

 

「…………あら、邪魔者が入ったわね」

 

 

腕を貫かれて、尚平然としているのは妖怪故か。

 

 

「チッ…………化け物か」

 

 

黒い瞳に、短い黒髪。もみあげが長く、上下黒いスーツをワイルドに着崩したファッションの男は舌打ちと共に吐き捨てた。

 

 

「噂には聞いていたが、妖怪っているもんなんだな」

 

 

と、銃を構える。その銃は、レボルバー拳銃なのだが、2つ銃身があるダブルバレル方式という、特異な代物である。

 

 

暴君(ダン)、今回()るのはそいつじゃない。別の奴だ」

 

老人(ロートル)に命令されなくとも分かってる」

 

 

ダン、と呼ばれる男は上司らしい老人に対しても無礼な言葉を並べる。老人は慣れているのか別段、咎めもしない。

 

 

「あら?貴方達は無事にいられると思ってるのかしら?」

 

「ふんっ、こいつを()ってもいいか?」

 

「…………好きにしろ。私は先に消える。だが、目的だけは忘れるな」

 

「はいはい。老人(ロートル)の言う事は聞くべき、だな」

 

 

そして、老人はメイドと同じく、粒子となって消えた。

 

 

「待ちなさい!」

 

「おっと、相手は俺だ」

 

「…………どのみち、全員始末するし…………いいわ、貴方から消してあげるわ」

 

「血の気が盛んな女だ。サシで俺を()れるか?」

 

「人間がほざかないで」

 

「けっ…………貴様は4発で十分だ…………」

 

 

と、ダンは短く笑い、引き金を引く。しかし、弾丸は紫によって開かれたスキマへと消えた。

 

 

「ん?変わった、能力を持ってるんだな」

 

「ふふ…………なら、もっと見せてあげる」

 

 

ダンの横にスキマが開き、そこから先程ダンが放った弾丸が飛んできた。間一髪のところでダンは躱す。しかし、その隙に紫はスキマを使い後ろに回り込み、弾幕を放つ。

 

 

「チィッ!」

 

 

ダンは躱して、銃を2発撃つが紫はかわしざまに足蹴りで銃を弾き飛ばす。弾き飛ばされた銃は地面に落ちる。

 

 

「終わり、よ」

 

 

紫はビーム状の弾幕を放つ。それをダンは再び躱す。

 

 

「なかなかやるじゃない。まぁ、いずれ死ぬでしょうけど」

 

()れるのならの話だ」

 

 

弾幕をかわしざま、地面の銃を取るダン。雨あられと放たれる弾幕をかわして懐に入り込み、紫の顎に銃を突き付ける。

 

 

「This is too easy(余裕だ)」

 

 

パァン、という音と共に紫の頭が撃ち抜かれる。

 

 

「妖怪の賢者といえども、この程度、か…………」

 

 

そう言い、ダンは倒れた紫から去った。

 

しかし、ダンが去ったあと、頭を撃ち抜かれたはずの紫はむくりと立ち上がった。

 

 

「イタタ…………油断したわ…………久々に人間に一杯食らわせられたわ」

 

 

 

 

「とりあえず、彼らの始末は霊夢か勇人に任せるとしようかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

〜宴会から5日後〜

 

 

最近、よく不審者の情報を寄せられる。俺に情報をを寄せても別に問題があるわけではないのだが…………異変解決は俺の仕事ではない事を理解してもらいたい。

 

まぁ、話を聞くに紫さんの言っていた侵入者の可能性もあるから、霊夢にでも報告するとしよう。

 

と、言っていたら、誰か俺の家に来たようだ。戸を叩く音が聞こえる。

 

 

「はいはい、今行きますよっと」

 

 

戸を開けば珍しい客であった。それと同時に丁度いい客でもある。

 

 

「おお、霊夢か。俺の家に来るなんて、明日は雪か?」

 

「別にいいじゃない。貴方も知ってるんでしょ?」

 

「あぁ。ご苦労な事だ。それで?用件は?」

 

「最近、変な奴がうろついているっていう話を聞かされるの。それを貴方に報告しに、ね」

 

「奇遇だな。俺もその話を聞いたんだ。…………だが、今回の件はお前が解決するのだろ?」

 

「協力してくれてもいいじゃない。人探しは面倒なのよ」

 

「分かった。で、その話は?」

 

「魔理沙からの話なんだけど、魔法の森で袖なしの下着と裾の短いズボンを履いた子供がいたらしいの。何やら、ばんだなとへっどふぉん?っていうのをつけてたらしいわ。魔理沙は追いかけようとしたらしいけど、足がとても速くて逃げられたって」

 

「え?俺は違う話を聞いたぞ。ていうか、俺も見た」

 

「ほんと?聞かせて」

 

「派手な柄の開襟シャツに、ジーンズ姿だったな」

 

 

そんな格好だと、幻想郷では嫌でも目立つ。俺だって、当初は変な格好だと言われたものだ。

 

 

「ジーンズ?まぁ、いいわ。それで?」

 

「まぁ、声をかけようとしたら、ジャンプで建物の上に逃げてってしまったよ」

 

 

あの時はかなり驚いた。あんなジャンプ力は人間外だ。妖怪なのかもしれない。

 

 

「という事は…………侵入者は4人ね」

 

「4人?」

 

「紫が2人会ってるのよ。だから、合わせて4人」

 

 

複数人かぁ…………そりゃあ、面倒だな。

 

 

「勇人さん!勇人さん!」

 

 

どこからともなく、文が上空から現れた。どうやら、あわててる様子だ。

 

 

「どうした、文。取材はお断りだ」

 

「違います!妖怪の森に変な奴が現れたんです!」

 

「「!?」」

 

「白いスーツにマントをつけて、覆面をした大男です!」

 

 

文の言葉に俺と霊夢は頭を抱えた。

 

 

「あ、あれ、どうしたんですか?」

 

「これで、5人だな…………」

 

「えぇ…………」

 

 

スーツにマントって…………どんな奴なんだよ…………

 

 

「勇人さん!」

 

「また?」

 

「おぉ、鈴仙か…………どうした?」

 

 

今度は鈴仙がやって来た。

 

 

「いえ、最近また、異変解決をしてると聞いて情報提供を…………」

 

「「…………」」

 

 

俺と霊夢は互いに見、ため息をついた。

 

 

「えーっと、どんな奴だ…………」

 

「白いワンピースドレスを着た女性です!あ、あと、服に血飛沫が付いてて、裸足でした。もしかしたら、幽霊かもしれません…………」

 

「これで6人、ね?」

 

「あぁ…………」

 

 

今回の侵入者はグールプで動いているのかな。しかし、どいつもこいつも、個性的な格好しやがって…………共通点が見当たらない…………

 

 

「先生!」

 

 

今度はチルノと大妖精が現れた。

 

 

「どうした?宿題がわからないのか?」

 

「ううん。霧の湖に変な奴がいたの」

 

「…………はぁ、どんな奴だった?」

 

「うーん…………変態だった!」

 

「変態?何かされたのか?」

 

「いいえ、違うんです…………銀髪の男性だったんですけど…………上半身裸で物凄く猫背だったんです」

 

「おいおい…………マジモンの変態じゃないか」

 

「これで7人…………こうなるとまだまだいそうね」

 

「ああ」

 

 

 

相次ぐ、目撃の情報に俺と霊夢は得体の知れないグールプの存在に頭を悩ませる事になるのだった。





読んでいて分かった人もいるかも知れませんが、この章から『キラー7』というゲームのキャラをモチーフとした登場人物が現れます。モチーフと言っても、基本的な設定はそのままです。しかし、都合上一部の設定が変わったりします。また、ゲームとの関連性はほとんどないと思ってください。あくまでモチーフでありますので。よろしくお願いします。


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第101話 邂逅の日の青年

 

〜宴会から7日後〜

 

 

俺は、地面に寝転がった状態で、目が覚めた。上を見上げるが穴が続くのみ。空の景色をろくに見れやしない。

 

今日の天気はどうだったけ…………

 

そんなのんびりとした考えは、全身に伝わる痛みで吹き飛ばされた。

 

ぼんやりとしていた視界もようやく輪郭をはっきりと捉えるようになった。しかし、それと同時に圧倒的な現実を突きつけられた。

 

傷だらけの左手が突き出した岩を掴んでいる。周りは、一ヶ所を除いてほぼ垂直に立ち上る絶壁が広がる。地面には2つの拳銃と授業用のノート類が散らばっている。

 

少しずつ状況を理解していくうちに、頰にぬるりと暖かいものが流れ込んだ。

 

それを手で拭い、血液だと気付いた瞬間、ようやく俺は全てを理解した。

 

 

「落ちた、のか…………」

 

 

そう呟くと同時に全ての記憶が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜宴会から6日後〜

 

 

「ふぅ…………」

 

 

今日の授業を終え、チルノたちに別れを告げた後、俺は1人寺子屋で宿題のチェックをしていた。

 

今回の内容は分数なのだが…………分数は普段算数が苦手ではない子でもここでつまづいて、苦手となってしまう子が多い。今回の宿題は比較的簡単に作ったとは言え、間違いが目立つ。

 

ここの内容となると俺は…………4、5年前になるのかな。まぁ、苦戦した記憶はないな…………

 

 

「お疲れ様です。勇人さん」

 

 

丸付けを終え、ぼーっとしている俺に誰かが声をかけた。

 

 

「おぉ…………早苗か。どうした?」

 

「今日は人里に用事があったのでそのついでに…………」

 

「そうか、ちょうどいい。一緒に帰るか?」

 

「はい!」

 

 

 

 

幻想郷に侵入してきた者の噂はあまり広がっていないのか、人里ではいつもと変わらなく活気付いている。

 

時折、"先生"と挨拶され、これを返す。先生と呼ばれる事にも慣れてしまったな。少し前まで、先生と呼ぶ側だったのに。

 

 

「勇人さん、侵入者の件、どうですか?」

 

「今の所、進展なしだな。ちらほら、見かけたと言う話があるんだが…………」

 

「そうですか…………でも、無理は禁物ですよ?」

 

「大丈夫。今回は霊夢が解決してくれるから。俺はちょこっと手伝うだけさ」

 

「なら、いいです」

 

「あ、そうそう。かなり遅れたが、宴会の件、ありがとう。礼と言ってはなんだが…………」

 

 

と、ノート類の入ったカバンから一番場所を圧迫している大きな箱を取り出した。

 

早苗はその姿を確認した途端、息を呑むような調子が伝わった。そして、僅かな間を置き、パッと顔を俺に向けた。

 

 

「え、ええ!?ゆ、勇人さん!」

 

 

大きな声に少し驚いたが、してやったりと、ほくそ笑んだ。

 

早苗の方は、そんな俺など忘れたかのように、慌てた声を上げている。

 

 

「こ、これ、どうしたんですか?」

 

「どうしたもないさ。俺が買った」

 

 

早苗は箱を胸元に抱え込み、俺を凝視している。

 

 

「気に入らなかった?」

 

「そんな事ないですよ!だって、この()()()()()は外の世界でも中々レアなんですよ!」

 

 

早苗の上ずった声が、空に響く。

 

早苗の見開かれた目が、俺と箱を行き来している。その慌てように流石に俺は苦笑する。

 

 

「女の子にプラモデルはどうか、と思ったが…………喜んでくれてなによりだ」

 

「どうやって見つけたんですか?」

 

「侵入者の調査の為に魔法の森に行った時なんだが、魔理沙に香霖堂という場所を教えてもらってね。そこで見つけた」

 

 

あそこの店主は奇妙な人だったな。ずっと本を読んでて、こちらには興味を示そうともしない。店内も店内でガラクタばっかりだったな。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

プラモデルを買う時に、店主からぼったくりとも言える値段で売られたが…………早苗のこんな笑顔が見れるならいいか。

 

早苗はプラモデルの箱をしばらく見つめた後、いきなり俺の横に移動してきて、腕にしがみついた。

 

 

「今日、私が勇人さんに最高のご飯をご馳走します!」

 

 

未だ興奮の冷めない早苗に思わず微笑が漏れた。

 

愉快な気分のまま、俺は守谷神社へと連れていかれた。

 

 

 

神社に着くと、早苗はパタパタと部屋に入り、プラモデルを置き台所に行った。

 

 

「おやぁ、今日は早苗、やけにご機嫌だねぇ…………」

 

 

部屋で座るとさも当然の如く、後ろから諏訪子様が絡んできた。

 

 

「さぁ…………いいことでもあったんでしょう」

 

「普段は飄々としている癖に、プレゼントをやるなんて、君もなかなかやるじゃないか」

 

「お礼ですよ、お礼」

 

 

この色男め、と絡まれるがふと何かの気配を察したのか、人をからかうような顔が急変し、真面目な顔となった。

 

 

「…………誰か、いるね」

 

「例の侵入者ですか?」

 

「…………いつもの奴とは違うねぇ」

 

「俺が見てきますよ」

 

「気をつけておきな。ちょっと、厄介な奴かもしれない」

 

「了解です」

 

 

俺は銃の入ったバッグごと持ち、守谷神社から出た。

 

 

 

 

少し妖怪の山を捜索すると、目的の人物はすぐに見つかった。

 

少し開けた場所にその男は大口径の銃を肩に担ぐようにして持ち、立っていた。

 

上下黒スーツ姿、黒の瞳に黒の短い髪、全身黒づくめの男はこちらを睨みつけたまま立っていた。

 

 

「貴様が碓氷勇人だな?」

 

「そうだが?何か用か?授業を受けたいのなら寺子屋に言ってくれ」

 

「用か…………用ならある。貴様を()りにきた」

 

「とる…………?」

 

 

なんだ?何か俺から奪うのか?

 

 

「ふんっ、ただの餓鬼相手に弾は1発で十分だ」

 

 

銃口がこちらを向き、安全装置の外れる音が鳴る。それと同時に俺は咄嗟に不変の結界を作り出した。

 

 

パァン!

 

 

「…………ん?」

 

「ただの餓鬼に…………なんだって?」

 

 

俺はすぐに男の獲物を確認する。銃口が2つのダブルバレル方式か…………は?レボルバー拳銃でダブルバレル?それを片手で…………?

 

 

「チッ…………テメェも何か能力を持ってやがんのか」

 

 

相手の拳銃にいつまでも驚いていられないので、すぐさまバッグから拳銃を取り出す。

 

 

「あ?そんなおもちゃみたいな銃で俺を()れると思ってんのか?」

 

「やってみるか?」

 

「格下が鳴くな」

 

 

そう言い、2人の間に沈黙が訪れる。先に動いたのは俺の方だった。

 

素早く銃を構え引き金を引く。

 

 

パァン!

 

 

「…………やっぱり、餓鬼じゃねぇか。外しやがって」

 

「…………ブフッ」

 

「こんな簡単に()れるとはな。骨のねぇ奴だ」

 

 

パァン!

 

 

「…………ッ!?」

 

「とる、とるって、あれか?命をとるって意味か?」

 

「チッ!幻覚か?」

 

「さぁ…………」

 

 

今まで、色んな妖怪とかと戦ってきたが…………こいつは中々やばいかもしれない。

 

最初からまともに早撃ちをする気なんてなかったから良かったものの、本気でやってたら、多分やられてた。狙いも完全に心臓にドンピシャだったし。

 

それに、さっきの弾丸も不意打ちながらも躱しやがった。

 

 

パァン、パァン!

 

 

「チッ!」

 

 

連射するが、男は木の陰に隠れた。だが、相手も銃を持っている。それも実弾。当たったら、弾幕とは違い大怪我となってしまう。

 

俺も同じく木に隠れる事にした。

 

あとはただ牽制し合う状態となった。下手に出れば撃ち抜かれる。今までの戦いで一番死を近くに感じ、手汗がにじむ。

 

 

「キリがねぇ…………」

 

 

そんな声が聞こえた瞬間、

 

 

「collateral shot!!(コイツはオマケだ!!)」

 

 

ドォン!

 

 

重々しい銃声が聞こえた瞬間、全身に強い衝撃が走った。

 

それが相手によるものだと気付いた時は遠くに吹き飛ばされ、大きな穴にまで飛ばされた。こんなのあったか?などと考えている暇は無い。

 

 

「ケッ!まだ、生きてるか?しぶとい奴だ」

 

「…………」

 

 

俺は咄嗟に銃を構えようとした。

 

 

パァン!

 

 

「なっ!?」

 

 

しかし、銃は男の狙撃によって弾かれ穴の中へと落ちていった。

 

レベルが違う。

 

今更ながらそれを痛感した。今までの敵は妖怪がほとんどだ。技術なんてあったものでは無い。しかし、今回の相手は違う。プロと素人のレベルで差がある。

 

 

「そうだ、冥土の土産に教えてやろう」

 

「…………」

 

「今回、お前を殺すように依頼したのは…………」

 

 

男の口が動く。その言葉を聞いた瞬間、俺はあらゆる思考を止めた。足元が崩れ去る感覚。俺は何も考えれなくなった。

 

しかし、すぐに意識を戻し、すぐさまもう1つの銃を取り出し、発砲した。

 

 

「…………ッ!?」

 

 

弾丸は狙いとはずれ、頰を掠めただけだった。相手も咄嗟に銃を発砲し、

 

 

パァン!

 

 

「え…………?」

 

 

右肩に凄まじい衝撃が走り、体は後方に吹き飛ばされた。

 

吹き飛ばされた後、俺が地面に着くことはなかった。ああ、後ろは穴だったか…………

 

それに気づく時には脳天を突き抜ける痛みと、何かが頭にぶつかる衝撃で、あっという間に意識は刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人さん…………楽しみにしてるかな…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜宴会から7日後〜

 

 

俺はひと通り思い出し、息を吐いた。しばし気持ちを落ち着かせようとするが、右肩がとても熱く、激痛が伴う。それを我慢しつつ、俺は目だけで周りを見渡す。

 

四肢の無事を確認するために右腕から確認しようとするが、やはり痛く、動かせない。左手は幸いな事に動く。その左手で頭の傷を確認する。後は、足か右脚…………左脚…………そこで唐突な激痛に俺は思わず声をあげた。首だけ起こすと、左の脛あたりから歪んで見えた。

 

 

「折れたのか…………」

 

 

俺は空を仰ぎ、呆然とした。

 

 

「ちくしょう…………」

 

 

口ではそう言うが、頭は恐ろしく落ち着いていた。とりあえず、足と肩の痛みに耐えつつ、上半身を起こすと、上への穴とは別に道が見えた。

 

時計もないため今までどれくらい意識を失っていたか分からない。

 

どうするか、と懸命に思考を巡らせる。

 

普通なら連絡なのだが、生憎、幻想郷に電話を使う文化はない。なら、誰かが来るまで待ち続けるしかない。

 

妖怪の森の奥深くの穴に落ちている俺を見つけるまで。

 

食料もない、傷の手当てもできない。そんな中で誰かが来るのを待たなければならない。

 

それに知り合いが来るとは限らない。妖怪が来るとも考えられる。そうなれば、為すすべなどない。

 

普通に考えて、幻想郷で平気で生きられた方がおかしかったのかもな、と苦笑したが、心は急速に冷えていった。

 

 

「…………ちくしょう」

 

 

ゆっくりと背を地面に倒し、空を見上げる。瞼が段々重くなり、ついには閉じる。

 

 

「おお?人間がここにいるなんて珍しいね」

 

「こんなところで寝ているなんて…………気長な奴で妬ましいわ…………」

 

 

妖怪か…………と気配で感じ取ったのを最後に俺は意識を手放した。



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第102話 落日の日の青年

〜宴会から7日後〜

 

 

勇人が穴に落ちていったのを確認したダンは、あたりを見渡した。

 

そして、勇人によって傷のついた頰を撫でる。少し油断したとは言え、傷をつけられるのは()()()として屈辱的だ。しかし、ダンとしてもっと屈辱的だった事はーー勇人が撃つ瞬間の殺気に少しながら、怯んだ事だ。

 

 

…………もう、ここには用はない。

 

 

ダンは勇人の落ちた穴に背を向け、銃を肩に担ぐように持ち妖怪の山から出ようとした。

 

 

「…………獲物はどこじゃ」

 

 

広島弁の男がダンに声をかけた。スーツを着たダンとは対照的にアロハシャツとジーンズというラフな格好であり、腕には刺青をのぞかせる。

 

 

「はっ、今更何を聞いている?貴様がチンタラしてる間に()っちまったよ」

 

 

()る。この者の間にとって、『殺す』とは言わず『()る』というのが当たり前のようだ。

 

 

「ーー死体は確認したんか?」

 

「知るか、穴に落ちていったのを一々確認する必要もねぇよ。あの深さなら死ぬか大怪我。後者なら野垂れ死ぬを待つだけだ」

 

 

男はダンの頰を傷をみつけ、

 

 

「ガキに傷を負わされたんか?」

 

 

その言葉がダンの癪に触ったようで

 

 

「あ?攻撃すらできなかった間抜けよりマシだろ」

 

「ガキに傷を負わされる殺し屋にゆわれとぉない」

 

「もう一度、()ってやろうか?盗人(コヨーテ)

 

 

ダンはダブルバレルの大口径リボルバー銃を、コヨーテは改造の施されたリボルバー銃を互いに向けた。

 

 

「銃を下ろせ!」

 

 

子供特有の甲高い声を張り上げたのはルーズなランニングシャツとハーフパンツを着た、小柄で痩せた体躯の少年である。目深に巻いたバンダナとヘッドホンで目と耳を覆ったスタイルが特徴的だ。

 

その少年も二丁のフルオートマチックの銃をダンに向けている。

 

 

「チッ」

 

 

少年の半端な介入によりますます空気は険悪なものとなった。少年に対しても「()らてぇのか?」と容赦なく殺気をぶつける。

 

 

「ダン、コヨーテやめないか」

 

 

今度は白いスーツを隙無く着こなす長身の黒人男性が姿を現した。自由に衣服を着る3人の中で唯一、髪と髭整えており、きちっとしている。

 

 

「チッ、業者(ガルシアン)に免じて許してやる」

 

「ケッ」

 

 

銃を下ろしたものの、睨み合う2人に構わず、ガルシアンは続けた。

 

 

「で、ダン。()ったのか?」

 

「ああ、さっきな」

 

「…………そうか」

 

 

そう言う、ガルシアンはどことなく悲しそうな顔をした。それを見て、ダンは

 

 

「優しすぎんだよ。ガキとは言え17だ。一々同情してたら殺し屋なんてやってらんねぇぞ」

 

「17か…………まだまだ子供じゃないか」

 

「はぁ…………お前といると調子狂うぜ…………」

 

「他に用件はないんか?」

 

「それだが、どうやら私たちは閉じ込められてしまったようだ」

 

「どういうことだ?」

 

「この幻想郷から出られなくなった、ということだ」

 

「はぁ?結界でも貼られとるんじゃったら、あんなぁに任せりゃぁええのに」

 

「そうにもいかんのだ。結界の主を倒さんと外に出られない」

 

「結界の主…………あの女か…………」

 

「当分、私たちはその主を()ることが今後の行動だ」

 

 

といい、ガルシアンらは粒子となって消え去った。そう、大将(ハーマン)の元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜宴会から8日後〜

 

 

「勇人は確かにここに来たのよね?」

 

 

昨日、勇人が戦った場所に紫と諏訪子が佇んでいた。

 

 

「…………ああ。様子を見にいったさ」

 

 

諏訪子は紫を見た。

 

 

「この木…………」

 

 

紫が、折れた木を見つけた。その木は折れた部分が黒く焦げている。

 

 

「血と…………火薬の匂いがするねぇ…………」

 

 

諏訪子も血痕を見つける。

 

その場所は大きな穴の目の前にあり、誰かがいた事、戦闘になった事を示していた。

 

 

「…………これは勇人の血だねぇ」

 

 

その声は普段と変わらないように聞こえるが、その顔はどこか険しい。

 

 

「こりゃあ、やられちまったかもしれないよ」

 

「いえ…………まだ、生きてるわ」

 

「おや、断言できるのかい?」

 

「ええ、あの人の孫なら簡単にはくたばらないわ。この穴…………確か、旧都に続いてるのかしら?」

 

「ああ。何か考えでもあるのかい?」

 

「勇人は少し、身体が弱いから…………ちょっと稽古でもつけてもらいましょ。萃香から頼んでもらうように話をつけておくわ」

 

「待て待て。勇人に稽古をつけてどうするつもりだい?」

 

「もちろん、侵入者を倒してもらに決まってるじゃない」

 

「侵入者がいつまでもここに居座るわけがないだろ!」

 

「いいえ。居座らざるおえないわ」

 

「…………どうするかは紫の自由だが、そこまで勇人に執着するのは何か理由でもあるのかい?」

 

「さぁ?やられっぱなしじゃあ、勇人も悔しいかな、ってね」

 

「…………はぁ。早苗達にはなんて言うつもり?」

 

「適当に理由をつけておくわ。あ、あと、侵入者はじっとはしてないわ。いつ攻撃されてもおかしくはない」

 

「気をつけておくさ。神様を舐めないで欲しいもんだね」

 

「強者な事は確かよ」

 

「分かってる、心配するなら勇人を心配しな」

 

「そうさせてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜宴会から10日後〜

 

 

「はぁ…………はぁ…………」

 

 

風が頬を撫でた。

 

洞窟内ゆえ、視界は悪く、足場も悪い。

 

早く逃げないと、そんな思いで満身創痍の体を突き動かした。しかし、肉体的な苦痛は治らず、意識はやや朦朧としていた。意識を手放さないよう、必死に思考を働かせる。

 

片足が使えないのは本当に不便だ。一度捻挫で松葉杖をついてた時期もあったので、不便さはよく分かる。

 

おまけに道は整備されておらず、ボコボコの岩道で余計に進むのを困難にする。

 

 

「こっちに来てる…………」

 

 

掠れる声で呟きながら、自分の左足を見た。

 

脛あたりで歪んでいた左足は、添え木と何かの布で固定されていた。しかし、痛みは発しており、俺の思考を阻害する。撃ち抜かれた右肩も同じように治療が施されており、止血されている。

 

ただ、右腕を下手に動かそうとすれば激痛が走る。そのため、左手にしか銃を掴めない。

 

この状態で動くべきではないという、当たり前の事は分かってはいるのだが、状態が状態。そんな事に甘えている場合ではないのだ。

 

 

 

 

目が覚めた時は随分と驚かされたものだった。

 

まさか、妖怪が俺の手当てをしてくれるとは思わなかったのだ。

 

 

 

 

「うぐっ…………」

 

「おや?目が覚めたようだね!」

 

「妖怪かっ…………!」

 

「落ち着いて、何もとって食おうだなんて思ってないからさぁ」

 

 

金髪のポニーテールに茶色の大きなリボンの女の子が俺を落ち着かせるように言った。

 

服装は、黒いふっくらした上着の上に、こげ茶色のジャンパースカートを着ている。スカートの上から黄色いベルトのようなものをクロスさせて何重にも巻き、裾を絞った不思議な衣装をしている

 

やはり、幻想郷の人々は個性的な服装が好みみたいだ。

 

 

「…………本当か?」

 

「もちろん!私は黒谷ヤマメ!貴方の名前は?」

 

 

すぐには名前を言わなかった。すぐに自分の正体を明かすのに何か気が引けたからだ。ただ、目の前の少女は真っ直ぐとこちらを見ているので問題ないかなと

 

 

「碓氷勇人だ。君が治療を?」

 

「うん!」

 

「そうか…………ありがとう」

 

「いいってことよ!」

 

 

気さくで明るい、そんな印象を受ける女の子だ。彼女は人付き合いが上手そうだ。

 

 

「そうだ、俺の荷物は知らないか?」

 

「こっちで預かってるよ」

 

「そうか、ならすぐにここを出よう。いつまでも世話になっては悪い」

 

 

立ち上がろうとした瞬間、右肩に激痛が走った。思わず、うっ、と声を漏らしてしまった。男ながら情けない…………

 

 

「ちょ、大怪我してるんだから動かないの!安静にしとかないと!」

 

「いや、しかし…………」

 

「大丈夫!人間の男1人くらい苦にならないって!」

 

「そ、そうか…………すまない」

 

「いいから、君は寝てなさい。人間は()()んだから」

 

「!!」

 

 

弱い…………その言葉を聞いた瞬間、あの男との戦いが頭をよぎる。圧倒的な技術の差。短い戦闘の中にそれを痛い程突きつけられた。

 

そんな動揺が顔に出ていたのだろうか。ヤマメという少女が茶色の瞳でこちらの顔をじーっと見つめていた。

 

 

「ど、どうかしたのか?」

 

「いいや、人間なのに随分と落ち着いているなーってね。普通、目の前に妖怪がいたら慌てるのに」

 

 

そりゃあ、妖怪に慣れているからと言いそうになったがそれを堪えた。

 

 

「そ、そうかな?内心はすごくビクビクしてるかもよ?」

 

「ふーん。まぁ、今はゆっくりしてなよ」

 

 

この後、飯まで準備してくれ、こちらが申し訳なくなるほどだった。

 

 

 

 

しかし、全ての妖怪が人間に対して、友好的であると思っていたのが間違いであったと同時に、そんな事すら分からなかった自分が滑稽であった。

 

 

 

その日の晩、俺は飯を食べた後は中々寝付けないでいた。今までぐっすりであったのと、今更右肩が痛むのである。

 

寝れないのならしょうがない。適当に考え事でもするかと思った矢先、外からの話し声が聞こえて来たのだった。

 

 

「やぁ、ヤマメ。元気してるー?」

 

「もっちろん!そうそう!久し振りにこの洞窟にお客さんが来たんだよー!」

 

「本当?どんな妖怪?」

 

「妖怪じゃないんだー、人間がいたのよ。いや、落ちていた?」

 

 

所々聞こえないが、察するに俺の事を話そうとしているのかな?

 

 

「パルスィと歩いていたらね、地上に繋がる場所にボロボロな状態で落ちてたのよ」

 

「誰かに襲われたのかな?」

 

「うーん、右肩に何かで貫かれた傷があったし、そうかも。あと、少し落ち込んでたし」

 

「ふーん、で、どうするの?」

 

「どうする、て?」

 

「食べないの?」

 

 

食べる?今、食べるって言わなかったか?もう少し会話を…………

 

 

「確かに、地上の人間と言えども勝手にこっちに来たわけだし…………」

 

 

 

 

やっぱり!俺を食う気だな!

 

そして、自分の身に危険を感じた瞬間、まだ話し込んでいる妖怪を尻目に妖怪の住処を出たのである。

 

 

 

 

「でも、食べないよ」

 

「知ってる。軽い冗談だよ。人間を食べるタイプじゃないて知ってるよ。でも、気に入ったんでしょ?」

 

「え!?」

 

「女の子はそういうのには敏感なのさ…………ってね」

 

「えへへ…………顔見た瞬間、ビビッと来たんだよ!」

 

「一目惚れ?」

 

「そうなるかな。でも、目覚めた後、少し弱気になった顔もまた…………それに、性格も良さそうだし」

 

「ヤマメって、少し変な趣味持ち合わせてるよね?」

 

「そう?ちょっと落ち込んだ男が好きなだけだって!」

 

「だから、それが変なのよ」

 

 

「ちょっと、お二人さん」

 

「「ん?」」

 

「ここに勇人って子、来なかった?」

 

「あ!萃香さん!」

 

「それに勇儀!」

 

「久しぶりだねぇ。で、見なかったかい?」

 

「勇人って、碓氷という苗字の?」

 

「そうそう!なら、見たのかい?」

 

「見たもなにも、今、うちで休んでますよ。大怪我してたから。今から呼びに行ってくる!」

 

「だってよ、萃香」

 

「やられたっていう話は本当のようだねぇ…………」

 

「案外、弱っちぃのかもなぁ、萃香?」

 

「それはない。私が保証するさ」

 

 

「萃香さん…………」

 

「おや?呼びに行ったんじゃないのかい?ヤマメ」

 

「いなくなっちゃった!」

 

 

 

 

 

…………少し平和ボケしたのかなぁ

 

俺は暗い洞窟の中を歩きながら、無理矢理笑顔を作った。しかし、それも最早引きつったものでしかない。

 

思えば、今まで戦ってきた相手も、力は持てども、技術がない者ばかりだった。それに加え、今までの勝利はほぼ初見殺しだ。2度目で勝てる気などとても思えない。

 

頭を使うと行っても小手先の小技ばかり。とても、技術で賄ったとは言い難い。

 

結局、誰よりも自分を過大評価していたのは自分だと気付いた時、俺は小さく笑った。

 

 

「そんなに、おかしいか?」

 

 

突然、降ってきた言葉に、少し遅れて反応した。

 

後ろを振り向くと、背の高い人が立っていた。疲労からなのか痛みなのかで焦点が合わずぼんやりとしか見えない。

 

 

「えーっと…………貴方は?」

 

「強くなりたいか?」

 

 

その人は女性であった。しかし、どこか聞き覚えが…………っていうか、何だ?強くなりたいか?って。

 

 

「お前はこのままでいいのか?」

 

 

うーん…………頭がおかしくなったのかな?

 

すると、相手の殺気が一気に放出され、皮膚をビリビリとさせた。

 

くそっ、妖怪か…………

 

 

次の瞬間、目の前に拳が迫っていた。しかし、その拳はただの人間や妖怪が繰り出すような生温いものではない。1発で相手の命を刈り取る、そんな威力を感じ取った。

そして、俺は恐怖を感じ取った。

 

 

「…………ッ!?」

 

 

しかし、拳は俺にぶつかる事はなく、目の前で止まっていた。だが、俺は恐怖を未だに感じていた。身体中から汗が吹き出し、奥歯が噛み合わず、カチカチと音を鳴らす。

 

唯一、左腕だけは銃をしっかり持ち、相手の腹に標準を定めていた。

 

恐怖で動けない俺に

 

 

「合格だ」

 

 

その言葉は俺には理解できず、ただ混乱させただけだった。だが、我知らず、俺はその女性について行っていた。



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第103話 移住の日の青年

暗闇の中にポツンと建つ小屋のような家は、風で軋み続けていた。

 

 

「あ、勇儀…………連れて戻って来たんだね?」

 

 

呟いたヤマメの声に、勇儀は黙って頷いた。

 

彼女の肩には、真っ白な顔色の勇人がぐったりと寝ていた。

 

勇儀は勇人の体をヤマメに預けた。ヤマメはゆっくりと敷布団の上に勇人の体を横にした。

 

 

「こんな体で動くなんてな。やっぱり、萃香が一目置いているだけはある」

 

 

と、少し驚いたように勇儀はいった。そして、塞がりかけていた肩の傷穴から再び出血している勇人の姿を見て、嘆息した。

 

ヤマメはつい1時間ほど前の彼の様子を思い浮かべた。

 

起き上がることすらままならなかった人間が、少し目を離した隙に小屋を飛び出してしまった。何故、そんなことをしたのかヤマメには全く理解できなかった。

 

勇人に対して、ヤマメは驚きとともにやや呆れた感情を向けていると、勇人は静かに目を開けた。そして、ヤマメたちの姿を目に捉えると

 

 

「…………俺をどうするつもりだ?」

 

 

血の気のない真っ白な顔で勇人はそれだけを告げた。

 

 

「どうするも何も、危害は加えないよ。君は少し勘違いをしてるんじゃない?」

 

 

ヤマメがそう言うが、勇人は警戒を解く様子を一向に見せず、焦点の合わぬ目で睨みつけている。

 

 

「そうだ。私が保証する」

 

「勇儀さん!?」

 

 

勇儀を見ると勇人は驚いた声をあげるのと同時に上体を起こした。その時に傷が痛んだのかすぐに顔をしかめた。

 

 

「無理をしないの。ほら、水だけでも飲みな」

 

 

勇人は何も言わず、少しだけ水を飲み再び横になった。そして、大きなため息をつき、首だけを動かして勇儀に視線を戻した。

 

 

「まだ、飲むかい?」

 

 

ヤマメの声に、小さく首を左右に振った。

 

 

「なら、包帯を変えるね」

 

 

そう言い、血のべっとり着いた包帯を剥がした。そして、何やら薬を塗りつけ再び新しい包帯を巻いた。

 

 

「不思議なもんだ」

 

 

ふいに勇儀は小さく呟いた。その声に勇人は首をかしげた。

 

 

「一度、あんたと手合わせをしたかったんだけどね。久しぶりに会えたと思ったらこれだ」

 

 

呟き声が途切れたところで、勇人は掠れた声で淡々と言った。

 

 

「俺としたら戦いは懲り懲りですけどね…………でも、ここではそんな泣き言も言ってられませんかね…………」

 

 

一呼吸置いて、勇人は言った。

 

 

「兎に角、ありがとうございます…………」

 

「私に言うな。こうやって、治療までしたのはヤマメだ」

 

「そうだな…………本当にありがとう」

 

「いいよ。それよりも、怪我の方は大丈夫なの?」

 

「大丈夫…………と言いたいけど、これじゃぁな…………」

 

 

深く溜息をつきつつ、天井を眺めた。

 

 

「でも、ここでゆっくりと休んでいる場合でもない…………あ、そうだ!」

 

「どうしたの?」

 

「悪いが、俺を永遠亭まで運んでくれないか?それだけしてくれれば、後は手間をかけない」

 

「え、ええ…………そ、それは…………」

 

「できないな」

 

「え?」

 

 

勇儀のはっきりとした言葉に勇人は絶句した。

 

 

「あんたに言い忘れていたが、ここは旧都と呼ばれる場所だ。ま、厳密に言えばここは旧都までの洞窟だがな」

 

「旧都?」

 

「そうだ。地上で忌み嫌われた妖怪たちが集まる場所だ。そこまで言えば、あんたを運んでいくことができない理由くらい分かるだろ?」

 

 

勇儀の言ったことに勇人は察してらしくバツの悪そうな顔をした。

 

 

「それに、紫からあんたを特訓するよう依頼されたんだ。しばらくはこの旧都で生活してもらうことになる」

 

「そうか…………は?」

 

 

唐突な勇儀の発言に勇人は一歩遅れて驚きの声をあげた。

 

 

「俺がここで生活する…………?」

 

「そうだ」

 

 

勇人は軽く眉をしかめた。

 

 

「と、特訓って…………そんな暇はないぞ!」

 

「だが、今のお前が再び戦って勝てる相手なのか?」

 

「…………ッ!」

 

「言っておくが、お前が負けた相手はそれなりの手練れだろう。紫も一度痛い目にあってるようだしな」

 

「そうなのか!?」

 

「油断はしてたみたいだが、あいつぐらいの妖怪がやられるぐらいだ。お前が勝てるわけがねぇな。ま、私も戦ってみたいものだが…………その前にお前の特訓が先だ。紫はお前に戦ってもらいたようだからな」

 

「だが…………」

 

 

反論しようと口を開いた勇人だが、その口を閉じることになったのは、勇儀の目に鋭い光があったからだ。

 

 

「なら、勝てない相手にもう一度戦って、死ぬか?」

 

 

唐突な声が薄暗い小屋の中で重く響いた。

 

 

「あんたの勇気は見上げたもんだ。だが、勇気と無謀は別もんぐらい分かるだろう?」

 

 

口調は淡々としているが、声には勇人を嗜める思いが込められていた。しかし、勇人は

 

 

「勝算は0じゃない。実力に差があったとしても策を弄すれば、勝算はまだ上がる。俺が弱いから負けたと言われれば、そうだが…………」

 

「無理だ」

 

 

投げ捨てるようなセリフに、勇人はぎょっとした。頭ごなしに否定されれば、流石に勇人は黙っていられない。

 

 

「人間よりも遥かに力を持つ鬼にそう切り捨てられたら返す言葉の無いけど、こっちにだって事情はある。弱い者は弱い者なりに戦わないといけないんだ。強い勇儀さんには分からない…………」

 

「ああ、そうだな。分からないな」

 

 

あっさりと答えられ、会話は途絶えた。話の糸口を掴もうにも掴めず、勇人は天井を見つめるしかなかった。

 

 

「でもな、強くなるために一度努力してから再び戦う方が勝算はあるんじゃないか?」

 

「それでも、届かないなら色んな策を弄すればいいさ。何も今の状態で戦う必要もない。ここは地上の奴に任せておいて、この旧都で鍛えてみるのもありじゃないか?」

 

 

その言葉は勇人を決断させるには十分だった。勇人は返す言葉を持たずただ、じっと勇儀を見つめた。

 

 

「その目…………どうやら、決めたようだね。よし!そうとなれば、旧都の輩に挨拶しに行くぞ!」

 

 

いきなり!?と眉を動かす勇人に、勇儀は冗談だ、と豪快に笑い飛ばした。

 

 

「さて、特訓しようにもその身体じゃあ無理だな」

 

「そうですよ。この身体じゃあ…………半年くらいはかかりますよ、治るのに」

 

「そこでだ。紫にこの薬を渡されたんだ。これを飲めばどんな怪我でも1発で治るらしぞ」

 

と、取り出した錠剤に勇人はただでさえ青白い顔をより一層青くさせた。

 

 

「どうした?あんた、薬が苦手なのか?」

 

「そ、そうじゃないが…………それだけは…………」

 

「あぁ?あんた、男だろう?黙って飲め!」

 

「あがっ!?」

 

 

拒否する勇人に勇儀は無理矢理口を開けさせ、そのまま放り込んだ。

 

 

「…………」

 

「あ、これ飲み込んでないよ」

 

「む…………ヤマメ水を持ってこい」

 

 

ヤマメはすぐに水を持ってきた。

 

 

「ほら、これで飲むんだ」

 

「むぐ…………ッ!」

 

「なかなか頑固ですねぇ…………あ!そうだ、こうして…………」

 

 

とヤマメは勇人の鼻を抑えた。

 

 

「プスー…………」

 

「口の端が開いた!」

 

 

すかさず、勇儀は少し開いた口の隙間に水を流し込んだ。

 

 

「…………ごくん」

 

「よし、飲んだな」

 

「…………ッ!」

 

 

予期せぬ勇人の反応にヤマメと勇儀は不安になって顔を見合わせた。

 

 

「アガアァァァアアア!!?」

 

 

暗い小屋の中で、勇人の叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだい、勇人は?」

 

 

萃香の声が聞こえ、勇儀は振り返った。

 

 

「どうだい、と言われてもな…………今は寝てるよ」

 

「それにしても意外だね」

 

 

勇儀は首を傾げる。

 

 

「何が意外なんだ?」

 

「あまり地上の奴と交流したがらないあんたが、すんなりとかの願いを聞いてくれることだよ」

 

「駄目か?」

 

「いいや、驚いただけさ」

 

 

萃香は伊吹瓢を口につけた。

 

 

「あいつは多分苦労するだろうな」

 

「もう、苦労してるさ」

 

 

勇儀は、酔っ払う萃香の姿を見て、微かに笑った。

 

 

「私にもその酒くれないか」

 

「へっ、どうせ、星熊盃で飲むんだろ?」

 

「当たり前よ」

 

 

萃香は勇儀の盃に酒を注いだ。その酒を勇儀は一息で飲み干す。

 

 

「勇人って奴は、腕がもげようが足がもげようが、戦うタイプだろ」

 

「…………腕がなくなったら、口で相手の喉仏を嚙みちぎりに来るだろうね」

 

「正義感が強いっていうのか…………頼ると言うことを知らないと言うか…………」

 

「もしかしたら、本能的に戦闘狂かもしれないね。一度戦った時、最後の最後で異常な力を見せてきたからね」

 

「へぇ…………あんな顔して、そんな所があるのか」

 

「まぁ、それを除けば、ただのいい奴さ。約束もしっかり守ってくれるし」

 

「お?嘘をつかないタチか?」

 

「さぁ、あいつ変な所で頭デッカチになるからなぁ…………"時には嘘も必要です"とか言いそうだもん」

 

「…………あんたや紫があいつの事を気に入った理由がなんとなくわかった気がするよ」

 

 

空になった盃に萃香は再び酒を注いだ。勇儀はすぐさま飲み干す。

 

 

「まぁ、妖怪に好かれるのも難儀なもんだ」

 

「確かに何人かは勇人にゾッコンなようだけど」

 

 

ん?と勇儀は眉を動かした。

 

 

「どんなに疲れている時でも彼の顔を見れば疲れがぶっ飛ぶって話だよ」

 

「はぇ…………勇人の奴、以外と女たらしなのか」

 

「はは、無自覚なら余計タチが悪いってね」

 

 

2人で笑い合いながら、萃香の脳裏には、嬉しそうに話す早苗の姿が思い出される。どんなに疲れていても相手を気遣ってくれる人だそうだ。

 

散々、早苗の惚気話を聞いていたが、そのくらいしか覚えていない。まともに聞くと日が暮れてしまうからだ。

 

 

「ま、常に酔っ払ってるちんちくりんな奴よりはいい人なんだろうな」

 

「あ?」

 

 

勇儀の煽りに萃香は顔をしかめたが、すぐに苦笑へと変わった。

 

 

「ある人曰く、兎に角素敵な人だってさ。いっつも、難しい顔で考え事をしていたり、紙に沢山の数字を書き並べたり、徹夜して次の日に倒れたり、よく怪我したり、よく子供たちに振り回されたりしてるが一生懸命な所がカッコいい、とさ」

 

 

へぇ、と首をひねった勇儀は、遠慮がちに口を開いた。

 

 

「…………それって、本当にかっこいい奴なのか?」

 

「同じこと思ったよ」

 

 

2人の鬼は顔を見合わせて、豪快に笑い合った。



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第104話 騒乱の日の青年

某所にて、薄暗い部屋の中に"スミス同盟"は集まっていた。

 

小さなアナログテレビしかない部屋に、リーダー格の男と7人の幹部は1人の女を前に臨戦態勢を取っている。

 

 

「何故、私らを閉じ込めた?」

 

 

鉄製の車椅子に座り、カラーのついた黒の上下という古風な服を着た老人ーーハーマン・スミスが口火を切ると、スキマから現れた紫に全員の視線が集めた。

 

 

「よくも、まぁ…………勝手に侵入した挙句、好き勝手暴れた分際で言うわね」

 

 

紫は立ったまま、怒りを抑えた声で言った。

 

 

「暴れた?私はせいぜい、たった1人の男を()っただけだが?」

 

 

しわがれた声でハーマンはぬけぬけと言った。

 

 

「そう…………勇人が()()()1()()()()ねぇ。なら、何故彼なのかしら?わざわざ、彼を尾ける真似までして。それが、かの有名な暗殺集団が十数歳の青年にすることかしら?それに、こんな空間まで生み出して…………」

 

 

紫は吐き捨てるように言った。

 

 

「言葉を慎め」

 

 

白いスーツを着た男ーーガルシアン・スミスは紫の無礼を許さず、紫を睨みつけた。

 

 

「私たちはオーダーされた任務を全うする…………それだけ…………」

 

 

スミス同盟唯一の女性だ。ショートカットの紅一点ーー墨洲 楓は屈強な男の多い、暗殺集団の中では不似合いだ。

 

 

「ヒヒッ、それにその勇人って奴がいなくなればこの世界は平和になるんだろ?だったら、むしろ褒めて欲しいな!」

 

 

コン・スミスの生意気な言葉により一層、紫は苛立ちを募らせる。紫は憤りと侮蔑を込めた視線を一同に向けた。

 

 

「勇人は立派な幻想郷の住民、すなわち幻想郷の一部よ。だから、貴方達はこの幻想郷に傷をつけたことになるわ」

 

「幻想郷の一部?」

 

 

ダン・スミスの言葉が聞こえた。

 

 

「ええ、幻想郷は彼を拒まず受け入れた。そして、彼もそれを受け入れた。幻想郷の一部と語るには十分ではなくて?」

 

「だから、なんだ?問題はあいつの生い立ちにあるんだろが。それを聞く限り、生かすなんて事は馬鹿でもしねぇぜ。妖怪の賢者さんよぉ」

 

 

ダンは淡々と告げた。

 

 

「生い立ち?」

 

 

紫が怪訝そうに眉を動かしたのを見て、ダンはフッと苦笑した。

 

 

「もしかして、本気でお前は勇人はあいつの孫だと思ってたのか?」

 

「…………違うのかしら?」

 

 

ダン以外の者は口を噤んでいる。

 

 

「勇人は人間の進化系じゃねぇってことさ」

 

「どういう意味よ」

 

「さぁ…………あとはこの腐れ老人(ロートル)から聞けや」

 

 

ハーマンはゆっくりと車椅子を動かし、前に出た。

 

 

「お前が勇人の祖父だと思う、碓氷清栄(せいえい)は、かつて人の榮を司った神だった」

 

「それぐらい知ってるわ」

 

「彼がいるだけでその国は永遠の繁栄が約束されると言われた。そうとなると、勇人はその繁栄の力を継ぐ者の末裔になるわけだが…………」

 

「その力を受け継いでるいるはずと言いたいのかしら?でも、ありえないわ。彼はほぼ人間になってから子を授かっている。もし、力が受け継がれているのなら、勇人の母だってその力を持つはずよ?」

 

 

紫の発言にハーマンはまるでおかしな話を聞いたかのように大笑いした。

 

 

「それなら、かの青年も普通の人間なのが理だろう」

 

「人間とて、イレギュラーな存在は現れるわ」

 

 

紫はフンと鼻で笑った。それに対して、ハーマンは目にギラギラと光を湛え、車椅子の後ろに付属していた対戦車ライフルを取り出し構えた。

 

 

「勇人は人間などではない!清栄によって生み出された新しい器だ!」

 

 

怒鳴るように叫ぶや、ライフルの引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八意永琳の自信作(本人談)の薬によって、怪我とともに意識も吹き飛ばされた勇人は、敷布団の上に横たわって規則正しく息をしていた。この光景、何度見たことか…………

 

 

「まだ目覚めないの?」

 

 

キスメは暇を持て余したのか、勇人の顔を突きながら、破れたカッターシャツを縫うヤマメに言った。

 

 

「ゆっくり休ませてあげなよ。あんだけの怪我をしたんだし、相当お疲れなんだから」

 

「ふーん…………この人なかなか強いんでしょ?一度、戦うところでも見てみたいなぁ」

 

「そんなことよりさ、お腹空いた?ご飯できてるけど食べる?」

 

「食べる食べる!」

 

「う……」

 

 

勇人が息苦しそうに掛け布団をはねのけた。

 

 

「お、目覚めた」

 

「大丈夫?」

 

 

ヤマメとキスメが脇に来ると、勇人は気だるげに瞼を開けた。

 

 

「…………ぁあ。問題ない。あの薬のおかげで怪我も治ったし…………」

 

「本当にすごいねあの薬」

 

「あまりお勧めはしないぞ。猛烈な痛みを受ける代わりに怪我を治すんだからな。一種の拷問に近いと思うぞ」

 

 

咳き込みながら、勇人は言った。

 

 

「とりあえず、勇儀さんは?」

 

 

今すぐに、特訓を始めないと。起き上がろうとしたが、その瞬間に大きな腹の音が響いた。そんな勇人を見て、ヤマメは

 

 

「ちょうどいいや、ご飯にしよう!」

 

「その前に、君ちょっと能力でも見せてくれない?噂は聞いてるんだ」

 

「ちょ、ちょっと!病み上がりの人に…………」

 

「いいぞ」

 

「ええっ」

 

 

流石にヤマメにとって予想外の返答だったらしい。

 

 

「…………ちょっと離れてくれ」

 

 

勇人は腕に巻かれた包帯を解くと、敷布団から這い出るようにして立ち上がった。

 

 

「おぉ?」

 

 

キスメの声には、期待が混じっていた。

 

 

「使うぞ、能力」

 

 

勇人がその言葉を放ち、例の如く不変の結界を生み出そうと集中した瞬間、右腕に青いプラズマが走った。

 

 

〈その能力を使うのか?〉

 

 

〈お前はそっちの生物ではない〉

 

 

〈お前は私の器だ〉

 

 

意識の中に、ささやくような声が響いた。

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 

聞きなれぬ声に勇人は怒鳴りかえした。反射的に振り返るが誰もいない

 

 

「どうした?誰に怒鳴ってるの?」

 

 

慌ててキョロキョロする勇人にヤマメとキスメは驚く。

 

 

「い、いや、何でもない。まだ、疲れが残っていたみたいだ。幻聴が聞こえた」

 

「それなら、無理してしなくても…………」

 

「平気平気、ちょっと使うだけだから」

 

 

勇人は言い、謎の声に自分で幻聴と決め込んで再び集中した。

 

 

「これは…………物凄い量の霊力だねぇ」

 

「勇儀さんの言う通り只者じゃなかったんだね」

 

 

勇人は大きく息を吐いた。あとは結界を張るのみ…………

 

 

ーーその能力はお前のためではない。

 

 

今度こそははっきりと聞こえた。そして、それは意識の中に話しかけているということも分かった。

 

 

ーー誰だ?

 

 

謎の声にそう問うた。

 

 

ーーお前だよ。いや…………後々のお前だ。

 

 

後々の俺?そう聞き返した後にはもう声はしなくなっていた。少し間が空き過ぎたのか、2人は心配そうな眼差しを向けている。

 

 

ーーやっぱり、疲れてるんだな。ちょっと、弱気になっているだけ。

 

 

そう自分に言い聞かせた。そして、自分の周りに意識を向けた。

 

バリバリと青いプラズマに右手が覆われていると知らず。無論、勇人の能力を知らない2人はそのプラズマを能力の一部だと思っている。

 

 

「はっ!」

 

 

掛け声とともに、右腕のプラズマが右半身に広がり、強い衝撃波が発生した。それと同時に、右腕がボコボコと膨れていた。

 

衝撃波に吹き飛ばされ部屋の隅に追いやられたヤマメとキスメは、突然のことに唖然とし動けずにいた。

 

ひどく膨張した勇人の右腕はついに破裂し、勢いよく血が噴き出した。

 

 

ーーふむ、まだ力に耐えきれない、か。

 

「さっきから何なんだよォォォオ!この野郎ォォォオ!」

 

「ちょ、ちょっと!気をしっかり!!」

 

 

後ろで勇人の有様に驚くヤマメの声がする。

 

青いプラズマは徐々に無くなっていき、勇人は地面にへたり込んだ。しかし、時折バチバチとプラズマが発生している。

 

キスメは恐れをなしたのかヤマメの後ろに回り込んでいた。

 

 

ーーまだ、まだだな…………

 

 

ドゴォ!と轟音を立てて、玄関方から勇儀が飛び出した。

 

 

「おい、大丈夫か!って、これは…………!?」

 

 

衝撃波によってめちゃくちゃにされ、破裂した右腕によって血塗れとなった部屋に勇儀は一瞬戸惑った。しかし、すぐに冷静さを取り戻し

 

 

「勇人!!」

 

 

呼びかけに対し、勇人は顔を向けることしかできなかった。

 

 

「な、何があった!?」

 

「お、俺にもさっぱり…………ちょっと、能力使おうとしたら…………」

 

 

ヤマメの空いた口が塞がらない。さっきのは何だったのかーー。

 

勇人の右腕から、プラズマを纏った血が滴り落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからかな大きな気配に、一同は動きを止めていた。何かの得体の知れない者ーーその存在を誰しもが感じ取っていた。

 

 

「ふむ…………ダン、どうやら()ってはいなかったらしいな」

 

 

予想外のことにも、慌てる様子も見せないのは仕事柄故か。それに対して、紫は少し動揺めいた様子を見せていた。

 

一同のいる部屋にはいくつもの銃痕が残っていた。ここで戦闘をしていたらしい。

 

 

「どうだ?妖怪の賢者よ。これが勇人の真の力だとしたら?」

 

「…………真の力?あれくらいの力なら私は何回も見たわ」

 

「…………それは勇人の力じゃない。()()()の力だ」

 

 

楽しいのか、笑みを含みながらハーマンは言った。

 

 

「まぁ、いいわ。…………後は任せたわ」

 

 

紫の背後にスキマが開き、メイド服姿の銀髪少女ーー十六夜咲夜が現れた。そして、パチンと指を鳴らした。

 

そして、時間と世界は静止した。

 

部屋の中にいる人はすべて動きを止める。

 

 

「お嬢様に命じられて来たのはいいものの…………」

 

 

嫌々連れてこられたようだ。ため息を吐き、ナイフを取り出す。そして、そのナイフをスミス同盟の一同の首元に投げた。

 

 

「1、2、3、4、5、6、7人ね…………」

 

 

再び、指を鳴らす。静止していた世界は再び動き出す。それと同時にナイフはそれぞれの首に刺さるーーしかし、ハーマンとガルシアンのみはナイフを掴んでいた。

 

 

「…………あら、老いぼれかと思ったけどなかなかやるわね」

 

 

次の瞬間、首元から鮮血を噴き出す5人は粒子となってハーマンへと吸い込まれた。

 

 

「え?」

 

 

ハーマンの謎の能力に咲夜は驚きを隠せなかった。

 

 

「咲夜!」

 

 

紫が叫ぶと同時に咲夜の背後に銀髪の男が現れた。その手にはナイフが握られている。

 

 

「いつのまに…………ッ!?」

 

 

ナイフが首を切り裂く前に咲夜は時を止めて間をとった。しかし、男はすぐさまスローイングナイフを取り出し、咲夜に目掛けて投げた。

 

咲夜も同じくナイフを投げて相殺させる。

 

 

「ナイフ使い同士ね…………って、気持ち悪っ」

 

 

異常なほどの白い肌。そして、上半身裸で極端な猫背。そんでもってサングラス。こんな人が街にいればほぼ変質者だと思うだろう。

 

咲夜の発言にも眼鏡(ケヴィン)は表情1つ変えずに次のナイフを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

草木の生い茂る山の中で、碓氷清栄は瞑想していた。

 

 

「後もう少しか…………」

 

 

白い神御衣が夕日の色を浴びて朱に染まる。シワの入った顔からは心持ちは量り知れない。

 

そこへ、一羽の伝書鳩が手紙を運んできた。内容を読むとその紙を引き裂いた。

 

 

「勘付かれたか…………しかし、もう遅い」

 

 

風が引き裂からた手紙を運んでいく。

 

 

「お主か…………」

 

「ええ」

 

 

鳩は女性らしき声を発した。

 

 

「こちらの準備は進んでいる…………お主はどうじゃ?」

 

 

沈む夕日を見ながら、清栄は言った。

 

 

「私はいつでも構わないわ。後は器の完成を待つのみ…………」

 

 

今頃、勇人は不可思議な力に驚いていることだろう。

 

夕日を見ながら、清栄は満足げな笑みを見せた。



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第105話 微動の日の青年

旧都は昔地獄の一部であった。

 

これは勇儀さんが話してくれたことである。"地獄"という言葉の響きの割には賑やかな繁華街だ。能力故に忌み嫌われた者が集まってきたと聞いたが、皆明るく快活な様子である。

 

地下にある街のため、空は常に真っ暗だが、ここの住民のあまりにも明るい様子のせいか、不思議と暗い気分にならない。

 

そんな様子を背景に、一軒の古びた一枚板の看板の飲み屋に俺はいた。古びた外観ではあるが、繁盛しているようだ。

 

人通りは終始、種族を問わず妖怪たちで溢れかえっている。その通りにはたくさんの商店が並び、よく分からない店もある。俺としては、静かな喫茶店とかあって欲しいのだが…………

 

ふと視線を巡らせると、どこもかしこも大男が酒を煽り、どんちゃん騒ぎだ。真昼間から、酒を浴びるように飲み他愛のない話に大笑いする。この街を象徴するかのような風景だ。

 

 

「どうだ?いいところだろ」

 

 

隣に座る勇儀さんが、酒を飲みながら言った。すでに瓶を1つ開けているが、顔は別段変わっていない。

 

 

「地上の世界とはまた違った、盛り上がり方だろ?私にとって、ここは楽園だ」

 

「朝から酒を飲むのは感心しませんが…………」

 

「硬いこと言うなって。郷に入れば郷に従えって言うだろ?ほら」

 

 

差し出された酒を俺は丁重にお断りしておいた。目覚めてすぐ連れてかれたのもあるが、ここの酒のペースについていったら確実に潰れる。そもそも一杯の量が異常だ。

 

 

「ここが勇儀さんオススメの店なんですね?」

 

「ああ、馬鹿騒ぎしてもいいし、喧嘩だったいい。こんな自由な店は地上にないだろ?」

 

「喧嘩はできるだけしたくないものですが…………」

 

 

水を一杯飲んだところで、向こうの席で飲んでいた鬼たちがいつのまにかこちらに集まっていた。

 

 

「姉御!俺らと飲みましょうぜ!」

 

 

豪快な声でそう言った鬼はグループのリーダー格らしい。いかにも豪放磊落な様子の鬼は酒臭い息を吐きながら勇儀さんを誘う。そんな中、一番小さな体つきの俺を見つけると

 

 

「ん?お前、人間か?」

 

「は、はい…………」

 

 

完全に萎縮しきった俺を横に、勇儀さんは

 

 

「こいつは碓氷勇人ってんだ。しばらく、ここに住むからよろしくしてやってくれ」

 

「ほぉ!勇人か!よろしく頼むぜ、あんちゃん!」

 

 

すぐさま、人懐っこい顔となり、挨拶した。

 

 

「よろしくお願いします」

 

「かったいなぁ…………ここでは堅苦しくいる必要はないぞ?」

 

 

明朗な声で勇儀さんは言った。しかしだなぁ…………ここにいる者は基本的に身長190はゆうに越している。ガチガチにならない方がおかしい。

 

考え事が過ぎたのか、リーダー格の鬼は怪訝そうな顔をしていた。

 

 

「か、顔に何かついてます?」

 

「怖がらないのか?」

 

「へ?」

 

 

急な質問に変な声が出てしまった。

 

 

「いや、まぁ…………妖怪とかはたくさん会ってますし、知り合いもそれなりにいますから…………」

 

「こいつ、萃香と互角に戦ったんだ」

 

「ちょっと…………!」

 

「本当か!?カーッ!こいつぁ、とんでもねぇ奴が来たもんだ!」

 

 

ガハハ!と豪快に笑う鬼たちとは裏腹に俺の心は穏やかではなかった。

 

 

「そう言えば、こいしが随分と勇人のことを気に入ってたよなぁ」

 

「はは…………きっと、人を見る目があるんですよ」

 

 

ちょっとした冗談で返すが、やはり心は穏やかではない。いや、たしかにこいしやフランとかは俺よりも桁違いに歳上なのだが…………外面上、ロリコン疑惑がかかる可能性がある。俺は決してそう言うのではない。あくまでもノーマルだ。

 

 

「なんだと!?こいしちゃんのお気に入りなのか!!」

 

 

いきなり食いついてきやがったなこいつ。後ろの鬼たちもザワザワし始めている。穏やかではない理由はこれか…………

 

 

「最近、こいしちゃんを見ないと思ったら…………お前に会ってたのか!?」

 

「ま、まぁ…………寺子屋には基本的に来てくれますが…………」

 

「な、なんだと!?お前…………俺ですら、声をかけてくれるのは稀なのに…………」

 

「どのくらいの頻度で来るんだ!?」

 

 

おいおい!どんだけ食いつくんだ?他の鬼たちも血涙を流しながら、俺に迫って来る。

 

 

「妖怪の授業は週に3日ですので、その日はほぼ確実に来ますし…………授業外にも友達と来ますが…………」

 

「週に3回…………!?他の日にも来る…………?」

 

「どんな話をしてるんだ!」

 

「いや、授業ですので…………和算ですかね?たまにいっしょに遊んだりもしますけど」

 

 

教師だからと言って、授業だけすればいいもんじゃない。と、どっかで聞いた気がするので、誘われたらなるべく一緒に遊ぶようにしている。

 

 

「遊ぶ!?この野郎…………!なんて、うらやmけしからんことを!!」

 

「す、すいませんが、貴方達はこいしのなんなのでしょうか…………?」

 

「そうか…………知りたいか?」

 

「い、いや、無理を強いて言わなくても…………」

 

「なら、しょうがない…………それだけ、こいしちゃんとのエピソードがあるなら、知る権利がある」

 

「それほど知りたいわけでも…………」

 

「おい、お前、教えてやれ」

 

 

人の話を聞け。

 

 

「我らは!この旧地獄の天使、こいしちゃんを護るために発足した"こいしちゃん親衛隊"である!」

 

 

1人が前に出て、声高らかに紹介してくれた。まぁ…………こんな親衛隊ならたしかに守れそうだが…………

 

 

「こいしちゃん可愛い!」

 

「天使!」

 

「我らの女神!」

 

「あー…………分かりました、分かりました。それでなんでしょうか?」

 

 

やや暴走気味の彼らをなだめるが熱が冷める様子もなく仕切りにこいしへの賛辞の言葉を叫ぶ。

 

 

「お前はしばらくここに住むそうなんだな?」

 

「はい」

 

「なら、我ら親衛隊に入れてやろう!」

 

「い、いえ…………そんな滅相な…………」

 

「もちろんただで入れるとは言ってないぞ?」

 

 

誰が入るって言った。もう少し頭を冷やしてくれ…………

 

 

「こいしちゃんを護るのに貧弱な奴が務まらんからなぁ…………」

 

「入りたいわけでは…………」

 

「よし!俺と立ち会え!」

 

「え、えぇ…………」

 

「いいじゃないか!その話乗った!勇人、そいつと戦え!」

 

 

困惑する俺に勇儀さんは無理な命令を強いる。

 

 

「いや、入るつもりは…………」

 

「よし!1週間後に岩鉄(がんてつ)と勇人の一騎打ちだ!」

 

「よっしゃああ!って、一週間後!?」

 

「すまんが、私にもこいつに、ちと用事があるんだ」

 

「勇儀さんがそう言うのなら…………」

 

「いや、俺は別に…………」

 

「決まりだな!私はこれでお邪魔するよ。ほら、勇人、行くぞ!」

 

「え、え、ちょっと…………待ってくれ!」

 

 

俺を置いてけぼりにしたまま、一週間後に試合が組まれてしまった…………別に親衛隊に入りたいわけじゃないって…………

 

未だに熱の冷めない親衛隊の皆様を通り過ぎて、俺は外へ向かう勇儀さんを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"ちょっと飲みに行かないか?"

 

 

勇儀さんがそう言ってあの空間に連れて言ったのは、今から約3時間ほど前のことだった。

 

 

"あんたにここの世界を見せたくってな"

 

 

その気遣いに感動し、ついて来た俺だったのだが…………気づけば望んでもいない親衛隊に勧誘され、果てにはそれに入るために試合が設けられることとなった。

 

 

「本当に何を考えてるんですか!?」

 

 

と問う俺に、

 

 

「岩鉄って奴がいただろ?」

 

 

と何食わぬ顔でそう聞かれた。

 

 

「…………始めに俺に声をかけた人ですか?」

 

「おや?怒ってるかい?」

 

「別に!…………コホン、とにかく、その岩鉄って言う人が何です?」

 

「岩鉄はだなぁ…………ああ見えて喧嘩がそこそこ強い。旧都じゃあ、殴り合いであいつに勝てる奴はそうはいない」

 

 

ああ見えてって…………そうにしか見えない。むしろ、ロリコンだと言うことが驚きだ。

 

 

「もちろん、私や萃香には勝てない。…………あんたにもね」

 

「買いかぶりすぎです」

 

「そんなことはないさ。まぁ…………苦戦はするだろうな。あいつはタフだからな。だが、ちとここが足りない」

 

 

と勇儀さんは頭を指す。まぁ、パワー自慢で頭がいいって言う奴はなかなかいないな。

 

 

「そこでだな。あんたは岩鉄に素手で勝ってほしい。能力も使わず」

 

「そうでs…………は?」

 

「ああ、別に霊力を使うなとは言ってない。肉体強化ぐらいは許す」

 

「いやいやいやいや!無理ですって!」

 

 

身長およそ170cm(自称)のヒョロイ男と、190cm以上ありそうな大男と戦うなんてありえねぇ!ヘビー級対フライ級で戦うような体格差だぞ!?

 

 

「無理じゃねぇ!何のために一週間後に設定したと思ってるんだ?」

 

「だとしても、流石にあの体格差は…………それに人間と鬼という壁もあるんですよ!」

 

「そこはあんたの自慢の頭脳でどうにかしろ!」

 

「えぇ…………」

 

「それに心配しなくてます自然と岩鉄を越すくらいの力になる。そもそも、岩鉄に苦戦するようじゃあ、あいつらには勝てないぞ?」

 

「うっ…………」

 

「あと、言っておくが、ただ勝利すればいいわけじゃあない。圧倒的な勝利、それが目標だ。いいな?」

 

「は、はい…………」

 

「というわけで、お前の銃は私が保管しておく」

 

 

といつのまに、取っていたのか勇儀さんは俺の銃を取り出した。

 

 

「え、ちょっと!」

 

「これからは敵に遭遇したら素手で戦え。銃を返すのは岩鉄を倒してからだ」

 

「…………はい」

 

 

相棒まで人質に取られてしまい、岩鉄と戦わざるおえなくなってしまった。

 

 

「これから、ビシバシ鍛えてやる。覚悟しておけよ」

 

「お手柔らかに、お願いしますね」

 

 

勇儀さんの特訓は想像を絶するものであったのはまだ知る由もなかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜咲夜は驚いていた。彼女はナイフの扱いに長けており、自分自身それを自負している。しかし、目の前の男はどうだ?同じナイフ使いとして、自分と互角、又はそれ以上。

 

 

「…………ッ!」

 

 

ナイフが頬を掠める。ケヴィンの投げたナイフだ。正確無比なスローイングは度々咲夜を掠める。

 

 

「これならどう!?」

 

 

時を止めることで、ナイフを一斉に投げる。しかし、ケヴィンはバク転でそれを躱す。

 

近接に持ち込みたい咲夜だが、相手はスローイングナイフだけでなく、ナイフも持ち合わせており、バク転で距離を取る戦法も相まってより困難にさせる。

 

咲夜はやろうと思えば、時を止めているうちに相手を仕留めることもできる。しかし、それはプライドが許さなかった。同じナイフ使いとして、勝利したかった。

 

 

「銀符『シルバーバウンド』」

 

 

時間停止を利用し、大量のナイフを一度に発射させた。ケヴィンの視界の前には一面にナイフが広がっているだろう。致命傷にならないとしても無傷はありえない。そう思った矢先だった。

 

 

「…………」

 

「な…………ッ!?」

 

 

ケヴィンの体は透けていったかと思えば消えてしまった。大量のナイフは虚しくも空を切り、壁や床を刺す。

 

 

「こうなったら!」

 

 

再び時を止める。そして、咲夜は辺りを見回した。しかし、ケヴィンの姿はどこにもいなかった。隠れた?いや、違う。この部屋には隠れれるようなスペースなどない。なら、どこへ?

 

 

「どこなの!?」

 

 

必死に探すが全く見当たらない。まるで、忽然と姿()()()()()()()()()かのように。

 

 

「チッ、時間切れ…………!」

 

「…………」

 

 

時が再び流れ出した時、昨夜の背後にはすでにケヴィンがナイフを咲夜の喉にスライドさせていた。



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